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混沌平原1 混沌平原2 混沌平原2(三妖精の大木前) 混沌平原3 混沌平原3(要フックショット) 大蝦蟇の池 九天の滝 九天の滝(要フックショット) 地底 迷いの竹林 魔界1 魔界2 魔界3 樹海 同じ敵がいろんなところに出てくるので、 特定のモンスターのドロップ品が欲しい時は同じ場所に固執せずに、 他の場所に行った方がモンスターの出現率高くなるかも。 混沌平原1 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 プ 付喪神 40 雷 突 プラズマホールサンダーピアースバグ 神々の遺産(1.0%) A 全体麻痺のバグが厄介 バクテリオファージ 精霊 50 光 斬 メルトウェポンポイズン弱肉強食の追い打ち 壊れた財宝(0.5%) - 毒ダメージ:20ポイズン→弱肉強食の追い打ちのコンボ ゴブリン 妖怪 60 光 斬 ? ゾンビキラー(5.0%) - ゾンビキラーは2層冥界あたりまで現役で使える 狸 獣 70 火 殴 ヒートウェポンアクティブメンタル 弾幕ガーダー(5.0%) - 弾幕ガーダーは魔法を使っていても盾発動可 スケルトン 不死 90 火殴光 斬 カマイタチ 闇の欠片(1.0%) - 混沌平原2 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 ホーネット 蟲 46 斬水雷 突 急降下斬撃(毒付与) 壊れた財宝(0.5%) - 毒ダメージ:30 ナース 魔法使い 61 闇 斬 ファングクラッシュ回復の水スリープ 壊れた腕輪(1.0%) - メイド 戦士 77 闇 斬 ソニックブレード スタッド・レザーアーマー(5.0%) - 混沌平原2(三妖精の大木前) 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 ブラブラ 精霊 10 水 斬 ファイヤーアロー - S ブルブル 精霊 10 火 斬 アイスチル - S ヴァンパイアバット 鳥 16 突雷 斬 吸血 - - バケバケ 不死 20 火光 殴 斬撃(呪い付与) - S スライム 水棲 21 火水 殴 消化 - - 毛玉 妖怪 25 光 突 - - イベント ハブ 爬虫類 27 水 斬 斬撃(毒付与) - - 毒ダメージ:20 毛玉イーター 獣 35 火 斬 前歯 - - キャタピラー 蟲 45 殴水地 斬 アースウォール - - 混沌平原3 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 デュース 魔神 62 光 斬 シャドウボルトダークハンドデス・チェイスシャドウバースト 壊れた財宝(0.5%) - - ドヴェルグ 妖怪 71 光 殴 スタンブローボーンクラッシュ 鋼鉄(2.0%) - - マジシャン 魔法使い 83 闇 殴 ファイヤーアローファイヤーボールアイスチルブリザードアースジャベリンキャニオンクラッププラズマホールライトニングマジックミサイルマジックストーム 魔源石(2.0%) - モー・ショボー 鳥 93 突雷 突 ドレインタッチチャーム誘惑サンダーハンド 早業の短剣(5.0%) A 物理カウンターでチャームを使用。祭にアップデートすると式神に出来るようになる早業の短剣は逃走に便利 ゴースト 不死 99 光 殴 シャドウボルトドレインタッチ 壊れた財宝(0.5%) - ディーコン 魔法使い 105 闇 突 スターブレイズスターシャイニングミュートパワーデクリーズヒートウェポン回復の水 古の祓物(1.0%) - クイックシルバー 付喪神 109 - 殴 デススリープデクリーズ 極光のアミュレット(5.0%) - ファイター 戦士 109 闇 殴 スタンブローバーストショック 壊れた財宝(0.5%) - アーチャー 戦士 114 殴闇 突 乱れ撃ち 壊れた財宝(0.5%) - ディスガイア オーク 妖怪 115 光 殴 ボーンクラッシュスタンブロー 妖精の忘れ物(1.0%) - ライカンスロープ 超越 120 突雷 斬 地獄爪殺法ルナティックボイス 素早い木材(1.0%) - 毒ダメージ:25 パヨカカムイ 精霊 138 地 殴 サンダーハンドドレインタッチ呪詛 サイレンスゴールド(5.0%) - ランフォリンクス 鳥 150 突雷 突 急降下地獄爪殺法 フレイル(5.0%) - 毒ダメージ:40 ゾンビ 不死 151 火光 殴 斬撃(麻痺付与) 銀河のアミュレット(5.0%) - ブロブ 水棲 169 火水 殴 消化 クッション(5.0%) - ウッドゴーレム 付喪神 170 火 殴 強撃ボーンクラッシュバーストショック モーニングスター(5.0%) - インファントデーモン 魔神 180 光 斬 シャドウボルトシャドウバーストダークハンドダークザッパー 灼熱のローブ(5.0%) - タイガー 獣 270 火 斬 前歯怒号 壊れた財宝(4.0%) - 混沌平原3(要フックショット) 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 ハイスライム 水棲 135 火水 殴 消化 壊れた財宝(10.0%) - ハイ毛玉 妖怪 140 光 突 - 鋼鉄(10.0%) - ハイバケバケ 不死 150 火光 殴 斬撃(呪い付与) 綺麗な鏡(10.0%) - 呪い付与の攻撃を持っている ハイ妖精戦士(剣) 戦士 180 闇 斬 ミラージュブレードメテオザッパー 鉄鉱石(10.0%) - ハイ妖精戦士(槍) 戦士 190 闇 突 ブランディッシュインペイルチャージ 竹竿(10.0%) - ハイ妖精戦士(斧) 戦士 200 闇 殴 ハードヒット炸裂撃 つけもの石(10.0%) - ハイ妖精魔法使い 魔法使い 160 闇 殴 ファイヤーアローファイヤーボールアイスチルブリザードプラズマホールライトニングアースジャベリンキャニオンクラップスターブレイズスターシャイニングシャドウボルトシャドウバーストマジックミサイルマジックストーム 魔源石(5.0%) - 手長足長 巨人 555 斬地 殴 無呼吸連打スタンブローテンプルクラッシュギガントヒットグランドバスターランドインパクト 巨人の篭手(2.0%) - 戦闘時4体編成のシンボル2回行動巨人の篭手は合成素材にもなる メタルゆっくり 正体不明 3 - 殴 逃走リジェネレーション ゆっくりメダル(4.0%) E 経験値755固定魔法無効戦闘時4体編成のシンボルで低確率フィールドがダメージネットの場合リジェネレーション使用 大蝦蟇の池 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 妖怪山のカラス 鳥 53 突雷 斬 急降下 雷の欠片(1.0%) - 古戦場の火 精霊 55 水 殴 ファイヤーアロー炎の息 火の欠片(1.0%) - 火ランド一定以上で炎の息使用 デュース 魔神 62 光 斬 シャドウボルトダークハンドデス・チェイスシャドウバースト 壊れた財宝(0.5%) - ジェイソン 獣 73 火 斬 ひき逃げ斬撃(毒付与) 神々の遺産(2.0%) - 毒ダメージ:15 グレートミジンコ 水棲 75 雷 殴 アイスチル冷たい息 瑞雲のアミュレット(5.0%) - キモかわいい水ランド一定以上で冷たい息使用 メデューサヘッド 超越 80 突 斬 凝視(睡眠)斬撃(毒付与) ネザ(5.0%) - 毒ダメージ:15 パトロール 天使 80 闇 殴 スターブレイズスターハンドスターシャイニング 壊れた財宝(0.5%) - センポクカンポク 爬虫類 87 水 殴 ポイズンブレス斬撃(毒付与)消化 水の欠片(2.0%) - 毒ダメージ:20 滝霊王 植物 95 斬火 斬 アースウォールアースジャベリンスペルエンハンスプラズマホール 霧のローブ(5.0%) - ランドタートル 爬虫類 100 水 斬 ファングクラッシュ 綺麗な鏡(5.0%) - 盾装備 ウッドゴーレム 付喪神 170 火 殴 強撃ボーンクラッシュバーストショック モーニングスター(5.0%) - 愛宕権現 妖怪 200 雷光 殴 ファイヤーアロープラズマホール竜巻 古の祓物(2.0%) - 九天の滝 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 プ 付喪神 40 雷 突 プラズマホールサンダーピアースバグ 神々の遺産(1.0%) A 全体麻痺のバグが厄介 バクテリオファージ 精霊 50 光 斬 メルトウェポンポイズン弱肉強食の追い打ち 壊れた財宝(0.5%) - 毒ダメージ:20ポイズン→弱肉強食の追い打ちのコンボ 妖怪山のカラス 鳥 53 突雷 斬 急降下 雷の欠片(1.0%) - 古戦場の火 精霊 55 水 殴 ファイヤーアロー炎の息 火の欠片(1.0%) - 火ランド一定以上で炎の息使用 ゴブリン 妖怪 60 光 斬 ? ゾンビキラー(5.0%) - ゾンビキラーは2層冥界あたりまで現役で使える デュース 魔神 62 光 斬 シャドウボルトダークハンドデス・チェイスシャドウバースト 壊れた財宝(0.5%) - 狸 獣 70 火 殴 ヒートウェポンアクティブメンタル 弾幕ガーダー(5.0%) - 弾幕ガーダーは魔法を使っていても盾発動可 ジェイソン 獣 73 火 斬 ひき逃げ斬撃(毒付与) 神々の遺産(2.0%) - 毒ダメージ:15 グレートミジンコ 水棲 75 雷 殴 アイスチル冷たい息 瑞雲のアミュレット(5.0%) - キモかわいい水ランド一定以上で冷たい息使用 メデューサヘッド 超越 80 突 斬 凝視(睡眠)斬撃(毒付与) ネザ(5.0%) - 毒ダメージ:15 パトロール 天使 80 闇 殴 スターブレイズスターハンドスターシャイニング 壊れた財宝(0.5%) - センポクカンポク 爬虫類 87 水 殴 ポイズンブレス斬撃(毒付与)消化 水の欠片(2.0%) - 毒ダメージ:20 滝霊王 植物 95 斬火 斬 アースウォールアースジャベリンスペルエンハンスプラズマホール 霧のローブ(5.0%) - ランドタートル 爬虫類 100 水 斬 ファングクラッシュ 綺麗な鏡(5.0%) - 盾装備 ウッドゴーレム 付喪神 170 火 殴 強撃ボーンクラッシュバーストショック モーニングスター(5.0%) - 愛宕権現 妖怪 200 雷光 殴 ファイヤーアロープラズマホール竜巻 古の祓物(2.0%) - 九天の滝(要フックショット) 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 ハイスライム 水棲 135 火水 殴 消化 壊れた財宝(10.0%) - ハイ毛玉 妖怪 140 光 突 - 鋼鉄(10.0%) - ハイバケバケ 不死 150 火光 殴 斬撃(呪い付与) 綺麗な鏡(10.0%) - 呪い付与の攻撃を持っている ハイ妖精戦士(剣) 戦士 180 闇 斬 ミラージュブレードメテオザッパー 鉄鉱石(10.0%) - ハイ妖精戦士(槍) 戦士 190 闇 突 ブランディッシュインペイルチャージ 竹竿(10.0%) - ハイ妖精戦士(斧) 戦士 200 闇 殴 ハードヒット炸裂撃 つけもの石(10.0%) - ハイ妖精魔法使い 魔法使い 160 闇 殴 ファイヤーアローファイヤーボールアイスチルブリザードプラズマホールライトニングアースジャベリンキャニオンクラップスターブレイズスターシャイニングシャドウボルトシャドウバーストマジックミサイルマジックストーム 魔源石(5.0%) - 手長足長 巨人 555 斬地 殴 無呼吸連打スタンブローテンプルクラッシュギガントヒットグランドバスターランドインパクト 巨人の篭手(2.0%) - 戦闘時4体編成のシンボル2回行動巨人の篭手は合成素材にもなる メタルゆっくり 正体不明 3 - 殴 逃走リジェネレーション ゆっくりメダル(4.0%) E 経験値755固定魔法無効戦闘時4体編成のシンボルで低確率フィールドがダメージネットの場合リジェネレーション使用 地底 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 デュース 魔神 62 光 斬 シャドウボルトダークハンドデス・チェイスシャドウバースト 壊れた財宝(0.5%) - - 古戦場の火 精霊 55 水 殴 ファイアーアロー炎の息 火の欠片(1.0%) - 火ランド一定以上で炎の息使用 ドヴェルグ 妖怪 71 光 殴 スタンブローボーンクラッシュ 鋼鉄(2.0%) - - ジェイソン 獣 73 火 斬 ひき逃げ斬撃(毒付与) 神々の遺産(2.0%) - 毒ダメージ:15 グレートミジンコ 水棲 75 雷 殴 アイスチル冷たい息 瑞雲のアミュレット(5.0%) - キモかわいい水ランド一定以上で冷たい息使用 ブラッドサッカー 不死 78 火光 突 吸血ファイヤーチェイスアースチェイス 壊れた腕輪(1.0%) - パトロール 天使 80 闇 殴 スターブレイズスターハンドスターシャイニング 壊れた財宝(0.5%) - センポクカンポク 爬虫類 87 水 殴 ポイズンブレス斬撃(毒付与)消化 水の欠片(2.0%) - 毒ダメージ:20 刑天 巨人 94 斬地 斬 メテオザッパー五月雨攻撃 妖精の忘れ物(1.0%) - メテオザッパーの威力は全体に30~40盾装備 滝霊王 植物 95 斬火 斬 アースウォールアースジャベリンスペルエンハンスプラズマホール 霧のローブ(5.0%) - ストーンサーバント 付喪神 105 地 殴 アースジャベリンソーンバインド焼き鏝 つけもの石(2.0%) - 見た目通りの固さ ハンドレッドレッグ 蟲 125 殴水地 斬 斬撃(毒付与)テイルチョップまきつく地震 毒蛇の鱗鎧(5.0%) - 毒ダメージ:30地震のダメージは全体に60~70 ぐず 水棲 215 雷 斬 炎の息ファングクラッシュアシッドストームウォーターパルス 火龍のアミュレット(5.0%) - 2回行動炎の息使用時は1回行動で威力は全体に10~30 迷いの竹林 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 ホーネット 蟲 46 斬水雷 突 急降下斬撃(毒付与) 壊れた財宝(0.5%) - 毒ダメージ:30 ナース 魔法使い 61 闇 斬 ファングクラッシュ回復の水スリープ 壊れた腕輪(1.0%) - デュース 魔神 62 光 斬 シャドウボルトダークハンドデス・チェイスシャドウバースト 壊れた財宝(0.5%) - - ドヴェルグ 妖怪 71 光 殴 スタンブローボーンクラッシュ 鋼鉄(2.0%) - メイド 戦士 77 闇 斬 ソニックブレード スタッド・レザーアーマー(5.0%) - ブラッドサッカー 不死 78 火光 突 吸血ファイヤーチェイスアースチェイス 壊れた腕輪(1.0%) - マジシャン 魔法使い 83 闇 殴 ファイヤーアローファイヤーボールアイスチルブリザードアースジャベリンキャニオンクラッププラズマホールライトニングマジックミサイルマジックストーム 魔源石(2.0%) - デスクスター 付喪神 88 雷 突 HDDクラッシュ 壊れた財宝(0.5%) - 魔界の花びら 植物 92 斬火 突 香り永眠への誘い 地の欠片(1.0%) - モー・ショボー 鳥 93 突雷 突 ドレインタッチチャーム誘惑サンダーハンド 早業の短剣(5.0%) A 物理カウンターでチャームを使用。祭にアップデートすると式神に出来るようになる早業の短剣は逃走に便利 刑天 巨人 94 斬地 斬 メテオザッパー五月雨攻撃 妖精の忘れ物(1.0%) - メテオザッパーの威力は全体に30~40盾装備 マカイサン 蟲 99 斬水雷 斬 毒霧ラジエーションミスト 雷電のアミュレット(5.0%) - 毒のダメージは毎ターン40 ランドタートル 爬虫類 100 水 斬 ファングクラッシュ 綺麗な鏡(5.0%) - 盾装備 ストーンサーバント 付喪神 105 地 殴 アースジャベリンソーンバインド焼き鏝 つけもの石(2.0%) - 見た目通りの固さ ファイター 戦士 109 闇 殴 スタンブローバーストショック 壊れた財宝(0.5%) - ライカンスロープ 超越 120 突雷 斬 地獄爪殺法ルナティックボイス 素早い木材(1.0%) - 毒ダメージ:25 ハンドレッドレッグ 蟲 125 殴水地 斬 斬撃(毒付与)テイルチョップまきつく地震 毒蛇の鱗鎧(5.0%) - 毒ダメージ:30地震のダメージは全体に60~70 タイガー 獣 270 火 斬 前歯怒号 壊れた財宝(4.0%) - 魔界1 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 デュース 魔神 62 光 斬 シャドウボルトダークハンドデス・チェイスシャドウバースト 壊れた財宝(0.5%) - - マジシャン 魔法使い 83 闇 殴 ファイヤーアローファイヤーボールアイスチルブリザードアースジャベリンキャニオンクラッププラズマホールライトニングマジックミサイルマジックストーム 魔源石(2.0%) - 魔界の花びら 植物 92 斬火 突 香り永眠への誘い 地の欠片(1.0%) - マカイサン 蟲 99 斬水雷 斬 毒霧ラジエーションミスト 雷電のアミュレット(5.0%) - 毒のダメージは毎ターン40 ファイター 戦士 109 闇 殴 スタンブローバーストショック 壊れた財宝(0.5%) - ぐず 水棲 215 雷 斬 炎の息ファングクラッシュアシッドストームウォーターパルス 火龍のアミュレット(5.0%) - 2回行動炎の息使用時は1回行動で威力は全体に10~30 魔界2 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 魔界の花びら 植物 92 斬火 突 香り永眠への誘い 地の欠片(1.0%) - モー・ショボー 鳥 93 突雷 突 ドレインタッチチャーム誘惑サンダーハンド 早業の短剣(5.0%) A 物理カウンターでチャームを使用。祭にアップデートすると式神に出来るようになる早業の短剣は逃走に便利 マタンゴ 植物 97 斬火地 殴 サイレスブラインドデクリーズ 竹竿(1.0%) - ゴースト 不死 99 光 殴 シャドウボルトドレインタッチ 壊れた財宝(0.5%) - マカイサン 蟲 99 斬水雷 斬 毒霧ラジエーションミスト 雷電のアミュレット(5.0%) - 毒のダメージは毎ターン40 ストーンサーバント 付喪神 105 地 殴 アースジャベリンソーンバインド焼き鏝 つけもの石(2.0%) - 見た目通りの固さ クイックシルバー 付喪神 109 - 殴 デススリープデクリーズ 極光のアミュレット(5.0%) - オーク 妖怪 115 光 殴 ボーンクラッシュスタンブロー 妖精の忘れ物(1.0%) - ライカンスロープ 超越 120 突雷 斬 地獄爪殺法ルナティックボイス 素早い木材(1.0%) - 毒ダメージ:25 アリゲイター 爬虫類 140 水 斬 テイルチョップファングクラッシュ 壊れた財宝(1.0%) - ゾンビ 不死 151 火光 殴 斬撃(麻痺付与) 銀河のアミュレット(5.0%) - ブロブ 水棲 169 火水 殴 消化 クッション(5.0%) - パヨカカムイ 精霊 138 地 殴 サンダーハンドドレインタッチ呪詛 サイレンスゴールド(5.0%) - ウッドゴーレム 付喪神 170 火 殴 強撃ボーンクラッシュバーストショック モーニングスター(5.0%) - ぐず 水棲 215 雷 斬 炎の息ファングクラッシュアシッドストームウォーターパルス 火龍のアミュレット(5.0%) - 2回行動炎の息使用時は1回行動で威力は全体に10~30 タイガー 獣 270 火 斬 前歯怒号 壊れた財宝(4.0%) - オーガ 巨人 365 斬地 殴 力溜め強撃ぶちかまし 壊れた財宝(1.0%) - 力溜め後、ぶちかまし 魔界3 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 ナース 魔法使い 61 闇 斬 ファングクラッシュ回復の水スリープ 壊れた腕輪(1.0%) - ドヴェルグ 妖怪 71 光 殴 スタンブローボーンクラッシュ 鋼鉄(2.0%) - ジェイソン 獣 73 火 斬 ひき逃げ斬撃(毒付与) 神々の遺産(2.0%) - 毒ダメージ:15 メイド 戦士 77 闇 斬 ソニックブレード スタッド・レザーアーマー(5.0%) - デスクスター 付喪神 88 雷 突 HDDクラッシュ 壊れた財宝(0.5%) - 魔界の花びら 植物 92 斬火 突 香り永眠への誘い 地の欠片(1.0%) - モー・ショボー 鳥 93 突雷 突 ドレインタッチチャーム誘惑サンダーハンド 早業の短剣(5.0%) A 物理カウンターでチャームを使用。祭にアップデートすると式神に出来るようになる早業の短剣は逃走に便利 ゴースト 不死 99 光 殴 シャドウボルトドレインタッチ 壊れた財宝(0.5%) - ストーンサーバント 付喪神 105 地 殴 アースジャベリンソーンバインド焼き鏝 つけもの石(2.0%) - 見た目通りの固さ ディーコン 魔法使い 105 闇 突 スターブレイズスターシャイニングミュートパワーデクリーズヒートウェポン回復の水 古の祓物(1.0%) - ファイター 戦士 109 闇 殴 スタンブローバーストショック 壊れた財宝(0.5%) - クイックシルバー 付喪神 109 - 殴 デススリープデクリーズ 極光のアミュレット(5.0%) - ヴィーナスマントラップ 植物 111 斬火地 斬 斬撃(麻痺付与)弱肉強食の追い打ち 素早い木材(1.0%) - アーチャー 戦士 114 殴闇 突 乱れ撃ち 壊れた財宝(0.5%) - ディスガイア オーク 妖怪 115 光 殴 ボーンクラッシュスタンブロー 妖精の忘れ物(1.0%) - ライカンスロープ 超越 120 突雷 斬 地獄爪殺法ルナティックボイス 素早い木材(1.0%) - 毒ダメージ:25 土蜘蛛 蟲 120 殴水地 斬 斬撃(毒付与)スパイダーネットブレードネット 天山のアミュレット(5.0%) - ハンドレッドレッグ 蟲 125 殴水地 斬 斬撃(毒付与)テイルチョップまきつく地震 毒蛇の鱗鎧(5.0%) - 毒ダメージ:30地震のダメージは全体に60~70 リザードマン 爬虫類 133 水 斬 ファルコンスラッシュカマイタチミラージュブレードソニックブレード 壊れた財宝(0.5%) - 盾装備 パヨカカムイ 精霊 138 地 殴 サンダーハンドドレインタッチ呪詛 サイレンスゴールド(5.0%) - アリゲイター 爬虫類 140 水 斬 テイルチョップファングクラッシュ 壊れた財宝(1.0%) - ゾンビ 不死 151 火光 殴 斬撃(麻痺付与) 銀河のアミュレット(5.0%) - ブロブ 水棲 169 火水 殴 消化 クッション(5.0%) - アポストル 天使 175 闇 殴 スターハンドスターブレイズスターシャイニングホーリーザッパーセイント・チェイス 光の欠片(1.0%) - 鉱山の村 付喪神 178 地 殴 マイティ・シールドウォールプロバケイションサクリファイス・ボム 鉄鉱石(2.0%) A 盾装備 インファントデーモン 魔神 180 光 斬 シャドウボルトシャドウバーストダークハンドダークザッパー 灼熱のローブ(5.0%) - レッサーヴァンパイア 超越 250 光 突 吸血コントロールマジックアシッドストームリリースバリアダークルアーシャドウバースト 壊れた財宝(1.0%) A 2回行動 タイガー 獣 270 火 斬 前歯怒号 壊れた財宝(4.0%) - オーガ 巨人 365 斬地 殴 力溜め強撃ぶちかまし 壊れた財宝(1.0%) - 力溜め後、ぶちかまし 樹海 名称 種族 HP 弱点 通常攻撃 技・魔法 ドロップ 式神 備考 バクテリオファージ 精霊 50 光 斬 メルトウェポンポイズン弱肉強食の追い打ち 壊れた財宝(0.5%) - 毒ダメージ:20ポイズン→弱肉強食の追い打ちのコンボ パトロール 天使 80 闇 殴 スターブレイズスターハンドスターシャイニング 壊れた財宝(0.5%) - - マジシャン 魔法使い 83 闇 殴 ファイヤーアローファイヤーボールアイスチルブリザードアースジャベリンキャニオンクラッププラズマホールライトニングマジックミサイルマジックストーム 魔源石(2.0%) - 魔界の花びら 植物 92 斬火 突 香り永眠への誘い 地の欠片(1.0%) - マタンゴ 植物 97 斬火地 殴 サイレスブラインドデクリーズ 竹竿(1.0%) - マカイサン 蟲 99 斬水雷 斬 毒霧ラジエーションミスト 雷電のアミュレット(5.0%) - 毒のダメージは毎ターン40 ヴィーナスマントラップ 植物 111 斬火地 斬 斬撃(麻痺付与)弱肉強食の追い打ち 素早い木材(1.0%) - アーチャー 戦士 114 殴闇 突 乱れ撃ち 壊れた財宝(0.5%) - ディスガイア オーク 妖怪 115 光 殴 ボーンクラッシュスタンブロー 妖精の忘れ物(1.0%) - ライカンスロープ 超越 120 突雷 斬 地獄爪殺法ルナティックボイス 素早い木材(1.0%) - 毒ダメージ:25 土蜘蛛 蟲 120 殴水地 斬 斬撃(毒付与)スパイダーネットブレードネット 天山のアミュレット(5.0%) - ハンドレッドレッグ 蟲 125 殴水地 斬 斬撃(毒付与)テイルチョップまきつく地震 毒蛇の鱗鎧(5.0%) - 毒ダメージ:30地震のダメージは全体に60~70 リザードマン 爬虫類 133 水 斬 ファルコンスラッシュカマイタチミラージュブレードソニックブレード 壊れた財宝(0.5%) - 盾装備 パヨカカムイ 精霊 138 地 殴 サンダーハンドドレインタッチ呪詛 サイレンスゴールド(5.0%) - ランフォリンクス 鳥 150 突雷 突 急降下地獄爪殺法 フレイル(5.0%) - 毒ダメージ:40 ブロブ 水棲 169 火水 殴 消化 クッション(5.0%) - アポストル 天使 175 闇 殴 スターハンドスターブレイズスターシャイニングホーリーザッパーセイント・チェイス 光の欠片(1.0%) - 鉱山の村 付喪神 178 地 殴 マイティ・シールドウォールプロバケイションサクリファイス・ボム 鉄鉱石(2.0%) A 盾装備 インファントデーモン 魔神 180 光 斬 シャドウバーストシャドウバーストダークハンドダークザッパー 灼熱のローブ(5.0%) - レッサーヴァンパイア 超越 250 光 突 吸血コントロールマジックアシッドストームリリースバリアダークルアーシャドウバースト 壊れた財宝(1.0%) A 2回行動
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「双葉学園」用語集 用語集です スレ内に出てくる用語を解説します スレが立ってないときに暇つぶしがてら編集してください 個別PC、NPCのあだ名一覧はこちら 「あ」行「あ」 「い」 「お」 「か」行「か」 「こ」 「さ」行「し」 「す」 「せ」 「た」行 「な」行 「は」行「は」 「へ」 「ほ」 「ま」行 「や」行 「ら」行「ら」 「ろ」 「わ」行 * 日本語 「あ」行 「あ」 アイス 逢洲等華のこと。風紀委員。勃起人のちんこを斬る アダムス 醒徒会会計・成宮金太郎の秘書。一般人のくせしてステータスが存在し、物議をかもした。【アダムスの項目】 魂源力(アツィルト) 能力者の力の源泉たる、命の泉から湧き出す力。全ての能力はこの魂源力を消耗することで発動される。ラテン語で「根源」、カバラにおける原型・流出・神聖界を意味する Atziluth より。 「い」 イベント 月に一度、決められたお題に沿った作品を投稿するコンペティション。 過去に行われたイベントはこちら ギャグ短編が多いですが、中にはがっつりしたものも有り。 締め切りは月の最終日曜日の午後八時。なるべく締め切りは守ろう!! 「お」 オメサー オメガサークルという組織の略称。 超科学の力を悪用して改造人間を作っていたりする。詳しくは当該ページ参照。 初出のオフビ以外にもいくつものシリーズに関わっている。 双葉学園の癌細胞その1。 「か」行 「か」 癌細胞 某キャラがオメガサークル及び聖痕のメンバーに言い放った台詞。 キャラクターの過去の重さなどから考えた時に、この台詞のインパクトは大きかったためにスレで流行った。 「こ」 コレジャナイ 他作品のPCをシェアした際にそのPCの行動や言動に違和感があるとこう言われる。 ぶっちゃけ受け取り方は人によるのでそこまで気にする事はないが、親御さんに言われたら素直に聞こう。 「さ」行 「し」 シェア 他作品のPCや設定を自作に取り込み、自作に出す事。 コレが上手いだけでかなりの武器になるが、上手くないとコレジャナイと言われる事もあります。 萎縮する必要はありませんが、慎重に。 「す」 聖痕 スティグマと読む。 ラルヴァを神とあがめて信仰するカルト教団である。詳細は当該ページ参照。 双葉学園の癌細胞その2。 「せ」 全裸 醒徒会広報・龍河弾のこと。能力の都合上全裸になってしまうことが多いためそう呼ばれている。「全裸広報」と呼ばれたり風紀委員の逢洲等華に追い掛け回されたりしているが本人は全く気にしていない 前座バイク 西院 茜燦用のバイク、パラス・グラウクスのこと。 全長4mの化け物バイク。これにより前座君はニケツ要員という地位をゲットした。 「た」行 縦書普及委員会 実は中の人は最低でもふたりいるぞ! ラノはいいところです! 時坂文書 機械仕掛けのメフィストフェレスシリーズの主人公時坂祥吾が、物語が進むにつれ黒歴史キャラ化してきた事に由来し、スレ内で黒歴史的な要素を含んだテキストを指す。 「な」行 「は」行 「は」 バラン隊 惣菜などに付いている緑色のプラスチック装飾品より。 スレの話題を独占することは無いが、シェアワールドの賑やかし的に存在する作品群、またはその作者の事。 「へ」 「ほ」 勃起人 この企画の発起人 「ま」行 「や」行 「ら」行 「ら」 らの 塩辛などに上げられたテキストを縦書きに表示できる便利なもの 横書きが見にくいという方には使うのを薦める ラルヴァ 人外の化け物の総称。エルフだろうが吸血鬼だろうが化け猫だろうが全部ラルヴァです。 最近は友好的なラルヴァも多く出ており、一概に人間の敵とは言えません。 英語表記は「larvae」 作品にでてきたラルヴァ一覧はこちら 「ろ」 ロリ会長 双葉学園・醒徒会会長藤神門御鈴のこと。抱っこしてぎゅーしたくなる人気のちびっこ会長 「わ」行 英数字 NPC ノンプレイヤーキャラクター 誰のPCでもない人たちの事。具体的には醒徒会(表裏とも)の面々や、各種委員会の委員長。 誰のものでもないので気軽にシェアできますが、逆にだからこそ勝手にNPCに設定を付け加えると反発を喰らいます。 私物化厳禁。 1-B 一番登録PC数が多いクラス。(この学園の生徒としては)比較的真っ当ないい子が多い。 担任以下、結束が強いらしい。 せんせーさんや醒徒会書記、外道巫女などが在籍。 自称;鋼のB組 2-A 厄介なメンバーが在籍しているクラス。 個々のキャラh強烈だが、それ故クラスで何かをやるイメージが薄い。 さんじゅうろくさいの人や、勝手にレスキュー部の部長、尊大馬鹿イケメンヒーローなど。 2-C 通称:変態クラス コメディ作品のキャラクターが多く在籍しており、主にイベントのギャグ短編でクラスとしての変態ぶりを見せる。 皆ノリがよく、息の合ったギャグを見せてくれる。 チャーハンやめっしーなどが在籍 3-Y ジョーカー関連のPCが在籍するクラス。 特筆すべきはその死亡率の高さで、とにかく片っ端から死ぬ。死にすぎる為に作者自身がネタにした。 いちゃもんピエロやゆうこちゃん、ギーやんなどが在籍。 * *
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【年末年始と、過去と未来と】 ラノで読む 「あなたは私より二つ上だそうですけど、この場ではあなたを年上だとは思いません!未経験で申し訳ないですが厳しくいきますんで覚悟しておいてください!」 開口一番そんな言葉を貰い、そしてそれから今に至るまで文字通りの扱いを受け続けた。 私、何でこんなとこにいるんだろ? そうぼやいてみても気が楽になるわけでもなく。 私、結城宮子(ゆうき みやこ)は窓から街を見下ろしながらアンニュイな気分を供にぼんやりと休憩時間を過ごしていた。 「宮子姉ちゃん、式名(しきな)のおじさんが呼んでるよ」 と扉越しに妙に抑えた声が響いてくる。私の従弟、結城光太(ゆうき こうた)だ。いつもはもっと騒々しい子なのだが、場所が場所だけにそういう気にはなれないらしい。 「うん、すぐ行くわ」 姉的立場として光太の行動に良く悩まされている私としてはありがたいことである反面、同時にどこか物足りなさも感じてしまう。そんな自分の身勝手さを軽く笑いつつ、私は大きな背伸びとともに腰を上げた。 「今回は無理なお願いでしかも急な話なのに本当にありがとうございますね」 私たちを出迎えた式名さんは柔和な笑みで私たちを出迎えてくれた。 「いえいえ、私もちゃんとバイト代貰っているんですからそんな気にしないでください」 二回りほども年上の人にそう下手に出られてしまうとどうにも反応に困ってしまう。第一、私がこの臨時バイトを引き受けたのもずっと家族と一緒にいてもつまらないということと、ナオに話すいい土産話になるんじゃないかという理由――つまりは人助けとほぼ真反対な動機なのである。 「あ、おじさん、これって!」 光太がいつもの姿を思い起こさせる陽気な声を上げた。そちらに目をやると、机の上に丼が三つ。要するにこれは…。 「そうです。もうすぐ年越しですからね、働き通しで疲れたでしょうし、年越しそばでもと思いまして」 「ありがとう、おじさん!」 「こら、光太!」 仕事の対価として給料があるわけであって、それ以上のものを貰うのはフェアではない。ましてや光太は別に仕事をしているわけでもないのだ。心遣いは嬉しいのだが、だからといって「はい、いただきます」とは言いがたいところである。 「いいんですよ、私が勝手にしたことですし。それに、他の子たちも休憩に入るのは遅いですし私も一人では食べ切れません。あなたたちが食べてくれないと食材が無駄になってしまいますよ?」 男やもめの生活が長かったせいかすっかり油の抜けきった感のある式名さんの姿に、私は確かにそれは無理だろうな、と思わず納得してしまっていた。ともあれ、そうまで言われてしまうとこちらも押し通し続けるのも難しい。どうにも、私は弱い人間だ。 「そういうことでしたらご好意に甘えさせてもらいます。…光太」 「あ、はい。おじさん、おそばありがとうございます」 三人でテーブルを囲むと、丁度テレビから除夜の鐘の音が流れてくる頃合だった。 「いやー、いいですよね。この鐘の音を聞かないと大晦日って気がしませんよ」 いやそれでいいんですかあなたは、とおもわず突っ込みそうになったがぐっとおさえる。同時にあることに思い至った私はそれをいいことに席を立った。 「すみません、エプロンを貸してもらえませんか?」 「…ああ、そうでしたね」 一瞬きょとんとしていた式名さんが得心がいったように頷く。「それでは取ってきますので…」と立ち上がろうとするのを押し止め、私は足早に台所に向かった。 緑のチェック柄のエプロンは式名さんに実にしっくり来るような気がする。そう思いながら戻ってみると光太がそばをすすりながらまるでその暖かさに心の箍も緩んでしまったかのような状態になっていた。 「だからまずいってさおじさん、神社の神主がお寺の鐘に聞き入ってちゃ」 「ははは、神様というのはそのくらいで目くじらを立てたりしませんよ」 まったく…。かすかな苛立ちを押し殺し、私は席に戻る。 「…正直似合わない…」 光太が気の毒そうな目でこっちを見ていた。あくまでそばの汁はね防止のためのエプロンだ。巫女装束にあうようなものじゃないことぐらい分かってるわよ。 じろりと睨みつけると、光太は首を引っ込めるようにしてそばをすするのに集中しだした。 一体この子は何をしにやってきたのやら。 ※ ※ ※ ※ オレが転校した双葉学園での生活は結構刺激的で楽しいものだったけど、たった一つだけ、一番大事なことがどうしようもなく期待外れだった。 せっかく宮子姉ちゃんと同じ学校に来れてずっと一緒にいられるんだーって思ってたのに、宮子姉ちゃんは学業にバイト、そして直さんと組んでのラルヴァ退治ととても忙しくてオレと一緒にいてくれる時間なんてほとんどなかった。 頭のいい人が集まるというあの異能研の講義を受けているというというのは従弟として鼻高々な気分なんだけど、それよりももっと一緒にいてほしい。 だから、二人で一緒に帰省したこの冬休み、オレはとても幸せな気分だった。 「叔父さん、叔母さん、明けましておめでとうございます」 青色の上に小さな扇と花の柄がちりばめられた着物(後で母ちゃんに聞いたら『袷』というらしい)姿の宮子姉ちゃんは一段ときれいだった。 紅白の組み合わせがまぶしい巫女装束姿を拝むことができた大晦日から一晩、起きてすぐに着物姿の宮子姉ちゃんを見ることができるなんて。ああ、こんな日がずっと続けばいいのに。 「明けましておめでとう、宮子ちゃん。バイトは辛くない?」 「ええ。まあ大変なことは大変ですけど、まあなんとか」 「安心したわ。急な事故で式名さん大層困ってたからしっかり者の宮子ちゃんならって思ってお願いしたけど、今更だけど少し心配だったのよ」 なんでも上良(かみら)神社のバイト巫女の一人が何日か前に事故に遭って入院したとかで、困り果てた神主の式名さんを見かねた母ちゃんが(式名さんは高校の時の先輩なんだそうだ)伯父さん(つまりは宮子姉ちゃんのお父さんだ)を説得して話を持ちかけたのが宮子姉ちゃんが巫女さんのバイトをすることになったきっかけだった。いつもは口うるさいだけだけど、今回ばかりは母ちゃんグッジョブ。 「式名さんはとても良くしてくれますし心配は要りませんよ」 にこやかに答える宮子姉ちゃんを見てオレは頭を抱えそうになった。あちゃー、絶対根に持ってるよ。 式名さん家の一人娘、真帆(まほ)さん。オレとさほど身長が変わらない小柄な体にしては不釣合いな大きさのおっぱいと、勝気そうなくりっとした目が魅力的なお姉さんだ。あ、でもあの真面目でいつも気を張ったような感じはちょっと嫌かな。 まあそれは置いておいて、元々そんな性格なのに更に気が立っていた真帆さんが宮子姉ちゃんと顔を合わせるや否や「厳しくいくんで覚悟しろ」といったのだからさあ大変。オレも顔が真っ青になった。 それでもぐっとこらえた宮子姉ちゃんは偉いと思う。やっぱり大人だなあ。 やがて話も終わり家を後にした宮子姉ちゃんを追ってオレも家を出た。どうせ着替えのために一旦家に戻るはずだからついでに伯父さんにあいさつをしておこう。そんで着替え終わった宮子姉ちゃんと一緒に神社まで行く、うん、完璧だ。 「また来るの?今が一番忙しいときなのよ」 呆れ顔で言う宮子姉ちゃん。こっちはタダで手伝ってるんだ、文句を言われる筋合いはないと思う。 それに、オレが神社に行くのは何も宮子姉ちゃんや他のお姉さんたちの巫女姿を眺めたいわけじゃない。 ……ごめん、ないわけじゃない。 まあそれはさておき、他にもっと大きな理由があるんだ。オレの異能〈ストレイト・エピファニー〉は(かなり制限がきついけど)知りたい情報を正確に教えてくれる。この力が確かに『ある』と告げてくれたんだ。 この力は答えだけが突然与えられてそれに対する問いは自分で推測しなきゃいけないんだけど、さすがに今のオレの関心ごとと無関係な問いなわけじゃない。そしてオレの今の関心ごとといえばバイトのお姉さんの事故の原因。 なんでもこのお姉さんはこの神社の中で幽霊に脅かされて事故に遭ったって話。 つまり…幽霊はいるんだ。見間違いなんかじゃなくて確実に。 ※ ※ ※ ※ 上良神社は町の東の外れの小さな丘の上にある――というより丘全体が神社の敷地なんだそうだ。 古びた鳥居をくぐり出店の喚声の中石畳の参道を歩くと、すぐに道は上り坂になる。階段を交えつつ丘の頂上の拝殿まで真っ直ぐ登っていく道は「偲びの道」と呼ばれているらしい。昔ここを通る人に過去を振り返ってほしいとの事で作られたんだそうだ。お寺での除夜の鐘的に過ぎ行く年のことを思い起こし煩悩なり何なりを払ってくれという意味なんだろうか? 夏になれば木々で形作られるトンネルの緑が目を引くであろうそこでは、現在神社の空気にそぐわない原色の物体が否応なく通る人の目を引く存在となっている。 赤色の円錐状のもの、カラーコーンと黄と黒で構成されるロープ。工事現場などで立ち入り禁止のラインを引くのに欠かせないセットだ。 ここには最近幽霊が出るんだという。目撃談が連続したことと、私がこのバイトをするきっかけとなった事故のせいで、出現が集中しているという夜間はこの道は立ち入り禁止となっている。まだ日中である現在は通行可能だけど、そんな曰く付きの所を避けるのは当然の心理というべきか、この道を通る人の流れは例年より少ない…らしい。 ナオと共に色んなラルヴァと渡り合ってきた私にとって(夜一人でというならちょっとひるむけど)、気味悪いというだけなら別になんと言うこともないのだけど、光太が必死になってせがむのでこの道は通らないことにしている。まったく、まだ学園に慣れてないんだから…と思うのは逆に私のほうが毒されてるんだろうな。 右に折れて駐車場まで行くとそこに拝殿まで上れる間道がある。あるのだが、迷いなくというわけにはいかない。 これまで私の周りをちょろちょろと走り回っていた光太が勝手知ったる風に前に出て私を先導する。やたらと嬉しそうな光太の姿に心のどこかがざわめく。 どうにも、不愉快なものを感じてしまう。私の家族は私が双葉学園に入った直後に父方の実家のあるこの町に引っ越してきた。だから、ここが実家と言われてもどうにも実感が持てないのだ。 疎外感、というべきだろうか。それは容易く一人ぼっちだった過去を、仲間外れにされていたあの時を思い起こさせる。 「どうしたの…?」 気付くと、光太が心配げな顔で私を見上げていた。表情に出てたか…。 「ううん、大したことないわ」 もう終わったことじゃない。そう自分に言い聞かせ早足で光太を追い越す。ここまでくれば道案内も必要ない。小走りに間道を抜け社務所の方に向かうと、真帆ちゃんが腰に手を当て頬を膨らませてこちらを待ち構えていた。 「もう、今のここは戦場なんですよ!時間に間に合えばいいっていう気持ちじゃ困ります!」 「真帆さん、そんな顔してたらせっかく綺麗なのに台無しだよ。ね、これからお客さんの前に立つんだから…」 半ば引きつった顔ながら言葉を返したのは光太のほうだった。そのせいかどうかは分からないけど、幸い説教はそれだけで済んだ。 「『今のここは戦場なんですよ』、かぁ」 更衣室で着替えながら私はぼんやりと思う。あなたが戦場の何を知ってるのって突っ込んでやりたかったなあ、と。 こないだクラスメートから「結城さんって意外と第一印象とキャラ違うよね」と言われたことを思い出した。確かに私もそれは重々承知している。別に猫をかぶっているとかそういうつもりはないんだけど。というか私はこれと決めた相手にはとことん忠実な犬の方が好きだし。 「さて、今日もお仕事頑張りますか」 気合の声とともに私は仕事場である社務所に向かった。それにしても、正面の参道があれでは参拝客の出足にも影響するだろう。 ふむ。お世話になった恩返しがわりに少し調べてみようかな? ※ ※ ※ ※ さすがにじーっと見続けられるわけではないのが残念だけど、巫女装束のお姉さんたちを背中側から見ることができるというのも新鮮でいいと思う。これだけで新年早々力仕事をする甲斐もあるってもんだ。 「…じゃなくて!」 緩んでた顔を引き締める。そう、宮子姉ちゃんの性格だとその内幽霊に興味を向けるような気がする。そして、そうなったらオレのいうことなんて聞きゃしない。 つまり、宮子姉ちゃんの安全を守るためには幽霊事件に興味を向ける前にオレが解決しなきゃいけないんだ。 といっても真夜中一人で幽霊に立ち向かうのは怖い。あーあ、オレも直さんみたいに戦闘に使える異能だったら良かったのに。 そういうわけで、オレは今この「偲びの道」を見下ろしている。昼間だったら幽霊も出てこないだろう。そして何か証拠を見つけたら学園に連絡して調査隊を出してもらう。いくらなんでもそうそううまくいくとは思わないけど、オレにはこれしか思いつかなかったんだからしょうがない。 実際に事故が起きたところなど通りたくないのか、昼間なのにこの道には人影がなかった。最初から予想外じゃないか。オレは不安に唇をかみしめながらそろそろと道を降りていった。 だけど、半ばを過ぎても何も起こらない。 「そりゃあまあ、昼間は幽霊も寝てるよね、うん」 自分に言い聞かせるための言葉がいつの間にか外に漏れ出していた。何もないというのもそれはそれで困るんだけど、正直それよりも今は無事に帰りたかったんだ。 木々を通して鳥居が見えるところまで降りてきた。ほっと息をついたのもつかの間、少し先に何か染みのようなものが見えた。 「?」 目のゴミかな?と思って目をこすってみたんだけどそれは消えない。いや、むしろゆっくりと広がって、薄い光の中でぼんやりとした子供くらいの人型になった。 「…ひっ!」 足がガクガクと震えるのがはっきりと分かった。入院したお姉さんは逃げようとして足を滑らせて転落したという話を聞いてなかったらオレも一目散に逃げ出してただろう。 子供の幽霊はまるで海の中のコンブのようにゆらゆらしながらゆっくりと近づいてくる。オレがばっと横によけると、その脇をゆらゆらと通り過ぎていく。 通り過ぎていく幽霊にほっと息をついた瞬間。 幽霊がくるりとこちらを振り向いた。 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」 転ばないように最低限の注意だけ払い、後は全身全霊で駆け下りる。 「どうしたの!?」 走り続けるオレを柔らかい感触が弾き飛ばした。同時に映る赤と白。真帆さんだ。 真帆さんを連れて戻ったけど幽霊はもういなくて、そしてオレは真帆さんにこっぴどく叱られた。 「まったく、あんたも悪いけどあの子も言いすぎよ」 宮子姉ちゃんもオレをこっぴどく叱り、でもその後そう言って慰めてくれた。 「仕方ないよ、この事件のせいで来るお客さんも減ってるそうだし」 それに、事故にあったお姉さんは真帆さんの幼馴染でとても仲のいい友達だったんだって。そう言うと自分と直さんのことを思い出したのか宮子姉ちゃんは難しい顔で黙りこんでしまった。 「そう、それいうことなら私も双葉学園の生徒としてこの事件を解決しないとね」 やがて顔を上げた宮子姉ちゃんはある意味想像通りの言葉を口に出した。 「ダメだよ、直さんもいないのに危ないよ」 「確かにナオがいないのは辛いわ。でもね、双葉学園の異能者としてここは引くのが許されないところなのよ!」 あわてて止めに入るが、宮子姉ちゃんはヒートアップするばかり。これじゃ最悪だ! もし宮子姉ちゃんに何かあったら…。それを考えるだけで目から涙がこぼれてきた。 ※ ※ ※ ※ まずい、調子に乗ってからかいすぎたわ。 顔を歪めて半泣きの光太を見て、さすがの私もここで手を止めることに決めた。 「冗談よ、冗談。回復系の私がそんな無茶するわけないでしょ」 「…ほんと?」 疑わしげな涙目を向ける光太。うん、ほんとごめん。 「本当、約束する。…それにね、この事件、大事じゃないはずなのよ」 「え?」 光太はようやく涙を止めきょとんとした顔を向けた。そう、私だってちゃんとリスクを計算しての考えなのよ。 「この境内、外と少し空気が違うって分かる?」 光太は少しの間目を泳がせて思案にふけり、「そんな気がする、何となくだけど…」と曖昧に頷いた。うーん、ノリが悪いなあ。 元々そういう場所だったのか、それとも人の手を加えたことでそうなったのか。それは知る由もないんだけど、この神社は魂源力(アツィルト)が滞留しやすい環境になっている。本来なら神主である異能者が自然に放出する魂源力を溜めておく仕様なんだろう。 ご存知の通り魂源力や魂源力を動力とする異能の力はラルヴァにとって最大の弱点といっていいものだ。だから、泥棒とガードマンのような…というのは乱暴すぎる例えな気もするけど、人間に敵意のあるラルヴァは好んでここに近寄ろうとはしないだろう。 「…そういうわけよ。神社とかが不浄のものは近寄れないと言われているのもこのせいかもしれないわね」 まあ結界の異能ほどに強い力があるわけでもないので知能のあるラルヴァで何か目的があれば普通に入れたりはするのだが、そんなのが一所に留まって人を脅かすだけというせこい事はしないだろう、多分。 と説明が終わると、光太は安堵したどころかキラキラと尊敬の眼差しでこちらを見上げていた。 「…とまあ、これ全部稲生先生の受け売りなんだけどね」 というかここの特性に気づけたのも異能研の授業が脱線した時に先生が話してくれた話が頭の片隅に残っていたからなのだ。そんなもので褒められるのはフェアじゃないので、しっかりと訂正しておいた。…のだけど、ちゃんと分かってるのかなあ。ただでさえこの子ちょっと私のこと美化してる感じだし。 「でも、本当にいたんだよ。本当だって」 見間違いだと言われると思ったのか勢い込んでまくしたてる光太を「わかってるわ」と制する。女の子にちょっかいかけまくりと困った悪ガキだけど、この子はそういう類の嘘をつく子じゃない。 「ダメね。これだけじゃ分からないわ」 それじゃ真相は何か。しばし考えたが、どうにもまともな答えが出てこない。全体像を推し量るにはまだピースが足りないのだ。下手な考え休むに似たりというけど、本当に無駄な時間だったわ。 「宮子姉ちゃん、この幽霊の事件を解決するってのは嘘じゃないの?」 光太が首を傾げる。何言ってるの、当たり前じゃない。そう答えて気付く。「当たり前」な理由を光太が知るはずもないのだと。何しろ言ってないんだから。 「?」 首を傾げる光太だったけど、適当にごまかしておいた。 ここの神様への恩返しのつもりなんてこっぱずかしくて言えやしないわ。 ※ ※ ※ ※ 昨日はあんなことがあってそういう雰囲気じゃなくなっていたので、今日は宮子姉ちゃんのバイト前に初詣をすることにした。 行列の先での本殿の中ではぴしっと正装で決めた式名のおじさんが参拝客にお祈りの儀式のようなものをしている。いつもはただの優しいおじさんにしか見えないけど、こうやって見るとまるで別人だ。ちょっとかっこいいと思う。 そんなおじさんの姿を眺めていたり宮子姉ちゃんと話をしたりしているとすぐにオレたちの番が来た。なけなしの五百円玉を身を切る様な思いで投げて願うのはもちろん。 (もっと宮子姉ちゃんと仲良くなれますように) 列から離れたオレに宮子姉ちゃんが駆け寄り声をかけてきた。 「あんたは何をお願いしたの?」 「宮子姉ちゃんの方から先に教えてよ」 「私は何も願ってないわよ」 はぐらかして自分だけ聞き出したい気だ。ずるい。 怒るオレに宮子姉ちゃんはまあまあと弁解を始めた。 「私はもう願いをかなえてもらったのよ。だからもういいの」 「別に一つしかかなえてもらっちゃダメってことないじゃん。それにじゃあさっきは何してたのさ、嘘つき」 オレの厳しい指摘にも宮子姉ちゃんは動じる様子も見せない。 「何度も願いをかなえてもらったらね、何かあるたびに神様頼みになっちゃいそうだから本当にどうしようもない時まで自重してるの。さっきは『お願い叶えてくれてありがとうございます、私は頑張ってます』って報告してたのよ」 ぐっ…反論できない。残念、オレの追及はこれで終わってしまった。 「と、ところでさ、あの幽霊の件についてはわかったの?」 宮子姉ちゃんのお願いも分からないのにオレだけ話すのも嫌だったので、話題をそらしてみることにした。できれば宮子姉ちゃんには直さんもいないのに変なことに首を突っ込んでほしくなかったんだけど、こうなったらしょうがない。無事解決できるようにオレも頑張るしかない。 …でも、頭を使うのは苦手なんだよなあ、オレ。 「さっぱりね」 困ったように首を振る宮子姉ちゃん。ぶっちゃけた話、宮子姉ちゃんさえ無事なら事件なんか解決しなくてもいいんだけど、そうはいかないんだろうなあ。 ※ ※ ※ ※ 「どうぞ、ありがとうございます」 おみくじ箱から出てきた棒を受け取ってそこに書かれた番号の棚にあるくじを渡すだけの簡単なお仕事です。そう言っても恥ずかしくないくらいには(もちろん言わないけど)今の一連の流れは迷いなくスムーズに動けていたと思う。 上良神社でのバイトも今日で三日目。これでも色々バイトして鍛えている身、接客の仕事にはそこそこ自信がある。真帆ちゃんの小言も目に見えて減ってきて正直ちょっとしてやったりな気分だ。 (それにしても、いったいどういうことなんだろう) 客の流れが途切れるちょっとした空白の時間。そんな時間を利用して考えるのは、もちろんこの神社の幽霊のこと。 昨日光太に話したとおり、今回のことがラルヴァの起こしたことだという可能性は小さいと思う。もし超常現象――異能やラルヴァなどの表に隠された知識も含む理論や法則の外の存在――なら私ごときが手を出せようもない。考えても仕方ないだろう。 「交通安全のお守りですね、はい、こちらになります」 営業スマイルでお客さんを見送り、思案を続ける。 (そうなると、何か異能が関係している…?) 今回の事件で被害を受けている人、それは事故で入院してしまったバイトの人と風評被害で客足が減ったこの神社というところか。 (でも、いまいちなぁ) いちおう光太や叔母さんたちに後で確認しなきゃいけないけど、ここの客足が減ってそれで得する人がいるとも思えない。バイトの人の方にしても、疑われないための偽装工作のためだけに幽霊事件を続けるとも思えない。 結局、考察は昨日と同じくここで止まってしまう。 「え?ロリ巨乳の巫女さん?さあ、東京の方に行けばそういうお店もあるんじゃないですか?」 営業スマイルで不埒な客を追い返す。隣の同僚が「手馴れてるわね~」と目を丸くしている。大抵の変な物、奇妙な物には慣れっこになってますから。そんな答えは喉奥に留め、苦笑いだけを返す。正直、好き好んで慣れたかったかと聞かれれば答えはノーだ。 (あ、そうか。好んで…わざとやったことじゃないかもしれないんだ) 新たな展開の可能性に気付いた私は客の流れを確認し思考を再開させた。異能の覚醒に気づいていない異能者が無意識に発動させた異能が何らかの影響を及ぼしてるかもしれない。 現象が長いこと継続していることを考えると、この場合想定される異能者Xは上良神社の関係者の可能性が高い。 (神主の式名さん…はちがうだろうな) 今のように異能者が大量に現れる前、異能の力を使っていたのは神職や僧門の人間が多かった(正確には逆で、力を持つ人間の受け皿がそういう世界だったということらしい…当然、これも稲生先生の受け売りだ)。その関係で代々神職だった式名さんもとっくに検査を受けているはずだ。そこで何もなかったのに今更異能が発現するとも考えにくいだろう。 入院した人と真帆ちゃんとは仲が良かったと光太は言っていた。無意識のこととはいえ自分の手で友達を傷つけたとしたら、そんな場所に好んで近づきたがるだろうか?彼女も違う気がする。 「宮子姉ちゃん、持って来たよ」 光太が商品を入れた段ボール箱を運んできた。いつもならばもっと五月蝿いのだろうけど、薄いながらも魂源力が漂う空気に圧されたのかどうにもこのところ比較的大人しい。 「!?」 突如、稲妻のような閃きが私の身体を貫いた。一瞬立ちくらみを起こした私に同僚が慌てて駆け寄る。 「あ、はい、大丈夫です」 「そう言われてもここで倒れられても困るんですよ。私が代わるんでちょっと裏で休んでてください。ほら、光太くん?」 「うん!」 丁度休憩が終わった真帆ちゃんが溜息交じりの声をかける。別に異常があったわけでもないのだけど、大丈夫と言っても証拠があるわけでもないので水掛け論になるだけだ。考えをまとめたかったのもあったので、ここは大人しく従っておくことにした。 式名さん親娘が異能者じゃない=魂源力を供給できないなら、この場に漂う魂源力は誰が供給したものか? 「…大丈夫?」 「大丈夫だって。それより、あんた真帆ちゃんと仲いいみたいだけどよくここに来てたの?」 「しょっちゅうってほどじゃないけど。ここは遊び場にもってこいだから」 やっぱりか。案の上の答えに思考が急速に収束していく。 この場に漂う魂源力は誰が供給したものか?それは異能者に決まっている。そう、私と光太だ。たいした異能者じゃない私や去年まで未覚醒だった光太では魂源力の自然供給量などたかが知れているが、それでも回数をこなせば話は別だ。というより、他にも異能の素質を持った人間がそうとは知らないまま何人も参拝し続けていたのだろう。異能者の大量発生から二十年、これだけあれば空気の違いを感じるほどの密度になっていてもおかしくはない。 そう、いまこの神社はかつて力ある神主がいた時と類似した状況を取り戻しているのだ。 ※ ※ ※ ※ その日の深夜。オレは宮子姉ちゃんと一緒に上良神社まで来ていた。本当ならまだ中学生のオレや女の子の宮子姉ちゃんがこんな深夜に外に出してもらえるわけないんだけど、宮子姉ちゃんが母ちゃんと話をつけてどうにかしたらしい。実は意外とウマが合うんだよなあの二人。 「行くわよ」 「偲びの道」を見上げて告げる宮子姉ちゃんの顔は緊張しつつもどこか楽しそうだった。確かに宮子姉ちゃんが説明したとおりなら危ないことはないはずなんだけど、違うって可能性もあるし実際に幽霊が出てるのにどうしてそんなにためらいなく行けるんだろう。 「どうしたの…すぐ戻るからここで待ってる?」 振り返った宮子姉ちゃんが気遣わしげな顔でそう言ってきた。不安だったけど、だからと言って宮子姉ちゃんを一人で行かせるなんて論外だ。オレは黙ったまま宮子姉ちゃんを追い抜いて前に立った。 立ち入り禁止のロープを乗り越えたオレたちは街灯の光で照らされた円を飛び石伝いに渡るように道を登っていく。幽霊が出る場所だって思うと葉の落ちた木の枝もこちらを手招きする手に見えてしまう。 気持ちを奮い立たせるためにぶんぶんと大きく首を振ると、目の前の闇の中にぼうっと染みのようなものが浮かび上がった。 「!」 昨日と一緒だ。心臓の音が外まで漏れてきそうなほど高鳴る中、その染みは見る見る膨れ上がっていった。 「え…」 それは昨日と同じくあっという間に人の形になる。しかも、今度は大きいのと小さいのをあわせて六体。オレたちを取り囲むようにしてゆらゆらとゆらめいている。 (だから言ったのに!) 逃げ出したくてしかたがなかったけど、オレは手を大きく広げてその場に踏みとどまった。直さんみたく強いわけじゃないけど、それでもここにはオレしかいないんだ。 「宮子姉ちゃん!」 「…やっぱりね」 その声は、オレの焦りを一瞬で冷ますような声だった。 「え??」 「ほら、見てごらん。大きいのと小さいの、二人セットが三つってなってるでしょ」 からかうような、諭すような、そんなオレに何かを教えてくれるときのいつもの宮子姉ちゃんの声。オレはほとんど条件反射的にその声にしたがって幽霊たちを見やった。 「ほんとだ」 「じゃあもっと良く見てみて。そうすれば正体が分かるわ」 水面に映る影のように揺らめく幽霊をまじまじと見てみる。闇の中で昼間よりもはっきり写る姿にどこか、引っかかるものがある。答えが喉元まで来ているのに出てこない、そんなもどかしい感じだ。そう、どこかで見たような…。 「あ!」 答え合わせをするように宮子姉ちゃんの方に振り向く。にんまりとオレを見下ろす顔が、言葉よりも先に正解だと告げていた。 「そうよ、あの幽霊は私たち、正確に言うなら過去の私たちの映像…みたいなものよ」 ※ ※ ※ ※ 「偲びの道」。過去を振り返り、思いを馳せるためにかつて作られたという道。それが心の持ちようの問題というだけでなく本当に、言葉通り過去を「見る」ことができるものだとしたら。 その可能性に気付くと後は簡単だった。というか、この神社にそれっぽい伝承はこれしかないのだから、蓄積された魂源力を結界以外の用途に使うのならこれしかないだろう。 ここからは完全に推測だけど、現代風に言うならば、これはこの場の魂源力を動力源兼ハードディスク兼映写板とし、この道を通った人の魂源力をキーとして過去にその人が通った時の姿を再生する3D映写機的なシステムという感じなんだろう。 そしてもう一つ分かったことがある。このシステムのキーとなりうるのは異能者かその素質のある人間だけ。魂源力が関わるのだからまあ当然。つまり、今までの目撃者も、おそらく一番はっきりと人型を見て取ってしまったであろう事故に遭った女性も異能の素質ありの人間なのだ。 …ひょっとしたらその内私は同郷の同輩か後輩を迎えることになるのかもしれない。双葉学園に迎えられることが幸福なのかそれとも不幸なのか、それは個人個人によって違うことだけど、もしそんなときが来たらこれも何かの縁だ、手が届く範囲で手助けくらいはしようと思う。 それにしても、と私は大きな「幽霊」の一体に目を移す。そうと分かってみるとすぐに分かる。見るも情けなく俯き肩を落としてる姿。まさに一目瞭然、三年前の私だ。 自分に自信がなくて、他人に拒絶されることが怖くて殻を閉ざし、そんなだから当然孤独になり、そのくせそんな境遇をひがんでばかりのバカな子。…って上から目線で言ってるけど、本当は今でも人となりが分からない相手と接するのはちょっと怖い。 三年たって変わったのはありのままの自分を受け入れることができるようになったのと、あとは少し…ほんの少しだけずうずうしくなったことくらいか。これって開き直りな気もしてきたけど、気にしないことにする。 (大丈夫、あなたのお願いはちゃんと叶ってるから) 昔の自分を励ますように、あるいは今の自分の幸せを確認するように心の中で呟く。さて、真相も確認できたし、あんまり遅いと叔母さんも心配するしもう帰るとしましょうか。 と光太に呼びかけてみるものの返事がない。光太のほうを見ると、魅入られたかのように過去の私たちの姿をじっと眺めていた。 (この子も壁にぶち当たってるのかな…) さっき見たばかりの昔の私に似ている。光太の姿はあの時の私と全然違うのに、なぜかはっきりとそう思えた。 現在進行形で苦しんでいる人はその苦しみがどうしようもないものだと思ってしまうものだ。他ならぬ体験者だから分かる。それでも誰かがしっかりと側で支えてひねくれないようにしてくれるなら、後は時間が、その人の成長が解決してくれるものだ。 私と違って人に溶け込みやすい(逆に溶け込みやすくて心配でもあるんだけど)この子ならまあ心配は要らないと思うんだけど、かつてそうやって救ってもらった人間として私もこの子を支えてあげたいと思う。 なにより、私はこの子の「お姉ちゃん」なのだから。 ※ ※ ※ ※ これが過去のオレたちの姿だと分かってみると、どれが何年前のかすぐに分かる。三年前、落ち込んでた宮子姉ちゃんが今にもどこかに消えちゃいそうで心配でたまらなくて半ばしがみつくように歩いた。二年前、立ち直っていた宮子姉ちゃんと並んで歩いた。一年前、オレには見えない何かが見えているかのような陽気さで俺を置いて行かんばかりの勢いで走っていった。 こうして並べてみると本当によく分かる。宮子姉ちゃんの世界にオレはいらなくなってきているんだ。 薄々とは気づいていた。それは一緒にいる時間が少なくなったからだと思ったからオレはわざわざ学園まで宮子姉ちゃんに会いに来て、いろいろあって結果オーライ的に転入することができた。 けれど、結局何も変わってない。多分、最初からそうだったんだ。なにしろ宮子姉ちゃんはオレに一度も弱音とか見せてくれたことがない。三年前、とても落ち込んでた時も何度聞いても「ううん、何でもないわ」と何も話してくれなかった。 オレってそんなに頼りないのかな?いや、例えば直さんあたりと比べてオレが何の役にもたたないってのはよく分かる。でも、まるで姉弟みたいにってくらい深い絆があるって思ったのにそれが全くの勘違いだってのはとても…苦しい。 「光太。あれ…見て」 どうしようもなく胸が詰まって必死に泣くのをこらえているオレにそんな声がかけられる。宮子姉ちゃんが指差したのはよりにもよって三年前のオレたちだった。 「あの時ね、お姉ちゃん人に嫌われるのが怖くて人付き合いを拒んでて一人で落ち込んでたの。ほら、私の異能って結構意地悪いじゃない」 え?三年の時を経て知らされた答えにオレの頭は真っ白になった。 「でもね、色々あって、助けてくれる人がいて、だから立ち直れたのよ。光太、今友達いる?」 クラスの悪友たちが頭に浮かぶ。頷いたオレに優しく微笑み、宮子姉ちゃんはまた話を続けた。 「光太が何に悩んでるのかお姉ちゃんには分からないけど、友達や周りの仲間を大事にしてたらきっと解決できるから。同じように悩んだ仲間として、そしてお姉ちゃんとして保証するわ」 微妙に誤解してるけど、それでも自分の弱かったところををオレに見せてくれたのがとても嬉しい。喜びをかみしめているオレだったけど、突然背中が力強く叩かれた。 「だからそんな顔しないの!来年の私たちが見てるわよ」 「来年…来年も一緒に来てくれるの?」 「…?当たり前じゃない」 何をおかしなことをと言いたげなその口調にたまらなくなったオレは思わず宮子姉ちゃんの腕にしがみついた。 「じゃあ帰ろ!」 「じゃあって意味が分からないわよ。というかあんたもういい加減重いのよ、ナオじゃないんだから引っ張れないってば」 オレだって少しは成長してるんだ。来年は今年のオレを笑い飛ばせるようになる。その次の年も、その次も、その次も。そしたらきっと宮子姉ちゃんだって…。 ※ ※ ※ ※ なかなかに得がたい体験だったこのバイトもついに終わり。最終日の業務も無事終了し、光太は先に帰して私はバイト代を受け取るのともう一つの用事のために式名さんのところに向かっていた。 「あ、お疲れ様です」 何故かいた真帆ちゃんに軽く挨拶する。いや、ここの娘なんだから何故かと言う方がおかしいんだけど。 「結城さん、あなたにちゃんと言おうと思って来たんです。今回はありがとうございました」 この幽霊事件に関しては放っておくとまた事故が起きるかもしれないのでちゃんと学園に報告しておいた。再発防止のための処理に関しては当然式名さん家にも話はいっているはずで、それが真帆ちゃんまで伝わったのだろうか。 「こんな私に文句一つ言わず働いてくれて…あの時はとても気が立ってて自分でもどうしようもなかったんです。でも他のバイトの人の手前途中から大きく態度を変えることもできなくて…本当にごめんなさい」 あ、そっちのほうね。正直途中からはあんまり気にしてなかったんだけど。 「ううん、上司みたいなものだしきつく言うのも仕事のうちだと思ってたからあまり気にしてないわよ」 「あまり…全然腹が立たないほうがおかしいですよね、ごめんなさい」 そう、まあ何もないということはない。例えばすまなそうに頭を下げるたびにささやかながらも揺れてる胸とか胸とか胸とか…ごほん。 「まあ、真帆ちゃんもよく分かったと思うけど、一旦口にした言葉はもう元に戻せないのよ。私はいいから今度からは気をつけてね」 「…はい」 説教できる資格なんてないわよねー、と内心苦笑する私。他ならぬこの私もつい数ヶ月前不用意な言葉のせいで一番の親友を失いかけた。本当に気をつけないと。元来勝気そうな真帆ちゃんだったけど、私の言葉にこもった実感を感じ取ったのか上から目線の説教に素直に頷いてくれた。 「本当にお疲れ様でした。宮子さんと光太くんにはとても感謝しています」 真帆ちゃんのことについての礼のつもりもあるのだろうか、深々と頭を下げる式名さん。うう、恐縮すぎて胸が痛い…。 正直好意に付けこむようで言い出しにくいんだけど、ここで言わなければきっと後で後悔するだろう。 やらずに後悔するよりやって後悔。何度も言い聞かせ、私はおずおずと口を開いた。 「あのぉ…一つお願いがあるんですけど、いいでしょうか…」 「なんでしょう?」 優しく続きを促してくる式名さん。私は大きく息を吸い、言葉を続けた。 「不躾なことだとは承知の上でのお願いです、ごめんなさい。お金はきちんとお支払いします、怪しいところに転売したりもしないと約束します。ですから巫女装束の一番大きいサイズのを一式お譲りいただくわけには…」 「いきません」 「駄目です!というかなんでサイズ合わないのが欲しいんですか?」 ですよねー。むしろダメとわかってすっきりした感じだ。 この一連の話、ナオに土産話として話したらどんな顔するだろうか。なんとなくだけど、安堵の顔で溜息をつきそうな気がする。 その顔を想像するだけで笑みがこぼれだすのを抑えることができない。 冬休みが終わるのをこんなに待ち遠しく感じるのは生まれて初めてだった。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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そのとき、血塗れ仔猫の邪悪な笑顔が何者かの拳によってひしゃげた。 みきと雅はとても驚いて、黒い悪魔が殴られて吹っ飛んでいくのを見ていた。 憎き宿敵を殴り倒した異能者――関川泰利は、唾をグラウンドに吐き出してからこう言った。 「もう好き勝手やらせねえぞ・・・・・・。いつまでもくたばっていると思うなよ、この悪魔が!」 そしてその背後から顔を出したのは、三人の少年たちだ。 「おー、動ける動ける。なかなか気分がいいなあ、自由になるのって!」 「ずっとあいつの言いなりになっていたからね。まったく、死んだなら死んだで、とっととゆっくり眠りにつきたかったのになあ?」 「僕なんて何度も頭ちぎられたりお腹かき回されたり散々だったよ。こんな僕でも、あいつだけはどうしても許せないよ・・・・・・」 小山真太郎、・野口道彦、久本昭二は口々にそう言った。好き勝手に動き出した「人形」たちを目の当たりにした血濡れ仔猫は、声を震わせながら彼らにこうきいた。 「ど、どうして・・・・・・? どうして私の束縛しているあなたたちは、勝手に動くことができるの? ここは私が支配しているアツィルト・ワールドだよ? 私の精神世界だよ? あなたたちが自分の意志で行動することはできないはずなのに・・・・・・?」 「誰の世界ですって? 勘違いも甚だしいんじゃないの、血塗れ仔猫さん?」 はっとして血塗れ仔猫は後ろを振り向く。短剣を握った大島亜由美が、彼女のことを見下ろしていたのだ。血塗れ仔猫は慌てて鞭を握ろうとしたが、その顔面を亜由美は容赦なく、前方に蹴り飛ばしてしまう。 吹き飛んでいく彼女の体をしっかり捉え、亜由美は短剣に力を込める。きらきらと白い輝きを帯びたナイフを、亜由美はぴゅんと横になぎ払った。 真っ直ぐ放たれたカッターが血塗れ仔猫に炸裂し、禍々しい悲鳴が上がる。病的なドレスがずたずたに裂けて、黒い布がカラスの羽のようにこぼれていった。 戦いから取り残されて唖然としている雅のもとに、美しい少女が歩み寄る。落合瑠子は「大丈夫?」と怪我をしている雅を気遣ってくれた。 「君たちは、この夏の事件の被害者かい・・・・・・?」と、雅が彼らにきいた。 「ああ、そうだ」と、泰利が答える。「俺たちはあの血濡れ仔猫によって殺された亡霊だ。あいつは俺たちが死んでもこの世界に魂を拘束し、何度も粉々にしたり切り裂いたり好き勝手やってきたんだ。まったく、悪趣味にもほどがあるぜ!」 「ほんと、血塗れ仔猫は憎くて憎くてたまらない。久本くんたちを残虐に殺して、私の妹も無残に手にかけて。これだからラルヴァは悪だと私は思う!」 亜由美はみきが少しうつむいたのを見ると、彼女に向かってにかっと微笑み、こう明るく言ってみせた。 「私が大嫌いなのは血塗れ仔猫。立浪みきさんは何も関係ないじゃない! あなただって、あの悪趣味な黒いクソ猫の被害者だよ!」 彼女に同意して泰利も瑠子も真太郎も道彦も昭二も、みきに向かって微笑んだり、ピースサインを向けたりしている。 「うう・・・・・・みんな・・・・・・みんなあ・・・・・・!」 みきは泣いた。みきはずっと、不条理に奪われることになった七人の命のことを、申し訳なく思っていた。きっと自分は彼らの強い恨みを背負って、破滅のときを迎えるのだろうとさえ思っていた。 でも、そのような悩み事も杞憂に終わったのだ。彼らはきちんとわかっていた。この悲劇の黒幕は立浪みきではなく、「血塗れ仔猫」だということを! 「そうかあ。立浪みきが生きる意志を取り戻しかけているのが、このアツィルト・ワールドに変調を及ぼしているのねえ・・・・・・? 私の掌握していたこの世界がみきに奪われようとしているから、あなたたちは動けるようになった・・・・・・」 「馬鹿言うんじゃねえよ。ここはもともと、てめえの世界じゃねえだろ」と、泰利。 「あんたの拷問はかなーり痛かったよ・・・・・・? そして、よくも散々ここで美玖を辱めてくれたね・・・・・・?」と、亜由美。 二人の亡き異能者は同時に地面を蹴った。「お、おのれえ、人間めええええええ!」という血塗れ仔猫の咆哮が、彼らを迎えうつ。 そして、みきのもとに一人の少女が近づいてくる。それはみくにとてもそっくりな少女、美玖であった。 「倒してぇ!」 と、グラウンドに落ちていた緑の短剣をみきに差し出した。 「血濡れ仔猫をやっつけて! あいつのせいでみんなみんな死んじゃった! 私も殺された! お母さんもお父さんも死ぬほど悲しんだ! お願い、みきお姉ちゃん! みきお姉ちゃんがあいつをやっつけて! 私たちの仇をとってえ!」 みきは姉猫のグラディウスを受け取った。そうだ、自分には自分の帰りを待っている、可愛い妹がいる。早くこの戦いを終わらせて、みくのもとへと帰らなくてはならないのだ。みきは短剣をしっかり握ると、泰利と亜由美に攻め込まれて苦戦している、血濡れ仔猫のほうを向いた。 「私が人間に負けるわけがない! 私は血塗れ仔猫、双葉島の住民を恐怖のどん底に陥れる悪魔なんだ! 鞭で人間を叩いておしおきする死神なんだ! そんな私がこんな亡霊ごときに、こんな雑魚ごときに――」 頭に血が上ると目の前のものしか見えなくなり、冷静さを失うのは猫の血筋の大きな欠点である。血塗れ仔猫はほとんど気づけなかった。彼女の背後でもう一人の自分自身が、姉の短剣を握り締めて飛び掛ってきたことを。 「姉さん! どうか私に、私に力を貸してくださぁい!」 「しまっ――」 隙を突かれた血塗れ仔猫は、ばっと後ろを振り向くが―― みかのグラディウスが、振り向いた血塗れ仔猫の胸に深く刺さった――! 恐ろしい断末魔の叫び声が青空に高く響き渡る。血塗れ仔猫はおびただしい吐血を起こしながら、自分の胸に深々と貫かれた短剣を見た。 「そんな・・・・・・私が死ぬ・・・・・・? 血濡れ仔猫が敗れる・・・・・・? 嘘だ、悪夢は終わらない! こんな、こんな攻撃でくたばるような私じゃないのにぃ・・・・・・!」 地面に崩れ落ちた血塗れ仔猫は、ぜえぜえ辛そうに息をしながらも抵抗を表明した。 しかし。 『いいや、もうおしまいだよ。いい加減、諦めてみきの心から離れていきな』 その声を聞いたとき、大きく開かれたみきの両目から熱い涙がぶわっと沸いて、零れ落ちていった。血塗れ仔猫はあまりのショックに、首をぶんぶん振りながら声のしたほうを捜した。 「バカな・・・・・・! ありえない! そんなことはありえない! どうして、どうしてそんなことがあああっ・・・・・・!」 そのとき、血塗れ仔猫の胸に突き刺さっている緑のグラディウスが、まばゆい発光を見せた。 「何だぁっ・・・・・・?」 突然のことに血塗れ仔猫は目を背け、みきは本当に嬉しそうにして泣きながら、とある人物の帰還を喜んでいる。 『ふふふふ、あたしもね、ものすごい奇跡だと思ってる・・・・・・。みきを安らかな眠りに付かせようとしたあのとき、ありったけの魂源力をこの剣に込めたのが幸いしたんだ。これは偶然であり、まさに奇跡といっていい・・・・・・!』 グラディウスが血塗れ仔猫の体から離れると、げほっと彼女はひと塊の血を吐いた。宙に浮いた短剣はさらに発光を強め、ドンとはじけ飛ぶ。 ・・・・・・白い猫耳。白い尻尾。長い髪の毛は、背中の辺りで一つにまとめ、ぶらさげている。双葉学園の制服を着込んだ彼女はお気に入りのグラディウを左手に握り、恐れおののいている血塗れ仔猫の目の前に立っていた。 「ふざけるなあ・・・・・・! こんなこと、あってたまるか・・・・・・! あなたが、死んだあなたがこの場に干渉することなんて、絶対にありえないことなのにぃ・・・・・・!」 みきは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、その人物のことをこう呼んだ。 「お姉ちゃん・・・・・・!」 「ただいま、みき。一人でよく戦った。私がいなくても、お前はもう大丈夫みたいだね」 立浪三姉妹の長女・みかは、微笑みを向けながらそう言ったのであった。 「あれが、みくのもう一人のお姉さん・・・・・・」と、雅が言う。彼もまた自然と笑顔になって、この大逆転にぶるぶる震えていた。 みかはきっと血塗れ仔猫を睨んだ。黒の異形は肩を一瞬震わせたあと、悔しそうに歯を食いしばって黒い鞭を手繰り寄せる。 「てめーが血塗れ仔猫か。よくもみきを乗っ取って好き勝手やってくれたな。あたしゃ、三年前に戦ったときからずっと、みきの心の中にでも潜りこんでてめーをシバきあげたいと思ってきたもんだ。覚悟しやがれ」 姉猫の両目が緑に輝いた。それに呼応して、グラディウスも鮮やかな緑色に燃えあがる。 「く、くっそおおおおおお! 調子に乗らないでえ! 三年前、私に苦戦したあなたに私を倒せるはずが無いいいい!」 血塗れ仔猫は鞭を縦に振り、みかの頭部を吹き飛ばそうとする。だが、みかは表情をまったく変えることなく、左手をぴゅんとしならせた。短剣によって斬られた鞭の先が、彼女の横を通過していった。 「あたしはみきの『お姉ちゃん』だ。いつ、どんなときでも、みきのことを守ってやるんだ。たとえ死んでしまって、ユーレイになってもね・・・・・・!」 みかは血塗れ仔猫に飛びかかった。心臓に穴が開いた血濡れ仔猫は、もはやまともに勝負をすることができない。 みかの瞳がぎゅっと絞られ、猫の鳴き声をこの世界に轟かせる。グラディウスで縦に、横に、斜めに何度も執拗に斬りつけ、一瞬のうちに何百回も憎き相手を切り刻んだ。 瞳の輝きを失って、ふらっと後ろに倒れていく血塗れ仔猫。みかは後ろにいるみきに向かってこう叫んだ。 「今だ、みき! お前が止めを刺せ! 自分でこの悪夢を終わらせるんだ!」 「ハイ、姉さん!」 みきがコバルトの鞭を青に輝かせる。右手から注ぎ込まれた魂源力は手元から先のほうまでぐんぐん伝わり、鞭の全体が青白い発光を見せる。それをしなやかに振りぬいて、血塗れ仔猫の顔面目掛けてぶっ飛ばす。 最後、みきはオッドアイを強く光らせてこう怒鳴った。 「私は『ラルヴァ』なんかじゃない! 猫の力で戦う『異能者』です!」 ――決着の瞬間を、この場にいる人間たちは固唾を呑んで見守っていた。 みきの攻撃は敵の顔面に見事直撃し、血塗れ仔猫は頭部を喪失してしまう。敗北した彼女が膝を付いた瞬間、全身にひびが入って体がぼろぼろと崩れ落ちていった。 その瞬間、真太郎と道彦が歓声を上げる。亜由美が昭二に抱きつく。 泰利と瑠子は二人並んで、笑顔を向けている。 美玖が青空に向かって、「やったぁー!」と嬉しそうに飛び上がった。 「終わった。さすがに疲れたぞ」と、雅も笑いながらあぐらをかいて座っていた。 みかも感慨深そうに妹のことを見つめていた。黒い己に打ち勝ち、試練を乗り越えてみせた泣き虫な妹の背中を、姉猫はしんみりとした表情で見守っている。 崩れ落ちた灰色の亡骸を複雑な心境で見つめながら、みきは猫耳をひっこめた。 「さようなら、もう一人の私・・・・・・」 そう、みきは鞭を消去しながら呟いたのであった。 こうしてみきの心の中に巣食っていた恐怖の異形・血濡れ仔猫は、立浪みき本人によって倒され、敗れ、その存在を消失させたのであった。 アツィルト・ワールドに光が差す。戦いで高ぶった気持ちや火照った体を癒すように、冷たい風が流れていった。それはみきにとってとても懐かしい、爽やかな潮の匂いを運んできてくれた。 「私たちの仇をとってくれてどうもありがとう」 と、大島亜由美が言う。みきは彼女にしっかり向き合うと、申し訳なさそうにしてこう言った。 「あなたたちは何も関係ない生徒だったのに・・・・・・。私のせいでこんな目に合わせてしまって、本当にごめんなさい」 「何言ってるの!」と、美玖が笑った。「私たちの敵はあの血濡れ仔猫じゃないの! みきお姉ちゃんは何も悪くないよ! みきお姉ちゃんがあいつを倒してくれて、私たちもようやくゆっくり休むことが出来そうで、とっても嬉しいんだから!」 ありがとう、とみきは涙ぐみながら言う。そんな三人のところに、こそこそと別の三人組が近づいてきた。 「そーれ!」と真太郎と道彦は昭二の背中を乱暴に蹴っ飛ばし、亜由美のもとへ無理やり寄せてしまう。顔を真っ赤にしてしどろもどろになっている昭二のことを、亜由美も照れくさそうにして見つめていた。 「血塗れ仔猫もいなくなったことだし、これで私たちもあいつの束縛から解放されることになる。そろそろ永い眠りに着こうと思います。短い生涯でしたが、私は何の悔いもありません」 亜由美がそう言うと、彼女の体がすっと透き通っていった。それに合わせるようにして、美玖も昭二もその存在を薄めていく。 最後に美玖が、「ばいばい! 私の分も頑張って『生きてね』。みきお姉ちゃん!」と、本当にみくにそっくりな笑顔を向けながら消えていった。 それに対してみきは、「うん。生きる。もう二度と、死にたいなんて言わないよ」と呟いてあげたのであった。 「あーあ。結局、昭二に亜由美を取られちゃったってことかあ」 と、真太郎がそっぽを向いてそう言った。道彦がぷっと吹き出して、「ま、そういうわけだ。女々しく悔しがってないで、俺たちも早いこと休もうぜ」と言う。 真太郎が「悔しくなんかないやい」と涙ぐみながら強がったとき、二人もこの世界から去っていった。 そして最後に泰利と瑠子が二人並んで、みきとみかと雅のほうを向いてこう言った。 「俺だって血塗れ仔猫と戦って死んだことに、何の後悔もしていません。何か大切なものをかけて、自分の力を使って戦うことが、異能者としての誇りだと俺は思うから。・・・・・・みきさんも、その手で守っていきたいものや、人がいるんですよね?」 「・・・・・・はい」と、みきは微笑みながら言った。 「何も死ななくてもいいのに」と、瑠子が澄ました笑顔で言う。「直球。正直。一途。この人の良いところであり、困っちゃうところね。まあ、この人のおかげで私は幸せな一生を送ることができたのかな? ふふ」 泰利は何も言葉を発することができず顔を真っ赤にして、下を向いて黙り込んでしまった。姉妹も雅も、楽しそうな笑い声を上げた。 「・・・・・・じゃあ、そろそろ行こうか、瑠子」 「はい」と、瑠子はにっこり笑う。 「それでは俺たちも一緒に旅立つこととします。俺たちの分も、学園生活楽しんでください。みきさんも、異能者として色々な可能性があるんだということを忘れないでおいてください」 瑠子の手をとった泰利は、地面を強く蹴って飛び上がった。二人は青空を背景にして高く高く飛んでいく。彼の能力は『跳躍』だった。瑠子はそんな彼の手をしっかり握っている。雅は二人の背中に翼が生えているような幻を見た。 瑠子はみきの方を向いてにこっと笑った。みきもその幸せそうな瞳の輝きを見つめ、右手を振ってあげた。 血濡れ仔猫によって殺された七人の魂は、こうして天国へと旅立っていったのである。 「姉さん・・・・・・」 みきは姉に向き合うと、とても寂しそうにこうきいた。 「・・・・・・やっぱり姉さんも、行ってしまわれるのですか?」 そうきかれたみかはばつが悪そうに頬をかくと、こんなことを言ったのだ。 「・・・・・・なんか、そういうわけにもいかねーんだよ。あたし、もしかしたら死んでないのかもしれない」 「ええっ?」と、これにはみきも雅も仰天する。 「あたしの死体が海中から引き上げられたって話なんだよね? でも、それならそれでとっとと成仏しちゃいたいとこだったんだけど、どうしてか不可能なんだ」 「じゃあ・・・・・・みかさんの体がどこかに・・・・・・?」 「だとは思うんだけどなあ」と、みかは困った顔をして言う。「ここにいるあたしは、あたしが三年前、この短剣に込めた魂源力そのものだよ。注ぎ込める限りのすべての魂源力を注ぎ込んだ瞬間、突然誰かに撃たれたんだよね? その結果、身体と魂源力が分離してしまったわけだ。んで、身体はどこに行ったかわからない。一方、あたしの魂源力はこうして宙ぶらりん。とまあ、こういうわけなんだ」 こういった世界であたしは具現できるようだね、とみかは付け加える。雅は異能の奥深さに、ただただ舌を巻くばかりであった。 そんな雅のところにいつの間に、みかが目の前まで近づいてきていた。彼は驚いて、「な、何ですか」と言う。 「その腕輪・・・・・・。んっふっふ、みくのやつ、マサを『ご主人様』にしたわけだねえ」 雅の腕には茶色い腕輪がかかっている。みくと交わした「主従の契約」のしるしだ。 「まさかあたしも、それが『解決の手段』だとは思ってもみなかった。それはあたしたち猫の血筋に代々伝わるものだ。悪趣味なおまじないかとさえ見ていたほどだったのに、そんな意味合いがあったなんてねえ・・・・・・。 よく、みくは気がついたよ。まあ、誰か恋人を見つけようなんて、当時のあたしたちは考えようともしなかったけどさあ」 目をぱちくりさせて、雅はぽかんとしていた。解決の手段? この恥かしい契約が、解決の手段? 何の? と、ここでみかが顔を赤らめながら、ぽーっと上目遣いで自分のことを見つめているのに気がついた。雅が「え? どうかしましたか、お姉さん」ときいたとき。 「あたしの好みだ。惚れた」 「ええ!」 次の瞬間には、雅は姉猫に押し倒されていた。彼女の長い前髪が顔にかかる。極限まで近づいた緑の瞳は、しっとりと湿っていた。いったい何が始まるのか。自分は何をされようとしているのか。 「往生際が悪くてねえ。あたしはこうしてユーレイになってもなお、好きな人は逃がさないわけさ。とりついてやる」 「はあ? ちょっと、お姉さん。何を」 唇を強引に重ねられた。雅がもごもご抵抗していると、腕を後ろに回されて、ぎゅっときつく抱きしめられてしまう。 ところがその瞬間。みかの体が淡く発光したと思ったら、ぱちんと弾けてしまう。 丸い緑の球体が、仰向けのままの雅の上に浮遊していた。球体となったみかはそのまま降りてくると、すっと雅の胸の中に浸透していった。すると雅の疲労が完全に回復し、折れていた右肘が繋がっている。前よりも力が湧いてくるような気分がしていた。 「・・・・・・と、冗談はここまでにしといて、おめでとう、遠藤雅!」 どこからか、みかの声が聞こえてきた。 「これまでいくつもの戦いを勝ち抜いてきたごほうびだ。マサは夏休み中も、ずっと頑張ってたらしいからね、あたしの魂源力を貸してあげるよ!」 「なるほど、異能者の成長システムですね」と、みきが補足してくれた。 「これで、一回の戦闘に使える治癒の回数が『三回』になったね。あとは治癒を使ったときに、あたしのちょっとした特性が反映されるかな? なあに、オマケ程度の要素だよ。 じゃあ、マサ。後のことは頼んだよ? みきをよろしくね。みくを泣かしたら承知しないぞ! あたしは復活できるまでのあいだ、マサの精神世界でのんびり暮らしてるから、夢の中で会ったときとかあたしとイチャイチャしておくれ!」 立浪みかはそれだけ言うと、みきのアツィルト・ワールドから、その存在を完全に消失させた。 「姉さんは人懐っこいところがあるんです。まあ、半分冗談程度に受け取っておいてあげてください・・・・・」 と、みきが恥ずかしそうにそう教えてくれた。雅は「あ、そうですか、わかりました」と困惑しながら言った。 「・・・・・・じゃあ、そろそろ帰ろうか。みくのところへ」 「はい」 みきが目覚めることを望んだ瞬間、アツィルト・ワールドはうっすらと白く包まれる。 夢から覚める。不思議な夢から覚める。それは七人の命を惨たらしく奪った悪夢であり、黒の自分に打ち勝って七人の命を解放した痛快な夢でもある。 戦士たちは夢から覚めて、現実へと帰っていく――。 一面に広がる青空と、潮風の吹きつける東京湾。 展望台に戻ってきた雅は日差しの眩しさに目をしかめた。すぐさまはっとして、辺りを見渡す。 「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」 みくがわき腹を押さえたままぐったり倒れていて、彼はびっくりする。みくは血塗れ仔猫の戦闘で負傷していたのだった。 「うわあああ、みく! しっかりしろ! もう大丈夫だからな!」 雅は早速、治癒魔法をかけてあげた。胸のうちに大きく膨らむ魂源力を、右腕を通じて手のひらから分け与える。患部にかざされた治癒の発光は緑色をしており、雅は少し驚いた。 「・・・・・・ぐぐ・・・・・・ぷはあ。重傷者の放置プレイとか、なかなかカゲキなことしてくれるわね、ご主人様ぁ・・・・・・?」 じとっとした目で睨んでいるみくに、雅はへこへこと平謝りをした。 「ゴメン。本当にゴメン。正直悪かった」 「あれ・・・・・・? あんた、瞳が緑色に光ってるわよ?」 え? と雅はぱちぱちまばたきをする。「ふふふ。まるでみかお姉ちゃんそっくり」とみくが言ったとき、彼はなるほどなと納得したのである。みかの魂源力がこうした形で反映されているのだ。 完全に回復したみくは立ち上がると、服に付いた砂をぽんぽんと叩いて払った。それから首をゆっくり左右に振って、心配そうにこうきいた。 「みきお姉ちゃんは、どうなったの? まさかまたいなくなっちゃったとか、そんなことないよね?」 「・・・・・・安心して。ほら、もうすぐそこまで来てるよ」 そして、みくは見た。目の前に白く光る球体が現れ、雛のかえる卵のようにひびわれて光が漏れ出し、ぱっと弾けたのを。 みくは笑った。笑いながら、金色の瞳を涙でいっぱいにした。 光の中から降りてきたのは、黒いドレスを着た少女だった。血塗れ仔猫と違うのは、穏やかな微笑をたたえつつ両目を瞑っていた点である。 「お姉ちゃん・・・・・・!」 みくがそう呼ぶと両目が開かれ、美麗なオッドアイが彼女を向いた。 「ただいま・・・・・・みくちゃ!」 「お姉ちゃあああん! んもう、バカああああああ!」 みくは三年前に一人ぼっちになってから、ずっと一人で戦ってきた。その道のりは決して平坦なものではなかったし、死にかけたことも何度もあった。与田から自分たちの秘密を明かされてから自分を見失い、大好きな相方と離れて旅に出たこともあった。 彼女は気丈でとても気の強い性格をしている。もともとそういう性格であったことは言うまでもないが、複雑な事情はいっそうみくをきつい性格に作り上げていった。彼女は姉がいなくても、しっかり独りで生きていかなくてはならなかった。 そのような苦労の時代も、最高の形で帰結する。みくはみきに抱きついた。三年ぶりの温もりに抱かれてひたすら泣いていた。甘える対象が帰ってきて、ようやく出すことのできた歳相応な子供の姿を、雅も温かく見守っている。 「いったいどこ行ってたのよお・・・・・・。ずっと、最後の朝食のこと、忘れられなかった・・・・・・。ばか、お姉ちゃんなんてきらい。だいきらい」 「ごめんね、みくちゃ・・・・・・。もうこれからはずっと一緒だよ。どこにも行ったりはしないよ。私と一緒にまた暮らしていこうね・・・・・・!」 午後の日差しに反射して、ゆらゆらと白い明かりが真っ直ぐ海に伸びている。それはまるで、これまで二人が歩んできた長い道のりを暗示しているかのようだ。そんな光景を背景にして、姉妹は強く強く抱き合っている。 こうして立浪みきは、三年のときを経て2019年、ついに復活を遂げたのであった。 「ところで・・・・・・」と、みきはおもむろに雅のほうを向いた。 「何でしょうか?」 「マサさんはうちのみくちゃとどういう関係なのでしょうか?」 どきっとして、雅は冷や汗をかく。「ただの友達です」と答えれば恐らくパンチが飛んでくる。「相方です」と言えば機嫌損ねる程度で丸く収まるかもしれない。何よりも大学生が小学生の子を指差して「恋人です」などといえるはずがない。 「マサはね、今年の春から一緒に行動している相方なの。まだこの島に来て少ししか経ってないっていうから、私が世話を焼いてあげているわけ。そうよね、マサ?」 案外大人なみくの対応に、あれこれ思案していた雅は拍子抜けしてしまった。ワンテンポ遅れてみきにこう答える。 「え、はい、そうです。改めまして、遠藤雅と申します。あの世界では色々と生意気言ってすみませんでした」 「嘘です。その腕輪と首輪が何よりの証拠です。本当はどういう関係なのか、お姉さんに教えなさい。今後そういうお付き合いをする際は、きちんとお姉さんを通してもらわないと困ります。わかりましたね、マサさん?」 と、彼女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。雅はどうしていいかわからず、たじたじになってしまった。 「お姉ちゃん、これからお姉ちゃんはどうしていくの?」 「私? えっとね」と、みきは頬に人差し指を当てた。「学園に帰りたい。私はどうやら成長が止まってて、今も十六歳のままみたいなの。だから、編入するとしたら高校一年生なのかなあ?」 「もう、お姉ちゃんのことを悪く言う奴はいないのかなあ・・・・・・」 と、みくが心配そうにしてぽつりと言った。 三年前、立浪みかとみきは「祖先にラルヴァの存在を確認した」という理由で『ラルヴァ』だというレイベリングを一部の学園生徒にされてしまった。一部の陰謀が働いていたとはいえ、自分の存在を否定された双葉学園にみきは復帰することができるのだろうか。 「大丈夫だよ。私は『ラルヴァ』じゃないよ。猫の力を使って戦う『異能者』なんだから」 と、みきは元気に言ってみせた。それを見た妹は嬉しそうに微笑んだあと、続いてこんなことを思い出す。 「あー、そういえば。七夕の夜に偶然会った人がいるの。ええとね、ぱっと見は私とほとんど変わらない女の子みたいなんだけど、学園の教師ですって言ってたなあ。私とお姉ちゃんのことを知っててびっくりしたんだけど、あれお姉ちゃんの知り合いなの?」 雅が与田に捕らわれて、救出に向かった七夕の夜。みくはとある人物と出会っていた。 春奈・C・クラウディウス。みくの話を聞いただけで、みきはその人が誰であるのかすぐにわかった。春奈は双葉学園高等部・1Bの担任であり、三年前のみきの担任でもあった。 「春奈せんせー・・・・・・」 彼女はしきりに自分のことを気にかけてくれた。与田光一の執拗な研究に付き合っていた頃、日に日にやつれて弱っていく自分のことをとても心配してくれていた。あの人のことだから、たとえ私が血塗れた悪魔になっても、こんな自分のことを気にしてくれていたに違いない。そう思うと、みきはぐすんと涙ぐんだ。 「早く、せんせーさんに会いたい」と、みきは言う。「早く春奈せんせーのところに戻って、元気な顔を見せてあげたい。目を背けたくなるような宿命も悪夢も、全部終わった。みんな私は終わらせた。私はできることなら、今の春奈せんせーのクラスに帰りたいと思っている。それが、一番いいよね・・・・・・?」 「そうだね、きっとその思いは叶うと思う」と、雅も同意してあげる。 とんぼのつがいが展望台を飛び回り、三人の目の前をくるくる舞った。暑い夏が終わり、双葉学園はこれから涼しくて静かな秋を迎えようとしている。 こうして、真夏の悪夢は幕を閉じたのであった。 ここから先の物語を受け入れるかどうかは、読者にお任せいたします 「これで全て終わったんだよね、マサ」と、みくがきいた。 「うん。みくも僕も色々あったけど、丸く収まって何よりだよ。もう少し、夏休みは一緒に遊びたかったね。土日とか二人で遊びに行こうか?」 「何バカなこと言ってんの! お姉ちゃんも加えてあげなくちゃ可哀相でしょうが、このバカ!」 ぴょんと飛んで、雅の頭にげんこつをお見舞いさせる。雅が「痛いなあ! 何も殴ることないじゃないかあ!」と、ふざけて怒鳴ろうとしたときだ。 「きゃっ・・・・・・!」 みきの悲鳴が聞こえて、二人ははっとして後ろを振り返る。 二人はみきが何者かによって頭を捕まれて、宙にぶら下げられているのを見た。 潮風にたなびく赤いマフラー。双葉学園の制服。 雅は驚愕して震えだす。 馬鹿な・・・・・・。 どうして・・・・・・。 どうしてこの男が・・・・・・何より「彼ら」がここにいる? それはつまり、何を意味するのかというと・・・・・・? 「・・・・・・茶番は終わりだ、『血塗れ仔猫』」 醒徒会庶務・早瀬速人は、冷徹な視線をみきに突き刺しながらそう言った――。 次回、第二部最終回。 この六話で切っても、シェアードワールド的には差し支えありません 要は最終話の展開を受け入れられるかどうかだと思います トップに戻る 作品保管庫に戻る
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名前 HP 弱点・耐性 ドロップ1 ドロップ2 出現場所 仲間 備考 妖精魔法使い 39 闇△ 幻想郷(魔法の森) 妖精の中でも魔法を得意とする者たち。えてして妖精は力も魔力も弱いので、珍しい種族と言える。 ナース 61 闇△ 壊れた腕輪(1%) 混沌平原2 二枚歯で武装するナース。本当は「二枚刃」なのだが、「にまいば」と書かれては… マジシャン 83 闇△ 霧のローブ(4%) 魔源石(2%) 1層 魔界1 魔術師(magician)。低級の魔法しか操れないが、魔法が強力な本作では厄介な敵。 エリートマジシャン 400 闇△ 魔源石(20%) 1層 魔界1 赤シンボル 赤シンボルモンスター 魔術師の中でも修練を積んだものたち。 ディーコン 105 闇△ 銀河のアミュレット(4%) 古の祓物(1%) 混沌平原3 助祭(deacon) 司祭(priest)に次ぐ階級の僧侶。司祭程ではないが、それなりの魔法(奇跡)を行使できる。 アコライト 555 闇△ 古の祓物(25%) 混沌平原3 赤シンボル 赤シンボルモンスター 侍祭(acolyte) 司祭の補佐をする聖職者。 エンジニア 165 闇△ ルビーガーダー(4%) 壊れた財宝(1%) 無縁塚 エンジニアとはこの場合は技師ではなく工兵のことを指す。戦闘部隊ではないが、任務は地雷撤去や陣地爆破や架橋など重要なものが多い。戦うだけが戦争ではない。 ひまわり妖精魔法使い 343 闇△ 注連縄(8%) 壊れた財宝(1%) 太陽の畑 A 大きなひまわりを持った妖精。他の妖精よりも大きな体を持ちHPも高め。攻撃魔法は得意ではないが、補助魔法のスペシャリスト。 大妖精 2000 火△水● 2層 魔界4 SS チルノ同様に比較的強い魔力を持つ妖精。 ソーサラー 271 闇△ 宝塔(6%) 壊れた財宝(1%) 灼熱地獄 錬術士(sorcerer)。正確には女性なのでソーサリス。作品によってはマジシャンやメイジより下位だったり上位だったり、もしくは全く別の系統の魔法使いだったりする。 エリートソーサラー 1400 闇△ 宝塔(25%) 壊れた財宝(1%) 灼熱地獄 赤シンボル 赤シンボルモンスター 錬術士の中でも凄腕の者たち。 メイド妖精魔法使い 260 闇△ 懐中時計(6%) 壊れた財宝(1%) 終末の時計塔 第弐の塔 A 紅魔館に仕える妖精。主人の趣味か、メイド服を着用している。 魔梨沙 3600 火水地雷○ 魔法の森 SS 魔界に封印されている魔女。魔理沙とは姿も性格も似ていない。 サモナー 375 闇△ ルーンの杖(6%) 壊れた財宝(1%) 3層 魔界3 召喚術士。召喚(summon)と召還(recall)はどちらも「しょうかん」だが、意味はまったく逆。召喚は呼び出し、召還は呼び戻す。 ウィザード 420 闇△ ロッド・オブ・ウィザード(4%) 瞑想の指輪(2%) 終末の時計塔 第参の塔 大魔術師(wizard)。ウィザードは一般的に上位の魔法使いを指す場合が多い。インストールウィザードなどがあるようにウィザードは便利な道具を指す場合もある=天才の称号のようなもの。 リリーホワイト 3000 闇△ 混沌の魔城(中層) SS 春を呼ぶ妖精。 バックファイヤ 640 水闇△火● 火山列島のローブ(5%) 壊れた財宝(1%) 混沌の魔城(中層) C 火属性魔法に長けた上級の魔法使い。多くの強力な魔法を操る強敵。バックファイヤとはウォッカとギネスビールで作るカクテルのこと。ウォッカの語源はジーズナヤ・ヴァダー(生命の水)からきている。酒の名前は敵や魔法によく使われるようだ。 輝夜 8000 火水地雷殴○ ?(混沌の魔城(上層)) ボス 自身にも消えかかるといった危険な兆候が表れそれらを打開すべく、同じく神隠しに遭った永琳と共に異変解決へ向かっていた。 退魔陰陽師 1625 闇△ クォ・ヴァディス(6%) 壊れた財宝(1%) 魔法研究所 退魔士の流れを汲む陰陽師。式神を使った魔法などを操る。陰陽師は元々は立派な官職であり、役人や政治家であった。(占い等の祭事を扱っていた。)現在では魔法使いとしての側面が強調されているので本来の陰陽師のイメージとかけ離れている。 上級陰陽師 5400 闇△ 要石(25%) 壊れた財宝(50%) 魔法研究所 赤シンボル 赤シンボルモンスター 退魔士の中でも特に強い術を行使できるものたち。 アムキハッハ 12800 闇△ 魔法研究所 エリアボス 魔法施設のエリアボス ウズボギッヒ 12800 魔法研究所 SS エリアボスDLC 魔法施設のエリアボス アキダクト 1825 火闇△水● アゾット(6%) 壊れた財宝(1%) 鉱山1 バックファイヤが火なら、こちらは水属性を極めた魔法使い。対極の属性を操るだけにライバル関係もあるかもしれない。アキダクトもカクテルの名前。 エリートひまわり妖精 2430 闇△ ストップウォッチ(6%) 壊れた財宝(1%) 4層 魔界2 魔界に住むひまわり妖精の亜種。 ムーンレジデント 2600 闇△ ゴームグラス(1%) 壊れた財宝(1%) 4層終末の時計塔 第壱の塔 B 月の住人。服装はなんとなく輝夜っぽい。タイムストップを操るので、非常に厄介な敵。本体は乗っている月なのでは?という説も。 リトルミンストレル 3400 闇△ リフレクトローブ(6%) 魔王の欠片(2%) 黒き神域 B リコッテ 歌姫の少女。聞く者を魅了する歌声の持ち主らしい。 ハイプリーステス 4150 闇△ ロッド・オブ・マギウス(6%) 魔王の欠片(2%) 黒き神域(深部) SS DLC 高等司祭。司教に次ぐ力を持つ僧侶。 ザラスシュトラ 17000 闇△ サクラメント(10%) 魔王の欠片(10%) 黒き神域(最深部) ゾロアスター教の開祖。ツァラトゥストラなどとも呼ばれる。 エンシェントムーン 7000 闇△ 魔の欠片(6%) 壊れた財宝(25%) 地下世界 太古より存在する月の住民。 ハイウィザード 1400 闇△ ロッド・オブ・マナドレイン(4%) 魔の欠片(4%) 神社の境界 B 大魔術師の中でも上位に位置するものたち。通常の魔法使いとしては腕はトップクラス。 ウィズ・バング 7800 闇△魔● エメラルドブースター(6%) 綺麗な鏡(8%) 地下世界B1 魔属性を得意とするレアな一派に所属する魔法使い。 デンキブラン 8800 地闇△雷● フェアリードロワース(4%) 雷の欠片(8%) 地下世界B3 名前の通り電気の攻撃を得意とする魔法使い。 アムキハッハのしもべ 15800 アムキハッハの魔除け(8%) 賢者の欠片(8%) 神社地下 アムキハッハより全ての魔法を受け継いだ弟子。 ナインティーンスホール 10800 雷闇△地● 精霊王のローブ(6%) 賢者の欠片(4%) 神社地下 地属性を得意とする魔法使い。地属性はリストラ間近で立場が危うい。 コメント アコライト…図鑑に混沌平原3と書かれていたけど、いくらマップを切り替えしても出なかったので、1層魔界3で探索したら一発で発見 -- 名無しさん (2019-10-15 21 09 43) 名前 コメント
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ラノで読む 「……何のつもりじゃ?」 風そよぐ野原に凛とした少女の声が響いた。 双葉学園島南西部に位置する海岸の前、草原が広がる壁の前で七人の空気が凍りつく。 輝がリガルディーに渡された銃。その銃口を向けた相手は、何と輝の教え子雪を捕まえている天津甕星と八意思兼だった。 「私も色々と考えました。しかしやはり、自分の教え子を裏切る気にはなれない」 そう、輝は雪と睦月を信じる道を選択したのだ。 当然だろう。つい数日前に会ったばかりの相手よりも、自分が半年以上同じ研究室で見ている教え子を信じるのが人の道理だ。 「それにあなた方の行動の方が腑に落ちない点が多い」 そしてその人間的直感を裏付ける根拠もあった。雪と睦月は異能力者でも何でもない、輝と同じ一般人だ。その二人が魔術で月をどうこう等出来よう筈もない。 第一、月の接近を輝に最初に教えたのは雪だ。睦月も妙に魔術に詳しいと言う疑問こそあったが、そう言う趣味の人だっている。そんな事でイコール魔術師とはならない。 二人の行動は輝に協力して真面目に事件の真相を究明する為に動いていただけで、何もやましそうな素振りはなかった。 「雪さんの手を離して下さい。お願いします」 対して二柱の神は輝が月の接近を知った直後から突然現われ、輝の捜査を撹乱するような行動や情報ばかり与えてきた。 確かに言っていた事の殆どは真実だったのかもしれない。だがそれは僅かな嘘を隠す為の隠れ蓑だったのではないか? 二柱の神は輝の協力者である教え子二人を疑うよう仕向けようともしていた。対して二人は神に対して特段敵視するような事を輝に言っていない。 どう考えても二柱の神が、事の展開を自分達の望むように操ろうとしているようにしか思えなかった。 だから輝はリガルディーのペンデュラムに絡みつかれた二柱の神に銃口を向けたのだ。 「くっ……天津甕星、これがお前の選んだ人間だぞ」 「……」 輝に銃口を向けられリガルディーのペンデュラムにも狙われ、二柱の神は観念したように雪を押さえていた手を離した。 (ほっ……やっと開放された) 二柱の神から開放された雪は、ヨロヨロと地面に崩れた。一瞬心配した輝だったが、見る限り目立った外傷は無く無事であるように見える。 輝はその雪の姿を見て安心した。自分の選択が誤っていなかった事を実感したのだ。教え子を助けられた、その充実感が心の底に湧き上がってきていた。 しかし――。 「雪さん?」 地面にうずくまった雪は服からゴソゴソと何かを取り出したかと思うと、その取り出した棒状の物を自分の首に押し当てた。 「ありがとう先生。今まで本当に楽しかったです」 「なっ……! 雪さ――」 雪が取り出した物、それは折りたたみ式のナイフだった。刃渡り7㎝程度の小さなナイフだが、それでも喉を突けば充分致命傷となる。 輝が雪のその状況を見て、完全に予想だにしなかった事態に驚き対処が遅くなった瞬間、雪は前屈みに倒れ地面に伏せたままとなってしまった。 救出が間に合わなかった雪の体を助け起した輝だったが、雪は既に喉をナイフで突いた傷とショックで事切れている。 意識も無く脈も無い。致命傷の傷を自ら負った、つまり雪は自殺してしまったのだ。 次の瞬間、輝達の居る地が青白く輝き、北から南東にかけて四本の光が青白い光のカーテンを伴って爆発的スピードで伸びていった。 それは結界陣を形成する条件が揃い五芒星の魔法陣が完成しようとする瞬間の光景。他の四つのポイントでも同様の事が起きているはずだ。 完成した魔法陣は双葉学園に巨大な五芒星の図形を描き出し、その直上にオーロラのような光を形成した。 「あぁ……そんな……一体何故……」 日が落ち辺りが夕焼けから薄暗い夕闇へと変わり始めた頃、黄昏時の東京湾に上空に、この地に有り得ない筈のオーロラが生まれた。 そして一方輝はと言うと、急激な状況変化に戸惑い頭の処理が追いつかない状況になっていた。 輝が二柱の神に雪を放させた瞬間、雪は自ら命を絶ってしまった。催眠術か何かで操られていたのか? しかしそれにしては雪は最後、輝に別れを告げてから逝っている。やはり自殺だったのだろうか。 ならば彼女を追い詰めたものは何なのか?輝が選択を誤らなければ雪は死なずに済んだのか?雪を死なせてしまったのは輝なのか? 正しいと思い選択し、一瞬正しかったと確信した道の結末を目の当たりにして、輝はすっかり放心状態となってしまったのだ。 「ぐわぁ!!」 その時、輝の後ろの方でも声が聞こえてくる。今度は男の声だ。 呆けていた輝が声に驚き後ろを振り向くと、そこには何故かペンデュラムとその紐を両耳から出して倒れているエージェント山田の姿があった。 血に塗れたブルークリスタルのペンデュラムが、ずるりと山田の耳から引きずり出される。 山田は目を開けたまま左右の眼が違う方向を見ている、所謂ガチャ目状態となったまま倒れピクリとも動かない。そう、リガルディーが仲間であるはずの山田を殺したのだ。 しかし当のリガルディー自身は顔色一つ変えず、山田の死体に一瞥をくれただけ。 ペンデュラムの先から滴った血痕が、新たに山田の耳から広がるどす黒い液体の池に飲み込まれいった。 「リガルディーさん!? 一体何故山田さんを!」 しかし何故政府のエージェントであり月の接近を食い止める役目を持つ筈のリガルディーが同僚の異能力者を手にかけたのか。 助けられたと思った雪の自殺と政府のエージェントとして信用していた男の奇行のせいで、輝はもう何が何だか分らなくなってしまっていた。 後はもう木偶のようにただ状況に流されるのみだ。 星見空輝は道を誤った。彼の人生はこの時ゲームオーバーとなったのだ。 「ありがとう先生。お陰で大結界陣を完成させる事が出来ましたよ」 「あなたは……国のエージェントではなかったのですか?」 「エージェントでしたよ。ついこの間までね」 英輔・リガルディーがニヤリと笑った。 国のエージェントとして月の接近を阻止しに来たと言うのも、天津甕星達が悪のラルヴァで輝を騙そうとしていると言うのも、全てこの男の嘘だったのだ。 立場を利用して仲間や国を欺き、そして輝に協力していた神二柱をも欺き己の目的を達成したのだ。 まだ若い、二十歳になったばかりの乙女の命を犠牲にして。 「貴方と言う人は――!」 輝は怒りに任せてリガルディーに銃を向け引き金を引いた。しかし銃はカチンと乾いた音を立てただけで何も起こらない。 そう、始めから弾など入っていなかったのだ。その様子を見てリガルディーは輝を茶化すように少しおどけた様子で言うのだ。 「そんな物騒な物を向けて、危ないですよ?」 「く、くっそー!」 輝はリガルディーに渡された空の銃を本人に向かって投げつけた。しかしそんな逆上しての行動も読まれていたのか、リガルディーは苦も無く避ける。 見上げると月は最早目に見えて大きく見えるようになっていた。 中天高く白く輝く月は何も比較する物が無い中で、まるで地上の建物付近で赤く輝く月のように不気味に大きく見えるのだ。 この世の終わりを思わせる光景に、輝は戦意を喪失した。 「月が……迫ってくる……」 「ふふふ……この島の各地に派遣したエージェントは五つのエレメント、つまり木火土金水の五つの元素で更生する五芒星の大結界を作るための礎だったのです。全て始めから仕組んでいた事だったのですよ」 リガルディーは島の各地には国のエージェントが向かい結界を張ろうとしている者達を抑えたと言っていた。 しかしそのエージェント自体が五つの元素、木火土金水を象徴する能力を持った異能力者達で、彼らがそのポイントで力を使い戦う事自体が結界を完成させる条件になっていたのだ。 双葉学園島全体を覆う巨大な大結界陣は、今やその陣内に居る全ての生物の魂源力を吸収して月を牽引する影の式神へと注いでいる。 数千数万とも言われる異能力者が集まる、人が作り出してしまった世界の得意点『双葉学園』。 この地を利用して始めて完成される大魔術が、今完成されてしまったのだ。 「木火土金水……その内の水は雪さんの血で完成させました。血は水より濃いと言いますからね、大魔法陣の要素《エレメント》としては最適でしょう?」 「くっ、お前……っ!?」 雪の死によって結界陣が完成した今、魂源力を吸収される陣内では異能力を持った生徒でもその力を使う事が出来ないだろう。 並の異能力者では何も出来ない、まして異能力を持たない一般人でしかない輝は、殆ど無い魂源力を無理やり吸われて力もあまり出ないような状態となっていた。 そんな中リガルディーは平然と行動している。彼が羽織るインバネスコートの内側には護符がビッシリ貼ってあり、そのお陰で魔法陣の影響を受けずに済んでいるのだ。 ドコまでも用意周到な男だ。悪知恵の働く憎い相手に輝はヘロヘロになりながら殴りかかろうとした。どうしても目の前の男が許せなかったのだ。 例え返り討ちにあおうとも一発くらいは殴らないと気が済まない、そんな心理状態になっていた所を、またしても輝は意外な人物に止められる事となった。 「睦月……さん?」 「先生ごめんね」 今度は睦月から銃を向けられる輝。輝がバカのように持っていた弾無しの銃などではない。 「私、本当に先生の事好きだったんだよ? 先生がもし輔星じゃなかったら、こんな事にならなかったのに……」 「形勢逆転……と言った所でしょうか」 睦月によって輝の動きが封じられている事を確かめたリガルディーは、今度は自分の銃を取り出してそれを天津甕星と八意思兼に向けた。 傲慢な男に二柱の神は睨みつけるように対抗する視線を向けている。その目を見てリガルディーは「ちっ、気に食わない目だ」と言い躊躇無く引き金を絞った。 「くぅっ!」 「きゃああああ!!!」 「甕さんっ! 思兼さんっ!!」 立て続けに発射された銃弾は二柱の神の太腿を正確に撃ち抜いた。地面に転がり撃たれた足を抱え苦しむ二人を見て、動けない輝は怒りに震える。 人を撃っておきながら平然としているリガルディーは、もう二柱の神は恐れるに足らずと言った様子で、自分を睨みつける輝の方を向いた。 「さて、これで五芒星の結界による大結界陣は完成された訳ですが……」 パン!と乾いた音が響いた。静寂を破った先程の銃声とは違う。リガルディーが輝の頬を思い切り叩いたのだ。 平手とは言え思い切り叩かれれば怪我もする。輝の口の端から血が一滴流れ出た。 「先生、天津甕星を背負って私に着いて来て下さい。最後の仕上げが有りますから」 「最後の仕上げ?」 「そうですよ。最後の仕上げです……フフフッ」 リガルディーは乗ってきた車の方にわざと大仰しい動作で乗って下さいと誘った。 輝は銃を持った相手に逆らう事もできず、フラフラしながらも天津甕星に肩を貸して車へと向かう。依然として睦月の銃口は輝達に向けられたままだ。 その様子を倒れ伏せながら八意思兼が見送る。リガルディーはこの少女の姿をした神は置いていくつもりだ。 後ろの座席に三人が乗り込み、リガルディーの運転で車は走り出した。最後の決着をつける場所に向かって……。 【永遠の満月の方程式 -急-】 (モバイル手帳もケータイも破壊された……生徒達も魂源力を吸われてとても戦える状態じゃない) 輝達は今リガルディーの運転する車の後部座席に座って森の中を走っていた。 道が出来ているとは言え舗装されていない田舎道のような道路は、後部座席にすし詰め状態で座る三人の体を大きく揺する。 その度に天津甕星はリガルディーに撃たれた脚を押さえ、小さな苦痛の声を漏らしていた。 誰も助けに来ない。いや、こんな混乱状態ではリガルディーの裏切りに気付く者など誰もいないだろう。 自力で何とかするしかないが、相手は異能力者であり武器も持っている。脚を撃たれ自由に身動きの取れない天津甕星は言わば人質だった。 (今この混乱状態で助けを呼ぶ事はできないか……エージェントでも醒徒会でもいい、早く気づいてくれ!) こんな最悪の状況の中、何の異能力も武器も持たない輝が出来る事はただ相手の顔色を伺いつつ耐える事だけだった。 「自分達が今どこに向かっているのか、気になるでしょう?」 その時、前の座席で運転しながらリガルディーが尋ねて来た。 後と前の座席の間はタクシーで見かけるようなガラスで遮られている。きっと防弾ガラスなのだろう。 輝が無言でリガルディーの問いに答えないでいると、リガルディーは自分から勝手にサイドボードから地図を取り出して後部座席に渡した。 「この島の地図です。睦月さん、特別に教えてあげる事を許可しますよ」 そう言われて睦月は地図を受け取り輝に開いて見せる。そこには各エージェント達が行ったであろう、学園の周囲五つのポイントが記されていた。 そして来た道から外れたこの道の行く先にある設備を、睦月は指差してこう言ったのだ。 「先生、私達は今この島の中央監視室に向かっているんだよ。そこで私達は学校と生徒を人質に立て篭もり、日本政府と交渉するんだ」 「政府と交渉? バカな、そんなもの成り立つ訳が無い。睦月くん冷静になって下さい。国はテロリストとは交渉しない、力尽くで解決しに来ますよ」 輝は我が耳を疑った。睦月の言っている事がとても正気とは思えなかったからだ。 なんと彼女は地球を人質にとって政府と交渉しようとしているのだ。 一体誰にこんな無茶無謀な計画を吹き込まれたのか――いや、きっとリガルディーなのだろう。きっと口先で上手い事騙したのだ。 輝はリガルディーに対して激しい憎悪の感情を抱いたが、睦月の手前感情を表には出さないように我慢した。 では一体睦月は何を要求しようとしているのか?睦月と雪が命をかけ、そして地球を犠牲にようとしてまで叶えたい願い事とは一体何なのか? 「魔法陣を発動させた今、月は今までの数十倍の速さで地球に接近してきています。滅びへのカウントダウンは開始されているのです」 「そして私達『まつろわぬ民』は本土に国土を取り戻すの。そう、私達だって出来るわ。イスラエルの地のように、悠久の時を超えて約束の地を――え?」 睦月は自分達の事をまつろわぬ民と言った。まつろわぬ民、それはかつて大和朝廷に従わなかった為北へと追いやられた者達の事。 その民が千年以上昔の恨みを持ち続けていたと言うのか?現代までこうして、自分達の国土を回復する夢を諦めていなかったと言うのか? 答えはYES。現にユダヤの民は二千年近く古代に追われた土地を諦めず、遥か悠久の時を超えて取り戻した。人の執念とはかくも恐ろしいものなのだ。 その睦月が輝に説明している最中、ふと自分が向かっている筈の道と違う方向に車が進んでいる事に気が付いた。 「どうしてこの道を曲がるんですか? 中央監視室に向かうには真直ぐで良いんですよ、リガルディーさん」 「いいえ、道はこちらで良いのですよ睦月さん。地図を良くごらんなさい」 リガルディーは尚も人を小ばかにした慇懃無礼な口調で睦月に話しかける。 地図をよく見ろ、その言葉を聞いて従う事に反発を感じながらも睦月はもう一度地図をよく見直した。 広げた地図に書かれているのは島の外縁五箇所の印。しかしその印、五芒星を形作るにしては妙に歪んでいるのだ。 そして島内を知り尽くした睦月が予想するこの道の先にある場所。その頂点を結ぶと浮かび上がってくる図形は……。 「これは……五芒星《ペンタグラム》じゃない!? これは六芒星《ヘキサグラム》!?」 そう、地図上に現われた印を結ぶと、この双葉学園島に巨大な六芒星《ヘキサグラム》が描き出されようとしているのだ。 「どう言う事ですかリガルディーさん!」 睦月は焦った、こんな計画は聞かされていなかったからだ。いや、こんな事は計画に反する事だった。リガルディーは睦月達を欺いたのだ。 では何の為に五芒星を六芒星にしようとしているのか?睦月達まつろわぬ民に協力する振りをして、一体何をしようとしているのか? それはリガルディーの口から直接語られる事となった。 「いや、これはただの六芒星ではありませんよ。聞いた事がありませんか?『クロウリーの六芒星』と言う言葉を」 クロウリーの六芒星とは二十世紀を代表する神秘主義者・魔術師であるアレイスター・クロウリーが用いた紋章である。 この六芒星の図形にはある不思議な特徴があり、それが故に特別な図形とされた。 「そう、西洋の魔術師達は古くツダヤ教で使用されていた六芒星に目を付けていた。ユークリッド幾何学でも証明された全ての辺が等辺となる完全図形であるこの六芒星はエネルギーを閉じ込めておくには最適な図形だ」 六芒星はそれまで一筆書き出来ない図形として知られていた。この図形を使用していた民族はヘブライ人、つまりユダヤ人であったが、彼らも優れた魔術文化を持っていた。 ユダヤの民が使う六芒星の事をダビデの星とも言う。ダビデとは古代イスラエルの王の事、そしてダビデ王の息子ソロモン王は魔術師であったとの逸話がいくつも残されているのだ。 しかし六芒星はその後世界中で現われていった魔術文化では殆ど使用されなかった。一筆書きが出来る五芒星の図形が東西問わず様々な魔術で使われたのだ。 それにはある一つの重大な問題がこの図形には潜んでいたからだった。その問題とはつまり一筆書きが出来ないと言う事。 「しかし一筆書き出来ないと言う致命的欠陥のある図形でもあった。これではエネルギーの循環が行えず魔術図形として完璧ではない。もしこの図形が五芒星のように一筆で描き切れれば、五つのパワーポイントからなる五芒星よりも強力な魔術を行使できるのに……その問題を解決したのが我が祖先の師、アレイスター・クロウリーだ」 そう、魔術師達にとって長年の課題であった「六芒星を一筆で描く」事。それを始めて実現し魔術に導入したのが、かの有名なアレイスター・クロウリーだったのだ。 そしてその弟子達は彼の創造した新たな魔術を受け継ぎ伝承していった。過去のどんな魔術より強力な魔術を行使できる――それがクロウリーの魔術なのだ。 「このエネルギーを循環できる完全図形なら! そして魂源力《アツィルト》を持つ者が集中する特異点なら! 我が大魔術『永遠の満月の方程式』は完成するのだ!!」 そしてその強大無比な魔術の力を利用しようとしたのが睦月達まつろわぬ民だった。 巨大魔術結社の後ろ盾を得る事で、少数しか居ない彼らは国と対等な立場に立とうと試みたのだ。 だがその思惑は裏切られた。リガルディーの属する秘密結社は、睦月らまつろわぬ民に協力する振りをして、逆にその東洋魔術を利用しようとしていたのだ。 「くっ……騙したな英輔・リガルディー!!」 睦月は持っていた銃をリガルディーに向けた。その目には涙が浮かんでいる。 当然だ、彼女は全てを裏切り捨て去ってこの計画を遂行していた。その為に多くの同胞と、同胞であり親友である雪を失った。その結末が騙され利用されていましたでは終われないのだ。 「私達は本当に永遠の満月を作るつもりなどなかった! ただの脅しだったのに!!」 「そんな弱腰だからあなた方は駄目なのですよ」 強化ガラス越しに余裕の笑みを見せるリガルディー。 睦月の銃口は強化ガラス越しなので恐くないと言った様な感じだ。いや、既に勝ち誇っているのかもしれない。 事ここに及んでまだ誰の妨害も入っていない。全て彼の計画通りに進行中なのだろう。その態度は先程から妙に上機嫌だ。 「既に人の住んでいる土地を奪い返すのですよ? ならばその土地、綺麗に掃除しなければならないでしょう」 「英輔・リガルディーーーーっ!!」 睦月がガラスの隙間から銃をねじ込んだ。強化ガラスは撃ち抜けなくとも、こうしてしまえば弾を当てる事は出来る。 しかしその事はリガルディーも予想していた事だった。睦月の銃が強化ガラスの無い所に移動する間に、リガルディーのペンデュラムは銃口を塞いでいたのだ。 「きゃああああ!」 「睦月さん!!」 結果――銃は暴発。睦月は銃を撃った手をズタズタにされ、その場で手を抱えうずくまった。 「ペンデュラムで銃を暴発させるなんて……」 「フフフ……」 香ばしい硝煙と新鮮な血の匂いが車内に充満して行く。痛みに震える睦月を輝は抱いて、天津甕星はただじっと黙ってその一連の動向を見守っている。 輝に庇われるように肩を抱かれながら、睦月は脂汗を額に浮かべ精一杯の力でリガルディーを睨みつけた。 「イスラエルの……民も……2000年もの間国土を奪われていたまつろわぬ民だけど……諦めずに戦い続けた結果、国土を取り戻す事ができた……って……あなた方も頑張りましょうって」 「アーーーハッハッハッハッ」 しかしリガルディーはどこまでも傲慢だ。勝ち誇った笑いが車内に響き渡る。初めの頃の丁寧な態度はいつの間にか失せ、最早丁寧なのは言葉遣いだけだ。 勝ち誇り相手を見下し小ばかにする態度。これこそがリガルディーの本性なのだろう。 こんな男にしてやられ、全てを失った睦月は悔し涙を流すしかなかった。 「五芒星の結界陣で……島中の異能力者の魂源力を集めて……月を誘引する作戦は上手く行ったのに……後はこれを脅しに政府と交渉すれば……私達の……国を……」 「政府と交渉など本当に出来ると思っていたのですか? だとしたらとんだ夢想家ですね」 輝も悔しかった。多くの情報に惑わされ、大切な生徒を失った。そしてまたこんな最低の男に良い様にされている。 もう一人の大切な生徒、睦月を傷つけられ泣かせたこの男に、本当なら今すぐにでも殴りかかってやりたい気持ちだ。 しかし無力な輝にはそれが出来なかった。今ここでそれをやっても何の意味もないだろう。いや、返って状況を悪化させかねない。 ここは天津甕星のようにじっと耐えて、反撃のチャンスを待つしかなかった。 「私は初めから君らを利用して『永遠の満月』を作り出す事だけが目的だったんですよ。満月は古来より魔術師にとって魔力――今は魂源力ですか――力を増幅する事が出来る最高の魔術式の要素だった」 得意顔で解説を続けるリガルディー。だが忘れてはいけない。相手が勝ち誇った時、必ず油断が生じ反撃のチャンスは巡ってくるのだ。 「永遠の満月でメチャクチャになった世界を我ら『黄金の夜明け団』が制圧する。それがこの作戦の真の目的だったんですよ」 黄金の夜明け団が如何なる秘密結社なのか輝は知らなかった。だが悪の組織だろう事はリガルディーを見ていれば分る。 世界征服など今時考える組織がいようとは。しかしその野望を止められる者は今いない。 全ては闇の中に没してしまうのか。世界の命運は今彼らの手に委ねられようとしている。 「世界の終末の後、救済されるのは我ら『黄金の夜明け団』! いや、選ばれし民である我々ユダヤの民だけなのですよ!! アーッハッハッハッハッハッ……」 (くそ……救いは無いのか……救いは……) 輝はリガルディーの高笑いを聞きながら、ただじっと怒りを耐え続けた。 【永遠の満月の方程式 -急- 後篇】に続く トップに戻る 作品保管庫に戻る
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twitterの情報を元に作成しました。 出現場所順にしたかったのですが知らないので、とりあえずアイウエオ順にしておきます。 妖怪名 ドロップ1 ドロップ2 ドロップ3 出現場所 備考 7人ミサキ 妖怪の思い出(2.0%) 冥界 C400 大辞典(4.0%) 混沌の魔城中層・上層 G-3 ハイリボン(1.0%) PKW TypeIV プラチナ鉱石(4.0%) 混沌の魔城入り口 アイスバーグタートル オーガーキラー(5.0%) アイスフライ 水の欠片(1.0%) アース 地の欠片(2.0%) 太陽の畑 アースドラゴン 竜骨(1.0%) 愛宕権現 古の祓物(2.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 アズラエル セブンアポカリプス(2.0%) アダマンマイマイ 鉄鉱石(1.0%) 太陽の畑 アーチャー 壊れた財宝(:0.5%) 混沌平原 アドラメレク 流星のアミュレット(2.0%) アームドタイマイ 鋭利な刃物(1.0%) アポストル 光の欠片(1.0%) 樹海 アリゲイター 壊れた財宝(1.0%) アロサウルス メイス・オブ・ミスフォーチュン(2.0%) 三層魔界5 アンモナイト 水の欠片(8.0%) インファントデーモン 灼熱のローブ(5.0%) 混沌平原 ヴァニティー 壊れた財宝(4.0%) ヴィーナスマントラップ 素早い木材(1.0%) 樹海 ウィツィロポチトリ イーグルスピアー(2.0%) ウォーター 綺麗な鏡(1.0%) ウッドゴーレム モーニングスター(5.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 ウンディーネ ウンディーネの膜鎧(10.0%) エリート毛玉 鋼鉄(10.0%) 太陽の畑(解) エリートコカトリス アトラスの肩章(4.0%) エリートスライム 壊れた財宝(10.0%) 太陽の畑(解) エリートバケバケ 綺麗な鏡(10.0%) 太陽の畑(解) エリートマインドフレイア グングニル(2.0%) エリート妖精戦士 竹竿(10.0%) つけもの石(10.0%) 鉄鉱石(10.0%) 太陽の畑(解) エリート妖精魔法使い 精霊石(5.0%) 太陽の畑(解) エレファント 魔界磁鉄鉱(2.0%) エンジニア 壊れた財宝(1.0%) 無縁塚・塔2 エンジェル 壊れた財宝(1.0%) 天界・妖怪の山 オーガ 壊れた財宝(1.0%) オーガチーフ 壊れた財宝(1.0%) 二層魔界4 オーク 妖精の忘れ物(1.0%) 混沌平原 オシラサマ 亀の甲羅割り(4.0%) オトヒメ アクアマリンガーダー(5.0%) 天界・妖怪の山 オフィサー・デーモン サタンのアミュレット(5.0%) 三層魔界5 朧車 絶望の杖(5.0%) 無縁塚 カー 壊れた財宝(0.5%) カークリノラース 闇の欠片(2.0%) 冥界 ガーゴイル テフラの魔剣(5.0%) 無縁塚 カーバンクル パラケルススの肩章(4.0%) 混沌の魔城入り口 ガプーイン 金塊(1.0%) カルカダン フェアリーブルマー(2.0%) ガルバンゴル クリスタルガーダー(1.0%) 窮奇 鉄鉱石(2.0%) キングビートル 壊れた財宝(4.0%) 混沌の魔城中層 キングローカスト 竹竿(1.0%) 無縁塚 キンナラ 壊れた財宝(2.0%) クイックシルバー 極光のアミュレット(5.0%) 第1層 魔界2 紅魔館前の洞窟 クイーンフレイヤー ドラゴンローブ(2.0%) クジャタ 壊れた財宝(4.0%) ぐず 火龍のアミュレット(5.0%) 地底 くちなわの女王 古の祓物(1.0%) 二層魔界4・妖怪の山 グレートデーモン 冥府の鎧(10.0%) グレートミジンコ 瑞雲のアミュレット(5.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 刑天 妖精の忘れ物(1.0%) 地底 ゲニン 壊れた財宝(1.0%) 塔2 鉱山の村 鉄鉱石(2.0%) コカトリス コカトリスの鶏冠(5.0%) 二層魔界2 古戦場の火 火の欠片(1.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 ゴブリン ゾンビキラー(5.0%) 混沌平原1・2 ゴールドゴイル マナナーンの杖(4.0%) サイクロプス インドラの肩章(5.0%) 混沌の魔城入り口 サキュバス セクシーな下着(5.0%) 妖怪の山 ザックーム 桜の花びら(5.0%) 妖怪の山 サモナー ルーンの杖(5.0%) サラディン 村正(1.0%) 第参の塔 サラマンダー サラマンダーの皮鎧(10.0%) 灼熱地獄 山揮 大地のローブ(5.0%) 太陽の畑・妖怪の山 サンダー 雷の欠片(2.0%) 天界 サンフラワー 素早い木材(1.0%) 太陽の畑 シェイド 精霊石(2.0%) 二層魔界2 シーサー 魔源石(1.0%) 塔2 ジェイソン 神々の遺産(2.0%) 大蝦蟇の池 地獄のハサミ スーパーシェル(1.0%) 邪悪な花びら 壊れた財宝(2.0%) 三層魔界2 ジャイアントクラブ 鋼鉄(2.0%) 塔2 シャイニング 光の欠片(6.0%) シュトストルッペン 西獄派銀槍(5.0%) 二層魔界2・無縁塚・塔2 シルフ アナルメント(2.0%) 天界 新造人間サイコポリマー マドゥ(2.0%) 無縁塚 シンマカイサン 壊れかけの腕輪(1.0%) スケルトン 闇の欠片(1.0%) 混沌平原1 スコーピオン 壊れた財宝(0.5%) 二層魔界2 スタープラチナ 盗賊の篭手(2.0%) ストーンサーバント つけもの石(2.0%) 地底 スプリガン バイヴ・カハ(4.0%) 無名の丘 スペクター パールガーダー(4.0%) 三途の川 ゼラチナスマター オストラコン(1.0%) セーンムルヴ エトワルズブクリエ(5.0%) 三層魔界2 センポクカンポク 水の欠片(2.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 ソーサラー 宝塔(5.0%) 灼熱地獄 ゾンビ 銀河のアミュレット(5.0%) 冥界 ゾンビドードー つけもの石(1.0%) 冥界 滝霊王 霧のローブ(5.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 ダークアイ 竹竿(2.0%) ダークネス 闇の欠片(2.0%) 狸 弾幕ガーダー(5.0%) 混沌平原・九天の滝 タワーオブアイス 水銀のしずく(1.0%) 霧の湖 土蜘蛛 天山のアミュレット(5.0%) 手長足長 巨人の篭手(2.0%) 九天の滝(フ)・混沌平原3(フ) ディーコン 古の祓物(1.0%) 混沌平原3 デカラビア バロールの肩章(6.0%) デザートブーレイ イナンナのアミュレット(10.0%) デスクスター 壊れた財宝(0.5%) デスストーカー 壊れた財宝(1.0%) デスライダー オブシダンガーダー(2.0%) デックアールブ 支えの盾(5.0%) デュース 壊れた財宝(0.5%) 大蝦蟇の池 デュミナス 天使のローブ(10.0%) デュミナスプリンセス イルダーナの肩章(8.0%) デュラハン 闇の欠片(8.0%) ドヴェルグ 鋼鉄(2.0%) 混沌平原 ドゥネールマイスター 雷の欠片(8.0%) ドミニオン 最強のZUN帽(10.0%) ドラゴンゾンビ メギンギョルズ(1.0%) 無名の丘 ドラゴンフライ アグニのアミュレット(3.0%) ドラゴンメイド 修練の指輪(2.0%) ドリュアデス トパーズガーダー(4.0%) ナースホルン ティンベー(6.0%) 無縁塚 ナスナース つけもの石(1.0%) 妖怪の山 ナチュラルキラー クロースアーマー(5.0%) 塔2 なまはげ 壊れた財宝(1.0%) 第弐の塔 鳴蛇 神社の護符(5.0%) 太陽の畑 ナムタル 邪神のローブ(4.0%) ニーズヘグ 壊れた腕輪(1.0%) 塔2 ニンジャ アフリカ投げナイフ(5.0%) 猫又 綺麗な鏡(2.0%) ハイ毛玉 鋼鉄(10.0%) 混沌平原3(フ)九天の滝(フ) ハイスライム 壊れた財宝(10.0%) 混沌平原3(フ)九天の滝(フ) ハイニンジャ 蟷螂の篭手(4.0%) ハイ妖精戦士 竹竿(10.0%) つけもの石(10.0%) 鉄鉱石(10.0%) 九天の滝(フ) ハイ妖精魔法使い 魔源石(5.0%) 混沌平原3(フ)九天の滝(フ) バクテリオファージ 壊れた財宝(0.5%) 混沌平原・九天の滝 はぐれゆっくり ゆっくり勲章(4.0%) バジリスク バジリスクの瞳(5.0%) バックファイヤ 火山列島のローブ(4.0%) バックベアード ソールのアミュレット(4.0%) 第参の塔 パトロール 壊れた財宝(0.5%) ハーピー 素早い木材(1.0%) 二層魔界4 パープル・ワーム ダイヤモンドガーダー(5.0%) パヨカカムイ サイレンスゴールド(5.0%) パワー 光の欠片(4.0%) ハンドレッドレッグ 毒蛇の鱗鎧(5.0%) ビホルダー ビホルダーアイ(4.0%) ひまわり妖精魔法使い 注連縄(7.0%) 太陽の畑 ヒラモンスター 壊れた財宝(1.0%) 二層魔界4 プ 神々の遺産(1.0%) 混沌平原・九天の滝 ファイター 壊れた財宝(0.5%) ファイヤー 火の欠片(2.0%) 灼熱地獄 文車 カグツチの肩章(4.0%) ブーシュヤンスター 灼熱の毒槍・屠殺者(4.0%) ブラーク 魔の欠片(1.0%) 三層魔界5 ブラッドサッカー 壊れた腕輪(1.0%) フロストジャイアント トラペゾヘドロン(1.0%) プロトタイプ 再生の指輪(4.0%) 第参の塔 ブロブ クッション(5.0%) 混沌平原3 ペリ エンチャンテッドクイーン(1.0%) 妖怪の山 ペリュトン 雷鳥の羽鎧(6.0%) ヘルハウンド シュテルンシルト(5.0%) 灼熱地獄 ポイズンウーズ 地の欠片(1.0%) 三層魔界3 ポイズンジャイアント ガントレット(1.0%) ポイズンリリー 壊れた財宝(0.5%) 無名の丘 ホワイトシャーク ヴァルナの肩章(4.0%) ホワイトダイル 綺麗な腕輪(2.0%) マインドフレイヤー 魂のローブ(1.0%) 第弐の塔 マカイサン 雷電のアミュレット(5.0%) マジシャン 魔源石(2.0%) 灼熱地獄 マスター毛玉 鋼鉄(10.0%) マスタースライム 壊れた財宝(10.0%) マスターバケバケ 綺麗な鏡(10.0%) マスター妖精戦士 竹竿(10.0%) つけもの石(10.0%) 鉄鉱石(10.0%) マスター妖精魔法使い 幻魔石(5.0%) マーセナリー レンタス・ビペンニス(5.0%) 二層魔界4 マタンゴ 竹竿(1.0%) マラーイカ 雷雲のローブ(6.0%) 塔2 マングスタ 鋼鉄(1.0%) 無名の丘 ミッドナイト ストームブリンガー(2.0%) ムシュフシュ キメラの鎧(6.0%) 冥界の井戸 境界のお守り(5.0%) 無縁塚・妖怪の山 メイド スタッド・レザーアーマー(5.0%) 混沌平原1・2 メイド妖精魔法使い 懐中時計(5.0%) 塔2 メタルソリッド プラズマナイフ(4.0%) メタルゆっくり ゆっくりメダル(4.0%) メデューサヘッド ネザ(5.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 メドューサ エメラルドガーダー(2.0%) モー・ショボー 早業の短剣(5.0%) モンク 人の叡智(1.0%) ヤクシー 蛇のメイス(5.0%) 二層魔界2・二層魔界4・塔2 雪女 水の欠片(2.0%) 無縁塚・妖怪の山 ゆっくりキング ゆっくり王冠(4.0%) ゆっくりシスターズ ゆっくりメダル(1.0%) 灼熱地獄 ユニコーン 高級毛皮(1.0%) 三層魔界5 妖怪山のカラス 雷の欠片(1.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 ライカンスロープ 素早い木材(1.0%) 迷いの竹林 ラークシャシー ニューロパチー(8.0%) ラートシカムイ カシナートの剣(1.0%) 妖怪の山 ラーバモルボル 地の欠片(8.0%) ラビス ルビーガーダー(5.0%) 二層魔界1・塔2 ラフレシア 壊れた財宝(1.0%) ランドタートル 綺麗な鏡(5.0%) 大蝦蟇の池・九天の滝 ランフォリンクス フレイル(5.0%) 混沌平原3 リザードナイト ドワーフの肩章(3.0%) マタベエの肩章(3.0%) ムサシの肩章(3.0%) リザードマン 壊れた財宝(0.5%) 樹海 リッチ 瞑想の指輪(5.0%) 三途の川 リュウグウノツカイ グリーンベレー(4.0%) 混沌の魔城 中層 両面宿儺 つけもの石(2.0%) 塔2 ルミネッセンス 究極陰陽玉(1.0%) レイス 水銀のしずく(1.0%) レッサーヴァンパイア 壊れた財宝(1.0%) レッサーデーモン マジカルブースター(4.0%) 塔2 ロコモドラゴン 竜骨(1.0%) ワイバーン サン・ショブ=スーリ(6.0%) 二層魔界4・妖怪の山 笑うタイヤ イミテートスレイヤー(5.0%) 二層魔界1・二層魔界2・無縁塚 出現場所わかる範囲で足してみました。途中からメモったんで序盤のが抜けてます&違ってたらスミマセン。(フ)はフック使った先。 -- 名無しさん (2012-01-05 02 37 04) 今回ドロップ率高くて助かるなあ -- 名無しさん (2012-01-05 04 18 06) ラスダン上層のエレファントが魔界磁鉄鉱をドロップ -- 名無しさん (2012-01-05 17 28 48) これってドロップする種類順のほうがいいのではないかな。追加するの楽だし。 -- 名無しさん (2012-01-05 22 22 23) 塔3に出てくるウィザードからロッド・オブ・ウィザードを確認しました -- 名無しさん (2012-01-07 15 23 00) こちらはもう使用しないでください、ドロップ情報ページへお願いします。 -- 名無しさん (2012-01-07 15 31 35) 名前 コメント
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11 「何があったの・・・・・・?」 ×××××は一階に降りて居間にいた。何かに圧縮されて押しつぶされ、絶命している人間の死体があったのだ。 衣服と髪から、あの二人組みの青年のほうだと理解できた。それにしても壮絶な最期である。いったいこの部屋で何が起こったのだろう。 小規模ながら爆発の痕跡も発見した。それが恐らく、寝室で聞いた爆発音の正体なのだろうと思った。 特に新たな発見もなかったので、×××××は居間を出た。広大なエントランスホールには巨大な赤髪の少女の肖像画がかけられており、初めて目にしたときは息を呑んだ。 『■■■――僕の愛する人へ』 表題としてそうプレートに彫刻されてあった。異様だったのは、パソコンのテンキーや電卓を思わせる数字のボタンが備え付けられていたことである。 この赤い髪をして赤いドレスを着た赤い瞳の子が「エリザベート」なのだろうか。そもそもこの絵は誰が描いたものなのだろうか。そして、どうしてか設置されている謎のテンキー。×××××は何となく「7」を押してみた。すると電子音が鳴ったと同時に、四角い液晶に「7」と表示されたので、彼女は焦ってリセットボタンを押して消去した。 「ここに名前が入るんだよね・・・・・・?」 ×××××は、液晶に入る三つの数字が気になった。でも、今はそんなことをしている場合ではない。すぐにでも×××××ら仲間と合流しないといけない。 エントランスホールは天井が高く、ここで初めて三階の高さに位置する通路部分を確認した。「三階建てだったんだ」と×××××は認識する。床面には枯れた花びらが多数散らばっていた。このホールに飾られていた花たちだろう。 「××の力かな」 対象の水分を瞬時に奪うことで気化冷凍攻撃ができるのが、××の異能だ。彼女は敵に寝返ったと聞いたが、自分と相対するときが来るのだろうか? ×××××は不安そうな表情でホールから出る。 何の変哲のない客間の、さらに向こう側の部屋はダイニングであった。縦に長いテーブルと豪勢なシャンデリアがいかにも洋館らしい。 ・・・・・・突然、×××××の目線が鋭利なものになる。 息を殺してバヨネットをしっかり握った。神経を研ぎ澄ませながら、ある一点を見つめていた。台所である。 人の気配を感じたのだ。相手もこちらに気づいたようで、気配を消してきた。台所へのドアは開いており、銀色の流し台や配管、業務用冷蔵庫が伺える。 ドアに接近する。バヨネットを握る力を強くする。台所に足を踏み入れた瞬間、彼女はヒュンと武器を右に振り、姿勢を低くして潜んでいた相手に刃物を向けた。 「×××××!」 「×、×××××!」 台所に潜んでいたのは、盟友・×××××であった。バヨネットを喉元に突きつけられている彼女は頭に何重にも包帯を巻いており、見ているだけで痛々しい。 ×××××もまた、台所で調達した出刃包丁を×××××の胸のあたりに突きつけていた。 すぐに二人とも武器を引っ込めて、安堵の息をついた。 「びっくりしたぁ・・・・・・。殺されるかと思ったわ」 「何のんきなこと言ってるの。よかったぁ、無事だったのね×××××」 「おうよ。助けに来たわよ!」 片方の膝を立てて腰を落としている×××××の隣には、救急箱があった。×××××はそれを見ると慌てて「あとは私に任せて、手当てするから」と言った。 「触らないで!」 彼女に一喝されてしまう。どうして? と×××××は苦悶の表情を見せるが。 「あんたが触れたらウィルスで台無しになるじゃない!」 あ、そっか。 ×××××は納得がいったような、ぽかんとしたような顔になる。何だかおかしくなって、二人はくすくす笑い出した。 とりあえず、無駄な緊張はこれでほぐれたような気がした。 ×××××はそういえば、何日間も食事を取っていなかった。 どんだけタフな体してんのよ、と×××××に呆れられたが、すぐに彼女は立ち上がって冷蔵庫の中身をあさりだす。 温かい食事を作ってくれたのだ。×××××も夕食を欠いてきたのでお腹が空いていたという。彼女の気前の良さと優しさに、つくづく×××××はありがたい仲間を持ったものだと実感させられた。 当然、これはただの食事休憩ではない。おおよそ六十分間という限られた時間のなか、×××××は×××××から話を聞いていた。シホとジュンの二人組が学園生徒を襲いにきたこと。×××××もそれに巻き込まれて千葉県の洋館まで連れてこられたこと。××と×が敵側についたこと。今、×××××と××と××××がこの建物に乗り込んできていること。そして、魔女・エリザベートのこと。 「なぁんだ、×××××ったらエリザベートのこと知ってたのね」 「うん。龍河さまが少しだけ教えてくれたの」 「ふぅん。あんた相変わらず全裸筋肉大好きなのね。理解できないわ、全然」 「当然だよぅ。捕らわれの姫君を助けに来てくれるんだよ。ああ龍河さま、×××××はここにいます。早く助けに来てください私のドラゴンさん」 頬を赤くして両手を当てて、首を左右に揺り動かす。そんな×××××を前に、×××××はふぅっと優しげな苦笑を見せる。 それからスプーンを皿に「かちゃん」と置き、話を元に戻した。 「まあ筋肉馬鹿に会いたければ、ここから生き延びることね」 「そうだよね・・・・・・」 ××と×がエリザベートに魂源力を抜き取られたこと。このこともすでに×××××から聞いていた。仲間を捨てて敵となり、戦いを繰り広げた末の結果。エリザベートの手先になったのが本意ではないのが×××××にとってせめてもの救いであった。二人はみんなを捨ててなどはいなかったのだから。 「××と××××がどうなったかわからない。連絡がつかないのよ」 「無事だといいんだけど。まずその二人を捜す?」 「そうね、戦える子が多ければ多いほどいいわ」 ×××××たちにとって唯一の進展は、ジュンを倒したことだ。×の結界攻撃によって絶命し、後は科学者のシホとエリザベートである。××たちはシホと遭遇している可能性が高い。 次に×××を迎えに行って彼女の安全を確保する。頭痛に風邪という悲惨なコンディションだが、みんなの命がかかっている。×××の力は不可欠だ。 「××××と×××さん、そして私と×××××がいれば勝てるかもしれない」 三人の××××××と××××の荷電粒子砲。これらの力をコンビネーションで組み合わせて相手を圧倒するのが最善策だった。エリザベートを倒したあとで××と×、そして中等部生二人の体を回収する。肉体は魂源力を抜かれてしまい、救い出す方法が全くわからないが、そこは学園側に頭を下げて何とかしてもらうしかない。 「学園の力を借りる、か」×××××は落ち込んだ様子で言う。「あれだけ学校で暴れた私たちが学園に甘えようとするなんて」 「学園にいさせてもらえる時点で、べったり甘えてるようなもんよ」 「助けてくれるかなぁ、××たちのこと」 「助けてくれるわ。あの醒徒会なら何かしら手を打ってくれるでしょうしね。××と×が助かるなら土下座でも何でもしてやるわよ。私は醒徒会を信じる」 「×××××、変わったね」 「うん?」と×××××は爽やかな横顔を見せる。「×××××、人は変わっていくものよ?」 そんな台詞を聞いたとたん、×××××は吹き出してしまった。とたん、沈んだ気持ちも吹き飛んでしまって前向きな気持ちになれたのであった。 二人は休憩を終えてエントランスホールに戻ってきた。威圧的なエリザベートの肖像画を前にしたとき、×××××が言った。 「エリザベートはとんでもない奴よ。人の異能を奪う能力者だった」 「じゃあ、今は××の鱗粉と×の結界が使えるってこと?」 「わからない。でもそうだとしたら、厳しい戦いになるわ」 絶対無比の防御と恐怖の鱗粉。少し考えただけでは打開策が思いつかないぐらい、エリザベートには隙がなくなる。×××××がどうしたら倒せるのだろう、と悩んでいたところであった。×××××が台所から調達してきたゴム手袋を、右手だけにはめたのだ。 「それ、何に使うの?」 「これ? こうするの」 「あっ・・・・・・」 ×××××が手を握ってきたのだ。手袋越しだが、とても温かい。 「ほら、これで手を繋げられる」 「どうしたの、もう・・・・・・」と、×××××がはにかむ。 「ふふ、わかんない。みんな無事に帰れるといいね」 そう、×××××も照れながら友達の手をもっと強く握った、 そのときだった。 カツン、カツン。 上から降りてきた足音に、二人ははっとして驚く。 ×××××は愛用のバヨネットを構え、×××××はいつでも先制攻撃に出られるよう、周囲の水素と酸素を集めてきてより爆発力が増える比率に調整を始めていた。もうゴム手袋は外していて、その場に捨てている。新たな戦いが始まろうとしていた。 「安心するといい。我が『アイアンメイデン』で悪用できる力は一つだけ」 エントランスホールの、二階通路からの階段を降りてきた、赤いドレスの女。 「後からどんどん上書きされていくんだ。楽しいぞ?」 背後に鎮座している肖像画と全く同じ姿をした、魔女・エリザベートがやってきた。×××××はバヨネットを握る手に汗が滲んでいるのを感じた。 「髪の毛が元に戻ってる・・・・・・?」 ×××××がそう呟いたとき、エリザベートはにこりという口元の端だけを上げる妖艶な笑みを見せた。つまり、××の異能が解除されたということだ。ということは。 「そう、力を上書きしたんだ」 エリザベートは何かを投げつけてきた。 ホールのじゅうたんに降ってきたのは「眼鏡」であった。レンズがとても大きくてフレームも極端に丸いものである。それを見ただけで二人は全てを理解する。 「××・・・・・・うう・・・・・・!」 ×××××が眼鏡を広い、その場に両膝を着いた。××××××××がエリザベートに魂源力を吸われてしまったことを悟ったのである。 「しっかりしなさい、×××××!」と×××××が一喝する。「みんなを助けられるのは私たちだけなのよ! あいつを倒せばいいんだからしっかりしなさい!」 さすが、これまでの多くの修羅場をくぐり抜けてきた×××××だけあって、もう覚悟は決まっていた。この場でエリザベートとの決着を付ける。×××××は××の眼鏡を制服の内ポケットにしまうと、気弱な表情を捨てた。 「ヒエロノムスマシンを扱える力――悪いが全然役に立たなかった。聞きたい声も聞けない。会いたい魂にも会えない。まったく、とんでもない期待はずれだった」 勝てる、と×××××は確信する。 この悪趣味な女は人を小馬鹿にするあまり、致命的なミスを犯している。 「フン。魔女だのエリザベートだのちやほやされて、頭おかしくなったのね」 「世間がそう言うだけだ。私はふさわしいと思うがね」 「その驕り高ぶった性格に、一生後悔することね・・・・・・ッ!」 いつになく強気な×××××を前に、×××××は混乱する。彼女はどうも勝機を掴んでいることに気づいたらしいが、×××××にはわからない。 「×××××」と、×××××が呼んだ。「みんなで島に帰れたら――桃鉄九十九年プレイするわよ。忘れたら承知しないから」 「え? ちょっと、××――」 ×××××が彼女の名前を呼ぼうとしたときには、×××××はエリザベートに向かって突っ込んでいた。階段の中ほどあたりでにやにや笑みを浮かべている、彼女に真正面から突撃していく。 ×××××は両目を開き、勇ましい叫び声を上げながら、飛んだ。大きく振りかぶるように右腕を後ろに回して、ありったけの魂源力を解放した。それを見て、ようやく×××××は彼女の意図を読み取ることができたのである。 エリザベートは油断からか命取りともいえる情報を与えていた。それは「××の能力を××の能力に書き換えた」という内容である。 戦闘能力の無い××の力なら、エリザベートは無力も同然なのだ。叩き潰すには絶好のチャンスであった。そこで×××××はエクスプロージョン攻撃でエリザベートを葬り去り、一気に決着を付けるという手に出たのである。 たとえ刺し違えるようなことがあったとしても、×××××は仲間たちを助けたかった。この洋館に到着するまで、色々な気持ちを抱いた。×××××をさらわれたこと、××と×が裏切ったこと。ことさら「仲間」のことに関して真面目に考え、どうにかできないか奮闘してきた。 ×××××、××、×、××、××××、×××、そして自分。この七人は七人でないと意味が無い。誰一人欠けるようなことがあってはいけない。守りたいものを守るために、×××××はここまで必死に戦ってきたのだ。 (今なら勝てる! みんなを救える!) 仲間を思う強い気持ちが、彼女を捨て身の特攻に駆り立てたのである。 だが、×××××は妙な胸騒ぎがしていた。 何かが不自然だ。何かがちぐはぐだ。何かがかみ合わないのだ。本当にエリザベートはケアレスミスをしてこちらに情報を与えたのか? 意図的であるのならどういう意図で? 何より、本当にエリザベートは××の力を奪ってからこうしてお出ましとなるに至ったのか? そして、相手の目論見に気づいて×××××の顔面は真っ青になったのである。「ダメ! ×××××、いけない! 殺される!」。そう怒鳴ったが、もう全てが遅かった。 「確かに××の力をいただいた。くだらないオモチャも作ってしまったさ」 「――え?」×××××の眉が動く。 「その次があったことに気づけなかったようだね」 エリザベートの小さな口が、がぱぁと開いた。目尻が吊りあがって恐ろしい笑顔を彼女に向けた。赤い瞳が「金色」に変わった瞬間、×××××ははっとなって、「しまった、そんな」と零していた。 彼女を強烈な頭痛が襲ったのである。 「あぁああああぁああああ!」 ×××××は特攻を仕掛けることができず、エリザベートの足元で前のめりに倒れてのたうちまわった。念派によって脳を干渉され、頭が割れて弾けてしまいそうなぐらいギンギンとした頭痛に苦しめられる。 「××の次は、×××の力を奪ってきたんだよ。だから階段を下りてきたというのに、気づけなかったのかい? 舐められたもんだな」 ものすごい叫び声を上げながら、×××××は階段の中ほどでのた打ち回っている。それを悠々と見下ろすのは赤いドレスの魔女・エリザベート。さらにその後方にあるのは、肖像画として描かれた巨大な彼女自身の姿。 ×××××と×××××が食堂で状況確認を行っていたあの六十分間のうちに、エリザベートは二階に上がって、一人取り残されていた×××を襲ったのだ。頭痛で、それも重度の風邪で苦しんでいた彼女を容赦なく貪りつくしたのである。 「何て・・・・・・ひどいことを・・・・・・!」 ×××××は怒りに震えた。緑色をした瞳の奥が燃え上がる。熱い涙に濡れる。 「せいぜい人一人を無力化するぐらいの力か」その次に、決まってこう言う。「まぁ悪くない」 魔女は×××××の体を起こして×××××に向けた。小柄な体からは想像もつかない握力・腕力で彼女の襟首を掴み上げ、ぶら下げる。 そのとき眼鏡が顔から落下してそのまま階段を転げ落ち、サイドポニーとして縛っていたリボンも取れてしまって、×××××は長い髪を下ろした状態になっていた。頭に巻いた包帯は今も赤く滲んでおり、双葉学園の制服は所々切れていて生々しい傷がいくつも走っている。 体力も魂源力も運も使い果たした。もう何も残ってなどいない。 紐で吊り下げられているかのようにぶらんと身体じゅうの力を抜いていた。目の焦点がどこにも合っていない状態で、ひどい有様だった。仲間のために、×××××を救うために奮闘してきた×××××が、今、力尽きようとしている。 「×××××・・・・・・」 それでも彼女は親友の名を呼んだ。 赤いドレスの袖が彼女の体を抱いた。異能「アイアンメイデン」が使われようとしている。 ×××××はにかっと微笑んで、泣きながら言った。 「×××××、みんな信じてるからね」 あなたが助け出してくれるのを――。 「やめてぇええええええええええ!」 ×××××の魂が抜き取られる音が、エントランスホールに広く、高く、大きく響き渡った。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む 双葉区、双葉学園、あるいは双葉島と呼ばれる人工島。 喫茶アミーガはその外れ、あまり交通の便が良いとは言えない外周の道沿いに存在する。 しかしそこは、不思議と客足が途絶える事なくいつも決まったメンバーで賑わっていた。 今店に入ってきた胴着姿の男もその一人である。二メートル近い巨体に、整ってはいるが彫りが深くて暑苦しい顔立ち、名前は二階堂《にかいどう》……誰だ? 彼ら二階堂兄妹はこの店の常連で、特に五つ子は一人を除いて見た目だけでの判別が難しい。 「エスプレッソ一つ」 ここでようやく判別したので改めて紹介しよう。彼の名前は二階堂叉武郎《さぶろう》、二階堂兄弟の三男である。 他の兄弟の例に漏れず普段から胴着姿をしているが、これは叉武郎の競技とは関係無い。 貴婦人とのロマンスに憧れ騎士道に傾倒し、将来を期待されていた剣道を捨てフェンシングに転向したのである。 今では立派にフェンシング・サーブル競技部の部長を務めている。 ちなみに胴着にしている黒帯は、柔道で取ったものである。 兄弟の中でブレンド以外を頼むのは、見た目で判別できる次男と彼しかいない。 「俺は、ドリップ式の方が得意なんだけどなんだけどなぁ」 注文を受けるこの店の主、おやっさんは面白くなさそうにエスプレッソマシンを回す。 「はいよ」 何だかんだ言いながら、熟練した動きでカウンターに座った叉武郎に差し出されたエスプレッソは、上質な香りをたたえていた。 受け取った叉武郎はさっと一口含んで、そのコクを楽しむ。おやっさんはドリップにこだわりがあるようだが、エスプレッソそれに劣らずとても味わい深い。 「うん、旨い。小猫ちゃんが運んでくれれば言う事無いんだけどな」 叉武郎は店の奥でテーブルを拭いているウェイトレスの春部《はるべ》里衣《りい》へウインクを投げかける。 一八〇センチ近い長身の里衣を小猫ちゃん呼ばわりするのは、 島内広しと言えど叉武郎しか存在しない。 「ったく、アンタ達兄弟はどうして私達にちょっかいかけて来んのよ」 私達とは、里衣と彼女いわくフィアンセである有葉《あるは》千乃《ちの》の事である。 美しい顔立ちとスラリとした長身にスタイルの良さを兼ね備えた里衣自身はもちろん、普段女装している千乃も一部男子の間でファンクラブが結成されるほど人気がある。叉武郎の弟である志郎と悟郎も、そのメンバーとして活動しているのだ。 「弟のことは俺には無関係だよ。俺はあくまで全ての女性の従僕さ」 「あっそう。アンタ等四人は見分けるのも面倒だし、私にとっては全部一緒だわ」 芝居がかった動作で訴える叉武郎に対し、里衣の反応はにべもなかった。 「連れないなぁ小猫ちゃん」 しかし叉武郎は懲りもせずに、わざとらしく肩をすくめて見せてからカップを口に運んだ。 ここまで自然な動作がいちいち空回りしているのも珍しい。 いつもならこれから叉武郎が延々と、コーヒー一杯でいつまで粘るつもりだと怒られるまで里衣を口説き続けるのだが、今日はそうならなかった。 バイクのエンジン音が近付いて来て止まる、新たな客がやってきたのだ。 「……おやっさん、俺はサスの調整しか頼んでいないはずだが」 入ってきたのは、先ほどから何度か話題になっていた叉武郎の兄弟、その中で唯一すぐに見分けられる次男の侍郎だった。 二メートル近い巨体は変わらないが、細身の体に写真家として芸術を愛する心と唯一バイクの免許を持つ、兄弟の中では比較的に無害な男である。 バイクのメンテナンスはおやっさんに任せているので、こうしてたまにおやっさんのありがた迷惑な改造に文句を言いにやって来る。 「……ハンドルに見慣れないボタンが増えていたが」 普段無口な侍郎もバイクの事となると、口数が多くなる。 侍郎の人格に大きな影響を与えている叔父から譲り受けたバイクなので、それだけこだわりがあるのだ。 「高震動発生装置だ。衝撃に強くなるぞ」 しかしそんな事を一切知らないおやっさんは、得意そうな笑顔を浮かべサムズアップで言う。 「……俺はサスの調整しか頼んでいないはずだが」 侍郎は再び要求を繰り返す。 「わかったよ。ガレージに回してくれ。コーヒー一杯飲んでる間に外してやる、コーヒーもおごりだ」 侍郎の静かな怒りを感じ取ったおやっさんが、しぶしぶといった様子でひとまずコーヒーを入れるため引っ込んでいった。 「……グアテマラを」 「あいよ。いつものな」 侍郎が好んで飲むコーヒーの銘柄も、叔父から影響を受けたものだ。 そのとき、ピピピとアラームのような音が響き渡る。 「おっと、失礼」 発信源は叉武郎の学生用モバイル端末だった。 「叉武郎です。ああ、麻里奈さん」 麻里奈さんは、叉武郎が住む寮の寮母を務める女性である。 「……ええ、もちろんですとも。……はい、それでは」 自分のことをきちんと名前で呼ぶ叉武郎を気に入っており、食事の量など優遇する代わりに、雨戸の修理などちょっとした用事で頼る事も多い。 叉武郎は女性のため、それも普段お世話になっている麻里奈さんのためならどんなことでも喜んで引き受ける。 「すまないが兄さん、寮まで送ってくれないか? 急に呼び出されてしまって」 お願いという形をとっているが、叉武郎の中ではもう決定事項である。 強引なのも、二階堂兄弟に共通した特徴であった。 「ヘルメットが無い」 しかしハヤブサが唯一の友達だと言い張る侍郎が、予備のヘルメットなど用意しているはずもない。 「そんなの変身すれば済む話だろう」 きっぱりと言い切る叉武郎であったが、実際は変身する異能者に合わせた法律など存在しないので違法である事に変わりは無い。 「それともこの俺に女性を待たせるつもりか?」 叉武郎の眼光が鋭さを増す。 反論に口を開くのも面倒という事で、結局侍郎は叉武郎を送っていく事となった。 「決まりだな」 叉武郎は机の下からアタッシュケースを取り出した。 愛犬を両親に取られた梧郎や、昆虫の世話をするつもりが無い志郎以外の兄弟は、自分と合体できる動物を連れている。 叉武郎のこのアタッシュケースも、魚類と合体する彼に合わせて水槽になっていた。照明やエア用の電源に学園の超科学の技術をふんだんに盛り込んだ特別製である。開閉時に九十度傾いてしまう事を除けば、魚にとって理想的な環境を保つことができる。 叉武郎は蓋を外し中に指を入れた。 するとお腹をすかせたピラニアがすかさずそれに噛み付く。 傷が大きくなる前に叉武郎も慌てて変身する。 「合体変身!」 辺りが光に包まれる。 「どうした、何かあったのか?」 突然の光に驚いたおやっさんが、手の中にしっかりとコーヒーを持って現れる。 「すまないな、おやっさん。バイクは今度だ。侍郎兄さんに急用ができた」 「急用って……お前が作ったんだろ、あんまり便利に何でもさせるなよ」 変身した叉武郎の姿については一切触れず、おやっさんは普通に会話を進める。 変身系の異能を持った学生が集うこの喫茶店ならではの光景だった。いろいろと怒られそうな外見やそれなのに胴着姿のままなのも、ここでは最早日常化し過ぎて誰もツッコむことさえしない。 「……バイクは、今度直してもらう」 侍郎はとりあえずおやっさんからコーヒーを受け取ると、一口で飲み干す。そしてきっちりと、一杯分の金額をテーブルに置いて出て行った。 バイクを直さないのであれば普通の客だという、何とも律儀な侍郎である。 ヘルメットについては、銃で撃たれても平気な状態であれば問題無いだろう。 二人が走り出すと、巨大な影が近づいて来た。いや影ではない。それは光を吸い込む闇であった。二本のタイヤと空気を轟かせるエンジンの爆音から、それがバイクだという事がわかる。 そのバイクは限界ギリギリまでスピードを上げてタイヤを振り回し、ほとんどスピードも落とさずにコーナーへ突っ込んでいく。 常人では決して操る事のできない正真正銘のモンスターマシン、あんなモノを造ってしまう技術を持った人間はこの島には数人いるが、一般車の改造で造ってしまうのは一人しかいない。 あれは間違いなく、おやっさんのバイクだ。 それはかなり後方にいたはずなのに気が付けば、すぐ近くまで迫ってきていた。 「……来る!」 謎のバイクが車体を傾け、二人の乗ったバイクへ体当たりを仕掛ける。元の性能に劣る上に二人乗りの侍郎のバイクでは、避ける術は無い。 侍郎と叉武郎が乗ったバイクは、謎のバイクに押しのけられ道路の外へ転がっていった。 「おやっさんに感謝しないとな」 下が砂浜だった事もあり、変身していた叉武郎はもちろん、侍郎も比較的軽傷であった。 何がどう作用したかはさておき、高震動発生装置も役に立ったらしい。 謎のバイクに乗っていた人影は、悠然と二人を見下ろしている。 「憎い……るさない、恨んでやる」 闇色に揺らめくその背中からは、様々な怨嗟の声が聞こえてくる。 人に近い形をしながらも明らかに人間ではないその異形は、ほんの少しだけ変身した二階堂兄弟を思わせる。 異能者かラルヴァか、どちらにしても友好的な相手ではないのは間違いない。 黒尽くめの何者かは右手を上げ何も無い空間から剣を作り出すと、ゆっくりと砂浜へ降りてきた。 いつの間にか近くに停めてあったバイクが消えている。 「式神!」 異形はまた何も無い空間から札のようなものを取り出し、地面にばら撒いた。 札が落ちた所から、人の形をしたモノが浮き上がってくる。 明らかにラルヴァの仕業だった。人間であるというには、一人につき一系統という絶対的なルールから明らかに逸脱し過ぎている。 「シュン」 侍郎は立ち上がって、唯一の友の名前を叫んだ。 どこからともなく一羽の隼が現れ、侍郎の腕にとまる。 「合体変身!」 光の中から翼をイメージさせる変身後の侍郎が現れる。 「貴様等も命を取り込むのか、面白い」 影が声を発する。背中に背負う怨嗟の声よりもなお、暗く禍々しい響きであった。 侍郎と叉武郎は背中合わせに身構える。 「そういえば、こうして共闘するのは初めてじゃないか?」 「……守備範囲が違う」 「確かにな」 鳥類と合体する侍郎と魚類と合体する叉武郎は、それぞれ得意とする戦場に対応できる能力者が少ないため、同じ作戦に投入される場面は少ない。 「行くぞ!」 雄叫びを上げ、叉武郎は人形《ひとがた》の群れへ突っ込んでいった。 だが十数年の時を一緒に過ごした兄弟同士、お互いのコンビネーションに不安は無い。と思っていたのは叉武郎だけだったようだ。 「……任せた」 侍郎は戦う叉武郎の背中を蹴って、人形の群れを抜け影の前へ飛び出した。 「あ、この!」 仕方なく叉武郎は人形の相手をする。 拳の一発で簡単に崩れ去る。 数は多いが、大した脅威ではない。 「……タァッ!」 隼の狩りと同じく、落下のスピードを利用して蹴りを放つ。 「無駄だ」 しかしそれは虚しく、影を突き抜け派手な砂煙を上げた。 「……エレメントか」 (だが、それならそれでやりようがある) 侍郎は砂煙に乗じて距離を取った。 「フェザーエッジ!」 振りかざした侍郎の腕から黒い影に向かって、鳥の羽の形をした魂源力《アツィルト》の刃が殺到する。 「翻れ鏡界門」 呪文らしきものを口にして、人影が手に持った剣で地面に線を引くと、抉られた地面から漆黒に光る障壁が立ち上った。 それに触れた瞬間刃の羽が反転し、侍郎に襲いかかる。 「……ちぃ」 侍郎はそれを飛び上がってかわす。 しかしそこには、既にラルヴァの黒い影が待ち構えていた。 「……な?」 その手に持った凶刃が侍郎を刺し貫く。 「……ぐぅ」 短い声をあげ、侍郎が地面へ落下していった。 「侍郎兄さん!」 砂浜に叉武郎の声が虚しく響く。 「くそぅ!」 叉武郎は浜辺に転がっているアタッシュケースへ駆け寄った。 さすが学園の技術の粋を集めただけあって傷一つ無い。中を明けて水槽の無事も確認すると、先程と別の水槽に入っている切札へ手を伸ばした。 「移行変身《スライド・フォーム》!」 バチバチと周囲に微弱な電気を放ちながら現れるその姿は、電気ウナギと合体したものだ。 「一〇〇万ボルトの電撃《ミリオン・スパーク》!」 叉武郎は地面に手を叩きつけ電撃を流す。 電気ウナギの電気は、筋肉細胞を変化させた発電板によって作られ、その最高電圧はおよそ八〇〇ボルトにまで達する。 叉武郎の場合、日々の鍛錬と変身によって強化された筋肉から放たれる電撃は百万ボルトにまで達する。 人形は核となる札が焼かれて、砂の塊に戻っていく。 「ちょっと、どうなってるの?」 「小猫ちゃん!? おやっさんも」 上の道からおやっさんと里衣がそれぞれスクーターとバイクでやって来ていた。 「凄い音だったが、大丈夫だったか?」 「すまない二人共、侍郎兄さんを頼む」 叉武郎は倒れている侍郎を指し示した。 「ウソ、アンタ達がやられるなんて……」 人格はともかく、その戦闘力には定評のある二階堂兄弟が倒されている。 その事実に里衣が驚愕する。 「救急車を」 懐を探るおやっさんを、里衣の声が制した。 「私が運んだ方が速いわ」 里衣が倒れている侍郎を抱え上げる。 「させん!」 影が里衣の前に立ちはだかる。 「春人、春人なのか!?」 その姿を見たおやっさんは誰かの名前を呼んだ。 影は応えず、剣を振り上げる。 「そう何人も目の前でやらせるか!」 叉武郎は二人の前に飛び出した。 空中で腕を交差させ、そこにあらん限りの魂源力を電気に変換して流し込む。 「サンダー・クロス!」 百万ボトルに達する電撃を両腕に宿し、相手を×の字に切り裂く、叉武郎の必殺技である。 しかし異形の影は左腕に雷《いかずち》をまとい、叉武郎の放った“電撃を殴り返す”。 「雷神の鎚《ムジョルニア》!」 すさまじい閃光と衝撃が広がり、里衣の口から「きゃ」と短い悲鳴が上がる。 気の毒な事にスカートが捲くれてしまったらしい。 それを見て影が突然苦しみだす。 「ぬぅ、ううぅん……クソ、覚えていろ」 それだけ言うと、霧のように薄れて消えてしまった。 「コラ! 小猫ちゃんのを見て苦しむとは何事だ! イヤなら代われ」 「……最っ低」 里衣が小さく呟いた。 店に戻った後も、重苦しい雰囲気が続いていた。 おやっさんは黙々と豆をひいている。 それを破ったのは、里衣からの電話だった。 「……そうか、ありがとう。小猫ちゃん」 「侍郎は心配無いそうです」 電話は病院まで侍郎を運んでくれた里衣からだった。 あの時変身したままでいられたのが良かったらしい。 侍郎が気を失っても、合体していられたのはシュンの意思であるはずだった。叉武郎は侍郎の小さな親友に感謝した。 おやっさんは「そうか」と短く応え、コーヒーグラインダーを回す。 店内にはガリガリと豆が砕ける音だけが響く。 「おやっさん、さっきのヤツについて何か知っているんだろう?」 耐え切れなくなった叉武郎は、ついにその一言をおやっさんに投げかけた。 おやっさんは豆を挽くてを止め、店の奥から一枚の写真を持って来た。 この店で女の子の誕生会を開いたときのもののようで、主役らしい女の子を今より少し若いおやっさんやその仲間達が囲んでいる。 どの顔も今は見かけないものばかりだ。 レトロなおやっさんの趣味らしくアナログのフィルムで撮られているそれには、二〇〇九年、十年前の日付が入っていた。 「その写真の右上に写ってるのがそうだ」 そこに写っているのは、写真で見てもわかる程軽薄そうな顔をした少年が写っている。 「真裂《まさき》春人《はると》、またの名を超刃《ちょうじん》ブレイダー。俺のバイクを初めて乗りこなした男だ」 懐かしそうにおやっさんが遠くを見つめる。 「ソイツは今どこへ?」 問いただす叉武郎の語調は自然ときつい物になる。 命に別状はないとはいえ、兄弟を倒された恨みは簡単には消えはしない。 「あの化け物はあいつじゃない! あいつのはずはないんだ……」 一度叫んだあとおやっさんは、力なくつぶやいた。 「何故そう言い切れるんです?」 「ブレイダーは……、真崎春人は、死んだからです」 その質問に答えたのはおやっさんとは、別の声だった。 扉の所に美しい黒髪を腰まで伸ばした、静謐な雰囲気を持つ美人が立っていた。着ているのが高等部の制服でなければ、成人しているといわれても疑わないほど大人びた女性である。 「あなたは?」 「ユリカちゃん……、なのか?」 ほぼ同時に二人の声が重なった。 「はい、ご無沙汰してます。マスター」 「マスターじゃない、おやっさんだ」 二人の間に独特の和やかな雰囲気が流れる。 それだけで、この人もかつてアミーガだった事がうかがい知れた。 「あなたも関係者なんですか?」 「私は天道ユリカ。その写真で誕生日を祝ってもらっているのが私です」 ユリカはカウンターに近付き、写真と自分を順に指差す。 「しかしユリカちゃん、大きくなったな」 おやっさんは写真――というより自分の記憶と目の前のユリカを比べ、感慨深げにつぶやく。 「ええ十年ぶりですから」 「そうか、もうそんなになるのか……、しかしどうして急に」 「彼が……、現れたと聞いて」 答えるユリカの声が重苦しく響く。 「私の能力は少し変わっていて、魔法のアイテムを能力を持っていない人に融合契約させるというモノです」 「融合契約?」 聞きなれない単語に叉武郎が聞き返す。 「丁度おまえさん達兄弟の合体変身みたいなもんだ」 そのおやっさんんの言葉で、叉武郎はあの怪物が変身した兄弟達の基本形に似ていた事を思い出した。 「アイテムと一体化する事によって、疑似的にアイテムの能力を使えるようになるんです」 ユリカは静かに語りだす。 「彼は私の力を狙って襲ってきた敵から、私を庇って斬られてしまっって、助けるには私の力を使うしかなかったんです……」 (そんな重い宿命を背負ってまで、この少年は軽薄な笑みを絶やさなかったのか) 叉武郎はある意味この少年を尊敬した。 「その後も勝手に巻き込んでしまった私を、彼は必死に守ってくれた……」 「そして、ヤツ等のボスと差し違えて死んじまった。だからヤツが春人だっていう事はありえないんだ」 感極まって涙を流すユリカの言葉をおやっさんが継いだ。 「ブレイダーに、突然消えたり、電撃を使うような特殊能力は?」 話を聞く限りあの影のような存在が、真崎春人であるとは考えづらい。あの異能者にしてはデタラメな能力も、ラルヴァであれば説明が付く。 「そんなのは無かった。あいつはいつも、剣一本で戦ってたんだ」 「ブレイダーの元になった剣にも、そんな力はありませんでした」 しかし必ず何か関係があるはずだ。 それを探るためにも、もう一度あれと戦う必要があるのは間違いない。 「おやっさん、どうやら俺はもっと強くならないといけないらしいな」 一〇〇万ボルトの電撃《ミリオン・スパーク》を破られた今、手持ちの技ではあの怪人を打ち倒す術は無い。 だからといって侍郎を倒したあの怪物を、そのままにさせておくつもりは、叉武郎にはもとより無かった。 「……付いて来い」 おやっさんはカウンターを開け、ゆっくりと出入り口へと向かっていく。 「まさか、あそこに?」 何も語らずおやっさんは、店の看板を裏返した。 「ここは?」 叉武郎が連れて来られたのは、人工の埋立地である双葉島に何故か存在する山、その名も双葉山だった。 最近ではプラネタリウムが作られたりして大分整備されてきたが、こちらはそのコースとは裏側で土砂や礎石置き場だった名残を色濃く残している。 「昔ブレイダーの最後の戦いでできた崖です」 「雨が降ったりした日には滝ができて危ないので、水門を作って管理している。今日はその水門を開くぞ」 おやっさんとユリカは崖の上に登っていった。 しばらくして崖の上から水が流れ始め、かなり勢いの強い滝になった。 「よし、そこから登って来い!」 ご丁寧に拡声器を用意していたおやっさんが叫ぶ。 (滝登り――魚で特訓と言えばやっぱりこれしか無いよな) やはりおやっさんは色々とわかっていた。 叉武郎は目の前の滝に飛び込んでいった。 水の流れが巨大な質量となって叉武郎を襲う。 「どうした? お前の決意はそんなもんか?」 まともな足場さえ無い岩肌で流されそうになりながら、それでも叉武郎は登っていく。 水の流れの力強さを感じながら、それ以上の力を身体の奥底、魂の中から振り絞っていく。 その間もずっとおやっさんの檄が飛んでくる。 「皆殺しだ……許さない……憎い……」 突然おやっさんの声が途切れ、代わりにさっきあの影が背負っていた怨嗟の声が聞こえてきた。 「おやっさん!」 叉武郎が見上げた先には、おやっさんとあの謎の人影が対峙していた。 「春人! 春人は、春人はどうした?」 おやっさんは現れた影につかみかかろうとして、反対側へすり抜けた。 頭では無関係だと思いつつも、やはりその姿を見て動揺を隠しきれないのだろう、春人本人に呼びかけるのと敵対する相手に対する呼びかけが混在していた。 「……真崎春人でも、ブレイダーでもない。私の名は大死霊《だいしりょう》。学園に強制された戦いの犠牲者の集合体だ」 影――大死霊がおやっさんを殴り飛ばす。 (急がなければ!) 叉武郎はこれまで以上に魂源力《ちから》を燃やし、一気に這い上がった。 「待て!」 「現れたな、命を取り込む者」 現われるを待っていたかのように、大死霊は叉武郎へと向き直った。 「貴様等を取り込み、学園の生物全てを生きたまま取り込んでやる! フハハハハハ!」 高笑いして叉武郎に斬りかかる大死霊。 「見える!」 叉武郎はそれを紙一重でかわす。 確かに悟郎の力を手に入れれば、本当に島中の人間を生きたまま取り込む事も可能かもしれない。 (だがそんな事が起こる事は絶対にあり得ない) 叉武郎は確信する。 (今なら出来る、逆流を撥ね退けて身体も魂も登りつめた今なら) おやっさんに預けてあったアタッシュケースを開き、その中の水槽に手を入れる。 泳いでいるのは、何の変哲も無い鯉だった。 「合体変身!」 光を抜けて現れた叉武郎も、ピラニアの牙も電気ウナギの放電能力も無いただ体力を強化した姿である。 「この前のビリビリの方がまだ魂源力《ちから》を感じたぞ? 諦めたのならさっさと死ね!」 大死霊は周囲の空気中の水分を凍らせて矢を放つと同時に、自身も飛び掛る。 「さっきのように逃げ場は無いぞ!」 本体はもちろん氷の矢も、十分致命傷となりうる凶悪な攻撃だ。どちらか一方を迎撃すれば、もう一方にやられてしまう。 “どちらか一方”がダメなら両方防いでしまえば良い。 叉武郎は前に手を翳した。 「登竜門《ドラゴンズ・ゲート》」 叉武郎の前に光の壁が現れ、大死霊が放った氷の矢を粉砕し大死霊を弾き飛ばす。 「大した力だ。だがそんな防御なんぞ、いくらでもすり抜けて攻撃できるぞ」 「防御? 違うな、登竜門ってのは潜り抜けるモノだ!」 叉武郎は、光へと突っ込んで行った。 激しい抵抗が叉武郎を襲う。 「ぐぅ、うあぁぁぁあぁぁ!」 叉武郎は身体中の魂源力を高めさせ、力ずくで押し進む。 そして壁をくぐり抜けた叉武郎の身体が、再び光り輝いた。 鯉の鱗の緋色だった身体が鮮やかな青色になり、頭部には牙をあしらった意匠が、腕には爪をあしらった手甲が追加されている。 その姿はまるで―― 「龍化形態《ドラゴニック・フォーム》」 そう龍《ドラゴン》であった。 「そんな虚仮威し《こけおどし》が!」 叉武郎の手が大死霊の剣を受け止める。 力任せに押し進めようとするその刃をそらし、実体が無いはずの大死霊の身体を蹴り上げた。 「馬鹿な」 龍化形態とは、鯉が登竜門をくぐって龍と成ったように、特殊な力場をくぐって自らを半魂源力《アツィルト》エネルギー体と化す大技である。 つまりその拳の一つ一つ、蹴りの一つ一つが魂源力《アツィルト》を直接ぶつけるのに等しい。 「ええい、ならこれでどうだ」 大死霊は四方八方から風の刃を飛ばす。 やがてそれは気流を乱し、竜巻となって吹き荒れる。 「お兄ちゃん!」 水門の上から現れたユリカのスカートを捲り上げた。 大人びた印象と裏腹に、淡いエメラルドグリーンの可愛らしいショーツだった。 だがまたしても叉武郎の位置からは見えない。 「ぐ、っぐわぁあぁぁ!」 大死霊は苦しみだし、やがて二つの人影に分かれた。 一方は先程まで背中で揺らめいていた怨嗟の声の塊が人の形をしたモノ、もう一方は黒一色だった身体が赤と青そして銀の三色で彩られた先程までの姿、超刃《ちょうじん》ブレイダーだ。 「お兄ちゃん」 うずくまって苦しむブレイダーにユリカが駆け寄った。 「いつの間にか、そんなに大人っぽい下着を付けるようになったんだな」 ユリカが差し出した手を掴み、立ち上がっての第一声がそれだった。 「もう十年だもん。私、あのときのお兄ちゃんと同い年なんだよ」 十年の月日は、キャラクターがプリントされたパンツを履いていた子供を、レースをあしらったショーツを履く女性に成長させていた。 「そうか、やっぱり綺麗になったな」 「エッチなところは変わらないね、お兄ちゃんよく女子更衣室覗いて停学になってたもの」 涙を浮かべるユリカの頭をブレイダーはそっと撫でる。 「……ねえ、お兄ちゃんはもう死んじゃってるんだよね?」 「ああ……」 「じゃあ、またどこかに行っちゃうの?」 ブレイダーは不安そうに見上げるユリカの髪をグシャグシャにかき乱し、叉武郎に向き直る。 「アイツを倒してからな。サブローっていったか? 剣の心得は?」 「任せておけ、剣道でもフェンシングでも俺は東洋の騎士《オリエンタル・ナイト》と呼ばれた男だ」 叉武郎は胸を張って答える。 東洋の騎士《オリエンタル・ナイト》の二つ名はもちろん自称で叉武郎以外使う人間はいないが、剣の実力は本物だ。 「それは頼もしい」 ブレイダーの姿が光りに包まれる。 それは形を変えていき、光が収束すると剣となっていた。 「……フロッティじゃない?」 「オレの魂が篭った新たな聖剣ブレイダーだ。さあ行くぜドラゴン、オレを使え!!」 「おう!」 聖剣ブレイダーを手にし、叉武郎は未だもがき苦しむ大死霊に向かっていった。 「物理的な強さを失ったとはいえ、まだ取り込んだ魂の能力がある」 膝を突いた体勢のまま、大死霊は氷の矢を放つ。 それは先程の竜巻に飲まれ、勢いを増した上で予測不可能のタイミングで叉武郎に殺到する。 だがそんな小細工など、剣を持った叉武郎の前には全く通用しない。 「ストレートスラッシュ!」 名前の通り、ただまっすぐにブレイダーを振り下ろす。 刀身から放たれた魂源力が氷の矢を両断し、竜巻を切り裂き、大死霊の身体にまで達する。 「が、学園の関係者は皆殺しにしてやる」 大死霊は、周囲へ闇雲にさまざまな能力を撒き散らす。 「俺達がいる限り」 「女性を泣かせるような事はさせないさ」 目の前に迫る闇色の炎を、漆黒の雷を切り伏せ、叉武郎は大死霊に駆け寄って一刀を浴びせる。 「ぐあぁぁ……お、覚えておけ、学園がラルヴァ狩りをし続ける限り……、私のような存在は、け、決して無くなりはしないぞ……ハハハハハハ」 不気味な高笑いと共に、大死霊は消滅した。 「行っちゃうの? お兄ちゃん……」 戦いが終わり、それぞれ変身をといた姿になった叉武郎と春人の元にユリカが声をかける。 「ああ。だが消えやしないさ。オレはコイツと一緒に戦い続ける」 春人は写真と同じ、しまりの無い軽薄そうな笑顔で答えた。 「ユリカを頼むぜ、サブロー」 そして叉武郎に向かって手を差し出す。 「任せておけ」 「じゃあな」 春人は、叉武郎握り返した叉武郎の手に吸い込まれるように消えていった。 戦いの後、叉武郎は滝の上を更に登ったところにある丘に案内された。 小さく土を盛った場所に一振りの剣が立ててある。 「ここに春人さんが……?」 「ええ、形だけ……見つかったのは、これだけだったんです」 ユリカは初めアミーガに訪れたときのどこか陰のある雰囲気ではなく、芯に強さを秘めた柔らかい表情をしていた。 「魂が共になった今ならわかる。春人さんはとても立派な戦士だった」 胸に手を当てて叉武郎が言う。 「でも一つだけ許せない事がある。それは貴女を泣かせた事だ。ユリカさん、俺にこれからも貴女の笑顔を守らせてほしい」 「ごめんなさい」 割と遠回しな告白だったにも関わらず、ユリカは間髪いれずに答えを出した。 「そうですよね、貴女の様な素敵な女《ひと》なら恋人がいても……」 「いえ、そう相手はいないんですけど」 更に続けようとした叉武郎の言葉にかぶせて、ユリカは否定する。 だが叉武郎は動じない、なぜなら兄貴分だった春人に頼まれたのだから。 「じゃあずっと春人さんの事を?」 「いいえ、あの人は本当の兄のような気持ちで」 「ならどうして?」 そっとユリカの肩に手を置き、目と目を合わせる。 「すみません。私、筋肉でゴツい人苦手なんです」 ユリカはその叉武郎の手を払い、逃げるようにその場から駆け出した。 「本当にごめんなさい」 途中で振り返り追い討ちとばかりにもう一度謝ると、今度は本当に去って行った。 「あれ? おかしいな。今日の夕日はやけに目に染みやがる」 目頭を押さえる手が濡れていた。 全ての女性のために戦う男二階堂叉武郎・一八歳。 彼女いない歴イコール年齢の明日はどっちだ。 二階堂シリーズ トップに戻る 作品保管庫に戻る
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相変わらず旧校舎は埃まみれで、天井には蜘蛛の巣が光っている。蒼魔はできるだけ大きく息を吸わないようにしながら、そっと歩く。 ……別に、疑ってるわけじゃないさ。と自分に言い聞かせるが、もしもの時のためにできるだけ物音を立てないようにしていた。 忌憚研究部の部室を通り過ぎて、突き当たりまで歩く。そこから一つずつ、教室をしらみつぶしに開けて探すつもりだった。 古ぼけた木製のドアを静かに引く。しかしドアはいくら力を入れてもびくともしなかった。 (鍵がかかってるのか) 蒼魔はなんだか肩透かしをくらったような気持ちになって、隣の教室に移動した。 (まあ、旧校舎だしな。誰も使わないからそりゃあ、鍵くらいかけるよな) となると、響が部室以外の教室に捕らえられているとして、どうやって鍵を開けたのだろう? 忌憚研究部の人間なら、簡単だ。部室が使えなくなって隣の教室を使うから鍵を貸してほしい、などと言えばすぐに貸してもらえるだろう。 (でも、同じ事をドッペルゲンガーだってできるはずだ) 蒼魔は今一度、頭を振る。いやな考えを振り切るように、ドアに手をかけた。 (えっ……開いた?) 期待せずに力をいれたら、ドアはすんなりと、ガタガタと音を立ててスライドしていく。 教室の中は長年使われていなかったのだろう、机やら椅子やらが窓際に全て寄せて積み上げられていた。床やロッカーに大量の埃が散っている。 その中心で、静かに響が立っていた。 「……水無瀬?」 蒼魔はそっと、体を半分だけ教室に入れて響を呼ぶ。しかし響は振り向かなかった。蒼魔は強い違和感を感じていた。 彼女の体には縛られた跡はない。それどころか、鍵もかかっていなかった。鍵の開いた教室の中に、一人で佇んでいる響。最早何がなんだか、蒼魔には理解が及ばなかった。 「水無瀬……お前は水無瀬なのか?」 蒼魔の言葉に、響は小さく笑う。 「どういう意味……? 私は、一人しかいないよ」 「じゃあ、なんでさっき逃げたんだ? それになんで、こんなところにいるんだ」 「……二人きりで話がしたかったから。誰も来ないところで……」 「それなら普通に言えばよかっただろ。それに、俺がお前の携帯に電話をかけなかったらどうするつもりだったんだよ」 「その時は私からかけたよ。それに……屋上には人がいたような気がして、旧校舎に行こうなんて言ったら変な噂が立っちゃうと思って」 理屈に無理がありすぎる。蒼魔はため息をついた。 「……下手な嘘ばっかりつくのはやめろよ。お前はツーマンセルの事を知らなかった。俺や水無瀬は緊急招集を頻繁に受けてて、調査がツーマンセルで行われる事は常識になっていた。それを知らないなんてありえない」 「あの時ね、本当は私、一人じゃなかったんだ」 響の表情はまるで能面のように硬いままだった。口調もどことなく冷ややかで、いつもの穏やかな話し方ではない。蒼魔は違和感を感じたまま、響の言葉に耳を傾ける。 「斑鳩先輩と一緒に儀式があったらしい場所を調査していたんだけど、斑鳩先輩が急に……お腹が痛いって言い出して。先に帰るから、後は軽く調査だけして私も帰ってくれって言われたの。斑鳩先輩も女の子だから、やっぱりこういう事、あんまり人に言ってほしくないかなと思って。私一人で調査していたことにしたの」 「嘘だな。それなら途中で体調が悪くなったから別れたとでも言えば済む話だ。忌憚研究部の原則を無視してまで隠すほどの事じゃない」 即座に看破されて、響は初めて顔色を変えた。悔しそうに唇を噛んでいる。 「なあ、水無瀬。いい加減、嘘をつくのはやめてくれ。俺に……本当の事を言ってくれよ」 「本当の事?」 「お前はドッペルゲンガーなんだろ。ドッペルゲンガーの都市伝説が実体化したラルヴァ」 「ドッペルゲンガー? 私が、ラルヴァだっていうの?」 響は可笑しそうにクスクスと笑う。 「ラルヴァにだって人語を解するヤツはいる。皆のドッペルゲンガーに対する思念が現実化して、お前を生み出したんだ」 「馬鹿なこといわないで。もし私がドッペルゲンガーだとして、何の目的でこんな事をしているの?」 「水無瀬になりすまして、学園生活を送る為に」 響はさも可笑しそうに鼻で笑い飛ばす。 「そんな事、本当にできると思っているの? それに、そうする事で一体そのラルヴァに何のメリットがあるの?」 「都市伝説が実体化したんだから、ただ単にそれをなぞるのが目的なんだろ? ラルヴァっていうか、幽霊みたいな、そんな存在だ」 「じゃあ、私は幽霊なワケね。その幽霊が、今こうして君と話している。水無瀬 響のフリをして。今後そのまま、水無瀬 響のまま、生活を続けるのね。皆と一緒に都市伝説を解決して。ねえ、これっておかしくないかな? ドッペルゲンガーは、人と会話なんてできないって言われてる。それにドッペルゲンガーを見た本人は死ぬか、ドッペルゲンガーに殺されるかしてもう二度と姿を現さなくなるっていう噂なのよ。そもそも、ドッペルゲンガーなんて噂がここ最近で急に流行ったりしたの? 何故このタイミングで都合よく実体化するの?」 蒼魔はそう言われて、言い返せなかった。ドッペルゲンガーという噂について詳しく調べたわけではない。ただ単に未央から聞いて、そうかもしれないと、都合よく真実をなすりつけただけだ。 だが違うとしたら、一体今ここにいる、目の前で話している彼女は何者なのか? 「そもそも、貴方の言う本当って何? 本当の私って何? 水無瀬 響って、一体何者?」 「哲学の話かよ」 「そうじゃない。貴方は私を疑ってる訳だよね。ドッペルゲンガーというラルヴァにしろ、そうでないにしろ、『私が本物の水無瀬 響かどうか』を君は今疑ってる。じゃあ、本物の水無瀬 響って何? 何をもって、本物とするの?」 「それは……」 「そもそも、水無瀬 響って何? 魂? 体? 性格? 言動? もしくは、これら全て? ……私を疑う理由は、忌憚研究部の原則であるツーマンセルを知らなかった、と言ったけど。私がウッカリ忘れていたって事はないかな? 本当にあの時、斑鳩先輩がお腹をこわして、それを隠す為に私は慌てて緊急招集が、と君に言った。その後、急に君に問い詰められて慌てた私はウッカリ忘れていて一人で大丈夫だったから……と下手な言い訳をしてしまった。それを更に問い詰められて、恥ずかしくなって逃げ出した。そんなことを私がするはずないかな?」 「……」 蒼魔は押し黙ってしまう。確かに、聡明で常に冷静な彼女がそんなことをするはずがない、とは思う。でも、彼女だって人間だ。そういうミスもするかもしれない。 ただ。それを目の前にいる「水無瀬 響」に言うのは、何故かいけない気がした。彼女という人間の実像を他人の蒼魔が決めてしまう事に、躊躇しているのか。響はその様子を見て、静かに微笑んだ。 「私という人間を確証づけるものなんて存在しないよね。東堂 蒼魔ってなんなの? この問いに、君だって答えられないはず。アイデンティティなんて、自己満足の域を出ないでしょう? 自分を位置づけるのは自分でしかないのよ。他人の位置づけなんて、他人にとっての都合のいい虚像でしかないんだから……」 その通りだと思った。自分の存在がなんなのか、まるで分からない蒼魔にとってその質問は鬼門だった。決して、絶対に答えられない永遠の命題。おそらくは死ぬまで解けることのない難題。 自分は間違っていたのだろうか。ただ単に彼女を疑って、その連鎖にハマって全ての物事を疑った。ただ単に、自分が醜かっただけなのか……。 「東堂君。一つだけ……自分が自分のままでいられる方法があるよ」 響は邪悪な笑みを浮かべて、ゆっくりと蒼魔に向かって歩き出す。青ざめたまま笑みを浮かべる彼女のその顔は、まるで生気が宿っておらず、不気味だった。 彼女は感情がこもっていない声で静かに言葉を続ける。 「ここで終わらせればいい。今あるもの全て失う前に、ここで自分という存在を確定させればいい」 そう言って響は、すうっと右手を背中に回し、制服の中に手を差し込む。するりと取り出したそれは、銀色に光る刃物だった。 (出刃包丁……?) 「全てを終わらせましょう」 その言葉で蒼魔は、ハッと自分の頭が一つの真実を掴むのを感じた。彼女の狙いは自分だ。あの時襲ったのも、彼女自身になりすます為ではなく、蒼魔が狙いだったのだ。 つまり本物の水無瀬 響は、やはり別に存在する。こいつは偽者だ! 「お前、やっぱり偽者か!」 蒼魔がそう叫ぶと、響(の姿をした何か)は口元を更に歪めた。しかし瞳は何の色も示さない。 「アハハハハ! バカだなあ、東堂君。私は、アンタとは違うのよ。普通だの特別だのとウジウジして、自分の存在意義を自ら捨てて不幸ぶってるアンタとは、違うのよ!」 響は出刃包丁を天高く振り上げると、蒼魔の首筋に向かって勢いよく振り下ろした。蒼魔は慌てて後ろに下がる。 「お前……何だ。一体、なんなんだ。ラルヴァなのか?」 「さあね。でも、キミもバカだよねえ。オレをラルヴァだと疑っているなら、何で一人で来たんだ? 殺してくれって言ってるようなもんじゃないか……」 響の姿をした何かが放つ口調は、最早男のものになっていた。声だけは彼女のままで、荒々しい口調と過激な発言を繰り返す様は見ていて非常に気味が悪い。 「それとも……オレを倒すつもりだったのか? オマエ一人でさあ。ハハハッ、そんなの、できる訳、ないよなあ」 「……どうかな。でも、お前を探してるのは俺一人じゃないぜ。他の忌憚研究部のメンバーも探してる。もうすぐ、こっちにも来るかもな」 「なんだよ、情けねえなあ。ハッタリでもオレ一人で充分だとか何とかいえねえのか? まぁ、お人形遊びしかできないんだから、それもしょうがねえか」 響の姿をした何か、はこちらを見るとまた邪悪な笑みを浮かべた。 「奏(かなで)」 「え?」 「俺の名前だよ。名前がなけりゃ、アンタは不安で不安で仕方なくなっちゃうだろ? 響に奏、いいセンスだとおもわねえか? ハハッ」 奏と名乗った彼女は、面白おかしそうに笑いながら、出刃包丁を構えて蒼魔を捉える。その表情には殺気も生気も感じられない。 「つまり、オマエはラルヴァだったんだな。水無瀬のフリをして、俺を殺そうとした……そういう事か?」 「ククク、そんなに答えが欲しいのか? オレから与えられた答えを知って、オマエはどうするんだ? 敵の言う事を信じられるのか? 自分で答えも導き出せない、誰かに言われないと行動できない、弱い人間だな。」 「……そんなんじゃないさ。ただ、その方が正当防衛って事で後味悪くならないだろ」 蒼魔は静かにそう言うと、奏に向かって魂源力を送り込む。今にも蒼魔に襲い掛かろうとしていた奏の動きが止まった。 「へえ……いいのか? オレに同調(シンクロニシティ)なんてつかっちまって。オレとオマエの魂源力は同等だ。オレがオマエを逆に乗っ取る事もできるんだぜ」 「負けないさ」 蒼魔は強く、奏を睨んで右手を振り上げる。 「水無瀬の姿をしなければ俺を倒せない、お前には決して負けない」 奏は蒼魔が何をするつもりなのか、瞬時に理解したらしい。すぐさま自らの腹につきたてられるであろう右手の動きを止めるべく意識を集中させる。 蒼魔が右手を自らの腹に振り下ろした時、奏の腹にはその出刃包丁が突き刺さっている事だろう。おそらく彼女がラルヴァだとして、カテゴリーデミヒューマンであることは間違いない。 出刃包丁を持っているところを見ると、実体はあるはずだ。したがって物理的な攻撃も通用する。蒼魔は右手に強く籠められた奏の魂源力を振り切ってじわじわと振り下ろしていく。 「ぐっ……」 奏の顔が徐々に余裕のないもになっていく。やはり、ダメージはあるのだ。蒼魔は更に魂源力を籠めた。少しずつ彼女の魂源力が弱まっていくのを感じた。 蒼魔は一気に押し切る。パァン、と弾ける音と共に、蒼魔と彼女の右手が振り下ろされた。どすん、と蒼魔の腹に衝撃が走る。 「……くっ、ククククク」 しかし奏は、不気味な笑みを浮かべるのみだった。見ると、包丁は確かに彼女の腹を貫いている。しかし、そこには血液も傷跡も見当たらなかった。 「オレが焦ったから、本当に包丁が刺さってダメージになると思ったか? つくづく、お前は人の反応を見なけりゃ何もできねえんだなあ?」 奏は疲労した蒼魔の同調を弾いて、出刃包丁をゆっくり構えなおす。彼女を振り切るのに力を使いすぎた蒼魔は、そのまましりもちをついて動かない体を必死に動かそうとしていた。 「悩むのにも、もう疲れたんじゃないのか? 自分を探すのにも、もう飽きたんじゃないのか? オレが終わらせてやるよ……東堂 蒼魔のまま、お前をここに残してやる。喜べよ、アハハハハハハハ!」 奏は心底嬉しそうに笑いながら、一歩、一歩と蒼魔に近づいた。出刃包丁がまた、天高く振り上げられる。くるりと回転して、今度は蒼魔の胸に突き刺せるように逆手持ちに持ち替えた。 (……俺は死ぬのか、ここで) 彼女の言葉に、蒼魔はなんら否定できなかった。弱い自分を、自ら不幸を被ろうとしている自分を、彼女は逆に看破したのだ。 (これは完全な負けだ。力でも、精神でも、俺は奏に勝てなかった。奏の正体を突き止めるなんて、俺には不可能だったんだ……) 何もかもを成し遂げられずに、蒼魔の人生はここで終わる。後悔と、憎しみを残したままで。 しかしそれも、蒼魔には当然の結末だと感じられた。奏の言うとおり、蒼魔は自らを否定し続けていたのだ。父親からの虐待、という根拠だけで。 そうして自らが傷つけ続けた自分が、幸せになどなれるはずもない。……こうして迎える終わりは、至極当然なのかもしれない。 薄笑いを浮かべたまま、振り下ろされる奏の右手を見て、蒼魔は目を閉じた。このまま死ぬのも、俺が俺を辞めていた結果だ、と。 その刹那に、ドアの向こうで、凛とした声が響いた。あの時、悪夢から自分を救ったあの声だった。 「光よ……っ!」 言葉と同時に光が放たれる。数秒後に蒼魔が目を開くと、奏の姿は忽然と消えていた。宙に取り残された出刃包丁が、カラリと床に落ちる。 「……水無瀬!?」 そこには響が立っていた。蒼魔を見ると、彼女は申し訳なさそうな、複雑な表情で顔を俯ける。 「ごめんね……東堂君。もう、大丈夫だから」 「いや……俺は平気だけど。水無瀬こそ大丈夫なのか?」 「うん、私は大丈夫」 響はそう言って、蒼魔に手を差し出す。白くて細い彼女の手は、思ったよりも暖かかった。 「……水無瀬。どこかに、捕らえられていたのか? さっき俺の電話に出たのは、お前だよな?」 「ううん。拍手君達と別れた後、女子トイレで捕まったの。気を失って、気がついたら旧校舎の教室にいた。この一つ横の、突き当たりの教室ね」 蒼魔が先程あけようとして、鍵がかかっていた教室だ。やはりあそこに響は居たのだ。 「目が覚めたら、最初はどこの教室か分からなかったけど、隣から東堂君と私みたいな声が聞こえて。縛られたりはしてなかったし、内鍵がしまってるだけだったから」 奏には実体がなかった。となると、内鍵をかけてそのままドアをすり抜ける、なんてこともできるかもしれない。 出刃包丁を持っていたのは、右手にだけ魂源力を集中させて実体化させたのだろう。そして響の霊具から放たれる光で消滅したところを見ると、彼女はカテゴリーエレメントだったのだろうか? 「じゃあ、昨日の裏山のは……」 「東堂君を助けたのは私。実はね、あの時、私の姿をした誰かがいるって事が分かって、斑鳩先輩からメールをもらったの。緊急招集って言ったのは、その方が分かりやすいと思って……似たようなものだったし」 そうだったのか。つまり、裏山に蒼魔を誘い出したのは「奏」で、それを追って消滅させたのは紛れもなく「響」だったと。 「なら、あの時の攻撃は……」 「多分、そのラルヴァの攻撃じゃないかな。私が光を放つと、ぱっと消滅したから……」 蒼魔は尻についた埃を払って、響を見る。響は穏やかな笑みを浮かべている。いつもの響だった。 「もう大丈夫、これであのラルヴァは倒した。……東堂君、戻りましょう? 忌憚研究部の皆にも、無事を伝えないと」 そう言って響は廊下を歩いていった。彼女の背中をみながら、蒼魔は複雑な感情をくすぶらせていた。 (でもな、まだ……まだ解けてない謎があるんだよ、水無瀬) それは彼女に対する疑問だ。裏山で精神攻撃を受けた蒼魔を救った時、彼女は蒼魔の義理の父、白川 総司郎からの虐待の事を口走った。 夢壊しの事件の時、確かに蒼魔の過去、虐待の過去は忌憚研究部のメンバーに知れ渡ってしまった。だが、「忌憚研究部の顧問白川 総司郎が、蒼魔の義理の父である」という事は知られていなかった。 蒼魔がその事実を話したのはただ一度、奏に連れられて裏山に向かっていたときだ。 奏しか知りえない事実を、響が知っていた。更に、彼女は「忌憚研究部の皆にも、無事を伝えないと」と言ったが、先程まで捕まっていた彼女が何故、忌憚研究部のメンバーが響を探している事を知っていたのだろうか? ぼんやりとした意識のまま、蒼魔と奏の会話を聞いていたのだろうか。隣の教室とはいえ、そこまでくっきりと会話が聞こえるものなのだろうか? それに、精神攻撃が奏のものなのだとしたら、何故先程の戦闘では出刃包丁をつかってきたのだろう。精神攻撃を仕掛けて、その隙に刺し殺せば済む話ではないか? この謎にどんな意味があるのか、蒼魔には検討もつかない。だが、彼女に直接問いただすのは、得策ではないように思えた。 自分にはまだ、知らない事がたくさんある。この忌憚研究部で、それを明らかにしていく必要がある。 そうすることで自分を否定してきた過去を、洗い流せるような気がするから。 埃まみれの廊下を走って、蒼魔は響の背中をおいかけた。 つづく トップに戻る 作品保管庫に戻る