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<1日目/二条乃梨子/クルーザー上> 「わぁっ、あれがお姉さまの別荘ですか?」 祐巳さまの嬉しそうな声が聞こえる。クルーザーのデッキにいた私たちは、祐巳さまが見つけたモノがある方向を見る。 美しい島がある。森の中に見えるのが、祥子さまの──正確には小笠原家の──所有する別荘だ。小さな城、あるいは砦といった雰囲気で、私は祥子さまにぴったりだと思った。祥子さまは志摩子さんと違って、日本建築よりも洋風な建物の方が似合うと思う。 「乃梨子ちゃんは驚かないんだね」 由乃さまが声をかけてきた。薄い黄色のワンピースがよく似合っている。 「驚きはしましたが、なんとなく想像通りだったというか」 「大きいお屋敷かお城ってイメージだもんね、祥子さまの別荘は」 「由乃さまは驚かないんですか?」 「驚いてるわよ。心臓、すっごく早く動いてるわよ? ほら」 由乃さまは私の右手を取り、胸の少し上の辺りに押し当てた。由乃さまの鼓動が伝わる。 夏休みの数日を利用して、私たちは祥子さまが招待してくれた別荘へと向かっていた。合宿とは名ばかりで実態はただのバカンスだ。 現在の山百合会幹部、祥子さまと祐巳さま、令さまと由乃さま、そして私と志摩子さんに加えて、可南子さんと瞳子、そして先代のお三方──蓉子さま、聖さま、江利子さまも参加してのこの企画だった。本当は真美さまや蔦子さまも参加する予定だったが、抜けられない用事が出来て、泣く泣く参加を見送ったらしい。 「お、由乃ちゃんの胸に乃梨子ちゃんの手がねぇ」 いつの間にか隣には聖さまがいた。ニヤニヤと笑いながらそんなことを言うが、蓉子さまと令さまに左右を挟まれた途端、ホールドアップの体勢でデッキの先端の方へと小走りで消えてしまった。 <1日目/藤堂志摩子/三條島桟橋> 桟橋に降りて、私は大きく深呼吸をした。よく言われることだけれど、本当に空気が美味しい。心地よい陽気と気持ちいい風。来てよかった、と思った。 「志摩子」 肩に手を置いたのはお姉さま。露出が多いシャツとハーフパンツという格好で、見ているこちらが恥ずかしかったけれど、とても似合っていた。 「祥子に感謝しなきゃね。こんなにいい場所に来れるなんて滅多にない」 「はい、そうですね」 私は祥子さまの方を見た。クルーザーを運転してくれた方とお話をしていた。 と、少し後ろの方から悲鳴が聞こえた。その声の主はわかっている。「ぎゃう!」なんて声をあげるのは祐巳さんだけ。 「せせせせせ聖さまっ、や、止めて下さいぃ~」 「いーじゃんいーじゃん祐巳ちゃーん。おねーさんが荷物持ってあげるよー」 お姉さまは相変わらず、祐巳さまにちょっかいを出していた。祥子さまと蓉子さまに怒られるのだから、止めればいいのに……。 <1日目/支倉令/別荘への道> クルーザーの帰る音を背中に受けながら、私たちは小笠原の別荘を目指して歩いていた。 「天気は大丈夫なのかなぁ」 私が小さく言うと、お姉さまが答えてくれた。 「島の天気は変わりやすいというわね。大きく崩れなければいいのだけど」 そう言いながら上を向いた。私もつられて上を向く。 A:──青空は一変していた。どんどんと黒い雲が立ち込めてきて──。 B:天気は快晴そのもので、しばらくは心配いらないと思った。
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<1日目/島津由乃/広間> ……一体どういう事なんだろう。 江利子さまが自室で『自殺』したのはわかるのだが、蓉子さままで。 私が知らないシナリオがあるということなのだろうか。あの人の頭の中には。 どうやら私は眉間に皺を寄せていたらしい。令ちゃんがひどく心配そうな顔で私を覗き込んでいた。 「由乃、大丈夫?」 「あ、ああ、うん。大丈夫よ、令ちゃん」 私は椅子から腰を上げると、 「私、本を取ってくるね」 「私も行くよ。一人じゃ危ない」 「大丈夫。パパッと行ってピューって帰ってくるわよ」 「でも」 駄目なのだ。令ちゃんに着いてこられると、全ての計画が台無しになるかも知れない。何度も令ちゃんと祐巳さんには知られないようにと念を押されているのだ。 ええい、最終手段だ。私は令ちゃんの唇を、自分のそれで塞いだ。ほんの一瞬だったが、効果はあったようで、令ちゃんは顔を真っ赤にして口をつぐんだ。 「すぐ戻るから。ね?」 ごめんね、令ちゃん。 私、令ちゃんに隠し事してる。 階段を上ると、私は自分の部屋に戻る。 手紙の存在に気づいたのは、ドアを開けた時だった。 その手紙に書かれていた文章はこうだ。 『蓉子も聖も仲間よ』 その文面に安心した私は、持参した推理小説を手にして部屋を出た。 そうだ、あの『現場』も見てこよう。刑事は足で稼ぐものだし、犯人は現場に戻るともいう。それに江利子さまの顔も見たい。江利子さまの姿を見た時はさすがに驚いてしまったけど、今ならきっと私は笑っちゃうかもしれない。 私は三階へと足を向けた。ついでに瞳子ちゃんでも見つからないかしら。 <1日目/支倉令/広間> 「由乃……遅いなぁ」 広間を出てから十分は経つ。そろそろ戻らないとおかしい。本を取るだけなんだから、何を手間取っているんだろう。 やっぱり私が着いていくべきだった、と小さくため息をつく。それと同時に蘇るのは由乃の唇の感触だった。ほんの一瞬だし、口うるさい私を黙らせるための手段だったんだろう。それでも、私は嬉しかった。もっとロマンチックなムードの時にキスしたかったけれども。 ……お姉さまも蓉子さまもいなくなったこんな状況で、私は何を考えているんだ。 それよりも由乃だ。私も後を追ってここを飛び出すべきか。いや、考えているんだったら行動するのが──。 「キャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!」 ──悲鳴が聞こえた。瞬間、私は跳ねるようにして椅子から立ち上がり、広間を飛び出していた。 由乃、由乃。私が行くまで無事でいてくれ。 <1日目/島津由乃/三階廊下> 悲鳴を上げて、私は数歩後ずさる。壁に背中が当たり、そこで初めて息をすることを思い出した。 焦げ臭い、肉や髪の毛が燃える嫌な匂い。 江利子さまの部屋。ベッドの向こう。こちらに覗いている生気のない両足と、炎に包まれた上半身。 ──あぁ、そんな。そこで燃えているのはまさか。 その時、奥の部屋のドアが開いた。 「ひぃっ……いやぁあああああああああああ!!」 私は前につんのめりながら、それとは反対方向に逃げ出した。階段を駆け上がる音がする。きっと令ちゃんなのだろうが、しまった。階段は反対方向だ。私はドアの開いていた部屋に転がり込むと、急いでそれを閉め、内鍵をかけた。ああ、ここは資料室か。 「由乃さま!」 「由乃! ここを開けて!」 可南子ちゃんと令ちゃんの声。 「いやあああああああああああああああああっ!!!!」 今の悲鳴は祥子さまか、それとも志摩子さんか。 「もう……もう、嫌……」 私は幾度となく叩かれるドアから遠ざかるように、ゆっくりと後ずさる。 令ちゃんだけは信じたい。令ちゃんには不可能なはず。あの後で江利子さまの部屋に来て、燃やすだなんて──。 「……え?」 背中に、衝撃が走った。 数秒遅れて激痛が全身を駆け巡る時には、私は意識を深い闇に沈めた後。 最後に思い浮かんだのは、令ちゃんではなく、江利子さまの楽しそうな笑顔だった。 <2日目/支倉令/三階廊下> 聖さまが慌ててお姉さまの部屋に飛び込み、閉めていたベランダのドアを開けた。荒れに荒れている天候が幸いしたのか、それとも炎の勢いは弱かったのか、一気に吹き込んだ雨と風に巻かれ、炎は掻き消えた。 全身をずぶ濡れにした聖さまが外と部屋をドアで再び隔てた時、私たちの前にそれは姿を現した。 「……え、り、こ……」 力無く呟く聖さま。 上半身を焼かれた死体がそこにあった。衣類はおろか顔面が重点的に焼かれ、すでに誰かわからない状態だった。胸に突き刺さったナイフと、焦げずに残った、クリーム色のサマーセーター……。 「……お姉さま……」 私は無意識に右手を隣に伸ばした。そこには由乃が──。 ──由乃は、どこ? 「由乃!? 由乃は!?」 先程まで飛びついていたドアに駆け寄ると、何度もドアノブを握ってガタガタと揺さぶると、あっさりと開いた。 「……由乃……?」 床に倒れる、私の由乃。 両目を大きく見開き、半開きの口からは血を垂らし、しかし床には真っ赤な血だまりが──。 「由乃」 ふらり。資料室に足を踏み入れる。 冷たくなった由乃を、ゆっくりと抱きしめる。 ここにもし犯人がいるなら、私を殺せ。 もう、由乃がいない場所なんて、どうでもいいのだから。 続く
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「みんながめいめい自分の神さまがほんとうの神さまだというだろう。 けれどもお互い他の神さまを信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう」 ──宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より <2日目/支倉令/広間> 「……戻って、きませんね……」 祐巳ちゃんがつぶやいた。乃梨子ちゃんは私と入れ替わりに三階へ向かったが、戻らない。 三階の聖さまの部屋で、私は可南子ちゃんの他殺体を見つけた。クロゼットの中に横たわっていた彼女は、一糸纏わぬ姿だった。最初は気絶していたと思ったけど、鼻につく血の臭いに、死んでいると確信した。……そして、よく見れば、可南子ちゃんは首を切り離されていた。 正直、限界だった。お姉さまが最初にあんな姿になってから、立て続けにメンバーが殺されていく。なんのゲームか、誰のシナリオかは知らないが、この世界は最悪だ。 「嵐の孤島に大きな城、集まった穢れを知らない乙女たち! ミステリとしては最高のシチュエーションじゃない?」 まだこんな惨劇が起こる前に由乃が喋った言葉を思い出す。あの後、由乃は部屋に本を取りに行くと言い、そのまま戻らなかった。 あの時、私がついて行っていれば、少なくとも、由乃は死なずにすんだと思う。いや、死んでいない。私が命に変えて守っていた。 由乃は犯人にはち合わせしたんだ。自分の部屋か、お姉さまの部屋か、とにかくどこかで犯人と──。 「──乃梨子!!」 突然志摩子が叫んだ。窓の方を見ていた志摩子は、何を──。 「志摩子さん、乃梨子ちゃんがどうかしたの!?」 「志摩子、答えて!」 祐巳ちゃんと祥子が立て続けに言ったが、志摩子は口をパクパクとさせるだけで、何も声が出ない。 私は窓に近づいた。カーテンは閉められていたが、僅かに隙間がある。志摩子の座っていた方向からなら、外が見えたに違いない。 「窓を開けてみる」 私はそう言ってカーテンを左右に分け、窓を開け放った。 天気は相変わらず荒れていて、風と雨が暴れている。まるで、この館を表して──。 「令、何か見えて?」 祥子の言葉が耳に届いたが、私は答えることができなかった。 視界の端に入った何かを追って、私は顔を下へ向けた。 そこにいたのは──。 「祥子」 「ど、どうしたの」 「絶対に、叫ばないって、約束して」 片腕を失った彼女が、そこにいた。 驚愕の表情で凍りついた乃梨子ちゃんの両目は、じっと上を見ている。 背後で、大時計が十二時の鐘を鳴らした。 <3日目/福沢祐巳/厨房> 「大丈夫ですか、令さま……」 私は、令さまの背中をさすっていた。 「乃梨子ちゃんが死んだ」と言って窓を閉めた令さまは、口元を押さえて厨房へと走った。一通り吐くと楽になったのか、そのままずるずると床に座ってしまった。 コップに水を汲んで渡そうとも考えたが、似たような状況で蓉子さまが──ちょうどこの場所だ──毒を飲んで死んでいるのを思い出して、それを止めた。 「……祐巳ちゃん」 「な、なんでしょうか、令さま」 「もう、嫌だよ……。嫌だ。いつまで私たちは、こんな狂った世界にいなきゃいけないの? 帰りたい、帰りたいよ……」 「令さま……」 私は、令さまの手を握ることしかできなかった。 <3日目/小笠原祥子/広間> 「志摩子、大丈夫?」 「……ええ……それよりも……令さまが……」 志摩子は乃梨子ちゃんの落下した瞬間を見たが、それのショックは小さかったようだ。いや、志摩子の強さが、そのショックを乗り越えたと言うべきか。 「令は祐巳がついているから、大丈夫よ」 食堂を挟んだ厨房にいるのは、令と祐巳。その反対側には私と志摩子。 「……聖さまは、無事なのかしらね」 志摩子の返事はなかった。 ガタッ、と厨房の方から大きな音がした。立ち上がろうとした私の腕を、志摩子がガッチリと握って放さない。 「志摩子、手を放して頂戴──!」 「──ねぇ、祥子さま?」 志摩子の声に、私は背筋がゾッとするのを感じた。その声はいつもの静かな雰囲気ではなく、まるで地の底から響くような──。 「な、何かしら」 ……私は、次に志摩子から出る言葉に、耳を疑った。 「もし、お姉さまが可南子ちゃんを殺して、部屋に向かった乃梨子をも殺したとしたら、どうします?」 「貴方、何を言っているの!? そんなことが」 私の首に絡みつく志摩子の両手を、振りほどくことができなかった。 「そして、私が、計画通りに、ここで祥子さまを──」 志摩子は、いつもの笑顔を浮かべている。 ──ああ、祐巳。せめて貴方だけは、無事でいて頂戴。 <3日目/福沢祐巳/厨房> 「──ねぇ、祐巳さん?」 令さまの声は普段より高く、まるで、それは──。 「私ね、背中を斬られちゃったんだ。痛かったわ」 「れ、令さま?」 その声は、まるで、由乃さんのようで──。 「どうして助けに来てくれなかったの? 私、痛かったんだよ?」 「令さま、は、放して下さい!」 令さまの両手が私の腕をがっちりと掴み、どんなに私が力を入れても、食い込む指は力を増す。 「祐巳さん、私、ずっと待ってるんだよ。乃梨子ちゃんもさっき来たの。ほら、薔薇の館で、一緒に、令ちゃんの、焼いた、ケーキを、食べよう?」 私の手を放したと思った瞬間、令さまの手が、私の首にかかった。 「あ……か、はぁっ……」 ──意識の薄れ行く中見えた令さまの顔は、能面のように、無表情だった。 そして、その背後にいたのは──。 <3日目/佐藤聖/資料室> 「くそっ──」 縄をやっとの思いで解いた私のいた場所は、資料室だった。壁にかかった骨董品や古い武器に見覚えがある。 痛む手足をさすりながら立ち上がった途端、誰かが倒れているのが見えた。 「うわっ!」 思わず悲鳴をあげた。それが由乃ちゃんの無残な姿だと気づいたのは、そのすぐ後だった。 血だまりを避けて歩く私の目に入ったのは、握りつぶされた一枚の紙だった。 「……これは……この字は──」 この筆跡に見覚えがある。そう。薔薇の館で資料を整理していると、いつも見ることができた。だが、その人物が思い浮かばない。江利子か、蓉子か。 いや、この文面、『蓉子も聖も仲間よ』という書き方からして、江利子の文字に間違いはないだろう。しかし、私と蓉子と江利子はいったい何の仲間だというのか。 私はその紙をポケットに押し込み、資料室を出た。 廊下に出ると、私の部屋のバリケードが崩れているのに気づいた。誰かが入ったようだ。 周囲を警戒しながら廊下を進み、部屋に入った。 「うっ……!」 床に広がるのは、大量の血と、切り離された片腕だった。すぐ近くに、大降りな斧も置いてある。きっと資料室かどこかにあったのだろう。 そして、クロゼットから足が見えていた。 私は部屋から出る。見たくなかった。あの足は、つい数時間前、私の足と絡んでいた──。 「……可南子……」 私は泣きそうになるのを堪えて、ふらふらと階段を下りる。ああ、志摩子、志摩子。せめて志摩子だけは、無事でいてくれ。 <3日目/???/広間> ──階段を下りる音が聞こえる。 私は、すぐに身を隠した。食堂を通って厨房へ向かう。 廊下を伺うと、階段を下りてきたのは、あの白薔薇さまだ。 私は微笑むと、廊下側から近づいていく。 広間の入り口で固まっている白薔薇さまに、背後から抱きついた。 「おかえりなさい、お姉さま」 佐藤聖さまの息の飲む音が聞こえた。 続く
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1 転寝をしていた私が目覚めたのは、放課後の薔薇の館。まだ祐巳さんたちも来ていない。窓を開け放っていたので肌寒かった。 私は軽く身体を伸ばして、立ち上がると、流しへ向かった。お湯を沸かして、お茶の用意をする。 ちらり、と腕時計を見る。現在は午後の3時半。10分近く転寝をしていたことになる。昨夜は特に夜更かしはしていなかったのだが、自分でもわからない疲れが溜まっているのかもしれない。 今夜は早く寝よう。そう考えたとき、階段がきしむ音が聞こえた。誰かが上がってきたようだ。 「ごきげんよう、志摩子さん」 入ってきたのは由乃さんだった。私も挨拶を返して、電気ポッドのコンセントを外した。 「由乃さん、紅茶はいかが?」 「お願いしようかな」 カップを二つ用意して、ティーバッグを探す。昨日あった銘柄とは違ったが、私はこちらの紅茶の方が好きだった。 お湯を注いでテーブルに置く。「ありがとう」と由乃さんが言った。 私も座って紅茶を味わっていると、由乃さんが話し掛けてきた。 「ねぇ志摩子さん」 「何かしら?」 「いつ乃梨子ちゃんを妹にするの?」 「乃梨子を、妹に?」 由乃さんは私をからかっているのだろうか。 「何を言っているの? 乃梨子はとっくに……」 チャリ、と音がした。腕時計とは反対の腕。かつてお姉さまから譲り受けたロザリオが巻いてあった腕だ。 「……志摩子さん?」 由乃さんの不思議そうな声が聞こえたが、私はそれどころではなかった。 乃梨子に渡したはずのロザリオが、手首にあった。 「そのロザリオがどうかしたの?」 「……い、いえ。その……このロザリオを渡していいものかどうか」 「あー。聖さまとの思い出が詰まっているからねぇ」 数ヵ月前に私の手から離れたロザリオが、なぜここにあるのだろう。まだ私は転寝をしていて、夢を見ているのだろうか。 「あ、あの、由乃さん……。今は、いったい……」 そのとき、扉が開いた。 2 「あれ、由乃と志摩子だけかぁ」 入ってきたのは令さまだった。由乃さんは立ち上がって令さまのカバンを受け取る。私も立ち上がって、紅茶を用意する。 令さまは由乃さんの隣に座り、巾着袋からクッキーの入った袋を取り出した。 「昨日焼いたんだ。みんなで食べよう」 私はお茶請けを入れるボウルをテーブルに置いた。中に入れられていくクッキーを眺めながら、私はロザリオのことを考えていた。 そうこうしているうちに、祥子さまと祐巳さんが入ってきた。私以外のみんなに変わったところは見受けられない。 乃梨子がいないままお茶会がはじまる。 しばらくすると、再び耳を疑う発言が飛び込んできた。それは祥子さまのものだった。 「お姉さまがたの卒業も、もうすぐね」 卒業……。お姉さまがたの卒業? 「そうだね。大学も受かったみたいだし……」 ……話が見えない。私は2年生で、令さまたちは3年生。自分たちの卒業の話ならわかるが、お姉さまの……? ハッとして、私は自分の生徒手帳を見た。そこには確かに、1年生と記載されていた。 「志摩子……?」 祥子さまの声は、さっきの由乃さんのそれと同じ感情が込められていた。 3 祐巳さんがトイレに立ち、それの入れ代わりに江利子さまや蓉子さま、そしてお姉さまが入ってきた。在学していた頃と変わらないお姿……。いや、今は在学しているのだから当たり前なのか。 「聞いたよ。なんかおもしろいことになっているじゃない」 お姉さまがそう話しはじめた。 「ロサ・カニーナだっけ?」 「ええ。2年生の蟹名静さん」 「リリアンの歌姫ね」 え? 今度は選挙の話? もう私は話についていけなくなってきた。 夢なのかどうかすらわからなくなっている。私は混乱していた。 「あ、あの、私も……」 「うん。いってらっしゃい、志摩子」 トイレにいくふりをして、私は薔薇の館を出ようとした。落ち着こう。外の空気を吸わなければ。 4 深呼吸をする。不可思議な世界。夢なのか現実なのかわからない世界。私はどこに迷い込んでしまったのだろうか。 少し木の幹にもたれかかって気を静める。……そろそろ祐巳さんも戻っているだろうか、と思い、なにげなしに腕時計を見た。 「……!」 時計の針が逆回転している。時間が遡っているということなのか。 夢だ。夢に違いない。私はそう思いながら、薔薇の館に戻ることにした。 すると、館の前に人がいた。ああ、あれはきっと、祥子さまに逢いにきたのだろう。 私は気付かれないように、その場を離れた。たとえ未来が変わってしまうとしても、私にはあの祐巳さんと蔦子さんに話し掛ける勇気はなかった。 きっと誰かが気付くか、あの扉ではなく入り口の扉で祥子さまと祐巳さまはぶつかるのだろう。あるいは蔦子さんが先導して、薔薇の館に入るかもしれない。遅かれ早かれ、祐巳さんは祥子さまの妹になるのだ。 私は自分にそう言い聞かせながら、ふらふらと歩いていく。 5 無意識に向かっていた先はあの場所だった。私とお姉さまが出会い、私と乃梨子が出会ったあの場所に。 半ば私は期待していたのかもしれない。そしてその期待は裏切られることはなかった。 桜の下には、お姉さまがいた。髪型こそ私の記憶の中と変わらないが、まだ性格はきつかった、……聖さまが。 見つからないようにその場を離れる。お姉さまと出会っても仕方がない。私は時間を逆行しているのだし……。どうせ、未来がどうなるかなんて、今の私には関係なかった。 6 ……私はずっとベンチに座っていた。家に帰るのも恐かった。きっと父も母も、私が言った「シスターになる」という言葉に驚いていることだろうから。 しばらくすると、少し離れた場所で、子猫がカラスに襲われているのが見えた。あれはきっと、小さなころのゴロンタだろう。 思わず私はベンチから立ち上がり、カラスを追いやっていた。ゴロンタは傷だらけで、このままでは死んでしまいそうだった。 どうしたらいいだろう。私はうろたえていた。すると、背後から……。 「その猫、手当てをしなきゃ死んじゃうよ」 ……お姉さまだった。 「……私、手当てできません……」 「じゃあ私に渡して。簡単な手当てなら、私が家に連れていってするから」 「は、はい……」 「野良かな。それとも名前はあるのかな」 「……ゴロンタです」 「ゴロンタ? そうか、おまえはゴロンタか」 軟らかな笑顔を浮かべ、過去のお姉さまはゴロンタを優しく抱き抱えた。 「あの、私はこれで」 「ありがとう、この子を助けてくれて」 「えっ?」 「私も見つけたんだけど、私が飛び出す前に君がカラスを追い払ってくれたんだ」 「そ、そうですか……」 また私は過去を変えてしまったらしい。ゴロンタはお姉さまより先に、この場に存在してはいけない私と出会ってしまった。 「よかったら、名前を教えてくれないかな」 だから私は、少し意地悪をしてみた。 「藤堂志摩子です」 かなり先に出会うであろう私へ。私はお姉さまを知らないけれど、お姉さまは私を知っているのよ。 7 あれがきっかけなのかわからないが、時計の針は右側へ回転をはじめた。 さっき出会った令さまは、うわごとのように「由乃にロザリオを返された」と繰り返していた。 祥子さまが赤いカードを隠しに向かう姿も目撃したし、マリアさまの前で瞳子ちゃんと乃梨子が会話していた。それに、可南子ちゃんがクラスのみんなと一緒に、リレーの練習をしていた。 祐巳さんは瞳子ちゃんと並んで歩いていた。祥子さまが今度は少し急ぎ足で帰っていく。 そして私は、薔薇の館に戻った。 窓を開け、空気を入れ替える。ちらり、と腕時計を見る。現在は午後の3時15分。 椅子に座った私に睡魔が襲い掛かる。およそ3年分の時間を往復した私は、ゆっくりと夢の世界に旅立っていく。 次に目覚めたとき、由乃さんのためにお湯を沸かさなければ……。 私は目を閉じた。
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戻る 面白かった。ムギ・・・。 -- (通りすがり) 2010-09-04 19 52 43 誰も突っ込む人がいないので、敢えて突っ込みを入れさせてもらいます。乃梨子ちゃんと聖さまの代が一緒にいるというのは、一体どういうことでしょうか?? -- (名無しさん) 2010-09-20 15 53 07 マリみての時間軸おかしいだろw -- (名無しさん) 2010-11-23 23 33 07 >しまーん >むぎゅーん に萌える♪ -- (名無しさん) 2010-12-27 12 34 25 あちゃー…聖様とうとう留年しちゃったか… -- (名無しさん) 2011-09-27 21 17 24 江利子様が桂さんを知っている事に驚きを隠せません(笑) ↓聖様だけでなく…… -- (名無しさん) 2011-09-28 00 44 16 リリアン×桜高 どんな交流があるか興味深いwww -- (名無し) 2012-08-23 16 52 12 面白かった もっと増えるといいな マリみてとのクロスオーバー 時間軸なんて気にしない -- (名無しさん) 2012-08-24 03 52 03 祥子様が澪の歌詞褒めてるのが笑えるw -- (名無しさん) 2021-09-10 17 10 48
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<1日目/福沢祐巳/三階廊下> 夕食の時間になり、私はお部屋にいる人を呼んで回っていた。 まずは私の隣の部屋の由乃さん。何度かノックをすると、その隣の部屋から出てきた。 「あれ? 由乃さん、どうして?」 「あぁ、令ちゃんとお部屋を交換してもらったの。ちょっと不気味なのよね、そこのお部屋」 「不気味?」 そんなに不気味な部屋に令さまを入れさせたのか、由乃さんは。由乃さんだったら令さまと相部屋でもいいと思うんだけど。 「何なら、後で見てみる? 令ちゃんは平気だって言うんだけれど」 「あ、だから変わってもらえたんだ」 「そう。それで?」 「へ?」 「私に何か用事があったんじゃないの?」 「そうそう。夕食の時間だから、食堂に集まって下さい、って」 「あら、もうそんな時間なのね」 お洒落で可愛いデザインの腕時計で時間を確認しながら、由乃さんは「祐巳さん、ありがと」と言って部屋に戻った。 令さまとお姉さま、それに志摩子さんと乃梨子ちゃんは一緒に夕食の準備をしていたので、次に呼ぶべき人は……と考えていると、一番向こうの部屋から可南子ちゃんが出てきた。 「可南子ちゃん」 「祐巳さま。どうしたんですか」 「ご飯の時間だから、食堂に集まって」 「わかりました。ありがとうございます」 その足で可南子ちゃんは階段に向かった。 その向いの部屋にいるはずの瞳子ちゃんはいくら呼んでも出ないので、きっと入れ違いになったんだろう。私は階段を上り、蓉子さまたちの部屋に向かった。 蓉子さまはすぐ近くの資料室にいた。 「蓉子さま、夕食の時間です」 「あら、ありがとう祐巳ちゃん。すぐに行くわ」 様々な古めかしい物に囲まれた蓉子さまは、まるでその部屋の主のようだった。どんなところにいても、威厳がある。格好良い。 「凄い数ですね」 「ええ。古い刀や銃もあったわ。あっちの棚に古美術の資料があってね、ちょっと興味が湧いたものだから」 「古美術って、掛け軸とかですか?」 「ええ。母が立派な掛け軸を持っていたのを思い出してね、つい」 蓉子さまは微笑み、資料室から出た。私も一緒に出て、江利子さまの部屋に向かう。 何度もノックをするが、返事はない。蓉子さまも少し困ったような表情をしていた。 「どこか行ったんでしょうか」 「うーん、先に食堂に行ったんじゃない?」 そんな話をしていると、隣の部屋のドアが開いた。聖さまだ。 「あっれぇ、どうしたの祐巳ちゃん」 「あ、聖さま。食事の時間なので呼んで回っていたんですが、江利子さまがお部屋にいないようで」 すると、聖さまの顔から笑顔が消えた──ように見えた。 「いいんじゃない、江利子は放っておいても」 「えっ、でも」 「それより、早くご飯ご飯! 当然食べさせてくれるよね?」 聖さまはいつもの笑顔で私に抱きつくと、そのまま階段へと連れて行く。 「あ、あのっ」 「江利子なら心配ないって。さぁさぁ、祐巳ちゃんに食べさせて貰おうっと」 蓉子さまも苦笑しながらついてくる。私は最後まで江利子さまが気がかりで、ちらちらと江利子さまの部屋のドアを見ていた。 まさか、江利子さまと言葉を交わせなくなるだなんて、この時は思っていなかった。 <1日目/水野蓉子/広間> 食事をし終わっても、江利子の姿はない。あの時の聖との一件が関係あるのは間違いなかった。しかし、江利子には私の姿が見えていたはず。度が過ぎてはいたけれど、ふざけてやったことだと信じたかった。 食後の紅茶を飲みながらそんなことをぼんやりと考えていると、祐巳ちゃんが私を見ていることに気づいた。 「どうしたの、祐巳ちゃん」 「いえ、その……」 「──江利子のこと?」 祐巳ちゃんは無言でうなづく。そうよね、やっぱり心配になるわよね。それに、あの時の聖の態度もそう。引っかかるのは当然だわ。 私はソファから立ち上がると、少し離れた場所でチェスの勝負をしている聖に歩み寄った。 「聖」 「んー?」 チェス盤から視線をそらさず、聖は返事をする。対戦相手は乃梨子ちゃん。二人の間には志摩子がいて、まるで志摩子を賭けて勝負をしているみたいだ。勝負は乃梨子ちゃんのほうがやや劣勢か。 「江利子のことなんだけど」 「後にしてくれる? 今大事な勝負中なんだ」 やっぱり。予想していた通りの返答に、私は肩をすくめた。仕方なく、志摩子の隣に座る。 「江利子さまが、どうかなさったんですか?」 志摩子の質問に、私は曖昧な返事をした。まさか貴方の姉を階段から突き飛ばしたなんて言えない。祐巳ちゃんはやはりチラチラと私を見ているし、江利子のことはどうにかしないといけない。 ふと、窓の外を意識した。雷は鳴っていないが、相変わらずの雨模様。風も少しあるのか、明日も晴れそうにないだろう。 小さくため息をついて、私は立ち上がった。 「祐巳ちゃん」 「は、はい」 「私、部屋に戻って本を持ってくるわ。ついでに、江利子の部屋に寄ってみる」 広間を出ると、広間から続いている食堂のドアが開いた。由乃ちゃんがそこから出てくる。 「蓉子さま」 「ちょっと部屋に戻るわね。本を持ってくるから」 「あ、じゃあ私も行きます」 一緒に階段を上がる。 「江利子さま、具合が悪いんですかね」 「そうかもね。様子をみようとは思ってるんだけど」 その会話の後、由乃ちゃんと無言で階段を上っていく。最初に見た時は素晴らしく思えたこの城は、今は逆に重苦しい。 由乃ちゃんと分かれて、私は三階に向かう。あの聖と江利子のいざこざがあった場所を過ぎて、私は江利子の部屋の前に立った。 「江利子? 私よ、蓉子よ」 ノックをするが、やはり返事はない。 なんとなくドアノブを握ってみると、ドアが開いてしまった。鍵はかかっておらず、ドアも軽く閉めただけだったようだ。少し開いた隙間から、冷たい空気が流れる。 「江利子、江利子。……入るわよ」 私は少し返事を待ち、小さく息を吐いてドアを開けた。 ベランダへ続く扉は開け放たれていた。 カーテンがバタバタと暴れ、雨風が部屋を荒らしていく。 ベッドの上には、江利子が持ってきた荷物が置いてある。 そして、ベッドの向こうから伸びた足が、私の視界に入った。 「……江利子?」 眠っているのか? こんな状態で? (バカンスのために集められたメンバーたち) 由乃ちゃんの言葉が、あのときの令との会話が、頭に浮かんだ。 (しかし島に着いた途端に天気は崩れ) 雨と風は先程より勢いを増したようだ。 (脱出不可能の巨大な檻に閉じ込められてしまう) クルーザーはない。もしあっても、この天気と海の状態では……。 (そして起こる殺人事件) 私は少し眩暈がした。まさか、そんなことは。しかし、そこにいる江利子は? ゆっくりと歩み寄る。床に寝ている江利子の、全身が見える──。 私は悲鳴を上げた。その場に座り込む。そのまま気を失いたいくらいだった。 両目を閉じた私の親友は、その胸から柄を生やしていた。 クリーム色のサマーセーターを染める鮮やかすぎる赤。 動かぬ身体。血の気のない顔。 「蓉子さま、どうしたんですか!?」 由乃ちゃんの声が聞こえたと同時に、ようやく私は意識を手放した。 <1日目/佐藤聖/鳥居江利子の部屋> 私がそこに駆けつけた時、蓉子は気を失っていた。由乃ちゃんは呆然とした表情で立ち尽くし、その部屋の中を見た令は半狂乱になって泣き叫んだ。 祐巳ちゃんと祥子の息遣いは止まる。真っ青な顔で後ずさり、壁に背中をもたれさせた瞳子ちゃん。令をなんとか抑えた乃梨子ちゃんと可南子ちゃんの表情は強張っている。志摩子は私の腕を痛いほどに握っていた。 「……鍵」 呟くように言ったのは、幽霊のようにそこに佇む由乃ちゃんだった。 「鍵を、閉めましょう。あと、ベランダの、ドアも」 志摩子の腕をやんわりと払い、私は部屋を横切った。床に倒れた江利子はなんだかまだ生きているようでもあったが、恐らく胸に突き立てられたあの刃物の様子では、きっと──。 ベランダのドアを閉める。江利子の顔を濡らしていた雨は、もう部屋には入ってこない。もう、江利子を濡らすことはない。 机の上に置かれていた鍵を手にして、私は言った。 「行こう、みんな」 絶望の表情を浮かべた令は乃梨子ちゃんに任せて、私は可南子ちゃんと一緒に蓉子を担ぎ上げた。部屋を出て、ドアを閉め、鍵をかける。 「これでいい? 由乃ちゃん」 由乃ちゃんは無言でうなづいた。きっと由乃ちゃんだって推理小説とかで仕入れた知識をとっさに口にしただけなんだろう。 鍵をポケットに入れ、全員を促して、広間に戻る。 ──あの江利子の顔が、脳裏に焼きついてしまった。 <1日目/???/???> 鳥居江利子は、一番最初の犠牲者となってくれた。 その部屋を見てから、階段を下りていく、残された生贄たち。 私は声を出さずに微笑んだ。 さぁ、続けて行動していこう。 あの有名な推理小説のように──。 続く
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1 クロス 『マリア様がみてる』 2009/09/14 http //yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1252919682/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る 祥子様が澪の歌詞褒めてるのが笑えるw -- (名無しさん) 2021-09-10 17 10 48 面白かった もっと増えるといいな マリみてとのクロスオーバー 時間軸なんて気にしない -- (名無しさん) 2012-08-24 03 52 03 リリアン×桜高 どんな交流があるか興味深いwww -- (名無し) 2012-08-23 16 52 12 江利子様が桂さんを知っている事に驚きを隠せません(笑) ↓聖様だけでなく…… -- (名無しさん) 2011-09-28 00 44 16 あちゃー…聖様とうとう留年しちゃったか… -- (名無しさん) 2011-09-27 21 17 24 >しまーん >むぎゅーん に萌える♪ -- (名無しさん) 2010-12-27 12 34 25 マリみての時間軸おかしいだろw -- (名無しさん) 2010-11-23 23 33 07 誰も突っ込む人がいないので、敢えて突っ込みを入れさせてもらいます。乃梨子ちゃんと聖さまの代が一緒にいるというのは、一体どういうことでしょうか?? -- (名無しさん) 2010-09-20 15 53 07 面白かった。ムギ・・・。 -- (通りすがり) 2010-09-04 19 52 43
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マリア様がみてる 776 名前:水先案名無い人 :2005/08/23(火) 22 56 15 ID SnMaRI2R0 全「マリア様がみてる」登場人物入場!! 少女趣味は生きていた!! 更なる研鑚を積み剣道少女が甦った!!! シスコン!! 支倉令さまだァ――――!!! 盗撮ストーキングはすでに我が完成している!! 写真部エース武嶋蔦子だァ――――!!! 視界に入れしだい妄想しまくってやる!! 下級生勘違い代表 細川可南子だァッ!!! 江利子のの食い付きぶりなら我の趣味がものを言う!! 花寺の先生 非常勤 山辺教師!!! 真のチャレンジ精神を知らしめたい!! 茶目っ気満点 水野蓉子さまだァ!!! 生徒会メンバーは色物制覇だが女々しさなら全階級私のものだ!! 生徒会の書記 有栖川金太郎だ!!! 姉対策は完璧だ!! 猪突猛進代表 島津由乃!!!! 全家のベスト・デザインは私の中にある!! 設計事務所の社長が来たッ 福沢父!!! 小説なら絶対に敗けん!! リリアンのかわら版見せたる 捏造スレスレ 築山三奈子だ!!! バーリ・トゥード(筋肉あり)ならこいつが怖い!! 花寺のピュア・OB 薬師寺兄弟だ!!! リリアン新聞部から炎の記者が上陸だ!! 蔦子さんと一緒 山口真美!!! ルールの無いスキンシップがしたいから合宿(花寺ご一行)に付いてったのだ!! ホモの王子を見せてやる!!柏木優!!! めい土の土産に睡眠薬とはよく言ったもの!! 作家の作品が今 コスモス文庫でバクハツする!! リリアン卒 須加星先生だ―――!!! リリアン白薔薇級チャンプこそが世界最強の代名詞だ!! まさかこの女がきてくれるとはッッ 佐藤聖さま!!! 取材したいからお茶会まできたッ キャリア一切不明!!!! 新聞部のニューフェイス 高知日出実だ!!! 私は下級生最強ではない髪の毛で最強なのだ!! 御存知ドリル 松平瞳子!!! シスターの本場は今やいばらの森にある!! 私を驚かせる方はいらっしゃらないのかしら!! 久保栞だ!!! ギンナァァァァァんッ説明不要!! 住職の娘!!! シスター志願!!! 藤堂志摩子だ!!! 大叔母様は通学で使えてナンボのモン!!! 超仏像愛好家!! 菫子さんのマンションから二条乃梨子の登場だ!!! アリアは私のもの 邪魔する聖さまには思いきり注目されるため思いきり立候補するだけ!! 留学生統一王者 蟹名静さま 自分を試しに面接へ行ったッ!! 醒めキャラ全大学チャンプ 加藤景!!! 仏像趣味に更なる磨きをかけ ”タクヤの仏間”志村タクヤが帰ってきたァ!!! 今の自分に出番はないッッ!! 今は疎遠 桂!!! 体育祭のスーツの男性が今ベールを脱ぐ!! 小笠原家から 小笠原融だ!!! さーこさまの前でなら私はいつでも全盛期だった!! 燃えるお母さん 祝部みき 旧姓で登場だ!!! 会計の仕事はどーしたッ 呼称の変化 未だ消えずッ!! 「お姉さん」も「祐巳ちゃん」も思いのまま!! 小林少念だ!!! 特に理由はないッ 福沢姉弟が似ているのは当たりまえ!! 間違えたないしょだ!!! 日の下張り手! 推理小説同好会がきてくれた―――!!! 体作りで磨いた実戦ボディ!! 花寺生徒会のデンジャラス・副会長 高田鉄だ!!! 江利子だったらこの人たちを外せない!! 超A級シス(娘)コン 江利子の家族だ!!! 超一流名家の超一流の運ちゃんだ!! 生で拝んでオドロキやがれッ 小笠原家の運転手!! 松井さん!!! 福沢家はこの男が完成させた!! 花寺生徒会の会長!! 福沢祐麒だ!!! 若きつぼみが帰ってきたッ どこへ行っていたンだッ ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンッッ 俺達は君を待っていたッッッ福沢祐巳の登場だ――――――――ッ 関連レス 779 名前:水先案名無い人 :2005/08/23(火) 22 59 48 ID SnMaRI2R0 元ネタは「マリア様がみてる」by今野緒雪。 リザーバーまでは力及ばず… 780 名前:水先案名無い人 :2005/08/23(火) 23 34 21 ID FX6gJsm00 779 祥子様!江里子様! 781 名前:水先案名無い人 :2005/08/24(水) 18 04 20 ID oNq1wNzL0 加えて連載継続に備え超豪華なリザーバーを4名御用意致しました! 妊娠疑惑!! 鳥居江里子様!! 伝統派お嬢様 小笠原祥子様!! 写りが悪い!内藤笙子! ……ッッ どーやらもう一名は由乃に目をつけられた様ですが、新刊が出版され次第ッ皆様に妹としてご紹介致しますッッ ごめん、ID SnMaRI2R0じゃないが作ってみた。 コメント 名前
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マリア様がみてる・サブタイトル 174 :水先案名無い人:2011/11/23(水) 12 27 27.21 ID tD4oDFuy0 真美「『マリア様がみてる』の歴史を振り返ってみましょうかーーーーッ」 観客「オーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 蔦子「それでは皆さんご一緒にーーーーッ!!」 真美・蔦子「ごきげんよう!!!」 観客「ごきげんよう!!!!」 全『マリア様がみてる』入場!! 祥子さまのトラウマは生きていた!! ギンナン王子を乗り越え祐巳との姉妹関係が成立した!!! 初巻!! 『マリア様がみてる』だァ――――!!! 破綻した関係はすでに手術で修復している!! 由乃のロザリオ返し『黄薔薇革命』だァ――――!!! 発売されしだい作者疑いまくってやる!! 聖さまの過去代表 『いばらの森』だァッ!!! 生徒会役員選挙なら薔薇姉妹世襲の歴史がものを言う!! 小笠原家の新年会 蟹名静さま初登場 『ロサ・カニーナ』!!! 真の第一発見者を知らしめたい!! 第一回宝探し大会 『ウァレンティーヌスの贈り物(前編)』だァ!!! 宝探しは負けてしまったが令ちゃんの心ならいつも私のものだ!! 三者三様のデート 『ウァレンティーヌスの贈り物(後編)』だ!!! 一発芸対策はやすき節だ!! 江利子様祐巳さんご乱心 『いとしき歳月(前・後編)』!!!! 全カトリックのベスト・信仰心は寺生まれの志摩子にある!! 仏教大好き乃梨子ちゃんが来たッ 『チェリーブロッサム』!!! お姉さまなら絶対に譲れん!! 三者三様のすれ違い見せたる 瞳子ちゃん第一印象最悪 『レイニーブルー』だ!!! 天使のような(能天気な)笑顔なら祐巳さまが怖い!! 紅薔薇のピュア・仲直り 『パラソルをさして』だ!!! 庶民の家からコシヒカリ姫が上陸だ!! 避暑地騒動 『子羊たちの休暇』!!! 祥子さまを思うからこそ秘密(OK大作戦)をバラしたのだ!! 乃梨子の恋人を激写してやる!!『真夏の一ページ』!!! 祐巳が完璧な姉とはよく言ったもの!! 祐巳の体が今 男子校で男たちに狙われる!! 可南子ちゃん初登場 『涼風さつさつ』だ―――!!! 体育祭こそが地上最強イベントの代名詞だ!! まさか祥子さまが学ランを着るとはッッ 『レディ、GO!』!!! 面白いから謎かけにしたッ 回答一切不要!!!! 江利子様の催促(嫌がらせ)攻撃 『バラエティギフト』だ!!! お土産はローマ饅頭フィレンツェ煎餅ではないフォトアルバムなのだ!! 御存知イタリア修学旅行 『チャオ ソレッラ』!!! 妊娠の本場は今や女子高生にある!! 聖さますら驚かせる人がいたのか!! 『特別でないただの一日』だ!!! 多ォォォォォいッ説明不要!! 九人がかり!!! 祥子さま探し!!! 『イン ライブラリー』だ!!! つぼみは妹を持ってナンボのモン!!! 超実戦お茶会!! 本家薔薇の館で『妹オーディション』の開催だ!!! お姉さまは私のもの 邪魔する人は思いきり追いかけ思いきり勝負を挑むだけ!! 三薔薇統一王者 『薔薇のミルフィーユ』 祐巳を頼りに福沢邸へ連れてきたッ!! ( ゚ω゚ )お断り回数三薔薇チャンプ 『未来の白地図』!!! なかきよに更なる磨きをかけ ”女性だけの新年会”『くもりガラスの向こう側』が帰ってきたァ!!! 今の瞳子に支持者はないッッ!! 生徒会役員選挙『仮面のアクトレス』!!! 瞳子の秘密が今ベールを脱ぐ!! 瞳子視点から 『大きな扉 小さな鍵』だ!!! 妹のことなら私はなんでもお見通しだ!! 第一回宝探し大会 『クリスクロス』 祥子さま令さまは敗北だ!!! 剣道部の練習はどーしたッ 瞳子の噂 未だ消えずッ!! 亜美さんも千保さんも思いのまま!! 『あなたを探しに』だ!!! 特に理由はないッ 蔦子さんを撮りたいのは当たりまえ!! 本人にはないしょだ!!! 笙子ちゃんの盗撮! 『フレーム オブ マインド』がきてくれた―――!!! 騙されて磨いた実戦一発芸!! 三年生を送る会のデンジャラス・玉簾 『薔薇の花かんむり』だ!!! 卒業間近だったらこれは外せない!! 超A級リベンジャー 『キラキラまわる』だ!!! 超一流薔薇さまの超一流のお返しだ!! 生で拝んで受け取りやがれッ ホワイトデーの日記!! 『マーガレットにリボン』!!! 祥子さまのメッセージは黒いリボンが完成させた!! 十人十色の卒業前夜!! 『卒業前小景』だ!!! 祥子さま令さまが退場したッ 前三薔薇さまもかけつけたンだッ 卒業式ッッ 蜂までもが卒業を祝ってくれたッッッ『ハロー グッバイ』で卒業だ――――――――ッ 加えてその後の展開に備え超豪華な後発作品を3巻御用意致しました! 新入生歓迎 『リトル ホラーズ』!! おにぎりババァ 『私の巣』!! 娘はあの人!『ステップ』! ……ッッ どーやらまだ続刊の予定がある様ですが、出版次第ッ皆様にご紹介致しますッッ 関連レス 179 :水先案名無い人:2011/11/23(水) 12 49 05.28 ID 9Iyw5OtW0 おおこれはすばらしい、そういや三十二巻で一部完だもんなw 個人的には未来の白地図以降の引き伸ばし感が強すぎてどーにも… いとしき歳月が面白すぎて生きているのがつらいレベル やっぱ蓉子様世代が現役の頃が好きかなー 180 :水先案名無い人:2011/11/23(水) 19 19 27.46 ID gRi11SE10 懐かしきレイニー止め アニメから入って、凄いよ凄いよ言われてみたら あまりに凄すぎて朝からお茶吹いたの思い出した コメント 名前
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「ごきげんよう、お姉さま」 ──今野緒雪『マリア様がみてる』より <3日目/佐藤聖/広間> 「おかえりなさい、お姉さま」 ……背後から聞こえたのは、私のよく知っている者の声だった。私の最愛の妹、藤堂志摩子。 視界に入った志摩子の手は、赤く汚れていた。それはすぐに血だとわかった。でも私は、それを信じたくはなかった。 「お姉さま?」 「……志摩子、無事……だったんだね」 「ええ。お姉さまもご無事で」 普段の志摩子のしゃべり方だ。何かに怯えている様子も感じられない。 ──まさか。まさか、志摩子が、この事件を起こした犯人? 「ねぇ、志摩子……いったい、何が、あったの……?」 目の前に広がる光景は、異常以外の何物でもなかった。 椅子に座るのは、祥子、令、そして祐巳ちゃん。しかし──全員、死んでいるのは明白だった。 祥子はひどく驚いたような顔だった。細い首に、くっきりとした痕が残っている。令はひょっとすると生きていると言われても信じてしまうかも知れない。でも、顔面は真っ赤に染まり、頭部は無残にも割れていた。祐巳ちゃんは祥子と同じように、首に痕をつけている。とても苦しそうな顔で、私は見ていれずに視線をそらす。 「令さまが、祐巳さんを殺したんですよ」 「なん……だって……?」 令が祐巳ちゃんを? とてもじゃないが信じられない。殺す理由はどこにもないはずだ。祐巳ちゃんが令の逆鱗に触れたのか、とも思った。姉妹を失った令が怒りに身を任せて祐巳ちゃんを襲ったのだろうか……。 「じゃあ、どうして令は死んでいるの……?」 「私が殺しました」 そこで私の頭に衝撃が走る。志摩子が令を殺しただって!? 「祐巳さんの首を絞めている令さまの頭に向かって、椅子を振り下ろしました」 志摩子は、さも当然かのように言う。 「何度も繰り返したら、令さまの動きが止まったので」 志摩子、志摩子。嘘だと言ってくれ。もうそれ以上言わないでくれ。 「祥子さまは私が殺したんですけどね。うふふっ」 私は、私の背後にいる少女が、志摩子の顔をした悪魔なんじゃないかと思った。 志摩子はこんなことをするような子じゃない。祥子と令を殺すような子じゃない。 そうだ。乃梨子ちゃんはどこだ。乃梨子ちゃんがいたなら、志摩子のこのような行動を許すはずが──。 「お姉さま、誰をお探しですか?」 歌うようにささやく志摩子。私はできる限り静かに、 「……乃梨子ちゃんを」 「あら、何のお冗談ですか? 乃梨子なら、すぐそこにいるじゃないですか」 「えっ」 私の首に巻かれていた手が動く。それはまっすぐに、開け放たれた窓を指していた。 「そうだ、お姉さまも乃梨子を見てあげてください。乃梨子ったら、私がどれだけ声をかけても起きないんですよ」 志摩子は私から離れ、横を通り、窓へと向かった。私はふらふらと、その後に続く。 「乃梨子、乃梨子。お姉さまがいらしたわよ」 「ああ……」 志摩子の背後から外を見た私は、目を閉じて、声を漏らした。 悔しそうな表情の乃梨子ちゃんが、雨に濡れていた。片腕が、無い。私の部屋の床に転がっていたのは、乃梨子ちゃんの腕だったというのか。 「──う、うえぇっ!」 私は吐き気を堪えることができなかった。床に、胃の内容物をぶちまける。 「お姉さま、大丈夫ですか?」 志摩子が駆け寄る。 「今、お水をお持ち致しますね」 厨房へと向かう志摩子。 ……もし、志摩子が持ってくる水に、毒が入っていたらどうする。 嫌な想像をしてしまった自分を殴りたくなる。 でも──。 「志摩子、志摩子!」 私は厨房へと、ガクガクと震える足を引きずるようにして向かった。 <3日目/藤堂志摩子/厨房> お姉さまったら、乃梨子のことを見て吐いてしまうなんて失礼だわ。 でも、みんな死んでしまったのだもの。無理もないかもしれないわね。 私は冷静。とても冷静。 祐巳さんを殺そうとしていた令さまを私は殺したけれども、後悔はしていないわ。 あら、でも私は怯えていた祥子さまを殺したのだっけ。 ふふ、やっぱり私は狂っているのかしらね。 だって、私の目の前には、死んだはずのあの方がいるのだもの。 いけない。挨拶をするのを忘れていたわ。 「ごきげんよう、江利子さま」 それが、私の最期に発した言葉だった。 <3日目/対峙する二人/厨房> 佐藤聖は厨房のドアを開いた時、夢を見ているのかと思った。 そこにいたのは、先に厨房に入った藤堂志摩子ではなく、この館の中で一番最初に命を落としたはずの鳥居江利子だったのだ。 「──江利子……?」 「ごきげんよう、聖。無事でなによりだわ」 江利子は相変わらずの笑顔と相変わらずの口調でそう言うと、手にしていた物を調理台に置いた。真っ赤に染まったナイフである。それは江利子の胸に刺さっていたはずのものだったが……。 「焦げてしまっても、切れ味は落ちないのね。一発だったわ」 「何を言ってるの? 江利子は生きていたの? でも、部屋で、確かに──」 「あら、こんな状況になっても貴女はわかっていないのね。そんなんじゃあホームズは無理ね。せいぜいワトスン止まりだわ」 「どういうこと? だって、江利子は部屋で」 「はぁーあ」 江利子は大げさにため息をつき、肩をすくめた。 「聖ってば、まさか本当にわかっていないの?」 「──まさか」 「やっと気づいたのね。すぐわかりそうなもんだったけど。だって、私と瞳子ちゃんじゃ、どうやったって身長が違うでしょうに」 聖はその場に崩れてしまいそうな身体を支えるべく、調理台に手をついた。 その時、江利子の足元に倒れる志摩子を見つけた。柔らかな笑顔を浮かべたまま、血まみれとなっている志摩子。その首には横一線に深い切れ込みが入っている。 「江利子、まさか、志摩子を」 「志摩子『を』というか、志摩子『も』ね」 「そんな、まさか」 「だって、瞳子ちゃんを殺して燃やすこともできたのは私しかいないでしょ? 瞳子ちゃんだけじゃないわよ。みんな私が殺したんだから。だって私は『殺人犯人』の役割を背負っているわけだし」 江利子はにっこりと笑う。 「でも、貴女は『探偵』としてはお粗末だわ。簡単に気絶させられちゃうし。スタンガンが貴女に綺麗に決まったときは驚いたわよ。まったく、一時の肉欲に溺れすぎ」 「……あの手紙は……」 「手紙? ああ、由乃ちゃんのことかしら? だって『貴女も蓉子も仲間』なのには変わりはないでしょう? 山百合会を背負ったことのある仲じゃないの」 聖は無言で、江利子を睨みつけている。 「けど、一番の誤算は志摩子と令よね。まさか祥子や祐巳ちゃんを殺すなんて考えてもみなかったから。令はああ見えて脆いからね。まぁ、ひょっとしたら元々祐巳ちゃんを殺すことになってたのかも」 「……江利子の言っている意味が、わからないよ……」 「聖……。貴女ったら、本当にわかっていないの? ポケットの中、見てみなさいよ」 「ポケットの中……?」 聖はハーフパンツのポケットを探った。すると、中から一枚のカードが出てきた。 「こんなの、私、知らない……」 「そう? 『探偵』は知らないのかしらね。ほら、見てみなさいよ」 そのカードの真ん中には、『探偵』とだけ書かれていた。 「……なに、どういう、こと?」 「ほら、私のカード。『殺人犯人』って書いているでしょ?」 江利子の差し出したカードには、確かにそう書かれていた。 「いいこと? これは『ゲーム』なのよ、聖。『探偵』は事件を解決しなければいけない。『犠牲者』の数を増やさないように、ね」 「ゲーム……? これがゲームだって? 冗談じゃない!!」 聖は一気に江利子との距離をつける。胸倉をつかみ、江利子を睨む。 「こんなに人が死んで、それがゲームだって言うのか!! ふざけるな!!」 「ふざけてなんかいないわ」 「江利子!!」 「この最高にふざけた世界を終わらせるにはね、『探偵』が『殺人犯人』を捕まえるか、『全員死ぬ』しかないのよ」 江利子は悲しそうにつぶやくと、目を閉じた。 「さぁ、聖。もう、終わりにしましょう……」 <3日目/佐藤聖/広間> 私は、江利子を殺した。 みんなを死に追いやった犯人は、もういない。 しかし──誰も助けることはできなかった。 自分以外の人間は生きてはいない。 嵐の孤島、凄惨な事件、物言わぬ屍となった哀れな子羊たち。 自分以外の人間は殺されている。それは即ち生き残っている者が他の者を殺害したということだ。 私は両手を見る。汚れている。自分の血なのか、それとも──。 ──みんなを殺したのは、私ということでもあるのかも知れない──。 開けられたままの窓から、光が射してきた。 嵐は過ぎ、眩しいくらいの光が、外には立ち込めている。 その光は、やがて私を包んで……。 私の意識は途切れた。 <12月20日/山百合会幹部/リリアン女学園> パチ、と目が開かれる。 「いかがでしたか、聖さま」 大きな眼鏡の少女が、目覚めたばかりの佐藤聖を顔を覗き込んでいた。科学部の星ノ宮あずさである。隣には文芸部の横須賀千晴もいる。 「──目覚めた時に可愛い女の子がそばにいるってのは最高だけど、夢の内容は最悪だったね」 聖は身体を起こして、そう呟いた。 「もっと、いい夢ってのはないの?」 「すみません。私が用意できたのはこのミステリしか」 「次は、さ。もっといいのをお願いしたいなぁ。私と志摩子のラブラブなやつとか──」 そう言うと同時に、咳払いが聞こえた。二条乃梨子だ。乃梨子は聖に言う。 「志摩子さんとラブラブなんて禁止ですからね、禁止!!」 「おお、怖い怖い。祐巳ちゃーん、乃梨子ちゃんがいじめるよー」 「あはは、聖さまったら。って、ぎゃう!」 「ん~、やっぱり祐巳ちゃんはもちもちしてて気持ちいいねぇ」 福沢祐巳がじたばたしていると、小笠原祥子が頭に大きな怒りのマークを浮かべながらゆっくりと近づいていく。 「聖さま? 悪夢の続きをお見せ致しましょうか?」 「冗談だよ、冗談。あ、でも祐巳ちゃんが気持ちいいのは本当だからね?」 「うう、嬉しくないです……」 「ちょっといいかしら」 水野蓉子が、あずさに話しかける。 「このようなマシンはとても素晴らしいのだけど、今回の内容はちょっと刺激が強かったわ。聖ではないけれど、もっといいお話があれば、と思うわね」 「えー? 私は楽しかったわよ? 架空の世界だから思いっきり暴れれたし」 「江利子は黙ってなさい。大体ねぇ、貴女が私を殺すっていうのが納得いかないのよ!」 「あれは自分の不注意でしょ? 毒入りのコップにひっかかるなんて素人もいいとこよ」 「それを仕掛けたのは江利子でしょうが!!」 二人を見ながら、島津由乃が呟いた。 「あーあ。被害者なんてつまんないの。私が探偵やりたかたなぁ」 「まあまあ。クジで決めた役割だったんだから仕方ないじゃない。それに、結局は協力者だったんでしょ?」 「そうよ。それだって結局騙されてたんだもん。江利子さまが『ドッキリをしかける』とか言うんだもの」 「そういうシナリオだったんだから仕方ないじゃないの。ねぇ、美晴さん?」 支倉令が美晴の方向を向いた時、由乃は思いっきり令の足を踏みつけた。 「いった!! 何するのよ由乃!!」 「ふーんだ、令ちゃんの馬鹿」 「それにしても、こんな機械があるんですね」 細川可南子は自分の頭につながれていた小さなマシンを手に取って言った。 「脳波に働きかけて、人工的に夢を見れるんでしたっけ?」 「まぁ、大体は合ってます。麻帆良学園の大学と共同で開発したんですよ」 あずさは眼鏡のブリッジを指先で押し上げる。 「それにしても、瞳子の出番が少なかったですわ」 松平瞳子がプリプリと怒りながら言う。 「せっかく私の演技の本領を発揮できると思いましたのに」 「でも、夢なんだから演じるもなにもないじゃないの」 「ですが……」 「死体役じゃ不満?」 「……不満もなにも、刺されるわ燃やされるわ、散々な目にしか合っていません」 「まぁ、演技は夢じゃなくて現実で行ったほうがいいわよ」 「可南子さんは聖さまとベッドシーンまで行ったから」 「だ、だってそういうシナリオなんだもの! 本当だったら、その、祐巳さまと……」 「乃梨子」 藤堂志摩子は乃梨子の肩を優しく触る。 「いくらシナリオ通りとは言え、乃梨子が死んでしまうのは悲しいわ」 「私だって、志摩子さんが死ぬのは嫌だったよ」 「それに、令さまにも謝らなくては」 「私も一緒に謝るよ」 「乃梨子、ごめんなさいね」 「ううん、いいよ志摩子さん」 「乃梨子……」 「志摩子さん……」 「ストップストップ!!」 いい雰囲気に聖が割り込んでくる。 「せめてそういうのは、私がいないときにやってくれないかな」 「聖さまは、私がいても志摩子さんにキスするじゃないですか」 「そりゃあ、志摩子は私のものだもん」 「横暴! 志摩子さんは私のです!!」 「……あの、私はどちらも好きなのだけど……」 困ったような志摩子の声は、姉と妹の口論にかき消されてしまった。 ずっとこの光景を見ていたあずさは、「やっぱりこの方々には、血なまぐさい話は似合わない」と思った。それは美晴も同感のようで、「次があれば楽しい話を用意する」と言っている。 あずさは、この場に集まる全員に言った。 「もし次があれば、ミステリではないシナリオをご用意しますね」 <山百合会孤島事件/殺人事件編・完>