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遠い海からきたスー 【投稿日 2005/12/27】 カテゴリー-斑目せつねえ こんな事を考えるのは自分だけだと思っていた。 世界中で一人だけ。私だけの、誰にも言えない秘密。 女の子なのに、男同士の恋愛に心躍らせるなんて―― カナコには感謝している。その妄想が、私だけのものではないと教えてくれたから。 私は突然変異の怪物じゃない、仲間は世界中にいる。 トウキョウでは年二回、仲間達が集まってお祭りを楽しんでいる――。 スーは夏コミ以来、荻上の同人誌を何回も何回も読み返していた。 すごい。自分の考えるYaoiなど児戯に等しかった。 オギウエはきっと狂気に近い才能を持った天才に違いない。 近くの図書館で、アンジェラと一緒に日本語を必死に調べた。 原本を手に入れた時の、いつもの作業だ。 わからない単語は、図書館のパソコンで何日もかけて検索した。 全てのセリフを記憶し、そらで言えるようになった。 手持ちの同人誌を堪能しつくした時、彼女の中に人生の悩みが一つ生まれた。 日本に住みたい。でも、今すぐ行けるはずもないし、どうしたらいいのかもわからない。 親友のテディベアを抱きながら、毎日考えた。 そのせいで宿題を忘れて怒られたが、それでもずっと考えた。 日本の男性と結婚すれば、ずっと日本にいられるだろうか? でも、日本ではOtakuは迫害されていると言う話を聞いた。カナコもいやな経験をたくさんしたらしい。 女の子の恥ずかしい写真を撮って喜ぶような悪い男性もいるという。 あてもなく探すというのはあまりにも分の悪い賭けだ。 …ゲンシケンの仲間なら、どうだろう。少しは…いや、だいぶリスクを回避できるのではないか。 一番感じが良かったのはササハラだけど、彼はオギウエのものだという。自分も二人はお似合いだと思った。 カナコはタナカサンに夢中だけど、自分には何がそんなにいいのか全く理解できない。 コーサカはハンサムだけど、サキを毎晩のようにいじめるらしい。そんな怖い男性は嫌いだ。 あとは…Sou-Ukeの彼。私がアニメのセリフを言ったら、すごく緊張して真っ赤な顔をしてた。 よくわからないが、自分に好意を持ってくれたのだろうか?悪い気分ではない。候補に入れておこう。 他には…思い出せない。誰か気持ち悪い人が視界の隅をうろうろしてたような気がするけど。 どうしようか。おそらく、今は人生の分岐点だ。 日本に行ってOtaku生活を満喫するか、それとも故郷で生涯を過ごし、 遅れた情報と限定された作品との出会いで我慢するか―― 行動しなくては。 彼女はベアを放すと、両親のいるリビングに向かう。 決断は早い方がいい。 「あなた、スーは日本語を学びたいんですって!」 「おお、そいつはいいアイディアだ。本人のやる気は上達への近道だからな。」 これでいい。障害を1つ1つとりのぞき、日本の大学に入るのだ。 今から周到に準備すれば、計画は必ず成就するに違いない。 「ソシテ タンキュウノタビハ ハジマッター!!」 「まあ!もう日本語を憶えてるのね、スー!」 「ははは、これは将来が楽しみだな!」 地球の裏側で、スーの物語…もう一つの「ゲンシケン」が幕を開けたのだった――
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久我山中学文庫の100冊(日本文学) 1 芥川龍之介 蜘妹の糸・杜子春 新潮文庫 2 芥川龍之介 羅生門・鼻 新潮文庫 3 安部公房 他人の顔 新潮文庫 4 安部公房 壁 新潮文庫 5 有島武郎 生まれ出づる悩み 角川文庫 6 有島武郎 一房の葡萄 角川文庫 7 泉鏡花 高野聖 岩波文庫 8 伊藤左千夫 『野菊の墓』 新潮文庫 9 井上ひさし 『ブンとフン』 新潮文庫 10 井上ひさし 青葉繁れる 文春文庫 11 井上靖 星と祭 角川文庫 12 井上靖 しろばんば 新潮文庫 13 井伏鱒二 『黒い雨』 新潮文庫 14 井伏鱒二 ジョン万次郎漂流記 新潮文庫 15 今江祥智 『優しさごっこ』 新潮文庫 16 今西祐行 『肥後の石工』 講談社文庫 17 遠藤周作 『海と毒薬』 新潮文庫 18 遠藤周作 『沈黙』 新潮文庫 19 大江健三郎 死者の奢り・飼育 新潮文庫 20 大岡昇平 『野火』 新潮文庫 21 岡本かの子 『老妓抄』 新潮文庫 22 小川未明 小川未明童話集 新潮文庫 23 開高健 『パニック・裸の王様』 新潮文庫 24 景山民夫 『遠い海から来たCOO』 角川文庫 25 梶井基次郎 檸檬 岩波文庫 26 川端康成 伊豆の踊子 新潮文庫 27 川端康成 掌の小説 新潮文庫 28 北杜夫 少年 中公文庫 29 北杜夫 どくとるマンボウ航海記 中公文庫 30 木下順二 夕鶴・彦市ばなし 新潮文庫 31 国木田独歩 武藏野 岩波文庫 32 黒井千次 春の道標 新潮文庫 33 幸田文 おとうと 新潮文庫 34 斎藤茂吉 斎藤茂吉随筆集 岩波文庫 35 斎藤隆介 ベロ出しチョンマ 角川文庫 36 坂口安吾 桜の森の満開の下 講談社文芸文庫 37 笹山久三 四万十川(全5冊) 河出文庫 38 佐藤春夫 小説智恵子抄 角川文庫 39 椎名誠 『岳物語』 集英社文庫 40 椎名誠 シベリア追跡 集英社文庫 41 志賀直哉 城の崎にて・小僧の神様 新潮文庫 42 重松清 『エイジ』 朝日文庫 43 重松清 ナイフ 新潮文庫 44 司馬遼太郎 坂の上の雲(全8冊) 文春文庫 45 司馬遼太郎 竜馬がゆく(全8冊) 文春文庫 46 島崎藤村 破戒 岩波文庫 47 下村湖人 次郎物語(全3冊) 新潮文庫 48 住井すゑ 橋のない川(全8冊) 新潮文庫 49 妹尾河童 少年H(全2冊) 新潮文庫 50 武田泰淳 『ひかりごけ』 新潮文庫 51 竹山道雄 ビルマの竪琴 新潮文庫 52 太宰治 走れメロス 岩波文庫 53 太宰治 人間失格 岩波文庫 54 壺井栄 二十四の瞳 新潮文庫 55 戸川幸夫 高安犬物語 新潮文庫 56 中勘助 銀の匙 岩波文庫 57 中島敦 山月記・李陵 岩波文庫 58 永井荷風 ふらんす物語 新潮文庫 59 中村梧郎 母は枯葉剤を浴びた 新潮文庫 60 梨木香歩 裏庭 新潮文庫 61 梨木香歩 『西の魔女が死んだ』 新潮文庫 62 夏目漱石 坊っちゃん 岩波文庫 63 夏目漱石 吾輩は猫である 岩波文庫 64 新美南吉 牛をつないだ椿の木 角川文庫 65 新田次郎 風の中の瞳 講談社文庫 66 新田次郎 ある町の高い煙突 文春文庫 67 野坂昭如 戦争童話集 中公文庫 68 野坂昭如 『火垂るの墓』 新潮文庫 69 灰谷健次郎 『兎の眼』 角川文庫 70 灰谷健次郎 太陽の子 角川文庫 71 原民喜 『夏の花』 岩波文庫 72 樋口一葉 『にごりえ・たけくらべ』 岩波文庫 73 氷室冴子 いもうと物語 新潮文庫 74 星新一 未来いそっぷ 新潮文庫 75 星新一 つねならぬ話 新潮文庫 76 堀辰雄 『風立ちぬ』 岩波文庫 77 松谷みよ子 貝になった子ども 角川文庫 78 三浦綾子 氷点(全2冊) 角川文庫 79 三浦綾子 『塩狩峠』 新潮文庫 80 三浦哲郎 ユタとふしぎな仲間たち 新潮文庫 81 三島由紀夫 潮騒 新潮文庫 82 三田誠広 『いちご同盟』 河出文庫 83 宮沢賢治 『銀河鉄道の夜』 新潮文庫 84 宮沢賢治 風の又三郎 新潮文庫 85 宮本輝 『螢川・泥の河』 新潮文庫 86 宮本輝 優駿(全2冊) 新潮文庫 87 武者小路実篤 『友情』 新潮文庫 88 武者小路実篤 愛と死 新潮文庫 89 室生犀星 或る少女の死まで 岩波文庫 90 室生犀星 我が愛する詩人の伝記 中公文庫 91 森鴎外 青年 岩波文庫 92 森鴎外 山椒大夫・高瀬舟 岩波文庫 93 柳田国男 遠野物語 新潮文庫 94 山田詠美 風葬の教室 河出文庫 95 山本茂実 ああ野麦峠 角川文庫 96 山本周五郎 『さぶ』 新潮文庫 97 山本有三 『路傍の石』 新潮文庫 98 山本有三 真実一路 新潮文庫 99 湯本香樹実 『夏の庭』 新潮文庫 100 吉川英治 宮本武蔵(全8冊) 講談社文庫
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『遠い海から来たゆっくり 猛る母性』 39KB 越冬 群れ 自然界 現代 独自設定 うんしー ぺにまむ 蠢動と停止の続きです ※「遠い海から来たゆっくり 異郷にて」 「遠い海から来たゆっくり 冬、来たり」 「遠い海から来たゆっくり 蠢動と停止」の続きになります。 まだここでは完結しませんので、ご注意ください。 『遠い海から来たゆっくり 猛る母性』 まりさがいなくなってから、れいむは暗闇で一人ぼっちだった。 れいむはまりさの凶行がショックだった。 れいむはまりさとは別の形で、自分に諦念を抱いたゆっくりだった。それほど美ゆっくりでないのは、幼い頃から分かっていた。だけどれいむはハート美人、ちょっと性格悪いかもしれないけど、実はいいゆっくり……それがれいむのコンセプトなのだ。しかし、誰も理解してくれなかった。 そんなれいむの価値を理解してくれたのが、あのまりさだった。 ずっと一緒にゆっくりしようと約束した当初は、もっと素敵なゆっくりが自分の前に現れ次第乗り換えられないかなぁと思う時もあったのだが、なかなかそんな機会は到来しなかった。また、せっせとご飯さんを持ってきてくれるまりさを見ていて、こんな生活も良いかと思うようになっていた。だから、身の回りのことはせっせとやった。二匹で仕事を分担すれば、後々ゆっくりできることぐらいは知っていたのだ。 今まではうまくやって来たのだ。れいむは知っていた。まりさがれいむに心底惚れているからここまで尽くしてくれることを。だから、それに応えるためにれいむもそれなりに頑張ってきた。 この北の大地で「冬眠」が始まったとき、れいむは不安でいっぱいだったが、すぐに巣穴の中がある種の楽園であることに気がついた。 おちびちゃんはいなかったが、狩りはしなくていい、動かなくていい、あったかい洋服がある、たくさんのご飯さんがある、そして何よりゆっくりできる時間がたくさんあった。 なのに、まりさはゆっくりできなかった。ご飯さんをたくさん食べてはいけないと言っていたし、すっきりすることも拒絶された。 まりさはこの群れに来てからというもの、群れのことばかり心配して、れいむとゆっくりする時間は削られる一方だった。 なんで、まりさがここまでゆっくりできないゆっくりになってしまったのか、れいむには見当もつかなかった。 「ゆっぐ……れいむのとでもゆっぐりじだもみあげしゃん……ぺ~ろぺ~ろ」 まりさから暴行を受けてから数時間、れいむはずっと自慢のもみあげを元に戻すべくぺ~ろぺ~ろし続けていた。だが、まりさにちぎられ、踏まれ、ぐじゃぐじゃにされたもみあげがれいむの体に戻ってくることはなかった。 「まりさはほんっどにぐじゅだよっ! いままでれいむがあんなにゆっぐりざせであげだのにっ! 恩を仇で返されたよっ!! じねっ! どこかでのだれじぬといいよっ!! ばーきゃばーきゃ!!」 れいむはぶつくさと文句を言いながら、なおももみあげをぺ~ろぺ~ろし続ける。その無駄な行為を諦めたのは、おなかがぐーぐーなってからだった。 「ゆゆ? れいむはおなかがすいたよっ! とりあえず、む~しゃむ~しゃするよっ! どんなときでも、む~しゃむ~しゃすればゆっくりできるんだよ!!」 だが、おうちに持ち込んでいた群れの備蓄食糧は食べ尽くしてしまっていた。また取りに行かなければならない。れいむは体を休めていたベッドからそろそろと降り、洞窟奥の食糧備蓄庫へと向かった。 「ゆ!? しゃ、しゃぶいいいいいい!! なんなのごのざむざはっ!? ゆっぐりできないいいいっ!!」 おうちの外は、冬眠を始めて以来かつてないほど寒くなっていた。まりさが外出する際に、洞窟入り口の栓を取り除いたことで冷気と雪が入り口付近に侵入するようになっていたのだ。この冷気のせいで、洞窟の入り口近くにおうちを構えていた、めーりんとありすの一家は冬眠から目覚めることのないまま凍って永遠にゆっくりした。後は春になり、死体がゆっくりぐずぐずに溶けていくのを待つだけだった。 「さぶいよっ!! なんなのこれはっ!? 全然ゆっくりできないじゃないっ!!」 れいむは何に対して罵ればいいのかも分からないまま、食料備蓄庫へと懸命に跳ねた。もし、まりさ同様に、もみじが拾ってきてくれたゆっくりの洋服がなければ、跳ねることもままならず、震えて永遠にゆっくりしていたことだろう。 そして、食糧備蓄庫に行くと、口の中に詰め込めるだけのご飯さんと共に帰路に着こうとした。だが、それはできなかった。入り口から冷たい風が吹き込み、れいむのおうちへの帰宅を邪魔するのである。 「さて、れいむはゆっくり帰ってむ~しゃむ~しゃするよ!……ゆっびぃぃぃぃぃっ!! 寒いよぉぉぉぉぉっ!! 風さんかわいいれいむをゆっくりさせでよおおおおっ!!!」 れいむのおうちそれ自体は、風の入り込みにくい、洞窟内でも比較的暖かな場所に設けられていたが、そこに行くまでにはゆっくりできないくらい寒い道を跳ねなければならなかった。 「ゆぎぎっ! ゆびぃぃぃっ!! これじゃあ帰れないよ!! 仕方ないから、れいむは一夜の宿さんを借りさせてもらうよっ!!」 そう言って、れいむは手近な横穴に飛び込んだ。そこはみょんとさなえの番の住むおうちだった。 「ゆっくりお邪魔するよ! みょんとさなえはゆっくりしていってね! れいむは勝手にゆっくりさせてもらうよっ!!」 だが、みょんとさなえから返事はなかった。当然だ、二匹は冬眠の最中にあり、深い眠りについていたからだ。寄り添うようにして眠るみょんとさなえの表情はとてもゆっくりしていて、れいむは少しだけ、まりさとのゆっくりした日々を思い出してしまった。れいむはまりさの凶行を許せなかったし、なぜ、あんなことになったのか理解できなかったが、その感情は昔の淡い思い出まで侵食することはなかったのだ。 ぎこちない動きですーりすーりをして、初めてのおちびちゃんを授かった頃が懐かしかった。 「ゆぅ……おちびちゃん……れいむのとてもゆっくりしたおちびちゃん……」 れいむははらはらと涙を流しながら、備蓄庫から持ってきたどんぐりをむ~しゃむ~しゃした。南の島出身のれいむには、少し苦く感じられるどんぐりは、今日はちょっとだけしょっぱかった。 おなかいっぱいになると、れいむは少しここで眠らせてもらうことにした。どうせおうちの主は冬眠しており、眠っている群れのゆっくり達がちょっとやそっとでは起きないことは、「冬眠」がなんだか分かっていないれいむでも気付いていた。 「ゆっくりお邪魔するよ! みょんもさなえもとってもゆっくりしたゆっくりだね!」 寒さをしのぐために、よじよじと二匹が眠っているベッドの真ん中に割り込むようにして潜り込む。 「ゆゆっ!?」 れいむはびっくりした。みょんの肌が驚くほど滑らかだったのだ。これほどゆっくりした肌のゆっくりは初めてだった。みょんはとてもゆっくりした美ゆっくりだったのである。いや、イケメンならぬイケみょんであった。 「す~りす~り……ゆぅっ!! みょんはとってもゆっくりしているよぉぉぉっ!! これはすごいよぉぉぉっ!! す~りす~りが気持ちいいよ!!」 れいむはす~りす~りをまりさに拒否された時、れいむの方から誘っておいて断られたことで、そのないーぶはーとを大いに傷つけられていた。そして、今確信した。れいむは、再びゆっくりするために、ゆっくりした美ゆっくりとおちびちゃんを作らなければならないことを。みょんやさなえの事情など、れいむの頭のどこにも引っかかってすらいなかった。今はおちびちゃんのことでいっぱいだったのだ。 「みょん、ゆっくり起きてね! れいむはさなえが眠っているうちにみょんとゆっくりしたすっきりをしたいよ! ゆっくりしないで起きてね! れいむを焦らさないでね!」 だが、みょんは名前を呼んでも、ゆすっても、ぺ~ろぺ~ろしても、ちゅっちゅしても起きなかった。冬眠中のゆっくりは、思い切り体当たりするぐらいのことをしなければ起きないのである。れいむはため息をつき、仕方なく、二重に着込んだゆっくりの洋服をがさがさと脱いだ。保温性の高い服のせいで、ちょっとムレた、しっとりでっぷりした肌が露になる。 「れいむのすいっみんっかんは愛があるよ! だから、ゆっくりしてイってね!」 ぺにまむを使ったすっきりはできないが、す~りす~りのすっきりならできる、そう考えたのだ。 「す~りす~り……ゆほぉっ!! すべすべだよっ! みょんはとってもゆっくりしているよっ! みょんもれいむに夢中になってゆっくりしてねぇぇぇ!!」 一方的に粘液を撒き散らしながられいむはす~りす~りのスピードを上げていく。これほど燃え上がったす~りす~りは初めてだった。 「ゆ゛……ゆひ……」 一方のみょんはまだ目覚めていなかったが、どことなく苦しそうな表情でうなされていた。 そもそも、冬眠はただ眠っているわけではない。余分なエネルギー消費を抑えて、低い代謝で体が死なないように維持管理を行っているのである。そう簡単に、目覚めて通常の活動状態、例えばいきなり逃げ出すとかいつものようにしゃべる、というわけにはいかないのだ。 すっきりはかなりエネルギーを消費する行動である。そのため、断続的な冬眠を行う、ここのゆっくりが冬にすっきりをしようと思ったら、まず低代謝の冬眠モードになってる体を通常モードに切り替え(車のギアを変えるようなものである)、冬眠中に失った分の栄養を補充しなければならない。 そして、それは通常では有り得ないことなのだ。たまに人間がいたずらで彼らを叩き起こさない限り、気候の異常で冬に暖かい日がある程度続きでもしない限り、自分達ですっきりをしようとすることすらできないのである。 「ゆふぅ~……きもちいいよぉぉぉぉ~!! すごいよ、みょん~! ゆひっ!! ゆふうううううっ!! ゆほほほっほほっ!!」 ゆっくりは冬眠中、代謝が下がって、いろいろな体の機能が低下している。しかし、す~りす~りによる粘液の分泌はゆっくりの意志とは別に機能しているのか、少しずつみょんの表面もじっとりしてきた。ある種反射のようなものなのかもしれない。 れいむはどんどんす~りす~りのペースを上げていった。 「ゆっほぉぉぉぉっ!! きもぢいいよぉぉぉっ!! でもいけないよぉ、れいむにはまりさがいるんだよぉぉぉぉっ!! ゆほほほほほ!!」 「……!! ぬふぅっ!!」 れいむが勝手なことを叫び始めた段階で、やっとみょんが冬眠から強制的に目覚めさせられた。 「ゆっべぇぇぇぇぇっ!!? なにこのれいむぅぅぅぅっ!? どぼじでみょんとすっぎりしてるみょぉぉぉぉんっ!?」 だが、時既に遅しであった。 「「すっきりーっ!!」」 あっという間にみょんの額から蔓が伸び、三匹の赤ゆっくりがその蔓に実る。 「ゆわぁぁぁん!! れいむとみょんの赤ちゃん、とってもゆっくりしているよぉぉぉっ!! きっと二人ににて、ゆっくりした美ゆっくりに育つよぉぉっ!!」 「ゆがああああっ!! なにごれぇぇぇぇっ!? ゆっぐりできないみょおおおんっ!! さなえ゛~!! みょんをだずげでぇぇぇっ!!」 さが、さなえは起きない。隣で泣き叫んだくらいでは起きないのだ。 「ゆゆ! みょんは失礼だねっ! れいむがいるのにさなえの名前を呼ぶなんてっ!! でもれいむは今機嫌がいいから、すぐさなえのことを忘れさせてあげるねっ!!」 「ゆひっ!?」 言うが早いか、れいむは再び情熱的にす~りす~りを始めた。先ほど分泌された粘液がれいむとみょんの体にべっとりと付着しているので、すぐにす~りす~りするペースが加速していく。主にというか完全にれいむによって。 「ゆぎゃああああっ!! やべでっ! みょんはれいむとすっきりしだぐないみょんっ!! ゆんやぁぁぁぁぁっ!!」 だが、毎日しっかり食べて肥えたれいむに、冬眠から強制的に目覚めさせられたばかりで、体格も体力も落ちているみょんは敵わなかった。れいむに体重をかけられてす~りす~りさせると、脱出することは不可能だった。 「「すっきりー!!」」 そして、二度目のすっきりが宣言され、今度はれいむの方から蔓が伸びた。 「ゆゆ~ん!! ゆっくり! ゆっくりぃぃぃっ!! とってもゆっくりした赤ちゃんだよぉぉぉっ!!」 れいむは蔓に実った四匹の赤ちゃんに喜びの涙を流した。 「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」 その横にはげっそりした姿で、痙攣しているみょんの姿があった。 冬眠中に無理矢理すっきりさせられ、その上赤ゆまで実らされた。冬眠のために低代謝になってるとは言え、みょんの体は蓄えた栄養の残量が減少していた。そろそろ起きてむ~しゃむ~しゃしなければいけないタイミングだったのだ。 だが、む~しゃむ~しゃする余裕すら与えられず、無理矢理すっきりさせられたことで、みょんの体は一気に赤ゆに栄養を吸い取られて枯れ果てたのだった。子供のゆっくりがすっきりすると、黒ずんで死んでしまうのと同じだ。体は大きくても、赤ゆやにんっしんを支えられるだけの栄養がない状態だったのだ。 「ゆぎょべぁぁぁぁぁっ!!」 みょんは幾たびか大きく痙攣した後、一気にホワイトチョコレートを吐いてしまった。おまけにあにゃるからも得体の知れない液体が吹き出る。 「ゆぎゃあああああああああっ!! れいむの天使のように滑らかなびはだに得体のしれない液体がぁぁぁぁぁぁっ!! ゆっげぇぇぇぇぇぇっ!! ご飯さんにもなんか、かかっでるぅぅぅぅぅっ!!!」 れいむはそのまま、みょんとさなえのおうちから転がり出ると、寒さを避けるために、また別のおうちへと逃げ込んでいった。 「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」 みょんは餡子を吐いた段階で意識を失っていた。それからしばらくは生きていたが、翌日、そのまま静かに永遠にゆっくりし、その頭上に実っていた赤ゆも運命を共にした。冬眠中のさなえは最後までみょんが死んだことに気付けなかった。 それから一ヶ月が経過した。 ひんやりとした洞窟の中で、れいむは己が幸せを噛みしめていた。寒い空間ではあるが、たくさんのご飯があり、ゆっくりできる時間があり、そしておちびちゃんもできた。 「おきゃーしゃん、ゆっくいだじぇ! ゆっくいだじぇ!」 「みゃみゃっ! みょんにおうたさんうたってみょんっ!」 「ゆえーん! しゃむいよぉぉぉぉっ!! おきゃーしゃん!! れいみゅとすーりすーりしてぇっ!!」 「れいみゅのぶりりあんとうんうんたいむ! はっじまっるよーっ!!」 れいむは数えられなかったが、合計で十二匹の子ゆ・赤ゆ達はそこにはいた。永遠にゆっくりしてしまった美ゆっくりのみょんをはじめ、何匹かのゆっくりととてもゆっくりした愛を交わした結果がそこにはあった。 無邪気に自分のゆっくりをアピールする赤ゆ達の姿に、母親となったれいむの頬も自然と緩む。以前、まりさに見捨てられてたとき、まさかこんなゆっくりした幸せが自分のところにやって来るとは思いもしなかった。 「ゆふふ……やっぱり神様はちゃんと見ていてくれるんだね! れいむはとってもゆっくりできているよ!!」 赤ゆ達とす~りす~りを交わし、片方だけになってしまったもみあげでそのゆっくりした頭を優しく撫でる。 「おきゃーしゃん、しゅーりしゅーり!」 「ゆっぴぇ? ゆゆ~ん、みゃみゃだいしゅきっ!」 「おかあさんもおちびちゃん達のことが大好きだよっ! さあ、そろそろむ~しゃむ~しゃしましょうね? おかあさんは狩りに行ってくるよ!」 おうちの隅に蓄えておいたご飯さんをまた食べ尽くしてしまったのだ。たくさんの赤ゆっくりが、急速な成長のためにブラックホーゆのようにご飯さんを消費しているのだ。 母れいむは昨日も狩り(と言っても、食糧備蓄庫からもらってくるだけだが)にでかけたのに、今日も出かけなければならなかった。だが、それは苦痛ではなかった。れいむにとって、おちびちゃんの笑顔に勝るゆっくりなどありはしないと信じていたのだ。ましてや、半分近くの赤ゆは生まれる前に寒さで永遠にゆっくりしてしまったのだ。生き延び、元気に成長してくれているおちびちゃんの笑顔は、その分輝いてい見えた。 「今日もおかあさんはゆっくり狩りをするよ!! 狩りは大自然との闘いだよ!!」 そう言って、母れいむはせっせと備蓄庫に蓄えてあるどんぐりや干した海藻を口に詰め込んで行く。滋養豊かなミノムシやほのかに甘い干しブドウはとっくに食べきってしまっていた。 さすがに、冬眠開始時点に比べれば、食料備蓄庫に蓄えられている食糧は目に見えて減って来たが、それでもまだまだゆっくりできることが見て取れた。 「ゆぅ……でもどんぐりさんは固くておちびちゃんがむ~しゃむ~しゃできないよ……」 子ゆっくりぐらいになればまだしも、赤ゆっくりはまだまだ歯が弱い。母れいむは良く噛み砕いて、たくさんいるおちびちゃんに少しずつ食べさせていかなければならなかった。これは結構な重労働である。 「でも、かわいいおちびちゃんのためだよ!」 母れいむは決意を新たに、備蓄庫からおうちへの帰途に着いた。幸い、今日は洞窟入り口からの風の吹き込みが弱く、外の冷気はそれほど苦ではない。 「れいむはおうちでおちびちゃんの世話をしながら、ゆっくりお歌を教えてあげるよ!!……その前にしーしーするよ!!」 「れいむ! ゆっくりしていってくださいね!!」 「ゆ?」 れいむが挨拶の声にびっくりして振り返ると、そこには一匹のさなえがいた。母れいむにとって、まりさと自分のおちびちゃん以外と挨拶を交わすのは初めてのことだった。 「さなえもゆっくりしていってね!……さなえもご飯さんを取りに来たの?」 「さなえは別の用事ですよ!」 そう言ってさなえはこっそりとれいむに耳打ちするような姿勢をとる。つられてれいむも身を乗り出す。 「実は、みょんとすっきりしたとてもゆっくりしているゆっくりを探してるんです! みょんがあまあまをあげたがってるらしいんですよ!」 「ゆ!? それはれいむのことだよっ! はやくあまあまを……ゆ?」 一瞬にしてさなえの目がゆっくりしたそれから、危険な光を帯びたものへ、ぎらりと変化した。 「おまえかぁぁぁっ!! このクサレどまんじゅうぅぅぅぅっ!!」 「ゆっぼおぇぇぇぇっ!! なにずるのおおおおおおっ!!?」 さなえは渾身の力を込めて、棒切れを突き出した。だが、重ね着したゆっくりの洋服に阻まれてすべり、れいむの左の頬を浅く削り取るに留まった。 「ゆっぎいいいっ!! やべでねっ! ゆっぐりできないよっ!! れいむは……れいむはしんぐるまざーなんだよっ!!」 思い出したように、慌ててしんぐるまざーを強調するれいむ。それは全ゆっくりにとって同情すべき存在のはずだった。事実、れいむとすっきりした冬眠中のゆっくりはみょんも含めて四匹いたが、そのうち三匹が黒ずんで永遠にゆっくりした。残り一匹は、一度目覚めてにんっしんしているのを知りびっくりしたが、低温の前にはなす術がなく、眠りなおしてしまった。必死にむ~しゃむ~しゃはしたようだが、冬眠後まで母体、胎内の赤ゆともに元気でいられるかどうかは厳しいところだろう。 「れいむがみょんをれいぽぅしたんですね! 絶対に許さなえっ!!」 そこには先ほどまでの礼儀正しい口調のさなえはいなかった。一匹の修羅がいた。そこでやっとれいむは思い出した。このさなえが、一緒にすっきりしたみょんの隣にいたさなえであることに。 「ゆぅ!! 何言ってるの!? みょんはれいむの誘いを断らなかったよ!! れいむはれいぽぅなんてしてないよ! ゆっくり理解して……」 ぷるぷると怒りに震えていたさなえの感情が爆発する。 「お前のせいでみょんは永遠にゆっく……許さなえ! この外道、許さなえっ!!」 さなえは幾度となく、体当たりを繰り返してきた。 「うぶっ? なにずるのおおおっ! ゆげっ!?」 れいむはゆっくりの洋服を重ね着しているため、思うように動けなかった。これでは逃げることも、反撃することもままならない。 「怯えろ! 竦め! ゆっくりできないまま永遠にゆっくりしてしまえっ!!」 だが、洋服を着込んでいたことは悪いことばかりでもなかった。重ね着した洋服が衝撃を吸収してしまい、れいむの体には大した衝撃が伝わらないのだ。 さなえもある程度む~しゃむ~しゃはしたのであろうが、本来ならまだ冬眠し続ける気温である。さなえは無理をしていた。ただ怒りだけで動いていたのだ。動きに力が入っていなかった。そして、れいむはさなえの体当たりが大したことないことに気がついていた。 「ゆぷー! みょんがれいむの魅力にめろめろになったから、れいむにしっとしてるんだね! おお、あわれあわれ! くやしかったら、肥やし買ったら? ゆっくり力の差を思い知っていくといいよ!!」 「ゆぎぃぃぃぃぃっ!! じねぇ!! ゆっぐりごろしのれいむはじねぇぇぇぇっ!!」 さなえが絶望的な体当たりを繰り返している間にれいむは体勢を整えていた。そして、さなえが疲弊して、攻撃の手を緩めた瞬間を見逃さなかった。 「今だよ! 倍返しだよっ!!」 たくさんの食糧によって、肥えに肥えたれいむの一撃が、さなえを襲う。 「ゆ?……うヴぉぁぁぁぁぁぁあああ゛!!」 さなえは勢いよく弾き飛ばされ、洞窟の岩盤が露出している部分に叩きつけられた。当たった場所と当たる角度が悪かったのだろう、その下半身は弾ける様に飛び散り、辺り一面を緑色のずんだ餡が覆った。 「……さなえと……みょんの……わせを……お前が……お前がぁ……」 「……」 れいむは呪いをかけるかのように恨み言を吐き続けるさなえを冷めた目で見ていた。 「しーしーしたくなったよ……」 「!!」 忘れていた尿意を思い出したらしい。れいむがやや仰向けに体を倒すと、そのしーしー穴からレーザービームのように勢い良くしーしーが発射され、さなえの眉間を撃ち抜いた。さなえは無言で絶命した。 「ゆっくりできないゆっくりは永遠にゆっくりするしかないんだよ……」 れいむは捨て台詞を残すと、さなえの死体を巣の隅にずりずりと引っ張り、良く踏み散らかして証拠の隠滅をはかった。 「ゆ~……なんでれいむがこんなことを……ゆっくりしたいよ……」 さなえの死体を片付け終わったれいむは、無理に明るい笑顔を作って、おうちに入っていった。 「ゆっくりただいま~! ご飯さんを持ってきたよ!!」 「おきゃーしゃん! ゆっくち! ゆっくちーなんだねー!!」 「ゆっくりお帰りなさい、おかーしゃんっ!!」 「まりしゃはぽんぽすいたのじぇーっ!!」 「ぽーくびっつ!!」 れいむはかわいいおちびちゃん達に余計な心配はさせたくなかったのだ。元気に挨拶を返すおちびちゃんの姿を見て、疲れていたれいむの顔がみるみるゆっくりしたものになっていく。 「狩りはとっても大変なんだよ! だからおかあさんをそんけーしてね! そしておちびちゃん達も周りからそんけーされるようなゆっくりにゆっくり育ってね!」 そう言って、れいむは口の中から次々と食糧を出し、それを噛み砕いては、赤ゆ達に食べさせていった。噛む力の強くなった子ゆ達は、思い思いにどんぐりを拾ってはむ~しゃむ~しゃしている。 「れいみゅのいもーちょ、おねーちゃんとむ~しゃむ~しゃしようね!!」 れいむの長女である子れいむは、母を助けるべく、せっせと妹達に噛み砕いたどんぐりを食べさせていた。 「れいむはとってもゆっくりしたゆっくりだよ……」 我が子の優しさ溢れる行為に思わず涙腺が緩む。れいむは、この長女の将来がとても楽しみだった。 だが、異変はその数日後に起こった。れいむのおちびちゃんのうち、子ゆっくりにまで成長した個体の半分が、群れのほかのゆっくりと同じように長い眠りにつき、朝が来ても目覚めなくなったのである。その中にはあの長女れいむの姿もあった。 「おちびちゃ~ん……とってもゆっくしてるけど、寝すぎだよ……れいむは心配でゆっくりできないよ……」 普通に眠っては起きてを繰り返している子ゆや赤ゆの世話をしながら、いつになっても目覚めない子ゆの姿に、母れいむはやきもきしていた。 このれいむのおちびちゃん達は、南国出身であるれいむと、北国出身であるゆっくりとの間にできた子である。そのため、遺餡子のイタズラによって、冬眠できるゆっくりとできないゆっくりが、寒さに強いゆっくりと弱いゆっくりが生まれていたのである。 寒さに弱いゆっくりは、蔓から落ちる前に永遠にゆっくりしてしまったため、今、ここに生き残っているのは、「寒さに強く、冬眠できるゆっくり」と「寒さに強く、冬眠できないゆっくり」であった。眠りについた子ゆ達は前者であり、子ゆにまで成長したことで、低温による冬眠のスイッチがオンになったのだ。ちなみに赤ゆのうちから冬眠しなかったのは、急速に成長する赤ゆの時期は、成長や代謝を抑制する冬眠の能力が発動できないためと考えられている。無論、れいむはそんなことを知る由もなかった。 れいむが耳をそばだてると、目覚めない子ゆ達はみんなゆっくりした寝息を立てていることが分かる。永遠にゆっくりしているわけではなく、ゆっくりできないことになっているわけでもなさそうだ。 「おちびちゃん、おかあさんがぺ~ろぺ~ろしてあげようね……おちびちゃん、ゆっくりしてるね、でもそろそろ起きてね……」 とりあえず、れいむは気を紛らわせ、他のおちびちゃん達の面倒を一生懸命見ながら、冬眠に入ってしまったおちびちゃん達の目覚めを待つことにした。 「そうだ! れいむはゆっくりお歌を歌うよ!!」 れいむは、冬眠した子ゆを心配する余り、大好きなお歌をここ数日忘れていたことに気がついた。 「ゆ~♪ ゆ~♪……ぼえ゛~っ!!」 「ゆびゃあああっ!! おきゃーしゃんおんちなんだじぇぇぇぇ!!」 「やべじぇええ!! 聞くにたえないみょおおおんっ!!」 「せかいがおわりゅぅぅぅぅっ!!」 だが、壊滅的に音痴であることには、死ぬまで気付きそうになかった。 さらに時は過ぎ、人間の暦でいう二月も半ばになった。時折訪れる温暖な日には、雪が溶け、地面や新しい緑が顔をのぞかせることもあった。だが、その数日後には決まって冬の冷気が勢いを盛り返し、垣間見えた春をすかさず覆い隠してしまう、そんな日が続いていた。 「じゃあ、ゆっくりお歌を歌うよ! みんな!」 「ゆっくり歌うよ!」 「おかーさんと歌うよ! れいむはあいどるになるよ!!」 「ゆっきゅりー!」 「うぃんなー!」 巣の中には六匹の子れいむと、母であるあのれいむが起きてゆっくりしていた。残りの六匹は、成長しないままゆっくりと眠っていた。彼らもだいたい一~二週間に一度くらいのペースで目覚めては、母であるれいむと一緒にむ~しゃむ~しゃやす~りす~りをして、またすぐ眠るというサイクルを繰り返していた。だが、何度か目覚めてゆっくりしたことで、母れいむは彼らの安否についてはかつてのように心配していなかった。 「ゆ~♪ ゆ~♪……ぼえ゛~っ!!」 「ゆぼえええあああああ!! やっぱりおーんち!!」 「あばばば!! まりしゃのみみさんがぁぁぁぁっ!!」 「ぎんががおわりゅぅぅぅぅっ!!」 誰も自分を止めるものがおらず、ご飯さんもたくさんある巣の中で、れいむはゆっくりするために自重しなかった。その代わり、母性も自重などしなかった。 母れいむ一人の手でこれだけのゆっくりしたおちびちゃんを育ててきたのだ。跳ねる死亡フラグとも呼ばれる赤れいむ達だが、無事生れ落ちた個体は一匹たりとも欠けていなかった。寒い中、苦労して「狩り」を行い、うんうんやしーしーをせっせとおうちの外へと捨てた。おちびちゃんがなかなか寝付けなかった時には、かつて暮らしていたとてもゆっくりした南の島の話を聞かせてあげた(南の島での暮らしには当然危険も伴っていたのだが、それらはすっかり忘れていた)。おちびちゃんが成長してくると、ベッドさんが狭くなってきてしまったので、近くのおうちのベッドさんを借りたり、材料を分けてもらって(ちょろまかして)新しくベッドさんを作ったりもした。 その結果、母の愛情を受けて元気いっぱいに育った子れいむ達がそこにはいた。 ちなみに、母れいむにおちびちゃん達ができ、みんなでせっせと群れの備蓄食糧をむ~しゃむ~しゃしていることを把握しているゆっくりはいなかった。 なぜならば、越冬中、ここのゆっくりは空腹を覚えた頃に目覚めてはむ~しゃむ~しゃ、そしてすぐ寝るという生活を繰り返すため、れいむ達に遭遇した個体はほとんどいなかったのである。また、まだこの時点では備蓄庫に食糧を取りに行ったゆっくりも皆無であった。なかなか寝なおさずにゆっくりしていた個体は、れいむのおちびちゃんを目撃したりしていたが、冬の低温の環境下ではすぐに体が冬眠モードに戻ってしまうため、「目撃した」以上のアクションを起こすことは出来なかった。 そんなある日、れいむ達が目覚めるといつもよりも洞窟の中が暖かかった。そして、どこからか湿った土の臭いがした。 「ゆゆ! なんだかあったかいよ……もしかして春さんが来たんだね!!」 この異郷の地の寒い冬をれいむ達はゆっくり過ごしてきた。この地の春はきっと南の島の春とは違うのだろう。だが、冬眠前に、もみじ達が春が来るのを楽しみにしていたことから、きっとあったかくてゆっくりできるのだろう、そう思っていたのだ。 ずっと眠っているおちびちゃん達も、起きて母れいむとゆっくりしてくれるかもしれない、暖かいお外に出ておちびちゃん達とお歌を歌えるかもしれない、緑の野原でおちびちゃん達とぴくにっくさんができるかもしれない…… ずっと薄暗い洞窟に閉じこもっていた母れいむの心は躍った。そして、母れいむは踊る心を抑えきれず、外の様子を見に行くことにした。そろそろ甘い汁気たっぷりの新鮮なご飯さんもむ~しゃむ~しゃしたかった。 「おちびちゃん達、おかあさんはお外の様子を見に行くよ! でも、お外は危ないから、おちびちゃん達はおうちでゆっくり待っていてね!」 「ゆっくりりかいしたよっ!」 「しゃうえっせん!!」 「みゃみゃ! ゆっくちー! ゆっくちー!!」 「ゆーゆゆーん!?」 れいむは、比較的成長している子ゆっくりに後事を託すと、洞窟の出入り口に向かって跳ねていった。ゆっくりの洋服をぐっと引き上げ、寒さに備える。だが、そんな母れいむの後を追ってくるものがいた。 「おきゃーしゃーんっ!! まりさも! まりさもお外を見てみたいんだじぇえええっ!!」 それは子まりさであった。言うまでもなくこの子まりさは、番であったまりさとの間に生まれた子ではない。冬眠しているゆっくりに対する、れいむの一方的なすっきり(すいっみんっかん)によって誕生したゆっくりである。れいむのおちびちゃん達の中でも、特に好奇心が強く、母れいむが話す南の島の話を質問で中断させまくったり、限られた視界の中でも洞窟内を探検しようとしたりと、とにかく元気いっぱいな子であった。 「じゃあ、おちびちゃんだけ特別に連れて行ってあげるね! でもおかあさんから決して離れちゃだめだよ、ゆっくり覚えておいてね!」 「ゆっくりりょーかいしたんだじぇっ!!」 れいむは元気一杯の子まりさを連れて、洞窟入り口に向かう。 かつて、この洞窟の入り口の狭まった部分には、枯れ木や枯れ葉とゆっくりの唾液で作った栓がしてあったのだが、れいむの番であったまりさが外に出るために壊してしまっていた。しかし、その後、雪が降り積もったことで、入り口は再び封鎖されて今に至る。 「ゆゆっ? お外からあったかい空気が入ってきてるよ!!」 だが、雪が溶けたのであろう、洞窟入り口には、れいむ達を邪魔するものはなかった。そして、外からは暖かな空気が流れ込んでいた。母れいむと子まりさは喜び勇んで外へと出た。 「……ゆ?」 外は真っ白だった。確かに大気は暖かかったが、辺りはまだ雪景色に覆われていた。気温は二月にしては高いのだろうが、それでも風が一陣吹くと、母れいむと子まりさはその寒さに震え上がった。 「ゆっぴゃああああああああっ!! つめたい!! こりゃつめたくちぇゆっくいできにゃいんだじぇっ!!」 ゆっくりの洋服を重ね着している母れいむはともかく、子まりさには、あんよから直に伝わる雪の冷たさがきつかった。 「ゆえええええん!! やめでにぇ! まりさにいじわりゅしにゃいでほしいんだじぇっ!!」 「おちびちゃん! れいむの可愛いおちびちゃん! おかあさんのお口の中でゆっくりしようね! お外はまだゆっくりできなかったね! おうちでゆっくりしようね!」 雪の冷たさに泣き出してしまった子まりさ、母れいむは子まりさを慌てて口の中に収納し、おうちへと戻ろうとした。その時だった。 「おおいなる捕食者、すぱいや~まっ!」 上方から一匹のゆっくりが子まりさ目掛けて飛びかかってきた。金髪に黒いリボンをした、牙の鋭いゆっくり、やまめである。洞窟入り口に生えている低木に隠れていたのだろう。一時的とは言え、この暖かい風によって、活動を開始したのはれいむ達だけではなかったのだ。 「情け容赦のないゆっくり、すぱいや~ま!」 「ゆんやぁぁぁぁぁっ!! まりじゃをはなじでぇぇぇぇっ!! まりじゃはかわいいんだよ! たべちゃだめなんだゆぶっ!?」 やまめは瞬く間に子まりさを口にくわえると、がぶりと一噛みした。牙から麻痺毒が注入され、子まりさが痙攣を始める。 「ゆ゛っ……ゆ゛……」 「さらだばー!」 やまめは子まりさを捕まえると、素早い動きで低木の茂みに飛び込み、逃亡をはかった。 「れいむのっ!! れいむの可愛いおちびちゃんをがえぜぇぇぇぇぇ!!」 れいむは全力で体当たりをしかけた。れいむはいろいろと問題あるが、その母性とおうちの管理は本物、そうまりさが評価した母性の力が闘争心へと昇華されたのだ。 「ゆびゃあっ!?」 「れいむのおちびちゃんっ!!」 やまめはそのまま、雪へと叩きつけられた。次に、まだ切り離していなかった尻から伸びる糸の弾力によって、バンジージャンプのように枝へと戻り、全身をしたたかに打った。子まりさは放り出され、それをれいむがもみあげでダイビングキャッチする。 れいむはゆ、ゆ、と痙攣する子まりさをそっと雪の上に下ろすと、やまめをにらみつけた。 「れいむのかわいいおちびちゃんを殺そうとするなんてゲスはせいっさいっだよ!! あまあまを持ってきてね、持ってきたらせいっさいっするよっ!! 持ってこないなら、せいっさいっするよっ!!」 「!!」 やまめは自分で糸を切り、雪の上に柔らかく着地した。 やまめの目がさっきまでの、ゆっくり特有ののほほんとしたものから、ギラリと輝く野生のそれへと変わる。ゆっくりを麻痺させられる毒牙を持つ捕食種やまめと、冬眠中の充実した生活によって、立派な体格を得るに至ったれいむ、いずれにしろ次の攻撃が生死をわけることになると瞬時に理解したのだ。そして、逃走という選択肢は、今この二匹にはなかった。 「れいむのらいおんさんもしーしーちびるタックルで、ゆっくりじねぇぇぇぇぇぇっ!!」 先に飛び掛ったのはれいむだった。 「決して逃げない、勇気あるゆっくり! すぱいやーまっ!!」 やまめは尻から糸を飛ばす。 「ゆげぇっ!?」 糸はれいむの髪に付着した。やまめは飛び上がり、糸の反動の突進してきたれいむの動きによって、その背後へと回り込む。 「ゆっぎゃあああああああああああああっ!!」 ぶすり、という音と共にれいむの背中に激痛が走った。 「やべでねっ!! なにじでるのっ!! れいむの世界がうらやむ美肌に傷つけないでねっ!!」 背中が熱くなり、何かが体内に入ってくるのが感じられた。毒をれいむに注入しているのだろう。れいむは恐怖で真っ青になったが、子まりさのことも、生き残ることも、ゆっくりすることも、何一つあきらめてはいなかった。 「れいむをゆっぐりざぜないげずはじねぇぇぇぇぇっ!!!」 やまめごと背中を全力で近くの木に叩きつける。 「やばっ……め……」 れいむの肥えた体と木にサンドイッチされたやまめは、生キャラメルを吐き出し、れいむの背中から剥がれる様にして雪上に倒れた。その両目は圧迫によりつぶれ、体も歪にひしゃげている。 「おおいなる力には……おおいなるゆっくりが……」 「ゆっぐりじないでじね!」 そして、飛び上がったれいむによってのしかかられ、やまめは永遠にゆっくりした。雪上には、茶色い染みだけが残った。 「おちびちゃん! しっかりしてね! れいむのかわいいおちびちゃん! ゆっくり! ゆっくり!」 母れいむは、自身の背中の怪我のことも忘れ、必死に子まりさをぺ~ろぺ~ろした。 「ゆ゛……ゆ゛……」 だが、子まりさは相変わらず、痙攣するだけだった。 結局、母れいむも子まりさも、初めての銀世界をゆっくり鑑賞する間もなく、洞窟へと撤退していった。母れいむが内心期待していた、新鮮なご飯さんはお預けとなった。 母れいむは子まりさをおうちに置くと、そのまま食糧備蓄庫へと跳ねて行った。とにかく子まりさに栄養をつけさせて、ゆっくりさせないといけない。途中、この群れの変態てんことすれ違う。 「ゆ! てんこも起きたの? ゆっくりしていってね!」 「ゆっくり~……ちょっとお散歩してたんだけど……てんこは寝なおすわ……ふぁあ……」 まだまだこの群れのゆっくり達は冬眠しなければならないらしい。冬眠も終わりが近づいてきたのか、ぼちぼち、巣内をうろつくゆっくりの姿を目撃するようになってきた。だが、相変わらずみんなすぐ眠り直してしまうため、挨拶以上の交流はなかった。 「ゆぅ~……もうご飯さん随分減ってきちゃったよ……これじゃあ全然ゆっくりできないよ……みんなまだ、起きて狩りに行かないなんて……ゆっくりしすぎだよぉ……」 れいむは食糧備蓄庫をのぞきながら、ぶつぶつと身勝手な不平を漏らした。もちろん、本気でみんなが自分のために狩りに行ってくれるなどと信じてはいなかったが、楽な状態で食糧とおちびちゃんに恵まれたことで、れいむの心は、その下腹のように弛んで来ていた。 それでも、可愛いおちびちゃんのため、生死の境をさまよっている子まりさのために、れいむは必死に備蓄庫の食糧からゆっくりしたご飯さんを探し出す。 甘い味がする干した果実の類は真っ先に食べつくしてしまった。比較的食べやすかったどんぐりや、滋味溢れるミノムシ、食べなれた味である干した海藻ももうほとんどない。 残っている食料は、味は悪くないが、堅くて割るのが難しいオニグルミ、群れのゆっくりが人間の町から拾って来た安物ゆっくりフード(パサパサしていてまずい)、そしてれいむには食べ方がさっぱり分からないトドマツの球果…… 備蓄庫の一角には枯れ木の破片が積み重ねられていた。ここのゆっくりはこんな、ゆっくりできなさそうなものまでむ~しゃむ~しゃするのだろうか? れいむはそう思ったが、さすがに枯れ木までむ~しゃむ~しゃしてみる気にはなれなかった。 仕方なく、食べやすそうなゆっくりフードをたくさん、面倒くさそうなオニグルミを少しだけ持ち帰ることにした。ふと、れいむは備蓄庫の隅に注意を向けた。今まで、どんぐりやら干したヤマブドウやらにばかり意識が行って気がつかなかったが、備蓄庫の隅、少しだけ日が当たるところに数匹のゆっくりがいた。 「ゆゆ? ゆっくりしていって……ゆぅ?」 変なゆっくりだった。緑色の髪のそのゆっくりは静かに眠っているようだ。洞窟内の小さな凸凹にすっぽり収まるようにして、体を固定している。まるで動く気配がなかった。 それは、冬眠する前にまりさが見たゆっくり、きすめだった。 ふと、れいむは番であったまりさから聞いた話を思い出した。確か、このゆっくりは、この群れで守り、世話をする代わりにご飯さんを提供してくれるのだと。そして、それはこの髪であると。 「ゆ? ゆっくりしていってね、れいむ! きすめはきすめだよっ!」 近づいたことで、きすめはれいむに気がついたようだった。 「ゆっくりしていってね! きすめはれいむをゆっくりさせてくれると聞いたよ! れいむはご飯さんに困ってるよ! ゆっくりしないで助けてね!」 きすめは困惑したような表情をした。 このきすめ達は、非常時、特に越冬後、まだ春が来たばかりで食糧が十分に確保できない時のご飯さんとして、その髪を提供する代わりに、せっせと群れのゆっくりに面倒を見てもらってきた。だから、髪をご飯さんとして提供するのは承知の上だが、去年よりもその時期が早いように感じたのだ。だが、約束は約束、それに髪は一定量残してもらえば、また光合成によって栄養を蓄え、生やすことが出来る。 「ゆっくり分かったよ! でもあんまりたくさん持っていかないでね! ちょっとだよ! ちょっとでもきすめの髪さんは栄養満点だからね!」 「大丈夫だよ、れいむはちょっとしかもらわないよ、でもおちびちゃんの分もちょっともらってくね! ゆっくり我慢してね!」 そう言うと、れいむはぶちぶちと、きすめの緑色の髪をすべて毟り取ってしまった。成体になってからは、固着生活がメインとなるきすめは、逃げることも抵抗することもできなかった。れいむにしてみれば、ちょっとしかもらっていない。おちびちゃん一人につき、ちょっとずつなのだ。 「ゆぎゃあああああああああっ!! どおじでぜんぶむしっじゃうのぉぉぉぉぉっ!!!」 きすめは葉緑体を髪に持ち、そこで養分を生産して、それを消化吸収することで生きている。そのため、葉緑体を十分に蓄えた成体ならば、水と空気さえあれば生きていけるのだ。また、髪で生産される養分が少なければ、木の実や虫などをむ~しゃむ~しゃをすることも可能である。葉緑体はあくまで植物から盗み、利用するものであって、基本は生産者ではなく、消費者なのだ。 だが、髪を一度に大量に奪われては、自身の必要とする栄養をまかなうことができず、髪の再生に養分を回すことができない。さらに、今は冬で外にも出れない上、出れたとしてもきすめの鈍重な移動能力では捕食種にあっという間にやられてしまうだろう。自力でのご飯さんの確保は不可能に近い。このままきすめが生き延びるためには、食糧備蓄庫にあるご飯さんをむ~しゃむ~しゃするしかなかった。 「きすめ、ゆっくりありがとう! 抵抗があるけど、とにかくむ~しゃむ~しゃしてみるよ! む~しゃむ~しゃ……」 母れいむは、毒見もかねて、まず自分できすめの髪を食べてみた。 「ゆ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛、ぎずめのがみざんがぁぁぁぁぁっ!!!」 「……すぃぃあわせぇぇぇっ!!」 れいむは数ヶ月ぶりに食べる瑞々しい緑の味に感動した。葉緑体に富んだきすめの髪の味は、新鮮な水に洗われた草を食べているような感覚を与えてくれたのだ。 「む~しゃむ~しゃ! きすめはとってもゆっくりできるね!!」 「がえぜえええええっ!! ちょっとでもがみざんがえぜえええええっ!!」 母れいむは、久々の新鮮な味に感動し、ついついきすめの髪を平らげてしまった。これではおちびちゃんに与える分がない。 「おちびちゃんの分がないよ! これじゃあ、ゆっくりできないよ!!……こっちのきすめの髪さんももらうね! れいむのおちびちゃんをゆっくりさせてね!」 「やべでぇぇぇぇぇっ!! ぐるなぁぁぁぁっ!! ごっちにぐるなぁぁぁぁぁっ!!」 こうして、備蓄庫にいたきすめ種は数日間のうちに全ての髪を毟り取られてしまった。ある個体はショックと栄養不足によって餓死し、またある個体は、必死に食糧備蓄庫内の食糧を食べることでその命をつなごうとした。 れいむがきすめを絶望のどん底に叩き落していた頃、巣内の異変に気がついたゆっくりがいた。 「わふぅ? なんでしょう……ゆっくりできない臭いがします……」 長のもみじである。ゆっくりの中には、特定の感覚を発達させたものがいる。例えば夜行性のれみりゃやふらんは夜間視力に優れ、うどんげは夜間の視力を発達した聴力(長い耳は触覚にもなっているという説もある)で補うことで解決している。さなえ種は空気中の水分から天候の変化を敏感に感じ取り、すわこ種も同様の能力によって、雨を予報するという民話が伝わっている。 このもみじ種の場合、最大の武器はその嗅覚である。 経験を積んだもみじ種は、相手の体やうんうんしーしーの臭いの違いから、相手を特定したり、相手の属する群れを判別するくらいのことはできるようになる。一部の駆除業者やゆっくり関連の大学研究室では、ゆっくりを追跡する補佐役として採用されていることもあるという。 また本来なら、低温に曝されてすぐ眠り直すところだが、今日は比較的気温が高かった。おうちの中の食糧をおなか一杯になるまでむ~しゃむ~しゃし、もみじは、少し行動するくらいの余裕はあると判断した。 「誰かが……ぐちゃぐちゃになった臭いがします……いや、たく……さん?」 もみじの嗅覚が探り当てたのは、冬眠中にれいむにすいっみんっかんされて永遠にゆっくりしたゆっくり達、そこから生まれてすぐに永遠にゆっくりした赤ゆっくり達、そして復讐を挑んで潰されたさなえの死臭だった。 ゆっくりの死臭はいつまでも落ちずに残っているようなものではない。所詮は化学物質、環境にもよるが、最長でも一ヶ月も経てば、たいていのゆっくりの嗅覚では検出不可能なレベルにまで死臭は低下するのだ。 しかし、もみじの嗅覚は「たいていのゆっくり」には当てはまらなかった。学習済みの臭いの探知、臭いによるゆっくりの個体識別や群れの行動範囲の推定といった能力では、もみじに並ぶゆっくりはいなかった。 「……ああ、みょん!……どうして、どうしてこんなことにっ!!」 臭いの先にあったのは、みょんの死体だった。洞窟内に棲息する微小昆虫や細菌の類に分解されたのだろう。最早、汚れたお飾りと皮の一部しか残っていない。だが、その臭いで、もみじはそれがみょんであることにすぐ気がついた。 「一体なんで……ゆっくり冬眠していた間に敵が来たのでしょうか?」 もみじは敵となるゆっくりに心当たりがなかった。あるとすればむらさだろうが、冬にこんな内陸まで来る種ではない。 皆が冬眠している冬の間に活動するとなると、飼いゆっくりか、その成れの果ての野良だろうか? 彼らは飼育に適した性質を生み出し、保持するために、かなり品種改良が進んでおり、餡統によっては野生種からまったく別の性質を持つに至ったものも存在する。無論、飼育条件下にあっては、冬眠など不要な能力であり、また、遺餡子には冬眠能力がしっかりと刻み込まれていても、外部より安定して温暖な室内環境では、冬眠のスイッチが入らないという。 赤ゆっくりのお飾りもあったことから、すっきりさせられて永遠にゆっくりしたことが見て取れた。もみじは心を痛めながらも捜索を続け、次々とゆっくりの死体、あるいは死体だったものを見つけていった。 「これは……みょんと番だったさなえですね!……さなえもとってもゆっくりしていたのに、どうして……?」 そして、もみじの嗅覚はしっかりと嗅ぎ取っていた。大半の死臭にセットになって臭って来る、とある臭いを。それはどこかで嗅いだことのある臭いだった。この群れの構成員とは、少し違う系統の臭いであった。 「すんすん……なんでしょう……この臭い、嗅いだ覚えが……すんすん……まさかこれは……」 この群れの構成員とは異なりながらも、嗅いだことのある臭い。答えはすぐに見つかった。これは、あの南の島から来たまりさとれいむに共通する臭いだった。 あの二匹と過ごした時間はまだ短いため、この臭いがまりさとれいむどちらのものか、その決定には迷いがあったが、少なくとも群れの内部には他に該当者がいなかった。そして、洞窟のあちこちに乾いたうんうんがあることから、二匹の臭いであることを確信した。 あの二匹、もしくは片方が、みんなが冬眠している間にこの洞窟で活発に活動し、みょんやさなえの死に何らかの形で関わっている……? 「一体……どうして……?」 もみじはなぜこんなことになっているのかまでは、さすがに分からなかった。なぜ、みんなが冬眠する季節に、あの二匹だけ活発に活動できたのか、分からなかった。 とにかく、幹部を集めて、南の島から来たまりさとれいむに聞かなければならない。この洞窟で何が起こっていたのかを。 「わふ……でももう……ふぁあ……」 時間は夕方だった。再び気温が低下し、もみじの体を否応なしに冬眠モードへと連れ去ろうとする。冬眠するゆっくりは、冬眠を呼び込むこの体のシステムには逆らうことが出来なかった。 人間で言えば睡眠薬を飲んでしまったようなものだ。まだ眠っているゆっくり達に危険を警告したかったが、もはや意識が混濁し始めており、それすら不可能だった。 もみじはとりあえず寝ることにした。嫌でも眠らなければならなかった。簡単におうちに侵入できないよう、尖がった石を幾つか並べ、ベッドで尻尾を抱えるようにして丸くなった。友達だったはずのまりさとの語らいを思い出しながら。 つづく 作:神奈子さまの一信徒
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海から来た怪異 スタミナ:17 バトル数:5 経験値の目安:3511 クリア時の絆報酬 報酬がもらえる確率は、デッキに組まれているオトギで一番絆をもってるオトギの絆値が当たる確率として適用される(合計値ではないので注意) 報酬が当たった場合は、以下の中から絆報酬が選ばれる(100%の絆値をもったオトギがデッキに入ってると報酬は2個もらえる) 素材:火炎の花 , 聖水の花 , 疾風の花 , 火炎の果実 , 聖水の果実 , 疾風の果実 オトギ :御影石・火 大 , 御影石・水 大 , 御影石・風 大 , 御影石・金 大 チケット:なし バトル1 パターン1(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% バトル1 パターン2(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% バトル1 パターン3(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% バトル2 パターン1(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% バトル2 パターン2(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% バトル2 パターン3(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% バトル3 パターン1(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% バトル3 パターン2(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% バトル3 パターン3(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% バトル4 パターン1(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% バトル4 パターン2(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% バトル4 パターン3(全3パターン) 出現確率 33.33% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) 金烏・水 水 336 2200 0 2 金烏・水 30% 狐火・水 水 8640 880 0 1 狐火・水 30% 火鼠・水 水 9600 836 0 1 火鼠・水 30% バトル5 パターン1(全1パターン) 出現確率 100% オトギ 属性 HP 攻撃 防御 ターン 優先ドロップ(サブドロップは同属性葉っぱとサボテン) センリ・水 水 139200 4202 0 1 センリ・水 20% 海の怪異海坊主 水 215000 4378 0 1 海坊主 10%
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『遠い海から来たゆっくり 異郷にて』 35KB 群れ 自然界 現代 独自設定 うんしー ぺにまむ 続き物の一作目です ※続きものの一作目です。ここでは完結しませんので、ご注意ください。 ここはとある北の港。かつては大小様々な漁船や、各地からの定期フェリー、はるか海の向こう側の異国からやってくる貨物船などが盛んに入港する、この辺りの物流の一大拠点であった。 しかし、時代は移り変わり、今ではぽつりぽつりと小型漁船が出入りし、便数の少ないフェリーや錆びに錆びた貨物船がたまにやって来るくらいであった。 この港に、はるか南の島からのフェリーが入港したのは、一週間ぶりであろうか? 冬が近づくと航路が悪天候に脅かされるため、ただでさえ少ないフェリーの便数はさらに不定期なものとなる。フェリーの船体にも、また乗客の人数にも往事の面影はない。それでも、少なからぬ乗船客や、彼らの乗る自動車が次々と接岸したフェリーから降りていった。 「てめえら!どこから入ったんだ!!?」 男の怒号が響いたのは、フェリーからさほど離れていない路肩であった。 「ゆぶっ!!」 「ぶびゃあっ!?」 男の自動車から、れいむとまりさの番が叩き出される。二匹のゆっくりのお飾りはすっかりくたびれており、その髪もぱさぱさであった。ペットショップで売られているつやつやの個体と比べるほうが可哀想、といったところであろうか。 「どぼじでごんなごどずるのおおおっ!!? れいぶはかわびっ!」 「うるせぇ! 汚らしい饅頭めっ!! 饅頭に謝れっ!!」 男の蹴りがきれいに親れいむの顔面にクリーンヒットする。今ので前歯がへし折れたようだ。 「ゆひっ!? ゆぶぬぁぁぁぁぁっ!! でいぶのせらふぃむもびっぐりのえんじぇるずまいるがぁぁぁぁっ!!」 男は、フェリーの目的地である風光明媚な南の島を車で走り回り、各地で風景写真を、そのこだわりのレンズに収めてきた。このゆっくり一家は、男が島で自動車を降りた隙に、狩りで疲れた体を休める場所として、何も知らずに自動車に潜り込んで眠ってしまっていたのである。 男は整理整頓が得意なほうではなく、自動車の中は男の撮影機材や、寝袋をはじめ車内宿泊用の寝具や携帯食、衣類などであふれ返っており、その中に潜り込むようにして眠っていたゆっくりに気がつかなかった。そして、いざ、船から降りる段になって、自分の車の中ででもぞもぞとうごめく、汚い饅頭がいることに気がついたのだ。 「ここはまりさとれいむが見つけたゆっくりぷれいすなんだよ!!」 へたれた帽子を被ったまりさが抗議の声を上げる。 「人の車ん中うんうんまみれにしやがって!」 「ゆぎゅべっ!?」 男はまりさの抗議を無視するかのように、その腹部に蹴りをかました。まりさはまるでスーパーボールのように吹っ飛び、道路脇の草むらに叩きつけられた。 「ゆげ!!! ゆげぇぇぇっ!!! あんござん!!? まりざの大事なあんござんっ!!!」 当たり所が悪かったのか、まりさはごぷりと餡子を吐いてしまった。 「やめてね!! れいむたちにひどいことじないでねっ!! れいむはやめよーって言ったんだよ!」 「おかーさんをよくも! おとーさんをよくも!! 」 男は車の方へと振り返った。ゆっくりがもう一匹、この番の子供であろう子まりさが、車内の毛布の中から出て来たのだ。子まりさは両親を守るべく、車から道路に飛び降りと、男に対する非難の声を挙げた。 「どうしてにんげんしゃんはゆっくりできないのっ!? このまりさがゆっくりできないにんげんさっ!!?」 「うるせい!!」 男は蹴りではなく、大きく振り上げた足を上から子まりさに叩きつけた。勝手に他人の車に乗り込んだ挙句避難がましくぴーぴー叫ぶ子まりさを、男は許さなかった。 「ゆぶぐ!!?……」 大した抵抗もなく、子まりさはぺっちゃりと潰れ、餡子が飛び散った。隣で抗議の声を上げていた親れいむの頬に何か飛び散ったものが張り付く。 「ゆ?……れ……れ……れいむのでぃ・もーると可愛いおちびぢゃああああああああ……!?」 「やかましい!!」 「ぶ!?」 親れいむもまた、横合いから蹴りを入れられ、阿呆みたいに草むらへと飛んでいった。 「ヴォケくそ饅頭がっ! お前ら饅頭に謝れ! 餡子に謝れ! せっかくの旅行の最後でケチがついたぜ……」 男はゆっくり一家を一発ずつ吹っ飛ばすと、さっさと自動車を発進させてしまった。先を急いでいるのか、饅頭にかまっている時間が惜しかったようだ。 「どぼじでまりざがごんなめにあばなぎゃいげないのおおおおおおっ!? まりざはゆっくりぷれいずでゆっくりしだがっだだけなんだよおおおおおっ!!」 「ゆぎいいいい!! なんじぇえええ!! なんじぇれいびゅのがばびびおぢびぢゃんえいえんにゆっぐりじぢゃっだのおおおっ!! なおっでね!! れいびゅにいじわるしないで、おぢびぢゃんなおっでね!!」 だが、このれいむは自分達の幸運を神々に感謝すべきであろう。似たような状況で家族全員が潰されて死んでいったケースは珍しくもないのだから。 「おぢんびぢゃああああん!! まりざの!! まりざのおぢびぢゃあああんっ!!!」 ようやく子まりさの現状を認識したまりさが危なっかしい足取りで、子まりさだったものへと跳ね寄っていく。 それはもはやただの餡塊だった。潰れた帽子と飛び出た眼球が残っていなければ、何も知らないゆっくりはそれが同族であることすら気付くことができないであろう。 「ゆあああああんっ!! ゆあああああんっ!! あんなにがばびびおぢびぢゃんがああああ゛っ!!」 子まりさは親まりさに良く懐いていた。ある種の小生意気さ、無鉄砲さといった子供によくある欠点をたくさん抱えてはいたが、それでも家族思いな子であり、狩りの練習にも一生懸命に打ち込む、将来が楽しみな子であった。 「……おぢびぢゃん……」 まりさの番であるれいむはがっくりとうなだれ、もはや泣き叫ぶ元気もないようだった。泣き叫ぶ番と可愛い我が子だったものを、じっと見つめていた。 「ゆゆぅ……?」 かつて経験したことのないような冷たい大気がれいむの肌をざらりと撫で、はっとれいむは辺りの異常さに気がついた。 母れいむは周囲を見回してみた。 ここがどこかはさっぱり分からなかったが、自分達の知らない場所であることは理解できた。かつて、自分たちが暮らしていた色鮮やかな花々が咲き乱れる林も、湿潤な大気に包まれた緑あふれる森も、まりさが様々な食物や宝物を拾ってきてくれた真っ白な砂浜も、陽光を容赦なく反射する明るい色彩の海もそこにはなかった。 そこにあるのは、自分達が見てきた海とは似ても似つかない落ち着いた、いや不気味な灰色の海、コンクリートで覆われた見慣れない構造物、背後に広がる燃えるような色合いの木々、そして、身を切るような恐ろしく冷たい大気であった。 「しゃぶううううういいいいいいいっ!! さぶいよっ!? こんなんじゃゆっぐりできないよっ!!」 「どぼじでごんなにさぶいのおおおおっ!?」 そのすぐ横を一台の自動車が派手に排気ガスと粉塵を巻き上げながら通り過ぎていく。大きな人間の町のない場所で生まれ育ったまりさとれいむは思わず咳き込んでしまった。 「ゆゆ~……にんげんさんの町はゆっぐりしてないよ!! だからでいぶたちは森の中でゆっぐりするよ!! おちびぢゃん! ままについてぎてね!!」 そこまで言って、れいむははっとした。おちびちゃんはつい先ほど永遠にゆっくりしてしまったのだった。 「れいむ?……おちびちゃんはもういないよ……」 「……ほら!! まりさもぐずぐずしないでいぐんだよっ!!」 「ゆぐっ、ゆぐっ……なんで? どうして、まりさは……まりさたちは……こんなとこに……」 こうして、南の温暖な海流によってもたらされる温暖湿潤な気候、一年を通して得られる豊かな食糧資源とともに生きてきたまりさとれいむはこの地に降り立った。 故郷から二千キロ以上離れた、寒流に洗われる寒冷な北の大地に。 『遠い海から来たゆっくり 異郷にて』 「ゆぅ~なんだかゆっぐりじでない森ざんだよ……」 そこはまりさとれいむの知っている「森」とはかけ離れたところだった。 青々と生い茂っているはずの葉は赤や黄色、褐色に染まり、舞い散っていた。枝に残っている葉もまるで枯れ葉のように生気がない。森にあるわずかな緑は、年老いた樹木や地面にへばりつくように広がっている苔の、くすんだ冷たい緑色だけであった。そして、何よりもいまだかつて味わったことのないような、冷たく、乾燥した風がまりさとれいむの肌の感覚を容赦なく抉っていく。 「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ざむい! ざむいよぉぉぉっ!!! かぜざんどぼじでれいむをゆっぐりざぜでぐれないぼぼぼぼぼ……」 れいむはかつて感じたことの無い寒さに歯をガタガタと震わせていた。 「ゆっくしゅっ!! ゆ~っくっしゅっ!!」 まりさは、慣れない寒風が刺激となるのか、くしゃみを繰り返している。その顔は子まりさのために流した涙とくしゃみで飛び散った唾液、要するに砂糖水でぐしゃぐしゃだった。 「まりさ! はやくれいむがゆっくりできるゆっくりぷれいすをさがしてきでね!! ゆっくりしなくていいよ!」 とうとう跳ねるのに疲れてしまったれいむは、まりさに厄介ごとを押し付けようとし始めた。このれいむ、家庭の運営や狩りに関して決して無能ではないのだが、めんどくさがり屋な上に気分屋であり、特に疲れた時や、作業に飽きた時などは、夫であるまりさに当り散らすことがあった。 「ゆ……?……ゆゆぅ……ちょっと待ってほしいよ…まりさも寒くてあんよが……」 「なに言ってるの!? れいむがかわいぐないの!!? れいむがゆっくりできなくて、それでまりさはゆっくりできるの!!? ゆっくりしないで、ゆっくりぷれいすを探してきてね!!」 唾を飛ばしながら大声で喚きたてるように指示するにれいむ対して、まりさは最早抵抗することを諦めていた。 「ゆはぁ……ゆっくり理解したよ……」 人間で言うならば、がっくりと肩を落としたような仕種をしてから、まりさは森のさらに奥へと跳ねていった。 「ゆ~、ゆっくりしないで頑張ってね! ……ゆゆ、れいむは気分転換におうたでも歌ってゆっぐりするよ! ゆゆ~♪ うますぎてごめんね! ぷりまべっらでごめんね!」 ちなみにれいむはお歌も致命的に下手糞だった。せっせと跳ねるまりさの後方からは、単調なすかしっぺにエコーをかけたような何かが聞こえてくる。多分、ヘ短調だろう。あれを「歌」と呼んでいいのならば、蚊の羽音は一流オーケストラの黄金の調べに、暴走族のクラクションはモダンな感性に磨きぬかれたユーロビートなるだろう。 「ゆぅ、どうしようここは全然ゆっくりできなさそうだよぅ…」 まりさはそれからしばらく、森の中を健気に跳ねていたが、巣どころか、仮泊できそうな場所すらなかなか見つからなかった。辛うじて幾つか、切り株や地面の穴を見つけたものの、二匹で夜露を明かすには狭すぎた。 日は次第に西に傾き、心なしか冷気が天空から降りて来つつあるように感じられた。おまけに車の中に閉じ込められていた間は、まりさの帽子の中にあった食糧と、少量の菓子屑のようなものしか食べていなかったため、次第に空腹がゆっくりできないレベルになりつつある。 途中、空腹に絶えかねて、落ちている赤やら黄色の葉を食べたが、とてもゆっくりできる味ではなかった。 「ゆぅ……なんでまりさはこんなところにいるんだろう……ゆぅ……」 そもそもが、あの見慣れない「おうち」で眠ったことが間違いだったのだ。いや、それよりも、そもそもあんな遠くへでかけたのが悪かったのだろう。 まりさ達は、元々住んでいた南の島の森から出たことはほとんどなかった。南の島の豊かな実りの中では、夏場や夕方の豪雨、夜に行動する捕食者にさえ気をつけていれば、それなりにゆっくりした生活ができるのだ。 しかし、ある日、まりさは島の浜辺でとても綺麗な貝を見つけた。それは金属質の青い光を放つ、かつて見たことの無い素晴らしい宝物だった。それは、夜光貝の破片だったのだ。 まりさはそれを家族へのお土産とした。そして家族は喜んでくれた。子ゆっくりたちは、宝物を見つけてきた父まりさを尊敬し、番であるれいむも感動して、とてもゆっくりできる賞賛の言葉をくれたものだった。 次の瞬間、れいむは提案した、みんなで浜辺にピクニックに行こう、と。 れいむは、子ゆっくりたちに外で遊ばせてあげたかったのだろうか? みんなで一緒に行動する時間を欲しいと望んだのだろうか? それとも、実は夜光貝の美しさに目がくらみ、もっと欲しいと物欲に駆られたのだろうか? 今となっては知る由もないが、まりさはみんなとピクニックにでかけた。このまりさは自己評価が低い、という性格を持っており、いつになく父親として認められたことが嬉しかったのだ。 それが悲劇の原因だったのだ。きっとそうだ、いつになく調子に乗ったからだ。調子に乗ると、いつもいつも悪いことが起こる。分かりきっていたことなのに…… まりさはそう思い、天を見上げた。夕焼けに染まった空は、東から徐々に夜の先駆け、藍色の空に侵食されつつあった。 「ゆふぅ……まりさのゆん生って何なんだろう……やっぱり、こんなもんなのかな……」 可愛がっていた子まりさの死を悼む暇さえなく、まりさはせっせと今夜の寝床を探さなければならない。今日何度目か分からないため息をついた後、まりさは再び見知らぬ土地を跳ね始めた。そのときであった。 「わふふっ!! 見慣れないまりさですね! ゆっくりしていってください!! もみじはもみじですよ!」 そこに現れたのは、この地に棲息している野生のもみじ種であった。野生生活で汚れていながらも、艶のある雪のように白い毛並み、そしてピンと元気良く立った尻尾が、このもみじが栄養状態のいい個体であることを物語っている。 「ゆひっ!? ゆ……ゆ……」 まりさはびっくりしてしまい、挨拶すら口から出すことができずどもってしまった。元来、このまりさは人付き合いならぬ、ゆっくり付き合いは苦手な方であった。長年付き合いのある友達や家族ならともかく、それ以外とはゆっくり話すこともままならない不器用な面があった。 「?……どうしました? わふぅ? まりさ?」 もみじは戸惑うまりさの様子をまるで気にもしていないかのように、ニコニコと問いかけてくる。 「ま、まりさはまりさぁだよ……ゆ……ゆゆっゆっくりしていってね!!」 あたふたしながらも、まりさはなんとか返事を返すことができた。 「ゆっくりしていってください~!! まりさはどこから来たんです? どうしてこんなとこにいるんです? この辺りに他の群れのゆっくりが来るなんて珍しいですよ!」 まりさはまごまごしながらも、なんとか自分たちの境遇をもみじに説明した。元々はこことは違う、海に囲まれたあったかい場所で生活していたこと、れいむと番になり、子まりさを授かったこと、理由は良く分からないが、人間さんにここへ連れてこられたこと、ゆっくりできない人間さんにひどい目に合わされ、子まりさが永遠にゆっくりしてしまったこと、家族みんなでゆっくりできる場所を探していること…… 「くぅ~ん……それはとてもゆっくりできないです……お子さんのご冥福をお祈りしますね……く~ん」 「ゆぅ……おちびちゃ……まりさのおちび……ゆぐ……ゆええ……」 他人に話すことで、辛い思い出を脳内で再上映してしまい、思わず涙ぐむまりさ。もみじは一通りまりさの嘆きを聞き、その境遇に同情した。 「それにしても、まりさたちは海のずっと向こうから来たんですね~!! すごいです!! でも、ゆっくりぷれいすに帰れないなんてゆっくりできないですね……く~ん……そうだ! もみじの群れでゆっくりしていくといいですよ、ゆっくり元気になってください! ゆっくりしていってくれますか?」 「ゆゆ!? それはとってもゆっくりできる考えだよ!……でも、本当にいいの? まりさがゆっくりしていっても、もみじゆっくりできるの?」 もみじは、一瞬、まりさが何を言っているのか分からないとでも言いたげな表情をした。その尻尾もぱたんぱたんと困惑気味に振られている。 「わふ?……もみじも群れのみんなもいつだってゆっくりしていますよ! きっとまりさもゆっくりできますよ!!」 「ゆゆぅ!! あ、ありがたくゆっくりするよ!!」 まりさはもみじに笑顔で感謝の意を表する。まりさは部外者を快く受け入れてくれたこのもみじに会えたことを喜んだが、それも一時のことだった。まりさはぬか喜びが大嫌いだった。期待はしてはいけないのだ。自分のゆん生で物事がうまくいったときは、必ずその後に支払いの時間が来ることになっているのだ。 もみじはまりさたちの事情を説明し、群れの主たるメンバーの了解を得た。そして、はるか彼方の南国から来たまりさとれいむは、当面、このもみじの群れの一員として暮らしていくことになった。 「わふ! ほら見てください、まりさ! どんぐりさんがいっぱいですよ!」 もみじは自慢の鼻を利かせて、テキパキと秋の野山で食糧を見つけていく。南の島から来たまりさは跳ねるもみじの後をついていくだけで精一杯だった。 まりさが跳ねる度に、赤や黄色、褐色の枯れ葉がかさりかさりと音を立てる。それは、まりさにとっては新しい発見であり、まりさはこの音が大好きだった。南の島にも枯れ葉はある。しかし、これほど厚く、まるでカーペットのように積もってはいない。この鮮やかさと渋さを併せ持った色調のカーペットの上を飛び跳ねる感触、この軽くて愉快な音、まりさはそれらによってとてもゆっくりした気持ちになることができた。 だが、今はそれどころではない。まりさは、どんぐりを見つけて興奮しているもみじに置いていかれないよう、必死に跳ねた。 もみじ種は全身が真っ白な毛で覆われたゆっくりで、特に臭いに対して敏感なゆっくりである。一部のゆっくり駆除業者では、よく訓練されたもみじ種が巣穴の特定に活用されているほどだ。自分よりも上位と認めたものに対しては極めて忠実であり(稀に、自分より上位のものを自分と同列かそれ以下に叩き落して、惨めさを味あわせることに喜びを見出すゲスもみじも報告されてはいる)、みょん種ほどではないものの、枝や釘といった武器の取り扱いにも優れている。そのため、群れの中では早期警戒+迎撃の任務につくことが多いと言われていた。この群れでは、どういうわけか長の座についているもみじであったが、食糧収集から見回りまで、何でも率先して行うもみじは周囲からとても信頼されていた。 そして、まりさとれいむが来て以降、北国での生活に慣れないまりさの狩りに同行して、いろいろなことをまりさに教えていたのだった。 「ゆゆ~、もみじはとてもゆっくりしているね! こんなにたくさんのご飯さんをあっという間に見つけるなんて、まりさには無理だよ! そんけーっするよ!」 それは心からの言葉だった。まりさは長として信頼され、生活能力も高いもみじを尊敬していた。そして、新参者である自分達を何かと気にかけてくれるもみじに心から感謝していた。 「そんなことないですよ!」 そう謙遜しながらも、もみじの尻尾は派手に振られていた。褒められて悪い気はしないのだろう。 「それよりもどんぐりさんをたくさん持ち帰りましょう! 冬を越すにはごはんさんがいっぱいいっぱい必要です!」 まりさには想像もつかないことだが、このもみじが言うには、この辺りでは冬は何もできず、ただじっと巣の中で眠っていなければいけないらしい。しかも狩りをすることもできず、貯めておいたものでちまちまと生活しないといけないとのことだった。 「ゆゆ? まだ足りないんだね……ゆぅ……ゆっくり頑張るよ」 冬の間何も出来ない、巣の外にも出れない。 それは南国出身のまりさには信じられないことであったが、ここのゆっくりはみんな冬に備えてせっせと食糧を集めていた。ならば本当のことなのだろう。まりさに出来ることは、いろいろを気を使ってくれるもみじの提言を入れて、せっせと食糧を集めることだけだった。 ふと、まりさが何かに気付いたかのように顔を上げた。 「ゆゆ!……すんすん……きのこさんの臭いがするよ! この辺りにきのこさんがあるよ!!」 まりさは目の色を変えて周囲をきょろきょろと見渡す。まりさ種の嗅覚はもみじ種のそれには及ばないが、大好物であるきのこ類に対してはまた別である。 「こっちだよ! こっちにきのこさんがいるよ! ゆっくりしないで出て来てね!」 まりさはお尻をふりふりしながら、辺りの落ち葉を蹴散らしていく。そこから出てきたのは、落葉に包まれるようにしてにょきにょきと生えたハナイグチ、別名落葉キノコであった。 「ゆわあああああんっ! きのこさんだよおおおっ!」 興奮のあまり、柄にもなく絶叫するまりさ。あまりにも興奮しすぎたのか、その両目からは涙があふれ、そのぺにぺにも空に向けていきり立ってしまっていた。 「よ、よかったですねまりさ! これでちょっとゆっくりできますね!」 まりさの狂喜乱舞ぶりに引きながらも、もみじはまりさを労った。 「もみじにも半分あげるよ! もみじはまりさをとてもゆっくりさせてくれるいい長だよ、ともだちだよ! 是非もみじにも美味しいきのこさんを味わって欲しいよ!」 「わふ? いいんですか?」 「ゆふん、まりさに二言はないよ!」 まりさは、このもみじに恩返しがしたかった。 「ゆっくりありがとう! まりさは本当にゆっくりしていますね!」 「ゆゆ……」 もみじの真っ直ぐな瞳と褒め言葉は、自己評価の低いまりさにとっては痒くて痒くてたまらなかった。だが、嬉しかった。 たくさんのどんぐりときのこを拾い、お飾りや口の中に詰め込んだまりさともみじは慎重に跳ねながら帰途についた。そして、その食糧を群れの備蓄分と、各々の取り分とで折半する。 そこでまりさは見たことのない光景を見た。普通種のゆっくり達が、なにやら見たことのない緑色のゆっくりを口に入れて運んでいるのである。彼らは外の明るい場所、日光の当たる場所に移動すると、口の中からそのゆっくりを取り出して放置した。 「もみじ、あれ! あれは何をしているの?」 まりさは思わずもみじに尋ねてみた。 「わふ? まりさは見たことがないのですか? あれはきすめですよ、お日様に当ててやらないと永遠にゆっくりしてしまうんです」 「ゆゆゆ!?」 聞いたことのないゆっくりだった。いや、そもそもゆっくりなのだろうか、と思いまりさは首を捻った(首はないのだが)。無理もないことである。きすめ種はまりさがやって来た南方の諸島部には、元々生息していないゆっくりである(一部、人為的に持ち込まれたエリアがあるとも言われている)。 その特徴は緑色の鮮やかな髪であり、また、成体になると地面の窪みや岩などに固着して生活していることでも知られている。すっぽりと収まる快適な固着場所を求めて人家に来ることもある。一部では観賞用に植木鉢や桶などに固着させたきすめがペットショップや花屋に出回っていることもあるようだ。 実はこの緑色の髪こそが、その興味深い生態を支えているのである。きすめ種はこの髪の中に多数の葉緑体を所持しており、これに光合成を行わせることで栄養となる糖分を摂取しているのだ。 きすめ種は母体から生まれたときに、母から葉緑体の一部を分けてもらう。しかし、これはごく少量であり、その髪の色は淡く、半透明の緑色を呈しているに過ぎない。まだ幼い段階のきすめ種は成体に比べて活発に動き回ることができ、その間に植物から葉緑体を摂取、これを自分のものとして髪の中に取り入れるのだ。これは盗葉緑体と呼ばれる現象であり、一部のウミウシでも見られ、現在、摂取した葉緑体をどのように自己の物としているのか、この盗んだ葉緑体にエネルギー消費量のどれくらいを依存しているのか、研究が進められている。 そして、きすめ種は成体になる頃には、長く伸びたそのツインテールにたくさんの葉緑体を抱え、水辺の近くにさえいれば、ほとんど食糧を摂取しなくてもゆっくり生活できるようになるのである(その代わり、伸びた髪が重いのか、移動能力が退化するのか、成長したきすめ種はゆっくり這い回ることしかできなくなる)。 「ゆゆ~? つまりこの群れではきすめの世話をしているの?」 もみじからきすめについて一通り説明を受けたまりさはそう尋ねた。きすめを運んでいるゆっくり達はきすめの親には見えず、親が子を運ぶという見慣れた光景ではないように見えたからだ。 「きすめをゆっくりさせてあげると、きすめはごはんさんをくれるんですよ!」 「ゆゆっ!?」 もみじによると、この群れでは春~秋にかけて、自力での移動力に乏しいきすめを、日当たりの良い場所と水辺を往復させ、夜は安全な洞窟内に運び込むことで、きすめをゆっくりさせているとのことだった。そして、その見返りとして、冬~春の間、良く伸びたきすめの髪を少しずつむ~しゃむしゃさせてもらっているとのことだった。 「ゆっくりの髪の毛をむ~しゃむ~しゃするのっ!? それはゆっくりできないよ!!」 まりさの驚きに対して、もみじは困ったような顔をした。 「そうかもしれませんね、でも、ここはずっとそうやってゆっくりしてきたんですよ! いろいろなごはんさんを用意しないとゆっくりできなくなってしまうんです! ゆっくり理解してくださいね?」 はるか南の島から来たまりさとれいむは、この群れが一体なぜそこまで冬を過ごすために、一生懸命食糧を備蓄しているのか、理解できていなかった。南の島でも時折あるように、長い雨や台風のような悪天候(お空があっぷっぷ!)で狩りができない、そんな時間を乗り切るために備蓄しているのだろう。それにしてはやりすぎではないか? この辺りでは、そんなにお空があっぷっぷ!が長く続くのだろうか? まりさが思考を巡らすことができたのは(無理も無いことではあるが)、それくらいまでであった。 だが、みんな必死にごはんさんを集めている。ならば、まりさも頑張ろう。れいむとまりさがゆっくりできる分を確保し、群れの備蓄に回す分も確保する。それがきっともみじへの恩返しになる。 このまりさは人見知りのする性格であったが、一度何らかの形で受けた恩は忘れない。そんな義理堅い性格をしていた。 その日、少しはこの地での生活に慣れてきたまりさは、帽子一杯のきのことサルナシの実を持って巣へと帰って来た。 このもみじ率いる群れの巣は、林の中にある半ば崩壊した小さな洞窟を利用して作られていた。入り口の辺りがやや崩れてしまっているが、ゆっくりが利用するには何の問題もなかった。それどころか、半壊した入り口は結果的に外気を遮断してくれ、また石などを積むことで外敵から守ることもできる優れた構造となっていた。しかも、ゆっくりが二匹並んで通れるかどうか、といった程度の入り口をくぐれば、中にはそれなりに広い空間が広がっている。各家族のおうちは、その中で元々あった穴や窪みなどに枯れ草を敷き詰めることで形成されていた。大きな巣穴の中に、各家庭のおうちがある、いわばアパートのようなものである。 南の島から来たまりさとれいむは、その中で奥まった位置にある横穴を巣として宛がわれていた。この場所は、入り口からの光がやや入りにくく、薄暗いものの、その代わり外気が直接当たらない位置にあった。これは、少しでも暖かい場所で暮らせるようにとの、群れからの配慮によるものだった。 「ただいま! れいむ? まりさが帰ってきたよ!」 れいむは、口の辺りまで汚れたピンク色の「ゆっくりの洋服」を引き上げ、編みかけの蔓と枯れ葉のシートに包まるようにして眠っていた。まりさの下半身(?)もまた、いわゆる「ゆっくりの洋服」で守られている。野良ゆっくりが飼いゆっくりを罵倒するときに、パンツと言われることもあるアレである。この群れはできるだけ人間の街には近づかないようにして生きていたが、わざわざ南の島出身のまりさとれいむのために、街のゴミ捨て場で捨てられていたのをもみじが入手してきてくれたのである。それは薄汚れてはいたものの、まりさたちを慣れない北の冷気から守るのに十分な働きをしてくれていた。 「……れいむ?」 まりさはれいむの背後に、既に完成したシートが数枚積み重ねられているのを見つけた。雑な作りであったが、下のシートよりも上に重ねられているシートの方が少しずつ精巧な作りになっていることが見て取れた。 冷気をしのぐために、そしてこれから来る長く厳しいという冬を乗り切るため、れいむはせっせと植物の蔓と枯れ葉でシートを編み続けていたのだ。寝るときに体を包んだり、熱を保つために床に敷くシーツというものは、南の島で生活していた頃には作ったことのないものであった(ありす種が似たような装飾品を作ることはあったが、れいむには縁の無いものであった)。恐らく苦戦もしたのだろう、ところどころ編み方がいい加減になっているものもあったが、今編み上げているものは、今まで作ったものよりも上手なように見受けられた。 「れいむを起こさないように、まりさはそ~っとごはんさんをお帽子から取り出すよ……」 まりさは帽子を脱ぎ、中に詰め込んだエノキタケ、クリタケといったキノコ、そしてキウイのようなサルナシの実を並べ、それを自分の分とれいむの分とに五分五分で分けた。乾燥させて保存するのに適してるのかどうか、まりさには判断がつかなかった上、特に量があるわけでもないので、自分たちで消費してしまうことにしたのだ。冬の前にしっかりごはんさんを食べておくことも大事だと、もみじは言っていた。 「ゆふ……? ゆ、まりさ帰って来ていたんだね……れいむゆっくりす~やす~やしていたよ……」 物音で目が覚めたのか、れいむがむくりと起き上がる。睡眠中に涎にまみれたその顔は、お世辞にも美ゆっくりとは言えないものであった。 まりさは、まだ子まりさであった頃から、自分のゆん生にそれなりに見切りをつけていた。 まりさは特にほかの個体よりも狩りが上手なわけではなく、綺麗な巣を作れるわけでもなく、また美ゆっくりでもなかった。とりあえず、狩りも営巣も一生懸命に取り組みはしたが、それ以上の長所は持ち合わせていなかった。だから、番の相手にもいろいろと求める気はなかった。子ゆっくりの世話ができて、普通の家庭を営む器量さえあれば良い。それがまりさの考えだった。 また、別の意味で、まりさは無意識のうちに、れいむを必要としていた。自分の価値を再確認させてくれる、自分よりも無能な存在、自分が支えなければいけない存在として。 「とてもゆっくりしたカーペットさんだね! それとも毛布さんかな?」 まりさは挨拶代わりに、れいむの作品を褒め称えた。それは別にお世辞ではなかった。 「ゆゆ~ん、れいむはゆっくり頑張ったんだよ!」 れいむは誇らしげに自分の作品を見せ付ける。まりさはにこにこと賞賛の言葉を繰り返し、ごはんさんを食べるよう、れいむに勧めた。 「む~しゃむ~しゃ……しあわすぇぇぇぇぇっ!! ずっと海のカニさんを食べられないのは残念だけど、これもとってもゆっくりしたごはんさんだよ! とってもゆっくりしているよ!」 れいむの食べっぷりを横目で見ながら、まりさも取ってきたごはんさんをむ~しゃむ~しゃする。 カニはれいむの好物だった。ここでも取れるといいのだが、未だかつてこの地でカニを目撃していなかった。もみじをはじめ、他のゆっくり達に聞いてみたこともあったが、どうやらこの群れでは水にすむ「ごはんさん」は集めていないらしい。海を知っている個体もいるが、遠くから眺める以上のことをしたことのある個体すらいなかった。 「ゆ?」 ふと、まりさは尿意を催した。 「まりさはちょっとしーしーしてくるよ! よーふくさんをぬぎぬぎして、まりさはくりすたるがいざーよりも清らかなしーしーをするよ! えヴぃあんもびっくりだよ!」 パンツならぬ、金地に黒文字で「全国制覇」と書かれた洋服をぷりんっと脱ぎ、まりさは巣の隅にある砂を敷き詰めた場所、トイレでじょぼじょぼじょろりんと放尿した。甘い臭いが辺りにぷわんと漂う。 どうやったらカニを手に入れられるだろう、そもそも手に入れられるのだろうか? ふとまりさは放尿後の生暖かい法悦に浸りながら思考を巡らす。 そう言えば、この地に海はあるのだろうか? いや、そもそも自分たちはここに…… 前述したように、この群れは林の中に住んでおり、この林は人間の街から少し離れた低い小さな山にある。南の島から来たまりさとれいむは、この街にフェリーに乗ってやって来た。この街は海に面しており、フェリーなどが入港する港のほか、小さな漁港も複数存在していた。 まりさは来る日も来る日も、鼻を効かせ、波の音に注意し、海への道を探った。そしてある日、とうとう海に出ることに成功した。そこは、釣り客以外に使われなくなって久しい、廃港だった。 「ま、まりさ? 一体どこに行こうっていうんですか? ゆっくり教えてください!」 早朝と呼ばれる時間帯が過ぎ、太陽がしっかりとその光を大地に向けて照射し始めている。まだどことなく、ひんやりとした日の出前の残り香が漂う中、まりさはとある場所へ向かって跳ねていた。意気揚々と跳ねていくまりさの後を、もみじの他、群れの主だったメンバーがついていく。そこは群れの行動範囲の中でも、特別食糧が豊富なわけでもないため、滅多に来ることないエリアだった。 「まりさはもみじに、みんなにゆっくりできるごはんさんを紹介するよ!」 この南の島から来たまりさは、特に狩りがうまいわけでも、何かを作ることに長けているわけでもない。ましてや、生えてる植物も、すんでる虫も、空の色も、風の臭いも違う、この異郷の地では、ネイティブのゆっくりたちの狩りに敵うわけがなかった。 しかし、そんなまりさも一つ、ここにいる誰よりも優れていることがあった。 南の島で馴染み深い、海での狩りである。 「こっちだよ! 海さんが低くなっているうちに、ゆっくりしないでこっちに来てね!」 まりさは廃港のひび割れたアスファルトの上をぽよんぽよんと跳ねて行く。それに戸惑いながらももみじ達が続く。まりさが目指しているのは浮き桟橋だった。浮き桟橋は小型船舶への乗り降りのための桟橋であり、その名の通り浮力でもって海面に浮いていた。そのため、潮の満ち引きに伴って、浮き桟橋の位置も上下するのだ。 まりさは、かつて両親や周りの大人達から潮と月の関係を教え込まれていた。お月様が真ん丸いとき、お月様がいなくなちゃったときは海さんが低くなる。ただし、その時間や海さんがどれくらい逃げるかはちょっとずつ変化していくということを。 これはかつて、海に近い場所に巣を構えていた群れの夜番、夜にすかーれっと種などの襲撃を警戒して見張りを行うゆっくりたちが発見したことだとされていた。もっともこの知識を身につけられるほどのおつむを持ったゆっくりは全体の二割にも満たず、その半分以上は、お月様がまんまるのときと、いないときの翌日、海を見に行くとごはんさんがとれるかも、くらいにしか把握していなかった。おまけに、新月と曇りで月が見えない状態を区別できない個体も珍しくはなかった。 このまりさも新月と曇りの区別がついていなかった。だから、満月にだけ注意を払っていた。月がまんまるに近づくと、毎日のように時間を割いては海を見ていた。そして、しっかりと潮が引く日を見定めていたのである。 「ここだよ! 落ちないようにゆっくりこっちに来てね!」 まりさは浮き桟橋へと続く、階段へと到達した。そっと下にある海面をうかがう。浮き桟橋の両側面のうち片方は海へ、もう片方は垂直に切り立ったコンクリート岸へ面している。このコンクリート壁は様々な付着生物によってびっしりと覆われていた。カキもイガイもフジツボも、人の手の入らないこの廃港ではびっくりするほど大きく成長している。これこそがまりさの求めていたものだった。 まりさは意を決すると、慎重に階段を降りていく。 「わふっ!? ま、まりさ、ここを降りていくのですか!? 危ないですよ!?」 潮が引き、海面が低下しているので、桟橋は低い位置にある。そしてそれは、桟橋に続く階段(桟橋に付属して設置されている金属製の階段であるため、その位置も海面に左右ならぬ上下される)が急勾配になることも意味していた。その上、この階段は人間のための階段である。例え、階段から落ちても桟橋の上に落ちるような設計になっていたが、そこはゆっくりである。ボールのように弾めば海、弾まなければべちゃりとつぶれる危険性があった。 「危険の無い狩りなんてどこにもないよ! 階段さんを飛べないゆっくりは上で待っていてね! おうちで家族が待ってるよ、無理はしないでね!」 そう注意を喚起しながらも、まりさはぽんぽんと階段を降り、浮き桟橋へと降り立った。浮き桟橋と壁面の間にはスペースがある、いやあったのだが、今ではイガイとカキの塊が発達したことで、ゆっくりが転落してしまうような空間はなくなっていた。 「まりさはゆっくり貝さんを採るよ!」 まりさは帽子の中から、使い慣れた道具、南の島で暮らしていた頃に拾ったなんだか分からない金属棒を取り出すと、それでイガイの貝殻を固定している足糸をぶちぶちと引き裂いていった。貝類の足糸は弾性に富み、ゆっくりの力では厄介な相手だが、まりさは金属棒を巧みに操って丁寧に糸を切り、抉り取るようにして塊からイガイを数個むしりとった。 「ゆゆ~ん! 久しぶりの海の幸だよ!」 そして、金属棒で貝殻を叩き割り、中身をほじくるようにして口に運ぶ。 「うっめ! これめっちゃうっめ!」 この季節のイガイは、産卵のために生殖巣が発達し、栄養も豊富だった。塩味はゆっくりにとって、決して優しい味ではなかったが、海の近くでの暮らしを代々営んできたまりさには気にならなかった。 「くぅぅぅぅっ! 久々の味だよぉぉぉぉっ! まりさの口の中で、海の女神様が下着をちらつかせてるよぉぉぉぉっ!」 まりさはなにやら訳の分からないことも叫びながら、涙を流し、久々の海の味に歓喜した。 「ゆゆ……あの黒いのはごはんさんなの?」 「ちぇんは食べたこと無いんだねー、分からないよー……」 「でも、あのまりさはすごくゆっくりしているよ!」 群れのゆっくりたちは初めて見る「ごはんさん」と、海に近づくこと、落ちたらゆっくりできなさそうな階段を降りていかなければいけないことに躊躇した。そのとき、もみじが口を開いた。 「ゆっくり聞いてくださいね……実を言うとまだまだ冬を越すためのごはんさんが足りません。物知りの長老さんによれば、どんぐりさんが少ないそうです……」 どんぐりをはじめ、堅果というのは毎年の生産量の変動が大きく、それによって、熊などの冬眠の成功率や栄養状態、人里への侵入頻度が決定されるとも言われている。 ゆっくり達は知らなかったが、今年は堅果の生産量が例年に比べてやや少なかったのだ。そのため、群れの食糧備蓄は、量的な面でまだまだ不安を残していた。 「ですから、食べれるものはなんでも試してみるべきだと思うのです……」 ゆっくりの冬眠の仕方は大きく分けて二種類とされている。冬が終わるまでずっと眠っているか、時折目覚めて食糧を摂取するか、である。他に凍ったまま冬をやり過ごす場合や、眠らずに冬を越す場合もあるというが、前者は冬眠と言っていいものかまだはっきりしておらず、後者は冬篭りとでも言うべきであろう。 この土地が、南から来る暖流の残滓に洗われているせいであろうか、ここの野生ゆっくりは時折目が覚めて食糧を摂取する方の冬眠を行っていた。そのため、冬の到来前に肥えておくこと、冬眠中の食糧を確保することの二点に注意を払わなければならなかった。 「れいむは珍しいごはんさんを食べないでこうかいっするよりも、食べてこうかいっする方を選ぶよ!」 「わかったよみょん! みょんは見慣れないごはんさんでも平気で食っちまうんだみょん!」 意を決した群れのゆっくり達は、次々と階段を降りていく。 「ゆゆぅ……」 だが、一匹の小さなありすが階段を降りることを躊躇していた。このありすはこの群れで生まれ育った個体である。まだ成体になったばかりで、体は小さく、この階段を降りたら戻ってこれないような気がしていたのだ。 「で、で、でもありしゅは……ありしゅは美味しいごはんさんをおなかいっぱい詰め込んで……」 小さなありすは顔を赤らめた。 「このありしゅには夢があるわ!」 小さなありすは勇気を出して跳ねた。階段を降りるためにだ。このありすの夢とは、世界中の美ゆっくりとすっきりすることだった。未だかつてもてたことはなかったが、成長すれば美ゆっくりになってもてまくる予定なのだ。世界中の美ゆっくりがありすのぺにぺにを待っているはずなのだ。 ぽふんと、無事、最初の一歩の着地に成功する。 「この一歩はちっちゃな一歩だけど! ありしゅにとっては夢のはじまりの偉大な一歩なのよー!」 そして二歩目を跳ねる。 「ゆぶっ!?」 滑った。 「おちょらを飛んでるみたぁぁぁびぶっ!!」 そして階段でバウンドした。 「ありじゅの! しらゆぎよりもぎれいな歯がばっぶっ!!?」 もういっちょバウンドした。 「ゆっぎゃあああ!! ありじゅのおべべ!? おべべがああああっ!!? ゆびゃっ!」 そして海へと消えた。小さなありすの夢は、冒頭にNGのみ撮影して終わってしまった。他のゆっくりは、南の島から来たまりさから食糧の取り方、食べ方の指導を受けていて、小さなありすの落下には気がつかなかった。もみじだけは、物音に気がつき周囲を見渡したが、波紋しか見つけられなかった。 「ここにあるのは、黒い貝さんと変な形の貝さんだよ! 昔、人間さんからいろいろ教えてもらったぱちゅりーが、イガイさんとカキさんって言うんだって教えてくれたよ!」 まりさは昔、自分が両親や周りのゆっくりから教えてもらったことを皆に一生懸命教えた。 岸壁からゆっくりの力でも取れそうな貝の大きさや選び方、貝の取り方、そして割り方。カニもいるにはいたが、残念ながらまりさ達の手、ならぬ舌の届く範囲にはいなかったので諦めざるを得なかった。 「ゆぁぁぁぁん! 口の中にうまみさんが広がるよ!!」 「ゆぎぃぃぃっ! これはしょっぱくてゆっくりしてないよっ!」 初めて食べる貝類の感想はそれぞれだった。だが、食べられないほどの味ではない、という感じが大方であった。 「もみじはどう? ゆっくりできる?」 まりさはもみじにも味を尋ねてみた。 「む~しゃむ~しゃ……わふふ……ちょっとしょっぱいような……ゆっくりできるとは思いますよ、ゆっくりありがとう、まりさ!」 「ゆゆ? どういたしましてだよ!」 まりさは複雑な笑みを浮かべた。本当は美味しい、こんなの食べたこと無いと喜んで欲しかったのだが、住んでる場所、今まで食べてきたものが違う以上そうもいかないのだろう。 まりさはその他、保存食として、水洗いした海藻を乾燥させて保存できないかを試してみることにし、その日は巣へと帰って行った。 「ゆゆ!? まりさ、愛しのれいむのために海のごはんさん取って来てくれたんだね! れいむかんっどうっだよ!」 れいむは久しぶりの海の味を心から喜び、そしてゆっくりしてくれた。 「む~しゃむ~しゃ……やっぱりまりさはとってもゆっくりしてるよ! くっちゃくっちゃ……れいむは……んぐんぐ……しあわせものだよ!……げっぷ!」 「ゆぅ~ん、れいむは調子がいいんだから……」 まりさは頬を緩めた。 れいむはその時の機嫌によって、同じ行動に対しても罵倒したり、賞賛したりする。もちろん、感情がある以上、態度や行動といったものはある程度の振幅をもって展開されるものだが、れいむの場合、それが理不尽なくらい激しいことがあるのだ。 それは時折、ゆっくりできないゆっくりと見なされてしまうこともあるが、そこはまりさには、ずっとゆっくりしようと決めた段階で折込済みだった。 いつもゆっくりできないのはイヤだが、たまにゆっくりできないくらい我慢できる。れいむは子ゆっくりの世話や、おうちの掃除はしっかりするし、狩りも一応できる。 自分の感情の上下さえ抑えられれば、何が起きても平穏な生活ができる。まりさはずっとそうやって生きてきたのだった。れいむが罵声をばら撒き始めたら、やり過ごし、時間の経過を待てば良いのだ。 「れいむ、今日は海に行ってきてね……」 その日、まりさはれいむとここの冷たくて灰色の海について語らいあった。 つづく 作:神奈子さまの一信徒
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『遠い海から来たゆっくり 蠢動と停止』 38KB 越冬 群れ 自然界 現代 独自設定 うんしー ぺにまむ 冬、来たりの続きです ※「遠い海から来たゆっくり 異郷にて」、「遠い海から来たゆっくり 冬、来たり」の続きになります。 まだここでは完結しませんので、ご注意ください。 『遠い海から来たゆっくり 蠢動と停止』 まりさがふと目を覚ましたとき、そこは真っ暗な空間だった。心なしか、眠る前よりも少し寒い気がする。 一瞬何がなんだか分からず焦ったが、しばらくして、みんな冬眠中であることを思い出した。 「む~しゃむ~しゃ……しあわせ~っ!!」 お世辞にも綺麗な声とはいえないが、懐かしい声がする。れいむが起きてむ~しゃむ~しゃしているのだろう。 「ゆっくりおはよう、れいむ! 春さんはまだなの?」 まりさはれいむに挨拶した。どこからか入ってくる弱い光のおかげで、れいむの形は認識することが出来る。だが、表情まで見るためにはかなり近寄らないと駄目だった。 「ゆゆ! まりさ、ゆっくりおはよう! まだみんなす~やす~やしてるみたいだよ!」 れいむはくっちゃくっちゃと食物を咀嚼しながらまりさの問いに答えた。 「まりさはとってもゆっくり眠っていたね! れいむは眠ったらおなかすいちゃったよ! まりさもごはんさんにする?」 そう言って、れいむは葉っぱの上にどんぐりを山盛りにしてまりさに差し出した。 まりさは思わず苦笑した。この肉厚の葉っぱは食器代わりにと、あの長もみじがくれたものだった。そして、これに軽く盛り付けたくらいが、冬眠中の一度の食事量だと教えてくれたのだった。 ところが、れいむが差し出したのは軽くどころか、山盛りだった。これでは持たなくなってしまうではないか。 だが、癇癪持ちというか、気分屋なれいむ相手に面と向かって文句を言うのは得策ではない。機嫌が悪いときや良かれと思ってしたことに対する忠告は、自分に対する攻撃と受け取り、れいむは烈火のごとく怒り狂うだろう。とりあえず、今はこのまま食事を終えて、機嫌がいい時に説得しようとまりさは考えた。話を聞いてくれる状況にありさえすれば、れいむは決して横暴なゆっくりではないのだ。 「まりさはとっても疲れていたんだね! まりさが起きるまでに、れいむは二回もす~やす~やしちゃったよ!……ゆゆ? にゃんだかあにゃるがむずむずするよ!」 そう言ってれいむはおうちの隅っこへと跳ねていった。良く肥えているせいか、跳ねるたびに肉がたるむ。 通常、うんうんやしーしーなどはおうちの片隅にある葉っぱの上か敷かれた砂の上に済ませ、後で洞窟外に捨てに行くことになっている。しかし、冬眠中は洞窟入り口が塞がれているため、うんうんはおうちの隅っこに貯めておき、春になったら捨てるようにともみじは語っていた。 当然、れいむとまりさは悪臭を懸念したが、もみじが言うには、冬眠中のうんうんやしーしーは量が少なく、臭いもすぐに消えてしまうとのことだった。 「れいむはうんうんするよ! 花もはじらうれいむはうんうんしないきれいなゆっくりだけど、とりあえずうんうんするよ!……」 れいむの宣言後まもなくして、もりもりと真っ黒なキングスライムが出現した。その存在感、風格、臭いともに堂々たるモノである。 「うんうんすっきりー!……ゆええええ! どぼじでくっさいうんうんがおうちのなかにあるのおおおおっ!!」 だが、れいむのうんうんは、もみじの助言をどこかにすっ飛ばしてしまうほど立派だった。世界うんうん選手権という大会があれば、臭い部門と大きさ部門で並み居る強豪を押しのけ、うんうん金メダルを獲得して誇らしげに国旗を振り回すことも夢ではないだろう。 その大きさとひどい臭いは、一度に多量に食物を摂取したことによる消化不良、要するに食べすぎを意味していた。まりさが眠っている間に、このれいむは暗闇でやることもなく、ドカ食いをしてしまったのだろう。 「ゆゆ!? もみじは冬さんの間はうんうんがあまり出ないし、臭くないって言ってたよ! なんだかおかしいよ!」 「ゆぎいいいいいっ! そんなことはどうでもいいよ! まりさはこのゆっくりできないうんうんをゆっくりしないで捨ててきてね! おうちの中のことはれいむの仕事、外のことはまりさの仕事って分担したのをゆっくり忘れないでね! は・や・く・だよ! まりさはゆっくりしないでね!」 こうなってしまっては手がつけられない。まりさは渋々とれいむのデラックスうんうんを捨てに行った。と言っても、外も暗くて良く見えない状態である。細心の注意を払って、這いずるように移動し、なんとかうんうんを捨てても大丈夫そうな場所へそれを葉っぱごと置き、帰途へと着いた。 「ゆふぅ……くさかったよぅ……おうちの中のことはれいむの仕事だよ……」 まりさはれいむの言に従いはしたが、納得しているわけではなかった。ぶつぶつ文句を言いながら、来た道を戻る。 「ゆぎっ!?」 まりさのあんよに激痛が走ったのはその時だった。まりさは油断していた。何か尖ったものを踏んづけてしまったのだ。 「ゆっぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ! なんなのっ! いじゃいよぉっ!! まりさのあんよさんがっ! いじゃいよおおおっ!!」 それが、石なのか、枝なのか、ガラス片のような人工物なのか、それは暗くて分からなかった。なにより、あんよの裏ではそう簡単に見ることも出来ない。 「だじゅげでぇっ! だれがぎでぇっ!!」 気を効かせて、遠くにれいむのうんうんを捨てようとしたのが仇となった。れいむがいる、まりさとれいむのおうちは遠くてまりさの叫び声が聞こえないのだろう。 「だれがぎでぇっ! まりさのあんよざんが大変っなんだよっ! おねがいだよおおおっ! だれがぎでぇぇぇぇっ!!」 そして、まりさがいくら騒いでも、冬眠に入ったのであろう、ほかのゆっくり達が目を覚ますことはなかった。 「ゆぐぅっ! いじゃいいい……まりさの……まりさのしんじゅのようなあんよざんがぁぁぁぁぁ……」 まりさに残された選択肢は、そのままいつまでも泣き騒ぐか、気力でおうちまで這って行くかのどちらかだった。まりさが選んだのは後者だった。 「れいむぅぅぅ……きごえだら返事じでぇぇぇ……まりさはあんよさんが大ぴーんちだよぉぉぉ……れいむ゛ぅぅぅ……」 まりさがやっとのことで、自分のおうち付近まで這って来たのは、それから二十分ほど後のことだった。実に数分で跳ねていった距離を、数倍かけて這って来たのである。 「む~しゃむ~しゃ……しあわせぇ~!」 「れいむ……!」 れいむの声が聞こえた。おうちはもうすぐなのだ。まりさはあんよの激痛を我慢し、絞り上げるようにして叫んだ。 「れいむぅぅぅぅっ! たじゅげでぇぇぇぇっ! まりさのっ、まりさのあんよさんが大変なんだよおおおっ!」 「ゆゆ!? れいむはまたうんうんしたくなってきたよ! れいむのまじかるうんうんらいぶはっじまるっよーっ!」 まりさの呼びかけに対して返ってきたのは、れいむの更なるうんうん宣言とぶりりっという断続的な小規模局地的爆発音であった。要するに何も聞こえていないようだった。 「ゆひぃぃぃっ! ぐじゃいいいいっ! れいむのあにゃるさん張り切りすぎでしょぉぉぉっ! 飛び散っちゃったよぉぉぉっ!」 まりさはくじけるどころか、複雑骨折してしまった精神をなんとか再建し、もう一度叫んだ。 「れいむのうんこたれぇぇぇぇっ!!」 「はぁっ!? なにほざいてるのぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!? れいむは穢れきった現世に舞い降りたあふろでぃーてでしょおおおおっ!!?」 どうしてこれは聞こえるのだろう。 まりさはなんとか、れいむに現状を認識してもらうことに成功したが、その精神はへとへとだった。 「ゆゆ?」 まりさはいつの間にか眠ってしまったらしい。 気がついたら枯れ葉のベッドの上にいた。あんよは動かすと痛むが、傷がふさがっているのが感じ取れた。 「ゆ? まりさ起きたんだね? とんがったゆっくりできない石さんがあんよに刺さっていたんだよ! もうゆっくりできない石さんは取れたから、傷がゆっくり治るまでゆっくり休んでね!」 れいむはまりさが目を覚ましたことに気がつくと、その側にごはんさんを運び、どこかで出かけていった。どうやらおうちの中を掃除しているらしい。食べかすや飛び散った汚物をそっと葉っぱの上に集め、おうちの外に捨てに行っていた。もっとも、そんな離れた場所まで行くつもりはないらしく、すぐに戻ってきては往復を繰り返していた。 れいむは決して性根の悪い個体ではない。死んでしまった子まりさの世話は一生懸命にやっていたし、下手糞ながらもお歌を歌って狩りに疲れたまりさの心を癒そうとしてくれたものだった。 ただ、気分屋であり、機嫌の悪いときにはゲスと言動が変わらないこと、物事を自分の都合のいい方向に解釈して行動するきらいがあり、それが時折、ご近所付き合いや、夫婦間のトラブルのもとになることがあった。 さすがに、さっきはまりさが怪我をしていたのに、あまりにものん気な態度でいたものだからい~らい~らしたが、気がつかなかったのならしょうがない。 あれぐらいで怒っていてはゆっくりできない。時に鈍感であること、感情や気に入らない事象を受け流すことも、日々をゆっくり生きていく上で大切なことなのだ、そうまりさは信じていた。 「れいむ、ゆっくりありがとう! 傷はれいむはぺ~ろぺ~ろしてくれたんだね!」 れいむはゆふふと笑った。 「ごはんさん、ゆっくりいただくね!」 まりさはれいむが持ってくれたご飯さんに舌を伸ばした。どんぐりとミノムシだった。ミノムシの蓑を崩し、中にいる新鮮な幼虫をいただく。ミノムシは生きたまま長期保存の効く、優れた冬のご飯さんだ。 「む~しゃむ~しゃ……しあわせ~!」 「ゆふふ、まりさ、たくさんむ~しゃむ~しゃして、ゆっくりして、ゆっくりしないで元気になってね!」 「ゆっくりありがとう、れいむ!」 そこで、まりさはふとあることに気がついた。おうちの隅に蓄えてあったご飯さんが随分減っているのである。 「れいむ! あんなにたくさんあったご飯さんがもう半分くらいだよ!」 まりさは驚きのあまり、素っ頓狂な声を挙げてしまった。何せ、もみじから、これで数匹は越冬できると言われたご飯さんがもう半分くらいまで減っていたのである。まだ冬眠を始めてからそれほど時間は経っていないはずだった。 「何言ってるの! まりさはたくさん眠っていたんだよ! 何度か目を覚ましたけど、うなされててとてもゆっくりしていなかったんだよ! その間もむ~しゃむ~しゃはしていたんだから、ご飯さんがなくなるのは当たり前でしょう!」 れいむの説明によれば、傷が深かったせいか、まりさはたくさん眠っていたらしい。天井の小さな穴から来るお日様の弱々しい光で数えたから、間違いない、とれいむは言った。 その間にも、れいむは献身的にまりさを介護し、ご飯さんをむ~しゃむ~しゃさせ、おなかがすいたれいむもむ~しゃむ~しゃしてゆっくりしたとのことだった。 まりさは青褪めた。このままで無事越冬できるのだろうか? いざとなれば、群れの備蓄からご飯さんを持っていって良いと言われていたが、あくまであれが非常用であり、みなの共有する備蓄であることは理解していた。 だが、ふとまりさ思った。 たくさん眠ったということは、みんなが冬眠から目覚める時期が近づいたということなのかもしれない。 そうだとすると嬉しい。いや、そうであって欲しかった。こんな暗く、寂しい時間はまっぴらだ。まりさはここの群れに来て、友達とゆっくり話すことの楽しさを知ったのだから。 まりさはベッドから起き上がろうとした。 「いじゃっ!?」 まだ傷は痛かった。動こうとするとずきりと痛みが走るのだ。 「ゆっくり無理しないでね、まりさ! まりさがゆっくりできない間はれいむがご飯さんとおうちの掃除をちゃんとやるよ! だからまりさはゆっくり休んでね!」 「……れいむ、ありがとう……」 不思議なものだった。やれご飯さんを集めないと、やれおうちを作らないと、と忙しく動いている時は、そんなに眠らなくても何の問題もなかった。 なのに、今はただ、ベッドの上でご~ろご~ろしてむ~しゃむ~しゃしてるだけなのに、もう眠くなってきた。おなかがいっぱいになったせいだろうか? それとも、これが冬眠というやつなのだろうか? それとも疲れているだけだろうか? どちらかと言えば、真面目に働いて、動いてばかりいたまりさにとっては不思議な感覚だった。 こうして、まりさとれいむの薄暗くも穏やかな日々は過ぎていった。おうちの中の食糧がなくなったのは、その五日後のことだった。 「へるずふらぁぁぁっしゅっ!!」 ぶぽっぽ! ぶぴぃっ!! その日も爆発的なれいむのうんうん射出音でまりさは目が覚めた。目覚めとしては最悪だが、れいむの看病とゆっくり休養を取ったことで、あんよはだいぶ回復してきた。これなら跳ね回っても大丈夫そうである。 れいむはテキパキとうんうんをおうちの外に捨てると、まりさにご飯さんを持って来た。そこには、いつもの半分くらいの量のどんぐりしかなかった。 「ゆっくりおはよう、まりさ! もうおうちのご飯さんがなくなっちゃったよ……」 「ゆっくりおはようれいむ……もうご飯さんなくなっちゃったの!!」 まりさはびっくりしたが、確かにおうちのどこにももうご飯さんはなかった。 「れいむ、いつの間にむ~しゃむ~しゃしちゃったのぉっ!!?」 「失礼だねまりさ! れいむはいつも同じくらいのご飯さんしかむ~しゃむ~しゃしてないよ! まりさだってご飯さんをむ~しゃむ~しゃしてたよ!」 「ゆゆ…? そ、それでみんなは起きたの?」 れいむは首を振った。もみじ達との最後の晩餐を終えてからもうだいぶ日にちが経った。たくさんの昼と夜が来たはずだった。 なのに、ご飯さんがない。 まりさは迷った。自分達はゆっくり冬を越せるのだろうか? もうたくさん眠ったから、そろそろみんなも冬眠から覚め、また一緒に外にご飯さんを探しにいけるのだろうか? 一体いつ、冬眠は終わるのだろうか? 「どうしようかれいむ……」 まりさはため息をついた。冬眠の過ごし方を知ってるはずのみんなはまだ誰も目が覚めていないらしい。自分達でなんとかしなければならなかった。 「ゆっくり、みんなが起きてくるのを待ってみようよ。もうたくさんゆっくりしたよ! そろそろとーみんさんが終わってもおかしくないよ!」 れいむにしては随分と冷静な意見だった。まりさはそう思った。しばらくの間ならおなかぺ~こぺ~こでも我慢できる。どうせどうすればいいのか分からないのだ。少し様子を見ることにした。 「どぼじでごはんさんないのぉぉぉぉぉっ! れいむがおなかすいてしんじゃうでしょぉぉぉぉぉぉっ! いじわるしないでごはんさん生えてきてねぇぇぇっ!!」 れいむが絶叫したのは、様子を見始めてから3時間ほどした後のことだった。 「おなかすいてるしさむいし! 全然ゆっくりできなよぉぉぉっ!」 空腹が寒さに対する抵抗性を下げているのだろうか? れいむはゆっくりの洋服に口の上まですっぽりくるまるようにして吼えている。 「ゆぅぅぅ……れいむ、ゆっくりしようよ……ちょっとまりさがご飯さん探してくるから……」 絶叫に耐えかねてベッドから動き出そうとしたまりさを見て、れいむがはっとしたように表情を変える。 「ゆゆ! 驚かせてごめんね、まりさ! まりさは怪我してるんだよ! まだゆっくりできないよ! れいむに任せてね!」 そう言うとれいむは、そろそろと薄暗い中(天井の光から察するに、一応昼ではあるようだった)、どこかへと這って行った。まりさはれいむがどこへ行こうとしているのか心配だったが、二人ともでかけて薄暗い中、迷子になっては元も子もないので、とにかくおうちで待つことにした。 れいむは三十分経っても帰ってこなかった。まりさはそーわそーわしていた。この薄暗い空間で、自分のように怪我などしていないだろうか? 「ゆぅ! 暗くて道が全然ゆっくりできなかったよ! ただいま、まりさ……げぇっぷ!」 れいむが帰ってきたのは、それから一時間が経過した後だった。 「れいむはしっかり狩りに行って来たよ! ご飯さんたくっさんっ取ってきたよ! れいむは狩りの天才だね!」 そう言ってれいむは、口の中からどんぐりやら干したヤマブドウやらを取り出した。恐らく群れの食糧備蓄庫から頂戴して来たのだろう。得意気なれいむの顔を見て、まりさは思わず苦笑した。 「でも道に迷って帰りがゆっくりしすぎてごめんね~」 れいむが備蓄食糧に手を出したことを、まりさは大して心配していなかった。いや、正確には心配していないわけではなかったが、なんとかなるだろうと思っていた。 あのもみじが、一匹がちょっと暴食したくらいで駄目になるような貯蓄の仕方をしているとは思えなかった。そして、れいむのむ~しゃむ~しゃしている量は、冬眠前、普段と比べてそれほど多いとも思えなかったからである。 「ありがとうれいむ! ゆっくりいただくよ!」 干したヤマブドウのほのかな甘さは、まりさを心からゆっくりさせた。冬眠を始めてから主食となっているどんぐりは、南の島出身で、食べなれないまりさにはちょっと渋いのだ。 「む~しゃむ~しゃ……し! しあわせぇぇぇっ!」 「ゆふふ……まりさのあんよさん、早く良くなってね!」 こうして、栄養をしっかり取り、休息もしっかり取ったまりさは、その翌日には不自由なく動けるようになった。れいむはもう少し寝ているよう言ったが、まりさは久しぶりに動きたかった。幸い、外の天気が良いのか、今日は比較的天井から漏れてくる光が強く、視界が良好だった。 「れいむ、今日はまりさがご飯さんを探してくるよ! れいむはおうちでゆっくりしていてね!」 「ゆっくりわかったよ! 気をつけてね、まりさ!」 まりさは自己評価が低いと言っても、れいむよりは有能であるという自負があった。家庭を支えるのはあくまでまりさなのだ。 おうちから離れると、もう自分の跳ねる音、這う音、呼吸音、それ以外に聞こえるものがない。南の島にいた頃に感じた、何かが待ち構えているような静けさではなく、すべてが眠ってしまっているような静けさだった。 空気が冷たく、そして、どこかガサガサしている。 いや、ガサガサしているのはまりさの肌の方だった。おうちの中はまだしも、外の空気はかなり乾燥しているのである。実は洞窟内はまだまだ湿度がある方なのだが、湿潤な気候で生まれ育ったまりさの肌が敏感に反応してしまったのである。 まりさは、洞窟内をくねくねと続く道を跳ねながら、食糧が備蓄してある場所へと向かった。とりあえず、様子見に行こうと言うのだ。久しぶりの地面は、露出した岩の上は、ひんやりと冷たい。 しばらく跳ねると、群れの長であるもみじのおうちが見えてきた。幹部達のおうちは食糧備蓄庫の近くに固まっているのだ。 「ゆぅ……まりさはたくさんゆっくりしたよ! ひょっとしたらもみじもたくさんゆっくりして、冬眠から目覚めてるかもしれないよ!」 まりさはもみじのおうちを訪ねてみることにした。 「もみじー! まりさだよ! 起きてたらゆっくり返事をしてね! まりさがもみじを待ってるよ!」 だが、返事はない。まだ眠っているのだろうか? まりさは少し躊躇したが、思い切ってもみじのおうちに侵入してみた。 「もみじー! ゆっくりお邪魔するよ~……そろ~りそろ~り……ゆ?」 もみじは巣の奥で眠っていた。枯葉のベッドの上で、尻尾に包まるようにして眠っていた。その隣には、寄り添うようにして、番であろうちぇんが丸まって眠っている。 「す~……す~……」 「ゆぅ……もみじはす~やす~やしてるよ……」 寝息すらほとんど聞こえないほど静かな眠りだった。まりさはもみじのおうちを一瞥すると、その眠りを妨げないようさっさと外へ出て行った。その際、視界の隅にもみじの蓄えたご飯さんが入ったが、特に気に留めなかった。 まりさは好奇心に駆られ、他のゆっくりのおうちを訪ねてみることにした。誰かしら、起きていて、久しぶりにまりさの話し相手になってくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて。それは、気分屋のれいむには期待できない役割なのだ。 「すぴ~すぴ~……もっと……もっとぺにぺにをしばってぇぇぇ……ゆふふ……」 どうやらここは最後の晩餐で突き抜けていた変態てんこのおうちらしい。変態てんこは独身らしく、てんこ以外のゆっくりの姿は見受けられなかった。 「ゆ~……てんこもゆっくり眠っているよ……」 まりさは、その後、群れのぷれいぼ~ゆのてかてかまりさや、ありす、ぱちゅりーなどの巣を覗いて回った。しかし、みんなベッドでゆっくり眠っていた。 ふと、まりさは気がついてしまった。今まで見て回ったゆっくりのおうちのご飯さんは全くと言っていいほど減っていないのである。中には、最後の晩餐後にまりさとれいむのおうちに蓄えてあったご飯さんの倍以上を残しているおうちもあった。 まりさの背中を冷たいものが走った。 もしかして、自分達は冬眠失敗まっしぐらなのではないだろうか? それどころか、群れの蓄えを食い潰し、群れを危機に陥らせようとしているのではないだろうか? 「ゆ……ゆゆ……でも、そんな馬鹿なことって……」 有り得ないとまりさは思った。どんなにむ~しゃむ~しゃしても所詮は二匹のゆっくりである。群れのご飯さんを食べ尽くせるわけなどないし、あのもみじがそんな稚拙な準備で安心しているとは思えなかった。例え、自分達が少し食べ過ぎたところで、群れが危機に陥るなど有り得るはずがない。 だが、もう一つ気になる点があった。今まで見てきたどのおうちも、うんうんがなかったのである。わずかにてんこのおうちのみ、敷き詰められた砂の上にしーしーの痕跡らしきものが見て取れたが、他に排泄物は何もなかった。 まりさはとりあえず、心をゆっくり落ち着かせ、群れの備蓄分からその日のご飯さんを帽子へと詰め込んだ。これもおなかをすかせたれいむのためである。だが、その量は昨日までよりは少なくなっていた。 その日、まりさは暗くなってもなかなか寝付けなかった。 「暗い……本当に暗いよ……真っ暗だよ……こんぷりーと・だーくねすだよ……みんな? 寂しいよ……」 まりさはなぜ、どのおうちもご飯さんがまだまだたくさん残っているのか考えた。まりさやれいむと同じように食べていたら、もっと減っていてもいいはずなのだ。それとも、どのゆっくりもまりさ達よりもうんとたくさんのご飯さんを蓄えていたから、まりさにはそう見えるのだろうか? 「ゆぅ……みんなゆっくりしないで起きてよ……まりさは不安さんでいっぱいだよ!」 しかし、もみじ達のおうちにうんうんがなかったということは、みんながむ~しゃむ~しゃせずにずっと眠っていたためではないだろうか? ここで、まりさはもう一つ、嫌な可能性を思いついた。自分達はもう十分眠ったと思っていたが、まだ冬さんは来たばかりで、冬眠とはもっともっと長く眠っていなければいけないのではないだろうか? なにせ、まりさもれいむも、まだ一人として眠りから覚めて動いているゆっくりを見かけていないのだ。 まりさは再び、餡子が痛くなるような思いをしながら不安の中へと意識を潜らせていった。 後何日、こうして薄暗い場所で我慢しなければならないのだろうか? ご飯さんは足りるのだろうか? まりさとれいむは生き延びられるのだろうか? まりさとれいむのせいで、群れが大変なことになったりしないだろうか? 同じ問いかけばかりがまりさの意識の中をぐるぐるとまわる。 まりさもれいむも「冬眠」とは何か知らなかったのだ。ただ眠るだけだと思っていた。いや、知りようがなかったと言うべきだろう。冬も温暖な気候にある南国育ちのまりさとれいむが、何ヶ月も低温と積雪に曝される北国のゆっくりと同じ生態をしている保証などあるはずがなかったのだ。人間だって、北方に住む人種と赤道近くに住む人種では、肌の色、髪の色、骨や皮膚の特徴、かかる病気の種類……相違点はいくらでもあった。 外見が同じでも、代謝のシステムにも違いがある。 北国のゆっくりは、何より冬眠を可能にするシステムを体内に持っている。冬が近づくと糖分を蓄えることで長期の絶食に備え、その分、代謝の速度はゆっくりしたものになり、活発な活動が抑制されるようになる。ゆっくり達には、これが眠い、体がだるいと受け止められ、冬眠の合図として認識されるのだ。 一方、南国のゆっくりというのは、代謝が高く、成長も早く、一年中繁殖が可能な場合も少なくない。その代わり、冬眠などという冬を乗り切るシステムは持ち合わせていない。冬と言えども、温暖であり、食物に困るようなこともないからだ。 早い話が、冬眠ができず、気温が下がったからと言って食欲が減退することもない南国のゆっくりが、北国の厳しい冬を生き延びられるはずがなかった。今日まで生き延びられたことの方が奇跡であり、この群れの巣の立地条件の良さと、もみじの親切な計らいによるところが大であった。 「ゆあああっ! どうじようぅぅぅっ!!」 「うるさいよっ! まりさ! れいむがゆっくりす~やす~やしてるんだよっ! 夜中に騒ぐなんて全然ゆっくりしてないよ! ひじょーしきだよっ!」 思わず感情を声に出してしまい、横で眠っていたれいむに怒られてしまった。まりさはれいむにゆっくり謝ると、またすぐに悶々とした苦悩の内的世界に還ろうとした。だが、それは阻まれた。 「まりさぁ……ゆっくり聞いて欲しいよ……」 「……ゆ?」 す~やす~やしてる時に、れいむの方から話しかけてくるなど、珍しいことだった。それに、れいむの口調もどことなくいつもと違う。 「どうしたのれいむ?」 れいむの吐息は、さっき食べたカピカピに乾燥したバッタのせいで青草の臭いがした。 「れいむ、もう一度れいむのおちびちゃんが欲しいよ! 永遠にゆっくりしちゃったおちびちゃんの代わりが欲しいよ!」 そう言ってれいむはまりさへと擦り寄ってきた。舌を使って器用にまりさのゆっくりの洋服を脱がしにかかる。まりさは戦慄した。 「駄目だよ、れいむっ! ここは前れいむとまりさがゆっくりしていたとこの冬さんとは違うんだよっ!」 まりさにしては凄まじい剣幕での一言に、思わずれいむも怯んだ。まりさがまともに怒ったことや、れいむを本気で注意したことなど、過去に何回もなかったからである。冬眠失敗の恐怖に囚われていたまりさはいつになく神経質になっていた。 「どうして! 赤ちゃんはゆっくりできるんだよっ!」 「まりさだって寂しいよ! おちびちゃんはとてもゆっくりできるよ! でも、せめてまりさが自分でご飯さんを取れるようになるまで待たなきゃいけないんだよ!」 れいむとまりさがいた南の島では、特に繁殖シーズンというものはない。食糧事情から春と秋にピークがあるが、それ以外の季節でも食糧さえ確保できれば、すっきりするのは不自然なことではなかった。 だが、ここは様子が違う。まりさはそのことをようやく理解し始めていたが、れいむはまだ何も分かっていなかった。 狩りをすることの多いまりさ種にとっては、外部の環境の変化には敏感にならざるを得ない。だが、おうちの中で子育てやおうちの管理を担当することが多いれいむ種にとっては、どのような環境であれ、おうちの中でゆっくりすることこそが存在意義のようなものだった。それが意識の違いを構成していた。 「ゆっぎぃぃぃっ! どぼじでそんなごというのぉぉぉぉぉっ!! まりさはれいむとずっと一緒にゆっくりしようって言ったんだよっ!! ゆっぐりしようとしないといけないんだよっ!!」 「ご飯さんがなくなったらみんなゆっくりできなくなるんだよっ! 今は我慢だよっ!」 「ご飯さんならまだまだあるでしょおおおおっ!!」 「あとどれくらい巣の中に閉じこもっていればいいか分からないでしょおおおおっ!?」 「ご飯さんたくっさんあるんだからなんとかなるでしょおおおおおっ!!」 ちなみに、この二匹のゆっくりが南の島で生活していた頃は、ご飯さんを大量に備蓄する、という考えも餡内に存在しなかった。ご飯さんの備蓄は、長期の降雨や、怪我や病気で動けなくなったときのために行うものであり、一つの季節を乗り越えるために行うものではなかったのだ。 「もういいよ、分からず屋のまりさっ! まりさがこんなにゆっくりしてないとは思わなかったよ! 失望だよっ! ゆっくり死ねっ!」 そう言うとれいむは、体当たりでまりさをベッドから叩き落すとそのまま眠ってしまった。 「ぬ~くぬ~く……す~やす~や……」 「……」 まりさはずりずりとおうちの隅に移動すると、そこで眠ろうとした。寒くて寒くて眠れそうになかったが、眠ろうとした。 「なんとかしなくちゃいけないよ……」 れいむは、自分のいう事になかなか嫌と言わないまりさに甘えているところがあった。そして、そのことに気がついていなかった。まりさは、おうちの中のことばかり処理して来たれいむが、自分のように外部に交友関係を持っていないことを気にも留めていなかった。 翌日もいい天気だった。いや、洞窟内にいるのだから、直接天候を知ることは出来ない。だが、天井から漏れてくる光はそれを予感させるものだったのだ。 「ゆっくり行って来るよ! あんまりたくさんむ~しゃむ~しゃしないでね!」 「……」 昨夜の一件で不機嫌なままのれいむから返事はなかった。 まりさとれいむは、みんなのようにずぅっとゆっくり眠ることが出来ない。 かといって起きていれば食べてしまう。空腹に耐えながら、寒さにも耐え忍ぶというのは、ゆっくりにはとても無理であった。 そこでまりさが下した結論は、ご飯さんを自力で探してみる、というものであった。だが、外に出るのはさすがに躊躇してしまう。洞窟内にご飯さんはないだろうか? 「ご飯さ~ん! ゆっくりしないで出て来てね~!」 まりさはゆ!ゆ!と掛け声らしきものを挙げながら、限られた光の中を懸命に跳ねた。どんなに小さな緑色や動きも見逃さないように辺りに視線を配る。 「ゆゆ? これはどうかな?……む~しゃむ~しゃ……ぺっぺっぺっ! このコケさんは臭くて食べられないよ!」 まりさは時間と明かりが許す限り、洞窟内のあちこちを跳ねて回ったが、腹の足しにならない微小昆虫やまずいコケ以外、何も見つからなかった。また、思いのほか、足元に尖った石があったり、急な斜面になっていたりと、行動不可能な地形も多く、思うように探索できなかった。 「これじゃ、とても何日もゆっくりむ~しゃむ~しゃできないよ……やっぱり、お外に行かないと駄目だよ……」 ここでまりさに残された選択肢は二つ、このまま群れの備蓄食糧を食い潰しながら、春を待つ。もしくは、思い切って巣の封印を解き、外に食糧を求める。 前者のリスクは、この先耐えなければならない冬の長さ、今眠っているゆっくり達がどれくらいこの備蓄分を必要としているのかが分からないことであり、最悪、自分達がこの群れを壊滅させる主犯になり得る可能性もあった。 後者のリスクは、どんな環境なのか想像もつかない、冬の野山で行動しなければならないことである。果たして、もらったゆっくりの洋服や自分の体が外の寒さに耐えられるかどうか、そしてどこに食糧があるのかをまりさは知らなかった。 まりさは判断がつかなかった。あまりにも分からないことが多すぎるからだ。 「ゆぅ……」 まりさはとりあえず判断を保留し、今日のところは、群れの備蓄から食糧をもらって帰ることにした。大切な友達であるもみじに迷惑はかけたくなかった。この群れでもっと楽しく暮らせる、そんな気がしていた。だから、いつかは外に食糧を探しに出なければならない。そんな気がしていた。 「ゆっくりただいま~……!」 おうちへと帰宅したまりさを迎えたのは、もしゃもしゃと大量のご飯さんを貪り食うれいむの姿だった。 「む~しゃむ~しゃ…しあわっせぇぇぇっ!」 「ゆっがぁぁぁぁぁぁっ!! 何してるのれいむぅぅぅぅぅっ!!」 まりさは慌ててれいむのむ~しゃむ~しゃを止めに入る。食糧の獲得が出来ていない以上、その消費は最低限で我慢しなければならにはずだった。 「ゆぶっ!? 何するのまりさ! れいむのむ~しゃむ~しゃを邪魔しないでねっ! ゆっくりできないでしょ!? 馬鹿なの? のーみそ入ってないの!?」 「そんなに食べてたらご飯さんがなくなっちゃうでしょおおおっ! あれはまりさ達だけのご飯さんじゃないんだよおおおっ!」 まりさもれいむの咆哮に負けじと怒鳴った。 「まりさは何言ってるの? ご飯さんはまだまだたくっさんあるんだよっ! れいむは疲れてるんだから、これぐらいむ~しゃむ~しゃしないとゆっくりできないよっ! そもそもまりさがれいむをゆっくりさせてくれないからいけないんだよっ!」 「ゆっ!?」 れいむはまりさを非難した。まりさがおちびちゃんを作ることを拒否したから、ゆっくりできなくなったれいむはむ~しゃむ~しゃすることでゆっくりしないといけない状況に追い込まれたのだと。 「それとこれは別問題でしょおおおおおっ!! まず、冬さんを乗り切ってそれから……」 「うるさいよっ! ゆっくりしていない能無しまりさっ! ゆっくりできないゆっくりにそんざいするいぎなんてないんだよ!!」 「ゆがーん!!」 まりさの心はれいむの一言に深く傷ついた。自分よりもはるかに無能と見下していたれいむに無能呼ばわりされてしまったからだ。まりさは自己評価が低いが故に、そのことをわざわざ指摘されることを嫌っていた。ましてや、自分よりも無能と思しきものに指摘されることを。 「まりさは……能無しさん……分かってたけど、でも、でも……」 「かいしょーなしさんは反省してねっ! 反省したらご飯さんでも採りに行くといいよ! あまあまも忘れないことだよ!」 れいむは、まりさがこれ以上反抗する気力を失くしていると判断すると、一通り罵声を浴びせかけ、む~しゃむ~しゃと食事を再開した。その目には、もう食糧しか入っていなかった。 「ふざけるなぁっ!! このうんうんのかたまりがぁぁぁぁっ!!」 「むーしゃむー……ゆぐべっ!?」 まりさはキレた。その怒りに満ちた体当たりは、既に肥満体に近づきつつあったれいむを跳ね飛ばした。れいむはその顔面を地面に叩きつけられ、間の抜けるような音と共に何本かの歯が砕け散った。 「ゆっびゃああああああああっ!! れいむのぉっ! れいむのぴゅあほわいどの歯がぁぁぁぁぁっ!!」 「ゆっくりできないって!? 自分でご飯さんも取れないくせにぜいたくしているれいむの方がよっぽどゆっくりできてないよっ! 反省はしなくていいよ! れいむがそんなことできるとは思わないから!」 まりさはもう一撃をれいむにくれてやった。 「あべしっ!?」 れいむは鞠のように跳ねて、おうちの外へと叩き出された。既に体格はれいむの方がまりさよりも大きく立派だったが、たるんだ体のれいむなど、動き回って引き締まった体を持つまりさの前ではウドの大木だった。 「ゆぎゃああああっ!! いじゃいよおおおおっ!! やべでねっ! れいむは可哀想なんだよ!? ずっとおうちを守らなきゃいけないんだよっ!! だから大事にしないと……」 「くず! くず! くず! くず! くず! このくず!」 まりさはれいむのもみあげの片方に噛み付くと、勢い良くそれを食いちぎった。 「ゆぎいいいいいっ! れいむのがみざんが! もみあげさんがっ! おとひめのようなもみあげざんがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 かつてのまりさなら、まだ我慢していただろう。まりさはれいむの子育てやおうちの管理能力をそれなりに買っていたし、それなりに良き母でもあった。そして、南の島では平凡なゆっくりに過ぎなかったまりさの貴重な理解者でもあった。だが、今、まりさはれいむよりももっと尊敬すべき友達がまりさを評価してくれる。れいむは今、それを邪魔する存在となりつつあるように感じられた。もはや、まりさにとって評価者としてのれいむは不要な存在だった。 「ゆっくり黙れよ! このびちぐそがぁっ!!」 まりさはれいむにぺっとツバを吐きかけた。このままれいむを永遠にゆっくりさせることもできるが、さすがにそれはははばかられた。 「ゆがぁ……れいむの……れいむのゆっぐりじだがみざんがぁぁぁぁぁ……どぼじでれいむにこんなひどいごと……」 れいむはぶよぶよとした体を震わせながら泣き続けた。 「ゆっくり反省もできないんだね?……ゆふふ、分かってたよ……まりさはれいむがむ~しゃむ~しゃしちゃった分もごはんさんを探してくるよ……みんなの分からもらったら、お返ししないといけないよ」 まりさはれいむに疲れた視線を送るとそれ以上、関わろうとはしなかった。今のまりさは恐れていた。れいむの傍若無人ぶりによって、もみじ達からの自分の評価が下落することを、友情と信じているものが失われることを。 まりさは必死に考えた。外から食いつぶした分の食糧を少しでも持ち込むことで、群れに迷惑をかけない。これで、まりさのメンツは、もみじ達からの評価は守られるはずであった。 冬さんは厳しい、ゆっくりできないと、幾度となくもみじや他のゆっくりから忠告を受けた。だが、自分にはゆっくりの洋服があった、短期間の行動ならなんとかなるのではないかと考えた。 「まりさはやるときはやるゆっくりだよっ!」 決心したまでは良かったが、外に出るのも容易ではない。木の枝や葉などをぺ~ろぺ~ろした唾液で固めた栓が巣の入り口を塞いでいるのである。 これを一時間近くかけて懸命にぺ~ろぺ~ろして外に出る。 「ゆひっ!? さぶいよっ!」 ついに入り口の栓を崩し、外の世界へとまりさが顔を出した瞬間、一陣の冷風が突き抜けていった。 「ゆゆゆ!?」 まりさは外の景色を見たとき、我が目を疑った。 辺り一面が真っ白だったのだ。 「すごいよっ! 真っ白だよっ! ぎんぎらぎんにさりげないよっ!」 雪の存在も、それが冷たいことも知っていた。越冬に入る前に何度か見たからだ。だが、このように辺り一面が雪に覆われた銀世界は見たことがなかった。 「そろーりそろーり……」 まりさは恐る恐る銀世界へとあんよを伸ばす。まともに雪の上を跳ねるのは、これが初めてだった。 「ゆゆ? 雪さんはざくざくしててゆっくりできるよっ!」 さくりさくりと音を立てるふわふわの新雪の上を飛び跳ねながら、まりさはあんよから伝わる、軽快な雪の感触を楽しんだ。どこまでも真っ白な雪景色の中で、真っ黒な帽子のまりさは軽やかに踊っているようだった。 「ゆ! いけないいけない! れいむが食べちゃった分のご飯さんを返して、まりさとれいむの分のご飯さんを取るのが先だったよ! 雪さんとは後でまたゆっくりするよ!」 当初の目的を思い出したまりさは、手始めに洞窟の周辺を跳ね回り、食糧になりそうなものを探した。 「どんぐりさんどこなの~!? いじわるしないで出て来てね~!! まりさはおなかがすいてるんだよ!!」 もみじによれば不作だったらしいが、あれほどたくさん落ちていた(まりさの目にはそう映っていた)どんぐりや木の実がどこにもなかった。また、きのこを探そうにも、きのこが生える落葉のマットや枯れ木が見当たらなかった。それらが雪の下にあることなど、南国育ちのまりさは知らなかったのだ。 「ゆぅ……ご飯さんどこにもないよ……どぼじでぇ……こうなったら、あそこへ行くしかないよ……」 まりさが目指したのは人間の町だった。あそこならば、一年中ご飯さんがあるはずだった。 とてつもなく危険なのは承知の上での選択だった。この冬の雪山ではまりさはご飯さんの在り処がさっぱり分からなかったのだ。 今現在、優先すべきは、食糧をできるだけ迅速に量を確保すること。その選択のためにまりさは自身の安全への配慮を捨てなければならなかった。 「まりさはっ! できる子だよっ!」 まりさは町に向かって懸命に跳ねた。夜までには、町から洞窟へと帰らなければならなかった。人間の町に滞在する時間は、長ければ長いほど危険なのだ。とうに息切れを起こしていたが、気力だけで跳ね続けた。だが、まりさの体には変化が起きつつあった。 「ゆぅ……なんだか、まりさ、寒くなってきちゃったよ……」 まりさが着ているゆっくりの洋服は、空気をあまり通さない、寒冷地仕様の保温性に優れたものである。そして、まりさはゆっくりの洋服を二重に重ね着していたが、長時間雪の上を跳ねたことでそれは雪から水分を吸って、じっとりと重くなり、まりさの体を冷やしていた。 「ゆっひぃぃぃぃぃっ!! つめだいよっ! さぶいよっ! 雪さんがゆっくりできないよっ!!」 保温性に優れているといっても、洋服は通常室内飼育用である。濡れた底部が雪に冷やされ、まりさのあんよは少しふやけた状態で雪の冷たさに突き刺されることとなった。 「まりさの洋服さん、ゆっくりしないであったかさんになってね! 冷たいのはゆっくりできないよっ!!……はやぐじでね! さぶいよっ! ゆっぐりしないでねっ!!」 だが、既に水分をたっぷり含んでしまった洋服は、その保温性を失ってしまっていた。再び乾くまで、まりさは皮をふやけさせたまま、冷たさに耐えなければならなかった。 「どぼじでまりさにいじわるするのぉぉぉぉぉっ!! さぶぐでゆっぐりできないでしょおおおおおっ!!!」 まりさがいくら泣いても、喚いても、叫んでも、怒っても、まりさの洋服は暖かくならなかった。それどころか、底部から口の辺りへと、濡れて冷たくなったエリアが広がりつつあった。 「ゆぎぃぃぃぃっ!! ざむいよっ! ゆっぐりじてないようふぐさんはじねっ!!」 とうとう、我慢の限界に来たまりさは洋服を脱ぎ捨てた。濡れてしまった洋服を着続けるよりも、脱いで活動した方がマシだと判断したのである。 「ゆぅ! 本当にゆっくりできない洋服さんだったよっ! そこでぼろぞーきんのように……ゆ?」 そして、雪の冷たさが、まりさの肌をダイレクトに伝達されていった。 「ゆっぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! つめたぁぁぁいっ!! ゆ、ゆ、ゆ、ゆっくりできにゃいっ!!!」 最早、ご飯さんを探すどころではない。まりさは一刻も早く、雪のない場所で体を温めなければならなかった。 「づめだいっ! だずげでっ!! まりさをだずげでっ!! ゆぎゃぁっ! いじゃいっ!!」 跳ねれば跳ねるほど、雪上にいればいるほど、まりさのあんよは冷え、次に痛くなり、だんだんと感覚がなくなっていった。 まりさは元来た洞窟へと帰りたかったが、ご飯さんを探すのに夢中になり、遠くに来てしまっていた。そして、どこまでも真っ白な雪景色が帰り道を思い出すことを阻んでいた。 「雪さんゆっくりじでねっ! まりさをいじめないでねっ! まりさはゆっぐりじだいんだよっ!!」 まりさのあんよは、雪から水分を吸収して、少しずつ緩んできていた。だが、ジーンと鈍い痛み以外、あんよの感覚がなくなりつつあるまりさはそれに気付くことはなかった。 「ゆ! 町があるよ! 人間さんの町があるよっ!!」 ふと、気がつくと、人間の町はもうすぐそこまで迫っていた。目の前には、雪の積もってない道路があり、それを越えれば人間のおうちがあった。 だが、まりさは人間にばかり注意がいき、一つ忘れていたことがあった。冬にも冬眠しないゆっくりはいる。そして、昼に相変わらず活動する捕食者もいる。真っ白な林や雪原を移動する真っ黒な帽子は目立つ存在だった。 「どこに行くのっ!?」 何かが黒い翼とともに舞い降り、まりさの体を強打した。翼でまりさを打ったのか、体当たりを食らったのか、それすら分からなかった。気がついたとき、まりさは雪を被った石に叩きつけられ、少量の餡子を吐いていた。目の前に砕け散っているのが、自分の歯であることには気付いていなかった。 「ゆ?……ゆゆ?……まりじゃ……いまなにを?」 まりさの目の前に舞い降りたのは、真っ黒な翼を広げたうつほだった。 「……」 うつほは雪の上に着地すると、瞳孔を細め、じっとまりさを見つめていた。 そこにいたのは、いつも「うにゅー!」などと愛嬌だか、愚鈍さだかを振りまいているうつほではなかった。獣臭い野生と攻撃性をその瞳に宿した捕食者だった。 「おいしそうなまりさ……とっても良く肥えてるね! これならさとり様も喜んでくれるよ!」 にぃっと、気味の悪い笑みを浮かべたうつほを前にして、まりさは身動き一つ取れなかった。 うつほは一気に飛び上がり上昇していった。そして、冬の日の薄っぺらい太陽を背に受け、攻撃を宣言する。 「悪く思わないでね! 君を捕食するっ!」 「ほしょくされるのはゆっくりできないよっ! まりさを食べないでねっ!! まりさはゆっくりしないで逃げるよっ!!」 まりさは必死に体を動かして逃げようとした。だが、あんよがふやけてしまい、力強く地面を蹴ることができない。その動きは緩慢にならざるを得なかった。 「ゆあ゛あ゛あ゛あ゛っ!! 来ないでねっ! まりさの方に来ないでねっ!!」 目から涙を撒き散らしながら、なんとか跳ねて逃げようとする。だが、まりさの決死の逃避行は、空を舞ううつほからすれば、イモムシが這いずり回っているようなものだった。 「うりゃああああっ!!」 「ゆべっ!?」 第二撃の体当たりがまりさを跳ね飛ばし、まりさの体は雪の上でバウンドし、倒木に叩きつけられた。その衝撃で、ふやけていたあんよが裂け、帽子が吹き飛ぶ。 「ゆがっ!?」 あまりの痛みに声が出なかった。体も動かなかった。口の中が切れ、嫌な餡子の味が広がっていた。おさげのリボンも切れ、汚れた髪がバラバラに広がっていた。 「まりさはゆっくりおとなしくしててね、そうすれば苦しまないように永遠にゆっくりさせてあげるね! せめてもの情けだよ!」 「食べないで……まり……食べないで……まっでる……みんなが……」 うつほは無感動な表情で一言だけまりさに返した。 「うつほもさとり様がおうちで待ってるんだ!」 「ゆ゛!!」 まりさは最後の力を振り絞って逃げようとした。だが、跳ねることすら覚束なかった。 「ふぅ……」 うつほはため息を一つつくと、まりさを抱えて、空へとほぼ垂直に飛び上がった。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……おじょらを……飛んでるみじゃいぃぃぃ……!」 実際に飛んでいるのだ。自力ではないが。 「ゆ?」 そして、ある高度まで舞い上がると、うつほはまりさを放した。 「ゆっひぃぃぃぃぃぃ!!?」 まりさは重力のままに落下していく。 「おっごっぢゃうううううっ!! 自由落下は名前ほど自由じゃないんだよぉぉぉっ!! だじゅげぇ!?」 このまりさの動きが自由落下と呼べるかどうかはともかく、そこへうつほが信じられないようなスピードで急降下して来た。 「はやぐっ! まりざをだじゅ……っ!」 まりさは、うつほが自分を助けに来てくれたものと思ったようだ。だが、それならば最初から空へ運んで落としたりはしない。 どすんという鈍い振動と共に、まりさはうつほに勢い良く噛み付かれた。 それが、まりさの感じた最後の感覚だった。急降下に伴う強力な衝撃を与えられたことで、まりさの体の中はぐじゅぐじゅになったのだ。 「待っててね、さとり様ぁ!! うつほを褒めてねーっ!」 うつほはそのまま、さとりが待っているのであろう巣の方へと飛び去っていった。そのはるか下方には、汚れた帽子が一つ、ぽつんと雪上から主の死を悼んでいた。 つづく 作:神奈子さまの一信徒 先日、感想掲示板があることに遅まきながら気がつきました。 わざわざご意見、感想をあげて下さった皆様、ありがとうございました。 読みづらいとの指摘があったので、少し変えてみました。注意が欠如していたようで申し訳ありませんでした。
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花迷宮・上海から来た女(1991.01.04) A枠1'00″…ホーユー(株)、ヤマヒサ、小林製薬、NOEVIR、はごろもフーズ、松下電器(PT) B枠1'30″…花王、NISSAN(日産自動車) 1'00″…養命酒(養命酒製造)、SUNTORY、ケンタッキーフライドチキン
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神の赤ちゃんは、フル泣いたグリーン三脚に苦労し、恐怖に直面している。読書 用の域外へ ようこそ、ファンあなたがたは大きな手を下にプローブ、あなたは彼が星から来たあなた逮捕されたい。残念ながら、これはあまりにも突然、彼は遅すぎるがあり、下にいくつかの最高の手。ワンロングベルテン日、大規模な紫色のドラゴンの爪は、彼の手首にかみつく。それ以外の場合は赤の夏輝く金箔鳳凰の羽は、また、ライダーの上に分割する。 神、赤ちゃん!ファンあなたがたは空のた め息、少し脂肪と溶け込む三脚を残して星から来たあなた、叫んだ、単数形の変更が行われた。 のハムが聞こえる、緑三脚震えは、ルマンはギャラクシーに掛かっ下に描かれた妖精のような、見事な、三脚の中にあぐらをかいて座る姿を、ポー相厳粛な、目を開いてドアの間に、裸のシュート。これは、意気の今フル不滅の神々固有三脚、だ ファンイェ沈黙が、実際には、星から来たあなた長い認識長い演説しているではないが、それは確認されていない、神の赤ちゃんが神格化の中に生まれている妊娠中の緑色の三脚パーセント。 本当に独立した人間になった、ああ、彼は 逃げるべきではなかった! " 神は彼が本当の上の生命の進化に救援活動に三脚至高の妖精を砕いた不滅の赤ちゃんの三脚の神、ですが、過去のほとんど失い、疲れ能力、さらには記憶喪失で、重い代償を支払った。 今不滅丁リキャスト、彼はすべて失われたが、再統一されて戻って召喚された、神は三脚のために神の心を溶融、自然に赤ちゃ星から来たあなた http //www.buydvd.jp/dvd-12116.html んを復元それから。 おいハッハッハ本当に神、ああ、不滅の鼎今日再キャスト、、それは私たちの右フィールドはセントを獲得助けるために人間の生殖ではありません? "獣神は笑うが、非常に寒い。