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概要アビリティ レールアクショントリムルティ 武装一覧通常武装(DLC以外)通常武装 防具付属装備 DLC一覧通常武装 防具付属装備 概要 射程こそ短いが、射撃武器の中では隙・硬直とも短く扱いやすい銃。 牽制、RA潰し、ランチャーやバズーカの硬直短縮と様々な事にも使う事ができる。 ただ、今作では最速で連射してもギリギリコンボにつながっているわけではないため、連射して命中させても途中でガードやターンをはさまれることもある。 対戦においてはたとえ一発目をヒットさせても連射の合間に急上昇されてしまい、実質一発分しか当たらないという欠点を持つ。 また弾速、ホーミング性能など、連射性能と硬直以外の全てにおいてライフルに劣るため、射撃武器のメインとしては力不足。 単発威力が低めなこと、上記の当てても次に繋がらないこと、NPC戦では遮蔽物を駆使した手動リロードや、粒子ブラスターの有用性の高さもあり、 主力ではなくあくまで補助・サブ武器として考えよう。 アビリティ プラスアビリティで装填数が増加する。 手動リロードのタイミングをずらせるので、可能なら意識的に付けておきたいところ。 とはいえあくまで補助、けん制ということを考えると他を犠牲にしてまでつけるほどでもないというのが悩みどころかも。 レールアクション 牽制に一発発射した後、相手の後ろに回りこんで7連射する。 移動中に×ボタンを押すことで再度ロックオンジャミングを仕掛けつつ移動する。この場合は5連射。派生タイミングは2回あるため、これを使い分けることで3種類の軌道を描くことができる。 全弾にブースト削りの効果があり、5発ヒットするとブーストゲージが空になる。 敵NPCが使ってもそれほど強力ではなく、すぐに切り返せるようになるためあまり良いイメージの無いレールアクションだが、相手のライフルやランチャーを見てレールアクションを始動、構えの屈みこみで弾を回避したり、ショットガードできるようになると非常に強力。 牽制による射撃は高確率で命中し、回り込み後の連射は回避困難、一気にダメージとブーストゲージを奪う事ができる。 ただし、ハンドガンの弾速の関係上、しっかりと距離とタイミングを見極めなければ慣性移動などで避けられてしまうことも。 一番の狙い目は相手の真下からの発動。主に近接戦闘を嫌った相手の急上昇による回避直後あたりか。 相手からすれば足元で発動されるRAは見えづらい関係上ジャミングガードを仕込みづらく、 その後の再度ロックも急上昇が仇となり視界に捉えづらいため困難。 さらに×派生まで使うと相手からすれば厄介極まりない代物となる。 また、前述のブースト削りのおかげで、被弾後の相手はダッシュと急上昇による回避も出来なくなるため、うまく命中させることが出来ればさらなる追撃も容易に狙える。 ダブルレールアクションにはブースト削りはないが、前半のハンドガンの連射は同じ場所に留まる時間が短く妨害されにくい。 〆のランチャーの命中はあまり望めないが使いやすいので使用を検討しても良いだろう。 トリムルティ リアパーツのトリムルティを装着する事で装備可能。 ツインハンドガンと言う特殊なハンドガンで、両腕をクロスし、腰に付けた銃より弾を発射する。 弾消費1で両腰から同時に発射されるが、威力は別に倍増したりはしていない。 Hit数が2になっており、当たり判定も横に(極僅かだが)広い。 Hit数の関係上、相手のガードに対するダメージは大きくなっている。 しかしアビリティがグライディングとLp+しかなく、SPDなどの各種基礎ステータスも低い。 SPDや機動力関連アビリティの宝庫であるリアパーツを埋めてしまう欠点がある。 一応ランク7に+CLがあるため、戦えない性能ではない。グライディング+2は人によっては重宝するアビリティだろう。 リロードモーションが通常のハンドガンと異なる(ビットのものの早回しになる)が、隙の大きさは他のハンドガンと変わらない。 また、この装備でRAハンドガン及びRAハンドガン、ランチャーを使うと、各種発射モーションと弾速が高速化する(弾速、連射速度共に1.5倍~2倍速といっていいほど)。 ハンドガン、ランチャーのRAは前半部分の2連射×4が全て連続ヒットになるのは大きな利点。 慣れない相手からしてみればあまりの速さに戸惑うことだろう。 武装一覧 通常武装(DLC以外) 通常武装 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 FB アルファ・ピストル ノーマル 20 7 5% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル フォートブラッグ BKピストル ノーマル 45 16 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ゼルノグラード 2 アルヴォPDW11 ノーマル 186 60 0% 7% 5% 230 7 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーンヴァルMk.2 EVFガン ノーマル 196 64 10% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル エストリル モデルPHCヴズルイフ ノーマル 244 74 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ストラーフ 3 アルヴォLP4ハンドガン ノーマル 291 85 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーンヴァル EVFガン+AS ノーマル 337 111 14% 0% 5% 230 12 近接攻撃+1ハンドガン+1ランチャー+1 立花茂(クリア後ヴァルハラ)[奪] エストリル BKピストル+IR ピーキースピード 349 83 0% 0% 22% 230 12 ロック範囲-1SP+1 ジャンク左藤楓(ヴァルハラ)[奪] ゼルノグラードショップ入荷の可能性がF1予選武器属性タッグのみ OS-35 Aライフル ノーマル 389 105 0% 0% 7% 230 12 近接攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーク FB アルファ・ピストル+ms ノーマル 392 109 13% 0% 5% 230 12 近接攻撃+1ランチャー+1 タッグマッチ狙撃スター5[賞] フォートブラッグ 4 OS-36 Aカービン ノーマル 444 111 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 オフィシャル イーダ EVFガン+LB ノーマル 476 120 18% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 エストリル モデルPHCヴズルイフ+SK ノーマル 521 122 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ストラーフ 5 アルヴォPDW11+LB ノーマル 593 132 0% 18% 5% 230 7 ランチャー+1 ケンプ(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァルMk.2 アルヴォPDW11+SK ノーマル 596 131 0% 16% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アーンヴァルMk.2 FB アルファ・ピストル+SK ノーマル 597 132 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム フォートブラッグ アルヴォLP4ハンドガン+LB ノーマル 640 132 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 ういろー(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァル OS-35 Aライフル+LB ノーマル 641 132 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 嶋渓フミカ(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーク モデルPHCヴズルイフ+LB ノーマル 649 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 音黒野美子(クリア後ヴァルハラ)[奪] ストラーフ OS-36 Aカービン+LB ノーマル 655 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 偉吹玲人(クリア後ヴァルハラ)[奪] イーダ アルヴォPDW11+GR ピーキー 664 119 0% 20% 20% 230 7 ロック範囲-1SP+1 陰陽熊(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァルMk.2 アルヴォLP4ハンドガン+GR ピーキースピード 730 118 0% 0% 22% 230 12 ロック範囲-2DEX-1SP+2 音黒野美子(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァル 6 EVFガン+NS ノーマル 686 136 30% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 エストリル ジーラヴズルイフ+TK ノーマル 837 162 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフMk2 7 アルヴォPDW11+NS ノーマル 887 185 0% 22% 5% 230 7 ランチャー+1 アーンヴァルMk.2専用RA『一刀両断・白EX』に必要 BKピストル+NS ノーマル 952 184 0% 0% 20% 230 12 ランチャー+1 ゼルノグラード アルヴォLP4ハンドガン+VC ノーマル 959 185 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 アーンヴァル OS-35 Aライフル+VC ノーマル 962 185 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 アーク モデルPHCヴズルイフ+NS ノーマル 974 188 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフ OS-36 Aカービン+NS ノーマル 980 189 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 イーダ ジーラヴズルイフ ノーマル 996 192 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフMk2 ジーラヴズルイフ+KT ピーキー 998 167 0% 0% 20% 230 12 防御力-4SP+4 ハンドガン ランチャー杯[賞] ストラーフMk2 防具付属装備 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 トリムルティ ツイン 60 0 (12) 0% 0% 0% 230 12 - オフィシャル 2wayリアパーツ 2 トリムルティ+BK ツイン 150 0 (40) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+1 2wayリアパーツ 3 - - - - - - - - - - - - 4 トリムルティ+GC ツイン 442 0 (92) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+1LP+1 2wayリアパーツ 5 - - - - - - - - - - - - 6 - - - - - - - - - - - - 7 トリムルティ+CL ツイン 950 0 (214) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+2LP+2 2wayリアパーツ DLC一覧 通常武装 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 パウダースプレイヤー ノーマル 77 27 5% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ジュビジー ポーレンホーミング ノーマル 90 35 0% 5% 5% 230 7 近距離攻撃+1ドリル+1ランチャー+1 オフィシャル ジルダリア 2 レッドスプライト ノーマル 161 53 8% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ラプティアス フェリスファング ノーマル 163 53 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーティル FB BSM ビームガン ノーマル 200 71 0% 0% 5% 230 12 遠距離攻撃+1ランチャー+1ミサイル+1 オフィシャル フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 3 メルキオール ノーマル 280 85 12% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ガブリーヌ D・イーグル ノーマル 303 88 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル パーティオ proto メルテュラーM7 ノーマル 330 94 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ムルメルティア 4 ポーレンホーミング ノーマル 456 132 0% 17% 5% 230 7 ドリル+1ランチャー+1 プレミアム ジルダリア FB BSM ビームガン+CR ノーマル 474 131 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 5 D・イーグル+SK ノーマル 603 129 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム パーティオ proto パウダースプレイヤー+MT ノーマル 560 129 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ジュビジー アルヴォPDW11黒 ノーマル 593 132 0% 18% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アニメダウンロード特典(#1~#10)アーンヴァルMk2黒 メルテュラーM7+MT ノーマル 620 134 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア レッドスプライト+SK ノーマル 621 133 20% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ラプティアス フェリスファング+LB ノーマル 660 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム アーティル FB BSM ビームガン+MS ノーマル 666 151 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク メルテュラーM7+SK ノーマル 671 134 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア 6 メルテュラーM7+SP ノーマル 764 164 24% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア FB BSM ビームガン+TK ノーマル 837 183 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 7 メルテュラーM7+TK ノーマル 862 184 29% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア パウダースプレイヤー+TK ノーマル 870 186 29% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ジュビジー アルヴォPDW11黒+NS ノーマル 887 185 0% 22% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アニメダウンロード特典(#1~#10)アーンヴァルMk2黒専用RA『一刀両断・真EX』に必要 メルキオール+SK ノーマル 895 190 28% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 オフィシャル ガブリーヌ ポーレンホーミング+TK ノーマル 903 215 0% 25% 5% 230 7 ドリル+1ランチャー+1 プレミアム ジルダリア レッドスプライト+NS ノーマル 922 193 24% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ラプティアス D・イーグル+VC ノーマル 955 189 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム パーティオ proto フェリスファング+SK ノーマル 980 194 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム アーティル 防具付属装備 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 エキドナ ツイン 53 0 (21) 0% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+1DEX-1 オフィシャルショップ ガブリーヌ2wayリアパーツ 2 - - - - - - - - - - - - 3 - - - - - - - - - - - - 4 - - - - - - - - - - - - 5 エキドナ+GC ツイン 578 0 (142) 0% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+2グライディング+1DEX-1 プレミアム ガブリーヌ専用RA『ヘルクライム』に必要2wayリアパーツ 6 - - - - - - - - - - - - 7 エキドナ+SP ツイン 985 0 (245) 28% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+3グライディング+1DEX-1 プレミアム ガブリーヌ専用RA『ヘルクライムEX』に必要2wayリアパーツ
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「どう? 仁さん」 とある建物のとある一室。華凛はパソコンを横から覗きながら言った。パソコンを操作している青年は眼鏡を直しながら呟く。 「思った通り、改造神姫ですね。それも、重度の」 青年はそれだけ言って、再びキーボードを打ち始める。 私は、クレイドルで眠る神姫を見た。武装は全て外され、静かに眼を瞑っている。その安らかな寝顔を見ていると、さっきまでこちらに銃口を向けてきたとは思えない。 「店長、こっちの武器も違法改造が施されてます」 そう言って改造神姫の武器の入ったダンボールを抱えて現れたのは、別の神姫だった。たしか、アーンヴァルMk.2型。 「そうですか。ご苦労様です、エリーゼ」 「いえ、そこまでのことは……」 「いえいえ、いつも助かってます」 「もう、店長ってば大袈裟ですよ~」 エリーゼと呼ばれた神姫と青年は、仲良さげに会話している。とても微笑ましい。 することのない私は、椅子に座ってここに来た経緯を思い出した。 「止まった? 壊れた? どっちでもいいけど」 「エネルギー不足だって」 神姫が止まってしばらく経ち、私達は神姫を調べた。虚ろに開かれた瞳は、何も映さない。口は半開きで、まったく動かない。刑事ドラマで出てくる死体と似たような感じだ。 頬を伝う涙が、妙になまなましい。 「って、華凛。何してるの?」 見れば華凛は携帯を取りだし、どこかへ電話しようとしていた。 「う~ん、ちょっと待ってて」 携帯を耳に当てる華凛。まさか、警察にでも連絡しているのだろうか? 「あ、仁さん? あたしよ。うん、ちょっと興味深い物を見つけてね?」 違うようだ。警察相手にこんなにフレンドリーに会話出来る人はいないだろう。いや、いるかもしれないが、それは華凛ではないはずだ。 「ううん、こっちから行くからいいわ。うん、それじゃ」 ピッと通話を切った華凛は、神姫を手に取る。 「樹羽、もう少し付き合ってもらえる?」 「どうするの?」 華凛は神姫をちらつかせるように振る。 「調べるのよ。この神姫を」 そして来たのが、このホビーショップな訳だ。華凛が話していた、知り合いが経営している店とはここの事らしい。 店長である柏木仁(かしわぎじん)さんは、若いながらも相当なエンジニアであるらしく、今もあの神姫を全力で調べてくれている。 その助手でもある神姫、アーンヴァルMk,2型のエリーゼは、オーナーである柏木さんのことをとてもよく慕っている。 (神姫は小さな人、か……) まったくもってその通りだと思う。人と同じように笑う神姫。人と一緒に笑う神姫。しかし、あのエウクランテ型の神姫は、はたしてそうだったのだろうか? 昔は、あのエリーゼのように笑っていたのだろうか? 最後に見せた涙は、彼女の本当の意識なのだろうか? さっき柏木さんに聞いたが、あの神姫は重度の改造で暴走してしまっていたらしい。誰がそんなことをしたのか、まではわからなかったが。 「こんなこと、絶対おかしいよ」 「ぎりぎりセーフね、今のセリフ」 パソコンを見るのに飽きたのか、華凛はこっちに近付いてきた。 「別に飽きた訳じゃないわ。樹羽が暇そうにしてるから来たの」 「そう……」 華凛は私と反対側の椅子に座る。 「樹羽、大丈夫? 肩とか」 「肩?」 ああ、そういえば被弾していたんだっけ? 肩口を見てみる。軽く痣が出来ているが、重傷じゃない。 「大丈夫、痛くない」 「そう、ならいいの。それじゃあ、あとはあの神姫のことね」 華凛がクレイドルに眼を向ける。そこには相変わらず神姫が眠っていた。 「ホント、さっきまであれに撃たれそうになったなんて思えないわ」 私は被弾しているが。 「ねぇ、樹羽。実はね……」 華凛が何か言おうとした時、柏木さんが大声をあげた。 「よし! プロテクト解除成功です!」 「……ごめん、樹羽。また後で」 華凛は柏木さんの元へ戻っていく。私も同行した。 「なんのプロテクトですか?」 「この子の記憶ファイルのだよ。悪いとは思ったんだが、犯人特定のために仕方なくね」 「記憶ファイル……」 パソコンの画面を見ると、いくつかファイルがあった。それぞれ日付がふってある。 「ん?」 よく見てみると、昨日と一昨日の分がない。それどころか、3日前のファイル以外、全て×印がついている。どうやら破損しているようだ。 「とりあえず、この3日前のファイルを開いてみよう」 柏木さんがマウスを動かし、ファイルをクリックする。神姫にもよるが、数日の記憶ぐらいなら、映像で保管されているという。 ファイルが開かれ、ムービーが再生される。 暗い部屋の中だ。デスクの上のパソコンのディスプレイしか光源のない小さな部屋。神姫の前には、男の姿があった。顔は写っていない。 『駄目ですよ! そんなこと!』 『うるさいっ! マスターに指図するな!』 突然の怒鳴り声。さらに、視界が目まぐるしく回転し、衝撃とともに止まる。多分、デスクの上から落とされたのだろう。 『もう俺には後がないんだ! もうこれしか方法がないんだよ!!』 『だ、だからって、改造は違法行為です! そんなの、間違ってます! 目を醒まして下さいマスター!』 『黙れぇっ!!』 何かを蹴る音とともに、視界が暗転する。 『もういい、お前は徹底的に改造してやる! そしてもう二度と俺に指図出来なくさせてやる!』 声が近付いてくる。うっすらと開かれる視界。大きな人の足が写る。視界は急に浮上し、天井が写る。多分、今は移動中。 『絶対に見返してやるんだ……あいつらを……俺は……』 マスターらしき男の呟きを最後に、神姫の意識が途絶えた。 「…………」 ムービーもそこまでで終った。辺りには重たい空気が流れる。 「酷い……」 思わず呟いた。会話からして多分、神姫バトルで一向に勝てないさっきの男が、最終手段で改造に走った。 そして改造した結果、神姫は暴走。逃げ出されたのだろう。 「……この記憶は、消してしまった方がいいのかもしれません。この子のためにも」 柏木さんがパソコンを操作する。 「待って、仁さん」 華凛がそれを制止する。あたかもその行動を予測していたかのような速さだ。 「ちょっとそれは待って。それより、それ以外の箇所クリーニングできる? 改造された部分と、マスター登録も含めて」 華凛が質問する。その表情は、いつになく真剣だ。仁さんは怪訝そうな顔をしたが、一応頷く。 「人格が破損している場合、厳しいですが……多分、なんとかなると思いますよ」 「そう、よかった」 華凛は私の方に向き直る。いつもと違う雰囲気に、私は少し戸惑った。 「樹羽、さっき言いかけたこと、言うね?」 「う、うん」 華凛は目を瞑り、しばらくしてから、開けた。 「この子の、新しいマスターになってくれないかな?」 「えっ?」 それは、頭の片隅で予想していた質問だった。願ってもない質問。しかし、私は気が動転していた。 「べ、別に私じゃなくてもいいはず。華凛がマスターになればいいし、それに私、引きこもりだよ」 それに、何故記憶を消さないのかが気になる。 「あ~、それは重要だけど、あたしからは言えないわ」 「……?」 ますますわからなくなった。記憶を消すなと言っておいて、理由は言えない?私が考えている間に華凛は私の肩に手を置く。 その目には、強い覚悟が見て取れた。 「ねぇ樹羽、今の状態がいつまでも続くとは思ってないでしょ?」 「…………」 今の状態――。 高校にも通わず、ただ家にいるだけの日々。引きこもりとしての人生。 徐々に言葉のピースが埋まっていく。 つまり、そういうことか。 この神姫には、新しいマスターが必要で。 私は華凛以外の繋がりが必要で。 二人の条件が重なる。 「樹羽」 そう。私だって、今の状態をよしとしている訳じゃない。どこかで変えなければと思っていた。 ただ、取っ掛かりが見えなかっただけで。きっかけがなかっただけで――。 「……わかった」 変わるタイミングは、今しかない。 「私、マスターになる」 こうして私、奏萩樹羽(かなはぎみきは)は、神姫のマスターとなった。 第二話の1へ その夜の話 トップへ戻る
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「……3Sが斬る、なし崩しに始まり」 「今回は某企画に便乗して、ブレザーバージョンでお送りします」 「さすがにこのような服装は、気恥ずかしいですねワン」 「こういう時に言うべき台詞は二つに一つ」 「ほう?」 「と言いますとワン?」 「『七五三みたい』か、『どこのふーぞく?』」 「……どちらに該当すると言いたいのでしょうか?」 「言わぬが花」 「テッコさん、あとでじっくり話し合いましょうかワン」 「ええ、私も同席させていただきます。 それはそれとしまして、ですね。 それでせっかくの学校シチュエーションです、なにか学校っぽい事をやってみましょう」 「それはよいお考えですワン」 「(ぱちぱち)」 「それで、学校らしい事といいますとワン? 恥ずかしながら私は、既に社会人であるマスターの元に迎えられたため、学校と言う環境にはとんと馴染みがありませんでしてワン」 「そこはそれ、現役学生マスターをもつ私たちにお任せあれ」 「(えっへん)」 「おおー、頼もしい限りですワン。それで、具体的にはワン?」 「学校らしい事……不良のいじめ?」 「ああ、そうですね。そしてその不良も、教師側から煙たがれて事あるごとに退学させようと目論まれているという悪意の連鎖など定番ですね」 「そこから学級崩壊」 「そのまえに、登校拒否も忘れてはいけません」 「……うっかり」 「いえあの、学校と言う環境はもう少し穏便な場所ではないかと思いますがワン……」 「むむ?」 「ですが、マスターが学校に行ってる間に、私が暇潰しで見る学園ドラマなどは、多かれ少なかれこのような筋のものばかりですが?」 「(うんうん)」 「つまりあなた方も、学校の実情にはそれほど詳しくないとワン」 「なんでバレたのですか!」 「びっくり」 「……いえ、まぁ、その件は置いておくとしましてワン…… そうですね、無難なところで授業のマネなどをやってみましょうかワン」 「無難ですね、無難すぎます。なにかこう、ぐっと来るものがないと取り残されますよ」 「若者には無茶が必要」 「そこは素直に頷いておいてください、話が進みませんからワン……」 「ち、仕方ありませんね」 「一つ貸し」 「恩を押し付けられましたワン?! 気を取り直して……そうですね、国語でもしてみてはいかがでしょうワン」 「国語、ですか?」 「ええ、以前『秋物に凝ってナマズの服』などという、ひどい慣用表現を使った方もいますことですしワン」 「ナニソレ犬丸? 『羹に懲りて膾を吹く』の積もり? ありえない。ひどすぎ。ひょっとしてギャグ?」 「……今私は、非常に理不尽な気持ちを味わっていますワン」 「まぁまぁ。それじゃあ一つテキトーに、研究発表チックに慣用句についてでも語って見ましょうか」 「(こっくり)」 「ではそういうことでワン」 「言いだしっぺと言うことで、まずは私からいきましょう。そうですね…… 『情けは人のためならず』について」 「「(ぱちぱち)」」 「この慣用表現は、『安易に情けをかけると、その人のためにならない』と言う意味…… と、勘違いされることが多いですね」 「(うんうん)」 「おおー、お見事ですワン。まさにそのとおりですワン」 「ポイントは、『自分に返って来る』ということ。この要素を加味すれば、答えはおのずと見えてきます」 「隙の無い論理展開ですワン」 「やる……!」 「すなわち! この慣用表現の真の意味は、『反撃を受けないために、止めは刺せる時に容赦なく刺せ、それこそが慈悲』だと!」 「我々武装神姫には、必要な心構えですねワン」 「(うんうん)」 「スナイパーである私にとっては、特に重要な事です」 「お見事ですサラ(仮)さん」 「お疲れ」 「さて、では次は誰が行きますか?」 「(挙手)」 「おお、テッコさんが積極的ですワン」 「これは期待できそうですね」 「……『船頭多くして船山に登る』……」 「ほほう、それで来ましたかワン」 「それで、その心は?」 「『皆で力を合わせれば、一見不可能な事だって実現できる!』(握り拳)」 「うんうん、よい言葉です」 「もとより我ら武装神姫、マスターとの二人三脚が大前提ですワン」 「協力、とても大事」 「まさか、この殺伐が持ち味のこのコーナーで、こんな感慨深い言葉を聞けるとは」 「やりますねテッコさん」 「(えっへん)……最後、犬丸」 「承りましたワン。見事取りを務めてご覧に入れましょうワン。 では、私は……『死中に活を求める』について語らせていただきますワン」 「期待していますよ」 「がんばれ」 「ありがとうございますワン。 それで『死中に活を求める』はですね……かつてとあるスポーツ選手が試合前にトンカツとシチューを食べるのが定番だったのですが、ある日時間がなかった時に、店主に頼んでカツをシチューに入れてもって来て貰ったのですワン。 それを見た店主は、煮込み料理と揚げ物を組み合わせる着想を得て、そこから大ヒット商品……いえ今では定番と言うべきカツカレーを生み出したという故事に基づく、窮地においても最後まで諦めない事でそこから逆にチャンスを得ることを言います」 「最後まで諦めない事、これもまた我々には重要な事ですね」 「昔の偉い人は言った……『諦めたら、そこで試合終了だよ』」 「ご清聴ありがとうございましたワン、お粗末さまでしたワン」 「お疲れ」 「なんだか今回の3Sは、きれいにまとまりましたね」 「たまにはこういうことがあってもよろしいかとワン」 「(うんうん)」 (和やかな笑い声が満ち、それが徐々にフェードアウトしていく) 「……えーと」 「……うーん」 「ええと……これ、ツッコんだら負けとか、そういうゲーム?」 「そう、なのかもしれませんねぇ、もしかしたら……?」 「『情けは人のためならず』は、『誰かに優しくした事は、巡り巡って自分に返ってくる』という意味だね。 『船頭多くして船山に登る』は、『皆があれこれ口出しして、事態がとんでもない方向に行ってしまう』こと。 『死中に活を求める』は意味としては合ってるけど、説明されてる成立エピソードは、普通にカツカレーの起源として有力視されてる説だね。もっともそれでは、シチューじゃなくて普通にカレーとカツの注文だけど」 「ツッコミいったー!」 「しかも詳細に!」 「え? なに? 何かまずかったかな?」 「いえ、その、まずいというわけでもないんですが……」 「朴念仁て、時としてものすごく強いわねぇ……」 「ええ……」 「?」 <戻る> <進む> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ 鋼の心 ~Eisen Herz~
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稚魚学校吹奏楽部は今、全道大会の遠征のため、札幌に来ている。 今は午後1時を回ったところ、全員がホテルの食堂で昼食を摂るところだ。 男子は6人が1つのテーブルにつき、ヒーロー【男子5番】は隣に座っているだいすけ【男子3番】の方を頻繁に見ている。 周りの女子もそれをみてクスクスと笑っているようだ。 特にいつもと何も変わらない昼だった。ただ、違う事は顧問である朋子がいないことだった。 「朋子は~?」と白狼【男子4番】が言う。 副顧問のかぶてぃーが「することがあるらしいからあとで来るよ。」と言う。 そうこうしているうちに、昼食が用意された。 全員が食べ始め、数分たったとき、部長のあっさ【女子2番】が 「何か眠くなってきた。」と言った。あっさだけではない。全員が恐ろしいほどの眠気に襲われていたのだ。 朋子が食堂に着いたとき、ほぼ全員が深い眠りにおちていた。 食べるのが遅かったれな【女子20番】がかすかに意識を保っており、 朋子の「運び出して」という言葉を聞いた。だが、間もなく眠りにおちた。 最初に目を覚ましたのはえっこ【女子5番】だった。えっこは自分の目を疑った。 「ここは・・・どこ?」 そこは見たこともない木造の、それもかなり古い学校のようだった。 教室のような場所にボロボロの木の机、椅子。そして、教室の前には完全に埃が積もった黒板がある。 部員全員が、そこにある椅子に座り、机に頭を乗せる形で寝ていた。 さらに、おかしな点は全員の首に銀色の首輪がつけられている。それぞれに番号が書いてあるようだ。 すると、何人もが続いて起きはじめた。皆、目を覚ますと驚きを隠せない状況で、 次第に教室内はざわめき始めた。すると、教室の扉がガラッと開き、朋子と銃を持った男数人が教室の中に入ってきた。 「先生!ここはどこですか?」と副部長の魔王【女子11番】が尋ねる。しかし、朋子は 「そこ!!私語をしないでください!!」と声を張り上げていった。 突然の出来事に、まだ半分眠りから覚めていないような人も目が冴えたようだ。 朋子は埃の積もった黒板のチョーク受けからおもむろにチョークを取り出し、 黒板に「BATTLE ROYALE」と書き、言った。 「これから、皆さんにはあるゲームをしてもらいます。 そのゲームとは・・・。」 次へ
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前へ 先頭ページ 次へ 第三話 エイダ クエンティンは混乱していた。 まばゆい光に包まれたと思ったら、ボディが今までのとぜんぜん違うものにすげ変わっていたのだから混乱しないはずがない。いや、すげ変わっていたのではなく、これは本来のボディそのものが変化したのだ。見たこともないエネルギーラインが体を取り囲み、見たこともない装甲が全身に取り付けられている。というよりは装甲そのものも体の一部のようだった。 あまつさえ当たり前のように空中に浮遊している。アーンヴァルのような推進器の類はなく、背中に生えた小さな羽根からしゃわしゃわと出ているエメラルド色の粒子だけで、轟音も地面に吹き付ける風圧も無く、ただ浮いているのだ。 こんなことになった原因はすぐに分かった。あの銀髪の変な神姫だ。あの変な神姫が自分の頬を触ったと思ったら、消えて、なぜかその神姫の声が今は自分の中から聞こえてくる。 ということはその神姫は自分の中にいるという解釈がごくごく自然に成り立つが、ちょっと待った、とクエンティンは類推を引き止めた。 ありえない。そもそも自分の中にいるというその事実こそがありえない。純然たる世界の物理法則からして、二つのものが一つになるなんて絶対に起こらない。いや、一つになって質量が単純に二倍になるならいい。それは合体であり、物理法則になんら抵触していない。 一つになったのに質量が二倍に達していないのが問題なのである。たとえあの神姫自体がこの珍妙なアーマーに変形したのだとしても、二倍には程遠い。せいぜい一.三、四倍くらいだ。残りの六、七割はどこへ行ったのか。消えるということは無い。なら、融合したとしか考えられないのだが……。 『そのとおりです』 あの声がまた中から聞こえた。頭ではなく、胸の中、心臓の辺りから聴覚センサーを経由せず、陽電子頭脳の意識レベルに直接響いてくるらしかった。 「ちょ、ちょっと待ってってば、どーゆー原理でそうなってるわけ? そもそもアンタ誰?」 声に出して、クエンティンは訊いた。理音を含む周囲には独り言にしか聞こえないのではないかと彼女は思った。 『いま説明している時間はありません。ボギー、総数一二機。包囲されています。危険度レッド。脅威度イエロー。今すぐ戦闘行動を開始してください。ボギー1、8、来ます!』 「ええっ!?」 キルルルルッ 包囲している一つ目どものうち二体が、小さな羽根からオレンジの粒子を撒き散らして接近してくる。 クエンティンは慌てた。フロストゥ・クレインは足元はるか下に置き去りにされており、取りに行く暇は無い。 「ぶ、武器は!?」 『使用可能武装情報および取り扱いマニュアル、オープン』 声がそう言った途端、クエンティンはいくつかの武器がこの体にあることと、その使い方を思い出した。教えられたのだ、口頭ではなく情報として、やはり直接、陽電子頭脳へ。 右手を前方の一つ目、識別名ボギー1へかざす。 ツ、ツ、ツシュッ! 胸部の球体から右手へ伸びるエネルギーラインが点滅し、手のひら下のスリットから、全身を走ったり羽から出たりしているエネルギー粒子と同じ色をした粒子の塊が高速で三連射された。 三つのエネルギー塊は突進してくるボギー1にすべて命中し、足止めを果たす。 その流れで、手首にフォールドされているあの細長いブレードを展開、上体を右に回転させ、右後方へ切りつける。 シュパンッ! そこに丁度接近していたボギー8が、胴体から真っ二つに切り離された。 『ボギー8撃破』 そのままの流れで、もう眼前に肉薄していたボギー1へ、返す刀を真上から脳天へ振り下ろす。 シバッ! 刃を受けたボギー1は縦に半分にされて地面に落下、そのまま爆発した。 『ボギー1沈黙、8を除くボギー2から12、来ます』 残りの十体が一斉に突撃する。 衝突寸前、クエンティンは左手でボギー7をがっちりと引っつかむ。吸い付くような感触。グラブ機能だ。 そのまま最大出力で真下へ離脱する。小さな羽根からエメラルド色の粒子が大量に放出され、クエンティンは猛スピードで地面へ接近する。思わぬ加速に彼女は面食らった。 『衝突警告!』 「ぐうっ……!」 むりやり推進ベクトルを真横に切り替える。 バ、シャウッ! 地面すれすれで、たいしたGも無くすんなりと、クエンティンは真横に移動することができた。 そのまま真上を振り返り、敵集団へ左手のボギー7を力任せに投げつける。 目にも留まらぬ勢いでボギー7は敵集団へ衝突。それを含む三体のボギーはその衝撃で爆砕。 『ボギー2、7、12、撃破』 続いてクエンティンは背中に意識の一部を集中。 視界の生き残ったボギーにそれぞれロックオンシーカーが表示される。 ガシォーン! ロックオンレーザーである。直進しかしないはずのレーザーが、何十本、生き物のように曲がりくねって、数本ずつ一つ目どもに向かってゆく。 命中。 衝突でダメージを受けていた二体がそれで機能を失い落下した。 『ボギー4、5、撃破』 残り五体は距離をとって態勢を立て直す。 「何、この機動性……」 ここまでかかった時間は五秒にも満たない。性能を極限まで追及したアーンヴァルでさえ、こうはいかない。 「アンタ何者?」 クエンティンは声の主に訊ねる。 『独立型武装神姫総合戦闘支援システムプロトタイプ、エイダです』 エイダと名乗った声の主は、抑揚の少ない口調で答えた。 「ンなの聞いたこと無いわよ」 『公に対する情報開示はまったくなされていません』 「じゃあ聞くけど、アンタどこ製?」 『回答不能』 「同郷? BLADEダイナミクス? 少なくともカサハラインダストリアルじゃないわよね」 『回答不能』 「……もしかしてEDEN本社?」 『回答不能』 クエンティンは頭に来た。 「アタシのボディ間借りしといて回答不能は無いでしょ!?」 『申し訳ありません。情報プロテクトがされており、責任者の許可が無ければ開示できません』 そっけなく、エイダは答えた。 だったらなんで、独立型うんたらかんたらプロトタイプって自己紹介できたのよ。 クエンティンは憤りを禁じえなかった。 まったく、とんだ災難に巻き込まれちゃったわ。 「こんな道端のど真ん中で氷雪浴してた理由も回答不能?」 『申し訳ありません』 「もういいわよ」 はあ、とクエンティンはため息を吐く。本当に災難だ。 「そうだ、お姉さまは!?」 あたりを見回す。電柱の影で手を振っている理音の姿が見えた。 良かった、無事だわ。 キリキリキルッ それにつられたのか、残った五体の一つ目どもが理音のほうを向いた。 そのまま彼女へ近づいてゆく。 「なんで!?」 クエンティンは反射的に飛び出した。 明らかに一つ目どもはお姉さまを襲おうとしている! ロボット工学三原則、改名、人工知能基本三原則にばっちり抵触しちゃってるじゃない! なのになんで!? 簡単に一つ目どもを追い越し、クエンティンは立ちはだかった。 「アンタたち、人間を襲うの!?」 一つ目どもは答えない。発声器官が無いのだ。 突撃が答えだった。 「ちくしょー!」 クエンティンはブレードを展開、一番近いボギー10に急接近し袈裟懸けに切りつける。主エネルギーラインを断ち切られたボギー10は力を失って墜落。 切りつけた勢いを反転させ――やはり不思議なことに反動は無かった――正反対を飛んでいたボギー6の頭部を貫き、ブレードに挟ませたままその場で八の字にぶん回す。ボギー3,11がぶつかり、三体はまとめて爆発四散。 『ボギー10、6、3、11、撃破。敵、残り一体です』 「きゃああ!」 理音の悲鳴。 唯一残ったボギー9が、もう理音の目の前まで近づいていた。両手を真上に掲げている。 両手の先からオレンジ色のエネルギーカッターが伸びる。 「しまった!」 クエンティンは彼女の元へ飛ぶ。 だめだ、間に合わない! ボギー9が理音へカッターを振り下ろす。 パンッ、パンッ! まったく予想外の方向から甲高い破裂音が響き渡った。 ボギー9は何か強烈な勢いを持ったものに弾かれ、電柱に激突し破裂した。 理音とクエンティンは音のした方向を振り返る。 高級そうな白いスーツを着た、金髪オールバックの、眼鏡をかけた長身の青年が、煙を吐いている拳銃を持って立っていた。本物の拳銃である。 彼の後方には頑丈そうな真っ黒いサルーンが停まっている。 「こんなところで貴様に会うとはな」 「あなた……」 理音はその青年を知っていた。 以前とあるセンターの、リーグ無差別エキシビジョンマッチにおいて戦い、すんでのところでクエンティンが敗北した、「ルシフェル」という武装神姫のオーナー。 鶴畑コンツェルンの御曹子、長男、鶴畑興紀である。 「まさか拳銃で壊せないとは。たいした新型だ」 鶴畑興紀は地面に転がっている一つ目の残骸を見ながら、ひどく感心した様子で言った。 キルキルキルキルキルキル キリキリキリキリキリキリ さらに生糸を引っかくような音が何重にも聞こえた。 理音たちの後ろの道から、吐き気を催すような大量の一つ目 どもが現れ、近づいてきたのだ。 「こんなにいるなんて!?」 「チッ、乗れ!」 興紀は二人に手招きをし、サルーンへ乗り込んだ。 理音とクエンティンは一瞬迷ったが、選択の余地は無かった。このままこの場に居たのでは確実に嫌なことになる。 「何をしている!」 興紀は怒鳴った。 二人はバックを始めているサルーンへ飛び込んだ。 ドアが自動で閉まる。 「じい、出せ」 興紀は運転席の執事に命じた。 「かしこまりました。お二人とも、シートベルトをきちんとお締めになってくださいませ」 興紀も理音もベルトを締め、理音は懐へクエンティンを忍ばせた。 「行きますぞ!」 白髪の執事はシフトレバーを切り替え、アクセルを踏み込む。 狭い道路を、大型のサルーンがぶつかることなく颯爽と走り抜ける。 サルーンは逃走に成功した。 しばらくその場でうろうろしていたが、ややあって、一体残らずどこかへ飛んでいってしまった。 裏路地に静寂が戻った。 つづく 前へ 先頭ページ 次へ
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第二十話:道行姫 「僕はイリーガルマインドに苦しむアーンヴァルの声と施設の事を聞いて迷っていたよ。施設がどうなるのか、この先の武装神姫もどうなるかと」 結に支えられながら輝は俺に自らの迷いを語り始める。その顔は施設の真実を晒される事を恐れていない覚悟の決まった顔だった。 ついさっきとはまるで違っている。 「でも、こうも考えられたんだ。もしかしたら神姫も施設も両方救えるんじゃないかって」 「何をする気だ?」 「僕は証人に加わる。その代わり、施設の何も知らない人々は無関係だって事を証明して、施設が存続できるようにする」 「……一番困難な道だぞ? しかもすぐに解決できる事じゃねぇ。施設を存続させたとしても後の偏見の目だって消さなけりゃならん」 輝の選択は最も難しいものだった。 施設からイリーガル技術流出の汚名を拭い去る、言葉にすればそれだけの意味だが、実際にやるなら様々な問題が発生する。それは俺にだって列挙し切れるものじゃない様々な難題、他者の思惑が絡んでくる。 まさに茨の道、輝も思い切ったものである。 「わかってる。これは僕の戦いだ。君の手出しは無用だよ。君はイリーガルにだけ集中していればいい」 「やれるのか? 一人で」 「一人じゃないよ。僕には結がいる。石火に早夏もいる。施設のためなら何だってやってみせるよ」 その言葉を迷いなく言ってみせる。結も、石火に早夏もそれについていこうという顔をして、輝の語る姿を見届けていた。どうやらその言葉は四人で考えた真実のようだ。 俺が止められるようなものじゃない。 「ははっ。なるほどなぁ。初代チャンピオンって名がさらにサマになってきた気がするぜ」 彼らの覚悟に負けた俺は少し笑って、それを認めた。そこまで言うなら進んでもらおう。俺はその覚悟を見届けてやる。 「わかったよ。俺はイリーガルを叩いて、目の前の小さな奴らを助ける。お前は施設って大きなものを助けてやんな。足下は俺に任せろ」 「ああ」 俺は輝に敬意を表して、彼の手を取り、握手した。輝はその感触を感じ取って握り返し、それを交わした。 「いいね。男の友情っていうのは熱い! 僕も及ばずながら力になるよ。まぁ、ただというわけにはいかないけど、代金を割引サービスしてあげちゃおう」 話のキリのいい所で日暮が拍手で話を持ちかけた。ちゃっかりしているのか、本気で感動しているからそうしているのかといえば……おそらく後者だ。 その辺はしっかり『正義の味方』といった性格をしていた。 「今の声の人は?」 「正義の味方の日暮さんだ。彼に手を借りれば結構やれると思うぞ。『ハイスピードバニー』の風俗神姫騒動も解決にも貢献したからな」 「あの大事件を!? それは凄いな……」 「どうだい? 僕に君の手伝いをさせてくれないか?」 「お願いします。対価なら払います。どんな事をしてでも施設を救いたいんです」 「わかった。代金はそうだな。尊君。君に払ってもらおう」 「え?」 話が進む中、唐突に代金の話が俺の方に向いて驚いた。何をどうすればそういう話になるというのだろうか。 「そう難しい事じゃないさ。代金は君がイリーガルマインドなどの装備を押収して、それを僕に渡す事を約束してくれ。つまり、君が今やろうとしている事さ」 「なるほど。それならいいでしょう。僕がやる事は輝と違って自己満足だ。それに価値がつくなら喜んで」 「商談成立だね。じゃあ、輝君に結ちゃんだっけ? 二人で奥まで来てくれ。これからの事を話そう」 「はい」 長期戦となるであろう施設の話について打ち合わせがかなり時間がかかるのか、日暮は輝にそう言って店の奥へといなくなる。確かに他言無用な話になるのだからそうなるのも当然と俺は納得した。 その輝は入り口から結に導かれながら歩みを進めていく。その足取りは目が見えないため、周りを探るような歩き方をしているが、進むことには一切のためらいがない。 その中で俺の近くまでたどり着くとそこで輝は足を止め、気配でそうしているのか、俺の方を向いた。 「尊。ありがとう。この一歩を踏み出せたのは君のおかげだ」 「尾上辰巳だ」 「え?」 「お前等の頑張ってんのに変なプライドで本名を名乗らないわけにはいかんなと思ったんでな。改めて自己紹介さ」 「そうか。僕は天野輝だ。改めてよろしく。辰巳」 「ああ。……一歩を踏んだ後は輝次第だ。俺は俺の道、お前はお前の道をそれぞれ行こう。目が見えなくたって、もう見えてるだろ?」 「うん。行ってくる」 「おう」 短い会話が終わると輝は再び歩き出し、店の奥へと消えていった。そして代わりの店番として神姫のコアを飾るための胸像ディスプレイにヴァッフェバニータイプのコアがくっついたもの……うさ大明神様がレジの隣に現れた。 それを見届けた俺はここでの用事が終わって彼らとの約束を果たすために蒼貴と紫貴と一緒に店を出て行った。 一週間後、日暮から視覚データによる結果と輝からの連絡が来た。 あれから日暮は輝を伴って、決定的な証拠を施設の研究者に突きつけ、彼らを一網打尽にしたのだという。 これによってリミッター解放装置の販売ラインを、根元を断ち切った事になる。リミッター解放装置はこれ以上、増えることはない。後は日暮が既に流通したものを回収し、俺が既に使ってしまった、或いは買わされてしまったオーナー達から押収すれば、何とかなるはずだ。 使った後でも杉原のワクチンプログラムで何とか助けられるだろう。 施設に関しては義肢を開発していた研究所の独断として施設と研究所で切り離され、研究所のみが罪に問われる形となった。しかし、そこの神姫は改造前のは何とか解放したものの、手を付けられてしまった神姫に関しては証拠品として警察に押収されてしまったらしい。 これを聞くと神姫はまだまだ物として扱われているという事の様だ。 俺達は神姫オーナーにとっては、神姫は物ではなくパートナーだが、この日本での法では神姫は個人として認めてもらえていないのだ。所詮はロボット。物であるという訳だ。 昔の本や物語で繰り広げられているロボットの存在意義の上での答えがこれだとするなら少々悲しいものを感じる。 しかし、可能性はある。そう。輝だ。 日暮経由の彼の連絡に施設の神姫が押収された現場に居合わせたらしく、何とか説得を試みて失敗に終わり、自らの力の未熟さを痛感させられた事が書かれてあった。 後悔の思いがあったが、それには続きがある。輝はその神姫達や施設を助けるためには自分自身がそれを制するだけの力が必要と考え、弁護士として猛勉強することを決心したらしい。結と彼らの神姫もまた輝の決意についていくことにしている。 神姫で何とかするというだけではなく、大人としての力を得る事で両方を救う。どうやら、これが輝なりの答えという事の様だ。 これはすぐに解決することではないし、俺が足掻いた所で変わりはしない。せいぜい輝の相談に乗ったり、宣言したとおりに、バーグラーを狩ったりするのが関の山だ。 だが、こうして未来に続いていると感じることができるのは悪い気がしない。輝を信じる。それだけで今回の自分のやったことが無駄ではないと思えた。 「解決はしたわけじゃねぇが、いい風には終われた……か」 連絡を受けた事を思い出しながら俺は神姫センターに入っていく。今回来たのは真那と会ってしまういつもの場所ではない。そこからさらに四駅ほど進んだ先にある別の神姫センターである。 今回の事件によってばら撒かれたイリーガルマインドの流通も広範囲に渡るものになってしまっており、警察や日暮も捜索しているものの、発見するのが難しい。 俺個人でどれだけ発見できるかはわからないが、様々な場所を回って多くのオーナーや神姫を見てみたいという気持ちもあったため、こうしてイリーガルマインド回収も兼ねたセンター巡りをしてみる事にしたのだ。 秋葉原を中心とするその周辺には多くの神姫センターがある。探そうと思えば、ゲームセンターや公認ショップ含めていくらでもあるため、自分の縄張りだけでは飽き足らないオーナーと神姫達は様々な場所で修行する際には秋葉原を中心とするこの激戦区を回るのが通例だという噂を聞いたことがある。 俺は……『異邦人(エトランゼ)』の真似事をするのだからその噂通りのことになるかもしれない。素性を明かす気はない点では異なるがな。 「ミコちゃん、本当にここにイリマイあるの? イリマイがある割にはここの噂が小さい気がするんだけど……」 「……日暮さんの教えてくれた噂じゃ、ここにイリーガルみたいな神姫が破竹の勢いで勝ちまくっているってことらしい。あの人の情報網は信頼できる」 神姫センターの奥へと進む俺に紫貴が話しかけてきた。今回は日暮の情報からここに来ている。俺の蒼貴を大破に追い込んだバカ者共と似たようなクチであり、イリーガルマインドの予感しかしない。が、紫貴の言う通り、噂が小さく、それが目立たない。そこがおかしな所である。 「しかし、ここはその噂の人以外の人も強いようですね。だから、大きな騒ぎになることもないという事なのでしょうか。あの試合の人達もすごいです」 蒼貴が指差す先を見ると、大きなスクリーンがあり、それに非常に高いレベルの対戦が映し出されていた。 対峙しているのは黒い外套と身の丈はあろう化け物の様な太刀を力任せに振り回し、叩き潰すような戦い方をするストラーフタイプとスカートアーマーの内側から隠している暗器を取り出して一定の距離を保ったまま、翻弄してみせるアルトアイネスタイプの二機だった。 「You re going down!(くたばれッ!)」 翻弄されていることにプライドを傷つけられているのか、少々怒り気味のストラーフが太刀を力任せに振り回してアルトアイネスに襲い掛かる。 「それは勘弁して~。噂に聞くバラバラ戦術は痛いしさ~」 彼女は軽口を叩きながらサブアームで受け流し、そのままアーマーを展開することで飛んで爆弾による爆撃を仕掛ける。 ストラーフは太刀で着弾する前に弾き飛ばして自らのダメージを減らし、大きく跳躍して、反撃に出る。 銃を連射し、それに続いて一戦しようというオーソドックスな攻め手だ。銃の弾はアルトアイネスの翼を形成するスカートアーマーを弾いて体勢を崩させ、動きを硬直させるとそのまま太刀の一閃を放つ。 「危ない危ない」 いつの間にか取り出した大剣ジークフリートでそれを防御する。ストラーフはそのまま、力を入れて叩ききろうとしたが、いかんせん空中にいるため、力を入れられず、そのまま地面に着地し、次の一手を打つために追撃を仕掛けてこようとしているアルトアイネスに向かって太刀を構えた。 「確かにレベルが高いな。これからこういう奴らと戦うのも悪くない」 拮抗状態の続く戦いに俺は感心した。ここまでのバトルが見られる上に互いに隙を見せずに攻撃を繋ぎ続けているだけ実力を持っていた。あれだけの力があれば万一、イリーガルマインド装備が出ても何とかできるかもしれない。 どういう奴らなのかと対戦の映像の隣の対戦者のデータを見てみる。ストラーフタイプはフランドールという名であり、オーナーは三白眼と長めの黒髪をサイドテール、黒いパンク調の服とシルバーアクセが特徴的なガラの悪そうな咲耶という名の少女だった。 彼女は噂を聞いたことがある。何でも相手が弱いと判断すると、弄んで潰すという戦い方から非難の声が上がるという悪評である。しかし、ランクに反して強いことから有望であるという見方をする人もおり、注目されているらしい。 一方、アルトアイネスタイプはメルという名前だった。オーナーは祥太という気さくな印象のある青年だった。特に噂を聞いていないため、未知数だが、フランドールを翻弄することができるという点では彼らもそれだけの実力をつけ始めていると見ていいだろう。 「ねぇ。ミコちゃん、あれ」 「あ?」 対戦を観戦している時に紫貴が俺に声をかけて指をさす。その先を見ると甘ロリ系な女の子が二人の青年に囲まれているのが見えた。 「おい。梨々香ちゃんよ。遠野のチームメイトだったよな?」 「な、何よ……」 「俺達は最近、三強を倒して調子に乗ってる『ハイスピードバニー』のチームを狩ってるのさ。遠野や『異邦人』を引きずり出すためにまずは弱そうなお前からやろうって話になったんだよ」 どうにも彼らは『ハイスピードバニー』……恐らくは遠野貴樹のチームを潰そうと考えているらしい。事情はよくわからんが女の子を男二人で襲おうとするその現場は見苦しいことこの上ない。 「やめてよ! 二対一なんて……」 「関係ないね。『玉虫色』を倒したのも初心者だ。ここで勝ちまくったが、油断はしねぇ」 「そうそう。やるなら全力ってな。ははは」 「そうだな。やるなら全力……二対二だな」 傍まで近づいた所で俺は男二人の話に割って入る。 「あ? 誰だてめぇは」 「俺はただのオーナーだ。……覚えておかなくていい。どうせお前らが負けるんだからな。トラウマになりそうなものがなくなっていいだろ?」 「ふざけるな! こいつは後回しだ。この野郎をやるぞ!」 「おう! そこのバーチャルバトルに来い!」 「そうこなくっちゃ……」 挑発をするとすぐに釣れた。さすがはチンピラ。単純で助かる。 そう、ほくそ笑むと俺は彼らの言うことに従ってバーチャルバトルなるものに向かう。今回のはエルゴにおいてあったシミュレーションバトルによる戦闘という事になるようだ。 自分のブースに着くと蒼貴と紫貴を二つのアクセスポッドに乗せて接続する。向こうでは俺が一人で二体操ろうとしている事をバカにしているのか、笑いながら各々の神姫をセットした。 それによってバーチャルシステムは起動し、オフィシャルバトルの準備が完了し、ディスプレイの向こう側にそれぞれの神姫が出現する。 相手はヴァローナタイプとガブリーヌタイプだ。それぞれ純正装備だ。ただし、両方が首にイリーガルマインドを装備している。何とかこれを回収しなくてはならない フィールドは草原。遮蔽物もないその場所は純粋な戦闘力が試されるだろう。 『Ready……Fight!!』 ヴァローナが先行し、ガブリーヌが援護射撃しつつ、前進する普通の戦法を取ってきた。 「蒼貴、紫貴。すぐに沈める。まずはヴァローナをやる。蒼貴は苦無で拘束、紫貴は射撃からブレードで斬り捨てろ」 対して俺は速攻の指示を出す。女の子を再び襲うのをためらわせるほど、速やかに倒す必要がある。圧倒的な力の差という恐怖。それがこの戦いのテーマだ。 蒼貴と紫貴はそれを聞き、行動に移す。蒼貴は接近してくるヴァローナの四肢に苦無を、紫貴はアサルトカービンをそれぞれ放つ。飛んでいく苦無は足を止め、弾丸がひるませ、ヴァローナを無防備状態にする。 「はっ!」 そこをすかさず紫貴がエアロヴァジュラで切り裂く。ヴァローナは何がおきたのかもわからずに声を上げることもなく地面へと倒れた。 その直前、蒼貴は首からイリーガルマインドを奪う。これでヴァローナのイリーガル化は防げる。 「この野郎!!」 早くも相方を失ったガブリーヌはイリーガルマインドの力を使った。それにより彼女の額からユニホーンが生え、紫色のオーラを放ち始める。 「これで決まりだ。紫貴、バトルモードで接近して拘束。蒼貴、紫貴に乗って塵の刃の用意」 「はい!」 「了解」 予想通りの展開からの次の指示につなげる。ヴィシュヴァルーパーに変形した紫貴に蒼貴が騎乗し、接近の間に塵の刃を鎌と苦無にまとわせる。 ガブリーヌは重装備に物を言わせて接近してくるまで拳銃を撃ち続け、接近したらいつでも殴れるようにナックルを構える。 銃撃を避けながら、紫貴が接近するとガブリーヌはナックルで紫貴本体を狙った一撃を仕掛ける。 しかしそのとき、違和感に気づいた。そう。蒼貴がいない。 攻撃を紫貴に仕掛けながらも目だけで蒼貴を探していると……上にいた。 「なっ!?」 ガブリーヌは驚きながらも紫貴に攻撃を続けようとするが、彼女は変形解除をして、サブアームで受け止め、拘束する。 「今よ! 蒼貴!」 「せいやっ!」 気づいた時には既に遅く、宙を舞う蒼貴が塵の刃をまとった苦無でユニホーンを切断し、鎌で腹を引き裂く。そしてとどめとしてイリーガルマインドを奪った。 その瞬間、それの効果が失われ、ガブリーヌは効果が切れて砕け散る塵の刃のかけらが舞う中で地面に伏す。 『You Win!!』 ディスプレイに勝利画面が表示される。それが表示されるまでのタイムは一分とかかっていない。一蹴とも言うべき戦果だ。向こう側にいる男二人はイリーガルマインドを使っているのにこうなってしまった事に動揺していた。 それもそうだ。神姫のせいとかそういうレベルではない。実力を発揮する前に終わってしまったのだから。 「ど、どうなってんだよ!? てめぇ! チートでも使ってんじゃねぇのか!?」 「そりゃお前らだろ。そのイリーガルマインド、俺が追っている違法パーツなんだよ。わかってて使ってるのか?」 「なんだと!?」 「すぐにそれを外せ。お前たちの神姫が苦しんでいるぞ」 チートと騒ぐ男二人にイリーガルマインドの副作用について指摘すると彼らは自分たちの神姫を見た。神姫達は例によって副作用で苦しんでいる。バーチャルバトルではどうなるのかと思ったが、どうにも架空も現実も同じであるらしい。 「な……」 「どうなってんだよ!?」 やはりというべきか彼らは知らず、副作用に驚いていた。この装置の副作用は全くと言っていいほど、説明されないケースが多い。このパターンはよく見る。 「それが原因だ。そのまま捨ててしまえ。でもってホビーショップエルゴにいきな。有料で直してもらえるからよ」 「お、覚えてろ!!」 「由愛~~!?」 自分の神姫を持って逃げるように去っていった男二人を見送ると置かれた二つのイリーガルマインドを拾う。見ると本当に本物のイリーガルマインドに見える。これがただの演出で済めばどんなに良いことか。 「こんな下らねぇもん使ったって、強くなんてなれねぇのに何やってんだか……」 ため息を付きながらそう呟く。 こんな調子でイリーガルマインドを狩っているが、それを持っているやつは大抵がその性能に魅入られている馬鹿か、知らないアホ、あるいはその両方の三択だ。 二番目なら救いようがあるが、それ以外なら話にもならない。痛い目を見るまで使い続けてくれるから困る。少しはうまい話なんてないことぐらい考えてほしいし、それで神姫が犠牲になったらどうするのかを考えていただきたいものだ。 これ、あるいはこれに類する違法パーツが横行したらどうなるかを考えると今の武装神姫は危ういラインにいるのだろうか。 「あの……助けてくれてありがとうございます」 「気にすんな。こっちもこいつを回収するのが仕事なんでね」 考え事をしていると瞬く間に倒した俺達に助けた梨々香という甘ロリ系の女の子が話しかけてきた。肩にはポモックタイプの神姫が乗っている。見た感じは特に目立った改造もない純正装備だった。このまま、絡まれていたらまず間違いなく、手痛い目にあわされていただろう。 「あの……オーナー名の尊ってもしかして双姫主の尊さん?」 「いや、俺は……」 「その通りです」 何とか名乗ることを避けようとしたが、蒼貴に肯定されてしまった。 墓穴を掘らされていつものこのザマだ。困っている奴らをほっとけないだけにこのパターンは引っかかりすぎる。 「そうよ。ミコちゃんはね。双姫主として雑誌にも載っちゃった超かっこいいオーナーなのよ? すごいでしょ?」 「やっぱりそうなんですか! あの戦いがデュアルオーダーの……遠野さんのやってた通りなんだなぁ……」 紫貴が無茶苦茶脚色を付けた事を言うと梨々香は感激したらしく、紫貴の言葉に頷く。 「おい。こら。何、勝手に晒してんだ。しかも尾ひれを付けすぎだろ」 「雑誌に載った時点でアウトでしょ?」 「うるせぇ! 素性が載ってねぇからまだ何とかなるはずなんだよ!」 「いいじゃない! 減るもんじゃないし!!」 「あんだと!?」 「あの……!」 すっかり正体をバラされて怒る俺とかっこつける紫貴が口喧嘩を始めようとするとなにやら勇気を振り絞ってる様子の梨々香が口を挟んできた。 「どうした?」 「私に戦い方を教えてください! さっきみたいなことになって、チームの皆の足手まといになりたくないんです!」 「遠野さんってのに教えてもらえばいいんじゃねぇか?」 「遠野さんにはもう弟子がいるし……。勝ち負け関係なく楽しんでるけど、こんな事、情けなくって周りに言えないよ……」 話から察するに梨々香は遠野のチームに所属はしているものの、勝ち負け関係なくバトルロンドを純粋に楽しんでいる奴であるらしい。しかし、この一件で自分でも戦えるようになりたいと思ったらしいが、周りにはそういう奴だと思われていて言いにくい。だから、見ず知らずの俺にまずは教えてもらおうと考えているらしい。 ぶっちゃけ、恥をかなぐり捨てて知り合いに教わった方が進歩が早いと思うのだが、どうしたものか……。 「……オーナー、教えてあげてはいかがでしょう?」 「ミコちゃん、そうしようよ。真那にだっていつも教えてるんだし、慣れっこでしょ?」 「……仕方ねぇなぁ。わかった。その代わりといっては何だが、『ハイスピードバニー』の事を知っている範囲でいいから聞かせてくれ。興味があるんでな」 「ありがとうございます!」 「梨々香ってんだったか? 俺は厳しいぞ?」 「はい!」 梨々香の真剣な態度に感心する蒼貴と紫貴にも逃げ場を塞がれた俺は逃げることを諦め、梨々香に俺のバトルの経験を教えることに決めた。デュアルオーダーは無理でも普通の戦い方ぐらいは教えられるだろう。……真剣な気持ちを無碍にできんしな。 まぁ、こうやって動き回れば梨々香のような良い奴にも会える。こういう奴らがいるからこそ、武装神姫という舞台がマシな方向にも向かうことができる。 その可能性を1%でも高めてやるのが俺らにできることなのかもしれない。 それで武装神姫が良くなるなら俺の行動も無駄じゃないし、輝や別の場所で戦っている誰かもまた頑張っていられるだろう。 この手ほどきも何かの役に立つことを願って、やってみるか……。 第三章『深み填りと盲導姫』-終- 戻る トップへ
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主人公恵太郎とその相棒のナルのバトルメインな2036年平凡日常物語 著/神姫愛好者 戦う神姫は好きですか 一話 戦う神姫は好きですか 二話 戦う神姫は好きですか 三話 ※HOBBY LIFE,HOBBY SHOPと(一方的に)コラボです 戦う神姫は好きですか 四話 前半 後半 ※HOBBY LIFE,HOBBY SHOPと(一方的に)コラボです 戦う神姫は好きですか 五話 戦う神姫は好きですか 六話 ※ねここの飼い方と(一方的に)コラボです 戦う神姫は好きですか 七話 戦う神姫は好きですか 八話 戦う神姫は好きですか 九話 戦う神姫は好きですか 十話 前半 中半 後半 戦う神姫は好きですか 十一話 戦う神姫は好きですか 十二話 戦う神姫は好きですか 十三話 戦う神姫は好きですか 十四話 戦う神姫は好きですか 最終話 前編 後編 スロウ・ライフ 番外編 白の女王 第十三研究室の昼下がり - - -
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十話 『十五センチメートル程度の死闘 ~1/2』 「あららん? その後姿はもしかして鉄ちゃんと姫ちゃんじゃないかしら。それとも私の気のせいかしら。 うん、きっと気のせいよね、失礼しました~」 背後から声をかけてきて一方的な納得をされ、そのまま私達とは別方向へ行ってしまおうとする紗羅檀さんに、私はなんとなく 『見覚え』 があった。 私の知る神姫なのだから 『見覚え』 があって当然なのだけど、ここで私が言いたいことは、そういうことじゃない。 その紗羅檀さんは人間サイズだった。目線が私より少し高いくらいだ。 腕と足は指先まで黒く染まり、胴体にあしらわれた金の意匠が微妙に安っぽく光を反射して眩しい。頭部をクワガタの鋏のように囲むアクセサリーもちゃんと再現されており、薄紫の長い髪も、武装神姫の紗羅檀と同じように整えられていた。 歩き去ろうとする紗羅檀さんの後ろ姿もやはり本物を再現されていて、だだっ広い改札口前を歩く老若男女の視線が、大きく開かれた背中に集中していた。 私達はただ、ポカンと口を開けたまま、その方を見ていることしかできなかった。手作り感溢れる艶かしいその姿に目を奪われるというより、感心していいやら呆れていいやら分からないといった感じだ。 よく出来ているのは認めるけど、人が行き交う日常に紛れ込んでいい姿じゃなかった。 恥じ入ることなく堂々とした紗羅檀さんの肩の上には、同じ格好をした身長15cm程度のオリジナルがいた。 「どこに行くのよ千早さん、そっちは神姫センターじゃないし、さっきの方達は気のせいでもなく鉄子さん達だし――ああもう! だからついて行きたくなかったのよ!」 チンピラシスターだったコタマでも軽くあしらってしまうミサキの、頭を抱えて取り乱す姿は新鮮だった。 「あらホント。鉄ちゃんと姫ちゃんと、それにボーイフレンズじゃない。あなた達も鉄ちゃんに謝りに行くの? あら、でも鉄ちゃんはここにいるのよね。あ、もしかして鉄ちゃんの双子のお姉さん?」 こちらに向き直り近づいてくる千早さんから、私以外は少し後ずさった。連れている神姫達も、神姫なのに大きいというチグハグさに少し怯えている。 「い、妹君、何ですかこれは」 「これ、とか失礼なこと言わんの。私がバイト先の物売屋でお世話になっとる千早さんよ。どうもです、どうしたんですかその格好」 「バカ、な~に話しかけてんの。他人のふりしろよ」 日頃の恩すら覚えておけない哀れなコタマを鞄の底に押し込んで、私は快く千早さんに近づいた。 背比と貞方、それに傘姫について来てもらっても、神姫センターに対する不安は拭いきれるものじゃなかった。電車に乗って、あとは神姫センターまで歩くだけ、というところまで来ても、いや来たからこそ、引き返したいと思う気持ちは強くなるばかりだった。千早さんの姿を見るまでは。 「奇遇ですね千早さん、私達も丁度神姫センターに行くとこやったんですよ。いやあ、ここでお会いできて嬉しいです。でも千早さんとミサキが神姫センターに行かれるとは知らんかったです。そのコスプレも良う出来てますし、なんか用事があるんですか」 「やあねえ、今日は鉄ちゃんに謝りに行くんじゃない。でも良かった、肝心の鉄ちゃんがいつ来るか分からないらしいじゃない? だからタロットで占って今日この時間だって見当つけたんだけど、どう? 私の魔術的才能はすごいでしょ」 「す、すごいです! 今度教えてください!」 (おい背比、なんで竹櫛さんはあの人と普通にしゃべれるんだ) (知らねーよ俺に聞くな。姫乃、竹さんとあの人って……) (尊敬してるって聞いたことある、けど、うん。えっと、私も千早さんは、す、すごい方だと思う、わよ?) (姫乃さん顔がひきつってますよ。マスター、あんまりあの人を見ちゃだめです。目の毒です) 私の背後で背比達がコソコソと話してるけど、どうせ千早さんの凄さを目の当たりにして尻込みしてしまってるんだろう。恥ずかしながら私も最初はそうだった。でも物売屋のバイトで度々千早さんとお茶を飲むことで私は、この人が21世紀のジャンヌ・ダルクと呼ぶに相応しい人物であることを知ることができた。この人と同じ年代に生きていられることに、感謝感激雨霰。 「ところで千早さん、私に謝りにってどういうことです? 千早さんに謝られることなんて何もされとらんです」 「さあ。それが私にもサッパリ。ミサちゃんは分かる? 私、なにか鉄ちゃんに悪いことしたかしら」 「……神姫センターに、鉄子さんに謝罪するという方が多くいると聞いて、じゃあ自分も行くと言い出したのは千早さんでしょうに。理由は聞いてないわよ」 ずいぶんと投げ遣りな物言いをするミサキだった。 「あらそう。でも何だか急に、鉄ちゃんに悪いことをした気になってきたわ。……本当にごめんなさい。私、ついカッとなって……」 「そ、そんな、頭を上げてください! 千早さんは全然悪くないですし、私のほうがいつも千早さんに迷惑ばっかりかけてます!」 千早さんに負けないよう頭を下げた私の肩に、優しく手がかけられた。そしてゆっくりと私の体を起こしてくれた千早さんは、いたずらっぽく笑いかけてくれた。 「じゃあ、別に悪いことをしたわけじゃない者同士、謝りっこはこれでお終いにしましょう。私と鉄ちゃんの間は前より4ミリも縮まったわよ」 「千早さん……!」 誰が見ていようと、私達は全然気にすることなく、改札口の前で熱い抱擁を交わした。紗羅檀コスプレのゴツゴツした部分が当たって痛かったけど、構わず千早さんに甘えた。 「妹君、そろそろ……」 マシロに促され、名残惜しみながらも千早さんから離れた私は、躊躇うことなく神姫センターへの歩みを進めた。すぐ後ろの千早さんが集める視線と、少し遅れてついて来る背比達が、私を得意な気分にしてくれた。 体が軽い。 こんな幸せな気持ちで歩くなんて初めて。 もう何も怖くない! ドールマスターがリアルドールを連れて来た。 人間大の紗羅檀の登場に、神姫センターはイベント時のような賑わいを見せた。 パーツを物色していたお客も、私を見るなり店長を呼んでくると言う店員も、その目は千早さんに釘付けにされていた。 小走りでやってきた冴えないおじさん店長は千早さんに驚きつつも、私の前でペコペコと頭を下げた。そして懐から封筒を取り出し、中身を私に見せた。 「こちらをお出し頂ければ、武装神姫1体をお持ち帰り頂けますので、はい」 もうコタマはレラカムイとして復活したと告げても、店長は引換券の入った封筒を無理やり私に握らせた。 「貰えるもんは貰っとくもんだよ鉄子ちゃん。いらないんだったら隆仁にでもあげたら? アタシのこの体でストックが無くなっちゃったらしいし」 それもそうか。コタマの言うとおり後で兄貴に渡すことにして、封筒を鞄にしまった。 店長の話だと “あの時” 居合わせた神姫オーナーの数人が2階に来ているらしい。 “あの時” に誰がいたかなんて覚えているはずないのに、それでも顔だけ出してくれ、と言う。昨日、貞方が見せた写真に映っていた神姫は明らかに “あの時” にいた神姫の数を上回っていたことだし、戦乙女戦争のように無関係な神姫までノリで筐体に立てこもっているのだろう。 そういえば店内にはお客の対応とディスプレイを兼ねた神姫達がいるはずだけど、今は一体も見当たらない。彼女達も恐らく、2階の筐体の中にいる。店長の平身低頭ぶりはこのためかな。 「じゃあ竹さん、行こうか」 湿った手を握りしめ、私達は2階への階段を上がった。 神姫が集まった森の筐体の中は、画像で見るよりもずっと酷い有様だった。バッテリーを切らしてしまっった神姫が半分ほどいて、起きている神姫達は私が近づくなり 「ほら、ドールマスターが来たよ! 早く謝れ! ハリアッ!」 とかなり焦っているようだった。 名前も顔も知らぬオーナーに謝罪されても、私は曖昧な返事しかできなかった。いくら千早さんの登場で気分が高揚していたって、ハーモニーグレイスだったコタマの無残な姿を忘れることなんて、できるはずがなかった。 沈黙する私と、気まずそうに目を泳がせる名も知らぬ悪者。 「さっさと土下座するですぅ!」 と煽る神姫達。どうしようもない雰囲気が流れ始めた時、鶴の一声が私の鞄から響いた。 「な~にゴネてんだ面倒臭え! いつまでもウジウジやってんじゃねぇよ鉄子ちゃん。こんな連中ホントはどうでもいいんだろ、さっさと追い返せよ。オマエらもいつまでも筐体で森林浴してんじゃねぇよ、この森ガール共が! バトルできねえだろうが!」 甲高い声でやいのやいのと騒ぐレラカムイに不審の目が集まった。でもその乱暴な口調には覚えがあったらしく、私が新生コタマを紹介すると、みんなドールマスターの復活を喜んでくれた。これで神姫達はようやく溜飲を下げてくれた。 神姫達がゾロゾロと筐体から出てきたけど、バッテリーが切れた神姫をおぶる者や、オーナーが一時帰宅していて帰れず、筐体の中に留まる者も多くいた。事の収束にはもう少し時間が必要みたいだ。 千早さんとミサキの即席撮影会が賑わう間、1階のショップでは急速充電器が飛ぶように売れ、それを2階のフリースペースに持ってきて使うオーナーが多数いた。帰宅せず神姫センターに残るオーナーのやることは、2つ。 まず1つは当然、大きな紗羅檀の姿を目に焼き付けること。 紗羅檀の際どい衣装は単細胞なオーナー達をあっという間に虜にしてしまった。 鼻の下を伸ばして不躾な視線を送り続ける単細胞共は不愉快でしかなかったけど、囲まれた千早さんは寛大で、カメラに向かってグラビアのようなポーズをとっていた。 「どうしましょうミサちゃん。一度でいいからモデルをやってみたかったんだけど、それが叶っちゃった。後でヤコくんに自慢しなくちゃ」 「八幸助さんには絶対に言わないで頂戴。自分が既婚者ってことをもう少し――そこ! カメラを下から向けない! ほら千早さん、胸の武装がズレかかってるじゃない、早く直して! 何見てるの、見世物じゃないのよ! こ、こら、私を撮影してどうするの! やめなさい! あああああもう! これだから外に出るのは嫌なのよ……!」 この日を境に千早さんが神姫センターで神格化され、物売屋のお客が少し増えたのは、また別の話。 そして、もう1つ。今日のメインイベント―― 「『グレーゾーンメガリス!』」 多数の神姫に紛れて助走をつけたマオチャオが、大きなハンマーを振りかぶって飛び出した。セカンドのライフルで近づく神姫を一掃していたコタマの虚をついた、上手い一撃だ。見ている俺達が、コタマのなぎ倒される姿まで想像したその一撃を、 「おっと」 の一言でファーストを送り出して、片手のガントレットでハンマーを容易く止めてしまった。 「クソッ、技のキレが増したなシスター!」 「もうアタシはシスターじゃないよん。それとアンタのその技は一度見てるからね、実は最初からちょっと警戒してたもん」 ファーストにハンマーを掴まれたマオチャオがハンマーから手を離して離脱するより早く、セカンドのライフルが火を吹いた。 ファーストとセカンドの両方が一匹のマオチャオの方を向いた瞬間、コタマの背後から多数の神姫が襲いかかった。その気配を察してなお、コタマの余裕の笑みが崩れることはなかった。 蘇ったドールマスターとの勝負を望む者は多く、せっかく人数が集まっているのだからと、大規模なチーム戦……とは名ばかりの、モンスター狩りが始まった。 竹櫛家 VS 機械少女連合軍 15cm程度の死闘トップへ
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戻る 先頭ページへ ネリネ。 私の可愛い神姫。 私の初めての神姫。 ネリネ。 まさに天使の様なその笑顔は、私にとってかけがえのない宝物だった。 貴女がくれたものを、私は生涯忘れはしない。 ネリネ。 でも、貴女は居なくなってしまった。 私が悪かったの? 興味本位で、神姫バトルを貴女にやらせたのが。 違う。 悪いのは、あいつらだ。 神姫には心がある。 神姫は唯の玩具じゃない。笑いもすれば、泣きもする。 それなのに、神姫をただのバトルの道具にしか見なかったあいつら。 私は、絶対許さない。 ネリネ。 私は今日、貴女の仇を取る。 轟―――。 朽ち果てた戦場に、真紅の影が躍った。 それは、血染めの鎧を身に纏う、白髪赤眼の悪魔。 「そんなんじゃぁボクは殺せないよぉ!」 真っ赤な瞳を狂気に揺らし、どす黒い軌跡と共にロケットハンマーを振り下す。 カーネリアンと同じく赤黒いそれは、打突部後部の推進装置を作動させ、その破壊力を数段上へと昇華させる。 直撃すれば神姫であればひとたまりも無い。まさに一撃必殺。 「……五月蠅い」 戦場の体裁を保っていない戦場を奔るのは白い影。 それは、雪の様に白い鎧で武装する、白髪青眼の悪魔。 ロケットハンマーの一撃を軽いステップで回避し、空かさずカーネリアンとの距離を詰め、チーグルで握ったアンクルブレードを大上段から降り下す。 音さえ遅れる白い斬撃は、しかしカーネリアンの赤い片のチーグルに阻まれた。 アンクルブレードはチーグルに傷を付けこそ、それ以上は無い。カーネリアンのチーグルの耐久性は異常だと言えた。 「カーネリアンのチーグルとサバーカは装甲板厚くしてある。並大抵の刃は文字通り刃が立たないぞ……カーネリアン、ギロチンを使え」 壊れたバトルマシンを眺めながら、恵太郎が口を開いた。 カーネリアンはそれに応じ、手に持ったギロチンブーメランでアリスを狙う。 「……フルストゥ・クレイン」 恵太郎の問いかけられた一方―――カーネリアンは応えた。しかし、もう一方の君島ましろは応えずにアリスへと指示を出した。 背部に備え付けられた白刃を抜き放ったアリスは即座にギロチンブーメランへと打ち当てた。 全く同じ相貌の、しかし色と得物だけが違う悪魔が、対峙した。 膠着状態、しかし確実にアリスは押し負けている。 アリスのサバーカとチーグルはカーネリアンのそれが装甲板を厚くしているようにアクチュエータを強化してある。 その結果、重装甲でありながらもマオチャオ型と同格の機動性を有している。 しかしそれは機動性に限ったことであり、馬力は変わっていないのだ。 一方、恵太郎は口にしてはいないがカーネリアンのそれは馬力をも強化されている。 デフォルトの1.2倍程度の強化だが、それは同タイプのアリス相手の場合、地味ながら大きな差となっている。 「アリス、掴み合いでは、勝ち目が無い」 君島は即座にそれを判断し、命令を下した。 短絡的な命令だが、アリスはそれを完璧に理解した。 即ち、高機動での撹乱、である。 がきん、と鋼の地面が鳴いた。 固い地面を鋭く捉えたアリスの脚が初動以外全く音も立てず、カーネリアンから距離を放した。 ロケットハンマーで攻撃を加えようとしていたカーネリアンの身体が、揺れた。 再び、がきん、という床が鳴った。 瞬きする間もなくカーネリアンとの距離を詰めたのだ。 カーネリアンの目前で急制動、前傾姿勢のまま右足を大きく踏み込ませ、両のチーグルで握るアンクルブレードを交差させる。 そしてそれを左右に薙ぐ。 音すら遅れてくる斬撃は、確かにカーネリアンの両のチーグルを捉えた。 だがやはり、アリスの白刃は赤いチーグルに浅傷を残す事は出来たが、両断する事は願わなかった。 刹那、空気を叩き潰す様に空間を軋ませながら、赤い左のチーグルが突き出された。 巨大な指を揃え、掌を反らし手首付近を打点とし、対象の顎を狙う突き技。 掌底と呼ばれる突き技の一種だ。 この技は一般に拳での打撃よりも威力が高いと言われている。 そして、今それを成しているのは神姫の武装の中でも近接戦闘に特化したチーグルなのだ。 その質量、その馬力。そして使い手の技量。 それらが揃った掌底をただの掌底と侮る事無かれ。 それは、それだけで必殺の威力を孕む。 「んもぉ、連れないなぁ」 しかし当たらなければ、意味は無い。 掌底の一撃を数度のバックステップで避けたアリスはフルストゥ・クレインを投擲した。 応じる様に、カーネリアンは両の手に持つギロチンブーメランを接続、同様に投擲する。 風を裂く白刃。大気を潰す斬首刀。 刃の衝突を待たず、アリスは再び地を蹴った。 軌道を左右に大きく揺らしながら跳ねる。カーネリアンを撹乱する考えだ。 最中、チーグルで握るアンクルブレードを横に寝かせて突きの構えを取る。 向かって右に跳び、その着地点をカーネリアンの至近に着地。 その瞬間、サバーカの膝を折り衝撃を吸収させ即座に攻撃態勢へと移り、必要最低限の動きでアンクルブレードをカーネリアンの頭部目掛けて刺し出した。 「んふふぅ」 突き出されたチーグルを、しかしカーネリアンは無造作に左のチーグルで掴み、アンクルブレードを止めた。 そして、右のチーグルで握るロケットハンマー。それの柄をアリス目掛けてさながら槍のように突き出した。 回避しようにもチーグルは未だ掴まれたままだ。 それを振り解き、回避に映るには時間が足りない。 だから、アリスは強引に身体を捻り、即座にフルストゥ・グフロートゥを抜き、カーネリアンの首目掛けて突き出した。 「……ぅぐ」 アリスの脇腹をロケットハンマーの柄が微かに抉った。 それが本来の用途で無い事と、十分な予動が出来なかった事もありダメージは大したものではない。 しかし、カーネリアンはフルストゥ・グフロートゥを完全に捌き切れなかった。 首は胴と繋がっている。しかし、刃が左目の付近を掠め斬っていた。 それは、カーネリアンにとって、恵太郎にとって予想外だった。 恵太郎は、アリスがこの攻撃を一旦防ぎ、隙を見て脱出し間合いを離し仕切り直す。 そうとばかり考えていた。 しかし、実際は違った。 半ば、捨て身に近い今し方の攻撃は、アリスの、そして君島の心情を暗に物語っていた。 「これはびっくり」 アリスの眼に映るのは、純粋な憎悪。 姉を殺したカーネリアンへの無垢で純粋な殺意なのだ。 掠っただけにしても、目に程近い場所を刃が通過するのは思いの他、隙が出来る。 その隙はカーネリアンの拘束の緩みを生み、アリスはその隙にチーグルを強引に振り払った。 返すチーグルで一旦アンクルブレードを離し、カーネリアンが投擲し、返ってきたギロチンブーメランを掴み裏拳の要領で叩き付ける。 完全に虚を突かれたカーネリアンは、咄嗟の反応が出来なかった。 右のチーグルはロケットハンマーの突きの反動で防御には回せない。 残る、ついさっきまでアリスを掴んでいた左のチーグルで無理やりギロチンブーメランを受け止める。 刹那、ギロチンブーメランから手を放したアリスは、アンクルブレードを再び執ると距離を放した。 「やるぅ」 カーネリアンの左のチーグルの掌部分は完全に破壊された。 ギロチンブーメランの刃はチーグルの先端に深く食い込んでいる。 それを抜こうとしたカーネリアンだが、素体の腕では抜き切れなかった。 仕方なくギロチンブーメランの連結を解除。片方を手に取るとアリスへと向き直った。 アリスは先刻投擲したフルストゥ・クレインを左手に、フルストゥ・グフロートゥを右手に、アンクルブレードを両のチーグルで執り、静かに構えている。 損傷はカーネリアンの方が上だ。 主武装であるチーグルの片手が使用不能とあっては、絶大なロケットハンマーもその威力の全てを出し切れない。 それでも、カーネリアンはそれを手放さない。 赤黒い金属の塊である、それを。 かつて、数多の姉妹を屠ったそれを。 カーネリアンはロケットハンマーの柄の中程を握る様に持ち直し、構えた。 それが、カーネリアンなりのけじめなのだ。 「ぼくさぁまどろこっしいの嫌いなんだよねぇ」 カーネリアンの赤い瞳が、アリスの青い瞳を捉えた。 まるで本物の人形の様な無表情。 しかし、それは違うのだ。 白く、負の熱が燃えているのだ。 それは感情を殺し、心を殺し、全てを殺して、ようやく成り立っているのだ。 復讐の為。それだけの為だけに生きるアリスにとっては。 「だからさぁ、次の一撃で終わりにしようよ」 カーネリアンはギロチンブーメランを捨て、ゆっくりと右のチーグルを上段に構えた。 無造作に、武骨に、しかし全ての力をそれに込めて。 カーネリアンは立ち構えた。 「どうだ? 君島」 怪しむ君島に、恵太郎が声をかけた。 思考は、一瞬だった。 「……いい、でしょう」 アリスはその言葉に反応し、左のチーグルで握るアンクルブレードを捨てた。 右のチーグルを大きく引き、顔に沿うようにアンクルブレードを構える。 脚は開き、腰は落とす。突きの構えだ。 一瞬の静寂。 音だけが、世界から消え去った様な幻覚。 しかし、それは一瞬だ。 次の瞬間には、アリスが地を蹴っていた。 どこまでも真っすぐに、どこまでも純粋に、どこまでも只管に。 アリスは翔けた。 全身全霊の力を込めて。 全身全霊の憎悪を込めて。 全身全霊の、全てを込めて。 アリスは、白刃を突き出した。 カーネリアンもまた、全身全霊で応じた。 鉄槌を振り下す機械の腕。 背中で吠える推進剤。 それを力へと変換する為に回す腰。 脚は地を抉るように踏ん張る。 全てが、完璧に重なった、 恐らくは、カーネリアンにとって最高唯一の一振り。 立ちはだかる者全てを、一切合切を打倒し、破壊し、終焉さし得るモノ。 それに相応しい、最後の一撃。 白刃と鉄槌が、終に衝突した。 鉄槌の中心を捉えた白刃は、一瞬にして全身に罅が這入った。 しかし、アリスは力を緩めない。むしろ増していく。 全てを、カーネリアンへの復讐の為に捧げた日々を、今この白刃一本に込めているのだ。 だがカーネリアンも負けはしない。 片腕ながら、打突部後部の推進装置を起動させ、白刃もろともアリスを砕こうと力を込める。 カーネリアンもまた、この日の為に全てを捧げてきたのだ。 まるで、走馬灯の様にカーネリアンの脳裏をそれが過った。 刹那、ロケットハンマーに亀裂が奔った。 それは、瞬く間に全体に広がり、そして砕けた。 白刃は破片を搔き分け、潜り、蹴散らしながら止まらない。 それは、赤いチーグルを砕き。 カーネリアンの右腕をも砕き。 そして、右胸に達した時、ようやく止まった。 「神姫の力は……心の力ってねぇ」 動力部に近い部位に損傷を受けたカーネリアンは、砕けた二つの右腕と共に崩れ落ちた。 傷はCSCの付近まで達していた。 「……終わり、です」 君島が、静かに告げた。 それは試合が終わった事を告げる言葉ではない。 それは、カーネリアンの終わりを告げる言葉なのだ。 「分ってるよぉ……」 上体だけ起こしたカーネリアンは、弱弱しく自らの胸部装甲を唯一無事な左手で掴み、引き千切った。 神姫の心臓たるCSCが、顔を見せた。 「ふふ、腕が残ってて良かったよぉ」 胸部装甲を投げ捨てながら、カーネリアンは言った。 「……覚悟は」 まるで、死刑執行人だ。 カーネリアンはアリスを見上げながらそう感じた。 「そうだねぇ……」 暫く、逡巡する素振りを見せたカーネリアンは、顔を上げ言った。 「ましろちゃん。これが済んだらアリスを可愛がって上げてね」 全く、予想外な言葉。 その言葉に、君島は一瞬呆気に取られ、次の瞬間激しい怒気を発した。 「一体、どの口が、そんな事を……!」 その怒気は、アリスへと伝達した。 「……」 全くの無表情。 その無表情のまま、アリスはボロボロのアンクルブレードを素の右腕に持ち替えた。 そして、地面に座り込んでいるカーネリアンに合わせるよう、膝を折った。 「さぁ、やるならここだよ。ボクが生き返らないように、確実にね?」 自身の赤い三つのCSCを指さしながら、カーネリアンは言った。 「……これで、終わり」 アリスが、アンクルブレードを軽く引いた。 そして、鋭く突き出した。 「マスター。私は幸せでした」 あっさりと、それはカーネリアンのCSCを貫いた。 「ああ……ナル、俺もだよ」 カーネリアンの身体が、まさに糸を切った人形のように、倒れた。 先頭ページへ 進む
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6th RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~1/3』 携帯電話には携帯ショップがあるように、武装神姫にも神姫専門ショップが存在する。 神姫センターと呼ばれる店舗だ。 そこでは神姫やパーツの購入、検査、修理を行うことができ、またバトル用の筐体を初めとして様々な設備 (神姫 “で” 遊ぶためだけでなく、神姫 “が” 遊ぶためのものまである) が揃っている――らしい。 竹さん曰く、とにかく神姫のことで困ったらとりあえずここに立ち寄ればいいのだとか。 しかし、俺が神姫を購入する店としてボロアパートから比較的近いヨドマルカメラを選んだように、近所に都合よく神姫センターがある、なんてことはなかった。 (ヨドマルを選んだ理由は他に、姫乃と同じ場所で買いたかったとか、ポイントが貯まるとかそんなものだ) いくら神姫がそこそこの人気を誇るとはいえ、携帯ショップのようにどの町にも神姫センターがあるのかといえば当然そんなことはなく、主に新幹線が停車する主要な駅の側くらいにしかない。 だから、ボロアパートから徒歩十分の工大前駅、そこから電車で二駅のところに神姫センターがあるのはまだ良いほうだと言える。 ジャスコのような大型店舗がどーんと聳える代わりにゲームセンターもないような田舎だと、神姫バトルは専ら室内の手作りスペースで行われ、強者になると例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「ちょっ!? やめてよ!」 だろうとお構いなし、熱く燃えたぎるハートはお巡りさんに声をかけられるまで冷めることはないという。 よいこのみんな、こんなオトナになっちゃダメだゾ☆ さて。 勿論俺達が (主に姫乃が) 野外プレイなどという破廉恥な真似をするはずもなく、今は竹さん、または鉄ちゃんこと竹櫛鉄子さんの案内のもと、神姫センターへ向かっている最中だ。 用事はもちろん、神姫バトル。 俺の眉間に穴を空けたニーキにギャフンと言わせるための、復讐の輪舞曲。 俺に代わって悪魔に鉄槌を下す戦乙女は―― 「ふふっ、神姫センターってどんなところなんでしょうね! 楽しみですね、マスター!」 胸ポケットから顔を覗かせたエルは今朝からずっとこの調子で、大好きなアニメの劇場版を観に行く子供のようにはしゃぎっぱなしだ。 もうちょっと、ほんの少しでいいから緊張感というものを持ってほしい。 それに、せいぜい 15cm 程度とはいえその体の中にギッシリと機械部品を詰め込んだ神姫がポケットの中で動くと服が引っ張られて首が痛いのに、ご機嫌斜め上のエルはそんなことはお構いなし。 首も痛いが、周りの乗客の目も痛い。 「あーわかったわかった。 もうすぐ電車降りるからせめてそれまで静かにしててくれ (ひそひそ)」 「了解です。 ところで我がマスター (ひそひそ)」 「どうした我が戦乙女よ (ひそひそ)」 「私、マスターはてっきり “そういうこと” に無頓着な人だと思ってました (ひそひそ)」 「なんだよ、そういうことって (ひそひそ)」 「ここからだとよく見えるんですが、ちゃんと鼻毛の処理をしてるんですね (ひそひそ)」 「余計なお世話だ!」 「背比うっさい」 「はい……怒られたじゃねぇか (ひそひそ)」 「それはそうですよ。 電車の中ではお静かに (ひそひそ)」 「てめっ! こ、こほん…………後で覚えてろよ、全力でくすぐり倒してやる (ひそひそ)」 ヨドマルカメラの売り子として起動されたエルはほとんど店の外に出たことがなかったらしく、神姫春闘事件後の花見やボロアパートへ帰ってからはずっと、元から丸い目をさらに丸くして輝かせていた。 見るものすべてが珍しい。 目に映るものすべてが面白い。 その日の夜は唯一の所持品だったクレイドルも使わず 「今日はマスターと一緒に寝ます。 いいですよね」 と俺の枕元に横になり、タオルハンカチをかけて眠っていた。 そんなんで眠れるのか心配だったのだが、その一日はエルにとっては世界が変わるような一日だったからなのか、ベッドから落ちることもなく、ぐっすりとバッテリーが枯渇するまで眠っていた。 (一日動きまわった上にデータ整理にかなりの電力を食ったらしく、素のアルトレーネ型の抑揚のない声が耳元で 『バッテリー容量が不足しています。 すぐに本体をクレイドルに寝かせて充電して下さい』 と言った時は心臓が止まるかと思った) そういったわけでエルは今日が神姫センターデビューデイとなるのだが、このテンションの高さの理由はそれだけではない。 「ところでマスター、どうですか? 似合ってますか? (ひそひそ)」 「なーにが 『ところで』 だ。 いくら似合ってたって、そう何度も何度も同じこと聞かれちゃ 『似合ってない』 って答えたくなるぞ (ひそひそ)」 「こういう時は素直に 『似合ってる』 って言えばいいんですよ。 何度でも 『似合ってる』 って褒めちぎればいいんですよ (ひそひそ)」 神姫は基本的にマスターの好みで服を用意しなければ素体のまま過ごすことになり、“素っ裸”に見えないように素体にペイントが施されていたり細かいアクセサリが付属していたりする。 アルトレーネ型の場合は豊かな胸から臍より上の辺りまでを濃い青でペイントされ、首元と腕、脚はそれぞれ純白のカラー、ロンググローブ、サイハイソックスだ。 おまけにショーツはガーターベルト付きのようなデザインで、以上、その他の箇所は素肌を露出している。 ここまで挑戦的なデザインに加えて癖のある長い金髪は狙いすぎな感があるにもかかわらず安っぽい扇情さは無く、気品すら感じられるデザインには脱帽するばかりだ。 しかし今日のエルは一味違う。 いくらペイントが施されているとはいえツンツルテンな素体の上に、鉛色の革製ロングコートと、同色のブーツを纏っているのだ。 しかも驚くことなかれ、このコート、ただのコートではなくエルのためだけに作られた世界で一着の特注品なのだ。 ロングコートと言えば野暮ったく聞こえるが、素体の各所にあるくびれにフィットするよう作られているので、出る所は出て締まるところは締まり、よりアルトレーネ型の体のラインを強調している。 右腕の部分は何故か肩から先が無く、また左腕部の袖にはまったく意味を成さないベルトがぐるぐると五本ほど巻かれており、この左右非対称デザインに製作者の趣味が溢れ出ている。 足首まで伸びるスカート部は臍が十分見えるほど大きく前が開かれており、これがもし臍の下から開いているとエルがただの痴女になってしまうことも完璧に考慮されている。 このスカート部にもベルトがぐるりと数本巻かれており、さらに腰に二本、胸を上下に挟んで強調するように一本ずつと、とにかくベルトが多い。 エルがアルトレーネ型だからこそ着こなしているものの、これが他の神姫、例えばあの武士と騎士だったら……似合う似合わない以前に、顔が濃い…… 手に取ってまじまじと見るとその出来の良さに驚かされるばかりの逸品で、これが手作りと聞いたときはさすがに製作者の言葉を疑ってしまったのだが、睡眠時間を削りに削ったその製作者、一ノ傘姫乃の目の下の大きな “くま” はすべてを物語っていた。 (裁縫のことはサッパリ分からないのだが、姫乃の握力では革に針を通せないことくらいは想像がつく。 かなりパワフルなミシンとそれを扱う腕が必要なはずだが……) コートと同色のブーツは女性が好んで履きそうなものとミリタリーオタクが好んで履きそうなものの間を取ったようなデザインをしており、お洒落にもバトルにも使用できる優れものだ。 さすがにブーツまで手作りとはいかないものの、 「鉛色のコートに白の素足って、なんだか卑猥な感じがするの」 と姫乃がニーキのお下がりをプレゼントしてくれた。 これらを受け取って一式装備したエルはしばらくの間、調子の外れた鼻歌を歌いながら鏡の前でポーズをとるのに夢中になっていた。 ヨドマからクレイドルだけを持って俺のところへ来たため新品のアルトレーネ型が持つはずの装備すら持っていないエルに何か買ってやらないと、と考えていたのに、肝心の財布には生活費が残るのみで、単なるおしゃべりフィギュアと化していたエルを立派な武装神姫にしてくれたのが自分の彼女だという事実は、 「マスター! とってもいい彼女さんを持ちましたね!」 と満開の笑顔で言ってくれるエルの言葉と一緒に俺の自尊心をグリグリと抉った。 コートが完成したのは今朝のことで、朝九時頃にパジャマ姿で俺の部屋を訪れてエルに試着させて微調整を終えた姫乃はそのまま俺のベッドに倒れこんでしまった。 そのまま可愛らしい寝息をたて始め、服といえば第三のヂェリーTシャツだったエルがどんなにはしゃいでも、姫乃の寝顔鑑賞を邪魔するように竹さんが俺達を迎えに来ても、姫乃は午後二時まで身動きすらしなかった。 そして遅めの昼食を三人で済ませて今に至る、というわけである。 「傘姫大丈夫なん? まだ目の下がパンダっとるし、フラフラしよるけど、別に神姫センター行くのって今日やなくてもいいんやろ?」 「さっき十分寝たから大丈夫よ。 エルはせっかく今日を楽しみにしてたんだから連れて行ってあげないとね。 それに今日を楽しみに待ってたのはエルだけじゃないのよ。 ね、ニーキ?」 「……」 姫乃の今日も変わらぬカッターシャツの胸ポケットで大人しくしているニーキは何も言わず、車窓の外を眺めていた。 このニーキも、今日は素体のままではなく服を着ている。 これがまた姫乃オリジナルらしいのだが、その姿を見たときはエルのコートと並べて姫乃の趣味を少しだけ理解できたような気になった。 燕尾服である。 オーケストラの指揮者が着るような、読んで字の如く裾が燕の尾のような形をしたアレだ。 エルのコートとは違い大幅なアレンジは施されておらず (細かいこだわりはあるのだろうが、そもそも俺は燕尾服に詳しいわけではない)、取り外し可能な空色のツインテールがなくなってショートカットとなった悪魔型は男装の麗人型へと進化を遂げていた。 ニーキの冷静で淡々とした雰囲気と相まって、その端麗な容姿は華やかさを除けば宝塚のトップスターのようだと絶賛しても過言ではない。 ……俺が神姫を買うことに随分と抵抗してくれた割に、姫乃は神姫を男装させて眼の保養をしていたってわけだ、へぇそうなんだ、などと嫌味を言うつもりはないけれども。 男にだって嫉妬というものがあるのだと、彼女に知って欲しい背比弧域であった。 「ヒメに面と向かって言い難いのならば私が伝えておこう」 「やめろ。 そして俺の心を読むな (ひそひそ)」 「ほれ、二人とも電車降りるよ。 お~い傘姫生きとる? 寝たら死ぬぞ~」 姫乃のことを傘姫と呼ぶ女性、竹さんは姫乃の高校時代からの親友らしく、この少々独特な方言 (彼女曰く、北九州ベース博多アンド鹿児島アレンジなのだそうだ) はともかくとして快活な性格が外見にも表れていて、大学の益荒男共の評判はすこぶる良い。 いや性格が云々以前に、姫乃が “可愛さと美しさを足して2を掛けた” ような容姿ならば竹さんは “可愛さと快活さを足して1.5を掛けた” ようなものだ。 残り0.5は、身長こそ姫乃と大差無く俺の頭一つ分低いくらいなのだが、姫乃が持ち得ないシルエットのメリハリだ。 寧ろ益荒男共にとってはこの0.5が何よりも重要なのかもしれない。 短くサッパリとした髪に全身を春のシマムラコーディネートで固めていても何ら違和感がないのだから、その戦闘力は姫乃に一歩も引けをとら…… 「ん、どうしたの? 目のくま、そんなに変かな?」 ……いや、やはり姫乃のほうが圧倒的に可愛い。 アルティメットカワイイ。 ヒメノ型神姫とか発売されないだろうか。 いや、ここは竹さん風にカサヒメ型といったほうがそれらしいか。 「ほれ、あの建物。 まるまる一棟が神姫センターなんよ」 俺がカサヒメ型に自分のことを何と呼ばせてどんな武装をさせるか妄想を膨らませているうちに、何時の間にやら俺達一行は神姫センターの近くまで来ていた。 ――とりあえず、カサヒメ型の姉妹機はセクラベ型で保留としておこう。 神姫センター一階はさすが専門店というだけあって、ヨドマルとは比べ物にならない商品の充実っぷりだ。 客の相手をする神姫もヨドマルよりはるかに多く、ほぼ全種類の神姫が小さな体を元気一杯動かしているのを見ているだけで時間が過ぎてしまいそうだ。 「ほらマスター見てください! アルトレーネ型がいますよ! うわぁ隣にアルトアイネス型もいます! ちょっとお話ししてきていいですか? いいですよね! 行ってきます!」 勝手にポケットから棚に飛び降りたエルは完全武装のアルトレーネとアルトアイネスのほうへ走っていった。 そういえばエルは “動いているアルトレーネ” を見るのは鏡に映る自分を除いて初めてになるのだろうか。 今まで店員として働いていたエルが今日は客なのだからはしゃぐのも多めに見てやるが、あまりウロウロされると姫乃クオリティが目立って目立ってしようがない。 「あのアルトレーネのコスプレかっけー。 ここコスプレの服とかも売ってんのか」 「下の中古売り場にあるんじゃね? でもクソ高そー」 「うわまた懐かしいものを。 なんだっけあのコート。 ほら、三〇年くらい前のFFの」 「クラウドでしたっけ? 流行りましたねーあれ。 でも似てますけどコートは着てなかったような」 まあ、褒められて悪い気はしないけれど。 これでは落ち着いて店内を見て回ることもできない。 それに今日は姫乃と竹さんもいるのだからあまり出過ぎた行動は――と二人の方を見ると、何故か竹さんの前に人集りができ、エル以上に衆人の目を集めていた。 「あー今日は神姫連れてきとらんからバトルはまた今度、また今度、だからまた今度っつっとんのやから並ばんでよ! なーらーぶーな、前へならえすんな! 予約なんか受け付けとらんっての! どさくさにアドレス渡されても困るってのアポ取ろうとすんな!」 竹さんの前に老若男女問わず並んだ人達は武装した神姫を連れていて、神姫達は皆武装の確認をしたり素振りをしたりと落ち着き無く、マスター共々鼻息を荒くしていた。 ほら散った散った、と大人気な竹さんが人々を追い払い、やれやれと大きなため息をついた。 竹さん大人気の理由を姫乃が教えてくれた。 「鉄ちゃんってね、実はすっごく強い神姫マスターなのよ。 以前私をここに連れてきてもらったときもこんな感じだったわよね」 「いっつもそう。 これじゃおちおちメンテもできんもん。 そらまあ、私のコタマはそこそこ強いしバトルしたくなるのも分からんでもないけど、そんな何人も相手にできるかっての。 コタマのバッテリーは普通の神姫と変わらんっての」 「へぇ、竹さんってそんなに強いのか」 「うん。 たぶん今この神姫センターにいる誰よりも強いわよ」 「ここって……結構な人数だぞ?」 うんうん、と頷いた姫乃は自慢できる友人がいることが嬉しそうだ。 「あー傘姫、恥ずいからあんまし……」 「私も他の人に聞いた話なんだけどね、ここで大会が開催された時のことらしいんだけど」 「その大会の優勝者が竹さんってわけか! すげぇ!」 「ううん、鉄ちゃんは観戦してただけなんだって。 それでね、その時優勝した男の人が表彰台の上から鉄ちゃんを見つけて、一目惚れしちゃったらしいのよ。 その人が、たぶん優勝して少しだけ気が大きくなってたんでしょうね、その場で鉄ちゃんに告白したんだって。 そうよね?」 「……まぁね。 告白っつーか、私のこといきなり指さして 『今! あなたに惚れました! エンジェルktkr!』 やもん。 恥かいたわあ、あん時はほんと」 「でも竹さんに彼氏がいるって聞いたことないし、ってことはそいつのこと振ったのか」 「背比、今しれっと傷つくこと言ったね……振ったっつーか、その場のノリで 『じゃあ神姫バトルで私に勝ったら付き合ったげる』 って言ってしまったんよ。 うん、ノリで」 ノリノリで。 と竹さんは額を抑えて自分に呆れている。 それはそうだ。 大会優勝者、言うまでもなく最強の神姫に勝負を挑むなんていくらノリといっても愚行にも程が……ん? 「でも竹さん、彼氏はいないって……あれ、どういうことだ?」 「その場におった全員がチャンピオンが勝つって疑いもせんで、チャンピオンに挑んだ私は負けて彼氏ゲットする腹積もりと思われて、そのチャンピオンの神姫にまで 『ま、アタシのマスターはそこそこイイ男だし? アンタが考えてることも分かるよ。 それなりに手加減してやるから、適当に頑張って適当に負けて、彼氏ゲットしたら?』 って鼻で笑われて――」 眉間に皺を寄せてその神姫の嘲りを腸を煮えくり返しながら思い出しているらしい竹さんは口角を釣り上げ、凄絶な笑みを作った。 「――そんな状況で相手を完膚無きまでたたきのめすのって、ゾクゾクしたわぁ」 「ドSだ! ここにドSがいる!」 「相手の神姫、花型ジルダリアだったんだけど、手加減どころか指一本触れられずに負けてそれ以来トラウマになっちゃったんだって。 ちょっと可哀想」 「そうなん? それは知らんかった」 「未だにハーモニーグレイスを見ると足が竦んで動けなくなっちゃうんだって」 「 【 あらららら それはひどいな 超wざwまwあw 】 」 「ドS俳句だ! 姫乃気をつけろ、竹さんの近くにいたらそのうちヤられるぞ!」 「ふひひひひ! 悪いけど傘姫の体は私がもらっとくよ!」 「このっ、俺の姫乃を食うつもりか!」 「何の話よ!? やめてよ、もう!」 「ただいま戻りましたーって、なんだか楽しそうですね。 私も混ぜてください!」 「…………はぁ」 姫乃の胸ポケットの中でニーキが漏らした深いため息は誰の耳にも入らなかった。 神姫センターは二階から上が武装神姫専用のゲームセンターになっていて、神姫を連れたマスター達が百円玉を何枚も持って遊んでいる。 その中でもやはり二階のバトル用筐体はプレイヤーとギャラリーが多く、どの筐体でも神姫達がマスターやギャラリーの応援を受けて火花を散らしていた。 ビリヤード台に四角形のガラスケースを置いたような外観をしていて、大きさは四方が2m弱から1mくらいと大小様々なものがあり、高さも神姫が飛びまわるのに十分なものだ。 ガラスケースの中は何もなかったり障害物があったり、廃墟、砂漠、滝、サーキット、礼拝堂、無駄にピカピカ光るステージなど、神姫達は例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「しつこい!」 どのような状況であっても冷静に地形を生かす戦い方が求められる。 「お、そろそろ障害物無しの一番シンプルなステージが空くけど、なんか他にバトりたいステージある?」 「エル、どうだ?」 「どんなステージでも問題ありません。 どーんと来いです」 「ニーキは戦ってみたいステージある?」 「いや、私もどこでもいい」 「よし。 じゃ順番取ってくるから待っとって。 筐体使用料はまぁ、今回は私が奢ったろ」 今まさにその筐体ではバトルが佳境を迎えていた。 ありったけのミサイルを全方位に撒き散らす軍隊風の眼帯神姫は、夏の蚊のように襲い来るミサイルを涼しい顔で回避しつつ接近してくる忍者神姫に翻弄されている。 眼帯神姫がまだ起動して日が浅くバトルに不慣れなのは、筐体のガラスに張り付いて必死に応援しているマスターを見れば分かる。 彼女のマスターはさっきから 「撃て撃て撃て! 数打てば中るんだ!」 とだけ繰り返して眼帯神姫を混乱させるばかりで、もう一方の忍者のマスターは椅子にもたれ掛かり余裕綽々といったところだ。 次は俺達の番だ、あんな無様な真似はできない。 そう思うと掌がじっとりと湿ってきた。 相手は姫乃とその神姫なのだから気負う必要なんてまったく無いのに。 勝利への焦燥と敗北への焦慮は刻一刻と強くなっている。 「いよいよ私達の初バトルですね、マスター。 安心して下さい、絶対に勝ってみせますから!」 エルが俺を励ますように力強く宣言した。 その顔には一片の気後れもない。 俺はほんとうに良い神姫に巡り合えたと思う。 普通に神姫を買って、普通に箱を開けて、普通に起動して。 そんな出会い方ではきっと俺は満足できなかった。 このバトルを、これまでエルを育ててくれたレミリアへの感謝と代えよう。 「頼むぜエル。 悪魔に鍛えられたお前の力で、あの偏屈神姫をギャフンと言わせてくれ!」 「了解ですマスター! 戦乙女の名にかけて必ずや、マスターに勝利の美酒を御賞味頂きます! ――ところで、その、私の武器なんですけど、ばっちり用意してくれましたか?」 コートの左袖のベルトをいじりながらそう言って、申し訳なさそうにこちらを見上げた。 ヨドマルで働いていたエルは普通アルトレーネ型に付属するはずの剣などを持っておらず (だからこそ俺のような貧乏人が最新型を買えたのだが)、俺が武装を用意しなければならない。 防具はエルを買った時に姫乃に 「私が用意するから大丈夫。 だから絶対に他のものを買わないでね」 と念を押されて今朝になってコートとブーツをもらい、武器はというと―― 「ばっちり用意しておいたぜ。 戦乙女に相応しいやつを見繕ってきた」 「それなら早く見せて下さいよぉ~。 マスターはあんまりお金が無いから、もう私、言い出しにくくて。 素手で頑張れ! なんて言われたらどうしようかと思ってました」 「はっはっは、すまんすまん。 でもほら、自分の神姫を驚かせたいマスター心を分かってくれ。 ええと……」 鞄に入れていた “それ” を、目を輝かせて 「早く早く!」 とせがむエルに渡してやった。 「ほれ、コイツで頑張ってこい!」 「はい! マス…………た…………………………………………ん?」 筐体では丁度バトルが終わったようで、忍者が彼女のマスターに向かって親指を立てるのを見届けた竹さんが俺達を迎に来た。 「場所空いたけど、傘姫、背比、準備OK?」 「私達はオーケーよ」 「こっちもオーケーだ。 ニーキはもういいのか? まだ遺書の用意ができてないんじゃないのか?」 「問題無い。 エルを倒した後で君の眉間を蜂の巣にしてやるから、今の内に神に祈っておくといい」 「え? え? マ、マスター? こ、これは冗談ですよね?」 「よっし! それじゃ、二人とも両側に座って、そこの丸いとこに神姫を乗せれ」 「姫乃、こんな上等なコートを作ってもらっといて悪いけど、手加減はしてやれないぜ!」 「私だって全力でいくからね、弧域くん!」 「いや、ちょ……………………ええええええええ?」 ――――そして話はプロローグに戻る。 NEXT RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~2/3』 15cm程度の死闘トップへ