約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4526.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《L an mil neuf cens nonante neuf sept mois 1999年7の月 Du ciel viendra un grand Roi deffraieur 空から恐怖の大王が来るだろう Resusciter le grand Roi d Angolmois. アンゴルモアの大王を蘇らせ Avant apres Mars regner par bon heur. マルスの前後に首尾よく支配するために》 (『ミシェル・ノストラダムス師の予言集(百詩篇)』第10巻72番) 始祖ブリミル降臨暦6243年、第一月であるヤラの月、トリステイン王国にて。 降臨祭が明けて二日目の深夜、首都トリスタニアのシャン・ド・マルス練兵場に、突如一万人以上もの人間が出現した。 ルイズと松下が死ぬ間際に発動させた『送還』の魔法により帰還できた、トリステインの敗残兵であった。 「……こりゃア、何が起きたんだ」「こ、ここはトリスタニアじゃないかっ?」 「本当だ! 俺たちはさっきまでアルビオンにいたはずなのに」「おーい、水を一パイくれっ」 口々に驚きの声を上げる兵士たち。首都の警備兵たちも驚愕し、彼らに質問を浴びせる。 「お前らは、アルビオンに出征していた……」 「おい、いったいどうしたんだ? 何が起こったんだ!? 武装や荷物はどうした?」 「「「……は、敗戦だ! とうとう輝かしいトリステインが滅ぶ時が来たんだ!!」」」 「敗戦!? 何がどうして!?」 「早くアルビオンで何があったのか、話してくれっ」 青褪めて騒ぎ立てる彼らを通じて、ゲルマニアの裏切りと自軍の惨敗が伝えられ、首都と宮中に激震が走る。 時を同じくして国境警備隊からは、規模は不明ながらガリア・ゲルマニア両国で兵団が集結し始めたとの急報も届く。 混乱と恐慌は、増幅された。 「……では、ガリアとゲルマニアとアルビオンと、ひょっとしたらロマリアも敵に回ったということか!?」 「ハルケギニア全土が敵では、どう考えても勝てませんぞ! この国はまるっきりお仕舞いです!」 「わしは自分の領地を守らねばなりませんので、これで失礼させていただきます! ご武運を!」 「やはり、あんな悪魔使いの異能児を用いたりするからですよ! 枢機卿!」 「女王陛下、この責任をどう負われるおつもりか!? 貴女がこの無謀な戦争を推し進めたのですからな!」 大混乱に陥る宮廷、早々と逃げ出す一部の貴族や市民。居残って国を守ろうとする人々が彼らを止め、騒乱が起こる。 朝になると市内では流言蜚語が飛び交い、早くも暴動が発生し、あちこちで火の手が上がる。 アンリエッタ女王は、亡国の危機という重圧に、震えながら耐えていた。 目を閉じて奥歯を噛み締め、気付けに強い酒を一杯あおる。そして傍らに控える『鳥の骨』に諮問した。 「……これは、どういうことでしょうか、マザリーニ」 「例のアドルフ・ヒードラー・フォン・ブラウナウ伯爵の罠ですな、おそらく。 また敗残兵がここへ帰還できたのは、知られざる『虚無の魔法』によるものと推測されます。 マツシタはゲルマニアに始末されたようですが、きっとミス・ルイズ・フランソワーズも殺されたか、捕虜にされたか。 やれやれ、我々の王国もここで潰えてしまいますかな」 枢機卿は飄々としたものだ。アウソーニャの都市国家が繰り広げてきた抗争の歴史は、このロマリア人をよく教育していた。 おお、ルイズが。唯一の親しい友人が、『虚無の担い手』が、『始祖の祈祷書』が、『水のルビー』が奪われた。 かき集めた将兵も軍需も艦隊も、ほぼ失ったわけだ。敗残兵は捕虜だったため武装解除されていた。 ……だが、王冠はまだ、ここにある。母たる太后も、枢機卿もいる。それに『風のルビー』も。 「トリステインの王家には、美貌があっても杖がない!」「「杖を振るのは枢機卿、灰色帽子の鳥の骨!!」」 「杖を受けるは太后陛下」「「あれあれ、そこはいけませぬ!!」」 「鞭を受けるは女王陛下」「「あれあれ、そこはなりませぬ!!」」 押し寄せる群集の卑猥な野次と投石が、王城とマザリーニの豪邸に向かって飛ぶ。 どうやら騒ぎを煽動している人間が複数いるらしい。これもゲルマニアの策略だろうか? だがよく見れば、彼らに混じって煽動しているのは、悪魔や妖怪どもだった。 「守銭奴坊主、要の信心ほっぽって、市民の血税いくら着服しやがった!」 「あんたの失脚は占い師たちに予言されているぞ!」「お前が鳥の骨なら、女王陛下は籠の鳥だ!」 「正しい裁判ねじまげて、あんたにゃ法律なんか無いも同じか!」 女王は蒼白な顔を上げ、再度諮問する。 「……枢機卿。我らが生き残る方策を考えて下さい。命があれば取り返しはつきます」 「よろしい、ならば降伏です。ガリアよりはゲルマニア、いえロマリアに、この国を寄進するのですな」 「少しは躊躇して欲しいですわね。テューダー王家のように玉砕はしたくありませんが、降伏は早すぎませんこと? いつぞやのようにゲルマニア皇帝に嫁入りするのも、もう御免ですわよ。……ああ、王になどなるんじゃなかったわ」 「いつの世も、そう思わぬ王はおりませぬ」 ふ、と女王は笑う。父とも頼む宰相だ、彼の呼吸はわきまえている。少しは心に余裕が生まれた。 「待機させておいたマンティコア隊を出しましたが、市民は興奮しており説得は困難です。 陛下、暴動鎮圧のため、『眠りの雲』など非殺傷魔法の使用許可を」 「許可します。いま我々が首都を捨てるわけにもいかないでしょう。 急ぎ消火活動にも勤め、力づくでも市民に平静を取り戻させて下さい」 マザリーニとて、このまま死ぬ気もないが、易々と降る気もない。 ロマリア出身でありながら、先王アンリと前宰相、そして愛する太后マリアンヌから、 国政とアンリエッタを託された身なのだ。既にこの大乱を奇貨として、中央集権制国家に再編する案すら脳中にある。 文武百官が直ちに再召集され、政府はその日のうちに、国内の全権を女王に集める『国家非常事態宣言』を発令した。 首都の貴族や騎士や有力市民をかき集め、太后までも引き出して秩序の回復に努める。 さらに全国の貴族に檄を飛ばし、総動員体制で国家防衛に当たるよう求める。逆らえば逆臣として粛清だ。 ゲルマニアもガリアもアルビオンも、トリステイン侵攻作戦がこの時期に露見するとは予測していなかったはずだ。 本格的に侵攻軍が集結するまでに、次々と手を打たねば。 「暴動を煽動している連中は、反戦派の牙城である『高等法院』の庁舎に集結しています!」 「リッシュモンはラ・ロシェールにいるし、彼が呼び寄せているわけでもないだろうが……鎮圧を続けろ!」 「デムリ財務卿には、各国諸侯への贈賄工作を……」 「既に手配してあります。こういう事は早め早めにするものですぞ、陛下」 「流石ですね。有能な臣下を持っていると助かります」 「必要なのは時間と味方です。ガリアもゲルマニアもロマリアも領邦の寄せ集めで、一枚岩ではござらん。 こんなこともあろうかと、この『鳥の骨』めは蓄財と人脈作りに精を出しておるのですよ、陛下。 一応亡命先もいくつか用意してあります。陛下と太后、それに私のね」 王家と血縁のラ・ヴァリエール公爵家は、ルイズの件で枢機卿に背く可能性もある。 艦隊と竜騎士団を擁するクルデンホルフ大公国は、ゲルマニアとも関係があるゆえ亡命先としては微妙。 やや遠いが、オクセンシェルナあたりなら旧交もあるし、敵の手も届きにくいだろうか。 ともあれ、味方は多いに越したことはない。死に物狂いでこの国を守らねばならないのだ。 「時に陛下。我らはマツシタを使ったことで、ロマリアから『異端容疑』をかけられる懸念がござる。 予定通りド・ゼッサールらを奴らの根拠地タルブとラ・ロシェールに向かわせ、滅ぼさせますか?」 「いいえ、彼らはいまや貴重な戦力です。この際味方につけなければなりません。 それにアルビオンのゲルマニア軍が我が国に降下するには、通常あの軍港を襲うしかありません。 マンティコア隊には首都の治安回復を任せ、女子銃士隊には私の護衛と伝令を担わせます」 冷静に国力を比較すれば、トリステインなど両大国の相手ではない。軍事的衝突はなるべく避けたい。 だがガリアとゲルマニアを止められるほどの権威ある存在となれば、ハルケギニアにはただ一人しかいない。 「私が教皇聖下との折衝をし、調停を願いましょう。この突然の侵略は、我が国に対する重大な誓約違反行為。 神と始祖ブリミルの名にかけて誓った同盟や条約をこうもあっさり破るなど、神聖冒涜もいいところです!」 「ロマリアは現在ゲルマニアと友好関係にありますゆえ、聖下が聞き届けられるかは微妙ですが……。 今のところ、有効な手はそれしかありませんな」 「教皇聖下……いえ、あのヒードラーが何を企んでいるかは知りませんが、 始祖ブリミルの加護を受けた四大王国は、一時的に断絶することはあっても必ず復活し、六千年以上続いてきました。 王家の存続は、神と始祖の定めた神聖なる秩序の一つ。決していいようにはされませんよ」 ふん、と女王は鼻を鳴らす。強気にならねばやっていけない。 翌日、深夜。 市内の暴動はなかなか収まらないが、女王は枢機卿の勧めで就寝することにした。気力を保たねばならない。 ……ふと、寝室の窓から冷たい風が吹き込んだ。 アンリエッタが何者かの気配を感じて室内を見回すと、部屋の隅に黒いローブを纏った人影が立っているではないか! 「だ、誰です!? いつの間に……?」 人影はごく小柄で、身の丈はせいぜい140サントほど。まるで子供のようだ。だが手には大きな杖を持っている。 侵入者はフードを脱ぐと、丁重に挨拶する。青い髪が夜風に揺れた。 「女王陛下、夜分失礼する。私はガリア王国の花壇騎士、『雪風』のタバサ」 「……貴女は確かルイズの学友でしたが、ガリアの……? 私を捕らえに来たのですか、それとも暗殺?」 「どちらでもない。陛下をお救いに参上した」 あまりに意外な話に、アンリエッタの口には言葉がない。ガリアは敵方に回ったのではなかったか? しばし間を置いてから、タバサは無表情のまま、再び口を開いた。 「……タバサとは世を忍ぶ仮の名前。私の本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。 四年ほど前、無能王ジョゼフによって暗殺された王弟、オルレアン公シャルルの一人娘」 「なんと! ……そう言えば確かに、面影がございますわ。ガリアの王族はみな青い髪ですし……。 シャルロット姫はあの時に殺されたとも聞き及んでおりましたが、貴女がそうだったなんて!」 かつてガリアとの宴でシャルロット姫と多少の挨拶を交わしたことはあるが、なかなか快活だった。 それがこのように、別人のように感情を失くしてしまうとは。 「我ら『オルレアン派』は、あなた方の味方。マザリーニ枢機卿をこちらに呼んでいただきたい」 急ぎ枢機卿が女王の寝室に呼び寄せられると、タバサ……否、シャルロットは訥々と語り出した。 自分が仇敵ジョゼフとその娘イザベラに酷使されていること、毒薬により正気を失った母親が旧オルレアン公邸にいること。 そして、そんな自分たちに同情する貴族や平民、すなわち『オルレアン派』も少なからずいることを。 「先日魔法学院がアルビオン側の夜襲を受けて休校となったので、ガリアに帰国中、この陰謀を知った。 ジョゼフは先だっての誓約を破棄し、ゲルマニアと共にこの国に兵を進めて滅ぼす算段。 けれど、その折の混乱に乗じて、我らオルレアン派は挙兵する。 すでに私の母は、部下が救出し保護している。これは大きな賭け。敗北すれば死あるのみ」 シャルロットの瞳には、復讐の黒い炎が宿っていた。 アルビオン遠征に始まったこの戦禍の連鎖は、ハルケギニア全土に拡大するかも知れない。 正直言って自分が女王になる気は薄いが、憎いジョゼフを殺すためなら、クーデターの神輿にでもなってやろう。 アンリエッタの疲れた顔には喜色が浮かぶ。これは天佑というものだ。 「そ、それは大変心強いことですわ! 貴女が即位してガリアが味方につけば、ゲルマニアもアルビオンも容易には攻め込んで来ないでしょう」 マザリーニも、オルレアン派のことは耳にしている。利用できるものは何でも利用せよ、だ。 彼女が嘘を言っている素振りはないが、その旗頭が単身やって来るとは、流石に驚いた。 「それで、詳しい手筈は? シャルロット殿下」 「サン・マロンに集結中の『両用艦隊』を内応により奪取し、国内の反ジョゼフ勢力を糾合して決起する。 混乱する首都リュティスとヴェルサルティル宮殿を、同時にオルレアン派の花壇騎士団が制圧する。 ジョゼフとイザベラは捕縛して、幽閉ないし殺害。……ただし、失敗する公算もある。 そこで旧オルレアン公領、つまりラグドリアン湖南岸地域を、本クーデターの根拠地としたい。支援を要請する」 しばし枢機卿と相談した後、女王は彼女の提案を受け入れた。 「よろしいでしょう。仮にジョゼフを討ち漏らしたとしても、広大なガリアを分断させられます。 我が国の生き残りを賭けて、全力でオルレアン派を支援いたします。ご即位の際は、私が承認いたしましょう」 シャルロットはぺこりと一礼した。 「感謝する。オルレアン派もトリステイン王国を支援し、ゲルマニアの脅威を退けることを約束する。 『両用艦隊』の上陸目的地は、ダングルテール。艦隊が海上の国境線に触れた時点で、クーデターを開始する。 ……では、私はひとまず、高等法院に潜んでいる悪魔どもを退治して来る」 シャルロットはひらりと窓から飛び出すと、風竜に乗って高等法院へとまっしぐらに飛んで行った。 ほっ、と女王は溜息をつき、まずは安堵する。しかしアニエスの件といい、ダングルテールとはなにかと縁があるようだ。 「そう言えば……百年以上前、ガリアとトリステインでこんな予言が囁かれましたね。 いつか恐ろしい大王が天から降臨し、戦乱の世に『アングルの地(ダングルテール)の大王』を蘇らせると」 「はい。また予言によれば、その名はシーレン……CHYREN、これを並び替えるとHENRYC(ヘンリ、アンリ)。 アンリ王の御子、アンリエッタ女王陛下のお名前に合致いたしますぞ」 枢機卿は、にやりと笑って女王陛下の呟きに答えた。 《Au chef du monde le grand Chyren sera, 偉大なシーレンが世界の首領になるだろう Plus oultre apres ayme, craint, redoubte 『さらに先へ』が愛され、恐れ慄かれた後に Son bruit loz les cieulx surpassera, 彼の名声と称賛は天を越え行くだろう Et du seul titre victeur fort contente. そして勝利者という唯一の称号に強く満足する》 (『ミシェル・ノストラダムス師の予言集(百詩篇)』第6巻70番) (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1664.html
「くそ…馬を奪われたおかげで、追いつきゃあしねぇ」 だが、馬にも体力というものがある。常時全速では当然バテてスピードも落ちるものだ。 特に、一人余分に乗せているヤツは、それが顕著だ。 馬が倒れない程度に走らせていると、敵が視界に入った。 「…あの女のいう事そのままだと…連中、痛覚が麻痺してるヤク中か…考えたくねぇが死体ってことか?」 前者ならともかく、後者を相手にするとなると恐ろしく相性が悪い。 広域老化は死体には全く効かないからだ。 対応策を練っていると、二人乗っている馬以外のうち2体がこちらに向かってきた。 足止めのための時間稼ぎをするつもりらしい。 「やるしかねーみたいだな」 グレイトフル・デッドを発現させると同時に馬の速度を落とし、地面に降りる。 落馬なんぞしたら洒落にならないからだ。 10秒もすると、馬が急激に老化を始めた。 「あんだけ走りゃあ、温まってるだろうよ」 向かってきていた馬が等しく脚を朽木のように枯れさせ倒れていっているが、微塵も油断していない。 さっき聞いた様子では落馬程度では大したダメージにならないからだ。 投げ出された敵の一人に素早く駆け寄るとが、やはり老化はしていない。 「…マジに死人かよこいつら!」 体は確実に死んでいるのに、精神だけはしっかりと存在する。スタンドで操っているようなヤツとは比較にもなりゃしないだろう。 「そりゃあ、効かねーわけだ……だがなッ!」 確かに、体温がほとんど存在しない以上、広域老化は効きはしない。 だが、直は別だ。直なら有機物である以上冷やしていようが、お構い成しに老化させる。 新鮮と言えばアレだが、死んだばかりの死体のような感じだ。 死体に直触りなどする必要もなかったし、やろうとも思わなかったのでやった事は無いが、老化させれらる自信はある。 そう!スタンドとは精神!出来て当然と思い込む事こそが重要ッ!! 「老化しちまえば…動きたくても動けないからな。死人は黙って寝てな」 これでもかというぐらい直を叩き込んだが、これで効かなければお手上げだ。首を落そうにもデルフは無い。 一瞬間をおいたが、掴んだ敵がみるみる干からびていく。 林檎などの果物も老化させられるのだ。死体といえど、特に変わりは無いのだが…。 「いや…マジに…恐れ入ったよ…まだ…動けんのか」 枯れ果てた敵が動く。いや、動こうとしている…と言ったほうが正しい。 直触りをモロに喰らえば、死なないまでも寿命寸前まで追い込まれる。普通なら気絶するはずだ。 立ち上がろうとするが、背骨が音をたて歪み立てないでいる。 杖を振ろうとするが、手や指先がボロボロになって崩れていき、杖を落す。 魔法の詠唱をしようとしているが、歯のほとんどを抜け落ちさせている。 だが、それでもこいつは動こうとしている。B級映画でもこんなのお目にかかれないはずだ。 「おおおおおおおおッ!さっさとあの世へ行きやがれぇーーーーーーこのクソがァーーーーーーーーーーッ!!!」 そいつの頭を蹴り飛ばし首をヘシ折り、さらに続けざまに、グレイトフル・デッドで殴りつける。 後ろから、もう一人の魔法が背中をかすめたが攻撃を止めない。 気が付くと老化した敵は全身の骨を砕けさせるようになっていたが、砕けさせた場所はすぐに治っているようだった。 老化を解けばすぐにでもこちらに襲い掛かってくるだろう。 鬼人の如き形相で後ろを振り向き、もう一人の敵に駆け寄る。 魔法を使っては来ているが、飛んできたのが氷の槍だったのが幸いした。 これならばスタンドで受けられる。風や火などは実体が無いだけに受けられないのだ。 「グレイトフル・デッドッ!!」 時間は少し遡り場所はラグドリアン湖。 ルイズ、才人、タバサ、キュルケがそこに居た。 なんでまた居るのかと言うと、タバサの帰省に合わせてオプションよろしく付いてきたのだ。 それで、タバサの実家に来たのだが、紋章を見てルイズとキュルケがブッ飛んだ。才人は紋章の事など分かっちゃいないので無反応だが。 ガリア王家の紋章そのものだったからである。 ただ違うのはXの傷が入った不名誉印だった事だが。 そこで、執事のペルスランから本人が居ないところでタバサに関する事を聞いた。 毒を盛られタバサの母が精神を壊し人形を娘だと思うようになってしまった事。 汚れ仕事を押し付けられ、シュヴァリエの称号のみを与えられ、トリステインに留学させられた事。 そして今も、解決困難な事があると、呼びつけられているという事を知った。 当然の事ながら才人とキュルケは、その凄まじい経緯に言葉を失っていたが、ルイズは少し違った。 (そんな危険な事させられて、与えられたものがシュヴァリエの称号だけだなんて…なんか…あいつと似てる) 先代ことプロシュートが属していた暗殺チームと、今現在のタバサの状況は似ていた。 だからこそ、タバサに与えられた指令を何の迷いも無く手伝うと言えた。 他の二人も思うところは違うが、結論は同じだ。 それで、ラグドリアン湖の水位が急激に上昇しているために、その原因と思われる水の精霊の討伐に向かったのだが 現代日本人の才人が「いや、倒す前にまず水位を増やした理由とかを聞いた方がいいんじゃないか?ゲームでも大体そうだし」 と、非常にゲーマー的な答えを導き出した。 本来なら、タバサが風の魔法で空気の層を作り水に触れず湖底を歩き キュルケが炎で精霊をあぶるという戦法だったのだが、ぶっちゃけ二名ほど役立たずである。 空気の球が破れ少しでも水に触れると、操られるため危険極まりないのだが、そこで出たのが才人の答えだ。 「水の精霊と交渉するって事?でも誰が?」 「……モンモランシーなら」 そう言うルイズだが、声は暗い。 原因は、やはり『アレ』にあるのだろう。 知らない才人は「なら、早く行こう」的な態度だったが、知ってるキュルケはちと不安げである。 「あー…頼み辛いのは知ってるから無理しなくてもいいわよ。あたしとタバサで倒せばいいんだし」 「頼み辛いって、喧嘩でもしてんのか?」 「…シルフィード借りるわ。すぐ戻るから」 そう言うとルイズと才人を乗せたシルフィードが学院へと飛び立っていった。 「嫌よ、なんでわたしがそんな事しなくちゃいけないのよ」 もう爽やかさすら感じられる即答である。 「なんでだよモンモン」 「誰がモンモンよ!」 「やっぱりまだギーシュの事…」 「ギーシュ?誰だそりゃ」 その疑問に答える者は居ないが、何となく非常に気まずいという事は分かる。 しばらく黙っていたが、モンモンが少しからかい気味に条件を出してきた。 「…そうね、ここで土下座でもしてくれればやってあげてもいいわ」 「土下座!?いくら喧嘩してるからってそこまでさせることないだろ!」 「これは、わたしとルイズの問題よ」 才人の抗議を、その一言で押し止めルイズを見る。 少し震えてるようだったが、まぁ想定内だ。 モンモン自身、あのルイズがそんな事できるわけがないッ!x4と思っていたからだ。 (次は、怒りながら杖を出してくるってとこかしらね) だが、違った。床に膝を付いている。やる気だ、こいつは焼き土下座でもするという目だッ! そう思ったか知らないが、才人が止めに入った。 「や、止めろって!そんな似合わないことするなんて、お前らしくないって!」 「いいの!わたしがこうしたいんだもん!」 「あーーーもう!土下座なら俺の方が得意だろ!俺が代わってやる!」 得意とか不得手とかそういう問題ではないだろうが、そんなテンパり気味の二人を見てモンモンが呆れたように言い放った。 「分かったわよ、行けばいいんでしょ行けば」 「でもまだわたし…」 「ホントは最初から分かってたのよ…仕方ないって。あんなのに決闘挑んだんだから」 「じゃあなんで土下座なんてさせようとしたんだ?」 「『覚悟』…っていうのを見てみたかったってとこね。ホントにするとは思わなかったけど」 「じゃあ、解決したんだな。ならラグドリアン湖に戻ろう。ルイズ、モンモン」 「だから……モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ」 「長い。やっぱモンモンだな」 「やっぱり行くの止めようかしら」 「ごめん、だから行こう。な?」 三人がシルフードに乗り空に浮くとモンモランシーが小さく呟くように言った。 「これが、さよならを言うわたしよ、ギーシュ」 シルフィードが飛び立った後、その場所に薔薇の花びらが7枚舞った。 そして再び、森だが 「っぁ…ハァーーー…ハァーーー…クソが…」 もう一人も直で老化させたのだが、さっきのと同じように枯れ果ててはいるが、まだそいつらは動こうとしていた。 息が荒いのは珍しく我を忘れていたからだろう。 老化させて脆くなった骨をヘシ折ってもすぐ治るわで死なないのだ。 「ハァー…どうなってやがんだよこいつは」 一度息を大きく吐き出すと冷静さを取り戻したが、やはり胸糞が悪い。 老化が継続している限り危害は無いだろうが、正直言うとキモイ。 なにより、一刻も早くカタを付けたかった。 「……燃やすか」 ここまで来るとゾンビ扱いだ。となると燃やすのが一番手っ取り早いと判断した。 念のために老化させた草を集め、持ち込んだライターで火を付ける。 水分なぞ、ほとんど飛んでいる敵と草だ。非常によく燃える。 まぁだからこそ、まだ動こうとしている事がありえないのだが。 燃え尽きた死体を見て忌々しげに呟く。 「ギアッチョが居りゃあな…」 ホワイト・アルバムなら、絶対零度で凍結させ粉微塵に砕くことができる。 そんな事を考えていると、聞きなれた音が聞こえてきた。 「…あいつらも来たのか」 遠目だが、街道を低空飛行するシルフィードが目に入った。 森に入って死体を焼却処分していたため気付かれる事は無いだろうが、一応木の影に身を隠しながら高速で移動しているシルフィードを見送る。 「あれなら、すぐ追いつくだろうが…オレも行った方が良さそうだな」 老化で一度足を止めさせ直を叩き込んだ自分でもこれだ。ルイズ達だけだと、危ないかもしれんと判断し後を追う事にした。 10分程バイツァ・ダスト 「アンドバリの指輪でウェールズ皇太子を蘇らせて姫様をさらうなんて… やっぱり、あの時似てるって思ったのは気のせいなんかじゃなかったんだわ!」 「実は生きてたんじゃねぇの?」 「そりゃねぇな相棒。兄貴が完全に死んでるって言ってたし、城の中に敵が雪崩れ込んできたしな」 アルビオン以降にやってきて状況を知らない才人にデルフリンガーがカタカタと音を出しながら説明をしている。 万が一生きていたとしても、あれだけの敵が雪崩れ込んできたのなら、確実に首を取られるはずだ。 「銃士隊の人たち…大丈夫かしら…」 モンモランシーを連れてくればよかったと思ったが、無理言って水の精霊を呼んでもらったのだ。戦いになるかもしれないのにこれ以上巻き込みたくなかった。 「…見つけた」 シルフィードの目を通してタバサが、前を走る三頭の馬を見つけ馬の前にシルフィードを出した。 「ウェールズ皇太子!」 ルイズが叫び驚愕する。やはりウェールズだった。 才人はウェールズを知らないが、そのやり口が気に入らなかった。 ウェールズ自身にではなく、指輪を盗み偽りの命を与え、意のままに操っているクロムウェルが。 「あんたはもう死んでるんだろ!?姫様を返せ!」 「初めて見るが、君は誰かな?」 「平賀才人。ルイズの使い魔だよ」 「おや…ミス・ヴァリエールの使い魔は…確かプロシュートというんじゃなかったのかな?」 「どうでもいいだろ、そんな事!」 その叫ぶような声に対してウェールズは微笑を崩さない。 「返せと言ったね。それはできない。彼女は彼女の意思で、僕に付き従っているのだ」 「姫様!こちらにいらしてください!そのウェールズ皇太子は、アンドバリの指輪を持つクロムウェルによって偽りの生命を与えられた皇太子の亡霊です!」 ウェールズの後ろからガウン姿のアンリエッタが現れルイズが叫ぶが、アンリエッタは唇を噛み締めたまま動かない。 「そんな…姫様…」 「見てのとおりさ。さて…取引といこうじゃあないか」 「さて…面倒な事になってやがんな。こいつは」 ウェールズ達から離れる事、約5メートル。追いついたプロシュートが森の中の大木に背を預け立っていた。 もちろん、ルイズ達からは見えない方にだ。 気配を消しながら観察していた時、ルイズ達以外に見知った顔を見つけた 「それにしても、あの時のマンモーニが、オレの後継いで『ガンダルーヴ』ってのになってるたぁな」 顔を確認してあのマンモーニと判断したのだが、とりあえず傍観する事に決めた。 ウェールズが取引という言葉を吐いたからには、今すぐにどうこうあるまいと判断したからだ。 「取引だって?」 「そうだ。ここで君達とやりあっては馬を失う事になってしまうかもしれないからね。そうなっては道中危険だし、魔法も温存したい」 その瞬間タバサが問答無用で『ウィンディ・アイシクル』を叩き込んだ。 『ブッ殺すと心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!!』と言う声が聞こえそうなぐらい躊躇が無い。 何本もの氷の槍がウェールズを貫いたが、倒れず傷口が塞がっていく。 「無駄だよ。無駄無駄、君達の攻撃では、僕を傷つける事はできない」 「見たでしょう!それは皇太子じゃない!別のなにかなのよ姫様!」 傷が塞がる光景を見て顔色を変えたアンリエッタだが、左右に首を振り苦しそうな声を出した。 「お願いよ…ルイズ。杖をおさめて…わたし達を行かせてちょうだい」 「姫様!それは『アンドバリの指輪』でクロムウェルに操られているだけなんです!」 喉が裂けんばかりにルイズが叫んだが、アンリエッタは鬼気迫るような笑みを浮かべている。 「そんな事は知ってるわ。百も承知よ…でも、それでも構わない!ルイズ、あなたは人を好きになったことがないのね。 本気で好きになったら、何もかもを捨ててもついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ。 わたしは、水の精霊の前で誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズ様に変わらぬ愛を誓います』と。だから行かせてルイズ。わたしからの最後の命令よ」 アンリエッタの決心の固さに負けたのかルイズが杖を降ろし一同がそれを呆然と見送ろうとし、唯一の生者を含んだ死者の一行がその先へと進もうとしていた。 木の影でそれを見ていたプロシュートが、ゆっくりとグレイトフル・デッドを発現させる。 さらに近付き、距離にして4メートル。不意を突き直をぶち込むには十分すぎる距離。 バレちまうが、この際仕方ないとしたのだが、不意にそれを中断する。 ウェールズ達が進もうとする先に、デルフリンガーを構えたマンモーニが居たからだ。 「姫様…悪いけど言わせて貰うよ。俺は生きてる頃の皇太子様とも会った事が無いし、恋も、愛も知らない。 ルイズを今まで助けてきたのだって、俺じゃない。でも、そんなのが愛じゃないって事ぐらいは分かるんだよ!」 「これは命令よ…どきなさい!」 全身を震わせながら叫ぶ才人と、精一杯の威厳を振り絞りアンリエッタの叫びが重なる。 「あいにく、俺はあんたの部下でもなんでもねぇ。 俺はルイズの使い魔だ。使い魔は主人の命令しかきかないんだよ。どうしても行くって言うんなら……仕方ねぇ。俺はあんたをたたっ斬る!」 それを聞くとグレイトフル・デッドを引っ込め木に背中を預け目を閉じた。 「マジにあいつ、あそこでオレに土下座してたやつか?ま…しばらくはオメーに任せてやるよ、しばらくはな…」 もちろん、最後の最後に危なくなれば出ていくつもりだったが、どんなヤツかという事も見てみたくなったからだ。 目を閉じていると、魔法が飛び交う音が聞こえてくる。 キュルケが炎が効く事に気付いたようだが、天から一滴、水が落ちてきた。 「不味いな…」 雨が降れば火の威力が削がれる。魔法がそれに当てはまるかどうかは知らないが、とにかく不味いと判断した。 木の下にいるだけあって、そう濡れてはいないが、街道で戦っている方は、本降りになった雨をモロに受けている。 「杖を捨てて!あなたたちを殺したくない!雨の中では『水』には勝てはしないわ!」 「…そうなんか?」 アンリエッタの勝ち誇ったような叫びを聞き、才人がウェールズ以外の死者を焼き払ったキュルケに尋ねたが、『やれやれだぜ』と言わんばかりに肯定された。 「こんなに雨が降ってちゃ、あたしの『炎』も水の壁に遮られるわね。タバサの壁と、あなたの剣じゃ傷を付ける事もできないし…打ち止め。負け!」 「しかたないわ…逃げましょう。ここで、あんたたちを死なすわけにはいかないもの」 皆が逃げようとするが、才人だけはそこに留まっていた。 「なにやってるの!勝ち目無いんだから、逃げないと!」 「なぁ…デルフから聞いただけなんだけど、プロシュートってやつは逃げたのか?」 「どうでもいいじゃない!そんな事!!」 「ニューカッスルってとこでも、死にそうになりながらでも敵に向かっていったんだろ?」 「そりゃな、『一度敵のノドに食らい付いたら、なにがあろうと離したりしない』ってのを地で行くのが兄貴だったし」 「じゃあ俺もそうする」 それを聞いてルイズが絶句した。 (あの馬鹿ハムッ!居なくなったのに妙なとこで影響ださないでよ!!) 心底そう思うが、言う相手が居ないのでどうしようもない。 「あんたとあいつは違うの!だから逃げる!命令よ!」 「違うって、何が違うんだよ。お前を守ってたんだろ?だから俺もお前を守ってやる」 本物のド平民の才人と現役暗殺者でスタンド使いだから違うという事だったが、妙にプロシュートに対抗意識を燃やしている才人は気付く術は無い。 ちなみに、プロシュートからは『守る』とか言われた事はないので直接才人に言われた分、ルイズの心拍数は上がっている。 無駄にルーンが光出すと、デルフが間の抜けた声をあげた。 「あー、わり、忘れてた。あいつ、随分と懐かしい魔法で動いてやがんなぁ」 「はい?」 「いや相棒、マジごめん。でも俺が思い出した。 あいつらと俺とは根っこは同じとこで動いてんのさ。『先住』の魔法ってやつでさ。ブリミルもあれにゃあ苦労したぜ」 「言いたい事があるなら、ハッキリ言いなさい!役立たずね!」 「役立たずはどっちだよ…バカの一つ覚えみてーに『エクスプロージョン』ばっか連発じゃねぇか そいつは強力だが、精神力を激しく消耗する。この前みたいなデカイのなんて兄貴でもない限り、一年に一度撃てる撃てねぇかだ」 「じゃあどーすんのよ!」 「ブリミルが対策練ってるはずだぜ。祈祷書のページをめくってみな」 ルイズが祈祷書をめくると、新たに文字が書かれたページを見つ文字を読み上げる。 「…ディスペル・マジック?」 「そいつだ。『解除』魔法。それならアンドバリの指輪の効果も消えるはずさ」 逃げ出さないルイズ達を見て、アンリエッタが悲しげに首を振ったが顔をあげ呪文を唱える。 「これ以上…行く手を阻むなら…!」 「愛している。アンリエッタ」 その言葉とウェールズの笑みを見ると、アンリエッタの心が熱く潤む。 僅かに頷くと、二人が同時に詠唱を始めた。 『水』『水』『水』そして『風』『風』『風』。 水と風の六乗。 通常ならトライアングル同士といえど、このように魔法を重ねるなどほとんどできはしないが、選ばれし王家の血が可能にする。 王家のみに許されたヘクサゴン・スペル。その圧倒的破壊空間は、まさに歯車的水竜巻の小宇宙ッ! 謳うようなルイズの詠唱を聞き勇気が沸いてきた才人だったが、デルフリンガーがヤバそうに呟く。 「やっべぇなぁ。やっぱ向こうが先みてぇだ」 慌てたキュルケがウェールズとアンリエッタに炎を放ったが、全て二人の周りを回る水竜巻によって掻き消され水蒸気を出している。 「…どうしようか」 勇気は沸いていたが、さすがにどんどん膨らんでいく水竜巻を見て、その言葉が出た。 「どうするもなにも、あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ。ガンダールヴ」 「俺かぁ…でも不思議だ。あんなでっかい竜巻だってのにちっとも怖くねぇ」 「詠唱中の主人を守るのがガンダールヴなんだからな。相棒の仕事はそれだけだ 主人の詠唱を聞いて力がみなぎるってのは、母親の笑い声を聞いて赤んぼが笑うのと同じで、そういう風にできてんのさ」 「簡単でいいな。…プロシュートってやつもそうだったのか?」 「…あー、いや。兄貴は…どうだろうな。まぁいいか。任せた」 使われていたデルフリンガーすら分からない。なにせ攻撃が最大の防御を地で行くあのギャングである。とてもじゃないが想像できなかった。 「楽勝だ。俺は虚無の使い魔だぜ」 そう言うと竜巻を迎え撃つべく向き直ったが、デルフリンガーが少し異変に気付いた。 「お…見ろよ、何か竜巻の大きさが小さくなったみたいだぜ」 「本当だな」 ヘクサゴン・スペルの詠唱を行っていたアンリエッタが、僅かだが、ウェールズとの詠唱が合わなくなっている事を感じていた。 (そんな…どうして…!) 体のあちこち、特に関節が痛くなり、疲れが出てくる。 まるで、極限まで無理をして魔法を使った後のような感じの疲れだ。 二人の呪文が完成し、水竜巻が放たれたが、本来の威力とは程遠いものだ。 才人がその前に出てデルフリンガーで受け止めた。 「これなら…なんとかなりそうだぜ相棒」 デルフリンガーを中心にして水竜巻が回転する。 飲み込まれそうになるが足を踏ん張り耐えていると、デルフリンガーが水竜巻を全て飲み込んだ。 「ごちそーさん」 「お前、ホント伝説なんだな」 「あたぼーよ」 そうこうしていると、ルイズが詠唱を完了させたのか、後ろから『ディスペル・マジック』を叩き込んだ。 アンリエッタの周りに、眩い光が輝きウェールズが崩れ落ちる。 それに駆け寄ろうとしたアンリエッタだったが、不完全だったとはいえヘクサゴン・スペルを使った精神力の消耗と謎の疲労のおかげで意識を失い地面に倒れた。 だが、倒れ意識を失う瞬間に、その謎の疲労は霞のように消えてく事を感じていた。 「ふん…オレの老化に巻き込まれてそれだけで済んだなんざ、運の良いヤツだぜ」 ヘクサゴン・スペルは選ばれし王家の血を持ち、息が合わねば不可能だ。 広域老化を発動させたのは、キュルケが二人に向け炎を放ち、それが二人の周りを回る水竜巻に掻き消された時。 「水蒸気がある分、蒸し暑いだろーからよ」 夜、しかも雨が降っている状態では、体は当然冷えて広域老化の効きは非常に悪い。 だが、キュルケが放った炎の熱量は相当なものだ。掻き消されたとはいえ、それなりの水を蒸発させ水蒸気を発生させる。 もちろん、その湿度を伴った温度がダイレクトに届くわけではないが、ほんの少しアンリエッタの体温を上げるには十分だった。 しばらくしていると、アンリエッタが目を覚ました。 冷たくなり、転がっているウェールズを見て悪夢から覚め正気に戻ったらしい。 「わたくし…なんてことをしてしまったのかしら…」 「目が…覚めましたか?」 両手で顔を覆っているアンリエッタに、いつもの感じの声で問うた。 「なんと言ってあなたに謝ればいいの…?わたくしのために傷付いた人々になんと言って赦しを請えばいいの?教えてちょうだいルイズ…」 「謝るのは後ですよ姫様。向こうで銃士隊の人が沢山倒れてるんです。早く助けないと手遅れになっちまう」 特に、一人離れていた場所で気絶していた人なぞ、早く手当てしないと本当に死んでしまうかもしれなかったからだ。 「そうだわ…アニエスにもひどい事をしてしまったわね…」 ウェールズの死体を木陰に運ぶと、銃士隊の面々が倒れている場所へと戻っていった。 見えなくなると木の後ろに居たプロシュートが出てくる。 こっちに持ち込んできたタバコを咥え火を付けた。 「…ちッ!」 だが、タバコは完全に水に濡れていて火は付かない。 本来、吸う事は滅多に無いが、そうさせたのは心の奥底に沸き立つドス黒い感情からだろう。 (何時以来だったかな…こんだけムカついてんのはよ) 少し考えたが、思い出した。 というより、あまり思い出したくなかったので忘れようとしていただけかもしれない。 「ソルベとジェラートの時…か」 ジェラートが猿轡を飲み込み死に、ホルマリン漬けにされた輪切りのソルベが送られてきた時。 あの時も、今のようなドス黒い感情が湧き出ていた。 殺すだけではなく、その死体すら利用するボスのやり口を見た時と同じだ。 誇りも何もあったもんではない。 暗殺チームに属しているからには、常に死ぬという事を覚悟してやってきているが、その覚悟している死すらも踏みにじるような行為を見た時だ。 あの時は、ギアッチョが今にも飛び出しそうな勢いだった。 リゾットが何時もと同じ、冷静さを保った顔で抑えていたが、それにギアッチョが反発していた。 「腑抜けやがったのかてめーはッ!?仲間が殺されてんだぞ!オレ達は暗殺チームだろーが!『恩には恩を仇には仇を』が、あんたの流儀だったんじゃあねーのかよ!」 もちろん、今動けば何もできないという事は理解していたが、このドス黒い感情からプロシュートも一瞬だが、ギアッチョに賛同しかけた。 「抑えろ…今、行動を起こせば。オレ達はボスに近付く事すらできない…耐えろ…仇は…必ず返す…!」 だが、続くリゾットの言葉に、そのドス黒い感情が四散した。 言葉だけなら、そうならなかっただろうが、リゾットの肩からカミソリが飛び出し血を流していたからだ。 リゾットは常に感情を抑え、一定の態度を保ち続けている。冷徹と思われてるかもしれないが、実際のところそうではない。 チーム1の苦労人でもあるが、チーム1諦めが悪い男でもあるからだ。 メタリカが暴走しかけているのにリゾットは冷静さを保ち、チームを纏めようとしている。 そんな姿を見たからこそ、そのドス黒い感情を抑えた。 だが、この感情はその時の物を遥かに上回る。 死体を利用するという点では同じだが、死体だけではなく、精神…魂すらも踏みにじっている。 ウェールズの肩を掴んだときに感じた冷たいものは、多分そのせいだろう。 仮定の話として、リゾットやメローネ…チームの仲間が、偽りの精神だけ与えられていればどうするか。 決まっている。速やかにブチ殺し、そんなナメた真似したやつに生まれてきたことを後悔させるような方法で殺す。それだけだ。 そんな事を思いながらウェールズの死体に近付いたのだが…。 「やぁ…どこかで見たと思ったら…やはり君だったのか」 「…ッ!」 まだ動くか。そう判断し直を叩き込もうとしたが、着ている白いシャツに赤い染みが広がるのを見て止めた。血が流れ出ると言う事の答えは一つだ。 「…手間かけさせやがって。やっと戻ってきたみてーだな」 「ヘクサゴン・スペルの最中にアンリエッタの息が合わなくなったのは君の力なんだろう?…おかげで、アンリエッタが誰も傷つけずに済んだ…」 「ハ…ッ!てめーは思いっきりやっといてそれか?ナメた口利いてんじゃねぇ」 「はは…耳が痛いな…最後に一つ頼みがある」 「死人の分際でなに贅沢抜かしてやがる」 「アンリエッタを赦してやって欲しい…彼女は悪い夢を見ていただけなんだ。ウェールズ・デューダーという仮初の悪夢を」 「オメー1人の責任だって事か?確かにオメーがそそのかしたみたいなもんだからな……だが断る」 「…!?」 「赦す?ナメんな。一発言ってやらなきゃあ分かるモンも分かんねーんだよ。同じ事やらかしたら、次なんてねーんだからな…」 ギャングの…特に暗殺の世界において、二度目というのは、ほぼ無いと言っても等しい。 だからこそ、一度失敗をした時には、それを教訓として心に刻まねばならない。 ペッシをブン殴っていたのもそれが理由だ。だからこそ、その言葉には重みがある。 「そうか…なら言い直すとしよう。君にもアンリエッタを頼みたい」 「暇がありゃあな…で、どうすんだ?これ以上利用されねーようにしてやってもいいが」 そう言うと手を翳す、老化させれば利用することもできないだろうと思ったからだ。 「それはアンリエッタに頼むとするよ。君には改めて礼を言わせて貰う。ありがとう…」 「死人の礼なんざオレの耳には聞こえねーよ」 踵を返しウェールズの元を離れる。そうすると銃士隊の治療を終えた一行が戻ってきた。 正直言えば、アンリエッタに蹴り入れて説教したいとこだったが、例のドス黒い感情が上回っておりそれはしなかった。 「クロムウェルだったな…」 言われていた名前を反復する。 これからどうするかと思っていたが、一つの結論に達してドス黒い感覚が一気に消え去った。 何のことは無い。いつもやっていた事をやるだけだ。つまるとこ暗殺を。 そう結論付けると、侵攻が起こった時どうするかと考えていた事がバカらしく思えてきた。 ルイズが行きたいというのなら行かせてやればいい。マンモーニだが、そこそこ根性のある使い魔も居るようだ。ならオレは勝手に得意な事をやらせてもらう。 いっその事、干からびたクロムウェルとかいうヤツの死体をアンリエッタに投げつけてやるというのもいいかもしれないと思った程だ。 もちろん、暗殺である以上は、これまでどおり姿を隠し情報を集めるなどをしておかねばならないが。 しばらくすると、ウェールズを乗せたシルフィードがどこかに向かって飛び立ち、木の影からそれを見送る。 「オメーに言うのは二回目だったな……アリーヴェ・デルチ」 いつの間にか巨大な雨雲は去り、二つの月が森を照らしていた。 プロシュート兄貴―暗殺執行前、潜伏進行中 ルイズ&才人―進んだような進まないようなそんな微妙な感じ。 ギーシュ―ようこそ…思い出の世界へ… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4178.html
・サイトは一度教皇の魔法で帰ったけど親に会う間もなくなんらかの方法で帰還 ・そのあと東に遠征。紆余曲折の後、聖地の門に行く。でも帰れず。 ・エロパロスレなのに申し訳ないんだが、状況的にエロ到達はちょっと先。 464 名前:未来予想図[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 02 33 05 ID HUOQ29UL 「しょうがねぇよ。聖地の門でもムリだったんだし……。それに俺はお前と一緒にいたい から戻ってきたんだ。だから、もう気にすんなよ、ルイズ」 そういってサイトが浮かべた微妙な笑顔が、ルイズの頭から離れない。 ルイズは自分の家の自分の部屋、そのベッドに寝転んでぼんやりと天井を見上げた。 遠征の結果と無事の報告。 そのために、ルイズらは王宮に次いでラ・ヴァリエール公爵邸に向かった。 報告を兼ねた食事会が開かれたが、才人は眠いと言って早々に部屋へとひっこんだ。 ルイズにはわかっている。才人が部屋に戻った理由が。 ……たぶん今頃、一人で物思いにふけっているのだ。 聖地に至れば元の世界に帰れると思っていたのに……サイトは帰れなかった。 あの門は一方通行で、こちらから渡る事は不可能なのだという。 それを聞いたサイトは……目を見開いて言葉を失っていた。 どれほどの絶望を味わったのか、ルイズには想像もつかない。 トリステインに戻る間、いつも通りの様子を崩さずにいたサイトは、どんな思いでいた? ……聞きたかったけれど、それをすることで傷を抉るような事はしたくない。 だから、ルイズはあえて彼の部屋に出向かなかった。 教皇聖下の虚無『世界扉』は、一度通った者を二度通す事はできないのだという。 一度『世界扉』で帰った才人には、もう使用できない。 「サイトを帰してあげたいのに……私ってば、いつまでたっても結局ゼロだわ……」 ルイズの目元は乗せた手の甲で隠れていたが、その頬をぽろぽろと雫が伝った。 なにか、手はないだろうか。もう、本当になにもないのだろうか? 他に、他の……なにか、彼が帰る、その方法は。 私は……サイトを幸せにしてあげたい。 私だって幸せになりたいけど、私だけが幸せになったって、嬉しくない。 サイトが、元々もっていた幸せを、失ってほしくない……。 ただ幸せに、ではなくて、家族といつでも会える、その上での幸せをあげたい。 そう願わないなら、きっと本当の意味でサイトを思っている事にはならないんだわ……。 思い詰めたルイズはふらりと起き上がって、肌身離さずにいる始祖の祈祷書を開いた。 ぱらぱらと、いつものように白紙のページをめくっていく。 破壊系統の私の虚無ではやっぱりだめなのか、とルイズが半ば諦めかけたその時。 眩く輝く文字を、ルイズは目にした。 「帰れない、か……一度吹っ切れはしたけど、本当に可能性、全部潰れちまったんだなぁ」 才人はあてられた部屋のベッドに転がったまま、小さくため息をついた。 もう帰れないと思ったら、やっぱり父や母の顔はこれ以上なく恋しく思えた。 でも……もう二度と見られない。 一度帰った時に、会っておけばよかっただろうか。 ……いや。あの時は、ああするしかなかった。 そうでなければ、両親の代わりにルイズに会えなくなっていたかもしれない。 ……もう、そろそろ、食事会は終わっただろうか。 才人はもう会えない大事な人のかわりに、会える大事な人に無性に会いたくなった。 部屋をでて、なんどか教わって覚えたルイズの部屋にたどり着く。 扉越しに、ルイズの声が聞こえた。 だれか部屋に来ているのかと思ったが……その韻が呪文のそれだと気がついて、才人は 慌ててルイズの部屋に飛び込んだ。 465 名前:未来予想図[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 02 33 48 ID HUOQ29UL 「ルイズ! どうした!?」 ばたん、と蹴り開けんばかりの勢いで才人はドアを開けた。 かなりの音がしたにもかかわらず、ルイズは見向きもせず、呪文を唱えつづけた。 フィル・ウリュ・スリサーズ・アンスール・ラド・ケン…… ルイズの唇から聞き覚えのない虚無のルーンが紡がれていく。 途方も無い魔力がその小さな体の中でうねり、行き先を求める。 それは杖の向く先、壁に一点生まれた小さな光点に、集約されていく。 ギョーフー・ウンジュー・ハガラズ・ニィド…… ルイズはただただ一心に虚無の詠唱を続ける。 才人は壁に窓にと目をやるが、何一つ怪しいものは無い。 「おい! なにやってんだよ、ルイズ! 敵なんかいねぇじゃねぇか!」 叫んで肩を掴むが、ルイズは弱々しい笑みを一瞬だけ才人に向け、再度光点を見据える。 イス・ヤラ・ユル・ペオース・アルジー、ズ…… ぐっ、と声が詰まって、一瞬呪文が止まりかける。 光点に向かう杖はそのままに、ルイズは左手を自身の腿にやった。 何をしているのかと才人がみると、爪が食い込み、その傷から血が溢れ出した。 その血は次々にじゅうたんに落ちて、そこを赤一色に染めていく。 「ル、ルイズ……?」 ルイズの腕はがくがくと震えるほど、その内に力を篭めていた。 ――精神力がきれても無理に詠唱を続けると、気絶しちゃうの。 以前、ルイズが自分に言った言葉が、ふと脳裏に蘇る。 目を見て、その確信を得る。ルイズの焦点は定まらずにぐらぐらと揺れていた。 こいつ……意識途切れそうなのを、無理やり唱え続けてる! その結論が才人の中に生まれた瞬間、ルイズの唇の端から一筋血が流れた。 本来であれば気絶するほどの負荷を無視して、そのまま続けたらどうなるのか……。 いま流れた血もその一端かと思うと、才人の背にぞくりと冷たいものが走る。 「ルイズ! もうやめろよ!」 掴んだままだった肩をぐっと引っ張ると、ルイズは大きくバランスを崩し、膝をついた。 それでも杖は光点に向けて、そしてそれを必死に睨んでいる。 「なにしてるかわかんねぇけど、そこまでして唱える何があるってんだよ! ルイズ!」 才人はルイズの正面に膝をついて、両肩を掴んで、叫んだ。 「……教えろよ! 俺、お前がいなくなっちまったら、一体何のためにこっちにいんのか わかんねぇよ! 何のために生きてけばいいんだよ! なぁ!!」 ルイズは詠唱を止めず、また、さっきの言葉に答えないまま、才人の背に腕を回した。 こんな細い腕のどこにあるのかわからないほどの強い力で締められて、息がつまった。 どれほどの苦痛が彼女の体の内を巡っているのか、想像もできない。 才人の肩に顎をのせて、さらにルイズは呪文を続ける。 スーヌ・ティワズ・ベオーズス……エオー、マン……ラグーズ…… 才人は震えながら、ルイズの体を抱きしめる。 「ルイズ……ルイズっ! 頼むから、もう……」 「どうしたの!? 何が……ルイズ!?」 はっと扉の方を振り返ると、開けっ放しのドアからカトレアが飛び込んできた。 才人が大声で叫んでいたのが、カトレアの部屋まで聞こえたらしい。 466 名前:未来予想図[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 02 34 08 ID HUOQ29UL 呪文が完成したのは、そのときだった。 フレイヤ、オシェラ……ザガ、ズ…………フォルセティ 最後は途切れ途切れになりながら、それでも強引に呪文を完成させ、ルイズは杖を振る。 チリチリ、と大きな羽虫のような音がした。 小さかった光点は大きな姿見程の範囲に広がり、壁の一箇所を黒く染め上げた。 ルイズはそれを確認するように見ると……杖を手放し、その場に崩れ落ちた。 「……ルイズっ!!」 才人とカトレアは思わず悲鳴のような声でルイズの名を呼んだ。 ぐったりと青い顔で倒れ臥したルイズに、カトレアはすぐに呪文を唱え始めた。 「イル、ウォータル、デル……」 「ちぃ、ねえさ、ま……やめ……お体、が……」 すぐに治癒の呪文を唱え始めたカトレアを、意識も朧げなまま、ルイズは止める。 しかしカトレアは呪文を止めようとはしない。 さらに何人もの水の使い手が騒ぎを聞きつけて集まり、ルイズの身を癒した。 しばらくして、カトレアまでもが咳き込んで、倒れた。 ――才人は、手術室の前で待つ家族のように……ただ待つ事しかできなかった。 「う……ん」 「……おはよう、ご主人さま。……で?気分はどうだよ」 「サイ、ト……?」 やけに不機嫌な声の元を探して、ルイズはベッドに横たわったまま見回した。 才人は、ベッドのすぐ横に寄せた椅子に座り、ルイズを見ていた。 窓の朝日を背にし、その顔は半ば影に隠れていたが、少しほっとした風な顔つきだった。 「私はもう大丈夫よ。……それより、ちぃねえさまは?」 「あのあと、倒れたよ。……すぐ処置したから、今はもう大丈夫らしいけど」 「そう……ご無事でよかったわ。ちぃねえさまにも皆にも、あとで謝りに行かなきゃ……」 言ってから、ルイズは気だるげに体を起こし、部屋をくるりと見回した。 虚無の魔法で生んだ黒い鏡面はまだそこにあって、ルイズはほうっと息をつく。 そして再び才人を見ると、その顔はいつの間にか不機嫌そうに歪められていた。 才人は椅子から立って、ベッドの上、ルイズのすぐ横に乱暴に座った。 そして……ルイズが目を丸くする前で、才人は怒りに顔を歪め、身を震わせた。 「……お前、一週間も、眠りこけやがって……! 何を無茶してたのか、言いやがれっ!」 「お、おい相棒、"虚無"の使いすぎでダウンしてたんだから、もちっと優しくしてやれよ」 「うるせぇ! 黙ってろデルフっ!」 見かねたデルフリンガーが口をはさんだが、才人はそれを跳ね除けた。 自分になにも言わず伝えずに、勝手に無茶をしたルイズが許せない。 ルイズに事情を伝えてもらえない、信頼してもらえなかった自分が許せない。 そして……ルイズが倒れても、見ている事しか出来なかった、その力不足が許せない。 とにかく今の才人は、ルイズが起きるまで溜め込み続けた怒りで頭がいっぱいだった。 「さぁ、言え。まず、なんの虚無唱えたのか言え。あれはなんだった。爆発か?」 「……新しい、虚無よ」 「どうして唱える前に、俺に相談しなかったんだよ」 「……相談したら、アンタは止めたでしょう?」 「当たり前だろ!?」 「だからよ」 きっぱりといわれて、才人はそれ以上言えなくなった。 「…………じゃあ、次だ。……なんで、血吐くほど体にガタきても唱え続けた?」 それを問うと、ルイズは一拍ほど目を見開き考えて、それから答えた。 「……そうね。どうしても叶えたい夢だったからよ」 「夢?」 467 名前:未来予想図[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 02 34 29 ID HUOQ29UL 「サイトが私とずっと一緒にいて……でも、ご両親とも会いたい時に会える、そんな夢」 「な、なんだよ、それ……」 才人の顔ににじんでいた怒りが、困惑のそれに変わる。 「アンタが幸せで、そんなアンタと一緒に幸せに暮らせたら……私、世界一の幸せ者ね」 そんな事を、何のてらいもなく言って微笑するルイズにどきりとした。 しかしそれでもまだ、才人は納得がいかない。 「それと、今回の無茶と……どう関係があるってんだよ」 「……新しい虚無は、"界壁破壊"……上手く詠唱できてれば、あの先はサイトの部屋よ。 もう、これとは別の虚無の魔法で塞がない限り、ずっと繋がったままのはずだわ」 サイトの部屋、という言葉に才人は思わず目をむき、息をのむ。 ルイズがあれほどの無茶をやってのけた理由は……コレか……。 様子の変わった才人を気にとめず、ルイズは説明を続けた。 「虚無の系統は唱え切らなくても効果を発揮する、特殊な魔法よ。その効力は唱えた長さ で変わるわ。……もし、この魔法を唱えきれずに開放したら、どんな形で効果を発揮する かわからなかったわ」 「……あんな長い呪文、唱えきる自信あったのかよ」 「あったわよ」 「……お前、ぶっ倒れたじゃねぇかよ」 「それは呪文使った後でしょ」 「大体、あんな長く唱えられるほど精神力溜まる状況はなかったはずだろ」 「……その答えなら、ここにあるわよ」 言って、ルイズは才人の手を取り、自分の胸に押し付けた。 「お、おい。……なな何してんのルイズ」 「ちょっと、何照れてるのよ……。違うわよ」 「どう違うんだよ」 「さっきの答え。……あれを唱えきるだけの思いが、ココにあったから、よ」 そう言って才人の掌ごとぎゅっと胸を押さえ、ルイズは目を伏せた。 やっと健康な色に戻った白い肌が、ゆるいウェーブの髪が、朝日に照らされていた。 その姿は慈母像か何かのようで、才人は言葉を失った。 しばらくしてルイズが手を放すと、才人はその手をそっと背に回した。 「……みんな、お前のこと、すっごく心配してたんだぞ」 「うん……とっても申し訳ないことをしたと思うわ」 「俺だって……心配した」 「わかってるわ。……詠唱中、ずっと邪魔してたじゃない。主人の呪文の詠唱を邪魔する 使い魔なんて前代未聞だわ。……でも、ちょっとだけ、嬉しかったけど」 ルイズの幸せそうな笑顔に、才人は頬を染めてうっと詰まった。 「……な、何かお前さ……ちょっとヘンじゃねぇ?後遺症とかなわけ?」 さっきまでの雰囲気が一瞬で吹き飛び、ルイズは才人を睨みつけた。 「なによそれ。どこがどうヘンだって言うのよ」 「素直すぎ」 「…………ええ、そうねぇ。きっと今日くらいね。貴重だと思ってちょうだい」 ルイズはそう言って、才人の腕の中でふくれっつらをした。 才人はそんなルイズを見て微笑むと、躊躇いなくルイズの顎を上向け、口付けた。 朝の光が差し込む中、二人は情熱より安らぎから、しばらくキスを続けた。 「……あー。……そういえばさ」 「んっ……何よ?」 急にキスをやめられたルイズは、不満げな顔をした。 「……あれ、ほっといても大丈夫なのか?」 才人はそう言って、壁のでろでろ黒いやつを指差した。 「さぁ……向こうではどうなってるのかしら。想像つかないわね」 「こっちと同じとして……母ちゃんがコレみたら、驚いてお祓い頼むかもなぁ……」 「……それより見るなり卒倒しなければいいわね……」 「うーん……早いとこ行ってみないとマズそうだな……」 「あ、サイト。入る前に棒とかつっこんで、ちゃんと安全を確認してね」 「……お前さ、さっき自信あるって言ってなかったか?」 「……だ、だって。入ったら体溶けちゃった、とかなったらイヤじゃない」 「あ、あのなぁ! 自信あんのかないのかどっちかにしてくれよ!」
https://w.atwiki.jp/mangaroyale/pages/109.html
はらわたをまく頃に~侠客立ち編~ ◆ozOtJW9BFA 「だが倒れ付した相手に戦意を問い、追撃の機を逃すとはなんという軟弱ッ!!消え失せいッッッ!!!」 朝焼けの晴天を劈くが如きの、範馬勇次郎の怒号が響き渡る。 その怒気を受けても、津村斗貴子と花山薫の戦意に揺るぎは無い。 戦士としての自分を取り戻した斗貴子は、冷静に敵戦力を目測する。 身体能力は戦士長クラスかあるいはそれ以上、だが決して人間外と言う事では無い。 心臓や脳等の急所が損傷すれば死ぬ、つまり手持ちの武器で殺し得ると言う事。 花山が勇次郎に声を掛ける直前、斗貴子の手にあるAK74が火を放った。 AK74から放たれた弾丸は、正確に貫いた――― ―――勇次郎の身体が、存在した空間を。 斗貴子は瞬間目の前の事態を把握出来なかったが、すぐに分析が及ぶ。 銃撃とほぼ同時に勇次郎が立っていた地点で砂塵が舞い、すぐ横のブロック壁が破砕して勇次郎は姿を消した。 そして斗貴子と花山の居る位置は、ちょうど民家のブロック壁で挟まれている。 (壁越しからの、奇襲が狙いか!) 斗貴子は花山と背中合わせになり、共に壁に向かう。 (恐らくあいつは飛び道具を持っていない、壁を突き破って来ての奇襲を仕掛けてくるしかない。 ならばこちらは後手からでも、カウンターを狙える) 破壊音。 斗貴子がそれをブロック壁を壊したものだと認識できた時には、花山の巨体が宙を舞っていた。 ◇ ◆ ◇ 目前の壁が破砕されそこから勇次郎が拳を突き出し飛び出してきたと認識できた時には、花山は衝撃で後方に吹き飛んでいた。 勇次郎は一撃でブロック壁を壊し、160キロを超える花山を殴り飛ばした。 路上駐車してある乗用車に叩き付けられながら、花山は勇次郎と斗貴子の方を見やる。 ◇ ◆ ◇ 空中の花山を驚愕の表情で見ていた斗貴子が、勇次郎に向き直りAK74の狙いを付ける。 目標との距離はおよそ3m。 目標は斗貴子の動きに気付いていない。 連続的な銃声。 「トロい狙いだな、おい」 AK74の銃弾が空に消えていく。 「威勢ばかりでよ」 3mは離れていた筈の勇次郎が、斗貴子の腕を捻り上げられる距離まで近付いていた。 (動きが目視出来ないほどに速い! どうにかして動きを止めなければ…………!!?) 斗貴子達を上空からの影が覆った。 影の主、花山が空中から勇次郎目掛け脚を振り下ろす。 160キロを超える花山の全体重を乗せた、胴廻し回転蹴り。 花山の脚が、勇次郎の頭部に当たる。 斗貴子の腕から、捻り上げていた力が消えた。 勇次郎が身体ごと花山を上に飛び越し 蹴り足を振り切れていない花山の顔を、踵で蹴り抜いた。 (胴廻し回転蹴りから、胴廻し回転蹴りでカウンターを取られたのか!!?) 地面に崩れ落ちる花山の横に、音も無く両足で着地する。 その両足を花山が掴む。 (今なら当てられる!!) 斗貴子は空になっていたAK74のマガジンを入れ替える。 「臓物(ハラワタ)を、ブチ撒けろ!」 斗貴子の手の中でAK74が暴れ、銃弾が放たれた。 マガジンに詰まった30発の5.45x39mm弾全てが、秒速900mの速さで勇次郎に打ち込まれる。 眼前でクロスした両手で 黒衣の下の胴体で 勇次郎の全身でAK74の弾が皮膚を貫き、肉を穿ち、血を噴出させた。 「…………な……何だと……!?」 「アホウが」 全身に傷を作りながらも、勇次郎には致命傷はおろか動きに支障も見えない。 「カラシニコフ如きで、俺を殺してのけるつもりだったか」 花山が勇次郎の両足を掴んだまま、立ち上がって背後に振りかぶり そのまま頭上越しに、地面に叩きつけるべく前方に振りぬく。 「邪ッ!!」 勇次郎が花山の頭頂に、中指の第二関節だけを立てた拳を打ち込む。 意識を失った花山は、勇次郎を離し崩れ落ちた。 花山の首元を掴んで、勇次郎が斗貴子に詰め寄る。 斗貴子の戦士としての経験と判断力が、勇次郎からの逃亡を促す。 (現有戦力で取れる戦術はもう、AK74で弾幕をはって逃げる位しかない) 斗貴子の戦況分析は続く。 AK74を駆使しても、勇次郎から逃げ切れる可能性は低い事が分かる。 そして花山を見捨てて行かなくてはならない事も。 (……迷うな!これ以上ここに残っても、私にはどうする事も出来ない。 今は共倒れになるのを避けるのが、最良の判断なんだ) 斗貴子は迷いを振り払い、勇次郎との間合いを測る。 周囲全域から響く声に勇次郎の動きも、斗貴子の思考も止まった。 『脱落した者の名を読み上げる』 (脱落した者……死亡者の事か) 『―――以上、8名じゃ』 (カズキと戦士長は無事か……) 勇次郎は口角を上げ、薄く笑みを作った。 「お仲間の戦士も、参加してるのかい?」 (―――何故それを!!?) 斗貴子は仲間の無事を知った安堵から一転、驚愕に強張る。 「ククク、当たりみてえだな」 (くそ!! 放送を聞いた私の反応を見て、カマをかけたのか!) 冷静に考えれば他の戦士の具体的な情報を、明かした訳では無いのだが 斗貴子は自分の迂闊さを悔やむ。 「手中の武器が通じなければ、戦う術も無いお前の様な腑抜けと違って そいつ等は俺を、楽しませてくれるんだろうな?」 斗貴子の中で経験に無い、戦慄が走る。 勇次郎が尋常な人間ではないと理解はしていたが、その闘争と殺傷を求める欲望はもはや人間の範疇に無い。 (こいつはここで殺しておかないと、必ずカズキや戦士長に害が及ぶ!) 斗貴子は弾かれた様に、勇次郎に向かって駆け出した。 (接近してAK74を使えば、先程より効く筈だ。刺し違えてでも殺してやる!) AK74のマガジンを装填しながら、勇次郎の懐に飛び込む。 銃口を勇次郎の身体に押し当て 引き金を引く―――瞬間に気付いた。 銃口が花山の体に当たっているのを。 (馬鹿な!!? 何時の間に入れ替わった!?) 咄嗟にAK74の射線を逸らす。 脇腹の一発以外の銃弾は、全て地面に当たる。 (しまった!!) 「いけないなぁ、仲間を撃ったりしたら」 斗貴子の足が払われ、勇次郎に頭をから地面に叩き付けられた。 風景が酩酊し、斗貴子は立つこともままならない。 斗貴子の頭に伸びた勇次郎の手が、何者かに掴まれた。 「………………ありがとよ……姉ちゃん……」 声を聞いてそれが花山である事が、斗貴子に分かった。 「…………おかげで……目が…………覚めた……」 勇次郎の前腕を両手で間隔を置いて掴み、左右から圧迫する。 体液や体組織を圧縮し内部からの破壊を狙う、もはや技とも言えぬ攻撃法。 古タイヤを引き裂く握力を持つ、神に選ばれし喧嘩師のみが持つ攻撃法―――『握撃』。 「!!?」 勇次郎が微かに腕を捻り、花山の体が弧を描いて頭から落ちる。 腕を握るという単純で小さい動きの中でも、力の流れを見切りそれを操作出来る 神に選ばれし格闘士のみが持つ防御法。 低い破壊音。 花山の顎に蹴りが入り砕けた音が、斗貴子にまで聞こえた。 頭頂から、顎から、脇腹の銃口からの出血は止まず 蓄積されたダメージに震えながら、花山は勇次郎に立ち向かう。 (何故あの状態で立ち上がれる!? いやそれ以上に、もう勝算は無きに等しいのに何故まだ戦おうとする!!? くっ! せめて援護位は出来れば…………) 花山は文字通り自身の手を潰す勢いで拳を握り、身体を捻って溜めの構えを作る。 「ケッ、芸の無ぇヤロウだ」 両手を大きく開く、特異な構えを見せる勇次郎。 花山の右拳が撃ち出される。 最大値を計測出来る機械すらない握力に、スピードと体重が乗算された破壊力。 その拳が真っ向から打ち込まれた、勇次郎の左拳で砕かれた。 指は五本とも折れ、手の甲の部分まで変形している。 「一夜の……」 花山が先程とは左右逆に、身体を捻った構えを作る。 放たれる左拳。それを勇次郎の右拳が破壊。 五指があらぬ方向に折れ曲がり、手の甲まで歪んでいる。 「宿を…………貸し……………………一……夜で………… 亡く……なる…………はず…………の………………名が……」 花山が右足を蹴り上げるも、勇次郎は予めその動きを知っていたかのように頭を下げてかわしながら花山の左足を蹴り込む。 左足は肉が裂け折れた頚骨が突き出しているが、花山は立ったまま右拳で反撃。 低い姿勢の蹴りから、体勢を立て直していた勇次郎の顔面を捉える。 ダメージを受けたと言うより、不意を付かれたと言う表情で殴り飛ばされた。 (完全に壊れていた右手で殴った為、不意を付けたのか!?) 「た…びの…………ば……く…………と……………………」 「小賢しい真似をしおって!!!」 勇次郎が悠然と花山に詰め寄る、怒りとも喜びともつかぬ表情をたたえて。 勇次郎の黒衣が内側から破れる。 花山の上半身の衣服は既にほとんどが破り取られている。 その背中の筋肉が形作るは『鬼の貌』。 その背中に描かれしは花山家に代々伝わる『侠客立ち』。 両手を真上に伸ばし背中の鬼が哭く。 勇次郎に『侠客立ち』を向ける。 悪魔に授かった筋肉でただ思い切りブン殴る。 自分の身体で最も信頼における場所、『侠客立ち』で勇次郎の攻撃を待ち受ける。 オーガが花山の心の臓腑を止めた。 侠客は勇次郎の攻撃を全て受け切った。 ◇ ◆ ◇ 斗貴子は視覚的な酩酊から抜け出す。 しかし未だ身体に力が入らない。 花山の死を前にしてもほとんど動きが取れない。 (すまない、君には最後まで守られっぱなしで、私が守ってやれなかった……) 見下ろす勇次郎に対し、抗する術も無い。 (戦士長、後を頼みます。カズキ、……君は死ぬなよ) それしか出来ない自分の無力に歯噛みしながら、死を覚悟する。 勇次郎は斗貴子の身体を抱え、花山の前まで運んだ。 (何をするつもりだ!?) 花山の死体は、生きていた頃の威厳をそのままに屹立していた。 勇次郎は花山の脇腹に有る銃口に指を刺し、横に走らせ腹を切り裂いた。 「―――!?」 切り裂かれた腹から血を噴出しながら、なお花山は倒れない。 事態を飲み込みかねている斗貴子を意に介さず、勇次郎はその傷口に手を入れ肉と骨を力ずくで引き下ろす。 「臓物(ハラワタ)をブチ撒けろとか言っていたな」 斗貴子の手を掴み、勇次郎は花山の腹の中に突っ込む。 「止めろ!! 何のつもりだ!」 「ククク、思う存分ブチ撒けたらいいや、お友達の花山クンの臓物をよ」 花山の腹の中で手が動かされる度に、軟らかい内臓の手応えが斗貴子に伝わる。 「止めろと言っているだろ!!」 傷口から血がこぼれる度に、それが花山の尊厳を汚している如くに斗貴子には感じられた。 勇次郎は斗貴子の手を使い、花山の内臓をかき出す。 拳を硬く握り締めても、自分の意に背き 胃をかき出し、腸を引きずり出し、血を撒き散らしていった。 ―――何処かで嗅いだ匂いがする。 ―――夥しい血の匂い。 ―――忘れる事の出来ない音がする。 ―――臓物を引き裂かれる音 ( あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ) ―――ホムンクルスにクラスメイトを殺された時の記憶のままに。 「 う あ あ あ あ あ あ あ あ あ!!!」 初めてホムンクルスと戦った時と同じく、怒りと闘争心が力となって溢れる。 その時と違う点は、自分を掴まえている『怪物』に抗う事が出来ない点。 どれほど全身に力を入れ抗っても、右手と首筋を持つ勇次郎の手は小揺るぎもしない。 腹を殴られる。それだけで再び抵抗の力を失う。 花山の脚が払われ、斗貴子と顔をつき合わせる様に倒れる。 花山の頭に勇次郎の踵が落され、頭皮と頭蓋が大きく割られた。 「猿の脳味噌は旨いが、花山の脳味噌の味はどうだろうな?」 斗貴子は頭を掴まれ、顔から花山の頭蓋の中に突っ込まれた。 脳の予想外に軟らかい感触と、口の中に入る血の味。 それらが全て花山のものだと思い返した斗貴子は、喉の奥からこみ上げてくる物を堪える。 息苦しさにもがく力すら残っていない。 手を離され頭蓋の中から顔を出し 「花山の脳の味はどうだ? アハハハハハハハハハハハハハ!!」 息を整え、勇次郎に返事を返す。 「…………殺す…」 憎悪と殺気を具現化した様な表情で、勇次郎を睨み付ける。 「楽には殺さない、キサマがどう許しを請うと、地獄の痛みの中で殺す。 臓物も、脳漿も、キサマの体の最後の一片までブチ撒けて殺す。 必ずだ。キサマには地獄の苦痛以外、選択の余地は与えない」 「そうよ!! ただですませちゃァダメだ!」 歓喜と悦楽に満ちた表情で、勇次郎が吼える。 「正義の戦士なんだろ? 仲間が居るんだろ!? こんなひどいことをするやつァ許しちゃいけない!!!」 斗貴子の怒気を受け愉悦に笑う勇次郎は、斗貴子と花山のデイパックを取り口を開き中の荷物を全て落とす。 「俺はこれから繁華街に行き花火を上げる、必ず俺を殺しにくるんだ」 落ちた荷物から、食料と水だけを拾い去って行った。 斗貴子は虚無感を押し殺して、荷物を拾いデイパックに詰める。 疲労の残る身体を支えるのは、明確な怒りと闘志。 (一つだけ感謝するぞ勇次郎、キサマは私が戦う理由を思い出させてくれた。 その礼に望み通り殺してやる! キサマもホムンクルスと同じく私の敵だ! 敵は全て殺す!!) ◇ ◆ ◇ 消防署に戻った勇次郎は、床に放置してきたデイパックを拾い上げ 中の支給品一式を捨て、食料と水を詰める。 強い飢餓にあった勇次郎は、花山と斗貴子を喰らった程度では満足を覚えない。 その狂おしい程の餓えは、更に勇次郎を突き動かし続ける。 ―――まだまだ喰らい足りぬ。 ―――まだまだ壊し足りぬ。 ―――まだまだ殺し足りぬ。 (繁華街で花火を上げりゃ、人も集まるか……) 更なる餌を求め、勇次郎は北上を始めた。 未だ満ち足りぬオーガだが、その足取りに焦りは無い。 殺し合いは始まったばかり、オーガの求める餌は尽きていないのだから。 【花山薫@グラップラー刃牙:死亡確認】 【残り47人】 【D-4北西部 一日目 朝】 【津村斗貴子@武装錬金】 [状態]:極度の疲労、強い怒り。 [装備]: USSR AK74(0/30) 水のルビー@ゼロの使い魔 [道具]:支給品一式(食料と水無し)、USSR AK74の予備マガジン×7.始祖の祈祷書@ゼロの使い魔、キック力増強シューズ@名探偵コナン [思考・状況] 基本:主催者をなんとしても倒す 1:範馬勇次郎をなんとしても殺す 2:カズキ、またはブラボーと合流。パピヨンには警戒 (備考)花山の持っていた支給品一式と川田のタバコ@バトルロワイアルはD-4北西部の路上に放置しています 【D-4北部一日目 朝】 【範馬勇次郎@グラップラー刃牙】 [状態]体中に浅い銃創 健康 闘争に餓えている [装備]ライター [道具]食料と水3人分、打ち上げ花火3発 [思考] 基本 闘争を楽しみつつ優勝し主催者を殺す 1 繁華街へ行き花火を上げて参加者を待ち、戦うに値する参加者ならば戦う 2 首輪を外したい (備考) 二枚の紙(日本刀と自転車)と支給品一式は消防署内に放置しています 083 逢鬼ヶ刻 投下順 085 Drastic Soul 083 逢鬼ヶ刻 時系列順 085 Drastic Soul 041 鬼と戦士と喧嘩師 津村斗貴子 104 以前の彼女 041 鬼と戦士と喧嘩師 範馬勇次郎 113 大切なもの――SOLDIER DREAM―― 041 鬼と戦士と喧嘩師 花山薫 死亡
https://w.atwiki.jp/vireze/pages/106.html
祈祷の竜使いサーシャ・ドラゴン (赤) 5(赤4) スピリット 竜騎・竜人 Lv1(1)5000 Lv2(3)8000 Lv3(4)10000 このカードの軽減シンボルは赤/紫/緑/白/黄/青としても扱う。 Lv1・Lv2・Lv3自分の名称「ジーク」のカードは軽減を全て満たしたものとして使用できる。 Lv1・Lv2・Lv3『このスピリットの召喚時』 自分のデッキの上から7枚をオープンする。その中から[転召]を持つスピリットカードと、「第1神譚ジークフリード」を好きなだけ手札に加え、残りをシャッフルしてデッキの上/下に置く。 Lv1・Lv2・Lv3手元にある系統「龍帝」を持つスピリットカードのシンボルは赤としても扱う。 シンボル 赤 作者 白山羊 メガデッキ「龍焉の黙示録」で登場したスピリット。 フレーバーテキスト 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/108.html
前ページ次ページゼロの影 其の十 もう一つの太陽 学院に戻ったルイズ達にもたらされたのはアルビオンの宣戦布告の報――フーケからの情報で知った――だった。 ミストバーンは聞いた瞬間に戦うことを決意した。命じられずとも主の気持ちはわかる。 人間が何人殺されようとどうでもいいが、奇跡の――この言葉は気に入らないが――草原の見せた光景を壊されぬために行くつもりだった。 彼の無言の視線に対し、ルイズは頷いた。 「わたしも行くわ」 使い魔が一片の躊躇も無く戦おうとしているのに逃げるわけにはいかない。 彼は黙ったまま意気込むルイズを眺めている。どことなく疑わしげな視線にムッとした彼女は口を尖らせた。 「何よ。……わたしにだって守るべきものがあるのよ」 認めさせるという意地以上に、民の血が流れるのを防ぐのが貴族の大切な役目だ。危急の際に彼らを守るからこそ君臨を許される。肝心な時に戦わなければ意味が無い。 「どうせ村そのものはどうでもいいって思ってるでしょ? だったらわたしが戦わなくちゃ」 彼は敵の中に切り込んで暴れるだろう。その際村人達が大勢殺されていようが何の関心も向けないに違いない。だからこそ自分が少しでも被害を抑えるつもりだった。 彼の助けもなく戦場で戦い抜くことができるのか不安は大きいが、安全な場所で戦わずにいるのは嫌だった。 彼女の覚悟をミストバーンはどう思ったのか、反対する様子はなくタルブの村へルーラを唱えようとする。 だが、出発する二人の前にキュルケとタバサが現れた。戦場に行くのだと言っても引き下がるような性格はしていない。 「様子が変だからね。……前からだけど」 アルビオンやタルブの村に行ったことを指しているのだろう。 前者は表向きは王宮へのお使いということだったが、噂によると手柄を立てたらしい。 後者は、休暇届を出したとはいえ真面目なルイズには珍しくサボり同然である。気になるのも当然と言えよう。 タバサはキュルケとの付き合いから参戦を決意した。 ルイズは二人が同行する理由をそう結論付けたが、少し違っている。 キュルケは“王宮へのお使い”の後でルイズの雰囲気が変わったのを感じていた。 一緒に行って見届けることができなかったため今度こそ、という思いがある。 タバサもミストバーンに関心を抱いているため賛成したのである。 風竜に乗りこんでからルーラを唱える。 タルブの村に到着し、レキシントン号に視線を向けたミストバーンは何も言わずに風竜の背を蹴り、夕映えの中を飛んだ。 甲板に降り立ったミストバーンは導かれるように迷いのない足取りで歩く。ルーンが眩しく輝き標的の居場所を教えている。 邪魔する者は全て爪で貫くか切り裂き、静かに目的の部屋までたどり着いた。 その中にいたのは、忠誠を誓った相手や彼の尊敬する者の信頼を裏切った男――ワルド。 扉を破った相手を見たワルドの顔が強張る。まさかタルブの村までミストバーンが来るとは予想もしなかった。 風竜に遍在達が乗っていたが、それらが気づくより先にレキシントン号内まで乗り込んできたのだ。 ルーンの働きではそれぞれ意思と力を持つ遍在と本体の区別はつかない。複数の気配を感じ、一番安全な場所に来たところ本人がいたのである。 ルイズ自身に討たせたい気持ちもあるが、民を守るという使命がある。裏切り者の始末こそ彼にふさわしい仕事だろう。 一歩、また一歩、距離を詰める。 「自らの肉体は傷つかず、思い通りに動かせる……お前に相応しい能力だ」 「君の言えた台詞ではないな。忌わしい体に頼りきった強さなど、しょせん偽りにすぎん」 蔑んだような口調に対し、苛立ち混じりの嘲笑とともにワルドが吐き捨てる。 侮辱されたミストバーンは激高するかと思われたが、無言で攻撃を誘うように手招きした。 空気が帯電する中ワルドは四人の遍在を呼び戻し、杖を抜き放ち襲いかかる。対するミストバーンは爪で剣を作り迎え撃った。 ルイズはいきなり置いていかれたことに憤ったものの、タバサもキュルケもすでに気持ちを切り替えている。 レキシントン号内の敵は彼に任せて自分に出来ることをするしかない。言うことをきかない使い魔への怒りを煮え滾らせながら彼女は杖を握り締めた。 村人を助けるといっても何から始めるべきか混乱した彼女にタバサが淡々と告げる。 「避難の援助」 ハッとして下を見ると逃げ遅れた村人達を敵兵が襲おうとしている。風竜を駆り接近した三人から魔法が放たれる。 氷の矢がと炎の球が飛来し、士気が乱れたところに爆発が生じる。反撃の矢が飛ぶのを回避し、再度上空から攻撃を加えた。 「……あんた加減するの上手くなったじゃない」 キュルケがそう言うのも無理はない。村人を巻き込まぬようすれすれのところで正確に爆発を起こし、兵士達を吹き飛ばしている。 その威力は行動力を奪う程度で足止めにふさわしく、惨状を招いてはいない。 「爆発に関しては我ながら芸術的だと思うわ。魔法が効かないあいつにだって通じたんだもの」 そう語る横顔には戦場への恐怖はほとんど感じられず誇らしげな色が目立つ。来る前より却って落ち着いたようだ。 年齢にふさわしくない肝の据わりようにキュルケは首をかしげた。タバサも疑念を抱いている。 生徒の中ではキュルケとタバサが断然実戦経験が多く、ルイズは爆発しか起こせないこともありろくに戦うことなどなかったはず。 “王宮へのお使い”が彼女を変えたのだろうか。 精神的にたくましく――悪く言えば図太くなった気がする。 「ずいぶん落ち着いてるのね?」 兵士達の怒号や攻撃を見下ろしながら問いかけると複雑な表情とともに答えが返ってきた。 「これくらいでいちいち怖がってたら神経もたないわ。あいつと一緒にいるのよ?」 「……それもそうね」 心の底から納得したキュルケとタバサはアルビオン軍へとさらに攻撃を叩き込んだ。 艦内の一室で杖と爪の剣がぶつかりあい、甲高い音が響き渡った。援護すべく武器を構えた周囲の兵士達はすでに全員倒されている。 彼らの戦いは誰にも邪魔されることなく続いていた。 (なぜだ……?) 五対一の数の差か、ワルド自身予想していなかったことに渡り合えていた。 だが、杖を振るう彼の心に違和感がまとわりつき本能は警告を発し続けている。 その正体に気づいた瞬間、彼の眼が見開かれた。 ミストバーン最大の特長は不死身の体。 だが彼は先ほどからあらゆる攻撃を防ぐかかわすかしており、かすらせもしない。不死身の肉体に頼らなくてもワルドの攻撃など無意味――そう証明するかのように。 「まさか――わざと攻撃させていたのか!?」 倒せるかもしれないとわずかな希望を持たせてから絶望の淵へ叩き落とす。その方が苦しみが大きくなるのだから。 ワルドが答えに辿り着くのを待っていたかのように銀の光が二筋流れる。今までの攻防が手抜きに思える斬撃に遍在二体の首が飛ぶ。 両手の爪が伸びるのを残りの遍在が飛び退ってかわし、先端が床に付き刺さる。 回避したことに安心した瞬間、爪は床を破って姿を現し胴体に食らいついた。胸から腹にかけて穴を開けられ消滅する。 これで残るはワルド本体のみ。 「く……!」 勝ち目はない。冷静に判断したワルドは飛び退いて呪文を唱えた。一瞬の隙に身を翻し逃走しようとした動きが止まる。 「知らなかったのか? 貴族は敵に後ろを見せないものだ……」 ギシギシと人形のようにぎこちない動きで振り返り、敵と向かい合う。震える体が本人の意思に反していることを示している。 全身に絡みつくのは漆黒の糸。 闘魔傀儡掌という名の、動きを自在に操る技。 指に合わせてワルドの手がゆっくりと動き、杖が上がる。くるりと回転させ、刃を己に向けると顔が歪んだ。 虫でも潰すように無造作にミストバーンの指が折られ、刃が肉を貫く音が響く。膝をついたワルドの眼が見開かれる。 彼が覚悟を決め、遍在とともに危険な戦場を駆けたのならばミストバーンもこのような戦い方はしなかっただろう。 ウェールズを殺そうとせず、レコン・キスタに与する理由を明らかにして信念を見せていれば異なった結果を生んだかもしれない。 強者には敬意を払う彼だが、実力があっても精神の伴わない相手への評価は低い。単純な力量より己を高めようとする意志の有無が重要な判断基準だと言えた。 死に向かうワルドの眼に何かを視た確信が宿る。 赤く染まる口元に嘲りと哀れみを足した微笑が刻まれた。 「君こそが……ほんとうのゼロ、と……」 鮮血を吐いて倒れ伏したワルドの体に一片の関心も向けず、彼は部屋を後にした。 村人の避難を完了させたルイズ達は大砲の射程圏内に入るわけにはいかず、戦艦に近づけずにいた。 焦燥感に駆られるルイズはふと目をこすった。視界がぼやけたのは一瞬で、見えないはずのものが見えている。 それは、杖を己に突き刺し血塊とともに忌わしい言葉を吐き出すワルドの姿。 何を言ったかは口の動きでわかる。長年ルイズに浴びせられ続けてきた言葉――ゼロ。 ルイズは震えながら己を勇気づけようと指に水のルビーをはめ、『始祖の祈祷書』を勢いよくめくった。 「うう……うええ……っ!」 こみ上げる吐き気を必死でこらえ、青ざめた顔で呻きを漏らす。 ワルドの最期が網膜に焼きつき離れない。絡みつく糸に操られ、自ら杖を心臓に深く差し込んでいくおぞましい光景。 戦いにおいて割り切った思考ができるようになったと思っていても、あっけなく心の防壁は剥がれ落ちる。 「破壊以外にも使える立派な力って言ったそばから……なんて使い方してんのよあいつ」 指一本で、命を奪った。こういう時にこそ絶対に越えられない深い淵を感じる。 悪寒を振り払おうと白紙をめくり続けると、今までと違い途中で文字が浮かび上がっている。信じられぬ思いで読みふける彼女にキュルケが声をかけるが耳に入らない。 書いてあるのは四つの系統と零――虚無の系統について。 選ばれし読み手が指輪をはめることで読むことができるとも書いてある。 さらに、初歩の初歩の初歩の魔法として『爆発』が挙げてある。これは自分が虚無の系統だということではないか。 まだ信じられないが試してみる価値はある。 できるだけ大きな爆発を起こして、忌まわしい映像ごと吹き飛ばしてしまいたかった。 「お願い、できるだけあの戦艦に近づいて」 「わかった」 ルイズの言葉に何かを感じたのか、タバサは聞き返さずにシルフィードを上昇させた。 ――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ 体の中から何かが生まれ、回転するような感覚。 ――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 生まれて初めて自分の系統を唱えるのだと確信が体に染み込んでいく。 ――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ いつしかレキシントン号を見下すまでに高度が上がっている。 ――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル… 呪文が完成した瞬間、ルイズは己の魔法の威力と性質を理解した。 自分の魔法は全てを巻きこむ。 だが、選択もできる。 殺すか、殺さないか。 破壊すべきは何か。 彼女は選び、杖を振り下ろした。眼下に広がる艦隊に向けて。 夕暮れの草原をもう一つの太陽が照らした。 巨大な光の球が膨れ上がり艦隊を包みこむ。目を焼くような閃光が弾け、天空を駆け抜け焼き尽くす様はまるで―― 「不死鳥、か」 大魔王はグラスを片手に呟いた。彼の眼には炎上した艦隊が地面に墜落していく光景が映っている。 彼の象徴が不死鳥とされるのはメラゾーマが圧倒的な威力と独自の形態を併せ持ち、その姿が優雅な不死鳥となるためだ。 術者の魔力によって魔法の威力は大きく左右されるが、大魔王のそれがあまりにも桁違いであることから生じる現象だった。 「素晴らしい……その力、余の物にしたくなったぞ」 身体的な強さはそれほどでもないが、一撃で大艦隊を叩き落とすような真似ができるのは魔界でもほんの一部だろう。 これをきっかけとして爆発だけでなく他の魔法をも使えるようになるならば、可能性は未知数だ。 大魔王は楽しげに低く笑い続けた。 ミストバーンも全てを照らす光に目を奪われていたが、ルイズ達に合流し、“奇跡”を起こした少女を眺めた。 『虚無』について聞かされ、授業の時にルイズだけが違うと感じた理由が今になってわかった。 精神力を糧として魔法を発動させるのは同じだが、蓄積や変換の過程が大きく異なっているのだ。 今回の凄まじい威力の爆発は、生きてきた中でため込まれた莫大な怒りを解き放った結果起こった。 ミストバーンは憎悪を増幅させる感覚を教えたが、それは『虚無』の使い手である彼女と相性の良い技術だった。 ルイズは授業を元に、自分で暗い感情を呼び覚まし力に変換するコツを掴みつつある。会得できれば今回のような規模の『虚無』を高い頻度で放つことも可能だろう。 以前から努力する姿勢や逃げない意地を認めていた。 今、強大な力を見せた彼女は真の強者――認めるに値する相手だ。 今までと違った光を浮かべてルイズを見る彼の元へ大魔王の声が届く。 『お前はその娘を守り抜け。騎士……シュヴァリエのごとくな。ふはははっ!』 「はっ」 上機嫌の主に対し彼は力を込めて頷いた。 一方ルイズは自分の手を見つめて顔を曇らせている。ずっとゼロだと言われ続けてきたのに突然巨大な力が現れたため戸惑っている。 『虚無』がどれほどの重みを持っているか、他者から狙われるか。そういったことに疎いルイズにも薄々想像が付く。 不安に苛まれる彼女は震える身体を抱きしめて呟いた。 「こんな力持ってるってバレたら殺されるかも……」 そんな彼女にミストバーンは小さく首を横に振った。それはないと言いたげに。 「何で?」 心細くなっているのに否定され、目に涙を浮かべながら問いかけると彼は静かに宣言した。 「私が守るからだ」 どこまでもまっすぐ言い切られたルイズは絶句した。 キュルケとタバサもアストロンをかけられたように固まっている。普段の彼からは想像もできない言葉だけに破壊力も大きい。 彼女らには大魔王の言葉が届かなかったため驚くのも無理はない。 素直に喜ぶより己の耳と頭その他が心配になったのかルイズは自分の耳を引っ張り、頭を叩き、頬をつねり、また耳を引っ張っている。続いて心の底から彼の心配を始めた。 「……あんた頭どっかにぶつけておかしくなったんじゃない? どこに連れてけばいいの? そんなこと言ったってどうせわたしの言うことはちっともきかないくせに」 ワルドへの仕打ちと言葉の差があまりにも大きすぎるため頭がすっかり混乱している。 「何か、こう、胸がドキッとしたわ。もしかして……寿命が二十年以上縮んだかも? 嬉しいような嬉しくないような……こんな時どんな顔をすればいいのかわからないわ」 「気持ちはわかるけど落ち着きなさい、あんた完全に不審者よ」 頭を抱えぶつぶつ呟き続けるルイズにキュルケ達は呆れた眼差しを向け、帰途に就いた。 ミストバーンにふと主の声が届いた。 『ところで、帰る手段については何か見つかったか?』 急いているわけではなく単なる確認だがミストバーンは恐縮そうに震えた。 申し訳なさに打ちひしがれながら特に手がかりがないことを告げると大魔王はふむ、と呟いて何やら考え込んでいた。 「何か……?」 『……いや』 主の反応にミストバーンは方針変更の必要性を感じた。今まで役に立ちそうなものと同等に探してきたが、帰還に関する情報収集を最優先にした方がいいようだ。 『虚無』を使うルイズが呼び出したのならば元の世界に帰るのも『虚無』が関わってくるのではないだろうか。 ミストバーンは『虚無』について探ることを己に言い聞かせ、ルイズを見つめた。 ほんの少し距離を縮めた気がした二人を待っていたのは、目を覚ましたウェールズだった。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7577.html
前ページ次ページPersona 0 Persona 0 第19話 二つの月光が見下ろす下、静かに戦いの幕は開けた。 ジョゼフは左手に持っていた酒瓶から血のように赤いワインを右手のグラスに注ぎ、残った酒瓶を投げ捨てる。 宙を舞った酒瓶はその中身を撒き散らしながら数秒の間くるくるとダンスを踊っていたが、やがて緑の石畳に落ち、粉々に砕け散った。 「出番だ、ニャルラトホテプ。せいぜい好きにするといい」 「言われずとも、見せてやろう私の力を!」 ニャルラトホテプはそう言いながらその体に備えた無数の触手を空に向かって高く高く掲げる。 まるでその先にある月を、そこから降り注ぐ輝きをその手に掴み、汚し尽くそうとでもしているかのように。 ――不滅の黒! ニャルラトホテプが触手を振り下ろした瞬間、夜がその色を失った。 正確には夜の闇よりもなお深い黒がその場すべてを塗りつぶしたのだ。 「何が起き……!?」 驚くルイズたちの体をぬるぬるとした何がか這いずっていき、その次に襲ってきたのは猛烈な嫌悪感と命そのものを吸い取られたかのような凄まじい倦怠感。 黒い何かがぬるりと音を立てて過ぎ去った後、ルイズたちは何者かが高々を嘲笑う声を聞いた。 「ふはははは、おかしい、おかしい、これはなんと言う無様か、我は無貌の神、月に吼えるもの、這いよる混沌ニャルラトホテプ! すべての人間の影にして、運命を嘲笑う者――だと言うのにこのような形でしか現世に介入する手段を持たないとはな!」 その言葉と共にニャルラトホテプは触手を振るう、見るだけでもおぞましい黒い塊はルイズへと向かってまっすぐに伸び、そしてその足に絡みついた。 「ひっ! な、なにするのよっ イドゥン!」 イドゥンが爆発を使って触手を吹き飛ばそうとすると、それよりもなお早く、光のように動いた才人がその触手を断ち切っていた。 才人は油断なく硬化を施された太刀を構えると、普段の柔和な姿からは想像もできないほど壮絶な顔でニャルラトホテプをにらみつけた。 「暫く見ない間に良い顔をするようになったじゃあないか、くく、その闇が私に力を与えてくれる」 「黙れ、てめぇにくれてやるものなんて髪の毛一本たりともねぇよ!」 「ほぅ、ならば俺にはなにか与えてくれるのか?」 二人の話に割り込んだのはジョゼフ・ド・ガリア、無能王と呼ばれた虚無の担い手だった。 今その指には四つの色をしたルビーの指輪が光り、その手に吊るされたずた袋には四つの聖遺物が無造作に納められている。 すなわち 何も書かれていない本――――始祖の祈祷書 壊れたオルゴール――――始祖のオルゴール 香炉として意味を成さない香炉――――始祖の香炉 奇妙な形をした像――――始祖の石像 四つである。 この世界のものと、ジョゼフが滅ぼしたかつての世界で存在した秘宝と。 あわせれば揃えることなど造作もなかった。 その秘宝をルイズに向かって放りながら、ジョゼフは問いかける。 「そこのお嬢さんが虚無の魔法で俺の願いをかなえられるのなら、世界を滅ぼすを思いとどまってやっても構わんぞ?」 「あなたの、願い……?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステインの虚無の担い手よ。俺の目的はな……」 そう言ってジョゼフは天を仰いだ、そこに失った何かを見出すように。 悲しげに、寂しげに、星々の海を仰ぎ見る。 掲げた手の先には、無数の白い何かの錠剤。 傾けた掌からぼろぼろとジョゼフの口へと零れ落ちていく。 「もう一度、シャルルに会うことさ! ばりばりと噛み砕き、嚥下する。 その白くちっぽな薬剤は、かつて「ペルソナ制御剤」と呼ばれていた。 対象の精神状態に作用し、ペルソナの暴走を押さえる為のものだが、しかしその一方でその対となる効果を持つものも開発されていたのである。 強制的に自らの内なる扉をこじ開け、もう一人の自分を呼び出す薬剤。 この薬剤は実験の被験者となった者達のコードネームから、やがてこう呼ばれることになった。 「ストレガ」と。 「うああああああああががああああああ!」 頭を抱え、血走ったジョゼフの体からゆっくりと立ち上がるもう一つの影。 蒼い髪の端整な顔をした青年の姿をしたそのペルソナは、高らかに己の名を名乗る。 「ボクはミドガルドロキ、全てを誑かし全てを騙す、神々のトリックスター。さぁラグナロクのはじまりだ」 「さぁヒラガサイト、ご主人様が大事なら防いで見せろ! 運命を手にする力を我が手に……合体、魔法……」 ロキがその手に生み出した光を、ニャルラトホテプが圧縮し、異形の円環がニャルラトホテプの触手の狭間で回り始める。 ――――パンテオン! ニャルラトホテプの触手からその円環が離れた途端、その闇を混ぜ込まれたその光は炸裂した。 ルイズたちを、それを庇ったサイトを、 何もかもを飲み込んで、極光が止まった夜を染め上げた。 体が、うごかねぇ。 ルイズはどうなったんだ? 動け、動けよ、俺の体。 俺はルイズを守るんだ…… ――真っ白に染め上げられた視界、それがだんだんと開けてくる。 ――目の前には最愛の人、少しだけ怯えた表情でサイトを見ている。 よかった無事だった、ルイズ。 よかった、本当によかった。 ジョゼフの奴、偉そうなこと言って置いて俺一人やっつけられなかったじゃないか。 あと少しだ、あの馬鹿をぶっとばしてそして帰ろう。 ルイズと一緒に、魔法学院へ帰ろう。 「るぅぅぅいぃぃぃずぅぅぅ」 ――口から出た言葉はまるで少し前のおぞましい姿だったときのようだ。 ――焼け爛れた肺と咽喉ではそんな程度が精一杯、だがサイトは自分がどうなっているのか分からない。 ――だから無駄な努力を続ける、自分が守った仲間たちに向かって呼びかけ続ける。 ――その呼びかけは、あまりにも唐突に終わった。 目に入ったのは、背後から胸を短剣で串刺しにされたルイズの姿。 こほりと血を吐き、驚いたように瞳を瞬かせ、そして何が起こったのか分からないままその場でよろめき。 そして足を踏み出した。 ルイズは落ちて行く、まっさかさまに地上へと転げ落ちていく。 あたかも、ラグナロクの際ユグドラシルから落ちるというイドゥンの乙女のように。 「ルイィズゥゥゥゥウウウウウウ!」 悲しき絶叫。 その遺体が塔の淵から真っ逆さまに落ちて行く姿を瞬きもせず見つめながら。 サイトの意識は、今度こそ完全に闇へと落ちた。 自らの心の底の底、昏い闇のなかから何かが這い上がってくる気配を感じながら――サイトは己を喪った。 時間は、ほんの僅かに遡る。 ジョゼフの奇妙な魔法は、才人の挺身を持ってしても拭いきれない傷をルイズたちに刻んでいた。 パンテオン――すべての神々を意味するその魔法には、如何なる力が秘められていたのか? 一番近くでその威力を受けたルイズの体には無数の切り傷や火傷、打ち身に凍傷、おおよそどうすれば一度にこのように多様な傷を負う事ができるのかと不思議になるほどの数多の傷が刻まれていた。 そのなかでも一番酷いのは右の脇腹の刀傷だ。 それでもルイズは震える足で立ち上がった。 ゆっくりと腕を広げ、仲間たちの前に立つ。 にやにやと笑うジョゼフの視点から仲間たちを庇うように。 「ルイズ……」 悔しそうなタバサの声。 ルイズの後に続こうと踏みしめた足はどうしようもないくらいに笑っていた。 そんなタバサを横目で見ながら、ルイズはただ虚勢を張る。 「どうしたのかかってらっしゃいよ! こんな攻撃屁でもないんだから!」 ルイズは自分の傷すら構う事無く、まっすぐに無能王に杖を突きつける。 それが愉快なのか、くつくつとジョゼフは笑みを深めた。 だから彼は笑いながらもその目では氷のように冷ややかに、ルイズのことを見つめている。 万が一、億に一にでも、ルイズが“虚無”の才能を花開かせることがないか? その氷の眼差しは、僅かな期待と共に冷徹に一人の少女を観察していた。 そんなことルイズは気づかない。 ジョゼフは、ルイズを何があっても死なせる気がないことに気が付かない。 だからこれらはすべて茶番なのだ、月を臨む塔を再現し、かつての世界の有り様を再現し、そして己の命を使ってまで。 ジョゼフはゆっくりとゆっくりと機が熟すのを待っていた。 ルイズが、或いは才人が、その力を覚醒させることを今か今かと待ち続けていた。 殺すだけなら簡単だ、捻りつぶすことも造作もない、これだけの大舞台はすべてただそれだけの為に用意した駒。 あとは最後の駒を動かせば王手〈チェックメイト〉だ。 四つの虚無の力を暴走させ、平賀才人の肉体を媒介にして、強制的に〈時間門〉のゲート開く。 そのためには平賀才人と、仮初といえどもその主であるルイズにはどうしても生きていてもらわねばならない。 もっとも生きてさえいればどのような形だろうと構わないが…… 「ほう、ならばもう一度いくぞ?」 故にジョゼフはこの演劇に身を浸す、やがてくる歓喜の時の為に、残り少ない命を削り落としながら。 道化の舞いを舞い続ける。 だがそんなことをルイズは知らない、知った事ではない。 彼女にとって今一番大切なのは、仲間たちを守ることだけだ。 痛みと出血で朦朧とした頭では、もうそれしか浮かんでこない。 脇腹に付けられた傷は小さいが深い、瞬く間に白いブラウスを真紅で染め上げていく。 苦痛は深く、感覚は鈍い。 だが鉛のようになった体から次第に痛みは薄れていった。 それは勿論傷が癒えたからではなく、ルイズがより一層死に近づいたからに他ならない。 本人以上に危険を感じ取った体が、感覚器などの生命維持に直接関係のない部分を切り捨ててでも命を繋ごうとしている必死の抵抗に他ならない。 だがルイズは自分の体からの必死の呼びかけを無視した。 今は自分の体を直すよりも、ありったけの力で無能王ジョゼフの癇に障るにやけた顔をぶん殴ってやりたかったから。 「望むところよ! 次は……」 感じたのは灼熱。 突然胸に炎の花が咲いたような、身を切るような熱さだった。 振り返れば、そこには俯きながら自分の背中へと寄りかかるタバサの姿。 その表情は、影になっていて見えない。 「死ね」 その言葉と共にタバサは再度ルイズに向かって短剣を突き立てた、鋭利な刃先は骨の間を縫ってルイズの小さな心臓を穿ち背中へと抜けた。 肺に血が流れ込み、ごぼりとルイズは吐血する。 時間がゆっくりと流れ、力を失った体が崩れ落ちる。 その刹那ルイズは見た。 タバサの瞳の奥に宿った狂おしいまでの憎悪を。 祈っていた、願っていた、ただ一心にひたすらに、ひたむきに。 ルイズへの復讐を望んでいた。 何故? その疑問がルイズの心に満ち、そして霞むように消えていく。 死が這いより、心が終わっていく。 何もかもが虚無へと落ちていく。 「ジュリオ様の仇」 タバサは短剣を引き抜くとルイズの体を蹴り飛ばした。 弛緩した体がゆっくりと弧を引きながら宙へと踊り、そして真っ逆さまに頭から落ちていく。 風鳴りの音だけを引き連れて、一人きりで奈落へと堕ちていく。 その姿を最後まで看取ることなく、タバサは哀しそうに空を見上げた。 まるで人形のような感情の篭らない二つの瞳が、空に輝く昴の星を祈るように見つめる。 「タバサ、あなた・・・」 キュルケの言葉に、タバサは視線を向けることすらなく答えた。 「私は、タバサなんて名前じゃない」 だが本当の名前は分かる訳もなく、これまで人生を共に寄り添ってきた名前は大切な人の亡骸へと置いてきた。 今の彼女は名も無き幽霊、シャルロットの影。 あの人の理想をかなえる為なら、自分は影で構わないと――彼女は想った。 取り出したのは一つの仮面、以前ジュリオと二人で仮面舞踏会に行った時ジュリオから貰った青と白の仮面。 陶磁器の様な質感のそれを身に付けて、彼女はキュルケに向けて宣言する。 「私は影、あの子の影、それでもあえて名乗ると言うのなら」 そらを見上げる、その満天の星空に一つの星座を見つけ、彼女は以前ジュリオが語ってくれた内容を思い出す。 ――ねぇジョゼット、この仮面に書かれている文字が読めるかい? これはスコルピオン、蠍って意味らしい、はは贈り物にしてはちょっと無粋かな? 好きだった、愛していた。 たとえ利用されているだけだったとしても構わなかった。 もし殺されるとしても、彼の役に立てるなら喜んで殺されただろう。 けれどそんな彼 ジュリオ はもういない…… ――けれどこの仮面には強い力が籠もっている、きっとキミを守ってくれると思う。それに蠍と言うのは不死の象徴だしね 殺されてしまった、無慈悲に、一方的にこの世界から消し去られてしまった。 こいつらに思い知らせてやりたい。 彼がどれだけ無念な思いを抱えたまま殺されていったのかと言う事を、どれほどの覚悟を持ってあの戦いに臨み、そして自分の死すら折りこんだ決意を持って戦っていたのかと言う事を。 「思い、知らせてやる」 分かっている、これが一方的で卑しい感情だと言うことくらい……彼女は嫌と言うほど分かっている。 それでも止められない、心の中に膨れ上がる憎悪を止めることができない。 もっと話をしたかった。 もっと笑顔を見たかった。 もっともっとキスして欲しかった。 未練は山積みで、後悔は海よりも深く、けれどどれだけ手を伸ばしてももう届かない。 ――――初めから分かっていたことだった、あの日ジュリオがジョゼットの部屋を訪ね、この計画を打ち明けた時から決まっていたことだった。 「シャドウスコルピオン、それが貴女を殺す女の名前です」 あらゆる感情を仮面の下に押し込めて、ジョゼットは――いやシャドウスコルピオンは高々と宣言する。 滅びを告げるその言葉を。 「ぺ・ル・ソ・ナ」 呼び出すための媒介は拳銃ではなく透明な薬剤で満たされた注射針。 それを自分の首筋に突き立て、中身をすべて胎内へと流し込む。 無理やりこじ開けられるジョゼットの心の扉、その奥底からソイツはやってきた。 「私の憎悪よ、羽ばたいて……」 ジョゼットの、いやシャドウスコルピオンの言葉と共に。 世界は再び白に染まる。 「ごほっ、ぐ、ごほっ」 血の色に染まった粘膜状の塊のなかからやっとタバサは這い出した。 体中粘つく粘液塗れの不快感に顔を顰めながら、周囲を見る。 「みんなは、どこ?」 タバサからすればほんの短い時間しか経っていないように思えたが、ジュリオの体液には麻酔効果のある幻獣のものでも使われていたのか。 周囲に仲間たちの姿は一つもなく、戦いの跡の様子から随分と時間が経っているように思えた。 しかしおかしい、仲間であるタバサを敵に捉えられたまま先を急ぐような者は仲間たちの中に一人もいないはずなのに。 「なにかあった、そう考えるべき」 普段使っているものとは違う短い予備の杖をマントから取り出すと、タバサは〈フライ〉の呪文を唱える。 もはや一刻と言えども無駄にする時間などない。 この塔を上りきるには相当の精神力を消耗するだろうが、外壁を伝って屋上へ行くべきだろう。 「――――!?」 そう思って空を見上げたタバサの目の前を、人間大のなにかが横切った。 闇に揺れる桃色の髪、血に染まった制服、華奢な手足。 タバサは一瞬だけ惚け、そして気づく。 今目の前を通り過ぎた人の形をした塊が、一体なんなのかと言うことに。 「ルイズ!」 気づけばタバサは吹き抜けの欄干から飛び降りていた。 あたりは闇、血のような真紅の月と、骨のような白い月光の照らす終わらぬ夜は、時が止まったまま深けて行く。 「ああ、聖下――もうすぐ…………」 ――タバサが抜け出した粘液の片隅で、僅かに人の顔のような形を残した肉の塊が、切なそうに呟いた。 前ページ次ページPersona 0
https://w.atwiki.jp/mangaroyale/pages/321.html
束の間の休息◆9igSMi5T1Q 数分前まで神社にいた男は、近くの禁止エリアに向かっている。 今は神社に留まるべきではない。 JUDOとの邂逅はそれなりに興味深かったが、長居は禁物なのだ。 手に入れた煙草を蒸かしながら、ぽつぽつと歩いていく。 着いたら、軽く休憩するのも悪くない。 赤木とて、ただの人間なのだから疲れたときぐらい一睡もする。 歩きながら、不意に空を見やる。 (いい加減なものだな……) 降ったり止んだり、天も忙しい。 神を自称する男に付き合わされて重労働だ。 オレンジから深い藍色に変わるグラデーション。 空にはもう、不規則に並ぶ星座たちは見当たらず、朝になった事を伺わせる。 とはいえ、天の下にいる男は、そんな事など微塵も考えない。ただ空を仰ぎ見るだけ。 「……クックックッ」 案の定、星空になど興味もないと言った表情で赤木は哂う。 対主催の情報は揃いつつある。JUDOに出会えたことも大きかった。 歩きついでに、これらの情報を整理してみよう。 (まず、ジグマールの存在) 人間ワープ、いわゆる瞬間移動の持ち主。マーティン・ジグマール。 主催者に恐れられ、その能力を大幅に制限された男。しかし、こいつは奇妙なのだ。 (合理の鎖で言えば、ジグマールは不要。呼ぶ必要など皆無) アジトに進入される恐れがあるから制限。 これほど異常な話はあるまい。最初から呼ぶな、の一言で済む。 仮にBADANの目的がジグマール打倒だとしても不自然。 JUDOの態度と合致しないし、BADANはジグマール一人ぐらい、どうとでも出来る組織だ。 呼んだ上で、能力を制限し殺し合わせる。理に合わない支離滅裂。 ジグマールを始末するための舞台としてバトルロワイアルを開催したとかでは、全く説明できない。 だが、この不合理こそBADANの本質。 数時間前の赤木なら、ここから『ジグマールを呼んだ理由』を推定しただろう。 能力を無理矢理制限してでも、『ジグマールを呼ばざる得なかった理由』を考えただろう。 例えば、最初からバトルロワイアルの参加者は決まっていて、それに合わせて運営方法を考えねばならなかったなど。 他にも色々理由は作れるだろうが、ともかくもジグマールが参加し、そこに理屈があるのなら、必ず正当な理由があるはず。 しかし…… 「ないな、そんなもの」 赤木はその可能性を否定した。理由は、BADANが理屈で動く組織ではないから。 ジグマールのことだけでない。他にも様々なフラグがBADANのちぐはぐさを示している。 先ほどJUDOに外された首輪もそうだ。 もちろん、JUDOが外したことは無視していい。 あれは理屈を超えている行動だが、あいつの存在はイレギュラー。BADANの合理性を考慮する物差しにはなりえない。 しかし、あれを無視しても首輪の存在は不合理極まりない。 赤木は今、禁止エリアに到着した。 一通り周りをぶらついてみて、体が爆発しないことを確認する。 首輪に爆弾があるのだから、当たり前の話と思うだろう。 しかし、実はそうではない。全くもって異常な事態だ。 それは首輪の機能、能力制限と爆破を考えれば分かる。 そもそも合理で縛れば、この二つが同居することなどあり得ない。 まして、人体の最も目立つ位置にこれら二つを付けるなどもっての外。 BADANが合理的に考える組織なら、能力制限と爆破は別の物で実現しただろうし、目立たない所に隠すべきだ。 別々に設置した場合、仮に参加者が片方の機能を解除したとしても、もう片方が残る。彼らの安全性はそれだけ高くなる。 にもかかわらず、BADANは能力制限と爆破、スタンド適正付与などをたった一つの器具で実現しようとしている。 あれだけの技術力があれば、インプラント器具の一つも作れただろうに。 それをせずに、目立つ位置にあるたった一つの器具で全ての機能を実現したのは無理がある。 実際、赤木の知らない話ではあるがインプラント器具は存在する。 DIOやアーカードに取り付けられているし、心臓ペースメーカーなどもその一つだ。 一部の機能をインプラントにして実現してしまえば、伊藤が言った首輪のサイズ問題も解決される。 ──スタンド適正の付与、エネルギー抑制機能、この二つをあのサイズに詰め込むのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ。 馬鹿か。最初から分けろよ。なぜそうしなかった。 もちろん、本当に馬鹿だから分けなかったのでないことぐらい、赤木にも分かる。 伊藤が首輪一つに様々な機能を詰め込んだのは、詰め込まざるを得なかったのではなく、そうすることにより別の目的を達するためだ。 そう、この目的こそBADANの実態を知る上で重要なフラグの一つだ。 「他にも、Dr.伊藤とのチャット……」 こなたの説明でチャットは理解した。 赤木の世界には存在しなかった通信ではあるが、水道やガスのようなインフラの一つを利用していることはわかった。 とすれば、準備することも容易ではなかったろう。いや、仮に容易に準備できるものであったとしても必然性がない。 例えば、この町並みを赤木が住んでいた世界のそれにしてしまえば、チャット機能など準備する必要はない。 そうすれば、BADANは赤木とDr.伊藤のチャットを阻止することが出来たはずだ。 内外を繋げる通信を切っておくことぐらい、誰にだって分かる常識的思考。そんな常識がBADANには欠けている。 「挙げていけば切りがない……クックックッ」 他にも仲介人である光成の存在。 彼も不自然極まりない。彼はバトルロワイアルの情報を知りすぎている。 BADANが自分たちの存在を隠し、仲介役に光成を使ったのならばトコトンまで隠し切るべき。 にもかかわらず、光成は重要なな情報を持っていた。 ──それでも駄目なら……まぁ『神に祈る』しかないかの Dr.伊藤の台詞と合致するこの言葉。光成に知らせる必要はなかったはずだ。 もちろん、この情報一つで、参加者たちが有利になる可能性は低い。 だが、僅かな危険でも、不要な情報を与えてまで犯す必要はない。 そう。 理由を挙げれば切りがないほどに、BADANは不合理な組織である。 そしてその理由も、ほぼ明らかになってきた。 恐らくBADANは大規模すぎる組織のために、様々な立場の者が集まってしまったのだろう。 バトルロワイアルを開催する立場、否定する立場、どうでもよい立場。 Dr.伊藤は否定する者だ。そして、BADANではないが光成も否定する者と繋がっている。 JUDOはどうでもよい立場。 それぞれの立場が、それなりに力を有するために組織として合理的な行動が取れない。 首輪一つ取っても、技術部が 『技術的なことは我々に任せろ』 と言ってしまえば、他は口出し出来なくなるのだろう。 そして、その技術部の統括者が伊藤ならば、Dr(博士)というハンドルネームとも整合性がとれる上、首輪が不合理な事にも納得がいく。 技術者である立場を使い、伊藤が首輪をこんな形にしたのだ。 それにチャット機能を街に取り付けたのも伊藤だ。 奴が12時前後にチャットで参加者と通信していたのは、もちろん休憩のためじゃない。 最初から計画していたことのはずだ。 街にチャット機能を敷設し、参加者たちが来るのを回線の向こうで今か今かと待ち構えていたのだろう。 バトルロワイアル開催側の人間にバレないよう気を配りながらモニターを見つめている伊藤の姿が眼に浮かぶようだ。 「そう……バトルロワイアル転覆のために、必要な人材はBADAN側にもいる……しかし…………」 赤木しげるは歩き続け、禁止エリアの奥まで進んでいく。 首輪を付けている者は決して入ることも見ることも叶わない領域。 同時に、神社まですぐに戻れる領域でもある。 「……しかし、今はまだ時期ではない……」 対主催勢力の首輪を外し、一斉にアジトを捜索すれば伊藤派の人間にも会えるだろう。 しかし性急過ぎる行動は、かえって対主催を不利にする。 赤木の首輪が外れたことを知り、霊的防御について知見を得た対主催派はこぞって首輪を外そうとするだろう。 そして、一気呵成に乗り込むに違いない。 けれど、それは大きな誤りなのだ。 そう、先に気づかなければならない。BADANの本質、不合理さに。 それがなければ、先に進むことは出来ない。 BADANは肥大化した組織のために、不合理な行動をとるようになった。 だからこそ、首輪やチャット、ジグマールなどの理屈に合わない物が残る。 だが、これだけでは正解の半分である。 「BADANがなぜ、これほど不合理な行動をとっていても組織として成立するのか……」 考えてみれば、BADANの行動は常識的な人間なら、簡単に否定できるものである。 一言で言えばBADANは馬鹿なのだが、それにも拘らず巨大な力を持ったのには訳がある。 その訳こそが、BADANの本当の怖さなのだ。 「それが分からないうちは、手を出すべきではない……それに……今は仲間たちとも合流できない」 BADANの本当の怖さはともかくとして、赤木には首輪を外す技術がある。 本来的にいえば、対主催を志す仲間たちと合流し、首輪を外してやる事が必要だろう。 しかし、今はそれも出来ない。 JUDOが行動をとったがために、恐らくBADAN内部でもそれなりの動きがあるだろう。 彼の性格を知る者なら、赤木の首輪が外れた事も看破するかもしれない。 そんな中、神社付近で、一度にたくさんの者たちが首輪上死んでしまえばどうなるか。 BADANは間違いなく、首輪解除の可能性を疑う。 そうなってしまえば、不利になるのはこちら側だ。 おまけに流れという物もある。 恐らく、首輪が外れれば、対主催側の人間はほとんどこう考えるだろう。『今の時運は我々に向いている』と。 しかし、運など無い。 赤木はギャンブルを嗜む人間ではあるが、あまり運を信じていない。 どちらかと言うと、偽赤木のような確率信仰の方がよっぽど信じられる。 しかし、とは言っても運を否定してはいない。 運は物理的には存在しないが、心理的には存在する。 運のいい人間と、悪い人間を集めてサイを振らせても、結果は同じ。 しかし、変わるのは気構えだ。 運が向いていると思う人間は、それだけで積極的になれる。 積極性がよい事かどうかは別として、運が向いていない人間と向いてる人間とでは、とる行動が変わる。 対主催の前に首輪が外れた人間が現れれば、彼らは自分たちに運が向いたと思うだろう。 そして、考察も程ほどに攻め込むに違いない。それでは不味いのだ。 そのような軽率な行動では、バトルロワイアルは転覆しない。 「いずれ……パピヨンを通じて神社の情報が漏れる……お清めの謎が解ける」 いや、パピヨンでなくとも他の参加者。霊的防御を突破したといわれる謎の参加者もいる。 そいつらを通じて神社に対主催派が続々と集まってくる。 「そうなれば、BADAN側も何らかの行動を起こすに違いない……機はそれから……」 無論、そうなった時にはいち早く神社に戻る必要がある。 だが、それまでは神社にいる必要がない。すぐに戻れる場所にさえいれば問題なし。 それまでに、赤木は赤木でやるべき事をやっておく。 第一に睡眠。 第二に考察。 既に24時間以上起きっぱなしの体では、何をやっても上手く出来ない。 そして、考察。 概ね想像は付いているが、それでもBADANの実態について検討する必要がある。 赤木しげるは、あたりを見渡して一箇所の寝床を見つける。そして、そのまま横になる。 時刻は放送間際。 放送で情報を手に入れたら、すぐさま眠る。 そんな気配を漂わせたまま、彼は横になって動かない。 【場所不明 放送直前】 【赤木しげる@アカギ】 [状態]:脇腹に裂傷、眠気、首輪がありません。 [装備]:基本支給品、ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス(残り9本)、マイルドセブンワン1箱 [道具]:傷薬、包帯、消毒用アルコール(学校の保健室内で手に入れたもの) 始祖の祈祷書@ゼロの使い魔(水に濡れふやけてます)、水のルビー@ゼロの使い魔 工具一式、医療具一式、沖田のバズーカ@銀魂(弾切れ) [思考・状況] 基本:対主催・ゲーム転覆を成功させることを最優先 1:放送を聴いて、少し休む。 2:大首領との再会。バトルロワイアルに引きずり込む。 3:対主催を全員説得できるような、脱出や主催者、首輪について考察する。対主催は神社に集まると想定しているので、睡眠後、神社に移動する。 4:強敵を打ち破る策を考えておく 5:覚悟に斗貴子を死に追いやった事を隠し、欺く。 [一時的備考] ※赤木が寝ている場所は、後続の書き手さんに任せます。(アスファルトの上とか、家の中とか) ※赤木のいる場所は神社から近い禁止エリアです。 [備考] ※マーティン・ジグマール、葉隠覚悟と情報交換しました。 ※エレオノールとジグマールはもう仲間に引き込むのは無理だと思っています。 ※光成を、自分達同様に呼び出されたものであると認識しています。 ※参加者をここに集めた方法は、JUDOの能力であると思っています。 ※参加者の中に、主催者の天敵がいると思っています(その天敵が死亡している可能性も考慮しています) そして、マーティン・ジグマールの『人間ワープ』は主催者にとって、重要であると認識しました。 ※主催者のアジトは200メートル以内の雷雲によって遮られていると考察しています ※ジグマールは『人間ワープ』、衝撃波以外に能力持っていると考えています ※斗貴子は、主催者側の用意したジョーカーであると認識しています ※三千院ナギは疫病神だと考えています、また彼女の動向に興味があります。 ※川田、ヒナギク、つかさの3人を半ツキの状態にあると考えています。 ※ナギ、ケンシロウと大まかな情報交換をし、鳴海、DIO、キュルケの死を知りました。 ※こなたのこれまでの経緯を、かなり詳しく聞きだしました。こなたに大きなツキがあると見ていますが、それでも彼女は死にました ※『Dr.伊藤』の正体は主催側の人間だろうと推測しています。 『Dr伊藤』とのチャットによりわかった事 1:首輪は霊的に守護されている 2:首輪の霊的守護さえ外せれば、後は鋭い金属を継ぎ目に押し込む程度で爆発無しに外せる 3:既にその霊的守護を外した者が居る。そいつが首輪を外したかは不明だが、おそらく外してはいない 4:監視カメラは存在せず。首輪についた盗聴器のみでこちらを監視。その監視体制も万全ではない 5:敵には判断能力と機転に乏しい戦闘員が多い 6:地図外に城? がある 7:城には雷雲を突破しなければならず、そのためには時速600キロ以上の速度が必要 ※大首領との接触により、大首領とBADANとの間のズレを認識。 ※BADANという組織はあまり合理的に動かないと認識。 234 STILL LOVE HER ~失われた未来~ 投下順 236 乱 234 STILL LOVE HER ~失われた未来~ 時系列順 236 乱 232 神に愛された男 赤木しげる 240 運命のルーレット叩き壊して
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2788.html
トリステイン魔法学院で春の召喚の儀式が行われている。 順調に行われていた儀式の中で、たった一つだけ問題が起きていた。 ルイズ・フランソワーズが召喚したのが、人間だったのだ。 「なんだ?ここは。今まで供の者と街道を歩いていた筈なんが…」 体格が立派であるが。妙な格好をした男だった。 髪型は男でありながら長髪で結っていて、額には妙なバンダナを巻いている。 服装はトリステインで見たことのないもので、腰にはこれまた見たことのない剣を帯剣していた。 少なくとも貴族の外見ではない。 念のため本人に聞いてみたところ、自分は孤児なので貴族かどうかは判らない。 育ての親は平民だ。丁度、一仕事終えて育ての親の元に返ろうとしていた所、変な鏡が目の前に現れて気が付いたらここに居た。 との事。 使い魔については 「衣食住を保障してくれるなら、引き受けよう」 とアッサリ承諾した。 むしろ、ルイズの方が渋々という感じであった。 「何で平民なんかを…」 まあ、無いよりマシだし、使用人代わりにはなるだろう。 それにコントラクトを済ませないと二年生にはなれないし… そう考えてこの大柄な平民に、大事な大事なファーストキスを与えたのだった。 だが、ルイズの期待は裏切られた。 その男、ルイズがいくら言って仕事をしない。 下着を洗えと言っても「後で」と答える。 服を着せろと言っても面倒だと言う。 粗末な食事を与えても、元々素食だったので気にしない。 逆に、 「鶏をその様に食べるとは…見てるだけで吐き気がするなぁ」などと言い放つ。 食事を抜きにしてやったら、日がな一日ルイズの部屋でゴロゴロしだして教室にも顔を出さなくなった。 怒って殴ってみても、相手は体格のいい男、ルイズの拳が痛くなるばかり。 ならばと鞭で叩こうとした所、鞭を奪われ窓の外に投げ捨てられた。 キレて爆破してやろうとしたら、杖まで窓の外に捨てられてしまった。 「ああああ、あんたが投げたんだからあんたが取ってきなさい!!!!」 「…後で」 その後数時間、いつ今で待っても取りに行く様子も無く、仕方が無いので誰にも見られぬよう闇夜にまぎれて杖を探すルイズ。 「…種族も最低なら素行も最低……殺してサモンやり直そうかしら?」 真面目に物騒なことを悩み始めたある日、事件は起きた。 その平民が、香水ビンを拾って珍しそうに手で弄んでいた為に、ギーシュの二股がバレてしまったと言うのだ。 挙句決闘を申し込まれた。 近くでそれを聞いたメイドは「あの人大丈夫かしら…」等と心配していたが、 まさかギーシュも殺すまではしないだろうし、大柄で丈夫そうな男だから平気だろう。むしろ、多少痛い目にあって反省した方がいいわね。 だが、またもルイズの期待は裏切られる結果となった。 「僕はメイジなので、このワルキューレが代わりにお相手しよう」 ヴェストリの広場でキザったらしく薔薇の造花を構えたギーシュが言う。 言われた平民は驚いた。 「代わりでもいいのか?!では俺は面倒なので…」 面倒なので…?なに言ってるんだこいつ?殆どの貴族はそう思った。 「こいつに代わりに相手をさせよう」 こいつと言われた物を見て、ギーシュは悲鳴を上げる。 「ヴェ!ヴェルダンデ!?何してるんだ!!?」 平民の足元の地面を突き破ってギーシュの使い魔が現れた。 「ほれ。かかれモグラ」 平民のその一言でヴェルダンデがギーシュに突進する。 哀れギーシュは自分の使い魔を攻撃する事が出来ず、全身引っかき傷だらけになって敗北した。 さらに、決闘の商品として、寝具(ベッド除く)を一式奪われてしまったのだった。 ルイズは自分の使い魔を多少見直した。 他人の使い魔を使役できるとはただの平民ではないのだろう。 だがどうやったのか? 「ただ親しくなっただけだ」と言ってはぐらかされてしまった。 挙句、全然反省していないのでルイズの言うことも全然聞かない。 やっぱり死んだ方が良かったかも。 再度そう考えたルイズだった。 次に使い魔が活躍したのはフーケ討伐の時であった。 悪党の討伐ということで、流石に怠惰な使い魔も、渋々ルイズの言う事を聞いて参加したが、道中馬車の上では寝てばかり。 さらに宿敵ツェルプストーに膝枕されている始末。 怒ったルイズと、それをからかうキュルケと怒鳴り合いを始めても、面倒ごとに首は突っ込みたくないとばかりにタヌキ寝入りされた。 フーケが目撃された小屋に入ると、盗まれたという破壊の杖はアッサリ見つかった。 だがそこをフーケ操る巨大なゴーレムに急襲された。 全員が逃げ出そうとするなか、破壊の杖を持ちゴーレムに戦いを挑むルイズ。 しかし。 「なんで?!何で何も起きないのよ!!」 巨大なゴーレムの巨大な足が、踏み潰さんと小さなルイズに迫る。 後に、その時起きたことを聞いた魔法学院の教師たちは、一様に首を捻ったと言う。 ルイズが踏み潰されそうになった刹那、何かがでゴーレムの足の下に飛び込んできたのだ! それは馬だった!! ルイズ一行が乗って来た馬車を引いていた馬が、物凄い勢いでゴーレムの下を駆け抜け、ルイズを咥えて助け出したのだ!!! ………………。 その場にいた全員が我が目を疑った。 いや一人を除いて。 「うむ!無事だなご主人」 ルイズの使い魔が主人に声を掛ける。 「はい?」 馬の口から地面に落とされたルイズは、状況を把握しきれて居なかった。 主人の無事を見届けるとルイズの使い魔は馬車馬にこう命令を下した。 「次はあの化け物だ!行け!!」 信じられないことに、馬車馬によって、30メイルはあろうかと言うゴーレムが、滅茶苦茶に踏み砕かれて、木っ端微塵に粉砕された。 さらに、小屋に残っていた臭いからロングビルがフーケだと突き止めた馬車馬によって、フーケは捉えられた。 詰まる所、ゴーレムもフーケも名も無き馬車馬によって討伐されたのだった。 学園に戻って後、ルイズ、キュルケはシュバリエの称号を。 タバサは精霊勲章を。散々教師たちの頭を悩ませた結果、馬車馬にはサトウキビ50kgが授与される事となった。 因みにルイズの使い魔は、朝食を毎朝部屋に運んでもらう約束を取り付け、満足してさっさと部屋に戻ってしまった。 この討伐劇でルイズは使い魔がどうやってヴェルダンデや馬を操った秘密に気がついた。 あの使い魔は馬車を離れる際、馬に何か食べさせていたのだ。 どう聞こうか悩んだ末に、部屋の床にギーシュから分捕った布団を敷いてゴロゴロしている使い魔にストレートに聞いた。 「ねえ、あの時馬に何を食べさせてたの?」 「あの時?…フーケ退治の時か。これの事だな?」 アッサリ見せてくれた。 それはピンポン玉大の丸薬だった。 何の薬か聞いて見たが、薬ではないとはぐらかされただけだった。 それから数週間、相変わらず怠惰な日々を過ごしていた使い魔だったが、ある日、思いも寄らぬ事件巻き込まれる。 アンリエッタ王女が学園を訪れたのだ(その時、使い魔はルイズの部屋で昼寝していた)。 夜、ルイズが妙にソワソワしている横で、ダラダラ寝転がっていると、アンリエッタ王女がルイズに会いに来た。 一応、姫ということもあって、かしこまったルイズの使い魔。それを横目にルイズとアンリエッタは昔話に花を咲かせ始める。 所が、いつの間にか、戦争中のアルビオンに、アンリエッタ王女が送った恋文を取りに行ってくれという事に成って居るではないか。 ルイズは行く気満々である。 「ルイズの使い魔殿。わたくしの大切な友人を守ってくださいね」 と、姫直々のお言葉。 それに対する使い魔の答えは。 「面倒だから嫌だなぁ」 まさか姫様の命令を面倒で片付けるとは!! これにはルイズも空いた口が塞がらない。 その後真夜中ごろまで、ルイズとアンリエッタ、そしていつの間にか乱入してきたギーシュに説得されて、渋々行くことになった。 翌日、珍しく早起きした使い魔は厨房で何かを作っていた。 聞けばあの丸薬を作っているとの事だ。 厨房の材料で出来るの?と疑問に思うルイズだが、まともな答えは期待できそうに無いので聞くのは止めた。 ギーシュと、ルイズの婚約者のワルドと合流し、ラ・ロシェールへ。 出発から数十分後、ギーシュは一人馬を走らせ、その上で泣いていた。 その前方数キロの地点を飛んでいるワルドはルイズに聞いた。 「君の使い魔が乗っている馬はどこの名馬なんだ!?グリフォンが追いつけないなんて!」 「ただの…馬車馬です」 途中色々あってタバサとキュルケも合流し、無事到着。 船が出るのが明後日ということになり、丸一日ゴロゴロする使い魔。 翌朝、ワルドが申し込んだ決闘は「後で」と言って一応承諾した。ように見えたが。 ワルドがルイズから、「後で」言われた時はいくら待っても絶対にやらないと教えられたのは、既に暗くなってからであった。 夕食をとっていると謎の傭兵団に奇襲を受けた。 「このような任務は、半数が目的地に辿り着ければ、成功とされる」 ワルドの言い分を聞いてルイズの使い魔が頷く。 「なるほど…おいギーシュ」 「はい!」 「面倒だし、この程度の連中、モグラとお前だけで十分だな」 そう言うと例の丸薬を、床を割って現れたヴェルダンデに食べさせる使い魔。 そしてそのまま残りの全員が行ってしまった。 ギーシュは…その場に一人残され……恐怖ではなく、寂しさで泣いた。 その後、海賊に襲われたり、実は海賊の頭がウェールズ王子だったりしてアルビオンに到着。 アンリエッタの恋文を取り返したはいいが、ルイズに悩み事が一つ。 「ワルド様に結婚を申し込まれたわ…明日ウェールズ様に式を挙げてもらう事になったのよ…」 あてがわれた部屋でゴロゴロしている使い魔に何となく相談してみるルイズ。 こんな奴に言ってもあんまり意味は無いだろうけど、等と思っていたら 「止めた方がいいぞ」 と即答された。 「あいつは実はレンコン何とかの間者で、その目的はウェールズ殿の首とアンリエッタ姫の手紙、ご主人と結婚する理由は虚無の使い手のご主人を良い様に扱いたいからだそうだ」 それを聞いたルイズは… プッツ~ン 切れた!! 今までただの怠け者だと思ったら、とんでもない大法螺吹きだったのね!! そのままの勢いで翌日、式を挙げる事になった。 が、途中で使い魔の言葉が気になりだし、やはり式はトリステインに帰ってから挙げようと言って見ると、ワルドが本性を現した。 ワルドのエアニードルに胸を貫かれるウェールズ。 その時ルイズの使い魔は!? ボケーと見ていた。 「な!何でこうなると判ってたのに助けなかったのよ!!」 「死にたがってる奴を助けるなんて面倒な事はしないよ」 ごもっとも。 そこへ偏在を繰り出すワルド。 スクウェアクラスが四人に対して、こちらはキュルケとタバサのトライアングル二人と、爆発だけのルイズ、そして今まで自分じゃ戦わなかった使い魔のみ。 正に絶体絶命の状況だが、全然焦らない使い魔。 「そちらが四人で来るのであれば…」 そう言って例の丸薬を取り出す。 「こちらはな!一つ食べれば十人力よ!!」 そういって丸薬を食べたのだ!! 「これで四人に負ける筈が無い!!」 「フン」 鼻で笑うワルドたち 「それは…力を増す秘薬か?なるほどガンダールヴに相応しい能力だな。だが!それならば遠距離攻撃すれば済むだけのこと!!」 そう叫び距離をとるワルド。 だがしかし、今正に始まろうとしていた風のスクウェア四人と伝説のガンダールヴの戦いはまったく予期せぬ形で決着を迎えた。 ドカーン!! 突如、 天井を破って、 ワルドのグリフォンが飛び込み、 そのまま偏在たちを蹴散らし、本体のワルドをアッサリと捕まえたのだ!! 「ねぇタバサ?何が起こったの?」 「理解不能」 「ちょっと!!これはどういう事!!?説明しなさい!!」 「何、簡単な事。このグリホンとは来る途中の船で知り合いになっていたのだ。ワルドのたくらみも全てこいつが教えてくれたのだぞ」 それ以上の追求は、誰もしなかった。 その後、縛ったワルドをグリフォンに持たせ、そのグリフォンに乗ったルイズの使い魔と、残りの三人を乗せたタバサの風竜は、何だか釈然としないままトリステインに帰還したのだった。 それから数週間後、ルイズはアンリエッタ王女と成り上がりのアホとの結婚式で詔を詠む大役をまかされていた。 始祖の祈祷書と使い魔の言った言葉から、自分が虚無の使い手と判ったが結局何も浮かばぬまま式当日になってしまった。 だが、突如アルビオンが戦線布告し、現在タルブ村で交戦中との知らせを受け式はとりやめ。 虚無の力を使えば何とかなるのでは?!と考えたルイズはタバサに頼み、風竜で一路タルブ村へ。 だが、そこで見た光景はこれまた想像を絶するものであった!! 神聖アルビオン誇る巨大戦艦レキシントンが、何者かによって撃墜されていたのだ。 見ると、草原に落ちで轟々と炎を吹き上げる船からルイズの使い魔とワルドのグリフォンがやってくる。 「ああああ、あんたいつの間に私たちを追い越したのよ?!!!」 呆れ顔の使い魔。 「三日も前からこの村にいるぞ」 そういえば、詔の事で頭がいっぱいで気が回らなかったがここ数日こいつの顔を見ていない気がする。 何故この村に居たのかと問うと、シエスタというメイドと結婚するため、親の了承を得に来ていたとか。 「何それ?!そんなの初耳よ!!」 「そりゃ当然。言ってないから」 何でも、ギーシュと決闘した日の前の日、シエスタがモットとかいう悪党にさらわれて、手篭めに成りそうに成った所をヴェルダンデと助けたと言う。 「そっちの話も全然聞いてないわ!」 普段怠惰な使い魔も、さらわれたとあっては一大事と飛んで出たそうだ。 だから気づかなかったのだろうと。 なるほど、ギーシュと決闘の時にあのメイドが心配していたのは、こいつじゃなくてギーシュの方だったのか。 「それに悪党のモットって…ジュール・ド・モット伯の事じゃないでしょうね?」 「さあ?モグラにペコペコ土下座していたので、貴族には見えなかったな!」 頭が痛くなるルイズであった。 そんなこんなで色々あって今、ルイズの使い魔はモグラと馬車馬とグリフォンと共にアルビオンで7万の軍勢を待ち構えている。 『何を為さっているのですか?』 馬車馬がルイズの使い魔に聞いた。 「これが無いと、気分が出ないんでな」 そういって使い魔は地面に置いた白い旗指に何か文字を書き始めた。 『七万相手に勝てるとお思いですか?』 ヴェルダンデが聞いた。 「そりゃあ勝てるだろう」 旗に文字を書きながら答える。 「この黍団子は、一つ食べれば十人力、二つ食べれば百人力、三つ食べれば千人力よ。四つ食べればきっと万人力だ!それになあ…」 ふと文字を書く手を止める。 「前の戦いの時も、絶望的な状況から勝利を掴んだのだ」 『前の戦とは何ですか?』 グリフォンが聞いた。 「この国に来る前になぁ」 最後の文字を書きながら答える使い魔。 「犬、猿、雉と鬼の軍勢を退治した時の話よ。よし出来た!イザ出陣だ!!!」 そう叫び駆け出すルイズの使い魔と、お供の三匹。 背中に立てた旗指には大きく 【日 本 一 の 桃 太 郎】 と書かれていたそうな。 こうして、無事七万の兵を蹴散らした桃太郎とお供の者達はアルビオンのお宝を手に入れトリステインに帰り、 桃太郎はシエスタと末永く幸せに暮らしましたとさ。 めでたしめでたし。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6403.html
前ページ次ページゼロのロリカード 学院の中庭に、剣戟の音が響き渡っていた。 殆どの女生徒が銃士隊の面々の指導の下、軍事教練に励んでいる中で、銃士隊の隊長との鬩ぎ合いをしている者がいるのである。 女性が持つにはやや大振りなアニエスの剣を、その攻撃を、サーベル片手にいなし、的確に攻撃を加えていく。 アニエスもその攻撃にきちんと対応し、傍から眺めていると互角にも見えないことはない攻防である。 しかし暫くすると、体力の違いが互いの動きにあらわれてくる。 アニエスはギアを一段階上げ、苛烈に攻め立てる。 保たれていた均衡は崩れ始め、いなしきれずアニエスの重い一撃を受ける度に手の痺れが大きくなる。 限界を感じて体勢を崩す。そんな隙を見逃す筈もなく、アニエスはサーベルを叩き落とすべく一際大きく振りかぶった。 だがその隙はつくられた隙。敢えて見せた演技であった。 剣が振り下ろされるその瞬間、倒れ掛かる体を立て直して飛び退く。 斬撃は空を切り、地面に勢いよく突き刺さる。 すぐに逆方向に大地を蹴って、慣性を強引に無視して開いた間合いを一気に詰めた。 地面に埋まった刀身を抜く動作は、アニエスの回避行動と防御行動を封じる。 アニエスの次の行動は早かった。剣を抜くのを即座にやめ、一足飛びに下がりながら腰の銃を引き抜く。 しかし引き抜いた銃を構えるよりも先に、相手はさらに一歩踏み込んで距離を縮める。 瞬間、首筋付近にサーベルの刃が突き通され、ピタと止められた。 「そこまで、勝負あり!ルイズの勝ち」 黒髪の少女アーカードが終わりを告げる。アニエスは苦い顔をして口を開いた。 「ラ・ヴァリエール殿、これでは訓練になりません」 「ごめんなさい、アニエス。これが終わったら当分闘えなくなるし、あのままじゃジリ貧だったから最後に一矢報いたくて・・・」 窘められたルイズが申し訳なさそうに謝る。 戦闘中の細かいフェイントは兎も角、戦術としてのフェイントは予めやらないという取り決めであった。 何度も手合わせをする中で、奇をてらった策が通じるのは一回こっきりであるし、そも実戦的な戦闘の目的は基礎戦闘能力の向上である。 パワー、スピード、スキル、スタミナ、反応速度、思考能力、重圧等々。緊張感のある闘争こそが血肉となるのだ。 「まあいいでしょう。それにしてもメキメキと成長されてますな、私も加減が難しくなってきましたよ」 「ありがとう、アニエス。でも、実力ではまだまだ及ばないのはわかってるわ」 そう言うとルイズは戦闘に邪魔な為に、結っていた髪をほどく。 桃色のブロンドが風にサラッと靡き、汗で濡れた肌が涼しく気持ちいい。 「・・・・・・随分と頑張ってるわねぇ、ルイズ」 キュルケが呟き、タバサが頷く。 「元々努力家だったからな、血統も一流だ。ベクトルを変えてやれば頭角を現すのもこれ当然。さらには私がマンツーマンで教え込んでいるのだから伸びない理由はない」 近づいてきたアーカードが言う。 「随分な自信だこと。・・・・・・血統って、ラ・ヴァリエール家はそんなに凄かったっけ?」 「んむ。あれでルイズの母親が凄い。せまりくる敵兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、まさにトリステイン無双といったありさまで。 近づく敵を片っぱしから真っ2ツにして、最終的に全身にカッター・トルネードをまとって敵の空中戦艦全艦ごと吹き飛――――――」 「あ~はいはい」 キュルケは途中から話半分に聞いて、手を振ってあしらう。 「大体私達はメイジなんだから、白兵戦ばっか鍛えてもね~」 夏休み明けから、ルイズが鍛錬に励んでいるのは周知の事実であった。 しばしば死にそうな顔をしながら、授業に出ていることもあった。しかし魔法は相変わらず。 開き直って戦士として生きていこう、と決めたのかとすら思うくらいにハードな感じだった。 「精神を鍛えるにはまず肉体からと言ってな、それが一番手っ取り早い」 「ふ~ん」 「キュルケ、タバサ。お前達もルイズと一緒に鍛錬せんか?高め合うライバルがいると、より一層修行にも効果が出るからの。どうせ男子生徒達がいなくて暇なのだろう?」 「いや~よ、パス。確かに暇っちゃぁ暇だけど、めんどくさいもの」 キュルケはダルそうに手を振り、タバサは抑揚のない瞳で答えた。 「私もいい。肉体に大きな比重を置いて鍛錬する意味は、あまりない」 「ふむ、まっ・・・・・・仕方ないか」 元来純粋なメイジであるならば、魔法を組み込んだ戦闘スタイルとなる。 キュルケは家柄から、軍人としてのスタイルを持っている。 タバサも騎士として、独自のスタイルを確立させている。 そこに毛色の違うスタイルと鍛錬を、無理に割り込ませるには相当のキャパシティが必要である。 二つを貪欲に取り込んで昇華させるなど、半分は博打のようなものだ。 話の区切りがついたところで、アーカードはルイズとアニエスに目を向ける。 未だ二人は、先の戦闘について色々話していた。 (・・・アニエス・・) 20年前のダングルテール虐殺事件、疫病と偽られた新教徒狩り。その時の隊長、『炎蛇』のコルベール。 村を焼き、また少女を助けたのは自分であるとコルベールは言った。 その少女こそアニエス、そしてアニエスの仇敵こそコルベールなのである。 ◆ 「何故そのことを・・・」 「教えない」 コルベールは追い詰められたような表情を浮かべ、顔を下に向ける。 「勘違いするな。罪を贖えだとか説教しにきたとか、そういうわけではない。まぁ上っ面だけの説教がして欲しいなら、別にしてやらんこともないが。 尤も、そんなものはただの自己満足にしかならんだろう。それでも尚、愚痴を聞いて欲しいと言うなら聞いてやるが・・・、その前に聞きたいことがある」 「・・・・・・なんでしょうか」 「殲滅任務だったみたいだが、生き残りはいないのか?」 アーカードは一体どこまで知っているのか。 臆することなくズバズバと聞いてくるアーカードに、コルベールは答える。 「一人だけ・・・、子供が生きていると思います」 「思う?」 「私が逃しました・・・・・・、毛布に包んで近くの浜辺に置き去りにしました、その後の行方は・・・知りません」 「なるほどのう」 アーカードは納得のいった顔をすると、薄っすらと笑みを浮かべる。 「ッ・・・・・・何故・・・そんなことを・・?」 コルベールの顔に汗が伝う。 「ちょっと・・・・・・な」 ◆ それ以上のコルベールの言及はなかった。 アニエスもコルベールも、互いが互いに、倒すべき敵と、助けた子供であるということは認識していない。 (まぁいずれ、自力で辿り着くことだろう。わざわざ、善意で教えてやる義理もない) アーカードは目を細め、左手でフワッと黒髪を梳いた。 「自分の道は、自分で切り拓くものだ」 ◇† 「自分の道は自分で切り拓く」 ルイズはそう心の中で呟いた。手を握り、そして開く。それを何度か繰り返す。 自分でもビックリなくらいに強くなっている。持つべきものは優れた師匠、というのが実感させられる。 実家から帰ると、早速地獄の特訓が始まった。母の「一人でも問題ないよう鍛えてあげて」という言葉が契機であった。 アーカードは私の新たな決意と高まる向上心を確認すると、本格的に鍛え始めた。 強くなる為には「うまい食事と適度な運動」と、アーカードは言った。 栄養バランスを考えた食事、学院の食事は一切摂取せず毎回アーカードが指定した食事を摂る。 マルトーとか言う人から厨房の一角を借り受け、決して美味しくはない薬膳料理などをわざわざアーカードが作った。 異世界の食材は勝手が違うと思っていたが、大した問題もないようだった。 アーカードは暇な時と言えば、読書や料理や裁縫ばかりやっていたようなので、そのおかげかも知れない。 肉体的なトレーニングは、必ず1日以上の間隔が空けられた。 スポーツ医学に則た鍛錬。『超回復』という筋繊維の再生を利用するから、連続したハードトレーニングはご法度なのだそうだ。 とは言っても、その一回一回の密度は想像を絶した。思い出すのも苦痛だ。鍛錬した次の日は殆ど動けないというのがザラであった。 それ以外の空いた時間には、色々な事を教えられた。 剣技から兵法まで、アーカードの知識と経験を詰め込む作業が続く。 そして十分な睡眠をとり、体格を作る。 またアーカードは「イメージしろ」と言った。 想像というのはこれ、思いのほか重要らしく。訓練の効果も大幅に変わってくるという。 思い込みの威力、人間がリアルに思い描くことは実現する。極まれば正拳突きすら音速を超えるとかなんとか。 そうは言っても信じられるわけがない。 ある日を境に幼児は火バシが熱いことを知る。 ふざけた大人が熱くない火バシを用事に触れさせると、火傷したとカン違いした幼児がリアルに苦痛を感じるなどと。 極端な例では、その幼児の手に火ぶくれが生じたなんて、信じられるわけがなかった。 ウェイトトレーニングを一例に取っても、目標とする体型をイメージするのとしないのではどうなるか。 全く同じ種目のトレーニングをしても、結果に圧倒的差が生じることは実験データで明らかになっているらしい。 思いが実現することなど、信じられるわけがない。不可能であるという思いの方が強烈であり、それが普通だ。 ゆえに最初、アーカードの目から暗示をかけられた。固定観念を破壊され、「イメージは大事」という刷り込みがなされた。 以降は鍛錬一つとっても、姉であるカトレアの姿を常に、強烈に想像した。 そのおかげなのかよくわからないが、ほんの少しだが背が伸びた。 胸も大きくなった・・・ような気がしただけだった。 一方で『虚無』に関しては鍛えようがなかった。 デルフリンガー曰く、必要な時が来れば始祖の祈祷書の先が読めるようになるとのこと。 さらには魔力の温存の為に、魔法は使用することすら自重した。 どれくらい溜めればタルブの時のエクスプロージョンができるか、想像もつかないのだ。 既にアルビオンへの侵攻作戦が始まり、明日の朝には竜騎士が迎えにくる手筈である。 そのまま竜騎士搭載の為の、新鋭の竜母艦『ヴュセンタール』号へと乗ることとなる。 本来はラ・ロシェールから乗る予定だったのだが、アーカードが私の調整と称してギリギリまで学院に残ることを申請した為である。 『虚無』の担い手である自分にかけられた期待。しかし魔力がどれくらいあるのかわからない。 それでも出来うる限りの精一杯をやる。姫さまの期待に副えるよう、全力で頑張る。 そして学ぶ、戦争から学ぶ、周囲から学ぶ、ありとあらゆるものから学ぶ、万物から学び吸収する。 必要な時に、必要な力を、必要なだけ扱えるように。 選択を差し迫られた時に、力がなくて後悔しないように。 力によって逆に選択肢を増やせるように。 しかして力に溺れず、選択肢を狭めず、よりよい選択が出来るように。 心身共に気高く、強くなる。 ルイズは万感の想いを込めて口にした。 「そうだ、強くなる」 ◇† 「そう、強くなる」 アニエスは呟いた。 必ず探し出してみせる。そして来るべき日に、仇敵に報いるべく為に強くなる。 その時に力不足で後悔しない為に、なによりも故郷の無念を晴らす為に、そして・・・自分自身が前に進む為に。 想いは力だ。 ラ・ヴァリエール殿の成長は著しい。 初めて会ったときは、なんてことはない普通の少女だった。 タルブでは、生来備わった『虚無』という力を持て余し、それに頼っていただけという印象だった。 しかしリッシュモンを追い詰める時、宿屋での攻防では助けられた。 そして今は、心身共に驚くべき成長を遂げている。最早進化と言えるくらいに。 己も負けていられない。精進し、鍛え上げる。 そして殺す。死を以て償わせる。咎人が今ものうのうと生きていると考えるだけで虫唾が走る。 隊長に至っては名前すらわかっていない。王軍資料庫でもその名簿が破られていた。 だが諦めない。どんな手を使っても探し出す。 アニエスは静かに、ただ静かに呟いた。 「必ず・・・・・・見つけてやるぞ」 ◇† 「必ず・・・・・・見つける」 メンヌヴィルはそう口にする。 20年前、ダングルテールて思い知った。『炎蛇』と呼ばれたあの男を。 見る者を虜にする、惚れ惚れするような火の魔法。 一帯が炎に包まれているというのに、これ以上ない寒気がした。 味方であるにも拘わらず、体の震えが止まらなかった。 それは微塵の容赦も無く、それは徹底的で、それに魅せられ、それに酔い痴れた。 気付けば隊長であったその男に杖を向けていた。 期待通り、"奴"は圧倒的な炎で以て俺を焼いてくれた。 自分の肉が焼ける匂いと共に、消えない傷が体と心に刻み込まれた。 後悔はしていない、"奴"がいたから今の俺がある。 炎の魔法を使う度に、温度を肌で感じる度に、傷が疼く。そして"奴"を思い出す。 当時の俺は若輩で、無知で、馬鹿で、無謀で、怖い者知らずだった。 そんな俺に畏怖を、恐怖を刻み込んだあの男コルベール。 ――――――会いたい・・・・・・会いたい・・。 アイツに会いたい、アイツを焼きたい、成長したこのオレの炎を見てもらいたい。 オレの炎で焼き尽くしたい。その匂いを嗅ぎ尽くしたい。 この焦がれる想いに比べれば、例え絶世の美女を犯し、焼いて、また犯したとしても足りはしない。 まるで足りない。 ――――――会いたい・・・会いたいッ! 満ち足りない、鎮まらない。 人を焼く狂喜が、その焼けた香りだけが・・・・・・今のオレを静める唯一の方法だ。 だから、蹂躙しよう。 「20年前のように・・・」 ◇† 「20年前・・・・・・」 コルベールは心の中で呟いたつもりだったが、思わず口に出ていた。 決して清算されることの無い罪。 「知らされていなかった」は理由にならない。 死ぬその時まで背負い続けなければならぬ咎。 真実を知り、――――生き方を変えた。 自分の系統を、その炎を・・・・・・破壊の為には使わないと心に誓った。 せめてもの罪の贖いの為に、研究に打ち込む。 一人でも多くの人間を幸せにし、発展の為に尽くすことこそが自分に課した義務。 自殺などは赦されない。死んだとしても罪は消えない、どのようなことをしても消えることは無い。 (だが・・・・・・) アーカードがダングルテールの事を知っていた理由。生き残りを聞いたその理由。 唯一私に死をもたらし、その死を以て私がその手で殺した村の人々への鎮魂へと当てることができる人物の行方。 (あの子が・・・・・・、生きているのだろうか) コルベールは天井を見上げるように目を瞑る。 私は臆病者だ。 王軍資料庫の名簿の、自分の名前の部分を破った。―――――人並の幸せを願ったのだ。 「命令だから仕方がなかった」などと、過去の自分を隠して新しく生きようなどと考えてしまった。 あの時の子供を捜そうとはしなかった、その後の動向も知らない。 そして・・・・・・アーカードに、はっきりと聞く勇気もなかった。 (私は今でも・・・・・・あれこれ理由をつけて、逃げているだけなのかも知れない) だがそれでも、贖罪の時が来たのならそれを甘んじて受けよう。 「私は私に出来る精一杯をする・・・・・・昔も今もそれだけしかないのだから」 前ページ次ページゼロのロリカード