約 13,624 件
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/948.html
お嬢様の葛藤
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/243.html
次の話へ 【彼女の葛藤】 「……今日はなんの御用で?」 霖之助がいつものように本を読んでいると、両肩にずしりと重みがかかった。 以前は慌てふためいていたものだが、数日に一度のペースで同じことをされては流石に慣れる。 まあ、たまに気が緩んでいるときはいまだに飛び上がったりもするのだが。 くるりと振り向いてみれば、予想通りの整った顔が鼻のくっつきそうな距離に浮いていた。 いつもと違うのは、その顔は眉が寄って唇の端が下がったしかめっ面ということ。 「もう。女性のほうからここまでしているっていうのにぃ。 ちょっと反応が淡白すぎるんじゃなくて?」 めっ、と霖之助の額を小突く八雲紫。 なんだか子ども扱いされているみたいだな、とも思う霖之助だが、あまり反発する気にはならない。 これが霊夢や魔理沙ならば、何かしらの一言は返すところだというのに。 「この店に来ていただけるのはありがたけどね。 毎回毎回スキマから死角に出てくるものだから、すっかり慣れてしまったよ。 あとは、何か買ってくれれば言うことはないんだが」 何も言い返さない理由としてはこんなところだろう、と自己分析しながら返事を返した。 「つまんないわねぇ。 前は顔を真っ赤にして『い、いきなり何をするんだ!』とか言ってくれたのに。 ……もう……私の体には飽きてしまったのね……」 扇子で顔を隠してよよよ、と泣く振りをする紫。 これさえなければもっと踏み込んで接してもいいんだがなあ、と霖之助は内心でため息を吐いた。 「ああ、すまなかったよ。このとおり謝るから泣かないでくれ」 「……」 謝ったというのに唇を尖らせ、ジトーっとした目で見てくる紫。 霖之助が頭の上に?を浮かべていると、 「……飽きたっていうの否定してない……」 などと言い出した。 そちらが冗談めかして言ってきたというのに。そもそも飽きるも何も堪能した覚えすらない。 今度こそ、ため息を隠さない霖之助だった。 「それにしても霖之助さんは優しいわねえ。 藍に同じことしても、冷たーい声で『いいから要件を言ってください』なんて言うのよ」 「それは君の発言を流していきなり要件を聞いたりするな、と言うことか」 「流石霖之助さんね。みなまで言わなくても私の言いたいことを察してくれるんだから」 先ほど彼女の式と同じことをしようか迷っていた霖之助は、差し当たり自分の判断に感謝することにした。 「まあ、いつまでもこうして言葉遊びをしていても仕方ないわね。 私としては一日中続けてもいいくらいだけど。それはそれとして、今日はちゃあんとお客様としてお邪魔してるつもりよ」 「できれば今日は、ではなくて今日も、になって欲しい所だがね」 「むぅ~、いいじゃないそのくらい。 それで、今日は霖之助さんを頂きたいのだけど」 「……僕の店では生物は取り扱っていないことくらい知っているだろう?」 「もちろんよ。私が言っているのは霖之助さんに今日私と過ごして欲しいってこと。 霖之助さんの時間は生物ではないもの。何の問題もないでしょう?」 そうきたか。 はじめに今のことを切り出されていれば、自分の時間は非売品だと言い切ることもできた。 しかし、既に会話の中で『生物は扱っていない』と、生物以外ならなんでも扱っているようにも取れる発言をしてしまっている。 ここで自分の時間も非売品だと言ったところで、この発言を盾に押し切られるのが落ちだ。 それに、八雲紫の機嫌を損ねるのはよろしくない。彼女でなければ取引すらできないものが多すぎる。 主にストーブの燃料とか。 そう、それだけだ。 これで機嫌を損ねてぱたりと彼女が来なくなった店内を想像してなんとなく寂しかったのは気のせいだろう。 「……どうやら現時点で僕に反対する理由はないようだね。 それで、僕と一日何をするつもりだい? 極力お客様の期待には応えさせてもらうと言いたいところだが、内容によっては販売拒否もあり得るよ」 何を言われるかビクビクしながらの発言だったが、紫の提案は想像以上にささやかなものだった。 「そんなむちゃくちゃなことは言わないわよ。 人里に新しい甘味処ができたから、一緒に行って欲しいの」 「……拍子抜けするほど簡単な申し出だね。それくらいなら頼めばいつでもお供したのに」 スキマツアーにでも連れて行かれるのかと思っていた分、この申し出は非常にハードルが低いように思える。 まあ紫とお茶をするくらいは特に問題ないのも確かだが。 一方、紫は予想以上の好感触に喜んでいる。 「あら、本当?」 「ああ、君にはいろいろと便宜を図ってもらっているからね。それくらいならお返しにもならないよ」 「……どうせそんなところだと思ってたけど」 ころころ表情が変わる紫に首をかしげながら、霖之助は先ほどから気になっていたことを尋ねた。 「まあそれはさておき、どうして僕を? 一人で行くのが嫌なら君の式なり、式の式なりに頼めばいくらでもついてくるだろうに」 「その店はバイキングっていう方式を採用しているのよ。 簡単に言うと、一定料金を払えば並べてある料理をいくら食べてもいいっていうスタイルね。 もちろん制限時間はあるけど。 同じ商売人として興味があるんじゃなくて?」 「……それは確かに興味深いな。 食べ放題という言葉に釣られる客は多いだろうが、甘いものをそう大量に食べられる者は少ないだろうしね。 ある程度の料金を受け取っていれば赤字にはならないはずだ。 あとは大量に材料を仕入れることによる値引きなどか……。 実際にどのレベルのものが提供されているのかも気になるな。 僕は営業努力をしない商売人としては失格の部類だろうが、そういう営業形態の原理には確かに惹かれるものがあるね」 「でしょう? 聞いてみた甲斐があったわ。それじゃ、早速行きましょうか」 人里へと向かう霖之助と紫。 目的の店はすぐに見つかった。通常の倍はあるのぼりを掲げていれば当然だが。 「中は洋風か……。 確かにこれなら座敷と違ってとりにいくたびに履物を脱いだり履いたりする必要がないな」 「ほら霖之助さん、このお皿に欲しいものをとって食べるみたいよ。 あっちには紅茶やコーヒーもあるわね。まあ手ずから淹れたものには適わないでしょうけど」 店に入って料金を支払うなり、店の中を見渡す2人。一見似たもの同士だがその着眼点はかなりずれていた。 しばらく店内を観察すると、適当なケーキを1つ2つと紅茶を淹れて席に座る霖之助。 紫はすでにかなりの量を皿にとっているが、それでもまだ選ぶつもりのようだ。 「紫、飲み物は何にする?」 これは少々時間がかかるかな、と考えた霖之助は紫の分も淹れてくることにした。 すこし驚いたような顔をした紫だったが、すぐ嬉しそうに笑って紅茶を頼んできた。 それから10分後。 すぐに淹れては紅茶が冷めるからと、紫の様子を見つつタイミングを計る霖之助。 そんな努力の甲斐あって、良い状態で渡すことができたようだ。 「……ふむ」 パクパク食べる紫を眺めつつ、霖之助は店について考察を重ねていた。 菓子の出来は上々。多少の時間置きっぱなしでも、これなら十分金を払う価値がある。 周りを見れば座ったり立ったりを繰り返す客も少なくない。軽い椅子はこれを見越してのことか。 机の配置はいわゆる碁盤目状ではないが、客の流れを見ていると上手い具合に計算されて置かれていることがわかる。 ついついそういうことを考え込んでいると、 「ちょっと霖之助さん」 思考の海に沈む霖之助を、紫が咎めた。 「ん? なんだい?」 「なんだいって……。 折角2人で来ているんだから、お店ばかり見てないでもっと構って頂戴」 ぷぅ、と頬を膨らませる紫。 いつもの姿からは想像もつかないそんな紫の様子に思わず笑みがこぼれそうになるが、ここであまり大げさに笑うとさらに機嫌を損ねるだろう。 「ああ、すまない。見れば見るほど興味深い作りをしているからね。 不愉快な思いをさせてしまったようだし、これからは君だけを見ていることにしよう」 「そ、そう? まあそれならいいわ。許してあげる」 蔑ろにしていた分しっかり相手をするという意味だったのだが、紫は思った以上に嬉しそうにしている。 どうやら機嫌は直ったようで、左手を頬に当ててなにやら照れくさそうにしている紫の姿に、霖之助は胸をなでおろした。 それから。 「あ、これ美味しい。霖之助さんもどうぞ」 「どれどれ……む、これは確かに」 「でしょう? あ、霖之助さんが取ってきたそれ私も取ろうか悩んでたのよ。一口いただける?」 「ああ、もちろんだ」 「あ~ん」 「……まあいいか。今日は君に付き合おう。ほら、あ~ん」 「あ~ん。ん~、おいし~」 振り回されてばかりだが、こういうのも悪くないなと思う霖之助だった。 「それじゃあね霖之助さん。今日は楽しかったわ」 「僕のほうこそ。今日はいい経験が出来たよ」 「もう、そういう時は『君と居れて楽しかったよ』くらい言って欲しいんだけど?」 「ああ……そうか、そうだね。 今日はとても楽しかったよ。こんなに楽しいのは久しぶりだった。 よかったら、また誘ってもらえるかい?……いや、是非こちらからお願いするよ」 「そ、そう? そこまで言うならまたお誘いするわね」 「ああ、僕のほうは知ってのとおり年中暇だから、いつでも言ってくれ」 「自分で言うなんて、もうお店に関しては開き直ることにしたのかしら?」 クスクス、と2人で笑いあう。 「じゃあ、今度こそ帰るわ。またね霖之助さん」 「ああ……それじゃあ」 紫は何もない空間にスキマを開いて帰っていった。 その場所を見つめつつ、霖之助は今日の紫を思い出す。 いつものような胡散臭さなど微塵もなく、まるで普通の少女のようにはしゃぐ紫。 大妖怪であろうが結界の管理者であろうが、紫も根っこの部分は女の子ということだろう。 次に紫が訪れるときは、今まで以上にその来訪を歓迎できそうだ。 霖之助は暖かい気持ちで家路を急いだ。 一方紫の自室では、 「……ふぅ」 足取りも軽い霖之助とは対照的に、やや落ち込んだ様子の紫が見えた。 「……やっちゃったわねえ……。 特定の誰かに入れ込むのは控えていたつもりだったのに」 いつもは人を手玉に取るような言動が目立つが、八雲紫は幻想郷を誰よりも愛している妖怪である。 その存在は博麗の巫女同様、幻想郷の存続になくてはならない。 だから、ある意味で博麗の巫女以上に心を傾けることは自戒してきたつもりだ。 それが今では霖之助に心惹かれている。このままいくと何もかもを投げ捨ててでも彼の元に走りたくなるだろう。 最初は、幻想郷の外にあこがれる半妖を監視するだけのつもりだった。 あくまで外の世界と幻想郷との境界を守るため。霖之助にしても最初は自分を敬遠していた節がある。 だが、いつしか霖之助と会うことが楽しみになっている自分に気付いた。 なぜかはわからないが、彼と話していると心が弾む。ついつい我を忘れて話に夢中になることもあった。 霖之助もしつこく来訪されるうちに慣れてしまったらしく、最近は普通に接してくるようになった。 自分は否が応でも彼に惹かれているし、彼も憎からず思ってくれているだろう。 だけど、と紫は手を握り締める。 一線を超えるようなことだけはできない。 そんなことになれば歯止めが利いてくれるかどうか自信がない。 だからこれ以上の関係は求めまい。たまに話をして、気が向けば2人で出かける以上のことは。 やるせない思いは確かにあるが、霖之助一人と幻想郷を天秤にかけることもできない。 大丈夫。彼とはまだまだ一緒にいられるのだから。 そう自分に言い聞かせると、紫は辛い現実を今だけは忘れて今日の思い出を楽しむことにした。 次の話へ 以下没にしたプロット。最期の葛藤のわりにちょっとやりすぎな気がしたので。 ―――香霖堂にて――― 「……そういう営業形態の原理には確かに惹かれるものがあるね」 「そう?よかった。 ああ、それとバイキング形式は恋人の男女限定だから、そういうことにしといてね」 「……何だって?」 ―――道中――― 「……歩きにくいんだが」 「今私と霖之助さんは恋人同士なんだから、それらしいことをしないとダメでしょう?」 「だからって店に入る前から腕を組まなくてもいいだろう……」 ゆかりんは満面の笑みで腕に頬を擦り付けたり。 ―――店内――― 「それじゃあ食べましょうか。じゃ、霖之助さん、あ~ん」 「……僕は一人で食べられるんだが」 「恋人同士っていったでしょ?」 「……あ~ん(実はまんざらでもない)」 結局全部食べさせあったりするといいよ。
https://w.atwiki.jp/llnj_ss/pages/245.html
元スレURL あなた「栞子ちゃんの葛藤」 概要 虹ヶ咲の練習に合流した栞子の内面は… タグ ^三船栞子 ^あなた ^虹ヶ咲 ^短編 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/game_rowa/pages/101.html
「ねえシルビア。アナタ、元の世界のナカマを探すって言ってたわよね。」 ハテノ村の工務店の長、サクラダは傍らの男に問いかける。 「ええ、そうよ。」 対するシルビアは最初の会場で見た仲間、カミュの姿を想起していた。 ウルノーガの目的を想像する限りでは、呼ばれているのがカミュと自分だけであるはずがない。 シルビアのすぐ近くにはイシの村があったため、おそらく仲間の誰もが目指すであろうその場所を目的地として設定することはシルビアにとって自然なことであった。 「どうして北に迷わず向かっているのか、理由があれば教えてくれるかしら?」 しかし当然、サクラダにとってはそうではない。 サクラダに行きたい場所があるわけではないので、異論があるわけでもないのだが、ここは行く方向ひとつで命の危険に晒されるかどうかが変わりかねない舞台でもある。 理由があれば聞いておきたい程度の理由だ。 「北にはイシの村ってとこがあるでしょ?そこ、アタシの知ってる村なのよ。」 「アラ、それは幸運ね。」 シルビアの答えは、ある意味ではサクラダの期待以上だった。 ここでのサクラダの期待とは、殺し合いの場で隠れられる場所や敵の潜みそうな場所を把握出来るということは圧倒的なアドバンテージとなる……などということではない。 「建物は悪趣味なのかしら?」 サクラダにとって重要なのは、そこで大工としての腕を振るえるかどうかだけである。 これから建物を見に行くのに、あらかじめ改装の余地があるのかどうかをシルビアに聞けること、それを指して幸運と言ったのだった。 「そうねぇ……その村、前に悪いヤツらに滅ぼされちゃったのを復興したばかりなのよね。もしかしたら間に合わせの補修しかしてないかもしれないわね。」 シルビアの言葉を聞き、サクラダは腕を鳴らす。 自らの手で村ひとつを復興させるとなれば、サクラダ工務店創業以来の大仕事だ。 イチカラ村の復興に向かったエノキダも、正直羨ましいとさえ思っていたほどだ。ハテノ村での仕事が溜まっていなかったとしたら、サクラダは喜んでイチカラ村に飛んで行っただろう。 期待に胸を膨らませ、早く行きましょとシルビアの背中を押す。 「ちょっと、押さないでよお。」 「いいからいいから♪」 シルビアから見てもサクラダは大工という仕事を心から楽しんでいることが分かる。いわゆる『天職』というものだろう。 (天職……ね……) 自分で思い浮かべた言葉ながら、シルビアは微妙な表情を浮かべる。 シルビアとしては、旅芸人という道は自分の天職であったと思っている。 だがそこには間違いなく、騎士としての道を勧める父への反論としての意味合いが少なからず含まれているのだ。 彼と和解した今となってもなお、それは変わらない。かつて大喧嘩した父への反抗心は心の底にずっと燻り続けている。 (と、らしくないわね。旅芸人は皆を笑顔にするのが生業なのに、アタシがこんなカオしてちゃあダメよね。) 「シルビア、どうしたのかしら?」 浮かない様子のシルビアを見て、サクラダが語りかける。 「ううん、なんでもないわ。」 そう言うとそのまま、2人はイシの村へと進み始める。 この世界でも皆を笑顔にする、それがシルビアの志す旅芸人としての方針だ。 そのためにも、サクラダのような者は必要なのだとシルビアは思う。建物を綺麗にして環境を整えることでこの殺し合いの雰囲気を打破する。魔物の脅威に晒され、暗い雰囲気に包まれる中で敢えて明るいパレードを開くことで笑顔を取り戻そうとした自分の行いとも重なる行いだ。 是非ともイシの村の再建に着手し、殺し合いの雰囲気さえ壊せるような環境を作ってほしい。 一方サクラダも、彼なりの決意がある。 サクラダのバックパックの中にある1本のハンマー。自らもよく知る、エノキダのハンマーだ。 こんな殺し合いに巻き込まれたことで彼と二度と会えないかもしれなくなったことは不本意だが、せめて彼のタマシイを胸に持とう。 少なくともこの時はまだ、そう思っていた。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 魔王は、オトモの同行に対してどうするか考えを巡らせていた。 まずは認めよう。自分はオトモが猫であるという理由だけで殺すのを躊躇している。 自分がどこへ行こうとも寄ってくるその姿から、昔から可愛がっていた愛猫アラファトを想起させられるからだ。 だが目的がゲームの優勝である以上、どこかでオトモを殺す必要はある。それもまた事実として認めなくてはならない。 次に、これもまた認めよう。 これは危険な兆候であると。 相手が猫であるという理由だけで、自分は他者に情けをかけた『実績』が出来てしまった。 一度心に生じた迷いを次は覆せるという保証は無い。 次に出会う人物が、オトモと同じように戦意が無かった場合は尚更だ。 そして、これも認めなくてはならない。 自分は既に、グレン(カエル)との一騎打ちの地点で奴らに情けをかけた『実績』があるのだと。 『──今ここでやるか……?』 あの時自分は、死者であるクロノ、さらには彼の友人であるサイラスをも貶してグレンの怒りを煽った。 その効果は絶大だったらしく、質問の形をした簡単な挑発にもグレンは乗ってきた。 しかしあの質問に対してグレンが首を横に振っていた場合、自分はどう振る舞っていただろうか。 やもすれば、彼らの仲間として共にラヴォスと──── (──どの口が言うのだろうな、まったく) 有り得ない未来を振り払うように、魔王は首を横に振る。 つまり、だ。 圧倒的な魔力を持つ魔王として中世を恐怖で支配していたあの頃の自分は次第に薄れていっているのだ。 事実、あの決闘の場でグレンを殺すという発想は湧かなかった上に、ここでも問題の先送りと分かっていながらもオトモを殺せずにいる。 だとしたら、自分を変えたのは過去を改変し続けてきた彼らにほかならない。 自分が古代の時代で討たれたことも相まって、面白い皮肉だとすら思う。 話を戻そう。 とりあえずオトモを殺せないのはまだ良い。 積極的に戦闘をしないオトモは生かしておいても毒にはならなさそうだ。 だがオトモの旦那様とやらを探すとなると話は別だ。 その者がオトモと同じく対主催のスタンスを取るのなら、オトモを殺す時も"旦那様"を殺す時も面倒なことになる。それどころか、オトモと"旦那様"を中心に対主催集団が形成されてもおかしくはない。そうなると最終的に優勝を狙う際に面倒なことになる。 また、仮に"旦那様"がステルスマーダーのスタンスであれば、オトモと仲間のフリをすることは容易なのだから、簡単に自分たちに紛れ込めるということだ。 つまり結論はひとつ。 遅くとも"旦那様"と出会う前にはオトモを殺し──── (──ん?) ここでひとつ、魔王の脳裏に引っかかったことがある。 「オトモ、お前は言ったな。旦那様がこの殺し合いに巻き込まれているかもしれないと。」 「うん……最初の会場にそれらしい後ろ姿を見たのニャ。」 「最初の会場……」 魔王は最初の会場では、自分が生きていることに戸惑っており、周りの様子を深く観察してはいなかったため、知り合いの姿を見つけることは無かった。 (つまりこの殺し合いの参加者は、無作為に選ばれたのではなくある程度の関係者が呼ばれていることもあるということか……?) そんなことを考えている時だった。オトモがいつの間にか装備している"それ"を目にしたのは。 「ちょっと待て、オトモ……。その胸に付けているそれは………」 「おっ気付いたかニャ?さっき魔王の旦那から隠れている時に不覚にも落としてしまったバッジニャ。今度は落とさないようにしっかり────」 「貸せッ!」 「ああっ!何するニャ!」 オトモが喋り終わる前にその「バッジ」を奪い取る。 (間違いない、これは────) そこにあったのは、魔王もよく知るアイテムであった。 『勇者バッジ』 勇者に送られる、聖剣グランドリオンの性能を上げるバッジだ。 かつては自分が殺した男、サイラスが身につけていたものであるが、色々とあってサイラスの死後は聖剣と共にグレンが引き継いでいるはず。 何故これがこんなところに……? その理由は想像出来る。 勇者バッジはグランドリオンとセットで初めて効果を発揮する。勇者バッジがあるのであればグランドリオンもどこかにあるのだろう。 そしてグランドリオンと勇者バッジを扱えるのは、少なくとも魔王が知る限り1人しかいない。 「アイツも………否、もしかしたらアイツらも………この世界に居るというのか………?」 魔王の脳内に過ぎった最悪の仮説。 自分だけではなく、グレンやその仲間たちも招かれているのではないか。 もしもこの仮説が正しいのだとしたら、優勝狙いという魔王のスタンスは危険だ。 彼らからクロノが欠けているからこそ自分は優勝してクロノを蘇らせようとしていた。 だがその優勝の条件にクロノの仲間たち全員を殺すのであれば本末転倒だ。 クロノには彼らをまとめあげられるだけのリーダーシップがある。決して、彼の強さは彼のみで成り立つものでは無いのだから。 また、グレンの装備が支給されているということは自分の装備品も誰かに支給されていてもおかしくはない。命よりも大切な、姉のくれた御守り。あれも他の誰かに支給されているかもしれないのだ。 誰が身につけているかも知らないサラのお守りを魔法で攻撃して破壊してしまったとしたら……… 魔王はため息をつく。 この殺し合い、どうやらただ殺せばいいというものでもないらしい。 そして目の前のオトモに目を配った。 悔しいが、オトモの存在はためになったと言わざるを得ない。 自分以外の全員が敵であるはずの世界で、他者との情報交換によって得られるものがあるとは思っていなかった。 (何にせよ、情報が足りなさ過ぎる。まだ動くには危険、か……。) マナは定時放送があると説明していた。 死者の名前を発表するとのことだったが、それはこの催しの参加者を知る手がかりとなる。 (せめて放送のときを待つか……。グレン、よもや貴様がすぐに死ぬとは思わんが、知る者の名が呼ばれる可能性はある……。) 「魔王の旦那ぁー、返してニャー!」 気が付くと足元で、勇者バッジを取り返そうとオトモがぴょんぴょん飛び跳ねている。 そんなオトモに対し、魔王は勇者バッジをオトモに届かないようにひょいと持ち上げる。 「ああっひどい、ひどいニャ魔王の旦那ァ!」 涙目になりながら魔王に対して文句を言うオトモ。 そんな彼を見下ろしながら、魔王は言う。 「まあ聞け、これは単体では役に立たん。用途を知っている私が持つ方が良いだろう。」 「えーと、それなら、確かに……?」 オトモはどこか不安な様子を隠せない。 魔王の理屈には納得していても、殺し合いの世界で貴重な支給品を失うことは不安なようだ。 「……これを使え。」 ため息と共に、魔王はバックパックの中から自分に支給された武器をオトモに渡す。 『七宝のナイフ』と言うらしいその武器は名前の通り短剣の形をしており、オトモの体のサイズでも充分扱える武器である。 「ま、魔王の旦那ァ……!」 「まあ、そのリーチの武器は私は苦手だからな。それに──」 「……それに、何にゃ?」 「いや、何でもない。」 それに、オトモには有力な情報を貰った。そう口にするのは癪だったため、その先は言わなかった。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 奇妙な光景──魔王が次に見た光景を言い表すのなら、その一言に尽きるものであった。 真っ先に魔王は思う。立ち去りたい、と。 魔王の眼前では、大人の男2人があたかも子供の『電車ごっこ』を想起させるような振る舞いで早歩きしていたのだった。 (た、立ち去りたい……!) 心から、本当に心からそう思う。 だが当然そうもいかない。 オトモとの情報交換が思わず役に立ったのと同様に、有力な情報を誰が握っているのか分かったものではない。 また、サラのお守りをこの2人のどちらかが所持している可能性も捨てきれない。 深い溜め息と共に、魔王は2人の男の眼前に立ち塞がる。 「「あら。」」 魔王は未だ迷っていた。 オトモの持っていた勇者バッジからグレンがこの殺し合いに参加している可能性を見出した。それが真実か偽りかによって、この殺し合いに乗るべきかどうかに関わってくる。 まだ魔王のスタンスは完全には確定していないのである。 「……私の名前はジャキ。かつて魔王と呼ばれた男だ。」 仮にこの世界に魔王のことを知る者が呼ばれているのであれば、その者が生きていようが死んでいようが、安易に皆殺しのスタンスを貫くわけにはいかなくなる。 つまり対主催の立場に転じる場合は、自分の過去の行いを知る者がこの世界にいるということだ。 よって、魔王の2つ名も晒すことに決めた。 魔王の悪名は他人と協力関係を築く時に大きな障害となることは承知の上だが、グレン達と共にこの世界の脱出を目指す場合に悪名を隠していたことが発覚するのは困る。 自分の悪行を知る者が誰も呼ばれていないと分かった時というのは、つまり皆殺しを始める時なのだから悪名を知られていようがいまいが関係ない。せいぜい不意打ちがしにくくなる程度だ。 「魔王とはまた大層な名前が出てきたじゃない。アタシはシルビア。こっちはサクラダちゃんよ。それで、私たちとの接触の目的は何かしら?」 それを聞いた2人の内の1人、シルビアが気にするのは当然、魔王の名。かのウルノーガも名乗っていた称号であり第一印象は決して良くはない。 「情報が欲しいのだ。この殺し合いの舞台に知り合いが巻き込まれていることを危惧している。」 「ボクの旦那様を探してくれてるのニャ!」 オトモは魔王の真意も知らず、旦那様ことハンターを探してもらっていると勘違いしている。 だが猫(に見えなくもない生物)と行動を共にしており、知り合い探しに協力的になっているところを見るに、根っからの悪ではないのだろうとシルビアもサクラダも推察する。 「とりあえず、ここに来る前の話も含めて全員で情報交換しない?きっと有意義になると思うのだけど。」 そう提案したのはサクラダだ。 彼はシルビアや魔王、さらにはオトモアイルーやニャンターとして大型モンスターの狩猟を行っているオトモとも違って戦いとは完全に無縁な日々を送っていた。 殺し合いの世界に送り込まれたことによる精神的な疲弊は他の2人と1匹よりも大きい。 そして彼は大工の頭領として一般成人男性以上の体力は兼ね備えているものの、つい先程家一軒を建て直すという肉体労働を終えたばかり。 普段であれば、仕事が終わればすぐ火の傍に座り込んで休息をとるが、この世界ではロクに休息も取っていない。 早い話が、サクラダは少し休む時間が欲しかったのである。冒険を経験していないサクラダは元の世界について語る量も少ないため、基本的に聞き手に回り続けることもできる。 「さ、さ、みんな座って座って。話は腰を下ろしてからよ。」 「……良いだろう。」 「それなら最初にジャキちゃん、喋ってもらえるかしら?」 唐突に、シルビアが提案する。 どの道全員が喋ることになるのなら順番など大した問題ではないはず。話の流れを作るため自分の最初を申し出ることは時にあるが、他人に──ましてや初対面の相手に押し付ける狙いは何なのか。サクラダもオトモも疑問符を浮かべているが、特に反対はしない。 (嘘を考える暇を与えない、か……。この男、食えん奴だ。) 一方、魔王だけはその目的を察する。シルビアは自分を相応に警戒しており、それを隠すつもりも無いようだ。 魔王の頭の回転の速さであれば特に考える時間は無くとも整合性の取れた嘘八百を考え付くことは出来るし、シルビアもその点について魔王を過小評価はしていない。 要するにシルビアの発言は、魔王のみに自分の警戒心を伝えるためのサインに過ぎないのである。 「いいだろう、話してやろう。偽り無く、な。」 シルビアの発言の意図を汲み取ったことを暗示しながらも、魔王は喋り始めた。 古代におけるラヴォスとの因縁。 流れ着いた中世での魔王としての悪行。 再び流れ着いた古代でグレンと決闘し、敗れて死んだこと。 ここまでの流れに嘘偽りはひとつも無い。 ただしクロノの死だけは黙っておいた。クロノの蘇生のために殺し合いに乗ろうとしていることを想像できる余地を残したくなかったためだ。 「私は既に死んだ身だ。ラヴォスの討伐や姉の救出は奴らに託した。今更生き返ろうとは思わないし、こんな催しに乗る気は無い。」 これも、ほとんどが真実である。 自身でラヴォスを討伐することに執着は無く、姉の救出も含めて彼らに任せられると思っている。ただしそれはクロノが生きていればの話だ。 つまりクロノの死という情報を提示しない限り、動機面から魔王の嘘を暴くことはできないのである。 「なるほど、面白い情報を聞いたわ。じゃあ次はアタシが話すわね。」 魔王に最初に喋らせたこともあって、シルビアが2番目に喋り始める。 シルビアの話の中で全員を驚かせたのは、この殺し合いの主催者と元の世界からの関わりがあったということだった。 しかし魔王にとって重要な情報はそれだけではなかった。 「ところで最初の会場でマナに最初に反抗した子、いたでしょ?あの子、アタシの知り合いなの。」 「なっ……!」 オトモの旦那様とやらがいる可能性は既に示唆されていたが、それはまだ確定情報では無かった。 だがシルビアによって、この世界には元の世界の関係者も招かれ得るという事実がハッキリしたのだ。 (これは……本格的にグレン達と脱出のために動くことも考えなくてはならんな……。) その後、サクラダが自分の世界について話した。 主にひとつの村しか行動範囲に無かったようなので情報の幅自体が狭かったのだが、この世界の地図にある『ハイラル城』がサクラダの世界にあったはずの場所であるという情報は心に留めておいた。 オトモの話も、旦那様の武勇伝を語られただけで特に新しい発見は見当たらない。 全員が話し終えたことで、ようやく魔王が動く。 「さて、ここでお前たちの支給品を見せてはもらえないだろうか?」 「いいケド……一応理由は聞くわ。」 「私の持っているこのバッジ。先ほど話したグレンという男の所有物だ。私は彼もこの殺し合いに参加しているのではないかと思っている。」 「えっ……ってことは……」 魔王の発言にサクラダが口を挟む。彼のバックパックには彼の弟子、エノキダのハンマーが入っていたからだ。 「エノキダもここに連れてこられているっていうの!?」 「……そういえば、その可能性は高いわね。」 その反応を見て、知り合いの持ち物が支給されていたのだろうと魔王は察する。 「それならハイラル城を目指すのはどうかしら。知っている場所がそこしか無いなら、もしかしたらエノキダちゃんもそこを目指すかもしれないわ。」 「それは嬉しいけど……イシの村は目指さなくていいの?」 「アタシの仲間は全員強いから急いで合流しなくても大丈夫よ。……ところで、支給品を見せるって話だったわね。」 シルビアは支給品は全て装備していたため、それらを魔王に見せる。サクラダはバックパックの中から支給品を取り出して見せた。 ただしその中に、魔王の知るものはひとつもなかった。 「感謝する。それでは。」 「待ちなさい、アナタも来るのよ。」 立ち去ろうとする魔王を引き止め、シルビアが言う。 「……何故私がお前たちの仲間探しに付き合わねばならん?」 「アナタが何か隠しているかもしれないから……かしら?」 殺し合いに乗ろうとしていることがバレているのか、と魔王は案ずる。だがクロノの死を伝えていない以上、核心に迫ることは無いはずだ。 「馬鹿馬鹿しい。何なら力づくで我が道を決めてもいいのだぞ?」 「ええ、その場合も受けて立つわ。」 魔力を溜めて武力行使をチラつかせてもシルビアは引かない。 ピリピリとした雰囲気に、サクラダとオトモは後ずさりを始める。 「アタシ達はね、アンタ以上の"魔王"に一度騙されているの。その代償に失ったものは決して小さくなかったわ。」 シルビアは聖地ラムダで"再会"したベロニカのことを思い出す。 パーティー全員の心に深い傷を残し、みんなの笑顔に深い闇を落としたあの出来事を、二度と繰り返してはいけないとその時シルビアは思った。 魔王の話の中から決定的な嘘は見つからなかったが、魔王の話し方や様子から伺えるラヴォスと姉のサラに対する執着は決して小さくはなかった。 魔王を見逃した場合、誰かが犠牲になるかもしれない。 そして現在イシの村の近くにいることから、魔王はイシの村を目指しているであろう仲間と接触する可能性が高い。 「だからアナタはアタシが監視する。アナタは相当強そうだけども……アタシだって刺し違えるくらいの力はあるわ。黙ってついてくるのとここで戦うの、どっちが有益か考えてご覧なさい?」 暫しの間、空気が凍りついた。 確かに魔王としても、グレン達の居場所にアテがあるわけではない。強いて言うなら地図に書いてある『北の廃墟』が自分の世界の由来の地である可能性はあるが、固有名詞ではないため断定は出来ないし、ハイラル城を目指すのなら方角は同じである。 ここで戦うのとどちらが得か……そんなもの、考えるまでもなかった。 「……仕方ない、か。」 ため息と共に魔力を引っ込める。 過去の悪行を話した時からある程度の警戒を受ける覚悟は出来ていたが、ここまで自分の行動を遮るとは思っていなかった。 「魔王の旦那ー!何事も無く収まって良かったニャー!」 オトモが泣きながら魔王の足にしがみつく。どうやら、魔王の憂鬱はもう少し続きそうである。 「シルビアちゃん……押しが強いのね、アタシ、関心しちゃった。」 「……イイコト教えてあげるわ。旅芸人ってのはね、脇役なの。主役は笑顔になる人々なのよ。彼らの笑顔を守るためなら、アタシは何でもするわ。」 ウルノーガとの戦いでも、シルビアは脇役に徹していた。 16年前にユグノア王国を巡るウルノーガとの戦いが始まっていたイレブン、マルティナ、ロウ。 家族や友人が大なり小なり危害を受けたカミュ、セーニャ、グレイグ。 彼らと比べ、自分とウルノーガに直接的な宿命は無い。 ただ人々を笑顔にするという自分の心情と衝突するからウルノーガと対立しているに過ぎない。 だからこそ、シルビアはムードメーカーになれたのだ。 自分の宿命が軽いからこそ、感情的になることなくパーティーを支えられる。 そしてそれはここでも同じだ。 主役の座など彼らに譲ろう。 自分はただ、主役への危険因子を人知れず遠ざけるだけの脇役で構わない。 それが、旅芸人シルビアの生き方なのだから。 【B-1/一日目 黎明】 【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】 [状態]:健康 [装備]:青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7 [道具]:基本支給品、 基本行動方針:ハイラル城を目指す 1.サクラダを守る 2.ウルノーガを撃破する。 3.魔王を監視する ※魔王ウルノーガ撃破後、聖地ラムダで仲間と集まる前の参戦です。 【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】 [状態]:健康 [装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド [道具]:基本支給品 チェーンソー@FF7 余った薪の束×3 [思考・状況] 基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。 1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。 ※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。 【魔王@クロノ・トリガー】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー [思考・状況] 基本行動方針:優勝し、クロノを生き返らせる……つもりなのだが…… 1.グレン(カエル)も参加しているのか……? 2.シルビア……食えない男だ。 ※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。 ※クロノ・トリガーの他キャラの参戦を把握していません。クロノは元の世界で死んだままであるかもしれないと思っています。 【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】 [状態]:健康 [装備]: 七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み) [思考・状況] 基本行動方針:魔王に着いていく。 1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ? 2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。 ※人の話を聞かないタイプ 【支給品紹介】 【勇者バッジ@クロノ・トリガー】 グランドリオンのクリティカル率を上げるアクセサリー。元の世界でのカエルと魔王の一騎打ちの時も、カエルが装備していた。 【七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】 英傑ウルボザの使っていたナイフ。生前のウルボザはこのナイフと七宝の盾を用いて、まるで踊るように戦っていたと言われている。 Back← 048 →Next 046 Day of the future 時系列順 052 ささやかなふれあい 047 優しいだけじゃな守れないものがある 投下順 049 金と銀のカギ 019 幸せを呼ぶナカマ サクラダ 063 魔力と科学の真価 シルビア 020 魔王決戦、その果てに 魔王 オトモ
https://w.atwiki.jp/hyourirowa/pages/82.html
山奥の塔を後にし、エブラーナの忍者王子は草原を駆ける。 塔からまずはまっすぐ東へと走り、目の前に森が立ち塞がるが、躊躇なく入る。 夜の森とは、常人から見れば殺し合いの会場でなくとも入るのを拒否するほど恐れる場所だ。 だが、忍者である以上夜でも問題なく動けるし、むしろ障害物が多い場所の方が有利に動け、戦えるぐらいだ。 入ってからすぐに南下し、バロンを目指す。 そのまま特に誰とも会わず、もう少しで森を抜ける所で、音が聞こえてきた。 (ん?) 何かが森の中を木霊する。 耳をそばだててみると、それは爆音のようだった。 彼の仲間の中で、唯一このような音を立てることが出来そうなリディアは、ここにはいない。 だからと言って、あのような爆音が響いた場所を無視するなと言うのが無理だった。 もしも、あの場所で仲間が巻き込まれていたら。 また仲間ではなく、自分の宿敵にして、両親の仇であるルビカンテがあの音の原因と言う可能性もある。 来た道を引き返し、森を北上する。 やがて視界に、大きな木造の建物が入り込んできた。 そして、二人の男性の姿も。 片方はオレンジ色のバンダナに、黒を基調とした服装。 高貴な印象は受けず、どちらかと言うとアウトローなイメージが強いが、それでいて強者の風格が漂う。 もう片方は黄色い帽子にオレンジのベストが印象的な子供だということは分かるが、何を考えているかつかめない。 「動くな」 最初に声を発したのは2人の男性のうち、盗賊か海賊のような姿をした方だった。 それだけで、空気が一変し、殺気が辺りに漂う。 武器こそ持っていないが、この海賊の男は確かな実力を持っていることははっきりと伝わった。 「俺はあんたらの敵じゃねえよ。」 「悪いがつい先刻、女を殺してオレ達に襲い掛かってきた奴がいてな。 そう言われてはいそうですかと受け入れるのは無理ってものだ。」 ちっ、とエッジは舌打ちをする。 相手が信用してくれないだけではない。既に人が殺されているという事実を突き付けられたからだ。 勿論、彼自身もこれで相手の方を信用できるというわけではない。 この二人がその女を殺したのであり、その罪を誰かに擦り付けている可能性も拭い切れないからだ。 「そいつぁ残念だ。じゃあどうすりゃ俺のことを信用してもらえる?」 「そうだな。その支給品袋をこちらに渡せ。その後マスクと装束の裏を見せろ。 暗器の方も確かめたくてな。」 なかなかどうして、相手は警戒心がある奴だとエッジも感心する。 もし相手が敵だとするなら、合法的に自分に近づけるチャンスを作れるからだ。 「いいぜ……それなら、好きなだけ覗きな!!」 大きく振りかぶり、支給品袋を2人に投げつける。 しかし、海賊姿の男は彼の動作を見抜いて、それを強引に蹴とばした。 「ハヤト、下がれ!!」 男は少年に巻き込まれないようにと指示を出すとすぐに、猛然とエッジ目掛けて突進してきた。 しかもその右手には抜いたばかりのナイフを持っている。 カウンターをお見舞いしてやろうかとエッジは海賊男にハイキックを見舞うも、姿勢を低くして躱される。 懐に入り込まれるや否や、相手はナイフでエッジの足の付け根を串刺しにしてこようとする。 しかしエッジは自慢のスピードを生かし、海賊男のナイフを持っている腕の下から手刀で斬り上げる。 その方向から力を加えられるとは予期していなかったのか、ナイフは手から逃れ、遥か上空へと舞った。 これでナイフと言う相手の武器を奪い、俄然エッジは勢いづく。 そのまま身体を一回転させ、回し蹴りを命中させる。 蹴りを胸に入れたことで大きく海賊男を後退させる。 ところが、追撃に行く所、相手は予想外な行動に出た。 地面を強く蹴りつける。 エッジに当てるためにやったのではない。 視界を遮断する砂煙を巻き起こしたのだ。 だからどうしたとばかりに、エッジは砂煙の中に突撃する。 闇を友とする忍者は視界の利かない場所こそ、真価を発揮する。 「ならば……バギマ!!」 男が見知らぬ詠唱を始めたと思うと、突然砂煙の中で風が起こった。 エッジの頬を真空の刃が掠める。 彼の世界にとって、風の魔法とはかなり珍しい物だったので、一瞬驚くもすぐに対策を練る。 「そんな術なら俺にもあるぜ!火遁!!」 エッジが印を組むと、炎が迸り、竜巻とぶつかり合う。 炎こそはダメージを与える前に無くなるも、竜巻も消え、再び自由に動き回れるようになる。 すかさず男の顔面目掛けて蹴りを放つが、肘のガードで受け止められる。 だが、彼の攻撃はそれで終わりではない。 元々、彼は武器を2つ使った二段攻撃を主流としていた。 そして、相手が躱した方向目掛けて、先程相手が落としたナイフを突きつける。 敵が持っているアイテムを盗むのも、エッジの得意分野だ。 「忍者舐めるなよ!」 これにて勝利かと思えば、それは否。 急にエッジの足元が崩れ、ナイフは相手に届かない。 蹴りを放った直後に勝利を急いだこともあって、蹴りを放ってから体軸が不安定だったのか。 それもまた否。 「マストのねぐらで育った海賊を舐めるな。」 男は地面スレスレに足払いを兼ねた蹴りを放ち、意識していなかった足元を狙ったのだ。 そのままアッパーカットをエッジは食らいそうになるも、先程の意趣返しの様に、肘でガードする。 密着状態から離れるかのように、エッジはトントンと3度バック宙を繰り広げ、後ろへ退く。 そのままナイフを投げようかと考えたが、気が付くとナイフが無かった。 盗みに長けているのはエッジのみではない。 「返してもらったぞ。」 「てめえ!」 海賊になる上で培った技術は、盗みも含まれる。 (こいつ、中々出来るな) (この男、実にやりおる。) 空気がさらに張り詰める。 どちらもまだ本気を出していない。 そのまま互いににらみ合い、再度突進しようとした時――― その間に、少年が割り込んだ。 「「!!」」 両者互いに少年を危うく殺しそうになり、慌てて筋肉を凝縮させて足を止める。 「下がっていろと言った……」 「テメ……どういうつもり……」 「戦ったらダメだ!!」 その『凄み』は10行くか行かないかの少年には思えない。 むしろ、セシルにも劣らないほどの決意を感じた。 その黄金の精神に押され、2人は戦うのを止める。 「下がっていろと言ったのに……なぜ前に出た。」 「もしこの人が悪人なら、吉良みたいに僕を狙ってくるはずだ。でもそうじゃなかった。」 「よしよし、君はそっちのオジサンと違って、ちゃんと正義と悪の区別がついているんだな。エライエライ。」 「「「…………。」」」 エッジが茶化すように早人を褒めるが、何とも言えない空気が漂う。 しばらく3人共沈黙を貫いていたが、やがて張りつめていた空気が解れ、最初にエッジが口を開く。 「俺はエッジ。向こうの建物で爆音が聞こえたから来たんだが、何があったか説明してもらえるか?」 「良いだろう。最も信じるか信じないかは勝手だがな。」 ★ 「そのキラって奴は、召喚士か何かか?」 シャーク・アイと名乗った男から清浄寺での一件を聞き、思い出したのはこの場所にいない想い人のこと。 「分からん。この坊主の話だとスタンドというらしいが、召喚魔術の一種だろう。」 「やっぱりか。俺の仲間……この世界にはいねえんだが、似たような技を使える奴がいてな。 それと、キラはどの方向にいたのか分からねえのか?」 「分からん。まだ森を彷徨っているかもしれないし、どこか遠くへ逃げたのかもしれん。」 ここでエッジは一つ考える。 まだキラがこの森の中にいるならば、それは奴を追い詰めるチャンスだ。 どのような力の使い手なのか情報を得たし、何より召喚士のことはよく知っている。 加えて相手は自分のことを知らない以上、自分は不意打ちを加えるにはこの上なく適した人材だ。 しかし懸念すべきところは、自分には武器が無いということだった。 「もう一つ聞きてえことがあるんだが、余った武器って持ってるか?俺はあるんだが、重くてどうにも使えねえ。」 塔から降りた後、一度支給品を確認してみた。 しかし、支給された武器らしいものはマスターソードという、強そうに見えるが、余りにも重くて使えそうにない代物だけ。 普通の剣なのにどうしてもてないのかやはり刀なり手裏剣なり武器を持っておきたいところだ。 「残念だが俺の武器はこのナイフだけだ。ハヤトの武器は寺での戦いで壊れたしこちらが欲しいぐらいだな。」 加えて問題は、この殺し合いに乗ったであろう人間は、吉良だけではないはずだということだ。 エッジとしては、簡単に死んでしまう仲間ではないとは分かってこそいるが、早く仲間と再会したいし、1人でも多く危険人物は排除しておきたい。 この森の中で吉良を探そうとすると、それこそ他のマーダーを倒したり、仲間を探す時間まで浪費してしまいかねない。 2人は早人の仲間と再会できそうな杜王駅を目指しているという。 自分が目指しているバロン城の方向でもあるし、シャークや早人と共にそちらへ向かうのも悪くない。 少なくともこんな森の中をいつまでもうろつくよりかは、効率が良いはずだ。 「俺は南のバロン城って場所を目指しているんだが、その杜王駅までは同行させてもらうぜ。」 「いいのか。」 「ああ。」 こうして、海賊船長と忍者王子、そして黄金の精神を持つ少年の3人が、森の中を進むことになった。 (どっちにせよ、メリットもデメリットもあるよな……) 自分の判断がプラスになることを願いながら、先頭になって森を進む。 森を抜けるとすでに朝日が昇り始めていた。 その太陽は祝福をしているのか、絶望の光になり得るのか。 【C-3/森と草原の境目/ 早朝】 【エッジ@FINAL FANTASY IV】 [状態]:ダメージ(小) [装備]:なし [道具]:基本支給品、マスターソード@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品(0~2) [思考・状況] 基本行動方針:仲間を探す 1. まずはシャーク・アイ、川尻早人と共に杜王駅へ 2. それからバロン城に向かうか 3. 朝比奈覚、奇狼丸、ルビカンテに警戒 ※少なくともバブイルの巨人を攻略した後です。 ※、シャークと早人から吉良吉影のことを聞きました。また、吉良をリディアのような召喚士だと思っています。 ※エッジが使える武器は支給されていません 【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2(武器ではない) [思考・状況] 基本行動方針:シャーク・アイ、エッジと共に杜王駅へ向かう 1. スタンドが自分が見えることへの驚き ※本編終了後です ※名簿は確認しました。 【シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】 [状態]:ダメージ(小) MP消費(小) [装備]:鶴見川のナイフ@無能なナナ [道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2(武器ではない) [思考・状況]ミチルに対する罪悪感 基本行動方針:アルスを探す、その過程で危なっかしい人物を倒す。殺し合いに乗る気はないが、最悪殺害も辞さない。 1.早人、エッジと共に杜王駅へ向かう。 ※少なくとも4精霊復活後です ※少なくとも船乗り、盗賊、海賊の技は使えます。 [支給品紹介@マスターソード@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス] エッジに支給された剣。 単純に鋭い切れ味を持つだけではなく、特別な力を持ち、闇の力を払うことが出来るが、選ばれし者にしか持てない。 本作では原作で装備できたリンク以外に誰が装備できるかは不明。少なくともエッジには持てない。 Back← 047 →Next 046 「もしも」 時系列順 048 暴走と言う名の救い 投下順 017 ある忍者の葛藤 エッジ 059 死刑執行中脱獄進行中(前編) 041 パパは僕のパパじゃない 川尻早人 シャーク・アイ
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/615.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1330012485/431-437 「なあ、前から気になっていたんだが」 リビングで、足を組みながらファッション雑誌を見ている桐乃に対し、俺はそう切り出した。 今日は、両親共に家を留守しており、俺と桐乃の二人で留守番をしている。 無論、桐乃と二人で留守番なんて望んでいるわけでも無く、どこかに出かけても良かったんだが、残念ながら赤城も麻奈実も捕まらず、 別段何か買いたいものがある訳でもなし、家で留守番するという選択肢を選ばざるを得なかっただけだ。 目の前で、ファッション雑誌を真剣に吟味している桐乃もまた、同様だろう。黒猫や沙織、あやせとかが今日偶々皆忙しくて、仕方なしに家で留守番しているのだろう。 だから渋々、まるで仲の良い兄妹のように、二人で留守番をしているという訳だろう。 特に二人、会話をする訳でもなく、リビングで各々雑誌を読みふけっていたのだが、少し会話をしてやってもいいかという気分にもなったので、気になってた事を切り出したのが今だ。 「…………」 そして相も変わらず無視を決め込んでくれている妹様。ったく、会話もする気がないんだったらリビングじゃなくて自分の部屋に篭ってりゃいいのにな。俺の部屋と違って、 自分の部屋にエアコンあるんだからさ。俺は当然、扇風機を回しても生暖かい空気が循環しかしないサウナのような自分の部屋から逃げるという理由があってリビングに居るだけだがな。 「おまえって、本当に妹が好きなわけ?」 相手が無視していても、敢えて会話を続けてやる。確実に聞こえている筈なので、このセリフで間違いなく、食いつく事が分かっていたからだ。 「今更、何いってんの、あんた」 ほらな? 「なに、なになに、あたしの妹に対する講釈を聞きたいってワケ? 仕方ないな、特別に教えてあげる。いい? 妹はね――」 「すとーーーっぷ! 聞きたくねえから! つかまだ俺の話終わってねえからっ!」 俺が慌てて桐乃の話を止めると、明らかに不満気に眉を潜める。余程講釈をしたかったと見受けられる。だが、勘弁してくれ。前に無理やり講釈を聞かされて気付いたら 2時間以上経っていた俺からすれば、もううんざりだという感想しか持てない。 しかも桐乃に言わせれば、まだ導入編、序章しか話してなかったというんだから俺のうんざり感が分かるだろう? 「ちっ……なによ、言いなさいよ」 それだけで舌打ち。いらっと来るが、これでいちいち文句を言っていたら話が終わらないので、驚異的な自制心を発揮しながら、俺は本題を切り出した。 「前に、おまえが黒猫の妹に対し、色々と暴走してたのを見て思ったんだけどよ」 暴走なんてしてないし、と言いたげな桐乃の視線を感じたが、無視する。あれが暴走じゃなかったらおまえの真の暴走はどんだけなのかと想像するだけでも恐ろしい。あれで暴走だと思わせてくれ。 「別に、兄と妹、という組み合わせじゃなくても、姉と妹でも、そのなんだ、おまえにとって妹扱いになるわけだよな?」 「当然っしょ。妹は妹だし」 心の底から当たり前の事を言っているという表情で、桐乃が断言する。 「じゃあさ、沙織はどうなん?」 沙織も確かちゃんと姉が居た筈だ。つまり、彼女は妹という事になるよな。 「……あ、あー、沙織はその、別っしょ。その、知り合った時は妹だと思ってなかったし、それに未だにお姉さんに会った事無いし、なんて言うか妹だという実感が無いっていうか」 ふむ、なるほど。 「じゃあ、瀬奈は? あれは初めから赤城の妹だって認識はあったんじゃないのか?」 いつの間に仲良くなってたから具体的な経緯は知らないが、赤城の妹だって事は知っているよな。お兄ちゃん連呼してたりする事もあるし、実感は嫌という程沸くはずだ。 「せなちーは……その、友達だから?」 「じゃあ日向や珠希ちゃんは友達じゃないと?」 「そりゃその……友達、だけどさ」 良かったぜ。妹だから友達もクソもないとかそういう宣言をされたりしたらどうしようかと思ったぜ。逆にそれ、妹に対して失礼だからな。 「それとさ、俺が知らないだけかも知らないけど、ブリジットにもおまえ、その、萌えてたよな? あいつ、別に妹じゃないだろ」 「…………」 「この事から推測するに、おまえは妹キャラが好きなんじゃなくて、同性に対するロリコ」 「すとーーーーっぷ! それ以上続けんなっ! 何言っちゃってんの! あたしは、妹が好きなの、ただそれだけなんだから変な事考えんな!」 俺の言葉を遮り、凄い勢いで捲し立ててくる妹。いや、なんでこいつがこんなに怒ってるのかが分からないんだが、これは俺が鈍いからなのか、普通の人は分かんのか? つか自分の妹が「妹が好き」なんて事を考える方が余程変な事じゃねえか? 「…………なあ?」 「…………何よ?」 なんで顔を赤らめて顔を背けてるんだ、こいつは。何か恥ずかしがる要素が今の会話にあったのか? 「なんで、そこまで、妹が好き、という事に拘るんだ?」 「…………」 そこで黙りこんでしまう。まるで何か言い難い事があるような、それでそれが言えないようなそういう態度。前に何故妹が好きなのかと聞いた時は分からないと言っていたが、 今回はそもそも妹が好き以外の可能性が提示されている。それなのに、何故、妹が好きという選択肢に縋るのか。つか、自分より年上の妹とかが居ても本当にこいつは悶えるのだろうか。 まあ、エロゲーのヒロインは全員18歳以上だがな。 「……き、聞きたい?」 「いや、そこまで凄い聞きたい訳じゃないんだが」 なんでそんな恥ずかしがってる顔で、ちらっとこちらを見てるんだ、こいつは。 なに、なんのイベント始まってるの? 妹に「妹が好きな事に何故拘るのか」と聞いたらなんかイベントが始まるのが高坂京介の人生なのか? イベント発生条件複雑過ぎだろ。 「そ、そう」 あれ? いつもの桐乃ならここで俺の意見など聞かずに一気に捲し立てる筈なんだが。あっさりと引き下がったな。 ……こうあっさりと引き下がれるとなんだか、気になってくるよな。俺だけじゃないよな? 「……やっぱ聞かせてくれ」 別に妹が「妹が好きな事に何故拘るのか」が気になっている訳じゃないからな、マジで。 桐乃は背けていた顔をこちらに戻し、俺を真っ直ぐと見つめた。瞳が心なしか潤んでるように思える。それに顔も赤く見える。え、なに、なにがはじまんの? 俺の中の警鐘が、危険という悲鳴を上げている。嫌な汗が背中に滲んでいる。え、え、何、ちょっと完全に先行きが予想不能なだけに、どうすればいいのかすら分からない。 き、聞かねえ方がいいんかな。でも、聞くって決めたしな、今更こう引くのは……。 そんな俺の心境を知ってか知らずか、桐乃は俺をしっかりと見据えて、少しコクリと喉を鳴らして、徐ろに切り出した。 「……あたしが、――妹だから、よ」 「…………」 いや、そうだよな? 妹だよな? え、なに、実は妹じゃない設定だったのか? で、なんでこいつは言っちゃったみたいな顔してんの? ここで安易な台詞なんか不味い気がする。しかし、他に選択肢なんて無くないか? ゴクリ、し、仕方ない。頭に浮かんだ台詞をそのまま返すしかない。 「そ、そうか。確かにおまえは俺の妹だもんな。で、だから、妹が好きな事に拘りたい、んだな。そうか、わ、分かった」 全く分かってないが、このまま話を終わらせる事にする。なんか空気が危険だ。 「…………」 桐乃はこちらをじっと見つめている。潤んだ瞳に、俺の顔が写っている。頬が赤く、息づいかいも何だか艶かしい。ソファの端と端で座っていた俺と桐乃。だが、 桐乃が距離を詰めてきている事に気付く。二人の距離は、今、近付いていた。 不味い。何が不味いのかまるっきり分からないが、不味いという状況だけは分かる。この空気はぶち壊したいが、壊し方を誤ると、とんでもない事に成りうる。そういう危うさ。 か、考えろ高坂京介。ヒントは、妹が好きな事に拘るのは、桐乃が妹だから。 ん、待てよ? 何かに気付いた。そう、些細な違和感を感じる。待てよ。そうだ。 俺は、桐乃が妹ゲーをしていて、妹の可愛さを語っていて、その妹キャラと桐乃がまるで違っていて、自分で自分のダメ出しをしてんのか、 或いは妹という自覚が妹ゲーをしている時はないのだろうと考えていた。何故なら、自分が妹だという自覚をしていて、妹ゲーが出来るとも思えなかったからだ。俺が、 兄という自覚あって妹ゲーを攻略するのに精神的に疲れるのだから、ああやってゲームを楽しめるという事は、ゲームと現実を、2次元と3次元を別に考えていて――。 「な、何黙ってんのよ、な、なんか言いなさいよ」 思考に耽っていた俺を、黙りこんでると判断したのだろう。桐乃が、不安げに俺に話しかけてくる。待ってろ。今、頭がフル回転しておまえの事を分かろうとしてんだから。 2次元と3次元は違う。ゲームと現実は違う。だが、桐乃は現実でも妹が好きで、日向とか珠希に悶えていて。現実でも妹が好きで。ゲームで妹が好きだから、 現実の妹が好きになったのか? それとも現実の妹が好きで、いや、自身が妹だから、妹が好きで……待て、待て。 「自分が妹だという自覚があって、妹が好きで、妹ゲーに嵌って、そして、それを俺に――」 ――エロゲーは、俺と妹の愛の絆。 ――禁断の愛を集めていて。 ――全てが兄妹の恋愛を描いた作品。 可愛さを求めているのであれば、年下の女性が好きである、でも問題はない筈だ。 だが彼女は妹である事を求めた。年下の幼馴染が居る作品とかじゃ駄目だった。妹である事。つまり可愛さじゃなく、その設定にこそ重きをおいた。兄と妹が結ばれる関係。妹ゲーとは妹を攻略するゲーム。いや、 自身が妹の立場だと想定すると、妹が兄に攻略されるゲーム。それも、兄の選択肢を、自分が望む選択肢を答えさせる事が出来る。つまり、それは――。 「ば、馬鹿じゃん」 俺の思考が結論に向けて収束しつつあったのを止めたのは、桐乃の短い言葉だった。 「な、何か変な勘違いしてんじゃないの? べ、別に深い意味なんてないっての」 ――――。 その言葉を聞いた瞬間、全身からどっと汗が吹き出した。変な事を考えてしまっていた自身に対する羞恥だろうか。それか、緊張が溶けて安心した為か。決して、 何か残念の様なそういう気持ちは無い。だって、そんなの、気持ち悪いじゃねえか。そうだろう? 「だ、だよな? 悪い、悪い。ははっ、ふう、冷や汗かいたぜ」 「…………」 明らかに安心した態度の俺に、桐乃が何か複雑な表情を向けている。 「桐乃?」 その時の俺は完全に油断をしていた。桐乃が直ぐ近くに座っている事。潤んだ瞳。赤くなった顔。そういう全てが頭から完全に消えていた。 「やっぱ、嘘」 桐乃が俺の肩に手を掛ける。油断していた俺は、その動作に反応が出来なかった。そのままその手に体重を掛けられる。たかが女子中学生の、 しかもモデルをやるような細身の体重などとたかが知れていた。それでも、油断をしていたからだろうか、あっさりと押し切られる。 「え?」 ソファの肘掛けの部分に背を付けるような形になる。そのまま、体重を掛けられ続けたら、俺はソファから落ちてしまう。だから、自然ふんばろうとして顔を持ち上げる事になる。 そこには妹の顔。……避ける暇なんて無かった。 「……ん」「……!」 唇に感触。柔らかく、しっとりとした感触。蕩けるような甘美な感覚。だが精神を支配したのはそんな甘いモノでは無かった。 慌てて、桐乃の肩を押し戻す。そして言葉を続ける。 「わ、悪い! 避けられなくて、た、他意は無かった、すまん、本当に悪かった!」 俺の頭の中は真っ白だった。そこにあったのは罪悪感。妹のキスを奪ってしまったという行為。まるで自分に非はないのだが、 男と女ではキスの価値が違うだろう。俺にとってこれはファースト・キスになる訳だが、もし桐乃にとってもこれがファーストキスになるのであれば、 俺はとんでもない事をしてしまった。事故であったとして、まるで非がなかったとしても、妹のファーストキスを自分が奪ってしまったというその事実が、余りに重い罪悪感を生んだ。 殴られても、蹴られても、甘んじて受けてやろう。妹の気が済むまで、とそこまで覚悟をしていた。 「馬鹿じゃん」 俺の言葉を全て聞いた桐乃は、ただそうと呟いた。顔を伏せているので表情は見えない。今の桐乃の中では俺に対する怒りで渦巻いているのだろう。 「くっ……すまない」 俺は悪くない、被害者だ、と言っても良かった。だがそれは出来なかった。例え、それが理不尽であっても、兄としての自分の心が、 それを許さなかった。妹の始めてを兄が奪うだって? このクソ野郎が、死に晒せ、と俺の兄の部分が全力で俺を罵倒する。 そんな俺を、 「馬鹿! 本当にあんたは馬鹿! 馬鹿、馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! いっぺん死んだらどうなの! 分かってない、どうせあたしが怒っている理由だって分かってない、それがムカツクの! あたしの気持ちを、勝手に決めんな! 分かる? あたしが怒ってんのは、悲しいから! 悲しいから怒ってんの……!」 桐乃は、涙を流しながら罵倒する。 悲しい、から? 俺にファースト・キスを奪われて? 「やっぱり、分かってない! 兄妹だから分かる、あんたが何を考えてるのか、今ははっきり分かる! でもね、それがあたしを傷つけるの! 分かんないの? なんで分かってくれないの? あんたが分かってくれるなら、それで、全てを許せるのにっ!」 言葉の本気さが、ひしひしと伝わってくる。どれも掛け値なしの本音で、想いだった。 でも俺には分からない。桐乃が何を言っているのか分からない。いや、分かろうと、してないのか。 「あんたが……、あんたさえ……っ!」 俺は桐乃を抱き寄せた。 「……!」 そして、出来る限り優しい声で、俺は伝えた。 「悪い、……悪い。分からねえ。確かに、おまえがなんで泣いているのか。きっと俺は全然分かっちゃいない。 でも、駄目なんだ。嫌なんだ、おまえが泣いているのか。だから、ほら、泣き止んでくれ」 頭を撫でてやる。小さな頃、よくこうやって妹を泣き止ませた。その事をふと思い出す。 「……死ね。ホント、あんたはなんで、……こうなの?」 言葉は刺々しい。しかし、態度として嫌がる素振りを見せなくて。俺の胸に顔を押し付けながら、桐乃は大人しく頭を撫でられていた。 「本当にな……。どうして、俺達は、こうなんだろうな」 すれ違っているような、そういう感覚。もしかすると俺のこういう行動さえ、妹にとっては酷い行いなのかも知れない。けど、俺はこうするしか出来ない。 でもさ、信じてくれよ。俺は決して、おまえを傷つけたい訳じゃない。 おまえが、大事なんだよ。 そういう想いを込めて、優しく、妹の綺麗な髪を撫でてやる。 「……フン、今は……別にいい」 想いが通じたのか、桐乃の言葉から刺々しさがなくなったように思える。 「今は、あんたの妹で居てあげる。でもね、いつまでも続くと思わないでよね」 それは、いつかの別れを示唆しているのか、それとも。 まあ、いい。今、この時間が俺は嫌いじゃない。 だから、暫くてもいい。俺を、おまえの兄で居させてくれ。 いつか、その関係が終わってしまうその時までは。
https://w.atwiki.jp/abobo/pages/175.html
18話 フェイの葛藤、VSスペイン
https://w.atwiki.jp/kisaragi-koui/pages/22.html
「なあ、前から気になっていたんだが」 リビングで、足を組みながらファッション雑誌を見ている桐乃に対し、俺はそう切り出した。 今日は、両親共に家を留守しており、俺と桐乃の二人で留守番をしている。 無論、俺が桐乃と二人で留守番なんて望んでいる筈もない。 本当は何か予定を作ろうと麻奈実や赤城を誘ったりしたのだが、双方ともに予定が合わなかった。 それに特に何か買いたいものがあるという訳でもなく、一人であてもなくぶらぶらするのも気分じゃない。 そんな訳で俺は仕方なくこの家の留守番をしているという訳だ。 目の前で、ファッション雑誌を真剣に吟味している桐乃もまた、同様だろう。 黒猫や沙織、あやせとかが、今日たまたま皆忙しくて、仕方なしに家で留守番しているのだろう。 こいつもまた、俺の事が嫌いなのだから。 だから俺たちは渋々ながらも、まるで仲の良い兄妹のように、二人で留守番をしているという訳だ。 と言っても実際に仲の良い兄弟という訳ではない。 その証拠に、各々が同じ空間に居ながらも一切の会話がなくそれぞれ、別々の事をしていた。 そんな空気にうんざりしてきたからだろうか。 何か話してもいいかという気分になり、かねてから疑問に思っていた事を聞き出す事にした、というのが今だ。 「…………」 そして相も変わらず無視を決め込んでくれている妹様。 ったく、会話もする気がないんだったらリビングじゃなくて自分の部屋に篭ってりゃいいのにな。 俺の部屋と違って、自分の部屋にエアコンあるんだからさ。 俺は当然、扇風機を回しても生暖かい空気が循環しかしないサウナのような自分の部屋から逃げるという理由があってリビングに居るだけだがな。 「おまえって、本当に妹が好きなわけ?」 相手が無視していても、敢えて会話を続けてやる。 確実に聞こえている筈なので、このセリフで間違いなく、食いつく事が分かっていたからだ。 「今更、何いってんの、あんた」 ほらな? 「なに、なになに、あたしの妹に対する講釈を聞きたいってワケ? 仕方ないな、特別に教えてあげる。いい? 妹はね――」 「すとーーーっぷ! 聞きたくねえから! つかまだ俺の話終わってねえからっ!」 俺が慌てて桐乃の話を止めると、明らかに不満気に眉を潜める。 余程講釈をしたかったと見受けられる。 だが、勘弁してくれ。 前に無理やり講釈を聞かされて気付いたら2時間以上経っていた俺からすれば、もううんざりだという感想しか持てない。 しかも桐乃に言わせれば、まだ導入編、序章しか話してなかったというんだから俺のうんざり感が分かるだろう? 「ちっ……なによ、言いなさいよ」 それだけで舌打ち。 いらっと来るが、これでいちいち文句を言っていたら話が終わらないので、驚異的な自制心を発揮しながら、俺は本題を切り出した。 「前に、おまえが黒猫の妹に対し、色々と暴走してたのを見て思ったんだけどよ」 暴走なんてしてないし、と言いたげな桐乃の視線を感じたが、無視する。 あれが暴走じゃなかったらおまえの真の暴走はどんだけなのかと想像するだけでも恐ろしい。 あれで暴走だと思わせてくれ。 「別に、兄と妹、という組み合わせじゃなくても、姉と妹でも、そのなんだ、おまえにとって妹扱いになるわけだよな?」 「当然っしょ。妹は妹だし」 心の底から当たり前の事を言っているという表情で、桐乃が断言する。 「じゃあさ、沙織はどうなん?」 沙織も確かちゃんと姉が居た筈だ。つまり、彼女は妹という事になるよな。 「……あ、あー、沙織はその、別っしょ。その、知り合った時は妹だと思ってなかったし、それに未だにお姉さんに会った事無いし、なんて言うか妹だという実感が無いっていうか」 ふむ、なるほど。 「じゃあ、瀬奈は? あれは初めから赤城の妹だって認識はあったんじゃないのか?」 いつの間に仲良くなってたから具体的な経緯は知らないが、赤城の妹だって事は知っているよな。 お兄ちゃん連呼してたりする事もあるし、実感は嫌という程沸くはずだ。 「せなちーは……その、友達だから?」 「じゃあ日向や珠希ちゃんは友達じゃないと?」 「そりゃその……友達、だけどさ」 良かったぜ。妹だから友達もクソもないとかそういう宣言をされたりしたらどうしようかと思ったぜ。逆にそれ、妹に対して失礼だからな。 「それとさ、俺が知らないだけかも知らないけど、ブリジットにもおまえ、その、萌えてたよな? あいつ、別に妹じゃないだろ」 「…………」 「この事から推測するに、おまえは妹キャラが好きなんじゃなくて、同性に対するロリコ」 「すとーーーーっぷ! それ以上続けんなっ! 何言っちゃってんの! あたしは、妹が好きなの、ただそれだけなんだから変な事考えんな!」 俺の言葉を遮り、凄い勢いで捲し立ててくる妹。いや、なんでこいつがこんなに怒ってるのかが分からないんだが、これは俺が鈍いからなのか、普通の人は分かんのか? つか自分の妹が「妹が好き」なんて事を考える方が余程変な事じゃねえか? 「…………なあ?」 「…………何よ?」 なんで顔を赤らめて顔を背けてるんだ、こいつは。何か恥ずかしがる要素が今の会話にあったのか? 「なんで、そこまで、妹が好き、という事に拘るんだ?」 「…………」 そこで黙りこんでしまう。 まるで何か言い難い事があるような、それでそれが言えないようなそういう態度。 前に何故妹が好きなのかと聞いた時は分からないと言っていたが、今回はそもそも妹が好き以外の可能性が提示されている。 それなのに、何故、妹が好きという選択肢に縋るのか。 つか、自分より年上の妹とかが居ても本当にこいつは悶えるのだろうか。 まあ、エロゲーのヒロインは全員18歳以上だがな。 「……き、聞きたい?」 「いや、そこまで凄い聞きたい訳じゃないんだが」 なんでそんな恥ずかしがってる顔で、ちらっとこちらを見てるんだ、こいつは。 なに、なんのイベント始まってるの? 妹に「妹が好きな事に何故拘るのか」と聞いたらなんかイベントが始まるのが高坂京介の人生なのか? イベント発生条件複雑過ぎだろ。 「そ、そう」 あれ? いつもの桐乃ならここで俺の意見など聞かずに一気に捲し立てる筈なんだが。 あっさりと引き下がったな。 ……こうあっさりと引き下がれるとなんだか、気になってくるよな。俺だけじゃないよな? 「……やっぱ聞かせてくれ」 別に妹が「妹が好きな事に何故拘るのか」が気になっている訳じゃないからな、マジで。 桐乃は背けていた顔をこちらに戻し、俺を真っ直ぐと見つめた。瞳が心なしか潤んでるように思える。 それに顔も赤く見える。 え、なに、なにがはじまんの? 俺の中の警鐘が、危険という悲鳴を上げている。嫌な汗が背中に滲んでいる。 え、え、何、ちょっと完全に先行きが予想不能なだけに、どうすればいいのかすら分からない。 き、聞かねえ方がいいんかな。でも、聞くって決めたしな、今更こう引くのは……。 そんな俺の心境を知ってか知らずか、桐乃は俺をしっかりと見据えて、少しコクリと喉を鳴らして、徐ろに切り出した。 「……あたしが、――妹だから、よ」 「…………」 いや、そうだよな? 妹だよな? え、なに、実は妹じゃない設定だったのか? で、なんでこいつは言っちゃったみたいな顔してんの? ここで安易な台詞なんか不味い気がする。しかし、他に選択肢なんて無くないか? ゴクリ、し、仕方ない。頭に浮かんだ台詞をそのまま返すしかない。 「そ、そうか。確かにおまえは俺の妹だもんな。で、だから、妹が好きな事に拘りたい、んだな。そうか、わ、分かった」 全く分かってないが、このまま話を終わらせる事にする。なんか空気が危険だ。 「…………」 桐乃はこちらをじっと見つめている。潤んだ瞳に、俺の顔が写っている。 頬が赤く、息づいかいも何だか艶かしい。ソファの端と端で座っていた俺と桐乃。 だが、桐乃が距離を詰めてきている事に気付く。二人の距離は、今、近付いていた。 不味い。何が不味いのかまるっきり分からないが、不味いという状況だけは分かる。 この空気はぶち壊したいが、壊し方を誤ると、とんでもない事に成りうる。そういう危うさ。 か、考えろ高坂京介。ヒントは、妹が好きな事に拘るのは、桐乃が妹だから。 ん、待てよ? 何かに気付いた。そう、些細な違和感を感じる。待てよ。そうだ。 俺は、桐乃が妹ゲーをしていて、妹の可愛さを語っていて、その妹キャラと桐乃がまるで違っていて、自分で自分のダメ出しをしてんのか、或いは妹という自覚が妹ゲーをしている時はないのだろうと考えていた。 何故なら、自分が妹だという自覚をしていて、妹ゲーが出来るとも思えなかったからだ。 俺が、兄という自覚あって妹ゲーを攻略するのに精神的に疲れるのだから、ああやってゲームを楽しめるという事は、ゲームと現実を、2次元と3次元を別に考えていて――。 「な、何黙ってんのよ、な、なんか言いなさいよ」 思考に耽っていた俺を、黙りこんでると判断したのだろう。 桐乃が、不安げに俺に話しかけてくる。 待ってろ。今、頭がフル回転しておまえの事を分かろうとしてんだから。 2次元と3次元は違う。ゲームと現実は違う。だが、桐乃は現実でも妹が好きで、日向とか珠希に悶えていて。現実でも妹が好きで。ゲームで妹が好きだから、現実の妹が好きになったのか? それとも現実の妹が好きで、いや、自身が妹だから、妹が好きで……待て、待て。 「自分が妹だという自覚があって、妹が好きで、妹ゲーに嵌って、そして、それを俺に――」 ――エロゲーは、俺と妹の愛の絆。 ――禁断の愛を集めていて。 ――全てが兄妹の恋愛を描いた作品。 可愛さを求めているのであれば、年下の女性が好きである、でも問題はない筈だ。 だが彼女は妹である事を求めた。年下の幼馴染が居る作品とかじゃ駄目だった。妹である事。つまり可愛さじゃなく、その設定にこそ重きをおいた。兄と妹が結ばれる関係。妹ゲーとは妹を攻略するゲーム。いや、自身が妹の立場だと想定すると、妹が兄に攻略されるゲーム。それも、兄の選択肢を、自分が望む選択肢を答えさせる事が出来る。つまり、それは――。 「ば、馬鹿じゃん」 俺の思考が結論に向けて収束しつつあったのを止めたのは、桐乃の短い言葉だった。 「な、何か変な勘違いしてんじゃないの? べ、別に深い意味なんてないっての」 ――――。 その言葉を聞いた瞬間、全身からどっと汗が吹き出した。 変な事を考えてしまっていた自身に対する羞恥だろうか。 それか、緊張が溶けて安心した為か。 決して、何か残念の様なそういう気持ちは無い。 だって、そんなの、気持ち悪いじゃねえか。そうだろう? 「だ、だよな? 悪い、悪い。ははっ、ふう、冷や汗かいたぜ」 「…………」 明らかに安心した態度の俺に、桐乃が何か複雑な表情を向けている。 「桐乃?」 その時の俺は完全に油断をしていた。 桐乃が直ぐ近くに座っている事。 潤んだ瞳。赤くなった顔。そういう全てが頭から完全に消えていた。 「やっぱ、嘘」 桐乃が俺の肩に手を掛ける。 油断していた俺は、その動作に反応が出来なかった。 そのままその手に体重を掛けられる。 女子中学生の、しかもモデルをやるような細身の体重などと知れていた。 それでも、油断をしていたからだろうか、あっさりと押し切られる。 「え?」 ソファの肘掛けの部分に背を付けるような形になる。 そのまま、体重を掛けられ続けたら、俺はソファから落ちてしまう。 だから、自然ふんばろうとして顔を持ち上げる事になる。 そこには妹の顔。……避ける暇なんて無かった。 「……ん」「……!」 唇に感触。柔らかく、しっとりとした感触。蕩けるような甘美な感覚。 だが精神を支配したのはそんな甘いモノでは無かった。 慌てて、桐乃の肩を押し戻す。そして言葉を続ける。 「わ、悪い! 避けられなくて、た、他意は無かった、すまん、本当に悪かった!」 俺の頭の中は真っ白だった。そこにあったのは罪悪感。 妹のキスを奪ってしまったという行為。 まるで自分に非はないのだが、男と女ではキスの価値が違うだろう。 俺にとってこれはファースト・キスになる訳だが、もし桐乃にとってもこれがファーストキスになるのであれば、俺はとんでもない事をしてしまった。 事故であったとして、まるで非がなかったとしても、妹のファーストキスを自分が奪ってしまったというその事実が、余りに重い罪悪感を生んだ。 殴られても、蹴られても、甘んじて受けてやろう。妹の気が済むまで、とそこまで覚悟をしていた。 「馬鹿じゃん」 俺の言葉を全て聞いた桐乃は、ただそうと呟いた。 顔を伏せているので表情は見えない。 今の桐乃の中では俺に対する怒りで渦巻いているのだろう。 「くっ……すまない」 俺は悪くない、被害者だ、と言っても良かった。だがそれは出来なかった。 例え、それが理不尽であっても、兄としての自分の心が、それを許さなかった。 妹の始めてを兄が奪うだって? このクソ野郎が、死に晒せ、と俺の兄の部分が全力で俺を罵倒する。 そんな俺を、 「馬鹿! 本当にあんたは馬鹿! 馬鹿、馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! いっぺん死んだらどうなの! 分かってない、どうせあたしが怒っている理由だって分かってない、それがムカツクの! あたしの気持ちを、勝手に決めんな! 分かる? あたしが怒ってんのは、悲しいから! 悲しいから怒ってんの……!」 桐乃は、涙を流しながら罵倒する。 悲しい、から? 俺にファースト・キスを奪われて? 「やっぱり、分かってない! 兄妹だから分かる、あんたが何を考えてるのか、今ははっきり分かる! でもね、それがあたしを傷つけるの! 分かんないの? なんで分かってくれないの? あんたが分かってくれるなら、それで、全てを許せるのにっ!」 言葉の本気さが、ひしひしと伝わってくる。 どれも掛け値なしの本音で、想いだった。 でも俺には分からない。桐乃が何を言っているのか分からない。 いや、分かろうと、してないのか。 「あんたが……、あんたさえ……っ!」 俺は桐乃を抱き寄せた。 「……!」 そして、出来る限り優しい声で、俺は伝えた。 「悪い、……悪い。分からねえ。確かに、おまえがなんで泣いているのか。きっと俺は全然分かっちゃいない。でも、駄目なんだ。嫌なんだ、おまえが泣いているのか。だから、ほら、泣き止んでくれ」 頭を撫でてやる。小さな頃、よくこうやって妹を泣き止ませた。その事をふと思い出す。 「……死ね。ホント、あんたはなんで、……こうなの?」 言葉は刺々しい。しかし、態度として嫌がる素振りを見せなくて。俺の胸に顔を押し付けながら、桐乃は大人しく頭を撫でられていた。 「本当にな……。どうして、俺達は、こうなんだろうな」 すれ違っているような、そういう感覚。 もしかすると俺のこういう行動さえ、妹にとっては酷い行いなのかも知れない。 けど、俺はこうするしか出来ない。 でもさ、信じてくれよ。俺は決して、おまえを傷つけたい訳じゃない。 おまえが、大事なんだよ。 そういう想いを込めて、優しく、妹の綺麗な髪を撫でてやる。 「……フン、今は……別にいい」 想いが通じたのか、桐乃の言葉から刺々しさがなくなったように思える。 「今は、あんたの妹で居てあげる。でもね、いつまでも続くと思わないでよね」 それは、いつかの別れを示唆しているのか、それとも。 まあ、いい。今、この時間が俺は嫌いじゃない。 だから、暫くてもいい。俺を、おまえの兄で居させてくれ。 いつか、その関係が終わってしまうその時までは。
https://w.atwiki.jp/risouotome/pages/137.html
359 :名無しって呼んでいいか?[sage]:2010/04/12(月) 20 59 15 ID ??? 憧れと妬みの間で葛藤する乙女ゲーがやりたい 学園もの社会人ものかどっちでもいいけどとりあえず現代舞台で 攻略対象は 有能かつ人当たりも良く、いい人らしさが内面からにじみ出ている先輩 →いい人過ぎて自分のコンプレックスが浮き彫りになり気後れする 挫折なくエリートコースをひた走ってきたちょっと鼻につく同学年(同期) →できないことを理解してもらえず苛々する 礼儀正しくよく気が付く頼りになる後輩 →年下なのに自分よりよっぽど頼りになるという嫉妬と焦り 他に ドジを踏みがちだが愛嬌があり周りから許容される可愛い友達 →学業(仕事)面での優越感と人間関係においての劣等感 とかがいて、恋愛にせよ友情にせよ、互いに補い合い理解しあって絆を深めるゲームがしたい 逆にBADEDだと対立したり極端な行為に及んでしまうともっといい 糖度はほとんどなさそうだけど
https://w.atwiki.jp/aaarowa/pages/397.html
第100話 マッハ中年の葛藤 …チリンチリン ロキは夕日をその背に受けて軽快に舗装された道を走っていた。 昼に遭遇したサメ男以来誰とも遭遇することもなく、それはそれは順調なサイクリングだった。 この自転車(彼はこの自転車をスレイプニールと名付けていた)を駆って早10時間以上。 ロキは自身の運動能力を最大限に生かしいくつか自転車にまつわる特殊な走法をマスターした。 初めはバランスをとって走ることすら間々ならなかった彼だが、 今となってはハンドルから両手を放し体のバランスだけで自転車を走らす事も可能としていた。 ハンドルから放したその両手には沖木島の地図が広げられている。 (ここは大体D-2の辺りかそろそろ他の首輪実験もしたいところだな。…ん?) ロキは眼前に割りと急なカーブを見つけた。 (あれを試してみるか…) 少し前に走った急な坂道で、彼は左ブレーキだけをかけた時に自転車の勢いで後輪が滑ってしまった。 だが、ロキはそのおかげで90度近いカーブを華麗に曲がることができたのだ。 彼はカーブを目の前にして地図をデイパックの中にしまいハンドルを掴むと、自転車のスピードを落とすことなく逆に加速させた。 そしてカーブの入り口に差し掛かった直後 (ここだ!!) 両の眼を見開き、ロキは左ハンドルのブレーキのみを作動させた。 ズザザーーーッ 後輪が滑り、舗装された道によって削られたゴムタイヤが黒いアスファルトの上に尚黒い軌跡を残す。 傾きがきつくなった自転車を無理やり起こしバランスを整える。 転倒しそうになっていた自転車を見事起こして、何事もなかったようにカーブを抜けた道を走らせた。 (成功だ!) …チリンチリン 高難度の走法を成功させた祝福の鐘として、ハンドルに備え付けてあるベルを鳴らす。 (なんと心地の良い鈴の音だろうか。やはりこの乗り物は格別だな) ちらりと時計を確認すると、まもなく18時を迎えようとしていた。 …チリンチリン もう一度鈴の音を鳴らすと彼はいったん第二放送に備えるべく自転車から降りた。 (さて…この6時間で何人死んだのかな?) (確か鈴の音が聞こえてきたのはこの辺りの筈だが…) 舗装されている道から少し外れた位置にある高木の影に身を潜めるエルネスト。 そこならば舗装された道からは死角になる、その上その人物を100m以上監視できるはずだ。 …チリンチリン (近いな…、だがおかしい。さっき聞こえた位置と比べるとはるかに近い。この音を出している者は徒歩ではないのか?) ズザザーーーッ 鈴の音とは異なる音とともにそいつは視界に現れた。 曲がり角をドリフト走行して飛び出す自転車。 そしてその自転車の運転席には褐色の肌をした青年が跨っていた。 普通の人間だったらその光景を目の当たりにしたら、 『なんでいい年した兄ちゃんが華麗にママチャリでドリフトかましていい顔してんだ?』となっていただろう。 だがエルネストは違っていた。 彼の中に宿った野生の勘とも言える第六勘が『あいつはやばい!逃げろ!』と告げていた。 もちろんその勘は『あの青年は痛い奴だ。係わり合いになる前に逃げろ』といった類のものではなく、 純粋にとてつもない戦闘能力を秘めた化け物だと彼を認識しての警告だ。 確かにこの勘は外れることも間々ある。 だが、数多の未開惑星の遺跡を探索し、今もまだ無事に生きていられているのはその勘のおかげであると言っても過言ではない。 しかし、エルネストはそれでもこの青年を判断しかねていた。 なぜなら鈴を鳴らして自分の位置を周囲に知らしめる行為は殺し合いに乗った人間にとって何一つメリットが無いからだ。 他の殺し合いに乗った人間をおびき寄せてしまったり、狩りやすい弱者などからは警戒されてやり過ごされるのがオチだ。 では、鈴を鳴らして移動しているあの青年の真意は何なのだろうか? ここでエルネストはこの青年は殺し合いに乗ってないとして仮説を立てた。 (もし彼に俺の勘通りの実力が備わっていた場合、鈴の音におびき出される殺し合いに乗った者を返り討ちに出来るだろう。 そして、その鈴の音を頼りに彼に接触を図るであろうタイプが他にもうひとつ。 今の俺の様に接触する人間を分析した上で行動を起こすタイプだ。 つまり彼は協力しあえる人物と接触する為、敢えてこの様な行動をしているのではないだろうか?) 確かに推察の域を出てはいないが、まだ殺し合いに乗っているより乗っていないと考える方が彼の行動に説明がつく。 (一先ず他の二人の事は隠しておいて彼に接触してみるか…) 決断を下し、身を隠していた木陰から出た矢先、その青年は時計を一瞥すると自転車から降りた。 どうやら彼は第二回目の放送に備えるつもりらしい。 (そういえばもうそろそろ放送の時間だったな。彼との接触は放送の後でもいいだろう) エルネストはそう判断すると再び木の陰に隠れて、褐色青年の監視に注力した。 メモとペンを執りながらロキは自分に注がれる僅かばかりの視線を感じ取った。 (誰かに見られているな…。まったくさっきの放送の時といいどうしてこのタイミングで仕掛けてくるような真似をする輩が多いのか? まぁ、いいか。さっきのサメ男の時みたいに隙を晒して釣ってやるか…) 見上げると第一の放送の時と同様に空が急に暗転した。 それと同時にこの催しの主催者たるルシファーの声がどこからともなく聞こえてきた。 「フフン…、こんばんは諸君…」 (さて、さっきみたいに誰か知り合いが呼ばれた辺りで動揺して見せるか…) 一人また一人と殺された者達の名呼ばれる中、3番目にレナスがエインフェリアとして勧誘したメルティーナの名があった。 確か彼女は珍しいことにヴァルハラ行きを頑なに拒み続けている人物だった。 (面識など無いが、他に知った名前が呼ばれるかわからんし頃合いだな) 「なっ…、メルティーナがっ?そんな!?」 (さぁ、今の俺は隙だらけだぞ。来るならさっさと仕掛けて来い) だが、一向に監視をしている人間が仕掛けてくる様子が無い。 (しまった。少しばかりわざとらし過ぎたか) 名前が呼ばれ続ける中どうしたものかと考えていたロキだったが異変が起きた。 死亡者の名前が最後まで読まれた直後、今まで居場所を察することが出来なかった監視者の気配を感じることが出来たのだ。 (へぇ、あんな所から俺を見張ってたってわけか。 今までうまいこと気配を隠してたってのにばらしちゃって…。差し詰め誰か大事な人でも呼ばれたってところかな) 再び愛車(スレイプニール)に跨ると気配がした方向を進路にとりペダルを漕ぎ始めた。 (オペラが…死んだ…?) 無情にも知らされた愛する女性の死。 その事実を突きつけられエルネストの思考と視界は一瞬真っ白になった。 ここで今自分が何をしていたのかさえ忘れてしまっていた。そう気配を隠すことさえも。 (オペラ…くそっ!誰だ?誰があいつを…。なんで…傍にいてやることが出来なかったんだ…畜生!) 今彼の思考を支配しているのは顔も知らないオペラを殺した相手への憎しみのみ。 そんな負の感情で満たされていた彼の頭の片隅からなにかが警告した。 すぐさま頭の中を切り替える。確かにオペラの死は辛いが、今は他にも成すべき事があるのだ。 咄嗟に顔を上げると残り数十mまで迫っている褐色の青年の姿が目に入る。 逃げようかとも思ったが、相手が自転車に乗っている以上逃げ切るのは困難だと判断し、クラースから借りていた大剣を構える。 「やぁ、さっきから俺をジロジロと見ていたのはあんただね?」 不敵な笑みを浮かべて青年が声をかけてきた。 こちらが武器を構えているというのに、素手のままこちらに歩み寄ってくる。 やはり殺し合いには乗っていないのかとも思ったが、俺の勘は依然と『逃げろ』と告げている。 額からは冷や汗が浮かび、背筋も氷かなにかを突っ込まれたようにゾッとしっぱなしだ。 「オイオイ、そんなに警戒することも無いじゃないか。こっちは見てのとおり素手だし、あんたを襲う気なんてないよ」 笑顔でそのように言い放つ彼は一見無害な好青年に見える。 (やはり俺の勘が外れているのか? とりあえずこいつの出方を待つか) 「そうか済まなかったな。少し前にとんでもなく強い奴と出くわしてな。どうも疑心暗鬼に駆られていたらしい」 一先ず剣を降ろし敵意が無いことを示した。 「そうかい? それは災難だったね…。ところで俺は信用してもらえたと考えていいのかな?」 「あ、あぁ…」 (俺の思い過ごしだった様だな…。とりあえず二人の所に戻って情報交換だな) 「実は同行者がいるんだ。俺達はここからの脱出を目指している。 だが正直戦力的にはまだ心許なくてな。協力してくれると助かるのだが…」 「協力か…。あんた達が掴んでる情報次第かな? まぁ、善処はするよ」 人懐っこい笑みを返してきた青年を伴いエルネストはフェイトたちが待つ方向へと歩いていった。 「どういうことだ?」 第二回目の放送を聴き終えるや否や開口一番ミカエルはこう呟いた。 少し前に殺した茶髪野郎の名前が今の放送で呼ばれていないのだ。 交戦直後確かにあの男はルシオと呼ばれていたはずだったのだが…。 参加者名簿を改めて確認すると当然のようにその名前があった。 「つまり、仕留め損なったってことかよ?オイ!」 先ほどまで彼の中を満たしていた満足感が見る見る消えていき、代わりにグラグラと煮えたぎったイライラ感が募ってきた。 近場にあった電柱に一発鉄拳を食らわしへし折る。 当然この程度で彼の腹の虫が納まるわけではないが沸騰しかかった頭で現状を整理する。 (クソッ、あの野郎に一杯食わされたってわけか…。しかしどうすっかね? 昼前からここでずっと獲物を探しているわけだが見つけた獲物は二組だけ。 そのどちらからも逃げられたって事か。あぁぁぁぁっ! クソッ。ここでの狩りは止めだ。 さっきの奴らもここに留まっている可能性が高いわけでもない。次の狩場に行くか) ミカエルは目的地を選定するために、デイパックから地図を取り出した。 (さて、ここからだと氷川村も鎌石村も距離的には大差ないわけだが…。 どっちの方が獲物が多いか…。おおっと、そういやまだ禁止エリアを書き込んでなかったな) 地図とにらめっこしながら、ペンで禁止エリアとなる位置に×マークと時間を書き足していく。 そうして完成した地図を見てミカエルは閃いた。 鎌石村がC-5とD-4の禁止エリアでまるで袋小路の様になっているのだ。 (てぇことはだ。鎌石村から出て行く奴はC-3の南か西から延びている道を使う可能性が高いわけだ。 ついでに鎌石村で出くわした獲物の北側は海で、東側と南側は禁止エリアで封鎖されている。 こいつは絶好の場所だぜ。ここからだと北に続く道を使うのが一番近いな) いそいそと地図をデイパックの中にしまうとミカエルは平瀬村を後にした。 【F-2/夜(放送直後)】 【ミカエル】[MP残量:30%] [状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)、軽い疲労、] [装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)] [道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式] [行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利] [思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す] [思考2:狩場を鎌石村に変更] [思考3:使える防具が欲しい] [現在位置:F-2南東部、平瀬村] [備考] デコッパゲ(チェスター)は死んだと思っています。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 放送終了後まもなくエルネストは見知らぬ青年を連れて戻ってきた。 こうして連れて来るのだから危険は無いのだろう。 同行者が増えること自体は悪くない。 ミカエルのような奴に襲われても私の生存率が上がるからだ。 私の目標は生きて元の世界に帰ることだ。 フェイトやエルネストと共にルシファーを倒して帰ろうが、最後の一人になって帰ろうがどちらでも構わない。 そう、手段は問わない。最終的に私が生きていればそれでいいのだ。 だから私はこの青年を歓迎しようとした。しかし突如として私の頭の中に声が聞こえてきた。 その声は私が契約した精霊達のリーダー格オリジンのものだった。 (おい、クラース。こいつはまずい。関らない方が良い) (何を言い出すんだいきなり。見た所ただの好青年じゃないか。何の問題があるのだ?) (人間である貴様では感ずることが出来ないのだろうが、あいつは神族だ。 確かに今は能力の制限とやらで抑えられてはいるが、本来ならばダオスクラスの能力を有していてもおかしくない相手だ) (ダオス並みの人物がいることは先のミカエルで確認済みだ。いまさら驚く事ではない。 それに彼は殺し合いに乗ってはおらず、私達と情報交換をしたいと言ってきているだけだ。 まぁ、警戒するに越したことはないが…) 「おいっ、聞いているのかクラース」 オリジンとの会話に意識を割きすぎたからか、自分に話を振られていたのに気づかなかったらしい。 「すまん、まだちょっと疲れているみたいだ。もう一回頼む」 声の主エルネストの方に向き直り内容を聞き返す。 「今後の我々の目的地の事だ、どうやらロキの情報では鎌石村は危険らしい。なんでも自転車で通過する際2,3人の死体を見たそうだ」 「だが、フェイトの傷の治療もせねばなるまい。となれば、進路を変えてホテル方面か?」 正直フェイトの事などどちらでもよかったが、話を合わせるには無難な回答だろう。 「やはりそうするしかないな。フェイトもそれで良いか?」 「はい。なにも自ら危険な場所に向かう必要なんてありませんしね」 フェイトもエルネストに同意した。 「さて、では今度はこっちの番だよな? あんた達が持っているって言う情報を教えてもらおうか?」 まぁ、目的地が危険だったってことを教えてくれただけでもありがたい。 こちらが持っている価値ある情報はフェイトのルシファーに関するものだけだ。 それもあまり希望の持てる情報とは言えないが。 「それに関してはフェイトから聞いてくれ」 エルネストに促されフェイトが口を開いた。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ こいつらと出会って漸く情報が手に入ると思ったら言うに事欠いて 『ルシファーはこの世界の大元を作った創造主です』と来たもんだ。 俺の教えた情報も嘘八百もいいところだから、お互い様といえばそうなのだが釈然としない。 だがまったくの与太話と判断するわけにも行かない。 世界を作ったのがルシファーだとは思えないが、少なくとも複数の世界を繋ぐ事の出来る技術を持っている様だ。 でなければ、今ここで顔を合わせている連中の異質さの説明が出来ないからだ。 最初に遭遇したエルネストと名乗るおっさん。 一見すると昼間殺したサメ男の着ていた丈の長い上着を羽織っており、 その上着はミッドガルドやヴァルハラでは見かけない生地で出来ている。 そして極めつけは額にある第三の目。 不死者にならあのような異形の者もいるかもしれないが、やつは間違いなく生きている人間だ。 服装に関してはフェイトも同様のことが言えるが、明らかにこれも素材からして俺の知らない物質で出来ている。 最後にクラースと呼ばれたおっさん。 こいつの服装は割りとミッドガルドでも見かけそうなものだが、奴の中から漂ってくる人ではない者が放つ魔力。 この感覚は高位な精霊の物である事は間違いないのだが、少なくともこれほど高位の精霊を使役する術を俺は知らない。 だから認めなくてはならない様だ、異なる技術体系を持った世界の存在を。 だが、フェイトの奴が持っている情報を全て話したとは考えにくい。 現に何度かなにかを言いかけ、ためらった末に口籠る事があった。 きっとその言いかけた事がこの男の持つ真の情報に違いない。 だから俺は辛抱強くフェイトにもう一度問う事にした。 「本当にこれで君の知っている事は全部なんだね?」 俺が何とか怒りを表に出さない様、どうにかこらえて出した質問にこいつはしれっとこう答えた。 「はい、そうです」 ほう、まだ出し惜しむつもりかこのクソガキが。 どうやら痛い目を見ないとわからないらしいな。 直ぐ手に取れる位置に置いてあったデイパックから武器を取り出しフェイト目掛けて振り下ろす。 殺してしまっては聞き出したい情報も聞き出す事が出来なくなるので左肩を狙った。 だが俺の一撃は、エルネストによって阻まれた。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 突如として場の空気が変わった。 フェイトに「本当にこれで君の知っている事は全部なんだね?」と聞いたロキの様子がおかしかったのだ。 その質問に肯定の意を返したフェイト目掛けて斧が振り下ろされる。 どうやら俺の勘は正しかったみたいだ。 頭の片隅で未だにロキを警戒していたからこそ素早く反応する事ができた。 脇においてあった剣を拾い上げこの一撃を受け止める。かなり重い一撃で腕がしびれたが何とか防ぐことが出来た。 このロキの行動に二人もすぐさま臨戦態勢に入る。 「へぇ、まさか受け止められるとは思っていなかったよ」 「やはり殺し合いに乗っていたのか?」 剣で斧を弾き距離を開ける。3対1だというのにロキの表情には余裕があった。 「バカ言うなよ、ルシファーの野郎が気に入らないのは本当さ。だから、戦った事があるフェイトの持つ情報が欲しい。 まだ何か知っているみたいだけど、あれだけ頼んでも教えれくれなかったからね。 ちょっと痛い目を見てもらう事にしたんだけど…。邪魔だからおっさん達には死んでもらおうか!」 言い放ったロキの足元から歪な影が俺達3人目掛けて伸びる。 何とかその攻撃を散開することで回避した。 着地後一息付くような余裕は無かった。クラース目掛けてロキが風のような速さで接近する。 この中でクラースだけ武器を持っていない。つまり奴の攻撃を受け止めることが出来ない。 急いで割って入ろうとしたが、奴から伸びる影に阻まれた。 「ちっ! クラース逃げろ!」 しかしクラースはその場に立ち尽くしたままだ。 だが、クラースが手をかざした瞬間体全体が水で出来た女性の人影が現れた。 その女性が手にした剣でロキの斧を受け止める。 「やれ! ウンディーネ!」 クラースの号令を受けてウンディーネは剣を振り上げてロキを弾く、 後方に吹き飛ばされたロキに地面を滑るように移動するウンディーネが追撃の二太刀目を浴びせようと迫る。 「甘いんだよっ」 振り下ろされる剣撃を掻い潜りすれ違いざまに斧による一撃でウンディーネが真っ二つにされた。 「なるほど、確かに基は高位な精霊かもしれないけど現世で発揮できる力は、 術者の精神力に依存するみたいだな。この程度なら何匹出て来てもわけないね」 嘲笑うかの様なロキの発言に舌打ちを返すクラース。 クラースの召喚術はセリーヌやレオンの紋章術と比べても遜色ないはずなのにああも簡単にあしらうとは。 (このままでは全滅の危険がある。どうにか隙を作らなければ…。だが、あいつには自転車がある以上振り切るのは困難か) 撤退の策を練っていた俺にフェイトが叫んだ。 「エルネストさん! クラースさん! 援護をお願いします!」 見るとフェイトは赤紫色のオーラに包まれていた。 何をするつもりかわからないが、なにか策があるのだろう。 (ならば俺のする事はただひとつだ。 不慣れな武器を持っている時点で出来る事は限られているが、一瞬でもロキに隙を作る事が出来れば…) □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 今の僕に出来る事は限られている。 さっきの影みたいな遠距離攻撃を持っている相手に今の足の状態じゃ得意の接近戦に持っていく事すら出来ない。 向こうもそれを理解しているはずだ。僕の事を接近される前に迎撃可能だと。 けれど、本当はそうじゃない。 この技は準備がいるけど、発動さえ出来ればある程度の距離を一瞬で詰める事が出来る。 3対1の状態でああも余裕を見せ付けてくるロキは、こちらを甘く見ていると考えて間違いない。 その油断に付け込む事が今の僕達にある僅かな勝機だ。 エルネストさんが懸命にロキに食らい付いている。 その剣閃はすべてロキに見切られ最低限の動きでかわされているが、ロキの行動を大幅に制限していた。 「下がれ! エルネスト! 行け!ノーム」 エルネストさんが退避するのを待ってから、クラースさんが呼び出した謎の細長い生物がミサイルの雨となりロキに襲い掛かった。 巻き上がる土煙でロキの姿が完全に隠れる。 だが、相手もそれは同じ。あの弾幕の中では下手に動く事も出来ないはず。 そんな中僕が目の前に突如現れるなんて思っていないだろう。 『ストレイヤー・ヴォイド!』 体の回りのオーラがより一層濃くなり僕の姿が見えなくなる。 否。その場から消えたのだ。 この技は瞬間移動を可能にする技だ。移動先は先程までロキがいた場所。 移動直後の僕の視界には予定通り奴がいた。僕の突然の出現に驚きを隠せない様子だ。 「だああぁぁぁぁっ!」 強化型鉄パイプを握り締め横薙ぎに一閃する。 完全に意表をついた一撃だったのに、僕の一撃は彼の持つ斧で受け止められてしまった。 (くそっ、なんて奴だ。だけどここで諦めるわけには!) ここまで接近できるチャンスは二度と来ないかもしれない。 すぐさま連撃へと繋げる。振りぬいた鉄パイプで斧のブレード部分に罅が入った。 『ヴァーティカル』 鉄パイプに闘気を纏わせ、全力で振り上げる。 巻き上げたオーラと共にロキの体がを打ち上がる。 『エアレイド!』 それと共に跳躍し続けざまに闘気を叩きつける。 「ぐわっ!」 流石にこれはダメージがあるようだ。奴の斧も僕の一撃で砕け散っていた。 (よし! あと一息。一気に決める) ぶっつけ本番になるけれど、僕の遺伝子に刻まれた『ディストラクション』の力を解放する。 ルシファーの言っていた制限が気にはなるけれど、ここで倒しきれなかったら僕達に勝ち目は無い。 先程とは異なり僕の体からは眩い白銀のオーラが迸る。 そのオーラを右の拳に集約させ、バンデーンの戦闘艦ですら沈める破壊の光をふらつくロキに叩き込む。 『イセリアル』 (ほぼゼロ距離。これで!) 蓄積させた『ディストラクション』の力を解放させようとしたその刹那。 突如フェイトの視界がブラックアウトした。 ルシファーの課していた制限は、予想通りフェイトやマリア、ソフィアに対しては厳重にかけられていた。 一定以上のレベルでその力を解放しようとすると、 力を暴走させて彼らに本来備わっているリミッターを強制的に発動させて意識を奪うように細工をしていたのだった。 (くっ、一体どうしたって…言うんだ…?) その事実を知る由も無いフェイトは浮かぶ疑問と共にその場に崩れ落ちた。 「エルネストさん…クラースさん…。逃げ…」 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ (仕留め損なったか…。だがロキにもダメージがある。フェイトには悪いが撤退させてもらう) 「エルネスト! ここは逃げるしか…」 幸いフェイトがロキを吹っ飛ばしたおかげで、自転車からの距離が離れている。 「お前だけでも行け。俺はフェイトを助ける」 「バカを言うな。俺達だけではどうしようも出来ない事位判っているだろう」 「問答している時間は無い。どちらにせよ足止めしなければ逃げ切れないんだ! 行け!」 (クソッ、どいつもこいつも…。まぁいい元よりそのつもりだ。 後ろ髪を引かれる思いではあるが自分の命には変えられん) 自転車の方向に走るついでに自分の荷物と、近場に転がっていたバックから飛び出た棒状の物を拾い上げる。 (これは!? いや、先ずは逃げるのが先決だ) 南側に行ったところで平瀬村しかなく、そこにはミカエルがいる。 北にある鎌石村もロキの話が真実ならば危険極まりない場所だが、 ロキの言っていた事は嘘である可能性のほうが高い。 自転車に跨り北に退路を取ると、クラースは盗んだ自転車で走り出した。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 「フン、手間取らせやがって」 毒突くロキの足元には戦いの末敗れた二人が転がっていた。 しかし、この二人の肩は微かに上下している。 この二人はまだ生きているのだ。 なにもロキの気まぐれから生かされたわけではない。 どうしてもフェイトの知る情報を全て吐き出させたかったのだ。 その為にはどの様な手段が有効なのかとロキは考えた。 (おそらくこいつは痛めつけても、全てを吐かないだろう。そういった不屈の意志のような物が垣間見えたからな。 では、どうするか? そのヒントはこいつが意識を失う前に発した言葉だ。 あの瞬間確かにこいつは、おっさん共に逃げるように言い放った。 こういったタイプの人間はレナスが連れてきたエインフェリアにも多くいた。 このタイプの人間は自分よりも誰かが傷つく事を嫌う。だからこのおっさんも生かしておいたのだ。 フェイトの奴が意識を取り戻したら、目の前でこのおっさんを少しずつ解体してやる。 そうすれば今まで屈する事の無かったこいつの意志も必ず崩れるはずだ) バックより取り出したザイルで二人を離れた位置に拘束するとロキはフェイトが目を覚ますのをじっくりと待ち始めた。 【D-2/夜中】 【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:80%] [状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)ザイルで拘束中 気絶中] [装備:無し] [道具:無し] [行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える] [思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す] [思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない] [現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中] [備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)] 【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%] [状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)ザイルで拘束中 気絶中] [装備:無し] [道具:無し] [行動方針:打倒主催者] [思考1:仲間と合流] [思考2:炎のモンスターを警戒] [現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中] 【ロキ】[MP残量:90%] [状態:正常・自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)] [装備:グーングニル3@TOP] [道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、首輪、荷物一式×2] [行動方針:ゲームの破壊] [思考1:レナス、ブラムスの捜索] [思考2:見つけ次第ルシオの殺害] [思考3:首輪を外す方法を考える] [思考4:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)] [思考5:自転車(スレイプニール)を盗まれてちょっとショック] [思考6:フェイトが目を覚ましたらエルネストを痛めつけフェイトから情報を引き出す] [備考1]: フェイト、エルネストの装備と支給品はその場に放置されてます。 [備考2]: ストライクアクス@TOPは破壊されました。刃部分の破片が辺りに散らばっています。 [現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 「ここまで逃げれば安心か…」 慣れない道具だったがかなりのスピードで移動できた。 とりあえず距離だけは稼げたはずだ。 短い付き合いだったが、あの二人は純粋にいい奴らだったと思う。 フェイトからはクレスに似た真っ直ぐな正義感そして、どんな逆境にも諦めずに抗い続ける不屈の心を感じた。 エルネストは年を食っている所為か妙な落ち着きのような物があり、 彼から聞いた仲間の話から察するに年長者として大いに頼られていたであろうことが推察できた。 どことなく自分とクレス達の関係に似ていたのではないかと思う。 そんな二人を見殺しにしてよかったのか? (私の目的はあくまで生きて元の世界に帰る事。そればかりは譲るつもりなどない。 だが、フェイトの話通りならルシファーを倒すには彼の持つ力が必要なはずだ。 ここで見捨てる事で、エルネストの様に主催者に抗おうとしている者達の希望の芽を摘んでしまっていいのだろうか?) 正直なところこの様な会を催したルシファーは大変気に入らない。 出来る事ならルシファーの鼻を明かした上で元の世界に帰りたかった。 今更悔やんでも仕方のないことかもしれないが、実を言うとフェイトはまだ生きている可能性がある。 ロキがフェイトの持つ情報にこだわっていたからだ。 それを吐き出させるまで、生かされているに違いない。 もちろんロキの沸点の低さは先程垣間見たとおりだ、いつまでも続く物ではないという事も判っている。 それでも急いでこの自転車か、あわてて拾ってきたこのアーチェが使っていたデッキブラシを使えば、駆けつける事が出来るかもしれない。 深い葛藤の中暗い夜道を自転車で走り抜ける。 (助けに行くのならば私一人ではどうにもならない。かといって時間もない。 ならば今から30分以内に協力してくれそうな人間を見つける事ができれば戻ってみよう) (相変わらず甘いなクラース) そうやって語りかけてきたのは精霊オリジンだ。 (わっ私はただ合理的な判断を下したまでだ。現状持っている情報ではルシファーを倒すにはフェイトの力に頼らざるを得ないのだからな。 それに優勝してルシファーから逃げ帰るような真似をするより、あいつを倒して帰った方が後味がいいに決まっているからな) (まぁ、そういうことにしておいてやる。ただお前がそういう人間であるから、喜んで力を貸している精霊もいる事を忘れん事だ) (////っいいから必要な時以外黙ってろ!) 「うぉっ!」 暗い夜道をヘッドライトも点けずに、しかもオリジンと話していたのがいけなかったのか何かと正面衝突してしまった。 自転車からは投げ出されてしまったが幸い怪我をする事はなかった。 気を取り直して起き上がり、ぶつかった何かを確認してみた。 「!!」 ぶつかったのは物や何かではなく人だったのだ。いわゆるひとつの交通事故である。 しかしクラースが驚いたのは事故ってしまったからではなかった。 自転車で轢いてしまった人物の風貌があまりにも異質であったからである。 その顔には木製のなにやら能面のようなものが装着されており頭頂部は禿げ頭のカツラ。 体は僧侶が纏うような法衣に包まれ、 その手に握るイチジク形の入れ物からは一目見ただけでもTHE・劇物と判るような色をした液体が漏れていた。 こんな彼?でもおしゃれには気を使っているのか、首からはダイヤモンドの指輪に紐をつけたものをぶら下げていた。 (なんだ? こいつは? 取り敢えず助け起こした方がいいのか?) クラースはたった今出会ったこの不審人物にどう対処しようか迷っていると、 その不審者はムクリと起き上がり、その無表情さが怪しさを引き立てている仮面をこちらに向け口を開いた。 「すまぬ。少しばかり気分が高揚していてな。周囲を気にかけずに走り回ってしまっていた。そちらに怪我などはないか?」 そう言いこの変態は立ち上がると聞いてもいないのに自己紹介を始めた。 「我は不死者王ブラムス。そなたと同じこの殺戮ゲームの参加者だ」 (不審者王? 一応自分の姿を鏡で見た事はあるんだな) と、クラースの中でオリジンがつぶやいた。 (おいっ! 呼んでもないのに出て来るなと言っただろう。そんな事よりも困ったぞ。 人を探してはいたが、まさか一発目にこんなわけのわからん変態と出くわすとは…) 【C-04/夜中】 【クラース・F・レスター】[MP残量:70%] [状態:正常] [装備:無し] [道具:薬草エキスDX@RS、自転車@現実世界、デッキブラシ@TOP、荷物一式] [行動方針:生き残る(手段は選ばない)] [思考1:目の前の不審者王の対処] [思考2:ゲームから脱出する方法を探す] [思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ] [思考4:30分以内に協力者を見つけられたらフェイトたちの元へ戻る] [思考5:思考4が満たされなかった場合はフェイト達の事は諦める] [現在位置:C-4西部、鎌石郵便局付近の十字路] 【ブラムス】[MP残量:100%] [状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中] [装備:波平のヅラ@現実世界、トライエンプレム@SO、袈裟@沖木島、仏像の仮面@沖木島] [道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2 ダイヤモンド@TOP、ソフィアのメモ、荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島] [行動方針:情報収集(夜間は積極的に行動)] [思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ] [思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す] [思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける] [思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)] [思考5:目の前の刺青鳴子男と情報交換] [現在地:C-4西部、鎌石郵便局付近の十字路] 【残り26人】 第99話← 戻る →第101話 前へ キャラ追跡表 次へ 第79話 ロキ 第101話 第79話 フェイト 第101話 第79話 エルネスト 第101話 第79話 クラース 第101話 第90話 ブラムス 第101話 第83話 ミカエル 第101話