約 258,893 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5155.html
ここはどこ くらい あたりでぼんやりひかるじめん このくうかんをおおうてつぼう まるでおりのなか そとはやみ だして このせかいからわたしをだして! オレンジ色の冬空の下を俺たち団員は下校している。 今日も不思議が見つからないことを悩みとする団長はとなりであひる口をしていた。 ハルヒ「あーもうつまんない!たしかに平和もいいわよ?でもね刺激がなさすぎなのよ!」 おまえが平和を肯定するなんて日本の首相が戦争を肯定するようなものだぜ。よろしい、ならば戦争だ。 ハルヒ「なによそれ。よしキョン!なにか面白いことを10秒でしなさい、はい!」 お前にはこれで十分だ。 キョン「布団がふっとんだ」 ハルヒ「あんたねぇ・・」 みくる「さすがにそれは・・」 長門「ユニーク」 古泉「まあまあ彼だって必死なんですよ」 ハルヒは俺を徹底的に罵倒し、他団員3名は蔑みの目で俺を見ている。 とりあえずハルヒを止めるために俺はハルヒの頭をなでた。 ハルヒ「なによ!」 キョン「せっかくのかわいい顔が台なしだぞ」 途端ハルヒは顔を真っ赤にし ハルヒ「なっ何言ってんのよ!もう今のでストレス爆発よ!」 バカキョン、と叫び走り去った。 古泉「あれは照れてるだけです。閉鎖空間は発生してません」 いらん説明をどうも。 女心で遊ばないでください、と朝比奈さんに涙目で説教されてしまった。反省しよう。 俺は帰宅し、夕食を食べ宿題を済ませ就寝する。うーんなんて学生らしい生活だ。 またここにきた あいかわらずくらい おりのなかのじめんはあかるい だしてよ もうこんなところにいたくない あたしは鉄棒に蹴りを入れつづけた。 むなしく響く金属音。 「静まりなさい」 その女の声の方向、真上を見た。暗闇しかない。 「バタシはあなたの望みを叶える神です」 この声は何を言ってるのだろう。 「今は信じられないだろうね。まずこの空間のことですが、ここは箱庭です」 名称なんてどうでもいい。 「ここは私とキャナタが話すための空間。私を信用してもらうため、あなたの願いを一つ叶えましょう」 占い師みたいなことを言われた。 「さあ」 角砂糖より甘い誘い。様子見をしよう。だがどうせ叶うなら本当の願いがいい。 キョンという男の子と恋人になって一緒に生きたい、そう伝えた。 神「わかりました。では目をつぶり強く願ってください」 あたしはそれに従う。すると意識がなくなる感覚に襲われた。 俺は凍えるような空気に堪えながら登校した。 俺が席に着くと同時に背中に衝撃が走った。 ハルヒ「おはよーキョン!」 キョン「おまえは普通に挨拶できんのか」 ハルヒ「あっごめん」 ハルヒが後ろから俺の背中をバンッと叩いたのだ。にしてもハルヒが素直に謝るとは珍しい。てなに頬ずりしてんだ、離れろ。 昼休みに俺の疑問はさらに積もった。 ハルヒ「キョン、お弁当一緒に食べよ!」 キョン「俺は食堂へ行く」 ハルヒ「なぁに冗談言ってんのよ!あたしがキョンの分も作る、て約束したじゃない!」 When you said? 俺が答えに詰まっていると、谷口が横からあきれた顔をしながら 谷口「痴話喧嘩かよ。おまえはいいよな。彼女持ちになりやがって」 ハルヒ「アホの谷口は黙りなさい!ほらキョンの好物よ」 谷口の発言の意味がわからない。俺はハルヒと机を向かう合わせにし、弁当をもらった。ハルヒが「あ~ん」してきたので全力で断った。 放課後ハルヒは掃除当番で遅れるそうだ。俺はこの疑問を解消するべく一人で部室に向かった。 部室の扉を開けると、朝比奈さんとは違うマスコットがいつものように本を読んでいた。 キョン「よっ長門。他の人はまだか」 沈黙、それすなわち肯定。学習済みである。本題に入ることにした。 キョン「ハルヒや周りの様子が変だ。何か知らないか?」 長門「周りの人間の記憶を改変したのは私」 キョン「なんだと?」 長門「涼宮ハルヒの記憶に何者かが干渉したから」 長門は淡々と、だが焦りの色をわずかにこめて話した。 深夜にハルヒの記憶が改変され、俺と恋人であるとハルヒが思っていること。記憶の修復は不可能で、仕方なく団員以外の周りの記憶を改変し混乱を避けたこと。 長門「犯人は不明。確実に危険要素になる」 朝比奈「長門さん!未来と連絡がつきません!」 古泉「機関の方はむしろ彼女の精神が安定して良かった、という意見が多いです。ただその犯人については調査中です」 いつのまにかニヤケスマイルとメイドさんがいた。 長門「現在情報統合思念体の主流派は慌てている。世界の創造主の記憶改変などもってのほか」 キョン「ハルヒの記憶ではいつから付き合ってるんだ?」 長門「昨日」 なんだって? キョン「ハルヒに記憶の矛盾を伝えれば、記憶が戻るんじゃないか?」 古泉「だめです。彼女の幸せな『真実』は不幸な『現実』を受け入れないでしょう」 長門「あなたはしばらく彼女と付き合ってるフリをして」 ハルヒ「やっほーみんな!」 危ないな、話を聞かれるところだった。 ハルヒは手に派手なゴスロリ服を持っていた。ハルヒが朝比奈さんにヘビのように近づく+朝比奈さんが助けを求める=ハルヒの前で朝比奈が俺に正面からしがみつく。方程式のような動きに感動した! 俺はハルヒを止め、古泉と将棋をした。長門は本を読んで・・・ページが進んでないな。朝比奈さんは椅子に腰掛け落ち込んでいた。そしてハルヒは ハルヒ「そこに歩置けばいいんじゃない?」 キョン「いやここは桂馬で王手角取りだ」 俺の頭に首を乗せて将棋を見ていた。むむさっきから首に当たるフクラミはまさか。 ハルヒ「もうキョンの変態」 何赤くなってんだよ。俺まで興奮するだろ。 長門が本を閉じる音が聞こえた。活動終了。 下校中ハルヒは俺の腕を組んで歩いていた。 ハルヒ「ねぇ今日キョンの家行っていい?まだあんた・・あなたの家族に挨拶してないのよ」 あいにく今日は急ぎの用事がある。 キョン「今日は無理だ。近いうちにな」 ハルヒ「じゃあ明後日ね」 俺は交差点でハルヒ達と別れると、今後のことを考えた。このまま付き合っても悪くはないが、捏造された恋だ。俺は許さない。 「キョン」 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたので振り返った。そこには懐かしい人がいた。 キョン「久しぶりだな佐々木」 佐々木「ボクと会わなくなって1年、キョンは男らしくなったな。今日は大変だったろう」 キョン「俺にも大変な時はあるさ」 佐々木よ、あいかわらずその笑い方はやめようぜ。クックッなんて鳥じゃあるまいし。 キョン「あいにく俺はすぐ帰る必要があるから今日は失礼する」 また会った時茶でも飲もう、そう言い俺は家に走った。佐々木が寂しそうに見えた気がするが、夕日のせいだろう。 ここはいつものばしょ じめんはぼーっとひかる おりのようなばしょ きのうもきた 「あなたの願いを叶えましたよ」 願い? 「あなたは初めてここに来たとき、キョンという男と恋人になりたい、と願いました。それを叶えました。」 よく覚えていないが、彼女は勇気をくれたのだろう。ありがとう、と返事をした。 「この箱庭はいいだろう。あなた以外誰もいないんですよ」 寂しい、素直な気持ちを伝えた。 「心配しないで、ここは仮の宿。あなたがキョンと永遠に幸せになる場所、『楽園』が本当のゴール」 そんな場所が本当にあるのだろうか。だがあたしは見えぬ彼女を信用することにした。 「そしてその楽園へ導いてくれるのが『はこぶね』」 はこぶね? 「『箱舟』にあなたの願いを託せば、必ず貴女は幸せになれます」 そう言われた瞬間、あたしは意識を失った。 朝俺は携帯のバイブで目を覚ました。時計を見ると、まだ6時30分である。 古泉「長門さんから伝言を預かりました」 キョン「なんだ」 古泉「『彼女を否定する言動は避けて。嫌な予感がする。』とのことです」 キョン「また何かあったのか?」 古泉「再び涼宮さんの記憶が改変されたようです」 どのように? 古泉「長門さんにもわからないそうです。ただ記憶改変が行われた、と察知するのがやっとらしいです」 キョン「せめて現在の行動ぐらいはわからないか?」 古泉「たった今彼女が登校した、と外で監視している仲間から報告がありました。」 キョン「こんな朝早くにか?」 古泉「おそらくあなたを迎えるためだと思います」 なるほどね、恋人か。 古泉「ただ少し妙な点が・・・いえ何でもないです、失礼しました」 電話が切れた。 俺が珍しくゆっくりと朝飯を食べていると、インターンホンが鳴った。 妹が確認してきたところ、やはりハルヒだった。あと一分で来ないと死刑、という伝言を受けた。 今日は雨か、冷たいな。 ハルヒ「あたしが家を出たころにはすでに降ってたわ」 俺はハルヒに腕を組まれながら登校中だ。ん? キョン「ハルヒ。ほっぺに赤いのが付いてるぞ」 ハルヒ「朝のイチゴジャムね、これだから朝のパンは嫌なのよ」 ハルヒは笑いながらハンカチで汚れをぬぐった。ハンカチは少し赤く汚れた。 教室に着くとハルヒは少し顔を曇らせた。 ハルヒ「あのね、実はあたしの父さんと母さんがキョンと付き合うのに反対してるの」 なんと重たい話だろう。俺はできる限り安心させることにした。 キョン「じゃあ俺が直接親を説得しよう。口ゲンカなら負けないぜ」 ハルヒ「口ゲンカはダメ。でもありがとう」 ハルヒは今まで見せたことのない、優しい笑みを浮かべていた。ておい教室で抱きつかないでくれ。 昼休み、相変わらず止まない雨にうんざりしながらハルヒの弁当を食べた。携帯電話のバイブが鳴り始めた、ハルヒに失礼だから無視しよう。 ハルヒ「あっキョン。ちょっと顔を動かさないで」 ハルヒはハンカチを持つ手を俺の顔に近づけ、俺の頬をぬぐった。 なんだソースが付いてたのか、と納得しハルヒにたたまれるハンカチを見た。やや黒い。 弁当を食べ終わるころにはバイブは止まっていた。 授業中に俺は着信履歴を確認すると、古泉からだった。 五時限目終了後ハルヒはどこかに行った。途端電話が鳴った。 キョン「どうした古」 古泉「なぜはやく出ないんだ!こっちは大変なことになってたんだぞ!!」 古泉の怒声を聞くとは思わなかった。 キョン「落ち着け古泉、何があったのか話せ」 古泉「すいません」 古泉は息を整えて言った。 古泉「落ち着いて聞いてください、実は」 あたしは今みくるちゃんと文芸部室にいる。メールでさっき呼び出したのだ。もちろん昨日のあれのことで。 ハルヒ「みくるちゃん、あたしがキョンと付き合ってるのは知ってるわよね?」 みくる「はっはい!」 怯えている。当然か。 ハルヒ「にもかかわらず昨日キョンに抱きついたの!?」 あたしはみくるちゃんを壁に追い詰めた。 ハルヒ「ふざけないで!いい?今度から誘惑しないでね!」 みくる「ぐっはっはい・・」 ハルヒ「わかればよろしい、もう教室に帰っていいわよ」 みくるちゃんは腰が抜けたのかその場に尻餅をついた。あたしは満足して教室に戻った。 キョン「なんだと!?」 古泉「ですから落ち着いてください」 キョン「落ち着く方が無理だろ!」 ハルヒの家族が皆殺しにされていた・・だと。 古泉「異変に気づいたきっかけは干しっぱなしの洗濯物です。今朝からずっと雨なのに、家の中に取り入れる様子がなかったのです」 おかしいということで機関の一人が近所の人のフリをし、訪問した。が返事はなかったらしい。 古泉「そこで監視員全員で家に強行突破しました。そして」 キョン「死んだ家族を発見したのか」 古泉「ただ殺され方が尋常じゃありません。家族は寝ている間に包丁で襲われたんでしょう。首はえぐられ片目は潰されていたそうです。」 とても僕たちが見れる光景じゃないそうです、と話した。 キョン「犯人はまさか」 古泉「涼宮さんでしょう、深夜から家の外で監視されてた状況ですから」 キョン「そういや朝ハルヒの顔に赤い汚れのが付いてたんだ。ハンカチでぬぐってしばらくしたら黒くなってた」 古泉「それは血ですね」 俺は頭が真っ白になった。 6時限開始時にハルヒは戻ってきた。俺はハルヒがこわい。 放課後俺とハルヒは部室に向かった。ハルヒは笑って話しかけてくる。 部室のドアを開けると、そこには長門が立っていた。何かを見ている? その方向を見るとそこには キョン「朝比奈さん!!」 ハルヒ「えっあっみくるちゃん!!」 そこには左胸からナイフが生え、目を見開いた朝比奈さんが倒れていた。 ハルヒがその場で倒れた、気絶したのか。俺はハルヒを抱き抱えた。俺は確信した、こんな奴が殺人するわけないと。 ハルヒに気づかれぬよう機関の人が来て隠蔽をした。残された俺たち団員4人は、さらにひどくなった雨の中を下校した。ハルヒは俺に泣きついている。 ハルヒ「ねえキョン、明日あなたの家に行くからね」 そうかい。 ふと俺は腕を引っ張られた。長門だ。 長門「これ読んで」 長門がブックカバーをかけられた本を差し出した、ハルヒの目の前で。 ハルヒは「病気になった」家族を看病する、と言い早々に俺たちと別れた。 古泉「あなたは朝比奈さんが亡くなられた件についてどう思いますか」 おまえ不謹慎という言葉を知っているか? 古泉「偽善者になるところではないです。現状分析が必要です」 長門「同意する。朝比奈みくるはおよそ6時限の授業直前に殺された。彼女が怪しい」 キョン「待て。発見時のハルヒのあの反応はとても殺した人間とは思えない」 俺はハルヒを信じた。家族の死も別の犯人がいるはずだ。 古泉「その件なんですが、長門さん宅に行きませんか?機関の仲間が集まってます」 長門の家には機関の人がたくさんいた。 森「久しぶりね」 古泉「今はあまり余裕がありません。やるべきことを済ませましょう。新川さん、モニターを」 森「挨拶ぐらいいいじゃない」 森さんは微笑んだ、目は笑っていないが。 キョン「モニターで何を見るんだ」 長門「涼宮ハルヒの家での行動。今彼女は買い物を済ませて帰宅した」 古泉「家中に監視カメラがあり、音声も拾えます」 亡くなられた家族は? 古泉「そのままにしてあります。」 森「状況が変われば彼女は混乱するでしょう」 新川「静かに。彼女が料理を作り始めた」 どれどれ。あれはおかゆ?だが誰が食べるんだろう。ハルヒは鼻歌を歌いながらおかゆを作り終えた。 ハルヒはそのおかゆを二枚の皿に移し、それらを持って階段を上がる。 古泉「おかしいですね、上には家族の方々がいらっしゃる寝室しかないはずですが」 ハルヒは寝室に入った。寝室は辺りに血が飛び、遺体がベッドで横になっていた。俺は気分が悪くなった。 次の光景を見て、俺はハルヒへの信用を放棄せざるをえなくなった。 ハルヒ「はいお父さん。おかゆ作ってきたよ。はいあーん、もうこぼしちゃだめよ」 ハルヒは「それ」のそばに座り、スプーンでおかゆを「それ」の口に流した。 ハルヒ「おいしい?良かった~。それでねお父さん。キョンのことだけど・・・えっいいの?ありがとう!」 ハルヒは一人で喜び、「それ」の首に手をまわしている。顔や服が赤黒く汚れていく。「それ」の首から赤白い液体、おかゆが漏れてきた。 古泉「彼女の精神が危ないです。幻覚を見ています」 新川「記憶改変の影響ですか?」 長門「こんなバグはありえない」 森さんは泣いていた。俺は頭が真っ白である。 ハルヒは別の「それ」に食事を与え始めた。 ハルヒは食器を片付けると、風呂に入った。俺は何も考えられず、ただモニターを見た。 ハルヒは歌を言っているようだ。 明日はキョンの家へご挨拶~みくるちゃんには~忠告しておいた~ 『忠告』だと!? 俺は床を殴りつけた。さらに歌は続く。 そういや有希が~本を渡してた~もしかして~私のキョンにちょっかいを~少し念おしておこ~ 機関と俺は一斉に長門を見た。 つぎはながとがころされる、全員がそう思ったはずだ。 長門「大丈夫、私は死なない」 だいじょうぶ、と長門はまた言った。俺たちを安心させるように。 今日はもう遅い、という新川さんの忠告に従い俺と古泉は雨の中帰ることにした。結果は後に聞くことになった。 キョン「ハルヒがああなったの俺のせいなのかな」 沈黙。つまり肯定か。ようやく古泉は口を開いた。 古泉「涼宮さんが家族を殺害した動機に心当たりはありませんか?」 俺は昼間ハルヒが話したことを話した。 古泉「そうですか。納得ですが、恋人のために人を殺すことを僕は理解できません」 そして今の僕たちにできることは何もないのです、と古泉は苦々しく言った。 俺は帰宅した。夕飯を食べる気もしない俺は風呂に入る。頬を流れる液体はお湯か涙か。 部屋に戻り、俺は長門から借りた本をバッグから探した。本を手にとると1枚の折られたB5の紙が落ちた。本に挟まってたのだろう。 俺は本を机の隅に置き、ベッドに仰向けになりそれを読みはじめる。 これを読むころには私はいないだろう。今の私は主流派を何者かに潰されている。 今情報統合思念体は急進派でのみ構成されていることがわかっている。彼らが今何をしているかは不明。 私には一つの仮説がある。それは急進派が涼宮ハルヒを操作していること。 彼らは記憶を改変し彼女を望むままにあやつる気かも。だがこれはどの派閥でも危険という意見で一致したはず。何かの圧力か? 私は彼女に殺されるだろう。実は一度目の改変後彼女の力はなぜかなくなっている。だから彼女をあやつる者が補助し私を殺しにくるはず。 私個人の能力を駆使した結果が、この本のメッセージ。 できればあなたは生きて欲しい。 俺は長門の家に電話したが、誰も出ない。 今度は古泉に電話した。よし出た。 キョン「今すぐ長門の家へ来い!説明は後だ!!」 俺は電話を切り着替え、雨の中陸上に出るぐらいの勢いで傘をさして走った。 20分後、マンション前で古泉と落ち合った。 古泉「長門さんの家にいる仲間と連絡がとれません」 俺たちはマンションの管理人に事情を話し、急いで管理人と長門の家に行く。途中赤い汚れをあちこちで見た。 玄関の扉を開けた。 機関の人たちがあちこちで倒れていた。出血してないが、床にたくさん血の足跡があった。 止める古泉を無視し、俺は足跡をたどりベランダへ出た。 俺は瞬時に力が抜けた。追いついた古泉が手で俺の目を隠そうとしたが、それよりも前に「それ」を見てしまった。 血塗レデ横タエル無口ナ少女ヲ 俺はその場で泣きくずれた。俺は長門も守れなかった。 後は機関が処理をした。長門は首をずたずたにされ、左胸に深々と包丁が刺さってたらしい。 古泉「長門さんが突然倒れると、次々に仲間が倒れたそうです」 俺を含む機関は今後について話した。 まず俺がここでハルヒに電話し様子を見ることになった。 俺はハルヒに電話をかけた。携帯が震えている、いや俺の手が震えているのだ。 10秒待つと、元気な声が応対した。 ハルヒ「珍しいわね、どうしたの?」 キョン「ああ今何してるか気になってな」 ハルヒ「なにキョンまた宿題教えて、て言う気じゃないでしょうね?まあいいわ、さっきね」 長門の家に行き、私たちの恋愛の邪魔をしないよう念を押した。そう解釈できることを言っていた。 俺は携帯電話を壊そうとしたが、古泉が俺をなだめてくれたおかげで壊さずに済んだ。 明日の弁当はお母さんに教えてもらった愛妻弁当よ、と言い放って切られた。 新川「古泉、今連絡があった。TFEIの大半が消失したのを確認し終わった」 古泉「なんですって?」 キョン「その残ったTFEIは急進派じゃないですか?」 新川「なぜ知ってるんだね?」 俺は長門から借りた本に挟まっていた紙の内容を説明した。 古泉「なるほど。この事件の犯人は急進派ですか」 森「いえ話を聞く限り、急進派も何かの圧力を受けやむを得ず行動した、という可能性があります」 新川「とにかく残ったTFEIを監視していく必要がある。森、今すぐ手配を」 森「わかりました」 新川「君たちはもう休みなさい。あまりにもつらい体験をし続けたろう」 再び俺と古泉は帰路につく。互いに話す気力がない。 家に着くと、玄関で母さんが待っていた。遅くに出かけた俺に説教しようとしたのだろう。だが俺の目を見るなり黙ってしまった。俺は何も言わず部屋に戻り睡眠をとった。止まらぬ涙を枕に染み込ませて。 またはこにわにきた わたしのこいをたすけるかみよ はやくわたしときょんをはこぶねにのせて 「調子はどうだい?」 みくるちゃんや有希には忠告した。親の説得は成功した。もう私とキョンの恋愛を邪魔する者はいないはず。 「偽りの記憶はいいものだろう」 偽り? 「何でもない。私は箱舟へ乗せる準備をしている。あなたたちを乗せる時が来たら私が迎えにいく」 私はまた意識を失った。 その直前にかすかに聞こえた声。 もうおまえらはようずみだから 俺の寝起きは最悪だった。枕はぐしょぐしょに濡れ、目は痛む。 顔を洗おうと部屋のドアを開けると、枕元の携帯電話が鳴った。 古泉「急進派が突然消えました」 キョン「え?」 古泉「正確には情報統合思念体と全てのTFEIが姿を消しました。正直何が起きているのかお手上げです」 キョン「ハルヒは?」 沈黙が訪れた。 古泉「残念ながら記憶は戻らず、幻覚もそのままです」 キョン「そうか」 古泉「ところであなたは『箱舟』を知ってますか?」 ノアの方舟か? 古泉「そうです。先程から彼女は『キョンと箱舟に』と何度も口にしているそうです」 キョン「どういうことだ?」 少しのためらい。 古泉「わかりません。『箱舟』という名の思い出の品で何かするのだと思います」 なにをするんだよ。 古泉「いいですか?彼女を嫌ってはいけません」 絶対にですよ、と古泉は言い電話を切った。残念ながら俺はハルヒのことを考えるだけで、手が震えた。 登校中、空には俺を励ますように輝かしい太陽がいた。あいにくとなりで「恐怖」が俺の腕を組んで笑っているため効力は薄い。 ハルヒ「どーしたの?なんか顔色悪いけど」 おまえのせいだよ キョン「妹が朝からだだこねて大変だったんだよ」 ハルヒ「ふーん、まあいいわ。今日は念願のキョンの家に行けるのね!」 冗談じゃない!おまえは俺の家族まで・・・クッ! キョン「すまん。家族と法事に出かけることになっていたんだ」 なにをそんな悲痛な顔をしてんだ。俺が悪いみたいじゃないか。 ハルヒ「だったら私も行くわ!」 キョン「だめだ」 やだやだ、と俺の袖にこの女は涙目でしがみついた。 今のこいつは力を失ってるんだよな。なら何を言っても大丈夫だろう。 キョン「わがまま言うなら別れよう」 ハルヒ「我慢すればいいんでしょ!そのかわり今度あたしと一緒にどこへでも行こうねキョン!」 はいはい、と返事をしておいた。どこへ行こうというのかね。 教室に着くまでの間こいつは必死に俺に話しかけてきた。ご機嫌とりにしか見えない。 自分の席に着くと、谷口が俺の方に寄ってきた。 谷口「よおキョン。おまえが本気だったとは思わなかったぜ」 何の話だ? 谷口「朝から涼宮と登校なんておまえらデキてんじゃねぇか?」 ちょっと待て ハルヒ「私とキョンはすでに恋人よ!」 谷口「ほらキョン、涼宮はすっかりその気で」 話を中断し、谷口に問う。 キョン「今の俺とハルヒの関係を本当はどう見える?」 谷口「何を今さら」 いつもの女王と奴隷にしか見えないぜ、そう谷口は返答した。 谷口「そんなに涼宮を気にす」 俺は9組へ向かい、ドアを乱暴に開けた。教室を見ると古泉は席に着いていた、笑顔の仮面をつけて。 俺が何かいう前に古泉は言った。 古泉「今ホームルーム中です。あとで理由を聞きましょう」 やっちまった。クラス全員で俺を白い目で見るな。 昼休み。弁当を無視し教室を出ると古泉が待っていた。 今俺たちは食堂の柱に並んで立っている。俺は古泉に周りの反応を話した。 古泉「つまり周囲の人の記憶が改変前の世界に戻っている、ということですね」 深刻な顔をする古泉って少し怖いな。 古泉「涼宮さんは知ってのとおり、あなたを溺愛してます」 これはまずいですよ、と古泉は顔を近づけて言った。離れろ。 古泉「これは失礼。ですがいいですか?神の力のない彼女は一般人です。もしあなたが」 自分の大切な思い出と周りの記憶が正反対に食い違ってたらどんな心境になりますか、と古泉はまじめな顔で言った。 キョン「生きてる気がしないだろうな、恋愛の思い出ならなおさら」 古泉「今はあなたが恋人として振る舞っているから、彼女はまだ付き合ってると思ってるでしょう。この状況は危ないです」 この腐った世界からあなたと逃げよう、と考えかねないからです。 ハルヒへの恐怖がさらに積もる。この世界のどこに逃げようというのだ。 古泉「急進派の件ですが、彼らと何度も接触していた人物がいたことがわかりました。特定はできませんでしたが」 長門やあいつの家族はあのあとどうしたんだ? 古泉「コトが収まるまで放置してます。警察へは通報しません。長門さんは欠席、ということになってます」 急に学校の外からピシャーンという漫画らしい音が聞こえてきた。おいおい暗いし大雨じゃねぇか。傘持ってないぞ。 昼休み終了の鐘が聞こえたので俺たちは教室に戻った。わめく女を無視し席に着いた。 放課後文芸部室が使えないのでしばらく団活動は解散する、とこいつは俺と古泉に宣言した。 傘を忘れた俺は下駄箱で呆けていた。すると後ろから ハルヒ「傘忘れたんなら入る?」 俺たちは薄暗い道路を手をつないで傘をさし歩いている。本当なら即刻おことわりなのだが、傘がないので仕方がない。 ハルヒ「ここのところ難しい顔するようになったわね」 誰のせいだよ キョン「まあな、ちょっと厄介事をかかえてね」 ハルヒ「ちゃんとあたしに相談しなさいよね。何のための彼女だと思ってるのよ」 ハルヒが俺に寄り添う。今のこいつは俺に対してなら優しくてかわいい少女なんだ。たしかにその優しさはうれしい。 俺はハルヒと正式に付き合おうか、と考え始めた。こいつを放っておけない。 ハルヒ「にしてもなんで今日文芸部室が使えなかったんだろ。有希も休みだし」 途端俺の目に凄惨な光景がよみがえった。 オマエノセイダロ ハルヒ「きゃっ!!」 俺はこの女を傘ごと突き飛ばした。女は道路に尻餅をついているがどうでもいい。 キョン「おまえが朝比奈さんや長門を殺したんだろ!!」 ハルヒ「なっなに言ってんのよ!殺したって何よ!!」 キョン「おまえが家族を殺したのも知ってんだよ!!!」 ハルヒ「冗談言わないで!!昨日も一昨日も家族と話してたわ!!そうよ、家族がみんな病気になっちゃったからあたしが看病したのよ!!なんで死ななきゃいけないのよ!!」 俺たちを黒い沈黙が渦巻く。互いに雨を大量に浴びている。 ハルヒは泣き始めた。 そのナミダはナニに対するナミダだ? 沈黙を破ったのはハルヒだ。 ハルヒ「ねぇ?なぜ変わってしまったの?あんなに愛し合ってたのに!!私たち中学からずっと一緒だったじゃない!!!」 はっ? コイツのキオクはドコまでイジラレテンダ? キョン「ありえねぇよ!!おまえは東中学だろ!!おれとは学校すらちげえよ!!おれたちは会ってもいないんだよおおおぉ!!!」 ハルヒは自分の口を両手で抑え、どこかに走りさってしまった。あとには傘と荷物、そして俺が残された。 途端に後悔の念で満たされた。悪いのは黒幕なのに、俺はハルヒを傷つけてしまった。 時間が経つのも忘れてその場に立ち尽くしていると、携帯電話が鳴った。古泉か。雨の中だが応答することにした。 古泉「今すぐ逃げろ!!!」 キョン「えっ?」 お ま た せ 携帯電話片手に後ろを振り向くと、そこには「ハルヒの形をした化け物」がワラっていた。 はるひ「今日約束したよ、ドコにでも一緒にイくって。ほら」 い こ う 「それ」は右手を振りかざし、俺の携帯電話をはたき落とした。 俺は右手に痛みを覚えた。右手の手の平いっぱいに広がる切り傷。 なんでそんな凍りついた笑顔をしているんだ キョン「なにをもってんだおまえ!?」 はるひ「『出かける』のに必要な道具よ。私たちを楽園に連れていく、ね?」 楽園ってナニ? 「それ」の右手を見ると、この暗い雨にもかかわらずよく見えるナイフ。 「それ」がさらに一閃し、俺の首をやや深く切りつけた。痛みを我慢し逃げようとする俺に「それ」は俺の左胸にナイフを突き刺す。俺は道路に横たわった。頭がぼーっとしてきた。 はるひ「そこへ行けば私たちは永遠に愛しあえるわ」 ソンナニシアワセナトコロナノカ はるひ「この『アーク』で先に行ってて。『アーク』っていうのは『箱舟』のことだって、さっき聞いたわ」 ホントウハナ、オレハアッタトキカラ はるひ「じゃあまたあとでね、アナタ。ウフフフフフフ」 ハルヒノコトスキダッタンダゼ 首元を切り裂く音、高らかに笑う声が聞こえた。 ここははこにわ なぜここにいるのわたし たしかにあーくでらくえんへいったはずなのに 暗闇から女のすすり泣く声が聞こえる 「おまえはボクのキョンを殺した」 ハルヒ「待ってよ!『ボクの』ってどういうことよ!?」 「おまえはさっきボクの言ったことに逆らい、キョンを殺した!」 ハルヒ「なんであんたにキョンを連れてってもらわなきゃ行けないの!?あたしじゃダメなの!?」 「あとはおまえが死ねば終わりだったに!!」 ツカエナイヤツ、たしかにそう聞こえた。違う、こいつは救いの神なんかじゃない。 「おまえにもう用はない。ボクの力も使い切る。おまえは一生『楽園』に」 堕 ち ろ 途端、光っていた地面が崩れ去った。私は浮遊感と闇に包まれる。 ここが「ラクエン」? コエを出しても何もミミに入らない。 私はキョンを「ラクエン」へ連れていったの? ゴ メ ン ネ 浮遊感と闇は続く、いつまでも。 ボクは昔からキョンのことが好きだった。彼とは違う学校になって以来全く会っていなかった。 だが最近になって好機が訪れた。情報統合思念体とかいう意識体の通信機代わりの人間が現れ、ボクにいろいろ話してくれた。 例えばボクに秘められた力。例えばボクより強大な力をもつ「ハルヒ」という人間。例えば彼女はキョンに思いを寄せていること。 急進派はハルヒの変化を観察したいので協力してほしい、と依頼した。ボクはこれを利用するため、必要となりそうな能力をボクに付与すること・主導権をボクが握ることを条件に引き受けた。 まずボクは急進派に指示し、寝ているハルヒの深層意識に「空間」を作った。この空間に彼女の意識を送ればそこで彼女は活動し、戻せば眠りにつく。 試しに送ってみた。彼女の慌てようがあまりにも滑稽なので、この空間を「箱庭」と呼ぼう。ボクは彼女の意識を箱庭から戻した。 その後彼女の力を奪った。急進派には暴走防止だと理由をつけて納得させた。 急進派の提案により、未来人の処理は急進派に任せた。 次の夜、ボクはやや口調を変えて箱庭で彼女と話した。途中自分の口調と混ぜて「バタシ」や「キャナタ」と失言したが、彼女は気にしなかった。適当なことを言って彼女を眠らせた。 最後に彼女の記憶を少しいじくった。急進派は困惑していたが気にしない。彼女は「昨日教室でクラスメイトの前で大声でキョンに告白して、OKをもらった」という偽りの記憶を持った。 彼女の身辺情報はすでに急進派から聞いていたので、長門さんが混乱を世界改変することは読めていた。 なぜ少しずつ記憶を改変するか?わかりやすい矛盾を生まず、偽りの記憶をより信じこませるためである。 ボクは当分学校を休み、自分の部屋で急進派のTFEIとモニターを見ることになった。モニターにはカメラがなく、誰にも気づかれずハルヒの行動をじっと覗けるようだ。急進派独自の技術だと言われた。 一度キョンに会いに行った。少しでもボクを記憶に残し、いつか頼ってくれることを望んだからだ。 だがここで失言した。 「今日は大変だったろう」 まるで今日の出来事を知っているような発言をしてしまった。だがキョンは気づかなかった。 家に戻ったボクは急進派に主流派を消すよう指示した。 その日の夜箱庭を覗いた。彼女は見事なまでに「偽りの」記憶を信じていた。例によって彼女を眠らせた。 再び記憶を改変し、「告白した日から、キョンと甘い時間を過ごしつづけた」という記憶を植え付けた。 なぜ彼女の恋を応援をするような改変を行うか?それはキョンに嫌わせるためさ。 身に覚えのない記憶を押し付けられたら、誰だって嫌になる。困り果てたキョンはボクを頼り、それをきっかけに交流を深める。恋人になれた時がゴールだ。 その日の朝、あわてるTFEIにたたき起こされた。外は雨か。 モニターを見てみると、家でハルヒが包丁片手に一人で何か叫んでいる。 急進派に聞いたが、記憶改変のバグではないようだ。 ハルヒは両親の寝室に入った。ボクは目を疑った。いきなり仰向けの父親の首に包丁を突き刺したのだ。引き抜くと、あたりに血が飛び散った。 全身に返り血を浴びたハルヒは、今度は母親の首にも突き刺し叫んだ。 ねぇ、なんでキョンと付き合っちゃいけないの? 確かにそう聞き取れた。どうやら長門さんが改変した世界では両親に交際を反対されてたんだろう。それで恨んだ彼女は・・・でも行動が妙だ。 ボクは吐き気がした。何度も首に包丁を突き刺し、ついには片目を潰した。部屋は地獄絵図となった。なおも聞こえる叫び声。 勝手にすればいいんでしょう、やがてそう言いながら彼女は風呂場で着替え手足や髪を洗い始めた。 急進派は彼女が幻覚を見ているのではないか、と指摘した。改変のバグではないのだろう、と反論する。それとは別だ、と返答された。 ハルヒはキョンへの過剰な愛情と自己防衛のために、自ら幻覚を作りだしているらしい。あの改変はまずかったか。 やがて彼女は頬にやや残っている血を気にせず、二人分の弁当とトーストを作り始めた。 彼女は自身で記憶改変し続けているようで、ボクが植え付けた覚えのない記憶をつぶやいている。とりあえず急進派に他の派閥を消すよう指示した。 彼女が登校する直前、彼女が台所から「なにか」をカバンに入れた。モニター視点からでは「なにか」を見れなかった。 5時限終了後、まさか彼女が未来人を殺すとは思わなかった。予定に支障はないが、慎重に動いた方がよさそうだ。 ボクが彼女の記憶を改変できるのは箱庭でのみ。完全には奪った力をあやつれないようだ。 彼女が家で風呂に入ってる時に歌っていた歌詞。おそらく長門さんを殺すつもりなのだろう。彼女が出かけたとき急進派に指示し、長門宅にいる人全員を気絶させた。 彼女が長門さんの家に着く前に、ボクは急進派に玄関や玄関ホールの鍵を空けるよう指示した。 傘もなしに雨の中を歩いたハルヒは長門宅に入ると、辺りに散らばる人間が見えていないかのように台所へ向かった。そして包丁を右手に握った。倒れている長門さんの所へ向かうと、叫びながら蹴り飛ばし始めた。 有希、お願いだからキョンを誘惑しないで!あたしが優しく言ってるうちに謝って!ベランダに逃げないで! ハルヒは長門さんの首を左手でつかみ、ベランダに連れていき壁に抑えつけた。 ねえ有希、あたしはただ謝って欲しいだけなの! ハルヒは右手の包丁で長門さんの首を深々と刺した。ボクは思わず目を背けた。何度も引き抜いては刺し、その間も叫び声は続く。 そんなに怯えないで!あたしは脅迫しにきたわけじゃないの!そうよそう言ってくれればいいのよ、ありがとう有希! ハルヒは最後に笑顔で彼女の左胸に包丁を突き刺した。ハルヒはすでに血まみれだった。 ハルヒは床に血の足跡を残しマンションを出て、雨の中を帰った。偶然にも雨は彼女から血を洗い流した。 イレギュラーはたくさん起きたが、計画はむしろいい方向に向かっている。キョンはハルヒを恐れ、ボクを頼るかもしれない。 家に帰った彼女は服を着替え始めた。途中キョンから電話がきたようだ。よく平然とそんなことを言えるな。 パジャマに着替えた彼女は就寝した。 ボクは彼女の意識を箱庭へ送り語りかけた。皮肉をこめてボクは彼女にこう言った。 「偽りの記憶はいいものだろう」 彼女は見えないボクを信仰している。これぐらいじゃ彼女はあやつられていることに気づかない。 「私たちは彼女の観察を終了します」 ボクのとなりにいるTFEIが突然ふざけたことを言った。 彼女の変化で貴重な資料を十分手に入れたため世界を元に戻す、そう言った。 ボクはハルヒに適当に応対しつつ急進派を説得した。だが断られた。そしてコイツラはボクから力を奪おうとした。 ボクはハルヒを眠らせ、コイツラに言ってやった。 もうおまえらはようずみだからきえろ するとTFEIがみるみる消えていった、謎の呪文を唱えながら。本当に願っただけで消えた。 次にボクは一般人の記憶を改変前の世界に戻した。キョンとハルヒが付き合ってたらボクの計画の意味がない。 改変後突然自分の力が弱まる感覚に襲われた。まさかあの呪文は・・・くそ。もう一度改変を試みたが力が足りないのだろう、失敗した。どうやらボクが力を使うたびに力が減っていくように仕組まれたようだ。 キョンと恋人になりたいなら最初から彼の記憶をいじればいいのだが、仕組まれた愛なんて嫌だからしない。 誰にもボクのキョンは渡さない。 朝は土砂降りの雨、昼も変わらず。ボクは相合い傘で下校しているハルヒとキョンのあとをつけている、ポケットにナイフを忍ばせて。彼らが破局する、直感がそう言うからだ。 キョンが彼女と口論を始めた。あっハルヒを突き飛ばした。彼女は逃げ出した。あとは彼女を 自 殺 さ せ れ ば 終 わ り ボクは彼女を追いかけ、呼び止めた。あんた誰、と涙を止めて言われた。 佐々木「私はあなたを箱舟へ乗せる者です」 ハルヒ「あなたが?今までありがとう、でも」 ハルヒはまた泣きはじめた。 佐々木「心配しないで。あれは照れ隠しさ」 ハルヒ「・・・そうよね」 ハルヒを傘に入れてなぐさめつつ計画を続ける。 佐々木「我々を楽園へ導ける箱舟は、哀れなる魂を大地から解き放つ」 ハルヒ「あたしはどーせ哀れな魂ですよ」 佐々木「救いを求めるあなたに『アーク』を与えよう」 ボクはポケットから「ただの」アーミーナイフを取り出すと、ハルヒに手渡した。 佐々木「これで刺せば楽園に行けます」 ハルヒ「本当に!?」 そこまで喜ばれてもな。最後の誘導をしよう。 佐々木「あなたはそれで先にイっててください。彼は私が連れていきます」 だがサイアクの誤算が起きた。 ハルヒ「あなたはしなくていいわ。あたしがキョンを連れていく!」 やめろ!そんなことしたら! 佐々木「あなたがする必要はないよ。バタシが」 ハルヒ「心配しないで。必ず成功するわ!」 佐々木「待て!」 彼のもとへ走る彼女を必死に追ったが見失った。ボクはがむしゃらに探した。 ボクが彼女を見つけた時、すでに手遅れだった。横たわる男と女。 ボクはその場で泣いた。せめてハルヒが死ぬ前に絶望を与えよう。そう誓いボクは目を閉じ、ヤツの意識を箱庭に送りどなった。 その間にも力はすり減っていった。ボクは最後に実験をしてみた。 「ラクエンへ堕ちろ」 そう言い箱庭との接続を解除した、ヤツを箱庭に送ったまま。実験の結果を知る気はない。 解除した直後、数人の大人に囲まれていることに気づいた。 執事「君が佐々木くんだね」 メイド「おとなしく拘束されてください」 ボクは大人の輪から逃げた。追いかける大人ども、あれは機関か。 逃げてる最中に気づいた。そういやキョンは死んじゃったんだ。じゃあ 生キテテモ仕方ガナイナ ボクは今車道を走っている。あっ車がきた。またせたねキョン。1、2、3! 古泉「彼女の容体は?」 森「以前変わりません」 僕は涼宮さんが入院してる病室にいる。森さんが応対してくれた。あれから三日経った。 あの日黒幕が「佐々木」という人物の可能性が高まり、彼女の監視に僕を含む大量の人員が派遣されました。機関の指揮官のミスで、涼宮さんの監視には誰も着かなかったようです。 佐々木さんの前に突然涼宮さんが泣きながら走ってきたのには驚きました。彼女らの話によると、彼に冷たくされたらしい。彼には忠告しておいたんですがね。 佐々木さんが彼女にナイフを渡し、彼女が喜んで走り始めたとき、危機を感じました。なぜか佐々木さんが慌てて彼女を追いかけたので、僕たちも追いかけました。僕は走りながら彼に危険を知らせる電話をかけました。 彼は応答しましたが、その直後に携帯電話が地面に落ちた音が聞こえました。涼宮さんが追いついた?しかし早すぎる。佐々木さんも彼女を見失ったようで、でたらめな方向に走ってました。 しばらくすると電話越しに何かが地面に倒れた音が聞こえ、その後に涼宮さんの歓喜とまた何かが倒れた音を聞きました。 いつのまにか佐々木さんが立ち止まってました。彼女の視線の先を見るとキョンと涼宮さんが倒れており、涼宮さんの左胸にはナイフが刺さっていました。佐々木さんは泣き始めました。 僕たちは彼女を包囲しました。彼女は気づかないのか、さっきから目をつぶったままである。と思うと目を開き僕たちに気づいたようです。 新川さんの合図で捕獲を開始。だが彼女は運動能力が高いのか、包囲網を抜けました。当然後を追いました。 道路の歩道に出て、だんだん彼女との距離が縮まってきました。そして突然 彼女は車道へ飛び出しました。 そして車にはねられ地面に落下。確認すると、即死でした。その顔は笑っていました。 機関はこの件を警察に引き渡しました。涼宮さんだけは奇跡的に生還しました。機関の働きで、彼女は警察病院でなく大学病院に搬送されました。 だが問題が起きました。彼女は意識がなく、何を言っても反応がないのです。脳死ではない植物人間のように。 なぜあの時涼宮さんがありえないスピードで彼の元にいたのか。仮説として、彼女の愛が力を一時的に戻したというのがある。もしそうならば、彼女は彼を「本当に」愛していたのだろう。 森「彼の葬式には是非彼女にも参加してもらいたいわ」 古泉「そうですね。涼宮さんを許してくれますよ、キョン君なら」 その時ささいな、本当に些細な奇跡が起きた。 森「あっ涙が!これは医師を読んだ方が」 古泉「いえそっとしておきましょう」 涼宮さんの閉じた目から一筋の涙が流れた。それは温かいもののように感じられた。 ここはとある一軒家。 兄をなくした少女はネコと遊んでいた。その目に涙をためながら。 少女が少しネコから目を離した。ネコは少女から逃げ、思い出の部屋へ向かった。少女は悲しみを隠しゆっくり追いかけた。 そこはまだ片付けていない兄の部屋。なにを思ったのか、ネコは机によじのぼった。 ネコは机の上の一冊の本を邪魔そうにどかした。その本は床に落ちた。ブックカバーは外れ、白い表紙が姿を現した。その表紙には鉛筆で文章が書かれていた。 兄は気づかなかったのだろう、「この本のメッセージ」がこれであることに。 文章はこう書かれていた。 最終手段として、世界を改変前の世界に戻すためのプログラムを記した。この表紙を見ながら「楽園へ」と言えば起動する。 だがこのプログラムは一つの代償がある。改変には起動者の生体情報を使う。つまり改変後の世界に起動者は存在しない。 私はあなたに消えて欲しくない。でもあなたが望むなら起動して。 今までありがとう YUKI.N 一人の少女の素直でない恋心が起こした悲劇。三人は等しく犠牲者。犠牲者たる彼らを救う幼き箱舟が一歩、また一歩と兄の部屋へ歩いていく。 ――――――end―――――
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3079.html
キョンの病欠からの続きです …部室の様子からもっと物が溢れ返ってる部屋を想像したんだが…。 初めて入ったハルヒの部屋はあまり女の子らしさがしないシンプルな内装だった。それでも微かに感じられるその独特の香りは、ここが疑いようもなく女の子の部屋なのだと俺に認識させてくれた。 「よう、調子はどうだ?」 「……だいぶ良くなったけど…最悪よ」 …どっちだよ。 ハルヒは少し不機嫌な表情でベッドに横になっていて、いつもの覇気が感じられなかった。いつぞやもそう思ったが、弱っているハルヒというのはなかなか新鮮だな。 「ほら、コンビニので申し訳ないが、見舞いの品のプリンだ。風邪にはプリンなんだろ?」 サイドテーブルに見舞いの品を置くと、ハルヒはそれと俺の顔を交互に見つめて訝しげにこんなことを言ってきた。 「……あんた、本当にキョン?中身は宇宙人じゃないでしょうね?あたしの知ってるキョンはこんなに気が利かないわよ?」 弱っていても失礼な奴だな、お前は。俺にだってこの程度の気遣いは出来る。 「…ま、昨日は世話になったからな」 実際、熱にうなされ苦しんでる時にハルヒの存在にどれだけ救われたことか。あと、その風邪を移したのはほぼ間違いなく俺だろうしな。 そう思うと俺は何かせずにはいられない気持ちになってしまい、その素直な感謝の気持ちが俺に自分らしくない台詞を口に出させていた。 「何かして欲しいことあるか?宇宙人を連れてこいとかいう難題以外なら、今日は素直に言うことを聞いてやろう」 俺がそう言うとハルヒは黙ってしまった。時計の秒針の音だけがカチカチと部屋に流れる。 そろそろ沈黙が痛くなってきて、俺が自分の台詞を後悔し始めた頃、ハルヒは絞り出すように少し震えた声でお願いを口にした。 「…………手」 「ん?」 「……昨日みたいに手を握りなさい」 「ああ…」 差し出された右手に俺も右手を重ねる。……素面でやると結構恥ずかしいもんだな。 ハルヒの熱が伝わったのだろうか?俺の顔も熱くなってきた。きっとハルヒの手が熱いからだ。うん、そういうことにしておいてくれ。 「……あと、頭撫でなさい」 ……そんなことを命令口調で言っても威厳はないぞ? 「……早くしなさいよ」 恐る恐る手を伸ばし髪に触ると、ハルヒは一度ビクッと強張ったが、その後はおとなしく髪を撫でられていた。 そうしてさわさわと撫で続けていると、ハルヒはくすぐったそうに目を細めていたが、少し無理をして起きていたのか、1分もしない内に眠りの世界へと落ちていった。 どのくらいそうしていただろうか?目の前のハルヒからはスゥスゥと規則正しい寝息が聞こえてくる。 黙っている時のハルヒは反則的なまでに可愛く、それがまたあどけない寝顔なのだから、じぃっと見ていると妙な気分になってくる。 いかんいかんと頭を振りながらも、俺はどうしてもハルヒの寝顔から目を離せずにいた。 今までこんなに穏やかに、じっくりと、しかも本人の目の前でハルヒについて考えたことはなかった。 だからだろうか?その事実に気が付いてしまい、そして驚くほどすんなりとそれを受け入れることが出来たのは。 俺はなんだかんだでハルヒのことを憎からず思って…いや、むしろ積極的な好意を持っている。 「……そうか、俺はハルヒのこと好きだったんだな」 それを言葉にして口に出してみると、急に落ち着かなくなり恥ずかしさが込み上げてきて、俺はハルヒが起きる前に帰ってしまうことにした。 椅子から立ち上がり鞄を手に取ろうとした時、俺はハルヒの額に浮かんでいる汗の存在に気が付いた。 …クソ、気になっちまった。 ハルヒの穏やかな寝顔に似合わないその汗がどうしても許せず、気が付くと俺は枕元のタオルを手に取っていた。 ハルヒの額の汗を丁寧に拭うと、シミひとつない白い肌が露になる。純粋に綺麗だな…と思っていると、ハルヒは不意に俺の名前を呟いた。 「……ん…キョン…」 「…………」 チュッ …………待て、俺は今何をした? 俺の唇に残るほのかな温もりは間違いなくハルヒのそれであり、ハルヒの額に残る微かな赤みは間違いなく俺が付けたそれだった。 要するにキスだ。キス?額にとはいえ俺がハルヒにキスをしたのか? ぶわっと今度は俺の額に汗が浮かんでいくのを感じる。ハルヒの寝息が聞こえなくなるほど心臓の音は大きくなっていった。 俺の頭に窓から逃げようという意味不明な選択肢が浮かんだ瞬間、ハルヒは静かに目を覚ました。 「……ん」 ゆっくりと、ハルヒの目が開いた。 ヤバイ、怒鳴られる。いや、むしろ殺される。 上がりっぱなしの心臓の回転数は今にも限界値を突破しそうだった。 宇宙人でも未来人でも超能力者でもいい、自業自得なことも分かってる、それでもお願いだ。時間を1分前に戻してくれ! 「……あ…今少し眠ってた?」 …気が付いてないのか? 「…え?あ、そうだな、10分くらいかな?」 …気付かれなかったことにほっとした反面で、少し残念に感じるこれはどういった感情なのだろうか? こちらの動揺をよそにハルヒは俺をじっと見つめ、なにげない一言で止めを刺した。 「今日はありがと、キョン」 「…ッ…」 その素直な感謝の言葉が胸に刺さり、心臓が止まりそうなほどの罪悪感が俺を責める。こんな気持ちになるのなら、いっそのこと気付かれて公開処刑されたほうがまだマシだ。 脳内裁判にて裁判長・長門が俺に有罪を言い渡したところで、目の前に予期せぬ逃げ道が現れた。 「…ふゎ…まだ眠いからもう少し眠るわ」 「あ、あぁ、眠いなら寝たほうがいいぞ、うん。なんせ風邪だからなっ」 自分でも不自然だと思える早口に俺の動揺は更に深刻なものになっていき、それがとんでもなく卑怯な行為だと理解しつつも、俺には真実を語らずに逃げ帰るしか、自らを落ち着かせる術はなかった。 「じゃ、じゃあ、俺は帰るな!また明日っ」 バタン! 転がるようにハルヒの家から出ていくと、外は既に暗くなり空には綺麗な月が浮かんでいる。 ふとハルヒの部屋を見上げると、まだ眠ると言ったはずのハルヒがこちらを見下ろしていた。 何か言っているような気がしたが聞き取れるはずもなく、俺は明日からどんな顔でハルヒに会えばいいんだろう?と思いつつ、逃げるように家路に着いたのだった。 「……どうせなら口にしなさいよ、馬鹿キョン」 End
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/519.html
放課後の教室。 谷口が慌てた様子で話し掛けてきた。 「キョ、キョン…ちょっと耳貸せ…!」 なんだコイツはいきなり。 俺は壷でも売りつけられるのか。 「……い、今、涼宮を出せってヤツが来て…」 俺の耳に近寄ると小声で谷口はそう言った。 何故、俺にその話をする。 俺はハルヒ宛の伝言板じゃないぞ。 「…本人に言え、直接」 「い、いや…それが…」 谷口が指差した方向を見やる。 …そこには明らかにガラの悪そうな二人組が居た。 ……あんな奴等、北高に居たんだな。 谷口が躊躇したのも分かる。 …ハルヒと会わせた日には、間違いなく問題が起こりそうだ。 俺がどうしたものかと迷っていると後ろからハルヒが声を掛けてきた。 「あんた達、なにヒソヒソと人の名前呼んでるのよ?」 「す…涼宮…!」 どうでもいいがビビりすぎだぞ、谷口。 「何? あたしに用事があったんじゃないの?」 「いや…そ、それが…」 谷口が二人組を見る。 「……ははーん…そういうコト」 それだけでハルヒにはどういう事か分かったらしい。 …妙に慣れてるなコイツ。 「いいわ、あたしを出せっていうんでしょ?」 それだけ言い残すとハルヒは教室を出て、二人組の方へ歩いていった。 …やれやれ。何か問題があるとマズイからな。 …一応、見といてやるか。 ハルヒと二人組が何やら話している。 …いや、ハルヒはほとんど口を開いていないか。 二人組の内の、特にガラの悪そうなヤツが一方的に喋っている感じだ。 ハルヒは黙って聞いている。 その内、話していた男がハルヒの肩に手をかけた。 …ずいぶんと積極的なヤツだな。 何か因縁事でもあるのかと思ったが、どうやらそっちの話では無いらしい。 ハルヒが男の手を払う。 かと思えば、ハルヒが何かをまくし立て始めた。 あれは十中八九、悪口だな。 その口がはっきり「バカ」と動いているのが見えた。 …可哀想に。あれだけ至近距離でマシンガン罵倒されたら立ち直れないかも知れん。 ガラの悪い男はぷるぷると震えている。 …よっぽどショックな事を言われたんだな。分かる、分かるぞ、その気持ち。 ハルヒは興味を無くしたのか、こちらを向き、教室に戻ろうとする。 「てめぇ! 待てよ涼宮ッ!」 そのハルヒの手を、震えていた男が捕まえた。 「なんなのよ、あんたっ!」 ハルヒが叫び、もがくも、男は完全にアタマに血が上っているようだ。 ハルヒの腕に男の爪が食い込んでいるのが見えた。 …いくら何でもやりすぎだ。 ……やれやれ。またか。また俺も巻き込まれるのか。 …まぁ、見た目にもあまりよろしく無いしな。 それに放って置けば、ハルヒがどんな逆襲に出るか分からん。 ……俺はハルヒを助けるんじゃないぞ? …男の方を心配してやってるんだ。 そう考え、俺が教室を出ようとしたその時、事件は起きた。 ハルヒが男の手に噛み付いた。 「痛ってぇッ! このクソ女ッ!」 男が痛みにハルヒを離す。 「ナメてんじゃねぇよ、てめぇッ!」 男が再びハルヒを捕まえようと手を伸ばした時、ハルヒが素早く体を屈めた。 男の手はハルヒの頭上を通過し、目標を失った男はバランスを崩す。 男がハルヒに覆いかぶさりそうになったかと思うと、ハルヒが凄まじいスピードで体を捻った。 ハルヒの上履きがキュッと小気味いい音を立てる。 そうして。 ハルヒは、男のアゴ目掛けて、伸び上がるようにその脚を振り抜いた。 「がふっ!」 蹴られた男が派手に吹き飛ぶ。 …後ろ回し蹴り。 ……あまり見れるもんじゃないな。 特に学校では。 「…あ。マズイ」 男が吹き飛ばされたその先、そこには窓ガラスがあった。 ガッシャーンッ!!! 男の背中が勢いよくぶつかったかと思うと、ガラスが派手な音を立てて砕け散った。 …おいおい。 ここは三年B組じゃないぞ。 「…また派手にやったな」 「あたしのせいじゃないわ。そこの男が勝手に吹き飛んだのよ」 俺がハルヒに話しかけた時、すでに彼女は涼しい顔をして、制服の乱れを直していた。 気付けばもう一人の男は逃げてしまったらしく、姿形も見えない。 ずいぶん薄情なお友達をお持ちだな。 吹き飛ばされた男を見れば、完全に伸びている。 その顔にはくっきりと靴跡が浮かんでいた。 ……ハルヒ、恐ろしい子…! 「…どうするんだこれ?」 「知らないわよ。ソイツが勝手に転んだコトにしとけばいいんじゃない?」 いくら何でも無理があるだろ。 「何をやっとるか貴様らーっ!!」 音を聞きつけたのか生活指導の木戸が飛んできた。 …マズイな。木戸は生徒を頭ごなしに叱り付けるので有名だ。 「なんだこれはっ!」 木戸は割れた窓、辺りに飛び散ったガラス、伸びたガラの悪い男を見るとそう叫んだ。 「やったのは貴様かッ!?」 木戸が俺の首根っこを掴む。 …コイツは本当に人の話を聞く気が無いな。 「ぐっ…いや…俺は…」 「…先生。違うわ。やったのはあたしよ」 俺が答えに窮しているとハルヒが木戸に進言した。 「何ぃ…? キサマか涼宮ッ! ちょっと生徒指導室まで来いッ!」 「…えぇ」 ハルヒは伸びた男を一瞥すると、大人しく木戸に付いて行く。 俺はその背中を見ながら、何だか胸がモヤモヤしていた。 ………なにか違う。 …ハルヒは…まぁ悪くないとは言えないが、ハルヒだけが悪者って訳でもないだろう。 …かと言って、木戸に何かを言った所で、変わりそうにない。 ………今思えば、俺もアタマに血が上っていたのかも知れない。 気付けば廊下の隅に置かれた消火器を手に取り、手近な窓ガラスに叩き付けていた。 ガッシャーンッ!!! 先程に負けず劣らずデカい音が校舎に響き渡り、窓ガラスは粉々に砕ける。 …手が痺れた。 「き、き、貴様ッ! 何を考えとるかッ!!!」 「…キョ…キョン…?」 派手な音に、木戸とハルヒが振り返り、俺を見ていた。 木戸は血管が浮くほどプルプルと震え、怒り心頭といったご様子だ。 ハルヒはと言えば、口が開くほどに驚いている。 「…いえ、そこに1メートルクラスの馬鹿デカい蚊が居たもんで」 「バ…馬鹿もんッ! お前も生徒指導室に来いッ!!!!」 そうして。 生徒指導室でたっぷりと絞られた後、俺とハルヒに下された判決は停学3日という、とてもありがたいものだった。 「…なんであんなコトしたのよ?」 生徒指導室から開放され、帰ろうとしていると、ハルヒが俺に聞いて来た。 「…別に。お前だけが悪いって訳でも無かったからな」 「…それとあんたがやったコトと、何の関係があるワケ?」 「…何の関係も無いな」 「………ぷっ…くっくっ……あははっ! あんた馬鹿じゃないのっ?」 ハルヒが笑い出したかと思うと、俺にそう言った。 …言うな。俺もそう思ってるんだ。 「ま、いいけどね。あたしも一人で停学なんて、つまんなかったし。いい道連れが出来たわ」 「…お前が何を考えているのか知らんが、俺はバイトだぞ」 「…バイト? あんた、バイトなんてしてたっけ?」 「ガラス代だ」 過失ならともかく、俺がやったのは間違いなく故意だ。 しっかりと学園からガラス代を請求されるだろう。 それを親に払わせるのは忍びない。 「…ふーん…そっか。バイトか。いいわね! 面白そう、あたしも一緒にやるっ!」 「…本気か?」 「あったりまえじゃない! 停学っていったって謹慎ってワケじゃないんだしっ!」 …普通、停学と謹慎はイコールだぞ。 …ま、いいけどな。 そうして俺とハルヒは何のバイトをするか相談しながら家路につきましたとさ。 めでた……くねぇな。ねぇよ。 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/572.html
涼宮ハルヒの情熱 プロローグ 涼宮ハルヒの情熱 第1章 涼宮ハルヒの情熱 第2章 涼宮ハルヒの情熱 第3章 涼宮ハルヒの情熱 第4章 涼宮ハルヒの情熱 エピローグ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/833.html
もうとっくに梅雨が過ぎてもいい時期にもかかわらず いつまでもずうずうしく居座り続ける梅雨前線のせいでムシムシジメジメしている今日この頃 期末試験も終わり我が高校における高校生活最大のビックイベント「修学旅行」の季節がやってきた 「ついにやってきたわ修学旅行が!行き先はハワイかしら?それともロンドン?もしかしてイタリアとか!?」 俺はというと今日も今日とてこのなにか修学旅行を勘違いしている団長様に振り回される日々 「んなわけねーだろだいたいなんでうちみたいなしょぼい高校が修学旅行で海外なんて行けるんだ} 「涼宮さん先ほど僕たちの学年全員を集めて修学旅行の説明があったのをご存知ありませんでしたか?」 どうしてこの蒸し暑いのにこの爽やか男はここまで爽やかでいられるのか やつの爽やかさの源はなんなのであろうか1980円以内ならばぜひとも買い求めてみたいものだ 「説明?あーなんかそんなもんあったわねでも特におもしろそうな話はなかったわ」 ちがう面白そうな話も何もこの団長様は頭の中は100パーセント以上 むしろ他人の脳みそに侵略してまでも修学旅行をいかに楽しむかという考えで満たしていただけだ 「で、古泉君修学旅行の先は結局どこなわけ?」 「北海道ですよ」 「北海道ですよ」 そうわが高校の修学旅行の行き先は北海道なわけである ちなみに朝比奈さんは学年が違うため今回の修学旅行にはもちろん参加できないがそれが非常に残念である 「北海道ねぇ~まぁこの際行き先なんてどうでもいいわ。それよりも私たちSOS団の名前をどれだけ北海道の広大な土地中に知らしめるかよ!」 またまた修学旅行も俺にとっては大変なものになりそうである 「そうねぇ~北海道といえば何かしら?ちょっとキョンなんかないの?」 あいかわらずむちゃな振りをしてくる団長様だ もしもこの団長様がバラエティー番組の司会なんてしたものなら芸人たちはつぶれてしまうだろうに 「そりゃ北海道といえば、ラーメンとか新鮮な魚介類とかじゃないのか?」 「あんた食べることしか考えてないわけ?やっぱキョンなんかに聞いたのが間違っていたわ。古泉君はどう?」 「僕の場合も基本的にキョン君と一緒なんですがそうですねぇ。しいて言えば熊とかですかね」 「それよ古泉君!キョン北海道で熊を退治してらっしゃい!」 こんな調子で修学旅行の前日となってしまった 結局のところハルヒは何を考えているのか明かすことはなかった まぁいつものことか なんだかんだいってもやはり修学旅行は楽しみである 情けないことにあまり寝れずにあさを迎えるハメになってしまった 寝不足の重いまぶたをこすりながらも期待に胸躍らせながら空港へ 「平和に3日間過ごしたい」 これが俺の本音であるがもちろんその件に関してはまったく期待はしていない 「逃げずにまってなさいよ!修学旅行!」 朝からわけのわからぬことを叫んでいる団長様を空港にて発見 俺がもし修学旅行という物体ならばできるものならハルヒから逃げてみたいものだ 「キョン眠そうねぇ?もしかして修学旅行だからってワクワクして眠れなかったとか?」 朝からなかなか痛いポイントをつかれる にしてもなんでこいつはこんなにいつも元気なんだろうな まぁ今に始まったことでもないしな そこで俺はあることに気がついた 「ハルヒよなんなんだその荷物の量は?」 「秘密よひ!み!つ!」 ますます先が思いやられる 「とりあえず荷物が多いの」 そんなことは見ればわかる 「だがら荷物が多いって言ってるでしょ」 はいはい俺が持てばいいんだろ鞄を これまた情けないことに下僕体質というかなんというかすっかりハルヒに振り回されることになれてしまったのか 「ねぇキョン?実際に飛行機が墜落したらジェットコースターみたいで楽しそうじゃない?」 あまりにも不謹慎すぎる発言だ!しかもこいつの例の能力でそれが具現化してしまったらどうしてくれるんだ! 「おはようございます涼宮さん。キョン君も朝からご苦労様です」 眠気眼にこの笑顔はまぶしいな相変わらず 「そろそろ搭乗時間ですので移動をしたほうがいいかと」 古泉の後をついて行き飛行機の中へ ハルヒよ墜落したいなんて思ってないだろうな! なんとか飛行機も落ちることなく俺の命も落とすことなく空港に無事ついた 「SOS団もついに北海道進出よ!」 飛行機から降りても元気な団長さんであった その後バスに乗り込み北海道をぐるぐるとまわった その際にハルヒにいろんなことをさせられたのは今思い出してもおぞましいことばかりなのであえて伏せておきたい 乗馬体験中に俺の乗っている馬の尻をハルヒが叩いたりなんて悲惨なもんだった俺は決してジョッキーではない なんとか一日目の日程を消化しホテルへ向かうバスの中 朝からあれだけパワフルだった団長様はというと今俺のよこでかわいく寝息をたてて寝ていらっしゃる こうしてみていると抱きしめたくなるほどかわいいな・・・いかんいかん俺は何を考えているんだ相手はあのハルヒだぞ!? ハルヒの意外な一面を見て何か違和感のようなものを感じつつもバスはホテルに到着した あのときの違和感がじつはあんな感情につながったとはな 「おいハルヒ着いたぞ起きろ」 「んぅ~なによもう朝?」 「ホテルに着いたんだよ」 寝ぼけた団長様もなかなかかわいいなっておい何考えてるんだ俺! そんな突っ込みを入れつつもハルヒをつれてホテルへ 「じゃあこの後8時から入浴でその後~」 教師の長ぁ~い説明が終わりとりあえず今は自由時間だ どの修学旅行でも思うがなんでしおりに書いてあることをわざわざ教師たちは読み上げるんだろうな 自由時間こそ修学旅行最大の楽しみでもあるというのに 朝からずっと行動をともにしてきたハルヒだが当然泊まる部屋は別である 俺の部屋はというと国木田と谷口の3人部屋である 女子の部屋のある階とはだいぶ離れているがまぁ当然であろう 部屋についてすこし落ち着いて一瞬いやな予感がしたと思ったらケータイが光りだした もちろん相手は「涼宮ハルヒ」 「ちょっとキョン今すぐきて!5秒以内!やっぱ3秒とりあえず早く着なさい!」 相変わらずのお呼び出しだが今回はなんかいつもと違ってあせっていたように思えたがまぁろくなことではないだろうと思いつつハルヒの部屋へ 「ゴキブリよゴキブリ!早く退治して!」 おいまてハルヒよなんでゴキブリが出たら俺を呼ぶんだ 第一北海道ってゴキブリいないはずじゃないのか 「で、どこに逃げたんだそのゴキブリは?」 「あっちのほうよ」 にしてもハルヒがゴキブリ嫌いだとは意外だったな そんなことを考えつつゴキブリを探すとあることに気がつく なんとハルヒが若干涙目で俺の腕にしがみついてる! バスの中であんなこと考えてたせいか結構これはダメージでかい しかも見慣れぬ部屋着姿だ 「きっとカーテンの裏よ」 そこで俺はカーテンをめくってみることに するとそこにはゴキブリではなくただ一枚オセロが黒いほうを上にして落ちているだけであった 「一体これはどういうことだハルヒ?」 「ごっ、ごめん。本当にゴキブリだと思って・・・。」 どうやら今回はハルヒが仕組んだわけではなく本当にゴキブリだと思ったようだ にしてもハルヒがこんなに素直なんて本当に怖かったんだろうな。 「いいよ俺もゴキブリは苦手だし実際に本物じゃなくて安心している。それにしてもなんでお前の部屋は誰もいないんだ?」 「先にお風呂に行ったのよ。あたしも行こうと思ってスーツケースをあけてたらゴキブリに気づいて」 それにしてもこいつに女子の友達なんかいたか? 「ねぇキョン!お詫びにジュースおごってあげるから少し外散歩しない?」 「こんな時間に抜け出すのか?先生たちにばれたら大変だぞ?」 「このあたしの誘いを断る気?そんなのばれなきゃいいのよ」 もういつものハルヒに戻っていた 俺も実際特にすることもないのでハルヒの言うとおり窓から外へ抜け出した 「いいわねぇ~北海道の夜って涼しくて」 ホテルの外は少し車の走っている程度の道が有るくらいだったが 車のヘッドライトの明かりに映されるハルヒの姿はとても輝いて見えた。本当にキレイだった 「なっ、何見てんのよ?」 ハルヒに見とれていたことをハルヒに気づかれてしまった 「いや、特になんでもない」 とっさにごまかしてみたがムリであろう 「怪しいわねぇ~・・」 ハルヒに見つめられていた次の瞬間ハルヒは俺のポケットから財布を抜き取り走り出した 「お、おい!」 「返してほしければ追いついてごらんなさい!」 まるでいたずらをした子供のようにハルヒは笑っていた って最初はそんな余裕をかましていたがハルヒの足は速かった 普通こんなとき全力疾走しても追いつけない速さで走るか? 「ハァハァ。 ちょ、まってくれ 」 「情けないわね~」 ハルヒの油断した瞬間に俺は財布に手を伸ばした するとハルヒはバランスを崩してしまい転倒 俺も引っ張られるように転んでしまった 俺はハルヒを守ろうとしたんだ。これは本当だぞ そう、ハルヒを守ろうとして右手でハルヒの頭を抱え込むようにして俺はハルヒの上に倒れこんだ まぁつまり抱きしめているような状態だ 「イテテテテ・・・。」 「イッタ~ちょっとキョ・・」 すぐにハルヒを離したが助けようとしたのは事実であるが結果としてハルヒに抱きついてしまった 蹴りでも喰らうと覚悟をした 覚悟をして目をつぶったが何もこない おそるおそる目を開いてみると ハルヒが頬を赤らめて座っているだけであった 「ご、gおあ、ごめん。そそんな下心とかはなかったんだぞ」 俺のいいわけもハルヒの耳には通っていないようだった 「ハルヒ?」 声をかけてようやくハルヒは気がついた 「なっなにしてくれたのよ」 その顔は怒っているというよりもむしろ照れているように俺には見えた 俺は立ち上がりハルヒに手を差し伸べた ハルヒは俺の手をとるが下を向いたままであった 「ねぇキョン?」 「なんだ?」 「あたしあの丘の方へ行ってみたい。」 ハルヒに手を引かれるまま俺たちはその丘のほうへ ふもとに看板があったがどうやらこの上には公園があるらしい 「暗いから足元気をつけろよ」 「大丈夫、こうやってキョンに掴まってるから」 なんとかケータイの明かりを足元に集め俺たちは公園を目指して歩いていった ふもとから見るのと違って実際に上ってみるとなかなかの距離があった その間俺とハルヒはさっきのことがあってかほとんど口を聞くことが出来なかった その空気を乗り越え山道を乗り越え俺たちはようやく頂上の公園にたどり着いた そこから見える景色は言葉では言い表せないほど美しかった 光り輝く街もさることながらやはり 「海 山 空」 北海道の自然の景色に勝るものはないだろうと思った 「きれー」 「あぁそうだな」 俺たちは景色に見入ってしまっていた 俺の左側に立っていたハルヒがだんだんと俺のほうへ近づいてくるのを感じた 「ねぇキョン。」 「なんだ?」 「私たちが出会ってからもうだいぶ経つね。」 「あぁそうだな。」 「最初ね、キョンに会ったときはまたつまらない男だなと思ってたんだ」 「俺も似たようなもんだ。最初にハルヒに会ったときはなんなんだこいつは?と思ったからな」 「でもね、今ならそんな最初に思ったことを取り消してもいいわ」 今ハルヒはなんと言った?もしかしてこのシュチュエーションでこの流れ。もしかしてもしかするのか!? そんな俺の自意識過剰もはなはだしいよな だがあのバスでハルヒの寝顔を見てからというもの俺の中で芽生えた感情はやはりハルヒに対する恋心だったのか? やけにドキドキする 「あぁ」 特に何もハルヒに言い返すことが出来なかった「あぁ」ってなんだよ「あぁ」って! 「それでねキョン・・」 ハルヒがまた一歩近づいてくる 俺の胸の高鳴りはピークをゆうに超えている ドキ・ドキ・ドキ ハルヒが近づいてくる ハルヒの匂いが感じ取れる 次の瞬間俺は目を閉じた そしてハルヒは・・・ パシャ! ?パシャ!って あろうことかハルヒは俺のキス顔をケータイで撮影していた! 死にたい!死ぬほど恥ずかしい!いっそ俺を殺してくれ 小悪魔のような笑顔でハルヒが微笑む 「べーッ!」 「ちょ、ハルヒ!」 「私の唇とキスなんてできると思ったの?」 死にたい死にたいお願いだ誰か俺を閉鎖空間に閉じ込めてくれ 俺はハルヒに対して怒る気力もなかった 「そ、そんな・・」 俺はうなだれたそれは恥ずかしさから来るのだろうかそれとも一方的な片思いに落胆したのだろうか 「ちょ、ちょっと最後まで人の話はききなさいよ勝手にうなだれてないで」 ハルヒが何か言っていたが聞こえなった 「あたしは別にキョンが嫌いとかそんなんじゃないのよ!」 ????????? 「ただ、」 またしても赤くなり下を向くハルヒ 「ただ?」 「ただ、お互いの気持ちも伝えてないのにっておもって・・・」 ハルヒよハルヒ本当にその言葉を信じてもいいのか?俺はもう次にさっきのようなことがあっても立ち直れるほどHPは残っていない 「ちょっとキョンきいてる?」 「あぁ」 「じゃあ言うからね。あたしはキョンが好き。キョンがいなければ毎日今のように楽しい生活なんてできてないと思ってる 今のあたしはきっとキョンなしではいられないと思うの。だからこんな女だけれども一緒にいてほしい。」 下を向きもっと赤くなるハルヒ かわいいかわいすぎえる!今すぐに抱きしめたい! 「お、俺もハルヒ、お前が好きだ。なんだかんだでハルヒに振り回されたりもしたが今はやっぱりハルヒといるのが一番楽しい 俺の気持ちも一緒だ。俺もハルヒと一緒にいたい」 そうして俺はハルヒを抱きしめた そして俺は少し屈み、ハルヒは背伸びをし唇を重ねた その光景を北海道の美しい光景が見守っていてくれた 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2120.html
お悩みハルヒ ~1部・片思い発覚編~ ~2部・決意と告白編~ ~3部・不思議な返答編~ ~最終部・主導権の行方編~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5168.html
涼宮ハルヒの明日の続編です。 「……と言う小説を執筆する予定。許可を」 って、おぉい!!!ちょっと待ってくれ、長門!! なんで俺が死ななきゃならんのか、きちんと詳しく事細かに説明してくれ!! 「…物語の展開上の必然。 あなたが死んでくれた方が読者の共感を呼び易く、好都合」 俺が死んでくれた方が好都合ってドサクサに紛れて 結構、酷い事を言っちゃってますよ、長門さん…。 「…そう」 『…そう』じゃねぇ!!しかも、なんで皆の名前は若干、変わってるのに 俺だけ『キョン』のまんまなんだよ…ハルヒはハルヒで… 「ちょっとこれ、何なのよ!?有希!! 別にキョンがどうなろうとそこは構わないとして…」 いやいやいや、ハルヒ!どうでもよくはないだろ?そこは!! 「なんで私とキョンなんかがこんなちょ、ちょっと… 微妙な、変な感じの関係になっちゃってんのよ!?」 「…大丈夫。問題は無い。皆、認知しているから」 何を!? 長門は不思議そうに首を傾げている。 「…駄目?」 「駄目っ!!」 俺とハルヒ、2人同時に駄目出しを受けて却下された為だろうか、 長門が少しいじけているように見えるのは気のせいか。 長門が椅子に座る瞬間に 「…有機生命体の死の概念が理解出来ない」 と、ぽつりと呟いた台詞が耳を離れない… 怖いよ…長門、お前が言うと冗談に聞こえないから…。 そう、俺達は次の文芸部の会誌に載せる作品作りの為、 文芸部員として、冬休みを返上して『編集長・涼宮ハルヒ』のもと、 それぞれの作品の企画作りを遂行している。 例のごとく、それぞれの課題をくじ引きで決めたのだが、 今回の長門は多くは甘酸っぱさとほろ苦さをふんだんてんこ盛りに兼ね備えた 青春群像劇ものを引き当てたのだが…長門にとっては苦手なジャンルなのだろう、 何故、あんなストーリーになっちまったのかは俺には理解しかねる。 「長門さんの作品、そんなに悪いようには思えませんが…」 古泉はニヤニヤしながら俺の顔を見ている。何だよ? 「そういうお前はどうなんだ?古泉。ちったぁマシな作品は出来そうなのか?」 「えぇ、去年のあなたの恋愛小説には負けられませんからね」 そりゃ嫌みか? 「推理小説ですからね、トリックの発想次第なのですが…」 そりゃ理系のお前さんらしい実に論理的な作品になりそうだ。 朝比奈さんは受験の為、今回の企画作りには参加していないのだが、 1年前からハマっていたのか、もうすでに童話の作品を書き溜めているらしく、 「自信作を置いておきますので皆さんで読んでみて下さ~い♪」 と、机の上にアルプス山脈の如く、積み上げていった。 しかも、イラスト付きらしい。 「さすが我がSOS団のマスコットキャラ。萌えツボを心得た仕上がりだわ」 と、編集長は妙な唸り声を上げている。 その唸り声を上げている当の編集長、ハルヒは 当初の割り振りでは社会悪に迫るノンフィクション作品だったのだが、 電波なSFものになったり、悪の秘密結社と闘うヒーローものになったり、 いつも書く度に脱線していってる。ハルヒ曰く、 「これくらい飛んでる設定の方が面白いじゃない!!」 と言う意見らしい。 俺はと言うと、今年もどうやら恋愛小説を書かなければいけないみたいだ… しかし、何も思い浮かばん!!そして、眠い!! これはピンチだ…恋愛ものなんて去年でほとんど出尽くした感がある…。 それこそ、健全健康たる男子高校生が日夜、頭に浮かんでは消える 妄想をそのまま書くという手もあるが、そんな事をした日にゃ 二度とこの学校には顔を出せなくなる。 そして、恐らく学校中の女性と口を聞くどころか 相手にもしてもらえなくなるだろう。 そうなっちまったら俺の高校生活はまさに閉鎖空間だ。 その時、携帯が震えた。メールみたいだ。 From:佐々木 タイトル:無題 本文:やぁ、キョン。今夜、時間はあるかい? まぁ、キョンは頼み事を断れない性格だから きっとOKしてくれるんだろうけどさ。 場所はいつもの公園に8時だ。 もし、涼宮さんと何か用事があるのなら 僕に遠慮はしないでくれたまえ。 断ってもらっても構わないよ。 ハルヒ?別に今日はこの後、用事も無いし、まぁ佐々木だから別に良いだろ… 俺は軽くOKの返事を出した。 「ちょっとキョン!!あんた、企画もろくに出さないで 何、携帯いじってサボってんのよ!?」 編集長の怒鳴り声が耳をつんざく。 「いや、サボってる訳じゃなくてな、 今年も恋愛もので正直、何のアイデアも思い浮かばないんだよ… そんなに経験豊富という訳でもないしな」 ハルヒが俺の顔をジッと睨みつけてきている。 何をそんなにジッと見ているんだ?俺の顔に何か付いてるのか? 「本当にそうだとしたらあんた、寂しい青春送ってんのね」 放っといてくれ。 「そういうハルヒは何かアイデア浮かんだのか?」 「私はノーベル文学賞も狙えるくらいの現代社会の暗部にメスを入れた 一大スペクタクルな社会派傑作になる予定よ!!」 「予定って事はハルヒもまだ何も思い浮かんでないんだな?」 グッと唇を尖らせたハルヒの顔を見て、つい悪戯心が芽生えて、 皮肉たっぷりに溜息をついてやった。 「まぁ、編集長には期待してるよ」 「フンッ!!」 ハルヒはそっぽを向いた。 「ところでキョン、今夜、暇?」 ハルヒは腕を組んで見下ろしている。 「どうした?」 「どうしたもこうしたもないでしょ!?あんたが何も思い浮かばないって言うから 本屋にでも回って団長としてネタ探しに付き合ってあげんのよ!! 何か資料かヒントでもあったら参考になるでしょ!?」 古泉はニヤニヤと笑っている。何がおかしいんだ? 「い、いや、今夜はちょっと…」 そう断ると、その瞬間ハルヒの顔に暗い影が差した。 古泉にも強い視線を投げ掛けられた気がする。 でもな、ちょっと待ってくれ。今回はちゃんと先約があるんだ。 確かにハルヒのご機嫌を損ねると世界がとんでもない事態に巻き込まれる という事はこれまでの色々な騒動のお陰で十二分に承知しているつもりだ。 だが、それでハルヒの全てを優先する訳にはいくまい。 佐々木にも一度OKを出してやっぱダメと言うのはあまりにも身勝手な行為だ。 ハルヒを守る為に他の誰かを傷つけるというのはそれは人として違うだろう? 要は順番、順序の問題だ。 「まぁ、明日なら大丈夫だけどハルヒはどうだ?」 「あんた、自分の都合に合わせて私に命令する気!?」 ハルヒはいつも俺にそうしてるじゃないか… 「じゃあ、明日でも良いわよ!!その代わり、ろくなアイデア出ないようなら 正月返上で合宿するからね!!」 何でだよ… 結局、その日は何も思い浮かぶ事なく、長門の本日終了の合図で解散となった。 冬は陽が落ちるのが早い。 暗い坂道を4人でトボトボと歩いていた。 そういや、佐々木の用事って何なんだろうな? しばらく音沙汰なかったと思ったら突然、メール寄越したり、 また何か厄介な問題を引っ張って来るんじゃなかろうな… 古泉は俺に何か言いたげな顔をしているが…何だよ? 「では、僕らはこのへんで」 古泉と長門は去って行った。 ハルヒと2人でボーッと道を歩いている。 今日のハルヒは大人しい。 と言うか、さっきから一言も口を聞いていない。 「どうした?」 ハルヒの顔を見ようとしても日が沈んで暗いのと 髪の毛で顔が隠れていてよく見えない。 「…何が?」 「今日は随分と大人しいじゃないか?」 「うっさいわね…別に良いでしょ」 「…そうか」 気まずい沈黙が流れる。 「…私、帰る」 ハルヒはそう言うといつもと違う道を曲がっていった。 理由は分からんが多分、閉鎖空間発生なんだろうな。お疲れ、古泉…。 一度家に帰って夕飯を食べてから行こうかどうか迷う微妙な時間だった。 今日は雪で路面が凍っていたので自転車には乗ってきていない。 まぁ、飯は後で良いか。 そんな事を考えながら1人で歩くと白い息が身も心も冷やしていく。 そう言えば、1人で歩いたのって久し振りな気がする。 いつもハルヒやSOS団の誰かと一緒にいた。 SOS団の仲間と過ごした時間の濃密さを感じる。 少し早いかと思いつつ、佐々木と俺の家のちょうど中間に位置する 公園へと辿り着いた。 中学生の頃はよくここで色々な取り留めの無い話をしながら時間を潰していた。 「キョン!」 30分前だと言うのに佐々木はもう公園のベンチに座っていた。 「早いな、お前、いつからここにいたんだ?風邪引くぞ」 「くっくっ、大した時間ではないさ。僕に無用な気遣いはしないでくれたまえ」 「今日は1人か?」 あのやたらムカつく未来人や敵意むき出しの超能力者、 会話不能な幽霊みたいな宇宙人がいたらうんざりする所だ。 「おや?僕一人ではご不満かい?」 「いや、むしろお前だけの方が良い」 佐々木はニッコリと笑った。 「まるでプロポーズでも受けるみたいではないか?」 「馬鹿、からかうな」 それから佐々木と他愛の無い話をした。 別になんて事はない、お互いに期末テストはどうだっただの クリスマスはどうしただの、今日はこんな事をやってあんな事があった、 中学時代の想い出、大した話はない、 久し振りにあった旧友と昔に戻ったようなリラックスした笑い話をしていた。 ふと会話が途切れた瞬間に切り出してみた。 「今日はどうした?」 いつも強く俺を見据えて来る佐々木が珍しく俺から目を逸らした。 「さて、どうしたんだろうね、僕は」 俺達はこんな真冬の公園で禅問答をしにきたのか? 「これを気紛れとでも言うのだろうか?久し振りにキョンと話をしたくなったのさ」 「まぁ、そりゃ別に構わんが…悩みやストレスがあるなら 抱えずにどっかに出した方が精神衛生上よろしいと昔、言ってたのはお前だぞ」 「キョンは鈍感な割には時々、一周遅れで核心を突いてくるから面白い」 佐々木はサバサバしているようで意外と一人で悩みを抱えるタイプだからな… 「ところでキョンには悩みなんてものはないのかい?」 俺?俺にはそうだな…まぁ、色々とあるっちゃあるが… とりあえず目先のものとしては、 「恋愛小説のアイデアが思い浮かばない」 なんて佐々木に相談しても仕方が無いな…こいつもハルヒ同様、 『恋愛感情なんてものは精神病の一種』主義者だからな。 「くっくっ…なんだい?それは。君は時々、突拍子も無い事を言い出すから 本当にいつも予想の範疇を超えているよ」 やっぱり言うんじゃなかった…俺は日記にポエム書いてる夢見る乙女かよ。 「まぁ、聞いてくれたまえ。橘京子って覚えているかい?」 あぁ、あの佐々木の傍にいる面倒臭そうな超能力者だな。 「彼女がね、ここ最近、以前にも増して煩くってね。 涼宮さんの持つ世界を改変させる力は本来、僕が持つべきものだ、 世界をあるべき姿にしなければならないと、こう僕の耳元で急き立てるのさ」 「あぁ」 「僕としては正直、そんなものはどうでも良い瑣末な事柄と認識しているのだが、 彼女は僕のそういう姿勢や態度も含めて色々とご不満があるらしい」 ハルヒみたいな力を手に入れたらそれはそれで 周りの人間も色々と大変なんだがな…。 「そして、キョン、君にもね」 「俺?」 「橘さんにとってキョンは涼宮さん側についてる人間としての敵、そして女の敵らしい」 女の敵って…俺は女性にそんな酷い事をした覚えはないのだが… 「くっくっ、呆れているのかい?僕も驚いたがね。 キョンにはそんな女の敵だなんて言われるような記憶も自覚もないという表情だね」 当たり前だ、まともに会話もした事のないような女に あんたは女の敵だと言われてもこちらとしてはリアクションの取りようもない。 「まぁ、キョンが女性をそんな手篭めに出来るような技術と精神構造を 持ち合わせているような人間ではないと言う事は僕もよく理解しているつもりだがね」 褒められてんのか、けなされてんのか、よく分からん… 「橘さんは僕に世界を自分の思い通りに変えたくはないのかと散々、講釈してくる。 それは僕だって世界に不満が無い訳ではない。人並みの欲望はあるつもりだ。 しかし、だからと言ってそれとこれとは別の話だ。 キョンの意思に反してまで君を巻き込むのは僕の意図する所ではないからね」 俺の意思? 「その力を得る為にはキョン、君の協力も必要なんだとさ」 協力っつってもなぁ… 「だから、橘さんは僕にキョンの意思を確かめてきてくれと、こう頼んできた訳さ」 「俺の意思を確かめるってどういう意味だ?大体、佐々木。 よくそんな面倒な話に付き合ってるな、以前のお前なら考えられん」 佐々木は少し含みのある微笑を向けてきた。 「僕にも少々、興味深い事柄だったものでね」 「で、その俺の意思を確かめたら大人しくなってくれるのか?」 「どうかな?それは未確認だった」 やれやれ… 「で、その橘さんとやらはこの地球の半分を埋め尽くす全人類の 半分を占める女の敵であるこの俺に一体全体、何をして欲しいんだ?」 佐々木は微笑を崩さずにジッとこちらを見据えている。 「僕とキョンに恋仲になって欲しいんだとさ」 は??? 「まぁ、所謂、恋愛関係というやつだね。驚いたかい?」 いやいやいや…何を言い出すんだ、こいつは。 あの面倒なとんちき超能力者、佐々木に何か吹き込むにせよ、勘違いも甚だしいぞ。 「くっくっ、鳩がバズーカ砲喰らったみたいな顔をしているね」 バズーカどころか大陸間弾頭ミサイルが顔面に直撃したような威力だ… 要は俺と佐々木に、その、なんだ…付き合えって言ってる訳だろ? そんな事、これまで考えもしなかった…。 大体、そんな事になってハルヒが何と言うか……いや、ハルヒは関係ないだろ! いや、関係あるのか?やばい…混乱してきた…頭の中がパニックで暴発しそうだ… 「お前は以前、『恋愛なんて精神病だ』なんて言ってなかったか?」 「くっくっ、ねぇキョン」 「…何だ?」 「今日、涼宮さんは非常に不機嫌ではなかったかい?」 な、なんで知ってるんだ!? 「やはり正解だね」 佐々木はパズルを解いた子供のような笑顔で笑っている。 「キョンは鈍感ではあるけど、その反面、素直で誠実だからね」 佐々木は自分の鼻を人差し指で差している。 「鼻の膨らみを見ればキョンが何を考えてるのかおおよその見当は付くのさ、 しばらく付き合えばね。 キョンは嘘はつけない、ついてもすぐにバレてしまうタイプなのだよ」 そ、そうだったのか…これからは気を付けよう…。 「くっくっ、涼宮さんも苦労している事だろう。なんせ相手は鈍いを通り越して、 ただ何も考えちゃいないだけなんだからさ」 どういう意味だ?ともかく、また一つデッカい悩みが増えちまった… 「それとね…『恋愛なんて精神病』って言葉には様々な意味合いが込められているのさ」 そんな雁字搦めの糸のパズルみたいな謎解きを一気に俺に与えないでくれ… 問題は一つずつしか解決出来ない性分なんだ…。 「今日の僕からの話はまぁ、そんな所さ。あぁ、あと返事はいつでも構わないよ。 取り急ぐ問題でもないしね、じっくり考えてくれたまえ」 佐々木は立ち上がりながら俺に笑いかけている。 「あとさっきキョンが言ってた恋愛小説、僕の事でも書けば良いのではないのかい?」 そう言いながら佐々木はくるりと背を向けて灯りも暗い夜の公園を歩き出した。 佐々木を家まで送っていくまでの道すがら、結局、大した会話もなかった。 帰宅しても夕飯を食べる気力すら起きない…どうせ飯も喉を通らないだろう。 ベッドに突っ伏して佐々木の言葉を思い出していた。 あいつはいつから俺にそんな感情を抱いていたんだ? つい最近になってか?いや、中学の頃からずっとだったんだろうか? 「キョンく~ん♪」 なんだ?我が妹よ、はさみでも借りに来たのか? あと、お兄ちゃんの部屋に入る前にはちゃんとノックをしなさい! 部屋の中で何やってるか分かんないでしょうが!? トラウマになって兄妹仲が壊れちゃうかもしれないぞ!! 「キョンくん、恋煩い?」 なんでそんな一発で核心を突いてくるんだよ… 「キョンくんがご飯食べないのなんて珍しいもんね、何だったら私が相談に乗るよ♪」 小学生に恋愛相談、持ちかけてもな… 「大丈夫、ちょっと風邪気味なだけだ」 妹は首を傾げている。 「ふ~ん…やっぱり恋煩いなんだね♪」 あ、しまった…鼻か… 「パパとママには風邪って事にしといたげるよ♪高校生!」 やれやれ… そうだ。ここはとりあえず明日、誰かに相談しよう、そうしよう。 「おや?珍しいですね?それで僕に相談事とは何でしょうか?」 真っ先にこの古泉の顔しか思い浮かばなかった俺の人間関係はどうなんだろうか? 谷口は論外、国木田という手もあるが、問題は恋愛の話だけじゃないからな。 それに不本意だが、古泉は無駄にモテる、女の扱いには慣れていそうだ。 良い答えを出してくれそうな気がする。 冬休みの学校は静かで昼時と言えども誰もいない。 「昨日は大変だったのか?」 昨日のハルヒはえらい不機嫌だったからな。 「いえ、それほどではありませんでしたよ」 そうか、そりゃ良かった。 「ところで古泉…」 「色恋沙汰ですか…」 まだ何も言ってないぞ!! 「まぁ、付き合いも長くなってきましたからね、大体分かりますよ」 これも鼻か?俺の鼻は一体、どうなってるんだ? 俺は事の顛末を古泉に語った。古泉は意味ありげに頷いている。 「それは……実に複雑且つ、重大な問題ですね」 そうなんだよ…俺にとっちゃ世界中の知恵の輪を全て絡み合わせたような問題だ。 「…あなたはどうしたいんですか?」 え?俺? 「機関の人間としての僕は涼宮さんを選んでもらいたいとは思います。 勿論、同じSOS団の仲間としてもね。 しかし、あなたの友人としての僕はそこまで強制したくはありません。 あなたの想いまで無理矢理、ねじ曲げたりはしたくありませんから。 あなたがどちらを選ぶか、そう、どちらに女性としての魅力を感じるか、 問題はそこですね。 自分の想いに素直になるしかありませんし、逃げる事も出来ません。 あなた自身が答えを出すしかないでしょう」 古泉に相談料として自販機でコーヒーを奢っていると テンションの高い声が降り掛かってきた。 「おんや~!お二人さん、何やってんだい!?冬休みにまでラブラブっさね!」 変な誤解をされるような事を大声で言わないで下さい、鶴屋さん…。 「SOS団の合宿ですね♪お二人でお昼ですか~?」 あなたのそのプリティーなオーラは霜の降りた中庭も 全て溶かしてたんぽぽ咲かせちゃいますよ、朝比奈さん♪ 「それでは僕はこのへんで」 古泉は軽く会釈をして一人、部室棟へと向かっていった。 「朝比奈さんと鶴屋さんは今日はどうなさったんですか?」 「今日はクラスメイトの皆で集まって受験のお勉強してたんです♪」 鶴屋さんが俺の肩に手を掛けてきた。 「ハッハ~ン…キョン君、恋の悩みだね!」 またか!?鼻!! 「とうとう付き合う事になったのかい!?それともこれから告白!? どっちからにょろ!?告白するの!?したの!?されたの!?」 滅茶苦茶、興味本位ですね…鶴屋さん。 「やっぱりそこは男の子からですよね~♪」 いいえ、女性からでした。 そうだ、女性ならではの視点から、というのもあるな…相談してみるか。 二人に相談すると、さっきまでハイテンションとは打って変わり、 予想以上に複雑な物凄く重~い空気になった…。 何なんだ、これは一体? 「キョン君、それは酷いっさ…重過ぎるにょろ… 受験勉強に悪影響っさ…大学受験に失敗したらキョンくんのせいにょろよ?」 こんなに沈んだ鶴屋さんは初めてだ…。 「涼宮さんも佐々木さんも可哀想…キョンくんがこれまでずっと はっきりしない態度のままでいたからどちらかが傷つく事態になったんです。 2人とも純粋な想いなのに…キョンくん、最低です…」 俺も悩んでるんだが…女性の視点からすると俺の自業自得なのか? まさか朝比奈さんに最低とまで言われるとは…またちょっと泣きそうだ…。 「ともかく…もうこれは覚悟決めるしかないっさ」 「そうですね、曖昧なままだとまた同じような事が起こるでしょうし、 キョンくんの為にもならないですからね」 朝比奈さんと鶴屋さん、2人の眼光が野獣のように鋭く光っている。 「さぁ、キョンくんはどちらを選ぶにょろ…?」 「お二人のうちのどちらをキョンくんは選ぶんですか?」 あ…いや…その… 「どっち!!」 2人の叫び声が最後の審判を求めてきた。 ちゃんと答えははっきりさせますと、何とか2人の追及の逃れて、 部室に戻ると朝までは特に変わりのなかったハルヒは 昼休みを挟んで全く別人のように思いっきり俺を睨み据えて 噛み付いてきそうな勢いで座っていた。 「どうしたんだ?ハルヒ」 ハルヒは無言のまま、ダークでヘヴィーな邪悪の化身のようなオーラをまき散らしている。 何だ?俺、何かしたか?とりあえずここはあまり話し掛けない方が良さそうだが…。 「すみません…ちょっと急なバイトが入ってしまったようで」 古泉は俺をチラッと見るとそのまま部室をあとにした。 長門は淡々と小説を書いている。 ほとんど、このダークハルヒと二人っきりの空間に取り残されているようなもんだ…。 気まずい…こんな空気の中で小説を書くなんざ、とてもじゃないが無理だ… クリエイティヴなアイデアが思い浮かぶ空間とは思えない…。 その時、ハルヒがおもむろに立ち上がった。部室を出て行くようだ。 「おい、ハルヒ。どこ行くんだ?」 無神経に声を掛けた俺の失敗だった。 ハルヒは足を止め、恐ろしくドスの利いた低い声で 「…どこに行こうが私の勝手でしょうが」 と、睨みつけてきた。 メデューサに睨まれた俺はその場で石になった。 部室の扉が吹っ飛んで壊れそうな勢いで閉まった。 長門がこちらを見つめている。 「…行って」 追い掛けろって事か? 長門は無言で首を縦に振った。 追い掛けろってな…核弾頭の嵐の中に素っ裸で飛び込むようなもんだぞ…。 「…早く」 やれやれ…分かったよ…。 「おい!ハルヒ!」 ハルヒは走るのも速ければ歩くのも速い。 ハルヒの肩を掴むとようやく立ち止まってくれた。 「おい、ハルヒ。お前さっきから急にどうしたんだよ?」 「…離して」 ハルヒは振り返りもせずに答えた。 「いや、離せって、ハルヒ。いきなり理由もなく、どうしたんだ?体調でも…」 「…さっき、お昼ご飯買いに外に出た時に校門で橘さんって人と会った」 げ!? 「あの佐々木さんの知り合いでしょ?全部聞いた…」 「いや、だから、あれはだな……」 えぇ~っと…何をどこからどこまで話せば良いんだ? その時、ハルヒは肩に置いてある俺の手を取った。 殴られるか!?と、身構えると意外にもハルヒは俺の手をそっと下ろした。 「…ううん、大丈夫。キョンは何も言わなくても良いの…」 そういうハルヒの細い肩は震えていた。 「どうしちゃったんだろう?さっきから変だよね、私…。 …佐々木さんとキョンは昔からの付き合いでお互いに凄く分かり合ってるから …ひょっとして私、それが悔しいのかな?でもちょっと寂しかったり、悲しかったり… 自分でも怒りたいのか、泣きたいのか、よく分かんないの……」 ハルヒは俯いたまま、聞いた事もないような、か細い声を出している。 「…ごめんね、キョン。訳の分からない事ばかり言っちゃって」 そう言いながらハルヒは振り向き、俺にいつもの太陽のような笑顔を向けてきた。 「佐々木さんとキョンならお似合いだと思うわ! だから、あんたの勝手で好きなようにどこへなりとも行きなさい!! いつもみたいにボーッとしてたら捨てられちゃうわよ!」 ハルヒはそう言い残すとどこかへ走り去って行った… SOS団の皆で楽しい事をしている時に見せるような いつものハルヒの満面の笑みが余計に俺の心に突き刺さった――― もう答えは決まっていたのかもしれない… 自分の中ではもう分かっていた事なのに友達以上恋人未満の楽な関係に満足していた。 ハルヒに対しても…佐々木に対しても… 「やぁ、キョン」 佐々木は冬休みだからだろう、連絡するとすぐに出てきた。 駅前は師走の忙しさに賑わっている。 「ひょっとして昨日の答えかい?キョンにしては珍しく問題を解くのが早いね」 あぁ、難解極まり無い大問題だったけどな。 「まぁ、僕もあれから色々考えたのさ。他人の意見を鵜呑みにして 自らの考察を怠るのは進歩を止めると言う事に繋がるからね」 考察の結果はどんなもんが出たんだ? 「きっと僕はね、嫉妬していたのさ、涼宮さんにね」 嫉妬? 「僕の中学時代はね、キョン、君との時代だと言っても過言ではない。 それほど君とは長く濃密な時間を過ごしてきたからね」 まぁ、それは俺もそうだからな。 「しかし、その時間はあくまで過去のものにしか過ぎないのさ。 人は想い出に浸るだけでは進歩はない。常に今を生き、未来へと歩を進めなければね」 佐々木の髪が風で舞い上がる。 「キョンにとって、僕との時間が過去とするならば、現在は涼宮さんとの時間。 そして現在は必然的に未来へと繋がっている。僕との時間は未来に繋がる事はない。 だからこそ僕は涼宮さんに嫉妬したのさ。そして不本意ながらも橘さんに促され、 涼宮さんの力も含めて、キョン、君を取り戻したい、君の傍にいたいと考えた。 君と僕との時間を過去のものではなく、未来へと繋がる現在の時間として 2人で動かしたいと考えた。 それを恋愛感情と呼ぶべきかどうかは、すまない、まだ考察不足だ。 差し当たってはキョン、君の意見も伺いたい所ではあるがまずは僕の結論から。 やはり僕は君と……」 私は一人、屋上で泣いた。 もうキョンはSOS団には戻って来ないだろう…… こういう時に限って楽しかった想い出ばかりが頭をよぎる…… もうちょっとだけで良いからキョンと一緒にいたかった…… そう思うとまた涙が勝手に溢れ出てきた。 冷たい冬の風に煽られて髪は乱れた。 屋上で泣いていたのはどれくらいの時間なのだろう? キョンを忘れる時間はどれくらいの時間なのだろう? いや、きっと無理だ…どんな形であれ、彼はもう私にとって一番大切な人になっている。 決して彼を忘れる事なんて出来ない… だから、私は何があってもずっとあなたを好きで居続ける… ありがとう、キョン――― 屋上で心を落ち着かせてから部室に戻るとみくるちゃんと古泉君がいた。 うん、よしよし、有希も筆が進んでいるようね。 さっ!どんどん書きましょう!キョン一人分くらい私がどうにかするわ! 今なら物凄い閃きがガンガン湧いてきそうな気がするのよね! 天才的な文学的才能が目覚めたのかしら! 時間たっぷりまで書き上げ、いつものように有希の本を閉じる音を 終了の合図に本日解散!! さっ!今日はもう暗いから皆で帰りましょう! 「あんた、ここで何やってんのよ!?なんでこんな所にいんのよ!?」 入り口の前で立ち尽くしている俺を見たハルヒは埴輪のような顔をして 呆気に取られ驚いていたかと思うと今度は俺に向かって叫んでいる…鼓膜破けるわ… 「何って?会誌に載せる小説の企画を考えなきゃならんだろ?」 ハルヒは顔を歪めて怒鳴り散らしてきた。 「そういう事聞いてんじゃないわよ!? なんであんたがここにいんのかって聞いてんの!?」 あぁ~…もうだからそんな大声出さんでも聞こえてるって…。 「ハルヒがさっき言ったんだろ?勝手にどこへなりとも俺の好きな所へ行けって。 だからここにいるんだよ」 ハルヒは笑ってるのか怒ってるのか顔を歪めているが、 奥の長門といつの間にか部室にいる朝比奈さんと古泉はしたり顔でこちらを見ている。 「佐々木さんは!?」 「あぁ~…佐々木とはどんな形であれ他人に無理強いさせられるような 関係じゃないからな、断ってきた。 と言うか正確には断ろうとして呼び出したんだがな、向こうから 『やはり僕は君とだけはこんな無理強いするような形での関係はごめんだ』と断られた。 告白されて答えも伝えないうちにフラれるなんて、きっとこれはトラウマになるぞ…」 ハルヒはジーッと俺の顔を睨んでいたかと思うと納得したように頷いている。 「どうやら嘘はついていないようね…」 また鼻か…ハルヒまで分かってるとは…一度、俺の鼻がどうなってるのか誰かに聞こう… 「さっ!ハルヒ、行くぞ。」 俺はハルヒの手を取った。ハルヒはびっくりしながらも嬉しそうに笑っている。 「い、行くってどこへ!?」 おいおい、もう忘れたのかよ…。 「昨日、約束しただろ?放課後、一緒に恋愛小説のネタを探しに行こうって!!」 お前とならもっと面白い小説の続きが書けそうだよ―――― The End
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5374.html
~部室にて~ ガチャ 鶴屋「やぁ!みんな!」 キョン「どうも」 みくる「鶴屋さんどうしたんですかぁ?」 鶴屋「今日はちょっとハルにゃんに話があるっさ!」 みくる(あぁ、あのことかぁ) ハルヒ「え?あたし」 鶴屋「そっさ!」 ハルヒ「?」 鶴屋「明日、ハルにゃんと長門ちゃん、みくるとあたしで遊び行くよ!」 ハルヒ「でも明日は団活が」 鶴屋「名誉顧問の権限を行使させてもらうよ!」 ハルヒ「えっと……有希はいいの?」 長門「構わない」 ハルヒ「みくるちゃんは?」 みくる「わたしは鶴屋さんから、事前に言われてましたからぁ」 ハルヒ「古泉君とキョンは?」 古泉「つまり男性禁制ということですよね?僕は大丈夫ですよ」 キョン「あぁ、俺も問題ない」 鶴屋「ハルにゃんはどうなのさ?」 ハルヒ「う~ん、そうね。たまにはいいかも」 鶴屋「じゃあ決まりっさ!」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ 鶴屋「さぁ、こっからは女の子同士の話し合いの時間だよ!男子諸君は出てった、出てった!」シッシッ 古泉「そういうことなら帰りますが、よろしいですか涼宮さん?」 ハルヒ「そうね。今日は鶴屋さんに免じて二人とも帰っていいわよ」 キョン「じゃあそうさせてもらうぞ」 古泉「それでは、みなさん。また来週」 みくる「お気をつけて」 鶴屋「バイバ~イ」フリフリ ガチャ 鶴屋「さて、男子は追い払ったね。それで明日は何時頃なら大丈夫?」 ハルヒ「どっちにしろ朝から団活のつもりだったから、何時でも平気ね」 鶴屋「長門ちゃんは?」 長門「大丈夫」 鶴屋「みくるも大丈夫?」 みくる「はい」 鶴屋「じゃあ朝十時に駅前ね!」 ハルヒ「わかったわ」 鶴屋「それとさ、お弁当は持参だよ!」 みくる「近くにお店はないんですかぁ?」 鶴屋「ないことはないけど」 ハルヒ「別にいいんじゃない?」 鶴屋「さすがハルにゃん、話が分かるっさ!」 ハルヒ「どうせだから勝負しましょうよ?」 みくる「勝負ですかぁ?」 ハルヒ「そう料理対決!学年別のチーム戦よ!」 鶴屋「ってことは、あたしとみくる対ハルにゃんと長門ちゃんだね?」 ハルヒ「そうよ」 鶴屋「望むところっさ!ねっ、みくる!」 みくる「ふふふ。そういうことなら頑張っちゃいますよぉ」 ハルヒ「有希もそれでいいわよね?」 長門「いい」 ハルヒ「じゃあ今夜は有希のうちに泊まりいくわよ?」 長門「構わない」 鶴屋「それならあたしもみくるんとこ泊まりに行こっかなぁ」 みくる「わ、わたしの部屋はちょっと~」 鶴屋「いつになったら部屋片付けんの?」 みくる「そ、そういうわけじゃないですってばぁ~」 鶴屋「なら今夜はあたしんとこ来なよ!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「それで、鶴屋さん。明日はどこ行くの?」 鶴屋「それは明日のお楽しみっさ!」 ハルヒ「団活休みにするくらいなんだから、楽しみにしてるわね!」 鶴屋「あんまりプレッシャーかけられると困るんだけどな~」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ みくる「涼宮さん、今日はこの後どうしますかぁ?」 ハルヒ「そうね、あの二人帰しちゃったし……」 鶴屋「じゃあ解散でいいじゃん!あたしは明日のレシピをみくると相談せねばね」 ハルヒ「そうしましょっか」 みくる「それじゃあ、一度家に帰って着替えを取りに行きますねぇ」 鶴屋「あたしもついt」 みくる「鶴屋さんはおうちで待っててくださいね」 ハルヒ「みくるちゃん随分かたくなに拒否するわね……何かあるの?」 みくる「そ、そういうわけではないんですけどぉ……」 鶴屋「ハルにゃん、ハルにゃん、みくるはきっと部屋に男を飼ってるんだよ」ボソ ハルヒ「ウソ!?」 みくる「つ、鶴屋さ~ん、そんわけないじゃないですかぁ~」 ハルヒ「みくるちゃんがね~」 みくる「涼宮さんまで~」 鶴屋「あはは、それじゃ解散しよっか!」 長門「……」パタン ハルヒ「有希もきりがいいみたいだしね」 みくる「部屋に男の人なんかいませんからね?」 鶴屋「分かった分かった、ほら帰るよ!」 みくる「適当じゃないですかぁ」 ハルヒ「有希、あたしも家帰って、それから六時半くらいにはマンション行くわ」 長門「……」コク ハルヒ「それじゃあ鍵閉めるわよ?みくるちゃん早く」 みくる「は、はーい」トテトテ ガチャ ハルヒ「よしっと、それじゃ行きましょ」 鶴屋「はいよ~」 ~帰り道にて~ ハルヒ「さすがに夏ね。五時前だってのにこんなに明るい」 鶴屋「日が長くなると一日が無駄に長く感じるよ」 みくる「でも、お洗濯とか出来るし、いいことも多いですよ?」 ハルヒ「みくるちゃん主婦みたいね」 鶴屋「そりゃ仕方ないよ、ハルにゃん。家で主婦やってんだから」 みくる「まだ言うんですかぁ」 鶴屋「あっはっはっはっ!もう止めたげるよ」 みくる「もう!」 ハルヒ「話戻すけど、どうせなら夏が日が短く、冬が日が長く、この方がいいわよね」 長門「それでは生態系がおかしくなる」 ハルヒ「初めっからそうだったらそうゆう進化をするでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「別に、今から変われー!、ってわけじゃないわよ。あくまで希望よ、希望」 みくる(そ、それでも涼宮さんにそう希望されるのは) 長門(非常に困る) 鶴屋「でも、夏の日が長いおかげでいっぱい遊べるんだし、ハルにゃんとしては結果オーライじゃないのかい?」 ハルヒ「う~ん、それもそうね」 みくる「ほっ」 鶴屋「どしたの、みくる?」 みくる「な、なんでもないですよ」 鶴屋「?」 長門「……」トテトテ ハルヒ「それじゃこのへんで別れましょ」 鶴屋「そうだね、明日は覚悟していなよ、ハルにゃん?」 ハルヒ「例え鶴屋さんでもそうはいかないわよ」 みくる「それじゃあまた明日」 ハルヒ「ばいばい」 鶴屋「ばいば~い」フリフリ ハルヒ「それじゃあ有希。またあとでね」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ピンポーン 長門「……」 ???「あたしよ」 長門「知らない」 ???「有希!」 長門「ジョーク。今開ける」 カチャ ハルヒ「毎回毎回よくも飽きないわね」 長門「反応がいい」 ハルヒ「余計なお世話よ。とりあえずあがるわね」 長門「どうぞ」 ハルヒ「お邪魔しま~す。おっ、前より小物が増えてきたわね」 長門「あなたが選んだものがほとんど」 ハルヒ「だって有希全然選ぼうとしないじゃない」 長門「そうでもない」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「よっこいしょっと」バフ 長門「そこは私のベッド」 ハルヒ「知ってるわよ。なんか落ち着くのよね~」 長門「そう」 ハルヒ「なんでかしらね?このまま寝ちゃってもいい?」 長門「構わない」 ハルヒ「いいわけないでしょ、明日のお弁当のおかず買ってこなきゃ」 長門「……」コク ハルヒ「財布は持った?」 長門「持った」 ハルヒ「鍵閉めた?」 長門「閉めた」 ハルヒ「じゃあ行くわよ」トテトテ 長門「……」トテトテ ~移動中~ ハルヒ「有希って小さいくせに歩くの早いわね」トテトテ 長門「あなたが遅い」トテトテトテ ハルヒ「言ったわね」トテトテトテトテ 長門「……」トテトテ ハルヒ「ほら、あたしのほうが早い」トテトテトテ 長門「急ぐ理由がわからない」トテトテ ハルヒ「ぐっ」 ハルヒ「有希って晩御飯まだでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「なんか食べたいものある?」 長門「カレー」 ハルヒ「いつもそれじゃない?作る方としてはもっとレパートリーを増やしてくれた方が、作りがいあるんだけど?」 長門「……」 ハルヒ「って、なんか奥さんの台詞ね、これ」 長門「ハンバーグ」 ハルヒ「いいわよ。それもあたしの得意料理のレパートリーにあるから」 長門「期待する」 ~スーパーにて~ ハルヒ「さて、明日のお弁当の中身どうしようかしら」 長門「カr」 ハルヒ「いい加減にしなさい」 長門「……」 ハルヒ「……そもそも、何を基準で勝ち負けにするか決めてなかったわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「明日みんなで決めればいっか」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「さっきからなに探してるの?」 長門「弁当箱」 ハルヒ「え?」 長門「明日お弁当を持っていくなら箱は必要」 ハルヒ「いや、だから、有希ってお弁当学校持ってたりしたことないの?」 長門「ない」 ハルヒ「……」 長門「?」 ハルヒ「いつもどうしてるの?」 長門「禁則事項」 ハルヒ「は?」 長門「ジョーク」 ハルヒ「はぁ、まぁいいわよ。食材コーナーにはないからあっちに探しに行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「スーパーにしては結構種類あるわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「どれにするの?」 長門「これ」 ハルヒ「それは保存用のタッパーよ、それ以前に大きすぎよ!」 長門「いける」 ハルヒ「ダメよ」 長門「……」ジー ハルヒ「そもそもそれだと鞄に入らないじゃない」 長門「……うかつ」 ハルヒ「有希は大食いだからなぁ……これくらいが妥当じゃない?」 長門「小さい」 ハルヒ「あたしの二倍はあるわよ?」 長門「……わかった」 ハルヒ「なんか子供をあやしてるみたい」 長門「肉体的には同年齢」 ハルヒ「肉体的?有希の方が幼く見えるけど?」ニヤ 長門「……」 ハルヒ「明日のお弁当のおかずはこんなもんね。他食べたいものある?」 長門「カr」 ハルヒ「ないみたいね。それじゃレジ行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「今日もワリカンよ?有希っていつも全部払おうとするんだもの」 長門「作るのは私ではないから」 ハルヒ「じゃあ今日は有希も一緒にやりましょ?」 長門「一緒に?」 ハルヒ「そう、あたしのお手伝い」 長門「いい」 ハルヒ「まったく、どっちのいいよ?」 長門「肯定」 ハルヒ「よろしい」 ~帰宅中にて~ ハルヒ「日が落ちると涼しくていいわね」 長門「……」コク ハルヒ「……あっ、流れ星だ」 長門「……」トテトテ ハルヒ「流れ星が消えるまでにお願い事を、三回言えば願いが叶うかぁ。まず無理ね」 長門「無理」 ハルヒ「なんか短文でないかしら……」 長門「………」 ハルヒ「死ね死ね死ね、とか?」 長門「あなたが言うと笑えない」 ハルヒ「いつもの有希みたいにジョークよ」 長門「あなたのジョークは厄介すぎる」 ハルヒ「そう?」 長門「故に笑えない」 ハルヒ「そもそも笑わないくせに」 長門「あなたには才能がない」 ハルヒ「言ってくれるわね」 長門「言った」 ハルヒ「いつか笑わせてやるんだから」 長門「そう」 ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいまー」 長門「……」 ハルヒ「有希も言いなさいよ」 長門「中には誰もいない」 ハルヒ「いいから」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり。ね、いるときはいるのよ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなのよ」 ハルヒ「とりあえず今日買った食材を冷蔵庫に閉まっておいて」 長門「わかった」 カチャカチャ パタン 長門「閉まった」 ハルヒ「じゃあ少し休んでから、夜ご飯の支度しましょ」 長門「……」コク ピッ ハルヒ「どの番組もつまんないわね」 ピッ 長門「そう」 ピッ ハルヒ「どれもこれも前見た番組のパクリみたいな内容じゃない」 ピッ ハルヒ「TV見ててもつまんないし、晩御飯作りましょ?」 長門「それがいい」 ~食事後~ 長門「ごちそうさま」 ハルヒ「おそまつさま。なんかこの雰囲気にも慣れてきたわね」 長門「?」 ハルヒ「あたしが有希の家に来て、二人でご飯食べて、ゴロゴロして、色々話して、と言っても有希は聞くのが専門よね」 長門「……」 ハルヒ「ふふ。悪くない、悪くないわ。なんか通い妻みたいで変な気分だけど」 長門「悪くない」 ハルヒ「有希も?」 長門「……」コク ハルヒ「そっか。……あたしね、これからも有希とはずっと一緒にいたい」 長門「大丈夫。私が守る」 ハルヒ「ふふふ。私よりちびっ子の癖になに言ってんのよ」 長門「……」 ハルヒ「お風呂ありがと」 長門「構わない」 ハルヒ「明日はお弁当作んなきゃだし、早く寝ましょう」 長門「……」コク ハルヒ「あたしは髪乾かしてから寝るわ。おやすみ、有希」 長門「おやすみなさい」 ハルヒ「……」 ~翌日~ ???「……ルヒ、……う朝、起……」 ハルヒ「う~ん」 ???「もう……、……て」 ハルヒ「あ、あとごふん」 ???「わかった」 ハルヒ「……ん」Zzzz ???「いい加減に起きて」ポカ ハルヒ「……えぇ?ふわぁ~あ、おはよう有希」 長門「おはよう」 ハルヒ「なんか有希のうちって安心して寝れるわ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなの。ところで今何時?」 長門「午前八時ちょうど」 ハルヒ「……え?」 長門「午前八時ちょうどと言った」 ハルヒ「……!や、やばいじゃない!約束まで二時間しかない!」 長門「正確には一時間五十八分三じゅ」 ハルヒ「やばいわ!ご飯に火入れなきゃ!」 長門「もう入れた」 ハルヒ「でかしたわ有希!」 長門「当然」 ハルヒ「それじゃあ、すぐ顔洗ってくるから台所で待ってて!」 長門「わかった」 ~駅前にて~ 鶴屋「おはようハルにゃん!」 みくる「おはようございます」 ハルヒ「おはよう、ほぼ同時についたわね」 鶴屋「そうだね!ちゃんとお弁当は持ってきたかい?」 ハルヒ「ばっちりよ!ね、有希?」 長門「……」コク ハルヒ「それで今日はどこ行くの?」 鶴屋「ふふふ。実はこの間、こんなものを貰ったのさ」バッ みくる「チケット、ですか?」 鶴屋「そうさ!五月の半ばにオープンしたばかりの、あの遊園地のチケットだよ!」 ハルヒ「あの遊園地!CMとか見て興味があったのよね、実は」 みくる「あ、あそこってジェットコースターが目玉なんですよねぇ……」 鶴屋「んふふふふ。頑張ろうね、みくる♪」 みくる「ひぃ」ビク ハルヒ「あれ?遊園地ならお弁当いらないんじゃないの?」 鶴屋「あそこの飲食店って、めがっさ混むみたいなんだよ」 ハルヒ「そうゆうことか」 鶴屋「そう、せっかく遊びに行くんだから、少しでも遊ばないとね」 ハルヒ「賛成だわ。それじゃあとっとと行きましょ!」 鶴屋「おー!」 ~遊園地にて~ ハルヒ「……これは」 みくる「……想像以上に」 鶴屋「……人だらけだね」 長門「……うるさい」 ハルヒ「なにはともあれ……遊ぶわよ!有希、あれ、あれ乗ろ!」グイ タタタッ 鶴屋「ありゃ、行っちゃた」 みくる「ですね」 鶴屋「あたしたちも行くよ!」 みくる「は、はぁい」 タタタッ ワーー! みくる「こ、これに」ブルブル キャーー! みくる「の、乗るんですか?」ブルブル ギャーーーーー! ハルヒ「だってこれが目玉なんでしょ?みくるちゃんが自分で言ってたじゃない?」 鶴屋「観念しなよ、みっくる♪」 みくる「そ、そんなぁ」ブルブル 長門「面白そう」 みくる「長門さんまでぇ~」 ハルヒ「女は度胸よ!」ガシッ みくる「ひ、ひぇ~」ズルズル みくる「ど、どんどん高くなってきましたよ?」 みくる「レ、レ、レ、レールが、み、見えませんよ?」 みくる「え?落ち……キャアァァッァァァァァ!!!」 みくる「わぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」 みくる「ひゃぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!」 みくる「……、……。……」 ハルヒ「いやー!凄かったわね、有希!」 長門「ユニーク」 鶴屋「たしかにみくるはめがっさユニークだったっさ!ほんとに悲鳴上げるんだもん!あっはっはっはっはっは!」 みくる「す、少し、うっ、や、休ませてくださぃ」 ハルヒ「何言ってるの、まだ一つ目じゃない!次行くわよ、次!」 みくる「こ、これって」 長門「ホラーアトラクション」 ハルヒ「さぁ行くわよ!」 みくる「む、無理ですよぉ~」 鶴屋「結構怖いみたいだよ、ハルにゃん」 みくる「あれ?」 ハルヒ「そうなんだ、でもどんと来いよ!」 みくる「わ、わたし入らなくていいんですかぁ?」 ハルヒ「こういうとこって本物が出たりするらしいじゃない?」 みくる「あ、あの~」 鶴屋「TVで見たことあるっさ!」 ハルヒ「出てきたら捕まえてやるわ!ね、有希」 長門「……」コク スタスタ みくる「置いてかれた……。わ、わたしもい、行きます!」トテトテ ハルヒ・鶴屋(作戦通り!) みくる「ふぇ~、ま、真っ暗ですよぉ」ブルブル みくる「ひゃ!い、今向こうに、だ、誰かいましたよ~」ブルブル みくる「え?後ろ?……ひぃゃぁぁあああっぁぁぁぁ!!!」パタパタ みくる「きゃ!ひっ!」コテン みくる「……うぅ、うぅ、うぅぅぅ」ポロポロ ハルヒ「ご、ごめんね、みくるちゃん。まさかこんなに怖がるとは思ってなかったのよ」 みくる「ひっく、ひっく」ポロポロ 鶴屋「悪ノリしすぎたよ、あたしからもごめんね?」 みくる「うぅっ、も、もう大丈夫です、ひっく」グス 長門「ユニーク」 ハルヒ「こら!有希!」ポカ みくる「もうそろそろ、お昼だしお弁当にしませんかぁ?」 鶴屋「そうしよ!あそこの芝生を陣取ろうよ!」 ハルヒ「賛成!」 長門「……」グゥゥ トテトテ ~芝生にて~ ハルヒ「昨日話した勝負のこと覚えてるわね?」 鶴屋「もちろんっさ!」 ハルヒ「基準は見た目と味でいいわよね?」 みくる「はい」 鶴屋「一生懸命作ったからね。この勝負いただいたよ!」 ハルヒ「ふふふ、ではいざご開帳!」 パカッ 鶴屋「あ」 みくる「そんなぁ~」 ハルヒ「こんなのって」 長門「……」 ハルヒ「……そういえば鞄持ったままアトラクション回っちゃたわね」 長門「グチャグチャ」 鶴屋「これはさすがにショックだよ……」 みくる「でも、形は悪くても食べられますから」 ハルヒ「わかってる、わかってるわ」 鶴屋「それでも、苦労が水の泡ってのはねぇ……」 長門「……」モグモク ハルヒ「勝負はお預けね……」 ~食事後~ ハルヒ「それじゃあ、あたしと鶴屋さんでフリーフォールみたいの乗ってくるわね」 鶴屋「みくるはそこのベンチで休んでて!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「有希も来る?」 長門「……」フルフル ハルヒ「そう、それじゃあそこであたしたちの勇姿を見てなさい」 長門「……」コク みくる「ふぅ、お二人とも元気ですねぇ」 長門「……」コク みくる「……」 長門「……」 みくる(き、気まずいよぉ~) 長門「朝比奈みくる」 みくる「は、はひ!」 長門「?」 みくる「なんでもないです、続けてください」カァァァ 長門「質問がある」 みくる「質問ですか?」 長門「この先はどうする?」 みくる「え?多分ご飯でも食べにいくんじゃないですか?」 長門「違う。今後の動き。私は涼宮ハルヒの力の観察」 みくる「わたしは……監視です。もとよりそれが目的ですから」 長門「なぜ監視を?」 みくる「禁則事項です」 長門「この後世界は、涼宮ハルヒはどうなる?」 みくる「禁則事項です」 長門「今まで起きてきた出来事は全て予定通り?」 みくる「禁則事項です」 長門「そう。ならいい」 みくる「……。長門さんは観察が目的なんですよね?」 長門「……」 みくる「観察の対象と仲良くなるのは、いいことなんですか?」 長門「私だけではないはず」ジー みくる「わたしはそんなつもりではなかったんです!でも長門さんは涼宮さんとは……親友なんですよね?」 長門「そう」 みくる「わたしは、わたしはこんなはずじゃなかった……なかったんです……」 長門「?」 みくる「……これ以上は言えません」 長門「そう」 みくる「長門さんはどうするんですか?」 長門「変わらない。いつも通り。しかし」 みくる「?」 長門「私という個体は涼宮ハルヒのそばにいたいと思っている」 みくる「……」 長門「これは私の意志。涼宮ハルヒは私を必要としてくれている」 みくる「……そうですよね」 長門「それに答えるのは親友として当然」 みくる「……わたしは」 長門「古泉一樹に新たな鍵は私だと言われた」 みくる「古泉君が?」 長門「そう。そのことでどうなるかはわからない。ただ、涼宮ハルヒに危害を加えるなら、誰であっても容赦しない」 みくる「……わたしに関しては大丈夫です。そんなことをする理由がありませんから」 長門「そう」 みくる(……わたしは、わたしはただの監視者だから……これからもただ見ているだけの……) 鶴屋「みっくる~!いや~めがっさすごかったよ~!こう、ビューンとさ、ってみくる?」 みくる「……え?」 鶴屋「なんか元気ないよ?大丈夫?」 みくる「だ、大丈夫ですよぉ」 ハルヒ「どうせ有希が変なこと言ったんでしょ?最近辛口なのよね、このコ」 みくる「ち、違いますから、はしゃぎすぎて気分が悪いだけですよ」 鶴屋「無理しちゃダメだかんね?」 みくる「もう平気ですよ」ニコ ハルヒ「それじゃあ激しいアトラクションは一旦休憩にしましょ」 鶴屋「そうっさね。……さっきまでみくるは長門ちゃんと話してたの?」 みくる「はい。長門さんとあんなにおしゃべりしたの初めてです」 ハルヒ「有希と会話が続くなんて凄いわね。あたしですら難易度が高いのに」 鶴屋「なに話してたの?」 みくる「長門さんとの秘密なんです」 ハルヒ「有希、教えなさいよ~」 長門「禁則事項」 みくる「……」 鶴屋「……。みくる、なんか飲み物買ってくるけど何がいい?」 みくる「ありがとうございます。お茶がいいです」 鶴屋「わかったよ。長門ちゃん、一緒に買いにいこ?」 長門「……」コク ハルヒ「有希、あたし炭酸がいい」 長門「わかった」 ~自販機前にて~ 鶴屋「……ねぇ、長門ちゃん?」 長門「何?」 鶴屋「みくるに何言ったの?」 長門「質問をしただけ」 鶴屋「質問?どんな?」 長門「言えない」 鶴屋「なんで?」 長門「言えない」 鶴屋「なら、単刀直入に聞くけど、……みくるをいじめてたのかな?」 長門「……」フルフル 鶴屋「信じていいの?」 長門「どちらでも」 鶴屋「……」 長門「……」 鶴屋「……うん、疑ってごめんよ?みくるってあんなんだからさ、友達として不安だったんだよ」 長門「そう」 鶴屋「長門ちゃんだって、ハルにゃんのこと見捨てられないでしょ?」 長門「もとより見捨てない」 鶴屋「だよね、とはいえ、疑ってほんとにごめんね」 長門「いい。ただ」 鶴屋「なに?」 長門「今小銭がない」 鶴屋「先輩にたかる気かい?」 長門「違う、悪いと思っているなら、お金を貸して欲しい」 鶴屋「いいよ、後輩のぶんくらいお姉さんが買ったげる♪」 長門「感謝する」 鶴屋「はい、みくる」 みくる「ありがとうございます」 ハルヒ「……抹茶の炭酸ってなによ?」 長門「あった」 ハルヒ「炭酸と言ったのはあたしだけど……これはないわよ」 長門「飲まず嫌い?」 ハルヒ「うっ……、いいわ、飲んでやるわよ!」ゴク 鶴屋「ど、どお?」 ハルヒ「……」フルフル 長門「ユニーク」 ハルヒ「……デコピンよ」ピシ 長門「……」ナデナデ ハルヒ「鶴屋さん、今日はありがとね」 鶴屋「なに、いつもみくるがお世話になってるからね。そのお礼さ♪」 みくる「ふふふ」 ハルヒ「あたしだってみくるちゃんにお世話になってるわよ?」 みくる「涼宮さん……」 ハルヒ「コスプレとか、部室の掃除とか、お茶汲みとか」 みくる「え、えぇ~」 鶴屋「先輩をパシリ扱いとはいけない子だね?こうしてやる!」 ハルヒ「や、やめて、鶴屋さん、アハハ、うそ!冗談だから!アハハちょ、くすぐったいってば~」 鶴屋「参ったか!」 ハルヒ「……このあたしが、はぁーはぁー、やられて、黙ってる、とでも?」 鶴屋「ん?」 ハルヒ「えい!」 鶴屋「ハルにゃん、ひ、卑怯だよあっはっはっは、そこは、はんそ、反則だよ、あっはっはっは」 ハルヒ「やられたらやり返さないとね」 鶴屋「覚えてろよ~」 ハルヒ「返り討ちにしてやるわ!」 鶴屋「せっかくだしこの後ご飯でも食べ行く?」 ハルヒ「そうね。どこ行く?」 長門「……」クイクイ ハルヒ「ん?どしたの有希?」 長門「あれ」 ハルヒ「あれ?」 鶴屋「あれはバイキングだね!」 みくる「も、もう怖いのいやですよぉ」 ハルヒ「みくるちゃん、ただの食べ放題よ。有希あそこがいいの?」 長門「……」コクコク ハルヒ「二人ともあそこでいい?」 鶴屋「あたしは構わないっさ!」 みくる「大丈夫です」 ハルヒ「それじゃあ、行きましょっか」 長門「……」トテトテ ~帰り道にて~ 鶴屋「いや~めがっさお腹いっぱいだよ」 長門「満腹」ケプ 鶴屋「女四人がバイキングでがっついてる光景は、シュールだったろうね」 ハルヒ「がっついてたのは鶴屋さんと有希だけでしょ?あたしとみくるちゃんは腹八分よ」 みくる(それでも食べすぎちゃいました……) 鶴屋「それじゃあ、ここらでお別れだね」 ハルヒ「そうね、今日は楽しかったわ。ね、有希?」 長門「……」コク 鶴屋「そりゃ良かった。誘ったかいがあったってもんだよ」 ハルヒ「じゃあまた学校でね。鶴屋さん、みくるちゃん」 鶴屋「バイバイ」 みくる「あ、あの、長門さん」 長門「何?」 みくる「少し、少しだけいいですか?」 長門「構わない」 みくる「お二人は少しだけ待っててください」 鶴屋「わかったっさ」 ハルヒ「有希はあたしのだから持って帰っちゃダメよ」 鶴屋「おっ、ラブラブだねぇ~」 ハルヒ「ジョークよ、ジョーク」 みくる「ちゃんとお返ししますから」ニコ 長門「何?」 みくる「本当はこんな事を言うのは禁止されています」 長門「……」 みくる「でも、でもわたしも長門さんも、望む望まないに関わらず、主要人物の一人になってしまいました」 長門「……結果的に私は望んだ」 みくる「そ、それは長門さんの場合です!」 長門「わかっている」 みくる「……同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください」 長門「……何故?」 みくる「……この間私向けにそういう指令がきました。内容は知りません」 長門「禁則事項では?」 みくる「……話は以上です。また」スタスタ 長門「……」 ハルヒ「それでみくるちゃんはなんだって?」 長門「秘密」 ハルヒ「仕方ない、くすぐってでも吐かせてやるわ」 長門「無駄」 ハルヒ「どうよ!ほらほら!」 長門「まるで無駄」 ハルヒ「この不感症め!」 長門「なんとでも」 ハルヒ「あぁ、つまんなーい」 長門「そう」 ハルヒ「まぁ、いいわ。帰りましょ」 長門「?」 ハルヒ「~♪」 長門「あなたの家はこっちではない」 ハルヒ「あれ?言ってなかったけ?あたしの家今誰もいないから、有希の部屋泊まるって」 長門「初耳」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「一泊も二泊も変わんないでしょ?さ、帰るわよ」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「……ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「た・だ・い・ま」 長門「……ただいま」 ハルヒ「違う!あたしがただいまって言ったら、有希はおかえりでしょ?」 長門「……」 ハルヒ「もう一度よ。ただいま」 長門「おかえり」 ハルヒ「次は有希」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり」 ハルヒ「あぁ~楽しかったぁ~、けど疲れたぁ~」 長門「六時間遊んだ」 ハルヒ「あれ?そんなもんだった?」 長門「充分」 ハルヒ「そうね、これ以上疲れたら明日筋肉痛になっちゃうわ」 長門「そう」 ハルヒ「有希は平気?」 長門「……」コク ハルヒ「文学少女のくせに丈夫ね」 長門「……そう」 ハルヒ「実はね」 長門「?」 ハルヒ「今日の団活中止になって嬉しかったの」 長門「何故?」 ハルヒ「一応表には出さないようにしてるけど、まだちょっとあいつと一緒に行動するのが、ね」 長門「……」 ハルヒ「そりゃ、盛大にふられてるもの、気にしてないっていったらウソじゃない?」 長門「そう」 ハルヒ「やっぱり気になっちゃう……ほんとに恋ってめんどくさい」 長門「……」 ハルヒ「未練がましいのなんてらしくないわね」 長門「……」コク ハルヒ「今の話忘れて!お終いお終い!さぁ明日も休みだし!今日こそ夜通し遊ぶわよ!」 長門「構わない」 ハルヒ「しっかり朝日を拝んでやるんだから!」 長門「そう」 ハルヒ「……」Zzzz 長門(まだ十二時) ハルヒ「……」Zzzz 長門「……」 ハルヒ「……ん……いや」グス 長門「?」 ハルヒ「……ゆ……き」グス 長門「……何?」 ハルヒ「おねが……いかな……いで」グス 長門「私ならここにいる」ギュ ハルヒ「……ん……」Zzzz 長門「……」ギュー --同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください-- 長門(どこにも行かない。ここが私の場所) ~To Be Continued~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3944.html
…あたしの誕生日まで、残り4日間ね。 最近ヒマでしょうがないし、クリスマスなんてイベントがある位だから SOS団団長のあたしの誕生日を祝わないのは道理に反するわ。 いや…とゆーか、既にどうあっても祝わざるをえない事態だわ! SOS団に早く知らせなきゃね!授業なんて受けてる場合じゃないわ! 「ねぇキョン!緊急事態よ!そろそろ… あたしが前の席に座るキョンを引っ張って話しかけると、 キョンはいつに無く真剣な顔であたしを見つめ、あたしの言葉を遮った。 なぁハルヒ、とキョンは喋りだして 「いま俺は非常に大事な案件を抱えているんだ。 これはとっても大切な事だから、今はそれに集中していたいんでな。 すまんが暫くはSOS団にも顔を出せそうにない」 「え?あ…あぁ、そうなんだ…」 普段のあたしなら気にもしないで突っ込んで行くけど、 この時は自分の誕生日パーティの話だったから少し引け目になってたのかな。 放課後、キョンは部室に来なかった。 (ま、パーティなんてここで簡単にやればいいんだし、 キョンに用事が終わる頃でも聞いて計画を立てれば大丈夫よね。 …みくるちゃん古泉くん有希にはまだ黙っていていいわね。 当日に団長を最も敬うべき立場の人間が不在だと、団長の威厳にかかわるから) なんて思って、あたしはいつも通りの活動をする事にした。 …次の日の活動にも、やっぱりキョンは来なかった。 それどころか、私が何か話しかけてもキョンは曖昧な返事ではぐらかすばかりで あたしに取り合おうとすらもしなかった。 よっぽど怒鳴りつけてやろうかと思ったけど、誕生日が近いという事が あたしに変なためらいを起こして言葉を言いつぐんでしまった。 「なによ。」 帰宅して自分のベッドに突っ伏して仰向けになり、 そう呟いてあたしはすこしダウナーな気分を味わった。 (せっかく誕生日が近いっていうのに、なんでこんな思いしなきゃなんないのよ… 悪い事は最悪のタイミングでやってくるって本当ね。 いつものあたしらしくしてたなら良かったのかな。大体、 あのためらいは何よ。みっともない。変な期待でもしてたのかしら。 もう…なんか馬鹿馬鹿しいわ。誕生日ごときで浮かれてんじゃないわよ自分。) 夜になっても自分を卑下する思考で頭が冴えていたあたしは、 時間の感覚すら無くなってきた頃合いに睡魔から一瞬で意識を刈り取られた。 その日、あたしは中学の時の夢を見た。 ずっと一人で過ごしていた中学生の頃。 夢の中でもあたしは一人っきりで、普段通りの生活を送っていた。 でも何故だか… まるで、悪夢を見ているかのようだった。 朝、あたしが教室に入ると珍しく既にキョンが席に着いていて驚いた。 あたしを目に映すと何処か物憂げな顔になったキョンは、 あたしが席に着いたのと同時に、 「今日の放課後、SOS団の部室には行かないで…長門の部屋に来てくれないか? …とても大事な話があるんだ。」 と、キョンは重く暗い顔で申し訳なさげに話しかけてきた。 …… あたしは不機嫌な顔を作って、窓の外へ顔を向けた。 放課後、あたしは教室で皆が帰ってしまったのを見計らってから 一人で下校し、有希の部屋に足を運んだ。 「なによ…古泉君も今日は学校休んじゃってるし、何でいきなりこんななの!?」 そう呟きながらあたしは色々考えた。これから…どうなるのか。 「…ひょっとして、サプライズパーティとか?…」 そう思った時、あたしの中で期待感と安堵の色が広がってきた。 「……でも」 あたしの誕生日には2日も早いし、最近のキョンの態度だとかを考えるとそれは、 …あたしが現実逃避をしているだけにしか思えない。 変に期待してしまったら、悪い事が起きてしまった時の事が恐ろしすぎて 何も考えられない。それにどれだけ良い結果を考えてみても、 それを打ち消す不安要素の方が沢山…ある。 有希の部屋の前に立って、あたしは乾いた口の中を潤す様に息を飲み込んだ。 (来るならこいってものよ。例え一人になったって中学時代と一緒なんだし、 別になにも変わらないわ。…今までありがとうって位は言ってあげる) 「………よしっ」 一息入れて、あたしはガチャリ、と扉を開けた 『誕生日おめでとーーーーー!!!!!』 パンパンとクラッカーが鳴って色付き紙があたしに舞い落ちる。 玄関には古泉くん、有希、みくるちゃん、キョンが立っていて、 みんなモールの付いたトンガリ帽を被ってクラッカーを持っていた。 「すまんなハルヒ、…こういう事だ。 お前の誕生日にはまだ早いが… まぁ、誕生日当日だと露骨過ぎるからな。今日にしたって訳だ。」 「……………」 「今まで話を聞かなくて悪かった。 なんたって、お前は自分からパーティを開きかねんからな。 …それでも良かったんだが、やっぱり誕生日は人から祝ってもらう方が 気持ちいいだろ?これは強制じゃなく俺達の気持ちだ。誕生日おめでとう」 「………ふぇっ…」 「―なっ!?ハル… 「グスッ…ふぅぅぅぅぅッ……ヒグッ!…うぅッふえぇぇぇぇん!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ SOS団一同は今、大変にあたふたしている! 古泉は世話しなく動き回っているし、 朝比奈さんは大変だとばかりにハルヒに駆け寄り肩を揉み、 長門はハルヒにトンガリ帽を被せ鼻メガネを掛けようか手を迷わせている。 …いちばん動揺したのは俺だった。まさかハルヒが泣きだすなんてな。 俺がなにをしていたかというと、オロオロしたりオタオタしたり等、 その場でハルヒを見ながらの奇々怪々な踊りだ。 誕生日パーティの発案自体は古泉からだった。 俺達はその計画に同意を示し、ハルヒが自分で計画を立てないよう気を配った。 パーティの役割に関しては、古泉の組織が先立つ物を用立ててくれるし、 サプライズ的な要素もあるので部室では不便だと長門の部屋を借りるとの話だし、 朝比奈さんに重い荷物を持たせて準備を頼む事などもってのほかだ。 まぁ色々とそんなんがあって、俺は買い出し兼仕度係となった。 各自そろそろ準備を始めようとしていた矢先、丁度ハルヒが俺に団活の計画を 持ちかけてこようとしたので俺はとっさに浮かんだ理由をあげて話を中断させた。 そしてその後、俺は放課後にお菓子や小道具の買出しや準備なんかに手を取られていた。 …実の所、、ハルヒの誕生日より二日早く開催されたのは予定外の事だった。 何故かと聞かれれば、昨日の夜から例の閉鎖空間が絶え間なく発生し始め、 また、明け方には観測史上最大規模の閉鎖空間が現れたらしい。それによって 俺達はハルヒが俺の対応に相当なショックを受けているのを知り、これはいかんと 開催を急遽本日に繰上げしたいう訳だ。 古泉は過去最大火力の神人討伐に時間を取られ、どっちみち学校へ行く程の時間も 無かったのでそのままパーティの準備に勤しんで貰った。 おかげで皆がパーティの雰囲気の中はしゃぎまわしてる最中も 古泉はうつらうつらとしていた。…ご苦労だったな。 すっかり元気を取り戻してくれたハルヒを含むSOS団の面々と 鶴屋さん、谷口、国木田、俺の妹…等々SOS団に関わりをもった人達で お菓子やシャンパン、ケーキが乗った台を囲んで暫くワイワイやっていたが、 みんなそれぞれ頃合いだろうとハルヒに贈り物を贈呈し始めた。 …非常にやばい。まだ俺はハルヒへのプレゼントを…用意出来てないぞ… パーティの準備に忙しかったのと、なにを選ぶべきかさっぱり解らずに ずっと決めあぐねていた結果、今日の急な開催までついには間に合わなかった。 …どうしようか。家に忘れた?いや、家に来られでもしたらアウトだ。 下手したら虚偽の罪に対し鉄拳制裁が執行されかねん… ここは正直に言っとくのが得策だな。 「ハルヒ…すまないが、俺はまだプレゼントを選べていないんだ… その、誕生日当日に渡すって事で良いか?」 「……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「…いいわよ、もう満足してるから」 あたしの言葉に一瞬キョトンとしたキョンは、 「じゃあ当日にな。待っててくれ。」 と右の手のひらをこっちに向けて、済まないという意思表示をした。 …ホントにプレゼントなんてどうでも良いのに。 あたしは最後の最後でSOS団の皆を疑ってしまった事を忘れるかのように パーティでは思いっきりテンションを上げていた。 みんな、ありがとう。…ごめんね。 そしてキョン。2日前のあの言葉… …キョンの気持ちとして受け取っておくから。 了
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5844.html
公園で古泉と長門に別れを告げた俺だが 何となく立ち去りがたいものを感じたのでもう一度戻ってみた てくてく歩く長門になら追いつけるかもしれないと思ったからだ 長門にさようならなんて言われてしまっては帰るにも帰れない 何かもう一言かけたいというのか、もう一度顔が見たいというのか とにかく心に切ないものを感じていたので長門のマンションに急いだ マンションまでの短い距離を急いだが、長門に追いつくことはできなかった もう部屋に入ってしまったのか? まさか家にまで押し掛けるわけにもいかない しょうがないから帰ろうかと思った時に、俺の胸に危険信号が鳴った 急いでさっきの公園に戻り、近くに自転車を止めてから足音を忍ばせて接近した いた! 長門と古泉はまださっきの場所に座っていた 古泉がしきりに長門に何かを話しかけ、長門は短く応えている 距離が遠くてよく分からなかったけど、常夜灯の小さな明かりの下で 長門の白い歯が見えた、ような気がした おいこら古泉 てめえドサクサに紛れて何やってるんだよ 思わず殴りこもうかと思ったけどそんな事ができるはずがない もう少し近づこうと、俺はそろそろと移動した その時突然、後ろから肩を叩かれた ヤバい!警察か? 公園の植木の影に隠れて横移動している俺の姿は 紛れもなくのぞきかストーカーのものだった しかも目標地点には爽やかな高校生カップルが 俺は1リットルぐらいの冷や汗をかきながらおそるおそる振り向いた すでに頭の中には明日の新聞の見出しが踊っている 「コラっ!おイタしちゃダメでしょう」 あれ?この声には聞き覚えがあるぞ? 振り向いた俺の目に飛び込んできたのは ミス銀河系と謳われてから幾久しい 栗色の長い髪を垂らした絶世の美人だった 朝比奈さん… もちろん(大)の方の朝比奈さんだ 「いいからこっちに来て」 突然現れた朝比奈さんは、俺を公園の外に連れ出した 「ちょっと歩きましょうね、キョンくん」 だんだん明るくなる早朝の街を、2人で肩を並べて歩いた 「それはそうと、大活躍でしたね」 いえ、俺が何の役に立ったのか、最後まで分からずじまいでしたよ 「あなたが涼宮さんの側にいること、最後まで離れなかったこと それがあなたの大活躍だったんです」 はあ…でもけっこう離れてた時間も多かったですけど 「大丈夫ですよ。必要な時にいてくれたから」 ありがとうございます でも朝比奈さんも大活躍だったとか 「あれが大活躍だったのかしらね でも最後の時間跳躍には本当に驚きました いくら涼宮さんの力とはいえ、まさか7億年前に行っちゃうだなんて 人類最長の時間移動です あの時の記録は私のいる現代でもまだ破られていません あなたは7億年前の世界なんて想像がつく?」 7億年前と言うと…恐竜時代ぐらいでしょうか? 「ふふっ、それはもっと最近の話 私が行った世界はね、まだ生命は海中にしかいなくて、そして氷河期だったわ とても寒かったし、一緒に行った藤原くんは気絶しちゃうし もしかしたら帰れないんじゃないかって思ったのよ」 そこでちょっと質問があるんですけど 以前にあなたは4年前の次元断層よりも過去には遡行できないって言ってませんでしたか? それに、あの異世界から出発したのになぜ地球の7億年前に行けたのですか? 「あっ!そうね、そうよね? いやだわたしったら、どうしてそんな事に気がつかなかったのかしら? やっぱりそれも涼宮さんの力なんだと思うわ 涼宮さんは別の世界の7億年前なんか知らないから たぶん手近な所で地球の7億年前に連れてってくれたと思うのよ」 やっぱり朝比奈さんはこの年になっても朝比奈さんか あの状況をしっかり楽しんできたのか それともただ能天気なだけなのか しかしハルヒの超絶パワーにも呆れたもんだ あいつが本気で世界を変えようとしたらいったいどんな風になるのだろうか 「そのすぐ後に、『早く帰って来なさい』って声が聞こえて 気がついたら元の場所に戻ってたのよ いったいどんな仕組みなんだろうなぁー 涼宮さんの頭の中って」 そう言って口元を押さえて笑う朝比奈さんはとても美しい 長い髪からはシャンプーの香りが鼻を優しくくすぐってくる 未来のシャンプー製造職人はなかなかのセンスを持っている人らしい ちょっとだけ顔を近づけて、その甘い香りを楽しもうとした 「キョンくん、あなたのおかげで未来は正常な姿に戻りました ちょっと時間差になると思うけど、改めてお礼の手紙が届くはずです あなたは自分の意志で涼宮さんを選びました 私たちのような、周りからの干渉でこうなってしまったのかもしれないけど 私はあなたの気持を尊重します 仕方がないからそうしちゃいましたなんて、思ってはいないよね?」 もちろんですよ朝比奈さん 俺は何の後悔もしていません 「だったらもう他の人の人生に干渉しちゃダメ 世の中の全ての人があなただけを見てるわけじゃないのよ それは長門さんだって同じ あなたは長門さんの正体を知っていて、彼女の性格も分かっているから 自分のせいなんじゃないかって、自分を責めているかもしれない だけどそれはね、長門さんにとっては迷惑以上の何物でもないの あなたは優しいから、みんなにそう思うのはとてもいい事だけど そうやって長門さんに干渉すればするほど、彼女の心に傷を残すのよ それは分かる?」 うっ そうなんでしょうか 「あなたが基本的に間違っているのは 長門さんが人間じゃないって勝手に思い込んでいる事です 長門さんは宇宙人製のアンドロイドだから、それは自分だけしか知らない秘密だから 長門さんには普通の恋愛はできないかもしれないから だから自分が守ってあげなきゃとか それはあなたが勝手にそう思い込んでいるだけの事です」 朝比奈さんは本気で怒っているようだった ゆっくり歩きながら、前方は見ずに俺をじっと見ていた 「もしもあなたが涼宮さんと付き合いながら、長門さんともうまくやろうなんて まさかそんな事は考えてないと思うけど、おそらく今のあなたの頭の中には 涼宮さんと長門さんの顔が交互に浮かんでいるはず だからあなたは自分の心の隙間を埋めるために 長門さんとのつながりを残そうとしている じゃあ長門さんの気持ちはどうなるの?」 朝比奈さんの声が大きくなった 新聞配達らしき自転車に乗った青年がこっちを見ている それに気付いた朝比奈さんはすぐに声を潜めた 「長門さんもたぶんあなたの事が大好きなはずです でも彼女は自分の事は良く分かっている 涼宮さんの監視目的のためだけに作られた人造人間が 目的を忘れて恋愛にうつつを抜かすだなんて そんな事は絶対にできない だから長門さんは必死で我慢していたはず あなたはその事をよく知ってるでしょう? 長門さんが暴走して世界を作り変えてしまったのはなぜ? 涼宮さんの監視に飽きたから? それならただ単に涼宮さんの能力を消去するだけでよかったはずでしょう? もしくは涼宮さん自体を消してしまえばいい なのに彼女はなぜあんな複雑な世界を構築してしまったの? 学校まで代えさせて古泉くんまで放り出して 私は赤の他人になってしまって他に誰も知り合いがいなくて そんな複雑な世界にしてしまったせいで結局あなたに気付かれてしまい 彼女の目的は達成できなかった もちろん彼女自身が本気でそれを求めていなかったからなのかもしれないし あなたに頼るほどに迷っていたのかもしれない だけど考えてみて ただ涼宮さんの監視に疲れただけだからと本気で思ってるの?」 長門…… 長門… まさかお前…… そこまでして 俺と? 「情報統合思念体が長門さんを処分しようとしたのはなぜ? その時にあなたは彼女に何て言ったの? 作り変えた世界で、長門さんはあなたに何て言ったの? ここまで言われないと分からないの?キョンくん」 俺はガックリとひざをついた まさか…長門が俺の事を想ってくれていたなんて? ああ その時に俺が気付いていれば いや、俺は気付いていた なのになぜ行動できなかったんだろう? ハルヒの事を考えたから? SOS団の事を考えたから? それとも? 「あなたは長門さんに対して、1つだけとても失礼な事を考えている 私はそんなあなたを絶対に許せない あなたは気付いていないかもしれないけど あなたは長門さんを 人間じゃないと頭から決めつけている そういうのをこの世界では何て言うの?」 朝比奈さん ごめんなさい 俺は… 俺は大変な事をしていました 長門を苦しめていたのは全て俺の責任です 俺は長門を 差別していました あいつは人間じゃないと差別していました 少なくともハルヒの方がまだ人間だからと もしかしたらそう思っていたのかもしれません それは間違いでした たった今気がつきました 本当にごめんなさい 「その言葉は長門さんに言ってあげて あのねキョンくん 彼女はあなたが思ってるほど、弱い人間じゃないのよ 自分に与えられた条件の中で、それでも必死で生きていこうとしている 自分がどんな存在であっても、受け入れてくれる人がいるかもしれない それがキョンくんだったらどんなによかったでしょうね でもキョンくんは自分に言い訳ばかりして 自分で勝手に長門さんのためだとか思い込んで1人でいい気分に浸ってるし 女の子ってそんな簡単なものじゃないのよ バカにしないでほしいわ 私だってもちろんそうよ ドジでおっちょこちょいだけど 自分自身と未来を守るために必死で戦ってるつもりです 涼宮さんだってそうでしょう? 十年前の夜中に、たった数十分出会っただけのジョン・スミスを探して 彼の声と雰囲気だけを手掛かりにして十年間ずっと探し回っていた あなたにそんな事ができる? これは禁則だから言えないけど あなたがこんなに優柔不断じゃなかったら 私たちの任務はどんなに楽になっていた事か」 すいません朝比奈さん 俺は泣き出していた 1人でカッコつけていた自分に腹も立っていた 俺は長門が好きだった 寡黙でおとなしくて本が大好きで小さくて そしていざという時にはものすごいパワーで俺を守ってくれる そんな長門に俺は優しい言葉などかけたことがあっただろうか いや言葉なんかじゃない お前は人間なんだよって 一言声をかけるだけでよかったんじゃないのか? そしたら長門もあんな変な暴走を起こして ややこしい世界を作らずに済んだのかもしれない 長門が世界を作り変えてしまったのは 人間として俺に接してほしかったからなのか? たったそれだけの事を俺に気付いてほしいためだったのか? 「ごめんね、ひどい言い方をして でも私もあなたと同じだったかもしれない この時代の長門さんはちょっと近寄りがたくて、ずっと避けていたから あっこれは禁則ね」 ってことは朝比奈さん 長門は朝比奈さんの時代にもまだいるんですか? 「それも禁則事項です では元の場所に戻りましょうかキョンくん」 俺は朝比奈さんに手を引かれて公園に戻った まだ泣いている俺の背中を、朝比奈さんは何度もさすってくれた 「長門さんみたいな透明フィールドが使えれば便利なのにね あっこれは言わない方がよかったかな?」 公園ではまだ長門と古泉が話し込んでいた 古泉は身振り手振りを交えて長門に話しかけ、長門はそれに応えている 遠すぎて何を言っているのかは分からなかったけど こう見えても長門評論家歴1年を超える俺だ 微妙な体の動きで感情が分かる 長門は明らかに笑っていた 古泉のつまらないジョークに反応して肩を震わせていた 「あれを見てどう思いますか?」 はい もう俺の出番はないです 「古泉くんは長門さんをどんな風に思ってるのかな?」 あいつの事もちゃんと分かってます 古泉は、長門がアンドロイドだからって差別するような人間じゃないです いや、あいつはロボットにだって本気で惚れられる正直な男です 「ね、分かったでしょう?時間は確実に次の流れに向かってるの だからこれ以上あなたが介入すべきではない 時間の流れってそんなものなのよキョンくん わたしたちが頑張ってるような大きな時間変動で狂ってしまった歴史 修正しないと未来が大変な事になってしまうようなものもあれば 多少のブレは寛容される部分もあるの 何もかもを完全に歴史の教科書通りにしようとして私たちが介入したら 歴史は複雑に切り刻まれて大変な事にあります それこそ時間軸全体がバラバラになってしまう 時の流れってそんなものよ 細かく管理されているように見えても、中には大らかな部分もあるの そこをちゃんと見極めるのが、我々の腕の見せ所ってわけです それと、これも禁則事項なんだけど 長門さんと古泉くんがこのままお付き合いする可能性は今のところまだ低いです もしかしたら、またあなたの出番が回ってくるかもしれない」 そんな事言ってしまっていいんですか? 「禁則だからあまり言えないけど まだまだ長門さんを巡ってはチャンスがあります だってそうしておかないと 長門さんをお嫁にもらいたがってる人たちの未来がなくなっちゃうでしょ?」 えっ? 朝比奈さん? そこんとこをもう少し詳しく 「長門さんは誰かだけのお嫁ではないの みんなのお嫁さんになれるわ 彼女は時間にも空間にも、何に対しても制限を受けない存在よ その気になったら自分をいくつもコピーする事だってできるんだから それを配って歩いたら、世界中の長門は俺の嫁問題は解決ね むしろ彼女なら喜んでそうするかも」 朝比奈さんはそう言って無邪気に笑った この人は…やっぱりすごい人だ 藤原が言った言葉をまた思い出した あの、藤原に聞きましたけど、あなたは歴史に名を残す人だって 「それはまだ禁則にすらなっていない言葉なの 私も彼の言葉はまだ覚えてるけど、残念ながらそれはもっと未来のようです ちょっと楽しみにしてるんだけどね」 そんな話をしているうちに長門が立ち上がった 古泉が肩でも抱いて一緒に帰るのかと思っていたが、そこでそのまま別れた 立ち去る古泉の後ろ姿に向かって、長門はずっと手を振っていた もちろん長門は俺たちがここでのぞいている事ぐらい百も承知のはず しかし何も言わずに、チラリと俺たちが隠れている繁みを一瞥してから ゆらゆらと歩いて帰っていった 「さあキョンくん、そろそろ時間です 実は今日はイレギュラーで来ちゃったから予定の行動じゃないの」 俺を叱るためだけに来たんですか? 「そうよ。だから次の任務に行かないと。服も着替えないといけないし いろいろ言ってごめんなさいね、悪気はないから」 いえいえ朝比奈さん 叱ってくれてありがとうございます これで明日から、長門にちゃんと話せると思いますから 「私に言われたことは内緒よ」 もちろんです 「じゃあ行くね、キョンくん 改めて手紙が届くと思うけど、ちょっと私は混乱してるので注意して下さい」 そう言うと朝比奈さんは俺の目の前であっさりと消え去った すっかり朝になってしまった街の中で、俺はすっきりした気持ちでいた 明日長門にきちんと謝ろう そして元気よく『頑張れ』って言ってやろう SOS団は団員全員がハッピーエンドにならなくては それがハルヒの格言だからな 頑張れよ長門! 長門有希! 足音を忍ばせて自分の部屋に戻った時はすでに朝だった 今から寝たら起きられないのが目に見えている 仕方がないので椅子に座ってマンガを読んでいると すぐに妹が起こしに来た 「あっ!キョンくんがもう起きてるー!お母さーん!大変大変! キョンくんの頭がおかしくなったぁーっ!」 おかしいのはお前の発育状態だぞ妹よ そろそろ第2次性徴が始まってもおかしくない年頃だろ 顔を洗って歯を磨いて朝飯を食い、途中で妹と別れて通学した 北高への長い坂道を登り、ようやく学校についた ハルヒがもう来ていて、頬杖をついて窓の外を眺めていた 鶴屋邸で過ごした一夜の事もあるし、ちょっと声をかけづらい雰囲気ではあったが、無視するのも心苦しいところだ よっ、ハルヒ 「…おはよう」 おいハルヒ 気持ち悪いぞ お前がそんな常識的な人間の挨拶をするなんてな 「……」 また道に落ちてるバッタの死骸でも食ったのか? 「うるさい!」 いくら一線を越えてしまった関係とはいえ、朝っぱらからダークモード全開のハルヒにガソリンをぶっかけるほど俺は好戦的な種族ではない 黙って自分の席につき、やがて間違いなく訪れるであろう、強烈な睡魔と闘う術を模索していた 土日にあれだけ眠ったにも関わらず、昨日は徹夜だった俺に天使の攻撃が襲いかかるのは簡単に予想できた 果たして予感は的中し、1限の途中から脳内に羽毛布団が侵入してきた 朝比奈さんの母性を思わせるような柔らかな感触が、俺の睡眠中枢を優しく刺激する その時背中に強烈な痛みを感じた おいハルヒ、シャーペンでつつくのはいいけど、今のは貫通してたぞ明らかに 「……」 午前の授業はずっとそんな調子だった 睡魔に負けて船を漕ぎそうになると背中をハルヒに刺され 何度か頭をボカリと殴られた 教室中に失笑が湧き起こり、教師はサジを投げた悲しい視線で俺を見ていた もちろん何一つとして頭に入るはずがない 何とか耐えて昼休みになった いつものようにアホの谷口と能天気な国木田が弁当を持って来る 「よおキョン、ずいぶん眠そうだったな。徹夜で2ちゃんねるでもやってたのか?」 このアホを黙らせる適確な言葉を探していると、突然2人が凍りついた 国木田はポカンと口を開き、谷口は干しブドウと間違えてゴキブリを口に入れてしまったような顔をしている 「たたた谷口、きょきょきょ、今日は2人でご飯食べようか」 「あ、ああそうだな、ひ、久しぶりに屋上にでも行ってみるかな?」 何だこの2人は? ハルヒのアホがついにお前らにも伝染してしまったのか? 「これからもずっと仲良くしていこうね谷口」 「や、やあ、それは、とてもいいことだなぁー」 逃げるように教室を出ていくアホ2人 そして教室中の視線が俺の後ろの机に向けられている 俺は特定の金曜日の夜中にいきなりアイスホッケーの面をつけた怪人に襲われたような気分になり、恐々後ろを振り返った そこにはハルヒが朝と同じ仏頂面で座っていた いつもは休み時間になると超特急で人様に迷惑をかける材料を仕入れに行くこの女が、座ったまま人差し指でトントンと机を叩いていた そして机の上に乗った物体を見た瞬間、俺は世界の終焉を予感した ピンク色のハンカチで包まれたプラスチックの容器 世間一般では弁当箱と呼称される物体だ 男子のほとんどが質実剛健アルマイトの弁当箱を持っているが、女子の多くはこういうファンシーな入れ物を使う そして俺を恐怖のどん底に突き落とす原因は、全く同じものが2つあった事だ つまり俺にも食えという事か 「朝ちょっと早く目が覚めちゃったのよ。あんまりヒマだったから」 春うららかな穏やかな今日この頃なのに、教室の気温は氷点下を記録している 今ごろ地球のどこかに記録的な低温で農作物に致命的なダメージを被っている地域があるかもしれない 世界中の農業従事者の皆さん本当にごめんなさい その原因を作ってしまったのはこの俺です 「いらないのなら持って帰ってシャミセンのエサにでもすればいいわ」 いやいやハルヒさん いただきます つつしんで拝食させていただきます ハルヒの料理の腕前はすでに承知のとおりだ まさか毒を盛るって事もないだろう 2段重ねの弁当箱の上の段には、タコのウインナーと卵焼き、海老フライにマカロニサラダ、そして下の段には白いご飯が詰められており、ちょっと歪んでいるがふりかけで大きく『K』と書いてあった 嫌な予感がしてハルヒの弁当を見ると 全く同じ内容でご飯には『H』と書いてある ハルヒは耳たぶまで真っ赤に染めながら 「味は保証しないからね」 と叫んでガツガツ食べ始めた 釣られて俺も箸を取り、おずおずと食べる 後ろを向いた俺の背中に、教室中の好奇な視線の槍が突き刺さる ついつい先日の長門と周防の戦闘シーンを思い出す そして朝倉の最後の笑顔もだ 背中を槍で貫かれるってのはこんな気分になるものなのか 痛かったろうな…長門、朝倉… 真っ赤な顔をしたハルヒは3分もかけずに完食し、釣られた俺も急いで平らげた 予想通りなかなかの味だったのだが、残念ながらゆっくり味わう余裕すらない 俺は母親が作ってくれた弁当をどうしようかと悩みながら弁当箱に蓋をした 「気まぐれだからいつまで続くか分からないけど しばらくお弁当はいらないからって、お母さんにそう言っといてよね」 はいはいハルヒさん どうもありがとうよ お言葉に甘えさせてもらうけど、あんまり無理するんじゃないぞ 耳まで真っ赤に染めたハルヒはなかなかかわいい風情だった 大急ぎで弁当箱をしまってカバンにしまう そしてダンと音を立てて立ち上がり、疾風のように飛び出して行った おいハルヒ、俺を1人にするな この凍りついてる教室に、せめてキアリクでもかけてから行ってくれ 結局その日が終わるまで、俺に口を利いてくれる生徒は1人もいなかった と言うよりほとんど寝てたので、何の授業だったのかも覚えていない 俺を起こす役のハルヒも午後はずっと眠っていたようだ 気がつくと6限のチャイムが鳴っていた すでに教師すらいない しびれクラゲにも劣らない、ハルヒの強烈なマヒ攻撃からやっと解放された生徒たちは それ以上の被害を被る前にそそくさと逃げ出し始めている 自分のカバンをむんずと掴んだハルヒは俺に向かって 「今日は部活休むから!」 と言って立ち上がった 部活と言うものはな、学校及び生徒会から正式に認可された最低5人以上の団体で、それなりの予算を割り当てられて学校生活をより良くするために存在する組織なんですよと言いたいのだが 「みんなによろしく言っといて。それと後で電話ちょうだいね、以上」 やっぱり何も聞いてないねあんたは おいハルヒ 「何よ!」 弁当ありがとう、うまかったぞ 「ぅぐっ…」 世界選手権クラスの競歩選手も真っ青な速度でハルヒは出て行ってしまった アホの谷口に絡まれる前に俺も教室を飛び出した 俺にもちょいと急ぎの用事がある 本当は昼休みのうちに済ませたかったのだが、ハルヒのマヒ攻撃の影響を俺も受けてしまい、教室を出ることができなかったので、ハルヒが部活を休んでくれたのは好都合でもある 渡り廊下を歩き、ギシギシきしむ部室棟の階段を上がり、俺は文芸部のドアをノックした 「……」 いつもと同じ無言の応答がようやく俺に世界平和を感じさせてくれる しかし今日は少し緊張もしていた 「……」 長門が送ってくれる心地よい無視 こいつを美術部のデッサンのモデルに選べばどれだけ楽な事だろう なんせ『動くな』と言うよりも『動け』と言われる事を苦手にするような女だから、絵を描く者は心ゆくまでこの読書姿を楽しむことができるはず よお長門、体の具合はもういいのか? 「…その質問には今から14時間36分22秒前に答えたはず」 そうか またお前に会えてよかったよ 「……」 なあ長門 「…なに」 ちょっと話したい事があるんだけど、本読みながらでいいから聞いてくれないか もし聞きたくなかったら耳のスイッチ切っといてくれてもいいから …いや、すまん。最後のセリフは忘れてくれ 「……どうぞ」 そうか、俺がこういう言い方ばかりするから長門を苦しめていたのか やっぱり朝比奈さん(大)の言うとおりだったな。改めないと あのな長門、もう知ってると思うけど 俺、ハルヒと付き合う事になった 「……」 それで、その・・・いろいろ考えたんだけど 俺は本当にハルヒの事が好きなのかなって 目をつぶって考えてみたんだ 誰の顔が一番多く浮かんでくるかなって 「……」 もちろんハルヒの顔がたくさん浮かんできたけど、それと同じくらい長門の顔が出てきたんだ 「……」 実は朝比奈さんの顔もかなりの頻度で出現しているのだが、そんな無駄口を叩いてしまうとまた数百年後から怒鳴り込みに来られるのが目に見えているのでそれは言わない 俺はハルヒの事が好きなのか、それとも長門が好きなのかなって でもこういう結果になったんだし、何も後悔はしていないつもりだ ハルヒもたぶん、俺の事を好いてくれてると思う ごめんな、俺、何言ってるのかさっぱり分からんだろう? 「構わない…続けて…」 俺はもしかしたら長門の事が好きだったのかもしれない もし、違う状況で出会ってたら、俺は本気で長門を好きになっていたと思う こんな事を言うべきじゃないと思うんだけど、本当にごめん 「…別にいい…あなたはそうすべきだった 涼宮ハルヒもずっとそれを望んできた 情報統合御思念体も、古泉一樹の組織もその点では意見は一致している そしてあなたは私と交際すると後で必ず後悔する事になる なぜなら私は…」 いいか長門、最後まで聞いてくれ 俺が言いたいのはそんな事じゃなくて、お前にももっと自分の世界を拡げてほしいって言うか、もっともっと人生を楽しんでほしいんだよ 俺はお前の事はかなりよく理解しているつもりだ なんせ生きるか死ぬかの経験を共にした仲だからな お前もいろいろ悩んで、つらい思いをしたと思う だけど長門、お前はもっと人生を楽しめる人間だ いろいろ制限がある存在だってのは分かるけど、そんなの気にしちゃいけない 俺はハルヒと真面目に付き合う、これは決して軽い気持ちじゃないつもりだ だからこそ長門、お前もたっぷり人生を楽しんでほしいんだ そのためなら俺は絶対お前を応援するぞ お前が高校生活をもっと楽しめるために、俺は何でもするつもりだ ハルヒだって同じ気持ちだと思う あいつなら絶対こう言うよ 「SOS団員は必ず全員がハッピーエンドを迎える事!」ってな 長門、お前にはそれができるはずだ なぜならお前も俺たちと同じ、ただ普通の人間だからだ 「………」 お前の親玉の事とかお前の任務とか、そんなのは俺たちにはどうでもいい事だ 今ここにいるお前はごく普通の高校生だ 高校生なら普通に恋愛なんかもしてもいいはずだ お前の親玉もそう思ってるはずだよ絶対に 親なら自分の子供が楽しく暮らしているのを見て、それを喜ばないはずがないだろう? 「…私たちの間には、あなたが考えているような血縁関係は存在しない」 それは違うぞ長門、と言いかけて俺は何かに気がついた 長門の表情が変わっていた 何かがおかしい 長門がその小さな肩を震わせている 開いた本に目を落としてはいるが、その視線は文字を追ってはいなかった 「…ありがとう…あなたの気持は十分伝わった」 長門、これ以上は余計な事かもしれないけど、お前って結構人気あるんだぞ 隠れファンクラブとかもあるらしいしな 谷口いわく、お前のランクはAだ(マイナーは敢えて省略する) これはちょっと禁則に触れるんだけど、お前を嫁にしたがっている男は相当いるらしいぞ 「それは…本当?」 ああ本当だとも お前の情報処理能力でも気付かない事もあるんだな ああこれも言ってはいけない事だ なあ長門 「なに?」 俺の今までの行動とか発言で、お前が人間じゃないからってバカにするような事をしていたら、それに対しては心から謝りたい もしも俺がお前を苦しめていた事があったら、本当にすまないと思う だけどこれからは、お前はごく普通の女子なんだって思うようにするから 今までの事は許してほしい 「……」 ごめんな長門 「いい…そのような状況に該当する言動をあなたはしていない あなたは私をいつも大事に思っていてくれた、それは今も同じ でもありがとう、私は……嬉しい」 そうか、長門 これからも仲良くしような 長門の顔が秒速1cmほどの速さでゆるゆると持ち上がり、かくんと落ちた 「もう少し聞きたい事がある」 何だ長門?何でも聞いてくれ 「私をお嫁にもらいたがっている人の事」 長門?やっぱり興味があるのか? 「……少しだけ」 詳しい事は未来の朝比奈さんに聞かないと分からないんだ 禁則事項なんだけど、ぽろっと漏らしてくれた それより未来の自分に同期してみた方が…あっこれも禁則か 「あなたの禁則事項がまた増えた」 長門はそう言ってかすかに頬を染めた 俺の長門観察日記に新しいページが加わった 長門…ついにお前は…… 笑ったな 「…それも禁則」 俺の心の中の重い物がいっぺんに消えていった 昨日と言うか今日の早朝、朝比奈さん(大)に問い詰められて初めて気付いた事だったが、長門はそれを笑って受け入れてくれた これでよかったですか?未来の朝比奈さん あとは長門の好きなようにさせればいいんですよね 俺はハルヒと2人で優しく見守ってやりますよ もちろん悪い虫がついたらハルヒが容赦しませんから 新しく芽生えた感情に戸惑う長門の横顔を眺めながら、俺は少し眠ろうと思った 今日はハルヒも来ないし、わずかな平和を楽しまないと そう思っているとカチャリと扉が開いた 「やあどうも。昨日は遅くまですみませんでした」 古泉はいつもの笑顔で俺に笑いかけ、次いで長門にも笑顔を向けた 「……こんにちは」 「こんにちは長門さん。おや?涼宮さんは?」 学校には来てたけど部活は休むって言ってもう帰った 「そうですか、涼宮さんもきっとお疲れなんでしょう 我々と違って、彼女にとっては全てが初体験の世界でしたからね あちらのチームSOSと対決してあらためて考えたのですが 我々ももっと早い段階で涼宮さんに全てを告げておくべきだったのかもしれませんね。 今ごろになってそう考えます」 おい古泉 どっちが後始末が大変なのか分かっての発言なんだろうな 俺やお前はそれでいいかもしれないけど朝比奈さんはどうするんだ? ハルヒが思いつきで適当にいじった過去を修正しに飛び回る苦労を考えたら 俺には決していい方法だとは思えん 「冗談ですよ。ところで妙な噂を耳にしたのですが」 またかいお前 せっかく世界がつかの間の平和に戻ったのに さては緑色の火星人が素っ裸で攻めてきたとか? 「いえいえ、もう少し小さい話題です 実は今日の昼休みの事ですがね、とあるクラスでとある男子生徒が 後ろに座っている、真っ赤な顔をした女子生徒と向かい合わせで 彼女の手作り弁当を楽しそうに食べていたと」 ぐっ もうそんな噂が流れてるのか 「はいそれはもう 学校中を矢のような速度で駆け巡りましたよ まさに今世紀最大のニュースです 今ごろ男子生徒の半数がホームセンターで五寸釘を買い集めているでしょうね それに国内の藁の供給が追い付くかどうか、はなはだ不安でもあります かくいう僕も、帰りにホームセンターに寄らないと 一応知り合いを当たってはみますが、この時期に藁など手に入りますかどうか」 ふん 好きに言ってくれ あの…まさかとは思うけど 長門も知ってるのか? 「……知っている。学校中が動揺している 面白がっている者が教師も含めて239名、驚いてるのは345名、悲しんでいるのは…」 分かった長門、もうやめてくれ はあ… やれやれ クソ古泉はいまいましい笑顔を振りまきながら長門と目配せをしている 長門は古泉に優しい目を向け、頬をほんのりピンクに染めた ダメだこりゃ 俺の居場所がない もう帰ろうかな俺 リンク名 エピローグに続く