約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1145.html
『ははは、逃げずにやってきたことだけは褒めてやろう!!』 『……スピリチュアル』 『げ、げぇーーッ!!ど、ドラゴンだってぇーー!?ギーシュ、逃げろ!!』 『うわーもうだめだー』 『ギーーシューーーー!?』 『残念だったな、オメェみてえなヒョロイのに振るわれる気はねぇぜ!』 『試し切りをさせてもらうぞ』 『あっ、オメ、聞いてねぇな!って、おでれーた……おめ、人間か?』 『それが気に入ったの?そんなのよりこっちの綺麗な剣にしなさいよ』 『うっせ、娘っ子!……なあ、お前さんそんなに俺を気に入ったのか?よしわかった、俺を買え!! 使い手もこねーし飽き飽きしてたんだ、これからよろしくな兄ちゃん!!デルフって呼んでくれや!!』 『苦労して盗んだと思ったらただのボロ剣だってぇ?っち、期待はずれもいいとこだよ、何が神殺しの剣だい! もういい、あたしのゴーレムでお前ら全員ふみつ……』 『サーペント』 『ほあーーーー!?』 『きゅいきゅい!素敵なのね!!おっきぃのね!!ひゃん!寒いのね!!きゅいきゅい!!』 『……喋っちゃダメだってば』 『フハハハハ!このような狭い空間では変身もできまい!!彼女も巻き込んでしまうからな!!』 『デルフ』 『応よ!初めて名前呼んでくれたな兄ちゃん!!兄ちゃんは全く俺を使わねぇからな……』 『人の身となった竜に何が出来るというのだ!遍在に囲まれて死ぬがい……消えた!? ぐわぁああ!!い、一瞬にして斬りつけたというのか!?』 『まだだ』 『なぁッ!?のああああ!!見えん!!何故見えんのだ!?先住魔法か!?』 『テメーがノロマなだけさね。なぁ兄ちゃん』 『ふむ』 『ぎょぇあああああ!!』 『ウェールズ、傷は浅いぞ!』 『ふふ、君も声を荒げる時があるんだね。ロン……君は、ヒトは醜く、汚い生き物だと言ったね?それは真実かもしれない。 しかし私は、人はそんなに汚れていないと、そう思うのだよ』 『……ああ、そうだな』 『はは、よかった。君は不思議なやつだなぁ。君のほうがよっぽど王の器に……くっ、ごふッ! うっ、く……ああ、できることなら最後に、一目だけでも……アン、リ……愛、して――――――』 『うぇーるず、さ、ま……?』 『……行くぞ、ルイズ』 『姫様、ウェールズ皇太子は……』 『そうですか……殿方って勝手ですね。残される者の想いなど、考えていないのでしょうね』 『……ウェールズは最後、お前のことを愛していると言って、死んだ』 『そう、ですか……本当に、殿方って、かって……ひぐっ、ううッ――――』 『姫様……』 『で、これが竜の羽衣なわけね?』 『そうです!おじいちゃんはこれに乗って飛んできたんですよ』 『こんな鉄の塊りがホントに飛ぶの?』 『……多分、ですけど』 『まあ、ロンには必要ないわね。普通に飛べるし』 『はぅあ!?も、盲点でしたー!』 『共に往きましょうロン、背中を貸して。今度は嫌だなんて言わないわよね?』 『ああ、そうだな。俺はお前の使い魔だから、な』 『え?い、いいい今、何て?』 『何でもない』 『ちょ、待ちなさいよ!!』 『ディヤァアアアア!!タイラントォオオ!!』 『うひょー!すげーぜ兄ちゃん!高ぇーー!!怖ぇーー!!こらおでれーた!!』 『集中できないから黙ってなさい、唯でさえ空気薄いんだから』 『いやだってな、オレ全然使われないからいい加減寂し、ってヤメテーー!鞘に入れないで、アッ――――』 『高度を上げる、同時に仕掛けるぞ』 『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……』 『――――ダーク・パニッシュ!!!!』 『――――エクス・プロージョン!!!!』 『は、はは、ハはハハは!圧倒的じゃあないか!やはり君の力は世界を掴むことができるのだよ! ルイズゥゥゥゥ!!――――――――』 『さよなら、ワルド……』 『ウェールズ、お前は苦しんでいるのか?』 『ちょっとダーリン、まずいわよあの竜巻!!』 『こちらも同じ事をやればいい。タバサ、キュルケ、魔力を流せ。重属魔法を仕掛ける』 『ええ!?だからそれは王族じゃないと……』 『彼ならできる』 『タバサ!?……ああん、もう!!わかったわよ!!』 『兄ちゃんは魔法まで使えるのか、いやドラゴンの魔法だから先住魔法だな!すげぇ、力が集まって、うおっまぶしっ!』 『テラ・ブレイク!!』 『え?え?ふぇええええ!?』 『すごい。想像以上』 『……やりすぎじゃね?姫さん生きてんのか……?』 『この始祖の祈祷書って……』 『初代ミョズニトニルンによって作成されたものだろう。始祖の言葉を書き留めた形式なのだろうが、 書き手が都合のいいように改竄した可能性もあるな。異教に奪われし聖地を取り戻すべく努力せよ、か』 『いったい、何故?』 『ヤツの臭いがする。腐ったヒトの臭いだ。ふん、読めたぞ。第四の使い魔。 ブリミルに向こう側から召喚された生物を素材に使ったか、こちらで召喚された生物を使ったか、あるいは――――』 『何?聞こえないわ、なんて言ったの?』 『……いや、何でもない』 『では何故、私の村は焼かれたというのだ!?』 『火を放つ、という事は消し去りたい何かがあったという事だ。それが人であれ、物であれ、他の何かであれ……』 『貴様の同類のせいで村は焼かれたんだろう!!貴様と同じ化け物が潜んでいたせいでッ!!』 『ならば、お前の手の内にあるその剣で、この身を貫くがいい。 その剣は、うつろうものがうつろわぬものにせめて一噛みと、磨いた牙だ。その牙で、殺せ』 『うるさいッ!やはり貴様は化け物だ!人の気持が解らぬ化け物だ!!私に貴様を殺せと言うのか!?この私に!貴様を!! 出来るわけがないだろうが!!この化け物め!化け物め化け物め化け物め――――ッ!!』 『アニエス……』 『ううっ、うううっ……うああぁぁぁ……ッ』 『……死してなお、悲しみを創るというのか――――ユンナ』 ――――――――思えば遠くに来たものだ。 目まぐるしく過ぎ去った日々を思い返し ロンは、ゆっくりとその目を開けた。 ブレス オブ ファイア 0 ~虚無ろわざるもの~ 中編 「ここが……聖地……」 ルイズの呟きに、ロンは肯首する。 「この下に、いるのね……」 「ああ、神がな。作り物の、だが」 「ヒトが創った神様、か。それは『記すことすらはばかられる』わね。 私いろいろ考えたわ、ロン。そして解ったの。神様は神様の世界に居るべきだって。この世界の中に、神様はいらない」 「……その通りだ」 忌々しげに肉の枝を蹴飛ばしながら、ルイズは溜息をついた。 「はぁ、結局ヒトは夢を見すぎていたのかしら。長くて、儚い、神様の夢。神様に憧れる、信教っていう夢」 「ロマリアの者共を非難するつもりはないが、ヒトは何かを信じなければ生きていけないのだろう。 彼らの言葉を借りるなら、これがどんなものであれ、神は神だということだ」 「見得ぬモノこそが美しいのにね。ビダーシャルの言ったとおり私は、ううん、人間はシャイターンだわ」 どくり、と地面が脈動する。 まるで何か、巨大な心臓が鼓動するかのような、そんな振るえだった。 それに併せて、肉の枝が伸びていく。 ルイズの身は虚無によって守られているが、ハルケギニア中に広がった肉の枝に対抗できるものは……多くはないだろう。 キュルケやタバサ達を筆頭とした強力なメイジをはじめ、エルフ達もしがらみを捨て、国を越え協力し合い 主要都市や民間人を守っているが、それも時間の問題だろう。 肉の枝は滅ぼすことが出来ないのだから。 共通の敵を得たことで、人間とエルフの数千年にも及ぶ争いに終止符が打たれ、和平が結ばれるとは。 何とも皮肉なモノだ、とルイズは思った。 滅びの時は近い。 しかし、その時は来ないのだと確信していた。 何故ならば、横に佇むこの頼もしい使い魔、いや仮り使い魔の青年が全てを打ち倒すと信じていたからだ。 ただ、その場にこの身を挟む余地がないことだけが、ルイズの胸を締め付けた。 「呪いが濃すぎるせいで、ここから先は私は入れないのよね? 悔しいわ、本当に悔しい。ロンを見送ることしか出来ないなんて……」 「でぇーぃじょうぶだって!なんてったって天下無敵の名刀、デルフリンガー様が兄ちゃんにはついてんだからな!」 「もう、デルフったら。あ、そうだ!ロン、最後にしておきたいことがあるわ。 あんたちょっと屈みなさい!時間は取らせないから」 「ああ、こうか?」 「ええ、いいわよ。あ、あと目も瞑りなさい」 言われて、ロンは素直に屈み、目を閉じた。 「今度は、避けないでよね」 ルイズのしなやかな指が頬を伝うのを感じる。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 ――――――どれだけの時間が過ぎただろうか。 ロンにはそれがとても短くて、それでいて長い時間だったような気がした。 その時の中で左手の甲が熱くなったような気もしたが、口付けの衝撃に比べればどうでもいいことだった。 「……ふうっ。こっ、こここここ……」 「ニワトリか?」 「馬鹿!まったく、いい!?これで、あんたは私の使い魔になったんだから! ご主人様の言う事、聞かなくちゃいけないんだから!だから命令するわ! 絶対、必ず、帰ってきなさい!!」 「……ルイズ」 「何よ!ご主人様の命令を聞けないっていうの!?」 「ルイズ」 「ダメよ、言いなさい!帰ってくるって!」 「……」 「帰ってくるって……言いなさい、よぉ……」 ロンは縋るルイズの手を剥がし、彼女に背を向けた。 「……行ってくる」 「馬鹿ぁぁぁ……」 歩みを、進める。 ルイズは滅多なことでは泣かなかった。 最後に脳裏に焼き付けたのは、その気丈だった彼女の泣き顔だったことが 何故かロンには、ひどく残念に思えた。 聖地の地下。 歩みを、進める。 封印されし遺跡に張り巡らされた肉の枝を、神鉄の剣で斬り進んでいく。 ロンの右手には神殺しの剣が。 ロンの左手には魔法喰らいの剣が。 それぞれ握られていた。 「なあ、兄ちゃん」 「何だ、デルフ」 「今更だけどよ、兄ちゃんのことさ、相棒って呼んでもいいか?」 「好きにしろ」 「へへっ、あんがとよ!いや俺も運がよかったわ、最後にこんな最高な使い手にめぐり合えるなんてな!!」 「使い手?」 「あー、ガンダールヴっていってな、まあいいや。今となっちゃどうでもいいしな」 歩みを、進める。 道中、数多のよく解らない形をした怪異を切り伏せた。 終わりが見えない。 「身体が、軽い」 「へぇ、おでれーた!!冷血漢だとおもったらまぁ。熱い心を持ってんじゃねぇか!!」 歩みを、進める。 しかしどれほど進んでも、未だ終わりが見えない。 進むは、この先に待ち構えているものの胃袋か。 「そろそろか」 「ああ、ヤベェ気配がビンビン伝わってきてやがる」 「怖気づいたか?」 「へっ、冗談!!……っておでれーた、おいおい、軽口なんか叩いたの初めてじゃねえか?」 「……ふっ」 「ヒヒヒ、いいねぇ心強いねぇ。じゃあいっちょかましてやりますか!相棒!!」 歩みを、進める。 マガイ物の神を殺すために。 終わりの近づく肉の廊下を、竜と剣は唯々突き進んでいった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1608.html
第二十八話 『虚空の中の虚無』 機銃の唸る音とともに最後の竜騎士が墜落していく。その様子を確認したウェザーとルイズはゼロ戦をゆっくりと旋回させた。 空の上からだと、東の山の向こうから星が夜と共に空に上がってきていて、西の夕日はその明るさを徐々に隠し始めているのが見える。 「初夏で助かったな。日が長い」 暗くなるまでに決着をつけないと敵に引かれて体勢を立て直されてしまう。 ゼロ戦対策をうたれてはもはや空の脅威を排除する術はトリステインにはないだろう。 ただ蹂躙されるがままに任せるしかなくなる。 そうなる前に、 「ケリをつけるぞ!」 操縦桿を起こしスロットルを全開にして旋回から一気に直進させる。 向かう先はもちろんアルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号。 今もなお休むことなくラ・ロシェールに激しい砲撃を浴びせかけていた。そこにはトリステイン軍が――――アンリエッタがいるのだ。 一刻も早く艦隊をなんとかしなければならない状況で、しかしルイズは慌てたように異を唱えた。 「ちょっと!無理よウェザー!いくらゼロ戦が速くったって向こうは戦艦なのよ、火力は竜騎士とはワケが違うわ」 そんなことはわかっていた。戦争素人であるルイズにさえ人目で戦力の差を把握することが出来るほどに敵艦は巨大で強力だった。小回りが利くとは言え敵の砲撃をかいくぐり敵に攻撃をくわえることは至難だ。 いや、それ以前に果たしてこちらの攻撃は敵に聞くのだろうか。艦を落とすに至るほどの威力があるようにはルイズには思えなかった。 「・・・・・・できるさ。俺にはお前からもらった『コイツ』がある」 ウェザーはそう言って左手をかざす。その甲にはルーンがまるで大丈夫だとでも告げるかのように光っていた。 それを見せられるとルイズもため息を一つついて後にもたれた。 「もう・・・いいわ。信じてるから好きにしなさいよ」 「物わかりの良いご主人様で助かるよ」 ウェザーはゼロ戦を一度迂回させてから『レキシントン』号の右舷側に回り込んだ。 左舷側はラ・ロシェールに砲撃をくわえているからだ。 しかし一気に接近使用とした瞬間に右舷側が一瞬光った。 そして訝しむ間もなくゼロ戦めがけて無数の小さな鉛玉が飛んでくるのが見えた。 ウェザーは慌てて回避を行うが機体のあちこちに小さな穴が穿たれ、震えた。風防も割られ、破片が飛び散った。 「SHIT!散弾だ!」 ウェザーはゼロ戦を下降させて二撃目を逃れる。しかしこれでは近づくことは無理だ。機銃の射程には入れない。 「だ・が、近づけないなら近づけないでよぉ」 ゼロ戦が機首を持ち上げて再び上昇を始める。 「テメーを落とす方法はあるんだぜッ!」 ゼロ戦が昇る空のさらにその上、そこには一つだけ真っ黒な雲が浮かんでいた。 「『ウェザー・リポート』!すでにッ!」 一瞬の閃光。そして轟音が空に轟いた。雷は真っ直ぐに『レキシントン』の甲板の上に落雷したようだ。だが、 「チッ、浅いな・・・」 艦を落とすには至っていない。上から見ると甲板に穴は空いているがそれだけだ。 ウェザー・リポートにも正確に天候を操れる距離はある。広い範囲になればなるほど精度は落ちる。 もっとも、対人においてなら全く苦にならない射程ではあるが。 「火薬庫にでも落とせば一発だな・・・・・・正確に落とすなら接近する必要があるが・・・」 近づくには散弾をかいくぐって行かなければならない。 空気の層で弾こうにも飛んでいるこちらにまで影響がありそうだし、単純にかわしたのでは恐らく何かある。 こちらの脅威にすでに気付いていたのだからそれぐらいの備えはしていることだろう。 「となると一番段幕が薄いのは・・・真上か」 ウェザーはスロットルを開いて一気に上昇を開始した。 「そぉらッ!」 ゴーレムが最後の敵兵を押しつぶした。その土の拳を持ち上げたところにキュルケが火を放ち死体を燃やす。 そうして全ての兵を燃やしたのだ。周りには焼け焦げた跡と戦闘の傷跡が色濃く残っていた。 「何とか勝ったわね・・・」 キュルケが疲労感たっぷりにそうこぼした。 すでにウェールズ麾下のメイジはほとんどが戦闘不能か精神力切れだったために、『火』のエキスパートでもあるキュルケが割を食った形になったのだ。 とはいっても、戦える者は総動員で敵を抑えていたのだからほとんどがばてていた。 いつもは涼しい顔をしているタバサもさすがにキツかったのか額に汗をかいており、今も眼鏡の汚れをマントで拭き取っているところだ。 隊の状況を確認していたアニエスがウェールズに報告をしていると、森から一人の兵が馬を駆り向かって来るのが見えた。 そしてウェールズの目の前で馬から飛び降りて膝をつくと切り出した。 「報告します!村人は生存している者は全て保護完了しました!」 「そうか!ご苦労だった!して、班の状況はどうだ?」 ウェールズがそう尋ねるとその兵はハッと顔を上げてから悔しそうに視線をそらした。 「・・・一班は・・・村人を見つけ我々二班と合流する途中で敵と交戦し・・・・・・全滅したと・・・」 アニエスもウェールズも表情を険しくした。戦った敵は恐らく自分達が戦っていた敵と同じ生半可なことでは死なぬ体を持った者達だったのだろう。 「しかし・・・その状況でよく村人は助かったな」 「は、そこなのですが、救出した村人の話では貴族の者に救われたと・・・」 「ギーシュだわ!」 いきなりキュルケが話しに割って入ってきた。興奮したようにその兵に尋ねる。 「それで?ギーシュは無事なの?」 「え?は、はあ、精神力が切れて寝込んでいるようではありますが命に別状はないかと・・・」 キュルケはさらに詰め寄ろうとしたが、不意に足の力が抜けてしまい前にのめり込んでしまった。 このままでは地面に倒れると思われたが、その肩をウェールズに支えられて事なきを得た。 「疲れているだろう、無理は良くない」 ウェールズはそのままキュルケを起こすと隊に呼びかけた。 「全員疲れているだろうが聞いてくれ!これより我々はトリステイン本隊の援護に向かう!精神力の切れているメイジ、負傷の激しい兵は村人の元へ向かい護衛をしろ!動ける者は体勢を取れ!卑劣な手段を用いて祖国を蹂躙する者達を許すな!」 アニエスが駆け出し隊を整え始める。ウェールズはキュルケとタバサを促した。 「君たちの働きはとても大きなものだ。感謝する。しっかりと休んでくれ」 ウェールズの言葉に二人は頷き、呼び出したシルフィードの背に跨ると飛び立っていた。 それを見送っていたウェールズの元にアニエスが戻る。 「残存兵数はおよそ二百です」 「・・・・・・不安かアニエス?」 ウェールズのいきなりの言葉にアニエスは目を見張りうろたえてしまった。 確かに不安はある。たとえトリステイン軍の援護に回ったところで二千二百。いや、向こうも砲撃で被害を受けている以上はさらに少ないだろう。下手をすれば千五百を割るのではないか。もしそうならば兵数で倍の差がつくことになる。 勝ち目は薄い。風前の灯火もいいところだ。だが自分はここでは死ねない。まだ、『奴ら』に借りを返していない。 大きな、大きな借りを・・・・・・ アニエスのうろたえる様子にもウェールズは微笑んで見せた。 「策ならある。今ごろは勝ちの見え始めたアルビオン軍は立て籠もるトリステイン軍を押し潰さん勢いでラ・ロシェールに雪崩れ込んでいるだろう。そこなんだ。敵は三千で雪崩れかかっている。三千と言えば大した人数だ。 そう、ちょうどラ・ロシェールの人口の十倍、いや、普段の人数と言った方がいいかな?私もかつてあの街に降りたことがあるのだが、普段それだけの人数があの街を行き来するのは結構窮屈でね。どうしてだろうね?」 策の話ではなく街の話をしだすウェールズにアニエスは眉根をよせながら答えた。 「はあ、そもそもあそこは港町とは言え小さな街ですからね。狭い峡谷の間の山道に設けられた・・・・・・あっ!」 そこまで言ってアニエスもようやく気付いた。 「そうだ。あの街は『狭い』峡谷の間の山道に設けられている。建物があるからこそ三千がそこに存在できるのだ。 敵は確かに三千だが実際に戦う人数はもっと少ない」 「つ、つまり・・・」 「『トリステイン軍は立て籠もりながら正面と戦う』・・・・・・『我々は追いついて後方と戦う』。つまりハサミ討ちの形になるわけだ」 あの狭い山道で戦うのなら数は互角。それどころか地形になれている者の多いトリステイン側が有利だろう。しかし――― 「ですが・・・敵には空からの支援攻撃があります・・・・・・これでは」 「問題ない」 ウェールズは断言した。 「あの艦はまもなく落ちよう。いや、落とされるだろう」 ウェールズは暗くなり始めた空に浮かぶ『レキシントン』号を見た。いや、その近くにいるはずのウェザーを見た。 アルビオンで君に拾われたこの命を僕は存分に使ってみせる。空にいる友よ。もしもは無い。おそらくも無い。 必ずやってくれると信じているぞ。 「ああそうだ、エルメェス。もしまだ余力があるのなら――――」 しかし振り返ってみれば誰もいなかった。あたりを見渡してもあのローブは見あたらなかった。 ゴーレムもいつの間にか土に戻されている。だがその土の山から何かが突き出ているのを見つけ、近づいてみるとそれは土の腕だった。 その腕はウェールズが来たのを待っていたかのように、近づいた途端にぼろぼろと崩れてしまったが、その崩れた土が意思を持っているかのように地面を這って文字を作りだした。 『借りの分は返した』 簡潔にそれだけを伝えて土は風に吹かれて完全に沈黙した。 「・・・・・・利子も込みでお釣りが来るな」 ウェールズは口元を緩めてそう言った次の瞬間には気持ちを切り替えていた。そして号令と共に進み出した。 森の中でも一際背の高い木のてっぺんに近い枝に人が立っていた。 ローブを剥ぎ、顔に巻いた布を取り去れば、現れたのは見目麗しき一級の美人。 その美人は長い、青に近い緑の髪を涼しくなり始めた風になびかせて立っていた。 視線は空を見上げる。だが見ているものは雲ではない。肉眼では遠すぎてそれと確認できないものを見ていた。 だが、見えなくとも彼女にはわかっていた。この空で何が起こっているのかが。何を起こそうとしているのかが。 「死ぬんじゃないよ、ウェザー」 割れた風防から侵入する猛風が肌を打つ。だがそれでもゼロ戦は上へ上へと昇っていく。 そしてついに『レキシントン』号の真上を取り旋回をしようとしたその瞬間、目の前の雲から一騎の竜騎士が突っ込んできた。 ウェザーは瞬時に機体をロールさせてその突撃をかわす。そしてすれ違いざまに見た騎士の顔は――― 「ワルド!」 アルビオンで半死半生の憂き目にあいながらも命だけは繋いだ男。紛れもなくワルドであった。 「生きていたのか」 「久しいな、『ガンダールヴ』!そしてルイズ!まさか君まで乗っていようとは驚きだが、手間が省けた!」 ウェザーはすぐさま旋回してワルドを正面に捉えた。 「おいおい、『よそ見』をしていて良いのかガンダールヴ?」 その言葉と同時に、左右から竜騎士が現れた。慌てながらもスロットルを上げると同時に急上昇して回避。 だが休む暇もなく真上から再び竜騎士が飛来する。 操縦桿を思いっきり捻り、機首が完全に上を向いた機体を急角度で旋回させた。地面が頭の上に見える。 が、そのタイミングを見計らっていたかのように頭上―――地面の方から別の竜騎士が操縦席を狙って飛んでくる。 あわや接触かと思われたその突撃も宙返りにより、すんでの所で回避された。 ウェザーは一度その空域から離れてから旋回して再び向き直る。と、そこで後のルイズから文句が出た。 「ちょ・・・ちょっと!今のは本気で死ぬかと思ったわよ!あ、頭も打ったし・・・」 「・・・そりゃすまん。じゃあ頭が無事か確認しよう。アレを見ろ・・・」 ウェザーは前方の空を指さした。ルイズはこぶをさすりながら身を乗り出して見てみる。 「ワルドが何人に見える?」 「え・・・ご、五人・・・いるわ・・・・・・」 「おめでとう。お前の頭は正常だよクソッタレ」 ルイズの見たものは正しかった。目の前には風竜に跨り手綱を握るワルドが、五人いるのだ。 一人を先頭にして鏃型の編隊を組んでおり、それはなかなか様になっていた。 「当然か・・・五人が五人ともテメーなんだ・・・距離の感覚もばっちり揃うわなあ、そりゃあ・・・・・・」 「偏在ね・・・ホントやっかい」 「まったくだな。ところで問題だ、ルイズ。『訓練された他人二十人』と『訓練された自分五人』、より息のあった連携が取れるのはどっちでしょうか?」 「えと・・・五人?」 ちょうどその瞬間にワルド達が杖を抜きはなった。当然、同時に。 「それじゃあ実演して貰いますか!」 ゼロ戦が加速するのと風竜が加速するのは同時だった。 射程に入った瞬間にウェザーは七・七ミリ機銃と二十ミリ機関砲弾を放つが、敵はそれを易々と回避し、四散した。 しかしすぐに上で集まるとゼロ戦めがけて一斉に魔法を放つ。五つの『ウィンド・ブレイク』が機体を激しく揺らし、軋ませる。 ウェザーは急降下に移行してそれをやりすごして地表すれすれで機首を引き上げ、まるで地面を滑るかのように飛び抜けて再び上昇を始めた。 「乗り物よりも本人を狙った方が効果があるか・・・」 どのワルドが言ったかはわからないが、そう呟くとワルド達は二手に分かれた。 一方は迎え撃つように降下し、もう一方が大回りでゼロ戦の後方に回り込むつもりのようだ。 ウェザーは前方二騎に向けて機銃と機関砲を放ったが、一人のワルドが唱えた風によってそらされてしまった。 そして驚く間もなくもう一人が魔法を放つ。慌てて右に機体を倒してかわすが肝は冷えた。 が、二騎が通過して休む間もなく、今度は回り込んだ三騎が迫る。 ウェザーはゼロ戦のスロットルを全開にして一気に引き離そうとしたが、ワルドはぐんぐん距離を詰めてくる。 風竜の飛行速度は火竜とはワケが違うのだ。 「ハハハッ!どうしたガンダールヴ?もう手が届きそうだぞ!」 「っちい!」 振り切れないと判断したウェザーは操縦桿を一気に起こして機首を持ち上げた。 加速の着いたままのゼロ戦はその勢いのまま空中で弧を描く。ワルド達はその下を通過してしまい、回転を終えたゼロ戦が逆に風竜のケツに食らいつく形となった。 「そらッ!気合い入れて逃げねーとケツの穴が増えちまうぞ!」 そして機銃の掃射。突然の攻撃に対処できなワルド達は、一人は直にその身に機銃を浴び、一人は風竜の翼が打ち抜かれバランスを崩したところにさっきの一騎とぶつかりもみ合いながら落下していく。だが敵は冷静だった。 逃れた一騎を追おうとしたところに分かれた二騎が割り込むように現れてブレスを吐きかけて距離を取ったのだ。 「・・・本体だったら今ので終わってたんだがな」 その言葉が聞こえてはいないだろうが、ワルド達は口の端を歪めて笑い、杖の先から光を放って『レキシントン』号に合図を送った。そこには今まさに飛び立つ二匹の風竜の姿があった。そして風竜を横に従えると杖を構えて呪文を唱える。 現れたのは風の偏在。新たに現れた二体のワルドは飛んできた風竜にそれぞれ跨り杖を取り出した。 「さて、予備の竜はあと何匹いるのかな・・・・・・」 ウェザーはゼロ戦の残弾を確認して唇を噛んだ。 昔、小姉さまが聞かせてくれた話を思い出した。 『生き物はみんな生まれてくるときに始祖様から才能の詰まった袋をプレゼントされる』 まとめてしまえばそんな話だ。ただこの話ではその袋の口を紐で結んでいるために子供のうちはまず解けない。 それでも、成長と共にその解き方に気付いていく・・・ということなのだが、じゃあわたしの立場は? 周りはもう魔法を使えて、キュルケやタバサなんかはもうトライアングルだ。 彼女達は幼い頃にその解き方に気付いたのだろうか? それともわたしにはそもそも才能の袋がプレゼントされてないんじゃないだろうか。 そう思っていた時期がわたしにも現在進行形であるわ。 始祖ブリミル様!この世に生を受けて十六年、わたしは努力してきました!周りに馬鹿にされてもなじられても、いつか見返してやるんだと唇を噛んで耐えてきた。 魔法が使えなくともせめて公爵家ヴァリエールの名に恥じぬ貴族でいようとしました。 でも、それでもやっぱりわたしは魔法が使いたいです! わたしにはまだ解き方はおろかプレゼントさえ見つけられません。わたしは・・・・・・わたしは本当に『ゼロ』なんですか――――――――― 「ルイズ!しっかりつかまってろよ!」 ウェザーの声にルイズはハッとしたように首を起こした。どうやら意識が少し飛んでいたらしい。 慌てて体を固定して外を覗く。その時機体が大きく唸った。 空が自分の足下にある。大地が頭上に見えた。雲がすごい速さで流れていき、急に縦に向かって流れ始める。 落ち行く夕日が目の前にあるかと思いきや次の瞬間にはまだうっすらとしか見えない星が視界に飛び込んできた。 ルイズは目まぐるしく変わる視界に混乱しながらも興奮していた。 それは初めての経験にたいする好奇心や、戦場にいるのだという恐怖心から来るものであり、それらがない交ぜとなった興奮であった。 見ているだけで気持ち悪くなってきたのだから、ウェザーの『雲のスーツ』がなければ今頃意識が飛んでいただろう。 そう思ってルイズはウェザーを見た。 真剣な表情で四方に気を配り、神経をすり減らすような飛行を続けている。心なしか唇が青い気がする。ルイズは視線を落とした。 ウェザーの姿を見ると自分の小ささが浮き彫りになっていくようだった。 魔法の使えぬ自分の元に現れた摩訶不思議な男。自分にはその力が、存在が必要だから向こうは自分のお守りをしてくれているだけなのだ。完全に依存してしまっている。自分はそれが許せなかった。 自分はウェザーと対等でいたい。それはメイジと使い魔の関係でも、大人と子供の関係でもないものだった。ルイズ自身まだよくわかっていないが、ウェザーの背中に隠れるのではなく、隣に並んで歩いていきたいのだ。 ちっぽけなプライドなのかもしれない。でもルイズにはそうすることが自分にとって一番なのだという自信があった。 だが今の自分にできることは後から口を挟むことだけ・・・。あとは始祖の祈祷書を開いて祈るだけ。 「―――って、あんたは全ページ白紙じゃない・・・」 思わず本を叩き付けそうになったが、やればますます惨めになるだけなのはハッキリしていたので止めた。 「始祖様は才能どころか文字すらわたしに与えてくれないのね・・・・・・惨め」 振り上げた本を下ろして適当にページを捲っていく。と、あるところで指にはまった『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光り出した。 「え?」 機体が再び揺れるがルイズは最早気にならなかった。その一ページを開くと、古代のルーン文字が綴られている。普段の勤勉がここで役に立った。しっかりと授業を受け予習復習もかかさなかったおかげで読めるのだ。そして文字を指で追う。 『 序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世の全ての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。 神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒により為る。神が我に与えしその系統は、四の系統何れにも属せず。 我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。』 「虚無・・・虚無の系統・・・伝説の系統じゃない・・・・・・」 ページを捲る指が思わず震えた。鼓動が速くなっていくのがわかる。 『これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異郷に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。 『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。 選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン』 』 そしてその後に古代語の呪文が続いている。ルイズは始祖の祈祷書から目をそらすことなく、しかし思わず半笑いで呟いた。 「は、はは・・・ねえ、始祖ブリミル。あんたわたしの袋にとんでもない紐の結び方したわね・・・今まで解けなかったはずだわ。まさか紐解きに指輪と真っ白な本が必要だなんてわかるわけないじゃないの」 だが、理解できた。『読み手を選びし』と言うことは、読めた自分は選ばれたのだ。思い返せば、確かに自分の魔法は爆発してばかりだった。呪文も間違えてはいないのになぜか爆発する魔法。 周りは失敗だと揶揄していたが、誰かその理由を言えたことがあるだろうか。いや、なかった。 それはつまり、自分の系統が『虚無』だったからではなかろうか。 それを馬鹿げているとは思わない。自信もある。以前なら信じられなかっただろう。でも今はその考えをすんなりと受け入れられた。信じることができた。 わたしのことを『信じている』やつがいるから。 ルイズは唇をきつく結んで気を引き締めると、座席に座るウェザーの肩を掴んだ。 「ああ?なんだ!今忙しいん・・・」 「ねえウェザー、あなたにとってわたしは必要かしら?」 この非常時に何を言っているのかと文句の一つでも言ってやろうかと思いウェザーは振り向いたが、ルイズの眼を見てすぐに首を戻した。 「ねえ、ウェザー!」 その眼には強い『決意』と『覚悟』が見て取れた。ウェザーはその眼を知っている。諦めを知らず輝き続ける眼。そう、まるで徐倫のような―― 「ああ・・・必要だ。正直この状況は俺一人じゃキツイ。だから、ルイズ。お前の力が必要だッ!」 「任せなさい!」 今まで聞いたルイズの声の中でも、間違いなく一番力強い声がウェザーの耳朶を打つ。 「ゼロ戦を一番大きな艦に近づけて!」 「わかった・・・が、その前に決着をつけておかないとな!」 ゼロ戦を再び上昇させればワルドの姿が見えた。ちょうど横合いからワルド二人が飛び込んできたところで、それをかわす形で上昇を続けた。正面の三騎はそれぞれが三方に分かれて襲いかかってくる。 まずは正面の一騎に機銃を浴びせた。しかし弾けるように落下していく上を通過してから、タイミングを計っていた右の一騎に迫られてしまい、かわしきれない。後方からはさっきの二騎が詰めてきている。 ウェザーの脳裏に一瞬暗い影がよぎったが、すぐにルイズの眼を思い出してそれを振り払った。諦めることはできない。 スロットルを最小にしフラップを全開。と同時に操縦桿を左下に倒す。一騎に加速させて旋回して右をかわしたが、後方の二騎を避けきれない。 「『ウェザー・リポート』!」 その瞬間に豪風がゼロ戦を押すようにして吹き抜けていった。機体を軋ませながらもなんとか二騎を振り切り、螺旋を描いて上昇して左に進む。そこにはまだ突撃をしていないワルドが一人いた。 「何度もやり合ってるうちにわかった。五人の中で攻撃の度に一騎だけわずかにだが不自然な攻撃を繰り返しているヤツがいるってな・・・・・・偏在は捨て駒にできるがオリジナルはそうもいかないよな」 そのワルドは目を見開き、焦ったように背を向けて逃げ出した。 「逃がすかッ!」 ウェザーはその背に向かって残りの弾全てを浴びせかけた。まるで踊るように跳ねながらワルドはその身に弾丸を受け、力無く墜落していった。それと同時に他のワルド達も消えていく。どうやら当たりだったようだ。 「あとはあの艦だけだな・・・具体的にどうするのか、聞いていいか?」 「フッ飛ばすわ。爆発で」 ルイズは簡潔にそれだけ言った。だがウェザーは笑わない。ルイズにふざけているような雰囲気など欠片も有りはしないからだ。 「多分詠唱中は周りに気を配れないから・・・ウェザー、お願いね」 「・・・わかった。全力でお前を守ろう」 艦隊の真上につき、ルイズが詠唱を始めたのを見て風防を開ける。 風防を開くと猛烈な風が顔を打った。自分も『雲のスーツ』を着ようかと思ったとき、ウェザーは乗り手を失った竜が二匹しか飛んでいない事に気がついた。 五騎から一騎撃ち落とし残りは四。本体を竜ごと落としたので三だ。三匹の竜がいなければおかしい。周りにもいない。ならばどこへ? その時首筋に寒気を感じたウェザーは上を向いた。そしてウェザーの目が捉えたのは、今まさに竜から飛び降りて真上に振ってくるワルドの姿だった。 「ガンダールヴーーーッ!」 雄叫びと共にワルドが杖を突きだす。その先端には風が渦巻いていた。『エア・ニードル』がウェザーの顔面に迫っている。 咄嗟に両腕を顔の前で交差してそれを受けとめるが、両腕を串刺しにされてしまった。鋭い痛みに顔をしかめるが、ワルドからは目を離さない。 「ぐぅ・・・テメエ・・・あいつはフェイクか」 「いかにも。お前ならきっとあの偏在の不自然さに気づいてくれると思っていたよ。僕自身が命の危険に身をさらしたわけだが、だからこそ今こうしてお前を掴むことが出来たわけだ。 ふふふ・・・しかしこの竜・・・いや、竜じゃないな。とにかく、このハルケギニアの論理の産物ではないな。ということは『聖地』・・・・・・ふふふ・・・やはり、か」 そしてウェザーの後のピンクの髪に視線を移す。しかしルイズは目を瞑り低い声で詠唱を唱えているだけで、この状況を意に介してはいなかった。 「・・・生憎とうちのご主人様は集中なさっておられるんでね、客人に挨拶出来ない状態でな・・・わびに茶菓子でも出したいところなんだが」 「ククク・・・なに、かまわんさ。僕の目的はお前だ、ガンダールヴ」 ワルドは杖をグリグリと押し込みながら、空いた手で胸元をはだけさせて見せる。そこには生々しい傷跡が残り、何かを物欲しそうに蠢いて見えた。 「この傷は貴様につけられたものだ・・・・・・あの時から僕の目的は三つに増えた。『母を手に入れること』、『世界を手に入れること』、そして『貴様を殺すこと』だ!」 空けていた手を杖に乗せ、さらに力強く押し込んでくる。ウェザーも必死に耐えるが、先端は徐々に喉に近づいていく。 「どうしたガンダールヴ!これで終わりか?」 「く・・・おおおっ!」 「ハハハッ!ハハッハハハハハハハハハ!」 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ 体の中をリズムが踊った。郷愁とでも言うべきだろうか。そんな懐かしさを感じさせるリズム。呪文を詠唱するたび、言葉を紡いでいくたびにリズムは徐々に奔りだし、内側でうねり出す。 神経が研ぎ澄まされていくまさにその時、リズムを乱すノイズが一瞬だけ入ってきたが、すぐに集中を戻せた。外ではきっとまずいことが起こっているのだろう。でもわたしは何も心配しないで呪文を唱えていればいい。大丈夫。 この安心感はウェザーがいるから?きっとそうだ。外のことはあいつに任せよう。わたしはこの体の中の奔流を形にしなくちゃいけない。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 体の中で、何かが生まれ、行き先を求め回転している。そんな感覚・・・・・・誰かが言っていたそんなセリフを思い出す。自分の系統を唱えると感じるという感覚。 魔法の才能がないと言われ、ゼロと蔑まれてきた自分。何もなかったからっぽの『ゼロ』のルイズ・・・・・・ 体の中に波が生まれてうねりはどんどん大きくなっていく。 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ そしてついに波は行き先を求めて暴れ出す。まるで内側から体を食い破らんばかりの勢いだ。 それは『虚無』という伝説の威力を物語っているかのようだった。 ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル・・・・・・ 永い詠唱ののち、呪文はついに完成した。 そして目を見開く。 ウェザーはワルドと押し合っている間にも、耳だけはルイズの声に傾けていた。 この緊迫した状況でなお、その声は透き通っていた。場違いなほどに。 そしてその呪文がクライマックスに近づいてきたのもわかった。 ちらりと視線を外に向ける。真下には目標とする艦隊があるが、目の前にはワルドがいて邪魔をする。 「クハハハハハハハ!どうする、ガンダールヴ!」 「・・・・・・こうする!」 ウェザーは固定された腕を無理矢理捻り、逆に押し込んでワルドの手を掴むと、足で操縦桿を倒し、一気に下降させた。 「なんだと!自爆する気か貴様!」 「冗談ッ!」 その言葉と同時にウェザーの背後からルイズが現れ、その肩に跨った。そして杖を振り上げる。 ルイズは目を見開いた瞬間に呪文の威力を完全に理解した。このまま使えば全ての人を巻き込んでしまう。 ウェザーもアンリエッタもウェールズも、キュルケやタバサまで。あ、あとギーシュも。 選択は二つ。殺すか、殺さぬか。破壊すべきはなにか。 そんなものは決まっている。目の前に悠然と浮かぶ巨艦。戦艦『レキシントン』号。 「いっけえ―――ッ!」 ルイズは己の衝動に準じて、振り上げた杖を振り下ろした。 瞬間、世界が光で包まれた用に錯覚した。実際は小さな光球が膨れあがって戦艦を包んだだけだった。 いや、だけではなかった。その光はさらに膨らみ、艦隊を、空を包み込んだ。そいのまばゆさに誰も彼も目が眩んでしまう。 当然ワルドも例外ではなく、思わず目を瞑ってしまった。その隙をついてウェザーは腕を思いっきり振り、宙空へとワルドを放り投げた。杖が腕から抜ける際に激痛が走ったが、それが視界ゼロの状況でもワルドを振り払ったことを教えてくれる。 そして一切の音が消えた。 ラ・ロシェールに向かい駆けていたウェールズ達もその光に目を眩ませたが、晴れていく視界の中で、驚くべきものを目にした。 艦隊は炎上していたのだ。巨艦『レキシントン』号でさえ一目で戦闘続行は不可能だとわかるほどの激しい炎上。 そしてそのさらに上には雲の巨人が出来上がっていた。ウェールズは見覚えのあるそれを見て全てを悟った。 「全員聞けッ!敵は天の怒りを買った!見よ!あれほどの威容を誇っていた艦隊の様を!さあ、鬨の声を上げろ!声を張らして敵に突撃する!勝ち鬨は我らがものなるぞ!」 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』 拳を振り上げ雄叫びを上げて敵の後方に向かう。すでに敵は狼狽えていた。頼みの艦隊は崩れ落ち、背中には雄叫びを上げて迫る敵。指揮は見る間に萎えていく。恐らくはあの中に『悪魔の虹』の生き残りでもいたのだろう。 なるほど、すでに心は壊されていた。恐怖は一気に伝染する。 「やってくれたんだな・・・ウェザー!」 ウェールズは空を見上げて叫んだ。 一方でトリステイン軍も多少の狼狽はあった。いきなりの光に燃え落ちる艦隊。そして現れた雲の巨人。 アンリエッタもまた呆然とそれを見ていた。辺りは奇妙な静寂が包まれ、誰も彼もが空を見上げている。 その中で最も早く立ち直ったのがマザリーニであった。 「諸君!見よ!敵の艦隊は滅んだ!伝説のタイタンによって!」 「タイタン?あの神話の巨人だって?」 「さよう!あの空を覆い隠さんばかりの巨躯を見よ!あれはこのトリステインの大地を支えているという、伝説の巨人ですぞ!各々方!始祖の祝福我にあり!」 すると、雄叫びはまるで波のように全体に伝わり、狭い岩壁に反響して大きなうねりとなった。 「うおおおおおおおおおおおおおおおーッ!トリステイン万歳!」 しかしアンリエッタは眉をひそめてマザリーニにそっと尋ねた。 「枢機卿、タイタンとは・・・まことですか?伝説の巨人など、わたくしは聞いたことがありませんが・・・」 アンリエッタの問いにマザリーニはイタズラっぽく笑った。 「真っ赤嘘ですよ。ですが、今は誰も彼もが判断力を失っておる。目の当たりにした光景が信じられんのです。私とて同じ事ですが、しかし、現実に敵艦隊は壊滅し、自然現象では有り得ぬ雲の巨人がタイミングよく現れた。これを利用せぬ手はありますまい」 「はぁ・・・・・・」 「使えるものは何でも使う。それこそ、必要とあれば猫の手も借りる。政治と戦の基本ですぞ。覚えて置きなさい殿下。遠くない未来、あなたはそれを武器にしなければならなくなる」 アンリエッタは頷いた。今は生か死か、勝つか負けるかだ。 「敵の狼狽え様は以上と言ってもいいですな。恐慌状態に近い。なんにせよ、好機には違いありませぬ」 「はい」 「さて、行きますか。大事な彼氏も迎えに行かねばなりませんしな」 「っ!え!そ・・・それは・・・」 狼狽えるアンリエッタを見てマザリーニは豪快に笑い、アンリエッタの背を押した。 「はっはっは!姫様が幼少の頃より見守ってきたこのマザリーニの目が誤魔化せるとでも?・・・では殿下、勝ちに行きますか」 マザリーニの言葉にアンリエッタは再び強く頷くと、空を見上げた。きらりと、夕暮れの空に何かがきらめいた気がして、そこに向けて杖をかざした。だが、すぐに顔を正面に向ける。 「全軍突撃ッ!王軍ッ!我に続けッ!」 光が明けたウェザーの視界には燃え落ちる艦隊が移った。そして正面には風流の背に乗るワルドが。どうやら落下する前に風竜に拾わせたらしい。かすかな静寂の中で地上から昇る雄叫びが聞こえてくる。 「どうする?続けるか?もっとも、お前の味方は総崩れだがな」 ワルドは下を見やると、口惜しそうに歯噛みしてからウェザーに杖を向けた。 「いいだろう。今日は引いてやる。だが忘れるな!貴様を殺すのはこの僕だ!その傷を忘れるな!次に会うときが決着の時だということを心に刻め!それまでの時間をせいぜい有意義に過ごすがいい!」 ワルドはそう言い捨てて風竜を駆って飛び去っていった。ウェザーはその背を見ながら自分の喉を触る。血が指先に触れた。もう少しで完全に喉に達していただろう。今日に関しては負けを認めざるを得ない。 「・・・野郎・・・・・・」 一人ごちたウェザーだったが、頭の上で何かがうごうごしているのに気付いて、肩にルイズを乗せたままなのを思い出して下ろしてやった。ちょうどウェザーの足の間にすっぽりと収まる。 ルイズはぐったりとしてウェザーに寄りかかった。雲のスーツが体から剥がれていくのがわかったが、今はとにかく休みたかった。気怠い疲労感が体を包んでいて重い。でも気持ちは軽かった。何かをやり遂げたあとの、満足感が伴う心地良い疲労感だった。 「ねえ、ウェザー・・・」 「・・・なんだ?」 疲れたような声を聞いてウェザーは視線を上に向けた。ルイズはウェザーを見上げてウェザーは空を見上げている。 「何で・・・あの雲の巨人を・・・出したの?」 「・・・アルビオンの時に見た奴がいれば脅しになるし、ウェールズへの合図も兼ねてたからだ。・・・今度はこっちの番だ。さっきの光はなん・・・だ」 最後の方は尻窄みになってしまった。視線を下に持っていけばルイズは瞼を閉じてまどろんでいた。かすかに寝息も聞こえる。ウェザーは思わず肩を落とした。 「・・・・・・ご苦労様、ルイズ」 ウェザーは痛む腕を上げて頭を撫でてやった。くすぐったかったのか、ルイズが身じろぎをして何かを呟く。 「もう・・・からっぽじゃないよ」 東の空にはもう温かい月が顔を出して二人を見ていた。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/niconicomugen/pages/3608.html
「敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」 本名:ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 年齢:16(物語開始時) 身長:153サント スリーサイズ:B76/W53/H75 好きな食べ物:クックベリーパイ*1 嫌いな物:カエル 趣味:編み物 特技:乗馬 声優:釘宮理恵 ヤマグチノボル氏のライトノベル『ゼロの使い魔』のメインヒロイン。作中では主に「ルイズ」又は「ヴァリエール」と呼ばれる。 桃色がかったブロンドの長髪と鳶色の瞳を持つ、名門貴族ヴァリエール家の三女。 小柄で細身のため、スタイルの良い同性に対してコンプレックスがあるが、細身にも拘らず腕っ節は強く、性格もきつめ。 魔法学院の落ちこぼれ、失敗魔法で爆発を起こしてばかりの"ゼロ"とバカにされていた少女だが、 使い魔召喚の授業で、地球人の平凡な高校生・平賀才人を召喚してしまった事から壮大な冒険に巻き込まれていく。 『ゼロの使い魔』は、ライトノベルの二大勢力である一ツ橋グループ(集英社・小学館・白泉社など)と、 角川グループのいずれにも属さない(2011年に角川傘下入り)、メディアファクトリー(旧リクルート出版)の「MF文庫J」レーベルの「顔」であるばかりか、 「ライトノベル」というジャンルが定着した2000年代を代表する作品の一つでもあった。 ヤマグチ氏は全22巻完結を構想し、2012年9月の時点で最終巻までのプロットが完成している事を明かしていたが、 既に末期癌に侵されており、翌2013年4月に41歳の若さで他界。 ルイズの母カリーヌの若き日を描いた外伝『烈風の騎士姫』シリーズと共に20巻で絶筆となり、 最終2巻はヤマグチ氏が生前選任した、同じくMF文庫看板作家の一人である志瑞祐による代筆となっている。 2006年にアニメ化され、シャナ、『ハヤテのごとく』の三千院ナギと並ぶ釘宮病三大感染源 (要は「釘宮三大当たり役」とか「釘宮極付三題」と思ってお釣りは結構です)の一つと相成った。 pixivでは『とらドラ!』の逢坂大河を加えて「釘宮四姉妹」と呼ばれる事も。 同様に、釘宮三大貧乳ツンデレでもある。 ちなみに彼女が参戦したバンダイナムコゲームスのクロスオーバーゲーム『超ヒロイン戦記』では、 彼女と同様に釘宮女史が演じた『快盗天使ツインエンジェル』のホワイトエンジェル、『京騒戯画』のコト、 『緋弾のアリア』の神崎・H・アリアも参戦しており、一部では「超釘宮戦記」とも呼ばれていたりする。 また、令和の時代では『Lv2からチートだった元勇者候補のまったり異世界ライフ』において、 メインヒロインの担当が釘宮女史となったばかりか、主人公が平賀才人役の日野聡氏だったり、 『ゼロ魔』に関わった声優達やスタッフ達が再集結した事から「令和の『ゼロ魔』」「平成36年春アニメ」と称された (尤も、ヒロインが終始主人公を「旦那様」と呼ぶ程にデレデレだったり、主題歌も主人公に向けたラブソングな辺り、 「令和の『りぜるまいん』」とも呼ばれているが)。 アニメ版ゼロ魔は原作と異なるオリジナル展開を挟みつつ、2006年の1期から2011年の第4期『F』まで5年をかけて完結。 特に『F』は晩年のヤマグチノボルがシリーズ構成を担当し、原作完結前に物語の最後までが描写されるという事で、 代筆による原作最終2巻も当然素晴らしいものではあるが、此方は原作者本人の手掛けた「真の最終回」と言える内容になっている。 ちなみに、名前の長さは全角28文字。当wikiに収められているキャラクターの中では、ダントツである(2022年6月現在)。 対抗勢力としてSHIN EVIL BURNING OROCHI LOLOL LV 60 KFM(通称「名前の長いカンフーマン」)という奴もいるが、 こいつの場合、名前を日本語表記にした際どう読むかで文字数が大分変わるので……(詳しくはリンク先参照)。 + 原作設定 ハルケギニア大陸に位置するトリステイン王国屈指の名門貴族・ヴァリエール公爵家(始祖は王の庶子)に生まれ、トリステイン魔法学院に進学。 学院の進級時、使い魔召喚の儀式で地球人の平賀才人(「サイト」と読む)を召喚してしまい、彼を使い魔とする羽目になった。 「ゼロ」の二つ名は、メイジ(本作では、一般に言う「魔法使い」を(一部を除いて)こう呼ぶ)の家柄でありながら、 幼少の頃から一度も魔法を成功させた事がなく、魔法の才能が皆無であるとされた事から付けられた蔑称であり、彼女は学院でもイジメの対象であった。 ただし実技が奮わない一方、努力で追い付ける座学に関しては優秀で、一部の級友には応援もされていた。 だが魔法が使えなかったのは、現在に伝わる四系統とは異なる系統「虚無」の使い手だったせいであり、 幾つかの事件によって「水のルビー」と「始祖の祈祷書」を手にした事から、「虚無」の魔法に目覚める。 これは全ての魔法使いの祖であるブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリのみが駆使できたもので、 既に失われたとされていた伝説の属性であった。なんなんだこの主人公補正 なお「ゼロ」の二つ名は、 虚無の使い手である事をバラして担がれたくない 何だかんだで気に入った などの理由で返上せずそのままにしている。 + 四系統魔法と「虚無」についてちょっとだけ 本作の世界における魔法は、火・水・風・土の4系統に分かれており、 基本的にメイジはこのどれかの系統に属する。 ルイズは虚無である事をバラしたくない場合、火に属している事にしている。 魔法に熟達すると複数の系統を使いこなす事もできる。 また複数の系統を重ねて使う事もでき、使い手は重ねられる系統数(同系統同士を含める)に応じて、 「ドット」「ライン」「トライアングル」「スクウェア」と呼ばれる。 この四系統魔法には、自然の力を借りて事象に干渉する「先住魔法」(使い手は「行使手」と呼ばれる)には対抗できないという欠点がある。 唯一先住魔法に応戦できるのが、喪われた系統「虚無」である。 「虚無」の特徴としては、任意の場所で爆発を起こしたり、幻影や記憶の消失などの人間の五感や精神を操作できる (精神操作魔法は「水の魔法」にもあるが、「虚無」程の威力ではない)、 詠唱時間はかなり長いが、途中で詠唱を止めても、詠唱の長さに応じて効力が発動する──などがある。 「虚無」を扱うには、ブリミルが3人の息子と1人の弟子(その一人はトリステインの建国者)に与えた4つのルビーと秘宝、 そして王家の血が必要とされる。 トリステイン王家直系の家に生まれたルイズが、ブリミルからトリステイン王家に伝わった「水のルビー」と秘宝「始祖の祈祷書」を得た事で、 ルイズには「虚無の担い手」(「虚無」の使い手をこう呼ぶ)となる三条件が整ったわけである。 しかし、いずれかのルビーの指輪を付けないと始祖の祈祷書に隠された呪文が見られないという、 担い手として覚醒するための手段の回りくどさと、それを含めた虚無の伝承が正確に伝えられていない事実は、 過去に覚醒する事なく埋もれていったであろう担い手達の存在を彷彿させ、 指輪を付けないと呪文を読めないというブリミル直筆で書かれた注意書きがその隠された呪文の中にあるのは、 大昔に何者かが何らかの理由で隠蔽した可能性を匂わせるなど、 ブリミル関連はいずれもきな臭い物を感じさせる。 ルイズが召還した使い魔である才人も、ブリミルが使役したという伝説の4体の使い魔の一つ「ガンダールヴ」の転生体である。 ガンダールヴは主人を守る神の盾という存在で、サイトは初代ガンダールヴに倣って右手に持つ剣と左手に持つ槍を駆使し、 あらゆる武器の使用方法を瞬時に理解し、心を震わせる事で強くなる能力を持っている。 尚、この「武器」というものに含まれる範疇は非常に広く、剣や槍、ロケットランチャーはおろか零戦まで手足のように動かしている。 それでも位の高いメイジ相手では苦戦させられる事が多く、 魔法を吸収する特殊能力を持つ人格のある魔剣「デルフリンガー」の助けがなければメイジとは互角に立ち会えない。 しかし七万のメイジ軍団を相手にするという無謀な作戦をデルフリンガー+ルーンの身体強化があるとはいえ、 たった一人で成功させた*2(おかげで生死を彷徨ったが)辺りガンダールヴに選ばれたのは伊達ではないようだ。 ルイズの虚無は、同じ「虚無の担い手」であるロマリア教皇聖エイジス32世(世俗名はヴィットーリオ・セレヴァレ)によると攻撃を司るもので、 第17巻時点で使える魔法は「爆発(エクスプロージョン)」「解除(ディスペル)」「幻影(イリュージョン)」「瞬間移動(テレポート)」。 強力な破壊力と威力を持つ一方、初歩の魔法でさえすぐに精神力*3が尽きるほど消耗が激しい。 虚無に目覚めた後は、簡単なコモンマジックは使えるようになっている。 + 性格 可愛らしい外見とは裏腹に、気位とプライドが非常に高い上、短気で癇癪持ちで気難し屋という厄介極まりない性格。 尤も、この辺りは長姉や母親譲りの面および周囲からの圧力の影響も多々あるので、こればかりは彼女だけの責任ではないのだが。 また、泣き虫という子供っぽい一面も見せる。 更に世間知らずなため、王女から調査任務の経費として預かった大金をどーしよーも無い理由で浪費してしまったり、 その王女と才人の逢い引き*4の場面を偶然見たショックで名門貴族の三女という立場を忘れ、学院から失踪してしまった事もある。 優秀で強気な長姉、病弱だが心優しい次姉という出来の良い姉達の存在*5や、 魔法を使えないなどの理由から両親から全く期待されていなかったと思い込み、強いコンプレックスを抱いていた (実の所、母カリーヌや長姉エレオノールはスパルタではあったもののルイズの教育に熱心だったし、 次姉カトレアはルイズの事を優しく見守っていたのだが……)。 故に、他人に認められたいと思うあまり、そして貴族の誇り以外に縋れる物が無かったため、物語開始当初は無茶をする事が多かった。 攻撃手段も無いのにたった一人でゴーレムに喧嘩を売った(ページ初めの台詞はその際発したもの)のを皮切りに、 第6巻では家族の反対を押し切ってアルビオン討伐の遠征軍に参加もしている。 しかし、その後は無茶をするのも貴族としてのプライドよりも仲間のためを理由にするようになりつつある。 結果的に才人を召喚できた=自分も魔法を使えたという部分が彼女の精神面にもたらした影響は絶大であり、 単純な戦闘力という意味を抜きにしても、才人がいなければ無茶な事をやって死ぬか、それより酷い結末になった事は想像に難くない。 (盗賊フーケ討伐はまだしも、平民による反乱が起きている紛争地に年若い貴族の少女が一人で乗り込めば……) また魔法が使えない一方で必死に努力を積み重ねてきた頑張り屋で、貴族の誇りや、内に秘めた優しさ自体は本物。 キュルケがルイズをかまっていたのも(ルイズにとってはからかわれているようにしか感じなかったが)そうした部分を認めていたため。 使い魔を手にし、さらに虚無だけでなくコモンとはいえ通常の魔法も扱えるようになり、精神的に落ち着いて、やっと本来の自分を表に出せた。 才人との出会いはルイズにとって、あらゆる意味において運命的、そして幸いなものであったのだ。 + ルイズの貧乳とシエスタの巨乳 実はルイズの数値だと小柄で細身のせいかCカップ相当になる。そのため貧乳と呼ぶのはかなり苦しい。 まだフォクシーやゼニアみたいに身長170以上ならばCカップでも貧乳と呼べなくもないものの、彼女の場合身長155以下だからねえ……。 ついでに言うと巨乳と呼ばれるシエスタ(身長162cm 83/60/85)もルイズと同じくCカップ相当。 こっちもこっちで巨乳と呼ぶのは苦しい(決して貧乳ではないが、並レベル)。 しかも彼女は身長160以上。まだ椎名繭やみちるのように身長150未満ならば巨乳というのも分からなくはないが…。 しかしハルケギニアの基準では彼女らは貧乳ないし巨乳であるのかも知れないので、真実は原作者の頭の中である。 カップの計算法とか分かってなくてテキトーに3サイズ設定しただけとか言わない。 それ以前に、バストがヒップを上回っている女性が貧乳だとしたらボディービルダー体型としか考えられないのだが 一応、ここで扱われているカップの計算式は理想体型を基準にしているので、 ルイズは腰が細いだけで、アンダーバストの方は66もあるからAカップしか無いとか、 シエスタは寸胴なのでアンダーバストが63しかなくてEカップ、とか言うなら分からなくもない。 ってウエストが7cmも大きいシエスタの方がアンダー細いのかよ!? (以上、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より、一部加筆、改訂) MUGENにおけるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール Rel氏によって製作された比那名居天子その他のドット改変のルイズと、 遠野秋葉のドット改変のルイズ、そしてドラゴンに騎乗したルイズドラゴンが存在していた。 残念ながら、現在はサイト削除によりいずれも入手不可である。 + 天子他改変版 天子他改変版 流石絶壁。しかし天人のように頑丈ではなく、 デフォルトのATKやDEFが魔法使いらしく低く設定されており、双方ともに'60'である。が、ゲージは'18'まである。 ボイスにはルイズ本人の他に、中の人繋がりでシャナ、リムルル、 テイルズオブシンフォニアラタトスクの騎士(以下TOSR)のマルタのものが一部に使われている。 原作では魔法はまだ自由自在というわけではないが、このルイズは魔法による戦闘能力が低いという事はないので安心していい……のか? 一応メイジである事を意識されたキャラでもあり、魔法を用いた技には魔法属性と呼ばれる独自の属性を備えている。 この属性のせいで某英雄殺しを苦手としている(英雄殺し側の設定で変更可)。 ダッシュやバックステップまで術扱い……。 ぶっちゃけこれがやりたかっただけなんじゃないのかとも思われる 余談だが、ルイズのほとんど全ての飛び道具が簡単に打ち消されるProjectile処理ではなく、 飛び道具ヘルパーの処理が近年の神キャラに多い「準ステート固定」の処理をしている事で、 上条当麻の「幻想殺し」(飛び道具無効化)を無効化してしまうために、 魔法属性を持っている事も踏まえて個別に「幻想殺し」によって飛び道具が消えるように対応したキャラでもある。 超必殺技のカットイン演出やダッシュによるグレイズ、 ハイジャンプによる射撃モーションの隙キャンセルなど、一部の点で東方のシステムに準じている。 一部の技の通常ヒット/カウンターヒットで自動ブーストが行えるという、若干世紀末じみた仕様もある。 飛翔や霊力ゲージのようなものは搭載されていないが、被グレイズが搭載されているため、 グレイズ持ちでないキャラの多くもステート番号100~119番におけるダッシュ及びバックステップ(空中含む)で回避できる。 また、オプションファイルを弄る事で、特定キャラの特定の行動でグレイズをさせる事も可能。 + 主な魔法と説明 搭載している原作の魔法には 爆発を起こす「エクスプロージョン」 相手の魔法効果(MUGEN内では射撃判定の技)を打ち消す「ディスペル」 一定方向に高速移動する「加速」 無敵状態でランダムにワープする「テレポート」 数秒間完全無敵になる「イリュージョン」 ド忘れして超必殺技のゲージ使用量が半分になる「忘却」 等が技としてある。 + 「エクスプロージョン」系の技解説 動作の至る部分で爆発を起こす形で「エクスプロージョン」を使う。 スタンプ 下段グレイブシュート。踏んだ足元から爆発を起こす。 リトルフラワー 相手の首根っこを掴んだ後、四方向のいずれかのコマンドを入力する事でそれぞれ異なる技に変化する。 リトル・エクスプロージョン 前方に向けて爆発を起こす。更新でチャージ可能な技となった。最大溜めでディフューシブ・エクスプロージョンになる。 ミジンガクレエクスプロージョン 当て身技。攻撃を受けると吹っ飛ばされ、爆発が起きた場所から登場する。 カウントダウン/リリース 相手を後方へ受け流す投げ(カウントダウン)の後、 再度同じコマンドを入力する事で隙はかなり大きいが、ガード不可の爆発を起こす(リリース)。本人的には別に予め触る必要は無いらしい リターンイナニメトネス 空中ガード不可の青色の縦型爆発を起こす。入力から発生直後まで無敵。 ラスト・ブラスト マントで空中の相手を包みこみ、マントごと爆発させる。 エクスプロージョン 全画面の即死級ダメージの大爆発を起こす。アーマー状態中に5割削れば発生を止められる。 マダンテ 一撃必殺技。暴走した魔力が大爆発を起こす! メガンテ 一撃必殺技。前方宙返りして相手の頭を掴み、自分の生命力と引き換えに大爆発を起こす。 エクスプロージョン 一撃必殺技。超必殺技のものと同名であるが、こちらは途中まで物理攻撃である。 + その他の技解説 ディスペル 対射撃ヘルパーアーマーと対射撃当身を全画面に出して飛び道具だけを打ち消す技である。 発動と同時に近くの相手を吹っ飛ばし(ダメージはない)、入力から本体に射撃無敵が付く。 テレポート 前後硬直の無い無敵ワープ。 但し、ワープ後に何もしなければずっと無敵などという事はない。 加速 ナギッに類似しているが、移動できる方向は前方、後方、真上(空中では真下)の3方向のみである。 全ての技でキャンセルできるが、この技でキャンセルする事はできない。 ペンタ・ブラスト 鞭による乱舞。当てた所から爆発が起きる。 ファイヤーボール 大きな火の球を相手に向けて飛ばす。飛ばす瞬間のみホーミングする。たまにばくだんいわをブン投げる事も…。 アンコンシャスシャドウキラー 長い技名であるが和訳は無想陰殺。こちらはスーパーアーマーではなく全身無敵が付く。 ディバインセイバー 風系統の魔法まで覚えたのか、相手の位置に雷を起こして攻撃する。 ロイヤルブレイド 発動すると「ブレイド」の魔法で刃状にした鞭で相手を9回斬り刻む。斬るモーションによって上中下段に分かれるので注意。 ワールド・ドア 異世界への扉を開いて相手を引きずりこみ、大ダメージを与える。 イリュージョン・インビンシブル 一定時間完全無敵になる。発生は遅め。ディスペルを使うとキャンセルされる。 ヴォイド・ウォール 入力無敵のバリアを展開する。 ゼロのルイズ Lv1で技の発生が早くなり硬直が短くなる。画面端でのヒットバックもゼロになる。 Lv2ではコンボ補正が掛からなくなるが、発動前時点での補正のままになり、コンボが途切れても元に戻る事もない。 Lv3でコンボ中の補正がリセットされ、常に補正が掛からないままになる。 ディスペルを使うとキャンセルされる。 ヴォイド・フェニックス 後方倒立回転で相手を蹴り上げ、自分も跳び上がって虚無の魔力と共に羽ばたく。貴族に逃走は無いのだ! ビッグ・バン ビッグボディ。このバン(bun)は英語で「饅頭」の意味。つまり…。 トゥーレイトドリーム 試合中に突然寝始めたルイズを起こすと…? 通常技には拳やジェノサイドカッターやバニシングストライクを始めとして、 鞭を用いた攻撃や、自身を「硬化」の魔法で硬くして踏み潰す空中打撃投げの「ストーン」といった技もある。 超必と一撃を除くコマンド投げと当身の発生は0F。 どうやら「腕っ節は強い」という部分を異常に拡大解釈されたらしい。 アニメで人間一人を座ったままの姿勢で持ち上げて後ろにぶん投げてるから仕方ないね その他にも、 ネガティブな心の震えによって虚無の担い手の精神力が増大するという設定から、喰らいモーション中やガード中に苛々してるのかゲージが溜まる。 フライングをされると即死の当身投げ(オメガトムハンクスキラー付き)をしてくる。 など、本人の性格や虚無の性質を活かした(?)仕様がある。 + 使い魔どうしたよ? ストライカーに使い魔の才人(天野美汐のドット改変)を専用のゲージを消費して呼び出す事ができる。 才人はロケットランチャーと大剣のデルフリンガー、そして槍による攻撃を持つ。 ロケットランチャーによる攻撃はほぼ全画面判定ガード不可の味方殺し技なので注意が必要であるが、 攻撃の際に才人が「伏せてろ!」と叫ぶ通りしゃがみ状態の相手には判定が無いので、ルイズ含む敵味方共にしゃがめば当たらない。 デルフリンガーによる攻撃では相手の真上からの落下攻撃、槍による攻撃では猛ダッシュで近付いてガー不連続突きを浴びせる。 これらはどちらも味方殺しではない。 技の種類が豊富でゲージ技の火力も高く、それなりに攻撃性能や画面制圧力に長けており、 無敵切り返しもある事からシングルでもタッグでもかなり強い。 2010年12月12日更新以前のVer. しかし、防御面に関してはDEFがかなり低い上に、 サイクバーストのような喰らい抜けや根性値などの仰け反ってしまった後も発動できるような特殊性能は無く、 相手に1、2チャンス与えてしまうとあっさり死ぬ事もある。 2010年12月12日更新以前のVer. AIもデフォルトで付属されており、戦闘スタイルに応じたLv1~4がある。 まだβ版であるとの事なので、今後も技の増加やAIの強化が期待できるはずだったが…… 「ご期待に応えられるような良いものを作れる自信を持てなくなった」という理由により、 2012年1月29日を以って公開停止となった。なお、配布済みの動画使用制限は無いとの事。 + 上位カラー 3P~12Pカラーで性能が変わり、5Pカラー以降は共通して「加速」による相互キャンセル可能技が増え、使い魔を呼び放題になる。 7Pカラーでは超必がランダムで勝手に発動する。8Pカラーでは(相手が)ページ最下記のコピペを聴かされながら全画面弾幕に挑む事になる。 9Pカラーはブロッキングが使用可能になり(いつでも発動可能、投げもブロッキングorスカる)、10Pカラーは与えるダメージが時々10倍になる。 11Pはハイパーアーマー、本体準ステート固定、被ダメージ1固定、常時ゲージ最大、飛び道具と使い魔の攻撃属性が打撃・投げ・射撃の混合属性になる。 また、超即死オメガトムハンクスキラーが搭載され、神キャラ相当の性能になる。 12Pはハイパーアーマー、本体準ステート固定、18以下180以上のダメージ無効、ライフ自動回復、ゲージ自動増加。 11Pの即死攻撃に加えて混線型の超即死オメガトムハンクスキラー、即死返し、アーマー貫通砲等も付加される。 なお、12Pの性能は2010/03/02の更新を以て大きく変更されており、それ以前の性能はATK15倍、DEF15倍、ハイパーアーマー、射撃無効である (最新版は射撃属性無効化を持ってないので注意)。 + ゼロ、無事だったんだな! ウザクの特殊イントロではゼロと呼ばれ、キレてゲジマユ化する。 但し、ウザク側に柊竹梅氏のボイスパッチが必要で、使わないと「何も言ってないのにルイズが勝手にキレた」という自体になる。 最新版のボイスパッチでは特殊イントロが廃止されてるため、ボイスパッチを使っても上記のようになる。 気になる人はルイズの特殊イントロからウザクの記名を消そう。 制限はかかってないが、動画で使う際はそれぞれの製作者に許可を取るように。 ちなみに、ウザク(スザク)役の櫻井孝宏氏は『ゼロの使い魔』にギーシュ・ド・グラモン役で出演しているのだが、 上記の「ゼロ、無事だったんだな!」という台詞はギーシュではなくエックスのもの。恐らく中の人繋がりだけでなく別作品のゼロ繋がりのネタだろう。 ギーシュどころかスザクの音源すら使われておらず、柊竹梅氏曰く「コレがやりたかっただけ」との事。 他にもちょび髭に対応。 + 秋葉改変版 秋葉改変版 こちらは最大ゲージ数は天子改変のものと同じで18だが、ATKは100でDEFは90とやや普通のキャラの範疇に収まっている。 通常技が全て詠唱を省略した爆発魔法になっており、必殺技と超必殺技には鞭を使った技も有る。 ダッシュは前後とも一定距離を移動する入力無敵のテレポートだが、地上でしか使えない。 通常技弱攻撃と逆波動コマンドの「鞭で地面を払う(弱)」の地上ヒット、通常技中攻撃の地上通常ヒット以外は全て確定ダウン攻撃。 通常技中攻撃はカウンターヒットで地上空中ヒット問わず確定ダウンになる。 キャンセルは通常技ヒットによるハイジャンプ(足元に空ガ不可の飛び道具判定を伴う)及びダッシュと、 超必殺技による空キャンセルだけで、高火力コンボは立ち強攻撃始動、空投げループ、超必殺技による空キャンセル前提になる。 爆発による通常技はリーチと判定の強さに長けている(空中通常技は全て後ろに後退しながらの攻撃)。 必殺技には三角波を描きながら画面端まで届く多段飛び道具があるが、発生はそれほど早くないので、 通常技による中距離からの攻めが中心なキャラとなっている。 某英雄殺しを苦手としているのは変わらず。 ガードクラッシュゲージを持っており、ガードさせ続けると相手をガードクラッシュさせる事ができる。 また削りダメージを無視しつつ相手を押し出す事が可能なアドバンシングガードも持っている。 攻性防禦のようにガード時以外で使う事も可能で、その場合は投げ以外のガード不能攻撃も無傷で防ぎつつ押し出せる。 + 上位カラー 一部カラーで性能が変わり、5Pカラーでは一部の地上通常攻撃で後退する上にダメージ値、 ガードクラッシュ削り値、ゲージ獲得率が半減し、6Pカラーでは倍増する。 12Pはオートサーキットスパーク(地上のみ)、才人出現時完全無敵など、防御面で強化される。 7種類の行動ルーチンを設定可能な簡易AIがデフォルトで搭載されている。 + ルイズドラゴン ルイズドラゴン ドラゴンに乗って常時ハイパーアーマーなので、のりものに分類されると思われる。 下位カラーなら全身に食らい判定があるが、上位カラーだと食らい判定が竜上のルイズにしかない。 + ルイズドラゴンとは 英国労働党のあるウェールズ選出議員の「イギリスの国旗(イングランドの「白地に赤十字」、スコットランドの「青地に白の斜め十字」、 アイルランドの「白地に赤の斜め十字」を重ねた「ユニオンジャック」)にウェールズの「白と緑の水平ストライプに赤い竜」も取り入れるべき」 という発言を受け、 イギリスの有名新聞「デイリー・テレグラフ」が新しい国旗のデザインを募集した事がきっかけ。 しかし応募されたデザインの大半が日本の2ちゃんねらーが製作したアニメを元にしたネタ画像であり、 これを受けた同紙の記事では2ちゃんねるの熱狂ぶりを若干失笑気味に書いている。 この投票で2位に輝いたのが、ルイズがイギリスの国旗を手にしてウェールズの赤い竜に乗ったデザインである。 ちなみに1位はグレン団の旗で、しかもノルウェー人によるデザインらしい。 余談だが、「ユニオンジャックにウェールズの象徴を」という案はこれまで何度も提案されているが、議論は盛り上がってないという。 「ユニオンジャックの交差部にウェールズの赤い竜を据える」という案も出ていたが…。 通常技はドラゴンの体当たりやブレス、必殺技ではルイズも爆発魔法で攻撃する。 3種の超必殺技の使用ゲージ量はそれぞれ3、5、10と大味。 AIもデフォルトで付属されており、低Lvだと攻撃を行わず、Lvを上げるごとに必殺技、超必殺技を使うようになる。 出場大会 + 一覧 + ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール シングル ラノベシングルトーナメント オールスターゲージ増々トーナメント 強以上上限無しトーナメント【強~神クラス】 狂キャラシングルミニ大会 準オニワルド級総当りトーナメント ルナティック11P基準大会 神未満シングルランセレトーナメント 弾幕グランプリ次代の鳥杯 MUGEN祭 大盛りシングルトーナメント 戦闘力(おっぱい)80以下大会 地獄門リーグ 極・地獄門リーグ レアアクマ被害者の会 第三回大会 狂乱の宴【狂下位前後トーナメント】 狂下位以上狂中位付近ランセレバトルおまけ大会 ランセレクレイジーバトル ビーム撃てれば魔法使い マジカル☆ランセレバトル 凶上位付近シングルバトル 恋恋こいし4P前後シングルランセレ大会 ピカ様主催!凶チュウ位シングルランセレバトル 第一回 中の人武闘大会 テレポーター小規模グループトーナメント タッグ ラノベっぽい何かでタッグトーナメント ふたたびのりものたいかい 春の狂キャラタッグ大会 ルナティック11P基準大会 大会であまり見ない男達と男女タッグ大会´PLUS 戦いごとにルールが変わる!!高性能タッグ大会 ゲージ増々タッグトーナメント 曲者揃いのランセレタッグバトロワ大会【強~狂級】 第4回遊撃祭 昨日の地獄は今日の相棒!? 巡り会う運命よ再び!高性能タッグ大会【ステラ杯2】 9条流!全部全画面攻撃ランセレタッグトーナメント! 神ベガの逆襲!!狂キャラランダムタッグトーナメント 超お神杯凶上位前後タッグバトル 凶者繚乱タッグバトル 大お神杯凶上位付近タッグバトル 友情の属性タッグサバイバル チーム 無茶?無謀?第5弾 『成長+大貧民』 続☆続【たぶんSMH未満】凶&狂キャラトーナメント 種族別3VS3チームバトル【ポンコツ杯】 微妙?半凶不狂 4V4 小組對戰大會 100名以上参加れもん杯大!運動会プレメモ 男子禁制!女子会ランセレ! ベル主催!栄光のぽっこーん3VS3チームバトル【ポンコツ杯2】(おまけ、秋葉改変版) その他 神々への挑戦トーナメントIII 戦いごとにルールが変わる!!高性能タッグ大会 大乱闘!強以上際限無しトーナメント【強~神クラス】 冬の狂祭り!最狂キャラ決定戦 狂下位前後 格ゲー界頂上決定戦 論外未満 第四弾 希望vs絶望 無理ゲー!!挑戦大会 マシロ ミスト軍vs深淵蛟&CC蛟軍 MB紫Lunatic前後スキマ杯【狂】 第2次:ポイント強奪サバイバル! 手書きキャラonlyトーナメント ニコニコRPGMUGEN杯 ランダムカラー シングル&タッグ戦 狂乱の宴【狂以下タッグサバイバル】 メジャー&マイナーごちゃまぜ狂キャラ大会 打倒剣帝!無差別級大会 超真剣!神剣勢only杯 目指せ最強!強キャラベストタッグ決定戦 史上最大級 MUGEN界 男性連合軍VS女性連合軍 金ラオウ前後狂中位級ランセレバトル 第3回 凶vsオワタ式狂 チームランセレマッチ 凶の宴 ザ・ファイナルステージ 凶上位ランセレバトル! 真・最終章 MUGEN界 男性連合軍VS女性連合軍2 単騎無双VS数の暴力 FINAL WARS 北斗四兄弟前後!!世紀末!!最狂チームトーナメント 金ラオウ前後狂中位級ランセレバトルFINAL EDITION 純粋に人を信じてみたワンチャンきぼぜつ 更新停止中 【最強から】主人公番付バトル【最弱まで】 声優別タッグチームランセレバトルロワイヤル ロイヤルランブル大会 狂下位前後ランセレバトロワ大会 大乱戦!!強以上極限0トーナメント【強~神クラス】 強~凶最上位付近「男VS女」対抗バトル! 凍結 【たぶんSMH未満】凶&狂キャラトーナメント Final 裏【たぶんSMH未満】凶&狂キャラトーナメント Final ヒャッハー凶だぁー ランセレニューイヤーサバイバル 削除済み 地上最強トーナメント 超弩級作品別Big Bangトーナメント 僕と君は同い年なかよしタッグトーナメント Re 超弩級作品別Big Bangトーナメント MCSもかわいいけどイブリースもかわいい杯 神々のお遊び【神弱王決定戦】 よく分かる準神大会 幻想郷キャラコンセプトトーナメント 良キャラ・珍キャラ集めて趣味全開大会2nd ヴァーンさん下限、魔法少女たちのランセレ大会 非表示 クソゲーと無理ゲーが激突するシングルトーナメント + ルイズドラゴン 【ルイズドラゴン】 お前ら魔界でやれチームトーナメント MUGENモーターショー name四大勢力対抗狂上位~最上位大会 更新停止中 大乱戦!!強以上極限0トーナメント【強~神クラス】 出演ストーリー 七夜の世界(才人もいる) お勧めコンボ + コンボ(天子改変ルイズ) バリバリのコンボキャラなので色んな技から色んなコンボに繋げられる。以下はレシピ例。 レシピ 備考 (5A 6A 4B ) 5Bor623Bch 自動ブースト 5C (5A 6C 4A 4B) * n J6A 214B 4X 5B 自動ブースト 5C 4A バニコン 236B 4 623A 6X 3A 3B J214A (5C 6C 4C) * n 236C 236B 8 2B 3A 3B J214A 鞭運送コン 6Bor2A HJ 5B JA J236C ( 214A) エリアルコンボ 5B 236236B 623A * n 3ゲージ炎球ループコンボ 5B 自動ブースト 236236B 6B 44 623A * n + コンボ(秋葉改変ルイズ) 基本的に浮かす技だらけなので、空投げを絡めた空中コンボがメインとなる。 レシピ 備考 (地上投げ) 5A 5B 5C 2A 2B 2C (HJ 空投げ 5A) * n 空投げループ (5B 2B) or 2A 214C 6Dh or 6 HJ 空投げ 空投げ〆 5B 5C HJ JA or JB or JC 空中通常〆 236C 623C 41236AorBorC 81643AorBorC 投げ硬直空キャン JA JB JC 41236AorBorC 空中始動の瀕死3ゲージコンボ *1 直訳すると「ベリーをパイに調理しろ」、とどのつまり架空の料理である。 ただしラジオ番組『ゼロの使い魔 on the radio』の特別企画で作られた事がある。 実在する料理でも「 (チョコが融けて汚れるから)雷のように素早く食え 」「 私を引っ張り揚げて(意訳では「元気付けて」) 」なんて名前のデザートはある。 日本にも 鞘ケーキ なんてものがあるからなに、気にすることはない。旨けりゃあこまけぇこたぁいいんだよ! *2 しかしルイズはこれを「牧場で牛止めるようなもんでしょ」とあしらい、 才人がシュヴァリエの称号を授与された際も「虫がトカゲになったようなもの」と才人の業績を頑なに認めようとしない。 トリステイン王直系の貴族としてのプライドや好意の裏返し、詰まる所ツンデレだかららしいのだが、 才人がその言葉の裏を読める程大人な人間ではないのでツンデレ通り越して暴言になってないかという不満の声も少なくない。 *3 虚無の担い手の精神力はネガティブな心の震え(怒り悲しみ憎しみ等)で大幅に回復される。 女に弱い才人とそれに嫉妬するルイズの組み合わせは虚無の担い手の視点で見れば理想的なのだろう。 事実、才人への怒りで18年分の精神力が溜まったと自身で述べている。 *4 才人曰く本気の浮気だとか。ただし、 才人がシュヴァリエの称号を受け貴族入りした際頂いた領地の屋敷は元は女王の祖母の物であった 才人が女王と会う前、女王は母と枢機卿に結婚の話を持ち込まれ、悩んでいた マジックアイテムの鏡が偶然作用して才人と会う事になった 何故か女王は胸元の露出が激しい衣装を着ていた(ただしこれに関しては、日中拘束の強いドレスを着る王族がゆったりとした夜着を着るのは健康の面でも特段おかしな事ではない。 特に女王の戦闘力は非常に高めである) など、王女が才人に会えるからと無自覚的に計画して誘惑してきた節もあるので、一概に才人の責任とは言い切れない。 *5 しかし、長女エレオノールはルイズ以上に激しい性格のため三十路手前だというのに婚約者に逃げられ、 次女カトレアは原因不明の奇病でヴァリエール公領から出た事が無いくらい身体が弱く、 ルイズの憧れの存在であったジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵は、 ルイズの虚無魔法を利用しようとしたスパイだったりと姉妹揃って男運が無いように見受けられる。 更に、もしもルイズと才人が結婚する事があろうものなら、平民上がりの生意気な小僧が、 庶流とはいえトリステイン王家に繋がるヴァリエール公爵位どころか、 トリステインの王配(女王の配偶者。ルイズには王位継承権がある)になる可能性もあるという、 貴族社会では許し難い事態で、ヴァリエール家が却って厳しい立場に立たされる可能性も高いなど (事実、作中ではトリステイン貴族の一部が暗殺を試みている)、 何気にお家存亡の危機の状態である。 + どうしてこうなるまで放っておいたんだ! ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!! あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!! 小説12巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!! アニメ2期放送されて良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ! コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!! ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら… ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!! そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!! この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる? 表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!! アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ! いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!! あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!! あっあんああっああんあアン様ぁあ!!シ、シエスター!!アンリエッタぁああああああ!!!タバサァぁあああ!! ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルゲニアのルイズへ届け!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8919.html
前ページ次ページるろうに使い魔 その日、トリステイン魔法学院は快晴だった。 シエスタは、貴族達の服の洗濯をする傍ら、この晴れやかな日差しを心地よく浴びていた。 「今日もいい天気ねぇ」 そんな事を言いながら、シエスタは小鳥たちと戯れつつ、どこかウキウキした様子で洗濯物を干していた。すると…。 「あれ、ケンシンさん?」 シエスタの遠くで、例の気になる男性、あの緋村剣心が、どこか森の中へと入っていくのをその目で見た。 何だろう? シエスタは持ち前の好奇心で、剣心の後を追った。 しばらくして、剣心はおもむろに草木が生い茂る林の中心に立つと、どこか神妙な顔つきで目を閉じていた。 ひっそりと隠れながらも、シエスタはこの気になる行動に疑問符を浮かべていた。 しばらくして…彼の周りから、ただならぬ雰囲気が立ち込めるのを感じた。 そして次の瞬間――――。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」 剣心は、それを一気に開放するかのように、急に唸り声を上げた。 それに伴い、パン!! パン!! と周囲に舞う木の葉が弾け飛び、木々は悲鳴を上げる。 シエスタは、この出来事に大層驚き、腰を抜かしてしまった。 「きゃああ!!」 シエスタの悲鳴が聞こえると同時に、剣心はハッとしてそちらの方をむいた。 「シエスタ殿?」 「あ、御免なさい…えと、あの」 シエスタは、しどろもどろになりながらも、これまでの経緯を剣心に話した。 「そうか、それは済まない事をしたでござるな」 「あ、別に大丈夫です。でも…」 聞こうか聞くまいか、悩む仕草をしたシエスタだったが、やっぱり知りたい好奇心が勝ったのか、剣心に質問した。 「さっきのは、一体何だったんです?」 「まあ、気を引き締めてただけでござる」 シエスタは、さらに疑問が増えた。気を締めてた? あれはそんなレベルじゃないような気が…。 シエスタは、吐き出すように気迫を飛ばしていた剣心を思い出し、首をかしげた。 「拙者は、ああして時々気を締めないと、心の具合が黒くなる。だからさっきのようにやって、それを発散させているのでござるよ」 思うところがあるのだろうか、時々左手を見つめながら剣心はそう言った。 「へえ、そうなんですか」 正直、言っている意味はさっぱり分からないが、剣心が言うことなら、余程重要なことなのだろう。シエスタはそう思った。 (ってあれ? これって今、ケンシンさんと二人きり…?) そして、丁度二人っきりだということにシエスタは気付き、顔を赤らめた。 対する剣心は、ルイズの事を思っているのか、どこか考え込むような表情をしていた。 今のルイズに必要なのは、リラックス出来る環境だろう。 何かないものか…そんな事を思案しているうちに、シエスタから声が掛かった。 「そ、そう言えば、ミス・ヴァリエール達と、どこかへ行っていたようですが、一体どこへ…」 単なる話題を作るために、シエスタは質問したが、剣心は困ったような表情をした。 「う~ん、まあ、お忍びでござるな」 頬を指でかきながら、剣心はそう返す。 「へぇ~…そうなんですか…」 少し何とも言えなさそうな顔をして、シエスタはそう相槌を打った。 その後、しばらくの間沈黙が流れたが……やがて意を決したのか、勇気を振り絞ってシエスタは顔を上げた。 「あ、あの、実はですね、今度お姫様の結婚式のときに、特別にお休みがいただけたんですけど…それで…ケンシンさんも、私の故郷をどうかなって…。 とっても綺麗な草原もありますし、気も休まると思いますよ」 シエスタはシエスタなりに、彼の顔を見て思うところがあったのだろう。気を遣うような風で聞いてみた。 剣心は、少しポカンとした感じで、それを聞いて、そして叫んだ。 「それだ!!」 「へっ?」 第二十五幕 『宝探しと冒険』 「う~~~~~ん…」 同時刻、ルイズは学院の中庭のベンチに座り、一人考え事をしていた。 膝の上には、ボロボロの本『始祖の祈祷書』が乗っけられている。 あれから、ルイズは悶々として詔を考えていたのだが、いかんせん良い詩が思いつかない。まだ時間はあるとはいえ、そろそろ何か思い浮かんでもいい頃なのであるが…。 「…どうしよう…」 どれだけ声を唸らせて考えてみても、やっぱり何も出てこない。 ちなみにこの事は、剣心には言ってなかった。何というか、これ以上、彼に頼りっぱなしも良くないと思うし、何よりこれは自分自身の問題だ。 剣心も、その空気を察してくれているのか、必要以上には介入してこない。勿論困ったことがあれば、何時でも駆けつけてきてくれるだろうが。 「はーい、ルイズ」 気付けば、いつの間にか隣にはキュルケがいた。 面倒なのに見つかった。そんな雰囲気を隠そうともせずにルイズは目を細めた。 「…何しに来たわけ?」 「やあね、折角面白いものを見つけてきてあげたのに」 剣呑な雰囲気を受け流しながら、キュルケは胸の、その大きい谷間から何やら取り出し始めた。 それは、幾つかに分けられた羊皮紙の束だった。 「…で、これ何?」 「宝の地図よ」 怪訝な顔つきで見るルイズに、キュルケはしれっと答えた。成程確かに、それらしいことがその紙には書かれている。 しかし、ルイズは怪訝な顔つきを崩そうともしなかった。 「それを私に見せてどうする気よ?」 「連れないわねえ、誘ってるんじゃないの。宝探しに行こうって」 キュルケの言葉に、ルイズはハァ? って顔をした。いきなり何を言い出すのだろうかこの変態巨乳は。 しかし、キュルケの表情は、至って真剣そのものだった。 「あんた、この頃張り詰めてるでしょ」 「えっ…?」 「隠したって無駄よ。昨日の事件を見れば、誰だってそう思うわよ」 ルイズは、昨日の出来事を思い出した。 確かに、あの時自分の感情も爆発して、泣いてしまったことは覚えている。でも…。 「分かるわよ、王子様の事よね。普段強がりばっか言ってるあんたが、人目を気にせずに泣くんだもの。相当辛かったんでしょ?」 「そんな…私…」 「こういう時はね、何か気を紛らわすものが、必要なものなのよ」 キュルケの押しに、ルイズはグイグイ押される。こうなると、彼女は本当に強かった。 「でも、今私は…」 「でももさっちもない! 私が行くと決めたんだから、あんたも行くの!!」 ほぼジャイアニズムのような言動だったが、ルイズは妙に心打たれた。そう言えば、ワルドの結婚を吹っ切らせてくれたのも、彼女の言葉のおかげだった。 家系が家系故に、憎らしさが前面に出てるため、表立って言うことはないが…こういうところは素直に感心するなぁ、とルイズは思った。 確かに、環境を変えれば、まだ何か思いつくかもしれないし、それに、行くのを断れば、またキュルケが剣心をたぶらかそうとするかもしれなかった。それはやだ。 という訳で、ルイズは覚悟を決めた。 「……分かった、付き合うわよ。それで、いつ行くの?」 「勿論今からよ。後タバサと、ついでにギーシュの奴も誘ってあるから」 「ちょっと待って、授業中よ!?」 「いいじゃん、サボれば」 そんな風なやり取りをしていたところへ、上手い具合に剣心とシエスタが通り掛かった。 「おお、ルイズ殿。ちょうど良かったでござる」 「あら、ダーリン。いいとこに来たわね」 ナイスタイミング、と言わんばかりに、二人は同時に口を開いた。 「一緒に宝探しに行かない?」 「少し休養をとってはどうでござるか?」 「…え?」 「おろ?」 しばしの間、同時に放られた言葉の意味を、片側が理解するのに数秒かかった。 そして、剣心はキュルケの持っている地図の方を見て聞いた。 「宝探し?」 「そ、たまにはパァーッとさ。いいでしょ?」 「ってか、休養って何よ?」 ルイズは、隣にいるシエスタを怪訝な表情で見つめながら、剣心に聞いた。 そう言えばこのメイド、最近やたら剣心と一緒にいる気がする。 自分のことで精一杯だったから、そこまで回す気は無かったけど……なんだろう。何か嫌な予感がしたのだ。 女の勘で、何となくシエスタの心情を察したルイズは、無意識に彼女を睨んでいた。 ここで普通なら、貴族に睨まれただけで、シエスタは怯えただろう。しかし、表立っては出さないが、そこだけは譲れないという強い意志を宿して、シエスタも睨み返していた。 二人の間にバチバチと花火を散らす中、剣心がおもむろに言った。 「ルイズ殿、最近思い詰めてたでござろう? あんなことがあったんだし、ここは少し休みでもとったほうが良いと思うでござるよ」 この言葉に、ルイズは内心勝った! と叫んでいた。 いいでしょ? 心配されてるのよ、ワタクシ。アンタなんかにワタクシの相手が務まると思って? しかし、シエスタの方も、あくまでも営業スマイルを崩さずに、ルイズに対抗した。 「いいのですか? 行き先は私の村ですよ? 私の村には何にもない、つまらない所ですよ? 貴族の皆様が満足していただけるかは、保証しかねるのですが」 「へえ、いいじゃない。どんなつまらないところなのか、逆に興味が湧いてきたわ」 笑顔で睨み合う二人を見て、ようやくらしくなってきたなあ、と思ったキュルケは、ルイズたちの間に入って折衷案を出した。 「それじゃ、まず最初の何日かは宝探しで、その後にそこのメイドの故郷に行くって事で、いいかしら?」 「ちょっと待ってください。宝探しなら私も行きます!!」 さも当然だと主張するかのように、シエスタは手を挙げてそう言った。 無論ルイズは即座に反対する。 「はぁ? 魔法もないアンタに何ができるっていうのよ?」 「料理ができます!!」 「それが何の役に立つのよ!?」 「美味しい食事を提供できますわ!!」 相手は貴族だというのに、シエスタはルイズに対し、一歩も引かなかった。 それにより、ルイズは何か内側から燃えるようなものを感じていった。 しかし、これには思うこともあったのか、今度はキュルケが口を挟んだ。 「まあでも、そういう意味合いじゃ、確かにうってつけかもね。マズイ料理なんて私やだし、いいじゃないルイズ。連れてってあげましょ」 「あ、あんたは横からしゃしゃり出て来ないでよ!!」 「ねえ、ダーリンはどう思う?」 ここぞとばかりに、キュルケは決定権を剣心に渡した。 ルイズはグッとした目で剣心を見る。シエスタも、ルイズと同じような目で剣心を見つめた。 そんな二人の雰囲気に若干気圧されながらも、剣心は確認するかのようにシエスタに聞いた。 「休暇の方は、大丈夫なのでござるか?」 「はい、早くに取るつもりですから!!」 「危険もあるかも、でござるよ」 「平気です!! だってケンシンさんが守ってくれますから!!」 即答するシエスタを、剣心は改めてまじまじと見た。意地でも従いていく。目がそう語っていた。 まあ、それなら…と、ついに剣心も折れた。 「シエスタ殿が良いなら、拙者は構わないでござるよ」 「やったあああ!! ありがとうございます!!!」 「ちょ…ケンシンまで何言ってんのよ!!」 一人わぁわぁ喚くルイズとは裏腹に、シエスタはここぞとばかりにガッツポーズをした。 「という訳で、宜しくお願いしますね。ミス・ヴァリエール」 深々と頭を下げながらも、若干皮肉がこもった言い分に、ルイズは思いっきり髪をかきむしって、空に向かって叫んだ。 「もう、何なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 そんなルイズの様子を見て、剣心も、やっと少し調子を取り戻したか。と思った。 あの魔法の失敗以来、どこか俯いた感じで、人を寄せ付けないオーラを放っていたが、今のルイズを見ると大丈夫なようだ。 「そんじゃ、今日はもう遅いし、出発は明日から。皆ちゃんと準備してきなさいよ」 キュルケの言葉を最後に、剣心達は一度解散した。 前ページ次ページるろうに使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8154.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第十九話 混戦始末記、おいでませ魅惑の妖精亭! 知略宇宙人 ミジー星人 特殊戦闘用超小型メカニックモンスター ぽちガラオン 登場! 無限に広がる大宇宙、そこには様々な生命が満ち溢れている。 死に逝く星、生まれくる星。 命から命に受け継がれる大宇宙の息吹は、永遠に終わることはない。 しかし今、我々の住むハルケギニアに、恐るべき侵略の魔の手が迫りつつあった。 人々は、まだその脅威を知らない。 アブドラールスとの戦いが終わった日の夜、銃士隊全員は戦勝祝いもかねて大宴会を開こうとしていた。 「それでは、銃士隊全員の無事生還と、ミシェル副長の復帰。そして、新しい隊長たちミランご姉妹の 誕生を祝して、乾杯!」 アメリーが音頭をとり、店を埋め尽くした銃士隊員たち全員がグラスを高くかかげて乾杯と叫ぶ。 ここは、トリスタニアのチクトンネ街にある魅惑の妖精亭。アンリエッタ王女から祝福を受けたあの後、 格別のおはからいと、たいして活躍できなかったことで責任を感じていたド・ゼッサールが事後処理を すべて引き受けてくれたおかげで、銃士隊は全員休暇をもらえた。そして、彼女たちは才人の紹介で、 アルビオンに旅立つ前に彼らがお世話になったここを借り切ってパーティを開いたのだった。 主賓は、隊長アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランと、帰ってきた副長にしてアニエスの新しい妹、 ミシェル・シュヴァリエ・ド・ミラン。それから、今回の影の大功労者で二人の弟にされてしまった サイト・ヒラガ・ミラン。 店の奥側に急造された段に並んで立たされた三人は、それぞれ照れながらもこんなパーティを 開いてくれた仲間たちに感謝の言葉を送った。 「ごほん。皆、今日はよく戦ってくれた。本来なら、陛下の近衛隊である我々がこのような パーティを開くのはけしからんことだが、今日は姫殿下のお許しもある。存分に楽しめ!」 「みんな、実を言うとまだ自分がここにこうしているのが夢みたいだ。みなのおかげで、まだ この世の中は捨てたものじゃないと思うことができた。これからもよろしく頼む」 「えーっと……なんて言えばいいのかな。あ、そうだ。皆さん、これからもアニエスさん…… いや……まだちょっと実感わかないけど、姉さんたちをよろしくお願いします」 アニエスは固さのなかに柔らかさを、ミシェルは素直に仲間たちへの感謝を、才人は二人の 姉への心遣いを見せて、店中からの割れんばかりの拍手が鳴り響いた。 続いて、隊員たちのあいだから口々に「隊長、あんまりサイトをいじめちゃだめですよ」とか、 「副長、もういなくならないでくださいね」「サイト、姉弟はいっしょに風呂入っていいんだよ」 「いつまでも仲良くね」などの声があがる。それらの優しい声を聞いて、才人は銃士隊が単なる 軍の一部隊などではなく、ウルトラ警備隊やMATのような厳しさの中に、ZATやGUYSのような 優しさをもった、すばらしい組織なのだと思った。 「さあ、今日は副長の復帰祝いだ。全員思う存分飲んでいいぞ!」 おおーっ! と歓声があがり、続いて何十もの乾杯の音が響いてパーティが始まった。 魅惑の妖精亭の自慢の料理や酒が次々と運ばれてきて、激務で疲れていた隊員たちは舌鼓を 打って胃袋に食物を送り込んでいく。まあ、うら若き乙女たちが肉や酒にかぶりついていく光景は 少々圧巻で、さすがはアニエスの部下たちだと才人は感心した。 妖精亭の店員の少女たちは、普段はこの時間にはむさい男たちを相手にしてるので、いつもと 違う層の客たちに最初はとまどっていたものの、そこは鍛えられた接客の名人ばかりである。すぐに 適応すると、武勲の自慢を聞いたり、店員も女性であるから隊内での恋愛談義の相談に乗ったり しながら隊員たちに酒をついで、話に聞き入り場を盛り上げていく。 そこへ響き渡る野太い声。 「トレビア~ン! 今日はこんなにうるわしいお客さんがいっぱいおいでくださってうれしいわあ。 しかも来てくださったのが、姫殿下の覚えめでたく今をときめく銃士隊のみなさまでしたなんて、 こんな名誉は二度とありません。妖精さんたち、今日はいつもの五割り増しでサービスして あげてちょうだいね」 「はい! ミ・マドモアゼル!」 「トレビアン」 十メートル離れていてもすぐにわかる巨体を左右にくねくねと腰を動かすオカマ、この店の 店長のスカロンのあいさつに才人は思わず吐きそうになった。いい人だとわかってはいるけど、 この人のこのかっこうはいまだに慣れない。グドンの前のツインテールのように本能が 拒否反応を起こしてしまうのだ。 「あれさえなきゃいい店なんだけどなあ」 パーティが自由時間になったので、才人はアニエスとミシェルといっしょに、三人でテーブルを 囲んで話をはずませていた。 テーブルの周りでは、料理や酒を盆に乗せた店員の少女たちがいそがしそうに駆け回っている。 ただ、才人にとって意外だったのはアニエスやミシェルをはじめ、銃士隊の隊員たちのほとんどが スカロンの容姿に対して平然としていたことである。 「あんなものより気持ち悪いものなどいくらでもある」 それとなく尋ねてみて、アニエスから帰ってきた答えがこれだった。 考えてみたら、銃士隊も立派な軍隊なので、戦場では死体や見るに耐えない汚物を眼にする ことも多いだろう。やはり彼女たちは並ではない。アニエスはスカロンのパフォーマンスにも むしろ拍手を送る様子で、才人の肩を叩いた。 「サイト、見たくないものがあるならミシェルの顔でも見ててやれ。この子もそのほうが喜ぶぞ」 「いっ?」 「ちょ、姉さん!」 二人はまだ酒がまわっていないのに頬を染め、アニエスはそれが面白いというふうに笑った。 どうやら妹や弟をからかう楽しみに目覚めてきているようだ。 「ははは、照れるな。さあて、二人とも今日は疲れたろ、たっぷり食べて飲んでいけ。おーい! 酒と料理の追加、早くしろ」 「あっ、はーい! ただいまぁ」 アニエスが怒鳴ると、奥の厨房から盆に酒と料理を乗せた男たちが駆けてきた。一人はがたいの いい大男、もう一人は厚化粧のスカロンとは別方向のオカマだ。 「まいど、置いておきますね」 「はーいお待たせ。ゆっくりしていってねん」 二人は料理を運び終えると、また厨房のほうへと走っていった。よく見たら、厨房ではもう一人 恰幅のいい男が皿洗いをしているのが見える。才人は記憶を辿って、あれは確か行き倒れていたのを スカロンが拾った三人組だったなと思い出した。名前はドル、ウド、カマとかいったっけか。まだここで アルバイトしていたんだな。 「おーい、こっちも追加オーダー頼む」 「こっちもだ! お酒が足りないよ」 「はーい、たっだいまあ!」 ウドとカマはオーダーが出るたびに素早く駆け回って、料理を運んだり皿を片付けたりしている。 その接客態度はけっこう様になっていて、隊員たちからのウケも悪くないようだ。 もっとも、耳をすませてみたら厨房のほうからは「ほらドルちゃん! お皿たまってるよ、 グズグズしないの」と、叱る声が聞こえてくるのであいつだけはまだ適応してないようだ。 さて、そんな店内の喧騒から少しばかり離れ。けっこう広い店内を銃士隊員たちが埋め尽くす中、 一人だけはじかれたルイズはふてくされるように隅っこのテーブルで、一人ワインのグラスをかたむけていた。 「なによもう、バカみたいにうかれちゃって。功績あげたからって調子に乗りすぎじゃないの? そんなんで、いざというときに戦えるのかしら」 「まぁまぁルイズ、せっかくのお祝いなんだし、喜べるときには喜ばしてあげなさいよ」 飲んだくれのおやじみたいにくだをまくルイズを、ジェシカが慣れた手つきで空瓶を片付けながら慰めている。 「ジェシカ! あんたは人事だからそんなのんきに言えるのよ。それにね……はぁ」 ため息をついたルイズは、そばに置いていたかばんの中から古びた羊皮紙の本を取り出した。 「なに? このボロボロの本?」 表紙は題名が書いてあったのすらわからないほど擦り切れて、しかも中の茶色くくすんだ紙には 一ページたりともただの一字も書かれてはいない。これでは何の本だかさっぱりだとジェシカが 首をかしげると、ルイズはつまらなさそうに言った。 「トリステイン王家に伝わる『始祖の祈祷書』よ」 「始祖の祈祷書? あの国宝の?」 王家に伝わる伝説の書物。それをなぜルイズが持っているのかとジェシカはまた首をかしげた。 「実はね、来月にとりおこなわれるアンリエッタ姫と、アルビオンのウェールズ皇太子の結婚式のために、 式の詔を考えてくれって頼まれちゃったのよ」 ルイズは、銃士隊の表彰式の後でアンリエッタに呼び出されて頼まれたことを聞かせた。 「ルイズ、聞いてちょうだい。ついに先日ウェールズさまとの正式な婚約の日取りが決まりましたの」 「本当ですか! おめでとうございます。姫さまとウェールズさまなら、きっとよいご夫婦になられますわ」 「ありがとうルイズ。これもみんなあなたたちのおかげよ。それでねルイズ、あなたに折り入って お願いがあるんだけど。わたしとウェールズさまとの婚礼の折に、式の詔を読み上げる巫女に、 あなたになってもらいたいの」 それで、涙を流さんばかりに喜んだルイズは即座に引き受けた。王家の結婚式の巫女とは 国中にその名が知れ渡ることになる、この上ない名誉な役割である。父や母、姉たちもきっと 喜んでくれるはずだ。そのときはそう思った。 「へえ、それは大変な名誉じゃない!」 「そう思う? でもね、世の中そんなに甘くないのよね」 ため息をつくと、ルイズは指でペラペラとページをめくりながらぼやいた。 「なんていったって、王家の結婚式の詔でしょ。いくら公爵家の子女だからって、わたしが作ったものを おいそれとは採用されないわ。候補者はほかにもいて、それらの中から一番優秀な詔を作った人が 巫女として認められるそうなのよ」 つまりは、いくつかの貴族から選ばれた巫女候補の娘たちが詔作りでその座を争うということらしい。 それも、あとで聞いたことだがルイズ以外の候補者はすでに祈祷書を借りて詔を作ってしまって、 あとはルイズが一人だけ。 「多分姫さまのことだから、わたしに巫女になってもらおうと無理に候補者に入れてくれたのね。 そのお心には応えたいのだけど。でも、いったいなんて作ったらいいのかしら……」 少々不可解に思えることだが、座学においては学年一の成績を誇るルイズは、紙数にしたら せいぜい二~三枚分ほどの詔をどう作成すればいいのかと本気で悩んでいた。むろん、過去に 使われた詔を参考にするという手もあるし、アンリエッタもそこまで完璧は求めていないのだけれど、 負けず嫌いを地でいくルイズの性格が、人真似は嫌だと妙なプライドを燃やさせていた。 「ほかの貴族の娘なんかに負けたら、ヴァリエール家の名折れだわ。けど、わたしは作文だけは 苦手なのよねえ……」 「はぁ、人間意外なところに弱点を持っているものね。だったら、誰か友だちに相談してみたら?」 「それができれば苦労はないんだけど……」 プライドにひっかかるけど白紙答案だけは嫌なので、その方面はルイズも考えた。しかし、 脳裏に浮かんだ名簿に、早々に挫折を強いられた。なぜなら、才人やギーシュをはじめ男連中は アホばっかりで、女もキュルケやシエスタのような色ボケは論外、タバサは定型文しか 作ってきそうにない。先生方も、詩的な才能ではロングビルやコルベールはだめそうだ。 総じて、頼りになりそうなのがいないので、ルイズは行き詰っていた。 「なんとかしないと、名誉どころか大恥だわ……ああもう! ジェシカ、もう一杯」 「はーい、追加オーダーね。カマちゃーん、ルイズにもう一本ね!」 「はぁーい! たっだいまお持ちしまーす」 すかさずカマちゃんが新しいワインをテーブルにおいて、にこやかにウィンクして去っていった。 そのスカロンに勝るとも劣らずの横顔に、思わずルイズからも嗚咽が漏れる。 「うぇーっ、あんたたち、あんなのよくいまだに雇ってるわねえ」 「そうでもないわよ。前にもオカマバーで働いてたこともあるってんで接客態度は悪くないし、 今じゃ普通のお客さんも慣れて、けっこう人気あるんだから」 そんなものか、男っていうのは訳のわからない生き物だとルイズは思った。けれど、そこがこの店の 営業戦略なのである。たとえば甘いお菓子を作るときにほんの少し砂糖に塩を混ぜておけば甘みが 増すように、美少女たちの中にスカロンのようなのを混ぜておけば、両者を対比することでお客は いつでも新鮮な癒しを得ることができるのだ。 ともかくも、ルイズは口直しのつもりでワインを無造作にグラスに注いだ。と、そこに才人がアニエスや ミシェルと仲良く会話してるのが映って、思わず席を立ちかけたところをジェシカは引きとめられた。 「野暮はやめておきなさいよ。どうせ学院に帰ったらあんたがサイトを独占できるんでしょ。 余裕のない女はもてないわよ」 と言われて、ルイズはしぶしぶ腰を下ろした。 一方、ルイズにしっかりと見張られているとは思わず、才人は若者らしく食欲を本能のままに 満たす作業に没頭していた。居酒屋とはいえ、魅惑の妖精亭の料理は充分に標準以上を 満たしている。まだ若く、酒より肉のほうに美味を感じる才人は酔いもせずに空になった皿を 増やしながら、アニエスやミシェルと、王宮で初めて会ったときからの思い出を語り合っていた。 「早いものだな月日が経つのは。初めて会ったときは、見ている方向も望んでいるものも バラバラだった我々が、今はこうして同じ名を背負って姉弟になるなんて……」 感慨深くつぶやいたアニエスと、才人とミシェルは同じ気持ちだった。 「ギーシュの奴が道に迷ったおかげで鉢合わせすることになったんだよな。うーん、思えば アホらしい出会いだったな」 「ははっ、でもそのおかげでサイトと出会えた。そして、あのトリスタニアを震撼させた ツルクセイジンとの戦いのとき、サイトが駆けつけてくれなかったら、わたしを含めて銃士隊は 皆殺しにされていただろう」 「それいうんだったら、その前にバム星人に撃たれかかってたとき、おれはアニエスさんたちに 助けられてますからおあいこですよ」 互いに、助け助けられて、大変な戦いを生き延びてきたのだと彼らはあらためて感じた。 いくらすごい力を持っていようと、一人でできることなどたかが知れている。ウルトラマンだって ひとりじゃあない。兄弟たちや大勢の人々に支えられてきたからこそ、恐るべき怪獣や侵略者と 戦い抜くことができたのだ。 思い出話はそれからもじっくりと続いた。時系列は時を進め、やがて現代にまでたどり着くと、 ミシェルは一呼吸をおいて才人の耳元で小さくつぶやいた。 「実は、わたしの体の傷、消そうと思うんだ」 才人ははっとすると、食べる手をやめてうなずいた。 ミシェルの体には、奴隷だったころにつけられた無数の傷跡がまだ残っている。リッシュモンを 倒したとしても、それが消えることはない。でもそれは、誰にも言ってはいない秘密なのではと、 才人がアニエスを見ると、アニエスは驚いた様子もなくうなずいた。 「実はもうアニエス姉さんには話したんだ。サイトが受け入れてくれたんなら、姉さんも受け入れて くれると思って……」 答えは、ミシェルの肩を優しく抱くアニエスを見れば一目瞭然だった。お前が何を抱えていようと、 無条件でいっしょに背負ってやる。それが家族というものだろうと、アニエスは小さい頃に 父と母から受け取った愛情をミシェルに注いだ。そしてミシェルはその愛情を受けて、これまでは 忌まわしいものとしてひた隠しに隠してきた傷に、勇気を出して向き合うことに決めたのだった。 「できるんですか? 傷を消すなんて」 「水の秘薬を使って時間をかければ可能だそうだ。お前は気にしないと言ってくれたけど、 この体じゃわたしの子供がびっくりするからな」 お腹をさすって、ミシェルはいつかそこに宿るはずの未来の息子か娘の幻想に思いをはせた。 才人は、そうして前向きに生き始めようとしているミシェルをうれしそうに見つめた。けれど、 才人も多少なりとてハルケギニアで過ごしてきた以上、魔法の薬の価値は知っている。 それで、お金かかるんじゃないですかと尋ねると、ミシェルは軽く苦笑した。 「貴族の屋敷が庭付きで買えるくらいはいるそうだ。でも、何年かかっても稼いでみせるさ」 そうは言っても、それが容易なものではないことくらい才人にもわかる。銃士隊の給金は 決して安くはないが、それでもサラリーマンがフェラーリを買おうとするようなものだ。 無理だと思った才人は、何か補助になれるものはないかと考えて、ふとあることを思い出して パーカーのポケットの中を探ると、奥から玉砂利ほどの大きさの透明な結晶を取り出した。 「じゃあこれ、足しになるようでしたら差し上げます」 「ん? ガラス玉……?」 アニエスは、才人がテーブルの上に置いたそれを見つめて首をかしげた。 しかし、ミシェルも意味がわからないと不思議そうにしていると、才人はいたずらっぽく 笑って言った。 「覚えてませんか? ほら、アルビオンで雲の中に吸い込まれたとき」 「あっ! ああっ!」 はっとしたミシェルは、アルビオンで才人たちと行動しているときに、四次元怪獣トドラや 超力怪獣ゴルドラスが生息していた異空間に迷い込んだときのことを思い出した。 「あのとき拾ったダイヤモンドか」 「ええ、持って帰って金に換えようと思ってたけどすっかり忘れてた。でもまあ、どうせおれが 金持ってても使い道がないし、使ってください」 惜しげもなく、才人はポケットからつかみ出したダイヤを無造作にテーブルの上にばらまいた。 それらの価値は、ざっと換算しても、どれだけ安く買い叩いたとしても、これほど大きく質のよい 結晶なら二万エキューは軽くするだろう。水の秘薬の代金を払っても山のようにおつりが来る。 ミシェルはいくらなんでも受け取れないと遠慮しようとしたけれど、才人はまったく未練はないようだった。 「いいですよ遠慮なんかしなくても。どうせ拾ったものなんだし、役に立てる機会があるなら 使わなくちゃ。それに、弟が姉を助けようと思うのは普通でしょ。姉さん」 「う……」 それを言われたら返す言葉がなかった。アニエスも「もらっておけ」と微笑んでいる。それは、 はやく傷を治してきれいになった体を見せてやれというアニエスの姉心だった。ミシェルは姉さんと 呼ばれたことにぽっとして、少し頬を染めると、迷った結果、中くらいのダイヤを一つ選んで仕舞った。 残ったダイヤは、一番小さいものをアニエスが万一の際に隊の運営資金に当てるとして もらうことにして、あとはまた才人のポケットに仕舞われた。 「まったく、お前は少し目を離すとどこでなにをしてるかわからんな。それにしても、それだけの 宝石があれば大金持ちどころか、ゲルマニアだったら爵位や領地も買えるぞ。少しはもったいないと 思わないのか?」 「全然」 呆れたようなアニエスの質問に、才人は即答した。自分が大金を持っていたところで使い道は ないし、やたらと貯金する趣味もない。 ダイヤを異空間で拾ったときもそうだったが、才人の長所であり欠点は金欲や物欲がとぼしい といった点である。衣食住はルイズに保障してもらってるから充分、金貨のプールで泳ぐなどといった 下種な夢はない、そんなことより本当に必要としている人に使うべきだと、才人は考えていた。 しかしそのとき、ポケットから零れ落ちたダイヤが一つ転がって、こっそりと摘み上げられたことに 才人は気づいていなかった。 また一方、ルイズは離れた席で今日は酌をする必要のないジェシカを相手にして、才人が ミシェルと仲良くしてるのを歯がゆく見つめていた。 「あのバカ、あのバカ、あのバカ……」 「落ち着きなさいよルイズ。焼きもちを焼く女は可愛いけれど、度を越えたら嫌われるわよ」 注がれたワインをちびちびと飲みながら、ルイズはジェシカになだめられていた。 「うー……でも、サイトはわたしのものなのよ。あいつ、わたしのこと好きって言ったのに、 わたし以外の女とベタベタして」 「ま、姉弟になったそうだしそのへんは大目に見て上げなさいよ。心配しなくても、サイトは あんたのこと好きって言ってくれたんでしょ。だったらどっしりかまえてなさいよ。それに、 あんたは人の不幸を見てみぬふりをする人を好きになったの?」 ルイズは人一倍独占欲の強いタイプなので、才人がほかの女と仲良くするのを見ていると たまらなく腹が立った。でも、ジェシカの言うことが的を射ているので、大きく深呼吸して自分を 落ち着かせた。 「そうね。サイトは嘘なんかつかないわよね。うん、そうよね。だったらわたしも大人のレディー として対応しましょう。あんな女に、わたしが負けるはずはないんだから!」 「そうその調子よ! さすが大貴族は器がでっかいわ。さっ、でしたら景気づけに乾杯しましょう」 「ええ、ぐっとつぎなさい」 ジェシカに持ち上げられていい気分になったルイズは、自分が言われるままに店で一番 高いワインを買わされたことに気づいていない。ルイズを慰め励ましつつ、ちゃっかり 商売に持ち込むジェシカがすごいのである。 なんといっても、ジェシカは貴族に対して物怖じしない。むろんルイズが親戚であるシエスタの 知り合いだからというのもあるけれど、それを差し引いても、一秒で親友のように陽気に 話しかけてくる。しかも、普通なら貴族に対して無礼なと思われるような台詞でも、彼女が 言うと悪意をまったく感じず、むしろ楽しくなるのは天性の人柄というべきか。 「ぷはーっ! もう一杯」 「おお、さすがいい飲みっぷりね」 自分がもろにカモにされているのに気づかず、ルイズの酔いはまわっていった。もっとも、 別にジェシカもルイズに悪気があるわけではない。ルイズの悩みには真摯に対応していたし、 腹が立ったときには思いっきり飲んで忘れてしまったことがいいこともあるのである。ルイズの 場合は不満を内にこもらせるタイプなので、発散できる機会に全部吐き出させたほうが ルイズのためだとジェシカは考えていた。お金はもらうけれど、それに見合った幸せはきちんと サービスする。それがジェシカのプライドであった。 むろん、商売のことも忘れていないが、いかに高級ワインといえどもルイズの小遣いからすれば 微々たるものなので、気兼ねせずにボトルをあけると、ルイズはグラスに注いで一気に飲み干した。 と、そのときだった。店の入り口の羽扉が開いて、新しい客が店内に入ってきた。 一人だけだが、貴族と思しきマントを身につけた中年の男性である。 その貴族が入ってくると、貸し切りだと思っていた隊員たちは突然の来客に驚いて店中から 視線を集中させた。それから、スカロンが腰をクネクネさせた例の動きで、意外にも素早く 駆け寄っていった。 「これはこれはチュレンヌさま。ようこそ、魅惑の妖精亭へ!」 チュレンヌと呼ばれた貴族は、自分より頭二つくらい大きいスカロンを見上げてにこやかに笑った。 「こんばんわ店長。今日はいつにも増して繁盛しているようだな。まことにけっこう」 「はい、おかげさまで景気よく商売させていただいています。本日はお仕事で?」 「いやいや、今日はプライベートでな。普通に客としてまいったのだ」 「ああ、申し訳ございませんが本日は貸し切りでして」 「なんと! ああそうか、入り口になにやら看板があったようだがうっかり見落としてしまっていた。 いやどうも皆の衆、お騒がせしてすまん。わしのことはかまわずに続けてくだされ」 チュレンヌがさわやかに笑って手を振ったので、怪訝な顔をしていた隊員たちも、とりあえずは またワイングラスやフォークを手に取った。 「では、わしはこのへんで退散しようか。ご迷惑をかけてすまなかった」 「いえいえとんでもない! あなたさまのおかげで私どもは安心して商売ができるのです! 立ち話でよろしければ少しいかがでしょうか? タルブの新酒が手に入りましたもので」 スカロンは立ち去ろうとしていたチュレンヌを引き止めて、ほかの客の邪魔にならないように 世間話をしながらもてなした。けれど、大半の隊員たちは彼の顔を知っていたので、 食事に戻りながらも横目でチュレンヌを見ていた。 「あいつは……」 さらに、そのスカロンと話しているチュレンヌの顔を見て、アニエスとミシェルが不快そうな顔をしたので、 才人はそっと耳元で尋ねてみた。 「あれ、誰です?」 「この区域の徴税官をしているチュレンヌという男だ。すこぶる評判の悪い奴で、脱税や贈賄の 噂も耐えない。平民にたかって袖の下をほしがる、典型的な小役人というところだな」 吐き捨てるようにミシェルが言ったので、才人もまじまじとチュレンヌの様子を観察してみた。 こじんまりとした寸詰まりの胴体に、薄くなった頭髪が油で頭に張り付いて、ちょこんとしたなまずヒゲ、 絵に描いたようなエロ中年だ。 しかし、見た目はそのとおりなのだが才人はどうもミシェルの説明に納得できなかった。 「ふーん、でもそんなふうには見えないけどなあ」 才人の見たところ、貴族の居丈高さは見られないし、スカロンとは友人のように話をしているように 見える。これなら会ったばかりのころのアニエスたちのほうがまだ傲慢さがあった。物腰も柔らかで、 むしろあっちのほうが頭を下げているような雰囲気に、才人はとてもそんな悪徳役人とは思えなかったのだ。 するとそこへ、ジェシカが才人の後ろにやってきて三人に耳打ちした。 「そうなのよ。前は副隊長さんの言うとおり、一銭も払わないくせに店にたかってくるひどい奴 だったんだけど、一ヶ月くらい前かな。突然人が変わったみたいにいい奴になっちゃったの」 「どういうことだ?」 「どういうことだも、見てのとおりよ。急に腰が低くなって、税金を下げてくれるようになったり、 いばってた貴族たちを抑えてくれるようになったりと、まるで以前とは別人みたい」 ジェシカの言うとおりなら、チュレンヌという奴は過去は相当な嫌われ者だったのだろう。 「どこの世界にも庶民にたかるセコいやつはいるもんだな。ん? そういえばルイズは?」 「ほらあそこ、酔いつぶれて寝ちゃったわよ」 見ると、ルイズはテーブルにつっぷしてすやすやと寝息を立てていた。そういえば、ルイズも かなり疲れてたんだろう。おれのわがままに付き合わせて悪かったなと、才人はその可愛い寝顔に 心の中で頭を下げた。 しかし、チュレンヌに対しては、突然人が変わったということに関して、職務柄アニエスが怪しんだ。 「ふん、ああいうやからは芝居がうまいからな。本来は、奴も今回の戦いで始末してしまう予定 だったんだが、確かに一ヶ月前ほどから贈賄を送っていた貴族との関わりが消えてしまってな。 我々の探索に気がついてなりをひそめたのではというのが隊の見解だ。もしくは、奴に恨みを もつ何者かが魔法の薬で人格を変えたか……」 それについてはジェシカも同感だったらしく、軽くうなずいてはくれた。だが、首を横に振ると その意見をはっきりと否定した。 「誰かが魔法で成り代わってるんじゃないかって、彼の部下たちも怪しんだそうだけど、 結局魔法の形跡は見つからなかったそうよ」 「では、本当に人が変わったということか……フン……」 むろん、納得したわけではないけれど、魔法の薬を使わずに人格を急に変えることは難しい。 ならば本当に改心したのか? いや、アニエスやミシェルは多くの悪党を相手にしてきた経験上、 チュレンヌの変貌をまったく信用していなかった。 「ともかく、奴はしばらくマークしておく必要があるな。ミシェル、頼むぞ」 「はい」 隊長と副長の目に戻って、アニエスとミシェルはうなずきあった。 チュレンヌは、すぐそばでそんな会話がかわされているとは知らず、スカロンと親しげに会話していた。 「おっと、少し長居してしまったか。歩いて帰れるうちにやめておくとしよう」 空になったワイングラスをスカロンに返し、スカロンはそれをボトルといっしょに受け取りに来た カマちゃんに手渡した。 「ありがとうございましたぁ。これからもどうか、ごひいきに、お・ね・が・い・しますぅ!」 オカマがウィンクしてのあいさつは、遠目で見ていた才人でも吐き気がしてくるほどキモかった。 でも、さすがにこれは無礼うちになるのではとアニエスたちは身構えたけれど。 「うむ、君も商売がんばりたまえよ。美しいお嬢さん」 「んなっ!?」 想像もしていなかったチュレンヌの反応に、さしものアニエスやミシェルもずっこける寸前まで行った。 あのオカマが美しいお嬢さん!? どういう美意識をしてればそんな言葉が出てくるんだ? というか、 お前はほんとに人類か? 「ではさらばだ。楽しかったよ」 最後まで場の雰囲気には気がつかないまま、チュレンヌは帰っていった。残された隊員たちは、 別に彼は何もしていないというのに緊張からくる気疲れで、そろってため息をついた。 でも、パーティは終わりではなく、飲みなおしだとばかりにまだ酔いのまわっていない隊員たちは さらにボトルをあけていく。酒豪ぞろいの銃士隊のパーティは、女性にたいへん失礼なことながら 酔っぱらい怪獣ベロンと飲み比べができるんじゃないかと思ったくらいだった。 やがて三人で飲んでいたアニエスたちも酔いのまわった隊員たちに引っ張り出された。 なにをしんみりしてるんですか! 隊長たちもいっしょに楽しみましょう。 スカロンが特別に許可してくれて、飲めや踊れと宴会はまだまだ遠慮なく続いた。 パーティは夕暮れから深夜にもつれ込んでいき、日付が変わりそうな時刻になってようやく終わった。 才人は酔いつぶれてしまったルイズを背中に背負い、アニエスたちは学院に帰る二人を馬車駅まで見送った。 「それじゃ、また」 才人は借り上げたガーゴイル操縦の自動馬車の座席にルイズを横たえると、簡潔にあいさつをした。 「またいつでも来い。銃士隊は男子禁制だが、お前だけは例外だ。というより、準隊員にしてやろうか?」 「サイト、次に会えるのを楽しみにしてるからな……また、姉弟三人でいっしょに飲もう」 アニエスとミシェルも、にっと笑って手を振ってくれた。才人は、姉弟に見送ってもらえるということに、 なんとなく気恥ずかしさとうれしさを感じた。M78星雲から旅立つウルトラマンも、こんな気持ちなのだろうか。 馬車の中では、ぐっすり眠ったルイズが、いい夢を見ているのかなにやら寝言を言っている。 「あははは、サイトー、待ってえ。もう、待たないとひどいんだぞぉー」 夕日の砂浜で追いかけっこでもやっているのだろうか? もしかしたらジェシカが吹き込んだことかも しれないけれど、幸せなものだ。でも、ルイズも才人に付き合って疲れたのだろう。なんだかんだと いっても、ルイズもけっこうお人よしなのだ。 才人がルイズの横の席に座ると、ルイズは無意識にわかるのだろうか才人のひざに頭を乗せてきた。 「サイトー」 しかもその寝顔が無邪気で可愛いものだから、才人もついつい顔が緩んでしまう。 そんな二人にミシェルは少し寂しそうな表情を見せたけれど、馬車のドアを閉めるとガラスごしに 才人に手を振った。 「じゃあなサイト、道中気をつけてな」 「はい。姉さんたちも、無理はしないで頑張ってくださいね」 ひづめと車輪の音を残して、馬車は夜の闇の中へと去っていった。 アニエスたちは、車輪の音が聞こえなくなるまで見送り、静かになるとアニエスは全員を見渡して告げた。 「ようし、では本日はこれで解散する。明日は完全休暇にするから、おのおの宿舎に帰ってゆっくり 疲れをとるように。では、解散!」 「はっ!」 夜空に全隊員の声が響き渡り、銃士隊の最大の戦いはようやく幕を下ろしたのだった。 街は寝ぼすけな子供もベッドの上で夢を見て、満天の星々の中に双子の月が仲良く輝いている。 だが、光あるところに影がある。平和を取り戻した街の暗い闇の中で、今恐怖の計画が始まろうとしていた。 「ふっふっふ、ついにきた。この世界にやってきて苦節二ヶ月! ついにこの星が我々のものになるときが やってきたのだ!」 暗がりの中に高らかに侵略者の声が響き渡る。月明かりだけがわずかに照らすこの室内に、赤いマスクの ような頭部をした宇宙人が、ハルケギニアを我が物にしようという、恐るべき企みを育てつつあった。 「かつて、この世界にも様々な侵略者が現れたが、すべて失敗した。だがしかし、我々は詰めを誤って 失敗した彼らのようにはいかない。綿密な計算を立てて、誰にも気づかれずに作戦を遂行するのだ」 自らの計画に絶対の自信を持つ宇宙人は、すぐそばで話を聞いている仲間に力強く宣言した。 なんと宇宙人は三人もいた。それが、いつの間にかトリスタニアに潜入していたのだ。なんと恐ろしいことだろう。 「でも、この星にもウルトラマンがいますよ。昨日見たあいつ、けっこう強そうだったし」 「はっはっはっ! ウルトラマンなど恐れるに足らず、覚えているだろう。あのときのダイナのように やっつけてくれるわ!」 ウルトラマンAの存在を危惧する仲間の心配を意に介さずに、リーダーは高らかな笑い声を響き渡らせた。 ウルトラマンすら恐れないとは、なんとふてぶてしい奴だろう。その自信の根拠はなにか? だがそこへ、闇を切り裂く雷鳴のごとき声が階下から響き渡った! 「うるさーい! 今何時だと思ってるの、早く寝なさーい!」 「うわぁっ! す、すみませんジェシカさん」 彼らはぽんと手を叩いて人間の姿になると、階段の下を見下ろした。そこには寝巻きを着て、 すごく怒った様子のジェシカがぎろりとこちらを見上げている。 「ドルちゃん、近所迷惑だっていつも言ってるでしょう。いい加減にしないと給料下げてもらうわよ」 「す、すいません。すぐ寝ますんで」 へこへこ謝った彼らは、なんとかジェシカが許してくれるとほっとして部屋の中に戻った。 なんとここは魅惑の妖精亭の天井裏の部屋だった。実は、ドル、ウド、カマの三人の正体は、 この世界の侵略をもくろむ凶悪な宇宙人、ミジー星人だったのだ。 リーダーのドルことミジー・ドルチェンコ。その手下のミジー・カマチェンコとミジー・ウドチェンコ。 彼らはかつて別の世界で地球侵略を数度にわたってもくろんだものの、そのすべてに失敗して、 ついに何をどう間違ったのか、ハルケギニアに来てしまったのだった。 でも、人間に変身できる以外はたいした能力を持たない彼らは、食べていくために偶然拾ってくれた スカロンの下で住み込みでバイトしていたのだった。だが、たとえ異世界に来てしまったとしても、 彼らは凶悪宇宙人である。 「もうミジー星どころか地球に戻ることもできない。しかーし! 我々の進んだ科学力があれば、こんな 未開の星なんぞ、あっという間に征服することができる」 ドルチェンコは高らかに宣言して、屋根裏部屋を占領している鉄くずの山を見渡した。 飽くことのない彼の野望は、この世界にあっても侵略用のロボット兵器を作るべく、給料を侵略資金に 金属を買い集めたりして連日実験を繰り返していた。しかし、ハルケギニアで手に入る金属や工具では たいしたことはできず失敗ばかり。前に才人たちが来たときの爆発もその失敗の一つだった。 が、今ドルチェンコには秘策があった。 「見よ! とうとう宇宙の神は我々に味方した。このダイヤモンドがあれば、高名な土のメイジに部品の 作成を依頼する資金を得ることができる」 なんと才人のダイヤが一個、彼らにくすねられていたのだ。そして、ハルケギニア征服のための ミジー星人の切り札とは!? 「ふっふっふ、今のうちに平和を満喫するがいい人間たちめ。この特殊戦闘用超小型メカニックモンスター・ ぽちガラオンが完成したときこそ、この世界の最後となるのだ!」 ドルチェンコの手のひらの上には、ピンポン球くらいの大きさの、小さな小さなロボットがちょこんと乗っかっていた。 このちびっこロボットで、いったいドルチェンコはどんな侵略計画を立てようとしているのだろう? 知略宇宙人と 異名をとるミジー星人の頭脳は、人間には図りがたい。 しかし、意気上がるドルチェンコとは裏腹に、カマチェンコとウドチェンコは後ろを向いてひそひそと話し合っていた。 「そんなお金が手に入るんだったら、あたしは新しいアクセサリーやコスメがほしいわ」 「それより、安くていいから自分たちの家をもちたいって。ここの人たちは親切だけど、いつまでも借家暮らしはなあ」 どうやらこの二人は今の生活にあんまり不満はないようだ。でも、地球征服がだめならばと野心を 燃やすドルチェンコは、二人の頭をつかむとビビビビっ! と電流を流した。 「あばばばばば!」 「目的を見失った、バカどもめが!」 悪の宇宙人のリーダーらしく、おもいっきり居丈高にドルチェンコはブスブスと煙を吹く二人を叱り付けた。 でも、この世には上には上がいる。 「こらーっ! いつまで騒いでるの!! いい加減にしないと外に放り出すよ!」 「はいぃっ!」 ジェシカに怒鳴られて、ドル、ウド、カマは慌ててせんべい布団に潜り込んだ。 おのれ見ていろ、今にこの星は我々のものになるのだ! この夜ミジー星人たちは、仕事の疲れとハルケギニア侵略の甘い夢に酔いしれて、ぐっすりと眠った。 そして翌日とてとてと、アルバイトをこなしながらハルケギニアを侵略すべく、ミジー星人は街を歩く。 恐るべき侵略ロボットを完成させるために、まずはダイヤを換金するのだ! 「ねえ店長さんのおつかいさぼって大丈夫なの? 怒られてお給料下げられたら大変よ」 「不良にからまれていたおばあさんを助けていたとでも言っておけばいいさ。ハルケギニア征服のためなら、 おつかいの一つや二つ!」 お給料日が近いので心配するカマチェンコをよそに、ドルチェンコは栄光の未来を夢見て、肩をいからせる。 これまでコツコツ貯めてきたお金を使って身なりを整え、少しでも高くダイヤを売って、侵略資金を確保するのだ。 チクトンネ街の裏店では買い叩かれるので、ブルドンネ街の専門店が目的地だ。 買い物に出ているほかの店員たちや、知り合いに会ったらまずいのでこっそりと、きょろきょろ辺りを 見回しながら、三人は進んだ。でも、そんな努力も虚しく三人に後ろから声がかけられた。 「おや? 君たちは魅惑の妖精亭の店員じゃないかね」 「ひゃあっ!?」 宇宙人のくせに注意力不足。この世の終わりのように振り向いた彼らの前では、チュレンヌがさらにびっくりしていた。 「ど、どうしたね?」 「チ、チュレンヌさま! ど、どうしてこんな早朝から?」 「い、いや、昼食を終えて役所に帰る途中なのだが……悪かったか」 「いえそんなことは! わ、わたしたち急ぎますので、失礼しマース!」 大慌てで、ミジー星人の三人組は逃げていった。チュレンヌは呆然としてそれを見守る。 なにか悪いことをしてしまったか……? 訳を知るはずもないチュレンヌは、しばらく考え込んでいたが、 やがて苦笑すると自分も自分の仕事場に向けて歩き始めた。 「まあいいか……しかし、やはりこの星はいいな。どことなく地球に似ているし、人々は明るくて親切だ。 まぁたこ焼きがないのは残念だけど、もうしばらくいることにしようかな」 ぽつりと意味ありげなことをつぶやいて、チュレンヌも昼の雑踏の中へと消えていく。 やがて魅惑の妖精亭の屋根裏からまた爆発音が響き、ジェシカの怒鳴り声がこだまする。 ミジー星人の野望が成就する日は、まだ遠かった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2164.html
「バカな! こんな事が…!?」 砲火に晒され駆逐されていく先鋒を驚愕の眼差しで見下ろしながらジョンストンは叫んだ。 優勢であったアルビオン軍の先陣が圧倒的な火力によって打ち崩される。 前線に配備された敵の砲は数においてアルビオン軍の地上部隊のそれを上回っている。 物量でも勝っていると確信していた彼等にとっては不意打ち以外の何物でもない。 「いったいどこからあれだけの砲を掻き集めてきたのだ!?」 喚くだけの名ばかりの総司令官の横でボーウッドはふと考える。 確かに国中から集めたのならまだしも、そんな時間など無かった筈だ。 せいぜい集められたとしても国境周辺からが関の山。 そこに思い至った瞬間、彼は結論に行き当たった。 「恐らく沈められた艦に搭載されていた砲を持ってきたのでしょう。 ラ・ロシェールからタルブまでなら馬と人足が十分にあれば事足ります」 自嘲するように口元を歪めながらボーウッドが告げた。 もし奇襲などせず艦隊決戦に持ち込んでいれば、こんな事態は起きなかっただろう。 自分の手で己の首を絞める、正しく自業自得という訳だ。 ボーウッドの発言に込められた嫌みを感じ取り、ジョンストンの顔が醜く引き攣る。 「竜騎士隊を向かわせろ! 上空から砲を破壊するのだ!」 苛立たしげに彼は交戦中の竜騎士隊へと伝令を向かわせる。 本来なら上空からの一方的な艦砲射撃で片はつく。 しかしワルドの指示により艦隊は射程外への待機を余儀なくされていた。 どうせ自分に手柄を立てさせない為の嫌がらせだろうが、 それでも皇帝の勅命であれば従うより他にない。 (…今に見ていろワルド。貴様のような薄汚い裏切り者に居場所なぞない) 元よりワルドの増長を許すつもりなどない。 このトリステイン侵攻が済めば案内役は不要だ。 既にジョンストンの頭の中では彼を始末する算段がついていた。 「……我々相手によく保つ」 アルビオン歴戦の竜騎士達も困惑を隠し切れなかった。 一騎で戦場を駆ける風竜の少女もそうだが、 劣勢を前にしても落ちぬグリフォン隊の士気は目を見張る物がある。 弱者と侮り、ここで手を緩めれば敵の反抗を許すかもしれない。 しかし総司令の命令は絶対だ。 悩んだ末に竜騎士隊一隊だけが砲台へと差し向けられた。 一見して護衛も少なく竜騎士に対抗する術はないだろう。 その間に、上空を制圧すれば戦の趨勢は決するのだ…! (きゅいきゅい! お姉さま、あいつらどっか行っちゃうのね!) 戦列を離れていく竜騎士の姿に、シルフィードの顔に喜色が浮かぶ。 風竜が飛行に長けた種族といえども体力には限界がある。 ましてや常に生命の危機に晒される緊張感の中では消耗も数倍に跳ね上がる。 肩を上下させながら呼吸するシルフィードの上で、 彼女の主も同様に息を切らせていた。 前の戦いではキュルケもいたが今は一人。 防御と攻撃、その両面で瞬く間に削られていく精神力。 残された精神力では身を守るのが精一杯で、 竜騎士を撃墜するなど到底不可能だ。 (きゅい!? 全然減ってないのね!) 見れば、遠ざかっていくのは竜騎士隊のごく一部。 その場には彼女達を屠るのに十分すぎる戦力が残されていた。 ルーンを通じて伝わってくるタバサの悲惨な現状。 もう逃げるしかない。勝ち目がない戦いから逃げても恥じゃない。 彼女は自分の役目を果たした。 否、それ以上の事をやり遂げたのだ。 しかしシルフィードの背から、か細くも力の篭った主の声が響く。 「………ダメ」 否定の言葉に、きゅいきゅいとシルフィードは抗議の声を上げる。 それが自分を心配するものだと分かっていながらタバサは受け入れない。 ここで退けば竜騎士隊を掻き回す事が出来なくなる。 それに、魔法が使えなくても……。 「………まだ手はある」 (え? さ、さすがお姉さま! 何か秘策があるのね!?) こくりと頷きながら手の内を握り締める。 ただの重しになりつつある杖を風を切りながら振るう。 正面には自分へと殺到する竜騎士隊。 その手には突撃槍の如く杖が構えられている。 衝突すればたちどころに飲み込まれる殺意の津波。 「それは……」 (それは!?) その刹那。くるりとシルフィードの巨体が翻された。 そして、敵に背を向けつつ流星のように降下していく。 困惑するシルフィードの耳元でタバサは呟いた。 「……逃げる」 (お姉さまーーーー!!?) 言葉にならないシルフィードの絶叫と共に、有り得ない速度で地上が目の前に迫る。 恐怖から目を背けた背後には猛追してくるアルビオン竜騎士隊。 八方塞りのまま確実に近付いてくる死の恐怖。 この時ほど彼女は使える主を間違えたのではと疑った事はなかったという。 「部隊を砲撃の届かぬ後方まで下がらせろ!」 老士官の命令が即座に伝令へと伝えられる。 それは長年の戦闘経験が為せる業か、 突然の戦況の変化にも慌てず男は対応していた。 戦争が引いた絵図面通りにいく事などない。 何が起こるのか判らないと覚悟していればこそ対処できるのだ。 「しかし、それでは敵に付け込まれるのでは?」 「それはあるまい。むしろ打って出てくるならば好都合だ」 思わぬ反撃を受けたとはいえアルビオン軍は健在。 勢いに乗った所で、質・量共に勝る相手を打ち砕くのは容易ではない。 そのような軽率な行動に出る相手ならば引き寄せて包囲し殲滅するまでだ。 膠着状態が長引けば不利になるのはこちらだ。 それを分かっているからこそ連中は防衛に専念しているのだ。 「大砲は厄介ですね。空軍の援護を待ちますか?」 「いや、我が軍も大砲を前進させよう。 幸い、砲の射程も精度もこちらが上だ。 砲撃戦に持ち込めば無駄に兵を損耗させる必要もない」 相手の攻撃の届かない距離からの一方的な攻撃。 それがアルビオン軍の常套手段であり戦術の基本。 彼はそれを恥ずべき事だとは思わない。 互いに戦力を出し尽くしての決戦などに興味はない。 双方が多大な犠牲を出してまで何を得るというのか。 勝負が圧倒的であればどちらの犠牲は最小に抑えられる。 そう信じて彼は地上の砲手に伝令を送った。 「怯むな! 届かぬなら前進して撃ち返せ!」 砲撃の音に阻まれながらもアニエスの声は高らかと戦場に響き渡る。 近くに着弾があろうとも微動だにせぬ彼女の勇姿に、砲手達も勇気を振り絞る。 アニエスも戦場を知っている。指揮官が心を乱せばそれは全軍に波及する。 危険を承知して尚、砲火に身を晒し前進しなければならない時がある。 それが今なのだ! ここで退けば心も体も打ち砕かれる! やるべき事を指揮官が体現して初めて兵は動くのだ! それに砲手達には戦う理由があった。 彼等はアニエスの部下ではない、トリステイン艦隊の生存者達だ。 アルビオン軍の奇襲により訳も分からぬままに殺されていった同胞、 目の前で沈んでいく自分達の艦の姿が今も彼等の目に焼きついている。 その時の怒りと憎しみが死の恐怖を押し流す。 復讐の一念が彼等を戦場へと駆り立たせているのだ。 砲撃を浴びながらも前進を繰り返すトリステイン軍の気迫。 それを前に、アルビオン軍兵士達に動揺が広がる。 彼等にとって、これは勝ち戦も同然だった。 落ちている勝利を拾うような簡単な作業だと思っていた。 だが、この瞬間。間違いなく彼等の喉元には刃が突きつけられていた。 一方的に命を奪う虐殺ではなく、命を奪い合う戦闘へと変わっていたのだ。 ましてや死をも覚悟したトリステイン軍と、上の命令に従うだけのアルビオン軍。 砲弾の直撃に吹き飛ばされようとも突き進む敵に、彼等は未知の恐怖を感じていた。 互いの距離が詰まる。 既にアドバンテージであった射程距離は意味を成さない。 もはや勝負を決するのは兵器ではない、それを駆使する兵士の気力だ。 そして、それこそがトリステイン軍の最大のアドバンテージ。 「撃ぇ!!」 アニエスの号令が響く。 間際に迫った両者の砲が火を噴く、その瞬間。 トリステイン軍の砲台が轟音を立てて爆散する。 広がる爆炎をマントで遮りながらアニエスは空を見上げる。 頭上を旋回する巨大な影、それは再び彼女達へと牙をむいた。 舞い降りた火竜より吐き出される灼熱の炎。 火竜の吐息を受けた砲台、そこに込められた火薬が誘爆して破裂した。 まるで風船が割れるように呆気なく破壊されていく砲台。 「くっ…!」 毒づくアニエスの真上に竜騎士が降下する。 咄嗟に抜いた剣が心許なく感じられる。 火竜の喉元で燻る炎、それがアニエスの過去の痕を抉る。 迫る恐怖に歯を食い縛り彼女は火竜に立ち向かう。 火竜の上げる咆哮、それはギーシュの掛け声に掻き消された。 「放て!」 ニコラを始めとする鉄砲隊が一斉に火竜を狙い撃つ。 放たれた弾丸が雨粒のように竜騎士に降り注ぐ。 しかし、それも竜騎士の展開する風の障壁に阻まれて届かない。 それでも撃ち続ける鉄砲隊の猛攻に、舌打ちと共に竜騎士が上空へと逃れる。 だが、それを狙い済ましフレイムとキュルケの炎が捉える。 油袋に引火して燃え尽きる火竜の姿。 それには目もくれずギーシュはアニエスの安否を確かめた。 火竜の炎も一斉射撃の流れ弾も受けた様子はない。 安堵の溜息を漏らすギーシュに、アニエスは声を掛けた。 「またお前に助けられたな、ギーシュ」 アニエスの口元が綻ぶ。 彼女の微笑みに、不意にギーシュの胸が高鳴った。 それは自分の知る軍人である彼女ではなかった。 過去のトラウマから立ち直ったばかりで、 覆い隠した筈のアニエスの素顔が僅かに透けていた。 その親しい者に向けるような無防備な彼女の表情が、 一瞬、ギーシュにここが戦場だという事を忘れさせた。 「ギーシュ!!」 ルイズが叫びながら彼を突き飛ばす。 その直後、二人の真上を火竜が通過する。 標的を逃した火竜が旋回し再びルイズ達へと襲い掛かる。 咄嗟に杖を取ろうとしたルイズの表情が凍った。 遮二無二体当たりした所為だろうか、 彼女の手から杖も祈祷書も零れ落ちていた。 落とした杖へと駆けるルイズは、敵から見れば正しく動く標的。 無力と化したメイジへと竜騎士は杖を振るう。 「嬢ちゃん! 俺を抜け!」 デルフの声に我に返ったルイズが鞘から彼を解き放つ。 メイジに剣が扱えるものかと竜騎士はせせら笑いと共にエア・カッターを放つ。 だが、それはデルフの刀身に触れた瞬間、男の笑み同様消え去った。 魔法を吸収するデルフの能力に困惑しながらも竜騎士は反転し、 今度は火竜の吐息で彼女に狙いを定める。 「来るぞ! 炎は防げねえ、躱わせ!」 デルフの警告を聞きながらもルイズは拾った杖を構えた。 火竜の速度は人のそれとは桁が違う。 全力で突進してくる竜騎士を避ける事は出来ない。 どうせ一か八かになるのなら逃げるよりもルイズは戦いを選んだ。 それが無謀と分かっていながら彼女は決して背を向けない。 止めに入ろうとしたアニエスも間に合わない。 新たに迫ってくる竜騎士を迎撃しながらキュルケは彼女へと振り返った。 間近に迫る巨大な火竜と、それに相対する小柄な少女。 火を見るよりも明らかな勝敗の結果にキュルケは思わず目を逸らそうとした。 刹那。火竜の胴体に氷の矢が食い込む。 それはキュルケが良く知る彼女の魔法。 体を刺し貫かれた竜が力なく地上へと落ちていく。 良い所で見せ場を奪っていくタバサに嫉妬しつつ、 キュルケは歩み寄ってくる人物へと視線を向けた。 「ありがと。助かったわ、タバ……」 キュルケの動きがぴたりと止まる。 そこにいたのはタバサではなかった。 自慢の髭を弄りながら彼は硬直したままの彼女に語りかける。 「なに、これも貴族の義務というやつだ」 キュルケの眼に映るのは長尺の杖を携えた中年の貴族。 何度も突き合わせたその顔は嫌でも覚えている。 実際、毛嫌いしていたしトラブルの元になった事もあった。 少なくとも彼女の知る限り、このような場所に好き好んで来るような人物ではない。 だから確かめるようにキュルケは彼の名前を呼んだ。 「……モット伯?」 「うむ」 YES,I AM!と言わんばかりに胸を張りながらジュール・ド・モットは答えた。 それとは裏腹にがっくりと落ちるキュルケの両肩。 “ああ、なるほど”と彼女は悟った。 自分が助けに来た時のギーシュはきっとこんな気分だったに違いないと……。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6453.html
前ページ次ページゼロの黒魔道士 裸のお姫様なんて、影も形も無いねって、アニエス先生と目で会話したんだ。 「む?――ゲホゲホッ」 「……アニエス先生、大丈夫?」 アニエス先生が突然咳きこんだんだ。 「――何ともないぞ。うむ、少々風邪気味だったかな?」 「大丈夫?アニエス先生?……モンモランシーおねえちゃんも……???」 なんか、モンモランシーおねえちゃんも顔が真っ青だったんだ。 ……風邪でも、流行ってるのかなぁ? 「え?え、い、いえいえいえいえ、私は大丈夫よ?私は。 あ、あの、アニエスさん、でしたかしたら? 風邪気味ならば、無理をなさらず、医務室に行かれては――」 「――ふむ、そうだな、慣れぬ仕事が続いたことだし、一度診てもらうか」 ……アニエス先生、大丈夫かなぁ? 顔、合わせてくれないけど…… ―ゼロの黒魔道士― ~第三十一幕~ 愛にすべてを ――― ピコン ATE ~ラブレター大作戦~ ハァイ☆皆さん、こんばんは! え、誰って? ふっふ~ん♪ みんなのアイドル、ケティ・ド・ラ・ロッタでぇす♪ ――はい、そこぉっ!誰がチョイ役よ!! 私こそが!私こそがメインヒロインなのよ!!プリマドンナなのよっ!!! ルイズだかタバサだかモンモンだかキュルケだかシエスタだかがなんぼのもんじゃいぃっ!! ――あ、いっけな~い☆ケティったら、知らない誰かに怒っちゃった♪ これじゃただの危ない人、よね♪ そうそう、アイドルなんだから、いつもスマイルスマイル♪ そんなアイドルのケティちゃん、今、重大な作戦実行中なの! え?『どんな作戦だよ』ですって? いや~ん☆乙女の秘密を暴こうだなんて、乱暴はダ・メ・だ・ぞ♪ ――あぁゴメンゴメンゴメンウソウソウソ!! ウザいからってどっかに行かないで! ちょっとは聞いてってよ! 寂しいんだから!乙女心はロンリー・ハートなのよ? 今、ケティは恋の作戦決行中なの! そう、恋よ!ラブよ!フォーリンラブよ! ケティはイエス、フォーリンラブなのよ!! え?誰にって? はいここ重要!テストに出ます!耳ほじってよくお聞きなさい! 愛しいケティのハートを鷲掴みにしちゃった罪な人、その名前は―― いや~ん、ケティ恥ずかしいぃ~♪ ――ゴメン、本当反省してるから!呆れてどっかに行かないでって!! 言うわよ、言いますわよ、さっさと言っちゃえばいいんでしょ? もう、せっかちなんだからぁ♪ ――いやいやいや反省してますゴメンナサイスイマセン。 ギーシュ様なんです!ギーシュ・ド・グラモン様なんです! ケティのハートをもうドキュゥゥゥンとズギャァァンと打ち抜いた殿方なんです! あぁ、しかも姫殿下の任務から帰られたあのお方はっ!! もう、なんて言いますの?男らしさあふれる?陰のある?ニヒルでダンディな? あぁん、もうどうにでもしてぇ~♪ ――本題に早く入れ?あー、どうもすいませんねー。 乙女心なんてどうでもいいってか、コンチクショー。 ギーシュ様は素敵なお人。だから、ライバルも多いのです。 もうライバルだらけなんです!バトルロワイヤルです!!所詮この世は弱肉強食なんです!!! し・か・も!! あのモンモンだかオモラシーだかが恋人気取っちゃってるんです!! あぁもう腹立たしいですわ!! あの香水だか怪しい薬でギーシュ様をたぶらかして!! 魔女ですわ!魔性の女ですわ!!きっとお腹まっ黒なんですわぁぁぁっ!! ムキィィィィィッ!! ――はい、ケティちゃん深呼吸~。ビ・クール、ビ・クール。 いい女は叫ばな~い。はい、大丈夫?大丈夫ね? で、一計を案じました。ケティ、寝る間を惜しんで考えました。 そして、書きあげました。一世一代のラブレターをっ! 渾身の一枚をっ!!感動の一文をっ!!!全ハルケギニアが震える恋文をっ!!! 内容?いや~ん、ケティ恥ずかしいぃ~♪ ――あ、このくだりもういらない?ゴメンなさいね、はいはい、分かりましたよーだ。 では――コホン、とくと聞きなさいっ!この名文をっ!!! 『夜空が月のペンダントで着飾る頃 私はヴェストリの広場であなたが来られるのを待っています』 あぁん、ロマンチックぅぅぅぅ♪ え?なんだコレ、って? ブーブー、乙女心を理解できない非モテ共めー!! いーい?これは、作戦なのよ、作戦!! あえて宛名や差出人を書かないことで、不安と期待を煽る!ここ重要!! そして、夜―― みんなが寝静まった後、ひっそり会う二人、 はじめて分かる相手の顔、それはかつて好きあった恋人同士っ!! そこに登場、私特製のクッキー(お酒多めですぐ酔う)!! もうロマンチックに酔って?酔いどれて?あんなことやこんなこと―― ニヒヒヒヒヒヒ―― あぁん、もぅワクワクドキドキぃ☆コラコラ、静まれ、胸の鼓動♪ そんな乙女心がバーニング・ソウルな状況で、私は今、廊下を急いでるの! ギーシュ様の部屋のドアに、そっと手紙を忍ばせるために! 足早に、風のように、滑るように! 廊下は走るな?知ったこっちゃありません!! 乙女心はランナーズ・ハイなんです!走ったら最後、ユーキャント・ストップなんです!! そんな乙女心大爆走中に、何やら堅い物に当たりました。 障害物です。恋のバリケードです。おのれ、私の邪魔をする気か!! 「ちょっと!邪魔よ!!」 「――あぁ、すまない。 ――あ、ついでだが、医務室は、こちらで良かったかな?迷ってしまってな――」 「えぇ、そうですよ!私は急いでるの!!」 あぁ、もう、とんだお邪魔虫もいたもんです! 鎧を着て突っ立ってるなんて! ――でも、多少の障害は恋のスパイス、ですよね? あぁん、今宵の恋は燃え上がりますわ!! 今夜、燠火は愛の業火へと燃え盛りますわ!!! あぁん、愛しのギーシュ様☆貴方がその手でロウソクつけて♪ 階段昇ってすぐ曲がり、恋のゴールはもうすぐです! 作戦任務、ロックオン☆ 想いを乗せて飛んでけ愛のファイアーボール♪ そう、乙女心はこのラブレターにっ!! ラブレターに―― ラブレター―― ない? ない!? ないぃぃぃぃ!?!? ないないないないないないない!? 確かに手に持ってたのに!? この手にしかとにぎっていたのに!? いずこに消えたか神隠し!? 何たる悲劇!何たる衝撃!! ――そうか、あのとき!!! あの鎧にぶつかったとき!! 思い出すが早いか、ダッシュで戻る急ぎ足!! 階段降りて曲がり角、やっぱりそこにケティの手紙!!! 見つけたラブレターは鎧女の手の中に!!! 何たること!!!人の手紙を見るなんて!! 「ちょっと!!おばさ――」 「な、なんですか、この手紙は!? これは、もしかして――。 ビビから私へのラブレター?」 はい?何勘違いしてるですか?この鎧おばさんは? 「もしもーし?ケティの手紙を返してください?」 聞こえてるんでしょうか?耳まで老化しちゃってるんですか? 「――とすると、やはりこの体の火照りは――恋!?そ、相思相愛ということか!?」 なんか震えちゃってますよ、このおばさん。 ケティの手紙を、ケティが渾身込めて書き上げたラブレターに何勘違いしてるんですか? 何マイワールドに入り込んで引きこもってるんですか? 「――こうしてはおれん!!この胸の高まり、抑えてなどおけるものか!!!」 「え、あ、ちょっと!?待ちなさい!?待て!?」 な、なんかものすごい勢いで走って行っちゃいましたよ? あれは、女子寮の方向ですけど――何なんですかね? てゆーか、あんなゴテゴテ着ててよく走れますわね…… なんなんでしょう、ホント。 ケティ、さっぱり分かりませんわ…… 廊下に一人残されて、 なーんかおいてきぼりなこのハート。 メインヒロインの私がなんでこんなロンリーになってるんでしょう? あ、そうか、これはきっと夢ですね!ドリームですね!! 目覚めたら、ギーシュ様の膝枕な展開ですね!! そうに決まってます!決めつけます!! というわけで、ケティは寝ます! それじゃ、ケティファンのみなさ~ん☆まったね~♪ ――― 「……へぇ~、それで、ルイズおねえちゃんがその詔っていうのを詠むの?」 「なんでぇ、娘っ子、えれぇ出世じゃねぇの!」 ルイズおねえちゃんの部屋、 ギーシュも疲れているっていうことで、今日の夕食後の特訓は中止になったんだ。 タバサおねえちゃんとキュルケおねえちゃんも、 何か用事でいないっていうから、お話し会も今日は無し。 だから、のんびりと洗濯物を畳みながら、ルイズおねえちゃんに今日あったこととか聞いてたんだ。 「そうなのよ!オールド・オスマンが呼びだすから何事かと思っちゃったわ!」 ルイズおねえちゃんは、王宮から大事な大事な用事を仰せつかったんだって。 お姫様の結婚式で、巫女っていう大事な役をするんだって。 そのときに、詔っていう詩みたいなのを詠まなきゃいけないらしいんだけど…… 「……本当に、真っ白だね、その本…… それを持ちながらやるの?……あ、こっそり、言うことを書いておくとか?」 そのときに持ってなきゃいけないアイテム、『始祖の祈祷書』って言うらしいんだけど、 古ぼけてるわりには、真っ白で何にも書いてなかったんだ…… 「ダメよ!歴史的に価値のある本なんだから!!! ――って言っても、なんか詔のヒントぐらい書いてて欲しいわよねぇ……」 ルイズおねえちゃんがため息をつく。 何でも、詔って、言うことは巫女、つまりルイズおねえちゃんが考えなきゃいけないらしいんだ。 「ん~――詩なんて考えたことないし――ビビ~、なんか無い? あんたの呪文って、詩みたいじゃない?」 「う~ん……詔って、縁起よくないといけないんでしょ?お祝なんだし……」 流石に、お祝いの場所で『大地に染み渡る、復讐の赤い血よ』とかはどうかなぁって思うんだ。 「そーよねぇ、『滅びゆく肉体に暗黒神の名を刻め』とかよね、ビビの呪文って――」 はぁ、とため息をつくルイズおねえちゃん。 ……もうちょっと、良いこと言ってる呪文とかだったら良かったのになぁと思う。 「――あーもう、しょうがないっ!自分でがんばるしかない、か」 ベッドの上、真っ白な本を広げて、グッと気合を入れるルイズおねえちゃん。 「ケケケ!娘っ子、やる気出し過ぎて空振んなよ~!」 「……ボクも、手伝うことあったら言ってね?」 「任せときなさいっ!姫殿下の期待がかかってるんだから!」 拳を突き出すルイズおねえちゃんは、にっこりと力強い笑顔を見せたんだ。 ドンドンドンドン!! 夜もだいぶ更けてきたのに、大きなノックの音が聞こえてきた。 乱暴な、ドアが壊れるぐらいの大きな音。 「誰かしら?ずいぶんと下品なノックね――」 「は~い……今開けま」 ザンッ ドアから、突然金属の棒が生えてきた。 「……え?」 ノブにかけた手が、『ブリザド』をかけたみたいに凍りつく。 ザンザクッザザンッ! 「え?え?え!?」 次から次に生えてくる鋼の光が、剣だって気づくのにちょっと遅れてしまったんだ。 ドゴォォンッ!! 「えぇぇぇ!?!?」 「ビビッ!?」 だから、木端微塵に破壊されるドアに押しつぶされちゃったんだ…… 「――待っているのももどかしい!このアニエス!自ら出向いたっ!!ビビ、何処にっ!!」 潰されたドアの下、アニエス先生の声が聞こえたんだ。 「……こ、ここにいま~す……」 粉々のドアの影からよろよろっと立ち上がるボク。 剣とか握ってないから、全然避けれなかったのは、言い訳にならないよね? ……もっと鍛えなきゃな…… 「おぉ、ビビ!?ボロボロではないか!!一体、誰に!?」 「いや、姉ちゃんにだろ」 デルフが、珍しく冷静に指摘した。 「おぉ、ビビ――聞いてくれ!!」 「……な、何を?」 目がうるうるしているアニエス先生。 ……風邪、そんなにひどいのかなぁ……? 「このアニエス、女を捨てたつもりであった――が!!」 「ちょっと、貴女!何、人の部屋のドア壊してくれて――」 「このアニエス!!全身全霊をもって、そなたの心に応えよう!!!! そなたの愛に忠誠を誓うっ!!!愛しているぞ!!ビビっ!!!!」 アニエス先生が、力いっぱい、ボクを抱き締める…… 「は?」 「……え?」 「――こりゃ、おでれーた」 なんで、こんなことになっちゃったのか、全然理解できなくて、 もしかしたら、風邪をひいてるのがボクで、 これは熱とかが見せる夢みたいなものかなぁって思ったんだ…… 前ページ次ページゼロの黒魔道士
https://w.atwiki.jp/sengokutougekipc/pages/299.html
◆勢力 姫 ◆カードランク C ◆レベル レベル1 ◆強化ポイント 0 ◆特技 追跡 ビュースコープ内に敵ユニットが入ったとき、追尾して攻撃する。 ◆秘技 祈祷“冠落陣” ◆秘技コスト 8 戦場に妨害陣を一定時間、設置する。妨害陣に入った敵ユニットの武勇と統率力が低下する。この秘技は相手からは見えず、城内退却によって消失しない。 ◆出身地 安芸(広島県) 謀聖と謳われる出雲の戦国大名・尼子経久の正室。父親は「鬼吉川」の異名をとる猛将・吉川経基。 夫・経久と父・経基は戦友の間柄で、経久の知略を見込んだ経基が娘の吉川夫人を嫁がせた。これにより尼子家と吉川家は縁戚関係となる。 名門・吉川氏という強大な後ろ盾を得たことは経久にとって大きく、周辺諸国の多くの豪族らが二家の同盟を契機に尼子家に服属した。 ◆イラストレーター みせお 秘技効果 効果範囲 カテゴリ 闘魂 武勇 智謀 統率 速度 兵力 効果時間 その他 祈祷 8 -4 - -4 - - 40.0c(智謀依存?c) 城内退却による効果消失は無い ※撤退では効果が消失する 解説 秘技や特技等の解説、カードの運用法等を書く。 備考 武将自体の元ネタやエピソード等
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7118.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 年末の二つの月が重なる日の翌日、トリステインとゲルマニアの連合軍六万を乗せた大艦隊がアルビオンへ攻め入る日が来た。 その出港の日の朝、ルイズ達は侵攻軍の大艦隊が浮かぶ、ラ・ロシェールの港町へとやって来ていた。 「また来る事になったわね…」 乗っているシルフィードから身を乗り出し、眼下に広がるラ・ロシェールの町並みを見渡す。 以前はジャンガとキュルケとギーシュと、そして…ワルドと来た所。 その時はアンリエッタに頼まれて、ウェールズ皇太子から手紙を回収する為に、アルビオンへと行った。 今度はそのアンリエッタを助けに此処へ立ち寄り、アルビオンへと行く。 あの時はワルドの裏切りで任務を果たせず、皇太子までも死なせてしまった。…だが、今度は違う。 今度は絶対に死なせない。必ずアンリエッタを助け、自分も無事に戻る。そう約束したのだから。 決意に身体を振るわせるルイズの肩を誰かが、ポン、と叩く。キュルケだ。 「あんまり気を張り詰めないのよ、ヴァリエール。色々気負っているのは解るけど、いつもそんなじゃ持たないわよ?」 「そうね」 ルイズは軽く笑いながら返事を返す。 ちなみに今のシルフィードの乗員はルイズ、タバサ、ジャンガの他に、キュルケとモンモランシーも雑ざってる。 キュルケとモンモランシーは本来ならば実家に戻るべきだったのだが、ジャンガが無理やり連れてきたのだ。 だが、強引とは言え…二人ともそれほど嫌な感じは無いようだ。 キュルケは祖国の軍に志願して、女子だからと認められなかったから、この誘いは渡りに船とばかりに喜んで付いて来たのだ。 モンモランシーは表面上嫌がってはいたが、心配だったギーシュと一緒に居られる事になったので内心喜んでいた。 とまぁ、各自思惑は色々なれど、結局は一緒に居るメンバーだった。 そうこうしているうちに、一行を乗せたシルフィードは艦隊が出港の時を待っている港へと到着した。 港は世界樹の枯れ木を利用している物だ。何本もの枯れ枝の先に何十隻もの軍艦がぶら下がっている。 枯れ木とは言え、巨大樹に軍艦が何十隻もぶら下がっている姿は壮観であり、ルイズ達は目を奪われた。 「凄いわね…」 「本当…、これから戦争に行くって事を嫌と言うほど実感させてくれるわ」 キュルケもモンモランシーも呆然と呟く。 そんな彼女達を尻目に、ジャンガはシルフィードの足に結わえ付けていた荷物を外している。 布に包まれて解らないが、結構大きい物だ。 ルイズはジャンガの傍へと歩み寄り、彼が外しているそれを覗き込んだ。 「ねぇ」 「ンだ?」 「それってなに? 夕べ一晩中コルベール先生の研究室に籠もってたようだけど、それと何か関係有るの?」 「さ~て…、どうだと思う?」 笑いながらそう返すジャンガの言葉を聞いて、ルイズは「別に」と言った。 答える気は無いと判断したのだ。流石に彼女も彼の扱いには慣れてきていた。 ジャンガは外したそれを背中に担ぐと歩き出した。 「オラ、行くぞ?」 「あっ!? ちょっと、待ちなさいよ!」 さっさと行ってしまうジャンガの後を、ルイズ達は慌てて追いかけた。 乗る予定の艦は直ぐ見つかったが、その直後に護衛の兵を伴った将校に出迎えられた。 「クリューズレイと言います。ミス・ヴァリエールは何方でしょうか?」 「あ、わたしですけど?」 ルイズが名乗り出ると将校はルイズと使い魔であるジャンガのみを別の艦へと案内した。 案内された艦は『ヴュセンタール』号と言った。竜騎士隊の運用に特化された艦である。 「あの…わたし達はどうしてここに?」 ルイズが気になって尋ねたが、士官は答えない。 迷路のような狭い艦内をジグザグに移動し、やがてとあるドアの前で止まった。 士官がノックをすると中から入室を促す声が聞こえてきた。士官はドアを開け、二人を中に入れた。 随分と広々とした部屋だった。大きなテーブルが中央にあり、豪勢な衣装に身を包んだ将軍達が席に座っている。 従兵が席を勧め、ルイズはその席へと座り、ジャンガは隣の席に無遠慮に腰掛ける。 当然、将軍達は苦々しい表情でジャンガを睨み付けて怒鳴ったが、当の本人はまるで意に介さない。 少しは空気を読んで欲しい、とルイズはため息を吐く。 と、一番上座に腰掛けていた将軍が手を上げ、他の将軍達を宥めた。 その将軍はそのままルイズに視線を向ける。 「アルビオン侵攻軍総司令部へようこそ。ミス・”虚無”<ゼロ>。総司令官のド・ポワチエだ」 その言葉にルイズは緊張した。訳も解らず案内された先での総司令官といきなりの対面だ、無理も無い。 「こちらが参謀総長のウィンプフェン。そして、ゲルマニア軍司令官のハルデンベルグ侯爵だ」 紹介された二人の将軍が頷く。 それからド・ポワチエは会議室に集まった将軍や参謀達に、ルイズを紹介する。 「さて各々方、こちらが陛下直属の女官にして我々の切り札でもある”虚無”の担い手、ミス・ヴァリエールですぞ」 だが、会議室は盛り上がらない。未だ胡散臭そうにルイズと使い魔であるジャンガを見比べるばかりだ。 そんな将軍達にド・ポワチエは更に言葉を続ける。 「先のタルブでの戦いの折、敵の軍勢を食い止め、『レキシントン』号を落としたのは彼女達なのです」 その言葉に将軍達はようやく関心を持ったのか、表情を一変させてまじまじとルイズ達を見つめた。 ド・ポワチエは演技が混じった笑みを浮かべる。 「いきなり司令部に通されて驚いただろう? いやすまん。この艦が旗艦だと言うのは極秘なのだ。 見て解るだろうが、何しろ竜騎士を搭載する事に特化した艦でな、大砲も積んどらん。 敵にバレて狙われては面倒な事になるからな」 「は、はぁ……、しかし、どうしてそのような艦を総司令部にしたのですか?」 「ンな事も解らねェのかよ?」 将軍達が答える前にジャンガが口を開く。 ルイズはジト目で睨んだ。 「解らないから聞いてるんだけど?」 ハァ~、と大仰な仕草でジャンガはため息を吐いてみせる。ルイズはカチンときたが、あえて何も言わなかった。 「戦艦は戦闘のために大砲やら、火薬やら武器を積まなきゃならねェだろが? ンな物でごちゃごちゃしてる船にこんな広い部屋は用意出来ねェ。 だから、そう言った物が無い船が選ばれんだよ……解ったかよ?」 「良く解る説明ありがとう」 ルイズは殆ど棒読みの口調で、形だけの礼を言った。 「雑談はその位にして、軍議を続けましょう」 ゲルマニアの将軍の言葉に会議室から笑い声が消えた。 率直に言ってしまえば、二人が――正確にはルイズ<虚無>が――呼ばれたのは、アルビオン侵攻の助力を頼むためだ。 アルビオンへと連合軍六万の兵を無傷で上陸させる為には、二つの障害が在る。 一つは未だ有力なアルビオン艦隊。 先だってのタルブ戦役でレキシントン号を落としたが、その数はまだ四十隻以上を残しているようだ。 対する連合軍はトリステイン・ゲルマニアを合わせて六十隻ほどの戦列艦を保有しているが、 指揮系統の違いなどで混乱が予測されており、数の差は無くなってしまうかもしれないのだ。 もう一つは上陸地点の選定。 アルビオン大陸で六万の兵を降ろせる要地の候補は二つ。 首都ロンディニウムの南部に位置する空軍基地ロサイスと、北部の港のダータルネスだ。 港湾設備の規模から、ロサイス上陸が連合軍にとっては望ましい。 しかし、真っ直ぐそこへ向かっては敵にその意図を教えているようなもの。 迎撃の準備と対策を立てる時間を相手に与えてしまう事になるのは間違いない。 ここで消耗してはアルビオン首都ロンディニウムを落とす事は叶わず、陛下の救出すら不可能となってしまう。 冷静に戦力を分析しながら一同に告げる参謀長の言葉に、将軍達は揃って難しい表情を浮かべた。 連合軍にとって今必要なのは奇襲である。 敵の抵抗を受けずに六万の兵を無傷でロサイスへと上陸させたいのだ。 その為には敵軍に連合軍が『ダータルネスへと上陸する』と思わせ、そこへ吸引するしかなかった。 敵の艦隊とロサイスへの無傷での上陸、この二つが現在総司令部が抱える問題だった。 「どちらかに”虚無”殿の協力を得られないだろうか?」 参謀の一人がルイズを見ながら言った。 「タルブの戦の時と同様に敵の艦隊を吹き飛ばせないだろうか?」 「それは無理です。あれほどの『エクスプロージョン』を放つには、余程の精神力が溜まっていないと不可能です。 精神力が溜まるのも、あと何ヶ月、何年掛かるか…」 参謀達は、やれやれ、と首を振った。 「そんな不確かな”兵器”は切り札とは言わん」 直後、その参謀は背筋が震えるような感覚に襲われた。誰かの鋭い視線を感じたのだ。 その視線を感じる方へ目を向け、参謀は息を呑んだ。 ――”虚無”が自分を見つめていた。 その目は細められ、冷ややかな視線を此方へと投げかけている。 まるで獲物であるカエルを睨み付けるヘビのような、殺し屋のように冷たい視線だ。 その身体からは冷たいオーラの様な物も漂っている。 ルイズはその参謀を静かに見つめながら口を開く。 「お言葉ですが、わたしは”虚無”の担い手であるだけで”兵器”などではありません。 陛下直属の女官であるラ・ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。 わたしがこの場にいるのは、大恩在るアンリエッタ女王をお救いする事に、陛下直属の女官として”協力”する為。 そのわたしを”兵器”呼ばわりする事は、わたしのみならず、ラ・ヴァリエール家、そして陛下に対する侮辱となります」 ルイズの視線の冷たさが増す。 「故に、軽々しい発言はどうか慎んでください。そして…わたしは”虚無”ではなく、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールですので、ご了承の程をお願いします」 参謀は小さく頷くと、椅子の背凭れに倒れ込むようにして寄り掛かった。 ルイズはそんな参謀の様子に小さくため息を吐いた。 そんなルイズの様子を見ながらジャンガは含み笑いをする。 (キキキ…こいつも少しは出来るようになったじゃネェか? 中々の殺気だゼ) 自分の影響であるのだが、そんな事を気にしたりはしない…寧ろ楽しんでいるジャンガだった。 場を取り成すかのようにド・ポワチエが口を開く。 「艦隊の方は我々が引き受けよう。きょ――いや、ミス・ヴァリエールには敵の陽動を引き受けてもらいたい」 ”虚無”殿と言い掛けて、ルイズの冷たい視線を感じたド・ポワチエは、慌てて言いつくろった。 「陽動とは?」 ルイズの言葉にド・ポワチエは誤魔化すように咳払いをする。 「先程議題に上がったとおりの事だ。我々がロサイスではなく『ダータルネスに上陸する』と敵に思い込ませてほしい。 伝説の”虚無”ならばそれ位の事が出来る呪文はあるのではないかね、ミス・ヴァリエール?」 ルイズは暫し考え込む。 敵に自分達が全く別の場所へと居るかの様に思い込ませる呪文――そんな物が在るだろうか? そう言えば”ディスペル・マジック”を覚えた時、デルフリンガーが言っていた。”必要があれば読める”と…。 ルイズは頷き、顔を上げる。 「解りました。作戦までには使用できる呪文を探しておきますわ」 おお頼もしい、と微笑むド・ポワチエ。…相変わらず演技の混じった笑みだ。 それで用が無くなったのか、二人は退室を促された。 「ホント…嫌な感じだったわ」 自分達が乗る艦へと戻ったルイズは開口一番、そんな感想を口にした。 広々とした部屋の中には彼女とジャンガ、再度合流したタバサ、キュルケ、モンモランシーが居る。 「ま、軍人なんてそんなものよ。戦争にどうやって勝つとか、勝ったらどうするかしか頭に無いんだし。 その総司令官の将軍も、結局は自分の出世の事しか頭に無かったりするんじゃないかしら?」 爪の手入れをしながら、つまらなそうにキュルケは言う。 忠誠心に疎いゲルマニアの貴族だからこその発言だった。 当の本人を見て来たルイズも頷き、同意する。 そんな二人のやりとりを欠伸をしながら見ていたジャンガは、ふと窓の外をボーっと眺めているモンモランシーに気付いた。 「ヨォ、どうしたドリル頭?」 「何よ?」 「オイオイ、心配して声を掛けてやったってのに、冷てェな…キキキ」 「あんたに心配される必要はないわ」 「キキキ。ま、それはともかくだ…」 窓の外を覗き込む。空を行く数多くの艦隊が視界に飛び込んでくる。 ルイズとジャンガが艦へと戻った直ぐ後、連合軍艦隊はラ・ロシェールを出港したのだった。 ジャンガはそれらの艦隊を暫し眺め、モンモランシーを振り返る。 「あの気障ガキが心配だったんだろ?」 「……さぁ、どうかしら?」 モンモランシーはそっぽを向く。しかし、その頬が僅かに染まっているのをジャンガは見逃さない。 顔を近づけ、小さな声で耳打ちする。 「そんなに連れなくすんじゃねェよ…。折角、寂しがってると思って連れて来てやったんだからよ」 「う、うるさいわね。わたしは寂しがってなんかいないわ。あいつなら心配ないんだし」 「そりゃまた、信頼してるじゃねェか?」 「ギーシュはこんな事で死なないわよ。あんたと決闘してからも何だかんだで生き残ってる位だし」 「キキキキキ、違ェねェ。テメェのようなバカみたいに付き添う女、ほっぽりだして死ぬほどバカな事もないしヨォ~」 ちょっと引っかかる物言いだったが、モンモランシーは反論を飲み込んだ。 「それよりも…、ねぇ何か考える事が在るんじゃないの?」 無理やりに話題変換を試みてモンモランシーはルイズに声を掛ける。 ルイズは困った表情を浮かべる。 連合軍六万を無事にロサイスへと上陸させる為には、『ダータルネスに上陸する』と敵に思い込ませる必要がある。 さてさて、どういった手段が有効なのか皆目見当もつかない。 これが人間とかならば精巧なゴーレムでも作って身代わりに出来るのだが、今必要なのは艦隊だ。 艦隊の偽者などどうやって用意すればいい? ”虚無”でもそのような事が可能な呪文があるかどうか…。 「立体映像でも使えりゃ簡単なんだがよ…」 ジャンガが呟いた。 「立体映像?」 気になったタバサが聞き返す。 「簡単に言えばな、人の姿や全く別の景色を空なんかに映し出す物だ。 俺のいた世界じゃそれほど珍しい物じゃないし、ガーレンの野郎もご大層な演説に使ってたからな。 まァ、ここにそんな物が在る訳ねェし…、無い物ねだりしても仕方ねェゼ」 「それよ」 ポツリとルイズが呟く。 ジャンガが怪訝な表情を浮かべる。 「それって何だ?」 「今あんたが言ったの! リッタイエイゾウとかってやつ!」 「だから、無ェって言っただろうが?」 「別にそれ自体を欲しいって言ってるわけじゃないわ。重要なのはそれがどう言う物かの説明よ」 ジャンガのみならず、その場の全員が首を傾げた。 そんな事は気にも留めず、ルイズは祈祷書を開いた。そんなルイズの行動にジャンガは眉を顰める。 「おい、どうしたんだよ? 説明が重要ってのはどう言う意味だ?」 「あんた、そのリッタイエイゾウとかって物の説明でこう言ったわよね。 ”人の姿や全く別の景色を空なんかに映し出す”って」 「ああ、そうだがよ。それがどうした?」 「それを聞いて思いついたのよ。何も陽動にゴーレムの様な傀儡を用意する必要は無いって事を。 ”それが居る”って解ればいいのよ、”視覚的”に」 「あン? そりゃまた…どう言う意味だ?」 ジャンガは聞き返すももうルイズは答えない。目を閉じて大きく深呼吸をした後、カッと目を見開いた。 精神を集中させながら、祈祷書のページを一枚一枚慎重に捲っていく。 そして、ついにあるページが光り出し、新たな呪文のルーンが現れた。 その呪文の内容を理解し、ルイズはしてやったりと言った感じで微笑んだ。 ――翌朝…、事態は急変する事になった…。 午前八時…朝の八点鐘が鳴り、戦列艦『レドウタブール』号での見張りが交代する時だった。 突如、砲撃の音が響き渡り、戦列艦の内の一隻が爆発、炎上して轟沈したのだ。 それだけではない…、虫の様な幻獣らしき物が艦隊のあちらこちらに突如として現れ、暴れ出したのだ。 突然の事に指揮系統は一気に混乱に陥ってしまった。 「チッ、何だってんだ…こんな朝っぱらからよ!?」 突然巻き起こった謎の襲撃による騒ぎで、ジャンガ達は就寝中の所を叩き起こされる事となった。 それに苛立ちながら、ジャンガは飛んで来た赤と緑の虫に爪を振り下ろす。 ガキン、と硬い物が砕かれる音がして、その虫は真っ二つに割られた状態で廊下に転がった。 その廊下に転がった物を見つめ、ルイズ達は怪訝な表情を浮かべる。 「虫……いや、生き物じゃないの?」 バチバチ、と音を立てながら火花を散らす、その虫の様な物はどう見ても生き物ではなかった。 よく見ると、どうやらそれは鉄などで出来ているらしかった。 『ガレンヴェスパ』――ガーレンが製造した赤い蜂の様な形をした小型メカ。 本来は同じガーレン製造の巨大メカ『バグポッドD』から射出される支援用の機体である。 装甲は薄いが、その速度は並みの飛行機械の比ではない。 大群で敵を取り囲み、その速度を活かした突進攻撃を得意としている。 『ガレンビートル』――ガーレンが製造した緑色の甲虫の様な形をした小型メカ。 『ガレンヴェスパ』同様、本来は『バグポッドD』から射出する支援用の機体である。 速度は若干劣るが、装甲は厚くなっている。 攻撃よりは捕獲に特化しており、ハサミの様な形状をした二本のマニピュレーターで敵を挟み込むようにして捕らえる。 「ガレンビートルにガレンヴェスパ…、あの野郎…大層な出迎えをしやがるゼ」 ジャンガは忌々しそうに舌打をし、部屋への中へと舞い戻る。 何をする気だ? とルイズ達が思う間も無く、ジャンガは部屋から再び出るや、廊下を駆け出した。 その肩には例の荷物が担がれている。 「ちょっと、どこへ行くのよ!?」 「外に決まってんだろうが!」 ルイズの叫び声にジャンガは止まらずに叫び声で返した。 荷物を抱えたままジャンガは甲板へと出た。 轟沈した艦から立ち上った黒煙は、まだ薄っすらと残っている。 艦隊のあちらこちらから悲鳴や魔法などの音が響いてくる。 無数に飛び交うガレンビートル、ガレンヴェスパの姿も確認できた。 そしてジャンガは鋭い視線で辺りを注意深く見回す。まるで何かを探すように…。 と、ようやくルイズ達が追いついて来た。 「も、もう…、勝手に走り出さないでよね!?」 「……」 「ちょっと! 聞いてるの!?」 「…静かにしろ」 「え?」 真剣な表情で周囲を見回しているジャンガにルイズは何かを感じた。 「…一体どうしたってのよ?」 「敵艦を探してるんだよ」 「敵艦?」 言われてルイズ達は周囲を見回す。 しかし、周囲に見えるのは見方の艦隊ばかりだ。 「そんなもの…何処にも見当たらないじゃない?」 「…いや、居る」 「居るって言っても…」 「ガレンビートルとガレンヴェスパ……どちらも航続距離はそれほど長くは無いはずなんだよ。 だってのに、こんな空のど真ん中にあれは居た。って事はだ…考えられるのは一つだけだ」 ジャンガの言葉にタバサが答えた。 「何かによってここまで運ばれた?」 「ああ。それに、あれだけの数となればそれなりの大きさの物だろうゼ。 加えて、先程の艦の轟沈の際には砲撃音も聞こえた。だから探してるんだよ…」 言いながらジャンガは周囲に視線を向ける。 やはり敵艦は陰も形も無い…が、何か違和感はあった。 (何処だ?) 違和感の在る場所を特定するべく、神経を集中させる。 ――砲撃音が再度響き、数隻が炎に包まれた。 「そこか!!!?」 叫ぶや、ジャンガは担いだ荷物を包んだ布を取り去る。 その下から現れた物を見てルイズ達は驚きの表情を浮かべた。 「あんたそれって…『破壊の箱』じゃないの!?」 それは『土くれのフーケ』によって盗まれ、それの操るゴーレムを撃退する為に自分が使用した『破壊の箱』だった。 確か、これは使い捨てとかジャンガ本人が言っていたはずだが…。 「それ…使えるの?」 「その為にあいつの研究室使わせてもらったんだよ」 言いながらジャンガは『破壊の箱』…否、『ミサイルポッド』を構える。 新たに取り付けた照準機を覗き込みながら、砲身を艦隊の前方へと向ける。 その狙いが何も無い空へ向けていられる事に気が付き、ルイズはジャンガに言った。 「ちょっと、そっちには何も無いじゃないの!?」 「黙って見てろ…」 そう言ってジャンガは集中する。 何も無い空の一点…、そこに照準を合わせ、引き金を引いた。 発射音が響き渡り、四発のミサイルが飛ぶ。 夕べコルベールの研究室で即席で作った物だが、出来は上場だ。 勢いよく飛び出したミサイルは数百メイルの距離を一気に突き進み――消えた。 「え?」 ミサイルが唐突に掻き消えたのを見て、ルイズは目を見開く。他の皆も同様だ。 ジャンガだけはニヤリと笑う。 「なるほどな…、そう言う事か」 そう呟いた瞬間、凄まじい爆発音が響き渡った。 直後、水滴が落ちて波紋が広がる水面のように、前方の空が震える。 その震えは徐々に強くなり、完全に歪んでしまった。 やがて震えが治まった時、前方にはそれまで無かった物が姿を現していた。 「どう言う事…?」 ルイズは呆然と呟く。それは全員の意見でもあった。 ――距離にして三百メイルも無い所に、三十隻以上の敵艦隊の姿が在った。 殆ど目と鼻の先に敵艦隊が突如姿を現した為、味方艦隊のあちらこちらから驚きの声が上がった。 ジャンガはミサイルポッドを肩から下ろし、床に置いた。 そこへルイズ達が声を掛けてくる。 「ね、ねぇ、あれってどう言う事!? いきなり艦隊が現れたわよ!?」 「どう言う事ってよ……昨日言ったやつの応用だ」 そのジャンガの言葉にタバサは口を開く。 「立体映像」 「え? じゃあ何…、あの艦隊は偽者だとでも言うの!?」 ルイズの言葉にジャンガは首を振る。 「…ちと違う。あれ自体は本物だ。その証拠に、今撃ったミサイルで燃えた艦が一隻落下して言ってるだろうが」 確かに、炎上する艦が一隻落下していったのが見えた。 その艦を一瞥してジャンガは言葉を続ける。 「ようするにだ、今の艦には立体映像の装置が積んであったんだよ。 艦隊の前方で、自分達の目の前の広い範囲に何も無い空の映像を映し出し、艦隊の姿を隠してたって訳だ」 「こんな近くにまで接近されても気付かれないなんて…」 とんでもない戦略性の高さだ。 これだけの距離で不意打ちを食らっては、味方はそうそう体勢を立て直す事は出来ない。 敵艦隊からは砲撃が繰り返され、次々と例の虫型のガーゴイルと思しき物が飛んで来る。 ジャンガは舌打し、ルイズを振り返る。 「オイ! 例の呪文は上手く使えんのか!?」 「え? ええ…、いけるわよ。でも…敵の艦隊が邪魔をしているじゃない?」 確かに、ダータルネスに行こうにも敵艦隊に道を塞がれている。 ジャンガは続けてタバサを振り返る。 「タバサ、シルフィードだ!」 「解った」 二つ返事で口笛を吹く。甲板に即席で建てられていた竜舎からシルフィードが出て来た。 キュルケがジャンガに尋ねる。 「どうする気なの?」 「そんなもん決まってる。道を作ってやる」 「道って……あなたまさか!?」 驚くキュルケの顔を見ながらジャンガはニヤリと笑う。 「ちょっと正気!? あの艦隊の中にシルフィードだけで飛び込んだら、ただじゃすまないわよ!?」 「んな事は百も承知だ。それに…別にあの艦全部を沈める気も無ェ」 「じゃあ、どうする気なのよ?」 聞き返すモンモランシーの言葉に、ジャンガは艦隊を見つめる。 艦隊の一番奥、一隻だけポツンと孤立するような形の艦が在った。 「”頭”をぶん殴るだけだ」 「頭?」 「あの艦隊を指揮している旗艦…人体で言う所の頭を潰す。手や足を潰しても、痛みを我慢して仕掛けてきたりもするが、 頭はそうは行かねェ。完全に潰せば動かなくなるし、ぶん殴っただけでも効果はある」 そしてジャンガはタバサに続き、やって来たシルフィードの背に乗った。 ルイズは慌てた。 「ちょ、ちょっと!?」 「俺とタバサで頭をやる。身体の動きが止まったら、テメェはダータルネスに向かって虚無ぶっ放せ」 「どうやって行けばいいのよ!?」 「シルフィードだけ戻す。テメェはただ、艦隊の動きが鈍った所で飛び出せばいいんだよ! やれ、タバサ!」 「解った。シルフィード、行って」 「きゅい!」 ジャンガとタバサを背に乗せたシルフィードは一声鳴き、甲板から勢い良く飛び立った。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6689.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 『アンドバリ』の指輪で蘇ったアルビオン騎士たちの数は、十人ほど。 対するこちらは総勢六名。 決して巻き返せないほどの戦力差ではなかったが、こちらの陣営と敵とでは決定的な違いが一つだけあった。 「ううっ、攻撃してもすぐ傷が塞がって……!」 「向こうも精神力を節約するみたいだから、あんまり大きな攻撃はしてこないみたいだけど……このままじゃジリ貧よ!?」 自分たちは生きているが、敵は既に死んでいるという点である。 しかも、いくら傷つけようがその傷はあっという間に再生してしまうのだ。 つまり攻撃しても意味はなく、また攻撃したとしても敵はそれに対して防御や回避を行う必要がない。 ルイズが爆発を炸裂させようが、ユーゼスが剣で斬りかかろうが、タバサが氷の矢で貫こうが、ギーシュがワルキューレで殴りつけようが、『アンドバリ』の指輪の効力によって動いているメイジたちは構わず攻撃を仕掛けてくる。 ……と、そこでキュルケの放った炎弾が敵に直撃し、その相手を燃やし尽くした。 一同は『どうせまた再生するのだろう』などと思いつつその光景を眺めていたが……。 「再生……しない!?」 「ってことは、炎が効くのね! なんだ、燃やせば良いんだわ!!」 『水』系統のマジックアイテムの力によって動いている彼らに、それと相反する属性の『火』をぶつければ、その効力を相殺することが出来るということだろうか。 とにかく効果的な攻撃手段を発見した一同は、キュルケを中心とした陣形に切り替えた。 この戦法に対してルイズは微妙に、エレオノールは非常に不機嫌な様子であったが、今はいちいち家の問題を持ち込んでいる場合ではないことも分かっていたので、二人は黙って援護を行っている。 しかし、そのキュルケの炎による攻撃で敵メイジを三人ほど倒した時点で、敵は魔法の射程から一気に離れた。 どうやら体勢を立て直すつもりらしい。 「このまま、少しずつ炎で燃やしていけば……勝てるかもね」 キュルケが呟く。 そのまま両陣営はジリジリと睨み合いを続けていたが……。 「……?」 それに最初に気付いたのは、タバサだった。 ぽつぽつと、頬に水の雫が当たっている。 「!」 さすがにこの状況で『この現象』は不味い、とタバサは彼女にしては珍しく焦った表情で空を見上げる。 ―――その数秒後、雨が降り出した。 雨はすぐに本降りになり、この場にいる人間たちに降り注いでいく。 「杖を捨てて! あなたたちを殺したくない!!」 「……姫さまこそ、いい加減に目を覚ましてください!! ただ盲従するだけの愛なんて、そんなのは愛でも何でもありません!!」 ルイズが叫んでアンリエッタに呼びかけるが、その訴えは降り続く雨音によって打ち消されてしまう。 「見てごらんなさい! 雨よ! 雨!! 雨の中で『水』に勝てると思っているの!? この雨のおかげで、私たちの勝利は動かなくなったわ!!」 「ぐ……」 それは確かに、その通りだった。 アンリエッタはトライアングルの水メイジである。 これだけ激しく雨が降っていれば、材料の水などほぼ無尽蔵に用意されているようなものだ。 『大量の水によるバックアップがある水メイジの優位さ』は、奇しくもラグドリアン湖の戦闘によるモンモランシーの活躍によって証明されている。 ドットのモンモランシーでさえあれだけの力を発揮出来たのだから、トライアングルのアンリエッタならば自分たちをまとめて圧倒出来てもおかしくはないだろう。 そしてこちらには、水メイジなど一人もいない。 火を使って相手を焼こうにも、雨の中では役立たずである。 「……っ、打つ手なしなの……?」 苦しそうな表情と声で呟くルイズ。 だが。 「…………いや、そうでもないだろう」 これまでほとんど『敵を観察する』ことに集中していた銀髪の使い魔の呟きによって、その顔はパッと明るくなるのだった。 ルイズは期待を込めた瞳でユーゼスを見る。 「対処法を考え付いたのね、ユーゼス?」 「対処法……と言うよりは、相変わらずの『その場しのぎ』でしかないがな。いつも通り、根本的な解決にはなっていないぞ」 「それでもいいわ、とにかく言いなさい!」 もったいぶっている暇などはない、と言わんばかりの強い口調で早急な説明を要求するルイズ。 ユーゼスはそれに頷くと、自分が考案した『対処法』についての簡単な説明を始めた。 「了解した。……それでは、ミス・ヴァリエールとミスタ・グラモンに働いてもらうぞ」 「え?」 「……私たちが?」 ボソボソと何かを相談し始めたルイズたちを見て、アンリエッタは不安に襲われる。 「何を話しているのかしら……?」 おそらく撤退するか、しないかの相談だと思うのだが……。 ……いや、そうであってくれなくては困る。 もし彼らが、この状況にあってもなお自分たちに敵対すると言うのなら……もう、殺すしかなくなってしまうからだ。 いや、何も殺さずとも、最低でも脚か腕のどちらかは失ってもらうことになるだろう。 いずれにせよ、これ以上ルイズたちとは戦いたくない。 戦いたくはないが、立ちはだかる障害とは戦わなくてはならない。 自分の愛を貫くために。 「……………」 そして、ルイズたちは行動を起こした。 金色の巻き髪の少年と、長い金髪に眼鏡をかけた女性が、両人とも緊張した面持ちではあるが前に出る。 どうやら、彼らは撤退ではなく戦いを選んだらしい。 「っ……」 こうなったら、仕方がない。 アンリエッタは杖を振り、メイジたちに水の鎧をまとわせようとする。 だが、その直前……。 「!」 ズ、と味方のメイジの内の一人が立っている地点の土がうごめき、隆起していった。 一体何が……と確認する間もなく、隆起した土のカタマリは味方のメイジの全身をスッポリと飲み込んでいく。 「土で動きを封じた……?」 まあ、戦闘において土メイジがよく使う手ではある。 普通は動きを鈍らせたり足止めを行ったりするために、それこそ足のあたりにでも土を絡み付かせるものだが、完全に動きを封じるためにその規模を少々大きくしたのだろう。 しかしこの程度の土のカタマリなど、すぐに大量の水で洗い流すことが出来る。 不死身と化しているこのアルビオンの騎士たちならば、いちいち怪我をさせないように威力を加減する必要もなく、怒涛の勢いで一気にこの土を払うことが出来るだろう。 そう思って、アンリエッタはあらためて水魔法を唱えようとするが……。 次の瞬間。 その土のカタマリは、一つの巨大な岩に変化した。 「……ラグドリアン湖の時にも思ったんだけど、どうしてこうアンタは非人道的って言うか、えげつないって言うか、情け容赦のない魔法の使い方を考え付くのよ?」 「私に言わせれば、今までこのような魔法の使われ方が成されていなかったことの方が疑問だがな」 「貴族の戦いは、誇りを持って行われるべきなのよ。だからこういう……まあ、邪道な戦い方は、普通しないわ」 「そういうものか」 反撃として飛んで来る魔法をデルフリンガーで吸収しつつ、ユーゼスはルイズと会話を行う。 ルイズが使える魔法は取りあえず『エクスプロージョン』だけで防御に転用出来るものがないので、こうしてユーゼスがガードしているのである。 『エクスプロージョン』もやりようによっては防御に転用が出来るのではないか……とユーゼスは考えているのだが、それを考案している暇も、その防御方法を練習させる暇も、今はない。 「それにしても、まさか『倒さない』ことを選ぶなんて……」 「あのような敵とは、マトモに戦おうとするだけ無駄だ」 ユーゼスが一同に説明した『対処法』は、割と単純である。 まず土メイジのギーシュが、敵メイジを大量の土で包む。 続いて、同じく土メイジのエレオノールが、その大量の土に『錬金』をかけて石(と言うか、岩)に変える。 他のメンバーは敵メイジを封じた岩を壊されないように、また敵の動きを止めるべく援護と牽制を行う。 これだけだ。 「『あのような敵』? ああいうのと戦ったことがあるの?」 「実際に戦ったことはないが、自己再生を行うモノならば心当たりがあってな。それへの対処法を元に考え付いた」 自己再生を行うモノへの対処法は、大きく分けて四つである。 一つ目は、再生速度を上回る圧倒的な大火力で、破壊し尽くす。 二つ目は、エネルギー源……コアを破壊、もしくは抜き出す。 三つ目は、動きを封じて、身動きを取れなくする。 そして最後に、どこか手の届かない遠くに放り出す。 ユーゼスはこの中で、最も現実的な方法を選択したに過ぎない。 「まあ、今更いちいちアンタの過去を詮索するつもりはないけど……」 ―――この男は自分に召喚される以前には、一体どこで何をしていたというのだろうか。 もう何度目になるのか分からない問いを、ルイズは心の中で呟く。 (コイツがたまに言う『経験』とか『心当たり』とかって、少なくともハルケギニアでのことじゃないのよね……) 知りたい、という思いはある。 だが、そう軽々しく聞いてしまって良いものか、というためらいがある。 そして……あの夢が脳裏をよぎる。 もしアレが、自分の予想通りのものならば……。 「……む、予想より対応が早いな」 「えっ?」 ルイズが思考に没頭し始めた時点で、横からユーゼスの声が聞こえて正気に戻る。 見れば、敵メイジたちの周囲には分厚い水の壁が展開されていた。 どうやらアンリエッタが行ったらしい。 「これで『土で包む』ことは困難になったな。『単なる土』ならばともかく、水の混じった『泥』に対しては石に錬金することは難しい」 せっかく確立した敵への対抗手段が打ち破られつつあるというのに、ユーゼスは冷静だった。 「……それでは次善の策を打ち出すとするか。御主人様、任せた」 「…………普通は、主人が使い魔に指示を出すものなんだけど…………」 ぶつぶつと不満を言いつつ、ルイズは展開された水の壁に向かって『適当な魔法』を唱える。 『エクスプロージョン』をきちんと使おうとすると爆発自体は発生するのだが、術者であるルイズ自身が詠唱の途中で気絶してしまうため、いつもの『失敗魔法』による爆発を使った方が効率が良いのだ。 それに、何も水の壁を消滅させる必要はない。 ただ吹き飛ばすだけで十分だ。 「っ!!」 いつも通りのルイズの失敗魔法の結果として、爆発が発生する。 その爆発はアンリエッタが敵メイジに対して張った水の壁をバラバラに砕き、単なる水飛沫に変えてしまう。 「そんなことで……!」 アンリエッタは再び水の壁を展開しようとするが、それよりもユーゼスがタバサに指示を出す方が速かった。 「ミス・タバサ、打ち合わせ通りに」 「分かった」 すかさずタバサが前に出て、呪文の詠唱を始める。 次の瞬間、水の壁を吹き飛ばされた敵メイジの周囲の空気が動き始めた。 それを敵メイジが怪訝に思う間もなく、魔法の効果は現れる。 その効果とは……。 「!? 凍った!!?」 アンリエッタが驚きの声を上げた。 そして彼女が泡を食っている間に、次々と敵メイジたちに張った水の壁は爆散し、飛び散った飛沫は氷の棺となってアルビオンの騎士を閉じ込めていく。 「な、な……!?」 こんな戦い方、アンリエッタは見たことも聞いたこともない。 いや、これもそうだが、『土で包んでから石に錬金して閉じ込める』というのも、前代未聞な……少なくとも自分は知らない戦い方だ。 いったい、誰が考えたのだろうか。 ……いくら何でも、魔法学院の学生がこれを考案した、とは考えにくい。 ルイズの使い魔である平民。これもないだろう。平民が魔法の使い方について考えても意味がない。 ということは、消去法で残りの一人に絞られる。 (ルイズの姉君の……エレオノール殿が……?) ありえる話だ。 そもそも彼女は魔法の研究機関であるアカデミーの主席研究員である。 アカデミーは基本的に、そのような『効果的な魔法の使い方』だとか『魔法の応用方法』の研究はしないものなのだが……。 (独断で研究を始めたと言うの……?) そこまで考えて、しかし今はそんなことを考えている場合ではないと気付く。 アンリエッタにとっての味方のメイジたちは一人、また一人と氷付けにされていっているのだ。 「…………!!」 呪文の詠唱を開始する。 自分の精神力を総動員して、彼らを打ち倒すために。 と、その詠唱に重なるものがあった。 ウェールズの詠唱だ。 アンリエッタは思わずウェールズの方を向き、そしてウェールズもまたアンリエッタを見る。 二人は見つめ合い……アンリエッタの心は、その視線のやり取りだけで熱く潤み始めた。 間もなく、水で出来た竜巻がアンリエッタとウェールズの周囲に発生していく。 『水』、『水』、『水』。『風』、『風』、『風』。 水が三つと、風が三つ。 合計六乗の力は結集し、絡み合い、一つになっていく。 ……王家にのみ許された、ヘクサゴン・スペル。 直撃すれば人間どころか城壁ですら吹き飛ばすことが出来るだろうその攻撃を、アンリエッタは友と呼んでいたはずの少女に向かって放とうとしている。 時間は少々巻き戻る。 エレオノールは、不機嫌だった。 自分の魔法が、邪道的な使われ方をした……ということに対する不満は、もちろんある。 よりによって『錬金』で人間を固めるなど、まともな貴族は思いつかない。いや、思いついたとしても実行しようとはしない。 これが野に下った下賤な傭兵風情ならまだしも、由緒正しい貴族であるならば、正道かつ真っ当な使い方で魔法を行使するのが筋というものだろう。 アカデミーならば、こんな魔法の使い方は即座に『異端』のレッテルを貼られるはずだ。 (……でも、それはこの際、やむを得ないこととして……) しかし、今は生きるか死ぬかの瀬戸際でもあるのだから、この程度は大目に見よう。 発表など絶対に出来はしないだろうが、それでも『生き残るための手段』としてならば許容が出来ないこともない。 人間を氷で閉じ込めることについても同様だ。 ルイズの魔法で水の壁を吹き飛ばし、その飛び散った飛沫や振り続く雨粒を、タバサのラインスペルかトライアングルスペルの応用で氷に固める。 わざわざ水の壁を一度吹き飛ばしたのは、『まとまった形』で存在している水のカタマリよりも、バラバラに四散している状態の方が氷にしやすいためだ。 風メイジが水蒸気などを氷にするのと、それほど違いはない。 理屈としては、こんなところである。 いくら傷付けてもすぐに再生してしまうのでは、もう動きを止めるしかないのだから、こうするしかあるまい。 『雨が降っていて水が豊富にあるのだから、初めから土や石ではなくて氷で固めていれば』……とも思いはしたが、そうも行かない理由があった。 タバサにかかる負担が大き過ぎるのだ。 遠隔魔法……距離が離れている対象に向けて放つ魔法は、至近距離にある対象へのそれよりも精神力の消費が大きい。 最初に行った『土で包んで石に錬金する』の場合、『ギーシュが土で包んでエレオノールが石に錬金する』という役割分担が成されていたため、精神力の負担も分けることが出来ていた。 これはこの場に土メイジが二人いることで出来る分担だった。 しかし、一同の中では風メイジはタバサ一人しかおらず、補助としての水メイジも一人もいない。 その結果として、貴重な戦力であるトライアングルメイジのタバサを酷使することになってしまうのだ。 これでもし不測の事態が発生した場合、最悪タバサを欠いた状態で対応しなければならなくなる。 これは痛い。 (まあ、作戦って言うか、戦いの成り行きからすれば、仕方がないんだろうけど……) この場では最年長である自分が特に何もせず、学生に任せっきりという今の状態は、エレオノールとしては決して好ましくはない。 (それに……) トリステインの女王であるアンリエッタの乱心に対する、苛立ちもある。 同じ女としてその気持ちは分からないでも……いや、誰かを本気で好きになったことがないので実はあまりよく分からないが、とにかく全く分からないということはない。 だが、よりにもよって自分をさらって行ったはずの連中に協力して、救出に来たはずの自分たちに敵対することを選ぶとはどういうことだろうか。 そしてこの件とは直接関係がないが、降り続く雨によって全身がずぶ濡れになっている。 今の状況でこのことに対して文句を言う程に空気が読めないわけではないが、不満なことは不満なのだ。 (それとかは、取りあえず我慢が出来るんだけど……) …………そして、何より。 「前に出過ぎだ。少し下がれ、御主人様」 「これだけ暗いんだから、前に出ないと位置がよく分かんないでしょ!」 「そう動かれては守れんぞ」 「そこを何とか守り切るのが、本来のアンタの仕事でしょうが!」 (…………っ) 『ユーゼスがルイズを守っている』、ということが不機嫌の最大の理由であった。 いや、別にそのことが問題であるというわけではない。 むしろ理屈の上では正しい。 使い魔が主人のことを守るのは当然であり、ごく自然なことだ。 何の不都合も不自然な点もないし、違和感なども感じない。 妹とその使い魔は、当たり前のことを当たり前に行っているだけである。 ……だが、だからこそ面白くない。 その『当たり前である』ということ自体が、不愉快なのである。 って言うか、何なのよ? キスしたってのに、その素っ気なさは何よ? まあ、アレは厳密に言うとキスとは少し違うけど、それでも、こう……何て言うか、もう少し気恥ずかしさとかを感じてくれても良いんじゃないの? お……おまけに……仮にも、い、い、い、一緒のベッドで寝たくせに。 何でそんなに平然としてるのよ? (これじゃ、意識してる私が馬鹿みたいじゃ……) と、そこまで考えた時点で、ふと気付く。 プラーナの口移しにせよ、一緒に寝たことにせよ。 …………よくよく思い返してみれば、どっちもこの自分からやったことではないか。 「そ、そんな……!!?」 カア、と顔から首にかけてが一瞬で熱くなっていく。 ここ数日はどうも色々とあり過ぎて、駆け足で過ぎ去ったようなものだったので、あらためてその出来事を振り返る暇もなかった。 しかし落ち着いて過去を回想してみれば、自分はかなりとんでもないことをやらかしている。 いや、どちらもそうせざるを得ない状況ではあったのだが、しかし……。 (それにしたって……もうちょっと、こう、あるでしょ? 普通なら!?) ふとした拍子に目と目が合って、お互いに『あっ……』となるとか。 お互いに対応がぎこちなくなって、妙に気まずくなるとか。 その……『行為』を思い出して、ボーっとするとか。 せめて、少しくらいは照れるとか。 まともに恋愛した経験などないのでほとんど想像の域を出ないのだが、エレオノールとしてはそういうのを少しは期待……ではなく、予想していたと言うのに。 (……何だか私、ないがしろにされてる気がするわ) 実際にはユーゼスはエレオノールだけではなく、主人であるルイズを含めた全ての人間に対して一線を引いた態度を取っているのだが、『不機嫌』というフィルターを通してユーゼスの行動を見ているエレオノールには、そう映らない。 何だか、自分とルイズの扱いに差があるように感じるのである。 「…………うぅ~」 小さく唸ったところで、この状況が変わるわけでも、ユーゼスの注意がこちらに向くわけでも、自分の機嫌が直るわけでもない。 しかし、どうしてもこう考えてしまう。 (もし、何かの歯車が一つか二つくらいズレてたら……) 今、ユーゼスに守られているのは自分だったかも知れない。 それを思うと、やはりエレオノールの不機嫌度はどんどん増していくのだった。 ……と、『敵への対抗手段』効果を上げたために生じた精神的余裕をエレオノールが最大限に活用していると、いきなり巨大な水の渦が発生し始めた。 さすがにこんな天災規模の攻撃を繰り出されては、優勢だった一同も慌てざるを得ない。 「さ、さすがに反則だろう、アレは!?」 「よし、逃げましょう!!」 「……多分、逃げ切れない。それにわたしたちが逃げ出したら、身動きの出来ないヒポグリフ隊の生き残りがアレに巻き込まれる」 「じゃ、じゃあ、こっちも魔法を使って、相殺して打ち消すってのはどうかね!?」 「あんなメチャクチャなのと互角の威力を持った魔法なんて、あるワケないでしょうが!」 ギーシュとキュルケとタバサがうろたえながら対抗策を模索するが、あのような規格外の攻撃に対してそう簡単に有効な対抗策を考え付くことは出来なかった。 「「「……………」」」 ならば、と三人は『有効な対抗策』を考え付いてくれそうなユーゼスに視線を向けるが……。 「……デルフリンガー、アレを吸収出来るか?」 「出来なくはねーが、厳しいな。俺にも一応は吸い込んだ魔法の許容範囲っつーか、耐久限界ってのがあるし。一応その魔法の力を消費することも出来るんだけど」 「その『溜め込んだ魔法を吐き出しながら、同時に吸収する』ということは可能か?」 「んー、やったことないから、分かんね」 「…………使えん防御装備だな」 「いやいや、俺は防御じゃなくって攻撃のための『武器』だよ!?」 どうやら、そうそう虫の良い話はないらしい。 はあ、と溜息を吐きながら、どんどん接近してくる水の竜巻を見るユーゼス。 もうこうなったら、空間転移を使って自分とエレオノールとルイズだけで逃げるというのも一つの手段なような気がしてきた。 他の三人は……まあ惜しい人材ではあるが、唯一無二の逸材というほどでもない。 後はエレオノールとルイズに対する言い訳だが、これは……アレだ、『無我夢中になってたら、自分の秘められた力が開花した』とでも言おう。 ドモン・カッシュが死の淵に立たされて、ようやく明鏡止水の境地に目覚めたようなものである。 そうと決まれば、行動開始だ。 ルイズは隣にいるので、早くエレオノールと合流しなければならない。 では御主人様の身体を抱えて、ミス・ヴァリエールのいる場所に向かおう……と思った瞬間、デルフリンガーが間の抜けた声を上げた。 「あー」 「む?」 「思い出した。アイツら、随分懐かしい魔法で動いてやがんなぁ……」 「どういう意味だ?」 いきなり意味深なことを言い出したデルフリンガーに向かって、ユーゼスは訝しげに問いかける。 「水の精霊を見た時、こう、なんか……背中のあたりがムズムズしたが……。いやユーゼス、忘れっぽくてごめん。でも安心しな、俺が思い出した」 「…………言ってみろ」 「アイツらと俺は、根っこは同じ魔法で動いてんのさ。とにかくお前らの四大系統とは根本から違う、『先住』の魔法さ。ブリミルもアレにゃあ苦労したもんだ」 「……………」 出来ればラグドリアン湖で水の精霊を見た瞬間に言って欲しいことだったが、とにかくユーゼスは黙ってデルフリンガーの言葉を聞く。 しかしその回りくどい言い回しに、横で話を聞いていたルイズが怒り始めた。 「何よ、伝説の剣! 言いたいことがあるんなら、さっさと言いなさいよ! 役立たずね!!」 まったくだ、とユーゼスは内心で主人の言葉に頷く。 デルフリンガーはそんな自分の持ち主の酷評にも気付かず、ルイズと会話を行う。 「役立たずはお前さんだ。……せっかくの『虚無』の担い手なのに、見てりゃあ馬鹿の一つ覚えみてえに『エクスプロージョン』の連発じゃねえか。 確かにそいつは強力だが、知っての通り精神力を激しく消耗する。今のお前さんじゃ、この前みてえにデッカイのは一年に一度撃てるか撃てねえかだ。今のまんまじゃ、花火と変わんねえよ」 (……そういうことは、もっと早く言え……) チッ、とユーゼスが舌打ちするが、雨音に掻き消されたのでデルフリンガーには聞こえていない。 「じゃあ、どーすんのよ!?」 「祈祷書のページをめくりな。ブリミルはいやはや、大したヤツだぜ。きちんと対策は練ってるはずさ」 言われた通り、ルイズは『始祖の祈祷書』のページを次々にめくっていく。 そして見つけた。 『ディスペル・マジック』という、ある意味では無敵の魔法を。 前ページ次ページラスボスだった使い魔