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「私の最近の研究は人造魔導師計画、戦闘機人計画だが…そもそもどうして私がこちらの研究に移ったか考えた事はあるかね」 スカリエッティはそうフェイトに尋ねた。 フェイトが答えないでいると、ククッと笑い声をあげてスカリエッティは言った。 「プレシア・テスタロッサが私の代わりにある程度のレベルまで進めることが出来るだろうと見込める人材だったからだ」 そう言ってスカリエッティはフェイトを生み出した魔導師のことを思い返した。 執念深く、丁寧に作業をこなす姿や希望していた死者蘇生の計画ではなく、 使い魔を超える人造生命の作成に携わることを命じた時の爆弾の隣で火遊びをするかのようなスリルが真っ先に思い出された。 「彼女は、実に優秀な研究者だったよ。予定していた段階まではいかなかったが、彼女のお陰で3日分くらいに短縮できたかな?」 「その為に、事故を仕込んだとでもいうつもり?」 「まぁその程度ではあったが…?」 口を挟んだフェイトに、スカリエッティは首を横に振った。 「いやいや違う。『彼女が体を壊すのも知ってて放置したし、君が生まれるのは分かっていたが止めなかった。ジュエルシードのことを教えてあげたりもした』と言うのさ」 「え……?」 思考を停止させたフェイトの表情が、赤い光りに照らされて実によく見えた。 「私は、失敗して君が生まれてくることや、どうやればアリシア・テスタロッサを生み出せるか知っていたよ。彼女は君が生まれるまで気付こうとしなかったがね」 「嘘…」 「お望みなら彼女の体からもう一度アリシア・テスタロッサを産み落とすやり方もあったし 死者蘇生のプロジェクトに参加させることも出来たんだが…既に結構限界だったからかなぁ? 君はどう思う?」 それにしたってあそこまでショックを受けたのは予想外だったよと肩を竦めるスカリエッティ。 対峙するフェイトの顔は赤い光りに照らされていて青ざめているのが見て取れる程だった。 「う、嘘をつくな!!」 それ以上聞きたくないと、否定の言葉を叫んだフェイトにスカリエッティは嬉しそうな顔を擦る。 古傷を少しずつ抉っていくように、実に楽しげに口を開く。 「そう、そんな感じだ。聞く耳を持たなくてね。君達親子はよく似ているよ。だがわかってるだろう? ゼストの身元を確認し、ヴィヴィオと暮らしてきたはずだ」 どこまで話したかなとスカリエッティは動力になっている巨大なクリスタルを見上げた。 「キャリアは終わり、娘のアリシアは死亡と…苦しんでいた彼女の鼻先に、管理局がぶら下げたニンジンもああいう感じだったかな」 「……そんな。だ、だって…」 「優先度の高い使い魔を超える人造生命の作成に推薦した時の彼女の顔は酷いものだったよ」 煌々と輝くクリスタルの光に染まったフェイトの表情を確かめながら、スカリエッティは光を背にして表情を隠した。 フェイトに見られるアリシアの面影を通して、プレシアの顔をより鮮明に思い出しているに違いなかった。 娘を生き返らせられるかもしれない研究に関わるために非合法な誘いに乗り、別の研究をするよう指示された時の表情を。 「死者蘇生の研究に関わりたいという彼女に、私は成果を挙げればあるいはと気休めを言った。すると彼女は! 体を壊す勢いで研究し始めたんだ」 笑顔で語るスカリエッティに、語る内容を否定することも受け止めることも出来なかったフェイトの頭は真っ白になっていた。 「子供じゃあないんだ。私も戦闘機人計画の構想を練るのが楽しかったし、何より潰れる前に最低限の成果はあがりそうだったんで放置したよ」 感情が押え切れず、フェイトはソニックムーブを使用したが……地上からゆりかごまで一瞬で移動してのけた見事な魔法は、同じ人間が使ったとは思えない酷い形で発動した。 それでもスカリエッティが反応することは出来ない位の速さは実現し、高速で移動するフェイトは赤い光の壁にぶつかって鈍い音を立てた。 衝撃で無様に転がったフェイトは、また壁に後頭部をぶつけて動きを止めた。 フェイトが話を聞く間に張り巡らされた結界が、彼女を捕らえていた。 スカリエッティの手には趣味の悪いグローブが嵌められていた。 そこから伸びた赤い光の糸が、フェイトを取り囲み檻を創りだす魔法陣の役割を果たしていた。 だからこそ余裕を保っているのか、スカリエッティの言葉は止まらない。 「その後、相談にも来ずに君を作りだしたのも予想外だったかなぁ…あんな簡単なことがわからないんだ。限界に近かったんだろうね」 鼻の骨を折ったのか血を垂らしながらフェイトは大剣を振るい、スカリエッティの創りだした結界を切り裂く。 フェイトはまだ切り札を残していたが、それを使用することは考えもしなかった。 ただ持っていた武器で襲いかかったのだが、大剣は障壁を傷つけることは出来なかった。 弾き飛ばされた大剣が結界内を転がった。 スカリエッティはフェイトの傍まで歩いてくるとしゃがみ込んだ。 フェイトは、睨みつけながら手探りでバルディッシュを掴んだ。 「しかもその後ドメスティックバイオレンスに走るほど馬鹿だとはね……心優しい母親だという報告だったのに。見かけによらないものだよねぇ。 私もドン引きさ。話を変えたくて話題にしたのがジュエルシードでね。乗ってきたから情報をリークしてあげたよ。 まさか本気でアルハザードを目指すなんて、キチ…ああ失礼、余りにも斜め上な反応だったから予想できなかったんだ」 大剣型…ザンバーフォームのバルディッシュがスカリエッティの声を遮るようにカートリッジを何度もリロードする。 連続で吐き出された薬莢が、障壁にぶつかって彼女の体に当たった。 だがそんなことは、この状態で魔法を使えばどうなるかや他にこの檻を破壊するのに適したフォームの存在があることは…どうでもよくなっていた。 高速で展開される儀式魔法によって発生した雷が、バルディッシュの刀身に蓄積していく。 「昔話はこれだけかな。研究中にストップをかけてあげるか、君を作ろうとしていた段階で力尽くでも止めてあげれば、まだプレシア生きてそうじゃないかい? (君にとっては)『失敗作が出来る』からって」 「雷光一閃ッ!!」 雷光を伴った強力な砲撃が檻の中を満たし、もっと広い空間へと溢れだそうと暴れ狂った。 スカリエッティが創りだした結界を破壊するには適していないのか、無害な光ばかりが室内を明るくした。 「だからさ、管理局はおろか犯罪組織にさえ所属していない君達だったが、素早く情報を手に入れられただろう。何かわからないことはあるかい?」 光はどんどん強くなっていく。 結界に微かな揺らぎを見つけたスカリエッティは、もう片方のグローブを嵌めた手を翳し、檻を二重にしてそれは収めた。 それでも結構な光量を持った巨大な電灯を見て、いたずら心が働いたのかスカリエッティは目を押さえた。 「ああそうだ。こうするんだっけ? あーコホンっ」 咳払いを一つして、スカリエッティは仰け反った。 「あ~がぁ~!! あ~あ~目がぁ~目がぁ~!! あ~あ~目がぁ~あ~あ~……ククク、ハハハハッなんてね」 『ドクター』 「あ、ウーノかい?」 『お約束通り私はそろそろ手を引かせてもらいますわ』 そう言ってウーノは光が収まっていく二重に作られた結界を見つけ、咎めるような目をした。 『流石の私も、悪趣味さではドクターには遠く及びませんわね』 「ええっ!? まだ結界の周りをぐるぐる回りながら『ねーねー今どんな気持ち、どんな気持ち?』さえやってないんだが」 『……その時は、貴方が創造主なんて恥ずかしくて言えなくなりますわ』 本気か冗談の延長か、長年付き添ってきたウーノにも判断の難しいスカリエッティに、ウーノはかなり本気で引いていた。 「コホン…で、どうかな聖王陛下は」 『順調です。エースオブエースに勝てれば、ですが』 そう言ってウーノは、今回最後の仕事となるかもしれない作業…玉座の間や、地上の様子を確認できる通信画面を開いた。 * その頃玉座の間では、ヴィヴィオがなのは達など気にも止めずに作業を続けていた。その場にいないとでも言うように、目を向けようともしない。 ミッド中に雷の雨を降らせながら、ヴィヴィオは通信画面に映るRXの黒い表皮の上を走る雷を見つめていた。 「ヴィヴィオ止めて! そんなことしちゃだめだよ! 一緒に帰ろう!!」 言われて、ヴィヴィオはなのはに視線を向けた。 無関係な子供と、その周囲を巻き込む雷を放ちながら。 次の雷を用意し、より精密にRXの表皮を焼き体内を狂わせる雷を放つために修正を行ないながら。 「邪魔をしないで。ドクターの仕事が終わるまでそこにいるだけでいいから」 「駄目だよ! ヴィヴィオがしてるのは悪いことだよ! 子供を狙って魔法を使うなんて…何か理由があるなら私に教えて!」 説得しようとするなのはに比べて、シグナムとヴィータには余りそのつもりはないようだった。 なのはは臨戦態勢を取る二人とヴィヴィオの間にレイジングハートを翳し押しとどめる。 「教えてくれれば、私達が助けてあげられるかもしれないし、もっといい方法だって、見つかるはずだよ!」 「静かにして!」 「なのは無駄だ! どうせアイツが洗脳してるに決まってる。先に止めちまわないと」 「そんなことない! ヴィヴィオは、スカリエッティに唆されてるだけなんだから。ちゃんとお話すれば、」 諦めようとしないなのはの肩をシグナムが掴んだ。 「高町。気持ちはわかるが、ヴィータの言うこともあながち間違いじゃないはずだ。ヴィヴィオの中にレリックの反応がある……」 そう言うと、それ以上なのはが説得を始める前にシグナムはヴィヴィオに突っ込んでいった。 「それに、いつまでもRXに我慢させ続けさせられるか」 「だな……っ!」 走りだすシグナムにヴィータが続いた。 「ああもう……レイジングハート!」 『Yes my master』 レイジングハートが、なのはの命令に従い魔法陣を、そして桜色の光を周囲に振りまく。 二人の動きをサポートする為になのはのアクセルシューターが、後を追いかけていった。 まだ迷いがあるのか、精彩を欠く光弾をヴィヴィオは無視した。 続くシグナムの鋭い連撃と、ヴィータの重い一撃も危なげ無く回避する。 顔色一つ変えずに回避しながら雷を放ち続けるヴィヴィオに、二人は徐々に本気になっていった。 床に落ちていく薬莢を、飛び散った火の粉が溶かす。 次の瞬間に繰り出されたフェイントを交えた4回の斬撃、ロケットのように後ろに火を噴射して加速したハンマーはヴィヴィオの急所を狙っていた。 だがそれでも掠りもしない。 途中まで呼びかけていたなのはも、それには驚き、制御下にある光弾を牽制から、より攻撃的な動きに変えていった。 なのはの気持ちの変化を、周囲を取り囲もうとする光弾の動きから感じ取ったのだろう。 ヴィヴィオはなのはを見た。 そして、左右から迫るシグナムとヴィータ、なのはの操る光弾を視界に納めて…ヴィヴィオは攻勢に転じた。 「その動きなら知ってるよ」 襲いかかる赤い塊。振り上げられたハンマーを見ようともせずに、ヴィヴィオは軽い足取りで自然にヴィータの懐へと入っていった。 丁度いい所にきたヴィータの顎が膝で打ち上げられる。彼女のグローブを嵌めた指がグラーフアイゼンを握る手を掴み、迸る虹色の光が圧力を掛けて握り潰した。 顎に加わった衝撃に加え、片手が潰れたヴィータの手からグラーフアイゼンを奪ったヴィヴィオは、ヴィータと連携を取り襲いかかろうとしていたシグナムへ踏み込んだ。 「ヴィータッ!!」 「吠えて、グラーフアイゼン」 ヴィヴィオの命令に従ってグラーフアイゼンからカートリッジが吐き出された。 虹色の光が放たれ、火を吹いたハンマーが、シグナムへと振り下ろされる。 弧を描き、途中軌道上にあったアクセルシューターを幾つか叩き落としたことさえ物ともしない一撃を叩き込む動きは、ヴィータのものと酷似していた。 予想外の動きに一手遅れたシグナムだったが、それでも辛うじて鞘を盾にすることが出来た。 鞘と、衝撃を受け止めるために足を付けた床がひび割れていく。 驚愕するシグナムへ叩き込まれたグラーフアイゼンは、更にカートリッジ・リロードを繰り返していた。 二度、三度と勢いを徐々に増すハンマーの勢いに片膝を付いたシグナムへ、ヴィヴィオは容赦なく砲撃を行おうとする。 ヴィヴィオが何をしようとしているか知ったなのはも、慌ててレイジングハートを構えた。 「「エクセリオン、バスター!!」」 ほぼ同時に照射された桃色の破壊光線は、ヴィヴィオの影を捉えることも出来ずに床を貫いていった。 当たる直前に、フェイトのソニックムーブを使ったのだとなのはは直ぐに理解した。 周囲を警戒するなのはがヴィヴィオを見つけると、その手にはレヴァンティンが握られていた。 カートリッジが吐き出され、レヴァンティンが幾つもの節に分かれた蛇腹剣へと形態を変える。 魔法のデータを収集して、自らのものとするとは聞いていたが、それどころか他人のデバイスまで使用できるらしい。 「王が騎士の物を使えるのは当然でしょ。ミッドチルダではどうか知らないけど」 なのはの考えを否定するようにヴィヴィオが言う。 虹色に燃える刃が生き物のようにうねりだす。 床を削りながら浮かび上がった刃がなのはのアクセルシューターを叩き落としながら、なのはへと迫る。 「ベルカには、騎士に劣る王なんていない」 レヴァンティンの刃は本来の主であるシグナムが振るう時と変わらない軌道と速度でなのはに迫って行った。 回避しきれなかったそれをプロテクションEXで時折弾き返しながら、なのはは空中に逃れていった。 自分達が侵入した穴から断続的に入る音と光は今も絶えずなのはの眼と耳に届いている。 同じ魔導師として信じがたいが、ヴィヴィオはシグナム達の攻撃を受けている間も、今もずっと、RXに雷を落とし続けるだけの余裕があるのだ。 そう考える間にも、見覚えのあるバインドが起き上がろうとする二人を拘束していく…魔法が発動する瞬間にだけヴィヴィオの表情に一瞬、変化があった。 なのははそこに活路を見た気がした。 * 「なんだ。聖王陛下は思ったよりも強いじゃないか」 攻防を眺めていたスカリエッティはそう感想を言って、ヴィヴィオから視線を外した。 ヴィヴィオは、起き上がろうとするシグナム達を再び破壊光線でなぎ払い、なのはのアクセルシューターもレヴァンティンの刃でたたき落としていた。 「あ、そろそろ落ち着いたかい? 落ち着いたなら最初の提案なんだが、フェイト・T・ハラオウン執務官。 私の要望が受け入れられるまで人間の盾になってくれたら私の命を差し上げてもいい」 結界の中に横たわるフェイトにスカリエッティは言う。 「君達とは今後とも仲良くしていくことになるからね」 フェイトが耳を疑っていると、スカリエッティはそれに気づいて勝手に補足を始めた。 「ええっとね…先程言ったアリシアを生み出す技術を使って用意した私のコピーがあってね。 こちらの私はあれば嬉しいがなくても困らない、言わば用済みなのさ。だから遠慮はいらないんだ。それで手打ちにして仲良くしないかい?」 フェイトは、口の中に溜まった血を吐き捨てて体を起こそうとする。 「…誰が、貴様なんかと……!!」 「でも君達は管理局や教会から手を切れないだろう」 意味がわからなかったが、フェイトは睨み続けた。 「どうせ、仲良くするのはうまく行けばの話さ。だがうまく行ったら私は管理局に所属し聖王と君達を利用してRXと組む予定だ。妹を見捨てられるなら違う方法を使う」 スカリエッティの言ううまく行った時ヴィヴィオは聖王教会に行ってしまい、そんなヴィヴィオを一人残してフェイトやリンディ、クロノは関わらないようにすることなど出来ない。 管理局と教会は、スカリエッティを無碍に扱うことはできなくなっているだろう。 だから我慢してスカリエッティに協力しろということらしい。 かわりにスカリエッティは今の自分の命や今後のフェイト達にやろうとしていることに手心を加えると。 だがフェイトはそれを一笑に付した。そうは思わなかった。 スカリエッティの目的はRXなのだろうが、RXなら、そんな状態になれば自分達でも切り捨てることもありうると、思ったのだ。 「だからお互い妥協しようじゃあないかと言ってるんだよ。とても簡単に説明したと思うんだが、もう少し詳しく言わないとわからないかい?」 だが同時に、スカリエッティの言う要請が、言葉通りのものとも思えなかった。 それだけでは済みそうにない。言葉の裏にある不気味なものをフェイトは感じ取っていた。 「私の考えだと、逮捕された私は非常に協力的になって君達が知らない私が関与した犯罪も洗いざらい話す。 自由を手に入れて、君達に要請できる立場になるま10年かからない。もう一人の僕ならもっと早いな」 「………そんなことは、させない! お前を、外になんて出すものか!!」 想像を膨らませ、情熱的に言うスカリエッティ。 得体のしれない彼に嫌悪を感じたフェイトは四肢に力を入れて立ち上がった。 戦っているなのはとヴィヴィオの姿を映す画面が、フェイトにも見えた。 スカリエッティを封じ込めなければ、家族に類が及ぶ。 仲間も、RXも巻き込んでいく。 「例えば君等が一度見逃したギル・グレアムの名前が挙がっても私と一緒に裁判にかけるかい? 協力的な私はちゃんと彼の余罪も吐くが」 ギル・グレアム…昔、今もはやて達に白い目を向ける者がいる原因となっている事件に関係したクロノ達の友人の名前だ。 この場で言うからには、何か用意があるのだろう。 「君達は何件見逃すのかな」 各人の弱みにつけ込み、負い目を増殖させていく… そんなことは絶対に、させられない。 暴走しそうになる感情を、画面に映る家族の姿を見て抑えつけたフェイトは落ちていたバルディッシュを掴んだ。 感情をほんの少しの時間抑えこみさえすれば、スカリエッティの排除は簡単だ。 主人を止めようともしなかったバルディッシュにモードチェンジを命じれば… 機械的な音声で返答が帰り、バルディッシュは二つに分れた。大剣から、光の紐で繋がった双剣に姿を変え、金色の刃が伸びる。 刃が伸びていく途中でスカリエッティの結界は容易く貫かれ、 マントを捨て、バリアジャケットも制服に近い形から、体にフィットしたボディスーツへと変えたフェイトが腕を横に振るった。 金色の軌跡を残しながらバルディッシュの刃は結界を切り裂いていった。 ガラスが割れたような音を立てて、切り裂かれた結界が砕け散っていく。 空気に溶けて消えていく結界を構成していたエネルギーが、巨大な結晶の光りに照らされてキラキラと光りを放っていた。 「貴方が、何をしてもあの人の邪魔は、させません…私達が、私が貴方の好きにはさせない!」 もう二人を遮るものはなかった。 今度こそ、フェイトはスカリエッティが何をしようとしても排除できる。 今バルディッシュを横に振れば、スカリエッティの殺害も出来る。 だが、それにはフェイトが更に非殺傷設定を解除しなければならない。 スカリエッティは余裕の態度を崩さずに自分の胸に手を当てた。 「では逮捕したまえ。後はナンバーズと聖王陛下をどうにかすれば、今回の事件は解決さ。数年後同じ局員として一緒に仕事が出来るのを楽しみにしてるよ」 「絶対に阻止してみせるから」 「?……新しく生まれる予定の僕も、犯罪者じゃなく君達の後輩として、管理局に入局する」 フェイトは憎しみを抑えつけながら、スカリエッティにバインドを施していく。 今聖王の間で、シグナム達を拘束している魔法と全く同じものだ。 スカリエッティは肩を竦めるだけで、抵抗はしなかった。 代わりに頭の中で結果を考え、大体の目的は達成できたようだと考えていた。 巨額の予算を手に入れ思う様研究したいという欲望を満たせないのは残念すぎるが、ナンバーズの優秀さはそこそこ見せられただろう。 それにスカリエッティでさえ手にかけることができない彼女等では新しいスカリエッティを排除することは出来ないことはわかった。 自分とはいえない、ある意味子供のような存在は、容易く彼女等を取り巻く人物と交友関係を作りどんな手を使ってでもRXへと近づいていくだろう。 「まずは君が引き取った孤児のデータから調べることをおすすめするが…」 もっともこれで聖王がなのはとRXに勝ち、全世界にナンバーズを配備することになっても別段スカリエッティは構わないのだが。 「見つけられたとしたって(厳密には違うが)僕のコピーだから、なんて理由では排除できないんだぜ?」 フェイトは非殺傷設定のバルディッシュでスカリエッティの体を打ち上げた。 さながら野球のホームランボールのように、打ち上がった体は背後で輝き続ける水晶へと叩きつけられた。 * ヴィヴィオに捕まり、捕らえられるのが先か。 私の全力が、ヴィヴィオの処理力(ショリヂカラ)を越え、ミスをするのが先か… 「レイジングハート。ブラスターモード!」 叫ぶ間に迫ったレヴァンティンの刃を横合いからの射撃で逸らす。 新機能「ブラスターシステム」は、私とレイジングハートの「最後の切り札」。 私自身の外見的な変化はあまり無いけど…使用者、デバイス、双方の限界を超えた強化がこのモードの主体。 私の周りには、四基のビットが浮かんでいた。 もしかしたらまた飛べなくなるほどのダメージを負う可能性もあるけど、躊躇する気持ちは欠片もない。 私の考えが読めたのか、ヴィヴィオの仕草に恐怖が微かに見えた。 微かな怯えでも私には手に取るように理解できた。 教導隊の先達達の何人かと同じ反応だったから。 出会った頃のレイジングハートだったら止められてたと思う。 でも、長年連れ添った今のレイジングハートは、逆に頑張って死なないギリギリを見極めようと動いてくれていた。 そんなレイジングハートを信頼し、私は何回全開射撃を行うか考えながら、杖を構えた。 視界の隅っこで、必死に拘束を逃れ、反撃を行なおうとしている二人が止めろと叫んでいた… 「大丈夫! だって…」 心配性の友人ばかりなので明かせなかったが…入隊直後から、自分の身を省みずに勝つだけなら、教導隊の誰にも教わる必要はなかった。 「ヴィヴィオ、ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」 ヴィヴィオがこれを既に知っていて、コピーしているならそれはそれでいい。 魔力タンクを抱えていても、既に超高度な魔法を連続して行っている状態から更に、私の最も強力で制御の難しい魔法を使うことになる。 一つでもミスすればRXが乗り込んできて二対一になる分私が有利だと思った。 ヴィヴィオが今頃になってレヴァンティンを投げ捨てた。 けれど、もう私の周囲に浮かぶビットが桜色の光で玉座の間に埋めていく。 「まずは追い込むよ。その後は、『防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウンですね。マスター』そう、いけるね! レイジングハート!」 『Yes my master』 「エクセリオンバスター」 四基のビットから放たれる破壊光線をヴィヴィオが難なく避けた。 床や壁が撃ちぬかれ、破片が飛散る中でも、私はその姿をはっきりと捕らえていた。 だけど逃れる選択肢は、屋外に比べてとても少ない。 その分こんな近距離で戦うのは私に取ってとても不利に働くけど…… 小学生の頃から砲撃魔道師だった私にとっては、誘導することはとても容易い。 私の魔法は一時的に玉座の間を二つに分けた。 エクセリオンバスターの光に隠して放っておいたアクセルシューターがヴィヴィオを追いかける。 追いかける光球の数は4つ。ヴィヴィオが逃げると思った幾つかの範囲へ分けて放っていたから、まだ4つだけ。 それ位じゃ難なくかわしてしまうヴィヴィオの方へ、ビットの位置を変えて私は間髪入れずに二発目を撃つ。 でも良かった。RXみたいなことをされたら焦ってたかもしれない。 「エクセリオンバスター!」 再び、今度は少し範囲を広げてある。 四基のビット、そして少し時間をずらして私の持つレイジングハートからも桜色の光線が放たれた。 シグナムとヴィータなら避けられるはずだし、二人のことは考えないようにする。 悲鳴が聞こえたような気がしたけど… 射撃と爆発、リロード、それに私自身の声でかき消されたはず! うん、聞こえてないから! やっぱりヴィヴィオはフェイトちゃんと同じか、それ以上に早い。 不慮の事故でちょっと気が散ってしまった間にもヴィヴィオは一度目より狭まった空間の中を上手に逃げてる。 さっきの倍になったアクセルシューターの光球がヴィヴィオを追い込んでいく。 時々フェイトちゃんとそっくりな動きをしてるから、そこを狙い撃つの。 そう思ってたんだけど、運良く光球の一つが、ヴィヴィオの足を掠った。 悪いけど、狙い撃つの! 「エクセリオン、バスター!!」 ゆりかごが破壊されるのを嫌ったのかな? まだ逃げられたはずだけど、アクセルシューターの一つに引っかかっちゃったヴィヴィオはエクセリオンバスターの一つに当りながら遮二無二向かってきた。 でもそのせいで、さっきよりずっと当てやすい。 今回はまだ私のレイジングハートからは、撃っていない… 光線に晒されながら向かってくるヴィヴィオに、私は素早くレイジングハートを向けて、エクセリオンバスターを撃った。 それでもまだ、全然足りなくて二つの桜色の光が交わる場所から、ヴィヴィオが抜けだそうとする。 だから光の中から出ようともがくヴィヴィオの手や足を、32個の光球で頑張って押し戻さないとダメだった。 するとまた虹色の光がヴィヴィオの体から溢れて、アクセルシューターを吹き飛ばしていった。 凄い能力だと思う、でも、足が止まっちゃってる。 私は気にせずビットのエクセリオンバスターを集めていった。 思っていたより少ない手数で、私の射撃魔法はヴィヴィオを捕らえる事が出来たみたい。 後は、底が見えるまで打ち続けるだけだった。 エクセリオンバスターとは別に…レイジングハートのカウントはもう始まっていた。 もうゆりかごの外と内で使用された高度な魔法の残滓が集められていた。 体が軋んで、杖を持つ腕から痛みが走り出した…けど、まだヴィヴィオの防御を抜いてさえいない! 「今日二度目の、全力全開!! スターライトブレイカー!!」 玉座の間から溢れた光が侵入した穴や、これまでの魔法で破壊された場所から外を照らしていく。 バリアジャケットが自動的に、光と音から眼と耳を守ってくれる。 そしてレイジングハートは、スターライトブレイカーに晒されながらヴィヴィオがゆっくりと近づいてくることを教えてくれる。 対抗するために、私の意思を汲み取ってレイジングハートが勝手にリロードを開始した。 前へ 目次へ 次へ
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雲を突き抜けて聳え立つ管理局地上本部。 魔法の力によるものかその背後に小さく見える本部より低い標高の山々に雪化粧が施されていたが、地上本部の上へは雪がかかることはない。 その屋上に、夜になってから三人の男が集まっていた。新月の日を選んでいたが、星明りが男達の顔が浮かび上がらせる。 飛蝗の顔をし持つRX。白いスーツを着たヴェロッサ・アコースは風に靡く髪を手で押えていた。 レジアス・ゲイズは陸の制服を着込んで一人だけ寒そうにしている。 雲の上にあるそこは何の装備もなしに外で待つには寒々しい場所だった。 だが地上本部以上に高いビルは存在しないので、雲の上になるため盗み見る者の姿を発見しやすいという利点があった。 額の第三の目とも言うべきレーダーと二つの複眼を使って周囲を探るRXに二人の視線は向けられていた。 「ゲル怪人のことは聞いておるが、新しい情報はない」 「本当ですか?」 「既にスカリエッティに関する情報は全て提供してある。あんなことはもう起きないだろうとぬけぬけと言いおったがな」 疑うような目をして尋ねるヴェロッサに、レジアスが白い息を吐きながら言う。 だがそれもスカリエッティ自身の言葉を信じるならばという条件付きで、信じるつもりはこの場に集まった3名にはなかった。 加えてレジアスの言う情報も、レジアス自身の保身の為に都合のよい情報しか明かされていないのだということは明白だった。 冷えていく体を自前の筋肉が生み出す熱で暖めている中年を見ないようにしながら、疲れが溜まっているのか、ヴェロッサは張りが無い声で更に尋ねた。 「僕の方もまだ成果はありません。レジアス中将、彼の資金を断つ事は出来ないんですか?」 「無理を言うな! 私とお前達との繋がりが疑われたらどうする。貴様らこそいつまで時間と金を浪費するつもりだ!?」 「気長に待っていただくしかありませんね。スカリエッティの居所を掴めるような情報はありませんから…」 ヴェロッサとレジアスは互いに神経を逆なでするような声を出す。 索敵を終了したRXも含めて、3名ともに焦りがあった。 殆ど地上にはいないクロノの紹介で知り合ったヴェロッサは、先日のゲル化した戦闘機人の件で犯罪に手を染めていたレジアスに対し否定的な感情を持っていた。 RXの紹介でヴェロッサと密談を交わすこととなったレジアスは、成果を出す事が出来ない上にレアスキル持ちのヴェロッサに端から否定的だった。 レジアスがRXに対して好意的になったのも、犯罪者を何十人か届けた末のことだったようにもっと回数を重ねれば信頼も生まれるのかもしれないが、二人は共に忙しく仕事の面でも全く接点がない。 二人の間には深い溝があった。 「それよりも」 RXは彼にしては神経質に周囲をもう一度見回った。 「俺の感覚では大丈夫なようだが、ここは安全なのか?」 「…無論だ」 「事前に調べておいたけど、盗聴等の危険はなかったよ」 だけど、とヴェロッサはレジアスを見咎める。 「レジアス中将。貴方の所にいる内通者を即刻排除してもらいたいですね」 「内通者はわかっていれば使い道もある…私の動きには気付いないか危険視していないはずだ」 不機嫌そうに眉を寄せるレジアスの手をヴェロッサは指した。 そこには真新しい指輪が光っている。レジアスの顔に赤みが差した。 「正直に言って、スパイと再婚した貴方の事を信用していいのか僕は迷っています」 「アレか」 「彼女の本名はドゥーエ。スカリエッティの作り出した戦闘機人です」 レジアスの目がヴェロッサから外れ、微かに緩む。 ヴェロッサの不安を煽る反応をレジアスはすぐに仕舞い込んだ。 ニュースで見ることの出来る表向きの顔。強く、重みを感じさせる硬い表情を作り出していた。 「フン、泳がせておるだけだ。貴様のことは知らん」 「失礼ですが魔法を使われたのでは?」 レジアスは魔法が使えない。 その上地上本部の対策についてヴェロッサは信用していなかった。 通常であれば問題がないが、スカリエッティを相手にするには不安過ぎる。そういう評価をしていた。 「問題ない。地上本部の対策は万全だ」 「僕等は命がけなんですよ。他にも何名も…」 「貴様こそもう少し声をかける人間を選ぶのだな。不穏な動きがあると最高評議会が感づきつつある」 「それについてはご心配なく。順調そのものです」 声を荒げつつある二人を一歩離れた位置で見ていたRXが言う。 「…何が必要だ?」 「せめて奴がいる世界を特定出来る情報が欲しい。以前使っていた形跡のある場所位しか見つかっていなくてね」 偽ライドロン、通信の発信源、ゲル化した戦闘機人の処理報酬として支払われたデバイス。 どれもバラバラの位置から送られていてスカリエッティの現在位置を特定する助けにはなっていない。 管理世界だけでも100を超えている上に他にも仕事を抱えるヴェロッサが、管理局にはばれずにその中から一人の科学者を発見するのは容易なことではなかった。 だが既にRXも彼自身が知る情報はほぼ伝えて終わっていた。 「…他の情報は、奴が服を注文した店位しか知らないな」 「教えてもらっていいのかい?」 「構わないさ。メモは…」 ヴェロッサが問題ないと身振りで示したのに、僅かに間を置いてRXは幾つかの管理世界の名前とそこにある店を挙げていく。 「他には何か? この際だ。些細な事でも知っていることがあれば教えてもらいたいね」 RXは記憶を探り、できるだけ詳しい情報を思い出そうとしていた。 もう数年前になるが、スカリエッティが使っていたブランドなども今では分かる。 2人、あるいは3人で暮らしていた時のことが浮かび、熱いコーヒーの香りや洗剤の柑橘系の匂いを思い出す。 その中で彼女が言った言葉でひっかかりを覚えるものもRXは挙げていった。 「ありがとう。何かわかったら連絡するよ」 全て聞き終えたヴェロッサはRXに礼を言う。 三人はそれから暫く寒空の下屋上から見下ろせるミッドチルダの治安について暫く意見を交わしていた。 と言ってもヴェロッサは特定の世界を守る為に動く役職に就いた経験さえないので耳を傾けるに留まっている。 何らかの調査ならまだしも、市民を襲う犯罪にどう対処するかなどの問題についてはRXと大差ない素人考えしか浮かばないのだった。 その話が現場で働いている者達のことへと変り、RXがレジアスの他に犯人を引き渡していたゲンヤ・ナカジマに及んだ時に…レジアスの表情が曇った。 RXにはまだ告げていない事を告げるべきか否か。 ゲンヤ・ナカジマの妻等優秀な者達を率いていたかつての友、ゼスト・グランガイツがどうなってしまったか… 暫し考えた後、レジアスはやはり話さないことを選択した。 もう彼らは何年も前に死んでしまい、今更レジアスにはどうすることもできない。 彼らの遺体や、ゼストの部下だったメガーヌ・アルビーノのまだ幼い娘がレジアスには通達の無いまま管理局によって引き渡され、その後どうなったのかなど考えるまでも無いことだった。 もっと早く気付き配置換えを行っておけば殉死することはなかったし、子供も引き渡さずに済んだという負い目が残っていたが、そんなことは今スカリエッティを捕らえることにすら全く関係が無い。 RXの管理局に対する嫌悪感を強くするだけでしかないとレジアスは頭を振って、感傷を頭の中から追い出そうとした。 その為に強引に自分の管轄で情報漏洩が疑われた不快感を蒸し返し、いけ好かない本局から来たヴェロッサへ怒りを燃やす。それが最も手っ取り早かった。 ぼんやりしていたかと思えば、頭を振り、不快そうに眉間に皺を寄せるレジアスをRXとヴェロッサは不思議に思ったが、二人はマスクド・ライダーに対抗する手だてを練り行動する犯罪者への対策に熱を上げていた。 「ところで六課はホテル・アグスタの警備に回されるそうだな」 「ああ」 突然話を変えたレジアスの態度は不可解だったが、RXは簡潔に答えた。 男の表情から、RXは何があったのかはわからないが、レジアスが深く傷ついた出来事をまだ忘れられずにいることだけは察していた。 ・・ 「あの犯罪者がどうなろうと知ったことではないが、偶然、その前後数日の間にロストロギアがミッドチルダに持ち込まれるという情報がウチに舞い込んでおる」 それを聞いて、表情を変えられないため余人には読み取る事は出来ないにしろ、RXが身に纏っている雰囲気が剣呑なものに変る。 空港でのことや、先日のライドロンのことが頭に浮かぶ。 だがそれよりもRXは、レジアス自身は六課のことを嫌っているのは知っていても、レジアスの棘のある言葉にも反発を覚えた。 ヴェロッサもそれは同じだった。 「ちょっと待ってください。はやて達のどこが犯罪者だと言うんですか!?」 「何を言っておる!! 貴様闇の書事件を知らんとでも言うのか!?」 「貴方が言う事か!!」 はやて達への侮辱に険しい目をするヴェロッサの方へRXが顔を向ける。 「落ち着くんだ。レジアスもはやてちゃん達を侮辱するようなことは言わないでくれ」 咎められたヴェロッサは、レジアスに詰め寄ろうとするのを止めた。 ミッドチルダに集まる情報に全て目を通しているわけではないヴェロッサは、出所を調べてみようとだけ述べた。 「僕はこれで失礼する。こちらも真偽が分かり次第連絡させてもらうよ」 気分を害したヴェロッサがこの場を後にしようとするのを止める手はRXにはなかった。 恐らくはこのまま海へと戻り、仲間達と打ち合わせて別の管理世界に向かうのだろう。 RXは去っていくヴェロッサを見送った。去って言った後、RXは念を押して強い、怒りを含んだ声を出す。 「レジアス。あんな事を言うのは止めてくれ」 「…わかっておる」 ふてくされた子供のような不満げな顔で答えるレジアスにRXは苛立ったが、レジアスの態度にまで口を挟まなかった。 管理局の陸と海の確執もあり、今これ以上の事を求めてもこじれてしまうだろう。 水際で情報を入手する事が出来たのか、戦力を分散させる事を目的とした何者かが手を打ったのか。 「さっきの件だが、こちらでも目下調査中だ。何か分かり次第連絡がつくようにはしておくが…当日までに真偽が判明するかは望み薄だ」 やけに自信たっぷりなRXにしかめっ面のレジアスが言う。 それから二人は、近頃のミッドチルダの状況について暫く話しを続けた。 ミッドチルダの治安は良くなり、陸士を希望する者や協力的な者も年々増加していたが、スカリエッティ以外の犯罪者のことでも二人の間には話す事柄は多数存在していた。 途中で事件が発生する事もなく、どんな犯罪が増加しているのかや灯りに群がる蛾のように集まってくる強力な力を持つ犯罪者について、二人は意見を交わした。 不機嫌そうなレジアスの表情も話す間に険が取れていく。 「おっと、もうこんな時間か。悪いがワシもそろそろ失礼する」 寒空の中話しこみ過ぎたせいだろう、レジアスが体を震わせて時計を見た。 「妻を待たせているのだ」 それを合図に話を打ち切ろうとするレジアスへRXは遠慮がちに尋ねる。 「…レジアス。確かめておきたいんだが、本当に大丈夫なのか?」 「ドゥーエのことなら問題ない…今はまだ奴等はワシを殺したりはせん。ワシを殺す方がデメリットが大きいからな」 ヴェロッサと同じ懸念を示すRXに不愉快そうにレジアスは言った。 「何より奴等はお前を意識しておる。ワシはそれを逆手に都合のいい話を吹き込んである。ワシを排除した場合お前が奴等を探しに行くのではないかとな」 「そうか…」 冗談交じりの言葉に歯切れの悪い返事を返されたレジアスは訝しむような目でRXを見る。 RXはもう一つレジアスに尋ねたい事があったが、口に出せずにいる。 それについては、情に流されない合理的な考えだと言う事も出来る。 だが本当は、それは臆病さを隠しているだけだとRXは気付いていた。 「BLACK。管理世界ではどんな相手でも対象から外れることはない。例え相手がワシを裏切るのかもしれなくても…うっかりワシを握りつぶしてしまうかもしれない相手でもだ」 「!? いきなりなんだ?」 「…だが、その相手によってはお前のことをお義兄さんと呼ばなくてはならないかと考えると、年甲斐のない気持ちにさせられる」 「馬鹿なことを言うなっ」 反射的に返すRXの態度は犯罪者を連行してきたり、スカリエッティのことを考えている時とは違い、若いを通り越して幼さが感じられた。 「ここはミッドチルダだ。予断は許さん状況だが、以前に比べればこの地上本部の人間もBLACKがいるせいで緊張感がなくなっておる有様だ。もう少し……その、気楽に考えてはどうだ?」 そういったレジアスの声は彼の顔に似合わず優しげな響きをしていた。本人もらしくないと感じたのか、言うなりレジアスはそっぽを向く。 「どうしてそんなことを? ロストロギアの事を聞かされたらそうも言ってられないじゃないか」 「ロストロギアによって危機に瀕している世界は他にもある。管理局では割と日常的な話だ。お前の仕事が来るまでに疲れてもらうわけにはいかん」 「わかった。だがウーノ達は俺達の敵だろう」 「勿論だ。奴等ではなく…」 レジアスはその返答を妙に思ったが、口をつむぐ事にした。 よく考えて見れば、六課にスカリエッティが生み出した技術によって生み出された隊員が複数いることなど話すわけも無い。 そのまま二人は逃げるようにその場を去っていった。 レジアスは残作業を予定していた時間まで進めて家に戻り、ヴェロッサから改めてスパイだと念を押された新妻と遅い夕飯を取った。 分かっていたことだったがいざ他人から指摘を受けたせいで、下手をすれば娘より年下だったのかもしれないとサーモンソテーを食べながら冷や汗をかく羽目になった。 前へ 目次へ 次へ
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友人にインチキ臭いとまで言われた男は人目を避けてアクロバッターを走らせていた。 シャーリーが用意したコースは完璧に近く、雰囲気のある店の付近を目指して人目につかずに走れるコースだった。 久しぶりに再会した相棒と走る心地よさを堪能するには、背中にしがみつくフェイトは邪魔になったが概ね満足だ。 多少RXの好みから離れてしまうのは、初めてお願いしたのだから仕方がない。 ウーノのようには、いかない。 覚えのある道を走った時に浮かぶ不満を隠すようにRXは速度を緩めずにコーナーを曲がっていった。 バイクの後ろに乗るのは魔法で飛んだり、車の運転するのとは違うらしく、まだ慣れていないフェイトは強くしがみついた。 どうにか慣れる頃に目的地に着くと、今度はフェイトの先導で二人は歩き出した。 廃棄区画に近いその場所は薄暗く、街灯に照らされていない道が幾つもあった。 「アクロバッターが荒いっていうのわかったような気がします」 「そ、そうかい?」 後ろからそれ見ろと言わんばかりのエンジン音が聞こえ、人間の姿に戻った光太郎がそれを咎めた。 アクロバッターには全く反省した様子がなかったが。 亀裂が走り、何処かから転がってきた建材の破片が転がる道を、二人は場所を確認しながら店に向かっていった。 人間の姿に戻った光太郎は、地球ではほぼ常に、制服のように着ていた白いジャケットではなくウーノらが用意して数年着続けているスーツ。 落ち着いた色合いで、手袋だけが明るい色の皮で出来ていた。 アクロバッターに乗っている間は変身していたので、パンツに皺が寄ることもなかった。 フェイトの方はちょっとばかりカウガールっぽかった。 細めのジーンズにウエスタン風のシャツ、皮の靴とベルト……ベルトの色の方が、靴よりも濃い色をしていた。 プライベートな時間には大抵スカートを履くのだが、光太郎がバイクに乗るので、一つ二つ用意してあったらしい。 ウエスタンシャツの間から見えるシャツの可愛らしいキャラクターと、鎖骨から首のラインは照明に照らされれば如何に光太郎でもグッと来る可能性はあるように見えた。 二人は、場所からしてないとは思われるが、ラフな格好では断られる店だったとしても光太郎の格好でどうにか、と考えていた。 程なくして場所を教えられているフェイトは足を止め、少し焦りながら周囲に目をやった。 「あれ?」 「どうかしたのか?」 「いえ……シャーリーが教えてくれたのはここなんですけど」 フェイトが示したのは、古いらしく微かにオレンジがかった照明の点灯した店。 店内から音楽が外へ漏れ、二人のところまで届いていた。 店内へと入っていく通路には何枚もの張り紙がされ、ずっと前に剥がされたものの残りがへばりついているのが目についた。 清潔な印象を与えるような色は見えず、年季の入った木製の扉には目に見えて傷が付いていた。 これまで殆ど入った経験がないらしく、フェイトは戸惑いを隠せないようだった。 光太郎は、フェイトに一度間違いないことを確認してから店内へ入っていく。 フェイトもそれについて入っていく。 温かみと艶のある木製のテーブルと椅子が二組あって、片方では白いテーブルクロスの上に並べられた料理に舌包みを打つ年かさの行った男女が数人いた。 音楽は店の奥から流れてきているようだった。 一人でウェイターも兼ねているというシェフが奥から姿を見せ、残ったもう一つのテーブルの椅子を引いた。 男性客がさり気なく入ってきた二人の顔を見て、一瞬驚いたような表情をする。 フェイトがそれに気づいたが、光太郎は気づいているのかいないのかさっさと席に座ってしまった。 グルメとはとても言えない二人であったから、シェフの勧めるままに料理を幾つか注文して他愛ない話をする。 シャーリーが調べ勧めてくれたことはあり、直ぐに運ばれてきた料理はどれも美味で、口に入れた二人が驚くほど二人の好みにも一致していた。 シェフの勧めるままに酒も口にする。 光太郎は直ぐに消化してしまうし、フェイトも飲むような習慣がなかったので普段なら口にしないものだが、店の雰囲気とシェフの柔らかい態度に少し飲んでみようと言う気にさせられた。 気を良くした二人の話は盛り上がった。 地球で言うとフェイトはまだお酒を嗜む年齢ではなかったが、こちらではそうではないらしい……光太郎は気になったが、口にはしなかった。 アクロバッターが戻ったばかりであったし、本人が希望したとはいえエリオとキャロが管理局に入ったことにヴィヴィオを暫く預かることになったお陰で話題にも事欠かなかった。 デート中にするような話ではないだろうと、隣の席に座っていた老婆からどこか見覚えのある呆れたような視線を向けられたが、どう扱おうかと今から心配しているらしいフェイトの相談に光太郎は知恵を絞る。 だが料理も殆ど食べ終えた頃になって、フェイトがパッタリと口を閉じた。 そこそこ話し終えていたが、別の話をするでもなく黙ってしまったフェイトを光太郎は不思議そうに見る。 「どうかしたのか?」 「い、いえ……一つ、お願いしようと思ってたことがあるのを思い出して」 「なんだ?」 「光太郎さんからまだ……す、好きって、言ってもらったことありません」 「そ、そうだったっけ? おっかしいなぁ……」 年甲斐もなく狼狽する光太郎に、フェイトは少し返事を返されるのが怖がっているようだった。 それを見て、光太郎の表情は真剣味を帯びていった。 「だから、出来たらでいいんですけど言って」「すまない」 険しい表情で直ぐに、返事が返される。 光太郎は一瞬、どこか遠くを見たようだった。 「……どうして言ってくれないんですか? 私のことやっぱ」 「もう少し時間をくれ。今は君の求めている言葉は言えない」 「そう、ですか。や」 「違う!! 俺は、言いたいと思っている。だけど俺は……!!」 落胆するフェイトに光太郎は身を乗り出して、叫ぶように言った。 驚いたフェイトに目の奥に火花を散らせたような鋭い眼差しを向ける。 「……思ってもいなかったんだ。だが、まだ俺はウーノのことを忘れていないんだ。だから、待って欲しい……無理にとは、言えないが」 「……わかりました」 少し間を置いて、フェイトがポツリと返事を返した。 「わかりましたから……ありがとうございます」 フェイトの返事を不思議に思って怪訝そうな顔をする光太郎の手をフェイトが握った。 そして、会計をして二人で出て行く。 望む返事を返すことが出来なかった光太郎は、気が咎めてすっきりとした表情とは言えなかったが、 フェイトの方は、然程気にした様子もなくどこか満足げだった。 それを見送った後、隣でそんな会話を聞かされる羽目になった客達は、ISを解いた。 シルバーカーテンで姉妹皆の姿を偽装していたクアットロが、ニヤニヤしながらウーノを見る。 皆ナンバーズに支給されるボディスーツではなく普通の服装をしていた。 ボディスーツの上から普通の服を着ているものもいて、ウーノらに咎められたが。 「何かしら?」 「いいえ、私の復活祝にウーノ姉さまが用意してくれたイベントなのかなぁって」 「まさか」 うっすら笑みを見せながらウーノが言い返す。 だがフォークをチラつかせるウーノに妹たちの誰かが喉を鳴らした。 「私と来た店だって言わなくってとっても安心したわ」 「余裕ですかぁ?」 入店してきた時はヒヤッとさせられたが、どうやら流石の光太郎も変身していない状態の体では、シルバーカーテンによる偽装を見破れないらしい。 それがわかったクアットロは調子に乗っていた。シェフも光太郎のことを覚えていたが、空気を読んでいた。 この世界では姿を変えるくらい簡単……とは言わないが、ワケありの人間達の間ではそれなりに行われる行為だった。 「止せ。クアットロ」 「チンクちゃんったら、貴方だってちょっとは気になってるくせに」 「そ、そんなことはない!! クアットロ、そういうところがセッテを怒らせたんだから少しは自重してくれ」 「……つまんなぁい」 チンクに言われ、悪態をつくクアットロはメガネをしていなかった。 セッテに殴りつけられて瀕死に陥った際にレンズの破片で痛い目を見たので、付けなくなっていた。 拳の当たった場所から放射状に、角の多い星か花びらの多い花のような傷跡が残っている。 スカリエッティがわざと残したそれをクアットロは撫でた。 その仕草に、皆微かに表情を変える。 だが、可哀想と感じているらしいのは姉妹の中でも半分ほどだと言うことが、それでわかった。 「私、ドクターのところを出ていくことにきめましたわ」 「いきなり何を言っている!? セッテのことは……確かにやりすぎだが、ドクターも」 突然の発言に驚く姉妹たちの中で、チンクが最初に立ち上がった。 ため息を付いたウーノがクアットロに眼差しを向けると、傷跡の端へ指を滑らせながらクアットロは説明する。 「私のこと嫌ってる子もいるみたいだし、私も好きにやらせてもらおうと思って」 そう言った顔はいつもの茶化すような表情で、本気で言っているのかどうか余人には判断出来かねる態度だった。 姉妹たちも何人かはクアットロのことがわからないと言った顔で、仲の良い姉の方を伺うように見る。 「……いいわ。何を持って行く気?」 だがどういったつもりであろうと、資材については強い権限を持つウーノの一言で判断は下ったようだ。 「さっすがウーノ姉さま。ガジェットを頂いていきますから、心配は御無用です」 「全部はダメよ? ドクターが祭りの日に使いたいらしいわ」 「はい!」 素直な返事を返したクアットロが、全体の実に八割に及ぶ機体を持ち去ったのはこれから数日後のこと。 完全に自動的に作成されるガジェットの生産数を増やすことは出来ず、かといって祭りの日までに必要数を作成することも出来ないのは明白で、 意外なアクシデントに頭を抱えるウーノと、寧ろ面白くなってきたらしい高笑いをするスカリエッティがガランとした格納庫に残された。 前へ 目次へ 次へ
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相棒、アクロバッターが届けられるのをRXは朝から六課の宿舎内を歩き回り、落ち着かない様子で待っていた。 その日は六課の数少ない休日に合わせていたので人気は少なかった。普段は交代制で休んでいる誰かが思い思いの場所にいるのだが、今日ばかりは外出している人間が多い。 RXと顔馴染みの者も、何名かは出かけていくようだった。 乗馬服っぽいパンツとブーツの上から淡い色のミニワンピースを着たギンガが、バイクを押して視界に入り目の前で止まった。 「おはようございます!」 「おはよう。ギンガもバイクに乗ってたんだ」 「はい。試しに乗ってみたら、楽しくって……! 勿論RXさんみたいに上手くは走れませんけど」 照れくさそうに説明するギンガに、RXは謙遜して首を振る。 市販バイクしか乗ったことのない人間にそうした態度を見せるRXをアクロバッターが目にしていれば期限を悪くしただろうが、幸いアクロバッターの到着にはまだ時間があった。 ミッドチルダのバイクに関してはあまりよく知らないRXは、ギンガがスバルとティアナを待つ暫しの間、ミッドのバイク事情などについて少し話を聞いた。 「でも……こうしてRXさんとお話出来るなんて感激です」 幾つかの質問に答えた後、ギンガが言う。 以前助けたことを感謝されていることは知っていたRXだったが、戸惑いを隠せないまま返事を返す。 「そ、そうかい? 大げさだな~……」 「そんなことありません!! 私達にとっては恩人ですし……最近は他の世界の人からも羨ましがられてるんですよ」 「え?」 何のことか思いつかないらしいRXに、ギンガは若干はしゃいだ様子で説明する。 「他の管理世界もミッドチルダと大きくは変わらない状況ですから、マスクド・ライダーを独り占めしてるのはズルイって羨ましがる声もあるんです」 仮面のお陰で表情に変化が現れることはなかったが、RXは相槌を打つのも忘れて耳を傾けた。 自分の話に熱心に耳を傾けるRXに、ギンガは嬉しそうに説明する。 「他の世界にも同じようなヒーローが現れ始めたらしいんですけど、まだ上手くはいってないみたいです」 「他にもライダーがいるのか!?」 「は、はい……! 若い高ランク魔道士や、レアスキル保有者のようですけど、顔は隠れていて、本人は関与を否定していてまだ捕まった人はいないとか」 捲し立てるように言ったギンガは、参加しているマスクド・ライダークラブから得た情報を頭から引っ張り出す。 余談だが、ギンガがブラックとブルー、二人のライダーと撮った写真のデータを仲の良いメンバーに見せびらかしたかは不明である。 「例えば……『お前の罪を数えろ』」 突然声色を変えたギンガに、変身した姿でなければ目を白黒させたことだろう。幸運過ぎることにまだ一緒に出かける予定のスバルとティアナは来ていない…彼女のイメージは今ならまだ保たれるだろう。 だが、ツッコミを入れるまもなくその一人の決めポーズなのか、ギンガはしなを作って甘く囁いた。 「『私に釣られてみる?』」 苦笑いを見せることが出来ない仮面ライダーは幸いだった。だが沈黙から漂うものをやっと感じ取ったギンガは、そのポーズのまま顔を真赤にした。 その上視界の端で、輸送ヘリのパイロットのヴァイス曹長にバイクを借りたティアナとスバルが固まっており…… 更にその後ろには微笑を浮かべてエリオとキャロの肩に手を食い込ませるフェイトの姿もあった。 「ふ、二人とも早かったのね!! あ、RXさん。じゃ、じゃあ私達行ってきます!!」 逃げるように走り出す姉を、二人はRXに軽く挨拶して追いかける。 「お姉ちゃん何してたの?」 「ご、誤解しないで……!! これは、ちょっとRXさんに他の世界のヒーローの事を」 「えー? でもあれは絶対……」 遠くから声が聞こえたが、RXにしてやれることは聞かなかったことにすることだけだ。 ギンガと並走するティアナはもう問題を解消したようだった。 他の世界でRXと同じような事をしている者がいる。ギンガの話は初耳だった。 ミッドチルダにはセッテが現れたからか、ミッドチルダでは真似をする者が見つかっていない。 そのせいもあってRXは気づいていなかったのだが、こちらに来て数年、RXの行動に影響を受けた人間が、(犯罪者と扱われるかは紙一重の世界だと理解しているかは兎も角として)動き出していた。 その結果として、管理局に入局するハズだったレアスキル持ちの高ランク魔道士が士官学校を出た後地元の民間企業に就職すると言う事態が確認される事態となっていたが、レジアス達は華麗にスルーしていた。 そのすぐ後に、エリオとキャロが何故か慌てて走っていくのを見送り、RXは入り口に腰掛けてアクロバッターがやってくるのをジッと待った。 エリオとキャロを見送ったフェイトが、泣きそうな顔で地べたに腰掛けるRXに声をかける。 「こ、光太郎さん……さっきのは一体どういうことだったんですか!?」 「え?」 フェイトの剣幕に、一瞬RXは何のことかわからなかったが、ギンガの話してくれたことだろうとあたりを付けて返事を返す。 「ああ。さっきのは他の世界のライダーの決まり文句だってさ。他の管理世界にも俺と同じような事をする奴がいるらしいんだ」 「え?」「ん?」 「…………そ、そうですよね」 いきなり矛を収めたフェイトに内心首を傾げながらも、RXはアクロバッターがやってくるであろう方向に視線を戻した。 「きょ、今日は珍しく一緒にいませんけど、今日はどこかにお出かけしたんですか?」 「え? ああ。朝早く出かけていったよ。セッテと同じようにスカリエッティの所を離れている姉に会ってくるそうだ」 「! そんな人がいらっしゃるんですか!?」 驚くフェイトにRXは頷く。 「セッテも顔をあわせた事は殆どないってさ」 「スカリエッティのことは……」 「聞いてくると思うけど……はやてちゃんから聞いてないか?」 不思議そうな顔をするフェイトに、RXははやてにはこの話しを伝えてあったことを告げる。 何か面白い話を聞いてくるかも、と特に何か行動を起こす予定ではなかったため伝えられなかったのかもしれないが。 「う~ん……今日は、出かける予定があって忙しかったのかも……」 苦笑するフェイトに、RXは頷き返す。 「私はもう中に戻りますけど、光太郎さんはどうされるんですか? 母さん達が来るまでまだ一時間以上ありますよ」 「ああ。わかってるんだけど、待ちきれなくってさ」 「久しぶりですもんね。あ、お昼、どうされますか?」 「そうだな……いいや。ここで待ってるよ」 座り込んで動かないRXの背中を見つめ、フェイトは子どもっぽいと言いたげに微苦笑を浮かべた。 「もう、そうだ……!! 今晩、もしよかったらアクロバッターに乗って外に食べに行きませんか?」 「それはいい考えだね!! 最近アイツと走ってなかったし、うん。店を探さないとな」 「それなら私からシャーリーにお願いして、アクロバッターで近くまで行けそうなお店、探してもらいます」 フェイトはそう言って仕事を始めているであろうシャーリーのところへ走っていった。 RXは再び視線を戻して、やってくるであろう方向を見つめた。 遠くの景色や周囲の音をなんとはなしに感じ取って、陽炎の向こうから影が現れ、マフラーの排気音が聞こえてくるのをゆっくりと待っていた。 そのままゆっくりと時間が過ぎていき、食堂で昼食が始まったのかテレビがつけられ、レジアスの演説が聞こえてくる。 「当日は、首都防衛隊の隊長、レジアス・ゲイズ中将による、管理局の防衛思想に関しての表明も行われました」 「魔法と技術の進歩と進化。素晴らしいものではあるが、しかし!! それがゆえに我々を襲う危機や災害も、10年前と比べ物にならないほど危険度を増している!! 兵器運営の強化は進化する世界の平和を守るためである!! 首都防衛の手は未だ足りん。非常戦力においても我々の要請さえ通りさえすれば、地上の犯罪も発生率20%の低下。検挙率においては35%以上の増加を初年度から見込むことができる!」 「このオッサンはまだこんなこと言ってんのな」 「レジアス中将は古くから武闘派だからな」 レジアスの演説に対するヴィータの感想に、シグナムが言う。 なのはの興味は演説よりも共に映った人間にあるようで、それは共に食事をする他の隊長達も同じだったのか会話はそちらに流れていった。 「あ、ミゼット提督」 「ミゼットばあちゃん?」 「あー、キール元帥とフィルス相談役もご一緒なんだ」 「伝説の3提督、揃い踏みやね」 「でも、こうしてみると…普通の老人会だ」 「もう、駄目だよ、ヴィータ。偉大な方たちなんだよ?」 「うん、管理局の黎明期から今までの形に整えた功労者さんたちだもんね」 「ま、あたしは好きだぞ。このばあちゃんたち」 「護衛任務を受け持ったことがあってな。ミゼット提督は主はやてやヴィータたちがお気に入りのようだ」 「ああ~、そっかぁ」 「なるほど」 RX自身は、何度も同じような演説をする羽目になるレジアスにあったので演説を聞いていた。 このミッドチルダの治安は、パーセンテージの上では上がったり下がったりしている。 そのせいでレジアスの演説は同じようなものにならざるを得ない。 ミッドチルダは、地域によって犯罪の通報される数に大きなばらつきがある。 設置されているセンサーや、陸士部隊等によっては未だにフォローし切れない場所があり、発生していても通報されない犯罪が未だに多数存在しているのだ。 ある意味酷いのは、襲われた人物が魔道士の場合、逆に犯罪者が叩きのめされて路地裏に放置され、更にそこを別の犯罪者に襲われるというケースもあるらしい。 レジアスはそれを改善し、実際に起こっている件数に近い数に近づけている。 そのせいで検挙率や発生率はレジアスの階級が上がってから上下を続けることになっていた。 RXもそれに、どちらの意味でも一役買っていることを本人の口から聞かされていた。 RXがいるお陰で『通報されやすくなった。発生率自体も下がった』という言葉と、『他の管理世界から流れ込んだ人々の数が増え、その一部が犯罪を起こしている為犯罪者が増えている』と。 悩ましい問題を考えていた頭が、電流が流れ込んだように戻される。 遠くに待っていたものの姿をRXは確認していた。 * 「久しぶりだな!! アクロバッター!!」 「RX、元気だったか」 「ああ……!! お前も元気そうで何よりだ。なんだ、お前俺と一緒にいた頃より元気そうじゃないか。ピカピカに磨かれちゃってさ」 「ヴィヴィオの、お陰だ」 頭を振るアクロバッターの周りを歩き回り、磨かれたボディを小突いていたRXは遅れて到着した車へ顔を向けた。 車の扉が開き、見覚えのある左右目の色の違う女の子が、一人で扉を開け閉めする。 一人でやろうとする娘を、優雅な所作で車から降りたリンディが見守っていた。 RXに気づいて、リンディが微笑むとそれが視界に入ったのか、女の子……以前会った頃よりは大分成長したヴィヴィオが振り向き、RXの元へ駆け出した。 「RXっ」 「久しぶりだね。ヴィヴィオ、今日はアクロバッターを連れてきてくれてありがとう。ずっとアクロバッターの世話もしてくれてたんだって?」 危なげなく、というよりRXが驚くほどの速さで走ってきたヴィヴィオに、RXは片膝をつき視線の高さを近づけて迎えた。 ヴィヴィオはおめかししているせいか、何処と無く気品があってお姫様のようだった。 「うんっ、まだ全部はさせてもらえないけど、ヴィヴィオが綺麗に磨いてたんだよ!!」 「そっか。それでアクロバッターの奴こんなに綺麗になってたんだな。ありがとう」 「えへへ、時々乗せて走ってもらったりしたから、そのお礼にって始めたんだ」 「アクロバッターに乗ったのかい!? そりゃあ凄いや。コイツ暴れん坊だから大変じゃないか」 「そんなことないよ?」 ね!!、とアクロバッターに向けてヴィヴィオが言うと、アクロバッターも不満げに首をふり、RXをハンドルで叩いた。 「光太郎の運転が、荒いのだ」 「おいおい、そんな言い方はないだろ」 そんな風にするRXを見るのは初めてだったのか、リンディの笑い声が上がる。 それに気づいて取り繕うように背筋を伸ばす。 「フフ……、本当に仲がいいのね。光太郎さん、お久しぶり」 「リンディさん、お久しぶりです。今日はありがとうございました」 「いいえ。私の方も様子が知りたかったし、お願いしたいこともあったしね。フェイトは一緒じゃないの?」 「フェイトちゃんは今お昼なんです。今呼んできますよ」 「ううん、それより先にアクロバッターを運んでしまいましょう」 「しかし……」 「ヴィヴィオったら、家にあった道具を全部持ってきたのよ。忘れるといけないから、先に下ろさせてもらえないかしら」 除け者にするのが躊躇われて、食い下がるRXへリンディは車のトランクに目配せをした。 どうやらアクロバッターは本当に可愛がられていたらしい。 「……わかりました。ヴィヴィオ、持ってきた荷物を教えてくれないか? 俺が運ぶよ」 「ダメだよ。自分の物は自分で運ばないとリンディママに叱られちゃう」 ヴィヴィオが叱るように言うと、RXはリンディと一度目をあわせて、ヴィヴィオに言う。 「今日は特別さ。なんたってアクロバッターは俺の相棒なんだからね。メンテナンスの道具を俺が運ぶ位リンディママも許してくれるよ」 すると、今度はヴィヴィオがリンディの顔色を伺った。 リンディは勿体ぶるように少しだけ考える素振りを見せてから微笑んだ。 「いいわ。今日は特別な日ですものね」 「うんっ、RX!! こっちに来て!!」 ヴィヴィオの先導で、RXはトランクの後ろに歩いていく。 その後からアクロバッターが続き、リンディが離れた場所で見守ったままキーを操作してトランクを開けた。 磨くための布や、工具を収めているらしい箱が置かれている。 可愛らしいプリントがされていたりするものと思っていたが、かなり無骨なデザインの普通の箱だった。 RXはそれを持って、ヴィヴィオ達を連れて六課のバイク置き場に歩いていく。 アクロバッターはゴルゴムの科学で作られた物が進化している……だから別に整備の必要はない。 いや必要はあるのかもしれないが、元々創世王の愛機として千年、万年を戦い続けることを目的として設計されている為、アクロバッターはタフなのだ。 だが意志を持つ相棒を時々磨いてやるのは助けてもらっているRXの義務のようなもの。 様子をみる限りヴィヴィオの方がかなり丁寧に磨いてやっているようで、今後RX自身の手でやるとなると色々と口うるさく言われてしまいそうだが。 アクロバッターを用意しておいたスペースに移動させて、RX達は六課宿舎の中へ戻っていく。 入れ違いで戻ってきたフェイトが、RXが座っていた場所からいなくなったのを見て連絡してくるのは彼らが部屋に到着しようかという頃だった。 モニター越しに呼ばなかったことを責められるRXの様子をリンディはどこか楽しそうに見ていた。 部屋の前で待つように伝えてフェイトがモニターを切る。 少し参ったように肩を落とすRXに慰めの言葉をかけて、彼らは部屋へ向かってまた歩き出した。 ヴィヴィオはRXに手を引かれて、六課のあまり代わり映えのしない廊下や天井へ視線を行ったり来たりさせていた。 「ねえRX、何か理由があるんだったらごめんなさいね」 「はい?」 「…………変身したままなのは何か理由があるのかしら?」 「六課の皆には、まだ俺が人間の姿に戻れることは秘密なんです」 「そうだったの……ごめんなさい。言いにくいことだったんじゃないかしら」 「そんなことありませんっ。俺も今はもう皆に伝えておいた方がいいと思ってますから。ただ、ちょっとタイミングが掴めなくて……わざわざ集まってもらうわけにも行きませんから」 「そうね。なのはちゃん達にも協力してもらって、それとなく広めていけばいくとかどうかしら……? お風呂とかはどうしてるの?」 少し考え、助言をしようとするリンディにRXは言う。 「このまま入ってますが…?」 「そのまま?」 「ええ。別にこの体でも汚れないわけじゃありませんからね」 おどけた口調に、RXが半ば以上ジョークで言っていることに気づいたが、リンディは堪えきれずに吹き出した。 湯船に肩まで浸かり、頭にタオルを置いたRXの姿を想像してしまって、笑いがこみ上げるのを押えきれなかったのだ。 RXもその気持は理解出来たのか、笑うリンディに興味を引かれたらしいヴィヴィオと目をあわせる。 「六課の隊員は大変ね。共同浴場に入っていったら貴方がそのままの姿で背中を擦ったりしてるんでしょ」 「そうなりますね。犬の姿をしてるザフィーラと二人で足の裏を綺麗にしてる所が一番驚かれますよ。面倒な時はゲル化しちゃうんですけどね」 子供らしからぬ深い悩みを抱えたような顔で固まったエリオの姿を思い返しながらRXが言うと、リンディ達は声を上げて笑った。 「ヴィヴィオも見たいっ」 「うーん…………フェイトちゃんの所に泊まる機会があれば、一緒に入るかい?」 「うんっ」 「駄目よ二人とも。ヴィヴィオも女の子なんですからね」 「えー」 軽い気持ちで答えたRXに、リンディは咎めるように少し険のある顔を見せた。 RXは戸惑いながら相づちを打つ。 「そ、そうですよね!! ヴィヴィオちゃ「ヴィヴィオでいいよ!!」ヴィヴィオも女の子だもんなっ」 以前叔父の家に厄介になっていた頃には同じような年頃の子供の面倒を見ていた。 風呂に入れたりもしていたのだが、こちらでは早くから分けてしまうものらしい。 不味かったのかと久しぶりに冷や汗をかきながら、RXは就業年齢が低いからかと思った。 ちょうど都合よく、走ってくるフェイトの足音が近づいたのでRXは足を止めた。 話題を変えたい気持ちもあり、もうすぐ来るからと待つことにする。 「あ、フェイトお姉ちゃんだ」 ヴィヴィオがフェイトを見つけて、掴んだままのRXの手を引いて走りだした。 身長が2m近いRXがヴィヴィオに合わせるのは少し大変だが、付き合ってRXも早足になる。 そんな二人を見つけて、フェイトが訓練場の地面を削るほどの速さで二人の前に移動した。 「久しぶりだね。ヴィヴィオ、元気にしてた?」 「うんっ」 フェイトがヴィヴィオを抱きかかえて、額にキスする。 顔を綻ばせてされるままになっていたヴィヴィオはそれを見ていたRXに首を傾げる。 どうして見ていたのか、不思議に思ったらしい。後から来たリンディにフェイトが少し怒ったような顔をする。 「お母さんが先に行こうって言ったんでしょ」 「だって貴方は今ご飯食べてるって聞いたんですもの。先に行って待っててもいいじゃない」 先に行ってお茶の用意をしておくつもりだったと言う母親にフェイトとRXは困ったように視線を交わした。 リンディが入れるお茶は甘すぎたりする時がある…… 「……ヴィヴィオも飲まされてるのか?」 「クロノ達が止めてくれるはずだけど……ヴィヴィオ。リンディママの入れたお茶、飲んだりしてないよね?」 「べ、別に普通の入れ方だって出来ます!! …………美味しいのに」 「そ、そうだ!! な、なのは達も後で来るって、なのはもはやても母さんやヴィヴィオと会えるの楽しみにしてたんだよ」 強引に話を変えようとするフェイトに、リンディは逆らわなかった。 4人はヴィヴィオがRXの部屋を見たいと言うので、一度RXの部屋に寄り、一通り見せてからフェイトの部屋に入っていった。 部屋に入ったリンディとヴィヴィオは、早速フェイトの部屋の中も隅々まで調べだす。 今度はヴィヴィオよりリンディの方が主導になっていて、フェイトは困ったように笑うとお茶の用意を始める。 どうもリンディは、フェイトがちゃんとした暮らしをしているか気になっていたらしい。 「これならヴィヴィオをお願いしても大丈夫かしら」 一通り調べ終わったリンディは、フェイトの淹れたお茶を飲み一息ついてから言う。 「ど、どうしたの突然…」 「ヴィヴィオをフェイトちゃんにですか?」 「実はちょっとお仕事が忙しくなるから、暫くヴィヴィオを預かって欲しいのよ」 「ええっ!? そ、そんなこといきなり言われても困るよ」 フェイトは、こちらも今聞かされたのかびっくりしているヴィヴィオの顔色を伺いながら、声を潜める。 「ヴィヴィオだって学校があるし、エイミィにお願いできないの…!?」 気が咎めるのだろう、フェイトは顔を寄せて言う。 その隣に座るヴィヴィオに聞こえないようにすることは出来ないだろうが。 「ライドロンのことは聞いてるでしょう? 手は打ったけど、今のあの子じゃヴィヴィオのことまで任せられないわ」 「でも……」 渋るフェイトに、リンディはため息を付くと立ち上がり、フェイトの手を引っ張って少しヴィヴィオから離れていった。 RXとヴィヴィオは不思議に思ったが、素直に二人の話が終わるのを待つことにした。 ヴィヴィオを預かるという話に、RXは口を挟もうとはしなかった。 その代わりに、二人の話が終わるまでヴィヴィオの相手を努めようとしているようだった。 「そろそろ……あの子にも仕事を見せてあげたいのよ」 「言っておくけど……私の所に来たって訓練だって見せてあげられないよ?」 「わかってるわ。でも何とかしてあの子に管理局の仕事が格好良いって所を見せてあげられないかしら?」 フェイトは、意味を理解しかねたのか何とも言えない表情をする。 「ヴィヴィオの夢、貴方も知ってるでしょ」 リンディはもう一度ため息を付いてから言う。 なんだそんなことかと、今度はフェイトがため息を付いた。 ヴィヴィオの夢、それは学校の宿題をしている時に判明したのだが……その時ヴィヴィオは―不敵な笑みと子供らしからぬジョジョ立ちに若干引き気味の隣のお姉さんの問いに胸を張って答えた。 『このヴィヴィオ・ハラオウンには叶えたいと思う夢があるの!! マスクド・ライダーに、ヴィヴィオはなるよ!!』 「……知ってるけど、まだ小さいんだからそんなに気にしなくってもいいんじゃない?」 「近頃じゃ他の世界でもマスクド・ライダーっぽいヒーロー願望の魔導師が出てるのよ?」 ワイドショーに踊らされる主婦の顔をしてリンディは言う。 更にヴィヴィオの口調を真似て、 「それにヴィヴィオも……『命を弄ぶ犯罪者を管理局が捕まえないなら、ヴィヴィオがマスクド・ライダーにならなくっちゃあいけないって事だと思うの』って言うのよ!?」 フェイトが思わずヴィヴィオの方を見ると、聞こえていたのかフェイト達の方を見ていたRXと目が合った。 困ったような顔をして笑うフェイトと、無邪気なヴィヴィオの顔が複眼に幾つも映っていた。ついでに、娘の将来を心配するリンディの顔も。 「わかった。お母さんのところにいってクロノみたいに服に無頓着になっても困るし……でも、暫くだけだよ?」 「あ、あれは私のせいじゃないわよ……!!」 「そうかな?」 珍しくからかうような態度を見せるフェイトの車を思い出して、大差ないセンスだと思っていたRXは聞かなかったことにしてヴィヴィオの相手に没頭していった。 だが一瞬動きが止まったのを訝しんだのだろう、二人がチラッとRXを見る。何か思い出したらしく、フェイトが声を上げた。 「あ……!! お、お母さん。きょ、今日だけはダメっ!! 今日だけは、ヴィヴィオの相手をして欲しいの!!」 「何か予定が入ってるの?」 「う、うん……! だから、明日からにしてもらえないかな?」 RXの方をチラりと見る娘の態度に、少し唇を綻ばせたリンディは楽しそうに話すヴィヴィオを説得する労力を想像してか嬉しいような困ったような、深い愛情を表情に乗せた。 「でも今晩の天気って雨よ?」 「え"?」 からかうように言うリンディだったが、真に受けたフェイトの顔が硬直する。 「こ、光太郎さん!!」 「ん?」 「あの、今母さんから聞いたんですけど、今晩……雨だって。不思議なこととか出来ませんか?」 言いにくそうに、返答に困るお願いをするフェイトにRXはすぐ返事を返さず、リンディの方へと顔を向けた。 「ちょっと、フェイト……今のは」 「お願いですから『雨の中、不思議なことが起きて晴れる程の晴れ男がいてもいい。それが自由ということだ』って言ってくださいっ!!」 「ええっと……確か週末までは晴れだったはずだよ」 「え?」 再び固まったフェイトには、リンディが笑いを堪えていることがはっきりと感じられた。 「冗談よ。ちょっとからかおうと思って」 「母さん!!」 それから少しの間からかわれたものの、RXとフェイトは日が暮れる頃に出かけていった。 * 一方その頃、昼食の後ヴィヴィオ達と顔をあわせる事もなく六課から出発したはやては、シグナムを連れてミッドチルダ極北地区ベルカ自治領の聖王教会を訪ねていた。 シグナムを休ませて出かけてくれば、と思わなくもない。RXとか。 だがシグナムはどうもNice boatになるかもしれないような事をする気はないらしいので諦めて素直に護衛を頼んだ。 聖王教会にいる機動六課の後見人の一人、騎士カリムとははやては個人的に友好を深めていて、時には遊びに来る事もあったが、今日は残念ながら仕事絡みでの訪問だった。 近くに地上本部で開かれる公開意見陳述会……そこが何者かに襲われる可能性がある。 重要な地位にあるため、案内係に従って奥まった場所に通される間に、はやては情報をもう一度頭の中で整理していた。 これまで何度も行っていたが、機動六課の評価を決定付ける重要な問題であるだけに時間があれば考えるようにしていた。 機動六課の設立には裏の理由があった。ロストロギア・レリックの対策と、独立性の高い少数部隊の実験例というのも嘘ではないが、それだけでは今のメンバーの殆どは集めることが出来ない。 真の目的は、この先にいる騎士カリムの保有するレアスキル「預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)」にここ数年示される管理局システムの崩壊を阻止することにある。 本来は現存する戦力を送り込まれ、対策を講じられるのだが、今回は情報源がこの予言しか存在せず、しかもその世界にレジアスがいたせいでその手が使えなかったお陰だ。 「預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)」は、世界に起こる事件をランダムに書き出すだけの能力。 しかも解釈ミスも含めれば、的中率や実用性は割とよく当たる占い程度であるせいで予算や戦力で割を食っていたレジアスは猛烈に反対したのだ。 それを知ったはやては、その状況を利用して予てから彼女が夢見ていた部隊を実現させた。 レリック事件だけで事がすめばよし。大きな事態に繋がっていくようなら、最前線で事態の推移を見守って地上本部が本腰を入れ始めるか、本局と教会の主力投入まで、前線で頑張る…… その程度が期待されている所だが、はやて個人の思惑としては一歩進んで、大きな事態に繋がっていくような状況を本局と教会の主力投入より先に解決したいと考えていた。 レリック事件で事が済むとか、予言が外れた場合については余り深く考えていない。 やっと実現させた部隊を成功させる為に、愛想よく笑顔を振りまきながらもはやては常に考え続けていた。 カリムの部屋では、妙齢の女性であるカリムとクロノがはやてを待っていた。 軽い挨拶を交わして二人の待つテーブルに着くと、カリムの秘書を勤めるシスターシャッハ・ヌエラがはやての分のお茶を差し出す。 「早速本題に入らせてもらうけど……可能性は高いんやな?」 「古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王の下、聖地より、かの翼が蘇る。死者たちが踊り、なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、それを先駆けにあまたの海を守る法の船も砕け落ちる」 ロストロギアをきっかけに始まる管理局地上本部の壊滅と管理局システムの崩壊を示唆する予言を口にして、カリムは肯定した。 「やけど……地上本部がテロやクーデターにあったとして、それがきっかけで本局まで崩壊……いうんは、考えづらいしなぁ」 「確かに管理局崩壊ということ自体が、現状ではありえない話ですが」 「ゲイズ中将が予言そのものを信用しておられないのはそのためだろうな。特別な対策はとらないそうだ」 「異なる組織同士が協力し合うのは、難しいことです」 「協力の申請も内政干渉や強制介入という言葉に言い換えられれば、即座に、諍いの種になる」 実際、それを口実にして十中八九内政干渉や強制介入を行うであろう人間が何名も頭に浮かぶのだが。 そんな人間がミッド地上本部の武力や発言力の強さを問題視しているのだからクロノ達の顔には苦笑が広がってしまった。 「だから、表立っての主力投入はできない、と」 「すまないなぁ。政治的な話は現場には関係なしとしたいんだが」 だからこそ、とクロノは言う。 「それよりも今は対処について話しあおう。ヴェロッサの報告では、今確認されている脅威になりそうな勢力はスカリエッティだけだ。後は、クーデターくらいだが……疑わしい人物は未だに挙がっていない」 クロノの口から出たヴェロッサの名前に、彼の義姉でもあるカリムの表情が微かに緩む。 傍に立つシャッハも同じ反応を示したのは、彼女がヴェロッサの教育係だったからだ。 「本命はスカリエッティか……目的はなんや?」 セッテから聞いた話によれば、スカリエッティの目的は自由らしい。 だが公開意見陳述会を襲撃し、もし会場である地上本部を破壊したとしてもスカリエッティの目的は達成されないだろう。 公開意見陳述会は、本局や各世界の代表によるミッドチルダ地上管理局の運営に関する意見交換を目的としている。 今回は特に、かねてから議論が絶えない、地上防衛用の迎撃兵器、アインヘリアルの運用についての問題が話し合われる予定だが……スポンサーがその中にいるのだろうか? だがそれならば、ナンバーズの能力から言って各個に仕掛けた方が余程勝率はあがるはずだった。 「それは不明だ。だが、今回管理局施設の鉄壁の魔法防御を破る可能性が高いのは、ガジェットだけだ…」 「管理局法では、質量兵器保有は禁止だから対処しづらい」 「そやね。でもまあ、私ら3人は中へ。フォワード陣も最近やっと形になってきましたから外を任せられると思います。若干インチキ臭い味方もいますから。大船に乗った気で任せといてください」 「い、インチキ臭いって……」 はやての言い草に、クロノ達は苦笑したが否定するような声は上がらなかった。 前へ 目次へ 次へ
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霧生ヶ谷市名物の霧が特に朝方出た時、昇りつつある太陽が霧を通して白く見える自然現象。霧自体頻繁に発生するから、割と頻繁に目撃される。 自然現象だが、ちらほら耳にする不思議な現象に関連づけて考える住民も時折いる。 そこから派生したのか、「白い太陽が現れた時には、霧の向こうで何かの陰が踊っている」などという噂がささやかれたりもするが、真偽の程は定かでない。
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青い太陽 登場人物 コメント 1968年4月から半年間、NETテレビ(現・テレビ朝日)系列にて放映されたドラマ。 登場人物 ホウオウ:杉田和世 小林幸子が演じているので コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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【作品名】DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー(1&2) 【ジャンル】RPG 【共通設定・世界観】 舞台は近未来、黒く変色した太陽からもたらされる有害な情報によって 地上は通常の生物が住める環境ではなくなり、 人々はドームに覆われた都市、もしくは地下で暮らしている 情報: 物質を分子、原子、素粒子……とどんどんたどっていった大元 この世のすべては情報によって成立している キュヴィエ症候群: 変色した太陽の光に含まれる有害な情報によってもたらされる奇病 黒い太陽の光を浴びた生物は石化してしまう アバタールチューナー: 悪魔化ウィルスに感染し悪魔に変身できるようになった者たちの総称 黒い太陽の光を浴びても石化することは無い 人間を喰らうことで生体マグネタイトと呼ばれる物質を摂取しないと正気を失ってしまう 自身の肉体の情報を書き換えて変身するので変身中は精神以外は完全な人外と思われる 万能属性: 物理、火炎、氷結、電撃、衝撃(≒風属性)、地変(≒地属性)、破魔(≒聖属性?) 呪殺、神経(麻痺、睡眠)、魅了、魔封(魔法封じ)、猛毒、混乱の各属性に 耐性がある敵でも問題なくダメージを与えることができる属性 基本的に無効化や反射はできない(少なくとも物理反射や魔法反射は問題なく素通りする) 【名前】太陽 【属性】神 巨大な情報集積体 輪廻の輪 【大きさ】太陽並み 黒く変色している 【攻撃力】 光:自身が常に発する光。有害な情報が含まれているため生物はキュヴィエ症候群に より石化する。植物も枯れる。建造物もボロボロになる 石化の速度は常人が拳銃自殺するのが間に合わないくらい 射程は最低でも太陽~地球間の約1億5000万km 情報喰い:自身の光が当たった部分から情報に分解して吸収する 都市があっという間に分解されるほどの速度 一晩あれば地球を喰らい尽くせるらしい 射程は最低でも太陽~地球間の約1億5000万km おそらく任意発動 ちなみに分解速度は毎秒945.56ゼタバイト (どれくらいの質量に相当するかは不明) 【防御力】太陽並み 【素早さ】移動描写は無し反応は常人並みか 【特殊能力】 情報の始原にして終着点。すべての命は死ぬと情報となって太陽に吸収される そして集められた情報は攪拌され、再び新たな命となる。輪廻の輪そのもの。 (多分戦闘には関係ない。死んでも復活するやつなら効果あり?) 【長所】でかさと強力な攻撃 【短所】反応がイマイチ 【戦法】即、情報喰い vol.5 249 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/22(日) 10 59 34 ID 5HlVtDkJ 太陽考察 ○オーバーデビル 石化勝ち ××神帝ブゥアー、破壊宇宙 離れすぎてる+大きすぎる 宇宙破壊負け 神帝ブゥアー>太陽>オーバーデビル
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【作品名】DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー(1&2) 【ジャンル】RPG 【共通設定・世界観】 舞台は近未来、黒く変色した太陽からもたらされる有害な情報によって 地上は通常の生物が住める環境ではなくなり、 人々はドームに覆われた都市、もしくは地下で暮らしている 情報: 物質を分子、原子、素粒子……とどんどんたどっていった大元 この世のすべては情報によって成立している キュヴィエ症候群: 変色した太陽の光に含まれる有害な情報によってもたらされる奇病 黒い太陽の光を浴びた生物は石化してしまう アバタールチューナー: 悪魔化ウィルスに感染し悪魔に変身できるようになった者たちの総称 黒い太陽の光を浴びても石化することは無い 人間を喰らうことで生体マグネタイトと呼ばれる物質を摂取しないと正気を失ってしまう 自身の肉体の情報を書き換えて変身するので変身中は精神以外は完全な人外と思われる 万能属性: 物理、火炎、氷結、電撃、衝撃(≒風属性)、地変(≒地属性)、破魔(≒聖属性?) 呪殺、神経(麻痺、睡眠)、魅了、魔封(魔法封じ)、猛毒、混乱の各属性に 耐性がある敵でも問題なくダメージを与えることができる属性 基本的に無効化や反射はできない(少なくとも物理反射や魔法反射は問題なく素通りする) 【名前】太陽 【属性】神 巨大な情報集積体 輪廻の輪 【大きさ】太陽並み 黒く変色している 【攻撃力】 光:自身が常に発する光。有害な情報が含まれているため生物はキュヴィエ症候群に より石化する。植物も枯れる。建造物もボロボロになる 石化の速度は常人が拳銃自殺するのが間に合わないくらい 射程は最低でも太陽~地球間の約1億5000万km 情報喰い:自身の光が当たった部分から情報に分解して吸収する 都市があっという間に分解されるほどの速度 一晩あれば地球を喰らい尽くせるらしい 射程は最低でも太陽~地球間の約1億5000万km おそらく任意発動 ちなみに分解速度は毎秒945.56ゼタバイト (どれくらいの質量に相当するかは不明) 【防御力】太陽並み 【素早さ】移動描写は無し反応は常人並みか 【特殊能力】 情報の始原にして終着点。すべての命は死ぬと情報となって太陽に吸収される そして集められた情報は攪拌され、再び新たな命となる。輪廻の輪そのもの。 (多分戦闘には関係ない。死んでも復活するやつなら効果あり?) 【長所】でかさと強力な攻撃 【短所】反応がイマイチ 【戦法】即、情報喰い vol.1 249 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/22(日) 10 59 34 ID 5HlVtDkJ 太陽考察 ○オーバーデビル 石化勝ち ××神帝ブゥアー、破壊宇宙 離れすぎてる+大きすぎる 宇宙破壊負け 神帝ブゥアー>太陽>オーバーデビル
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関連サイト 北畑学研究資料 宮城氏個人の歩みを記録したサイト。 2ch(現5ch)関連スレ 天文・気象板 天文雑誌について語ろう Vol.22 天文雑誌について語ろう Vol.21 / 過去ログ 天文雑誌について語ろう Vol.20 延焼●黒い太陽● / 過去ログ 天文雑誌について語ろう Vol.19 延焼●黒い太陽● / 過去ログ 天文雑誌について語ろう Vol.18 延焼●黒い太陽● / 過去ログ 天文雑誌について語ろう Vol.17 検証●黒い太陽● / 過去ログ 天文雑誌について語ろう 次号で検証●黒い太陽● (part 16) / 過去ログ 天文雑誌について語ろう 臨時増刊●黒い太陽● (part 15) / 過去ログ 天文雑誌について語ろう 臨時増刊●続 黒い太陽● (part 14) / 過去ログ ★天文雑誌について語ろう 臨時増刊●黒い太陽● (part 13, 疑惑発覚スレ) / 過去ログ 本スレ(情報提供などがありましたらこのスレにお願いします。) 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part15 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part13(実質14) 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part12 / 過去ログ 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part12 (重複、実質13)/ 過去ログ 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part11 / 過去ログ 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part10 / 過去ログ 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part9 / 過去ログ 下地隆史または宮城隆史こと北畑道雄 Part8 / 過去ログ 【北畑道雄?】宮城隆史 Part7 【訴訟開始】 / 過去ログ 【北畑道雄?】宮城隆史 Part6 【訴訟開始】 / 過去ログ 【プロ天体写真家】宮城隆史 Part5【公式プログ】 / 過去ログ 【プロ写真家】宮城隆史 Part4 / 過去ログ 【プロ写真家】宮城隆史 Part3【公式プログ】 / 過去ログ 【合成写真家】宮城隆史 Part2【コンポジェット】 / 過去ログ ニュース速報板 天文雑誌「星ナビ」2009年10月号の表紙写真に盗作疑惑 / 過去ログ 天文雑誌の日食の投稿写真、プロの写真の盗用だったことが判明 決め手は「一緒に写ってる恒星の位置」 / 過去ログ ニュース速報+板 【社会】「悪石島が悪天候で日食撮れず」沖縄の男性が皆既日食写真を盗用、天文雑誌に投稿し表紙に採用…雑誌側は謝罪記事を掲載 / 過去ログ 科学ニュース+板 【天文】皆既日食写真を盗用 沖縄の男性投稿、天文雑誌の表紙に / 過去ログ お詫び+板 天文雑誌「星ナビ」2008年6月号、2009年10月号の表紙画像についてのお詫び [09/28] / 過去ログ
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暗黒の太陽 解説 暗黒の太陽神ヴァスタールが司る黒い太陽。 ラウルバーシュ大陸では周期が不規則だが、闇の拡大兆候として姿を現す事が多い。 空が闇に覆われるものの、地表の明るさは雷雨時程度に留まる。 雑感・考察 おそらくは闇に覆われているという神骨の大陸の半分では常時地上を照らしているのではなかろうか? 名前