約 243,461 件
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/312.html
【種別】 人名 【初出】 八巻 【CV】 豊崎 愛生 【概要】 【人物】 【性格】 【能力・スキル】 【口調】 【アニメ版にて】 【概要】 第一七七支部所属の風紀委員。 第七学区立柵川中学に在席する中学一年生。 低能力者(レベル1)で、能力は『定温保存』。 【人物】 身長153cm・体重43kg、スリーサイズは75・58・76。 飴玉を転がすような甘ったるい声で喋る少女。 特徴は頭につけている花をかたどった髪飾りで、遠目に見ると花瓶を頭に乗せているように見える。 季節に合わせて頭の花が変わるあたりお洒落さん。 ただ、佐天が頭の花について尋ねようとしたシーンでは 「好奇心は猫を殺す」という花言葉を強調して教えた後、真顔で「何か言いました」と言い、 下記の通りアニメ『超電磁砲』第十九話では頭の花の事を言及した常盤台生に対して「何のことですか?」と言っている。 意図的か偶然なのか、いずれにしても頭の花に関する言及を回避している。 4コマ「とある初春の花盛り(ブロッサム)」(七巻収録)によれば、 季節の変わり目や暖かくなると体調を崩しやすくなる体質らしいが、 それにあわせて頭の花が盛大に咲き誇る様から黒子に「(頭の花に)養分吸われてる」と推察されている。 また初期設定では、あの花をどんどん付けていくと、ハッキング能力が上がるといった話があったとの事。 やはり何かしら重要な役割があるのかもしれない。 佐天涙子とはクラスメートである。 いつも挨拶代わりのスカートめくりを食らっては涙目になっている。 一般人(風紀委員の志願生)だった頃に白井黒子に助けられた事があり、黒子を尊敬している……のか? 歳は黒子と同じだが、風紀委員の先輩・後輩という関係か、それとも性格的な問題か、上下関係っぽいものがある。 風紀委員の活動では黒子のバックアップを務める事が多い。 後方からの情報分析が専門だが、強盗の人質になったり拉致されたりと、意外に荒事に巻き込まれることが多い。 また『超電磁砲』第十五話では木山から託された 幻想御手のワクチンを使い幻想猛獣の再生能力を断ち切り、 十五巻では打ち止めをかばって垣根帝督に襲われた所を 一方通行に助けられたりと、重要な場面に関わっている。 また、とある魔術の禁書目録SPでは、ついに主役としての短編が収録され、主人公格として活躍。 普段よりも行動的かつ意外な台詞を発し、実は熱血少女だという一面を見せた。 (ふざけんな…ッ!!必ず止めるに決まっているでしょう!) 山岳揚子を助ける為本部の方針に背いて単独行動を始め、傷だらけになりながらも、 おおよそ常識から外れたような、かなり無茶な方法で、無事に山岳を助けることに成功した。 【性格】 一見穏やかな性格に見えるが、その実やや腹黒い一面(ファンの間での通称は『黒春』)も兼ね備えている。 クラスメイトの佐天涙子にもその姿を見せる事はあるが、その矛先は主に黒子に向けられており、 その理由は「風紀委員の活動でいつも黒子にこき使われているから」らしい。 しかし上条への恋愛感情に悩む美琴に対して 「ボロッボロに悲惨な目に遭えばいいんですよ」「そしたら自分だけを見てくれます」「あ でもその状態をキープしなきゃだめですよ」と笑顔でアドバイスしたり、 脱獄トライアルの賞金を全て募金したときに 平然と「お金ならハッキングでどうとでもなる」と言ったりしているので、割と素の性格なのかもしれない。 パフェやクレープ等、甘いものが好きなようだが、 食べようとした矢先に仕事が入りおあずけになることもよくある模様。いちごおでんが好物な様だ。 耳年増でもあるようで、『超電磁砲』第三十一話で美琴が毎晩出かけて朝帰りという話を聞いた際には、 いろいろ想像した結果顔を真赤にして机に突っ伏す…という熱暴走気味の状態になった。 更に公式の4コマ『とあるコミケの超電磁砲』では「上条×一方」と書かれた本を抱えており、腐女子疑惑が浮上した。 この年齢の女子には珍しく、爬虫類を嫌わない。エカテリーナを前にしても、むしろ喜んでいた様子であった。 【能力・スキル】 所持する能力はレベル1の『定温保存(サーマルハンド)』。 強度はレベル1と強力ではなく、身体能力も風紀委員の適正基準をぶっちぎりで下回るほど低いが、 その情報収集・処理能力は天才の域にあり、黒子も舌を巻くほど。 そんな特技もあってか、風紀委員の資格を得るための適正試験では情報処理の一点突破で切り抜けたらしい。 また、『超電磁砲』第一話では、 銀行の異常に黒子や美琴よりいち早く気が付いており、洞察力は高い様である。 SS2巻では、超一流のハッカーである事が判明。 巷のハッカー達の間では「守護神(ゴールキーパー)」と呼ばれ、半ば伝説と化している。 その腕前は、手練れのハッカーの工山規範や、 最高クラスの能力者ハッカーである美琴からのハッキングさえ(実質的に初春自らサーバーを潰してしまうという方法ではあったが)退けるほど。 暗号の解析のような事柄に関しては美琴でも時間と手間がかかるものを7秒でこなしてしまった。 驚くべきその速度と技術からか、『実験』の施設破壊のためのハッキングについて 美琴は「初春さんならもっとうまくやれたかも」とも考えていた。 その技術には彼女自身が有する『とある機構を様々な角度から想像する』という計算式を利用しており、 解析するシステムを『花』と捉え、根の先端から水や栄養の流れを想像し、 大きな全体像を頭の中で仮組みすることで対抗策を練るという手法を用いる。 ただし、これはあくまで「技能」であり、能力に用いる『自分だけの現実』などの「特別な才能」ではない。 そのため、相手が特に高度な『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に基づく計算式を用いている場合は、 初春自身ではその全貌が把握しきれず、解析不能な場合もある。 なお、能力の強度は低いながらも、演算能力そのものは非常に高く、 能力に関する特別な才能さえあれば恐るべき『自分だけの現実(未編集)』を組み立て、 強大な力を発揮したかもしれない……と言われている。 実際に『超電磁砲』第百二十七話ではAIMジャマーをハッキングすることで、 AIM拡散力場を制御して自身の能力を望む形に作り変えるという、恐るべき離れ業を成し遂げている。 【口調】 相手に関係なく常に敬語。一人称は「私」で、二人称は基本的に「(相手の名字)さん」。 特徴的な語尾などは無いが、偶にキツめの毒舌になることがある。 アニメ『禁書目録Ⅱ』の特典小説である「とある科学の超電磁砲SS②」の第一話では、語尾に「でしゅ」と付けたことが話題になった。 【アニメ版にて】 担当声優のアドリブで西葛西出身という設定が加わった。 アニメ『超電磁砲』第十九話にて頭の花飾りを褒められた時に 「何のことですか?」と素で理解できないといった反応を返していたことから、 あの頭の花は飾りではなく天然モノではないかという疑惑も浮上している。 また、原作にもあったような黒い面が時々現れる事がある(ただ、アニメでの『黒春』成分は原作と比べると大分抑え気味である)。 ちなみにアニメ特典映像のとある魔術の禁書目録たんでは、白井黒子から頭の花の飾りは冬にはどうしてるのかと聞いたところ、笑顔で「これは造花です」と答えている。 なお、この二人のトークはメタ発言のオンパレードなので、ある意味花の飾りの一つの答えなのかも? 初春飾利~アニメ版におけるスカート中身の変遷~ 『超電磁砲』 一話:淡いピンクの水玉(原作第四話と同じ) 二話:縞パン 五話:クローバーの模様 九話:青のストライプ 十一話:(柄不明) 十九話:(柄不明) OVA:いちご柄 『超電磁砲S』 一話:学舎の園の雰囲気に合わせた柄 七話:子供っぽい柄 十八話:(柄不明) 『超電磁砲T』 三話:(下に体操服を着ていたため不明) また、アニメ『一方通行』でもアニメオリジナルシーンでスカートを捲られている。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/737.html
一応設定としては学園都市に薔薇乙女がさらっといる感じです。 ベースはだいぶ前に書いた黒子「行きますわよ!」蒼聖石「はいマスター!」ってSSからです。 ほのぼの進行でだらだらやる予定ですのでよろしくお願いします。 美琴「・・・あんたねぇ」 翠星石「何ですか?翠星石は部屋でゴロゴロすることにしたのです」 美琴「名門校の学生寮で一日中ゴロゴロする人形って何なのよ・・・」 翠星石「人形?ちゃんと薔薇乙女と呼んで欲しいですねぇ」 美琴「うるさい。アンタが連れてけって言ってた場所に行くわよ」 翠星石「ふ~ん・・・ん?それってもしかして」 美琴「そう、風紀委員の支部よ」 翠星石「おお!それはいいですねぇ!」ガバッ 翠星石「風紀委員・・・ジャッジメントですぅの!いい響きです」ウットリ 美琴「蒼星石が最近黒子に付きっぱなしだから寂しいって言ってたじゃない」 翠星石「言ってねぇです!ただ、翠星石は一人で留守番するのが心細いというか・・・」 美琴「はいはい、要するに蒼星石と一緒がいいのよねぇ?」ニヤニヤ 翠星石「・・・知らねぇですよーだ!」プイ 美琴「スネるなら連れてかないわよー?」 翠星石「スネてねぇです!行くんなら行くですよ!」 美琴「はーい」 ーーーー・・・ 美琴「別に留守番しなくても構わないんだけどさ、門限までに帰ってくればいいわけだし」 翠星石「誰かと出かけるなら構わないんですよ。こないだまで蒼星石と出かけてたんですし・・・・」 美琴「何か一人だと困るの?」 翠星石「こないだは野良犬に襲われそうになったです」 美琴「ブフォォ!野良犬って・・・」プルプル 翠星石「だからあまり言いたくなかったんです。野蛮なビリビリ女には分からないでしょーがね」 美琴「ん?何て?」ビリッ 翠星石「ヒィ!」ビクッ 美琴「・・・まぁ、確かにこのままじゃ一日暇でしょ。なにか暇つぶしを見つけないとね」 翠星石「おめーとクロコは学校に風紀委員と忙しいんですよね」 美琴「私は風紀委員じゃないわよ。確かに首は良く突っ込むけど」 美琴「あ、赤信号」ピタッ 翠星石「翠星石は勉強したです!赤は止まれ!」 美琴「良く知ってるじゃない」 翠星石「風紀委員の女からこっぴどく注意されたですから」 美琴「なにそれ、アンタ轢かれかけたの!?」 翠星石「・・・いい思い出です」トオイメ 美琴「・・・ハァ、で、その風紀委員の人って誰?」 翠星石「あー、名前までは聞いてなかったですね・・・胸が大きかったです」 美琴「ヒント少なすぎよ」 翠星石「クロコが愚痴ってたです。【またお姉さまったらあんなお子様ブランドの下着なんか・・・】」 美琴「風紀委員と関係ないじゃない!」 翠星石「あれ?【電撃が気持ちいい】とか・・・違うですね。アレ?」 美琴(気持ちいいとか思ってたのね黒子・・・)ガックリ 翠星石「そうそう!【喧嘩っ早いのは勘弁して欲しい】って言ってたです!」 美琴「喧嘩っ早い?私が?」 翠星石「です」コクリ 美琴「まっさかー。一応お嬢様よ?」ケラケラ 翠星石(え?マジで言ってるですか?) ーーーー・・・ 【風紀委員活動第一七七支部】 美琴「ここよ」 翠星石「じゃっじめんとかつどうだいいいなしぶ・・・ですか」 美琴「いいなだと117じゃない。177よ177」 翠星石「いなな・・・そんな言葉初めて聞いたです。何かの暗号ですか?」ゴクリ 美琴「バカ言ってないで入るわよ」 翠星石「イナフと何か関係があるんですかね?」 美琴「うるさい」 ゴチッ! 翠星石「あだっ!?軽い冗談じゃないですか・・・」サスリサスリ 美琴「こんにちはー」 固法「あら、御坂さん」 翠星石「いたーーーーーーーーーーー!!!!!!!」ビシッ! 固法「え!?」ビクッ 美琴「こら!失礼でしょ!」 翠星石「ほら、さっき言ってた赤信号の!」 固法「赤信号・・・ああ、こないだの」 美琴「胸が大きい風紀委員・・・なるほどね」 固法「・・・なんか腹が立つ伝わり方してるわね」 翠星石「だってかなり特徴的だったですから・・・クロコに比べたら」 美琴「あんまり言ってやらないの。そういう事は」 固法「まぁ白井さんに比べたら・・・ねぇ」 美琴「固法先輩、黒子達は居ないんですか?」 固法「白井さん達は学生の小競り合いの鎮圧に行ってるわよ。初春さんは・・・トイレかしら?」 美琴「えー・・・まぁ仕事だし仕方ないか」 翠星石「どういう事です?」 美琴「今は出かけてて居ないって」 翠星石「何ですと!?」 翠星石「何ですか何ですか、せっかくこの翠星石が訪れてやったというのに、お出迎えが無しですか。あんまりじゃないですか!?」クワッ 美琴「うるさい」 固法「そのうち戻ってくるわよ。白井さんのテレポートなら現場まであっという間よ」 美琴「そうですね」 パッ! 黒子「ゼェ、ゼェ・・・」 美琴「あら、お帰り」 黒子「そんな場合じゃありませんの!」 翠星石「はぁ?」 黒子「ええと、何処でしたっけ・・・!」ガチャガチャ 固法「白井さん、鎮圧はどうなったの?終わったの?」 黒子「終わってませんわ!」バタバタ 美琴「どういう事?」 翠星石「も、もしかして・・・蒼星石の身に何かあったのですか!?」 黒子「いいえ・・・えっと・・・!ありましたわ!」 美琴「何それ、腕章?」 黒子「私としたことが、腕章を忘れてしまいまして」 翠星石「はぁ!?おめー馬鹿じゃねーんですか!?」 黒子「も、申し訳ありませんの・・・」ショボーン 美琴「丁度いいわ、私たちもついて行くから」 翠星石「です。おめーの失敗で蒼星石が苦しむじゃないですか!」 黒子「し、しかし・・・これは風紀委員の・・・」 固法「白井さん、時間無いわよ?」 黒子「・・・分かりましたの。それではお二方、行きますわよ」 美琴「いいわよー」ポン 翠星石「ですぅ」ガシッ パッ! 固法「行ったわね。また一人増えるのねぇ・・・お客さんが」 パッ! 黒子「着きましたわ!」 美琴「何処よ喧嘩ってのは?」 翠星石「蒼星石!そうせいせきぃ!!」 蒼星石「すみません?いやそんなのはいいからさ。もう高校生なんだからさ、その位の事で何でケンカするの?」 男「え、いや・・・その・・・あいつが能力自慢してきて・・・なんかムカついて・・・」 蒼星石「ムカつくとかそういう言葉を使っちゃう時点でさ、頭が弱いって自分でアピールしてるようなもんだよね?」 男「・・・」 蒼星石「何黙ってるのさ、人が話してる時は目を見なよ」グイッ 男「・・・」 蒼星石「で、どうしようも無くなったらだんまり?男のくせに半泣きになってスネるんだ。まだ小学生の方が素直だよ。幼稚園からやり直したら?ねぇ?何とか言ったらどうだい?聞いてあげるからさ」 男「すびばぜんでじだぁ・・・」ボロボロ 黒子「やり過ぎですの!!!!!!!」ドデーン 蒼星石「へ?」 蒼星石「遅かったねマスター。もう終わったよ」 黒子「そうじゃなくて・・・今のはただの悪口じゃありませんの!?」 蒼星石「まさかぁ。僕は悪口なんか言わないよ。今のはただのお説教だよ。ね?」 男「は、はいぃぃ・・・」ビクビク 美琴(何でこんなに泣いてるの?) 翠星石(蒼星石はSですからねぇ) 蒼星石「何か言ったかい?翠星石」 翠星石「いえ、何も」 黒子「貴方はもう帰ってよろしいですわ。もうこんな事起こさないように気をつけて下さいまし」 男「はい!失礼します!」タタタタ 黒子「・・・蒼星石」 蒼星石「あ、腕章は見つかった?」 黒子「ええ。腕章はこの通り無事でしたの」 蒼星石「良かったじゃない。で、ミコトさんと翠星石はどうして此処に?」 美琴「いや、蒼星石が一人で鎮圧してると聞いたから・・・」 翠星石「なんか心配して存したです」ハァ 蒼星石「大丈夫だよ。庭師の鋏を見せれば大概は萎縮しちゃうしね」 黒子「そうじゃなくて!なにあんな暴言はいてるんですの!?アレは風紀委員としてどうかと思いますわ!!」 蒼星石「あんなの暴言にカウントされちゃ困るよマスター」ヤレヤレ 美琴「ん?風紀委員として・・・?」 蒼星石「?そうだよ、ほら」 翠星石「それは・・・腕章じゃねーですか!」 蒼星石「ジャッジメントですの!」キリッ 黒子「ふん!」 バシッ! 蒼星石「あいた!」
https://w.atwiki.jp/bennrishi_matome/pages/207.html
(再審の請求) 第一七一条 確定審決に対して、当事者又は参加人は、再審を請求することができる。(改正、平六法律一一六、平八法律一一〇、平一五法律四七) 2 民事訴訟法第三百三十八条第一項及び第二項並びに第三百三十九条(再審の事由)の規定は、前項の再審の請求に準用する。(改正、平八法律一一〇) 旧法との関係 一二一条 趣旨 本条は、再審の請求について規定したものである。 再審は本来訴訟法上の概念であり、判決が確定した後に、特別の理由にもとづいて認められる非常の不服申立方法である。確定判決を争わせることは法的安定性を害するから一般的には許すべきではないが、全く不服申立の途をとざしてしまうと、具体的妥当性の要請に反する事態を生ずるおそれがあるので、訴訟手続の重大な瑕疵等一定の理由がある場合に限定して再審の容認している。特許法も明治四二年法までは再審の規定を欠いていたが、確定審決を絶対不変のものとすることが妥当でないのは確定判決の場合と全く異ならない。このような理由により、旧法ではじめて再審の章が設けられた。 一項は、「確定審決」に対するものであり、したがって、審判の確定審決に限らず再審の確定審決に対しても、再審理由があるときには再審の請求をすることができる。旧法においてすべての確定審決が再審の対象となるのではなく、請求人と被請求人が対立して争ういわゆる当事者系の審判、抗告審判の確定審決についてのみ再審が認められたにすぎない。拒絶査定不服の抗告審判の確定審決等に再審の請求をすることができないのは法的安定性の要求が強いためと説明されていたが、当事者系の審判と区別する根拠が薄弱なので、すべての審判について再審を認めることにした。 また、平成八年の民事訴訟法の改正に伴い、従来文理上疑義のあった、訴訟の結果につき利害関係を有する第三者は、補助参加の申出と同時に再審の訴えを提起することができることが、法文上明確にされた。特許法において旧本条に規定されたように、再審の請求ができるのは当事者に限られており、参加人(ここでは審判に参加する資格を有する者をいう。参加の形態については一四八条一項及び一四八条三項を参照。)は再審の請求はできなかったが、特許法に再審制度が設けられた趣旨からして、参加が可能な審判については、その再審請求についても民事訴訟と同様の請求適格とすることが望ましいと考えられるため、民事訴訟法の改正に伴い、参加人も再審の請求ができることとした。すなわち、一四八条三項に規定される参加は民事訴訟法四二条の補助参加に相当するものであり、これについては民事訴訟法と同様に利害関係を有する者の事後的な救済を図るため再審の請求を認めることが適当と考えられる。また、一四八条一項に規定される参加については、利害関係人であれば無効審判を請求することも可能ではあるが、他の審判請求人が無効審判を現実に有力な証拠で請求していながら、再審事由となる手続の瑕疵などで無効を勝ち取れなかったような場合には、一事不再理が働くため、以後の無効審判請求が認められず、無効となるべき権利が存続してしまうことも想定されるので、再審請求により救済できるようにすることが望ましい。 二項は、再審の理由について規定したものである。再審の制度は法的安定性を害するものであるから、看過することができないような重大な手続の不備違背等の理由が存在しなければならないとしたのである。民事訴訟法三三八条一項は、再審の理由を一号から一〇号まで限定的に掲げている。たとえば、法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと、法定代理権がなかったこと、判決に関与した裁判所が事件について職務に関する罪を犯したことは、いずれも再審の理由である。同条二項は、たとえば、裁判官の職務犯罪が理由とする再審に請求は、有罪の判決又は過料の裁判が確定したとき等にのみすることができるとしている。同条三項は「控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。」という規定であるが、民事訴訟法における控訴審に相当する抗告審判の制度を現行法では認めなかったので、準用する余地がなくなった。民事訴訟法三三九条は「判決の基本となる裁判について前条第一項に規定する事由がある場合(同項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合にあっては、同条第二項に規定する場合に限る。)には、その裁判に対し独立した不服申立ての方法を定めているときにおいても、その事由を判決に対する再審の理由とすることができる。」とするが、これを準用することにより、参加拒否の決定等の中間処分に再審理由がある場合にも確定審決に対して再審を請求することがなる。 なお、本項は平成八年の民事訴訟法の改正に伴い改正されたが、これは、準用する民事訴訟法規定の条番号を変更したものであり、実質的な変更を伴うものではない。 また、平成六年の一部改正において特許後の異議申立制度が導入されたことに伴い、決定取消に対する再審の規定が追加されが、平成一五年の一部改正において、特許異議申立制度が廃止されたことに伴い、該当箇所を削除した。(青本第17版)
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/1072.html
後日談、というか今回のオチ、というかあの事件からのあたしの周りについて話したいと思う。 あまり表立ってこういった説明をしたことがないので、上手く伝えることができるかは少し疑問ではあるが、 やっぱりあの事件に関わった以上、それによってなにやらヘンテコな能力を持つことができた以上、あたしは話さなければならないのだろう。 あの事件、と称してなかなか首謀者であるあの人の名前を出せないのはなぜだろうか? そんなことを初春に話してみたところ「ひょっとして恋ですか?」と頭に咲く花から漂う香りよりも甘く、その飴玉を転がしたような声よりも甘い発言をしたので、とりあえずスカートを捲っておいた。 苺柄だった。 違うよ、と言ってしまえばそれで終わったのだろうが、言えなかったあたり決して初春の言うことに間違いはないかもしれないが、 あの人に持つ感情は恋ではなく、それに近い別の何かだと思う。 感謝の気持ちともまた違うこの感情は、いかんせん語彙が乏しいあたしでは表しきれないのだ。 あたしの気持ちを察してくれたあの人。 あたしに能力を与えてくれたあの人。 あたしをどん底まで落としてくれたあの人。 三人。 これはあたしが能力の試運転のために傷つけた人の数。 殺してはいないし、別段何か障害が残ったわけでもないが、それでもあたしがあたしの理由で傷つけたのだから謝罪をしなければならい。 でも、いまだにあたしはそれを行動に移せないでいる。 それについては白井さんに相談をしてみたら 「今にでも行ったほうがいいですけど、もう少し気持ちの整理をしたほうが相手にも上手く伝わると思いますわ」 そう言って笑ってくれた。その笑顔はあたしを助けに来てくれたときと同じで、とても優しいものだった。 その言葉に勇気付けられたあたしは、その日の内にご丁寧にメモ帳に謝罪文をビッシリと記入して、入院している彼等をたずね謝罪した。 きっと怒られるだろうとふんでいたあたしを待ち受けていたのは、なぜか彼らからの謝罪だった。 無能力者を馬鹿にしていて申し訳ない。それが三人が三人ともあたしに言った言葉。 混乱しているあたしは三時間かけて書いた謝罪文の一行目にあった「ごめんなさい」という言葉しか言うことができず病室を後にした。 どうやらあたしに怪我をさせられて何か思うところがあったようだが、残念ながらあたしは読心能力など持っていないので知るよしもない。 「人間は他人を理解できない、らしいわよ」 これを言ったのは御坂さんだった。 ただ御坂さんも自分で辿り着いた意見ではなく、あの時、あの場所で、あたしが気絶をしている間にあの人が上条さんに言った言葉らしい。 それを聞いてあたしは少し噴き出した。いかにもあの人らしい意見だな、と思った。 だけどあたしは他人を理解しようと決めた。少なくとも大事な親友たちの気持ちぐらいは。 さて、前置きが長くなってしまった気がするけど、ようやくあの事件におけるあたしのエピローグを語りたいと思う。 あたし、佐天涙子の最初で最後の一人舞台。不慣れな点もあるかもしれないがどうかそれは見逃してほしい。 だって、これはあたしが初めて主人公として語る後日談なのだから、それくらいは欲張ってもいいでしょう? 後日談・佐天涙子の場合 「ん……」 どこか倦怠感を身に覚えながらもゆっくりと瞼を開ける。 そこでまず視界へ飛び込んできたのは記憶が途切れた研究所の天井でも、空でもなく、大きな花の群れだった。 あぁここはきっと天国なのだろうか、だからお花畑が見えるのか、 でもあたしはきっと地獄行きの筈だからきっとこれは三途の川原なのか、と一人で思いふけっていると、 突然、その花がゆらゆらと蠢き出し一瞬で視界から消える。変わりに目に映ったのは親友の初春飾利の涙でクシャクシャになった顔だった。 「うぅ……佐天ざん……よがっだぁよぅ」 その顔を見てここが現実なのだと理解し、 さらに言えば初春の顔面の後ろにかすかに見える天井の模様は風紀委員第一七七支部の詰め所のものだと把握する。 気を失った自分をここまで運んでくれたであろう初春にとっては感動の再開なのだろうが、 今にも垂れ落ちそうな鼻から伸びる液体に標準を合わせられているあたしはそれどころではない。 「……おっけー初春。とりあえず顔を洗おうか」 きっと予想以上にハキハキと喋ったあたしに驚いたのだろう初春は、ピクッと体を揺らし、 そして自分がどんな顔をしているのかを把握して慌てて洗面所へと駆けていった。 鼻水という魔の手から開放されたあたしはとりあえず自分の状態を把握する。 研究所内で何か背中に刺され、そのまま気を失った。そのまま初春につれられこの支部まで来たのだろう。 今、あたしは応接用のソファーの上で仰向けになって寝ている。 背中には、もう痛みがない。つまりあの人の能力でなかったことにされたのか。 「佐天さん」 そこまで考えを巡らした所であたしを呼ぶ声が聞こえる。 「せっかくの再開ですのでもう少し気を掛けてやってもよかったでしょうに」 あたしはソファーから飛び起きて、声のした方角を見つめる。 そこには苦笑いを浮かべている白井さんと、壁にもたれかかったまま何か考えている御坂さんの姿。 「だって、もう少しで鼻水があたしの顔にクリーンヒットするところだったんですよー」 「それだけ軽い口がきけるのなら、別段問題は無いようですわね」 「えぇ……おかげ様で」 そんな会話を白井さんと交わすも、御坂さんの反応は無い。あたしは相変わらず同じ体勢を取り続けている御坂さんを見つめる。 あたしの視線に気がついたのは御坂さんではなく白井さんで、自身の後ろに立つ御坂さんに小声で「お姉様」と呟いた。 そこでようやく御坂さんは伏目を止めあたしへ目を向ける。 「あ、ゴメンね。ちょっと考え事を」 取り繕うようにワタワタと慌てながら答える御坂さんにあたしは一つ質問を投げかける。 「どうなりました?」 それは少しずるい質問だった。 この室内に漂う雰囲気を考えれば全てが全てハッピーエンドで終わったわけでは無いだろうし、 御坂さんがあんな顔をしている原因と分かっていての質問だから。 あたしの問いに御坂さんは「あー」とか「えー」とか呻くばかりで一向に説明が始まる様子が無い。 それに見かねて助け舟ねを渡すように口を開いたのはやはり白井さんだった。 風紀委員として立ち回っているので、こういった状況説明が得意なのだろう。 それがどんな伝え辛いことでも。 白井さんは淡々と説明してくれた。 あの時、あの人があたしと白井さんと妹さんに螺子を突き立てたこと。 その後、学園都市の第一位の能力者が現れ御坂さんと共にあの人と戦うも負けてしまったこと。 窮地を救ったのが上条さんだということ。 突然現れた第二位と第四位のこと。 研究所が崩壊したこと。 そして、あの人が死んだということ。 「まぁ、わたくしも気を失っていたので半分以上はお姉様方から聞いた話ですが……」 「その、確かにあの人は死んだんですか?」 「えぇっと……」 問いただしたら、急にしどろもどろになってしまう白井さんは助けを求めるように御坂さんを見つめる。 あたしの言葉にだから話したくなかったんだ、という様な表情を浮かべるのは御坂さんだった。 そして白井さんの言葉を引き継いだのも御坂さん。 「実際に死体を見たわけじゃないけどね。あの時麦野……第四位が言うには事実らしいわ。それにあの崩壊した研究所内に居たのよ。きっと助からないと思う」 「そう、ですか……」 分かりやすく声のトーンが落ちたあたしのせいで、重かった部屋の空気がさらに重くなってしまう。 結局その沈黙を破ったのは、ようやく洗面所から戻ってきた初春だった。 「これで大丈夫です!」 フンス、と主張するには物足りない胸を張りながら自信満々にそう言った初春に、あたしを含め三人が声を出して笑った。 「どど、どうしたんですかぁ!?まだ何か顔についてますか?」 切実に言う初春にあたし達は何も答えず、ただただ笑い続けた。初春はいきなり笑われたことに混乱している。 オロオロと現状を理解できずに慌てる初春には悪いがしばらくこうやって笑わさせてもらおう。 せっかく帰ってきたあたしの居場所だ。今日は疲れて寝てしまうまで笑っていよう。 落ち込むのも、現実を受け入れるのも取り合えず明日へ持ち越しだ。 そして、つられて笑い出した初春も含め、あたし達仲良し四人組みは結局この支部の中で夜を明かすことになり、 翌日出勤してきた固法先輩に叩き起こされるまで泥のように眠っていた。
https://w.atwiki.jp/bennrishi_matome/pages/31.html
(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正) 第十七条の二 特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条(拒絶理由の通知)の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。 1 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第一項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。(改正、平五法律二六、平一五法律四七) 二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。(本号追加、平一四法律二四) 三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。(本号追加、平五法律二六、改正、平一四法律二四) 四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求の日から三十日以内にするとき。(改正、平五法律二六、平一四法律二四、平一五法律四七) (改正、平六、平六法律一一六) 2 第三十六条の二第二項の外国語書面出願の出願人が、誤訳の訂正を目的として、前提の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正するときは、その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならない。(本項追加、平五法律二六、改正、平六法律一一六、平一四法律二四) 3 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面についての補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第四項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない。(本項追加、平八法律一一六、改正平一四法律二四) 4 前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第三十七条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。(本項追加、平一八法律五五) 5 前二項に規定するもののほか、第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第五十条の二の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。 一 第三十六条第五項に規定する請求項の削除 二 特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。) 三 誤記の訂正 四 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。) (本項追加、平五法律二六、改正、平六法律一一六、平一四法律二四、平一八法律五五) 6 第百二十六条第五項[訂正の審判]の規定は、前項第二号の場合に準用する。(本項追加、平五法律二六、改正、平六法律一一六、平一四法律二四、平一八法律五五) (本条追加、昭四五法律九一、改正、平五法律二六、平一五法律四七) 旧法との関係 該当条文なし 趣旨 本条は、明細書、特許請求の範囲又は図面について補正することができる時期及び範囲について定めたものである。 昭和四五年の一部改正においては、出願公開との関係もあり出願日から一年三月経過後は、原則として補正をすることができないこととし、さらに、審査、審判係属中にいうでも補正ができることとすると審査及び審判の事務が煩雑になること、出願公開により補償金請求権が発生するので第三者の調査の便等も考慮し、その後は拒絶理由通知があった場合等、実際に補正を必要とすると考えれる時期に限り、補正を認めることとした。 しかしながら、平成六年の一部改正においては、前条において解説したように、補正についての出願日から一年三月の時期的制限を廃止し、また、出願公告制限を廃止し、また、出願公告制度も廃止することとした。一項本文は、これに伴い改正された規定であり、特許査定の謄本の送達があるまでは原則として補正ができる旨を規定するものである。ただし、審査において拒絶理由通知があった後は、従来と同様の理由から、一項ただし書各号に規定する場合に限り補正を認めることとした。 一号及び三号は拒絶理由通知において指定された意見を申し立てる期間内(通常我が国の出願人の場合六〇日以内)に補正することができることを規定したものであり、平成五年の一部改正において改正されたものである。 平成五年の一部改正前は、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前は、拒絶理由通知の回数に関わらず、その応答期間内であれば、明細書又は図面の要旨を変更しない範囲で特許請求の範囲についても自由に補正することが認められていた(旧四一条)が、この規定の下においては、 (1)特許請求の範囲についての補正が何回も行われると、その都度審査を行うことが必要とされるため、審査遅延をもたらす一因となっていたこと (2)補正を何回も行う出願と補正を行わない出願との間において、出願の取り扱いの公平性が十分確保されていなかった等の問題を有していた。 このため、平成五年の一部改正においては、 (1)第一回目の拒絶理由通知に対する補正については、特許請求の範囲の補正についても新規事項を追加する補正を認めないこととするのみで、自由な補正を認めることとすることと (2)第二回目以降の拒絶理由通知に対する特許請求の範囲の補正については、既に行われた審査の結果を有効に活用できる範囲のものとすること により、制度の国際的調和、迅速な権利付与及び出願の公平な取扱いが図られることとなった。 一号は、最初の拒絶理由(第一回目の拒絶理由)が通知された場合に、拒絶理由通知において指定された期間内に補正することができることを規定したものである。最初の拒絶理由通知を受けた場合、その拒絶理由通知において指定された期間内に補正することができることを規定したものである。最初の拒絶理由通知を受けた場合、その拒絶理由のある部分を除去することにより特許を受けられる場合があり、実務上は最も補正が必要な場合であり、新規事項の追加をする補正ではない(三項)限り、自由に補正を行うことが認められる。なお、平成一五年の一部改正において、一七四条第一項を削除し、一七四条第二項を第一項に繰り上げたことに伴い、該当箇所を改正した。 二号は、平成一四年の一部改正において、三六条四項二号に先行技術文献開示義務が親切されたことに伴って、追加されたものである。先行技術文献情報が十分に開示されていないときに発せられる四八条の七の通知は、最初の拒絶理由通知の前になされる場合がほとんどであると思われる。この場合、最初の拒絶理由通知の応答期間まではいつでも明細書について補正ができるため、補正ができる期間を改めて設ける必要はない。しかし、最初の拒絶理由通知の応答期間経過後に同条の通知がなされることも考えられるので、その場合に明細書の補正ができる期間を明示的に規定することとした。 三号は、二回以上拒絶理由が通知された場合に、最後の拒絶理由通知において指定された期間内に補正することができることを規定したものである。この場合、特許請求の範囲の補正については、新規事項の追加をする補正でない(三号)ことに加え、既に成された審査結果を有効に活用することができる範囲内(四項)に限り、補正を行うことが認められる。 四号は、審査官の拒絶査定に対し不服の審判を請求した場合、請求の日から三〇日以内に補正することを認めたものである。審査官が出願について拒絶査定をする場合にはあらかじめ拒絶理由を通知するので、その際出願人としては前号の規定により明細書の補正をすることができる。しかし、たとえば審査官の示した拒絶理由との関係ではこの程度特許請求の範囲を減縮すればよいと判断して補正したが、その程度の補正ではやはり拒絶するという審査官の査定が出た場合、単にその拒絶査定に不服であるとして審判を請求するだけでなく、その際もう一度、審査官の示した最終的判断にもとづいて補正をすることを認めてほしい、という実務上の要望が強い。そこで審判請求の日から三〇日以内に限って認めることとしたものである。 この場合も、特許請求の範囲の補正については、新規事項の追加をする補正でない(三項)ことに加え、既になされた審査結果を有効に活用することがdけいる範囲(五項)に限り、補正を行うことが認められる。 なお、平成一五年の一部改正において、一二一条一項の審判を拒絶査定不服審判と規定する修正を行った。趣旨については一二一条を参照されたい。 二項は、平成六年の一部改正により新設された規定であり、外国語書面出願について誤訳の目的として補正を行う際に提出すべき書面について規定したものである。外国語書面出願について誤訳の訂正を目的として補正を行う際に提出すべき書面について規定したものである。外国語書面出願の出願人が誤訳の訂正を目的として補正するときは、一七条四項に規定する手続補正書ではなく、誤訳訂正の理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならないこととし、併せて一九五条別表七号において所定の手数料の納付を義務づけた。 このように、誤訳の訂正を目的として補正を行う場合には、誤訳訂正書の提出を義務づけるとともに、誤訳訂正の理由を記載させることとしたのは、①翻訳文の記載が外国語書面の記載に基づき補正された事実が明確となり、②第三者が外国語書面を参会し、外国語書面に記載された事項に基づく誤訳の訂正であるかどうかを判断する際の負担が軽減されるとともに、③審査における外国語書面のチェック負担も軽減されることになるからであるからである。三項は、平成五年の一部改正において新設された一七条二項が平成六年の一部改正において条文移動したものであり、明細書、特許請求の範囲又は図面の補正の内容的制限について規定したものである。従来は、明細書又は図面の補正について、願書に最初に添付された明細書又は図面の要旨を変更する補正は認められないことが規定されていた(旧五三条一項)が、この規定は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されていない事項である新規事項であっても、明細書又は図面の要旨を変更しない限り補正を行い得るため、迅速な権利付与、第三者の監視負担の増大等の問題があったのみならず、主要国と比べても得意な規定であった。 このため、平成五年の一部改正において、明細書又は図面の補正については、主要国と同様に願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないことが規定され、制度の国際的調和、権利付与の迅速化及び第三者の監視負担の軽減が図られることとなった。なお、本項が規定されたことに伴い、明細書等の補正と要旨変更について規定した従来の四〇条及び明細書の要旨を変更しない範囲を定義した従来の四一条は廃止された。 また、本項には、平成六年の一部改正により外国語書面出願についての補正の内容的制限が追加された。 すなわち、外国語書面出願については、四九条六号に規定するように、願書に添付した明細書等に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないときは拒絶理由となるとした上で、本項において、さらに翻訳文に記載されていあい事項を追加する補正は認めない旨を規定し、これを四九条一号において拒絶理由として規定した。これは、過去の特許協力条約に基づく外国語特許出願の実態からみても、通常は外国語書面出願の外国語書面と翻訳文の記載内容は一致しており、審査においては、翻訳文を基準としてその補正が新規事項を追加するのものであるか否かを判断すれば十分であると考えられるためである。 ただし、翻訳文に誤訳があったときは、翻訳文に記載された事項の範囲を超えた補正がされるのが通常である。このため、誤訳の訂正を目的とする場合は翻訳文に記載された事項の範囲を超えて、外国語書面に記載されている事項を補正により追加できることとするため、「誤訳訂正書を提出した場合」を除く旨を規定した。 また、出願人が誤訳の訂正を目的とした補正をした後に、さらに同じ箇所について誤訳の訂正を目的としない補正を行う場合も生じ得る。このため、一旦誤訳訂正書による補正をした場合は、その後の補正ができる範囲を「翻訳文又は当該補正後の明細書若しくは図面」と規定することにより、その範囲内であれば再度誤訳訂正書の提出及び手数料の納付をすることなく、手続補正書により補正ができることとした。 四項は、特許請求の範囲についての補正を制限する規定である。この規定では、拒絶理由が通知された後に発明の内容を大きく変更することを禁止している。 平成一八年の一部改正以前は、拒絶理由が通知された後に発明の内容を大きく変更することにより、技術的特徴の異なる二つの発明について審査官の判断を受けることが可能であった。しかし、発明の単一性の要件(三七条)の要旨に鑑み、このような補正を禁止することとした。 本項の要件が課されるのは「第一七条の二第一項各号に掲げる場合」のみである。したがって、最初の拒絶理由通知を受ける前までにする補正については、本項の要件は課されない。 本項でいう「拒絶理由通知」とは、「第五〇条(第一五九条第二項(第一七四条第一項において準用する場合を含む。)及び第一六三条第二項において準用する場合を含む。)の規定による通知」のことである(一七条の二第一項一号)。したがって、審査における拒絶理由通知だけでなく、前置審査、拒絶査定不服審判及び再審における拒絶理由通知も含まれる。 また、「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」とは、新規性・進歩性等の特許要件についての判断が示された発明をいう。したがって、新規性・進歩性等の特許要件についての判断が示されなかった発明はこれに含まれない。 本項に違反した場合、拒絶理由(四九条一号)、及び補正却下の理由(五三条一項)となるが、無効理由とはならない。 五項も、前項と同様、特許請求の範囲についての補正を制限する規定であり、平成五年の一部改正において旧四項として新設されたものである。この規定では、最後の拒絶理由通知以降の特許請求の範囲についてする補正を、先行技術文献調査の結果等を有効に利用できる範囲内に制限している。さらに、分割出願制度の濫用抑止の観点から、五〇条の二の規定による通知を受けた場合についても同様の制限が課される。 最後の拒絶理由通知以降、又は拒絶理由通知と併せて五〇条の二の規定による通知を受けた場合に、特許請求の範囲についてする補正は、第一号から第四号に掲げる事項のいずれかを目的とするものでなければならない。 一号は、請求項の削除を行う補正は、新たな先行技術調査を必要としないから、これを認めることしたものである。 二号は、特許請求の範囲の限定的減縮(例えば、発明特定事項を下位概念化するもの)については、既に行った選考技術文献調査の結果を有効に活用して迅速に審査を行うことができるため、これを認めることとしたものである。 三号は、誤記の訂正を目的とする補正は、新たに先行技術調査を必要としないから、これを認めることとしたものえである。 四号は、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正を認めることとしたものである。ただし、これを無制限に認めると迅速な審査の妨げになることから、拒絶の理由に示す事項についてするものに制限することとした。 六項は、前項二号の特許請求の範囲の補正について、一二六条五項(訂正審判)の規定を準用することにより、補正後の発明が独立して特許を受けることができるものであることを要件とすることを規定したものである。 なお、平成一四年の一部改正において、三六条二項の「明細書」から「特許請求の範囲」が分離されたことに伴い、本条にも同様の修正が加えられた。 [字句の解釈] 1 <最初の拒絶理由>原則として、出願人にはじめて指摘する拒絶理由を通知するものをいい、第一回目の拒絶理由通知はもとより、第二回目の拒絶理由であっても、最初の拒絶理由に対して補正がなされなかった請求項に対して、はじめて通知する拒絶理由を含むものは、最初の拒絶理由である。 2 <最後の拒絶理由>原則として、最初の拒絶理由に対する補正により通知することが必要となった拒絶理由のみを通知するものである。 3 <明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内>国際出願法一一条を参考として規定されたものである。同条は、補正は、出願の開示の範囲を超えてしてはならない旨を規定した特許協力条約三四条(2)の規定に相当するものであり、補正により、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない新規事項を追加することを認めないことを規定したものである。 4 <請求項に記載した発明を特定するために必要な事項の限定>三六条五項の規定によれば、特許請求の範囲には発明を特定するために必要な事項のすべてを記載しなければならないが、本号では「発明を特定するために必要な事項」と規定し、最後の拒絶理由通知後の特許請求の範囲の補正は、特許請求の範囲の減縮であって、請求項に記載した事項「すべて」のうちの個々の事項を限定するものであることを明確にした。 5 <産業上の利用分野および解決しようとする課題の同一>産業上の利用分野の同一とは、技術分野が一致する場合のほか、課題をより概念的に下位にしたものである場合や課題が同種である場合も含まれる。(青本第17版)
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2475.html
秋終わり、恋は終わり始まる 第四章 この物語にヒロインは居ない上条当麻を主人公と見立てるならば、御坂美琴は間違いなくヒロインだろう。ヒロインと言ってもいろいろなジャンルはある。『ツンデレ』だったり『ヤンデレ』だったり。そう仮定するなら御坂美琴は『ツンデレ』なのだろうか。物語は『ヒロイン』が必要だ。『ヒロイン』が女である必要も無い。ギリシャ語でヒロインとは『女英雄』だったとしてもだ。主人公は常に物語の中心で無ければならない。この物語に『ヒロイン』が存在しない。何故なら今回の話は全て御坂美琴を中心に起こった事件だからだ。そして片方の主人公はヒロインとなり、そしてヒロインを守る騎士として主人公として戦う。 *(12月29日。早朝、午前7時30分。第六学区ターミナル駅前)「間に合ったか」敵の位置は既に割れていた。上条は病院から出された栄養補給食品を頬張りながら切符を買った。神奈川県にある御坂宅に学園都市製の盗聴器があるらしく、白井黒子の同僚、初春飾利がその盗聴器を持ってきて貰えば例え潰れていたとしても相手の位置を特定できると、上条に言って回収作業に当たっていた。回収部隊は白井黒子と上条。特定するのは初春飾利でその補助が佐天涙子だった。御坂美琴は使えない。下手に動けば犯人に見つかってしまうからだ。「初春さん、ターミナル前だ。今から御坂宅に向かうよ」『はい、取り敢えず電磁波で確認できた盗聴器は3つ。トイレと、御坂さんの部屋と、リビングです』「了解」『ああ、後。複数犯の可能性が高いので気をつけてくださいね』小型のトランシーバーを切ると、新幹線がやってくる。まだこの時間だ。人もそれ程多くない。上条と黒子は乗り込んだ。学園都市製ではなく、都市外で作られた新幹線でスペックは最新型の新幹線よりもかなり劣るとか。それでも有に300キロ近くは出ているのだ。遅いわけがない。「新幹線なんて乗るの初めてだな」「そうですの?私は帰省の際に何度か。実家が大阪ですの」「へぇ関西弁とか話すのか?」「いえ、話せないことはないんですが……。私が関西弁で話している所を想像出来ます?」「できねぇな」「いいですのよ?これから関西弁で話しても」という間にも二人は焦っていた。こうして何も出来ない時間が無駄過ぎる。御坂美琴は行動を悟られない為に寮内に居るが、軽い軟禁状態だ。出来るだけストレスを減らそうと、シェフも朝夕晩の食事のメニューを変えてみたり、気分転換に掃除させてみたりといろいろ行なっているらしい。上条は御坂のメールアドレスを思い出して、メールを打っていたが白井黒子が携帯電話を取り上げる。「駄目ですわよ。今メールなんてしたら特定されますの。お姉様の個人情報なんて無いに等しいのですから」「……だよなぁ」上条は打ち掛けのメールを閉じて、携帯電話をポケットに突っ込んだ。はぁと溜息をつく黒子だったが、上条は理由を聞こうとしない。 *「ついたなっ……」「意外と、質素な家ですわね」「そうか?十分良い家だと思うけどな」インターフォンを鳴らした。しかし家主どころか美鈴さえ出てこない。数回押したが、出てくる気配が無いので黒子が中にテレポートして鍵を開けた。無断で侵入するのは忍びないが、緊急事態だ。初春の指示であった『トイレ』と『御坂の部屋』と『リビング』を探していく。当然の様にその盗聴器は見つかったが……「白井ッ!」上条は何かに気付いたのか、白井を窓側から離れさせたと同時に窓ガラスを突き抜けてフローリングをえぐった。銃弾。それも学園都市製の弾で色々と模様が掘られているのが特徴で、スピードは遅くなるが代わりに破壊力を増すというモノだ。これに発火剤でもついていたなら炎の弾となるのだが、それらしいものは確認できない。かなりの腕前のスナイパーだ。「銃弾……学園都市製のファニースタイル弾。それも警備員が使っているモノ?」「なんだ、それ」「警備員が外部勢力や凶悪テロ集団などの悪質な組織に対して使う銃弾です。学生相手に撃つようなモノではないのですが、どうやら警備員も一枚噛んでいるらしいですわね」白井は銃弾の軌道探るように窓ガラスを見つめた。11次元の軌道計算とは違うハズだが、白井はあそこだ、と言わんばかりに指をさすとテレポートで消えてしまう。直後、携帯電話が鳴った。「どうした!?」『捕まえましたの!コイツは過去にお姉様にぶっ飛ばされ教員免許を剥奪された元警備員の白縫代替ですの!」「し、しらぬいだいたい?誰だそれ」『兎に角、○○ビルまで来てくれませんの!?』「了解!」上条は御坂宅を飛び出した。一応、玄関の鍵を閉めて窓からだ。○○ビルというのも中小会社の本社で今日は土曜日であるためか休みだった。上条はビルのドアを蹴破ったが、警報装置などは鳴らず上条は少し飽きれた。しかし、それも好都合だ。屋上まで上がっていくと、手錠をかけられたゴツい男と黒子の姿があった。「そいつが、しらぬいだいたいか」「今年の夏前頃に汚職が発覚した教師が、偶然居合わせた風紀委員の顔面を何度を殴打して逃亡してお姉様に制裁されたハズなのですが。どうやって牢屋から出てこれましたの」「俺は御坂美琴に復讐するためならなんでも売るぜ。プライドもな。だから警備員の牢屋から脱獄して、御坂美琴に復讐するっていってる女に加担したんだよ!」「女性の方ですのね?」「そうだ、夏過ぎにアンタ等空間移動と超電磁砲に敗北したって言ってたぜ」「ふむ……全体構成は何人くらいですの?」「教えるわけねぇだろうが、クソガキ」白縫代替は吐き捨てるように言った。それならば、この男に利用価値どころか置いておくのも不愉快なだけだ。黒子は知り合いの警備員に報告して、地面に倒れている白縫代替を睨んだ。 *(12月30日。正午、12時05分。第七学区、風紀委員第一七七支部)「これが盗聴器ですか。ふむ……警備員の捜査で使われてるタイプに似てますね。少し調べてみます」「よろしくお願いしますの。私は白縫代替の報告書を作成しなければならないので」「俺はどうりゃいい?」「そうですねー、上条さんは療養したほうが良いと思いますよ?今頃ホントは点滴つないでるんですから。特例だってカエル顔の先生も言ってましたよ」「そうだな、俺は一旦家に帰るよ。ああ、佐天さん、紅茶美味しかった」上条は風紀委員の詰所を後にすると真っ先に家に向かった。眠くて仕方がない。結局、白縫代替は吐かなかったし、上条としては少しつかれた。上条は精神的にも参っていて、今まであった右手が無いというのは少し辛かったりする。色々と不便だ。左手生活に慣れそうにない上条は、溜息をついて帰路についた。 (12月30日。同時刻、第七学区、上条の歩いている大通り)『見ぃつけた、上条当麻』『ホントにやるんですか?』『当たり前じゃない、これはチャンスよ。正直、幻想殺しは要らないしね。上条当麻が必要だ』『……』不穏な声が上条の後を着けていた。(12月30日。早朝、ドイツ。ニーダーザクセン州大規模自立都市ハーメルン=ピルモント郡、郡庁所在地ハーメルン)『幻想殺しが無くなった?アレは生えてくるんじゃないのか』『どうでもいいよ、なぁ。投擲の槌』投擲の槌(ミョルニル)と呼ばれたドラム缶状の何かがガタゴトと返事をするように動いた。グレムリン、第3次世界大戦後に結成された新興組織だ。『ミコっちゃんが原因だってさ。可愛いよなぁミコっちゃん』『あ?東洋の女にでも惚れたか?トール』『違う違う、ラブじゃなくてライクだ。愛玩動物みたいな?』『お前は本当にわからんなぁ、投擲の槌もそう思っているだろうさ』雷神トール、グレムリンの戦闘部門だ。ボロっちいソファから腰を上げたトールは突然、間抜けたことを言い出した。『ちょいと、上条当麻に会ってくる』『はぁ!?』『後は頼んだぞ、投擲の槌。マリアン=スリンゲナイヤー』任された、と言っているように投擲の槌はガタゴトと揺れた。唖然とするマリアンを置いてトールはボロボロのアパートから立ち去った。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/188.html
[14]Interval extra02―初春さんと置いてけぼりツインテール 「明日はクリスマス・イヴだと言うのに、なんでわたくしだけこんなに働き者なんですの?」 誰とは無しに零れた嘆きの言葉は、コンクリートの冷たい壁に反響し消える。 狭い廊下を歩きながら、白井は自分で言っててなんだが少し悲しくなった。 本当なら憧れのお姉様に、一日中べったりと付きまとっていたいのだが、どういうわけか今日"も"次々と仕事が入る。 おかげで朝から学園都市中を飛び回る羽目になっている。 もちろん昼食なんてまだだ。お腹も大分空いている。 もう、西に事件あると聞けば西に、東に事件あると聞けば東に、といった感じだ。 「ダイエットには丁度良いのですけれどね」 と自分のほっそりとした腰に手を当て独り言をぽつり。軽く自虐的に笑いながらも、規則的に足は動かす。 自らのトレードマークである茶色のツインテールを従えて、長い廊下を歩く白井は、今のところ誰ともすれ違っていなかった。 もともとこの建物を訪れる人間の数はそう多くないので、少しも不思議と思わない。 訪れるのはごく一部の人間。 不機嫌そうに進むツインテールの少女の様に、緑の腕章をつけた風紀委員(ジャッジメント)ぐらいだ。 風紀委員(ジャッジメント)には幾つも支部がある。風紀委員(ジャッジメント)は、それぞれ所属する学園の治安を守るのが、本来の役目である。 だから風紀委員(ジャッジメント)の支部は、各学園に一個づつ作られているし、風紀委員(ジャッジメント)は、各学園から選出される。 それこそ数えるのも馬鹿らしくなるくらい存在する支部は、白井も総数でいくつあるのか良く知らないし、別に興味も無い。 お昼前に"学外"で起きた、"ちょっとした揉め事"を解決した白井黒子が、肩で風を切るというおよそお嬢様らしからぬ様子で歩く、 硬く冷たい感触のリノリウムの廊下がある建物も、その一つだった。 白井の、『歩く』というよりは既に早足に近い足取りは、彼女の今の気分を代弁するかのように、パタパタとスリッパが床を叩く音を 撒き散らしていた。 しばらく無人の廊下を歩いた先にゴールはあった。 『風紀委員活動第一七七支部』とこの部屋を示す長方形のプレートを睨みつけて、白井はドアの横にある四角いガラス板に自分の 人差し指をくっつけた。 ピッ、と小さな電子音がした。 (毎度毎度面倒ですの。いっそ自動で開いて欲しいものですわ) もう一度わざとらしい電子音が聞こえると、指紋、静脈、指先の微振動パターンが登録されたデータと一致しないと解除されない 厳重なロックが解除された。 「入りますわよッ初春!」 意識して出した大音量の叫びと共に、豪快にドアを開け放ち、白井は部屋の中に入った。 機能性のみが追及された殺風景で飾り気の無い風紀委員(ジャッジメント)の支部。 あまり広くは無いオフィスのような空間にいるのは中学生くらいの少女が一人。他には誰も居ない。 役所に置いてあるようなビジネスデスクが並び幾つもの最新式コンピューターがその上に鎮座しているだけだ。 「白井さんったらそんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてますよー」 頭の上にお花畑を咲かせてる少女――初春飾利はケラケラと笑いながら『人間工学的に疲れない変な形の椅子』を180度回転させて 振り返り、甘ったるい声を返してきた。 一般的なデザインの紺色のセーラー服を着ているが、どこか服に着られてる感じがする少女。左腕にはやはり白井の物と同じ緑の腕章。 この部屋は、風紀委員(ジャッジメント)の支部であり、入り口のドアのロックは、一部の例外を除き、風紀委員(ジャッジメント)として登録されて いる人間にしか開ける事は出来ない。 つまり、この部屋に居る=風紀委員(ジャッジメント)という図式が出来上がる。 彼女も白井と同じ風紀委員(ジャッジメント)だった。 だが一口に風紀委員(ジャッジメント)と言ってもピンからキリまである。 大多数の風紀委員(ジャッジメント)は異能力者(レベル2)よくても強能力者(レベル3)がほとんど。白井のような大能力者(レベル4)なんてのはむしろ 稀だ。中には能力の強度なんて関係無しに有能なのも居たりするがそれは更に稀と言っていい。 例えば白井の目の前にいる中学一年生の少女みたいに。 能力によって得意な任務が違ったりする、という面もあるから単純に、能力の強度=風紀委員(ジャッジメント)の実力というのは、 あまり成り立たない。適材適所。なんと良い言葉だろうか。 初春飾利はどっちかと言えば有能の部類に分類されるのだろう。白井から見ても初春の情報収集能力はちょっとずば抜けている。 その上よくコンビを組むのが機動力&戦闘力抜群の白井だ。自然と『お仕事達成率』は高くなる。 白井はツカツカパタパタと初春の方へと歩み寄った。 「ごきげんよう初春。帰ってもよろしいですの?」 顔だけ笑って告げた。 「ごきげんよう白井さん……って突然お嬢様っぽい挨拶で煙に巻こうとしても駄目!絶対駄目です!」 椅子の上に立ち上がった初春は両手で大きくバッテンを作った。 誰かの舌打ちが小さく鳴った。 「それはそうと初春。なんか前にもこんなパターンで呼び出された事があった気がするのは気のせいですわよね。あんな大事件が ホイホイと起きてもらっても困りますものね」 遠い目をした白井が言ってるのは『残骸』を巡って九月十四日に繰り広げられたあの事件の事。 今回もあの時の様に初春が電話で「白井さんちょっと支部まで」って言うものだからわざわざ支部まで出向いてやったのだ。 「白井さんったら、やっぱり予知能力(ファービジョン)系の方向に目覚めたんですね。いやぁ、やっぱり才能がある人は違うんだなぁ。 ほんと尊敬尊敬。尊敬しちゃいますよ」 「……多重能力者は存在しない筈ですわ」 「――でも多分『あたり』です。ぱちぱちぱち、すごいですね」 初春がわざとらしく手を合わせる。何度も何度も。拍手の音がやたらと虚しく響いた。 「これはもう高笑いでもするしかありませんよね。はっはっは」 拍手にわざとらしい高笑いも追加された。 「ふっふっふ、あら、なんだか楽しそうですわね」 白井のわざとらしい声も加わり一七七支部には笑い声が木霊した。 「わたくし急用を思い出しましたわ。初春、後はよろしくお願いしますですわ。それではごきげんよう」 踵を返し、そそくさと立ち去ろうとする白井の手をがしりと掴む物があった。言うまでも無い、初春の手だ。 「あーっと。そうは問屋が卸しませんよ。そんな都合良く急用とか思い出すわけ無いじゃ無いですか!」 「チッ」 「今、舌打ちしましたね?」 「してませんわ」 「絶対しました!あんなあからさまな舌打ち初めてです」 「気のせいですわよ」 白井はわざとらしく口笛を吹いた。 「いいですか白井さん、嘘はいけません。嘘は最低です。まぁ世の中には『吐いてもいい嘘』ってのも確かに存在しますけど、 それらはあくまでも例外って場所に分類しておいて欲しいんですよッ」 逃げられてたまるか!とばかりに白井の腰に初春がしがみついて来る。その目は真剣そのものだ。 「うわーん。このままでは私一人が面倒な事件に関わる事になってしまうのは明白なんです。一応定められたマニュアルに従って 本来の所轄である警備員の方々への連絡は済ましてあるんですけど、事態はどうも望まない方向へと転がって行ってるって感じ なんですよー。この前みたいに、応援の警備員の方々が私に状況説明を求めてくるのはもはや当たり前すぎて確定事項なんです!」 だから彼女は必死だ。もう一度繰り返す。初春飾利は必死だった。必死過ぎて白井を捕まえる両の手には必要以上に力が籠もっていた。 極端な話、とても痛い。白井が。白井黒子のウエストの辺りがとても痛い。 「嘘じゃありませんわ!わたくしの体内ではいま激しくお姉様エナジーが不足してますの!今にも枯渇しそうですのっ!」 「お姉様エナジー!?そんな不思議な成分が人間の体に存在する訳無いじゃ無いですか。冗談ばっかり言ってないでたまには 優しく手伝ってくれても良いじゃあ無いですかぁ!」 「わたくしの体には存在するんですのぉぉぉ!」 白井も初春とは別の意味で必死だった。 ここ最近お姉様――つまり敬愛する御坂美琴と白井黒子が接する時間は大幅に削られている。 それもこれも、このお花大好き少女が、白井に押し付けてくる、大小様々な厄介事の数々が、その原因の一つだ。 数々なのだから厳密には一つでは無かったりもするのだが、要するにこれ以上付き合ってられるか、と言う事だ。 「早急にお姉様エナジーを補わないと命の危険すらありえますわ。集中力も低下しますし」 「あんまり意地悪しないで下さいよ白井さん。私の命が危ないんですよ。知らないんですか?命が危ないととっても危険なんですよ!」 「訳がわかりませんわ。なんで状況説明だけでそこまで飛躍するんですの?とにかく今すぐにでもお姉様に熱烈な抱擁をしないと わたくしはきっと明日の夜明けを見る事無く死んでしまいますわ。だからその手を離しなさい初春ゥ」 右手で初春の頬を押しのけるようにして白井は抵抗を試みる。が、一向に初春は白井から離れない。 だって必死なのだ。全力なのだ。人間やろうと思えばとんでもない力が出せるのだ。俗に言う火事場のなんとやら、である。 「いやですぅぅ!白井さん知らないんですか?説明って面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いですよね?私だって嫌いなんです。 だから白井さんは私の手伝いをしてくれないと困っちゃうんです!手伝ってくださいよ白井さん」 初春の両手は白井の腰から首へと場所を変えた。ついでに締めた。キュッと締めた。 気道を圧迫され白井の息が詰まった。 「ぐぁ」 「警備員の人って本当に細かい事まで説明を求めてくるんですよ?細かい説明は面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いです! いいですか白井さん?私は面倒なのが嫌いなんです!だから手伝ってください、お願いです」 初春は半狂乱気味に喚き立て、掴んだ白井の首をそのままブンブンと激しく前後に揺する。 白井の首ががっくんがっくんと、ちょっとやばげに、壊れた水飲み人形みたいに動く。 「く、くるしいですわ……」 弱弱しく白井の手が初春の手を掴んだ。 「聞いてますか?白井さん。根掘り葉掘り聞かれるのはとにかく面倒です!面倒なのはみんな嫌いです。そうでしょ? 私も本当に面倒くさいのが嫌いなんです!いや嫌いなんじゃなくて本当は苦手なんですけど、この際どっちでも良いですね。 根掘り葉掘りの根掘りは判るとして葉堀りって一体なんなんでしょうね?根っこは掘れるけど葉っぱなんて掘ったら反対側が覗けちゃう と思うんですが、まあ今は関係無いですよね。 警備員(アンチスキル)の人もぺーぺーの風紀委員(ジャッジメント)である私の説明なんかより、すらすらと答えてくれそうな白井さんの方が良いに 決まってるじゃないですか!白井さん?白井さ~ん!私の話を聞いてくださ~い」 ヘッドバンギングはいよいよヘビメタ系アーティストのライブもかくやといった具合に絶好調の極みだった。 二本のツインテールの先っぽが空中に孤を描き、規則的な縦運動にはついに、右回転まで加わった。 遠心力は速度の二乗で増加し、白井の視界も螺旋を辿る。 「目が、息が――」 わなわなと痙攣しだした白井の両手の動きが不意に止まり、力無くだらんと垂れ下がる。 「白井さ~ん、寝たら死んじゃいますよぉ!起きてください起きてください起きてください――」 初春は訳の分からない台詞を吐きながら白井を揺する。揺する。超揺する。縦縦横横丸書いてちょん。上上下下右左右左BA。 とにかく揺すった。 「――シッ!!」 小さく吐き出した吐息と共にギラリと白井の目に一瞬だけ活力が戻った。 そして白井の両手が手刀の形を取り、下から一気に跳ね上がった。 目標は首を掴む初春の手首。 空中で合掌するように合わせられた手刀は、細い手首の間へと、強引に滑り込んだ。 そして人間の構造上どうしても力が掛かりにくい場所から左右へと力任せに押し開く。 「いい加減にしなさいですのぉぉ!」 「はぅぁ!?」 背景に巨大な炎を背負って大噴火したツインテールの怒号でビクゥ!と初春が正気に戻った。 風紀委員(ジャッジメント)の四ヶ月に及ぶ研修の中には基本的な格闘技の研修があったりする。 当然相手に掴まれた場合、首を絞められた場合の対処法もある。今のはその応用だ。 白井黒子の研修中に格闘技の研修を担当していた女性の警備員(アンチスキル)もまさか同じ風紀委員(ジャッジメント)同士でその成果を発揮する事に なるとは夢にも思うまい。 本当、人生何が役に立つか分からない。 白井はこの時、教官役の警備員(アンチスキル)に心から感謝した。 「そのうち本当に死んでしまいますわッ!少しアレンジしただけの同じ言葉を早口で誤魔化して何度も何度も使って畳みかけようとしても わたくしは断固として拒否致しますわ。結局あなたが面倒なだけじゃないですの!」 ダンダンダンと地団駄を踏み、続いてハァハァと荒い息をつく白井。なんだか目が据わってる。 「面倒くさいの嫌いなんですー。これだけ頼んでも引き受けてくれないっていうんですか? 白井さんのいけず!意地悪!ツインテール!腹黒!百合系!このお嬢様め!」 「なんですの、その言い草はッ、この花瓶!はなぺちゃ!やせっぽち!セーラー服娘!他力本願!地味子!発育不良! 頭の上だけじゃなくて中にまでお花が咲いてしまった四季折々娘!しっかり雑草を抜いておかないからこんな事になるんですの!」 「白井さんッ雑草などという草は無いんです!観念して手伝ってください」 「カッコいい事言いながらちゃっかりと自分の要求だけ通そうとするんじゃないですわ!」 思いつく限りの悪口(?)を互いに浴びせあい、二人の中学一年生による不毛な罵り合いはしばらく続いた。 数分後――。 「手伝う手伝わないは別として、そろそろ休戦致しませんこと?一応話ぐらいは聞いて差し上げますから」 白井が諦めたように呟くのは、二人の少女のボキャブラリーが双方共に尽きた頃だった。 「白井さんなら、そろそろそう言ってくれるって私信じてました。でも本当は手伝うって言って欲しいですね」 まだ言うか――と、空間移動(テレポート)で急接近した白井のデコピンが、カッツーンと初春のオデコに火を噴いた。 「のー!白井さんったら冗談が通じないんですから」 少し赤くなった額を押さえながら初春は言う。心無しか頭の花がすこししおれてる気がする。 初春は軽く涙目になりながら、給湯室に引っ込んだ。 「紅茶でいいですか?」 「コーヒーがあるならコーヒーで」 空きっ腹に紅茶を流し込むぐらいならコーヒーの方がまだ胃に優しそうな気がした。 少ししてコーヒーカップを持って初春が戻ってきた。数は二つ。もちろん初春と白井の分だ。 白井は差し出されたコーヒーカップを、適当なビジネスデスクに腰掛けて受け取った。 「なんで机なんです?」 これは初春の疑問。なんで机に座るのか?椅子ならいっぱいあるのに?という意味だろう。 「わたくし、その椅子嫌いですの」 即答で返す。 一七七支部にある椅子は、全てが初春が座る椅子と同じデザイン。普通の椅子は無い。 変にお尻にフィットするあの椅子は白井的に嫌だ。 椅子が無いと座れない。 だから消去法で座るのは机しか無いじゃないかという事になる。 行き着いた答えがコレだ。 「白井さん。お嬢様が机に腰掛けるのはお行儀悪いんじゃ無いですか?」 「例え机に腰掛けてても絵になるのが真のお嬢様ですのよ」 「そういうものですか?」 「そういうものですの」 「じゃあ御坂嬢がそれをやれば、さぞ絵になるんでしょうね」 まあ、しそうにありませんけどね――、と初春は続けたが白井の耳にはまるで届いていなかった。 (お姉様が机に腰掛けて!?ああ、なんてすばらしい構図!見下ろすあの勝気な瞳……考えただけでもゾクゾクしますわ) 脳内インスピレーションを全開で開放していた白井は、コーヒーカップを両手で持って固まっている様に見えた。 少なくとも初春にはそう見えた。 「白井さん?コーヒーはお嫌いでしたか?」 一向に飲まない白井を怪訝に思い、初春が声を掛けた。 「ハッ!?……ちょっと考え事をしてただけですわ。それにしてもこのコーヒーは入れた人間の心が反映されてる様に黒いですわね」 あはははは――、と二人の少女の乾いた笑いがオフィス調の部屋に響いた。 「やだなぁ白井さん、砂糖とミルクが欲しいなら素直にそう言ってくださいよ」 そして唐突にこんな事を言った。 「白井さん、コーヒーの楽しみ方を思いつきましたよ」 にこやかな笑顔で初春は、どこからとも無く取り出したスティックシュガーとポーションタイプのミルクを白井の持つコーヒーカップ へと注ぎ、プラスチックスプーンでぐるぐるとかき回す。 「コーヒーはまず見た目を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」 「それワインの楽しみ方じゃないですの?」 コーヒーカップの中では白と黒が渦巻いて混ざり合っていた。 「次に香ばしい香りを楽しんで……砂糖を入れてミルクを一杯」 「聞けよ話、ですの」 初春が手品のようにミルクのポーションを取り出してコーヒーカップに注ぐ。白井のカップの中身に白みが増した。 ついでに砂糖も追加された。 「最後に味を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」 「飲んでないじゃないですの……」 プラスチックスプーンが円を描き、更に追加されたミルクと砂糖を灰色の液体に溶かし込む。 「今回はコーヒーですけど。学校でお茶ってのは何度考えても優雅なイメージがありますよね。残骸事件の時は結局教えてもらえません でしたから今度本格的に紅茶を教えてくださいよ、白井さん。……砂糖を入れてミルクを一杯」 灰色をとっくに通り過ぎても白の侵食は止まらない。甘ったるい匂いをさせる『ほぼ白い飲み物』は溢れんばかりに増量された。 白井はとりあえず軽く脳天にチョップする事にした。 「って入れすぎですわ。いい加減にしないとコーヒーとミルクの比率が逆転してしまいますわよ」 「え、でも。白井さんの『黒いの』を私レベルまで『白く』するにはッぎゃわー!」 無言で白井のデコピンが炸裂。本日二発目の思いやりにかける破壊力に初春は額を押さえてヨタヨタとふらつく。 「わたくし面白くない冗談は嫌いですの。言うならもっと面白い冗談にしてもらえませんこと」 「ほんのウィットに富んだジョークだったのにぃ」 「カップの淵ぎりぎりにまでミルクと砂糖を継ぎ足して言うことはそれだけですの?」 レシピとしてはミルクがいくつか。スティックシュガーもやはりいくつか。いくつ追加されたかも判らない。でも飲まなくても判る。 きっと、とんでもなく甘い。いうなれば理不尽な甘さだ。どれくらい理不尽かといえば100gのシュークリームの中に含まれてる 砂糖の量が丁度100gですよ!ってぐらい理不尽だ。 甘さの表現で『獰猛』とか『狡猾』とかが使えるのならきっとそんな感じ。 ぶっちゃけると、とても飲めた物では無い。 全世界のコーヒーの製造に関わる人達、流通させてる人達に謝れ、ひたすら謝れ、謝りまくれとすら思える甘さだ。 だから飲まない。それどころか1㎜も動かせない。動かした瞬間に零れるのは目に見えている。 早々に白コーヒーに見切りをつけ、ポットの傍らにコーヒーカップを空間移動(テレポート)させ放置すると。 途端に手持ち無沙汰になりそっぽ向いてツインテールの先っぽを指先でいじくる羽目になった。 「白井さん」 初春の呼び掛けにぴくりと白井が反応を示し、顔を向けた。 「やっと本題ですの?」 「そうです。白井さんを呼び戻したのは他でも無くてですね」 初春はそこで一旦言葉を切った。少し考えてから一台のコンピューターへと向かい、白井に背を向けた。 白井がしばらく後姿を眺めてると無線LANで部屋中の端末とリンクしている横に置かれたプリンターが動き出した。 学園都市の電化製品は総じて高性能だ。 風紀委員第一七七支部備え付けの備品であるプリンターも例に漏れず、大いに静粛性を発揮し数枚のA4用紙を吐き出し動きを止める。 「まずはこれを見てもらえますか」 初春はプリンターからA4用紙を引っつかんで白井に差し出した。 とりあえず出された以上は受け取るしか無い。 白井は足をぶらぶらさせながら、ひょいとA4用紙をつまんで自分の顔の前まで持ってくると、ザッと書類に目を通す。 A4用紙の内容はいくつかの写真と検証で構成された報告書のような物。 とりあえず雰囲気だけ把握し白井は顔を上げた。 「なんですのこれ?」 「今日のお昼過ぎに繁華街を警邏中の警備員が発見した事故現場に関する報告書です」 「初耳ですわね」 「今言いました最新情報です」 初春が最新情報と言うからには本当に最新の情報なのだろう。こと情報収集に関しては白井も舌を巻くしかない程、初春飾利という 風紀委員(ジャッジメント)は優秀なのだ。 「初春、これはどういう事ですの?」 「読んだ通りですよ、白井さん」 「読んで判らないから聞いてるんですの」 書かれた文面をつらつらと読み進めるが、報告書特有の主観を取り払った表現で書かれてる為、いまいち状況が浮かんでこない。 報告書としては多分"良"なのだろう。白井的には"不可"だったが。 写真付で説明された文章を、斜めに読み進めていた白井の目は、ふと"ある一文"に留まった。 「"戦闘の痕跡有り"」 顔を上げて、パンッとA4用紙を右手の甲で叩き、白井はその言葉を強調した。 初春も、白井が言わんとする事がわかってるようで、淀むこと無く対応する。 「レーザープリンターのモノトーン画像じゃ良くわかりませんね。こっちに画像データもありますよ、見ますか?」 「見るに決まってますわ」 ビジネスデスクから飛び降りて、コンピューターを操作する初春の椅子の背もたれに片手を掛けてモニターを覗き込む。 サムネイルで表示された数枚の画像がモニターに表示されていた。 さきほどの書類に載っていた物と同じ。但しこちらは鮮明なカラー画像だ。 鋭い切り口で斜めに切断された街灯の支柱。 とんでもない圧力を受けて、ひしゃげ、粉砕され、小さな瓦礫になったコンクリート片と、それらが収まっていたであろう大穴の開いた コンクリート製の壁。 割れた窓ガラス。アスファルトに突き刺さった閉店した中華料理屋の看板。 続いて初春が操作するコンピューターのモニターにGPSのような地図が表示された。 「それは?」 「この赤いのがそれぞれの痕跡です。ここからこう移動してたんでは無いかと思われます」 地図にはいくつかの赤い点が点在していた。初春の指が痕跡を辿って行く。白井がその先を追えば繁華街の狭い路地裏の入り口辺りから 途端に赤い点が集中している。というかほとんどがここだ。 「現場はこの辺りですのね」 「ええ、この路地裏で戦闘していたのは間違いなさそうです。この路地裏は監視衛星の死角になっちゃうんですけど繁華街にも監視カメラは ありますからね。それに痕跡を分析すれば使われた能力も予想がつきます」 「目星はついてるということですの?」 「ええ。これが決め手です。おかげで假名垣さんに連絡が取れない理由がわかっちゃいましたよ。 そりゃ携帯が壊れてれば連絡取れないですよね」 そう言って初春はモニターの後ろの辺りをなにやらごそごそと探る。引っこ抜かれたその手には、警察の鑑識班が使いそうな チャック付の厚手のビニール袋が握られていた。 中身はピンク色の二つ折りタイプの携帯電話らしいもの。ヒンジ部分から乱暴に分割されている。 これでは通話はおろか電源すら入らないだろう。 「真っ二つにへし折られちゃってますね。地面に落ちた携帯電話を掴んでばっきん!ってところでしょうかね。 中身も強力な電磁波でも浴びたのかメモリーやらチップやら、とにかく全部オシャカです」 初春が片手を開く。パーです、と言いたいのだろう。 「掴んだのなら指紋が残ってるんじゃありませんこと?」 「さぁ?手袋でもしてたんですかね。携帯電話からは"一人分"の指紋しか出てきませんでした。携帯電話のシリアルナンバーも照合 しましたがこの携帯電話は間違いなく假名垣皐月(かながき さつき)さんの物です」 「路地裏の破壊跡は彼女が誰かと戦闘した跡というんですの?」 戦闘。それも割と全力で。画像のような破壊を行なえるだけの威力をもし人間が喰らったらどうなるかは容易に想像できる。 (でもそこまでやっても勝てていないですわ) 「痕跡から見てそれが正解だと思いますよ。真空の刃とかは風力使い(エアロシューター)の人達の得意技じゃ無いですか。 すごいですよね、あれって鉄でも切断できるんですよね」 「初春、假名垣さんの能力はその画像のような破壊を行なう事が可能なんですの?」 「可能です。ていうか楽勝です。假名垣さんは大能力者(レベル4)の風力使い(エアロシューター)、能力名は『気流操作』(エアロタービュランス)です。 書庫(バンク)にあった実験データだけでも様々な結果を残してます。竜巻だとか短距離の飛行とかいろいろ」 目をきらきらさせ期待に満ちた眼差しで、白井を見つめる初春の視線を、軽く無視して白井は、 「――ああ、なんだかわたくしって不幸なヒロインを演じれそうですわね。トラブルが勝手に舞い込んできますわ」 と零した。 初春が「トラブルメーカー体質なんじゃ無いですか?」とか言った後に、短い悲鳴をあげて虚空に消えた。 次の瞬間彼女は白井の後ろのビジネスデスクへと落下していた。「ぎゃ」と短い悲鳴が聞こえたが当然無視する。 「いきなり空間移動(テレポート)ですか白井さん!お花が落ちちゃったじゃ無いですか、もう」 「当たり前ですわ。不意打ちはいきなりする物ですもの。声を出して襲撃するのは三流のする事ですわ」 「お嬢様は普通襲撃なんてしないと思うのは私だけですかね、白井さん。まぁそれはそうと良いヒロインのコツって知ってますか? 今思いついちゃったんですが、そのうち忘れちゃうと思うんで特別に教えてあげちゃいますよ」 腰の辺りを押さえ、落っことした花冠を拾いなおした初春がそんな事を言った。 「教える代わりに手伝えと?」 「まさか。そんな事言いませんよ」 なんだか嬉しそうな初春。 「なら聞きましょうか。科学万歳なこの学園都市にはファンタジー小説みたいにヒロインを攫う悪いドラゴンも それを打倒する勇者もいませんわよ」 「何言ってるんですか、そんなファンタジー的な要素は必要ありませんよ。ヒロインが輝くにはたった一つの事をすればいいんですから」 「それはなんですの?」 首をかしげる白井。ヒロインに必要な事の候補が、いろいろと白井の頭を通過し、没と言う名のダストボックスへと捨てられていく。 いくつか白井にも該当しそうな候補もあったが、どこか違う気がした。 「わかりませんか?」 白井は唇に人差し指を軽く当てて、片目を瞑り考え込むが、やはり思い浮かばない。 やがて降参ですわ――、と両手を上に向けて肩を竦めた。 「わかりませんわ、それは必ずしも必要な事なんですの?」 「はい、必須事項です」 再び数秒考え込んだが結果は先程と大差ない。 せいぜい大きな亀に攫われるぐらいしか思い浮かばないが、それだと助けにくるのがヒゲオヤジだ。 白井はその脳内設定を全力で拒否した。 「やっぱりわかりませんわ」 白井の敗北宣言を聞いて、初春はビジネスデスクの上に座ったまま、 「それはですね――」 少し間を空け、 「まず事件に巻き込まれる事です」 とまだまだ発展途上の胸を張って、得意気に告げた。 「おや、こんな所におあつらえ向きな事件がありますよ。やりましたね白井さん、これでヒロイン確定です」 どうやら今日"も"白井黒子が『お姉様エナジー』を補充する事は出来そうに無さそうだ。 「はぁ……働き者ですわね、わたくしって」 深い溜息は、今の白井の気分を端的に表しているかの様だった。 [12月23日―PM14 32]
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1126.html
一方通行は体育館のドアを普通に開けると、そこには五十人の新入生たちがいた。 そしてその奥、体育館のステージの上には心理掌握がいた。そして一方通行はやることはわかっているので、とりあえずステージに飛び乗り、 心理掌握以外全員、一瞬で自分が出てきたドアにゴールを決めた。 「さすがレベル5の一方通行、一瞬でお掃除するなんてたいしたものね。さっきまでここにいた連中、一応レベル4なのよ?」 「うっせェ。テメェこそナニしてンだァ?俺に振られて勝手にプライド傷ついて、復讐ですかァ?」 「違う」 「ならさっさと用件話さねェとお星様になっちまうぜェ?」 「復讐じゃなくて、殺すの。そして私は頂点を手に入れて、あなたと一つになるの」 心理掌握は怖いほどにサラリと、『殺す』発言をした。こういう発言をするやつは自分を乙女チックとでもいうのだろうか?それはこっちからしたらヤンデレである。 一方通行はそう思ったが、何を言ってもかわらないので一つだけ聞いてみることにした。 「怖ェことサラリというなァ。ンで?どォやって俺殺ンだよ?」 「そんなの簡単。これを見て頂戴」 するとステージの脇からテレビを運んでくる新入生がやってきて、一方通行のよく知るものを見せてくれた。 「……人質ってわけか」 「ええ、まあね」 そこに映っていたのは、 自分の愛する少女、打ち止めが教室で元気よく手を上げている、とても幸せな映像だった。 「これは現在の彼女の様子、あなたが従わないとあっちにいるスナイパーがあの小学生を殺すわよ?」 なぜ自分にほれるババァは物騒なのだろうか?と、一方通行は頭を抱えた。 (ここは事実を教えてやったほうがいいのかァ?いや、ここはァはったりを咬ましたほうがまだましってモンだなァ!) ほんの数秒のあいだ思案した結果、一方通行は事実に近いはったりを思いつきそれを話し始めるであった。悪意ある笑みを含ませながら。 「殺そうとすんのはテメェの勝手だがよ・・・アイツが危険にさらされるとよォ、オレ様も含め世界中の上条の関係者とそのシンパ共がテメェを殺しに来っけで、それでもいいっツんなら・・・どうぞ御自由にぃ・・・」 その言葉を聴いた心理掌握は青ざめた顔になりながら質問を質問で返す。 「か、上条の関係者とそのシンパ?・・・・・・そ、そそそ、それってあ、あの恐ろしい魔術師たちも?」 「アァン、ナンでテメェ魔術師のことを?(・・・インヤァ待てよ、魔術師のことを知ってんならァ好都合じゃねェかァ!)」 「ど、どう・・・なんですの?」 「ああァ魔術師も出て来んだろうなァ。上条の奴ァ魔術師のトップとも交流があるし、その部下たち100人以上も個人的交流も持っているらしいかんなァ!」 「ひ・・・ひゃく?」 「(もう一押しだなァ)ああ、そうだ一国の女王とその娘たち三皇女たちも知り合いだったなァ。てェなるとその部下も動くだろうなァ」 「うあぁ・・・あ、あああ」 「(とどめといくかァ)ああれェ・・・そうなるとテメェをめぐって戦争になんなァ。ハッハァそりゃー良い、さあァ引き金を引くよう命令してみろォ!だがその瞬間、テメェをめぐって第四次世界大戦の勃発だアァァァアアアアアア!」 戦争勃発という言葉にさしもの心理掌握も耐え切れなくなり 「も・・・申し訳ありませんでした!金輪際アナタ様とアナタ様のご友人には一切手出しいたしません!スナイパーも引き上げさせますので、どうか戦争勃発という惨事にはしないで下さいませ!」 この謝罪により一方通行は心理掌握に心理戦で勝利を掴んだのである。 「ンじゃあサッサとスナイパーとやらも引き上げさせろ、余計な真似なンざしたら……分かってンな?」 「は、はひぃ! た、ただちにっ! ……あれ? つ、繋がりませんわ……」 すぐさまスナイパーを引き上げさせるように心理掌握に命令した一方通行だが、心理掌握がもたついてるのを見て怒鳴ろうとしたが突然自分の携帯が鳴った。 誰かと思ったら打ち止めだったのでギスギスした気持ちを抑えて電話に出る。 「何だよ? てめェまだ授業中だろうがァ、電話なんてかけていいのかよ?」 『それなんだけどねアサヒ先生がかけてくれって言ったからかけてるんだよってミサカはミサカは答えながらアサヒ先生に代わってみる』 『よぉアクセラ。向かいのビルからこっち、というか美咲華狙ってたスナイパーな、アレってお前が関係してんのか?』 打ち止めに代わって話し始めた朝陽の質問に驚きを隠せない一方通行、そこへさらに驚愕の事実がもたらされる。 『それと教室の外からこっちを覗いてた美琴そっくりの変な喋り方の子もお前の関係者か? 今、スナイパー狩りに行ってるから事情聞けないんだわ』 「……てめェ絶対マトモな経歴持ってねェだろ。まあ、スナイパーの件はこっちで解決……待て。誰にそっくりの女がスナイパー狩りに行ったって?」 『美琴そっくりの子だって言ったろ。他にはそうだな、でっかいゴーグルに胸元に可愛いハート型のネックレスしてたな。やっぱり知り合いか?』 「悪ィ、あンまり話したくねェンだわ。どうしても聞きてェってンならソイツに』 「じゃーいいわ。私はもう何も聞かんから安心しろ。美咲華は念の為に黄泉川を呼んで送らせるからな』 朝陽の言った特徴を聞いて御坂10032号こと御坂妹が打ち止めの学校に居たことを知った一方通行、驚きつつも誰の差し金か何となく分かった自分が虚しかった。 自分達の事情を察してくれて深く追求をしなかった朝陽から電話が切られた後で安堵した一方通行の携帯がまたしても鳴った、今度は御坂妹である。 『お久しぶりですねこのロリぺドビッチ野郎、とミサカはお茶目な挨拶と共にミサカの足元で無様にのびてるスナイパーの処遇を尋ねます』 「最初のクソふざけた挨拶はスナイパーの件でチャラにしてやる。それとスナイパーだがなァ、ジャッジメントかアンチスキルにでも引き渡しとけ」 『でしたらオーナー初春が所属する第一七七支部の前に転がしておきましょう、とミサカは提案します』 御坂妹の言葉から打ち止めの護衛に彼女を当たらせたのは初春だと確信する一方通行、というかこんなことを考えそうなのは彼女しかいないと当たりを付けていた。 『一応勘違いの無いように言っておきますと上位固体の護衛を依頼してきたのはオーナー初春ですが正式な許可をくれたのは先生です、とミサカは真実を口にします』 「……そうかよ。そ、それとだなァ、あ、ああああありがとな、アイツを守ってくれてよォ……」 『あなたからの素直じゃない感謝というのは嬉しいものですね、とミサカはぶっちゃけるとかなりキモイという本音を隠してあなたの言葉を受け取ります』 「てめェえええええええええええええっ!!! 今度会ったら覚え……切りやがったか、チッ」 小学校に居る打ち止めの護衛が御坂妹で安心した一方通行だが、実際のところ朝陽が居れば問題無いとか思っていたりする。 口の悪すぎる御坂妹の電話を怒りのまま切った一方通行、すっかり怯えきった心理掌握に最後に一つだけ尋ねる。 「ンじゃ俺は行くけどよォ、最後に聞かせろ。俺のどこが好きになったってンだァ?」 「そ、それはあなたが第一位にふ、相応しい力を持っているからですわ……。わ、私の隣に並び立つのには、あ、あなたのような強い能力者がふ、相応しいと……」 一方通行は呆れた、目の前の少女の好きになった動機が自分を倒して名を挙げようとする他の奴らと大差無い、すなわち能力者としての強さしか見ていないことに。 このまま無視して去ろうかと思ったが、打ち止めや当麻達の影響なのか柄にもないことを口にしてしまう、心理掌握の方は見ないで。 「……肩書きや力だけで好きになってンじゃねェよ。ンなコト考えてる間はなァ、誰もてめェを本当に好きになったりしねェぞ。当然俺もな」 「で、では、どうすればいいのです?」 「愛だの恋だのってのはなァ、肩書きや能力だけじゃ成り立たねェンだよ。後はてめェで考えろバカ」 本当は自分の弱さや性格、全てをひっくるめて思ってくれている打ち止めの惚気をしようとしたがすぐに考え直した。 体育館から去った一方通行をポーッと見ていた心理掌握、彼の言葉を聞いていい方向に変わっていくのだがそれはまだ先の話。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/865.html
[14]Interval extra02―初春さんと置いてけぼりツインテール 「明日はクリスマス・イヴだと言うのに、なんでわたくしだけこんなに働き者なんですの?」 誰とは無しに零れた嘆きの言葉は、コンクリートの冷たい壁に反響し消える。 狭い廊下を歩きながら、白井は自分で言っててなんだが少し悲しくなった。 本当なら憧れのお姉様に、一日中べったりと付きまとっていたいのだが、どういうわけか今日"も"次々と仕事が入る。 おかげで朝から学園都市中を飛び回る羽目になっている。 もちろん昼食なんてまだだ。お腹も大分空いている。 もう、西に事件あると聞けば西に、東に事件あると聞けば東に、といった感じだ。 「ダイエットには丁度良いのですけれどね」 と自分のほっそりとした腰に手を当て独り言をぽつり。軽く自虐的に笑いながらも、規則的に足は動かす。 自らのトレードマークである茶色のツインテールを従えて、長い廊下を歩く白井は、今のところ誰ともすれ違っていなかった。 もともとこの建物を訪れる人間の数はそう多くないので、少しも不思議と思わない。 訪れるのはごく一部の人間。 不機嫌そうに進むツインテールの少女の様に、緑の腕章をつけた風紀委員(ジャッジメント)ぐらいだ。 風紀委員(ジャッジメント)には幾つも支部がある。風紀委員(ジャッジメント)は、それぞれ所属する学園の治安を守るのが、本来の役目である。 だから風紀委員(ジャッジメント)の支部は、各学園に一個づつ作られているし、風紀委員(ジャッジメント)は、各学園から選出される。 それこそ数えるのも馬鹿らしくなるくらい存在する支部は、白井も総数でいくつあるのか良く知らないし、別に興味も無い。 お昼前に"学外"で起きた、"ちょっとした揉め事"を解決した白井黒子が、肩で風を切るというおよそお嬢様らしからぬ様子で歩く、 硬く冷たい感触のリノリウムの廊下がある建物も、その一つだった。 白井の、『歩く』というよりは既に早足に近い足取りは、彼女の今の気分を代弁するかのように、パタパタとスリッパが床を叩く音を 撒き散らしていた。 しばらく無人の廊下を歩いた先にゴールはあった。 『風紀委員活動第一七七支部』とこの部屋を示す長方形のプレートを睨みつけて、白井はドアの横にある四角いガラス板に自分の 人差し指をくっつけた。 ピッ、と小さな電子音がした。 (毎度毎度面倒ですの。いっそ自動で開いて欲しいものですわ) もう一度わざとらしい電子音が聞こえると、指紋、静脈、指先の微振動パターンが登録されたデータと一致しないと解除されない 厳重なロックが解除された。 「入りますわよッ初春!」 意識して出した大音量の叫びと共に、豪快にドアを開け放ち、白井は部屋の中に入った。 機能性のみが追及された殺風景で飾り気の無い風紀委員(ジャッジメント)の支部。 あまり広くは無いオフィスのような空間にいるのは中学生くらいの少女が一人。他には誰も居ない。 役所に置いてあるようなビジネスデスクが並び幾つもの最新式コンピューターがその上に鎮座しているだけだ。 「白井さんったらそんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてますよー」 頭の上にお花畑を咲かせてる少女――初春飾利はケラケラと笑いながら『人間工学的に疲れない変な形の椅子』を180度回転させて 振り返り、甘ったるい声を返してきた。 一般的なデザインの紺色のセーラー服を着ているが、どこか服に着られてる感じがする少女。左腕にはやはり白井の物と同じ緑の腕章。 この部屋は、風紀委員(ジャッジメント)の支部であり、入り口のドアのロックは、一部の例外を除き、風紀委員(ジャッジメント)として登録されて いる人間にしか開ける事は出来ない。 つまり、この部屋に居る=風紀委員(ジャッジメント)という図式が出来上がる。 彼女も白井と同じ風紀委員(ジャッジメント)だった。 だが一口に風紀委員(ジャッジメント)と言ってもピンからキリまである。 大多数の風紀委員(ジャッジメント)は異能力者(レベル2)よくても強能力者(レベル3)がほとんど。白井のような大能力者(レベル4)なんてのはむしろ 稀だ。中には能力の強度なんて関係無しに有能なのも居たりするがそれは更に稀と言っていい。 例えば白井の目の前にいる中学一年生の少女みたいに。 能力によって得意な任務が違ったりする、という面もあるから単純に、能力の強度=風紀委員(ジャッジメント)の実力というのは、 あまり成り立たない。適材適所。なんと良い言葉だろうか。 初春飾利はどっちかと言えば有能の部類に分類されるのだろう。白井から見ても初春の情報収集能力はちょっとずば抜けている。 その上よくコンビを組むのが機動力&戦闘力抜群の白井だ。自然と『お仕事達成率』は高くなる。 白井はツカツカパタパタと初春の方へと歩み寄った。 「ごきげんよう初春。帰ってもよろしいですの?」 顔だけ笑って告げた。 「ごきげんよう白井さん……って突然お嬢様っぽい挨拶で煙に巻こうとしても駄目!絶対駄目です!」 椅子の上に立ち上がった初春は両手で大きくバッテンを作った。 誰かの舌打ちが小さく鳴った。 「それはそうと初春。なんか前にもこんなパターンで呼び出された事があった気がするのは気のせいですわよね。あんな大事件が ホイホイと起きてもらっても困りますものね」 遠い目をした白井が言ってるのは『残骸』を巡って九月十四日に繰り広げられたあの事件の事。 今回もあの時の様に初春が電話で「白井さんちょっと支部まで」って言うものだからわざわざ支部まで出向いてやったのだ。 「白井さんったら、やっぱり予知能力(ファービジョン)系の方向に目覚めたんですね。いやぁ、やっぱり才能がある人は違うんだなぁ。 ほんと尊敬尊敬。尊敬しちゃいますよ」 「……多重能力者は存在しない筈ですわ」 「――でも多分『あたり』です。ぱちぱちぱち、すごいですね」 初春がわざとらしく手を合わせる。何度も何度も。拍手の音がやたらと虚しく響いた。 「これはもう高笑いでもするしかありませんよね。はっはっは」 拍手にわざとらしい高笑いも追加された。 「ふっふっふ、あら、なんだか楽しそうですわね」 白井のわざとらしい声も加わり一七七支部には笑い声が木霊した。 「わたくし急用を思い出しましたわ。初春、後はよろしくお願いしますですわ。それではごきげんよう」 踵を返し、そそくさと立ち去ろうとする白井の手をがしりと掴む物があった。言うまでも無い、初春の手だ。 「あーっと。そうは問屋が卸しませんよ。そんな都合良く急用とか思い出すわけ無いじゃ無いですか!」 「チッ」 「今、舌打ちしましたね?」 「してませんわ」 「絶対しました!あんなあからさまな舌打ち初めてです」 「気のせいですわよ」 白井はわざとらしく口笛を吹いた。 「いいですか白井さん、嘘はいけません。嘘は最低です。まぁ世の中には『吐いてもいい嘘』ってのも確かに存在しますけど、 それらはあくまでも例外って場所に分類しておいて欲しいんですよッ」 逃げられてたまるか!とばかりに白井の腰に初春がしがみついて来る。その目は真剣そのものだ。 「うわーん。このままでは私一人が面倒な事件に関わる事になってしまうのは明白なんです。一応定められたマニュアルに従って 本来の所轄である警備員の方々への連絡は済ましてあるんですけど、事態はどうも望まない方向へと転がって行ってるって感じ なんですよー。この前みたいに、応援の警備員の方々が私に状況説明を求めてくるのはもはや当たり前すぎて確定事項なんです!」 だから彼女は必死だ。もう一度繰り返す。初春飾利は必死だった。必死過ぎて白井を捕まえる両の手には必要以上に力が籠もっていた。 極端な話、とても痛い。白井が。白井黒子のウエストの辺りがとても痛い。 「嘘じゃありませんわ!わたくしの体内ではいま激しくお姉様エナジーが不足してますの!今にも枯渇しそうですのっ!」 「お姉様エナジー!?そんな不思議な成分が人間の体に存在する訳無いじゃ無いですか。冗談ばっかり言ってないでたまには 優しく手伝ってくれても良いじゃあ無いですかぁ!」 「わたくしの体には存在するんですのぉぉぉ!」 白井も初春とは別の意味で必死だった。 ここ最近お姉様――つまり敬愛する御坂美琴と白井黒子が接する時間は大幅に削られている。 それもこれも、このお花大好き少女が、白井に押し付けてくる、大小様々な厄介事の数々が、その原因の一つだ。 数々なのだから厳密には一つでは無かったりもするのだが、要するにこれ以上付き合ってられるか、と言う事だ。 「早急にお姉様エナジーを補わないと命の危険すらありえますわ。集中力も低下しますし」 「あんまり意地悪しないで下さいよ白井さん。私の命が危ないんですよ。知らないんですか?命が危ないととっても危険なんですよ!」 「訳がわかりませんわ。なんで状況説明だけでそこまで飛躍するんですの?とにかく今すぐにでもお姉様に熱烈な抱擁をしないと わたくしはきっと明日の夜明けを見る事無く死んでしまいますわ。だからその手を離しなさい初春ゥ」 右手で初春の頬を押しのけるようにして白井は抵抗を試みる。が、一向に初春は白井から離れない。 だって必死なのだ。全力なのだ。人間やろうと思えばとんでもない力が出せるのだ。俗に言う火事場のなんとやら、である。 「いやですぅぅ!白井さん知らないんですか?説明って面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いですよね?私だって嫌いなんです。 だから白井さんは私の手伝いをしてくれないと困っちゃうんです!手伝ってくださいよ白井さん」 初春の両手は白井の腰から首へと場所を変えた。ついでに締めた。キュッと締めた。 気道を圧迫され白井の息が詰まった。 「ぐぁ」 「警備員の人って本当に細かい事まで説明を求めてくるんですよ?細かい説明は面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いです! いいですか白井さん?私は面倒なのが嫌いなんです!だから手伝ってください、お願いです」 初春は半狂乱気味に喚き立て、掴んだ白井の首をそのままブンブンと激しく前後に揺する。 白井の首ががっくんがっくんと、ちょっとやばげに、壊れた水飲み人形みたいに動く。 「く、くるしいですわ……」 弱弱しく白井の手が初春の手を掴んだ。 「聞いてますか?白井さん。根掘り葉掘り聞かれるのはとにかく面倒です!面倒なのはみんな嫌いです。そうでしょ? 私も本当に面倒くさいのが嫌いなんです!いや嫌いなんじゃなくて本当は苦手なんですけど、この際どっちでも良いですね。 根掘り葉掘りの根掘りは判るとして葉堀りって一体なんなんでしょうね?根っこは掘れるけど葉っぱなんて掘ったら反対側が覗けちゃう と思うんですが、まあ今は関係無いですよね。 警備員(アンチスキル)の人もぺーぺーの風紀委員(ジャッジメント)である私の説明なんかより、すらすらと答えてくれそうな白井さんの方が良いに 決まってるじゃないですか!白井さん?白井さ~ん!私の話を聞いてくださ~い」 ヘッドバンギングはいよいよヘビメタ系アーティストのライブもかくやといった具合に絶好調の極みだった。 二本のツインテールの先っぽが空中に孤を描き、規則的な縦運動にはついに、右回転まで加わった。 遠心力は速度の二乗で増加し、白井の視界も螺旋を辿る。 「目が、息が――」 わなわなと痙攣しだした白井の両手の動きが不意に止まり、力無くだらんと垂れ下がる。 「白井さ~ん、寝たら死んじゃいますよぉ!起きてください起きてください起きてください――」 初春は訳の分からない台詞を吐きながら白井を揺する。揺する。超揺する。縦縦横横丸書いてちょん。上上下下右左右左BA。 とにかく揺すった。 「――シッ!!」 小さく吐き出した吐息と共にギラリと白井の目に一瞬だけ活力が戻った。 そして白井の両手が手刀の形を取り、下から一気に跳ね上がった。 目標は首を掴む初春の手首。 空中で合掌するように合わせられた手刀は、細い手首の間へと、強引に滑り込んだ。 そして人間の構造上どうしても力が掛かりにくい場所から左右へと力任せに押し開く。 「いい加減にしなさいですのぉぉ!」 「はぅぁ!?」 背景に巨大な炎を背負って大噴火したツインテールの怒号でビクゥ!と初春が正気に戻った。 風紀委員(ジャッジメント)の四ヶ月に及ぶ研修の中には基本的な格闘技の研修があったりする。 当然相手に掴まれた場合、首を絞められた場合の対処法もある。今のはその応用だ。 白井黒子の研修中に格闘技の研修を担当していた女性の警備員(アンチスキル)もまさか同じ風紀委員(ジャッジメント)同士でその成果を発揮する事に なるとは夢にも思うまい。 本当、人生何が役に立つか分からない。 白井はこの時、教官役の警備員(アンチスキル)に心から感謝した。 「そのうち本当に死んでしまいますわッ!少しアレンジしただけの同じ言葉を早口で誤魔化して何度も何度も使って畳みかけようとしても わたくしは断固として拒否致しますわ。結局あなたが面倒なだけじゃないですの!」 ダンダンダンと地団駄を踏み、続いてハァハァと荒い息をつく白井。なんだか目が据わってる。 「面倒くさいの嫌いなんですー。これだけ頼んでも引き受けてくれないっていうんですか? 白井さんのいけず!意地悪!ツインテール!腹黒!百合系!このお嬢様め!」 「なんですの、その言い草はッ、この花瓶!はなぺちゃ!やせっぽち!セーラー服娘!他力本願!地味子!発育不良! 頭の上だけじゃなくて中にまでお花が咲いてしまった四季折々娘!しっかり雑草を抜いておかないからこんな事になるんですの!」 「白井さんッ雑草などという草は無いんです!観念して手伝ってください」 「カッコいい事言いながらちゃっかりと自分の要求だけ通そうとするんじゃないですわ!」 思いつく限りの悪口(?)を互いに浴びせあい、二人の中学一年生による不毛な罵り合いはしばらく続いた。 数分後――。 「手伝う手伝わないは別として、そろそろ休戦致しませんこと?一応話ぐらいは聞いて差し上げますから」 白井が諦めたように呟くのは、二人の少女のボキャブラリーが双方共に尽きた頃だった。 「白井さんなら、そろそろそう言ってくれるって私信じてました。でも本当は手伝うって言って欲しいですね」 まだ言うか――と、空間移動(テレポート)で急接近した白井のデコピンが、カッツーンと初春のオデコに火を噴いた。 「のー!白井さんったら冗談が通じないんですから」 少し赤くなった額を押さえながら初春は言う。心無しか頭の花がすこししおれてる気がする。 初春は軽く涙目になりながら、給湯室に引っ込んだ。 「紅茶でいいですか?」 「コーヒーがあるならコーヒーで」 空きっ腹に紅茶を流し込むぐらいならコーヒーの方がまだ胃に優しそうな気がした。 少ししてコーヒーカップを持って初春が戻ってきた。数は二つ。もちろん初春と白井の分だ。 白井は差し出されたコーヒーカップを、適当なビジネスデスクに腰掛けて受け取った。 「なんで机なんです?」 これは初春の疑問。なんで机に座るのか?椅子ならいっぱいあるのに?という意味だろう。 「わたくし、その椅子嫌いですの」 即答で返す。 一七七支部にある椅子は、全てが初春が座る椅子と同じデザイン。普通の椅子は無い。 変にお尻にフィットするあの椅子は白井的に嫌だ。 椅子が無いと座れない。 だから消去法で座るのは机しか無いじゃないかという事になる。 行き着いた答えがコレだ。 「白井さん。お嬢様が机に腰掛けるのはお行儀悪いんじゃ無いですか?」 「例え机に腰掛けてても絵になるのが真のお嬢様ですのよ」 「そういうものですか?」 「そういうものですの」 「じゃあ御坂嬢がそれをやれば、さぞ絵になるんでしょうね」 まあ、しそうにありませんけどね――、と初春は続けたが白井の耳にはまるで届いていなかった。 (お姉様が机に腰掛けて!?ああ、なんてすばらしい構図!見下ろすあの勝気な瞳……考えただけでもゾクゾクしますわ) 脳内インスピレーションを全開で開放していた白井は、コーヒーカップを両手で持って固まっている様に見えた。 少なくとも初春にはそう見えた。 「白井さん?コーヒーはお嫌いでしたか?」 一向に飲まない白井を怪訝に思い、初春が声を掛けた。 「ハッ!?……ちょっと考え事をしてただけですわ。それにしてもこのコーヒーは入れた人間の心が反映されてる様に黒いですわね」 あはははは――、と二人の少女の乾いた笑いがオフィス調の部屋に響いた。 「やだなぁ白井さん、砂糖とミルクが欲しいなら素直にそう言ってくださいよ」 そして唐突にこんな事を言った。 「白井さん、コーヒーの楽しみ方を思いつきましたよ」 にこやかな笑顔で初春は、どこからとも無く取り出したスティックシュガーとポーションタイプのミルクを白井の持つコーヒーカップ へと注ぎ、プラスチックスプーンでぐるぐるとかき回す。 「コーヒーはまず見た目を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」 「それワインの楽しみ方じゃないですの?」 コーヒーカップの中では白と黒が渦巻いて混ざり合っていた。 「次に香ばしい香りを楽しんで……砂糖を入れてミルクを一杯」 「聞けよ話、ですの」 初春が手品のようにミルクのポーションを取り出してコーヒーカップに注ぐ。白井のカップの中身に白みが増した。 ついでに砂糖も追加された。 「最後に味を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」 「飲んでないじゃないですの……」 プラスチックスプーンが円を描き、更に追加されたミルクと砂糖を灰色の液体に溶かし込む。 「今回はコーヒーですけど。学校でお茶ってのは何度考えても優雅なイメージがありますよね。残骸事件の時は結局教えてもらえません でしたから今度本格的に紅茶を教えてくださいよ、白井さん。……砂糖を入れてミルクを一杯」 灰色をとっくに通り過ぎても白の侵食は止まらない。甘ったるい匂いをさせる『ほぼ白い飲み物』は溢れんばかりに増量された。 白井はとりあえず軽く脳天にチョップする事にした。 「って入れすぎですわ。いい加減にしないとコーヒーとミルクの比率が逆転してしまいますわよ」 「え、でも。白井さんの『黒いの』を私レベルまで『白く』するにはッぎゃわー!」 無言で白井のデコピンが炸裂。本日二発目の思いやりにかける破壊力に初春は額を押さえてヨタヨタとふらつく。 「わたくし面白くない冗談は嫌いですの。言うならもっと面白い冗談にしてもらえませんこと」 「ほんのウェットに富んだジョークだったのにぃ」 「カップの淵ぎりぎりにまでミルクと砂糖を継ぎ足して言うことはそれだけですの?」 レシピとしてはミルクがいくつか。スティックシュガーもやはりいくつか。いくつ追加されたかも判らない。でも飲まなくても判る。 きっと、とんでもなく甘い。いうなれば理不尽な甘さだ。どれくらい理不尽かといえば100gのシュークリームの中に含まれてる 砂糖の量が丁度100gですよ!ってぐらい理不尽だ。 甘さの表現で『獰猛』とか『狡猾』とかが使えるのならきっとそんな感じ。 ぶっちゃけると、とても飲めた物では無い。 全世界のコーヒーの製造に関わる人達、流通させてる人達に謝れ、ひたすら謝れ、謝りまくれとすら思える甘さだ。 だから飲まない。それどころか1㎜も動かせない。動かした瞬間に零れるのは目に見えている。 早々に白コーヒーに見切りをつけ、ポットの傍らにコーヒーカップを空間移動(テレポート)させ放置すると。 途端に手持ち無沙汰になりそっぽ向いてツインテールの先っぽを指先でいじくる羽目になった。 「白井さん」 初春の呼び掛けにぴくりと白井が反応を示し、顔を向けた。 「やっと本題ですの?」 「そうです。白井さんを呼び戻したのは他でも無くてですね」 初春はそこで一旦言葉を切った。少し考えてから一台のコンピューターへと向かい、白井に背を向けた。 白井がしばらく後姿を眺めてると無線LANで部屋中の端末とリンクしている横に置かれたプリンターが動き出した。 学園都市の電化製品は総じて高性能だ。 風紀委員第一七七支部備え付けの備品であるプリンターも例に漏れず、大いに静粛性を発揮し数枚のA4用紙を吐き出し動きを止める。 「まずはこれを見てもらえますか」 初春はプリンターからA4用紙を引っつかんで白井に差し出した。 とりあえず出された以上は受け取るしか無い。 白井は足をぶらぶらさせながら、ひょいとA4用紙をつまんで自分の顔の前まで持ってくると、ザッと書類に目を通す。 A4用紙の内容はいくつかの写真と検証で構成された報告書のような物。 とりあえず雰囲気だけ把握し白井は顔を上げた。 「なんですのこれ?」 「今日のお昼過ぎに繁華街を警邏中の警備員が発見した事故現場に関する報告書です」 「初耳ですわね」 「今言いました最新情報です」 初春が最新情報と言うからには本当に最新の情報なのだろう。こと情報収集に関しては白井も舌を巻くしかない程、初春飾利という 風紀委員(ジャッジメント)は優秀なのだ。 「初春、これはどういう事ですの?」 「読んだ通りですよ、白井さん」 「読んで判らないから聞いてるんですの」 書かれた文面をつらつらと読み進めるが、報告書特有の主観を取り払った表現で書かれてる為、いまいち状況が浮かんでこない。 報告書としては多分"良"なのだろう。白井的には"不可"だったが。 写真付で説明された文章を、斜めに読み進めていた白井の目は、ふと"ある一文"に留まった。 「"戦闘の痕跡有り"」 顔を上げて、パンッとA4用紙を右手の甲で叩き、白井はその言葉を強調した。 初春も、白井が言わんとする事がわかってるようで、淀むこと無く対応する。 「レーザープリンターのモノトーン画像じゃ良くわかりませんね。こっちに画像データもありますよ、見ますか?」 「見るに決まってますわ」 ビジネスデスクから飛び降りて、コンピューターを操作する初春の椅子の背もたれに片手を掛けてモニターを覗き込む。 サムネイルで表示された数枚の画像がモニターに表示されていた。 さきほどの書類に載っていた物と同じ。但しこちらは鮮明なカラー画像だ。 鋭い切り口で斜めに切断された街灯の支柱。 とんでもない圧力を受けて、ひしゃげ、粉砕され、小さな瓦礫になったコンクリート片と、それらが収まっていたであろう大穴の開いた コンクリート製の壁。 割れた窓ガラス。アスファルトに突き刺さった閉店した中華料理屋の看板。 続いて初春が操作するコンピューターのモニターにGPSのような地図が表示された。 「それは?」 「この赤いのがそれぞれの痕跡です。ここからこう移動してたんでは無いかと思われます」 地図にはいくつかの赤い点が点在していた。初春の指が痕跡を辿って行く。白井がその先を追えば繁華街の狭い路地裏の入り口辺りから 途端に赤い点が集中している。というかほとんどがここだ。 「現場はこの辺りですのね」 「ええ、この路地裏で戦闘していたのは間違いなさそうです。この路地裏は監視衛星の死角になっちゃうんですけど繁華街にも監視カメラは ありますからね。それに痕跡を分析すれば使われた能力も予想がつきます」 「目星はついてるということですの?」 「ええ。これが決め手です。おかげで假名垣さんに連絡が取れない理由がわかっちゃいましたよ。 そりゃ携帯が壊れてれば連絡取れないですよね」 そう言って初春はモニターの後ろの辺りをなにやらごそごそと探る。引っこ抜かれたその手には、警察の鑑識班が使いそうな チャック付の厚手のビニール袋が握られていた。 中身はピンク色の二つ折りタイプの携帯電話らしいもの。ヒンジ部分から乱暴に分割されている。 これでは通話はおろか電源すら入らないだろう。 「真っ二つにへし折られちゃってますね。地面に落ちた携帯電話を掴んでばっきん!ってところでしょうかね。 中身も強力な電磁波でも浴びたのかメモリーやらチップやら、とにかく全部オシャカです」 初春が片手を開く。パーです、と言いたいのだろう。 「掴んだのなら指紋が残ってるんじゃありませんこと?」 「さぁ?手袋でもしてたんですかね。携帯電話からは"一人分"の指紋しか出てきませんでした。携帯電話のシリアルナンバーも照合 しましたがこの携帯電話は間違いなく假名垣皐月(かながき さつき)さんの物です」 「路地裏の破壊跡は彼女が誰かと戦闘した跡というんですの?」 戦闘。それも割と全力で。画像のような破壊を行なえるだけの威力をもし人間が喰らったらどうなるかは容易に想像できる。 (でもそこまでやっても勝てていないですわ) 「痕跡から見てそれが正解だと思いますよ。真空の刃とかは風力使い(エアロシューター)の人達の得意技じゃ無いですか。 すごいですよね、あれって鉄でも切断できるんですよね」 「初春、假名垣さんの能力はその画像のような破壊を行なう事が可能なんですの?」 「可能です。ていうか楽勝です。假名垣さんは大能力者(レベル4)の風力使い(エアロシューター)、能力名は『気流操作』(エアロタービュランス)です。 書庫(バンク)にあった実験データだけでも様々な結果を残してます。竜巻だとか短距離の飛行とかいろいろ」 目をきらきらさせ期待に満ちた眼差しで、白井を見つめる初春の視線を、軽く無視して白井は、 「――ああ、なんだかわたくしって不幸なヒロインを演じれそうですわね。トラブルが勝手に舞い込んできますわ」 と零した。 初春が「トラブルメーカー体質なんじゃ無いですか?」とか言った後に、短い悲鳴をあげて虚空に消えた。 次の瞬間彼女は白井の後ろのビジネスデスクへと落下していた。「ぎゃ」と短い悲鳴が聞こえたが当然無視する。 「いきなり空間移動(テレポート)ですか白井さん!お花が落ちちゃったじゃ無いですか、もう」 「当たり前ですわ。不意打ちはいきなりする物ですもの。声を出して襲撃するのは三流のする事ですわ」 「お嬢様は普通襲撃なんてしないと思うのは私だけですかね、白井さん。まぁそれはそうと良いヒロインのコツって知ってますか? 今思いついちゃったんですが、そのうち忘れちゃうと思うんで特別に教えてあげちゃいますよ」 腰の辺りを押さえ、落っことした花冠を拾いなおした初春がそんな事を言った。 「教える代わりに手伝えと?」 「まさか。そんな事言いませんよ」 なんだか嬉しそうな初春。 「なら聞きましょうか。科学万歳なこの学園都市にはファンタジー小説みたいにヒロインを攫う悪いドラゴンも それを打倒する勇者もいませんわよ」 「何言ってるんですか、そんなファンタジー的な要素は必要ありませんよ。ヒロインが輝くにはたった一つの事をすればいいんですから」 「それはなんですの?」 首をかしげる白井。ヒロインに必要な事の候補が、いろいろと白井の頭を通過し、没と言う名のダストボックスへと捨てられていく。 いくつか白井にも該当しそうな候補もあったが、どこか違う気がした。 「わかりませんか?」 白井は唇に人差し指を軽く当てて、片目を瞑り考え込むが、やはり思い浮かばない。 やがて降参ですわ――、と両手を上に向けて肩を竦めた。 「わかりませんわ、それは必ずしも必要な事なんですの?」 「はい、必須事項です」 再び数秒考え込んだが結果は先程と大差ない。 せいぜい大きな亀に攫われるぐらいしか思い浮かばないが、それだと助けにくるのがヒゲオヤジだ。 白井はその脳内設定を全力で拒否した。 「やっぱりわかりませんわ」 白井の敗北宣言を聞いて、初春はビジネスデスクの上に座ったまま、 「それはですね――」 少し間を空け、 「まず事件に巻き込まれる事です」 とまだまだ発展途上の胸を張って、得意気に告げた。 「おや、こんな所におあつらえ向きな事件がありますよ。やりましたね白井さん、これでヒロイン確定です」 どうやら今日"も"白井黒子が『お姉様エナジー』を補充する事は出来そうに無さそうだ。 「はぁ……働き者ですわね、わたくしって」 深い溜息は、今の白井の気分を端的に表しているかの様だった。 [12月23日―PM14 32]
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2496.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/秋終わり、恋は終わり始まる 第四章 この物語にヒロインは居ない 上条当麻を主人公と見立てるならば、御坂美琴は間違いなくヒロインだろう。 ヒロインと言ってもいろいろなジャンルはある。 『ツンデレ』だったり『ヤンデレ』だったり。 そう仮定するなら御坂美琴は『ツンデレ』なのだろうか。 物語は『ヒロイン』が必要だ。 『ヒロイン』が女である必要も無い。ギリシャ語でヒロインとは『女英雄』だったとしてもだ。 主人公は常に物語の中心で無ければならない。 この物語に『ヒロイン』が存在しない。 何故なら今回の話は全て御坂美琴を中心に起こった事件だからだ。 そして片方の主人公はヒロインとなり、そしてヒロインを守る騎士として主人公として戦う。 * (12月29日。早朝、午前7時30分。第六学区ターミナル駅前) 「間に合ったか」 敵の位置は既に割れていた。 上条は病院から出された栄養補給食品を頬張りながら切符を買った。 神奈川県にある御坂宅に学園都市製の盗聴器があるらしく、白井黒子の同僚、初春飾利がその盗聴器を持ってきて貰えば例え潰れていたとしても 相手の位置を特定できると、上条に言って回収作業に当たっていた。 回収部隊は白井黒子と上条。 特定するのは初春飾利でその補助が佐天涙子だった。 御坂美琴は使えない。下手に動けば犯人に見つかってしまうからだ。 「初春さん、ターミナル前だ。今から御坂宅に向かうよ」 『はい、取り敢えず電磁波で確認できた盗聴器は3つ。トイレと、御坂さんの部屋と、リビングです』 「了解」 『ああ、後。複数犯の可能性が高いので気をつけてくださいね』 小型のトランシーバーを切ると、新幹線がやってくる。 まだこの時間だ。人もそれ程多くない。 上条と黒子は乗り込んだ。 学園都市製ではなく、都市外で作られた新幹線でスペックは最新型の新幹線よりもかなり劣るとか。 それでも有に300キロ近くは出ているのだ。 遅いわけがない。 「新幹線なんて乗るの初めてだな」 「そうですの?私は帰省の際に何度か。実家が大阪ですの」 「へぇ関西弁とか話すのか?」 「いえ、話せないことはないんですが……。私が関西弁で話している所を想像出来ます?」 「できねぇな」 「いいですのよ?これから関西弁で話しても」 という間にも二人は焦っていた。 こうして何も出来ない時間が無駄過ぎる。 御坂美琴は行動を悟られない為に寮内に居るが、軽い軟禁状態だ。 出来るだけストレスを減らそうと、シェフも朝夕晩の食事のメニューを変えてみたり、気分転換に掃除させてみたりといろいろ行なっているらしい。 上条は御坂のメールアドレスを思い出して、メールを打っていたが白井黒子が携帯電話を取り上げる。 「駄目ですわよ。今メールなんてしたら特定されますの。お姉様の個人情報なんて無いに等しいのですから」 「……だよなぁ」 上条は打ち掛けのメールを閉じて、携帯電話をポケットに突っ込んだ。 はぁと溜息をつく黒子だったが、上条は理由を聞こうとしない。 * 「ついたなっ……」 「意外と、質素な家ですわね」 「そうか?十分良い家だと思うけどな」 インターフォンを鳴らした。 しかし家主どころか美鈴さえ出てこない。 数回押したが、出てくる気配が無いので黒子が中にテレポートして鍵を開けた。 無断で侵入するのは忍びないが、緊急事態だ。 初春の指示であった『トイレ』と『御坂の部屋』と『リビング』を探していく。 当然の様にその盗聴器は見つかったが…… 「白井ッ!」 上条は何かに気付いたのか、白井を窓側から離れさせたと同時に窓ガラスを突き抜けてフローリングをえぐった。 銃弾。それも学園都市製の弾で色々と模様が掘られているのが特徴で、スピードは遅くなるが代わりに破壊力を増すというモノだ。 これに発火剤でもついていたなら炎の弾となるのだが、それらしいものは確認できない。 かなりの腕前のスナイパーだ。 「銃弾……学園都市製のファニースタイル弾。それも警備員が使っているモノ?」 「なんだ、それ」 「警備員が外部勢力や凶悪テロ集団などの悪質な組織に対して使う銃弾です。 学生相手に撃つようなモノではないのですが、どうやら警備員も一枚噛んでいるらしいですわね」 白井は銃弾の軌道探るように窓ガラスを見つめた。 11次元の軌道計算とは違うハズだが、白井はあそこだ、と言わんばかりに指をさすとテレポートで消えてしまう。 直後、携帯電話が鳴った。 「どうした!?」 『捕まえましたの!コイツは過去にお姉様にぶっ飛ばされ教員免許を剥奪された元警備員の白縫代替ですの!」 「し、しらぬいだいたい?誰だそれ」 『兎に角、○○ビルまで来てくれませんの!?』 「了解!」 上条は御坂宅を飛び出した。 一応、玄関の鍵を閉めて窓からだ。 ○○ビルというのも中小会社の本社で今日は土曜日であるためか休みだった。 上条はビルのドアを蹴破ったが、警報装置などは鳴らず上条は少し飽きれた。 しかし、それも好都合だ。 屋上まで上がっていくと、手錠をかけられたゴツい男と黒子の姿があった。 「そいつが、しらぬいだいたいか」 「今年の夏前頃に汚職が発覚した教師が、偶然居合わせた風紀委員の顔面を何度を殴打して逃亡してお姉様に制裁されたハズなのですが。 どうやって牢屋から出てこれましたの」 「俺は御坂美琴に復讐するためならなんでも売るぜ。プライドもな。だから警備員の牢屋から脱獄して、御坂美琴に復讐するっていってる女に加担したんだよ!」 「女性の方ですのね?」 「そうだ、夏過ぎにアンタ等空間移動と超電磁砲に敗北したって言ってたぜ」 「ふむ……全体構成は何人くらいですの?」 「教えるわけねぇだろうが、クソガキ」 白縫代替は吐き捨てるように言った。 それならば、この男に利用価値どころか置いておくのも不愉快なだけだ。 黒子は知り合いの警備員に報告して、地面に倒れている白縫代替を睨んだ。 * (12月30日。正午、12時05分。第七学区、風紀委員第一七七支部) 「これが盗聴器ですか。ふむ……警備員の捜査で使われてるタイプに似てますね。少し調べてみます」 「よろしくお願いしますの。私は白縫代替の報告書を作成しなければならないので」 「俺はどうりゃいい?」 「そうですねー、上条さんは療養したほうが良いと思いますよ?今頃ホントは点滴つないでるんですから。特例だってカエル顔の先生も言ってましたよ」 「そうだな、俺は一旦家に帰るよ。ああ、佐天さん、紅茶美味しかった」 上条は風紀委員の詰所を後にすると真っ先に家に向かった。 眠くて仕方がない。 結局、白縫代替は吐かなかったし、上条としては少しつかれた。 上条は精神的にも参っていて、今まであった右手が無いというのは少し辛かったりする。 色々と不便だ。 左手生活に慣れそうにない上条は、溜息をついて帰路についた。 (12月30日。同時刻、第七学区、上条の歩いている大通り) 『見ぃつけた、上条当麻』 『ホントにやるんですか?』 『当たり前じゃない、これはチャンスよ。正直、幻想殺しは要らないしね。上条当麻が必要だ』 『……』 不穏な声が上条の後を着けていた。 (12月30日。早朝、ドイツ。ニーダーザクセン州大規模自立都市ハーメルン=ピルモント郡、郡庁所在地ハーメルン) 『幻想殺しが無くなった?アレは生えてくるんじゃないのか』 『どうでもいいよ、なぁ。投擲の槌』 投擲の槌(ミョルニル)と呼ばれたドラム缶状の何かがガタゴトと返事をするように動いた。 グレムリン、第3次世界大戦後に結成された新興組織だ。 『ミコっちゃんが原因だってさ。可愛いよなぁミコっちゃん』 『あ?東洋の女にでも惚れたか?トール』 『違う違う、ラブじゃなくてライクだ。愛玩動物みたいな?』 『お前は本当にわからんなぁ、投擲の槌もそう思っているだろうさ』 雷神トール、グレムリンの戦闘部門だ。 ボロっちいソファから腰を上げたトールは突然、間抜けたことを言い出した。 『ちょいと、上条当麻に会ってくる』 『はぁ!?』 『後は頼んだぞ、投擲の槌。マリアン=スリンゲナイヤー』 任された、と言っているように投擲の槌はガタゴトと揺れた。 唖然とするマリアンを置いてトールはボロボロのアパートから立ち去った。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/秋終わり、恋は終わり始まる