約 72,145 件
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1128.html
展開の断章 (13) 下段から突き放った長鑓が、盾を打ちはらい、跳ねあげる。 「!」 深く踏み込んで、ルキアニスは長鑓の突きを放った。炎の魔力を帯びた切っ先が、鉄の腰を突く。その傷から、ごお、と炎が吹き上げて、敵機は崩折れる。 ルキアニスはさらに長鑓を振るった。敵には戦列端を守る機がもういない。打ち削られたところはもうそのままだ。新たに端機となったものへ、穂先を横なぎに叩きつける。炎を巻いて、横倒しに倒れてゆく。魔法火力に耐えながら、それでも押し進んできた敵は、いま、突き崩されつつあった。敵が止まりもせず、駆けもしなかったときに、勝負は決まっていた。 単列の敵戦列は、突かれ、叩かれながら、短い槍では成すすべもなく、ひたすら盾を掲げ、耐えるばかりだ。打ちふるわれる長鑓を、受ける一方の盾でしのぐことなどできない。敵も判っていたはずだ。 けれど、いくさではそんなことがある。何かに圧されて、せねばならないことが見失われてしまう。 『!』 鉄を打ち削る激しい音が連なる。気付くと、敵は最後の一機となっていた。その機に続けざまに長鑓が突き込まれる。 いくつもの鑓に貫かれ、倒れることもせず、その敵は腕を降ろした。槍が落ちて跳ね、盾が落ちて砂埃を巻き上げる。 それが終わりだった。 不意に何もかもが静まり返ったように思えた。 ルキアニスの小隊の正面で、動く敵はもうなかった。高くなり始めた日差しの中を、砂塵が流れてゆく。 その向こうを、騎兵が駆けていた。すでに動くもののない敵機装甲列を迂回して、その背後にいる敵歩兵陣へ向けて、左翼から巻き込むように駆けてゆく。 それら騎兵列を先導して駆けるのは、連隊長機だ。駆ける風に連隊長旗章がなびく。それはもはや、敵歩兵陣を相手にしてさえいなかった。機装甲の援護を失った歩兵方陣など、もはや連隊を阻む力など持たないのだから。騎兵縦列は、丘の斜面を駆けて回り込んでゆく。 その先には、敵の最後の部隊がある。 丘の斜面に散らばる、敵の中で、まとまりと言えるものを持つ最後のものらだった。 それらは丘の斜面を西へ、帝國軍のいないところへ逃れようとしていた。騎兵のまとまりと、これを守るように駆ける軽機装甲と、騎兵のまとまりらから取り残されつつある徒歩勢と、もはや両手で余るほどの重機装甲らだ。 そして、その徒歩と重機装甲らは、追う動きを止めた。足を止め、向きを変えて、連隊の騎兵銃列へと進み始める。けれどもそれでは、もう何も阻むことはできない。せいぜい、ひきつけるくらいでしかない。 連隊長は、それを受けた。 その鑓によってではなく、その鑓の切っ先で示すことで。 その切っ先の命に応じて、駆けだしたのは二刀を下げた黒の二だった。連隊配属の黒騎士小隊、その姿を知っていた。 一気に詰め寄り、突きを放ち、舞うように切り裂く。まとめて数機を相手にするさまは、うっぷん晴らしのようにも見えた。 そして、それが最後の機を打ち倒す頃、いくさの、おおよそが終わっていた。戦いそれは続いていたけれど、それはもう始末に近いものだった。 シルディール連隊長が足を止めたとき、連隊は再び一つになっていた。左翼と右翼に別れていたものは、包囲の完成とともに、敵の退路を封じるものとなっていた。 小隊ごとの短横列が、互いに間をおいて、緩い弧を描いて並ぶ。その列の中央に、連隊長旗章をなびかせて、連隊長機が立つ。 もはや敵は元の形を保てずにいた。統制を失い、部隊としてまとまった行動をとれずにいた。擲射砲の砲弾が絶え間なく降り注ぎ、弾けて、歩兵も機装甲も区別なく撃ち倒してゆく。第9連隊の砲撃はひとときも休まなかった。包囲の中に絶え間なく白煙が弾けて膨らむ。 その中から稀に何機かの敵が一塊となって飛び出してくる。けれどそれらは、さらに多くの帝國機装甲に囲まれ、討ち取られていった。このいくさでは、ルキアニスが囲み、討ち取る側になっていた。 『連隊、前へ』 甘いほど、むしろ優しいとさえ聞こえる響きで、シルディール連隊長は命じた。
https://w.atwiki.jp/battle-operation/pages/1300.html
区分 時間帯 連隊名 ID 部隊ステータス 連隊長 通信兵 陣営 連隊色 午前1 05~ セカンドWiki独立旅団:薄桜 SS1 10名募集中 che***-****(CM) che***-****(CM)k-m***********sil***-*-*(シル) 連 薄桜(うすざくら) 夕方 18~ セカンドWiki独立旅団:常磐 SS8 17名募集中 awa***** awa*****Ri***** ジ 常磐(ときわ) 夜間1 20~ セカンドWiki独立旅団:浅葱 SS4 17名募集中 tri***** Lip**** ジ 浅葱(あさぎ) 夜間2 20~ セカンドWiki独立旅団:萌葱 S20 2名募集中 mr_********** mr_********** 連 萌葱(もえぎ) 夜更1 22~ セカンドWiki独立旅団:桔梗 SS6 0名解散済 連 桔梗(ききょう) 夜更2 22~ セカンドWiki独立旅団:菖蒲 SS9 10名募集中 ARa********** ? ジ 菖蒲(しょうぶ) 夜更3 22~ セカンドWiki独立旅団:京紫 S11 3名募集中 otu******* ? 連 京紫(きょうむらさき) 夜更4 22~ セカンドWiki独立旅団:深緋 S14 13名募集中 Nei***(ネイノー) tet*********(鉄) ジ 深緋(こきひ,深い緋色) 夜更5 22~ セカンドWiki独立旅団:翡翠 S17 14名募集中 ***_yuki**** rx7***** 連 翡翠(ひすい) 夜更6 23~ セカンドWiki独立旅団:瑠璃 SS5 7名募集中 kus****(クシー) zer***-******(ゼロ) 連 瑠璃(るり) 深夜1 00~ セカンドWiki独立旅団:紫紺 SS7 11名募集中 alp*******(アルファ) alp*******(アルファ)***lcf***(ルシ) ジ 紫紺(しこん) 不定 不定 セカンドWiki独立旅団:玉虫 S10 18名募集中 cnG**** cnG**** ジ 玉虫(たまむし・むしあお/虫襖) リザーブ ??~ セカンドWiki独立旅団:梔子 S - - 梔子・支子(くちなし) リザーブ ??~ セカンドWiki独立旅団:琥珀 S - - 琥珀(こはく) リザーブ ??~ セカンドWiki独立旅団:東雲 S - - 東雲(しののめ) リザーブ ??~ セカンドWiki独立旅団:勿忘 S - - 勿忘(わすれな) リザーブ ??~ セカンドWiki独立旅団:紫水晶 S - 紫水晶(むらさきすいしょう) リザーブ ??~ セカンドWiki独立旅団:月白 S - - 月白(げっぱく) リザーブ ??~ セカンドWiki独立旅団:猩々緋 S - - 猩々緋(しょうじょうひ) 選抜1用 ??~ セカンドWiki独立旅団:漆黒 S - - 漆黒(しっこく) SSO , SS2 , SS3 , S12 , S13 , S15 , S16 , S18 , S19 , S21 , S22 , S45 , S49 , S57 , s58 , s61 , S69 , S01 , S04 , s06 , s09 は他部隊です.セカンド攻略Wiki独立旅団とは何の関連もありません. 副連隊長 は各連隊ページに記載してください.
https://w.atwiki.jp/deserteref/pages/762.html
ヘルマン・フォン・リューネブルク(宇宙暦759年 - )は自由惑星同盟の軍人。原作登場人物である。男性。 1 外見 2 略歴2-1 前世 2-2 新版 2-3 旧版 3 性格 1 外見 生まれながらの帝国貴族のごとき長身と銀灰色の髪、常時不機嫌そうな青灰色の目といった容姿の持ち主。 2 略歴 2-1 前世 元薔薇の騎士連隊長。同盟を裏切り帝国へと亡命した。シェーンコップとの一騎打ちに負け戦死。 2-2 新版 宇宙歴790年時点で第一一代薔薇の騎士連隊長を務めている。(7話) 宇宙歴791年5月頃、第六六六陸戦遠征隊長を薔薇の騎士連隊長と兼ねていたが、ブランタイア星系の小惑星基地において、八倍の帝国軍装甲擲弾兵に包囲される。巧妙な指揮によって、九度にわたる装甲擲弾兵の突撃を全て撃退するが、援軍の二個分艦隊がブランタイア星系に到達し、第六六六陸戦遠征隊の勝利が確定した時、帝国軍に単身で降伏した。その後、惑星デンスボルンを惑星リューネブルクに改称し、子爵位とともに賜った。また、宇宙軍准将の階級を与えられ、皇帝の侍従武官に任命されたと発表された。(8話) 宇宙歴794年のヴァンフリート四=二基地攻防戦で帝国軍陸戦隊の司令官を務めている。混戦の中で薔薇の騎士連隊と交戦し、圧倒的な強さを見せつけた。(19話)同年の第六次イゼルローン要塞攻防戦時には宇宙軍少将に昇進している。同戦闘中、薔薇の騎士連隊からの挑発に乗って、少数の部下と共に薔薇の騎士連隊の乗るケイロン三号に乗り込み、ワルター・フォン・シェーンコップと一騎打ちを行い戦死する。(28話) 2-3 旧版 3 性格 かつては面倒見の良い親分肌と言われていた。
https://w.atwiki.jp/esteal/pages/302.html
勝利敗北条件 勝利条件:ババッダラスの撃破 敗北条件:サンドラの撃破・時間切れ 全戦力 味方一覧 ※5部隊操作可能 指揮官 兵種 兵種2 備考 サンドラ(Lv20) バイハラ自衛軍第三連隊長 バイハラ自衛軍第五連隊長 バイハラ術師隊長 ??? 敵一覧 指揮官 兵種 兵種2 備考 ババッダラス(Lv35) 攻略 史実エンドと勝利エンドが設定されている。 操作可能キャラ全部で中央の手薄な場所を突破し、ババッダラスの前衛を釣ってババッダラスを集中攻撃するシナリオ。 史実エンドの場合は砦の下奥に篭っていれば見れる。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/580.html
「十三連隊ははたらきもの2」 森の中に片膝をつき、鑓を斜めに構えて待つ。 定数どおりの小隊七機に加えて、特定搭乗者機三機を合わせると、十機もの大所帯となる。それは普通の戦列小隊の、標準戦列機数の倍にもなる数だ。 それらは、森の中の地のうねりの底を選んで、並んでいる。 戦いの音は遠い。 ルキアニスは、あくびをかみ殺して、機体のくるぶしに寄りかかって座っていた。そのまま眠ってしまいそうだ。 彼ら第一小隊は、敵の抵抗を迂回して、森の中にあった。彼らの任は、敵を背後から突いて打ち崩すことだった。そのまま、機を待ち、そのままでいた。いつまでたっても、進めの命令は来ない。第二、第三小隊は手間取っているのだろうか。それもやがて、とりとめもない思いに入れ替わってゆく。木漏れ日のまだら模様は、虎縞の猫に良く似ている。うーんと背伸びをして、くるりと丸くなって眠ってる…… 「おい、起きろよ」 足を蹴られて、キアニスは跳ね起きた。誰かと思って見上げた姿は、小隊次席先任上級騎士の、ヴラーヌスだった。彼はいつもの癖のままに前髪を掻き撫でる。 「戦列待機中に居眠りなんかするな。歩哨中に居眠りなんぞしてたら、銃殺だぞ?」 「すみません」 ルキアニスは慌てて立ち上がる。 「上級騎士集合だってさ。何か動きがあるらしい。騎兵も戻ってきてる」 ヴラーヌスは親指を振って森を示す。ちょうど小隊の戦列の左端の先だ。戦列の端からさらに森の木々を透かして、騎兵が歩み来る。ちょうど敵方から、ルキアニス達の戦列線の背後へと、戻ってくるように見える。 「騎兵誘導無しで、攻撃するんですか?」 「逆だろ」 ヴラーヌス上騎は言う。 「攻撃が無いか、延期されたから戻ってきたんだだろうさ」 「じゃあ、どうなるんですか?」 「だから、その話じゃないかって憶測だ。早くしろよアモニス」 背を向けて歩き始めるヴラーヌス上騎を、ルキアニスは慌てて追いかけた。どうも、ヴラーヌス上騎は、ルキアニスのことをあまり好きではないように思う。もっとも、マルクスが言うには、ヴラーヌス上騎は女の子以外は嫌いらしい。 そのマルクスへ、ヴラーヌス上騎はぞんざいに声をかける。マルクスも、たぶん、居眠りをしていたのだろう。あくびをかみ殺しながら、機体の足元からのろのろと立ち上がってくる。ヴラーヌス上騎は、早く来いよと言い残して、さっさと歩いて行ってしまう。 「打ち合わせ?」 眠たげにマルクスが言い、ルキアニスは応える。 「上級騎士集合だって」 小隊での打ち合わせに、全員を集めてしまわないのは、見張りの目を戦列に残しておくためだ。機装甲に搭乗する機甲兵は、全員が騎士であるけれど、全員が指揮官として振舞えるわけではない。機装甲を動かし続けるために、従士を指図するという意味では騎士であり、しかし戦列の中では、定められた動きをする兵卒とあまり変わりが無い。 すでにヴィルヌス小隊長と、先任上級騎士であるアルヴィヌスがいた。それに、ストエル中隊副官までがいる。 「そろったようだな」 言って、ヴィルヌス小隊長はルキアニス達を見回した。 「攻撃計画は変更された。小隊もそれに参加する。第一段階は集結。小隊を防衛線として、その背後に連隊部隊が移動してくる。第一小隊戦列は警戒線として機能する」 小隊長は、地面を砂盤代わりに、小枝で線を引いて示した。 「第一段階での小隊の任は集結掩護になる。現状の戦列線を維持。敵の動きがあったときは、戦列線前方の稜線を阻止線とすることは変わらない。そこでの防御となる」 ヴィルヌス小隊長は前方を示し、その稜線を右から左へと薙いで見せる。防御というのはつまり、別命あるまでそこで戦い続けるという意味だ。今、呼び集められるまでは、まず敵を足止めして、そのあとに退くように取り決めていた。 「機側即応待機を維持。その後、命令を待って後退。集結地点にて合流する。以後の行動は合流後に説明される。以上だ。質問は?」 質問は、と言われても言うべきこともない。何も判らないのと同じだからだ。続いてストエル中隊副官が踏み出す。 「連隊が兵力を出すそうだ。第一小隊は中隊から分離してそちらに編入される」 「連隊、ですか?」 ルキアニスは思わず問い、ストエル副官は片目をつむってみせる。 「しっかりやってくれ。お前ら、評判がいいからな。以上」 ストエル中隊副官らしい言いようだと思った。評判って、どんな評判だろう、と思いながら、解散を告げる言葉に応えた。 憶測は出るけれど、それが事実のように広まってはいけない。上級騎士は、担当統制線に事実と命令のみを伝えなければならない。それは、ルキアニスとマルクスの任ではなかったけれど。 だからと言って居眠りをするわけにもゆかず、だからと言っておしゃべりにふけるわけにもゆかず、濃いお茶をうんと甘くして、凌ぐしかなかった。 予想よりずっと早く、小隊に後退と合流の命令が伝えられたのだけれど。 騎兵伝令にしたがって、森のさらに奥へと退いた。騎兵の作る警戒線のさらに奥に場を示され、そこで四角陣をつくった。 四角の頂それぞれに一機ずつが占め、それぞれは外を向く。本来なら、四角陣の中には数機が占めるだけだが、今の小隊は普通の倍もの機体を抱えている。四方を見張る機数より多くが、四角陣の中にある。 小隊の四角陣から少し離れた森の中には、別の三機が三方警備の陣で片膝をついている。花弁のように広がった肩甲と、やはり末広がりの兜のかたちは、黒の二だ。ルキアニス達の白の三とは、姿は似ているけれど、違うところはもっと多い。黒の二は、桁違いに強い。機体だけでなく、乗り手もだ。 「本当に黒騎士だ……」 「騎兵もいっぱいいる」 ニコルが見回しながらいう。 「やっぱり遠距離進出させられそうだな」 ヴラーヌス次席上騎が、うんざりしたように言い、癖ある金の前髪をかきあげて見せたりもする。小隊の皆で、なぜか集まって、なぜかあたりを見回して、そして顔を見合わせて、何が起きるのだろうなどと案じあったりもする。 「小隊集合!」 小隊長とともに、戻ってきたアルヴィヌス先任が言う。 「連隊長指揮下で新しい行動に移る。連隊長が説明をする。キルリス、ウルキウス。留守任を頼む」 「承知」 応じる言葉に続いて、アルヴィヌス上騎が言う。 「だらだらして恥を晒すなよ?連隊長のご指名でウチが行くんだからな」 「整列して行進しますか?」 ヴラーヌス次席がちょっとふざけて笑い、けれどその笑みは引きつって、溶けるように消えてゆく。アルヴィヌス上騎は何も言わない。それでも、迂闊なことを言う騎士をひんやりした気分にさせるくらい、朝飯前だ。今のところ、ルキアニスは強く叱られたことは無かったけれど。 整列行進ではなかったけれど、小隊はそれなりに歩き、それなりに列を成した。すでに騎兵がずいぶん来ていた。騎兵中隊が丸ごと一つ、やってきているみたいだ。もっとも、騎兵中隊はルキアニス達機甲部隊と違って、卒と従士とでほとんどを占めている。ここに来ているのは騎士のみだ。黒騎士小隊の姿もあった。 最後に、連隊長が歩いてくる。 連隊長は、いつでも特別だ。背後に、二人の警衛騎士を従え、みなの前に立ち、それから静かに見渡す。それだけで、場は静まり返り、誰もが連隊長の言葉を待つ。 「お疲れ様です」 いつものような、軍隊とは思えないねぎらいの言葉から始まった。 「諸君、旅団より新たな示唆がもたらされました。敵の背後に、敵の出撃拠点が存在する可能性が高いと見られます。わたしは連隊の行動目的を変えました。敵戦力そのものの撃破ではなく、敵の出撃拠点を破壊して、敵の進出能力を喪失させようと考えています」 かすかなざわめきは、抗いでも、躊躇いでもなく、やはり、と皆が感じたからだと、ルキアニスには思えた。 「行動は三段階です。ひとつ、捜索群の浸透前進、これによって敵の後方連絡線、さらには敵出撃拠点を捜索します。ふたつ、打撃群前進による敵出撃拠点の撃破。みっつ、両群の連隊陣地への後退です」 シルディール連隊長は、騎兵たちへと振り向く。 「捜索群、第一騎兵中隊。中隊は騎兵斥候群と成し、捜索ならびに目標への誘導を任じます。第一丘背後を通過、扇状に展開。敵後方連絡線上に予想される、敵出撃拠点砦の捜索を実施します。日没までに発見が不可能であった場合、翌朝以降、捜索再開します」 続いて、一本束ねの黒髪を揺らして、ルキアニス達機甲兵を見た。 「打撃群、黒騎士小隊、機装甲第一中隊第一小隊。黒騎士小隊を主力とし、機装甲第一中隊第一小隊が掩護します。打撃群は、敵出撃砦発見をもって、騎兵の誘導を要求し、攻撃位置へ進出。抵抗を排除して目標を破壊します」 最後に連隊長は付け加えた。 「わたくしが指揮をとります」 とはいえ、ルキアニスたち打撃群に示された、最初の任は、待機することだった。 「連隊長の指揮だって」 機体へと戻る道を、一緒に戻りながら、ルキアニスはマルクスへそっと肩を寄せてみた。彼は息をつく。 「連隊長が張り切ってるからって、おまえまで張り切ることはないだろ」 マルクスはそんな風に言うのだ。彼はあまり元気が無い、というより皆がやる気になっているのに、マルクスだけはそうでもないようだ。 「……ねえ?」 「なんだよ」 「……マルクス、連隊長のことが苦手だったりする?」 言いながらも、彼は足をとめ、黒髪を掻き撫で、どこか彼方へ目をやって考え込んだりするのだ。 「……言われてみると、そうかもしれない」 「何で?」 「いや、あの人、厳しい人だし……」 「そんなによく知ってるの?」 ふいに、彼は苦虫を噛み潰したような顔になる。そのくせ、ルキアニスからは目を逸らすのだ。 「良く知るほど近づきたくねーよ」
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1460.html
オスミナ 殿軍 (2) やはり白の三は良い機で、ルキアニスの思う通りに動く。 何より後続を待つ必要がほとんどない。 進むのは一頭引きの馬車なら進める細い道だ。両脇は、細いまっすぐな針葉樹の森が、近づいたり、離れたりして、曇天は時には狭く、時には広く見える。糸杉、というのだという。 ここはオスミナ軍の道だ。糸杉の丸太を四本か五本、縦に並べて道にしている。ただ並べてあるだけでなく、左右に杭を打ってある。丸太の左右は砂利が敷いてある。かなり厚く敷いてあるらしく、ルキアニスが白の三を歩かせることもできた。もともとは機卒を歩かせるところなのだろう。今の白の三の機重ならば、糸杉の上を歩いても平気だとは思う。ただ、後続の黒の二は踏み崩してしまうだろう。 この道は、そもそも機装甲を通そうとは思っていないだろう。砲もたぶん重すぎて通せない。それにオスミナ軍はあまり砲を使わないと、ルキアニスは聞いていた。弩をよく使うのだという。大きなものだと三、四呎あって、それが機装甲の間接のはざまに突き立てば、機体も動けなくなるという。弩には機装甲が携帯できるくらいのものもあって、機装甲から打ちかけてくるとか、陣地に隠したものから放ってくるとか、時には機卒からも放つのだと聞いていた。 たしかに、この地勢ならそうなるのかもしれない。森の国で、でも森の切れたところは、川の水を溢れさせて水浸しにしてしまう。力押しに進んできたなら、弩を一斉に放つ。 それにしても、この道はうまく隠されている。緑の野と林が、相互いに点々と入り混じった、そんなところだ。道は、多少の凹凸はそのまま縫って進んでいる。丘と丘との狭間を行くところでは、林の中に道が作られている。というより木々を植えたのだろう。そして林には、馬のための水飲み場や、座って休めるように置かれた丸太などがあった。ずっと細いけれど、帝國の街道と同じだ。時には別の道が寄り添って、一つになったりもする。それでも太さは変わらない。小さい隊列と馬の背の荷物、それが少しずつ通る道だ。 『気をつけろよ、ルキアニス』 マルクスの声が魔術で響く。 『この感じだと、そろそろ連中の、主抵抗線だ』 ルキアニスは脚を止め、機体に片膝をつかせる。 「そういうことは、止まってるときに言って。歩いてるときには聞いてられない」 『今気づいたんだよ』 マルクスは応じる。 『一つの陣地に一個分隊くらいか。弩を一つ扱うとして、経路が二度合流したから、複数の小隊ってことだ。この経路一つじゃないから、この先には複数の中隊が合流する。本物の陣地があるはずだ』 「了解」 しかしそこには、今は賊軍も、オスミナ軍もいないはずだ。連隊が聴取した賊軍俘虜の話では、オスミナ軍の反撃はまだここまで至っていない。ただ、確かかどうかはわからない。 「・・・・・・あった」 確かにその通りだった。林の切れて急に大きく広がる。先に低い丘が見える。賊軍の使った道もだ。踏み荒らされた砂利道は、丘へと向かってゆき、めぐって立つ木柵に沿って丘を回り込み、さらに向こうへ続いている。広がる草原、その草原と相互いに噛み合うような森と林。彼方へ向けてやや上りになっている。 道の手前側には、幾段もの可搬柵があったが、いずれも道から押しのけられている。手槍のような長いものがあちこちの地に刺さっている。あれが弩から放たれたものなのだろう。前に砂盤設想でやったような丘と陣地だ。役割もそれに近い。これまで前衛に居た部隊を集め吸収して、その勢力でできるだけ長く足止めする。これを壊さないと、後続が通れない。 だからだろう、賊軍は正面から砲撃して、木柵を打ち壊し、機卒と機装甲を送り込んだようだ。丘の斜面には踏みえぐられたあとがいくつもある。丘の上にあっただろうオスミナ軍の陣営は半分ほどは打ち崩されている。残りは賊軍が使ったのかもしれない。賊軍もオスミナ軍も、こんなところで死力を尽くして戦いはしない。賊軍は砦を開いて逃げれば良しであったろうし、オスミナ軍も、ここが抜かれればおしまいというわけでもない。いずれも進むは、オスミナのより奥へ向かってだ。 連隊前衛をやっているなら、随伴騎兵に先行してもらって偵察してもらう。敵がいたなら、後続の先導中隊に任せる。今はそんな戦力はない。 「陣地は、すでに放棄された模様。丘を検分しょうか」 『連隊長、こちら先導。オスミナ軍の国境主抵抗陣地に到達。すでに両者から放棄されたものと見られるが、確認は取れない。検分するか』 『連隊長より先導へ。先導現位置を視認している。同所を小休止所とする。先導は陣地周辺、その前方の経路を偵察、小休止所へ帰還せよ』 『先導了解』 「了解」 ルキアニスも応じる。肩越しに後ろをうかがう。いつもの位置にマルクス機がいる。そのさらに後ろに連隊長たちの本隊がいる。本隊とはいっても、こないだの臨時編成連隊本部中隊でしかない。 手槍を携えてルキアニスは機を進ませる。オスミナ軍がこの先陣地を作るとしたら、これまでのような、小さな陣地の組み合わせだろう。消耗した国境部隊は、そこに少しずつ依拠しながら、後退する。その先に、第二線があるはずだ。第二線は、第一線との交代や人員供給の部隊が慌てて配置につくところだ。屯田兵だったりもする。それでもまだオスミナ軍や、諸侯の精鋭ではない。時間を稼いで、それら精鋭の糾合を待つ。 丘の陣地へ近づいてゆく。規模はそれほど大きくない。陣地をめぐる道は、白い砂利が敷き詰められているが、轍と機装甲の踏み跡で崩され、泥に茶色く汚れている。水たまりもそのままだ。帝國の道は、そのまま部隊をいくらでも移動させられるが、オスミナのこの道は、帝國に踏み込ませないための道だ。 陣地の柵の下をめぐり、その向こうが開けてくる。踏み崩された道を、どれだけの数が進んでいったのだろう。段列を引き連れる限り、この道から外れるのはむつかしい。だが、ルキアニスたちは違う。 「陣地に配置無し。この道も先では、オスミナ軍の陣地に入り込むみたいだね」 『側面に小陣地を用意して、な。陣地内経路を取ろう』 「二機併進で前方偵察」 『了解』 丘の道をめぐって、マルクス機が追いついてくる。二人して、砂利の道からみどりの野へと踏み出す。今の白の三は軽甲だから、踏んだ野にもそれほど沈まない。二人の目で林を見ながら進む。林のどこを見ても、人の気配は無いけれど、もし撃たれたら互いに援護するために。マルクスの機が足を止める。 『見えた。鹿砦。俺の右から回り込め。敵影は確認できない』 「了解。突入する」 ルキアニスも脚を止める。脚を止めると、撃たれやすくなる。それでも、マルクスの言った鹿砦が見えた。林が草原に向かって膨らんだところだ。なるほど、陣地前衛部といったところだ。そこに先をとがらせた丸太の杭を斜めに打ったものの列が見える。鹿砦だ。機装甲をそこで足止めする。止まった機装甲に刺突爆雷を使うのは常の事だし、オスミナには弩を使う。ただ弩も兵隊も見えない。それにアレが陣地前衛ならば、近くに援護陣地を置くだろう。まだ見えない。 だから、ルキアニスは駆けた。マルクスの背後を回って、大きくめぐり、マルクスの示した林に向かって、横合いから突っ込む。 茂みを蹴り、梢を押し割り、肩で太い枝をへし折る。針のような緑の葉が舞い飛ぶ。 「・・・・・・」 しかし、林の中には何もなかった。残されているのは、鹿砦の杭だけだ。ルキアニスはゆっくりとあたりを見回し、それから林の出口のような木々の切れ目を見つけた。進み、機体を入り込ませれば、やはり林を切り開いたところのように見える。機をかがませ、覗き見る。待ち伏せられてるとは思わないけれど、気を抜けるとも思っていない。 木々の向こうに、また別の木々の集まったところがある。そちらにも、鹿砦の尖った杭とそれをつなぐ横木が見える。援護のための後構えの陣地だ。今ルキアニスたちのいる茂みはここは出城と同じ。ここでの押し合いは、相手も考えている。ここに居座った敵を、あの茂みの後構えの陣地から打つことも。 「マルクス、二機がかり」 『了解』 地の響きに続いて、マルクスの機が林に踏み込んでくる。糸杉の間をすり抜けるようにして、ルキアニスに並ぶ。 示す前を見て、うなずき返してくる。 『行くぞ』 「いまっ!」 ルキアニスの声とともに、二人して地を蹴る。ルキアニスは左へ、マルクスは右へ。林を飛び出して、目指す茂みに、左右から突っ込む。目の前にあった鹿砦の横木を、ルキアニスは飛び越える。その向こうへ舞い降りる。 敵の姿はない。弩を据え付けていただろう、木の床が二つあるだけだ。回りは広めに刈り取られた草原になっている。そしてどこかへ続く、丸木敷きの道が見える。 「敵なし」 ただここからは、賊軍の通った道の方は良く見えない。本当に後構えか、それとも普段の配置なのかもしれない。 「進んでみる」 『慌てることは無いからな』 「了解」 ルキアニスは進む。どうやらこの後構え陣地には、すぐ後ろまで機卒が入れるようになっているらしい。鹿砦も機卒に作らせたのだろう。マルクスの機は、その鹿砦の杭をゆすぶり、引き抜き、投げ捨てていた。道の先は、これまでの物に似ている。枝分かれした先には、やはり小さな陣地があるようだ。いずれも林の中に作られているけれど、中にはその糸杉の木々がへし折られているものもあった。多分、砲撃でだろう。賊軍とオスミナ軍で戦ったのだ。その折れた幹の向こうに、道が見えた。 賊軍の使った道だ。据付の弩が相手なら、あの道を速やかに前進し、敵の主抵抗拠点に到達して、後続をもって周囲を掃討するしかない。オスミナ軍もそれがわかっているはずだ。主抵抗拠点に敵が到達するのを遅らせながら、陣地から退いてゆくのだろう。 『こちら先導、陣地群に敵の姿なし。これまで同様の陣地内通行路を発見する。通行に問題は無いと思われる』 『連隊長了解』 『これより一時後退、小休止所で合流する』 「・・・・・・マルクス」 『どうした』 彼の機の魔道の双眸が、ルキアニスを見返す。妙な顔、というのは、機装甲ではできない。ルキアニスはただ、このまま、どんどん進めてしまえそうだ、と言ってみたくなっただけだ。でもマルクスは、稼働状況とか、手入れとか言うと思ったのだ。 「・・・・・・なんでもない」 小休止、大休止も、機甲ではそれらの関りで行う。機の乗り手が胎内から降りて、機体の手入れをする。機装甲が最も弱いその時とも言える。小休止所では随伴の騎兵が警戒を行い、機装甲の乗り手は手入れを行う。今は、各機の機付きが騎馬で同行してくれているから、一人でやるよりずっといい。 けれど予備の部材は機体自体に積んだ分しかない。白の三で想定されたのは、自力での三日程度の稼働継続だとルキアニスは聞いていた。出撃前整備を入れて、四日の行動猶予がある。二日の前進と、二日の後退。それがこの行動の計画だった。どれだけ進めるかは、経路障害がどれだけないかによる。 「敵陣地群後方経路には、敵の姿は見えません。賊軍の姿も見えません」 マルクスは連隊長を前に報告する。 「連隊陣地に収容された数からすれば、この経路沿いに、さらに多くが後退してきてもおかしくないはずです」 「賊軍が撤退経路を変えたことは、連隊も認知している。しかし現在の私の目的からすれば、賊徒は、行動障害でしかない」 シルディール連隊長は、冷ややかに応じる。 「遭遇しても、賊徒の収容や支援は実施しない。排除して前進する」 はい、連隊長殿、とマルクスも応じる。排除、と言っても、機装甲に抗える兵など多くは無い。ゆえに刺突爆雷で機装甲に立ち向かう猟兵は歩兵連隊最精鋭なのだ。要するに賊徒にかまわず進めということだ。敬礼と答礼。小休止が終われば再び出立する。今度の前位はマルクスの機だ。 「賊徒、か」 「なに?」 つぶやく彼にルキアニスは問い返す。だが素気無い答えがあるだけだ。 「何でもない。俺が前、援護頼む」 「うん。了解」 それは、前と変わりない。どちらか一方が前衛をやったら、次の小休止で交代する。お互い、小隊長任命されてしまうと、小隊の中での交代と、小隊同士の交代になってしまう。だから、こんな風に進むのは、本当に久しぶりだ。もうずいぶん前のことに思える。 マルクスの機は、さっきのオスミナ軍の陣地跡へと進んでゆく。後続が段列を含む部隊ではないから、経路選びも機装甲が通行可能であればよい。鹿砦もすべて壊してしまうことはなく、機体が通れるくらいに山刀で打ち壊し、丸太を折る。 陣地はおおよそ林の中にあり、茂みなどはわざわざ密になるように植えているようだった。陣地の中には、丸太を敷いて床が作られていて、オスミナの弩はそのうえで扱われるようだ。こすれた跡が輪のようにあるから、車輪がついているのかもしれない。それを引き込むための道も、丸太が敷いてある。ほかの道と同じだ。 陣地からは、狙っていた道もよくうかがえた。白い砂利を敷き詰められている道は、ここも轍と水たまりでぐちゃぐちゃになっている。人はそれらを避けて道の外に出入りするから、その部分も踏み荒らされて泥がむき出しになっている。 たくさんの足跡はいずれも北へ向かっている。どれくらいの人なのだろう。戻ってくることはできるのだろうか。 少し進めば、オスミナ軍の中隊規模の営地もあった。水場があり、丸太づくりの倉庫が何棟も建てられている。これまでの陣地や、この営地に、いつも人がいるわけじゃない。何かあった時に、人が送り込まれて、この倉庫の物を使って、いくさに備える。 営地に人影はなく、マルクスの機はかまわず進んでゆく。ルキアニスは待つ。後衛と前衛は近づきすぎたら駄目なのだ。けれど離れすぎてもいけない。ルキアニスも歩き始める。営地の先の道も、細いままだった。せいぜい機卒が単機で進めるくらいだ。その白い砂利と、丸太を敷かれた道が、林を抜け、緑の野の起伏を這ってゆく。 曇天の空が開け、また糸杉の樹頂に切り取られる。林で、見通しはあまりよくないのに、林の切れ目で不意に開ける。 前を行くマルクス機が、脚を止める。 『先導より連隊長へ、賊徒を発見した・・・・・・』 彼はわずかに口ごもり、けれど言う。 『すでに自裁の模様』 マルクスの機が、ちらりと肩越しにルキアニスを見やる。 『来なくていい』 そんなことを言われたからといって、通らぬわけにも行かぬのだ。ルキアニスは歩を進める。そして、木々の向こうのそれを見た。 林の際に賊徒たちが倒れている。 踏み崩された砂利の道に沿った草原だ。小休止にはちょどよく見える。でも生きたものが、その中に在るとは思えない。すぐ近くに濡れた刃や、握る者のいない銃がある。いずれも、主の最後のあとに、取り落とされたものだ。 マルクスの機が、そちらへ歩いてゆく。ルキアニスも続く。林の木々の間を抜けて、砂利の道の前へと踏み出してゆく。 伏せた姿は、いずれも怪我をしている。重い怪我に見える者が多かった。泥だらけの道から、林の際に身を寄せて、いずれも傷に包帯や布を巻き付けていた。まだ赤黒く血の染みのあるものもいた。木々に背を預けて休むようにして、あるいはうずくまって。馬車などは無い。ここまで歩いてこられたのだろうか。それとも降ろされたのだろうか。 そんな姿が幾十か、もう動かない。 連隊長の機もすぐに追いついてきた。 機を降りたシルディール連隊長は、ひどく不機嫌そうに見えた。 あたりを見回す。 機を降りたのは、連隊長だけだった。そう命じたのだ。随伴騎兵すら遠巻きにしていた。 ルキアニスが、機の胎内から魔道の双眸を通して見ても、その背中が何を思っているかなど、わかるはずもない。いつも通りの、黒髪を一本束ねに結った、そのうなじが白く見えているだけだ。 彼ら賊軍は、ここまで戻ってこられたけれど、この先にはもう進めないと思ったのだろう。それは、帝國軍部隊が国境にやってきたからだ、とルキアニスは思った。収容されるというのは、助けてもらえるだけでなく、罪を咎められることでもある。皇帝陛下の許しなく、国境を犯し、異国へ踏み込んだ罪だ。それはとても重いことは、ルキアニスも知っていた。そうでなければ、帝國は気ままに他所の国に踏み込む、野盗のような国になってしまう。 そして、ここで自ら命を絶つということは、皆がそれを判っていたからだろう。国境を犯す前から。判っていたのに、国境を犯したのだ。 不意に、シルディール連隊長の髪が揺れる。 倒れた者たちの中の、どこかを見る。 そちらへ向かって歩き始める。速足に。揺れる剣を鞘ごと抑えて。倒れたままの者を幾人かまたいで。不意に足を止める。何者かを見下ろしている。シルディール連隊長は片膝をついて身をかがめる。 生きてる者がいたんだ、と、ルキアニスは思った。 連隊長は用具を持っていない。けれど、白の三の装具箱にはそれがある。ルキアニスが機の片膝をつかせたとき、連隊長が己の肩越しにルキアニスの機を見たのがわかった。 しかしそれ以上、何のしぐさも、命じる動きもしないまま、再び間近の何者かへと目を向ける。ルキアニスは機との同期を解いて仮面を外し、席を這い出し甲蓋を押し開ける。気に金気臭さを強く感じる。血の匂いだ。ルキアニスは装具箱から医療具嚢を引き出し、機の背を伝い降りる。遺体だらけの草原を、連隊長の元へと走る。 「無用です」 常とは違う口調で、シルディール連隊長は言う。 身を起こし、立ち上がり、しかしその瞳は、足元の何かを見つめている。 「もう助かりません。生きたいとの願いを果たせるものはいません」 連隊長の髪が揺れる。顔を上げ、辺りの倒れ伏せた者らを見やる。 何も言わなかった。 その面が見えない今に、ルキアニスは安堵を覚えていた。たぶん、なにものも浮かべない、いつも通りの美しい面があるだけだろうと、わかっていても、それを直に見るのが、何故か怖かった。 不意に、シルディール連隊長は言った。 「むこうに、なにも、ありはしないのに」 それから肩越しにルキアニスを見た。闇色の瞳に、思わずルキアニスは退いた。 「あなたは、見てきたのでしょう」 ゆっくりとシルディール連隊長は振り返り、ルキアニスをまっすぐに見た。優しいとすらいえる笑みがある。答えなど待っていない。すでにシルディール連隊長の中にゆるぎなくあるのだと、ルキアニスは思った。確かめようとすら思っていないこともわかった。連隊長の答えは、もはや外から揺るがしようもなく強くあるのだから。 問うような言葉は、確かめただけであるのも、ルキアニスにはわかった。ルキアニスが、知らぬはずなどない、と。 ルキアニスは、一度は死んでいるのだから、と。むこうを、垣間見たはずなのだから、と。 彼女は歩く。倒れたものらを取り残して。今ここに在る何ものにも、決して彼女を傷つけることはできない。その頬に浮かぶ笑みは、それら何もかもを見下ろして、何も知らぬものらを、気の毒にとすら思ってるように見える。 「前進する。以後、同様のものには関与する必要はない。生残の人員についても、聴取以上は実施しない」
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1137.html
「こいつらには世話になったな」 ヴラーヌス小隊先任上級騎士は言った。小洒落た風に垂らした前髪を掻き撫でて、めがねを中指で軽く押し上げる。 そうやって見る先には、白の三が片膝をついて並んでいる。 半木半石の平屋の格納庫の、太い柱と柱の間が、それぞれの機のそれぞれの場となっている。周囲には足場が組まれ、いつも通りに手入れを受けている。稼働率は七割を超えているが、駐屯地では高いとも言えない。普段ならば、部隊の工部はもっと稼働率を上げているはずだ。 「そうですね」 帳面を閉じてマルクスは応じる。 ただ、いまは冬の終わりで、軍隊にとっての一年の区切りの時でもある。部隊の持つ部品部材は少なくなっている。そして白の三向けの部品部材はもう連隊にはやってこない。今、残っている分も返納する。白の三そのものも連隊から引き揚げられる。連隊は新機に転換される。 片膝をついた鉄の兵の面は、何事も語らない。 白の三を装備が始まったのは、前の年の同じころだった。あのころは連隊が西方から中央へ移ってくる諸々もあって、ひどく忙しかった。連隊への引き渡し中に、生産中の機体に問題が見つかって、引き渡しが遅れもした。 「こいつらじゃなかったら、どうなっていたことか」 ヴラーヌス先任は言う。 引き渡しが遅れようとも、連隊長は戦力化を進めていた。あの時にはなぜそこまで急いでいるのかわからなかった。 今ならわかる。帝國はその時にはもう、トイトブルグへの介入を決めていたのだ。 そのためにすべてが間に合わされた。ひと月やそこらで当座に問題が起きぬように手当をして、ふたたび引き渡しを始めるというのは、ただごとではない。帝國は白の三にそれほどの力を注いでいた。 白の三は、事前に聞かされていた以上に頑丈で、トイトブルグでも連隊の損失はそれほど多くなかった。全くないということはない。軍隊とはそういうものだ。 「・・・・・・」 トイトブルグで白の三が無かったら、どうなっていただろう。考えるまでもない。有力な敵騎兵集団を相手に、常に受け身の戦いを強いられたはずだ。 連隊はその白の三を返納し、新機である緑の三を受領する。白の三がこの先どうなるかまでは聞かされていないけれど、それにふさわしい任をまた与えられるはずだ。 帝國軍は、人にしても機にしても、無駄にすることはない。 「なあ」 ヴラーヌス先任は、白の三を見上げたまま言った。 「内示は受けたんだろ」 「ええ、まあ」 いつかは聞かれると思っていた。隠しても仕方がない。マルクスは次の年度から小隊長を拝命する。 帝國軍では小隊長もまだ消耗品の一つみたいなものだ。とはいえ一つの小隊の最優秀搭乗員でもあり、小隊を任せられるということでもある。帝國軍の指揮官階梯の最初の一段と言っていい。 「・・・・・・やっぱりそうか」 ヴラーヌス先任は白の三の列を見やりながら言った。小洒落た風に垂らした前髪を掻き撫でる。身だしなみにまだそういうこだわりを持つくらいには若い人だった。たしかマルクスより一つ上くらいのはずだから、帝國軍の上級騎士の中でも若い方のはずだ。マルクスたちと同じように、内戦に間に合わなかった若手だ。 「良かったな。お前ならやれるさ」 ヴラーヌスはそう言う。マルクスも応じた。 「ありがとうございます」 乗り手としてはたぶん優秀なほうだとマルクスは思っていた。本人にも自負はあるらしい。矜持も高かった。ただ、彼くらいの者なら帝國軍には多くいる。 そういう人に漏れず、古人は嫌いらしかった。マルクスもそういう嫌われ方には慣れていたけれど。 「お前が敬語で応じるのは、これが最後だな」 ヴラーヌスは楽しくも無げに笑う。マルクスは少し迷った。 「・・・・・・・」 マルクスには何も言えなかった。ヴラーヌスも気付いてはいるだろう。マルクスが昇格するのなら、昇格はマルクス一人ではない。 13連隊には二人の古人、マルクスとルキアニスとがいる。その一方だけが小隊長に昇格して、もう一方がそのままに置かれるなどありえない。 たった二人の古人が、一つの連隊にある。たった二人でも、それは特別なことだ。 これまで古人を集めて使いえたのはごくわずかしかない。機神部隊か、あるいは近衛騎士団か、北方の黄色中隊か。 また13連隊の長は練達の機甲兵にして、副帝陛下の御実子でもある。連隊はそもそも何もかもが特別だ。 そのシルディール連隊長は、これまで何一つ無駄にしてこなかった。得た二人の古人も、そう使ってきた。使われているマルクスがそう思う。 シルディール連隊長が、考えも無く部下を昇格させたりはしない。その考えの下では、ヴラーヌスの矜持など、何の意味もない。 「・・・・・・」 結局、マルクスは何も言えぬまま、ヴラーヌスを見送った。彼には彼の任がある。 それはシルディール連隊長がルキアニスに求めている役とは違うものだ。ヴラーヌスから見て、ルキアニスがどう見えていようとそれに関わりは無い。ルキアニスがルキアニスたる己をどう見ているかと同じように。 この特別な連隊で、ルキアニスは特別なまま居られるだろうか。そうある限り、ルキアニスはこの連隊にいられる。それはマルクスも変わりない。 いや、マルクスにとっては、そのように在ることはそれほどむつかしくはない。この世界で生きてゆくことは、ずっと昔に決めた。それがマルクスのあるべきかたちなのだから。 そのかたちは、マルクスに今までより一つ上の階梯に上るように求めている。それを求めたシルディール連隊長はさらに高い階梯からマルクスとルキアニスと、それから連隊の者たちを見つめている。連隊長にとってはその違いなど些細なものだろう。 そして連隊長の姿を見ているのは、は至高の座の脇に立つ副帝陛下なのだろう。そこで階梯は終わるのだろうか。 「・・・・・・」 マルクスはかぶりを振った。考えても仕方のないことだ。マルクスにはマルクスの任がある。上級騎士を、しかも古人を遊ばせておくようなところではないのだから。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1342.html
マリエス国 浸透 (9) 叩き金具で扉を叩く高い音に、ミーア・ディートリンデ・ヴィルケ第512機装甲大隊長は、目を覚ました。 いくさが終わり、もうそのような場には帰らないと思っていたけれど、体の方はミーアの心よりもずっと、いくさに近しくあるらしい。 「何か」 扉の向こうの声が言う。 「連隊長殿が本部にお呼びです」 「すぐに行きます」 応じたときには、ミーアはすでに寝間着と、寝帽子を脱いで、軍装を取り出していた。時計を見れば、深夜を過ぎて、早朝へと向かう刻限だった。悪いことが起きている。 連隊長がすでに起床して、ミーアを呼んでいるということは、機装甲の出撃を含めた何らかの決心が下っているのかもしれない。 大規模な海賊だろうか。これまでの海賊の動きからすれば、いずれ起きると考えられていた。が、今のものがその襲撃かどうかまではわからない。大規模な襲撃ならば、連隊長は躊躇なく連隊に起こしの命令を掛けるだろう。 身づくろいを済ませ、ミーアが扉を開くと、伝令の従士は敬礼で迎える。 「おはようございます。先導申し上げます」 「ありがとう」 12連隊の士気は高い。全てが滞りなく行われる。連隊本部棟の屋根の灯明通信台には常のように従士たちが詰めていたし、連隊本部棟の扉の前には警衛役が護り立っている。 「512機装甲大隊長は本部到着」 連隊本部に到着したときにも、本部当直は必ず布告を行う。 「遅くなりました」 「いや、刻限の方が遅いからな」 グラッスス・アルバルトス連隊長は顔を上げる。彼の前の大卓には大判の地図が広げられている。連隊長が起床している割には、本部にある人の数は少なく、それはミーナには意外だった。連隊長は言った。 「即応隊より灯明信号が来た。当直参謀、経緯を」 「はい、連隊長」 連隊当直参謀が応じ、前へ踏み出す。その指の示すところは地図の端近く、連隊の今の即応域からかなり外れている。 即応隊とは、沿岸哨所の背後の内陸に駐屯する部隊だ。銃兵を中心とした歩兵隊で、大きくても中隊くらいだ。即応力が高く、哨所通報に限らず兆候があれば出撃する。即応隊の駐屯地にも灯明信号台があって、短文は良く送られてくる。灯明信号は雨や霧がなければ良く見えて、見えさえすれば読み取ることができる。今回もそのようにして信号を読み取ったのだと当直参謀は言った。 その即応隊の出動通知だったのだが、一刻程前のことだという。報せなく出動はしない。また、通知自体も常のことで、連隊長を起こすほどではない。当直参謀は続ける。 「しかし、帰還通知はまだ出ていません。続いて隣接の沿岸哨所から、陸、火、見ゆの灯明信号が来ました。見た方角は、当該即応隊の担当地域です。隣接地区の即応隊も出撃信号を送ってきました。出撃時刻は、四半時程前・・・・・・」 当直参謀は時刻を確認し直し、より正確に言った。 「・・・・・・この隣接部隊も続報通知、帰還通知はしてきていません」 二つの即応隊が出動し、また続報が送られてこない。 大きな襲撃は、こんな風にして知られてくることがある。当該地区の哨所を奇襲、始末して、後続船団が上陸させる。出動してきた即応隊を逆に撃破し、場合によっては即応隊の駐屯砦を焼いたりすらする。そこまで来るともはや作戦としか言いようがない。 今、機装甲大隊長のミーナが呼ばれたのは、連隊長がその大襲撃を勘案したからに違いない。機装甲には常に稼働率が付きまとう。その報告は常に連隊本部にも提出しているが、細かい判断での正確性を問うなら、指揮官であるミーナに直接問う方がいい。 「機装甲の内、即応中隊分の機体は、定数通り二十五機、出撃準備が出来ています。ただし大隊そのものの可動率は八割というところですから、非即応中隊は十五ほどです」 要するに即応中隊に可動機を集めて、見かけの即応力を高めている。それは連隊長も承知している。即応戦力を底上げして対応力の方を高め、代わりに非即応中隊はその分だけ可動機が減っている。搭乗員はわずかな不寝番勤務を除いては眠っているはずだ。 うむ、とアルバルトス連隊長はうなずき、腕組みから顎をなでる。12連隊には広範な裁量権が与えられている。連隊長が必要と見なせば、北方のどこにでも展開できる。もちろん今から当該地区への出撃命令を下すことも出来る。ただし夜間行軍は危険で、事故率は高い。移動速度を抑えざるを得ない。到着は明日の昼になるだろう。 そこが問題だった。大規模襲撃に間に合えば、出撃の価値はある。帝國の対応力を示し、さらに海賊らの船に打撃を与えられる。船の損害は回復がむつかしい。それだけ海賊の投入可能戦力は小さくなる。だが、敵の撤収後に到達するなら意味が無い。機装甲は故障も脱落も避けられない。それを回収する手間は、派遣の何倍にもなる。加えてそれの修理が成るまで、戦力は低下する。次への対応力が削がれる。 「・・・・・・」 もっとも回収に妨害は無いし、優れた機卒もある。今なら、むしろ出撃を進言すべきかもしれない。ミーナはそうも思っていた。しかも回収さえすれば確実に修理できる。内戦の頃のように、回収もできないまま、泣く泣く放棄するようなことはない。 じりじりと時が流れる。 そして今、連隊長が待っているのは、出撃を命じる根拠だとも判っていた。 「・・・・・・」 12連隊に掛ける北方辺境臣民の期待は大きなものだった。 北方辺境にある間は、演習に出動するときには子供らが集まって手を振り、帰りにはそれに大人が混じってもいた。出来るだけ長くとどまってもらえないかと近隣村落からの誓願も出されもし、祝祭には近隣臣民から駐屯地に届け物が出され、連隊長が苦心することもあった。 演習中に子供たちが訪れ、ミーアに向けて野の花を渡しに来た時など、思わず胸にこみ上げるものがあった。機装甲はとても危ないものであるから、大隊が演習しているときには、決して敷地には入ってはいけない、と諭す時にも、子供たちは素直で、思わず抱きしめたくなるほどだった。子供らは本当に愛らしい。 旧南岸王国域で実戦配置についても、それは変わらなかった。北方辺境公によって旧南岸王国域の帝國化政策が進められ、土地を得て多くの帝國臣民が旧南岸王国に入るようになっていたからだ。それは復興策でもあり、同時に防衛策でもあった。進出した臣民らには、ある程度の賦役義務が課せられてもいた。帝國側は、あらかじめ海賊を考えていた。 そこからこぼれ落ちていたのは、旧王国民たちだった。海賊らは、旧南岸諸国民を解放する気などさらさら無いようだった。帝國の施策も通達も届かず、また武器も取り上げられ、自衛の策なども無く、海賊らによっていいように襲われていたと、ミーアは聞いていた。その被害の大きさに、帝國側の即応隊の方が驚くことも少なくなかったらしい。 結果として、帝國側の沿岸哨所建設は、旧王国民らを動員して計画よりも早く行われ、また即応隊の駐屯地も同じように早く設置されていった。何より、郷土防衛隊の設立が、北方辺境側の予想と予定よりもずっと早く行われ、充実していった。もっとも武器の引き渡しなど行えないため、南岸郷土防衛隊の任務は監視と通報、建設支援であったのだけれど。 最近の海賊はやり口が巧妙になってきている。たとえば物や人を直に運び出すものは少なくなっていた。単に打ちこわし、焼くだけで退いてしまうのだ。裏にゴーラ帝国そのものがあるのではと疑われたのだが、調べたところ違っていた。 打ちこわしは、それを見せつけるためだけに行われている。そして、裏で破壊免除と引き換えの金のやり取りが行われているのだ。 これを阻むにはただ一つ、海賊そのものを押さえるしかない。北方辺境と帝國軍の能力を疑わせてはならない。それには船を打ち壊すのが一番だ。緑の五の投擲能力なら、浜に乗り上げた海賊らの船を打ち砕くことも出来る。実際、機装甲を出撃させるのは、海賊の人員を倒すためでなく、海賊船を叩くためだった。 「!」 激しい足音に、ミーナの思いは断たれる。皆がそちらを向いた。扉を開けた従士は、連隊長の前で不動の姿勢を取る。 「灯明信号傍受!」 従士は大声で言う、発は当該地区即応隊駐屯地、発時刻は十分ほど前、内容に皆が凍りついた。 「敵機装甲見ゆ。数不明。近接せり。本部は駐屯地より離脱する」 ざわめく連隊本部で、だが連隊長は静かに確かめる。 「間違いはないか」 「信号読み取りは、正規通り正副二名によりました。一致しております」 従士は覚書を二つ差し出し、連隊長はうなずき返す。 「了解した。連隊よりも灯明信号を発信する。発信者、12連隊長グラッスス・アルバルトス。宛、管区本部」 その本文は、当該即応隊駐屯地からの灯明信号を傍受したこと、当該即応隊の戦力では対応不能だと考えること、もって12連隊長は、12連隊の一部を即応出動させる、だった。従士は帳面に書きつけた本文を読み上げる。 「よろしい。直ちに発信せよ」 従士は敬礼し、連隊長の答礼を受けて、くるりと背を向け、駆けだした。連隊長も皆へと振り向く。 「即応分遣隊は直ちに出動準備。ディートリンデ・ヴィルケ大隊長」 「はい」 「現地状況は混乱しているはずだ。君は連隊即応分遣隊を指揮して現場へ向かえ」 連隊長は続ける。 「状況を掌握し、対処せよ。また、現地の混乱の復旧を支援せよ」 抽象的な命令だが、それで十分だった。12連隊はそのために訓練され、彼女らはそのためにあるのだから 「だが、早期帰還に留意せよ。全体情勢を可能な限り早く、連隊の情勢に反映したい。混乱収拾に人手が必要なのは理解している。だが我々の任務は、次の事態のための即応だ」 「わかりました」 ミーナは応じる。終わらぬ戦いに戻ってきたのではない。ミーナの戦いを、助けを待つもののために、戻ってきたのだ。 マリエス国 浸透 (10) 波は浜辺へ寄せては返す。機装甲の重い足音は、白い砂浜に吸い込まれる。 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大隊長は、ゆっくりと機を進め、脚を止める。 北方ならではの青空は静まっている。中天に陽は高く、全ては終わっていた。海賊の姿はどこにも見出せなかった。 背後の松林を、薙ぐように前進してきた横隊も、次々に浜辺へ踏み出してくる。第12連隊の緑の五だ。 海賊の上陸した海浜は、ここであると特定できたけれど、在るのは北方軍の部隊のみだ。陸を捜索した部隊は、やがてここへと集まってくる。下馬した騎兵が砂浜を波打ち際まで横隊を組んで、薙ぐように進みながら残留物を探している。あるいは松林の空き地に青の三が小隊で待機していたりもした。管区部隊の機装甲だ。管区部隊がすぐにこの地区に送り込めた機装甲は、この一個小隊ほどしかない。広い担当地区に分散配置せざるを得ないからだ。 しかし12連隊は一個中隊の機装甲と随伴騎兵を送り込める。即応力は極めて高い。だが、とミーナは思う。即応と言っても間に合わないことも多い。今回もそうだった。それ以上に海賊らは、不可解なほど足早に退いていた。その狙いもまた不可解だった。 振り返れば、沿岸哨所の焼かれた煙が白く細く上がっている。そう、機装甲を伴う襲撃だった。機装甲の襲撃を受ければ、木の櫓、木杭を打ち並べた塀などひとたまりもない。検索に当たった騎兵の様子を見れば、中の様子は推して知れる。生きている者はいないのだろう。沿岸哨所に詰めているのは、郷土防衛隊のものらだった。彼らは在地住民の志願によっている。つまりは、もとはラグナル王国の住民だ。 海賊らは哨所のみならず、二哩ほど内陸にある管区即応隊の駐屯砦も襲っていた。ただしこちらは、焼かれたのみで人的な被害は出していないという。駐屯砦にあった管区部隊は、沿岸哨所からの連絡とともに騎兵分隊を出撃させていた。 しかし騎兵分隊は夜間に海賊と遭遇、機装甲の突撃を受けて分散し、戦力を発揮できなくなっていた。その後に機装甲を伴う海賊は、駐屯砦を襲撃した。このときの灯明通信が、12連隊長に出撃を決心させた発信となったものだ。 意味のない死守を求めるものはいない。残りの騎兵と隊本部は駐屯砦から離脱後退し、海賊の前進を阻むべく襲撃準備をしていたところで、海賊を見失った。以降、今に至るまで、海賊は見つかっていない。隣接する地区の即応隊からも、応援の騎兵が出撃していたが、彼らも燃える駐屯砦を背にした機装甲を望見したものの、以降の接触を失っていた。 早朝までに管区からの応援部隊が到着し、駐屯砦を奪還、というよりその近辺に進出して海賊が存在しないことを確認していた。火災が鎮火しないため、その近隣に本部を開設し、応援部隊はさらに進出した。機装甲小隊を中核にして、海賊が上陸してきただろう、海浜へまっすぐ向かったのだ。しかしやはり海賊の姿はなかった。上陸の痕跡はあったが、それだけだった。被害に遭ったのは、哨所と駐屯砦の二つのみで、近隣の村落は全く襲われていなかった。 ミーナら12連隊即応分遣隊が到着したのは、さらに下って日の出後、というより昼前だった。到着後すぐに応援部隊本部と連絡し、騎兵と機装甲の混交して、海賊捜索の任についた。騎兵が主体となり、緑の五が援護する。騎兵では機装甲の相手はできない。かつては騎兵にも刺突爆薬を装備させていたらしいが、今は持っていない。実際のところほとんど使いようが無かったからだ。梱包爆薬を機装甲の足元に投げ出して離脱するほうが、はるかに柔軟性がある。 林や茂みを検索すると、そこからは次々と在地住民らが現れ、部隊を驚かせた。実際、銃は猟銃に限られ、得物になるようなものは農具漁具に限られている。彼らにできることは、逃れることくらいだった。彼らに海賊が混じっていないかどうかの確認は、管区部隊でなければ行えない。彼らを引渡し、連隊部隊は捜索を続けた。 最後の検索場所が、海浜の背後に並ぶ松の林だった。海風をさえぎるために、100年もの間、営々と植えられていたものだ。しかし守られていたとも言えない。無残に斬られ、奪われたりすることも多いようで、松林はところどころで切れていたし、大きな穴のような欠けがあるところもあった。しかし松林が無ければ、風に乗って、砂や海水が吹き込んでくるのだという。 そして今は、海浜にある。 ミーナへ届く報告は、ここまでの検索で海賊は発見されず、でしかなかった。そうなれば留まっていても仕方ない。海風に機体が錆びるだけだ。 「検索を終了する。12連隊即応分遣隊は集合」 ミーナは振り返る。 「機装甲中隊長、指揮をお願い。集結したら、松林の背後、適当なところに移動して待機。わたしは前進本部に行きます」 『了解しました。これより機装甲中隊長が分遣隊を指揮する』 管区部隊と12連隊、これに加えて、もう一つのものが、ここには訪れていた。 今も、松林の影にその姿はある。異形と言っていい姿を持つ、空飛ぶ機神。鑓の機神ともよばれる一柱だ。 その乗り手は北方軍の参謀で、参謀のいるところは本部のはずだ。 ミーナは白の五をそちらへと進める。砂を踏み、松の間を縫って進むと、しかし警備らしい従士が手を振りながら進みだしてくる。来るな、という手信号だ。 「・・・・・・」 いぶかしく思い、ミーナは機を止め、片膝を着かせる。同期を解いて仮面を外し、それから機の胎内の操縦槽から這い出す。潮風に髪がなびく。それを押さえながら機の背を伝い降りる。 先の従士が駆け寄ってくる。 「ここから先は、許可以外進入禁止です」 「進入禁止?では本部は?」 「本部はここではありません。前進本部はあちらにあります」 従士は指差して示す。鑓の機神からやや離れたところに天幕が張られ、表示旗が立てられている。 鑓の機神の前には、何人かの人が集まっており、その中に乗り手の姿もあった。機神の乗り手はミーナを見た。黒髪を高めに束ねた、マルクス・ケイロニウス・レオニダス参謀だった。彼は振り招くしぐさをする。 「その人は入ってもらって構わない!」 声に従士は振り向き、頷き、それから失礼しました、と道を開ける。 「・・・・・・」 何が起きているのだろう。行くと、なぜ人が集まっているのかもわかった。鑓の機神の前には、人の胴ほどもある何かが置かれている。機装甲の頭だ。集まっているものらは、その機装甲の頭を検分している。 「これは、海賊の?」 「そうです」 レオニダス参謀はうなずく。 「彼らの船に搭載されていた物です」 それから彼は言った。 「お疲れ様です。今の連隊駐屯地からだと夜通しですか」 「ええ。間に合いませんでしたけれど」 ミーナも機装甲の頭を見る。 「海賊船のほうはどうなりましたか」 聞くまでもないことだったかと思い返し、自ら言う。 「撃沈、ですか」 「そうです。随伴していた船も同様に沈没させました」 「・・・・・・」 最後の始末は、彼が行った、というわけだった。 レオニダス参謀は、同時に近衛騎士でもあり、軍務と近衛騎士任務が矛盾しない限り、双方の任務を行いうる。 機装甲は、頭だけであったけれど、軽機装甲のものに見えた。走ることは、機卒には行えない。機装甲格の作りでなければならない。ゴーラ、特にスカニア大公国では、帝國先端に劣らぬ品質の機装甲を作りうる。 「これほどの機装甲となると、ゴーラ帝国の後ろ盾を持つ勢力でしょうか?」 「ゴーラ帝国はヴィスマリアン条約を守っています。ゴーラ帝国そのもののの後ろ盾ではないと考えています」 レオニダス参謀はその機装甲の頭を見やりながら片方の眉をすこし上げて、そう答えた。帝國に上陸したとされる機装甲について、証拠と呼べるのは、これ一つしかない。 そしてこのたった一つの証拠に近づけぬようにされていた。逆に、これは見せられないもの、ゴーラ帝国とのつながりが如実にうかがえるものとしか思えない。 機装甲は、体内の乗り手の着ける仮面と、機体の顔の部分にある仮面とが、魔術的に一致することで動かされる。これ一つあれば、どれほどの術で、どの系列の術で作られたのかわかる。魔術師たちに調べさせれば、どれほどの魔力を上限とするかのようなこともわかる。緑の五と比べての性能の優劣もだ。工房の特定すら可能かもしれない。これ以外は全てゴーラ湾に沈んでいる。そしてこれは、少なくとも北方軍本部の管理下に置かれるのだろう。ミーナは問う。 「この頭部の分析は北方軍が?」 「それはまだ決まっていません」 「結果について、部隊にも知らせてほしいのですが」 「・・・・・・」 現場部隊のミーナにとって意味があるのは、証拠の出所ではない。数と性能の二つだ。12連隊が装備している緑の五は、帝國の機装甲の最新系列で、まだ二つの連隊しか装備していない。一つは13連隊。そして12連隊はこの五系列機の能力ゆえに、即応任務を負っている。これまでの三系列より高い性能を持ち、ゴーラの重機装甲系列を相手にしても、十分に戦え、優位に立つ部分も少なくない。 だが大北方戦争後、ゴーラ帝国だけでなく、中原諸国も、南方諸王国すら新機の開発を急いでいるのはミーナも知っていた。その中には黒の二の駆逐を目指すものもあると言われていた。 帝國周辺諸国の中で、ゴーラ帝国はもっとも高い力を持つ。帝國の五系列機に拮抗する軽機装甲を作りえるなら、極めて危険だ。 「わかっています」 少し声を低くして、レオニダス参謀は応じる。 「今は何も言えません。しかし現場部隊が何も知らされないまま、ゴーラの新型機に相対することだけは避けるつもりです」 「・・・・・・」 応じかねるミーナに、彼は静かに言う。 「疑われるのは心外です」 「いえ、あなたを疑ってるわけではありません」 ミーナはあわてて宥めた。レオニダス参謀は息をつく。 「・・・・・・」 けれど彼は何も言わなかった。 ミーナの脳裏をいくつものことが巡る。たとえば、12連隊の能力について、疑問の声がいくつか、それも北方辺境公周囲から出ているという噂がある。もっと直裁な話をミーナは聞いていた。北方辺境公は危惧を覚えて北方軍司令サウル・カダフ元帥に確認を行ったという。 どーもその通りのようですな、とサウル・カダフ元帥は答えたらしい。北方辺境公の慎重な為人や、サウル・カダフ元帥を知っていれば、そのやり取りは、実にありそうなことで、ありそうなことであるだけに、面白い話としてミーナの耳にも入っていた。ミーナの耳に入るということは、他に広がっていてもおかしくない。 北方辺境公の確認は、もちろん、レオニダス参謀の以前の発言を聞いたからなのだろう。その話がどうなったのかは聞いていない。笑い話で済めばいい。 今、元老院から強い不満が北方辺境公へ向けられているのは知られている。北方には莫大な国費が注ぎ込まれている。困窮対策、戦費、旧南岸王国領の臣民化施策費、さらには海賊対策。種は尽きること無い。 さらには帝國軍の内部にも12連隊、というより機甲騎兵の能力を疑う声はある。たとえば魔族と13連隊との交戦から、だ。シリヤスクス・シルディール上騎隊長のような、特別な指揮官でなければ、機甲騎兵のような複雑な兵科を運用できないのでは、と。そもそも機甲騎兵には編成上の欠点があるのでは、と。騎兵と混成の連隊編成は防御力に欠け、すなわち一定以上の戦力を持つ敵に遭遇すれば、離脱するしかない、と。前衛戦力としての効果は小さいものであるから、機甲騎兵の装備は最小限にすべき。そういう論文が出されたのも知っていた。曰く、その防御力は重駆逐機大隊にも機甲連隊にも劣り、独力で前進するなど夢に過ぎない。帝國の将来の戦場で、機甲騎兵が能力を発揮する余地など無いだろう、と。つまりは機甲騎兵ではなく重駆逐大隊への資源配分を求めている。 大北方戦争後も変わること無い、北方辺境への大きな支出と、忌避が渦巻くところへ、ゴーラの新型機らしきものが現れたと噂になれば、紛糾するのはわかっている。煙の立っているところに火の魔術を投げ込むようなものだ。 「私は同僚も部下も、それに教え子も、疑ったことはないですよ」 ミーナは言った。レオニダス参謀は、困ったような笑みを浮かべ、けれどやはり何も言わなかった。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1136.html
「アモニス」 声にルキアニスは振り返った。 格納庫の奥から、ストエル中隊副官が歩いてくる。 「中隊長が呼んでる。それが終わったら出頭しろ」 「はい」 応じながら、ルキアニスはなにかしくじりごとをしたのかしらん、と少し思った。 春はもう間近で、すっかり暖かくなっていた。格納庫の扉を開け放っても、寒風よりも春の日差しが心地よい。どこかで鳥の鳴き声が青空を駆けあがってゆく。揚り雲雀だとルキアニスは思った。 天高く上ってゆけば、天国を覗き見たりもできるのだろうか。そんな仕方ないことを少し思う。 秋のいくさが終わって、冬が急ぎ足に訪れて、小隊は受けた傷を少しずつ癒していった。たぶん、ルキアニスもそうなのかもしれない。 忘れはしないと思っていたことが、流れる日々の中で少しずつ遠ざかってゆく。そして、失った事を受け入れ、失ったままでいることに慣れている己に気付いたりもする。軍隊もそうだ。戦う以上、失わないということは無い。軍隊は失われた人は補いをつけて、また進み始める。墓標を残して。 墓標は告げる。帝國のために戦いし兵士異郷にて眠る、と。その墓を覆う土にも草は生え、花は咲くだろうか。 「・・・・・・」 きっと花は咲く。誰も目を向けぬかもしれないけれど花は咲く。土に眠るものはそれを見ることは無いかもしれないけれど。 ルキアニスはそう思って、また帳面へと目を向けた。 冬の終わり、春の始まりは、軍隊にとっても年の変わり目でもあった。人の転出があり、転入もある。しかも連隊はまた新しい機材を導入するのだと聞かされていた。装備している機装甲は、白の三から緑の三へと更新されるのだという。 これまでに聞いた話では、緑の三は白の三から魔導増幅能を取り除いたもので、より手入れ手当がしやすいように甲の形も一部変えてあるのだという。 「・・・・・・」 また白の三の導入の時と同じような大変なことになるのかと思った。けれども工部が言うには、そういう事にはならないだろう、と請け合っていた。 工部が言うには、機体自体は白の三とほとんど変わりがないのだという。白の三それ自体は、もはや問題なく作られるようになっている。そして白の三も緑の三も機体自体はあまり変わらない。 もっとも違うのは魔力増幅能を持つ部分を初めから組み込めないようになっていることだという。もともと連隊の装備する白の三も、すべてが魔力増幅能を持っていたわけではなかった。それでも連隊は高い成果を上げた。そして帝國軍は、魔力増幅能が無くても構わないと決めたらしい。要するにより安くより多く、より手間のかからない機体にするということだ。 乗り手からすると、より安くというのはあまりうれしくないことなのだけれど、軍がそうするのだと決めれば、そうするしかない。 そしてルキアニスたちは、今の白の三の返納のために、準備をしていた。ルキアニスの任は部品部材の棚卸だ。 機装甲は多くの部品部材を使い、また取り替えて動かし続けている。部隊の側も部品部材を蓄えているのだけれど、機装甲本体を返納するとなれば、まだ使っていなかった部品部材もまた返納しなければならない。今は要するに、そのための確認を行っている。 ストエル中隊副官が言ったのは、今行っている作業と監督が済んだら、であった。 急ぎの用ではないのだろう。急ぎならば、ただちに、と言われたはずだ。少し気になりながらもルキアニスは、従卒たちと部品員数を確認を続けた。小は雌螺子から、雌螺子が緩まぬようにする針金から、大きなものは人の背丈より大きな太腿の骨材まである。 部隊の側には運用実績から決められた分しか置かれていない。部隊にあるのは常に使える部品部材のみであり、消耗を見込んだ分のみが送られてくる。理屈の上では、一年の終わりに残っている部品は「予備のさらに予備」だけだ。それも白の三とともに返納されることになる。 要するに、ルキアニスの行っているのはその確認だった。 それでも中隊長のところに出頭した時には、もう陽は中天に近づいていた。 「少し待て」 オゼロフ中隊長は机で忙しげだった。書類つづりを開き、閉じ、中隊従士長を呼んで運ばせたりしている。そしてその従士長が部屋を出る時、扉を閉じてゆくように言った。 ぱたりと扉は閉じられ、それきり静けさが訪れる。オゼロフ中隊長は軽く机を片付け、別の書類つづりを開く。 「内戦のあとには書類が増えた。転出にもそれをつけてやらねばならん」 「転出、ですか・・・・・・」 ルキアニスは用心深く問うた。するとこれは、転出の内示なのだろうか。 「いや、お前は違う」 オゼロフ中隊長は机の上で両手を結び合わせる。それからルキアニスを見た。 「連隊に留まって小隊長をやってみろ」 ほっと息をつく間もなかった。 「小隊長、ぼく・・・・・・もとい自分がですか」 「希望聴取じゃない。内示だ」 オゼロフ中隊長は言う。 「お前に、ただの上級騎士をさせておくと思うのか」 ルキアニスだってもちろん、帝國軍の考えは知っている。ルキアニスがその扱いにふさわしいかどうかはともかく。それでもオゼロフ小隊長は続ける。 「何を躊躇している。やる気は無いのか。連隊長はお前に期待していると言っていたのだぞ」 「ほんとうですか?」 「疑うことがあるか。部下に嘘は言わん。俺も、連隊長もな」 少し驚き、ルキアニスはまたたいた。 「あの、中隊長」 「やってみろ」 「あの、中隊長・・・・・・」 ルキアニスはもう一度言った。 「連隊長は、どんな風に、その、言っておられたんですか?」 オゼロフ中隊長は、ふと口をつぐみ、それからルキアニスを見返す。口にはしていないけれど、中隊長の瞳はルキアニスを責めている気がした。 「連隊には帝國にとって必要な役割がある」 少しして、オゼロフ中隊長は静かに言った。 「帝國の求めるもののため万難を排してそれを果たすのが連隊の任務であり、連隊長の任務であると。その任務を果たすうえで、お前たちが連隊に果たす役割もまた大きい。連隊長はそう言っていた」 どうした、とオゼロフ中隊長はルキアニスを見る。 「シルディール連隊長がそこまで評価するものが、ほかにいると思うか」 どう答えればいいか、ルキアニスは少し迷った。たぶん、中隊長の言うとおりなのだと思う。たぶん、きっとそうなんだ。 「・・・・・・はい」 「ならばお前の成すべきことも判るだろう」 「はい」 「自信が無いか」 「・・・・・・いいえ、やれます」 「備えておけ。連隊長の期待に応えろ」 「はい」 「以上だ」 左胸に拳をあてる敬礼を行い、中隊長の答礼を受ける。そしてルキアニスは中隊長公室を退いた。
https://w.atwiki.jp/china1937japan/
歴史研究メモ 【あ】 秋山義隆 南京特務機関長 伊佐一男 第7連隊長 <南京戦> 【お】 大堀知武造 第2連隊第2大隊副官 <ゲリラ戦> 折田貞重 第59師団参謀 <北支治安戦> 【か】 笠野昌規 歩兵第116連隊第3機関銃中隊小隊長 上村利通 上海派遣軍参謀 <南京戦> 河相達夫 外務省情報部長 川久保鎮馬 第9師団 参謀長(防衛研究所) 【き】 木佐木久 第16師団 参謀(防衛研究所) 木村松治郎 上海事変(防衛研究所) 【く】 久納清之助 支那事変(防衛研究所) 窪田英夫 特情班(防衛研究所) 【こ】 小林弘 歩兵第116連隊 小山住男 軍曹 <日中戦争> 【さ】 桜井徳太郎 <盧溝橋事件> 【す】 助川静二 第16師団第38連隊長(防衛研究所) 鈴木重康 独立混成第11旅団(防衛研究所) 鈴木啓久 第117師団長(防衛研究所) 【た】 竹下栄蔵 独立軽装甲車第6中隊(防衛研究所) 田辺新之 山西省特務機関(防衛研究所) 谷口真三 歩兵第19連隊第4中隊(防衛研究所) 玉井勝則 第114師団清水隊(防衛研究所) 【ち】 値賀忠治 第3飛行団(防衛研究所) 【つ】 塚田攻 つかだおさむ 中支那方面軍 参謀長 <南京戦> 【て】 手塚清 第114師団第66連隊(防衛研究所) 寺平忠輔 北平陸軍特務機関長(防衛研究所) 【と】 徳川 中将 【な行】 中村喜誠 歩兵第42連隊第1機関銃中隊(防衛研究所) 中村幸雄 盧溝橋事件(防衛研究所) 七沢拾裕 歩兵第149連隊第1大隊第1中隊(防衛研究所) 【は行】 林正明 歩兵第20連隊第3中隊(防衛研究所) 平崎誠一 第9師団DTL(防衛研究所)(防衛研究所) 【ま】 三国直福 第16師団野砲兵第22連隊(防衛研究所) 宮崎周一 第11軍参謀長→歩兵26連隊長(防衛研究所) 【み】 【む】 武藤章 むとうあきら 中支那方面軍 参謀副長 【め】 【も】 【や行】 山崎正男 やまざきまさお 第10軍 参謀 <南京戦> 【ら行】 【わ行】 -