約 481 件
https://w.atwiki.jp/jp-summons/pages/1282.html
日本国陸上自衛隊駐屯地のうち、東部の駐屯地の一覧。 登場はオレンジで色分けされています。見やすい改良案求む。 東部方面区 第1警備地区 茨城県 勝田駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面後方支援隊 施設教育直接支援中隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第320基地通信中隊 勝田派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊施設学校 施設教導隊 施設教導隊本部 96式装輪装甲車 73式装甲車 92式地雷原処理車 70式地雷原爆破装置 89式地雷原探知機セット 施設作業車 75式ドーザ 中型ドーザ 大型ドーザ グレーダ 掩体掘削機 資材運搬車 バケットローダ トラッククレーン 軽徒橋 パネル橋MGB 91式戦車橋 92式浮橋 07式機動支援橋 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 74式特大型トラック 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 12.7mm重機関銃M2 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 本部管理中隊「施教導-本」 中隊本部 隊本部班 偵察班 通信班 衛生班 第1施設中隊「施教導-1」 第2施設中隊「施教導-2」 架橋中隊「施教導-架」 施設器材中隊「施教導-器」 水際障害中隊「施教導-水」 警務隊 東部方面警務隊 第127地区警務隊 勝田連絡班 土浦駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第320基地通信中隊 土浦派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊武器学校 武器教導隊 隊本部「武教-本」 第1武器中隊「武教-1」 第2武器中隊「武教-2」 警務隊 東部方面警務隊 第127地区警務隊 土浦連絡班 霞ヶ浦駐屯地 東部方面隊隷下 陸上自衛隊関東補給処 関東補給処本処 (松戸支処) (古河支処) (用賀支処) (吉井弾薬支処) (富士弾薬出張所) (富士燃料出張所) 朝日分屯地 (朝日燃料支処) 東部方面航空隊 東部方面管制気象隊 第1派遣隊 東部方面後方支援隊 第101全般支援隊 第103補給大隊 第302弾薬中隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第320基地通信中隊 東部方面会計隊 第341会計隊 霞ヶ浦派遣隊 霞ヶ浦駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊航空学校 霞ヶ浦校 警務隊 東部方面警務隊 第128地区警務隊 霞ヶ浦派遣隊 古河駐屯地 東部方面隊隷下 第1施設大隊 第1施設大隊本部 本部付隊 (第4施設群) (第4施設本部) (本部管理中隊) (第364施設中隊) (第388施設中隊) (第390施設中隊) (第5施設群) (第5施設群本部) (本部管理中隊) (第392施設中隊) (第393施設中隊) (第394施設中隊) 第101施設器材隊 第301ダンプ車両中隊 (第306施設隊) (第307施設隊) 東部方面後方支援隊 第102施設直接支援大隊 関東補給処 古河支処 第2高射特科群 第337高射中隊 東部方面会計隊 第341会計隊 東部方面通信群 第320基地通信中隊 古河派遣隊 古河駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 東部方面警務隊 第127地区警務隊 古河連絡班 埼玉県 大宮駐屯地 第1師団隷下 第32普通科連隊 第32普通科連隊本部 本部管理中隊「32普-本」 第1普通科中隊「32普-1」 第2普通科中隊「32普-2」 第3普通科中隊「32普-3」 第4普通科中隊「32普-4」 第5普通科中隊「32普-5」 重迫撃砲中隊「32普-重」 軽装甲機動車 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 82式指揮通信車 89式5.56mm小銃 M24 SWS 9mm拳銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 防弾チョッキ2型 防弾チョッキ3型 第1後方支援連隊 第2整備大隊 第2普通科直接支援中隊 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第305基地通信中隊 大宮派遣隊 東部方面後方支援隊 第104全般支援大隊 整備中隊 化学整備小隊 東部方面会計隊 第338会計隊 大宮派遣隊 大宮駐屯地業務隊 自衛隊埼玉地方協力本部 援護課 地域援護センター 陸上総隊直轄 中央特殊武器防護隊 中央特殊武器防護隊本部 本部中隊「中特防-本」 第102特殊武器防護隊「102特防」 第103特殊武器防護隊「103特防」 化学防護車 NBC偵察車 液体散布車 粉末散布車 発煙機3形 化学防護衣4形 防衛大臣直轄 陸上自衛隊化学学校 化学教導隊 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 大宮派遣隊 千葉県 松戸駐屯地 東部方面隊隷下 関東補給処 松戸支処 第2高射特科群 第2高射特科群本部 本部管理中隊「2高群‐本」 (第334高射中隊「334高」) (第335高射中隊「335高」) 第336高射中隊「336高」 (第337高射中隊「337高」) 第302高射搬送通信中隊「302高搬通」 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 高機動車(通信用) 1トン半救急車 03式中距離地対空誘導弾 対空レーダ装置 JTPS-P14 89式5.56mm小銃 12.7mm重機関銃M2 84mm無反動砲 9mm拳銃 東部方面後方支援隊 第301高射直接支援中隊 中隊本部 第3直接支援小隊 通信電信整備班 東部方面システム通信群 第320基地通信中隊 松戸派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊需品学校 需品教導隊 警務隊 東部方面警務隊 第127地区警務隊 松戸連絡班 習志野駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第320基地通信中隊 習志野派遣隊 東部方面会計隊 第316会計隊 習志野駐屯地業務隊 陸上総隊隷下 第1空挺団 団本部 団本部中隊 中隊本部 偵察小隊 降下誘導小隊 第1普通科大隊 本部中隊 情報小隊 通信小隊 対戦車小隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 高機動車 軽装甲機動車(LAV) 89式5.56mm小銃 9mm拳銃 対人狙撃銃 9mm機関けん銃 5.56mm機関銃MINIMI 01式軽対戦車誘導弾(LMAT) 81mm迫撃砲 L16 中距離多目的誘導弾 個人用暗視装置 JGVS-V8 第1中隊 第2中隊 第3中隊 第2普通科大隊 本部中隊 情報小隊 通信小隊 対戦車小隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 高機動車 軽装甲機動車(LAV) 89式5.56mm小銃 対人狙撃銃 9mm機関けん銃 5.56mm機関銃MINIMI 01式軽対戦車誘導弾(LMAT) 81mm迫撃砲 L16 中距離多目的誘導弾 第4中隊 第5中隊 第6中隊 第3普通科大隊 本部中隊 情報小隊 通信小隊 対戦車小隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 高機動車 軽装甲機動車(LAV) 89式5.56mm小銃 対人狙撃銃 9mm機関けん銃 5.56mm機関銃MINIMI 01式軽対戦車誘導弾(LMAT) 81mm迫撃砲 L16 中距離多目的誘導弾 第7中隊 第8中隊 第9中隊 空挺特科大隊 大隊本部及び本部中隊 第1中隊 第2中隊 第3中隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 高機動車 120mm迫撃砲 RT 対迫レーダ装置 JMPQ-P13 89式5.56mm小銃 空挺後方支援隊 隊付隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 軽レッカ 3トン半水タンク車 野外炊具 浄水セット(車載型) 1トン半救急車 89式5.56mm小銃 9mm拳銃 12.7mm重機関銃M2 91式携帯地対空誘導弾 整備中隊 車両整備小隊 通信整備小隊 火器整備小隊 落下傘整備中隊 梱包小隊 投下支援小隊 回収小隊 衛生小隊 輸送小隊 通信中隊 施設中隊 陸上自衛隊空挺教育隊 特殊作戦群 非公表 非公表 防衛大臣直轄 警務隊 東部方面警務隊 第127地区警務隊 下志津駐屯地 東部方面隊隷下 第2高射特科群 第334高射中隊 東部方面後方支援隊 高射教育直接支援中隊 第301高射直接支援中隊 第4直接支援小隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第320基地通信中隊 下志津派遣隊 防衛大臣直轄 高射学校 高射教導隊 高射教導隊本部 本部管理中隊「高教-本」 第1高射中隊「高教-1」 第2高射中隊「高教-2」 第3高射中隊「高教-3」 第4高射中隊「高教-4」 第310高射中隊「310高」 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 82式指揮通信車 03式中距離地対空誘導弾 地対空誘導弾改良ホーク 81式短距離地対空誘導弾 11式短距離地対空誘導弾 87式自走高射機関砲 93式近距離地対空誘導弾 対空レーダ装置 JTPS-P14 低空レーダ装置 JTPS-P18 64式7.62mm小銃 警務隊 東部方面警務隊 第127地区警務隊 下志津連絡班 木更津駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面航空隊 第4対戦車ヘリコプター隊 東部方面管制気象隊 第3派遣隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第320基地通信中隊 木更津派遣隊 東部方面後方支援隊 第101全般支援隊 整備中隊 木更津派遣隊 東部方面会計隊 第316会計隊 木更津派遣隊 木更津駐屯地業務隊 陸上総隊隷下 第1ヘリコプター団 第1ヘリコプター団本部 本部管理中隊 第1輸送ヘリコプター群 第1輸送ヘリコプター群本部 本部付隊 第103飛行隊(HGP III) 第104飛行隊(HGP IV) 第105飛行隊(HGP V) 第106飛行隊(HGP VI) CH-47J/JA 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 高機動車 3トン半水タンク車 3トン半燃料タンク車 10000リットル燃料タンク車 スリングネット スリングベルト 野外支援車 野外炊具 1トン半救急車 89式5.56mm小銃 9mm拳銃 12.7mm重機関銃M2 輸送航空隊 輸送航空隊本部 本部中隊 第107飛行隊 第108飛行隊 (第109飛行隊) 輸送航空野整備隊 V-22 CH-47J/JA 特別輸送ヘリコプター隊 EC-225LP 連絡偵察飛行隊 LR-2 第102飛行隊「102飛」 UH-60JA OH-6D 89式5.56mm小銃 12.7mm重機関銃M2 5.56mm機関銃MINIMI 9mm拳銃 第1ヘリコプター野整備隊 防衛大臣直轄 警務隊 東部方面警務隊 第127地区警務隊 木更津連絡班 東京都 朝霞駐屯地 (朝霞+和光+新座+練馬) 第1師団隷下 第1施設大隊 第1施設大隊本部 本部管理中隊「1施-本」 第1施設中隊「1施-1」 第2施設中隊「1施-2」 第3施設中隊「1施-3」 70式地雷原爆破装置 89式地雷原探知機セット 75式ドーザ 中型ドーザ 大型ドーザ グレーダ 掩体掘削機 資材運搬車 バケットローダ トラッククレーン 軽徒橋 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 74式特大型トラック 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 12.7mm重機関銃M2 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 東部方面隊 東部方面総監部 東部方面総監部付隊 東部方面混成団 第31普通科連隊 第2普通科中隊 第3普通科中隊 第5普通科中隊 女性自衛官教育隊 女性自衛官教育隊本部「女自教‐本」 第1共通教育中隊「女自教‐1」 第2共通教育中隊「女自教‐2」 第2高射特科群 第335高射中隊 東部方面システム通信群 東部方面システム通信群本部 本部中隊 中隊本部 映像伝送小隊 小隊本部 地上伝送班 (空中伝送班) 通信群教育隊 第105基地システム通信大隊 大隊本部 本部付隊 第305基地システム通信中隊 (大宮派遣隊) (座間派遣隊) (小平派遣隊) (東立川派遣隊) (立川派遣隊) (北富士派遣隊) (富士派遣隊) (駒門派遣隊) (滝ヶ原派遣隊) (板妻派遣隊 (第316基地通信中隊) (十条派遣隊) (三宿派遣隊) (用賀派遣隊) (横浜派遣隊) (武山派遣隊) (久里浜派遣隊) (目黒派遣隊) (第317基地通信中隊) (新町派遣隊) (吉井派遣隊) (宇都宮派遣隊) (北宇都宮派遣隊) (新発田派遣隊) (高田派遣隊) (松本派遣隊) (第320基地通信中隊) (古河派遣隊) (勝田派遣隊) (土浦派遣隊) (松戸派遣隊) (習志野派遣隊) (下志津派遣隊) (木更津派遣隊) 第105指揮所通信大隊 第304中枢交換通信中隊 第302システム防護隊 東部方面後方支援隊 東部方面後方支援隊本部 特大型運搬車 重レッカ 中型セミトレーラ 3トン半水タンク車 3トン半燃料タンク車 野外支援車 野外炊具 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 74式特大型トラック 64式7.62mm小銃 9mm拳銃 12.7mm重機関銃M2 隊本部付隊「東方後支-本」 通信小隊 第104全般支援大隊 第104全般支援大隊本部 本部付隊「104全支-本」 補給中隊「104全支-補」 整備中隊「104全支-整」 (化学整備小隊) (第105全般支援大隊) (第105全般支援大隊本部) (本部付隊「105全支-本」) (補給中隊「105全支-補」) (整備中隊「105全支-整」) (第101全般支援隊) (第101全般支援隊本部) (本部付隊「101全支-本」) (補給中隊「101全支-補」) (整備中隊「101全支-整」 ) (木更津派遣隊 ) (第103補給大隊) (第103補給大隊本部) (本部付隊「103補-本」) (第1補給中隊「103補-1」) (第2補給中隊「103補-2」) (第102施設直接支援大隊 (第102施設直接支援大隊本部 (本部付隊「102施直支-本」) (整備隊「102施直支-整」) (第1直接支援中隊「102施直支-1」) (第2直接支援中隊「102施直支-2」) (第1直接支援隊「102施直支-1直」) (第2直接支援隊「102施直支-2直」) (第302弾薬中隊「302弾」) (第302普通科直接支援中隊「302普直支」) (第303普通科直接支援中隊「303普直支」) (第301高射直接支援中隊「301高直支」) (中隊本部 (第1直接支援小隊) 第2直接支援小隊 (第3直接支援小隊) (第4直接支援小隊) (通信電子整備班) 第301通信直接支援隊「301通直支」 (富士教育直接支援大隊) (富士教育直接支援大隊本部) (本部付隊「富教直支-本」) (車両整備隊「富教直支-車」 ) (駒門派遣隊 ) (高射教育直接支援中隊「高教直支」) (施設教育直接支援中隊「施教直支」) (通信教育直接支援中隊「通教直支」) 第102不発弾処理隊「102処理」 東部方面輸送隊 東部方面輸送隊本部 本部付隊「東方輸‐本」 第301輸送中隊「301輸」 第302輸送中隊「302輸」 第301輸送隊「301輸隊」 朝霞自動車教習所 東部方面衛生隊 東部方面衛生隊本部 本部付隊「東方衛-本」 第102野外病院隊「102野病」 第302救急車隊「302救」 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 1トン半救急車 病院天幕 野外手術システム 64式7.62mm小銃 9mm拳銃 東部方面会計隊 方面会計隊本部 73式小型トラック 73式大型トラック 業務車1号 業務車4号 64式7.62mm小銃 9mm拳銃 (第316会計隊) (木更津派遣隊) (第338会計隊) (大宮派遣隊) (第341会計隊) (霞ヶ浦派遣隊) (第379会計隊) (新発田派遣隊) (松本派遣隊) (第406会計隊) (宇都宮派遣隊) (第407会計隊) (第431会計隊) (第433会計隊) (北富士派遣隊) (第441会計隊) 東部方面指揮所訓練支援隊 ※不明 詳細求む ※不明 詳細求む 東部方面情報処理隊 ※不明 詳細求む ※不明 詳細求む 東部方面音楽隊 朝霞駐屯地業務隊 陸上総隊 司令部 司令部付隊 システム通信団 中央基地システム通信隊 システム・ネットワーク運営隊 朝霞派遣隊 中央野外通信群 第301指揮所通信中隊 第301映像写真中隊 朝霞派遣隊 中央情報隊本部 本部付隊 情報処理隊 現地情報隊 防衛大臣直轄 自衛隊情報保全隊 東部情報保全隊本部 警務隊 東部方面警務隊 隊本部 (第125地区警務隊) (第126地区警務隊) (第127地区警務隊) (第128地区警務隊) (第129地区警務隊 (第302保安警務中隊 73式小型トラック 73式中型トラック 業務車4号 乗用車 業務トラック ホンダ・VFR400 ホンダ・CB400SF 64式7.62mm小銃 9mm拳銃 12.7mm重機関銃M2 陸上自衛隊会計監査隊 東部方面分遣隊 陸上自衛隊中央輸送隊 第3方面分遣隊本部 中央音楽隊 陸上自衛隊輸送学校 第311輸送中隊「311輸」 自衛隊体育学校 練馬駐屯地 第1師団 司令部 第1普通科連隊 第1普通科連隊本部 本部管理中隊「1普-本」 第1普通科中隊「1普-1」 第2普通科中隊「1普-2」 第3普通科中隊「1普-3」 第4普通科中隊「1普-4」 第5普通科中隊「1普-5」 重迫撃砲中隊「1普-重」 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 第1後方支援連隊 第1後方支援連隊本部 本部付隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 74式特大型トラック 重レッカ 中型セミトレーラ 78式戦車回収車 11式装軌車回収車 重装輪回収車 3トン半水タンク車 3トン半燃料タンク車 3トン半航空用燃料タンク車 野外支援車 野外炊具 野外洗濯セット2型 野外入浴セット2型 浄水セット(車載型) 野外手術システム 1トン半救急車 89式5.56mm小銃 9mm拳銃 12.7mm重機関銃M2 91式携帯地対空誘導弾 第1整備大隊 第1整備大隊本部 本部付隊 火器車両整備中隊 (施設整備隊) 通信電子整備隊 工作回収小隊 第2整備大隊 第2整備大隊本部 本部付隊 (第1普通科直接支援中隊) (第2普通科直接支援中隊) (第3普通科直接支援中隊) (特科直接支援隊) (高射直接支援隊) (戦車直接支援隊) (偵察直接支援小隊) 補給隊 衛生隊 輸送隊 第1偵察隊 第1偵察隊本部 本部付隊 電子偵察小隊 第1偵察小隊 第2偵察小隊 第3偵察小隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 偵察用オートバイ 87式偵察警戒車 軽装甲機動車 地上レーダー 野戦情報探知装置 89式5.56mm小銃 第1通信大隊 第1通信大隊本部 本部管理中隊「1通-本」 第1通信中隊「1通-1」 第2通信中隊「1通-2」 衛星単一通信可搬局装置 JMRC-C4 衛星単一通信携帯局装置 JPRC-C1 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 89式5.56mm小銃 第1特殊武器防護隊 ※不明 詳細求む ※不明 詳細求む 第1師団司令部付隊 ※不明 詳細求む ※不明 詳細求む 第1音楽隊 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第316基地通信中隊 東部方面会計隊 第338会計隊 練馬駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 十条駐屯地 東部方面総監 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第316基地通信中隊 十条派遣隊 陸上総隊直轄 陸上総隊 システム通信団 中央基地システム通信隊 システム・ネットワーク運営隊 十条派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊補給統制本部 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 十条連絡班 市ヶ谷駐屯地 陸上総隊隷下 システム通信団本部及び本部付隊 中央基地システム通信隊 隊本部及び本部付隊 電話中隊 システム信務電信隊 信務電信隊 システム・ネットワーク運営隊 (朝霞派遣隊) (十条派遣隊) 搬送中隊 送信所 (中央野外通信群) 通信保全監査隊 隊本部 保全隊 監査隊 作成処理隊 システム防護隊 システム防護隊本部 防護隊 技術隊 システム開発隊 プログラム開発隊 分析設計隊 システム管理隊 第301映像写真中隊 中央情報隊 基礎情報隊 隊本部 第1科 第2科 第3科 第4科 第5科 技術科 防衛大臣直轄 警務隊 中央警務隊 東部方面警務隊 第302保安警務中隊 陸上自衛隊中央業務支援隊 総務部 人事統計部 印刷補給部 陸上自衛隊中央管制気象隊 本部班 飛行管理班 通信班 気象班 (気象中枢班) 市ヶ谷ヘリポート運航支援班 陸上自衛隊中央会計隊 陸上自衛隊会計監査隊 隊本部 (北部方面分遣隊) (東北方面分遣隊) (東部方面分遣隊) (中部方面分遣隊) (西部方面分遣隊) 三宿駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第316基地通信中隊 三宿派遣隊 陸上総隊直轄 対特殊武器衛生隊 対特殊武器衛生隊本部 本部付隊 第101対特殊武器治療隊 第102対特殊武器治療隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊衛生学校 衛生教導隊 陸上自衛隊教育訓練研究本部 陸上自衛隊開発実験団 部隊医学実験隊 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 三宿派遣隊 目黒駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第316基地通信中隊 目黒派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊教育訓練研究本部 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 目黒連絡班 用賀駐屯地 東部方面隊隷下 関東補給処 用賀支処 東部方面システム通信群 第316基地通信中隊 用賀派遣隊 防衛大臣直轄 東部方面警務隊 第126地区警務隊 用賀連絡班 小平駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第305基地通信中隊 小平派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊小平学校 陸上自衛隊情報学校 第2教育部 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 小平連絡班 東立川駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第305基地システム通信中隊 東立川派遣隊 東立川駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 陸上総隊 中央情報隊 地理情報隊 本部管理中隊 測図中隊 電子地図中隊 地誌中隊 複製補給中隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 64式7.62mm小銃 測量器 地図編集装置 大型製版カメラ 大型オフセット印刷機 地形情報作成管理システム 地図地誌解析装置 写真処理車 カメラ車 印刷車 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 東立川連絡班 立川駐屯地 第1師団隷下 第1飛行隊 OH-6D UH-1J 東部方面隊隷下 東部方面航空隊 東部方面航空隊本部 本部付隊 OH-1 UH-1J (第4対戦車ヘリコプター隊) (第4対戦車ヘリコプター隊本部) (本部付隊「4対戦ヘリ‐付」) (第1飛行隊「4対戦ヘリ‐1」) (第2飛行隊「4対戦ヘリ‐2」) 東部方面ヘリコプター隊 東部方面ヘリコプター隊本部 本部付隊 第1飛行隊 第2飛行隊 東部方面管制気象隊 東部方面管制気象隊本部 基地隊「東方管気-基」 (第1派遣隊) (第2派遣隊) (第3派遣隊) (第4派遣隊) (第5派遣隊) 東部方面航空野整備隊「東方航整」 東部方面航空野整備隊本部 整備隊 補給隊 東部方面会計隊 第431会計隊 東部方面システム通信群 本部中隊 映像伝送小隊 空中伝送班 東部方面システム通信群 第305基地システム通信中隊 立川派遣隊 立川駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 警務隊 東部方面警務隊 第126地区警務隊 立川連絡班 神奈川県 座間駐屯地 東部方面隊隷下 第1施設大隊 第4施設群 第4施設群本部 本部管理中隊「4施群‐本」 第364施設中隊「364施」 第388施設中隊「388施」 第390施設中隊「390施」 道路障害作業車 83式地雷敷設装置 92式地雷原処理車 81式自走架柱橋 グレーダ 掩体掘削機 資材運搬車 バケットローダ トラッククレーン タイヤローラ 89式5.56mm小銃 62式7.62mm機関銃 110mm個人携帯対戦車弾 73式大型トラック 73式中型トラック 73式小型トラック 3トン半ダンプ 1トン半救急車 東部方面後方支援隊 第102施設直接支援大隊 第1直接支援中隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第305基地システム通信中隊 座間派遣隊 東部方面会計隊 第441会計隊 陸上総隊 司令部 日米共同部 防衛大臣直轄 警務隊 東部方面警務隊 第129地区警務隊 座間連絡班 横浜駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第316基地通信中隊 横浜派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊中央輸送隊 中央輸送隊本部 輸送処理隊(横浜ノースドック) 第1国際輸送支援隊 第2国際輸送支援隊 第3国際輸送支援隊 第4国際輸送支援隊 第5国際輸送支援隊 第1方面分遣隊 第2方面分遣隊 第3方面分遣隊 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 業務車1号 人員輸送車 64式7.62mm小銃 第4方面分遣隊 第1端末地業務班 第5方面分遣隊 警務隊 東部方面警務隊 第129地区警務隊 横浜連絡班 久里浜駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面後方支援隊 通信教育直接支援中隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第316基地通信中隊 久里浜派遣隊 陸上総隊直轄 システム通信団 中央野外通信群 中央野外通信群本部 本部付隊「中野通群-本」 89式5.56mm小銃 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 通信器材、電子器材 第101搬送通信大隊 第101搬送通信大隊本部 本部付隊「101搬通-本」 第1重搬送中隊 第2重搬送中隊 構成中隊 (第301指揮所通信中隊) 防衛大臣直轄 陸上自衛隊通信学校 通信教導隊 通信教導隊本部 本部管理中隊「通教導-本」 第1通信中隊「通教導-1」 第2通信中隊「通教導-2」 陸上自衛隊のC4Iシステム 89式5.56mm小銃 他 警務隊 東部方面警務隊 第129地区警務隊 武山駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面混成団 混成団本部「東方混団-本」 第31普通科連隊 第31普通科連隊本部 (本部管理中隊「31普-本」) (第1普通科中隊「31普-1」) (第2普通科中隊「31普-2」) (第3普通科中隊「31普-3」) (第4普通科中隊「31普-4」) (第5普通科中隊「31普-5」) (重迫撃砲中隊「31普-重」 ) (第48普通科連隊本部) (本部管理中隊「48普‐本」) (第1普通科中隊「48普‐1」 ) (第2普通科中隊「48普‐2」) (第3普通科中隊「48普‐3」) (第4普通科中隊「48普‐4」) (重迫撃砲中隊「48普‐重」) 軽装甲機動車 高機動車 01式軽対戦車誘導弾 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 89式5.56mm小銃 64式7.62mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 110mm個人携帯対戦車弾 9mm拳銃 対人狙撃銃 12.7mm重機関銃 (第48普通科連隊) 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 87式対戦車誘導弾 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 9mm拳銃 9mm機関けん銃 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 第117教育大隊 大隊本部 第326共通教育中隊 第327共通教育中隊 第331共通教育中隊 第339共通教育中隊 (第3陸曹教育隊) (女性自衛官教育隊) 東部方面後方支援隊 第302普通科直接支援中隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第316基地通信中隊 武山派遣隊 東部方面会計隊 第407会計隊 武山駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊高等工科学校 生徒隊 警務隊 東部方面警務隊 第129地区警務隊 武山派遣隊 山梨県 北富士駐屯地 第1師団隷下 第1特科隊 第1特科隊本部 本部管理中隊「1特 - 本」 情報中隊「1特 - 情」 第1射撃中隊「1特 - 1」 第2射撃中隊「1特 - 2」 第3射撃中隊「1特 - 3」 第4射撃中隊「1特 - 4」 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 重レッカ 155mmりゅう弾砲 FH70 中砲けん引車 対砲レーダ装置 JTPS-P16 対迫レーダ装置 JMPQ-P13 89式5.56mm小銃 105mm榴弾砲M2A1 第1後方支援連隊 第2整備大隊 特科直接支援隊 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第305基地システム通信中隊 北富士派遣隊 東部方面会計隊 第433会計隊 北富士派遣隊 北富士駐屯地業務隊 自衛隊山梨地方協力本部 防衛大臣直轄 陸上自衛隊富士学校 部隊訓練評価隊 部隊訓練評価隊本部 (評価支援隊) (評価支援隊本部「評支 - 本」) (施設小隊) (指揮観測班) (第1普通科中隊「評支 - 1」) (第2普通科中隊「評支 - 2」) (戦車中隊「評支 - 戦」) 90式戦車 96式装輪装甲車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 9mm拳銃 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 87式対戦車誘導弾 東部方面警務隊 第128地区警務隊 北富士派遣隊 静岡県 富士駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面後方支援隊 第105全般支援大隊 富士教育直接支援大隊 東部方面システム通信群 第305基地システム通信中隊 富士派遣隊 関東補給処 富士弾薬出張所 防衛大臣直轄 陸上自衛隊富士学校 富士教導団 富士教導団本部 本部付隊「富団-本」 対舟艇対戦車隊 (普通科教導連隊) (機甲教導連隊) (教育支援施設隊) (富士教導団教育隊) 特科教導隊 特科教導隊本部 本部管理中隊「特教‐本」 第1射撃中隊「特教‐1」 第2射撃中隊「特教‐2」 第3射撃中隊「特教‐3」 第4射撃中隊「特教‐4」 第5射撃中隊「特教‐5」 第6射撃中隊「特教‐6」 第303観測中隊「303観」 96式装輪装甲車 82式指揮通信車 155mmりゅう弾砲 FH70 中砲けん引車 99式自走155mmりゅう弾砲 99式弾薬給弾車 96式装輪装甲車 203mm自走りゅう弾砲 87式砲側弾薬車 82式指揮通信車 多連装ロケットシステムMLRS 12式地対艦誘導弾 80式気象測定装置 JMMQ-M2 対砲レーダ装置 JTPS-P16 対迫レーダ装置 JMPQ-P13 遠隔操縦観測システム 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック (部隊訓練評価隊) 陸上自衛隊情報学校 情報教導隊 陸上自衛隊教育訓練研究本部 陸上自衛隊開発実験団 団本部 装備実験隊 (飛行実験隊) (部隊医学実験隊) 警務隊 東部方面警務隊 第128地区警務隊本部 自衛隊富士病院 滝ヶ原駐屯地 東部方面隊隷下 東部方面航空隊 東部方面管制気象隊 第2派遣隊 東部方面会計隊 第433会計隊 東部方面システム通信群 第305基地システム通信中隊 滝ヶ原派遣隊 滝ヶ原駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊富士学校 富士教導団 本部管理中隊「普教‐本」 中隊本部 情報小隊 通信小隊 対戦車小隊:中距離多目的誘導弾 施設作業小隊 補給小隊 衛生小隊 狙撃班 89式装甲戦闘車 96式装輪装甲車 軽装甲機動車 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 01式軽対戦車誘導弾 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 中距離多目的誘導弾 第1普通科中隊「普教‐1」 第2普通科中隊「普教‐2」 第3普通科中隊「普教‐3」 第4普通科中隊「普教‐4」 重迫撃砲中隊「普教‐重」 新隊員教育隊「普教‐本」 教育支援施設隊 教育支援施設隊本部 第1施設小隊 第2施設小隊 第3施設小隊 交通小隊 渡河器材小隊 96式装輪装甲車 92式地雷原処理車 70式地雷原爆破装置 89式地雷原探知機セット 施設作業車 中型ドーザ 大型ドーザ グレーダ 掩体掘削機 資材運搬車 バケットローダ トラッククレーン 軽徒橋 パネル橋MGB 91式戦車橋 81式自走架柱橋 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 74式特大型トラック 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 12.7mm重機関銃M2 84mm無反動砲 富士教導団教育隊 部隊訓練評価隊 評価支援隊 評価支援隊本部「評支 - 本」 施設小隊 指揮観測班 第1普通科中隊「評支 - 1」 第2普通科中隊「評支 - 2」 戦車中隊「評支 - 戦」 90式戦車 96式装輪装甲車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 9mm拳銃 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 87式対戦車誘導弾 陸上自衛隊航空学校 飛行教導隊 富士飛行班 自衛隊情報保全隊 東部情報保全隊 滝ヶ原情報保全派遣隊 警務隊 東部方面警務隊 第128地区警務隊 滝ヶ原連絡班 駒門駐屯地 第1師団隷下 第1戦車大隊 第1戦車大隊本部 本部管理中隊「1戦‐本」 第1戦車中隊「1戦‐1」 第2戦車中隊「1戦‐2」 74式戦車(第2戦車中隊のみ) 10式戦車(第1戦車中隊のみ) 96式装輪装甲車 軽装甲機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 1 1/2t救急車 89式5.56mm小銃 9mm拳銃 第1高射特科大隊 第1高射特科大隊本部 本部管理中隊「1高特-本」 第1高射中隊「1高特-1」 第2高射中隊「1高特-2」 81式短距離地対空誘導弾 93式近距離地対空誘導弾 対空レーダ装置 JTPS-P14 低空レーダ装置 JTPS-P18 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 89式5.56mm小銃 第1後方支援連隊 第2整備大隊 戦車直接支援隊 高射直接支援隊 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第305基地システム通信中隊 駒門派遣隊 駒門駐屯地業務隊 陸上自衛隊関東補給処 富士燃料出張所 自衛隊静岡地方協力本部 富士地域援護センター 陸上総隊直轄 国際活動教育隊 隊本部 教育支援小隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊富士学校 富士教導団 機甲教導連隊 機甲教導連隊本部 本部管理中隊 第1戦車中隊 第2戦車中隊 第3戦車中隊 第4戦車中隊 戦闘中隊 偵察隊 10式戦車 90式戦車 74式戦車 16式機動戦闘車 87式偵察警戒車 82式指揮通信車 96式装輪装甲車 軽装甲機動車 偵察用オートバイ 92式地雷原処理車 重レッカ 地上レーダ装置1号 JTPS-P23 85式地上レーダ装置 JTPS-P11 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 89式5.56mm小銃 警務隊 東部方面警務隊 第128地区警務隊 駒門連絡班 板妻駐屯地 第1師団隷下 第34普通科連隊 第34普通科連隊本部 本部管理中隊「34普‐本」 第1普通科中隊「34普‐1」 第2普通科中隊「34普‐2」 第3普通科中隊「34普‐3」 第4普通科中隊「34普‐4」 第5普通科中隊「34普‐5」 重迫撃砲中隊「34普‐重」 軽装甲機動車 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 第1後方支援連隊 第2整備大隊 第4普通科直接支援中隊 東部方面隊隷下 東部方面混成団 第3陸曹教育隊 東部方面システム通信群 第305基地システム通信中隊 板妻派遣隊 板妻駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 東部方面警務隊 第128地区警務隊 板妻連絡班 第12警備地区 栃木県 北宇都宮駐屯地 第12旅団 第12ヘリコプター隊 ※不明 詳細求む UH-60JA 他 東部方面隊隷下 東部方面航空隊 東部方面管制気象隊 第4派遣隊 東部方面システム通信群 第317基地通信中隊 北宇都宮派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊航空学校 宇都宮校 東部方面警務隊 第125地区警務隊 北宇都宮連絡班 宇都宮駐屯地 第12旅団 第12特科隊 第12特科隊本部 本部管理中隊「12特-本」 第1射撃中隊「12特-1」 第2射撃中隊「12特-2」 第3射撃中隊「12特-3」 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 中砲けん引車 重レッカ 89式5.56mm小銃 155mmりゅう弾砲 FH70 対砲レーダ装置 JTPS-P16 対迫レーダ装置 JMPQ-P13 第12後方支援隊 第12後方支援隊 特科直接支援小隊 東部方面隊隷下 第1施設大隊 第307施設隊 東部方面後方支援隊 第102施設直接支援大隊 第2直接支援隊 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第317基地通信中隊 宇都宮派遣隊 東部方面会計隊 第406会計隊 宇都宮派遣隊 陸上総隊隷下 宇都宮駐屯地業務隊 中央即応連隊 中央即応連隊本部 本部管理中隊「中即-本」 第1中隊「中即-1」 第2中隊「中即-2」 第3中隊「中即-3」 施設中隊「中即-施」 爆発装置処理隊 96式装輪装甲車(B型) 軽装甲機動車 輸送防護車 高機動車 73式小型トラック(1/2tトラック) 73式中型トラック(1 1/2tトラック) 73式大型トラック(3 1/2tトラック) 偵察用オートバイ 82式指揮通信車 中型セミトレーラ 1トン半救急車 83式地雷敷設装置 重レッカ 中型ドーザ トラッククレーン 9mm拳銃 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 対人狙撃銃 12.7mm重機関銃M2 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 01式軽対戦車誘導弾 87式対戦車誘導弾 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 個人用暗視装置 JGVS-V8 防弾チョッキ2型 国際平和協力活動用天幕 警戒監視塔 遠距離監視装置 防衛大臣直轄 警務隊 東部方面警務隊 第125地区警務隊 宇都宮派遣隊 群馬県 相馬原駐屯地 第12旅団 司令部 第12後方支援隊 第2整備中隊「12後支-2整」 第12ヘリコプター隊 隊本部 (第1飛行隊) 第2飛行隊 CH-47J/JA 第12偵察隊 第12偵察隊本部 本部付隊 電子偵察小隊 第1偵察小隊 第2偵察小隊 第3偵察小隊 87式偵察警戒車 軽装甲機動車 82式指揮通信車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 偵察用オートバイ 85式地上レーダー装置 JTPS-P11 89式5.56mm小銃 第12通信隊 隊本部及び本部管理中隊 第1中隊 第12高射特科中隊 中隊本部班 通信班 情報小隊 近SAM小隊 短SAM小隊 81式短距離地対空誘導弾 93式近距離地対空誘導弾 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 64式7.62mm小銃 第12化学防護隊 ※不明 詳細求む ※不明 詳細求む 第12旅団司令部付隊 ※不明 詳細求む ※不明 詳細求む 第12音楽隊 防衛大臣直轄 東部方面警務隊 第125地区警務隊本部 新町駐屯地 第12旅団隷下 第12後方支援隊 第12後方支援隊本部 本部付隊「12後支-本」 重装輪回収車 重レッカ 中型セミトレーラ 3トン半水タンク車 3トン半燃料タンク車 3トン半航空用燃料タンク車 野外支援車 野外炊具 野外洗濯セット2型 野外入浴セット2型 浄水セット(車載型) 野外手術システム 1トン半救急車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 74式特大型トラック 9mm拳銃 89式5.56mm小銃 12.7mm重機関銃M2 91式携帯地対空誘導弾 第1整備中隊「12後支-1整」 火器車両整備小隊 施設整備小隊 (通信電子整備小隊) 工作回収班 (第2整備中隊「12後支-2整」) (第1普通科直接支援小隊) (第2普通科直接支援小隊) (第3普通科直接支援小隊) (特科直接支援小隊) (高射直接支援小隊) (偵察直接支援小隊) 補給中隊「12後支-補」 輸送隊「12後支-輸」 衛生隊「12後支-衛」 第12施設隊 第12施設隊本部 本部管理中隊「12施-本」 第1施設隊「12施-1」 第2施設隊「12施-2」 第3施設隊「12施-3」 第12対戦車中隊 隊本部 本部管理隊 第1戦車隊 第2戦車隊 60式装甲車 82式指揮通信車 64式7.62mm小銃 11.4mm短機関銃M3A1 東部方面隊隷下 東部方面システム通信群 第317基地通信中隊 新町派遣隊 新町駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 東部方面警務隊 東部方面警務隊 新町連絡班 新町駐屯地 吉井分屯地 東部方面隊隷下 陸上自衛隊関東補給処 吉井弾薬支処 東部方面システム通信群 第105基地システム通信大隊 第317基地通信中隊 吉井派遣隊 防衛大臣直轄 陸上自衛隊補給統制本部 弾薬部 試験室 警務隊 東部方面警務隊 第125地区警務隊 吉井連絡班 新潟県 新発田駐屯地 第12旅団 第30普通科連隊 第30普通科連隊本部 本部管理中隊「30普-本」 第1普通科中隊「30普-1」 第2普通科中隊「30普-2」 第3普通科中隊「30普-3」 軽装甲機動車 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 78式雪上車 軽雪上車 9mm拳銃 9mm機関けん銃 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 対人狙撃銃 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 87式対戦車誘導弾 中距離多目的誘導弾 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 第12後方支援隊 第2整備中隊 第3普通科直接支援小隊 東部方面隊隷下 東部方面会計隊 東部方面システム通信群 第379会計隊 新発田派遣隊 第317基地通信中隊 新発田派遣隊 新発田駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 東部方面警務隊 第125地区警務隊 新発田派遣隊 自衛隊新潟地方協力本部 情報本部 小舟渡通信所 高田駐屯地 第12旅団隷下 第2普通科連隊 第2普通科連隊本部 本部管理中隊「2普‐本」 第1普通科中隊「2普‐1」 第2普通科中隊「2普‐2」 第3普通科中隊「2普‐3」 82式指揮通信車 軽装甲機動車 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 78式雪上車 軽雪上車 9mm拳銃 9mm機関けん銃 89式5.56mm小銃 5.56mm機関銃MINIMI 84mm無反動砲 110mm個人携帯対戦車弾 中距離多目的誘導弾 87式対戦車誘導弾 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 第12後方支援隊 第2整備中隊 第1普通科直接支援小隊 東部方面隊隷下 第1施設大隊 第5施設群 第5施設群本部 本部管理中隊「5施群-本」 第392施設中隊「392施」 第393施設中隊「393施」 第394施設中隊「394施」 道路障害作業車 83式地雷敷設装置 81式自走架柱橋 92式地雷原処理車 グレーダ 掩体掘削機 バケットローダ トラッククレーン タイヤローラ 64式7.62mm小銃 62式7.62mm機関銃 110mm個人携帯対戦車弾 84mm無反動砲 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 3トン半ダンプ 1トン半救急車 6トントレーラー 東部方面後方支援隊 第102施設直接支援大隊 第2直接支援中隊 東部方面会計隊 第379会計隊 東部方面システム通信群 317基地通信中隊 高田派遣隊 高田駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 第125地区警務隊 高田派遣隊 長野県 松本駐屯地 第12旅団隷下 第13普通科連隊 第13普通科連隊本部 本部管理中隊「13普‐本」 第1普通科中隊「13普‐1」 第2普通科中隊「13普‐2」 第3普通科中隊「13普‐3」 軽装甲機動車 高機動車 73式小型トラック 73式中型トラック 73式大型トラック 9mm拳銃 9mm機関けん銃 89式5.56mm小銃 M24対人狙撃銃 5.56mm機関銃MINIMI 110mm個人携帯対戦車弾 01式軽対戦車誘導弾 中距離多目的誘導弾 81mm迫撃砲 L16 120mm迫撃砲 RT 第12後方支援隊 第2整備中隊 第2普通科直接支援小隊 東部方面隊隷下 第1施設大隊 第306施設隊 東部方面後方支援隊 第102施設直接支援大隊 第1直接支援隊 東部方面会計隊 第379会計隊 松本派遣隊 東部方面システム通信群 第317基地通信中隊 松本派遣隊 松本駐屯地業務隊 防衛大臣直轄 東部方面警務隊 第125地区警務隊 松本派遣隊 表制作 Wiki管理人 ※情報量があまりにも多すぎるため、装備は本部がある駐屯地に記載。 ■習志野駐屯地 第1空挺団 ロウリア戦時、SATと共にロウリア王捕獲作戦に参加。 ロウリアに空挺部隊創設のための派遣を受け付け、教育を行った。 第二次バルクルス基地攻撃で他国と共に空挺作戦を予定している。(作戦まで描写、実行は七巻待ち) ■木更津駐屯地 第1ヘリコプター団 名前自体は出てこない。 ロウリア戦時に出撃。 難民や空挺団の輸送をしているものと思われる。 ■駒門駐屯地 トーパ王国特別派遣先見小隊は、駐屯地名はボカされていたものの「東京都内」「10式戦車」の二点よりここから編成されたものと思われる。都内で「10式戦車」はここにしか配備されていない。 ただ「89式装甲戦闘車」はそもそも東京都内に無いため不確定である。富士教導団所属かもしれない。 おおすみと第一護衛艦隊によってトーパ王国に輸送された。 陸上自衛隊駐屯地方面隊 北部 東北 東部 中部 西武 海上自衛隊基地地方隊 横須賀 呉 佐世保 舞鶴 大湊 航空自衛隊基地防衛区域 北部 中部 西部 南西 在新世界各国日本基地
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3312.html
マクロスなのは 第5話『よみがえる翼』←この前の話 『マクロスなのは』第6話「蒼天の魔弾」 地球環境の破壊が叫ばれる今日この頃。 その森は広大で、自然保護区にでも指定されているのだろうか? この時代にあって人工物がほとんど見られない。 だが唯一、明らかに人工物とわかる幅5メートルぐらいのコンクリート製の溝が山から山へと渡っていた。 その溝の上に1羽の小鳥が羽根を休めている。しかし何か危険を感じ取ったようだ。それは溝から飛び立つと空中に退避した。直後、小さく〝キーン・・・・・・〟という空気を切り裂く音と共に静かに鉄の箱が通り過ぎていく。 鳥は 「近所迷惑だ!」 とでも言いたげにそれに爆撃すると、豊かな緑に包まれた安住の地へと飛翔していった。 (*) 山間部を時速70キロメートルで走る貨物用リニアレールは戦場と化していた。 ヘリから飛び降りたティアナ達は、上空に展開するガジェットⅡ型を警戒しながら10両目に着地。なのは達の支援砲撃でガジェット達が気を取られている隙に10両目の車両の中に滑り込んだ。 「うわ・・・・・・」 ティアナは床を見て顔をしかめた。 そこには寝かされた陸士達の姿があった。全員出血性の外傷があるところを見ると殺傷設定で戦闘不能にされたらしい。 続いて突入してきたスバル達も血臭ただようこの車内で、真っ赤になってなお血の滴る包帯を顔面蒼白になりながらも必死に抑える者など痛々しい光景に絶句してしまったようだった。 その時まるで工事現場のような轟音を轟かせながら敵を迎撃していた前線から声が聞こえた。 「あぁ、増援か!」 最前線の9両目から1人の陸士が仲間に援護を頼み、敵の怯んだ隙にこちらへ走って来た。 「我々は第256陸士部隊、第5小隊所属、第1分隊だ。増援に感謝する」 どこか・・・・・・いや完璧に非魔法文明の意匠のバリアジャケット。質量兵器を忌み嫌うティアナはあまりいい気はしなかったが、ヘルメットの下に見えた彼の顔からは見捨てられていなかったことへの歓喜の表情がうかがえた。 どうやら猫の手も借りたい状況らしい。待ちに待った増援が子供であったことすら気にしていない様子だ。 「機動六課、スターズ、ライトニング分隊です。現状は?」 簡潔な状況確認要求にすぐ彼は応じ、開いたホロディスプレイを指差しながら説明する。 現在、運転室を含む前方8両は敵に完全制圧されていること。 撤退しながら構築した9両目の臨時トーチカ(防衛陣地)が最前線であること。 9両目で切り離すと電力供給が止まり、電磁気で浮いている車体がレール(溝)に墜落、大破してしまうのでできないこと。 敵はⅠ型だけではなく、新型(仮にボールと呼ばれている)が混じっており、逆侵攻はできないこと。 説明を聞くうちに、ティアナ達は素直に陸士部隊の手際に感心した。 もし、訓練でガジェットとの戦闘に中途半端に慣れた自分たちが守っていたとしたら彼ら陸士部隊のように臨機応変に行動出来ただろうか? 答えは否だ。 おそらく力を過信して突撃、その新型の返り討ちにあっただろう。 特に彼らの造った臨時トーチカの完成度は手放しで賞賛できるものであった。 彼らはリニアレールで唯一大型貨物が集中している9両目に初期の頃から陣地構築を計画。形勢不利とみるとすぐさまトーチカの構築を始め、撤退中に完成させた。 それは狭い入り口から入ってくるガジェット達に対応不能なほどの十字砲火(クロスファイア)を行えるように巧みに計算し、構築されていた。 しかしそれだけでは持ちこたえられなかったろう。〝従来の〟陸士部隊の装備なら。 予算の問題が解決した陸士部隊は、急ピッチで装備の改変が行われている。 デバイスはほぼ全員がアップデートしており、それらは対AMF戦を想定した設計になっている。現在彼らの撃ち出すのは魔力砲撃や魔力弾だけではなく、〝フルメタルジャケットの徹甲弾〟だ。 「それは最早質量兵器ではないか!?」 という反対を押しきって採用されたそれは、バルキリーと同じレールガン型発射方式だ。(この方式は最低のCランク魔導士でも使用でき、うってつけだった) 反動を伴ってしまう物質投射型武器のノウハウのなかった管理局が参考にしたのは、第97管理外世界のJSSDF(ジャパン・サーファス・セルフ・ディフェンス・フォース。日本国陸上自衛隊。)の装備だった。そのため使用時形態のそれはJSSDFの制式装備である『89式小銃』と『MINIMI(ミニミ)軽機関銃』に酷似していて、事実そう呼ばれる。 機能もほぼ同じで、配備数は89式小銃の方が多い。なぜなら分隊支援火器と呼ばれるMINIMIはいわゆるマシンガンで、稼動を始めたばかりの弾丸製造工場への負担が大きいからだ。 ちなみにティアナ達は知らなかったが、バリアジャケットも同様にJSSDFの装備を元にしている。 ともかく、彼ら陸士の善戦は彼ら自身のたゆまぬ努力と新装備によって支えられていた。 「佐藤陸曹、弾を持ってこい!もうすぐ弾切れだ!」 前線からの要請。佐藤と呼ばれたさっきの陸士は、床に転がる弾丸ケースを抱えると敵のレーザーの雨を掻い潜って前線に届けようと走る。 しかし、一瞬停まった所をレーザーが狙い撃ちした。 展開した魔力障壁もAMF下では敵の集中射には耐えられず貫通。胴体はバリアジャケットの分厚い防弾チョッキがそれを受け止めたが、リンカーコア出力が低いと薄さに比例してバリアジャケットも弱くなってしまうため、足に着弾したレーザーが貫通してしまった。 しかし、4人の対応は早かった。 足の速いスバルが倒れる彼を抱き止め、負傷者の待つ後方へ。エリオが彼の仕事を継ぎ、ケースを前線に届ける。キャロは応急の治療魔法にティアナとフリードリヒはその間の援護射撃。 絶妙な連携で敵を退け、友軍である陸士を救う。この勇気ある組織立った行動が陸士達の若すぎる彼らに対して抱いていた評価を変えた。 「痛っつぅ・・・・・・!」 「・・・・・・あの、大丈夫ですか?」 足を抑える佐藤に、治療魔法をかけるキャロが心配そうに呼び掛ける。 「・・・・・・ああ、助かった。ありがとう」 彼は礼を言うと、八角形をした箱を指差す。 「あれが連中の狙っているロストロギアの入った箱だ。なんとか守ってほしい」 そうして佐藤はスバルに止血帯を絞めて止血してもらうと、足を気遣いながらも再び戦線に復帰した。 ティアナは3人に床に積まれた弾丸ケースのピストン輸送と負傷者の治療などの指示を出すと通信を放つ。 「こちらスターズ4。陸士部隊と合流。これより車内のガジェットの掃討に入ります!」 ティアナはクロスミラージュにカートリッジを装弾すると陸士逹の戦列に加わった。 (*) 10分後 防戦が続くが、全く突入のタイミングが計れなかった。そのもっとも大きな理由はボールの存在だ。 そのボールは後に『ガジェットⅢ型』と呼ばれ、強力なAMFと帯のような格闘兵装がある。そのためレーザーを撃つだけのⅠ型と違って数段に戦いにくい相手だった。 おそらくスバルの突貫力でも1体倒したら進撃が止まってしまうだろう。 (でもなんとかリニアレールを停めなきゃ、みんなが・・・・・・) リニアレールを停められれば、地上からの増援も期待でき、負傷者の搬送もできる。 先ほどティアナはなのはに支援砲撃の要請をして、 「わかった」 と返事が得られた。しかし例の新型空戦ガジェットに苦戦しているらしい。5分待ってもなのは達は来なかった。 すでに後ろには防衛していた第1分隊12人のうち7人が寝かされている。時折聞こえるうめき声が彼らの負傷の大きさを物語った。 それに敵のAMFはランカのSAMFと違い魔法の発動ができる。しかしいちいち干渉して体力を削るため、忌々しい限りだった。 「畜生!〝虫〟の次は機械かぁ!どうして俺はいつももこうなるんだぁ!俺らは〝フロンティア〟でも、ミッドでも、ただ平和に暮らしたいだけなのに!」 ティアナの隣の陸士が叫ぶ。彼女には彼の真意は理解できなかったが、極度の緊張で発狂しそうなのだろうと結論づけた。 そしてそれがさらに「時間がない!」と彼女を焦らせた。すでに陸士達の生命線である弾丸ケースも残り少ない。 そうして上を見上げると取っ手があった。それは整備用のハッチで、大柄な陸士と違って小柄な六課の4人なら上にあがれそうだ。 ちなみに入った時のハッチは場所が悪く、降りられても登れなかった。 ティアナは即座に判断すると、陸士部隊の隊長を探す。 「隊長は俺だ」 名乗りをあげたのは、さっき〝虫〟とか〝フロンティア〟とか訳のわからないことを口走っていた人だった。 しかし確かに階級章は部隊で最高位の准陸尉だ。それに思ったよりまともな応対をしていた。 ティアナは意を決し、作戦を話した。 「・・・・・・つまり君らが、上に登って直接運転室を制圧するんだな?」 「はい。それまでここをお願いできますか?」 彼は床の弾丸ケースや自身のマガジンを確認する。 「・・・・・・持って、15分だ。それまでに頼む」 「了解!後方へ行くので3秒間援護願います」 「わかった。・・・・・・お前ら!5秒後に3秒間入り口に向けて全力射撃!給弾忘れるな!」 「「了解!」」 彼はMINIMIを持つ隊員2人に叫ぶように命じると、カウントしつつ彼自身も床に転がっていたMINIMIに箱型弾倉を装着。ジャラジャラうるさいベルトを給弾部に装填した。 自分もいつでも飛び出せるよう身構える。 「―――――2、1、GO!」 途端地獄の釜を開けたような轟音が車内を包んだ。3挺の機関銃のそれぞれから毎分750発にも昇る弾丸が飛び出し、敵の頭を完全に押さえ込んだのだ。 そしてティアナは「GO!」のカウントと同時に迷いなく遮蔽物から走り出し、規定の3秒経つ前に10両目に飛び込んだ。 (*) 「しかし隊長もお人が悪い。この残弾じゃ、あと25分以上は持ちますよ」 先ほど彼女らに助けられた佐藤曹長が発砲音に紛れぬよう、耳元で言う。 スバルという少女が10両目に積載していた弾丸ケースを次々ピストン輸送してくれたおかげで、前線には十分長期戦に耐えうる数がそろっていた。 「まぁ、お手並み拝見ってことだ。15分過ぎてもあの子達が到達できなければ侵攻して援護してやろう」 「了解!」 佐藤は答えると、憎憎しいガジェットⅠ型に89式小銃をぶっ放した。 (*) ティアナは10両目につくと、弾丸ケース運びに勤しむスバル、負傷した陸士達に治療魔法を行使し続けるエリオとキャロに指示を出す。 「スバル、このハッチを吹き飛ばして。エリオとキャロも行ける?」 「「はい!」」 2人の元気のよい返事に、破砕音が混じる。 スバルのリボルバーナックルが、ハッチをロックごと吹き飛ばしたのだ。そこからのぞく南海の海のように透き通った青い空。 ティアナは頭を慎重に出す。ガジェットⅡ型はなのは隊長達によってほとんど掃討されたはずだが、油断はできない。 果たして打ちもらしが1機飛んでいた。 ティアナは素早く照準し、一発ロード。それを対AMF炸裂弾1発で見事撃破した。 「よし!」 自らを勇気付けるようにかけ声を上げると、這いずるように外に躍り出る。暴力的な風が吹き荒れているが前に進めない程ではない。 周囲を警戒するうちにスバルも登って来て、エリオ、キャロもすぐに引っ張り上げられた。 「行くわよ!」 上にいても聞こえる『タタタッ』という三点射のスタッカート。それが聞こえている間は、彼ら陸士達の生存の証だ。 陸戦型ガジェット達も上がって来れないらしく、順調に行軍は続いた。 余談だがこの時キャロが鳥のフンに滑って谷底に落ちそうになるというハプニングがあったが、その他には問題なく、運転室まであと2両に迫っていた。 (このまま行けば・・・・・・!) ティアナの中でフォワードの初陣を白丸で飾れると期待が膨らんだ。 (*) 漆黒の邪悪なる翼はすぐそこまで迫っていた。 しかし、4人にそれに対する効果的な対処法はなかった。 (*) ティアナがジェットエンジンの轟音に気づいて音源を視認した時にはもう目と鼻の先だった。 突然山肌から出てきたのは例の新型空戦ガジェットらしかった。それはアルトがいればすぐに、統合戦争で使われた統合軍無人偵察攻撃機「QF2200 ゴースト」だと看破しただろう。 このゴーストは未確認情報だが、統合戦争末期に当時の先行試作人型可変戦闘機、VF-0『フェニックス』のブースターパックとして無理やり装備されたことがあるという。 しかし装備は当時のものより遥かにグレードアップしている。ミサイル数発、12.7mm機銃1挺だった武装はマイクロミサイルシステムの進歩によって装弾数が数倍にはね上がり、機銃は魔力素粒子ビーム機銃に換装されている。更に機体下部には20mm3連装ガンポッドが追加装備されていた。 また、運用当時以上の高機動で長時間の飛行を維持していることから推進系も通常のジェットエンジンからバルキリーと同種の熱核タービンに換装されているようだった。 無論そんな考察はティアナ達には行えなかったし、ガジェットの5~6倍は大きいその機体に圧倒されて声もあげられなくなっていた。 そのゴーストは、マイクロミサイルを乱射すると即座に退避した。 置き土産たるミサイルは直後到着したなのはの支援砲撃と、ティアナのとっさの迎撃が食い止める。しかし、ワンテンポ遅れてやってきたミサイル1発は運悪く撃墜出来ず、4人の足下に着弾した。 恐らく殺傷設定だったミサイルだが、デバイスが緊急展開したシールド(シールド型PPBと魔力障壁)が破片を防ぐ。しかし、爆発の衝撃までは殺しきれなかった。 結果として着弾地点からリニアレールの前方にティアナ。後方にスバル。そしてエリオとキャロは谷底へ落ちていった。 (*) 頭がクラクラする。意識も混濁し、視界もブラックアウトしたまま回復しない。どうやら頭を打ったらしい。しかし自分がなぜこんなことになっているかがわからなかった。 (あれ・・・・・・なんで・・・・・・) 「ティア!」 「!」 親友の呼び掛けによって前後の記憶が蘇る。 こうしてはいられないと頭を振って視界を回復させると、すぐに立って対応をしようと手を床に付いた。瞬間、自分を優に越える大きさの影が覆った。 例の新型空戦ガジェットだ。おそらくトドメをさしに来たのだろう。しかし迎撃しようにも、気づいたときには手の内にクロスミラージュがなかった。どうやらさっきの衝撃で落としたらしい。 視界の端にスバルの姿が写る。彼女は自分の元に駆けつけようと急いでいるが、穴から出てきた新型、ボールに阻まれ間に合いそうもない。 自分の名を叫ぶスバルの悲痛な声が聞こえる。その間にゴーストのセンサーがこちらをロック。その重たそうな3砲身の銃口が向けられ、回転を始める。 デバイスのない今、兵器レベルの物理投射攻撃を受ければおそらく即死。自らの体はバラバラになり、原型が何かすらわからないだろう。 (・・・・・・痛くなければいいな) 頭も依然として朦朧とするし、助かるはずもない。完全に観念して瞼を閉じた。 しかしそこで彼女はあり得ないものを見た。 大好きだった兄と誰かが肩を取り合って笑っている。あれは――――― (アルト先輩・・・・・・?) 刹那、爆音のような発砲音が耳を塞いだ。 しかし、体を裂くような感覚はやってこなかった。 瞼を開けると、目の前のゴーストが真横からハンマーで殴られたようにひしゃげている。おかげで射軸から逸れたらしい。その打点とおぼしき場所には見覚えある青白い尾を引いていた。 『(無事かティアナ!?)』 同時に念話が届き、ひしゃげてバランスを崩していたゴーストを純白の巨人が殴り飛ばした。 ティアナはしばらく惚けたようにその機体を見つめていると、やっと何が起きたかを理解した。 『(は・・・はい!)』 やっとの思いで返事をすると、VF-25は安心したようにバトロイドからファイター形態に可変。 アルトは 『(あの機体には気をつけろ)』 と言い残し飛び去った。おそらくなのは達の支援に行ったのだろう。 ティアナは救援に来たスバルが彼女の肩に触れるまで、その後ろ姿を見つめていた。 (*) そのガジェットは手強かった。 まず機動が読めない。敵はなんらかの慣性制動装置と多数のスラスターを併用して、無人機最大の強みである機体の耐G性能の限界まで引き出し、大気圏内にもかかわらずほぼ直角の回避運動を行う。 ちなみにこの武装、スラスターを含むオーバーテクノロジー系列の慣性制動システム、そして反応エンジンは元の設計にはなかったものであり、スカリエッティの改良の成果だった。 今回のデバイスの改良で多数のOT・OTMを装備したフェイトは、彼ら相手にほぼ互角の戦いを繰り広げていた。 フェイトが銃撃しながら接近してきたガジェットに攻撃するため逆に肉薄する。 機械の軌道理論と確率論に沿った火線を避けることは、神速を誇る彼女には容易いことだ。しかしそれが2本、3本と増えると事情が変わってくる。 次の瞬間にはフェイトに向かい、違う射角から2本の集中射が襲う。 なのはとしても他の2機の突入を阻止するのが精一杯でそこまで手が回らない。 フェイトは自身の超高速移動魔法によって稲妻のようなハイマニューバでその火線から逃れるが、肉薄していたガジェットがマイクロミサイルを斉射。8発ほどのミサイルが白い尾を引いてフェイトに迫る。 このまま突入するのは危険だ。しかし、いかが彼女の超高速移動魔法でも前進へと向けられた音速レベルの慣性を瞬時に消滅させることはできない。 そこでフェイトは1発ロードしてOT『イナーシャ・ベクトル・キャンセラー』を最大。そして今回の改修で新たに装備されたOT『キメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステム』を起動する。 このシステムは第25未確認世界ではクァドランシリーズの慣性制御装置として使われ、安価でVF-25のISC(イナーシャ・ストア・コンバータ)に劣らぬ性能を誇る。しかし、ミッドでは技術的な問題から最大出力での稼働時間が極端に短い。そのためここぞというときに使う装備だ。 起動と同時に2発ロード。その能力を保持するため魔力で形成された黄金色の羽根のようなフィンが足首に展開され、時をおかずに急制動を掛ける。 音速で飛行していたフェイトは1秒でその速度を零に持ってくると、周囲にプラズマランサーのスフィアを生成。それを置き土産に一気に反転して全速で離脱する。 すると彼女を追っていたミサイルはフェイトの狙い通りスフィアの目と鼻の先を通り、直前に射出されたランサーがその全てを見事に叩き落した。 ミサイルを発射してそのまま直進してきたガジェットにもその必殺の矢が4本ほど向かうが、元来直進しかしないそのランサーは容易くかわされてしまった。 フェイトの命令さえあれば再び方向転換して再追尾できるのだが、残念ながらランサーはガジェットが出しうるらしい音速の2~3倍という速度についていけない。これが対魔導士を念頭に置いて開発された現状の魔法の出しうる限界値だった。 こうしたことが続き、敵もこちらの支援砲撃が邪魔で5対1による物量戦術には訴えられず、フェイトもまた敵を捉えられなかった。 しかしガジェットと違い生身であるフェイトの消耗は目に余る。 例え魔法と新装備である各種慣性制動システムを全力で駆使しようと、音速レベルではその慣性を全て吸収してはくれない。 さきほどの緊急制動では単純計算で34G掛かる。各種慣性制動システムを使って軽減しても少なくとも5G、最悪10G近い重力加速度がフェイトの華奢な体にかかっていた。 このような状況では自分が支援砲撃をしなければ彼女は1分ほどしか持たないだろう。 ティアナの砲撃要請を受けていたなのはだったが、そのためこの戦線から抜けられず、どうにもならない気持ちにイライラしていた。 そこに自分達から遥か遠方で現場の指揮を取るロングアーチ分隊から緊急通信が開いた。 『敵の新型空戦ガジェットが1機、リニアレールに接近中!屋根から運転室を奪取しようとしているスターズ、ライトニング両分隊に奇襲をするつもりのようです!』 通信士を務めるルキノがガジェットの機関銃のように報告する。 新型の空戦ガジェットは周囲1キロ近くの全周波を常に撹乱―――――つまりジャミングしているので遠距離にいた自分に通信を送ってきたようだ。 気づけばフェイトと戦闘している敵が4機に減っている。 なのははルキノの滑舌のよさと、一歩下がった位置で戦局を冷静に見てくれている友軍がいることに感謝すると、リニアレールに飛ぶ。 4機ならばフェイトは少なくとも1分は持ち応えられる。しかしあの4人では10秒持つかどうか・・・・・・ ロングアーチの警告通りリニアレールを襲ったガジェットのミサイル迎撃を支援する。 だが、自分にはここまでしかできなかった。 いつの間にかフェイトと交戦していた4機のうち2機が、そして列車を攻撃していた1機が自分を包囲。徐々に範囲を狭めつつあったからだ。 スケジュールの関係でまだ大規模なOT・OTM改装の進んでいないレイジングハートには、フェイトや新型空戦ガジェットのような超高速の戦闘機動を行えなかった。また、能力限定リミッターがかかっていることも彼女の足を引っ張った。 空戦ガジェットから伸びる光の矢。受け止める魔力障壁が不自然に歪んだ。 (これは魔力レーザー? いや、実体弾みたいだね) 正体を見切ったなのははシールド型PPB(ピンポイントバリア)に切り替える。連続的で強力な物理攻撃に対して魔力障壁はあまりに脆かった。 なのははカートリッジを2発ロードするとレイジングハートを胸に抱き、突撃体勢をとる。 「レイジングハート!」 自らの呼びかけに、レイジングハート本体の赤い球がわかったように点滅する。そして時を置かず杖の後方に魔力球が出現。瞬時に自爆して突発的な魔力爆発を起こした。 なのははそれにバインドを掛け、四方に広がろうとする爆圧を後ろに集束させた。それによってレイジングハート・エクセリオンのSランク時のA.C.S(瞬間突撃システム)に匹敵する莫大な推進力を得たなのはは目前のガジェットに突撃する。 これまでの戦い方からこちらが間接攻撃しかできないと認識していたらしいガジェットは、突然の特攻に対応が遅れている。 その隙を突いてバルキリーのPPBパンチの要領でPPBをレイジングハート先端部に集中、泣けなしで相手の発射した機関銃弾数発を弾くと、あやまたずそれは機体本体に直撃する。 結果、AMFもPPBSもないガジェットの外壁をそれはいとも容易く貫いた。 「シュート!!」 宣言と共に放たれたゼロ距離砲撃によって機体のメインフレームを寸断。10メートル近い巨大な黒鳥は空中分解しながら急速に金属部品へと還元していった。 しかし、残り2機が機首に付けられたカナード翼と三次元推力偏向ノズルを上向き最大角にし、ほぼ機首を軸に急旋回。おそらく動きの遅くなったなのはを機銃弾で一気に撃破する腹づもりなのだろう。 なのはは2方向からの同時攻撃には通常バリアでは対応できないと判断。カートリッジのロックをフリーにしてレイジングハートに命令する。 シレンヤ氏 第6話 その2へ
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/2766.html
登録日:2012/03/12(月) 03 45 35 更新日:2023/08/06 Sun 11 39 09 所要時間:約 20 分で読めます ▽タグ一覧 基地 宮崎県 新富町 最強 自衛隊 航空自衛隊 新田原(にゅうたばる)基地とは宮崎県新富町に拠点を置く航空自衛隊の基地である。 九州南部から奄美諸島地域の領空を担当している。 記事作成時から今日までの間に航空自衛隊全体で配置転換が行われたため、その間に配属された部隊について解説。 救難隊については基本何処の基地でも同じなため割愛。 配属部隊 所属は第5航空団、要撃部隊である305飛行隊やF-15育成部隊の23飛行隊が配備されている。 現在の配属部隊 第305飛行隊 F-15J 部隊創立40周年記念塗装機(*1) 301飛行隊と入れ替えで配備された部隊で301と同じ百里基地で編成され、新田原で40周年を迎えることとなった。 305飛行隊は飛行教導群を仮想敵機として模擬戦闘を行う『戦競』と呼ばれる競技会で最多の優勝歴を持つ部隊でもある。 記念塗装などではかなり派手な塗装をすることが多く、愛好家たちを楽しませている。 2018年には初の女性戦闘機パイロットが配属された。 部隊章は梅の花だが元の百里では偕楽園、新田原では天然記念物の座論梅にちなんだもの。 301が後述の様に地元民にも親しまれていたこともあってか305は新田原基地所属になってからは、地元宮崎の催し、近隣県での自衛隊関連・防災イベントなどで展示飛行をするケースが多い。 なおその際パイロットは可能な限りイベント開催地出身者で編成することも多い。 第23飛行隊 F-15DJ 部隊創立20周年記念塗装機(*2) 23飛行隊はF-15の教育部隊でここで教育をうけたのち全国のF-15部隊へと配属される。 それまで202飛行隊が教育任務を担っていたが要撃任務との二足の草鞋であり航空自衛隊の教育体系の見直しにより臨時で発足され 2000年に202飛行隊が閉隊され教育部隊としての役割は23飛行隊へ引き継がれた。 教育部隊という関係上ベテランが揃っており中に後述の元飛行教導群所属のパイロットも所属し航空祭では教官たちが展示飛行を実施し派手な機動を見せつけている。 部隊章は鏃で2と3で部隊番号を表し、馬は天然記念物の都井岬の野生馬にちなんだもの。 前述の305共々近年は航空自衛隊の催しのみならず九州の自衛隊関連イベントで展示飛行をする機会も多い。 写真は20周年記念塗装であるが航空自衛隊で機体に記念塗装をする場合、教育部隊以外は複座機が少ないため単座機に施すことが多い。 元々式典のために用意しているため本拠地の訓練でも飛ばないことも珍しくなく、式典が終われば塗装を剥がすのが普通なため航空祭含めても他の基地に飛んでいくことは稀である。(*3) しかしこの記念塗装機は普段連絡機として使用しているT-4が2019年に発生したエンジントラブルの影響で飛行停止になり新田原基地のT-4は改修が後回しに なっている影響で連絡機として複座のF-15を使用しており、愛知の小牧基地に隣接する三菱の工場に定期整備に出した機体受領のために小牧に飛来。 現地の愛好家たちは騒然となり多くのファンが詰めかけた。 その後も北は北海道・千歳基地、南は沖縄・那覇基地などにも連絡機として全国を飛び回った、現在は通常塗装に戻されている。 かつての配属部隊 飛行教導群(旧飛行教導隊) F-15DJ 通称"ガメラ"(*4) 飛行教導群は軍隊におけるアグレッサー部隊の事であり、要撃機パイロットの技術向上を目的とした部隊である。 仮想敵役を演じる為に優れた戦闘技術を求められる部隊であり、パイロットの中でも認められた者がスカウトされる事でしか入隊は出来ないようになっている。 まさにその腕前は航空自衛隊最強といってふさわしいエース部隊である。 当初はMig-21と形状や飛行特性が似ているT-2を運用していたが厳しい飛行機動をするためか2度の空中分解事故を起こしており、早々にF-15への機種転換を行った過去がある。 その際にT-2ではソ連機に似たロービジ塗装だったが上空でも相手に認識しやすいように派手な塗装へと変更され、機体ごとに違うことから愛好家から独自の呼び名で呼ばれ人気がある。 機種転換から10年近くは同じ色を維持していたが、定期整備が増えてからはその度に塗装が変更されたり他の部隊から機体を借りた際には暫定塗装がされるなど話題に事欠かず 一時期は単座型のJを運用していたこともあったり、航空祭では予行と本番で違う塗装の機体が上がることも多かったので目玉の一つでもあった なお塗装は隊員考案で人気が高かったものを採用、下書きは考案した隊員が行っている。(*5) 部隊章はコブラで一撃必殺、それと別に髑髏のものも存在し油断すれば死を意味するという意味を持たせている。 航空祭ではトップパイロットによる派手な機動飛行で観客を沸かせていたが航空自衛隊全体の部隊配置転換で小松基地へと異動になった。 第301飛行隊 F-4EJ改 部隊創立40周年記念塗装機(*6) 数少ないF-4を運用している部隊で2020年にはF-4を運用する最後の戦闘飛行隊になった。 かつて存在したF-15部隊の202飛行隊同様に要撃と教育部隊を兼ねていた。 23飛行隊発隊後はF-15部隊はどちらも対領空侵犯措置任務がなかったためF-15の部隊が2つもあるのにスクランブルで上がるのはF-4という光景があった。 マークは編成された茨城の筑波山のガマガエルと「無事に帰る」という意味が込められており、マフラーの星の数も所属する航空団の数によって変更されている。 部隊は百里基地で編成されたが約30年配属されていたため地元の人たちに親しまれていた。 異動直前に関係者だけで式典を催すことはあるが、それとは別に『Final Demo さらばファントム』と称した民間人も参加できるイベントを催すなど航空自衛隊でも異例の送別が行われた。 入れ替えとなった305飛行隊も百里で編成された部隊で皮肉にも305は初の異動、301は里帰りする構図となった。 2019年の航空祭ではF-4の完全引退が間近ということもあり全国の航空祭を回っており同様に引退記念塗装機が里帰りしたが、(*7)長年親しんだ元地元ということもあってか他では 飛来しても地上展示止まりだったが、本拠地の百里基地以外で飛行展示が同様に引退記念塗装で飛来してきた第501飛行隊のRF-4Eと共に実施された。(*8) 翌2020年は新型コロナの影響により航空祭が中止になり目にすることはないかと思われたが、航法訓練(*9)で全国各地の基地を行脚。 各地で隊員たちによる送別が実施され、新田原にも引退直前の最後の航法訓練地として2020年に新たに加わった記念塗装機と2機で飛来した。 多くの隊員や基地の外に集まったファンに見守られながら長年任地として活動した新田原を離れ、翌月にはついにF-4運用終了となった。 新田原基地の近況 2018年に配備が始まったF-35Aは全て三沢基地に配備されることが決まった(*10)が、配置転換により全国の航空自衛隊の基地で戦闘機部隊を有する基地は 殆どが2個飛行隊体制となるが新田原・百里は1個飛行隊になることやF-35Bの導入検討が示唆されたことから基地が選ばれるのでは?と一部報道により注目された。 その後戦闘機隊総数が12個から14個増えることが決まり一つは2000年に閉隊された202飛行隊ではないかとされている。(*11) 近代化改修が施されないF-15(*12)の分のF-35の追加配備とB型の導入も決定しF-35が配備される可能性が高まった。 2021年時点で基地内では後述の米軍との協定に伴う燃料・弾薬保管設備の増設と並行して老朽化した格納庫の立替など拡張工事が進んでいる。 地元新富町の基地近くに拠点を置くことになったサッカーチームが基地司令に表敬訪問に訪れた際、応接間にF-15と共にF-35Bの絵が飾られていることが判明。 F-35Bを新田原に配備することで鹿児島県・馬毛島に新設される基地を米軍と共有し、訓練基地にすることを計画している・本土では最も尖閣諸島など島々に近い。 またF-35Bを運用可能にする計画が進むいずも型護衛艦が呉に配備されているため(*13)ほぼ新田原にF-35Bの配備が濃厚となった。(*14) そして正式に新田原に配備されることが新聞などで報じられ、2024年以降の配備が予定されている。 F-35Bは2個飛行隊分程度の導入が決定したため、もう一つは同じいずも型護衛艦が配備されている横須賀基地に近く、同様に1個飛行隊となった百里が有力視されている。(*15) 新田原基地の歴史 古くは戦前の帝国陸軍挺進隊(今の第一空挺団の前身)の基地として、大戦末期には特攻基地としても運用されていた。 敗戦後廃止され放棄されていたが、航空自衛隊の訓練基地として再利用が決まりその後も訓練を兼任する要撃部隊や飛行教導郡の 前身である飛行教導隊が築城基地から異動してくるなど、訓練基地としての色が強くなった。 一時期は地元宮崎空港の滑走路拡張工事が難航し、移転地先としても候補に挙がったがその後立ち消えとなった。(*16) 落下傘部隊の基地として運用されていた名残か、航空祭では輸送機部隊を有する航空自衛隊の基地、第一空挺団の本拠地の習志野駐屯地以外で空挺降下を実施。 降下隊員の多くが宮崎県出身者で編成、習志野駐屯地以外で唯一空の神兵が流れ、降下隊員を全員紹介する変わった特徴がある。 なおこの空挺降下には宮崎県出身者であれば陸曹などは勿論陸尉や陸佐、旅団長である陸将補すらも空挺降下を行っている。(*17) かつて本部が置かれた川南町には現在でも挺進隊が訓練で使用した給水塔、空挺落下傘部隊発祥の記念碑、神社には部隊戦死者が祀られ 毎年11月には慰霊祭が執り行われ挺身隊関係者だけでなく現役の第一空挺団隊員が参列するなど今でも風化することなく残っている。 航空祭は以前は11月末、近年は12月と慰霊祭より後に行われているため、空挺降下は慰霊の意味合いも含まれていると思われる。 基地と周辺の特徴 基地の立地は滑走路が東南東から西北西に走っており基地施設は滑走路の北側に存在、滑走路から南側は道路や畑に面しそれでいながら基地周辺 道路が低い以外にはフェンスで仕切られているだけで遮るものが少ないため、他では民間共用・滑走路が北から南に走っている・施設が滑走路南側に存在しフェンスで遮られている 僅かな場所を確保する、など滑走路南側からの撮影が難しい・悪条件な基地が多い中滑走路南側はフリーで見通しがよく常に順光という撮影環境のいい基地として知られる。 ただ裏を返せば航空祭では開催時期が12月頃なため基地側からは逆光になってしまい後述のようなことも起きてしまっていた。 航空祭以外でも県外からくる愛好家も多く、特に南側では空の駅や後述する航空祭の駐車場入口であった南ゲート付近には 地元の愛好家によって簡易展望台が設け、駐車場から視界を遮っていた樹木を伐採し見通しをよくし老若男女問わず訪れるなど賑わっている。 ただし前述のように現在基地改修で南ゲートが工事業者の出入口になっていて出入りが激しいため工事車両に注意。 2020年には空の駅『竜馬』の向かいの長年空き地だった場所に国と地元が協力し完成した滑走路を見下ろすことのできる展望台を備えた 『新田原展望広場』が整備されるなどますます環境が整いつつある。 一方脚立なしで撮影出来た場所が拡張工事でフェンスが増設され脚立が必要になる、騒音対策をかねた工事でタキシング中の絶好ポイントであった場所がなくなるなど 長年定番であったポイントが減っているのも事実で、今度は最新鋭機の配備も決まったことで更に減る可能性もある。 ちなみに公式HPがリニューアルされて以降、自衛隊公式HPでも珍しく夜間訓練予定日程や土日祝の航空機離発着が確認することが出来る。 しかも休日の離発着は事前に計画されているものなら、具体的な時間・発着する機種も明記しているという親切ぶり。 そのため休日に航空機の離発着がある場合、展望広場や基地周辺に人が集まることも珍しくない。 米軍との合同訓練 2000年代からは沖縄の負担軽減や日米合同訓練を兼ねて基地の改修が行われている。 従来の滑走路が米軍の大型輸送機離発着に使えなかったため改修が行われ、現在は従来のものと仮滑走路の2本が存在している。(*18) 同じ九州の築城基地は新田原より滑走路が短く大型輸送機の発着が難しいこと・駐機場も余裕がないことから新田原では米軍機だけで12機参加の大規模な合同訓練の基地として選ばれることも多く 地理的な関係か他の基地での合同訓練では三沢基地のF-16との場合が多いが、新田原では嘉手納基地のF-15が飛来することが多い。 訓練は数年に1回ペースで行われており、1985年に初めて合同訓練が実施され実動演習は2020年で15回となるがうち10回は新田原でも行われている 実施期間は撮影環境のいい基地に本拠地では見ることすら難しい機体を間近で見れることもあり多くのファンが詰めかけている。(*19) 2020年の訓練はコロナ過の中行われたがPCR検査を受け問題なかった隊員だけを派遣、感染が確認されれば即嘉手納に帰投させる体制が取られたものの従来の基地内の宿泊ではなく 宮崎市街のホテルに宿泊することが防衛省を通さず米軍が直接予約したことで感染者の少なかった宮崎ではちょっとした問題となった。 しかし訓練自体は感染者を出すことなく、1機が給油口の蓋を紛失した以外には問題は起こらず無事に終了。(*20) 知事が防衛省に赴く・連日地元のトップニュースになるなどあまり歓迎されてないムードもありはしたものの現地ではコロナにより各地の航空祭が中止になった影響で 全国からファンが訪れており、あまり反対運動は見られなかった…というか主な場所はファンたちが詰めかけ反対運動が集まる時間には駐車できず実行できなかった。ざまぁ また最終日に上記の新田原展望広場に米兵がやってきてファンたちにワッペンやステッカーを手渡しする微笑ましい一幕もあった。 ブルーインパルスと新田原基地 松島基地を拠点とするブルーインパルスは新田原基地航空祭への参加頻度は高く、2000年代では航空祭自体が中止された2001年・2020年。(*21) 他には訓練中の事故により飛行停止された2000年、松島基地被災による訓練時間短縮で活動の大幅縮小によってこなかった2012年、百里基地と開催日が重なり部隊も百里基地を選んだ2022年。 基地によっては自治体などの反対運動によっては40年以上もブルーインパルスの展示飛行が出来なかった基地もあるため地元の自衛隊への風当たりは悪くない。 実際那覇基地航空祭参加に中継で立ち寄る場合や、新田原から往復できる場所で展示飛行を実施する際にリモート基地として活用することもある。 こういった事情もあってか2020年にコロナの影響で航空祭などイベントが軒並み中止になった中、移動訓練が浜松に次いで新田原で実施された。(*22) 展示飛行訓練は計5回実施され、強風が吹いたこともあるも幸い天候には恵まれ無事訓練を終えた。 現地では東京上空で実施した話題性と本拠地以外で唯一のフルメンバーによる展示飛行だったことから全国各地からファンが集まった。 翌2021年も航空祭は中止だったが、自衛隊に興味がある若年層を対象にしたイベントが催され支援のために参加している。 近年の新田原基地航空祭 かつて航空祭では全国でも屈指の滑走路から近い撮影ポイントであった南駐車場で有名だったが、米軍との共同訓練に伴う改修によって滑走路や施設改修により現在は使用不能。 それどころか日本で初めてV-22 オスプレイが一般公開された年にはオスプレイ目当てで例年来場者数の倍近い 12万人が来場、しかも基地内の駐車場利用には抽選ハガキ必須なことを知らない客が押し寄せたため近隣道路では大渋滞が発生、 翌年からは特定の許可証を持つ車両やシャトルバスの駐車場のみとなり抽選式駐車場は廃止されたしまった。 近年では許可証を有する地域住民や身しょう者を乗せた車両、シャトルバスやタクシーなどの公共交通機関以外は原付ですら基地に上がる道路を通行できないほどの徹底ぶり。 二輪車については自転車以外の基地内駐輪場廃止にもよるが、通行止めはそれまで南駐車場廃止後も南ゲート付近は車両の侵入防止テープが張られ、車の立ち入りはできないものの 快晴時は逆光にならない撮影スポットとして人気で近隣道路や畑に無断駐車する不埒な人間が多かったため抽選式駐車場廃止にともない更に悪化すること懸念して対策を取ったものと思われる。 しかしそれでも航空祭前日から規制がかかる前に車で侵入し翌日の解除まで居座る人たちが後を絶たずマナーが悪かったためか、 2019年には畑などには車どころか人すら立ち入りすらできないほど規制がされてしまった。 航空祭に行くときは 現在新田原基地航空祭に行く際には当日新富町を中心に隣接する市町村に設けられる臨時駐車場や特急停車駅のある高鍋駅、宮崎市内にある商業施設で地元交通会社のバスターミナルにもなっている宮交シティからのシャトルバスやタクシーを使っていく手段がオススメである。 基地の最寄りの駅は日向新富駅なのだが待ち合わせ以外での特急停車はない小さな駅で、駅からシャトルバスを出せるような余裕もないほど敷地も狭い。 おまけに周りは住宅街なので混雑とそれに伴う騒音も懸念からか、駅からのシャトルバスはなくまたタクシーを拾える可能性も低いため基地まで1時間ほど歩く羽目になるのでオススメしない。 会場では持ち物検査が実施されており、事前に持ち込みが出来ないものが告知されていることも多いため要チェック。 なお運賃は嵩むがタクシーは基地周辺の交通規制対象外なため、正面ゲートから持ち物検査を受けるだけで入場可能なのでかなり楽。 ちなみに福岡県にも新田原という地名があるがこちらは「しんでんばる」。おまけにかつて飛行教導隊が発隊し拠点にしていた 築城基地も近いため間違えられたりする。 まあこちらの最寄駅は特急も停車する築城駅であるため間違いはないだろうけど 航空祭に行きたい方は存分に注意しよう。 追記・修正をお願いいたします △メニュー 項目変更 -アニヲタWiki- す~な~お~に♪ なんだこの項目…アニメ関係の内容薄すぎだろ。 すき~と~♪ アニヲタとも関係ないし たく、こんな項目立ててんじゃねえよ。さっさと削除依頼を… い~え~な~い~きみ~も~♪ なんだ?さっきから大音量で歌たれ流して うるさいったらありゃしな… ゆ~うきをだ~して~♪ なん…だと…!? 新田原「ヒャッハー!祭りだぁぁぁ!!」 先に述べた航空祭なのであるが。 この新田原基地 どうにも選曲を予想斜め上にぶん投げている節がある。 具体的にいうと年末最大のアニソンイベントと揶揄されたりする位にはおかしい。 但し一応弁明しておくとちゃんと邦楽・洋楽も流しているし、 マクロスやエースコンバットは航空イベントではお馴染みな楽曲である。 だから午前中マクロスメドレーをやってもオープニングフライトで「私の歌を聞けえ!」の絶叫と共に各機、次々と大空へと飛び立ってもなんら問題はない。 8万人規模の一般客にはもちろんお子様だって訪れるのでポケモンやワンピース、プリキュアが流れても問題はない。 まどか☆マギカだって立派な魔法少女アニメだもんね! なに?航空救難隊の救難展示やFinal DemoでエヴァのDECISIVE BATTLEが流れてた?なに、それは新田原ではいつもの事だ問題ない。 とここまでは割りと普通なのだが。 曖昧3cm? そりゃふにって事かいにはちょwwwと言わざるを得ないと思うんだ。 そう、この新田原航空祭。 おしりかじりむしやポニョのようなみんなのうた以上にけいおんやみなみけのようなおれらのうたが大音量で会場に響きわたっているのだ。 当初は飛行展示の合間に流れている程度だったが最近は一部の飛行展示にも進攻しはじめている。おいバカやめろ ちなみに宮崎県は日本有数のアニメ過疎地域な為流される殆どというかほぼ全て放映されてなかったりする。 残念ながら記事作事当時からすると近年はアニソンの放送は減少している。 …が飛行展示中の放送が増えておりリュウソウジャーやガーリーエアフォースのOPを放送したり、「黒豹」を部隊章とする第8飛行隊所属機の 展示飛行中にはライオンはともかくけものフレンズを流していたりと茶目っ気の方が増えつつある。 この8飛行隊は本拠地である築城基地航空祭でもかなりユニークな演目を実施している。というか築城基地も近年はアニソン垂れ流し会場になりつつある 新田原には部隊章が馬の部隊もいるためウマ娘の楽曲が流れることを期待したい。なお2022年11月に開催された築城基地航空祭で先を越されている まあ散々書いてきたが かつては国内最強(あるいは今でも)の飛行部隊を有していた基地である。 日本の軍事サイドとして日本を大いに盛り上げるのは当然の義務である。 また同じ戦うパイロットとして彼らの応援歌を流して何が悪いか。 浪漫のわかる自衛隊…最高じゃないか。 まぁたまにアニソンというかキャラソンとかまで流れているのはご愛嬌 祭りの時は自衛隊だってファイアーしたいのだ。 軍隊じゃないから恥ずかしくないもん! 追記・修正をお願いいたします みっくるんるん♪ △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] ちなみに航空祭当日基地外の南側から撮影する場合音楽が殆ど聞こえない件、まあちょうど旋回する真下で撮影できる最高のポジションだから仕方ないんだけど -- 名無しさん (2014-10-14 14 00 44) 301里帰りで305と交換にアグレス小松移動か…来年の航空祭は客激減しそうだな -- 名無しさん (2015-08-10 10 19 39) 数年前の話だけど、選曲してた人転勤なってたから今もアニソン流れてるのか怪しい -- 名無しさん (2016-05-24 18 37 57) 騒音区域縮小で揉めてるが一番うるさかった爺さんが百里に行ってそれよりはうるさくない15が2部隊に減ったんだからそれだけ減らされるのは当たり前の話なのにな -- 名無しさん (2016-12-09 11 17 24) 自分の住んでいるC市の航空祭とは偉い違いだな……。うちの自衛隊もこれくらいしてくれよー -- 名無しさん (2016-12-09 11 33 23) 内容はいいんだけど、読点がなくてめちゃくちゃ読み辛い… -- 名無しさん (2017-08-09 16 34 44) どうせマクロスのアニソン流すんなら、Maynさんと中島愛さん呼んで、ダブルで「あたしたちの歌をきけぇ!」ぐらいはやってほしいww ……ぜいたく? -- 名無しさん (2017-08-10 15 43 23) こんな陸の孤島だが、最近兵隊の数少ない娯楽と呼ばれる煙草が基地内全面禁煙されているという話を聞いた。やめる奴ら増えるぞ。 -- 名無しさん (2020-06-21 15 20 25) なんでこの基地だけ項目立ってるんだろうと思ったけど最後で納得した。(ほかの基地もなかなかマニアックなことしてくれるよん) -- 名無しさん (2020-12-20 20 46 31) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/army2ch/pages/214.html
入隊して間もない隊員(陸自2士)は銃剣道って習えるの? 恥ずかしい訓練や行事はありますか? 私物は訓練で使っていいんですか? 空薬莢を一発残らず回収するのは、環境保護の為にやっているのですか? 演習ってだいたい何日間くらい行かされるんですか? 陸自のレンジャー訓練について お盆中でも演習はあるの? 陸自で山に入り込んでの演習はシャワーもなし着替えもなしですか。 空挺の基本降下課程かなり厳しいんですか? レンジャー訓練は任期制でも参加できるのでしょうか? 銃剣格闘は任期制自衛官でも訓練できるの?段とかあるの? 陸自のレンジャー訓練について質問ですが、レンジャー訓練は何種類あるのでしょうか? よくテレビでやっているようなきつそうな訓練は最初の3ヶ月 陸海空のいずれも体力検定基準は同じなんでしょうか? 自衛隊の体力検定って? 「戦訓」を戦闘訓練の略として捉えるのって普通ですか? 後方支援系の職種でも戦訓はあるんですか? 陸総額て体力検定に合格できなかった総額の末路は? ナイフを使った格闘訓練とか普通はやんないですよね? 陸自の化学科ってどんな訓練するの? 会社から研修もかねて自衛隊に入ることになったのですが普通の自衛隊に入ってる人と違いとかあるんでしょうか? 海上自衛隊の、艦の中に搭乗員用のジムとかってあるんですか? 毎日朝から晩まで訓練で五時に終わってあと飯食って寝るだけ? 新隊員教育の格闘訓練は型だけって本当ですか? 基本降下課程は単に落下傘降下の訓練を行うだけではなく、その他にも過酷な訓練が行われているのですか? 普通科の歩兵は匍匐前進の訓練を行うのはなぜでしょうか? 海自で潜水艦も海外行ったりすんの? 「射撃徽章準特級」というものは徽章がもらえることはわかったが、検定内容は?何級まである? 各種検定って何があるの? 「射撃徽章準特級」というものは徽章がもらえることはわかったが、検定内容は? 格闘訓練に勝てないとペナルティとかあるんでしょうか? 広い演習場で訓練していますよね、自衛隊って。でも、あんなに広いところで実際に戦闘するのですか? 総火演では目標に応じた「~の台」とありますが、実際の戦闘ではどういった号令が掛けられるのでしょうか? 自衛隊でも、フルメタルジャケットみたいな訓練や生活が待ってるのですか? 市街地に有る自衛隊駐屯地(練馬とか朝霞とか)では、拳銃や小銃の実弾射撃訓練を行っているのですか? 自衛隊では小銃射撃訓練でどんな標的を使っているのでしょうか。 自衛隊では弾丸を一発ずつ正確に撃つけど、外人部隊ではとにかく弾はばらまく 入隊して間もない隊員(陸自2士)は銃剣道って習えるの? 習える。とゆうか必須科目。防具の付け方から始まって初段とる(審査あり)まで。 (自衛隊板初質スレ45 300) 恥ずかしい訓練や行事はありますか? レンジャーが敵地に侵入する訓練では、敵役の教官に捕獲されると、裸にされて木に縛り付けられる。 そして、そのまま一晩中放置される。 部隊によっては、木に縛り付けられたまま、耐拷問訓練も行うという。 耐拷問訓練は、主に鞭打ち、目隠しをしての言葉責め、水責め(冬限定) この訓練で失神し、訓練から脱落する者も多い。 (自衛隊板初質スレ45 314) 私物は訓練で使っていいんですか? 必要があって、かつ、味方に見えるなら、大抵は何も言われない。 が、陸自迷彩と同じ迷彩パターンの それらの私物があるかどうか。 (自衛隊板初質スレ45 陸秀夫 ◆Bf5xepPT82) PXに行けばいくらでも買えるだろうがよ。 半長靴から鉄帽、各種小物まで、タグを見なければ 見分けがつかないレプリカが手に入るぞ。 購入にも制限は無いはずだ。 部隊章や階級章は買えないけどね。 (自衛隊板初質スレ45 862) 空薬莢を一発残らず回収するのは、環境保護の為にやっているのですか? 主たる理由は「弾薬の管理」の為です。 実弾を部隊に交付する際は全ての弾薬数を確認し、 訓練修了後には射撃後の残弾と打ち殻薬莢の数とを払い出し数と照合してから弾薬庫に返納します。 (自衛隊板初質スレ46 ドカン・オオカミ ◆s6tJH5.VuA) 演習ってだいたい何日間くらい行かされるんですか? 演習の内容や演習場所によって一概には言えません。 短ければ2~3日程度で帰ってきます。 モデル的には行き帰りの移動で各1日、訓練2夜3日、後始末1日で6日とかになりますね。 北方機動特別演習等の大規模演習だと1月まるまるかかる場合もあります。 (自衛隊板初質スレ46 ドカン・オオカミ ◆s6tJH5.VuA) 訓練・演習以外にも演習場に行くことはあります。 他の部隊の演習・検閲の支援や演習場の整備作業などの場合です。 これらの場合、自隊の訓練に比べて長丁場になることが多いようです。 (自衛隊板初質スレ46 陸秀夫 ◆Bf5xepPT82) 陸自のレンジャー訓練について 訓練の形態が二通りあります。 一つは幹部自衛官を対象にした「幹部レンジャー課程」で、こちらは富士学校で行われ、専門の教育要員もいる前者の教育方法です。 もう一つは、曹士を対象にした「レンジャー集合訓練」で、普通科連隊や旅団単位で教育が行われ後者の教育方法です。 (訓練が行われない部隊の志願者は最寄りの訓練実施部隊に参加します。) (自衛隊板初質スレ46 ドカン・オオカミ ◆s6tJH5.VuA) お盆中でも演習はあるの? あるよ この時期の演習は各部隊いやがるので演習場を長期確保するには穴場かも 法事がある隊員には迷惑だけど、営内者なんかは同期間の休みを前後に確保すればok (自衛隊板初質スレ79 ローレディ ◆5xsookHc2o) 陸自で山に入り込んでの演習はシャワーもなし着替えもなしですか。 野外なので当然シャワーはなし。 着替えは各人ごと携行。 (自衛隊板初質スレ79 雪風 ◆MZR7PEYUKI) 空挺の基本降下課程かなり厳しいんですか? 腕立て、腹筋、かがみ跳躍、懸垂、300m折り返しダッシュ、あとなんかあったっけ?そんなかんじの体力検定がある まあ毎日空挺体操頑張ってりゃできるレベルだろ あとは度胸と根性と健康な体があれば大丈夫 背骨とか、クルクル回ってもテンパらねー精神もいる 空挺は入ったあとがかなりキツいんだろうけどね 一応バッジ付けてる若い幹部とかいるけど、ありゃ最低限クリアしただけだ (自衛隊板初質スレ80 341) レンジャー訓練は任期制でも参加できるのでしょうか? 任期制でも行けるよ。 4月に入隊したとして、中隊配属は9月、レンジャー課程3ヶ月、退職前の半年は就職活動となると、 純粋に部隊で勤務できる期間は2年半ぐらい、戦闘団検閲も1回しか経験しない。 レンジャーとったら、情報小隊あたりでバリバリ働いて欲しい部隊は行かせないかもね。 (自衛隊板初質スレ81 ローレディ ◆5xsookHc2o) 銃剣格闘は任期制自衛官でも訓練できるの?段とかあるの? 格闘検定があって、「級」も認定される。 陸自の場合は2年に一度の検定合格が必要。 もっとも殆どの隊員は「格闘の型」だけで、本格的な組み手まではいかない。 勿論、本格的に修めたい場合は体育学校の格闘課程をはじめ各種の道はある。 (部隊にもよるが、任期制でも部隊レベルでの練成は可能かと) (自衛隊板初質スレ81 ドカン・オオカミ ◆s6tJH5.VuA) 陸自のレンジャー訓練について質問ですが、レンジャー訓練は何種類あるのでしょうか? レンジャーAとBや空挺レンジャーAとBだな (自衛隊板初質スレ81 954) よくテレビでやっているようなきつそうな訓練は最初の3ヶ月 これはマジですか? 最初の教育機関で自由時間は寝ている時と土日ぐらい 海自は約4ヶ月の教育訓練が終われば部隊勤務だけど1士になるまでは覚えることが多くて大変 (自衛隊板初質スレ82 予備海士長 ◆0J1td6g0Ec) 陸海空のいずれも体力検定基準は同じなんでしょうか? 海自はまだ体力測定のはず、腕立て腹筋が3自共通?、点数表を公開されているか不明 (自衛隊板初質スレ110 予備海士長A ◆0J1td6g0Ec) 自衛隊の体力検定って? 以下が体力検定 一級 / 二級 腕立て82 / 72 腹筋85 / 77 3000m11,26 / 12,22 懸垂17 / 14 走幅跳5,10 / 4.80 ボール投60 / 56 そして 腕立て伏せ 28回 膝半屈腹筋 40回 3000m走 16分33秒 懸垂腕屈伸 3回 走り幅跳び 360cm ボール投げ 30m以上 これが7級ですこれがクリアできれば自衛隊の教育訓練で班長にしばかれることはないそうです で、以下は空挺の人の普段 1時間走(約11km程度)×平日毎日 懸垂×10~12回 2セット(毎回腕を伸ばしっきってあげる時は顎を鉄棒より上に持っていく) 腹筋×60~80回 2~3セット(出来れば斜めになっている台の上で) 腕立て×40~50回 2~3セット(下げた時胸を地面ぎりぎりまで持っていく、尻は上げない下げない一本の線のように) スクワット×50回 3セット(荷物を背負うなど負荷をかけて膝の角度は45度) 木曜日 駆け足が終わった後、 600m×6回のインターバル(一回あたり2分10~30秒で走る) 土曜日 1時間~2時間走(ゆっくり適当に) 空挺にいくには体力検定1級または2級ないときついそうです それでも空挺いくとだれもが後期終わる頃には1級もってるそうですが (162 599) 「戦訓」を戦闘訓練の略として捉えるのって普通ですか? 普通は、「戦闘から得られる(た)教訓」のことだと思うんですが・・・ というわけで 後方職種なんて戦訓の固まりだと思うな。 技術の進歩で前線の戦闘の様相は大きく変化しているけれど 兵站においては、未だ画期的な技術革新は起きていないと思うから。 (自衛隊板初質スレ82 陸秀夫 ◆Bf5xepPT82) 後方支援系の職種でも戦訓はあるんですか? 流石に普通科のような突撃や遊撃戦は行いませんが、「自隊警戒」等の宿営地等における自衛戦闘の訓練は行います。 (自衛隊板初質スレ82 ドカン・オオカミ ◆s6tJH5.VuA) 陸総額て体力検定に合格できなかった総額の末路は? 体力検定は自衛官として持つべき最低の体力だから 合格するように教育隊でしごきまくってくれるから 心配せんでついて行けばよし (自衛隊板初質スレ82 301) ナイフを使った格闘訓練とか普通はやんないですよね? やりますよ。ただし、今は試行期間で本施行は23年度だったかな? (自衛隊板初質スレ105 ローレディ ◆5xsookHc2o) 陸自の化学科ってどんな訓練するの? CBR兵器が使用された場合の検知、種類の特定、汚染除去など。 前線に立って直接戦闘するわけではない。 真夏でも化学防護服着て訓練するので物凄く暑いと聞いたことがある。 (自衛隊板初質スレ107 893-894) 地下鉄サリン事件のときサリンの除去や解毒剤についてアドバイスしたとかしないとか ガス攻撃自体は第2次世界大戦でも普通(?)に行われていている 化学防護車がサンプリングして汚染地域を把握する(小さな旗を立てていた) 除染車か除染剤を散布して無害化する(散水車みたいな感じ) 最終的に無害化されたかを確認して終了(消防本部に検査キットが有るところも) 大宮駐屯地の模擬戦では展示してくれた (自衛隊板初質スレ107 予備海士長 ◆0J1td6g0Ec) 会社から研修もかねて自衛隊に入ることになったのですが普通の自衛隊に入ってる人と違いとかあるんでしょうか? 基本的に生活のリズムは自衛官と同じ。 時間も起床から就寝まで自衛隊時間で生活する。 訓練は、受け入れ部隊によって違うだろうが、基本教練(回れ右とか、行進とか) 精神教育(訓練ビデオ、PKO関連など) 体力検定(自衛官と同じメニュー) 軽装での10㎞程度の行軍・・・・・・こんな感じ。 (自衛隊板初質スレ107 926) 海上自衛隊の、艦の中に搭乗員用のジムとかってあるんですか? 船のサイズによる、補給艦みたいに大きな船なら有ったりするけど 潜水艦やミサイル艇には置く場所が無い (自衛隊板初質スレ108 予備海士長 ◆0J1td6g0Ec) 毎日朝から晩まで訓練で五時に終わってあと飯食って寝るだけ? 普通科でも訓練なんてあんまりしない。 普通科だと、月に一回くらいの野営がメイン。 その前後に準備と装備の後片付けとか。 あとは、ジョギングとか銃剣道とか適当にやってる。 暇な時は隊舎の掃除とか便所掃除とか。 月に数回は警衛(門番)とか当直とかの勤務がある。 下っ端は、飯炊きとか給水所とか給油所とか駐屯地内の消防署とか そういう雑用に3カ月単位で行かされたりする。 まぁ、大卒で入っても意味のない職場だ。 長くいるつもりがないのなら入らないほうが良いが、 長くいるつもりがなくても陸曹になったりするヤシも割といたりもするw (自衛隊板初質スレ109 411) 任期制隊員(陸自)で入った場合 新隊員教育が共通3カ月、職種別3カ月の計6か月がある 当初の3カ月は自衛隊の基本的な訓練を実施 基本教練、射撃、攻撃、防御等 次の3カ月は職種によって専門的な訓練を実施 各職種で必要な基本的な知識、技能の修得が目的となる 新隊員教育後は一般隊員として勤務する 部隊の特性に応じて勤務に差がある ・ 普通科や戦闘職種であれば概ね411のような感じ ・ 戦闘支援職種、後方支援職種の場合は少し違う 教育訓練はほとんどないが、訓練支援が月に1~2・3回あるのでこれに参加 これに加えて演習場整備や警衛等の特別勤務がある 土日に訓練支援があることも多いので、代休を合間に取る(半日代休の積み重ねがメインとなる) 体力練成期間等はほとんどなく、課業外に自分でやることになる 銃剣道や持続走等の訓練もあまりできず、課業外の訓練が目立つ 【新隊員教育について】 前期は基本教練がメインとなる 生活は慣れず、自衛隊のイロハをここで学ぶため、大変忙しく感じる 起床から就寝までの実施事項はほとんど決められており、自由もあまりない とにかく「やれ」と言われることをやっていればいいので、キツイながらも楽である 体力もこの時期に練成しておかなければならないため、たくさん運動する 起床後、点呼後、課業中、課業後も運動する日が多いだろう それでも体力の劣る者は自主練成をしないとついていけないので、向上に努める 訓練自体はそこまでキツくないだろう 言われることを覚え、実行するだけでよい 学科もあるので覚えることは覚える 精神的な教育もある 自衛隊の使命の理解(社会における自衛隊の任務、地位や役割を概ね理解する)(犯罪等の影響もここで教えて未然防止に努める) 個人の能力を充実させる(常に向上心を持って頑張る意識を持たせる) 責任感を養う(命令を遂行するという意識、義務を理解する) 規律を守る(決められたことは守るということを理解する) 団結する(部隊として団結することを理解する) こんな感じ 団結と相まって宴会や親睦会も多い 新隊員教育は20歳未満で酒が飲めない者もいるので、ボーリングや食事会なんかになることも多い (自衛隊板初質スレ109 413-414) 新隊員教育の格闘訓練は型だけって本当ですか? 新隊員でやるのは、面打ち、面突き、前蹴り(だったっけ?)の型くらいだったかな? 部隊配属されても、普通科以外じゃまず徒手格闘はやらないでしょう。 普通科でも訓練隊に行かなければ、ごくたまに型をやるくらい。 あ、でも今はなんか格闘が空手ベースになったんだとか言ってたか。 (自衛隊板初質スレ109 526) ガッツリやるのは銃剣道だけだな。 こっちは、馬鹿みたいに朝から晩までやってる「銃剣道合宿隊」ってのが 各連隊にあるはず。野営で穴も掘れないのに、銃剣道強い奴は威張ってる。 今時、銃剣付けて戦うこともないだろうし、そもそも89+銃剣の間合いと木銃じゃ全然違うのだがw (自衛隊板初質スレ109 528) 基本降下課程は単に落下傘降下の訓練を行うだけではなく、その他にも過酷な訓練が行われているのですか? ただの落下傘降下なら、自由降下も含めてレジャースポーツとしてやってる人もいますよ。 落下傘降下は目的地にたどり着くための手段に過ぎません。降下前後の行動も訓練に含まれます。 単純に降下が怖くて脱落する者もいますけどね。 (自衛隊板初質スレ109 589) 普通科の歩兵は匍匐前進の訓練を行うのはなぜでしょうか? 市街戦や森林戦のように遮蔽物が多い状況なら姿勢を低く走った方が良いだろう 遮蔽物が少ない野原で敵陣に直線的に接近しなければならない場合匍匐は絶対必要 (自衛隊板初質スレ109 951) 海自で潜水艦も海外行ったりすんの? リムパックや合同救難訓練に参加していますよ (自衛隊板初質スレ110 予備海士長A ◆0J1td6g0Ec) 「射撃徽章準特級」というものは徽章がもらえることはわかったが、検定内容は?何級まである? 普通科の小銃手と後方職種では射距離が違ったりする?男女での違いは? 射距離は300mが基準で、近傍に300mの射場がない所は200mでもおk ただし的はその分小さくなる。 立った姿勢から伏せて5発射撃までを27秒以内 同じく立った姿勢から膝撃ちまたはしゃがみ撃ち5発を27秒以内 的の配点は中心から5点、4点、3点、0点。 合計得点で級が決まる。 ちなみに小銃の短連射と3点制限点射が検定からなくなってから、準特級は物凄く取りやすくなってる。 (自衛隊板初質スレ110 ローレディ ◆0KvSZqbvRI) 各種検定って何があるの? 体力検定格闘検定射撃検定ぐらい? 特殊武器防護に救急法などもある。 (自衛隊板初質スレ110 440) 「射撃徽章準特級」というものは徽章がもらえることはわかったが、検定内容は? 何級まである?普通科の小銃手と後方職種では射距離が違ったりする?男女での違いは? 膝撃ち(片膝をついた姿勢)5発 伏せ撃ち(腹ばい)5発 短連射(64は2発×3回、89は3発×3回) 級は3級から特級まで 職種に関わらず、通常は200m、男女同じ (自衛隊板初質スレ110 691) 格闘訓練に勝てないとペナルティとかあるんでしょうか? ペナルティーはないが、一定基準に到達しないとダメ どんなバカでもちょっと頑張れば大丈夫 (自衛隊板初質スレ110 960) 広い演習場で訓練していますよね、自衛隊って。でも、あんなに広いところで実際に戦闘するのですか? あまり広く有りません。部隊を展開するには狭すぎる位です。 幹線道路沿いとか都市部で戦闘ってするんじゃないのですか? 当然ながら、そういう防御に有利な地形は攻撃側は迂回しようとします。 迂回させないように翼側を伸ばしていけば結果として幹線道路を含む広い地域の戦闘になる訳ですね。 そういった「戦線」の中で攻撃側の都合の良い場所を狙って「突破」が図られるわけですね。 そして戦線を突破した敵部隊は後方に回って「包囲」を行います。 都市部や幹線道路を守ってる部隊は包囲される前に後方に撤退しないと全滅してしまいます。 (43 539、541) 総火演では目標に応じた「~の台」とありますが、実際の戦闘ではどういった号令が掛けられるのでしょうか? あらかじめ地点指示をして、著名な地形、建造物に勝手に名称をつけるデス。 ~の台とか~の丘とか~の木とか、そんな感じデス。 (59 81式) 自衛隊でも、フルメタルジャケットみたいな訓練や生活が待ってるのですか? フルメタルジャケットのような、自尊心を破壊される教育はありません が 非常ーーに厳しい6ヶ月が待っています 精神的、肉体的に… フルメタルジャケットがやりたいなら、習志野の1AbnBに入るかレンジャー訓練受けましょう (60 287) 市街地に有る自衛隊駐屯地(練馬とか朝霞とか)では、拳銃や小銃の実弾射撃訓練を行っているのですか? やってます。 弾がもったいないからエアソフトガンも使用しています。 (315 527) 弾が勿体無いという金銭的なモノよりも(勿論それも大きな要素ですが)、 跳弾の危険性や室内での訓練では発射ガスの毒性が無視できないという理由もあります (315 三等自営業 ◆LiXVy0DO8s) 自衛隊では小銃射撃訓練でどんな標的を使っているのでしょうか。 自衛隊も米軍とほぼ同じ形状の人体的です。 つまり「塹壕から身をのり出した胸から上」の形。 因にこれも米軍同様「紙の中央に同心円・点数とともにその形状が黒で プリントされた的」と「鉄または厚紙のシルエット的」とがあります。 (その他に膝から上の立ち姿シルエット的:主に拳銃用)。 射距離は基本射撃では300m。 (280 215) 自衛隊では弾丸を一発ずつ正確に撃つけど、外人部隊ではとにかく弾はばらまく という話を外人部隊に転職した元自衛官が証言していましたが、本当にその方が効率的なんでしょうか? 実際の戦闘時はゆっくり狙うゆとりはありません。 基礎訓練を受けた兵士が、実戦で確実に人間大の的に当てられる距離は 50m以下と言われています。また、被弾を避けるためには最短時間、最小限身体を露出させて 射撃する必要があります。そのような状況下で当てられずに当てる、少なくとも相手を止めるには じっくり狙うよりおよその照準でばらまく(コントロールできる範囲で)ことが有効でしょう。 ただし、それは接近戦の場合で、200mとか離れてゆっくり狙うゆとりがあれば話は別です。 (280 728) 自衛隊は実戦を想定しては居ますが、殆ど病的なまでに一発の弾丸にこだわります 自衛隊の運用思想が米軍が駆けつけるまでの間に、敵勢力に対しての遅滞行動としての戦闘行動を遂行する必要があるためです 転じて外人部隊を始め実戦が身近なところでは、余裕がある内は有効な弾幕を張る事が重要とされます。 (280 三等自営業 ◆LiXVy0DO8s) 自衛隊は実戦を想定しては居ますが、殆ど病的なまでに一発の弾丸にこだわります 初年度砲手の頃 「ババァのションベン見たいな撃ち方してんじゃねぇ!」って蹴りつけられましたが? 小銃~戦車砲まで 一発一発を当てる射撃と、ばらまいて被せる射撃。両方訓練してますよ。 ババァのションベンって撒布界が広いと言う事? 機関銃を細切れにダラダラ射撃するのを、切れの悪いババァのションベン射撃と 短連射一回で弾道を確認し、そのあとは一気に目標手前から投網を被せるように撃つのが理想。 残弾数を気にするあまり、短連射を繰り返して弾道を導こうとすれば時間がかかるし、弾詰まりのリスクも増す。 (280 742-753)
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/416.html
白き床。白き壁。白き天井。 見渡す限りを白で磨き抜かれた純白の空間。 仮に病檻村と呼ばれていた時代の村民がこの施設に送り込まれれば、その神聖さに圧倒され、涙を流して膝をつくだろう。 しかし神のおわすがごとき静謐な館もまた、今は紛うことなき地獄の一角である。 継ぎ目なく滑らかな床はいまや一定の間隔ごとに踏み砕かれ、荒々しい足跡が刻まれている。 白き回廊には人間だったものが散乱し、血と肉が回廊を赤く汚していた。 そして地獄の一角であることを証明するかのごとく、回廊を徘徊するのは天井にまで届くほどの巨躯を誇る戦鬼だ。 床も死体も等しく粉砕する戦鬼の重厚な足音は、生者をあまねく恐怖に震え上がらせるだろう。 そんな怪物を引き連れるのは、村人を死へと導く斑模様の死神だ。 騒がしい鬼とは対照的に足音一つ立てず、幽鬼のように無言で回廊を通り過ぎていく。 静と動、対極にある二名の災厄は、意志持つ人間の消え失せた第二階層を後にする。 施設の最奥、第三階層への扉に手をかけ、踏み入る。 「これは……」 天が、第三階層の惨状に思わず声を漏らす。 第二層を仲間同士の殺し合いを強いられる等活地獄に例えるならば、第三層は極寒によって皮膚が腫れ上がる頞浮陀地獄に例えられるだろうか。 天たちをまず迎え入れたのは、ぶわりと吹き抜ける不自然な強風だ。 それは気温差による急激な空気の流れの発現であった。 侵入と共に回廊のあちこちに横たわる警備員や研究者、そしてテロリストの死体。 その血はこのフロアを吹き抜ける冷気の余波によって凝結し、シャーベットのように固まっているようだ。 氷の嵐こそ吹き収まっているものの、生の鼓動など一切聞こえない、まさに死の静寂。 防護服に身を包まれた天にはその過酷さは感じられず、大田原も何の反応をも起こさない。 けれども、魂まで凍えさせるような寒波が未だ滞留しているのは疑いないだろう。 氷点下の世界をこの場に顕現できる存在、心当たりはたった一人だ。 氷使い、氷月海衣。 ハヤブサⅢに手ほどきを受け、天どころか三樹康や真珠すら退けた少女である。 彼女を素人とみなす者など、もはやSSOGにはいないだろう。 満場一致でハヤブサIIIへのそれと同等の覚悟を以て当たるべき要注意人物であった。 そして同時に、第一捜索対象でもあった。 すべては、彼女が生きていた場合に限られた話だが。 「…………。 ターゲット。沈黙を確認」 回廊の中央にて、海衣もまた、その刻を止めていた。 ハヤブサⅢはSSOG全員を自身へと引きつけ、同行者たちを逃がそうとした。 逃げる素振りを一切を見せず、SSOG四人を前に大立ち回りを繰り広げた意図はそれ以外にあり得ない。 (ならば貴女もまた、その覚悟すら受け継いだというのですか?) 決意と覚悟を露わにした堂々たる生き様を、氷月海衣は世界に固定していた。 天が一度は叩き伏せられた野生児を道連れに、氷の柩で身を包み。 氷に閉じられたその死に顔は凛として美しく、後悔の色など微塵もない。 たとえ己の命が断ち切られようとも、その先に希望は必ずあるのだと信じているかのごとく。 その永遠の氷牢はいわば墓標であり、慰霊碑だ。 不躾な部外者によって侵されてよいものではない。天はそのように思う。 けれども、現実問題として、彼女の標は荒々しい純然たる暴力で無惨にも打ち砕かれている。 運命は彼女を選ばず、日の届かない地下の奥底でその命は零れ落ちた。 砕けた柩のそのすぐ傍。 一息に噛み砕かれたがごとく、頭部を半分失って倒れ伏しているのは、もう一人の捜索対象たる与田四郎だ。 彼は果たして最後に恐怖の色を浮かべていたのか、それとも何も分からないままに命を取り落としたのか。 その損壊した遺体からは、彼の一切の感情を読み取ることはできない。 「大田原さん、警戒を」 天の警告が聞こえているのかいないのか。 大田原は白く熱い蒸気を口元から垂れ漏らし、唸るように喉を鳴らす。 与田の頭部は鋭利な刃物ではなく、ギザギザの刃、まるで牙のようなもので切り取られている。 これが捕食の結果だというなら、人間の頭を一息で噛み砕く恐るべき咬合力。 人間の細腕では到底砕けない絶対零度の氷柩を一息に叩き割る圧倒的な暴。 今の大田原ならば同じことができるだろう。だが、彼じゃない。 彼に匹敵するほどの凶暴な何者かがもう一人、数刻前までここにいた。 海衣の覚悟も決意も一笑に付した、絶対的な蹂躙者がここにいたのだ。 「うう……があああっッ!!」 「大田原さん!?」 大田原が奇声を発し、駆け出す。 その向かう先は動物実験室。 「止まりなさい! 止まれッ!」 数秒遅れて天も後を追う。 さいわいなことに、見失うことはなかった。 実験室の入り口で、大田原は立ち尽くしていたから。 動物実験室は、やはり生ある者の気配が一切感じられない死の空間だった。 廊下とは違った様相で、こちらもまた惨憺たる有様だ。 動物管理室と動物実験室を隔てる壁には大穴が空き、天井は微生物学研究室をぶち抜く勢いで剥がれ落ちている。 瓦礫に押しつぶされた標本や小動物の死骸、何かの肉塊があたりに散乱。足の踏み場などどこにもない。 白かったはずの部屋は、ホースから血液をぶちまけたかのように、夥しい量の血液によってコーティングされ、赤い部屋と化している。 壁ごと取り外された動物管理室の扉は、部屋の中央でアルミホイルのようにくちゃくちゃにひしゃげた無惨な末路を晒していた。 部屋の隅では、3メートルを超える巨大なゴリラが心臓を穿たれて、壁に叩きつけられて項垂れている。 そして部屋の中央には王者と言わんばかりに熊と思わしき怪生物がその首を地面に取り落としていた。 彼らがどれほど凶暴だったのかは推測しかできないが……。 もし生きた彼らと一緒に閉鎖空間に放り込まれていたとしたら、天は十秒持たないだろう。 いや、真理や真珠、野生児やハヤブサⅢとて一分持つまい。 サイボーグの風雅か、大田原でようやくこの場に立つ資格を得られる、まさに血で血を洗う殺戮の舞台だったに違いない。 強大な二体の野獣、だがその顛末は対照的だ。 苦悶と恐怖の表情を張りつけたゴリラとは対照的に、どこか勝ち誇る様に凄みのある笑みを浮かべた大熊の首。 躍動感を存分に描き出した美術品に対して、今にも動き出しそうだと形容することがあるが、 この大熊は死体であるにも関わらず、目を離せば飛び掛かってきそうだ。 特殊部隊として、常人と比べれば数多くの死に触れた天からしても、これほどまでに圧倒されるような死に様を見たことがない。 帝王、武神。そのような単語が脳裏を過ぎっていく。 「ぐううっッッッ!!」 「大田原さん……」 大田原が奇声をあげ、独眼熊の頭を抱え上げ、脳にその牙を立てる。 傍目に見ればまた異能の副作用が再発したように見える。 だが、大熊の圧倒的な存在感に、天はそうなった理由を理解した。 かつて自らを戦闘狂と称していたように、そして吉田の後を追ってSSOGへと入隊したように、 大田原源一郎の遺伝子には闘争の本能もまた刻み込まれている。 だが、吉田のときと違い、彼は独眼熊を下すことはできなかった。弁明しようもない、純粋な負け越しだ。 三度目は訪れず、雪辱を晴らす機会は失われた。 その屈辱を理性が御せない。八つ当たりのように、その肉を食らう。 大熊の肉を食らう巨大な鬼が、いやだいやだと駄々をこねる子供のように小さく見えた。 肉を食われるにつれて、大熊の外形もまた崩れていく。 凄みのある勝者の笑みは、形崩れるにつれ、口元にシニカルなそれを湛えるようなものに変化していく。 ただ顔の表情筋を削り食われて、顔面が崩れているだけの事象だというのに。 はるか高みから、感情を燻らせている天に対して辛辣な言葉を投げかけているように思えた。 己の悔恨を見抜かれ、一蹴されたような錯覚を天は覚えた。 天井を見上げ、一呼吸。深呼吸の音が殊に鮮明に聞こえる。 ないまぜになった感情が心中渦巻くなか、大熊の肉を貪り続ける大田原をその場に残し、天は動物実験室を後にする。 名とは個と個を判別するために一人一人に与えられた呼称である。 個とはすなわち人間一人一人であり、その一生涯であり、生き様である。 人の名を忘れない。その本質は、ありとあらゆる人間の生き様を正面から受け止めるということだ。 堅気の世界ならば、人たらしとして、人と人の間を取り持ちながら安定して航行することができるだろう。 だが、天はSSOGだ。 堅気ではない。裏の世界の仕事人だ。 彼らが飛び込む世界は、極限状態に置かれた人々の、凝縮された情動や欲望が飛び交う、人生の坩堝である。 もちろん切り口次第でいかようにも言い表すことはできるが、そのような一面があることは誰も否定できないだろう。 そんな世界で遭う人、人、人。 善悪問わず、その人生の壮絶さたるや、表の世界の比ではない。 海衣も大熊も、私は、我は、己に恥じぬ生き様を最期まで貫いたぞ、と言葉なき訴えを体現する。 ターゲットだけではない。命こそ繋ぎ止められているが、真珠も大田原も同様だ。 彼らは理性の一かけらまで、正しくSSOGの精鋭であった。 翻って、お前はどうだ? たった一日の間に、天が垣間見、ぶつけられた壮絶な感情と覚悟の数々。 お前はこれらを乗り越えて、踏み越えて、ぶち抜いて先に進めるのかと常に問いかけられる。 訂正。問いかけているのは天自身だ。 死者たちの目を通して、天自身が己の生き様を自問自答しているのだ。 迷いを抱えたままに決断を下し、未だ内心では葛藤を抱える己に対して問いかけているのだ。 全てを投げ出して逃げ出してしまいたい。この感情は是だ。 だが同時に、命尽きる時まで我が身を公に尽くしたいと考えているのもまた是だ。 同僚の命と実利を天秤にかけたあの場面を反芻する。 もう一度、命の選択をしたあの場面が再現されたとしたら? ――天は同じ選択をおこなうだろう。 もう一度、SSOG就任の前日に戻れるとしたら? ――天は迷わずSSOGに就任するだろう。 たとえ記憶と経験を引き継いで、同じ場のあの瞬間に戻ってきたとしても。 天は実利を取り、同僚を一人切り捨てる。 天は己の安寧よりも、国家の安寧を選択する。 私情を任務に持ち込みはするが、それを最終判断には用いない。 このポリシーは、天が絶対に動かさないと決めた最終ラインだ。 奇しくも個人としては正反対の生き様である成田のポリシーと同じ。 その意味は、自身の正義よりも使命を選ぶという覚悟の表明でもある。 SSOGに入隊したその日に、決めたことだ。 大きく息を吐きだす。 揺れていた心が落ち着きを取り戻す。 天はこれからも迷うだろう。選択を突きつけられるたびにカッコ悪く迷い抜くだろう。 右か左か、進路をめぐって歩みが遅くなることもあるかもしれない。 けれども、止まりはしない。そして引き返すことは決してない。 「警戒解除」 海衣の氷像の前まで戻ってきた天は、誰にも聞きとれないほどの僅かな声量で呟く。 身体中の強張りを緩め、再び周囲を観察する。 九条和雄から一色洋子へのメッセージカードが、踏み砕かれた玩具の近くに落ちている。 それは、兄から妹へ送られたお土産だ。 自然豊かな森の中で、家族や友だちと愛に溢れた幸せな暮らしをする、そんな理念の元に長年愛されてきたシリーズだ。 愛妹の快復を願う家族愛に溢れた文章が綴られたそれと、健やかな未来を願うそれ。 無惨に踏み砕かれた動物の人形ごとおもちゃ袋に入れ直し、スクールバッグとまとめて海衣の墓標に立てかける。 そのスクールバッグから、スマートフォンの一つを徴収して。 林檎のロゴマークをつけたスマートフォンに偽装した、機関の通信機を徴収して。 「私はいつか、憎悪に焼かれるのだろう」 洋子と海衣の短い逃避行。 それを打ち切った天の行為は、海衣の人生を大きく狂わせた分水嶺だ。 海衣はハヤブサIIIにその素質と意志を認められた。 なれば、彼女がハヤブサIIIの後継となり、天の前に何度も立ち塞がる未来もきっとあったのだろう。 そんな未来の道筋は途絶えてしまったが。 「私の選んだ道の先に破滅が待ち構えていることなどとっくに見えています。 それでも、私は立ち止まる気はありませんよ」 果たして、海衣に言ったのか、己へと戒めたのか。 それは天にしか分からない。 物言わぬ海衣の目に、もう光は灯らない。 彼女はもう立ち塞がることはできない。 元々ひび割れていた氷柩は、負荷に耐え切れなくなったのか、膝から崩れ落ちる様にごとりと音を立てて倒壊した。 ■ 泡沫の夢のように、大田原の理性がふと蘇った。 周りには獣肉が散乱し、己が食い散らかしたのだと理解する。 散乱している肉は、熊肉。己を二度も撃ち破った特定外来種以外にあり得ない。 だが、あの大熊は理性をなくしたまま勝てる相手ではない。 これはただの屍肉漁り。 目の前の出来事は秩序を守り抜いた結果ではないのだと理解させられる。 「大田原さん? 意識が戻ったのですか?」 「乃木、平……」 小さい。貧弱だ。簡単にひねりつぶせそうだ。 だが、おぼろげながら思い出せる。自らの命を、使命を、この男に委ねたことを。 「長く、は、持たん」 「そうですか……」 『餓鬼』の異能による食人衝動の原理は実に単純だ。 異能者のウイルスが他正常感染者のウイルスを摂り込もうと目論み、保有者の肉体と理性に干渉する。 故にウイルスが食事をしている間だけは、その干渉が収まる。理性への干渉も収まる。 強靭な生命力を持ち、多くの正常感染者を食らった独眼熊からは、いまだウイルスは完全には死滅していなかった。 碓氷誠吾、小田巻真理、そして独眼熊が内包していた多数のウイルス。 短時間で多量に摂り込んだからこそ、大田原の理性も一時的に復活した。 『HE-028-C』がその食事を終えたとき、大田原の理性は再び失われるだろう。 精神力で飢餓を抑え込み、代償を踏み倒すというやり方も、もう通用しない。 大田原は日ノ本最強、しかし世界はそれ以上に広かった。 日本人代表は、ヒグマ代表に敗れ去った。 一匹の畜生として、挑戦者として山の王者に果敢に挑み、二度も無様に敗れ去ったのだ。 大田原は自衛隊最強だ。日本人最強だ。 しかし日本最強の称号は戻らない。日ノ本の祝福は戻らない。 自ら捨て去り、そして奪い取られたのだから。 大田原の持つ『最強』に、もう言霊は宿らない。 大田原が仮に生きて帰れたとして、最強の称号は言霊と共に次代へと引き継ぐことになるだろう。 印象的な灰色の瞳を閉じながら、天が思考する。 その内心を見通すことは大田原にはできない。 「状況を共有します。 黒木隊員の任務を引き継ぎ、達成。 これより私は司令部に通信を繋ぎ、その旨を伝えます。 研究所での死者たちを報告する必要もある」 「……」 「また、正常感染者が数人、脱出口より離脱したことを確認。 今の大田原さんの身体では通れませんので、エレベーターを利用して上階に上がって待機を。 私は一度、脱出口を経由し、感染者たちの動向を確認します」 「待機……」 「ええ。私が新たな指示を下すまで。あるいは19時12分……本日の日没まで」 方針に異議を唱える気はないが、次に合流するまでに、取り戻した理性は再び消えてしまうだろう。 そんなことをしているうちに、正常感染者を逃がしてしまうのではないか。 そんな釈然としない大田原の内心を読んだのか。 天が話を続ける。 「正常感染者である研究所員、スヴィア・リーデンベルグに、ウイルスの調査を依頼しました。 彼女が周辺に留まっていた場合、その調査結果を回収します」 隠すつもりなどなく、初めから話すつもりだったのだろう。 天の言葉は実にすらすらと紡がれる。 だが紡ぎ終えた直後、大田原から圧倒的な重圧が放たれる。 「任務……! 女王、殲滅!!」 理性をわずかに取り戻しているとはいえ、今の大田原は怪物に等しい。 不興を買い、力を向けられれば命はない。 そして、大田原は拳を握りしめ、振り下ろす。 轟音と共にタイルを砕く圧倒的な暴力を見せつける。 砕いたのは足元だ。そこに天はいない。 抑えきれない激情の発散。 当てる意思を持たないまま放った一撃だが、凄まじい殺気と、暴力の発露であることに変わりはない。 常人が向けられれば泡を吹いて倒れるであろうそれらを、天は全身で受け止めきる。 天の本能は警笛を鳴らし、身の毛がよだつ。 防護服の下では皮膚が縮み上がり、心臓が鼓動を暴れるようにビートを打つ。 だが。 それらをすべて内に収め、天は平時の調子を一切崩さなかった。 「我々に与えられた最優先任務。 それは女王感染者の対処であり、山折村を取り巻くパンデミックの解決です。 ここは間違えない」 「だが! 小田巻、匿った」 おぼろげな記憶だが、大田原はあのときの状況を思い出せる。 言い分次第では、袂を正さねばならない。 「彼女が女王ではないことを期待したことは認めましょう。 ただし、手を組むに至った決定的な動機は、目の前の課題解決のため。 はっきりとした意志を以て彼女からの協力を受け入れ、そして私は彼女を切り捨てた」 天はそう宣言するが、大田原はやはり覚えている。 真理を切り捨てたとき、その目に悔恨の色を浮かべていたことを覚えている。 「兵士として、半端。戦場で、死ぬだけ」 「……そうですね、私は兵としては皆に劣る。 貴方から見れば、欠点だらけの落第兵だ」 大田原からの、兵士としての評価を否定はしない。 この戦場を今まで生きのびてきたのはひとえに運がよかったから、というだけだ。 兵士として、天は真理にも劣る正真正銘の最弱である。 「ですが、私は兵であって、兵ではない。 将として、隊長たちに次ぐ現場の責任者として、この作戦に送り込まれた。 負うべき責務をすべて背負い、此度の危機の解決に尽力するのが役割だ」 「…………」 今、大田原が天に覚悟を問うている。天に本気で殺気をぶつけてきている。 天が内心、肝を縮み上がらせていることなど分かっている。 だが、それでも取り乱す様子はおくびにも見せず、大田原に真っ向から向かい合っている。 正常感染者と組むことは、大田原の考える秩序にもとる行為である。 だが、天には、自分の領分とは異なる結果を期待していたはずだ。 「貴方は私の知る限り、最強の兵士だ。 兵士に求めるすべてを兼ね備えた鬼駒だ。 ただし、私がこれからおこなう行為に、貴方は適さない」 大田原の理性が一時的にでも復活したことは僥倖だ。 その僥倖を以て、作戦を変更しないことを選択した。 駒に使われる段階は卒業したのだと言い切った。 「あなたの命の使い所は、私が決める。 大田原一等陸曹。これはお願いではない。命令です」 兵士は役割を言われた通りに忠実に果たす駒。 だが、それは自身の役割ではないのだと。 それら駒の指し手こそが自分の役目だと。 「貴方は指示があるまで上で待機だ。 その力は振るうべき時に振るっていただく」 キャリアも強さも大田原に圧倒的に劣る天が、生意気にも正面から啖呵を切った。 ひとたび大田原が腕を振るえば、天の肉体は弾け飛ぶ。 それくらい隔絶した差があり、ヒトとしての本能からは警告が鳴りっぱなしだ。 それを、天は理性で抑え、言葉を最後まで紡ぎ切った。 誰が言ったのだったか。司令部の解釈から外れようが、自分の信条を捻じ曲げようが、構わない。 最後に秩序が守られていればそれでいい、と。 大田原はそんな器用な携わり方はできなかった。故にひたすら実直に司令部に従った。 それはそれで一つの道を極めたということではあるのだが。 「……乃木平、曹長に、従う」 乃木平天は自分とはまったく別の道を進む。 大田原源一郎は、心の底から理解した。 診療所、北側の駐車場。 独眼熊のウイルスを摂り込みつくした大田原のウイルスが、再び理性が蝕んでいく。 混濁した意識が最期に見せた夢であったかのように、自我が再び消えいくのが分かる。 だが恐怖はない。自我が消えても、駒として忠実に役目を果たすだけだ。 大田原は瞑想に入り、思考を闇に委ねた。 【E-1/地下研究所緊急脱出口/一日目・夕方】 【乃木平 天】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(大) [道具]:拳銃(H K SFP9)、サバイバルナイフ、ポケットピストル(種類不明)、着火機具、研究所IDパス(L3)、謎のカードキー、村民名簿入り白ロム、ほかにもあるかも?、大田原の爆破スイッチ、ハヤブサⅢの通信機(不通) [方針] 基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。 1.通信機の奪取を司令部に連絡する 2.スヴィアを追い、研究の成果を確認する。 3.スヴィアに放送をおこなわせ、隠れている正常感染者をあぶり出す。 4.大田原を従えて任務を遂行する 5.犠牲者たちの名は忘れない。 [備考] ※ゾンビが強い音に反応することを認識しています。 ※診療所や各商店、浅野雑貨店から何か持ち出したかもしれません。 ※ポケットピストルの種類は後続の書き手にお任せします ※村民名簿には午前までの生死と、カメラ経由で判断可能な異能が記載されています。 【E-1/診療所裏駐車場/一日目・夕方】 【大田原 源一郎】 [状態]:ウイルス感染・異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』、意識混濁、脳にダメージ(特大)、食人衝動(中)、脊髄損傷(再生中)、理性減退 [道具]:防護服(内側から破損)、装着型C-4爆弾、サバイバルナイフ [方針] 基本.正常感染者の処理… 1.理性がある限り、待機する 2.上官に従う 119.『厄災・隠山祈』 投下順で読む 120.墓標を背に、今一度運命の決断を 時系列順で読む 対特殊部隊決死作戦「CODE:Horus」 乃木平 天 墓標を背に、今一度運命の決断を 大田原 源一郎 女王覚醒
https://w.atwiki.jp/tock_t9710/pages/259.html
機動戦士ガソダムシリーズ 機動戦士ガソダムシリーズはは、2009年4月1日18時30分から名古屋テレビ限定で放送されたテレビアニメである。 4月1日から12月23日(全39話)の予定である。監督はマンコナメタイ(前富野由悠季)。 Template ネタバレ 物語 西暦2010年4月1日ついに地球の完全な油田可採埋蔵量が、調査によって解った。楽観視されていた油田可採埋蔵量だが、実は今のペースで消費すればたった3年しか持たないのであった。 各国は国連を脱退したため、機能停止。各国は各々他国との外交や軍の編成を始めた。緊張は極限状態へと高まった。4月8日正道国家連合(通称正国連合)がイスラエル以外の中東各国に最終通告を行いそれを臨時中東アジア国家共同体が受け入れなかった為、正国連合が宣戦布告した。さらに、次いでは人道的理由により反先進国連盟が両者に介入した。 泥沼化する世界情勢。そんな中つい最近まで平和に暮らしていた青年、小森和房の元へ一通の手紙が届いた。内容は追加徴兵の通告。自衛隊のみでは足りなくなった兵力を徴兵により賄う事が出来なくなった日本政府が下した判断はこれだった。TVの中でのことでしか思えなかった事態が、この手紙によって急速に現実感を増す。一ヶ月の訓練の後前線へと配備された和房。そこで見たものは人型有人兵器ガソダムだった。世界はいったいこの青年をどこへ向かわせるのか。 作品解説 中国のSUNRISE(スンリセ)株式会社が企画・制作した作品で、当初中国の技術力の高さを他国へ見せつけるために作る予定だった。しかし、アニメを作成させてくれなくて鬱憤が臨界点に達してた富野氏がスンリセから出された予算以外にポケットマネーを出し人を集めた為、ハイクオリティな作品になり名古屋テレビがそれに目をつけスンリセに対し高額な資金を提示し取り引きしたため権利は譲渡され名古屋テレビのものとなり東海地域限定の放送が決まった。 スッタフ 企画:スンリセ 原案:中華人民共和国政府 原作・総監督:富野由悠季 作画:宮崎駿、山賀博之、摩砂雪、貞本義行、鶴巻和哉、大友克洋、新海誠、押井守、前田真宏、高橋良輔以下略 キャラクターデザイン:安彦良和 メカニカルデザイン:庵野秀明、宮武一貴、大河原邦男、藤田一己、カトキハジメ 美術監督:東潤一、篠原睦雄、新海誠 音楽:三枝成章、麻枝准、明田川仁、飯塚康一、井澤基、岩浪美和、浦上靖夫、蝦名恭範、大熊昭、鍛冶谷功、加藤敏、亀山俊樹、菊田浩巳、小林克良 メカニカル作画監督:庵野秀明 撮影監督:斎藤秋男 音響監督:藤野貞義、明田川進、飯田里樹、 音響制作:千田啓子 プロデューサー森山滋(名古屋テレビ) タイトル:牧正宏、安倉光弘 設定ベース:永瀬唯 デザイン協力:伸童舎 オープニング、エンディングアニメ:梅津泰臣、寺沢伸介、北爪宏幸 制作:スンリセ 制作協力:京都アニメーション、J.C.STAFF、白組、ガイナックス、シャフト、XEBEC、スタジオジブリ、セブンアークスその他12社 登場人物 正道国家連合 小森和房 本作の主人公。日本人、男、25歳、階級は二等陸士→一等陸曹→准陸尉→二等陸尉。ヘタレでロリでオタ。以前はニートだったが入隊によりニートではなくなる。 物語序盤はRPG突撃小隊の一人だったが敵MSを鹵獲することに成功したため特例で一曹へ昇格。その後、シンダント会戦でMS9機戦車・装甲車・自走砲システム・対空ミサイルなど80機をのスコアをたたき出した為、さらに准尉昇格。しかし、物語中盤、行軍中に捕虜の幼女が連れていかれる写真を眺めていたため、敵のMSにきづかず襲撃にあい戦死した。 また、カタパルトから発進する際は「萌ちゃん萌え萌え」と言う。 眠くなってきたので(ry エイプリルフール この記事は、エイプリルフール4月1日に立てられました。この記事の中身は出たら目で嘘八百です。ガソダムは楽しむためものです。 /div JR北海道キヤ143系気動車 Template 鉄道車両 キヤ143系気動車(キヤ143けいきどうしゃ)は、北海道旅客鉄道(JR北海道)の事業用気動車である。 2009年5月に3両編成1本3両がJR北海道苗穂工場で落成し、札幌運転所に配置されている。愛称はドクター北海道。 概要 Template 現在進行 JR北海道では、線路検測用車両としてマヤ34形客車(軌道検測用)を使用してきた。しかし、電気検側用車両を保有しておらず、電気検測を行う場合、JR東日本よりキヤ191系を借り受けて検測していた。しかし、これらの車両同士はお互いを併結しての運転は不可能で、検測列車のダイヤ設定は別々に行う必要があった。また、車両の性能により、千歳線などの高速過密線区での検測が厳しい状況におかれていた。これらの問題を解消するため、電気系統と軌道系統それぞれを別々の編成で測定していた検測項目を1編成で測定できる総合試験車を、電化・非電化区間を問わず走行できる気動車方式で製造することとなった。JR北海道全路線で運用され、青函トンネル内は機関車牽引により走行と検測を行う。キハ183系気動車の制御回路、ブレーキとキハ201系気動車の駆動系を元に設計され、付随車を2両組み込んだ場合でもキハ183系500番台(N183)と同等の走行性能を確保しつつ、従来の気動車と併結しての回送などを考慮している。 先頭車であるキヤ143形2両(1、101)は新製、中間車であるキサヤ144形1両(901)は暫定でマヤ34形客車の改造により製造された。今後、軌道検測用と建築限界検測用の2両の付随車が製作される予定である、 車体 キヤ143形の構体・台枠には軽量ステンレス鋼を使用し、先頭部は一般構造用圧延鋼材の溶接組立で構成されている。JR北海道の工場では、ステンレス構体が製造できないため、川崎重工業へ発注の上、購入している。艤装は、苗穂工場で行われた。 外装は車体外板面はメンテナンス性を考慮しステンレス構体の無塗装仕上げであり、側面窓下に検測車のイメージ色であるイエローとJR北海道のコーポレートカラーである萌黄色のカラーフィルムを貼ってある。鋼製の前頭構体部分は塗装仕上げであるが、外装全体の一体感を持たせるべく地色はシルバー、前頭部は側面ラインと同色としている。 キサヤ144形は、車体に大きな改造は加えられてないが、塗装が変更され、キヤ143形と同様の塗装となった。 走行機器 キハ201系気動車のシステムとほぼ同一であるが、走行用機関は、新潟原動機製のDMF13HZBを基にした、N-DMF13HZK(520PS/2000rpm)としている。ブレーキ系統は、キハ183形4550番台と同様のBC圧切り替え機能付きCLE電磁自動空気ブレーキで、機関ブレーキ、排気ブレーキが併用される。これらにより、183系気動車全車との併結が出来る。また、一般形気動車との併結も可能である。 制御回路 在来形気動車との併結を考慮し、キハ183系気動車のシステムをそのまま流用している。他形式車と連結する運転台側の連結面には、キハ183系併結用のKE93形、KE8形ジャンパ連結器、一般形気動車併結用のKE53形×2、KE66形、KE67形ジャンパ連結器、機関車からの電磁ブレーキ制御用のKE72形片栓ジャンパ線が装備されている。 変速段と直結段の切り替えは自動であるが、運転台には変直切り替えハンドルが装備され、他車への変直切り替え指令が可能となっている。 形式各説 キヤ144-1 函館本線函館向きの先頭車。架線測定など電気関係を担当しており、中間車との連結面寄りに検測用パンタグラフが搭載されている。 Template 節stub キサヤ144-901 駆動用エンジンを搭載しない付随車であり、編成の中間に組み込まれ軌道検測を担当する。マヤ34形(2008)からの改造である。検測機器はマヤ34形のものをそのまま使用しているが、ディーゼル発電機は撤去され、連結器も密着自動連結器に交換されている。元となった車両には、従来から気動車用の引き通しが設けられていたが、これらを撤去の上、183系気動車に準じた引き通し回路が新設された。 Template 節stub キヤ143-101 函館本線旭川向きの先頭車で、信号・列車無線などの通信関係を担当する。車内の測定機器や冷房装置などに電力を供給するディーゼル発電機が設置されている。海峡線のATC関連の検測も可能である。 Template 節stub 運用区間 JR北海道内の全線区 JR東日本(津軽線のみ) 今後 Template 現在進行 落成後各地で検測機器の調整や乗務員訓練を行い、2009年秋から本格使用を開始する予定である。 新製される中間車の落成時期は未定となっている。 関連項目 JR北海道キハ201系気動車 国鉄キハ183系気動車 国鉄キヤ191系気動車 国鉄マヤ34形客車 エイプリルフールこの記事は、4月1日に立てられました。この記事の中身は出鱈目で嘘八百です。ジョークは楽しむためものです。 スーパースカイライナー スーパースカイライナーとは、「新成田超高速鉄道」が羽田空港駅~成田空港駅間を「新成田新幹線」で運行するリニア超快特。 運行概況 森田健作の千葉県知事当選を記念して2009年4月1日に発足した「新成田超高速鉄道」が羽田空港と成田空港の間を結ぶ新成田新幹線で運行するリニア超快特である。「リニア2100系電車」が新成田新幹線に投入され、羽田空港駅から成田空港駅までノンストップ20分で結ぶ超快特が30分毎の24時間運行で上下48本、途中の京成津田沼駅に停車する快特「ニュースカイライナー」が30分毎の24時間運行で上下48本、合計96本運転されている。 なお、「ニュースカイライナー」は、都心方面および成田山新勝寺の連絡を考慮して京成津田沼駅に停車するものである。 新成田超高速鉄道について 森田健作の千葉県知事当選を記念して、彼のリニア新幹線公約を実現すべく、京成電鉄と京浜急行電鉄が共同出資した「新成田新幹線」を運行する会社である。 関連項目 京成電鉄 京浜急行電鉄 成田高速鉄道 成田新幹線 森田健作 早瀬久美 エイプリルフールこの記事は、4月1日に立てられました。この記事の中身は出たら目で嘘八百です。ジョークは楽しむためものです。えーとかいわない。 東京証券取引所全部 東京証券取引所全部(とうきょうしょうけんとりひきじょぜんぶ)は、東京証券取引所における上場区分の一つ、および市場である。略称は「東証全部」。 概要 株式を一部だけ公開すればよい第一部市場の中途半端さを改め、株式の全公開を義務づける市場として開設された市場である。その市場に上場した企業は「東証全部上場企業」として名声を上げる。 上場基準 株主数:1人 流通株式比率:100% 流通株式時価総額:100億円以上 その他は第一部の上場基準に則る。 評価 労働者や一般人からの評価は格段に大きく、東証全部上場の企業は超一流企業として、消費者からはとても信頼できる企業として、求職者(主に就職活動中の学生)からは憧れの企業として注目される。 しかし、経営者からは、上場基準の通り、株式を全て手放さなければならず、その株式を全て一人に託すことになる。つまり、その株主一人に会社を乗っ取られることになるので、あまり全部上場に好意的ではない。仮に好意的だとしても、既に株式が流通している場合に、そのすべてを回収(買い上げ)しなければならず、コストや手間の面から全部上場をためらうことが多い。 企業への採用試験(主に一部上場企業)の面接で、全部上場の予定を聞くと、悪い印象を与えて落とされることが多い。それは以上のような理由から、全部上場の予定を聞くことは企業を全部売り渡す予定を聞くことに等しいためである。なので、上場の予定を聞くときは決して全部上場への予定を聞いてはならない。当然、入社したら全部上場するという目標を掲げると、企業を全部売り渡すことを目標としている、すなわち売社奴として、悪い印象を与えることになるので、こちらも言うべきではない。 上場企業 上場基準の厳しさや、上記のとおり全部上場を好ましく思わない経営者の存在から、上場している企業は少ない。また、上場したとしても継続しての上場はせず、1ヶ月もたたないうちに上場廃止(上場区分切替え)になるケースが多い。 関連項目 東証二部 第一部と全部の中間的な上場区分で、一部余分に上場することを義務づけている。第一部より上位ではあるが、評価はあまり良くない。 東証一部 経営者も含めて全体的に一番評価が高く、事実上最上位の上場区分とされている。 東証マザーズ 株式を経営者の母親にすべて託すことを義務づけている。母親が他界すると自動的に上場廃止となる。 Template Template 証券取引所 Template DEFAULTSORT とうしょうぜんぶじょうじょう Template Template エイプリルフール えぞしか (列車) Template UKrail-header2 Template BS-daten Template BS-table Template BS-startCollapsible Template BS Template BS Template BS Template BS-endCollapsible Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS Template BS |} 200px|thumb|ヘッドマークのイメージ えぞしかとは、北海道旅客鉄道(JR北海道)が札幌駅 - 釧路駅間を函館本線・千歳線・石勝線・根室本線経由で運行する、臨時夜行急行列車である。 列車愛称は、道東方面で数多く見られる動物である、エゾシカに由来する。 概説 札幌と釧路を結ぶ夜行列車まりもが廃止され、道内完結の夜行列車はすべて姿を消しており、札幌と釧路を結ぶ夜行輸送機関は高速バス(スターライト釧路号)のみとなっていた。 しかし、2008年9月1日の廃止以降、夜行列車の利用客からの反対の声が多く寄せられ、2009年4月1日より、臨時運行という形で運行することとした。 ヘッドマークは本日の出発式で公開するとしており、現段階では発表されていない。 北海道らしい名称の列車であり、シカは北海道にとって象徴的な存在であるとして、道内有名温泉地の温泉協会から、最寄駅まで運転してほしいとの声も上がっている。そのため、登別温泉(登別駅)や層雲峡温泉(上川駅)、洞爺湖温泉(洞爺駅)や川湯温泉(川湯温泉駅)までの臨時列車として、期間限定で運転することも計画中である。 従来のような特急列車ではなく急行列車とすることで、従来より運賃を割安にすることができ、えぞしか往復割引きっぷという割引きっぷの設定も行うことで利用客の増加を狙っているが、当面は臨時列車として運行し、採算がとれると判断すれば、定期列車への昇格も検討中とのことである。 なお、列車愛称は、動物との衝突事故の大半を占めるシカへのJR北海道の恨みが込められている。 沿革 Template Main2 まりもが廃止されたことにより、北海道内で完結する夜行列車はすべて姿を消した。道内夜行特急列車の運転終了について(PDF) JR北海道プレスリリース(2008年4月18日)それにより、鉄道ファンのみならず、ビジネスマンらからも不満がJR北海道に殺到した。また、釧路行きの最終列車(スーパーおおぞら)は札幌発19 57、札幌行きの最終列車は釧路発19 07と最終列車の時刻も早く、夜行列車の復活を望む声が高まっていた。 JR北海道はそれを受け、臨時列車として復活させることを検討。その結果、新たに列車名をつけ、臨時列車として試験的に運行することを正式決定した。 運用 車内設備 洋式トイレ:2・3・5号車(3号車のトイレは車いす対応) 車掌室:3号車 公衆電話:3号車 自販機:4号車 使用車両 基本的にはキハ183系気動車が充当される。ただし、不定期にキハ183系気動車以外の車両が充当されることもあるとのこと。鉄道ファンが多数乗車するであろうことを想定し、ホームに行くまではどの車両で運転されるか分からないという面白みを加えており、趣向を凝らしたものとなっている。なお、車両が変更された際には、車内設備は上記の通りとは限らない。 ただし、夜行列車という都合上、使用される寝台車は14系客車であること、基本は5両編成であることが既に発表されている。 座席車 普通車自由席:2両 普通車指定席:2両 寝台車 14系客車 開放B寝台車1両 停車駅 札幌駅 - 新札幌駅 - 南千歳駅 - 追分駅 - 新得駅 - 帯広駅 - 池田駅 - 浦幌駅 - 音別駅 - 白糠駅 - 釧路駅 新得駅 は、事前予約(前日まで)のあるときのみ客扱いを行い、予約のない時は運転停車のみとなる。そのため、時刻表には注意書きが書かれている。 担当車掌区 上下とも釧路運輸車両所が担当。 その他 夜行列車としては珍しく、車内販売を行っているほか、乗車の3日前までに予約があれば食堂車を連結し、朝食としてエゾシカ料理がふるまわれる。 脚注 Template 脚注ヘルプ Template reflist エイプリルフールこの記事は、4月1日に立てられました。この記事の中身は出鱈目で嘘八百です。ジョークは楽しむためものです。 賀来うの エイプリルフール この記事は、4月1日に立てられました。この記事の中身は出たら目で嘘八百です。この記事およびその内容はフィクションであり、実在する人物・事件・団体等とは関係ありません。 Template 漫画 賀来 うの (かく うの、 1976年11月11日 - )は、日本の 女性漫画家。 大阪市浪速区 出身、 慶應義塾大学中退 。身長 149cm 、血液型 A 型。 独身 。 1996年「 マングースに恋した少年 」でデビュー。 代表作に『 ハブVSマングース~飛車角落ち編~ 』『 ネコ×イタチ 』など。 「 マングース系漫画家 」の草分け的存在として知られる。 エイプリルフール この記事は、4月1日に立てられました。この記事の中身は出たら目で嘘八百です。この記事およびその内容はフィクションであり、実在する人物・事件・団体等とは関係ありません。 略歴 印刷業を営む家庭に育った ため 作家という職業に憧れていた が、 電話中に描いた落書き が偶然編集の目に留まり、絵画での才能も発揮、漫画家を目指すことになる。 また、若葉賞の授賞式で漫画家を志望した理由を聞かれ「一つ大きいのを当てれば お金には困らない ん じゃないかと思って。それこそ漫画やゲームのような 出逢いにも憧れてた し。」ともコメントしている。 どんなときに漫画のアイディアが浮かぶか?という問いに対しては 「ウォッシュレットを使っているとピンと来ることがある」 としている。 作風 サブリミナル効果による全人類の潜在的原罪的苦痛からの解放 をテーマとした SFファンタジーを得意とする。登場人物がマングースであるにも関わらず、 その シリアス な画風で描かれる 巧みな心理戦 には定評があり、一部で熱狂的なファンを獲得した。 一方で作品中に糞尿の描写が多いことについては、 「シリアスすぎて自分自身息が詰まっちゃうから(笑)いわば息抜きですね」と語る。 初代担当編集者の えばら渋子 は彼女の作風について、 「最初は ビックリするほどマングース ばっかり出てきて、意味がわからなかった。 でも マングースを描かせたらおそらく日本一 。自分までマングースになったようで、 蛇にかまれた気分です 。」と評している。 人物 動物愛護団体への寄付も行っている。その縁で 佐々木茂男 氏との親交が深い。 インターネット掲示板 2ちゃんねるをしばしば覗いている 。 自身に関連するスレッド(話題)は「評価が怖いので見ない」とのこと。 森鴎外作品を愛読 しており、作品中にもしばしばその影響が垣間見える。 3サイズは 95・63・82 とかなりグラマーな体型を誇る。 高校時代は セパタクロー部 に所属していた。ポジションは アタッカー で、 本人曰く 本当はバスケがやりたかった が、高校に女子バスケ部が無かったため始めたという。 友人とともに入部したもののその友人はすぐに辞めてしまい、自身も辞めようかと思ったが、 すでにレギュラー入りしていたために悩んだ末に結局3年間続け、 3年生のときは 主将を務めた 。 大阪府大会4回戦 まで進んだのが最高実績。 若葉賞の賞金は 家賃の足しにした 。 仕事中に ガンマレイ 、 レッド・ツェッペリン 、 ハワイアン6 などを聴くことが多いという。 アーティスト以外に、 ファイナルファンタジーシリーズのサウンドトラック を流すこともある。 自身の作品以外で好きな漫画として、『 [ひだまりスケッチ]] 』『漂流教室 』『 ローゼンメイデン』 『 まじめにフェアリーテイル 』『 ハンター×ハンター 』『 カメレオンジェイル』などを挙げる。 空き時間に ネットゲームを好んでプレイ する。好きな作品は『 リネージュⅡ 』。 ハブ酒を好む 。マングースへの傾倒からかという問いには 「よく言われるんですけど、関係ないですよ(笑)」と公式ブログで回答している。 年譜 1996年 「マングースに恋した少年」が なかよし に掲載され、プロデビュー。 1997年 「 基礎からわかる 英文法 」で 若葉賞 受賞。 1999年 『ハブVSマングース~飛車角落ち編~』を 月刊アニマル にて連載開始( 2001年から休載中 )。 2001 年 『ネコ×イタチ』を 月刊アフタヌーン にて連載開始( 2008年1月号をもって打ち切り )。 2008年 11月に マーガレット 誌上で最新作、「 イタズラなマングース 」の連載を発表。 マングースについて 現在では「マングース系漫画家」というジャンルを確立したとされるほど、 ことあるごとにマングースに触れているが、そもそも彼女のマングースへの傾倒は 幼稚園 に通っていた幼少期に行った沖縄に起因するもので、 「 沖縄に旅行 へ行き、たまたま見たハブ対マングースのショウで見たマングースがものすごく可愛かったため 夢にマングースが出てきて 興味を持つようになった。ある日マングースがハブに丸呑みされる夢を見て、 寝付けなくなって翌日の 英語のテストで10点中1点をとった ことがあり、自分がマングースに 並々ならぬ思い入れがあるんだなとわかりました。 マングースになら処女を捧げてもいい です(笑)」という。 現在も「 将棋ゴリラ 」と名付けられた佐々木茂男氏のペットのゴリラに対抗できる生物を探していた時 出会った 1匹の野生のメスマングース を「キスク(通称:キーちゃん、由来はマイケル・キスク)」と名付けて飼育している。 関連項目 マングース ハブ マイケル・キスク 羽生善治 セパタクロー 出鱈目 この記事の中身は嘘っぱちでデタラメです。ジョークは楽しむためものです。本気にしないでください。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2033.html
■ その瞬間、トーレの脳裏を埋め尽くしたのは恐怖だった。 体表面センサの弾き出した値から逆算される、男が放った砲撃の温度、威力―――推定温度にして摂氏数万度。 直径百ミリに満たないその光条が人体に直撃すれば、余波で半径三十センチ余りの風穴が開く。 それは半人半機であるトーレとて例外ではない。否、より的確に表現するなら、耐熱金属さえ瞬時に気化させる超高熱の前に、その程度は些細な差ですらない。 姿勢は崩れ、新たな回避軌道への移行にコンマ四秒。機械の知覚を凌駕するあの弾速に対して絶望的なまでに―――コンマ二秒ほど遅い。 ―――何か、一手。一手あれば、辛うじて逃れられるものを……! ほんの十分の一秒でいい。砲撃を遅らせることができれば。 臨死の思考圧縮が、マイクロ秒単位の思索を呼び起こす。 クアットロに、幻術による援護を要請する―――不可。幻像の構成速度は距離に比例して遅延する。この距離では一秒を超えるラグ。 こちらから攻撃を仕掛け、狙いを逸らす―――この距離だ。四肢のみを武器とする自分には不可能。 命中させる必要はないが、届く武器そのものが存在しないのではどうにもならない。 ……届く、武器? 否、それすらも間違いだ。武器である必要などない。ほんの一瞬、集中を妨害できればそれでいい。 ―――そうか! 右肩部と右腕部のフレーム、その連結を解除する。 痛覚遮蔽はしない。いや、できない。通常巡航ならともかく、戦闘機動では僅かな感覚の狂いが生死を分ける。 全ての感覚を、完全に維持したまま―――右腕の加速機構を超過駆動させ、 「ぐ……があああぁぁぁっっ!」 右腕を、肩口から引き千切りつつ音速超過で射出する―――! トーレの視界、その人間部分が真紅に染まるほどの激痛。血―――を模した潤滑油が噴出することはない。循環系は閉鎖している。 脳髄を削るが如き苦痛と腕一本。だが、それだけの代償を支払った価値はあった。 アレックス―――キースシルバー/完全な戦闘型ARMSの知覚能力と反応速度は、極度の集中も相俟って、その一撃を完全に捕捉していた。 一瞬にして照準を修正、大気摩擦で赤熱しつつ迫る砲弾は、砲撃の前に一瞬で蒸発―――それこそが、トーレの狙いだ。 硬直する脚を必死に動かし、軌道上から退避。照準の修正によって辛うじて回避可能。 嫌な軋みを上げる躯は、それでも最高速度を維持。急速に戦場を離脱した。 ■ 「……奴には敵わない、か。予想通りとはいえ悔しいね。退却とチンクの回収は?」 「セインが往復輸送しています。ルーテシアに協力させると情報が漏れる危険性があるので。 『チェシャキャット・エミュレータ』を使用させたました。早ければもう帰還するかと。ですが、あれは―――」 「ああ、間違いなく『ネフィリム』、それも私が直に開発した個体だ……やれやれ。シューティングアーツのデータ収集が目的だったのに、予想外の大当たりが出たものだね。 エグリゴリと人間の間に生まれた巨人の名を持つ、戦闘機人の雛形にして完成形のひとつ……何処から流出、いや、何故生存している? こればかりは予想外だ。よりによって、アレの居る部隊の人間が……いや、だからこそ、か? アドバンスト適合者の生体情報から補整して、崩壊時期を先延ばしにしたのか? だとすれば―――むしろ、実験方針の正しさが証明された?」 「紛失した三十二体の『ネフィリム』の内、後に死亡を確認されず、ドクターの手が入っているものは六体、存在します。 管理局に捕獲された個体の追跡調査を怠った、私の責任です。申し訳ありません」 「いや、いいよ。なら―――ん?」 「……秘匿回線に、通信?」 『――――――貴方たちに、依頼があります』 ■ 「……チッ」 舌打ちひとつ。またしても逃した。かつてない―――いや、『死んだ』時以来二度目の失態。 実戦を離れて勘が鈍ったか。眼前の表示/高度計を確認し、床を蹴って宙へと飛び出す。 両腕を大きく広げ、空気抵抗によって速度/姿勢制御。 「前線に出る。俺の行動は―――」 『障害を片っ端から排除するだけでええよ。手始めに、グリーン陸曹が戦ってたアレから頼むわ』 「……奴は、殺さなければ止められないが?」 腕を列車に叩き込んで速度を殺し、着地。思考する。 この組織の法体制は聞いた。 殺人/傷害を異様なまでに嫌悪し、ゴムスタン弾の使用すら、否、火器の存在そのものを否定する。 だというのに/故に、魔導師を――― 『構わへん。大体、止めるんやったらさっき撃つ前に止めとる。 ……そや。同士討ちだけは避けてくれんと困るで。あと、できれば周囲の被害も』 「冗談を言うな、八神はやて。砲撃を使わず仕留められるほど、甘い相手ではない」 『撃ったら二次災害確定かいな……ならええよ。最悪でも結界で修復できるし、どうせ責任取るのはうちやない』 「……そうか。奴の武器については、可能な限り記録を取っておいてくれ」 通信を切断し、余計なウィンドウを全て消去。前方の敵―――キース・レッドに集中する。 両腕のARMSに加え、左手に短剣、右手に槍。四つの武器/漆黒と真紅。 「何故貴様がここにいる、レッド」 「それは私の台詞だ、シルバー。おまえが何故ここにいる。 エグリゴリとて、別の惑星に渡るような技術を持っているものか」 「……互いに、話す気は無いようだな」 左腕/砲撃を叩き込む―――躊躇い無く。ブリューナクの槍が噴き伸びる。 閃光/焦熱音。 影―――レッド、地を這うような低姿勢で突撃。 迎撃/疑問。荷電粒子は確かに直撃させた。だというのに無傷とは、 「喰らえ!」 「く……」 思考中断/腹を薙ぐ軌跡の短槍を受け流し、返す刀に放たれたグリフォンの刃を掴み止める。 「無駄だっ!」 レッド/超震動打撃。左手が分子の塵と吹き飛んだ。失策―――では、ない。 列車の屋根を蹴って踏み込み、跳躍/鳩尾狙いの膝蹴りが入る。 ARMSにダメージが入る攻撃ではない。目的は、回避のできない空中に移動させること。 「知っている―――消し飛べ、失敗作が」 「う、おっ!?」 右腕から放たれる光条―――荷電粒子ビーム『ブリューナクの槍』に、破壊できぬものなど存在しない。 そして、足場の無い空中では、避ける術もまた存在しない。 その、筈だった。 短剣を、さながら護符のように突き出す/硝子を切り裂くような、耳障りな音。 ただそれだけで、必殺の一撃が不可視の殻に逸らされる。 「なん……だと……!?」 「その過信がおまえの隙だ、シルバァァッ!」 着地から一瞬/神速の突き―――判断が遅れる/回避が遅れる/電子回路にも似た刃が左肩を抉る。 飛び退き、牽制の一射。辛うじて安全距離を取った。 「その武器が高強度の磁界で逸らしたか……だが、二度通じると思うな」 「一撃は……入ったぞ」 「それがどうした? この程度の傷、ARMSの移植者ならば……」 すぐにでも再生できる。そう言おうとした瞬間、違和感。 超震動によって砕かれた左腕は、再生が進んでいる。既に掌までは戻り、指を残すのみ。 だが、左肩の傷は、再生が極めて遅い。 これは――― 「再生できるとでも、思ったか?」 「……まさか、その槍は」 「そうだ。『ガ・ボウ』……癒せぬ傷を与える槍の名だ」 「『ARMS殺し』を、模倣した武器ということか……!」 危険/不利/戦力差―――その発生。遅々として進まない再生=蓄積されるダメージ。 電子回路のような刃/ARMS殺しと同様のプログラムを流し込む。 「便利な道具だな、キース・レッド。だが―――ひとつだけ欠点がある」 「……何だと?」 「名前がケルト神話とは、あのホワイトに匹敵する悪趣味だ」 「……ッ! いつまで強がっているつもりだ。キース・シルバー! そしてこれはオレの命名ではない!」 「やはり、バックが居るのか……ふん、当然だな。そんなものを貴様が一人で作れる筈がない」 「おまえは、おまえ達は、いつも、そうやって……!」 最低限の情報は引き出し―――策も出来た。 この男はプライドが高い。そこに付け入る隙がある。 ■ 「いつまでも見下していられると思うなァァッ!」 跳躍から、左の短刀を叩き下ろす。 シルバーが右腕を構える。光―――舐めるな! 「無駄だと言っている!」 赤い短剣の機能を発揮。電磁障壁で荷電粒子を逸らす。 視界は無いも同然だが、このまま槍を振り下ろせば関係ない。切り刻んでやる! 「それはこちらの台詞だ。レッド」 「何……!?」 身を捻り、左半身をこちらに向けている。当然の帰結として、左肩に刃が喰い込み、止まった。 咄嗟に蹴りつけて引き抜こうとするも、易々と避けられる。この隙は―――! 「……スターレンゲフォイルッ!」 死を覚悟したその瞬間、閃光と轟音が放たれた。 同時、身体に何かが侵入する感覚。 これは――― 『威勢良く飛び出しといて、なぁーにボロ負けしてんだよレッドぉー』 「アギトか!? 来るなと……」 『言われたのはルーと旦那だけだ。あたしは聞いてねえ。 それに、おまえが負けっぱなしなのが悪いんだ。有利になった途端に反撃されやがって。 知り合いが噛ませ犬になってるのなんざ見てられねえのは当然だろ』 「貴様、よくも言いたい放題―――何をする!」 あろうことか、身体を勝手に動かされた。槍から手を離し、高架下に飛び降りる。 止めようとするが、できない。 「コアに直結して制御を奪ったのか!? 槍を置き去りにするな解析されたらどうする! 身体を返せ!」 『はい分かりましたよ―――っと』 高架下に飛び降りつつ、振り返りざまに指先に固めた炎を弾き飛ばす。 肩に突き刺さったままの槍に着弾し、爆裂した。槍が粉砕され、平衡感覚が麻痺している奴が転倒。 『さて、このままルーかセインに送って貰って、研究所まで帰るぜ』 「何故だ。私は奴を超えられると証明せねばならんというのに……!」 『……別に、制御は返してもいいけどよ。そら』 身体に自由が戻る。高架の支柱を三角跳びの要領で蹴り飛ばし、上に戻ろうとすると、 『あ、ユニゾンは解かねえぞ。で、おまえが戦ってる最中に』 「邪魔してやるとでも言うのか? 丁度いいハンデだ。そんな脅しで俺は止まらん」 『そう言うと思った。だから、全力で援護してやる。それで倒せても、証明とやらにはならねーと思うぞ』 「な……」 『おまえな、少しはあたし達の気持ちってのも考えろ。兄妹みたいなもんだろ。死なせるかよ』 「……俺にとって、兄弟とは憎むべき相手なのだがな。そこまで言うなら退いてやらんでもない」 拍子抜けしたような、独特の倦怠感がある。 それに任せたまま、地から生えた足首を掴む手に目をやった。 ■ 『……こちらとしては、先に申し上げた条件に同意して頂けなければ、更に有用な情報等を提供する準備があります』 「相互に協力したい、ということですね? では、こちらの条件は―――失礼……ええ、六番の無菌ポッドに。とりあえず、安静にしておきなさい」 『部下の方ですか?』 モニターの向こう側に、女性の声。 特殊な隠蔽魔法によって詳細な目鼻立ちは判別できず、声も個性を消されている。 「ああ、そうだとも……そして、大事な娘でもある。 待たせた上に申し訳無いが、行っても良いかね? 君との交渉はウーノに一任しよう」 『お気遣いなく』 とん、と肩を叩いたドクターが、チンクの治療に赴くため部屋を出た。 チンクのことは、任せておいて大丈夫だろう。託された役割として、長い金髪の女性との交渉を続行する。 ■ スバルとエリオが召喚師を捕えに走り出したとき、ティアナもまた、別の方向へ移動していた。 攻撃の要である第二、第三分隊長を欠いた108部隊の援護に向かうためだ。 「こちら、機動六課スターズ分隊員、ティアナ・ランスター二等陸士です。援護に行きます。座標を」 『オ前か……第一分隊長のラッド・カルタス二等陸尉ダ』 通信回線からは、独特の訛りが聞こえてきた。 スバルの姉の上司―――ということで、ラッド・カルタスとティアナの間には面識があった。 研修の際に108部隊へ行ったことから、その個性も知っている。 彼の一族の出身地である第23観測指定世界には、惑星の公転、自転周期や大気組成、地質の関係から、砂漠を更に極端にしたような環境しか存在しない。 昼間の熱量兵器じみた日光は、生物から脆弱な肌を駆逐し、その異常な光量は、進化から視覚を持つという選択肢を消し去った。 対して摂氏零度を遥かに下回る夜間の気温や、特殊な大気が弱い光を侵入させないための、欠片の光さえないという事実も同様だ。 そんな世界で文明を成り立たせる『人類』は、多くに比して強靭で、異形だ。 ウィンドゥに映る相貌。 眼から頭にあたる部分は、銀色の竜革で作られたターバンを巻いている。 鷲鼻の下には犬歯を覗かせる口があり、全身を覆うのは肌とも鱗ともつかない暗青色だ。六本の指には鍛鉄並みの強度の鉤爪がある。 『敵は退いテいル。援護は要らン―――六課ノ落とさレた三人は、既に第二分隊が回収していル。 そチらの通信コードを貰ってイれば、伝達もできタのだガな』 「すいません……と、敵が退いた?」 『あア、間違いナい。残ってイるのは、上空と召喚士の傍にヒトりずツだケだ』 視覚を持たないということは、即ちそれに代わる手段を有するということだ。 『特殊な』人材ばかりが集まる108部隊の中でも、彼の探知能力は群を抜いている。 だからこそ、第一分隊がバックアップを一手に引き受け、第二第三が強襲に専念するという体制が成立していた。 「部隊長の方の通信コードを送ります。報告はそちらで。 ……何か、聞き取れた事はありませんか?」 『列車の上ノはグリーンの関係者らシいな……気をつけロ。この事件は何カおかシい』 「同意します……では、指示を」 そう、この状況は、最初からおかしいのだ。 ラッド・カルタスがあの程度の情報しか得られない―――敵は、会話を交わさない、あるいは何らかの手段によって傍聴を防いでいること。 ここに来て撤退を始めていること。諦めたと取れなくもないが、ガジェットを先に撤退させる意図が分からない。 そして何より、強襲能力に特化した108部隊が、護衛任務を担当していること。 やばそうだなあ退かせるべきかなあと考えるティアナの心中を読んだかのように、ラッドの指示が来た。 『総員、可及的速やカに退ケ。そちラのエース殿ガ無事なラ、仕留めラれたモのを……』 「了解です。シグナム副隊長と……アレックスさんには指示が出せないので、八神部隊長経由でお願いします」 『……正気カ? 了解しタ』 「さて、と。スバルにエリオ、聞こえる?」 ■ 「はいはい聞こえてる聞こえてるー!」 召喚士を護衛している一体以外、あらかた敵は退いたから撤退しろ。そういう話だった、気がする。 正直よく覚えていない。何故なら、 「このっ!」 「………」 その一体が、とんでもない化物だったからだ。撤退さえ許されない。 思考などしている暇はない。黒い影が独特の振動音を響かせ横に高速滑空し、空圧の鎚が避けられる。 射撃魔法では狙う事さえできない速度。エリオは初撃を防いだものの吹き飛ばされて、今は瓦礫に埋まって気絶している。 召喚士は、薄い紫の髪をした大人しそうな女の子だった―――出会い頭に無言でコレをけしかけてきたが。 瓦礫の山の上に静止した影は、さながら人型の虫だ。躊躇わずウイングロードで突っ込んだ。 振動音が一際高まったその瞬間、姿は残像と化して消え去り、胸元に衝撃が走る。 「……ガリュー、帰るよ」 女の子の声。 遠ざかる景色を見て、自分が吹き飛ばされたと気付いた。 ■ ヴァイス・グランセニックは悩んでいた。 ヘリのセンサを稼動させつつ、上空を周回していたのだが、 「ゼスト、か? 生きてたのかアイツ……の割には老け過ぎだよなあ」 旧知と思しき顔を発見してしまった。だが彼は死んだ筈で、親族はいなかった。一人として。 しかし武器は同じ槍で、技も変わらない。確かに、自分がスコープ越しに死を確認した男と同じだ。 「どうすっかねえ……と」 その瞬間、シグナムと対峙している男が構えを変えた。 槍を右手一本で持ち、左腕を肘から引く独特のフォーム。 「おいおい……マジにあの野郎なのか?」 ■ 「くそっ!」 レッドを仕留め損なった。 空中に突如出現した閃光/轟音―――さながらスタングレネード。 数秒間は全ての感覚を奪われる。気付けば転倒し、奪い取った筈の槍は原型を留めず焼き尽くされている。 「ロングアーチ、聞こえるか! 奴らは何処に逃げた!」 『分かりません。地面に着地した時点で、反応が途切れています……転移反応もありません!』 「……地下、か? 構わん。燻り出してやる……!」 飛び降りつつ、右腕/砲口を地に向ける。 共振は捉えられないが、奴の機動力ではそう遠くへは逃げられない。手始めに一発叩き込んで――― 『ちょ、ま、待って下さい! 今報告が来ました地下にもいません!』 「何? ならば、奴はどこに消えたのだ……?」 ■ シグナムは、急激に魔力を高めていく。男の防御は、槍の技によるもの以上に魔力操作技法が強い。 半端な攻撃では容易く凌がれる。使うのは最大威力の剣撃『紫電一閃』だ。限界まで剣身に魔力を集束する。 そして、 「レヴァンティン―――カートリッジロード!」 『Explosion.!』 カートリッジから弾き出された魔力の全てを推力に変換し、放つは炎を纏った神速の太刀―――! 同時、男が構えを変える。槍を片手持ちに変え、左はさながら掌を打ち込むように。 ……構うか! シグナムは勢いを殺さず、更に加速。剣先が水蒸気の尾を曳く。それほどの剣速だった。 ―――それが、致命的だった。 「な……!」 ゼストもまた一歩も退かず、槍を剣の切先に合わせて突き込んだのだ。 寸分のずれも無い鋼同士の衝突は、火花を散らし軋みを上げる。 そして、身を捻っての左掌打が、その拮抗を縫うように放たれる。回避不能、必中の一撃――― それを回避できたことこそ、シグナムの全力が生んだ奇蹟だった。 鋼の軋みが限界を超え、一瞬にして双の刃が砕け散る。勢い余ったシグナムは、そのまま横を通り過ぎた。 「くっ!」 双方とも、行動は極めて迅速だった。背は向けず、空中を急速逆進。 シグナムははやての指示、ゼストは自身の判断によって、戦場を離脱する。 ■ 「ドクター。チンクとトーレの様態は?」 「持ち直したとも。さすが私だ……そちらはどうなったね?」 「計画において障害になり得る人物、百名余りの情報を受け取りました。部隊戦力や特殊技能者についてが主で、108部隊のラッド・カルタスをはじめ、既知のものも多いですが」 「それは重畳だ……『依頼』とは?」 「『アインへリアル』とARMSに関する資料を要求されました」 「それは覆せなかったか……どちらの、だね?」 「誤魔化せませんでした。現状、稼動している方のアインへリアルです……宜しいのですか?」 「構わんさ。あれはどの道捨て駒だ……しかし、アインへリアルとARMSの情報を欲しがる……何者だ? その二つの存在を知っているというのは…… 海の人間か『騎士団』の一部……エグリゴリの残党という線もあるな。機械部分の高度なメンテナンスは、資料が無いと難しい」 「地上の諜報員だとすると、こちらの行動が読まれているということになりかねませんが」 「ARMSについては、存在さえ知らない筈だ。今は、まだ。アインへリアルも、メンテに必要な情報は渡してある。 ……ふむ、ではこうしようウーノ。既に地上に渡っている情報だけを提供して、様子を見る」 「了解しました、ドクター」 ■ 「あ、危なかった……あのまま撃たれてたら、一区画があらかた停電するところだった……」 「スターズ03、沈黙……敵、全反応が消失しました」 誰とは知れず、ふう、と息を吐いた。状況は集束し、しかし被害は甚大だ。 主要メンバーの殆どが行動不能に陥り、シグナムはデバイスを砕かれた。 ■ 「戦闘、終わったらしいわよ。負傷者も殆どいないって」 「……そうかい。そりゃあ良かった」 「……拗ねてるの?」 「そりゃあ、ね。スバルは?」 「負けて瓦礫の下。駄目駄目ねあの子……負けそうならすぐ退くように教えた筈なのに」 「僕がフォローに行ってれば……と」 士官用の病室のドアが、二度ノックされた。 インターフォンからは、ただ無愛想な声が響く。 『俺だ、グリーン。入るぞ……色々と聞きたいことがある』 ■ 医務室での検査は、予想よりも早く終わった。 閃光音響手榴弾のような魔法/アイゼンゲフォイルとやらに近いらしい―――の後遺症は一切見つからず、肩口の傷も易々と完治した。 所詮は模倣、ということか。しかし、戦闘中には再生の遅れが致命的なダメージを生むこともある。 対策を考えつつ廊下を歩み、目的の病室に到着。ドアを叩く。 「俺だ、グリーン。入るぞ……色々と聞きたいことがある」 『兄さんか……ギンガ、鍵を開けてくれ』 かちり、と金属音がしたのを確認し、ノブを回して扉を開いた。 中には士官と思しき長い青髪の女性と、 「グリーン……」 「久しぶりだね。シルバー兄さん」 ベッドから上半身だけを起こした、キース・グリーンがそこにいた。 「早速で悪いが、聞かせてくれ」 「何をだい?」 「全て、だ。おまえが何故ここにいるのか、あれから何をしていたのか……全てを、だ」 「……分かったよ。兄さん」 ■ 陸士108部隊 主にクラナガン近郊での、強力な武力を有する個人や組織に対する強襲・制圧を担当する部隊。 部隊番号の下一桁は主な任務の種類を。それ以外は担当区域を表している。 かつては陸士08部隊がそれを担当していたが、ある事件の後、部隊としての活動を完全に凍結されたため、108部隊が新設された。 短時間だが強力な白兵戦能力を発揮する第二、第三分隊が陽動を行い、夜間や暗・閉所戦闘と索敵に長ける第一分隊が制圧するという戦術を主とする。 しばしば高位魔導師との直接戦闘を強いられるため、給料は良いが危険が極めて大きい。また、前線部隊は常に人手不足。 故に、何らかの事情を抱えた人材が多く集まり、優秀な者だけが生き残った結果、各々が特化した技能への依存が大きい、特殊な形の少数精鋭となった。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/trinanoss/pages/32.html
ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL 第10話 翼を休める時 今はただ休息を――束の間であっても構わない。 六課の格納庫――。 尾翼にリボンのマークをつけたF-22が、疲れたように水平尾翼を垂れ下げていた。 本当はフライバイワイヤと呼ばれる電子制御で機体をコントロールするため電源を入れなければならないだけなのだが、激しい空戦機動 に晒されてわずか三日後と言うこともあって、パイロットを務めるメビウス1にはF-22が疲れているように見えた。 「通常の点検では異常は見当たりません…ですが、相当強いGをかけられたんですよね?時間があれば超音波を使った精密点検を実施した いところなんですが……」 機体の整備点検を実施してくれた若い整備員はチェックリストを片手に報告してくれた。 「そうか……そうだな、頼むよ。万が一異常があったら困るからな」 「了解しました。機材の準備があるので、それが出来たらお呼びしますね」 整備員は快く了承し、早速精密点検に必要な機材の準備を始めるべく、自分の持ち場に戻っていった。 ――さすがのお前もお疲れか? 整備員が立ち去った後、結構な付き合いになる愛機の無機質な肌をメビウス1は労わるように撫でた。 F-4EファントムやF-15Cイーグル、以前の愛機たちにも捨てがたい魅力はあったが、やはりF-22は格別だ。優れたステルス性に高度な探知 能力、ずば抜けた機動性とどれを取っても不満が見当たらない。 ――それでも、奴には勝てなかった。 脳裏に浮かぶのは主翼や尾翼の先端を黄色で彩り、灰色のロービジ迷彩で固めたSu-37の姿。 苦い記憶が蘇り、メビウス1は顔をしかめる。なのはの援護がなければこの身は愛機もろ共空に散っただろう。それは戦闘機乗りにとって 恥ずべき事態だ。 そもそも何故黄色の13は犯罪者のスカリエッティに協力しているのか。彼は友軍と言えど病院の屋上に高射砲陣地を築いた陸軍連中に 怒りを露にするような誇り高い人物だと聞いたのだが。 「……やめよう、気分が悪くなる」 苦味と疑問ばかりの思考を投げ捨てて、メビウス1は天を仰ぐ。 そういえば、今日は六課のメンバーの大半が休みだと聞いた。機材の準備を進める整備員たちに目をやると、まだまだ時間がかかりそうな 様子だった。 「少しブラついてくるか」 ほかに特別急ぐ仕事もない。立ち上がり、メビウス1は格納庫から出た。確かヴィータが医務室に入室―実質的に入院のようなものだ―― していたはず。まずはそこから行ってみることにした。 「いやぁー、派手にやられちまったよ」 あははは、と能天気な笑い声を上げて、入院着のヴィータがベッドの上にいた。頭には包帯を巻いて、顔には絆創膏。右腕は首から吊り下 げられている痛々しい姿で。 「頭部裂傷、右腕骨折、身体各部に切創と火傷――これだけ重傷負ってるのに、元気ねぇ」 呆れた声を上げながら、ヴィータを眺めるのは治療を担当したシャマル。まともな人間なら普通死んでいてもおかしくない重傷を負ったヴィ ータがこうして笑っていられるのは彼女の治療魔法の存在が大きい。事実、医務室に担ぎ込まれた時のヴィータは死体同然の虫の息だっ た。 「あはは……悪かったな、心配かけて」 笑うのをやめて、ヴィータは心底申し訳なさそうな表情を浮かべ、俯く。 負傷は間違いなく自分の責任だった。メビウス1は警告してくれたのに、不用意に前に出た結果―あの戦闘機からミサイル攻撃を受けた。 「ホント、心配したわよ……はやてちゃんとかわんわん泣いちゃって、大変だったんだから」 医務室に担ぎ込まれたヴィータを見て、はやては大泣きしながらシャマルに縋り付き、何とかして助けるよう懇願してきた。 それは指揮官としてはあるまじき姿なのかもしれないが、主として、家族としては正しい姿と言える。 「あぁ、悪いことした……」 ますます申し訳なさそうな表情で、ヴィータは自身の主の顔を思い浮かべる。 歩けるようになったら真っ先に会いに行かなければなるまい。 そんなことを考えていると、医務室のドアが開かれてリボンのマークのフライトジャケットを羽織ったメビウス1が入ってきた。何故だ か頭にリインフォースを乗せているというオプションパーツ付きで。 「よぅヴィータ、まだ生きてるか?」 「生きてるかー、ですよ」 「……入室してる身に生きてるか、はねぇだろ」 苦笑いを浮かべながら、ヴィータは先ほどの表情を一変させた。 「なんでリインも一緒なんだ?」 「途中で合流した。目的が一緒だったからな」 「そうなのですよ。みんな忙しいけど、ヴィータちゃんのことを心配してるのですよ」 相変わらずメビウス1の頭の上に乗ったままリインフォースが言う。どうやらメビウス1と行動を共にするときはそこが定位置らしい。 ちなみに六課にやって来た当初、初めてリインフォースを見たメビウス1は思わず「うわ、妖精?」と驚き、続けて「きっと名前はピクシ ーに違いない」と断言して本人に怒られたことがある。「だってエースコンバットで妖精と言ったらラリー・フォルクしか……」と言い訳 してみたが無駄だった。 「みんな……っう、ありがとうな。あたしは幸せだ」 わざとらしく涙ぐんで見せて、ヴィータはやや大げさに喜んで見みせた。 「大げさな……怪我は、どうなんだっけ」 怪我を負った本人であるヴィータ、それに治療を担当したシャマルの両方に目配せしてメビウス1は彼女の容態を問う。 「見ての通りの重傷。だけど、定期的に治療魔法をかけてますから。二日もすれば歩けるし、一週間もあれば復帰できます」 「そういうこと。あたしは頑丈なのが取り柄なんだ」 「頑丈、ねぇ……」 シャマルの治療魔法も凄いがヴィータの言葉にメビウス1は苦笑いを浮かべる。六発のミサイルの直撃を受けても死なないのは頑丈を通り 越して、半ば不死身に近いような気がした。頑丈さで定評のあるA-10サンダーボルトⅡ攻撃機もびっくりだ。 「でもいくら頑丈だからって無茶しちゃだめですよ。でないと、またはやてちゃんが泣いちゃいますよ」 「うぅ……その、ごめん」 がっくりと首を項垂れて、ヴィータは本来妹分であるはずのリインフォースに謝った。 「あ、そうだメビウスさん」 そんな光景を温かく見守っていたシャマルが突然、何かを思い出したようにメビウス1に声をかけた。 「ん、どうした?」 「この間身体検査をやりましたよね?その時ちょっと機材の準備が出来なくて見送った検査があったんですが……」 「なんだ、そんなのあったのか。ああ、今日は暇だから出来るなら今すぐにでも……」 「それはよかったです」 語尾に音符マークをつけたような口調でシャマルが取り出したのは――注射器。 「血液検査なんですけど――」 「ごめん用事思い出した」 シャマルが言い終わる前に、メビウス1は医務室を飛び出そうとして―突然、足元に発生したバインドによって転倒。医務室の床に顔面を 叩きつける羽目になる。言うまでもなく、シャマルが自身のデバイスであるクラールヴィントで発動したものだ。これぞデバイスの無駄 使い。 「逃がしませんよー? 六課の医務官としてみんなの体調をしっかり把握しておく必要がありますから」 「ちょ、ま、勘弁してくれ……グアッーーーー!?」 ズルズルとバインドに引きずられる形で医務室の奥へと連れ去られていったメビウス1を、リインフォースとヴィータはそれぞれ胸に十 字を切ったり合掌したりして見送った。 人間、幾つになっても怖いものは怖いんです。 F-22の格納庫を訪ねたティアナは、いつもならそこにいるはずのメビウス1の姿がないことに気づく。 彼の居場所を訪ねようと格納庫の中の整備員に声をかけようとしたが、なんだか忙しそうなのでやめておいた。 「残念ね、せっかく休みもらったのに……」 今朝になって突然なのはから言い渡された休暇に気をよくしつつも、どこか寂しげな表情を浮かべる。 そんな彼女の背中に迫る黒い影――。 「へぇ~、そっかぁ。メビウスさんいないんだぁ?」 「うぇ!?」 いきなり背後から舐めるような声をかけられて、背筋にぞぞーっとした寒気を感じながらティアナは振り返る。 声の主――スバルが、ニヤニヤした顔を浮かべて立っていた。 「な、何よ……」 「別にぃ。そっか、ティアナって年上が好みなんだね。ちょっとブラコンっぽいところがあるからよく分かるよ」 「ち、ち、ち、違うわよ!そんなんじゃあ無くって、私は単に、その――」 腕を豪快に振り回して必死に否定しようとするティアナだったが、言葉が見つからない上にしっかり顔は火照ってる。 それを見たスバルはますますニヤついた表情。 「うんうん、言わなくても分かるよティア。確かにカッコいいよねー、パイロットだもん。○ム・クルーズよりも身長高いし……」 「ト、ト○・クルーズがどうしたってのよ?」 「またまたとぼけちゃって。私知ってるよ?ティアが最近ヒコーキの映画ばっかり見てて"あぁこの人カッコいいけど身長であの人に及ばな いなぁ"とか言ってるの」 「な…っ!」 ばっちり見られていたとは。夜中にこっそり布団をかぶって、バレないようしっかり対策をしていたのにこの付き合いの長い親友はそんなこ とはお見通しだったらしい。 ちなみにティアナが見ていた映画は九七管理外世界では戦闘機と言ったらこの映画の主題歌と言っても過言ではないくらい大ヒットしたもの だ。CGの無い時代ゆえに海軍航空隊全面協力の元、登場する航空機はすべて実写と言う現代ではまずお目にかかれない作品だ。まだ見てない 人は是非見てほしい、きっとF-14トムキャットが大好きになるはずだ! ――閑話休題。作者は決して、米海軍航空隊の回し者ではないのであしからず。あ、でもF-14はもう退役していたか。くそ、米海軍め。 「とにかく!あたしは別にわざわざメビウスさんを誘いに来たんじゃなくて、ヴァイス陸曹にバイクを借りに来ただけ!勘違いしないでよ!」 「はいはい。ティアってばホント、ツンデレだよね」 無駄な抵抗を繰り返すティアナを見て、スバルは楽しそうに笑いながら駆け出した。 「ちょっとみんなに言いふらしてこようかな~」 「……な、こら、待ちなさい!」 とんでもないことを口にしたスバルをティアナは全速力で追いかけるが、そこは共に今日まで厳しい訓練を耐え抜いてきたスバルのこと だ。「こっちこっちー」と必死の形相で追いかけてくるティアナを茶化すように逃げる。 実際は、どうなんだろう――? 一向に縮まらない親友の背中を追いかけながら、ティアナの胸のうちでどこか冷静な思考が自分自身に問いかけてきた。 結果的に、彼は自分に自信を与えてくれた。そのおかげで今の自分がある、と彼女は考えている。 だから彼にそのお礼がしたい――そういう何でもない自然な感情を指摘されて、必死になって否定している自分がなんだか可笑しく見えた。 あたし、スバルの言う通りツンデレなのかしら? 疑問に答えてくれる人は、この場にいなかった。 「はぁ……あぁ、えらい目にあった」 ようやくシャマルの魔の手から解放されたメビウス1はふらふらと隊舎の廊下を歩いていた。 検査で血液を抜き取られた分足元がおぼつかないようだ。壁に手を当てて安定しない身体を補助しつつ進んでいると、廊下の奥にある休 憩スペースで聞き覚えのある声がした。 「ハンカチ持ったね? IDカード、忘れてない?」 「あ、大丈夫です」 ――この声はハラウオンと、エリオとか言ったっけ、あの少年。 身を乗り出してみると予想通り、フェイトとエリオがいた。ただし、どういう訳かエリオはいつもの制服ではなく年齢相応な私服姿だ。 「よう、お二人さん。どうしたんだい?」 「あ、メビウスさん――大丈夫ですか、顔色がすっごいディープブルーですよ?」 声をかけるとフェイトが心配そうな表情で返答。そんなに酷い顔をしているのだろうか、だとしたら明らかにシャマル、血を抜きすぎで ある。まったく吸血鬼じゃあるまいし。 「いや、ぶっちゃけ大丈夫かと聞かれたら大丈夫じゃないが今医務室に行く気は全く無いので大丈夫といっておこう」 「……? なら、いいんですが」 気丈に振舞ってみせるメビウス1に首をかしげながらも、フェイトはひとまず納得したような表情を見せた。 「それで、どうしたんだ?エリオはこれからお出かけかい?」 「はい、せっかくお休みもらったので――」 なるほど、とメビウス1は頷く。先ほどの会話内容から察するに、忘れ物が無いかフェイトに確認を受けていたのだろう。 しかし、フェイトは制服を着ているのを見るとわざわざ勤務を抜け出してきたように見える。案外過保護なのかもしれない。 「すみませーん、お待たせしました」 ちょうどその時、たったった、と急ぎ足で三人の元にやって来た小さな影があった。ピンクの髪に可愛らしい私服、キャロだ。 「やぁ、キャロ。君もお出かけ?」 「はい、そうで――メビウスさん、大丈夫ですか?なんか、こう、澄み切った青空みたいな顔色ですけど」 「君までそれを言うか。いいんだか悪いんだかよく分からない例えだな」 思わず苦笑いを浮かべて、メビウス1は手元に鏡があるならすぐにでも自分の顔を確認したい気分になった。まったくシャマルめ、いっ たいどれほどの量の血を抜いたのだ。若い男の血が、そんなに欲しいのか。目的は何なのだ。まさか『恐るべき子供たち計画』か!? 脳内で怪しい含み笑いを浮かべる湖の騎士に対して黒い感情を燃やしながら、ふとメビウス1はエリオとキャロを交互に眺める。 「……デート、かな?」 『えぇ!?』 ぽつりと呟いた彼の言葉に、幼い二人は顔を真っ赤にしてしまう。エリオもキャロもまだまだ初心らしい。 「あ、あの、メビウスさん、僕たちまだそういう関係では……」 「"まだ"ってことはこれから?」 悪戯っぽく笑うメビウス1にエリオはあたふたと慌てている。一方で、キャロの方は恥ずかしそうに俯いているが、満更でもなさそうだ。 「――はいメビウスさん、その辺にしてあげてください」 「ああ、悪い悪い……エリオ、男の子ならしっかりエスコートしてやれよ。キャロもエリオについて行くようにな」 フェイトがやんわりと困り果てているエリオに助け舟を出し、メビウス1も最後は大人の男らしく二人の肩を叩いてやった。 「は、はい――頑張ります!」 「わ、分かりました!」 何故だか敬礼までして見せたエリオとキャロにメビウス1は頬を緩くしながら答礼してみせた。 「……ところで、行き先とかスケジュールは決まってる?」 ふと疑問を抱いたのか、フェイトがエリオに確認するように言った。 「はい。シャーリーさんにプランを作ってもらってます」 「シャーリーに?」 意外なところで出てきた六課屈指の技術員の名前に怪訝な表情を浮かべながら、フェイトとメビウス1はエリオのデバイス"ストラーダ" に収録されている本日の行動計画を覗き込む。 「何々……公園で散歩、デパートでショッピング、レストランで食事を取り、映画を見て、夕方には海岸線で夕焼けを見る……」 「シャーリー、いつの間にこんなものを……」 「……む、ホテルはさすがに無いんだなっ!?」 その瞬間、フェイトが表情ひとつ変えずに、自分のかかとをメビウス1の右足に振り落とす。たまらず声にならない声を上げて悶絶する彼 を見て、何も知らない無垢な少年と少女は怪訝な表情を浮かべた。 「…………うん、健全なスケジュールで安心。二人とも楽しんできてね」 『はーい!』 被弾部を抑えてゴロゴロと転がりまわる情けないエースパイロットを余所に、にっこりと笑顔を浮かべて、フェイトはエリオとキャロを送り 出した。何事も悪ふざけはほどほどにした方が身のためである。 結局その後フェイトにいくらか小言を浴びる羽目になったメビウス1は逃げ出すようにその場を後にした。 途中、内線で格納庫に連絡を取るともう少しで精密点検の準備が終わるとの報告を受けた。 「そろそろ戻るとするか……あー、イテテテ……」 戻ろうとして、先ほどフェイトからもらった容赦ない一撃が彼を苦しめる。仕方ないので途中で一休みしようと会議室前にあったソファ ーに腰を下ろすと、その会議室から誰かが出てきた。 「あれ、メビウスさん?どうしたんです?」 現れたのはなのはだった。前回宿命のライバルと壮絶なドックファイトを繰り広げたのに、何故だか今回はただのダメな大人になっている 彼に向かって怪訝な表情を浮かべている。 「いや、ちょっとかくかくじかじか……君こそ何を?」 「私はちょっと、前回の戦闘でのデータをまとめてました」 「ああ――」 相手がユージア大陸で間違いなくトップクラスの技量を誇る者だったとはいえ、追い回されるばかりだった自分が不甲斐ないと彼女は感 じていた。それが休日を楽しむ新人たちを余所に一人データをまとめる行動に出させたのかもしれない。 「それなら俺を呼んでもよかったんだが?黄色の13とは何度か戦ってる」 「いえ……それは、ありがたいんですけど」 メビウス1の傍に腰を下ろし、なのははまとめたデータを展開させる。 その表情には、何か意味深いものがあるのをメビウス1は見抜いた。 「……自分の強さに、自信があったんです。けど、あの人には勝てなかった。挙句、メビウスさんは逃げろって言ってるのに無視して、 助けられちゃって」 「それは俺も同じだ。君の援護がなけりゃ今頃は――」 率直な意見を述べようとしたメビウス1だったが、なのはは首を振って彼の言葉を遮った。 「そうじゃないんです。なんて言うか――自分が、情けなく思えて」 正式に管理局に入局し、教導隊の資格を取り、魔法の使い方も格段に上手になっていた自分が、勝てない相手。自惚れるつもりはないが 教導隊員は強くあらねばならないのだ。そうでなければ教え子たちは失望してしまう。 「――自信を失った、か?」 そんななのはの心中を察したのか、メビウス1が彼女に問いかけてきた。 「落ち込むな、とは言えんよ。相手が何であれ負けたのは事実だ。俺も一度、今回で二度目だが黄色の13に勝てなかったことがある」 彼の脳裏によみがえってくるのは、敵の艦隊の行動力を無くすために発動された石油プラント及びその貯蔵施設の爆撃任務。あの時、追 い込まれた戦況下で、旧式機であるF-4Eを駆っていたメビウス1は後席を務める相棒と共に大きな戦果を上げていた。 「あの時は自分が無敵だ最強だと思っていたんだろうな。そして、奴は現れたんだ」 「それが――メビウスさんの言う、黄色の13?」 なのはの問いに彼は静かに頷き、話を続けた。 「AWACSのスカイアイはただちに撤退するよう命令したんだが、俺と相棒は無視した。せめて味方の脱出時間を稼ごうって、奴の率いる編 隊に挑んだ。時間を稼ごうとは言うけど、はっきり言って俺も相棒も落とす気だったんだがな」 自嘲気味な笑顔を浮かべ、メビウス1は調子に乗っていた当時の自分を省みる。 「――勝てる訳がなかった。相手は五機、どれも経験を積んだエルジアでも屈指のベテラン揃い。機体の性能差も大きかった。結局追い回さ れて、被弾して……俺は運良く助かったが、相棒は重傷でな。翌日息を引き取ったよ」 だから複座戦闘機に乗るのはもうやめた、と付け加えてメビウス1は言った。 「俺もあの時は思ったさ。なんて自分は情けないんだろうって。調子に乗って無茶した挙句、大事な相棒を死なせちまって。なんとして も奴に、黄色の13に勝ってみせると考えた――」 知らなかった、と言う言葉が口から出そうになるのをなのははかろうじて呑み込んだ。 以前一緒にウイスキーを飲んだ時でさえ、彼はこの話をしなかった。辛く、出来れば思い出したくない記憶だったのだろう。 絶対無敵のエースパイロットだと思ったんだけど――そうじゃないんだね。 彼への認識を改めなければならない、となのはは思う。彼とて失敗や挫折を経験してここまで来たのだ、最初から強かったと思うのは失 礼に値する。それはかつての撃墜事件から、ここまで立ち直って見せた自分と同じ気がした。 「まぁでも、結局すぐ勝てるようになる訳ないよな。そのことに気付いてからは焦っちゃダメだって考えた。それから――」 「それから?」 「せっかく隣に経験豊富な仲間がいるんだからな、頼らなきゃダメだろう」 な?と優しい笑顔を浮かべて、メビウス1はなのはに確認するように言った。 「頼って、いいんですか?」 「当然だ。仲間に頼るのは全然情けない話じゃないし、むしろ戦術としては有効だ」 言い切ったメビウス1を目の当たりにして、ようやく――なのはは納得したような表情を見せた。 「そっか――そうですよね、うん」 教導隊員だから、エースオブエースと言う周囲の期待があるから。それが知らない間に自分への重圧になり、追い込んでいたことになの はは気付く。もっと肩の力を抜いても罰は当たるまい。自分には受け止めてくれる仲間がいる。 「OK、納得できたならいい。今後ともよろしく頼む」 「……はい!」 互いに笑みを交わす。なのはの胸のうちで生まれた暗い影は、綺麗さっぱり消え去っていた。 一方で、はやての執務室。 部屋の主であるはやては、自分のデスクの上でこめかみを突っつきながら、自分の端末に表示される映像を眺めていた。 「先のホテル・アグスタ襲撃にて、迅速に対処した機動六課。私は、彼女らを賞賛に値する人間たちだと考える」 映像に映る男――管理局の地上本部代表、レジアス・ゲイズ中将は集められた報道陣に対してそう語った。 強力な戦力を一手に集めた部隊は、他所の部隊から「贔屓されすぎだ」と批判を浴びることが多々ある。六課も同じように、管理局内部、 特に慢性的な戦力不足に悩む地上本部からは猛烈な批判を受けていた。レジアスはその急先鋒と言ったところである。 「そのはずやのに……いったいどうしたんかな」 突然、手のひらを返すように今回の記者会見で六課をべた褒めするレジアスに、はやては怪訝な表情を隠しきれない。 「管理局とは、彼女らのように強くあるべきなのだ。それは地上本部とて例外ではない。そこで私は、不足する戦力を補うため、新兵器の 開発に着手した」 ――新兵器? 眉毛につばをつけるような思いで記者会見を続けるレジアスの言葉に、はやては思わず胸のうちで聞き返した。 「まだ詳細は明らかに出来ないが、これが投入されれば、現在各地にて発生している質量兵器による破壊活動も、瞬く間に鎮圧できる。す でに試験段階は終了し、数週間以内に最初の実戦部隊がクラナガンに配備される」 「なんやなんや、突然何の前振りも無く……」 突然レジアスが公表した"新兵器"について、はやては口を尖らせながらも電話に手を伸ばす。 「もしもし、クロノ君?久しぶりやね。うん、唐突やけど調べてほしいもんがあるんや……」 戻る 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/1381.html
第四章 『商都攻防』 ブンガ・マス・リマ東方4㎞ 2013年 1月6日 15時03分 灰色の複合艇が、ビロードのようになめらかな海面を切り裂いて進んでいる。使い込まれ擦り切れた旭日旗が、合成風を受け今にもちぎれそうだ。複合艇は、まるで水切り遊びの小石のように水面を上下に跳ねていた。 乗員は飛沫を頭からかぶりながら、必死にしがみついている。防弾チョッキの下の作業服は、ぐっしょりと海水に濡れて濃紺に近い色合いになっていた。 輸送艦〈ゆら〉運用員の安芸英太三等海曹は、ピストンのように激しく上下する複合艇の上で器用に身体を支えながら、手元のM3短機関銃をどうにかして濡らさないよう、努力していた。 「痛ェ! 舌噛んじまった!」 安芸の隣で、機関科の海士が悲鳴を上げた。その若い海士を含め安芸以外の者はしがみつくので手一杯だ。操縦員と安芸だけが、複合艇の行く手に何があるのかを見ていた。 美しい海と真っ白な砂浜。青と白と緑のコントラスト。そんな光景が広がっているはずだった。しかし、それはすでに失われていた。 臨時編成〈ゆら〉陸戦隊12名を載せ、35ノットで陸地へと走る複合艇の行く手には、どす黒い煙が幾筋も立ち昇り、断続的な銃撃の音と喚声が木霊していた。そこには陸上自衛隊マルノーヴ先遣隊の物資集積所が存在していた。 「ひでぇなありゃ……」 操縦員が思わず呟いた。昨日までは陸揚げされた物資がそれなりの秩序を持って積み上がっていたが、今海岸を支配するのは、怒号と悲鳴であった。 陸地が近づいたため、複合艇は速力を落とした。エンジン音に包まれていた陸戦隊員の耳に、海岸で繰り広げられる戦場音楽が届き始めた。艇のピッチングが収まりようやく顔を上げた隊員たちは、その様子に顔をひきつらせ、息を呑んだ。 陸自後方支援隊が管理する物資集積所は、ブンガ・マス・リマの東約4キロの位置にある、適当な広さの海岸に設置されていた。北側に広がる森を抜けると、柘植が率いる偵察隊の前哨陣地がある。 揚陸適地とされたこの海岸に、自衛隊は輸送艦〈ゆら〉やLCACを用いて、様々な物資を揚陸していた。 ここが襲撃されたのは約1時間前──自衛隊が戦闘を開始してから約1時間が過ぎた午後2時過ぎのことだった。 突如森から現れた武装集団の攻撃により陸自後方支援隊長が戦死。物資集積所は包囲されていた。 後方支援隊と施設隊の隊員たちは、コンテナやパレットに身を隠しつつ必死の防戦を行うとともに、凡そ使用可能なすべてのチャンネルで救援を要請した。不幸なことに既に市全域で交戦状態にあり、速やかに救援可能な陸自部隊は存在しなかった。 唯一、洋上約2キロの海面に、〈ゆら〉が存在していた。 「もうすぐ着くぞ!」 操縦員が声を張り上げた。陸戦隊員たちは顔を見合わせた。そして、指揮官である運用士を見る。四十代も後半に差し掛かった運用士は皆の視線を受け、たじろいだ。見かねた安芸がそっと耳打ちする。 「運用士。装備の点検をさせて下さい」 「お、おお。そうだな」 安芸はすでに装備の点検を終えていた。周囲でおぼつかない手付きで小火器を点検し始めた〈ゆら〉陸戦隊員を見て、安芸は暗澹たる気分になった。 陸自からの悲鳴のような応援要請を受け、急遽編成された〈ゆら〉陸戦隊は、寄せ集め以外の何物でも無かった。指揮官の運用士は銃よりも釣り竿の扱いの方が何倍も得意な男だったし、そもそも陸戦訓練など艦でしたこともない。 「安芸よぅ。頼りにしてるからな」 運用士の本心からの言葉だ。特警課程にいた安芸は、自然と頼りにされていた。 冗談じゃない。俺は基礎課程で落ちたんだ。 物資があちこちで燃えていた。海岸が近づくにつれ、あちこちに転がる緑色の物体が陸自隊員の死体であることに気付いた。地獄のような景色だった。 冗談じゃない。そんな地獄に素人ばかりで乗り込むなんて! 安芸は自然と身を低くかがめ、一番戦闘が激しい地点と、安全に上陸出来そうな地点を探しながら、背筋に冷や汗が流れるのを感じていた。 ブンガ・マス・リマ北方上空 2013年 1月6日 15時05分 澄み渡った青空の下。緑の絨毯を眼下に収め、這うように南下する複数の物体が存在していた。 帝國南方征討領軍飛行騎兵団の翼龍騎兵と、有翼蛇の編隊である。翼龍騎兵20騎。彼らの背に分乗した6名の『魔獣遣い』に使役された有翼蛇40頭。 南瞑同盟会議北方防衛線をフライ・パスし、森の中で再編成した彼らは、地表約20メートルの高度でブンガ・マス・リマ市街地へ向けて、飛翔を開始したのだった。 もちろん、親善飛行などではない。市街侵攻の尖兵として、重要施設、港湾、守備隊等への襲撃を命じられていた。 「あと半里」 操獣士が冷静に言い放った。革の飛行帽をかぶった頭を左右に振り、周囲の警戒に余念がない。操獣士の背中を眺めながら、帝國南方征討領軍飛行騎兵団『魔獣遣い』ユーリ・ヴラドレン・エーリンは、整った顔面に笑みを浮かべた。 鮮やかな『魔獣遣い』の化粧が、妖しげな雰囲気を纏わせている。 彼の乗る翼龍の前方には、鏃のような隊型を維持した有翼蛇が3頭、身体をうねらせながら飛行していた。エーリンの思念波に従い、翼が触れ合うほどがっちりとした編隊を組んでいる。 このことは、エーリンが『魔獣遣い』として水準以上の力を持っていることを現していた。 並みの技量では、3頭もの有翼蛇にここまで緊密な編隊飛行をさせることは出来ない。切れ長の瞳と、真っ白な肌が印象的な『魔獣遣い』は、華奢な見た目に似合わぬ、熟練の遣い手なのだった。 何しろ彼の後方にはもう3頭の有翼蛇が、彼に従っているのだ。 エーリンは周囲を見渡した。複数の龍と蛇が空を駆けていた。彼は最前列を飛ぶ15頭の横列を眺め、嘲るように笑った。 (やはり、ふらついている。バクーニンの奴は多頭使役を誇っていたが、あんなに無様な編隊しか組めぬのでは、襲撃機動も大したことはできまいよ) 右手には、1騎の龍騎兵とひときわ大型の有翼蛇が飛行していた。その機動は鋭い。 (ヴァロフ副長は流石に見事なものだ。だが、だった1頭では火力に不足が出よう) 「やはり、私のように3頭で一個編隊を組むのが、最も優れている」 エーリンは、持論を呟いた。この戦で自分の正しさが証明されると信じていた。 南方征討領軍飛行騎兵団は固定編成が定められていない。 各『魔獣遣い』が、自分の使役する有翼蛇を引き連れて騎兵団に加わっている。このため、一名で15頭を使役するバクーニンのような男から、単騎しか操らないヴァロフのような男まで、多岐に渡っていた。 彼らの戦いぶりは、逐一報告を義務付けられている。また、後方の翼龍に騎乗する本領軍魔導士により、常に評価を受けていた。エーリンが聞いた話では、その結果は本領軍で編成中の飛行騎兵団に反映されるらしい。 (ならば、良いところを見せねばな) 眼下の森が切れた。眼前に鮮やかな屋根が並ぶ巨大な都市が飛び込んできた。商都ブンガ・マス・リマ。蛮人どもの生意気な都市。 『バクーニンは街を焼け。エーリンはヴァロフと商館街を叩け』 騎兵団長の思念波が頭蓋に響く。編隊の半数が高度を上げ、もう半数は低高度を保った。 『突撃』 帝國軍南方征討領軍飛行騎兵団は、都市への空襲を開始した。 概況 南瞑同盟会議の本拠地である、商都ブンガ・マス・リマをめぐる攻防は、激しさを増すばかりであった。 本来都市を護るべき同盟会議軍は、すでに壊滅している。わずかに市警備隊300名が残っていたが、それらは市街地各所に邏卒隊とともに分散配備されており、組織的戦闘を行える戦力ではない。 アイディン・カサード水軍提督が配下の水夫と撤退してきた敗残兵を再編成し、1000名程度の歩兵部隊をでっち上げようと苦闘していたが、どう考えても間に合いそうになかった。 一方自衛隊は、現地の混乱に翻弄されつつも、各部隊が臨戦態勢をとりつつあった。 交易都市ブンガ・マス・リマは、大陸を南北に流れるマワーレド川河口域に広がっている。川幅500メートルに及ぶ大河は、海に注ぐ前に西に支流を分け、本流と支流に挟まれた大三角州を形成していた。 街は支流の西側、三角州、本流の東側の三つに分けられ、それぞれ『西市街』『中央商館街』『東市街』と呼ばれている。同盟会議の本拠『大商議堂』と中核施設は、『中央商館街』に集中していた。 つまり、三角州の内側だけは何としてでも守りきらなければならなかった。 マルノーヴ先遣隊本部が全滅し一時的な混乱に陥った陸自部隊は、偵察隊の柘植一尉が指揮権を掌握した。柘植は現状から全部隊の統一指揮は不可能であると判断した。 やむを得なかった。彼は市街北東5㎞の地点で戦車に乗っており、全体を指揮するための人員も機材も不足している。柘植は全隊に命じた。 『各地区先任指揮官の判断により防戦に努めよ。帝國軍に対する発砲を許可する』 この命令により、陸上自衛隊はそれぞれの展開地域で帝國軍との戦闘に突入する事となった。 それに対して海上自衛隊は、統制を保つことに成功していた。陸自に比べて海自が指揮統制に優れていた訳ではない。ただ単に敵の攻撃がまず陸自に対して行われたからであり、司令部が生き残っていたからであった。 海自は、ブンガ・マス・リマ沖に展開していた第1掃海隊と派遣輸送隊群に警戒態勢をとらせると共に、ラーイド港に入港中の第1ミサイル艇隊に出港を命じた。 帝國南方征討領軍は、複数の経路でブンガ・マス・リマに侵攻を開始していた。 マワーレド川の東岸を南下していたのは、混成義勇兵団を主力とする歩兵部隊である。カルブ自治市軍二個兵団、ソーバーン第四支族、督戦隊ケルド中継都市軍。計2000余。 これにゴブリンと帝國正規兵を加えた2500からなる部隊は、大街道を南下し東市街に突入する任務を与えられていた。 マワーレド川西岸の侵攻路を南下するのは、帝國軍主力である。コボルト斥候兵を前衛に、ゴブリン軽装兵約1000、オーク重装歩兵500。さらに、魔獣兵団が無数のヘルハウンドや人喰鬼を従えて続いている。主将サヴェリューハ直率の本営も、西岸を進んでいた。 さらに複数の部隊が様々な経路から侵入を試みている。その一つが、東の森を抜け海岸線に到達したドフター族の部隊であり、上空から侵入する帝國軍自慢の飛行騎兵団であった。 そして、1月6日15時現在。 マワーレド川の東岸と東市街は南瞑同盟会議と自衛隊が確保している。パラン・カラヤ衛士団は全滅したものの、柘植一尉の偵察隊が帝國南方征討領軍侵攻部隊を撃退したからであった。 柘植一尉は東市街の防備を固めつつ、他地区への増援を図ろうとしている。無線からは各地の不穏な状況が入り始めていた。 対照的に、マワーレド川西岸は酷い状況になりつつあった。 西市街を担当する部隊が司令部の壊滅により立ち遅れたこと。さらに侵攻する敵に対して地形的障害が乏しいこと(成長を続ける交易都市には、市壁が存在していなかった)。そして敵がどうやら主力であること。 どう考えても、突入を阻止できない。 編成の欠けた一個中隊で西市街を守る普通科中隊長は、市内各地からもたらされる交戦報告を聞きながら、市街戦を覚悟していた。 中央商館街は泥縄式ながら防備を固めつつある。東西市街と三角州を結ぶ長大な二つの橋に陣地を構築し、一歩も退かぬ構えである。 とはいうものの、そこに配置された守備兵は精鋭には程遠かった。さらに、帝國軍侵攻の報を受け逃げ惑う市民の群れが全てに遅延をもたらしていた。 端的に言えば、ブンガ・マス・リマはこの上なく混乱していたのである。 第4章 3 ラーイド港は、普段とは全く異なる姿を見せていた。大小問わず無数の船が港外へと向かっている。 いつもなら商品を満載にして入港する交易船がいるのだが、今はいない。交易船を横付けするための長大な桟橋や、交易品を納めるための巨大な倉庫が建ち並ぶラーイド港は、混乱と喧騒に包まれている。 「艇長、〈くまたか〉抜錨しました」 「おう」 航海長の報告に、第1ミサイル艇隊所属、ミサイル艇〈わかたか〉艇長、来島通夫三佐は、鷹揚に頷いた。口髭をたくわえた厳つい顔面を紅潮させ、爛々と光る瞳は周囲を睥睨していた。 機嫌は良さそうだな。航海長は思った。 「しかし、ひでぇ有り様だな」 「全くです」 普段は深緑色の水面は、櫓櫂に掻き乱され巻き上げられた泥で灰色に近い。周囲から聞こえてくるのは、警告。怒号。木材のぶつかる鈍い音。悲鳴。水音。 あちこちで船同士が衝突しているのだ。運の悪い船はそのまま水底に沈む。まるで沈みゆく船から逃げ出そうとする鼠の群れのように見えた。そして、その表現は現実を端的に表している。 「総員配置につけました。群司令部からは帝國軍との交戦許可が出ました」 「そうか! よし、よし」 来島は、うんうんと頷いた。 彼を表す言葉は単純だ。勇猛果敢。見敵必殺。 演習中、搭載されている対艦ミサイルを打ち尽くした彼が「最大戦速! 敵に突撃する」と命じた結果、護衛艦2隻を相手に近接砲撃戦をやってのけ、判定敵大破を勝ち取ったことは、半ば伝説と化していた。 「全員、気合いは入っとるな?」 来島三佐の作業服がはちきれそうになる。狭いミサイル艇のブリッジには不似合いな程の巨漢なのだ。 「もちろんです」航海長は、いつもの答えを返す。来島は大いに満足し、窓の外を見やった。 先祖は瀬戸内辺りの海賊衆だという噂の来島は、その評判に違わぬ心境であった。戦える。前回の〈門〉を巡る戦いで、おあずけをくらった彼は、戦闘の機会が巡ってきたことが嬉しいのだ。彼の指揮下には僚艦の〈くまたか〉が入っている。 そのとき、来島の耳にかすかな爆音が聞こえてきた。街の方角だ。 「来たか」 航海長には聞こえなかったようだった。しかし、すぐに見張り員から報告があがる。 「敵味方不明機視認。市街地を爆撃している模様」 雑多な建物がひしめく市街地から、黒煙が上がっている。来島の視界の中で胡麻粒のようなものが飛び回っていた。彼は有翼蛇だろうと当たりをつけた。陸自からの情報もそれを裏付けていた。 『本日13時頃、市上空ヲ敵味方不明飛行生命体ガ飛翔セリ。同盟会議側ニ該当無シ。形状カラ帝國軍飛行部隊ト推定サレル』 「昼過ぎの奴は偵察だったようですね」 「どうやらそのようだな。陸さんから悲鳴があがっとる。市内は相当叩かれているぞ」 爆発音は次第に数を増していた。黒煙も数え切れないほどになっている。 来島は腹に力を込めると、吼えるように命じた。 「機関全力即時待機。対空戦闘用意!」 海士から渡されたヘルメットと救命胴衣を着込みながら、来島は口角を釣り上げた。 早くこっちに来い蛇野郎。俺が相手になってやる。 ブンガ・マス・リマ東市街上空 2013年 1月6日 15時19分 帝國南方征討領軍飛行騎兵団による空襲は、平和な日常を重ねることに慣れきっていたブンガ・マス・リマ市民を恐怖に叩き込んだ。 5頭の有翼蛇が緩やかな角度で地表に向けて降下する。恐ろしげな鳴き声はまるでサイレンのように鳴り響き、目標とされた建物──広場にある集会所の近くにいた人々を震え上がらせた。 地表が迫る。有翼蛇は喉を慣らすと、それぞれが焔を吐いた。火の玉は猛烈な勢いで広場へと飛んだ。着弾と同時に有翼蛇の体内で生成された粘液が飛び散る。焔をまとった粘液を浴びたものは全てが燃え上がった。 建物であれ、人であれ。 「ぐははは、燃えろ燃えろ!」 5頭編隊を3個──つまり15頭もの有翼蛇を操る『魔獣遣い』バクーニンは、3騎の翼龍騎兵に護衛されながら、高らかに笑った。野性的な顔にサディスティックな笑みを浮かべている。 眼下では街が焼け、人々が逃げまどっている。いや、野蛮人どもは人にいれなくてもよい。我は掃除をしているだけだ。我が治めるべき土地に湧いた虫けら共をな。 バクーニンの有翼蛇15頭と、彼の乗龍を含めた4騎の翼龍騎兵は、東市街の空襲を命じられていた。バクーニンは騎兵団一の多頭遣いである。その投射火力は優に一個騎士団を殲滅できる。 同盟会議にろくな対抗手段が無いことは分かっていた。せいぜい矢を射かけるか、魔術士がライトニングを放つ程度。高みから見下ろす彼には届かない。ゆっくりと丁寧に街を焼くだけの簡単な、楽しい仕事だ。 野蛮人どもが、建物に逃げ込むのが見えた。少しは頑丈そうな建物だ。多分、邏卒の詰め所あたりだろう。無駄なことだ。 バクーニンは嘲りを浮かべ、思念波を放った。上空待機していた5頭がわずかに身体を震わせた。すぐに緩降下に入る。 彼の支配下にある有翼蛇が放った火の玉は、2発が建物に命中し、石造りのそれを燃え上がらせた。外れた3発も無駄にはならない。そこは敵の都市であり、どこに当たろうと必ず敵を破壊するのだった。 「ぐははは、愉快愉快! 我に抗う敵影無し、だな」 翼龍を操る騎兵が、やかましい便乗者にうんざりしていることにバクーニンは気づいていなかった。だが、それは些細なことだと言って良い。ブンガ・マス・リマ東市街上空は彼の支配下にあったのだから。 15頭の有翼蛇は街を焼き続け、黒煙は空を覆い隠そうとしていた。 火の粉が辺りかまわず降り注いでいる。煙は増える一方で、呼吸は苦しくなるばかりだった。 東市街を担当する第2小隊は、部隊集結地へ移動する途中で、空襲に出くわした。彼らは偵察隊が敵の侵攻を阻止したため、増援兵力として再編成され、苦戦する仲間を助けにいくはずだった。 「化け物、また来ます!」 隊員の報告に第2小隊長川島二尉が顔を上げた。石造りの詰め所が見える。逃げ遅れていた女性や子供たちが、警官──邏卒たちの誘導で逃げ込んでいた。有翼蛇はそこに向かっている。 「いかん! 逃げろ!」 川島が叫んだ。だが間に合うはずもない。有翼蛇の吐いた焔は、詰め所に飛び込み激しく燃え上がった。火達磨になった人々が悲鳴を上げながら転げ出る。彼らは身体を奇妙に縮こませると、動かなくなった。 川島はうなり声をあげると、部下に救援を命じた。同時に、対空戦闘を準備させる。命令を受けた隊員たちは、凄まじい勢いで駆け出した。身の危険を感じるべき状況だったが、誰も躊躇はしなかった。 隊員たちは怒っていた。目の前に横たわる黒こげの死体はどれも小さかった。それは、焼けて縮んだからではなかった。 「大丈夫か!」 「あ、あんたら〈ニホン〉の騎士団が? ここはもう駄目だ」 煤で真っ黒になった邏卒が、絶望した顔つきで言った。俺たちはあの空飛ぶ蛇には何にもできねえ。矢なんか当たらねえ。 「馬鹿野郎、諦めるな。あの蛇は俺たちが殺ってやる。あんたらは民間人を逃がせ」 「一体どうやって?」 邏卒の問いに、隊員は小銃を掲げた。 「こいつで撃つ」 邏卒は馬鹿にされたと思った。弦も何もついていないクロスボウで何が出来る。その表情を見た隊員は、さらに言った。 「こいつが効かない相手には、とっておきがある。俺たちには『ハンドアロー』がある」 『通詞の指輪』は、隊員の言葉を『小さな矢』と訳した。邏卒は、『小さな矢』なんかで何が出来るんだ。と思った。 第4章 第2話 ブンガ・マス・リマ東方4㎞ 陸自物資集積所沖 2013年 1月6日 15時08分 複合艇が舳先を左に振った。操縦員がスロットルを絞る。あっという間に行き足が止まり、海面が濁った。 「すまんが送りはここまでだ!」 操縦員が叫んだ。安芸三曹ら〈ゆら〉陸戦隊を運んできた複合艇は、その形状から砂浜に乗り上げることは出来ない。波打ち際まではざっと15メートルはありそうだった。 「仕方ないよ、ちょっと行ってくる。迎えはよろしく!」 「風呂は沸かしておくからな!」 安芸は操縦員に声をかけると、身軽な動作で海に飛び込んだ。腰まで海水に浸かる。波が穏やかなのが救いだった。 「波打ち際まで走れ! もたもたしてると良い的だぞ」 指揮官の運用士が叫んだ。緊張しているのだろう。その声は普段より大分甲高く掠れていた。次々と海へ飛び込んだ隊員たちは装備の重さによろめきながら、海水を掻き分け、波打ち際へ向けて歩き出した。 「運用士、右前方に陸自がいます。あそこに上がりましょう!」 「どこだ? 煙でよく見えん……あれか! よし、みんなあっちだ!」 それとなく安芸が示した先には、辺りの貨物を手当たり次第に積み上げ、必死に戦う陸自隊員たちが見えた。彼らの周囲には次々と矢が降り注いでいる。 マジで殺し合いだ。近付きたくねぇ。 安芸は思ったが、この場に留まる訳にはいかない。今は矢も飛んでこないが、海岸の陸自がやられれば、自分たちは的でしかなくなってしまう。 それを避けるためには、逃げ帰るか、海岸に上がって陸自隊員と一緒に敵と殺し合いをして勝つしかない。安芸たちを逃がしてくれる複合艇はすでに海上へと去っていた。戦うしかなかった。 「みんな銃を濡らすな。海岸に上がったらすぐに身を隠せよ!」 安芸は不慣れな同僚たちに指示を与えつつ、上半身を左右に振りながら一心に波打ち際を目指した。 砂浜はやはり地獄だった。火矢でも射かけられたのだろうか、物資が燃える黒煙で極端に視界が悪化している。下手をすれば味方に誤射されかねない。 一般的に、上陸したばかりの兵士たちはひどく脆弱な存在である。海岸は身を隠すための遮蔽物に乏しく、待ち受ける敵に対して不利な態勢に置かれる。 さらに、指揮官は必ずといって良いほど、部下の統制に苦労する。上陸時に整然とした隊列を維持できる者など存在しないからだ。統制を失った部隊は、脆弱な一個人の集まりでしかない。 そして、普通の人間は戦場の過酷さに耐えることが出来ない。 どうにか波打ち際に上陸した〈ゆら〉陸戦隊だったが、味方の元へと走り出そうとした瞬間、運用士が首に矢を受けて倒れた。左手で首元を押さえるが、口からは血の泡が吹き出し、その場に崩れ落ちる。 「!? 運用士! 畜生やられたぞ」 次席の三城二曹が慌てて駆け寄る。銃声が響く。 「え? う、うわあああああ」 「な、馬鹿、ぐぁ!」 運用士の隣を走っていた板野一士が、機関拳銃をめくら撃ちしたのだ。恐怖に駆られた彼は、震える手で安全装置を外し、ろくに狙いも付けずに発砲した。不幸なことに、運用士に駆け寄った三城の身体が、射線を横切っていた。 三城が、背中に銃弾を受け倒れる。パニックになった板野の肩に、短い矢が刺さる。板野は白目を向いて倒れた。痙攣し口から泡を吹いている。 「撃つな、馬鹿野郎! 姿勢を低くしろ。突っ立っていると殺られるぞ!」 自ら砂浜に伏せながら安芸は怒鳴った。 陸戦隊はあっという間に25%の戦力を失った。部隊はパニックに陥りつつある。安芸は、自分より先任が居ないことに愕然とした。彼が指揮をとらなければならない。 素人ばかりだ。畜生。最悪だ。 せわしなく視線を走らせる。見通しが利かない。矢の飛来方向には蠢く人影がある。敵が味方かは分からなかった。撃てない。 「クソッ、腰を撃たれた。動けねぇ」 「運用士は駄目だ、死んじゃった」 「板野も泡吹いているぞ」 毒だ。矢に毒が塗ってある。安芸は倒れた二人の様子から判断した。周囲に軽い音を立てて矢が刺さる。当たったら拙い。 「安芸海曹、ヤバいです。どうしたら?」 「腰の感覚が無いぞ。畜生、板野の馬鹿野郎」 ここにいたら全滅だ。味方と合流しなければ。 安芸は決意した。左手を頭上でぐるぐると回し注目を集める。視線が集まったところで、彼は前方で戦う陸自を差した。 「陸自に合流する。あそこまで走れ!」 「でも、立ち上がったら矢に……」 「ここにいたら死ぬぞ! 三城さんは俺がかつぐ。死んだ二人は置いていく。急げ!」 安芸は叫ぶと、グリースガンを胸に提げ、腰を負傷した三城二曹を肩にかついだ。装具を含めて80キロ以上の重さが肩に食い込んだ。重みを受けてブーツがきめの細かい砂に沈む。 だが、安芸は確かな足取りで味方へと走り始めた。それを見た陸戦隊員たちが慌ててあとに続く。 安芸は基礎課程でかついだ丸太の重さを思い出した。あの時はしごきだとしか思えなかったけど、意味があったな。そう思った。 「輸送艦〈ゆら〉陸戦隊、安芸三曹です! 応援に来ました」 「後方支援隊管理小隊、松井一曹だ。よく来てくれた! 君が先任か?」 「すみません。指揮官の運用士他1名が戦死。1名負傷……現在私が最先任です」 松井はあからさまに落胆した態度を見せた陸士を視線で黙らせ、労うように言った。 「大変だったな。負傷者はうちの衛生に診させる」 「ありがとうございます」 〈ゆら〉陸戦隊が転がり込んだ陸自の防御陣地では、20名程の陸自隊員がコンテナやパレット積みの貨物を頼りに、抗戦を続けていた。海を背に概ね半円形をえがいている。 正体不明の敵に突入された物資集積所では、最大の拠点だった。 松井と名乗った陸自隊員は、眼鏡に砂をつけたまま、安芸に現状を説明した。かなりの早口だった。 敵は物資集積所に雪崩れ込み、あちこちで陸自隊員と交戦している。不意を突かれた自衛隊側は、ここ以外に数ヶ所で孤立しつつ戦っていた。集積所の隣にある宿営地兼車両整備場は味方が確保していたが、打って出る余裕は無い。 本来であれば、味方を収容しつつ宿営地で態勢を立て直し、反撃に出るか増援を待つかすべきである。しかし、それは果たせずにいた。 「君たちはここを守ってほしい。あちこちに孤立した味方がいて、収容しないといかんのだが、手が足りない。俺たちが半分ほど抜ける穴を任せたい」 「分かりました。我々は素人です。難しいことは出来ません。陣地に籠もって戦うのが精々です」 「海自さんを引っ張り出しちまってすまんな。敵は毒を使ってくる。気をつけてくれ」 「毒矢で2人殺られました」 「矢だけじゃない。吹き矢にも気をつけろ。奴ら恐ろしく素早いぞ」 打ち合わせを済ませた安芸は陸戦隊を防御陣地に配置した。BARと64式小銃を持つ隊員に、M3短機関銃や9㎜機関拳銃を装備する隊員を組ませ、半円形に布陣させる。 船乗りである彼らは陸戦に不慣れなため、固定砲台として戦うしかないと安芸は考えていた。自分はフリーに動き指揮と予備兵力を担当する腹積もりだった。 戦死した運用士から回収したM3の弾倉をポケットにねじ込む。周囲は乱戦と言うしかない状況だ。弾が尽きればおしまいだ。 「松井一曹、一つ良いですか?」 「おお、なんだ?」 安芸は疑問を抱いていた。 「幹部はどこに行ったんですか?」 「後方支援隊長は殺られたよ。他の幹部も山ほど死んで残りは分からん」 松井の目が暗く沈んだ。 「奴らが森から現れた時、敵か味方が判断に困ったんだ。この辺の連中は統一した装備なんかつけちゃいないし、森はリユセのエルフが押さえているって話だった」 森から現れた集団は武装していたものの、服装は質素な民族衣装であり、軍には見えなかった。しかも、女性や子供らしい姿も見える。後方支援隊長は迷った。リユセ樹冠国の者が居れば正体を掴めたかも知れない。だが、彼女たちは運悪くその場に居なかった。 「奴らは近づくなって言っても聞こえない素振りで来やがった。数が増えてどうにも拙いって所で隊長が出て行った。で、『我々は日本国陸上自衛隊──』そこで殺られたよ」 その後は訳の分からない内に物資に火を放たれ、乱戦となった。指揮官を殺された自衛隊は、結果として無様な戦いを強いられている。安芸の疑問はますます大きくなった。 「何で撃たなかったんです? 帝國軍の侵攻は知っていたはずなのに」 松井が胡乱な瞳で安芸を見た。 「俺も、撃てば良かったと思う。でも、出来なかった。部隊行動基準では撃っても良い状況だった。でもな──こっちに来てから今まで部隊行動基準通りにやっていたら、俺たちは南瞑同盟会議側の連中を殺しちまっていたはずだ」 様々な要因があったのだろう。 マルノーヴ先遣隊には、サマーワにおけるオランダ軍のような味方が居なかった。治安維持の矢面に立った自衛隊が得ていた事前情報はごくわずかで、手探りで物事を進めざるを得なかった。辛うじて帝國軍旗の情報程度は得たものの、未だ分からないことだらけであった。 さらに現地の友好勢力である南瞑同盟会議は、とても統制がとれているとは言えなかった。 リユセの妖精族や同盟会議参事会は『〈ニホン〉の騎士団に許可無く近付いてはならない』との布告を出していたものの、物珍しさから集積所を訪れる現地民や行商人は途切れることが無かった。悪いことに、この世界において刀剣や弓で武装することは日常であった。 彼らは、武装している割に「あれ、まあ。こりゃ見たこともねぇ騎士様たちだなや」「干し菓子はいらんかね? 兵隊さん」などと気安く近寄ってくる。 部隊行動基準に従い『現地語での警告』『武器の指向』を行っても、そもそも銃を知らない彼らはいまいち反応が鈍かった。結局のところ、彼らは全て善良な現地民で、〈ジエイタイ〉騎士団の風変わりな装具や、不思議な品々を面白がり、土産話を持って帰って行った。 いつの間にか隊員たちは、部隊行動基準に従い発砲しなかったことを、安堵とともに正しかったと受け止めるようになっていた。一部の隊員はこれが危険な兆候で有ることに気づいたが、具体的な対処は行われなかった。 「俺たちは慣れちまっていたんだ。ゲームに出てくるようなエルフやドワーフがニコニコと話しかけてくることに。今までは何事も無かった」 「でも、今日は」 「違った。奴らは敵だった」 マルノーヴ派遣以前にも自衛隊はすでに血を見ていた。しかし、それはあくまで国内での戦闘であった。日本国内において、現代人に見えない者はすなわち『異世界からの敵』であり、自衛隊は速やかに対応した。 それに対してアラム・マルノーヴでは現地民に『敵』と『味方』と『敵味方不明勢力』が混淆していた。軍と民間人の境界も曖昧であった。 ある意味で、政治によって大切に保護されていた自衛隊が、諸外国軍──アフガンやイラクにおけるアメリカを始めとする多国籍軍と同様の立場に放り込まれた瞬間であった。 アメリカ軍なら、速やかに発砲していただろう。だが、彼らは〈自衛隊〉であった。 「隊長も俺たちもよく分かっていなかった。いいか、ここは敵地だ。女子供ですら敵かも知れない。それを忘れるな」 松井一曹の声は、何かを悔いるような響きを含んでいた。彼は89式小銃を腰だめに構えると、部下を率いて走り去った。その姿はすぐに黒煙に紛れて見えなくなった。 安芸は銃声が響く中、たった一人になったような気分になった。頭を激しく振る。ヘルメットの重みで首の筋肉に痛みが走った。 「全員配置についたか? 敵は素早いぞ、よく狙って撃つんだ。無駄遣いするなよ!」 安芸は気を取り直すと、意識を防御の為だけに集中することにした。そうしないと余計なことを考えてしまいそうだった。 ブンガ・マス・リマ東方4㎞ 2013年 1月6日 15時12分 この敵手、意外に手ごわい。 ドフター族を率いるバールルィ・リヤジャンは奥歯をぎりりと鳴らした。勇敢な深森の狩人にして、露霊の神官でもある彼は、戦化粧に縁取られた真っ黒な瞳を海岸に向けた。 壮年にさしかかろうとしている肉体は頑強そのもので、獲物を追って三日三晩森を駆けてもびくともしない。彼らドフター族は狩猟に生きる森林民族である。その群れを率いる男は、肉体は誰よりも強く、そして深森に棲む露霊に近くあるべし、とされていた。 リヤジャンはその資格を充分に満たしていた。猛々しい心は敵を食い破ることに向けられている。 傍らの男が言った。 「存外しぶとい」 「ん。はじめは野豚のような間抜けかとみたが」 いざ当たってみれば、山犬の群れより始末が悪い。リヤジャンは敵の手強さに苛立ちを隠さない。海岸に奇妙な物を積み上げ、たむろっていた異界の兵隊は、当初ドフター族を見ても「近付くな」と言うだけで、何故か攻撃してこなかった。 あまつさえ位が高いと思われる男が単身でのこのこと現れた。リヤジャンは敵を侮り、誘い込んで射殺した。首領を失った残りはすぐに降ると思った。 だが、敵は打って変わって猛烈な反撃を加えてきた。 「あの火礫はやっかいだ」 「しかり。矢の届かぬ場所から撃ち抜いてくる。一撃で死ぬ。魔術か」 「あのような魔術はしらぬ。帝國すらもたぬ」 「南瞑にあのようなものどもがいたか?」、 「しらぬ。露霊も囁いてはくれなんだ」 リヤジャンの目の前では、一族の男女が矢を放ち、飛び回り、火礫に貫かれ倒れる様が繰り広げられていた。射撃戦では分が悪い。森を出て戦うのではなかった。リヤジャンは思った。 「だが〈朝露の〉リヤジャンよ。われは敵を知ったぞ」 「何を知った」 「山犬の群れに恐るる無かれ。剣を構えよ。その腹を裂くべし」 「ふむ。近づけと……敵は剣を持たぬ、か」 確かに、森の木々のような柄の鎧を纏う敵兵は、その奇妙な鉄の筒から火礫を放つが、他には短剣しか身に帯びていない。リヤジャンの腹心は魔術士に近接戦闘を挑めと言っているのだった。 多くの者が死ぬな。リヤジャンは覚悟した。 森という森で獲物を追い、不遜にも森の守護者を気取るリユセの耳長どもと争いながら暮らしてきた彼らは、『帝國』という巨大な暴力の前に膝を屈した。ドフター族は、戦う他に道は無い。 帝國の猟犬のごとき自らの立場を自嘲しながら、リヤジャンは懐から獣骨で出来た笛を取り出した。物悲しい音が鳴り響く。その音色を耳にした一族の男女は、途端に奇声を上げながら敵陣に突進し始めた。 矢が降り注ぐ。敵兵が頭を下げる。その隙を突いて、ドフター族の狩人たちは海辺へと突入していった。 「露霊の囁きあれ!」 リヤジャンはそう唱えると、恐るべき速さで自らも海岸へと駆けていった。 ブンガ・マス・リマ西市街 〈アグニヤー神のスカート〉通り 2013年 1月6日 15時32分 各地からの交易品を運び込むのに都合が良いように、ブンガ・マス・リマの街路は市外から中心の交易広場に向かって延びている。上空から見れば交易広場を中心に放射状に広がる街路が、まるで太陽の光条のように見えるだろう。 その中でも最も広く真っ直ぐな道が〈アグニヤー神のスカート〉通りである。大型馬車を4台並べて疾走させられるほどの幅を持つこの通りには、旅籠や雑貨屋、両替商などが軒を並べ、普段は人と荷馬車が途切れることはない。 人々は目の前でひらひらと揺れる商売のチャンスを、ある者は眺めて楽しみ、ある者はその手に掴もうと手を伸ばした。 そんなことから名前の付いた〈アグニヤー神のスカート〉通りは交易広場で他の街路と合流すると、そのまま中央商館街に架かる〈ジェスルア大橋〉へと続いていた。 いま、その街路上を異形の兵たちが進撃している。2メートルはあろうかという巨体を厳つい革の甲冑で固め、手に蛮刀や戦斧を提げた豚頭の妖魔は、帝國南方征討領軍主力のオーク重装歩兵の一隊であった。鬼面を模した大盾が周囲を威圧するかのように並んでいる。 オークたちは逃げ惑う市民を蹂躙しながら、ひたすらに南瞑同盟会議の本拠地である中洲を目指していた。その突撃は地鳴りを伴い、人の手では止められないと誰もが思った。 突如、オークの先頭が血しぶきをあげて倒れた。豚頭の妖魔兵たちは鼻息荒く周囲を見渡し、見た目からは想像出来ない素早さで大盾を並べ防御隊型をとる。指揮官は攻撃が街路の左手に建つ商館の二階から加えられたことに気付いた。 閃光と共に軽快な破裂音が響く。商館からさらなる攻撃がオーク重装歩兵たちに降り注ぐ。ずらりと並んだ鬼面が一瞬で突き破られ、何者にも負けぬとばかりに盾を掲げていたオークもまた、頭蓋や胴を砕かれた。 怯えたオークが豚の悲鳴に似た警告を発した。 「敵襲! おのれ盾が役に立たぬか。敵はあの商館ぞ。オークを突入させよ!」 重装歩兵を指揮する帝國騎士が馬上で命令を発した。さすがに妖魔の指揮に長けた南方征討領軍である。下級騎士たちがオークに命じ、妖魔兵の一団が商館に向かって突進する。 しかし、それは街路の反対側から加えられた新たな攻撃により、粉砕された。横合いからの火礫にオークはバタバタと倒れた。生き残りに動揺が走る。 「くっ、挟み撃ちか──グァッ!」 「指揮官殿!」 馬上でさらなる命令を発しようとした指揮官が、狙い澄ました一撃を胸に受け落馬した。従者が慌てて駆け寄るがすでに事切れている。敵の魔術士は恐るべき手練れである。従者が愕然とする間にも、今度は下級騎士たちが次々と撃たれていった。 「ブヒイイィイイ」 指揮官を失ったオークたちは、ただの獣に戻ったかのようだった。敵から逃れようとてんでバラバラの方向に走り出し、挟み込むように加えられた攻撃の前にことごとく打ち倒された。 「よし、いいぞ。やっつけた!」 オーク重装歩兵に攻撃を加えたのは、西市街を担当する普通科中隊第1小隊第1分隊であった。最も侵攻が容易な街路の左右に火点を構築し、十字砲火でオークの突撃を破砕したのだ。オークの巨体も革鎧も大盾も、5.56㎜小銃弾の前には、紙同然であった。 「小隊長、裏道の敵が背後に回りそうです」 「そうか、くそッ。次の拠点まで下がるぞ。向こうにも伝えろ!」 小隊長の遊佐二尉が、吐き捨てるように命じた。わずか一個小隊では全ての道を抑えることは出来ない。やむを得ず、重要な道に火点を構築し敵を迎え撃つと共に、包囲を受けそうな状況になるたび、後退を繰り返している。 遊佐の率いる小銃班は、ぎしぎしと鳴る階段を駆け下りると、〈アグニヤー神のスカート〉通りに飛び出した。反対側の建物からも部下が駆けだしてくる。遊佐は手信号で素早く命ずると、自らも次に目を付けた火点に向けて走り出した。 (もう、幾らも下がれんなぁ) 帝國軍に多大な出血を強いることに成功している遊佐の小隊であったが、変わりに広大な面積を敵に明け渡していた。あと2回も戦えば、後ろには中央商館街へと通じる〈ジェスルア大橋〉を残すのみとなるだろう。 「それに……ああ、84が使えればなぁ」 彼らにはそれを使えない理由があった。 「射撃止め! 撃つな撃つな!」 〈アグニヤー神のスカート〉通りに隣接する街路を担当していた第2分隊の隊員たちは慌てて射撃を止めた。 30メートルほど先の路上には、犬面の妖魔が蠢いている。遮蔽物に隠れることを知らないようで、射撃を加えれば容易く全滅させることが出来た。 「何で止めるんですかッ!」 89式小銃を突き出すように構え、頬付けしたままの姿勢で隊員の一人が怒鳴った。 「犬面の向こうに民間人だ。ここから撃つと当たるかも知れん」 「え? ああ、何であんな所に……」 市民の避難は遅々として進んでいなかった。西市街8万の市民に対して、邏卒と市警備隊はごく僅かで、しかも彼らは絶望的な防衛戦闘に駆り出されている。避難誘導を行う者が存在しなかった。 結果として、逃げ惑う市民の中を帝國軍の妖魔兵暴れまわっている状況が発生していた。小銃弾は容易く敵兵の身体を貫通するため、流れ弾の危険性は排除出来ない。ましてや、危害半径の大きな火器は使用することすら出来なかった。 「どうします?」銃口を下げた陸士が訊ねる。分隊長は左右を見回し、事も無げに言った。 「お前ら二階に上がれ。俺が囮になって引きつける。撃ち下ろしならなんとかなるだろう」 「分隊長も無茶だな。ヘマして転ばないで下さいよ」 「うるせぇ。お前らこそ外して俺が死んだらぶち殺すからな!」 「了解」 分隊長は部下たちが木造家屋の二階に登ったのを確認すると、妖魔に向きなおった。軽口を叩いてみせたものの、足は震えていた。 (怖ぇな。だいたい俺は犬好きなんだぞ) 覚悟を決めた分隊長は両手を振り上げると大声で叫び始めた。 ブンガ・マス・リマ西市街 ジェスルア大橋前交易広場 2013年 1月6日 16時02分 陸上自衛隊マルノーヴ先遣隊普通科中隊第1小隊長遊佐二尉は、交易広場にでっち上げたバリケードの上で通りの向こうを窺っていた。 広場に通じる幾本もの広々とした大通りには、家財道具や荷車といった品々が散乱している。それだけではない。かつてここで威勢の良い呼び込みや、楽しげな笑い声を上げていた老若男女だった「もの」も、路上に無惨な姿を晒していた。 酷い情景だった。ごく平均的な日本人サラリーマン家庭に生まれ、防大を出て任官し、自衛官となった遊佐にとって、目の前の情景は衝撃以上の何かだった。 凄惨な光景を前にした彼の戦意に陰りは無い。しかし、隣で彼を補佐する小隊陸曹は薄々気付いていた。遊佐の行動には、必要以上に我が身を危険に曝す傾向が出始めている。 小隊陸曹は僅かな危惧を持ったが、戦意を失うよりはましだろうと、取り敢えず無視することに決めていた。 遊佐は顔中に異様な量の脂汗を浮かべ言った。 「ここで食い止める。曹長、準備は?」 「各班配置に付きました。敵を火制区域に誘い込み十字砲火を浴びせられます」 遊佐は大きくうなずいた。歯をむき出し、つぶやく。 「外道どもめ。早く来い。今度こそ殲滅してやるぞ」 彼の第1小隊は、大きく戦力を減じていた。戦闘による直接的な被害は少ない。しかし、後退に次ぐ後退で一個分隊が分断され現在地不明。さらに一個分隊が敵に包囲された神殿に立てこもる邏卒隊と市民の救援に分派されていた。 現状遊佐が指揮するのは、消耗した二個小銃分隊約20名であった。彼はその大部分を広場の周囲に潜ませた。正面を守るのは彼を含め数名でしかない。 大変に度胸のいる配置である。広々とした交易広場に申し訳程度に築かれたバリケードは、オーク重装歩兵の突撃を受ければ、濡れた半紙のように容易く打ち破られるだろう。 だが遊佐はあえてそう配置した。敵がこちらを侮って突撃したところを左右からの射撃で叩くつもりだった。 彼の背後は中洲に通じる〈ジェスルア大橋〉である。ここを抜かれれば本拠地が戦火に曝される。通すわけには行かなかった。 (相当叩いたのに、次から次へと湧いて出てきやがる。三好一佐、恨みますよ……) 遊佐は敵の数と戦意に舌を巻いていた。火力も陣地構築も足りていない。結果として博打のような作戦を採らざるを得ない。だせぇ戦い方だぜ。彼は密かに自嘲した。 金属の擦れ合う音が、細波のように空気を震わせ、隊員たちに届いた。すぐに正面の〈アグニヤー神のスカート〉通りに、敵影が現れた。禍々しさを感じさせる黒の革鎧に身を固めた軍勢が、鬼面の盾を掲げつつ隊列を組んで前進してくる。 歩調はとれていないが、戦意に不足は無いようだ。兵士に指示を出す下士官の怒鳴り声が、数百の足音と混ざって隊員たちを威嚇する。 さらに左右の通りにも敵が見えた。建物から建物へ、遮蔽物を盾にして迫るのは犬面──コボルト斥候兵の群れだろう。戦闘力は低いが、高い機動力で都市に浸透するコボルトは侮れない相手だった。 さらに背の低いゴブリンの姿も見えた。蛙にも似た醜い声が通りを埋める。粗末な鎧にバラバラの武器を携えたゴブリンたちは、多くがその武器や身体に血痕をこびりつかせていた。89式小銃を構えた若い隊員が、奥歯を噛み締める。 広場に通じる通りという通りから、敵兵が押し寄せてきていた。その全てが橋を奪おうとしていた。 「射撃始め」 遊佐は小さく命じた。バリケードから散発的な発砲が始まる。微かな硝煙を残して放たれた5.56㎜小銃弾は、確実に敵を撃ち倒していく。しかし、敵の数に比してそれはあまりにも少ない。 銃弾に戦友を撃ち倒されながらも、帝國軍はじりじりと前進した。経験豊富な南方征討領軍の騎士たちは、恐るべき威力の攻撃に驚きながらもその数の少なさを看破していた。距離が確実に詰まっていく。その距離は100メートルを切った。 「各班射撃用意」 遊佐が小隊陸曹に言った。 「各班用意よし」 小隊陸曹から間髪入れず答えが返ってくる。遊佐はうなずくと〈アグニヤー神のスカート〉通りを見た。敵兵で埋まる大路。倒れ伏す市民の死体。生きているものは帝國軍だけだった。 「敵が火制区域に入り次第、令なく射撃開始。カールグスタフ用意。敵が突撃に移ったら榴弾を叩き込め」 「装填よし」 今まさに、自衛隊によって西市街最後の防衛線に仕組まれた罠が準備を整え、帝國軍に牙を剥かんとしていた。 最前列のオークが血煙を上げ、どぅと倒れた。胸に空いた傷口は小さいが、背中から大量の血を流してそのオークは死んだ。敵の魔法は分厚い鉄張りの盾も鎧も、その下の脂肪と筋肉も容易く撃ち抜いていく。信じられない威力だった。 まだ、およそ百五十歩の距離があるにも関わらず、敵は致死の光矢を撃ち込んでくる。 「たかが南瞑の蛮族風情がここまでの手練れを揃えているというのか? あれだけ軍を叩かれて?」 帝國南方征討領軍歩兵団長レフ・エギンは顔の下半分を埋める豊かな髭を震わせた。獅子を想わせるがっしりとした体躯を、機能一点張りの黒鋼製板金鎧で固めた姿は、戦場の将帥に求められる風格を十二分に備えている。 ヘルムの下から覗く瞳は、その言葉ほど興奮してはいない。むしろ口に出すことで現状を整理しようという意図さえ見えた。 南方征討領軍先遣兵団主力を預かる彼は外道を用いる立場ながら、常道の将軍でもある。 彼は経験豊富な指揮官らしく斥候兵による入念な索敵ののち、遊撃隊としてゴブリンを街に侵入させるとともに、主力のオーク重装歩兵を押し立ててひたすら中洲を目指した。 彼に与えられた任務は「敵本拠の攻略」であり、そのためには中洲へとつながる〈ジェスルア大橋〉を速やかに打通する必要がある。彼は奇をてらわず堂々と主力を前進させた。 街にろくな守備兵は残っていない。それは、西市街の大部分をあっさりと自軍が蹂躙していることが証明している。しかし、彼の元には快進撃を遂げる報告とともに、異様なまでの損耗報告が伝えられていた。 「すでにゴブリン軽装歩兵隊の二割が喪われました。コボルト斥候兵も有力な敵に遭遇し、崩れるもの多く──」 「先陣のオーク重装歩兵が壊滅、騎士 殿敵陣にて討死」 「敵守備隊は退いた模様。退き陣は素早く捕らえられません」 「敵は、少数なれど強力な魔術士が多く在るものと思われます」 散発的に伝令がもたらす報告は、時系列が入り乱れている。しかし、そのどれもが少数ながら強力な敵部隊の存在を示していた。 「どう見る?」 エギンは傍らの参謀魔導師に尋ねた。どう考えても尋常ではないと感じている。我の進撃速度が速いのは敵が素早い後退を行っているおかげだと、彼は検討をつけていた。 魔導師のローブに地位を示す徽章をつけた参謀は血色の悪い顔面をさらにどす黒い色に染め、重々しい口調で答えた。 「恐らくは……同盟会議の冒険者ギルド子飼いの精鋭でありましょう。手練れの冒険者ならばあれほどの魔術多用も考えられます」 「敵に後備はあるか?」 「こちら岸にはもはやありますまい。しかし、橋の守備があれだけとは思えませぬ」 さらに一頭、前衛のオークが倒れる。しかし、すぐさま後列が間隙を埋め重装歩兵の横陣は着実に歩みを進めていく。 「放てェ!」 後方から、弓手頭の号令に続いて弓鳴りの音がした。ザァという音を残して敵陣に矢が降り注ぐ。敵陣からの反撃は力を弱めた。弓隊による援護が敵兵の頭を抑えている。 「敵には罠があるというのだな」 「御意」 「だが、それを探る手間はかけられん。儂の手勢はひたすら押し出し、橋を打通する。サヴェリューハ閣下の魔獣兵団は敵本陣への切り札だからな」 「では?」 参謀の問いに、エギンは大音声で言った。 「我、南方征討領軍歩兵団長レフ・エギンの名の下に命ずる。全隊、突撃発起点に着き次第、敵陣にかかれ! 対岸まで止まることを許さず。敵魔術士を討ち取り誉とせよ!」 命令を受けた本陣付き軍太鼓が乱打を始めた。太鼓のリズムに合わせるように重装歩兵の歩みが早まり、地鳴りのような音を立てる。興奮したオークが唸り声を響かせ、それはあっという間に全隊に伝播した。 過去、幾多の敵勢を怯ませてきた獣の雄叫びである。 エギンは、敵陣に向けて駆け出した手勢を見ながら、参謀に言った。 「罠は〈悪疫〉どもがどうにかするだろう」 「御意」 ブンガ・マス・リマ西市街 交易広場 自衛隊特火点 同時刻 「敵主力突撃に移行。左右の助攻部隊も前進を開始した」 MINIMI軽機関銃に据えられたスコープを覗きながら、機関銃手が報告した。特火点の機関銃班を指揮する高倉二曹は、静かに前方に視線を送る。 そこには〈ジェスルア大橋〉の手前に設けられた貧弱な防御陣地に向けて突撃を開始した、異形の軍勢の姿があった。 正面の〈アグニヤー神のスカート〉通りから、豚頭の重歩兵一個中隊規模が、雄叫びを上げながら迫っている。その左右の路地からは、犬面とゴブリンが隊列も組まず、跳ねるように駆けている。合わせると一個大隊規模に迫りそうだった。 打ち捨てられた積荷からこぼれ出た穀物が埃とともに舞い上げられ、敵兵の姿を曖昧にする。見る者の心臓を締め上げるような恐ろしい光景だった。 「火制区域に入り次第、やるぞ。射撃用意」 だが高倉は冷静だった。自分の機関銃班が配置された特火点は、敵の侵攻経路をきれいに見下ろす旅籠の二階に位置している。さらに広場の反対側にも同様の特火点が設けられていた。 あらかじめ調定された火制区域に対し完璧な十字砲火を可能とする配置である。 調子に乗った化物連中は、俺と向こうの突撃破砕射撃で粉々にしてやる。 高倉は部下を見た。旅籠の窓から広場を狙う軽機関銃は3丁。さらに89式小銃がこれに加わる。敵の突撃を打ち砕くには十分な火力だ。さらに鉄条網とクレイモア等を組み合わせた対人障害を構築したいところであったが、それは叶わなかった。 慎重な性格の彼は、部屋の出入口を警戒する隊員も確認する。異状なし。隊員は親指を立てて報告した。 怒号が広場に満ちた。敵が街路から溢れ出す。手に手に武器を携えた化物が、自分たちを殺すために押し寄せてくる。高倉は小隊長の感じているであろう恐怖を想像し、身震いした。小隊長をやらせるわけにはいかん。 敵集団の先頭が火制区域に差し掛かる。 轟、という音とともに広場の陣地から白煙が伸びた。次の瞬間、敵主力の前面で炎と土煙が発生し、強烈な爆音が鳴り響いた。 カールグスタフ──84ミリ無反動砲が射撃を開始したのだ。発射された多目的榴弾は、鎧甲で固めた敵兵の真ん中に命中し、彼らをまるでプリンのように吹き飛ばした。 「射撃始め! やつらを吹き飛ばせ!」 高倉が命じた。途端に旅籠の狭い客室が発砲音で満たされた。それは、耳栓をしていてすら頭蓋に響く音だった。だが、不快なはずの轟音を、高倉は心地良く感じている。銃弾は助攻部隊のゴブリンを斜め上方から面白いように切り裂いた。 突如異方向から浴びせられた銃撃に、敵は大混乱に陥っている。突撃の勢いはみるみるうちに衰えつつあった。 高倉も、小銃を構え発砲する。混乱を収めようとする下級指揮官らしい騎士を狙った。発砲。騎士がもんどりうって倒れる。いいぞ。このまま撃ちまくれば──。 だが、部屋に響く射撃音が急に小さくなった。高倉はしばらくそれに気付かなかった。射撃に集中し過ぎたのだ。それは、致命的な誤りだった。 高倉の顔にパタパタと水が降り注いだ。妙に生温かい。高倉はとっさに雨だと思った。ぬるりとした水滴が頬を伝う。 (──雨? 馬鹿な、ここは屋内だぞ。それに射撃が止んでいる、どうした?) 「おい、故障でもしたの──」 訝しんだ彼が左を向くと、そこには首筋を切り裂かれ噴水のように血を噴き上げる機関銃手の姿があった。慌てて飛び退く。出入口を警戒していたはずの隊員が、目を見開いて事切れている。他も皆倒れていた。 部屋には彼の他に動く者は誰もいない。 「な、なんで? 何なんだ?」 高倉はパニックになりながらも小銃を室内に向けようとした。その時、目の前の空間が微かに揺らいだ気がした。 ふわり。 甘い匂いが、高倉の鼻を掠める。蠱惑的な匂い。女の匂いだ。戦場に何故? 高倉は反射的にそう思った。 次の瞬間。耳元に濃い体臭と温かな体温を感じた彼は、その数百倍もの熱さを下腹部に覚えた。下を見る。鋭利な刃が彼の腹を切り裂いていた。あっという間に膝から力が抜ける。無意識に吐息が洩れた。 「あ、ああああぁぁぁ……」 寒い。畜生。小隊長、すみませ──。 薄れゆく視界の中、高倉は刃に着いた血を払う褐色の女の姿を見たような気がした。 「特火点、沈黙しました。通信途絶」 「馬鹿な」 遊佐は呆然とつぶやいた。左右の特火点は沈黙し、連絡も取れない。やられたとしか考えられなかった。十分な戦力を配置したはずなのに。何故。 轟音。白煙を引いて無反動砲弾が敵に向かう。至近距離で爆発。熱風が頬を叩く。もう、そんな距離なのだった。 「小隊長、無理です。食い止められません!」 小隊陸曹が悲鳴のような叫びを上げた。遊佐は普段は巌の如く揺るがない陸曹長の、そんな声を初めて聞いた。 (全くその通りだ。もはや敵を防ぐことは不可能だ) 敵はすでに顔が判別出来る距離に来ていた。陣地の隊員は7名。敵は数百はいるだろう。 「つ、着け剣。白兵に備え」 遊佐は震える声で命じると、小銃に銃剣を装着した。逃げる? 冗談じゃない。あんな外道に背中を見せられるか! 女子供を殺したやつらに。俺の部下を殺したやつらに! 沸々と怒りが沸いてきた。 「可能な限り、食い止める!」遊佐は決然と言い放った。 「……降伏しても無理でしょうなぁ」それを聞いた小隊陸曹が悟ったような声で言った。 目と鼻の先に醜悪な敵兵が迫っていた。 「手榴弾!」 遊佐が叫ぶ。隊員たちは一斉にピンを抜くと、対人手榴弾を投擲した。くぐもった爆発音が敵兵の真ん中で起きた。土煙が上がり、飛散した破片が敵兵を切り裂いた。ゴブリンが悲鳴を上げて地面を転がる。正面の敵が一瞬怯む。だが、左右から敵兵が押し寄せる。 無反動砲手が機関拳銃を乱射した。犬面の兵が薙ぎ倒される。ボルトが鋭い金属音を立てて停止する。反対側から投擲された手槍が、弾倉を交換しようとした無反動砲手に突き立った。砲手は口から血を吐き、地面に崩れ落ちた。 正面の敵も態勢を立て直し陣地に迫っている。発砲。弾倉交換。発砲。誰かが倒れる。おかあさん。悲鳴が上がる。 遂に敵が雪崩込んできた。小隊陸曹が銃剣付の89式小銃を手槍のように扱い、瞬く間に三名の敵を突き倒した。しかし、直後に躍り掛かって来たオーク重装歩兵の蛮刀を受ける。防弾チョッキの肩口を深々と斬り下ろされ、小隊陸曹は仰向けに倒れた。地面に血だまりが広がる。 遊佐は銃床でゴブリンの顎を横凪に砕きながら、周囲の隊員が次々と倒れる様を見ていた。無音の景色がまるでスローモーションのようにゆっくりと流れた。 なんてこった。俺の小隊が。よりによって玉砕かよ。 「〈ジェスルア大橋〉を確保致しました。手勢を立て直し、三角州へ進軍いたします」 勝利にもかかわらず、参謀の報告はどこか陰鬱な響きを含んでいた。 「いかほど討たれた?」 「オーク重装歩兵は残兵二百余り。ゴブリンとコボルトは半数が討死にか逃散。まことに恐ろしいことで……」 「敵は僅か20名程だったというのは真か? 信じられん」 エギンは、足元に転がる敵兵の死骸を見下ろした。緑の斑模様の鎧をまとったその兵は、首が無かった。威風や儀礼を無視した異様な軍装は、軍の紋章官も参謀も全く見覚えが無かった。彼らの常識で言えば、野盗の姿に近い。 「こやつら全てが魔術士というのか? あの爆炎。魔導師並の術だぞ」 「此奴等の他に敵の姿は有りませぬ故、相違ないかと……」 「その割に、我らの隠行には気付きもせなんだが?」 ふわり。風が吹いた。周囲を固める衛兵の半数は何も気付かなかった。残り半数と参謀魔導師、そしてエギンはその存在に気付き、視線を向けた。一部の衛兵は悪霊にでも出くわしたかのような表情で、腰の長剣に手を伸ばしている。 彼らの視線の先には、艶やかな褐色の肌と、壮麗であるが同時に不吉さを併せ持つ豊かな銀髪を持つ女が、敵兵の死骸に片足を乗せ、立っていた。むき出しにされた肉感的な太ももと、厳つい革製の長靴が対照的で、見るものに冒涜的な印象を与えている。背は高い。 幅広のベルトで締められた腰には湾曲した片刃の短剣を下げ、胸は呪文のような縁取りで飾られた胸甲で守られている。だが、胸甲越しでもわかる豊満なその肉体は匂い立つような色気を放ち、周囲の兵を刺激していた。 「貴様か。隠行に気付かなかったとは?」 エギンの問いに、女は切れ長の闇夜のような瞳にいやらしい笑みを浮かべ、侮蔑するように言った。 「くふふ。まことに気付かなかったのだ。こやつらは。初歩の魔法感知すら、唱えた様子は無かったぞ。愚かよの」 女は卑しい表情にもかかわらず美しかった。ぽってりとした唇が大きく歪み、ぬるりと光る。 「ちぐはぐな術師よ。まことに面妖な敵。我らはたやすくそのそばに忍び寄り、その命を刈り取った」 楽しかったぞ。そう言って女は小首を傾げた。銀髪がサラサラと流れ、長く尖った耳が表れた。参謀魔導師が主将を守るかのように一歩進み出た。 「と、とにかく御苦労だった。敵兵の装具は我らが回収し──」 「黙れ小僧。我はエギン殿と話しておる。賢しらに口を挟むな」 「ぐっ……」 ぴしゃりと断じられ、参謀魔導師は忌々しげに口をつぐんだ。気が付けば同じ様な軍装をまとった、やはり同じく耳の尖った美しい女兵士たちが、本陣周辺に現れていた。 「うちの参謀を苛めるな」エギンが言った。 「くふ。エギン殿は部下に優しいのだな。今宵天幕に忍んでみるのもよいかもしれん」 女は蠱惑的な笑みを浮かべ、誘うように言った。 「莫迦を言え。いくら儂の肝が太くても、特務と寝る気は無いわ。そろそろ真面目な話に戻すぞ──この後〈悪疫〉はどう動く?」 女は「つれないのう」とぼやくと、細く形のよい顎をくいっと持ち上げ、三角州の方角を見た。 「〈悪疫〉は、人の在るところどこにでも忍び寄る。早よう攻め落とさんと、我らが南瞑の男どもを喰ってしまうぞ」 「ふん。南瞑のギルドマスターは、隠行程度では誤魔化せんぞ。貴様等日陰のものはせいぜい分を守れ」 その時、三角州の方角に光が迸った。その後、鈍い爆音が響き、地面が揺れる。三角州に目をやると商館街の瀟洒な建物が並ぶ辺りから黒煙が濛々と上がっていた。上空をワイアームの編隊が飛び去っていくのが見える。 「くふふ」 女が笑った。 「む」 気が付くと、女たちは消えていた。 「あれが〈悪疫〉の長、ズラトゥシュカですか。何とも据わりの悪い気分にさらせられますな」 参謀魔導師が、忌々しげに言った。 「特務、だからな。黒妖精だ。ああ見えて儂より三倍は歳を喰っとる。張り合おうと思うなよ。あれは別の世界で生きている」 「……御意」 エギンは、指揮下の部隊に意識を戻した。配下の騎士たちの努力により再編成がようやく成ろうとしていた。〈ジェスルア大橋〉にはすでに先手のコボルトが進軍を開始していた。 「さあ、サヴェリューハ閣下が来られる前に、橋を奪うのだ。兵を奮い立たせよ。旗を掲げ前進するぞ!」 本陣に漂った仄い影を振り払うかのように、エギンは努めて快活に部下に下知を下した。 ブンガ・マス・リマ東方4㎞ 陸自物資集積所 2013年 1月6日 16時08分 熱帯特有の茹だるような熱気が辺りを包んでいる。太陽はようやく傾き始めたものの、日差しは弱まる気配を見せず、必死の防戦を続ける自衛隊員たちの体力をじりじりと奪い続けていた。 陸上自衛隊が海岸に設置した物資集積所は帝國軍義勇兵団ドフター族の攻撃を受け続けている。 積み上げられた物資や資材が視界を妨げる中、陸海の自衛隊員たちは手近な資材を用いて防御陣地を構築していた。かろうじて相互支援可能な位置に複数の火点が設けられ、黒煙の中を見え隠れする敵兵に射撃を行っていた。 騒々しい銃声が空気を切り裂いた。 〈ゆら〉陸戦隊の装備するBARの射撃音だ。即席の射手がその強烈な反動を抑えかねた結果、何発かの銃弾が明後日の方向にばらまかれた。それでも銃弾は正面から陣地に迫っていたドフター族の周囲に着弾し、彼らは慌ててコンテナに身を隠した。 しかし、その左右では恐ろしく素早いドフター族の戦士たちが、物資の山を盾にしながら陣地に迫りつつあった。 〈ゆら〉陸戦隊員、安芸英太三等海曹は、ひたひたと陣地に近づく敵の姿に気付くと、中腰の姿勢で味方の側へと向かった。陣地に突入される前に撃退しなければならない。 「畜生、敵はどこだ! コンテナが邪魔でよく見えねえぞ」 「上手く入らない。入らない……」 射手は半泣きで射撃をし続けていた。相棒は土嚢の陰にうずくまり、必死に機関拳銃の弾倉を交換しようとしている。 安芸はひとつ舌打ちすると砂を蹴飛ばしながら走った。左右の砂に矢が刺さる乾いた音が鳴る。彼はそれを無視した。敵は山刀を逆手に構え、陣地のすぐ側まで忍び寄っていた。 「しっかりしろ! 助けに来たぞ」 安芸は土嚢の陰に滑り込んだ。 M3A1短機関銃を構える。敵は3名。左の毛皮をまとった男を狙う。銃口から派手な発砲炎が煌めく。胴体に向けて指切りで3発。銃弾を受けた敵が吹き飛ぶのを横目で確認しながら、素早く銃口を右に振った。 反対側からギリースーツのようなものを纏った敵兵が2人迫っていた。発砲。1人に命中し胴体に穴が開いた。小さく銃口を動かす。 「ゆっくりは滑らか。滑らかは早い」呟きながら胴体に短連射。跳ね上がる銃口を腕と背筋で押さえ込む。血飛沫が散り、敵は崩れるように倒れた。 すぐに土嚢に隠れる。数秒前まで安芸の頭が有ったあたりを、何か小さなものが貫いて行った。 安芸は呆気にとられる隊員の肩をポンと叩くと、汗まみれの紅潮した顔で言った。 「落ち着け。弾倉が前後逆だよ」 「お、お前スゲェな。怖くないの?」 短機関銃の弾倉を交換しながら、安芸はちらりとその隊員を見て、少しキツい口調で答えた。 「馬鹿、俺も怖えよ。でも、戦わねえと死んじゃうだろ!」 「ごめん」 「いいよ。それより左右から敵が来るから、ちゃんと守れ。あと、バラまいても当たんないから、短連射にしろよ。そっちのBARもだよ。すぐ弾切れになるぞ」 「わ、分かった」 BARの射手のヘルメットを小突く。射手はようやく落ち着いたようだ。ここはしばらく大丈夫かな。そう考えながら周囲を確認した安芸は、左翼で敵に突入されそうな味方の陣地を見つけた。 キリがないな。 うんざりだが行かないわけにはいかない。安芸は短機関銃を構えると、仲間を助けるために駆け出した。滑るように、とは行かなかった。砂に足をとられる。さっきよりも短機関銃が重く感じた。 当初、どうにか敵を食い止めていた即席守備隊による防御戦闘は、帝國軍の動きが変化したことにより、その流れを変えた。 帝國軍は射撃主体の戦い方を変え、海自隊員による火線をかい潜り近接戦闘を挑むことに決めたようだった。 全く妥当な判断だった。彼らは遮蔽物を活用し、黒煙に紛れて陣地に迫った。自衛隊の敵手であるドフター族は単に射撃では勝てないと判断しただけであったが、結果として自衛隊は自らの優位を失いつつあった。 整理された防御正面はあっという間に崩れ、彼方此方で敵味方が入り乱れる乱戦となった。 安芸三曹と、数名の陸自隊員が予備班として守備の綻びをカバーし続けていたものの、時間の経過と共に混乱は拡大し、次第に手に負えなくなってきている。 物資が燃えている。黒煙の隙間を縫うようにして現れる敵兵はまるで無限に湧いて出るように、安芸には感じられた。 「もう、いくらも持たんぞ!」 誰かが弱音を吐いた。それは多分に真実を含んでいた。すでに〈ゆら〉陸戦隊の半数が負傷し、後方に下がっている。陸自も同じ様なものだった。予備班が駆けずり回りどうにか戦線を維持していたものの、このまま敵の攻勢が続けば何時かは限界が訪れるだろう。 「また来たぞ!」 「撃て撃て! 敵を近付けるな!」 あれだけ撃ち倒されても、敵は恐怖をどこかに置き忘れてきたかのように突撃を敢行する。手に山刀や槍を構え、跳ねるように陣地に迫った。 安芸の右後方で悲鳴が上がる。予備班の陸自隊員が流れ矢を食らい、ひっくり返っていた。間の悪いことに安芸は弾倉交換中だった。射撃密度が低下し、正面の敵兵が急速に近づく。 浮き足立つ仲間を視界の隅に捉えた安芸は、M3A1短機関銃の残弾を確認した。残り2弾倉。あとは、シーナイフしかない。敵はすでに血走った白眼が見える距離だ。おそらく酷いことになる。下手をすれば俺もみんなもここで死ぬ。冗談じゃない。 そして、10名を超える敵がバリケード代わりの貨物パレットを乗り越えようとしたときだった。 突然、いくつもの眩い光が敵兵の眼前に現れた。手槍を振りかざした敵が雷に打たれたように痙攣する。足が止まった。 何だ? 驚いて目を見張った安芸の耳が小さな擦過音を捉えた。次の瞬間には足を止めた敵兵に次々と矢が突き立っていた。極彩色の矢羽が美しい。ドフター族の用いる短い矢とは明らかに異なる。もちろん自衛隊は弓矢を使わない。 「遅れて済まない、異界の戦士よ」 凜とした声が背後から聞こえた。女性だった。安芸は戦場だというのに、つい背後を振り向いてしまった。 「リユセ樹冠国西の一統、ヒラギ枝隊長、エリサ・ヤラヴァ百葉長だ。遅ればせながら貴殿等の後詰めに参上した」 呆気にとられた安芸の目の前には、美しいエルフの女性が立っていた。長い金髪を海風になびかせたその姿は、血と黒煙に支配された戦場に全く似つかわしくなかった。 エリサと名乗る妖精族は、萌黄色の短衣とズボンの上に革製の胸甲を着け、腰には細身の直刃剣を提げていた。胸元に飾られた木の葉を象った飾りは、彼女の地位を表しているようだった。隣に立つ小柄な少女のそれは、エリサのものよりシンプルな意匠をしている。 エルフの女性たちが、矢継ぎ早に矢を放ち、呪文を詠唱している。彼女たちはエリサを中心に布陣していた。エリサが指揮官だと安芸は思った。 「日本国海上自衛隊、輸送艦〈ゆら〉所属、三等海曹安芸英太です。救援に感謝します──でも、そこ危ないですよ!」 「ん、ああ」 エリサは背筋を真っ直ぐに伸ばし、戦場で直立していた。スレンダーなその姿は、くっきりとした眉と、意志の力を感じさせる瞳を持った顔立ちと相まって、静かな威厳を感じさせるものだった。 (でも、自殺行為だ) 安芸は彼女の身を案じた。彼は、戦場で突っ立っている奴は『死にたがり』の大馬鹿野郎だと、江田島の教官たちから叩き込まれていた。目の前の美しいエルフもその一人だと思った。 「大丈夫だ、アギ殿」 エリサは安芸を真っ直ぐ見つめ、微笑んだ。 その直後、彼女に向けて数本の矢が襲いかかった。ドフター族の手練れが放った矢は彼女の頭部と胴体に容赦なく──。 「ふむ」 「……はぁ!?」 刺さらなかった。 矢は見えない手に弾かれたかのように彼女を逸れ、見当違いの方向に飛んでいったのだった。確かに当たる軌道だったのに? 安芸はなにが起きたのかさっぱり分からず、間抜けな表情でエリサを見上げてしまった。 「何という顔をしているのだ? 矢除けの精霊魔術くらい見たことはあるだろう?」 「いや、ない……ありませんよ」 安芸は間髪入れず断言した。エリサは不思議そうな表情で言う。 「まことか? 貴殿程の手練れが、風の精霊の加護を知らぬと? 貴殿ら『ジエータイ』の戦士たちは、扱う魔術の威力の割に、素人じみた動きの者が多いように見受けられたが、貴殿はその中でなかなかの動きをしていた。それなのに初歩の精霊魔術を知らぬと申すか」 「はい。大体俺は魔法なんて使えません」 「異なことを言う。その鉄の杖から放ったものが魔術でなくて何だと言うのだ。そうであろう? 貴国の軍官から確かにそう聞いたが」 「何かの間違いです。こいつはM3A1短機関銃。使い方さえ習えば──」 「ヤラヴァ百葉長! 敵が崩れます」 答えかけた安芸の言葉を遮って、エルフの戦士が叫んだ。正面から突入を企図していたドフター族は、エルフの放つ矢と光球に撃退されつつあった。 「とにかく、ありがとうございました。助かりました」 陣地は窮地を脱しつつあるように思えた。安芸は安堵のため息をつくと立ち上がり、目の前の不思議なエルフに礼を言った。 「うむ──怪我をしている者がいるな。ラウラ! 彼らを看てあげなさい」 「はい」 傍らに控えていた小柄な少女が、控えめに頷いた。 ドフター族の戦士であるボリゾンとキコイロは、10名程の若者を連れ敵陣側まで忍び寄っていた。彼らは大角鹿を狩る時の如く風下に伏せ、辺りを覆う黒煙に紛れ僅かずつ前進した。 正直なところ恐ろしくてたまらない。彼らは戦士だが同時に狩人でもある。未知の獣の恐ろしさをよく知っていた。彼らにとって目の前の砂浜に奇妙な荷を積み上げ、鉄の杖から火礫を放つ敵の魔術士の姿は、悪魔のように映っていた。 「キコイロ、ついてきているか?」 「うむ。どうにか命を繋いでおるよ」 「あ奴らは何者じゃろうか?」 「きっと南瞑海の更に南よりいで来たる、禁忌の民ではないか?」 「よせ。悪霊が言の葉に宿る」 「すまん。……おお、あれはリユセの耳長どもか。おのれ!」 彼らが襲撃を行おうとする陣前では、すでに猛烈な火礫と妖精族の放つ矢によってドフター族の仲間たちが撃ち倒され、砂浜を血で染め上げていた。 「許せぬ。何であろうと腹を裂いてやらねば!」 大柄なボリゾンが憤怒の表情で言うと、小兵のキコイロと彼に続く若者たちも戦意を漲らせた表情で頷いた。 「あ奴らは矢除けの精霊魔術を使うぞ」 「儂が目を潰す。おぬしらはその隙に斬り込め」 精霊遣いのキコイロが告げた。ドフター族の戦士たちが力強く頷く。 「うむ。皆に露霊の囁きあれ」 「耳長を倒せ」 「悪魔を殺せ」 エルフたちが周囲を警戒し、癒し手と衛生員が負傷者を手当てしている。 安芸はエリサに尋ねた。 「ヤラヴァ百葉長。ひとつ聞いてもいいですか?」 「何だ?」 「いくら矢除けの魔術が有るといっても、そうやって身を曝すのは怖くないですか?」 安芸の問いに、エリサは胸を張って答えた。そうすると彼女は安芸より頭一つ背が高かった。 「指揮官たるものが戦場において勇を示さずして、どうして部下を統率できる?」 エリサはそこまで言うと、生真面目そうな表情をわずかに崩し、片目を瞑った。 「正直なところ、やせ我慢だな。貴殿も心当たりはあるだろう?」 その時だった。全ては同時に起こった。 エリサたちの周囲に浮かんでいた光の球が突然爆ぜた。それは瞬間的に眩い光を放ち、周囲のエルフと自衛隊員たちの視力を奪った。 「シェイド!? 精霊遣いがいる!」 「敵襲!」 リユセのエルフたちは素早く反応したが、光の球を破壊した『何か』は、暗闇を辺りにもたらした。自衛隊員に動揺が広がった。 「急に真っ暗になったぞ! 何がどうなってやがる」 安芸は素早く遮蔽物に身を隠すと、周囲を見回した。陸海の自衛隊員たちは突然の出来事に身を固くして動けずにいる。安芸だけが、襲撃を予期して動いていた。光を直視しなかったのは彼だけだった。 「闇の精霊だ。再度光精を召喚せよ」 エリサが指示を飛ばす。声には先程までは無かった焦燥の響きがある。その指示に配下のエルフたちが動き出す前に、ボリゾンたちが陣地に襲いかかった。 闇の精霊が作り出した暗闇に戸惑う守備隊とエルフたちに、手槍が投げ込まれた。優れた膂力の戦士たちによって投擲された手槍の穂先を喰らい、数人のエルフが砂浜に倒れた。 その混乱を突いて、ドフター族が突撃する。数人のエルフが細身の剣を抜き迎え撃った。何人かは食い止められたが、全てでは無い。 安芸の眼前に2人のドフター族が迫った。腰だめにしたグリースガンを撃つ。1人を倒し、もう1人も銃弾を喰らい血飛沫をあげたが、驚くべきことにその敵はそのまま体ごとぶつかってきた。 「マジかよ!」 ドフター族が力任せに振り下ろした山刀をグリースガンで受け止める。金属同士がぶつかる音が響き、手が痺れた。 銃身が曲がったか? こいつ! 安芸は左足を引き敵の勢いを受け流した。体勢を崩した相手の横面に銃把を叩き込む。ドフター族は膝を着いた。真っ赤な鮮血が砂浜に広がる。 安芸が前蹴りを叩き込むと、その敵兵は仰向けにひっくり返り、倒れた。安芸の左足に鈍い痛みが走った。 「やるではないか、アキ殿!」 エリサが、負傷した海自隊員に止めを刺そうとしていたドフター族を斬り捨てながら言った。 すぐそばで悲鳴が上がる。砂浜に座り込んだ癒し手のラウラが襲われていた。エリサが素早く反応する。細剣を水平に構え滑るように敵兵に駆け寄る。疾風のような刺突がドフター族の背中を貫く。 だが、2名斬り捨てたところで、堂々とした体躯のドフター族が長大な山刀で彼女に襲いかかった。 「呪われた耳長め! 死ね!」 「ドフター族か! しつこいぞ」 エリサは、唸りを上げる山刀の斬撃をまともに受けることはしなかった。しなやかな動きで横にかわし、鋭い突きを放つ。しかし、相手の巨漢もその体に似合わない素早さで受けて立った。 二人は互角に切り結んでいる。 「食らえ悪魔め!」 数メートル離れたところにいた男が叫んだ。砂浜が突然隆起する。その上にはエリサがいた。足を取られた彼女の肩を巨漢の山刀が浅く切り裂いた。 負傷したエリサは砂浜に倒れた。ボリゾンは彼女の細剣を弾き飛ばすと、丸太のような足でエリサを蹴り上げた。エリサは腹部に重い蹴りを受け、肺の空気を全て吐き出し呻いた。 「この野郎!」 安芸の体は自然と動いていた。目の前の巨漢に横合いから体当たりをかける。岩にぶつかったような感触。だが、何とかエリサの窮地には間に合った。もつれ合うように二人は砂浜に転がった。 巨漢が腕を振るう。とっさにガードした両腕を通して安芸の頭蓋に衝撃が走る。何て馬鹿力だ。目の前に火花が散って、安芸はエリサとラウラが倒れるそばに吹き飛ばされた。 「悪魔どもめ。露霊ドフターの名において貴様等を殺す」 巨漢が山刀を構えた。油断一つない構えだ。安芸は立ち上がろうとした。 だが、立てなかった。 「畜生、こんなときにッ!」 左足が痺れている。膝に力が入らない。特警基礎課程で負った怪我がその原因だった。彼の夢を断ったのは、ごくまれに現れるこの後遺症だった。 目の前には山刀を構えた敵兵。自分は立つことすら出来ない。周囲では仲間が次々と傷つき倒れていた。自分たちを助けに来てくれた者たちも、殺されようとしている。 死んだ運用士を思い出した。釣り好きのいいオヤジだった。腐った態度の自分を気にかけてくれていた。 板野は普通のガキだった。『今度日本に戻ったら、コンサートに行くんです。こないだチケットの当選通知が来たんですよ』と言って笑っていた。あいつも死なせてしまった。 もう、駄目なんだ。誰かが囁いた。 特警隊にもなれなかった。怪我をしたんだ。仕方がない。お前はよく頑張ったよ。もう、あきらめろ──。 それは甘美な囁きだった。あきらめれば楽になれる。 嫌だ。 安芸の腹の奥底にある何かが叫んだ。 ふざけるな。こんな所であきらめたらどうなる。『安芸英太は最期に戦うのを止めて死んだ』なんて、嫌だ。 相変わらず足は言うことを聞かない。安芸はグリースガンを杖代わりにどうにか立ち上がった。そして、吼えた。 「きやがれこの野郎! 腕の一本くらいは覚悟しろよ!」 だが、安芸の体はまともに動かず、敵兵に油断はない。どう考えても、死を免れることは出来そうに無かった。 背後に負傷したエルフを庇う安芸に、ドフター族の巨漢が襲いかかった。暴風のような勢いだ。棍棒代わりのグリースガンじゃあ、5秒と持たないだろうな。それでも安芸は最後まで受けて立つ覚悟を決めた。 安芸の耳にとても戦場には似つかわしくないのんびりとした声が届いたのは、そんな瞬間だった。 「良いですね、安芸三曹。とても良い」 その声は嬉しそうに、そう言った。 ブンガ・マス・リマ中央商館街 大商議堂 2013年 1月6日 16時25分 白亜の大商議堂は、騒然としていた。数多くの男女が行き交い、ぶつかり合い、怒鳴り合っていた。全ての人々の顔面には恐怖が滲んでいた。破産の憂き目にあった商会の夜逃げなどとは比べものにならない程の混乱振りだった。 当然か。比べる方がおかしいな。俺も平常心では無いと言うことか。 ブンガ・マス・リマ冒険者ギルド長、ヘクター・アシュクロフトはその顔に皮肉な笑みを浮かべた。愛用の武具に身を固めた彼は、防衛に関する指示を終え一息ついたところだった。 戦火はこの中央商館街にまで及ぼうとしていた。伝令が伝える戦況は、救いがない。 東市街は帝國軍の有翼蛇の攻撃を受け、市民と市街の被害は増え続ける一方であった。 西市街はさらに悪い。わずかに残っていた守備隊と邏卒隊、さらには異界から来た『ジエイタイ』が帝國軍に敗退したという報が入っている。重装歩兵を前面に押し立てた敵は〈ジェスルア大橋〉を中洲に向けて進軍し始めていた。 どこからか甲高い動物の鳴き声が聞こえた。衝撃が走る。磨き上げられた大理石の床が震え、天井に貼られた化粧板の破片がパラパラと降ってきた。悲鳴が上がる。 アシュクロフトは、それが帝國軍の空襲であることに気付いた。ついに本拠まで攻撃を受け始めたのだ。 全く始末に負えない。敵がこのような兵種を整備していたとは。 南瞑同盟会議が帝國軍の侵攻を受けるまで、有翼蛇を組織的に運用する戦術は世に知られていなかった。『魔獣遣い』の存在は、帝國の外にはほとんど知られておらず、帝國もそれを秘匿していた可能性が高い。 今までの帝國は、外部への遠征は主に西方諸侯が主力を担い、商取引も同様に西方諸侯の御用商人が前面に出ていた。そのため、冒険商人のネットワークも、この新兵種を掴むことは出来なかった。 それだけではない。情報を統合すると〈帝國南方征討領軍〉なる軍は、新たに編制された軍団らしかった。 帝國西方に封土を持つ領主たちからなる西方諸侯領軍とは異なり、〈南方征討領軍〉は帝國内で虐げられていた民族や、罪を問われて地位を失った者たちでつくられているらしい。 つまり、〈征討領〉とは南瞑同盟会議を指すのだ。『生きる土地が欲しければ、戦って勝ち取れ』ということであった。 リユセの耳は何らかの兆候を掴んでいたようだが、それを形にする前に侵攻が始まったため、全てが後手に回っている。 その結果が、このザマだ。 ブンガ・マス・リマは陥落の危機に立たされていた。それは商業同盟としての南瞑同盟会議の敗北を意味する。自警軍は壊滅し、商人の半数は逃げ出していた。 最後に残った僅かな戦力の指揮を任されたアシュクロフトは、悪足掻きにも似た防衛戦闘に臨んでいるのだった。 幸い、東市街はどういうわけか敵の侵入をまだ受けていない。アシュクロフトは残った守備隊を〈ジェスルア大橋〉の防衛に投入することが出来た。 とはいえ、その内実は悲惨なものだった。 『ブンガ・マス・リマ義勇防衛隊』と名付けられた200名程の部隊は、一握りの冒険者を除けば、商会や有力者の使用人、丁稚、小間使いなどをかき集めた素人集団に過ぎない。その中には年端もいかぬ子供が多く含まれていた。 俺は、子供たちを駆り立て、オークや有翼蛇と戦わせている。カサード水軍総督の部隊が整うまでの捨て石として。最後の『救い』が訪れるまでの時間稼ぎのために、死ねと命じているのだ。 アシュクロフトは耐えられない何かを感じ、天井を見上げた。陣頭指揮は参事会に固く禁じられている。彼は戦って死ぬことすら、許されない。 「あ奴ら、まだいるのか」 ある参事が吐き捨てた言葉が、アシュクロフトの耳朶を打った。その言葉の示す者たちは、会議場の片隅に机と椅子を持ち込んで、何かよくわからない箱を積み上げていた。 〈ニホン〉の使節団である。当初は救世主のように思われていたが、帝國軍の侵攻を受けても頑なに参戦を拒絶する態度に加え、戦闘に巻き込まれた〈ジエイタイ〉の小部隊があえなく壊滅したとの報告が入ったことで、同盟会議の半数からは厄介者として侮られ、扱われていた。 もう残り半分(水軍やリユセ樹冠国といった者たち)はといえば、〈ニホン〉国に好意的な態度を維持していたものの、帝國軍への対応で手一杯といった状況だった。 好意的な態度をとる側の一人であったアシュクロフトは、〈ニホン〉の使節団に歩み寄ると柔らかな口調で声をかけた。 「〈ニホン〉国使節団長閣下。残念ながらこの大商議堂も安全とはいかなくなりました。貴国の軍船へ御退きなさっては如何か?」 それは心からの言葉だった。間違いなく文官であるムライという名の使節団長の身を案じていた。今なら洋上の軍船に逃げることも可能だろう。厄介な戦に巻き込んでしまって申しわけない、という想いからの言葉だった。 「これはアシュクロフト殿、温かい御言葉痛み入ります。ですが、いささか心外ですな」 好好爺然とした使節団長は、にこやかに答えた。周囲を濃紺色の鎧と透明な大盾(一体何で出来ているのだろう?)で身を固めた重装歩兵に守られている。 「心外、とは? 何かお気に障りましたか?」 「今、このブンガ・マス・リマは苦難の時にあります。そのような時に私だけ安全な場所に避難して、どうしてあなた方の信頼を得られましょうか」 「しかし、〈ニホン〉国は執政府の許しが無く、参戦出来ぬと伺っております。恥ずかしながら我らの力及ばず、帝國軍を止めること能わずというのが現状です。ことによればムライ閣下の身に危害が加わるやもしれません」 地響きが鳴り、商議堂が揺れた。どこかでステンドグラスの割れる音がした。アシュクロフトとムライはそれぞれ天井を見やり、その後互いの視線を合わせた。 「その件については、ずいぶんと気を揉まれたことでしょう。ですが、すでに我が国は当事者となっております」 その時、会議場に〈ニホン〉の武人が駆け込んできた。緑色を基調とした斑の鎧は兵と将の区別がつきにくい奇妙な物だ。武人はムライに耳打ちすると、そのまま彼の背後に立った。 ムライは頷くと、まっすぐにアシュクロフトを見つめた。柔和な印象の丸顔に配置された小ぶりな瞳には、何故か少年のような光があった。 アシュクロフトは、場違いなその表情をいぶかしんだ。 「ムライ閣下、どうかされましたか?」 「ええ。ようやく準備が整ったようです。アシュクロフト殿」 ブンガ・マス・リマ東方4㎞ 陸自物資集積所 2013年 1月6日 16時27分 「良いですね、安芸三曹。とても良い」 ひどく乾いた咳込むような短い銃声が、驚くほど近くで響いた。目の前の巨漢の胸の中央に赤い染みが生まれる。憤怒の表情を浮かべたドフター族は、胸に受けた衝撃にぐらつきながらも前へ進もうとしていた。しかし、その直後に彼の右目付近は石榴のように爆ぜた。 この時になって安芸はようやく背後を振り返った。負傷したエリサが座り込む向こうに、風にそよぐ柳のような印象の男がM4カービンを構えていた。ツーマンセルを組む隊員と油断無く周囲を警戒し、安芸たちを援護できる位置に着く。 周囲ではやはりM4カービンを構えた隊員たちが、陣地に突入してきたドフター族を駆逐し始めている。その動きは完全に統率されており、澱みも迷いも無かった。慌てふためき逃げ出そうとしたドフター族が、額を撃ち抜かれて倒れる。どこかに狙撃手がいるらしい。 「何とか間に合いましたね。よく頑張りました」 安芸はその声に覚えがあった。ただ記憶の中にある声の主と、目の前の男が同一人物だとは到底思えず、安芸は目を白黒させた。 「す、鈴木二尉?」 「正解です」 ブーニーハットのつばの下、ドーランで擬装されたその顔は、確かに陸自通信教導隊所属を名乗って〈ゆら〉に乗艦していた鈴木二尉のものだった。糸のように細められたその瞳は穏やかな光を讃えている。 柔らかな物腰は〈ゆら〉の甲板で話したときのままであったが、安芸の細胞内に刻み込まれた訓練の記憶が目の前の男の本性を敏感に察知していた。 「……特戦群だったんですね」 「君のその反応を見るに、我々の擬装もなかなかのものだったようです」 鈴木二尉たちは、通常の隊員とは明らかに異なる装備を身に着けている。彼らが迷彩服3型の上にプレートキャリアを装着し、構える小銃が89式小銃ではなくカスタムされたM4カービンである時点で、安芸はその正体の見当をつけていた。 陸上自衛隊特殊作戦群──陸上自衛隊員16万人の中から選りすぐられた最精鋭の特殊部隊である。第1空挺団を始めとする猛者ぞろいの習志野駐屯地内においても一際異彩を放つこの集団は、1998年の研究開始から現在に至るまで、日本国内外で密かに刃を研ぎ続けていた。 その任務の性質上、部隊の詳細は秘密のベールに包まれ、噂話が僅かに漏れ聞こえる程度である。だが、安芸は確信した。目の前の男は、間違いなくその一員であった。 何より彼らの戦いぶりが証拠だった。へたり込んだ安芸の目の前で、いとも容易く──それこそ朝のゴミ出し程度の仕事であるかのように──彼らは次々と敵を屠っていった。 一人一人が優れた狩人にして戦士であるドフター族にとって、それは悪夢のような出来事であった。 突如現れた敵兵は恐るべき兵たちだった。猪を絞め殺すほどの力を誇ったドフター族の戦士、ボリゾンは頭を吹き飛ばされ死んだ。周囲の同族たちもまた次々と殺されている。 キコイロに打つ手は無かった。 敵は誰一人として一人では無かった。常に仲間同士で互いの死角を守り、一つ処に止まらず、ドフター族の戦士たちを押し包むように動いていた。キコイロたちの抵抗を嘲笑うかのように敵は攻撃を加え、その呪具(彼にはそう見えた)が火を吐く度に仲間が倒れていった。 奴らは繋がっている。キコイロは戦慄した。まるで巨大なヒュドラを相手にしているようだ。信じられん。元々陣を守っていた連中とは格が違う。やはり悪魔に違いない。 それでも、諦めを知らない狩人である彼が新たなシェイドを召喚しようと印を組んだその時、目の前に敵兵が現れた。砂浜にもかかわらず、全く上半身をぶらさずスルスルと迫るその姿は、まるで森の化身のような緑の斑色をしていた。 キコイロは己を殺すであろう敵兵の顔を見た。黒土色のその顔は、奇妙に平坦で輪郭がはっきりしなかった。眼光だけがキコイロを射抜いている。そこに、如何なる感情も見出すことが出来なかった。およそ人とは思えない。 もしや、こやつらは露霊ドフターの化身ではないのか? なれば我らが敵わぬのも道理。愚かなことをしたものだ。 そこまで考えたキコイロは、胸に激しい熱を覚えた。視界が赤く染まり、地面が消え失せた。 「集積所内の敵兵、掃討完了」 「了解。損害は?」 「無し。守備隊の負傷者を収容しました」 「外縁部に警戒線を構築。警戒に当たれ」 鈴木二尉は手短に命令を下すと、安芸の傍らに片膝をついた。もとより細い目を糸のようにして笑う。そうすると、さっきまで纏っていた鋭い古刀のような殺気がスッと消え去った。 「物資集積所が攻撃を受けたという無線を受けてすぐに引き返したんですが、会敵を避けながらだったので少々時間がかかってしまいました。危ないところでしたね」 「危うく全滅する勢いでした。そういえば陸自管理小隊の松井一曹は無事ですか?」 「ええ。周辺の味方は全て救出しました。敵はどうやら狩猟民のようですが──」 鈴木の言葉を受けて、隣でラウラから肩の治療を受けていたエリサが口を開いた。 「ドフター族だ。森の露霊を崇める瓢悍な部族だ。我らとは仲が良いとは言えぬ。やっかいなことだが、奴らの精霊魔術は侮れん」 「では、先ほどの『暗闇』も?」 「闇の精霊を喚んだのだろう。あそこに遣い手が転がっている」 エリサが視線を向けた先には、小柄な男が目を見開いたまま倒れていた。 「なるほど。敵情にあった『義勇兵団』ですかね……」 鈴木は何か思案するような表情を浮かべた。エリサが背筋を伸ばし、そんな彼を真っ直ぐ見つめながら言った。 「スズキ殿。救援感謝する。貴殿らの後詰めなければ我らはここで果てていた……それにしても貴殿の隊は恐るべき手練れ揃いだな」 エリサは感心したように言った。安芸は心中で(そりゃそうだ。特戦群だぜ)とつぶやいた。 「いえいえ。我々もまだ未熟です。同業者のトップに追いつくには、やることも多い」 「ふむ。謙遜も度が過ぎると嫌味だぞ」 そう言ってエリサが笑った。その笑みには敬意と感謝が表れている。鈴木二尉も笑っていた。それは、とても自然な笑顔で、安芸は少しだけ面白くないと思った。どうしてだろう? 彼は自分の中に生まれた感情に戸惑っていた。嫉妬? いや、何か違う。そんな感情じゃあない。俺は……。 そんな時だった。 「アキ殿。貴殿にも感謝を」 安芸は意表を突かれた。慌てて顔を向けると、そこには朗らかに笑うエリサの整った顔があった。 「い、いや……結局俺じゃあ守りきれなかったわけだし、感謝されることもない、です」 「わたしは確かに貴殿に救われた。それに、結果が問題ではない。その心映えに礼を言いたいのだ、わたしは」 安芸は顔が熱くなるのを感じた。くすぐったいような、嬉しいような、そんな気分だ。 にこにこと笑いながら、鈴木二尉が後を受ける。 「そうですよ、安芸三曹。窮地においてあきらめないこと、それが大切なのです。君にはそれがあった」 鈴木二尉の言葉を聞いた途端、今度は安芸の身体の真ん中が熱くなるのを感じた。久しく無かった感覚だった。 「ただし、まだまだです。足が動かないくらいで考えるのを止めてはいけません。最期の最期まで、全てを用いて敵を倒し生き残ることを考え、行動しなさい」 「はいッ!」 諭すような鈴木の言葉に、安芸は年齢相応の初々しい調子で返事を返した。エリサはその様子を穏やかな表情で見ている。 「さて、我々は出発します。ようやく味方が反撃に出るようです。この周囲はもう大丈夫でしょう。君は海自隊員をまとめて、態勢を整えなければなりません。母艦の皆さんも心配している」 北西の方角から73式装甲車が砂塵を巻き上げながら走って来ていた。陸自の救援部隊らしい。態勢を立て直した後方支援隊の隊員も、周囲に展開を始めている。 安芸は鈴木二尉に尋ねた。 「どこへ行くんですか?」 その問いに鈴木はニヤリと笑った。 「私たちは通信教導隊ですからね。そりゃあ、広域通信設備の適地を探しに行く。そういうことにしておいて下さい」 全く白々しい口調だった。奥地に入っていくことに間違いはないのだろう。しかし、それは通信設備の適地探しなどという任務では有り得ない。後方攪乱や長距離偵察、もしかしたら人心獲得作戦に就くのかも知れない。 安芸はそれがあまりに過酷な任務であることを思い、身震いした。ここは地球上ですらないのだ。 思わず背筋が伸びる。 「了解しました。どうかお気をつけて!」 「ありがとう。将来、君がこちら側に来ることを期待していますよ。じゃあ、行って来ます」 鈴木は事も無げにそう言うと、高機動車に乗り込みあっという間に森の向こうへと消えていった。集積所の周囲を一分の隙もなく固めていた他の隊員も、いつの間にか居なくなっている。その手際が鮮やか過ぎて、安芸は思わず吹き出してしまった。 鈴木の言葉に想いを馳せ、苦い笑いを漏らす。森の方角を見つめる。安芸は思った。 俺はもう『そちら側』には行けないんですよ、鈴木二尉。 「何という根腐れ顔をしているのだ」 ドスン。結構な勢いで背中をどやされ息が詰まった。エリサの掌だ。負傷していたはずだが、すっかり治ってしまっている。戦衣は破れ真っ白な肩が覗いていたが、傷痕はどこにも見当たらない。 「ん? これか? ラウラは枝隊一の癒し手だ。我ら西の一統を見渡しても、なかなかのものだぞ。そういえばアキ殿も怪我をしていたな。見てもらうといい──ラウラ」 「はい、ヤラヴァ百葉長」 エリサに呼ばれ、控え目な印象の少女がしずしずと前に進み出た。そのまま安芸の身体に手をかざし、何かを唱え始める。安芸は居心地悪そうに固まるほか無かった。 密かに彼の腰は抜けていたのだった。張り詰めていたものが途切れたからだろう。どうやっても立ち上がれそうにない。情けない限りだったが、どうしようもない。 安芸は祈った。どうか皆が気付きませんように。だが── 「ふむ。アキ殿はまだまだ苗木だな」 どうやら、この辺りに安芸英太3曹の願いを聞いてくれそうな神様はいないようだ。安芸はエリサの意地悪い笑い声を聞きながら思った。 八百万の神様もサポート圏外か。そりゃ、ここは異世界アラム・マルノーヴだもんな。 ブンガ・マス・リマ東市街 2013年 1月6日 16時15分 『魔獣遣い』バクーニンは、苛立っていた。顔に当たる合成風すら気に入らない。彼は蛮都ブンガ・マス・リマの上空を翔る翼龍の背で、地表を逃げ回る小癪な蛮族どもを追い立てていた。 鈍い痛みがこめかみに響く。頭が重く目の焦点も乱れがちであることをバクーニンは自覚している。彼は腹に力を込めると、強引にそれを無視した。理由は分かっていた。 「ちょろちょろと逃げ回りよって! いい加減観念せぬかッ!」 彼の追っている蛮族どもは、商都の路地を無様に逃げ回っている。ワイアームの圧倒的火力の前にそれは当然のことなのだが、問題はなかなか止めを刺せないことであった。 やたらと早く動く馬車を用いる敵は、巧妙にワイアームの火焔攻撃を避けながら、光る飛礫を打ち上げてくる。 思わぬ反撃を受けたワイアームは、当初の三個編隊15頭から、1頭が墜とされ2頭が彼の支配下を離れてしまっていた。 屈辱という他はない。 『魔獣遣い』は、特殊な魔術を用いて通常は御する事が不可能な魔獣を使役する者を指す。彼らが使役する魔獣は多岐に渡っている。戦場での有用性に目を付けた帝國本領では今も様々な試験が行われていた。 剣歯虎やヘルハウンド、人喰鬼に並ぶ帝國南方征討領軍主力としての地位を誇るのが、バクーニンたちの操るワイアーム(有翼蛇)である。 魔獣と『魔獣遣い』は思念波で繋がっている。魔獣は『魔獣遣い』の送る思念波の支配を受け行動する。その数や巧拙、思念波の到達範囲などは全て『魔獣遣い』本人の能力に依存する。 よって、技量卓越した『魔獣遣い』に操られた魔獣は、恐るべき兵器となった。 しかし、欠点も存在する。有る程度の感覚を共有することが出来る(彼らは使役する魔獣の視覚から情報を得られた)ことは、利点でもあったが彼らに大きな負担を強いた。 二つの感覚は人間を容易く疲労させる。そして、使役される魔獣に危害が加えられると、その際に魔獣が発する『悲鳴』が、『魔獣遣い』本人にフィードバックされてしまうのだった。 この感覚は『魔獣遣い』大いに不快な感覚であり、場合によっては彼らに積極的な交戦を厭わせる要因にもなっていた。 バクーニンは、蛇に幾度も襲撃機動をとらせていることによる疲労に加え、蛮族の反撃による被害に頭蓋を痛めつけられていたのだった。 「どうだ! やったか!?」 大路を逃げる蛮族に緩降下攻撃を終了した4頭編隊が上昇に移る。細長い胴体をくねらせて飛ぶワイアームの下の路上では、火災が広がっていた。その様子を斜め上方から見下ろすバクーニンは、先程までとは異なる手応えを感じていた。 (此度は敵のかなり近くに弾着したぞ)ワイアームのガラス玉のような瞳を通して伝わった映像では、火焔弾が敵の車列のすぐそばに降り注いだように見えていた。 ワイアームが左に旋回し、高度を稼ぎ始めた。彼はその編隊に到達すべき高さを念じた後、上空で待機中の蛇に意識を向けた。火災が起きている辺りを見下ろす。路上で馬車が燃えているように見えた。横転した車のようなものも見える。 ええい、煙が邪魔でよく見えん。バクーニンはもどかしさに苛立ちを強めた。 「おい、高度をさげろ!」 バクーニンは勢い込んで叫んだ。前の鞍に跨がる翼龍騎兵が革製外衣で着膨れた身体をひねった。 「バクーニン殿。それは危険です。敵の飛礫が届きます」 「莫迦者! それぐらいは分かっている。上手く加減せよ。この位置では遠すぎて敵が見えぬと言っているのだ」 「は、しかし……」 バクーニンは激昂した。翼龍騎兵の耳元で怒鳴る。 「貴様等、何のための護衛か! 我に仇なす敵を屠るのが役目では無いのか! 臆したか!」 辛辣な言葉に騎兵の顔色がさっと紅潮した。 「そこまで言われては、翼龍騎兵の面目が立たぬ。我らが臆病者でないことをお見せする!」 言うやいなや、翼龍騎兵は手綱を引いた。翼龍はひと鳴きすると、薄く大きな翼を縮めると左へ胴を傾ける。バクーニンの顔に当たる合成風の勢いが増し、耳当てを突き通してひゅうひゅうと風の音が耳に響いた。 バクーニンの乗騎を中心に綺麗な陣形を組んだ翼龍騎兵たちは、見事な機動を描いて燃え盛る商都へ高度を下げ始めた。 (つべこべ言わずやればよいのだ。莫迦め) バクーニンは心中で騎兵を罵りながら、ワイアームに思念波を送った。彼は尊大で傲慢な漢だが、直接地表近くを飛ぶような莫迦ではない。待機中の編隊に大路を低空で飛ぶよう指示を出す。 それは地球側の戦術で言えば、ガンカメラによる戦果確認に相当するだろう。もちろん、戦果不十分であれば、そのまま襲撃を実行すればよい。バクーニンはそう考えた。 炎を激しく吹き上げながら、高機動車が鉄くずに変わりつつあった。火焔弾の直撃を喰らい、荷台が溶けている。右タイヤが熱でパンクを起こし、車体が大きく傾いでいた。 路上は敗北を絵に描いたような有り様であった。高機動車の前方には、放置された荷物に乗り上げ横倒しになった軽装甲機動車があった。バクーニンが有翼蛇の視界越しに確認したのはこの風景である。周囲には人影が点々と倒れていた。 軽装甲機動車から数メートル先の民家が大きく傾いでいる。一階の商店部分が何か大きなものが突っ込んだのだろう。酷く壊れていた。その、一階部分で何かが動いた。 「──行ったか?」 「大丈夫です、やり過ごしました」 「ヤバかったな」 慎重な態度を崩さないまま、ひとりの男が顔を出した。迷彩柄の88式鉄帽が左に傾いていた。彼──権藤二曹はもう一度周囲を確認すると、ようやくがれきの中から這い出した。 右手をあげる。そうすると、周囲の民家やがれきの中から、ぞろぞろと陸自隊員が現れた。炎上する高機動車や、軽装甲機動車に乗っていたはずの男たちである。 「畜生、燃えちまった」 陸士のひとりが幌のあらかた焼け落ちた車体を見て言った。 「仕方ねぇよ」別の隊員が渋い顔をする。 彼らは、小隊長川島二尉の指示で、あらかじめ車両を放棄し、民家に退避していたのだ。そのおかげで彼らの体と必要な装備は無事であった。しかし、彼らの周囲には命を落とした民衆の無残な姿がある。助かったことを素直に喜ぶ者は誰一人としていない。 「おい、感傷は後にしろ。小隊長が囮になっているんだ。時間がない」 権藤が部下をどやしつける。隊員たちは埃まみれの体を払うひまもなく、崩壊しかけた商店に駆け寄った。商店を破壊したのは敵の有翼蛇ではなかった。 そこには96式装輪装甲車がめり込んでいた。丁寧な擬装を行う余裕を失った彼らは、家屋にめり込ませることで有翼蛇の目を逃れたのだった。 後部ハッチが開けられ、中から筒状の装備が引っ張り出される。合計で3本が取り出され、隊員たちがごそごそと操作を始めた。 「権藤二曹。準備出来ました」 彼らが準備したものは、91式携帯地対空誘導弾であった。電源が投入され、シーカーが冷却を完了する。 91式携帯地対空誘導弾は、国産の携帯式防空ミサイルシステムである。赤外線パッシブ誘導と可視光画像認識を組み合わせた意欲的なミサイルシステムで、普通科や機甲科の自衛用対空火器として装備されている。 防空火力に乏しいマルノーヴ先遣隊におけるささやかな『傘』であった。 権藤は黒煙の向こうにあるはずの青空へ双眼鏡を構えた。肉眼では小さな点だが、拡大された画像では羽根を持つ生き物とその背に跨がる人間の姿が確認できる。 川島二尉と権藤二曹は、敵の有翼蛇は何らかの手段で誘導を受けていると推測していた。そして、おそらくそれは戦場の遙か上空を旋回する何者かによるものであろう。彼らの意見は一致している。 権藤は傍らの若い陸曹に尋ねた。小隊一射撃が得意な男だ。 「殺れるか?」 「機関銃は無理ですね。当たりません。PSAMなら届きますが、奴らかなり機動性が高いです。かわされるかも知れません」 「かわされたら、反撃がくるな。そうなったら全滅だ」 権藤は唸った。射手の意見は正しいように思えた。彫りの深いくっきりとした顔立ちを歪め思案する。あと一手。敵の意表を突くための何かが必要だ。91式の性能に不安は無い。だが、敵の能力も分からない。 権藤は無線手を傍らに呼び、隊内系で囮役を買って出た上官を呼び出した。歪んだ音声が返ってきた。揺れる車内のエンジン音と運転手の罵声が聞こえる。信じられないことに声色は楽しげだった。驚いた。えらくハイな状態だ。何考えてやがる? 『おう! どうだ?』 「小隊長! このままじゃ撃てませんよ」 『分かって──こらそこ右だ右! すぐ後ろについてんぞ! 状況はわかっている。確実に当てんとな』 「どうするんです?」 何かが壊れる音が無線機の向こうで聞こえた。権藤は流石に心配になった。 『あと、五分待て。奴らをびっくりさせてやる。……権藤二曹、敵に指揮官らしい奴はいたか?』 「おそらくそうだろうという奴なら」 『よし。敵が乱れたら3基とも撃て! 成功ならよし。失敗ならその場からにげること!──よし、おいあそこだ! あそこに突っ込め! ビビるなよッ、お前族上がりだろうが!』爆発音。 「小隊長?」 『……敵が乱れたら撃てよ! 頼むぞ権藤、終ワリ!』 頼むぞってなぁ。小隊長あんたどうやって敵を驚かせるつもりなんだ? 権藤は半ば呆れる思いだった。しかし、他の隊員と同様に真面目で人並みに優しい男である彼は、街を襲い続ける敵を倒すために手を抜く訳にはいかなかった。長年の勤務で鍛えた大声で部下を動かす。 「五分後に敵を撃つぞ! 携SAM射手は向かいの屋根に上がれ。他は周辺警戒。もたもたするな! 小隊長を殺す気か! 装甲車はまだ動かすな。建物が崩れちまう」 権藤二曹に怒鳴られた隊員たちは、大急ぎで射撃準備を整えた。 第2小隊長川島二尉は、揺れる73式小型トラックの車内で、端から見ればこれはどうかと思われるほどの明るい態度で指示を飛ばしていた。 後方確認のため幌を取り外したことで、彼の目からは迫り来る有翼蛇がよく見える。73式の後ろには高機動車がタイヤを鳴らしながら続いていた。 「来たぞ来た来たッ! よし逃げろ逃げろ!」 川島は右腕を振り回しながら運転手を急かした。運転手は半ばハンドルにかじりつくような姿で、前方を見つめている。商都の路上は整地されてはいたもののあちこちに物が散乱していて、気を抜けばたちまち横転だ。 運転手の血走った瞳は大きく見開かれ、口からは「もういやだ、もう沢山だ……」という呪詛に似た呟きが漏れていた。 有翼蛇の編隊は、20メートル程の高度を背後から迫っていた。不気味にうねる姿が急速に大きくなる。川島は慎重に距離を測ると前を向いた。道が左右に分かれている。左の先はちょっとした広場になっていた。 「もっと発煙筒焚け! 発煙筒!」 川島が手振りで示すと、高機動車の隊員が荷台で手持ちの発煙筒を点火させた。幌の隙間から赤い煙が濛々と立ち上る。僅かでも視界を誤魔化せられれば。川島は願った。敵が光学系による誘導をしているかどうかも不明だったが、やれることは全てやるつもりだった。 「左へ行け!」 半ばヤケクソ気味に運転手がハンドルを切り、車体が大きく右に傾いだ。有翼蛇はすぐそこだ。金切り声が響き、くぐもった飛来音が聞こえた。 来た! 彼がそう認識するのと同時に熱風を伴った赤い光が頭のすぐ上を通過し、73式小型トラックの前方5メートルに炎の柱が起立した。 「ひいぃいい!」 運転手が情けない悲鳴をあげる。黒煙混じりの火柱は炎の壁となって73式小型トラックを包む。フロントガラスが赤熱し、ゴムの溶ける焦げた臭いが鼻腔を突いた。肌が焼ける感覚が、彼の焦燥感と奇妙にシンクロしていた。 このまま逃げ切れる筈も無い。それは分かっている。炎の壁を抜けるのと同時に一瞬空が暗くなった。手の届きそうな高さを、有翼蛇が追い越していく。ぬめるような光沢の鱗が川島の原初的な嫌悪感を喚起した。 車体の振動が激しくなった。それも、不規則な揺れに変わっている。 「タイヤをやられました。この速度では走れません、小隊長!」 煤で真っ黒になった運転手が悲鳴のような報告をあげた。前方には広場。有翼蛇は? くそ、また引き返してくるつもりだ。余程しつこい奴だな、操っている野郎は。 仕方ない。いい加減覚悟ってやつを決めるか。 川島の73式小型トラックと高機動車は、広場に進入するとよたよたと停止した。車内から慌てて隊員が飛び出でてくる。パンクした車両は、捕食者から逃げるのに疲れ生きるのを諦めた草食動物の姿に見えた。 バクーニンに操られた有翼蛇の編隊は、第2撃目の4頭が進入経路に乗りつつある。もう編隊と呼ぶに値しない程乱れた横陣ではあったが、地上を焼き払うのには充分だった。地上からの反撃は無い。 川島は、傾いた73式小型トラックの荷台に立ち、自分に向けて突っ込んでくる有翼蛇を睨んでいる。足が震えるのが分かる。 奴らの吐く炎はナパーム弾──油脂燃料焼夷弾のように全てを燃やしてしまう。邏卒詰め所で焼かれた子供たちの姿が脳裏に浮かぶ。 さっきまでのハイな気分はどこかに吹き飛んでしまっている。 「小隊長! 装填よし! 早く逃げてください」 高機動車を逃れた隊員が建物の陰から叫んだ。いや、未だ駄目だ。 「よし、俺の号令で撃て!」 川島の瞳はすでに有翼蛇しか捉えてはいない。慎重に距離を読む。彼は隊内系無線機の送話器を掴むと、密かに準備を整えている筈の権藤二曹に呼びかけた。 「権藤、仕込みは終わったぞ」 『小隊長、いつでもいけます。種明かしは無しですか?』 「すぐに分かるよ」 川島は唾を飲み込もうとした。口内はカラカラに渇いていて、喉が変な音を立てただけだった。 蛇の視界が広場に停車した敵の馬車と、その上に立つ蛮族の姿をバクーニンに伝えていた。観念したか。彼は嘲りを浮かべると、必中を期して思念を集中した。単一色で描かれた街と敵兵が、彼に焼き払われるのを待っていた。 あとは、火焔を放つタイミングだけだった。あいつを吹き飛ばしたら次は港の船だ。バクーニンの乗る翼龍は3騎の護衛を従え、青空に大きな螺旋を描いた。 青空に浮かんだ染みは、少しずつその輪郭を明らかにした。紐のような胴体に一対の羽。蝙蝠のような形のそれはゆったりと羽ばたいている。川島から見た有翼蛇の編隊は、歪な傘型を描いて真っ直ぐ彼に近付いていた。 神様仏様、どうか俺の目測が正しい値でありますように。 川島は心中で唱えると、有翼蛇の距離を読む。500メートル。彼は決心した。 「ハチヨン、撃て!」 くぐもった発射音が、広場脇の建物そばで響いた。盛大に噴き出したバックブラストが背後の地面を叩き、土煙が派手に舞う。仰角をつけて発射された口径84㎜の弾丸は秒速260mで有翼蛇へと突進した。 約1.2秒後。時速約300㎞で飛行する有翼蛇の前方約52メートル付近で、あらかじめ調定された弾頭が点火した。 「がぁッ!?」 バクーニンは眼球の奥に強い痛みを覚え、思わず顔を背けた。白と黒、その濃淡で輪郭を明らかにしていたワイアームからの画像が、全て白色で染められたのだった。 彼本来の視覚は、支配下の有翼蛇たちが向かった先にまるで小さな太陽の如き光が生まれたのを見ている。65万カンデラのその光は、彼をはじめとする飛行騎兵団の男たちを圧倒するに十分であった。 まして、鼻先で暴力的なまでの光を叩きつけられたワイアームたちは、狼狽というレベルに収まらない。生物としての本能が、瞬間的にバクーニンの統制を打ち破る。その結果は、様々なものであった。 最左翼の蛇は光から逃れようと高度を下げた結果、商家の二階にその身体を叩きつけ、グシャグシャの肉塊と化した。中央の2頭は上昇を選んだ。それは、多大な労力を必要とする機動で、ワイアームは襲撃の針路を完全に外れてしまった。 最右翼の1頭は、防衛本能が最も攻撃的に働いた。そのワイアームは眼前に現れた光の球を敵と認識し、喉をごろりと鳴らすと火焔弾を立て続けに放ったのだった。 火焔弾はパラシュートにぶら下がり降下するILLUM545照明弾の脇をすり抜け、広場に停まる73式小型トラックへと飛翔した。 「な、何事だ!? 何が起きた!?」 目元を押さえて喚くバクーニンが、支配下のワイアーム全てが混乱し、てんでバラバラな動きを行っていることに気付いたのは、照明弾が路上に落下した後のことだった。時間にして僅か数秒。だがそれは、致命的な数秒であった。 連続した電子音が鳴り続けている。91式携帯地対空誘導弾が、食らいつくべき敵を捕まえた知らせだった。十分に冷却されたシーカーが目標をロックオンしていた。 川島二尉が言ったとおり、敵は混乱している。今以上の好機はおそらく無かった。川島二尉の献身により万全の準備でそのときを迎えた3基の91式携SAMは、号令を待つばかりだった。そして、権藤二曹にむやみやたらと勿体ぶる癖は無い。 「目標敵──飛行生物。撃て!」 射出音と共にランチャーから細身の弾体が次々と飛び出した。ミサイルは射手から十分な距離が離れた時点でロケットモーターに点火。微かな白煙をひきながら猛烈な速度で赤外線シーカーが導く敵の元へ大空を駆け上がっていった。 権藤は、祈るような気持ちでそれを見送った。 翼龍騎兵の一人がそれを見つけることが出来たのは、厳しい訓練の賜物であったのだろう。彼は自分の見ているものが何なのか少しも理解出来なかった。 だが、大空においてとてつもない速さで己に向かってくる物体がなんであれ、それが危険極まりない存在であることは容易に理解出来た。 「回避! 回避!」 鋭い警告の叫びを受け、4騎の翼龍騎兵は愛龍と共に思い思いの回避機動を取った。編隊を維持する余裕は無かった。 最も未熟な騎兵は、距離をとろうと慌てて上昇に移った。だがそれは最悪の選択だった。重力に逆らいいくらかの高度を稼ぐ代わりに、彼の乗騎は貴重な速度エネルギーを失った。 「な、何だ!?」 正体を見極めることも出来ぬまま、誘導弾を翼龍の腹に食らった騎兵は、作動した着発信管が生み出す破片と爆風に全身を吹き飛ばされた。 もう一頭は翼龍の機動性に賭けた。巧みに手綱を操作し、小さな旋回径で水平斜め下方に宙返りを試みる。高度を速度に変換し、敵を振り切るこの機動に彼は自信を持っていた。 「何……だと? 振り切れない!」 だが、謎の物体は軽々と彼の翼龍に追従すると、左の翼を撃ち抜いた。翼龍が哀しげな悲鳴をあげ、錐揉み状態で石のように落下した。 その翼龍騎兵は信じられぬ思いを抱えたままで、地面に激突して死んだ。 最も手練れの翼龍騎兵であるバクーニン乗騎とその列騎は、警告が聞こえた瞬間急降下に入った。翼を畳み鏃のように高度を下げる。彼らは地表スレスレを掠めることで、正体不明の敵から回避を試みようとした。 位置エネルギーが速度に変換され、2騎の翼龍騎兵は可能な限りの敏捷さで逃走に移る。それは、並みの魔術士程度では目で追うことすら困難な機動であった。 「ふ、振り切れない!」 バクーニンは確かにその声を聞いた。猛烈な重力と合成風に圧せられ、流石のバクーニンもしがみつくことしか出来ない。その状況で聞く騎兵の悲鳴は、死神の囁きに等しかった。 彼らを追っていたのは魔術士ではなかった。それどころか人ではない。誘導弾頭に備えられた電子の目が彼らの発する電磁波を捉え、解析し、追尾している。彼らの機動がいくら手練れの業であろうとも、人ならぬモノには敵うはずもない。 莫迦な。たかが蛮族如きが俺を殺すというのか? ただ逃げ惑うだけのゴミどもが? このバクーニンを? あり得ぬ。あり得ぬ。 彼の乗騎を残して列騎が離脱に成功しつつあった。追ってくる矢は残り一本。バクーニンが乗っている分、彼の乗騎は鈍重だ。追いつかれるのがどちらかは明らかだった。 俺が死ぬ? 嫌だ! まだ何の栄達も掴んじゃいないんだぞ。 バクーニンは翼龍騎兵の指示を破り、背後を見た。そこには〈小さな矢〉が薄い白煙を曳いて彼に追いすがる姿があった。とてもあんなものに墜とされるとは信じがたかった。小さかった矢は気がつけば重騎兵のランスのような大きさになっていた。 愛騎にしがみついて必死に逃走する翼龍騎兵は、背後から響く爆発音と魂を散らす絶叫を聞いた。彼は残る最後の矢がバクーニンに命中したことを知った。しかし、それでも彼は振り返る気にならなかった。振り返れば未だ自分を追う悪魔のような鏃がいるような気がしたのだ。 早く本営にお伝えせねば。 それは明らかな言い訳でしかなかったが、指揮官騎を見捨てた騎兵はただ生き残るために逃走する事を止めようとはしなかった。 上空では、支配者を失った有翼蛇の生き残りが、統制を失い生き物としての地金を晒していた。その内の一部はラーイド港の方角へバラバラと飛び去っていった。 「敵3機撃墜を確認。もう1機は逃走に移りました」 「蛇型飛行生物の編隊は、四散しました。一部がラーイド港へ向かいます!」 双眼鏡を構えた隊員の報告に、権藤二曹は満足げに頷いた。 「やはり、あいつ等が操っていたらしいな。撃墜した途端バラバラになりやがった」 「ラジコンみたいなもんですか?」 権藤は、目尻に皺を寄せた。声に出して笑う。 「あんな危ねぇラジコンがあるか! ま、調子に乗った敵さんにはいい薬だったな。薬は注射に限るぜ」 「ケツにぶっといやつ突き刺してやれば、どんな野郎でもイチコロでしょうよ」 おどけた部下の言葉に、権藤は顔をしかめた。 「下品な冗談だな、おい。ところで小隊長は無事か?」 「小隊長! 小隊長! 返事をしてください!」 有翼蛇の火焔弾が着弾し、地面が激しく燃え上がっている。炎は73式小型トラックのボンネットを舐め、今にもガソリンに引火しかねない。物陰を飛び出した運転手は、爆風に吹き飛んだ川島二尉の姿を必死に探していた。 きっともうバラバラになっちまったんだ。運転手がそう思い始めた頃、車体の後部下からうめき声が聞こえた。 「……ぐぅ……ここだ。イテテ……」 「小隊長! 無事ですか?」 迷彩服のあちこちが破れ、真っ黒に煤けた川島が顔を出した。左腕がだらりと下がっている。 「無事、とは言い難いが生きてるよ。敵はどうなった?」 痛みに顔をしかめた川島は、運転手に尋ねた。空を見上げる。そこには数時間前から我が物顔で乱舞していた有翼蛇も翼龍もいなかった。彼はそれで全てを理解した。 「権藤二曹から敵を撃墜したと報告が入りました。やりましたね!」 「そうか……」 川島の賭けはいい目が出たようだった。何とか生き延びられたし、敵は撃退出来た。 「賭け、賭けなんだよな。俺たちは賭けに勝ったんだ」 運転手が笑顔で応える。 「勝ったんです!」 川島は途端に苦い顔をした。左腕が熱を持ってシクシクと痛み出した。真っ黒に煤けた顔面は火傷のせいでヒリヒリと痛む。ボロボロだ。自分も部隊も。 「俺たちはこんな戦争していちゃあ駄目だ! 知恵と勇気で大逆転? そんなもん下の下だぞ? 物量と火力で押し潰すような戦争こそが至高なんだよ!」 川島は叫んだ。その瞬間、73式のボンネットが音を立てて吹き飛び、エンジンから炎を噴き上げた。 腰を抜かした運転手は、燃え盛る車体を背後に怒り狂う小隊長の姿を呆然と眺めるだけだった。 ブンガ・マス・リマ ラーイド港区 2013年 1月6日 16時42分 長大な弧を描く入江に抱かれ、東西を南に突き出た岬に守られたラーイド港区の至る所で、大小無数の船舶が息絶えている。 彼女たちは直接帝國軍の手にかかったわけでは無かった。帝國軍侵攻の報を受けた商人たちが、てんでバラバラに港外へ逃れようとした結果港内の彼方此方で衝突事故が発生したのだった。 大桟橋近くの水面には転覆した小型の交通船や漁船が腹を見せて漂っていた。慌てて積み込んだのであろう。辺りには家財や衣服が大量に浮かんでいる。それらの船の姿は死病に冒された魚の死骸を思わせた。 一方、港出口には他船に船腹を破られ沈んだ大型交易船のメインマストが、溺れる者の差し出す腕のように海面に突き出ていた。 まさに、敗亡の都市の姿であった。 その中で、未だ尽きぬ戦意を漲らせる艦艇がある。海上自衛隊第1ミサイル艇隊所属、ミサイル艇〈わかたか〉〈くまたか〉はその船体を港区内に留め、一歩も退かぬ構えだ。 彼女たちのことをカサード提督配下の水夫は〈舶刀(カトラス)〉と呼ぶ。その異名の如く、抜き身のカトラスを思わせる灰色の高速ミサイル艇は戦闘態勢を整え、命令を待っていた。 「艇長。西市街の陸自より入電『有翼蛇複数、ラーイド港区方面ヘ向カウ』以上です」 「見えとる。それより、南瞑からの返事はまだか!」 航海長の報告に〈わかたか〉艇長来島通夫三佐は苛立ちを隠さない。ただでさえ狭苦しいブリッジが、巨漢である彼のせいで息苦しさを覚えるほどだった。来島の救命胴衣は前が開いたままである。彼がだらしない訳ではない。厚すぎる胸板のせいで締まらないのだった。 航海長は平坦な口振りで答えた。来島と付き合いの長い彼は、上司の性格を良く知っていた。興奮しているように見えて、これで結構冷静なんだよな、この人は。 「まだ、返事はありません」 「遅い! カサード提督はいい奴だが、他はグズグズし過ぎる」 第1ミサイル艇隊の2艇は派遣群司令部よりラーイド港区防衛を命じられていた。交戦許可も下りている。しかし、肝心のROE(部隊行動基準)を満たすことができていない。 有視界戦闘が基本の異世界アラム・マルノーヴという戦場が、圧倒的なアドバンテージを持つはずの自衛隊を悩ませていた。 「敵も味方もIFFなんか有りませんからね……」 そう言って航海長は双眼鏡を覗き込んだ。朝に比べて各段に視程の低下した空が広がっている。あちこちで立ち上る黒煙のせいだ。 自衛隊が運用しているIFF(敵味方識別装置)の原理は単純である。敵味方不明の目標に対し、ある特定の電波信号を送信し、規定の応答があれば味方と識別する。合い言葉や発光信号を用いていた時代と用いるものが変わっただけのシンプルな仕組みであった。 それだけに効果的な仕組みでもある。 視界の遥か外から敵味方を識別出来るこのシステム無しでは、恐るべき速度で進行する現代戦を戦うことは不可能なのだ。 だが、当然のことながら剣と魔法の異世界に、IFFは存在しない。 派遣部隊が、空を飛ぶ蛇や龍それ以外のあらゆる物体が敵なのか味方なのかの判断を行うためには、確実に視認し、かつその外見上の特徴から敵味方を見分けなければならなかった。 それゆえに、16㎞にも及ぶ射程を誇る62口径76ミリ速射砲を装備し、レーダーと射撃指揮装置で目標を早々に追尾しながらも、〈わかたか〉〈くまたか〉は射撃を開始していない。 槍の穂先にも似た砲身を機影に向けて突き出し命令を待っている。その命令を下すべき来島三佐は、肉眼での識別を待っている。 それは喜劇的な光景であり、当事者にしてみれば『冗談じゃない!』と叫びたくなるような状況だった。 「冗談じゃない! 見張り、まだわからんか?」 「……識別できません」 「目標方位010から060、距離2000。さらに近付く」 「おい、航海長! まだか!」 来島は派遣調査団本部を通じ、南瞑同盟会議に『貴軍ニ飛行兵力ハ有リヤ』という問い合わせを送っていた。その結果、加盟都市の一部が、僅かに翼龍や大型鳥類を運用していることが分かっている。 しかし、周辺にその航空兵力が存在するかどうかの返答は無かった。このままでは冗談で済まんぞ。来島は頭を抱えてた。 敵味方不明のまま射撃を開始するという選択はあったが、おいそれと行える判断では無い。部隊行動基準というものは大変重いものであるし、この状況下で同士討ちが発生すれば、南瞑同盟会議との関係は取り返しのつかないことになりかねない。 各所で噴出する日本国と南瞑同盟会議の連携の悪さが、ここでも現場部隊の手足を縛っていた。敵は高度も速度もバラバラで統一された戦闘行動を取っているようには見えないが、このままでは最悪の事態も起こり得る。 来島の脳内で、艇長の権限をもって射撃を命令すべきかどうかの葛藤が渦巻いていた。目標との距離は縮まるばかりだ。有翼蛇の攻撃は侮りがたい。どうする? 畜生め、俺たちはいつも後手に回る……。 来島が、やむを得ず警告射撃を命じようとしたときだった。 「艇長! 本部より入電! 『ぶんが・ます・りま周辺ニ展開スル南瞑同盟会議軍ニ飛行兵力ナシ』今飛んでいる奴は全部敵です!」 報告した航海長の目には、ただでさえ分厚い来島の胸板が1.5倍に膨れ上がったように見えた。巨漢の艇長は瞳を爛々と輝かせ、大きく息を吸い込んでいた。 耳を塞がねば。そんな考えが一瞬頭をよぎる。しかし彼がその考えを実行に移す前に、来島の大音声の命令が狭苦しいブリッジの空気を震わせた。それは、200ヤード程離れた〈くまたか〉に聞こえるほどだった。 「右対空戦闘! 主砲打ち方始めェ!」 今か今かと待ち構えていた〈わかたか〉〈くまたか〉の反応は素早かった。射撃管制員は目標の針路、速度、高度その他の要素から脅威度を判定、優先順位を決めた。彼は最も危険と判断した目標に対し、FCSを割り振った。 構造物上構に据えられたFCSー2ー31射撃指揮装置が、白い皿のようなアンテナを敵に指向する。それに連動して76ミリ速射砲が仰角をかけた。諸元はすでに入力されている。そして、命令は発せられていた。 「打ェ!」 引き金が引かれ、76ミリ速射砲が甲高い砲声を放った。砲塔直下の給弾ドラムから金属音が響く。砲弾は規則的に給弾され、砲煙が周囲の大気を汚す。〈わかたか〉の甲板上はあっという間に金色の薬莢で埋まった。 突如、硬質な破裂音と閃光、そして砲煙を上げ始めたミサイル艇の様子に、周囲の海面をのろのろと港外に向かっていた市民たちは、半ばパニックに陥った。ある者は灰色船が敵の攻撃を受けて燃え上がったと勘違いし、ある者は驚くあまり海に転落した。 家財と共に海面に落下し、必死の思いで船縁にしがみついた中年男は、拳を振り上げて抗議した。悪し様に罵る声は彼だけではない。 「驚かすな! この腰抜けニホン人!」 「でかい図体して、なにやってやがる!」 「疫病神め」 パラン・カラヤ衛士団との確執が伝わり、この時期のブンガ・マス・リマ市民の対自衛隊感情は良好とは言い難い。周囲の舟からも非難の視線が〈わかたか〉に向いていた。 しかしそんな中、港の治安維持に当たっていたカサード提督配下の水兵たちだけは、躍り上がって喜んだ。彼らはその光景を見たことがあるのだった。 「〈舶刀〉が天雷を放ったぞ!」 「……これで俺たちは助かるかも知れねぇ」 「だから俺が言ったじゃねえか。ニホン人は臆病者なんかじゃねえって。きっと何か理由があったに違いねえ」 彼らは知っていた。突き出された槍の穂先から放たれる、不可視の矢の威力を。 最初に狙われたのは市街方面からラーイド港区へ進入しつつあった有翼蛇の集団であった。その有翼蛇たちはバクーニンという主人を喪い、最後に受けた思念波の残滓に導かれて飛んでいた。 そこに明確な意思はなかった。偶然その針路がミサイル艇を目指していたことが、彼らの不運であった。 射撃管制レーダーにより照準された76ミリ調整破片榴弾は、毎分85発の速度で大空へと放たれ、有翼蛇の前方に黒色の花を咲かせた。花弁の代わりに破片が飛散する。 高速で飛来する航空機や誘導弾を迎撃するために作られた弾幕に、有翼蛇は抗堪出来なかった。黒色の花弁に包みこまれた有翼蛇は、たちまち翼を切り裂かれ、胴から血を流して石のように落下した。 7頭の有翼蛇たちは、自分たちに何が起きたのか分からぬまま、悲鳴を上げて墜落し、全滅した。 「第1集団、全機撃墜。……目標探知、方位010、6000ヤード。高度300フィート」 凱歌をあげる間もなく、ラーイド港区には次の敵が進入してきていた。来島はレーダー画面を確認した。鼻息が荒い。後頭部にそれを浴びた射撃管制員はわずかに嫌な顔をした。 「編隊を組んどるな」 「さっきの連中とは違うようです」 来島の声に警戒の色が浮かぶ。統制のとれた敵は怖い。見張り員がレーダー情報を元に敵機を発見した。 「目標視認! 有翼蛇らしきもの4、翼龍らしきもの2、真っ直ぐ突っ込んでくる」 「〈くまたか〉発砲」 「やるじゃねえか──こっちも負けるな! 新目標、打ち方始め!」 2艇は競うように、新たに探知した敵に対して射撃を開始した。 「一体、何が起きているのだ?」 帝國南方征討領軍飛行騎兵団所属の若い『魔獣遣い』は、不安を覚えつつ配下の有翼蛇4頭と共にラーイド港区へ進入しつつあった。彼の乗る翼龍とその護衛騎を守るように、傘型陣形を組んでいる。 眼下には巨大としか言いようがない蛮族の港が広がっていた。帝國の山岳地帯に生まれた彼は、初めて見た海に圧倒されていた。 他のベテランに比べて経験と技量に劣るため、彼は比較的安全と考えられた港の攻撃任務を与えられていた。熟練者なら遠方から有翼蛇を誘導するのだが、彼の技量では不可能であるため、共に編隊を組んでいる。 数分前、彼は誰にも支配を受けていない有翼蛇の群れがふらふらとラーイド港区へ向けて飛んでいるのを目撃していた。有翼蛇の胴体に描かれた識別記号は、それがバクーニンの蛇であることを示していた。 しかし、バクーニンはどこにもいなかった。それどころか、思念波が消えている。 尊大で粗暴なバクーニンのことを彼は嫌っていたが、その技量は認めざるを得なかった。それゆえに、彼はバクーニンが撃墜された可能性を思いつくことができなかった。 (あの蛇どもは一体どこに行ったのだろう?) 頭をひねりながらラーイド港区上空へ到達した彼は、先ほど目撃した有翼蛇の群れがどこにもいないことに気付き、さらに疑問を抱えることになった。 強い合成風に逆らい周囲を見回したが、青空のどこにも蛇はいない。市街地と異なり地表はどこも燃えておらず、それなのに奇妙な黒煙の塊が、空の所々にわだかまっていた。 「まもなく港上空に入る。考え事はあとにして何を叩くか指示をくれ」 操獣士がじれたように言った。その言葉に『魔獣遣い』は我に返った。眼下には建ち並ぶ倉庫街が見えている──そうだ。まずは役目を果たさねば。ここで功を上げ、恩賞を貰うのだ。 彼は港を見回した。有翼蛇と共に飛ぶからにはまず敵を叩かねば危ない。 滅多に有ることでは無いが、敵に魔術士や弓兵部隊が存在した場合、これを放置することは危険だった。対地攻撃部隊の指揮官として、彼はまず対空火力を潰すことを考えた。港においてそれは軍船に存在する可能性が高い。 「まず船を叩こう。軍船を探してくれ」 「承知」 『魔獣遣い』は港に目を凝らした。無秩序に木の葉をばらまいたように大小様々な船が浮かんでいた。その中にひときわ目立つ大きな船が二隻あった。 「あいつは軍船じゃないか? 見えるかい?」 「いや、まだ遠い。しかし、大きいな」 「そうか、何だろうな? とにかく味方はいない。まずあれを沈──なんだ?」 彼が全ての言葉を口に出す前に、その船が光を放った。船が勝手に爆発した? 蛮族が火の不始末でもやったのか。 そう思った彼は、まだニキビの残る顔面に笑顔を浮かべようとした。 ミサイル艇が放った砲弾は、高度300フィートを飛行する編隊の前方で、信管を次々と作動させた。大気を鈍い破裂音が震わせ、破片が飛散する。有翼蛇と翼龍は、何が起きているのか理解せぬまま、有効範囲内に突入した。 「!」 突然、前方を飛行する有翼蛇が空中でのた打ち始めた。『魔獣遣い』が目を向けると、血飛沫が霧のように辺りに飛び散っていた。 気がつけば妙な臭いが辺りに立ち込めている。視界のあちこちに黒い雲がかかっていた。彼はそれが何を意味するのか分からなかった。 4頭の有翼蛇は見えない刃によって次々と切り裂かれ、墜ちていった。鋭い痛みが頭の中を貫く。 (ああ、蛇がやられているのか。でも、何で?) ぼんやりとした彼の目の前で、やはり破片に切り裂かれながら操獣士が必死に愛龍を御そうとしていた。必死の形相で振り向き、何かをわめいている。何を言っているのか分からない。聞こえない。気がつけば列騎はどこにもいなかった。 彼は真っ赤に染まり、やたらと狭まった視界の中に、目標としていた軍船を捉えた。船は相変わらず光を放っている。場違いな感想が彼の脳裏に浮かんだ。 ──きれいだ。 次の瞬間、砲撃により聴力を失っていた『魔獣遣い』を乗せた翼龍は、76ミリ調整破片榴弾の直撃を受け、四散した。 ラーイド港区に対する2波の空襲部隊(最初のそれはただ飛んでいただけだったが)は、合わせて有翼蛇11頭、翼龍2騎。まともに運用されていれば一個騎士団をたやすく撃破可能な戦力であった。 しかし、海上自衛隊第1ミサイル艇隊の射撃は、わずかな時間でこれを全滅させた。 当初、周囲で悪し様に罵っていたマルノーヴの民は空から迫る恐ろしい有翼蛇の群れを叩き落としたのが、目の前の灰色船であることを理解しつつあった。 「あの、ふねにはとんでもない魔導師様が乗っている」 「あそこなら安全だ」 彼らがそう考えるのも無理は無かった。寄る辺なく逃げ惑っていた民衆が、大小様々な船を操り、もはや彼らにとって軍神の遣わした戦船のように見える〈わかたか〉〈くまたか〉の元へ集まっていったのも、当然の出来事であった。 そうこうしているうちに、第3波が襲来した。 「エーリン殿、あれはいったい……」 呆然とつぶやく操獣士の横顔は、高空を飛んでいるときよりも白く、血の気が失せていた。操獣士の動揺を感じ取ったのだろう。『魔獣遣い』ユーリ・ヴラドレン・エーリンが体を預ける翼龍は、わずかにふらついていた。 「うろたえるな──敵の攻撃に間違いない。うろたえていては、やられるだけだ」 エーリンのもとより白いその顔は、もはや青ざめて死人のようであったが、その瞳にはまだ闘志があった。飛行帽を目深にかぶり直すと、粟立った心を落ち着かせようとする。 驚愕したことによる影響は失せたわけではなかったが、少なくとも彼の試みは一定の効果を得た。化粧の施された顔を引き締め、操獣士に指示する。 「高度を下げよ。やつらに見つかるな」 彼の編隊──翼龍3騎、有翼蛇6騎は、先に進入した友軍が四散するのを目撃した後速やかに高度を下げ、ラーイド港区北方の市街地上空で低空周回機動に入った。 エーリンは、直前まで中央商館街を攻撃していた。白亜の大商議堂を始め、交易で得た財力を惜しみなくつぎ込んで建てられた蛮族の本拠地を、彼と副隊長ヴァロフは反復して叩いていたのだ。 事前の計画では彼らはそのまま敵の本拠地を瓦礫の山に変えるまで攻撃を続行するはずであった。 しかし、そこに統制を失ったバクーニンの蛇が現れた。群れはそのまま中洲上空を西へ飛び去り、ラーイド港区付近で突然消え去った。異常な事態である。 群れが統制を失っていたということは、主たるバクーニンに何かがあった証拠であり、また、ラーイド港区付近で群れが消えたことは、そこに何かが有るということであった。 飛行騎兵団団長シュヴェーリン男爵は、エーリンにラーイド港区の調査── 「群れが消えた原因を調べ、敵ならば撃滅せよ。ん? 港の攻撃はすでに命じられた者がいる? ああ、アイツはまだヒヨッコだ。当てにならん。貴様がやれ」 ──を命令した。 エーリンは団長の命令に従い、後ろ髪引かれる思いで(中洲にはまだまだ破壊すべき対象は無数に存在していた)、ラーイド港区へと飛んだ。 そして、出くわしたのだった。そこには港内に遊弋する敵の軍船から放たれた『何か』によって、ほんの僅かの間に叩き落とされる味方編隊の姿があった。彼の常識はあのような距離で空を飛ぶ敵を攻撃できる兵器も魔法も存在しないと言っていた。 しかし、彼の『魔獣遣い』としての研ぎ澄まされた感覚は、あの軍船が攻撃したのだと確信していた。彼は感覚を信じることにした。事実仲間の『魔獣遣い』と飛行騎兵は撃墜されたのだから。 どうする? 彼は周回機動を続ける翼龍の背で考えた。逃げ帰ることは、はなから考えていない。 全ての有翼蛇を高みから一斉に突入させる。 ──駄目だ。敵の光が攻撃の一手一手だとしたら、一呼吸の間に数回撃ってくる。射点につく前にやられる。 低空から突入させる。低高度からなら見つかりにくいはずだ。 ──まだ、足りぬ。あの船を殺るには足りぬ。 エーリンは周囲の地形と敵の軍船を確認した。我の編隊は北側の陸地上空にある。敵の軍船は湾の中央付近にいる。湾の左右は岬が張り出している。よし、あれを利用しよう。 エーリンは素早く決断すると、一頭の有翼蛇を犠牲に捧げることにした。彼には空を往くもの特有の思い切りの良さがあった。 エーリンの思念波を受けた有翼蛇たちは、もとより低い高度をさらに下げると、2頭が東の岬の陰へ、3頭が西の岬へと別れていった。エーリンの眉間に深い皺が刻まれる。脂汗が額を伝い、彼は苦しげなうめきを漏らした。 その様子に、翼龍を操る操獣士は半ば呆れると共に、大きな尊敬の念を抱いた。 (この若き『魔獣遣い』大した漢よ。ただでさえ6頭もの蛇を操ること至難の業であるところ、さらに二手に分けるとは……) だが、操獣士は間違っていた。エーリンは残りの1頭を海面スレスレの高度まで下げると、敵の軍船に向けて真っ直ぐに放ったのだった。 その蛇はすぐに探知された。はやぶさ型ミサイル艇のOPSー18ー3対水上レーダーは、低高度の航空機探知能力を持っている。レーダー員が目標シンボルを敵機に変更する。 「目標は1機」 「今度は低いな。海面をなめるような奴だ。他に探知無いか?」 「有りません」 来島はひとまず安心した。突如陸地から現れた敵機は、まるでシースキマーミサイルのような高さを飛来していた。迎撃は可能だったが、複数来られるとやっかいだと思った。 主砲がきびきびとした動きで旋回し、狙いを定めた。射撃準備完了が報告される。来島は速やかに撃墜を命じた。発砲。乗員に安心感を与える砲声と衝撃。 「目標変針! 蛇行しています」 「何だと?」 ブリッジ内に主砲発射音が響き渡る中、射撃管制員から報告が上がった。低空に広がる炸裂煙の中を豆粒のような敵機が飛んでいた。来島はコンソールのディスプレイを覗き込んだ。シンボルは確かに変針を繰り返している。 戦闘機や攻撃機がプロペラを回して飛んでいた懐かしき時代──VT信管が実用化された第二次大戦期に比べて、射撃管制レーダーや対空信管の性能は飛躍的に向上したものの、やはり対空射撃は一発必中とはいかない。 高速で近付く対空目標に対しては手数を撃って公算を高めることが必要とされていた。当然、それを逃れるための手段も昔からある手管が未だに有効だった。 ただ1頭の有翼蛇は、エーリンの思念波を受け体をくねらせると、針路をこまめに変更し、破片と爆炎を撒き散らす砲弾の雨の中を飛行していた。 充血した瞳を見開いたエーリンの脳裏に、有翼蛇からの映像が重なる。白と黒で描かれたその世界には、次第に大きくなる敵の軍船の姿が見えていた。 もう少し。いま少し近付き、敵の姿を我に見せよ。 エーリンは祈るような気持ちで蛇を操る。攻撃のためには、軍船の情報が必要だった。撃墜を覚悟で蛇を突入させたのはそのためだ。三手に分けた蛇を操ることは、エーリンの限界を超える業であったが、彼は執念でそれを為している。 敵の軍船の姿が次第にはっきりする。いかにも精悍な船体。帆の無い傾いだ檣。用途のよく分からぬ箱。そして──前の甲板にそびえる筒。エーリンはその光と煙を絶えず放つ筒こそが敵の武器であると確信した。 「うッ!」 次の瞬間。鋭い痛みと共に、映像が途絶えた。一瞬、悲しみに似た何かが頭をよぎる。エーリンは有翼蛇が墜とされたことを理解した。 「よくやった。貴様の犠牲、無駄にはしない」 エーリンは頭蓋の痛みを無視すると、東西に放った有翼蛇に意識を向け、新たな思念波を放った。彼の鼻から一筋の鮮血が流れ落ち、空に散った。 思念波を受けた有翼蛇たちは、主の闘志を体現するかのような鋭い機動で旋回し、仲間を撃墜した軍船に向けて突撃を開始した。 その時、〈わかたか〉〈くまたか〉は艇首を北に向け、湾の中央付近に遊弋していた。〈わかたか〉が西側、〈くまたか〉が東側に位置している。 一方、エーリン隊の有翼蛇は東西2隊に別れ、それぞれが低空で岬を大きく迂回し、南側へ回り込もうとしていた。 西の岬に据えられた灯台の灯台守は、小高い丘の上に立つ己の持ち場の遥か下、海面に翼が触れようかという位置を飛ぶ有翼蛇の編隊を発見した。彼はこれが帝國軍のものであることを看破し、すぐさま『敵影ミユ』の狼煙を上げたが、この情報は自衛隊には伝わらなかった。 蛇がミサイル艇の発するレーダー波を浴びたのは、岬の陰から飛び出たあとであった。さらに、その輻射波が〈わかたか〉のコンソールに光点を映し出すまでには、数秒の時間を必要とした。 「艇長、周囲に民間船が集まってきています」 「どういうことだ?」 「おそらく、我々が敵を撃退しつつあるので、庇護を求めて来ていると思われます。このままいきますと……」 「おう。良くないな」 敵の襲撃が一息ついたと思われた頃、航海長が思案顔で報告した。確かに周りには無数の船舶が集まってきていた。来島は、口髭を震わせた。小舟をひっくり返さないよう慎重に移動するつもりだった。 レーダー員の叫びがブリッジに響いたのは、そんなタイミングであった。 「レーダーに反応あり! 方位285及び075距離3000。高速で南下中!」 「目標視認! 帝國軍の蛇と思われる! 艇尾方向へ回り込もうとしています!」 来島はこめかみに血管を浮き立たせると、叩きつけるように命じた。 「左とっさ砲戦。回り込まれる前に撃ち落とせ! 〈くまたか〉に東側を叩かせろ!」 前甲板の76ミリ速射砲がモーター音を響かせ、左舷を向いた。速やかに発砲。すでに薬莢で埋まる甲板上に新たな薬莢が排出され、そのまま海中に落下した。 主砲は艇尾方向へ回り込もうとする有翼蛇を追って、少しずつ砲身を左に振る。発射された砲弾が空中で炸裂し、有翼蛇を絡め捕ろうとした。 有翼蛇は最大速力で南下し主砲の死角に入ろうとしていた。エーリンは、ミサイル艇の主砲が前甲板に装備されているのを見た。そして、驚くべき洞察力をもって、その死角が背後にあると予想したのだった。彼の蛇は2艇を左右から挟撃しようとしていた。 港内の平穏な水面を、有翼蛇の翼が騒がせる。高度は5メートルも無い。わずかな雑念がたちまち墜落に繋がる高度だ。エーリンは鼻血を出しながら、計5頭を操り続けた。艇尾方向──南西及び南東から低空襲撃をかける。これが彼の採った戦術であった。 西を飛ぶ1頭が、破片を浴びてバランスを崩した。派手な水柱が立つ。墜落した有翼蛇はたちまち海中に没した。 「1機撃墜。残り2機は間もなく主砲の死角に入ります!」 「航海長、動けるか?」 「ゆっくりであれば」 辺りは小舟で埋まっている。来島は慎重に命じた。 「取舵一杯。前進微速。見張り周囲の船舶に気をつけろ!」 「とーりかーじ。宜候」 操舵員がハンドルを切ると艇首が徐々に左を向いた。主砲は絶え間なく火を吹いた。ブリッジ後方に備えられた12.7ミリ重機関銃も、敵に向けて射撃を開始している。 この分なら、何とか撃墜できるか。そう来島が見積もった時だった。 「対空砲弾、残弾無し!」 「何だと!?」 盲点であった。そもそも小型のミサイル艇には護衛艦程の弾薬は搭載されていない。さらにその全てが対空用の調整破片榴弾というわけではなく、通常の榴弾等も搭載されていた。ラーイド港区で繰り広げられていた対空戦闘は、事前の想定を超えるものであった。 「どうしますか?」 射撃管制員が不安げに言った。来島は即断した。ぶつけられるものは何でも浴びせてやる。 「主砲弾種榴弾! 敵前方の海面を狙え!」 「了解!」 砲身がわずかに俯角をかけた。給弾ドラムに新たな弾薬が装填されるまで十数秒、主砲が沈黙する。重機関銃が狂ったように発砲する音が響く。有翼蛇は距離2000付近で大きくバンクし、こちらを指向した。 発砲。今度は炸裂煙は発生しない。迫る有翼蛇の手前の海面が白く盛り上がる。細い水柱がまるで竹林のように林立し、有翼蛇の行く手を阻んだ。 エーリン隊の前方に白い柱が盛り上がる。敵がこちらを邪魔しようとしていることは分かった。しかし、それにしては高さが足りない。海面スレスレとはいえ、水柱は有翼蛇を捉えられなかった。 行けるぞ。あと少しで火焔が届く。 敵の軍船は周りを舟に囲まれて動きが鈍かった。横腹をこちらに見せている。 そこで、もう1頭が頭を吹き飛ばされた。偶然海面で跳ね上がった反跳弾が、西から突入する有翼蛇に直撃したのだった。痛み。暗転。そして、瞬時に切り替わり復活する光景。 敵はもう目の前だった。 軍船の放つ不可視の矢も、魔術士が猛然と打ち上げてくる細い光弾も、彼の有翼蛇を止めることはもはや不可能だ。 「喰らえ、蛮族!」 エーリンの思念波が裂帛の気合いとともに、有翼蛇に伝達された。 ミサイル艇〈くまたか〉は、東側から突入を図る有翼蛇2頭の撃墜に成功していた。艇長得居三佐は、怜悧な印象を与える外見そのままの声で射撃管制員に尋ねた。 「主砲、〈わかたか〉を援護できるか?」 「射線上に〈わかたか〉がいます。現在位置では不可能です」 「了解。航海長、動けるか?」 「周囲の船舶が予想以上に集まってきています。呼びかけを続行中ですが、まだ経路は開かず移動は困難です」 「……抜かったな」 得居三佐は〈わかたか〉に突入する有翼蛇に目をやった。大日本帝国海軍第一航空戦隊赤城艦攻隊でもやっていけそうなほどの、見事な突撃だと思った。 〈わかたか〉に突撃を敢行した有翼蛇は、距離100ヤードで火焔弾を連続投射した。〈わかたか〉は全力で回避を試みた。やむを得ず出力を上げたウォータージェットノズルが猛烈な水流を巻き起こし、舳先が左に回る。 ようやく事態を理解し逃げ出そうとしていた数隻の小舟が煽られ、転覆した。 火焔弾はそのただ中に飛び込んだ。 轟音がブリッジに響いた。開け放たれたドアから熱風が吹き込む。見張り員と機銃員の悲鳴が聞こえている。来島が叫んだ。 「被害確認!」 航海長が左舷ウィングに走り出た。口元を腕で覆いながら艇尾を見ている。彼のヘルメットと救命胴衣は照り返しで赤く染まっていた。 「左舷後部至近弾! 火災発生! 機銃員と見張り員負傷の模様!」 「応急班後部に急げ! 負傷者を収容しろ! 敵機はどこだ?」 あっという間に〈わかたか〉甲板上は鉄火場となった。火焔弾は〈わかたか〉の左舷後部海面に着弾。猛烈な水蒸気と焔の粘液を飛散させ、それが構造物に引火していた。 来島の命令で、防火衣を着込んだ隊員がCO2消火器を抱えて後部に走る。火の粉を浴びて転がった機銃員が、救護員に抱えられていた。 〈わかたか〉を攻撃した有翼蛇は、逃走にかかっている。海面スレスレの高度を維持したまま、全速力で逃げていた。罵声が右舷から聞こえた。右舷機銃員が追いすがるように射撃を開始したのだった。 機銃弾は有翼蛇の細い体めがけて光線を描く。しかし、思うように命中しなかった。 畜生、やられた! 蛇ごときに。まったく……架台にSSMがあったら撃沈されていたぞ。 来島は怒りと安堵の入り混じった感情を胸の内に暴れさせたまま、応急指揮を執った。幸い小破以下で済みそうだった。 だが── 「……て、艇長」 航海長の震える声を聞いた来島は、いぶかしんだ。いつも飄々としている男のこんな声は聞いたことが無い。何に怯えているんだ? そこで来島はようやく周囲が赤く染まり、ブリッジの中に絶えず悲鳴が聞こえてくることに気付いた。彼が、それが何を意味するのかを理解するまで数秒かかった。 「なんてこった……」 敵の有翼蛇は撃てるだけの火焔弾を乱射していった。〈わかたか〉は回避運動が功を奏し、直撃弾を避けることに成功した。 しかし、その周囲にいた大小の船舶は〈わかたか〉ほど幸運では無かった。ボートのような小舟から中東のダウ船に似た交易船まで、様々な船が炎に包まれていた。 それは船上だけに留まらない。辺り一面の海が炎上し、人々の悲鳴が木霊していたのだった。〈わかたか〉はまるで炎熱地獄のただ中にあるかのようだった。責め苦に苛まれる人々の叫びに、海上自衛官たちは衝撃を受けた。 天災では無い、戦争が生んだ死傷者。それを守れなかったのは自分たちであるという現実がそこにはあった。〈わかたか〉の乗員は、初めて戦争を知った。たとえその死に逝く人々が日本国民ではなかったとしても。 そして、彼らにとってこの日最後の攻撃が加えられた。 それは離脱を試みていた最後の有翼蛇を撃墜した次の瞬間だった。 「高速目標探知! 後方から近付く! 距離1000!」 奇襲としか言いようが無かった。打ち方止めを令した直後、飛行騎兵団副長ヴァロフ子爵が自ら手綱を握る翼龍とその支配下の有翼蛇が、低空から突入を図ったのだ。目標は〈くまたか〉である。 エーリン隊の戦闘を観察しタイミングを見定めたヴァロフは、大型の有翼蛇と共にミサイル艇の死角を突いた。高度3メートル。龍の脚が海面を掠める勢いだった。 「面舵一杯! 右対空戦闘!」 「左右ともに民間船あり! いま舵を取れば衝突します!」 「チィッ──回頭まて、舵中央! 第1戦速!」 得居三佐は一瞬の逡巡の後命令を下した。彼の性格が、そしてこれまでの自衛官としての歩みが、民間船を犠牲にするという選択肢を彼にとらせなかった。 〈くまたか〉は蹴飛ばされたかのような勢いで前へ進もうとした。左右の船をかわし、右へ回頭できれば、敵を射界に捉えられる。 だが、それは間に合わないだろうな。 得居三佐は冷静に現状を認識していた。敵は今までの蛇を遥かに超える速度と、機動力だった。こちらが回頭を終える前に、射点につくだろう。これが俺の限界か── 「敵発砲!」 見張り員が悲鳴のような叫びで、火焔弾が迫り来ることを伝えた。得居は自分を出し抜いた敵がどんな奴なのか見てやろうと、強化ガラスの外に視線を向けた。 轟音。衝撃が〈くまたか〉を激しく揺さぶった。艤装品の破壊される音が聞こえ、赤い炎と熱風が彼を襲う。 (嗤ってやがる) 赤熱する視界の向こうで、大きな翼龍に跨がった騎士がこちらを見ていた。 「〈くまたか〉被弾! ブリッジがやられました! 火災発生!」 大型翼龍と有翼蛇がフライパスしていく真下で、〈くまたか〉の構造物が炎上していた。見張り員が吹き飛ばされ海中に落下する。 「得居! 畜生め、重機関銃は敵を撃て! 〈くまたか〉に寄せろ、溺者救助用意!」 どうみても〈くまたか〉は中破以上の被害を受けていた。消火に失敗すれば沈没も有り得る。矢継ぎ早に指示を出す来島は敗北感に包まれていた。 撃墜した有翼蛇と翼龍は20機に迫ったが、そんなことは何の慰めにもならなかった。 『よくやった、エーリン。一時帰投するぞ』 『ハッ。しかし……』 『貴様の有翼蛇は全滅だ。あの軍船は化け物だな。だが一隻は潰した。この戦訓持ち帰るぞ。復仇の機会は与えてやる』 『承知しました……』 エーリンもまた、来島と同様に敗北感にさいなまれていた。渾身の異方向低空襲撃はほぼ全滅。彼の蛇は敵にかすり傷を与えたに過ぎない。 恐るべき相手だった。数浬の先から桁外れの威力で攻撃を加えてくる。しかも驚異的な命中率だ。そして、エーリンは何よりも、いくら工夫しても必ずこちらを見つけるその力に畏れを感じた。いかなる異能か? そもそも、あ奴らは何者なのか? 誓って南瞑の蛮族では無い。エーリンは確信していた。 必ず次は沈めてやる。エーリンはそう誓うと精神力の限界を迎え、翼龍の背で気を失った。 ラーイド港区を巡る戦闘は、日が傾き始めると同時に終結した。自衛隊の防戦により港区の破壊は阻止されたが、双方に多大な損害が生じている。 『帝國南方征討領軍飛行騎兵団』損害 人員 死者3名 翼龍 2騎撃墜 有翼蛇 17騎撃墜 『海上自衛隊第1ミサイル艇隊』損害 人員 死者〈くまたか〉艇長、得居三佐他4名 負傷者8名 ミサイル艇〈くまたか〉中破 ミサイル艇〈わかたか〉小破 民間船多数沈没、死傷者多数 ブンガ・マス・リマ中央商館街 〈ジェスルア大橋〉応急防御陣地 2013年 1月6日 18時07分 「痛いよぅ……痛いよぅ」 「うう、足が……僕の足が無い……」 「動ける者は、胸壁と阻塞を修復しろ! 奴らはまたやってくるぞ──おい、そいつはもう死んでいるぞ」 「ちくしょう、アペル。しっかりしろ!」 「もう駄目だ。俺たちは皆殺しにあうんだ」 「僕の足がないんだ。ねぇ、ロティ。足を探しておくれよ」 「隊長殿、軽傷者を含め戦える者は52名です。次で終わりですな……」 「そうかい。そいつはいい話だな。ようやくこのクソッタレな戦場からおさらばできるって訳だ」 太陽が西へ傾き、〈ジェスルア大橋〉の欄干の影が長く伸び始めている。重厚な石造りのアーチを連ねた橋のたもとにでっち上げられた南瞑同盟会議軍の応急防御陣地は、この日三度目の突撃を辛うじて撃退したところであった。 貿易商〈マナスール商会〉の丁稚であるロティは、幼なじみで丁稚仲間のアペルが動かなくなるのを呆然と見つめていた。アペルの右足は太ももの半ばで断たれ、動脈から噴水のように血を噴き出していたが、それも収まりつつある。 必死に傷を押さえていた両腕を返り血で染めたロティは、脱力感に包まれて座り込んだ。彼の目の前には薄目を開いたまま息絶えた同い年の親友が横たわっている。 人間ってこんなに白くなるんだ……。 先週までは「次の休みには〈赤絨毯亭〉でエビを食べよう!」「小間物屋のラナを遊びに誘って、海に行こう」などと13歳にふさわしい話題で盛り上がっていたのが、遠い世界のことのように感じられた。 周囲では、ロティと同じ様な年格好の兵士たちが、血まみれの地面に滑り止めの砂を撒き、破損した胸壁代わりに樽を積み上げていた。その動きは緩慢で、絶望感に満ちている。 うめき声と悲鳴が辺りを埋め尽くし、中年の兵士が「こいつも駄目か」と呟きながら、手にした短剣で息子ほどの年頃の兵士に止めを刺していた。 彼らはブンガ・マス・リマ義勇防衛隊と名付けられた寄せ集めの守備隊である。200名余の素人に、わずかに残った兵士と引退した冒険者をつけて編成された彼らが、西市街から中央商館街へと繋がる〈ジェスルア大橋〉を守る唯一の兵力だった。 その義勇防衛隊に西市街を突破した帝國南方征討領軍歩兵団が襲いかかった。再編成を完了した一個大隊規模のゴブリン軽装兵が〈ジェスルア大橋〉打通を図り、陣地を三度強襲している。妖魔兵による正面攻撃に対し、義勇防衛隊は必死の防戦を行い未だ突破は許していない。 しかし、彼らは少年兵を含む素人集団である。死傷者は七割を超え、突破されるのは時間の問題であった。 僕は何でこんなところにいるんだろう……。 ロティは親友の血にまみれた自分の革鎧を見下ろした。商会の倉庫から引っ張り出された武具を着せられ、仲間たちと橋に集められてからまだ一刻ほどしか経っていないはずだった。 「ロティ、大丈夫か?」 「……え? あ、はい。僕は大丈夫です。でもアペルが……」 声をかけたのは、元冒険者の分隊長だった。顔の半分を包帯で覆った彼は、横たわるアペルに目をやると顔を曇らせた。瞳には暗い光が浮かんでいる。 「そうか……残念だったな。だが、また敵が来る。武器を取って胸壁を守れ」 「……また、来るんですか?」 ロティは感情の失せた顔を上げ、言った。 「ああ、すぐに来る。死にたくなければ、武器を取って戦うんだ」 死にたくない。でも、戦って生き残れるわけが無いよ。ただの丁稚であるロティにもそれくらいのことはわかる。 歌が聞こえた。陣地の真ん中で、髭面の神官が歌を歌っていた。ロティは手槍を杖代わりに立ち上がった。少しだけ、足に力が戻ってきた気がした。心配そうに見つめる分隊長を見て、小さく頷く。 「やれるだけやってみます。アペルの仇も討ちたいし」 それを聞いた分隊長は、何故だか顔を大きく歪めた。彼は「すまない」と搾り出すように言った。 「来たぞーッ!」 警告の叫びが上がった。橋の向こうから重々しい軍靴の響きが聞こえてくる。誰かが絶望的な声で言った。 「オーク重装兵を出して来やがった……畜生、おしまいだ」 遠目にも巨漢とわかる軍勢が、橋の幅一杯に横列を組み近付いていた。ロティはどうして自分が逃げ出さないのか不思議に思いながら、迫り来る敵軍を睨みつけていた。 「オーク重装兵隊、押し出します」 「おう」 軍太鼓が響く。その音色をかき消す程の重々しい軍靴の響きが辺りを圧している。頑丈な石造りの橋桁を揺らしながら、軍勢が前進を開始していた。 指揮下のオーク共が高い戦意を保ちつつ進んでいる様子に、指揮官のベレージンは満足した。 手こずらされたが、これで終わりにしてやる。散々損害を出した上に、美味しいところを俺の隊に持って行かれたゴブリン軽装兵の指揮官は怒り狂っていたが、知ったことでは無い。 帝國南方征討領軍歩兵団は、敵軍が十分に消耗したと判断、最も突撃衝力の大きいオーク重装兵隊の投入を決定していた。 ベレージンは、向こう岸の貧相な敵陣を眺めた。配下からの報告によれば、あそこを守るのはガキと年寄りの寄せ集めだった。彼は哀れに思った。同時に、これから得られる栄誉と戦利品に思わず笑みが浮かぶ。 「ものども! 突撃にぃ──」 敵陣に見慣れぬ軍勢が現れたのは、その時だった。馬車のような、箱のような乗り物で陣地に降り立つ十名程の兵を、ベレージンは視界に捉えた。西市街で遭遇した連中と同じ軍装である。 また奴らか。一体何者だ? いや、あの程度の数なら問題ないだろう。ベレージンは改めて下知を下すことにした。 「ものども、掛かれェ! 蛮族の陣を踏み破り、皆殺しにせよ!」 軍太鼓が乱打される中を、頑丈な橋梁を揺らしながらオーク重装兵が突撃を開始した。蛮声が大気を揺らす。彼らの突撃の前には、貧相な陣地など薄絹のように引き裂かれる運命であった。 少なくとも、帝國軍の誰もがそう信じていた。 へんてこ格好だな。まだらで何だか小汚いや。 突如現れた兵士たちを見て、ロティは思った。全身緑色と茶色がまだらに染められた彼らの軍装は、彼の常識に照らし合わせて、威厳や武威に溢れているとは言い難い。街でこんな格好で歩いていたら、邏卒が駆けつけてきそうだった。 彼らは、不思議な鉄の箱で現れ、太い筒や黒い杖を抱えて陣地に駆け込んできた。ロティの耳に誰かのつぶやきが聞こえた。 「あいつら〈ニホン〉の兵だよ。いまさら何をしに来やがったんだ? あれっぽっちで」 ニホン軍。ブンガ・マス・リマに現れた異国の軍勢。奇妙な道具と巨大な軍船を持ちながら、帝國軍との戦いに加わろうとしなかった厄介者。 ロティは仲間や客から伝え聞いた話を思い出した。彼らと直接接したことは無かった。だから、風評を鵜呑みにした。戦いから逃げる臆病者。そういう印象だった。だから、彼らが加勢に駆けつけたと分かっても、期待はしなかった。 十人ぽっちが応援に来たところで、どうにもならないや。それに剣すら帯びていない。一緒に死ぬ人間が増えただけだ。 ほら、もうオークが目の前まで来ている。 ニホン兵が、胸壁の前で大きな筒を構えた。異国の言葉で何か叫んでいる。筒を構えた兵とは別の兵士が筒の後ろから何かを差し込んだ。 義勇防衛隊の少年兵たちは、何をしているのかさっぱり分からず、ニホン兵を眺めていた。 「dokero! abunaizo!」 「……どうやら、後ろに立つなと言っているみたいだな。くそ〈通詞の指輪〉が無いと何を言っているのかさっぱりだ!」 分隊長がもどかしげに言った。確かにニホン兵は腕を振り回してロティたちを退けようとしているようだ。 「ニホン兵は救援に来たのですか?」 「そうらしい。だが、あの数ではな」 分隊長も淡い期待すら持っていない。手練れの冒険者だった彼は、二百を超えるオークの群れにたかだか数十名でどうにかなるはずがないことを知っている。 義勇防衛隊員が背後から離れたことを確認したニホン兵の指揮官(見た目では全く見分けがつかなかった)が、叫んだ。 「te!」 直後、彼らが構えた筒から炎が噴き出した──炎はオークの群れではなく陣地内を襲った。 「!? う、裏切りかッ!」 「うわぁ!」 「おのれ、ファイアーボルトか」 陣地内の義勇防衛隊は混乱した。彼らは味方のはずのニホン兵から炎を浴びせられたと受け取ったのだった。数名の少年兵が爆風にあおられて転倒する。白煙で視界が一時的に失われた。 怒りに駆られた分隊長が剣を抜き、ニホン兵に挑みかかろうとする。形勢不利を見て裏切るとは汚い。そう思った彼の怒りは全く正当なものに思われた。 だが、直後に発生した光景に、分隊長もロティも言葉を失い、目を丸くして立ち尽くすことになった。 救援に駆けつけたニホン兵──陸自普通科中隊第3小隊員は高機動車から降車すると、3門の84ミリ無反動砲の砲列を敷き、眼前に迫るオーク重装兵に対して榴弾を発射した。義勇防衛隊が攻撃と勘違いしたのは、カールグスタフM2のバックブラストであった。 小隊長の赤沢二尉は、周囲の人間が発する妙な気配を感じ、背後を振り返った。 「ありゃ、驚かせちまったか」 「何だか怒っている兵士もいますね……しかし、酷いもんです」 赤沢は顔を前方に戻した。無反動砲と同時に射撃を開始した機関銃弾と小銃弾が、一塊になったオーク重装兵を切り刻んでいる。榴弾が命中する度に肉片と武具のかけらが宙を舞った。 「ガキとじいさんばっかりだ。陣地の中は血の海で、四分の一しか生き残っちゃいねぇ。危ないところだったな」 「赤沢二尉。衛生員に手当てを実施させても宜しいですか?」 隣にいた矢野二曹が尋ねた。居ても立ってもいられない様子だ。どうみても中学生くらいの少年たちがあちこちに転がっている姿が耐えられないらしい。 「オークを撃退した後、救護を実施させよう。砲手! 敵が逃げ散るまで榴弾を叩き込め!」 赤沢も矢野と同じ気分だった。早く目の前の豚どもを追い返して、救護に当たらせよう。そう思った。 ベレージンは己の目論見が砕け散ったことを即座に認識した。 認識せざるを得なかった。前方で横陣を組んでいたオーク共は、敵陣から放たれた光矢と爆炎魔術により、寸刻みの肉片と化している。あれほどの魔術投射量は、南方征討領軍本隊ですら実現させ得ないだろう。 爆発は徐々に自分のいる中陣に近付いていた。一刻の猶予もならぬ。ベレージンは慌てて下知を下そうとした。 「も、ものども、退け! 西岸まで退くのだ!」 既に士気が崩壊していた彼の配下は、雪崩を打って退却に移った。前衛に至っては指揮を執る騎士が早々に討ち死にしていたため、パニックに陥ったオークがバラバラと橋から転落し水柱を立てていた。 一旦退くのだ。態勢を立て直し、エギン閣下の御助勢を仰がねば……。 ベレージンは未だ悪夢を見ているような心地でいた。今はただ安全な西市街へ撤退することだけが、彼の頭の中を占めていた。 中央商館街のある中洲には、荷揚げや商品搬入のための広場が点在している。そのうちの一つ、〈ジェスルア大橋〉にほど近く対岸の西市街が見渡せる広場を警護していた邏卒長は、不思議なものを目撃していた。 それはニホン軍の集団であった。 正確に言えばニホン軍が行う奇妙な儀式だ。彼らは大きな鉄の車で広場に現れると、幌付きの車から何かを降ろし始めた。大きな鉄の皿を地面に敷くと、その上に筒と棒を立てている。筒は斜めに傾いでいた。 邏卒長は、何をしているのかさっぱり分からなかった。合計4本の筒が立てられるのと同時に、周りで兵士たちが慌ただしく動き、何人かは奇妙な筒を通して対岸を見ていた。 「あいつら、何ばしよらすと?」 邏卒長は西方訛りを隠すことも忘れてつぶやいた。 「はぁ、遠眼鏡で対岸を見ているようで……」 「あがんとこから見とるだけか。二十人ばかりおるばい。橋の守備に行けば、防衛隊がいくらか助かるんじゃなかとや?」 「何をしとるんでしょうね──お、筒のそばに一人ずつ跪いてますよ」 確かにニホン兵が、筒に手を添えて跪いていた。手に何かを持っているように見えるがよくわからない。 指揮官らしい男が何かを叫ぶと、跪いていた兵が頭に両手をあてがい、不思議な動きをした。邏卒長は何かに祈っているのだと思った。妙な音がした。 数秒の後。対岸を見ていたニホン兵が、大声で何かを唱えた時だった。マワーレド川を挟んだ半里ほど先の西市街。そこに展開した帝國軍の近くで轟音と共に爆煙が上がった。 「な、何ね!?」 「爆発しました!」 邏卒長たちは、呆気にとられた。はるか先の帝國軍のいる辺りで爆発が起き、明らかに混乱が発生していた。 ニホン兵たちの動きが慌ただしくなった。筒にとりついて何かをしている。別の筒でまた祈りの動作が行われ、先程のニホン兵がまた、何かを唱えた。爆煙があがる。今度はやや帝國軍から離れた位置だ。ニホン兵たちは筒の方角を変え始めた。 邏卒長は、ようやく合点がいった。 「魔術士の部隊ばい。あの筒は、呪具かなにかに間違いなか!」 「あんな遠くまで、ですか?」 「あの兵が呪文を唱える度に、帝國軍のおる辺りで爆発ば起きよる! 呪具で力ば強めとるに違いなかばい」 邏卒長たちはたまらずニホン兵の近くに駆け寄った。ニホン兵による祈りの動作は淀みなく続いていた。 「ダンチャーク・マッ!」 魔術士が呪文を唱える。対岸で爆発が起こり、ゴブリンと思しき帝國兵が吹き飛ぶのがわかった。邏卒長は、尊敬の眼差しで魔術士の男を見た。子供のような顔つきの若い男だ。しかし、恐るべき魔術の遣い手だった。 「こら凄か!」 「いいぞ! もっとやれ!」 「見ろ! 右往左往しているぞ。どこから攻撃されているか分からないんだ!」 邏卒たちは口々に叫び喜びを露わにした。目の前の異国の兵に心から声援を送る。涙を流すものさえ出る有様だった。 迫撃砲小隊所属の絹谷三曹は困惑していた。彼の小隊は4門のL16 81ミリ迫撃砲を広場に布陣し、対岸の帝國軍に対し近接支援射撃を開始していた。 「効力射、射撃始め!」 「撃て!」 小隊長の射撃命令が発せられ、試射による調定を完了した各砲が効力射を開始する。機械的な正確さで半装填と発射が繰り返された。 目標まで約800メートル。迫撃砲の射距離としては至近である。砲列から直接観測が可能な位置だった。絹谷は効力射初弾の弾着秒時を計測し、発声した。 「だんちゃーく、今!」 「オオー!」 敵軍のただ中で迫撃砲弾が炸裂した。土煙に混じって、軍馬らしい物が吹き飛ぶのが見えた。 絹谷はいつの間にか近くに来ていたマルノーヴ人の男たちを横目で覗き見た。皆、何故か彼をキラキラした瞳で見つめ、大騒ぎをして喜んでいた。騒ぐ理由はは理解できた。敵がどんどん吹き飛んでいるのだから。 (でも、なんで俺を見て喜ぶんだ?) さっぱり理由が分からない。 絹谷士長は不思議な居心地の悪さを抱えながら、任務を続行することとなった。邏卒長たちの大騒ぎは、対岸の帝國軍歩兵団が壊乱するまで延々と続いた。 破滅的な破壊が歩兵団本隊を襲っていた。レフ・エギン歩兵団長は、事態の収集を試みたが、彼ほどの胆力を持つ者は少数派であった。 あっという間にゴブリンとコボルトが壊乱する。本隊の兵士たちにも動揺が広がった。何しろどこから攻撃されているか誰も把握できていないのだ 本隊付参謀魔導師が、額から血を流しながら叫んだ。 「閣下! このままでは危険です。お退き下さい!」 「莫迦な。ここまで来てか!」 「既にオーク重装兵隊も退却を開始しております。現地点での立て直しは困難です」 参謀の意見具申に対し、吼えるように返すエギンの声をかき消すように爆発が発生し、掘り返された石畳の破片が辺りに降り注ぐ。 「これは如何なる魔術かッ!? 儂は知らぬぞこのようなデタラメな──」 爆発。旗手が破片を浴び、軍旗が倒れる。動揺がさらに広がった。 騎乗した騎士がエギンに駆け寄る。顔面は蒼白だった。 「エギン団長! ラーイド港区方面より敵軍が迫っております。南瞑の水軍兵と思われます。その数約五百!」 「閣下!」 相次ぐ凶報に、流石のエギンも退却を決意せざるを得なかった。戦塵で白く染まった髭を震わせ、命じる。 「全軍、退け! 一度退いて立て直すのだ!」 だが、その命令に反応できた部隊は少なかった。オーク重装兵隊は潰滅。本隊も多くの妖魔が逃散し、部隊としての戦闘力を喪失した。 エギンが西市街中心部でどうにか態勢を立て直した時には、配下の兵力は妖魔、人間合わせて五百騎に満たない状況に落ち込んでいたのだった。 一方陸上自衛隊は普通科小隊及び迫撃砲小隊をもって〈ジェスルア大橋〉を奪還する事に成功。さらにラーイド港区で再編成を終えたカサード提督の水軍兵五百名と共に、対戦車小隊が反撃を開始、帝國南方征討領軍歩兵団を圧迫しつつあった。 「あのひとたちは、いったい……」 彼らはあの恐ろしいオーク重装兵を、ネズミ駆除程度の扱いで叩き潰してしまった。ロティはぺたりと尻を地面に着け、座り込んでいた。ぽかんと口を開けたまま、ニホン兵を凝視している。 ニホン兵はそんなロティの様子に気付いたようだった。まだら模様の鎧を着込んだ大柄の兵士が、大股で近付いてきた。ロティは緩慢な動作でニホン兵を見上げる。 ロティの目に映るニホン兵は、顔に炭を塗り、全身から湯気を立ち昇らせた恐ろしい見かけをしていた。これなら、オークを倒してもおかしくないや。彼はそう思った。 「──?」 ニホン兵はロティの顔を覗き込んだ。ロティはニホン兵の厳つい風貌の中に、心配そうに彼を見つめる瞳を見つけた。意外だった。それはとても優しい瞳だった。 ニホン兵はロティと足元に横たわるアペルを交互に見つめ、突然ロティを抱きしめた。大きな手のひらがロティの頭を乱暴に撫でる。ニホン兵からは焦げたような不思議な匂いがした。 おとうさんみたいな大きな手だ……。 そう思うと、ようやく自分が生き残った実感が湧いた。そして、親友が地面で冷たくなっていることを思い出し、彼がもう二度と目を覚ますことはないのだと、理解した。 「アペル、アペルが死んじゃった……うわあああん!」 熱い涙が両目から溢れ出して、止まらなかった。ニホン兵は大きな手のひらで、ロティが泣き止むまで、彼の背中を優しくさすり続けてくれた。 矢野二曹が少年兵にすがりつかれている様子を、赤沢二尉は何ともいえない表情で見ていた。呼び戻すべきか……あいつ、息子があれくらいの年頃だったな。 うん、まあ後はあいつ抜きでも大丈夫だろう。 「よーし、高機動車とLAVをゆっくり押し出せ! 橋の上を掃討するぞ」 赤沢の小隊は、号令を受け前進を再開した。 ブンガ・マス・リマ近郊 帝國南方征討領軍本営 2013年 1月6日 19時11分 帝國南方征討領軍先遣兵団は、本営をブンガ・マス・リマ北方約半里の地点まで前進させていた。 主将レナト・サヴェリューハとその幕僚団にとり、それは不本意な状況であった。本来であれば、本営は未だ後方にて商都攻略の指揮を執っていたはずである。しかし、戦況がそれを許さなかった。 最初の躓きは、東市街攻略に向かわせた助攻部隊で発生した。徴用兵と妖魔兵団からなる混成部隊は、ブンガ・マス・リマ東市街へ突入するのに充分な兵力を与えられていたはずだった。 しかし、彼らは忽然と連絡を断った。本営付魔導士の導波通信にも応答しなくなった。 続いて、この地の空を支配していたはずの飛行騎兵団が、正体不明の敵軍から迎撃を受け大損害を受けた。帰投した翼龍騎兵と『魔獣遣い』たちは、口々に「火龍に匹敵する敵と遭遇した」と主張した。 幕僚たちは一笑に付したが、翼龍と有翼蛇が大損害を受けていることは厳然とした事実であり、無視する訳にはいかない。 報告を受けたサヴェリューハの酷薄な表情を見て震え上がった幕僚たちは、慌てて現状把握のために矢継ぎ早に指示を出した。 しかし、東岸の助攻部隊は依然行方不明であり、導波通信は沈黙したまま。さらに、斥候と連絡を命じられ本営付の翼龍騎兵が東岸へと派出されたが、あっさりと消息を絶つ始末である。 本営に何一つ詳細が入ってこないまま、時間が費やされていった。 ここで、南瞑の地で猛威を振るってきた帝國南方征討領軍の弱点が露呈する。 その根幹を、帝國内における少数民族や競争に敗れた者たちで組み上げられた南方征討領軍は、貪欲な上昇思考を活力としている。 国内に居場所を失った彼らは、帝國の外を征服しなければ未来は無い。その現実が彼らに果断さと勇猛な戦ぶりをもたらしていた。 しかし、それ故に緻密な連携や協力態勢などは存在しない。勝手気ままに動きたがる寄せ集めの軍勢を束ねるべき本営の作戦指揮能力は低かった。サヴェリューハは決して無能な指揮官では無かったが、彼を補佐すべき幕僚団が貧弱であったのだった。 主将の意を汲むことを取り違えた幕僚の出した指示によって、導波通信を行うことのできる魔導士は急速に消耗し、力を失った。 本来であれば、魔導士と組み合わせることで速やかな斥候が可能だったはずの翼龍騎兵は、単独で投入され失われた。 運用試験を兼ねて先遣兵団に与えられていた特技兵たちは、6日夕刻を迎える前に消耗し、サヴェリューハは昔ながらの伝令を用いて隷下部隊を指揮しなければならなくなったのだった。 自らの無能を補うために前進を余儀なくされた南方征討領軍本営は、無数の篝火と鬼火によって、夜の闇の中に浮かび上がっている。 周囲よりわずかに小高い位置に布陣した本営には、指揮官の所在を示す軍旗が掲げられ、前線部隊との伝令がひっきりなしに出入りしていた。馬蹄の音が鳴り響き、怒声と武具の擦れ合う金属音が不協和音を奏でている。 行き交う騎士や参謀魔導士は何かに追われるように駆け回り、殺伐とした空気を本営内に醸成していた。 「──それで?」 氷のような声が参謀魔導士を詰問した。 「は、はっ! 市街襲撃から帰投した飛行騎兵団の報告によれば、東市街に我が軍の突入した様子は有りません。現時点で東市街に大規模な混乱が見られないことから、助攻部隊は敗北したものと見積もられます」 報告を行う参謀魔導士のローブは、冷たい汗で重く湿っていた。我ながら酷い報告だと理解している。それ故に怖ろしくてたまらない。 「助攻部隊を撃退したと思われる敵軍については、情報を得られておりません。二刻前に出した翼龍斥候は敵影を得ず、一刻前に出した斥候は帰りませんでした。墜とされた恐れがございます」 「……」 「飛行騎兵団を迎撃した敵勢につきましては……その報告を真とするならば、導師級が数十名程も待ちかまえていたことになります。到底、信じられませ──」 そこで、参謀は言葉に詰まった。主将の顔に浮かぶ刺すような殺気にようやく気がついたからだ。思わず後退る。 「いや、そ、その。失礼致しました。飛行騎兵団の損害は『魔獣遣い』3名、翼龍騎兵8騎が討死、3騎が行方知れず。有翼蛇は20以上を失ったとの知らせを受けています」 重たい沈黙が、参謀魔導士の胃を締め上げた。耐えられなくなった彼が何か釈明のようなものを述べようとした瞬間、目の前の主将が口を開いた。 「飛行騎兵団、もう動かせる駒はありませんか?」 その言葉は青い顔をした参謀魔導士ではなく、先程から本営内の片隅で葡萄酒をあおっていたがっしりとした体躯の漢に向けられていた。 「無理だな。そちらに預けた騎兵は全員行方知れずだし、市街襲撃から戻った連中は消耗が酷い」 「消耗? 私は翼龍も有翼蛇もそれほどひ弱な生き物だとは聞いていませんが?」 「へたっているのは恥ずかしながら俺の部下たちだ。性根をすり減らしてぶっ倒れてやがる。今夜一晩は使い物にならんよ」 その漢──飛行騎兵団長シュヴェーリン男爵は、ぞんざいな口調で言い放った。浅黒い彼の顔面には、飛行帽の革帯の跡が残っている。 適当な丸太を手斧とノミで削りだしたようなおおざっぱな顔付きだが、奥まった瞳からは不思議と強い意志を感じさせた。拳でも入りそうな程大きな口に流し込むような勢いで酒を飲んでいるにも関わらず、動作は機敏で酒に酔った様子はない。 「俺はあいにくと出くわさなかったが、南蛮の魔導士はうちらのぼんくら共とはモノが違うようだ。ヴァロフが珍しく興奮していたよ」 ぼんくら、という言葉に目を剥きかけた参謀魔導士は、シュヴェーリンの瞳に強い怒りが宿っていることに気づき、下を向いた。 「彼の報告は信用して間違いありませんか?」 サヴェリューハが言った。シュヴェーリンは手にした杯を背後に放り投げた。どかりと手近な床几に腰を下ろす。 「ヴァロフの報告が信用できなければ、この世に確かなものなど有りはしないさ。現に俺のかわいい部下たちは還ってこなかった。本営付の翼龍騎兵に至っては──クソッ! 無駄に使い潰しやがって」 「……」 南方征討領軍飛行騎兵団は、新兵種の実験部隊として位置付けられている。その指揮系統はやや変則的で、大元は本領軍にあり、南方征討領軍先遣兵団に対しては寄騎という形で付けられていた。そのため、先遣兵団主将であるサヴェリューハもそれなりに気を使う必要があった。 「なぁ、サヴェリューハ殿。これぐらいで一旦退くわけにはいかんか? 我らの任は『南瞑同盟会議諸勢力の分断と消耗』だったろう? あまりに敵が脆すぎて商都まで来ちまったが」 「確かに、多くの敵勢力を離反させ、都市を陥落せしめた。我々の目的は達成されていると言っても良いでしょうねぇ」 シュヴェーリンの問いに、サヴェリューハは同意した。先遣兵団の遊撃戦により、南瞑同盟会議は多くの都市と野戦軍を喪っていた。後に続く南方征討領本軍の露払いとしては充分と言ってよい。 「しかし、足りません。我らにはさらなる戦果が必要なのですよ。日陰者が陽光を浴びて輝くには、人並では到底足りない。ねぇ、そうでしょう?」 「だが、自軍の半分とは渡りが付かず、俺の飛行騎兵団も今は動けん。強力な敵の正体は不明。そして、夜! ──到底正気とは言えんよ」 シュヴェーリンはサヴェリューハの異常なまでの戦意に半ば呆れていた。サヴェリューハは役者と見紛う程整った顔を上気させ、怒りとも喜びとも取れる表情を浮かべている。 「エギンの歩兵団が間もなく中洲へ突入するはずです。中央商館街さえ陥とせばこの戦、敵があといかほど戦力を残していても、我らの勝利です」 「そう上手くいくかな……」 シュヴェーリンは頭をひねった。その耳に馬蹄の響きと騒がしい叫び声が聞こえた。(伝令だな……しかし、こいつは) 「申し上げます!」 本営に全身汗みずくの伝令騎兵が転がり込んできた。煤に薄汚れ、あちこちに傷を負っている。それを目に留めたサヴェリューハの眉根がしかめられた。 「蛮都ジェスルア大橋において、エギン閣下の歩兵団が敵守備部隊と交戦。大損害を受け、西市街北部へ撤退しましてございます!」 伝令の声はほとんど悲鳴に近かった。 本営に衝撃が走った。幕僚と騎士たちが騒ぎ出す。 「ば、莫迦な!? 敵は老人と子供の寄せ集めでは無かったのか!?」 その問いに伝令はかぶりを振り、甲高い声で叫んだ。 「敵陣に魔導士多数が後詰めに入り、エギン閣下の隊を散々に叩きました。正体不明の高威力魔法の攻撃により、オーク重装歩兵は壊滅。現在西市街北部にて再編成を行っておりますが、港方面からは水軍部隊と思われる敵の一隊が迫っております」 サヴェリューハを除く全員が呻り声を洩らした。 「これで川の両岸に有力な敵勢が出現したことになるな……予備隊が払拭したいま反撃を受ければ危ないぞ」 「何より敵がどれほどかわからぬのが拙い。我らは目を塞いだまま戦っているようなものだ」 「ここは一旦退き、本軍の後詰めを待って態勢を整えるべきだろう」 幕僚たちは口々に言った。敵の勢力は不明。主攻、助攻、そして飛行騎兵団。その全てが大損害を受け攻撃は頓挫している。攻撃一辺倒でやってきた南方征討領軍の幕僚たちも、流石にこれ以上の攻勢維持は困難だと判断を始めていた。 それは、軍事的な常識に則った至極真っ当な判断であると言えた。 しかし──。 「魔獣兵団を投入します」 サヴェリューハは戦意を失ってはいなかった。決然と言い放つ。幕僚たちが顔色を失い、一拍遅れて口々に翻意を求めた。 「か、閣下! これ以上は危険です。我が軍の受けた損害はあまりに多く、市攻略は困難と思料いたします」 「魔獣兵団の他は、本営警護を合わせても、二百騎がせいぜいで御座る」 「……本気か?」 シュヴェーリンは思わず主将の正気を疑い、その瞳を覗き込んだ。 「ええ、本気です。ヘルハウンド、剣歯虎各隊は市街へ速やかに突入。火を放ちなさい」 「……敵軍が西市街を回復しつつあります。遭遇戦となるおそれがありますが?」 辛うじて自己の職責を思い出した参謀魔導士が訊ねた。 「敵勢に出会っても捨て置きなさい。蛮都を焼くことを第一とします。魔獣兵団は爾後戦場を離脱し、北方五里の地点で再度集結。本営及びエギン歩兵団、並びにオーガー隊は速やかに集結地点に後退します」 シュヴェーリンは、彼の主将が正気を失った訳では無いことを理解した。サヴェリューハは敵軍ではなく敵軍を支える南瞑同盟会議の力の源を叩くと言っているのだった。 それは即ち、膨大な富を産み出すブンガ・マス・リマそのものである。確かに、街の三分の一を焼かれたならば、商業同盟たる南瞑同盟会議は大きな痛手を受けるだろう。 ──だが。 「たくさん死ぬぜ」 シュヴェーリンは固い声で言った。 確かに魔獣兵団なら、速さに任せて街を焼くことは可能だろう。逃げ惑う民衆と燃え盛る炎が、同盟会議軍を混乱させ、俺たちへの追撃を困難にすることも期待できる。 だが、必ず敵とぶつかる。まさか後れをとることはあるまいが、敵地で戦う以上楽な戦にはなるまい。退き陣で手酷く叩かれることになるのではないか? 「彼らには苦労をしてもらいます。敵味方等しく出血を強いられるなら、臓腑から流す血の方がより深手となるでしょうから」 「容赦のないことだ」 「無論、任を全うしたならば指揮官の判断で退くことは許します。無事戻ればその功を第一としましょう」 シュヴェーリンはサヴェリューハの冷徹な作戦指揮に反発を覚えた。その一方で脳内では帝國軍将校としての損益判断を行っている。 手足に痛手を負ったとしても、本営さえ無事なら敵の本拠により打撃を与える方がよいということか。俺の好みではないが、これがこの御仁の将器のかたちというわけだな。そもそも我ら先遣兵団自体が、南方征討領軍の槍の穂先に過ぎん。 「南方征討領軍先遣兵団主将として発令します。魔獣兵団の指揮官を呼びなさい」 サヴェリューハの命令に、幕僚たちと本営付の伝令が慌ただしく動き始めた。誰も彼もが不安を抱えてはいたが、主将の明確な命令を受け徐々に戦意を回復させつつあった。 作戦に批判的な思いを抱いたシュヴェーリンでさえ、これが上手く行けば本軍到着時に敵は戦力を回復できず、ブンガ・マス・リマはあっさりと陥落するだろうと考えた。 「……ただでは負けてあげません」 喧騒の満ちる本営内でサヴェリューハがぽつりと呟いた一言に、シュヴェーリンが何か言葉を返そうとした瞬間、猛烈な爆風と閃光が彼を襲った。 「初弾、目標に命中を確認」 「よし、弾種そのまま、続けて撃て」 発砲の余韻が夜闇に溶けていく。 柘植の90式戦車は、僚車を率いてマワーレド川東岸に臥せていた。砲口は真西──対岸に向けられ、微かな砲煙を立ち昇らせている。 発砲の直前まで聞こえていた鳥と蛙たちの大合唱は、すでに沈黙した。戦車の周囲は奇妙な静寂に包まれていた。 「発射」 砲口から白い閃光が煌めく。闇の中に90式戦車の角張った車体が浮かび上がる。轟音が大気を切り裂き、戦車前方の下草がバラバラと吹き飛んだ。初弾と同様、一瞬の灼熱の後はまた静寂が辺りを制した。 対岸は対照的である。 川を挟んだ2000メートル先では、悲鳴と怒号が上がっている。所々に火の手が上がり、稜線を浮かび上がらせていた。 林立していた軍旗はことごとく倒れ、人馬がてんでバラバラの方角に走り回っている。轟音。第3射弾目の多目的対戦車榴弾がその真っ只中に飛び込み、彼らの混乱に拍車をかけた。 柘植一尉が率いる偵察隊一個戦車班は、対岸に布陣した帝國南方征討領軍先遣兵団本営に対して、夜間攻撃を実施していた。 熱線映像装置のモニターには、対岸の状況が昼間のように明るく映し出されていた。肉眼では点在する炎程度しか視認できない状況だが、現代科学が90式戦車に与えた眼は、夜間2000メートル先の敵影を容易く識別する能力を持つ。 「いいぞ、敵は大混乱だ。奴らどこから撃たれたか理解できずにいるぞ」 「そりゃこの距離ですから」 「ようやく敵の本隊を叩けたな」そう言って、柘植は安堵の表情を浮かべた。 川を渡れりゃ一発なんだがな。 敵本営らしい目標に射撃を続行しつつも、柘植はもどかしさを感じていた。分派した戦車班と小銃班は、それぞれ前哨陣地の守備と物資集積所の救援に就いている。彼の手元には一個戦車班2両が残されているだけである。 もちろん刀剣と弓矢、そしていくつかの魔法を攻撃手段としているマルノーヴの軍隊に対しては、慎重に戦うのであればそれだけで十分な戦力だったが、柘植がマワーレド川西岸で苦戦する味方の救援に向かうためには超えなければならない障害が存在していた。 柘植は、モニター上で暗く表示されている部分──目の前に横たわる幅約500メートルのマワーレド川に目を向けた。5メートル以上の水深があるこの大河を越えて、向こう岸へ向かう手段は彼の元には存在しない。 潜水渡渉には深すぎるし、海自のLCACは使えない。90式の重量に耐えられる橋も無かった。人員と軽装備だけなら渡ることはできたが、たかだか数名の戦車乗りが手ぶらで駆けつけることに、柘植は意味を見いだせなかった。 結局、マワーレド川東岸で避難民を収容しつつ対空警戒に就いていた柘植たちが再度戦闘に加入できたのは、ようやく通信を回復した派遣調査団本部からの情報を得てからだった。 「敵味方識別を何とかしないと、これからも大変だぞ」 柘植は砲撃の効果を確認しつつ、つぶやいた。モニター上では敵本隊が大損害を受けている。それが敵であると本部経由で柘植に教えたのは、南瞑同盟会議軍の偵察部隊である。 彼らが敵後方に浸透し『導波通信』により敵本隊の位置を通報しなければ、自衛隊は攻撃を決断できなかっただろう。全てが混乱しつつ始まったこの日、各地で無視できぬほどの損害を受けながらも、自衛隊は友軍相撃の可能性を恐れながら戦っていたのだった。 「旗印や装備品だと、こんな夜には見分けがつかないですからね。味方がストロボを点けてくれる訳でもなし……どうしたもんでしょう?」 根来が照準装置を覗き込んだままで言った。その声は真剣に心配していた。 「……本格的に、同盟会議軍と協力しないと駄目だろうな。俺たちには分からないことが多すぎる。地理、風土、文化、戦術。知らない土地は怖ろしいぞ」 「ですね……次で対榴、残弾10発です」 「了解」 柘植は、根来の報告に対し頷いた。頭の片隅で(次は徹甲を減らして、対榴を多く積もう。まさか、第3世代MBTより硬い敵がいるとも思えん)などと考えている。 次弾発砲の轟音と衝撃が柘植の身体を揺らした。耳から余韻が失せる前に、無線が鳴る。 『01、03。砲撃効果大なるを確認』僚車からの報告だ。 「撃ち方待て」柘植は隊内通信系で命じた。砲声が止む。90式戦車の熱線映像装置は、敵軍が壊乱しつつある様子を映し出している。合わせて20発近くの120ミリ戦車砲弾を撃ち込まれた帝國軍は、四分五裂していた。 何にせよ、これで敵も退くだろう。あれだけ本部を叩かれれば、継戦能力はがた落ちのはずだ。 柘植は額から流れ落ちる汗を拭い、祈るような気持ちでモニターを見つめていた。 俺は、生きているか? 意識を取り戻したシュヴェーリンは、止まない耳鳴りに悩まされていた。視界が少しずつ戻る。そこらじゅうが軋むような痛みをあげている。酷い気分だが、今は良いことなのだろう。彼は自分の身体を確かめた。 右腕、左腕、右脚、左脚、右脚。全部ある。彼は安堵した。頭を左右に振ると、ぼやけた意識がわずかにはっきりしてきた。 俺は幸運にも五体満足で助かったらしい。そこでようやく違和感に気付いた。 ……では俺の腹の上にあるこの右脚は一体誰のものなのだ? 考え込んでいても仕方がない。 シュヴェーリンは泥にまみれた誰かの脚を地面に降ろし、辺りを見回した。耳鳴りが収まるにつれ、悲鳴と呻き声が辺りを満たしているのに気づいた。 本営を守っていた警護隊の衛兵たちは、壊れた人形のように辺りに四散していた。そこかしこに肉体の一部が散乱している。 その光景を無感動に見ていたシュヴェーリンの耳に、誰かを必死に呼び続ける声が聞こえた。その真剣さに思わず声の主を探す。すぐに見つかった。 「おい、大丈夫か?」 「ううう……本領軍に、本領軍参謀部に。どうか、どうか……」 地面に仰向けに倒れた参謀魔導士は、うわごとのように繰り返していた。「大丈夫だ、しっかりしろ」シュヴェーリンはそう言いかけ、止めた。参謀の下半身は地面に埋まっているように見えた。すぐに間違いだと気づく。彼の下半身はどこかに行ってしまったらしい。 みるみるうちに血の気を失っていく参謀は、すでに冥界への旅路に出ようとしていた。 「俺はシュヴェーリン男爵だ。おい、貴様。頼みがあるならはっきり言え」 その呼びかけに参謀魔導士は目を見開いた。そして、残った生命をかき集めるかのように、吐息のような声で途切れ途切れに言った。 「シュヴェーリン殿……どうか本領……軍参謀部に我が言……言伝をお伝えください」 「何だ? 言ってみろ」シュヴェーリンは瀕死の魔導士に耳を寄せた。 「異界より〈烏〉来たれり。備えられよ……と」 「なんだそれは? 〈烏〉が来たと伝えればいいのか? だいたい〈烏〉とは何のことだ?」 「……必ず、お、お伝えくださ……い。帝國の存亡……この魔……導、間違いな……」 「サヴェリューハ殿ではいかんのか?」 反応は激烈だった。参謀は狂ったように叫んだ。 「必ずや! ほ、本領軍に! 〈烏〉が、異……軍……が、備えねば……」 そこまで言うと、参謀は力を失い息絶えた。目は見開かれ、壮絶な形相だった。 こいつ、何に怯えていやがったんだろうか。〈烏〉? 何かの符丁だろうが、本領軍だけが知る話があるらしい。おもしろくないな。 シュヴェーリンは参謀魔導士の死体を見下ろし、思った。〈烏〉については敵を示す符丁だろうと見当はついた。そのままあれこれと想像を巡らせようとした彼の思考は、獣のようなうなり声に中断させられた。 うなり声の発生源は、黒金の見事な甲冑を纏った長身の男──サヴェリューハだった。ただし、美麗だったその姿は血と泥にまみれ、獣じみたうなり声に見合ったものと化している。 指揮官の変貌にシュヴェーリンが呆気にとられていると、背後から呼びかける声が聞こえた。 「そこの貴公、無事か?」 気遣わしげな声には覚えがあった。シュヴェーリンが振り返ると、目つきの悪い小柄な漢が、片手で剣帯を押さえた姿勢でこちらに近付いてきていた。 漢は魔獣兵団剣歯虎隊指揮官だった。その姿は小綺麗なままだ。彼の部隊は本営から離れた位置に配置されていたため、この災厄から逃れることができたのだ。本営警護騎士の馬が怯えるから、というのが理由であった。 (もちろん、何事にも例外は存在する。一部の軍馬は虎やヘルハウンドを恐れなかった) 「どうにか、な。飛行騎兵団長シュヴェーリンだ。しかし、何が起きたのだ? いや、敵の攻撃なのは分かっているが如何なる手管を用いたのかさっぱりわからん」 シュヴェーリンは軍装にこびりついた泥を落としながらつぶやいた。 剣歯虎隊指揮官は、背後に控えている部下にうなずいた。それを受けて、オーガーとも殴り合えそうな下士官が、重々しい声で言った。右手が川向こうを指していた。 「恐れながら。川向こうからの攻撃であります」 「莫迦な。半里はあるぞ? そのような術など聞いたこともない」 シュヴェーリンは即座に否定した。しかし、剣歯虎隊指揮官とその部下は、揺るがない。 「シュヴェーリン殿。私も見たのです。川向こうで赤い閃光が放たれたのち、本営が吹き飛んだ様子を。敵は何らかの恐るべき魔導で、我らを撃ったと考えるほかありません」 「……何てこった。くそ、こんな南の果てまで来て、魔女の婆さんの呪いか!」 シュヴェーリンは悪態を尽きながら、思考を巡らせた。敵が狙ったのは本営。間違いない。こちらに反撃の手段は無く、指揮官は前後不覚に陥っている。そして、厄介なことに敵はまだこちらを叩くことが可能かもしれない。 ──ならば。 「速やかに退くべきです。私の剣虎が殿を務めます。シュヴェーリン殿は……サヴェリューハ閣下をお連れ下さい。護衛にはヘルハウンド隊が就くでしょう。すでに向こうの指揮官とは話がつけてあります」 判断が早いな。魔獣兵団の連中は皆こうなのか? シュヴェーリンに異論はなかった。ここでの戦は、すでに喪われているのだ。 「俺の部下を呼ぶ。サヴェリューハ閣下を運べるだろう。貴様の隊は何処にある?」 「この丘の反斜面に。川縁は危険でしょうから」 剣歯虎隊指揮官は抜け目ない声で答えた。シュヴェーリンは、ニヤリと笑った。退き戦で頼れるしんがりがいるのは有り難い。 「では、私は隊に戻り──」 「アアアアアア! 何奴がッ! 敵は何処です! すぐに反撃しなさい! 伝令! 伝令! どうしましたッ! 伝令を呼びなさい!」 サヴェリューハが叫んでいた。人狼も顔色を失う程の叫びだ。怒り狂ったその姿は、正気を失っているように見えた。 だが、シュヴェーリンと剣歯虎隊指揮官は、その叫びが意味を持ち始めたことに気付いていた。少し前はうなり声ばかりだったのだ。今なら話が通じる。 「サヴェリューハ殿、本営は壊滅した。敵はおそらく……川向こうだ。さすがに届かんよ」シュヴェーリンが宥めた。 サヴェリューハは、シュヴェーリンを殺気に満ちた瞳で睨みつけると、口角から血の混じった泡を吹きながら叫んだ。 「それがどうしたと言うのです! 敵を殺すのです。私を愚弄した敵を! たとえ南瞑海の果てに逃げようとも、逃がさぬ。兵を集めるのです」 「サヴェリューハ殿、あんたの先遣兵団はもうボロボロだよ──その目と腕のように」 「腕? 私の右腕がどうかしましたか──」荒い息を吐きながらサヴェリューハは己の右腕を見た。血まみれのそれは、肘から先が失われていた。 美麗だったその顔も、酷く傷付いている。右目が有ったはずの場所は焼け爛れ、醜くひきつっていた。 サヴェリューハはようやく自分が重傷を負っていることに気付いた。失われた物を知り、一瞬顔面に感情らしきものが浮かぶ。しかし、彼はすぐにそれを消した。 「ならばますます逃がすわけにはいきません。私から何かを奪う者がどうなるのか、知らしめる必要があります」 サヴェリューハは言った。どういった心理なのか、いつの間にか声色は平静さを取り戻している。残った左の瞳が、ようやく態勢を立て直した本営警護隊が丘を登ってくるのを見ていた。 たいまつを掲げ、武具の音を響かせながら丘を登る警護隊を確認したシュヴェーリンと剣歯虎隊指揮官が顔色を変えた。慌てて進言する。 「サヴェリューハ殿、あれは拙い。敵はこちらを見ている」 「閣下! 警護隊は速やかに川縁からお退かせ下さい! 撃たれます」 「撃たれる? 何処から撃たれると言うのです? この丘のどこかに敵が潜んでいるとでも?」サヴェリューハは首を傾げた。 シュヴェーリンが、 顔面をひきつらせ、暗闇に横たわるマワーレド川の向こうを指差して言った。その声は、神の託宣を告げる神官のようで、辺りに厳かに響き渡った。 「敵軍は彼に有り。我らは既に捉えられているのだ」 サヴェリューハは、その言葉に導かれるように対岸を見た。 「小隊長、敵の増援らしきもの。距離2000」 「……確認した」 車長席で根来二曹の報告を聞いた柘植は、背筋を伸ばし双眼鏡を構えた。熱線映像装置を用いなくても、たいまつの炎が群をなして闇の中を進む様子はよく見えた。 彼は決断しなければならなかった。可能な手段で敵に打撃を与えなければならない。健在な敵がいるならば、これを撃破するのは当然のことだ。 夜空を見上げると、星が降るようだった。息を呑むほどに美しい星空。降り注ぐ星明かりが、周囲の熱帯雨林を影絵のように見せている。 柘植は、命令を発した。まるで、自分に言い聞かせるような響きだった。 「敵増援を撃破する。前方敵歩兵、距離2000、対榴、班集中──撃て!」 「発射」根来二曹がいつもと変わらない声で発砲を告げた。 2両の90式戦車から放たれた多目的対戦車榴弾は、マワーレド川を容易く飛び越え、敵の増援部隊のただ中へ飛翔した。 弾着。たいまつの炎が吹き飛び、代わりに引火した何かがより大きな炎を上げていた。 柘植の目には、それがまるで生命の火が消えゆく様子に見えていた。彼は苦しげな表情を浮かべ、言った。 「……もう一撃だ」 「敵は既に大混乱ですが? 敵は戦闘力を喪失したと判断できます」 根来二曹の言葉に、柘植はかすかに震える声で答えた。 「……ここで徹底的に叩いておけば、その分どこかで味方が楽になるんだ。たとえ逃げ惑う相手でも、見逃せば奴らはきっと誰かを殺す。そうなる前に俺が先に奴らを殺すよ──射手、以前の目標、対榴、撃て!」 振り払うような柘植の命令を受け、根来は発射ボタンを押した。装填された多目的対戦車榴弾が闇へと飛び出す。90式戦車の角張った車体が、瞬間、照らし出されて闇に浮かんだ。 対岸で閃光が煌めくと、一瞬の後本営警護隊のただ中で爆発が起きた。精鋭を誇った護衛兵たちが吹き飛ぶ。熟練の魔導師でなければ成し得ぬ程の爆炎が、帝國南方征討領軍先遣兵団本営を襲っていた。 「何という……」 シュヴェーリンは顔色を失い、本能的に身を屈めていた。豪胆な彼に似つかわしくない振る舞いだった。あれが先程己を襲ったのだと思うと、背筋に震えが走った。 川向こうにいるのは一体『何』なのだ? 彼は滅びた迷宮都市跡で邪神に遭遇した冒険者のような心境で、マワーレド川対岸を見ていた。 そこに、笑い声が聞こえた。 「クク……クククク。見ました。見つけましたよ!」 それは狂気を孕んだ声だった。 閃光と轟音。警護隊が倒れ、悲鳴が上がる。爆風が立ち尽くすシュヴェーリンをなぶる。 その彼の傍らで、片腕を失ったサヴェリューハが哄笑している。残された左目は爛々と輝き、喜悦に染まっているように見えた。 「おい、あんた何を……?」 「わかりました。貴方が私に刃を突き立てた。ならば私は貴方に相応の返礼をしましょう。貴方と貴方の部下と貴方に連なるすべての者を、私は追うでしょう。 貴方の前で、それらを捕らえ、切り裂いて犯し、生きたまま焼いた肉を、貴方に振る舞いましょう」 サヴェリューハは対岸のまだ見ぬ敵に向けて、愉しげに語っていた。間違いなく相手を見ることはできぬ距離。だが……。 「ふふ……それまでどうか、どうか御身大切に。感謝しますよ! 私のこの生にかくも明らかな導をもたらした貴方に!」 サヴェリューハの言葉に応じたかのように、対岸で三度目の閃光が煌めいた。シュヴェーリンは闇の向こうにいる敵の姿をはっきりと見ることはできなかったが、少なくともサヴェリューハが心を決めたことを理解した。 この傷貌の将は、この先偏執的なその性を、対岸の敵に注ぐのだろう。それは敵味方に酸鼻極まる戦場をもたらすのだ。 本営警護隊を粉々に砕く爆発の照り返しに写るサヴェリューハの横顔は、まるで禍々しい魔神のようだった。 視られている? 柘植は突然背筋を走った悪寒に困惑した。何処からか視線を感じる。しかし、誰が? 周囲の安全は確保したはずだった。だが、蛇が絡みつくような、蛞蝓が肌を這うような感覚が離れない。 その感覚は、彼が何の気なしに対岸に目を向けた時、最も強くなった。柘植は身震いした。 「うーん……、03、こちら01。撃ち方止め、陣地転換。各車後退し予備陣地に入れ」 『……03了解。今夜は店じまいですか?』 微かな雑音を含んだ僚車からの返答。 「そうだ、下がって補給を受ける──」 そこで彼は、対岸の異変に気付いた。 新たな報告が届くのと、サヴェリューハが音もなく崩れ落ちるのは、ほぼ同時だった。 「サヴェリューハ閣下、シュヴェーリン殿!」報告の声は剣歯虎隊指揮官の叫びだった。 気を失ったサヴェリューハを慌てて抱き留めたシュヴェーリンは、声の方を振り向いた。そして、絶句した。 「……!」 無数の光が、熱帯雨林の向こうに広がる丘陵地を埋めていた。あまりに多いその光は、稜線を、輝く一筋の光帯のように見せていた。 鳴り響く金鼓と軍楽の音。軍馬のいななき。それは西から現れた。 「何処の、何処の軍勢か?」シュヴェーリンが言った。 「この軍楽は──ザハーラ諸王国軍。南瞑同盟会議の西の雄。おそらく援兵の求めに応じ、差し向けられた軍でしょう」剣歯虎隊指揮官が言った。 「おいおい、万は下らんぞ」シュヴェーリンが毒気の抜かれた声を返す。 「夜間これほどの軍を動かすのに、いかほどのたいまつを用いているのやら……。厄介な敵が現れたものです。その兵、万を超えるということは──」 「少なくとも、太守が来ているな。奴ら、贅沢な戦争をしてやがる」 光の群れは軟体動物のように蠢き、一部は流星群のように動いていた。威圧するようなその動きが示す事実は一つだ。 「逃げるぞ」 「撤退しましょう」 二人は同時に声を発した。敵は圧倒的だ。夜間とはいえ、これほどまでに彼我の戦力差があれば、勇敢な将なら迷わず追撃を命じる。ぐずぐずしていれば、包囲されて一巻の終わりだ。 「アスースまで退くぞ。サヴェリューハ殿は俺が連れて行こう」 「ヘルハウンド隊が同行します。敵は騎兵を向けてくるはず。歩兵は逃げられないかもしれません」 「やむを得ん。俺たちすら危ない」シュヴェーリンは苦笑いを浮かべた。 おそらく本営の徒歩部隊の大半と南から撤退してくる歩兵団は捕捉され壊滅するだろう。攻勢時には無類の強さを発揮するオーガー隊も、今の状況では無力だ。しかし、どうすることもできない。 剣歯虎隊指揮官が静かに言い放つ。 「私は部隊を五里北上させ、街道横の樹木線に埋伏します」 「お前、それは……」 「適当にしんがりを勤めたら、退きますよ。ヘルハウンドより私の剣虎の方が伏撃には向いていますから」 「生き延びたら、一杯奢ろう」 「とびきりの一杯を所望します」 剣歯虎隊指揮官はそう言って笑った。丘陵地の稜線から溢れ出した光の洪水は、道をたどり押し寄せつつあった。 シュヴェーリンは、張りのある声で周囲に命じた。 「飛行騎兵団長、シュヴェーリン男爵が命じる! 此度の戦はこれまでとするぞ。全軍退けェ!」 ザハーラ諸王国バールクーク王国軍本営 2013年 1月6日 20時18分 南瞑同盟会議の緊急要請を受けたザハーラ『豊饒』王ゲズル・バーリシュ・ザハラディーの命により出撃したバールクーク王国軍は、ついにブンガ・マス・リマ近郊へと到達した。 動員された兵の数は、軽騎兵、親衛騎兵、戦象兵、各種歩兵等合わせて2万余。これに途中の都市国家群から募った民兵や傭兵を含めると優に3万を超える。動員兵力の多さを誇るザハーラ諸王国の面目躍如たる規模であった。 「おうおう、無様に逃げ始めたのぉ。まあ、無理もあるまいが」 マワーレド川河畔を見下ろす丘陵地の上、金箔と極彩色の織物で飾られた輿の主は、肥満した身体を揺らしながら愉快気に笑った。ゆったりとした衣服には金糸が織り込まれ、篝火の照り返しを受けて鈍く輝いている。 3万の兵を統べるバールクーク王は、見事に手入れされた口髭を撫でながら、得意気な口調で言葉を続ける。 「我が軍の豪壮無比な姿を見れば、魔神とて敵わぬと悟るであろう。見よ、あの慌てよう。可愛げがあって愉快じゃ。しかし、あの程度の敵に良いようにされるとは、我らが同盟盟主も存外だらしないのぅ。ほっほっほっ」 「はい。バールクーク王国軍の来援なくば、ブンガ・マス・リマは陥落の憂き目に合っていたことと思料いたします」 慎重に目を伏せたまま、輿の傍らに控える妖精族の男性が答えた。リユセ樹冠国『西の一統』に属する彼は、ザハーラ『豊饒』王からの援兵を先導する役目を負っていた。樹冠国高官であるため、バールクーク王への直答が許されている。 同盟盟主側のしおらしい態度に満足したバールクーク王は鷹揚にうなずいた。 「ほっほっほっ、よいよい。余の軍が、たちまちのうちに北の野蛮人どもを『狂える神々の座』まで追い返してみせようぞ」 「御意。偉大なる王の軍が駆け降りれば、帝國軍など鎧袖一触でしょう」 「ほっほっほっ」 尊大な王の態度に思うところはあったが、それを表に出してわざわざ不興を買うほど、リユセの使者は莫迦では無かった。そもそも王とは尊大なものなのだ。 ザハーラ諸王国は、ブンガ・マス・リマの西方に横たわる広大な亜大陸を領域とする国家である。さらに先には帝國西方諸侯領があり、国境を接している。 その国土は熱帯林に始まり、高地と平原そして砂漠を有し、多くの人口を抱えている。 この地に勃興する諸王国を纏め上げるのがザハーラ王国であり、もってザハーラ諸王国と号していた。 『豊饒』王ゲズル・バーリシュの卓越した指導力のもと、ザハーラ王国は他を圧倒する経済力と軍事力、そして魔導力を使い、実質的な帝国を築き上げていた。 その中の一つバールクーク王国も、実体は中央から統制を受ける領邦の一つである。実際、他国の文書上では『王』ではなく『太守』と記されることも多い。 ザハーラ王は、軍役を差し出す義務を負ったバールクーク王国に対し、ブンガ・マス・リマ救援を命じたのだった。 (参事会議長殿の打った手はギリギリのところで間に合ったのだ。それを率いる者が少々尊大だからといって何のことがあろう) リユセ樹冠国の使者は心の中でそうつぶやいた。 「さて、ではかかるとするかのぅ。将軍、始めよ」 バールクーク王の言葉に、全身を薄片鎧で固め、胸の中央にある巨大な護心鏡を煌めかせた将軍が進み出る。浅黒い肌に鷲鼻をそびやかせた彼は、口髭をふるわせながら、大音声で王に報告した。 「偉大なる我がバールクーク王に申し上げます! 眼下の敵勢はすでに崩れておりますれば、軽騎兵をもって追い立てこれを屠るが至当!」 将軍の背後に数名の将校が歩みでて、ひざまずいた。 「ファラーシャ!」 「はっ!」 「ヤースーフ!」 「ははっ!」 「以上の二個軽騎兵団を差し向け、明朝陛下の朝餉がお済みになる頃には、敵将の素首を御覧に入れましょう!」 「よい」バールクーク王は、目を細めうなずいた。 「かかれ!」 将軍の号令が発せられると、騎兵将校が弾き飛ばされるような勢いで駆け出した。間を置かず本営後方に待機していた騎兵集団に命令を告げる怒声が響き始めた。軍馬のいななきと鎖帷子の触れ合う音が辺りを満たす。 たいまつを掲げた雑兵が周囲を照らす中、バールクーク王国軍二個軽騎兵団は、独特の甲高い鬨の声を響かせながら丘を駆け下り始めた。 バールクーク王はでっぷりと肥えた身体を大儀そうにひねり、斜め後ろに控えるやや小振りな輿を見た。 「アイシュや、よく見ておくのじゃぞ。お前は余の後継としていずれこの軍を率いるのじゃ」 「はい、お父様。お任せ下さい」小振りな輿から、鈴を転がすような声色が返ってくる。その響きにはかすかな高慢さが滲む。 輿には薄絹のベールが幾重にもかけられているため、中を伺い知ることは難しい。ただ、辺りの篝火に照らされ、薄くたおやかな姿が影法師として浮かんでいた。 「うむうむ。アイシュは聡いのう。のう、使者よ。リユセにもブンガ・マス・リマにも、これほど美しく聡明な王女はおらぬであろう?」 目尻と頬の下がりきったバールクーク王の様子に、リユセ樹冠国の使者は表情一つ変えず「誠にその通りでございます」と、頭を垂れた。 (王ともあろうものが、親馬鹿か……まぁよい。それより、河畔の帝國軍を混乱に陥れていたのはいずこの軍だろうか? 我が同胞にそれほどの力は残っていないはずだが……) 心中密かに首をひねるリユセの使者の眼下では、猛威を振るった帝國南方征討領軍が撤退に移る姿があった。 2013年1月6日夜。 およそ四月もの間、南瞑同盟会議領域で猖獗を極め、ついに本拠地まで攻め寄せた帝國南方征討領軍先遣兵団は敗北した。 ザハーラ諸王国軍の来援を受けたブンガ・マス・リマ軍は市内の帝國軍の掃討に成功。帝國軍との前線は北方約20キロに位置するアスースまで後退することになる。 第4章 エピローグ 南瞑同盟会議大商議堂 ブンガ・マス・リマ中央商館街 2013年 1月6日 22時37分 「彼の軍勢は議長閣下が?」日本政府特使の村井は穏やかに尋ねた。 尋ねられた参事会議長マーイ・ソークーンは少し驚いた表情を見せた。 「〈ニホン〉の方々は、よい耳をもっておられる。彼の軍勢は同盟会議の援兵、ザハーラ諸王国バールクーク王国軍です。我らが西の友邦ですな」 「間に合ったのですね」 村井の言葉に、ソークーンは苦い表情を浮かべた。 「かろうじて……いや、果たして間に合ったのか。我らは多くを喪いました」 大商議堂内部は、帝國軍の攻撃によってもたらされた粉塵と、戦後の喧騒に包まれている。バールクーク王国軍の参着と、帝國軍の撤退が明らかになるにつれ、室内は雰囲気は明るいものになりつつあったが、参事会を取り仕切るソークーンの表情は暗かった。 それも仕方あるまい。村井は心中を察した。 南瞑同盟会議は、かろうじて本拠地を守りきった。しかし、支払った代償は大きい。野戦軍は壊滅し、都市の三割は灰燼に帰した。市民の死者は集計すらできておらず、その経済的損失は計り知れない。 そして、未だブンガ・マス・リマ北方領域を敵の手に委ねたままであるという事実は、商業同盟として致命傷となりかねなかった。 ──それに。 「村井さん、案の定です」背後にさり気なく近付いてきた幹部自衛官が囁いた。彼には、ブンガ・マス・リマ首脳陣や市中の様子を探るよう指示を出してあった。 「やはり、予想通りですか……?」村井が好好爺然とした顔つきで言った。ただし、目は笑っていない。自衛官は、苦々しい口調で答える。 「実際共に戦った連中は別ですが、その他の参事や市民のかなりの数の中で、帝國軍を退けたのは援軍に来たバールクーク王国軍であるとの認識が主流となりつつあります」 「初動の混乱が痛かったねぇ。我々が後手に回っている間に、被害が出過ぎてしまった。不信に思う者も多くいるだろう」 「報告によれば、バールクーク王国軍は三万を超える兵力を誇示しつつ、西市街に進軍。市民に対して庇護下に入るよう喧伝している模様です。あれは宣撫工作に近い」 控えていた外務省の専門官が言葉を継いだ。 「バールクーク王国がどのような性格を持つかは目下情報収集に当たっていますが、戦闘の経緯とその勢力から、今後同盟会議の方針決定に多大な影響力を行使することは間違いありません」 「困ったねぇ。本省からは安全保障条約の締結に向けた交渉を進めるように指示が来ているが、横槍が1ダースは入りそうだよ……」 おそらく異世界から現れた我々に対し、バールクーク王国軍がすんなりと協力するということにはなるまい。今後の交渉は難しいものになるだろう。 幹部自衛官が、ややこしいことになるくらいなら、と話し始めた。 「統幕は今回の戦訓を受け、充分な兵力を投入すると言ってきています。いっそ現地勢力は、邪魔にならない程度の協力態勢でも──」 その時、会議室内で複数の鋭い警告の声が上がった。 一瞬にして室内の空気が変化したことを察知した経験豊富な警護官と機動隊員が素早く反応する。彼らは警護対象である村井を中心に防壁を作り上げた。いざという時は攻撃から村井を守るための、ポリカーボネートとセラミック、そして肉でできた防壁だ。 警護官の一人は退避するための手順として、まず脅威対象を特定しようとした。しかし、それらしきものはどこにも見当たらない。 「どこだ? 何が起きている?」困惑した声が機動隊員から上がる。 会議室内のマルノーヴ人たちは、二通りに分かれていた。戦える者とそれ以外である。 戦える者は各々の武器を抜き放ち、室内のある一点を向いていた。ソークーン参議会議長も手にしたスタッフを構え、アシュクロフトギルド長に至っては長剣を振りかぶり突進している。 しかし、その場の日本人たちには、『敵』の姿が見えない。 「どういうことだ? 彼らは何と戦っているんだ?」 「何もいないぞッ!?」 「陣形を崩すな。特使閣下を守れ」 魔術士が光の矢を放ち、アシュクロフトが虚空に向けて長剣を振り抜いた。何かを切り裂く生々しい音。断末魔の叫び。 警護官たちが見ている前で、何もないはずの空間が揺らめき──そして、褐色の肌を血に染めた女が現れ、床に倒れた。 「〈悪疫〉だ! 帝國の雌犬どもだぞ」 「こんな所まで入り込んでいたか。出入り口を封鎖しろ、急げ!」 衛士たちが口々に叫ぶ。魔術士が言った。 「アシュクロフト殿、この部屋にはもはや感じません」 アシュクロフトが長剣の血を払いながら答える。 「探索を館内全域に広げよ」 「はッ! 」 「混乱に乗じて入り込んだとみえる。油断も隙もないな」 いち早く冷静さを取り戻した村井がつぶやいた。 「魔法、というやつだろう……警部どうだ? どう思う」 警護責任者の警部が、冷や汗を拭いながら答えた。彼は村井が何を尋ねたのか理解している。 「与太話では無かったのですな。あれが、『姿を消す』魔法だとして……いくつか試すべき手段はありますが、厄介ですな。このような施設内ならば対抗策は色々ありましょうが……」 9ミリ拳銃をホルスターに収めた幹部自衛官が苦々しい口調で言った。 「三好一佐を殺ったのは奴らだ。くそ、でたらめな奴らめ。暗視装置か、熱源探知、または動体センサー……検証が必要です特使閣下。速やかに」 村井はそれらの言葉を聞きながら、アシュクロフトの訝しむような視線を感じていた。彼ほどの手練れなら、すぐに我々に敵が見えていなかったことに気づくだろう。そう思った。 「彼らには対抗策があるようだ。今までは『我々が何をできないか』を彼らに隠して付き合ってきたが、今後はそうもいかんかもな」 「と、いいますと?」 「『魔法』を舐めると痛い目に遭うよ。我々は早く信頼できる相手を見極めなければならない──この世界で戦い抜くために」 ナバート亜大陸南方海域 2013年 1月7日 12時18分 海碧色の海原がどこまでも広がっている。風は穏やかで、ビロードのようになめらかな水面は、わずかにうねりがあるのがわかる程度だ。 ナバート亜大陸沿岸部を南に遠く離れたこのあたりの海域は、行き交う交易船の姿もない。 翼長2メートルに及ぶカモメに似た海鳥の群れの中の一羽が、海面に一休みできそうな枝を見つけた。海鳥は高度を下げる。 ところが、海面ににょっきりと突き出た枝は、みるみるうちにその数を増やした。そして、海碧色の水面が黒い影を映し出した。 海鳥は、それを彼らを狙う大型海竜だと思ったのだろう。甲高い声で一鳴きすると、慌てた様子で高度を上げていった。 それは、海竜では無かった。しかし、全くの間違いという訳でもない。影は数十秒の後、白波を立てながら水面を割り、漆黒の姿を海上に現した。 その名を〈そうりゅう〉と言う。 瑞祥動物の名を冠した海上自衛隊初のAIP潜水艦が、大湊湾からアラム・マルノーヴへつながる〈門〉を密かに越えてから、すでに二週間余りが過ぎていた。 吸音タイルが貼られたセイルの上で、重々しい音と共にハッチが開かれると、機敏な動作で数名の人影が外に飛び出してきた。青色と濃紺色二種類の作業服に身を包んだ彼らは、皆一様に深呼吸をすると、それぞれが己の配置についた。 「やっぱり外の空気は最高だな。この瞬間のために俺は潜水艦乗りをやっているに違いない」 〈そうりゅう〉艦長、木梨洋一二等海佐が軽口を叩いた。 「艦長の『潜水艦乗りをやる理由』は、これで17個目ですね」 「ん? そうだったか? まぁ、細かいことは気にするな。それだけ潜水艦が魅力的なんだ」 「はいはい」 隣に立った航海長兼副長の大竹雅孝三等海佐がぞんざいな合いの手を入れる。幸運にも新鮮な空気を胸一杯吸い込みながら任務に就く見張り員は「また始まった」と聞き流した。 「レーダー、目視共付近に目標無しです、艦長」 副長が照りつける日の光に目を細めながら報告した。木梨二佐は、うん、と大きくうなずくと「交代で乗員を上げろ。虫干しだ」と言った。 彼の率いるAIP潜水艦〈そうりゅう〉は、極秘の任務を遂行すべく、異世界の大海原を西に向けて航海を続けていた。一度洋上で補給を受けた以外は、徹底的に人目を避けている。交易船が行き交う海域では、潜航するか潜望鏡深度を保ち続けてきたのだった。 その時、艦内へ通じるハッチから、よろよろと這い出てくる者がいた。青ざめた白い肌は不健康極まりない印象で、長い金色の髪はぺたりと顔に張り付いている。 今にも倒れそうな顔色のその人物は、彫像のような整った顔をこれ以上無いくらいにしかめ、大きく息を吐いた。 「艦長どの。わたしはいま大いなる精霊に一言申し上げたい気分で一杯だ。『なぜ、このような理不尽な苦難をわたしに与えたもうたのですか? わたしが何かしましたか? 今季の供物は充分だったはずですが?』と」 その人物──リユセ樹冠国『西の一統』百葉長、マウノ・エテラマッキは長く伸びた耳を力無くたれ下げた。浅い呼吸を繰り返している。 「艦内生活は、色々と難儀なようですな」 木梨が気の毒そうに言った。 「わたしは森と海に生きる妖精族ですよ。役目の重要性はわかっているのですが、この船はあまりにも……。あなた方は、ヒト族というよりは、あの面倒くさい髭モグラどもに近いと思います! 狭いし臭いし、風を感じることができない。何とも冒涜的な船を作ったものです」 エテラマッキは、早口でまくしたてた。よほど鬱憤が溜まっているらしかった。 「みなさん良くしてくれるのですが、だいたい食事もわたしには合いません。何で毎日毎日獣の肉をふんだんに使った料理ばかりなのですか! もっとこう、野草と豆を用いた質素な食事にすべきではありませんか? わたしのように美しく、長生きできますよ?」 「暴動が起きますな」木梨が斬って捨てる。 「うぬぬ」 エテラマッキは、悔しげに口をつぐんだ。大竹が、申しわけなさそうに尋ねた。 「ところで、仕事の話をしたいのですが、現海域からあとどれくらいでしょう?」 大竹の問いかけに、外の空気のお陰でようやく回復してきたエテラマッキは、静かにうなずくと目を閉じ、低い声で何かを詠唱し始めた。 艦橋に小さなつむじ風が起きる。ぼんやりとした光が彼の肩口で光った。 すっと、目を開く。 「今より北西に1日。それで陸が見えましょう」 大竹が、エテラマッキの言葉を受けて、ジャイロコンパスを確認する。示された針路は真方位320度を指していた。 エテラマッキが〈そうりゅう〉に乗艦した目的は、水先案内にある。彼は熟練した航海士兼外交官として、異界の船を目的地へ導くためにここにいるのだった。 「ようやく目的地か。そういえば『積荷』どのはどうしている? 副長」木梨が聞くと、大竹は肩をすくめた。 「ベッドでひっくり返っています。船酔いと閉鎖空間への怖れ。それにあれやこれやで。飯も喉を通らない様子です」 「……陸に着けば復活するさ。俺たちの任務はあれを無事に送り届けることだ」 「彼はよく耐えていますよ。初めて乗った潜水艦ですし」 「と言うか、『世界』からして違うからなぁ」木梨は短く刈り込んだ頭をかきながら言った。 「ソーナーから艦長、『パッシブ探知。方位023度』」 電話を被った伝令の言葉に木梨は意識を向けた。自らソーナー室と繋がる送受話器を握る。 「何かわかるか?」 『音の感じは……鯨に近いですな。海洋生物の可能性が高いです。ただし、いままで聴いたことがない音です。でもってこいつは、間違いなくデカいですよ。近づいてます』 普段は物静かな水測員長の声には抑えきれない興奮があった。 「どう思う? 副長」 「聴知方位は本艦の右63度。近づくとすれば脅威となりうるかも知れません」 「見張り、何か見えるか?」 「その方向、何も視認できません!」 双眼鏡を構えた見張り員が海風に負けないように声を張り上げた。木梨は腕を組み唸った。未知の何かが本艦に近づいている。 「ピンを打ちますか?」副長が真剣な口調で言った。「少なくとも、距離と的針的速が分かります。それに『何』なのかも分かるかも……」 アクティブソーナーで目標を探知できれば、音の変化や音質の違いからその物の動きや材質を探ることができる。木梨もその利点については理解している。 いっちょ、試してみるか? 木梨がそう考えたとき、エテラマッキが不意に声をかけてきた。 「艦長どの? ピン、とはもしかして以前この船が出していた『鳴き声』のことだろうか?」 「そうです。音の跳ね返りを測って、相手の位置や動きを探ります」木梨が説明した。 「それは、やめた方がよい」 エテラマッキの表情はとても真剣だった。ゆっくりとした低い声で、続ける。 「この辺りには、様々な連中が棲んでいます。命知らずの交易船乗りを震え上がらせる巨獣たちが。わたしの叔父上もこの辺りで手足を失いました。確かに〈ソウリュウ〉は恐るべき船だが、奴らを侮るべきではありません。奴らの体躯はこの船に劣らない」 ごくり。大竹三佐は思わず唾を飲んだ。思わずパッシブ探知方向を見た。きらきらと光る海面には何も見えない。 「やめとくか」木梨が言った。 「はぁ」 「この艦は轟天号じゃないし、俺も神宮司大佐じゃないから、マンダに出てこられても困る。刺激しないよう距離を開こう」 「賢明な判断です」エテラマッキが頷いた。 「ソーナー、方位変化知らせ」 『方位、左に変わります』 「右に取ろう。面舵、060度宜候」 木梨の指示に従い、〈そうりゅう〉の全長84メートルの船体が大きく右に針路を変えた。 木梨は、艦首が立てる白波を眺めながら(まぁ、大したロスにはなるまい。それはそうと、もしデカブツとやり合うとして、89式魚雷は通用するかな? 試してみてぇなあ)と思った。 その気分が顔に出ていたらしい。 ニヤニヤと笑う艦長の横顔を見て、大竹三佐は、また何か良からぬことを考えているぞと、嫌な顔をした。 ブンガ・マス・リマ西市街 2013年 1月7日 14時24分 1月6日夜。 帝國軍本営に対する陸上自衛隊戦車小隊の攻撃と、西の盟邦バールクーク王国軍の到着により、帝國軍は北方へと撤退した。商都は危ういところで虎口を脱したのだった。 自衛隊側の損害は少なくない。先遣隊長三好一佐を始め幕僚団は本部とともに壊滅、普通科一個小隊が壊滅。全体で殉職者の数は100名に近い。海自もミサイル艇〈くまたか〉が大破、〈わかたか〉が小破し、陸戦隊にも被害が出ていた。 「大敗北だ」 統合幕僚監部では幕僚が真っ青になっていた。100を超えるオーダーの死者を出したことに対して、各方面からの突き上げは激しいものになることは間違いなかった。 しかし、日本政府に撤退の意志は無い。現地部隊には増援到着まで治安の維持と拠点守備命令が下されていた。 柘植が率いる陸上自衛隊マルノーヴ先遣隊戦車小隊も、その中のひとつであった。 通りのあちこちから、瓦礫を片付ける男たちの掛け声が響いている。人々は昨日の恐怖を振り払うように、精力的に復興へと動き始めていた。 とはいえ、昨日までの商都を巡る攻防は人々に深い傷を与えている。広場の端に90式戦車を停止し、警備に当たる柘植の目にもそれは明らかだった。 数千を超える人間が死んでいた。柘植自身、無造作に横たえられた死体の山を見ている。高温多湿のこの地では腐敗も早い。未だ行政機能は麻痺したままで、横たわる遺体は尊厳を回復されぬまま朽ち始めていた。 車長席の柘植は自分に向けられた視線に気付いていた。この地の人々は遠慮がない。広場に鎮座する異形の物体と、それを操る男たちへの対応は大きく分けて二通りであった。 「騎士さま、騎士さま」旅装を解いたばかりなのか、足に頑丈な脚絆を巻いた中年の男が、柘植に呼びかけていた。乾いた泥があちこちにこびりついている。 柘植が目を向けると、男の顔がぱっと明るくなった。よく見ると背後には照れくさそうに父親らしいその男に隠れる、二人の子供がいた。 「ああ、やはりあの時の騎士さまだ。昨日は危ないところをお救いくださりまことに有り難う御座いました。ほれ、お前たちも御礼を申し上げなさい」 「きしさま、ありがとうございました!」 「ました!」 二人の男の子は、笑顔を満面に咲かせ元気に頭を下げた。どうやら昨日マワーレド河畔で危機を逃れた避難民らしい。柘植ははにかんで言った。 「どういたしまして。無事で良かった」 父親は90式戦車を見上げると、感心したように言った。 「昨日はあの有様でよく見られませんでしたが、これは見れば見るほど厳めしい魔獣で御座いますなぁ」 「おとうさん、この中にまじゅうがいるの?」 「そうだぞ。異界の騎士さまが使役する魔獣がいるのだ。見なさいこの鎧を」 「おおきいね」 「おもくないのかな?」 「そりゃあ重いさ。それでも凄いはやさで動くのだ。〈ニホン〉の騎士さまたちがいてくだされば何も心配することはないよ」 父親の言葉に、二人の男の子は大喜びで飛び跳ねた。柘植はその様子を微笑ましく見守った。魔獣か、この世界の人々が戦車を見たらそう思うしか無いのかもな。 しばらくはしゃいだ父子は、もう一度深々と頭を下げると、雑踏の向こうへと去っていった。 柘植はその様子を眺めながら、自分たちに向けられたもう一種類の視線に意識を向けた。 それは、疑念・警戒・不信そういったものの集まりだ。部下からも話は聞いている。街の人間の中には、あからさまにはしないものの、自衛隊に対して良くない心証の者も多かった。 無理もない。 柘植は思った。初動の遅れ、防衛体制の不備、そして援軍としてのバールクーク王国軍の出現。自衛隊に守られなかった者たちが我々に不信感を抱くのは仕方のないことだ。そして、軍人が得体の知れない異物を警戒するのも当然のことだ。 柘植の、ここ数日で以前より頬のこけてしまった、本来ならのんびりとした印象の丸顔が、鋭く歪んだ。 ──あれは、カルフ? 柘植の心中に痛みに似た何かが走った。視線の先にいたのは間違いなくカルフという名の少年だった。しかし、その控えめで優しかった顔には何の表情も無い。 敬愛する衛士団を失い、柘植に「力を持ちながら、何故救ってくれなかったのか」と叫んだ少年は、ただ暗い瞳でこちらを見ていた。 柘植は炎天下の車長席で微動だにできなかった。目をそらすこともできない。そのうちに、カルフは口髭を生やした数人の男たちに導かれるように、半壊した家屋の陰に消えていった。
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/1327.html
「おい、まだ着かないのか?遅れちまうぞ」 がたがたと不整地の道路を進むトラックの助手席で片桐が運転席の浅木に声をかけた。 「はあ、それが行けども行けどもこんな感じでして・・・」 「まったく。おまえ何回、日出生台に通ってんだよ」 片桐は無線で後続のトラックに乗っている高崎を呼びだした。 「片桐三曹、かれこれ2時間、こんな山道をドライブしてるんですよ。コンビニどころか人家もないですな」 「高崎士長、携帯電話もだめか?」 スピーカからがさごそと雑音が聞こえた。高崎がポケットでも探っているのだろう。 「だめですな。圏外です。」 軽 くため息をついて片桐は無線のマイクを戻した。かれこれ2時間。こんな状況だ。片桐三曹以下、7名の隊員は日出生台演習場で使用する実弾の輸送に従事して いた。彼らの運転する2台の73式トラックには大量の小銃弾、手榴弾、84ミリのカールグスタフなどが搭載されて演習場では、本隊がその到着を待ちかまえ ているのだ。 片桐は今年27歳。一般曹候補士からたたき上げでやってきているいわば「職業軍人」だ。大昔に、流行した「コンバット」のサンダース 軍曹がイメージにぴったりだと上官からは言われている。部下にとっては部下思いだが雷が落ちるとおっかないことこの上ない。まさに理想的な三曹といえるだ ろう。 「コンビニでも見つけてさっさと到着しないとな・・・・」 こんな失態をマスコミや自衛隊に好意的でない市民団体にでも見つかったら大変だ。しかし片桐の希望とは裏腹に相変わらず、周囲は広葉樹の森と、目の前には轍のほとんど見えない道が続くばかりだ。 「三曹、どう考えてもおかしいですよ。」 荷台の後ろから須本が声をかけた。 「いくら大分の山奥っていっても2時間も未舗装の道路を走っても人家ひとつないなんて・・・」 「だったら何だ?狐にでも化かされて同じところをぐるぐる回ってるとでもいうのか?」 そうは言いつつも片桐もこの指摘には同意していた。いくら迷子とは言え、何度か通ったことのある道だ。いくらなんでも見覚えのある場所が見てみてもいいはずなんだが・・・ 「三曹、登り坂が終わります。街が見えるんじゃないですか?」 浅木がハンドルを握りながら報告した。片桐は双眼鏡をとりだした。やれやれ、こんなところで双眼鏡を使うなんて、隊の連中にばれたらいい笑いモノだ・・・ 「え?」 「あれ?」 車列は小高い丘を登り詰めたようだった。そしてそこで片桐たちが見たモノは、日本ではまずあり得ない地平線だった。延々と小高い丘が連なっている。 そしてその大地は豊かな広葉樹で一面覆い尽くされているのだ。 「日田は?由布岳は?久住連山はどこだ?」 片桐は思わずうろたえて双眼鏡であたりを見回した。太陽の向きを確認しつつ東方向を見ると、明らかに集落らしきモノが見て取れた。 「村だ・・・。でもどこだ?中津江まで出てきちまったのか・・・」 ひとりごちる片桐でもわかっていた。中津江なんかじゃない。そもそもその集落にはここから見る限り舗装された道路が通っていないのだ。 「とにかく、あそこまで行って道を聞くしかないな・・・・」 運転席でぽかんと口を開けている浅木に発信するよう命じかけたときだった。横の茂みから何者かが飛び出してトラックの前に立ちふさがった。 「なんだ?」 片桐は目の前の人物を凝視した。暗色の服と革製であろうブーツに身を包んだその人物は外国人に見えた。しかしその外見は世界のどの人種とも似通っていない。 ちょっと高い鼻。緑色の髪の毛・・・・。 そしてなにより、その身長の低さ・・・・。1メートルちょっとといったところだろうか。 「あ、あ、ああああ・・・・」 浅木は物語の7人のこびとにも似た人物との遭遇で顎がはずれんばかりに口を開いている。後ろでがちゃがちゃと金属音が聞こえて片桐は我に返った。後ろを見てみると須本と中垣が自分の小銃に実弾を装填している。 「おい、須本、中垣。なにやってんだ?」 「三曹、おわかりでしょう?こりゃあ尋常なことじゃないですよ。身を守るモノが多いに越したことはない」 普通だったら懲戒モノの規則違反だろうが、須本のこの言葉は少なくとも現在の状況を的確に表現しているに違いない。後続のトラックの高崎からも無線連絡が入る。 片桐は目の前のこびとが73式トラックの外観を好奇心にあふれた様子で(少なくとも片桐にはそう見えた)眺めているのを確認しながら高崎に答えた。 「高崎、斉藤と岡田に実弾を装填させろ。」 「え?」 マ イクの向こうで高崎は固まった。まさか、片桐三曹はなにを考えているんだ?いくらこんな状況だからといっても・・・。だが高崎の頭の中にはとてつもなくば かげてはいるが、今この状況を説明できる仮説が構築されていた。もしも、それが事実であったならば、この片桐の命令は妥当であると言えよう。 「いいな?」 再度の片桐の確認で高崎は考えることをやめた。自衛隊では上官の命令がまず優先される。高崎は斉藤と岡田にそれぞれの小銃に実弾を装填するよう命じた。2人は高崎と同じ反応を見せながらも訓練通りその動作を終えた。 「三曹、完了です」 全隊員の準備が完了したのを確認して片桐はトラックのドアノブに手をかけた。彼の意図を察した浅木が思わず声を上げた。 「三曹、やばいっすよ」 「心配するな、武器は持ってないようだ。いざとなったら援護しろよ」 それだけ言って片桐はドアを開け放って外に飛び降りた。ドアの開く音に驚いたのかこびとは少し肩をびくっとさせたようにも見えた。片桐はまず、とりあえず笑顔を作ってみることにした。人類皆兄弟。笑顔は敵意のないことを示す共通語だ。 「や、やあ・・・」 若干ひきつった笑顔でこびとに話しかける。数秒の間をおいてこびとも片桐に敵意がないことを悟ったらしい。その高い鼻を持つ顔をほころばせた。 「あんたたちの来るのを待っていたんだよ。俺はバストーっていうんだ。村では長老が待ってる。」 言葉が通じることがあまりに意外で片桐は少しうろたえた。 「ば、ばすとぉ?って君の名前か?」 2,3回生唾を飲み込んでからようやく片桐はバストーと名乗るこびとに言葉を返すことができた。 「そうさ、そんなに珍しい名前じゃないよ。あんたは?」 「自分は陸上自衛隊三等陸曹の片桐だ」 バストーはひょいと首を傾げた。 「あんた、りくじょうじえいたいさんとうりくそうって言うのか?長い名前だなぁ」 「あ、いやいやそれは肩書きみたいなモノで、名前は片桐だ」 「まあ、いいや。じゃあ、片桐、その大きなモノに俺も乗せてくれよ。村まで行こう」 そう言うとバストーはすたすたとトラックに歩み寄った。運転席ではびびりまくった浅木が89式小銃をバストーに向けていた。 「こ、これ以上近寄るな!」 震える声で浅木はバストーに叫んだ。バストーはそれに動じるわけでもなくけらけらと笑った。 「あんた、おもしろいモノ持ってるな、それどうやって使うんだ?」 「銃を見たことないのか?」 手で浅木を制しながら片桐がバストーに訪ねた。日本で銃を知らないやつなんていない。だったらここはいったいどこなんだ。もはやその自問が意味をなさないと知りつつも片桐はそう思わずにはいられなかった。 「ないね。パタトールならいくらでも見たことあるんだけど」 「パタトール?」 今度は片桐が聞き返す番だった。バストー曰く、どうやらそれは弓矢の一種のようだ。 「パタトールはすごい。特にアンバードの持つパタトールは強力なんだ。」 またわからない言葉が出てきた。アンバード、話の流れから人種や国名のようだが、当然世界地図にはそんな名前の国は存在しない。 「アンバードってのは森の悪魔なんだ。俺たちガントールとクーアードの村をいつも襲うんだ。」 バストーと会話するごとに片桐たちの知らない言葉が次々と飛び出してくる。浅木と片桐の間のシートでバストーは次々と語り始めた。 彼の話によると、バストーたちこびとはガンドールと呼ばれているようだ。そしてクーアードというのは、彼の話曰く、片桐たちに近い人種のようだった。そしてアンバードとは鬼のような外見で森に潜み非常にどう猛で、常に村を荒らしている連中のようだった。 この世界はヌーボルと呼ばれていて、バストーにもそれがどのくらいの大きさかは知らないそうだ。噂では歩いて100日の距離にクーアードが大勢住んでいる聖地があるそうだが、村の人間は誰も知らないそうだ。 村の周辺には転々と集落が存在し、そこではクーアードとガンドールが共存して生活しているようだ。村々は独立し、互いに交流はしてるそうだが、ここのところのアンバードの襲撃で村々の連絡は途絶えがちということだ。 「で、バストー、なんで君はそんな危険な森にいたんだ?」 がたがた道で徐行するトラックの中で片桐は問いかけた。バストーは少し考えてからこういった。 「長 老様がアンバードの襲撃に困って伝説のロサールの魔法を使ったんだ。あ、ロサールってのは伝説の古代王国でね。魔法でヌーボルを支配していたらしいんだけ ど、大昔に滅びちゃったんだって。でも、クーアードは彼らの魔法を少しずつ伝承していて、長老は村が受け継いだ魔法であんたたちを召還したらしいんだ。」 片桐は考えた。じゃあ、俺たちは元の日本からどこかわからない、彼らのいうヌーボルにワープでもしてきたというのか。 「バストー?なんで俺たちなんだ?俺たちはただ普通に演習に向かう途中だったんだぞ!どこの誰だかしらない山賊退治になんでおれたちが?」 矢継ぎ早にまくしたてる片桐にバストーは目を白黒させながら聞いていたが、ぶっきらぼうに答えるだけだった。 「そんなこと、俺があんたたちをよんだわけじゃないんだから・・・。長老に聞いてくれよ」 20分前後で車列は村の外壁に到着した。 「三曹、こいつは・・・・」 浅木がサイドブレーキを引きながら思わずこぼした。無理もないだろう。村は藁葺き、煉瓦や木で組み立てられた粗末な家々がならび、その周囲を外壁らしき土 壁のようなモノが覆っているのだ。その外壁にも投げ槍らしきモノや焦げた跡があちこちに見られた。アンバードとやらの襲撃の跡だろう。 「さあ、片桐、長老のところへ行こう」 バストーはトラックの到着にうろたえる村の人々に挨拶しながら片桐の手を引っ張った。トラックは村の外にひとまず留めて徒歩で村にはいる。 「なあ、俺の部下もいっしょにいいか?」 「ああ、いいんじゃないの」 村の中心に片桐たちはバストーの案内で進んだ。村人はバストーのようなこびとと、片桐たちと同じような人間たちで構成されていた。ガンドールとクーアード なんだろう。クーアードは人間と同じ背格好だが、髪の毛の色や目の色が人類にはない色をしている。たしかに黒髪や金髪もいるが、青、緑、赤・・・いろいろ な色の連中がいた。そしてみんな一様に美しい。男女問わず、まるで彫刻のようだ。 自衛隊員たちはヘルメットにチョッキのフル装備に実弾を装填した89式小銃で身を固めておずおずと村の道を歩いていった。村人に敵意はないようだが、不気味なことには変わりない。本来なら大分の山奥の演習場にいるはずが、どういうわけかこんな未知の世界にいるわけだ。 「長老とソリスが待ってる」 バストーが早足で歩きながら片桐に声をかけた。 「ソリスって?」 またしても聞いたことのない単語が出てきて多少うんざりしながらもバストーに聞き返す。 「クーアードの中で神聖な存在の女性さ。代々女性がソリスになって長老と一緒に村を治めていくんだ。そしてソリスは伝説の神々と話をして、村の将来について神様の指示を仰ぐんだよ」 巫女さんと王女様みたいなものだろう、と片桐は想像した。彼の頭には卑弥呼に近いイメージがうかんでいた。おそらく、この村は村人の衣服や建物の様式から して、現代日本とはかなりかけ離れた文化水準にあるようだ。卑弥呼のような存在で村を統括していてもさほどおかしくもなかろう。 「三曹、おれたちいったい・・・」 高崎がほかの部下に悟られないように片桐に尋ねた。 「きっと神隠しにあったのさ。油断するな。」 片桐はそれだけ言うとバストーに続いて村の通りを足早に歩を進めた。高崎は片桐の言葉を聞いて先ほど、バストーと出会ったときに考えた自分の仮説が彼の考 えと一致していることを知った。それを知ったところでどうにかなるわけではないが、とりあえず隊長の片桐と同じ考えであることが彼をほっとさせたのだ。 村の中心、ひときわ大きな邸宅へバストーは片桐たちを案内した。トラックには須本、浅木を残している。万が一、どかんとやられたらどうにもならない。都合片桐たち5名が長老とソリスという人物の待つ邸宅に赴いたのだ。 「長老、アービルから召還したクーアードをお連れしました。」 バストーが中庭とおぼしき場所で大きな声で報告した。邸宅は古代ローマを彷彿とさせる柱が強調された趣で片桐たちを迎えている。と、そこへ柱の間からぬっと老人が現れた。彼が長老のようだ。 「バストー、ご苦労だった。アービルから来た勇者よ。わしが長老のザンガンだ。」 「陸上自衛隊三等陸曹の片桐です。いろいろとおききしたいことがあります。」 ザンガンと名乗る長老は片桐の言葉を手で制した。ちょっとむったした表情を浮かべたが片桐は我慢してザンガンの言葉を待った。 「ロサールから代々伝わる魔法で、そなたたちを呼び寄せるのは初めてではない。アービルの戦士たちがこの村に来るのは90年ぶりだ。」 ザンガンの言葉に片桐は思わず聞き返す。 「90年前・・・。いったい連中はなにをしたんですか?」 「だ いたいのことはバストーから聞いているだろう・・・。この村を始め、ヌーボルはアンバードの襲撃に絶えずさらされておる。普段は我々で何とか撃退できるの だが、90年から100年に1度、奴らは決まって大規模な攻撃を仕掛けてくる。そのときに、我々はロサールから受け継いだ魔法を駆使してその苦難を乗り 切ってきたのだ。この村が受け継いだ魔法とは。パンサン。すなわち戦士の召還だった。90年前もアービルの戦士、すなわち、我々とは異なる世界の戦士の力 でこの村を守った。バストー、彼らの置きみやげをお見せしろ」 長老の命令でバストーは柱の陰へ消えた。そしてすぐに何か抱えて中庭に戻ってきた。彼の持ってきた品物は片桐たちを驚かせるに十分だった。 「これが90年前に呼び寄せたアービルの戦士の持ち物だ。」 「三曹!こ、これは・・・・」 高崎が思わず声を上げた。高崎に言われるまでもなく片桐もこれには間違いなく見覚えがあった、大昔の記録映画にたびたび登場する。英軍が第2次大戦まで使っていたシルクハットのようなあのヘルメットだった。 「90年前の記録によれば、そのとき召還されたアービルの戦士はおよそ200名。クーアードだったそうだが、そなたたちとは若干姿が違うようだ。彼らは自らがここに呼ばれた使命を果たすと、再びロサールの魔法でこの世界から消えたとされている。」 「使命ですか・・・?」 片桐は学生の頃読んだ雑誌の内容を思い出していた。第1次世界大戦中。トルコの戦線で丘に突撃した英軍の兵士が200名、霧の中に入ってそのまま消えてしまったという話だった。 「そう、使命だ。彼らのさらに100年前には赤い服を着たクーアードが煙の出る武器でアンバードを退治したという記録もある。さらに昔には銀色の鎧を着たクーアードが見たこともない大きな動物にまたがり、大きな槍でアンバードに突撃したという記録もある。」 長老の言葉に高崎が真っ青な顔をして片桐に耳打ちしてきた。 「三曹、赤い服ってまさか、イギリス兵じゃないですよね?19世紀にアフリカで行方不明になった英軍はいくらでもいますよ。それに銀の鎧に槍って十字軍ですか?行方しれずの十字軍の一団なんて話も聞いたことありますよ。」 高崎の疑問の言葉を引き継ぐようにザンガンは言葉を続けた。 「中には悲惨な最期を迎えたクーアードもいたようだ。丸腰で、食事の最中に召還された船乗りらしいクーアードはなすすべなくアンバードに殺されたとある。200年前の記録だがな・・・」 もはや、片桐には高崎の仮説をさらに発展させた仮説が頭で構築されつつあった。殺された無防備な連中はきっと船員だ。マリーセレスト号の船員だったんではないだろうか・・・。まさか、神隠しといわれる謎の事象は彼らの伝承の魔法によるものなんじゃないのか。 「長老、ここに召還されたクーアードたちはその使命を果たした後どうなったんですか?」 ここまで話を聞いて、片桐なりに推測した結果を分析すれば最大の疑問点はこれしかない。ザンガンは顎に蓄えた白いひげをなでながら片桐に返した。 「我々 に伝わるパンサンはとても不安定だった。パンサンは神々と交信してソリスの魔力を介在して戦士たちを召還する。戦士たちはソリスの望んだ使命を達成し、再 びソリスの儀式を受ける。そしてこの世界から消えていくのだ。アービルへ帰る儀式は村の裏の山にある神々の遺跡で行われるんだが、わしも帰りの儀式は見た ことがないんだ・・・・」 つまり片道切符の可能性も大いにあるってことか・・・。片桐は部下に悟られないようにだが軽く舌打ちした。実際、神隠しにあった多くの兵士たちは元の世界に帰ってきてはいない。 「で、我々に課せられた使命とは?」 片桐の質問にザンガンはうなずいた。そして柱の奥を振り返ると恭しくひざまづいた。 「スビア様、アービルの戦士たちに使命をお伝えください」 ザンガンの言葉に応えてソリスと呼ばれる神聖な女とやらが姿を現した。その姿は片桐たち自衛隊員を驚かせた。てっきり、年輩のおばさんか、ロリコン趣味の 連中の喜びそうな少女が出てくるのかと思いきや、彼女は村で見かけたごく普通のクーアードだった。年齢は20代前半。少し赤毛の髪の毛と古代ローマのよう なシルクっぽい衣服以外は。しかし、村で見かけたどの女性よりも気高く美しかった。日本人でも西洋人でもないが、純粋に美しいと思えるその姿は隊員たちを 釘付けにした。 「よく来てくださいました。私はスビア。この村のソリスです。まずはあなたがたを突然ヌーボルに召還した無礼をお詫びしたいと存じます。」 なるほど、外見はともかくその言動は神聖視されるにふさわしいものだ。片桐はこの世界の状況をしるために少しカマをかけてみることにした。 「スビア様、私は陸上自衛隊三等陸曹の片桐ともうします。こっちは高崎士長。副官みたいなモノですな」 「陸上自衛隊ですか・・・初めて聞きますね・・・」 スビアは片桐の自己紹介に明らかに嫌悪感を見せた。西洋系でもない東洋系でもない美しい顔を少ししかめている。 このやりとりを聞いたザンガンがあわてて片桐の前に立ちふさがった。 「待ちなさい。ソリスの前では自分から話してはいかん!」 「え?」 「ソリスとの会話はわしを介してのみ許されているのだ。彼女に話しかけてよいのは神々だけなんじゃ」 なんというめんどくささだろう・・・。思わず片桐がため息をついた。そのリアクションがさらに気にくわなかったのだろう。スビアはその顔にさらに嫌悪感をにじませた。 「今 日のところはかまいません。私が神々に祈ったあなた方の使命とは、まもなく襲ってくるアンバードを皆殺しにすることです。アンバードの大群はおよそ100 年に1度私たちを襲います。ゾードと呼ばれる赤い満月の出た次の日、彼らはやってきます。その攻撃から私の村を守ってほしいのです。」 「なるほど、よくわかりました。しかし、スビア様にひとつ申し上げねばならないことがございます。」 向こうの主張はわかりすぎるくらいわかった。要するに代理戦争の依頼だ。彼らは独力でアンバードの襲撃を防げないからわざわざ彼らの言うアービルから代わりに戦ってくれる連中を呼び寄せているわけだ。 片桐たちの前が、第1次大戦中のイギリス軍部隊、その前にはマスケット兵、十字軍・・・。 「私たちは武器は持っていますが、それを使用することは許されていません。」 片桐のその言葉にスビアは一瞬きょとんとした。 「それはどういう意味です?」 「言葉のままです。我々は武器を持っていますが、法律がそれを実際に使うことを許していないのです。残念ながらお力にはなれませんな」 彼女やザンガンに憲法9条や自衛隊のあり方なんかを言ってもわかるはずもないことだ。片桐はかいつまんでわかりやすく説明したつもりだった。しかしスビアはいっこうに理解できないようだった。嫌悪感に加えていらだちすらその表情に浮かべながら言った。 「では、あなた方はその武器をいつ使うのです?」 「内閣総理大臣、あなた方で言うところの長老の許可がないとたとえ、我々が殺されても使えません。」 自分で言っていてとても理解できないであろうことは片桐は承知していたが、現在の自衛隊ではこれが規則であるのだから仕方がない。 「そんな、馬鹿な話が・・・・」 ザンガンもあまりのショックに言葉が続かないようだ。無理もない。頼みの綱が戦えないと言うのだ。 「片桐三曹!」 トラックの浅木から無線が入った。 「どうした?」 「変な連中が近づいてきます!」 片桐と浅木の無線越しのやりとりを不思議そうに見ていたスビアが尋ねた。 「片桐三曹、いったい誰と話しているんです?」 「村の外においてあるトラックに残した部下とです。変な連中が近づいているそうですが、お心当たりは?」 片桐の皮肉めいた質問にスビアはさっと顔を曇らせた。素早くザンガンに向き直る。 「アンバードだ!アンバードが来たぞ!」 ザンガンはよろよろと邸宅の外に出て村人に大声で叫んだ。村人のうろたえ具合が邸宅の中の片桐にもよくわかった。 「片桐三曹、あなたとのおしゃべりはいったん打ちきりです。アンバードの襲撃です。村の外の部下を中に入れてあげなさい。彼らのパタトールは恐ろしい威力があります。」 「浅木、村の中にトラックを入れろ!」 「その後は?」 「待機だ」 片桐は浅木に短く指示を出すとスビアに向き直った。彼女は毅然とした表情で片桐を見返している。 「力は貸してくださらないのね」 「さきほど申し上げたとおりです・・・」 片桐の返答を聞くとスビアはきびすを返して柱の奥に消えた。会見は終わりだった。 「三曹、いいんですか?」 高崎が問いかけた。 「自衛隊は内閣の承認なしでは武力行使を禁止されている。ましてや海外での武力行使などもってのほかだ。トラックに戻って待機だ。」 自分でもこの返答には納得していないが、自衛官としては部下にこう指示するほかはなかった。 片桐たちがトラックの止めてある門の前に戻ってくるとその大きな扉は閉じられていた。外壁には奇妙な武器を抱えたガンドールやクーアードが男女問わず張り付いて襲撃に備えている。 「あれがパタトールか・・・」 パタトールは長さ80センチほどの棒が十字にくみ合わさったものだった。女たちは外壁の土にとがった棒を次々と刺していく。あれがどうやら矢のようだ。構造上大した飛距離も出ないだろう。 「高崎、トラックの陰に隠れて待機してろ」 片桐はトラックの助手席に乗り込んだ。バストーが中で頭を抱えてふるえている。彼は片桐を見ると彼にしがみついてきた。 「片桐!助けてくれないのか?このままじゃアンバードに皆殺しにされちゃうよ!」 彼らの武器を見ればその貧弱さは見て取れる。しかし・・・ 「三曹、憲法9条を破る気ですか?」 2人の話に割って入ったのは荷台にいた岡田だった。前々から憲法だの日米安保だのとうるさいやつだった。大学では世界人類研究会とかいううさんくさいサークルで平和運動をやっていたと言うが、なんでこんなヤツが自衛隊に入隊したのかは、片桐たちの間でも謎だった。 「破る気はない。だが、人としての最低限の道ははずさないつもりだ。」 「それは武力行使の準備があるということなんですか?」 岡田がかみついた。毎度のことだがこいつはこうなってからが長い。片桐はタバコをポケットから取り出して火をつけた。そういえば、ずいぶん吸っていなかったことに気がつく。 「積極的な武力行使はしない。だが、自衛のためならやむをえん。」 「三曹は公僕の自衛官でありながら、国民の総意によって決められた憲法に違反して武力行使を行うんですね。軍国主義の復活ですよ!」 岡田は根本的に認識が欠落してる。ここは憲法とかなんとかが通用しないであろう場所だ。今近づいているアンバードとやらが、日本の実状と憲法を尊重してく れるのか?あり得ないだろう。隣国の中国もそれを尊重するどころか、やりたい放題やっているというのに。こんな得体の知れない国の連中が「私たちは憲法で 戦闘行為はできません」で「はい、そうですか」と見逃すわけがない。やり合わないに越したことはないが、最悪の事態も想定しておくのは常識だ。 片桐の説明にも岡田は納得しない。 「どの世界の人間だろうと話し合いをすれば解決できるんです」 この議論もここまでだった。アンバードが村の外壁に到達したようだ。 「よし!発射!」 村人が原始的な弓矢=パタトールを次々と発射していく。外壁の外で聞いたこともない叫び声があがった。 「おいおい、なんだよ・・・」 「少なくとも人間じゃないな・・・」 トラックの陰で待機する中垣と斉藤が言葉を交わした。その瞬間、轟音とともに外壁に土煙が上がった。 「なんだ?」 「迫撃砲みたいな音です!」 須本がトラックの陰から外壁の様子をうかがう。2,3人のガンドールが倒れている。須本は初めて見る死体におもわず胃の奥からこみ上げてくるモノを我慢できなかった。 「来るぞ!」 外壁に次々と着弾する未知の兵器で後退した村人は物干し竿のような槍やRPGで出てくるようなロングソードを構えて横一列に並んだ。その中にスビアも混 じっているのを片桐は見逃さなかった。村を守るために男女問わず戦っている。その横隊に時々、例の炸裂する飛び道具が飛来してそのたびに数名が倒れた。 「奴らが外壁を越えたらパタトールの一斉射撃だ!」 剣や槍を構える村人の前に数名のパタトールを持ったクーアードが歩み出た。次の瞬間、外壁によじ登ってきた生物は片桐たちが未だかつて見たことのない生物だった。 「あれが・・・、アンバード・・・」 身長は2メートル近く。青みがかった肌にちりちりの黒髪が大きめの頭におまけのようにのっかっている。手には棍棒や斧らしき武器が握られ、衣服は腰巻きのようなモノだけ。その形相はまさに、鬼をイメージさせた。浅木が思わずその場にへたりこんだ。 「あ、あああ・・・」 トラックの中にこもっているバストーもシートにちぢこまっている。たしかに、迫力満点だ。 「三曹、やばくないですか?」 高崎に言われるまでもなかった。数こそ20匹もいないが、体格といい、その動きといい、クーアードもガンドールも白兵戦ではかなわないのは目に見えてい た。しかも、奴らの中に奇妙な三日月型の棒を持った連中がいた。そいつがその両端を持って、ちょうどベンチプレスのように前に突き出すと、目に見えない何 かが発射されて爆発が起こるのだ。バストーががたがた震えながらつぶやく。 「やばい・・・、パタトールを持ったアンバードが3人もいる・・・。もうだめだ・・・」 アンバードは自衛隊には目もくれずに村人の横隊に突撃した。目の前の獲物しか目に入っていないようだった。 片 桐は思わずトラックを降りて少し離れたところで繰り広げられる白兵戦に目をやった。明らかに村人が押されている。その中で勇敢に粗末なパタトールで応戦し ているスビアを見つけた。彼女は一瞬、片桐の方を振り返った。さっきまでのプライドにあふれた表情はない。片桐に向けられた視線は間違いなく、恐怖する普 通の女性の目だった。 「あっ!」 片桐が思わず声を上げた。彼女が目をそらした隙をついて1匹のアンバードが投げ槍を投げた。間一髪それはスビアをはずれたが右腕をかすったようだ。彼女はその場に腕を押さえて座り込んだ。 「三曹!」 たまりかねた高崎が再び声を荒げながら片桐を呼ぶ。必死に戦う村人の後ろでガンドールの子供やクーアードの老人がひとかたまりになって震えているのが目に入った。 それは片桐自身がびっくりするくらいだった。彼は半分無意識に腰からシグザウエルを抜くと安全装置を解除しながら駆け出していた。 「片桐三曹!」 高崎のすっとんきょうな声を無視して瞬く間にパタトールを操るアンバードの前に躍り出た。ここでアンバードは初めて片桐の存在に気がついたようだ。青い肌に醜い表情の顔を片桐に向けた。 ぱん!ぱん! 両手で構えて2発、片桐はアンバードの顔に向けて発砲した。9ミリ弾はその音と同時にアンバードの醜い顔に着弾してその顔をさらに醜くした。緑色の体液が 着弾した部分から吹き出す。そしてそのまま仰向けにアンバードは倒れた。 銃で殺せる!片桐は興奮しながらも分析した。 「ちくしょう!三曹を援護するんだ!」 高崎もトラックの陰に伏せていた須本と中垣を連れて突進した。89式のスリーバーストを確実にアンバードに撃ち込んでいく。弾薬を無駄に使うな、という片 桐の教えを忠実に守った正確な射撃だった。だが、胴体に次々と着弾する5・56ミリ弾を受けてもアンバードはなかなか倒れない。すでに10発近く命中して もまだたったままのヤツもいる。 「ちくしょう!!!」 浅木と斉藤もようやく覚悟を決めて射撃を開始した。 「おい、岡田!」 浅木はトラックの陰に隠れたままの岡田を呼んだ。岡田は無表情のまま動こうとしない。 「岡田!三曹たちを援護するんだ!」 再び浅木が岡田に声をかける。岡田はようやく浅木を見る。 「おまえたち、こんなことが許されると思ってるのか?」 「ばかやろう!目の前で人間が死んでるんだぞ!助けなくてどうする!」 撃ち尽くしたマガジンを交換しながら浅木が大声で叫ぶ。 「そんなこと問題じゃない!これは憲法違反だ!」 「勝手にしろ!」 浅木は岡田との議論をしている暇はないと判断して射撃に集中した。 「スビア様!あ。あれを!」 ザンガンが隊列の後ろに後退したスビアに指さした。片桐たち自衛隊員が見たこともない武器でアンバードと戦っている。彼らの武器から発せられる大きな音で彼女の耳は少し痛かった。 「高崎!須本!中垣!頭だ!頭をねらえ!」 片桐は追いついた高崎たちの後ろに下がってマガジンを交換した。すでに数体のアンバードが無惨な死体をさらしていた。目の前の敵にしか興味のないアンバー ドたちも仲間を一瞬にして肉塊にした新たな敵に闘志をむき出しにして突進するが、弾幕で動きを封じられ、弱点の頭部を撃たれて絶命していった。 最後の1匹が倒れたときには片桐はすでにマガジン4本を撃ち尽くしていた。 「やった!やったぞ!」 村人から歓声が上がった。 「アービルの戦士がやってくれた!!」 負傷者を家々に運ぶ村人たちは次々と隊員たちに感謝の言葉を贈りながら通り過ぎていった。片桐はトラックの弾薬箱から9ミリ弾のマガジンを取り出して装填した。 「高崎、やっちまったな・・・」 横で同じく89式のマガジンをチョッキのマガジンポーチに補給する高崎はにやっと笑った。 「これで連中を見捨てていたら俺はあなたを嫌いになるところでしたよ」 「片桐!すごいじゃないか!」 さっきまでトラックで震えていたバストーがぴょんぴょん飛び跳ねながらやってきた。この動作が彼らガンドールの喜びの表現らしい。 「90年前の記録だとアービルの戦士のパタトールはあんなにいっぱい発射できなかったそうだぞ!みんな横1列になって戦ったそうだ!こんな秘密兵器があるなんて・・・長老もソリスも知らなかったって!」 なるほど、90年前のエンフィールドライフルでやつらを止めるにはナポレオン時代の戦術しかあるまい。だが片桐たちには自動小銃がある。 「長老とスビア様に言ってくれ。人類の技術は常に進歩しているのですってな!」 その夜、村はお祭り騒ぎだった。アンバードの攻撃をくい止めたお祝いということだ。見たことのない酒や料理が振る舞われた。 「うわっ、きついな・・・。ウォッカ以上だ」 斉藤が村人から渡されたコップの酒を飲んで思わずぼやいた。それでも美人のクーアードの娘にお酌をされていい気になってぐいっと飲み干した。輪からはずれ て岡田が憮然とした表情を浮かべている。岡田からすれば片桐の行為は、憲法違反、規則違反以外の何者でもない。片桐たちに言わせれば、指揮命令系統から完 全に孤立し、未知の領域で出会った友好的な人種と、自分たちの危機を救った正当防衛なのだろうが。 「まったく岡田はしょうがないですな」 少し顔の赤くなった高崎が片桐に話しかける。 「あまり飲み過ぎるなよ」 片桐は高崎にそれだけ言うとお祭り騒ぎの村の広場から離れた外壁の上に登った。てっぺんに座り込んで、村人からもらった例の強い酒を少し飲んでみた。強烈だが悪くない。 「お祭りはお嫌いですか?」 不意に後ろから声をかけられて片桐は思わず腰のシグに手をかけた。が、すぐに声の主に察しがついてその手を離した。 「今はそんな気分ではありませんな」 声の主、スビアは片桐の横に座った。 「あなたはなにを後悔しているのです?」 スビアの問への答えを片桐は少し考えた。岡田の理屈で言えば、いかに村人が危険であれ、自衛隊が武力行使するのは違反であり、許されることではない。それ は片桐自身わかっている。しかし、その結果、死ぬはずだった村人は生き残り、こうして楽しく夜を迎えている現実もある。 「あなたが昼間言ったアービルの掟に違反したことですね・・・。私にはその掟が理解できません。目の前で抵抗もできずに殺される者がいるのに助けてはいけないなんて。」 「私は軍人です。軍人は最高司令官の命令なしに動いてはいけない。それがどんなに理不尽なことでも・・・。そう思ってきました。しかし、その最高司令官のいないこの世界では私が指揮官です。後悔はしていません。」 スビアにとっては意味の分からない単語もあっただろうが、彼女はうなずいた。 「あなたの事情はどうあれ、この村をアンバードから守ってくれたことはみんな感謝しています。」 片桐は初めてスビアの方を振り返った。彼女は初めて片桐に笑顔を見せていた。こうして土手のような外壁に座っているととても神聖な存在には見えない。しかし、彼女が片桐たちをこんな世界に呼び出した張本人なのだ。それを思うと自然に片桐の心に壁ができていった。 「今夜はよく話をされますな。神聖なご存在にもかかわらず。我々を歓待して懐柔するおつもりですか?その大事な使命のために」 スビアにとってこの言葉は最大限の侮辱に値した。本来、ソリスは長老を介して以外ほかの者と会話することはできないのだ。それを破ってまで片桐と会話しようとした彼女のプライドは傷ついたようだ。 「あなたには失望しました。たった7名の部下しかいなくて不安でしかたなかったんです。でも今日の戦いぶりで少し安心しましたが・・・、やっぱりあなたは信用できません!」 酒の勢いと今までの緊張から来る疲れといらだちも手伝って片桐もおもわず声を荒げた。 「信用?我々を勝手にこんなところに呼んでおいて、信用?あなたがどんな存在か知りませんが、直接話をしただけで我々に恩を着せるようなまねはやめていただきたい!来たくて来た訳じゃないんだ・・・」 ここまで言って片桐は少し後悔した。ちょっと感情的すぎたと自分でも自覚していた。 「わかっています。それは私もよくわかっています・・・」 片桐は彼女の言葉にあえて応えなかった。片桐自身、今の状態におかれていることの責任すべてを彼女に求めるのはためらわれた。こんなか弱い女性がこの村の全員の命を預かっていることのつらさは、7名の部下を預かる片桐としてもよく理解できたからだ。 「でも、でも、私はどうすれば・・・・、村を襲ってくるアンバードは私たちでは太刀打ちできない。アービルの戦士の力を借りるしか道はないのです!私だって怖いんです。でも村のみんなを守れるのは私だけなんです!私だけ・・・・」 昼間に見せていた気高さがまるで嘘のようだった。いや、むしろ今の彼女の方が年齢相応のようにすら思えた。 「あなたがたには本当に申し訳ないと思います。でも、私にはこれしかないのです。私だってソリスの家に生まれなかったらこんな苦しみは味あわなくてもよいのに・・・」 無理もないだろう、ソリスとして英才教育は受けているのだろうがまだ20そこそこの女の子だ。そのほっそりとした肩に村人たちの命が掛かっているのだ。 「す みませんでした。アービルから来たあなたにこんなことを言ってもしかたがありません。アンバードは1つだけこの村を救う条件を出しています。私です、私が 彼らのモノになれば村を助けてやると言っています。あなたがたの力が望めない以上、私はその要求に応えたいと思っています。」 片桐の中である種の感情がふつふつとわき上がっていた。決して酒のせいではない。初めてスビアを見たときからの感情だった。 「ばかな!それはいけません!その要求の意味は・・・・」 片桐の言葉をスビアが大声で制した。 「私も21です!その意味くらいわかっています!」 少しの間沈黙が2人を包んだ。片桐は、ふと決心した。こんなナンセンスでばかげた発想は自分でも笑いが出るくらいだったが、そう思う彼自身その感情は抑えることができそうになかった。 「スビア様、いえ、スビア・・・」 無礼なのは承知だったが片桐はそう言わずに入られなかった。生まれて初めてそう呼ばれたのであろう、スビアは少しとまどいながら片桐の方に顔を向けた。 「実を言うと、私の気持ちは決まっています。ここで戦います。戦いたいのです。」 「その理由は?」 スビアの真剣な表情が赤い月明かりに照らされている。そのせいか、彼女の元来の美しさにさらにみがきがかかり、ほとんど天使か女神のようだ。片桐は思わず正面を向き直った。 「個人的な理由です、それには部下をつきあわせられませんが、部下と明日相談します。時間を少しいただけますか?」 「それはけっこうですが、片桐三曹。私はあなたの心変わりの理由を聞いているのです。」 そこまで言わせるのか?と片桐はたじろいだ。気高く無邪気な聖女は片桐の答えを待っている。片桐はコップに残っていた酒を一気に飲み干した。 「理由はあなたです!」 「私?」 現代日本の女性ならすでにわかるはずの会話だったが、ここは残念ながら現代日本でも、会話の相手も都会の女性ではない。 「あなたがここにいるからです。それが理由ではいけませんか?」 片桐の言葉の意味がようやく理解できたようだ。スビアは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむいた。そしてすぐに昼間の表情に戻った。 「私にはあなたの気持ちには答えられません・・・・」 「なぜ・・・・?」 「なぜって・・・」 スビアは今までになくとまどっている。 「こんなこと、許されていないのです」 「私の国では、自分の気持ちを伝える自由はあります。」 「でも・・・」 スビアはますますとまどいの表情を色濃くしながらそのまま、駆け出した。 「スビア!」 思わず、走り去る彼女に声をかけた片桐だったが、その言葉に彼女が振り返ることはなく邸宅に消えていった。 翌朝、片桐は隊員全員を集めた。今後の方針を話し合うためだ。命令すれば全員動く。しかし実践では役に立たないケースも多々あることが予想される。それに 片桐がもっとも気になるのは岡田の存在だった。現在のところ、岡田の反戦思想に染まっている隊員はいないが、状況が緊迫するにつれて感化される隊員も出て くる可能性がある。平時においては岡田の思想も一理あるかもしれない。だが、命がかかっているこの状況では彼の思想は隊員の命の危険を及ぼす可能性すら考 えられる。 「いいでしょう、三曹についていきましょう」 状況を説明すると高崎が一番に賛同した。それを見た須本と斉藤、浅木も後に続いた。 「士長も行くなら俺たちもいきますよ。それにあいつら、いい連中だ。」 「元の世界じゃ日陰者だった自衛隊だ。せめてこっちではヒーローになりたいですよ」 中垣は少し迷っていた。そこへクーアードの子供が笑顔で隊員たちのところへやってきた。 「はい、これ!」 子供は無邪気な笑顔で見たこともないがきれいな花を須本に手渡した。 「お守りの花!ミスタルっていうの!」 「ああ、ありがとう!」 「アービルの戦士はあたしたちの守り神なんだから!がんばって!」 子供はにっこり笑うと恥ずかしかったのか大急ぎで家に駆け込んでいった。それを見た中垣も決心を決めたようだ。今まで自衛官であることでこんな笑顔を子供 から向けられたことがあっただろうか・・・。中垣にとって片桐に賛同する理由はこれしかなかったし、これだけで十分だった。 「命は惜しいですがね。やりましょう!」 岡田はそれを見ると軽く舌打ちしてその場を立ち去った。止めようとした高崎を片桐が制した。 「いいんですか?」 「ヤツも悩んでるんだ。がちがちに封じ込められ、けなされた自衛隊とここの人々の俺たちに対する感情のギャップにな」 その夜は満月だった。赤い月明かりが片桐たちが村にやってきた道を照らしている。翌朝はアンバードがやってくる。しかもこの前よりももっと大勢。片桐は万全の体勢を考えていた。 外壁には門を挟んでカールグスタフにMINIMIを配備した。屋根の上には須本。彼は五輪候補にもなった狙撃手だ。そして片桐は門の外で村人を神々の住む 山に退避させる時間を稼ぐ。そのための仕掛けは万全だ。道路沿いに手榴弾をしかけた。安全ピンを抜いて石の下敷きにする。一気に大勢で外壁まで迫られると カールグスタフの効果も薄い。時間を稼ぐ必要があったのだ。 「いかにもうさんくさい感じだな・・・」 片桐はあらかた仕掛けを終えて道を見渡した。手榴弾を仕掛けた場所には明らかに怪しい石がおかれている。これでは怪しまれても仕方がない。せめてクレイモアでもあれば道の両端に仕掛けて吹っ飛ばせばおしまいなんだが・・・。 「準備は終わりましたか?」 いつのまにか、村の門を出て来たスビアが片桐に歩み寄ってきた。 「危ない!道から離れて!」 思わず彼女の手をつかんで道の外にひっぱりだした。万が一、仕掛けの石を蹴っ飛ばされでもしたら一大事だ。しかし、そんな事情を知るはずもないスビアは前夜の片桐の言葉に続く侮辱的な行為に怒りを露わにした。 あなたがアービルの人間でなかったら今頃は死刑になっているところです。」 「死刑?多いに結構。でもせっかくの仕掛けを台無しにされたらたまりませんからね・・・」 片桐は皮肉を込めて、道の石を指さした。スビアはそれを見て「あっ」とつぶやくと、 「ごめんなさい・・・・」 と、しおらしくなった。それをみた片桐は軽くほほえむと、彼女の手を取って安全な場所へ導いた。 「ところで・・」 村の門に近い道ばたの倒木に座ってタバコに火をつけた片桐がスビアに尋ねた。今考えたら一番最初に聞いておくべきことを聞き忘れていたことに気がついたのだ。 「この村の名前はなんというのです?」 「アムター・・・。豊かな森というロサール語だそうです。」 スビアもそういいながら片桐の横に腰を下ろしたが、片桐のタバコの煙に思わずせき込んだ。 「あ、火を消しましょう」 あわててタバコの火を消す片桐のあわてようにスビアは思わず笑顔がこぼれた。 「あなたは不思議な人です。片桐三曹。部下には厳しくも優しくもあり、戦うことにはとまどいながらも、勇敢に戦い・・・・・・、そして私に堂々と愛を語りながら今はとてもうろたえています」 「あなたこそ、不思議ですよ。スビア。気高く、誇り高いが村人に優しく、常に村人のことを考えている。そして、村人のために俺たちを呼び寄せたのに、俺たちのことも常に考えています。そのくせ、中身は年頃の女の子だ。残念ながら俺はあなたに一目惚れしてしまった。」 彼女のせりふをまねて返した片桐にスビアはけらけらと笑った。赤い満月が彼女の赤い髪をさらに神秘的に照らしているのが目に入った。ストレートヘアを時々かきあげながら話すスビアはとてもソリスとあがめられる存在には見えない。 「自由に愛を語る。あなたの国は不思議です。もしも身分の違う者同士が恋に落ちたらどうなるんですか?」「我々の国には身分はありません。誰もが自由に暮らし、仕事を選び、意見を述べ、愛すのも自由です。」 まあ、建前ではあるが片桐は日本の仕組みについて簡単に彼女に説明した。当然のことながら彼女の反応はとても信じられないといった感じだった。 「信じられません・・・、でも、戦うことだけはあなたはかたくなに拒みました。あなたの部下の、岡田もいまだに戦うことを拒んでいます。戦うことの自由はないのですか?愛する者や愛する土地を守るために戦う自由はあなたの国の人々には与えられていないのですか?」 片桐はこのスビアの自分自身の境遇を重ね合わせた質問に答えることができなかった。 翌朝、片桐は村の外の道に立っていた。手には89式小銃を構えてたった1人で。彼の周りにはアンバードの突進を止めるための仕掛けが用意されていた。これ は賭だった。アンバードはスビアを要求している。総攻撃の前になにかしらの交渉を求めてくるだろう。そのときにうまく、司令塔のアンバードを殺すことがで きれば、戦いはかなり有利に進むはずだ。 「三曹、大丈夫かなぁ」 外壁の上でカールグスタフを構える浅木が思わずつぶやいた。高崎は同じくカールグスタフを構えながら浅木に言い放った。 「三曹は大丈夫だ。打ち合わせ通りにやるんだぞ」 そのとき、屋根の上の須本から合図が入った。どうやら現れたようだ。 片桐の目にもはっきりと見えていた。轍のない細い道を長い列を作ってアンバードがやってくるのが。片桐は生唾を飲み込むと89式の安全装置を解除して「連 発」に切り替えた。アンバードの縦列は片桐に近づいてくるがやはり攻撃は仕掛けてこない。思った通りだ。後ろを振り返って高崎に合図する。 「第1段階は成功だ。」 双眼鏡で片桐の様子を見ていた高崎が叫んだ。しかし、高崎には疑問があった。村の入り口から片桐のところまでおよそ300メートル。仕掛けがうまくいった として片桐が戻って来るにはちょっと距離があるかもしれない。このことは片桐にも意見したが、「どうにかなるさ」で終わっていた。 岡田はトラックの中で頭を抱えていた。こんなこと許されるはずがない。こっちから喧嘩を売るなんてあっちゃいけない。本来なら話し合いで解決すべきなんだ。 ふと顔を上げた岡田の視線に何かが写った。それは一瞬で家の中に隠れたが、間違いない。ガンドールの姿だった。村人はスビアとザンガンと一緒に神々の遺跡に退避したはずなんだが。 たいして広くない道路に広がったアンバードが片桐のすぐそばまでやってきた。と、そこで彼らは進軍をやめた。1匹のアンバードが片桐に近寄ってきた。手に はひときわ大きなパタトールが握られている。弦や矢は見えない。相手は鬼だ。魔法のたぐいであろうことはなんとなく片桐にもわかっていた。 「この距離で食らったらばらばらだな・・・」 片桐とアンバードの距離はもう4,5メートルも離れていなかった。と、歩み出てきたアンバードがいきなり雄叫びをあげた。地球上のどの動物とも似ていない、しかし不快な音であることだけは間違いなかった。 「どうやらスビアを渡せと言ってるようだ・・・」 雄叫びの中に彼女の名前が聞き取れたのを片桐は逃さなかった。ということは今しゃべっているこいつが指揮をとっているなり、リーダーである可能性が高いわけだ。片桐は一呼吸おいて89式を構えなおした。 アンバードの雄叫び、おそらく彼らにとっては演説なんだろう、が終わった。いよいよ作戦開始だ。 アンバードたちは黙って片桐の反応を待っているようだ。緊張で額から汗が流れ落ちるが、それにかまうことなく片桐は89式をすばやくリーダー格のアンバー ドに向けた。そいつは一瞬、首を傾げたように思ったがそれを確認することは片桐にはできなかった。フルオートで発射された5・56ミリ弾が30発。アン バードの頭部はきれいに消し飛んだ。 「三曹がやったぞ!!」 双眼鏡で確認した高崎がカールグスタフを構え直す。いよいよ始まりだ。 村の後方にある小高い丘のてっぺんに神々の遺跡があった。神々の遺跡はストーンヘンジの様に巨石が円形のアーチを描いて築かれている。これがなにに使われ ていたのかはわからない。しかし、アービルから戦士を召還するときは必ずここで儀式が行われたという。今、この儀式の場は負傷した村人や、老人子供であふ れていた。スビアは村の方を見ながら考えていた。片桐たちはたった7名でアンバードと戦おうとしている。決して戦ってはならぬと言う、アービルの掟を破っ てまで。そして片桐はスビアのために戦うと言っていた。 「ソリス、あの者たちなら心配ないでしょう・・・」 ザンガンがひざまずいて彼女に言うが、彼女の耳には入っていない。そこへ、バストーが息を切らせながら丘をかけ登って来てザンガンに報告した。 「アンバードが現れたようです・・・」 その報告が終わらないうちに、片桐たちのパタトールが発するあの独特な大きな音が丘まで聞こえてきた。戦いが始まったのだ。スビアは自問していた。片桐た ちに任せたままでよいのか。彼らもまたとまどい、恐れながら、この村のために戦う決心をしてくれたのではないのか・・・。そして片桐はこの戦いに生き残っ て再び自分の前に姿を現すのだろうか・・・。 そう思ったとき、彼女は無意識に自分のパタトールを持って駆け出していた。 「ソリス!いったいどちらへ!?」 ザンガンの問いかけに走りながら振り返ったスビアは村人に直接呼びかけた。 「私たちの村のために戦うアービルの戦士たちを助けるのです!」 リーダー格のアンバードは89式の一連射であっさりと倒れた。ほかのアンバードたちはあまりのことに状況が理解できないようだ。これはチャンスだ。片桐は撃ち尽くした89式を放り出して村に向けて走り出した。 アンバードたちは走り出した片桐を見てようやく状況を認識した。口々に叫び声をあげて片桐めがけて走り出した。 「やっと動き出したか・・・」 片桐は走りながら後ろを振り返ると高崎たちに合図した。 「よし!発射!」 一斉にカールグスタフを発射した。次々と着弾した85ミリ弾はアンバードを次々と肉片に変えていく。それを切り抜けたアンバードが数匹、片桐を追いかけて トラップエリアに入った。石を蹴飛ばすと信管を短くした手榴弾が次々と炸裂した。後続のアンバードは突然の爆発にその動きを再び止めた。そこへ、カールグ スタフとMINIMIの連射がアンバードを襲った。片桐は道のすみっこにある倒木に隠した9ミリ機関拳銃を取り出すと、弾幕をくぐって彼に追いすがろうと するアンバードに連射を浴びせた。止まることはできない。撃ち尽くすとすぐさまそれを捨てて、また道ばたに隠した銃を拾って追いすがるアンバードを打ち倒 す。 4挺の9ミリを撃ち尽くしてやっと片桐は村の門をくぐってそれを閉じた。すでにアンバードは近くまで迫っている。かなりの数を奇襲で殺したがまだ7,80匹は残っているだろう。 「三曹、外壁に奴らが取っつきました!」 高崎が大声で片桐に叫んだ。 「よし!須本、援護しろ!散らばって各個撃破しろ!」 アンバードの魔法で繰り出される強力なパタトールは村の門を打ち破った。数体のアンバードが斧を持って村に乱入してくる。門に近い民家の屋根の上で須本がそのうちの1匹をスコープにとらえた。 「くらえ!」 1発でアンバードの眉間を撃ち抜くと須本は次々と村に入って来るアンバードを血祭りにあげていく。 「くそ!」 数匹撃ったところで須本が悪態をついた。送弾不良を起こしたのだ。あわててスライドを引くがなかなかうまくいかない。ふと、須本は外壁を見た。すでに高崎たちは後退していた。1匹のアンバードがパタトールを構えている。 「やべえ!!」 故障した89式を投げて屋根から飛び降りようとした。しかしそれよりもほんの一瞬早く、アンバードの放った見えない魔力のパタトールが須本に直撃した。 「須本がやられた!」 中垣は民家の陰でカールグスタフに装填した。外壁の上でパタトールを構えたアンバードが数体見えた。須本の敵だ。吹っ飛ばしてやる。そう思ったときだった。中垣は背中に痛みを感じると同時にせき込んだ。 「ぐふっ」 咳と同時に血を吹き出したのが彼自身からも見えた。思わず後ろを振り返る。いつの間にか、3匹のアンバードが彼の後ろに回って槍を背中に突き刺したのだ。アンバードはいったん槍を引き抜いた。中垣は民家を背中にしてアンバードに振り返った。 「ちっくしょおおおお!!」 中垣は血を吐きながら叫ぶと目の前に迫ったアンバードの腹めがけてカールグスタフを発射した。 アンバードの強力なパタトールの直撃をさけるため、トラックは民家の間に隠されていた。その中でさっきガンドールらしい影を見た岡田はまだ迷っていた。村のあちこちで銃声や爆発音が聞こえている。隊員たちは散会して民家を盾にアンバードを各個撃破しているようだ。 「さっきの陰はなんだったんだ・・・」 岡田は再び影が消えた民家を見て驚いた。岡田にはそれが何であるかはわかっていたが、自分自身でそれを認めたとき、果たして自分の信条である「不戦」を守れるか自信がなかったのだ。 「まさか・・・」 民家のドアのところに間違いない。ガンドールの子供が不安そうな顔をしてたたずんでいるのが見えたのだ。 片桐は後悔していた。確かに、奇襲攻撃でかなりの数のアンバードを倒したが、予想よりも村に乱入したアンバードの数が多い。幸い、民家は密集していて小柄なこっちは隠れながらやつらを襲うには有利だっが数が違いすぎる。 「浅木!後ろをとられるな!」 「はい!」 浅木と民家の窓から目に入ったアンバードを片っ端から撃っていく。後ろの窓から撃っている浅木が片桐に叫んだ。 「三曹!パタトールです!」 「退避しろ!」 間一髪、裏の窓から飛び出した瞬間。さっきまで2人がこもっていた民家がきれいに吹き飛んだ。 「浅木、無事か?」 ほこりまみれになりながら片桐は体を起こした。どうやら負傷はしていないようだ。あたりを見回す。と、さっきのアンバードと目があった。向こうも片桐を認識して再びパタトールを構えている。間に合うか・・・。 「くそっ!」 89式をフルオートでアンバードに浴びせて撃ち倒す。アンバードは頭を粉々にされてぶっ倒れた。それを確認してマガジンを交換する片桐の耳に浅木の声が聞こえた。 「三曹・・・」 民家のがれきの下に浅木がいた。どうにか引っぱり出す。 「足が折れたようです・・・」 痛みに顔をしかめながら浅木が報告する。片桐はその辺の木材で添え木を作って浅木を吹き飛ばされた隣の民家に運んだ。 「ここで待ってろ」 「で、でも・・・」 片桐の命令に浅木は納得しない。 「命令だ・・・」 そこへ高崎が民家に駆け込んできた。高崎もあちこち追い回されたようだ。 「高崎、浅木は見ての通りだ。ここにアンバードを近づけちゃまずい。派手に行くぞ!」 「了解!」 高崎は皆までいわずとも片桐の意図を察した。そして言うが早いか、民家の窓から目に付いたアンバードを連射で撃ち倒す。 「浅木!無理すんなよ!」 片桐と高崎は派手に発砲してアンバードを挑発しながら民家の外へ飛び出した。 だんだん銃声がトラックに近づいてくるのが岡田にもわかった。ガンドールの子供はそれに気がついて完全に足がすくんでしまっているようだ。そこへ民家の影 からアンバードが1匹、子供を見つけて叫び声をあげた。子供もそれに気がついたが足がすくんで動けないようだ。まだ、ヤツはトラックには気がついていな い。 「くそ!くそ!くそ!」 岡田は89式の薬室に弾丸を送り込むとトラックを飛び降りてアンバードの前に立ちふさがった。アンバードは子供と自分の間に立った岡田が、自分たちのリーダーを殺したヤツ(片桐)と同じ格好をしていることを確認すると怒りの矛先を岡田に向けた。何か叫び声をあげている。 「武器を捨てろ!下がれ!」 岡田も負けずとアンバードに叫ぶがそれが通じるはずもない。不意にアンバードが突進を始めた。 「来るなぁぁぁ!」 岡田は89式の引き金を引いた。心地いい振動とともに確実に弾丸が発射されてアンバードの顔面を打ち砕いた。全段撃ち尽くして岡田は撃ってしまった衝撃とフルオートで発砲した反動でその場にへたりこんでしまった。 「やっちまった・・・・」 そこへガンドールの子供が泣きながら岡田に抱きついてきた。 「・・・・ありがとう・・・」 泣きながらやっとお礼を言ったその子供を岡田は強く抱きしめた。命を救った実感が岡田の体に少しずつ広がっていく。だがその実感も長くは続かなかった。民家の影からさらに2匹のアンバードが現れたのだ。 「つかまってろ!!」 撃ち尽くした89式を片手で、子供を片手で抱えると岡田は安全な場所を探して猛ダッシュを開始した。この子だけは俺が救ってみせる。そう心に誓いながら。 斉藤は中垣とはぐれてしまっていた。周りは銃声と時折聞こえる爆発音、そしてアンバードの雄叫びばかりだった。密集した民家の通りで斉藤は完全に孤立してしまっているようだった。こんなことならMINIMIを持って来るんだった。激しく後悔した。 「早く三曹と合流しないとやばい・・・」 斉藤はいつ、民家の影から現れるかしれないアンバードを警戒しながら銃声のする方へ進んだ。少なくとも銃を撃っているのは自衛隊員だ。 「うっ」 いきなり後ろから口をふさがれて斉藤は恐怖で頭が真っ白になった。ズボンの股間あたりがなま暖かくなるのが自分でもわかった。 「落ち着け。味方だ・・・」 おそるおそる振り返ると、斉藤の口をふさいだのは見覚えのあるクーアードの青年だった。 「ど、どうして・・・」 「あんたたちを助けるためさ。」 見ると得意げにポーズを決めるバストーだった。 「さあ、斉藤。片桐たちのところに行こう!」 「ありゃあ、岡田じゃないですか?」 民家の影で89式のマガジンを交換している片桐に高崎が報告した。片桐が振り返ると、子供を抱えた岡田が2匹のアンバードに追われながらこっちに走ってくるのが見えた。 「岡田!急げ!」 高崎の言葉を耳にして岡田がさらにダッシュをかける。片桐は岡田を収容した後アンバードを迎え撃つために89式を構えた。だが、追いつけないと悟ったの か、アンバードの1匹が腰蓑に下げたトマホークのような斧を持って岡田に向かって投げつけた。斧は岡田のチョッキを貫通して彼の背中に突き刺さった。 「ぐえっっ!!」 前のめりに岡田は倒れた。子供は無事なようだ。もう1匹のアンバードが倒れた岡田に近づいてきた。片桐はそいつを慎重に標準を定めて撃った。精密な射撃にあまり自信のない片桐だったが、うまく1発でそいつを撃ち倒した。 「高崎士長!」 「わかってます!!」 片桐の言葉よりも早く高崎が岡田を助けに走り出した。片桐はもう1匹のアンバードに狙いを定めた。残ったアンバードは仲間が撃たれたことにひどく腹を立てているようだ。地団駄を踏んで今にも突進を開始しようとしている。 「来る!!」 片桐が引き金を絞ろうとしたそのとき、アンバードの目に深々と粗末な木の矢が突き刺さった。大声を上げてアンバードはその場に倒れた。いったい誰が?民家の屋根が連なる方へ高崎が目をやった。 「あっっ!!」 高崎の素っ頓狂な声で片桐も思わず屋根の方に目をやった。 「どうだ!片桐!やっつけたぞ!」 そこには得意げにパタトールを構えるバストーがいた。 「斉藤と村のみんなで生き残ったアンバードを追いつめたんだ!早く!」 バストーが片桐をせかす。しかし、片桐にはまだここでしなければいけないことがあった。 「高崎士長!斉藤の支援に急行しろ!」 「了解!バストー!案内してくれ!」 高崎とバストーは村の門に向かって走っていった。片桐は道に倒れている岡田に駆け寄った。 「岡田!しっかりしろ!」 声をかけると岡田が頭をゆっくりと上げた。彼の腕の中には怖がって震えているガンドールの子供がいた。 「三曹、ガンドール1名、救助完了です・・・・」 それだけ言うと岡田の体からがっくりと力が抜けた。子供が力のなくなった岡田の腕から這い出してきた。片桐はその子をぎゅっと抱きしめた。岡田が命を懸けて守った命だった。 「このおじさんが助けてくれたんだ・・・」 その言葉に片桐は岡田の亡骸に視線を走らせた。そうか・・・。子供を救ために撃ったのか。片桐はようやく落ち着いた子供に優しく話しかけた。 「ぼうや、このおじさんの名前は岡田だ。君が、大人になるまでその名前を、忘れちゃいけないぞ・・・」 最後は半分涙声になってうまく伝わらなかったかもしれない、と片桐は思った。だが、彼自身、自分の目からこぼれる涙を止めることができなかった。 「おい!斉藤!生きてたか?」 バストーと駆けつけた高崎が、村人と一緒にアンバードを追いつめている斉藤に声をかけた。斉藤はその声でようやく生きた心地を取り戻した。彼は、村人と一緒にその辺をうろつくアンバードを片っ端から襲い、どうにか外壁まで追いつめたのだ。 「高崎士長!こいつらが最後です!」 生き残った4匹のアンバードは外壁を背に追いつめられてもなお、村人を威嚇するように叫び声をあげている。すでにパタトールを持っている者は生き残っていないようだ。手には斧や槍が握られているだけだ。 高崎は、村人の中にスビアとザンガンを見つけた。 「長老、こいつらどうします?降伏させますか?」 高崎の質問をザンガンはスビアに取り次ぐ。スビアは少し考えてそれをザンガンに伝えた。その間、高崎は少しいらいらしながら待たされる羽目になった。 「ソリスはアンバードの降伏は受けないと言っておられる」 えっと言う感じで高崎はスビアを見た。彼女の表情は硬く、その決心は揺るぎないようだが、高崎はためらった。敵に降伏のチャンスを与えず殺してしまうことは・・・。 「俺がやろう!」 片桐だった。彼は外壁の近くに落ちていたカールグスタフを拾い上げながら言った。そのまま、弾薬が装填されていることを確認するといまだに叫び声をあげているアンバードに向けた。 「みんな!耳をふさげ!」 高崎が村人たちに叫んだ。村人たちがこれから起こるであろうことを素早く予想し、高崎の指示に従ったことを確認すると、片桐は迷うことなく無反動砲を発射した。 「ぎゃふっ!」 激しい爆発音と爆風で生き残ったアンバードは消し飛んだ。それを呆然と見ていた村人は再び奴らの叫びが聞こえなくなったことを確認すると歓声をあげた。 「勝った!」 「やったぞ!」 片桐はカールグスタフを力無く手放した。がしゃっという金属音が彼の耳に入った。高崎が近寄ってきた。 「三曹、岡田は・・・・?」 高崎は片桐の悲しげな表情を見てそれ以上なにもいわなかった。 「片桐三曹!高崎士長!」 クーアードに助けられた浅木が2人のところへやってきた。浅木はこの場に自衛官がこれだけしかいないことを見ると、残りの仲間の運命を悟ったようだ。 「でも、やったんですね。俺たち・・・」 「ああ、やった。この村と、村のみんなを救ったんだ・・・」 片桐は喜びにわく村人の中にいるスビアを見つめながらその言葉に応えた。スビアは片桐の視線に気がついて少しうつむくと、その場を離れて自分の邸宅に戻っていった。 夜、村は再びお祭り状態だった。隊員や村人の埋葬を終えた人々は再び広場で踊り、酒を飲み、歌った。彼らは戦いの勝利とその勝利に命を捧げた勇者に敬意を 表して、今までよりもいっそう激しく踊り歌った。高崎と斉藤は疲れからか早々にダウンしてしまった。浅木はけがをした村人と一緒に手当を受けている。 片桐はまた、輪の中を抜け出して1人で外壁に座り込んでいた。彼は死んだ仲間を思い返していた。射撃の得意だった須本・・・。臆病だが努力家の中垣、そして、岡田・・・。 彼らには認識票はない。あるのは生き残った者の中にある思い出だけだった。俺は果たして正しい選択をしたのだろうか。 「相変わらずにぎやかなところは苦手でいらっしゃるのね」 スビアだった。片桐はなにも言わずに自分の横に座ることを勧めた。彼女もそれに無言で答えるかのように片桐の横に腰を下ろした。 「明日、あなたがたを元の世界に帰す儀式を行います」 スビアは目の前に広がる暗い森を見つめたままで言った。 「でも、その前に言っておきたいことがあるのです」 今度はスビアは片桐の方を見つめた。片桐もスビアを見つめた。月明かりの下で2人視線が絡み合った。 「こ れは、ソリスとして適切な発言かどうかわかりません・・・。あなたは私のために、私の愛のために戦うと言われました。正直、それは私にとってとてもうれし いことです。でも、私はあなたの愛に応えることはできません。ソリスは愛を交わした伴侶と生涯いっしょにいなければいけないのです。つまり、明日もとの世 界に帰ってしまうあなたの愛を受け入れることはできないのです・・・」 ここまで一気にまくし立ててスビアは頭を抱えた。ここまで面と向かって自分に愛を語ってくれた片桐を裏切るようで、そして片桐の気持ちを知りながらお払い箱のように彼を元の世界に帰さなくてはいけない自分自身の立場がにくかった。 「俺も言っておきたいことがあります。俺は部下には戦えとは命令していません。彼らはみんな自分から志願したんです。彼らそれぞれに戦う理由はありました。そして俺自身にも。」 片桐はそれだけ言うと立ち上がってその場を立ち去ろうとした。これ以上未練がましい行動をすることが自分自身でもいやだったのだ。彼女はこの村のソリスだ。そしてその上で御法度である愛について見解を示してくれた。それで十分だ。 「待って!片桐三曹」 スビアが片桐を呼び止めた。彼女に背を向けたままで片桐は立ち止まった。 「あなたが私を愛したというあかしをください。私はあなたの愛に応えられない。でもあなたの気持ちは受け止め続けたいのです。」 昨日とはうって変わって美しい月明かりが照らす外壁の上でスビアは立ちすくんでいた。片桐は彼女に歩み寄った。 「目を閉じてください。」 彼女は言われるままに目を閉じた。続けて片桐は確認するように問いかける。 「俺の世界のやりかたでいいんですか?」 一瞬、躊躇するように顔をしかめたが、スビアは目を閉じたままうなずいた。月明かりが、不安と期待で微妙な表情を浮かべるスビアを照らしている。しかし、それでも彼女は彫刻のように美しかった。片桐はその彫刻のように美しく、あたたかい唇にそっと口づけした。 翌朝、神々の遺跡の前に村人、片桐、高崎、浅木が集まった。スビアは遺跡の端に置かれた大きな石の上に立って呼吸を整えた。そしてザンガンに無言で頷くと村に伝わる伝承の言葉を語り始めた。 村人は固唾をのんで見守っている。高崎も思わず片桐に語りかけた。 「ほんとに大丈夫なんすかねぇ・・・」 「彼女を信じろ・・・」 片桐はそれだけしか言う言葉がなかった。いや、たとえどんな結果になろうと彼女を信じる。その気持ちだけが片桐を支配していた。それに答えるかのようにスビアは呪文を唱え続けた。 「あっ」 バストーが思わず声を上げた。遺跡の巨石がちょうど神社の鳥居のような形状を作っている部分の空気が揺れた。まるで水面の波紋のように空間が揺れ始めた。その中心からまるでホログラムのようにこの世界とは別の光景が映り始めた。 「あ、あれは・・・・」 斉藤が思わず叫んだ。そこに映ったのは福岡ドームだった。ストーンヘンジの中心に福岡ドームや福岡タワーが見えているのだ。高さ2メートルほどの鳥居の内側の部分に大きく福岡市内の光景が映ったところでスビアが呪文を終えた。 「あそこに見えるのはあなた方の世界ですか?」 「これがアービルの世界・・・」 ザンガンが思わずつぶやいた。鳥居の向こうからは空港を離発着するジェット機の爆音も聞こえてくる。 「さあ、高崎、斉藤、浅木を抱えてやれ」 片桐は高崎の肩をぽんぽんと叩いた。バストーが高崎に大声で呼びかけた。 「ありがとう!」 次々と村人が声を上げる。「ありがとう!」「さよなら!」。高崎はザンガンを見た。ザンガンも笑顔で頷いている。 「斉藤、行くぞ」 3人がおずおずと鳥居に近づく。高崎が右手を差し出した。すうっとその手は福岡の映っている方へ消えた。再び彼はザンガンを振り返る。 「成功だ。さあ、行きなさい」 高崎は浅木を抱える斉藤と一緒に向こうへ飛び出した。一瞬、視界が真っ黒になったが次の瞬間彼がいたのはももち浜だった。博多湾を望む砂浜に3人は立っている。周りではサーファーや水着のギャルがきょとんとして高崎たちを見ている。 「帰ってきたんだ・・・」 高崎は後ろを振り返った。高さ2メートルほどの長方形の空間がまったく別の光景を映していた。さっきまで自分たちがいた世界だ。 その向こうには片桐や、バストー、ザンガンが見える。 「さあ、三曹も早く!」 高崎は片桐を呼んだ。 片桐は高崎に続いて元の世界へ踏みだそうとした。しかし、その足が止まった。思わず、スビアの方を振り返った。彼女は無表情でこっちを見ている。しかし、よく見るとその顔がひきつっているのがわかった。 「ああ、くそ・・・」 「どうしたんだよ、片桐。元の世界に帰れるんだぞ!」 バストーが様子のおかしい片桐に叫ぶ。片桐はバストーを手で制して、巨石の上のスビアに歩み寄った。片桐が近づくごとにスビアの顔に動揺が広がっていくのがわかった。 「片桐三曹、どうしたのです。元の世界への扉は開いたのですよ」 震える声でスビアが片桐に語りかける。スビアは早く終わらせたかった。自分への愛を命がけで示した男がこの場から消えてしまうことを。 「高崎士長!」 なかなかやってこない片桐に高崎は声をかけた。 「三曹!早く!」 高崎は自分たちのまわりに集まってきたサーファーや海水浴客に目もくれず片桐を呼んだ。片桐は向こうで少しとまどっていたが、高崎に呼びかけた。 「すまん!俺はこっちに残る!」 「え?ええええ!?」 浅木も斉藤も我が耳を疑った。今を逃せば元の世界に戻るチャンスはないかもしれない。それをわかった上で残ろうというのか? 「三曹、冗談はよしてください!」 「いや、冗談じゃない・・・・」 片桐は淡々と高崎に言った。ザンガンがうろたえている。村人もざわついている。しかしもっとも冷静に受け止めているであろう人物、ソリスであるスビアは 違っていた。片桐は自分のために残ろうとしている。彼女自身、片桐を愛していることはわかっていた。しかし、ソリスとしてこの結末を知っていたからこそ、 片桐の愛の告白は受けることができなかったのだ。 「片桐三曹、早く、行きなさい!」 動揺から彼女が発することができたのはそれだけだった。向こうの世界のうろたえるのを見た高崎はすべてを察した。三曹、あんたやっぱり・・・。 「三曹、うまくやってください!こっちもうまく処理しますから!」 高崎は向こうの片桐に敬礼した。片桐はそれを見て笑顔で敬礼を返す。高崎は最高の士長だ。高崎に続いて浅木も斉藤も片桐に敬礼を捧げる。 お互いの世界を隔てて敬礼を交わして数秒後、世界を隔てる境界が波打ち始めた。再び、二つの世界をつなげる境が閉じられるのだ。それを雰囲気で察した高崎も片桐も敬礼を交わしたままだった。 「片桐!」 ザンガンが叫んだ瞬間、石で作られた鳥居状の中で開かれた別世界への扉は閉じられた。高崎や浅木、斉藤の姿も、バックの福岡ドームも消えて、後は神々の遺跡しか見えなくなった。 「もう後戻りは出来ないぞ!この世界とアービルとの扉は完全に閉じられたんだぞ!」 ザンガンが片桐に大声で怒鳴るが、片桐は気にしない。彼はまっすぐに巨石の上で彼を見つめるスビアに歩み寄った。 「スビア、あなたを愛するには生涯、いっしょにいなければならないんでしたね?」 片桐は笑顔でスビアに問いかけた。スビアは片桐の行動のあまりの唐突さに固まっていたが、この言葉の意味を察すると今まで押し殺していた感情を一気に放出するかのように片桐に抱きついた、片桐もその彼女をしっかりと抱き留めた。 一部始終を見守った村人から新たに歓声があがった・・・