約 1,454,933 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9405.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十八話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その2)」 スペースリセッター グローカーボーン スペースリセッター グローカールーク 鏑矢諸島の怪獣たち 伝説薬使獣呑龍 海底怪獣レイジャ チャイルドバルタン シルビィ ネイチュア宇宙人ギャシー星人 登場 ルイズを救う本の旅は、半分を越えて四冊目に入った。四冊目はウルトラマンコスモスの 護った地球を題材とした本。そこではムサシが人間と怪獣の共存する未来の新天地となる ネオユートピア計画により、遊星ジュランに飛び立つ時を待っていた。だがそこに現れた 謎の円盤と巨大ロボットが、輸送ロケットを狙う! コスモスが助けに駆けつけたが、 かつてともに戦ったウルトラマンジャスティスがどういう訳かロボットの味方をして コスモスを追い詰める! そこを今度はゼロが救い、ロケットはどうにか防衛することが出来た。 しかし才人の前に現れたのは、ジャスティスの人間態。それはルイズの姿となっていた……! 「……!」 自分の前に現れ、こちらに信じられないほどに冷酷な視線を送ってくるルイズに、才人は 固い面持ちとなった。 本の世界のルイズは、厳密には『ルイズ』とは言えない。これまでのように物語の登場人物に 当てはめられていて、その与えられた役になり切っている。だから『ルイズ』と呼べるのは見た目 だけで、全くの別人。ここで自分と敵対する立ち回りになっていたとしても、現実のルイズに 影響がある訳ではない。 それは頭では分かっているのだが……やはりルイズの姿を敵に回すという事実は、才人の 心情をひどく複雑なものにしていた。 「ウルトラマンジャスティス……どうしてあんたは、コスモスを攻撃したんだ。あのロボットと 円盤は何なんだ?」 そんな才人の思いをよそに、フブキがルイズに問いかけた。それを受けて、ジャスティスに なり切っているルイズは口を開いた。 「あれらはデラシオンの使いであるスペースリセッター。今から四十時間後、この星の生命は 全てリセットされる」 「リセット……!?」 ルイズの宣告に、フブキと才人は衝撃を受けた。 「地球の生き物を全て、消滅させるってことか!?」 「その通りだ。これは、宇宙正義により下された、最終決定事項である」 ルイズの語ることにフブキは極めて険しい表情となる。 「……あんたの話に出てきた、デラシオンってのは何者だ?」 「デラシオンは、我々ウルトラマンと同じく、この宇宙の秩序を守っている」 ルイズの双眸が怪しく光り、才人たちとの間にドーナツ型の巨大多脚円盤の立体映像が出現した。 「これは……!?」 「ギガエンドラ。人類を始め、全生命を消滅させる、惑星改造兵器だ」 巨大兵器ギガエンドラの中心部から発せられた光線が、地球の表層にあるものを全て焼き払い、 消し去る映像が才人たちの前で展開された。フブキが我慢ならずに叫ぶ。 「どうして、俺たちの地球にこんなことをしようって言うんだ!」 それのルイズの回答はこうだ。 「予測したからだ、未来を」 「未来?」 「今から二千年後、地球は宇宙にとって有害な星となる。よって全てを消し去り、生命の進化を やり直させる」 「地球が、宇宙に有害な星となるだと……!?」 言葉を失うフブキ。一方で才人は、二冊目の本でのことを回想した。 ウルトラセブンの物語に出てきた、フレンドシップ計画……。『フレンド』とは名ばかりの、 惑星破壊ミサイルで星を破壊することを主眼に置いた狂気の計画だった。また現実のM78ワールド でも、超兵器R1号やトロン爆弾など、星を爆破する実験が行われていた時代もあった。何度も 侵略宇宙人に襲われた地球人だが、これらの歴史を見ると、一つ間違っていたら地球人が恐ろしい 宇宙の破壊者になっていたかもしれない。 そしてデラシオンという者たちは、その可能性が現実となるものと判断したようだ。 「彼女の……ジャスティスの言ってることは全て真実だ。コスモスが教えてくれた」 ここでそれまで黙っていたムサシが発言した。 「だけどコスモスは、デラシオンの決定に反対し、最後まで説得し続けた! それが失敗しても、 こうして僕たち地球人のために駆けつけ、戦う意志を示してくれている!」 「……コスモス、そしてそこのウルトラマンに問おう。お前たちはどうして地球人類を守り続ける」 ルイズがムサシと才人……コスモスとゼロに問いかけてきた。 「たとえ武力で抗ったところで、何も変わるものなどない。デラシオンの決定も、地球人の 二千年後の姿も……。全ては無駄なのだ」 そう言い切るルイズに、ムサシは問い返した。 「逆に聞こう……。ジャスティス、あなたはどうしてデラシオンの決定を支持する。まだ未来は 確定していないのに、地球人が宇宙に有害な存在になるなんて……まるで見てきたかのようじゃないか」 すると、ルイズは意外なことを言い出した。 「見たのだ、私は」 「何だって……?」 「お前たちも戦った、多くの惑星を破壊したサンドロス。……あれは、昔は地球人類とよく 似ていた生き物だったのだ」 「!!?」 その告白に、才人たち三人は心の底から驚かされた。 「夢や愛などという曖昧な感情を持った、不完全な生命体だった。そして二千年前、今の 地球人と同じように、デラシオンからリセットの決定が下された……」 それがどうして、二千年前に執行されなかったのか。ルイズは理由を述べる。 「しかし、リセットは猶予が与えられた。……この私によって」 「……!」 「だが、それは過ちだった……。サンドロスは、デラシオンの予測した通りの存在になって しまった。……私は、過ちを二度と繰り返しはしない」 と語ったルイズに対して……才人が言う。 「サンドロスがそうだったとしても、地球人が同じになる理由にはならないさ」 「何?」 全員の視線が集まる中、才人は主張した。 「未来は計算されるもんじゃない。その土地、その時代の人たちが作り、つないでいくものだ! 俺とゼロは、ここじゃない別の場所だけど、人間の持つ可能性と希望の力を知っている!」 才人は見た。シティオブサウスゴータで、地獄の超獣軍団の暴威に晒されてもあきらめず、 命を救うために抗い続けた人間たちの姿を。そして他ならぬ自分が、はるかに巨大な存在が 相手でも折れることのない勇気を身につけることが出来た! それが人間の持つ、素晴らしい 力なのだ。 ゼロも、アナザースペースで人間たちの希望の光の結晶を得た。フューチャースペースでは、 圧倒的な絶望にも負けない人間たちの力によって助けられた! ゼロもまた人間の希望の力に よって支えられてきたのだ。 そしてM78ワールドの地球は、ウルトラ戦士でもどうしようもないような事態が何度も 襲ってきたが、それらを夢と希望を信じる心で打ち破ったから新たな時代を迎えることが 出来たのだ。それが人間の可能性だ! 「宇宙正義が何だ! 俺たちは、夢と希望こそが本当の正義だと信じてる! だからそれを 守り抜いてみせるッ!」 才人に続いて、ムサシもルイズに向けて呼びかけた。 「コスモスが言っている。私も、この地球で人間の持つ可能性を、希望という言葉の素晴らしさを 知った。それをジャスティス、君にも信じてもらいたいと!」 フブキもまた、ルイズに告げた。 「君は、楽な道を選んでるだけだ」 「楽な道……?」 「ここにいるムサシとコスモスは、どんな時でも、最後まで希望を持ってた。奇跡を信じてた! だから今度も奇跡を起こしてくれる……いや、俺たちで奇跡を起こしてやる!」 三者三様の熱い想いを胸に、ルイズを説得する。……しかしルイズは踵を返した。 「奇跡など、起こりはしない……」 その言葉を最後に、振り返ることなくどこかへ立ち去っていった。 「……駄目なのか……」 才人が思わずそうつぶやいたが、フブキが否定する。 「いや、最後まであきらめずに呼びかけ続ける! そうすれば、きっとどんな相手にも俺たちの 気持ちは通じる……!」 言いながら、ムサシと目を合わせた。 「お前はそう言いたいだろう?」 「……はい!」 ムサシは満面の笑みでフブキに肯定した。フブキは続けて述べる。 「デラシオンに対話の意思がなくても、チームEYESは地球からのメッセージを送り続ける! 早速指示しなくちゃな……。ムサシ、コスモス、悪いが後のことは頼んだぜ」 「任せて下さい! デラシオンが考えを変えてくれるまで、僕たちが地球を守ります!」 フブキは去り際に、才人にも目を向けた。 「ゼロって言ったか……どうか、コスモスとムサシを助けてやってくれ」 「はい! 望むところです!」 才人の力強い返答に微笑んだフブキが、EYESの基地へと向かっていった。それからムサシが 才人に向き直る。 「僕たちのために、地球のために戦ってくれてありがとう。その気持ちは、絶対に無駄には しない! だからともに手を取り合って、地球のリセットを阻止しよう!」 「ええ! よろしくお願いします!」 才人はムサシから差し出された手を取り、固い握手を交わした。 そしてゼロは、ある確信を得ていた。それは、この物語はコスモスペースでの実際の出来事の 途中までの記録だということ。コスモスが、ムサシの夢の実現の直前に、地球の存続を懸けた 大きな試練があったと語っていたのだ。 ならばこの物語を完結させるためにやるべきことはたった一つ。宇宙正義の決定を覆し、 地球の未来をつなぐのだ。 デラシオンによる地球全生命のリセットは、地球の各国政府にも告げられた。そして防衛軍は、 デラシオンに対する徹底抗戦を決定。軍事衛星の超長距離レーザーや弾道ミサイルの照準が、 衛星軌道上に押し出されたグローカーマザーと地球に迫り来るギガエンドラに向けられた。 攻撃開始は刻一刻と迫っていた。 しかしフブキ率いるチームEYESは、デラシオンに対してメッセージを送信し続けていた。 それが実ることを信じて……ムサシと才人はグローカーマザーの座標の真下に当たる市街まで来た。 「防衛軍の攻撃では、デラシオンの兵器を破壊することは出来ないだろう。そしてデラシオンは 地球の抗戦に対して、反撃を行う……! それを食い止めるのは僕たちだ!」 「はいッ!」 意気込む二人の超感覚が、ギガエンドラとグローカーマザーに対して攻撃が放たれたことを 感じ取る。 「始まった……!」 攻撃の結果は……やはりスペースリセッターを破壊することは出来なかった。ギガエンドラも グローカーマザーも傷一つつくことがなく健在。それどころか、グローカーマザーは地表に向けて グローカーボーンを複数機投下してきた。 「来たッ! 才人君、行こう!」 「はい!」 グローカーボーンの射出を確認したムサシは輝石を掲げ、才人はウルトラゼロアイを顔の 前にかざす。 「コスモースッ!」 「デュワッ!」 グローカーボーン四機が都市に着陸と同時に、二人は光に包まれてコスモス・コロナモードと ストロングコロナゼロに変身した! 「キ――――――――ッ!」 「デヤッ!」 「シェエアッ!」 グローカーボーンはコスモスとゼロを認めると、いきなり射撃を開始。それに対してコスモスは 光弾を空へ弾き、ゼロはパワーに物を言わせて突っ切りながら前進。グローカーボーンたちに接近していく。 「ハァッ!」 「セェェェイッ!」 「キ――――――――ッ!」 コスモスたちはグローカーボーンたちの間に切り込んで、肉弾で張り倒していく。 「デェアッ!」 そしてゼロの鉄拳がグローカーボーン一体の顔面に突き刺さり、衝撃でバラバラに粉砕した。 『よぉしッ!』 まずは一体を撃破したことにぐっと手を握るゼロだったが……空からはすぐに新たな グローカーボーンが送り込まれてきた。 「キ――――――――ッ!」 『何ッ!?』 コスモスは両腕を、円を描くように動かしてから、左手の平を右腕の内側に合わせる形で L字に組んだ腕より必殺のネイバスター光線を発射した! 「デヤァ―――――ッ!」 「キ――――――――ッ!」 振り抜かれた光線が、グローカーボーン三機を一気に爆破! だが同じ数のグローカーボーンがまた空から降下してくる。 「フッ!?」 『くそッ……! これじゃキリがねぇ……!』 グローカーマザーは宇宙船だけでなく、破壊兵器グローカーの工廠の役割もあるのだ。 故に尖兵であるグローカーボーンをいくら倒そうとも、新しい機体が絶え間なく作られて 送り込まれてくるのである。 次々湧いて出てくるグローカーボーンに手を焼いているコスモスとゼロの様子を、人々が 逃げ惑う市街からルイズが見上げていた。 「無駄だ。奇跡などない」 コスモスとゼロを囲んだグローカーボーンたちは、四方から光弾を乱射して浴びせる。 「ウアァァァッ!」 『くぅぅぅッ……!』 物量に物を言わせた攻撃に、追い詰められるコスモスたち。 その時、空の彼方から大きな影が猛スピードで戦場に飛来してきた! 「ピィ――――――!」 「あれは……!」 それに気づいたルイズが驚く。影の正体は鳥型の怪獣だ。ムサシがその名を叫ぶ。 『リドリアス!?』 リドリアスは空から光線を吐いてグローカーボーンを攻撃し、コスモスたちへの射撃を阻止する。 グローカーボーンはリドリアスの方に照準を向けたが、その一体の足元の地面が陥没して 姿勢を崩させた。 「グウワアアアアアア!」 地面の下からグローカーボーンを持ち上げたのはゴルメデだった! 更に投げ飛ばされた グローカーボーンに、続けて現れたボルギルスが体当たりを食らわせる。 「グイイイイイイイイ!」 強烈な突進によってはね飛ばされたグローカーボーンの機能が停止する。 コスモスたちに怪獣が加勢するが、グローカーボーンの方も負けじとばかりに更に増量される。 「キ――――――――ッ!」 グローカーボーンの無感情の銃口が怪獣たちに向けられるが……怪獣も続々と増援が戦場に 到着してきた! 「ピュ―――――ウ!」 地中から顔を出したのはモグルドン。それが掘った穴から、怪獣たちが飛び出してグローカー ボーンに飛び掛かっていく。 「グゥゥゥゥッ!」 「キュウウゥゥッ!」 「グルルルルッ!」 襟巻怪獣スピットルが黒い液体を吐いてグローカーボーンのモノアイを染め上げて視界を ふさぐ。動きが鈍ったグローカーボーンに、古代怪獣ガルバスとドルバが連続で火球を吐いて 撃破する。 「グルゥゥゥッ!」 「キャア――――ッ!」 岩石怪獣ネルドラントと地底怪獣テールダスがグローカーボーンに背後から飛びつき、 抱え上げて投げ飛ばした。 「グアァ――――――!」 「グルゥッ! グルゥッ!」 投げられたグローカーボーンに毒ガス怪獣エリガルと密輸怪獣バデータが突進してはね飛ばし、 グローカーボーンはその衝撃で内部機械が破壊され動かなくなった。 「キ――――――――ッ!」 奮闘する怪獣たちだが、グローカーボーンはまだいる。滅茶苦茶に乱射される銃口が、 逃げ遅れている人々の方へ向けられた! 「きゃあああああッ!」 「キュウウゥゥッ!」 放たれた光弾に対して分身怪獣タブリスがその身を挺して受け止め、人々を救った。 このウルトラマンと、人間たちを助けている怪獣は、鏑矢諸島に暮らす者たちだ。ムサシと チームEYES、そしてコスモスによって救われた怪獣たちである。 「グアアァァァッ!」 タブリスを攻撃したグローカーボーンに、伝説薬使獣呑龍が突進し、吹っ飛ばした。更にそこに、 空の彼方から二機の戦闘機が駆けつける。 「今だッ! コスモスたちを助けるんだ!」 テックサンダー、テックスピナーの系譜に連なる現EYESの主力作戦航空機、テックライガー。 その指揮を執るのはもちろんフブキだ! テックライガーからのレーザー集中攻撃により、グローカーボーンがまた一体破壊された。 このウルトラマン、怪獣、人間が共闘する光景にルイズが目を見開く。 「何故、怪獣が人間と……!?」 「それが、ムサシがやってきたことなんだ」 ルイズの背後から呼び掛けられる声。ルイズが振り向いた先に、ミーニンを連れた初老の 男性二人が立っていた。 「キュウッ!」 「こいつら怪獣たちが、ムサシを助けに行かせろとうるさくてね」 冗談交じりに語ったのは、怪獣保護区の鏑矢諸島のイケヤマ管理官。そしてもう一人は、 EYESが最も活躍していた時代にキャップを務めていた、ヒウラ。 「話はフブキから聞いている。地球人が、宇宙に有害な存在になるんだって?」 ヒウラは人間とともに、人間のために戦う怪獣たちの姿を見上げた。 「だが、今繰り広げられている光景こそが、どんな困難があっても夢をあきらめなかった ムサシが出した結果であり、答えだ。ムサシの夢が、あれだけの怪獣たちと心を通わせたんだ。 だから彼らは今、力を貸してくれている! 私たちも、この事態に出来ることがあるはずと ここに集まったんだ」 シノブ、ドイガキ、アヤノの往年のEYESクルーも、戦場から避難する人々を誘導して 助けているのだった。彼らもまた、ムサシとの出会いを通して夢をあきらめないことを 誓った者たちなのだ。 呆然とするルイズの超感覚が、少女の助けを求める声を捉えた。 『誰か助けて!』 「!」 ルイズは反射的に、その現場に向かって超速で移動した。 「コスモス! コスモスー!」 少女は自分の身の危険で助けを呼んでいたのではなく、コスモスと名づけたペットの犬が 瓦礫の下に閉じ込められたのを必死に助けようとしていたのだった。 ルイズは少女に向けて告げる。 「早く逃げるんだ! 犬より自分の命が大事のはずだ!」 しかし少女は聞き入れなかった。 「嫌だ! コスモスは、コスモスは大切な友達なの!」 「……友達……」 ルイズが復唱した時、犬を閉じ込めていた瓦礫が不意に重力を無視して浮き上がった。 「あッ!? コスモス!」 「これは……!」 そして二人の男女が、犬を引っ張り出して救出する。 「君の友達はもう大丈夫だ」 瓦礫を反重力で浮き上がらせたのは、ハサミを持った小柄な宇宙人、チャイルドバルタン・ シルビィ。そして二人の男女はギャシー星人のシャウとジーン。皆かつてムサシが関わった 宇宙人たちであった。 「ここは危ないわ。早く逃げなさい」 「ありがとう!」 犬を受け取った少女はシャウたちに礼を告げたが、ルイズに対しても礼を言った。 「お姉さんも、ありがとう!」 「……私は何もしていない……」 「ううん。あたしを心配してくれたでしょ! だから、ありがとう!」 その言葉を残して、少女は避難していった。ルイズは、シルビィたち三人へと顔を上げる。 「地球とは関わりのない異星人までもが、どうして地球人を助けに来たのだ……」 『ううん。関わりならある』 シルビィは証言する。 『ムサシは、前に私たちの種族と地球人の間の争いを止めてくれた! 大事な友達なの!』 「私たちも、ムサシと地球人たちのお陰で星の命をよみがえらせることが出来た。だから 今度は私たちが地球を助けるの!」 「私も、彼らから夢を信じることを教わった。宇宙正義がどんな結論を出そうとも、私たちは 地球人の夢を信じる!」 ジーンが断言すると、彼らの頭上に深海怪獣レイジャが飛んでくる。 「シャウは地球の人たちのことを頼む!」 「分かった! 頑張って、ジーン!」 ジーンはレイジャと一体化し、レイジャは四肢の生えた戦闘形態になってグローカーボーンに タックルを決めた。 「キュオ――――――!」 そして追撃に衝撃弾の連射を浴びせ、爆破させる。 「……地球のために、これだけの者が立ち上がるとは……」 数多くのものが戦う今の光景に、ルイズはすっかり息を呑んでいる。 「だが……!」 善戦しているように見えた怪獣たちだが、最後に残った二体のグローカーボーンが突如 バラバラに分解したかと思うと、パーツが一つに組み合わさって合体を果たした! グローカーはより大きく、より強く、より攻撃的で冷酷になった第二形態グローカールークと なったのだ! [抵抗スルモノハ、全テ、排除] グローカールークは両肩から光弾を乱射して、怪獣たちを片っ端から薙ぎ飛ばしていく。 「グウワアアアアアア!!」 「グイイイイイイイイ!!」 コスモスとゼロはすぐにその暴挙を止めに掛かる。 『やめろぉぉッ!』 だがグローカールークの前後から放たれる光弾により、二人同時に吹っ飛ばされた。 「ウアアァァァッ!」 暴れるグローカールークにレイジャとリドリアスが空から突っ込んでいく。 「キュオ――――――!」 「ピィ――――――!」 しかし攻撃を仕掛けるより先にグローカールークが高く跳躍し、手の甲から伸ばした鉤爪に より二体を斬りつける。 「ピィ――――――!!」 撃墜された二体の内、リドリアスの方を締め上げるグローカールーク。 [任務ノ障害ハ、全テ、排除] その凶刃がリドリアスにとどめを刺そうとする! 『させるかぁぁぁぁッ!』 そこにゼロが飛び蹴りを決めて、鉤爪を根本からへし折った! 蹴りつけられた衝撃で グローカールークはリドリアスを離す。 「シェアァッ!」 コスモスはコロナモードからエクリプスモードに二段変身! そして三日月状の巨大光刃を 作り出す。 「ハァッ!」 そうして飛ばしたエクリプスブレードは、グローカールークを貫通して綺麗に両断。一気に 爆砕した。 これで地上に放たれたグローカーは全て倒されたかに見えたが……間を置かずに新たな相手が 飛来してきた。 それはグローカーマザー! グローカールーク敗北を受け、遂に衛星軌道上から地表まで 降下してきたのだ。 『まだロボット出そうってのかよ!』 『いや……違うッ!』 グローカーマザーは飛びながら両翼を分解して完全にパージ。そして空の上へと姿を消したかと 思うと……グローカールークよりも更に巨大なロボットと化して降下してきた! [任務ノ障害ヲ、完全ニ消去] それは下位のグローカーでは対処できない相手に対して発動するコマンド。グローカーボーン 製造機能を捨てる引き換えに変形するグローカー最終形態、グローカービショップだ! 地球の全生命リセットの時は、刻一刻と迫っている! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9240.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十二話「吸血寒村」 こうもり怪獣バットン 登場 戦争が生じる莫大なマイナスエネルギーによって途轍もなく強大になってしまったヤプール人を 倒す代償として生死の境をさ迷い、長い時間眠り続けていたウルトラマンゼロ。しかしポール星人の たくらみを破るために勇気を掲げた才人に呼応するように、遂に眠りから覚めて復活した。 だが彼が眠っていた間にもハルケギニアには怪獣が出現していた。ゼロ覚醒までの間に、 その魔の手から人々を護っていたのは、誰であろうウルティメイトフォースゼロの仲間三人である。 今回はその三人の今日までの活躍の一部を、以前のように紹介することとしよう。 「お姉さまお姉さま、何の本を読んでるの?」 青い鱗の風韻竜、シルフィードが背の上の主人、タバサを呼んだ。シルフィードは現在、 上空三千メイルを飛びながらガリア首都リュティスの南東五百リーグの場所を目指していた。 タバサはシルフィードの質問に、無言で本の表紙を見せることで答えた。 「『ハルケギニアの多種多様な吸血鬼について』ですって? 今度の相手を調べてるのね」 と言ったシルフィードはぶるぶる震えた。 「お姉さま、吸血鬼は危険な相手ですわ! 太陽の光に弱い点を除けば、人間と見分けがつかないし、 先住の魔法は使うし! きゅいきゅい! おまけに血を吸った人間を一人、手足のように操ることだって できるんだから!」 シルフィードがそう語ると、タバサは目を細めてじっと本を見つめた。 今回のタバサの任務は、サビエラ村という山間の片田舎の村に潜む吸血鬼の退治なのであった。 二ヶ月ほど前に十二歳の少女が全身の血を吸い尽くされて死亡していたのを皮切りに事件が発生し、 犠牲者は既に九人にも及んでいるという。そして九人の被害者の中には、王室から派遣された ガリアの正騎士まで含まれていた。トライアングルクラスの火の使い手という実力者だったが、 吸血鬼には力及ばなかったようだ。 そんな狡猾な妖魔が相手なので、タバサはいつも以上に慎重に事を進めるつもりだった。 「……ところでお姉さま、吸血鬼がいるんだから、吸血怪獣なんてのもいるのかしら?」 不意に、シルフィードがそんなことをつぶやいた 「吸血怪獣がほんとにいたら、それはもう大変なことなのね。何せあんなに身体が大きいのだもの。 何人の血を吸ったところでお腹が満たされず、次々に人を襲うのね! ああ恐ろしい! あッ、でも 吸血怪獣ってちょっとおかしいのね。あの大きさなら、わざわざ血を吸うんじゃなくて丸ごとぱっくり 食べる方がずっとずっと効率的だからね! きゅいきゅい!」 無駄口を並べるシルフィードの頭をタバサが杖で小突き、先を急ぐように促すのだった。 サビエラ村から少し離れた場所に着陸するタバサとシルフィード。するとそこに近づいてくる者が。 「見知った風竜が飛んできたと思えば、やはりあなたでしたか、タバサさん。シルフィードさん。 エギンハイム村以来ですね」 「あなたは……」 それはミラーナイトの人間体、ミラーだった。どうしてここにいるのか、とタバサが聞く前に、 ミラーが口を開く。 「タバサさんはサビエラ村の吸血鬼の事件を解決するためにいらしたのでしょう? 実は私も、 あの村を中心に夜毎に異様な気配を感じるので、調査に赴くところだったのです」 「異様な気配?」 「正体まではまだ分かりません。しかし、強力な負の波動を感じました。これはただごとではありません。 またヤプールが関わっているのでは……と思い、正体を確かめることとしたのです」 ミラーの台詞を受けて、タバサは一層警戒心を深めた。ただの吸血鬼だけでも厄介なのに、 怪獣や侵略者までが絡んでいるのなら、自分たちの力だけで事件解決を図るのは大変苦しいものとなる。 そこで協力を申し出たら、ミラーは快く引き受けてくれた。 「ありがとう。早速、頼みがある」 「何でしょう。私に出来ることでしたら、何なりと」 タバサの頼みというのは、ミラーにマントと自分の杖を持たせて、自らの代わりに王宮から 派遣されてきた騎士を演じてもらうというものだった。自分は騎士の従者役だ。 こうするのは、村に潜んでいるだろう吸血鬼の目を欺き、油断させるためであった。マントと杖を 持たない者は普通平民なので、敵の虚を突くことが出来るはず。当然杖を側に置かないのには危険が伴うが…… ミラーは超人なので、その危険を減らすことも出来よう。 当初はシルフィードを人間に変化させる予定だったが、こうした方が断然良い。何故なら、 シルフィードでは騎士のふりをさせるのにいささか不安があったから……なんて言ったら当人が へそを曲げるだろうから、賢明なタバサは胸の内にしまっておく。 とにもかくにも、タバサ一行はそれぞれの役どころを決定してからサビエラ村へと足を踏み入れていった。 サビエラ村は人口三百五十人ほどの寒村。吸血鬼という魔の牙に脅かされている最中だからか、 全体の雰囲気が非常に重く暗い。 ミラーの美貌から、女性たちは頬を赤らめたりため息を漏らしたりという反応を見せるが、 男性からはかなり批判的な目を向けられた。僻みもあるだろうが、既に王宮の騎士が返り討ちに 遭っているので、本当に吸血鬼を倒せるのか疑念を持っているのだろう。 ともかく、村を回ってある程度吸血鬼に関する情報を得られた。 村人たちは、吸血鬼が三ヵ月ほど前にこの村に引っ越してきた占い師の一家であると疑ってかかっていた。 特に占い師のお婆さんは、占いもろくにせずに、病気だからと日中も家に閉じこもっているのだという。 「……どう思う?」 従者を演じるタバサが、ミラーに意見を求める。 「あからさまに怪しすぎますね。正体を隠すつもりならば、もっと上手くやるはずでしょう。 表に出られないお婆さんがいるのをいいことに、目そらしに利用している可能性が高いです。 ……とは言うものの、実際にそのお婆さんにお会いしないことには結論は出せませんね」 そういうことで、一行は村長にその占い師一家の家の場所を教えてもらった。 その村長の邸宅では、五歳ぐらいの、美しい金髪の少女がこちらの様子を物陰から窺っていた。 「お可愛い女の子ですね。お孫さんですか?」 ミラーが村長に尋ねると、村長は否定した。 「いえ、あの子、エルザはわしが預かっておりますが、わしの本当の家族ではないのですじゃ。 一年ほど前、寺院の前に捨てられておったのです。聞けば両親はメイジに殺されて、ここまで 逃げてきたとのことでの。おそらく行商の旅人が、なんらかの理由で無礼討ちにされたか、 メイジの盗賊に襲われたか……。まったく森は、妖魔以外の危険もいっぱいですじゃ。早くに子を なくし、つれあいも死んでしまったわしには、家族がおらんでな、引き取って育てることにしたんですじゃ」 「そうでしたか……。すみません、お話しづらいことを聞きました」 「いえ、構わんで下さい」 それから村長は遠い目になった。 「わしはあの子の、笑った顔を見たことがないのですじゃ。身体も弱くて……、あまり外で 遊ぶこともさせられん……。一度でいいから、あの子の笑顔を見たいもんじゃのう……。 それなのに村では吸血鬼騒ぎ。早いところ、解決して欲しいもんじゃ……」 かわいそうな境遇の女の子だが、タバサはミラーの脇腹を軽く小突いた。ここまで吸血鬼が 血を吸ったことで意のままに操る『屍人鬼(グール)』を探るために、吸血痕を求めて村人たちの 身体を確かめていたが、エルザまでも疑うというのか。 だがミラーは許可しなかった。 「いくら何でも、あの子は手足にするには小さすぎますよ。グールは、身体能力は人間の時から 変化しないのでしょう? 幼子では、いざという時に頼りになりませんからね。グールではなく、 吸血鬼ならば可能性は大いにありますが……その判断は、占い師の一家を確認してからにしましょう」 そう言って村はずれのあばら家に行くと、そこでは軽い騒動が起きていた。十数人の村人たちが、 鍬や棒、火の点いた松明を手にあばら家を取り囲んでいるのだ。 「どうやら、血気に逸った方々が早急な判断を下したみたいですね」 ミラーの言う通り、村人たちは口々にわめく。 「出てこい! 吸血鬼!」 するとあばら家の中から年のころ四十前ほどの、屈強な大男が出てきて、集まった村人たちに大声で怒鳴った。 「誰が吸血鬼だ! 失礼なことを言うんじゃねえ!」 「アレキサンドル! お前たちが一番怪しいんだよ! よそ者が! ほら吸血鬼を出せ!」 「吸血鬼なんかいねえよ!」 「いるだろうが! 昼だっつうのにベッドから出てこねえババアが!」 「おっかぁを捕まえて吸血鬼とはどういうこった! 病気で寝てるだけだ! 言っただろう?」 額に青筋を浮かべて男がつぶやく。 「いいからここまで連れてこい! ババアが違うなら、妹がそうじゃねえのか!? 肌が日に 弱いとか抜かしてたが、家に二人も閉じこもってる奴がいるなんておかしすぎだぜ!」 「なんだと!? 妹まで疑うってのか! いい加減にしやがれ!」 もみ合いになりそうになったところで、ミラーが仲裁に入った。 「まぁまぁ、落ち着いて下さい。この家の検分は私たちがしますから。こうやって疑心暗鬼に陥って、 村の中で諍いを起こすことこそ、吸血鬼の思惑かもしれませんよ」 「あんたはお城からいらっしゃった騎士さま……」 ミラーの説得と、女性のような美貌からは想像もつかないような迫力で村人たちは大人しくなった。 それから一行はあばら家の中に入り、アレキサンドルという大男の家族を調べた。 中にいたのは、粗末なベッドに横たわる、枯れ木のように痩せこけた老婆と、その世話をしていた 病的なまでに肌の白い、アレキサンドルの妹という美女。確かに、どちらも吸血鬼らしいといえば 吸血鬼らしい外見。 しかしこの一家にも、吸血鬼と断じられるような決定打はなかった。吸血鬼は通常時には 人間と見分けがつかないし、グールの決め手となる傷痕も、田舎だけあり、虫や蛭に刺された それらしい痕が何人もの村人にあるのだ。 とにかく、昼の内では誰が吸血鬼かなど分かりようがない。そこで吸血鬼の活動時間、すなわち夜を待つ。 村長の屋敷に、村に残っている若い娘たちを集めてもらい、自分たちは外で見張る。これで吸血鬼が 襲ってきても、すぐに迎撃できることが可能だ。 そして夜になると、すぐに吸血鬼の襲撃があった。しかし狙われたのは、集めた娘ではなかった。 「……きぃやあああああああああああ」 一階のエルザの部屋からか細い悲鳴が聞こえ、ミラーとタバサはすぐにそちらへ走った。 割られた窓から部屋の中へ乗り込むと、片隅でガタガタと震えるエルザの姿があった。 そこに襲いかかろうとしているのは、あばら家の美女。犬歯が異常に伸びて、牙と化している。 「ホホホホホホ!」 美女はミラーたちの顔を確かめると、高笑いを上げて扉から逃げ出していった。 「待ちなさい!」 それを追い掛けていくミラー。タバサは怯えるエルザを落ち着かせる。 ミラーならば、吸血鬼といえども物の数ではあるまい。鏡の力を以てして、簡単に返り討ちに してくれるはずだ。……相手が『ハルケギニアの吸血鬼』ならば。 屋敷から外へ逃げ出した吸血鬼を追いかけていくミラー。しかし吸血鬼は村はずれまで 来たところで停止し、ミラーへ振り返る。 「ホホホホホホ!」 再び高笑いすると、全身から怪光を発してみるみる巨大化、変身していく! 「ギャア――――! ギャア――――!」 吸血鬼はあっという間に異様に長い牙を口からはみ出させた、コウモリ型の怪獣へと変貌した! 吸血鬼の正体はこうもり怪獣バットンであった! 「はッ!」 それを目の当たりにしたミラーは一瞬驚くものの、すぐに意識を切り換えて近くの水たまりを見やった。 すかさずそこへ飛び込み、光の反射をくぐり抜けて変身! 『とぁッ!』 巨大化したミラーナイトがバットンの前に降り立った。二つの月光が雲の切れ間から寒村を 照らし出す中で、鏡の騎士とこうもりの怪物の決闘が開始される。 「ギャア――――! ギャア――――!」 先に動いたのはバットンだ。両腕に生えた皮翼をバサバサと羽ばたかせることで突風を生み出す。 『くッ!』 風の勢いはすさまじく、ミラーナイトはまっすぐ立っていることが出来ずによろめいた。 その隙にバットンが空へ飛び上がり、ミラーナイトへ向けて滑空していく。 危ない、ミラーナイト! バットンの羽には刃が仕込まれている! 『ふッ!』 「ギャア――――! ギャア――――!」 殺人暗器が迫る中、ミラーナイトは一瞬にして体勢を立て直して前方に転がった。それでバットンの 斬撃をかわすことは出来たが、バットンは空を自在に飛び回って執拗にミラーナイトを追い回す。 刃で切り裂かれたら、戦況は一気にミラーナイトの不利になるだろう。 『はぁッ!』 だが黙って逃げ続けるだけのミラーナイトではない。バットンの何度目かの攻撃を素早く 避けたところで、振り向きざまにミラーナイフを放つ。ミラーナイフは見事バットンの皮膜を引き裂いた。 「ギャア――――! ギャア――――!」 羽をやられたことで飛んでいられなくなったバットンは着地するが、細見の肉体は地上でも 俊敏な身のこなしを実現させていた。即座に放たれた飛び蹴りをミラーナイトはどうにか回避する。 「ギャア――――!」 だがそこを狙って、バットンの長い耳から針状の光線が発射された! 『うぅッ!?』 それをもろに食らったミラーナイトは仰向けに転倒した。それを逃さず、バットンが覆い被さってきた。 「ギャア――――! ギャア――――!」 『くぅッ!』 自慢の長い牙をミラーナイトの首筋に突き刺そうと振り下ろすバットン。ミラーナイトは 首を傾けることでギリギリかわした。 バットンに噛みつかれると、その魔力によって噛まれた相手も吸血鬼になってしまう。 ミラーナイト、危うし! 『はぁぁッ!』 しかしミラーナイトはすぐにバットンの腹部を蹴り上げることで、自身から引き離した。 どうにか一番の危機は脱することが出来た。 「ギャア――――! ギャア――――!」 とはいえこれくらいであきらめるバットンではない。己の頭上を跳び越えて背後に着地した ミラーナイトを追って、そちらへ耳からの光線を再度撃ち込む。 だが光線はミラーナイトに当たるとそのままはね返ってきた! ミラーナイトの十八番、 鏡の虚像を利用した分身戦法だったのだ。 「ギャア――――!?」 自分の攻撃をそのまま食らったバットンは大きくひるむ。攻撃の絶好のチャンスだが、 ミラーナイトはこのままバットンにとどめを刺すことはしなかった。 バットンは吸血した相手を吸血鬼に変える能力を持つのは先ほど語った通りだが、それはバットンを ただ倒したとしても治癒しない。バットンの血液から作る血清が必要となるのだ。そこでミラーナイトは、 鏡の細工による注射器を作り出した。繊細な業師ミラーナイトらしい、巧みな芸術であった。 それから一直線にバットンに駆け寄り、その首筋に注射器の針を突き刺す! 「ギャア――――! ギャア――――!」 『レディなら大人しくしなさい!』 もがくバットンを抑えつけて採血。これで必要な分の血液を採ることが出来た。 だがバットンに突き飛ばされて、注射器を地面の上に落としてしまう。 「ギャア――――! ギャア――――!」 自身の血が詰まった注射器を奪い取ろうと走るバットンだが、ミラーナイトが後ろから掴んで足止めする。 『させませんよ!』 「ギャア――――! ギャア――――!」 激しく抵抗するバットンだが、ミラーナイトは足を引っ掛けて転倒させた。バットンは注射器に 手を伸ばすものの、指はわずかに届かなかった。 『やぁッ!』 そしてミラーナイトはバットンの両脚を掴み、後方へ投げ飛ばす! 大きく弧を描いたバットンが ふらふらと起き上がると、そこにとどめのシルバークロス! 『シルバークロス!』 「ギャア――――!!」 バットンは十字に切断されて爆散。破片も粉々になって消滅していった。 『ふぅ、後は怪獣の血液から血清を作るだけですか……』 ひと息ついたミラーナイトは注射器を拾い上げ、それをじっと見つめた。 村人たちから吸血鬼と疑われていた占い師の一家だったが、本当にその中に吸血鬼が混ざっていたとは。 恐らく、女に化けたバットンがアレキサンドルとその母を操り、家族に扮してサビエラ村に潜入していたのだ。 だがバットンは今こうして倒した。これでサビエラ村の吸血鬼事件は終わりを迎える……。 『……本当に、これで終わりなのでしょうか……』 そのはずなのだが、どうしてかミラーナイトは気分が晴れなかった。何か、もやもやとしたものが残っている。 困惑する彼を、二つの月光は変わらず照らし続けていた。 サビエラ村の人々は戦いの騒動を聞きつけて目を覚まし、怪獣の姿を見上げて恐れおののいていた。 しかしミラーナイトが退治したことで、今ではすっかりと落ち着きを取り戻していた。 「ふぅ、こんな村に怪獣が出てきた時はどうなるもんかと思った」 「しかし、吸血鬼の正体がまさか怪獣だったなんてなぁ」 「けど、それもやっつけられた。この村は救われたんだな!」 村人たちはすっかりと安堵して、再び眠りに就こうとそれぞれの家に戻っていった。彼らはこれから、 枕を高くして眠るのであろう。 そんな中で、ミラーはこっそりと村長の屋敷に戻ってきて、タバサとエルザの元まで帰ってきた。 「タバサさん、エルザちゃんはご無事でしたか?」 とミラーが尋ねるが、エルザはミラーの顔を見やるとひ! とうめいて毛布を被ってしまった。 彼女はミラーをメイジだと思ったままなのだ。 「ああ、メイジが怖いのでしたね。これは失礼をしました」 ミラーがエルザの視界から離れて、タバサがエルザをまた落ち着かせる。精神が安定したエルザは、 タバサにこんなことを聞いた。 「おねえちゃん、まだ子供なのに騎士さまのおともしてるんでしょ? えらいなあ。おねえちゃんの パパとママはなにをしているの?」 しばらくの沈黙があって、タバサは答えた。 「パパはいない。ママはいる」 「そう。わたしのパパとママはね、メイジにころされたの。わたしが見てる前で。魔法で。 まるで虫けらみたいに……。だからわたしメイジはきらい。おねえちゃんのパパはどうして 死んじゃったの?」 タバサはちょっと目をつむり……、小さくつぶやいた。 「殺された」 「魔法で?」 「魔法じゃない」 「じゃあママはどうしてるの?」 「寝たっきり」 そう答えてからじっと黙るタバサを見て、エルザがぽつりとつぶやいた。 「おねえちゃん、人形みたい」 「どうして?」 「あんまりしゃべらないし……、笑ったりしないし。ぜんぜん表情がかわらないもの」 タバサは無邪気なエルザの目を見つめた。エルザの瞳に、自分の顔がうつっている。 その顔はいかなる感情をも浮かべていない。 「あは、ほんとにお人形みたい」 タバサの胸にエルザは顔をうずめ……、安心したように目をつむって、寝息をたて始めた。 その後村長にことのあらましを説明したタバサは夜通しエルザを見守ったあと、やっと眠りについた。 ……タバサが眠りについてから、エルザはぱっちりと目を覚ました。そうしてタバサの寝顔を じぃっと見つめた。 その瞳に映っているものは……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/212.html
パートⅡ 使い魔は今すぐ逃げ出したい 宝石店に行く。勿論彼女も一緒だ。 なぜならば彼女ために指輪を買いに来たのだから。 彼女は美しいが指輪で着飾れば益々美しくなるだろう。 美しい彼女との一時はとても楽しい一時だ。 彼女と語らい、触れ合い、一緒に寝て、一緒に起きて…… そんな想像をするだけで頬がにやけてしまいそうになる。そして彼女が一つの指輪を指し示す。 「ん?この指輪がいいのかい?」 それはあまり飾り気のない安い品物だった。 「何を言ってるんだ。君はこれが相応しいよ」 そう言って彼女の指に似合いそうな高い指輪を指差す。 「何、遠慮することはない。とてもよく似合うよ。君は値段なんか気にしなくていいんだ」 しかしそれでも彼女は遠慮しているようだ。 「よし、これにしようね」 そう言って強引に買ってしまう。 「指のサイズはわかってるよ。何時も君と一緒にいたからね」 指輪を買い彼女と一緒に車へと乗り込む。 「指輪は家に着いたら嵌めてあげるよ」 笑いかけながら彼女にそう言ってあげる。 いい彼女だ。彼女なら一番長く保ってくれるかもしれない。 私はこの平穏がいつまでも続くと信じていた…… 光が目に差し込み目が覚める。立ち上がり体を伸ばす。 何か夢を見ていた気がするな。よく憶えてないがそこには安息があったような気がする。 気がするだけで夢なんて実は見てないのかもしれないが気分がいいことだけは確かだな。 身支度を整えキュルケから貰った剣を持ち部屋から出る。剣の訓練のためだ。 前の訓練は体を少し慣らす程度だったが今回からもう少し力を入れてやる気なのだ。理由は左手の甲に刻まれたルーンだ。 フーケの事件から2日後にルーンの正体は判明した。 伝説の使い魔といわれる『ガンダールヴ』の印だとか。オスマン曰く私は現代のガンダールヴになったらしい。 『ガンダールヴ』とは始祖ブリミル(魔法使いの祖だったか?)の伝説の使い魔で、ありとあらゆる武器を使いこなしたらしい。 そのおかげでロケットランチャーや剣を自在に操れたのも納得がいった。 ところでこの世界には危険が溢れている。 魔法使いは当たり前として動物類ですらいともたやすく人を殺せるようなのもいる(他の生徒の使い魔を見ればわかることだ)。 だから単純に武器が使いこなせるようになったからといって慢心してはいけない。 慢心でこの世界に来たのだ。二度と同じ過ちは許されない。 だから剣を振るう。経験上ルーンはあくまでブースターだ。 力を一定以上上げてくれる。なら自分自信が強くなればもっと強くなれる。 強くなる分だけ危険は減る。 もうすぐここから逃げ出すのだ。逃げ出せば一人で危険に対処しなければならない。 なら安全対策を今のうちにしておこう。 21へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2514.html
スタンド使い同士が引かれ合うように、ガンダールヴのルーンはディオをその進むべき道へと推し進める。 だが、それは本当に正しいことなのだろうか?その結果は誰も知らない…。 おれは使い魔になるぞジョジョーッ!第九話 カーテンの光がやわらかい明かりを部屋に満たす中、ディオは目が覚めた。日の具合からすると ルイズを起こすべき時間から30分は遅れてしまったらしい。ルイズを見るとこれまた陶器でできた人形のような顔で寝ている。 起きている時もこれぐらい静かならいい駒として使えるのだが、と思いながらディオはルイズを起こす。 だがルイズは特に慌てる様子もなく服を着替える(勿論ディオに渡して貰っている)。 別にルイズが遅刻しようがどうでもいいが一応聞いてみる。 「今日は…いつもより遅いようだけどいいのかい?」 「忘れてたわね。今日は虚無の曜日だから授業はないのよ。それよりも」 とルイズは珍しく手早く着替えると人差し指をディオに突き出す。 「さあ、今日は城下町に行くわよ!」 「城下町?」 また気まぐれが始まったのかと呆れるディオに気付かずルイズは説明を続ける。 「そう!あの時はたまたまだったけど、いつもあんな殴り合いが通用するはずないでしょ。 魔法が使えない以上剣の一つ二つ持たないと駄目よ。それに見栄えにも関わるしね。 あとついでにベッドも買わなきゃね。あんな臭いベッドをずっと使うつもりなら話は別だけど」 ディオにはどちらかというと剣よりも城下町の方に興味を引かれた。今まではトリステイン魔法学院という陸の孤島に 閉じ込められたようなものだった。だがこの世界の風俗を知る為には城下町は格好の場所であるし、うさ晴らしにもなる。 後者については言うまでもない。ディオは腕を組みながら答えた。 「いいだろう…ついていかせてもらうよ、ご主人さま」 ディオとルイズが部屋を出て角を曲がった直後、ルイズの向かいの扉からキュルケが出てきた。 ディオを口説き落とす為の化粧もばっちりだ。 「そうね、ルイズは物ぐさだろうからダーリンを開けに行かせるはず。そしてドアを開けたダーリンの胸に私が飛び込めば さしものダーリンも…勝った!ゼロの使い魔、完ッ!!」 キュルケは自信満々にドアを叩く。 沈黙。 もう一度叩く。 沈黙。 「ノックしてもしもぉ~し!ルイズ、まだ寝てるの!?」 と声をかけながら叩いても何も返ってこない。 嫌な予感がしたキュルケがアンロックを使って部屋を開け、馬で出て行く二人を見つけてタバサの部屋へ猛ダッシュしたのは その直後であった。 タバサは虚無の曜日が好きである。一日中自分の部屋に篭って好きな本を読めるからだった。 だが最近のお気に入りは小説ではなく『ツェペリの奇妙な冒険』と題した冒険漫画である。 場面はちょうど主人公のシーザーという青年が囚われの友人の知り合いの老富豪を助ける為、友ジョセフと共に 悪逆非道の軍隊の基地に女装して潜入しようとしたところである。 どう見てもバレバレな変装でどう見張りをごまかすのかワクワクしながらページをめくろうとするタバサであったが、 横から伸びてきた手がそれを掴む。 何を考えてるのかと見上げると、友人のキュルケが何か叫んでいた。仕方がなくアンロックを解除して抗議しようとする タバサであったが、キュルケの怒涛の勢いに飲まれる。 「あたしね!恋したの!でね、その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの!そう、馬で! でね、あたしは行く先を突き止めたいけどあなたの使い魔じゃないと追いかけられないの!力を貸して!」 はっきり言えば断りたい。しかしたった一人の友人のたっての頼みである。断るわけにもゆくまい。 窓を開くと口笛を吹いて風韻竜シルフィードを呼ぶ。 「馬二頭。食べちゃだめ。」 せっかくの休日が台無しである。無意識のうちに爪を噛む。タバサは静かに暮らしたい。 それから暫くして、ディオとルイズは城下町に到着した。だがルイズの顔は心持ち暗い。 魔法が使えない代わりに馬の扱いには自信があったルイズだが、ディオはそれを上回る競馬の騎手顔負けな腕前であったからだ。 駅舎に馬を繋ぐとディオは周りを見渡す。人口は確かに多いが、町並みや道路の舗装はどう見ても産業革命以前である。 なるほど魔法が存在する以外は中世と同じと考えて差し支えないか、と一人ごこちてると、ルイズが声をかけてきた。 「どう?たくさん人がいるでしょ?驚いた?」 「ああ…驚いたよ(文明の低さに)」 その答えに満足したのかルイズは颯爽と町を歩きだす。 ルイズの後ろをついてゆくディオは昔貧民街に住んでいた事もあり大体の想像はつくが、この世界の文字が読めないので 一々ルイズに説明してもらう。 「あれは?」 「カジノダービーBr.」 「ほう、それでは向かいのあれは?」 「ブックスポルナレフ」 「ではこっちの」 「鳥犬専門ペットショップ・イギー!んなところよりさっさと行くわよ!」 そうしてルイズは恐れる様子もなく路地裏に入っていく。 狭い道を貴族くずれのスリが多発するというような話を聞きながら歩いてゆくと、明らかに武器屋と思しき店が目の前に現れた。 「ほら、着いたわよ」 とルイズが店に入ると太った親父が出迎えた。 「旦那、貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目を付けられるようなことなんか、これぽっちもありませんや」 「客よ。」 「こりゃおったまげた、貴族が剣を!これはどういった心境で?」 と親父が目を丸くすると何かの冗談のように手を振る。 「だから違うわ。話を最後まで聞きなさい。今日はこいつに剣を買ってやりにきたのよ」 「ほほう、成る程。最近は下僕に装飾をさせるのが流行りなのですからな」 「貴族の間で?」 「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいうメイジの盗賊が貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。」 と店主は世間話をしながら宝石が各所に埋め込まれている一振りの剣を持ってきた。 「これなんかいかがでしょう?ゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えた剣、お値段に見合う威力は保証しますよ?」 ルイズも気に入ったようで満足そうな笑みを浮かべる。 「んー、なかなかいいわね…いくら?」 「そうですね、こいつは店1番の業物ですからね、新金貨で3000エキューで如何でしょうか?」 「た、高いわよ!もっと安くならないの!?」 いくらルイズでもたかが剣一つに広大な庭付きの豪邸が建てられるような金を払うのは躊躇われた。 その時、帽子を被った長髪の男が店に入って来たが、ディオを見るなりくるっとドアの方を向き、また外に出ていった。 店主から剣を見せてもらい、大剣を手に取りしげしげと眺めるディオ。と 「かーっ、わかってねぇなあんちゃんよ。糞みてえな安物売り付けようってこいつもこいつだが、 そんなもんに引っ掛かるような奴はそれにすら及ばねぇ。帰れ帰れ!」 店の奥から渋い中年男性の声が聞こえた。 「な、なによ今の!」 「デ、デルフリンガー、くそっ…いや、あいつは嘘つきのボロインテリジェンスソードでさぁ。気にしないで」 「へっ!嘘つきのおめーに嘘呼ばわりされるならおれっちが正しいってことじゃねーか!」 「なんだと!」 喧嘩を始める剣と主人。ルイズはあっけに取られて今のやり取りを見ている。さして気にする様子もなく辺りを見回すディオだが、 やがてその声を見つけるとなおも喋ろうとするのを無視して手に取る。 すると、デルフリンガーは今まで叫んでいたのが嘘のようにぴたりと声をあげるのを止めると、暫く考えてから口を開いた。 「…おでれーた。見損なってた。てめ、『使い手』か」 「『使い手』?『使い手』とはなんだい?」 「言葉通り、おめーはかなり黒いがおれの使い手って事よ。どうだ、おれを買わねーか?」 そこでディオはルイズに向き直り、剣を渡す。 「ルイズ、これにしよう」 「はぁ?こんな喋るだけのボロ剣どこがいいのよ!」 「君には珍しくなくてもぼくには珍しくてね、それにぼくの事を何か知ってるみたいだ。気に入った。親父、これはいくらだい?」 「いや、若奥様の言う通りそんなボロ剣よりこっちのシュペー卿の剣の方が…」 「その偽物が、かい?」 「…畜生!」 店主は机を叩くと、大剣をしまう。 「わかったよ。そいつだな?捨て値で100エキューでかまわねえよ!」 店主が負け、あまり出費せずに済んだ事を喜ぶべきか錆だらけの剣を選んだ使い魔を叱るべきか微妙な表情を浮かべるルイズと デルフリンガーを背負ったディオは家具屋に向かうべく店を後にした。 それを上空から眺める人影が二人。キュルケとタバサだ。ルイズ達がいなくなると早速店に入る。 「アッサラーム!今のメイジ、いえ、今の使い魔が欲しがってた剣とかってないかしら?」 店主はニヤリと笑うと手を振りながらさっきの剣を出す。 「ああ、こいつですね。さっきメイジの若奥様が買おうとしたんですがね、高いとかいって買い渋って結局ボロ剣買っていきましたよ」 公爵家の娘ともあろうものが貧乏ね、とほくそ笑みながらキュルケは値段を尋ねる。 「おいくら?」 店主は少し悩むそぶりを見せたあと、おもむろに値段を言う。 「本当は5000はしますが、事情がおありのようですな。いいでしょう、4500で勉強させていただきます」 いくらなんでも高い。だがキュルケは胸元を開くと色気たっぷりの声で誘惑する。 「ねぇ、もっと安く買えないかしら?」 「そ、それじゃあ4000…」 「ね…もっと色をつけて♪」 と、そこに先程店を出て行った男が入って来た。 「よぅ、ダンナ!…ヒヒ、実は最近いい仕事で金稼いだからよー、これを機会に傭兵始めようと思うんだが、なんかいーい剣はないかい?」 「ああ、こいつがあるよ。見てみるかい?」 と、急に商売人の顔に戻ると店主は大剣を見せる。帽子の男はそれを受け取ると多少大袈裟にも見えるそぶりで剣を振るう。 一方のキュルケは気が気ではない。 「おっ!なかなかいい剣じゃねぇか。いくらだ?」 「ちょっと!今私が交渉してるのよ!」 と、キュルケが慌てるが、店主は 「悪いね、これはまだあんたのじゃないんだ」 と言うと男に向き直る。 「そうだな、5000ってとこだ。」 「そこをもーちょっと安くならないか?」 「しかたねえな、4200でどうだ?」 「お!それなら払えるぜぇ!」 と、男は大金の入った袋を取り出す。 何故平民があんな大金を!とキュルケは驚くが、ここであの剣を売り払われる訳にはいかない。 今まさに剣を渡そうとする店主の腕を掴むと、キュルケは慌てて叫んだ。 「ちょっと待って!4500でいいわ!」 「本当かい?」 胡散臭そうな目つきで男とキュルケを見比べていた店主だが、にっこりと微笑むとキュルケに剣を渡した。 「…仕方ないな。お客さん、運が悪かったと思ってあきらめな」 「マジかよ…なんてこったい」 そうしてがっくりとしている男を残してキュルケはほくほく顔で剣を持つと、タバサの元へと向かう。 「…どう?」 「用事は済んだわ!さ、学院に戻りましょ。今夜はビッグサプライズよ!」 「…シルフィード。」 「キュイ♪」 とシルフィードは浮き上がるとルイズ達に気付かれぬように学院に戻るのであった。 数時間後、酒場の席で先程の二人が乾杯をあげていた。 「いやー、今回はいいカモが釣れたな。これもお前さんのお陰だよ」 「なぁーに、中々のいい女だったが、別に殴るわけじゃねえ、問題はないッ!」 男はいつの間にか短銃を取り出し、ニヤニヤする。 「それにしてもあの嬢ちゃんも驚くだろうよ、おれは確かに傭兵だが得物はこいつだって事をよ。」 「だな。」 「ま、おれがいたからこそだが、ダンナがいるからこそおれも楽して金儲けができるって事よ。 ダンナも知ってるだろ?おれの人生哲学をよ」 「ああ。1番よりNO.2!だろ?」 「その通り、わかってんじゃねーか…ヒヒ」 つまりはこういう事である。カモを見つけると店主は手を挙げて合図をするとともに吹っ掛けて、渋る客の目の前で 男が買うふりをする。そしてぐずぐずすると先に買われてしまうと慌てた客は店主の言い値で買ってしまうという訳だ。 「だがどうしたんだい?最初の客が来た時いきなり逃げ出しやがってよ」 長髪の男は手に持った短銃を回しながら答える。 「いや、どーもあのメイジの使い魔?あいつを見た時にな、いやーな感じがしてよ。3回くらい前世であんな奴に 雇われていたような、例えるなら暗殺しようとしても一瞬で後ろに廻られそう?そんな感じがしてな」 「なんじゃそりゃ」 呆れる店主に男は酒をつぐ。 「ま、気にしててもしかたがねぇ、ほら、もう一度乾杯だダンナ!」 「おう、乾杯!」 ディオは計らずも名剣を手に入れた。キュルケは予想外の出費で役立たずの剣をつかんだ。そして店主は計算通り金を儲けた。 世の中には知らない方がいい事も、悪い事もある。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/339.html
気がつくと、ここに立っていた。 自分の周りを覆う煙が晴れ、視界が広がる。 抜けるような青空の下、草原の中。 周りを見渡すと、奇妙な一団が自分を見ている。 「アンタ誰?」 声がして気がつく。 小さくて気付かなかったが、ピンク色の髪をした少女が目の前に居た。 「ここはどこだ?」 「ルイズ、平民なんか召喚してどうするんだ?」 「ゼロのルイズは失敗の仕方も一味違うねぇ!」 周囲の笑いと反対に、目の前の少女は声を荒げる。 「ち、ちょっと間違っただけよ!」 しかし、笑いは収まらないばかりか、いっそう大きくなる。 「おい、ここはどこなんだ?」 再び、少女に問いかける。 「うう、うるさいわねぇ平民の分際で! 質問に質問で返すなって言葉を知らないわけ!?」 「質問?」 「そうよ! 一体アンタ誰なのよ!!」 笑われて腹を立てているのか、少女はヒステリックにがなりたてる。 「オレか? 俺の名前は……」 ん? 「……オレは誰だ?」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9367.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十八話「シエスタの恋」 酔っぱらい怪獣ベロン 登場 帝政ゲルマニアの首都ヴィンドボナ。この街は現在、混乱の真っ只中にあった。 『うい~! ひっくッ!』 身長五十メイル以上もある大怪獣が、街を我が物顔で横切っているのだ。人々は皆口々に 悲鳴を発し、怪獣に踏み潰されないように必死に逃げ惑っている。 怪獣は典型的な恐竜型。体色は緑で、下を向いたヘラジカのような角が頭部の左右から 生えている。ここまでは特に変わったところではないが、鼻はひどく赤らんでおり、目の 焦点も足取りもおぼつかない。片手で巨大なひょうたんを引きずり、裂けた口からは鳴き声 ではなく明らかな言語が発せられる。そのひと言がこれ。 『う~い! 酒持ってこ~い!』 絵に描いたような酔っぱらい! この怪獣の名はベロン。名は体を表すというべきか、怪獣なのにお酒が三度の飯より大好き という超変わり種。悪意はないのだが常日頃からべろんべろんに酔っぱらっており、酔いに 任せてふらりと惑星に降り立っては滅茶苦茶な行動を取る、これ以上ないほどの迷惑者なのだ。 ハルケギニアに侵入したこのベロンは、ヴィンドボナで何をやっているかと言うと……。 『酒~! 酒~! ここか~!』 千鳥足で進行しながら、酒の匂いを嗅ぎつけて一件の酒場に目をつけると、屋根を引っぺがして 貯蔵されているワインの瓶や酒樽を根こそぎすくい上げ、中身を口の中に流し込んだ。 「あぁ~! うちの商品がぁ~!」 酒場の店主がどこかで悲鳴を上げた。 「このヤロォー! 金払いやがれーッ!」 そんなことを言ってもベロンは聞く耳持たず。手で口を拭うと、鼻をクンクン鳴らして 次の酒を探し始めた。 ベロンは手持ちのひょうたんに入っていた酒を呑み尽くしたため、ハルケギニアの人々から 次々酒を奪い取っているのだった! 酒場に留まらず、王宮、貴族の屋敷、小さな村にまで…… とにかく酒が置いてあるところにはどこだって現れ、片っ端から盗んでいくのだ。こんな迷惑な 怪獣が今までいただろうか! ベロンがヴィンドボナ中から酒を奪って飲み干す度に、人々の悲鳴が起こる。 「あぁーッ! ビール盗られたぁーッ!」 「楽しみに取っておいた年代もののワインがぁーッ!」 「林檎酒まで全部ッ!」 「こんちくしょーッ! 飲みすぎだぞお前ーッ!」 当然ながら、そんな暴挙がいつまでも許されるものではない。ゲルマニアの竜騎士隊が出動し、 ベロンに杖を向ける。 「攻撃開始ーッ!」 竜騎士たちの杖から次々と種々の魔法攻撃が放たれ、ベロンの鼻先を刺す。 『いてててッ! いでぇよぉ~!』 ベロンは押し寄せる魔法に対して、頭を抱えて姿勢を下げる。 「このままヴィンドボナから追い出せッ!」 相手の反撃がないので、竜騎士隊は勢いづいて攻撃の手を強めるのだが……。 『どろんぱ~』 突然ベロンが白い煙を発して姿を隠したかと思うと、次の瞬間には巨体が忽然と消えていた! 「何ッ!? ど、どこへ行った!」 「隊長、我々の後ろですー!」 慌てふためく竜騎士隊の背後で、ベロンは何食わぬ顔でまた商店から酒瓶を盗んだ。 「お、おのれ! 総員反転ッ!」 竜騎士隊がUターンしてベロンを追いかけるが、するとベロンはまたしても煙とともに 消えてしまう。 『どろんば~』 またも別の場所に瞬時に現れ、竜騎士隊は散々翻弄される。 「く、くっそ~! 馬鹿にしおって~!」 これぞベロンの忍法、瞬間移動。竜騎士隊はベロンに振り回され、すぐに疲労困憊になってしまった。 そこに駆けつけたのはグレンファイヤー! ベロンの真正面に降り立って拳を握り締める。 『こんにゃろう! 今日こそは逃がさねぇぜ!』 『おおぉぉうッ!?』 すかさずグレンファイヤーはベロンに飛びかかったのだが、ベロンが消える方が早かった。 しかも今度はどこにも現れない。ヴィンドボナから別の場所に去っていってしまったようだ。 『あッ、くそぉ! また逃げられた! 悔しいぃ~!』 プルプル震えて地団駄を踏むグレンファイヤー。ベロンは敵意を持たない怪獣で積極的な 破壊行動を取らないが、それが逆に厄介。このように危険を感じるとすぐに忍法で逃げて しまうのだ。そのためウルティメイトフォースゼロもひどく手を焼かされているのであった。 果たして、ベロンは次にどこに現れるものか……。 それはひとまず置いておいて、場所は変わり魔法学院のルイズの部屋。畳の上に正座して ちゃぶ台に肘をつき、物憂げにため息を吐いているのは、最近出番がご無沙汰のシエスタ。 その視線の先には、ちゃぶ台の上に置かれたハート型の壜がある。紫色というのが絶妙にいかがわしい。 この壜の中身は、何と惚れ薬。これを飲んだ者は一日の間、最初に見た相手にぞっこんに なるという代物。それを何でシエスタが持っているのかと言うと、実家家からの春野菜を 『魅惑の妖精』亭に届けに行った際、従妹のジェシカから、貴族の客から取り上げたこれを 無理矢理押しつけられたのだ。ルイズと才人の関係に配慮して最近一歩引き気味のシエスタに対し、 そんなことではいけない、既成事実作ってでも才人をものにしなさいと叱咤されたのだった。 「うーん……惚れ薬かぁ……」 ぼやくシエスタ。正直に言うと、才人が自分に、いつだったかのルイズみたいな感じで メロメロになるというのは、すごく魅力的ではある。 しかし迷っていると、ジャンボットに咎められた。 『シエスタ、一応言っておくが、そんなものを使うことは断じてならないぞ。薬で人の心を 操作しようなどと、言語道断! 惚れ薬など、今すぐ捨ててしまうのだ』 「そ、そうですよね。魔法で好きにさせようなんて考えが、そもそもの間違いですよね」 ジャンボットの忠告により、シエスタは惚れ薬を捨てるために手を伸ばす。 しかし指が壜に触れる前に、扉がものすごい勢いで開かれた。そしていつになくキツい顔の ルイズが、大きなボロ雑巾みたいなものを鎖で引きずりながら入ってきた。 シエスタは面食らって尋ねる。 「ミス・ヴァリエール! それ、何ですか?」 「使い魔よ」 言われてみて、よく確認すれば、それは才人だと分かった。逆に言えば、よく確認しないと 分からないような状態に才人はなっていた。 「何したんですか?」 「一昨日、あんたが出かけた日に、お風呂を覗いたのよ」 「まあ」 「その上、ちち、ちちち、小さい子に……。わたしより、小さい子に……」 「まあまあ」 ここで、ティファニアをトリステインに連れ帰ってから今日までの経緯をざっと説明する。 トリステインに到着したティファニアは子供たちとミーニンをアンリエッタに預かってもらうと、 自分はアンリエッタの口利きで魔法学院に編入した。彼女の美貌と、何より大きな胸は学院中の 男子を魅了したが、ベアトリスというクラスメイトの嫉妬を買い、ハーフエルフという素性を晒す 羽目になった挙句に彼女に異端審問に掛けられそうになった。それはルイズたちの活躍で阻止されたが、 ティファニアは男性の視線が自分の胸にばかり向くことに戸惑いを覚え、自分の胸が他の人のものとは 違うのではないかとズレた疑いを抱き、才人にこう頼んだ。 「わたしの胸がホンモノか――触って、確かめて」 思わずその言葉に飛びついてしまった才人だったが、ティファニアの胸に触っているところを ルイズに目撃された。ルイズは過去最大に憤怒し、信じられないくらい才人を痛めつけて反省を 強要したのだった。 自分も悪かったとはいえ、今度ばかりはルイズの無慈悲な仕打ちに逆上した才人はルイズと 大喧嘩したのだが、それが後から哀しくなって落ち込みに落ち込んだ。するとオンディーヌの 仲間たちが才人を励まそうと、何と女子風呂の覗きにつき合わせた。励ましとはほぼ名目で、 八割以上は自分たちの欲望のための行動だった。 だがちょうど覗きをしている時にルイズが入浴中だということに気づいた才人が、彼女の 生まれたままの姿を他の男たちが見ないように妨害した。その際の騒音で覗きが気づかれてしまい、 才人は制止したにも関わらず自分が窮地に。が、そこを救ったのは服を着る暇すら惜しんだタバサ。 彼女のお陰で、怒り狂う女子生徒たちから逃れることは出来た。 しかし、神はつくづく才人に厳しいらしい。裸のタバサといるところを、よりによって ルイズに見られた。そしてお察しのことが起こり、今に至る。 ルイズの才人への仕打ちに、ジャンボットが苦言を呈する。 『ルイズ、またもサイトにこのようなことを! 君は、少しは寛容さを身につけるべきだと 何度も言っているだろう! 相変わらず分からないな』 「何よ! こいつだって悪いでしょうが! 何かにつけては、他の女の子にセクハラを働いて…… 今回は特にひどかったわよ!」 『確かに覗きは犯罪ではある。しかしさすがにこれはやりすぎだろう! いくら何でも、 こんな惨い私刑は初めて見るぞ!』 「それもこれも、こいつがまるで学習しないからよッ!」 叱るジャンボットに、感情の昂るままに言い返すルイズ。一方で、シエスタはボロ雑巾の ような才人、略してボロ才人を見下ろして、彼が不憫になってきた。 才人はいつもルイズのために命を張っているのに、ルイズのお返しはあまりにひどい。 才人とルイズの間に深い絆があるのは認めるが、さすがにこれを見せつけられては、ここまで やらかすルイズに才人を任せていいのか? という疑念が湧いてきた。 そこでシエスタは神妙な顔でルイズに告げた。 「ミス・ヴァリエール」 「何よシエスタ」 「そろそろサイトさんの一日使用権を行使させていただきます」 才人の一日使用権とは何か。それは仮装舞踏会の時の賭けで、シエスタが得たものである。 あの時シエスタは、才人がルイズを見つけられたらすっぱりあきらめる、見つけられなかったら 一日だけ才人を好きにさせてもらう、という賭けをしていたのだ。 「舞踏会は不測の事態で中断されたんだから、賭けも無効よ!」 「賭けの勝敗の決定は見つけられるか見つけられないかという部分だけで、舞踏会の中断とかは 元より考慮されません」 ルイズの訴えを論破し、シエスタは権利を手に入れた。そして今、とうとうそれを使用したのだった。 こうしてシエスタは一日の間、才人を好きに出来ることになった。シエスタは才人に『新婚さん ごっこ』をやる、と宣言した。元々寝泊まりしていた使用人宿舎で、その新婚さんごっこなるものを 行うのだ。 しかしジャンボットが抗議の声を上げたので、才人を宿舎に連れていく前にルイズの部屋で 二人きりの状態になって、話し合いを行っていた。 『いかん! いかんぞシエスタ! 遊びでも結婚の真似事をしようなどとは……君とサイトには 早すぎるッ!』 「そんなうるさく言わなくてもいいじゃないですか。単なるお遊びなんですから」 『いや、君のことだ。これを機に、サイトに何かふしだらなことをしようなどと考えてるのではないか?』 うッ、とシエスタは言葉を詰まらせた。そういう意図がない訳ではない。 『図星だな! 全く、君は変なところで才人に対し過激なことをする。ルイズもルイズだが、 シエスタ、君も淑女(レディ)なら慎みを持たねばならんと何度も』 「わ、わたしは貴婦人(レディ)じゃないですよ。平民のメイドです」 『そういうことを言ってるんじゃない。いや百歩譲ってそれをよしとしても、よもや惚れ薬を サイトに飲ませようとたくらんでいるのではあるまいな』 シエスタは再度言葉を詰まらせた。ルイズがあまりに才人にひどいことをするので、薬を使ってでも 才人を自分のものにしようという悪い考えが鎌首をもたげていたところだったのだ。 『そうなのか! ああ、何と嘆かわしい! 君がそんな悪い娘になってしまうとは、私はササキに 顔向け出来ん!』 「そ、そんな大袈裟な! いいじゃないですか! ミス・ヴァリエールがあんなにサイトさんを 好き勝手にするんだから、わたしだってたまにはサイトさんの目を釘づけにしても!」 『いや、許さん! 恋路を薬に頼ろうなどという情けない考えは! いいかねシエスタ、 何も私は君の恋の邪魔をしようというつもりではないのだ。だが安易な手段で得る愛など、 長くは続かないものだ。本当にサイトを愛するというのなら、もっとじっくりと時間を掛けて、 自身の本当の魅力で勝負をだな……』 ジャンボットがあまりにくどくど説教するので、シエスタはいい加減イライラしてきた。 一日という時間には限りがあるのだから、ジャンボットにばかり構っているつもりもない。 そのためシエスタは、しゃべり続けるジャンボットを無視して腕輪を外し、ちゃぶ台の上に放置した。 『お、おい! ずるいぞシエスタ、置いていくんじゃない! おーいッ!』 焦るジャンボットに振り返りもせず、シエスタはルイズの部屋から飛び出していった。 一連の様子を立てかけられた壁から見ていたデルフリンガーがぼやく。 「相棒と娘っ子も大概だが、こっちもめんどくさいもんだねえ」 しばらくしてから、ルイズが部屋に戻ってきた。かなり不機嫌そうに、ぶつぶつとつぶやき続けている。 「全く、あの犬め……。テファやタバサに留まらず、メイドにまでセクハラしようってなら、 今度こそ命の無事を保証しないわよ」 何とも危険なことを独白していたルイズは、ちゃぶ台の上の腕輪に気がつく。 「あらジャンボット。シエスタに置いていかれたの? そうよね、あなたこそ堅物すぎて 口うるさい時があるし。自分こそ慎ましやかさを覚えたらどうかしら?」 イライラのままにきつい言葉を投げかけるルイズだったが、ジャンボットはそれには構わずに ルイズに告げた。 『ルイズ、大変だぞ! シエスタが惚れ薬を持ってサイトのところに行った!』 「へ? ほ……惚れ薬ぃ!? 何でシエスタがそんなの持ってるのよ!?」 ジャンボットはシエスタがジェシカから惚れ薬を渡されたことを話す。それを聞いたルイズの 顔色が青になったり赤になったり忙しなく変化した末に、怒髪天を突いて踵を返した。 「メイドぉぉぉぉぉぉ――――――――ッ! そこまで許した覚えはないわよぉぉぉぉぉぉぉ ――――――――――――ッ!」 大絶叫して、使用人宿舎へ向けて全力疾走していく。 『あッ! だから、私を置いていかないでくれーッ! おーいッ!』 その頃、シエスタは以前自分が使っていた部屋で、惚れ薬とワインの瓶を両手にして うんうんうなっていた。 先ほどまでシエスタは、ここで才人を相手に「新婚さんごっこ」を行っていた。使用人仲間の 友人たちにはやし立てられる形で、エプロン一枚とニーソックス、カチューシャだけという過激な 格好になって才人を誘惑した。シエスタのすさまじい攻勢にすっかり頭が茹で上がった才人は、 一旦クールダウンするために席を立ってトイレに行っている。 彼の目がない間にシエスタは、惚れ薬をワインに盛ろうとしたのだが……壜を手にしたところで、 思い直したのである。 ルイズの所業で頭に血が昇り、ついこんなことをしてしまったが、やはり惚れ薬なんてものを 使うのは卑怯だ。さすがにルイズに申し訳ないし、才人にも軽蔑されるかもしれない。 「やっぱり、これは捨てよう」 そしてジャンボットの言った通り、正真正銘自分の魅力で勝負しよう。シエスタは改めて 惚れ薬を捨てる決心をした。 だがその時! 窓の外にぬっと巨大な影が現れる! 『酒ぇ~!』 「えッ? きゃあああッ!?」 思わず悲鳴を上げるシエスタ。窓の外に、巨大怪獣がいて部屋の中を覗き込んでいるのだ! 怪獣の正体はベロン。グレンファイヤーに追われてゲルマニアからトリステインまで逃げてきて、 酒の匂いを嗅ぎつけて忍法でこの魔法学院に音もなく侵入してきたのだった。 「どうしたシエスタ!? うわぁッ!?」 シエスタの悲鳴を聞きつけて戻ってきた才人も、四角い窓の中にベロンの顔がどアップに なっているのを目にして仰天した。 当のベロンは窓から宿舎の部屋の中に手を突っ込み、指でシエスタの手に持っているワイン瓶を ひったくった。 「きゃッ!? ワインを取られた……!」 ハッと青くなるシエスタ。なくなっているのが、ワイン瓶だけでないことがすぐに分かったからだ。 もう片方の手で持っていた、惚れ薬もなくなっている。 「まさか……!」 窓に駆け寄ってベロンを見上げるシエスタ。ベロンは、シエスタから奪ったワイン瓶の中身を 口に流し込んでいる。 同時に惚れ薬も流し込んでいた! ワインと一緒に持っていたので、酒と勘違いされたのだ! 「あぁーッ!?」 惚れ薬を飲んだベロンは視線を落とし、シエスタの顔をじっと見やった。 一気に血の気が失せるシエスタ。ま、まさか……。いや、相手は人間の何倍もある巨体の怪獣だ。 人間用の魔法薬の効果が全身に行き渡るとは思えない。きっと何事も起こらないだろう。いや、 起こってほしくない……。 そんなシエスタの思いとは裏腹に、ベロンの目の形がドキーン! とハートマークになった。 『好き~♪』 「きゃあああああああ―――――――――――ッ!?」 そして再び手を窓に突っ込んで、手早くシエスタを捕まえたのだ! 効果は覿面だった。 「シ、シエスター!?」 「いやぁぁ―――――――! 放してぇ―――――――!」 シエスタを捕らえられて絶叫する才人。シエスタはベロンの手の中で必死にもがくが、 惚れ薬のせいでシエスタにすっかり惚れ込んでしまったベロンは絶対手放そうとはしなかった。 怒り狂った様子で中庭を突っ切っていたルイズだが、ベロンが出現すると彼女も驚愕させられて 我に返った。 「か、怪獣! こんなところに、いきなり!」 その上ベロンがシエスタを片手に握っていることに気づくと、反射的に杖を抜いた。 「こらー! シエスタを放しさなーい! さもないと爆発を食らわせるわよッ!」 杖を振り上げてベロンを脅すルイズ。つい先ほどまではシエスタに大激怒していたが、 それとこの状況は別だ。シエスタは才人を取り合うライバルではあるが、友人であり恩人 でもある。彼女を助けない訳にはいかない。 しかしベロンの方はシエスタを放そうとせず、かと言ってルイズに攻撃しようという素振りもなかった。 『どろんぱ~!』 代わりに全身から煙幕を発すると、この場から忽然と消え失せた。ルイズが何かする前に、 忍法で魔法学院を立ち去ったのだ。 シエスタも連れて。 「あぁぁ―――――――ッ!? シ、シエスタぁぁぁ―――――――――――!!」 絶叫するルイズ、才人。シエスタがベロンに誘拐されてしまった! 果たしてシエスタの運命や如何に! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1066.html
本来は良識の府の象徴的存在としてあるべきなのだが、トリステイン魔法学院の学院長室は、部屋の主と同じくどこまでも軽かった。 秘書が本の整理をすれば背筋に指を這わせ、秘書がかがめばネズミを走らせ、秘書が横にいれば臀部へと手が伸び、三度に一度秘書からの反撃が受ける。 このように乱れた部屋が権威を持とうはずもないのだが、今日の学院長室は気まずくも重い雰囲気に包まれていた。 原因はただ一つ。「遠見の鏡」に映し出された平民の女だ。 後ろを振り返らず、すれ違う者の目を気にもせず、全力で手と足を振り、廊下を真っ直ぐに駆けていく。 「オールド・オスマン」 「うむ」 「あの平民、逃げてしまいましたが……」 「うむ」 「あの逃げ足! そして躊躇の無さ! 主人への気遣い皆無! あんな使い魔見たことない!」 「うむむ……」 真面目と不真面目、ハゲとヒゲ、好一対の二人は苦い顔を見合わせた。 「まさかあそこまでアレな使い魔とは予想外でした。やはり参加者はある程度絞っていくべきかと」 「まぁ待て。結論を出すのはまだ早かろう。あの使い魔にしても何かしらの考えがあってやっておることかもしれん」 万事に拘泥しないオールド・オスマン個人としては、なるだけ門戸を広く開いておきたい。 だが使い魔の自覚が無いただの平民を晒し者にしては、使い魔本人も主のメイジも気の毒だろう。 しかし開始前から爪弾きにするというのも問題だ。どうすべきか、慎重に事を決める必要があった。 「平民の使い魔はもう一人いたはずじゃな。それを見て決めるのもよかろう」 「はあ」 「それにじゃ。君の意見を汲むとすれば総合的な評価をつけることになる。臆病さを打ち消すだけの長所があれば問題あるまい」 「なるほど」 「私としても実現させたいと思っておるよ。君の提案した『使い魔大品評会』を」 お父さま、今までお世話になりました。 お母さま、わたしの死体に怒りをぶつけるのはやめてくださいね。 ちいねえさま、悲しませてごめんなさい。 もう一方姉さまがいたような気もするけど、たぶん気のせい。そうですよね、エレオノール姉さま。 ……ここまで悲観的なこと考えておいてなんだけど、あれ当たったからって死にゃしないわよね。 医務室行きは確定だろうけど。あーあ、秘薬って高いのよね。顔に傷でも残ったら嫌だから使わなきゃならないし。 以上、時間にして一秒半。あ、今二秒になった。 人間の潜在能力というのは大したもので、ワルキューレがわたしに振り下ろした拳を見ながらここまで色々と考えることができた。 殴られる覚悟を決めて、その百倍はグェスをぶん殴ることも決めて、わたしは頬を差し出したけど、今日のわたしは良くも悪くも全てが裏目で、望んでもいない助けが入った。 わたしの頬と青銅で作られた拳の間に一枚の掌が差し込まれた。 人を殴り飛ばそうとするだけの勢いがあったはずなのに、ぴたりその場で静止する。 「勇気と無謀とは似て非なるもの」 厚く、傷だらけで、でもほんのりとした暖かさを持つ掌の持ち主は……。 「蚤の無謀をとるか、人の勇気をとるか。当人次第じゃな」 ぺティ! いきなりのお説教にムカッときたものの、どうやらその相手はわたしじゃなかったらしい。 ぺティの目は食堂の一隅を占める大釜へと向けられていた。 わたしは退いた。殴られる気こそあれ、退く気なんてさらさらなかったのに、それでも一歩退いた。 半ば以上はよろけていたと思う。これを認めるのはとんでもなく悔しいんだけど、わたしを襲ったワルキューレではなく、助けてくれたぺティに圧されていた。 よろけ、転びかけたところを後ろの誰かが受け止めてくれた。 「老師、よろしくお願いします」 その誰かは見なくても分かった。あんたまた人の見せ場とる気? かわいい女の子に容赦しないくらいだから、老人のぺティにだって容赦するわけがない。 ワルキューレの拳がぶんぶん振るわれる。当たれば死ぬ。嘘。でも大怪我はするでしょ。 そんな攻撃が降りそそぐ中、ぺティのフットワークは羽根のよう。すげー。 その左手には、たぶん荷運びしていた中から失敬してきたんだろう、ワインが一瓶握られていた。 右手には、いつも着ている使い古したコートが提げられている。 そのコートで暴れる牛をあしらうようにして、左足で一撃、ワルキューレの足首へ蹴りこんだ。 さらに避けたところでもう一撃、椅子の上から着地しなに鋭く蹴り刻み、青銅の足首が大きく変形する。 流れるように三撃目が決まり、青銅の足首がポキリといった。 さっすが修行者、やってくれるわ。ギャラリー含むわたし、歓声。 「ふむ。あきらめは悪いようじゃな」 釜の中でくぐもった詠唱が乱反射している。ぺティを取り囲み、ワルキューレが全部で三体練成された。 ギャラリー含むわたし、ブーイング。修行者だからって平民相手にやりすぎでしょ。 周囲が騒ぐ中、当のぺティと、わたしの後ろの誰かさんは、慌てる様子も見せない。 ぺティにいたっては右手のワインのコルクを飛ばし、喉を鳴らして飲む始末。落ち着いてるっていうか混乱してるのかしら、ひょっとして。 ギーシュがワルキューレをけしかけようとした時には、すでにワインが一瓶空になっていた。速っ。 あーあ、あの飲み方は悪酔いするわよ。殴られて痛くて、起きたら頭も痛いって最悪じゃない。 「それではいくかの」 行くってどこに行くのよ。酒飲みの行くとこっていえば一つしかないけど。 ぺティは大きく息を吸い込んだ。大きく大きく吸い込んだ。どこまで吸うの? 吸った分だけ吐き出した。大きく大きく吐き出した。吐きすぎじゃない? 内臓出るわよ? ぺティの呼吸はどこまでも大きくなる。息遣いがここまで聞こえてくる。変なの。 その息遣いに合わせて口から赤い何かが出てきて、うええっ内臓……いや内臓じゃない。内臓は青銅を切断しない。濡れてる……液体? ワイン? 口から出てきた赤い液体が……っていうと血みたいね。 ワインか血か分からない何かが、形を変え、矢継ぎ早に噴き出された。見た目はともかく、威力に関しては血やワインなんてものじゃない。 ゴーレムの末端を狙い、液状の円盤が次々に命中した。足首を断ち切られ転ぶもの、頭を削り取られるもの、腕が落ちるもの。 あらゆる方向へ飛び、かといって狙いは過たず、真紅の散弾がワルキューレを斬りさいなむ。 直線で飛ぶならともかく、あきらかに不自然な軌道を描くものもある不思議。これ、魔法? ギャラリーは喝采を通り越して呆然、ただ一人空気の読めない誰かさんだけが拍手を送る。 もう這いずる事すらできないくらいズタボロにされたワルキューレを避け、ぺティが大釜へと進み出た。 足を踏み出すたび、手を差し伸べるたび、床に飛び散った赤い飛沫がダンスを踊る。何これ。 どうやら魔法ってことは間違いないみたいだけど、原理はこれっぽっちも分からない。 釜の底に指をかけ、返した。息を呑むギャラリー含むわたし。 重そうな釜を軽々とひっくり返したから驚いたわけじゃない。 中のギーシュが幽鬼のように痩せこけていたからというわけでもない。 わたし達が驚いた理由は、釜の中にいたのがギーシュだけじゃなかったから。 二体のワルキューレがギーシュの両脇、一体だけ突出したワルキューレが小脇に剣を携えていた。 その剣を前へ突き出し、ギャラリーの呑んだ息が悲鳴として吐き出されんとしたその時。 ぺティが、ぺティのコートが、ゆらめいた。その動きは、例えるとしたら意地の悪い蛇。 蛇が、その身を縮ませ、思い切り伸ばす。反動でぺティは縦に一回転、横に半回転、半秒ほどで天井近くに跳び上がった。 ワルキューレの剣はコートを突き刺し、なぜか抜けなくなったみたいでもがいているけど、誰もそちらは見ていない。 上。滞空速度は異常なほどに遅い。混乱するギャラリーが身を乗り出し、輪をかけて混乱しているはずのギーシュが撃墜を命じる時間は充分すぎるほどあった。 左からワルキューレ。右からも同じタイミングでワルキューレ。 迎撃されることを知りつつ、正しい放物線を描いてただ前へ落ち、左右から襲いくるワルキューレに向けてそれぞれ一本ずつ脚を伸ばした。 打撃をくわえようって蹴りじゃない。その証拠にワルキューレは削れもへこみもしていていない。 ぺティの脚はあくまでも遮蔽物を排除するために伸びていた。 二体のワルキューレに挟まれる形で落ちてきたぺティが、両の脚でワルキューレを押しのけた。 ということは、つまり、ギーシュは丸裸でぺティの前に身を晒すことになる。 ワルキューレに脚をかけたままで、十字に組まれた手刀がギーシュの喉元へと突きつけられた。 なんて早業! 始まった、と思った次の瞬間にはもう終わっている。まるで稲妻ね。 壁に押し付けられた格好でギーシュは動けない。動いてみようがない。 怒りのためか、それとも焦りのためか。青ざめていた顔に赤みが差してきた。そしてこけた頬に柔らかな肉が……ってええええっ!? 充血し、濁っていた目に一条の光が差した。だらしなく半開きになっていた口元に力が戻る。 視線はしっかりと定まり、くたびれていた髪は艶やかさを取り戻し、一匹の幽鬼がわたし達の知るギーシュ・ド・グラモンになった。 モンモランシーは驚き、戸惑い、そこから喜び、喜びを隠すように口を一文字に引き結んだ。 彼氏彼女で百面相してりゃ世話無いわ。 「もういいようじゃな、お若いの」 右のワルキューレを蹴り、その反動で左を蹴り、誰かさんの隣に着地した。悔しいがお見事。 支えを失ったギーシュは壁を背にして尻餅をついた。 モンモランシーは「馬鹿馬鹿大馬鹿」とギーシュを叩く。その瞳からは滂沱と流れる涙がって見せ付けんじゃないわよ。 「お嬢様、そうむやみに殴っては頭が馬鹿になってしまいます。ゲ……ゲ」 そう思うのなら止めなさいよ。だいたい馬鹿に関してはもう遅いわよね。 「よかった、よかった。仲直りできた。ねっ」 ……誰? 「お疲れ様でした老師」 よくよく考えてみると、あんた何もしてないじゃない。 いつの間にか殺伐だった空気が微笑ましいそれに変わり、ギャラリーはなぜか拍手。わたしも拍手。 確実に見せ場をとられた。絶対に気のせいじゃない。ちょっと涙目でわたしも拍手。グェス何処行った。見つけたら皮剥いでやる。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2575.html
反省する使い魔! 第九話「噂の奏で△微熱の乙女」 学院長室が配置されてあるのは トリスティン魔法学院にいくつもそびえ立つ塔の一角だ。 当然、移動には内部の螺旋階段を使用する。 そして今その螺旋階段では、ルイズの後に続くように 音石が階段を下りていた。 すると音石に背を向け階段を下りながら ルイズが話しかけてきた。 「ねえオトイシ、あんたなんで スタンドのことを黙ってたの?」 「そこんとこは悪かったと思ってるぜルイズ、 だが勘違いはしないでくれよ。別に隠してたわけじゃねェ、 ただ単純に『話す機会』がなかった…。それだけだぜ。 …クックック、そう考えるとあのギーシュって小僧との決闘が ある意味、お前にオレのことを知ってもらう 『いい機会』だったって事かもしれねーな」 音石が得意げに鼻で笑った。 それにつられてルイズも「もう、ばかねぇ」と 薄ら笑いを浮かべた。 「まっ、こうして話してくれたわけだし 今回は特別に許してあげるわ。その代わり!」 突然ルイズが振り返りビシッと音石を指差した。 「あんたさっき学院長室で言ってたわよね? 『オレの世界についてはまた今度じっくり話してやる』って その約束、しっかり守ってもらうわよ!」 このルイズの命令には音石も意外そうな顔をした。 「なんだよルイズ、地球に興味があんのかよ?」 「そりゃね、私これでもハルケギニアについては 結構いろいろと知っているほうなのよ? だからとても興味があるわ、魔法が存在しない世界だなんて、 とても想像できないもの」 「へぇ~…、人は見かけによらねーってのはこの事だな」 「なんか言った?」 「幻聴だろ」 そんなやり取りをしているうちに いつの間にか二人は階段を降りきっていた。 そして二人は自室……つまりルイズの部屋に戻るべく、 学院なだけあって無駄に広い中庭の道を通っていった。 そんなときだ、向こう側から数人の男女生徒が歩いてきた。 ルイズは彼らを見た瞬間、若干動きが躊躇った。 そんなルイズの反応に気付いた音石も向かってくる 生徒たちの顔を見る。……そして気付いた。 向かってくる生徒の何人かが今日の授業で見た顔……、 つまりルイズのクラスメイトだったのだ。 彼らは全員が楽しそうに会話を繰り広げ、 廊下の真ん中を堂々と歩いていた。 しかし、一人の生徒がルイズたちに気付いたのか、 顔をはっ!とさせ、一緒にいる仲間たちに なにかをささやき始めた。 ルイズたちからは距離があったため なにをささやいているのか聞こえなかったが、 次の瞬間、彼らが一斉にふたつに分かれ ルイズたちが余裕で通れる道を作ったため なにをささやいていたのか余裕で予想が付いた。 ルイズと音石が彼らを通り過ぎると 彼らは逃げるようにその場を走り去っていった。 ルイズは何か複雑な気分だったが 音石は心の中で嘲笑っていた。 (フッフッフッフッ、あの決闘自体がルイズに スタンドを教える『いい機会』だとすれば…、 あの決闘での勝利は貴族の肩書きなんかで図に乗っている ガキ共に喝を入れる『ちょうどいい機会』ってわけか……) その後、音石はルイズの部屋で 自分の故郷、地球についての説明をした。 地球の歴史、科学技術の発達、自分は地球の 日本という国の人間で国によって言語が違うなど。 ありとあらゆる説明をしていくにつれ ルイズは未知な知識が次から次へと 頭の中に入っていく新鮮な感覚に興奮と驚きを 隠せないでいた。 音石自身も自分の世界では誰でも知っていて当然の常識を こうもいちいち驚きまくるルイズの反応は 見ていておもしろかったため特に不満も めんどくささも感じないまま説明を続けた。 当然、説明すればするほどルイズからの質問が増えていく。 車とはどういうものなのか? 鉄の塊がどうやって空を飛ぶのか? 音石はサムライなのか? など、説明するにつれ質問にも答えなければならないため 当然、喉がスッカラカンに渇ききってしまい ルイズの部屋に置いてあった水を必要以上に摂取した。 喉を渇かすこと自体は音石にとってよくあることだが、 その渇きを癒すために摂取した水の量が半端じゃなかったため、 音石はこの日、ひどくトイレに悩まされる羽目になった。 そんなこんなで会話を繰り広げていると いつの間にか、外が暗くなっていた。 どうやらお互い会話に夢中になっていたのか 時間が過ぎているのに気付かなかったらしい、 音石にとってはこの世界で二度目に迎える夜だったため どこか奇妙な感覚を味わっていた。 先に外が暗くなっていることに気付いたのは音石だが ベットに座っていたルイズも音石が気付いたすぐ後に 外が暗くなっているのに気付き、何かを思い出したのか 勢いよく立ち上がった。 「あ、いっけない!オトイシ、行くわよ!」 「行く?…ああ、夕食か?」 「そうよ、早くしないと神聖なる 食事前の祈りに遅れちゃうわ!」 「祈り?そんなんがあんのか?」 「はぁ?あんた何言って…… あ、そっか…。あんた朝食のとき すぐに出てったから知らないのも当然ね…… いい?私たちの祈りってのは始祖………」 「なあルイズ、説明してくれんのは嬉しいんだが 急いでんならせめて行きながらにしねーか?」 「………それもそうね、ついてきなさい」 部屋に出た二人は食堂に向かうために 廊下の奥にある階段を目指した。 音石は食事前の祈りについての説明をしている ルイズの後に続いて歩いていたが、 音石は食堂に行ったらまたシエスタの世話になるか と考え事をしていた為、 最終的には祈りというのは かつて存在した始祖とかいうお偉いさんに 感謝の言葉を送るというアバウトな感じにしか 覚えていなかった。 ルイズの後に階段を下りようとしたその時、 音石は咄嗟に後ろを向いた。視線を感じたからだ。 刑務所に入っていると、その気がなくても 嫌でも看守の目を気にするときがある。 そのため音石は妙に視線や気配に人一倍に敏感になっているのだ。 かつて牢屋に入っていたアンジェロが 虹村形兆の気配にいち早く感付いたのがいい例である。 しかし音石の視線の先には女子寮の生徒たちの 部屋の扉が連なっているだけで、 特にドアの隙間や廊下の一番奥にある窓ガラスには こちらを伺うような人影もなかった。 (………気のせいか?) 「ちょっとオトイシ!なにしてんのよ、早く来なさい!!」 「あ、ああ………今行く……」 音石は疑問を感じながらも これ以上、ルイズを待たせたら大目玉を くらいそうだったため、慌てて階段を下りていった。 足音が遠のいていくと、ルイズのひとつ奥の部屋…… キュルケの部屋の扉がキイィィィィ…っと音を鳴らした。 わずかに開いた扉の隙間からはキュルケの使い魔、 フレイムが顔を覗かせていた。 ルイズと音石が食堂に辿り着くと 相変わらず大勢の生徒がにぎやかに談笑の声を上げていた。 しかし、生徒が少しずつ音石の存在に気付くと にぎやかな談笑も少しずつざわめきに変わっていった。 「お、おい、あいつだぜ」 「ば、馬鹿!目を合わせるな!ギーシュの二の舞になるぞ!!」 「なんであんな野蛮人を先生たちは放っとくのよ……」 「ちょ、ちょっと…声が大きいって!聞こえたら殺されるわよ!」 「平民のくせに…………」 「あんな強力な亜人を操れる奴が平民なわけないでしょうッ!? きっとエルフが魔法を使って化けてるのよ!」 「なんであんなのがルイズの使い魔なんだよ…………」 そんな陰口が食堂に充満していく有様だが、 席に向かうルイズの後に音石が続いて歩くと 机と机の間に立っていたり、椅子に座っていたり している生徒たちは音石が近づいてくると 立っている生徒は怯えながら机に張り付くように道を譲り 座っている生徒は椅子に身を伏せていた。 なかには震えている生徒までいる始末だ。 学院長室から部屋に向かう途中の事といい、 この食堂での今といい、どうやら音石は かなり生徒たちから恐れられているらしい。 どうやら『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だけでなく ギーシュを半殺しにしたことがよほど効果的だったらしい、 しかし元よりそのつもりでギーシュを必要以上に痛めつけたのだ。 音石としてはどこか奇妙な達成感を感じていた。 対してルイズは自分の使い魔が噂されるほど 優れている事に胸を張ればいいのか、 まるで自分が音石に相応しくないような 物言いをしている生徒に怒ればいいのか どこか複雑でどこか悲しい気分のまま席に座ったが、 ポンッと肩を叩かれ、振り返り見上げてみると 音石が自分の心情を察してくれたのか 「言いたい奴には言わせておきゃあいい… まっ、気に入らねー奴がいたら教えな 変わりにブッ飛ばしてやっからよぉ~~…」 と悪ガキのように笑いながら言った。 そんな音石の笑顔を見ていると ルイズも陰口でブツブツ言っているだけしかできないような 奴らにいちいち反応している自分が馬鹿らしく感じた。 (そうよ!今は無理でもそのうち何も言えないぐらいに 成長してやるんだから!実際わたしはこいつを召喚したじゃない! へこたれても仕方がないわッ!!) そしてルイズは一言笑顔で「ありがとう」と音石に返した。 その目にはその目には音石とはまた違う 輝きと強い勇気と希望に満ち溢れていた。 すると給仕たちが厨房から 美味そうな食事を机に運び始めた。 そこでルイズはふとあることに気付いた。 音石の食事のことである。 ルイズは今朝、ここの給仕にみずぼらしい料理を 自分の使い魔に出すようにと命令しそのままである。 しかし音石は異世界の住人でありながらも なにかといろいろ自分のことを気に掛けてくれている。 性格は多少野蛮で大雑把なところはあるが ソレさえ除けば基本いい奴である。 さすがに今朝のようなみずぼらしい食事を 出すのはルイズの人間としての良心が痛んだ。 だが料理はもうすぐそこまで運ばれている。 ルイズはどうしようかと焦ったが いつの間にか音石がその場に居ないことにも気付いた。 「あ、あれ?あいつどこ行ったのよ?」 周りを見渡しもどこにも音石の姿はない。 するといつの間にか隣にモンモランシーが 座っているのにも気付き、彼女に聞いてみることにした。 「ねえ、モンモランシー。私の使い魔どこ行ったか知らない?」 「ん?彼ならさっき厨房に向かっていくのを見たわよ? たぶん、厨房の給仕たちに食事をもらうつもりじゃないかしら?」 「そうなんだ……、わかったわ、ありがとう」 自分の使い魔が給仕に食事を恵まれるというのも気に引けるが それならそれでいいかと納得し、 ルイズは自分の前に食事が置かれるのを確認した。 相変わらず、おいしそうな香ばしい匂いが食欲をそそった。 「ねえ、ルイズ」 すると急に先ほどのモンモランシーが話しかけてきた。 「ん、なによ?」 「あの使い魔、なんて名前だったっけ?」 「え?オトイシ・アキラだけど………」 「そう……オトイシさんって言うんだ……」 モンモランシーのありえない呼び方に ルイズは自分の耳を疑った。 「『さん』ッ!?え、ちょっとモンモランシー!? あ、あんたまさかッ!?」 「えっ!?あ!?ち、ちがうわよルイズッ!! 誤解しないでッ!誰があんな平民なんかをっ!! しかもアイツはギーシュをあんなひどい目にあわせたのよッ!? なんで私がそんな奴のことなんか………」 そう言うとモンモランシーは腕を組みながら、 プイッと顔を逸らした。 しかし顔を逸らした先には厨房があり、 モンモランシーは厨房を眺めたまま、 完熟したトマトのように顔を赤くしながら 徐々に意識が上の空になっていった。 「よお、シエスタ」 「あ、オトイシさん!!」 厨房に現れた音石の名をシエスタが叫ぶと 厨房中の料理人、メイドたちが仕事の手を止め、一斉に音石を見た。 そんな視線に音石は多少気まずいモノを感じたが よくよく見ると、彼らの視線は先ほどの生徒たちのような 不安と疑惑が篭った目ではなく、逆に尊敬と憧れを その目に篭らせていた。 すると厨房の奥から大柄で筋肉モリモリマッチョマンの 料理長マルトーが現れた。 「おお、来たか!『我らが狂奏』!!」 「はぁ?」 突然現れたマッチョマンにわけのわからない 呼び方をされ、音石の頭の上に?マークが浮かび上がった。 「あ、オトイシさん。紹介しますね! この人は料理長のマルトーさんです マルトーさん、この人がさっき言った オトイシさんです!」 「わざわざ言わなくてもわかるさシエスタ! 顔に大きな傷痕があり、見たことのない楽器をぶら下げた男! そしてこの只者ならぬオーラ!一目でわかったぜ! こいつがシエスタを助け、貴族を倒した『我らが狂奏』だってな!! がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」 マルトーが豪快に笑いながら、 音石を半ば力ずくで椅子に座らせ、 昼間のシチューとは比べ物にならないくらいの 豪勢な食事が机に置かれた。 「おいおい、いいのかぁ?この料理、 下手したら食堂の貴族どもより豪華だぞ?」 「なぁ~に、別に気にするこたぁねぇよ お前さんはシエスタを助けてくれたんだ! だからこの料理は俺たちからのささやかなお礼だ!」 そういうことなら……、と音石はフォークを手に取り、 美味そうな匂いを漂わせているチキンを取ろうとしたが 突然マルトーが料理の皿を横にずらし、 音石はむなしく机を刺してしまい、手が止まった。 なんのつもりだと言いた気に音石はマルトーを 見上げたが、その時のマルトーの顔は先ほどの 豪快な笑顔から真剣そのものの顔で音石を睨んでいた。 「ただ………最後に確認しておきたいんだが…… まさかお前さん、実は貴族……なんてことはないよな?」 「…………………なにィ?」 「シエスタから聞いたんだが…… お前さん、なんでも手で直接触れることなく ゴーレムを破壊したそーじゃねーか… そこら辺をはっきりさせておきてーんだ」 マルトーの言葉に音石は理解した。 そういうことか…、この世界じゃあ平民は魔法をつかえねぇ……、 つまりそれは魔法を扱うための精神力が扱えねーって事だ。 てことは当然こいつら平民は貴族とは違って スタンドを見ることが出来ねーってわけか……。 音石は手に持つフォークを机に置き、 マルトーの顔を睨み返した。 「くっく、おいオッサン。勘違いしてんじゃねーよ 確かにオレには普通の人間にはない 特殊な『チカラ』を持っちゃいるがよ~~~~……、 コレだけははっきり言ってやる………。 オレをあんな口だけ野郎どもと一緒にすんじゃねーよ」 シエスタや周りの料理人たちやメイドたちが冷や汗をかいた。 マルトーは学院中の平民の間ではメイジ嫌いで有名である。 沈黙という重い空気が流れた。 ―――――――――しかし………、 「………グ……、グゥアッハッハッハッハッハッハッ!! コイツは驚いた!俺に睨まれてそんな口を利いた奴は お前が初めてだよ!!いやはや、まったく恐れ入ったぞ!!」 「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!! オッサン!あんたも人が悪いぜェ!! せっかくの飯だってのにこんな邪険なムードにされちゃあ うまい飯もまずくなるってもんだぜ!?」 「ガッハッハッ!!違いない!!」 「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」 「ガッハッハッハッハッハッハッハッハッッハッ!!」 そんな二人の豪快なやり取りにシエスタたちは 安堵と喜びに満ち溢れていた。 どうやらシエスタたちは下手したら 殴り合いになるんじゃないかと心配していたようだ。 音石はマルトーと気が合ったようで あっという間に打ち解けることが出来た。 音石が食事をしているとあらゆる質問が 料理人やメイドたちからぶつけられてきた。 主に年齢や出身、決闘についてである。 出身は適当に誤魔化したが 決闘に対しての質問は特殊な『チカラ』を 持っているとだけ教え、『スタンド』のことは 黙っていることにした。 しかし、どういうわけか。 マルトー含む、ほとんどの者は音石が持っている ギターがマジックアイテムと勘違いしている者もいる。 特殊な『チカラ』=マジックアイテム 彼らはそう解釈したのだ。 だが音石からしても、マジックアイテムというのが どういうものかは知らないが、そう解釈してもらえるなら そっちのほうが都合がいいと判断し、そういう事にした。 そんな音石に付けられた称号が『我らが狂奏』である。 どうやら決闘の最中にギターを弾いていた音石の姿が その称号を生んだらしい……、なんともえげつない呼び名である。 「また来いよ『我らが狂奏』!! 俺たちゃあいつでもお前を歓迎するぞ!!」 「ああ、また世話になるぜオッサン。 じゃあなシエスタ」 「はい!是非またいらしてくださいね!!」 食事を終えた音石は厨房を後にし、ルイズの元に向かおうとしたが 戻ってみると、ルイズが座っていた席にはルイズは居なかった。 「ルイズなら先に帰ったわよ」 「ああン?」 突然声をかけてきた相手はモンモランシーだった。 「頼まれたのよ、あいつが戻ってきたら 先に部屋に戻ってるって伝えてってね」 「そいつはご苦労さん…………じゃあな」 「え?あ!?ちょ、ちょっと待ちなさい!!」 正直この時、音石はこのまま無視して部屋に戻りたい気分だった。 呼び止められた理由がだいたい予想が付くからだ。 せっかく貴族がわざわざ伝えてあげたのよ!? 感謝の言葉を送るなりするのが礼儀でしょ!? どうせこんな風なことを言われるに決まってる。 そう思った音石だが………興味があった。 昼間のギーシュの物言いから推測すると、 このモンモランシーはおそらくギーシュの恋仲かなんかだろう、 だからこそ興味があった。 そんな彼女が恋人であるギーシュを半殺しにした自分に 一体どんな口を利いてくるのか非常に興味があったのだ。 だから音石は部屋に戻ろうとした足を止め、 モンモランシーのほうへ振り向いた。 その時の彼女の顔は熱でもあるのか妙に赤かった。 「あ……あの!じゅ………授業の時……… そ、その………た、助けてくれて……あ、ありがとう」 音石は自分の耳にクソでも入ったんじゃないかと疑った。 まさか逆にお礼を言われるとは思っても見なかった。 この世界に来て音石は、貴族に対してはっきりいって ロクな印象がない。 この世界の貴族はどいつもこいつもその肩書きを 馬鹿みたいに威張り散らすことしか知らないカス。 どちらかというと音石のなかにはこういう印象が 定着しきっていた。 だからもしも自分を見下すような物言いをしたら 適当に馬鹿にして嘲笑ってやろうと考えていたが、 逆にこう言うことを言われるとどう対処すれば いいのか非常に困ってしまう。 「………ああ、まあ……あれだ………えっと……」 音石はぎこちない感じで、 どう言葉を返したらいいか考えていた。 元々音石は敵を作りやすい人柄のせいか 他人に感謝されること自体が極端に少ない。 ましてや女性に礼を言われたことなど 音石が記憶してる限りではほとんど経験がない。 まあ単に音石が覚えてないだけかもしれないが……。 音石は照れているのか頭をかきながら視線を逸らし、 「オレが勝手にやったことだし気にすんな」 と簡潔に言った。 モンモランシーは何かを言おうと 口を開こうとしたが、音石は逃げるように 早歩きで食堂を後にした。 らしくねぇ………、 音石はルイズの部屋がある女子寮の 階段を昇りながらそう思った。 さっきの食堂でのモンモランシーの感謝の言葉には 音石は正直今思えば感心している。 しかしそれでもいきなりあんなこと言われたら どう言葉を返せばいいのか迷うのを通り越して 気恥ずかしくなってしまう。 (まったく、らくしねぇな音石明 承太郎の野郎みてぇにクールにいかねぇもんか………) いろいろ考えているうちに かえってむなしくなってしまい 音石は深いため息をついた。 今から外に出てギターを激しく演奏して 気分でも晴らそうかとさえ思ってしまう。 そんなことを考えているうちにいつの間にか ルイズの部屋がある階にたどり着き 今日はさっさと寝てスッキリしようと思い ルイズの部屋に近づいていったが 廊下の奥の暗闇からひとつの炎が宙に浮いているのが 目に入り、音石は咄嗟に足を止めた。 警戒していたが徐々に暗闇からソレが姿を現し、 その炎の正体がキュルケの使い魔、 サラマンダーのフレイムの尻尾だと気付いた。 「はぁ~~、なんだ脅かすなよ てっきり人魂かと思ったじゃねぇか、 あ~~~、心臓にわりィ……」 音石は服の上から自分の左胸に手を押さえ 心臓の鼓動が早くなっているのを確かめると、 突然フレイムが音石のもうひとつの手の 服の袖を咥えてきた。 「ん?なんだよ、人懐っこいやつだな 遊んでほしいのか?」 「きゅるきゅる」 「うおッ!?お、おい。いきなり引っ張んなよ! この上着、結構高いんだぞ!?」 突然、力強くフレイムに引っ張られた音石であったが 下手に引き剥がそうとすると、お気に入りの上 値段も張った大切な上着が破けてしまう恐れがあったため、 引き剥がそうにも引き剥がすことができなかった。 されるがままにフレイムに引っ張られていくと どうやら自分の主人であるキュルケの部屋に連れてこようと しているようだ。 部屋のドアは半開きなっており、フレイムがその間に体を入り込ませ、 音石もその後を無理やり入り込まされた。 部屋の中はなぜか真っ暗で、いつの間に服を咥えている 口を離していたフレイムの尻尾の炎があっても 1メートル先も見渡せない空間となっていた。 ついでにこちらの世界ハルケギニアでは 『メートル』は『メイル』で表されているらしい。 「扉を閉めて」 すると暗闇の部屋の奥から声がした、当然キュルケである。 先に述べたように、部屋の中は1メートル先も見渡せない状況だ。 当然、そんな暗闇の中ではキュルケの姿を目視することは不可能である。 しかしなんと音石はこの暗闇の中、はっきりとベビードールだけを着た セクシーな格好をしたキュルケの姿を認識していた。 なぜそんな暗闇の中を音石が目視できたかというと 音石はこの時、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の 『眼』だけを発現し、それを自分の眼球の上に コンタクトレンズのように重ね被せたのだ! チリ・ペッパーは電気のスタンド! その発光体質を利用した音石独自の暗視スコープなのである!! (おいおい……、一体なんのつもりだこの女?) 音石はそんなキュルケのベビードール姿に若干戸惑いながらも、 同時に興味があったので言われた通りに扉を閉めることにした。 すると部屋に置いてあった数本のロウソクが一斉に炎を灯らせた。 キュルケがなにか魔法をつかったのだろう、 音石は彼女の手に杖があることを確認した。 「そんな所に突っ立っていないでこっちに来てくださらない?」 音石はゆっくりとベットに座り込んでるキュルケの傍に歩み寄った。 「オレとルイズが食堂に行くとき、妙な視線を感じたが…… あれはお前の使い魔だったのか?」 「あら、気付いていたの? さすがね………。ええ、その通りよ」 「なんでおれとルイズを監視してやがったんだ? なんでもお前の実家とルイズの実家は昔っからの 因縁らしーじゃねーか?まさかそれに関係してんのか?」 「誤解しないで、別にヴァリエールなんか監視しないわ あの娘、なにかとそのことにこだわっているけど 私は別に興味ないもの、ご先祖様たちの問題なんて…… それよりも………!」 「うぉわッ!!?」 すると突然キュルケが音石の手を引っ張り 自分の体の上に音石を無理やり押し倒させる体勢を作り出した。 音石は嫌の予感がしながら自分の額から首筋に 冷や汗が流れるのを実感した。 音石は咄嗟に手を伸ばし、キュルケから離れようと 体を起こし立ち上がろうとしたが、 いつの間にか自分の首に手を回しているキュルケによって それもできなくなっていた。 「私が興味あるのは………… ミスタ・オトイシ、あなたなのよ」 「…………ああ、なるほど、そういうことか?」 「ええ、わたし、貴方に恋してるのよ」 二人の顔の間隔は鉛筆縦一本分くらいで 互いの吐いた息が肌で感じ取れるほどのものだった。 しかし、ここで焦ってはと相手の思うつぼだ。 音石はここぞという時こそクールに対処するのが 最善の策だと結論付けた。 だから音石は無理にキュルケから離れようとせず あえてこの距離のまま彼女に話しかけた。 「なぁキュルケ……、君の気持ちはうれしぃんだがよ~~~。 昨日今日知り合った相手にいきなり惚れるってのは オレからしてみれば普通にどうかと思うぜ?」 「そんなことはないわ、現にあなたは学院中の人気者じゃない」 「嫌な意味でだろ?そんなんで君に惚れられる道理はないぜ?」 「フフッ、意外と謙虚なのね。聞いたわよ? あなたがギーシュと決闘したのは一人の女の子を 助けるためだったって………」 「…………………………………………」 「あなたの決闘での戦い様、カッコよかったわ まるで伝説のイヴァールディの勇者みたいだったわ! あんなすごい亜人、見たことないわ! 青銅を一発で粉砕するほどのパワー! 戦いながら楽器を奏で続ける不敵な物腰! あれを見た瞬間、わたしの心に火がついたのよ! 情熱!そう、『恋』と言う名の情熱よ!! 昨日知り合ったばっかりだからだなんて些細なことよ!」 『言ってもムダ!』 キュルケの話を聞いていると、 音石は嫌でも広瀬康一が山岸由花子に対して言った あの言葉を思い出してしまった。 音石はあの時、康一と由花子の戦いの一部始終を監視していたが 由花子はなにかを好きになると周りが見えなくなる異常な女だ。 この女、キュルケもまさにそれだ。 由花子のような凶暴性がないとはいえ、一度何かに夢中に なると周りが見えなくなっているんだ。 しかもこの女は貴族という身分のせいか 『自分が好きになった男は自分が手に入れて当たり前』 と思っている。 由花子とはまた違った異常さが彼女に潜んでいた。 少なくとも音石にはそう思えて仕方なかった。 (これ以上この部屋にいるのは絶対にやばい! だが力尽くじゃだめだ! この女が何をするかわかったもんじゃねぇ…… 下手に断ったらこの状況の濡れ衣をオレに着せる可能性がある。 『いきなり部屋に上がりこんできて襲ってきた』ってな! そんなことになったら今度こそ大問題だ。 ギーシュとの決闘のときとはわけ違う。 学院長のじぃさんでも庇いきれるかどうか…………… なんとかこの女が納得する方法でここを 抜け出さねぇとこれから先、ここでの生活がどうなるか わかったもんじゃねぇぞ!!) 音石はどうするか考えていた。 しかし周りが見えない女をうまいこと説得する方法など はっきり言って容易なことではない。 「フレイムで監視していたのはごめんなさい。 あなたが気になって仕方がなかったの」 「………キュルケ、ひとついいことを教えてやるぜ。 人間、『仕方がなかった』でいくらでも誤魔化せるんだぜ?」 これはつい昨日まで刑務所にいた音石だからこそ言えるセリフだろう。 『仕方がなかった』、どんな奴でも自分の間違いを否定するとき 必ずこの言葉を口にする。間違いの罪が深ければ深いほど この言葉を口にする。刑務所にいた音石はそんな言葉を 口にする人間を人一倍見てきた。 だからこそ音石は、この『仕方がなかった』という魔性の言葉が どれほど恐ろしいかよく知っていた。 「……そうね、貴方の言うとおりだわ。 本当にごめんなさい。でもわかって頂戴……、 どうしようもないのよ。恋は突然だし、 『微熱』の二つ名を持つ私のプライドが許せなかったのよ!」 (………これで『微熱』ねぇ~~) 音石は完璧に呆れかえっていた。 こんな自分を好きになってくれるのは正直うれしい。 しかし先程も音石が言ったように、昨日今日会ったばかりの相手と 恋人関係になるような観点など音石は持ち合わせていない。 ……………………………その時だ。 突然、部屋の外窓を叩く音がした。 音石とキュルケが窓を叩く音に反応し、咄嗟に窓のほうを見る。 すると窓を見ると同時に勢いよく窓が開いた。 開いた窓の外には一人の少年の姿があった。 「キュ、キュルケ……、待ち合わせの時間に来ないから 来てみれば……。な、な、なぜよりによってその男と………」 「ペリッソン!ええと、申し訳ないけど二時間後に…………」 「い、いや……。きょ、今日の約束はなかったことでいいから…… は、はは……そ、それじゃあごゆっくり!」 「え、あ、ちょ、ちょっとペリッソン!?」 (……ここ、たしか3階だよな?……でもまあ、 メイジ相手に今更って感じもするな) 「ふふっ。彼、確実にあなたに怯えてたわね」 「……なあキュルケ、俺が思うに先約があったんじゃないのか?」 「彼の勝手な勘違いよ。私が一番愛してるのはあなたよオトイシ それにもう過ぎたことじゃない?彼は約束はなかった事でいいって 言ってたんだから………」 (マジでおっかねー女だぜ、こいつの恋愛感情は子供のオモチャと一緒だ。 なにかを気に入ったオモチャを見つけるととことん遊び尽くすが、 また別の気に入ったオモチャを見つけると今まで遊んできた オモチャは何の迷いもなしに捨てやがる。 ひとつの事に夢中になるが、それ以外のものは すべてどうでもいいと認識しちまっているんだ。 ………ああ、だから『微熱』なんて中途半端な二つ名なわけだ) 音石のなかでなにかがしっくりきた。 するとまた別の少年が窓の外から顔を覗かせてきた。 置いてあるロウソクの光具合の影響か、知らないだけか、 今度の少年は音石を見ても怯えた様子はなかった。 「キュルケ!その男は誰だ!? 今夜は僕と過ごすと約束したじゃないか!」 「ああ、ごめんなさいスティックス 今夜の約束はなしってことで♪」 するとキュルケが胸の谷間か杖を取り出し、 杖を振った。するとロウソクの炎が蛇の形を模り、 窓の外にいる少年を突き飛ばした。 「呆れたを通り越して逆に感心するよ よくまあ一晩にこう何人も…………」 「あなたは彼らと違うわ!『特別』よ!」 「『特別』ねぇ~………、おっとキュルケ! どうやらまだ予約が残ってるみたいだぞ?」 「えッ!?」 音石が窓を指差し、キュルケが驚きの声を上げ振り返る。 そこには三人の少年がぎゅうぎゅう詰めになって窓の外にいた。 「「「キュルケ!そいつは誰だ!!恋人はいないって言ったじゃないか!」」」 「ああもう、うるさい!フレイム!!」 キュルケが苛立ちを隠せない口調でフレイムに命令した。 きゅるきゅるっと鳴いたフレイムは、そのまま三人に向かって 死なない程度には手加減してるであろう炎を吐いて 三人を窓から焼き落とした。 キュルケがその様子を見て安堵の息を吐いた。 ところが前を向きなおすと音石はベットから立ち上がり 自分に背を向け、扉のほうへ帰っていこうとしていた。 「待って!誤解よ!別に彼らとはなんともないわ! 単なるお遊びよ!ねえ、お願い待って!!」 キュルケもすぐさまベットから立ち上がり、 音石の後を追い、彼の背中に抱きつこうとした。 しかしそれは、抱きつこうとした瞬間、 音石が向き直った事によって中断された。 「よかった、考え直してくれた……の……ね………」 キュルケは振り向き直った音石の顔を見て息を呑んだ。 とても冷たい目をしていたからだ。 貴族である自分にむかって……………… いや、それどころか彼の目は人間に向けるべき目ではなかった。 養豚場の豚でもみるかのように冷たい目……………、 とても…………………、とても残酷な目だった。 キュルケはそれを理解すると同時に、 自分の背中が冷えかえるような感覚に襲われた。 「………キュルケ、これだけは教えといてやる お前には言っても無駄だろうが……………… 男はな………、お前の退屈しのぎの道具じゃないんだよ」 「道具って…………。ち、違うわ! わたし別にあなたや彼らをそんなふうにみてわけじゃ………」 「もうお前は喋るな」 「……………………………………え?」 「もうてめーにはなにもいうことはねえ……… とてもアワれすぎて……………………何も言えねぇ」 キュルケのなかでなにかが崩れ落ち音がした。 水晶玉が叩きつけられるような………… すがすがしいくらいに残酷な音だった。 バタンっと音石が扉の音を鳴らし部屋を後にし、 膝を突き、その場に立ち尽くしたキュルケに フレイムが心配そうに近寄った。 するとキュルケはフレイムに寄りすがり……………泣いた。 音石がキュルケの部屋を出ると、 見計らったかのようなタイミングでルイズの部屋のドアが開いた。 案の定、出てきたのはルイズだった。 そしてルイズも音石の存在に気付き、それどころか音石が キュルケの部屋から出てきたことにも気付いた。 「オ、オトイシ!?あ、あんたキュルケの部屋で何してたのよ!?」 「…………………………………………」 「な、なんとか言いなさいよ!! こ、こ、こ、この………エロ犬【ドォンッ!】ひゃあっ!?」 ルイズはたまたまそばに置いてあった鞭を手のとり 音石に向かって振り上げようとしたが、 音石は顔を伏せたまま、キュルケの部屋の壁に向かって 力一杯、拳で殴りつけたのだ! そんな突然の行動にルイズの体は硬直した。 すると顔を伏せていた音石はゆっくりと顔を上げた。 ルイズに向かってフッと小さな笑みを浮かべた。 「なんでもねえよルイズ、実は今日 キュルケの使い魔が俺たちを監視していたから その理由を問い正してただけだよ」 「………え?そ、そう……なの?」 「ああ、何でもオレに興味があったそうだ」 「え………はぁッ!?もう!キュルケの奴、一体何考えてんのよ!!」 ルイズがキュルケの部屋に乗り込もうとしたが 音石が手を壁にし、それを静止した。 「よせルイズ、ほっとけ」 「でも使い魔に色目使われて黙っていられないわ!!」 「必要ねぇよ……、」 音石の言葉にルイズは何かを察したのか、 仕方ないわねと言って、音石と一緒に部屋に戻ることにした。 部屋の中ではルイズはキュルケに対しての愚痴を 散々音石に浴びせた後、二人とも眠りに付いたが ルイズはベットの中で、音石の先程の行動を思い返すと 怖くて仕方がなく、自分は本当に彼を使い魔として…… パートナーとしてやっていけるのか不安になってしまった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1040.html
食堂はすでに閑散としていた。生徒たちの大半は教室を目指し、先ほどまでの喧騒もそれに伴い移動している。 「ご精が出るのう、お嬢さん」 トンペティに声をかけられたメイドは、 「ありがとうございます」 微笑み返し、少し頬を赤らめミキタカへも微笑みを投げかけた。ミキタカは静かに笑い返し、メイドの頬が一層濃い朱に染まる。 掃除中のメイドが離れていくのを目の端で追い、ミキタカは口を開いた。 「どうでした、老師」 「ふむ……」 手を開き、握り、また開き、握る。掌には幾本もの深い皺が刻まれ、それに倍する古い傷跡が走っていた。 「これは主の求めている答えではないかもしれんがの。ルイズ嬢は……なかなか面白い」 「面白い、とは?」 「うむ。パイプ、いいかね?」 「どうぞ」 深く吸い、吐く。鼻から、口から。 「ルイズ嬢から感じ取った生命エネルギーは男のものと女のもの、合わせて二種類。といっても一種類」 「それは興味深いですね」 「その通り」 紫煙をくゆらせ、より深く腰掛けなおした。 「強い絆。絶ち難き縁。恋や愛もあるが、それだけでは無かろう。ルイズ嬢の深い部分に食い込み、二つの生命エネルギーはもはや一つと呼ぶに相応しい。うらやましい話じゃ」 「多重人格のようなものですか?」 「違う。もっと根本の部分でつながっておる。双方がお互いを喜んで受け入れている。そうじゃの……自分の中にもう一人の使い魔がいる、とでも言えばいいか」 「使い魔ですか」 「陳腐な例えを使うとすれば『運命に逆らってでも離れたくなかった恋人たち』じゃな」 「なるほど。ルイズさんの内面にも何かしらの影響がありそうですね……」 顎に指を当て考える。鼻のピアスと耳のピアスを繋ぐ紐が指をくすぐり、こそばゆい。 「判断材料は増えましたが、これは色々な意味で複雑な問題です」 言葉とは裏腹に、口調ははずんでいた。トンペティも楽しそうに煙を吐いている。 「この問題は夜にでも考えるとして、今は実際的に動くとしましょう」 「別の男女のためかな?」 「義理が多いというのも大変です。正月に付き合いで子供とババ抜きする大人の気持ちです」 やはり、言葉と口調は裏腹だ。パイプを離そうとしないトンペティをそのままに、軽い足取りで厨房の入り口に向かった。 生徒達が食事をとった後でも料理人の仕事は終わらない。次の仕込み、洗い物、皆が皆休む暇なく動き続けていた。 「ちょっといいですか」 その場にいた全ての人間が手を止め、声の主を確認し、一人の例外もなく笑い、作業に戻った。 嘲りではない。声の主に対する「こいつは次に何をやってくれるんだ」という期待を覗かせている。 「マルトーさん。下のゴミ置き場に置いてあった大鍋をもらってもいいですか」 「なんだミキタカ、また何か面白いことでもしようってのか」 コック、メイドといった学院内で働く平民達はミキタカに好感を抱いていた。 貴族であっても偉ぶらず、他の貴族達を彼一流の諧謔で煙に巻く様は見ていて痛快だ。 支持者筆頭が押し出しの強いことで知られるコック長のマルトーであり、ミキタカの頼みであれば多少の無理をも通してくれた。 「いいえ。もう少し切実なことですよ」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1425.html
ザ・サン…もとい頭を光らせながらコルベールが何やら疲れきった様子でプロシュートに近付いてきた。 「君に言われたとおり、樽五本分のガソリンの精製が今、終わったところだよ」 「早いな」 この前ガソリンのサンプルを作ってから数日、それから飛ばせるだけの量を精製する事になったのだが、結構早く出来たのでそれなりに驚いていた。 「それが飛んだ姿を見たくてね…ふふ…ここ数日徹夜続きだったよ」 目の下のくまがスゴイ。 俯き怪しく笑いながら荷台に積んだ樽を浮かしながら運んでいる姿は、なんかもう色んな意味でペリーコロ(危険)さんである。 広場に付きガソリンを入れていると、他の教師からアルビオン宣戦布告を聞いたコルベールがブッ飛んでいた。 「なんですと…!アルビオン軍がタルブ村に!?」 スデに他の教師や生徒達には禁足令が出ているらしい。 「ヤベー状況か?」 「…トリステイン艦隊は司令長官が戦死した上に、残存艦艇も無傷の艦はほとんど無いらしい」 地上戦力も3000対2000で劣っている。 つまり、制空権を抑えられ、蹂躙されるだけという事だ。 「まぁついでだ、あいつに『これ』を見せるっつったからな」 「タ、タルブに行くというのかね!?禁足令が…」 そこまで言って関係無い事に気付いた。 目の前の男は生徒でもなければ貴族でもない。 「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」 そこに飛び込んでくるのはルイズだ。 「タルブまで空の散歩だ」 「散歩って…聞いたでしょ!?アルビオン軍が攻めてきたって!!」 「放っといても、そのうちこっちに来んだろーが、それにだ」 「…それに?」 「守んのは性に合わねーんだよ。どうせ相手すんなら打って出た方が早い」 「兄貴の能力じゃここの連中巻き込むしな」 「そういうこった」 必要であれば巻き込むのも躊躇しないが、能力的には敵のド真ん中での能力使用による殲滅が最も適している。 ルイズもグレイトフル・デッドの射程はどのぐらいか聞いていたが、それ以上の射程の大砲でドンパチやっている戦場に行かせる事はできない。 「…こんなのでアルビオン軍に勝てるわけないじゃない!怖くないの…!?死んじゃったらどうするのよ…!!この馬鹿!!」 「怖くねーやつなんていねぇよ。それを上回る『覚悟』を持ってるか持ってねーかってこった。恐怖心を持たないヤツが居たとしたらそいつは、ただの馬鹿だ」 「じゃあ…なんでタルブに行くのよ…!」 泣きそうだが、必死になってこらえる。泣いたところで説教が始まるか、ガン無視されるだけだ。 「言うだろーが、『攻撃は最大の防御』ってな。待ってるだけじゃあ状況が悪くなるだけだ。………こっちだと一応オメーらも仲間なんだからよ」 「あたしとしては『仲間』より『恋人』って言って欲しかったんだけどね」 「な…ッ!何時からそこに居やがった…!」 「おもしろそうな事やってるからさっきからそこに居たんだけど」 よく見るとタバサも隣に居る。 仲間云々の部分はルイズに聞こえない程度の声で言ったつもりだったがしっかりキュルケに聞かれていたらしい。 「ちッ!…時間がねー、オレはもう出るぜ」 「照れなくてもいいじゃない。…あ、でもそんなダーリンも素敵ね」 「レア」 そんなやり取りを見ていたルイズだが、自分も含めて仲間と思っていてくれている事に気付いた。 「…なによ…性に合わないって言ったくせに、結局守るためじゃない」 「ルセーな…あっちに居た時は、オメーらみてーなマンモーニは居ねーんだよ」 ペッシの事はスルーしているが気にしない。 空にペッシが泣き顔で『ひでーや兄貴ィィィ』と言っているような気もしたがこれも無視した。 そう言いながらゼロ戦に乗り込もうとする。 「わ、わたしも、それに乗って行くわ!」 「言っとくが、こいつが墜ちたら死ぬぞ?」 「わたしはあんたのご主人様なのよ!?あんた一人死なせたら…わたしがどうすんのよ!そんなのヤなの!」 ルイズの目をジーっと見る。目は反らさない。 それだけ確認すると、何も言わずゼロ戦に乗り込む。 「な、なによ!こんな時ぐらい言う事聞きなさい!」 しばらくするとゼロ戦の中から破壊音が聞こえ、操縦席から壊れた馬鹿デカイ無線機が放り投げられた。 「ったく…あの時のペッシと同じ目ぇしやがって…言っとくが後ろに席はねーぞ」 組織を離反すると決意した日、マンモーニながら自分達に付いてくると言った弟分と同じような目をしていた。 だからこそペッシと同じようにルイズを連れて行く気になった。 ルイズがゼロ戦に乗り込むと同時に各計器チェック、機銃弾装填確認を行う。 全て良好。旧日本海軍の整備力の高さと固定化の賜物だ。 「ミス・ヴァリエール!…行くな…と言いたいところだが止めても君は行くのだろうから…これだけは言わせて欲しい」 何時に無く真剣な顔のコルベールを見てルイズが操縦席から身を乗り出しそれを見る。 「自分の身を大事にしなさい。わたしから言えるのはそれだけだよ」 「あたし達も『仲間』なんだから付き合うわよ」 キュルケに同意するようにタバサも無言で頷く。 「…ついでだ、纏めて面倒みてやるが、万が一の覚悟ぐらいはてめーでしろよ」 そう言うが、甘くなったなと思う。 イタリアに居た時なら、任務を遂行するためには切り捨てる事も必要だと割り切っていたはずだが ブチャラティの言う事もここに来て分かるような気はしてきた。 「『任務は遂行する』『弟分も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『兄貴』の辛いところ…ってとこか」 「なんか言った?」 「何も言ってねーよ」 「…嘘ね!」 ルイズが後ろで色々五月蝿いがエンジンをかけそれを無視する。 「兄貴、このままだと距離が足りねぇ、前から誰かに風を吹かせてもらわねぇと」 「オメーに分かんのかは理解できねーが…気がきいたな」 「俺は伝説の武器だからよ、ひっついてりゃあ大概の事は分かるさ」 「自分で伝説とか言ってるヤツが一番危ねーんだよ」 「あ、それ結構傷付いた、ヒデーよ兄貴ィ」 「前を見なさい前をーー」 軽口叩きながらコルベールに風を吹かしてくれるように伝える。 風が吹くと同時にブレーキを踏み込みピッチレバーを合わせる。 ブレーキを弱めフルスロットルにすると、勢い良く加速する。 「ぶぶぶぶぶぶ、ぶつかる!」 「舌ぁ噛むぞ黙ってろ!」 後ろでルイズが辞世の句を頭に浮かび上げているが、壁にぶつかる手前で操縦桿を引き上げると、それに合わせゼロ戦も地を離れた。 「素晴らしい…まるで私の信念が形となったようだ…」 このハゲ、ゼロ戦が飛んだ姿を見てどこぞの軍人が乗り移ったご様子で日食の事はすっかり忘れている。 「なにこれ…ホントに飛んでる!」 「しかも、はえーなこいつ、おもしれえ!」 「そりゃあな」 巡航速度程度でも350キロ以上は叩き出せるゼロ戦だ。 フルスロットルなら524キロまで出せる速力を誇る。 当然、キュルケとタバサを乗せたシルフィードは置いていかれている。 「ちょっと、もうあんな先にいかれてるじゃない!もっと速度出ないの!?」 「無理」 (は、速過ぎるのねーー) 二人を乗せている以上出せる速度は決まっているが、乗せていなくても付いていけないである事は今、必死こいて飛んでいるシルフィードが一番よく知っている事だ。 タルブ村に接近するにつれ、村から煙が立ち昇り、ほとんどの家は廃墟と化している。 プロシュート自身、目的の為なら無関係の者を巻き込む事は厭わないタイプだが、この場合は別だ。 明らかに、目的も無いのに破壊行為をしている。 まぁ、それが分かっているからこそ、イラ付きが自分にも向かっているのだが。 「なにこれ…ひどい…」 ルイズが眼下の惨状に目を覆うが、今の自分ではどうする事もできないため、それを見る事しかできない。 「兄貴、一騎来るぜ」 「他はどうしたよ?」 「居るとは思うが…まだ分からん」 その竜騎兵を無視しタルブ村上空を旋回するように飛ぶ。 「ちょっと!なんで何もしないのよ!」 ギャーギャー五月蝿いが無視決め込んでいると、ありえない速度の『竜』に驚いたアルビオン竜騎士隊が全騎囲むようにして、こちらに向かってきていた。 囲みを突破し離脱する形で距離を取ると180°反転し速度を飛行可能速度ギリギリに落すと……群れの中に真正面から『突っ込んだ!』 「な…!なにやってんのよあんたはーーーーッ!反転はともかく減速のわけを言いなさいーーーーーー!!」 「ヤベーって!あいつらのブレスを受けたらこいつでも一瞬で燃え尽きちまうぜ!」 機動と運動性能のみを追求し装甲を全て捨てた機体であるゼロ戦が火竜のブレスを受ければそうなる事は容易に予想できる。 「火竜よりオメーのがあぶねーだろ!」 喚きながら首を絞めようとするルイズをスタンドで阻む。 少しばかり連れてこなけりゃあよかったと思ったが、もう手遅れだ。 「だ、だったら頑張りなさぁぁぁい!こんなとこで死んだら恨んでやるんだから!!」 この状況下で墜とされた場合、両名とも死亡確定なのだがあえて突っ込まない。突っ込んだら負けのような気がする。 「ほほほほ、ほら!かか、囲まれたじゃない!ブ、ブレスがくるわ!」 もうこれ以上無いぐらいルイズがテンパっているが、プロシュートにしてみれば風竜ではなく火竜がブレスを吐くという方が『スゴク良かったッ!!』 「弾は補充が利かねぇからな…このブレスが良いんじゃあねーか! こいつを燃え尽きさせられるぐらいの火力なら、十二分に温まるだろうからよ・・・!」 全騎射程圏内、当然向こうのブレスは届かないがあえて接近した。 「グレイトフル・デッド!」 「ぜ…全滅!?二十騎もの竜騎士がたった三分で…ば、化物か!」 報告を聞いたサー・ジョンストンが喚くが後ろに控えているワルドとしては、この被害は想定済みの事だ。 「やはりガンダールブが出てきましたな」 そんな冷静なワルドを見てプッツンきたのかジョンストンが掴みかかった。 「貴様…!そもそも何故竜騎士隊を預けた貴様がここにいるのだ!臆したか!!」 それを横から見ていたボーウッドが咎めるようにして入ってきたが、矛先がワルドからボーウッドに変わっただけだ。 「何を申すか!竜騎士隊が全滅した責任は貴様にもあるのだぞ!貴様の稚拙な指揮が竜騎士隊の全め…」 喚きながらボーウッドにも掴みかかろうとするが、その途中で言葉が途切れた。 「流れ弾か…ここまで飛んでくるとはな。注意しようではないか子爵」 「ええ、流れ弾ですな」 見るとジョンストンの額に穴が開き、そこから血が吹き出している。 いくら、怪我が魔法で治せるとはいえ、脳に食らえば一発で致命傷だ。 ぬけぬけと言うが、当然流れ弾などではない。 だが、この二人が何もしていない事は回りの船員達が見ている。 「それで、レキシントンの準備は整ったのかね?」 「気付かれないように高度を取りましたので少々手間取りましたが、今終わったようですな」 「偏在か…便利なものだな。しかし、レキシントンを犠牲にする必要があったのかね?」 「私は元魔法衛士隊の隊長ですからな。アンリエッタが出てきている以上、士気は高いでしょうしメイジの比率も多い事はよく知っています」 「士気完全にを打ち砕き、メイジにも止めることができない戦法というわけか… まぁそれはいいとして、全艦に伝達『司令長官戦死。コレヨリ旗艦艦長ガ指揮ヲ執ル』以上」 一方こちらラ・ロシェールに布陣したトリステイン軍だが、ハッキリ言って手詰まりになっていた。 敵はこちらより数が多い三千、おまけに艦隊砲撃の援護付き。 対してこちらは数は二千だが、アンリエッタが陣頭指揮を取っているため士気は高くメイジの数では有利といえた。 「敵艦隊はまだ見えませんが…砲撃に備えて空気の壁で防ぐように手配はしておきました」 国民からはからっきし人気の無いマザリーニではあるが、この男が居なければトリステインなど国として成り立っているかどうか怪しいものだ。 有能だが、周りから評価されていない。どことなく暗殺チームに通じるものがある。 「しかし…砲撃も完全に防げるわけではないでしょうし それを耐えたとしても突撃してくるでしょう。とにかく我々には迎え撃つことしか選択肢はありませんな」 「勝ち目は…ありますか?」 勝算など無い戦いだったが、それをここで言うのは兵の士気にも関わる事だし、それをアンリエッタに言うのも憚られた。 「メイジの数では上回っておりますので…五分五分…といったとこでしょうかな」 そうは言うが実際のところ、上空からの長距離砲撃の前ではそれは意味を成さない。 勝ち目は無いが…やれるところまではやると悲壮な決意をした瞬間、騒がしくなった。 竜騎士が一騎近付いてきたのである。 兵が攻撃を仕掛けるが、風に阻まれる。魔法も同じだ。 そして、竜騎士が近付くと、その正体も分かった。 「…ワルド子爵…裏切り者の貴方が今更何の用がおありですか!」 「ふっ…勇敢な事だな。さすがに兵の士気も高い。お飾りながら国民の人気だけはあるとみえる」 「黙りなさい…!ウェールズ様の仇とらせてもらいます!」 「おお…!恐ろしい、恐ろしい!そんな事をされては返すものも返せなくなります」 「返すもの…?」 「元々は王党派の『物』だったが…必要が無くなったので返しておこうと思いましてな」 「一体何を…!?」 「是非受け取っていただきたい。ウェールズも取り返したいと思っていた物をな」 そう言うとワルドが掻き消え風竜がどこかへ飛んでいく。偏在だったという事だ。 「落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に壊走しますぞ」 そう言われてもアンリエッタの心中では色々な疑念が巻き起こっていた。 返すものとは何か。王党派の物でウェールズも取り返したいと思っていた物… そう考え、空を向くが何かが見えた。 空の大きさから比べれば点のような大きさにすぎなかったが…僅かだが、それが大きくなってきている。 「枢機卿…あれは…?」 そう問われマザリーニも空を見上げる。 瞬間、嫌な予感がした。 そして、その数秒後その予感が的中した事を確信した。 「ア、アルビオンの奴ら…なんという事を…全軍ラ・ロシェールより速やかに離脱!」 「枢機卿…!この後に及んで何を…!」 空を見上げたまま、撤退命令を出したマザリーニに憤りかけるも 顔が尋常じゃなかったので、もう一度空を見上げると、その意味を理解し自身も固まっているマザリーニをユニコーンに乗せ兵と共にラ・ロシェールから逃げる。 「気付いたようだが、もう遅い!」 遥か上空から何か巨大な物がトリステイン軍目掛け落ちてきている。 「『レキシントン』号だッ!!」 落下の微調整を風で行っていたのは当然偏在のワルドだ。 船体にはこれでもかというぐらい火薬が仕込まれている。 それに気付いたトリステイン軍だが、落下により加速した巨大戦艦レキシントンを止める術などありはしない。 文字どおり壊走し逃げ惑う。 「ブッ潰れろぉぉぉぉ!!」 最高に『ハイ!』になった偏在のワルドが地面と激突する20秒ほど前に船体に火を付ける。 そうして船体が燃え上がり、地面に激突すると同時にレキシントンが大爆発を起こした。 「き、旗艦を…こんな事に使うなどとは…!」 アンリエッタとマザリーニは辛うじて爆発から逃れたものの、他はもうスデに壊走していると言ってもいい状態で、被害状況すら分かりはしない。 もちろん、このまま壊走状態のままでは、何もせずに敗北するであろうことは十分に分かっている。 「部隊の再編を…被害状況も確認しなければ」 生き残った将軍と素早く打ち合わせをするが、遥か彼方から下がりに下がった士気にトドメを刺す光景を見る事になった。 「……なんだ…あの船は…」 歴戦の将軍ですら、我を忘れたかのようにその船を凝視している。 その目には、あの巨大戦艦『レキシントン』よりも一、二回り大きく、さらに装甲を金属で覆った艦が空を飛んでいる光景が目に映っていた。 その船からボーウッドがラ・ロシェールを見ている。 『レキシントン号だッ!』作戦には本来乗り気ではなかったが、この船を見た瞬間気が変わった。 装甲を金属で覆い、さらに、あのクロムウェルが連れてきたシェフィールドと呼ばれる女がもたらした技術より格段に上の装備のこの船を。 少し後ろを見る。 そこには、ワルドが召喚した使い魔が鎮座していた。 正直なところ、この船が存在するのが使い魔のおかげだなど未だ半信半疑だ。 確かにジョンストンなどより、余程司令長官らしい佇まいをしている。 船長服を身に纏い、パイプを吸っている姿など、憎たらしいぐらい余裕あり気だ。 これが、人間であればまだ納得できたであろうが… 「『ストレングス』か…確かにレキシントンが玩具に見える船だが…」 そう呟き視線を前に戻す。 その使い魔の正体は広義で見れば『猿』だった。 ←To be continued