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日本煉瓦製造会社 現存…してるかな? すみません仮設で、なんかの役に立つかなって…なんのだろうね(セルフ突っ込み)。 主要建築物(契約先)一覧 1890年(明治23年) 1月(納期:1890年4月~91年3月) 裁判所(内務省土木局臨時建築局) 5月(納期:1890年9~12月) 海軍省・海軍大臣官房舎(内務省土木局臨時建築所)/19,720円/340万個 8月(納期:1890年11月) (清水店)/3,997円/78万個 10月(納期:1890年11月) (土木会社)/2,725円/50万個 10月(納期:1890年11月) (清水店)/2,900円/50万個 1891年(明治24年) 1月 海軍省(内務省土木局臨時建築掛)//20万個 1月(納期:1890年3~4月) (清水店)/1,920円/35万個 2月(納期:1891年4月~92年1月) 碓氷隧道工事(鉄道庁)/44,054円/500万個 5月(納期:1891年6~11月) 司法省(内務省土木局臨時建築掛)/1,999円/14万個 6月 日本銀行/1,773円/24万個 7月 東京府庁舎(東京市参事会、東京府知事)/2,620円/29万個 8月 東京府庁舎(東京府知事)/10,749円/224万個 10月(納期:1892年4~10月) 裁判所(内務省土木局臨時建築掛)/3,277円/20万個 12月(納期:1892年1~6月) 碓氷隧道工事(鉄道庁)/66,075円/750万個 1892年(明治25年) 1月(納期:1892年2~6月) 海軍省(内務省土木局臨時建築掛)/1,988円/15万個 3月(納期:1892年4~11月) 司法省(内務省土木局臨時建築掛)/4,932円/28万個 4月(納期:1892年7~10月) 巣鴨監獄署(警視庁監獄署) 5月 日本銀行/7,800円/100万個 1893年(明治26年) 2月 東京市淀橋浄水場(東京市参事会、東京府知事) 3月(納期:1893年4~11月) 裁判所(内務省土木局臨時建築掛)/3,147円/50万個 6月(納期:1893年6月) 日本銀行/900円/20万個 11月(納期:1893年11月~94年9月) 東京市淀橋浄水場(東京市参事会、東京府知事) 12月(納期:1894年2~6月) 三菱社/4,895円/110万個 「産業革命期の地域交通と輸送」鉄道史叢書6、老川慶喜、288p
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ホワイトタイルの静謐な廊下に靴音が響いている。 1人の男が廊下を進む。決して急がず、されどゆっくりでもなく。 銀の長髪が揺れる。実年齢より20は若く見られる端正な顔立ちに表情は無い。 彼の名はヴェルパール・エルドギーア。このライングラント王国の貴族…公爵である。 その彼の歩いている廊下は、彼のオフィスのあるクリスタルタワーの地下だ。 地下三階、タワーの最下層。 ここは公式の記録には存在しない事になっている階層。 ここを訪れる者は、公爵とその配下のほんの数名のみである。 そして公爵はある部屋の扉の前でその足を止めた。 「…私だ、入るぞ」 扉の内側へ向け、そう声を掛けると返答を待たずに公爵が扉を開いて部屋の中に入る。 明かりの無い闇に包まれた部屋に、廊下の明かりが射した。 「この様な場所に、主自らがおいで下さらずとも人をお寄越し下されば私から参上致しましたものを…」 暗い部屋の中央から男の声が聞こえる。 近代的な造りの廊下とは打って変わって、部屋の中はごつごつとした黒灰色の石煉瓦に覆われた中世的で無骨な造りをしていた。 家具の類は一切無く、部屋の中央にはただ1人の男が胡坐をかいて瞑想していた。 「久しいな、マニよ」 公爵が男に声を掛ける。 マニと呼ばれた男が胡坐を解く。 長身が闇の中にゆらりと立ち上がり、灰色の長髪が外光を弾いた。 褐色の肌の痩せこけた男だった。 「して、いかなる御用事でありましょうや」 落ち着いた静かな声でマニが公爵に問う。 「上へ…戻りながら話す。お前の手を借りたいのだ」 親指で上階を指し示しながらそう公爵が答えた。 そして彼らは廊下を戻る。 足音は相変わらず1人分。素足のマニはまったく足音を立てない。 「…成る程、まさかその様な事になっていようとは」 ここ暫くの公爵の配下の者たちと、その敵対者との戦闘の様子を聞かされたマニが目を閉じる。 「もっと早くにお声掛け頂いておりましたら、主のご心痛如何程か和らげてさしあげられましたものを…」 静かにそう言う部下に、公爵がフフ、と苦笑する。 「そう言うな、マニよ。まさかお前に出てもらう程の事態になるとは読めなかったのだ。私にとっては『勝負』とは、如何にお前を出さずして障害を排除できるかという事だ。その意味では連中との勝負に私は敗れたと言えるな。何せ…」 色眼鏡の奥の瞳が細められる。そこにマニの姿を映して。 「…お前が出ればそれで全ては終わってしまうのだからな」 「自分はその様に大した者ではありません」 ゆっくりと俯き気味に首を横に振るマニ。 「ですが…」 マニが目を開く。その瞳に鉄の意志が揺れる。 「主の害となる者は、身命を賭してこの拳で打ち砕いて参りましょう」 マニのその言葉に、公爵は満足そうに口元に笑みを浮かべた。 「お前に限っては万一という事もあるまいが、それでも相手はバロック兄弟を葬り去るほどの腕前。くれぐれもぬかるなよ」 「ユーディス・バロックに私が施した武術はほんのさわり、基礎の部分にございます。しかしそれでも、あれを破る事は生半な戦士ではできますまい。…あれを『夜間に破ったとなれば』…日中の私では必勝をお約束できませぬ」 自らの技…その真似事の様な物を伝えたユーディスを思い出してマニが言う。 「『眷属』としての力を最大限に発揮できる夜間にて…確実に葬り去って参りましょう」 ゆらりと全身から殺意のオーラを立ち昇らせて、公爵配下最強の刺客が宣言した。 良く晴れた昼下がり。 サーラ達の暮す屋敷では勇吹が電話の最中だった。 『…まったくさぁ、世界の果てから死ぬ思いして戻ってみれば待っててくれてる筈の相方は店閉めてどっか行っちゃってるんだもんねぇ』 受話器の向こうから恨みがましく響くハスキーボイスに、勇吹はあはは、と苦笑した。 「だからゴメンってば…ちょっとこっちも色々タイヘンでね」 『タイヘン~…?』 受話器から聞こえてくる声のトーンが下がった。 『へぇ~…あの勇吹店長サマが、お店より大事な御用事ってのは果たしてどんなもんなのかすっごい興味があるねぇ…』 声だけでジロリと自分を睨み付けているキリエッタの半眼が想像できるようである。勇吹は思わず、う、と言葉に詰まった。 「あ、あの…それは…」 『旦那だろ』 しどろもどろになる勇吹の言葉をピシャリとキリエッタが遮った。 『…そこにリューの旦那がいるんだろ! わかってるんだからね!』 「な、何言ってんのよ!! リューなんかいないってば!! あんなツルッパゲ!!!」 必死に受話器に向かってまくし立てている勇吹の背後では、居間のソファに腰掛けてコーヒーカップを手にしているリューが 「ハゲた覚えはないがな」 と、静かに呟いていた。 「…で、お店は? 開けてくれてるの?」 自らを落ち着かせるようにコホン、と1つ咳払いをして勇吹が言葉を続ける。 『まあね。チャーハンと野菜炒めとギョウザだけでどうにかやってるよ』 「何でよ。あなたにだって一通りラーメン作り教え込んであるんだから、ラーメンも出せばいいじゃない」 不思議そうに勇吹がそう言うと、受話器の向こうからははぁ、と深いため息が聞こえてきた。 『馬鹿をお言いでないよ。アンタの味を知ってる客相手にアタシの作ったラーメンなんか出せるわけないだろ?』 「考えすぎよそんなの。味が違うのが作り手の個性じゃない」 口を尖らせて言う勇吹。 今度は受話器の向こうのキリエッタが苦笑している。 『ま、アタシも湯切りで窓ガラス割れるようになったら考えるよ。…アンタも旦那を連れに行ったんなら、とっとと連れて戻っておいで』 笑いを含んだ声で言うキリエッタ。 「だ、だから違うって言ってるでしょ!!!!」 『心配しなくたって、アタシは2人の邪魔をする気サラサラないから安心おし。何なら旦那が来たらアタシは外に部屋を借りたって…』 「…ふがーッッッ!!!!!!」 バガン!!!!!!!! 「…あ」 バラバラに砕け散った電話機の前でハッと我に返る勇吹。 「ご、ごめん…後で新しいの買ってくるから…」 申し訳無さそうに小声で勇吹がリューに言う。 「キリエッタ・ナウシズか」 それには答えずにリューが勇吹に言った。電話の相手の事だろう。 勇吹がうん、と肯く。 そして勇吹はぷりぷりと怒りながら 「まったくもう、アイツがつまんない事言って私をからかうから電話機の人がお亡くなりになるのよ…」 とブツブツ呟いた。 「何と言われた?」 普段なら「そうか」と一言言われて終わりになる会話の流れだったのだが、珍しくリューは勇吹の会話の内容を聞いてきた。 ツルッパゲとか言われたので気になったのかもしれない。 「………………」 だから、普段なら「何でもない」と誤魔化してしまう所なのだが、勇吹はリューを見つめて一瞬黙り込んだ。 「その…」 真っ赤になって、そしてどこか困ったように、勇吹はリューを上目遣いで見た。 「あなたを連れて店に戻れって…」 言われたリューはいつもの無表情のまま、目を閉じて少し考え込む。 「俺がお前の店にか」 勇吹が身を硬くした。「下らん」と言下に拒否されるだろうとそう思って。 しかし続いたリューの台詞は彼女の予想を裏切った。 「それも悪くないかもしれんな」 「…え?」 ポカンと勇吹がリューの顔を見る。 「元々全て終われば、もう一度どこかの町に小さい店を出すのもいいと思っていた。お前の店で働くのでも構わん。勿論お前がそれでいいのならな」 「いいに…」 勇吹が瞳を輝かせる。 そして、突然ガバッと彼女はリューの両手を取る。 「いいに決まってるでしょ!!!! 本気よね!!!?? もう後から気が変わったとか聞かないから!!!!!」 「言った事を覆しはしない」 静かにリューが言う。 彼は口には出さなかったが、元々自分が『ユニオン』と戦おうと決めたのは勇吹の店の安全を確保したかったからだ。 それが彼女が自らリューの元へ駆けつけて来た事で彼の目的は9割方崩壊してしまっている。 勇吹を店から離しておくのはリューの本位ではない。どこへ行って戦っていても彼女が掛け付けて来てしまうのなら、それならいっそ自分が店にいて彼女を護っていた方が良いのではないか、と。 リューの発言の裏にはその様な思惑があった。 「…だが、それも公爵を倒してからの話だ」 「勿論よ。私だって戦場を途中で放棄する気はないわ」 笑顔でそう言うと、勇吹はリューの右手を取って、その小指を自分の小指に絡める。 「約束よ。これは『指きり』…私の国じゃ、約束事を交わす時にこうするの。破ったら針千本飲む事になるんだから」 「それは困る。舌や喉に障害が残れば料理に差し障る」 無表情でリューが言う。 そのいかにも彼らしい返答に勇吹がぷっと吹き出す。 そして2人は繋ぎ合わせた小指同士を優しく切った。 スタンリー女学院の放課後。 サーラが屋上のフェンスにぼーっと寄り掛かって夕暮れの空を見上げている。 屋上のそんな級友の姿を、地上からメイ達3人が見上げていた。 「まだ元気ないんだね~、サーラ」 キャロルが言うと、メイとモニカは表情を曇らせた。 サーラの消沈の理由を、3人は知っている。 それは彼女達の歳の離れた友人、カタリナ・エーベルスの死からであった。 首都に初雪の降ったあの日、カタリナ・エーベルスは命を落とした。 公式の発表ではただ「事故」というだけでその詳細が世間に明かされる事は無かった。 その「事故」に巻き込まれた数多の死者達の名の中にカタリナの名もあった。 メイ達もその件で悲しみ、落ち込みはしたものの、4人の中では一番カタリナと交流が浅かった筈のサーラの落ち込みようは他の3人より一層酷いものだった。 それでも普段は気丈にサーラは普段通りに振舞っているのだが、ともすればああやって1人の時間に佇んでいる所をメイ達は何度か目撃している。 そして、そのメイ達とは別の場所から同じ様にサーラを見上げている人影があった。 白衣姿の女性。学院の養護教諭、織原キョウコ。 彼女の赤い瞳が屋上のサーラを捉えている。 「…この程度で潰れて貰っては困るのだけどね」 誰に言うでもなく、呟きは風に乗って消えていく。 「そんな柔な少女には見えないな。協会の天河悠陽の秘蔵っ子。ここから這い上がってくるだろう」 声はキョウコの斜め後ろ、校庭の立ち木の陰から聞こえた。 キョウコがゆっくりと振り返る。 木の幹に背を預けて、キョウコに背面を向ける形で男が佇んでいる。 身に纏ったロングコートは洋装だが、その下には濃紺の着物に黒袴。 東洋人らしき黒髪の男は、ただ「静」の雰囲気を纏ってその場に佇む。 「ご苦労様、日下部君。…公爵側に何か動きがあった?」 微笑んだキョウコが、黒髪の男…日下部宗一郎に尋ねた。 「マニに声が掛かったようだ」 「………」 口元の笑みはそのままに、しかしキョウコの瞳が僅かに細められた。 「そう…彼らにとっては正念場ね」 「勝敗はわかりきっている」 表情無くそう言うと、宗一郎は腕を組んだ。 「日中で五分。夜間であれば確実にマニはリューを殺(と)る。クリストファー・リューはハイドラにいた頃に比べて格段に腕を上げた。しかしその力量、いまだマニに及ぶものではない」 「あらあら…それは困ったわ」 肩を竦めて苦笑するキョウコ。 そのキョウコを肩越しに宗一郎は振り返る。 夜の色をした瞳が、キョウコの姿を映す。 「…何?」 小首を傾げてキョウコが問う。 「嘘はよくないと思ってな。…キリコがこの程度の事で『困る』とは到底思えん」 そう言うと初めて宗一郎は口元に薄く笑みを浮かべた。 「その為のあの娘だろう。敷島勇吹…リューが死んだ時の為にキリコは彼女にその役割を引き継がせるつもりでいるのだろう? 事実、彼女は既にリューの持つ『感視域』を継承している」 再度苦笑したキョウコが、ふう、と大きく息を吐いた。 「察しが良すぎるの、可愛げがないわよ。日下部君」 「これは失礼した。長く付き人をしているのでな。大体キリコの考えている事はわかる」 まったく悪びれずにさらっと宗一郎はそう言い放った。 「兎に角、鷲塚君にも良く言っておいて。マニとは戦わない事。彼の強さは下手な円卓を凌ぐわ」 「その言い方ではガモンが傷付くな。…まあ上手い言い回しを考えておく事にしよう」 フッと笑うと、まるで風景に溶けていくかの様に宗一郎の姿が消えた。 実際に消失しているわけではない。まるで消えたかと錯覚するほどの完全な陰形のなせる業である。 「さてと…」 キョウコが夕焼け空を見上げる。 「事態がそこまで進んでいるのなら、そろそろ一度会っておいた方がいいでしょうね。…一目で好きなラーメンを当てられたあの時以来かしら」 キョウコが微笑む。 その髪を冷たい初冬の風が撫でていった。 第10話 8← →第11話 2
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卵2個くらいにご飯茶碗1杯分をいれてかき混ぜて、 塩胡椒で味付け。間にチーズをはさんでオムレツ状に焼く。 ケチャップかけて食べる。 煉瓦亭の元祖オムライスの、超手抜き版。 ゆとりあればハムとか入れてもいい。 1冊目 58さん
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位置、作成者 MAPID 0149 kuraud ◆rJpuSccbhc 氏 (腹滑り 可能)(BGM ---) 主な仕掛け、キャラクター 出入り口 →滑る世界 →FC迷宮 →絵の通路 階段 →ケンキュウジョ 緑色の丸型ブロック 地図(夢幻図書館で見ると追加)(メガネで・・・) →カンテラを使うと… エフェクトスイッチ →ランダムにエフェクト変身します (たまにエフェクト以外の、別の姿になる事も) (持っていないエフェクトには変身しません) その他 閉じ込められた場合、ある小さくなれるエフェクトで抜け出せます ↑小さくなって通る道がバグってすり抜けてしまうんですが・・・ Ver0.092cだと力持ちなエフェクトを使わなくても緑ブロックが動かせます ケンキュウジョ復活 ランダムにエフェクト変更するボタンがありますね 丸型ブロックにも変身できました 分銅にもなれますね ↑分銅の状態で操作方法開いたら画面真っ赤になって強制起床になった・・・ランダムかもしれません 今のところ、ここでしか変身できないのは 歩くブロックのみですかね。 0.093iでエフェクトスイッチに1つ追加されてますね 初見だとビビるor吹くかもw ↑うろつきちゃん、キノコでも拾い食いしたんでしょうか ↑それって、きょd(ネタバレ)な状態のことですか? ケンキュウジョに行けない・・・ ↑ヒントは、「横に押す」ですよ。 ↑なにをどう横に押せば良いのか…教えていただけませんか? ↑入ってすぐの左側、3つ並んだ分銅は「左右を押し込む」 スロットってどこにあるんですか? >デバッグ中にしか登場しないので、実質的に無いです 地図はカンテラでもやせるの? ↑Exactry(その通りでございます) エフェクトスイッチ、持っていないのにこうもりになれたのですが… ↑そういうものでしょ。って言おうとしたんだが、(持っていないエフェクトには変身しません)って書いてあるのか…。実況動画見る限り持ってなくてもこうもりになってた気がするんだが。 ↑稀に角と尻尾も生えたこうもりになる事がある…というか悪魔?
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目的地がひとつであっても、行く道は何通りもある。 今回わたしは、エリスタリアへ赴くにあたって、ミズハ経由の船旅を選択した。 安く速い英国経由を選択しなかった理由を問われても、 まあ、口をもごもごとさせることしか出来ないだろう。 強いていえば、何となく。わたしは旅に合理性は求めていないのだ。 わたしがエリス行きの船に乗り込むとき、 神経質そうな蛸人の大男の船員がわたしの足を止めさせた。 その蛸人は海の深いところから染み出るような声色で、こんなことを言ってきたのだ。 「覚悟せよ。覚悟せよ。エリューシャンは黒い荒海に阻まれている。 狂騒の春の都を無闇に求めることなかれ。龍の吐息の波頭がその身を砕くことを恐れるなら」 細かいところは怪しいが、概ねこんなところで合っているだろう。 ホモサピエンスには把握しにくいはずの表情からも明らかな焦燥がみてとれて、 植え付けられた不安の種はその晩見事に花開き、わたしは得体の知れない胸騒ぎに悩まされたのだった。 だがこの瞬間は景気づけの酒に生来の楽天さが補強され、 わたしはすべてを一笑にふして洋々と船に乗り込んだのだった。 もし、シラフだったならそんな選択肢は選ばなかっただろうに。 さて、わかりやすく死亡フラグを立ててみたのだが、結局のところ、この航海は晴天に恵まれ無難に終わるのである。 いやあ酒を呑んでいてよかったよかった。バッカスに、いや、名も知らぬ異世界の酒神に乾杯だ! あの時は予想もしなかったが、妙な蛸人の船員と幾度か言葉を交わす機会を得た。 その内に、親しいと言っても良い関係を得た。 「怨嗟の声が聞こえるか。彼らは初めて光を浴び、まもなく死んだのだ。急げ、悲鳴成り止まぬうちに」 「採れたてかー。うん、美味そうだ」 「目を背けるべき真実は、遊戯にこそほのめかされる。我らもまた、昼と夜との升目を進む駒の一つにすぎないのだ」 「あ、異海チェスじゃん。一度やって見たかったんだよね」 「見よ。見よ。これこそ腐敗と病の沼より生まれし一滴」 「ひゃっはー!酒だ!酒だ! はやくそれをよこせ!わたしが、どうにかなっても、しらんぞ!」 以上のように、船旅はつつがなく進行した。 妙な言葉は、単なる蛸人の趣味だということが知れた。 適度なスルー力を発揮すれば、退屈なはずの船旅を彩ることさえした。 前述したように、大事なくエリューシャンに船は近付きつつあるようだった。 しかし確信を込めた発言は出来なかった。 その理由は、エリューシャンの威容そのものだ。 天を衝くの、まさしく体言。 二日も前から煉瓦造りの摩天楼はその姿を誇り、見事にわたしの遠近感を狂わせた。 「おおぅ、いつ見ても、すっげーなぁ」 「見よ。見よ。アレこそ狂騒せし春、エリューシャン。」 「へえ……、でも石塔ばかりって春っぽくないよな。なんというか、桜舞散る桃色世界想像してたわー」 「ひとつ問う。春とはいかなるものか?」 「んー、……芽生えの季節?」 「然り。ものみな目覚め、にわかに騒ぐ。いまそこに萌芽せしは石塔よ。 並び立ち絡み合う石塔は、でたらめな産声の象徴。 見える。見えるぞ。あの背後を支えるのは恐怖。成し遂げられるものは恐怖しかあるまいに!」 「ま、春の感じ方は色々か。岩間に芽が覗くのも、また春らしいような」 「もはや残された猶予はわずか。心せよ、春は目覚めの季節。いままさに、恐るべき獣が這い出そうとしている」 「ああ、荷物まとめとかなきゃな。じゃ、船室に戻るよ」 去る私を、蛸人は触手をビクつかせることで見送った。 感動的な蛸人との別離のシーンを省略しつつ、わたしはエリューシャンに上陸する。 石の森林の目前にわたしは立った。 見上げると、遥か彼方にある木漏れ日がわたしに目眩を与えてくれた。 煉瓦造りの摩天楼はその足元に一層の奇怪さを見せる。 継ぎ目はぐちゃぐちゃ、めちゃくちゃな増築のあと、摩天楼同士が絡み合う。 まるで、摩天楼そのものが爆発的に成長したような、そんな有機的な雰囲気が漂っている。 よくもまあ崩れないものだ、そう思いながら港を歩く。 港には色々な種族がせわしなく動き回り叫び、色鮮やかだった。 どこかで鳥が鳴いた。 ふと、耳を澄ましたその瞬間のことだった。 にわかに喧噪を突き破る、ズズ、と響く音。背筋に怖気を走らせる。 確信と共に振り仰げば、摩天楼の一つが軋みをあげながら崩れかかろうとしていた。 悲鳴をあげて海に走り飛び込もうとしたが、周囲が慌てた様子を見せないので、冷静さを装った。 この窮地で世間体を気にしたわたしの性質は、いつか必ず自分の首を絞めるだろうと確信出来る。 しかし、それはこの時ではなかったようだ。 軋みの音は激しさを増し、しかし整然さを持ち合わせ、まるで音楽のように聞こえて。 倒れる摩天楼を支えるように、四方八方の摩天楼から石腕がのびる。澄んだ笛の音がすると、摩天楼の表面がやわらかく波打ち自ら姿勢を立て直した。 唖然としたわたしを余所に港は営業を続けている。 何人かの新米が荷物を落とし、怒鳴られていた。 わたしたちが不安定な二足歩行を行うように、摩天楼は自立していた。 あの摩天楼達は自らバランスを取り、時には手を差し伸べ合うのだ。 さて、わたしは摩天楼の一つを昇っていた。展望レストランがあると聞いたからだ。 階段は幅広い。天井、壁に色鮮やかに絵が飾られている。 わたしはどれだけの時間を昇ったのだろう。 絵画のおかげで単調ではないが、流石に飽きてきた。 足元のやわらかさに足裏が吸い付けられるかんじがした。屋内だが、土が敷き詰められている。 立ち止まってしまった。 時折吹く風が汗に心地よく、各所に吊られた鈴を鳴らしていった。 わたしは、しゃがみこみ口を潤した。通路の両脇に水が流れているのだ。 片方は下へ、もう片方は上へ。どちらも水の精に制御されている。 手が伸びた一瞬、妙な感触があり、掬った分だけ普通の水になった。 「どこまで歩いたんだろうな」 呟くと、土の精が気を利かせて壁の窓を空けた。 窓の外は林立する摩天楼であり、ターザンのように摩天楼から摩天楼へと移動するエルフの姿が見えた。 だらだらと疲れていると、上の方から足音が聞こえてきた。 エルフだ。寝台に足をいくつか生やしたようなものに乗っていた。 エルフが姿勢を変えこちらを向いた。豊満な胸が寝台に歪んだ。 「足で昇るなんて元気だよねぇ。ね、だいじょうぶ?」 「みてのとーり、元気溌剌さ」 「あはは、見えないから声かけたのよぅ。何か、こだわりがあったりなかったり?」 「ないない」 「ならならぁ、いいものがあるよぅ」 エルフは、乗っていた樹獣の尻尾を折り採って、地面へ投げ刺した。 尻尾は養分を集め、数分もしないうちに同じものが出来た。 「うふふ、それに乗っていきなよぅ。お代は、えっちぃコトでいいよぅ?」 「あ、いや、今は疲れてるというか」 「そーう? だったら貸し一つだよねぇ。それでいいよぅ。 ではではぁ、縁があったらまた会いましょー?じゃねー」 エルフは寝転がりながら手を振り、下へと降りていった。行ってしまった。 「………あ、ぁぁ………つ、つい、断ってしまった」 わたしの胸は後悔で満たされていた。 この後悔は全身に染み蝕み、いずれわたしを殺すと確信した。 対処方は夢と希望に満たされた胸を口に含むことしかありえないだろう。 それはともかくとして、この樹獣は本当に便利なものであった。 一眠りのうちに、展望レストランへと運ばれていた。 起き上がり窓へと目を向けた瞬間、世界樹の雄大さが目に飛び込んだ。 立ちくらみ、世界樹しか視界にないような感覚をもった。 摩天楼の向こう側に秘されていた世界樹は、この摩天楼の高みよりなお高く。 雲突き抜け天穿ち、広がる枝葉は地平を覆うようだった。 翻訳加護の妙が面白い。夫婦岩のような双摩天楼と生物的な内装と樹獣で利便性を加えているのもらしいですね -- (名無しさん) 2014-03-02 17 12 53 実は観光向きとそうじゃない土地の差が激しい国? -- (名無しさん) 2014-10-15 22 56 07 名前 コメント すべてのコメントを見る
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大きな地図で見る アドレス 〒792-0021 愛媛県新居浜市泉宮町5-8 tel 0897-35-0112 fax - mail info@rengasouko.net http //rengasouko.net/ アクセス Yahoo!地図 JR 予讃線「新居浜駅」より徒歩38分 キャパシティ テーブル・イス 120 スタンディング 300
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89 sister―上 sage 2010/01/29(金) 11 08 49 ID fFGCkvUN 悲鳴。 轟音。 身重の母親の負担を少しでも減らそうと、幼いなりに必死で窓ふきを行っていた俺は、同じように慣れない手つきで掃除機をかけていた父と顔を見合わせた。 何かが階段を転げ落ちる音と、母親の悲鳴。 幼い俺は、何が起こったのか咄嗟に理解できず首をかしげたが、父親は事態をある程度察したらしく、駆けるように部屋を飛び出した。 俺は、訳も分からずその後をついていく。 部屋を出て、直ぐの廊下。 階段のふもとに、母親が丸くなって転がっていた。 その脇に父親が屈みこんで、何かを叫んでいる。 俺は、唐突な展開に混乱する頭のまま、ゆっくりと両親に近づき二人を見下ろした。 母親が、苦しそうに呻いている。大きくなったお腹から、赤い液体が流れていた。 それを見て、何故か母親と父親の声が蘇る。 ――もうすぐリオンの妹がもう一人できるのよ。 ――二人の妹のお兄ちゃんになるんだ、もっと強くならなきゃな。 ぼんやりとした俺を置きざりにして、事態は進む。 父親が必死の形相で立ち上がり、リビングへ戻った。 暫くすると焦ったような声で、父親が誰かに喋る声が聞こえてきた。 恐らく、救急車を呼んでいたのだろうが、当時の俺には分かっていなかった。 ふと、名を呼ばれた気がする。いや、厳密には俺の名前ではない。 「お兄ちゃん」 再び呼ばれる。 幼い少女の声。 声を追ってゆっくりと顔をあげた。 階段の頂上に、俺よりもさらに幼い少女が立っていた。妹のマリア。 目が合うと、マリアが笑った。 さっきまではジージーとうるさかった筈の蝉の声がぱたりと止んだ。 母親の声も、父の癇癪交じりの声も、周囲の音全てが消えた。 マリアは、小さな唇を弧に歪めたまま、 「お兄ちゃんの妹は、私だけで良いよね?」 「マリア……?」 妹の言葉の真意を掴めず、眉を寄せて呟く。 夏の焼ける様な日射しを背にしたマリアが、かくんと首を傾げた。 二つ結びにした母親譲りの金色の髪が陽光にキラキラと輝き、それはまるで、女神のようで。 けれど、どうしてだろう。妹の笑みに背筋が寒くなるのを感じた。 澱んだ視線に射竦められた俺は、呆けた様にただ妹を見上げるだけ。 「どう、して……」 足元から母親の声。 はっと、足元に視線を落とす。母親がゆっくりと、階段を見上げた。 「どう……マリ、ア」 母親の声には、困惑や悲しみ、痛み、そして怒りと怯えが混じっていた。 けれど、マリアは母親の方を見ようともしない。 どうして、どうして。 母親の声にならない声。蝉時雨が蘇る。 このあと直ぐ判明する事だが、母親はお腹の中に身ごもっていた赤ちゃんを流してしまった。 そして、彼女がどうして階段から転げ落ちてしまったのか。 母親の証言から、その原因がマリアだということが分かった。 階段を降りようとしていた母親を、マリアはあろうことか突き落としたのだという。 激昂し理由を問い詰める父親に、マリアはあっさりと、 「だって、お兄ちゃんの妹は私だけだから」 と全く悪びれることなく、寧ろ堂々とした面持ちで言ってのけた。 その日以来、マリアは俺たち家族にとって腫れものになってしまい、やがて両親たちによって全寮制の神学校へ半ば無理やり入れられた。 普段はくりくりした可愛らしい目を血走らせて、抵抗するマリアの姿が今でもこびりついて離れない。 それは、今から十数年前の夏。 俺が7歳、マリアが5歳のころ。 何処にでもあるような、平凡な家族の形が木っ端微塵に砕け散ってしまった夏の日の事。 sister 90 sister―上 sage 2010/01/29(金) 11 09 20 ID fFGCkvUN 激しく雨が、降りつけている。 石畳の歩道を叩きつけられた水滴が、ひっきりなしに叫んでいる。 青々とした葉を付けた街路樹も濡れそぼり、ガス灯の淡い光にきらきらと輝いている。 空には厚い雲がかかり星は見えないから、今夜はこの一際低い所で輝く雫が星の代わりだった。 手に持った傘を、ぎゅっと握りしめた。 石畳を歩く度に跳ねる雨粒が、ズボンの裾を濡らし俺の重い足取りをさらに重くさせる。 それもそのはず、今から俺はマリアに久しぶりに会う事になっているのだから。 ――何年ぶりになるだろう、マリアと会うのは。 俺は、大学への進学を機にこの故郷を去り、マリアはこの町にある小さな教会の修道女として住み込みで働いている。 大学を卒業し、そのままその地で就職した俺が今日この故郷に帰って来たのは、他でもない、マリアに会うためだ。 あと一月後、俺は結婚する。その事をマリアに伝え、出来るならば、挙式をマリアが勤める教会で挙げられたらと、思っているのだ。 あの夏の日から、何度か会いはしたし、マリアは俺を何時だって慕ってくれた。 けれど、俺がマリアを、以前のように可愛い妹として見る事が出来なくなっていた。 どうしても、あの日のマリアの笑みが脳裏を過り、妹に対して恐怖を抱いてしまうのだ。 しかし、それでは駄目だと思っていたし、もう直ぐ俺の妻となってくれる人も、義妹となるマリアと仲よくしたいと言ってくれているし、今回はいい機会だと思った。 人気のない夜。 こんな時間になってしまったのは、マリアの都合によるものだ。 もしかして、恋人の一人でも出来たのかもしれない。 それでデートにでも行くのかと思ったが、マリアは聖職者、今はそれ程厳格ではないかもしれないけれど、 こんな時間まで未婚の恋人たちがデートするというのは、余り褒められた行為ではないだろう。 となると、仕事か何かだろうか。 そんな事を考えながら、教会までの道を歩く。 道路の両脇には、石造りの家がぽつぽつと建っている。 その殆どの明かりが、すでに消えている。故にガス灯のみの道は少々暗い。 そよ風が吹いた。のっぺりとした夏の匂い。 闇に覆われた道を拓きながら進むと、やがて屋根の上に細い塔を載せ、その天辺に十字架を突き刺した、オーソドックスな形の小さな教会に着いた。 教会の軒下に入り、差したままだった傘を畳み、壁に立てかける。 木製の、建物の規模の割には大きな扉と向かい合う。 すう、はあ、と一度深呼吸をして、ひと思いに扉を押し開けた。 ぎいい、と軋んだ音を立てながら、扉が開く。 教会の中は、明りが蝋燭のみで薄暗い。けれど、マリアの姿は直ぐに見つける事が出来た。 俺の真正面、約20m程先。マリアは石膏で出来た神の聖像の前に跪き、祈りを捧げていた。 部屋の各所に、幾つかおかれた蝋燭の灯が揺れるのに伴って、壁に映った大きめな彼女の影がゆらゆらと揺れる。 「マリア……」 教会の敷居を越えないまま、記憶のなかよりも少し大きく見える背に向かって声をかける。 マリアは扉の開く音で、俺が来た事には気付いていたのだろう、驚いた様子もなくゆっくりと立ち上がった。 そして、こちらに振りかえる。 「時間ピッタリですね、兄様」 小鳥の歌声の様に透き通った、けれど何故かよく通るマリアの声は昔と変わらず、優しく空気を震わせる。 何時からだっただろう、マリアは俺を兄様と呼ぶようになっていた。 彼女の通う神学校は、行儀作法に厳しい所だと聞いた事があるから、そのせいかもしれない。 「どうしたのですか、そんな所に立ったままで。雨に濡れてしまいますよ。それに、久しぶりなのですから、もっと顔をよく見せてください」 開かれた扉を抑えたまま突っ立っている俺に、マリアは怪訝な視線を送って来る。 「あ、ああ」 91 sister―上 sage 2010/01/29(金) 11 10 07 ID fFGCkvUN 昨日電話で話したのだが、こうしてまだ距離はあるとはいえ、面と向かって話すのは久しぶりだ。 何となく気恥ずかしい様な、むず痒い様な気持ち。今まで、マリアとどういう態度で接していたのか、良く思いだせなかった。 おずおずと、一歩、境界を超える。 場所柄のせいか、きんと空気が冷えたような感覚があった。 じっとりと絡みつくような湿気を孕んだ外とは一線を画した、静謐な空気。少しだけ、背筋が冷えた。 後ろ手に抑えていた、扉から手を離す。 ぎいいいと呻き声を上げながら、ゆっくり、ゆっくりと、扉が閉まった。 外の明かりが入って来なくなると、元々明るくはなかった室内が、更に暗くなった。 そのせいで、確りとは見えなかったけれど。 マリアが、昏く笑ったような気がした。 「久しぶりだな、マリア」 室内にある十脚程度の木製のベンチの一つに、背もたれに対し横向きに座り、通路を挟んでマリアと向かい合った。 「この座り方、余り行儀は良くないですね」 そう言ってマリアは、照れくさそうに笑った。 どうやらマリアは、久しぶりの再会に戸惑っている様子はないようだった。 しかし、俺の感じる二人の間に流れる空気は固く、とても兄妹のものとは思えない。 2列のベンチの間の通路はそこまで広い物ではなく、膝を突き合わせた二人の実際の距離は遠くはない。 けれど、俺にはマリアとのキョリが妙に遠く感じられて。 まずは、当たり障りのない話題で、このよそよそしい雰囲気を解しておきたかった。 「本当に、お久しぶりですね、兄様」 「……」 マリアの返す刃が、何だか皮肉っぽく聞こえたのは錯覚だったろうか。 ゆらゆらと揺れる蝋燭の頼りない炎が、マリアの精緻な顔を照らす。 しばらく見ないうちに綺麗になった、と思う。 元々顔のつくりは並み以上のものであったマリア。 しかし、記憶の中の彼女は可愛いという印象を抱かせる容姿だったが、今のマリアには美しいという表現がより相応しかった。 幼いころから、マリアのコンプレックスの種だった、鼻の頭に散った薄いそばかすだけが当時のままに残っていた。 女神の様な彼女を、地味で飾り気のない修道服が上手くひきたてていた。 ベールをかぶっているので見えないが、マリア自慢の黄金色の髪の毛は健在なのだろうか。 あの髪を、俺は結構好きだったから、変わってなければいいと思う。 「仕事、どうだ?」 「はい?」 「シスターの仕事。楽しいか?」 何をぬけぬけと、と思う。 家族に捨てられたような形で無理やり神学校に押し込まれ、興味もなかった神学を学ばされ、惰性で小さな教会のシスターとなったのだ。 そんな、誰かにやらされた仕事が楽しいはずがない。 「楽しくはないですよ」 マリアも肯定する。 「それは……」 すまない、と言おうとして口を噤んだ。 俺が謝った所で、何の意味もなさない。自己満足のためだけならば、謝らない方がまだ潔い。 「けれど、仕事とはそういうものだと思いますから。それに、この町には私以外にシスターがいませんから。必要とされている事は悪い気はしません」 妙に達観した顔で言う。 まだ20になったばかりで、少女のあどけなさを残したマリアの言葉としては年不相応。 それが、マリアをもてあまし、放棄してしまった自分たち家族のせいだと思うと、凄く哀しかった。 俺が俯いてしまうと、しんと重苦しい空気が流れる。 マリアは本当に変わってしまったなと思う。 神学校に入る前は、どちらかと言うと快活な少女で弾ける様な笑顔が印象的で、キラキラとした髪の毛と相まって太陽の様な子だった。 けれど、神学校に入ってから、年に何度か会うたびにマリアの性格は変貌していき、今では月の様な静かな笑顔を湛える女性に成っていた。 マリアの神秘的な容姿もあってか、彼女はこの田舎町唯一のシスターとして、町人たちから半ば崇めるように慕われているらしい。 92 sister―上 sage 2010/01/29(金) 11 10 43 ID fFGCkvUN 雨粒が、石造りの教会を叩く。ざあぁと雨音が、静かな聖域に響く。 俺は、未だマリアとのキョリを測りかねていた。 良く知った人間と、久しぶりに話をする場合の話題を探すのは、予想以上に難しかった。 かと言って、俺がここに来た本題を切り出すには、まだ空気がそれを許す雰囲気ではなかった。 何とか頭の中の回路を回転させて、 「背、伸びたな」 「そうですか?」 「ああ、ざっと2メートルくらい」 「そんなには、伸びていませんよ」 ちょっとしたジョークだったのに、素で返されてしまった。あれ、もしかしなくてもスベッた? 初夏だというのに、俺の周りだけ肌寒い空気。ちょっとだけ凹む。 本当にマリアは変わった。今のしょうもないギャグでも、笑ってくれるような子だったのに。 けれど、スベッたお陰で自棄になったのか、それから先は存外すらすらと会話が進んだ。 一人暮らしはどうだと言う会話をする。 料理や家事は出来るのかという会話をする。 朝起きて、朝食を作って食べて、修道服を着て教会に来る人々を迎え、偶にだけれど誰かの懺悔を聞き、そして誰もいなくなった教会の奥で一人、夜を過ごす。 そんな、マリアの一日の会話をする。 ありふれた会話。 他愛もない会話。 内容としては、兄妹という近しい関係同士が行うやりとりにしては、違和感があるものではあるけれど。 二人の間に流れる空気は、間違いなく兄妹のそれだった。 俺の顔にも、自然と笑みが浮かぶ。 もしかしたら、俺はマリアを警戒していたのかもしれない。 その警戒も氷解し、温かく、他愛もない時間を過ごす。 まるで、幸せを溶かしたココアのようだ。 何年も前に失って、それに気付かず、当然になっていたもの。 それがやっと戻って来たような。 マリアと話していると、あの頃に、幸せだったあの頃に、回帰したかのような錯覚にとらわれそうになる。 幼い自分と溶け込んでしまいそうな気がする。 俺たち兄妹の空気が、こんなに自然だったものだったなんて、もう久しく忘れていた。 話すうちに、俺が降った会話に応えるばかりだったマリアも、俺の大学生活や卒業後の現在の生活などを聞きたがった。 「兄様も、一人暮らしをしているのですか?」 「ん、いや、恋人と一緒に暮らしてるんだ」 「……恋人、ですか」 何故だろうか、マリアの放つ空気に棘が混じっているように俺の肌を突き刺す感覚。 さっきまでの自然な空気に、小さな波紋が起こった。 夜の静かで穏やかな湖面に、小さな石を投げ込んだような。 澄んだマリアの声が、冷たい刃を孕んで聞こえる。 「あ、ああ、俺もこの年だしな。そうだろう?」 どうだというんだ。自分で自分につっ込む。 マリアもよく分かっていないような顔をしている。 「私には、居ませんが」 「そうなのか?やっぱり、シスターはそんな自由が利かないのか?」 「いえ、今はそれ程厳格ではないですが。それよりも、何時から付き合っているんですか」 話題の軌道修正も適わない。 既に主導権を握っているのは、マリアの方だった。 「そうだ、な、大学入ってすぐだったから……かれこれ4年になるか」 「4年……」 マリアの声が、一際低くなった。 何となく悟る。マリアは、今日俺がこうしてここに居る理由を、ある程度察したのだろうと。 まあ、今まで何年も会っていなかった俺が、こうして唐突に会いたいと言ってくるのだ、マリアも最初から何かあると想定はしていたのかもしれない。 ふう、と息を吐いた。 多分、本題を切り出すなら今だ。 93 sister―上 sage 2010/01/29(金) 11 11 35 ID fFGCkvUN 「――結婚しようと思っているんだ」 瞬間、マリアの瞳が揺れた。 先程まで浮かべていた微笑が、ごっそりと抜け落ちた。 「そう、です……か」 マリアの発する空気が、数段鋭さを増した。 ――俺はタイミングを間違えたのだろうか。それとも、他に。何か別の過ちを犯したのだろうか。 「祝福、してくれないのか?」 思えば、それは余りに間抜けな質問だったかもしれない。 マリアはひどく傷つけられたような顔をして、 「出来ると思っていたのですか?」 「……して欲しい、と思っているよ」 はん、とマリアが鼻で笑った。 さっきまで聖女然とした妹は、堕天となった。 「私をこんな所へ押し込んで、自分ばかりは幸せを享受するのですか」 マリアが、苛立たしげに下唇を噛んだ。 やはり、マリアは、俺や両親を恨んでいたのか。 考えてみれば、当然の事。自分がいかに甘い考えで、自分勝手だったか実感させられる。 「そういう、つもりじゃ……」 動揺に声が掠れる。 「それなら、どういうつもりなのですか」 マリアが詰る。俺は、それに対する答えを持っていなかった。 無言の俺に対し、 「私は15年近く、こうして押しつけられた人生を送ってきました。何も文句も言わず、ただじっと耐えてきました。どうしてか分かりますか?」 分からない。 確かに、神学校への入学が決まった時はあんなに反抗していたマリアが、それ以来すっかり大人しくなった。 「忘れてしまったみたいですね」 マリアの声には、既に明確な怒りの色が窺えた。 形の良い柳眉がきりりと吊り上って、大きな目が細められている。 二人の間にある蝋燭の火が、ゆらゆらと揺れる。 照らされるマリアは、いっそ凶悪なまでに美しく。 「兄様は、神学校に入る時に言ってくれたんです。俺がちゃんとマリアを幸せにしてやると。だから、それまでは我慢してくれと」 いわれてみると、確かに両親に頼まれてマリアの説得を行った気もする。 しかし、その内容までは定かではなかった。 あの時、俺は正直に言ってマリアの事が怖かった。 俺の唯一の妹であるために、家族を壊した妹が。 あの日、階段のてっぺんで、後光を浴びながら笑っていた妹が。 恐ろしくて、怖くて、早く追い出してしまいたかったのだ。 だから、妹と離れたい一心で、そういう事を口走ったのかもしれなかった。 だけど、今、そんな事をどうして告白できよう。 俺は、顔を伏せて、ただ、 「すまない」 ただ、謝ることしかできない。 「どうして謝るのですか」 「……すまない」 「……嘘だった、と。あの日の言葉は、出まかせだったと言いたいのですか」 「そうじゃない、そうじゃないんだ、マリア」 「ならば!どういうことですか」 「あの日の言葉に偽りはないよ。ちゃんとお前の兄として、出来うる限りの事はサポートする。恋人もお前と仲よくしたいと言ってくれているんだ」 俺の訴えは、懺悔にも似て。 聖女に救いを求める、哀れな子羊になってしまったようだ。 当時の気持ちではないにせよ、今、マリアと仲良くやっていきたいと思っている事は確かだ。 十数年ほったらかしにしていた妹と、これからは、俺の妻となる人と共によりよい関係を築いていきたかった。 「そんな事、ただ、兄様の背中を眺めるだけの事に……」 一体何の意味がありましょうか。 マリアは何かを堪えるように、震える声で呟いた。 深く息を吸い、そして吐く音が聞こえた。 俺は、恐ろしくて顔を上げる事が出来ない。 「兄様は」 再度切り出したマリアの声は、やけに平坦な響きを持っていた。 94 sister―上 sage 2010/01/29(金) 11 12 06 ID fFGCkvUN マリアが立ちあがった。 俯いたままでは顔を窺う事は出来ないけれど、どんな表情を以て俺を見下ろしているのだろうか。 妹の心に去来しているものは、一体何だろうか。 怒り。悲しみ。失望。嘆き。それとも。 「兄様は、私の気持ちを分かってくれていません」 たっぷりと間を置いて、マリアは続ける。 反論することなど何もない。マリアの言うとおりだった。 俺は、妹の気持ちが全く分からなかった。そう、幼いころから。 「私はね、兄様」 ちくりと、首に何かが刺さった。軽い痛み。 驚いて顔を上げた。 「マリ、ア?」 マリアは笑っている。 唐突に、どうしようもないくらいの眠気が襲ってくる。 急速に視界が霞んでいく。雨音がやけにうるさい。 平衡感覚がなくなり、中空に浮かんでいるようだ。 突然、俺を衝撃が襲った。ひんやりとした床の感触。どうやら、前のめりに倒れこんでしまったようだ。 「私は、兄様の事を、どうしようもないくらい愛しているのですよ」 狂気の滲んだ声。 ひどく穏やかに、けれど確かに澱んでいる。 「ねえ、兄様。私を幸せにしてくれるのでしょう?それなら二人、この天国でいつまでも幸せに暮らしましょう」 「まり……あ」 最早、彼女の名前を、愚鈍に繰り返すことしかできない。 「愚かな兄様。私が、兄様を救って差し上げます。恋人?いいえ、其れでは兄様を救えません。兄様を救えるのは、私だけなのですから」 さあ、天国へ昇りましょう? マリアの声が遠くなっていく。 そして、俺は天国へ堕ちていく。 耳の奥、蝉時雨が蘇る。 最後に見た、彼女の顔は。 あの夏の日と同じ、女神の笑み。 床に倒れこんだ兄様を見て、思わず笑みがこぼれた。 さっきまで感じていたイラ立ちが、嘘のように消え去っていた。 兄様に結婚すると聞かされた時は、あれほど荒れ狂っていた心の波が、今では静かに凪いでいる。 「アーノルド!」 ある男の名を呼ぶと、屈強な体つきの男が、教会の奥の間からぬっと姿を現した。 「この方を、牢へ連れて行ってください」 「はい……」 男が兄様を抱える。 「くれぐれも、慎重にお願いします」 「はい」 男は、わたしの言葉に頷くことしかできない。 哀れな男。ある晩、教会へやって来た男の懺悔を聞いてやり、有り触れた言葉をかけてやっただけで私を聖女と崇めてきた。 そんな愚かな人間は、彼だけでなく。この町には、私を崇め奉る人間が少なからずいる。 おかしな話だ。私は、兄様しか救えないし、他の誰も救う気などないというのに。 けれど、偶には役に立つこともあるし、この町でならある程度の自由が利く。 駒と良い環境を手に入れられたと思えば、私を捨てた両親にも、まあ、感謝くらいはしてやっても良いかもしれない。 男の後を追って、教会の奥にある扉を開く。 ここから先は居住スペースとなっていて、同じような部屋がいくつか並んでいる。 そしてその中の一つ、一直線に続く廊下の奥の部屋は、外観こそ他の部屋と変わらないように見えるが、中に入ると、そこには石煉瓦で覆われた牢屋がある。 先の魔女狩りの名残か、異端者を拘束するためか、とにかく宗教は血生臭い歴史がつきもので、この牢屋もその夥しい血の一つだった。 男が牢屋の中にある、大きなベッドに兄様を横たえさせる。 こう言う時のために用意しておいたベッドは、ふかふかでこんな石がむき出しになった、肌寒い牢には異分子として写る。 しかし、ここが私と兄様の愛の巣窟、天国となるのだ。 「ねえ、兄様。私を幸せにしてくださいね。私も兄様を幸せにしますから」 今はまだ静かに眠る、愛する人へと囁いた。
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一覧に戻る ▼店情報 席数 喫煙 価格 待ち時間 お気に入り 20席 可能 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ 場所 関内駅南口より、南側に1分程 ▼参考メニュー コロッケ定食 800円 アジフライ定食 800円 ロースかつ定食 1000円 赤レンガ生姜焼定食 950円 ▼メモ 全体的に揚げ物が多い 定食にはいろいろついてくる ご飯 味噌汁 冷奴 小鉢 x 2
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幽王の礼装 幽王の礼装 装備部位 胴 レベル 40 完成までの所要時間 7日09 09 05 カードスロット数 2 グレード 普通 上等 高級 至高 伝説 必要素材 きれいな羽×24黄金×24煉獄の鋼×19幽世の蒼霧×16ヘレナの絹布×10 鎧の蒼晶石×24鎧の蒼星石×12煉獄の鋼×4幽世の蒼霧×4ヘレナの絹布×2 鎧の蒼晶石×44鎧の蒼星石×22煉獄の鋼×9幽世の蒼霧×8ヘレナの絹布×5 鎧の蒼晶石×70鎧の蒼星石×35煉獄の鋼×14幽世の蒼霧×12ヘレナの絹布×7 鎧の蒼星石×65絆の虹輝石煉獄の鋼×19幽世の蒼霧×16ヘレナの絹布×10 アビリティ 木材生産 41.7%槍兵タイプ攻撃力 9.3%槍兵タイプ防御力 50.0% 木材生産 62.5%槍兵タイプ攻撃力 14.0%槍兵タイプ防御力 75.0% 木材生産 83.3%槍兵タイプ攻撃力 18.7%槍兵タイプ防御力 100.0% 木材生産 104.2%槍兵タイプ攻撃力 23.3%槍兵タイプ防御力 125.0% 木材生産 125.0%槍兵タイプ攻撃力 28.0%槍兵タイプ防御力 150.0% 必要魔石数 13,009,400 3,252,350 6,504,700 9,757,050 13,009,400 ※完成までの所要時間は、鍛冶屋lv1(2.0%生産速度UP)の値です。
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唸る暴風。叫ぶ稲妻。伏魔殿は今、混乱の最中にあった。 突如、円卓列強の若き英雄『アインス』が奇襲を始めたからだ。 白く輝く髪。碧く光る鋭い眼光。一見すると細腕の乙女だが、右手に握る両刃の剣で立ちはだかる強者達を次々と打ち負かしていく。 場所は、狭く入り組んだ城の連絡用通路。二足歩行する虎が、出会い頭に刺股(さすまた)を突き出した。アインスはその刺突を左に避けて躱すと、すれ違いざまに男の顎を蹴りつける。 膝折れる虎男の背後から、複数の足音と奇声が響く。既に居場所は割れているらしい。牛の頭部を持つ大男が、通路の横幅一杯に両腕を広げて迫ってきた。アインスを捕らえるつもりなのだろう、その後方には、蛇の下半身を持つ妖艶な女も控えている。全体が筋肉で出来た特大の縄、牛男をいなしても避けられない二段構えの攻防だ。 アインスは二人の姿を認めると石畳を踏み、急停止した。腰を限界まで捩じり、剣を下から振り上げんとする迎撃の姿勢に、一瞬身構える牛男。 彼我の距離は五歩。だが次の瞬間、剣戟は躊躇なく放たれた。 「"王技(ロイヤル)"――"猪突(ストレート)"・"一閃(フラッシュ)"!!!」 突如炸裂する爆発音。それに続く振動。 迎撃は虚仮威し(ブラフ)。直前に刃の向きを変え、彼女は石煉瓦の壁を強かに斬りつけたのだ。如何に名剣とはいえ無謀な行為、けれどもその輝きに曇りは無い。石を積み重ねた堅牢な筈の通路には、今や真新しい出口が用意されていた。 「邪魔をしないで!」 穴の先は城の中庭に繋がっていた。アインスはたじろぐ牛男も蛇女も置き去りにして、突風のように城内を突き進んでいく。 上空から鉤爪を伸ばす鳥兵に、去り際に拾っておいた石壁の破片を投げ付ける。 武器庫の扉に火を放った。慌てた烏賊の番兵を抱え持ち、手近な水路に放り投げる。 屈強な猫の老兵が――居眠りをしていた。その側をアインスが駆け抜ける。事前に送りつけたマタタビ酒の匂いがした。 純粋な身体能力において、伏魔殿の猛者はアインスよりも強い。だが彼女は自身の長所を、その技と策略を磨き抜いてきたのだ。城の百獣警備隊が総力を挙げてかかるも、次々と躱され、いなされ、転ばされてしまう。進撃を赦してしまう。 英雄の足が、遂に本丸の床を踏み付けた。ところがここに来て、アインスの脳裏に疑念がもたげる。 (ここまで警備隊ばかりじゃないの。"幹部"はどこへ行ったのかしら?) 『白き花の騎士』、『天の御使い』、『剣姫(つるぎひめ)』。少々こそばゆい感じはあるが、これらの異名を付けたのは他ならぬ伏魔殿の者達なのだ。アインス自身、そう呼ばれるだけの実力はあると思っていた。 その彼女が殴り込みをかけたのだ。いくら何でも、警備が手薄過ぎはしないだろうか? 「…違う!居る(・・)、待ち構えているなっ!?」 アインスの声に呼応するかのように、足元の床が崩落した。それは石畳に偽装した亀兵達。息を潜めて互いの手足を絡ま合い、下階に続く吹き抜けの階段を隠していたのだ。ばらばらになった亀が気の抜けた声を出す。 「あイんすサマァ、いぃちめぇ~ゴあンなイ~」 「ぐぬぬ!」 三秒にも満たない僅かな時間。およそ七階分の高さから落下したが、彼女はマントを翻すと難なく着地した。 眼光鋭きその瞳が、日の差さない地の奥底を射抜く。無数に灯された蝋燭、蠢く影、岩盤を円形に掘ったエントランス・ホール。 そして、 「かんらからから!見事じゃ、見事じゃ」 闇の中から、この城の主が現れた。 かなり上背があり、直立したアインスでもやっと胸元へ届く程度、といった所であろう。左腰には、柄に髑髏を抱く一本の剣。 鮮やかな深紅の布地に、金糸で緻密な紋章の施されたドレス。同じく深紅色の、大きな鳥の羽をあしらったつばの広い帽子。その下から、幾束かの銀髪が垂れている。 何よりも、その成功を信じて疑わぬ紅い双眸。鋭い犬歯を隠しもしない挑戦的な口元。 アヴァ・シャルラッハロート。 アヴァ・シャルラッハロート。 アヴァ・シャルラッハロート!!! 円卓列強と伍する伏魔殿の主は、その笑みに一点の曇りも無く彼女の前に立っていた。 "彼"は頭上に落ちて来た亀兵を片手で受け止めると、優しく地面に転がしてから侵入者に微笑む。 「よくぞここまで来れたのぉ、アインス……円卓の英雄よ。我が精鋭を蹴散らしてきた事、少しばかり褒めてやろう。じゃが、快進撃はここまでじゃぞ?」 現れたのはアヴァだけでは無い。周囲を取り囲む無数の気配に、アインスは気付いていた。 「出でよ我が両腕、"双影剣"よ!」 「にャぁ」「にャぁ~」 アヴァの両隣から前に出て、不敵な笑みを浮かべる双子の猫女。ふざけた言動からは想像もつかないが、アヴァの護衛を務める『伏魔殿』最強の剣士である。 「天地を統べる猛者よ来たれ、"四界円卓使徒"!」 「連絡用通路ノ戦イ、ミせて貰ったゾ」 「フン、我ガ百獣警備隊も形無シじゃワい!」 「鍛エ直シカ、腑抜ケ共ガ」「カカカカカカカカカ!」 伏魔殿の作戦参謀にして、国政長官も務める大臣達。元軍属出身は老いて尚壮健であり、全身甲冑を身に着けた姿はアインスよりも遥かに大きい。 「久遠の厭世より甦れ、"八柱邪神将"~!!!」 「たょりっへぷらな゛」 「失神爆殺射殺、焼殺毒素圧死?」 「111000111000000110101111111000111000001010001101111000111000001110111100」 「ガルルゴルルグギィィーッ」「■■■■■」「BAAAAAAAAAAAAAA_AAAAAAAAAAAA!!!」「#EYRA Y*YRBE 」 この世ならざる言語で喋るのは、深海魚を元にした深海軍の長。彼らもまた、足首を慣らして待ち構えていたようだ。 蠢く影はまだ尽きない。混沌と終焉の担い手"十六堕鍵魔導士"、開闢の騎士"三十二大陸悪路師団"、煉獄の復讐者"六十四流血戦士隊"…他の幹部級も出揃っている。 周囲を完全に囲まれていた。そして全員が――手に手を取り合っているではないか(・・・・・・・・・・・・・・・・)!!! 「さぁ皆の者よ、勇敢な娘を歓迎してやるが良い!『シュテルクスト・カメラート』ッ!!!」 「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォーーーーーーーッ!!!」」」 ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ! 「きゃあぁーっ!」 互いに手を繋いだ歴戦の猛者達が、アヴァの号令と共に横列を組んで襲い掛かる! 完璧に足並みを揃えた行軍。高速で接近と後退を繰り返し、隙あらば鋭い蹴りを放つ。上から見ると、円のあちこちが絶えずアインスに迫ってくる感じだ。 その蹴りは、軽く突き出しただけで風を巻き起こした!これぞ『シュテルクスト・カメラート』!!!触れ合う仲間の数だけ強くなる、恐るべきアヴァ・シャルラッハロートの異能!!! だがアインスは冷静に構えを直すと、軸足を中心に回転を始めた。その流麗な動きはどこか舞のようにも感じられ、幾本もの剣筋がほぼ同時に見える。ただ一本の剣で四方を斬る、高速剣術―― 「"四舞(フォー・オブ・ア・カインド)"!」 ドカッ 「うわぁーっ」 バキィッ 「きゃぃーん」 べちーんっ 「ひぃー!」 …『シュテルクスト・カメラート』、何と恐ろしい戦術!剛柔自在の円陣は、四方どころか八方から蹴りに来る!!アインスの小さな尻に、今もまた"四界円卓使徒"の足先がヒットした。よろめいたアインスは脇を締め、剣を身に寄せて短く構える。 「ぐぅっ!ふ、"完全要塞(フルハウス)"!!!」 巧みな足捌きで攻撃を回避する、防御の型。 だが数十人もの幹部が手を繋ぎ、数十倍に跳ね上がった膂力で放たれる蹴りはその程度で防げる代物ではなかった。 そして、策略においても向こうが一枚上手であった。円陣の動きに気を取られ、そこからいつの間にか離脱していたアヴァの、背後から忍び寄る気配を見逃してしまったのである。 ボコーンッ 「きゃぁーっ!」 隙だらけの背中に蹴りを受けたアインスは、痺れるような痛みと共に地面へと倒れ伏した。手元から剣が滑り落ち、冷たい石畳の上を滑る。 アヴァはその剣を拾い、両手で弄ぶように眺め始めた。アインスはうつ伏せのまま、その姿に厳しい視線を送る。 「円卓列強の剣か、悪くない。だが髑髏の装飾も無しとは、どういうつもりかのぉ。何にせよ、これで年貢の納め時じゃがな」 「…な、なぜ…争う…の…」 「ん?はて、一体どういう意味やら」 アインスは何とか頭を上げ、アヴァの瞳を見た。その顔は蝋燭の明かりで影が差し、赤銅色の双眸からは感情の色を読み取れない。相も変わらず、微笑みだけを湛えているのだけが分かった。 「え、円卓と…伏魔殿。そう、"伏魔殿"…そう名乗りを挙げたのは、自分から、なんでしょう…?何故、悪を…世界の、征服なんて…」 「かんらからから!何じゃ、そんな事か――安全の為、豊かさの為、綺麗な景色を見たいから。理由なんぞいくらでも作れる、それこそいくらでもな」 「そんな…っ!」 「じゃが、根本的な理由は渇きかのぉ。欲望のような湿った物ではなく、純粋な渇き。『儂は今生で何も成せぬかもしれぬ』という恐れ…儂の根源にあるのは、多分それじゃよ」 闇が色濃くなる。鉄臭い匂い。もしかしたら、転んだ拍子にどこかを強く打ち付けたのかもしれない。走馬灯のように、今までの記憶が頭を駆け巡る。 アインスを心配そうに見送ってくれた、町の皆様。 同い年のあの子。 お世話になった宿屋の老夫婦。 家宝の剣を譲って下さった、元騎士のおじ様。 河原での釣り。 あの子。 木の実を分けてくれた子供たち。 青い空。 見送ってくれた皆…。 枕元で絵本を読んでくれた、優しい…… アインスは生来、優しい気質であった。 『伏魔殿』が軍勢を整え、『円卓列強』に攻め入ると決めたのがつい二週間前の事。その情報がアインスの耳に届いたのが五日前であった。二大勢力が激突すれば、どちらの陣営も多くが命を落とすだろう。 これが生きる為の戦いならば、仕方ない。少ない食料を奪い合うのは、胸が痛む光景だが理解は出来た。だがその理由が富める者の欲望ならば、話し合いで鎮める道は無いのだろうか?アインスはそう考えて、伏魔殿へ和解文書を送ったのだ。しかし交渉は決裂。本日、アインスの直談判に繋がる。 碧い瞳から涙が零れた。地面の冷たさで震えているのかしゃくりあげているのか、もう彼女にも分からない。ただ最早この世界が、あの赤い双眸と分かり合えないのだと確信し、それがたまらなく悲しかったのだ。 「欲しいから奪う。欲しいから作る。それは生物として当然の事じゃ。動物如きと一緒にするな、等とほざくなよ?それはそれは、とても悲しい事じゃからのぅ…ん?」 アインスの口元を、アヴァの瞳が捉える。眼前に横たわる子供は、何事か小さく呟いていた。 「…みよ、…ちど、…たしに………からを……!」 「ほう、偉大なる三女神にご加護を求めるか。『自然の女神』か?『契約の女神』か?それとも『因業の女神』かの?何にせよ、捧げ物無くば如何に慈悲深き女神と言えども…っ!」 「…くもつ…には…………私の時間を捧げます(・・・・・・・・・)…っ!!」 「なっ!?」 呟き終えると同時に、アインスの身体が輝き始めた。 しかし数舜の内に消失し、後には何も残らなかった。 アヴァは驚きを隠せない。同胞達はそんなアヴァの様子その物に驚いていた。 "双影剣"の片割れが駆け寄る。 「にャぁ~!アヴァさマ、い、今のハ一体?」 「してやられたわい。女神への供物に、己が時間を与えよったのじゃ…今までの人生経験その物をな」 「殴殺圧殺自殺――あ、アヴァ様。下手すると彼女、胎児に戻るのでは?」 「いや、それは無い。あ奴の願いが儂を倒す力ならば、行動出来る程度の余力は残る筈じゃ。しかしあの消え方…恐らく、アインスの居場所は『並行世界』じゃな。この世界とは異なる歴史を辿った、また別の世界よ」 「カカカカカカカカカ、困リマシタナ。デハ戻ッテ来ルマデノ間、決着ハオ預ケデスカナ?」 「それも否!決着は早いに限る!」 「「「ええええええええ~っ!!!????」」」 今度は伏魔殿の面々が、驚愕の表情を浮かべた。しかしアヴァは側近達を呼びつけると、全員の心配を他所にテキパキと命令を下していく。 その顔にはいつも通りの微笑みが浮かんでいた。「儂の思う通りになる」という、あの自信に溢れた笑みが。 「よいか、伏魔殿の皆の衆よ。儂はこれから単身でアインスを追い、決着を付けてくる。その間、円卓列強との戦線は維持しておくのじゃ。既に策は与えたからのぉ、儂が戻るまでの間は安心して"四界円卓使徒"に従うが良い。"双影剣"よ、うぬらはこの四人の護衛に回れぃ」 「オ任セ下サレ、カカカ!血ガ騒ギマスデスジャ!」 「にャぁ~、分かりましたにャぁ~」 やがて、"八柱邪神将"達がたらいに水を入れて持ってきた。それは子供数人で水浴び出来る程に大きく、底には美しい黄金の飾りが沈んでいる。 アヴァは腰に帯びた髑髏剣を抜くと、その切っ先を天に向け、空いた左手でたらいを指さした。 「我が名はアヴァ・シャルラッハロート、自然と契約と因業の信奉者なり!この世で最も偉大にして、最も慈悲深き三柱の女神たちよ!我が願いを聞き届け給え!――この星をお造りになられた『自然の女神』よ!此度、供物として捧げる金銀財宝に恵まれし幸運を、ここに感謝致す!御身に差し上げるは我が全て、生来より立てし誓いは健在である!」 髑髏の飾りは、いつかその身を自然に還すと誓う信奉者の証。所属の如何を問わず、この世界ではポピュラーな物である。 やがてアヴァの髑髏剣が光り、自然の女神が「いいよ~」と言うのが伝わった。 アヴァの言葉は更に続く。 「この星に則(のり)をお与えになられた『契約の女神』よ!我が伏魔殿が誇る、この国宝を受け取りたまえ!そして願わくば、儂とアインスが決着を付けられるように、同じ世界同じ地への扉を開き給え!」 突如水面が揺らぎ、見た事もない景色が映し出される。 たらいの中に沈めた、唯一無二の宝は消えているだろう。契約の女神が、この取引を良しとしたのだ。 次いで、アヴァは本当にお願いしますという顔を見せた。そのように装っているのではなく、本当にそう願っているからだ。 「この星に数奇なる運命をもたらされし『因業の女神』よ!どうか、どうかお願い致します!お目覚めになられており、ご機嫌がよろしく、儂の願いを叶えてやっても良いと一抹のお慈悲をかけて下さいますならば、この水面に映し出されし世界において、儂と因業結ぶアインスの居場所を何卒教えて頂ければと乞い願います!」 それはもう、必死のお願いだった。因業の女神はどんな感謝も供物も必要としないが、とことん気まぐれなのである。もしここが叶わなければ、見ず知らずの世界で探し出すのに何年かかるか分からない。 だから滅茶苦茶祈った。同胞も皆、一生懸命にお願いしてくれた。やがてアヴァの脳裏に、一筋の天啓が下される。 「…っよっしゃぁ!アインスの居場所が分かったぞ!よし、よし、よぉし!」 「やりマしたにャぁ!」「衰弱眩暈朦朧耽溺!」「カカカカカ、サァ早クたらいノ中ヘ!」 同胞とのハイタッチもそこそこに、アヴァはたらいの縁に足を乗せる。 「良いか、必ず儂は戻る。この入口はすぐに消えるが、決着を付ければ必ずこちら側へと戻ってこられようぞ。三柱の女神は既に願いを叶えて下さった故、道中新たなお力添えを望めはせんが…」 「任せルにャぁ~」「背中ハ預カリマシタゾ!」 「では我が同胞達よ、今しばしの別れ!さらば!」 「「「「「ご武運ヲ、アヴァさマ!」」」」」 こうして伏魔殿の主、アヴァ・シャルラッハロートは、英雄アインスとの決着を付けるべく、別の世界へと渡ったのだった。 ――で、アヴァは東京都に降り立ったのである、が。 「デッカいのぉ!!!」 聳え立つコンクリートジャングルの只中で、アインスが消えた時以上に吃驚(びっくり)していた。 服装は土に汚れ、棒きれを杖代わりに持ち、天を突く摩天楼を眺めている。 「この世界、全部デッカいのぉ!!!」 否、逆にアヴァが小さいとも言える! 『伏魔殿』の中では背が高めだったが、この世界では道行く人間のくるぶしまで頭が届くかどうか、どう見ても親指サイズでしかないのである! 『伏魔殿』や『円卓列強』が存在する世界は、数億年前に歴史が分岐した地球である。 アヴァは知る由も無いが、彼の故郷は隕石の衝突とその後の氷河期が長引いた世界であり、酸素や食料の不足にとって大型獣が育ちにくい環境が続いた。結果、あらゆる生物が小型サイズとして進化を遂げたのであった。 生物の最小限界などの問題もあり、猫や牛なども大体親指サイズでまとまっているのが特徴だ。しかし、この地球は違う。 「こ奴もデカいのか!!!」 「おぎゃぁ!」 アインスも!デカかった!!! 天啓に従って入った建造物の中で、民家サイズの特大ベイビーを発見した。足首の取り違え防止用のタグには、「山入端 一人」と油性ペンで書かれている。人違いを疑ったが、天啓の力はこのデカブツを見つけたと同時に消えてしまった。 契約の女神は、アインスに授ける力を単純に「デカさ」と捉えでもしたのだろうか。彼女はこの『東京』が存在する世界における人類として生まれ変わり、今はふぎゃふぎゃと泣いている。 「大きいが、こりゃどう見ても赤子じゃな…ここまで幼くなっておるとは、どうやって決着付ければ良いのじゃ…?」 透明な板越しにその頼りない様子を眺めていると、隣の男女が話しかけて来た。 正確に言えばずっとこちらへ喋り続けていたのだが、アヴァはなるべく見ないようにしていたのだ。 「いやぁ~可愛いわぁ~、ねぇねぇ妖精さん、妖精さん。お菓子食べるかしら?あ、これナッツ入りだけど大丈夫かしら~?」 「…違うぞえ。儂はアヴァ・シャルラッハロート、星の覇権を巡る二大組織『伏魔殿』の主にして、寝た子も泣きだす…まぁ、説得力は無いかのぉ」 「やっぱり典型的な魔人能力の産物っぽいなぁ。もしかして、それでこの子は捨てられたのか…」 巨大な塔に匹敵するつがい。勝手に喋る内容から察するにアインスは捨て子であり、その引き取り先としてこの二名が名乗りをあげたらしい。 本日はいよいよ、という所で、思わぬ闖入者を発見したという訳だ。 この世界にも異能の保有者はいるらしい。どうも二人はアヴァの事を、アインスの持つ異能の産物と思い込んでいるようだった。 女の方が、くらくらする程呑気な声音で話しかけてくる。 「妖精さん、あなたは一人ちゃんと関係ある子?」 「子て。ま、果てしなく因業結ぶ関係じゃのぅ。こことは異なる世界より、あ奴を追って来る程度にはな」 「まぁ!ねぇあなた、アヴァちゃんもうちに連れて行きましょうよ!」 「ふん。窮しても儂は長じゃ、施しは受けぬぞ」 眼鏡をかけた巨大な男が膝立ちになり、アヴァと目線を合わせて言った。 「アヴァ・シャルラッハロート様。今日は我が家に新しい家族が増えます。この喜びを誰かと分かち合いたいのですよ、どうか今晩の食卓にお越し頂けないでしょうか?ボク達の娘も喜びます」 「む…」 「アヴァ様の好むようなお食事も、誠意を持って作らせて頂きます」 「むむむ」 泣き止んだアインスが、目の前であちらこちらと視線をやっている。 その様子を見て、また男女は色めきたった。 「ついに私達にも子供が出来るのねぇ~」 「あぁ、可愛いなぁ!あの子は絶対、美人になるぞ~」 「ねぇ~一人ちゃん、あ、こっち見たわぁ!」 「"大きくなれ"って意味で"一人"にしたけど、ちょっと捻り過ぎたかなぁ…?あ、こっち見た!」 恭しい態度はどこへやら、すっかり"一人"の虜となったつがいを前に、アヴァは大きく溜息を吐いた。 「ぬぅ…せっかくの招待を無碍には出来んのぅ…その誘い、受けようぞ」 「「よろこんで!」」 こうして、一人は山入端家にやってきた。 そしてアヴァもやって来た。 ◆ ◇ ◆ ◇ DANGEROUS SS EDELWEISS "AVA・SCHARLACHROT(or KINTOTO)" PROLOGUE Title call…… 『EINS IN WONDERLAND』 Show Up !!! ◇ ◆ ◇ ◆ 『(題名(タイトル)なし)』 「マーマ、きんとと」 「あら~、見てあなた。この子、絵を描いているわぁ」 「お、どれどれ?」 「キントトって何じゃ?」 「金魚って意味よぉ」 「きんとと」 「はぁん、祭りで見たあの魚か。アインスは絵が好きじゃのぅ」 「きんとーと」 「…なぁ、何かこっち見て言っとらん?お主もそう思わんか?」 「もしかしてこれ、アヴァさんの絵かも」 「儂!?この、赤いぐじゅぐじゅがか!!もうちょっとこう、色々と特徴あるじゃろがぃ!!!」 「きんとと」 「黒い点々を付け始めたね」 「カワイイじゃなぁ~い。後で額縁に入れましょ!」 「やめぇ!こんな物が儂の肖像として残されてたまるかぁ!」 「きんとと~」 「儂は!アヴァ・シャルラッハロートじゃあ~っ!」 ◆ ◇ ◆ ◇ 『きんててさゃん』 ワン! 「きんとと、わんちゃん!」 「静かにせぇ。今、同胞に出来ぬか試しておるところじゃ」 ワン! 「かわいいねー」 「ふふん。この骨を模した菓子が好きなんじゃろ?たっぷり持ってきてやったぞ、ほれほれ親睦を深めようではないか」 ワォーン! 「ママー、わんちゃん!わんちゃん!」 「あら~本当だねぇ~。わんちゃんだねぇ~」 「この体格、惜しいのぉ…『契約の女神』のお力添えが無い以上、儂があちらに戻れば置き去りにする事になるのじゃが…」 ワン! 「ん、ちぃと待て袖が牙にかかって…ああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁー………ッ」 「ママー、きんととー」 「あ、あら、どうしましょう?」 「きんとと、いっちゃったー」 「駄犬は逃がしたが、裏山で同胞を見つけたぞい」 「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」 「むいむいだー!」 「ア゛ヴァち゛ゃん゛っ゛!?」 ◇ ◆ ◇ ◆ 『どんぶらこっこ』 「きんとと、なにしてるのー?」 「うむ。同胞も数が増えた故、これから畑を開墾するのじゃ」 「はたけってなにー?」 「野菜を作るんじゃよ。牧畜は厳しいが、小型の野菜ならば儂らでも作れる」 「やさいヤダー!」 「お主ので無いわ!兵站は何より重要なんじゃぞ!」 「よし。それでは新生…いや、『第二伏魔殿』の諸君!これより我らの楽園を築こうぞ!まず手始めに、庭の草むしりからじゃ!」 「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」「ゴキー」 「ひとりちゃんもやるー!」 「パパも手伝おうかな」 「二人共まだやってるのかい?もう土砂降りじゃないか」 「まだやる!まだやる!」 「お主らは先に戻っておれ、儂はもう少し石を…あ」 「…アヴァさん?」 「きんとと、おちた」 「え、あ、排水溝に!?」 「がぼがぼがぼが!」 「やはり、身長が近いと同胞にし易いのぉ」 「チュー」「チュー」「チュー」「チュー」「チュー」「チュー」「チュー」「チュー」「チュー」「チュー」 「ねずみさんだー!」 「ア゛ア゛ヴァア゛ヴァっ゛!!???」 「その子たちも含めて、皆お風呂に入ろうね」 ◆ ◇ ◆ ◇ 『へんしんどうほうさんおうこく』 「こりゃアインス、それは儂のブロックじゃ」 「あたしのだよー!」 「それが無いと店が作れんじゃろ!」 「一人、アヴァさんにも貸してあげなさい」 「ああぁーん!」 「こんにちはー」 「チュー」 「なにやさんですか?」 「チュー。ネずミとりトリ屋サんデス」 「おかしはありませんか?」 「アっちニありマすヨ」 「ありがとうございました!」 「こんにちはー、おかしありますか?」 「ゴキー?」 「おかいものやさんでーす」 「ゴキー!」 「ママー!これ、したにあったのー!」 「あら~ヘアピン、ゴキちゃんありがとうねぇ~」 「どモ」 「…それでな、これが『伏魔殿』圏内における通貨じゃよ」 「へぇー、砂金ですか」 「よく見よ、硬貨じゃよ。儂の横顔も打ってある。…向こうでは兵士一年分の給金じゃが、ここだと端金じゃな」 「こんにちはー」 「はい、こんにちは」 「何じゃ」 「おかしありますかー?」 「ほれ、持っていけ」 「おいくらですかー?」 「一万円じゃよ」 「はい、どうぞー」 「ふふ、『いちまんえん』か。一人も絵が上手くなったなぁ」 「…紙幣か。珍しいのぉ」 「へぇ、あちらには無いんですか?」 「海の底とも取引するしのぉ」 ◇ ◆ ◇ ◆ 『(無題)』 「良いか、アインス。因業の女神は慈悲深くも気まぐれで、その御心は人の手に余る物じゃ」 「あれは我が家の大黒柱にして、第二伏魔殿の補佐官も務めた。どこに出しても恥じる所の無い、立派な男じゃった」 「此度の事故は、儂も口惜しい。じゃがあの男は地の流れとなり、偉大なる三女神から最大の栄誉を受けるじゃろう」 「じゃから、泣くなアインス。――お主も英雄じゃろうに。心を強く持て」 ◆ ◇ ◆ ◇ 『大かいじゅうガオー』 「やぁーい、ちびのひとりー!」 「ちーび、ちびちびちーび!」 「グスッ、ひぐっ、えぇーん!」 「何をしとるかそこのおぉーっ!」 「ゴキキゴキャァーッ!!!」「チュ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ!!!」 「うわ、何か来た!気持ちわるっ」 「いってぇ!刺してくるぞコイツラ!」 「去ね悪童めが、しっしっ!」 「ひトりちャんヲいぢメるナ!」「家ニ火ぃ付けルぞ糞ガキャァ!」 「…ありがとね、きんとと、皆」 「全く情けない、この程度で英雄が泣くでないわ。儂がお主ぐらいの時には、大蛇を相手に奮闘したもんじゃ」 「私、英雄じゃないもん…」 「ねぇ、きんととは、ずっと一緒に居てくれる?」 「儂は死なんよ」 「ほんと?」 「食ったら帰るぞ。今夜は遅いそうじゃからな」 ◇ ◆ ◇ ◆ 『コップの向こうで』 「きんとと、あっちの世界の話してぇー?」 「いいぞ」 「チュー」「ゴキー」 「ママも聞きたいわぁ~」 「鬱蒼と這い生える苔林を抜けるとな、そこはしいたけの森じゃったのよ」 「あはははは!何それ!」 「チュチュー」「ゴーキッキッキッ」 「ご飯には困らないわねぇ」 「そして深海軍の猛者が集ったのじゃが…今から思えば、儂らの言う深海とはこの世界の浅瀬かも知れんのぅ」 「今度、実際に海行って測ってみる?」 「チュ~」「ゴキキ」 「貝とかお魚も小さいの?それは困るわぁ…」 「~でな!そこで見たのがな、地平線までも覆う円卓列強の軍勢だったのじゃ!新大陸連合も、凍原皇国も、東方の島々から来た戦士までもが、その場に集っておったのじゃ!」 「うわぁ…それで?それで?」 「チュー…」「ゴクリ…」 「大変ねぇ」 「普通は撤退が鉄則!儂も普段ならばそうしたろう!しかしそこで退けば、後ろで怯える無辜の民をいかんとする!」 「でな、儂がそこでな、えんらく列強の軍勢を、無辜の民を、な?」 「…きんとと」 「…ゥ」「…ッ」 「わぁ、そうなのねぇ~。大変ねぇ~、ヒック!」 「ひっく!じゃろ?そこでなぁ、儂がなぁ、地平線のな?」 「きんとと、ママ。飲み過ぎだよぉ…」 「…グゥ」「…キーッ」 ◆ ◇ ◆ ◇ 『ジシャクハンター』 「ほら早くー、きんとともおいでよー!」 「砂粒が荒くて歩きにくいのぉ」 「水着もレディースなんだねぇ」 「似合うじゃろ?…って、こりゃ待てアインス!遊ぶのは自由研究をやってからじゃ!」 「ねぇねぇ見て見て!砂鉄がこんなに採れてるー!」 「うむ。伏魔殿でも円卓でも、こうやって磁石で砂鉄を集めて、武器防具を作っておるのじゃ」 「もっと沢山ある所ないかなぁ」 「公園も裏山も、田舎のじい様の庭も試したじゃろ?他の場所といえば…」 「ホレホレ」 「やめんか髑髏剣にくっつけるな!コラ、返さんか!」 「放すなよ」 「ちゃんと持ってるからだいじょーぶ」 「お主が放すと、永遠に漂流するからな」 「大丈夫大丈夫、ほらね」 「放すなよ」 「…きんとと、カナヅチ?」 「聞くな」 「流星群、綺麗だねぇ」 「そうじゃの~。これが来た夜は皆で、城の屋根まで上がって見たものよ」 「へぇ~」 「綺麗じゃのぅ」 「綺麗だねぇ」 ◇ ◆ ◇ ◆ 『図書館の栞になって』 「…あ、きんとと。おはよう」 「……おはよう。良く眠れたようじゃの?」 「声出してよ~」 「儂、夜中の十二時からずっとのしイカ(・・・・)みたくなっとったんじゃけど?」 「ごめんて」 「最近重たくなったのぉ…」 「重くないよ!」 ◆ ◇ ◆ ◇ 「きんとと、どこー?」 声をかけられてふと我に返ると、アヴァはめくっていた紙を元に戻した。 パサリと小さく音を立てて、古い画用紙が床に落ちる。 「あ、こんな散らかしてー。何これ?」 「覚えとらんのか。お主が子供の頃、儂を描いた絵じゃよ」 「この赤いぐじゅぐじゅがぁ?」 「だそうじゃよ。十二年前のお主曰く、な」 一人の自室に、様々な絵が散乱していた。クレヨン画、色鉛筆画、絵本――チラシの裏に描かれた双六ゲームまで残っている。これはアヴァが直接乗って遊べるようにと作った物だった。全て、一人が描いた作品である。 「これ何かなぁ、『きんててさゃん』?自分の文字なのに読めないや」 「『きんととちゃん』じゃな。これも多分儂じゃ、儂が散歩しながらお菓子とか花を食べておる」 「何か恥ずかしいなぁー」 「こっちは酷いぞ、これ儂が排水溝に流された後に描いた奴だからな?」 「おー、それは何か覚えてる」 「すーぐ人をネタにしよるんじゃから」 「ごーめーんーなーさーい」 しばらく二人で、昔の作品をめくる。 それは、一人をモデルとした女の子が、様々な動物の家に招かれる童話。 それは、巨大な怪獣がいじめっ子やニンジンを踏みつぶす話。 それは、お酒好きのお爺ちゃんが語る昔話の中に、時空を超えて現れる少年の物語。 それは、宝物が身体にくっ付いてしまう男の怪奇譚。 それは、図書館の栞目線で紡がれる恋物語の短編集。 エトセトラ、エトセトラ。 この十二年で描いた作品は膨大で、思い出話は枚挙に暇が無い。 「一杯描いたねー」 「そうじゃのぅ」 「へへー!だからさぁ、私漫画家になれるかなぁ?佳作だよ佳作ぅ」 「なれるじゃろうよ、これだけ描けるならな」 「まだまだ全然描いてないよ。描き足りないよ!大賞取れなかったし、ネタだって沢山あるんだから!」 「そうか…」 そこから先の言葉が思いつかず、会話にぽっかりと穴が開いてしまう。 アヴァは何か口にしようと考えてみたが、そうこうしている内に時間が来てしまった。 半年前。一人は自作の漫画を小生館『コミックぽんぽこ』に投稿して、佳作を受賞した。翌々日、東京の某ホテルにおいてその授賞式が行われるのだ。 仕事の都合で母親は間に合わない。だが一人とアヴァは先行し、少し長めに東京見物を楽しもうと決めたのだった。希望崎学園入学前の、短い春休みの出来事である。 「一人ちゃーん、アヴァちゃーん。もう支度は出来たのー?」 「今行くー!きんとと、忘れ物はなぁい?」 「無いぞ」 一人はアヴァに右手を差し伸べる。結局何も言わずに、その掌へ飛び乗った。 視界の端に化粧用の鏡が映る――アヴァは、先日聞かされた忠告を思い出す。 "『気を付けて』" 「アヴァちゃん、一人をお願いねぇ」 「ふーんだ、大丈夫ですよー…あれ、財布がない!どこだっけ!?」 「…本当に、お願いねぇ?アヴァちゃんだけが頼りなのよぉ」 「任せておくが良い、同胞達も一緒じゃしな」 「ゴキキーッ!」「チュー!」「トカーゲ!」「チュチューン!」 「大丈夫!大丈夫、ちょっと油断しただけだから!」 「ええいアインス、鞄の中身を全て出せ!最後に総点検してくれるわ!」 アヴァは、頭上に浮かぶ一人の瞳を見上げた。その両目は過去を向いておらず、未来を向いて生きている。 かねてよりの夢だった、漫画家への道を見つめている。 いつも通りの光景だった。 いつも通りの、ぎゃぁぎゃぁと五月蠅く喚きながら過ごす、馴染みの光景だ。 たった一つ、少年の残した予言を除けば。 (ふん。『山入端 一人は死ぬ』『これまで助かった歴史の世界は無い』じゃと――?儂を一体誰だと思うておるのか) アヴァの胸に、久方ぶりの戦意が蘇る。平和ボケを心配していたが、どうやらそれは杞憂であったらしい。 知らないのならば教えてやろう。 率いるは、共に鍛えし十二の部隊。 蟲に鼠に蜥蜴に小鳥、諸々合わせて一万体――その名もずばり『第二伏魔殿』。 我は星の覇権を奪う者。 魔さえ平伏す超越者。 寝た子も泣きだすその姿、誰が呼んだか『逢魔刻(クライベイビークライ)』! アヴァ・シャルラッハロート。 アヴァ・シャルラッハロート。 アヴァ・シャルラッハロート!!! 悪鬼羅刹を踏み越えて、必ずや小生館の授賞式へと参ろうぞ。 ――儂の獲物を横取りするつもりならば、同胞総出で蹴散らしてくれるわい! 「あ、電車に遅れる~!ねーきんとと、『シュテルクスト・カメラート』何で私には使えないのよー!」 「…アインスよ、お主は同胞と呼ぶに頼りなさ過ぎるのじゃ…」 〈アヴァとアインスの決着まで、後数日〉