約 2,268,867 件
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/79.html
テンセイ者 約200年前から生まれ始めた特殊な加護を持つ人族(近年は他種族にも見られる)で、彼らのことを人々は勇者とも呼んでいる。 身体能力や魔臓の機能も発達しており人族の進化種とも考えられた。 現在では勇者の出産率は低下し現存する血を維持することしか出来ない。 テンセイ者は別世界(前世)の記憶を維持しているものやそうでないものもいる。 テンセイ者には特有の紋章が体のどこかに浮かんでおりそれが証明となる。 天葬教では勇者として受け入れられてはいるがクレリア聖教の盲信者たる【漆黒聖典】を含めた直属の聖歌隊「異端狩り」の討伐対象と認定されている。 仮に、テンセイ者が犯罪を犯したとき、彼らは嬉々として現れるだろう。
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/11.html
人族 かつては大陸を支配した種族、けれども彼らは過ちを犯した。その知能によって生み出した数々の成果によって自らの首を絞めることとなる。 平均寿命は50~70程度、成人年齢は14歳。 人種/ヒューマン 人間と呼ばれるのはこの種で、かつては大陸の多くの人口を占めていた種だった。 他の種族と違って魔臓の作りが弱く肉体も強いとはいいがたい。 それであってもどの種族よりも強くあろうと努力し数は少ないが他種族よりもはるか先の高みに至った人種もいる。最も賢き種族とも評価されるほど彼ら は多くの研究成果を残している。 魔術しかり祈祷しかり、しかし彼らはやりすぎたのだ。世界の均衡を崩してしまうほどに。
https://w.atwiki.jp/epicofbattleroyale/pages/477.html
――真・日本妖怪大全、第754ページ(最終番) 崇徳院。 あらゆる裏切りと非礼に塗れ、悲憤の末に死んだある上皇の成れの果て。 一線を超えた怨念は彼を人間でも悪霊でもない、第三の存在へと昇華させた。それ即ち、日本大魔縁。おぞましき烏天狗。 これはあらゆる妖魔の中でも最上に近い力を持つ。 小癪な手など使わない。神の如く祟り、悪魔の如く呪う。 市井にて恐れられる妖怪など、千匹集めても彼の足元にも届かないだろう。 人の世を呪い、自らの血を以ってその存在を国家そのものに刻みつけた魔王。 そして彼こそが、この町で最も恐ろしき存在。 正攻法で倒す手段は皆無。策を弄する隙すら与えちゃくれない。 ただ呪い、祟って殺す最大の難壁。 ここは《如月》。永劫に酩酊する無間の町。 これもまた、無間を彷徨う虜囚の一。 終わらぬ夜の住人。報われない悲劇の皇。 アヴェンジャーの霊基を持つ、サーヴァントである。 《堅州(かたす)》への道を塞ぐ、剣呑な門番である。 ■ 悪い夢のようだった。 翼を生やした魔王が絡新婦を踏み潰してから、まだ三分も経ってない。 なのに、目の前の光景は。 もう、消化試合のような有様になっていた。 「か……は、っ」 家や電信柱が砂になって消えていく。 アスファルトはひび割れてクレバスになり、ガードレールが飴細工みたいに溶けている。 赤錆色の空はゴロゴロと音を鳴らして、如月の町の到るところに雷を落としている。 ひーちゃんは――ついさっきまで家だった砂の山に凭れ掛かるようにして座り込んでいた。 口元からは真っ赤な液体が流れていて。息はひゅーひゅーと、喘息みたいなそれ。 連戦の疲れがあることを踏まえたって、この追い詰められ方は異常だ。 今までにだって強い妖怪はいた。 というより、弱い妖怪なんていなかった。 てけてけだって、思い出したくもない疱瘡神だって、ウォッチャーたちだって。絡新婦だってわたし達をまんまと騙した強敵だった。 でも、これは次元が違いすぎる。この魔王は、強すぎる。 ひーちゃんを同じように圧倒した剣妖だって、ここまでずば抜けていたかどうか。 「………………」 魔王はどこまでも無言だった。 何もしゃべらないし、何も表情を浮かべない。 "人間味がない"って表現を妖怪に使っていいのかはわからないけど、多分一番正しい表し方はそれになるんだと思う。 ただそこにいて、敵を倒すだけの存在。彼のどこからも、彼自身というものが見えてこない。 「ひーちゃん、にげよう!」 わたしは叫ぶ。 だめだ。これは、話にならない。 このまま戦わせたら――きっと。 きっと、取り返しのつかないことになる。 「……だめ、だよ。もうすこし、なんだ」 でもひーちゃんは首を縦には振らなかった。 ぎしぎし体の軋む音が聞こえてきそうなほど、ぎこちない動きで立ち上がって。 すっかり見慣れた水の槍を作り出し、構える。 ……その槍が前に比べて不格好で細いことに、ひーちゃんは気付いていないんだろう。 自分がどれだけ疲れてるかもわからないくらい、ひーちゃんは今熱くなってるんだ。 「あいつさえたおせば、《かたす》にいける」 「……ひーちゃん」 「あのこがたくしてくれた。ぼくがそれをついだ。 もう、ぼくひとりのねがいごとじゃないんだ。だから、ぼくは――!!」 「――ひーちゃんっ!!」 わたしは、はっとする。 ひーちゃんが驚いた顔をしているのを見て、初めて自分が怒鳴り声をあげたことに気付いた。 いつもなら気後れしてしまうかもしれない。でも、今は恥ずかしがっている場合じゃない。 「わかるでしょ! いまのわたしたちじゃ、ぜったいしんじゃうんだよ!!」 「そんなのわかってる! でも!!」 「でもじゃない!!」 ウォッチャーはふたりとも死んだ。 協力は無理だったと思うけど、絡新婦も死んだ。 もうわたしたちの味方は誰もいない。 わたしたちはふたりぼっちだ。 頭も、力も、何もかも足りない。 これじゃ、あの魔王を倒せない。 崇徳院に届かない。 「……いきようよ、ひーちゃん。いまはむりでも、きっとまたチャンスがあるから」 「………っ」 なぜだか、てけてけのことを思い出す。 結局、あの子がわたしたちを助けてくれたのかどうかは今もわからない。 でもわかることもある。あの子は"進めなくなってしまった"妖怪だった。 足がなくたって、生きていれば、きっと日常に帰ることはできる。 もちろんとても大変だろうけど、車椅子だとか、義足だとか――生きていくための手段はあったはず。 けれど、あの子は助からなかった。生きていくことができなくなってしまった。 だから、停まってしまったんだ。前に進んで何をしたいかを忘れて、前に進むことだけが目的になっていた。 きっと報われないまま死んでしまうというのは、そういうこと。 取り返しのつくことが、二度と取り返せなくなる。 生きていればいい。どんなに悔しくても、苦しくても、絶望的でも。 生きてさえいれば――いつかがある。今じゃなくたって、いつか叶えればいいんだから。 「かってなこといってるのは、わかってるよ。 なにもしらないくせにっておこられたら……えへへ、いいかえせないや」 そう、これは勝手な話だ。 頑張ってきた人に、今じゃなくてもいつか叶えればいいじゃん、だなんて――バカにしてると自分でも思う。 勝手でいい。自己中な悪い子でいい。それでも、わたしは。 「ひーちゃんにしんでほしくない」 「……りっか」 「めのまえでともだちがしんじゃうなんて、ぜったいぜったいいやだから。 でも、それでも、それでもひーちゃんががんばるっていうんなら……」 ばっと、わたしは立ち上がって。 走って、ひーちゃんと魔王の間に立った。 「このまましんでやるんだから」 いたずらっぽくわたしは笑う。 そう、ひーちゃんはそうされたら困るはずだ。 だって。 「ひーちゃんには、わたしがひつようなんでしょ?」 ……ちょっと意地悪だったかなと思うけど。 ひーちゃんはこう見えてすごく意地っ張りだ。 このくらいしないと、きっと聞いてくれないだろうから。 ほんとはものすごく怖くて、震えそうな体を必死に堪えているけど、もちろん表面に出したりはしない。 少しくらい格好つけたいんだよ、女の子だって。 「……わ」 「わ?」 「……わかったよ。りっかにそういわれちゃ、かなわないや」 ひーちゃんはわたしを必要としている。 何のためにかはわからないけど、気にしないことにした。 全部終わる時にはきっと教えてくれるだろうし、この子を信じよう。 ひーちゃんはわたしの手を取ると、疲れてへとへとなはずの足に力を入れて、一気に駆け出す。 ひょいとすぐにおんぶの形にできるひーちゃんの運動神経にびっくりしていたら、舌を噛みそうになった。 さあ、ここからだ。 ここは退くけど、わたしだって絶対諦めない。 家に帰るために。いや、今はそれよりも。 ひーちゃんを、あのトンネルの向こうに行かせてあげるために。 諦めてたまるもんか。今は無理でも、絶対あの魔王をやっつけてやる。 そう思いながら、わたしは前を向いて。 次の瞬間、わたしたちは見えない壁に弾き飛ばされた。 ■ ―――近い。 ■ 「え……?」 いま、なにが。 わたしたちは、地面に這い蹲りながら前を見上げる。 何もない。けれど恐る恐る手を伸ばすと、そこには確かに見えない壁があった。 色のない壁。色のない、力。わたしは、押し殺したはずの絶望がまた湧き上がってくるのを感じた。 崇徳院の神通力だ。 あの恐ろしい力を使って、魔王はわたしたちの逃げ場を前もって塞いでいたんだ。 ……逃げ場なんて、最初からどこにもなかった。 わたしたちは籠の中にいたのだと、この時やっと理解する。 黒い鴉の鳥籠に放たれた、餌の虫。あるいはネズミ。 希望があるなんて誰も言っていないのに、あると勘違いしていただけ。 「こんな……こんなのって、ないよ……」 「りっか」 威勢のいい言葉も言えなくなったわたしに、ひーちゃんは優しい声で言う。 やめて。言わないで。聞きたくない。 ああでも、それ以外にこの状況をどうにかする方法なんてないのは明らかで。 「だいじょうぶ。ぼくはしなないよ」 だって、まだ死ねないんだから。 ひーちゃんは笑ってそう言った。 形の崩れた槍を右手に、遠くの魔王を睨む。 走りすらせずに、一歩ずつ、ゆっくりと歩いてくる冷たい男を。 「まって、ひ――」 「……やああああああああっ!!」 今度は最後まで聞いてくれなかった。 向かっていくひーちゃんを止める手段はわたしにはない。 槍の切っ先に魔王の手が軽く触れる。 それだけでひーちゃんが、ボールみたいに吹き飛んで見えない壁に激突した。 こんなの、大人と子供の喧嘩だ。 見てられない。でも、見ないなんてことはわたしにはできなくて。 「ご――!」 今度は立つことも許してもらえない。 立ち上がろうとした体を神通力が叩き伏せる。 一撃で潰されていないのは、ひーちゃんが絡新婦よりも格の高い存在だからなのか。 でもそんなの、遅いか早いかの違いでしかない。 そんなこと思いたくもないのに、わたしの頭は勝手に理解してしまう。 「が、は……っ」 動けないひーちゃんに、魔王が近付いてくる。 かつんかつんと地面を踏み締める下駄の音。 この状況になっても、魔王の顔は表情一つないままで。 そのことにわたしは、恐怖を通り越して怒りを覚えてしまう。 「……なんで!」 気付けばまた吠えていた。 「なんで、あなたはそんななの!」 ほとんど癇癪だ。 「なんで――わたしたち、こんなにがんばってるのに!!」 もう止まらなかった。 わたしの口は、ありったけの罵詈雑言を魔王に叩き付ける。 許せなかった。単純に、腹立たしくて仕方なかった。 何もしてないわけじゃない。わたしたちは頑張ってきた。 それなのに、こいつは突然横からやって来て、全部壊していった。 理不尽すぎる。そのくせ一番強いなんて、納得できるわけがない。 「なんで……なんでとおしてくれないの!」 その間も魔王は止まらなかった。 それがまた、むかついて。 「あなた――」 なんでこんなに無感情でいられるのか。 少しは痛がるくらいすればいいのに。 何なら、笑ってくれたっていい。 それならまだ、負けたって思える。 でも、こんな仏頂面のまま何もかも台無しにしていくなんて! それじゃあまるで――! 「あなた――からっぽ(・・・・)なんじゃないの!?」 わたしの声が夜闇に響く中。 一瞬だけ――ほんの一瞬だけ。 魔王崇徳院の足が、止まった気がした。 その意味はわたしには分からなかったけれど。 結論から言うと、分からなくてもよかった。 大事なのは、その意味じゃない。 一瞬、魔王の動きを止められたという事実。 それがほんの一秒であっても、もっと短くても。 彼にとっては、十分だったから。 「――――――▆▆▅▆▅▆▆▅▆▅▅▇▃▇▇▅ァァァァァァァァァ!!!!」 それは、人間の皮膚に覆われた肉の塊だった。 わたしたちには見覚えのある、特にわたしにとっては忘れられるわけもない《神様》だった。 ただ、前と違うことが一つある。 その肌に、おぞましい出来物は一つもない。 膿を吹いてもいなければ、汁を溢してもいない。 ただの、皮膚。体の半分くらいが黄金の粉になって空に散り始めている、異形の神様。 疱瘡神。 ダ・ヴィンチちゃんもとい絡新婦がそう呼び、ひーちゃんが倒したはずの神様が――神通力の壁をぶち破って、魔王に喰らいついた。 ■ 一つ、語っておかねばならないことがある。 疱瘡神という神と、その末路について。 彼、あるいは彼女は、蛭子命に体のほとんどを消し飛ばされた挙げ句、水面色の剣妖によって一閃された。 それで確かに、疱瘡神は滅びた。 疱瘡神を構成する二つの信仰体系の内、災いを振り撒く祟り神としての要素の方が先に死んだ。 もちろん、それこそ遅いか早いかの違いだ。 疱瘡神の消滅は確定的だった。霊核はひび割れて体のほとんどが欠損、その上で真っ二つにされて生きられる存在などいない。 しかし疱瘡神はあくまでも神霊だった。神の霊基は、その状況においてもまだほんの少しだけ生存を可能にしてくれたのだ。 そして更にそれを後押ししたのが、祟り神の側面が死んだことで蘇った、善神としての側面である。 彼は混乱した。 無念の儘に血反吐を吐いた。 私はただ救いたかった(・・・・・・)だけであったのに、何故ああも狂い果てていたのかと。 同時に悔やんだ。彼に目があったなら血涙を流していただろうし、腕があったなら自分を殴り付けてもいただろう。 救うべくして人に触れたはずの己が、殺すべくして病みを振り撒いていたなど……憤死しそうなほどの屈辱であった。 彷徨う、彷徨う。 変わり果てた骸の霊基を引き摺って。 辿り着ける筈もないどこかへと、彷徨い歩く。 その時、声が聞こえた。求める声が。 それだけを寄る辺に、常世より締め出された神は往く。 気を抜けばまた高まりかける悪しき我を抑えながら。無限の無念を抱えながら、痩せさらばえた野良犬のように。 そうして神は辿り着いた。 聞こえた声がかつて自分の祟った少女のものだとすら思い出せない有様で、ただ、救いたいという渇望を胸に。 魔王が君臨し、子女を嬲り殺す円形の処刑場に――それを円形たらしめる壁を力ずくで破りながら、乱入。 その無茶を通した代償にただでさえ残骸だった神体が三割ほど消えたが、些細なことだと無視した。 とはいえ、そんな残骸で食い破れるほど日本大魔縁は甘くない。 仮に結界内への突撃が成功しても、魔王に届く前に神通力で消し飛ばされるだろう。 その筈だったが、しかし、そうはならなかった。 彼が壁を破る瞬間、何故か、不思議なことに魔王は動きを止めていて―― 堕ち、削れ、割れ、消し飛んだ神の残骸は、無敵の魔王の右腕に文字通り喰らいついた。 ■ 魔王の表情はそれでも変わらない。 だが、その体には確かに変化が起きていた。 食らいつかれた部分から、這い上がってくる痘痕――天然痘。 それはどうやら、魔王をしても侮れないとの評価を下すほどのものだったらしい。 神通力でもって魔王は自らの腕を文字通り引き千切り、強引に病の進行を打ち止めにする。 しかしさしもの魔王も、欠損した部位を即座に再生させるような芸当は不可能のようだ。 魔王が右手を振るう。 それだけで疱瘡神が飛び散った。 残骸の身体が飛散して、そのほとんどが空中で粒子に変わって消える。 が。全てではない。残った欠片の一つが、かつて祟られた少女の手首へと付着した。 「ほう、そうしん――?」 何が何だか分からない、という顔の少女。 当然だ。疱瘡神は既にその記憶すら失ってしまったが、彼女は悪神としての疱瘡神に祟られ、地獄を味わった身だ。 彼女の脳裏にこびりついているおぞましい疱瘡神と、今自分達を助けてくれた疱瘡神のイメージがまるで結びつかない。 そしてそれに対し、疱瘡神自身が満足の行く回答を寄越すこともない。 そうするにはあまりに時間が足りなかった。神の霊基をもってしても、今回の損傷ばかりは耐えられない。 あと数秒もすれば疱瘡神は完全に如月の町から消えるだろう。そしてまた、善悪入り混じった混沌の漂流神として狂い果てるだろう。 それでも――それでも、疱瘡神には泣き叫ぶ少女の声を聞き逃がせなかった。 かつて人里に降り、疱瘡に苦しむ人々を救って回った漂流神にそんな選択は出来なかった。 たとえ自分の未来が暗くとも。理不尽な呪いによって、自分の神体が歪んでいようとも。 人は勝手な生き物だ。 疱瘡の神というだけで、彼らは善神を狂わせた。 疱瘡を媒介する元凶として遠ざけ、祀り、鎮まってくれと供物を捧げた。 その結果があれだ。 立香たちを襲った、あの醜い神だ。 されど、疱瘡神は人を恨んでなどいない。 自分はやりたいことをやった。 自分に命を救われた者の家が、今日まで続いている。全部ではなかろうと、そういう家が必ずある。 それだけで、ああ。十分だった。これ以上、何を望むというのだろうと。 そう思えたから――これは復讐鬼にはならなかった。崇徳院にはならなかった。 「っ……?」 疱瘡神の欠片が消え失せる。 立香の身体に染み込むように、消えていった。 今度こそおぞましいバーサーカー……いや。 優しい漂流神は、長い酩酊を抜ける。 そうしてまた、ふたりぼっちだ。 でも――今度は少し違う。 「…………」 片腕を失くした魔王はそれでも平常通りだった。 流れる血すら、その活動に何の影響も及ぼしていないのか。 自分の眠りを妨げたもう一柱の漂流神を潰すべく、残った腕を前へと伸ばす。 そこに集約される魔力もとい神通力は、これまでの比ではない。 出力としては対城宝具級。困憊の蛭子命を消し飛ばす程度、造作もないだろう。 死ね、とは言わない。 ただ冷酷に、最後の引き金が弾かれた。 殺到するエネルギー。蛭子は最早、特攻の心地で槍を握り、前へ。 その不格好な槍で、天狗の祟りが砕けるものか。 無理だ、無理だ、不可能だ。触れた瞬間に自壊して、次の一秒で担い手が木っ端微塵になる。 これにて詰み。もはや、覆せるカードはない。 誰もがそう思った。魔王さえもが、そう思った。 最も無力な少女を除いて、誰もが。 「れいじゅをもって、めいずる」 ■ 「かって――――ひーちゃんっ!!」 これだけじゃ足りない。 わたしは片手に浮かんだ余りの《令呪》も、躊躇なく使う。 「もっかい、れいじゅ!!」 やり方は、絡新婦が教えてくれたのをそのまま使ってる。 うまくいくかどうかは不安だったけど、知識だけはちゃんと正しいものを教えてくれたらしい。 あの蜘蛛はひーちゃんを、ひーちゃんの友達を馬鹿にした。だから、嫌いだ。 でも、絡新婦も魔王に殺されてしまった妖怪だから。 仕方ないから、あいつの分も込めて祈る。 「ひーちゃん、かって!! ぜったい、かって――――――っ!!!!」 わたしの手の上で、疱瘡神は消えた。 わたしの知る疱瘡神とは、姿もあり方も全部違っていたけど。 何があったのかは、分からないけど……確かなことは一つ。 あの神様は最後に、わたしを、わたしたちを、助けてくれた。 疱瘡神の残してくれたものは今。わたしの、みんなの思いを込めて、ひーちゃんへと送ってしまったけれど。 もう解説してくれる絡新婦はいない。 だからこれは、わたしの勝手な想像だ。 疱瘡神は最後、わたしに自分の力を残してくれた。 あの時絡新婦が、ひーちゃんを助けるための力をくれたみたいに。 自分が消えてなくなる最後の最後、わたしに残りの力を渡してくれたんだと思う。 それでも、絡新婦の時の倍以上にもなる、すごい量の力を。 ひーちゃんが驚いた顔をしている。 でもそれは、すぐに笑顔に変わった。 「――――わかった!!」 ひーちゃんが叫ぶのと同時に。 あんなに痩せて不格好だった水の槍が、今までで一番大きく立派に変わっていく。 ひーちゃんの身の丈以上もあるそれは、槍ではなかった。 あれは、そう。多分だけど――《矛》。 今までは力が足りなかったんだろう。 そして今。疱瘡神のぶんを全部注いであげて、ひーちゃんも残りの力をありったけ注ぎ込んで……ようやく、本当の姿を取り戻した。 「国産神産(あめの)――」 水が、まるで海みたいに溢れ出してくる。 砂で満ちた周囲を、白砂の海に変えていく。 砂は浮島のように水面から顔を出していて、わたしは慌ててそこに逃げた。 そういえば。おばあちゃんが、言ってたっけ。 わたしたちの国を作った神様は、ぐちゃぐちゃの大地を大きな矛でかき混ぜて、この日本を作り出したんだって。 「――天之瓊矛(ぬぼこ)!!」 一閃――。 矛を一度振るっただけで、神通力が切断されたのが分かる。 見えないのに、わかるんだ。それだけ今のひーちゃんは強かった。多分、過去最高に。 「おおおおおおおおおおっ!!」 振るう矛。 破れる壁。 見えない力を目に見える力が砕いていく。 魔王が使う力、その全てを。 ひーちゃんが砕く。砕きながら、進んでいく。 「…………」 魔王の前に、遠くにいても肌がビリビリ震えるほどの力が集まる。 それはもはや、透明でさえなかった。 彼の強い憎しみを表すような、空と同じ赤錆色の神通力。 まだ何にも触れていないのに、これがとんでもない威力を秘めているとわかってしまうのが恐ろしい。 多分今のひーちゃんでも、食らってしまったら一撃だ。 でも、でも! わたしは心配しない。だって、今のひーちゃんは! 「どけえっ!!」 最強、なんだから!! ひーちゃんが矛で魔王の攻撃を突き返せば、水色の光が夜の闇を一瞬、全て吹き飛ばした。 それでもって相殺。魔王を倒す決め手にはならなかったけれど、魔王への道は開けた。 後は走るだけだ。ただ、ひたすら前へ。 と、その時だった。 魔王の真上。赤錆の空に揺蕩う黒雲が、一点に凝縮されていく。 今のは切り札なんかじゃなかったんだ。 魔王は今、誘っていた。ひーちゃんが全力を使い切るように、最強の攻撃を使った……ように見せかけた。 本命はこれ。あの黒雲から落ちる、凝縮された祟り。 今度のは、今までと比べ物にもならない。 意思を持った蛇のように、ひーちゃんを食い殺そうとする祟りの雷。 町一つくらいなら一分で焼け野原に出来てしまえるだろう、ものすごい熱量を持ったそれ。 「しってるよ」 それを前にして、ひーちゃんはにやっと笑った。 かかったね、とでも言うような笑顔だった。 そうだ、わたしも気付いてた。 でも魔王は気付けなかった。 なぜか。……知らないから(・・・・・・)だ。ひーちゃんのもう一つの武器を。 「淤能碁呂葦船(おのごろのあしふね)」 あらゆるものの上を海にして進む葦の船。 それは、雷の上にも難なく乗り上げた。 そのまま、猛烈なスピードで魔王まで一直線。 「いっっっっっ、けええええええええええええええええ!!」 声が枯れたっていい。 ありったけ、叫ぶ。 魔王は残った片腕を構えて、ひーちゃんを迎え撃とうとしている。 後は二人の正面対決。 強いほうが、勝つ。 ……と、思ったけれど。ひーちゃんは、もっと確実に勝つことを選んだ。 ひょい、と。 ひーちゃんは、船から飛び降りたのだ。 雷の道を抜け、後は魔王と激突するだけというところで。 ひーちゃんは、船を捨てた。 ■ 「お父様。ずっと、覚えています。 あなたがぼくを、どんな顔で送り出してくれたのか」 忘れられるわけがない。 あれは、ぼくにとって最初で最後の記憶。 「お母様。ずっと、覚えています。 あなたがぼくを、最後に優しく抱いてくれたこと」 忘れられるわけがない。 あれは、ぼくにとって最初で最後の愛情。 伊耶那岐と伊耶那美。 ぼくを産んでくれた二人。 あなたたちが仲良しに戻ることは、きっとないのだろうけど。 あなたたちがくれた船は、ぼくをいつも支えてくれた。 ……だけど、そろそろ船旅は終わりにしよう。 もう、流れ着く時間だ。 「さよなら」 そう言って、ぼくは船を降りた。 最後に、使う。 サーヴァントなら誰もが持っている、最大の切り札にして、最悪の邪道。 「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」 旅の終わりの色は、綺麗な緑色だった。 海の上にはない色だ。それは、ぼくを祝福してくれているみたいだった。 最後の一瞬。 ぼくと、魔王の目が合う。 魔王は相変わらず冷たい顔のままで。 けれど、口を動かして言葉を紡いだ。 「……きみは」 穏やかな声だった。あまりにも意外で、驚きに声が漏れそうになる。 「きみは、自分の親を憎いとは思わないのか」 「……思ったことはあるよ。でも、憎みきれなかった」 本当に長い旅だった。 オロバスと出会うまで、ぼくの旅は永遠だった。 何もない海の上。見飽きた青空の下を、ずっと旅する。 その長い長い時間の中で、お母様とお父様を憎んだことが一度もないと言ったら嘘になる。 けれど、嫌いにはなりきれなかった。 恨み言は思いついても、ぼくはあの人達のことが大好きだった。 ぼくの答えを聞くと、魔王崇徳院、いや。 崇徳上皇は、何かに納得したようにふっと笑って。 「良かった。僕と同じだ」 緑色の光に呑まれて、消えていった。 ■ 崇徳上皇は悲運の末路を迎えた人だ。 彼は天狗となって祟りを起こし、大勢を殺した。 彼の祟りを恐れて人は取って付けたような供養をしたが、何も全員がそうだったわけではない。 彼の崩御を知った民は寺を建て、彼を心から労って供養した。 土佐国に流されたある上皇は彼の魂を慰める為に、心を込めて琵琶を弾いた。 上皇改め崇徳院は、日本国を未来永劫苦しめる魔王ではないのだ。 彼は時を経て、四国の守り神となった。 後の天皇の手で御霊は京都へ帰り、自分の為に作られた神宮で人を見守る立場に就いた。 この町に君臨した崇徳院は、神となるに当たって抜け落ちてしまった魔王の側面でしかなかった。 しかし、彼は悪意を持っては行動しない。ただ無感情に、災害めいた暴威を振り撒くだけ。 それは、何故か。……その答えは、藤丸立香が口にした通り。 空っぽなのだ、魔王としての崇徳院は。 天狗としての神通力、魔縁としての祟りが形になった存在。 そこに彼の人格らしいものがあるだけで、救われた崇徳院とは似て非なる存在なのである。 これまで彼はそれに気付けなかった。 空っぽだから、考えることも出来ず。 ただ如月の町からの出口を、永遠に塞ぎ続けていた。 そこに答えをくれたのは、外から迷い込んだ人間の少女。 彼女の声は、崇徳院に自分の真実を理解させた。 自分に成された所業は許せない。 今も思い出すと腸が煮えくり返る。 けれど。けれど。 ヒトという生き物は――どうにも、憎みきれない。 ベスト・アンサーを以って魔王天狗は永遠より退場する。 如月最後の関門は取り払われた。少女たちの、勝利だ。 魔王殺しここに完遂。 堅州国への門は、もうすぐそこに。 BACK TOP NEXT 第十二節:くも 無間暗黒迷界 如月 第十四節:いいよ
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/24.html
混種/ハーフ 他種同士が混じり合い、その間に生まれる子供。 親の片方、もしくは両方の遺伝子とその血に刻まれた性質を受け継ぐことが出来る。 中には狙って混種を生み出そうとした魔学者もいるほどにその力は未知数でもある。 精霊族や魔族が奴隷とされていた時代の中でその姿は確認されてきたものの、法国の手によって殺処分を受け続けていた。 しかし、現代においてはその数を増やしており、帝国では他種族結婚が流行っているほど。 古くは竜血人種、現代においては様々な混種が混在している。
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/22.html
亜種 亜種とは生活や生存する中で地域や土地、環境に適した変化が行われたとされるもの。 ダークエルフなどは亜種に分類される。表記としては風妖亜種(ダークエルフ)となる。 文化の違いもあるが固有の魔法を同様に有しており若干使い方が異なる場合がある。 風妖亜種/ダークエルフ エルフの亜種、褐色の肌と銀髪の髪が特徴的な美しき種族。 険しく緑の少ない大地や山で済むことを選んだエルフがそれに適応するように進化した生態進化とも呼べるのが亜種である。 血銘魔法もエルフと同様であり、ただし狩りをよしとするためエルフよりも戦闘能力や身体能力は高い。 茸樹亜種/マイコニド ドリアードの亜種、茸の傘のような髪型、髪自体が茸の傘、もしくはその茸が頭から生えている、茸の種類だけ個性がある。 ドリアードの亜種とされるのも、低確率でドリアードから生まれてしまうからである、これには薬草でもあるグモリアの胞子が関係しているとも考えれる。 植物の声を聴き、そして操ることもできたがマイコニドはそれの茸版。 近くの茸と対話したり、その場にある茸の胞子を操作したりとできる。 頭の茸も利用できる。
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/47.html
ウェルの森林 東部連合共和国の入り口ともいわれる森林。 「詩」の賢者が精霊族を守るためにこの森林には古い機甲族が数体配下している。 魂なき機甲族たちは精霊族以外の侵入を許さず、通行証を持たない人族に敵対する。 それ以外は至って平和な森で魔獣が出現しても機甲族たちが駆除も担っている影響だろう。 生態系 野生動物が多く生息しており自然豊かな場所である。 中には魔素で狂暴化したビーストやリビングデットのハウンドなどが出現する。魔素で狂暴化した上に長い時間が経過したおかげで霊獣に至ったヒグマが生態系の頂点に君臨している。 地形の特性 整備された道以外は木々が生い茂る自然豊かな森林。 多くの薬草や野生動物が生息しており冒険者の訓練にも使われている。 ダンジョンの形状 森林の北側、外れにある遺跡の奥に迷宮はある。 形状は遺跡で在り壁や床は建造物としての面影が残っている。 リビングデットが出現するがほとんどはハウンド、動物のゾンビやスケルトンが出現する。 ゴールド級の迷宮探索者が練習で潜るお手頃な迷宮として知られる。 迷宮での生活、生存方法を試すいい場所である。 迷宮の奥に鎮座している鋼のゴーレムは一定のダメージを与えると一時的に機能が停止する。 いわいる迷宮の主との戦闘練習が可能。
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/39.html
鉱石 この世界のおける鉱石です。 元の世界にある鉱石も存在しています。 鉱石一覧 ミスリル 銀のような輝きと鋼のような強度を誇る金属。 武器や日用品等に使用されることが多い。 オリハルコン 希少性が高く金よりも美しい色合いを持つとする金属。 装飾などに使われることが多い。 ヒヒイロカネ 神聖国でのみ取れる鉱石。 赤い金属で触れると冷たく、太陽の光を浴び続けるとより美しい赤になると言われている。 特殊な刃の原材料となる。 アダマンタイト 特級鉱石と呼ばれており、他の金属を吸い寄せる他ダイヤモンドの硬度よりも高い硬度を持っており凄腕のドワーフさえも根を上げるほどの加工難易度を誇る。 この鉱石で作られた武器や防具は今現在まで確認されていない。 ダマスカス 特級鉱石とよばれる鉱石で、これもまた加工難易度が高く。これで作られた剣は刃こぼれせず、曲がらず、錆らず非常に高い硬度を維持できるとされている。 葉鋼 高度な魔素を大量に摂取した木々から取れる鋼のように硬い葉っぱ。武器や装飾品、日用品等に加工され使われることが多く、火に強い。 樹鉄 高度な魔素を大量に摂取した木々の根っこ。 それを火で熱し溶かしてほかの金属と合わせることで加工しやすい合成金属として扱える。
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/51.html
グックロル海岸 王国付近にあるウィル海域方面の海岸、魔素で肥大化した甲殻類や魚類が確認される。 岩場が多く少しの砂浜を除くとほとんど岩場で足場が不安定。 岩場の隙間から襲われないように注意が必要。 生態系 地形の特性 ダンジョンの形状
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/38.html
魔臓 魔素を取り込み力に作りかえる臓器。 この発達具合で魔術や魔法の技量が大きく変わってくる。 人種は未発達で魔術とまりの技量、魔人種は発達した魔臓で魔法を自由に扱える.
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/32.html
奇跡について 奇跡一覧蘇生 豊潤 奇跡について 神の言葉とされる言語を利用し、人智を遥かに超える現象を引き起こす事、それを奇跡と呼ぶ。 魔術や魔法では行えない自然では起きえない事を実現させる御業である。祈祷などの信じる心で扱うような者とは火にならない現象である。 現在分かっていることだけで【人類を滅ぼすことも、救うことも出来る】とだけ伝えられておりその内容や実際に何がどこまで出来るのかまでは分からない。 過去、神々が扱っていた魔術の上位互換であるとは考えられてはいるものの、それを証明する文献や遺跡などはまだ見つかっていない。 奇跡一覧 蘇生 説明 死者の魂を呼び戻し、洗礼した遺体に魂を戻し甦すことが出来る唯一の術。 使用者 聖堂皇国皇王 豊潤 説明 枯れた大地を再び緑の大地へと咲き返す。どんなに死した大地でも植物が豊かに育ち地下水さえも蘇る。 使用者 バルビオラ黄金王