約 11,586 件
https://w.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/1326.html
Top 創発発のキャラクター総合 白亜記 海と山と狼と 海と山と狼と 「終わったー」 シャーペンを置いて伸びをする。机の脇に置いてある時計は午後十時を指している。 高校最初の夏休み。どのくらいの宿題が出るのか少し心配していたが思ったよりは多くは無かった。 出していた筆記用具をしまい、宿題をまとめておく。 小学生の頃、わたしは宿題を毎日少しずつやることにしていた。今日はここからここまでと計画して それを表にするほどだった。だけどその表を見るたびに「ああ、まだ宿題が残っているんだな」と 気持ちが落ち込んでしまいなんとなく夏休みが楽しめないでいた。 そこで考えたのが七月中に終わらせるということだ。 一番いいのは夏休み開始すぐに終わらせることなんだけどやはり入った直後というのはあまりやる気が 出ない。なので七月中とちょっと長めに期間を取り、八月のまるまる一ヶ月は心置きなく遊ぶことにしたのだ。 その習慣は中学生、そして現在になってもまだ続いている。今日は七月二十九日。一ヶ月と二日遊べる。 とは言っても中学生のときは吹奏楽部の練習があったけど創作部は夏休み中の活動はない。 アルバイトもしていないので早めに終わらせた分ちょっと暇な時間が出来てしまった。 どうしようかと考えていると携帯が鳴った。この着信音は創作部の誰かだ。 画面をタッチすると『北乃間 聖』と表示されていた。創作部の先輩はあまりメールをしない。 きたの先輩だけはやたらデコレーションされたメールをよく送ってくる。メールの文章だけ見ると クラスの女子とあまり変わらない。最初受け取ったとき誰だかわからなかったくらいだ。 またくだらない内容かなと思ったら「来週の五日から三日間暇かな?」と書かれていた。 相変わらずデコレーションはたっぷりだが内容が今までになかったものだ。遊ぶためなら 三日間も必要ないだろうしもしかして九月にある文化祭の話し合いでもするのだろうか。 一応カレンダーを見るが何も予定は書かれていない。わたしの家では夏にどこかへ家族で行くというほど お父さんに暇がないのでそういった心配はない。 「大丈夫ですよ」と送り返しておく。すぐに返信が返ってきた。携帯を握り締めているのだろうか。 「よし! じゃあ行こう!」 「どこへですか?」 「海」 海? 「海だ……」 八月五日月曜日。天気は晴れ。潮風が頬を撫でていく。そして目の前には大きな海原が広がっている。 わたしたちの町から電車を乗り継いで三時間。ちょっとお尻が痛い。 でも電車から降りて振り向いたときに見えるこの光景はその痛みを忘れさせるほどのものだった。 「この辺の海は綺麗ね。その割には人が少ないし砂浜だから楽しめるわよ」 「来たことあるんですか?」 「ええ。去年もここに来てるのよ。今はいない先輩も一緒にね」 「……高校三年生の夏休みに旅行していたのですか。その先輩は」 「ちょっと……いえ、かなり変わっていたからね。あの先輩は」 見たことの無い先輩に思いを馳せていると先に行っていたきたの先輩たちに呼ばれた。 無限先輩と改札を通ってみんなのところに行く。 「ここから三十分くらい歩くから飲み物買っておけよ。途中買える場所ないし。 神楽坂歩けるか? 疲れてるなら先に行って自転車で迎えに来るけど」 「わたしは頑張れます。ありがとうございます」 「神楽坂はえらいなぁ。俺は無理そうだから自転車取ってこいよ」 「私も無理なのでそれに便乗しまーす」 矢崎先輩とソーニャ先輩がやる気なさげに手を上げる。この二人は結構仲がいいように見える。 もしも自転車があったら普通に二人乗りするだろう。危ないけどなんかちょっと羨ましい。 わたしの場合はきたの先輩と二人乗りになる。これはないかな。うん。 「てめぇらは歩け! じゃあ飲み物買っていくぞー」 おー、とみんながコブシを上げる。わたしも遅れて手を上げた。 目的地は海沿いではないらしくどんどんと海から離れていく。それにつれ山の色が濃くなってきた。 照り返しの強いアスファルトの道は気づいたら舗装されていない土の道になり 周りもちらほらあったコンクリートの建物は木造建築の家へと変わっていった。 木陰の道を通り抜けるとそこには畑が広がっていた。いきなり山の中へワープしたみたいだ。 普段は見られない光景をわたしは楽しみながら歩く。カメラを持ってこなかったことを後悔する。 太陽を追いかけるヒマワリ畑の見渡していると一軒の大きな日本家屋の前で止まった。 二階建てで瓦の屋根。縁側があり、庭には犬小屋まであった。物語の中のようだ。 きたの先輩は迷うことなく家の引き戸を開ける。 「とりあえず荷物置くか。上がっちまって」 「あ、あれ? 家の人は……?」 「ん? 知らん。この時間だと畑に行ってるんじゃないかな」 さっき鍵を開けるそぶりがなかったような気がする。開けっ放しだったのか。 でもいわゆる田舎というのではそういうのが普通なのかな。 先輩たちは遠慮なく上がっていくのでお邪魔しますと言いながら家に上がる。人が出てくる気配はない。 「部屋どうする? 一緒でいいかな」 「北乃門くん」 「はい。部長。すみませんでした。前回と同じ部屋にします」 案内された部屋は襖で仕切られた畳の部屋で廊下に面している障子が張られた一角からは庭を見渡せた。 なんだかとても田舎の祖父母の家って感じがする。わたしの祖父母は都会住みだから余計にそう感じる。 「こっちが女子三人であっちが男二人な。布団はあっちにしまってあるから夜になったら出すか」 「そうね。数は足りてるの?」 「あー、どうだろ。去年しまったままなら足りるはずだけどちょっと出してみるか」 みんなで押入れから布団を取り出していく。ちゃんと五組あるようだ。枕もある。 少しほこりっぽいので縁側ではたき、そのまま日光の当たる場所に置いておく。 さてとどうしようかと言っていると玄関が開く音がした。誰かが帰ってきたようだ。 みんなで連なって挨拶に行く。 「あれ、聖じゃないか。どうしたんだ?」 玄関には買い物袋を持った二十台ぐらいの眼鏡をかけたカーキ色のカーゴパンツに黒いTシャツを着た男性がいた。 てっきりきたの先輩の祖父母の家かと思っていたが違うのだろうか。 「じーちゃんたちに聞いてない? 今日から三日間くらいいるんだけど。つーかなんでおっさんがいんの?」 「今なんもやってないし暇だからこっちに来てんだよ。じーさんたちなんも言ってなかったけどな」 「そっか。まぁいいや。俺の部活の友達ね」 みんなそれぞればらばらの挨拶をしながら頭を下げる。先輩達もどうやら初対面のようだ。 「そんでこっちの眼鏡のおっさんが俺の……なんだっけな。とりあえず親戚」 「どうも、おっさんです。さん付けで呼ぶときはおっさんさんでお願いします」 おっさんと言うには少々若く見えるが本名がわからない以上はおっさんと呼ぶしかない。 親戚と紹介したが顔が整ってて髪が色が茶に近いきたの先輩と比べるととても似ていない。 遠縁の親戚なのだろう。 「つーかさ、そっちもじーさんたちのこと聞いてないのか」 「なにを?」 「詳しくは知らんが山向こうの家に行っちまったぞ。一昨日から」 「なにそれ、聞いてないぞ。どんくらいで帰って来るんだろう」 「土曜には帰ってくるんじゃないかな。何日いんの?」 「三日間……。おっさん飯とかどうしてんだよ」 「そら、これよ」 買い物袋を広げる。中には種類様々なインスタントが詰め込まれている。 こんなところまで来てインスタントを食べるというのはどうなんだろうか。うーむ。 「畑から野菜でも採ってきてお前らは自炊するんだな。はっはっは」 笑いながら上がろうとして止まる。 「俺、離れのほうにいるわ。あっちもちゃんと必要なものはあるし」 「別に気を使わなくていいぜ?」 「俺が使うんだよ。それに若い高校生の男女が同じ屋根の下三日間自炊して暮らすなんて」 ああ、すごくいやらしい笑い顔だ。どうみてもおっさんだ。なんかにゅふにゅふ笑ってるし。 「つーことでこのレトルト持って離れ行くからお前らは頑張れ。必要なものがあったらメールしてから来るわ」 「別にメールしなくても……」 「そりゃ突然来られて困るような状態だったらやだろ?」 「わかったからもう出て行け!」 先ほどまでの痩せ気味ではあるけどちょっと知的な青年姿はどこへやら。よくわからないおっさんと化した おっさんはにゅふにゅふ笑いながら買い物袋を持って出て行った。 「これだからおっさんは」 「いつもあんな感じなのか」 「ああ、いつもだ。引きこもりのニートの癖に妙に口が回るというかなんというか。 とりあえずおっさんは置いといてそうなると飯をどうするかな」 「言われたとおり自炊するしかないんじゃないかしら。お店とかどこにあるの?」 「町のほう……。ああ、駅のほうな。あっちまで行かないとないな。この辺りは畑と山と森だけだ」 「まずは何があるか見よう」 そんなわけで一同台所へ行く。 冷蔵庫の中は調理する人間がいなくなったので空っぽだった。麦茶だけがちゃんと蓄えられている。 お米のほうは十二分にあるようだ。調味料も一通りある。無いのは本当におかずだけ。 「仕方ない。自炊しよう。ちなみに俺は料理出来ないぞ」 「俺も出来ないな」 男性陣の視線がわたしたちに注がれる。既にソーニャ先輩はあちら側にいる。 無限先輩と目を合わせる。 「私達がやるしかないようね。私も料理なんてあまりしないんだけど」 「頑張りましょう。無限先輩」 「じゃあ買出し組と野菜収穫組に分かれるか」 「聖は野菜収穫組として調理担当は買出し組になったほうがいいのかな」 「そもそも野菜って何があるのかしら」 「知らん。キュウリがあるのは覚えてる」 「とりあえずじゃんけんでいいよ。はい、最初はグー。じゃーんけーん」 「あづい……」 カンカン照りの太陽の下。野菜を収穫しては袋にそっと入れる。隣でソーニャ先輩が死に掛けている。 その割には動作はてきぱきして慣れているように見える。 「じゃんけんで分かれたんだから仕方ないですよ。今頃矢崎先輩と無限先輩は……」 自転車に乗っていこうという話だったが使えるのが一台しか残っておらず、しかし歩いていくのは面倒 ということで矢崎先輩が漕いで、荷台に無限先輩が乗るという形で旅立った。もちろん二人乗りは 本来は良くないので人がいないところだけと言っていた。しかしこういうのに厳しそうな無限先輩が 二人乗りをするというのは意外だ。もしやと勘繰ってしまう。気になる。 「警官に補導されてたりしてな」 「それ笑えないですよ。ソーニャ先輩収穫とかやったことあるんですか? 普段と比べてずいぶんとてきぱき動いてますけど」 「いつだって私はてきぱきしているが……」 うーんと唸りながら頭を掻く。 「収穫作業なんてやったはない。と言い切れるんだがなぜかやったような気もするんだよな」 「なんですか、それ」 「私にもわからん。夢の中でやったのかな」 「変な夢を見るんですね。これだけあれば十分かな」 袋に詰め込まれた野菜を数える。今日のメニューは手軽でおいしいカレーとサラダになった。 おでこの汗を首にかけたタオルで拭い、立ち上がる。 「帰りますよ。先輩」 「うー……」 ソーニャ先輩を引っ張って立たせる。夏だと言うのにこの人の手はなんて白いんだ。 髪も瞳の色さえ白に近い。文字通り白人だ。 「……美希ちゃん。私の手をそんなに見つめても何も起きないよ」 「あ、いえ、失礼しました。夏ですし少し小麦色にしたらどうですか?」 「いやだよー。肌がひりひりして痛くなるもん」 「でも白いと小麦のコントラストはいいと思います」 どこにいたのかいきなりきたの先輩が出てきた。無限先輩と二人でいたのですっかり存在を忘れていた。 ちゃんと野菜は持っているしさぼってはいなかったようだ。 「白い肌に小麦のコントラストは」 「いいです。二回言わなくて。聞こえてますので」 「お前は本当に欲望に素直だな。生きててさぞかし楽しいだろう」 「そりゃ折角の人生だ。楽しまないともったいないだろ? それに今なんて両手に花だ」 そういって笑う。その姿は間違いなくイケメンだしこれだけを見れば女性を惹かせるだけの魅力はある。 外では割と好青年っぽいしわたしの周りの評価もいい。ある意味彼女が出来ないのは不思議と言えば不思議。 花と言いつつさりげなく手を握ろうとしてきたので回避する。ソーニャ先輩は抓っている。 「これ置いて帰ろうか」 「そうですね」 「いてて。悪かったよ。お詫びにいいところ連れて行ってあげるよ」 「なんか言い方がいやらしい」 「ごめんなさい。知らない人には付いて行くなとしつけられているので」 「いやらしくないよ! 知ってる人だよ! ちょっと涼しくなれそうな場所があるから寄り道しないかって 言おうと思ったんだ」 「コンビニとか川でもあるんですか?」 「ふふふ、それは着いてのお楽しみ。じゃあ行こうか」 この溶けてしまいそうな暑さの中、涼しくなれる場所と聞くとちょっと気になってしまう。 ソーニャ先輩も同じらしく興味がありそうだ。おとなしく着いていくことにした。 十分ほど歩き、とある森の前にたどり着く。目の前には階段があり奥へと伸びている。 人気はなく少々薄暗い。蝉の声がやかましく聞こえているのになんだか異質な場所に見える。 「この先に社があるんだよ。それまでずっとこの森の道でさ。肝試しなんかによく使うらしいぜ」 「そういう意味で涼しくなるってことか。登るの?」 「いや、行くにしても今日はやめておこう。みんなで来たほうが楽しいだろう」 個人的にはあまり来たくない。良く見ると入り口の両脇に妙な像がある。あれは犬だろうか。 もう一度階段を見る。ある程度奥まで行くと曲がっているので社というのは見えない。 この森の奥に何かがいる。そう思うとぞっとする。わたしはその何かがいる近くで寝泊りするのだ。 しかし帰り道ではきたの先輩が中学の頃にやったくだらない失敗談で盛り上がったので 帰宅したときには先ほどの恐怖心はすっかりなくなっていた。 「夏と言えば怪談だよな」 割と好評だった夕飯を済ませ、洗物をやり終えたきたの先輩がおもむろにそんなことを言う。 時間はまだ八時を少しばかり過ぎたところだ。 「怪談話をするのはいいけどその前にお風呂に入らせてほしいわ」 「そうだな。みんな汗かいてるだろうし」 「ということで男子からちゃっちゃと入って来てよ」 これからだったのに、とぶつくさ文句を言うきたの先輩を連れて矢崎先輩が出て行った。 怪談と言ってもわたしは怖い話を知らない。そういうのを避けるようにしていた。 「しかし年頃の男女が同じ屋根の下か……」 ソーニャ先輩がぽつりと呟く。無限先輩がいぶかしげにソーニャ先輩を見る。 「何か起きてほしいの?」 「そういうわけでもないけどさ。てっきり去年と同じようにきたののおばあちゃんたちがいると思ってたから」 「そればっかりは北乃門くんも予想外だったみたいね。もしも計画的にこの状況にしたなら 少しばかしお仕置きしたかもしれないけど」 ふふふと無限先輩が妖しく笑う。たまにこういうことをほのめかすことはあったが実際に執行されているのは 見たことが無い。ただ普段の無限先輩ときたの先輩を見ているとその名を出すだけでも効果はあるようだ。 「そういえば町行くとき結局自転車乗ったの?」 「乗ったわよ。嫌な音がするから結構怖かったけど……」 「やっぱり矢崎が漕いで桃花が荷台に座って背中に抱き付いてたんだろ?」 「そうでもしないと怖くて乗れないわ」 やっぱり乗ったんだ。無限先輩が後ろから抱き着いて。 夏の日差しの中を古びた自転車を軋ませながら一生懸命漕ぐ矢崎先輩と笑いながら後ろから抱きつく無限先輩 の図が鮮明に頭に浮かぶ。でも無限先輩はこんなに笑わないよね。うん。 ソーニャ先輩が例のおっさんみたいな笑みを浮かべる。 「その凶悪なモノを押し付けたんですよねぇ。どうでした? 矢崎の背中の感想は?」 「酔っ払いじゃあるまいし変な質問しない」 手刀でソーニャ先輩の頭を軽く叩く。慣れたものだ。時折ソーニャ先輩はこんなよくわからない質問をする。 でも今回はちょっと答えてほしかった。先輩の背中はどうだったのだろうか。 「でも自転車の二人乗りなんてよくお前がやる気になったな。本当はやりたかったんじゃないの?」 「ええ。やってみたかったわ」 「えっ!?」 思わず声を上げて驚く。その声に二人が驚いている。私もこんな声が出ると思っていなかった。 でも今、無限先輩は認めたのだ。 「や、矢崎先輩とふ、二人乗りしたかったんですかっ!?」 「ちょ、ちょっと落ち着いて。神楽坂さん。別に矢崎くんとに限らず二人乗りの後ろに乗ってみたかったのよ。 別に前に誰がいてもいいのよ」 「きたのでも?」 「え、ええ。もちろん。別に神楽坂さんでもシカでもよかったわ」 なんだか少し慌ててるように見えるがそれはわたしが突然爆発したせいだろう。なんだかみっともない。 気づいたら立ち上がっていたので腰を下ろす。 「すみません……。大声出して……」 「気にしなくていいわ。普段あまり大きな声出さないからびっくりしただけだから」 「いやー、まさか美希ちゃんがそんなに二人乗りしたいなんて」 そこではない。そこではないがそう思っていてくれるならそれでいい。でも無限先輩は何かを察したような 顔だ。あまり意識しないようにしていたのにこんな状況になっちゃったから。 「上がったよー。ん? なんで神楽坂顔赤いの?」 「乙女の秘密よ。さ、私達も入りましょう」 顔が赤いなんて気づかなかった。わたしは逃げるように部屋へ着替えを取りに行った。 ちなみにお風呂は思ったより大きかった。きたの先輩曰く 「親族の子供が集まった時に困らないように風呂とトイレは新しいのを導入」しているそうだ。 家のほとんどが古き日本家屋だと言うのにそこだけがまるで異次元かのように進歩していた。 お風呂から上がり居間に戻るとおっさんが縁側に座っていた。 わたしたちを見ると例のいやらしい顔になる。 「いやー眼福だねぇ。たまには外に出てみるもんだ」 「おっさん本当に俺達が来ることを知らなかったのか? 狙ってないか?」 「信用ないな。俺はそもそも迎え狼を見に来たんだよ」 「迎え狼?」 「ああ。こっちのほうでは狼は死者を護衛してくれる神聖な動物となっててね。 だから十三日から十七日まで行われる盆を迎えるその一週間前に先に狼を迎えて 盆までもてなすって習慣があるんだ」 お盆と言えば十五日の一日だけ指すものだと思っていたがこちらではかなり長い期間のことを言うようだ。 十三日の一週間前ということは……。 「丁度明日からなんですね」 「うむ。だから町では明日お祭りがあるぞ。行って来ればいいさ」 ということは明日の夕飯は作らなくていいのかな。何作ろうかちょっと迷ってたから助かる。 浴衣とか持ってきて無いけどそれは仕方がないこと。 「それで今日収穫した野菜が余ってたら少しくれるか? あと肉もあるといい」 肉は全部使ったはずだが野菜は残っていたはずだ。無限先輩が台所からキュウリなどを持ってくる。 おっさんはそれを笊に綺麗に持って、庭にある犬小屋のまえに置く。 そういえば小屋があるのに犬の姿は見ていない。どんなのが出てくるかと見ていたが出てくる気配がない。 「今日の日付が変わったら狼がうちの犬小屋に来る。供え物は俺が出すから心配しなくていいが 犬小屋の周りで遊んだりはしないようにな」 「じゃああの犬小屋は元からそのために?」 「そうだ。まぁ神聖なる狼の仮住まいにしてはちょっと普通すぎるけどな」 確かにどこからどうみても普通の犬小屋だ。とてもじゃないが先祖の霊を護衛する重役の仮宿には見えない。 しかしそう言われるとなぜか不思議な力が込められているように見えてくる。 「ま、そういうわけだ。じゃあ俺は戻るわ」 おっさんは別れの挨拶をして夜の闇へと消えていった。離れというのがどこにあるのかわからないが こんな暗闇でも明かりなしでいけるということは思ったより近いのかもしれない。 その後、みんなで話をしながら日付が変わるのを待っていたが昼間に慣れないことをやって疲れが溜まっていた のか睡魔に襲われて、気づいたら布団の中で眠っていた。 創作部の通り雨 夏の音 白亜記まとめに戻る
https://w.atwiki.jp/legends/pages/585.html
狼少女との一戦の後1ヶ月ほどが過ぎたころ 無事に少女も体調を治し、共に行動するようになった 彼女の能力は身体、再生力強化であり、元々病弱だった少女は能力のおかげで毎日を楽しんでる様子だ そんなことはさておき、現在この2名が暮らしている町に「夢の国」とかいうチート都市伝説がやってきたらしい その都市伝説は子供を狙うとかいうので自分は自主的に少女を自宅から学校までの送り迎えをしている ある日のことだった、当日少女は最近始めた部活で夜になってから下校ということになり、当然自宅まで送るのも夜になってしまった 少女「すいませーん おまたせしましたー」 少女が駆け足でやってくる 男「今日も部活はどうだった?」 少女「はい今日も思いっきりがんばりました!」 少女は満足そうな顔で男と自宅に向かい帰り始めた ちょうど学校と自宅の中間地点だろうか 急にメルヘンな音楽が流れ始めた 少女「あれ?この曲ってエレクトリカ(ry」 男「たしかにそうだけど、それ以上いうと面倒くさいことになるからやめとけ」 男「(もしかしたらあれですか、『夢の国』ですか・・・)」 曲のなる方向に警戒をしつつ手に銃をイメージし、作り出す 男は少女に迂回して帰った方がいいだろうということを提案し、正面から出会うのを避けた 次の交差点に差し掛かった時、またあの、パレード曲が聞こえる 少女「あれ・・・まだ聞こえる・・・」 少女の方も警戒をしながら音の方向に注意している それにしても不気味な空気である 万が一、戦うことになった時のために担当の黒服にメールで状況を送ることにした 万が一の時のことを考えると高確率でフラグになるのは正しいようで、 メールを送信したあと少女へ振り向こうした時だった 少女の背後から某ネズミが「ハハッ!バックアタックだよ!」とでも言いそうな感じで 少女に今まさにつかみかかろうとした時だった。少女は後ろに気づかないようで、俺がとっさに構えた銃口が自分に向けられているとでも思ったのだろうか 男「伏せて!」 声の言う通りにわけのわからぬまま地面に伏せた少女を確認すると、俺はあの某ネズミの頭に向かって遠慮なく引き金を引いた ネズミは銃弾にまともに当たったようで、後ろに倒れた 少女を立ち上がらせ、何が起きたのかを説明すると、後ろに振り向きネズミを見つめ 少女「わ!ミッ(ここから先は著作権上の理由で削除されました)さんだー!」 めったなことをいわないでください、後が怖いです 黒ネズミはしばらくすると透明になる感じで消滅した・・・ そして遠くからこえが聞こえた 『夢の国では人は死なない、だからマスコットだって・・・ねぇ?』 中の人的な意味なのだろうか、遠くからまたネズミやらリスやらアヒルやらがこっちに向かってくるのをシルエットで確認する事ができた これは相手にできんと思い少女の手を引き逃げようとした時 黒服「こっちです!、走りますよ!」 銃声を聞き駆け付けたのだろうか、黒服が交差点の向こうで呼んでいるのを確認すると 二人は黒服のほうへ走りだした。黒服と合流し、逃走中に小さな公園に出た 黒服「ここまでくれば余裕もあるでしょう」と独り言をいうと、集中し始めた すると、公園の真ん中に小さな建物ができた。店のようだが店名が書いてない 黒服「さぁ、中へどうぞ。」 黒服が二人を中に入れると、ドアを閉めた 建物の中には沢山の婦人服がハンガーに吊るされている。ブティックのようだった 黒服「とりあえず家までいければ、あれも追ってはこないでしょう」 すると、建物が少し振動すると黒服はドアを開け、少女に家に着いた旨を伝えた 少女と俺は戸惑った様子で外にでると、そこは先ほどの公園ではなく、少女の家の前だった 黒服は少女を家に送るからここで待つよう言い少女を送った、少しして戻ってきた黒服に 男「まさか、あんたの能力って・・・」 黒服「ご察しの通りです、『客の消えるブティック』ですよ まあ消えるといってもワープがメインでして、達磨になったりはしないのでご安心を」 そういうと黒服はドアを閉め、また少し振動すると、今度は自宅前だった。 店から出る時 男「あ、お礼言い忘れてた。ありがとう」 黒服「契約者を守るのも我々の仕事ですから」と言い笑顔で店のドアを閉めた 俺が瞬きしている間に店は消えてしまっていた ようやく長い一日が終わりを迎えようとしていた 男「『夢の国』とかチートだろ・・・jk」とつぶやきながら家へと戻っていった 前ページ次ページ連載 - 魔法の銃弾と狼少女
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/18477.html
あめとゆめのなかで【登録タグ あ 初音ミク 曲 樹人】 作詞:樹人 作曲:樹人 編曲:樹人 唄:初音ミク 曲紹介 樹人氏 のボカロデビュー作。 歌詞 他人事の期待と憎しみで 心 閉ざしていた 届くことのない想いを抱えて 眠っていたんだ 雨の中 息を吸って深く 潜ってゆく 探し続ける 変わらないもの 夢を見て 朝になって 解けない魔法を そっとかけた 世界がずっと 変わらぬように 色褪せぬように 願いながら 冷たい雨の降る街で それでも時は 少しずつ、だけど 若さを 奪ってゆく あとどれくらい生きられるのかな? そんな事は 誰も知らない 誰のため 息をしているのだろう? 私は何を 残せるのかな? 痛みを知って 孤独を知って 初めて この命 輝くの 永遠なんて 望まないで ただ、今、この時 掴めば ほら 霧雨も透き通って見える ああ 夢は 褪めないままで 雨の 音で 息を 吸って また 夢を見て 朝になって 気づけば 雨はもう止んでいた 独りだって 進んでゆけ 離れても きっとまた 巡り逢う 変わらぬもの など無いけど この記憶は 消えることは無い 光のほうへ 進んでゆけ 明日がどれだけ 残酷でも 8・9・6の魔法が 捻じ曲がった リアルの中へ コメント 追加乙 -- 名無しさん (2011-10-01 14 03 40) 聞いていて爽やかでとても素敵な曲でした 朝に聞きたいと思う曲w サビの部分とかとてもすきw きれいで爽やかな曲ですねw もっと評価されてほしい -- 麻里亜 (2011-10-06 07 37 34) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/wiki11_hibiki/pages/112.html
- メディアは警笛を鳴らしすぎると狼少年になる うーん、なるほど。なかなか難しいトコだな。鋭いとこ突いてる。 BSEの場合には、1万年に1人の死者がでるかどうかだろうから、気にすること自体が無意味なのだが、どうしても気にする人がいるというのならば、食品関連業界で、日本国内で牛肉を食べてそのためにvCJDで死亡した場合には、50億円の見舞金を支払いますとでも発表したら良い。 画期的なリスク表示方法デハナイカ。 戻る http //www.yasuienv.net/BSEFoodMedia.htm コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/4707.html
作詞:Aether_Eru(P∴Rhythmatiq) 作曲:Aether_Eru(P∴Rhythmatiq) 編曲:Aether_Eru(P∴Rhythmatiq) 唄:GUMI(VOCALOID3) 翻譯:水月 世事无常,人们作何感想? 伸出的那双手,徒然抓住天空 被悲伤包裹 望着空虚的景色 就连交谈的话语 也随着风飘走 没有目的地彷徨 将消散逝去的生命 铭刻在逐渐模糊的意识中 挣脱内心的黑暗,少女歌唱着 将祈祷注入心中 小小的胸中静静握着 看见了褪色的钥匙 风中摇曳的那座山丘 无法传达的思念在飞驰 此处已没有真正的容身之处 在漫长的旅途中 落下的白色碎片 连被爱的温暖也都已遗忘了吧? 张开龟裂的手掌 接住滴落的水滴 编织命运的未来记忆 干燥的大地降下了雨 小小的生命开始萌芽 黄昏的花瓣飘舞 那一天在远方苏醒 绝望的深渊中看到了微弱的光芒 震撼我心 无论在那里都会传来希望之诗 挣脱心中的黑暗 少女静静地迈出了脚步 有如被引导般 向着幻想前行 背影逐渐消失 翻译:木子圣贤 随花,随风,随雨 世事无常 沧海桑田 人类又如何作想 伸出的那只手 只徒劳地抓住虚无 被悲伤笼罩着 凝视着空虚之景 甚至连彼此交谈的话语 也同清风一同流逝 没有目的地迷失徘徊 将凋零的生命 铭刻于渐渐淡薄的意识之中 为挣脱甩弃内心的黑暗 少女满怀祈愿地放声歌唱 久久注视着 于纤小胸前轻握住的褪色钥匙 在随风轻曳的那座山丘 驰上无从传递的思念 这里已然没有 真正的容身之处 漫长的旅途之中 放置下白色碎片 这份被爱的温暖 最终也会忘却吧 零落于这龟裂手掌的泪滴 是对那编织生命的未来的记忆 干涸的大地 倾泻而下的雨 朦胧中感到的微弱呼吸 黄昏的花瓣漫舞 那段遥远的时光在彼方悄然复苏 即便在绝望的深渊中看见的光微乎其微 也强烈的贯穿了心 希望的诗歌响彻每个角落 直至遥不可及的远处 为挣脱甩弃内心的黑暗 少女静静地迈开步伐 宛若被引导着 空想的那方映出幻影 逐渐消逝而去
https://w.atwiki.jp/16seiten/pages/812.html
「おい、そこの学生」 突然後方から声をかけられる 何者か、と思い腰に装備している水筒のボタンに手をかけながら振り向くが、そこには誰もいなかった 「こっちだ、こっち」 二度声をかけられたことで声の主は後方ではなく「上」にいると気づいた。 見上げると、電柱の上に一人の男が立っていた (なんだこの人……なんであんなとこにたってるんだ?) 「……誰ですか、あなた」 「うむ、、当然だが、これから貴様にある質問をする。答えろ」 「はあ?」 「もし、自分に役不足な仕事を命じられたらどうする?」 「役不足…ですか?」 「そう、役不足だ。最近よく逆の意味で使われるが、正しい意味は役者に対して役が不足であることを指す言葉。つまり、与えられた役目が軽すぎることを表す。 そんな仕事を命じられたら、どうする?特に、「ガキの相手」を命じられたりしたら」 「ガキ……」 「そうだ。大した実力もないくせ親の功績で重役に就いているようなガキだ。そんなのの相手をしてこいと言われたら、早く済ませて帰りたいと思うだろう?誰だってそー思う。俺だってそー思う」 「………」 いっけいは電柱の上の男を「敵」と判断した 正体も、目的も、なぜこんなことをペラペラと喋っているのかもわからない ただ、男が自分にとって敵であることだけは確かだ 「ところで学生、さっきから気にならないか?」 「……何がですか」 まず、いっけいは水筒(最新式のキャップユニットタイプでワンタッチで開閉が可能。ロック機構付きで漏れもなく安心)の中の血に法術を流す 「おれが『なぜこんなところに立っているのか』、だ」 「さあ?バカとナントカは高いとこ登りたがるって言いますから、そうなんじゃないですか?」 (『揺(ロック)』) 次に、自らの血流に法術を流した。反応速度を高めるためだ 「月並みな答えだな。面白味に欠ける」 「…すいませんね」 電柱の上の男から殺気が放たれる 「正解は…」 (!!…来るか!) 「『これ』だ」 次の瞬間、男の体から無数の投射物が放たれた いっけいは『揺(ロック)』で強化した反応速度で後方に跳躍する しかし、すぐに避けられないと悟る 無数…そう、投射物はまさしく無数に放たれた━━━━━━━━━━━━空を覆いつくすほどに。 (くそっ、避けられないのなら!!) いっけいは腰に装備している水筒を開け、『法術』を流した血を放つ 放たれた血は霧となり拡散した 「『紅の螺旋(レッド・ツェッペリン)』!!!!」 そして直後、無数の槍が大地を貫いた 「……最後に何か悪あがきをしたようだが、あの距離では避けられまい」 投射物、ロンギヌスの槍の雨がいっけいに命中する直前、いっけいが放った「赤い霧」 そのせいで電柱の上の男、ロンギヌス・カトウはいっけいの死亡を確認できないでいた 「死体を確認したいところだが…」 あの「赤い霧」の中に入るのはよろしくない 本体が既に死亡していたとしても、自動的に発動する罠の可能性がある そもそも、本体、明楽いっけいが生き延びている可能性も無きにしも非ずだ 「試してみるか」 カトウは霧に向けて槍を一本発射した 発射された槍は霧の中に吸い込まれるように消えそのまま… (音沙汰なし、か。どうやら槍を打ち込んでも何かが「作動」したりすることはないようだな。 さて、どうしたものか。風系能力者でもいれば楽だったのだがな………?) カトウは霧をどうやって除けるか思案していたが、ふと霧に違和感を覚えた 「……こちらに近づいてくるだと?」 一瞬風の影響とも思ったが、風は間違いなく霧に向かって吹いている つまり、霧は『風に逆らっている』のだ 霧は確実にカトウが立つ電柱に近づいてくる そして、霧の最後尾が、最後にいっけいが立っていた地点を通過する そこに死体はなかった 「…決まりだな。本体は『生きている』」 カトウはもう一度、今度は赤い霧に向けて槍の雨を放つ 本体が霧の中に潜んでいるのなら、ひとたまりもないだろう しかし、霧の進行は止まらない 「………」 (本体はあそこにいない?) 霧はカトウが立つ電柱に到達する 「このままここにいるのはまずい、な」 カトウは左方の民家の屋根の上に飛び移ろうと跳躍した その時、まるでその動きに反応するかのように赤い霧から槍が打ち出される 「なに!?」 いや、槍というにはいささかお粗末だ 「槍状の固められた結晶」と言うほうがいいだろう それがカトウに向かって飛来する 「南無三!!」 カトウは咄嗟に空中でロンギヌスを放ち、それを撃ち落とした カトウは体制を崩しながらも民家の屋根上に着地する カトウは考える (二度目の槍の斉射で効果が得られなかったのは、既に本体が赤い霧の外にいたからだろう。それで説明がつく。 しかし、初撃…一度目の槍の斉射は避けられなかったはずだ……アレをどうやって生き延びた?その方法だけは解らんが……) 「どうやら、明楽いっけいはこのまま「赤い霧」で俺を仕留めるつもりらしいな」 霧は既に屋根の上まで這い上がって来ていた そして今度こそ、カトウを完全に包囲する 「……なめられたものだな、俺も。こんな小細工で仕留められると思うのか?」 もし、今度は全方位から先程のような投射物が放たれたとしても、カトウはそれを防げる確信があった ロンギヌス・カトウは体から無限の槍を生み出すことができる 放たれた投射物と同数の槍を寸分の狂いもなく同じ個所に放ち、落ち落とせばいい。カトウにはそれが可能だった。 (あの投射物はおそらく霧を変換したものだ。ならば、あれを発射すればするほど、霧が薄まっていくということ。 それは俺にとって好都合。さあ…撃って来い明楽いっけい。) しかし、放たれたものはカトウが予測していたものではなかった ━━さっきの質問に答えてやる 「!?」 霧の効果なのか、声が反響してどの方向から発しているのかわからない だが、この声は間違いなく明楽いっけいのものだ (話しかけてきただと……?) ━━もし俺が役不足な仕事を命じられたどうするか……答えは「別に何も考えずその仕事をこなす」、だ 「……ほう」 (本体は近くにいるということか?いや、そう思わせるフェイクとも…) ━━いいか、「仕事を任せる」っていうことは「そいつにそれだけのことができると『信頼する』」ってことだ ━━そして「仕事をこなす」っていうのは「その『信頼に答える』」ってことだ ━━だから、仕事の時は「早く終わらせて帰ろう」みたいな考えは持つな ━━相手が親の七光りに頼っているようなガキでもな 「……貴様の言うとおりだな。おかげでこのザマだよ。俺の前に現れてくれるのなら、今度は本気で貴様を殺しにかかろう」 (この声がどこから聞こえるのかはわからない。だが、全方位に向けて発射すれば…) しかし、カトウの算段は徒労に終わる ━━ああ、そうこなくちゃな。『仕事』は大事だ ━━『人生は働いて寝ること』の繰り返し。人は『信頼に応える』ことで生きていく ━━俺がアンタを倒すのも、殺されかけたからじゃない。俺の『仕事』だからだ。十六聖天裏六位のな ━━俺は、信頼に応えるよ ━━『王の赤(キングクリムゾン)』!! 霧が晴れる。いや、一カ所に収束していく。 その収束していく地点に、明楽いっけいは立っていた。 いっけいの右手には、身の程もある深紅の大剣を手にしている (自分から姿を現しただと……) カトウは一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻し状況を分析する そしてずっと疑問に思っていたことの答えを見つけた (なるほど。初撃の槍の斉射をどうやって避けたのかと思ったが、得心がいった) いっけいは『避けなかったのだ』 彼の右上腕部と左わき腹には槍が貫通した跡と思われる穴が開いていた。右腕には感覚がなく、動かすことができない その傷口は凝固した血液でコーティングされている。血闘術で血を固めたものだ しかし、あくまで無理やり『止血しただけ』にすぎない 傷が癒えたわけではないのだ 早く適切な治療を行わなければ危険だ 「既に半死半生だな。俺がトドメを指すまでもないんじゃないか?」 「ああ、かもなぁ。だが、『仕事はこなす』」 両者の距離は約3m、カトウは思案する (おそらくこの男は、『最初から』俺にあの剣で接近戦を仕掛けるために行動していたと考えられる。「赤い霧」も全てこのための布石……ならば!!) 先に動いたのはカトウだった カトウは上空に向けロンギヌスを発射した 一瞬だが、いっけいはそれを目で追ってしまう そしてその隙を突くかのようにカトウはいっけいに向け槍の斉射を放つ いっけいはキングクリムゾンを盾のように構え槍の斉射をやり過ごそうとする しかし、キングクリムゾンはあくまで剣なのだ 槍の斉射を防ぎきることはできず、槍がいっけいの右足を掠る 「ぐっ!」 いっけいは痛みで体制を崩しかけるがなんとか持ち直す だがその時、既にカトウは一本のロンギヌスを手に身を低く屈め、いっけいの足元にまで迫って来ていた そして上に突き上げる形でいっけいの心臓を貫こうとする だが、ロンギヌスの先には既にキングクリムゾンがあった 金属音が鳴り響き、火花が散る いっけいはカトウのロンギヌスを払いのけ、そのままカトウの体を両断するべくキングクリムゾンを水平に凪いだ だが既にそこにカトウの体はなかった いっけいがキングクリムゾンを凪ぐよりも一瞬速く飛びあがり、そのままいっけいの上空を回転しながら飛び越した カトウはいっけいと背中合わせになるように着地する。その時には既にロンギヌスがいっけいの背中に伸びていた 再び、金属音が鳴り響き、火花が散る 振り向きざまに放たれたロンギヌスはまたしてもキングクリムゾンに受け止められる いっけいは体を回転させながら、今度こそカトウを一刀両断するべくキングクリゾンを凪ぐ 三度、金属音が鳴り響いた 火花が散り、お互いが弾かれ合うに距離を取る いっけいは地面を強く蹴り、カトウに突貫しながらロンギヌスを凪ぐ それに対しカトウは地面を強く蹴り、『大きく後ろに跳躍した』 結果、いっけいの一撃は空を切ることとなった そしてカトウは思う ━━━━勝った カトウは待っていたのだ 先刻上空に放った槍が雨となり落下してくるのを そのためにいっけいの本命が接近戦と気付いていながらも、いっけいを槍の落下地点に足止めするため、あえて接近戦を挑んだのだ しかし、カトウがこの時を待っていたように、いっけいもまた待っていたのだ カトウが自分と『距離を空けるのを』 「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」 いっけいはカトウに向け、キングキムゾンを投げ捨てる しかし、キングクリムゾンがカトウに命中するよりも速く、槍の雨がいっけいを貫いた カトウは最後の仕上げにいっけいが投げ捨てたキングクリムゾンを払い落そうとするが… キングリムゾンは『命中しなかった』 カトウに命中する直前、キングクリムゾンは霧となり拡散した そしてその「赤い霧」はカトウを包みこむ 「な、これは…」 いっけいは生きていた 槍の雨に直前で気付き、急所に当たるのを避け、即死をまのがれたのだ そして半死半生の体でいっけいはたった一言だけ、言葉を発する 「レ……ド…ツェッ…ペリン」 次の瞬間、カトウを纏う赤い霧の一部が槍となり、カトウの腹に風穴を空けた 「があ!…あ!…こ、これは…」 次の霧がカトウの左目を貫く 次は右足を、その次は右腕を、次は左足を、次は落ちた右手を貫く 「がああああああああああああ!!」 カトウは激痛の中でこれがいっけいによる攻撃だと理解した そして、いっけいを完全に仕留めるために左手に持つロンギヌスを投げようとする 次の瞬間、霧がカトウの左腕を貫いた カトウの左手はロンギヌスを持ったまま落下した そして霧はさらにカトウの躰を『貫き始めた』 赤い霧が晴れるころには、カトウの痕跡は一本の槍しか残っていなかった そしてその槍も自ら塵となり何処へと消えうせた 「……言った…だろう……『仕事はこなす』…てよ」 いっけいの意識はそこで途切れた 「ストーリーテラー、カトウを回収したぞ」 十大聖天No6 キラーの腕には塵と化したはずのロンギヌスが握られていた ≪御苦労、明楽いっけいのほうは?≫ 「虫の息だが生きてはいるな」 ≪ならばトドメを≫ 「…いや、だめだな」 ≪なっ、キラー、貴様また…≫ 「違うな。いつもの気まぐれじゃあない。今あいつに近づくのはまずい」 ≪…?どういう…≫ 「カトウは回収した。足止めも十分。俺はもう帰るぞ」 そういうとキラーは何処かへと消えた 混濁した意識の中でいっけいは思う 親の七光りに頼っているガキか…… それは紛れもない事実だ 父さんが十六聖天の任務で死亡した時、空席になった裏六位 俺はどうしてもそれを継ぎたかった 母さんは最初は反対した 俺まで失ってしまうと思ったのだろう 泣きながら俺を説得しようとする母さんを俺は逆に説得した 絶対に死なないから、と 父さんの代わりに俺が母さんを守りいたいんだ、と 最後には母さんは納得してくれた だが、最後まで母さんは泣いていた… その後、一位のトムさんや、メカシバイに頭を下げて父さんの跡を継がせてくれと頼んだ そこでも俺は反対された しかし、二人よりも「上」の存在から鶴の人声がかかり、俺にチャンスが与えられた ある「仕事」をこなすことができれば、俺に裏六位の地位が与えられるらしい その仕事の内容は、GUNMAから渋谷に進行している黒い三連星の撃退というものであった 俺は全身全霊で挑んだ。「信頼に応えよう」とした だが、結局はできなかった 渋谷は黒い三連星の手に落ちた 後から知ったのだが、「上」が俺にチャンスを与えた理由は「面白そうだから」というものだった ボロボロになった俺を回収してくれたのはクリムゾンブロウとバラックパイソンという聖天だった 俺は病院のベッドで「きっと裏六位の地位は継げないだろうな」と思った 「仕事」をこなせなかったのだ。信頼に応えられなかったのだ だが、驚いたことに俺は裏六位の地位を与えられた 俺を助けてくれたブロウとパイソンが「上」に口添えしてくれたらしい 俺は裏六位 明楽いっけいとなった そして、誓った 俺を裏六位に推薦してくれたブロウとパイソンの信頼に応えると 涙を流しながらも、俺を信じてくれた母さんの信頼に応えると そして、俺に母さんを任せてしんでいった父さんの信頼に応えると そう誓ったのだ でも…こんなザマじゃあよ……またブロウと…パイソンに……笑われちまう…な… いっけいの意識はまどろみの中に消えていった クリムゾンブロウ曰く「ティエ子でオナニーしちまった」 ブラックパイソン曰く「むしろご褒美」 Works.1 『雨と霧』終
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4322.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 * 翌朝、ルイズは目を覚ましてから、いつものように着替えを取りに行こうとして、床にある何かにつまずいた。 「いたーい!」 つま先を打ち付けて、涙目でその場に倒れこむ。 何か硬くて大きなものが床に置いてある。 憎憎しげな目でその物体を見た。 そこには見慣れない布にくるまれた巨大な物体が置いてあった。 「……十字架?」 ふとそんなことを思わず口走る。 「よう、じょうちゃん。おはようさん」 いきなりそんなふうに声を掛けられて、ルイズは慌ててその声の方角に目をやる。 部屋の隅に黒い服を着た男が、こちらに背を向けて寝転がっていた。 そのまま右手を軽く挙げて挨拶をしている、つもりらしい。 ここにきて半分寝ぼけていたルイズはようやく昨日の出来事を思い出した。 使い魔、である。彼が、ルイズの呼び出した使い魔なのである。 ここにきてルイズの頭の中でふつふつと怒りが湧いてきた。 朝から蹴飛ばして痛い目を見たのは、この男の持ってきた荷物のせいである。 それに、そもそも根本的にこの男の態度が気に食わない。 「ウルフウッド! あんたこんなものを床に置いてどういうつもりよ!」 「どういうも、こういうも他に置くとこないやないけ」 ウルフウッドは背を向けたままでどうでもよさそうに答える。 その態度にますます腹を立てたルイズは、この男を自分と同じ目に遭わせるべく、目の前の十字架を持ち上げてぶつけてやろうとした。 「っつ、ちょ、ちょっと、なによこれ。一体何で出来てるのよ?」 十字架を掴んで持ち上げようとしたのだが、持ち上がらない。中腰で必死に踏ん張って見てもびくともしない。重い、むちゃくちゃに重いのである。 そんなバカな、とルイズは思った。昨日、このウルフウッドはこの十字架を何でもなさそうに担いで歩いていたはずである。一体どうなっているのか。 「それ持ち上げるんは、おじょうちゃんには無理やで。重たいやろ?」 気が付けばウルフウッドがのそりと立ち上がりルイズのほうを見ている。 「あー、もう、一体これは何なのよ!」 腹立ち紛れにルイズは十字架を蹴飛ばそうとしたが、さっきそれで痛い目を見たことを思い出してあきらめる。 「何って、ワイの大事な商売道具や、って言うたやろ?」 そして、ウルフウッドはどうでもよさそうにあくびをした。 * ウルフウッドとルイズはならんで学院の廊下を歩いていた。 不機嫌そうに口を尖らせて先を行くルイズの後をウルフウッドが付いて行く。 ルイズは不機嫌だった。 朝食の際に、ウルフウッドに自分との立場の違いを認識させてやろうと思ったら、ウルフウッドはあっさりと床に座り込みうまそうに固いパンとスープを食べた。 本人曰く、「黙っててもメシが当たるだけで御の字や」ということらしい。 この男がどういう生活を送ってきたのかは知らないが、この程度の扱いは彼の中では上等の部類に入るらしい。 結局、仕返しの一つも出来ないままのルイズであった。 「あー、もうなんでこんな奴が使い魔に。けど、一度契約しちゃうと使い魔が死ぬまで新しい使い魔とは契約できないし」 そんなことをいやみったらしくぶつぶつとウルフウッドに聞こえるように呟きながら、ルイズが歩いていると、ウルフウッドが声を掛けた。 「なぁ、じょうちゃん。使い魔いうのは死なへんと契約が切れへんっていうたよな?」 「そうよ、それが何?」 ウルフウッドのほうを見ずルイズは不機嫌に答えた。 「ちゅうことはや、使い魔であるということはつまりは生きている、いうことになるんやな?」 「当たり前でしょ。それはそうと、わたしも聞きたいことがあるの?」 「なんや? 答えられることやったらなんでも答えたるで」 「わたしずっとあんたのこと普通の平民だと勝手に思っていたけど、本当にただの平民?」 「どういう意味やねん?」 「だって、あんた土の中から現れたし、ひょっとしたら人の姿をした土系統の幻獣かなんかかもしれないと思って……」 ルイズはウルフウッドが土の中から現れたという事実に一抹の希望をかけた。 もしも、彼が土の幻獣か精霊の類ならば、さらにそれが人の形をし人語を理解するということになれば、それは非常にレベルの高い使い魔を召喚したということになる。 しかし、その希望はあっさりと打ち砕かれた。 「いや、ワイは人間やで」 ウルフウッドは敢えて自分を『ただの人間』とは言わなかった。 期待はずれの答えに、またルイズの怒りのボルテージは上がる。 「じゃあ、なんであんたは土の中に埋まっていたりしたのよ!」 「なんでって、それは多分……」 「多分、何よ?」 「多分、死んでもうたから埋められたんやと思う」 この衝撃の告白にルイズは固まった。死んだ? 埋められた? 「そういえば、さっきあんたわたしに変なことを聞いてきたわよね? 使い魔っていうのは生きていないとダメなのかどうか、とか」 「うん。正直自信ないねん。自分が生きているのかどうか」 ルイズは青ざめた顔で両手を固く握り、肩を振るわせ始めた。 「……あんた、わたしから離れなさい」 「なんやねん、いきなり?」 「いいから離れなさい! それでもう付いてこないで、いいわね!」 ウルフウッドを指差して、言いたいことを言うだけいうと、ルイズはそのまま振り返ることなくその場から走り去った。 ウルフウッドはその走り去る背中を見ながら「年頃の女の子いうのはむつかしいな」と思っていた。 * あれからルイズは一人教室で頭を抱えていた。その隣に一人の女子生徒が腰掛ける。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう」 ルイズは顔を上げないまま返事をした。 「ねえねえ、あなたの使い魔って、普通の平民っていう話本当?」 「……違うわ」 「あらー、いっちょまえにとぼけちゃって。そんなことをしても無駄よ。あんたが平民を呼び出したっていうのはもう学院中のうわさなんだから」 「うるさいわね、キュルケ。違うっていったら違うのよ」 「何よ、そんなに平民を呼び出したことを認めたくないわけ?」 「……いっそただの平民のほうがまだマシだったわ」 ルイズをからかうようなキュルケの口調にも、ルイズはのってこない。一人ただひたすらに沈んでいくだけである。 こりゃだめだ、と思ったキュルケは軽く両手を挙げて、これ以上からかうことをやめた。 「本当にただの平民だったほうがましだったわ。まさか、あいつが、ゾ、ゾンビだったなんて……」 誰にも聞こえない声でそう呟いたあと、ルイズは机に突っ伏した。 一方、その頃ウルフウッドは洗濯をしようとしていた。 他にやることがなくてひまだったというのもあるが、一応昨日ルイズに洗濯を頼まれていた手前それはやっておこうと思ったのである。 なんだかんだ言ってもこの男は律儀なのだった。 けど、いざ洗濯をしようと思い立ったはいいものの、どこに道具があるかわからない。仕方がないので、近くを歩いていた人に声を掛ける。 「そこのメイドのじょうちゃん。すまんけど、洗濯道具がどこにあるか教えてくれへんか?」 「はい?」 腕いっぱいに洗濯物を抱えたメイド服の少女はその声にウルフウッドのほうを振り返った。そして、ウルフウッドを見てなにかをひらめいたような顔をした。 「あ、ひょっとして、あのあなたはミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「そやけど」 何で知ってんの? とウルフウッドは首を傾げる。 「くす。だって、有名ですよ。ミス・ヴァリエールが平民の人を召喚しちゃったって」 「まぁ、それはそうなんやけど、その平民とか使い魔いうのはやめてくれへんかな。なんかどうもそういう言い方は好かんねん」 「あ、す、すみません」 「いや、別にかまへん。怒ってるわけちゃうから」 慌てて謝った少女をウルフウッドは苦笑いしながら右手で軽く制した。 「ワイはウルフウッド」 「あ、わたしはシエスタです。このトリステイン魔法学院でメイドをしています」 「ほな、よろしゅうな」 ウルフウッドはシエスタに右手を差し出して、笑ってみせた。 雲ひとつない洗濯日和の空の下、ウルフウッドは洗濯板を抱えて洗濯に精を出していた。 「あの、別にわたしの分までやっていただかなくても……」 「かまへん。ちょっとしたお礼みたいなもんやし、それにワイ洗濯好きやねん」 恐縮するシエスタの隣で、ウルフウッドは黙々と洗濯を続ける。顔に嬉々とした色を浮かべて、本当に洗濯が好きなようだ。 「変わっていますよね。お洗濯の好きな男の人って」 「んー、ほんま言うと洗濯が好きなんと違うて、こういうのが好きなんや」 不思議そうな顔でシエスタはウルフウッドを見る。こんなに幸せそうに洗濯をする男の人は始めて見た。 「こうやって洗濯なんかしてるとな、昔を思い出すねん……」 ウルフウッドはそうひとりごちると、どこか遠くを見るように目を細めた。彼の人生の中で、唯一幸せだったとき。何も知らずに幸せだった昔。彼は洗濯石鹸の泡の中に、自らの故郷を見ていた。 シエスタはそんな彼の横顔を、食い入るように見つめていた自分に気が付いた。 どうしてこの人はこんなに寂しそうな目をするのだろう、と思う。 そして、彼女の視線に気が付いた彼と目が合った。シエスタは思わず頬を染めて視線を彼からずらしてしまう。 彼はそのまま何事もなかったかのように洗濯を続けた。 「ちょっと洗濯手伝うただけやのに、昼飯ごちそうになって悪いなぁ」 「いえ、いいんですよ。どうせ余ってしまうんですし」 「余るて、もったいないことするなぁ。あのガキ共……」 ウルフウッドはそれから厨房にやって来ていた。 洗濯を手伝ったお礼としてシエスタにここで昼ごはんを食べさせてもらっていたのだ。 貴族用の豪華な食事は彼にとっては実に久々のまともな食事だった。 「メイドのじょうちゃん、あれだけでこんな風にメシ食わしてもらうのは悪いから、なんか言うてや。手伝うたるで」 「え、っとそれじゃあデザートを運ぶのを手伝ってもらえますか」 「まかしとき」 こうしてウルフウッドはデザートを持って、シエスタと共に食堂へと向かった。 ルイズは食堂でもまだ一人で落ち込んでいた。目の前の食事にもほとんど手をつけていない。それくらい彼女にとってはショックだったのである。 「おい、ルイズの奴随分落ち込んでいるみたいだな」 「魔法が出来ないからって平民を連れてきた罪悪感にさいなまれているんじゃないの?」 「ははっ、そうかもな」 しかし、ルイズの耳には周りのそんな中傷も聞こえてこない。 どうやら土の中からあいつが現れたことも、周りの人間はそうやってルイズがもともと平民を仕込んでいたということで納得されているようだった。 ルイズは泣きそうになる。周りから馬鹿にされているからではない。彼女が召喚してしまったものを嘆いているのだ。 普通の平民ならまだよかった。しかし、よりにもよって自分が呼び出したのは普通の平民どころか、その死体。俗に言うゾンビという奴だ。 なんで、わたしの使い魔はそんな気持ちの悪い化け物なのか。 神様、魔法の才能がないばかりではなく、よりにもよってあんな化け物が使い魔なんて。いったいわたしが何をしたというのか。 「こら、出されたメシはちゃんと食わんかい」 うるさい。こんな状況でごはんなんて喉も通らないわよ。 「おい、こら。無視するな、アホ」 誰が、アホよ。確かに、今は言い返す元気もないけど、でも人を捕まえてアホはないんじゃないの。 と、そこでその声が聞き覚えのあるものであることに気が付いた。 「きゃあぁー!」 「な、なんやねん!」 ウルフウッドの顔を見て悲鳴を上げるルイズ。そんなルイズを見てうろたえるウルフウッド。 「お前、自分の使い魔を見て悲鳴上げるて、どういう神経しとんねん」 「ち、近寄らないでって言ったでしょ! 第一あなたここで何してるのよ!」 「何って、デザート配っとんねん。見たらわかるやろ」 右手にデザートの皿をもって、左手を腰にあて、ウルフウッドはため息混じりに答えた。 突然食堂で始まった謎の痴話げんかに周りの視線が集まる。 「誰もそんなことを聞いてないわよ! この化け物!」 その一言を言ったとき、ルイズは後悔した。 ウルフウッドの目に一瞬だったが、悲しい表情が見えたからだ。 いや、それは悲しさだったのかどうかわからない。 そこに映っていたのはもっと空っぽなもの、言うなれば虚無が浮かんでいた。 「えっとあの、だって、あなた、死んでるんでしょ?」 その目にどこかいたたまれなくなったルイズは遠慮がちにそう言った。 ウルフウッドはここに来てやっと理解した、なぜ彼女が怯えていたかに。 小さくため息を付くと、デザートの載ったお盆をテーブルに置く。そして、空いた両手でルイズの頬に触れた。 「ち、ちょっといきなり何するのよ」 突然のウルフウッドの行動にルイズは思わず顔を赤くする。一体突然何をするのだろうか、この使い魔は。 「あたたかいやろ」 「え?」 「ワイの手ちゃんとあたたかいやろ」 「……うん」 彼女の頬に触れるウルフウッドの両手は確かにあたたかかった。その触れられている場所が火傷するのではないかというほどに。 「なんでかは知らんけど、ワイはちゃんと生きているみたいや。多分、きっとおじょうちゃんの魔法のおかげやろうと思うで」 「わたしの……魔法?」 「そうとしか考えられへんやろ? だって、ワイはおじょうちゃんの魔法でこの世界に呼び出されたんやから。だから、おじょうちゃんの魔法のおかげでワイは生きとんねん」 そうやってウルフウッドはルイズの目を見つめたまま、笑って見せた。 魔法で人を生き返らせる? ひょっとしてそれってとてもすごいことじゃない? だって人を生き返らせる魔法というのはほとんど伝説でしか存在しないような魔法じゃない。水のスクウェアメイジだってそんな芸当は出来ないわよ。 「ふ、ふふ、ふふふ」 突然ルイズは笑い出した。その不気味さに思わずウルフウッドは手を引っ込める。 何が起こっているのかわからない。とにかく目の前の少女の精神構造が理解できない。 「そうよね。そうよ。よくよく考えたら失敗なんかなわけないじゃない。 わたしとしたことが迂闊だったわ。まさか、自分がそんな伝説の魔法の使い手だったなんて。 いやだわ、まぁ、どうしよう……」 周りの野次馬もウルフウッドも何が起こったかわからない。 なにせさっきまで深海の底にいるかのように落ち込んでいて、それが叫んだかと思うと、次は何かをぶつぶつと呟きながら不気味に笑っているのだ。 「まぁ、その、なんや。ちゃんとメシは残さず食えよ」 そう言うだけ言って、完全に自分の世界に旅立ってしまったルイズを置いて、ウルフウッドはその場から逃げ出した。 ウルフウッドはルイズを励ますためにそのようなことを言ったのだが、彼は一つ大きな見誤りをしていたことには気が付いていなかった。 それは、ルイズはああ見えて意外と単純である、ということである。 なにやらおかしな世界に旅立ってしまったルイズをほっといて、ウルフウッドは黙々とデザートを配り続ける。 周りの生徒はみんなきょとんとした顔で見つめるが、厄介事には巻き込まれたくないので誰もウルフウッドには話しかけない。 ウルフウッドのほうも話しかけられても返答に困るので、その方がありがたかった。 そうやってデザートを配っていると食堂の一角に人だかりが出来てることに気が付いた。 持ち前の野次馬根性を発揮してウルフウッドが人だかりを覗き込んでみると、なにやらキザったらしい格好の男子生徒が誰かに絡んでいる。 その絡んでいる相手はウルフウッドの見知った相手だった。 「なんや、メイドのじょうちゃん、なんかヘマでもやらかしたんか」 目の前の男子生徒はものすごい剣幕でシエスタに「謝れ」と詰め寄っている。 ウルフウッドはシエスタとは知らない仲ではない。それに昼飯を奢ってもらったお礼もある。 ここは仲裁に入ることに決めた。 「はい、ちょっとごめん。どいてなー。道開けてー」 野次馬たちを掻き分けてシエスタのほうへとウルフウッドは近づいていく。そこで、シエスタがウルフウッドの存在に気が付いた。 「あ、ウルフウッドさん」 その声に相手の男子生徒もウルフウッドのほうを振り向く。 「なんだい、キミは?」 「その子の知り合いや」 ウルフウッドは適当にそう答えて、二人の間に入った。 「そうか、思い出したぞ。確か君はゼロのルイズの使い魔だったね」 男子生徒はウルフウッドの顔を見て、納得したように手を打った。 「で、平民が一体何の用だい」 「いや、この子がどんなヘマをしたんかは知らんけど、まぁそうカリカリせんとその辺で許しといたれや。女の子いじめるのはかっこ悪いで」 ここで周りから男子生徒に対して失笑が漏れる。これに気分を害した男子生徒は肩を震わせると、 「このメイドが軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたんだ。 別に僕は彼女をいじめているわけではない。ただ正当な謝罪を要求しているだけだ」 「正当いうんやったら、事情を説明してみいや」 ここでこの男子生徒は「うぐっ」口をつぐんだ。そうすると周りの連中が囃し立てるように状況を代わりに説明し始めた。 「そら、出来もせん二股をかけるお前が悪い。ギーシュいうたか? そんなんで八つ当たりなんかすんなよ」 とだけ、あきれ返ったように言い放って、ウルフウッドは「ほな行くで」とシエスタの手を引いてその場を去ろうとした。 「待ちたまえ」 去ろうとするウルフウッドをギーシュは大声で引き止めた。 「なんやねん。恋の悩み相談やったら、ワイは専門外やで」 ここでまた回りがどっと湧いた。 「違う、そうじゃない。どうやら君は貴族に対する口の聞き方を知らないようだね」 はぁー、とウルフウッドは大きくため息を付いた。別に平民とか貴族とかは彼にとってははどうでもいいが、こうもしつこいとうんざりしてくる。 「クソガキ相手に口の聞き方もへったくれもあるか」 「……決闘だ。君に決闘を申し込む」 ギーシュは頭一つ分大きいウルフウッドを見上げるようにして宣戦布告した。 彼にとっては、ウルフウッドのほうが背が高く見上げる格好になっていることからして気に食わない。 おまけにこのウルフウッド、三枚目っぽく振舞っているが顔立ちはかなり整っている。 それに彼ら男子生徒にはない、野生的な力強さがある。 そんな彼に対して、女子生徒の間でひそかにかっこいいよねという噂が流れている。 それも彼にとっては気に食わない。 「なんや、ここでワイとやるいうんかい?」 「ふざけるな。貴族の食卓を平民の血で汚せるか。ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終わったら、来たまえ」 そう言うなりギーシュは踵を返し食堂から出て行った。 「あ、あの……」 シエスタが不安そうな顔でウルフウッドを見る。 「あぁ、まぁしゃあないわ。ガキのしつけは大人の仕事やからな。ちょっと行って一発しばいてくるわ」 ウルフウッドは洗濯物を干すときと変わらない笑顔でシエスタに軽く手を振ると、食堂の入り口に置いてあった十字架を担いで外へ出た。 「とりあえず、逃げずに来たことは、誉めてやろうじゃないか」 ギーシュは、薔薇の花を手に携えて歌うように言った。 「誰がお前みたいなクソガキ相手に逃げるか」 ウルフウッドはめんどくさそうに頭を掻いている。 「それでははじめ――」 「ちょっと、待ちなさい!」 決闘の始まりを告げるギーシュの合図を誰かが遮った。見れば、さっきまで食堂で自分の世界に旅立っていたルイズがこちらに向かって走ってやってくる。 「よう、じょうちゃん」 「よう、じゃないわよ。あんたいったいわたしのいない間に何やってんのよ!」 「ちと、ガキのしつけや」 「ガキのしつけって、あんた自分の状況わかってるの? 平民がメイジに勝てるわけないでしょ。よくて怪我、悪ければ……」 「大丈夫やて。いくらヘンテコな魔法使えたところで、こんなガキには負けへんて」 ウルフウッドは顔を真っ赤にしてすごい剣幕で詰め寄るルイズの前でひらひらと右手を振ってみせる。 「あんたね――」 「まかせとき。それに命のやり取りやったらワイは慣れとるしな」 そう言ってウルフウッドは少し唇を歪める。その表情にまたルイズは彼のからっぽな何かを見た。そして、それ以上何も言えなくなってしまう。 「それになんや、使い魔いうのはじょうちゃんの身をまもらなあかんのやろ。やったら、これくらいでビビるわけにはいかへんやろ。まかしとき」 ウルフウッドはルイズの肩を優しく叩いた。 「……もう、知らない」 ルイズは口を尖らせたまま、そっぽを向いた。自分にこの男を止められる言葉が存在しないのが悔しかった。 「ご主人様との別れはすんだかね? 使い魔くん」 「おう、待たせて悪かったな。ほなとっととはじめよや」 そのウルフウッドの声にギーシュは手に持った薔薇の花びらを一つ地面に落とした。 「僕の二つ名は『青銅』。よって、このワルキューレが僕の代わりにお相手するよ」 そういうやいなや地面が盛り上がり、槍を構えたギーシュの肩ほどの大きさの像が現れる。 「ほぉー、驚いたわ。そんなんも出来るんか、魔法ていうやつは」 「今更感心しても遅いよ。行け、ワルキューレ!」 そのギーシュの掛け声と共にワルキューレは突進する。槍を構えて一直線にウルフウッドを突く。 しかしウルフウッドは全くたじろぎもせずに、軽く体をひねってその突きを交わすと、ワルキューレの頭に足を掛けて踏みつけるように蹴りだした。 バランスを崩して地面に倒れるワルキューレ。 「なんや、倒れたら自分では立ち上がれへんみたいやな」 ウルフウッドは地面でばたばたと手足をばたつかせているワルキューレを見て、特に何の感慨もなくそう言い放った。 「どれほどのもんかとおもたけど、動きは鈍い、狙いはばればれ。この程度やったら近所のガキをいじめる程度にしか使えへんで」 「た、たかだかまぐれで一体倒したくらいで調子に乗ってもらったら困るね。これでどうだ!」 ギーシュは薔薇の杖を振った。辺りに花びらが舞う。そうするとあっというまに彼の周りに七体のワルキューレが現れていた。 「あちゃー、困ったなぁ」 「どうだ、さすがにこれだけの数に囲まれてはどうしようもあるまい」 「なぁ」 「なにかね? 命乞いかい?」 「こいつらいちいち素手でしばいていたら痛いから、ワイも武器を使うてかまへんか?」 「あぁ、構わないよ。銃でも剣でも好きなものを使いたまえ」 「ほな、遠慮なく」 ウルフウッドは満足そうに笑うと、傍らに突き刺してあった十字架を手に取った。 「ええで。いつでもどうぞ」 「何を取り出すのかと思えば……そんなもので僕のワルキューレが止められると思っているのか!」 そして、七体のワルキューレがいっせいにウルフウッドに飛び掛った。 周りにいる誰もが、だめだと思って目をつむろうとした瞬間、何かを鈍器で殴る音が七発響いた。 ルイズもそうやって目を閉じたうちの一人で、こんなことならもっと全力で止めるべきだったと後悔しながら、やっとのことで勇気を振り絞って目を開けた。 そして、そこにいたのは十字架を片手に佇むウルフウッドの姿、だけだった。 「え……?」 ルイズは呆気にとられた。自分の使い魔が無事なのはいいことだ。それについては全く問題はない。 けど、ギーシュの七体のワルキューレはどこへ行った? そう思った瞬間、ルイズの背後でドスンと何か重たいものが地面に落ちる音がした。それも連続してほぼ同時に複数。 慌てて背後を振り返る。 そこではギーシュのワルキューレが地面に叩きつけられたせいか、それともそれ以前にやれらたのかはわからないが、半分砕けた状態で七体きれいに折り重なっていた。 「そ、そんな馬鹿な!」 悲鳴にも似たギーシュの絶叫が響き渡る。 「なんでやろ、おかしいな」 そして、ウルフウッドもなにやら納得できない表情で自分の右手を見ている。彼自身も何か違和感を感じていたらしい。 「き、君は一体何をしたんだ?」 ギーシュはそんなウルフウッドに詰め寄った。 「何をしたって、殴り飛ばしただけやないけ。お前のワルキューレちゅうのを」 「ふ、ふざけるな。人間の力であんなことが出来るものか。そうか、わかったぞ。君のその持っている武器だ。 それに何かが仕込まれていると見た。それを検分させてもらおう!」 ギーシュはウルフウッドの持っている十字架を指差した。どうやら、さっきの出来事はこの十字架のせいであると言いたいらしい。 「かまへんで。ほい」 そう言ってウルフウッドはギーシュに十字架を投げる。ギーシュはそれを受け止めるが、まるで台風にへし折られる細い木のように、そのままなすすべもなく十字架に押し倒された。 「な、なんだ、これは……重い、重すぎる……」 十字架にのしかかられて、ギーシュはひぃひぃと息を漏らす。そして、頭の中で納得していた。 そりゃ、こんな重たいもので思いっきり殴り飛ばされたら自分のワルキューレが風に舞うように吹っ飛ばされるのも仕方のないことだと。 そして、もう一つの恐ろしい事実に気が付いた。こんな重いものを平然と振り回すこの目の前の男の筋力。それはもはや人間のレベルではない。 化け物だ、怪物だ。自分はとんでもないものにケンカを売ってしまった。勝てるわけがないじゃないか。どうしよう。 っていうか、それ以前に苦しい。内臓が潰れそう…… 「ま、参った。降参だから、これをどけて」 「ええで。けど、一つだけ条件をつけさして貰うわ」 ギーシュはこくこくと頷いた。 条件でもなんでもいい。早くこれをどけてくれないと死ぬ、間違いなく死ぬ。 ウルフウッドはそんなギーシュの反応に満足すると、片手で十字架を持ち上げた。 ギーシュは青ざめた顔で大きく息を吐く。 「ぼ、僕も貴族だ。決闘に負けた以上、潔く君の要求を受け入れよう」 ほうほうの体ではあったが、ギーシュはなんとか己のメンツを保つべく、出来うる限り落ち着いた声で自らの覚悟を示した。 「おぉ。結構根性あるやないか。その意気は気に入ったで」 そんなギーシュを見てウルフウッドはどこか嬉しそうに笑う。 「ほな、ワイからの要求や。心して聞け」 「……はい」 ギーシュは背をちぢこませて、その要求を待った。 死刑を執行される前の罪人というのはこんな気持ちなのだろうか、そんなことをぼんやりと考えていた。 「ワイの要求いうのはな……」 周りにいた全員が息を呑む。一体何を言い出すのだろうか。どんな恐ろしい要求を突きつけるのか…… 「メシはちゃんと残さず食え」 そう言ってウルフウッドはギーシュの額にデコピンをした。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/sig-suer220/pages/51.html
登場人物紹介 第一幕・名探偵エステル(関係値0:0~2:2) 豪華絢爛?勉強会 Lost Fall ミズキ・ザ・デンジャラス 秘宝館:イラスト(画・アポロ・M・シバムラさん)・SS(文・風杜神奈さん) 豪華絢爛?勉強会2(タイトルに偽りあり) 第二幕・歩くような速さで(関係値2:2~3:3) それぞれの歩幅 秘宝館:SS(文・あさぎさん) 星の見えない夜解説 豪華絢爛?勉強会3 帰るべき場所秘宝館:SS(文・夜國涼華さん) 第三幕・心を重ねて(関係値3:3~4:4) 箸との戦い 無重量と涙 秘宝館:秘宝館:イラスト(画・アポロ・M・シバムラさん)・SS(文・緋乃江戌人さん ドア越しの二人秘宝館:イラスト(画・アポロ・M・シバムラさん)・SS(文・まさきちさん) 幕間・試練 マヨイガにて 真実の行方(函ゲーム) 第四幕・揺らめく戦火の中で 夏休みの終わり 希望の軌跡(函ゲーム) 魂の在処、森の中で 無力という名の罪 罰は別れの誘い 癒しの日 閉幕 僕と貴女の天の川 おまけ ギャラリー? プレイレポート?
https://w.atwiki.jp/white-lily/pages/23.html
キャラ名 真夜 出身地 九江 主武器・副武器 主武器:大斧 副武器:甲刀? コメント・人物概要 とりあえず一言! 読みは「まや」ですよ!!! 最近誤解が多いので・・・><
https://w.atwiki.jp/white-lily/pages/18.html
キャラ名 採掘者 出身地 呉 主武器・副武器 主武器:長棍 副武器:大斧 コメント・人物概要 廃人です、ええ廃人です フヒヒサーセン