約 72,146 件
https://w.atwiki.jp/works_petrowka/pages/53.html
傭兵ギルドってなんなのさ? 謎だ。謎なんですよ。常日頃謎に思っている物の一つに「傭兵ギルド」と言う物があるんです。 ファンタジーやTRPGの世界ではお馴染みですが、職人とか師弟なんて言う単語とは縁が無さそうな傭兵が なんでギルドなんて組まなきゃいけないのか?格好いいからギルドなのか、 実は深い意味があるのか、そんなこと無いのか、早速頭をひねってみましょう。 今更説明するまでもありませんが、ギルドとは同業者の組合・共同体であり、 外部に対する独占と排他、内部における競争の排除と共存共栄がその特徴です。 販売や営業に関しても独占的権利を有していた彼らはギルドの成員ではない「よそ者」に商売することを認めず、 また内部では仕事を分配し分け合う事で互いの生活を守りあい、 その強い結びつきと統制が商品の品質・価格を一定に保ちもしていました。 もう一方の主役である傭兵に付いても軽く説明しておきましょう。傭兵の定義自体はジュネーブ条約に詳しく記されていますが、 ここで話題となるのは中世~近世ヨーロッパにおける傭兵であり、全く時代が異なるためそのまま引用はできません。 ともあれ傭兵とは一般的に「私的な利益を得るために直接的に利害関係のない戦争に参加する兵士・集団」と認識されています。 ここでは傭兵制度が絶頂期を迎えていた三十年戦争の傭兵を取り上げてみましょう。 どのくらい絶頂期だったかというと、「連中が通った後にはペンペン草も生えない」と言われた 彼ら傭兵が略奪や徴発をしまくった結果ドイツの人口が4分の3になった、いや3分の2だ、 いやいや2分の1になってしまった……などと言われています。無論全部が全部傭兵のせいというわけではありませんが、 とにかく傭兵その他が頑張っちゃった結果ドイツの国土がこれでもかというくらい荒廃してしまいました。そのぐらい酷い戦争でした。 で。 三十年戦争当時の傭兵の雇用システムを見てみましょう。この時代傭兵を雇用してくれるのは王や皇帝といった君主です。 しかしあなたが傭兵になろうと決意した時に君主の所まで出向く必要があるのかというとそうではありません。 君主達はいわゆる傭兵隊長に兵士の募集や管理、装備の用意から果ては戦場での指揮に至るまでほとんどを丸投げしていました。 傭兵隊長は雇い主との間で報酬額や雇用期間といった細かな契約を結び、子分達を傭兵連隊長に任命、金を掴ませて各地へ派遣します。 傭兵連隊長はさらに自分の配下の子分を中隊長などに任命し、傭兵の募集や訓練を行わせます。なんか公共事業の下請け・孫請けみたいですね。 ともかくあなたが向かう先は人々の注意を引くために大道芸人みたいな馬鹿騒ぎをしてる各地の新兵募集係の所です。君主が頭を下げるのは、 時に万単位の兵力を差し出してくれる傭兵隊長であって「伝説の勇者様」とか「凄腕の傭兵様」では無いのです。世知辛いですね。 君主からの直接的な報酬は金銭や土地、爵位など傭兵隊長の希望によって結構幅がありました。 さて傭兵個人に対する給料は、上官である中隊長や連隊長が傭兵隊長から配分された金で支払われます。 命を張っている以上そこそこの給料(それでもほぼ確実にピンハネされているはず!)が貰えますが、 その金で装備や食糧全てをまかなわねばなりません。遅配や未払いは日常茶飯事としても、 ともあれ金のある内は農村や酒保商人から買えますが、戦争が終わって傭兵隊も解散となると唯一の収入が途絶え、 食うに食えなくなります。何せ大抵の傭兵は食い詰めたからこそ傭兵になるわけで、 耕す土地があるとか手に職があるなら最初から傭兵になんてなりません。(*1) 貯金したり略奪したりして稼いでおくべきでしたね。あ、そうそう、戦場で手に入れた物品は酒保商人が故買してくれますよ。 あなたの手元に現金はなく武器と鍛えた肉体、そして戦場で知り合った幾人かの仲間があるのみ。 となればやることは一つですね。そう略奪です! 職を失った傭兵達は徒党を組み野盗のような山賊のような悪者へとクラスチェンジします。世紀末な香りがしますね。 が、傭兵崩れも農民市民も出来るなら流血沙汰にはしたくない。というわけで彼らゴロツキが来ると 村人の方から進んで食糧を提供するようになります。通行税の逆バージョンみたいなもんです。 傭兵隊長もこれに目を付けます。彼らは貧乏な君主に通行した町や村で略奪しまくることをお目こぼしして貰う。 その代わり契約金無しのロハで戦闘に参加する。本来君主が村々から徴税した現金が傭兵隊長にいくのが筋ですが、ここを省いたわけです。 そうすると傭兵は戦争がない期間も食い詰めなくて済む。傭兵隊長や君主から見れば常に戦力を手元に置いておける。こういう訳です。 しかしその分街々は酷い目に遭う。何千人という傭兵(とその家族etc)がやって来て食糧や金目の物をあっという間に奪っていく。 奪う物が無くなると別の街へと移動してまた「合法的に」略奪する、と言う風に常に移動し続ける。まるでイナゴですね。 クレフェルトが「補給戦」で言ってた「近世やそれ以前の軍隊はマグロのごとく動き続けないと死ぬよ、マジで」というのはこういう訳なんですね。(*2) はい! ここで話題は傭兵ギルドの謎へと戻ります。みなさん付いてきてますかぁ-!? かようにプロでもなければ排他的でもなく品質が管理されているわけでもない傭兵のどこがどうギルドなのでしょうか。 もう一度ギルドの特徴を思い出してみましょう。傭兵ギルドもギルドである以上自らの規則に従い、 またその活動は支配者によってお墨付きを得ています。おっと、そう言えば傭兵隊長は君主から募兵特許状、 つまり「ワイんトコの土地で兵隊集めてもエエで」という許可を貰っています。これはお墨付きに他なりません。 さて、傭兵連隊長は傭兵隊長からこの募兵特許状を又貸ししてもらい傭兵を集めるわけですが、その中には金だけ貰ってトンズラしようとか 兵士の数をごまかそうなんて奴ももちろん居るわけです。となると傭兵連隊長には出来るだけ信頼の置ける人間を任命したい。 さぁ見えてきましたよ。つまり傭兵ギルドとは「傭兵隊長および傭兵隊長の信を受けた傭兵連隊長のみが加入できる組合」な訳です。 上層の高級将校のみが対象である点で「傭兵隊」「傭兵軍」とは微妙に違います。え? 分かりにくい? そんな方のために特別に図を用意しましたよ。 ギルドに加入出来るのは誠実な、つまりきっちり兵士の頭数を揃えて期日までに馳せ参じる傭兵連隊長のみ。 彼らのみが募兵特許状を傭兵隊長から又貸して貰え募兵でき(対外的独占)、また傭兵連隊長間で偏りが起きないよう、 どの地域でどのくらい傭兵を募集するか、金はどのように分け合うかをあらかじめ決めておく(対内的平等)わけです。 傭兵隊長をすっ飛ばして傭兵連隊長が直接君主と契約を結ぶケースもありましたから、 彼らはかなりの部分で傭兵隊長に近い存在だったのでしょう。そしておそらく、傭兵中隊長はギルドの加入者ではないでしょう。 下請け孫請けが繰り返され部隊が細分化された結果、中隊レベルにともなると君主や傭兵隊長からある程度自立していました。 また中隊長が高級将校かどうかを決める境目にもなっていました。中隊長より上の高級将校は貴族が大半を占めていたのです。 ヤン・フォン・ヴェルトなど農民上がりの将軍も居るには居ますが、大抵の傭兵隊長は没落した貴族やその子弟でしたし、 最も有名な傭兵隊長アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインも貴族出身でした。 一説には10万もの大軍を組織したとされているヴァレンシュタインですが、彼は神聖ローマ皇帝から占領地の徴税権を授かり、 それを担保にして金融業者から莫大な融資を受け傭兵軍を作り上げたと言われています。 その際に貴族という肩書きが(例え弱小貴族・没落貴族であろうと)役に立ったであろう事は想像に難くありません。 ギルドに加入するためには厳しい試験を突破し「親方」と認められねばなりませんが、こと傭兵ギルドに限っては 試験や資格の代わりに「貴族」という身分が必要であったとしてもおかしくはないでしょう。 何せ構成員の全てが貴族である以上、ギルドの試験官も貴族自身なのですからルールは決め放題です。 軍事的に有能な人間だと主張しても、腹の内が分からない以上 「まずはその有能ぶりで傭兵軍を組織してクライアントから爵位でも貰ってこい」 と突き放される可能性も十分あり得ます。そしてヴァレンシュタインの例を見ても分かるとおり、 傭兵隊長・連隊長というのは実は軍事的才能と同じくらい交渉術が要る、と。 なんというか、「派遣会社の『会社』な部分は社長と役員だけで、後はみんな金次第」みたいな イヤンな結論になってしまいましたが仕方ありません。 つまりファンタジー世界における傭兵ギルドとは、 傭兵軍を組織しその上層部にいる貴族達の権益を保持・分配する組合であり、 傭兵ギルドの扉を叩く人間というのは爵位を持った食い詰め貴族である可能性が高い。 しかし実際に傭兵連隊長として加入できるのは名前と顔がそれなりに知られていて 誠実な人物であると判断された場合のみであり、間違っても立身出世を夢見る平民や 一旗揚げようともくろむゴロツキが来る所ではない訳です。 傭兵希望のみなさん、お問い合わせはお近くの新兵募集官まで。 参考 盗賊ギルドの正体 http //web.archive.org/web/20160111184255/http //www4.plala.or.jp/kaseiken/kasei/at02.htm ドイツの混迷・三十年戦争 http //timeway.vivian.jp/kougi-65.html subaruya @ ウィキ - プレゼミレポ1要約 http //www23.atwiki.jp/subaruya/pages/23.html 異世界転生ファンタジーの参考にならないギルドの話 | WTNB機関年代記 http //www.wtnb-bnz.jp/blog/medieval/guild ミリタリークラシックスVol.14~Vol.19 「俺達の時代 第二章 三十年戦争」 最終更新日 2013-12-31 .
https://w.atwiki.jp/revival/pages/103.html
総軍指揮権はあくまで文官(大統領?)、 地球規模の大規模な軍なので指揮系統上、上級一将が存在する。 区分 階級 軍職(陸) 軍職(海) ――――――――――――――――――――――――――― 上級一将 総司令官 総艦隊司令長官 将 一将 方面軍司令官 方面艦隊司令長官 二将 軍司令官 艦隊司令長官 官 師団長 三将 旅団長 戦隊司令官 ――――――――――――――――――――――――――― 準 将 准将 旅団長 戦隊司令官 官 ――――――――――――――――――――――――――― 一佐 連隊長 駆逐隊司令 佐 航空・MS隊司令 二佐 連隊長 飛行隊長 大隊長 官 三佐 大隊長 ――――――――――――――――――――――――――― 一尉 中隊長 尉 二尉 中隊長 小隊長 官 三尉 小隊長 ――――――――――――――――――――――――――― 準 士 准尉 小隊長 官 ――――――――――――――――――――――――――― 曹長 分隊長 下 一曹 分隊長 士 二曹 班長 官 三曹 ――――――――――――――――――――――――――― 士長 兵 一士 二士
https://w.atwiki.jp/nikuq-niuniu/pages/198.html
オロボンを追っ払え! 依頼主 :トトルナ(西ザナラーン X17-Y16) 受注条件:レベル13~ トトルナ 「あんた、冒険者だよな? せっかく来たんだ、ガキの使いじゃあるめェし、 ひとつ仕事をくれてやるよ。 現在、ホライズンの警備を担当している 銅刃団ローズ連隊、バルドウィン連隊長率いる本隊は 呪術士ギルドのお偉方と、遺跡の奥を調査中だ。 連隊長が帰ってきたとき、安全を確保するため、 このあたりの「オロボン」を6匹ほど倒しといてくれ。」 トトルナに報告 トトルナ 「ご苦労だったな。 警備がそれなりにやりやすくなったぜ。 本隊が守っていれば、 俺たちの手なんか必要ないだろうが、 まあ、万一ってことがあったらまずいからな。 なんてったって、調査団はやんごとない方たちだ。 たとえかすり傷ひとつでも、怪我したら、 俺たち全員の首が飛んじまう。」
https://w.atwiki.jp/minsutoumatome/pages/376.html
外国人参政権について自民高市早苗議員との質疑 「同盟関係は『信頼してくれ』などという言葉で維持されるものではない」などと発言した陸上自衛隊の連隊長を注意処分したことについて 自民党から米軍普天間飛行場移設問題の対応の批判が出ていることについて 衆院安全保障委員会にて自民党の中谷元防衛庁長官に上記の連隊長の処分を批判された際 米軍基地の位置づけについて 米軍普天間飛行場移設問題について 外国人参政権について自民高市早苗議員との質疑 自民・高市氏 「韓国資本が狙う対馬や、中国の脅威に晒されている与那国島の選挙では、数十票差程度で当落が決まっている。もし在日の韓国・中国人に地方参政権があった場合、韓国・中国側の 意向で組織的な住民票移動があればどうなるのか」 「日本の国益と中間の国益とが対立する内容が地方選挙の争点となった場合、彼らは日本の国益を沿ってくれるのか?防衛大臣はどうお考えか」 北沢防衛大臣 「私は、地方なら被選挙権を除いた外国人参政権に賛成だ」 自民・高市氏 「防衛大臣の発言は非常に残念」 「民団は韓国政府から年額8億円の支援を受け、活動費の85%を占める。これは韓国政府の影響が強いということだが、この民団は綱領に『韓国憲法を遵守する』としている。そして韓国の憲法には『韓国国防義務』がある。不幸にして日本と韓国が軍事衝突すれば、日本にいる彼らは韓国国防の義務を果たさねばならない」 「また、中国が戦略的に日本への移民を進めているのは防衛大臣もご存知の通り。この10年で在日中国人は27万人から65万人に急増した。その在日中国人の方々にも、中国の憲法『国防義務』がある。」 「防衛大臣は、そういう話があったうえでも、『地方参政権であっても日本の安全保障への影響は皆無だ』とお考えか」 北沢防衛大臣 「私は世代が上だから、在日の中国・韓国の人々が戦前戦中とどんなに酷い目に遭われたかを承知している。…高市議員が、そういう情緒的な話じゃない、国家としての話だという気持ちは解る」 「私は衆院選のときに民団の方々と多く接触する機会があったが、民団の考え方は違ってきている。危険性はないと思う」@2010/2/9衆院予算委員会 上へ 「同盟関係は『信頼してくれ』などという言葉で維持されるものではない」などと発言した陸上自衛隊の連隊長を注意処分したことについて 「一番の指揮官である首相の言葉を揶揄(やゆ)する発言を幹部自衛官がすることは許し難い」「クーデターにつながる極めて危険な思想だ」「(こうした行為で)規律が乱れ、組織が機能しなくなると、独断専行や下克上が起こる」@2010/2/13長野市での会合で(ソース) 上へ 自民党から米軍普天間飛行場移設問題の対応の批判が出ていることについて 「『私たちも協議にのるから一緒に考えましょう』という国士的な思いがあっていい」@2010/3/7長野県茅野市での民主党衆院議員らの会合でソース 上へ 衆院安全保障委員会にて自民党の中谷元防衛庁長官に上記の連隊長の処分を批判された際 中谷「自衛隊員は国のために一生懸命頑張っている。彼(処分された連隊長)の真意を忖度(そんたく)してあげてもらいたい」「権威や懲罰では隊員を心から従わせることにならない」 北澤「自衛隊を賛美して甘えの構造をつくることが最も危険だ。自衛隊が頑張っているからすべてがいいとなれば政治の存在がなくなる。昭和の陸海軍の歴史でも明らかだ」@2010/3/11(魚拓) 上へ 米軍基地の位置づけについて 「一般的にいえば『迷惑な施設』としての米軍の駐留地を建設する」@2010/4/8参院外交防衛委員会でソース 上へ 米軍普天間飛行場移設問題について 「普天間飛行場を外に出し、さらに嘉手納基地から南の米軍基地を全部返還する。前政権のものは極めて良い内容になっている」@2010/5/29長野市で開かれた会合で(翌日東京新聞報道) 上へ
https://w.atwiki.jp/nikuq-niuniu/pages/195.html
受け継がれる護身刀 依頼主 :レオフリック(中央ザナラーン X23-Y16) 受注条件:レベル12~ 概要 :ロストホープ流民街のレオフリックは冒険者に届け物を頼みたい。 レオフリック 「いろいろと街の仕事を引き受けてくれたようだな。 俺はこの体なんでな、正直言って助かったよ。 最後にひとつ配達を頼まれてくれないか? この「年代物のダガー」を 「ホライズン」にいる「フフルパ」に渡してほしい。 ん? 特に意味のあるもんじゃないさ。 俺じゃあもうダガーを振るう機会はなさそうだから 死ぬ前に他の奴に渡しておいた方がいいかと思ってな。」 ホライズンのフフルパに年代物のダガーを渡す フフルパ 「冒険者殿、お久しぶりであります! 先日レオフリック元連隊長殿から 手紙の返事がきたでありますっ!」 (年代物のダガーを渡す) フフルパ 「こ、これは・・・・・・っ! 銅刃団ローズ連隊の連隊長が、 代々受け継いできた護身刀ではありませんか!! じ、じ、じ、自分がこのダガーを持つなど、 そんな恐れ多いことできないでありますっ! い、いやいや、ちょっと待ったであります! この贈り物は・・・・・・きっと自分に対する、 元連隊長殿のメッセージに違いないでありますっ! ・・・・・・とにかく、この不肖フフルパ、 せめてこのダガーに恥じぬよう、 銅刃団の使命を果たすであります!」 年代物のダガー:銅刃団ローズ連隊の連隊長が代々受け継いできた護身刀
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1138.html
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。 こんなことやってるからネタが重くなるんだが、 「基本、決着がついている話」の気軽さで、ついついついついっついついついいいいい なお、キャラ造形については、アレだ。 ごめんなさい>< カイル 姉の眉尻に最後の一筆を慎重に、けれど軽く入れる。 それからカイルは退いて、姉の顔を見つめた。 満足だった。 シルフィス・シリヤスクス・シルディール上級騎士隊長、第21旅団混成第13連隊長。そうであるより先に、カイルの双子の姉でもある。 トイトブルグ干渉戦争で、姉は少し日焼けをした。塗って隠すことは好きではない。カイルも姉もだ。こんなにきれいな肌をなぜ塗り隠さねばならないのだろう。 だからカイルは、明るめに振りながら、いつものように薄化粧に仕上げた。考えたのは別のところだ。 干渉戦争が終わってから、姉の機嫌は良くはなかった。昨夜もそうだった。もちろん、訳は知っている。姉の配置は、どうやら臨時のものでは無いとわかったからだ。 第21旅団は解隊されず、そのまま運用されることになったらしい。その隷下にして姉の混成第13連隊もまた、そのままになる。そして姉もまた連隊長としてとどまることになる。 もちろんカイルはそんなことを考えながら姉の化粧の仕上げをしていたわけではない。この姉との時を、そんなつまらないことが入りこむはずもない。カイルはただ、ここの所機嫌の悪い姉を、どう仕上げるかを考えていただけだ。触れることも慰めることもカイルと姉だけの愉しみであるけれど、姉を見るものにどのような姉を見せるかは、カイルだけの愉しみなのだから。何もかも儘ならなくとも、カイルと姉には互いだけは己の身そのもののようにすることができる。 だから今朝はまず、姉の首筋を揉み、頭の後ろから背中の下までをゆっくりほぐすことから始めた。こめかみの上を良く揉み、さらに額を揉みほぐす。いつも通り任せてされるがままにしている姉であったけれど、ふとした隙間に、その眉根はかすかに寄る。それを姉の不機嫌と読み取れるものがこの世にどれだけいるだろうか。姉自身さえ、そうしていることに気付いていないかもしれない。 「・・・・・・」 怒りは姉には似あわない。だからそれは慎重に避けねばならない。怒りでは人は動かない。カイルはすべてのものに姉に奉仕させたいのだ。だから微かな悲哀だった。 眉尻を微かに下げて描く。 そうして退き、姉の顔を眺める。前から。斜めから、そして横顔を。差し込む朝日の中のそのおもてを。 「きれいだよ」 「・・・・・・」 姉は横目にカイルを見た。口元を緩めれば、胸に悲哀を秘めながら、微かな笑みで応じる姿となる。カイルは満足だった。その姉を見て、心動かぬものはいない。 姉は直しを求めなかった。カイルは姉の肩から掛け布を取り払う。黒の軍装は、いつものように良く似合っていた。階級章も数々の勲章も、カイルがその手で磨いたものだ。革帯の金具もそうだし、革帯そのものも剣帯の手入れをしたのもカイルだった。今日の日には騎兵軍装にしたのもカイルだった。騎兵長靴を磨き上げたのももちろんカイルだった。満足だった。姉はカイルのものなのだ。誰の手にも触れさせはしない。 姉を見る誰もが、愛し、焦がれればいい。そして愛を捧げ仕えればいい。それでも姉は誰にも触れさせない。 立ち上がった姉は剣を取り、剣帯へと吊るす。カイルは退き、白の手袋を手渡す。 「今日は帰らない」 手袋をはめて、その指を広げながら、姉は言う。 「わかってる」 カイルは応じる。戦争が終わり、第21旅団は帝國中央へ帰還した。誰もが解隊されると考えていたその旅団は存続し、それだけでなく即応指定のままであるらしい。旅団長は変わらずサウル・カダフ将軍でありつづけるし、歩兵第7、第8連隊も、砲兵第9連隊もそのまま任務につく。もちろん姉の混成13連隊も。 その第21旅団はトイトブルグ介入のための部隊と、誰もが、連隊長の姉すら思っていた旅団は、しかし補充再編成を行い、正規部隊として任務につく。 姉の望みがそんな部隊の連隊長などではないことは、知っている。姉はアドニスのような犬とは違う。忠犬ぶったアドニスには、泥をはい回る歩兵の連隊長がお似合いだ。 姉の望みは、新たに編成されたばかりの機神部隊であることも、カイルは知っている。姉の唇から聞きださずともいい。姉がその機神部隊のことを調べているのは知っていた。 「・・・・・・」 その望みは満たされないかもしれない。カイルは思っていた。 第21旅団を今のような形にできるものは限られている。皇子アドニスがその手で育てる新型編成部隊と、魔族連隊と、新型砲を装備した砲兵連隊とを束ねる旅団だ。その長は切れ者として知られるサウル・カダフ将軍だ。 そのようなことを決められるのは、副帝か参謀総長しかいない。父にして母のおとうとたる副帝と、母にして父の姉たる参謀総長。 カイルと姉は、今も二人の手に握られたまま、逃れる事は出来ない。 「いってきます」 「いってらっしゃい」 カイルは笑みを浮かべて応じる。 姉はそのカイルをちらりとみて、いつもの保護者めいた色を浮かべる。けれどそれはほんのわずかな間だけだった。 姉はシルフィス・シリヤスクス・シルディール連隊長と呼ばれるにふさわしい凛々しい面となって、扉を開く。 カイルはその姉の背を見送っていた。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1459.html
オスミナ 殿軍 内戦前、歴代の北方辺境候は、ゴーラ湾南岸諸国の併合政策を推し進めていた。 ある時はゴーラ諸侯を懐柔し切り取り、ある時は北方辺境候軍の武威で踏みつぶし、国境を北へおしやった。 しかし内戦にあって、北方辺境はゴーラ湾南岸諸国と皇帝軍と同時に戦う力を持たなかった。やむなくその、くに境で守りを固めざるをえなかった。一方、相対するゴーラ湾南岸諸国も、守りを固めるしかなかった。ゴーラ本国も、北方辺境の滅亡を望んでいなかったのだ。そして国境は双方の陣地の点在する、要塞地帯となった。 森を切り開き清野として、砲の射界を保っているのが、帝國側。林の中に土盛りの陣地を作り、陣地前で待ち受け戦うつもりなのが相対する南岸王国、オスミナ。 そのオスミナは、ヴィルミヘ川へ流れる支流をせき止めて、周囲を水浸しにしていた。その湿って腐りかけた地を、機装甲の脚が踏みしめる。 じわりと水が染み出し、脚が沈む感触がある。軽いこの白の三ならば、それほどでもない。続く白の六も何とかなるだろう。黒の二なら力にものを言わせて進んでしまうかもしれない。しかしここでは段列が進めない。部隊の経路にはできない。部隊が通過することはほとんどないのだけれど、 それがルキアニスの考えだった。振り向き、やや後ろのマルクスの機を見る。マルクスの役目は、機内で帳面に書きつけること。ルキアニスの役目は、そのマルクスを守りながら、前に進んで物見をすること。 機体はこれに備えての白の三。甲を軽くし、両肩には水の魔術の魔法陣装置が組み込まれている。ルキアニスの機は、もとは連隊長の使っていたものだ。ルキアニスの機は、トイトブルグに二度目に行ったときに壊してしまった。 「・・・・・・」 こんども、誰も死なせたくない。少なくとも、ルキアニスの目の前では。 「前に出る」 『気をつけろ。オスミナは砲より弩器を多用する』 マルクスは続ける。まあ、この湿地じゃあ火薬を保てないんだろうな、と。 それに二人とも、今のこの陣地にオスミナ勢が残っているとは思っていない。あくまで確かめるためだ。オスミナ国境は「賊軍」によって突破されていた。ゆえに、陣地からは自ら引き退いているはずだ。とどまっても包囲されてしまうだけだから。 オスミナの陣地近くは、柳のような育ちの早い木があちこち植えてある。そうして、砲撃を避け、機装甲が詰め寄るのを避けている。 「投擲してみる」 『了解。気をつけろ』 すでに砲丸を備えた投擲紐に、勢いをつけて振り上げる。それを頭上で勢いよく振り回す。本来だと、あまり振り回さず、できれば一息で投じてしまうのが良い。ただ今は、敵に見てもらう間合い込みだ。そして投じる。砲丸が曇天の下を飛び行く。弧を描いて敵の陣地の草と茂みの中に飛び込む。ルキアニスは投擲紐をを手首の勢いで引き寄せて掴む。捨ててしまうのはもったいない。次に投じるべき砲丸には、すでに投擲紐を巻いてまとめて腰につるしてある。引き抜けば、紐だけがほどけながら伸び落ちて行って、あとは振るえば投げられる。一息に振り上げ、頭上を一巡りだけさせて投じる。びゅん、と鳴る紐を残して、砲丸が飛び去り、陣地へと打ち付ける。そのまま、何拍かの時が流れる。 「やっぱり、誰もいないみたいだ」 『ちょうどいい。前進して裏に回り込め』 「了解」 ルキアニスは踏み出す。オスミナへ踏み込むために。 オスミナと、帝國が、本来いくさをすることは無いはずだった。 それが今のように、オスミナから望んで水浸しとしたのは、帝國からオスミナへ踏み込もうとしたものらがいて、それらに対して守りを固めようとしたからだ。 ルキアニスとマルクスは、白の三を受領してから、連隊を追及したから、そこで何が起きているのか、知らなかった。 到着してみて、初めてわかったのだ。帝國から、オスミナへ越境した、諸侯勢があったということに。 そう、出動の時には、詳しいことを聞かされていなかった。連隊は人員を教育派遣する編成未了状態だったけれど、そのまま出動したのだった。 あの帝都の夜と何かつながりがあるのではないか、あの時と同じではないかと、ひそかに皆は話し合った。とはいえ、連隊自体はルキアニスとマルクスを残して、船舶積載され、ヴィルミヘ河を北上していってしまった。ルキアニスとマルクスは、白の三の再整備作業を待ち、軽装の水域装備として同じように二隻の船に積み、追及した。トゥール・レギスに立ち寄ることもなく、そのまま北上を続けた。 少しずつ寒くなるのが、ルキアニスには嫌だった。大きな河が長い月日をかけて作った、浅く広い谷の、まばらな林。それが北の風景だった。林の中を貫いて、石畳の広い道が見え隠れしていた。それはたぶん、オスミナとのいくさのために作られたものなのだろう。マルクスと一緒にいれば、もっと詳しいことを聞けたかもしれない。けれど彼はもう一隻の船、先を行く方の船に乗っている。船尾に椅子を覆いて、悠々といった様子だった。 途中で、引き返してくる船とすれ違った。大声を上げて、こちらの身分を示して問うと、やはり13連隊を輸送した船だと分かった。それ以上のことはあちらも知らなかった。やがて船舶工兵の警戒線にあたった。小舟を出しているだけでなく、ヴィルミヘ河に船を封じるための太綱を張っていたのだ。緩めてそれを沈めてもらい、二隻の輸送船はさらに河を下った。 さらにしばらくして川岸に旗が見えた。13連隊の表示旗だ。その河岸には、段列の者が残っていた。周囲は切り開かれ、丸太を使って舗装されていたし、川には丸木が打ち込まれて、船がつけられるようになっていた。そこは段列指揮官が指揮しており、船舶貨物をそこで受領しているのだと言った。連隊はさらに北上しているという。その上陸点からは、丸太を敷き詰めた道が伸びており、その先は、石畳の道につながっていた。ルキアニスとマルクスは機付きとともに稼働前手入れを行い、馬匹と輜重車で進み始めた。 石畳の道は思っていたよりすり減っていた。時折枝分かれしていて、標識もあった。もとは北方辺境で打ち立てたらしい木の柱に、13連隊が打ち付けたものだ。 そう。もともとはオスミナとの国境を守り、あるいは攻め入った道だ。 だとしたら、本来はここを守っていたはずの部隊があるはずだ。枝分かれしているのは、それら部隊の配置へと向かう道なのだろう。それは今、どうしているのだろう。なぜ中央から13連隊を呼び寄せることになったのだろう。手入れのための小休止で、マルクスに聞いてみたけれど、知るわけないだろう、前と同じだ、という。 「帝都のときの?」 「ああ」 「でも、帝都で起きたことが、なぜこんな北方辺境の果てなの?」 「わからないって言ってるだろ」 「なんで怒るの」 「怒ってないだろ」 結局、マキス従兵が淹れてくれたお茶を飲んで再出立した。野歩きみたいにのんびりしている、と思ったのは、丘の切通しを抜ける時までだ。 帝國の街道はよく丘の裾を切ったり削ったりして進む。馬車が上り下りしなくてよいからだ。多少の凹凸なら石積みで道そのものを持ち上げたりもする。そして切通しを抜けた先で、ようやく先が見えた。 『なんだ、あれ』 マルクスがつぶやくように言う。 眺めは、それまでの、穏やかさとは、全く違っていた。 木々の数が、ずっと減っていた。これまで道の近くまで林が張り出していたのに、切通しの先には、右を見ても、左を見ても、そういうものは全く見られなくなっていた。丘の稜線の向こうは、丹念に森を切り開いてあった。草原に変わった野を、道は緩やかに下ってゆき、そして湿地に入っていた。もともとは湿地ではないらしい。河原であったようだ。それが今は、あちこちに水たまりがあり、いずれも濡れて黒ずんで見える。河原であったとしても、どこが本当の川筋なのかはわからない。 道の途中に、陣地が作られていた。すぐに分かった。13連隊の陣地だ。 馬がいて、機装甲がいる。けれど、その陣地は奇妙だった。河原に至る前の、道の左右に、道を挟むように陣地を構築しており、機装甲の手槍を組み合わせて作る阻砦があり、騎兵らが掘った壕がある。 奇妙なのは、道を挟んだ二つの陣地の間だ。 道とその周囲に、たくさんの人影があることだった。百や二百どころでなく、もう一つ桁の大きな、千、二千といった数だ。どうやら男の姿ばかりであるらしい。座り込んだり、横になっていたり、あるいはうろうろと歩き回っていたりしている。指揮官らしいものは見えない。 むしろ陣地の騎兵らは、小銃を手放さず、それら人の群れを監視しているように思える。人の群れの前後には、臨機構築された可動柵があり、群れが散らばるのを防いでいるらしい。立ったままの機装甲、白の六は、見張りなのだろう。 それによく見ると、道の先の河岸の手前には、何機もの機装甲を機卒が乗降姿勢のまま取り残されている。そこで降りろと命じられたみたいに。さらにその背後の河岸の湿地には、何機もの機装甲と機卒が打ち捨てられ、倒れている。 「俘虜みたい」 『そうとしか見えないな』 言ってマルクスの機は振り返り、随伴する輜重車へ向かって言う。火器を準備。積載物の固定を確認。混乱に備えろ、と。 しかしそこまですることもなかった。陣地から、騎馬がこちらへかけてくる。掲げる旗印は、13連隊の伝令旗だ。警衛を左右に従えたあのあごひげの姿は覚えている。クロワティス参謀だ。 「お前ら。遅かったな」 手綱を引きながら、彼は大声で言った。 「連隊長がお待ちだ」 『これは、どうなっているんですか』 マルクスの問いに、クロワティス参謀あごひげをぼりぼりと掻いて、見たままだ、詳しくは後ほど説明する、と言った。 「追従しろ」 そう言われれば、ついてゆくしかない。ルキアニスとマルクスは、機の歩を進める。 近づいてゆくうちに、その俘虜たちの様子もよくわかるようになった。半分は、野良着に見える。残り半分は軍装のように見える。見える、というのは、誰もが毛布だか携帯天幕だかわからない物を頭や肩からかけているからだ。ただいずれもひどく汚れていて判然としない。昨日まで泥をかぶるような野良仕事をしていて、そのまま青天井で休んだ、というように見える。あちこちに小さな焚火の跡が見える。それらとは別に、まだくすぶった薪の積み上げられているところもある。歩み近づくうちにわかった。薪じゃない。集められた銃や鑓、斧や剣だ。それらを取り上げ、あつめて火にくべたらしい。焼いてしまえばもう使えなくなる。ほんとうに俘虜を集めたみたいだ。 クロワティス参謀は、右手の陣地へと向かってゆく。そちらには天幕が立てられている。黒の二もそちらにいる。誘導役も駆けだしてくる。陣地入り口で、ここから入るように、と。 騎兵にしても、騎士や機付きにしても、随分困惑しているように見えた。騎兵は誰もが銃を携えている。機付きの士卒も同じようだった。ただそちらは銃の数に限りがある。だからなのだろう。工具の長棒などを持っている。 機装甲は、いつものように並べられ、片膝をついて乗り手をまっている。ルキアニスたちの導かれたのは、その並びではなく、陣地中央に建てられた幕舎の近くだった。そこには軍旗小隊の機体がいる。ルキアニスたちの機付きの馬車も同じだ。 「早く来い」 馬を降りたクロワティス参謀が手を振る。ルキアニスは慌てて機を降りる。マルクスも同じだ。歩き、追いつきながらマルクスは問う。 「どういう状況なんですか」 「えらくやばい」 言って参謀は幕舎の入り口をめくりあげ、どんどん中へと入ってゆく。すぐのところにある折り畳み机と地図を広げたところから、その奥へ。 「連隊長、軍旗第二小隊要員到着ですぜ」 シルディール連隊長は、折り畳み机での書き物から顔を上げる。到着申告をしたのはマルクスだ。敬礼と答礼。連隊長は機嫌悪げに見える。 「連隊は第三臨時編成態勢にある」 連隊長は言い、それからクロワティス参謀を見た。 「情報参謀、説明を」 「国境が犯された。オスミナからではなく、帝國の側からだ」 ルキアニスは驚いていた。部隊での越境は、辺境候の要請か、各辺境の軍指揮官格の直接の許可が要る。その許可は、登ってゆくと皇帝陛下への直の報告や、最高司令官陛下への直の報告があるようなことだ。ルキアニスはちらりと連隊長を見た。連隊長は黙っているだけだ。参謀は続ける。 「これまでの情報によれば、国境警備部隊のみの行動ではない。地元の諸侯がかかわっている。建前の上では、国境警備にあたる一部部隊が、オスミナ側勢力と小競り合いを起こした。我が方が劣勢に陥り、これに増勢する形で地元諸侯が戦闘に加入。そのままオスミナへ越境した。この構図全体が、諸侯による準備と計画の下で行われたと考えられている。自作自演ってやつだ」 「・・・・・・」 言葉もない。それ以上に何が起きているのかよくわからない。マルクスを伺うと、考え事をしているときの顔だ。参謀は続ける。 「なぜ今なのか、あまりはっきりした情報はない。尋問の一つによれば、諸侯とオスミナ諸侯との支払い問題に由来したものという話もあるが、連隊にとって重要な問題でもない。これは、当然のことながら、何らかの許しを得た越境ではまったくない。したがって賊軍である」 クロワティス参謀は、面倒くさそうに息をつく。 「しかし、この賊軍は、オスミナ軍の反撃を受けて撤退しつつある。下手をすれば、オスミナ軍が越境してくるってことだ。オスミナ軍の動員兵力は不明。現在情報収集中。警備本部の情勢不明。どこまでが賊軍となり、どこまでが秩序を保っているか、わからん。危険すぎて伝令を送れないありさまだ」 ルキアニスはまたたく。何が起きているのか全く分からない。仮にも帝國軍が、諸侯と一緒に、国境を侵して隣国に踏み込むなんてことがあるのだろうか。クロワティス参謀は、何やら楽し気に見える。 「オスミナへの越境戦力は、一個旅団には満たない人員と考えられている。歩兵二個から三個連隊程度で、機卒機装甲は複数中隊程度と考えられている。昨日の夕刻までは、続々と後退してきていたんだが、連隊が陣地構築して、武装解除をさせ始めたら、途端に姿を消しやがった。八哩ほど西に橋があるらしい。そっちへ逃走していると見られているが、現状では13連隊のみでは対応できない」 やっとわかった。あの俘虜のような人たちは、本当に俘虜なのだ。帝國からオスミナへ攻め込んで、オスミナから逃げ帰ってきた。そしてここで捕えられた。クロワティス参謀はつづける。 「現在、この領域にある信頼できる部隊は、我々13連隊のみとなる。21旅団部隊が追及中であるが、先鋒中隊の到着すら、早くて明後日だ。以上です、連隊長殿」 「これより話すことは、機密事項である」 シルディール連隊長が言う。 「帝都における「目標」が持ち込まれた先が、ここである可能性が非常に高いという情報が得られた」 「・・・・・・」 さすがのマルクスも息をのんだのが分かった。ルキアニスは突拍子もなさ過ぎて、どうすることもできなかった。あの夜から、半月も経っていない。帝都を走り回った、あの夜に追いかけた「目標」とだけ言われたものが、ここにあるかもしれない、そんなことを言われても困る。困るというか、どうしていいかわからない。 「13連隊の任務は国境の警備強化。賊軍の処理もこれに含まれる。だが帝國からは、別の要請がある。「目標」を処理すること」 「だから、白の三・・・・・・」 思わず、といった様子でマルクスがつぶやく。咎めず、連隊長は続ける。 「しかし「目標」関連は、連隊任務ではない。機密とする。越境については21旅団部隊には特段の命令は下されていない。よって13連隊は部隊として越境することは許されていない。しかし・・・・・・」 連隊長はかすかな笑みを見せる。こんなにきれいな人が、ほんのわずかなことで、恐ろしくすら見える。連隊長は続ける。 「最高司令官陛下の直接の許可を受けて発令された行動命令により、連隊長は「目標」に対する必要な行動をとることが求められている」 シルディール連隊長は、ごく静かに言う。 この行動命令と、行動命令受領者である連隊長の権限により、13連隊より行動部隊を編成する、と。越境任務を実施するが、これは最高司令官陛下の許可に基づくものである、と。そして連隊長は言った。 「両名は、行動部隊に配属する。まずは前進経路を捜索し、偵察せよ。その後に越境。行動を実施する」 この話、最初のアレでは、雪中の話だったんだが、この10年のリアリティラインの向上で、この時代の真冬の戦争というのは、考えづらくなっているので、変更している。事件の由来についても同じだ。 越境の理由については、従前同様にぼかしてある。それはそれで、でかまわない。 帝國正規軍の一個旅団も動けば、衛星国はえらいことになる。 ここで動いているのは、規模的には近くても、戦力的にははるかに劣るものとみなしている。21旅団ですら暴力なのだ。帝國正規軍と親衛軍が動かされなかった理由は、長く謎のままだろう。 そして、レイヒルフトによる直接命令でシル子が動く。 ずっと考えていたけれど、ずっと動かせなかったネタだ。10年過ぎて、やっとできたと思うと、ものすごく感慨深い。 しかも黒の零とオスミナ問題に決着をつけ、ヴェルキンとアレシアに会いに行くために。 現実には対面しないけど。
https://w.atwiki.jp/kouteieki2010joho/pages/648.html
防衛省の公式ページへ飛ぶ 1.災害派遣の概要 (1)要請日時 平成22年5月1日(土) 12時00分 (2)要請元 宮崎県知事 (3)要請先 陸上自衛隊 第43普通科連隊長(都城) (4)要請の概要 1. 埋却場所の掘削 2. 殺処分後の死体・汚染物品の運搬及び埋却 3. 施設の消毒作業 (5)発生場所 宮崎県児湯郡川南町 2.災害派遣までの経緯 4月20日(火)、宮崎県川南町において発生した口蹄疫に関して、検査の陽性確認をうけて、発生農場における殺処分や、消毒薬配布などの防疫措置を実施していたが、殺処分等の対象頭数が急増した事態を受けて、5月1日(土)12時00分に宮崎県知事から陸上自衛隊第43普通科連隊長へ災害派遣要請がなされた。 3.防衛省・自衛隊の対応 (1)派遣部隊 陸 自 : 第43普通科連隊(都城)、第376施設中隊(都城)、第8師団司令部(北熊本)、第8施設大隊(川内) (2)派遣規模 人 員 約110名 車 両 約20両(大型トラック2両、油圧ショベル2両、バケットローダ2両、ダンプ2両、小型ドーザ2両を含む) (3)主な対応状況 【1日】 6時00分 第8師団司令部(北熊本)及び第8施設大隊(川内)の連絡員が宮崎県庁へ出発。 7時40分 第43普通科連隊(都城)の連絡員が宮崎県庁へ出発。 12時00分 宮崎県知事から陸上自衛隊第43普通科連隊長に対し、埋却場所の掘削等に係る災害派遣要請。 13時30分 第43普通科連隊の先行班の人員10名、車両5両が都城駐屯地を出発。 13時50分 第43普通科連隊本隊の人員約100名、車両16両(大型トラック2両、油圧ショベル2両、バケットローダ2両、ダンプ2両、小型ドーザ2両を含む)が都城駐屯地を出発。 15時50分 第43普通科連隊の先行班が川南町に到着。以降、現地確認開始。 16時02分 第43普通科連隊本隊が川南町に到着。以降、調整開始。19時本日の活動終了。 詳細は上記リンクへ 5月 自衛隊活動
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/194.html
273 名前:<平成日本召喚> 投稿日:2006/06/11(日) 22 24 01 [ 4RIt9r86 ] ○メクレンブルク王国編8 1/2 「面白くもねぇ話になっちまったな」 豪奢な椅子に背を預け、机に足を乗せたままに、大協約第141歩兵連隊連隊長は葉巻を吹かしていた。 襟元を弛め、表情にも力が無い。 「仕方が無いですよ。トッカータ侯家は身内の面倒見が良い事でしられてますし、彼ら自身もソレを誇ってますんで」 合いの手を入れたのは副官。 此方は、机の脇に礼儀正しく立っていた。 「田舎貴族の言い分なんぞ知らん」 副官の正論を乱暴な言葉で打ち切ると、拗ねたように、余り吸ってもいない葉巻を乱暴な仕草で灰皿に押し付けた。 トッカータ侯爵家はフォアポンメルン王国の家であり、この連隊長の様な列強爵位を持った高級士官達からは、 常に低くみられていた。 精緻な象嵌の施された葉巻入れから新しい葉巻を取り出すと、吸い口を噛み切って、マッチを擦る。 盛大に紫煙を吐き出す。 「大体、偵察隊は帰らん事でも情報を伝えてるんだ。だったらそれで良いじゃねえか」 そんな連隊長に、副官は曖昧な表情で笑った。 暴論ではあったが、正論でもあったからだ。 「まぁそうなんですがね………」 2人が話題としているのは、先の 大協約第14軍団 首脳会議の席上での事だった。 偵察として派遣されたワイバーン・ロード小隊が、予定されていた帰還時刻を大幅に超過しても帰らない―― 消息を絶ったと云う事に関連して、航空部隊の指揮官であるロベルト・トッカータ准将が、“大切な部下の捜索と 回収の為”としてメクレンブルク王国の北部へ、本体に先んじて部隊を展開させる事を提案したのだ。 『無茶を言う』 その場に居た誰もが思った事だった。 如何に大協約軍が、対帝國に関する限りは、かなりの行動の自由が認められているとは云え、陸上部隊が、 連隊級以上の規模で駐留国から移動するにはそれなりの手続き、大協約大会議での承認が必要なのだ。 そうなれば自然、派遣されるのは大隊規模となる。 それが問題であった。 尚、この時点で第14軍団は、彼らが独自にメクレンブルク王国へと潜入潜伏させていた特殊情報員の手によって、 メクレンブルク王国へと駐留した自衛隊――その名は知らずとも、その存在は知っていた。 その装備が機械化を中心に行われ、帝國軍に良く似ている事を。 そしてその規模が大隊規模(人員から、第14軍団ではその様に認識した)である事も。 情報員達は表向き、第14軍団の監視対象国と“帝國”との結びつきを調べる為の派遣であったが、その実体は、 監視対象国のアラを探し、コレを秘密裏に指摘する事で“資金協力”を要請する為の部隊であった。 それが表向きの理由で役立ったのは、皮肉以外の何物でも無いだろう。 メクレンブルク王国に潜伏していた情報員達の多くは、ダークエルフや特殊作戦群によって無力化されたが、 1名だけ、偶然にも無力化されるその日にメクレンブルク王国へと着任する事となっていた情報員が、その手を 潜る事に成功していたのだ。 少なからぬ情報を手にメクレンブルク王国を脱出した諜報員が、フォアポンメルン王国の第14軍団司令部へと 到着したのは、昨日の未明であった。 錬度良好と思しき、それも機械化されている部隊がメクレンブルク王国には居るのである。 敵軍は2000名にも満たぬ規模とは云えメクレンブルク王国軍の1000名まで勘案すれば、機械化が成されているとは とても言い難い、第14軍団所属の歩兵大隊の状況では決して侮れる規模では無いのだ。 にも関わらず、部隊を進出させろと言う。 部下の捜索と情報収集の為にと、陸戦部隊を早期にメクレンブルク王国へと進出させるべきだと。 対して多くの指揮官は、その無謀を言う。 無謀の指摘は正論ではあったが、指揮官の多くは第14軍団の強大な戦力を、数を頼れぬ状況に腰が引けている と云うのが実情であった。 その事を自覚するが故に、そして常日頃の宮廷などでの豪語――“帝國に与するものなど鎧袖一触”やら、 “例え数倍の敵でも第14軍団は倒してみせる”と言い放っていた事もあって、ロベルトに強く反対出来なかったのだ。 会議が混乱するのは当然であった。 274 名前:<平成日本召喚> 投稿日:2006/06/11(日) 22 24 44 [ 4RIt9r86 ] ○メクレンブルク王国編8 2/2 その当然な状況に於いて、第141歩兵連隊の連隊長は当初、我関せずといった感じで会議の進行を傍観していた。 どうでも良かったのだ、連隊長にとっては。 部隊派遣の命が下れば、秘密裏に装備した最新式の魔道銃鑓をもって大勝利を収め、世界からの耳目を集めての 派手に御披露目が出来るだろうし、命令が下らなかったら下らなかったテで、文句は無かった。 立派な髭の形を丁寧に揃えながら、暢気に構えていた。 それが一転して不機嫌になった理由は、この任務へと志願する奴が居たからだった。 「議論大いに結構! ですが行方不明となった若者達の捜索は早々に実施せねばなりませんし、それに何よりも、 正体不明な敵軍に関しても情報収集ををせねばなりません!! よって軍団長殿、我が第1421歩兵大隊へ、その任を命じては頂けませんでしょうか」 立ち上がったのは、全身から覇気を迸らせている若者だった。 30を少し過ぎた辺りの、秀麗と言って良い顔立ちの中佐だった。 無論、列強の子爵位を持ってはいたのだが、それだけでは無く、才能でもっても昇進した、第141連隊長の様な、 捻くれた人間から見て、非常に気に喰わない相手だった。 何かにつけて苛めてやろうと、日頃から思って居たのだ。 その相手が、志願した。 第141歩兵連隊長は、それまでの自分の考え――自分の所に任務が来なくてもまぁ良いかとの暢気な考えを、 一切合財忘れ去って、目立ちたがりやの若造めとキレタのだ。 何とも何とも逆恨みであった。 会議終了後に部隊へと戻った第141歩兵連隊長は、部下に訓示した。 「如何な理由が在ろうとも第1421歩兵大隊へ支援すること、コレを堅く禁ず。弾の一発、糧秣の一欠けら、些細な 情報であろうと一切渡すな。いいか、連隊長命令だ。これを破った者にはワシが個人的な制裁を加える!!」 最後は吼えていた。 そして咳払いを1つすると、取って付けたように『見込みのある第1421歩兵大隊の指揮官に、成長する為に、 敢えて艱難辛苦を私は与えたいのだ』と言った。 無論、そんな第141歩兵連隊長の意図を、部下達は過たなかった。 仕方が無いな、この親父は。 そんな雰囲気で部下達は納得していた。 意外にも思えるかもしれないが、この第141歩兵連隊長と云う男、部下達からは嫌われて居なかった。 否、積極的に認められていた。 乱暴だったり強欲だったりはするのだが、身内と認めた相手には、かなり甘いからであった。 第141歩兵連隊長のお陰で、子供が学校へと行けた。貧乏農家の子倅であった兵士が、よい所の嫁を貰えた等と、 面倒見も良かったのだ。 又、必要以上に自分の私腹を肥やす事無く、部下達にも配分していたのだ。 その意味では何とも憎めない人間であった。 そんな訳で、この訓示以降に第1421歩兵大隊へと第141歩兵連隊から提供されるものは何一つ無かった。 第141歩兵連隊からの嫌がらせはあったが、大勢としては順調に準備を進めた第1421歩兵大隊は、勇躍して メクレンブルク王国へ向かって出発した。 それは会議の2日後の事であった。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1463.html
追撃 アル・ディオラシス 槌打つ響きは、いつもの手入れのものだ。 機装甲には常の物で、そしてこのアル・カディアの乾いた丘を往く追撃では欠かせない。もう何日目になるだろうか。 帝國軍はこの地でアル・ディオラシスの王国軍を打ち破った。いくさを捨てて離脱するアル・ディオラシス国王とその手勢を、十三連隊は追撃している。 「そして、ここで重機装甲を四機撃破だ」 ヴィルヌス先任小隊長の指が、可搬卓に広げられた皮紙の上を滑って動く。 天幕の下にあっても、地の照り返しはまぶしい。ただ、日陰であれば、しのげないことはない。ルキアニスですら、搭乗服の上の釦を一つ二つはずしてはいるのだけれど。ヴィルヌス先小にいたっては、釦をすべてあけている。軍規には沿っていないが、ようするに暑さしのぎを先にせよ、ということだ。 今、可搬卓の上にある地図はアル・ディオラシスのものだ。帝國の物と違って、絵図のようだ。それでも、ヴィルヌス先小の示したところを通ったのは、ルキアニスにもわかる。名も無い丘で、四機もの重機装甲が、互いに身を預けるようにしていた。撃破済みであることがわかるように、間近には手槍が突き立ててあった。アル・ディオラシス王国の敗北の墓標のように。 第一小隊が先導任務を担っていた時に仕留めたものだ。投擲の砲丸で滅多打ちにしたのは、見ただけでわかった。アル・カディアでのいくさは、トイトブルグの時とは違って、投擲を縦横に使ういくさだった。この乾いた丘の連なる野では、いくらでも投擲紐を振るい、砲丸を放てる。人へも、機へも、分け隔てなく。野に残る者らが、下ろうとしているのか、それとも残置されたのか、見ただけではわからない。だから殺してしまわぬように、けれど狙っているのが判るように投じる。逃げ散るなら、むしろそれでよし。ただ、それがために、砲丸の機側携行基数では足りなくなっている。 「おい!網を引きずるな!破れたらどうする!」 天幕の外から従士の怒鳴り声がする。ルキアニスはちらりと見て、それから己の手をそっと腰の後ろへと回す。 網、とは砲丸を入れてゆく、網の物入れだ。砲丸を機側増備するために作った。先導輪番から帰還した第一小隊機から外して、待機中の第三小隊機へ取り付けるため、担いで運んでいる。引きずって擦れたら、そこから切れてしまうかもしれない。なにしろ十二听の砲丸をいくつも入れてぶら下げる網袋なのだ。 今は重砲の十二听砲丸を、それこそ捨てるように投げつけている。正規の砲丸嚢ではとても足りない。機付長に相談したら、網でもぶら下げますか、という話になった。もしかしたら冗談のつもりだったのかもしれない。ルキアニスが編んでしまったのは、よけいなことだったのかもな、とも、思わなくはない。でも軍隊ならいくらでも縄がある。機装甲の甲を吊り上げるため、傷んでいない縄がいくらでも要るのだから。 それで網袋を作ってみたら、思ったより使いやすかった。ルキアニスの機だけ持っていても仕方ないから、従士たちに教えて、投擲を主に担当する機の分を作ったら、一機に一つと言わず、腰の両側に欲しいと言われた。それもすべての機の分を。ルキアニスにすべてを作っている暇など無かったが、小隊の従士から従士へと話が伝わり、他の小隊でも使うことになった。 ただ伝え聞いたやり方では、網目の大きさだの、編み方だのが、上手くゆかないらしい。なんでそこで不器用なんだろうと、ルキアニスは思う。従士や従卒の中には、思いもよらなかったことを、思いもよらない上手さでやってのけるものが、いつもいる。ただ今回は上手くゆかなかった。編んできましたと見せに来た網袋は、がちがちに頑丈なのはいいのだけれど、目が詰みすぎて、機装甲の鉄の指が上手く入らなかった。男の子たちは、ああいうのを作って遊ばなかったのだろうか。 結局、今も足りないままだから、帰投した小隊機から大休止中にとりはずし、待機中の小隊機へと取り付けなおしているのだ。 「まさかと思うが、お前まだ自分で編んでるんじゃないだろうな」 ヴィルヌス先小はお見通し、とでも言いたげな口調で低く言う。前から言われていたのだ。ルキアニスはもう平の上騎ではない。小隊長なのだ、平騎士のやるようなことを、喜んでやっていたら、小隊が回らない、と。ルキアニスは両手を後ろに隠したまま、いいえ、とそらっとぼけた。先小は、まあいい、と言い、地図へと目を戻す。 「・・・・・・」 大事はそんなことじゃない。敵が苦しいときは、味方はもっと苦しいという。逆だったかもしれない。とにかくいまは十三連隊も、楽ではない。 今、ヴィルヌス先小の第一小隊は先導の輪番を終えて、前衛大隊に戻っている。ルキアニスの第三小隊は、次の先導任務に備えて隊列内だ。会的したら即応する。今の先導はマルクスの第二小隊だ。そして大休止の手入れの間に、第一小隊長と第三小隊長は、天幕の下で打ち合わせ中、というわけだった。 それぞれの小隊従士長が帳面に打ち合わせを書き込んでいる。一小も三小も、それに先導任務中の二小も、行軍消耗以上の損害はほとんどない。機甲大隊自体も、それほど大きな損害を受けていなかった。ルキアニスが聞いた話では、戦死は出ていないという。ただ、騎兵大隊がかなり消耗している。人よりも、その馬が。 騎兵の援護がなければ、機装甲の前進は難しい。十三連隊は常の足の速さを生かせずにいる。だからこそ、砲丸を捨てるように投げつけて、敵を打ち据えている。 やむを得ない。騎兵大隊も乗馬が獅子に見えるような、そんな働きをしていたのだから。練兵場でやって見せていたような、列を成しての騎乗発砲と、一斉に馬首を巡らせたり、列のまま渦を描くように切り返すやり方を、敵前でほんとうにやってみせた。本当にやるからこそ、訓練していたのだけれど。 けれど馬は、駆けさせれば駆けさせただけ、死んでゆく。足を痛め、あるいは腹を痛めて。騎兵はそうして愛馬を死なせながら戦う。この暑い南方では、馬に飲ませる水にも苦労していた。この大休止場も、水場が近いから選ばれている。 南方はとても暑い。馬だけでなく、人もひっきりなしに水を飲んでいる。教会飴も忘れずに口にしろと言われていた。南方で作られていた塩飴だ。昔、南方辺境で農奴が、日差しでばたばたと倒れていたという。水だけを飲んでいては駄目なのだ。水を飲んで倒れるなら、水を飲むなと命じられ、農奴たちはばたばたと死んだという。それを哀れんだ教会のある修道僧が作ったのが、教会飴なのだという。ルキアニスは士学で聞いた。最初の長距離行軍の時だ。先輩のアルデスが言っていたから、今でも覚えている。今も教会飴は支給されているし、教会からの差し入れ特配にも必ず入っている。 それにここは日差しも強い。天幕を張らねば休めもしない。黒の軍装だと茹ってしまいそうだ。連隊の従士従卒も騎士らに倣って釦を開いているものばかりだ。その軍衣も砂ぼこりで真っ白だ。襟に白く塩を吹いているものも少なくない。大休止と言っても、機装甲連隊では手入れが先だ。 この数日の追撃で、機体も消耗している。手を抜くわけにはゆかない。緑の五ですらそうなのだ。他の連隊の青の三の稼働率がもっと下がっていてもおかしくない。他の連隊と十三連隊とが離れてしまうのも、よくあることだ。 この風に砂舞い、陽炎とまじりあうこの地は、いつものように敵地だった。 しかも、今になって、アル・ディオラシス王国軍の、重機装甲が残置されるようになってきている。 重機装甲だ。 あの苛烈だった砲撃と包囲を生き延びた機だろうか。ルキアニスは、撃破されて放置された機をその目で見たけれど、信じられない気持ちでいた。撃破を指揮したヴィルヌス先小も同じであるらしい。それは機装甲乗りならば、いずれも同じに思うだろう。機装甲を動かし続けようとするならば、手入れは欠かせない。部品部材の取り換えもそうだ。歩かせれば歩かせるほど、消耗は進み、熱を持ち、油を切らせ、やがて部材同士がかみ合ったまま、収束帯が引きちぎれてくず折れる。倒れた勢いで乗り手が死ぬこともよくある。 機装甲を動かすのは、大変なことなのだ。帝國が東方式軍制を取り入れて、常の手入れに見合った部品部材を行き渡らせるようになるまで、機卒も機装甲も、歩兵にとっては足手まといだった。そう士学で習った。歩兵の持つ機動性に追従可能な、しかも機装甲のみの連隊規模部隊を作り、それを歩兵連隊とともに旅団の下に配属したことが、東方式軍制の画期的なところであったのだ、と。 帝國軍では、この追撃のさなかだろうが、手入れを欠かさないし、大休止の点検も欠かさない。アル・ディオラシスの機にそれがなされてるとは思わない。機装甲の作りも、緑の五や青の三ほど良くはないと思えた。 そもそも剽騎兵用に作られた十三連隊の緑の五ですら、ゆるみが出始めているというのに。この数日の追撃も、緑の五だからやれているのだと思う。戦列機装甲の青の三だったら、もっと消耗していて、注意の黄色札どころか、稼働不適の赤札が出始めてもおかしくない。 「中隊先任が来られます」 一小の小隊従士長が言う。ルキアニスも振り向く。ストエル中隊先任騎士が従士長を引き連れて、日差しの中を歩いてくる。ルキアニスとヴィルヌス先小、それにそれぞれの小隊従士たちは、迎えの敬礼を行い、ストエル先任はいつも通りにぞんざい気味に答礼をする。 「楽にしていい。問題はあるか」 いつものやり取りのあとに、ストエル先任は言う。 「さっきの敵機装甲だ。確認した。敵の搭乗員は、全員戦死。所持品に命令書等は見当たらず」 「やはり、残置兵ですか」 「その確認はとりようがないが、俺たちの来るところに置いて、後の指示がないということは、そういうことなのだろうな」 ストエル先任は開きっぱなしの胸元ーもちろん肌着は着てるのだけれどーの隠しから小さな帳面を取り出し、開く。男の子たちは、一人が脱ぎ始めると、皆が我も我もと脱ぎ始める。叱責されないなら、本当に全部でも。 「武具の整備は問題なし。四機の装備はすべて研磨してあった。甲の戦闘損傷は多くはない。そもそも盾を携帯していたからな。先の戦闘に参加したとは、俺には思えない」 「盾の携帯は、自分もおかしいと思っていました。補充があったとは思えません」 「だからといって、増援があったかはわからん。むしろそこが問題だ」 先任は言う。 「アル・カディア軍の情報では、メッセナ市には、アル・ディオラシス軍の攻囲軍がいる。その動きはまだ不明。国王親政部隊が退却中ならば、合流をはかろうとするだろう」 それも、できるだけ急いで。ルキアニスたちだって、皇帝陛下どころか、連隊長の御身に差しさわりがあるとしたら、何を差し置いてもそちらへ向かう。先任は続ける。 「各小隊の小隊機籍簿は」 機籍簿には各機の状況が記入してある。小隊長は、それを小隊機簿へ取りまとめて、中隊へ提出する。中隊はそれで、各小隊の状況を把握する。手渡されたそれをストエル先任はめくり、見る。 「問題はなさそうだな」 「今は、まだ」 「いつでもそうだ」 ストエル先任は笑う。それらを、引き連れてきた中隊の従士長へと渡す。従士長は、軽く確かめただけで、帳簿を、すでに持っていた別の帳簿らと脇に抱える。続いてストエル先任は、急に真顔になる。 「投擲砲丸の補充は、要求通りには行えない。節約して使え」 「二中から分けてもらえないんですか」 思わずルキアニスは声を上げてしまった。ストエル先任は、何事でもない、という風に応じる。 「大隊長は、中隊間の砲丸貸与を禁じた」 先任はそうしか言わない。でも言っていること、大変なことだ。 後衛大隊にいる第二中隊は先導任務を分担していない。代わりに大隊長指揮下で、後衛大隊全体での戦闘を行う。先のアル・ディオラシスとの戦いのようにだ。その二中の砲丸を貸与しないと決められたのは、二中が使うからだ。大隊長はそう考えてる。 そして、二中と後衛大隊の後ろには誰もいない。いつも通り、十三連隊はどこの連隊も踏み込んでいない敵中に踏み込む。それから先任は振り向く。 「アモニス、次の先導輪番はお前の三小だな」 「はい」 「捕虜を取れ」 「砲丸なしにですか」 「お前、魔道兵だろ」 「ひどい」 白の五は、兵法魔術を数発しか放てない。砲丸よりずっと貴重な魔晶石から魔力を充填してもらうまでは。 剽騎兵のための軽機装甲である白の五と緑の五は、足は速いけれど、甲では重機装甲より見劣りする。間合いが武器だ。今ならば、投擲で徹底して打ち据える。砲撃に比べてずっと弱い投擲であっても、砲丸のある限りいくらでも投げられる。敵がその槍を放つべきかどうか迷っている間にでも。 盾に身を隠していようとかまわない。慣れてくれば、盾を上げていれば足を、盾を下げていれば頭を狙えるようになる。盾に当たったとしてもかまわない。アル・ディオラシスの盾は、帝國の黒の二が装備するような重厚な大盾とは違う。いずれ盾そのものが壊れる。そうしながら白の五を展開させ、敵の隊列の側面に回り込み、投擲を続けながら、近接する。最後に、必ず二機以上で、投擲援護下で突入する。そうなって、初めて敵の槍と、こちらの手槍とのやりあいになる。 「後方より友ぐーん機!」 警衛従卒の声がする。 「来たな」 ストエル先任が振り向く。ルキアニスも見た。今、誰かが機装甲で来るとしたら、オゼロフ中隊長くらいだろう、とルキアニスは思っていた。 けれど違っていた。駆けてくる機は、単機などではなく、四機もいた。しかもそのうち一機は、連隊長のしるしの房飾りを兜甲からなびかせている。残りの二機は軍旗警衛小隊のものだ。最後の一機が中隊長記章をつけたオゼロフ中隊長の機だ。さらに何騎もの騎馬が、機装甲の蹴立てる砂ぼこりの脇を駆けてくる。 「・・・・・・」 驚き、それからルキアニスは慌てて搭乗衣の釦を閉じた。その間にも四機は駆け脚の音を響かせ、砂埃を蹴り上げながら、天幕へと近づいてくる。警衛従卒が警笛を吹く。 「機装甲接近注ー意!」 四機は天幕を前に足を緩め、やがて止まり、片膝をつく。背甲が開かれ、まずオゼロフ中隊長が下りてくる。彼が機側で背を伸ばすのは、連隊長を待っているからだ、シルディール連隊長の姿は、遠目にもすぐにわかる。機装甲の背を伝い降りてくるときも、こちらへ向かって歩いてくるときも。こちらの天幕で、中隊先任も先小も、いそいそと釦を閉じ始めるのが、なんだか可笑しかった。 機装甲に随伴してきた騎兵は連隊参謀だった。一人はいつも通りの、髭のクロワティス情報参謀、もう一人にルキアニスはさらに驚いた。銀髪は見間違えようがない。いつもは連隊本部にいる、ローサイ連隊参謀長だ。 敬礼と答礼。つづいて連隊長は、常の通りに楽にしてよいと言い、状況説明を求める。連隊長はいつも通りだ。 「組織的な抵抗は見られません。ただし、重機装甲からなる残置とみられる部隊と交戦しています」 ストエル先任は皮布の地図を示しながら言う。 「敵機調査を実施しました。敵の機体と武具は健全な状態を維持しております。国王直掩から残置されたものかどうかはわかりません。命令書等は無し。身分についてははっきりしません」 「生存は無しか」 クロワティス参謀が問う。ヴィルヌス先小が応じる。 「戦意は高く最後まで抵抗しました」 「次は一人くらい生かしておいてくれや」 「可能ならば実施します」 中隊先任の答えに、情報参謀はあまり興味なさそうにふんふんとうなずく。どちらもそう簡単じゃないとは、わかっている。 「中隊の整備状況と、籍簿を」 連隊長は問う。先の機籍簿をもって中隊従士長が進み出て、それらを手渡す。ストエル先任は口頭報告も行う。稼働率は今のところ規定を維持しており、中隊段列の部品部材も想定通りの消耗率である、と。 聞きながら連隊長は手ずから籍簿へ目を通す。革の手袋を外して、それを何気なくベルトの輪にたばさんで。天幕の下が静まりかえる。ルキアニスは横眼に連隊長を見る。搭乗衣も規定の通り、すべての釦を閉じてある。でも、汗ひとつかいていない。さざめいて気が流れる。それで気づいた。魔力の気配がする。連隊長は、風の魔術を使っている。 連隊長は、帳面を閉じて、ローサイ参謀長へと手渡す。そのときルキアニスに気づいたのか連隊長もルキアニスを見る。目があっても、どうしようもない。慌てて何もなかったように目をそらした。 いちおう、連隊長は先の働きを褒めてはくれた。イトメ丘への連絡任務のことだ。ただ、もっと大事だったのは、マルクスがやった、アル・カディア軍との連絡のほうだったけれど。 「・・・・・・」 ローサイ参謀長は、口元に手をやり、何事か考えながら帳面を見ているようだった。図嚢から取り出した覚書と見比べている。 「消耗品は想定通りです。この環境で、むしろ戦力状況は良いとは言えます。ただ、今は稼働率を保てていますが、二日程度で稼働率半数に至るとお考え下さい」 綺麗な人だけれど、女性でも古人でもないと聞いていた。彼はごく冷静に言う。 「稼働率だけで言えば、二中と入れ替えるほうが良いと考えます」 半数は大事な目安なのだと、上騎教育のときに教えられていた。定数七機一個小隊。稼働率八割を保って五機以上を戦闘に投入できるようにせよ、と。戦列機装甲では、稼働率で戦列の長さと、列の段数が決まってしまう。八割の稼働率を保っていれば、五機列三段の戦列を作れる。稼働率半数だと中隊戦列の間を広げたり、一段減らさねばならない。陣形全体の長さが足りなければ、布陣の翼側が足りなくなり、側撃の危機が強まる。中隊戦列隊形が互いに開きすぎていれば、敵に付け込まれる。段数が足りなければ、戦列の耐久性が正規の半分になってしまう。前列だけでは戦列は戦力を発揮できない。二列三列の守りこそが、戦列の力の厚みをもたらす。稼働率を保てと上騎に至るまで厳しく求めるのはそういうことがあるからだ。 剽騎兵では、機数の差しさわりはもっと大きい。機動性を生かして進出しても、戦闘参加可能機数が半分では、そのまま敵への対応力が落ちる。進出した小隊は、その数でだけ、まずは対応しなければならない。投擲にしろ、手槍での近接戦にしても、数が足りなければせっかく進出した地形を捨てねばならない。敵の機装甲と同数以上の数を、小隊単位で集められなければ、地の占領ではなく、地積を生かした運動戦を行うようにと指導されていた。もちろん小隊以下では運用しない。それは連隊長命令が必要だった。 しかも十三連隊はどの味方より先に敵地に入る。だから緑の五は、消耗部材のいくらかを機側に積んである。普段は中隊段列から引き渡される部品部材を使う。機側のものは、進出時とかの弾列からの供与が難しい時でなければ、手をつけてはいけないことになっている。 そして今は、機側部材の使用許可が出ているときだった。もちろん、連隊長の許可でだ。 「・・・・・・」 連隊長は、とんとんと、可搬卓を指先で叩きながら、皮紙の地図を見下ろしている。その横顔は、何を思っているのかはわからない。そもそも、連隊長の見ている地図はアル・ディオラシスのものだ。先の戦闘で鹵獲されたものだと聞いていた。これだけ大きくて、またそれなりに子細であることから、高級指揮官の所持品だろうと皆が言っていた。ただ、帝國の地図のように、正確な距離では書かれていない。帝國の地図ならば、方位と距離は正確に描かれている。そうでなければ兵站所要の見積もりに使えないからだ。 ただし、正確に描かれているのは、先導の到達したところまでだ。その先のことは、この地図でなければわからない。 「連隊長は前進偵察を実施する」 不意に連隊長は言った。 「第一機装甲中隊長と第三小隊長は同道せよ。参謀は現位置で待機。騎兵は連隊長に同行せずともよい。馬を労わってやれ」 かかれ、の命令に、左胸を拳で打つ敬礼で答える。 熱く乾いて淀んでいた気が、何かに吹き払われたように思える。それは皆も同じなのだろう。天幕の下の姿が、それぞれに動き始める。 ルキアニスは小隊従士長へと振り向く。小隊長が前進するなら、小隊の指揮権を委譲しなければならない。そうでなければ、小隊長の最後の命令を守り続けるか、小隊先任騎士に独断専行をさせねばならなくなる。小隊先任騎士ともなれば、いつでも小隊長になれるだけの力がある。独断専行の能力は疑っていないけれど、小隊先任だって物事はすっきりやれたほうが良いはずだ。 「三小従士長、命令伝達。三小隊長は、連隊長、中隊長の前方偵察に随伴する。その間、三小は小隊先任騎士が指揮を執れ。三小の輪番出撃順に変更なし。以上。準備しておくように言っておいて」 小隊従士長は、準備継続、まで復唱してみせる。そもそも小隊長格ならば、単に疲労からの回復を含めて、交代がよくある。よし、というルキアニスの確認、敬礼と答礼のあとに、小隊従士長は言う。 「お気をつけて」 「ありがとう」 うなずき返し、振り返ると、オゼロフ中隊長が立っていた。妙に楽し気にも見える。 「あの、なにかおかしかったですか」 「いや、何もおかしくはない」 真顔に戻ったオゼロフ中隊長はうなずき返す。 「問題はないか」 「はい」 「よし、行け」 「はい」 敬礼と答礼。ルキアニスは駆け始める。連隊長はもう機へ向かっていて、彼女を待たせるわけには行かない。 10年目にして、神官さんを出した。 彼は一応、暗算で、稼働率を計算している。彼は天才なので、帝國数学会に因数分解について等の論文を提出、掲載されている。 と、いうことは、アムリウスが参考にした諸文献の中には入っており、ローサイの名に気づけば、ああ、あなたが、ということになる(すげえキャラだなw まあ神官さんだしw)。フーシェとのつながりは不明(数学つながりでフーシェかよ、すげえな神官さんw)。ルイ・フランシスは彼を自己の幕僚候補にしていたと思う(数学キャラだからな、神官さんw)。もともとの兵科も砲兵じゃないかと思う。 そのまえにシル子がかっさらっていった。剽騎兵部隊編成にあたって、シル子にはあらゆる兵科から必要な人間を集めることができたから。シル子は経験からだけで、部隊運用をする気が無かった。連隊の戦力発揮について必要な業務を行い続けた神官さんは、後に「ローサイ水準」と呼ばれる機装甲の稼働時間と重大故障率についての目安をつくる。五系列についてはローサイ水準に基づいて、各部品の強度が再検討され、信頼性はさらに高まることになる。青の三には、すでに経験に基づく改修が行われているので、五系列は、青の三の信頼性水準に速やかに追いついた、ということになる。 軽量化と耐久性の両方を達成しなければならない白/緑系列への、運用側からの有効なリコメンドということになる。すげえな、神官さん。まあ、神官さんだからな。仕方ないw 神官さんくらい天才キャラならば、天才軍師枠の郭嘉とガンガンやりあっても、まったく違和感がない。問題は書き手に書けないことだけだ。 そして神官さんを描いていても、主人公はシル子だ。 投擲も久しぶりに行った。 投擲を砲丸に設定したのは、僕の勝手なのだが、劇中のようなことを想定していた。10年目の実装だ。 砲丸は重量はあるが、嵩が小さく、集積にも品質管理にも有利で、訓練費用が小さく、習得が容易で、障害物から歩兵、機装甲、騎兵にいたるあらゆる兵科に対応可能で、さらに砲丸の補給は帝國の兵站に組み込まれている。 弱点は、射程が短いこと。ただし装甲と機動性を持つ五系列機の機動戦闘にとっては、たいした問題ではない。発射数を稼げるから、曲射投擲での阻止効果は、他の投射武器にひけをとらない。戦術射程の劣勢も、ほとんど問題にされないどころか、射撃チャンスが極めて多いために、むしろ積極的な投擲制圧が可能だろう。 もう一つの弱点は、装甲貫通能力が低いこと。初速が低く、威力が低いから、機装甲への効果も低い。相互に近接した戦列戦では問題になるだろうが、剽騎兵の機動戦闘ではそれほどの問題にならないだろう。貫通力が低いが、衝撃力は大きいことは利点でもあり、それらは歩兵戦列、歩兵陣地、軽障害などの破壊に有効に寄与できるだろう。 三つ目の弱点は、投擲兵の密度を高められないこと。これは本質的には解決できない。 これらの弱点は、投擲がニッチェ兵器でしかないことを示している。敵の投射武器を有効に制圧する、投射武器としての本質的な性能で劣っているのは、あきらかだ。しかし帝國ではその本質的な能力を追求した兵科、砲兵が大きな地位を占めている。また、その能力向上が不断に続けられている。ゆえに投擲を、補助兵科としての剽騎兵に、投擲を採用する余地があるのだ、ともいえる。 剽騎兵運用は、まあたまにはやってるんだけれど、運用上の規定みたいなものをちゃんと出したのは10年ぶりな気がする。帝國の機装甲は本来は中隊が単位なんだけれど、中隊単位では運用してられないから、小隊が最小単位になってる(おかげさまで小部隊運用を心行くまで楽しんでいる)。小隊最小運用数は3機。それ未満では運用しない。僕が書いている時には、そのレベルに追い詰められたことは無いことになっている。小隊未満に分割するのは中隊長権限では行えない(だからシル子は直接ルキマルを引き抜いている。彼女だけに出来るカード運用なのだ)。三機というのは稼働率から決められていることで、稼働率と機の状態、通常運用可能な青札、運用に注意が必要だが稼働不能ではない黄札、可動できるが運用ができない赤札、可動すらできない黒札、なんてのを(勝手に)決めてはいたんだが、10年経って運用に噛み合わせての初登場という奴だった。 戦列機装甲中隊長は、中隊戦列が何故ここに配置され、どのような役割を与えられているか理解したうえで、指揮してるんだとしみじみ思う。小隊長の力量を把握し、小隊のチームワークと戦技を把握し、錬成している。力量ある中隊が、連隊陣形のどこに配置されるかも、連隊長の指揮力量の内なんだろう。筆頭中隊の騎士は鼻高々で、中でも前列小隊、さらにはその中央を担う小隊長は、それこそ出来る奴扱いなんだろう。以前からちらちら出している選抜機甲兵というのは、そういった認識なのだと思っている。 一方で、剽騎兵機装甲の小隊中隊指揮官育成手法は未開拓で、ごくごく属人的にしか行えていないのだろう。十三連隊物の初期教育が様々だったのも一応、意図してはいた。一個連隊に古人を二人とか、指揮官幕僚は集めたい放題とか、黒騎士上がりの皇族士官が連隊長とか、さらに特別に黒騎士小隊が配属されているとか、必要性は認識されていても、それにこたえうる部隊の錬成が可能かどうかはまったく未知数だったに違いない。 運用の定石をおさえていても、思わぬ損害を受けると、急速に戦力を喪失していってしまう、というのは前から書いてるか。強固な抵抗にあったときに、力押しに粉砕する後ろ盾が必要で、それが部隊サイズなのか、部隊の質なのかを、測りかねると、剽騎兵無用論になり、その金で黒騎士大隊をもう一個増やせ、ということになる。剽騎兵も旅団運用を基準とし、旅団に白のみからなる軽駆逐機大隊あたりを作る、が結論になるかもしれない。剽騎兵旅団は、黒騎士大隊より安価に、黒騎士大隊のできないことを行え、混成旅団より足が速く、軍団単位に大きな貢献ができるようになる、といいなあ、とは思う。