約 2,162 件
https://w.atwiki.jp/yurina0106/pages/1334.html
タグ 作品名き 鬼哭街 The Cyber Slayer 曲名 歌手名 作詞 作曲 ジャンル カラオケ OP 涙尽鈴音響 いとうかなこ 江幡育子 大山曜 おっとり DAM
https://w.atwiki.jp/galgerowa2/pages/320.html
鬼哭街(後編) 「む…………」 ファルは歌を歌いたい!という欲求を必死で押し込みながら、ひたすら東へと向かっていた。 銃が当たり前のように撃たれる荒れ果てた場所(おそらく、どこかの国のスラム街という線が濃厚だろう)だ。 目立つ行為は控えるべきだと本能が判断した。 それに、何故東なのか、よくは分からないが感覚的にそちらの方が適当な気もしたのだ。 ここが何処なのか、全く分からない以上全ての行動から"理由"は消え去る。 ただ己の勘に身を任せるのみ、だ。 が、その前に当面の問題点が一つ。 「困ったわね……」 ファルは不安げに天にて煌く星を見上げた。 光の球は高度を上げ、丁度天辺ぐらいの位置まで上昇している。 ファルは時計を持っていない。故に、今が何時か分からない……とはいえ、太陽があの辺りにあるのならば、正午近い事は理解出来る。 そして、彼女の身体は非常に万物の流れに正直だった。 「お腹が、空いたわ」 スラッとした腹部の辺りを軽く撫で回しながら、ファルはぽつりと独りごちた。 おそらく今は十二時前後だと思われる。 その事実から導き出されるであろう解答、お昼ご飯を食べなければならない。 今自分はお腹が空いてペコペコだった。この瞬間もくうくうと胃袋が悲鳴を上げている。 女の身でありながら、若干はしたない……という気持ちも当然存在するのだ。 こうしてキョロキョロと周囲を伺っている最中ですら、羞恥の感情が身体を焼いてはいる。 が、同時に自然の摂理には逆らえない事も理解はしているつもりだった。 ――ひとまず、移動しよう。 流石にこんな場所で食事を取るつもりにはなれない。空腹を我慢してでも、一刻も早く離れるべきだろう。 いつ暴漢が現れるか分からないようなエリアで、呑気に料理を作る気にはなれない。 出来るならば、トラットリアでいつものラザニアでも作るのが適当―― 「……あら?」 妙な単語が脳裏に浮かんだ。 ラザニアは分かるが、トラットリア? 普通の言葉ではない。だけど、何となくニュアンスで意味は伝わって来る。 ソレは確か、ご飯を食べる場所だった筈……いや、違う。自分にとっては"作る"場所だった。 もしや×××××××××××××は料理人だったのだろうか。 まさか。自分はこの衣服から察するに、学生……だったのだと思う。 アルバイトでもしていたのではないか。 学生の本分は勉強とはいえ、遊ぶ上で先立つ物は必要になる――――ん? でも、何となく。 私のアレは、遊ぶ金欲しさで行う片手間の労働……ではなかった気がするのだ。 働かなければ生きていけなかった、そんな予感さえする。 ああ――私は、どうしてそんなにもお金が必要だったのだろう? ふと、そんな事を思った。 ▽ 「だま…………され、た……?」 このみの胸の奥で膜を貼っていた"恐怖"という感情がポロポロと剥がれ落ちていく。 ファルシータ・フォーセットは言った。 『遅効性の毒をこのみのカレーにだけ混入した』と。 確かに、解毒剤は彼女しか知らない場所に隠してあると言っていた……しかし。 あの時点で彼女が『毒薬を持っていた』事だけは揺るぎない事実の筈だった。 そしてファルが見せた毒薬の瓶は今、自分の掌の中にある。 ――"鎮痛剤"というゴシック文体で書かれたラベルが貼られた上で。 綺麗サッパリ毒だけが消えてしまうとは考え難い。 彼女が自分以外の人間に対しても、同様の手口を試みる可能性は非常に高い。 そうでなくても、毒物は有効な武器だ。おいそれと手放すとは思えない。 そして一度疑念の種が芽生えた瞬間、何もかもが屈折して見えて来るのだ。 ずっと頭の隅の中にはあって、ずっと否定して来た仮説。 『ファルさんが、自分に解毒剤を渡すメリットが存在しない』 例えば、彼女の命令を遵守し首輪をこのみが三つ集めてきたとしよう。 しかし約束の時間通りに教会へと赴いたとして、ファルは本当にその場所へ現れるのか? 解毒されたこのみが復讐する可能性は? 仲間を引き連れて来て私刑に遭わせるとは考えないのか? そして――ファルがこのみを助けた結果、どんな利益を得る? 何もない! これっぽちも有りはしない! 他人に毒を盛り、人形として操ろうとする人間がそんな馬鹿正直に姿を現すものか! 一瞬でも飼い犬に手を噛まれるようなミスを犯す訳がない。 そう既に時限装置のスイッチは押されているのだ。 だったら、こう考えてしまった方がよっぽど気が楽だ。 いや、条件や道具から判断するにこちらの可能性の方が断然高い。つまり、 ――あの時、彼女が持っていたのは毒などではなかった、と。 「アハッ、アハハハハ……う、嘘……、嘘……だよね? だ、だって……こ、このみ……バカ、みたいだもん。 あ……あんなに、がくがく震えたのに。怖い思いだって沢山、したんだよ。刹那さん……とか、さ。 いっぱいいっぱい泣いて……凄く辛くて……だ、誰も……信じられなくて」 自傷。 改めて鑑みる自身――柚原このみのなんと矮小なる事か。 言葉の刃を心臓に突き付けられ、命を賭して守ってくれた環の意思を継ぐ事も出来ず。 自らを心の檻へと逃がし、蓋をした。引きこもり全てを拒絶した。 「全部、嘘? 私の…………勘違い? 信じてくれた人まで裏切って……その結末が……本当に……コレなの!? そんなのっ……酷いよっ!! 酷すぎるよっ、ファルさん!! どこまでこのみを弄べば気が済むの!?」 このみの身体に仕掛けられた毒殺の時限爆弾は完璧な不発。いや、そもそも設置すらされていなかったのだろう。 今は……そうとしか考えられない。 「……許さない、ファルさん」 このみの中の"鬼"は更にその色合を濃くする。 ぺロリと彼女は口の周りに幼い子供の食べ残しのように残った血液を嘗め取った。 それは、半ば無意識的な行動だった。しかし、このみは舌先から伝わって来るその味に思わず眼を見開く。 「あまい、や。せつなさんの、ち……。せつなさん……くるしそうだったなぁ。すてきだったなぁ。きれいだったなぁ」 不思議だった。指の肉を噛み締め、咀嚼した時はまるでおいしくなんてなかったのに。 口の周りに付着した血液が、これ以上無いほど美味に感じられるのだ。 同時に、苦痛に歪む彼女の顔が堪らなく愛おしく感じてきた。 もっと彼女の悲鳴を味わいたい。もっと彼女が苦しむ姿を見ていたい。 出来るならば、専用の檻にでも閉じ込めて泣いて脅える姿をずっと鑑賞していたいくらい――。 「みたい……な……せつなさんのちまみれのかお、ファルさんのちまれのかお。ちは……とってもとっても……あまい。 もっともっと嘗めて……みたいな」 それは、頬が落ちそうな程味わい深かった。 例えるならば甘美な蜜、だろう。 数万匹の蜜蜂が必死に集めた蜂蜜であろうと、この血の濃厚さには及ばないと思う。 芳醇にして味わい深い。 記憶として存在する"血液"としての苦味や鉄っぽさは微塵も感じられなかった。 「アハハッ、いいね、それ! このみはファルさんに遭う前の……ドライさんに勇気を貰ったばかりの柚原このみに戻ればいいんだ。 ううん…………違う。このみは…………ドライさんみたいになればいいんだ!」 タマお姉ちゃんが私に残してくれた言葉があった。 『……このみ。駄目だよ、あなたは生きなくちゃ』 『このみ、雄二――頑張って生きてね』 胸に刻まれた台詞。今の私を突き動かす衝動となるもの。 絶対に死ぬ訳にはいかない。 私は私のまま。 柚原このみは柚原このみのまま――絶対に、生き残らないといけないんだ。 絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対――絶対に!!! 「ドライさん……本当に、ありがとうございます。 『銃を持ったら躊躇うな。ありったけの殺意をこめて標的を撃ち殺せ』……その通りでしたね。 だから、ファルさんっ! 刹那さんっ! そして、言峰さん! 神崎さん! このみは……」 大きく息を吸い込んで、その想いをぶちまける。 「全力であなた達に復讐するでありますっ!!!」 ▽ 「……くしゅん!」 鼻の辺りに妙な痒みを覚え、思わずくしゃみをしてしまった。 周りに誰も居なかったのは幸いだが……少しだけ、恥ずかしい。 相変わらず、ファルは東へと向かっていた……筈だった。 スラム街を抜け、いつの間にか彼女は森へと足を踏み入れる。 ちなみに、移動を開始した時点の彼女の位置から考えると、明らかに南へ向かっているのだが、コンパスを持たないファルには知る由もない。 自分がどんな人間だったのか。未だに、答えは出ない。 おぼろげながら浮かび上がる輪郭は未だに深い霧に覆われたままだ。 歌、パパとママ、そして生きていくための努力。結局、断片としてのパーツだけしか浮かんでは来ない。 幻想と真っ白な殻にこの心は覆われている。真理に到達する事は適わないのだ。 ――いったい、自分はどんな性格をしていたのだろう。 例えば、思慮深く誰にでも笑顔を絶やさない人間、というのはどうだろう。 やさしくお淑やかで誰からも好かれる――そんな、聖母にも似た……、 「……馬鹿ね」 子供が諳んじる夢物語の如く、スラスラと飛び出した愚かな妄想をファルは一笑に切って捨てた。 歳を取ってもサンタクロースを信じている子供ではないのだ。 見えない物に期待を寄せても、裏切られるだけに決まっている。 誰も自分を愛してはくれない。 誰も手を差し伸べてくれたりはしない。 誰も―― 「…………痛っ!」 気付けば、ファルは自らの頭を抑え地面に蹲っていた。 一度に物を考えすぎたのだろうか。 それとも、何か自身のトラウマに触れたのか。 案外、加速度的な思考の概算は記憶を失った身には重荷だったのかもしれない。 きっと……そうだ。 今は、どこかで休もう。 そしてお腹一杯に料理を食べて、身体を落ち着かせるのだ。 サラサラと梢を擦り合わせ、森は小さな楽団になって自分を出迎えてくれる。 ゆっくりと春の小川のように流れる凛とした空気が首元をくすぐる。 緑色の風を肺一杯に吸い込んで深呼吸。 ……ほら、大丈夫。何も心を惑わせるものはない。 【D-2 森/一日目 昼】 【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】 【装備:包丁、デッキブラシ イリヤの服とコート@Fate/stay night[Realta Nua] 】 【所持品:リュックサック、救急箱、その他色々な日用品、ピオーヴァ音楽学院の制服(スカートがさけている)@シンフォニック=レイン 】 【状態:重度の記憶喪失、頭に包帯、体力疲労(中)、精神的疲労(中)、後頭部出血(処置済み)、空腹】 【思考・行動】 基本:自分の記憶を取り戻したい パパとママを探したい 0:パパ……ママ…… 1:東へ向かう。 2:自分のことを知っている人間から自分についての情報を得たい。 3:男性には極力近づかないようにする。 4:歌いたい 【備考】 ※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。 ※頭を強く打った衝撃で目が覚める前の記憶を失ってます。 ※断片的に気絶前のことを断片的に覚えている可能性もあります(例として“他者を利用する”など) ※当然バトルロワイアルに参加していること自体忘れてます。 ※教会に倒れていたこととスカートが裂けてたことから、記憶を失う前は男性に乱暴されてたと思ってます。 ※恋人がいるのと歌を思い出しました。 ▽ 「はは……は……」 乾いた笑いを溢す事しか、もはやフカヒレには出来なかった。 少女は、自分のことなどゴミ屑程度にしか捉えていないのだろう。 故にこちらを一瞬たりとも見ようとせずに大演説大会を開催したり、自らの身体に飛び散った血をペロペロと嘗め取ったりしているのだ。 彼女の姿形は「柚原このみ」という少女のままだ。 幼く可愛らしい笑顔の似合う女の子。 だが、その実態は明らかに別の何か。"怪物"と言ってしまっても間違いではないだろう。 (やべぇよ、やべぇよ……!! スバルぅうううう!! 助けてくれよ!! 喰われちまう、このままだと俺喰われちまうよぉおお!!) なにしろ少女は「血は甘い」と訳の分からない事を口走っていたのだ。 つまり、人さえ喰らうのかもしれない。少なくとも血は啜るだろう。 まさか道端で出会った妹系の少女がカニバリズムを嗜んでいるとは、さすがのギャルゲーマスターフカヒレも度肝を抜かれた。 凄まじい表情で空の鍋を掻き回したり、 鉈を持って追いかけて来たり、 鋸で鮮血の結末だったり、 日記で逐一こちらの行動を見られていたり、 愛玩人形の身体に魂が転生しても兄のことを愛していたり、 同棲を始めた彼女は幼い兄弟を飼育する誘拐犯だったり、 クランクアップした映画を見ていたら撲殺されたり、 少女は狂ったくらいが気持ちよかったり、 人肉を喜んで食べに行ったり、 あの女の臭いがしたり、 ねーちんだったり、 腹を切ったり、 二次元の……既にヤンデレとかキモウトとかそういうレベルでは無い。 完全に鬼――オーガ――の領域である。 戦って勝てる相手ではない。眼で、雰囲気で、殺されてしまう。 デイパックは奪われたものの、腰には未だビームライフルがあるとはいえ、その戦力差は絶対的。 つまり、このままこの場所に居ればいつ殺されるか分かったものではないのだ。 「ああ、そういえば」 「――ッ!?」 そこまで考えた時、クルリとこのみが首だけを回して、腰が抜けたように地面に座り込むフカヒレを見た。 「本当の名前……聞かせて欲しいな。"誠くん"?」 「は、はいっ! 先程は偽名を名乗るなど、大変失礼な真似を……!」 「名前、教えて?」 「申し訳ありません! 鮫氷新一と申すであります! シャーク、いや侮蔑のニュアンスと共に『フカヒレ』と呼んで頂いて結構であります!」 「そう、フカヒレさん……」 完全にこのみに威圧されたフカヒレは、何故か自衛官のような口調で立ち上がり、敬礼と共に自己紹介。 初めから有って無いようなだった彼のプライドは、このみの膝蹴りで地面に沈められた時点で消滅していた。 このみはどうでも良さそうな表情のまま、彼を一瞥。そして、 「フカヒレさん。このみの……仲間に、なってくれませんか」 彼には想像さえ出来ないような言葉を投げ掛けた。 「な……は!? ど……どうして、ですか?」 「だって、このみは皆と力を合わせて戦わないといけないんです。タマお姉ちゃんとタカくんとユウくんの恨みを晴らさないといけないんです。 それにファルさん達に復讐するのに、このみ一人の力じゃ不安で不安で…………。 しかも、フカヒレさん"も"人を殺す事に戸惑いはないみたいですし……いいパートナーかな、って。 ほら、普通何人かで行動したりするじゃないですか。とりあえず、このみもそうして見るべきだと思うんです」 このみは舌を出しながら、小さく「えへへ」と嗤った。 笑顔、というよりも顔面の筋肉運動とでも言った方が適当な歪み切ったものであったが。 その証拠に彼女の瞳は一切の光を失い、暗澹とした虹彩を刻んでいる。 「も、もし……断ったら……?」 恐る恐る、フカヒレは尋ねた。 一瞬このみは何を言われたのか分からないような空虚な表情を浮かべた後、ニコリと満面の笑みを浮かべた。 「ええとねーちょっと困るけど、その時はやっぱり、」 瞬間、全ての表情を消し去りつつ、 「殺しちゃうと思う」 と小さく呟いた。 「喜んでお供させて頂くでありますっ!!」 そして――寸分の逡巡もなく、フカヒレは吼えた。 己の運の無さと見事に"地雷"を踏みつけた受難を恨みながら。 ▽ 「よろしくね、フカヒレさん」 このみはフカヒレの顔を見もせずに、半ば義務的に言った。 仲間……という関係ならば挨拶ぐらいはしておくべきだと思ったのだ。 このみがフカヒレに同行を申し出たのには理由がある。 彼女にはあくまで自分は「柚原このみ」として行動したい、という強烈な欲求が根底に存在するためだ。 いかに彼女が鈍感であるとはいえ、自らに明らかな変化が訪れている事は薄々ながら理解している。 血があんなにも美味に感じられたのもそうだし、恐ろしい速さで躯が動くのもそうだ。 邪魔な人がいたら殺してしまえばいい、という思考に歯止めを掛ける事も出来ない。 現にフカヒレにしても、彼がこちらに敵意を露にするようならば、眉一つ動かさずに捻り殺す意思は明白だった。 でも、だからこそ、このみは自らに残った汚泥のような『人間らしさ』に縋り付いていたかった。 もはや何もかもが手遅れなのは分かっている。 手の施しようがない末期状態に足を踏み入れている事も確実。 そう……ここであえて宣言しよう。 柚原このみは、鬼だ。 妄執と生への渇望に取り付かれた幽鬼。血まみれの復讐鬼である。 だが、人間であった時の事を捨て去る事など出来ない弱い存在でもある。 それは、やっぱりタマお姉ちゃんの影響がとても強い。 タマお姉ちゃんが生かしてくれたのは『柚原このみ』であって、意識を失った動く肉の塊ではないのだ。 歩むは修羅道。 心の底から頼れる相手などいない孤独な旅路。 それでも、幾つもの想いを背負って進まなければならない。 たとえ――もう、哭いて叫ぶための胸を貸してくれる相手がいないとしても。 あいつらの肉を引き裂いて、血を啜り、骨を砕き、絶叫の渦に身を埋め、復讐を遂げるまで――立ち止まる事はないのだから。 ▽ 間違った舞台、誰かが選択を誤った世界。 煌星のような輝きを放ちながら闇にその核を支配された街。 復讐の鬼と化した一匹の"鬼"が大地を駆ける。 瞳を真っ赤に血走らせ、手足となる男を引き連れて。 鬼が追い求めるは記憶を失った少女。 自らを覆っていた殻を失い、少女は真実の自分へと手を伸ばした。 誰にも理解された無かった、いや自身さえ理解していなかった本質――歌を歌うこと、愛されること。 器だけになった少女は何を思う。そして、どんな言葉を口ずさむ? 彼女を包み隠していた被膜は消え失せ、丸裸の少女が佇むだけ。 溢れ出す想い――それこそが彼女の全て。彼女がひっそりと抱えていた秘めたる願い。 鬼の住む街。鬼が哭く街。 人は足を踏み入れることさえ出来ぬ妖なる魔都。 鬼は嗤い、少女は歌う。 ここは神に祝福されなかった者達の集う街。 人が人でなくなる場所。真実の自分と出会う場所。 ――鬼哭街。 【C-2 中心部/一日目 昼】 【柚原このみ@To Heart2】 【装備:包丁、イタクァ(5/6)@機神咆哮デモンベイン、防弾チョッキ@現実】 【所持品:支給品一式、銃弾(イタクァ用)×12、銃の取り扱い説明書、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)】 【状態:悪鬼侵食率30%、リボン喪失、右のおさげ部分が不ぞろいに切り裂かれている、倫理崩壊】 【思考・行動】 基本行動方針:何を犠牲にしても生き残り、貴明と環の仇を討つ。 0:柚原このみのまま、絶対に生き残り、主催者に復讐を遂げる。 1:ファルと世界に"復讐"をする。 2:気に障った人間は排除する。攻撃してくる相手は殺す。 3:フカヒレは今は仲間として適当に利用する。歯向かったり、いらなくなったら殺す。 4:最悪、一日目終了時の教会でファルを殺す。 【備考】 ※制服は土埃と血で汚れています。 ※世界の名を“清浦刹那”と認識しています。 ※ファルの解毒剤の嘘を看破しました。見つけ出して殺害するつもりです。 ※第一回放送内容は、向坂雄二の名前が呼ばれたこと以外ほとんど覚えていません。 ※悪鬼に侵食されつつあります。侵食されればされるほど、身体能力と五感が高くなっていきます。 ※制限有りの再生能力があります。大怪我であるほど治療に時間を必要とします。 また、大怪我の治療をしたり、精神を揺さぶられると悪鬼侵食率が低下する時があります。 【鮫氷新一@つよきす -Mighty Heart-】 【装備】:エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガン(5/5)@現実、ビームライフル(残量70%)@リトルバスターズ! 【所持品】:支給品一式×2、きんぴかパーカー@Fate/stay night[Realta Nua]、シアン化カリウム入りカプセル、 スペツナズナイフの柄 、ICレコーダー ゲーム用メダル 400枚@ギャルゲロワ2ndオリジナル、37mmスタンダード弾x10発 【状態】:疲労(大)、背中に軽い打撲、顔面に怪我、鼻骨折、右手小指捻挫、肩に炎症、内蔵にダメージ(中) 【思考】 基本方針:死にたくない。 1:このみが恐ろしいので、逆らわないようについていく 2:知り合いを探す 3:清浦刹那、ツヴァイ、ドライ、アイン、菊地真、伊藤誠を警戒 【備考】 ※特殊能力「おっぱいスカウター」に制限が掛けられています? しかし、フカヒレが根性を出せば見えないものなどありません。 ※渚砂の苗字を聞いていないので、遺跡で出会った少女が古河渚であると勘違いしています。 また、先程あった少女は殺し合いに乗り、古川渚を名乗る偽者だと思っています。 ※混乱していたので渚砂の外見を良く覚えていません。 ※カプセル(シアン化カリウム入りカプセル)はフカヒレのポケットの中に入っています。 ※誠から娼館での戦闘についてのみ聞きました。 ※ICレコーダーの内容から、真を殺人鬼だと認識しています。 ※ゲーム用メダルには【HiMEの痣】と同じ刻印が刻まれています。カジノの景品とHiMEの能力に何らかの関係がある可能性があります。 B-2中心部に回収出来なかったゲーム用メダル@現実が100枚落ちています。 【エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガン@現実】 全長780mm。総重量4,235g。 イギリスのワロップ・インダストリー開発のリボルビング・グレネード・ランチャー。 特大サイズのリボルバーのような、シリンダー型の大型弾倉を備えている。 撃発・発射はダブルアクション式だが、かなりトリガープルが重いので、指を二本かけて引けるようにトリガーの形が工夫されている。 126 鬼哭街 投下順 127 雨に煙る 時系列順 127 雨に煙る 柚原このみ 140 調教 鮫氷新一 140 調教 ファルシータ・フォーセット 144 瓦礫の聖堂
https://w.atwiki.jp/kattenisrc/pages/591.html
570 :名無しさん(ザコ):2012/06/15(金) 13 50 06 ID YAHgKyxk0 孔濤羅(鬼哭街) 元凄腕の暗殺武侠で、人呼んで「紫電掌」 妹を取り戻す為復讐へ身を投じた復讐鬼だが、その結末は意外な形で迎えることになる …そこ、ニトロワフォルダの妹の方が使いやすいとか言わない 能力的には設定に恥じぬ一流のパイロット能力と、それなりの運動性による 回避400+集中が非常に頼りになる上、攻撃力1600+貫と全方位SMAPを持つ強烈なサイボーグキラー しかしながらその実態は真価は不屈、底力、覚悟を併せ持つという瀕死特化型とでも言うべきものである 弱点はHP3200、装甲600と下手をすると一撃でやられかねない耐久力と、 射程が1なこと、加えて弱点=機以外の敵に対しては気力120まで1300の火力しかない貧弱さ 気力130で使用可能な必殺技はコスト、威力共に優秀だが気力SPも無く火力を出そうとするとそれまで非常に燃費が悪い点 その回避力や激闘などのSPから無双運用をしたくなるが、気力とHPの管理に非常に気を使う運用上、 使いこなすならば一撃離脱か的を絞った的確な投入による気力稼ぎが必要になる為、 ただ回避に物を言わせて突っ込ませていれば強いユニットではない点に注意 見た目以上に癖が強く扱いづらいユニットではあるがその分、 使いこなせたときの爽快感と敵陣へのダメージは相応の物となる 使用する機会があるならぜひそのフルスペックを生かせるよう挑戦して欲しい
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6680.html
前ページ / 鬼哭街/Zero / 次ページ 間違った未来、誰かが選択を誤った世界。そこには一人の男がいた。 仁に優れ、義に篤く、礼を忘れず、智に欠けず、信に溢れ――男は一言で表すなら侠で あった。侠とは言葉で説明できるようなものではない。万言費やそうと、いや、労すれば 労するほど、その本質からはかけ離れていく。 故に男をして侠。男が所属する幇の主をして、真の功夫と呼ばしめるほど。 男には幇があった。友があった。義兄があった。剣があった。何より、妹があった。 しかし、幇は彼を裏切り、友はその手で殺し、義兄はそもそも義兄ですらなかった。 なぜ。 なぜ、功夫とも呼ばれるべき男にはこのような未来しか残されなかったのか。 さもありなん。 誰かが、誰もが選択を誤った世界の中、ひたすらに正しくあろうとすれば、劣悪な未来 しか与えられない。男が正しければ正しいほど、その矛盾は周りを歪めてしまう。 暗がりに慣れた瞳では眩い光を見据えることなどできず、道を踏み外すのだ。 誰もが選択を誤った世界、誰もが選択を誤らなかった世界。もしその中で過ちがあると すれば、どこまでも実直であろうとした男の在り方そのものだった。 I/ 意識の覚醒は、どこまでも緩やかだった。とはいえ、水から浮かび上がるような優しい ものではなく、むしろその逆、最悪にも等しい。粘性の泥を体中に纏わり付かせ、もがき ながら立ち上がるようなものだ。呼吸は乱れ、視界も昏く、そして体はどこまでも重い。 自然と、目が覚めたあともその汚濁は濤羅を捉えて離さず。だから、濤羅は自分が生き 恥を未だ晒していることに気が付くには、呼吸二つ分ほどの時間が必要だった。 戴天流免許皆伝と思えぬほどの無様である。意識を失っていた時間はどれほどだろうか、 その張本人たる濤羅にはわからぬが、だからこそ未だ体は戦いの中に置いておくべきだ。 だというのに、ほんの一時ではあるが濤羅は戦いを忘れたのだ。生死がかかった一瞬に 調息を乱したのも自明の理だ。 己のを嘲笑い、そしてすぐさま顔の下に押し込める。もはや己には自重すら許されない、 そう思ってのことだった。 だが、いったい誰が許さないというのだろう―― 一瞬の煩悶を振り払い、濤羅は横にしていた体を半分ほど起き上がらせる。それよりも 今はするべきことがあった。ならば、我が事に思い悩む必要などどこにもない。 「なぜ、お前がここにいる」 眦を鋭く尖らせ、濤羅は部屋の片隅に腕を組みながらたっているフーケに問いかけた。 襲い掛からなかったことには理由がある。濤羅が眠っていたベッドに、うつぶせるよう 頭を預けているルイズが、濤羅にわずかな冷静さを与えていた。 殺せるならば、ルイズごといつでも殺せたはずなのだから。 しかし、先程まで――あくまで濤羅の主観だが――殺しあった相手に警戒を解けるはず もなく、いつでも跳ね起きられるよう意識は戦闘へと持っていく。 その警戒を見て取ったのだろう。フーケは組んでいた腕を崩すと、空手を振ってのけた。 杖を持っていない。つまり敵意がないという証のつもりなのだろう。 先程まで殺しあっていたのだ。その程度で信用できるはずもない。本当に杖を持ってい ないとも限らないし、そもそも杖がなくとも人を殺す手段は他にいくらでもある。 だが、それでも濤羅は警戒をわずかに緩めた。たとえフーケを信用できなくとも、この 状況自体は信用できる。 濤羅が意識を失う前に見た一瞬の光景。捕らえたはずの彼女をこの場で自由にさせてい るのには、何かしら理由があるのだろう。 もっとも、それでも完全に気が抜けるものでもないが。 「もう一度聞く。なぜ、お前がここにいる」 フーケは皮肉気にその顔を歪めた。元からつりあがっていた瞳が一層釣りあがる。そこ には友好の色は見て取れない。だがどうしてだろうか。同時に敵意の気配もなかったのだ。 聴勁を鍛えた濤羅が己が身に向けられる敵意を見逃すはずもない。それこそ、相対した のならばなおさらだ。 無論、心の動き全てを感じ取れるわけではない。資質に恵まれ、鍛錬を繰り返せばその 境地にも至れるのだろうが、どちらも濤羅には欠けていた。 あくまで濤羅に許されたのは剣のみである。 だからこそ、フーケがなぜ敵意を見せないのかわからず、濤羅は困惑した。 彼女が浮かべたのは、間違いなく自嘲の笑みだった。 「別に。殺されない代わりにあんたを助けてやるって取引をしただけさ。幸い杖は壊され てなかったからね。もっとも、今はまた取り上げられてるけどね」 それは答えのようで、答えではない。 どうして己が生きているのかは知りたいことではあったが、濤羅の質問はあくまでなぜ この部屋にフーケがいるかである。 そしてあくまでも濤羅の推測でしかないが、フーケはわかっていながらも、あえてその 質問の答えをはぐらかしたのだ。恐らく、濤羅に気づかれることも含めて。 沈黙が重く二人の肩にのしかかる。フーケが自ら答えを口にすることはない。そうでな ければ、韜晦とも呼べぬ誤魔化しなどするはずもない。 かといって、重ねて問うことは濤羅には憚られた。知ってどうにかなるものだろうか。 彼女が敵だというのなら、昨夜言ったように打ち倒せばいいだけだ。この距離ならば、 懐から何を出そうとすれば濤羅なら一瞬で詰められる。 いくら彼女が魔法を誇ろうと無手で濤羅に敵うはずもない。彼が専心するは主の安全を 守ることのみ。なら、この部屋にフーケがいたところで何の問題もないではないか。 いや、そうではない。知りたくないのだ。彼女が自嘲の笑みを浮かべたその理由を。 己の無様さを突きつけられるような錯覚にとらわれ、濤羅はフーケから視線を逸らした。 それこそ自嘲の笑みを浮かべないように必死で自制しながら、眠るルイズの髪を撫でる。 逃げた、という自覚はあった。己の至らなさからではない。そこから生み出された悲劇、 妹の悲哀、豪軍の絶望。そしてそれに巻き込まれた無辜の人々の命。 それらに向き合うことから濤羅は逃げたのだ。 仁義。義侠。幇会。朋友。刀術。大切なものはいくらでもあった。だが、濤羅にとって 瑞麗こそが全てだった。他の全てを投げ打ってでも守りたいものは瑞麗だった。 事実、全てを、己の命すらも瑞麗のために投げ出した。 なら、今ここにいる濤羅に、何の意味があるのだろう。何の価値があるのだろう、何が 残されているのだろう。 いや、瑞麗のために捧げたと思っていたものですら、その真意に気付かなかったのでは そこに価値はない。 つまりは、濤羅の人生は全てが等しく無価値である。 「……いいのかい、もう聞かなくて」 「ああ。考えてみれば些事でしかない」 髪を梳きながら濤羅は答えた。フーケの声がどこか重々しかったことに気付きはしたが、 別段どうでもいいことだと切り捨てる。敵意がないならばそれでいい。フーケとて内心を 暴かれるような真似は好みはすまい。 だが、濤羅の予想に反してフーケは苛立たしげに舌打ちをした。驚いて顔を向ければ、 フーケはただでさえ悪い目つきを一層凶悪にしていた。 それでも、そこには敵意はない。似てはいるが、決して違う。 あるのは純粋な怒りである。 「じゃあ、何でその子がこの場にいるかも聞かないんだね。私なんかがこの場にいるって のにさ」 濤羅の心に、電撃が走った。 そうだ。ルイズの安全を思うならば、まずそこから考えるべきだったのだ。 彼女がこの場にいるのが、自分を心配して一緒にいるのは当然のことだと、濤羅は無意 識の内にそう思っていたのだ。 「まったく、いい根性してるよ。さっきまで殺しあってたってのに、あんたが死にそうに なると私に掴みかかって助けてくれって頼むんだ。泣きそうな表情浮かべながらさ、他の ヤツの水じゃ間に合わない、って。水を湛える「土」でもないと助からない、って。 信じられなかったね。それはつまりアタシにもう一度杖を持たせるってことだ。捨て身 になれば、一人や二人道連れにできるかもしれない。秘薬さえあれば、もしかしたら生き 伸びることだってできるかもしれない。第一、真剣に治療するとも限らない。 だっていうのにさ、あの子は周りの奴の文句なんか聞かないで私に杖を秘薬を差し出し たんだ」 それなのに、聞かなくてもいいってのかい――最後にそう言って、フーケはもう一度舌 打ちをした。まるで濤羅だけでなく、自分自身にも怒っているように。 そこでようやく、濤羅はフーケの自嘲の意味を悟った。 情に流された自分が許せないのだ。ただ命惜しさに取引に応じたことが情けないのなら、 濤羅にまで怒る理由はない。 彼女はルイズの思いにそれだけの価値を見出したのだ。それを踏みにじっている濤羅を 許せなくなるほどに。 「そうか……」 逃げるのではなく、ルイズの思いに答えるように向きなおりながら濤羅は言った。 「……そうか」 短く、もう一度だけ言って濤羅は黙ってルイズの髪を梳いた。 その指先が震えていることに、フーケは気付いただろうか。気付いているに違いない。 さもなければ、濤羅に食って掛かっても不思議はないのだから。 奇妙な沈黙が流れる。動いているのは、壊れ物を扱うかのように優しくルイズの髪を撫 でる濤羅の指先だけ。 その一撫でに、どれだけの想いが込められているのか。濤羅にすらわからない。 ただかつて妹にしたように、それでいて妹と重ねないように、細心の注意を払ってただ 濤羅は手を動かせる。指の間を流れる髪を見つめる瞳は、ハルケギニアにきてから見せた ことがないほど優しさに満ちていた。 「ん、う……ん」 身じろぎをして、ルイズが幼子がむずがるような声を漏らす。目覚めが近いのだ。 どこか後ろ髪を引かれつつも――そしてそれに気付かぬ振りをしながら――濤羅は手の 平をすっと戻す。と、それを証明するかのようにルイズの瞼がひくひくと動いた。 うっすらと、瞳が開かれる。未だ意識ははっきりとしていないのだろう。もたげた頭を 重そうに廻らせながら焦点の合わぬ瞳で辺りを伺うその様は、どこか子犬を連想させる。 もっとも、彼女の気分屋な性分からすれば猫のほうが正しいのだろうが。 「おはよう」 未だ胡乱から抜け出せないルイズに濤羅は極力優しく、かといって親しさを感じさせな い、そんな固さを残した声で目覚めを告げた。 一秒、二秒、三秒。部屋に沈黙が満ちる。五秒ほど数えた頃だろうか。途端、ルイズの 瞳に理解が宿った。 「あああああ、アンタ、いいいいいいいいつから」 とはいえ、お世辞にも冷静とは言い難い。濤羅が意識を取り戻したことを理解したが故 ではあるが、これでは寝ぼけていたほうがよほど落ち着いていたのではないか。先までの かわいらしい少女の面影はどこにもない。 濤羅をしてそう思わせるほど狼狽振りであった。 胸といわず腹や脇、顔にまで遠慮なく伸びてくる小さな手をそっと押しやって、濤羅は 軽く息を吐く。それでも、わずかに口元は歪んでいるのだけれども。 「目覚めたのは今さっきだ」 それにしても――と、息をついて、軽く瞳を細める。 「敵の前で眠るのは感心しない」 濤羅は部屋の片隅で笑みをかみ締めていフーケを見やりながら、ルイズに言った。もし 彼女に敵意が無ければ濤羅共々寝首をかかれていたに違いない。 フーケが更に苦笑を深くする。濤羅の過保護を笑ったのだろう。考えればわかることだ。 真実フーケが濤羅らを殺せるというのなら、その状況自体を他の皆が許すはずがない。 そしてフーケほどの手練れの対抗出来るとすれば、濤羅の目から見て、この中でおよそ 二人。ワルドとタバサだろう。 底の見えぬ男と、感情の見えぬ少女。ただ腕が立つだけではないだろう二人が、たかが 濤羅一人の命のために力を貸す。どうにも腑に落ちない話だった。 濤羅を見捨て、あるいはルイズの翻意を促して先に進む方がよほど筋のような気もする。 そこまで考え、濤羅は胸中で憐憫の笑みを漏らした。人を疑うことに慣れすぎた。いや、 裏切られることに慣れすぎた。 疑おうと思えばいくらでも疑える。そのための理由など、吐いて捨てるほどあるだろう。 その気になれば、信用するための理由すら片手で余るほど思い浮かぶ。 要は濤羅の心一つなのだ。 何を思って彼らがルイズ一人で居ることを許したのか。聞くまでは始まらない。聞いた としても、それが真実とは限らない。聞いても聞かなくても同じならどうでもいい。 濤羅のすべきことは、ただ一つ。 この目の前の小さな――体ではなく、心がだ――少女を、力の及ぶ限り守るだけである。 濤羅は気付いていない。自分がそのように決意していることを。そして、その根底には かつて妹と、義兄になるであろう男の真意に気付けなかった後悔があることに。 皮肉な話だ。濤羅がルイズの傍にいられるのは、ひとえに妹の幻影を重ねているからに 他ならない。でなければ、折れるほどに擦り切れた濤羅の心は耐えられない。 だというのに、その過去自身が最も濤羅を苛むのはその過去自身なのだ。 胸の鈍痛は内傷のせいだと己に言い聞かして、濤羅は数秒ほど瞳を閉じた。こひゅう、 こひゅうと調息に混じる掠れた音は、崩れた肺腑から漏れる呼気だろう。 二度と戻れぬはずの奈落の底から舞い戻れた対価としては、破格といってもいいだろう。 秘薬や魔法であっても、死者を舞い戻すことは出来ないのだから。 息を整えると、濤羅はベッドから降りた。素足に冷たい石造りの感触が冷たいが、靴が 見当たらぬのだから仕方ない。流石にベッドの上で仁王立ちというのもばつが悪い。 「剣と、服を」 剣呑な光を瞳に宿した従者を見て、ルイズもまたただの少女ではなく、貴族として、濤 羅の主としての思考に移り変わったらしい。気恥ずかしげに赤らんでいた頬はきっと食い しばったことで鋭くしまり、眦もそれ相応に険しい。 いや――少女としての側面もたぶんに残しているようだ。濤羅は即座に訂正した。その 拳は何らかの理由で小刻みに震えていた。 考え直してみてみれば、ルイズの表情は真剣と言うよりは怒りに耐えかねて、といった 風が近いように思える。 これに近いものを、妹ではなく彼女との付き合いの中で見たことがある。妙に焦る心を 押し隠し、濤羅は過去に思いを馳せた。ルイズとの付き合いはそれほど長いものではなく、 激昂させたとなれば更に少ない。 そこまで考えて、ようやく濤羅ははたと思い当たった。これは濤羅の記憶が確かならば、 濤羅の余命が幾ばくもないと彼女が知った時だ。 しかし、この場面で何故彼女が怒るのか。濤羅にはその理由が計り知れない。ルイズが 深く慕っていると傍目にも分かるほどの姫殿下からの任を全うせんとすれば、濤羅は何も 間違っていないはずだ。 今の今まで寝込んでいたことを別とすれば、だが。 「ああ、そうか――」 そうして、濤羅はわずかに顎を引いた。 「すまない。俺が倒れたせいで、無駄な時間をかけさせた」 ルイズの震えがとまった。 ああ、やはり自分の推測は正しかったのだと濤羅は胸を撫で下ろし、それが勘違いだと 気付くまでには、そう長い時間は必要なかった。 「……こ」 「こ?」 「こんんのぉっ、馬鹿犬ぅぅうぅぅううううう!!!!!!!」 ルイズが懐から鞭を引き抜くのを見た瞬間、即座に身を翻し、彼女らしからぬ素早さで 振るわれたそれを見事に回避せしめたのは、戴天流、免許皆伝の面目躍如だろう。わずか でも遅ければ、羽毛を撒き散らしている枕と似たような運命を辿ったに違いない。 ルイズが真実濤羅を傷付けようとしたわけではなかろうが、 「何避けてるのよ! 犬の分際でご主人様の折檻から逃げるなんて!!」 やろうと思えば、濤羅ならばルイズが次に鞭を振るう前はおろか、口を開く前ですら、 その手から鞭を、あるいは意識を奪うことも可能だったろう。 だが、怒りとも悲しみとも取れる光に潤んだ瞳が、濤羅の心だけでなく、肉体までをも 縛っていた。それこそ、鞭などよりもよほど素早い。 それを、ルイズは理解しているのだろうか。していないに違いない。素直な感情のまま ぶつかる彼女だからこそ、濤羅をこうまで揺さぶるのだ。 「なんで、なんでアンタはっ!!」 そうして振り上げられた鞭はついぞ振り下ろされることはなく。死刑判決を待つ囚人の 心持で、濤羅は木偶のように立ち尽くしていた。 一歩、ルイズが濤羅に歩み寄る。そのまま力なく濤羅の胸に額をこつんと預けた。 「馬鹿、馬鹿……ばか」 その声はその小さな体以上に震えていて。肩に手をかけることも、跳ね除けることも出 来ず、濤羅はその痛い沈黙に耐えるしかできなかった。 ひとまずは収まっていた胸の痛みは、いつの間にか無視できないほど強くなっていた。 前ページ / 鬼哭街/Zero / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6681.html
前ページ / 鬼哭街/Zero / 次ページ I/ 結局のところ、濤羅に与えられた時間はそれほど長くなかった。騒ぎを聞きつけてやってき たワルドらは二人の間に漂うただならぬ空気を察しはしたが、そこに言及することはなく、濤 羅が意識を失っている間のことを話し出した。 そのワルドの説明からすると、濤羅が意識を失っていたのはおよそ半日程度のことらしく、 これからようやく昼過ぎになるといった頃合だ。予定では今日出立するはずだったのだから、 雑事に時間を割く余裕はない。 「さて、これからどうする?」 事実、これまで紳士然としていたワルドの言葉にも若干の焦りのようなものが見受けられた。 その原因は間違いなく濤羅にあろう。いっそ死ぬか目覚めなければ任務に専念できただろうが、 生憎と濤羅は生き残ってしまったし目覚めてしまった。加えてフーケだ。 意識を失っていた間の事情がわからない濤羅ではあるが、だからこそ、このあまりの状況の 変化から事態の難しさを悟った。 しかし、不思議と焦りはなかった。奇妙な予感もあったのだ。ワルドは質問の口調こそ借り てはいるが、実質は豪軍と同じくその答えと、事態の収束への流れを知っていると。 だから、濤羅は何一つ答えず視線で続きを促した。相手が答えを持っているならば、わざわ ざ自分から瑕疵を作ることもない。 「やれやれ、連れないね。まあいい。君も知っているだろう。今日が最もアルビオンとラ・ロ ーシェル近づく日であることは。そのつもりで僕は動いていたし、昨日であっても魔法でどう にかするつもりもあった。 だが、まあ、昨日の襲撃でそれもご破算だ。いや、あれだけならば何とかなったのかもしれ ないが、使い魔君は倒れ、フーケという新たな荷物も背負ってしまった。 ああいや、君が倒れたことは別段責めるつもりはないよ。安心してくれ。昨日の襲撃での君 の活躍は並みのメイジでは不可能だったろうし、十数人の傭兵を相手取るなど死んでもおかし くないことだ。誇ってもいい」 しかし――と、そこで言葉を区切ってフーケを見やるワルド。 「彼女の扱いだけはどうにも困るところでね。一度捕縛した以上、恐らくは死罪だろうか殺す わけにもいかない。かといって連れて行くことも難しい」 大仰に肩をすくめ、帽子で視線を隠しながらワルドは頭を振る。どうにも演技過剰なところ ではあるが、かえってその意図はわかりやすい。そこまで含んでいるであろうが。 しかし、いったい何故そこまでするのだろうか。この中で最も集団で動くための経験を積ん でいるのは間違いなく軍人であるワルドだ。技量そのものでは濤羅とて匹敵、あるいは凌駕す るだろうがこの世界には明るくない。強く率いていけば、それが最善に近いだろう。門外漢の 濤羅の意見を聞くまでもない。 と、そこまで考えて、濤羅ははたと気がついた。彼が異邦人であることはルイズ以外は、誰 も知らないのだ。 仮に濤羅が彼の立場になったとして、まず何をすべきだろうか。相手の素性と力量。それと どれだけ使えるかを図ることだろう。人を使うことに慣れはしなかった濤羅だが、それなりに 組織の中での立ち回りについては経験も知識もある。つまりは、これまで信じるにも疑いにも 値しなかった濤羅の価値をワルドは昨夜の戦いで認めたことになる。 軽く嘆息し、濤羅はしばらくはやり取りに付き合うことにした。時間がもったいないことは 確かだが、それでも意固地になって無視を貫くことのほうがよほど有害だ。 「……この街の屯所に突き出すのは?」 「駄目だな。彼女はどういうわけか、厳重な王都の牢からも抜け出した。そもそも、今この街 の牢は手一杯さ。ならず者も多いし、何より昨日の騒ぎで、ね」 濤羅からしてみれば、そんなことは知ったことではない。彼はただ己の主さえ守れれば、そ れで満足だ。今更何もかも守ろうなど欲深いことは言うまい。 だが、それでも職業軍人のワルドとすればそうはいかない。そして良識ある他の面々も彼に 同意のようで、逃げられようが困ろうが知ったことではない濤羅と考えが違うのは明らかだ。 では、口封じに殺すことが不可能な以上残る選択肢はそう多くはない。 「連れて行くか、誰かがどこかに護送するしかあるまい」 その答えを待っていたようで、ようやくワルドは満足そうな笑みを見せる。しかし同時に、 失言をしたわけでもないはずの濤羅の背筋には悪寒も走っていた。ワルドの笑みも確かに薄気 味悪かったが、その発生源はまた違うところにある。 見れば、キュルケとタバサの二人は傍目にそれとわかるほど不平を顔に浮かべていた。 「だ、そうだ。二人とも」 そうしてワルドが振り返ったところで、遅まきながら濤羅は気がついた。これまでワルドは 一度としてキュルケとタバサに語りかけず、二人もまたワルドに視線すら向けていなかったこ とに。 事情をこの中で知らないのは濤羅だけだから意識が集中するのも当然と思い込んではいたが、 それにしても迂闊が過ぎた。護送をするのであれば、人を割くのは当然ではないか。 恐らくはワルドは前もって二人にその旨を告げていたに違いない。答えを誘導した節はある が、その上で濤羅の口からも同じ選択肢を引き出したのだ。 「それで、使い魔君。体の調子はどうだい?」 濤羅の表情の変化から理解を察したのだろう。ワルドが言葉を重ねる。 確かに、ワルドは答えを持って問いかけていた。さして意味を持たないはずの濤羅の答えに すら、力を持たせる程度に。そして、濤羅にはそれを跳ね除ける意志はない。 「……昨日と同じ程度には動けるだろう」 「それは重畳。君がいるといないとではそれこそ戦力に雲泥の差が出る。可愛いルイズを守る ためにも、ぜひ来てくれなくては」 軽く失望の色を見せる二人から、濤羅は素知らぬふりで視線を外した。その先にいるのは、 恐らくは濤羅と同じく事情を知らないはずの主の顔だ。わけがわからないといった風に疑問を 顔中に浮かべている。 彼女を守るため、とワルドは言った。確かにそうだ。そのためならば、濤羅は今一度剣鬼と なる。かつてほどの鋭さも純度もないだろう鈍(なまくら)でしかないが、それでも遠く濤羅 が知らぬ場所で彼女が傷つくことを思えば、胸を突く鈍痛も涼風のようなものだ。 親しげに伸びでくるワルドの手を見るまでもなく避けると、ルイズに語りかける。 「剣と、服を」 時間はあまりないのだろう?――と、残りの半分はルイズに語りかけるつもりでワルドへ。 硬い濤羅の反応にワルドは苦笑し、キュルケとタバサは不思議そうに眉を顰め、ギーシュは ただおろおろとしていた。何の反応も見せていないのはフーケぐらいだろう。このままではま たも断頭台送りだろうに豪胆なことだ。 とはいえ、やはりそれも些事である。二、三言葉を交わしただけの女。それも敵のことなど 思い悩むことはない。むしろ、積極的に忘れるべきである。濤羅は見知らぬ誰かにまで心を掛 けられるほど強くはない。 「嫌な、仕事を頼む」 その気まずさを誤魔化すように、キュルケとタバサと別れる段になって濤羅は謝罪した。 「まあ、仕方ないわよ。二人のミスタが口をそろえて同じ答えを出したのだもの。その結果に は従うわ」 「……合理的であることは、否定しない」 それで濤羅の心が晴れることはなかったのだけれど。 普通の学生が死罪になるであろう犯罪人の護送をするというのはいかにも重たいのは、濤羅 ならずともわかることである。ルイズもわずかではあるが、ばつの悪そうな顔をしていた。 いや、それを言うのであれば、昨晩の争いそのものも同じだ。あの時死んだ人間の数は両手 では足りない。ほとんどが濤羅の手によるものだとしても、その責任の一端を感じていないは ずもない。 事実、この中で顔色を悪くしていないのは――濤羅はまた理由が違うが――ワルドぐらいの ものだった。あれだけ啖呵を切ったルイズも派手に騒いでいたキュルケもどこか精彩を欠いて いる。鉄面皮のタバサとて表面上は平静に見えるが、その内心がどうかなどわかるはずもない。 そう考えてしまえば、これから更なる騒乱の只中に飛び込むのだ。戦力は少しでも欲しいと ころだが、彼女らを送り返すのは道理でもある。そもそも女王陛下からの密命とは無関係なの だから余計にだ。 いっそ自分とワルドだけで――そう考えたところで、濤羅はかぶりを振った。 何を考えているのか。濤羅が凶手として数々の任務を果たしてこれたのはサイバネ全盛期の 時代に生身であるという相手の油断があってこそ。無論、彼自身の高い技量がなければいつ命 を落としてもおかしくはなかったが、その油断に自らが肩まで浸かってどうするのか。 まして、ここは異世界である。濤羅の常識など何一つ通用しない。 時限爆弾を抱えている濤羅が驕れば、即座に果てることとなるだろう。 頼りない自分を頼る小さな少女がいる。その自戒がなければ、恐らく濤羅は己が望むままに 死に向かって突き進んでいただろう。その誘惑は決して彼の中から消えはしないが、それでも わずかなりとも濤羅が人として正常に判断できるのは、ルイズの存在があってこそだった。 II/ 桟橋と言うからには埠頭があるのだろうと思っていた濤羅の予想を、しかし魔法の世界であ るハルケギニアは容易に裏切った。なんと、丘の頂にある巨大な木そのものを船の係留として 利用していたのである。まして、その船が空を飛ぶなどと。 濤羅の世界にも管制に従って空を走るSVがあるが、あれは純然たる科学の代物であるし、大 きさもそれと比べればずいぶんと大きい。とはいえ、ハルケギニアの住人から見れば、金属の 塊が時速数十キロを優に超す速度で流れるように走る光景というのも想像だにしまい。 今更ながらに異世界に来たことを実感している濤羅に、ルイズは訝しげな視線を投げかけた。 「どうしたの、驚いたような顔をして」 むしろそちらのほうが驚きである、といった含みがあった。入り口として空けたのか、はた また、洞を利用して入り口を作ったのか。根元へと吹き込む風にあおられるルイズの瞳には、 はっきりとした不安の色が浮かんでいた。 これから本当に戦争の地へ行くんだという実感と、それほど親しくないとはいえ級友と離れ てしまったからだろう。付け加えれば、濤羅の体調への懸念もあるかもしれない。 心配――という言葉を心の底に押し隠し、濤羅が外地での任務へと赴くたびに憂いを見せて いたかつての妹の面影が強く懐き過ぎるのだ。 そこまで重ねてしまってはルイズに、瑞麗に、そして濤羅自身に不幸しか齎すまい。 「……何でもない」 さりとて、ルイズにかける言葉が思いつくはずもなく。わずかに言いよどむ気配だけを残し、 濤羅は再び歩き始めた。 先導するワルドは振り返りもしていなかったが、それでも歩みそのものは緩めていたので追 いつくのはルイズの足でも難しくない。 そうして、濤羅は追いついたワルドの背に違和感を覚えた。 ワルドであれば、ルイズの不安に気づいてもおかしくはない。仮にも従軍経験者だ。その上 婚約者でもあるというのに、その彼女に配慮をしないというのはいかにも解せない。 己が気を配るよりも、この男のほうがよほど機微を知っているだろう。不審を思いながらも、 楽になるために濤羅はワルドに声をかけようとし。 しかしその前に小走りになっていたルイズが段差に躓いた。「きゃっ」と、小さく悲鳴を上 げる暇こそあったが、それでどうにかできるほどルイズは素早くない。せいぜいが、反射的に 腕を突き出すのが精一杯だ。それでは角に腕を強かに打ちつけてしまうだろう。 風にならんと濤羅が一歩踏み出そうとして、しかしまたしてもその機先を制された。武とは 違う、舞のような優雅さでワルドが振り向きざまに小柄なルイズを受け止めたのだ。 舞踏会であれば、声の上がったことだろう。無骨な濤羅には到底無理な所作だ。 実を言えば、濤羅のほうがよほどワルドよりも先んじていた。ワルドに気を割いていたとは いえ、前を行くワルドと背後に控える濤羅であれば、それが道理だ。仮に後れを取っていたと しても、遅きを以って速きを制すのが戴天流である。濤羅が後れを取るはずもない。 だがそれでは、このような舞のごとく受け止めることは不可能だっただろう。技量の差では なく、それを己に許す余裕が貴族のワルドにはあり、死に損ないの濤羅にはない。 その自覚が、ワルドの意を捉えた濤羅の足を止めたのだ。折りしもルイズはワルドに任せた ほうがいいと考えたばかりではないか。これでいい。 「大丈夫かい、僕の小さなルイズ」 小さく笑う濤羅の前では、ワルドがルイズを立たせていた。その動作にすら気品がある。 「すまなかったね。少し先を急ぎすぎていたようだ」 「と、とんでもないわ。急がなくちゃいけないのはわたしにだってわかるもの。むしろ、足を 止めさせてしまってわたしの方こそごめんなさい」 答えるルイズの頬が赤いのは、羞恥か照れか。どちらにせよ、濤羅にかかずらっているより はよほど十代の少女が浮かべるに相応しい。 これで争いの場に向かうのでもなければ、きっと濤羅は寿げたことだろうに。忸怩たる思い が濤羅の胸に陰りを作る。 「良いのかい?」 「何がだ?」 その内心を知ってか知らずか。恐らくは濤羅が浮かべた苦い表情に気づいたのだろう。小声 で問いかけてくるギーシュに濤羅は同じく小声で返す。 低く抑えられた声はその意図もないはずなのに何故かギーシュを小さくさせた。あるいは、 戦争への懸念が険となって出ていたのかもしれない。片眉が跳ね上がったのも悪かったろう。 いずれにせよ、それ以上気を払う意味も見出せず、濤羅は黙り込んだ。ギーシュが口ごもる ばかりでそれ以上問いかけてこないのだから仕方ない。 しかし、この光景を見て胸がざわめくのは何故だろうか。 決して愛ではない。嫉妬でもない。執着ですらないだろう。ルイズに心惹かれる何かがある のは確かだが、それは死の誘惑に勝るものではない。 忘れてはならない。濤羅の心には死を厭う心がありながら、同時にどこまでもそれに魅せら れていることを。 かつて復讐に身を焦がしていた頃は、その願いが叶えばすれば命すらいらぬと思い、死んだ はずの瑞麗が甦る知れぬと思えば命を惜しみ、幼き彼女との生活が続けば余生が欲しいと願い、 そして今は――義兄の恨みと、妹の真意から逃げている。 死はその逃避先だ。ルイズを思いながらも戦いから遠ざかれないことがその証左である。 人の心は虚ろうものだ。 まして、その心が弱ければ何にも増して、誓いは儚い。 今更何を心の奥底で願っているのか。気に病んでいるのか。 その正体を突き止められず、濤羅は顔を翳らせたままワルドに付き従うことしかできなかっ た。 ほどなくして、外に出る。とは言うものの、大地に降り立ったわけではない。太く張り巡ら された枝の一つの出口にたどり着いただけだ。 その先では、一つの帆船がいくつもの縄によって吊るされていた。横に取り付けられた羽の ような板といい、中空にあることといい、どうにも濤羅の目からすれば大きなおもちゃにしか 見えないが、それでも誰一人笑いもしないのだからこういうものなのだろう。 離れたところでは、ワルドが船員を捕まえ、船長を呼び出しているところだった。杖を突き つけたところで濤羅の眉根がわずかに寄るが、ルイズもギーシュも止める気配はない。 こういうものかと改めて自らに言い聞かす。元より、かつて青雲幇にいた頃の濤羅とて、力 に訴えて物事を進めたことは実のところ一度や二度ではない。いくら好漢と知られていようと、 基本的に裏家業の人間なのだ。 それに、対応する船乗りを見ても、そう柄のいい人間でないことはたやすく理解できたのも 確かだった。密輸、密航、それに類するものか。あるいは、この戦乱で一儲けしようと商売に 勤しんでいるのか。 とまれ、尋常な手合いではない。 流石に私略すれば濤羅とて黙ってはいないが、ワルドとてそこまで恥知らずではないだろう。 事実、商魂逞かろう船長との話し合いは、双方の笑顔で締めくくられていた。無理矢理とも なればこうはいかない。 「さて」 慌しく船員に命令を出す船長を背後にやりながら、振り返ってワルドは言った。 「ここからが本当の戦場だ。心構えはできているかな?」 つば広の帽子を指先で押し上げるその様こそが、実感とはどこまでもかけ離れていた。 前ページ / 鬼哭街/Zero / 次ページ
https://w.atwiki.jp/bmrog/pages/478.html
【GM】では、紹介はシートにありますがよろしければご挨拶とかをどうぞ はいっ…では…(こほん 【諷華】「……始めまして。…西行 諷華と申します。」すっとお辞儀して。 【諷華】「天原のある集落で神職の手伝いをしていたのですが…ある夜、啓示を受けて、それに従い各地の見聞を広める為に旅をしています。」 【諷華】「龍華帝国については色々憧れもありまして、足を運びましたが…」 【諷華】「天原の文化の原点ともいえるここでは学ぶことも多そうですし……これも天のお導きですね…」 【諷華】「…袖刷り会うも他生の縁、とも言いますし…皆様、よろしくお願いします。」 19歳のエルフ僧侶、只今龍華の地域を放浪しつつ、見聞を広めたり時には手助けしたりしています。 ちょっとエルフにしてはちまい背格好ですが、れっきとした成人前、色々と引っかかることはないはず…多分(てへ http //www.grifis.net/trpg/wiki/wiki.cgi/15thmoon/HC?page=%C0%BE%B9%D4+%EB%E5%B2%DA 以上ですっ 【GM】はい、ありがとーございます 【GM】では、今夜はそんな高貴なお方が陵痴監獄に送られる羽目になる顛末をお届けしたいと思います は、はわっ、お手柔らかにお願いしますっ(ぺこり 【GM】ではでは。 【GM】 【GM】 【GM】†HeroineCrisisTRPG† 【GM】―龍華戦記― 【GM】 【GM】【鬼女も啼く街・電光石火鬼哭GUY】 【GM】 【GM】 【GM】◆オープニング 【GM】そこは鬼も哭きむせぶ街と呼ばれた龍華でも随一の暗黒街だった。 【GM】荒野に無法が、外つ国からは魔族の侵略と、龍家の衰微と官僚の腐敗、全身に疾病を抱えた巨大な老いた龍、というのが諸外国の現在の龍華に対する見解であった。 【GM】わけてもこの街、鬼人街と呼ばれた亜人たちと逃亡奴隷の造り上げた暗黒街はそういった病める部分を蟲毒のごとく吸い寄せて煮詰めた悪徳の京として、政が腐敗すればするほど栄えていったという 【GM】そんな街の入り口に、小さな、本当にちい~~さな、かよわい少女が一人、荒野の風に吹かれて立ち尽くしている▽ 【諷華】「………噂には聞いていましたけど…」錫杖を片手に…入り口から、町を見上げて… 【諷華】「……(いえ、百聞は一見にしかず、それに……こうして寄ったのも、何かの縁…何かできることだって、あるかもしれない。)」目を閉じ…開いて。…門番さんなんかは…いますかね? いなければそのままとことこと踏み入れてみようかと思います。…外見だけでも…なんだかすさんでそう、ですし 【GM】おりません。かわりに西部劇などでよく転がっているあの草が出迎えるように転がっています 【GM】ただその門をよく見るとですね・・ 【GM】『この街に踏み入ったら娑婆に帰るのはまあ諦めとけ』 【GM】みたいな意味の龍華の文字と、そろそろいい具合に乾燥した縛り首になったらしい亡骸が風に揺られています。ぶらんぶらん 【GM】というわけですが、街に入りますか? 【諷華】「この町に…踏み入ったら……コレは何て読むのかしら……ぁ…。」龍華の文字はまだ其処まで慣れているわけでもなく…娑婆(シャバ)が読めず、ちょっと首を傾げた後…近くの無縁仏さんに気付いて 【諷華】「…この方は……ん…。」そっと、その人の前で…丁寧に手を組んで (埋葬…まで出来ればいいケド…難しいかな。)>亡骸さん 【GM】君の身長だと少々一苦労ですね 【GM】街で梯子でも借りればあるいはですが、そんな気の利いたものがあるかは、行って見ないとかな。 とりあえず無縁仏さんをせめて成仏できるように…祈った後、中に入りますっ>GM 【GM】はい、ではそこでシーンを切りましょう 【GM】 【GM】 【GM】 【GM】◆聖僧諷華、奸智の罠に陥れられるのこと 【GM】かくして君は悪徳と修羅の街に神の教えを説こうと、か、あるいは仁慈を施すためかはいまだわからないが。 【GM】ともあれあえて修羅の巷に教えを体現すべく、鬼人街へと足を踏み入れたのだった 【GM】最初に目に付いたのは、死んでいるとしか思えない物乞いだった。 【GM】次に目に付いたのは、路地裏からはみだした女の足で、時折痙攣するのが、生きてはいる証明に思えたがその声は人間のものとは思えなかった 【GM】最後に目に留まったのが・・ 【GM】『い、いやだっ・・やめてくれぇええ―ッ!!』『うるせえ!たとえこの街でも盗人は捕まれば叩き売られるか手足を落とされるかだ!』てめえの棺おけなんぞ作る金を出す奴がいればぶっ殺すがなあ! 【GM】弁髪の巨漢が青竜刀を振り上げて目隠しされた痩せた男の腕をたたっ切ろうとしているところだった。 【GM】『てめえの腕を落とす賃金なんぞいくらだと思ってる!暴れるんじゃねえ!』あろうことか見世物がわりにされてお捻りが飛ぶ始末だった。 【GM】君が見守る前でその刀は振り上げられて・・▽ 【諷華】「――っ…」想像以上の惨景に…小さく、俯いて。自分ひとりで出来ることなどたかが知れているものの…何もせずにはいられず、物乞いさんにせめての食料を、倒れた女性にそっと僅かな治療を施した後で…「この声…いけない!」 【GM】お、おおう 【GM】どれに行くかと思ったが全部! 【GM】まあ手際がよいということで、OKですw ん、どれもほおって置けないのでっ…で、もって…! その人を庇うように…立ちふさがって良いでしょうかっ・・・?>GM 【GM】はい、どうします? 【GM】OK。では・・ 【GM】「うおっとお・・!?その格好・・坊主か?なんだ、こいつの葬儀代でも貰いに着たのか?」 【GM】さすがに聖職者の威光は異邦の地でも通じるのかその刀は止まりますが、役人らしい男は怪訝な顔で君を見ていますね 【GM】「・・坊さんにしては、幾らなんでもちっこいな?」本物かどうか図りかねているご様子 【諷華】「いえ…しかし、咎人といえど、無闇な殺生はなりません…どうか、どうかその刃をお納めくださいませんか…!」 錫杖片手に盗人と思しきものを背に庇いながら…幼い顔が、その役人らしき男を見上げて。 【GM】「そいつは構わないぜぇ・・だがそうだなあ」君を値踏みするように見て。 【GM】「なんだったらあんたがこいつの代わりに罰を受けるってのかい」ぎらりと刀を光らせて君に迫ってくる 【諷華】「……」じっと、ただ只管…その瞳を見上げる。何を見られているかまでは判らないが…「……構いません。…盗んだものに相応する額を払えというならば…支払います。…命も…」小さく息を吸った後「放浪の身ですが、私の命が…この方を赦す、ことになるならば。」頷き…言い切る。出なければ…庇ったりはしないし 【GM】「ちっ・・」そう言うと男は顔を背けて「坊主を殺すとたたりがあるって言うからな、仕方ねえ、こいつの盗んだ食い物の代金を・・?」そう告げたところで間抜けな顔をして君の背後を指差す 【GM】振り向きますか? 【諷華】「……有難う、ございます。では…」と一応旅用のお金の入った袋を取り出そうとして…振り向きましょうか。 【諷華】「……?」指差されるままに…振り向いて 【GM】ひっとらえられていた男はいつの間にか縄を食いちぎって、影も形も見えないところまで逃げ延びて。そして・・ 【GM】君は気づきますね。 【GM】取り出した袋の底が破けて、というより切り裂かれてわずかな路銀も霞のように消えています 【GM】「逃げられたじゃねぇーか!どどど、どうすりゃあいいんだ。これじゃあ獄長の罰が・・」巨漢が脂汗を流しながら本気で怯えている 【GM】おそらくはあの男がかばわれた際に自由になった腕で・・とは思いたくはないが君に一番近かったのは逃げ出した罪人です 【GM】もっとも、この街に限らず罪人でないものなどこの世にいるのでしょうか、というのが君の神の教えにもありますが。 【諷華】「ぁ、お待ちなさ……ぁ」盗まれたのだ、と知ったときには…もうすでに路銀は奪われ、盗人も逃げ去った後で…唖然としてしまう。 【GM】善意は容易く踏みにじられ、悪漢だけがその日の命を繋ぐ、それが鬼の啼く街、鬼人街だった・・が、ともあれ 【GM】「こいつは、金よりお前さん自身で払ってもらうしかなくなったなあ・・」たたりを恐れているのか渋い顔をして、君の肩を叩く巨漢。 【GM】「まあ、坊さんぐらいの別嬪なら子供でもすぐに保釈金は稼げるぜえ・・獄中で」そうにこやかに笑うと君の襟首を掴んで、歩き出しますね 【諷華】「………(斯様なまでに罪を重ねるとは……)」俯き…小さくため息をつく。「……私自身、で…命ならば…先ほど申したとおり、ですが…きゃ!」意図がつかめず…首根っこを掴まれてぷらーんとぶら下げられ… 【諷華】「ぁ、あの…一体私は何を」すればいいのか、と言う間もなく…連れて行かれてしまい… 【GM】「なあに、すぐにわかるぜ」男の笑顔から察するに皿洗いや家事手伝いという職種でないのは確かだった。 【GM】 【GM】 【GM】こうして君は謂れのない罪?で、具体的には罠の解除条件を満たすまで身体で稼ぐことになったのだった 【GM】 【GM】 【GM】◆聖僧諷華、身代金を貞操で償うのこと。 【GM】かくして君は、到着早々にこの街で最も危険とされる、冥府の鬼も震え上がる獄吏たちの集う陵痴監獄へと収監されることになるのだった 【GM】だが、そんな風評など知る由もない君にはそこは・・ 【GM】ネオン煌き、喧騒と退廃に満ちた龍華風の豪奢な酒家(BARとかそんな)にしか見えなかったが・・▽ 【諷華】「……町の入り口とは、全く違うのですね……(せめて…せめてここに回る富が彼らにもいきわたるのならば…アソコまで困窮することも、なかったでしょうに…)」つれてこられながら…感想を溢して… 【諷華】「ところで……聞きそびれましたけど、本当に何をすれば…?」皿洗いや家事手伝い…という雰囲気にはとても思えず… 尼僧がつける頭布の下で、不安も少なからず混じった瞳が…つれてきた役人さんを見上げる。 【GM】「あ、ああ?そうだな、まあ坊さんじゃ仕方ねえか・・具体的に言うとだな」あっという間に君に・・がちゃりと。 【GM】首輪と手枷足枷が嵌められて、幼い体に卑猥な皮の衣装が僧衣の上から押し着せられる 【GM】「ちょっと、この中で、お客さんの相手をしてもらうダケダヨ・・?」そう言うと、君の首輪についた鎖を鳴らしながら、どう見ても奴隷商人の面で君を建物へと連れ込んでいく 【諷華】「ぇ…きゃ!?」冷たい枷の感触と、ゆったりした法衣の上から拘束する衣装に…目を白黒させて「ぇ、え、ぇ…?」 【GM】そして君は、酒家のテーブルへとつく事になった・・周りにいるのはいずれも、羽振りのよさそうな(同じぐらい人相の悪い)男たち。 【諷華】「(い、一体これは…)っ…く…」くいっ、と首輪につながれた鎖に引き寄せられて…僅かな苦悶を溢しながら…大人しくついてきましょうかっ・・ 【GM】【淫靡なる虜囚】として捕らえられた君には男たちに抵抗することも、逃げ出すこともかなわない事だった。今の君は囚人なのだから・・ 【諷華】「ぁ、ぁの……これは…?」自分より大きな(大半の男はそうなのだが…;)どこか強面の男たちに囲まれて…戸惑いに揺れる瞳が男達を移す。…その長い耳も何処か不安にしゅんと垂れて じゃあ…とりあえずこの時点で無垢なる純情、いけるでしょうか…シーンアクトとして。 【GM】あ、その前に一応罠を。 【GM】それと絡めて参りましょう あ、了解ですっ 【GM】では《乱打》《アイドルハント》《迂回攻撃》《解除不能:条件あり》《[能動]禁止》 【GM】3d6+1 【ダイス】NO_GM - 3D6+1 = [1,3,3]+1 = 8 【GM】ダメージの割り振りだけお願いします 【GM】そして以後は能動禁止、社会的な枷により手が出せない、と思ってください ん、8点か…胸APに割り振って残り2点に。…そして…あ、モット適したアクトがあった…突き刺さる視線っ。 【GM】まあ魔法が使えないだけなんで殴るぐらいは出来ますが(笑 【GM】ハイ、では参ります 【GM】「おう、新しい娘かい」「尼さんみたいな服着てるがどんな難癖つけられて連れてこられたんだい?」 【GM】がはは、と笑うこわもてのおじさまたちが小柄な君を挟んで、文字通り膝突き合わせて酒臭い息を吐きかけてきます 【GM】周りにいるのは龍華風の衣服を来た成熟した女性ばかり。君の鎖と衣装は嫌でも目立ちます。これはこれで有る意味刑罰なのかもしれないが・・ 【GM】明らかに幼い、そんな君の身体にも男の好色な視線は注がれる。知識がなくてもその目に欲望が滾っているのが見て取れる・・ 【諷華】「っ……いえ、私は…」お酒の呼気に思わず顔を顰める。生まれてこの方、殆ど酒等嗜む事がなかったために…その匂いにすら顔を顰めて…好色な視線に俯く。「…ただ、咎を…請け負っただけ、ですから。」 【GM】「へえ、身体で払おうってか」「この街のもんじゃねえな・・そんな殊勝な奴ぁここじゃあっという間に売り飛ばされるか・・」なんだか物騒な話も聞こえる中、君は彼らに促されるままに酌をして、あるいは逆に酒を強いられる・・ 【諷華】「売り、飛ばされる…身売り、なのですか…ぁ、えっと…」小さな手の平で、言われるままに酌をし… 【諷華】「お酒…は、私は……」飲めない、と言っても断ることは出来ない流れで…こく、と小さな唇がお酒を飲み…「……苦い…」素直な感想が零れる 【GM】その間も視線は、いつしか肩をはだけられた胸元や、裾から覗く脚に注がれているのが酔い始めた君にもわかった 【GM】そうしているうちにいつしか夜は更けていき、客はともかく君に酒も手伝って眠気が襲ってくる 【諷華】「ぅ……そ、その…じろじろと見ないで…下さいますか…?」視線に時折身体を…隠すことは出来ないので、思わず背を向けそうになったりもしながら…少しずつ少しずつ、お酌をしていく足取りが重く、、ふらつくようになっていき… 【GM】おっといけねえ。そう言って君を支えた腕が誰のものか、その時の君には既に、わからなくなったまま 【GM】君の意識は睡魔に囚われて落ちていく・・ 【諷華】「…どう、ぞ…ん…」幾度めかのお酌をした後…眠気が襲い始めたのか、菫色の瞳がふらふらしょぼしょぼとして…「…ぁ…す、みませ……」倒れた、と自覚する前に…意識が途切れる… 【GM】 【GM】 【GM】◆諷華、改めて虜囚となり辱めを受けるのこと 【GM】君が痛む頭で目を覚ますと・・そこは簡素な寝台と、厠、だろうか、おまるのようなそれがあるだけの殺風景な窓のない部屋だった。 【GM】昨夜の記憶は途中からないが君は咎人としては奇異な扱いを受けたあと泥酔するまで飲まされて、倒れたところまでは覚えている 【GM】唯一見つけた扉らしき場所は南京錠で厳重に閉ざされており・・君の服も、裸同然に昨夜の首輪と手足の枷がそのままの囚人らしいものに代わっていた▽ 【諷華】「……ん…」眠い目をこすろうとして…枷の部分がごつり、と瞼に触れる「…コレ……そう、だ、私…」今は咎を請け負っているのだということを…二日酔いだろうか、幾分優れない頭で…何とか思い出し 【諷華】「……暫くは、ここで…暮らすことになるのかしら。」殺風景かつ必要最低限のものしかないその部屋に…小さくため息をつく。…このような生活自体は…まだ、耐えられるだろうが…「…服…は…」やはり枷と…奇妙な布服のみに覆われていて…酷く、頼りない 【GM】そんな君の耳に、扉の鍵が開く音が届き・・ 【GM】ぬう、と獄吏らしき覆面の男性が食事らしきものを持って入ってくる 【諷華】「ぁ……」やや卑猥とも思えるその拘束服姿を…誰かが入ってきた瞬間、思わず身体を僅かに縮こまらせ、隠してしまう。 【GM】そして獄吏は食事を置くと、なにやら異様な器具を取り出して・・ 【諷華】「……(余り、人様に見られたくは…ないです…し…)…お食事、ですか…?あ、ありがとう、ございます…」覆面の男を恐る恐る見上げて・・・小さくお辞儀をし…「…それは?」その器具に視線が落ちる 【GM】無言で怯える君の腕にその鋭い先端をあてがう 【GM】まあ《七色の淫毒》《イビルフォース》の演出ですが。 【GM】2d6+7 【ダイス】NO_GM - 2D6+7 = [5,1]+7 = 13 【GM】こちらは受動可能です。 …えーっと、胸を飛ばして…鎧の残りは腰とその他の4点ずつのみ、BSは…催淫を貰いましょうか。 【GM】アクトがなければBS進呈して、罠が発動。構成は先ほどと同じで。 【GM】3d6+1 【ダイス】NO_GM - 3D6+1 = [1,6,4]+1 = 12 でもって、ダメージに対しては【小さすぎる胸】、罠に対しては…その他を飛ばして【無垢なる純情】いいでしょうか? 【GM】あ、OKでーす 【GM】ではアクト処理とシーン演出まとめて。 【GM】獄吏は無言で君の腕に奇妙な液体を注射すると、暴れる君の胸・・を掴めずに。 【GM】びりぃっ 【GM】既に肌着同然の衣服の胸を引き裂いて、その際に草履や足袋も脱げてしまいます 【GM】あらわになった君の胸に視線を注いだあと獄吏は・・まじまじと、君の薄い胸を見て。 【GM】ごっつい指で摘もうとしますが、その突起は獄吏の指では摘めず、ただ撫でるだけ。 【諷華】「つっ…!い、たい……」チクリ、と注射される何かに顔を顰め……戸惑うままに衣服を剥ぎ取られて…「な、何をなさるのですかっ…?」顔を赤らめ、枷をつけられた腕が、思わず胸元を隠そうとするも…叶わず 【GM】『??』という表情を浮かべて・・獄吏は、君の股間に掌をあてがいますね 【GM】ぺた、ぺた、もにゅ、もにゅと君の股間の恥丘が揉まれて、確かめられる 【諷華】「きゃ…!…っ、む、胸、など触って…何…ひゃ!?」思わず怯み、触れられた身体をよじるが…一瞬、ぴり、と何かが痺れたように感じて「ぁ…そ、そこは…!ま、ってください…そこは…」自身の秘部に…宛がわれる指に…足を閉じて… 【GM】『お、おめえ女か。女用のくすりっていわれだけどまぢがえだがと思っだ・・』開口一番の言葉がそれだった 【GM】覆面のしたからくぐもった声が漏れます 【諷華】「………さりげなく、酷いことを言われた気がします。」元々そっち方面には疎いけど…でも男と思われたのはあんまりだと思って。 【GM】『ず、ずぐによぐなる・・ぞれまでおがしぐならねえようにじでろ・・』そう言うと、君の鎖の重石を説いて、壁に繋いで。 【GM】少しだけ話せたことで相手も人間なのだと安心したが、やがてその言葉どおりに君の身体に異変が起こる・・ 【GM】全身がむず痒い。いや・・つままれ、揉まれた場所は女性として大切で敏感な場所だが・・先ほどのような痺れを今まで感じたことはあったろうか? 【諷華】「直ぐに…?……ぁ、ぁの…」どういう意味か、と壁につながれるままに問おうとして…「――ぇ…?」一瞬、視界が…ゆらぎ、その僅かな痺れが…全身を通る。「ぇ…これ…」どこか、漏れる声も掠れて…力が/・でない。 【GM】手足を拘束されてはそれを確かめるために触れることさえ出来ないまま、その痒みは、もみほぐされた股間から、弄られた乳首から・・床に着いた御尻からさえじんじんと痛いほど広がっていく・・ 【GM】『ぞら・・めしだ』ぐらぐらと未知の感覚に全身を揺さぶられる君に獄吏は、粥をすすらせるが・・ 【GM】ぞるるっ…! 【GM】冷めた粥が、舌を舐り、喉を通ろうと流し込まれる、その感触が・・! 【GM】先ほどの、秘所と胸を触れられただけで感じた痺れの数倍に・・そう 【GM】先ほど打たれた薬が回り・・いま、君の敏感な味覚・・舌は、味の代りに、食事さえ快楽と感じる性器と化していた・・! 【諷華】「ぁ…く……これ…ん、何…なに、が……」つながれ、身動きできないまま…僅かなむずがゆさに身じろぎ… 【諷華】「ぁ……は、ぅ……ん、く…ん…!?」こっくん、とおかゆを飲み干し…舌を流れるやや冷えた粥の感触すら…奇妙な快感に包まれて…「んく…ん、んぅっ…!?」 【GM】『へへへ。・・またぐら、さわらねえほうがいいぞ』薬が効いてるうちに自分で弄ってぐるっだ女はいっぱいいるがらな・・ 【GM】そう言うと、親切?な獄吏は再び扉を閉めて去っていく 舌をびりびりとむずかゆさが広がっては小波のように引き、流し込まれてまた奇妙なむずがゆさを覚え…ぎゅ、とつながれた手の平が小さく、堪えるように握られる… 【GM】あとに、食事を嚥下するだけで感じたこともない悦楽に至り痙攣する・・いや、もはや呼吸や唾液を飲み込むだけで、狂いそうな性感が走る幼い身体を強制的に開発された君を一人残して・・ 【諷華】「ん、くふ…んぁ……ぁ…は、ぃ…」奇妙な快感に捉えられたまま…ぼうっと意味も判らず獄使に頷いて…「ふ…ぅ……ん、く…ふ…ぁ……(い、ったい……私…何、おきて…ぁ…ぁ…身体が…)」 【GM】そんな疑念もいつしか桃色がかった霞に飲まれて・・ 【GM】君はその日一日、眠りにつくごとに幾度も唾液で、舌の動きの刺激で軽く達しては目覚め。尿意が迫り、それを解き放つたびに気絶しそうな開放感に襲われて過ごした・・ 【GM】 【GM】 【GM】◆諷華、冤罪を純潔にて購うのこと 【GM】そうして一日が経ち、君は眠りすら満足に取れぬまま、翌日を迎えた 【GM】既に陰部も肛門も、排泄の予感のたびに全身を震わせる刺激が走り、尿を放った際には気絶したこともある 【GM】何もされない。それがその日の君への刑罰であるとその時の君には知る由もなかったが・・やがて日が昇り、食事の時間が来て。 【GM】扉が開く。あの獄吏と・・最初の夜、酌をした幇会の頭らしい男性が入ってきた 【GM】【男性】「よう、小さい坊さん、元気そうだな・・あんたが捕まった理由ってのを聞いてな?」金でかたがつくならどうにかしようかって気になったのさ、と顎をしゃくると 【GM】獄吏が君に近づいて、鎖を壁から外し、かりそめの自由を君に与える。▽ 【諷華】「…ぇ…?」その身体はすっかり憔悴し…菫色の瞳が力なく男を見るためにうっすらと開く。呼吸すら堪えるように…その息は小さく、早く…吐いていて。「っ…」かしゃん、と鎖が外れた瞬間、男にもたれるように…倒れこんでしまう。 【GM】男性はよく見ると天原にもいる、有角の亜人・・鬼人のようだ。もっとも見た目の年齢は君同様あてにならないが、外見が壮年ということは、相当に年経た鬼人なのだろう。 【諷華】「…私……を、如何、なさる、のです…?……売られる、のですか…?」あの日、酒場で出ていた言葉を思い出して… 【GM】【韓順】「【韓順】(ハンシュン)だ。お望みならそうしてもいいが、なぁに。この場合は・・」あんたを金で買うのさ、と笑って。君の首輪を引いて立ち上がらせると、顎を摘んで。「それとも、頭がおかしくなるまでここにいるかい?」 【GM】君のくちびるに指を入れて、いまだ薬の余韻の残るそこをくちゃくちゃとかき混ぜる 【諷華】「んむっ…!!ん、ぅっ……!」思わず口の中に入った指に絡む舌。その快感を堪えるように、とっさに横を向いて…「…私は…」出来ることなら、ここには余りいたくないのか…小さく首を振り でなければ…あの快感に押しつぶされてしまう。…そんな、気がして。 【GM】【韓順】「ただって訳にはいかねえけどなあ。・・おい」そう言うと獄吏を促して 【GM】覆面の獄吏は君に近づいて・・ 【GM】首輪を引くと、全身の鎖が君を締め上げて・・そう。全身のだ。 【GM】君の裸同然の股間に、薄い胸に、お尻に鎖が食い込む。触れないように必死に堪えてきた敏感な場所に・・ 【GM】ここでまずトラップ処理。 【GM】3d6+1 【ダイス】NO_GM - 3D6+1 = [3,4,2]+1 = 10 【GM】そして獄吏の一撃が続きます 【GM】《七色の淫毒》《イビルフォース》 【GM】2d6+7 【ダイス】NO_GM - 2D6+7 = [3,5]+7 = 15 【GM】ダメージ処理とアクトの宣言をばどうぞ 腰を飛ばして…獄使の攻撃にはシールド…8軽減して7をHPに、残り16……ん~…最初のは使えるアクトなしで…二つ目のダメージに複数アクとを使ってしまってOK? 【GM】OKです。一応この後も判定はありますしね じゃあ…ここは責め具を貰いつつ、ぎこちない仕草+初めてのキス…ハンジュンさんに奪われる形で…いい? 【GM】OKです。それだけでいいかな? …いっそのこと、全部使いたいくらいだけど…w 【GM】ではその前に獄吏の《淫らな遊戯》が飛びますね。知力で対決をどうぞ 【GM】2d6+4+2 【ダイス】NO_GM - 2D6+4+2 = [6,3]+4+2 = 15 えーっと、ポテンシャル込みで…3個ほど使っちゃいましょうか、それでどっこい…! 4d6+4 催淫込み、ポテンシャル+3 【ダイス】N03_Fu-ka - 4D6+4 = [5,4,4,4]+4 = 21 【GM】戦闘には使いませんしね、どうぞ 【GM】では耐え切った、そしてアクト。 ん~…こっちのほうで純潔の証・後ろの処女…つけたねもいっちゃいましょうかっ? 【GM】あ、はいさ。 【GM】まあ全部使えば間違いない。では順番に。 【GM】では君は鬼人の中年に、頭を抱えられて。わずかな抵抗の後、唇を、奪われる。 【諷華】「んぐ…」鎖の痛みに堪えるように口が開き…頭を支えられた、と思ったときには「―――っ!!?」目を見開いて…その鬼人の男の顔を・・・ 瞳を見つめる 【GM】女として生きるなど考えたこともなかった君の唇は男の煙草の匂いがする舌と唇に、ねろりと犯されて。薬物が打たれた今の君にはそれだけで口内を犯されて抉られている・・処女のまま口で破瓜を味わったような、それ以上に・・ 【GM】男性とは始めての、思い描いていたのとはまるで違う生々しい行為に、心を揺さぶられながら・・ 【GM】男の貪るような口付けに息が詰まりそうになりながら幼い身体を抱えられて、唇の処女を奪われる 【諷華】「(接…吻?……わ、たし…今…接吻を……この、方と……私の接吻を…奪われて…?)ん、ふむ…ん…ぅ…ん…っ」初めての…生涯初めての接吻。生まれて19年、俗世から殆ど切り離されてきた彼女にとっては…そんな、普通の男女の営み…その前戯ですら… 【GM】そのぎこちないキスは男の興奮を誘ったのか。 【諷華】「ふ…い、けませ…んっ…ん~っ……ふ、ゅ…んっ…」僅かに擦れる舌から、歯から、ちりっっと熱い快感が伝わり…それだけで時折びくん、と身を男の腕の中で捩じらせて… 【GM】鬼の手が、君の尻を這い回り立ったまま君のしりを掴んで広げてなぞる・・それだけで。一夜薬物に浸されたそこはびくびくとひくつき、排泄の器官に官能の痺れが走り・・ 【GM】鬼が唇を貪りながら、言葉を放つ「こうして、あんたを買えばここからは自由の身ってわけだ・・そらよ」 【GM】ついにその手が前・・女性の最も大事な場所、尿道と性器・・ぴったりと閉じた君の膣に触れてなぞり・・既に腫れ上がった淫核と、唇を探り当て、広げて、つねる 【GM】君は鎖につながれたまま、自分で触れたこともほとんどない場所を弄り回されて、立ったままで前後の孔を指で丹念にこねくり回されていく・・ 【諷華】「ふひゅっ!?ん、ぅう~!?あ…そ、こは…ぁ、はぅっ…いけま、せん…そこ、は…触れては…ぁ、ぁぅっ!?」くち…っ、男の無骨な指が、ひたっと閉じた秘部を割り開き、擦りたてた瞬間…ぎゅ、と太腿が男の腕を挟んでしまうくらい強張って… 【GM】【韓順】「もうどろどろだな。坊さんにしてはいいものもってるじゃねえか」まるで君の僧衣とともに僧侶としての体面も剥ぎ取るかのように指は踊り・・ぴっちりと閉じた筋をなぞっていた指が・・つぷっ、と諷華の膣内に潜り・・鋭い痛みと痺れが電流となって君の頭を襲う 【諷華】「ん、はぅっ…あ、ぁぅ…韓順、さん…お、やめ、ください…おやめ、に…ひ、ゃぅ…!」小ぶりな臀部は柔らかな感触を男の手に返し、硬く腫れ上がった秘豆を押しつぶされれば…男の手に零れてくるのは、僅かながら…透明さを帯びた液で… 【GM】太い指。男の、毛むくじゃらの、爪が、蠢くだけで想像したこともない男のものが挿入されたような痛みとそれ以上の甘い痺れを走らせる 【GM】指がこれでは、彼の逸物はどれだけの大きさなのか・・想像するのも恐ろしかった 【諷華】「っ、ふ、きゅ…つ、ぁあっ…あ、ぁぁ…!!」ぷちゅり…と蜜音と溢すと同時に入ってきた…男の指、初めて秘部へと侵入したそれを押し返そうというように…ぎちぎちと秘部はそれへ食いついて… 【GM】【韓順】「おやめくださいか、いいねえ。坊さんらしいうぶなせりふだぜ」この町の女じゃそうはいかねえ、と笑って・・男はその指を。づぷんっ・・! 【GM】ぎゅぷ・・っ! 痛い、しかし同時に…むずかゆく、擦りたてられるたびに、びりびりとした何かが足の間から走り…びくっ、と痙攣するように跳ねて… 【GM】続けざまに二本、三本と立ったままで腰を浮かせて逃れることもままならない君の膣内へねじ込みかき混ぜる。痛みと刺激が数乗となって諷華の頭に電流となって股間から子宮へ灼熱感を与えていく 【GM】さらには・・「おっと、こっちももうどろどろだな・・」 【GM】広げられた肛門、排泄のための器官としか思っていなかったそこに、さらに指が伸びて・・ぐりゅ・・・っと 【GM】鬼の爪の生えた指がぐり、ぐりときつくすぼまったそこへこじ入れられていく 【諷華】「ぎぅ…ん、ふ、ぎゅ…痛い…です…痛いんです…痛いのに、変で…お、願い、ですから…どうか…本当に、これい、じょうはぁ…――!!!??」時折秘部の膜にまで当たりそうな指に悶えた瞬間…排泄器官へ…捻りこまれる指。その逆流感に…ぎゅう、と男の衣服を掴み、そのままぶるぶると身を震わせたまま…声にならない悲鳴が漏れて 【GM】【韓順】「おかしくなるか・・違うね、坊さんはこれから・・股を開いて犯されて・・身体で自由を買うのさあ・・!」 【GM】かき回していた指を引き抜くと、じんじんと腫れあがったちいさな性器に・・ぼろり、とまろびでたそれ・・ 【GM】きみの二の腕ほども有るグロテスクな、はじめて見る男のものを見せつけながら君の尻に爪をかけて尻を抱え、肛門を穿りながら・・ 【GM】ぎゅぶぶっ…! 【GM】先端が潜っただけで先ほど以上の激痛が襲うそれを、抉り、捻りながら聖僧、だった少女の幼い膣に潜り込ませる・・! 【GM】一瞬ごとの激痛、そのたびに血が滴り、君の純潔は徐々に、徐々に削れるように奪われ、失われていく 【諷華】「犯…され……ひっ…!?」息を呑み…初めて見る、露出した…それでいて大きく膨れ上がったその男性器に…表情が強張り、その顔に涙が浮かんで鬼人を見上げる。…完全に怯え、かつ初心な心をさらけ出したまま… 【GM】跨るような姿勢で貫かれていく君には逃れることもままならないまま、それは重力に従い、君の股間へと潜り込んでいく・・ 【諷華】「ぁ、ぁぎ、ぅぎゅ、ぁああああああああああっ!!」ぶ、つつっ…!!と胎内で響く…音。それがはっきりと聞こえて…同時に走る…身体を真ん中から引き裂かれたに等しい痛み。初めて男性器を受け入れるには…余りにも幼く、余りにも…小さくて 男の肉棒を伝いながら、はっきりと零れ落ちる鮮血と…流れ出すたびに、身体の鼓動を・・血を送る脈動を、そしてぎっちりと膣がくわえ込む感触をその肉棒に伝えながら…ふるふると、身を強張らせたまま…硬直して… 途中まで…その小さな秘部にしては良く入ったと思えるくらいだが…肉棒をくわえ込んだ秘部。ごりっ…ぐ、ぐっ…純潔の証を引き裂いてなお、突き進むたびに…痛みと熱い何かの感触に翻弄されるように…つぅ、と一筋、瞳から…雫が零れて… 【GM】【韓順】「へえ、かわいい悲鳴、とはいかないが入っちまうもんだな」その身体じゃ壊れるかと思ったぜ、と君のお尻を掴みながら、ゆさ、ゆさと小柄な君の身体を揺すり、先端を徐々に、諷華の淫唇をめくりながらぐり、ぐりゅと捻り、引き裂きながら君の純潔を散らしていく・・ 【GM】長く、無限に続くような痛みもしかし、打たれた薬が徐々に麻痺させていく。膣内から広がる、痛みのような痺れがやがて子宮にまで達して・・臓腑が裏返るような痛みも、そう、徐々に・・ 【諷華】「ぃ、たい…いたい、です……も…うご、かな…ん、くぅううっ!!?ぅ、ぅううっ…」呻き、悲鳴を上げながら…突き上げられ、擦り上げられるたびに、法衣の頭巾が転がり落ち、ふわりと銀糸にも似た髪が舞って… 【GM】ぐぶ・・ぷっと、くぐもった音を立てて男のものが根元までもぐりこんだ頃には・・諷華の血を滴らせる処女膣は、女の性器と化して、ぼこりと、鬼人の規格外のもののかたちを浮かばせながら胎内に収めていた・・ 【GM】【韓順】「・・へええ。」その素顔をまじまじと見て「僧衣を着てなきゃ確かに襲われても仕方ない顔してらあ」君の膣を抉っていた指で、その銀色の髪を撫でて。 【GM】【韓順】「だが、動くなってのは・・無理だな」次の瞬間には 【諷華】「ん、きゅ…く、ぅぁうっ・・・ぁあっ…!あぁぅっ…く、ぅんっ…!?」全てを収めきり…すっかりと女へと変えられた秘部が…痙攣するように、今なお男の肉棒を痛いくらいに締め上げて…ぎゅう、と縋るように衣服を掴んだ手を、震えさせる…「ぇ、ぅ…?」涙を溢すその顔は…紛れもなく少女としても美人の部類に入っていて…男の被虐心を誘い… 【GM】ごりっ・・と先端が子宮に達して・・ずりゅりゅ・・っといぼのようなもののあるそれが君の胎内をさかしまに擦り引き抜かれて・・再び、ど、づんっ・・!と・・気を抜いた少女のやや弛緩した膣を鉄槌のような男根が、打ち抜き、叩いて 【GM】緩慢だったそれが、破瓜を迎えたばかりの少女・・女になった君に、加速して繰り返されて・・ 【GM】ぱん、・・ぱんっ、ごりゅ・・、づんっ・・! 【GM】もはや恥丘が腰に叩かれる音も、膣が抉られる感覚も同時に行われているのではないかという速度で、ピストンが容赦なく加えられていく・・ 【諷華】「いっ――く、うぁぁうっ、くあっ…ぁっ、んっぅううっ…ふ、きゅ…ん、ぁああっ…!!」一突きごとに堪えきれない悲鳴が零れ、腰がぶつかり合う音と共に水音が広がって…痛みと快感交じりの何かがちかちかと目の前の光景を揺らしているように思えながら… 初めて、男に抱かれるという経験を…その身で、痛いほど…味合わされ、かき回され、そして…高められていく…! 【GM】【韓順】「もうだいぶ出来上がってるじゃないか。坊さんにしちゃいい声だぜぇ・・こっちはきついどころじゃないけどな・・!」小さな諷華の身体を抱えて、上下に肉の鉄槌で穿ちながら肉と肉をぶつけ、ぐちゃぐちゃに交じり合うような、セックスを、僧侶の少女の身体に刻み込んでいく・・ 【GM】【韓順】「そら、そら・・!そろそろ、いい感じになってきたかい・・子供にしちゃたいしたもんだ・・まあ、これなら、孕まないだろうし安心だな・・!」孕んだら孕んだで面白いけどな・・!と 【GM】君の実年齢など知る由もない男のものは、むくむくと脈打ち、勢いを増して・・その予兆に君は、本能的に恐怖を覚える、これは・・男女の交わりの結果が招くものは・・ 【諷華】「ん、ぅああぅっ、ぁ、んっ…ぅう、~っ!!ん、はぅあぅっ…(い、たい、のに…痛いのに、擦れて…ま、た、へんになって…変、に…なってしまいます…っ…壊れて、…このままじゃ…ぁっ…!)」頭の中が霞がかったように上手く纏まらず…やがて…ほんの少しずつ少しずつ…喘ぎ混じりの声を溢しながら…腰を撃ちつけられて… 【GM】徐々に痛みと刺激と全身に広がる痺れに満たされていく君に訪れたのは・・ 【GM】びゅぐ・・ぶ、ぴゅっ・・その、先走りが漏れたあとに広がる 【GM】ぶぢゅっ…!! 【諷華】「――く、ぁぅううっ…だめ…もう、だめ…ですっ…こんな、ことはっ…で、きてしまい、ますっ…わ、たし…んぁああっ!?」男と女が交われば…子をなす。片隅に残っていた知識が…警鐘を与えたときには…もう、遅く「――っ、ぅふ、ぅんんぅうううううっ!?ぅ、ぁあっ…!!」びくん、と一際大きな痙攣と共に… 【GM】炸裂するような、噴出してくる、胎内で、溢れる大量の何か・・それが、子種だと察するまで数秒を要した頃には・・ 【GM】どぐ、どぐ・・ぶびゅるるッ…!! 【GM】とめどなく吐き出される精液が胎内ではじけ、膨れ上がる逸物が子宮の入り口を小突き・・どろどろの精液が小さなおなかを膨れ上がらせるほど注ぎ込まれた後だった・・ 【諷華】「―ぁ…ぁあっ…ん、ぁああっ…!!出てる…なに、か…出て……んぁあっ…や…ぁああっ…!」熱さと圧迫感と共に注がれる白濁をその身へ受け止めて…子を、望まぬ子をなしてしまう恐怖に…悲鳴と涙が…とめどなく零れた… 【GM】【韓順】「おっといけねえ・・まあ、これが自由の代価なら、安いもんだろう、いいまんこした坊さん・・ああ、名前は?」萎える様子もない逸物で君を貫いたまま、鬼人の男は君の子宮で精を放ちながら、膨れた逸物をぐりぐりと捻り込み・・ 【GM】君の子宮から溢れた精液と血と、涙が混じりマーブル模様を床に描く頃に、ようやく射精を終えて・・ 【GM】のるうっ・・・と広がりきった君の幼い性器から鬼角のような剛直を引き抜いて・・君の首輪を引く 【諷華】「……ぁ……」呆然と貫いたまま…時折襲う熱さにまた、びくんと震えて…「ふ、うか…西行…諷華……」朦朧とした意識が……問われるままに、名を紡いで 【諷華】「ぅ、んぅううっ…!」ぐぽっ…と外れた肉棒の形そのままに秘部は開き…ぼたぼたと血と愛蜜、そして…精液を溢したまま、ひくひくと蠢いて… 【GM】【韓順】「そうかい。これであんたも、身体だけはりっぱな大人の女って訳だ・・よかったぜ、ありがたい坊さんの子供まんこはよ・・諷華」そう言って笑うと。今にも気を失いそうな君のお尻と脚を抱えて、おしっこの姿勢をとらせていく 【諷華】「ん、ぁっ…あ。ぁ……」呆然としたまま抱え上げられ、足を広げられて…「ぁ…な、にを…もう、無理です…この、ようなのは…もう…もぅ…」 【GM】【韓順】「次は、大人の女でも、しないところをいただくけどな」そして君は。指で嬲られ続けた肛門を広げられて、処女を散らされた時の様に・・それ、が、排泄の器官に、愛液と精液の混じったものを潤滑油にして、ぬる、ずる・・と潜り込んでいく光景を、卑猥な姿勢のままで見せられる・・ 【GM】【韓順】「ここまでがあんたの身代金なのさ・・あきらめな」徐々に体重で肉がめくれながら肛門に沈んでいく、鬼の肉棒を見ながら・・君は、自分が昨日までの穢れない僧などでは、なくなっていくのを目の当たりにする 【諷華】「―ぇ…ま、さか…だめ・・だ、めぇ…そこは…そこは、不浄な…ぁ、ああ…!!」もう抵抗する気力もないまま…「ん、ぎ…ぅううっ…ぁ、あああっ!?」入って来る、不浄の穴へ、男性の象徴が…入って来る様を、まじまじと…見せ付けられて…目をそらし… 【GM】目を閉じたままで、肛門が肉棒を飲み込み、広がって・・男のものを食いちぎらんばかりにひくついて、貪欲に蠢き・・性器と同じように、己の身体を蝕むあの電流が脳髄に走り・・肛門からむず痒い痺れが腰に広がるのを感じていく 【GM】【韓順】「諷華、忘れてないか?お前さんはなあ・・」まんこと尻穴を差し出して自由を買ったんだぜ・・と。目を背けても逃れられない現実を耳朶からささやきながら・・ 【諷華】「き、くふっ・・・ぅ、くぅっ…!ぅ、ぅうっ…!?ぁ…ぁあああ…!!」肺から息が押し出され、不浄の穴を犯される痛み…そして…「(ま、た…ぁっ…また、きて…また、また、あったかいのが…やだ…もう、もう…!)…そ、れは…それはぁ…」その快感を、そして…答えを否定するように…振るえ、ぎゅう、と男の服を握って… 【GM】【韓順】「ご立派な坊さんだぜ・・経を読む代りに、股を広げてありがたい思いをさせてくれるんだからな・・」もはや、動きも鈍くなってきた君の身体を揺さぶりながら、男は、快楽に目覚めていく聖なる僧侶の少女の腸内で二度目の・・ 【GM】ど、ぶぢゅっ・・!! 受け止めないと…いけない。しかし…受け入れないといけない。これが咎人の男を庇い、その身へ受けた…余りにも大きすぎる、代償で… 【GM】きつすぎる孔で、その身に受けた咎そのもののような、穢れた欲望を、少女の排泄の孔で吐き出して、吐き出して・・ 【GM】その欲望は、少女の瞳から光が失せていくまで続いた・・ 【諷華】「ぅ...ん、ぅうううっ!?ぁぁあっ…お、しり…出て…入って…ぁ、あああああっ!?」腸内へ流れ込んでいく熱さに、わずかな快感に身悶えながら… 【諷華】「(私……もう…わたし、は……穢れて、しま……て…も、ぅ…)」その意識を…失った。 【GM】 【GM】 【GM】◆鬼哭街 【GM】こうして君は龍華の地ではじめての虜囚となり、さらには・・僧侶でありながら、犯戒を、金のために破り自ら股を開いたという事実を刻まれた・・ 【GM】それがこの街の悪意がためであったとしても君が純潔を失い、男に種を撒かれた事実は消えない・・ 【GM】そして、君はその日のうちに戒めを解かれて・・鬼人に伴われて、獄舎の門を潜る。 【GM】得たはずの自由と、君が救うはずの衆生のいる世界は昨日とは異なり、どうしてか、何もかもがくすんで見えた・・それは。君が穢れてしまった、と自らを認めたためだろうか・・▽ 【諷華】「…………」韓順に手を引かれるままに…外へ踏み出し……再び纏った法衣はどこか重く…どこか、見る光景すら…何かがひび割れたようで… 【GM】【韓順】「おつとめご苦労さん・・それじゃああばよ」君の背を押すと、踵を返して。 【GM】【韓順】「早いところ街を出るんだな。・・次はこんなもんじゃ済まないかもしれんぜ」濃い剛い髭の顔に笑いを浮かべて 【GM】もっとも、一度この街に来た奴は・・もう、娑婆にいてもいなくても足なんか洗えねえけどな、と言葉を残して。 【諷華】「ぁ……」しゃん、と錫杖の金属がなり、押された反動でよろめいた身体を棒が支える「……そ、れは…」確かに出たい、出たいのだけれども… 【GM】君の純潔を奪い、種まで撒いた男は去っていった 【諷華】「…貴方は、いいんですか…それで、良いのですか…?」唯一つ、去り行く男に声をかけて… 【GM】その声に鬼人は振り向くと 【GM】【韓順】「ここはいいところだぜ?・・何しろ、他じゃあただの罪人で狩られるか売られるような奴でも・・」力さえあれば生きていける、と浅黒い顔に皮肉な笑いを浮かべて君に応じて。鬼は去来していく 【GM】この街もまたこの世の一部で、君が救おうとしていた世界のうちなのだと、言いたかったのかは判らないが。 【GM】少なくとも彼は、この街の住民としては気まぐれで、変り種なのかもしれない 【諷華】「………判りました」その瞳を見た後…小さく、手を組む。…そうして生きて行く彼に…どうか、救いがありますように。…穢された身なれど…ただ、祈って…その姿を見送り… 【GM】 【GM】 【GM】そして、残された君は、僧衣の懐に。 【GM】砂金の詰まった袋が入っていたことに気づいたのはだいぶ後になってからだった 【GM】 【GM】 【GM】†HeroineCrisisTRPG† 【GM】―龍華戦記― 【GM】 【GM】【鬼哭街】 【GM】 【GM】END 【GM】お疲れ様でしたー お疲れ様でした~っ! 【GM】うぶなお坊様が高い授業料で世間を知る、そんなシナリオになりました 【GM】ログはまた後日ー 【GM】というわけで、リザルト あははっ…ホントに身体でいっぱい支払わされました…w 【GM】無事に出所したということで成功です。 【GM】まあアクトを使わない以外で失敗、はないのですが 【GM】では 【GM】<基本経験点> 【GM】シナリオが成功した:40点+モンスター、罠経験点+総獲得CP 【GM】<モンスター経験点> 【GM】ナイト級トラップを解除した:10点 【GM】50点+CPの経験点とミアスマ4と名声、コネを進呈です えーっと、そうなると… 【GM】まあこの分だけでLVは上がりますが申告どうぞう CPが13、SPが+11ですね。だから…経験値63と、ミアスマ4+5,5、コネは…やっぱり韓順さんかな …あ、そだ、つけたねの判定… (SPで思い出した) 【GM】あ。 【GM】まあ一応振ってもSP増加でもよしです えーっと、とりあえずいつものように1D4で能力値決めて、目標値10で判定っと… 1d4 【ダイス】N03_Fu-ka - 1D4 = [1] = 1 …ありゃ、一番低い体力にきちゃったか…っと、目標値10で… 2d6+! 2d6+1 【ダイス】N03_Fu-ka - 2D6+1 = [5,4]+1 = 10 【GM】おおう お、丁度成功 【GM】まあのっけから妊娠は・・つらくもないか 【GM】(CP増えるしなあ や、辛いです…元々HPが低いから~! (妊娠でHPが減ってしまうので…) 【GM】ですね。獄吏と戦っても割りとつらいかなと思って罠主体にしました。では龍華独特の処理。 【GM】軍団収支計上と。 【GM】<ミアスマの獲得> 【GM】・基本点:PC人数×10点 【GM】・瘴気を収集した:PCが使用したアクト数(8点) 【GM】・放し飼い:2+PCの刻印数 【GM】<侵略点の獲得> 【GM】・基本点:4点 【GM】・瘴気に冒した:PCが使用したアクト数の総計の半分(切り上げ) 【GM】ミアスマ20点と侵略点8点をいただきます はわ、お納めくださいませっ(ぺこっ 【GM】これにてすべて終了でー。 【GM】またの来店をお待ちしています、と言いつつお疲れ様でした はいなっ、改めてお疲れ様でしたっ…えちかったですっ♪
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2119.html
鬼哭街/Zero / 次ページ I/ 「貴様のその剣をへし折って仕上げ、というわけか。いいだろう。次の一撃で完膚なく叩 きのめしてやる」 豪軍(ホージュン)の言葉に答えはない。答えられるはずもない。彼の目の前にいるの はただの剣鬼。いや、剣そのものだ。人の心など持ち合わせているはずもない。 だが、それがなにか。たかが一刀。世界を瑞麗に捧げると誓った豪軍には、目の前の存 在はあまりに小さく見えた。嘲笑が口元に浮かぶ。 そうして、豪軍は刀をへし折らんと全力で濤羅に向かって踏み込んだ。その速度は音速 をはるかに超える。ただ越えただけではない。内家の功に支えられたそれは、意を捉える ことすら許さぬ轢殺の剣だ。 だが、それを前にして「雲霞渺々(うんかびょうびょう)」の構えをとった濤羅の心に は、一片の恐れもなかった。ただ虚しく刀が閃くだけ。その速度もまた――豪軍と同じく 音速を超えていた。 その身を修羅と変えた濤羅が辿り着いた戴天流絶技、「六塵散魂無縫剣(ろくじんさん こんむほうけん)」 暗い、枯れ果てた桃園に光が煌く。豪軍が持つレイピアと、濤羅が持つ倭刀が音速を超 えて切り結ぶ。音が耳に届くよりも早く火花が散り、視界を白く染めていく。 そうして、九度。濤羅の倭刀が豪軍の細いレイピアを半ばからへし折り、返す刀が彼の 胸へと吸い込まれていく。 最後の十度目。その瞬間に意識までも白く染められた濤羅は、自分の刀が豪軍に突き刺 さったかどうかもわからぬまま、その意識を手放した。 II/ 「――なんなのよ、これ」 「サモン・サーヴァント」の呪文を唱え終わったルイズは、目の前を覆っていた煙が晴 れるとともに、茫然と――貴族にはらしからぬことだが――呻いた。 不安はあったのだ。彼女の呪文が失敗するときは、まず間違いなく爆発が引き起こされ る。これだけの煙が立ったのだ。もしや使い魔の召喚に失敗したのではと内心恐れてすら いた。 だが、これでは失敗していたほうがまだマシだ。何しろ、ただの失敗なら、再挑戦がで きるかもしれない。だが、残念ながら目の前には何かしらが召喚されてしまった。 いったいこの男は何なのか。よくわからない素材でできた変に光沢のある黒いコートを まとったその姿は、どう見てもただの人、それも平民にしか見えない。さらに悪いことに、 全身傷だらけで、その手には一風変わった意匠ではあるが剣が握られていた。 いや、最後のは幸運なのかもしれない。でなければ、背後の人間達は動揺しなかったの かもしれないのだから。 だからだろう。召喚の主たるルイズは、ここにいる他の誰よりも冷静でいられた。 「ミスタ・コルベール、儀式の再挑戦を希望します!」 これは賭けだった。半死人の平民などを使い魔にするなど嫌だった。 だが、教師たるコルベールは、その一言で平静を取り戻したのか、実に残念そうな表情 を浮かべると、ゆっくりと首を横に振った。 「一度呼び戻したら変更はできない。それだけ神聖な儀式なんだよ、春の使い魔召喚は」 人を使い魔にするなんて聞いたことありません――そう言おうとして、ルイズは口ごも った。ちらりと、後ろを振り返る。破れたコートの隙間から流れ出た血が、床を赤く染め ていた。このままでは、そう遠くないうちに命を落とすかもしれない。 それはぞっとしない想像だった。いくら自分がつけた傷ではないとはいえ、目の前で死 なれたのでは目覚めが悪い。それも自分が召喚した相手がだ。 ルイズの頭の中をいくつもの考えがクルクルと回る。再召喚に挑戦した場合のリスク、 その際にコルベールを説得するためにかかる時間、命の恩人という立場、わずかながら見 込める戦闘の腕。 そして何より、今目の前で失われようとしている命―― 「ふう」 苦味が混じった唾液を呑み込んで、ルイズはため息をついた。そうして、倒れ伏してい る男へと一歩近づく。一緒に傍に来たコルベールが、男の肩を掴んで仰向けにした。この 程度なら、手助けをしても構わないと思ったのか、それとも男の命を救うためにあえて手 を貸したのか。 たぶん、後者だろう。真剣なコルベールの瞳に見据えられて一瞬ドキっとしたルイズは 、なんとはなしにそう思った。で、ある以上、血が嫌だとか、よく知らない男にキスをす るのは嫌だなど言ってられないだろう。第一、一度決めたのにのろのろとするのは、ルイ ズの信条にも適さない。 わずかなりの抵抗で血に濡れた頬と唇をマントの袖で拭うと、ルイズは意を決して契約 の呪文を唱えた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司 るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 初めてのキスは、どこか血の匂いと味に濡れていた。 III/ 濤羅が目を覚ましてまず真っ先に知覚したのは、内傷によって傷みに傷んだ内臓の痛み だった。体の内がをかき回されたような痛みに耐え、息を整える。 ひとつ、ふたつ、みっつ。静かな部屋に、濤羅の息が響き渡る。額に汗が滲む頃になっ てようやく、内臓の疼くような痛みは治まった。ここにきてようやく、濤羅は今自分がど こにいるかを気にするだけの余裕を手に入れた。 「ここは、どこだ?」 呟くように発した疑問に答える声はない。見れば、自分が来ていた全天候対応型のコー トは脱がされており、代わりに病人が着るような服が着せられていた。真実病人服なのだ ろう。濤羅の体には、ところどころに包帯が巻かれていた。 「……ここは、どこだ?」 同じ疑問をもう一度口にする。 あたりを見回すと、白いカーテンが掛けられたつい立がある。ここがもう病院か、それ に類するものであるのはもはや疑いない。 だが、この自分を治療しようという物好きがどこにいる。そも、豪軍との戦いの結末は どうなった。そして愛する妹は―― 「瑞麗!!」 叫んで――体が硬直したのがよくわかった。 探して、どうする。 豪軍の言葉を確かめるか、それとも知らぬ存ぜぬを貫き通し、変わらず妹として接する のか。 もし豪軍の言葉が空言ならば良い。だが、もし真実ならば。 濤羅のこけた頬が、この上ない苦渋に歪んだ。 剣に全てをかけたあの時は違い、縁(よすが)にするようなものは何もない。濤羅の脳 裏にかつての義兄の狂ったような笑顔で告げられた言葉が蘇る。 ――お前が瑞麗を、お前が俺を狂わせたんだ!! 「違う!」 調息を乱してまで、濤羅は絶叫した。途端に内臓がうずき始めるが、構いはしない。臓 腑の底から、息の許す限り何度も何度も否定した。 「……俺は、お前たちに幸せになってほしかっただけなのに」 泣くように吐き出した言葉は真っ赤な血に濡れて、それがどうしようもなく悲しい。 濤羅は声もあげず、涙も流さず、喉の奥だけをふるわせた。 IV/ 悲嘆に暮れていても、濤羅は手練の内家であり、また優れた凶手でもあった。それゆえ に、ドア越しであろうと、その向こうに誰かが立っていることには気づいていた。ベッド から降りると、いつでも動けるようにわずかに腰を落とす。 たとえ刀を持たずとも、戴天流には内家の深淵の技がある。生半なサイバネ相手ならば、 素手であろうと葬ることができる。 扉の開く音。はたして、警戒する濤羅の前に、気配の持ち主が現れた。その姿に、愚か にも濤羅は一瞬我を忘れてしまった。 「あ、あんた、目が覚めたのね! っていうか、立ってるじゃない!!」 何しろ、目の前に現れたのは何のサイバネ強化もされていない、少なくとも傍目には そう見えるか細い少女だったのだ。 そしてその判断はおそらく間違っていないだろう。少女は、濤羅に無造作に、武を修め たとは思えない足取りで真っすぐ寄ってきたからだ。足元から伝わる振動も、少女の体重 が見た目どおりであることを証明していた。 このサイバネ全盛期に、五体を全く弄らない人間が一般人にいるなんて。 「ちょっとあんた、聞いてるの?」 「あ、いや、すまない」 釣り目がちなその目をさらに険しくした少女。彼女の声で、濤羅はようやく忘我の淵か ら呼び戻された。だが、未だその内心は乱れている。このかよわい少女に、どう警戒すれ ばいいというのか。 頭を振って、濤羅は迷いを振り捨てた。理由や現状はわからぬが、少なくとも、この場 はすぐに離れなければなるまい。 「……刀はどこだ?」 「はぁ? あんた、今まで黙っておいて、いきなりそれ? 命を救ってもらって礼の一つも言えないの?」 助けてもらうような命じゃない――そう心の中で呟いた濤羅の顔に、苦笑と呼ぶには いささか苦すぎる笑みが浮かんだ。 「青雲幇(ちんわんぱん)の抗争に、巻き込まれたくはあるまい」 苦笑を凄絶な笑みに代えて、濤羅は呟いた。これは忠告だった。それこそ恩の一つも返 せぬ濤羅ができる、唯一の礼。 だが、それを受けた少女は、上海なら誰もが聞いておびえる「青雲幇」の名を聞いても、 きょとんとした表情を浮かべるだけで、恐れる様子はどこにもない。それどころか、眉を 逆立てて烈火のごとく怒り出した。 「チンワンパンだかアンパンだから知らないけど、あなたは私に召喚されて、使い魔にな ったのよ? ご主人さまに聞く口調じゃないわね。 大方、あなたは流れの傭兵か何かなんでしょう。そのちん……なんとかだって所詮は平 民じゃない。 そんなもので貴族の私が恐れると思うなんて、本当、平民って生意気」 今度は、濤羅が唖然とする番だった。少女の無知から来る無謀さに頭痛すら湧いてくる。 貴族、と聞いて真っ先に思い浮かんだのはEUだった。ロシアが中国のサイバネ市場を漁 り始めたのを見たか聞いたかして、急いで駆け付けてきたのかもしれない。 少女はどう見ても裏の世界の住人には見えないから、親にひっついてきたのか、それと も連れられてきたのか。どちらにせよ、深窓の令嬢なのだろう。 そこまで考えて、濤羅は違和感を覚えた。聞き間違いじゃなければ、目の前の少女は 「使い魔」などと言わなかっただろうか。 「使い魔とは、何だ?」 答えは、侮蔑の視線とともに帰ってきた。 「まったく、そんなことも知らないなんてどんな田舎からやってきたのよ。サーヴァン トよ、サーヴァント。魔法使い専用の召し使い。 山野から魔法に使えそうな材料を取ってきたり、近くを共有してどこかを探ってもらっ たり。あとはご主人様を守ることね。 ……ところでアンタ、魔法についてどれぐらい知ってる?」 「魔法? 正気で言ってるのか? そんなものこの世に存在するはずが」 侮蔑の視線が、さらに険しくなった。とはいえ、少女の眼光ごときで怯える濤羅ではな い。ただ、わずか、本当にわずかなのだが、そのきつい目つきが、いつだかの自分を睨む 妹のそれと重なって、濤羅の胸がわずかに軋んだ。 わけもなく心臓を握りつぶしたい衝動に駆られ、濤羅は病院服ごと胸をかきむしる。 「ちょ、痛むの? 馬鹿っ、勝手に立つから! ちょっと待ってなさい、先生を呼んでく るから!!」 急激な濤羅の変化に、少女は狼狽し、助けを呼ぼうと踵を返した。そうして走り出そう として――その一歩が踏み出せなかった。その細い肩を、濤羅の手が掴んだからだ。 きしり、と音を立てそうなほどに、少女の体が固まった。 無理もない。いくら無知で無謀とはいえ、知らぬ男につかまれて平気でいられる少女 など、そうはいない。 自らの下策を苦々しく悟ると、濤羅はその手をゆっくりと離した。少女を落ち着かせる ように、できるだけ優しい口調で話しかける。 「痛みは、ない。驚かせて、その、すま、なかった」 自らの口から出る言葉の固さに、濤羅自身が驚いた。だが、すぐに納得する。もはや人 に優しさをかける資格など、自分にはありはしないのだ。 自嘲とすらよべぬほどの乾いた笑みが濤羅の顔に浮かぶ。だが、振り向いた少女の顔は、 濤羅の予想と違い、恐怖の色は浮かべてはいなかった。代わりにあるのは怒りだ。 「ちょっと、ご主人様の肩に気安く触れるなんてどういうことよ!」 「あ、いや、その」 沸騰した薬缶のように起こる少女に、静まり返った水面のように何もなかった濤羅の心 が、わずかに波打った。憎しみでもなく、嘲りでもなく、こうまでまっすぐ感情をぶつけ られたのは、久しく覚えがなかったからだ。 距離をとろうにも、濤羅が下がる分だけ少女は同じだけ前に詰めてくる。 「いい、あんたは私の使い魔なんだから、三歩下がって影を踏まないように歩きなさ い。命令もなしに触れるなんてもってのほかよ」 「……その使い魔とやらになった覚えはないんだが」 かろうじて、それだけを絞り出した。だが、少女は勝気のままに鼻を一つ鳴らすと、 腕を組んで流し目で濤羅を見やってきた。瞳は、愉快そうな色を湛えて細められている。 「左手を見てみなさい。ルーンが刻まれているでしょう。それが、あんたが私の使い魔だ って証拠よ」 言われて、濤羅は左手を目の前にかざした。今までなぜ気付かなかったのか不思議なく らい、左手の甲に大きな文様が刻まれている。アルファベットやキリル文字になんとなく 近い感じはするが、濤羅はこのような文字を知らない。そしてこれがいつ刻まれたのかも。 「……勝手に、刻んだのか?」 低く怒りを押し隠した濤羅の声が部屋に響く。だが、少女は濤羅の怒りに気づかぬまま やれやれといった風に肩をすくめた。 「そうよ。抗議は受け付けないわよ。放っといたら、アンタ死んでたんだからね。命の代 わりに貴族の使い魔になれるのよ。文句どころか、感謝してほしいぐらいだわ」 突きつけられた指を、濤羅は胡乱な瞳で見つめ返す。 もはや自らの生死に拘りなどない。命を救ってもらったことに恩義を感じぬではないが、 それでも感謝をしようという気持ちにはなれなかった。 もはや、自分は死んでいるのだ。体がいくら生きていようと、豪軍に告げられた真実が 致命的なほどに濤羅の心を深く抉っていた。 「命など、とうの昔に捨てている」 あの愛する妹を失ったときから――そう心の中で呟いて、濤羅は自嘲した。はたして、 自分が本当に妹を失ったのは、いったいいつのことなのだろうか。 あまりにも下らぬ問いに、口元に乾いた笑みが張り付いた。 「……捨ててるんならちょうどいいわ。その命、私が拾いましょう。大体、アンタを助け るのに一体いくらかかったと思ってるの。少なくとも、その分だけは絶対働いてもらいま すからね」 首を横に振ろうとして、濤羅は思いとどまった。この場を離れて、いったいどうするの か。 妹には会えない。 あれほど焦がれていたというのに、今会おうと思うと、それだけでとてつもない怖れが 心のうちを這いずりまわる。 その勇気が、濤羅にはない。 刀がなければ、濤羅の心は弱い唯人のものでしかないのだ。 だが、いや、だからこそ、この少女の言葉を、自ら受け入れることもできなかった。今 の濤羅にできるのは、ただ流されるのみ。 「いいのか。俺は青雲幇に命を狙われている」 「言ったでしょう。私は貴族よ。そんなもの、恐れはしない」 「俺は、凶手――殺し屋だ」 「っ、いいんじゃない? 強いほうが、私も身の安全を守れるわ」 「俺は――」 「ああ、もううるさいっ! ごちゃごちゃ言おうが、アンタは私の下僕で、私はご主人 様。それはもう決定してるの。アンタの命プラスかかった治療代。その分だけの恩は、 絶対返してもらうんだから、覚悟しときなさいよ」 煮え切らぬ濤羅を押し切るように、少女は大声で宣言した。濤羅の意志など関係ないと 言わんばかりだ。 だが、それがいい。 糸の切れた凧は風に流されるだけ。ならば、その風は強ければ強いほどにいい。その点、 少女は望むべくもないほど強い風をその内に宿している。濤羅には、それが心地よい。 風に押されて、濤羅の首が縦に動いた。 「わかった。仮初ではあるが、我が一刀、貴様に捧げよう」 その言葉に、少女は満足そうに頷いた。 「仮初っていうのが気に食わないけど、まあいいわ。よく聞きなさい、平民。 我が名は、ヴァリエール家が第三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ ヴァリエール。 アンタのご主人さまの名前よ」 「平民と呼ぶのはよせ。俺には、孔濤羅という名がある。 それで、ここは一体どこだ。病院にしては、部屋に誰もいないし、ずいぶんと人の気配 が少ないが」 「そう、そういえば言ってなかったわね。 ここはトリステイン魔法学院。本当だったら、あんたみたいな田舎者の平民が入ること すら許されない、高貴なる者の学校よ」 また、知らぬ名だ。それにまた「魔法」などという言葉が出てくるとは。 世界中のすべての地名を知っているわけではないが、こうも知らぬことばかりが続くと、 流石に濤羅とて憶えの悪さを感じる。 とはいえ、黙っているわけにもいかない。 「トリステイン? EUのどこかなのか?」 「いーゆー? どこよそれ。ハルゲニア大陸にそんな名前のところあったかしら?」 「ハルゲニア大陸? 地球にそんな大陸はあったか?」 不思議そうに首をかしげていた少女。濤羅とてわけがわからない。そも、彼の記憶は、 豪軍との衝突までで途切れているのだ。気づけばここにいた。まさか、SFとやらじゃある まいし、まさか宇宙人に呼び出されたなんてことはあるまい。 だが、そんな予想は、ある意味違っていなかったことを、すぐに濤羅は悟ることになる。 「チキュウ? どこよ、それ」 言い知れぬめまいを感じて、濤羅は額に手をあてた。 「上海は、ロシアは、中国、アメリカ、マカオ。どれでもいい。どこか聞き覚えのある地 名はないか」 すがるような濤羅の問いに、少女は黙って首を振った。 乾いた笑いの衝動が、濤羅の胸の内に込み上げる。 目の前の少女が狂人でなければ、そして自分が狂っているのでなければ、どうやらここ は地球ですらないらしい。なら、妹に会う会わないなど問題ですらないではないか。 いっそ自分が狂っているといい。 「は、は、ハハハハハ」 ついにあふれ出た笑いが、部屋の中にむなしく響き渡る。 怯えたような視線を少女がむけていることに気付きながらも、濤羅はその笑いを、しば らくは止めることができなかった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1260.html
前ページ / 鬼哭街/Zero / 次ページ I/ なぜ自分はこんなところにいるんだろう。 はしゃぎながら赤毛の少女がガラス越しに商品を眺める様を見て、濤羅はげんなりと して溜め息をついた。 もう、ずいぶんと街を歩いたというのに、未だにこの少女が疲れる気配はない。癒えぬ 傷を持つとて、濤羅がこの少女より体力が劣ることなど万に一つもありえない。たが、精 神だけは別だ。知らぬ土地で、慣れる買い物に付き合わされた濤羅の心の疲労といえば、 実にフーケとの戦いの数倍にすら匹敵する。 その彼に、タバサは表情一つ変えることなくさらに絶望的なことを呟いた。 「あと、一時間は覚悟した方がいい」 黙って、濤羅は空を仰いだ。 今日は、ずいぶんと青が深い。 II/ ルイズの怒りは天井知らずに突き抜けていき、悲しみは底知らずに沈んでいた。 原因は濤羅にある。彼は、主に何も教えなかったのだ。 なぜ彼が召喚時に傷を負っていたのか。主の度量の大きさを見せようと、それを詳しく 聞かなかったのはルイズだ。それはいい。だが、余命幾許もないとはどういうことか。 まして、それを主に伝えぬなど! 苛立たしげに足を鳴らす。ダン、と非力で小柄なルイズが発したとは思えぬほどの音が、 廊下に響き渡った。歩く生徒たちは、一瞬身を竦ませたが、触らぬ神にたたりなしとばか りに足早にその場を去っていく。 彼らは知っているのだ。ここ数日、正確にはゼロのルイズと、雪風のタバサがフーケを 捕まえて以来、彼女の機嫌がこの上なく悪くなっていることを。 『ゼロ』がどうして『土くれ』を捕まえることができる。 興味半分、冷やかし半分で問いかけたマリコリヌが、彼女の失敗の魔法で吹き飛ばされ た記憶は新しい。 今日はせっかくの虚無の曜日。詰まらぬことで、誰もそれを潰したくはなかった。 そうしてまたルイズのストレスはたまっていく。溜まった鬱憤を誰に晴らせばいいとい うのか。愚痴を言えるような友人はいない。責めるべき従者といえば既に部屋から追い出 し、使い魔たちの納屋へと押し込んだ。 わざわざ愚痴を言うためだけに自分がそんなところへ行く。ルイズの価値観からすれば、 そんなことはありえない。濤羅の方から、ご主人様ごめんなさいと謝りに来るべきなのだ。 それが数日、未だ濤羅が謝りに来る気配はない。時折姿を見かけるが、ルイズを遠くか ら眺めてくるだけで、声すら掛けることはない。 絶対、私からは謝らないからね――と、一層態度をかたくなにしたルイズの機嫌が晴れ るのは、まだ先のことになりそうだった。 III/ 「ふう」 大型の使い魔が暮らす納屋で、濤羅は人知れず溜め息をついた。先程のことを思い出す。 遠くから濤羅がルイズ眺めていると、ふと視線があったのだ。一瞬彼女は表情を和らげ るような気配を見せたが、すぐに顔を怒らせるとあらぬ方向へと目を逸らしてしまった。 「ふう」 と、もう一度濤羅は息を吐き出した。 彼の経験上、女性の怒りを納めるのは容易ではなかった。いや、人にとっては簡単なの かもしれぬが、濤羅にとっては剣の道よりもなお険しい。 妹の真意に気付かなかったばかりか、機嫌を取ることすら覚束なかった濤羅には、いさ さか荷が重すぎる。 とはいえ、捨て置ける問題でもなかった。もはや死人とも呼べる濤羅だが、主たる少女 にだけは、わずかながら人並みの感情を残していた。それ故に自らの余命を告げないでい たのだが、此度はそれが裏目に出た。枯れ果てた心とて、ばつの悪さを感じる。 はて、どうすればいいのか。記憶の中にあるわずかな経験から、濤羅は何か方法はない かと思案に暮れる。とはいえ、濤羅が知る女性は少ない。自然、思考は妹との思い出へと 移りゆく。 耳元で、蕭と玲瓏な鈴の音の音が鳴り響いた。 はっとする濤羅。無論幻聴だ。彼が妹のためだけに匠に誂えさせた銀の腕輪はこの場に ない。過去を思うあまり、またしてもルイズを妹に重ねてしまったのだ。 「なんと……」 己の無様さを恥じ入り、歯噛みする濤羅。 とはいえ、光明が見えたのも事実だった。贈り物を喜ばぬ女性は、濤羅の知る限り数が 多いとは言えない。ならば、方法としてはこれで問題あるまい。 そう思った濤羅だが、そこではたとやはり問題があったことに気がついた。 何を、どのように贈ればよいのか。朴訥な濤羅にはよくわからぬ。そしてそれ以上に、 よほど大きな障害が目の前にある。 「金が、ない」 加えて言うなら、どこに店があるかもわからない。 やっとつかんだ一筋の光明が、水上の藁にしかすぎぬと悟った濤羅はやはり一人、納屋 の中で煩悶していた。 IV/ キュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 またの名を『微熱』のキュルケ。彼女は今、とある情熱に突き動かされていた。よくある 恋の『微熱』ではない。彼女の胸の内にあるのは、純粋な好奇心だ。 彼女が知りたいのはただ一つ。『ゼロ』のルイズが、如何にして『土くれ』を捕まえた のか。 同じくその場にいた彼女の友人に問いかけてみたが、シュヴァリエの称号を持つタバサ ですら、何が起きたのかわからぬと言う。 彼女の熱しやすさは、何も恋に限ったことではない。 言い知れぬ興味を覚えた彼女は、虚無の曜日を活かしてフーケを倒した濤羅という使い 魔の姿を――今のルイズに聞くほど愚かではない――探していた。 思ったよりも早く、彼の居場所は知れた。あまり動かぬ性質らしく、時折ルイズの様子 を伺う以外は、ほとんどの時間を使い魔たちの厩舎、納屋で過ごしているらしい。 「いや、何をするわけでもなく、ずっと瞑想みたいなことをしてるんですがね。それでも 何か不気味なんですよ。なんかこう、真昼間に幽霊でも見ちまった様な気がして……。 ホント、よくわからない男ですよ」 そう濤羅を語った使用人の顔を思い出し、キュルケはその赤い唇を舌でなめた。ツェル プストーを、大貴族を前にしながらも、彼はそれ以上にこの場にいない濤羅のことを恐れ ていたのだ。 幽霊、結構ではないか。簡単に答えを知ってしまっては興が削がれるというもの。 俄然乗ってきたと言わんばかりに足取りを軽くしたキュルケは納屋へと向かっていく。 距離はさほどない。使用人たちの部屋や働くスペースは、効率も考えられて近くに纏めら れている。 そうして、角を二つばかり曲がったところで目的地に着いた。果たして、鬼が出るか蛇 が出るか。笑みを浮かべて、キュルケが一歩足を踏み入れる。 ――――その瞬間、彼女は衝動的に杖を抜きそうになった。 男は、別段何をしているわけでもない。腕を組んで眉根を寄せているだけだ。寸鉄すら 帯びていない。それこそ、普通の男が何やら考え込んでいるようにしか見えなかった。大 の男が座り込んで悩む様は、ある種滑稽ですらある。 だというのに、男が発する雰囲気は尋常ではなかった。いや、発しているのではない。 雰囲気そのものが、目の前の男にはないのだ。死んだ魚のように濁ったその眼だけが、 暗がりで異様な光をたたえているだけ。 粘性のある唾を飲み込んだ喉が、ごくりと音をたてて蠢いた。聞こえるはずがないその 音を、まるで聞き取ったかのようなタイミングで、濤羅の視線がキュルケへと向けられる。 背筋に走る悪寒を押し殺して、キュルケは努めて明るい声で濤羅へと話しかけた。 「はあい、ご機嫌いかが。フーケ捕縛の立役者さん」 「……学生か。俺に何の用だ」 先程までわずかにあった人間味すら消え去った能面のような表情。そこにキュルケの歓 迎の色はない。 そのことにわずかに尻込みしながら、だがそれ以上に心を燃え上がらせて、彼女はその 顔に魅力的な笑みを浮かべた。 「もう、つれないわね。そんなことでは、女の心一つ捕まえられないわよ」 「捕まえる、つもりなどない」 わずかに言いよどんだ声に、キュルケはおや、と首をかしげた。目の前の男が、この程 度の言葉に到底揺さぶられるはずがない。彼女の豊富な男性経験からもそう推測できる。 だというのに、何が気がかりなのか。 そこでピンときた。そういえば、この男は―― 「あら、そんなこと言っていいのかしら? ゼ、っと、ミス・ヴァリエール――あなたの 主は、未だあなたにお冠だそうよ。今日もまた、床に当たり散らしたらしいし……」 ビンゴ。 この場にいたり、ようやく表情の変化を見せた濤羅に、キュルケは自らの予測が正しか ったことを確信した。 この男が悩んでいたのは、ずばりルイズのご機嫌取りについてに違いない。 そうとわかれば、先ほどまで感じていた怖気もいくらか和らいだような気すらする。 チェシャ猫のような笑みを浮かべて、キュルケはさらにを問い詰める。 「あの子、一度怒るとなかなかしつこいのよね。それに癇癪持ちだし。ほら、あなたも見 たことあるでしょう? あの錬金の魔法の失敗を。 あの時は爆発したし、周りも巻き込んだからすっきりしたでしょうけど、今回はねぇ。 聞くところによると、話すらできていないらしいじゃない。そんな状態でいつまでも溜 めこんでいたら、あの子のこと。機嫌は直るどころか、悪くなる一方でしょうね」 濤羅は口を開かない。硬く目を閉じているだけだ。反論をする気配はない。ルイズの気 難しさを、彼も認めているようだ。 「ああ、あの子は今頃どうしているだろう。気が利かぬ従者に苛立って、何か魔法を失敗 して爆発を起こしているかもしれないわ。もしかしたら、やけ食いでもしてお腹と胸がぺ ったんこになってるかも。 あら、これはもとからだったわね、ごめんなさい」 「……要件は、なんだ」 「要件っていうほどのものではないわ。ちょっと聞きたいことがあっただけよ。あなたが どうやってフーケを倒したのか興味があってね。 ただ、もし私がそれを知ったら、ご機嫌になってあの子の好きな物とか機嫌が悪い時の 話し方とか、いろいろ口を滑らせちゃうかもしれないわね」 歌うようにうそぶくキュルケに、とうとう濤羅が折れた。 「……金のかからない方法で頼む」 「ええ、大丈夫よ。大してお金はかからないわ」 安心させるように、裏心のない笑みを浮かべてキュルケはそう言った。だが、濤羅はそ れを前にしても、渋面を浮かべるばかり。そして、重苦しそうに、その口が開いた。 「一銭も、ないのだ」 「え?」 「金を、一切持ち合わせてないと言ったのだ」 瞳は以前、昏いままだ。だというのに、その口から洩れた言葉は大の大人が発するには あまりに情けないもの。 こらえきれず、キュルケは爆笑した。 V/ 濤羅は久方ぶりに寮塔の階段を上っていた。あの後、笑いを終えたキュルケに説明を しようとしたのだが、その彼女が、 「待って。私の他にもう一人、あなたの話を聞きたい子がいるの」 そう言って、塔まで連れてきたのだ。 それが誰か、なんとはなしに濤羅には予想がついていた。 「ここよ」 キュルケが指示した先には木製の扉。無論、その向こうには部屋がある。 ノックする彼女をよそに、濤羅は部屋の中の気配を探った。確かに、そこにいる。ただ、 まるで動く様子を見せない。眠っているのか、何か手作業をしているのか。 本来なら、簡単に気取れる距離ではあるのだが、見えない――元来、気配とは見えない ものだが――膜のようなものが邪魔をして、どうにもおぼつかない。 わずかに不信を覚えながら横目でキュルケを見てみると、彼女はいつの間にかノックを やめ、がちゃがちゃとドアノブを回していた。が、開く様子は一切ない。 「ああ、もう」 苛立たしげに杖を抜き出したキュルケが何事か呟く。すると、今までが嘘だったかのよ うにすんなりとドアノブは回った。木製だというのに音もたてず、扉が開く。その不自然 さに、わずかに濤羅は眉をひそめたが、キュルケはそんなことは気にも留めず、勢いよく 室内へと入っていく。そこに、部屋主の了承を得ていない後ろめたさは一切見て取れない。 慣れているほど気心の知れた仲なのか、それともそれが彼女の普段なのか。どちらにも 取れるが、できれば前者であってほしいと濤羅は願った。 嘆息を一つだけして、彼女の背に従って部屋へと足を踏み入れる。 「ほう」 呟いて、ようやく濤羅は己が覚える違和感の正体を知ることができた。音が、ないのだ。 気配とは、何も気の流れだけで悟るのではない。漏れる呼吸、わずかな衣擦れ、軋む床、 流れる空気。そういったものを五感すべてで感じ取り、第六感と合わせてようやく気配と いうあやふやなものに形を与えるのだ。 その一つを奪われたことで、濤羅の鋭敏な勘がわずかに鈍ったのだ。 見れば、目の前で話し込んでいる少女たちも、口だけは動きながらも声はまるで響いて いない。と、そこで小柄なほうの少女――確かタバサと言ったか――が閉じ杖を振ると、 ようやく部屋に音の世界が舞い戻ってきた。 「何の用?」 間に指を挿んで本を閉じると、タバサはキュルケヘと問いかけた。その視線が一度だけ 自分に向けられたことを悟りながらも、濤羅は黙って彼女に説明を全て任せた。おそらく、 その方がうまくいくだろう。 「ちょっとトリスタニアに行きたくてね、貴方のシルフィードを貸してもらいたいのよ」 「……今日は、虚無の曜日」 普通にとれば、拒絶の言葉だった。休みを邪魔するなと言ってるに等しい。だが、なら なぜ彼女は手に持つ本にしおりを閉じているのだろうか。濤羅ですら気付くそれに、友人 のキュルケが気付かぬはずがなかった。 彼女は先ほど濤羅に見せたのと同じ笑みを浮かべると、片目を閉じてこう言った。 「勿論、ミスタも一緒よ。ただ彼、可哀そうなことにお金を持ってないらしいのよ。私は お金を貸す。貴女は足を貸す。 その代わり、ミスタはフーケをどうやって倒したのか教えてくれる。あっと、おまけで 彼がルイズに贈るご機嫌取りの品を考えなくちゃならないけど…… まあ、連り合いは取れてるんじゃないかしら。どう?」 おまけではなく、そちらが本題なのだが――そう思った濤羅だが、何も言わなかった。 することに変わりはない。見ればタバサも、立ち上がって準備を始めている。わざわざ 混ぜ返す必要はない。 そうして誰もが黙っている中、キュルケだけが一人楽しそうに呟いた。 「そうこなくっちゃ」 VI/ 空の上の空気はまた格別だった。透き通っていながらも若葉のような色を残し、肌にま とわりつくような重さもない。目を閉じれば、甲高くなる風音が耳に残る。 魔都・上海では――いや、それこそマカオですら、これだけの空気は味わえない。かつ ての世界では久しく失われた極上の空気を肺の中に吸い込むと、それだけで内傷が癒える ような錯覚を濤羅は覚えた。 だが、だからこそ己の無様さが一層強く濤羅の胸に焼き付く。 これほど澄んだ空気、空を飛ばずとも本来気付くべきだったのだ。今や無きに等しいが、 内家拳士としての矜持は、濤羅の中に確かに残っていた。それが今傷付いた。 まして罪が懐いている濤羅の心には、ここの空気は奇麗が過ぎる。 渺々と吹く風に頬が揺れる。 「あら、どうしたの、ミスタ。もしかして高所恐怖症?」 同じくドラゴンの背に座っていたキュルケが、からかい交じりに問いかける。答えるよ うに開かれた濤羅の瞳には、空に対する恐怖はおろか、清らかな風への喜びも、そして自 らに対する嘲りも、何も映ってはいなかった。 濤羅の心の中から、零れ落ちたものがまた一つ。風鳴りに耳を傾けても、もはや眉ひと つ動かない。 その内心など知らぬキュルケは、普段男に語りかけるように、そしてそこから一歩引い た分だけ濤羅との距離を近づけた。 「ねえ、そろそろ話してくれてもいいんじゃない? シルフィードの翼なら、トリスタニ アだろうがあっという間よ。あまりのんびりしてると、説明の前に着いちゃうんだから」 そこからさらに離れた場所で、タバサの視線も濤羅に向けられた。彼女もまた、濤羅の 説明を心待ちにしているらしい。いや、目の前でその情景を見ていた分、キュルケよりも 知りたいという欲求は強いのかもしれない。 彼女らの真摯な視線に押されたわけではないが、居住まいを直して濤羅は口を開いた。 「あの夜、どこまで俺の動きを見てとれた」 「何も。見えてたけど、わからない。 30メイルはあった。一瞬で人がそこまで動けるはずがない。触れただけだった。それで 人は失神しない。だから、何も分からない」 首を横に振る彼女に覚えたのは、やはりという納得だった。内家の技は深遠無辺。それ を見ただけで理解できるのは、やはり同じく内家を修めた者に限られる。ならば、濤羅に 問うまでもなかった。 では、その術を知らぬ者どうやってに説明するべきか。しばしの思案の後、濤羅はキュ ルケへと視線を向けた。 「触れるだけで、人を倒せると思うか?」 問われるとは思っていなかったのだろう。キュルケはその瞳を大きく見開かせた。一瞬 おいてその言葉の意味を理解すると、肩をすくめて濤羅を眇め見た。 「そんなの、あるわけないじゃない」 濤羅は瞳を閉じた。幾度となく繰り返された遣り取りだ。考える前に口が勝手に答えを 言ってくれる。 「そう、触れるだけでは人は昏倒しない。ただ触れるだけではな」 そうして、濤羅の右手が空気を撫でるように持ち上げられた。あくまで自然で、力を入 れた様子はまるでない。その速さとて、あくまで常識の範疇に納まっている。だというの に、それがいつ行われたのか、キュルケとタバサには理解できなかった。 「先住魔法?」 「――無粋な言い方をしてくれるな。これは内巧、魔法などとは違うあくまで人の技だ」 言って同じように腕を下ろす。またも見切れなかった二人の顔に混乱が浮かぶ。問いす ら思いつかぬ二人を尻目に、濤羅の説明は淡々と続く。 「あの夜何をしたか、簡単だ。今して見せたように、あの土くれに駆け寄り、飛び上がり、 その頭を撫でてやった。例え触れただけのように見えても、内家にはそれで事足りる。 目に見えずとも、そこに勁はある。氣を込める必要すらない」 「で、でも、動きがよくわからないだけで、人を倒せることにはならないんじゃない?」 弾けるように言ったキュルケとは対象に、濤羅はあくまで涼しげだ。その物言いすら予 期していた彼は、間も置かずにその手を差し出した。 「なら、試してみるか?」 「え?」 「もちろん、昏倒させるような真似はしない。ただ肩を一撫でするだけだ。それで手を地 に――ああ、竜の背に着けば、俺の言うことが理解できるだろう。 百聞は一見にしかず。百見は一撃に如かず、だ」 しばらくは濤羅の手を見ていたキュルケだが、面白そうだと言わんばかりに胸を張ると、 一歩濤羅に近づいてその手を取って自らの肩に導いた。 「さあ、ミスタ。やってみせて」 妖艶と笑うキュルケ。その笑みはもはや挑発に近い。だが、そこに悪意はない。純粋な 興味だけが見て取れる。 その笑みは、一瞬後に簡単に崩れ去った。いつ着いたかもわからぬほど自然に、キュル ケの手はドラゴンの背に触れていた。まるで、初めからそうであったかのように思えるほ どだ。 呆然と己の手を見つめるキュルケの背に、濤羅の低い声が掛けられた。 「これが答えだ」 「どうやって?」 未だ自失から戻らぬキュルケの代わりに、タバサが濤羅へと問いかけた。無感情なその 物言いとは裏腹に、視線には強い力が込められている。 タバサは見ていた。濤羅の手がほんのわずか捩じれたと思ったら、キュルケが自分から 跪くように倒れていったのだ。そこに魔法の入る余地はなかった。念話で語りかけた己の 使い魔に確認しても、先住魔法が使われた気配はないと言う。 それが余計にタバサの混乱を誘った。それこそ濤羅の手腕は魔法じみていたのだ。この 距離で見てなお、何をしたかすらわからない。 「本当に魔法じゃ――」 その先を、濤羅は笑って遮った。いや、笑おうとした。 「言ったろう。これは人の技だと。技とも呼べぬ児戯ではあるが」 口元だけを歪ませた奇妙な笑み。それを見たタバサは一瞬言葉を忘れた。奇妙な沈黙が 続く。 「なんで、どうして! 私はまるで動いたつもりなかったのに」 その膠着を破ったのは、ようやく忘我の淵から舞い戻ったキュルケだった。勢いよく身 を起こすと、今まで抱いていた警戒心も忘れて濤羅へと詰めかかる。 怒りではない。純粋な好奇心に突き動かされてだ。 多くの技術が流れ込むゲルマニアの中にあって、貴族は貪欲に技術を欲する。その頂点 の一つに数えられる生家をもつ彼女の好奇心は人一倍強い。 その豊かな熱意は、濤羅は答える間を与えることなく次から次に質問させる。 「ねえ、本当にどうやったの。私、まるで自分の体が勝手に動いたようだったわ。さっき 「キ」とか言ってたわよね。それを込めるとどうなるの? もっと強くなるの? ああ、 驚きだわ。まさかこんな技術があるなんて、夢にも思わなかった。これが児戯なら、本物 はいったいどれほどのものなのかしら」 ほう、とキュルケは夢見るように息を吐いた。 ようやく答える暇を見つけた濤羅は、ここぞとばかりに言葉を押し込んだ。 「寸勁、あるいは暗勁と呼ばれる技の一種だ」 「え?」 「人が拳を突くとき、その力は足から腰、腰から背中、背中から肩へと相乗して伝わって いく。普通なら、徐々にその力は殺されていく。だが、もしそれを殺さずに伝えていくこ とができたなら? そこにもはや踏み込みすら必要ない。力む必要もない。 フーケとやらには、その真似事をしたまでだ」 「真似事? それならいったい、何をしたの?」 濤羅は首を横に振った。拒否の意味ではない。あまりに濤羅が学んだ流派では初歩的な、 それこそ外家とも通じる基礎の基礎を、今更になって説明することの愚かしさを悟った からだ。 力なく濤羅の説明は続く。 「先ほど、自分の体が勝手に動いたと言ったな。それはある意味正しい。 人は肉で動いている。筋があり、腱があり、張り巡らせるように血管が走っている。 例え体を動かさずとも、ただ生きているだけで肉は蠢く。息を吸えば、肺は膨らみ、肋 骨が広がる。吐くときはその逆だ。 だから、どのような時であろうと、体のどこかに必ず力は込められている。このような 強風の下、足場の悪い所にいればひとしおだ。ただ体幹を保つだけで多くの力が働く。 呼吸とバランス、そこにタイミングを合わせて流れを加えれば、軽く撫でるだけでも十 分人は倒れこむ。 フーケは俺よりも速く動こうと焦り、無駄な力を発した。俺はただ、彼女が自滅するの を手助けすればよかった。そこで俺が発した勁など、真似事と呼べるほど小さなものだ」 そう、あの時フーケを昏倒せしめたのは、何より彼女自身の力だった。濤羅が加えた力 などそれこそ軽く手を添えた程度。だが、だからこそ濤羅の技の冴えは恐ろしい。 はたして、濤羅の年でその域に達した者がどれほどいるものか。生涯をかけて武を学ん だとて、易々とできるものではない。 その歴史を紐解いても、戴天流剣法の絶技に辿り着いた物は数少ない。その一人である 濤羅の巧夫は、もはや常人では測れぬほどであった。 それを完全に理解することなど、内家拳士ならぬキュルケとタバサには不可能だ。だが、 その一端は間違いなく彼女らに伝わった。そしてそれで十分だった。 言葉もなく、風だけが流れる。 「見えた」 と、しばらくしてタバサが呟いた。濤羅が見れば、彼女は竜の行く先を指さしていた。 そこにはきれいに区画整理された、こじんまりとした街がある。こじんまりといっても、 それはあくまで濤羅の主観だ。中世観の強いこの世界では、おそらくはずいぶんと大きな 街なのだろう。そして、街の中央には空から見てもわかるほど立派な城が建てられていた。 「あれが、王都・トリスタニア」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/384.html
前ページ / 鬼哭街/Zero / 次ページ I/ 陰気だとか根暗だとか、時折その痩せこけた頬に浮かぶ暗い笑みなどの欠点に目を瞑れ ば、濤羅の働きぶりはルイズの予想よりもはるかに良かった。 着替えを手伝えと言った時はさすがに断られたが、大概の命令には黙って従うし、文句 を言ったことはただの一度もない。上下関係を教えるためと、あえて貧相な食事を与えも したが、これならば普通の食事を与えても差し支えないだろう。そう思える程度には、ル イズは濤羅のことを評価していた。 「ねえ、タオロー」 ベッドに横になりながら、足を組んで瞑目している従者に問いかける。返事は待たずと もいい。眠っていないことは、この何度かですでに分かっている。 「あなたのいた世界の話を聞かせて」 濤羅の片眼が開かれる。何も映し出されていないようなその瞳を、わずかに気味悪く思 いながらも、ルイズは濤羅の話を心待ちにした。 濤羅が語る話は、いつもルイズの想像を超えたものばかりだった。別に、そのすべてを ルイズは信じているわけではない。ただ、それでも十分面白かった。濤羅の語りはいつだ って木訥で、もどかしくもあるが、それすらも話を彩るスパイスだと思えるほど。 「そうだな」 言って、濤羅は開いていた片目を再び閉じた。 待ち遠しい。 気づけば、ルイズは横になっていた体を起こして、枕を抱きしめていた。次に濤羅が目 を開いたときには、恥ずかしくなって平静を取り繕った。 そんなルイズを尻目に、濤羅はいつも通り抑揚に乏しい声で語り始めた。 「蘭陵王の話をしよう。昔、斉の国に蘭陵王という男がいた。彼は五百の騎兵でその何倍 もの大軍を退けたことがあるほど勇猛な将だった。それだけではない。与えられた果物、 当時は甘味は貴重だったというのに、それを惜しみなく部下に分け与えたり、恩賞として 十人もの美女を賜ったが、一人を選んで残りは辞退するという好漢ですらあった。 誠実で、謙虚で、武勲も優れている。だが、そんなものより何よりも優れているものが、 彼にはあった。何だかわかるか?」 「わからないわ。いったい何なの?」 「美貌だ。彼はその全てが霞んでしまうほどの美丈夫だった。声もまた、その美しさに違 わぬ程の美声であったという。音容兼美と称されるほどだ。だが、その美しさが過ぎた。 部下が彼に見惚れてしまい、士気が十分に高まらない。これでは戦いにならぬと困った のが蘭陵王だ。いくら彼とて、一人で軍団を相手にすることはできない」 「それで、どうなったの。彼はどうしたの?」 ルイズが話をせがむと、濤羅の口の端がわずかに歪んだ。どうやらここが話の肝らしい。 乗せられたことに気づいて、ルイズの顔が赤く染まる。文句を言おうと口を開くが、そ れよりも早く、濤羅が続きをつないだ。 「獰猛な仮面を被り、その顔を隠したのさ。月が雲に隠れるように」 怒りも忘れて、ルイズはぽかんと口をあける。まさかそんな手段があるとは。驚いてい ると、やおら濤羅の顔が険しく変化した。ルイズは視線を一度も外していないというのに、 いつの間にか立ち上がってもいた。 「な、なに、どうしたの?」 目を白黒させるルイズに、濤羅の手が突き出された。 「刀を。どこかが、襲撃されている」 II/ 濤羅が眠っていた時間は、彼の予想よりもはるかに短いものだった。豪軍に付けられた 傷の深さを鑑みるに、これだけ癒えるには一週や二週では到底足りない。だというのに、 濤羅が召喚されてから、まだ二日しかたっていないという。見立てを遙かに上回るほどの 治癒の具合に、濤羅は感嘆の念を禁じえなかった。 「魔法というのは、すごいものだな」 食堂へと向かう途中、与えられた着替えの上から傷をなでつけると、濤羅はしみじみと 言葉を漏らした。それを耳聡く聞きつけたルイズは、誇らしげにその薄い胸を張った。 「そうでしょう。アンタみたいな平民には一生かかっても縁がないような治療の薬を使っ てもらったもの。すごくて当然よ」 言うからには、よほど高価だったのだろう。具体的には告げられていないが、このいか にも自尊心の高そうな主がこれだけ口にするのだ。生半な額ではあるまい。 返すべき恩の大きさを、改めて実感する濤羅。やはりあの時、自分は兄弟子に殺さ れておくべきだったのかもしれない。そんな思いが、濤羅の胸をかすめる。 「こら、何ちんたら歩いているのよ。アンタのせいで昼食に遅れそうなんだから、少し は急ぎなさい」 歩みが鈍った濤羅に、ルイズのきつい叱責が飛ぶ。事実、状況を把握するためと濤羅が いくつもの質問をしたためにかかった時間はさほど短くない。 主の言葉にうなずくと、濤羅はその足を速めた。先導するルイズの三歩後ろを、言われ たとおりに付き従う。 そこに、紫電掌と恐れ、敬われた男の面影はない。幽鬼のようなヒトガタが一つ、少女 の背に付いているだけである。 ルイズが多弁なのもそのためだった。何かを話していないと、死に引き込まれてしまい そうだ。そう、ルイズの背後に立つ男は、すでに骸である。 食堂までの道のりを、これほどまでに長く感じたのは初めてだった。首筋に流れる嫌な 汗を、ルイズは濤羅に見せぬように拭う。恐れなど見せられるはずもなかった。自らの使 い魔を恐れる貴族など、メイジですらない。 その矜持だけがルイズを支えていた―― III/ その頭頂部周辺が見事に磨きあがった禿頭の男の姿を認めたルイズの歩みが、ぴたりと 止まった。男の方も、こちらに気付いたのか相好を崩して、濤羅たちへと歩みよってくる。 濤羅の知らぬ――この世界に知り合いなどいないのだから当然だ――男だった。とはい え、想像はつく。四十を超えたか超えてないかといった風貌は、学校という場では教師以 外ありえないだろう。 そしてその予想は、ルイズが一礼をしたことで証明された。 「ごきげんよう、ミスタ・コルベール」 「ごきげんよう、ミス・ヴァリエール。急がなければ、昼食が始まってしまうよ。 それはそうと、君の使い魔は目を覚ましたようだね。どうだい、調子は?」 最後の言葉は、濤羅に向けられたものだった。首を振って問題ないことを伝える。 「そうか、それはよかった。随分とひどい怪我だったものでね。ミス・ヴァリエールと同 じく、私も心配していたんだ」 「ミスタ・コルベール!!」 顔を赤らめて抗議するルイズを見て、コルベールは相好を崩した。いかにも好々爺とい った感じの、人好きのする笑みだった。 「自らの使い魔を心配するのは悪い事じゃあるまい。まして相手は人間だ。優しさは美徳 だよ、ミス・ヴァリエール。 ところで、使い魔君の昼食をどうするのか考えているのかね? どうやら、食堂に連れ て行くみたいだが、彼の分は用意されていまい」 「ええ、今から言って、コックに用意してもらおうかと」 それを聞いて、コルベールはふむ、と漏らすと顎をなでた。思案気な表情をしばらく浮 かべているとよし、と言ってルイズへと向きなおる。 「ミス・ヴァリエール。それなら、少しだけこの使い魔君と会話をさせてもらってもよろ しいかな? なんせ彼は病人だ。消化の良いものを準備するのに、いささか時間がかかる だろう」 コルベールの頼みを聞いたルイズの顔が、わずかに歪む。使い魔のために、わざわざル イズが直接コックに頼みに行かなければならないのだ。それは少なからずルイズの自尊心 を傷つける。 とはいえ、教師のコルベールの願いをはねつけるほどではなかった。不承不承といった 感じで、ルイズの首が縦に動く。 「そうか、よかった。ありがとう、ミス・ヴァリエール。ああ、呼び止めてすまなかった。 急いだ方がいい。もうすぐ、本当に礼拝が始まってしまう」 その声に押されて、ルイズは再び歩き出した。一度だけ、濤羅とコルベールの方をちら りと振り返ったが、あとは早足で食堂の門をくぐっていった。 IV/ 「それで、俺に話とは」 言葉とは裏腹に、会話を拒絶するような響きがそこにはあった。そして事実、濤羅には 目の前の男と話をするつもりなどなかった。煩わしくすらある。 そんな濤羅の内心を知ってか知らずが、コルベールは穏やかな笑みを浮かべてすらいた。 「ああ、すまないね。無理に引きとめて。何分、人の使い魔など始めてみるものだから、 興味深くて。そういえば、君の名前は何と言うんだい。使い魔君、ではしまらないだろう」 わずかな逡巡の後、濤羅はその口を開いた。あえて隠す程のものでもない。隠すほどの、 気力もない。 かつては誇りとともに名乗ったその名を、濤羅はゴミでも捨てるように口にした。 「孔、孔濤羅(こん・たおろー)」 「なるほど、コン君か。変わってはいるが、良い響きだと思うよ」 「世辞はいい。要件はなんだ」 「つれないね。まあいい。話は、君の体についてだ。傷の治療にあたった水の術師から聞 いたことなんだが」 「内臓がボロボロだと言うんだろう?」 意図的に唇を吊り上げていった濤羅の言葉に、コルベールは初めて動揺を見せた。焦る まま、疑問を口にする。 「ミス・ヴァリエールに聞いていたのかい。いや、彼女はまだそのことを知らぬはずだが」 「自分の体だ。自分が一番よく知っている。それに気付かぬはずがないだろう。ここまで 傷んで、自覚の一つもない阿呆はいまい」 自ら余命幾許もないと告げながらも、濤羅の口調はむしろ涼やかですらあった。これは、 自らの命に見切りをつけている亡者の声だ。聞く者の心を震え上がらせる。 だが、コルベールの心に湧きあがったのは、恐れではなく憐みだった。悲しみといって もいい。戦火を離れたこの学び舎で、再びこのような眼をした若者に出会うとは。 何より、コルベールの目の前に立つ男は、過去の彼自身でもあった。過ちを犯した自分 に掛けられる言葉など、そう多くはない。 コルベールにできるのは、ただ願うことのみ。 それを、濤羅に伝えるにはどうすればいいのか。 「『サモン・サーヴァント』は――」 口ごもって、コルベールは自問する。自分は何が言いたいのだろう――と、脳裏をヴァ リエール嬢の姿がよぎる。ようやく何を言うべきかを思い付いた。 「『サモン・サーヴァント』で呼び出される使い魔は、そのメイジにとって最も相応しい ものが呼び出されるのが通例だ。得意とする系統、性格、嗜好――本人が気づいていない 何かすらも含めて、召喚される使い魔は選ばれる」 「それで? この半死人が、ルイズにとって最も相応しい。それだけ彼女ができそこない だと、そう言いたいのか?」 「違う。僕が言いたいのは、主にとって相応しい使い魔が呼び出されるなら、その逆もあ りえるってことだ。使い魔にとっても相応しい主が、『サモン・サーヴァント』の先には 待ち受けてもいる。そう言いたいんだよ。 君は自分を半死人だと言ったけれど、それはきっと意味があることなんだ。君が呼び出 されたことは、きっと意味があるはずなんだ。ミス・ヴァリエールにとってだけじゃない。 無論、君にとってもだ」 聞くに堪えない戯言だった。コルベールの言を信じるならば、ルイズにはせいぜい屍鬼 使いの才能があるというだけだ。それに濤羅は引き寄せられたにすぎない。 自分に何か意味があるなど、今更信じられるはずもなかった。 だというのに、心臓だけは猛るように波打っていて、濤羅はコルベールを見ていること ができなくなった。 と、ちょうどそこに、食堂に続く大きな門から、メイド服を着た少女がこちらに歩いて くるのを視界の隅にとらえた。こちらの姿を認めると、こちらに向かってくるあたり、濤 羅の食事が用意できたようだ。 「ここまでのようだな」 言って、コルベールに背を向ける。その背に、立ち尽くすコルベールの声が掛けられた。 「僕の言ったことを、忘れないでくれ、コン君。君は、今望まれてここにいるんだ」 その言葉に、どれほどの思いが込められていただろう。それがわかっていたというのに、 濤羅の心は、毛ほども動かされることはなかった。言葉は意味を持たず、ただ音となって 虚しく空気を震わせるのみ。 それがどこか少しだけ、濤羅には悲しかった。 V/ そうして数日が経った。濤羅の心境に変化はいまだ訪れない。 床に置かれた皿から食事をとるように言われた時も、教室を襲うルイズの失敗を目の当 たりにした時も、貴族の少年に給仕の少女が絡まれている時ですら、濤羅はただ黙ってそ れを受け入れた。せいぜいが、落ちぶれた自分を蔑むかのように、冷笑を浮かべるだけだ。 もはやそこに、義侠に生きた、あるいは、復讐に身を焦がした濤羅はいなかった。 一度だけ、ルイズの服、特に下着を洗うように言われた時だけは、めずらしく狼狽した 様子を見せたが、それをするならば自分は使い魔をやめるとすら告げた濤羅の決意が本物 だと悟ったルイズは、二度と洗濯をさせようとはしなかった。 ただ、そんな濤羅だが、時折優しさのようなものを見せることがあった。ルイズが我儘 を漏らしたときや、話をせがんだときには、目尻を和らがせるのだ。その後は、決まって 苦々しげに表情を歪めるのだが、その理由を、濤羅が主に告げたことはない。 亡くした妹の面影を主に重ねて見ているなどと、どの口で言える。 だが、美しかった過去は毒のように、胸の奥を犯す。あるいは、砂漠で迷った旅人が、 一筋の滴で渇きを癒す様に似ているのかもしれない。 惨めだと、それを知りながらも、濤羅は麻薬のようなそれを手放すことができなかった。 今宵もそうだった。ルイズにせがまれるままに、自分が知る中で興味を引くだろう、面 白がるだろうと思う話を考えていた。幼き日の妹に語ったように、いつの間にか蘭陵王の 話をしてしまっていた。 ルイズの続きを待ちわびる瞳がまぶしかった。死人が、それに耐えられるはずもない。 駄目だ、駄目だと思いつつも、ついには濤羅は最後まで蘭陵王の話を終えてしまった。 大きく口を褪せて呆けているルイズが恨めしくも、愛らしい。そうして、濤羅の顔にい つもの苦々しげな表情が浮かぼうとした時だった。かすかな揺れを、濤羅は感じた。 内家の達人たる濤羅の五感は、唯人よりもはるかに優れている。いや、優れているので はない。人が気付きながらも知らぬそれを、濤羅の五感は知覚しているのだ。 流れる風すら、濤羅にとっては色があり、音があり、触りがあり、匂いがある。 その濤羅の五感が告げていた。先ほどの揺れは、ただ事ではないと。微細ながらも続く それが、濤羅の推測を裏付けていた。 放っておけばいい。どこか頭の片隅で、濤羅に告げる声がある。だが、そうできるほど、 今の濤羅の心は平静でいられなかった。 今と過去と、少女に心をかき乱された濤羅は、自らも気づかぬうちに立ち上がり、主に その手を差し出していた。 「刀を。どこかが、襲撃されている」 VI 「ちぃっ!」 自らが作り出したゴーレムに腰掛けながら、『土くれ』のフーケは忌々しげに舌打ちを した。まさか、自分が宝物庫の壁に錬金をしている様を見ていた生徒がいるなんて。 襲いかかる風の刃をゴーレムの腕で受け止める。悔しいが反撃はできない。相手は空に 浮かんでいるのだ。 フーケとてトライアングルクラス。飛ばすような魔法を知らぬでもないが、精神力が惜 しい。風竜を相手に中てる自信を、フーケは持ち合わせていなかった。 幸い、顔は見られていない。ここは逃げだ、ロングビルとして次のチャンスを待つべき だと、フーケの盗賊としての勘がそう告げていた。 だが、それすらも空中の敵相手では容易なことではなかった。時にはドット、時にはラ イン、時にはトライアングル。状況に即して、様々な魔法が上空から襲いかかる。それは、 倒すことを目的にしてはいない。フーケを逃がさぬこと、ただそれだけのために攻撃は行 われていた。 狡猾な相手だ。時が経てば経つほどフーケが不利になることを知っている。精神力を気 にせず魔法を行使しているのは、誰かが駆けつけてくることを見越しているに違いない。 「ええい、まさかトライアングルクラスの生徒がいるなんて!」 ゴーレムの足元を襲う氷柱を回避。これでまた、逃げるルートを一つ潰された。だが、 焦った様子とは裏腹に、フーケの内心はさほど乱れてはいない。この何倍も危ない橋を渡 って生き延びたことすらあるのだ。 そして、空の相手は気付いているだろうか。フーケが避け、受けている呪文を選んでい ることに。逃げを選びながらも、フーケは極力音を立てぬようにしていた。だからこそ、 数分を超える戦闘をしてなお、誰の助けも来ない。 それだけではない。一時でも早く精神力が尽きるよう、計算して立ちまわってすらいた。 『土くれ』のフーケ。盗賊としてだけではなく、トライアングルとしても非凡な才能の 持ち主だった。そして、幸運も―― 「待ちなさい!」 声を聞いて、フーケはついに来たか、と舌打ちをした。だが、声の主を知って、フード の下でにんまりと笑みを浮かべた。 助けに来たのはなんと、『ゼロ』のルイズだった。応援としては、最低最悪の部類だ。 心なしか、空の敵もほぞをかんでいるような気すらする。 人質に、とれるのだ―― ようやく、ミスを帳消しにできるだけの降ってわいた幸運をつかもうと、ゴーレムをル イズへと向ける。邪魔をする空からの魔法を自身の魔法で打ち消して、フーケはゴーレム に命令を下した。 「あの子を捕まえなさい!」 VI/ えてして本当の不運とは、本人が気づかぬうちに既に訪れている。 運不運を語るなら、まず間違いなく今日のフーケは不運だった。それも本当の類の―― 「あの子を捕まえなさい!」 あの子とは、ルイズのことだろう。そう理解すると、濤羅は命令も待たずに飛び出した。 ここに来るまでに既に調息を終えていた濤羅の体は、氣に満ち満ちている。その彼の疾 走はどれほどのものだったろうか。ただ地面を蹴り出したのではない。足を動かすための 腱と筋、それに体内に流れる血液のリズムを把握し、同調させた濤羅の踏み込みは、果た して人の限界すらも飛び越える。 三歩で、濤羅はゴーレムの内まで潜り込んだ。30メイルはあったろう。フーケの視線は、 未だルイズの辺りにとどまっている。続く一歩で、濤羅はゴーレムの太ももまで跳躍した。 軽巧の達人ともなれば、腿力を込める足掛かりすらあれば重力にすら縛られない。残る 距離を、ゴーレムを蹴りつけて零にすると、濤羅の眼前にはフーケの呆けた顔があった。 「愚か者」 憐憫すら催さず、濤羅の手がゆらりとフーケの額へと伸ばされる。 愚か者はそっちだ――フーケはせせら笑った。メイジとはいえ、フーケは盗賊だ。身の こなしには自信がある。目の前にいきなり現れたのは驚いたが、ただそれだけだ。 このフーケを相手に、いかにも鈍間なこの手が何だというのか。 笑みのままに濤羅の手をを撥ね退けようとして――その瞬間に、フーケの意識は闇へと 落ちた。その一瞬、彼女の頭の中は、なぜという疑問でいっぱいだった。 なぜ、男は目の前にいきなり現れたのか。なぜ、確かに払ったはずなのに自分の腕は、 空を切ったのか。なぜ、男の掌に触れられただけで自分は意識を失うのか。 その答えを知る濤羅は、すでに身を翻し、崩れ落ちるゴーレムから飛び降りていた。 VII/ 「ふむ、まさかミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはの」 オールド・オスマンは目の前の生徒たちの報告を聞いて、感慨深そうに呟いた。 「ええ、まさか私も、彼女がフーケだとは思いもしませんでした……」 何となくばつの悪さを感じたルイズは、恐縮そうにそういった。残る二人は無言で立っ ている。オールド・オスマンを前にしても態度を崩さない。ルイズにはそれが恨めしくて 仕方なかった。 「まあ、よい。被害もなく捕まえられたのじゃ。安全対策を見直さねばならんが、不幸中 の幸いじゃて。生徒だけだというのに、ようやってくれた」 「いえ、そんな……」 本来なら、貴族として当然のことをしたまでだと言いたいところだったが、それだけは 口にしなかった。何しろ、ルイズは何もしていないのだ。フーケを足止めしていたのはタ バサで、フーケを倒したのは――いまだ何をしたのかよくわからないが――濤羅なのだ。 使い魔の功は主の功。だとしても、何も分からず、命すら下さず見ていただけの自分が 偉そうにできるはずもなかった。二人とも誇りもしないのが拍車をかける。 そんなルイズの心境を知らぬオスマンは、好々爺といった笑みを浮かべて何度も礼を告 げてくる。二人は黙っているのでルイズが答える。後ろめたい。悪循環だ。 「王国の方には、このことを伝えておいた。二人には、追って恩賞が下されるじゃろう」 さらに追い打ちをかけるように、オスマンはとんでもないことを口にした。どきりとし たのはルイズだ。この中で除外されるとすれば、彼女が一番何もしていない。 「二人? 私と、タバサと、使い魔の濤羅。これで三人ですが」 オールド・オスマンは、申し訳なさそうに首を振った。 「申し訳ないんじゃが、平民の、それも使い魔であるタオロー君には、何も褒賞を与える ことはできないんじゃ」 「何を、そんな!」 相手が学院長だということも忘れて、ルイズは叫んだ。隣に立つタバサの目も、わずか に見開かれている。濤羅だけが変わらず、平静のままに立っていた。 「ああ、わかっておる。わしも頑張ってくれたタオローくんには、何がしか報いたい。 じゃからの、ちょいとばかし、水の秘薬を彼に与えようと思う。それでその体が治るわ けではなかろうが、いくらか楽にはなるじゃろう」 その言葉に、確かに部屋の空気が一度固まった。自らの発言が失言だったとオスマンが 気づく前に、ルイズは我も忘れてタオローへと詰め寄っていた。貴族の外聞もなしに襟首 を掴んで問いただす。 「ちょ、ちょっと、体が治るってどういうことよ! アンタの怪我、治ったんじゃなかっ たの!!」 そこでようやく、オスマンは濤羅がルイズに何も告げていないことを悟った。隠そうか、 隠すまいか。逡巡は一瞬だった。いずれは知らねばならぬことだ。 「落ち着いて聞くんじゃ、ミス・ヴァリエール。君が読んだサーヴァントはな――」 乾いた音が、室内に響く。 腕を振りぬいたルイズは、何も言わぬまま学院長室を後にした。床に数滴、何か零れた 跡が残っている。 「痛い、な」 張られた頬を撫でつけながら、濤羅は一言だけぽつりと漏らした。傍らに立つタバサが 冷たく濤羅を見上げるが、それに気付かぬふりをして、もう一度だけ濤羅はつぶやいた。 「本当に、痛い……」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1741.html
前ページ / 鬼哭街/Zero / 次ページ I/ 休日の、それもそれなりに大きな街のメインストリートに面した食堂ともあれば、多少 時間がずれたとて十分な賑わいを見せる。その片隅のひっそりとしたテーブルに座って店 員に注文をすると、濤羅はようやく人心地つくことができた。とはいえ、完全には気を抜 けない。街に入る折、キュルケにスリ、それも魔法を使うような手合いには警戒するよう 言われたのだ。 軽く店内を見回した限り、濤羅が想像する様な魔法使い然とした格好をしたものはいな い。が、濤羅にはそもそもそうであるかないかの区別などつかない。故に挙動不審な者が いないか、常に意識を張っていなければならず、店員が注文の品を持ってきても、濤羅が 気を緩めることはなかった。 「ふう、おいし」 グラスを傾け、実に美味しそうに喉を鳴らすキュルケ。その中身はエールだ。まだ昼、 まだ学生だというのに、その様はなかなか堂に入っている。そのことにわずかに頭痛を覚 えながら、濤羅もまた飲み物を口にした。無論、酒ではない。 「あら、ミスタは飲まないの。もしかして下戸?」 キュルケがからかい混じりに問いかけた。そうではない。ただ、一度酒を口にすれば、 潰れるまで痛飲してしまうだろう自覚があっただけだ。 濤羅とてかつては幇会の男。心許せる仲間と酒を飲み比べ、競い合うことなど幾度もあ った。今この店にいる男たちのように、全てを忘れるかのように騒いだことすらあったの だ。だが、それも今は遠い昔。彼らやキュルケのように酒を楽しむことなどできはしまい。 もはや帰る場所すらないのだから。 濤羅と彼らとを分かつ一番の溝はそれだ。濤羅は星を眺めるかのように、遠くから見つ めることしかできない。いや、空を見上げることすら許されまい。 だが、そのような煩悶を露とも見せず、濤羅は首を横に振った。それだけを告げると、 何も言わず体や消化によさそうな料理を選んで箸をつける。 「あら……もしかしてミスタ、はしばみ草は平気なの?」 先ほどの笑みを含んだ問いとは違い、今度は心から驚いているようだった。見ればその 隣に座るタバサも、その眼鏡の奥の瞳をわずかに見開かせている。 それほどものもがあっただろうか。心の中で首をかしげ、その名前と彼女が声を上げた ときから推量をつけて、テーブルの中央辺りにあるサラダを口に運ぶ。 確かに苦い。なんとも言えぬ風味が口の中に広がる。だが、漢方・生薬が身近にあった 濤羅が耐えられぬほどでもない。もう一度はしばみ草とやらを口にして、濤羅は呟いた。 「別段、どうということもない」 「あらまあ、仲間ができてよかったわね、タバサ」 声をかけられたタバサは、黙って一つの皿を差し出した。こんもりと盛られたはしばみ 草がたっぷり入ったサラダだ。だが、その意図がわからない。キュルケの発言からすれば、 これは彼女の好物、あるいはそれに近いものではないか。 濤羅の視線を受けて、タバサは感情を見せぬ表情のままポツリと漏らした。 「助けてもらったお礼」 後はもう何も言うことはないといわんばかりに、すさまじい速さで箸を動かし料理を口 に運んでいく。言葉を返す暇もない。断る機を失った濤羅は、しばらく困ったように目の 前の皿を見つめていた。その様子をキュルケが眺めていたことにも、笑みを浮かべていた ことにも気がつかないで。 II/ 食事が終わった後も一行は、しばらくのんびりしていた。気疲れした濤羅はもとより、 あれだけ元気に動き回っていたキュルケも疲れていたのだろう。今はソフトドリンクをち びりちびりと飲んでいる。表情を変えぬタバサは読みにくいが、休むことに異論はないよ うで、その手にはハードカバーの本が広げられていた。 言葉のないテーブルに頁がめくられる音だけが静かに響く。だが、その静けさは長くは 続かない。いくら濤羅らが黙っていても、休日の食堂の騒がしさは変わらない。まして酒 がある店だ。隣のテーブルからは、男たちの怒号とテーブルを叩く拳の音が聞こえてくる。 「ふう」 タバサが本を閉じた。それを契機に店を出ようとキュルケが腰を浮かす。濤羅もまた立 ち上がろうとして——押しとどまった。厳しい目つきで男達を睨んだまま立ち上がろうと しない。 「ミスタ?」 「来る」 怪訝そうに濤羅を覗き込むキュルケと、タバサの警告は同時だった。それを彼女が理解 するよりも早く、濤羅の腕が伸び、キュルケを一気に引き寄せる。 「きゃあっ」 可愛らしい悲鳴を上げて、目を丸くするキュルケ。抗議の声を上げようと口を開き、そ してすぐにまた驚きの声を上げた。 遅れて、その場に男が倒れこんできたのだ。派手な音を立てて頑丈そうなテーブルがひ っくり返る。宙に放り出されたグラスが、くるくるとまだいくらか残していた中身を零し ながら板張りの床へと落ちていく。黒く滲んだ床に散らばったグラスの破片が、窓からの 光に照らされてきらきらと輝いていた。 店内は俄かに騒然となる。悲鳴だけでなく、囃し立てるような声もどこかから聞こえて くる。応えるように、隣のテーブルの男たちは無意味に椅子を蹴倒しながら、店中に響く ような大声を張り上げた。 「ははは、おいどうした、立てねーのかよ」 野卑た笑い声をあげる。酒にでも酔っているのか、全員顔は赤らんでおり、目の焦点も どことなくあっていない。視線を倒れた男に向ける。くぐもった呻き声を漏らしたきり立 ち上がる気配はまるでない。 仲間内の諍いか——似通った男達の服装と、足元の男から微かに漂う酒精の香りから、 適当に推量をつける濤羅。だが、どうにも腑に落ちない。 濤羅ほどの達人であれば、たとえ我が身に迫らずとも、周囲に危機があれば自然と察知 できる。今しがたキュルケを救ったように。だが、この男が突き飛ばされた時はどうか。 薄皮一枚隔てたような違和感があっただけだ。それも少し前からずっと。 訝しみながら、濤羅は膝を折る。違和感を確かめるついでに介抱しようと手を伸ばし、 唐突に世界が歪んだ。 それは目の前の男から発されていた。細く波打ちながら蛇のようにキュルケへと忍び寄 ると鎌首をもたげ喰らいついた。 「!!」 一瞬目を見張る濤羅。だが、気配はそこで唐突に消え失せた。あとには傷一つない。 キュルケは変わらず男達を冷たい視線で睨んでおり、その背後に控えるタバサも異変に は気付かなかったようで、杖を握り締めているだけだ。 「うう」 と、そこで伏していた男が庇うように胸に手を当てながら、ようやく起き上がろうとし ていた。よろよろと力なく体は揺れ、頭の位置すら定まらない。しかし一瞬、ほんの一瞬 だが、確かに男達と視線を合わせた。口の端に、嫌らしい笑みがかすかに浮かぶ。 濤羅の脳裏に、キュルケの警告が甦る。曰く、魔法を使うスリに気をつけろ。 濤羅は魔法を知らない。何ができて、何ができないのか。どのような理で働き、どのよ うに発動するのか。濤羅にはそれがわからない。 だが、どれだけ魔法が早かろうと、どれだけ魔法が見えなかろうと、心より先ずること は不可能だ。ならば今濤羅が感じ取った異変とは—— キュルケと男たちはもはや睨み合いではなく、喧嘩のような言い争いを始めていた。 男達の浮かべる怒りの表情の裏には、隠しようのない侮蔑の色が見て取れる。あるいは、 彼女らもそれを悟っているのかもしれないが、不幸にも侮られることに慣れてしまってい るのだろう。聡いからこそ、逆に男達の企みに気がつかない。 男が立ち上がる。手は胸に置いたまま立ち上がる。 彼女たちは気付かない。男達にばかり注意を向けて気付かない。 男達は笑っている。生意気な小娘から小金を巻き上げようと笑っている。 濤羅にはもはや守るべき仁も義もない。五徳を捨て、修羅に走った濤羅に人の道を説く 資格などあるはずもない。それでも、わずかなりの責任は感じていた。違和感を無視して 早く席を立っていれば、男の介抱を彼女らに任せていれば、あるいは、この事態は防げた のかもしれない。そして何より、お金がなくてはルイズへの贈り物を買えないではないか。 だから仕方なく。本当に仕方なくだが、誰に言われるまでもなく、濤羅は自らの意思で 男へと声をかけた。 「そこまでにしておけ」 III/ 濤羅の言葉に、店中の注目が集まった。その視線にさらされながら、男は冷や汗を浮か べている。せわしなく目を動かし、胸に当てた手には力が込められている。 「な、なんのことで、旦那?」 殴られたとは思えぬほどの卑屈な声で、男は濤羅に語りかけた。その前に、一瞬男達に 目配せをして。 そうして、再び感じる世界の歪み。今度は、男達のほうから発されている。下策といえ ば下策だった。同じ手を二度、それも一度ばれているくせに繰り返すのだ。さらに言えば、 先程と違って今は喧嘩を装って注意を引き付けるような状態ではない。 「なるほど、そういうことだったのね」 気付いたキュルケが、その顔に不敵な笑みを浮かべた。タバサがその眼鏡を押し上げる。 視線の先には、男達の壁に隠れた魔法使いがもう一人。視線に射すくめられて、短く悲鳴 を上げた。 「あら、どうしたの、こんな小娘に見られただけぐらいでそんなに怯えて」 その言葉に答えたのは、先頭に立つ一番大きな男だった。わざと大きく見せるよう肩を 怒らせ、キュルケたちへと一歩距離を詰める。 「おいおい、あんたらみたいな貴族様の嬢ちゃんに睨まれたら、俺ら平民はどうすれば良 いってんだよ。びびったってしかないだろ。大体なんだ、魔法が使えない俺らがどうして あんたらの財布を取れるんだ」 「私たちは、魔法なんて一言も言ってない」 「財布ともね」 怒りか焦りからか、にわかに男の顔が紅潮した。肩だけでなく全身までも震わせている。 そうして、その大きな拳を振り上げて一歩踏み出し—— 黒い風が、駆け抜けた。 キュルケが身を翻すよりも、タバサがルーンを唱えるよりも、男が拳を振り下ろすより も、何よりも早く、その影はキュルケの前に現れた。濤羅だった。音も立てず踏み出し、 その突き出された右手は、男の腹に添えられていた。それこそ軽く、触れられているだけ。 だというのに、男の目がぐるりと裏返った。 「……ほ、う」 吐息のような悲鳴を漏らすと、男は口から黄色い胃液を吐いて膝から崩れ落ちた。前の めりに倒れたその頭が床にぶつかり、鈍い音を響かせる。立ち上がれぬ崩れ方だった。 わけがわからぬと、あたりがシンと静かになる。 戴天流が掌法、黒手烈震破——ではない。本来なら、五臓六腑をことごとく破裂させる 一撃だ。いくら加減したとて、体格ばかりに頼った男が受けてこの程度で済むはずがない。 これは、あの風竜の上で濤羅が語った技そのものだ。違う点があるとすれば、今度は、 濤羅の踏み込みの力が含まれている一点のみ。ただそれだけの力で、濤羅は頭ひとつほど 大きな男を一撃で伸していた。 振り向いて、濤羅は呟く。 「これが暗勁だ」 呆けるキュルケとタバサを後ろにやると、濤羅は再び男たちに向き直った。感情を見せ ぬ暗い瞳に見据えられ、男たちに恐怖が走る。わけもわからぬまま、男たちの中で最強の ものが倒されたのだ。 真っ当に戦って勝てる相手ではない。背後には魔法使いの生徒たちも控えている。 あるいは、一斉にかかれば倒せるのでは——そんな思考が体に出たのか、男たちは誰と もなしに腰を落とし始める。 その機先を制したのは、やはり濤羅だった。 「やめておけ。懐の財布さえ返してもらえば、それでいい。 だが、逆らうというなら——」 血を吸った刀のように、ぬらりと異様な光をたたえた瞳がすうと細められた。そこには 覇気も殺気もない。だというのに、人を心の底から脅かす何かがそこにはあった。あるい は、何もないからこそ人は恐れるのか。 その瞳で、濤羅は財布を持つ男を見据えた。一秒、それだけの間、濤羅と魔法使いの視 線が絡み合う。 「ひいっぃいいいっ!」 隠れた男が、悲鳴を上げながら財布を濤羅の足元に向かって投げ捨てた。中の金貨が甲 高く鳴る。どれだけの金額になるというのか。それを惜しむ気配すら見せず、男はもはや 何も見たくないといわんばかりに身を翻して店の出口から走り去っていく。倒れた椅子を 蹴飛ばし、足をもつれさせ、みっともなくも這う這うの体で逃げていく。その表情を見た 客たちの顔までもが驚きに引きつった。いったい彼は何を見たというのか。 恐怖は、伝染する。 また別の男が、濤羅の瞳と目があった。そうして知る。そこにあるのは光などではない。 そう錯覚するほどの底なしの闇があるだけだと。今度は、一秒と持たなかった。引きつっ た息を漏らして仲間を突き飛ばすと、その男も出口に向かってがむしゃらに向かっていく。 ——男たちが我先にと出口に殺到するまでには、そう長い時間は必要としなかった。 IV/ 「あー、おかしかった。見た、あの男たちの逃げる様?」 店を出て、ようやくルイズへの土産を選びに行く最中、上機嫌でキュルケは濤羅に笑い かけた。相も変わらず濤羅の鉄面皮は動かないが、そんなことはお構いなしにターンをひ とつ。よほど彼らが、そして財布を掏られたことに気がつかなかった自分が気に食わなか ったらしい。反動で、今のキュルケはこの上ない上機嫌だった。そのまま、軽い足取りで 目の前の角をひとつ曲がる。 そこはメインストリートから一本入った、大きくも小さくもない、露天商が居並ぶ道だ った。数多くの露天商が道に商品を並べ、一つでも自分の商品を買ってもらおうと道行く 人に声をかけている。 キュルケが濤羅に薦めたのは、彼女の好物のクックベリーパイだった。近頃学院の女の 子たちの間で密かに評判になっている甘味屋がこの道の先にある。その店は、量の割りに 値段もお手ごろで味も悪くない。 そしてルイズはこの店の商品を食べたことがないだろう。そう、キュルケは確信を持っ ていた。平民が開く市井の店に大手を振って顔を出せる貴族はそうはいない。露天商が居 並ぶこの道を通らねばならないのだからなおさらだ。それゆえ、その店の名を学院で聞く ことはその知名度に反して滅多にない。友人の少ないルイズが、知ってるはずもなかった。 知っていたとしてもプライドが邪魔をしていただろう。 彼女の喜ぶ顔、あるいは驚く顔を想像したキュルケの頬に笑みが浮かぶ。幸いにして、 それを咎めるような無粋な輩はいなかった。 と、そこでキュルケは違和感に気づいた。露天商ならば、上機嫌の貴族でも見かければ、 商品を売り込もうと声の一つでもかけるはずだった。貴族を恐れもするが、それ以上に商 魂たくましいのが彼らだ。自粛するものもいるだろうが、誰一人声をかけないというのは さすがに不自然だった。 「おかしいわね、普段なら何人かは声をかけてくるっていうのに」 キュルケは周りに聞こえるように呟いた。視線をめぐらせるが、みな一様に目が合うの を恐れて俯くか、空々しいまでに大声で客と会話をするばかりだ。 属性が炎だからだろうか、彼女は注目を浴びるのが好きだった。男たちに持て囃される のも、同性から嫉妬や羨望の視線で見つめられるのも、同じメイジに自らが扱う炎を賞賛 されるのも、何もかも、例えそれが正であろうと負だろうと、注目されることは全て好き だった。自信があったのだ。自信になったのだ。 それだけに、今の状況は気に食わない。恐れるならいい。敬うならいい。へりくだるの だってありだ。だが、見ない振りをすることだけは許せない。 ふん、と彼女は鼻を一つ鳴らすと、一番手近なところにいた露天商へと歩いていった。 V/ 「おかしいわね、普段なら何人かは声をかけてくるっていうのに」 そう言った彼女も、やはり性根は芯から貴族だった。 幇にいた濤羅にはわかる。彼らが声をかけてこない理由が。 商人とは利益を求めるものだ。そして、利益にはリスクが付いて回る。それが見合うか どうかの判断ができぬようでは、商人とは呼べない。まして店も構えられぬ露天商の彼ら には、大した後ろ盾すらないのだ。採算の見通しも立てずにリスクだけを負う。それでは 山師、博打打ちと変わらない。 今で言えば、そのリスクは濤羅だった。彼を一目見て勘が働かないようでは、露天商な ど務まるはずもない。自然と、避けるような流れになっていた。 濤羅にはそのほうがよほど心地よい。 だが、目の間の少女が違うようだった。先程までの上機嫌は嘘のように消えてなくなり、 背中越しですらわかるほど不機嫌な空気を発していた。息を一つ漏らすと、迷わずある露 天商の元へと歩いていく。 「あら、結構いいもの扱ってるじゃない」 「ひっ」 言葉とは裏腹に挑むような口調でかけられた声に、商人が短く悲鳴を上げた。独り立ち したばかりだろうか、見ればまだ年若い。キュルケ達よりまだ二つか三つ上なだけだろう。 怯えてしまっては、対等な取引は望めない。その弱みに付け込まれ、商品は安く買い叩 かれてしまう。 キュルケの細い指が、宝石を扱ったブローチを拾い上げた。太陽にかざして、様々な角 度から色彩の変化を確かめている。 それを、商人は恐怖を押し隠した卑屈な笑みを浮かべて眺めていた。 「これは……錬金でつくった石じゃないわね」 「は、はい。その石も、あしらった細工もすべて職人によるものです。お値段は——」 「いいわ。別に興味ないもの」 「は?」 一言で切り捨てられた商人の目が丸くなる。それを尻目に、キュルケは次の商品に取り 掛かっていた。今度は、グラデーションが色鮮やかな二枚貝のペンダントだった。親指の 先程の小さな貝は、写真でも入れられるのか、ぱちん、ぱちんと開けたり閉めたりできる ようになっている。 「これなんてかわいいわね」 「は、はい。それは世にも珍しい、アルビオンの山中にいる——」 「でもいらない」 商人が泣きそうな表情を浮かべた。それでも笑みだけは絶やさない。泣き笑いだった。 それでもキュルケはとまらない。また新たな商品に目を留めると、その細い指でまた拾 い上げていく。また冷やかしでも始めるのだろう。気でも咎めたのか、タバサがキュルケ を止めようと一歩踏み出して—— 「店主」 その先を濤羅が制した。そこの見えぬ瞳に見据えられてとうとう商人の顔から笑みが消 えた。それに取り合わず、濤羅はもう一度彼に問いかけた。 「店主、今彼女が持っているのは?」 それは商人からすれば好機だった。からかっている貴族の少女とは違い、目の前の男は 真実商人に興味を見せていた。あるいは、口八丁手八丁で商品の価値を何倍にも上げられ るだろう。だが目の前の圧力に耐えられず、つい商人は正直なところを口にしてしまった。 「そ、そそそれはただの安物でさあ。旦那。錬金してもらった銀を、駆け出しの若造に 誂えさせただけの、どこにでもあるような代物です」 「そうか」 言って、深く濤羅はその銀細工を見つめた。何の皮肉か、それは鈴の付いた腕輪だった。 濤羅の脳裏に、妹の幻影がよみがえる。蕭、蕭と、泣いて喜ぶ妹の腕を飾った、濤羅が 彼女の誕生日を祝うためだけに贈った銀の腕輪。 凛と、キュルケの手の中で鈴がなった。記憶の中にある音と比べれば、いくらか鈍い。 意匠も、その道の匠に作らせたそれよりもずいぶんと見劣る。それでもどこか懐かしいと、 濤羅は思ったのだ。 濤羅の目が、不思議な優しさを帯びる。今までしていた警戒も忘れ、不思議とその銀細 工に見入っていた。 「お兄さん、これで足りる?」 その横を、浅黒い腕が伸びていた。はっと濤羅が居直れば、そこには店主に数枚の金貨 を渡しているキュルケの笑顔。店主は呆然と手の中と彼女の顔を見比べていた。濤羅とて わけがわからない。 「はい、あげる」 その彼に、キュルケは手に持つ腕輪を差し出した。凛、とこぼれた鈴が鳴る。胸に押し 付けられたそれを、つい濤羅は受け取ってしまった。今度は、濤羅が手の中と彼女を見比 べる番だった。 「いや、しかし……」 「ああ、お金の心配ならしなくていいわよ。言ったでしょう、あげるて。これはお礼、プ レゼントよ。受け取ってもらわないと困るわ。私の名誉に係わる問題なんだから」 わけがわからぬと視線で問い返した濤羅に、キュルケは首をかしげ、指を一つ立てると 演説でもするように語りだした。 「さっき、ミスタは私を守ってくれたわ。ああ、危険からじゃないわよ、あの程度の男た ちなんて、私とタバサでどうとでもなったもの。 ミスタが守ってくれたのは……私の名誉。 もしあの時、財布を掏られたことに気が付かなかったら、私は無銭飲食を働いたという 謗りを受けたでしょう。貴族崩れのメイジの魔法にすら気付かなかったと、貶められるこ とでしょう。貴族として、メイジとして、何よりもキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・ フォン・アンハルツ・ツェルプストー個人として、そのようなことは許せないわ。 そこから、ミスタは私を守ってくれたの。ゲルマニアの貴族は恩知らずでも恥知らずで もないわ」 だから、お礼——と言うキュルケを断る術を濤羅は持っていなかった。深く瞑目して、 唯一つの言葉だけを搾り出す。 「すまん、ありがとう」 「どういたいまして」 と、その隣で小さく高い、それこそ金貨の鳴るような音が響いた。そちらを見れば、ま さに商人に金貨を渡すタバサの姿が。 「私も、お礼」 驚く二人とは対照に、ただ畏まっている商人だけが、その一角でやけに騒がしかった。 VI/ 上げられた右腕は、木造の扉を前にしてしばし宙をさ迷った。ノックをしようとして、 結局することなく下げられる。ここ数分ほどで何度も繰り返された光景だった。 溜息をついて、濤羅は左手に持つ包みに目をやった。風の魔法とやらで温度そのままに 持ってきたクックベリーパイは、彼女らと離れて以降、急速にその温かみを失いつつある。 今すぐにでも扉を開き、ルイズにこの土産を渡すべきだった。せっかくの焼きたては、 せっかくの心遣いは、逡巡などで失っていいものではない。 それがわかっていてなお濤羅はノックを躊躇っていた。果たして、どのような顔をして ルイズに会えばいいというのか。 濤羅の心境を表した右手が、のろのろと再び扉の前に挙げられる。先ほどの溜息を肺の 中に取り込むように深く息を吸い込んで—— やはり仕切りなおそう、濤羅がそう思った矢先だった。目の前の扉が、前触れもなく開 いたのは。その先には驚いた表情を浮かべるルイズの姿。 濤羅らしからぬ失態だった。部屋の中の気配を正しく探っていれば、当然のように対処 できたはずだった。それを物思いに耽ることで忘れていたのだ。 焦る内心を他所に、濤羅は上げていた右手をすっと降ろした。そのままでは、ルイズの 頭頂を叩きかねない。 間が空き視界が晴れて、濤羅の顔がはっきりと見えるようになったからだろう。呆けて いたルイズの頬に、さっと怒りの朱が差し込んだ。次の瞬間には罵声が飛び出すだろう。 その程度には、朴念仁の濤羅とて予想がつく。 だから、何も言わずに左手の包みを差し出した。 「なに、これ」 その丸い瞳を大きく見開かせたルイズ。その鼻が小さく数度蠢いた。険しかった表情が、 にわかに和らいでいく。 「ちょっと、これもしかして——」 隠しきれぬ期待に目を輝かせ、ルイズが濤羅に一歩近寄った。その勢いに気圧されなが らも、濤羅は彼女の言葉の先を言った。それを、彼女も望んでいる。 「あ、ああ。それは王都で評判らしい甘味屋の、クックベリーパイとかいうものだ。 それと、その……すまなかった。体のことを黙っていて」 ルイズの表情が華やいだ。土産だけでなく謝罪の言葉も利いたのだろう。ここまで全て キュルケの助言通りの反応だった。あまりにもすんなりいったので、先ほどまでの緊張は なんだったのかと濤羅は肩を下ろした。とかく、女心はわかりにくい。 「いいわよ、そんなこと。聞かなかった私も悪いんだしね。 ほら、いつまでそんなところに突っ立ってるつもり。早く中に入りなさい」 そんな彼の内心も知らず、ルイズはこれまでの怒りを忘れたかのように素直に濤羅を部 屋に招きいれた。彼女の興味は今、好物のクックベリーパイにばかり注がれている。包み を空けていないのが不思議なぐらいだ。 「そんなに——」 美味しいものなのか、と言いさしたところで濤羅は沈黙した。甘味といえば、せいぜい 点心の他に数えるほどの洋菓子程度しか知らぬ濤羅には、何をどう説明されようとわかる はずもない。そうなれば、戻ったばかりの彼女の機嫌を損ねるだけだ。吐息だけを残して、 後に続いて部屋へと入っていく。 胸の中で音も立てずに鈴が鳴る。何も知らず、そして何も聞かず笑ってくれる彼女に、 妹の幻想を重ねることは、どうにもできそうになかった。 「まだ、渡せないな」 いつか、渡せる時が来るのだろうか。 それは楽しみなのか、恐ろしいのか。判断をつける前に濤羅は思考を打ち切った。今の 濤羅に答えを出せるだけの強さはどこにもない。 ただこちらの世界に来て以来ことあるごとに浮かべていた皮肉気な笑みだけが、どこか 遠くへ消え去っていた。陰りのない微笑だけが濤羅の顔を包む。 それはかつて、彼が妹に向けていたものと同種の笑みであると気付くものは、この場に 誰もいなかった。 NGシーン ルイズに連れられてきた武器屋で、濤羅は少なからず落胆を感じた。人が扱うのだから、 そうたいした違いはあるまいと辺りはつけていた。だが、魔法が存在する世界なのだと、 わずかながらも期待をしていたのだ。 しかし、その期待はあっさりと裏切られた。見るだけでそれとわかるほど、純度の低い 鉄を薄ら火にかけたような粗刀。重心のずれたせいで取り回しづらい槍。斧にいたっては、 日用品と見間違うようなものしかない。 これがこの世界での一般品なのか、それとも路地裏だからこそこの程度の品しか置いて ないのか。ルイズに聞こうにも、彼女にはそもそも武器のよしあしすらわからない。 こらえ切れない溜息が濤羅の口をついて出た。 「だ、だんな、どうしたんで?」 美栗を身を震わせる店主を、濤羅は灰色の瞳ですがめ見る。店一番の自慢のゲルマニア 刀匠の大刀を一瞥するだけで「いらん」と言われた衝撃はいまだ覚めやらぬらしい。額に は汗がにじんでいた。 決して脅したつもりなど濤羅にはないのだが、その細い瞳で見据えられた店主がさらに ひい、と声を上げた。 「ちょっと、あんまり脅さないでよ。私まで変なメイジだと思われるじゃない」 背後からかけられた声に、濤羅は振り向いた。この店にあるもの全てに否と告げる使い 魔にいささか機嫌を害しているのか、その瞳は半眼だ。自らがわからぬものを、使い魔が 一方的に判断しているのも気に食わないのかもしれない。 理由はいくらでも推測できた。濤羅は女性の機嫌を損ねるのには天賦の才があったし、 ルイズは濤羅が知る中でも特に気性が激しい性格だ。知らぬ間にどのような心境の変化が あろうとおかしくない。 だから濤羅は素直に彼女の言葉に従った。わけがわからずとも、言葉に従っておけば、 とりあえずは間違いない。 一方、濤羅が距離をとったことで、店主はふうと息をついた。視線がはずされたことも 大きい。濤羅には目に見えぬ圧力がある。貴族の嬢ちゃんから小金を巻き上げようという 考えを、店主はとうに捨てていた。早く良い品物を選んでもらって、すぐに帰ってもらう こと以外、もはや頭にない。 追い詰められた頭で店主は思考する。一番の品物だと思った剣は手に取ってもらうこと すらできなかった。辺りにある一山いくらの刀剣類では満足されない。八方手詰まりだが、 貴族の少女は、どうにかしてこの店で買い物を終わらせたいらしく、ぶつくさいいながら 男にあれやこれやと勧めている。 いや、まてよ――店主の脳裏に、少し前に仕入れた風変わりな刀の姿がよぎる。酒場で へべれけに酔ったまま買い入れたものなので今の今まで忘れていたのだ。 「だ、だんな! 少々お待ちください。今もうひとつの取って置きを持ってきますので」 あせりと期待をない交ぜにしたような声で濤羅に告げると、店主は足早に倉庫へと走っ ていった。 「……これは?」 濤羅はこの店に来て初めて驚きの表情を見せた。 それは、確かに取って置きだった。 「何これ、変な形ね」 峰を下に刃を上に。適度に曲線を描いた刀身。綾紐で装飾された柄。ナックルガードに しては特殊な形をした楕円形のものが、柄と刀身の間にあって鞘に押し付けられている。 それは濤羅の世界で言う「刀」だった。刀身の長さは目算で一尺。小刀と呼ばれる類の ものだ。 「ど、どうでしょう?」 店主の言葉を無視して、濤羅はその刀を手に取った。それだけ興味があったのだ。さして得手とするわけではないし、実戦で使おうと思わない。だが、そこは濤羅とて武芸者だ。 よい刀があれば興味はわく。まして、異世界の刀ともあればなおさらだった。 「随分と、軽いな」 「へ、へえ。なんでも特殊な金属を使ってるらしく、ちょっとした刀身の歪み程度なら、 その場ですぐ直せるぐらいでさぁ」 「抜いても?」 「ええ、もちろんですとも」 追従してくる店主から目を離すと、一息で濤羅は刀を抜き払った。軽いだけあって、そ の速度は悪魔じみている。一瞬の光が煌いた、いや、そもそもその光すら、二人には視認 できなかっただろう。その技に、ルイズと店主は感嘆の息を漏らした。 だから、濤羅の顔が曇ったことに気づかなかった。 「……店主、特殊な金属といったな。その名を、覚えているか?」 「え、名前ですか。うーん、どうにもその剣を買ったときは酔っ払っていたせいで、どう にも記憶が怪しくて。確かアルだかアラだか……」 「それは、アルミニウムとか言われなかったか?」 濤羅の言葉に、店主の目が瞬いた。知らぬはずの金属の名を、今まさに言い当てられた のだ。驚きのまま、恐怖も忘れて店主は問いかけた。 「へ、へえ、そのとおりです。しかし、なんで旦那が知ってるので?」 答えず、濤羅はのどの奥を低く震わせた。唇を皮肉にゆがませ、色のない瞳で店主を見 つめる。体をびくりとこわばらせる店主に刀身の光を反射させながら、濤羅はなんでもな いと言った口調で語り始める。 「この金属を、偶々俺が知ってただけだ。そこに特に意味はない」 それだけを告げると、濤羅は刀を鞘に収めた。 「ところで、これを売った(打った)人間はこの刀、いや、剣の事をなんと呼んでいた」 「ええ、と、確か……そう、確かマイケルギョギョッペンとかいう魔剣だと。 ……と、ところでそちらの剣のほうは」 「買わない」