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氷菓 2. 名誉ある古典部の活動 <家> 手紙 折木 奉太郎 殿 前略 わたしはいま ベナレスにいます。 ちょっと 遅れたけど、 合格おめでとう。 結局 神山高校 だってね。 無事高校生に なったあんたに、 姉として 一つアドバイスを してあげる。 古典部に 入り なさい。 伝統ある部活よ。 そして私も 所属していた 部でもある。 聞いた話だと、 わが古典部の部員は 現在ゼロ。 今年入部者がいなければ 消滅するそうなの。 古典部OGとして、 それはあまりに 忍びないわ。 奉太郎、 姉の青春の場、 古典部を 守りなさい。 名前を置いて おくだけでいいから。 どうせ やりたいことなんか ないんでしょう? かしこ 折木 供恵 <地学準備室> 奉太郎 《古典部が復活してから1ヶ月 ここ地学準備室は俺の中で 思ったより来やすい場所となっていた 放課後に退屈を感じればそこを訪れる 一緒にいて疲れないのであれば 俺はもともと人嫌いというわけではない》 える こんにちは 奉太郎 よう える どうぞ 家の頂き物です 好きにつまんでください 奉太郎 サンキュウ ☆ える 不毛です 奉太郎 一年に二回植えるやつか える それは二毛作です える ひょっとして駄洒落ですか? 奉太郎 聞くな える いえ そうじゃなくてですね 奉太郎 不毛なのか える そうです 不毛です 奉太郎 なにがだ える この放課後がです 目的無き日々は生産的じゃありません 奉太郎 お説ごもっとも で、お前は何かこの古典部に求めるものがあるとでも? える あります 奉太郎 おお える でも それは一身上の都合です 奉太郎 《前にも聞いたぞ》 える 今は 古典部のことを言ってるんです 部活動ですから 活動しなければいけません 奉太郎 目的が無い える いえ あります 10月の文化祭に 文集を出します 奉太郎 文集 える はい 奉太郎 やめよう 手間が掛かりすぎる える いいえ 文集でないとだめなんです 奉太郎 文化祭に一枚かみたいなら 他にも方法はあるだろう 模擬店とか える 神高文化祭は伝統的に模擬店禁止だそうです える それに文集のために予算が出てますし 顧問の先生からも頼まれています える また文集は40年以上の伝統があるので途絶えさせたくないそうです 奉太郎 そういう事情があるなら先に言え わかったやるよ える はい 奉太郎 それで その文集ってのはどんな内容なんだ える わかりません 奉太郎 おいおい える すみません これから調べればいいと思ってました とにかく バックナンバーがあれば取っ掛かりはつかめると思います 探してみましょう! 奉太郎 《えー》 ☆ 奉太郎 無いなー える それじゃあ図書室でしょうか いってみましょう! 奉太郎 うん・・ える なにしてるんですか 折木さんもいくんです ホラ <廊下> 奉太郎 気が進まん 今日は金曜だから 図書当番は 多分・・ <図書室> 摩耶花 あれ 折木じゃない ひさしぶりね あいたくなかったわ 奉太郎 よう伊原 会いに来てやったぜ 摩耶花 ここは教養の聖域よ あんたには似合わないんじゃない? 奉太郎 なら 自分にはお似合いだってのか ご立派なことで 摩耶花 あいっかわらず最低ね 冷やかしに来たなら帰りなさいよ える ええっと・・ 里志 やあ奉太郎 きぐうだねえ あいかわらず仲がいいじゃないか さすがは鏑矢中(かぶらやちゅう)ベストカップル! 奉太郎 ふざけんな 摩耶花 こんな陰気な男 ナメクジのほうがまだましよ ふん 奉太郎 ナメクジ・・ 摩耶花 だいたい福ちゃん 私の気持ちを知ってて よくそんな冗談がいえるわねぇ 里志 ああ ごめんね摩耶花 傷ついちゃった? 摩耶花 またそうやって冗談めかしてごまかすんだから ほんと いい加減にしてよねっ える どういうご関係なんですか 奉太郎 中学のころから里志に惚れてるんだ える まあ 里志 ゴホン 千反田さん こちらは伊原摩耶花 ぼくらとおなじ鏑矢中出身だ 摩耶花 よろしく 里志 摩耶花 こちらは千反田えるさん 僕がこないだ入部した古典部の部長だよ える こちらこそ よろしくお願いします 里志 それより 二人そろって何の用だい? える あ そうでした あの伊原さん お聞きしたいことがあるんですが 摩耶花 はい える ここに部活の文集って置いてありますか? 古典部のなんですけど 摩耶花 古典部・・ なかったと思うけど 表に無いなら書庫かしら える そうですか 里志 何で文集を? える 文化祭で文集を作ることになったので 一度以前の文集を見ておこうと思いまして 里志 へえ カンヤ祭に出品するんだ 奉太郎がよく承知したねえ 奉太郎 ほとんど事後承諾だったけどな・・ カンヤ祭? 里志 聞いたこと無い? 神高文化祭の俗称だよ 奉太郎 またお前の考えた俗称じゃないだろうな 里志 本当さ 手芸部の先輩はみんなカンヤ祭って呼んでるよ 摩耶花は? 摩耶花 漫研でもカンヤ祭っていってるわ える カンヤ・・ どういう字を書くんですか? 里志 わからないんだ 聞いて回ったりはしたんだけどね まあたぶん 神山高校文化祭が 神山祭になって カンヤマ祭 カンヤ祭ってところかと思ってるんだけど 摩耶花 それで千反田さん 文集は書庫を探せばあるかも知れないけど ちょっと司書の先生が会議で席を外してるから 今 はいれないのよ あと30分もすれば戻ってくると思うけど 待つ? える どうします? 奉太郎 待つか 摩耶花 あんたは帰ってもいいのに 奉太郎 へーいへい 里志 待って! 奉太郎 里志 摩耶花 さっきの話 二人にも聞いてもらったらどうだい? 摩耶花 えっ 摩耶花 そうね 折木 たまには頭を働かせてみる気はない? 奉太郎 ない える どういうお話ですか? 里志 愛無き愛読書の話さ える 愛無き愛読書? 里志 なんとも奇妙な話でねぇ どう考えても辻褄が合わなくて 摩耶花と首をひねっていたところなんだ える ぜひ聞かせてください! ☆ 摩耶花 私が当番で 金曜放課後ここに来るとね 毎週同じ本が返却されてるのよ 今日で5週連続 これだけでも変な話でしょ これがその本 える まあ きれいな本 奉太郎 でかい える ちょっと中を見てもいいですか 摩耶花 どうぞ える 折木さんも ほら える 普通の学校誌ですね んー これを読むのはかなり大変そうですね 奉太郎 これを毎週借りるやつがいても おかしくはないな 摩耶花 あんた ここで本借りたこと無いでしょう うちの図書室の貸し出し期間は2週間なの だから毎週借りる必要はないのよ 里志 なのにこの本は 毎週返却されるんだってさ える 誰が借りたかはわかるんですか? 摩耶花 もちろん 裏に貸し出しリストがあるから見てみて える あれ 折木さん 見てください 毎週違う人が借りてます しかも全員その日のうちに返してます 摩耶花 そうなのよ 貸し出しと返却が同じ日で しかも5週連続 時間もわかってて 5人とも昼休みに借りて放課後に返しているの 里志 どうだい気になるだろう える ええ える わたし、気になります! える ちょっと考えて見ましょうよ 折木さん! 奉太郎 《おのれ里志 こうなることを見越して呼び止めたな》 える はら どうです? おもしろそうでしょう 折木さんは鍵のこととか秘密クラブとか あんなに見事に解いてくれたじゃないですか 摩耶花 なあにそれ 里志 奉太郎の興味深い一面にまつわる話さ 奉太郎 やめろ人聞きの悪い える とにかく気になるんです 奉太郎 ならん える なるんです 奉太郎 ならん 摩耶花 折木 静かに 千反田さんも える はい 奉太郎 ああ 奉太郎 《うかつだった これ以上の拒絶や言い逃れは むしろエネルギー効率が悪い ならば・・》 奉太郎 そうだな 少し考えてみるか える はい 摩耶花 福ちゃん 折木って頭よかったっけ 里志 あんまり でもこういう役に立たないことだと 時々役に立つんだ 奉太郎 おまえら言いたい放題だな ☆ 立夏 夏の立つがゆへ也 ☆ <図書室> 奉太郎 《5週間連続で別の人間がこの本を借り その日のうちに返す これを偶然だと言い張るのは簡単だが 千反田は納得しないだろう 大事なのは真実ではない 千反田が納得することなのだ さて・・》 奉太郎 《昼休みに借りて放課後に返していては とてもこれを読む暇などなかろうし 家に持ち帰らないなら 借りずに図書室で読めばいい 結論 この本は図書の本分を果たす為に使用されているのではない とすると・・》 奉太郎 本を 読む以外に使うとしたらどう使う? 摩耶花 何冊かつめば枕にいいかも 里志 腕につければ楯になるね 奉太郎 もっとまじめに考えてくれ える そうですよ こういう本ならではの使い道があるはずです 里志 じゃあ千反田さんはどう思う える そうですね 重ねれば 浅漬けがつかります! 奉太郎 《お前らにはもう聞かない・・ 千反田ってほんとに成績優秀なのか? ただの天然にしか思えんのだが》 奉太郎 視点を変えよう 毎週別の人間が借りているのはどういうわけか 名前からみて全員女だな 考えられるのは二つ 彼女等に共通点はないが この本を金曜日の午後に使うことがはやっている場合 そして 彼女等はグループでこの本を使用し 当番制で順番に借りて使っている場合だ 摩耶花 はやりねえ える 占いとか! 里志 こんな感じ? 今週のあなたのラッキーアイテムは 学校誌! 金曜日の午後に借りてその日のうちに返すと 彼氏とうまくいくかも なあんて 奉太郎 ばかばかしい それに5週連続だぞ? 里志 言ってみただけだよ 奉太郎 共通点は全員が女 それに2年生 クラスは違う 摩耶花 みんな女なのは 何か理由があるのかしら 奉太郎 なんともいえんなあ 全校から無作為に5人選んで それが全員女である可能性は十分ある 里志 それに同性で群れるのも 珍しいことじゃないよね 奉太郎 何かの合図ってのはどうだ たとえば本を表に返してあったら可 裏なら不可とか 摩耶花 表裏で合図ってのは無いと思うわよ ☆ 摩耶花 ほら 里志 なるほど これじゃあ表も裏もわからないね 摩耶花 まあ 折木がいくら知恵を絞ってもそんなところよ 私と福ちゃんだってさんざん考えたんだか・・ら 何? える 何かにおいがします 摩耶花 そう? ・・ なにも匂わないけど? える いいえ 確かに 何かの刺激臭です シンナーのような ・・ 間違いありません 奉太郎 《犬・・》 里志 まあでも千反田さんがこうまで断言するなら 勘違いじゃなさそうだね 奉太郎 《とすれば》 里志 奉太郎 その顔はなんかわかったね? 摩耶花 本当に? 奉太郎 まあなあ 確定はできんが 千反田 運動する気はないか 行ってほしいところがあるんだが える わかりました 奉太郎 いや 俺は行かずにおまえだけで える 私だけ? どうしてですか? 奉太郎 それは・・ 里志 その通りだよ千反田さん 奉太郎に使われるなんてあっちゃいけない 奉太郎は使ってこそ 役に立つんだから! 奉太郎 ずいぶんな言い草だな える いえ 私はどこかに行くなら一緒かと思っただけです 里志 うん、なるほどね える では、行きましょうか 折木さん! <レストラン> える いらっしゃいませ ようこそ当店へ 2つのコース料理をご用意しております どちらにいたしますか? ☆ える オススメはこちらですよ・・ 回想 《今日の屈託は意外と高くつくかも・・》 ☆ <図書室> える 折木さん? 奉太郎 わかったよ 今日は雨で体育がつぶれたからな 可処分エネルギーはまだのこってる える はい 摩耶花 どんだけ限られたエネルギーなのよあんたは 奉太郎 ほっとけ じゃあ行くか える はい 摩耶花 まって 私も行く ちょっと気になるし 福ちゃん ちょっとお留守番お願いね 里志 え 摩耶花 だって図書当番 放り出して置けないでしょう? 奉太郎 じゃあな里志 留守番 よろしく <廊下> える それで折木さん どこに行くんですか? 奉太郎 美術室だ 摩耶花 向こうの校舎ね 奉太郎 そう 遠い だから行きたくなかったんだ 摩耶花 あんたほんっとにものぐさね える そこに何が? 奉太郎 その前に整理だ あの本の使い道だが 休み時間にあんなでかいものを使う女子はまずいないだろう となれば 考えられるのは授業だ 学年が同じでクラスが別の生徒が関係する授業といえば なんだ える 体育か芸術科目ですね 奉太郎 そう あの5人は 毎週授業の前に当番を決めて借りに来てたんだ 摩耶花 毎週ってのが分からないわねぇ 貸し出し期間は2週間だから 奉太郎 あんなでかい本 もって置くより毎週返しておくほうが楽だろう 摩耶花 ああ そうね <美術室前> える あ 摩耶花 どうしたの? える 本と同じにおいがします 摩耶花 本当に 奉太郎 中を見れば分かる 奉太郎 本の使い道はあれだ 2年DEF組の合同授業 芸術科目美術科で製作された絵 あの装丁なら絵のモチーフにぴったりだ える 絵の具のにおいだったんですね 摩耶花 どうしてわかったの? 奉太郎 どうしてって・・ ただの閃き・・ ただの運だろう・・ <図書室> 里志 いやあ 見事見事 さすがに絵のモチーフに使ったなんて想像もつかなかったよ 摩耶花 なんであんなのがわかるの? 折木 変! 奉太郎 何を言う 俺ほど平均的な人間はいない 里志 さて どうだろうねぇ える でも本当に 折木さんには驚かされました 折木さんの頭の中には 私も興味あります 里志 興味が? える ええ 一度 切り開いて中を見てみたいくらいです 奉太郎 たいした脳みそじゃないぞ 学業優秀なおまえが見ても 得るものは無い 摩耶花 へえ 学業優秀なの 里志 そうそう 中間テストはまだだけど きっと学年でもトップクラスの成績をとるよ える いえ いくら成績が取れても それはパーツの集合体に過ぎません 私は そういうパーツではなく 思考を生み出すシステムが知りたいんです 里志 はあ 奉太郎 《というか こいつの嗅覚のほうが 俺には余程謎なんだが》 える 折木さんなら もしかしたら 奉太郎 ん? える あ いえ なんでも 里志 まあとにかく なかなか面白い時間をすごさせてもらったよ 千反田さんは? える もちろん楽しかったです 時間を短く感じました 摩耶花 私は何時間かかっても解らなかったのに くやしい・・ 里志 だから言ったじゃないか 時々役立つって 摩耶花 でも 折木に負けるのは 納得いかない! やっぱりくやしい! 里志 まあまあ摩耶花落ち着いて 奉太郎 《違う ここが違う こんな風には 俺はならない 何が違う なにが》 里志 そうなんだよね ごくまれにひらめく 一瞬の輝きか はたまた える 折木さん 帰っちゃ駄目です 奉太郎 何で ああ 文集・・ える そうです 先生を待たないと 里志 奉太郎ってときどき抜けてるんだよね 摩耶花 時々? 過大評価じゃない? 奉太郎 ん 糸魚川先生 伊原さん ご苦労様 もう帰っていいわよ 摩耶花 はい 戻っていらしたんですか 糸魚川先生 里志 先生 古典部の福部里志です 文集を作る為に バックナンバーを探しているんですが 書庫を調べてもいいですか? 糸魚川先生 古典部 文集 あなたたち古典部なの? そう 残念だけど 文集のバックナンバーは書庫にはないわ 里志 見落としということは 糸魚川先生 あったらさすがに覚えているわ じゃあ 失礼するわね 里志 はあ すいませんでした 里志 だそうだよ 千反田さん える これは困りました 奉太郎 その内 みつかるさ 摩耶花 折木どう? 問題解いて気分はすっきりってとこかしら 奉太郎 別に 摩耶花 あっそう える 仕方ありません 帰りましょう 今日は収穫もありましたし・・ 奉太郎 なんだ それ える いえ 一身上の都合です 奉太郎 またそれか える 《そう 折木さんなら もしかしたら・・》 ☆ <奉太郎 家> 奉太郎 はい 折木です える もしもし ち 千反田です 奉太郎 はあ 千反田 える あの すいません もしかしてお休みでしたか 奉太郎 まあな 姉貴の電話かと思った で 日曜なんかにどうした? える すみません できれば今日 お会いしたいんですけど 折木さんに 折り入ってお話したいことがあるんです ☆ <喫茶パイナップルサンド> 奉太郎 遅い・・ える ハァ あ およびたてして すみません ☆ 奉太郎 それで 何か用だったか える はい? 奉太郎 何の為にこの店まで呼び出したかって聞いてるんだ える このお店を指定したのは 折木さんです 奉太郎 帰る える まっ 待って下さい 奉太郎 貴重な日曜日だぞ お前と漫才するために浪費などできん える す すみません 私 緊張してるんです 奉太郎 緊張ねえ 俺に 告白でも するつもりか える 告白といえば そうかもしれません
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氷菓 7. 正体見たり <バス> 里志 ねえねえ 昨日のテレビ見た? 奉太郎 何をだ? 里志 決まってるじゃないか 取材班は見た 浜名湖巨大うなぎ ハッシー驚愕の正体だよ 摩耶花 ああそれ私も見た 奉太郎 いるわけないだろう そんなもの 里志 幽霊の正体見たり枯れ尾花ってやつかい奉太郎 摩耶花 つまんない奴ね あんたにはロマンと言うものがないの ねえちいちゃん? える 私はいるかいないか その真実が気になります 里志 まあ いてもいなくてもいいけど今日はいて欲しい気分だね そのほうが面白くないかい? 奉太郎 幽霊はどれも枯れ尾花さ 里志 奉太郎らしいや ☆ 奉太郎 神山高校古典部は総勢4名 なぜ俺たちがこの路線バスに揺られているのか それは当然このバスの行き先と関係があるからだ 終点のざいぜん村 登山と温泉で有名だ 俺たちは登山ではなく温泉に向かっていた 夏休みならば 休むのが生活心情に見合った行動だ それなのに ☆ える 叔父の件ではほんとうにありがとうございました 折木さん せっかくですのでみなさんで温泉に行きましょう 行きましょう 温泉! 奉太郎 そう だな ☆ 摩耶花 もうじき迎えのバンがくるはずなんだけど 里志 やあ いい景色だね える あの 折木さん 大丈夫ですか 奉太郎 酔った 里志 これくらいで音を上げるとは さすが奉太郎だ 摩耶花 たった一時間半よ だらしないわね 里志 ところで摩耶花 よく宿が取れたね 摩耶花 民宿を営んでる親戚が今建物が改装中でお客を 取れないからって無料で貸してくれたの ☆ える つきましたよ 折木さん 里志 やあ 着いた着いた 摩耶花 折木 早くしないと置いてくわよ 里志 やってきました僕らのお宿 善名梨絵・善名嘉代 いらっしゃいませ 青山荘へようこそ 摩耶花 こっちが姉の善名梨絵でこっちが妹の善名嘉代 里志・える こんにちは 摩耶花 小6と小4になったんだよね また背のびた ☆ 梨絵 お部屋は二階のおくだよ 里志 わー 奉太郎 はやくはやく なかなか見晴らしのいい部屋だね 奉太郎 たまにはこういうのも悪くない ま 贅沢をいえば一人で来るほうが趣は深いだろうな 里志 奉太郎が一人旅? は 冗談 千反田さんが企画して 摩耶花がコネを使ったからここにいるってことをお忘れなーく 摩耶花 ごはんよ える 夕飯ですよ 里志 だってさ 行こうか 奉太郎 チーズか シチュー グラタン チーズホンデュ 奉太郎 冷しゃぶ? みな せーの いただきまーす 梨絵 あとでデザートもあるよ 奉太郎 チーズケーキか? 梨絵 何で分かったの? 奉太郎 においがした 梨絵 すごいな 奉太郎 すごいか 梨絵 摩耶姉ちゃんのいってたとうりだな 奉太郎 《何を言った伊原》 梨絵 明日みんなで花火しようよ 摩耶花 いいわね 梨絵 でしょ 昨日お父さんが買って あんたなにやってんのよ 嘉代 ごめんおねえちゃん える はい 嘉代 ありがとうございます 摩耶花 火傷してない? 嘉代 大丈夫 梨絵 もう気をつけてよね ☆ 奉太郎 食った食った ん 里志のやつもう風呂にいったのか ☆ 奉太郎 せっかく温泉宿に来たからな ☆ える ところで 折木さんはどちらまで? 奉太郎 お前と同じだ 伊原は? える 子供たちに連れて行かれちゃいました ☆ える 突然なんですが 折木さんのお姉さんはどんな方ですか? 奉太郎 本当に突然だな そういえば千反田は一人っ子だったか 姉貴か いろんな意味で変わり者だし いろんな意味で優秀だな どうもあいつにはどの分野でも勝てる気がせん える ほう 奉太郎 もっとも勝ちたいと思ったこともないけどな 奉太郎 で 何でいきなり姉貴のことを? 善名姉妹を見たからか? える ウフフ 実はですね 兄弟が欲しかったんです 姉か弟 気の置けない相手がいつもそばにいるなんて素敵だと思いませんか? 奉太郎 《思いません どうもお嬢様は人がよすぎるきらいがある 夢見すぎじゃないか 兄弟なんて実際はまったく素敵ではないのだが》 ☆ える ここ 混浴じゃないようですね 奉太郎 えっ 当たり前だ ☆ 奉太郎 ん 里志か 子供 お父さん おじいちゃん 早く もう 奉太郎 おお 案外広いな ☆ 里志 やあ奉太郎 来たね いやあ この湯はいいよ 体に染みとおる 奉太郎 血液に水分が交じり合ったら危険だろうっ 里志 くだらない事言うねえ ま リラックスしてる証拠なら結構なことだけど ☆ 奉太郎 千反田か? ☆ 摩耶花 折木? どうしたの 大丈夫? 里志 湯あたりだよ 摩耶花 へっ? 里志 情けないったらありゃしないよ 僕の半分も入ってなかったくせに 気がついたら目を回してた 摩耶花 あ あんたって奴は ☆ 奉太郎 はー 悪いなあ 二人とも 里志 どういたしましてだ 摩耶花 折木 あんたは結局イベントを楽しめない宿命なのね 奉太郎 まったくだ バス酔いが残ってたのかもな 気持ち悪い 奉太郎 《千反田か?》 える 折木さん 大丈夫ですか 奉太郎 あんまり える まだ熱いですね タオルでも絞ってきましょうか 奉太郎 いや いらない あ 俺は寝る せっかくの合宿に水を注してわるいな える そんな事 これからみんなで怪談をしようっていってるんですけど もし体調が戻られたら折木さんも来てくださいね ではお大事に 奉太郎 ああ ☆ 奉太郎 《まだ8時前か 太鼓?》 梨絵 本当はわざわざ別館を建てなくてもやっていけたのよ 奉太郎 《隣の部屋も開いてるのか》 梨絵 秘密があるの 摩耶花 秘密って? 梨絵 昔 臨時(いんき?)のお客さんが泊まりに来てね 本館の7号室にお通ししたんだけど 食事はいらない 布団も敷かなくていい とにかく近づくなって でも前金払ってくれたし 忙しい時期だったからちょうどいいってなったんだって ところがその晩 すごい悲鳴が聞こえたの 里志 悲鳴? 梨絵 7号室に首をつった人影がボウッと浮かび上がって ゆらゆら揺れてたんだって そのお客さん 会社のお金を使い込んで逃げてきたんだってさ 里志 まってました! 摩耶花 やめなさいよ 梨絵 そんなことがあってから 7号室に泊まったお客さんがね この部屋には何かいる 夜中に影が浮かんでくるって そして9人目に泊まったお客さんがね える どうされたんですか 梨絵 夜のうちに 急な病気で死んじゃったの える そんな 里志 そうこなくっちゃ 摩耶花 やめなさいって 梨絵 だからおばあちゃんお払いを頼んでさらにこの別館を建てたの 悪い噂が広がらないようにね 里志 その7号室って 梨絵 ほら 窓から見える真正面の あの部屋よ あたしたちは1階で暮らしてて 2階にはあまり上がらないようにしてるの 摩耶花 とに? 冗談 梨絵 いい?この話は絶対内緒よ 奉太郎 古風だ 実に ☆ 立秋 初めて秋の気立つがゆへなれば也 ☆ 奉太郎 朝か ☆ 梨絵 あ おはよう 奉太郎 おはよう 奉太郎 千反田たちは? 摩耶花 でた・・ 奉太郎 出たって何が 摩耶花 昨日夜中に生あったかい風で目が覚めて なんとなく寝返り打ったら向かいの部屋に首吊りの影が ぼんやり浮かんで揺れてたの 奉太郎 《うろたえる伊原もなかなか珍品だな これを逃すとは里志も不運な奴だ 》 ☆ 奉太郎 ごちそうさん 梨絵 露天風呂どうだった? える すごく気持ちよかったです 梨絵 よかったー あとお布団もふかふかだったでしょう える はい よく眠れました 奉太郎 《嘉代のは ないみたいだな》 梨絵 あはは 摩耶姉ちゃんがああいう話苦手だったなんて知らなかったなあ 摩耶花 あたしだって幽霊なら怖くないわよ でもあんなのまともに見たら 不気味にも程があるって 嘉代 摩耶姉ちゃん 見たの? 摩耶花 みたわ 絶対に見た 本当に見た 嘉代 お姉ちゃんあの話したの? お父さんがしちゃだめっていってたのに 梨絵 うるさいわね いいじゃない 摩耶姉ちゃんなんだし 奉太郎 どうした? える あの 摩耶花さんのお話 どう思いますか 奉太郎 首吊りの影か? まあ 定番やお約束ってのは欠かせないから生き残ってるんだろう える では折木さん 摩耶花さんの言うことが事実だと思いますか? 奉太郎 思わない える ではやっぱり思い違いでしょうか 奉太郎 ん どういうことだ える 私もみたんです 首吊りの影を 摩耶花さんが起きたので 私も目を覚ましたんです そしたら闇に浮かんで見えました 奉太郎 ほお える 思い違いかとも思ったのですが 摩耶花さんも同じものを見たというので 奉太郎 なにかの見間違いだろう 昨日のあれだ 幽霊の正体見たり える 枯れ尾花ですか? える だとしたら何を見間違えたんでしょう? 摩耶花 そうね だったら何を見間違えたか言って見せてよ 奉太郎 何で俺が える 折木さん 一緒に調べましょう 私 気になります! ☆ 摩耶花 ごめんちいちゃん 梨絵の夏休みの宿題見てあげる約束なの える 任せてください 私たちできっと真相を突き止めます ね? 折木さん 奉太郎 《ね といわれても 》 ☆ える おじゃまします 奉太郎 《とにかく やらなければいけないことは手短にだ》 奉太郎 さて その影とやらはお前の部屋の真向かいに見えたのか える ええ そうでした 奉太郎 大きさは? える 大きすぎも小さすぎもしなかったと思います 奉太郎 形は える よく覚えていないんです 奉太郎 色は える わかりません 影だったので 奉太郎 影か つまり逆光だったから人の姿が影になって見えたってことか える そうだと思います 奉太郎 逆光ねえ 夜の光源ていえば まあ月だろうが える 私もそう思います 昨日の晩月はずいぶん明るかったかと それがなにか あ 奉太郎 千反田 怪談が終わって寝たのは何時だ える ええと10時です 奉太郎 そのとき雨戸は? える しまっていたと思います 奉太郎 雨戸がしまっている限り影はできない 厄介なことになってきた こうなったら本館7号室を見たほうがいいだろう える いいですね 謎めいて やっぱり合宿を開いてよかったです 奉太郎 《開かなくてよかったです》 ☆ 奉太郎 なあ 嘉代 あ はい なんですか 奉太郎 たのむ える ? 奉太郎 子供は苦手だ える あ はい 嘉代さーん ちょっといいですか? 私たち本館に入りたいんですけど 嘉代 本館に どうしてですか える 例の首吊りの影のことを調べているんです 7号室を見せていただきたいんですが 嘉代 ごめんなさい 今はだめなんです おねえちゃんに怒られちゃう 奉太郎 じゃあひとつ教えてくれ あの部屋は今でも客室なのか 嘉代 違います 本館はお客さん用には お風呂場と食堂しか使っていません 奉太郎 じゃあ空き部屋か 嘉代 二階は全部物置になっています もういいですか 奉太郎 ありがとう 役に立った・・ 嫌われたなあ える いいじゃないですか 大きな男の人が怖いんでしょう かわいいですよ ☆ える 7号室に入れないと困りますか 奉太郎 困るというより面倒になった 現場検証ができないからな える あら 懐かしいものがありますね 奉太郎 ? える 朝のラジオ体操 おととしまでは通っていました 奉太郎 《中学2年まで 本当に?》 ☆ える 裏手からも見てみましょう 奉太郎 ? 昨日の晩 雨は降ったか? える ええ 一雨 奉太郎 影を浮かび上がらせるには 西側と東側の両方の雨戸を開けなければならないと言うわけだ 嘉代 あの お昼ごはんです ☆ 梨絵 嘉代 ごちそうさま える やっぱりいいですね 姉妹って 里志 へえ 千反田さんは姉妹に憧れでも? える ええちょっと 摩耶花 で 何かわかった? える いえ 奉太郎 まだ下調べだ 仮説はあるがな 摩耶花 へえ 聞かせてよ 奉太郎 え うん 里志 あのさ 一体何の相談? 僕を蚊帳の外にするなんて 奉太郎 蚊帳の外もなにもおまえいつもどこに行ってるんだ 全然見ないぞ 里志 解かってないなあ 温泉は何度でもつかりに行くのが作法だよ 奉太郎 《そんなものかね》 梨絵 じゃーん どう 私の浴衣 える まあ すてきですね 摩耶花 いいじゃない 梨絵 夏休みの始めにやっとかってもらったんだ 摩耶花 ずっと欲しいっていってたもんね 里志 趣味はいいね 奉太郎 何がよくない 里志 あの帯さ イミテーションじゃないか 奉太郎 なにが突然変異だ 里志 ミューテーションじゃない イミテーションだよ 結び目だけ別に用意したものを取り付けるのさ 僕はあれを浴衣とは認めない 奉太郎 ばかばかしい はあ はっ 里志 どうかしたかい? ? 奉太郎 《さては俺も 首吊りの影ののろいにかかったか?》 ☆ 奉太郎 昨日の温泉に行こう える はい ☆ 奉太郎 《首吊りの影 それは伊原と千反田の錯覚の産物 枯れ尾花だ しかしもう一押し足りない 》 ☆ える 一緒に出ましょうね ☆ 奉太郎 里志か ☆ 奉太郎 おまえさっきまで食事の席にいただろう 一体いつの間に来たんだ 里志 いやあ 青山荘の裏手の崖を滑り降りると この真裏に出るんだよ 奉太郎 《たかが近道のために崖を滑り降りるとは 里志らしい》 奉太郎 《千反田を満足させられる説明がつかない 影の正体は難しくない 要はなぜそうしたのかということだ 》 里志 お 奉太郎まさかのぼせたのかい 奉太郎 なあ 昨日の晩何かイベントはなかったか 里志 湯あたりした奉太郎 奉太郎 じゃなくて 里志 うん みんなで怪談話をした 両手に花でも一輪あまったよ 奉太郎 いや もっとオフィシャルなやつだ 里志 そういや夏祭りがあったよ 太鼓の音が聞こえてたじゃない 奉太郎 《太鼓・・ そうか 夏祭り なるほど》 里志 で それがなにか? ☆ 奉太郎 首吊りの影 あれな ハンガーにかかった浴衣だったんだろうな える えっ なんでそんなところに浴衣が それに雨戸を開けてまで私たちに浴衣の影を見せるなんて 変です 奉太郎 お前たちに見せるためじゃない える じゃあ 奉太郎 乾かしていたんだよ 濡れた浴衣を 雨戸がひらいてたのは風通しをよくして早く乾かすため える なんで 奉太郎 雨が降ったから える 違います なんで7号室なんですか 奉太郎 乾かしているところを見られないようにするためだ える 私たち見ました 奉太郎 違う 家族から隠したかったんだ える どうして 奉太郎 浴衣を干したのは 嘉代だ 奉太郎 嘉代は梨絵の浴衣がうらやましく 着てみたいと思った でも梨絵は貸してくれないだろう える どうしてですか 姉妹ですよ? 奉太郎 気づかなかったか 梨絵は 湯飲みもラジオ体操のカードもボールも自分のものははっきりと区別している子なんだ そんな梨絵に浴衣をかして なんて言えなかったんだ える そんな 奉太郎 だが 嘉代は着たかった だから持ち出して 昨日の夏祭りにそれを着ていった 時刻は8時 える 嘉代さんが夏祭りに? 奉太郎 見たんだよ 昨日の夜8時に家を出て行く人影を 奉太郎 嘉代は怪談話の場にはいなかったようだな える 確かに嘉代さんはいませんでした 奉太郎 そんな時 祭りを楽しむ嘉代に不幸が起きた 奉太郎 雨が降った 雨はすぐに上がったが 浴衣は濡れた 嘉代は明日の花火の予定を思い出した 梨絵は間違いなくこの浴衣を着て花火をしたがるだろう 何とか明日までに浴衣を乾かさないと梨絵に責められる 奉太郎 本館の一階は家族に見つかる 別館は論外 夜中に乾燥機は使えない だから嘉代は夜中にみんなが寝静まるころを見計らって 本館二階の一番奥の部屋に浴衣を干した さらに嘉代の不幸は続く 開いた窓から月明かりが差し込み 首吊りの影を見せた そして最後の不幸は おれたちが首吊りの影を調べたこと 嘉代は針のムシロだったはずだ 奉太郎 《おそらくあのときの襖の人影は 嘉代だったに違いない》 える 嘉代さん 奉太郎 浴衣は朝早くに戻しておいた 梨絵と違って毎日ラジオ体操に通ってる嘉代のことだ戻すのは簡単だっただろう える そうでしたか 奉太郎 このことは 伊原には伏せておく いろいろ事情ってのもあるだろうからな える そうなら・・ あの二人は仲が悪いということになります 浴衣を貸し借りすることもできない姉妹なんて 奉太郎 そんなもんじゃないか 兄弟なんて える 私は 兄弟が欲しかったんです 尊敬できる姉か かわいい弟が 奉太郎 《千反田が望む兄弟ってのは 枯れ尾花なのかもな》 奉太郎 熱 ん 梨絵 いける? 嘉代 うん える あ 奉太郎 まあ 枯れ尾花ばかりでもないかもな
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氷菓 2. 名誉ある古典部の活動 <家> 手紙 折木 奉太郎 殿 前略 わたしはいま ベナレスにいます。 ちょっと 遅れたけど、 合格おめでとう。 結局 神山高校 だってね。 無事高校生に なったあんたに、 姉として 一つアドバイスを してあげる。 古典部に 入り なさい。 伝統ある部活よ。 そして私も 所属していた 部でもある。 聞いた話だと、 わが古典部の部員は 現在ゼロ。 今年入部者がいなければ 消滅するそうなの。 古典部OGとして、 それはあまりに 忍びないわ。 奉太郎、 姉の青春の場、 古典部を 守りなさい。 名前を置いて おくだけでいいから。 どうせ やりたいことなんか ないんでしょう? かしこ 折木 供恵 <地学準備室> 奉太郎 《古典部が復活してから1ヶ月 ここ地学準備室は俺の中で 思ったより来やすい場所となっていた 放課後に退屈を感じればそこを訪れる 一緒にいて疲れないのであれば 俺はもともと人嫌いというわけではない》 える こんにちは 奉太郎 よう える どうぞ 家の頂き物です 好きにつまんでください 奉太郎 サンキュウ ☆ える 不毛です 奉太郎 一年に二回植えるやつか える それは二毛作です える ひょっとして駄洒落ですか? 奉太郎 聞くな える いえ そうじゃなくてですね 奉太郎 不毛なのか える そうです 不毛です 奉太郎 なにがだ える この放課後がです 目的無き日々は生産的じゃありません 奉太郎 お説ごもっとも で、お前は何かこの古典部に求めるものがあるとでも? える あります 奉太郎 おお える でも それは一身上の都合です 奉太郎 《前にも聞いたぞ》 える 今は 古典部のことを言ってるんです 部活動ですから 活動しなければいけません 奉太郎 目的が無い える いえ あります 10月の文化祭に 文集を出します 奉太郎 文集 える はい 奉太郎 やめよう 手間が掛かりすぎる える いいえ 文集でないとだめなんです 奉太郎 文化祭に一枚かみたいなら 他にも方法はあるだろう 模擬店とか える 神高文化祭は伝統的に模擬店禁止だそうです える それに文集のために予算が出てますし 顧問の先生からも頼まれています える また文集は40年以上の伝統があるので途絶えさせたくないそうです 奉太郎 そういう事情があるなら先に言え わかったやるよ える はい 奉太郎 それで その文集ってのはどんな内容なんだ える わかりません 奉太郎 おいおい える すみません これから調べればいいと思ってました とにかく バックナンバーがあれば取っ掛かりはつかめると思います 探してみましょう! 奉太郎 《えー》 ☆ 奉太郎 無いなー える それじゃあ図書室でしょうか いってみましょう! 奉太郎 うん・・ える なにしてるんですか 折木さんもいくんです ホラ <廊下> 奉太郎 気が進まん 今日は金曜だから 図書当番は 多分・・ <図書室> 摩耶花 あれ 折木じゃない ひさしぶりね あいたくなかったわ 奉太郎 よう伊原 会いに来てやったぜ 摩耶花 ここは教養の聖域よ あんたには似合わないんじゃない? 奉太郎 なら 自分にはお似合いだってのか ご立派なことで 摩耶花 あいっかわらず最低ね 冷やかしに来たなら帰りなさいよ える ええっと・・ 里志 やあ奉太郎 きぐうだねえ あいかわらず仲がいいじゃないか さすがは鏑矢中(かぶらやちゅう)ベストカップル! 奉太郎 ふざけんな 摩耶花 こんな陰気な男 ナメクジのほうがまだましよ ふん 奉太郎 ナメクジ・・ 摩耶花 だいたい福ちゃん 私の気持ちを知ってて よくそんな冗談がいえるわねぇ 里志 ああ ごめんね摩耶花 傷ついちゃった? 摩耶花 またそうやって冗談めかしてごまかすんだから ほんと いい加減にしてよねっ える どういうご関係なんですか 奉太郎 中学のころから里志に惚れてるんだ える まあ 里志 ゴホン 千反田さん こちらは伊原摩耶花 ぼくらとおなじ鏑矢中出身だ 摩耶花 よろしく 里志 摩耶花 こちらは千反田えるさん 僕がこないだ入部した古典部の部長だよ える こちらこそ よろしくお願いします 里志 それより 二人そろって何の用だい? える あ そうでした あの伊原さん お聞きしたいことがあるんですが 摩耶花 はい える ここに部活の文集って置いてありますか? 古典部のなんですけど 摩耶花 古典部・・ なかったと思うけど 表に無いなら書庫かしら える そうですか 里志 何で文集を? える 文化祭で文集を作ることになったので 一度以前の文集を見ておこうと思いまして 里志 へえ カンヤ祭に出品するんだ 奉太郎がよく承知したねえ 奉太郎 ほとんど事後承諾だったけどな・・ カンヤ祭? 里志 聞いたこと無い? 神高文化祭の俗称だよ 奉太郎 またお前の考えた俗称じゃないだろうな 里志 本当さ 手芸部の先輩はみんなカンヤ祭って呼んでるよ 摩耶花は? 摩耶花 漫研でもカンヤ祭っていってるわ える カンヤ・・ どういう字を書くんですか? 里志 わからないんだ 聞いて回ったりはしたんだけどね まあたぶん 神山高校文化祭が 神山祭になって カンヤマ祭 カンヤ祭ってところかと思ってるんだけど 摩耶花 それで千反田さん 文集は書庫を探せばあるかも知れないけど ちょっと司書の先生が会議で席を外してるから 今 はいれないのよ あと30分もすれば戻ってくると思うけど 待つ? える どうします? 奉太郎 待つか 摩耶花 あんたは帰ってもいいのに 奉太郎 へーいへい 里志 待って! 奉太郎 里志 摩耶花 さっきの話 二人にも聞いてもらったらどうだい? 摩耶花 えっ 摩耶花 そうね 折木 たまには頭を働かせてみる気はない? 奉太郎 ない える どういうお話ですか? 里志 愛無き愛読書の話さ える 愛無き愛読書? 里志 なんとも奇妙な話でねぇ どう考えても辻褄が合わなくて 摩耶花と首をひねっていたところなんだ える ぜひ聞かせてください! ☆ 摩耶花 私が当番で 金曜放課後ここに来るとね 毎週同じ本が返却されてるのよ 今日で5週連続 これだけでも変な話でしょ これがその本 える まあ きれいな本 奉太郎 でかい える ちょっと中を見てもいいですか 摩耶花 どうぞ える 折木さんも ほら える 普通の学校誌ですね んー これを読むのはかなり大変そうですね 奉太郎 これを毎週借りるやつがいても おかしくはないな 摩耶花 あんた ここで本借りたこと無いでしょう うちの図書室の貸し出し期間は2週間なの だから毎週借りる必要はないのよ 里志 なのにこの本は 毎週返却されるんだってさ える 誰が借りたかはわかるんですか? 摩耶花 もちろん 裏に貸し出しリストがあるから見てみて える あれ 折木さん 見てください 毎週違う人が借りてます しかも全員その日のうちに返してます 摩耶花 そうなのよ 貸し出しと返却が同じ日で しかも5週連続 時間もわかってて 5人とも昼休みに借りて放課後に返しているの 里志 どうだい気になるだろう える ええ える わたし、気になります! える ちょっと考えて見ましょうよ 折木さん! 奉太郎 《おのれ里志 こうなることを見越して呼び止めたな》 える はら どうです? おもしろそうでしょう 折木さんは鍵のこととか秘密クラブとか あんなに見事に解いてくれたじゃないですか 摩耶花 なあにそれ 里志 奉太郎の興味深い一面にまつわる話さ 奉太郎 やめろ人聞きの悪い える とにかく気になるんです 奉太郎 ならん える なるんです 奉太郎 ならん 摩耶花 折木 静かに 千反田さんも える はい 奉太郎 ああ 奉太郎 《うかつだった これ以上の拒絶や言い逃れは むしろエネルギー効率が悪い ならば・・》 奉太郎 そうだな 少し考えてみるか える はい 摩耶花 福ちゃん 折木って頭よかったっけ 里志 あんまり でもこういう役に立たないことだと 時々役に立つんだ 奉太郎 おまえら言いたい放題だな ☆ 立夏 夏の立つがゆへ也 ☆ <図書室> 奉太郎 《5週間連続で別の人間がこの本を借り その日のうちに返す これを偶然だと言い張るのは簡単だが 千反田は納得しないだろう 大事なのは真実ではない 千反田が納得することなのだ さて・・》 奉太郎 《昼休みに借りて放課後に返していては とてもこれを読む暇などなかろうし 家に持ち帰らないなら 借りずに図書室で読めばいい 結論 この本は図書の本分を果たす為に使用されているのではない とすると・・》 奉太郎 本を 読む以外に使うとしたらどう使う? 摩耶花 何冊かつめば枕にいいかも 里志 腕につければ楯になるね 奉太郎 もっとまじめに考えてくれ える そうですよ こういう本ならではの使い道があるはずです 里志 じゃあ千反田さんはどう思う える そうですね 重ねれば 浅漬けがつかります! 奉太郎 《お前らにはもう聞かない・・ 千反田ってほんとに成績優秀なのか? ただの天然にしか思えんのだが》 奉太郎 視点を変えよう 毎週別の人間が借りているのはどういうわけか 名前からみて全員女だな 考えられるのは二つ 彼女等に共通点はないが この本を金曜日の午後に使うことがはやっている場合 そして 彼女等はグループでこの本を使用し 当番制で順番に借りて使っている場合だ 摩耶花 はやりねえ える 占いとか! 里志 こんな感じ? 今週のあなたのラッキーアイテムは 学校誌! 金曜日の午後に借りてその日のうちに返すと 彼氏とうまくいくかも なあんて 奉太郎 ばかばかしい それに5週連続だぞ? 里志 言ってみただけだよ 奉太郎 共通点は全員が女 それに2年生 クラスは違う 摩耶花 みんな女なのは 何か理由があるのかしら 奉太郎 なんともいえんなあ 全校から無作為に5人選んで それが全員女である可能性は十分ある 里志 それに同性で群れるのも 珍しいことじゃないよね 奉太郎 何かの合図ってのはどうだ たとえば本を表に返してあったら可 裏なら不可とか 摩耶花 表裏で合図ってのは無いと思うわよ ☆ 摩耶花 ほら 里志 なるほど これじゃあ表も裏もわからないね 摩耶花 まあ 折木がいくら知恵を絞ってもそんなところよ 私と福ちゃんだってさんざん考えたんだか・・ら 何? える 何かにおいがします 摩耶花 そう? ・・ なにも匂わないけど? える いいえ 確かに 何かの刺激臭です シンナーのような ・・ 間違いありません 奉太郎 《犬・・》 里志 まあでも千反田さんがこうまで断言するなら 勘違いじゃなさそうだね 奉太郎 《とすれば》 里志 奉太郎 その顔はなんかわかったね? 摩耶花 本当に? 奉太郎 まあなあ 確定はできんが 千反田 運動する気はないか 行ってほしいところがあるんだが える わかりました 奉太郎 いや 俺は行かずにおまえだけで える 私だけ? どうしてですか? 奉太郎 それは・・ 里志 その通りだよ千反田さん 奉太郎に使われるなんてあっちゃいけない 奉太郎は使ってこそ 役に立つんだから! 奉太郎 ずいぶんな言い草だな える いえ 私はどこかに行くなら一緒かと思っただけです 里志 うん、なるほどね える では、行きましょうか 折木さん! <レストラン> える いらっしゃいませ ようこそ当店へ 2つのコース料理をご用意しております どちらにいたしますか? ☆ える オススメはこちらですよ・・ 回想 《今日の屈託は意外と高くつくかも・・》 ☆ <図書室> える 折木さん? 奉太郎 わかったよ 今日は雨で体育がつぶれたからな 可処分エネルギーはまだのこってる える はい 摩耶花 どんだけ限られたエネルギーなのよあんたは 奉太郎 ほっとけ じゃあ行くか える はい 摩耶花 まって 私も行く ちょっと気になるし 福ちゃん ちょっとお留守番お願いね 里志 え 摩耶花 だって図書当番 放り出して置けないでしょう? 奉太郎 じゃあな里志 留守番 よろしく <廊下> える それで折木さん どこに行くんですか? 奉太郎 美術室だ 摩耶花 向こうの校舎ね 奉太郎 そう 遠い だから行きたくなかったんだ 摩耶花 あんたほんっとにものぐさね える そこに何が? 奉太郎 その前に整理だ あの本の使い道だが 休み時間にあんなでかいものを使う女子はまずいないだろう となれば 考えられるのは授業だ 学年が同じでクラスが別の生徒が関係する授業といえば なんだ える 体育か芸術科目ですね 奉太郎 そう あの5人は 毎週授業の前に当番を決めて借りに来てたんだ 摩耶花 毎週ってのが分からないわねぇ 貸し出し期間は2週間だから 奉太郎 あんなでかい本 もって置くより毎週返しておくほうが楽だろう 摩耶花 ああ そうね <美術室前> える あ 摩耶花 どうしたの? える 本と同じにおいがします 摩耶花 本当に 奉太郎 中を見れば分かる 奉太郎 本の使い道はあれだ 2年DEF組の合同授業 芸術科目美術科で製作された絵 あの装丁なら絵のモチーフにぴったりだ える 絵の具のにおいだったんですね 摩耶花 どうしてわかったの? 奉太郎 どうしてって・・ ただの閃き・・ ただの運だろう・・ <図書室> 里志 いやあ 見事見事 さすがに絵のモチーフに使ったなんて想像もつかなかったよ 摩耶花 なんであんなのがわかるの? 折木 変! 奉太郎 何を言う 俺ほど平均的な人間はいない 里志 さて どうだろうねぇ える でも本当に 折木さんには驚かされました 折木さんの頭の中には 私も興味あります 里志 興味が? える ええ 一度 切り開いて中を見てみたいくらいです 奉太郎 たいした脳みそじゃないぞ 学業優秀なおまえが見ても 得るものは無い 摩耶花 へえ 学業優秀なの 里志 そうそう 中間テストはまだだけど きっと学年でもトップクラスの成績をとるよ える いえ いくら成績が取れても それはパーツの集合体に過ぎません 私は そういうパーツではなく 思考を生み出すシステムが知りたいんです 里志 はあ 奉太郎 《というか こいつの嗅覚のほうが 俺には余程謎なんだが》 える 折木さんなら もしかしたら 奉太郎 ん? える あ いえ なんでも 里志 まあとにかく なかなか面白い時間をすごさせてもらったよ 千反田さんは? える もちろん楽しかったです 時間を短く感じました 摩耶花 私は何時間かかっても解らなかったのに くやしい・・ 里志 だから言ったじゃないか 時々役立つって 摩耶花 でも 折木に負けるのは 納得いかない! やっぱりくやしい! 里志 まあまあ摩耶花落ち着いて 奉太郎 《違う ここが違う こんな風には 俺はならない 何が違う なにが》 里志 そうなんだよね ごくまれにひらめく 一瞬の輝きか はたまた える 折木さん 帰っちゃ駄目です 奉太郎 何で ああ 文集・・ える そうです 先生を待たないと 里志 奉太郎ってときどき抜けてるんだよね 摩耶花 時々? 過大評価じゃない? 奉太郎 ん 糸魚川先生 伊原さん ご苦労様 もう帰っていいわよ 摩耶花 はい 戻っていらしたんですか 糸魚川先生 里志 先生 古典部の福部里志です 文集を作る為に バックナンバーを探しているんですが 書庫を調べてもいいですか? 糸魚川先生 古典部 文集 あなたたち古典部なの? そう 残念だけど 文集のバックナンバーは書庫にはないわ 里志 見落としということは 糸魚川先生 あったらさすがに覚えているわ じゃあ 失礼するわね 里志 はあ すいませんでした 里志 だそうだよ 千反田さん える これは困りました 奉太郎 その内 みつかるさ 摩耶花 折木どう? 問題解いて気分はすっきりってとこかしら 奉太郎 別に 摩耶花 あっそう える 仕方ありません 帰りましょう 今日は収穫もありましたし・・ 奉太郎 なんだ それ える いえ 一身上の都合です 奉太郎 またそれか える 《そう 折木さんなら もしかしたら・・》 ☆ <奉太郎 家> 奉太郎 はい 折木です える もしもし ち 千反田です 奉太郎 はあ 千反田 える あの すいません もしかしてお休みでしたか 奉太郎 まあな 姉貴の電話かと思った で 日曜なんかにどうした? える すみません できれば今日 お会いしたいんですけど 折木さんに 折り入ってお話したいことがあるんです ☆ <喫茶パイナップルサンド> 奉太郎 遅い・・ える ハァ あ およびたてして すみません ☆ 奉太郎 それで 何か用だったか える はい? 奉太郎 何の為にこの店まで呼び出したかって聞いてるんだ える このお店を指定したのは 折木さんです 奉太郎 帰る える まっ 待って下さい 奉太郎 貴重な日曜日だぞ お前と漫才するために浪費などできん える す すみません 私 緊張してるんです 奉太郎 緊張ねえ 俺に 告白でも するつもりか える 告白といえば そうかもしれません
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人気商品一覧 @wikiのwikiモードでは #price_list(カテゴリ名) と入力することで、あるカテゴリの売れ筋商品のリストを表示することができます。 カテゴリには以下のキーワードがご利用できます。 キーワード 表示される内容 ps3 PlayStation3 ps2 PlayStation3 psp PSP wii Wii xbox XBOX nds Nintendo DS desctop-pc デスクトップパソコン note-pc ノートパソコン mp3player デジタルオーディオプレイヤー kaden 家電 aircon エアコン camera カメラ game-toy ゲーム・おもちゃ全般 all 指定無し 空白の場合はランダムな商品が表示されます。 ※このプラグインは価格比較サイト@PRICEのデータを利用しています。 たとえば、 #price_list(game-toy) と入力すると以下のように表示されます。 ゲーム・おもちゃ全般の売れ筋商品 #price_list ノートパソコンの売れ筋商品 #price_list 人気商品リスト #price_list
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氷菓 11. 愚者のエンドロール <視聴覚室> 奉太郎 え? 摩耶花 カメラマンが7人目てのは面白かったし 登場人物全員がいっせいにカメラ目線になるシーンは迫力もあったわ でもあれじゃあどこにもザイルの出番は無いじゃない! 奉太郎 は! あ いや ザイルをトリックで使うとは限らないだろう 摩耶花 それならなんで本郷先輩はあそこまで強度にこだわったのよ トリックに必要不可欠だからじゃないの? 奉太郎 摩耶花 あ でも 私のが間違ってるかもね とにかくさ私は面白かったわよ あんたのあれ ラストなんかはびっくりしたし でも 全部の話にあってるトリックじゃないって思っただけ 奉太郎 ああ 摩耶花 じゃあ私 漫研にいくから また明日ね 折木 ☆ <廊下> 奉太郎 《なんで忘れていたんだ 無意識に無視していたのか 俺が 回答にあわせて問題を捻じ曲げていたのか 俺が・・》 里志 奉太郎 奉太郎 ねえ ちょっと 奉太郎 奉太郎 うあぁ 里志 どうしたの 奉太郎 なんでもない 何か用か 里志 いやあ 少し聞きたいことがあってね 摩耶花は? 奉太郎 漫研にいくとかいってたぞ 里志 じゃあちょうどいいや 千反田さんも帰ったみたいだし 奉太郎 つまり伊原や千反田に聞かれたくない話って事だな 里志 まあね 皆の前じゃなんだとおもったんだ 奉太郎 で 何だ 里志 さっきのトリックだけど 本郷先輩の案のつもりかい? それとも奉太郎の案かい 奉太郎 本郷だが 里志 そうか 奉太郎 あのトリックは本郷先輩の考えとはちがう 僕に正解は分からないけど あれじゃないとはいえるよ 奉太郎 何か根拠があるんだな 里志 ああ 奉太郎 そんなに致命的な矛盾があるのに俺はきづかなかったのか 里志 矛盾じゃないよ いいと思ったのは嘘じゃない でも本郷先輩の考えじゃないんだ 奉太郎 つまり? 里志 叙述トリックってわかるかい? 奉太郎 うん 文章の見せ方で読者をだますやり方だろ? 里志 そうだよ あの映画みたいにカメラマンが実は犯人ってのはいわゆる叙述トリックだ 奉太郎 まあ そうだな 里志 奉太郎 素人同然の本郷先輩がミステリーの勉強に使った本は何だった? 奉太郎 ホームズだろ 里志 そう 本郷先輩はホームズしか読んでないんだ いいかい奉太郎 叙述トリックはホームズの中には存在しない 叙述トリックはごく少数の例を除けばクリスティーの時代つまり20世紀にはいってから出てきたんだ 僕は本郷先輩を知らない でも先輩がクリスティー並なみだとはとても思えない 奉太郎 あ 里志 個人的にあの映画は実に僕好みだ あれが奉太郎の案なら何も言わないよ けど 本郷先輩の案てことなら 僕も違うといわざるを得ない 奉太郎 待てくれ 本郷の読書暦を俺たちは知らない 違う本で叙述トリックに触れたのかもしれないじゃないか そうだ例えば映画とか 里志 奉太郎 本当にそう思ってるのかい 奉太郎 里志 奉太郎が心底そう思えるなら僕はそれでもいいよ 言いたかった事はそれだけ じゃあ僕はいくね 奉太郎 <昇降口> 奉太郎 どうした 先に帰ったんじゃなかったのか える あの折木さん お話したいことがあります 奉太郎 お前もか <道> 奉太郎 話ってのはあの映画のことだろう える はい 奉太郎 気に入らなかったんだな える そういうわけでは 奉太郎 遠慮するな 伊原にも里志にも言われたんだ あれは本郷の真意じゃないって おれもそうじゃないかと思い始めてる える 私も違うと思います 奉太郎 はぁ その理由を教えてくれないか える まだ日が高いですね 少し川辺をお散歩しませんか? <川> える 折木さん今回の一件で私が気になっていたことがわかりますか? 奉太郎 映画がどういう結末に終わるのかだろう そのためにやってきた える いいえ 私本当は映画の結末はどんなでもかまわないと思っていました だから折木さんの案もとても良かったと思います 奉太郎 じゃあ 何が気になったんだ える 私 本郷さんという方が気になっているんです 今回の一件は どう考えてもおかしいと思いました 入須さんはなぜ本郷さんと親しい人 例えば江波さんにトリックがどんなものだったか聞いてもらわなかったのか それがわからないんです 奉太郎 本郷を安静にさせたいからだろう お前の考えがあるならいってくれ える 本郷さんは脚本の見通しを最後まで持っていたと思うんです 途中で倒れたとしても 聞くことは出来たと思います それすら出来ない容態なら 親友といっていた江波さんは絶対にクラスの皆さんを許さないくらい怒ると思うんです 案内役なんて引き受けないくらいに 奉太郎 ああ える 本郷さんは誰にもトリックを話さなかったんじゃないでしょうか 奉太郎 本郷は自分で脚本を書くつもりだったとか える いいえ話に聞く本郷さんは気の弱い方のように思えました そんな方が クラスメイトを待たせてまで意地を張るとは思えません 奉太郎 じゃあ結末に自信が無かったんじゃないか える それは私も考えました ですがクラスの皆さんはいい人です 本郷さんの案の出来を糾弾するとは思えません 奉太郎 《いい人ね》 える 本郷さんの考えた結末があれなら きっと他の人に自信を持って言えたと思うんです それくらい良く出来ていました でもそうじゃなかったからいえなかったと思うんです だとしたら 本郷さんを追い詰めたのは一体何なのか それが知りたかったんです それにはきっと志半ばでで筆を折った 本郷さんの 無念が 叫びが 隠されていると思うんです でもさっきの映画はそれに答えてくれませんでした 私があれを気に入っていないように見えたなら きっとそれが理由です 奉太郎 《俺が映画の真相を見抜こうとしている間 千反田は本郷のことを考えていたのか 俺はどうだ あの脚本をただの文章問題と見ていたんじゃないか 舞台設定 登場人物 殺人事件 トリック 「さて 犯人は この中にいます」 俺は脚本に本郷の気持ちがこめられているなんて考えもしなかった 全く たいした探偵役だ》 える 《でも 折木さんを責めているんじゃありません とっても驚きました あの解決シーン 本郷さんの考えとは違いますが素敵な仕上がりになっていると思います 》 奉太郎 《おれは脚本家を引き受けたわけじゃない 俺は見事に間違ったってわけだ だが何を間違った? 》 <部屋> 奉太郎 《考えがまとまらない ヒラメキもやってこない もういいじゃないか 撮影はもうすんでる どんなに考えても後の祭り 合理的に考えれば無駄な時間 省エネじゃない 》 奉太郎 あーくそ 痛! 奉太郎 《本でも読めば気晴らしになるか 》 奉太郎 《姉貴 こんな本も持っていたのか ええと 女帝 母性愛 豊穣な心 感性 これだけ見ると全然入須にみあってないな で 伊原は正義 平等 正義 公平 ん あながち間違ってない 里志が魔術師 状況の開始 独創性 趣味か フ で千反田が愚者 好奇心 行動への衝動 なるほどな で俺が 内面の強さ 闘志 絆 なんだこれは 全然一致して無いだろう 里志は何でこれを俺だと》 奉太郎 《「力」は獰猛なライオンが優しい女性にコントロールされている絵に象徴される。 里志の奴 俺はあいつらにコントロールされているわけじゃない 姉気にしても千反田にしても入須にしてもだな ・・・ 》 奉太郎 《俺は力かもしれない・・ なかなか興味深い タロットのイラストの意味から俺を暗示させたのか 実に里志らしい 見方を変えたわけ・・ 見方を変える?》 ☆ <学校> 入須 おお しばらく振りだな 奉太郎 どうも 入須 映画 いいものに仕上がっただろう 君の協力のおかげだありがとう そうだ 今度の土曜に打ち上げがあるんだが君も参加しないか? 奉太郎 行きません 入須 ん? 奉太郎 入須先輩 お話があります ☆ 処暑 陽気とどまりて、 初めて退きやまんとすれば也 ☆ <喫茶 一二三(ひふみ)> 店員 雲南茶でございます 抹茶でございます ごゆっくりどうぞ 入須 で 話とは? 奉太郎 先輩は前にこの店で 俺には技術があるといいましたね 入須 確かに 奉太郎 何の技術です 入須 ふ 言わせたいのか 推理という技術・・ 奉太郎 違うでしょう 俺は探偵じゃなく 推理作家だったんじゃないですか? 入須 ヒントは何だった? 奉太郎 ホームズです ホームズのネタバレをしてもいいですか 入須 ああ かまわない 奉太郎 本郷が読んだ小説にメモがはさんでありました それを書き写したものがこれです 俺は最初 使えそうなアイデアをピックアップしたのだと思いました ですがそれは間違いでした 里志に言わせると 赤髪組合と三人ガリデブは同じトリックだそうです ではなぜ赤髪組合が三角で三人ガリデブが二重丸なのか 里志にそれぞれの内容を聞き見えたのは 二重丸は登場人物が生きてる話 バツは死ぬ話ということです 俺の解釈はこうです 本郷はトリックなんか眼中に無かった 彼女はハッピ-エンドを好み悲劇 特に人が死ぬ話を嫌った そう考えたとき いくつか納得できることがありました 一つは血糊の少なさ もう一つはアンケート結果のおかしさです 入須 アンケート結果? こんなものを手に入れていたのか 奉太郎 気前良く貸してくれましたよ でこのアンケートですが 死者数が100人以上 ありえないでしょう クラスの人数が30人程度なのに でも有効票だ ではこの無効票とはなにか 入須 死ぬ人数がゼロということだな 奉太郎 この票は本郷が入れたものですね 彼女の脚本では死者が出ないはずだった 入須 さすがだな 奉太郎 ところが クラスメイトがアドリブと暴走を繰り返した 本郷は撮影に不参加だったと聞いています それに なにより 脚本には海藤が死んだとはかかれていない ですが映像では 入須 そうだな あの腕は良く出来ていた 奉太郎 それは伊原も言っていました 海藤はどこからどう見ても死んでいた 奉太郎 ここから先は 妄想です 何の証拠も無い ですが先輩 俺は言わずにいられない 本郷はクラスメイトに 脚本と違っているから取り直せとは言えなかった 彼女は気弱で真面目だった アンケート結果を無視したことを後ろめたく思っていたとおもいます そこで入須先輩 あなたの登場だ このままでは本郷は悪者になってしまう だからあなたは本郷を病気にし 脚本を未完成にした そしてクラスメイトを集め推理大会を開いた だが実際はシナリオコンテストだった みんなのシナリオの出来がよくないとわかると 俺たちまで巻き込んだ 誰も 俺も 自分が創作しているとは気づかなかった あなたによって見方を変えられていたからだ そして 俺の創作物は本郷の脚本にかわり彼女は傷つかずにすむという寸法です 違いますか 入須 さっきから 違うとはいっていない 奉太郎 あなたは俺にこういいましたね 能力のある人間の無自覚は能力の無い人間には辛らつだと ご冗談でしょう あなたは能力の無い人間の気持ちなんて気にしない あなたが見ているのは結論だけだ 違いますか 入須 それがなにか 奉太郎 では おれに技術があるといったのも全て本郷のためですか 誰でも自分を自覚すべきだといったあの言葉も うそですか 入須 心からの言葉ではない それをうそと呼ぶのは君の自由よ 奉太郎 それを聞いて 安心しました ☆ 奉太郎 ☆ <チャット> 名前を入れてくださいさんがログインしました まゆこさんがログインしました まゆこ:本当にありがとうございました まゆこ:私があんな脚本にしたから 名前を入れてください:もういい 名前を入れてください:お前の望む映画にはならなかったかもしれないが まゆこ:そんなことないです まゆこ:わたしの望みは まゆこ:みんなで、できたってばんざいすることでしたから 名前を入れてください:(まったくおまえってやつは) いやなんでもない ☆ あ・た・し♪さんがログインしました 名前を入れて下さいさんがログインしました 名前を入れて下さい:こんにちは あ・た・し♪:やほー♪ あ・た・し♪:うまくいったみたいね 名前を入れて下さい:先輩のおかげです 名前を入れて下さい:ただ彼には 名前を入れて下さい:申し訳ないことをしたな、と あ・た・し♪:本当にそう思ってる? 名前を入れて下さい:地球の反対側に人に虚勢をはっても仕方ないでしょう あ・た・し♪:そりゃ、そーだ あ・た・し♪:じゃあ、地球の反対側の人に嘘ついちゃ駄目だよ 名前を入れて下さい:嘘、ですか? あ・た・し♪:脚本のコを守りたいから、あたしに手伝いを頼んだんじゃないでしょう? あ・た・し♪:そもそも脚本がつまんなかったのが問題だったんでしょう? あ・た・し♪:その娘を傷つけないようにウケない脚本を却下したかったんでしょう? あ・た・し♪:ま、あのバカはそれに気付かなかったみたいだけど 名前を入れて下さい:私はあのプロジェクトを失敗させるわけにはいかない立場でした 名前を入れて下さい:先輩? あ・た・し♪さんがログアウトしました ☆ <地学準備室> える 奉太郎 なんだ? える あ いえ 奉太郎 本郷さんの考えていた脚本がどんなものだったか私気になります か える は いえ そうではなく 奉太郎 なんだ おまえらしくないな える 私らしくないですか そうですね 折木さんも 折木さんらしくないですよ 奉太郎 《おれらしくないか》 える じゃあ 私らしく聞いてみます 本郷さんの脚本がどんなものだったか 私気になります 折木さん教えてください 奉太郎 まあ 想像でしかないが 海藤が死んでないとしたら密室はとける 犯人は鴻巣 侵入経路は窓 える え でも窓は 奉太郎 右側控室の窓だ 二つあるがどっちでもいい 鴻巣はザイルを使って進入し 海藤を追いかけて刺す 死なない程度の一撃で そしてまたザイルを使って二階に戻り 何食わぬ顔で皆と合流する 以上だ える ああ だから本郷さんは鴻巣さんにがんばれっていったんですね あれ でも本郷さんの探していた七人目は 奉太郎 ああ それなら未完成の時から出ている える あの でも あの6人以外出てきていませんでしたよ 奉太郎 キャストが役者だけとは限らない ナレーターがいただろう える はあ そうでした じゃあなぜ海藤さんの部屋に鍵が掛かっていたんでしょう 奉太郎 海藤は自分から上手袖に入り鍵をかけたんだ える どうしてですか 奉太郎 犯人の追撃を防ぐってのが普通だが 多分違う える あ 奉太郎 どうした える いえ 本郷さんのお気持ちが少しだけわかるような気がしましたから 奉太郎 そうか える 多分 海藤さんは刺された後 鴻巣さんと話して 自分を刺した理由を聞いたんです そして鴻巣さんをかばうためそのまま帰し 自分は上手袖へいき そこで倒れたんです あれ でも 怪我のことはどう言い訳したらいいんでしょう 奉太郎 怪我のことなら簡単だ あの部屋はガラスが散乱していた える は そういえばそうですね 奉太郎 倒れた拍子に ガラスで切ったということにすればいい える そんなお話だったんですね 奉太郎 まあ 鴻巣が海藤を刺し 海藤が鴻巣を許した理由がわからずじまいだがな 本郷が口を割るまで謎のままだ える それも仕方ないですね 人を刺すわけ 自分を刺した人を逃がすわけ それを本郷さんがどう えがこうとしたのか とても気になりますが 奉太郎 ところで える はい 奉太郎 お前は今回の一件 なにか知っていたんじゃないのか える は なにも知りませんでしたよ どうしてですか 奉太郎 お前は探偵役全員の説に納得していなかった いつものおまえらしくない 本郷への共感だけが理由なのか える ああ なるほどです えと 笑わないで下さいね 奉太郎 ああ える 私と本郷さんが似ていたからだと思います 奉太郎 える はあ なんだか恥ずかしいですね 実は私も人の亡くなるお話は嫌いなんです 奉太郎 お前らしいな える ウフッ
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氷菓 10. 万人の死角 <喫茶 一二三> 店員 ごゆっくり 入須 何か? 奉太郎 あ いや 茶というのが本当にお茶だとは思いませんでした 入須 安心して 払いはもつよ 奉太郎 はあ 入須 中城はだめだったのか 羽場も 奉太郎 はい 入須 では沢木口も 奉太郎 無理だと思います 入須 はあ そうか 奉太郎 残念ですが 入須 社交辞令ならいらない 奉太郎 入須 では聞かせて欲しい 彼らのどこがまずかった 奉太郎 まず 中城先輩の案ですが ☆ 奉太郎 だから 沢木口先輩の案も採れないと思いました 入須 そうか 中城の案を否定したのは誰だった? 奉太郎 俺です 入須 では 羽場と沢木口についても 奉太郎 そうです 入須 君は最初 私があの事件を解いてくれといったとき 妙な期待は困るといったな けれど君は中城達の案をことごとく葬った 私が内心そうなると思ったとおりに 奉太郎 思ったとおりに・・ 入須 彼らは結局器 じゃない あの問題を解くのに必要な技術が彼らに無いことは最初から判っていた 奉太郎 あれは茶番ですか なら 入須 無論 彼らが無能だとは言わない 得がたい技能をもっている だが だからといって それが今回の難局に役立つわけではない 奉太郎 だったら 入須 もし君が もし君がいなければ 私たちは彼らの案のどれかを採用し 結局企画は最悪の形で失敗しただろう 奉太郎 冷徹ですね それに非情だ 入須 必要ならそうする だが期待する人物なら一人いる 奉太郎 入須 私はその人物の力を三人から聞いていた 一人は千反田える 一人は学外の人間 そしてもう一人はとうがいとうまさし その人物ならあのビデオの探偵役を務められるかもしれない そうおもっていた 最初から君が目当てだった 古典部などではなく 折木君 私は君がこれまでのいっけんで君自身の技術を証明したと考える 入須 君は 特別よ ☆ 入須 君は 特別よ そこでもう一度頼みたい 折木君 どうか2年F組に力を貸して あのビデオの正解を見つけて欲しい 奉太郎 俺に技術など ただ運が良かっただけです 入須 歯がゆいな では一つ 話をしよう 座興と思って聞いて欲しい とある運動部に 補欠がいた 補欠はレギュラーになろうと極めて激しく努力したが レギュラーには成れなかった そのクラブには その補欠よりもずっと有能な人材がそろっていたから その中でも 天性の才の持ち主がいた もちろん補欠の技量とは天と地の開きがあった 彼女はある大会で非常に優れた活躍をし MVPにもえらばれた インタビュアーが彼女に聞いた 大活躍でしたね 秘訣は何ですかと 彼女はこう答えた ただ運が良かっただけです 奉太郎 入須 この答えは その補欠にはあまりに辛らつに響いたとおもうけど どう? 入須 誰でも自分を自覚するべきだ でないと 見ている側がばかばかしい 奉太郎 《俺は 特別なのか 俺は俺自身を本当に正しく 見積もっているのか 信じて いいのだろうか》 奉太郎 ハア 入須先輩 俺は ☆ <商店街> 里志 めずらしいね 奉太郎が休日の学校に自発的にいくなんて 何か用でも? 奉太郎 俺は用が無いと学校にも行けないのか 里志 いいや ただ そぐわないねえ 奉太郎 入須先輩から勅令を受けた 海藤殺しの犯人を特定する 里志 へえ まさかね 奉太郎が? 奉太郎 折木奉太郎は 義にあつく情が深いんだ 里志 よく聞こえなかったよ もう一回 奉太郎 ふん 里志 でもずいぶんな 心境の変化だね 今度も原因は千反田さんかい? 奉太郎 いや 里志 じゃあ どんな理由が? やらなくてもいい事ならやらない それが奉太郎のモットーじゃないか 奉太郎 里志 ・・ 里志 ? 奉太郎 おまえは お前にしか出来ない事があると思うか? 里志 ないね 奉太郎 ない? 里志 いわなかったっけ 僕には才能が無いって 例えば 僕はシャーロキアンに憧れてる でも 僕はそれにはなれないんだ 僕には 深遠なる知識の迷宮に とことん分け入っていこうという気概が 決定的に欠けている もし摩耶花がホームズに興味を傾ければ 保障していい 3ヶ月で僕は抜かれるね 色んなジャンルの玄関先をちょっと覗いて パンフレットにスタンプを押して回る それが僕に出来るせいぜいのことさ 第一人者にはなれないよ ・・ わかったよ 入須先輩に乗せられたね ところが やっぱり危ぶむわけだ 自分の素質を 奉太郎 お前は疑わないな 自分を 里志 まあね 僕は先にいってるよ 摩耶花も学校に来てる筈だから声をかけとく 奉太郎 里志 里志 ん? 奉太郎 お前がどう思ってるかは知らんが 俺はお前をもう少し高く買うぞ なろうと思えば おまえはいつか日本でも指折りのシャーロキアンになれると思う 里志 シャーロキアンより心惹かれるものは いくらでもあるさ それにしても うらやましい限りだね 全く ☆ <地学準備室> 摩耶花 な 夏休みなのに折木が自主的に学校に来るなんて! 奉太郎 来たら悪いか 摩耶花 悪いわ 天変地異の前触れみたいで 気持ち悪い 奉太郎 謎解きをする気になってな 摩耶花 あんたが? なんで ん ははん さては入須先輩になにかたらしこまれたわね 奉太郎 里志 摩耶花かも鋭いね 奉太郎 まあいい それより 昨日はあれからどうだった 摩耶花 ちいちゃんのこと? どうにか帰れたみたいだけど 今朝電話してみたら 二日酔いで寝込んでたわ 奉太郎 あぁ 里志 それは レアケースだね こほん まあとにかく あの映画をもう一度見てみようよ ☆ 摩耶花 やぱりこの 海藤先輩の腕は見事よね ちゃんと腕に見えるもん 里志 結局 一番有能だったのは 小道具班だったのかな ☆ 里志 やっぱり そんなにたいしたトリックには見えないけどな 奉太郎 ああ 難しいものを簡単そうに見せている 摩耶花 違うわよ 奉太郎 ? 摩耶花 これが簡単そうに見えるのは そうしくまれたからじゃないわ 奉太郎 なら? 摩耶花 私が思うにね このビデオが映像としてつまらなくて 見る人の興味をそそらないから謎が引き立たないのよ 奉太郎 ほお ☆ 里志 確かにね ぼくも初見では これが密室殺人だとしばらく気づかなかった くらいだよ その方面の演出が弱いからね 奉太郎 例えば? 里志 カメラワークが悪い 摩耶花 そう それ 奉太郎 なら 伊原ならどう撮る? 摩耶花 私なら? そうねえ ・・ 例えば ここよ ここ もっと引いたところから 登場人物と館内を一緒に映したほうが 効果的じゃない? 里志 確かに 摩耶花 それから こことか 摩耶花 ここ 杉村先輩の視点から撮った方がロビーが監視下にあったってわかり易かったと思う カメラがロビーから見上げてちゃ 観客につたわらないでしょう えっと 他にはねえ 奉太郎 里志 ごめん もういいよ 摩耶花 どうして 奉太郎 切りが無い 摩耶花 ム 奉太郎 映像のまずさにケチをつけてもはじまらん 里志 まあまあ ちょっと検討してもいいかもね 山内 見つけたぞ 福部! 里志 うわ あ 山内 こんなところで 油売りやがって 里志 いやあ 山内君 ようこそ ちょっと 乱暴はよしたまえ 山内 俺はお前のためを思ってやってるんだ 里志 でも ぼくにもいろいろとやるべきことが 山内 馬鹿 オミチは本気だぞ 進級できなくなってもいいのか? 奉太郎 里志よ 補習なら受けたほうがいいぞ 里志 で でも 本郷先輩の謎解きも大事だよ 奉太郎 今すぐちょいちょいと 片付けてよ 山内 何 わけわからんこと 言ってるんだ 里志 いやあ これはね いやだあ 僕はあの秘密を 密室が 摩耶花 いっちゃった 奉太郎 馬鹿かあいつは 摩耶花 戻ってきた 里志 無念だ 奉太郎 ままならぬは 世間のしがらみだよ かくなる上は 山内 福部! 里志 このメモ帳を僕だと思って くれ 山内 ほら いくぞ 里志 いや わかってるって いくって 奉太郎 まったく 摩耶花 さてと 私もいかないと 奉太郎 そうか 摩耶花 なによ その目は 私は 入須先輩ならともかく あんたを手伝う気はないんだから 奉太郎 さいで 摩耶花 図書当番よ こんなことになるって分かってたら あらかじめ予定を空けておいたのに いきなり言い出すあんたがわるいのよ でも ごめんね 折木 ☆ 奉太郎 《さて》 ☆ 奉太郎 そうか これが 本郷の 真意だ ☆ 処暑 陽気とどまりて、 初めて退きやまんとすれば也 ☆ 奉太郎 どうぞ 入須 まず聞きたい 結論はでたか 入須 そう では聞こう 奉太郎 はい あの謎のキーになるのは 言うまでも無く 密室です 海藤が いえ 海藤先輩が死んでいた部屋には あのメンバーの誰も入れなかったし でることもできなかった 入須 先輩はなくてもいい 奉太郎 上手袖は密室です 奉太郎 唯一外とつながる窓もこの状態です となると 犯人はドアから出入りしたとしか 考えられません ではどうやってか あのドアに物理的トリックがあるかどうか 映像からはわかりません ならば 犯人はマスターキーを持って出入したと考えるのが一番妥当です しかし ロビーは杉村の監視下にあります そのため犯人は右側通路にすら入れません これが第二の密室です 事務室でマスターキーを入手し それから右側通路に入れる人間は 六人の中にはいません それならどういうことになるか 六人の中に犯人がいないのなら結論は一つ あの場には 七人目がいたんです 入須 七人目? 沢木口のいうように? 奉太郎 はい これを思いついたときはずいぶん荒唐無稽だと思いましたが 沢木口によると本郷は七人目の登場人物をさがしていたそうです それを思い出して俺は確信しました でも本郷はあの脚本をフェアに書いたということです 突然現れた怪人とは考えられません ところで 映像に奇妙な点が何点かありました 里志がそのことをかいています 奉太郎 鴻巣 見取り図を見つける 照明当たる 懐中電灯と思われる もう一箇所 海藤を探しにいくところです 通路暗し 光量不足 懐中電灯使われる 入須 懐中電灯か 奉太郎 そうです そして登場人物の誰も懐中電灯をもってはいないんです 懐中電灯の光が当たったシーンの直後 例えば 事件現場突入直後なんかの映像を見れば はっきりわかります 懐中電灯を隠す時間はありましたが そうする合理的理由はないでしょう わかります あれは 照明だといいたいんでしょう? でもまずはこの件を覚えておいてください もう一つ 映画好きの奴の言葉ですが気を悪くしないでください 奉太郎 あの映画はつまらなかった 演出が悪い 特にカメラワークは全然工夫が無かったと けれど もし それも理由のあることだったら? この映画 カメラマンは常に六人と同じ立ち位置から撮影していました もう解かったとおもいますが 入須 まさか 君は カメラマンが第七の人物だというつもりか? 奉太郎 彼らは最初から七人だったんです 画面に出てくる六人と カメラでそれを撮影している一人の 計七人 見てください ところどころで役者がカメラを気にする場面が出てきます 奉太郎 彼らはそこにいるカメラマンを意識していたんです カメラマンというと語弊がある 七人目と言いましょうか 懐中電灯の照明については それを持つ人物がいると考えても不自然じゃない カメラワークの下手さも 彼があちこちから同時に一つのシーンを撮る事が出来ない存在 つまり役者だからと考えればうなずけます 奉太郎 そして これが重要なんですが メンバーが劇場内部に散ったとき カメラは誰もいなくなるまで ロビーにありました そしてシーンがアウトした つまり一時的にカメラが止められた後 カメラはロビーで 戻ってくるメンバーを待っていたんです ゆえに犯行は簡単です 七人目は全員が劇場内に散るのを待ち 手に持ったカメラを止めると 速やかに事務室のマスターキーを入手 海藤を殺した後 それを使って部屋を閉じます そしてロビーで他のメンバーが戻ってくるのを待ったんです 奉太郎 以上が結論です 本郷が七人目の役者をまだ選んでないのなら 早急にそれを用意することをお勧めします 入須 二つある まず一つ もしそうなら 七人目が一言もしゃべらず 声もかけられないというのは 不自然ではないか? 奉太郎 本郷はそれを動機にしたのかも知れません 七人目は他の六人に無視される存在でした 彼はそれゆえ自分から口を開くことも出来なかった 入須 もう一つ もしそうならば 劇中の彼らは 遠からず結論にたどり着けるはず ずっとロビーにいた七人目を疑わないものは無い さらに君の言う 第二の密室は破られていない 七人目の移動する姿は 囚人看守のもとにあったと推定できる それなら 犯人はすぐわかると思うが 奉太郎 うん 入須 ? 奉太郎 沢木口の言葉を借りましょう 別にいいでしょう それくらい 奉太郎 登場人物には解かりきったことでも かまわない 観客が謎に悩みさえすれば それだけでいいと思いませんか? だからあの脚本には探偵役がいないのかもしれない 作中の奴らには推理する必要も無く 犯人は明らかだからです ☆ 入須 おめでとう 奉太郎 は? 入須 君は本郷の謎を解いたようだな まったく驚くべき大胆な発想だが 全ての事実に一致する以上 それが正しいことは間違いない 入須 そして ありがとう これで映画は完成する 入須 やはり私の目に 狂いは無かったようだ 君には技術があった 他の誰にもない力が 奉太郎 あ いや ま その 恐縮です 入須 どうだろう あの映画のタイトルをつけてみないか 奉太郎 タイトル? 入須 即興でいい 君が考えてくれれば みんなも喜ぶと思うのだが 奉太郎 はあ そうですね 内容に則して 万人の死角というのはどうでしょう 入須 ウン いいタイトルだ それに決めよう ☆ 奉太郎 《ホームラン!》 ☆ 三年生の皆さんは・・・ 十月には文化祭もありますので・・ <地学準備室> メモ 映画の試写会 視聴覚室で上映するそうです。 先に行ってます。 千反田 <視聴覚室> 鴻巣友里 やっぱり 誰もあの部屋に 近づけたとは思えない 杉村二郎 そうだな ただ一人 お前を除けばだが 勝田竹男 お前がやったのか 山西みどり あんたがやったの 瀬之内真美子 なんてことを 勝田竹男 おまえなんでこんな 山西みどり そうよ 女子生徒 びっくりしたよね 勝田竹男 おいまてよ 杉村二郎 にげるのか 瀬之内真美子 かんねんしなさい 奉太郎 おお ☆ 男子生徒 ほんとにすごいラストだったなあ ほんとまさかカメラマンとはねえ 奉太郎 《リアル海藤だ》 中城順哉 よお 聞いたよ 結局 お前が考えてくれたんだってな 奉太郎 ええ まあ 中城順哉 いやあ あの落ちは 驚いた 文句なしだ 奉太郎 はあ 沢木口美崎 やあ 名探偵君! 奉太郎 名探偵って 沢木口 やってくれるじゃん まあ 七人目がばれたところで 凶暴化して 全員に襲いかからなかたのは 残念だけどね 奉太郎 はあ 中城 ま とにかく ありがとな 沢木口 それじゃあ 奉太郎 はい 沢木口 しっかし中城 中城 なんだい 沢木口 脇汗すごいね 羽場 ちっ 奉太郎 どうやら 羽場はお気に召さなかったようだ 里志 奉太郎 見たよ 奉太郎 どうだった 里志 うん 悪くない 面白かったよ まさかカメラマンとはね 摩耶花 この前のときに もうこんなこと 考えてたの? 奉太郎 あの時は考え付いてなかった 摩耶花 そう 奉太郎 《? なんだ あまり驚いていないな》 里志 さすが 奉太郎といったところだね 摩耶花 そうね くやしいけど 奉太郎 《まあ こんなものか》 える 折木さん 奉太郎 ああ える 私 ええと 後で です 里志 まあ 上出来だよ 奉太郎 女帝も満足 映画は完成 この意外性なら観客も楽しんでくれそうだ 摩耶花 折木 ちょっと聞きたいんだけど 奉太郎 なんだ おいおい 摩耶花 あの解決は 折木が出したのよね? 奉太郎 そうだが 摩耶花 全部? 奉太郎 たぶん 摩耶花 じゃああんたは羽場先輩の言った事をどう考えたの? 奉太郎 羽場の? 摩耶花 あの ・・ あの映画の中にはどこにもザイルが出てこなかったわよ 奉太郎 ああ!
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氷菓 9. 古丘廃村殺人事件 <2-F> 江波 この3人があの未完成のフィルムの殺人事件について推理しています 彼らの話をそれぞれ聞いて 是非を判断してください える はい 中城順哉 お前らか ミステリーに詳しいってのは 江波 彼が中城順哉です 撮影班で助監督 こちらが羽場智博 小道具班です 羽場智博 よろしく 江波 そしてこちらが 沢木口美崎 チャオ 江波 沢木口美崎 広報班です 沢木口 遠路はるばるごくろうさま よろしくねー える あ はい 摩耶花 大丈夫なの? こんなメンツで 江波 では よろしくお願いします 沢木口 後で呼んでね 羽場 ごゆっくり 中城 やっかいな話を持ち込んですまんな のりで始めた話でも 落ちがつかんとさむいからな まあ ちょっと手伝ってくれよ 奉太郎 はあ える あ そうでした これ皆さんで 食べてください 摩耶花 これ ウイスキーボンボンだよね える 新製品の試供品なんだそうです 奉太郎 う うほ 中城 うへ 里志 きつ 中城 じゃ 始めるか 摩耶花 中城先輩は撮影班でしたよね 撮影は大変でしたか? 中城 演技や演出はアドリブきかせて楽しくやれたが 大変だったのは移動だな 電車とバスで一時間はかかる なんであんな遠くをロケ地に選んだのやら える なんでだったんですか? 中城 見た目が面白い場所って事で推した奴がいるんだよ 里志 奈良窪地区は廃村だって聞きましたが よく立ち入り出来ましたね 中城 そいつが管理人に話をつけてくれたんだ それがなにか関係あるのか 里志 ありがとうございます 勉強になりました 続きをどうぞ える あの 脚本の本郷さんの容態はどうですか? 中城 あんまりよくないみたいだな まあ あいつを責めるわけにもいかんだろうが える 本郷さんはあまり丈夫な方じゃなかったんですか? 中城 そうだな 学校を休むことも何度かあったし 撮影にも出てこなかったし 奉太郎 《脚本の執筆に苦しんでて出られなかったんじゃ》 奉太郎 本郷先輩の脚本は評判悪かったんですか? 中城 誰もけちをつけたりしなかった あいつを責めたことなんかなかったぞ 奉太郎 ということは 内心はそうしたかった 中城 何が言いたいんだ 本郷の仕事は全員が認めていたさ もちろん俺もだ 摩耶花 コホン それでですね先輩 中城 ああ 摩耶花 本郷さんから誰が犯人役か 聞いてませんでしたか? 中城 うーん 俺が知る限りじゃあ いや まてよ える 中城 そういえば鴻巣にがんばれとかなんとかいってたような 奉太郎 《それくらいは誰にでも言いそうだ》 摩耶花 じゃあ役者の人に聞きましたか 誰かそういう話を受けてないか 中城 いや 誰も 摩耶花 物理的なトリックなのか 心理的なトリックなのかは? 中城 どう違うんだ? 摩耶花 うはあ 中城 他に質問はないか じゃあ俺の考えを聞いてもらおうか 摩耶花 お願いします 中城 オホン 俺に言わせりゃあ 普通の客はトリックなんか気にしないさ 盛り上がればいいんだ 中城 犯人は お前だ! 中城 て決め付けて 犯人が涙ながらに事情を語る これさえやっときゃ文句はないだろう 摩耶花 はぁ? 里志 あ 奉太郎 あ える うん 中城 そういう盛り上げで言えば 海藤の死ぬところはよかったなあ 小道具班ご自慢の演出で派手に死んでくれた あれはいい 奉太郎 あのシーンはアドリブだったと 中城 ああ どいつもこいつもこだわりすぎなんだよ ミステリーの作法やら何やら そんな細かい話より ドラマだよ タイトルもストレートに 古丘廃村殺人事件 とかにして 客を呼べるようにしないと 本郷だってそのあたりの事はわかってたさ 里志 ふむ 摩耶花 それで中城先輩のお考えは? 中城 あの死に方は要するにあれだろ 密室ってやつだ 他に出口のない部屋で 海藤が死んでた さて 犯人はどうやって殺したんでしょう てのが問題だ 摩耶花 ええ ではどうやって 中城 簡単さ 窓だよ 摩耶花 窓? 中城 ああ 犯人は海藤をころしたあと 窓から出て行ったに決まってるじゃないか 奉太郎 窓 どうも記憶があいまいなんですが 里志 見取り図は 里志 イエッサー ちょっとまってて はい おまたせ 里志 海藤が死んでいたのはここ 上手袖だね 他の登場人物は 右通路からここに入った その前にこの扉に鍵が掛かってたから 誰かがマスターキーを取りに戻ったよね 摩耶花 それで 上手袖に戻ると海藤は死んでたと 舞台と舞台裏の通路は荷物やがらくたで塞がれていたわよね 里志 そうなると 殺害現場へのアクセスは この2箇所だけになるわけだよね みんなが入った扉と上手袖の窓 える あの そういった事実は本郷さんも知っていたんですか? えっと あの 里志 確かにそれは重要だね 摩耶花 どういうこと? 里志 本郷さんが現場の状態を知らずに 見取り図だけを元に脚本を書いていたら 別のルートを考えていた可能性もあるからね 中城 それはない 本郷も脚本を書く前に一度下見に行ったみたいだ 奉太郎 それはいつごろですか 中城 6月 いや5月の終わりごろかな 奉太郎 ふうん 中城 つまりだ 犯人は窓から出入りしたんだよ こうすれば ドアを通らずに海藤を殺すシーンが撮れるだろう? どうだ! 奉太郎 《どうだといわれても 》 摩耶花 でもそれは ちょっとミステリーとして 出来が悪すぎます 中城 ん? それは本郷にいってくれよ あいつもミステリーに詳しいわけじゃなかった 立派なトリックが用意できなかったんだろう? 摩耶花 だとしても犯人は? 中城 犯人? 摩耶花 仮にそれがトリックだとして犯人は誰になるのかってことです 中城 ううん 摩耶花 それに現場に全員が踏み込んだ後 その窓の外が映されたじゃないですか 中城 ああ 摩耶花 あれをみれば窓の外に人が通った跡がないことははっきりしています あの草の生い茂る中を人が通ったら 必ず痕跡が残ります でもそんな描写一切ない 窓から逃げるという方法は無理です 中城 本郷が書き忘れてたのかもしれない 摩耶花 それを言ったらおしまいです それに本郷先輩の脚本はすべて辻褄があっていると聞いています 中城 だとしたら ううん あそうだ 夏草だ さっき言ったよな 本郷が現場の下見にきたのは5月末だって そのころはまだ夏草は茂ってなかったんだ だから本郷は窓を使えると思い込んだんだよ 中城 だったら次の撮影のときに夏草を刈り込んで 死体のシーンから取り直せば辻褄が合うじゃないか ほれみろどうだ! 奉太郎 《えへ》 中城 ようしこれで解決だ 犯人は窓から逃げた これで出来るぞ やれる! じゃあ頼んだぞ 摩耶花 あんなんでいいの? トリックとも呼べないじゃない 里志 でもまあ 物理的には実行可能だしね 摩耶花 そうだけど える 折木さん 今の中城さんのお話は本郷さんの本意だったと思いますか? 奉太郎 気に入らないのか? える いえ そんな ただちょっと納得できなくて 奉太郎 要するに 気に入らないんだろう える ええ 奉太郎 ま 中城の話に矛盾があるのは確かだが 摩耶花 え なになに矛盾があるの 奉太郎 ごく簡単な物理的解決は ごく簡単な心理的側面から否定されるってことだ 摩耶花 ん どういうこと? 里志 回りくどい言い方だね 奉太郎 実に探偵役らしいよ 奉太郎 ふん える あのう つまりはどういうことなのでしょうか 奉太郎 犯人の気持ちになってみれば とても窓からなんて入れないって事だよ この窓から侵入するには 必ず誰かの視界を通るリスクがあるだろ ほら こっちも こっちも 外を歩いていたら必ず誰かに目撃される しかも真昼間だぞ 里志 なるほど もし僕が犯人だったら こんなルートはまずとれない 奉太郎 ま そういうことだ 摩耶花 でも 本郷先輩がそこに気づいていたかどうかは わかんないよね 奉太郎 そうだな だが本郷のかいた脚本を読めば そのあたりもわかると思うぞ 摩耶花 ふうん 里志 ところでみんな 探偵小説はどれくらい読んでるのかな 摩耶花 なんで? 里志 さっき中城先輩の話を聞いていて思ったんだ 一口に推理ものといっても 捉え方が違うぞってね 奉太郎 ま 確かに中城の考え方はある意味斬新だったな 里志 うん 奉太郎はどう? 奉太郎 あまり 文庫をいくつかぐらいだな 里志 摩耶花は? 摩耶花 うん 普通 クリスティーとか 里志 王道だね 千反田さんは? える 読みません 里志 まったく? 全然? える 私はあまりミステリーを楽しめないのかもしれない と思うぐらいまでは読みました ここ何年かは全く触れてないです 里志 ふうん それは意外だねえ 奉太郎 そういうお前はどうなんだ 里志 僕? ぼくは 摩耶花 私 しってるわよ 福ちゃんはシャーロキアンに憧れているのよね える なんですか シャーロキアンって 奉太郎 シャーロックホームズの熱心なファンのことだろう 摩耶花 とても 熱心なファン よね 里志 あは シャーロキアンていうのはそういうのともちょっと違うんだけど 江波 どうでしたか 里志 ええっと 中城先輩の案は却下です 江波 そうですか 奉太郎 ああそれと 江波 何か 奉太郎 脚本が手に入りませんか 本郷先輩の注意力を知りたいというか 江波 わかりました 探しておきますので それまで彼と話しておいてください 小道具班の羽場智博です 羽場 やあ 君らミステリーの話が出来るんだってね える ひっぅ ☆ 処暑 陽気とどまりて、初めて退きやまんとすれば也 ☆ 羽場 ま ミステリーを作家と読者の勝負と考えるなら アマチュアの本郷が相手じゃちょっと物足りないけどな 摩耶花 本郷さんはミステリーに詳しくなかったそうですね 羽場 ああ あれが本郷の一夜漬けの教材だ この撮影をはじめるまでは 小説どころか漫画や映画でもミステリーに触れた事がなかったそうだ 里志 ああ 延原訳だ それも新装版 摩耶花 ホームズでミステリーを勉強しようとしてたんですか? 羽場 そうなんだ だから素人だっていうんだよ 里志 そうともいえるでしょうね える 折木さん折木さん 奉太郎 どうした える 変わった印がしてあります ほら 奉太郎 ん? える ほらほら こちらのにも 奉太郎 使えるネタに丸をつけただけだろう える そうですか 羽場 それより 推理を始めようじゃないか 里志 この見取り図は? 羽場 町役場で入手した 里志 ほお 摩耶花 では聞かせてください 羽場 オホン 僕の考えじゃあのミステリーはさほど難しくない むしろ簡単な部類に入るね 里志 というと 羽場 あの殺人は計画的なものではないってことだ むしろ犯人はたまたま条件が整ったことから それに乗じて犯行に及んだ える なぜですか 羽場 うふん もし計画的なら どうやって海藤を上手袖に誘導したんだ? 海藤が一人で劇場一階の上手袖に向かったのは あいつが自発的に鍵を選んだ結果だ さてこれは密室殺人だ 逃げ道はどれもふさがっていて 唯一のルートである窓の外には 足跡などは残されていない つまり 海藤を殺した犯人は普通にはにげられなかった では犯人がマスターキーを利用して現場に侵入 その後で鍵を戻した可能性はないか これはつまらないし成立もしない 鍵のある部屋に入るには 必ず玄関ロビーを通らなければいけない 玄関ロビーは度に人物からも目撃される危険が常にあった だからどの人物も事務室には安全に入れない 安全に入れないのは事務室だけじゃなかった 上手袖に続く一階右側の通路そのもが誰にも進入できない場所だったてことになる ここが重要だ なぜか 摩耶花 トリックを仕掛けるために 密室に近づく事さえ出来ないってことですね 羽場 ん うん まあその通りだ 同じ理由で 被害者本人が密室を作った可能性も否定される 他の可能性 機械仕掛けの殺人や 早業殺人も不可能だ 腕が落ちるほどのザンゲキを受けて死んでいるんだから 要するのこの本郷が作った密室 正面から突破するのはなかなか難しい どうだ 君 折木君だったかな この密室どう解けばいいと思う? 奉太郎 さあ わかりません 羽場 だめだなあ そんなことじゃあ いや でも 無理もないかなあ これが鍵だ 里志 ザイルが? 羽場 僕は小道具班だ 本郷から念を押されてね 人がぶら下がっても絶対切れないロープを用意しろって 使い方はもうわかるだろう える ? 羽場 だからさあ 一階から入れないなら二階から入ればいいんだよ 二階の右側通路には鴻巣がいた 実は鴻巣は華奢に見えるが実は登山部なんだ 鴻巣は二階の窓からザイルをたらし それを使って上手袖で海藤を殺し 帰りも同じルートで逃走した あの映画にタイトルをつけるならそうだな 不可視の進入とでもつけるかな さあ 次は君らの意見を聞こうか える ヒック 奉太郎 ザイルの他になにか本郷先輩から注文はありましたか? 羽場 うーん 特にはないが 本郷はむらっけがあったんだろうな 例えば支持されてい血糊の量も全然たりなくてね 仕方がないからこちらが気を利かせて 大量に用意したよ 他に何か? ないなら 奉太郎 あの 羽場 なんだ? 奉太郎 たいした事じゃないんですが 出来てる映像を見ましたか? 羽場 実はまだ見てないんだ ☆ 摩耶花 なんか 腹立つ 里志 何が? 摩耶花 あの態度よ 福ちゃんなんとも思わなかったの? ホームズまで馬鹿にされて 里志 別に 摩耶花 どうして 里志 ホームズが初心者向けだってのは一面の真実だよ 確かに本郷先輩は初心者だったみたいだね 摩耶花 うーん 奉太郎 でどうだ 羽場の案は 里志 まあ いいんじゃないの つまらない結末だけど 本郷先輩がロープを用意しろって言ったのは決定的だよ 摩耶花 あたしも問題ないと思うわ える 私は 私は賛成できないです さっきの中城さんの案もそうでしたが なにか違和感のようなものを感じます よくわからないんですが 本郷さんの真意はそこにはないんじゃないかと 奉太郎 そのへんでやめとけよ 摩耶花 あ える あら こんなに食べてしまっていましたか なんだか変わったお味で こういうものかきなってしまったものですから 摩耶花 ちいちゃん大丈夫? える 大丈夫ですよ 大丈夫ー フフフ える 折木さんは あれが正しいと思われますか? 奉太郎 思わない 摩耶花 なんでよ 奉太郎 もしあれが実際の人殺しだったら 使えるかも知れないが あの映画の中では使えない 里志 つまり? 奉太郎 映像との矛盾だよ 里志 ああそうか あの窓は 奉太郎 長年放置されて立て付けが悪くなっていた 勝田が揺すってもなかなか開かなかったし そうとう硬かったはずだ きしむ音も大きい しかも上向きだ そんな窓をザイルにぶら下がって静かに開けるなんてむりだ だいたいそんな窓をがたがたやってる間 部屋の中の海藤は突っ立ってるのか? 里志 間抜けすぎるね 摩耶花 だからさっき羽場にビデオを見たかきいていたのね 奉太郎 本郷はあの劇場を下調べしていた あの窓が重大なトリックなら開くかどうかチェックしたはずだ だが実際に取られたのはああいう映像だろう だから本郷は窓の状態など気にしていなかったんだ 摩耶花 うかつに賛成なんてするんじゃなかったわ 江波 いかがでしたか 里志 却下です 江波 そうですか これが 脚本です 奉太郎 ありがとうございます える いいないいな わたしも欲しいです 奉太郎 酔っ払い える 大丈夫ですよ 摩耶花 折木見せて 奉太郎 《なるほど しっかりしてる》 里志 かなりこまかいね える 窓の外に足跡などがつかないように 摩耶花 やっぱりちゃんと考えていたのね あ で次の 沢木口さんは? 沢木口 お待たせー チャオ える こんにちは 沢木口さん チャオです 沢木口 いやあ 広報班的にはね タイトルがないことに困ってるのよ 宣伝ポスターの製作も止まっちゃってるし このへんで脚本にはけりをつけたいところよね える 本郷さんは自分から脚本に立候補されたのですか? 沢木口 いや他薦だったよ える ミステリーにしたのは? 沢木口 それも多数決 える そもそもビデオ映画になったのは 奉太郎 なんかずれてきてないか える でも私 きになります 沢木口 はい 議事録あるよ 参考になるなら持ってて える ありがとうございます 沢木口 さて あたしの考えを聞いてもらおうかな 君たちミステリーって言われたらどんなの想像する? じゃあ君 奉太郎 オリエント急行とか 沢木口 それじゃあ推理小説でよ マニアックね 奉太郎 えっ 沢木口 レンタルビデオ屋でミステリーっていいたら13日の金曜日とかエルム街の悪夢とかでしょ 普通 奉太郎 いやそれはホラーでしょ 里志 ああ 確かに そういうジャンルに全然興味のない普通の人として考えてみなよ ミステリーもホラーも区別なんてつかないよ 沢木口 それでね 海藤の死んでた部屋には 誰も入れなかったんでしょう? だったら7人目がいるにきまっているじゃない 本郷はあの6人のほかにもう一人出演者を探し回っていたのよ 皆 えっ 沢木口 お互いがお互いを信じられなくなって みんなの疑心暗鬼が高まったとき 満を持して怪人の登場よ 奉太郎 怪人 沢木口 どれくらい殺す予定だったのかわからないけど 適当なカップル以外残りをサクッとやっちゃえばいいんじゃないかな ラストはカップルが怪人を倒して 朝日にキッスで決め タイトルはそうねえ ブラッディビーストとか なーんてねちょっと格好悪いか テヘ でもこれならみんな納得よね? 摩耶花 でも先輩密室はどうなるんです? 鍵が掛かっていたのは 沢木口 別にいいじゃない 鍵くらい みんな あ 沢木口 怪人なんだから壁抜けぐらいできないと じゃなかったら そうだ怨霊なのよ うんそっちもありね える ちがいます 絶対違います 沢木口さんの案はぜったい本郷さんの本意ではありません 摩耶花 そうだよね わたしもどこから冗談なのかわからなかった 里志 でも否定できる?あくまで論理的に える でも違います 里志 だからさ論理的に える 違うったら違うんです ハッ 万華鏡のようでう 奉太郎 万華鏡? 摩耶花 ちょ ちいちゃん ちいちゃーん? 摩耶花 寝ちゃったみたい ☆ 里志 それにしてもさっきの沢木口さんの案 あの大胆さはよかったね 奉太郎 実は俺も気に入ってる 里志 だろうね 奉太郎 まあ 矛盾はあるけどな 摩耶花 なに? 奉太郎 脚本の細かさをみただろう? 本郷が後半にああいうホラー展開を考えていたなら 小道具の手配くらいはやれたはずだ 一番必要なものを 摩耶花 一番必要なものって? 奉太郎 ほら 羽場が気を利かせたーとかいう 摩耶花 あ 奉太郎 本郷が指示した血糊の量はほんのちょっとだった 脚本の記述もそれを裏付けている だから本郷は大量殺人をやらかすつもりはなかった 脚本 海藤君を助け起こすと、杉村君の手には血がついていました 里志 なるほど 死者が一人じゃホラーはさびしすぎるね 摩耶花 なんでも理由はつくものなのね 江波 いかがでしたか 奉太郎 却下です ☆ <外> 摩耶花 ちいちゃんしっかり える すみません 里志 結局全部却下しちゃったね あのビデオ映画 どうなるんだろう 奉太郎 まあ 完成はむりだろう 里志 侘しいねえ つわものどもが夢の跡ってところか 奉太郎 うん 里志 じゃね 奉太郎 おう ☆ 入須 《技術のないものがいくら情熱を注いだとしても結果は知れたもの 》 奉太郎 あっ 入須 少し茶を飲むだけの時間をもらえないかな
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氷菓 1. 伝統ある古典部の再生 奉太郎 高校生活といえば薔薇色 薔薇色といえば高校生活 そういわれるのが当たり前なくらい 高校生活はいつも薔薇色の扱いだよな さりとて すべての高校生が薔薇色を望んでいるわけではないと 俺は思うんだが 例えば勉学にも スポーツにも 色恋沙汰にも興味を示さない人間というのも いるんじゃないのか? いわゆる灰色というのを好む生徒というのもいるんじゃないのか? ま、それってずいぶん寂しい生き方だとおもうがな 里志 奉太郎に自虐趣味があったとは知らなかったねぇ 奉太郎 自虐趣味? 里志 勉強にもスポーツにも色恋沙汰にも後ろ向き、常に灰色の人間。それって奉太郎のことだろ? 奉太郎 別に後ろ向きな訳じゃない 里志 奉太郎的にはね ・・ 省エネ、何だよね、奉太郎は 奉太郎 ふっ 里志 ただ単に面倒で、浪費としか思えないことに興味がもてない。そのモットーはすなわち 奉太郎 やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことなら手短に。 里志 だね ・・ でもね、奉太郎。この多彩な部活動の伝統の神山高校で、部活にも入っていない奉太郎は、結果だけ見れば灰色そのものってことだよ。その奉太郎が寂しい生き方だなんて、自虐趣味以外の何者でもない。 奉太郎 口の減らないやつだな 里志 何をいまさら 中学からの付き合いだろ。 奉太郎 ふっ まあいい。 先に帰れ 里志 先に? どういうこと? 奉太郎 これ 里志 んっ それはっ まさかそんなっ 入部届け? 奉太郎が部活に?しかも古典部? 奉太郎 知ってるか? 里志 もちろんさ。 でも 何だって奉太郎が古典? (奉太郎エアメールをとりだす) これは 奉太郎のお姉さんからの手紙だね 奉太郎 インドから送ってきた ベナレスだか どこかだか 里志 どれ・・ これは困ったね お姉さんの頼みか 奉太郎 部員がいなくて 廃部寸前らしい。 存続のために 入部しろだとさ 里志 お姉さんの特技は確か 奉太郎 合気道と逮捕術。 痛くしようと思えばかなり痛い 里志 ふふふふふ これは断れない 奉太郎 まあ特にやりたいことがないのは 姉貴が書いたとおりなんだが 里志 部員がいないんだよね? 奉太郎 ああ 里志 だったら古典部の部室は 独り占めじゃないか。 学校の中にプライベートスペースがもてるっていうのも 結構いいものだよ 奉太郎 プライベートスペース? <廊下> 校庭の運動部 神高ー ファイ オー 奉太郎 エネルギー消費の大きい生き方に敬礼 <職員室前> 奉太郎 よく勘違いされるのだが おれは特に省エネが優れているとおもっているわけではない。 活力ある連中を小馬鹿になどしてはいないのだ。 自分のモットーに忠実なだけ。 やらなくてもいいことならやらない。 やらなければいけないことなら 手短に だ。 <職員室> 女生徒A・B ほらこれっ うぉー <地学準備室前> 奉太郎 特別棟の4階 最果てだな <地学準備室> える こんにちは あなたって古典部だったんですか 折木さん 奉太郎 ? 誰だ? える わかりませんか? 千反田です 千反田えるです 奉太郎 すまん ぜんぜんわからないんだが える 折木奉太郎さんですよね 一年B組の 奉太郎 ああ える 私 一年A組なんです 奉太郎 あのなあ それじゃあ説明になってな・・・ 《A組・・ 選択科目か?》 もしかして音楽の授業で一緒だったか? える ハイ 奉太郎 《まだ一回しかやってない授業だぞ どんな記憶力だ?》 奉太郎 ああ それで千反田さん なぜここに? える はい 私 古典部に入ったので ご挨拶に伺ったんです 奉太郎 古典部に・・ なんでまた・・ える 一身上の都合がありまして・・ 折木さんは? 奉太郎 いやあ 部員がいるなら大いに結構 《姉貴 喜べ 古典部はめでたく存続したぞ》 じゃ 俺は これで える もうお帰りですか? 奉太郎 ああ 頑張れよ あと戸締りも頼む える えっ・・・・ わたし 戸締りできません 奉太郎 なんで える 鍵をもってませんから 奉太郎 ああ ハイ える どうして折木さんがそれを持ってるんですか? 奉太郎 どうしてって 鍵がなければ ロックされた教室には入れないだろう・・ そういやお前・・ いや失礼 千反田さんは何でこの部屋に入れたんだ? える 鍵が掛かってなかったからです 奉太郎 俺が来たときは閉まってたけど・・ える 閉まってたって そのドアがですか? 奉太郎 そうだが える ということは 私は閉じ込められていたってことですね 奉太郎 お前が鍵をかけたんだろう 内側から える そんなことはしていません 奉太郎 だが 鍵は俺が持ってる お前以外に誰がロックできるんだ える ところでそちらはお友達ですか? 奉太郎 里志っ 里志 うっ いやあ ゴメンゴメン 盗み聞きのつもりはなかったんだけど 奉太郎 つもりじゃないだろ 里志 そうはいってもさ 木石のごとき奉太郎が 夕暮れ迫る教室の窓際で 女の子と二人ってのが下から見えちゃったら 気になるのが当然ってもんだよ 放課後の逢瀬を邪魔するつもりはなかったし デバガメなんて未経験で える あのっ 私っ 奉太郎 本気でいってるのか 里志 まさか ジョークだよ える そうですか 奉太郎 すまんな こいつはこういう奴なんだ 里志 ジョークは即興に限る 禍根を残せばうそになるってね これ僕のモットー える はぁ 折木さん こちらは? 奉太郎 こいつは福部里志 エセ粋人だ える エセ? 里志 うまい ナイスな紹介だよ はじめまして えっと・・ える 千反田えるです 里志 ち 千反田さん? 千反田さんってあの千反田さんですか? 奉太郎 どうかしたのか? 里志 奉太郎 千反田家の名前を聞いたことがないのかい?神山市に旧家名家は少なくないけど 桁上がりの4名家といえば その筋じゃ有名だよ アレクス神社の十文字家 祖師百日紅(さるすべり)家 豪農千反田家 山持ちの万人橋家さ 数字が一桁づつあがっていくから 人呼んで桁上がりの4名家 奉太郎 本当か える 名家かどうかは知りませんが そういう言い方は初めて聞きました 奉太郎 つくったな 里志 たまには提唱者になりたいときもあるさ える でも本当に桁上がりですね 奉太郎 感心するなよ つけあがるから 里志 しかもその千反田家の長女は 成績優秀眉目秀麗 深窓の佳人として知られているんだ 中学時代県内模試の成績優秀者で よく名前を見かけたよ 奉太郎 ほほう そんなに える たまたまです 試験なんてただの要領ですし 里志 これは失礼 ・・ ところで話は聞かせてもらったよ 実に興味深いね 奉太郎 何がだ 里志 千反田さんがこの部屋に閉じ込められていたことさ える はっ そうでしたぁ える 私が来たとき この部屋の鍵は開いていました でも後から来た折木さんは鍵が閉まっていたと言ってます 不思議です 奉太郎 どこがだ 自分で閉めたことを忘れたんだろう 里志 いや 神高のドアは 内も外も鍵でしかロックできないようになっているんだ 千反田さんが中から鍵をかけることは不可能ってことだよ える これは・・ 奉太郎 あいかわらず 無駄に博識だな 里志 データベースといって欲しいね 奉太郎 ふっ まあ 鍵のことは何かの間違いだろう 俺は帰るぞ える まってください折木さん 奉太郎 何だ える 気になります 私 なぜ閉じ込められたんでしょう もしとじこめられたのでなければ どうしてこの教室に入ることができたんでしょう 仮に何かの間違いだというなら 誰のどういう間違いでしょうか ぜひ折木さんも考えてください える 折木さん える 私 気になります ☆ 奉太郎 あ ・・そうだな 面白い 少し考えてみるか える ありがとうございます 折木さん 心当たりがあるんですか? 里志 千反田さん ちょっと待ってあげて 僕は単なるデータベースだから結論を出せないけど 奉太郎はちがう いったん考え出せば それなりに当てにはなるよ 奉太郎 ハァ やかましい さて ・・ この部屋に入ったのはいつだ? える 折木さんが来る 3分前だと思います 奉太郎 フム 他に何か気づいたことは える そういえば さっきから 足元で ガタゴト音がしています 里志 えっ 僕には聞こえないけど える きこえますよ ほら 里志 千反田さん耳いいねぇ <廊下> 里志 なんかわかったの 奉太郎 奉太郎 まあな ちょうど下の階で再現されてるだろう <下の廊下> ☆ 里志 ははん あの作業の間にに 千反田さんは地学準備室に入って運悪く鍵をしめられたってことだね 奉太郎 貸し出し用の鍵は俺が持ってる 後はマスターキーだけだが これは生徒が使えない える だから 工務員(用務員)さんだと・・ でも よく気づきましたね 奉太郎 んん 別に・・まあ室内にいながら どうして千反田さんが ロックの音に気づかなかったのかってのだけは 俺にもわからんがね える ああ それでしたら <地学準備室> える あの建物を見ていたんです 里志 古いね える ええ 奉太郎 そうなのか? 里志 ああ ずばぬけて 奉太郎 ふうん <昇降口> える ところで あいさつがまだでしたね 奉太郎 あいさつ? える ええ これから古典部で一緒に活動していくんですから 奉太郎 一緒に? える 福部さんもどうですか 古典部! 里志 いいねぇ! 今日は面白かったし 総務委員と手芸部の掛け持ちになっちゃうけど うん はいるよ! 奉太郎もね 入部届けももう書いてるんだし える そうなんですか! 奉太郎 ああ いや それはだなぁ える ハイッ! ☆ える はいっ 確かに これからよろしくお願いしますね 里志 こちらこそ 奉太郎もよろしく <外> える そうだ 部長を決めないといけませんね どうしましょう 里志 そうだね 奉太郎はその手のは全然むいてないんだよ 奉太郎 《姉貴よ 満足か 伝統ある古典部の復活。 そしてさようなら 俺の安寧と省エネの日々。 いや まだ別れは言わない 俺は安寧をあきらめない 省エネの為に全力を尽くそう。 問題は・・》 える そうなんですか 折木さんは うってつけだと思ったんですけど 里志 千反田さん それは誤解だよ とにかくこのぐうたらときたら 度し難い 省エネポリシー 地球はともかく 自分に優しいなまけものなんだ える でも 落ち着いてるし 頭脳明晰って感じですよね 奉太郎 《問題は・・このお嬢様だ》 ☆ 清明 万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれる也 ☆ 里志 昨日の放課後のことだ。一年生の女子が特別棟の4階に行った。そのとき音楽室から、月光の美しい旋律が聞こえてきた。校舎を染める真っ赤な夕日。その麗しい音色は・・ 奉太郎 異議あり。 昨日は雨で夕日は見えなかった。 里志 そう じっとりと降り続く雨 そして迫る夕闇 肌に絡みつく不快感と ノイズのような雨音 奉太郎 いいかげんだな 里志 音色に誘われ音楽室に入ると とたんに音は鳴り止んだ ピアノのふたはあがっているのに ピアニストはいない カーテンが締め切られて 部屋は暗い そして彼女は見た 長い乱れ髪を顔にたらし 全身はぐったりとして力なく 目はらんらんと血走った女生徒が 傍らからじっと彼女を見つめているのを そう この神山高校にはかつて 全国大会を前にして 無念の事故死を遂げた ピアノ部員が 奉太郎 いたのか 里志 さあ いたかもしれないけど 僕は知らないね 奉太郎 だとおもった 里志 それにしても意外だね 奉太郎が宿題を忘れて居残りなんて 奉太郎 書いたさ 昨日 持ってくるのを忘れたんだ おかげでこうして 同じ作文を書きながら 与太話を聞かされている 里志 なるほどね ちなみに 乱れ髪のお化けは本当にいたそうだよ 今日の昼休み A組では話題になってたみたいだしね 後はこのうわさがどう広がっていくか 此れが重要なんだ 神山高校にもあった7不思議 その2 ってね さしあたっては ぼくのD組に到達するまで 何日掛かるかだ 奉太郎 ちょっとまて 今の話 いつどこで 誰から聞いたんだ? 里志 さっき 部室で 千反田さんから 奉太郎 7不思議その2ってことは その1ってのもあるんだよな 聞かせてくれないか ☆ える あ お二人ともここにいたんですか 書けました 福部さん 里志 ああ お疲れ様 ごめんね 総務委員会としては こういう面倒な手続きもお願いしないといけなくて える いいえ 私も部長を引き受けていますから える 折木さん 奉太郎 いいところにきた 今里志から妙なうわさを聞いたんだ える ああ そのことなんですが 昼休みに 奉太郎 秘密クラブの勧誘メモの話なんだが 知ってたのか える 秘密クラブ? 奉太郎 里志 話してやってくれよ 里志 ああ うん じゃあお聞き願おうかな 秘密クラブの一席を える はい 里志 ゴホン 総務委員会で聞いた話なんだ 何せ神山高校には部活が多い だから勧誘ポスターの数も当然多くなって 学校中の掲示板がポスターで埋め尽くされる 総務委員会は無許可なポスターやメモを見つけ次第 はがしているんだ ところが 毎年たった一枚 どこの部活のものかもわからない 勧誘メモがでるらしい 去年はノートの切れ端みたいな紙に 集合場所と日時が書いてあったそうだよ どうやら総務委員会も把握していない秘密クラブがあって ひっそりと募集をかけているらしいんだ 活動目的も部員も不明だけど やつらは実在する その名前とは える その名前とは 里志 女郎蜘蛛の会 える 女郎蜘蛛・・ 里志 総務委員長の田辺先輩は去年 回収したメモを頼りに 女郎蜘蛛の会に接触しようとしたらしい でもうまくいかなかった 結局名前だけの悪戯メモと結論したようだよ ところが える ところが? 作文 「入学一ヶ月の実感と抱負」 ・・・ 自分は思案した末に、伝統ある古典部の再興に尽力することを心に決めました。まだ活動を開始したばかりではありますが、本校の文化振興の一翼をなすべく、粉骨砕身する覚悟であります ・・・ 里志 卒業式の日 ある卒業生が田辺先輩に言ったんだ 僕が女郎蜘蛛の会の会長だった 次期会長にもよろしくしてやってくれ もしきみが そいつを見つけ出せたらの話だが 里志 今年もきっとどこかに募集が出ているだろうね いまのところ 発見には至ってないけど える 一枚だけのメモ 女郎蜘蛛の会 える わたし、気になります! 奉太郎 よし 奉太郎 そういうと思ってた だからいいところに来たと言ったんだ える といいますと? 奉太郎 もちろん探すんだよ そのメモを える ハイ! <階段> 里志 掲示板は全部で30箇所だね える そんなに 全部探しますか? 奉太郎 まさか 一番ありそうなのはどこか 考えたほうが早い える なるほど 奉太郎 どういう条件の場所だと思う? える もし私だったら やっぱり できるだけ 目だ立たない 校舎の隅の掲示板に張ると思います 奉太郎 それは違うな える 違いますか? 奉太郎 もし勧誘メモが張られているとするなら それは 一階昇降口の掲示板だ える え 一番目立つところじゃないですか 里志 まあまあ千反田さん 奉太郎には何か考えがあるらしいよ <掲示板> 里志 いやあ 改め見るとやっぱりすごいね 神山高校 える 本当ですね 水墨画部に漫画研究会 囲碁部にバスケ部に宇宙・・ 掲示板の本体が見えません える 折木さん どうしたんですか 奉太郎 いや あふれ出る活力に当てられて 里志 アハハ 省エネの奉太郎には理解不能な世界だろうね それにココは 新入生がまず見る掲示板だ つまり激戦区だよ える 激戦区 ああ なるほど これだけたくさん張ってあれば 無許可の掲示物も目立ちませんね 奉太郎 それもある える それも? 別の理由があるんですか? 奉太郎 まあな とにかく探してみよう える ハイ える グローバルアクト部 ディベート部 百人一首部なんてのもあるんですね あ 占い研究会 私の友達がここに入ったんです 里志 へえ える 筝曲(そうきょく)部 卓球部 美術部 ・・ 女郎蜘蛛の会のメモはないようですね 里志 どうかな 見ただけでわかるようになってるかどうかはちょっと わからないね える はっ どういうことですか? 里志 総務委員の目を盗むには 何か工夫があるかもしれないなと思ってね える 工夫ですか 里志 ま あるならいずれ見つかるよ 奉太郎 あったぞ ☆ える あ ありましたね もっと人気のない場所に隠すと思ったのに 奉太郎 それは一年生の発想だ 不慣れな奴ほど 奇をてらう 気の利いた秘密クラブなら 堂々と裏をかいてくると睨んだんだ える 確かに でも不思議です そういわれると あるのが当然という気がして なぜか驚きがありません 里志 総務委員会許可印なし 仕事するね 奉太郎 さて 俺は作文を職員室に出して そのまま帰るよ 里志 そうだね 僕も帰ろうかな える わかりました ではここでさようならですね 不慣れな人ほど奇をてらう 覚えておきますね <外> 里志 不思議をもって不思議を制すの計 お見事だったよ 奉太郎 世話になったな なんだかあいつがきそうな予感がしたんだ 里志 それであんなメモや画鋲を用意したと ま 結果ドンピシャだったね でも奉太郎 あそこまで手の込んだまねをして ピアノの謎から話をそらせたかったのはなぜだい まさかそっちには 歯がたたないから なんて言わないよね 奉太郎 音楽室は遠いからな 里志 それだけ? 奉太郎 それだけだ まっすぐ昇降口まで言って そばの職員室に作文を出して そのまま帰りたかった 里志 なるほど わかった 奉太郎だよ やっぱり ☆ 奉太郎 やらなければいけないことなら 手短にだ 里志 奉太郎 それはよくないね モットーを披露するなら 堂々と胸を張って言うべきだ 今の奉太郎は単に言い訳をしたようにしか聞こえない 里志 不思議を不思議で迎え撃つ うん 僕好みだ いい変化球だよ だけどね 奉太郎 それは奉太郎好みじゃないよ 千反田さんが来たときどうして単に知らんといわなかったんだい そこが今日の奉太郎の根本的な間違いだよ 実際奉太郎はずっとそうしてきたじゃないか 奉太郎 そうかもな 里志 不慣れな奴ほど奇をてらう 今日の奉太郎がまさしくそれだよ 千反田さんがいるっていう状況に まだ全然なれてない だからあんな回りくどいことをするのさ 奉太郎は今日 千反田さんを拒絶したつもりかもしれない でもね 奉太郎 拒絶したかった訳じゃない 里志 もちろんそうさ あれは現状に対するただの保留だね 奉太郎 保留? そうか 保留か 里志 ところで音楽室の件はどういうことだったんだと思う? 奉太郎 ああ そのお化けとやらは髪が乱れて目が血走ってたんだろう 寝起きのように 里志 あそうか 奉太郎 ピアノ部員は眠かったから寝ていた 校門が閉まる6時前に目が覚めるように CDプレイヤーに月光を入れてタイマーをセットしていた そんなとこだろう 里志 なるほどね 確かに行けばわかる プレイヤーに設定が残ってるだろうし 奉太郎 音楽室は遠いからな 里志 わかったって 里志 ただね奉太郎 音楽室まで行ってたほうが ゆくゆくは省エネにつながったような気がするんだ 今日の『屈託』は 意外と高くつくかもしれない 里志 おっと 奉太郎 今日のこと 僕は貸しにする気はないよ じゃあ 奉太郎 保留か