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スレ7-287 287 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/03(火) 20 28 53 ] 流れ豚義理スマソ。 義兄嫁すごくムカつきます。 何かって言うと「義弟嫁ちゃんの出た大学って馬鹿で有名で~」 「息子ちゃん達なんて、ウチの甥っ子達に比べれば~」 ってオイ! 貴方は高卒・小梨じゃないですか。 それにね、私が一番信頼して仲のいい友人は「高校中退」です!! 学歴なんて関係ないの。その人の人柄でお付合いはするものなんです。 小梨って事だって、授かりものだから仕方ないし…。 誰も貴方のことを責めたりしていないでしょ。 だから学歴・小梨を気にして騒ぐのはもうやめてくれませんか? 貴方の学歴も小梨のことも、義兄と仲良くしてくれてればどうでも良いんです。 大体同居しているのは次男である我家なのに、何でこれ以上の揉め事を 抱えなくちゃいけないんですか! 本当に腹立ちます。 289 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/03(火) 21 16 11 ] 287 高卒、小梨で自分から見たら下だと思う人にバカ大学出身、子が他の甥っ子より出来が悪いと言われたのがお腹立ちの一番の原因ですか? どうでもいいようなことで、スルーすればいいと思うのですが、もっと他に何かあるのでしょうね。 290 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/03(火) 21 26 39 ] 287 人を貶めようとする人は 針の穴ほどの隙間でもねじ込んできます。 「貶めよう」と思ってるのですから 他人の失敗や弱点しか目に入りません。 もともと他人の長所を見つける才能のない人なんです。 そういう人にカリカリするのは得策ではありません。 相手が何か言い始めたら 「あら、生臭い風が吹いてるわ」位に流しておくのがいいと思います。 でも間違っても本人の目の前で鼻をつまんではいけません。 あくまでも心の中で思ってください。 291 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/03(火) 23 14 40 ] 287 やっかいな義兄嫁だね。知性がなく下品だよね。 そういう人、けっこうみたことある。 その義兄嫁はあなたに対して勝手にコンプレックスを持ってるので(子供のこと、学歴のこと、親と同居のこと) どことなく攻撃的なんじゃまいか。 293 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 10 59 58 ] コンプレックス持って攻撃してくる相手には無視するのが一番いい方法。 時々そのコンプレックスをつついて反撃するのは自由だけど。 294 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 11 38 36 ] 289, 290, 291 さん、有難うございます。 私達が結婚して15年、義兄達は12年。 最初から言われていたので気にしないようにしていましたが、 私があんまり意に介していないのが腹が立ったようで、 今年になってから主人にまで「義弟さんにもの申したいんですけれど…。」 と始まったんですね~。 義兄嫁曰く「義弟嫁は私の学歴をとやかく言っている。」 →(言ってません) 「義弟さんを蔑ろにしている。結婚できたことをもっと有難がらなければいけない。」 →(結婚して良かったとは思っているけれど、有難いなんて普通言う?) 「2世帯にしてお祖母ちゃんをこき使っている。あんな嫁はあそこの大きな家に住む資格は無い。」 →(2世帯だからそれなりの広さというだけ。でも玄関お風呂一緒だし、食事だって作っている。 義兄達だって新築戸建。そっちのがよっぽど羨ましい…) 「義兄の方が義弟(私の夫)より魅力的だと言っているし、結婚したかったって言っている。 色目使っていて、信じられない。」 →(どうやら、結婚するときに私が「ご結婚おめでとうございます。義兄さんは素敵な方ですし、 義母もとても喜んでいます。」と言った事がこの発言に繋がったよう。 もう禿げ上がるくらい「社交辞令」で言ったんです。素敵な方って…。) 主人も驚いてしまって(爆笑でした。私も笑ったけれど…) 「うちの嫁子は学歴のことで他の人を貶めるような心の持ち主ではないし、 貴方にご飯を食べさせてもらっているわけではないから、住む資格も何も 貴方に言われる筋合いではないでしょう?少し被害妄想入ってませんか?」 と話してくれてはいますが、納得していると到底思えないんです。 本当にず~っとスルーしていたんですが、今回子供達に危害を加えないかとか 私同居して嫌な事だってあるのに損してない?とかって思ってしまって。 295 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 12 11 09 ] 293さん ゆっくり書いていたらレス頂いていました。有難うございます。 296 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 12 35 06 ] ひょっとして、トメさんが義弟嫁さんに 295さんのことを あれこれ吹込んでたり、愚痴ったりとかしてるってことは 考えられませんか? なんかうちのトメも、お互いの嫁の印象操作をして嫁同士 よく思わないように仕向けたりする人なので…。 297 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 14 07 40 ] うちのトメは、学歴とか子どもの事とかネタにして同居の義兄嫁に「弟嫁(わたし)のところは~」などと比較して言っているようだ。 面白くない義兄嫁は「トメに貴方と比べられて嫌なこと言われてる。そりゃ貴方はいいよね~、・・・」と愚痴と嫌味をぐちゃぐちゃ言って来るんだよ。 で、法事の席で親戚のいる前でお茶だしの催促をして、私が出すとそのお茶についてぬるいとか渋いとか文句。 会食の席で配膳をしていて、足りない物を持ってくるよう私に言い、持ってくると私の席がなかったり(自分の実家の姪っ子達を座らせておいたりする)。 それを見咎めたトメが親戚の婆と「兄嫁が弟嫁をいびってる」等々影口言ってたり・・・。 義実家なんてめったに行かないから別に反論も反撃もする気ないんだけど、行くといつもこんな調子なんだよね。 298 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 14 53 21 ] あまりにも話の合わない義兄嫁との会話に困って 「うーん、興味ない」「よくわからないわー」 を連続してたら「バカにしてるのねー」と泣かれた。 バカにするほど興味ないから困ったなぁ 299 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 15 00 52 ] 正直言って、うちの義兄嫁みたいな高卒でそのまま自宅で自称「家事手伝い」だけして、30近くなってから見合いで結婚した脳家出身の女とは 会話が成り立たなくて困る。 300 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 16 35 50 ] 296, 297 さん、有難うございます。 最初は私もそう思っていましたし、実際そうだったんでしょうけれど…。 最近は義母にも詰め寄っている様子です。 義母もその度「違うでしょう?」などと反論したのが、また気に食わなくて ループ「義母さんはどうして弟嫁を庇うんですか!」 に義母、号泣。 なので今はただ単に義姉が一人でぐるぐる回っている感じです。 は~、最初は子供がいないから、きっと子供が出来れば変わるはず。 仲良く出来ればいいなぁとか、私の人となりが分かれば分かってくれるはず。 って単純に思っていたけれど、そうではないみたい。 298, 299さん、有難うございました。 確かに会話が成り立たないんです。高卒だから話が合わないというよりは、 会話すると悪い風にとってキーッとなってしまう感じです。 音楽が趣味なので「一生続けられる良い趣味ですね~。」と話すと 義姉「ええ。皆さん格調高くって、貴方と違ってすばらしいわ~。」 もうこうなると話す気力もなくなるので「そうですか。」で終わるんですけれど。 書いていて少し落ち着きました。 自分のを読み返して、レスを参考にして、ようやく分かりました。 私、上手くやろうと思っていたのが間違っていました。 もう無理なものは無理。 お付き合いは相手のあること、自分がそう思っていても相手がそうでないなら仕方ない。 今以上に割り切ってお付き合いしていきます。皆さん、有難う。 301 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 16 55 09 ] そうそう、割り切って当たらず触らずがいいとオモ へたするとそんなじゃ離婚になるかもしれないし、 「義弟嫁ちゃんのせいで」って言われかねないよ。 302 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/04(水) 18 12 27 ] もう空気のように扱うしかないんだろうね、そういう人って。 あちらが「あなたと違って~」なんて言うんだから、付き合う必要ないんだよ。 付き合いなくたって、困る相手じゃないし。 義兄は何してるんだろうね。 スルーしても食いついてきたら、ダンナさん経由で義兄に言った方がいいと思うよ。 直接話す必要もないし、無理。 自分の妻の言動の責任は取ってもらおう! 308 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/05(木) 19 10 29 ] いちばん悪いのは、嫁同士片方がいない所で片方の悪口言って喜んでるウトメ 309 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/05(木) 19 14 06 ] そこへ意地悪コウトメ、親戚が加わると最悪。 意地悪の巣窟www。 310 名前:名無しさん@HOME mailto sage [2007/04/05(木) 19 18 01 ] そんな奴らは絶縁でいいよ Next→7-336
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スレ3-221 221 :名無しさん@HOME:2006/05/09(火) 19 22 22 長文スマソ。 義弟嫁GJ!話なんだけど・・・。 GWに旦那実家に私たち夫婦と旦那弟一家が久しぶりに勢揃いした時のこと。 義弟嫁が三人目を妊娠していると発表、その場は「おめでとう」ムード一色に なったのだけど、突然どういう訳か義弟嫁が私たち夫婦に「お義兄さんところは まだですかあ?この子達にも従兄弟を作ってくれないと・・・。」と。 実は、我が家は旦那が原因の不妊小梨。それは結婚した時点でそれぞれの 親兄弟は承知の上でのことだったけど、義弟は自分の嫁には話していなかったらしい。 「まあいずれはね・・。」と必死にかわそうとする旦那に、義弟嫁がたたみかけるように 「親になることで人間的に成長したワタクシ。」「子供を産まない女は欠陥品。」 「不妊治療してでも二人は産まないと。」と周りが止めても 「孫を見せることこそ親孝行。みんなが遠慮して言わないぶん、私が義兄夫婦に もの申します!」とばかりにヒートアップしてしまい。 GW集合の目的の一つに、旦那両親が「どちらかの息子と同居したい」という 希望を持っており、どちらの息子も嫁姑問題勃発を恐れて「現状維持でいいジャマイカ」 と親を説得しようという裏目的があったわけだが、義弟嫁の説教(?)により、旦那がキレて 「そうだなあ、親になってない俺らは人間的に成長できてないから親と同居なんて無理だわ。 人間の出来た君たち夫婦が一緒に住んであげなさい。」 「孫を見せることが親孝行なんだろ?同居なら毎日見せてあげられるな。親孝行がんばってな。」 と義弟夫婦に淡々と申し伝え、無事(?)義両親の同居ロックオン先は、義弟一家となりました。 ありがとう!ありがとう義弟嫁さん!ほんと助かりました、ありがとうねw 222 :名無しさん@HOME:2006/05/09(火) 19 27 47 221 義弟嫁が自爆してくれたおかげで同居は無くなったようですね。おめ~ でも、素朴な疑問なんですが、義弟嫁が「子供作らないと~云々」 言ってる間の義弟さんの反応はどうだったんですか? この後この義弟嫁はきっちり〆られたんでしょうか? 223 :221:2006/05/09(火) 19 38 36 222 義弟の反応は 嫁の袖口つかんで「おい・・やめとけよ・・・。」みたいなことをモジョモジョと。 「兄貴に子種がないから出来ないんだよ。」とは本人(兄貴)目の前にしては いいにくかったのかなと。 その態度が余計「この人、何をお兄ちゃんに気を遣ってるのよ!」みたいに 嫁をヒートアップさせてしまったのじゃないかと。 子供のことがあるので、トメウトメも私に対しては「こんな息子と結婚してくれた人」 みたいな扱いで、ちょっと気を遣ってくれてるところも気にくわなかったらしいと 後からの電話で義弟から聞きました。一応義弟嫁に事実を話して怒ったらしいけど、 「先に言わないアンタが悪い!」って逆に怒られたらしいw っていっても、義弟嫁さんがウトメからいじめられてるとかそういうことはないとは 思うんだけどね。基本的には「いい人だけど・・・」系のウトメなので、たまに会うだけなら 仲良くできる(同居だとたぶん苛ついてダメ)人たちなんで・・・。 224 :名無しさん@HOME:2006/05/09(火) 19 42 13 義弟嫁は距離梨DQN 地雷踏んでくれてラッキーだったね おめ 231 :名無しさん@HOME:2006/05/09(火) 20 52 50 221義弟が事前に言おうと言うまいと、よそんちの家族計画に口は出さないでもらいたいね。 うちは義兄夫婦より後に結婚して先に子供ができたんだけど、妊娠がわかって義兄嫁と顔合わせた時に 「私は病院で調べてもらったんだけど、できない原因なんてなかったのよ。きっと旦那(義兄)が悪いの。そういうことなんだから。」 といわれ、旦那と二人できょとんとしたことがあります。結婚してまだ三年もしないし、不妊で悩んでるって聞いてなかったから。 それから半年ばかりして義兄嫁は妊娠しましたが、その時にお祝いを言いに行ったところ 「お宅がさっさと子供なんて作るから、ウトメたちがうるさく作れって言ったの。大変だったんだからね~。」と。 うちらはうちらで考えて子供作ったんだけど、長男夫婦に子供がいないと周りがうるさくして、義兄夫婦にはなんか悪いことしちゃった のかと思ってしまいました。 243 :名無しさん@HOME:2006/05/10(水) 10 04 55 221 よかったね~ その義弟嫁は、情状酌量の余地ゼロだね。子ども育てても成長してないじゃん。 でも、実際のところ子育てして成長する所もあるし、失うよさもある。 その義弟嫁みたいな鬱陶しさが出やすいかも。 私は子持ちだけど、まあいいトコ取りはできない。 Next→3-253
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「なんだ……、これは……!?」 エレベーターシャフトの扉の先では、焼け落ちた戦いの痕が彼らを出迎えていた。 ウェカピポの妹の夫も、宮本明も、李徴もメルセレラも、暫く何も言えなかった。 落下した大型エレベーターの天井をこじ開け、地下のSTUDY研究所、もといヒグマ帝国の階層に彼らが辿り着くのは、回転の奥義で首輪さえ解除していた参加者たちやヒグマたちには造作もないことだった。 そしてまた、司波深雪と百合城銀子が二人がかりでも開けられなかった歪んだエレベーターの扉を開けることも、彼岸島育ちの怪力である宮本明には造作もないことだった。 だがしかし、そこで目の前に広がっていた光景を理解するには、彼らも暫くの時間を要した。 「ヒグマだ……! しかも何体いる? 50体近いんじゃないか……?」 「そいつらが全員、誰かに皆殺しにされてるわ……。生きてる体温はない……」 「代わりに燃えているのは炎……。全員焼き殺されたとでも言うのか? この地にはそれほど強力な爆弾か何かがあるのか?」 「西山だったら……、いや、同レベルの技術者なら不可能じゃないだろうけど……」 一行の目の前には、焼き焦がされている数十体のヒグマの死骸と、その脂を燃料に未だ燃え続けている真っ白な焚き火が広がっている。 溜まっていた煤と煙がエレベーターシャフトへ一気に殺到してきて、一同は暫く咳を堪えられなかった。 エレベーターホールとなっている空間はそのまま地下に繋がっており広く、燃えている火の割りに換気はなされているのか、息苦しさはさほど感じない。 彼らはそのまま様子を探るべく、警戒しながらゆっくりとその空間へ脚を踏み入れた。 「照明弾……? いや、ではないにしても、この白い炎はマグネシウムかアルミニウムから出る高温だ……」 「とりあえず消すか……? ヒグマが焼けて臭いし邪魔だし……」 「駄目だ明! アルミは水中でも燃える! むしろ水を掛けると水素が発生して爆発しかねんぞ!」 「な、え……!?」 宮本明がそう言って燃えさしになろうとしているヒグマに近寄ろうとしたところを、ヒグマになった李徴子が前脚で差し止めていた。 彼の突然の言葉に、明はたじろいで引き下がる。 李徴の眼の真剣さに、明は自分の命が彼に助けられたのだと知った。 「……危なかったな明。そういった知識も、パロロワとかいうノベルで仕入れたものなのか、李徴?」 「ああ、人殺しの小説家の流儀が活かせるならば、こういう場を除いて他にないだろう……。 ここはまさにロワイアルの会場なのだから。我も目標を見失わず、早く心を引き締めるべきだった」 「……」 近寄って来た義弟と李徴との会話に、宮本明の思考はなぜかささくれた。 護衛官の回転を会得した達成感が占めて浮ついていた心が、一気に沈んで冷える。 それは恐らく、一歩間違えれば明たちでさえ死にかねない危機を再認識したことと、ヒグマに助けられてしまったことの悔しさのためだった。 明は口の中でチクショウと呟きながら、バシバシと自分の頬を叩いて気合を入れた。 「……これ、ミズクマだわ。あの子の娘たちが、このキムンカムイたちと戦ってたみたい」 「ミズクマというと、海にいるとかいうやつだったか? 羆に酔っていてうろ覚えだが」 「そうよ。あの子が、誰の手も借りずにここまで来て、しかもキムンカムイ相手にトゥミコル(戦い)を仕掛けるなんて有り得ない。研究員の誰かが命令したとしか考えられないわ」 「確かに、ヒトの匂いが微かにするな……。獣臭と熱気に紛れているが女……、2人……、か?」 ホール内を四つん這いで探っていたメルセレラが、焼け焦げた甲虫かダイオウグソクムシのような死骸を発見して声をかけてくる。 応じた李徴と共に、彼女たちは率先して状況把握に乗り出していた。 「流石に、こういう場の調査にはヒグマの流儀が秀でているな。そうは思わないか?」 「……その質問は卑怯じゃないか、義弟さん?」 「この程度のことで卑怯もクソもあるか。オレたちが相手にすべきは『敵』であって、ヒグマとは限らない」 ウェカピポの妹の夫の問い掛けに、明の口調は忌々しげだ。 しかし義弟の口振りは変わらず飄然としている。 未だに宮本明がヒグマに対して不毛な敵愾心を抱いていることは丸わかりであり、義弟はその不毛さをそれとなく明自身に示し、諌めているのだ。 「ここのヒグマ数十体を蹂躙した、研究員だかなんだとかいう人間が、オレたちの敵として向かってくるのかも知れんのだぞ?」 「研究員なら、むしろヒグマにやられた側だろ!? それの報復でヒグマを殺してるなら今は味方じゃねぇか!」 「さぁな。いずれにしろ、敵がこの近くにいるのならヒグマではあるまい」 食って掛かる明に顔を寄せ、義弟は一段声を低くして囁く。 義弟が手で示す周囲には、メルセレラと李徴以外、炎しか動くものがない。 死骸に似つかわしくない、やたらに明るく白い炎が、明の眼に焼き付いた。 「ヒグマは、ここで死んでいるのだからな」 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 「痛っ……」 お尻に何かがチクリと刺さったのは、墓地から彼女が動き出そうとしたその時だった。 「布束さんの手紙に入ってた針だわ……。さっきの爆発で吹き飛ばされたの……?」 黒騎れいの手が摘まんだのは、細く透明に澄んだ、一本の針だった。 しかし、細く脆いそれは、彼女の手の中ですぐに折れてしまう。 今まで制服のホットパンツの中に原形をとどめていたのが驚くほどだ。 「布束さんが作った、薬の結晶でできた針……。これも何か幸運が……?」 「さあ、立ち止まらずにさっさと地下に降りますよ、れい」 「……ええ」 狛枝凪斗の幸運が彼女に託したものは、拳銃だけではなかったということだろうか。 この針が彼女の尻に刺さっていた理由など、それしか考えられない。 しかし砕けかけた針の使い途など、黒騎れいは思いつけなかった。 それにこれはどうやら狛枝のものではなく、彼女がデイパックに保管していたはずの一本のようだった。 カラスの促しに応じて、完全に手で砕き粉にしたそれを、彼女はあたりに撒いて捨てた。 この時に撒かれたHIGUMA特異的な吸収性麻酔薬が、ヒグマン子爵の足裏から吸収され、彼の感覚を鈍らせ、彼女の追跡を絶ったのは、ここから数十分ほど後のことである。 地下に降りられる下水道のマンホールは、ここが廃墟の傍ということもあり、繁みや崩れた建物の陰などで巧妙に隠蔽されていた。 STUDY肝煎りのジョーカーとして準備期間のあった黒騎れいでもなければ、地下への入り口がどこにあるのか、よほど入念に調べてもわからなかっただろう。 マンホールから続く下水道への竪穴は暗く、ムッとするような湿り気と異臭に満ちていた。 「流石に水位は引いてるけど……」 時間がたち、津波の水が半ば退いている代わりに、そこには下水が溜り濃縮されていた。 島の北東部の研究所にはヒグマの檻の多くが集まっていたせいもあるだろうが、下水の大部分がヒグマの糞便のようで、雑食とはいえ肉をメインで食っていたらしいそれらの、濃縮還元された便臭は甚だしいものがある。 それでも黒騎れいは、首輪に巻いた銀紙を確かめ、意を決して下水道へのはしごに手をかけた。 「れい、本当にこんなところを進むつもりですか!? 鼻が曲がりそうです!」 マンホールの蓋を締め直すと、ほぼ完全な暗黒と悪臭に空間が支配されてしまう。 そんな状況に、カラスは全身で嫌悪感を表現して騒ぎ立てた。 れいは充満する臭いよりもむしろ、肩周りで暴れるその鳥類に顔をしかめる。 「嫌なら二度と息をしなければいいんじゃない?」 「なにぃ……?」 投げかける言葉も冷たく、れいは呆れた溜息をついて下水道の内部に入ってゆく。 「とにかくワイヤーで天井を渡っていくから、どうにか触れずには済むわ……」 「うげぇ……、せめて私をヒグマの糞に落とさないよう努めなさい!!」 「思わず手が滑ってあなたを糞に叩き落としたらごめんなさい」 れいは反抗心を隠そうともせず、カラスの妄言をあしらう。 カラスの苛立ちはその一言一言に強まった。 「この……、私に歯向かう気ですか!?」 「おっと、ここで私の首を痛めたら、それこそお尻の下にあなたを敷きながら落ちちゃうかもね」 「ぐぬぬ……」 手首に装備したワイヤーアンカーを打ち出し、全身の筋力を駆使して天井渡りを敢行する作業は、生半可な体力消費では済まない。 カラスが下手に騒いだりすれば、バランスを崩したれいが糞ポチャするのは目に見えている。 当然その場合、黒騎れいはカラスを道連れにする腹積もりだ。 最も近い地下研究所への入り口に辿り着くまで数十メートル。 バッテリー駆動の非常灯の、かすかな緑色の光だけが頼りだ。 暗闇の中で感じるのは、黒騎れいの息遣いと、充満する臭気だけ。 カラスも流石に口をつぐんでいる。 地上で歩けばどうということもないだろうその距離を辿る数分間は、とてつもなく長く辛く感じられた。 そしてようやく、小さかった非常灯の明かりの前に辿り着いた黒騎れいは、ホッと一息ついて壁際の取っ手を探る。 しかしたちまち、彼女は絶望感に打ちひしがれた。 扉を下に辿っていった指先が、ぬるりと生温かい下水に、触れてしまったのだ。 「取っ手が……、下水の下に……」 「はい開けなさい! あなたが開けなさい、れい! 私じゃ無理ですからね!」 勝ち誇ったようにカラスが笑う。 扉は半分ほども、下水の下に埋まってしまっていた。 これでは通路に降りて、しっかりと力を込めてこじ開けねば扉は開かないだろう。 この汚物の充満した下水道の通路にだ。 そこに触れないよう触れないよう努めていた今までの労力がまるっきり無駄だったとわかり、黒騎れいの体には一気に疲労が襲い掛かった。 そしてそのままずるずると、彼女は壁際から下に堕ちた。 「うえぇ……」 発酵し腐敗しねばついた汚物の中に、ずぶずぶと脚が沈んでゆくのがわかる。 そのまま足先からふともも、股、下半身までもが沈む。上着にまで汚泥が跳ねかかる。 肌を這い上り、靴下や下着の中にまで浸みこんでくる生ぬるい異臭に、れいは吐き気を堪えるので精いっぱいだった。 頭がくらくらする。 「腰までぬるぬるしたものが……。気持ち悪い……」 もはや腹をくくるしかないのだ。 不快感に耐えながら両腕を粘着質の汚物の中に沈め、黒騎れいは扉の取っ手を探す。 制服の上まで汚泥に浸ってしまうが、もうどうしようもない。 とにかく早くこの扉を開けて脱出することが先決――。 「わぷっ!?」 そう思ってようやく扉を開錠した瞬間、それは勢い良く奥に向けて開いていた。 溜っていた下水の水圧が一気に解放され、扉を掴んでいたれいごと、汚泥は下水道の扉を押し開けて地下通路の中に溢れる。 10メートル近く汚泥の波に流されてようやく止まった彼女の上空で、カラスが高笑いを爆発させていた。 「カッカッカッカッカ! 私に反抗的な態度を取ってきた罰です! 良いザマですね、れい!」 「うぶぅ……」 全身をヘドロに塗れさせて身を起こしたれいは、無力感に襲われた。 髪も顔も胸も、もはや全身くまなく茶色の汚物に染まっている。 泣きたくても、眼をこする手も汚れているし、下手に口を開けばヒグマの糞を食べてしまいそうだ。 というか先程流された時に少し下水が口に入ってしまっている。 れいはひたすらそこらへんに唾を吐き続けた。 「そんな汚らわしい身で私に近付かないで下さいね。私は自分で示現エンジンを探して来ますから!」 カラスはこれでもかと言わんばかりの嘲笑を吐き散らかし、羽音も軽く、薄暗く荒れた研究所の奥へと飛び去ってしまう。 「泣きたい……」 暫く汚泥の中に座り込んで、れいは呆然とうなだれる他なかった。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ エレベーターホールを一通り調べ終わり安全を確認した宮本明たちの一行は、ひとまずここで小休止とすることにした。 研究所の内部構造は、メルセレラと李徴でさえ、ヒグマの身分であったがゆえに完全に把握しきれてはいない。 それが、ヒグマの氾濫後約半日経過している今となってはなおさら、先々に何が待ち構えているのかわからない。 しかし間違いなく、ここには『敵』と、『ヒグマを数十体以上殺戮した何者か』がいるのだろうということだけは、全員が予測していた。 地下の探索の最中に、いつ襲撃されてもおかしくはない。万全の応戦ができるよう補給しておくことは重要だった。 メルセレラが周囲の気温を観測して警戒を続ける中、日中に焼いておいたマリナーラピッツァや、未明に宙を舞っていたクッキーの残りの他に、ウェカピポの妹の夫がデイパックから取り出したものがある。 「なんなんだ義弟さん、その器械は?」 「『ナポレターナ』だ」 ナポレターナは、主にイタリアのナポリを中心に使用されている、ドリップ式のコーヒーメーカーである。 円筒形の金属製マグカップのような形をしたボイラーと、その中にコーヒー粉を入れるバスケットとフィルターが取り付けられ、さらに、抽出したコーヒーを蓄え注ぐためのポットで構成されている。 ポットを逆さにして水を入れたボイラー部に被せ、そのまま火にかけて使用する。 直に蒸気でコーヒー粉が蒸らされた後、全体を逆さにしてドリップすることで高圧の抽出が行われるため、ペーパードリップよりもかなり濃厚なコーヒーができあがる。 頑丈で取り回しやすく、イタリアンコーヒーの抽出道具としてはアウトドアに適したものの一つだと言える。 ウェカピポの妹の夫が第一回放送まで籠城していた、オフィスビルの給湯室にあったものだ。 「オレたちの場合、だいたいコーヒーはトルコ式か、このナポレターナで淹れることが多かった。 正直あの建物にあったエスプレッソマシンは、新しすぎて使い初めは戸惑った。蒸気圧でそのまま抽出するんだからな。 第一回放送があるまで、オレはほとんどあれでコーヒーを淹れるのに四苦八苦していたようなものだ」 「ほう、また上下布奇諾(カプチーノ)を淹れてもらえるのか?」 「そもそもコーヒーって何……?」 奇妙な形状をした金属製のその道具を眺めながら、明だけでなく李徴やメルセレラも興味深げに問うてくる。 彼らを前にして、義弟はいそいそとボイラー部に水を注ぎ始めた。 「いや、流石に牛乳は持ってきていない。だが今から作るのが、本物のイタリアンコーヒーだ」 支給されていた水をなみなみと注いだボイラーに、あらかじめ粉を入れていたバスケットを取り付けてポットを被せ、ヒグマの死骸に灯る火の上で沸かす。 次第に、辺りには蒸気で花開いたコーヒーの薫香が鮮やかに漂ってくる。 沸かしたナポレターナを取っ手でくるりと返せば、音も軽やかにドリップされるコーヒーの雫が、ポットの金を叩いて芳しく響き渡る。 砂糖をたっぷりと詰めた紙カップの中に注がれたコーヒーはどろりと濃厚で、それでいて黒曜石のように澄んだ輝きと深い透明感を放っていた。 手早く攪拌して差し出されたコーヒーを口にした一同は、揃って目を丸くした。 「いい香りね……。春の森の……、瑞々しい果物みたい……!」 「こ、これは可可茶(ココア)なんじゃないのか!? なんと芳醇な……」 「うっお……、本当だ、チョコレートみたいな濃さだ。旨い……」 「超深煎りのコーヒーを、同量の砂糖と乳化させるんだ」 「甘くて苦くて……、でもケラアン(美味しい)!!」 「普段のオレたちなら毎日6回は飲んでる。これがないと一日が始まらん」 冷めたピッツァを白い炎に炙って温めながら、一同は香り高く濃厚なコーヒーに舌鼓を打つ。 死臭と獣臭を掻き消し、半日の疲れを一気に吹っ飛ばすほどの幸福な空気が、エレベーターホールを満たした。 めいめいコーヒーとマリナーラを頬張りながら、彼らは束の間の雑談に興じる。 なお、義弟が食うに堪えなかった血と臓物味のクッキーは、メルセレラの絶賛を受けた。 元々クッキーババアがヒグマのために作った菓子であり、最終的に彼女の腹に喜んで収まったのは本望だったろう。 「で、あの建物、何か、物品が揃いすぎていたような気はしないか?」 「そうか? 普通のオフィスビルだと思ったけど……」 「オレも他の建物を詳しく見たわけでも、女子トイレの中まで覗いたわけでもないが、気になってな。 まさかナポレターナまであるとは思わなかった。 他の事務所や家庭にも常備されているのだとしたら、オレは日本を心から尊敬するよ。 こっちじゃ旨いコーヒーを淹れられるようになって初めて、一人前の大人と認めてもらえるんだぜ?」 「そうなのか!?」 話の中で、義弟はこれほどの物品が揃っていたビルへの違和感を語っていた。 しかし、話の流れは自然とコーヒーの流儀の方へと流れていく。 何より、ウェカピポの妹の夫が見せたコーヒーに関する卓越したスキルは特別なものではなく、彼の国では皆が身につけているものだという事実は、全員の驚愕をかった。 「ネアポリスのみならず、イタリア全土でそうだろうよ。ネアポリスじゃそれに加えて、鉄球も回せねぇ不器用なヤツは大人になる資格がない。先祖に申し訳もたたないしな。 日本では無いのか、そういう流儀は? 丸太を振り回せるのが大人の条件とか……」 「いや……、流石に彼岸島でもそこまで要求はしないよ。吸血鬼にならず生きててもらえればそれでいい」 宮本明と同行しすぎてウェカピポの妹の夫に誤った日本観が芽生えるところであったが、それは他ならぬ明自身の言葉で否定される。 明のやってきた地である『彼岸島』は義弟たちの興味を惹いた。 「お前は吸血鬼と戦っていたんだったか。確か、そいつらの血を浴びると自分も吸血鬼になってしまうという……。 ならば、丸太にしろ剣にしろ、血を飛び散らせるような戦いは悪手ではないのか?」 「いや、そこまで気にする必要はない。目や傷口に入らなければな。 俺なんか、腰まで吸血鬼の血に浸かって歩いたりしたけど平気だったから」 しかし、戦闘法の話となって明から返って来た言葉に、一同は唖然とした。 「は……?」 「え……!?」 「明、それは……」 「な、なんだよなんだよいきなり!?」 予期せぬ彼らの反応に、明の方が帰って動揺する。 ウェカピポの妹の夫が思案しながら切り出す。 「……目に入ってもアウトならば、尿道や肛門に触れてもアウトだろう。 お前の戦いぶりからして、返り血の飛沫を気にしているとも思えないしな……」 「ちょっと待てよ! なんだよ! 俺が吸血鬼になってるとか言いたいのか!?」 「いや、そうじゃない」 今まで吸血鬼に対して絶対の殺意を抱いてきた明にとって、義弟の言葉は聞き捨てならないものだ。 しかし憤る彼を差し止めて、義弟はその言葉の真意を語る。 「もしかすると、お前は血を浴びても吸血鬼にならない体質なんじゃないか? お前の予知能力といい身体能力といい飲み込みの早さといい、お前がそういう特別な人間だとしても不思議ではないと思うがな」 「話を聞く限り、その吸血鬼というのは伝染病か何かのようだ。 ならば明、お前は元からその吸血鬼の病原体に対して免疫を持っているのではないか……?」 義弟の言葉を、李徴が受けて推測を繋いだ。 明は、今まで思いつきもしなかったその衝撃的な考えに呆然とした。 「お前の血を研究すれば、治療薬のようなものができるのかもな」 「マジ……、か……?」 冷静に考えて、粘膜に接触して感染しうる病原体ならば、眼や口のみならず下半身の粘膜に触れても感染するし、なんとなれば通常の皮膚でも感染の危険がある。 吸血鬼の血を浴び放題であった宮本明が感染していないのなら、むしろ彼に何らかの抵抗力が存在しているのではないかと考えた方がしっくりくるのだ。 そうして明の前に新たな可能性が示されて程なく、一行は軽食を終えた。 「ヒンナ(ご馳走様)。じゃあ、捜しに行きましょうか」 たっぷり3人前のピッツァと、血と臓物味のクッキーに満足したメルセレラが、いち早く腰を上げた。 参加者にとっては共に脱出できる生存者を、彼女にとっては自身を認めてもらえる相手を見つけるための探索行だ。 早いに越したことはない。 この小休止の間に『敵』に襲撃されなかったことも、探索行の安心感と希望を高めている。 しかし同時にそれは、不安感と絶望をも高める間でもあった。 「……生きている者の温度が、本当に感じられないんだけどね」 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ その頃、黒騎れいを捨て置いて、荒れた研究所の中を飛んでいたカラスは、程なく地下の下層にて目的のものを見つけていた。 「やはり示現エンジンがあったのですね……」 そこに至る経路は反乱によって開かれ、しかも布束砥信たちが童子斬りの根を払いつつ向かっていた足跡が残っており、以前までは秘匿されていたそのエンジンの所在も容易くわかるようになっていた。 一帯は枯れ落ちた根のようなものに絡まれ、スプリンクラーの水に浸かっていたが、示現エンジン本体は、電源が落とされているのみで再稼働は可能なようだった。 もっとも、童子斬りに侵食されかけ、バーサーカーと龍田の戦闘とで外壁に大きな損傷が見えるそれが、爆発せず安全に再稼働できるかどうかはわからないが。 「ブルーアイランドのものでさえ目に余るのです。こんな地にもう一基の示現エンジンを設置させておくわけには行きません。 崩壊寸前ならばなおのこと、私が即刻消滅させてやりましょう」 カラスはそうひとりごちるや、赤く目を光らせて巨大化を始める。 ステロイドパッチールから吸収していた、HIGUMAとしての力だ。 そうして漲ったエネルギーを以て、カラスが示現エンジンを破壊しようとしたその時だった。 「なっ――!?」 何かが突然、地底から矢のように疾り来てカラスの翼を貫く。 それは、この一帯に蔓延っていたものと同じ、一本の木の根だった。 「なんですかこの木は!? 私を『始まりと終わりに存在するもの』の代弁者と知っての狼藉ですか!? この下等生物! 良いでしょう、すぐに消し飛ばしてやります!」 バランスを崩して床に落下しかけたカラスは、たちまち激昂して、攻撃の矛先をその木の根に変えようとする。 しかしカラスがそう動く間もなく、地面からは次々とさらなる木の根が突き出され、その喉から胴から、エネルギーのあるありとあらゆる箇所に突き刺さっていた。 「ぎゃぁぁぁ――! 吸われる! 吸われる! あの下等生物から吸収していた力が――!」 地下の狭い空間で中途半端に巨大化してしまったカラスは、飛んで逃げることもままならなかった。 そのままカラスは全身を木に絡みつかれ、瞬く間にエネルギーを吸い尽くされる。 「ひぎぃぃぃぃ――!!」 そして、元の貧弱なカラスの肉体に縮小したそれは、エネルギーを吸われたそのおかげで、命からがら木の包囲網を抜け出すことができた。 スプリンクラーの水たまりに落ちて、ばしゃばしゃと必死にもがきながら、カラスは示現エンジンの方を振り返って捨て台詞を吐く。 「ひぃ、ひぃ、ひ、ひとまず出直してやります下等生物! 示現エネルギーを、人間にも劣る木っ端ごときに好きにはさせません!」 そんな言葉を、木は聞く様子もなく、こぼれ落ちたエネルギーの絞りカスの居所を探って、威嚇するようにざわざわと枝を伸ばして来ている。 「ひへゃ!」 カラスは残された力を振り絞って、研究所の上層階へと、元来た道を必死に逃げ帰った。 「もはやなりふり構っていられるものですか! れいに預託されているあの力……! れいはどこですか! あれを奪って私がこの世界など滅ぼしてやります!!」 息を整え、理不尽な怒りを燃やしながら、カラスはよたつく足取りで走っていた。 【C-6 地下・示現エンジン/夕方】 【カラス@ビビッドレッド・オペレーション】 状態 負傷(中)、多数の羽毛がハゲている、ずぶ濡れ 装備 なし 道具 なし 基本思考 示現エンジンごとこの世界を破壊する 0 れいの力を奪ってやります!! 1 あのままれいを飲み込んでいても良かったかもしれませんね? 2 この私が直々に、示現エンジンごと全てを破壊してやります!! [備考] ※黒騎れいの所有物です。 【四宮ひまわり@ビビッドレッド・オペレーション】 状態 寄生進行中、昏睡 装備 半纏、帝国産二代目鬼斬り 道具 オペレーションキー [思考・状況] 基本思考:―――――――――― 0:―――――――――― [備考] ※鬼斬りにほぼ完全に寄生されました。 ※バーサーカーの『騎士は徒手にて死せず』を受けた上に分枝したので、鬼斬りの性質は本来のものから大きく変質している可能性があります。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ メルセレラはこの階層の半径1キロメートル近く、地下の空気に生物の体温を感じないと言う。 探索に来た一行にとって、それは朗報でもあり悲報でもあった。 生存者がいなければ、探索は半分空振りだと言っても差し支えない。 せいぜいが、この島の状況を知るための手がかりが研究所の資料に残されていないか探る程度のことしかできない。 それでも彼らは、離れたところにわずかでも生存者が隠れ逃げ延びていることを期待して歩き出していた。 「護衛対象の王族がもしはぐれてしまった場合、――そんな失態が起きたらまずオレたちのクビが飛ぶんだが――。 それでも被害を最小限にし、早急に捜索する手は、ある」 初めにウェカピポの妹の夫が行なったのは、回転した鉄球を壁に押し当てることだった。 すると粗いものの、壁の後ろのかなり広範囲の景色が、埃を浮かせて透かし彫りのように描き出される。 曲がり角の先の荒れた研究所の様子が、一目で見えるようになっていた。 「義弟さん何だそれ、スキャナ!? エコーか!?」 「回転の振動で遮蔽に隠れた物を反射させ映し出すんだ。国で一番この手の技法に長けてるのは、やはりツェペリ流だな。 オレたちの鉄球は真円じゃないから、大雑把にしか見えないし時間もかかるが、まあ十分だろう。 山岳救助の時にもよくやったもんだ」 宮本明を始め、一行は未だ奥深い鉄球の回転の活用法に驚く。 李徴もまた、義弟のその流儀の在り方に感慨を禁じえなかった。 だがそこで浮かび上がってくる違和感は、そんな彼が家庭ではその力を暴力に用いているらしいという点だ。 李徴は、その有様がかつての自分に重なるようで、いたたまれなくなった。 「妹夫、そんな人を助ける仕事をしていたお前が、なぜ妻を殴るなどするのか……。 我にはお前の話のどちらかが嘘だとしか思えん」 「私生活と仕事は、別なんだよ。何をしてたって、帰るべき流儀はあるんだ。 嘘だとしか思えないなんてことはないだろう。お前もそうだったんじゃないのか?」 そして、李徴の畏れは本人からさらりと肯定された。 妻子を省みず詩作に耽り狂奔した彼は、妻を殴り続け逆賊を壊し続けた男のその堂々たる振る舞いに、眩しさを覚えていた。 「帰るべき場所を、我らは家に置けなかったということか……。 仕事に生き、仕事に狂い仕事に帰る……。いや、社畜を自負していた我には当然だな……。 会社の家畜どころか、我の場合は社会における畜生だったわけだが……」 李徴の心を占めていたのは、そんな自分の生き方に対する後ろめたさだ。 それが己を狂わせ、そして自分をヒグマの姿にまで変えてしまったものだと、今の彼は推察できている。 もし李徴が、ある種の潔さを以て自分の中の畜生たる生き様を肯定し立ち居振る舞っていたならば――。 ウェカピポの妹の夫のごとく、ある社会から顰蹙を買おうと、ある社会からは切実に求められる、そんな筋の通った人物になれていたのかもしれない。 「我は今までそんな自分を誇れなかった。だが妹夫、お前がそのあり方にて悔いなく進んでいる姿は、確かに素晴らしい。憧れすら覚えるよ」 「悔いなく……?」 だが、感嘆と共に語られた李徴の言葉に、ウェカピポの妹の夫は暫く俯いた。 「オレは鉄球のように、ただ突き進み来た……」 壁面に押し当てられた彼の手の中で、鉄球が回っている。 ただギャルギャルと、鉄球の振動だけがあたりに響く。 「壁を壊すための手で……、オレは壊した。あいつを……。 その、体を……。その、心(ハート)も……!」 「義弟さん、義弟さん?」 「レサク(名無し)、ちょっと、どうしたの?」 「……いや、何でもない。感慨は置いておいて、進もう」 動きを止めてしまった義弟に、心配そうにメルセレラや明が声をかける。 義弟はその言葉に、さっさと顔を上げて、道の先を示すのだった。 一同は、それ以上追求することも、できなかった。 「誰かァァァァ――!! 生きてる奴はいないかぁぁぁぁ――!!」 「ちょっとアイヌ、声が大きい!」 「周囲に誰もいないって言ったのはお前だろ? 遠くまで聞かせてやんなきゃ」 「宮本明。敵はビルに現れた機械人形という可能性もあるんだぞ?」 「うぐ……!?」 そして燃えていたヒグマの死骸から松明を作って、一行は研究所内の探索を始めたが、道中は散々なものだった。 なぜかコケが蔓延り湿っているその地下空間は方々がヒグマに荒されており、パソコンなどの電子機器や機材はそのほとんどが叩き壊されている。 いわんや紙媒体の資料はバラバラに散逸し、運よく判読できたものも、それ一枚では何の意味があるのかわからないものが大半だった。 メルセレラの言ったとおり、呼びかけに反応する生き物もいない。 「む、黄金長方形か」 「どうした妹夫」 そんな不毛にも思えた探索の中で、ふとウェカピポの妹の夫が目に留めたものがある。 研究室のひとつと思われる部屋の中に散乱していた、複数の紙だった。 「これらの彩色写真を見ろ。宮本明、お前ならわかるか?」 拾い上げられて宮本明に差し出されたのは、一見しただけでは李徴やメルセレラには何の関連性も見いだせないような画像が描かれた、A4版のコピー用紙だ。 ミロのヴィーナス。 リコリスの葉。 モナリザ。 五芒星。 雪の結晶。 ひまわりの花。 アンモナイト。 手掌の静脈透視像。 巨木。 ロマネスコ。 しかし宮本明の眼には、STUDYの桜井純が印刷していたそれらの画像の中に、明らかに黄金比が隠されているのが見えた。 義弟が先だって語っていた、黄金長方形の回転だ。 「回転……してるな」 「そうだ。ここの奴らは黄金長方形やその回転を研究していた可能性もある……というのは考え過ぎかもしれないが。 何にせよ、スケールを持っておくのは悪いことじゃない。これを手本に回してみても良いだろう」 「そうか、黄金長方形のスケール! やっぱりあったんじゃん義弟さん!」 宮本明は、これらの紙片に隠された力の秘密に興奮した。 黄金長方形のスケールは、山の上で彼が義弟に要求していたものだ。 この紙に印刷された花や像の尺度通りにモノを回せば、莫大な回転エネルギーが得られるらしいという強力な代物に、明の心境は一気に浮き立った。 だが義弟は、意味深な訳知り顔で口角を歪める。 「……『できるわけがない』と、お前はこれから4回だけ言っていいぞ」 「できるに決まってるじゃないか! 杞憂だぜ義弟さん! 今ここででも黄金の回転を使ってみせるさ!」 「ちょっと! こんな狭いところで丸太振り回さないでよエパタイ(馬鹿者)!」 そしてすぐさま丸太を取り出して回転の練習を始めた明の傍迷惑さに、メルセレラが空気を破裂させる。 危うく小競り合いに発展しそうになった現場を、李徴と義弟が二人がかりで宥めた。 「何だか知らないけど、こんな紙切れしかないんじゃ、こっちはもう引き上げた方がいいんじゃない?」 「ああ、真北は早く探索が済みそうだとは思っていたが、戻って東か西に向かおうか」 「こうか? こう向日葵の種の配列に沿って手を動かして……」 「止めろと言っておろうに、宮本明……」 メルセレラを始め、地下の北側の探索を切り上げようという意見は、全員が一致していた。 この道はより探索を続ければ、実のところ地底湖やしろくまカフェのあった地点に繋がり得るルートではあったのだが、研究所自体は本来そこで終着しており、メルセレラの気温感知と義弟の回転ソナーは、ギリギリで艦娘工廠の存在を知覚する所まで届かなかった。 そうして一行が来た道を少し引き返しながら、近い側である西に進路を採った後、異変は起きた。 まずメルセレラが、遠方から空気を裂いて接近してくる何かの温度を感じ取っていたのだ。 「何かが……、すごい速さで近づいてくる!」 「まだ、何も見えないが……。こちらに気づいているのか?」 義弟が、壁に押し当てていた鉄球の回転を強くする。 松明を近づけて、一行は壁に映し出される相手の姿を確認しようとする。 そうして浮き立つ埃の中に描き出されたのは、チーターか何かのようなしなやかな動きで走っている、女の子の姿に見えた。 「少女……?」 「マジか! でかした義弟さん! 生存者だ!」 義弟は、なぜ少女が四足歩行で走っているのかにまず疑念を抱いたが、宮本明は逸早く、その人物が生存者であろうと結論を下してしまっていた。 そして彼は、奥の通路に飛び出して、暗い道の先に向かって叫びながら手を振っていた。 メルセレラが慌てて伸ばした手は、走っていく彼に届かなかった。 「おーい、こっちだー! 助けに来たぞー!!」 「おい、ソイツは、生き物の体温をしてないわ!」 瞬間、明の背にぞくりと悪寒が走った。 彼の目の前が、一瞬にして死の感覚に覆われる予感があった。 何か、遠くでピンク色の光が明滅したように感じた。 それと同時に、宮本明の体は無意識のうちに全力で地面に伏せていた。 「うおっ!?」 「危ない明!!」 明の後頭部を、猛烈な熱が過ぎ去った。 髪の毛が何本か焼き切れた臭いがする。 悲痛に叫んだ李徴たちはその時、通路の奥から巨大なピンク色の光線が放射されてきたのを目にしていた。 何とか地に俯せて無事だった明の姿に安堵する間もなく、相手の動向を鉄球の回転で把握していた義弟が叫ぶ。 「大丈夫か宮本明! 奴は何か弓矢のようなものを構えている! また来るッ! 飛び道具が来るぞォ――ッ!」 「サンペアクレラ(心撃つ風)の座標が定められない! こちらに気づいて加速してきたわ!?」 少女の姿をしたその襲撃者は、新たな武器を構えながら通路の宮本明に向け接近してくるようだった。 その速度は、既にメルセレラの気温による感知を振り切るほどになっている。 明は歯噛みしながら立ち上がり、デイパックの中から手斧を取り出していた。 「弓矢だろうが蚊だろうが、間合いに入ったなら斬れる!」 「いかん、退くべきだ明! 古の名人でもあるまいに!」 それを日本刀のように晴眼に構えた彼は、李徴の言葉とは裏腹に、通路の彼方から発射されてくる一本の真っ白な矢を、確かに見すえていた。 そして、真っ直ぐに進んでくる矢を、明の太刀筋は確かに切り落とすかと思えた。 しかしその瞬間、矢は突如空中で方向転換し、彼の向かって左上から、再度彼に向けて飛来した。 「んなぁ!?」 宮本明は、かろうじてその動きを予測した。 そして返す太刀の勢いで、その矢を何とか中央から二つに切る。 しかし、切り落としたはずの矢の先端は、そのまま宮本明の左腕に、ジャケットを貫いて突き刺さっていた。 そしてそれは彼の血液を吸い、爆裂するような勢いで全方位に鋭い棘を生やす。 その矢は、人間の骨でできていた。 「ぐあぁぁぁ!? チクショウ! 腕をやられたチクショウ!!」 「何やってんの!? 自分で言ったことくらい実行しなさいよ!!」 「斬ったのに!! ハァハァ、斬ったのになんだこれチクショウ!!」 神経も血管もずたずたにされたようで、明の左腕は血を流すばかりで全く動かなくなる。 メルセレラが罵る中、その正体不明の襲撃者は既に、宮本明に飛び掛かりその爪を振り下ろそうとしていた。 痛みを堪え応じた明が、何とか手斧を振り上げてその爪を受けようとする。 しかし、爪にぶつかった斧の刃はそのまま砕かれてしまう。 「手斧が割れた!? ッ、やばっ……!!」 たたらを踏んで後ろに引きながら、明はなんとかデイパックから丸太を取り出した。 だが、そこに気を取られているうちに、躱し損ねた襲撃者の爪がデイパック本体のベルトを切ってしまう。 取り出した丸太を構える暇も無く、転がってゆくデイパックに明の眼が逸れた瞬間、次なる爪の一撃が明の頭上に振り被られていた。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 地下の一行から東側に離れた位置で、同じ研究所の階層をとぼとぼと辿っている少女がいた。 生きている、体温のある人物としては、義弟たちの待ち望んでいた生存者であったが、彼らが互いにその存在に気づくには、両者はまだまだ離れすぎていた。 その人物とは、言わずもがなの黒騎れいである。 しかし今の彼女は、むしろ他の生存者に見つけてもらいたくなどなかった。 彼女の全身は、ヒグマの糞の臭いしかしなかったからだ。 顔から手から汚泥まみれの体は、下手に拭うこともできず、彼女はただ表情を能面のように強張らせたまま、暗い研究所を歩き続けるしかなかった。 せめて手を洗えるだけの水がないものかと思っていた彼女の目に、その時、通路脇の檻の中に散乱しているものが映る。 ヒグマの檻に似つかわしくないテレビとビデオデッキと大量のDVDが置かれているその部屋には、つい先ほどまで誰かが寛いでいたかのように、水のボトルや食い散らかされたツマミがあった。 明らかにヒグマのものではない。 「ここ……、穴持たず1・デビルヒグマの檻よね……。誰かが見てたの……? この非常時に、遊戯王のDVDを……!?」 研究所の東側にあるヒグマたちの檻のうち、そこは熊界最強の決闘者として研究所内でも有名だった、デビルヒグマの檻だった。 この一帯も、例に漏れず反乱したヒグマによって荒されたようだったが、そこだけはどう見ても異質だ。 デビルヒグマ以外の、人間が、反乱があった後に敢えてここを訪れたものとしか考えられない。 黒騎れいには意味不明だったが、彼女が必死に可能性を考えるに、人間でありながらHIGUMAとして登録されていた工藤健介や司波深雪ならば候補にはあがる。 しかしヒグマ帝国の実情など欠片もわからない黒騎れいには、これ以上の推察などできない。 彼女はとりあえず、部屋の持ち主であるデビルに悪いなと思いつつ、残っていたボトルの水でなんとか手と顔だけは入念に洗った。 ツマミと思しき物体にも手を出そうとしてみたが、それは裂きイカのように見えるだけの削った鉄という謎の代物だったために断念した。 この檻にいたのが、ビスマルクという艦娘だということは、彼女にわかるはずもなかった。 「あと目ぼしいものとか手がかりとか、無いのかしら……。あれは……」 そのままヒグマの檻が並ぶ通路を歩いても、暫く大したものは見つからなかった。 そもそも物品のある檻など最初からほとんどなかったのだ。 黒騎れいの目に止まったのは唯一、穴持たず58の檻にあった壺くらいだった。 「ああ……、支給されるハチミツを、ずっと食べずにとって置いてたのよね、このヒグマ……。 悪いけど、持って行かなかったのなら頂戴ね。こっちは使えるものは持って行きたいから……」 今となっては遠い研究所内での日々を思い出して、黒騎れいはほんの少し笑った。 だがこの先で出会うかも知れない者に備えるためには、そんな思い出も道具として確保しておくことが先決だった。 自分可愛さ第一の、水仙のマシンの心だ。それでも、自分可愛さで他人まで助けられるならば十分すぎる。 四宮ひまわりが生きているならば、きっと朝からお腹を空かせているはずなのだ。 少しでも早く見つけて、栄養になるものを摂らせてやらねばなるまい。 そんな思いで、黒騎れいは穴持たず58のハチミツ壺をデイパックに仕舞い、地下を歩む足取りを速めていた。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 「オレは既に『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』を設置している」 宮本明の脳天を断ち割るかと思えた攻撃は、すんでのところで彼を逸れていた。 地下の階層を動いていた、黒騎れいとは違う少女――。 『H』と呼ばれるその襲撃者が、攻撃の直前で突如左脚を滑らせ、体勢を崩したのだ。 「『迎撃衛星』そして『左半身失調』――。奴は『左側』を認識しない」 曲がり角の陰から回転のソナーで少女の動向を探りつつ、もう一つの鉄球を通路に転がしていた義弟が、彼女の接近するタイミングを見計らって衛星弾をそこから射出させていたのだ。 回転の衝撃波を受けて、その少女も明も左半身失調の状態に陥るものの、何度も模擬戦闘を行なっていた明だけが、むしろ左腕の痛みを感じなくなったその状態で動くことが可能となっていた。 「おらぁ!!」 捨て台詞の代わりに襲撃者を丸太で殴りつけ、宮本明は身を翻して通路の曲がり角へと急いで走り戻る。 ふらつく彼を、ウェカピポの妹の夫と李徴が迎えて支えた。 「妹夫の言った通り、恐らくあれは少女の姿をした自動機械だ! 無事で良かったぞ、明!」 「手加減して殴ったけど、眼が濁ってるだけで人間の女の子っぽかったぞ!? マジなのか!? 何か勘違いして襲ってきてるだけとかじゃないのか!?」 「お前、こんな凶悪な矢で射られてもまだそんなことが言えるのか……。オレなら逆鱗以外の何物でもない」 「だから、生き物の体温してないってさっきから言ってるじゃない! アタシが戦うわ!」 既に、通路で倒れていた襲撃者も体勢を立て直している。 直ちに明を追ってこちらに走り来ようとしていたその少女の前に、メルセレラが立ちはだかっていた。 「サンペアクレラ(心撃つ風)!」 即座に放つのは、彼女が絶対の矜持を持つ必殺の狙撃魔法だ。 メルセレラの霊力(ヌプル)を以て、過たず敵の胸部座標に位置する空気が急速に過熱される。 爆音が響き、襲撃者はのけぞった口から大量の焼けた蒸気を吹き出しながら倒れた。 「……チクショウ、やりやがった!」 「やったのか、美色楽女士!?」 「いや……、あれは……」 「……やっるぅ!」 宮本明と李徴は、その光景に襲撃者が撃破されたと見た。 しかし義弟とメルセレラは、その相手がほとんどダメージを受けていないだろうことを、はっきりと感じ取っていた。 倒れた少女は、そのまま床に手を突いて跳ね上がり、その反動でメルセレラに飛び掛かっていた。 鋭い爪が、メルセレラの頬を掠める。 「シヌプル(強い)――!」 「シニョリーナ!」 「き、効いてないのか!?」 「い、いかん、退くべきだ!!」 狼狽する男たちの視線の先で、切りはふられるかと見えたメルセレラの体が、急激に膨張した。 「キマテッ、カムイ、ホシピ!」 一瞬でヒグマの巨体に戻ったメルセレラの体が、その体当たりの勢いで襲撃者を弾き飛ばす。 壁を蹴って跳ね返り差し返そうとした襲撃者の爪を、メルセレラは魔法少女の姿に戻り肉体を縮小させることで躱した。 間合いを狂わせることで攻防に資するその戦法は、彼女が人間として向かいたいと考えていた宮本明や義弟には、見せたことのないものだった。 「アンタ、オハチスイェ(空き家の化け物)ね! そりゃ、並大抵のトゥス(巫術)じゃ倒せないわけだわ! さっすがぁ!」 だがこの相手には、彼女が遠慮する理由は全くない。 この襲撃者が、全力でぶつかっても足りるかどうかわからない素晴らしい相手なのだと、メルセレラはその嗅覚で感じ取っていた。 「アンタはアタシを認めてくれる――!? 飛ばしていくわよ!! エヤイコスネクル(風で体が)プンパ(浮き上がる)ァァ!」 空中に浮かび上がったメルセレラと、壁面や天井を蹴って襲い掛かる少女とが、眼にも止まらぬ速さで空間戦闘を繰り広げ始める。 「エパタイ(馬鹿者)、エパタイエパタイエパタイエパタイエパタイエパタァァァァイ!!」 空気が次々と爆発し、天井や壁面が抉られ土埃が舞う。 暗がりに巻き起こる爆風で、とても近寄れない。 超人的なその戦闘の現場から、男たちはじりじりと距離をとるほかなかった。 「チタメハイタ(鎌鼬)ァァァ!!」 メルセレラの叫び声だけが響く中、後退していた歩みをついに走りに変えようとしたのは、宮本明だった。 「チクショウ……、一端逃げるほかねぇ……!」 「いや、駄目だ宮本明。シニョリーナに加勢しなければ」 組織を骨から破壊された左腕の耐え難い痛みに呻く彼を、ウェカピポの妹の夫がそれでもなお引き留めていた。 李徴が狼狽した。 「妹夫! わ、我等が行って敵うと思うのか!?」 「シニョリーナの攻撃が効いているように見えたか!? あの敵は、オレが見せた回転の奥義を常に使っているようなものだ。 ほとんど全ての衝撃が受け流されてダメージになっていないように見えた……! それにあの敵の速度……、追ってこられれば逃げられない!」 暗闇の通路は爆風と粉塵に紛れ、彼女たちの戦闘の様子はほとんど伺い知れない。 しかし、メルセレラの怒号は少しずつ息が上がって行っているようにも聞こえる。 時折、ピンク色の殺人的な閃光が輝きかけて一帯の様子が映し出されるが、メルセレラは即座にその光が放たれる前に敵の口腔内を爆発させていた。 宮本明は、そのピンク色の光線に、やはり先ほどと同じく死の予感を見た。 メルセレラの反応が少しでも遅れれば、彼女がその光に飲み込まれて死ぬのは確実だった。 義弟が語気を強める。 「このままでは彼女もオレたちも犬死にだ! ここで仕止めるほかにない!」 「……あのヒグマがやるって言ってたじゃねぇか! それこそ、有言実行させてやれよあいつの言った通りにさぁ!!」 「有言実行だと!? こんな時にまで末節の言葉尻にかかずらうのか馬鹿者!! お前の死んだ仲間やオレたちに、お前は何て言われると思うんだ!? 意地を張るばかりで……、彼女に対し欠片ほどの敬意も、お前は抱けないというのか!?」 宮本明の反駁は、完全に義弟の逆鱗に触れているようだった。 しかし明はそれでも、吐き捨てるように叫びながら彼の手を振り払うのだった。 「――チクショウが! 俺がヒグマを敬うなんて、『できるわけがない』だろ!! 俺は左腕いかれてんだ! 今更何をしに行けるってんだ!!」 「誰がそう言った! お前は何にだってなれる!!」 そして振り払われた手で、義弟はなおも明の襟首を掴み直した。 「それがジャック・ブローニンソンに敬意を払う者の姿勢か!? お前は! お前は、アイツになるんだろう!? アイツが腕を食われ、脚を食われた時、アイツはそんな言い訳をして逃げたのか!?」 ウェカピポの妹の夫が掴んでいた襟は、彼の羽織るジャケットだ。 繰真晴人と交換していたその黒いレザージャケットは、確かに彼の決意の印だった。 それは甘えと決別し、心身で『ブロニー』というものを理解するための、彼なりの流儀だった。 『Twilight Sparkle――Jack Browningson』と記された、流麗なサインとポニーの絵は、見ずとも彼の脳裏に、描かれている。 たとえ吸血鬼だったとしても 斧神や隊長のように、明が心から敬意を払えた対象は、いた。 たとえ敵だったとしても、心に湧き上がる敬意は、親愛の情は、偽りなきものだった。 明はグッと目をつぶり、そして見開いて言い放つ。 「……チクショウ。ああ、チクショウチクショウ!! そうだよ!! 敬ってやるさ! ポニーだろうとヒグマだろうと、『俺はお前らのブラザーなんだ』ってな!」 ほろほろと蒼黒い思いが、覗いた。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 「き、きりがないわ……。なんて底なしのヌプル(霊力)……。 アタシはもう十分アンタの力はわかった……。素晴らしいわ。もういいんじゃないの? どうしてもアンタは、相手をカントモシリ送りにしないと気が済まないわけ?」 メルセレラは、ほとんど限界だった。 自分がどれだけ空気を過熱し、ありとあらゆる手で攻撃しても、赤い髪の毛をして黒い服を着た相手の少女は、全くこたえないのだ。 そして相手は攻撃に一切の想いも籠めておらず、ただ効率化されたパターンに基づいてメルセレラを殺そうとしているのみだ。 ただ魔力と体力を消耗するだけの徒労が繰り返される。 自分が何をしても認められることはなく、相手は完全に自分を拒絶したまま。 そのまま自分は終わろうとしている。 ソウルジェムの輝きは濁っている。 自分の姿を人間にしてまで認められたかった彼女が、何をしても認められなくなる――。 それこそ、彼女の絶望だった。 この赤毛の殺戮機械は、メルセレラの絶望に他ならなかった。 ――ああ、まるで、今日までの意固地な、アタシ自身みたいね……。 その理不尽な赤毛の殺人鬼の姿に、メルセレラは今までの自分を見るかのようだった。 斬り立てられたメルセレラの上に、そしてついに、避けようもない爪の一撃が、振り降ろされようとした。 その時だった。 流星のような鉄球が、メルセレラの空に希望を投げるように飛来した。 「『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』!!」 「レサク(名無し)!?」 鉄球の回転が、襲撃者の爪を弾きその腕を砕く。 衝撃波で左の視界が消える。 そしてあたりに紙片が舞った。 消え残ったメルセレラの右の視界から、手負いの青年が走り来る。 襲撃者の左側へと、いがみ合っていた時間とありったけの敬意を敬意を込めて、宮本明が腕を振り被っていたのだ。 明の腕が螺旋を描く。向日葵の花が咲くように、彼の手は真っ直ぐにその襲撃者へと突き出される。 ミロのヴィーナス。 リコリスの葉。 モナリザ。 五芒星。 雪の結晶。 ひまわりの花。 アンモナイト。 手掌の静脈透視像。 巨木。 ロマネスコ。 明の視界の全てが、黄金長方形で埋まる。 瞬間、逆巻いた彼のジャケットが、左腕に突き刺さっていた骨の矢ごと、裏返りながら襲撃者の顔面にへばりつく。 複雑に生えていた骨棘も逆巻き、その全てが明の腕から抜けて少女の顔面へと突き刺さった。 「おおぉ、ブレイクアウト!」 そして晴人のレザージャケットの上からさらに、宮本明はその少女へ全身全霊で、ドリルのように回転する丸太を叩き付けていた。 数多の吸血鬼を、邪鬼を砕いて来たその一撃で、少女は紙屑のように通路の奥へと吹き飛んでいった。 「無事だったか、美色楽女士! よくぞここまであの強敵を凌ぎ戦い続けた!」 「なんとか間に合ったな。とても気持ちが良いし素晴らしい戦いだった、シニョリーナ」 「あ、あ……」 満身創痍だったメルセレラの体を、李徴と義弟が抱き留める。 呆然とする彼女の目に映ったのは、失血にハァハァと息を荒げながらも力強く笑う宮本明の姿だった。 「……俺たちが生きるために、当然のことをしたまでだよ」 涙がメルセレラの頬を伝う。 彼の姿は紛れもない希望だった。 見つめ合うのに耐えかねて、明は泣き笑う彼女から目を逸らし呟く。 「……ブロニーとして、俺はお前らも敬うんだからな」 「イヤイライケレ(ありがとう)……」 明は照れ隠しのように、決意のように、強く言い放った。 他人に認めてもらえたその言葉は、メルセレラの希望に他ならなかった。 「この娘、心(ハート)を落としていたのか……!? それで何者かに操られて……?」 その時義弟は、吹き飛ばされ動かなくなった襲撃者の様子を確かめに、その少女の体の方に近寄っていた。 再び敵が動き出さないか警戒しながらにじりよっていた彼の目に留まったのは、床に落ちたピンク色の可愛らしいハートだった。 作り物のそのハート型は、その少女の現在の様子を皮肉に語っているようでもある。 義弟はそれを拾い上げ、やるせない溜息を吐いていた。 「もう少し早く降りれていれば、この少女も助けられたのやもな……」 「ああ……、ちっとも救いがねぇし、かなりの痛手だった。せめて手がかりを……」 追ってきた李徴が義弟に声をかけた、その瞬間だった。 彼の視界を、閃光と高熱が埋めた。 「ぐおおおぉぉぉ!?」 「義弟さん!?」 突然、義弟の持っていたハートが爆発したのだ。 ウェカピポの妹の夫の右手は、携えていたデイパックごと吹き飛ばされていた。 回転を用いて爆発の衝撃を移動させることもできず、至近距離で爆発を受けた彼は右半身を中心に血塗れになり、砕け千切れた右腕や肩に肉の色を覗かせて倒れ悶える。 信じられないその事態に、明たちは狼狽する。 「嘘だろ!? 何が起きたんだ!?」 「ぐ……、があ……あ……」 「ア、アフガン戦争やチェチェン紛争でも使われた、玩具を模した爆弾の一種だ! わざと興味を引くように作られ、不用意に拾い上げた者を殺傷する……! この吐き気を催すえげつなさ……! 間違いなくこいつは、黒幕の尖兵だ!!」 この現象にいち早く反応したのは、李徴だった。 彼は悶える義弟の襟をくわえて、急いで通路の手前に引きさがる。 瞠目する彼らの前で、ジャケットに覆われて倒れていた少女の肉体が、がたがたと痙攣しながら起きあがってくる。 メルセレラを支える明は、そして唐突に理解した。 「ダメだったんだ……、このスケールじゃ……! 紙に印刷されたまがい物の長方形じゃ、本物の黄金の回転にならなかったんだ……!!」 印刷されたモノは、細かいインクの点でできている。 それは無限の回転を再現しようとしているだけの、有限の大きさをもったコピーだ。 インクの点の奥に、回転は続いていかない。 どれほど大量の美しい黄金長方形を並べても、そのまがい物を真似している限り、明の作る回転に、敵を打ち砕ける力は籠もらなかった。 真っ黒なボディースーツに包まれた襲撃者から晴人のジャケットが落ちると、そこにはまったく端然とした、赤毛の少女の虚ろな表情があった。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 「うおあぁぁぁぁぁ――!!」 「ソスケ・ピラ・レラァァァ――!!」 「しっかりしろ妹夫ぅぅぅ――!!」 地下の通路を西方へ辿っていた黒騎れいが、遠くからかすかな叫び声を聞いたのはそんな時だった。 「戦闘――!? 誰かが戦っているの!?」 悲痛なその声に、ざわりと血液が逆流するようだった。 急ぎ足を早めた彼女の耳に程なく、せわしない爆音や剣戟の金属音が届いてくる。 角を曲がった彼女の目に、地に落ちた松明に遠く照らされている戦いの様子が映った。 そこでは闇に溶けるような真っ黒なボディースーツを纏った赤毛の少女が、猛烈な勢いで両の爪を閃かせていた。 間違いなく、人型のヒグマか何かだ。 そしてそこに応じているのは一頭のヒグマ――李徴子と呼ばれていた者だ。 彼の動きは、まるで少女の攻勢についていけていない。 彼はただ、毛皮や肉の厚いところで爪を受けて、少しでも少女の攻撃のダメージを凌ごうとしているのみだ。 彼はその背後に、人間の男女を3人も守っている。全員がひどい怪我を負っているようだった。 「うがっ……、ぐおぉ――!?」 「離れろ! 離れなさいエパタイ(馬鹿者)!!」 「チクショウ! しっかりしてくれ義弟さん!!」 「ぐ……、うう……」 自分の身を挺して盾となっている李徴のダメージを少しでも減じようと、民族衣装の様なものを着た女性が空間に怒号とともに小爆発を起こして襲撃者の爪を弾いている。 しかし、その抵抗も微々たるものだ。 今にも少女の爪は李徴の骨と内臓までを抉り、その背後の男女までを切り裂きそうだった。 ――助けるしか、ない! れいはそう思った時、既にその手に烏漆の弓を構えていた。 幸いまだ、通路の先の誰にも気づかれていない。 しかし、その弓に光の矢をつがえて、彼女は逡巡した。 ――誰に、誰に向けて撃てばいい!? わからない。 黒騎れいがその矢でできることは、射抜いた相手を強化することだ。 ここでだれか一人を強化するだけで、この戦いを切り抜けることができるのか。 今までれいは、自分の判断で強化した者の選択が正しかったのか、自信がもてなかった。 これまでに放った自分の矢が、誰か一人でも救うことに繋がっただろうか? 事態を混乱させるだけさせて、ヒグマも人も結局、自分は誰一人助けることができなかったではないか。 果たして敵は、本当に今攻撃している少女なのか? 救うべき相手は、本当に今抵抗しているヒグマたちなのか? この行為の先に、四宮ひまわりは――、自分の救うべき友は、いるのだろうか? 何も知らぬれいは、その答えを見つけられない。 ――ならばもはや、その指先は自分の判断にあずけるべきでない! 楊幹麻筋の心を以て、黒騎れいは断じた。 「草葉の陰でサボらないでよ、狛枝凪斗!!」 れいは、狙いをつけなかった。 そして全てを運に任せた。 引き絞り、目をつぶって放った矢は、ヒグマになった李徴子へと飛んでいた。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 「ああるううううううう――――」 その瞬間、李徴の体から光が溢れた。 迫っていた襲撃者の少女は、その光に弾かれて床に着地する。 次の瞬間、彼女の元へ逆に襲い掛かる影があった。 少女は、その爪を振り上げて、影を返り討ちにしようとした。 しかしその影は少女の右手の爪を捉え、逆にその牙で微塵に砕いていた。 「今日爪牙誰敢敵――」 その影は、虎だった。 ヒグマほどもある巨大な体躯の、白く輝くような一頭の虎――。 黒騎れいの視界に、襲撃者の爪を噛み砕き着地したその雄大な獣の背中が大きく映っていた。 赤毛の少女は、その時ぱっくりと口を開いた。 そして突然、ピンク色の閃光が、れいの視界を埋めた。 「ひっ――」 しかしいつまでたっても、体に衝撃は来ない。 はっとした彼女の目に映ったのは、自分の襟をくわえて壁面に爪で張り付いている一頭の虎だった。 この虎が、襲撃者の放った巨大な光線の射線上から、一瞬にして黒騎れいを救い出していたのだ。 虎はニヤリと笑い、彼女を背中に放り乗せると、再び襲撃者の少女に向けて走りだしていた。 「ヒグマの糞を体中に塗りたくっているのか! それで体臭を隠し、今まで完全に姿を隠していたとは……! 礼を言うぞ姑娘(クーニャン:娘さん)。うら若き乙女なのにとは言うまい、何という覚悟と技量か!」 「したくてしてるわけじゃない……!」 「いずれにせよ我は……、お主のお陰で、戦える!!」 黒騎れいが染みついた便臭に羞恥心を抱こうが、そんなことは些末にすぎる。 この博学才穎たる才の非凡を窺わせる声音、烏(ああ)、聞き間違うことなどあろうか。 この虎は、人虎は、我等が人殺しの小説家、羆と化していた社畜、隴西の李徴その人に間違いなかった! 虎と熊の強さは、しばしば議論になるところである。 熊の中でもヒグマの場合、往々にして虎よりも体格に優れ、その一撃の重みと、毛皮と皮下脂肪による防御力は並々ならぬものがある。 しかし同じ食肉目でも、元来雑食の熊に対して、虎は純然たる肉食の動物だ。 獲物に致命傷を与えるための牙の大きさと鋭さ、スナップの利く爪による多彩な攻防技法、そして瞬間最高時速80km、平均時速60kmを越える圧倒的な機動性能の優位性は揺るぎない。 一概には甲乙つけがたい能力を持っている両者だが、もしその精神が同一のものだった場合、そしてもしその体格さえも同等だった場合――、一体どちらの肉体の方が戦いやすいだろうか。 それは完全に、その者の内奥の本質によるだろう。 しかし李徴の場合、自他の精神を打ちのめす尊大な羞恥心と臆病な自尊心、若くして虎榜に名を連ねる知識と構文技法、そして一瞬にして七言律詩から排律詩までを口ずさめる圧倒的な当意即妙の優位性は揺るぎなかった。 彼の心は、防御力など持ち合わせていない。まるで鉄球のようにただ突き進み、破壊のための攻撃力と速さだけを身につけた、虎に他ならなかった。 今までの李徴は、自分が自分でないような、そんな感覚に終始つきまとわれていた。 歪んだ自分が、この島でさらに歪んでしまったような気持ちの悪さがあった。 しかし今、彼の手足は、これ以上ないほどに彼の心に馴染んでいる。 決して人間の姿ではないのに、李徴はこれこそが、自分の本来の姿だったのだろうとすら思った。 このパロロワがヒグマ・ロワイアルと呼ばれていようがいまいが、だ。 自分は人殺しの小説家だ。 自分は人殺しの虎だ。 自分は何にでもなれるのだ。 どんな姿になっても、自分にも帰るべき流儀があったのだ。 自分はようやく『穴持たず』となった。 一切の瑕瑾も穴も持たない、完全なる自分となったのだ――!! 李徴は、有らん限りの歓喜と憤怒とを込めて慟哭した。 「ゆうるいいいいいいい――――」 高速で攻め寄る李徴に向けて、赤毛の少女もまた迎え撃たんと飛び掛かってくる。 その迎撃を避けながら、李徴は自分の背から黒騎れいを、宮本明たちの方に放り捨てた。 「ひいっ!?」 「『晋書・桓温伝』――、『常山乃蛇勢』!!」 そして彼は壁を蹴り、更に速度を上げて赤毛の少女に応戦した。 まるで二頭の虎が敵を挟み討ちにしているかのような、超高速機動からの爪牙の連打が少女を打つ。 その双爪の密なるは雨の如く、脆快なること一挂鞭の如し。 虎の体躯から繰り出される迅速強猛な発勁の乱打は、そしてついに応じていた少女の防御をこじ開け、そのあばらに強烈な打撃を加え叩き飛ばしていた。 「うるるるああああ――――!!」 「り、李徴、お前なのか!? お前がやったのかよでかしたじゃねぇかチクショウ!」 その姿に、宮本明の快哉が湧く。 『羆』という漢字は、元々『網で捕らえた熊』を表す文字だ。 その字義に照らせば、今の李徴はまさしく、己を支配していたクマの精神を凌ぎ、確固たる自分の存在の内側に捕らえた『羆』に他ならなかった。 されど油断なく身構える白虎の李徴の視線の先で、少女はなおも立ち上がり、その左腕を弓のように開いて、そこから骨の矢を取り出していた。 その現象を初めて目の当たりにした黒騎れいを始め、一同は畏れに歯噛みする。 「え……!? あの爪を受けて起き上がってくるの……!?」 「チクショウ! あの弓矢だ! 絶対に誰かに刺さるぞチクショウ!!」 「該死(ガイスー:死に損ないめ)! 美色楽女士、妹夫を連れて逃げるぞ!!」 虎となった李徴でもあの襲撃者を倒しきれないのならば、この一行はもはや逃げるしかないと、そう思われた。 李徴や宮本明が狼狽して引き下がろうとしている中で、辺りを見回していた黒騎れいの指に、触れるものがあった。 それはつい先ほど、地上でも触れたものだった。 布束さんの針――! 薬剤の結晶でできたそれは、ウェカピポの妹の夫のデイパックから、ハートダイナマイトの爆発に乗じて吹き飛ばされていたものの一本である。 この赤毛の少女が人型のヒグマならば、それは恐らく一定の効果を発揮するはずだった。 黒騎れいは、自分の肩に狛枝凪斗の運勢が乗っているのを、確信した。 「弓矢に頼っているようじゃまだ二流――!」 黒騎れいは身を翻しながら、少女が骨の矢を放つより早く、全身のバネを使ってその針を少女の左腕に向けて投げつける。 そして針が突き刺さった瞬間、少女は左腕を起点として即座に脱力し、その場に膝をついていた。 「敵を倒すだけなら、烏漆の弓も粛慎の矢も要らないわ――!!」 「エパタイエパタイエパタイエパタイエパタァァァァイ――!!」 直後、動きを鈍らせたその少女の肉体が、突然の連続爆発で吹き飛ばされる。 今まで狙いをつける隙を虎視眈々と窺っていたメルセレラが、黒騎れいの動きに同調してその能力を行使していたのだ。 そして彼女は、自分も満身創痍ながらも笑みをほころばせて、黒騎れいの手をとり、下水まみれなのも気にせず握手していた。 「アンタ、暫くぶりじゃない! ラマッタクペのお陰で少しは名を上げられたみたいね!」 「え……?」 その声色と能力に、確かに黒騎れいは覚えがあった。 「穴持たず45の……、メルセレラ?」 「そう! そうよ! アンタの名前は、黒騎れいよね!? 私も覚えてるわ!」 「ええ……?」 なぜメルセレラが人間の肉体になっているのか、れいには理解不能だったが、今それに頓着している余裕はない。 彼女たちは既に、最も重傷であるウェカピポの妹の夫を支えて、この場から立ち去ろうと体勢を立て直しているところだった。 「もう大丈夫だ! 義弟さん、しっかりしろ!」 「レサク(名無し)! まだいけるわ! 諦めんじゃないわよ!」 「ああ……、そうだ……。いける……。オレは、壊せる……」 しかしその渦中で、半身を血塗れにしたウェカピポの妹の夫は、逃げる方向に進まなかった。 「義弟さん……!?」 「とどめを刺す……。敵を内側から破壊する……、護衛官の最大の技法で……」 彼は明たちの手を振り払い、熱に浮かされたような眼差しで、無事な左手に鉄球を掴んでいた。 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 「妹夫の最大技法だと!? 相手も弱っているはずだ! 今ならいけるのか!?」 「あいつを仕留められる回転があるのか!? 頼む義弟さん! 見せてくれ!!」 李徴が、宮本明が、息を呑んだ。 彼らの先で、襲撃して来たボディースーツの少女は、まだ微かに動いている。 これだけ各人が攻撃を重ねても、その殺戮者に対しては、せいぜいが時間稼ぎにしかならないのだ。 もし後顧の憂いを絶てる手段があるというのならば、使うタイミングは今しかない。 しかしウェカピポの妹の夫は、その意識すら混濁しているように見えた。 すきなはずだったもの――、 てにいれたかっただけ……。 ちからこめることなく――、 つつみこんでいたなら……。 オレが去ったと、言ってくれるな――、愛しているんだ――。 彼は背後の明たちにではなく、ここにいない誰かに向けて、何か口中で呟いているようでさえあった。 「ああ……、よく見ていてくれ……。オレはこれしか……、できない男だから……」 その懇願は決して、明たちに対する返事では、なかった。 そして立ち上がりゆく少女の姿に向けて、義弟はその左腕を振り上げる。 全身を使った回転が、彼の手から鉄球に伝わり、強烈な振動を生む。 「オレは鉄球のように、ただ突き進み来た――!!」 ――もうオレには、そんな生き方しかできない。 この手に持つ鉄球のように、突き進み挽き潰し壊すだけの生き方しか! ウェカピポ、お前だってそうだったはずだ。 引き下がることなどできないオレとお前が、ぶつかり合うのは当然だったんだ。 それでいい。 それでいいんだ。 妻を優しく抱き留める手は、オレにはもう要らない。 王族に仇なす者を共に壊し尽くしてきたお前の力を、今この手にくれ! ウェカピポォォォォ――!! 渾身の一投が少女に迫る。 しかしその鉄球が彼女に命中する寸前で、少女はその機能をほとんど再起動させてしまっていた。 沈み込んで鉄球を躱しながら、彼女は一気に義弟に向けて走り寄る。 明の口から、絶望にも似た悲鳴が上がった。 「外した!?」 だが義弟は、さらにもう一つの鉄球を掴み、叫んでいた。 「壁を壊すための手で、オレは壊すんだ――、全てを――!!」 ――あいつを壊してしまったこの手で、オレはこの壁を砕く。 ――立ち塞がる敵を、障害を、しがらみを――!! その時、義弟に襲いかかっていた少女の背中に、重い衝撃が走る。 外したと思われた鉄球が、研究所の壁で反射し、彼女の背中に猛烈な回転を帯びたまま突き刺さったのだ。 それはまるで、相対していた友が、好敵手が、義弟の為に投げてくれた一球のようにすら思えた。 衝撃に反り返り隙を晒した襲撃者の間合いに、一気に義弟が踏み込んでいた。 「壊すための(レッキング)――、鉄球(ボール)ゥゥゥ――!!」 掴まれ回転した鉄球が、抉り込むようなパンチと共に、そのまま襲撃者の胸骨にめり込む。 背骨と胸骨の両方から、回転しながら襲撃者の心臓を挟み込んだ2つの鉄球は、そしてついに、それの中央でぶつかり合った。 バヅン、と、何かが弾ける痛烈な音が立った。 骨と心臓を砕いた2つの鉄球が、その胸にもぐりこんで、内側から合計28の全ての衛星を発射していたのだ。 体内でクレイモア地雷を爆破されたに等しいその衝撃は、襲撃者の体から真っ黒な体液を迸らせる。 これこそ、攻撃性能に全ての技術を注いだ、王族護衛官の回転による最大威力の一撃だった。 襲撃者の少女は、爪を振り下ろすこともできずに、ふらふらと力なく、義弟の肩にもたれながら、崩れ落ちていた。 「やった! 義弟さぁん!!」 「かつん、こぷ」 宮本明の快哉が響く中で、次の瞬間そのまま床に倒れていたのは、しかし義弟の方だった。 「――お前の心(ハート)は……、どこにあったんだろうな……」 「義弟さん!?」 心臓を破壊されたはずの襲撃者は、崩れ落ちた義弟の肩口から、彼の首の肉を噛み千切り、捕食していた。 彼女の体には、最初から心臓がなかったのだった。 「また始めから……、やり直せれば……、なぁ……」 義弟はただ、虚ろな目で呟く。 彼女に押し倒されそうになりながら、彼の左手は最後に自身の剣を掴み、迫る少女の背中に、密着状態からのラップショットを繰り出していた。 『切断からの続開(スタート・オール・オーバー)』の一撃が強かに彼女の背骨を打ち、その腰から下の神経を分断する。 彼の元に急いで明と李徴が駆け寄り、下半身の機能が麻痺している襲撃者から急いで義弟の体を奪い取ってくる。 蒼白な顔から、止め処なく真っ赤な血を零し続けている彼の目からは、急速に光が失われていった。 明が、彼の意識を連れ戻そうと必死に叫んでいた。 「最後のレッスンをしてくれよ義弟さん!! 頼むよぉ!!」 「もうとっくに……、伝えてたよ……、オレの言葉は……」 「はぁ!? なんだよそれ!? お願いだ義弟さん! 死ぬなよぉ!!」 微笑んだ義弟の言葉は、明に向けて語られたものなのか、それとも別の誰かに向けて放たれたものなのか、わからなかった。 ――覚えておいてくれ。 変わらない流儀は、機縁の中にもあったんだと。 髪や服なんか変えられるし、考えでさえうつろうもの。 別れも出会いもあるだろうが、流儀は変わらない。 スタイルもジーンズも変えられるし、夢を追い飛ぶこともできる。 哀歓の世にもあるものだ……。 帰るべき流儀は――。 「――ああ、『海』が……、見える……」 薄れゆく彼の意識の中に最後に過ぎったのは、生まれてからずっと一度も『海』を見た事のなかった少女と、彼とその親友が、初めてその文字の『本物』を目にした時の――。 その広い青さだった。 【ウェカピポの妹の夫@スティール・ボール・ラン(ジョジョの奇妙な冒険) 死亡】 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 彼の体が、軽くなった。 ああ、彼はカントモシリ(天上界)に行ってしまったのだ――、と、メルセレラは遠目にもそう理解した。 軽くなったはずの彼の体は、出血の続く宮本明には、重すぎた。 明はずるずると、彼の体を、膝の上から零れさせることしかできなかった。 涙が一粒、血塗れの彼の体に落ちた。 「――義弟さんがいないのに……。 俺が回転の奥義に辿り着くなんて、『できるわけがない』じゃねぇか……」 「明……!?」 黒騎れいはただ、何度攻撃を受けても立ち上がってくる襲撃者の恐ろしさに震えていた。 メルセレラはただ、かつての自分が行おうとしていた殺戮の悲しさをようやく感じていた。 李徴はただ、この期に及んで、一体どんな逃走手段があるのかと絶望しかけていた。 その中でただ一人、宮本明だけが、腰部神経を繋いで立ち上がりつつある襲撃者に向けて、丸太を掴んだままふらふらと歩み寄っていた。 「血も足りねぇ、スケールもねぇ、あるのは丸太が一つきり……」 「ちょっとアンタ……、何しに行くつもり……?」 メルセレラの声も聴かず、ただ宮本明は、眼を怒りに燃やして丸太を担ぎ上げる。 動脈から血を吹き出し続ける左腕を上げ、彼は目の前の少女を指して慟哭した。 「だが許さねぇ……! お前だけは許さねぇぞチクショウ――!!」 今の彼には、丸太しかなかった。 それはただの、切り倒され乾燥した木の幹だ。 だがそれは、宮本明が彼岸島で、数多の吸血鬼を打ち砕き、壊し続けてきた武器でもある。 丸太を担いだ彼に見えるのは、渦を巻くようなその年輪のみだ。 その年輪の一筋一筋に、この木が生きてきた歴史が見えた。 宮本明が生き抜いてきた一戦一戦が見えた。 彼は丸太のように、ただ突き進み来たのだ。 そんな彼の目は、まるで漆黒の炎が燃えているように、暗く光って見えた。 「やめろ明! 死ぬぞ!?」 李徴が叫ぶのと、立ち上がった襲撃者の口に血の色の光が灯るのは、同時だった。 しかしその中間地点にあって、宮本明は微塵も怯まなかった。 彼の全身には、「命に代えてでも殺す」という、そんな気迫だけがあった。 「――死ぬのは、こいつだぁぁ!!」 巨大な光線が放たれ、そして丸太が投げられた。 その時起きた現象を、その場の誰一人として、理解することはできなかった。 丸太は一瞬にして、その光熱によって燃え尽きていた。 しかしまた同時に、その丸太は光を切り裂いてもいた。 ピンク色の光が、丸太の太さを持った巨大な渦に弾かれるように散乱し、霧散する。 ――丸太は消し飛んでも、その回転だけが残り、らせん状に空間を歪めながら高速で直進し続けたのだ。 そして空間に残った丸太の回転は、そのまま相対していた少女の体に突き刺さり、彼女の右半身をごっそりと削り取っていた。 「きゃ、ふ――」 襲撃者の少女から、笛のような気息音が漏れた。 彼女は抉られた胴体から、真っ黒な液体と金属部品を覗かせて地に倒れる。 明はそしてそのままふらふらと、幽鬼のような姿で彼女の方へ歩み続けた。 その彼の襟首を、虎になった李徴がすさまじい形相で銜えて差し止める。 「深追いするな明! 腕からの出血が止まっていない!! デイパックの丸太など取りには行かせんぞ! その前にお前が死んでしまう!!」 「あ、あ……」 李徴が引っ張ると、宮本明は糸が切れたように、ほとんど抵抗もできず地に倒れて引き摺られた。 大量出血している彼には、本当はもう、ほとんど力など残されていなかったのだ。 彼は、ウェカピポの妹の夫の前にメルセレラが屈みこんで何かを施しているのを、呆然と見送ることくらいしかできなかった。 「『アプンノ・パイェ・ヤン(気をつけて行ってらっしゃい)』(さようなら)……。 本当に、イヤイライケレ(ありがとう)、レサク(名無し)さん……」 「参加者の宮本明さんよね!? 早く、このタオルで腕を縛って!! メルセレラが時間を稼いでくれる! 今のうちに地下を出なきゃ!!」 李徴の背に乗せられた明は、人心地を取り戻した黒騎れいにされるがまま、腕の傷を縛られ、彼らが降りてきたエレベーターシャフトへと連れられて行った。 彼らの後ろで立ち上がりながら、メルセレラは、胴体を抉られながらも肩だけで這い寄ってくる少女に向けて、哀しげな視線を向けていた。 「誰の思いも認めない……、誰にも思いを認めさせない……。 そんな悲しいハヨクペ(冑)に、一体だれがアンタを変えてしまった訳……? アンタのラマト(魂)を取り戻せるヤツが、いれば良かったんだけど……」 ここでメルセレラが再び戦っても、この少女に意識を取り戻させることはおろか、完全に破壊することも恐らく敵わないだろう。 彼女ができることは、ウェカピポの妹の夫の肉体と襲撃者の少女を後にして踵を返し、この場から立ち去ることだけだった。 「そんなアイヌ(人間)に出会えるまで……、せめて、お休みなさい」 襲撃者の少女はそして、ウェカピポの妹の夫の遺体にまで辿り着き、彼の肉体に触れていた。 「『アペアリクロマンテ(火を焚いて人を葬送する)』」 その瞬間、義弟の遺体は爆発していた。 彼女が浅倉威の遺体に対しても行なった、繊細な加熱処理による死体爆弾作成技法である。 彼の肋骨や鉄球や衛星が、爆発と共に散弾のように飛び、少女を吹き飛ばしていた。 それはメルセレラなりの、彼に対する葬儀でもあった。 メルセレラは振り返ることも無く、地上へと向かった李徴たちを追った。 「何だったんだ明、あの丸太の回転は……?」 明を銜えて、黒騎れいと共にエレベーターシャフトを上がりつつ、李徴は彼に問う。 しかし返ってくるのは、さめざめとした嗚咽ばかりだった。 「義弟……、さん……。義弟さん……」 朦朧とする意識の中で、宮本明は、涙を止められなかった。 【E-5の地下 エレベーターシャフト/夕方】 【宮本明@彼岸島】 状態 左腕がズタズタ、大量出血、意識混濁、疲労(極大)、ハァハァ、(『できるわけがない』カウント:2) 装備 テレパシーブローチ 道具 黒騎れいのタオル 基本思考 西山の仇を取り、主催者を滅ぼして脱出する。ヒグマ全滅は……? 0 義弟さん……、義弟さん……!! 1 観柳さんたちは大丈夫なのか……? 2 信念や意志で自分を縛るのではなく、ありのまま、感じたままに動こう。 3 西山、ふがちゃん、ブロニーさん……、俺に力をくれ……!! 4 兄貴達の面目にかけて絶対に生き残る ※未来予知の能力が強化されたようです。 ※ネアポリス護衛式鉄球の回転を身に着けたようです。 ※ブロニーになるようです。 ※『壊れゆく拳』、『壊れゆく丸太』というような技術を編み出したようです。 ※首輪は外れました。 【虎になった李徴子@山月記?】 状態 健康、虎 装備 テレパシーブローチ 道具 なし 基本思考 人人人人人人人人人人 0 妹夫、お前の教えだけでも、我は無駄にしたくないのだ……! 1 我は今こそ、『穴持たず』たる自分に、帰るべき流儀に至れた! 2 小隻の才と作品を、もっと見たい。 3 フォックスには、まだまだ作品を記録していってもらいたい。 4 俺は狂人だった。羆じゃなかった。 5 小賢しくて嫉妬深い人殺しの小説家の流儀。それでいいなら、見せるよ。 6 克葡娜(ケァプーナ)小姐の方もあれはあれで、大丈夫なのだろうか……。 [備考] ※かつては人間で、今でも僅かな時間だけ人間の心が戻ります ※人間だった頃はロワ書き手で社畜でした ※黒騎れいの矢によって強化され、熊たる精神を自分自身の中に捉えた、完全なる『羆』となりました。 【メルセレラ@二期ヒグマ】 状態 魔法少女化、疲労(大)、負傷(中) 装備 『メルセレラ・ヌプル(煌めく風の霊力)』のソウルジェム(濁り:大)、アイヌ風の魔法少女衣装 道具 テレパシーブローチ 基本思考 メルセレラというアタシを、認めて欲しい。 0 イヤイライケレ(ありがとう)、レサク(名無し)さん……。 1 見た目が人間だろうがヒグマだろうが関係ないわ。アタシの魂は、アタシのものだもの。 2 今はきっと、ケレプノエは他の者に見ていてもらった方が、いいんだわ……。 3 アイヌって、アタシたちが思っているより、ずっとすごい生き物なんじゃない? 4 態度のでかい馬鹿者は、むしろアタシのことだったのかもね……。 5 あのモシリシンナイサムのヒグマは……、大丈夫なのかしら、色々と。 [備考] ※場の空気を温める能力を持っています。 ※島内に充満する地脈の魔力を吸収することで、その加温速度は、急激な空気の膨張で爆発を起こせるまでになっています。 ※魔法少女になりました。 ※願いは『アイヌになりたい』です。 ※固有武器・魔法は後続の方にお任せします。 ※ソウルジェムはオレンジ色の球体。タマサイ(ネックレス)のシトキ(飾り玉)になって、着ている丈の短いチカルカルペ(刺繍衣)の前にさがっています。 ※その他、マタンプシ(鉢巻き)、マンタリ(前掛け)などを身に着けています。 【黒騎れい@ビビッドレッド・オペレーション】 状態 軽度の出血(止血済)、制服がかなり破れている、首輪に銀紙を巻いている、全身がヒグマの糞と下水にまみれている 装備 光の矢(4/8) 道具 基本支給品(タオルを宮本明に渡している)、ワイヤーアンカー@ビビッドレッド・オペレーション、『家の鍵』、リボルバー拳銃(4/6)@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×2本、穴持たず58のハチミツ壺 [思考・状況] 基本思考 ゲームを成立させて元の世界を取り戻す……? 0 何なのあの人型のヒグマは……! あんなのが地下には跋扈してたの!? 1 杏子、カズマ、劉さん、白井さん、どうか、無事で――。 2 四宮ひまわり探しは……、ひとまず出直さなきゃ……! 3 私一人の望みのために、これ以上他の人を犠牲にしたり、できない……! 4 どんな卑怯な手を使ってでも、自分と他の人を、救う……! [備考] ※アローンを強化する光の矢をヒグマに当てると野生化させたり魔改造したり出来るようです ※ジョーカーですが、有富が死んだことをようやく知りました。 @@@@@@@@@@ 義弟の元に戻っていた鉄球と衛星は、メルセレラの起こした爆発の衝撃で、再び微かな回転を帯びていた。 半身を失っていた少女に当たったその回転は、どす黒い体液に浸かっていた状態から半ば解放されていた彼女の大脳に、ほんのわずかに刺激を与えていた。 「あ、あ……」 その少女――相田マナ――の、失調しているはずの左目から、涙が零れ落ちていた。 爆発したウェカピポの妹の夫の遺体の上ににじり寄り、彼女は嗚咽を漏らした。 「……誰か、私のドキドキを、取り戻して……」 呟かれたその言葉は、誰にも聞かれることはなく。 潤んでいた彼女の左目も、回転の効果が消える数秒後には、右眼と同じく光の無い澱んだものに戻ってしまっていた。 「かつん、ぞぶん。ちゃぷ。ちゃぷ。こぷ」 そしてまた『H』は、何の感慨も無く、ただ欠損した自分の肉体を修復するために、目の前の死肉を喰らうのだった。 【E-5の地下 研究所/夕方】 【『H』(相田マナ)@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル】 状態:半機械化、洗脳 装備:ボディースーツ、オートヒグマータの技術 道具:なし [思考・状況] 基本行動方針:江ノ島盾子の命令に従う 0:江ノ島盾子受肉までの時間を稼ぐ。 1:弱っている者から優先的に殺害し、島中を攪乱する。 2:自分の身が危うくなる場合は直ちに逃走し、最大多数に最大損害を与える。 [備考] ※相田マナの死体が江ノ島盾子に蘇生・改造されてしまいました。 ※恐らく、最低でも通常のプリキュア程度から、死亡寸前のヒグマ状態だったあの程度までの身体機能を有していると思われます。 ※緩衝作用に優れた金属骨格を持っています。 ※体内のHIGUMA細胞と、基幹となっている電子回路を同時に完全に破壊しない限り、相互に体内で損傷の修復が行なわれ続けます。 ※マイスイートハートのようなビーム吐き、プリキュアハートシュートのような骨の矢、ハートダイナマイトのような爆発性の投網、といった武装を有しているようです。
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9 :1/2:2009/03/30(月) 07 08 05 0 お茶請け代わりに昔話。 私自身のDQ返しではなく、義弟がしてくれたDQ返しなのですが 思い出す事件が起きたので。 長男教マンセーの義実家。 マンセーするだけで特に被害も無いので、たまには娘の顔を見せに行ってた。 それで当時義実家にお邪魔したら、義兄のアホ息子(12歳)がうちの娘(6歳)にボディーブローかまして泣かせやがった。 頭にきてそのアホ息子に説教したら、アホ息子はウトメの後ろに逃げ込みやがる。 ウトメがアホ息子を叱るかと思えば 「男の子はこのくらい元気な方がよい!」「なあに?娘ちゃんが悪いんじゃないの?」 「ちょっと腹を触られたくらいで大げさな」「これだから女は」「馬鹿が跡取りに逆らうな」 とか信じられないような発言がポコポコ飛び出した。 あげく、人を罵るのに興奮してきたのかアホ息子の「もっとやれ~」という声に従ったのか、 こちらの頭まで叩き始めた。 それでもう頭が真っ白になっちゃって娘を抱きしめて「この子を守らなきゃ!」ってずっと思って固まってた。 そしたら、それまでコタツで猫とじゃれてた義弟が立ち上がってウトのみぞおちに手加減無しのストレートを叩き込んだ。 吹っ飛んで「っぇげ..げっげっげっげっ」とか壊れた玩具のようになるウト。床でのた打ち回って跳ねてた。 義弟は、呆然として動かないアホ息子の頭にアイアンクローをかけると 「おい小僧、あそこで跳ねてるカスをどう思うよ?あぁ!!?」とかDQNまっしぐらな説教を始めた。 20分くらいアイアンクローで説教されたアホ息子はその後、私と娘に謝罪してきた。よっぽど怖かったらしくズボンが濡れてた その後、義弟に感謝をして庭仕事をしていた夫を引っ張って脱出した。 義実家から出るときにまだウトは「げっげっげっげっ」っていいながら吐いてた。 トムは部屋の隅っこでガタガタ震えながらお経を唱えてた。 10 :2/2:2009/03/30(月) 07 08 49 0 ここまでが昔の話。 その後夫婦ともども義実家から絶縁して平和だったんですが、 先日、生前に良くしてもらっていた大トメの葬式でウトメと5年ぶりに会った。 3年前に交通事故で期待の長男家族を失ったウトメは別人のようにやつれていた。 ウトメは現在、義弟の稼ぎに頼って細々と暮らしているようで義弟に頭が上がらない。 ウトメが葬式の席で私に文句を言おうとしても義弟と夫が全部防いでくれた。 義弟がウトメに「お前は俺が黙れといったら黙るし、死ねといったら死ぬんだよ!カスがっ」 といってからは何も言わない。 大トメと最後のお別れも出来たし、もうウトメと関わることは無いのかな 心残りはウトメを野放しにしないように独身を貫いている義弟。いつか幸せになってほしいです。 12 :名無しさん@HOME:2009/03/30(月) 07 20 45 0 9 トムwww 義弟さんが幸せになりますように呪っとく 45 :名無しさん@HOME:2009/03/30(月) 15 05 28 0 12歳にもなって、年下の女の子にボディブローかますような糞ガキの親が まともな親戚付き合いする価値あるようには思えないからなぁ。 次のお話→18
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688 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2008/08/15(金) 16 40 07 0 ナン・・・・・・遠い昔祖母のヌードを思い出したです。 しばらく連絡を取っていないトメと早朝5時の墓参りで遭遇。(待ち伏せだったらコエー) 存在丸無視してお墓参り(掃除もしてなかったから墓石拭いて汗ダク)してたら 「嫁子ちゃん!実はね○男君(義弟@既婚)が手術することになったの!!ヨヨヨ」 初耳だ。「で?」 初耳だけど旦那から消化器系の病気なのは聞いていた。 子供の頃から激しい偏食で週10以上マックなら当然の結果だろう。 義弟嫁もマックのヘビーユーザーだしな。 「で?って!!!!!あなたの信心がたりないからよ!!!!!!」と 鼻息フンガー!なトメに旦那が切れ、「関係ねーだろそれ!」 「自分の子供に食の大切さを教えられなかったトメさんの責任だと思いますよ。 それに義弟さんはもう30過ぎた大人なんだし、そういうのはもう 本人の責任でしょう。自己管理出来ないのは宗教関係ないですよ」 とめいっぱい冷静に答えて墓を後にした。 何がDQかと言うと、帰りに「おい動物、イラッとして血管切れそうだぜ!」 と駐車場で叫んでしまい、通りがかりの知らない婆さんを驚かせた事。 あの年代の方々からしたら大男の旦那を動物呼ばわりして切れる女は衝撃だったに違いない。 申し訳ない。 692 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2008/08/15(金) 16 45 57 0 688 本物の熊を見てから熊って凶暴だねと熊は引退した旦那さんの奥さんですか? 693 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2008/08/15(金) 17 02 13 O 次は家畜じゃなくて動物って呼ばれるように頑張るねの旦那の嫁さんかwww 694 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2008/08/15(金) 17 06 19 0 この嫁さんだねw http //www26.atwiki.jp/suka-dqgaesi/pages/1903.html 696 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2008/08/15(金) 17 42 00 0 スミマセン、久し振りにトメの顔を見て動揺を長引かせている自分に驚いてる688です。 旦那は仕事柄この季節は激務で、それでも仕事の合間に ご先祖様に手を合わせたいという私の気持ちを汲んで連れて行ってくれました。 毎年、お彼岸とお盆はお墓参りしているんですが、 義実家と鉢合わせしない時間を選んでたのにチッ。 義弟の手術前にトメか義弟嫁から連絡が来そうで(福祉系・医療系の資格餅) ちょっと暫くは気が抜けない予感がします。 689さん 伝説じゃないです。 692・693さん そんな時代もあったです・・・。 691さん そうですね。義弟も義弟嫁もガリガリで顔がドス黒いんで映画とは結果がチョット違う。 前に事情があって義実家で毎日夕飯を作る時があり その時もメニュー見て気に入らないと何も言わずマック食べてた義弟夫婦。 インフルで衰弱して茶の間で寝たきり(邪魔だよ)でも食事はマックだった義弟夫婦。 (でもトメにはお粥食べたい・・・と甘えてたwでも決して食べない) 入院食も勿論マックだよね!とその事が気になってwktkしております。 あっ、スレ違いを長々と愚痴ってしまいました。 お詫びに旦那が帰ってきたらミドルキック100本練習しときます。orz 次のお話→725
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スレ22-74 74 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 07 56 29 0 うちは義兄夫婦が私らより後に結婚したせいか色々とんちんかんなこと言ってきて困る ウトメ達と同居してるからあんまりきつく言わないように気は遣ってるけど、うざい。 この間も「ベビー用品が必要になったんで今度来る時持ってきて下さい。ベッドとベビカがないと困るから(←実際は方言だけどこんな口調)」といきなり言ってきた。 うちは転勤族だから引越すたびに処分してもうほとんど無いし、大物は送料も嵩むから赤本とかで買った方がいいよ、と言ったら 「そんな!トメさんが義弟さんとこにあるって言ったのに~うそつき」とパニックになっていてすごく困った。 75 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 08 34 13 0 74 大物は送料嵩むから赤本のがって伝えたってことは着払いかなんか使うの?? セコケチな疑問でゴメン。 76 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 02 18 0 普通なら送料出しますから送って下さいっていう所だろという遠回しな嫌味も兼ねて 近場の赤本で買えよって意味じゃないの? 77 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 02 47 0 74-75 相手に貸してて、返してもらうなら、今度来る時に持ってきては当たり前だけど 相手が借りようとしてるくせに持ってきてはないよな。 借りる上に、手間までかけるんだから、持ってきては図々しい。 相手がこちらに取りに来るか、着払いが基本でしょ。 ベッドとベビカでしょ。 ベッドは家財宅急便扱いだと結構かかるよ。 78 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 04 47 0 んなもん、お古を使ってあげるんだから あんたらが持って着てくれりゃあ無料だし~と思ってんでしょ。 妊婦様はさぁ。 79 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 05 47 0 >75持ってきてはないでしょー 貸してやってもいいけど取りに来いよって言いたいんじゃない? 80 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 08 08 0 74です。 ベビベッドは実家に送ったのでと言ったら、じゃあ送料払うから送って下さい、と言われたのです。 実家は九州、義実家は北関東なので送料負け必至なので断わったんだけど どうしよう!赤ちゃんが寝る場所がない運べない!とパニくられた。 82 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 13 19 0 80そこまでして借りたいもんかねえ。 意地になってるとこもあるんだろうけど、本当自分で買えよだわ。 パニくられたら80が悪者みたいじゃん。 83 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 22 12 0 80 ダンナからトメを〆てもらえ。 今後も余計な口出しされるかもよ。 84 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 26 34 0 74です。 結局パニッくったまま用意しなかったようでした。 ベビー布団と抱っこ紐で乗り切ったらしく大変だと嘆いてた。 うちは転勤族で滅多に会わず、あんま関わらないせいか、いろいろ慣れない。 86 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 42 23 0 送料考えたら近所でレンタル探した方が安そうな気がする 自分は配達会社事務だが、北関東から九州ならベッドの大きさによるけど 送料9000~14000くらいだと思う(梱包手数料込み) 借りると言うなら当然返すわけだから、送料は往復分かかるわけで…… それだけ払ったら、ちょっとでも汚れとか傷があったら文句言いそうだw つか新しいの買えるだろwww 90 名無しさん@HOME 2009/08/13(木) 09 56 51 0 86 だよねーそれくらいかかるのも分かってないんだろうね。 Next→22-85
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前身スレ2-477 477 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 12 46 00 ウトさん入院で同居問題が急浮上中。 (夫は長男で既婚の弟妹各1) 嫁いで同居中の義妹を除いて兄弟夫婦4人で話し合い。 夫:同居希望 私:同居嫌 義弟:同居嫌 義弟嫁:どっちでも義弟に任せる これでどうしてうちが同居確定になりますか・・・? 夫に「同居は嫌だ」といったら 「あっち(弟嫁)は兼業なのに夫の考え重視なのに専業のお前がその発言は変。 俺は引っ越すけど住めないなら出て行って自活すれば?できないだろ?」 夫は好きだけど義母は嫌、同居はいやだけど自活できない…orz はじめて義弟嫁を羨ましいと思いました。 478 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 12 49 40 477 義弟嫁は義弟が同居嫌だから旦那に合わせるって言ってるだけじゃんね。 476さんも旦那が同居嫌に意見を変えれば、旦那に任せるって 言えるんだよね。 じゃー義弟さんに同居するって言ってもらってごらんよ。 それでもオッケーなら、義弟夫婦が同居するのが一番だろう。 だって、一日中家にいるのは奥さんなんだからさ。 479 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 13 14 01 478さん 義弟嫁さんは同居でも良いってはっきり言ってました。 「自分は一生今の仕事を辞める気はないから、それ以外はほんとにどちらでもいいんです」って・・・ 実子の義弟の方が同居は絶対嫌だと言ってます。 夫は結婚するときから「長男だからいつかは同居」て言ってたから私が甘かったんですよね。 481 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 13 17 01 479 じゃあ義弟嫁さんにトメと住んでもらう。 482 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 13 25 28 477 小さい子供がいるかどうかで違ってきちゃうんだけど まずは「働く」ことから始めてみれば? 現状だとたしかに、あなたが嫌だといっても夫が引越同居決行しちまった場合逃げられない。 (別居嫁からの生活費請求権とかあるけど時間も手間も掛かる) 自分の食い扶持を稼げるようになれば、何かあったときに強気で発言する拠り所になる。 483 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 13 52 16 477は義弟嫁が「同居嫌だ」と言えば夫からここまで責められないのに。。。と思っていないかい? だとしたらそこが大いなる勘違い。 義弟夫婦はもう関係ない、あなたと旦那さんの問題だよ。 妻が嫌だと言ってる場所に夫が引越を強行しようとしている。 反対しても収入がないことを理由に押し切ろうとしている。 ほらね?夫婦の問題だよ。 485 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 14 10 19 483 まったくそうだ。夫婦の問題。 旦那に猛省を促すべき。 じゃああなたは私がこんなに嫌がっているのに同居させたいのかと。 自分が同居のどこが嫌かをきちんと理由づけて話して、その解決策を旦那に求めるべし。 うちはそれをやったら見事に無回答逆切れだったけどね~~w。 でも、自分が何か熱にうかされて口走っているという事を 少しは理解しはじめたような気もするが、油断できない状況。 486 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 14 15 54 やっぱり働いてないとダメですね。 夫からは私が嫌だといっても日を決めて引っ越すから 一緒に来ないなら今払ってる食費の半額は毎月渡してやる、 他は住み込みの仕事でも何でも自活できるならしろ。 一年間それで自分で暮らせたら同居はいやだって話聞いてやってもいい、と言われました。 488 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 14 19 38 486 お子さんいるなら養育費は全額だろう。 弁護士に相談してきっちり支払って貰う方が良いよ。 どこでどんな風に暮らすかって、夫婦にとって大事な事なのに そんな風な強行の仕方するなら、別れた方がまし。 490 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 14 27 30 ごめんなさい 486は 477です。 488さん 残念なことに子供はいません。 つくらないんじゃなく欲しいけどまだ出来てないです。 実家も兄夫婦が住んでいるのでちょっとした里帰り以上では戻れないし。 住み込みの仕事なんてできないし 「いつかは同居」ってまだまだ先(せめて子供ができてからとか)思っていたので慌てています。 491 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 14 33 26 強引な旦那だなぁ。 もう別れたいんじゃない?旦那の方が。 同居受け入れるなら離婚はしないでいてやるみたいな。 492 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 15 28 03 多分、飽きちゃったんだろうね。 子供がいれば、旦那もまだそんな強硬手段は取らなかっただろうけど・・ お気の毒様。 494 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 18 35 33 それこそ何処かのスレで見た「飼ってやってる」状態だね。 仕事したらどう? 495 :名無しさん@HOME:2005/04/14(木) 18 40 41 資格取り始めるとか。 Next→前2-507
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百合の国上埃及(エジプト)の王にして、蜂の国下埃及の王、アモン・ラーの化身、輝けるテーベの主、ウシマレス大王の一子セトナ皇子は、夙(つと)に聡慧の誉れが高い。 八歳の時、彼は神々の系譜を論じて宮廷の博士共を驚かせた。十五歳以後は、最早あらゆる魔術と呪文とに通じた博学の大賢者として天の下に並ぶものもない。 一日、古書を渉猟中、ふと、ある疑いにとらわれた。 今迄、全然考えたこともなかった疑だけに、初めは、邪神セットの誘惑ではないかと思って、それを斥(しりぞ)けようとした。しかし、其の疑は執拗に彼の心から離れなかった。 ニイルの川の源から、その水の流れ注ぐ大海に至る迄の間に、セトナ王子のしらないことは何一つ無い筈である。 地上の事に限らず、死後の世界に就(つ)いても、彼程、通暁している者はない。 冥府の構造から、オシリス神の審判の順序から、神々の性行から、オシリス宮の七つの広間、二十一の塔の間やその守衛者の名前迄悉(ことごと)く誦(そら)んじている。 だから彼の疑は、そんな事に就いてではない。 古書を拡げている中に、ひょいと或る不安が彼の心を掠めた。 はじめは、その正体が分らなかった。 何でも彼の今迄蓄えた全智識の根柢をゆるがせるような不安である。 何を考えていた時に、そんな奇怪な陰が過(よ)ぎったのか? 彼はたしか、最初の神ラーの未だ生れない以前のことを読み、且つ考えていた。 ラーは何処から生れたか? ラーは太初の混沌ヌーから生れた。 ヌーとは、光も陰もない、一面のどろどろである。 それではヌーは何から生れたか。 何からも生れはせぬ。 初めから在ったのである。 此処迄は、子供の時からよく知っている。 しかし、今、古書をひろげている中に、妙な考えが浮かんだ。 初めにヌーが何故あったか? 『無くても一向差支えなかったのではないか』と。 不安の因(もと)になったのは、これだった。 この考えが浮んだ時、奇怪な不安の翳が、心を掠めたのである。 (中島敦『セトナ皇子(仮題)』より) ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「……ありがとう、観柳さん。俺のために、色々と考えてくれたみたいで……」 オフィスビルの中で、数人の男たちが、一人の青年と向かい合っている。 荒い息を無精髭に湛えて笑うその青年――宮本明は、彼の真正面に立つスコットランド風の衣装に身を包む商人、武田観柳に向けて、言葉を紡いだ。 「だがすまねぇ。さっき戦ってみてわかったが、俺にはどうも、そんなに武器を繊細に扱うのは無理みたいだ」 「……でしょうねぇ。あなたは今までに折った刀の本数を覚えてらっしゃいますか?」 「いや全然。武器の耐久力や手入れに気をかけてられるような状況じゃなかったんだ彼岸島は。 まぁ……、確かにその所為で、変なところで武器が折れてピンチになったりしたことも多かったけども。 丸太とか敵の刀とか船のエンジンとか……、俺は今までずっと、そこら辺のもの拾っては捨ての戦法で戦ってきたからな……」 武田観柳がその手に持った、魔法の金でできた長いだんびらを見つめ、明はうなだれた。 先程揮ってみた感触では、その日本刀は多少重いが、その重みを活かして高威力の切り付けを行なうことができる点では優れている。 しかし、金であるがゆえか、すぐに切れ味が鈍ってしまうことと、大差ではないとはいえ普通の日本刀より小回りが利かない点は、今まで彼岸島産の名刀ばかりを取回してきた明には不満の残るところだった。 それを、武田観柳は明に合わせて調整し直してくれるというが、その一点ものの名品がいつ折れたり鈍ってしまうのかを常に気にかけていなければならないという状況は、明にとってはこの上なく慣れないことである。 折角の申し出を断ってしまい、さらには再び武器を失ってしまったことで明は意気消沈の態だった。 だが、武田観柳は、その彼に対して、未だに深い笑みを崩してはいなかった。 「なるほどなるほど。宮本さんがそうおっしゃって下さり、安心しましたよ」 「え……?」 「先の戦いで、ご自身の品定めが出来てないようではどうしようかと思っていましたからね。 ……勿論私は、宮本さんがそう宣言して下さる時のための『武器』も、ちゃぁんと用意しておいたんですよ」 流れるような動きでシルクハットを手に取り、武田観柳は手に持っていた金の日本刀を手品のような所作でその中に回収する。 そしてハットを丁寧に被りなおしながら、彼は後ろに控えた男の一人に呼びかけていた。 「操真さん。例のものたちを、宮本さんに見せてあげて下さい」 「はいはい」 『コネクト・プリーズ』 状況の飲み込めない明の前に、彼と同い年くらいの青年が進み出て、右手に嵌めた指輪を宙にかざしていた。 すると、その空間に浮かび上がった魔法陣から、あれよあれよという間に、何本もの太い丸太が引きずり出されてくる。 その光景に、宮本明は我を忘れて狂喜した。 「うぉっ! うおおおおおっ!! 丸太だぁッ!! しかもこんなに大量に!!」 「宮本さん喜び過ぎじゃない……?」 魔法使いの青年・操真晴人に、宮本明はハァハァと息を荒げてむしゃぶりつく。 「そ、操真さん、これ、いったいどうして……!?」 「この島の北には製材工場があった。津波にかなりの量の丸太が流れているならば当然あるものとは思っていたがな」 たじろぐ晴人に代わり答えたのは、紫のスーツを着込み剣を佩いた貴族風の男性である。 ウェカピポの妹の夫と名乗る彼は、大きな地図を広げて、その場の全員に見えるようロビーの床に置いた。 「配られたものよりも詳細な地図をこのビルの中で見つけたんでな。全員分複写しておいた。 便利な機械もできたものだな。書物の複写がこんなに簡単にできるとは思わなかった」 「ええ、『こぴぃ機』と言いましたっけ、驚きましたねぇアレには。アレを持って帰ったら活版印刷の時代が一新されますね」 「ああ、いい土産になると思う。王宮付きの事務方が泣いて喜ぶだろう」 ウェカピポの妹の夫は、共にコピー機を見るのが初めてであった武田観柳と興奮気味に言葉を交わす。 広げられていた地図では、今までわかっていた大まかなエリアごとの地形のみならず、島内にあるいくつかの主要施設がわかった。 中でも南西側にある何らかの機械工場や病院、北西側の百貨店などは重要な施設であるように思えた。何人か参加者が立てこもっていてもおかしくない。 今回操真晴人は、そうして位置情報を得た製材工場の空間を魔法陣でこの場と繋げ、そこに手を突っ込んで丸太を引き出してきたものらしい。 手放してからまだ数時間とはいえ、久々に感じるその手になじむ木肌の温もりに、宮本明はその丸太へ思わず頬ずりをしたくなるほどだった。 「あ、ありがとな、操真さん……! 本当でかした。ちょっと見直したよ」 「私からも快いご協力に感謝いたしますよ」 「いいっていいって。元々観柳さんのグリーフシードで回復してもらった魔力なんだし。脱出の助けになるならこのくらいのこと進んでやるさ」 そうして宮本明が大量の丸太たちをデイパックにしまおうとしたところ、その中から、入れ違いに全裸の偉丈夫が顔を出してくる。 その男、ジャック・ブローニンソンは、胸に真っ白な小動物を抱え、宮本明の前に這い出しながら微笑んだ。 「ヘイ、話もまとまったみたいだし、オレたちは行こうか?」 「ええ、そうですね。アタシたちはもういいでしょ。明さんのおあとはお任せしますわ」 白濁液塗れになって動かない小動物・キュゥべえを抱いたジャックの言葉に、黒い衣装に身を包んだ男が壁際から応じた。 観柳と同じく魔法少女であるその男・阿紫花英良は、煙草の火を携帯灰皿に落とし、武田観柳を誘って歩き出そうとする。 「あ、おい、行っちまうのか……?」 「ええ。ヒグマ戦とあなた方への処置で疲れも溜まりましたしね。ブローニンソンさんとキュゥべえさんを護衛に、散歩でもして来ますよ。 宮本さんは、フォックスさんや李徴さん、小隻さんと武術のお話でもしててください。義弟さんのおっしゃる通り、いろいろあなたの参考にもなるでしょう」 不安げに呟く宮本明に振り返り、武田観柳は目を細めて笑う。 明の前に立ち戻った彼は、明が保持していたパソコンのキーボードを早くも慣れた様子でタイプし、その画面に文字列を打ち出していた。 『それでは探索組、行ってまいります』 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 袁さんの支給品であったパソコンには、以下のような作戦行動がしたためられていた。 武田観柳、阿紫花英良、ジャック・ブローニンソン、キュゥべえの四名で、島の中央に存在すると思われる主催本拠地への移動手段を探索する。 ビルヂング内では、拠点防衛・資材確保を行ないつつ宮本明を中心とした戦闘訓練を行う。各人が忌憚なく意見を出し合い、脱出への効果的な作戦を見出すこと。 もうすぐ正午の放送が流れる時間であり、他の参加者を本格的に探し回るのは、放送で出るであろう新たな情報を考慮すればその後の方が堅実である。 その前後の僅かな間ではあるが、まずは隣接エリアである踏みつぶされた火山にあると推測される主催本拠地への到達手段を、彼らは精鋭メンバーで発見しようとしていたのだ。火山の探索途中で同じことを考えていた参加者に出会う可能性もある。 魔法的な手段であれば、キュゥべえを始めとして魔法少女である観柳と阿紫花が発見できるだろうし、物理的な手段であれば、津波の被害もない山地に残った臭跡からジャックがその位置を発見できるであろうという目論見であった。 もちろん、重要施設であろうために当然主催側も防護策を講じているとは思われる。 その際にも、豊富な戦闘手段・移動手段・対応策を持っているこのメンバーであれば対応できるだろう。 会話・連絡の際には、キュゥべえを中心としたテレパシー網が魔法使いである操真晴人を経由してビル待機組にも届くため、最悪不測の事態には空間転移魔法『コネクト』によって緊急離脱することもできるという万全の布陣であった。 4名が北の火山へ向けて立ち去ったあと、オフィスビルには6名の男たちが残された。 そのうちウェカピポの妹の夫は、ロビーから上階に昇っており、この場にはいない。 残ったのは、待機組の主役となる宮本明と、その前に相対する操真晴人。そして、ヒグマである隻眼2と李徴と、彼の上にまたがるフォックスであった。 「……で、宮本さん、本当に丸太なんかをメインウェポンにしていいのか?」 「ん? 何か問題あるか?」 晴人に取り寄せてもらった丸太の一本を巨大な槍のように振り回し、明はその手応えを確かめる。 その様子を戦々恐々とした様子で見守る4名のうち、彼の呟きに応じたのはフォックスだった。 自分の身を護るように李徴の背で身を縮める彼は、結った髷を傾げる。 「……いや、見た目強そうだし実際丸太でなぐられりゃ人は死ぬと思うぜ? だがよ、聞いた限りじゃ、今までヒグマには全然効かなかったみてぇじゃねぇか、それ」 「ああ……丸太に限らず、投げつけたり斬りつけたりした攻撃も効いてなかったが……」 明は、風切音を立てていた丸太を考え込むように止め、顔をあげた。 丸太がヒグマの姿となった李徴の方へ突き付けられる。 「そうだ、折角なんだし、ちょっと効くかどうか試させてくれよ」 「お、おいやめてくれ! 洒落にならんぞ!」 『そ、そうですよ堪忍して下さい!』 つい先ほどまで宮本明から目の敵にされていたヒグマの一員である隻眼2と李徴には冗談にもならない。 明に向けて操真晴人は、製材工場の空間に手を突っ込んで様々な道具を取り出してみせる。 「ほら、なんか色々使えそうなものあるよ? 打撃武器よりせめて刃物みたいな方がいいんじゃないのか?」 「……うーん。直接戦闘に使えるのかわかんない形の道具ばっかりじゃないか? それよりはフォックスさんの鎌みたいな方が使いよさそう……」 「なんで他人の武器ばっか欲しがるんだよてめぇは!!」 フォックスにはにべもなく突っぱねられるも、確かに明の言う通り、製材のための刃物類は、木の皮を剥いたり整えたりするものが多く、一見して戦闘には向かなそうなものばかりだった。 「じゃあせめて、この手斧とかチェーンソーとかどう? これならリーチもそこそこあるし」 「うーん……柄の長い斧かぁ……。兄貴は確かに薙刀とか得意だったが、こういう長柄の得物は持ち運びに適さないんだよ。 チェーンソーもかさばるし、起動に時間がかかるし、丸太の方がやはり使いやすいなぁ」 「……ん? 持ち運び……?」 伐採用の斧や大型のチェーンソーを、宮本明は不満げに眺める。 その場にいた4名は、丸太の方がよっぽど持ち運びづらいのではないかと思わなくもなかったが、どうやら宮本明的にはそのようであるので、黙っておいた。 宮本明に対して、ヒグマに対抗できるアドバイスを皆でしてやろうと思ってこうして一堂に会しているわけだが、この調子ではどうにも話が進みそうにない。 要はようするに、単純に力任せに殴りつけたり斬りつけたりする宮本明の武器がヒグマに当たらなかったり、当たっても有効打にならないのが問題なのである。 フォックスと晴人は、そこを踏まえて、ヒグマである李徴と隻眼2に話を振った。 特に隻眼2は、今までで恐らく最も島内の戦闘を見聞きしている者の一人である。 李徴に唸り声を通訳されながら、彼は首を傾げた。 『……そうですね。僕が見た限り、ヒグマに攻撃できた手段は、麻酔銃、眼球への刺突、毛皮の走行に沿った斬りつけ、至近距離での砲撃・爆撃、あとは阿紫花さんの銃や、観柳さんのお金、義弟さんの左半身失調くらいですね』 「……弱点を見切って的確に突いていく技術か、毛皮を容易く貫通するほどの武器の性能、それか魔法や薬物なんかの防御力がほとんど関係ない手段に訴える必要があるわけだな。 ……まぁ俺の流派も、隙をついて急所を一発で仕留める拳法だし……そういうことができなきゃ今後やってられないってことか」 フォックスが隻眼2の発言の趣旨を要約すると、ロビーは総員が頭を悩ませる重苦しい空気に包まれた。 果たして宮本明が、がむしゃらに突っ込みながらヒグマの弱いところを狙って攻撃をしかけられるのだろうか? そう尋ねてみるも、明は天を仰いで首を振るのみである。 「いやぁ……たぶん無理だな……。たまにある、不思議なくらい鮮明に未来予知ができてノッてる時くらいだろうな、それができるのは」 「!? 未来予知? 何その魔法!? 宮本さんそんなの使えるの!?」 「……ああ!! あの、左半身失調してるのに義弟の刀を受け止めた時のあれだな!? なんでてめぇそんな能力あるのに使わねぇんだよ!!」 「いや、なんかできる時とできない時があってさ……」 操真晴人とフォックスの驚愕に、明は残念そうに呟いた。 晴人は自分の経験を踏まえて、それが彼の魔法使いとしての能力の片鱗なのではないかと推測する。 「宮本さん、あんたも多分、観柳さんたちみたいなゲートなんだよ。自分の中の魔力源であるそのファントムを、きっちり乗り越えないと!」 「そんなこと言われてもなぁ……」 「……魔法が精神の力なら、恐らくそれも、『技術』の延長に辿り着くものだろう」 彼らの会話に、突如男の声が割り込んでくる。 ウェカピポの妹の夫が、皿の上に何かを積んで階段を降りてきているところだった。 「ビルに蓄えられてた食材を漁って、『マリナーラ』を焼いてきた。次にいつ喰えるかわかったもんじゃないからな。 今のうちに喰っておけ。李徴とシャオジーには、塩味とニンニクのついてないヤツだ」 義弟は、その場にいたメンバーたちに、皿から焼きたてのピザを配り始める。 湯気を上げる大判のピザは、トマトソースをベースに、ニンニクとハーブをふんだんに盛り入れた、シンプルながらもスタミナ補給に向いたイタリア本場のものだった。 まだ上階では、オーブンで弁当用に何枚か焼いているらしい。 一同は義弟の手際の良さに舌を巻いた。 「義弟さん、料理も上手いんだなあんた……」 「義兄のウェカピポと違って妻は不器用でな……。一緒に作ってやった方が旨い料理ができる。あと、ピッツァを捏ねるのが単純にオレは好きなんだ。 いいか……おい。ピッツァ生地ってのなあ……宮本明、殴りながらコネまくるのがいいストレス発散になるんだよ。そうすれば自然に旨くなるしな」 「その調子で奥さん殴ってんだろ……? たまったもんじゃねぇな……」 「そうするとあいつも自然にカワイくなる。夫婦間のことに余計な口出しは無用だ、フォックス」 「へいへい……」 自身もピザを頬張りながら、義弟は半分膠着状態に入りかけていた宮本明育成計画に参戦する。 「その……未来予知と言ったか? 立ち会ったオレが思うに、お前の能力は、事前に知った相手の知識や行動から次の行動を予測するものだと思ったのだが」 「あー、まぁ、そう言われればそうなのかも知れねぇ。ただ、それがどうやればできるのか、自分でもわからな……」 トマトを啜りながら呟きかけた宮本明の脳裏に、その瞬間、自分の脳天を真っ白いツブテが貫通する映像が走る。 「グッ!?」 身を沈めた彼の頭頂を掠めて、義弟の腰のホルスターから、小さな『衛星』鉄球の一粒が高速で撃ち出されていた。 天井に当たって戻ってくる『衛星』をキャッチしながら、義弟はピザを齧りつつ涼しい顔で明に話しかける。 「ああ、やはり躱したな。初見で衛星の拡散を見切ったんだ。この程度なら既に予測できるか」 「な、あ、あぶねぇことしやがるな義弟さん……」 「なに、オレの小さいときは、ワイングラスの中身を零さないように持ったまま訓練したものだ。 場数を踏んで、より多くの場面で相手の動きを予測できるように使いこなし、慣れるのが一番だろうさ。ほら、殴ってみろ」 『左半身失調』の効果で欠落してゆく視界の中に、半分に折ったピザからソースを口に流し込んでいる義弟の姿が消え去ってゆく。 にわかに緊張の糸を張り詰めて戦闘態勢に入った明は、反応が遅れたものの辛うじて、欠落した視界の義弟の動きをぼんやりと予測できた。 ピザを咥えながら、左のすねに前蹴り――! 消滅直前の義弟の体勢、体重移動からそう判断した明は、感覚の無い左手の位置を、自分の未来予知の中に描き出すことで動かした。 いつもの自分の腕ならば、これだけ力をこめればこの位置まで動く、このタイミングで動かせば多少ずれても対応できる――。 そうして咄嗟に明が反応した後、予知の中の義弟は動かなかった。 失調が戻ってくると、果たして義弟は明の予測通り、前蹴りの体勢のままでピザを頬張っていた。 彼は感心した様子で明に語り掛ける。 「やるじゃねぇか。もう、失調中に俺の脚を掴めるようになっているとは、予想以上だ」 足元にかざしていた明の左手は、蹴りを防御するのみならず、義弟の脚を掴み取っていた。 褒められたことで、明はほっと気を緩める。 「あ、ああ、良かった。ありがとう義弟さ……」 「だが戦闘中にこう気を抜かないことだな」 明が感謝を述べようと義弟の脚を放した瞬間、その腕に回転する鉄球が押し付けられていた。 すぐさま再び、彼の左半身の感覚が薄れてゆく。 「って、義弟さん!? マジかよ!?」 「次はオレ以外のヤツだ……」 「え? 俺?」 消えていく聴力が最後に捉えたのは、操真晴人の面食らった声だ。 直後に義弟本人は、明の右側の見える位置に戻ってくる。 ピザの縁からこぼれそうになるトマトソースを舐めつつ、宮本明は急いで晴人の行動を予測しようと努めた。 未来予知に描き出されるのは魔力の奔流。 魔法陣を描き出して空間を歪め、操真晴人はそこから遠隔的に殴りつけようというのか。 大丈夫、躱せる――。 「思いっきりやっていいぞ」 瞬間、明の右で義弟がそう言って首を縦に振っていた。 予知していた未来が揺らぐのを、明は捉える。 そこに浮かんでいたのは、彼が想定もしていなかった現実だった。 五感で把握していた記憶から演算する、今までのような未来ではない。 ほろほろと薄青く、意識の背中から疾り来るような深い色の予知。 あたかも世界の全ての粒子を観測し、その遥か彼方の確率を汲み上げて来たかのような。 宮本明がかつて初めて吸血鬼の起き上がりを予知した時のような、無意識の海から汲み出してきたかのような映像だった。 「――くおっ!!」 悪寒を覚えたその瞬間、明は残りのピザ全てを口に放り込んで、前に転がっていた。 頬に詰め込んだピザを咀嚼しながら立ち上がると、失調の戻る視界で腕を振り抜いていたのは、操真晴人ではなく、その隣の隻眼2であった。 威力も通過範囲も人間とは段違いであるヒグマのパンチを、操真晴人の魔法陣を経由して遠慮なく明に叩き込むよう義弟は指示していたのだ。 『本当だ……避けちゃった』 「適度な逆境で訓練をせねば上達なんてしないもんだ。先輩は『北風がバイキングを作る』なんて例でたとえていたがな」 呆けたような隻眼2の呟きに、義弟もピザを食べ終わりながら答えた。 手についた粉をはたき落している義弟に向けて、宮本明は感極まったように叫ぶ。 「す、すげぇよ……! 予測出来ちまった!! ヒグマの攻撃まで……!! 義弟さん、あんたのおかげ……!!」 「オレじゃない。勘違いするなよ。これはオレたち護衛術のLESSON1だ。 『妙な期待をオレにするな』。今のことをやったのは全部お前自身の力。お前の行く道の上に、既に答えは蒔かれてるんだ」 ウェカピポの妹の夫がそう返した時、街の中に放送のための鉄琴の音が鳴り始めた。 続いて、一回目の放送の時とは違い、機械的な声ではあるものの、はっきりと人間の男が喋っていると思われる声が流れてくる。 『参加者の皆様方こんにちは。定時放送の時間が参りました。只今の脱落者は……』 「あ、フォックスさん、メモしてメモして!!」 「お、お、ちょっと待てよオイ!! タイピング早い訳じゃねぇぞ俺は!!」 操真晴人やフォックスが慌てる中、淡々と放送が告げたのは19名の死亡者だった。 ウェカピポの妹の夫が顔を上げて、一同の反応を伺う。 「……おい、誰か知り合いはいるか?」 『えと……、確か、僕が明け方に出会った魔法少女が暁美ほむら、同行してたのが球磨、ジャン・キルシュタイン、星空凛と、首輪に書いてありました。 でもおかしいな。彼女の首輪が破壊されたのは放送直後じゃ……? で、残りの彼らも死んだ……? あの穴持たず12さんを圧倒したグループがバラバラの時刻に?』 隻眼2は、放送終了間際に、そう訝しげに呟いた。 鉄琴の音が鳴り、放送が終わったと思われた直後、その異変が起こる。 放送機器から、衝撃と共に一斉に唸り声が響いてきたのだ。 その異常な叫び声と破壊音とが、李徴と隻眼2の耳にガンガンと跳ね返る。 『な、なんだ貴様ら!? ぐわぁあああああああああああああ!!!??』 『イヤッホーーーー!!!! 穴持たず48シバさん討ち獲ったりぃぃぃぃぃ!!!!』 『ヒャハハーーーー!!!! いくら支配階級でも背後から襲えばチョロいもんだなぁ!!』 『オッシャーーーー!!!! この調子でどんどん行くぞぉっっっ!!』 『聞こえてるかぁ!? 地上に居る我が同士ヒグマ提督よぉぉぉぉぉ!!』 『この革命! 必ず成功するぞ!! ヒグマ帝国は俺達と艦むすのモノだぁぁぁぁ!!』 唖然とする一同に、暫くして我を取り戻した李徴が翻訳した内容は、上記のようなものだった。 頭を抱えながら、操真晴人がなんとか状況を整理しようとする。 「……ええと、最初の声は放送してた男の人の唸り。で、3匹のヒグマがそんなことを叫んで、主催者の放送機器を破壊した、と」 「……研究員がヒグマと話せても、まぁいいかも知れねぇが……、穴持たず48? ヒグマが放送してたってこと、だよ、な……?」 『何人かはですね、研究所にも改造された元人間というのがいましたけど……』 「ヒグマ提督……、そして、カンムスとは何者だ? 日本のものだろう? 知っているか?」 「いや、俺も彼岸島が長くて、最近のものは知らない……。というか、こうなるとあの放送はどこまで正しかったんだ……?」 フォックス、隻眼2、義弟、宮本明が次々に呟くも、その言葉は宙に掻き消えてしまうかのようだった。 最後に、李徴が震えながら口を開く。 「……少なくとも確かなことは、主催がヒグマに打倒され、この島は『ヒグマ帝国』という、大量のヒグマたちがいる何かに乗っ取られたということだ……!」 全員が李徴に視線を送り、苦々しい表情で首肯した。 そして、李徴には彼らから激しい勢いで質問が飛んでくる。 「おい李徴さんよ!! あんた、こういうこと題材にした小説たくさん書いてるんだろ!?」 「こういう場合、一体どうすればいいんだ!? 教えてくださいよ!!」 「俺はバトルロワイアルもの書いたことないが、あんたなら知ってるんだよな!?」 フォックス、晴人、明から口々に尋ねられる言葉に、李徴は泣きそうになりながら首を振った。 「こんなこと……、主催がヒグマに革命されるパロロワなぞ、見たことも聞いたこともない!! 異常だ……!! この隴西の李徴の書き手歴を以てしても、わ、わかるわけあるかッ……!!」 李徴の震えは、単なる驚きというよりも、さらに根深いところからやってきているもののようだった。 隻眼2は、彼の様子を隣で不安げに見守っている。 ビルの周囲を見回すウェカピポの妹の夫は、忌々しげに舌打ちして言葉を吐き捨てる。 「……敵の規模が、わからないな。備えるぞ。操真晴人、武田観柳からの連絡はしっかり受けてくれ。 宮本明、稽古は仕舞いだ。フォックス、李徴、シャオジー、どこからヒグマが湧いてくるかわからん。きっちり捌いてくれ!!」 腰の剣と鉄球を確かめて、彼は階段に向けて駆け出した。 「オレはピッツァの焼け具合を確かめるッ!!」 「待ってくれ義弟さん!! 俺も行く!!」 宮本明とウェカピポの妹の夫は、瞠目する晴人たちを置いて、風のように階上のオーブンの元へと走っていた。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「……すげぇ放送でしたね……」 「ええ……呆れてモノが言えないとはこのことですよ」 「キューベーちゃんは何かわかったかい?」 『インキュベーター使いが荒いねキミたちは』 朝方に現れた巨人によって、単なる丘という趣にまで踏み均されてしまった火山の麓で、武田観柳たちの一行が呟いていた。 観柳の魔法で形成された十円券の絨毯で上空に浮かびながら、彼を含む4名は表情を曇らせている。 ジャック・ブローニンソンに抱えられたキュゥべえは、眼下の丘を見回して語った。 『でもとりあえず、地下に大きな魔力の塊があることは確かだね。しかも地下の空間は、街のある場所の地下ではほとんど至るところに広がっている。 主催者が反乱で倒されたというなら、今すぐにでも大量のヒグマが地上に溢れ出て来てもおかしくないんじゃないかな』 『キュゥべえさんもそういう意見か。こっちじゃ義弟さんも同意見だよ。李徴さんと小隻さんがいるからある程度どうにかなる可能性はあるけど……。 何にせよ無理のないところで観柳さんも早めに戻ってきた方が良いかもしれませんよ』 『ええ……そうさせていただきます。ではまた後で』 キュゥべえのテレパシーに、ビルで待機している操真晴人が応じていた。 彼から伝え聞かされた放送後の騒動の内容で、武田観柳はシルクハットごと頭を抱えてしまう。 テレパシーを切った後、彼は辟易した様子で息をついた。 「すいません阿紫花さん……、煙草を一本頂けますかね……」 「ヒグマ革命とか、吸わなきゃやってられませんよねぇ……。笑っちまわぁ」 阿紫花がコートから取り出した煙草をもらい、彼の咥える火口に寄り添うような形で観柳は煙草に火を受け取った。 煙越しに阿紫花の息を肺腑に吸い込んで、観柳は虚ろな目を眼下に落とす。 「やっすい煙草吸ってんなぁ、アシハナ……。帰ったらもっと好いの吸って下さいよ……」 「そうっすね……。報酬でちょっと良い煙草買ってもバチは当たりませんね……」 「私の葉巻あげますから……」 「この世の終わりみたいな声出さねぇで下さいよ……」 憔悴してしまったかのような武田観柳の肩に手を置き、阿紫花英良は彼を慰撫するように隣に座っていた。 対して、その間ずっと絨毯から身を乗り出して山の臭いを嗅いでいたジャックは、2人を元気づけるように威勢よく笑いかける。 「ヘイ、エイリョウ、カンリュウ。クマちゃんがレボリューションしたのもおおごとだけど、ちゃんとオレたちは目的の場所に来ていたみたいだゼ? 大量のクマちゃんたちの匂いは、ここに集まってる。埋まっていて見えないけど、誤差数メートルってくらいだゼ」 「あぁ、ありがとうございますジャックさん。ほら、観柳の兄さん、シャキッとしてくだせぇ」 「……ええ、はい……。ちょっと思考がおっつきませんで……失礼しました」 『ダメじゃないかカンリュウ。ボクの体でいくら遊んだって構わないけれど、キミたちに死んでもらうのだけは困るんだから。しっかりしてくれ』 「感情が無いお方は気楽でいいですねぇまったく……」 未だに心ここにあらずという趣でふらふらと立ち上がった観柳は、阿紫花英良に支えられながら、ジャックの指し示す問題の地点を見下ろす。 火山の西側の斜面、かなり麓に近い位置だ。 ここから出入りするならば、島の中心部である西の一帯の街もすぐである。 立地的にも、メイン通路を設置するにはうってつけの場所に思えた。 阿紫花は、隣で漫然と目を下に向けている観柳へ叫びかける。 「どうしますかい、観柳の兄さん! 主催側さんの本拠地がぶっ潰されたってんならもう盗聴に気ぃ使わなくても良いんですし、堂々と掘りに降りますかい?」 「いえ……それやると、昇降機を掘り当てた途端に大量のヒグマとご対面するんじゃないかなぁと……」 『怖気づく必要はないんじゃないかな、観柳? キミの魔力をもってすれば、ヒグマや魔女の1匹2匹、ちょちょいのちょいだよ?』 「それで、キューベーちゃんはパワーを使い果たしたカンリュウが魔女になれば良いっておもってるんだろ?」 『その通りだよジャック。良くわかるね!』 「ハハハ、もうキューベーちゃんのココロは丸わかりだゼ」 「それを避けたいから躊躇してんだろうがクソ淫獣!!」 良い意味でも悪い意味でも空気の違うジャックとキュゥべえの会話に、観柳は苛立ちを隠しもせず紙幣の絨毯を叩いた。 絨毯の縁から身を引いて、彼は空を仰ぎながらぶつぶつと何やら呟き始める。 「あー……もう、あと何万円……いや、何億円刷れば足りますかねぇ……。 一円作るにつきソウルジェムの透光度がどれだけ下がるか……、今操ってる分が、あーと……」 武田観柳は、必要な計算なのか現実逃避なのかよく解らない皮算用の世界に逃げ込んでしまった。 その様子を阿紫花が不安げに見やる中、ジャックの視線がふと山の北方に動いた。 彼の動きに反応して、阿紫花が再び紙幣の縁に身を乗り出す。 「どうしたんですかいジャックさん……?」 「エイリョウ、気づいたかい? 何かが、クる……。ヒトじゃない。クマちゃんにしても、これは……!?」 訝しげに眼を細めたジャックが、突如上空に顔を振り向けた。 阿紫花の耳にも届くほどの近さで、ふと風切音が空を切る。 同時に、ジャック・ブローニンソンは信じられない柔軟性で剣のように足先を中空に突き出し、その指先に何かを捉えていた。 宙に放り出され落下しそうになる自分の体を、縁から懸垂の要領で引き上げて戻ってきた彼は、足先に捉えた何かを阿紫花の前に見せる。 「あぎぃぃぃぃる……」 全長15センチほどの黒色のそれは、ジャックに掴まれてもがきながら、甲高い声で啼いた。 異形の生物であった。 ヒグマの毛皮に身を包みながら、それは鳥か翼竜のような長い口吻と巨大な皮膜の翼を有している。 その翼は前脚が変形したものらしく、翼の先に残った鋭い爪でジャックを切り裂こうとしていた。 「な、んですかこりゃ……」 「見たことないね……。骨格が軽いから、空を飛ぶことが得意なクマちゃんか? ンー……ジェニタリア(生殖器)がナイなぁ。どうやって殖えるんだろ?」 興味深げにその奇妙な飛行するヒグマを観察し続けていたジャックに、それは突如口を大きく開く。 そして次の瞬間、その口腔からは爆音と共に勢いよく弾丸のようなものが射出されていた。 首を捻って紙一重でジャックはそれを躱し、ヒュー、と口笛を吹く。 「ヤるねぇクマちゃん! エイリョウ、こいつカワイイよ!」 「バカ言ってんじゃないですよ! 絞め殺す!!」 阿紫花はジャックの妄言に耳を貸すことなく、そのヒグマの首に糸を巻いて勢いよく締めながら首を引き、即座に頸椎を分断して殺していた。 「あー……、ザンネン……」 「こんな化体なヤツまでいるたぁ……、まったく油断も隙も……」 「でも、あっちには親みたいなのがいるゼ?」 「はぁ!?」 北の方に向けた視界では、ちょうど街と山との境の辺りを、何かが土煙を上げて観柳たちの方へやってきている。 ヒグマのようにも、戦車のようにも見えた。 巨大な4本の脚を疾駆させて走り来るそれは、船首像(フィギュアヘッド)のように少女の姿をした像を正面に据えている。 瞠目してそれを見つめる阿紫花の視線へ、ツッ、とその奇妙な女性像の眼光が動いた。 ――捕捉されたッ!? 「機影、発見――。敵機ハ即座ニ撃墜撃墜撃墜殲滅殲滅殲滅殲滅――」 「観柳の兄さんッ!!」 彼我の距離は、まだ優に数百メートルは離れていた。 高所にいた阿紫花やジャックが相手を発見できたのはその位置取りのおかげであり、まだ互いの姿は、風景に紛れるケシ粒のような大きさでしか見えてはいなかった。 しかしそれでも、直感的に阿紫花は危険を察知し、即座に絨毯中央で呆けていた武田観柳を自分の方へ引き寄せていた。 「――全主砲、薙ギ払エ」 一瞬であった。 白煙と橙色の閃光が、微かにその女性像の下部から放たれたか――。と、阿紫花たちにはわずかにそう見えただけであった。 耳を劈くような爆音が十円券の絨毯の中央を貫き、刹那のうちに爆轟させていた。 「あひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~――!!!???」 あらゆるものが弾け飛んだ。 阿紫花が手を取った武田観柳の双眸が驚愕と恐怖に見開かれ、その下半身は数多の紙幣とともに粉微塵に消し飛ぶ。 彼の口から、阿紫花の渡した煙草が零れ落ちた。 残存した紙片も、観柳の統御下から外れ、ばらばらと重力に任せて散華し始める。 『やれやれ。人工的な魔女かい? ヒグマは勿体ない所業をするねぇ』 「観柳の兄さん!! 痛覚遮断!! 魔力を集中させて下せぇ! 堕ちちまう!!」 「あひ、あひ、あひ、あひいぃぃぃぃ……!!」 「……エイリョウ、クマちゃんがクるよ……!」 「ちっ……! 『グリモルディ』ッ!!」 4名は上空十数メートルの高度から自由落下を始めていた。 舞い散る十円券の中で、阿紫花英良は即座にデイパックから自身の人形を取り出し、両手で武田観柳とキュゥべえの体を確保する。 猫か猿のような身のこなしで斜面に着地したジャック・ブローニンソンの背後で、懸糸傀儡・グリモルディのキャタピラが軋みを上げて跳ねた。 「戦艦大和。推シて参りマス――」 獣のように走り来るその巨大な何かは、女性像の首筋から両の胸元を通って吹き流される2本の帯に、次々と黒い小さなヒグマたちを奔り出させていた。 先程、ジャックが空中で捕獲した、あの飛行するヒグマである。 「キュゥべえさん! あんた、あいつの正体がわかるんですかい!?」 『さてね。正確なことは解らないよ。ただ、放送にあった“艦むす”というのは、旧日本海軍の軍艦のソウルジェムを少女に落とし込んだものだと聞く。 アレは、魔力の感じからして多分それの“魔女”さ。斃せばグリーフシードでもドロップするんじゃないかな?』 「軍艦――」 キュゥべえの言葉を受けて、阿紫花は飛来する雲霞のようなヒグマたちを前に高速で思考した。 ――あれは、夜中に会ったヒグマ人形のような、ヒグマと戦艦が混ざった魔女と思えばいいのか? するとなれば、この飛行する異形のヒグマたちは、奴の偵察機兼戦闘機。 ジャックさんが捉えた一機以外にも偵察に飛び回っており、その所為でアタシたちは遠距離で奴に捕捉されたんだ。 十円券絨毯を吹き飛ばしたのは、奴の正面の二連装の主砲から撃ち出された砲撃。 弾丸の質は、多少なりとも爆発を起こしたことから、単なる鋼弾ではなくどうやら一昔前の徹甲榴弾。 見る限り、砲口径37mmの50口径近くはある。まるっきり戦車砲のスペックだ。これが実際の戦艦の大きさだったらどんなになっていたというのか。 他の武装としては、負けず劣らず大口径の副砲が2門×4。ヒグマの口じみたその砲門下部にだいたい6mm内径と思われる機関銃の銃口。機体の横に爆雷。そしてこの大量に飛来する航空機ヒグマ。当然、軍艦となれば他にも探査用の装置なども持ってると考えるべきだろう――。 『さてカンリュウ、任せっきりにしないでキミも頑張りなよ。死んだらもったいないじゃないか』 「あひ……、あひ、あひぃ……」 「エイリョウ、どうすればイイ!?」 「大砲は再装填に時間がかかるッ!! その上旋回の角速度は大したことありやせん!! 問題は連射性のある機関砲とッ……、この戦闘機どもですッ!!」 半身を失った上に恐懼に苛まれて身動きもままならない武田観柳を隣にして、阿紫花英良は首筋にしっとりと冷や汗をかいた。 夜間のオートヒグマータ。朝方の穴持たず5。 それなりに阿紫花はヒグマに対して戦い抜いては来たが、間違いなく今回の相手はそれらを遥かに凌駕する能力を有した強敵となるだろう。 「……どうやったら撤退させていただけますかねぇ……!」 戦艦の魔女ヒグマに先んじて目前に迫る航空機ヒグマの群れに向かい、阿紫花はジャック・ブローニンソンとともに慄然として佇むのみだった。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「宮本明、お前はこんなオーブンを見たことあるか? 薪の窯も風味があっていいが、これは個人が使うには大層便利でいい」 「ああ……オーブンレンジな。義弟さんの国にはないのか?」 「ない。電灯や蓄音機なんかは知っているが、とてもこんなものはなかったな」 宮本明とウェカピポの妹の夫は、ビルの上階で焼きあがったピザをクッキングシートに挟み、弁当用に包んでデイパックに仕舞っているところであった。 義弟は明に対して、にこやかに微笑みかける。 「画期的な発明は、概して受け入れられ辛いものだ。新しい流儀を創設したりする時もな。 だが、それが実際のところ、更に根源の流儀に則したものだと人々に理解されさえすれば、それは自ずと世に定着することができていくだろう。お前の能力とて同じだ」 「ああ……」 明は義弟の言葉に頷きながらも、釈然としない様子で佇んでいた。 デイパックの口を閉じた義弟に向け、明は意を決したように目を上げる。 「義弟さん……あいつらの前じゃ言えなかったが……。放送を聞いたろ? ヒグマが研究員を襲ったんだ。 李徴さんみたいに元人間とか……、小隻さんみたいに理解のあるやつとか……、ヒグマにも色々いることはわかったよ。 だが、現にヒグマはそんなことをしているんだ。もう話し合いとかで解決なんか不可能だと思う。脱出のためにも、やはりヒグマは殺す必要があるんじゃないか……!?」 「『迷ったら、撃つな』」 明の発言に対し、義弟はただ一言、そう返答していた。 「……親父から心構えとして言われてきた言葉だ。王族護衛官は、あくまで対象を守り抜き、逃がすことが本分。 決して、敵対者を殺し尽すためのものじゃない。それを戒めるための言葉だと、オレは思う」 「でも……!」 「でももクソもあるかザコめ。今までヒグマの一体もまともに相手できないで大言壮語できた義理か」 「なっ……」 突如、義弟は明に向けてそんな暴言を吐いていた。 見下すように彼を上からねめつけて、なおも義弟の言葉は続く。 「泣きべそかいてる暇があったらまず自分のケツくらい拭けるようになれ、バカガキが!」 「ぐぅッ!!」 瞬間、明は怒りに任せ、その怪力を拳に乗せて義弟を殴りつけていた。 しかしその動きは読まれていたかのように容易く躱され、カウンターのように伸びてきた腕に襟元を掴まれた明はそのまま壁際に押し付けられてしまう。 息が顔にかかるほどの近距離で、ウェカピポの妹の夫は、静かに彼に語り掛ける。 「LESSON2は、『筋肉に悟られるな』、だ。ヒグマは、人間なんかより遥かに鋭い。 感情に任せて筋肉や神経を乱せば、即座にそれは自他に悟られて、こんな風に不測の反応を自分に返すことになる。 今までお前の攻撃が一切ヒグマに通用しなかったのは、恐らくそういうことだ。回転も感情も、己の皮膚で止めろ」 宮本明は、全身の力が抜けたようにうなだれる。 息をついて、彼は身を放した義弟に問いかけた。 「……だけどよ。それじゃあ一体どうすれば良いんだ……。俺には力任せ以外の戦い方なんて、多分できねぇよ」 「多数の武器にものを言わせて使い捨てるなら、使い捨てるなりの戦い方はあるだろう。 手合せをした限りじゃ、お前の投擲精度は下手するとオレより高い。折角操真晴人が色々見つけてくれたんだろう?」 義弟が取り出したのは、一本の槍鉋だった。3センチほどの紡錘形の穂先に握りがついているそれは、階下で晴人が引っ張り出してきた道具の一つである。 義弟はそれを投げ槍のように掴んで構える。 掌の中でドリルのように回転するそれが放たれると、勢いよく直進した槍鉋はフロアの反対側のコンクリート壁に深々と突き刺さっていた。 「こんな感じで、眼や口を狙って矢弾を投げつけるという手もある。工夫次第で、ペンや包丁、フォークにベルト……。なんでも武器になるぞ」 ウェカピポの妹の夫は、そう言いながら槍鉋を引き抜いて戻ってくる。 宮本明が思い返してみれば、『なんでも使う』と言って行なった先の決闘でも、多数の武器を使いこなせていたのは義弟の方だった。 彼は鉄球と剣のみならず、ベルト、上着など、直接攻撃に用いない絡め手を上手く肉弾戦闘に組み合わせていた。一方の明はと言えば、義弟の武器を奪ったり、デイパックを防御の犠牲にしようとしていたのみである。 義弟から槍鉋を受け取った明は、それを暫し見つめて、思いついたようにデイパックを開け始めた。 「丸太……? それをどうするつもりだ?」 「『投げ槍』だよ義弟さん! そうだよ、俺にはこれがあった……! 丸のまんまの丸太でも、俺は邪鬼の両手を投擲でぶち抜いたことがあるんだ。こいつに槍みたいに穂先をつければ……」 明は手斧で丸太の先端部を削り始め、瞬く間に破城槌か巨大な鉛筆のような趣の武器を完成させていた。 尖った先端部を突き出すように明はそれを抱え、手応えを確かめる。 ウェカピポの妹の夫は、その光景を驚愕と畏怖の入り交ざった眼差しで眺め、こめかみに一筋の汗を垂らした。 「……流石に、オレにその発想はなかった。それはお前自身の武器だよ。誇りに思っていい」 「いや、ありがとう義弟さん! これなら接近戦の威力も上がる……! 全部こうしちまおう!」 笑みを綻ばせて、明が他の丸太も加工し始めた時、階下から慌てて操真晴人が二人のもとに駆け上がってきていた。 「おい! 観柳さんたちが襲撃されたッ!! 援護してくれっ!!」 「……なんだと? お前の魔法で離脱させるんじゃないのか?」 「かなり近場で接敵を許したらしい! 強敵らしいんだ……。こっちのビルの存在を悟られないように、今阿紫花さんが水際で喰いとめてくれてる……!」 「相手の死角から『衛星』で援護……? 100メートル内外までならギリギリできなくもないか……」 晴人の焦った言葉を受けて、義弟は宮本明と顔を見合わせた。 ネアポリス護衛式鉄球の『左半身失調』で相手に死角を作り、そこを狙って晴人の『コネクト』を使用するという作戦だろうか。 明は即座に頷き、道具を引っ掴んで階段へ駆け出した。 「屋上だろ!? そっから狙撃すれば良いんだな晴人さん!!」 「ああ……って、俺と義弟さんはともかく、宮本さんはなんで……!?」 「……いや、いい。共に行くぞ操真晴人!」 ウィザーソードガンや鉄球という飛び道具がないはずの明の行動に、晴人は面食らった。 その言葉を義弟は制し、晴人を引いて明の後を追い始める。 「……もしかすると、あいつこそが、ヒグマに対抗するカギになるかも知れない」 ウェカピポの妹の夫は、長い睫毛の下に、そんな呟きを微笑ませていた。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 空を埋め尽くすような小さな航空機の群れから、一斉に爆撃が浴びせかけられる。 鳥のような姿のヒグマの口腔から吐き出される弾丸が、地表にいる4体の生物へスコールのように降り注いでいた。 「『グリモルディ』ッ!!」 その砲火の中心で、黒づくめの魔法少女・阿紫花英良は、自身が魔法の糸で操る傀儡を高速で反転させる。 頭巾の中に武田観柳と自分、そして腕にジャック・ブローニンソンとキュゥべえを抱えさせて、背中の骨組みで銃弾を防御しつつ、低い体勢で彼はハゲ山の斜面を疾駆した。 向かう先は、操真晴人たちが待機する南のオフィスビルである。 ――だが、あのヒグマの戦艦魔女をそこに引き込む訳にはいかない。 建物という閉鎖空間は、内部で爆発を生じさせる徹甲榴弾の格好の餌食だ。 彼女の砲塔が射出する巨大な弾丸がそんな類の代物であり、かつ、飛行中の自分たちを過たず打ち抜くほどの精度を持っているなら、撤退は万全を期さなくてはならない。 なおのこと、今の状況で返り討ちにしようなどという考えは愚の骨頂だろう。 観柳の兄さんは、人生初と言っていい窮地と肉体損傷で何もできる状態じゃない。 ジャックさんは、その身体能力を活かすには接近が不可欠。 そしてキュゥべえさんは――。 「おいキュゥべえさん!! さっさと操真さんにテレパシーを繋げろ!! ピンチなのはわかってるでしょ!?」 『何にも言われなかったからねボクは。言われれば繋げてあげても良いんだけど』 「これはクソ淫獣ですわ。何回か死ねよあんた」 阿紫花たちが窮地に追い込まれるのをほくそ笑んで傍観しているキュゥべえは、実にもったいぶった間を開けて、遠隔地の操真晴人を呼び出した。 背後を飛行するヒグマたちの射線に追われながら、阿紫花は手短に状況を伝える。 『阿紫花です! 火山西部で昇降機の所在と思われる場所は見つけやしたが、同時に、ヒグマらしい敵に遭遇! 体長4メートル大! 戦艦みたいな能力を持ってやす! 撤退したいんですが単なる逃走だと建物を狙撃される可能性が高いです! 義弟さんの援護を下せぇ! ギリギリの所まで粘りやす!!』 『わ、わっ……!? そんな状況なのか!? わかりました、急ぎます!!』 慌ただしく応答した晴人の声が遠ざかり、阿紫花のグリモルディはいよいよ、辺りを囲む戦闘機ヒグマに追いつかれ始めた。 グリモルディの頭巾や彼の頬の脇にも、次々と弾丸が掠めるようになっていく。 阿紫花の隣で、腰から下を吹き飛ばされた武田観柳がようやく止血と痛覚遮断に辿り着き、憤りと恐怖に歪んだ顔で叫びかける。 「あ、アシハナぁ……!! 粘るって、粘るって……、てめぇどうする気だよこの状況でッ!!」 「いやぁ……、もう大してできることはねぇんですけどね」 「バ、バ、バカヤロウ!! て、てめぇ私を頼りにしてんのかっ!? ああっ!? 自己修復で手一杯だぞ私はッ!!」 焦りを隠すこともできず騒ぎ立てる観柳に向けて、阿紫花は煙草を深く吸い込み、悟ったような穏やかな笑みを振り向ける。 「……まぁ、そろそろアタシたちも腹ぁくくりやしょうや……」 「わーっ、わーっ!! 冗談じゃねぇぞてめぇふざけんなよ契約してんだろがぁーッ!!」 「大丈夫ダよカンリュウ。エイリョウは仕事してる」 半狂乱になる武田観柳を抑えたのは、ジャック・ブローニンソンの微笑みだった。 同時に、阿紫花は突如グリモルディを旋回させ、襲い来る大量の機影に向けて急停止した。 「あぎぃぃぃぃぃぃる!!」 「あっ、あっ……、あひひぃぃぃぃ!?」 叫び声を上げながら、牙を顕わにして航空ヒグマが殺到する。 恐怖に身を竦める武田観柳とは対照に、阿紫花英良は瞬間、ニヤリと笑みを深くした。 「……ま、腹ぁくくるっつっても、そいつぁヒグマさん方の腹ですがねぇえッ!!」 グリモルディの頭巾の上で、阿紫花はその両手を大きく頭上に振りあげた。 同時に、今までグリモルディが走行してきた轍の上から、大きく投網のように灰色の糸で編まれた巨大なネットが立ち上る。 阿紫花たちを追って一直線に進んでいたその航空ヒグマたちは、一機残らずその網の中に絡め獲られていた。 「おらァッ!! 大漁旗掲げて地引網ですぜぇッ!!」 両手を捌いてその網の筒を絡め落とした阿紫花は、そのままグリモルディのキャタピラに捕獲したヒグマたちの塊を巻き込んで、一息のもとに轢殺する。 逃走の始めから地面に魔力の糸を張ることで作り上げた、阿紫花英良の魔法による巨大な罠であった。 おののくばかりだった武田観柳に向け、阿紫花は強く微笑みかける。 「どうです? 大してできること、残ってなかったでしょう?」 「バッ、バカッ……! いつもいつも心臓に悪いんだよアシハナぁ……ッ!!」 「あとは、あのクマちゃん本体だネ……」 ジャックが呟く視線の先で、戦艦のヒグマが虚ろな瞳の女性像を正面にして突き進んでくる。 阿紫花が眼だけを後方のオフィスビルへ振り向けるが、その屋上の様子はこちらからはよく窺えない。 それは同時に、敵である当の戦艦にも、上手く逃げられさえすれば追われる心配がなくなるということである。 艦載機に該当するであろうヒグマの群れは当座のところ全てを墜としており、仮に敵がレーダーのようなものを備えていても、金を用いる観柳の魔術などを展開でもしていない限り、有機物である人間の体は周囲のノイズに紛れて捕捉され得ない。 ――しかし、それが上手くいくのか……!? 自分たちは、ウェカピポの妹の夫の援護で、相手の認識能力を欠落させてからでないと安全に逃走できない。 展開した魔法陣に、自分たちごと敵が突っ込んでくる可能性が高いからだ。 しかし、その援護が来るまでグリモルディで相手の砲撃を回避し続けられるのか、そもそも義弟の攻撃がここまで届くのか、それがわからなかった。 ビルの屋上からここまでは直線距離で200メートルないくらいだろう。 ――無理でしたら、それこそ万事窮す。ですねぇ……。 阿紫花英良を含め、恐らく武田観柳も他の者も、あの戦艦ヒグマに有効打を与えられる攻撃手段は持っていないだろう。 侵入される危険を顧みず操真晴人に転移させてもらい、それでも追撃を振り切れないようなら、今度こそ手詰まりだ。 ひっそりと唇を噛んだ阿紫花に対し、ジャック・ブローニンソンがその時ふと、微笑みながら声をかけていた。 「エイリョウ……。オレがデコイ(囮)になるヨ。そうすれば、もしもの時も逃げられるダロ?」 「は……はぁッ!? 何言ってんですかい、死にますよ!?」 「主砲の角速度がトロいって言ったのはエイリョウだゼ? ミリタリーは守備範囲外だケド、それならイけるって」 ジャックは、グリモルディの腕から地面に降り立ち、引き締まった全身の筋肉を震わせて視界の先の戦艦を見やる。 彼はいたずらっぽくエイリョウに振り向いて、彼にウィンクをしてみせた。 「……それに、オレは一度死んだトコロをエイリョウに助けられてルんだ。もっかい死んだトコで何も問題ないダロ?」 「いや、それでもあんた……!」 「なにより、ケモナーとしちゃアあんな可愛そうな子、放っておけるわけないんだよナッ!!」 それだけを言い残し、彼は怪鳥のような雄叫びをあげて、迫り来る戦艦の女性像に向けて、猛スピードで走り寄って行った。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「あれ……か? コメ粒より小さいんじゃないか……!?」 「義弟さん、こんな距離で鉄球、届くのか……!?」 「ビルの高さと俯角を見るに……。概算で200メートルないくらいか。高低差があるとはいえ遠いな……」 腕を伸ばして距離を測っていたウェカピポの妹の夫は、北の斜面を睨みながら首を横に振った。 オフィスビルの屋上に出てきた3人の遥か彼方に、阿紫花英良の懸糸傀儡・グリモルディのカラフルな頭巾が見える。 200メートル離れているその更に100メートルあまり先から、巨大な四肢を躍動させて走り来る灰色の体躯をしたヒグマ。 一見少女のような外観をしていたが、その頭部以外はトルソーのように四肢を断ち落され、かわりに下半身にヒグマ、両腕にも2ツずつのヒグマの頭部を接着されたような、異様な形態をしている。 目視で、スコープもなく、ましてや一般人の膂力では、いくら回転の力があるとはいえその距離の相手に鉄球を届かせることは義弟にはできなかった。 そして疾駆するそのヒグマが阿紫花たちに接近するのはもはやあと数秒。その上肉眼で目視される範囲にいるため、いつ砲撃を浴びせかけられてもおかしくない。 その時だった。 芥子粒のようなグリモルディの陰から、クモのような素早さで躍り出た一人の男がいた。 一糸纏わぬ、その筋肉に満ち溢れた肉体で、彼は戦艦のようなそのヒグマに自ら向かっていく。 宮本明が屋上のフェンスから身を乗り出した。 「ブロニーさん!!」 「いぇああああああああああぁん!!」 ジャック・ブローニンソンが走り出したのは、斜め前方だった。 なだらかな斜面の上方から楕円軌道を描いて襲い掛かろうとすると同時に、阿紫花及びオフィスビルから射線をずらそうとしている走り方だった。 「第一、第二主砲――。斉射、始メ!」 「いゃっはああああああぁぁぁん!!」 瞬間的に発射される大口径の砲撃に対し、ジャックはその脚力を以て上空に飛び上がっていた。 直射狙いの砲撃の寸前に仰角をつけられ、超音速の弾丸はジャックの脚の下を通過して斜面に爆轟を起こしていた。 続けざまに狙いが定められるのは合計8門の副砲と4つの機関銃である。 しかし、切断された腕に無理矢理嵌めこまれたかのようなそのヒグマ型艤装の形状上、同一対象を一度に照準できるのは多くて副砲4門+機銃2。角度によっては副砲2門機銃1だけであった。 ジャックを追うように機銃の掃射が開始されるが、彼はその弾幕が希薄になる方向を見切って、迂回軌道の角速度を増すように走りながらその火線を振り切っていく。 「ヤらせ、まセン――」 「にぃっ――!?」 しかし、ジャックの狙いが、射撃攻撃の死角となる懐へ飛び込むことだと察知し、その戦艦少女のヒグマはフットワークを踏んだ。 跳び退りながら砲門を最大限に向けられる正面方向でジャックに対峙し、彼を過たず撃ち殺そうとしている。 グリモルディに抱えられていた武田観柳が、その時叫んでいた。 「あ、あ、アシハナッ!! 村田銃を出せぇッ!! 今すぐにだぁッ!!」 「か、観柳の兄さん!?」 「この観柳様のおみ足をふっ飛ばした上、投資先を不渡りにするなんざ認めんぞぉ、クソアマがぁっ!!」 武田観柳の中で膨れ上がった怒りと投資への執着が、ついに彼の恐怖を押し潰していた。 阿紫花の取り出した村田銃を奪い取るようにして掴み、彼は下半身のない身ながら堂に入った構えでそこに魔力を込め始める。 「魔力を貸せ、アシハナ! そしてヤれ!! 照準は私が定める!!」 「……! へい、わかりやしたぜぇ!!」 銃把から輝くばかりの金に覆われてゆく村田銃の銃身に、武田観柳は阿紫花英良の手も取って乗せていた。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「本当に始まったみてぇだな……。マジなのかよ、ヒグマの革命……」 オフィスビル一階ロビーの窓から山の方を覗くのは、ヒグマになった李徴に背負われるフォックスである。 彼の目には、斜面に着弾して大量の土石を吹き飛ばす2つの砲撃の爆発が映っていた。 恐らくそこで、ジャック、阿紫花、観柳、そしてキュゥべえが、そんな大口径の砲塔を有したヒグマと戦っている。 フォックスは、自分が跨っている李徴の背中を叩いた。 「おい、ボサッとしてるがよぉ、大丈夫なんだろうな。ヒグマがこっちにきたら交渉はお前頼みなんだぞ!?」 「い……いや……。まぁそれはわかっているが……」 「ったく、とんだ大口叩きだよなぁ……この殺し合いについての知識があるかと思ったら肝心のところでこれだしよ」 「め、面目ない……」 李徴は、自分の想定や知識を遥かに逸脱してしまった『ヒグマ・ロワイアル』という環境の異様さに、今になって初めて怖気を覚えていた。 今まで培ってきたロワ書き手としての知識や誇り――いわば、常識やお約束といったものが、一切通用しなくなっていた。 そのことに気付いた時、彼の心には、ただ広漠と蒼黒い、悲しみの水が広がっていた。 『李徴さん……、大丈夫ですよ……。いざとなったら僕もいますので……』 「……」 隣から穏やかな唸り声を掛けてくるのは、李徴自身が小隻と愛称をつけたヒグマ、隻眼2だ。 だが今の李徴には、彼の励ましすら重圧になった。 純然たるヒグマで有りながら、隻眼2は人間にも勝るような思慮深い考えと行動を採っている。その観察眼は、作家としての才能を自負していた李徴をも上回るものかも知れない。 人語とヒグマ語の双方がわかるという、李徴のアドバンテージすら隻眼2が習得してしまったならば、自分は一体、どこに価値が残っているというのだろうか。 蒼黒い水底で、心臓の鼓動が骨を噛む。 背骨の奥底から、眼を光らせて爪の音が李徴の喉元に走り寄ってくるかのようだった。 彼の上では、李徴の心を気にも止めず、フォックスが彼方の様子へ眼をこらしている。 「……この様子じゃあ、いつここにも新手のヒグマが襲ってくるかわからねぇな……。 むしろ、もう既に建物の中に侵入されてても不思議じゃねぇし……」 『いや、それは流石にありませんよ。僕と李徴さん以外の獣臭はどこにもありません』 フォックスの不安げな言葉に、隻眼2が唸る。 しかしちょうどその瞬間、フォックスは突如背後に殺気を感じて、李徴の背中から跳び退っていた。 「――くおっ!?」 「あ~らら、絶好のチャンスだと思ったのに。流石に拳法家の端くれといったところかな?」 李徴の背中を掠めて地面に降り立った、場違いに明るいその声に、ロビーにいた3名は一斉に振り向く。 そこに立っていたのは、体の半分が白く、体の半分が黒く塗り分けられたかのような、奇妙な様相をした小さなクマであった。 フォックスは着地しながら即座に両腕の鎌を構えて、突然の侵入者の力量を図ろうと睨みつける。 「て、てめぇもヒグマか!? いつの間に入りやがったッ!!」 「うぷぷぷぷ……。ボクは義弟くん一人だった時からずーっとここにいたのさ。キミたちの行動は全部見させてもらっていたよ」 『なっ……そんな……、なんで僕や李徴さんが気付かなかったんだ……!?』 「ロボットに臭跡なんて、あるわけないじゃないの。隠れてた女子トイレに入ってくるようなヤツも、幸い一人もいなかったしねぇ!!」 フォックスは滔々と語るその白黒の小熊を眺め、『単体なら自分でも勝てる』と踏んだ。 『ロボット』と名乗った通り、そのクマは見た目の小ささに反して重量があるようで、爪による攻撃は李徴の毛を先程の一撃で斬り飛ばしているほどだ。 しかし、同時にその動きは勢いはあれど固く、自分程度の力量でも見切ることは可能だった。 関節部分の継ぎ目に鎌を差し入れてこじり壊すなどの手を使えば、どうにか破壊することはできそうである。 他の人間がいなくなった隙を見て襲い掛かってきたということは、明らかにこのクマは自分の殺害を始めとした参加者の各個撃破を目的にしているのだろう。 フォックスはそこまで考えて、戦闘に慣れていないだろう2頭から注目を外し、カウンターを突けるように身構えながらそのクマを煽った。 「おいスケベ熊!! 喋くってねぇで、俺を殺すつもりならかかってこいよ!! てめぇの好きな女子便器の中に切り刻んで流してやるからよぉ!!」 「うぷぷ、残念だけど、キミがメインじゃないんだな~」 しかしそのクマはフォックスの罵倒に乗ることなく、その正面で瞠目する李徴に向けて語り掛けていた。 「……ねぇ李徴クン。自分が無智で愚昧な鈍物に成り下がった気持ちはどうだい?」 そのクマは、いやに白々とした牙を覗かせて、その相好を歪ませた。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「阿紫花英良も動いたか」 「おい操真さん! 早くあいつらを呼び寄せてくれよ!!」 「無理だよ!! あいつごとここに呼び寄せることになるぞ!? 阿紫花さんはそれを防ごうとしてくれてるんだ……」 「つったってこれじゃジリ貧じゃあ……!?」 宮本明たち3人が見下ろす彼方で、阿紫花英良の駆るグリモルディが、ジャック・ブローニンソンとちょうど反対方向から戦艦ヒグマに攻め込むように、斜面を回り込んでいた。 その頭部で金色の銃を構える酷薄な笑みは、恐怖を一巡して押し込めた武田観柳の構えである。 「――次は直撃サせマす」 ジャックから後退して距離を保ちつつ、その戦艦の少女は副砲を斉射しようとしていた。 その瞬間、黄金の閃光が幾条も砲塔の側面から吹き上がり、ジャック・ブローニンソンを狙っていた4門の発射口が、ことごとくその砲門を逸らされる。 同時に煽りを喰らった機銃の火線も乱れ、ジャックは辛くもそれを転げて回避した。 「ナッ――」 「ほーっ、ほっ、はっはァ!! たまんねぇなぁ!! 村田銃が単発の散弾ばっかだと思ったら大間違いなんだよぉ!!」 武田観柳が、その手に構えた村田銃を、恐ろしく精確な弾道で乱射しているのだ。 彼の手により鍍金された村田銃の形式は、元々からして砲口径14mmという大型小銃である。 そこに込められるのは、魔力で生成された黄金の28ゲージスラグ弾。 近接戦闘では大口径ライフル並の威力を発揮するその砲火が、即座に銃身内部に再生成される魔力の弾丸により、通常の村田銃ではあり得ない速射性を獲得していた。 グリモルディの高速機動で翻弄しながら隙間ない銃撃を繰り出してくるもう一体の敵を否応なく認識させられ、ヒグマの少女は狼狽した。 操舵手である阿紫花英良、そして砲手である武田観柳の能力は、どちらもその道において達人の域に至っている。 彼らが息を合わせて行なう高精度の攻撃は、彼女にとってかつて沈没直前に受けた魚雷の雨を想起させるほどのものだった。 「悪いんですがヤらせて頂きますぜぇ――!!」 「そ、ソレデ直撃のつもりナのッ!?」 「いよぉああああああああぁん!!」 阿紫花と観柳の両名に応戦しようと構えを取り直す彼女の背後に、怪鳥のような声が響く。 ぞくりと身の毛をよだたせて彼女は振り返る――、ことは、できなかった。 「――不肖阿紫花と観柳の兄さんの送る、ヒグマ獲りの舞ってトコですかねぇ」 「ふぃっ、ふぃひっ……、クソアマは籠絡されるのがお似合いなんだよ……!」 その少女――戦艦ヒ級の体には、数十本もの灰色の糸が全身に絡みついていた。 艤装や周辺の地面に着弾した金の弾丸から伸びるその糸は、彼女自身の動きやグリモルディで移動した阿紫花の糸捌きにより、彼女の肉体を複雑に締め付けている。 そしてついに、彼女の肌に、その男の指先が触れていた。 「戦艦クマちゃんカワイイよぉおおおおおおおおおっ!!」 「キャァアアアアアアアアッ!?」 ジャック・ブローニンソンの玉ほとばしる裸体が、その少女の背後に駆け上がる。 生理的な恐怖を感じて彼女はもがくも、阿紫花が渾身の魔力を込めて維持するその糸は、一度に全てを引き千切れるほど軟弱ではなかった。 その異形のヒグマの会陰部をまさぐるジャックの動きに、阿紫花と観柳は勝利を確信する。 それは、遠く離れたオフィスビルでその様子を見守っていた宮本明たちも同様だった。 「やった!! ブロニーさんがマウントを取ったんだ!! 流石ブロニーさんだッ!!」 「すごいな……! 援護なんていらなかったんじゃないか……?」 「……いや、ちょっと待て。様子がおかしい」 感嘆に飲まれる明と操真晴人を制したのは、ウェカピポの妹の夫だった。 彼らの視線の先で、ジャック・ブローニンソンが動きを止めて震えている。 ジャックの眼差しは、驚愕に見開かれ、そしてその次に、深い憐憫の色を湛えて瞑られた。 亡き者のように目を閉じて、彼は声を震わせて少女へと呼びかける。 「……ヴルヴァも、ラビアも、ユテルスもない……。 キミは、どうしてこんな愛を受けられない体に、されてしまったんだッ……!!」 ただ悲哀と慈しみの涙を零しながら、彼はその生まれたての幼子の毛皮を愛撫した。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「……あの軍艦のようなナリをしたヒグマには、交接器官がないようだな……」 ウェカピポの妹の夫が、ビルの屋上で苦々しく呟く。 それはジャック・ブローニンソンの、最大にして唯一究極の武器であるその逸物を、行使することができないということを意味していた。 なおかつ、彼の狼狽ぶりからすると、そのヒグマには肛門すらないのかも知れなかった。 ヒドラのように盲端になった消化管が、彼女の全ての口から同一の胃腸に繋がっており、余計な機構を排して、食事も排泄も全て彼女のどこかの口に担わせているのだろう。 生物的機能を押し潰して、ただ軍事と戦闘を目的にして作られた、人造物であるが故のおぞましい構造であった。 「なぁ……、友情とか、愛情って、なんだろうな、クマちゃん……」 「ナにヲ……、言ッてイル……!」 ジャック・ブローニンソンは、その女性像を備えたヒグマ――戦艦ヒ級の背中に取りついて、涙を零していた。 彼女の艤装に備わる4頭の牙が彼に向かうことを、ジャックは自らの怪力を以て差し止めている。 そして彼は、その双眸を見開いて叫んだ。 「愛は、友情は、魔法なんだッ!!」 そして彼は、彼女の左肩に回り込み、その副砲の口元を押し開いて、自らの下半身をその機銃の根元に突き立てていた。 たちまち、戦艦ヒ級の副砲、主砲、そして少女の口元の全てから、勢いよく白濁液が溢れ出す。 「あぎいィィイいいイィィぃぃッ――!?」 「――I used to wonder what friendship could be(友情ってなんだろうって思ってた)。 Until you all shared its magic with me(キミたちと魔法を分かち合うまでは)!!」 ジャックは力強く歌いながら、一塊の炎のような勢いでその腰を振り続ける。 彼の取りつく副砲以外の口が、悶えながらも彼に向けて身をよじり、その脚や肩に食らいついて彼を振りほどこうとしていた。 阿紫花英良が、武田観柳が、ジャックの無謀な行為に向けて叫びかける。 「ジャックさん!! 何やってんですかッ!! ダメです!!」 「バ、バカっ!! 私の弾丸はその艤装を徹せるほど貫通力ないんだぞ!!」 「When I was young I was too busy to make any friends(昔、俺は友達を作るには忙しすぎて)。 Such silliness did not seem worth the effort it expends(そんなことはバカバカしいと思ってた)」 ジャックの攻撃は、閉鎖空間に高圧をかけて破壊することによって初めてその威力を発揮する。 管腔の反対側からその高圧の体液を受け流されては、精神的にはともあれ肉体的な殺傷力を持つことができないのだ。 糸に絡められ、高圧の液体を流し込まれてもがきながらも、戦艦ヒ級は、ジャック・ブローニンソンの筋肉に満ちた体躯を食いちぎっていく。 「うおおッ!! ブロニーさぁん!!」 ビルの屋上で、宮本明が突如叫びと共に丸太を抱え上げていた。 操真晴人がその様子に驚いて声を上げる。 「み、宮本さん!? あんたどうするつもりだよそれ!?」 「このままじゃブロニーさんが死んじまう!! 義弟さんがやれねぇなら、俺がやってやるッ!!」 「失敗してここがばれたら、阿紫花さんたちを避難させることもできなくなるんだぞ!?」 「……いや、やってみろ、宮本明」 口論になりかける晴人と明を抑えて、ウェカピポの妹の夫が屋上の端に進み出た。 腕と指を伸ばして、交戦する戦艦ヒ級への正確な距離を測りながら、槍のように尖らせた丸太を構える明の姿勢を修正していく。 「未来予知のできるお前が、自分で『できる』と思ったんだろう? ならばそれをより確実にするために『回転』を使え。 俺の鉄球の回転は何度も喰らっただろう。お前の皮膚は覚えているはずだ。 ライフルの弾丸のように、空気を切り裂いて飛ぶような回転を作れ。自分の足元から、全身の骨肉で回転を生み出して投げるんだ」 義弟は、宮本明の両腕に手を添えてそう語り掛けた。 頷く明の視界には、白い螺旋でできた弾道が、過たず彼方の山へ向けて描き出されている。 その曲射の軌跡に丸太を乗せて飛ばすことが果たしてできるか――。 明の意識は、その問いに対して、『できる』と答えていた。 「ああ――、やれる。やれるよ義弟さん。俺は、自分たちの未来を、この力で招いてみせる!!」 「LESSON3だッ!! 『回転を信じろ』!! お前が今まで積み重ねてきた力を、信じ抜け!!」 固唾を飲む操真晴人の前で、達人たちがその奥儀を解き放とうとしている。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「But my little ponies, you opened up my eyes(でもあのポニーたちや、みんなのおかげで気付いたんだ)!! And now the truth is crystal clear, as splendid summer skies――(その透き通った真実は夏の空のように輝かしいんだと)!!」 「あ、ガ、ひィイイいいいいぃっ――!!」 「ジャックさんッ!!」 総身を血に濡らしながらも、ジャック・ブローニンソンの眼光は衰えなかった。 悶える戦艦ヒ級が、ぶちぶちと阿紫花英良の糸を引き千切ってゆく。 阿紫花と観柳は舌打ちした。 ジャックは完全に特攻して討ち死にするつもりでいる。 しかし、未だ阿紫花たちは戦艦ヒ級の注意から完全に外れているわけではない。加えて、ジャックに追随して決定的なダメージを戦艦ヒ級に与える術もまた、彼らは持ち合わせてはいなかった。 「――観柳の兄さん!! 大砲とか出せねぇんですかいっ!? こんなチャンス逃したら、皆さんに申し訳もたたねぇっ!!」 「無茶言うなアシハナぁ!! 肉体再生中の私が、そんなことしたらッ……!!」 『魔女化一直線だねぇ。良い結末じゃないか!』 「「死ね、クソ淫獣!!」」 阿紫花に蹴飛ばされ、観柳に村田銃で殴りつけられ、それでもキュゥべえは平然と笑っていた。 『――ま、その心配はないみたいだよ、カンリュウ』 「――And it s such a wonderful surprise……(こんな素敵な贈り物はないゼ)」 「……あァ――ッ」 その時、達人の山で、全ての者が空を仰いでいた。 紺碧の透き通った空から、一本の矢のように、ライフル弾のように、勢い良く回転しながら落ちてくる一本の槍。 直径150mm長さ4000mmのその長大な砲弾は、実際の艦船の主砲にも、爆雷にも匹敵していたかもしれない。 「――これが、彼岸島の戦い方だ。ヒグマども!!」 宮本明の投擲した槍のような丸太は、打ち震える戦艦ヒ級の右の肩口から艤装の副砲を貫き、腹部の機関を貫通して、大きな杭としてその体を地面に縫い留めていた。 「ひぃぃぃイイギャあアアアアアアアあああァァぁぁぁあああぁっ!!!???」 「義弟さん――いや、明さんかッ!! やってくれやした!!」 「オラッ、クソ淫獣!! さっさと操真晴人を呼べぇぇぇッ!! 離脱じゃぁあ!!」 『だってさハルト。左半身失調も活きてるんだろう、これ。いい仕事をするじゃないか』 阿紫花英良は、ただちにグリモルディで戦艦ヒ級の左側に回り込んだ。 魔法の糸、ジャック・ブローニンソン、そしてたった今巨大な丸太に貫かれたそのヒグマは、いよいよ口から吹く体液に朱を混じらせて、狂乱に身をよじっている。 阿紫花たちの動きを、そしてジャックの動きを、彼女は認識できていなかった。 『了解した! コネクトウィザードリングを使うぞッ!!』 操真晴人が応じて、グリモルディの横に赤い魔法陣が展開される。 ――よし、戦場から離脱しますぜ……! 阿紫花英良は、そう考えて、未だ戦艦ヒ級に取りついているジャック・ブローニンソンを見やる。 全身をヒグマの牙に食いちぎられ、至る所に骨さえ見え始めている彼はしかし、手を伸ばす阿紫花に、にっこりと微笑みかけるだけだった。 そしてジャックは、左半身を失調している戦艦ヒ級の背中をよじ登り、ずるずると彼女の右半身に向けて這いずって行く。 「な――、にを――」 「サンキューね、エイリョウ。アキラたちにヨロシク。この島でみんなと会えてサイコーだったゼ。 やっぱりオレは、こんな子、放っておけないのさ、ケモナーとして、ブロニー(ポニー好きのブラザー)としてな」 「晴人の兄さん! ダメです!! アタシたちからじゃなくて、ジャックさんを――ッ!!」 阿紫花の叫びを掻き消すように、彼と武田観柳、そしてキュゥべえは、操真晴人の魔法陣に吸い込まれていった。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 『なおけものあり しみじみと蒼黒く ぎちぎちと骨軋ませて わが心に疾り来るけものあり』 彼が思い返す微かな記憶の中では、昔読んだある詩の一篇が思い起こされていた。 李徴がどこまで逃げても、背中から『獣』がぴったりと追いかけてくる。 李徴がどこまで逃げても、闇の中からしきりに自分の声が呼びかけてくる。 意味がない。 意義がない。 存在の確証も目的もない。 身を取り巻くその虚無に抗おうとして、自分の背中から疾り来る獣がいる。 るういい。 いいるう。 そんな声で李徴の獣が哭く。 「キミには何の価値もないのさ。ボクの侵入にも気づけなくて参加者の役には立たないし、ヒグマになり切れないキミをヒグマ帝国が認知してくれるわけもない。 書き手としても参加者としてもジョーカーとしても役立たず。さっさと死ねば良いのに、自分で華々しく散れる機会も逃す。見苦しすぎて笑えてくるよ」 認めて欲しいよう。 見止めて欲しいよう。 そんな声で李徴の人間が哭く。 自分などいなくても一向差支えなかったのではないか。 そんな疑念に食らいつくように、李徴の心臓が足掻く。 「……てめぇッ!! 李徴を狂わせるのが目的かッ!?」 『李徴さん!! お願いします、しっかりして下さい!!』 李徴の心に、あの断念の日が燃える。 脳の中で焼け落ちて、喰い散らかされてゆく自分の文字を追って、李徴は疾っていた。 走って。 奔って。 疾って。 李徴が追いかけて喰らいついたのは、自分の姿だった。 「ああぁあああ……るううううぅぅぅぅぅううう!!!!」 李徴の慟哭は、そのビルのフロア一帯を劈いていた。 その叫び声で、一階のロビーに嵌っていた窓ガラスが悉く砕け散っていた。 李徴の前脚が何かを潰していた。 打ち砕いた手ごたえは、自分の書いた作品の頁に似ていた。 李徴はなおも叫んだ。 自分の背骨の奥に巣食う蒼黒い色をしたなにかを、咽喉から搾り出すように音声へと変換した。 「あひいぃぃぃいいぃいいいぃぃいぃるぅう――!!!!」 李徴の爪の音を(その爪の音こそ李徴の本体なのだ)、李徴は、李徴の真下の大地の中に聞く。 そしてその時には既に李徴は失われているのだ。 李徴の心にいるからとて安心している訳に行かない。 むしろ、李徴は李徴の棲家にいるようなものだ。 李徴は李徴の掌の中から逃れようとして、その場から疾った。 李徴の爪の音は、李徴が走るとその後ろからぴったりとついてくる。 李徴は耐えきれなくなって、疾りながらまた哭いた。 【E-6・街/日中】 【ヒグマになった李徴子@山月記?】 状態 狂乱 装備 なし 道具 なし 基本思考 羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆 0 羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆 1 羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆 2 羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆 3 人間でありたい。 4 自分の流儀とは一体、何なのだ? [備考] ※かつては人間で、今でも僅かな時間だけ人間の心が戻ります ※人間だった頃はロワ書き手で社畜でした ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「……ッくそっ! 遠慮もクソもあったもんじゃねぇぜ、あの気狂いはっ……!」 竜巻に飲まれたかのように荒れ果てたロビーの端の壁で、荒い息と共に男が呟いた。 跳刀地背拳の伝承者フォックスは、灼熱感を帯びた自分の腹部に、ゆっくりと目を落とす。 内臓が抉り出され、彼がもたれる壁面には真っ赤な液体が飛び散っている。 肝臓の切断面からどろどろと流れる血液を見て、彼はぼんやりと思考した。 「……っはあ……なかなか簡単に死なねぇもんだな、人間は……。痛すぎて困るぜ……」 『フォ、フォックスさん……』 フォックスとは反対の端で、一頭のヒグマが唸る。 そのヒグマ隻眼2は、左肩口の肉が鋭い爪でぞっくりと抉られていたが、その毛皮のせいか、命に別状があるほどの損傷は受けていなかった。 フォックスは彼の唸り声を聞いて舌打ちする。 「ったく、唸られただけじゃわっかんねぇよ……。李徴は間違いなく、俺たちに必要な野郎だってのに、こんな機械の口車に乗せられやがって」 フォックスが見やったフロアの床には、一面、滅茶苦茶にひしゃげた電子部品が散乱していた。 ヒグマとしての心に再び『酔って』しまった李徴は、目の前で彼を煽ったロボットを打ち壊し、同時にフォックスと隻眼2を含めて無差別に暴れ、オフィスビルの正面ドアを打ち破って走り去ってしまっていた。 「このロボット野郎……、自分が壊されることは折りこみ済みだったのかよ……。 自爆特攻とか、クソ迷惑にも程があるぜ……!!」 『……目的が、他に、ある……、のか……?』 隻眼2は、どんどん息が細くなっていくフォックスの元へふらふらと近づいてゆく。 フォックスはそんな彼の様子を見ながら、自嘲気味に笑った。 『フォックスさん……! フォックスさん……!!』 「は、はは……シャオジー。お前もヒグマらしくなるのかよ……。 やっぱ俺は、地面を背負わなきゃ、駄目だったな……。クソ、ヒグマ、帝国め……」 その呟きを聞いて、隻眼2はハッとして、ガラスの割れた窓から北の山地を見やった。 ヒグマの近眼には、とてもではないがその方角で起こっている事態の詳細は伺えない。 『こ、これだ……。魔法を使える3人が全員いなくなった隙をついて、確実にフォックスさんを殺す……。 その上、阿紫花さんたちを襲撃したヒグマから、屋上の義弟さんたちの気を逸らさせようとした……。追撃する余裕を無くさせ、判断を混乱させるためだ……! そして、李徴さんを狂わせることで言葉を奪い、死肉をちらつかせて僕の気持ちまで、揺らがせようって……。そういうつもりですかッ!!』 隻眼2は、窺い知れぬ悪寒に震え、自分の頭から血の気が引いていくことを静かに感じていた。 彼の獰猛な唸り声を頭上に聞きながら、フォックスはその言葉の意味するところを知ることなく、その息を引き取った。 【フォックス@北斗の拳 死亡】 【E-6・街(あるオフィスビルのロビー)/日中】 【隻眼2】 状態 左肩に裂創、左前脚に内出血、隻眼 装備 無し 道具 フォックスの持っていたデイパック×2(基本支給品×2、袁さんのノートパソコン、ランダム支給品×0~2(@しんのゆうしゃ) 、ランダム支給品×0~2(@陳郡の袁さん)、ローストビーフのサンドイッチ(残り僅か)、マリナーラピッツァ(Sサイズ)) 基本思考 観察に徹し、生き残る 0 李徴さんとフォックスさんを助けなきゃ……。 1 阿紫花さんたちは!? 屋上の人たちは!? 2 ヒグマ帝国……、一体何を考えているんだ? 3 とりあえず生き残りのための仲間は確保したい。 4 李徴さんたちとの仲間関係の維持のため、文字を学んでみたい。 5 凄い方とアブナイ方が多すぎる。用心しないと。 [備考] ※キュゥべえ、白金の魔法少女(武田観柳)、黒髪の魔法少女(暁美ほむら)、爆弾を投下する女の子(球磨)、李徴、ウェカピポの妹の夫、白黒のロボット(モノクマ)が、用心相手に入っています。 ※袁さんのノートパソコンには、ロワのプロットが30ほど、『地上最強の生物対ハンター』、『手品師の心臓』、『金の指輪』、『Timelineの東』、『鮭狩り』、『クマカン!』、『手品師の心臓』、『Round ZERO』の内容と、 布束砥信の手紙の情報、盗聴の危険性を配慮した文章がテキストファイルで保存されています。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「た、助かりましたぁ――! 宮本さん、義弟さん、操真さん、ありがとうございます!」 「いや、観柳さんたちこそ無事でよかっ――」 「お、おい英良さん!! ブロニーさんはッ!? ブロニーさんはどうした!?」 魔法陣でビルの屋上に転移してきた武田観柳を助け起こそうとする操真晴人の声を喰って、宮本明が叫んでいた。 阿紫花英良は、歯を噛んで彼に言葉を絞る。 「ジャックさんは、あのヒグマを慰めて、死ぬつもりらしいです――」 「なっ――! 今からでも、もう一本! あのヒグマに止めを刺してやる!!」 「阿紫花さん、まだ魔法陣作れますから! 転移させますよ!!」 「ダメなんですよッ!! あの人――アタシの魔力で動いてたんですから!! もう、あのヒグマの背中に大の字で死んでんですよ!!」 「あっ――」 操真晴人は、阿紫花の叫びに絶句した。 同時に、山を見やっていた宮本明もギリギリと歯噛みする。 ジャック・ブローニンソンの体は、戦艦ヒ級の背中の真ん中にうつ伏せとなっていた。 この距離から丸太で貫けるほどの明確なねらい目が存在しない。 同時に、失調している左半身からもはみ出ているため、操真晴人が転移させればそれを戦艦ヒ級に気づかれて、一緒に呼び寄せてしまうことになる。 宮本明は、それならばとただちに階段を降りようとした。 「だったら、杭で動けない今のうちに、一気に全員であのヒグマを殺しに行くぞ!! 一階には李徴さんも小隻さんも待ってる!! それで、ブロニーさんの体を確保するんだ!!」 「ああぁあああ……るううううぅぅぅぅぅううう!!!!」 宮本明がそう叫んで階段に脚を掛けた瞬間、階下からビル全体を震わせるような叫び声が上がっていた。 ビリビリと耳に響くその声に続いて、何かが暴れ回る騒音が一階から続けざまに届く。 「あひいぃぃぃいいぃいいいぃぃいぃるぅう――!!!!」 ウェカピポの妹の夫が即座に反応して屋上を反対側の端まで駆け抜けた。 その眼下で、ビル正面のドアを突き壊して、ヒグマとなった李徴の体が南の街へ躍り出ていく。 「くっ――、『ネアポリス護衛式鉄球』!!」 義弟は即座に李徴に向けて鉄球を投擲した。 精度に乏しい投球を補うように、地面に着弾して散乱した衛星は李徴の背中を追う。 しかしその衛星群は建物に阻まれ、街の路地を滅茶苦茶に走り抜けていく彼に届くことはなかった。 義弟は直ちに屋上に振り向いて、一帯の全員に叫びかける。 「一階でなにか異変があったんだ!! 背にフォックスがいない!! 襲撃を受けたのかも知れんぞ!!」 ざわ、と屋上の空気が緊張に詰まる。 突如突き付けられた予想外の事態に、全員が一瞬硬直したのだった。 『……ヒグマの中にも、なかなか絶望的な状況を作るのが上手い者がいるみたいだね。 でも、その道じゃ紀元前からやってきているボクたちインキュベーターに、ポッと出のヒグマが敵うと思っているのかい?』 そんな中で、キュゥべえだけはいつもと変わらぬ無表情で、朗らかに小首を傾げていた。 【E-6・街(あるオフィスビルの屋上)/日中】 【宮本明@彼岸島】 状態 ハァハァ 装備 なし 道具 基本支給品、ランダム支給品×0~1、先端を尖らせた丸太×1、丸太×8、手斧、チェーンソー、槍鉋 基本思考 西山の仇を取り、主催者を滅ぼして脱出する。ヒグマ全滅は……? 0 ブロニーさんは!? ブロニーさんは!? 1 一階で何が起こったんだ!? 2 西山…… 3 兄貴達の面目にかけて絶対に生き残る ※未来予知の能力が強化されたようです。 ※ネアポリス護衛式鉄球の回転を少しは身に着けたようです。 【阿紫花英良@からくりサーカス】 状態 魔法少女 装備 ソウルジェム(濁り:中濃)、魔法少女衣装 道具 基本支給品、煙草およびライター(支給品ではない)、プルチネルラ@からくりサーカス、グリモルディ@からくりサーカス、余剰の食料(1人分程)、鎖付きベアトラップ×2 基本思考 お代を頂戴したので仕事をする 0 この状況じゃ、ジャックさんは捨てるしかないですね……。 1 なんで李徴さんが狂った!? フォックスさんは!? 2 手に入るもの全てをどうにか利用して生き残る 3 何が起きても驚かない心構えでいるのはかなり厳しそうだけど契約した手前がんばってみる 4 他の参加者を探して協力を取り付ける 5 人形自身をも満足させられるような芸を、してみたいですねぇ……。 6 魔法少女ってつまり、ピンチになった時には切り札っぽく魔女に変身しちまえば良いんですかね? [備考] ※魔法少女になりました。 ※固有魔法は『糸による物体の修復・操作』です。 ※武器である操り糸を生成して、人形や無生物を操作したり、物品・人体などを縫い合わせて修復したりすることができます。 ※死体に魔力を注入して木偶化し、魔法少女の肉体と同様に動かすこともできますが、その分の維持魔力は増えます。 ※ソウルジェムは灰色の歯車型。左手の手袋の甲にあります。 【武田観柳@るろうに剣心】 状態 魔法少女、下半身消失 装備 ソウルジェム(濁り:中)、魔法少女衣装、金の詰まったバッグ@るろうに剣心特筆版 道具 基本支給品、防災救急セットバケツタイプ、鮭のおにぎり、キュゥべえから奪い返したグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、紀元二五四〇年式村田銃・散弾銃加工済み払い下げ品(0/1) 基本思考 『希望』すら稼ぎ出して、必ずや生きて帰る 0 ……この観柳様を嵌めたのか!? ふざけるなよ下手人!! 1 昇降機の場所は解ったんだ……。どうにか体勢を立て直す……! 2 他の参加者をどうにか利用して生き残る 3 元の時代に生きて帰る方法を見つける 4 取り敢えず津波の収まるまでは様子見でしょうか。 5 おにぎりパックや魔法のように、まだまだ持ち帰って売れるものがあるかも……? [備考] ※観柳の参戦時期は言うこと聞いてくれない蒼紫にキレてる辺りです。 ※観柳は、原作漫画、アニメ、特筆版、映画と、金のことばかり考えて世界線を4つ経験しているため、因果・魔力が比較的高いようです。 ※魔法少女になりました。 ※固有魔法は『金の引力の操作』です。 ※武器である貨幣を生成して、それらに物理的な引力を働かせたり、溶融して回転式機関砲を形成したりすることができます。 ※貨幣の価値が大きいほどその力は強まりますが、『金を稼ぐのは商人である自身の手腕』であると自負しているため、今いる時間軸で一般的に流通している貨幣は生成できません(明治に帰ると一円金貨などは作れなくなる)。 ※観柳は生成した貨幣を使用後に全て回収・再利用するため、魔力効率はかなり良いようです。 ※ソウルジェムは金色のコイン型。スカーフ止めのブローチとなっていますが、表面に一円金貨を重ねて、破壊されないよう防護しています。 ※グリーフシードが何の魔女のものなのかは、後続の方にお任せします。 【操真晴人@仮面ライダーウィザード(支給品)】 状態 健康 装備 普段着、コネクトウィザードリング、ウィザードライバー 道具 ウィザーソードガン、マシンウィンガー 基本思考 サバトのような悲劇を起こしたくはない 0 しまった……! 一体何が起きてるんだ……!? 1 今できることで、とりあえず身の回りの人の希望と……なれるのかこれは? 2 キュゥべえちゃんは、とりあえず目障り。 3 観柳さんは、希望を稼ぐというけれど、それに助力できるのなら、してみよう。 4 宮本さんの態度は、もうちょっとどうにかならないのか? [備考] ※宮本明の支給品です。 【キュウべぇ@全開ロワ】 状態 尻が熱的死(行動に支障は無い)、ボロ雑巾(行動に支障は無い) 装備 観柳に埋め込まれた一円金貨 道具 なし 基本思考 会場の魔法少女には生き残るか魔女になってもらう。 0 面白いヒグマがいるみたいだね。だけど、魔法少女を増やす前に絶望を振りまかせる訳にはいかないよ? もったいないじゃないか。 1 人間はヒグマの餌になってくれてもいいけど、魔法少女に死んでもらうと困るな。もったいないじゃないか。 2 道すがらで、魔法少女を増やしていこう。 [備考] ※範馬勇次郎に勝利したハンターの支給品でした。 ※テレパシーで、周辺の者の表層思考を読んでいます。そのため、オープニング時からかなりの参加者の名前や情報を収集し、今現在もそれは続いています。 【ウェカピポの妹の夫@スティール・ボール・ラン(ジョジョの奇妙な冒険)】 状態 疲労(中) 装備 『壊れゆく鉄球』×2@SBR、王族護衛官の剣@SBR 道具 基本支給品、食うに堪えなかった血と臓物味のクッキー、研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×3本、マリナーラピッツァ(Sサイズ)×8枚 基本思考 流儀に則って主催者を殴りながら殺りまくって帰る 0 敵は誰だ……!? 1 ジャック・ブローニンソンは、死なせてやるしかあるまい……。あの戦艦ヒグマに真っ向から挑むのは危険すぎる。 2 フォックスはどうした……!?。 3 李徴はヒグマなのか人間なのか小説家なのか、どうケジメをつけるつもりだ……! 4 シャオジーは無理して人間の流儀を学ぶ必要はないし、ヒグマでいてくれた方が有り難いんだが……。どうなっている!? 5 『脳を操作する能力』のヒグマは、当座のところ最大の障害になりそうだな……。 6 『自然』の流儀を学ぶように心がけていこう。 ◬◬◬◬◬◬◬◬◬◬ 「――キミを、こんな体にしてしまったヤツは、キミを孤独にさせてしまった、悪いヤツだ……」 私の耳元で、男のヒトがそう囁いていた。 私のお腹に温かな飲み物を注いでくれたヒトは、そう言って笑っていた。 「でも、キミを好きになってくれる友達は、絶対にいる……」 私の体を抱きしめて、そのヒトはゆっくりと動かなくなっていった。 「オレがまずキミの、大きいお友達に、なってあげるから、さ……」 白い飲み物のおかげでお腹はいっぱいだったけれど、私の体についた沢山の口が、動かなくなったその男の人の体を、また少しずつ食べ始めた。 そう言われれば、私の体には、前はこんなに沢山の口はついていなかった気がする。 突き刺さった長い徹甲弾から私の体をゆっくり引き千切ると、その男のヒトの肉のおかげで、私の体はまたもとに戻り始めた。 始めはよくわからない敵かと思ったけれど、私に沢山糧食をくれたので、本当はとても良いヒトだったのだろう。 「……敵影消失。艦載機ノ再生産ヲしなくテハ……」 私を襲っていた奇妙な格好の敵艦は、いつの間にかいなくなっていた。 転進したのだろう。 それでは彼らが提督を襲いに行く前に、先に提督を見つけて守らなくては。 「……提督。アナタハ、悪いヤツなんカジャ、ありマセんよネ……?」 一緒に居た僚艦も、提督も、私の大切な仲間だったはずだ。 でも、それならなんで、提督も彼女たちも、私が生まれた時に居なかったのだろう? なんで提督は、私を今までとは違う姿に作ってしまったのだろう? 私は、孤独なんかジャ……、ナイはズでスよね? 私は、提督ノ傍に、居るベキ秘書艦ナンでスよね? もシカシたラ、この良いヒトの言ったコトが正しケレバ、悪いヤツが提督ヲ操っテいるのかもシレナい。 ミンナも、悪いヤツに操られテイルのかも知れナイ。 るういい。 いいるう。 そンナ声で私ノ艤装が哭ク。 提督が愛しいよう。 提督が欲しいよう。 ソんな声デ私はひしりあげる。 「……ダッタら、大和ガその乗っ取ラレた艦橋を直シテあげなけレバいけまセンね! 壊シテ、新しイノヲくっつけテアゲましょう……! 待ってテクダさイネ!!」 だって、ミンナ、大和トは友達デショう? ――愛のような日が、怪力で来る。 【ジャック・ブローニンソン@妄想オリロワ2 死亡】 【E-5 山の斜面の西部/日中】 【戦艦ヒ級flagship@深海棲艦】 状態 精神錯乱、中破(修復中)、副砲修復中、丸太と糸から離脱中、体液塗れ 装備 主砲ヒグマ(24inch連装砲、波動砲)×1 副砲ヒグマ(16inch連装砲、3/4inch機関砲、22inch魚雷後期型)×4 偵察機、観測機、艦戦、艦爆、艦攻、爆雷投射機、水中探信儀、培養試験管 道具 ジャック・ブローニンソンの食いかけの死体 [思考・状況] 基本思考 ヒグマ提督を捜し出し、安全を確保する 0 偵察機を放って島内を観測する 1 ヒグマ提督の敵を殲滅する 2 ヒグマ提督が悪いヤツに頭を乗っ取られているなら、それを奪還してみせる。 3 この男のヒトは、イイヒトだった。大和の友達です。 [備考] ※資材不足で造りかけのまま放置されていた大和の肉体をベースに造られました ※ヒグマ提督の味方をするつもりですが他の艦むすとコミュニケーションを取れるかどうかは不明です ※地上へ進出しました ※阿紫花英良と武田観柳、キュゥべえは、地下への昇降機の存在位置を確認しています。
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スレ24-980/999 980 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 11 03 27 0 旦那は3兄弟。近々三男が結婚する。 次男夫婦は結婚式しなかったから、旦那兄弟の式に出るのは初めて。 作ったけど一度も着る機会のなかった、江戸褄を着ようと楽しみにしていた。 そこへ次男嫁さんから電話。 「姑さんから、○さん(私)が着物着てくるって聞いたんですけど、 それやめて、ワンピか何かにしてくれません?私着物ないし。」 なかったら洋装でもいいんじゃない?でも私も準備しちゃってるし…と言うも 「前イトコさんの結婚式のときも、○さんピンク着てきたでしょ~? 私黒だったから旦那(義弟)にも、○さん見習って華やかにしろとか言われて、 ちょっと今回は事前に足並み揃えとこうかと思って~。」 ちょっと考えさせてと言って電話を切ったけど、どうすべきか悩む。 981 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 11 12 18 0 980 親族の既婚女性だから江戸褄でOK。 旦那→弟経由でもいいから留袖レンタルした方が良いって言ったら? 兄弟の結婚式にワンピはない。 んで、 970がいないようなので、スレ立て頑張ってみる。 カキコちょっと控えてください。 982 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 11 15 33 0 980 次スレよろしく。 黒留袖は既婚婦人の第一級礼装なんだから、着ていって良いと思うがな~ 弟妹の結婚式なら特に。新婦側とも合わせる必要があるしね。 次男嫁には「レンタルでもしたら?」と言っておけ。 984 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 11 25 19 0 980 トメに「親族だから黒留袖レンタル」を義弟嫁に教えるよう、旦那経由で 言ったらどうだろう? それか「え?義弟嫁さん親族なのにワンピですか~?(pgr」するかw 988 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 11 34 45 0 983乙です。 980ですが 「兄弟の結婚式なんだから、嫁は着物着るべきよ」 「足並み揃えるんなら、そちらがあわせてくれる?」 なんかどっちも意地悪兄嫁みたいで~~~w 私は弟嫁さんの服装なんて心底どうでもいいし、婚家もうるさくない。 好きにしてくれたらいいのに。 後出しだが、弟の嫁だけど私より年上なのも、いまいち言いにくい要因。 990 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 11 37 09 0 間違えた 弟嫁× 義弟嫁○ 991 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 11 41 16 0 意地悪にならない方法かぁ 義弟の発言が元になってるみたいだから ご主人から義弟さんに「嫁は好きな服きていけばいいんだよ」って言ってもらうとか 993 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 11 43 18 0 つか、義弟が着物用意してやればいいじゃん。 お前も華やかに~なんて言うならさ。 999 :名無しさん@HOME[sage]:2009/10/05(月) 13 09 05 0 私の義弟嫁は義妹の結婚式の時電話してきて私が和服だと言ったら、 「じゃあこっちにも着物一式貸して下さい」と言った。 断わったら不公平だの持ってるのにケチだのワケワカラン絡み方されて疲れた。 横にいた夫が電話かわって「和服がいいなら義弟に買って貰いなさい」と断わったのを根に持ってて 義弟に「お義兄さんがあなたのことを稼ぎが少ない甲斐性なしっていった」と泣いて訴えたらしいよ。 義弟がその場でうちに「嫁がこんなん言って泣いてるるんだけど何事?喧嘩したの?」と暢気な電話寄越したので即バレでお粗末だったw ↓ここから「嫁同士スレ25」↓ 7 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 14 45 33 0 前スレの999 義弟嫁が乞食だけど人の家の経済に口出す旦那も電話を替わる嫁も気持ち悪い夫婦… 編集注:レス999のコピペがありましたが、カット 9 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 14 55 18 0 7 自己紹介乙! 11 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 16 00 47 0 7 ていうか、着物一式貸せって言っても、黒留め袖なんか 普通一揃いしか持ってないもんじゃないか? 本当にワケのわかってない義弟嫁だな、とオモタ。 12 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 16 20 39 0 襦袢とかも貸せとかいうんだろうしね。 10 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 15 28 38 0 電話かわるのは普通でしょ。 だって嫁同士なんて本当に他人中の他人。 本来旦那同士、兄弟同士で話つければいい。 そんな私は前スレで「足並み揃えよう」と言われたと書いた者。 やっぱり旦那に言って、弟に話してもらうことにする。 レスくれた人ありがとう。 13 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 16 23 18 0 子ども作りも、足並み揃えないとって言うようになりそうだね。 うちは2人なんだから、あなたも2人までにして頂戴って。 そういううちは、足並みなんて揃えず、3人産んだら嫌われた。 嫌われて結構よ。 14 :名無しさん@HOME:2009/10/05(月) 16 27 11 0 嫁同士とは言え、他人の家庭まで自分の考え押し付ける人ってなんなの? 足並みそろえてとかって良い風に言ってるけど、結局は自分より良くすんな!ってことでしょ? Next→スレ25
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「汝、何をか好む?」 と孔子が聞く。 「我、長剣を好む」 と青年は昂然として言い放つ。 孔子は思わずニコリとした。 青年の声や態度の中に、余りに稚気満々たる誇負を見たからである。 血色のいい・眉の太い・眼のはっきりした・見るからに精悍そうな青年の顔には、しかし、どこか、愛すべき素直さがおのずと現れているように思われる。 再び孔子が聞く。 「学はすなわちいかん?」 「学、豈(あに)、益あらんや」 もともとこれを言うのが目的なのだから、子路は勢込んで怒鳴ように答える。 学の権威について云々されては微笑(わら)ってばかりもいられない。 孔子は諄々として学の必要を説き始める。 「人君にして諫臣が無ければ正を失い、士にして教友が無ければ聴を失う。 樹も縄を受けて始めて直くなるのではないか。馬に策(むち)が、弓に檠(けい)が必要なように、人にも、その放恣(ほうし)な性情を矯める教学が、どうして必要でなかろうぞ。 匡(ただ)し理(おさ)め磨いて、始めてものは有用の材となるのだ」 後世に残された語録の字面などからは到底想像も出来ぬ・極めて説得的な弁舌を孔子は有っていた。 言葉の内容ばかりでなく、その穏やかな音声・抑揚の中にも、それを語る時の極めて確信に充ちた態度の中にも、どうしても聴者を説得せずにはおかないものがある。青年の態度からは次第に反抗の色が消えて、ようやく謹聴の様子に変って来る。 「しかし」 と、それでも子路はなお逆襲する気力を失わない。 「南山の竹は揉(た)めずして自ら直く、斬ってこれを用うれば犀革の厚きをも通すと聞いている。して見れば、天性優れたる者にとって、何の学ぶ必要があろうか?」 孔子にとって、こんな幼稚な譬喩(ひゆ)を打破るほどたやすい事はない。 「汝の云うその南山の竹に矢の羽をつけ鏃を付けてこれを礪(み)がいたならば、ただに犀革を通すのみではあるまいに」 と孔子に言われた時、愛すべき単純な若者は返す言葉に窮した。 (中島敦『弟子』より) △△△△△△△△△△ 「……一つ確かめるぞ。武器は、剣なのか?」 「あんたはその鉄球でもなんでも使って構わないさ。俺だって、使えるもんは全部使う」 ただ周囲に海の渦巻きだけを響かせる丘の上で、静かに一度、そんなやりとりが交わされた。 問いかけたのは、長剣と二つの鉄球を身に携え、仕立てのいいスーツに身を包んだ青年。 答えたのは、純金の長刀を抜き放ち、今まさにその切っ先を青眼に据えた青年である。 ウェカピポの妹の夫、そして、宮本明と呼ばれる者たちだ。 その周囲を、固唾を呑んで取り囲む影は総勢8名。 海水に近い宮本明の側に、武田観柳、阿紫花英良、ジャック・ブローニンソン、操真晴人。 町並みを背に透かす義弟の側に、隻眼2、李徴、フォックス、キュゥべえ。 8名の内3名は人外であり、そのうち2名はヒグマである。 彼らに脇を固められ、李徴という名のヒグマに跨る拳法家フォックスはひたすらに落ち着かない。 また残りの5名の内3名は魔法使いであり、そのうち2名は魔法少女という分類の男である。 彼らを横目で見る純然たる魔法使いの操真晴人は、彼らのコスプレじみた様相に今更ながらに疑問を抱きつつも、全裸であるジャックの様相には及ばないことを再確認して、改めてこの場の異様な光景に思い至る。 「本当にこの場で決闘をおっぱじめる気なのか……」 インキュベーターと呼ばれる魔法の営業マンであるキュゥべえをほぼ真正面に見て、義弟と宮本明の中間位置に陣取った操真晴人は、両方の対戦者を交互に見て、口の中にそう呟いていた。 どうにか穏便にすませられないかと、晴人は思案を巡らせる。 先程のウェカピポの妹の夫の問いは、確かに公平で正当な決闘を行なうためには不可欠なものだ。 決闘とは、必ず対等な条件で行なわれなければならない。 通常の場合、その条件は武器。 宮本明が無言のままに抜いた刀は、武田観柳の魔法で作られた異様な長さの日本刀だ。 ウェカピポの妹の夫は、晴人が軽く話を聞いたところでは、ネアポリス王国の王族護衛官をしているそうである。その護衛官の戦闘法は、牽制に彼が投げた奇妙な形の鉄球を使うらしい。 武器があまりに異なっており、その確認は当然といえた。 「『使えるものは全部使う』……? それは、オレが『ネアポリス王族護衛術』の全てを用いて挑んで構わないということか」 「何度も言わせるな。そうだ……。お互いの全力だよ」 「……よし、受けよう。ならば他流の果し合いとも言えるな、これは」 義弟は宮本明の発言を受けて、あろうことか、肩にかけていたデイパックを後ろに放り投げていた。 李徴の背でそれを、フォックスが慌ててキャッチする。 動くには邪魔だというのだろうか。 しかし、操真晴人の目には、それは余りにも危険な賭けのように映った。 魔法の力を知る彼には、武田観柳が魔法で精錬した金の刀の威力を、ありありと想像することができる。 宮本明が構えるその刀は、目算でも全長150cm以上。人一人分の身長に匹敵するほどの長さがある。 それが、丸太を軽々と振り回す宮本明の手で操られるのだ。 まともに受ければ人間の体など紙細工のように切り裂かれるに違いない。 折角『使えるものは全部使う』という条件になったのなら、防御のよすがとなりうる物品をむざむざ捨ててしまうのは不適当に思われた。 そんな不安を抱きながら、晴人は日本刀を作り出した張本人である武田観柳の方を見やる。 決闘をふっかけた宮本明を力ずくででも止めるなら、観柳の行動は不可欠だろう。 白と金色をベースにした英国風の魔法少女衣装を身に纏う観柳はしかし、目を糸のように細めて微笑んでいた。 黒ずくめに赤をあしらった衣装の阿紫花英良が、観柳にテレパシーで問いかける。 『……観柳の兄さん、いいんですかい、むざむざ戦わせちまって』 『……まぁ、しょうがないでしょう。彼らの思考は意味不明ですが、逆にいい機会だと考えることもできます』 『何がいい機会なんだ、観柳さん』 『折角だからボクもその理由を聞いておこうかな』 『ちょっと教えてくれ、まともじゃねぇよこいつら。意味がわからん』 観柳が表情を崩さぬまま返した答えに、晴人、キュゥべえ、フォックスが次々と割り込んできた。 『なに、宮本さんの資産価値を、彼が算定して下さるというのですから、是非もない。 ……阿紫花さん、彼、義弟さんの実力を、いかが見ますか?』 『あー……、なるほど。いや、あの人もかなり修羅場くぐってそうですよ。アタシとは真逆の舞台ででしょうけどねぇ』 武田観柳は、宮本明の実力をここで知っておこうと言っているのだ。 森の中で出会って以降、彼はその類稀なる膂力で人々を驚かせていたが、どうにもその力は様々な場面で空回りする場合が多く、肝心のところでいまいち役に立っていない。 そのため、純然たる試合・決闘の中で、今後期待しうる戦力が如何ほどか、実力者同士で引き出し合い、見せ付け合って貰えるのならばそれに越したことはない。 阿紫花は得心したように頷くが、ただちにもう一言テレパシーに添えて返す。 『ですが……、これは決闘ですぜ? 死人が出かねねぇですよ』 『ええ、承知の上です。決着がついたら彼らが死ぬ前に即座に治療をしましょう。準備はいいですね皆さん』 『そんなこと言われても俺には何もできねえぞ……?』 『ボクとしては死に瀕して契約者が増えてくれると助かるんだけど……』 『あんたは黙ってろキュゥべえさん』 困惑するフォックスをよそに晴人がキュゥべえのテレパシーを喰って釘を刺した時、ウェカピポの妹の夫は改めて名乗りを上げながら、腰に吊った剣の柄に手をかけていた。 「『ネアポリス王族護衛術』を修めた王族護衛官、ウェカピポの妹の夫だ。お前の流派はなんと言う?」 明は一瞬、口を噤んだ。 宮本明が習得している技能は、兄・宮本篤と、師・青山龍ノ介との8ヶ月間の修行で身につけた、対吸血鬼のための荒削りなものである。しかしそれは、明の持つ潜在能力・集中力を驚異的なまでに引き出すものだった。 「……名前なんて大層なものは、ねぇッ!!」 明は、裂帛の気合を放つとともに、腰に手をやる義弟に向けて、瞬きの間に走りこんでいた。 決闘に開始の合図はいらない。 両者ともに柄に手をかけたのなら、それで最早戦闘は始まっている。 明の大上段からの斬り降ろしは、誰の目にも見えぬほどの高速であった。 あたかも明の腕が金光を放ちながら空間を断ち割ったようにしか、周囲の人間には捉えられなかった。 『アキラ、アブナイ!!』 ただ一人、今まで宮本明を心配そうに見つめていたジャック・ブローニンソンのみが、その動きを捕捉する。 李徴、そして隻眼2も、声を出さぬままに瞠目した。 ウェカピポの妹の夫は、その切り降ろしを、左に踏み込んで躱していた。 左腕を前に垂らし、屈みこむように上半身を撓ませた義弟の右手は、剣の柄ではなく、その腰の鉄球に掛かっている。 ――なんだと!? 明の背筋を悪寒が走り抜けた。 彼岸島の並みの吸血鬼相手ならば、今の速度の斬撃を避けられることなどなく、まして、即座に攻撃に転じられる体勢を取られることなどは絶対になかった。 ――切り上げる。このまま返す太刀で奴の胴を切り裂く!! 地面に切り込んだ金の刀を、明は咄嗟に引き抜きつつ、逆袈裟に振り上げようとする。 しかし宮本明がその挙動をまさに実行に移した時、彼の視界には、義弟の足元から螺旋状に立ち昇る、白い気流のようなものが映っていた。 宮本明の、物語を作る才能が昇華された予知能力。 それが彼自身に、義弟の行動の危険性を視覚的に認識させていた。 右足を軸に立ち昇る螺旋は、腰、肩、右腕と、その回転速度と密度を増しながら移動していく。 左半身をフリップのように後方へ捻り出しながら、義弟は右腕を鞭のように撓らせ、その勢いを指先のスナップ一点に収束させる。 密着状態から一気に5歩分程の距離を跳び退りつつ、ウェカピポの妹の夫は高速回転する鉄球を宮本明に叩きつけていた。 「くあっ!!」 初動の瞬間に鉄球とぶつかり合った刀は、その鉄球を切り裂くことなく、甲高い金属音を立てて押しあう。 両肩が軋むようなその衝撃を、宮本明は歯を噛んで耐える。 僅かな一瞬のせめぎ合いが、数十秒にも数分にも感じられた。 そして遂に、彼は高速回転を続ける重い鉄球を、横へと弾き返す。 だがその詰まったスイングのさなかで、彼の予知能力は再びその視界に白々と死の軌跡を描き出していた。 空へ弾き飛ばした鉄球。 その鉄球に嵌め込まれた14個の小球体が、流星のように身を襲うだろう――、と。 △△△△△△△△△△ 『背後に気を遣うのは、俺の拳法と同じか……』 フォックスは李徴の背中で、ウェカピポの妹の夫が行なった高速の回避動作について思案を巡らせた。 大地という強固なガードを背負い、前方の敵に集中するのが、フォックスの修めた跳刀地背拳である。 フォックスには、宮本明の斬撃や義弟が身を躱したその瞬間こそ見えなかったが、義弟がその斬り込みを躱し得た術理については推測できた。 出会ってから今まで、そして先程の決闘の瞬間も、ウェカピポの妹の夫は誰にも自身の背後に隙を晒さなかった。 隣や背後、自分の周囲に、常に人一人分の空間を保つように彼は振舞っている。 跳刀地背拳と同様、『ネアポリス王族護衛術』という流派の名は、比較的その内容がわかりやすい部類に入るだろう。 ――奴の流派は、その背中に他人を護衛するためのもの。だから常に、その人物とともに逃げられるスペースを意識しておくんだな。 襲撃者からは遠く、自分からは近いその位置取りを確保するための歩法は、日本では体捌き、中国では三才歩などという名称で伝わっている。 日常生活にまでその動きを染み込ませることにより、実戦でも、余裕や優雅ささえも感じられる挙動で回避動作を行なうことができるのだろう。 そして続け様に、高速回転する鉄球を刃の根元で受けてしまった宮本明に対して、武田観柳が軽い苦笑を零していた。 『あらら……やっちゃいましたね』 『どういう意味ですかい、観柳の兄さん』 『あの刀、“ヤキ”で造っちゃったんですよ。もう少し調整すべきだとは思いましたが、早速懸念していたことを……』 『……ああ。24金と鋼鉄じゃあ分が悪ぃや』 宮本明の持つ大太刀は、武田観柳が純度の高い金を用いて錬成したものである。 詳細な宮本明の要望から、外見自体は非常に立派な日本刀に仕上がっているが、如何せん観柳に刀鍛冶の知識があるわけではない。 扱いに慣れている上に、常に接触して魔力を流せる自分の回転式機関砲とは違い、刃付け、焼入れなどによる金属粒子の独特な構造までは再現率に乏しいであろう――と、彼自身そう考えていた。 金は展性・延性に富み、加工品の製造には向いた金属であるものの、その硬度は非常に低い。 それは古来より、金でできた武器が普及せず、装飾品に留まってしまっていた一因でもある。 業界用語で『ヤキ』と呼ばれる純金のビッカース硬度は150。18金程度まで他の金属を混ぜても、その硬度は大して上がらない。 それに対して、鍛えられた鋼鉄素材の硬度は軽く500~600を超える。 せめて14金。貴金属合金の中では最高硬度になりうるあたりまで、宮本明の試し切りの結果次第では調整しようかと観柳は考えていたのだが、その計画は度重なる明自身の突発的な行動でおしゃかになっている。 観柳が刀に込めた魔力は現在、その軟らかさで刀身がへたらないように復元する、形状記憶性で手一杯になっていた。 同じく魔力で形成された阿紫花英良の糸なら切断できるだろうが、純粋に物理的な硬度勝負になった時は、良くて引き分け、魔力による復元が追いつかなければ最悪へし折れる。 ただこの点は、刀に含まれる金成分が減れば減るほど観柳の魔力も落ちてしまうため、一概にどちらが良いとも言えない。 その調整はひとえに、宮本明との親和性次第であった。 ――ですが宮本さん専用に調整して差し上げても、彼、物持ち悪そうですからねぇ……。 宮本明は鞘走りの確認だけで終始してしまっていたが、それはつまり、彼の武器への関心がその程度であるということを示している。 武田観柳ならば、商品の刀は刀身だけでなく鞘、柄、鍔の拵えを確かめるのはもとより、刃紋の浮きや反りの角度まで検証しておく。 そしていよいよの業物ともなれば、専用に砥ぎ師を雇って据物斬りに挑んでみるのが常だった。 武田観柳は刀を造った本人として、その性能と価値を把握されず扱われることに、なんとも遣る瀬無い心持ちになった。 ――明さんは、武器を選り好みできる環境にいなかったんでしょうがねぇ……。 阿紫花英良は、武田観柳と同じ光景を見て、そのような感想を抱いていた。 初対面の時に棍棒を丸太と言っていたり、その後も狂ったように丸太を求めていた彼の言動から、阿紫花は漠然と、彼の過ごしてきた戦いの日々を推察していた。 恐らく、特定の得物に拘らず、武器を使い潰しては捨て、新しい武器を探しては拾う、そんな連戦の地獄だったのだろう。 主要な武器として丸太を第一に持ってこようとする思考は、その名残に違いない(丸太だって、そうあちこちに散乱している物品ではないだろうが)。 だがその割には、明は使う武器に過度の信頼を置いているように阿紫花には見える。 阿紫花が自分の人形に抱く信頼は、手ずから日々調整を行なっているが故のものであり、手に馴染まない新品の武器は、よくよく試用と調整を重ねた後でなければ、実戦では怖くてとても使えない。 鋼鉄より遥かに軟らかい金の刀を折れずに保たせている観柳の魔法は確かにすさまじいが、あれほどまでに荒い使い方をしていいものではないだろう。 阿紫花が見るに、あの純金の大太刀ならば、重量を活かして、遠心力で最も速度のつく先端を当てることが、最大の攻撃手段たりうる。 速度の出ない根元では、斬れない。 さらに地面に切り込んだ直後の返す太刀ならば、その切れ味は恐ろしく落ちている。 『鉛刀の一割』という言葉があるように、鋼鉄以外の刀ならばなおさら、まともに斬れて一回だ。 観柳の『金の引力』により刀身の切れ味が完全に回復するには、阿紫花がソウルジェムで感知する限り2~3秒の間隙が必要なようだった。 宮本明は、その性質を把握する必要があるだろう。 力任せに揮って、いつでも応えてくれる武器ばかりだとは、限らない。 『明さんは気づきますかねぇ?』 『気づいて欲しいところです』 『……刀より先に気づかなきゃならねぇこともあるがな』 阿紫花英良と武田観柳の一瞬のやりとりに、フォックスがテレパシーを加えた。 直後に宮本明の身に何が起こるか、フォックスは知っている。 義弟と行動をともにしていた彼や李徴は、隻眼2から『その現象』を伝え聞いている。 李徴と隻眼2の、息を呑む音が聞こえた。 義弟が打ち込んだ『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』の、奥義が開帳される瞬間であった。 △△△△△△△△△△ ……どこまでもこの人は、正々堂々さを求めるんだな、と、僕は思いました。 「――ネアポリス護衛式鉄球、『衛星』」 ウェカピポの妹の夫さんは、そのように自身の技術の名を呟いていました。 誰に聞かせるわけでもなく。 飛び退った後に即座に剣を抜き放ちながら、それでも彼は、対戦相手や周囲に未知の技術を、教えてくれていたのでしょう。 宮本明さんという方が、辛くも受け止めたその鉄球は、僕が以前受けたのと同じものです。 そこから飛び出す小鉄球は最大14個。 質量が減った分、その小鉄球一つ一つに伝達される速度と回転は、本体の鉄球を上回ります。 ヒグマを狙うのにも使われる、人間の用いるショットガンのようなものと考えることができるでしょう。 弾体の威力・速度は、一つ一つが銃弾に匹敵するはずです。 生身の人間が受ければ、即死もありうると思いました。 ほぼ密着状態で『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』を受け止めてしまった宮本明さんに、その小鉄球群を回避する術はない――。 僕は確かに、その瞬間までそう考えていました。 「フッ、シィッ――!!」 宮本さんの歯の隙間から、風を切るように息が吹き出されたのを、僕は聞きました。 ホウセンカの種や、砕け散る彗星のように、14個の小鉄球が炸裂し、その全てが宮本明さんの体の各所へ襲い掛かります。 ですがその時、宮本さんの上半身は、信じられないほどの高速性と精密性を持った動きで鉄球群の中を左右に振盪しました。 残像を伴う程の機敏さ。 ほぼ同時に着弾するであろう『衛星』の隙間へ、まるで初めから予測できていたかのように潜り込み、迷路の中から一瞬で最適経路を選択するかのように、彼はその全てを躱していたのでした。 △△△△△△△△△△ フィクションの中で、人間が銃弾や弓矢を自在に躱す――という描写はよく見られる。 パロロワでも、そんなことは日常茶飯事だ。 だがこれを一般の人間が行なうことに対しては、写実主義を重んじる書き手たちから往々にして大ブーイングが飛んでくる。 大半の読者、特に実銃や弓を撃ったことのある人は、この表現にリアリティを感じないだろう。 似たようなことが原因で批判に合い、残念ながら破棄になってしまったSSもいくつか見知っている。 だが実例がある。 この隴西の李徴は、かつて渉猟した実在人物の伝記において、その現象を目の当たりにした。 合気道の創始者・植芝盛平翁は、1924年、関東軍特務機関の斡旋により満州からモンゴルに渡っていた。 その際、彼は満州の支配者・張作霖の策謀により、幾度も銃撃戦の死の淵に立たされている。 だが彼は、その身に向かって放たれる小銃の弾丸を悉く躱し、その時の体験をこのように語っていた。 「弾丸よりも一瞬早く 白い光のツブテがぱッと飛んでくる それをぱッと身をかわすと あとから弾丸がすり抜けてゆく」 (『植芝盛平伝』より) 彼は帰国後に、その体験を証明するべく、モーゼル銃を発砲させて、二度同様の実験を行なっていたが、その際も彼は銃弾の全てを自在に避けたのだという。 宮本明なる青年の洞察力は、弱冠にしてその名人の域に達しているのだと言えよう。 ……まぁでもこの場合、彼の行動は全く以て、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きなのだが。 △△△△△△△△△△ 自分の視界の左半分が欠落していることに宮本明が気づいたのは、その回避行動を完了して、今一度ウェカピポの妹の夫を捕捉しようと身構えた時であった。 「え……?」 視界だけではない。 音も、匂いも、手足の感覚も、自分の左側にあるものは何一つ認識できなくなっている。 自分が持っているはずの金の日本刀も、左腕がどの位置を握っているのか解らない。 左脚がどこにあるのか、本当に地面についているのかさえも解らない。 「ちょっ……、なんだよ、どういうことだよこれ……ッ!?」 周りを取り囲んでいるはずの立会人たちも、向かって右側にいる者だけしか見えない。 街並みも、脇で渦巻く潮騒も、宮本明の感覚に残っているのは、自分の右側のものだけであった。 「どこだよッ!? あの男は、どこにいるんだよッ!!」 「……ネアポリス護衛式鉄球、『左半身失調』」 狼狽えながら辺りを見回す宮本明の左脇にぴったりと密着して、ウェカピポの妹の夫は彼の耳に向けてそう呟いていた。 それほど近くからの囁きも明には聞こえていないようで、彼は恐怖に引き攣った顔で必死に義弟の姿を見つけようと眼を動かしている。 周囲にいた立会人、特に、今まで義弟と行動を共にしていなかった操真晴人、武田観柳、阿紫花英良、キュゥべえ、ジャック・ブローニンソンの驚愕は凄まじかった。 傍から見てこれほどまでに異様な光景があるだろうか。 ウェカピポの妹の夫は、宮本明が『衛星』という小鉄球の回避に専念している間、静かに彼の左側から歩み寄り、抜身の剣を持ったままその位置取りに入り込んでいたのだった。 既にその鉄球は14個の『衛星』と共に彼の手元に戻り、ホルスターに回収されている。 「……魔法を上回る技術も、あるのか……」 操真晴人が驚きと感嘆を交えて漏らしたその吐息を、宮本明は耳に捉える。 彼が見据える視線の先を追い、宮本明は、消失した左側の世界の延長線上に、ウェカピポの妹の夫が潜んでいるに違いないと結論付けた。 「この辺かああッ!!!」 「その通りだが遅すぎるな」 宮本明の刀がめくら撃ちに左側へ流れる遥か前に、ウェカピポの妹の夫は、宮本明の左脇の下を深々と剣で切り裂いていた。 バランスを崩して地面に横倒しになった明は、最初、自分の身に何が起こったかを理解できていなかった。 しかし数秒後、切り裂かれた傷口の痛みと、目の前に立つ義弟の姿が、彼の感覚に戻ってくる。 ウェカピポの妹の夫は、剣についた血液を丁寧に露払いしながら、眼下の宮本明に言葉を投げかけていた。 「腋窩の動脈を切った。このままでは失血死するから、早く手当てをしてもらえ。 おい、立会人、決着はついた。奴の処置を頼むぞ」 「はいはい。予想外に面白いものを拝見できましたよ」 「……ふざけんじゃねぇ。決闘はまだ、終わっちゃいねぇだろう……!!」 どくどくと流れ落ちる自分の血を、強引に脇を締めて筋力で止め、宮本明は右腕だけで刀を構えて立ち上がっていた。 左側が血染めで真っ赤になった着衣を気にもかけず、手当てに寄って来た武田観柳の制止も聞かず、彼は再び、ウェカピポの妹の夫に向けて走る。 既に剣を仕舞い、踵を返して自分の陣へ帰ろうとしていた義弟の背中は、隙だらけに見えた。 その義弟の左手が、腰元のホルスターで鉄球を回していることに気付いたのは、食い入るように成り行きを見つめ続けていた、隻眼2だけであった。 △△△△△△△△△△ 二人の持つ、技術という手札は、次々とめくられていきます。 彼らが『決闘』という殺し合いに、主張の是非を委ねるのは、その手札の枚数や相性、引き合わされ方が、既に何らかの大いなる意思によって決定されているからと考えているからかも知れません。 宮本明さんの『怪力』も『予測能力』も『粘り強さ』も、確かに素晴らしい切り札だと思います。 生半可な強さの人間やヒグマなら、歯牙にもかけず彼は斬り倒してしまえるでしょう。 一対多数の乱戦で、周りの雑魚の全てをまとめて対処・殲滅するには、とても良い組み合わせの手札なんだと思います。 ですが、宮本さんは、その自分の手札の相性を、ほとんど考慮していないように見えました。 義弟さんの『衛星』と『左半身失調』は、宮本さんと同じく、一対多数の乱戦にも適応している切り札ですが、その性質は根本的に異なっています。 ――彼の手札は、一対多数の戦い全てを一対一に分断し、戦場を切り抜けるためのものなのだと、僕には思えました。 加えて、恐らく彼の『鉄球』には、まだ切り札が残っています。そして『剣』にも。 それらの手札全てを総合した場合、恐らく、義弟さんの能力はむしろ一対一の戦いにこそ特化した技能となるのでしょう。 恐らく今、背後を晒した義弟さんに突っ込んでゆく宮本さんは、義弟さんの最も得意とする相性の相手なのでした。 △△△△△△△△△△ 宮本明がその大太刀を片手上段から振り下ろした時、彼の視界は、切り倒すはずだった義弟の体が信じられない挙動をとる様を捉えていた。 振り向きながら金の太刀に触れた義弟の右腕が、関節の存在を無視するような動きで刀身を這い登る。 蛇のように螺旋を描きながら刀の峰を押さえ込んだ彼の腕に続き、今度はその体が、地面から羽のように舞い上がった。 「なっ――!?」 振り下ろす自分の動きに加え、さらに得物の先端へ突如人一人分の体重が乗ったことで、宮本明は前方につんのめった。 義弟は刀身の峰を一度踏み込んで、更に上へと駆け上がる。 宮本明の目の前に、義弟の靴底があった。 ゴグ……ン。 と、そんな鈍い音が、自分の頭蓋骨に響くのを明は聞いた。 頚椎から脊髄がびりびりと衝撃に沈み込むような感覚を受け、明はそのまま地面に激突する。 うつ伏せになった自分の脇に、何かの着地する音が聞こえ、同時に首筋に冷たいものが触れていた。 「ネアポリス護衛式中剣、『壁上の翅(フライ・オン・ザ・ウォール)』。 お前のような暴漢から要人を護るための、先祖代々受け継ぐ剣術だ」 ウェカピポの妹の夫は、鉄球の回転を全身に回し、螺旋状に刀を受け流していた。 そして刀身と宮本明の頭を踏んで飛び上がり、突き倒した彼の上へ、抜剣しながら降り立ったのだ。 落下の勢いを加えた剣は、義弟がそのつもりであれば、容易く宮本明の首を断ち落としてしまっていたことだろう。 地に激突してひしゃげた宮本明の鼻から、どろりと血が滴り落ちてくる。 力の抜けた左脇からは、再び勢い良く鮮血が吹き出し始めてくる。 明の口の中は、一面鉄の味でしょっぱかった。 「宮本さん! 何回負ければ気が済むんですか! まったくもう……」 「観柳さんは……、黙っててくれ……」 遠間から呼びかける武田観柳の声に、宮本明は首筋を剣に抑えられたまま震えた。 ――確かに、これがただの試合か何かだったら、俺は文句なしに負けだ。 ウェカピポの妹の夫が身に着けている鉄球の術理など、さっぱりわからない。 かろうじて鉄球の形状から、散弾のような二段階攻撃が来ることまでは予測できたが、避けたところで、衝撃波だけであんな不可解な現象が起きることなんてわかるはずもない。 ようやく刀を当てられても、綺麗に受け流されてカウンターだ。 彼岸島に、こんな戦い方をするやつはいなかった。 吸血鬼も邪鬼も、ただ自分の能力をまっすぐにぶつけて来た。だからこそ俺もそれに力で応え、押し勝ってこれた。 こんな、相手の死角に潜り込み、相手の力を利用して倒すような戦法を採る敵とは、相性最悪だ。 唯一、こいつに近い実力を持った相手として俺が想像できるのは、雅か兄貴くらいだ。 そうだ。 雅との対決で、何回か斬られたり押さえ込まれたりしたくらいで決着がつくわけはない。 死ぬか、殺すか、『決闘』の勝敗なんて、それでしかつかない。 ――だから、俺はまだ、負けてない。 △△△△△△△△△△ 「うおっ――」 前触れもなく、ウェカピポの妹の夫の両足が掬われる。 仰向けに倒れる義弟が見やった足元では、宮本明がなりふり構わぬ双手刈りで、義弟の体を後方へ押し倒していた。 「決闘は、殺すまで勝ちじゃねぇんだよぉッ!!」 「――確かに、一理あるッ!!」 首筋に触れていた義弟の剣を左手でもぎ取り、脇から血を吹き出しながら、宮本明は地面の義弟へ向かって、二刀流となり襲い掛かる。 ウェカピポの妹の夫は、状況を理解するや、即座に地上を転がった。 そして腰に手をやり、回転しながら抜き放ったベルトで、踊りかかる宮本明の左手首をしたたかに打ち据えていた。 手の皮がめくれ返るほどの衝撃で、明の左手からは剣が落ちる。 右手の刀は、義弟の転がった地面を空ぶる。 転がった先でウェカピポの妹の夫が立ち上がるのに向けて、明は再び金の刀を、出血を厭わぬ両手持ちにして走りこんでいた。 今度は、上段からの切り込みではない。 金の刀を腰だめにしたまま走りこみ、受け流されることなく、即死級の勢いをその長い刃に乗せて体当たりしようとしているのだった。 「ネアポリス王族護衛術――」 しかしその瞬間、明の視界は、義弟の呟く声と共に一面紫色に覆われていた。 何が起きたのか理解できぬうちに、その紫色の空間がギュルギュルと渦を巻いて、明の両腕に絡みつく。 ――これは、あいつの着ていた、スーツ……。 そう考えた瞬間には既に、上着を脱いだウェカピポの妹の夫の顔が、明の目の前にあった。 明の視界の中に、白い未来が螺旋状に逆巻く。 紫色のスーツで幻惑・捕縛した明の腕を右手で引き込みながら、義弟は地面から伝わる回転力を全身に流し、左腕に収束させる。 その回転を伴った左裏拳が、綺麗に自分の顎先を打ち抜く未来を、宮本明は確認した。 「『払暁(ブレイクアウト)』」 カウンターの勢いで叩きつけられたその拳に、宮本明は人形のように後方へ吹き飛ぶ。 義弟は手元に残ったスーツの中から重い金の日本刀を引き出し、右手に掴んだままのベルトを投げ捨てて、腰から鉄球を掴み出していた。 「おい、義弟さんよ!? 追撃する気なのか!?」 「プリーズストップ!! アキラが死んじゃうよ!!」 「決闘の終了条件をどちらかの死亡だとしたのは向こうの方だ。オレはその流儀に従うのみ!!」 周りからフォックスやジャックが声をかけるも、ウェカピポの妹の夫は一瞬も躊躇することなく、倒れ伏す宮本明に向けて『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』を投擲していた。 まだ、宮本明には息がある。 自分の武器を失っても、決してその殺意を失わない、強く鋭い光が彼の目に宿っていることを義弟は見た。 そして何より、先程打ち込んだ拳の手ごたえで、義弟は確信していた。 「貴様はまだ向かってくる気だ!! 自分から後ろに跳んでいたのだろう!!」 「が、あ、ああああっ……!!」 呻きながら、宮本明が燃えるような瞳で起き上がる。 彼は先の瞬間、咄嗟に義弟の腕の動きを予測し、突進する脚の動きを無理矢理留めて、でき得る限りの速度で後方に跳ねていた。 その分、義弟の渾身の拳によるダメージは軽減されていたことになる。 明は即座に飛来する鉄球の軌道を予測し、あろうことか、高速回転する鉄球を、その右手で掴み取っていた。 △△△△△△△△△△ 「うおおおおおおおっ――!!」 骨が軋む。 凹凸に富んだ鉄球の回転で、皮膚が破れ、肉が抉られる。 それでも宮本明は、『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』を掴んだまま離さなかった。 飛び出そうとする『衛星』までもを押さえ込み、嫌な音と焦げ臭い匂いを漂わせて、その回転を押し留める。 「だああああああっ!!!」 そして彼は、驚愕するウェカピポの妹の夫に向けて、その鉄球を投げ返していた。 それは回転を帯びさせたわけでもなく、ただの素人の投擲に過ぎない。 だがしかし、その速度と狙いだけは、確実に人一人の肉体を破壊して余りあるものを秘めていた。 「くっ――!」 瞬間、ウェカピポの妹の夫は、もう一つの鉄球を、目の前の地面にぶち当てていた。 「ネアポリス護衛式鉄球、『衛星』!!」 花火のように吹き上がった小鉄球が、対空弾幕のように宮本明の鉄球を迎撃し、その軌道を逸らす。 義弟の鉄球には、投球技術に秀でたウェカピポのような、飛来する鉄球を鉄球自体で打ち落とすなどという常軌を逸した精密さはない。 その分、彼は投球技術以外の『ネアポリス王族護衛術』でそれをカバーしようと修練に励んできていた。 頬を掠めて去る明の投球を避けて、彼は重い金の日本刀を構えて走り込む。 宮本明には、先の鉄球を受け止めた際に『左半身失調』の回転が伝導されていた。 義弟の視界内で、明は義弟が叩き落した王族護衛官の剣を必死に掴み上げているが、最早その左半身はほとんど動いていない。 確実に、今の彼は左側を認識できていなかった。 ――正真正銘、この一撃で最後になるな。カタを、つけさせてもらう。 義弟は宮本明の左側から、その手に持つ金色の死を、運び込む。 △△△△△△△△△△ 宮本明は、欠落した視界の左側に、白く義弟の足跡を見ていた。 彼の体重、身長、立ち居振る舞いから無意識下で算出した、未来の足跡である。 1秒後、2秒後、3秒後。 ウェカピポの妹の夫は正確にその足跡を踏んで、宮本明の首を断ち落とそうと、金の日本刀を振り下ろしにくるだろう。 明は、赤黒く血まみれになった右手に剣を掴み、ハァハァと息を荒げる。 先程まで大太刀を持っていた感覚からすると随分と軽い。 左脇からの出血も既にかなり大量に及び、貧血で意識が朦朧としてくる。 ――正真正銘、この一撃で最後になるな。カタを、つけさせてもらう。 宮本明が最後に残した策は、その未来予知で予測した義弟の攻撃タイミングに合わせ、右回りに体を回し、振り下ろされる日本刀を受け止めながら義弟を切り殺すというものだった。 右肩にかけたデイパックをクッション・バンパーとして斬り下ろしを受け流し、そのまま右手の剣で横薙ぎに義弟を斬る。 1秒後、2秒後、3秒後。 白い足跡を義弟が踏んでくるのが感じられる。 体の真横で、義弟が刀を振り上げるのが予測される。 「今だっ――!!」 宮本明は、横座りの上半身を勢い良く時計回りに振り抜いていた。 半回転した視界の中に、まさに義弟が振り下ろす刀の輝きが映っていた。 しかしその刃は、肩のデイパックには、触れなかった。 ――えっ。 その刃は、デイパックをちょうど通り過ぎた、宮本明の右下腕に斬り込んでいた。 「があああああああッ!!!」 肉が裂けた。 尺骨がへし折れた。 指への神経を切断されて、剣が地に落ちる。 宮本明は、一般人が12キログラム近い重量の金の日本刀を持った際に生じる動作の遅れを、予測から外してしまっていた。 彼岸島の人間や吸血鬼を基準にしていた自身の未来予知の校正を、完遂できなかったのだ。 義弟はそのまま、日本刀の重量で腕ごと彼を断ち切ろうと力を込める。 しかしその瞬間、義弟の持つ刀の柄に、蛇のように駆け上がるものがあった。 ――宮本明の左腕。 斬り下ろしを耐えた明は、すんでのところで『左半身失調』から回復していた。 「しまっ――!?」 「シェアッ!!」 身を引こうとした義弟の腕に、勢い良く跳ね起きた宮本明のハイキックが衝突した。 ボギン。 と鈍い音を響かせて、華のように張り裂けた義弟の左肘から血と骨の破片が飛び散る。 「ぐおおおっ――!?」 「お……わ、り、だああああっ!!」 地面にもんどりうった義弟は、落ちている自分の剣を、無事な右手で必死に掴んだ。 しかしその時には既に、奪い返した金の日本刀を左手で逆手に持った宮本明が、彼の上に馬乗りになっていた。 義弟は、咄嗟に右手の剣を振り上げる。 しかしそれよりも、宮本明が彼に日本刀を突き立てる動作の方が、早かった。 義弟の振った剣は、力なく明の顔の横を逸れ、見当違いの場所を切り裂いていた。 ――勝っ、た……。 大量出血で、ほとんど何も見えなくなった宮本明は、ただ自分の腕に伝わる手ごたえで、深々と義弟の体に自分の刃が突き刺さったことを確認した。 そして決闘の勝利に安堵した瞬間。 宮本明は自分の背後から鋭い斬撃を受けた。 首筋に激しい灼熱感を覚えて意識が闇に飲まれるその瞬間に、宮本明は、ウェカピポの妹の夫のか細い呟きを聞き取っていた。 「――ネアポリス護衛式中剣、『切断からの続開(スタート・オール・オーバー)』……」 △△△△△△△△△△ 宮本明が目を覚ました時、目の前にはタバコを咥えた阿紫花英良の神妙な面持ちがあった。 状況を理解できぬまま身を起こした明があたりを見回すと、そこは屋外の丘ではなく、オフィスビルと思われる建物のロビーであった。 寝かされていたソファーの上に腰掛ける明へ、阿紫花は紫煙を吐きながら呆れ顔を見せる。 「本当、呆れた根性ですよアンタ。アタシと観柳の兄さんの反応が少しでも遅かったら二人とも死んでたところだったんですからね?」 「え、英良さん……。決闘は、一体どうなったんだ……?」 「アンタの粘りで、結局は引き分けってとこですかね」 阿紫花が顎をしゃくった先には何事もなかったかのようにスーツを着て佇んでいるウェカピポの妹の夫がいた。 彼は明が目を覚ましたことに気づくと、軽く微笑みを浮かべて歩み寄ってくる。 「お前のような真摯に勝利を目指し続ける男と立ち会えて光栄に思う。 互いに、悔いのない決闘ができたのではないか?」 「……あんた、一体どうやって、俺の刀から無事で……。いや、それよりも俺が最後に受けた斬撃は……」 「ああ……あれか。オレにもギリギリの賭けだったぞ」 義弟は明に向けて、左腕の袖をまくって差し出した。 明が蹴り折った肘から、掌に至るまで、螺旋状に阿紫花英良の魔法の糸で縫われている。 「お前に折られた腕を回転させて刃を引き込み、かろうじて僅かに心臓からずらせた。それでも大動脈に刺されて、そのままでは死を免れなかっただろうがな」 「それじゃあ、あの最後の斬りつけは……」 「西洋剣術には『裏刃切り』があるんだぜ、脳筋さんよ」 明の発言に、遠くから答えが返ってきた。 義弟と明、阿紫花が顔を振り向けると、ロビーの奥で待機していたらしい残りの一行がぞろぞろと歩いてきている。 返事をしたのは、李徴の上にまたがっているフォックスの声であった。 それに頷いて、義弟は明に向けて補足説明を加える。 「日本の刀は良く斬れるらしいが、オレたちの剣は斬ることだけを目的には作られていない。 斬り付けたところで、それこそお前ほどの腕力がない限り甲冑には弾かれるからな」 王族護衛官の使う剣は、分類としてはバスタードソードという、両手・片手でともに活用できる剣に当たる。 キヨンと呼ばれる十字鍔は、相手の刃を受け止められるよう凹面に切ってあり、ポンメルと言う柄頭には近接打撃用の稜を打ち出したナットが留まっている。 斬撃に特化した日本刀よりも、近距離での多彩な戦術に対応できる構造になっていた。 フォックスが『裏刃切り』と呼んだのは、その西洋剣術における接近戦の攻撃手法の一つ、『ラップショット』のことである。 概して盾を持つことの多い西洋での剣闘では、密着での正面からの打ち合いは有効打が出しづらい。 そのため、西洋剣術には『相手の背後から』切りつける技術が発生した。 その剣が諸刃であることを活かし、わざと外して相手の裏に流れた剣先を、肩・腕と手首を鞭のようにしならせ回転させることで引き戻し、相手の首筋や尻に高速の斬撃を叩き込むものである。 『西洋剣は切れない』というイメージは半ば一般化しているが、これは多分に個人の好みに依っており、厚さ40cmの肉塊や牛の大腿骨を切断するくらいならば、西洋の剣でも可能である。 義弟の剣においては彼自身が調整しており、リカッソはやや短め、刃先はやや鋭利に手入れをしていた。 宮本明が自分の首筋を触れてみると、そこには首筋の左半分を深々と切断された跡が縫い目となって残っている。 頚動脈はおろか、食道、気管、頚椎の端までを一撃のもとに吹き飛ばされていたのだ。 阿紫花英良と武田観柳がその場にいなかったら、ほとんど即死は免れなかっただろう。 「……すげぇよ、義弟さん、あんた……」 宮本明は、自分に刻まれた数多の傷跡を確かめて、ポツリと呟いていた。 最終的に、かろうじて引き分けと呼べなくもない終結をみたが、初めからこの決闘を見返してみれば、その戦績は実質、ウェカピポの妹の夫が2勝している。 その上でもつれ込んだ最後の最後でも勝ちきれなかったとなれば、明の内心ではそれは完敗に等しかった。 「……俺の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」 「いや、引き分けだ。オレたちそれぞれの主張がどうなるかは、ひとえに立会人の意向にかかっている」 ウェカピポの妹の夫は、項垂れる宮本明に対してそう声をかけ、武田観柳や阿紫花英良に目を配る。 フォックス、阿紫花、ジャック、晴人が観柳と目を合わせ、観柳は最後に李徴と隻眼2を見やってから明に話しかける。 「……とりあえずですねぇ。ご自分が了承した決闘で勝ちきれなかったのですから、『何があろうと羆は殺さなくちゃいけない、一匹たりとも残しちゃいけない』という主張が通らないのは解りますね?」 「ああ……。それくらい、わかってるさ……」 観柳は振り返って義弟にも言う。 「ですが、義弟さんの『命を差し出してもらう』というのもナシですよ?」 「まぁ、そこは当初から覚悟の有無だけの問題だからな」 観柳はそこで、気絶中の明から回収していた金の日本刀を、再び取り出した。 それをロビーの床に突き立たせ、言葉を続ける。 「今回の決闘で、私はあなたが、相当に大きな金剛石の原石にも匹敵する人物であると思いましたよ。 ですがそれもまだまだ原石であるまま。この玉を真に美しく価値ある商品にするには、あなたの受けた修練は荒すぎだったと思わざるを得ません」 観柳は、フォックスから手まねでノートパソコンを受け取り、明に渡す。 そこには、隻眼2が口頭で述べた、この島で繰り広げられた活劇の様子、そして李徴が記したパロロワのプロットが、克明に記されていた。 明は、その文章力に衝撃を受けた。 曲がりなりにもかつて物書きを目指していた明をして、『及ばないかも知れない』と思わせるほど多彩な文章がそこに躍動していた。 読み進めながら隻眼2や李徴を交互に見やる明に向かって、観柳は再び言葉を繋ぐ。 「人間にもいろいろいるように、羆にだっていろいろいるんでしょう。私にとっては驚きの連続。 この『ぱぁそなるこんぴゅうたぁ』だって、明治に持って帰れたらどれほど良いことか。構造を知りたいものです。 ……私達はまだまだ、学ぶべきことばかりなのですよ」 明は頷いていた。 今まで敵愾心しか抱かなかった二名のヒグマの姿にも、今は書き手仲間としての親近感さえ感じるようになっていた。 「ですからね。宮本さんは、義弟さんから技術や心構えを学んで頂きたく思います。義弟さんは、宮本さんにできる限り教えて頂く。構いませんね」 「立会人の決めたことならばオレは従うぞ」 「……!」 目を細めて二人に呼びかけた観柳の言葉を受けて、明は立ち上がる。 そして、腕組みをする義弟へ向けて、頭を下げていた。 「すまない……、義弟さん。俺に、あんたの技を教えてくれ。俺がこの島で、西山の仇をとって、主催者を倒せるように!!」 「……まずオレに言えることはな、お前はその短絡的に決め付ける思考を何とかした方がいいということだ。それが折角のお前の能力を曇らせているのだと、オレは思う」 ウェカピポの妹の夫は、自分の剣と鉄球を宮本明に見せて静かに言う。 「それに、オレだけについて学んでも効果は薄いだろう。オレのこの技術は、物心ついた時から親父や師範から仕込まれ続けてきたものだ。 お前に合っているものとも思えないし、人間が数日や数時間で無制限に技術を身につけて強くなれるものか」 『ボクと契約すれば、すぐにでも強くなれるよ!』 語り始めた義弟の話の腰を折るように、突如天井からテレパシーが届いた。 見上げると、そこにはボロ雑巾のようになったキュゥべえが張り付いている。 それを宮本明が見た瞬間、見えない力に引っ張られるようにキュゥべえは床に高速落下し、激突した後再び天井に衝突した。 武田観柳が、笑顔の端を引き攣らせて指を上下させている。 先だって埋め込んだ一円金貨を引っ張って、キュゥべえの体を操作しているのだ。 「義弟さんの話の途中ですよ? 私が妨害しなければ、あなたは気絶した宮本さんの深層意識に直接語り掛けて契約させようとまでしていましたよね? 大概にしませんかねぇそういうの」 『流石カンリュウだね。キミの魔力はボクの予想以上だ! そのまま魔力を無駄遣いして早く魔女になってくれると有り難いな!』 キュゥべえの大音声のテレパシーに、阿紫花と観柳は顔を引き攣らせた。 その狼狽をせせら笑うかのようにキュゥべえが天上で首を傾げた時、突如辺りに無機質な機械音声が響く。 『コネ『コネ『コネ『コネ『コネ『コネ『コネ『コネクト・プリーズ』』』』』』』』 キュゥべえの周囲に大量の魔法陣が出現し、そこから出現した握り拳がキュゥべえへ猛烈なラッシュを叩き込んでいた。 そのままキュゥべえは力なく地に落下する。 操真晴人、怒りの魔法であった。 「……ジャックさん、悪いんだけど、そいつを黙らしといてもらえないか?」 「そうだねハルト。キューベーちゃん、部外者は部外者でしっぽりやろうゼ」 青筋を立てて息を荒げる晴人に応えて、全裸のジャックは、身じろぎもしなくなったキュゥべえを労わるように抱え、ソファー脇の宮本明のデイパックに入っていく。 宮本明の目に、初めて操真晴人がそれなりに強そうな人物に映って見えた。 「……まあ、その魔法というのも、結局は自分の根源に由来するものなのだろう。 強くなれる骨子となるのは、いつでも、自分の根源だけだ」 ようやく辺りが静かになり、義弟は話を続け出す。 「お前のその強さは、自分の根源を引き出し続けてきたが故のものだろう? それを矯めるのはいい。肉付けするのもいい。だが、今から新たな強さを土台もなく建てるのはほぼ不可能だ。 見せるだけならいくらでもしてやる。お前はここにいる全員を師とし、その中から自分に合っているものだけを選べ。くれぐれも、敬意を忘れずにな」 「ここにいる全員を……」 「オレだって、お前から学ぶことはあった。心がけとしては、自分以外は全て師匠だと思っていいくらいだ」 自分の知識を逸した技術を持つウェカピポの妹の夫。 取り引きや金銭に纏わる才覚なら誰にも追随を許さぬ武田観柳。 芸術的な魅せ方と戦術に長けた阿紫花英良。 妄想と肉体を理想的なバランスで兼ね備えたジャック・ブローニンソン。 武器や武術にはこの中で最も詳しいであろうフォックス。 見習うべき物書きである李徴と小隻。 地味ながらも要所ではしっかり仕事をこなす操真晴人。 他人の神経を逆撫でするやり口には随一であるキュゥべえ。 宮本明が周りの人物を思い返すに、彼らはみな、自分にない要素を持ち合わせた者たちである。 これから出会う仲間にも敵にも、こうした、自分の尺度では測れない者は多く現れるだろう。 先の決闘を思い出しても、自分の知識や戦術を広げ深めるには、こうした者たちから学び取る意識が非常に大切なもののように思えた。 息を飲む宮本明に、今度は武田観柳が今一度話しかけてくる。 真っ白な衣装と手袋に包まれた手を、突き立つ金の刀の塚頭に置き、試すような視線で微笑みかける。 「……さて、そんな宮本さんに私から契約をお持ちかけします。キュゥべえさんと違って無理強いはしませんので、ご自由に選んでくださいね」 「一体なんだ?」 問い返す明の視界で、その日本刀は融けたり刀に戻ったりを繰り返している。 「あなたと私の契約は、『護衛』と『武器』の交換でしたね。ですがこの武器が私の魔力でできている以上、そうそうお安くお譲りしたくはありません。 特に、商品を大切に扱って下さらなさそうなお客様にはね」 彼岸島で吸血鬼たちの武器を奪っては捨て、拾っては砕いてきた明には、返す言葉もない。 「……ですがもし、あなたがこの商品を心底大切に愛用して下さるというのなら、私は商人として、この武器を、あなたに合う最高の調整で提供いたしましょう。 魔法だって、あなたの元の力と合わせて利用してやればいい。余り難しく考える必要はありません。 さぁ、契約書を破棄するか、署名するか、如何いたしますか?」 明が辺りを見回せば、周囲の注目は全て自分に集まっていた。 パソコンには、自分が目覚める寸前まで筆談されていたらしい文章も記されている。 今一度その文面を見やって、明は笑みを浮かべる。 今、彼はその魔法の契約書に手を伸ばした。 【E-6・街(あるオフィスビルのロビー)/昼】 【宮本明@彼岸島】 状態 ハァハァ 装備 なし 道具 基本支給品、ランダム支給品×0~1 基本思考 西山の仇を取り、主催者を滅ぼして脱出する。ヒグマ全滅は……? 0 ?????????? 1 もっと、知識をつけて物事を広く見るべきか……。 2 西山…… 3 兄貴達の面目にかけて絶対に生き残る 【ジャック・ブローニンソン@妄想オリロワ2(支給品)】 状態 木偶(デク)化 装備 なし 道具 なし 基本思考 獣姦 0 動物たちと愛し合いながら逝けるならもういつ死んでもいいよぉ!! 1 キューベーちゃん、アキラたちの邪魔しちゃいけないゼ? [備考] ※フランドルの支給品です。 ※一度死んで、阿紫花英良の魔力で動いています。魔力の供給が途絶えた時点で死体に戻ります。 【阿紫花英良@からくりサーカス】 状態 魔法少女、ジャック・ブローニンソンに魔力供給中 装備 ソウルジェム(濁り:中)、魔法少女衣装 道具 基本支給品、煙草およびライター(支給品ではない)、プルチネルラ@からくりサーカス、グリモルディ@からくりサーカス、余剰の食料(1人分程) 紀元二五四〇年式村田銃・散弾銃加工済み払い下げ品(0/1)、鎖付きベアトラップ×2 基本思考 お代を頂戴したので仕事をする 0 ひと段落しましたし、筆談したとおりに動きましょうか……。 1 手に入るもの全てをどうにか利用して生き残る 2 何が起きても驚かない心構えでいるのはかなり厳しそうだけど契約した手前がんばってみる 3 他の参加者を探して協力を取り付ける 4 人形自身をも満足させられるような芸を、してみたいですねぇ……。 5 魔法少女ってつまり、ピンチになった時には切り札っぽく魔女に変身しちまえば良いんですかね? [備考] ※魔法少女になりました。 ※固有魔法は『糸による物体の修復・操作』です。 ※武器である操り糸を生成して、人形や無生物を操作したり、物品・人体などを縫い合わせて修復したりすることができます。 ※死体に魔力を注入して木偶化し、魔法少女の肉体と同様に動かすこともできますが、その分の維持魔力は増えます。 ※ソウルジェムは灰色の歯車型。左手の手袋の甲にあります。 【武田観柳@るろうに剣心】 状態 魔法少女 装備 ソウルジェム(濁り:小)、魔法少女衣装、金の詰まったバッグ@るろうに剣心特筆版 道具 基本支給品、防災救急セットバケツタイプ、鮭のおにぎり、キュゥべえから奪い返したグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、魔法製金の刀 基本思考 『希望』すら稼ぎ出して、必ずや生きて帰る 0 さぁ、宮本さんはどちらを選びますか? 1 他の参加者をどうにか利用して生き残る 2 元の時代に生きて帰る方法を見つける 3 取り敢えず津波の収まるまでは様子見でしょうか。 4 おにぎりパックや魔法のように、まだまだ持ち帰って売れるものがあるかも……? [備考] ※観柳の参戦時期は言うこと聞いてくれない蒼紫にキレてる辺りです。 ※観柳は、原作漫画、アニメ、特筆版、映画と、金のことばかり考えて世界線を4つ経験しているため、因果・魔力が比較的高いようです。 ※魔法少女になりました。 ※固有魔法は『金の引力の操作』です。 ※武器である貨幣を生成して、それらに物理的な引力を働かせたり、溶融して回転式機関砲を形成したりすることができます。 ※貨幣の価値が大きいほどその力は強まりますが、『金を稼ぐのは商人である自身の手腕』であると自負しているため、今いる時間軸で一般的に流通している貨幣は生成できません(明治に帰ると一円金貨などは作れなくなる)。 ※観柳は生成した貨幣を使用後に全て回収・再利用するため、魔力効率はかなり良いようです。 ※ソウルジェムは金色のコイン型。スカーフ止めのブローチとなっていますが、表面に一円金貨を重ねて、破壊されないよう防護しています。 ※グリーフシードが何の魔女のものなのかは、後続の方にお任せします。 【操真晴人@仮面ライダーウィザード(支給品)】 状態 健康 装備 普段着、コネクトウィザードリング、ウィザードライバー 道具 ウィザーソードガン、マシンウィンガー 基本思考 サバトのような悲劇を起こしたくはない 0 話が終わったら、筆談したとおりに動こうか。 1 今できることで、とりあえず身の回りの人の希望と……なれるのかこれは? 2 キュゥべえちゃんは、とりあえず目障り。 3 観柳さんは、希望を稼ぐというけれど、それに助力できるのなら、してみよう。 4 宮本さんの態度は、もうちょっとどうにかならないのか? [備考] ※宮本明の支給品です。 【キュウべぇ@全開ロワ】 状態 尻が熱的死(行動に支障は無い)、ボロ雑巾(行動に支障は無い) 装備 観柳に埋め込まれた一円金貨 道具 なし 基本思考 会場の魔法少女には生き残るか魔女になってもらう。 0 わけがわからないよ。 1 人間はヒグマの餌になってくれてもいいけど、魔法少女に死んでもらうと困るな。もったいないじゃないか。 2 道すがらで、魔法少女を増やしていこう。 [備考] ※範馬勇次郎に勝利したハンターの支給品でした。 ※テレパシーで、周辺の者の表層思考を読んでいます。そのため、オープニング時からかなりの参加者の名前や情報を収集し、今現在もそれは続いています。 【ヒグマになった李徴子@山月記?】 状態 健康 装備 なし 道具 なし 基本思考 羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆 0 ああ、対主催の人材が肥えてきている……興奮するなぁ。 1 小隻の才と作品を、もっと見たい。 2 フォックスには、まだまだ作品を記録していってもらいたい。 3 人間でありたい。 4 自分の流儀とは一体、何なのだ? [備考] ※かつては人間で、今でも僅かな時間だけ人間の心が戻ります ※人間だった頃はロワ書き手で社畜でした 【フォックス@北斗の拳】 状態 健康 装備 カマ@北斗の拳 道具 基本支給品×2、袁さんのノートパソコン、ランダム支給品×0~2(@しんのゆうしゃ) 、ランダム支給品×0~2(@陳郡の袁さん)、ローストビーフのサンドイッチ(残り僅か) 基本思考 生き残り重視 0 終わったら筆談通りやるか。 1 メンバーがやばすぎる……。利用しつづけていけるか、俺……? 2 李徴は正気のほうが利用しやすいかも知れん。色々うざったいけど。 3 義弟は逆鱗に触れないようにすることだけ気を付けて、うまいことその能力を活用してやりたい。 4 シャオジーはいつ襲い掛かってきてもおかしくねぇから、背中を晒さねぇようにだけは気を付けよう。 5 俺も周りの人間をどう利用すれば一番うまいか、学んでいかねぇとな。 [備考] ※勲章『ルーキーカウボーイ』を手に入れました。 ※フォックスの支給品はC-8に放置されています。 ※袁さんのノートパソコンには、ロワのプロットが30ほど、『地上最強の生物対ハンター』、『手品師の心臓』、『金の指輪』、『Timelineの東』、『鮭狩り』、『クマカン!』、『手品師の心臓』、『Round ZERO』の内容と、 布束砥信の手紙の情報、盗聴の危険性を配慮した文章がテキストファイルで保存されています。 【隻眼2】 状態 左前脚に内出血、隻眼 装備 無し 道具 無し 基本思考 観察に徹し、生き残る 0 主催者に対抗することに、ヒグマはうまみがあるのかしら……? 1 とりあえず生き残りのための仲間は確保したい。 2 李徴さんたちとの仲間関係の維持のため、文字を学んでみたい。 3 凄い方とアブナイ方が多すぎる。用心しないと。 4 見ごたえのある戦いでした……。 [備考] ※キュゥべえ、白金の魔法少女(武田観柳)、黒髪の魔法少女(暁美ほむら)、爆弾を投下する女の子(球磨)、李徴、ウェカピポの妹の夫が、用心相手に入っています。 【ウェカピポの妹の夫@スティール・ボール・ラン(ジョジョの奇妙な冒険)】 状態 疲労(中) 装備 『壊れゆく鉄球』×2@SBR、王族護衛官の剣@SBR 道具 基本支給品、食うに堪えなかった血と臓物味のクッキー、研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×3本 基本思考 流儀に則って主催者を殴りながら殺りまくって帰る 0 筆談したとおりに動く。それが流儀。 1 宮本明は自分の素質を最も活かせる流儀を知るべきだ。 2 フォックスは拳法家の流儀通り行動すべきだ。 3 李徴はヒグマなのか人間なのか小説家なのかはっきりしろ。 4 シャオジーは無理して人間の流儀を学ぶ必要はないし、ヒグマでいてくれた方が有り難いんだが……。 5 『脳を操作する能力』のヒグマは、当座のところ最大の障害になりそうだな……。 6 『自然』の流儀を学ぶように心がけていこう。