約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/75.html
第三章 影差して 第一話 鳥の翼 前ページ次ページゼロの影 周囲の好奇の目に関わらず、いつものように授業中爆発を起こしたルイズはオスマンに呼び出された。 王女とゲルマニア皇帝の結婚式の際に詔を読み上げる巫女として選ばれたのだ。 『始祖の祈祷書』を渡され、肌身離さぬよう言われた彼女は誇らしい気持ちと詔など考えられないという戸惑いでいっぱいだった。 ルイズが頭を抱えて悩んでいると、キュルケとギーシュ、そしてシエスタが近づいてきた。 「宝探しにいかない? 帰る手がかりを探してるんでしょ、フーケの時みたいなマジックアイテムもあるかもしれないわ」 ルイズは気分転換のためあっさり了承し、ミストバーンの方をちらりと見た。 胡散臭いが、今学院にいても状況は好転しそうにない。 それならばわずかな可能性に賭けてみるのもいいだろう――そこまで考え、彼は複雑な気持ちになった。 (フン……まるで正義に目覚めた者のような言い草だな) それほど精神的に追い詰められていることに気づかぬまま頷く。 ギーシュは異性にモテたいという願望を丸出しに参加を申し出、シエスタも連れて行けと叫ぶ。ギーシュ達は粗食に耐えられないだろう。 「でも遺跡や廃墟には怪物がわんさかいるわよ?」 「じ、自分でなんとかします」 守ってもらいたいと思ったのだが、自分の手足を動かせと言われそうなため内心を隠しつつ答えたのだった。 大きく頷き、キュルケが出発を告げた。 廃墟となった寺院の近くの木の陰にタバサは隠れていた。 突然爆発音と共に門柱の隣の木が発火し、異形の怪物たちが飛び出してきた。二足歩行の巨大な豚の姿――オーク鬼だ。 騒ぎ合うオーク鬼達を見ながらタバサが使う呪文を検討していると、青銅の戦乙女達が姿を現した。焦ったギーシュが先走ったのだ。 ワルキューレが突進し、槍を突き立てるが致命傷にはならない。周りのオーク鬼の棍棒が華奢なゴーレムを吹き飛ばし、叩き壊した。 タバサのウィンディ・アイシクル、キュルケのフレイム・ボールが放たれるが二体葬ったにすぎない。 さらに数体が爆ぜるがまだ多くが残っている。 奇襲の失敗を悟ったオーク鬼達は人間のにおいを探り、走り出す。 すると若者が影の中から姿を現した。剣を背負っているものの抜こうとせずにオーク鬼達の前に立ちふさがる。 彼らの鈍重な頭に冷気が忍び寄る。獣の本能が今すぐ逃げろと大音量で叫んでいる。 だが、それに従うだけの賢明さを持たぬオーク鬼達は突進した。 先頭の一匹が棍棒を振り上げ、振り下ろそうとして止まる。単純な拳の一撃が頭部に叩きこまれ首の骨をへし折ったのだ。 どうと倒れた巨体に目もくれず、次の一匹に低い姿勢で蹴りを放つと足を砕かれたオーク鬼がしゃがみこむ。その脳天へ踵落としが炸裂し、頭部を弾けさせた。 一斉に襲いかかっても時の流れそのものが違うかのように優雅にかわされ、背筋の寒くなるような膂力の犠牲となる。 過ちを悟る前にオーク鬼達は全滅した。 戦闘を終え、キュルケ達はギーシュを睨んだ。作戦ではヴェルダンデの掘った落とし穴まで誘い込み、用意していた油に引火させ燃やしつくすはずだった。 膝をつきうなだれるギーシュに影が差す。その主は地についたギーシュの手を踏みつけた。 ぐりぐりと踏みにじり、氷雪の視線でギーシュを貫く。シエスタが止めようとするのをキュルケとタバサが制した。 「……人形が無ければ何もできんのか?」 背を向けるミストバーンと、震えて唇を噛みしめるギーシュ。 今彼らに話しかけるべきではない気がした。 結局宝は見つからず険悪な空気になりかけた所でシエスタが食事の準備ができたことを告げた。 ギーシュなどはシチューのあまりの美味さに感動し、 「この肉は……この肉はどうしたアァァッ!」 と叫びルイズ達から「うざったい!」と一喝された。 「オーク鬼の肉ですわ」 ぶほっと吹いたギーシュを汚いと責める余裕もなく、キュルケとタバサは固まっている。 「じょ、冗談です! ホントは野ウサギの肉です」 彼女の慌てる顔で場が和みかけたが成果はゼロのままだ。 宝は見つかりそうにないため次で最後にしようとギーシュが促すと、キュルケは一枚の地図を選んだ。 「これに決まりよ! お宝の名は……『鳥の翼』。場所はタルブの村ね」 「『鳥の翼』ってまんまじゃないかね」 呆れるギーシュとは対照的に、シエスタがシチューを吐き出した。タルブは彼女の故郷らしい。 その後シエスタに説明を受けたが要領を得ない。『鳥の翼』は一度使ったらなくなるものらしく使わせてもらえなかったのだ。 「ある日村に現れた私のひいおじいちゃんが、持っていたものらしいんですが……」 真相を確かめるべくタルブの村へ飛び、シエスタの家に向かう一行が出会ったのは意外な人物だった。 すらりと伸びた肢体が眩しい美女――盗賊のフーケだ。 キュルケとタバサが杖を構え、ミストバーンが前進すると彼女は降参したように手を上げた。 「待ちな、あんたらに敵対する気はないよ」 全く信用せず容赦なく攻撃を叩きこもうとするミストバーンへ、冷や汗を流しつつ敵意のないことをアピールする。 「ほんとーだって! 『虚無の影』相手に喧嘩売るほど命知らずじゃないから!」 「虚無の影?」 「そこの美肌につけられた名さ。怪しい奴だとは思ってたけど、まさか五万人の敵の中に突っ込んで暴れるなんてね」 本人はワルドへの怒りに我を忘れはっきりとは覚えていない。だが兵士達の方は忘れたくとも忘れられない。 たった一人の若者が影のように音も無く命を奪っていくのだ。 飛び散る鮮血に白い衣と髪が映え、この世のものとは思えぬ姿だったと生き残った目撃者は語る。 多くの人間に地獄を見せ恐怖の淵に叩きこんだ自覚など持たない彼は他人事のように聞いている。 「とにかく! 大人しくするから戦ったり通報したりはやめとくれよ」 彼女は一度田舎にひっこむことを決意したらしい。破壊の筒はガラクタで復讐も果たせず、少々疲れたのだと言う。 仮面の男からの報酬でしばらくは盗賊稼業も休んで大丈夫――肩をすくめる彼女に一同は疑わしげな視線を向ける。 「実は『鳥の翼』を狙ってんじゃないの?」 「ははっ! お偉い貴族様のうろたえた顔は見たいけど、平民から盗む気はないね。……まあ『鳥の翼』にはちょいと興味があるけど」 早く実物を確認するためにもひとまず休戦するしかないようだ。 フーケを加え歩いていくと、村の少年が駆け寄ってきた。 「おねえちゃん!」 「ねえ、ちゃん?」 鼻で笑ったキュルケをフーケが殺気のこもった眼で睨みつけるが、少年がはしゃぐと二人とも表情を緩めた。 ルイズやシエスタも笑い、タバサでさえ口元はかすかに綻んでいる。ギーシュはいつの間にか通りすがりの女性と話に花を咲かせている。 和やかな空気の中で彼一人だけが浮いていた。 シエスタの家に到着し、さっそく秘蔵の『鳥の翼』を見た一行は何とも言えぬ表情を浮かべた。 文字通り鳥の翼が数枚箱に入っているだけだ。ルイズが一枚手に取り首をかしげている。 「名を知る者に与えよ、とひいおじいちゃんは言っていました」 「……キメラの翼だ」 呟いたミストバーンにシエスタが驚いた。 「その通りです! どういった効果があるんですか!?」 「一度行ったことがある場所に移動できる。心に思い浮かべて――」 言うなりルイズの体がふわりと浮き上がり――彼女は豪快な音と共に天井に激しく頭をぶつけた。 床に落下し、後頭部を抱えてうずくまる彼女を見てシエスタはうろたえた。 キュルケとフーケは笑いをこらえるのに全力を傾け、タバサもわずかに口元を緩めている。 気まずい空気を破ったのはデルフリンガーとギーシュだった。 「でーじょーぶか? 痛そうな音だったなーオイ。見ろよ、天井にでっかいひびが入ってら」 「ちゃんと注意書きをつけておくべきだよ。室内で使うべからずってね」 間の抜けた姿を見られた彼女は無言で立ち上がった。数秒後、ギーシュとデルフリンガーの悲鳴が室内に響き渡った。 『鳥の翼』ことキメラの翼を全て譲られた彼は思案に暮れていた。 シエスタが何の見返りも求めず純粋な好意で提供したためだ。 それに、彼が人間でないと知っていながら普通に接している。怯えたのも最初だけだ。 同行しようと思ったのも彼が恐怖すべき存在か見極めようとしたためであり、結論は 「人間じゃないってだけで怖がるのはおかしいって思ったんです。人間の中にだっていい人も悪い人もいますから」 というものだった。そして耳が尖っているというだけで怯えたことを謝っていた。 ギーシュ達も彼女と同意見らしい。 アルビオンでの戦いを知らないからそう言っていられるのだが、あっさり受け入れているようだ。 奇妙な人間達だと思いつつ、彼は手に入れたキメラの翼を眺めた。 譲られた物の価値以上に、異世界とのつながりを――帰還の可能性を信じることができたのが大きい。 思索にふける彼の、夕日に赤く染め上げられた草原に佇む姿は絵画を思わせた。 食事ができたことを知らせにきたルイズがその光景に見とれたように息を呑んだ。言葉が自然と口からこぼれ落ちる。 「とっても……きれいね」 普段何の意識もせずあって当然だと思っている太陽。しかし、このような時に実感するのだ。太陽は世界に欠かせぬものだと。 この光景を決して忘れないだろう――ルイズは内心でそう呟いた。 無言で頷いた彼の手がゆっくりと太陽に伸ばされる。まるで美しい宝石に触れようとするかのように。 彼女は声をかけようとしたがその背に飲み込まざるを得なかった。 「バーン様も……美しいとお思いになるだろう」 呟きはルイズではなく己へ向けられているようだった。 (あの御方の大望が叶えば……同じ光景を見られる) 絶対にその日を来させてみせる。 そしてその時主の傍らに立ち、主と同じ光景を眺めるのは彼しかない。 元の世界へ一歩近づいたと言う想いが彼を感傷的にさせていたのかもしれない。 主を思わせる赤く燃える太陽と、同じ色に染まった草原は心に深く刻み込まれた。 平穏の日常の中へ戻ろうした彼らにアルビオンの宣戦布告の報が入った。 戦の準備はできておらず、制空権が奪われている。現在タルブの村が焼かれていることを聞きオスマンは苦い顔をした。 どうしようもないため王宮の使者と共に沈痛な溜息を肺から絞り出す。 だが、彼は気づいていなかった。オスマンの居室を尋ねた使者の異常な慌てぶりに、ルイズが好奇心を発揮して話を盗み聞きしたことを。 「タルブの村が襲われているなんて――」 ルイズは途方にくれたように地面を眺めた。穏やかな時を過ごした村が踏み荒らされるのを止めたい。 だが手紙の時と違い、彼女自身が対処せねばならない問題ではないのだ。当然青年も余計な行動はしないだろう。 しかし、予想に反して彼は行くつもりのようだ。 「まさか戦う気? あんたは人間のことなんかどうでもいいんでしょ?」 沈黙とともに頷く。 他の状況ならば人間が何千人何万人殺されようと関係ない。学院やルイズに害が及ばない限り戦わないだろう。 だが、帰還の可能性を見せた場所を何も知らぬ人間が踏み荒らすのは気に食わない。 そんな感傷だけでは動かないが、アルビオン軍の中にワルドがいる可能性を考え、行くと決めた。 元の世界に戻る前に主を侮辱したワルドだけは必ず殺すと決意していたのだ。 そこへどうやって嗅ぎつけたのか、ギーシュが全力疾走してきた。ぜえぜえと息を切らす彼の足元にはヴェルダンデもいる。 「ぼ、僕も連れていってくれ!」 ギーシュがそう言うのを聞いてはルイズも退けない。 「わたしだって行くわ」 いざという時に戦わなければ貴族が貴族たる理由がなくなってしまう。 彼女の決意は氷のような声で却下された。 「お前は来るな」 彼女の身を案じているわけではなく、手がかりが失われては困るということだ。 言い募ろうとするルイズの前にギーシュが立ち、真っ直ぐ彼を見つめる。 「僕が……何とかする」 ギーシュは無言の圧力を感じ取っていた。“任せろ”と宣言しておきながらルイズを守りきれなかったら生命と誇りが危機にさらされる。 それでも、ルイズの矜持を守ろうとする意志を尊重したかった。同じ貴族なのだから。 これ以上時間を失うわけにもいかず、ルイズとギーシュを連れて彼はキメラの翼を使った。 タルブの村は混乱と悲鳴の叫びに満ちていた。 すでに多くの人間は避難しているものの、逃げ遅れた者達がいる。親とはぐれた少年が泣きながら彷徨っていると、杖を持った人影が見えた。 怯えて立ち尽くす彼に魔法を唱えようとはせず、手を差し伸べる。涙を流して動けない彼の髪をくしゃくしゃと手でかき回す。 「男の子だったらビービー泣くんじゃないよ。こっちに来な、あんたの親御さんもいる」 泣きやんだ少年は涙を振りはらい、ようやく相手を認識した。最近村に訪れ、子供達の世話をしている女性だ。 「おねえちゃん!」 もう一度頭を乱暴に撫でた彼女は少年を避難場所まで送った後引き返した。 フーケは自嘲の笑みを浮かべていた。盗賊のくせに人助けなど、自分でも可笑しくなってしまう。 (フーケ様ともあろうものが、焼きが回ったのかね……?) それでも、年端もいかぬ子供を見捨てるほど非情にはなりきれない。 家族の顔を思い出した彼女は頭を振り、なるべく被害を抑えようとゴーレムを出現させた。 タルブの村に降り立った三人は空を見上げた。多くの竜騎兵、そして艦隊。巨大戦艦『レキシシントン』。 竜騎兵達がこれ以上被害を振りまく前に、速やかに旗艦を落とさなければどうしようもない。 「どうやってあれに近づくの?」 無言で新たなキメラの翼を取りだす。 目に見えている場所ならば瞬間移動呪文の要領でいけるはず。キメラの翼で試したことは無いがやるしかない。 自分も乗りこもうと意気込むルイズとギーシュから身を離し、淡々と呟く。 「お前とルイズは残れ」 足手まといということか。悔しさに身を震わせるが一刻の猶予もない。 非常時に備えて渡されたキメラの翼をしぶしぶ受け取り、頭を切り替える。 ミストバーンがキメラの翼を使って上空に見える『レキシントン』号へと飛び、ギーシュとルイズは駆け出した。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/narikirikikaku2/pages/41.html
【 Capacity 】[統率:2][武力:8][知力:5+3][交渉:5][幸運:0] 【 Remarks 】 「被験者のプロジェクト対象メモリーは全てシンクロを完了。現在アニムスは動作を停止しています」 古来暗躍してきたアサシン教団の血を受け継ぐ暗殺者 ウィスタリア領の都市フィレンツェで銀行業を営む貴族の出だが 17歳の時に何者かの陰謀により無実の罪で父と兄弟が絞首刑に処され 自身も祖先と縁深いラナリキリュート大陸への逃亡を余儀なくされた 復讐の機会を窺い反帝国活動に加担していた半年前に 多数の帝国兵を殺害、『Nemesi(天誅)』の文字を残し姿を消したが 大闘技大会への潜入の手はずを進めるため活動を再開 大会後半ではエリーゼへそれとなく大会出場を促しそのサポートを行う裏で 決勝戦に沸く帝都の隙を突きリントー沖のカメオベジュ砦を制圧、アサシン教団の総本山とする 帝国とも同盟軍とも異なる勢力として大陸の中心に根を張った教団を見届けた後、 天変地異の解決を模索するためアレル、にゃん太らとともにラナリキリュート大陸へと船出していった 暗殺者として振る舞う際は冷徹であろうと努めるが元来の性格は快活で女好きな青年 平原地帯でアレルと一対一で決闘した際は熱しやすく喧嘩っ早い部分をむき出しにすることになった その他の交友関係はスイゼンにて出会った戦姫ショウジョウヒと破局した後にクリスへ共に来るよう誘っている エツィオ曰くロイは『聡明であると同時に苦悩できる権力者』とのこと 彼へ同性ながら友人以上にどんな感情を抱いていたのかは本人のみぞ知る 【Inventory】 Equipment【A】1:アサシンブレード・セスト(WP:07 HP+1) 鋼鉄の三日月刀(WP:07 HP+3)鋼鉄のサーベル(WP 03 HP+3) Equipment【A】2:ツインエッジ(WP:09 HP+3) レヘルン(WP:06 HP+3) Equipment【B】1:クロスボウ(WP:04 HP+4) ペッシェ主砲(WP:03 HP+6) 矢の嵐(コンポジット WP:07 HP+3) Equipment【B】2:十字砲火(モスケーテ WP:03 HP+2) Equipment【C】:シェリントンの秘術(WP03 HP+2) 魔導支援(オリジナルスペル WP:06 HP+3) Equipment【D】:フェリアの霊薬(WP:01 HP+1)戦姫の霊薬(WP:-) Item:TP4 FP0 太陽の紋章(140)×1 銀貨(002)×7 アームロック鉄(202)×1 【Soldiers】 アサシン弟子ステータス:アサシーノ達成 完全にアサシンの技術を体得 アサシンブレード装備 【Skill「矢の嵐」:ボウガンの包囲射撃】 狙撃兵ステータス:要人狙撃・遭遇戦における一斉射撃を実行可能【Skill「十字砲火」:マスケット銃による目標への斉射】 魔導兵ステータス:一般的なマジックアイテムを装備 暗殺任務にも従事可能【Skill「魔導支援」:魔術を用いた撹乱・足止め】 艦船『古き魚』ステータス:高速戦闘艦 主砲・副砲搭載 【Skill「ペッシェ主砲」:船首から至闘の結晶のエネルギーを収束・発射】 インディゴス発展ステータス:鍛冶技術・規模が高水準に。銃砲の量産開始 【Execution】 帝国軍警備兵5名 ギガースマッド(巨人)1体 同盟軍侯爵1名+衛兵2名 危篤状態の病人1名+暴漢(光の大賢者一派)数名 帝国軍輸送兵2名 ギシャルメ警備兵長1名+スイゼン駐屯兵1名+帝都輸送隊数名+警備兵3名+帝国派商人2名+バハムト1体 平原の蛮族数名 帝国軍歩兵5名 スイゼン商人1名+傭兵2名 ウザイナー1体 シルバーゴーレム1体 東方大隊艦隊乗組員多数 黄金兵団数名 帝国軍将軍キントレスキー(フル・シンクロ完了) ホワイトキマイラ1体 処刑者スモウ(フル・シンクロ完了) ウィスタリア帝国船団長1名+乗組員多数 ガレリアの猛毒一味多数 カメオベジュ砦部隊長1名+配備兵多数 「DNAの一部メモリーアンロック。情報を開示します」 【Skill】 『身体能力』 高い跳躍力と俊敏性によって並外れた身軽さを持ち、 建物の壁に僅かでも凹凸があればよじ登って侵入できる 『ソーシャルステルス』 市民の中に紛れ自身の気配を遮断する 完全なステルスに成功するとすぐ脇に立っていても存在を察知されない この特性を生かして気づかれないまま相手の持ち物をかすめ取ることも可能 『タカの眼』 純粋な血脈のアサシンだけが持つ特殊能力。精神を集中させると 視界から余分な情報が捨象され探索対象が金色に光って浮かび上がるため 雑踏の中に逃げたターゲットや偽装された隠し部屋などを発見できる 【Assassination】 一般的な武器の扱いに精通しており剣、短剣、斧、ハンマー、槍、 さらには徒手空拳による暗殺術全てを体得している 『アサシンブレード』 アサシン教団に属するアサシンが扱う最も特徴的な武器 手甲の中に短剣大の刃が収納されており、掌を反らした際の筋肉の動きに連動して 刃先が手首の下から飛び出す仕込み刃になっている 相手に忍び寄って急所を貫く一撃必殺の戦法がアサシンの基本 この武器の鍛錬を積むと公衆の面前で誰にも悟られないまま暗殺を完遂できる 手甲自体も特殊合金製で通常サイズの剣ならば十二分に防御可能 エツィオは両腕にひとつずつ刃を装備できるタイプの 「ダブルアサシンブレード」と呼称される武器を愛用する 右腕部のブレードはChapter2にてロジーによって改修を受け精霊石の力を付与された クリスが紋章によって呼び出す水の精霊に呼応して大地の精霊の力を発動させる≪流刃双奔≫は キントレスキーの行使する滅びの力に対して絶大な効果を発揮した 帝都にて奪取した設計図を元にChapter3では再びロジーによる改修を受け 超小型の銃弾の発射機構、さらに斬撃と同時に毒を注入するポイズンブレードへの換装が可能となった ピストルは銃弾の他にブリッツコアのエネルギーを弾丸として発射可能だが、 軽量化された銃身の強度が保たず一発しか撃てない。また毒の刃は全身の激痛に加え 三種類の身体異常を引き起こす「ポリフォニー毒瓶」の錬金毒と単に体の自由を奪う麻痺毒を使い分けられる ピストルとポイズンブレードを組み合わせ高度な複合武器となったアサシンブレード 通称「コキュートス」はアル・アジフが製法を伝えたイブン・ガズイの粉薬を 使用した弾薬を追加、ギルベルトの里における流血祈祷書との戦いで活躍した他に 処刑者スモウを葬り去るなど凄まじい戦果を挙げていたがChapter4においてロジー本人によって破壊された 現在は教団のアサシンが使う量産型アサシンブレードの刃を大型化させたカスタムメイドモデルを使用している 名前についているセストとはイタリア語で六番目の意味で父の形見と右腕の一本ずつ、ロジー作の精霊ブレード、 同じくロジーによるポイズンブレード、さらに隠しピストルに続く六本目のブレードであることに由来する 【Keyword】 『アウディトーレ家』 ウィスタリア領の都市フィレンツェで代々の銀行家として知られていた貴族位を持つ名家 前当主にしてエツィオの父ジョヴァンニが帝国に対する反逆を企てたとして逮捕 居合わせた兄フェデリコと弟のペトルチオも連行される 三人は程なくして絞首刑を執行されエツィオも罪に問われたが 母のマリアと妹のクラウディアを連れ主の結界が消滅したラナリキリュート大陸へ脱出した “真実はなく、許されぬことなどない” 「秘匿メモリーアンロック。シンクロ開始」 『アサシン教団』 その昔ニクノラーシュに存在したとされる暗殺集団 『教団』を名乗るが特定の宗教的な思想は存在せず時代ごとの民衆を抑圧する者を密かに抹殺していた 現在ニクノラーシュにアサシンは殆どおらず教団自体ほぼ伝説化していたが、 アウディトーレは数少ない純粋なアサシンの血を引く家系であり 父親のジョヴァンニも暗殺者としての裏の顔をエツィオに隠していた アサシン教団に類似した集団はラナリキリュートにも存在し、この大陸のアサシンの元でエツィオは訓練を受けた この項の上部におけるアンダーラインのある文、そのリンク先画像がアサシン教団の印章 またこの言葉は新たにアサシンとなった者が必ず行う誓言で 争いを無くす手段に暗殺を選択するアサシンの矛盾を表すとともに人は生きる限り常に思惟すべきだと促している 「シンクロが完了したメモリーのリプレイを開始します」 【 Prologue 】 + ... インディゴス地方を治める領主の息子ロイと提携。反帝国勢力の裏切り者を暗殺して盤石化を図った後 彼の依頼で勇者『アレル・ディアルティス』手配の経緯、さらにインディゴス人体実験計画の調査を開始 調査中にフィレンツェで血の怪異と遭遇し負傷、錬金術士のロジックスと 殺し屋集団ナイトレイドの一員タツミに救助された縁でエルク、シャノンらとも知り合う リントーを訪れ嘘つき紳士ダンピエールのダンピエール協会を利用して偽造証書を入手 これを用いて帝国での諜報活動を画策している節がある ゼクセン騎士団の騎士クリス・ライトフェローにロイへの助力を求めた際に ラナリキリュートへの逃亡において彼女の父ワイアットが協力していたことを初めて明かすも 彼女をはじめ騎士団が襲撃されると誰にも告げず大陸を横断して帝国領の各地で兵士や帝国への協力者を次々と暗殺 縛り首にして晒し共通のメッセージを残すことでたったひとりの宣戦布告を帝国とその裏に居る者達に行った 最後に暗殺を行ったフィレンツェにて大闘技大会への潜入の意志を伝えるとともに 自身が出会い認めた人材をロイに託す手紙を送った後、帝国軍の一隊に捕捉され乱戦となる 【Chapter1】 + ... 連続暗殺事件より半年。エツィオは未だ失意の中にあった ショウジョウヒと喧嘩別れすると己を見つめ直すため ダリント大洞穴で修練に没頭する中でクゥと名乗る竜の少女と出会う エツィオは自身の死も投げやりなまま彼女にその身を委ねるが生かされ アサシンとして再び立ち上がることを決意、インディゴスへと旅立っていく 半年ぶりに訪れたインディゴスは帝国軍東方大隊の精鋭『黄金兵団』の跋扈する地となっていた エツィオは危機をミントに救われエルク一行が一連の人体実験に絡む陰謀に巻き込まれていると知る 黄金兵団を率いる猛将キントレスキーとの工作戦に奔走する中で協力者探しを再開 アームロックにシャノンを訪ね同盟軍の武器制作を一任する考えを明かす ロイの開催した反帝国勢力の合議のため彼をイルドラークまで 送り届けると自身もこの話し合いに参加。対帝国作戦の陣頭指揮を取るロイ、 暗殺者として成長したタツミと再会を果たす一方で同盟軍客将の黒騎士に身を窶す勇者アレル その同胞のアル・アジフ、またヴァン・デル・ハイト商会の少年レンや 少女エリーゼのような多くの新たな人物との出会いが待っていた ロイによる大闘技大会への参加とギシャルメ反攻作戦の呼びかけに応じ 募兵と武装強化の必要性を強く主張、またミラン・フロワード麾下黒の中隊の暗躍を察知すると調査を開始した 銃兵・義勇兵の育成に努める一方で帝国軍新式銃の獲得を狙い 帝都フリントヒルへ単身潜入、小型銃とロジーの飛行船に関する書類を奪取 逃走する道すがらウィスタリアの名門ブリュー家のシャルロットと対峙する 帝国の内より戦いを続けるシャルロットと帝国そのものの打破を目指すエツィオ 交わらぬ宿命を感じつつ帝都を離れ各地で『革命』の種を撒き続けるのであった―― 【Chapter2】 + ... レンを通してヴァン・デル・ハイト商会の支援を取り付けたエツィオは 各地を回って民が自ら立ち上がり暮らしを守る必要性を民衆に説き続けていた アサシンであると同時に政治運動家としての側面を強めつつある中 ショウジョウヒへ自身がアサシンであることを明かすためスイゼンへ向かう この地で学んだ魔術の理論から強敵キントレスキーに対する 逆転の一手がロジーの錬金術にあると気づいたエツィオは帝都フリントヒルにて ロジーとの再会を果たすとともに同席していた旅の冒険者を名乗る亜人にゃん太と出会った 役人の身分を偽ってロジーへアサシンブレードの改修・解析を 依頼したものの、ウィスタリアの復興に向けて未だ道を模索する錬金術士へ 思惟し続けよとエツィオはアサシンの誓言を投げかけるのだった 鍛冶指南役を拝命したシャノンの支援、そしてさらなるインディゴス軍の強化を狙い インディゴスの大規模な工業地帯化を画策したエツィオはアームロックにて 物資の商談と密かにインディゴスへの輸送を行っていたところ ジャイアントクラウンにおける新たな魔王の目覚めを街より目撃する その後ギシャルメ港において反攻作戦に備えた工作活動へ着手 このとき黒の中隊の陽動へ予てから人材を見出し秘密裏に修練を積ませていた アサシンの弟子達を初めて実戦投入、港湾の空に黒い翼の天使と白い死神たちが交錯する 弟子へ黒の中隊の偵察戦を指揮すると同時にエツィオ自らも戦線に立ち 黒の中隊5番機フェリア・ゲレーラとの空中戦の末その身柄を確保 フェリアの言葉から黒の中隊の出自と帝国軍中将ミラン・フロワードの真意を知った 誘拐されたトクサノス王の居場所をギシャルメと特定したエツィオはこれを反帝国勢力に伝達 自らはフェリアとの戦闘で負傷した体を押して着実にインディゴス平原の 占領政策を固めていくキントレスキーの襲撃を実行に移す 父を探すクリスを連れキントレスキー、そして半年前にエツィオの手で部下の命を奪われた 帝国軍桜花将軍クジュラの前でニクノラーシュにおけるアサシン教団の復活を宣言 クジュラの妖刀、そして黄金将の生み出す無機物生命体ウザイナーとの激闘を繰り広げる ロジーによるアサシンブレードの強化とクリスの純粋な想いに触れ解放された精霊の力によって 辛くもウザイナーを退けるが、しかし圧倒的な滅びの力を発揮したキントレスキーによって撤退を余儀なくされてしまう インディゴスにてロイの元に帰還すると黒の中隊の真実を彼とアレルに報告 彼女らをミランから引き離す為に自身の急進派への寝返りを偽装するよう提案するものの 三者三様にすれ違う立場と意見は互いの道を大きく分かつことになる 誘拐されたトクサノス王の奪還が行われるギシャルメ領事館にて戦いの裏ミランとエツィオは密約を交わす 内容は黒の中隊の身柄と引き換えに勇者アレル・ディアルティスを殺害すること ロイを始め、王の救出にやってきた今までの仲間達にアサシン教団の凶刃が次々と襲いかかった 急進派として活動する最中、インディゴスに最大の危機が訪れる キントレスキー麾下黄金兵団の一斉進撃 エツィオはトルバ湖にてアサシン教団を率いロイ、クリスらと大軍を迎え撃つ 乱戦を極める中で若き獅子と銀の乙女は竜の力、紋章の力にそれぞれ覚醒 彼らとの共闘により、長く苦戦を強いられたキントレスキーをついに討ち果たす ひとりの武人として何ら恥じること無い最期を迎えた男に応え エツィオは自らの名とともに『眠れ、安らかに』と告げるのだった―――――
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/136.html
八 訣別の時 前編~閃光のように~ 前ページ次ページゼロの影 決闘を申し込まれた死神は虚をつかれてしばらく言葉を失っていたが、愉快そうに笑い出した。 「あのねえ、ボクは見ての通り誰かを罠に嵌めるのが大好きなんだよ? まともに闘うわけないじゃない」 「そうそう」 ピロロも頷いて同意を示したが、風の刃が飛んできたため慌てて身をかわした。回避するのが遅ければ直撃していた。脅しというより正確に急所を狙った攻撃だ。 「何するんだよぉっ!?」 涙目になりながら抗議するピロロへワルドは冷然と言い放つ。 「邪魔だ」 先ほどの言動を考えると小人とはいえ油断はできない。キルバーンの使い魔なのだから何を隠しているかわからない。妙な動きを見せれば容赦なく殺すつもりだった。 「ピロロ、下がってて。可愛いキミが殺されちゃあ大変だ。大人げないんだから子爵どのは」 憤然と呟いたキルバーンはくるくると鎌を回し始めた。甲高い風切り音がワルドの鼓膜を震わせる。 ピロロは不満そうに頬を膨らませたが、これ以上戦いの場にとどまっていればワルドが何のためらいもなく殺そうとするだろう。 「あっかんべー」と舌を出してからフッと姿を消してしまった。安全な場所から観察して楽しむつもりかもしれない。 元々キルバーンはワルドたちを殺す気が薄かった。親友抹殺が最優先であり、そちらに気を取られていたと言っていい。 先ほどの罠もしばらくの間足止めするためで、結束して向かってくることができないようウェールズを駒として使っただけだ。 しかし、戦いを挑まれ使い魔を攻撃された以上見過ごすわけにもいかない。 鎌を回転させながらワルドの表情が変わるのを楽しんでいる。 「これは……ッ!」 彼の鎌――死神の笛には穴がいくつも開いている。そのため、鎌を振るうたびに空気の流れが笛を伝わり、人間の耳にはほとんど聞き取れない高周波の音を出す。 戦っている相手は聴覚から視覚を狂わされ、最後に全身の感覚をも奪われる。 まさに死神に相応しい技だ。 現在ワルドにそれほど興味を抱いていないため、手早く仕留めようとしている。 「それじゃあサヨナラ、子爵どの」 上機嫌で鎌を振り下ろしたキルバーンは息を呑んだ。 杖で止められただけではなく、反撃され、正確に仮面のみ切り裂かれたためだ。 地面にゴトリと仮面が落ちた。キルバーンは手で顔を隠し、混乱している。 「ただの人間に効かないハズがないのに、何故……!?」 「風や空気を知るのは得意なんだ」 風系統魔法のエキスパートであるワルドは空気の流れを操り、死神の笛を無効化したのだ。 「風のスクウェアメイジを甘く見るなよ?」 ワルドは追撃しようとはせず、キルバーンが新たな仮面をつけるのを待っている。 「どうしたのかね? 君の大好きな罠を使ってくれてもかまわんよ」 彼は以前キルバーンが「一生懸命修行し真面目に戦う」ことをつまらないと言い放ったことを覚えている。 だからこそ、努力し積み上げた力を突きつけようとしている。 屈辱にキルバーンの目がギラリと光り――懐から新たな仮面を取り出して装着した。怒りの表情が刻まれており、彼の胸中をそのまま表している。 鎌を捨て、虚空から剣を取り出して抜き放つ。 「……決闘を受けよう。正々堂々勝負だ」 ワルドの決意を知って、あえて正面から力でねじ伏せるつもりらしい。 彼が頷くとキルバーンは突進し、雷のごとき速度で剣を振り下ろした。 羽が生えたようにワルドはひらりと跳躍し、軽く回避した。着地するやいなや地を蹴って杖を突き出す。 速い。 肩を切り裂かれ、キルバーンの目が驚愕に見開かれた。 以前見た手合わせの時より強くなっている。 内心を見抜いたかのようにワルドは薄い笑みを口元に浮かべ、宣言した。 「我が二つ名は『閃光』。覚えておきたまえ、死神君」 「……最高に腹立つなァ、キミは!」 両者の得物がぶつかり合い、火花を散らした。 彼はその頃、暗闇の中を彷徨っていた。 周囲に広がるのは彼の生まれた世界によく似ている。 黒雲に覆われた空や、色彩に乏しい荒廃した大地。煮えたぎるマグマの海。 生命を感じさせぬ陰鬱な世界が、さらなる闇に閉ざされていく。 空にある人工の太陽が徐々に光を失っているためだ。生命をはぐくむほどの暖かさは持たないとはいえ、世界を照らしていたものが消えてゆく。 それだけではなく、深淵から何かが蠢くのが見えた。 だが、今の彼にとっては世界の異変などどうでもよかった。 全身が闇と苦痛に包まれ、飲み込まれ、深く深く沈んでいく。 どれほどの間降下していたのか分からない。 いつの間にか彼の前には二つの道が延びていた。 片方を選び進んでいくと、世界が輝いた。雲間から差し込める陽光が広大な丘を照らす。まるで祝福するかのように。 天から降り注ぐ光に包まれた丘に近づくと、頂にいくつかの人影があった。金髪の青年が倒れた誰かに力を分け与えている。 その代償として生命をつなぎとめる糸が切れ、死に向かいながらも表情は穏やかだった。晴れやかな微笑を浮かべていた。 青年は最後に大切なものを守りきり、誇りを抱いて息絶えた。 さらに進んでいくと黒雲が完全に消滅した。澄み切った青空が果てしなく広がり、金色の日光が眩しいほどに輝いている。 その下で戦っているのは一人の魔族と一匹の竜だ。 白銀の髪に白い衣――あちこちが血に染まっている――を身に纏う魔族と黒く巨大な体躯の竜は、それぞれの種族の頂点に立つ力の持ち主だ。 歴史に刻まれ、伝説として語られるであろう戦いが繰り広げられている。 満身創痍で、限られた力の全てを使って相手を倒そうとしながらも魔族の顔はどこか楽しげだった。 まるで己が負けることは無いと信じているかのように。 その理由は単純だ。 空を見上げた男の口元に微かな笑みが浮かび、声なき言葉が紡がれる。 ――太陽が、天高く輝いている。 やがて死闘を制した彼は宮殿の一室で、夕日に照らされ紅く染まった世界を飽くことなく眺めていた。 全てが動き出す。世界の在り方が変わる。 そう確信した表情だ。 満ち足りた、嬉しそうな横顔を見た彼の内にも何故か喜びが湧き上がる。全身を苛む痛みが和らぐのを感じる。 顔を真赤にした少女が誰かに言葉と枕をぶつけた光景を最後に、彼はもう一つの道に立っていた。 闇の中をしばらく進んでいくと凄まじい閃光が弾け、彼を吹き飛ばした。 それがきっかけとなって意識が浮上する。 周囲には無数の結晶が光を放ちながら漂っている。それらが映しているのは過去――彼の記憶だ。 だが、彼を包む闇は暗く、深い。それらとともに抜け出すことは叶わない。 ――今は、まだ。 『閃光』と死神――両者の実力は拮抗しておりなかなか決着がつかなかった。 罠を使わずともキルバーンは強い。 だが、危険の中に身を投じ強さを得たワルドと、常に罠を仕掛けてまともな勝負をせずにいたキルバーンとではここぞという時の一撃に差が出る。 元々実力の高いワルドだが、最近は特に鍛錬に力を入れていたため総合的な強さが向上していた。ミストバーンとの手合わせの成果が発揮されている。 己が劣勢だと悟ったキルバーンはいったん距離を取った。 それを追ったワルドの肩がスパリと裂け、鮮血が飛び散った。 「何ッ!?」 「言ったハズだよ、まともに闘うわけがないと。こっそり見えない刃を仕掛けてたのさ」 キルバーンは頭上のラインを指し示した。十三本の線が全て暗くなっている。 ライン一つにつき一本の刃が仕込まれており、戦いの最中に抜き出して配置していたのだ。その場所は彼にしかわからない。 攻勢に転じたキルバーンが剣を振るう。 ワルドは動いて避け、杖で受け流し、剣を止める。が、その都度体が切り裂かれる。 「見えざる刀身による罠……ファントムレイザー。不可視の刃の檻の中で死んでいきたまえ」 勝利を確信し、ククッと笑った死神は次の瞬間眼を見開いた。 ワルドは臆さず反撃を仕掛けたのだ。 「正気かい?」 無謀な特攻を嘲笑いながら切り結ぶ彼は違和感を覚えていた。 切り裂かれたのは最初の数回だけで、反撃に転じてからは傷を負っていない。動きもやみくもに突っ込んでくるものではなく、刃が見えているかのようだ。 (位置を把握して――?) 内心の疑問を見抜いたように、ワルドが杖を立てて呟く。 「言ったはずだ、風のスクウェアメイジを甘く見るなと。風が全てを教えてくれるのだよ」 空気の流れから刃の檻を見抜き、位置に応じて攻撃を仕掛けている。 戦いの中で、風によって得た情報を防御や回避、そして攻撃に活かす。 それこそが、手合わせを重ねるうちに彼が見出した“次の段階”だった。 空気を網のように編む技術はミストバーンの闘魔滅砕陣を参考にしている。共に闘った時見た技は、心に深く刻まれていた。 やがて風を纏った杖がキルバーンの左腕を切り飛ばした。 キルバーンの右手からサーベルが落下し、乾いた音を立てて地面に転がった。 宙に舞った腕を掴み、距離をとる。 「まさか“これ”を使うことになるなんてね」 腕を失ったのに痛みを感じている様子は無い。 ワルドが目を細め、詠唱を開始する。投げ上げられた腕が回転し、巨大な火球を形成したためだ。 「ボクの血は魔界のマグマと同じ成分。ひとたび炎がつけば灼熱地獄に等しい劫火を生むのさ」 ワルドが詠唱を続けるのを見て首を振る。 「キミ一人じゃどうにもならないよ。食らいたまえ……バーニングクリメイション!」 手が振り下ろされ、火球がワルドに飛来した。 敵が炎で焼かれる様を思い浮かべ哄笑を響かせたキルバーンだが、笑い声がピタリと止まった。 火球は巻き起こった烈風に逸らされ、かき消されたのだ。 炎の向こうに見える影は五つ。 全て同じ姿だ。 五人のワルドが立っている。 「お教えしよう。これが風の最強たる所以――遍在(ユビキタス)だッ!」 遍在――それぞれ意思と力を持つ存在を作り出す、風のスクウェアスペル。 ミストバーンとの手合わせによって身体能力など魔法以外の強さを引き上げたことで、今まで力を温存することができた。 最初から遍在を使わなかったのは、相手を同じ勝負の場に立たせるため。その方が結果的に決着を早めることができると判断したためだ。 キルバーンのような相手に主導権を握られては勝ち目が薄いとわかっている。 五人がいっせいに襲いかかるが、地面から炎が立ち上り降り注いだため回避する。 まだ草原に仕掛けられた罠は残っている。 キルバーンが剣を拾い上げ、両者は再び激突した。 ルイズと向かい合ったウェールズは、震える手で杖を構えようとしていた。 少女が恐れず距離を詰めるのを見て、恐怖さえ浮かべながら叫ぶ。 「来るな! 来てはいけない!」 今、彼は攻撃しようとするのを必死に抑え込んでいる状態だ。これ以上近づけば害を及ぼしてしまうだろう。 少女から離れようとするが、体が思うように動かない。 ルイズがさらに足を踏み出すと、荒れ狂う暗黒闘気の波が細い体を吹き飛ばし、地面に叩きつけた。 「ラ・ヴァリエール嬢!」 まるで自分が傷つけられたような悲痛な叫びが、少女の鼓膜を震わせる。 震えながら身を起こしたルイズが咳きこんだ。血のにじんだ唇からかすれた声が紡ぎ出された。 「ごめんなさい。わたしが助けてって言ったせいで……苦しんでらしたことに気づきもしないで……!」 顔を上げたルイズの眼から、ぽろぽろと真珠のような涙が零れ落ちた。 ウェールズの生命を救ったのも、その結果憎まれたのも、ミストバーンだ。 だが、ルーンによって彼を従わせたのはルイズだ。 力持つ者に懇願し、生じたものの重さを受け止めようとしなかった。強者に助けを求めたはいいが、後のことなど考えていなかった。 二人の道が隔たったのは、彼女が原因でもあるというのに。 立ち上がった彼女を暗黒闘気の弾丸が襲い、再度吹き飛ばした。額が切れて血が滴り落ちる。 「うああ……っ!」 珊瑚のような唇から血がこぼれるのを見て、ウェールズは瞼を閉ざし、呻いた。 「僕を殺してくれ。このままでは――」 暗い波に抗しきれなくなり、自分が自分でなくなってしまうだろう。 アンリエッタの友人であるルイズや信頼する部下のワルドを殺すくらいならば、いっそ彼らの手で生命を断たれた方がいい。 「できません! できませんわ、そんなこと!」 ルイズがおののきながら叫ぶと、ウェールズは穏やかで温かい笑みを浮かべた。 「自分を信じるんだ。大丈夫、君ならできる」 『虚無』ならば生命をつなぎとめる暗黒闘気を全て消去し、『解呪』することができるだろう。 ルイズが震える手で始祖の祈祷書をめくると、訴えるように文字が眩しく光り輝いている。 アンリエッタの憂いを帯びた顔、結婚式の際のウェールズの晴れやかな笑顔が浮かび、消えていく。 『我が主も、私も、強者には敬意を払う。私はお前の名を忘れはしないだろう……永遠に』 『守るべきもののために全力で戦う――それは君も同じだろう? ならば、君もまた尊敬に値する』 二人の会話など思い出のかけらが浮上し、彼女の胸を締めつける。 「僕の……最後の頼みだ」 震えながら立ち上がった少女が両手で顔を覆う。 「殿下、お許しを……お許しください……!」 彼女は詠唱を始めると同時にウェールズの元へ走り出した。彼は暗い衝動を無理矢理抑え込み、受け入れるかのように両手を広げた。 ルイズの脳裏にワルドの言葉が蘇る。 『詠唱しながら杖を振るう――軍人の基本中の基本さ』 こんな形で活かすことになるとは思わなかった。 詠唱とともに行動することを以前試した時は上手くできなかった。 だが、余計な想いを捨てたためか身体が反射的に動いてくれた。試したことを体が覚えていたのかもしれない。 ウェールズの胸に勢いよく飛び込み、手を握る。 彼女は詠唱を終えて魔法を発動させた。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6873.html
前ページSnakeTales Z 蛇の使い魔 「はぁ……。」 「この1時間で26回目の溜息です。何かあったのですか?」 アンリエッタの向かいで紅茶を傾ける女剣士。名はアニエス。 引き締まった戦士の体に、爽やかで整った顔立ち。 身にまとっているのが鎧である点が少々残念である。 「何でもありません。」 「でしたらもう少ししゃっきりなさってください。民が見たら心配します。 ただでさえ現在、枢機卿がいないというのに、民の不安をあおるのは良くありません。」 剣士というよりこれでは女秘書だ。 「枢機卿はどこに行っていられるの?」 「ロマリアです。」 「最近よくロマリアに行っているようですね。ロマリアに何かあるのでしょうか?」 「枢機卿にお聞きください。」 あらあら。 この女剣士、有能なのだけど愛嬌が無い。 本人に聞けば「必要ない。」とでも言いそうだけど。 「婚期を逃しますよ。」 「ご忠告どうも。姫はご結婚おめでとうございます。」 「んもう。意地悪ですわね。」 もちろん、この剣士は私がこの結婚をあまり快く思っていないことを知って言っている。 「結婚なんてするもんじゃありませんわね。」 「結婚した人はみんなそう言うそうです。」 言葉のいたるところに棘を感じる。 ただ、怒っているのは結婚についてではなさそう。 そんなに仕事を中断して私とおしゃべりするのがイヤかしら? それともこの前また私が勝手に白から抜け出したのを気にしてるとか。 心当たりはいくつもある。 「……あなた私のこと嫌いでしょう?」 「何をおっしゃいます。愛していますわ、ひ・め・さ・ま。」 無表情で言われてもときめかない。 もっとこう、頬を赤らめて「あ、愛しています。」とか言われればキュンと来るのに。 素材は良いのにもったいないわね。ちょっと着飾ればどこぞの令嬢にも見えることだろう。 私に冷たく当たった罰として、絶対フリフリのドレスを着させてやる。 今からテンションが上がってきたわ。 「で、何かわかった?」 「……。」 スネークにしては珍しく驚いているようだ。 思わぬところでレア顔ゲット。 そんなにこの黒い筒みたいなものが珍しいのだろうか? こっちの小さい箱に入っていたものはスネークの持ってる、ソーコムとか言うのに似ているけど……。 「……他に何か入っていたものは?」 「真新しい服が入ってたわ。はい、これ。」 オレンジ色に黒い斑点のような模様がついている服を手渡す。 変な感触の帽子も入っていた。とてもおしゃれとはいえない帽子だが、何かわかるかな? 「悪い冗談だ。」 ため息をつくスネーク。何かわかったのだろうか? 「なんなのよ?何かわかったなら教えなさい!」 「そっちの長い物と小さいのは銃。こっちの服は野戦服だ。」 それだけ言って何か思い出すような顔になるスネーク。 少し邪魔をしてしまったかもしれない。 でも、もう少しやさしく言ってくれてもいいのに。 オレンジ色をベースに黒い迷彩。そしてセットとしてスカルキャップとソフトヘルメット。 あのビッグ・シェルでゴルルコビッチ傭兵部隊が制服としていた戦闘服だ。 それだけじゃない。一緒に『AKS-74U』と『PMM』が入っていた。 これらは全てビッグ・シェルのシェル1中央棟を警備している兵士の兵装だ。 ビッグ・シェルの記憶がよみがえる。 俺は架空のSEAL隊員『イロコィ・プリスキン』として海洋除洗施設『ビッグ・シェル』に潜入した。 目的はビッグ・シェルを占拠したテロリスト集団『サンズオブリバティ』をとめるため。 そこでスネークはある青年に出会った。 ダークブルーの新型スニーキングスーツ、銀色の髪、整った顔立ち。 彼も任務でテロリストの武装解除のため潜入していた。 所属はなんと『FOXHOUND』。だが、スネークの後輩というわけではない。 このとき既に『FOXHOUND』は解体されており、存在しない部隊なのだ。 ――お前名前は? ――……雷電だ。 ――ライデン?変わったコードネームだ。 ――本名は平凡だ。 ――そうか、いつか聞けるときがくるかもな。 アレから一年。彼は今どこで何をしているのだろうか。 拾った武器を観察する。 AKS-74UはさすがAKシリーズというべきか、目立った損傷はなく、普通に使えそうだ。 どこか室内で一度分解して見る必要はあるが。 だがPMMは違った。どういうわけかスライドがうまく動かないうえ、撃鉄もしっかり降りない。 無理に動かせばバキンと逝きそうだ。 これは使えそうに無い。残念だがこれは置物だな。 幸い、ハンドガンは既に持っているので困りはしない。 ふと周りが妙に静かなのに気がつく。 全員が俺の手元を見ている。ああ、自分の世界に入りすぎていたな。 「すまない。この宝物……長い銃のほうだが、貰ってもいいか?」 「君以外に持っていて意味がある人間なんていないだろう?」 ギーシュが答える。確かに、ここにいるのはシエスタ以外がメイジだ。 銃に頼ることなど無いだろう。それに、シエスタが戦うことなんてまず無い。 ごみにするくらいなら貰ってくれということか。 「こっちの服とかは?」 「ちょっと見てみたが、戦闘服はサイズが小さすぎる。スカルキャップも同じだ。持っていても意味は無い。」 「この帽子は?」 「帽子じゃない。ヘルメット、まあ言ってみれば兜だな。」 しげしげとタバサがヘルメットを観察している。 あ、ヘルメットをかぶった。なにやら満足げだ。一体何が彼女をひきつけるのか。 「ほしいならやるぞ。」 こくんと頷く。本当に貰っていくとは思わなかった。 そんなタバサをボーっと見ていたらいきなりルイズに耳を引っ張られた。 「いきなりなんだ?」 ぷいとそっぽを向かれた。……俺が一体何をしたんだ? 食事――それは生き物にとって無くてはならないもの。 食事――それは戦場で必要な栄養を摂取するための必要な軍事行動。 食事――それは戦場での数少ない快楽の一つ。 かつて、兵士が一週間食べ物を食べなくても戦闘が行えるように強化する研究が行われていた事もある。 ただ、現場の兵士はというと「ふざけるな。俺達から楽しみを取らないでくれ。」と、たいへん不評だったそうだ。 ルイズ一行はそんな重要な軍事行動の真っ最中だ。 「……。」 「……。」 ……楽しい楽しいお食事タイム、のはずなのだ。 先ほどまでハイテンションであったが、一段落して、疲れが彼女らの体にのしかかってきたようだ。 もはや喋り声は聞こえない。興奮から醒めればこんなものだ。 「……はぁ。」 こう何日もベッドで眠っていなければ溜息も出るものだ。 そもそも彼女らは戦闘訓練を受けたことはない。 何日も野宿が続くと流石に疲れる。 ……タバサはわからないが。相変わらず涼しい表情をしている。 ひょっとして何処かの特殊部隊員だったりしてな、とか考え、自分でありえないと突っ込みを入れていた。 「皆さん、元気が無いですね。」 「疲れたんだろう。そっとしておいてやれ。料理がまずいわけじゃないから安心するんだな。」 シエスタとスネークだけはそんな事も無くいつもどおりだ。 そもそもシエスタは戦闘に参加していないし、メイドの仕事のおかげで体力には自信があった。 スネークは言わずもがな。もはや不死身の男である。 まあ夜通し精神を張り詰めて、潜入任務が出来るのだ。これくらい問題は無い。 「……明日あたりを最後にしましょうか。」 キュルケが提案する。その外の面子は無言で賛成した。 もうこのまま帰っても良いんじゃないか? 「次はどこにするんだ?」 「……ここから近いタルブの村ってとこ。」 「あ、それ私のふるさとです。」 「ほう、どんなところだ?」 「何にも無い村ですよ。……でも、みんな優しくていい村です。」 シエスタとスネークの間でのみ会話が弾む。 にこにこしたシエスタを見ていると疲れが取れるというものだ。 「そうだ、スネークさんに私の家族を紹介しますよ。」 「そうか。楽しみにしておこう。」 えへへ、と無邪気に笑うシエスタ。 少しルイズから殺気のようなものを感じたが、気のせいという事にしておく。 どうせ何かされても死なない自信はある。 ヨシェナヴェというシエスタの郷土料理は思った以上に美味しく、 味はかつてオタコンと一緒にやったニッポンの『ナベ』に良く似ていた。 食後、シエスタとキュルケ、ギーシュはさっさと寝てしまった。 スネークは火の番をしているのだが、隣でルイズとタバサが本を読んでいる。 タバサのほうは……なにやら難しい魔法生物の教科書みたいなものだ。 だがルイズの読んでいる本のタイトルが読めない。擦り切れている。ずいぶん古い本のようだ。 「ルイズ、何を読んでいるんだ?」 「始祖の祈祷書。」 タバサがぴくりと動く。知っているのだろうか。 「なんだそりゃ?」 「始祖ブリミルが残した本。でもなーんにも書いてないわ。」 「本の役割を果たしてないじゃないか。」 「私に言わないでよ。」 あきれた始祖だ。暗号ならともかく、文字すら書かれていないのでは誰も読めないじゃないか。 「で、どうしてそんなものをお前が持っているんだ?」 「あれ、言ってなかったっけ。姫さまの結婚式のとき、私が詔を詠むのよ。」 「そいつはすごい。そんな大役、よく引き受けたな。」 「うん。自分でも後悔してる。」 頭を抱えてる。一体何を後悔してるのやら。 「どんな詔を詠むんだ?」 「……まだ少ししか考えてない。」 「詠み上げてみろ。」 少し間を空けて、咳払いをしてから読み上げた。 「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……。」 ふむ、とあごに手を当てて耳を傾ける。ルイズの綺麗な声で詠まれ、大変心地良く聞こえた。 ここからどんな詞が続くのかと期待していたら、それきりルイズは黙ってしまった。 「どうした、続きは?」 「これから、火に対する感謝、水に対する感謝……、順に四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な詞で韻を踏みつつ詠まなきゃならないんだけど……。」 「詠めばいいじゃないか。」 「詩的な表現とか言われてもわからないわよ。スネークは何か思いつかない?」 「俺は詩人じゃない。悪いが力になれないね。」 はぁ、とため息をつくルイズ。頼りにならなくて悪かったな。 「まあ仕方ないわよね。今日はもう寝るわ。」 立ち上がって自分のハンモックへ歩いていってしまった。 隣のタバサは先ほどと変わらない様子で本を読んでいる。 この子は疲れていないのだろうか? 「……。」 風が木々を揺らす。 火の爆ぜる音が時折聞こえる以外は静かなものだ。 そんな時、タバサが声をかけてきた。 「銃。」 「なんだ?」 「見せて。」 「……。」 あまり乗り気になれない。なぜ見る必要があるのか? 「どうして?」 「変にいじられたらかなわん。」 タバサの視線が痛い。 「お願い。」 「……見て何をするつもりだ。」 「何も。見るだけ。」 しぶしぶM9をマガジンを抜き、スライドを引いて薬室内の弾丸を抜いてから手渡す。これなら暴発しない。 いろんな角度から角度から観察している。そんなに興味があるのか。おっと、銃口はのぞきこむんじゃない。 「何がそんなに興味を引くんだ?」 「いろいろある。」 それきりタバサは黙ってしまった。まあいつも黙っているが、それとは違った黙り方だ。 「悪かったな、色々聞いて。」 「別に。」 人に深く干渉するなんて、柄にもないことをしてしまったな。 「どうした相棒。元気が無いじゃねえか。」 「別にどうもしていない。」 剣の癖して鋭い。 いや、剣だから鋭いのか? 「あの娘っ子は気にしちゃいないと思うぜ。」 「誰がタバサのことだと言った?」 「俺も『娘っ子』としか言ってないがね。」 デルフに表情があったなら今頃ニヤニヤしているだろう。 そんな声をしている。 「……。」 「おいおい、怒るなよ。」 「怒ってない。」 「うそつけ。」 くくく、と笑い声が聞こえる。性格の悪い魔剣だ。 やはり伝説というのは会えば伝説じゃなくなる。 「変な遠慮はあの子が嫌がるからやめるんだな。」 「人間関係を剣に教えられるとは思ってもみなかった。」 目の前の焚き火を使って煙草に火をつける。 疲れが煙とともに身体から抜け出すようだ。 ゆっくりと口から煙を吐き出す。 「お前よりも長く人生を歩んでるからな。なんでも聞いてくれ。」 剣なのに『人生』とはこれいかに、など余計なことを考えながらデルフに問う。 「じゃあお前の話をしてくれ。」 とたんにデルフが黙る。 また地雷を踏んだか? 「あー、俺も長い人生でね。あんまり覚えてないな。 昔お前と同じガンダールヴが振っていたことぐらいしか覚えてないんだな、これが。」 「記憶喪失か?」 「ただの物忘れだな。いやー長く生きてるのも大変だねぇ。」 能天気な奴だ。 それにな、とデルフがつないだ。 「自分の話をするのは苦手なんだ。俺はいつも誰かに使われる人生を送ってきた。 自分であそこに行った、アレをやったってのが無いのさ。 ま、それが俺の役割だし仕方ないし、不満も無いがね。」 「……そうか。」 「相棒はどうだ?」 しばらく考える。昔の記憶はあまり良い物ばかりではない。 話し声がうるさかったのだろうか?後ろのハンモックでルイズが寝返りを打った。 「……どんな話をしろと?」 「何でもいいさ。どんな子供時代だったとかそんなんでいいぜ。」 子供時代……どんな子供だったか。 記憶の糸を手繰っている途中、ある男の言葉を思い出した。 ――お前の趣味を当ててやろう。いや、過去というべきか。 ――うーん。何も無い。お前の記憶はカラッポ。 「ん?」 「どうした、相棒?」 「いや……。」 俺には未来も過去も無い。 俺にあるのは、ほかでもない『今』だけだ。 振り返ることには意味が無い。 「で、どんなんだったんだよ。」 「……あいにく過去は振り返らない性分でね。秘密だ。」 「ちぇ。」 「いい男には秘密はつき物だ。」 野郎にそんなもの必要ねえ、とわめくデルフを鞘に押し戻す。 これ以上は遠慮してもらおう。騒音も、詮索も。 前ページSnakeTales Z 蛇の使い魔
https://w.atwiki.jp/lightnovelcharacters/pages/349.html
「……本当にここなの?」 「これにはそう書いてあるけど……」 ラノベ学園生徒の大半は寮住まい。 その寮もピンからキリまであるのだが、今彼らが居るのはそのキリの中でもキリのキリ、最安価な寮である。 彼ら二人のうち一人は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。 虚無/ゼロの二つ名を持つ魔法使い/メイジ。 もう一人はその使い魔、背中に剣を背負った少年、ガンダールヴ『平賀才人』。 二人は、とある理由があってこの寮へと来ているのだが…… 「……人が住んでるようには見えねえよなあ……」 ぼやく才人。 事実、この寮は薄暗い。というより薄気味悪い。昼からよからぬモノが出そうな勢いである。 ……この学園ではめずらしくはないのだが。 「…ああもう、行くぞ。ここでこうしてても埒が明かない」 「ち、ちょっと待ちなさいよ!」 寮の中へと入る二人。目当ての部屋はすぐ見つかった。 その部屋のドアにはこう書かれていた。 『大十字探偵事務所ラノベ学園出張所』と。 ピンポ――…ン 呼び鈴を鳴らす才人。しかし。 「「……」」 …誰も出ない。 留守か、とも思ったがどうも違うようだ。中からぶつぶつと何かが聞こえる。 二人は耳をそばたてる。すると聞こえてきたのは… 『ひもじい……ひもじいぃぃ……』 「「…………」」 言葉を失う二人。 「やっぱりあたしたちだけで何とかすべきかしら…」 「かもな…」 何というか、せつなげにそんな会話をする。 だが、この時後ろからかかってきた声で中の赤貧探偵に関わらざるを得なくなってしまう。 「…汝等、何をしておる?」 驚いて後ろを振り向いた。 そこに居たのは、手に購買部のレジ袋を提げた、フリルがついた白い服を着た少女だった。 『ふっふっふっはっはー。ふっはっはっはっはー。わひゃーっはっはっはっは!ドォォォクタァァァァァァ、ウエエエエェェェストッッ!! メイジのお嬢さん、ならびにその下僕、そしてこのスレをご覧の皆様はじめまして。1億年に一度のどぉぅゎい!天!才! ドクターウェストで御座いますっっ! さぁぁてさて、今回我輩とある研究のためにどぉぉぉしても必要なものがありまして。 そのために、君たちの持ち物の中にそれがあると知った我輩はこの知性を抑えきれなくなりそれをちょっぱらせていただいた次第! この研究が成功した暁には協力者として我輩の改造実験優先券を進呈、そして改造が無事済んだその時にはっ! あの憎き魔導探偵大十字九郎を共にぎったぎたのコテンパンにした後に、屋上からゴムの切れ目を入れたパンツ一丁で 吊るしてさらし者にし、「そのゴムが切れた時、お前は死ぬ。(社会的に)」なんて言ってやるのである! っつーわけであるからして、『始祖の祈祷書』と『水のルビー』、そしてヴァリエール家の杖はありがたく頂戴。 貴君らの協力に感謝である、まる。』 以上が、今朝ルイズの部屋に残されていたドクターウェストの手書き丸出しの名刺の裏に細かく記された文章である。 この名刺を持ってきたルイズと才人、そして、白いフリルの服の少女、アル・アジフと(そのアルが買ってきた食い物で 空腹を満たした)大十字探偵事務所所長、大十字九郎は虫めがねでこれを読んでいた。 んで、読み終わった後。 「「…………」」 「「…………」」 四者二様の沈黙。 方や、改めて読んだ名刺の裏書のあまりの内容にせつなくなり。 方や、出張所での初の依頼なのに故郷でやってた頃とあんま変わんないなー、と、ある種の諦観の念により。 「…で、盗られた物を取り返したいから手を貸して欲しいと」 「…まあ、そういうことです」 九郎の確認の質問に、才人が答える。 「ひとつ聞きたいのだが、此処のことをどうやって知った?我等は広告費すらも削らねばその日の糧を得られぬほどに 貧窮しておったのだが」 「………」 アルが語った今更な現状に鬱になる九郎。 「ああ、それなら」 「占い師よ」 「「……占い師?」」 名刺裏とは別の紙に書かれていた『改造手術を受けるのならこちらロボ』という地図の×印の場所へ殴り込もうとした二人を その占い師は引き止め、この寮の場所のメモを渡しこう言ったという。 『魔導探偵大十字九郎なら力になってくれるさ』と。 「…………その占い師って、黒い髪に紅い眼で、……」 「……なんだ?」 途中で言葉を切り、アルの様子を伺うようにして続ける。 「…やたら胸がでっかい、美人?」 「「!!!」」 ぎん。 そんな感じの擬音が合う眼光をその眼に宿し、それぞれの相方をにらむアルとルイズ。 「…はい」 そしてその視線に気付きながらも正直に答える才人。すると。 「…ええ、そうなのよ」 底冷えしそうな口調でルイズが言い、 ぎゅむ、 と才人の足を踏みつけ。 どふ、 と才人のみぞおちにひじを入れた。 「……!!!」 声にならぬ悲鳴。 「ええそうなのよそのとおりなのよこののらいぬったらまたくろかみでむねのでっかいおんなにしっぽふっちゃって まったくせっそうないったらありゃしないそもそもこのつかいまったら……」 ぶつぶつ愚痴と怨嗟をはく静かな怒声。 「……ああっ、私をお棄てになるのですかご主人さまぁ…私はあなたなしでは生きられぬ体になってしまったというのに……」 腹癒せに陥れようとする演技。 「……アル。お前いいかげん初対面相手に俺を陥れる姦計をめぐらすのは止めれ」 いつものことに対する嘆き。 ……事務所はいまや四者四様の混沌の異界となった。 ちなみに、アルの姦計は二人それぞれ痛みに耐えるのと怨嗟をはくのでいっぱいいっぱいで、さほど効果は無かったという。 あれからなんだかんだで、ラノベ学園の幾多ある食堂のうちマルトー親父が仕切る所でのしばらくのタダ飯を依頼料代わり (これも占い師の入れ知恵である)にするということで話はまとまった。 さて、所は変わる。 大十字探偵事務所出張所があるのは確かに最安価な寮であったが、それは家賃を払うと言う前提での話。 学園の敷地の隅っこにぽつんと建っている建物。 学園の誰からも(記録からも)忘れ去られたこの建物、高い安いというよりむしろタダである。 この建物に住む人間はたった一人。その言動はかの『探耽求究』をも超えるほどに常軌を逸すことから、保健室の変態三本柱 (紅と緑とオマケ)からすらもあぶれてしまった、学園中から(多分意図的に)忘れ去られた男。 その男こそは。呪われた頭脳を持って生まれしその名は―― 「ドクタァァァァァァァァァーーッ・ウェェェェェェェェストッッッッ!」 ギャァァァァッァァァッァァァィィィィィン! ギターの旋律に乗せて己の名を叫ぶドクターウェスト。そんな様子を冷ややかに見つめ、 「博士、五月蝿いロボ」 のひと言で主の悦な気分をえぐるのはもう一人の住人……否、一機の同居人、ドクターウェストが鋳造せし 自動人形/オートマトン、エルザである。 「そんなことしてる暇があるなら、早く『我、埋葬にあたわず』にも例の新機能をつけて欲しいロボ」 「エルザよ……いつからそんなに自己中で冷たい子になってしまったのであるか?」 「自己中さは博士には負けるロボ。それよりエルザ、早く新しい『我、埋葬にあたわず』でダーリンとの愛の巣を今度 こそこの手で作りたいから――――」 どがしゃぁぁぁん!! 「くぉぉぉぉるぁぁぁぁっっ!!!ドクターウェストォォォォォッッッ!!!!人様にまた迷惑かけやがってぇぇぇぇぇ!!!」 「んお?」 ぼぐしゃぁぁぁっ!! 「げるぶふぉおおおあっ!??」 エルザのセリフの途中、壁をぶち破って現れ、ドクターウェストをぶん殴った黒い影。 「ロボ……?あっ、ダーリン!」 「「ダーリンちゃうわッ」」 息ぴったりのツッコミを入れるその二人は、マギウス・スタイルの大十字九郎と、手のひらサイズに縮んだアル・アジフだった。 「……やっぱこの学園の一員だねえ、あの二人。ひもじいひもじいなんて聞こえた時はオレもどうかと思ったがよ」 「だな…よっと」 デルフリンガーを持って九郎があけた穴をくぐってくる才人。ルイズは杖まで盗まれたので魔法は使えない。よって建物 の外で待機なのだ。 「あ…ああ…ハッ」 気絶から覚めるウェスト。 「のぉぉあっ!?お前は大十字九郎ッ!!??とついでに協力者の下僕のほう」 「ざっけんな、勝手に盗んでいって何が協力だ!しかもついでってなんだよ!」 「…下僕は否定せんのか」 「…!相棒、左だ!」 「ロォォォボォォォォォッッ!!」 ぎぃぃぃん!! 「うあっち!?」 デルフリンガーの指示でどうにかエルザのトンファーを受ける才人。 「――エルザとダーリンの愛の成就を邪魔する障害は、排除ロボ!ロォォォボロボロボロボロボロボッッ!!」 「う、うお、おおおっ!?」 ガン、ギン、ゴイン、と連続で繰り出されるトンファーを受ける才人。だが、一撃一撃が才人の握力を奪っていく…! 「おおおおおおおおおおりゃっっ!」 ブォン! 「ロボ!?」 ガキィィン! 横合いからの黒い斬撃を受けるエルザ。それはバルザイの偃月刀――! 「大十字さん!?」 「選手交代だ、平賀!お前はとりあえずドクターウェストを動けなくなるくらいにボコッて――――」 ズズズズズ… その時。不吉な地響きが。 「……相棒、なんか地響きを感じねえか?」 「……ああ、はっきり感じた」 「よいしょっと…サイト、今何か地震みたいなのが――」 「ルイズ!?お前、外で待ってろって言ったろうが!」 「九郎、こいつは…!」 「……てめえ、ドクターウェスト!…ってあれ?いねえ!?」 きょろきょろ見回す九郎とアル。そんな二人にエルザが告げる。 「久しぶりにあれを動かすために、ここは少しのお別れロボ、ダーリン」 「なッ…てことはやっぱり」 「…『あれ』か。また面倒なものを…!」 「それじゃ、バッハハーイロボ!」 「ああっ、待ちやがれ!」 いつの間にか床に開いていた穴に飛び込むエルザ。九郎は後を追おうとするが、穴は閉まってしまう。 「探偵よ、それに魔導書の娘っ子、この地響きに心当たりあるみてえだね」 「むう…」 齢千を超えるアル・アジフを娘っ子呼ばわりのデルフリンガー。もっともこの剣は六千歳だが。 「ああ…正直あまり認めたくはねえが…とりあえず外に出るぞ。探し物はこの中にはなさそうだ」 外へ出た大十字一行。地響きはどんどんでかくなり、そして―――― ぐうぃぃぃィ――むっ 「うぉっ!?」 才人の目の前の地面が――否、見渡す辺り一帯が――せりあがった。 そして、そのせり上がりが頂点に達した時、四人は――学園の皆は見た。 その――――――でっかい、ドリルとか腕とか短足とか顔とかがついたドラム缶を。 忘れ去られた建物の地下に、ドクターウェストは格納庫兼リフトを建造していたのだった。 がっきょんがっきょん。 どこか間抜けな足音を響かせて、ドラム缶――破壊ロボは歩き出した。 ――校舎内。 上条「……なんだありゃ」 悠二「ドラム缶……に見えるけど」 シャナ「……あんなもの作るやつといえば……」 インデックス「……教授かも?」 アラストール「『探耽求究』……奴以外におるまい」 ダンタリオン「皆さん、残ぁぁーーん念ながら違いますよぉぉーーーーう?」 インデックス「わっ!び、びっくりしたかも!」 上条「つか、あんたいつの間に俺らの真ん中に!?」 悠二「…違う?」 ダンタリオン「その通ぉぉーーーり、あぁぁぁーのエキサイティングにしぃぃーて、エクセレントかつ、エェーーーキセ ントリックに素晴らしいぃぃぃーーーーメカは実に、そーーぉう、実ぃぃぃぃーーつに残念なことに 私が作ったもぉぉーのではありませぇぇーーん!ぜぇぇぇーーひ作った当人に会ぁぁーーってみなくては!」 シャナ「……こんなのがほかにも?」 アラストール「……」 『ふひゃーーーーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!どうしたであるか大十字九郎!このドクターウェストの頭脳より 生まれた『スーパーウェスト無敵ロボ28號〔こんにちは~こんにちは~ラノベの~皆さん~♪〕』の前には』 『博士、うるさいだまれ』 『はい』 「ちっ…好き勝手言ってくれやがる!」 「きゃああああああああああああ!」 「ええい、黙らんか小娘!」 九郎は才人とルイズを担いで破壊ロボから飛んで逃げていた。時折放たれるビームやミサイルをかいくぐるように躱す。 「このままでは埒があかんぞ、九郎!」 「解かってる……!!喚ぶぞ、アル!!!」 「……!ああ!!」 「大十字さん?呼ぶって何を…?」 「相棒、この二人にも切り札の一つぐらいあるってこったろうさ」 「なんでもいいから、手があるなら早くしなさいよ探偵!」 「了解だ、依頼人/クライアント!」 返事をして地面に降りる九郎。二人を肩から降ろす。 『ほう?遂に観念したであるか大十字九郎?』 「まさか。むしろ観念するのはてめえのほうだぜウェスト。……鋼鉄のダンスと洒落込もうか!!アル、行くぞ!!」 「応!!!」 宗介「会長閣下」 林水「ん?」 宗介「なぜあの未確認機への攻撃許可をくださないのですか。このままではこの学園が…」 林水「それについてはあるところからすでに通信が入っている。『我々の不始末は我々でかたをつける』、だそうだ」 宗介「…あるところ?」 林水「……覇道財閥だ」 「憎悪の空より来たりて――」 九郎の声が聖句を唱える。 「正しき怒りを胸に――」 アルの声が聖句を謳う。 「「我等は魔を断つ剣を取る!」」 重なる二人の声。そして。 「「汝、無垢なる刃――デモンベイン!」」 二人の聖句に応え、其れは――来る。 其処に有り得べからざる物質が、存在する無限小の可能性。 限りなく『0』に近い確率が集積され、完全なる『1』を実現する。 そして――其れは、この学園に顕現した。 「これ…ロボット…?」 「ああ」 才人のつぶやきに、九郎が答える。 ラノベ学園では巨大ロボットは、さほど珍しいものではない。それにロボットでなくとも紅世の従などの中には遥かにでかいものも居る。 だが。 それは、この学園にそれまで一度も顕れなかった“鋼鉄の/刃金の”“巨人/巨神”―― 「こいつが俺たちの切り札――鬼械神/デウスマキナ『デモンベイン』だ!」 答えるとほぼ同時、九郎の体が魔術文字となって解ける。そして、デモンベインのコックピットへと転送される。 ――動き出す。 →Next
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/1621.html
魔陣の祈祷師エンセント・アレイ R 闇文明 (8) クリーチャー:デーモン・コマンド 4000 ■このクリーチャーを召喚した時、プレイヤーをひとり選ぶ。そのプレイヤーのクリーチャーをすべて破壊してもよい。そうした場合、こうして破壊したクリーチャー1体につき、進化ではないクリーチャーを1体、そのプレイヤーの墓地からバトルゾーンに出す。 作者:赤烏 収録 DMW-09 「帝王編(エクセレント・マスター) 第1弾」 評価 激しくなったバベルギヌスですねw普通に自軍強化でも使えますし、場合によっては相手のブロッカーを一気に減らすなどできて、使いやすそうです -- 紅 (2011-05-22 08 59 37) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/touhoumtg/pages/417.html
少女祈祷中.../A Girl devotioning 少女祈祷中.../A Girl devotioning(W)(W) インスタント ターン終了時まで、クリーチャーは攻撃できず、プレイヤーはクリーチャーの起動型能力を起動できない。 参考 妖々夢-アンコモン
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2140.html
アンリエッタ姫殿下の御前にてルイズは傅く。 深く下げた頭は彼女への敬意と謝罪の意を表していた。 ルイズは全てを明かした上でアンリエッタの言葉を待つ。 自身の背信行為が許されるなどとは思っていない。 罰を言い渡されれたのならば甘んじて受け入れよう。 謁見の間での姫様の口振りは彼の実力を知っているようだった。 きっと助力として望まれたのは私ではなく使い魔の方。 以前なら屈辱と受け取ったかもしれない。 だけど今は違う。あるのは望まぬ力を与えられた悲しみだけ。 でも圧倒的な不利を覆すには彼の力は不可欠。 そうと知っていながら私は彼を元の世界へと逃がしてしまった。 それは真にトリステインの事を案ずるならば犯してはならない過ち。 ……なのに私は一国の安全よりも彼の命を優先した。 かつてワルドが語った事を思い出す。 『どちらが正しいのかなんて誰にも決める権利はない』 あの時は意図さえも理解できなかった言葉が重く響き渡る。 裏切り者。その刻印はワルドだけではなく私にも刻まれたのだ。 国も使い魔も裏切って私は自分の心に従った。 それが私の罪。守るべき貴族としての責任を放棄した罪。 何も告げぬまま、そっとアンリエッタの手がルイズの肩に添えられる。 びくりと肩を震わせる彼女にアンリエッタは静かに顔を寄せる。 「いいのですルイズ。私に貴女を責める資格はありません」 ぎゅっとルイズの肩を抱き締めて彼女は告げた。 それは口先だけの言葉では断じてない。 合わせられた胸を伝ってアンリエッタの温かな気持ちが流れ込んでくる。 一人の少女として振舞う事が許されなかったのは彼女も同様だった。 アルビオンに付け入る隙を与えたのもウェールズに宛てた恋文のせい。 貴族としての生を課せられた少女の、たった一度だけのわがまま。 同じ想いを抱えた親友をどうして彼女が裁けるというか。 ウェールズ様を喪って独りぼっちになったと思っていた。 だけど違う。私にはまだ心強い友と臣下がいる。 復讐に命を捧げるなどあってはならない。 このトリステインと彼女達を守る為にも私は生きる。 ……たとえ、それが愛しい人のいない明日であろうとも。 言葉を交わす必要はない。 無邪気に遊び回った頃のように二人の心は通じ合っていた。 込み上げてくる感情と涙を堪えながらルイズは懐に手を入れた。 そこから取り出した『始祖の祈祷書』と『水のルビー』を彼女に差し出す。 「これはお返し致します」 「いえ、それは貴方が預かっていてください。 少なくとも私の気持ちに整理がつくまでの間は」 「……分かりました。ではお預かりします」 「ええ、いつの日か必ず貴方の手で返してください。 それまでは決して死んではなりません、これは命令です」 にこりと笑みを浮かべてアンリエッタは告げた。 ルイズなら命を賭して自分を守ろうと無茶をするだろうと予期していた。 それに釘を刺す意味で彼女は国宝を持たせたのだ。 「ではルイズは私の傍に」 「はい!」 隣に寄り添うようにルイズは自分の馬を引いてくる。 魔法が使えずとも優秀な指揮官でなくとも今のアンリエッタには彼女が必要だった。 誰よりも安らぎを与えてくれる親友。 それこそが復讐に身を焦がす自分を止めてくれる最後の砦。 (……いつまでも私の傍にいてくださいねルイズ) 「これでどうかな? 急拵えだから見栄えは悪いけどね」 「いやいや、こいつぁ立派な物ですよ。十分すぎるぐらいでさあ」 人一人隠れられるぐらいの深さを持った穴が線の如く延びる。 それは紛れもなく彼のいた世界で言う塹壕だった。 ヴェルダンデの手際の良さにニコラ軍曹は思わず感嘆を漏らす。 そして同時に自分の助言を何の抵抗もなく聞き入れたギーシュにもだ。 本来、中隊長を務めるべき人物は勝ち目のない戦いを前にして逃亡した。 ここにいるのは士官の教育も碌に受けていない傭兵上がりだというのに。 戦場を知り尽くしているが故に、如何にして銃撃や砲撃を防ぐかを彼は知っていた。 だが並の貴族であれば、このような場所に身を隠すなど誇りが傷付くと拒否しただろう。 (大物なのか、ただの臆病者なのか、判断がつきかねる人だな) まあ、どちらにせよ自分が生き残る確率が上がったのには変わりない。 一見すれば頭上を大艦隊に抑えられ数でも負けている絶望的な戦だ。 だが、まるっきり勝ち目がないかというとそうではない。 あれだけの艦隊を維持するには相当な補給が必要となる。 それこそタルブ、ラ・ロシェールを制圧し橋頭堡でも作らなければ賄えない。 加えて『スヴェルの月夜』を過ぎた今、時間が経つほどにアルビオンはトリステインより離れていく。 そうなれば艦隊とを繋ぐ補給線も延びざるを得ず、断ち切る事も不可能ではなくなる。 逆にこっちは奇襲に面食らって準備が整わなかっただけで、 この場を持ち堪えれば大国に相応しい陣容で相手を追い返せる。 傭兵は端金で命を捨てるような真似はしない。 勝算があればこそ戦争を仕事とする彼等は付き従うのだ。 「他に必要な物はあるかい?」 「そうですな。後は運がありゃあ完璧なんですけどね」 ギーシュの問いに彼は笑いながら答えた。 結局、勝負はやってみなければ分からない。 そんな時に一番頼りになるのはツキしかないのだ。 だけど幸運を用意できる指揮官などいる筈もないと思っていた。 「それなら問題ない」 「へ?」 「魔法の腕はドットクラス、戦場に行った事もない僕が、 何万って数のアルビオン軍に包囲されたニューカッスル城から逃げて来れたんだ。 強運でもなきゃそんな奇跡起こせるわけないだろ?」 ぽかんとニコラは口を開けたまま立ち尽くす。 冗談めかしたように言うギーシュに言葉も出ない。 こんな状況でよくそんな大法螺が吹けるものだと、むしろ感心を覚える。 彼の嘘に乗っかるつもりでニコラは返した。 「ああ、そりゃ頼もしいんですがね。 そん時に運を使い果たしちまったかもしれませんぜ?」 「……怖い事言わないでくれ。 ただでさえ戦場に立っているだけでも膝が震えてくるんだから」 そう答える上官の膝を見れば 嘘でも冗談でもなく本当に震え上がっていた。 沸き上がる疑念を振り払いながらニコラは溜息をついた。 あの戦場から帰ってくるなど有り得ない、と。 もし、そんなのがいるとしたら、そいつは始祖の生まれ変わりに違いない。 「姫殿下、お呼びに従い参上しました」 アンリエッタ姫に呼び出されたアストン伯が片膝をついて挨拶を述べる。 僅かに頬を伝う冷や汗は抗命罪を問われる恐れから来ていた。 しかしアンリエッタは冷静に現状報告を促す。 村を見捨ててまで得た情報は余す所なく彼女に伝えられた。 「敵はタルブ村を強襲、竜騎士隊によって村は焼かれ艦隊の上陸地点を作り出したようです。 村人は事前に森の中へと避難させてあった為、犠牲者はおりません。 私めは手勢三十騎を率いて姫殿下との合流した次第です」 「御苦労です。ところで邸宅の警備はどうしていましたか?」 「は? 我が屋敷ですか? フーケ騒ぎの際に衛兵の数を増やしたぐらいで他には……」 「番犬は使っていましたか?」 「え、ええ。それが何か?」 「では急ぎ屋敷に引き返して犬を数頭連れて来るのです。 事は急を要します。直ちに取り掛かってください」 アンリエッタの命を受けて出て行くアストン伯の首は傾げたままだった。 命令の意図を理解出来ぬまま彼は邸宅へと馬を走らせる。 その背中を眺めながらマザリーニは姫に訊ねるように呟く。 「上手くいきますかな」 「いってもらわねば困ります。 幸い、こちらに彼がいないのを向こうは知りません。 どんなに小さな手であろうと打っておくに越した事はありません」 密談するように話す二人の前に慌てた様子で伝令が飛び込んできた。 彼の口頭報告を聞きながらアンリエッタ達は即座に空を見上げた。 まるで蓋をするようにアルビオン艦隊がその高度を下げていく。 その行動が意味する所はただ一つ。 「各隊に連絡! 艦隊からの砲撃に備えなさい!」 トリステイン陣地に向けられた砲門が次々と火を噴く。 大気を震わせる砲声に、大地を揺るがす弾着。 巨人の合唱ともいうべき轟音がタルブ周辺に響き渡る。 さすがに本陣は風メイジ達が直撃を逸らしているが、 他の各所では凄まじい土煙と共に並みいる兵達が吹き飛ばされていく。 その光景を後方の艦で眺めるクロムウェルは呟いた。 「所詮はこの程度か。いや、我が軍が強すぎたのか」 「ならば『レキシントン』で御覧になればよかったのでは?」 護衛として隣に控えたフーケが尋ねる。 無論、意見するつもりなど毛頭ない。 彼女にしてみれば、クロムウェルのこの気まぐれは僥倖だった。 如何に強大な戦艦といえどバオーの力を知っているフーケの気は休まらない。 あの怪物と戦えと言われていたなら、とっとと妹を連れて逃げ出すつもりだった。 しかし戦場から離れた艦であれば空を飛べない奴と交戦の恐れはない。 「艦長と艦隊司令、皇帝が同じ艦に揃ったのでは指揮系統が混雑する。 それに中からでは『レキシントン』の勇姿を見れないのでな」 見下ろすのは砲撃の為に降下した入道雲の如き巨艦。 その砲声は離れて尚、彼等の耳を劈く。 陶酔するように艦隊を見下ろすクロムウェルに、フーケは溜息をついた。 (こいつには過ぎた玩具だね。軍隊も……アレも) 心中を悟られぬように彼女は仮面を被り直す。 警戒すべきシェフィールドは同席していない。 それが何を意味するのかは判らないが、 親から解放された子供みたくはしゃぐ上司に愛想を尽かしたのではとそんな事を考えてしまう。 砲声が止む。弾着の煙が地上と敵兵を覆ってしまったが為の中断。 しかし地形さえも変えてしまうのではないかという砲撃を浴びて、 有象無象のトリステイン軍に反抗する気力は残されている筈がない。 そう考えたクロムウェルは満足げな笑みを見せた。 しかし、それは響き渡る鬨の声に掻き消された。 吹き抜ける風が煙を洗い流し、その姿を現していく。 晴れ渡った地上には杖や銃を手に健在を示すトリステイン兵の姿。 数で勝るアルビオン軍さえ、その気迫の前に踏み止まっていた。 まるで効力を示さぬ砲撃に、噛み締めたクロムウェルの歯が軋みを上げる。 戦局の変化に一喜一憂するクロムウェル。 その姿に皇帝としての器があるとは到底思えない。 クロムウェルはアンリエッタをお飾りと呼んだ。 しかし、それはこの男も同様なのではないかと疑わずにはいられなかった。 「何をやっておる! 砲撃手はちゃんと敵を狙っているのか!?」 「敵の痩せ我慢だと思いたいものですな」 がなり立てるジョンストンの横でボーウッドは冷静に感想を口にした。 多少時間が掛かるとも、このまま砲撃を続ければいずれは打ち崩せる。 だが、血気に逸る総司令や皇帝はそれを望むまい。 力押しででも敵軍との短期決着を図ろうとするだろう。 その彼の予想通り、竜騎士隊や地上部隊に突撃命令が下された。 直ちに艦に搭載された竜騎士達が飛び立っていく。 その中、ワルドは命令に背いてただ黙って戦場を観察していた。 船員の一人がそんな彼を見咎めて声を荒げた。 「ワルド子爵! 出撃の命令が出ています! 従わない場合は抗命罪として処分される事も……」 「黙っていろ」 ワルドの一言に船員は凍りついた。 僅かにこちらを睨む視線はそれだけで人を殺せる。 もし僅かにでも声を出せば喉を掻き切られていただろう。 静かになった彼にワルドは淡々と告げる。 「私の隊は先程出撃して休ませている所だ。 それにあの怪物を仕留める為、皇帝直々に自由行動も許されている。 何の問題もないと総司令官にも伝えておけ」 「はっ!」 「それともう一つ。艦隊の高度を上げるように伝えろ」 怯えを隠しながら彼は敬礼して応える。 一刻も早く立ち去ろうとした彼をワルドは呼び止めた。 頼まれた総司令官への言伝に彼は恐る恐る聞き返す。 「ですが、これ以上高度を上げると風の影響で砲の命中精度が……」 「構わん。この程度の高さならば奴は飛び移ってくるぞ」 ラ・ロシェールでの光景が未だにワルドの目に焼きついている。 この戦の勝敗などワルドにはどうでもいい。 バオーを打ち倒す事だけが今の彼の全てだった。 「鬨の声を! 杖を掲げて我等の健在を示すのです!」 アンリエッタの号令に合わせて兵達が雄叫びを上げる。 その周りでは負傷した兵達が次々と後方へと運ばれていた。 砲撃による被害は甚大だった、だからこそ敵に悟られてはならない。 もし、こちらが弱っていると知られば敵は一気呵成に攻めてくるに違いない。 ならば虚勢であろうとも張り続けて敵を食い止めるべきだ。 あれだけの砲撃を浴びてもトリステイン軍の士気は衰えなかった。 象徴でもあるアンリエッタ姫に率いられている事に加え、 目の前で燃やされたタルブ村の惨状が彼等の義憤に火を点けたのだ。 「迎撃の用意を! これ以上トリステインへの侵攻を許してはなりません!」 砲撃が止み、動きを見せる敵軍にアンリエッタが指示と檄を飛ばす。 迫り来る竜騎士隊を迎撃すべくグリフォン隊と竜騎士達が飛び立っていく。 彼等を送り出した後で、ずしりと彼女の両肩に重みが圧し掛かった。 遂に戦いの火蓋は切られてしまった。 気丈に振舞おうとも彼女はまだ初陣も果たしていないのだ。 大軍を指揮する重責は彼女を押し潰そうと更に重みを増していく。 そんな彼女の手を隣に控えたルイズが握り締める。 その暖かな感触だけが今のアンリエッタにとって唯一の救いだった。 「いい報せと悪い報せが二つずつあるんですが、どれから聞きたいですか?」 「それじゃあ交互に頼む。知っての通り心臓が強い方じゃないんで」 「まず良い方から。艦隊が砲撃を止めました」 「なるほど。確かにそれは良い報せだね」 長玉で敵軍の様子を窺っていたニコラの軽口にギーシュが応える。 ヴェルダンデの掘った塹壕は砲撃の嵐に対しても効果を発揮していた。 多少、負傷者は出たがそれでも他の部隊に比べれば微々たるもの。 何とかなるかもしれないとギーシュは思い始めていた。 だが続くニコラの報告がそれを砂糖菓子みたいに打ち砕く。 「ですが、それは地上部隊を突入させる為の前準備のようです」 「それが悪い方か。じゃあ次の良い報せは?」 「敵さんの動きから次にどこを狙ってくるか判りました」 「なら援護に向かう必要があるな」 「いえ、その必要はありません。此処です」 「………え?」 「敵軍が狙っているのは此処の突破です、指揮官殿」 「はは、ははははは」 敬礼するニコラを前に、ギーシュの顔に乾いた笑みが浮かぶ。 何が良い報せと悪い報せだ、全部悪い報せだったじゃないかとギーシュは一人毒づいた。 彼の淡い期待は押し寄せる敵軍の足音によって瞬く間に消し飛ばされたのだった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5284.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ トリステインの某所。かつて開拓民が森を切り開いて作り、今は誰一人として住む者が居ない村。 その中に、廃墟と化した寺院があった。普段は明るい日差しに照らされ、牧歌的な雰囲気が漂う場所だ。だが今は、 そんな雰囲気は霞のように消し飛んでいる。なぜなら今、その場所は 「ぷぎっ、ぴぎぃ、んぎぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」逃げ惑うオーク鬼達の悲鳴と 「あはははは、ブタのような悲鳴をあげろ~!」追掛ける魔弾の射手の歓声が ゴチャマゼに入り混じった、まさに混沌と呼ぶに相応しい状況となっているから。 「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」 どこぞの撲殺天使みたいな歌を響かせながら、リップは手にしたシャベルに力を込める。寺院に辿り着く時に拾った、 先が尖った物だ。一頭のオーク鬼に追いつくと、飛び上がってシャベルを振り払う。切断され、オーク鬼は頭と胴体が オサラバした。 即座に次の標的を捉え、一気に間合いを詰める。横合いからオーク鬼の脇腹に目掛けて、シャベルの先を叩きこんだ。 数本の肋骨が折れ、オーク鬼はその場に倒れた。その直後、振り上げられたシャベルによって頭を叩き潰され、絶命した。 仲間が次々と殺されていく非常事態に、生き残った二頭のオーク鬼達はパニック状態となった。もはや縄張りに 入って来た人間を喰い殺すなどと言う考えは吹っ飛び、黒髪の女から逃れようと、森の奥へ向けて走り出す。 シャベルを地面に突き刺すと、リップは一本の木に向かって叫んだ。 「セラス、直接火砲支援!」 木の上に隠れていたセラスは、ハルコンネンを構えた。逃げるオーク鬼の二頭の内、一頭に狙いを定める。 「ヤー!」 返答の叫びと同時に、徹鋼弾を発射した。背後から腰に直撃を受け、オーク鬼は上半身と下半身が引き千切れる。 数秒ほど呻き声をあげ、絶命した。 即座に薬莢を排出し、弾薬箱から劣化ウラン弾を取り出す。薬室に装填し、残りの一頭に照準を合わせる。最初の一頭を 仕留めるまでの間に、かなりの距離が開いている。だがそんなものは、吸血鬼には大した問題では無い。 「距離500・・・600・・・・・・今!」 発射された弾丸は木や枝などを容易に貫通し、標的の心臓を撃ち抜いた。オーク鬼はうつ伏せに倒れ、生い茂った 雑草の中に血溜まりを作り即死した。 魔法の援護を受けず、リップとセラスはオーク鬼の群れを殲滅した。微塵の躊躇も、一片の後悔も無く・・・。 上空を旋回していたウィンドドラゴンが地上に着地する。背中からキュルケが降りると、驚きの顔を二人に向けた。 「凄いわね二人とも、流石は吸血鬼だわ。私達の出番が無いのは、ちょっと残念だけどね」 「全くだよ。僕のワルキューレの出番が無いのは、とても残念だ」 そう言いながら後から降りてきたギーシュは、ホッとしていた。キュルケは即座にツッコミを入れる。 「なに言ってるのよ、さっきまで怯えながらオーク鬼を見下ろしてた人がよく言うわ」 「キュルケ、出来ればその話は止めてほしいんだが・・・」 言い合いをする二人に気付かれないよう、セラスは口元を抑えて小さく笑った。リップはオーク鬼の血と脂で汚れた シャベルを、ポイッと野原に捨てた。背中に布で縛り付けていたマスケット銃を手にし、弾丸を銃口に入れた。 「えっと、あの、その・・・や、やっぱり吸血鬼って強いんですね。凄かったです、本当に・・・・・・」 キュルケの背後で震えていたシエスタが、リップを怯えた目で見ながら呟いた。リップは黙ったまま、シエスタを見返す。 セラスに背負われているデルフリンガーが、口を開く。 「そりゃそうだろ娘っ子、なんてったって黒服と相棒はハルケギニアの吸血鬼より強いんだからな」 「心臓を貫かない限り、死なない・・・」 デルフの説明に、本を読んでいたタバサが補足を加えた。セラスが歩み寄り、シエスタに頭を下げた。 「すいませんシエスタさん、本当は出会った時に言うべきだったんですけど・・・この世界じゃ、吸血鬼は恐れられる存在 だと聞いたんで」 「そんな、セラスさんが謝ること無いですよ! 立場が逆だったら、私だって正体を言ったりしなかっただろうし・・・」 シエスタは両手を左右に振りながら、ペコペコと頭を下げる。そこへリップが近づくと、軽くウィンクをした。 「これからも貴女と友好な関係を続けたいんだけど・・・よろしいかしら、シエスタさん?」 「あ、はい。これからも、宜しくお願いします!」 握手をしながら今後の交友を確かめ合うシエスタ達に、寺院の入口の階段に足を乗せたキュルケが手招きする。 「三人とも、早く来なさい。もうすぐ日が暮れるわ、さっさと宝物を確認しましょう!」 走って来る三人を見ながら、隣に立つギーシュが尋ねる。 「所で、この寺院にはどんな宝が有るんだい?」 「えっとね、『炎の黄金』で作られたと言われる首飾りが有るらしいわ。場所は、祭壇の下みたいね」 その言葉に、ギーシュは唾を飲み込む。 「これで七件目なんだ、今度こそ宝を見つけて姫殿下に・・・」 ◇ 二つの月によって照らされる、村の寺院。キュルケ達は入り口の階段に座り、燃え盛る焚き火を眺めていた。 ギーシュは薔薇の造花を指先で揺らしながら、毛布に仰向けになって溜息をつく。 「キュルケ、確認のため聞きたいんだが・・・『炎の黄金』で作られた首飾りとは、それかね?」 ギーシュが見つめる先には、キュルケの手に握られる色褪せた装飾品。それは、安物の真鍮で出来たネックレスだった。 足元に置かれたチェストと呼ばれる宝箱には、耳飾りや銅貨が入っていた。 キュルケは黙って首を縦に振ると、ネックレスをチェストに入れる。そして懐から化粧道具を出すと、爪の手入れを始めた。 その様子を、タバサは本から視線を外して見つめている。セラスとリップは、隣り合って階段に腰を下ろしていた。 「どうするんだいキュルケ、これで君の持っていた宝の地図は全て外れたよ。僕はもう、帰った方が良いと思うんだけどね。 他の皆も、廃墟や洞窟で化物や猛獣と戦ったりしたから、疲れてるだろうし・・・」 化粧道具を懐に戻しながら、キュルケは振り向く。 「そりゃそうだけど、だからと言って手振らで帰る訳にもいかないわ」 「じゃあ何かい、帰りに土産でも買っていくのかい? 銅貨が何枚かあるから、それを使えば良いけど」 「あの~、それでしたら」 二人の会話に、焚き火でシチューを作っていたシエスタが割り込んだ。お玉を使い、鍋のシチューを器に入れ皆に配る。 「私の生まれ故郷、タルブ村って言うんです。そこはワインの原産地なんですけど、宜しければ、皆さん行ってみませんか? 港町のラ・ロシェールから近いんで、ここからでも近いですし」 それを聞いたキュルケは、ポンと手を叩く。 「ワインか、良いわねそれ。学園に帰ったら一杯やりたいし、どうするギーシュ?」 「別にかまわないよ、何も無しで帰るってのもなんだしね」 「タバサは?」 「・・・問題無い」 「お二人は異論は無いかしら?」 セラスは笑顔で答える。 「良いですよ、ワインは好きですから。リップさん、良いですよね」 「良いわよ」 風に揺れる髪を優しく撫でるリップの姿に、セラスは心臓がキュンと震えた。そんな事に気付く訳も無く、キュルケは器を 持って立ち上がる。 「じゃあ決まりね、明日の朝タルブ村に出発よ! それにしても美味しいわね、このシチュー」 ◇ その頃、魔法学園ではルイズが部屋に籠って始祖の祈祷書(以後、始祖本と略する)と睨めっこしていた。 食事と入浴と睡眠、それ以外はずっと椅子に座って始祖本と睨めっこ。このルイズ、とても頑張り屋さんである。 「う~ん、なかなか良いのが思いつかないわね」 腕を組んで、素晴らしい詩を思い浮かべようとする・・・その時、ルイズに電撃が走った! 「そうだ、何かの文面を書き換えて詩っぽくしちゃえば良いんだわ! そうと決まれば図書室に直行!」 始祖本を掴んで扉を開けて、廊下を全力で疾走。階段を駆け降り、図書館へ突撃。図書委員は不在のため、勝手に入る。 すると、そこで見知った人物に遭遇した。 「オスマン校長?」 そこに居たのは学園長のオスマンだった。椅子に座って、何やら分厚い本を読んでいたようだ。ルイズに気付くと、席を 立った。 「誰かと思えば、ミス・ヴァリエールじゃったか。何か調べ物かね?」 「はい。詔の詩を考えるのに苦戦してまして、何か参考になる資料が無いかと。オスマン校長は何を?」 「君と同じじゃよ。姫様や偉いさんの前で、喋る事になっておっての。そのために、良い言葉が見つからないかと図書室に 来とる訳なんじゃ」 ルイズは関心した。普段は秘書に対するセクハラしかしないエロジジイだと思っていたが、やる時はやる人らしい。 学園長が頑張っているのだから、生徒である自分も頑張らなくてはならない。 始祖本を持たない左手を握り締めていると、オスマンに肩を叩かれた。顔を上げると、オスマンが優しい目で自分を 見つめていた。 「ミス・ヴァリエール、ちょいと肩に力が入り過ぎておるようじゃぞ。肩を回して、リラックスしなさい」 「あ、すいません。姫殿下の事を思うと、つい力んでしまって・・・」 両型を交互に回すルイズに、オスマンは笑顔を浮かべる。 「それは、お主が友達を大事にしておる良い証拠じゃ」 そう言うと、オスマンは机に置いてある本を持って図書室を出て行った。残されたルイズは、ボソリと呟く。 「頑張ろう」 始祖本を机に置き、本棚の前に移動する。フライが使えないため、上の方には手が届かない。下にある本に出来る限り目を 通し、詩に使えそうな材料を集める。 「さて、いっちょやりますか・・・あ、面白そうなの発見」 目の前にあった『ロードス島戦記』と書かれた本を、ルイズは手に取った。 シチューを食べた次の日の朝、キュルケ達はウィンドドラゴンに乗ってタルブ村に向かっていた。 シエスタの説明によると、タルブ村で生産されているワインは位の高い貴族や軍人も好んで飲んでいるらしい。 魔法学園の食事に出されるワインより値が高い一品と聞いて、キュルケのテンションは2~3倍に高まった。 「楽しみだわ、着いたら真っ先にワインを味見させてもらうわよ」 子供みたいに騒ぐキュルケに、シエスタはコッソリと笑う。前に座って地表を見下ろしているタバサが振り返った。 「見えてきた・・・」 キュルケ達は、前方に目を凝らす。その先には、整然とブドウ畑が連なる村が有った。その中の一つの家を指差して、 シエスタはタバサに尋ねる。 「あれが私の家です、近くに降りられます?」 「任せて」 タバサはウィンドドラゴンの頭を杖で軽く叩き、シエスタの家に降りるよう声をかける。了承を意味する鳴き声を一声 あげると、高度を下げ始めた。その時、シエスタが呟く。 「あれ?」 「どうかしたの?」 キュルケが問う。 「いえ、自宅の庭に見慣れない物が有ってビックリしまして・・・」 「見慣れない物?」 キュルケに習って、ギーシュやセラス、リップも庭を見る。そこには、大きな布で覆われた馬車ほどの大きさを持つ物体が 有った。 「雨除けのために、馬車を布で覆ってるんじゃないのかね?」 「恐らく違うわね、平民が使う馬車より遥かに大きいわ」 ギーシュの予想をキュルケが否定している内に、ドラゴンは地面に着地した。シエスタは一番に飛び降りると、自宅の 扉を叩く。室内からガタゴトと音がして、扉が開いた。出てきたのは、シエスタの父親であった。 「おや、シエスタじゃないか。予定より早く休みを貰えたのかい?」 「そうなの、だから長く家に居られるわ。あ、お客様を紹介するわね」 「こんばんわ。私、トリステイン魔法学園から来ましたキュルケと申しますわ」 いきなり現れたキュルケに、父親は驚いた。見ると、他にも四人の客が来ている。娘に目を向けると、シエスタは微笑んだ。 「村のワインを購入したいって、わざわざ村に来てくれたの。まだワインは残ってる?」 娘の問いを聞いて、父は急いで家に戻って行った。 布が取り去られた物体を、キュルケ達は取り囲んで見つめていた。 全体を漆黒で覆われた物体を、ギーシュやタバサは不思議そうな顔をしながら、見たり触ったりしている。そんな二人の 後ろ姿を、キュルケはコップにワインを注ぎながら眺めていた。そしてセラスは唖然とした顔で、リップは呆然とした顔で、 その物体を見ていた。シエスタが近寄り、心配そうに声をかけた。 「あの、お二人とも大丈夫ですか? これって、何か悪い物なんでしょうか?」 「・・・・・・」 「おい相棒、質問されてるぜ。どうしたんだよ、ヘンテコな物体にボ~ッとしちまって」 デルフの声に、セラスはゆっくりと顔を右に向ける。シエスタの父親に向けて、たとたどしく尋ねた。 「あの、ちょっと聞きたいんですけど・・・これ、どうしたんですか?」 キュルケとセラスの胸を交互に凝視していた父親はハッとした顔をすると、思い出すかのように説明を始めた。 「一月ほど前にですね、この物体を馬車に乗せた行商人が村を訪れまして。それで手綱を握る男に『この物体を食糧と 交換してくれないか』と言われたんです。珍しそうな物だったんで、リンゴやワインと交換して・・・そしたら後ろから 狼の耳と尻尾をもった亜人が現われて『何をしとるんじゃ、早くエーブを懲らしめに行くぞ!』と叫びながら男の首を 絞めて言い争いをしまして。それで、あっと言う間に馬車は村を去って行ったんです」 どこかで聞いたような説明に、セラスは何とも言えない気持ちになっていた。そうこうしている内に意識が戻ったのか、 リップは物体に手を触れる。凹みを掴み、横に引っ張る。ガララララ~ッと言う音と共に、扉らしき物が開いた。 中を覗き込み、鼻を抑える。 「リンゴと獣の臭いがするけど、異常は無いみたいね。まさか、異世界で『ドーファン』に再び出会うなんてね・・・」 「リップさんは、これが何か知ってるんですか!?」 シエスタに顔を向け、リップは物体の正体を明かす。 「この物体の名はAS365、フランスのユーロコプター社が開発したヘリコプター。ドーファンとは、フランス語で イルカのことよ」 「えーえす? へりこぷたー? え~と・・・」 脳内が混乱しているシエスタに、セラスが補足する。 「簡単に言えば、空を飛ぶ機械みたいなものです。所でリップさん、何故ヘリの名前を?」 両腕を左右に広げ、リップは苦笑いで答える。 「理由は簡単、これは私の物だから。ライミーの帝国海軍空母『イーグル』を乗っ取る時に用いたのが、このヘリだからよ!」 「「「「「「な、なんだって~!?」」」」」」 リップの衝撃の事実に、キュルケ達は大声で叫んだ。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4526.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《L an mil neuf cens nonante neuf sept mois 1999年7の月 Du ciel viendra un grand Roi deffraieur 空から恐怖の大王が来るだろう Resusciter le grand Roi d Angolmois. アンゴルモアの大王を蘇らせ Avant apres Mars regner par bon heur. マルスの前後に首尾よく支配するために》 (『ミシェル・ノストラダムス師の予言集(百詩篇)』第10巻72番) 始祖ブリミル降臨暦6243年、第一月であるヤラの月、トリステイン王国にて。 降臨祭が明けて二日目の深夜、首都トリスタニアのシャン・ド・マルス練兵場に、突如一万人以上もの人間が出現した。 ルイズと松下が死ぬ間際に発動させた『送還』の魔法により帰還できた、トリステインの敗残兵であった。 「……こりゃア、何が起きたんだ」「こ、ここはトリスタニアじゃないかっ?」 「本当だ! 俺たちはさっきまでアルビオンにいたはずなのに」「おーい、水を一パイくれっ」 口々に驚きの声を上げる兵士たち。首都の警備兵たちも驚愕し、彼らに質問を浴びせる。 「お前らは、アルビオンに出征していた……」 「おい、いったいどうしたんだ? 何が起こったんだ!? 武装や荷物はどうした?」 「「「……は、敗戦だ! とうとう輝かしいトリステインが滅ぶ時が来たんだ!!」」」 「敗戦!? 何がどうして!?」 「早くアルビオンで何があったのか、話してくれっ」 青褪めて騒ぎ立てる彼らを通じて、ゲルマニアの裏切りと自軍の惨敗が伝えられ、首都と宮中に激震が走る。 時を同じくして国境警備隊からは、規模は不明ながらガリア・ゲルマニア両国で兵団が集結し始めたとの急報も届く。 混乱と恐慌は、増幅された。 「……では、ガリアとゲルマニアとアルビオンと、ひょっとしたらロマリアも敵に回ったということか!?」 「ハルケギニア全土が敵では、どう考えても勝てませんぞ! この国はまるっきりお仕舞いです!」 「わしは自分の領地を守らねばなりませんので、これで失礼させていただきます! ご武運を!」 「やはり、あんな悪魔使いの異能児を用いたりするからですよ! 枢機卿!」 「女王陛下、この責任をどう負われるおつもりか!? 貴女がこの無謀な戦争を推し進めたのですからな!」 大混乱に陥る宮廷、早々と逃げ出す一部の貴族や市民。居残って国を守ろうとする人々が彼らを止め、騒乱が起こる。 朝になると市内では流言蜚語が飛び交い、早くも暴動が発生し、あちこちで火の手が上がる。 アンリエッタ女王は、亡国の危機という重圧に、震えながら耐えていた。 目を閉じて奥歯を噛み締め、気付けに強い酒を一杯あおる。そして傍らに控える『鳥の骨』に諮問した。 「……これは、どういうことでしょうか、マザリーニ」 「例のアドルフ・ヒードラー・フォン・ブラウナウ伯爵の罠ですな、おそらく。 また敗残兵がここへ帰還できたのは、知られざる『虚無の魔法』によるものと推測されます。 マツシタはゲルマニアに始末されたようですが、きっとミス・ルイズ・フランソワーズも殺されたか、捕虜にされたか。 やれやれ、我々の王国もここで潰えてしまいますかな」 枢機卿は飄々としたものだ。アウソーニャの都市国家が繰り広げてきた抗争の歴史は、このロマリア人をよく教育していた。 おお、ルイズが。唯一の親しい友人が、『虚無の担い手』が、『始祖の祈祷書』が、『水のルビー』が奪われた。 かき集めた将兵も軍需も艦隊も、ほぼ失ったわけだ。敗残兵は捕虜だったため武装解除されていた。 ……だが、王冠はまだ、ここにある。母たる太后も、枢機卿もいる。それに『風のルビー』も。 「トリステインの王家には、美貌があっても杖がない!」「「杖を振るのは枢機卿、灰色帽子の鳥の骨!!」」 「杖を受けるは太后陛下」「「あれあれ、そこはいけませぬ!!」」 「鞭を受けるは女王陛下」「「あれあれ、そこはなりませぬ!!」」 押し寄せる群集の卑猥な野次と投石が、王城とマザリーニの豪邸に向かって飛ぶ。 どうやら騒ぎを煽動している人間が複数いるらしい。これもゲルマニアの策略だろうか? だがよく見れば、彼らに混じって煽動しているのは、悪魔や妖怪どもだった。 「守銭奴坊主、要の信心ほっぽって、市民の血税いくら着服しやがった!」 「あんたの失脚は占い師たちに予言されているぞ!」「お前が鳥の骨なら、女王陛下は籠の鳥だ!」 「正しい裁判ねじまげて、あんたにゃ法律なんか無いも同じか!」 女王は蒼白な顔を上げ、再度諮問する。 「……枢機卿。我らが生き残る方策を考えて下さい。命があれば取り返しはつきます」 「よろしい、ならば降伏です。ガリアよりはゲルマニア、いえロマリアに、この国を寄進するのですな」 「少しは躊躇して欲しいですわね。テューダー王家のように玉砕はしたくありませんが、降伏は早すぎませんこと? いつぞやのようにゲルマニア皇帝に嫁入りするのも、もう御免ですわよ。……ああ、王になどなるんじゃなかったわ」 「いつの世も、そう思わぬ王はおりませぬ」 ふ、と女王は笑う。父とも頼む宰相だ、彼の呼吸はわきまえている。少しは心に余裕が生まれた。 「待機させておいたマンティコア隊を出しましたが、市民は興奮しており説得は困難です。 陛下、暴動鎮圧のため、『眠りの雲』など非殺傷魔法の使用許可を」 「許可します。いま我々が首都を捨てるわけにもいかないでしょう。 急ぎ消火活動にも勤め、力づくでも市民に平静を取り戻させて下さい」 マザリーニとて、このまま死ぬ気もないが、易々と降る気もない。 ロマリア出身でありながら、先王アンリと前宰相、そして愛する太后マリアンヌから、 国政とアンリエッタを託された身なのだ。既にこの大乱を奇貨として、中央集権制国家に再編する案すら脳中にある。 文武百官が直ちに再召集され、政府はその日のうちに、国内の全権を女王に集める『国家非常事態宣言』を発令した。 首都の貴族や騎士や有力市民をかき集め、太后までも引き出して秩序の回復に努める。 さらに全国の貴族に檄を飛ばし、総動員体制で国家防衛に当たるよう求める。逆らえば逆臣として粛清だ。 ゲルマニアもガリアもアルビオンも、トリステイン侵攻作戦がこの時期に露見するとは予測していなかったはずだ。 本格的に侵攻軍が集結するまでに、次々と手を打たねば。 「暴動を煽動している連中は、反戦派の牙城である『高等法院』の庁舎に集結しています!」 「リッシュモンはラ・ロシェールにいるし、彼が呼び寄せているわけでもないだろうが……鎮圧を続けろ!」 「デムリ財務卿には、各国諸侯への贈賄工作を……」 「既に手配してあります。こういう事は早め早めにするものですぞ、陛下」 「流石ですね。有能な臣下を持っていると助かります」 「必要なのは時間と味方です。ガリアもゲルマニアもロマリアも領邦の寄せ集めで、一枚岩ではござらん。 こんなこともあろうかと、この『鳥の骨』めは蓄財と人脈作りに精を出しておるのですよ、陛下。 一応亡命先もいくつか用意してあります。陛下と太后、それに私のね」 王家と血縁のラ・ヴァリエール公爵家は、ルイズの件で枢機卿に背く可能性もある。 艦隊と竜騎士団を擁するクルデンホルフ大公国は、ゲルマニアとも関係があるゆえ亡命先としては微妙。 やや遠いが、オクセンシェルナあたりなら旧交もあるし、敵の手も届きにくいだろうか。 ともあれ、味方は多いに越したことはない。死に物狂いでこの国を守らねばならないのだ。 「時に陛下。我らはマツシタを使ったことで、ロマリアから『異端容疑』をかけられる懸念がござる。 予定通りド・ゼッサールらを奴らの根拠地タルブとラ・ロシェールに向かわせ、滅ぼさせますか?」 「いいえ、彼らはいまや貴重な戦力です。この際味方につけなければなりません。 それにアルビオンのゲルマニア軍が我が国に降下するには、通常あの軍港を襲うしかありません。 マンティコア隊には首都の治安回復を任せ、女子銃士隊には私の護衛と伝令を担わせます」 冷静に国力を比較すれば、トリステインなど両大国の相手ではない。軍事的衝突はなるべく避けたい。 だがガリアとゲルマニアを止められるほどの権威ある存在となれば、ハルケギニアにはただ一人しかいない。 「私が教皇聖下との折衝をし、調停を願いましょう。この突然の侵略は、我が国に対する重大な誓約違反行為。 神と始祖ブリミルの名にかけて誓った同盟や条約をこうもあっさり破るなど、神聖冒涜もいいところです!」 「ロマリアは現在ゲルマニアと友好関係にありますゆえ、聖下が聞き届けられるかは微妙ですが……。 今のところ、有効な手はそれしかありませんな」 「教皇聖下……いえ、あのヒードラーが何を企んでいるかは知りませんが、 始祖ブリミルの加護を受けた四大王国は、一時的に断絶することはあっても必ず復活し、六千年以上続いてきました。 王家の存続は、神と始祖の定めた神聖なる秩序の一つ。決していいようにはされませんよ」 ふん、と女王は鼻を鳴らす。強気にならねばやっていけない。 翌日、深夜。 市内の暴動はなかなか収まらないが、女王は枢機卿の勧めで就寝することにした。気力を保たねばならない。 ……ふと、寝室の窓から冷たい風が吹き込んだ。 アンリエッタが何者かの気配を感じて室内を見回すと、部屋の隅に黒いローブを纏った人影が立っているではないか! 「だ、誰です!? いつの間に……?」 人影はごく小柄で、身の丈はせいぜい140サントほど。まるで子供のようだ。だが手には大きな杖を持っている。 侵入者はフードを脱ぐと、丁重に挨拶する。青い髪が夜風に揺れた。 「女王陛下、夜分失礼する。私はガリア王国の花壇騎士、『雪風』のタバサ」 「……貴女は確かルイズの学友でしたが、ガリアの……? 私を捕らえに来たのですか、それとも暗殺?」 「どちらでもない。陛下をお救いに参上した」 あまりに意外な話に、アンリエッタの口には言葉がない。ガリアは敵方に回ったのではなかったか? しばし間を置いてから、タバサは無表情のまま、再び口を開いた。 「……タバサとは世を忍ぶ仮の名前。私の本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。 四年ほど前、無能王ジョゼフによって暗殺された王弟、オルレアン公シャルルの一人娘」 「なんと! ……そう言えば確かに、面影がございますわ。ガリアの王族はみな青い髪ですし……。 シャルロット姫はあの時に殺されたとも聞き及んでおりましたが、貴女がそうだったなんて!」 かつてガリアとの宴でシャルロット姫と多少の挨拶を交わしたことはあるが、なかなか快活だった。 それがこのように、別人のように感情を失くしてしまうとは。 「我ら『オルレアン派』は、あなた方の味方。マザリーニ枢機卿をこちらに呼んでいただきたい」 急ぎ枢機卿が女王の寝室に呼び寄せられると、タバサ……否、シャルロットは訥々と語り出した。 自分が仇敵ジョゼフとその娘イザベラに酷使されていること、毒薬により正気を失った母親が旧オルレアン公邸にいること。 そして、そんな自分たちに同情する貴族や平民、すなわち『オルレアン派』も少なからずいることを。 「先日魔法学院がアルビオン側の夜襲を受けて休校となったので、ガリアに帰国中、この陰謀を知った。 ジョゼフは先だっての誓約を破棄し、ゲルマニアと共にこの国に兵を進めて滅ぼす算段。 けれど、その折の混乱に乗じて、我らオルレアン派は挙兵する。 すでに私の母は、部下が救出し保護している。これは大きな賭け。敗北すれば死あるのみ」 シャルロットの瞳には、復讐の黒い炎が宿っていた。 アルビオン遠征に始まったこの戦禍の連鎖は、ハルケギニア全土に拡大するかも知れない。 正直言って自分が女王になる気は薄いが、憎いジョゼフを殺すためなら、クーデターの神輿にでもなってやろう。 アンリエッタの疲れた顔には喜色が浮かぶ。これは天佑というものだ。 「そ、それは大変心強いことですわ! 貴女が即位してガリアが味方につけば、ゲルマニアもアルビオンも容易には攻め込んで来ないでしょう」 マザリーニも、オルレアン派のことは耳にしている。利用できるものは何でも利用せよ、だ。 彼女が嘘を言っている素振りはないが、その旗頭が単身やって来るとは、流石に驚いた。 「それで、詳しい手筈は? シャルロット殿下」 「サン・マロンに集結中の『両用艦隊』を内応により奪取し、国内の反ジョゼフ勢力を糾合して決起する。 混乱する首都リュティスとヴェルサルティル宮殿を、同時にオルレアン派の花壇騎士団が制圧する。 ジョゼフとイザベラは捕縛して、幽閉ないし殺害。……ただし、失敗する公算もある。 そこで旧オルレアン公領、つまりラグドリアン湖南岸地域を、本クーデターの根拠地としたい。支援を要請する」 しばし枢機卿と相談した後、女王は彼女の提案を受け入れた。 「よろしいでしょう。仮にジョゼフを討ち漏らしたとしても、広大なガリアを分断させられます。 我が国の生き残りを賭けて、全力でオルレアン派を支援いたします。ご即位の際は、私が承認いたしましょう」 シャルロットはぺこりと一礼した。 「感謝する。オルレアン派もトリステイン王国を支援し、ゲルマニアの脅威を退けることを約束する。 『両用艦隊』の上陸目的地は、ダングルテール。艦隊が海上の国境線に触れた時点で、クーデターを開始する。 ……では、私はひとまず、高等法院に潜んでいる悪魔どもを退治して来る」 シャルロットはひらりと窓から飛び出すと、風竜に乗って高等法院へとまっしぐらに飛んで行った。 ほっ、と女王は溜息をつき、まずは安堵する。しかしアニエスの件といい、ダングルテールとはなにかと縁があるようだ。 「そう言えば……百年以上前、ガリアとトリステインでこんな予言が囁かれましたね。 いつか恐ろしい大王が天から降臨し、戦乱の世に『アングルの地(ダングルテール)の大王』を蘇らせると」 「はい。また予言によれば、その名はシーレン……CHYREN、これを並び替えるとHENRYC(ヘンリ、アンリ)。 アンリ王の御子、アンリエッタ女王陛下のお名前に合致いたしますぞ」 枢機卿は、にやりと笑って女王陛下の呟きに答えた。 《Au chef du monde le grand Chyren sera, 偉大なシーレンが世界の首領になるだろう Plus oultre apres ayme, craint, redoubte 『さらに先へ』が愛され、恐れ慄かれた後に Son bruit loz les cieulx surpassera, 彼の名声と称賛は天を越え行くだろう Et du seul titre victeur fort contente. そして勝利者という唯一の称号に強く満足する》 (『ミシェル・ノストラダムス師の予言集(百詩篇)』第6巻70番) (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ