約 5,614,510 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2709.html
店長たちが部屋を出るのを確認した私は、声のボリュームを少しあげました。 「えっと、それであなたの名前は?」 さっきも聞きましたが、答えてくれなかったので、もう一度。 「……データが破損していて、わかりません」 今度は答えてくれました。しかし、内容はあまり芳しくありません。 「じゃあ、憶えていることは?」 「……以前のマスターのこと……それと、見慣れないデータだけです」 見慣れないデータ、これは店長が入れたものです。あの樹羽という少女についてのものだと聞きました。 「あなたのマスターは、どんな方でした? 多分、あなたがいなくなって、心配してますよ」 「……それは無いと思います」 「なんでですか?」 「……マスターにですから、改造されたの」 「……っ」 けっこうショッキングな事実でした。 私は、マスターたちがこの子のことを調べている間、改造された武装の方を調べていたから、初耳です。 「だから、心配なんかされていません。もしかしたら、いなくなった私の代わりに誰か改造してるかもしれません」 「…………」 いけません。話がだんだんネガティブな方向に転がっていきます。非常によろしくありません。こういう空気は大っ嫌いです。 でも、この空気を無理に変えようとすると、余計に悪化する可能性があるので、控えます。こじれると厄介です、本当に。 「……今でも、そのマスターの所に帰りたいですか?」 私は少し小さな声で尋ねました。多分、一番重要な質問です。 この答えによって、あの少女がこの子のマスターになるかが決まるわけですから。 「……いいえ、戻りたくありません。戻りたくても戻れません……」 「戻れない……?」 「解除されてるんです。マスター登録が」 「登録が?」 どういうことでしょう? まさか、店長にですか? いえ、いくら店長でもそこまでしません。 『あ、しまった』とか言って解除しちゃうところとか想像出来ちゃいますけど。 「だから、厳密に言えばマスターじゃないんです。私は今、マスター不在の状態で……」 「でも、そのマスターのこと憶えているんでしょう?」 「記憶回路にです。マスターの情報はほぼ全て壊れていて……」 顔は憶えていて、マスターということはわかるのに、名前とかがわからないということですか。記憶喪失みたいです。 「でも、もし戻れるとしたら……」 「……?」 「止めてあげたかった。ほんの少しだけ、憶えているんです。あの人が笑った顔を」 「…………」 「止めてあげたかったけど、どこの誰かわからないんじゃ、無理ですよね?」 ……あぁ、無理ですね、これは。 「……大好きだったんですね」 「え?」 「そのマスターのこと、あなたは大好きだったんですよね」 すいません店長。私には荷が重すぎます。こんなに昔のマスターに想いをはせている人に、新しいマスターを迎えろなんて言うの、無理です。 「……はい、大好き……でした」 「……?」 「でも、それはまやかしでした。本当に私のことを想ってくれていたなら、絶対に改造なんてしません。それでも私はマスターを愛していました。たとえ一方的な片想いだとしても」 彼女は自重気味に笑います。 「こんな中途半端な気持ちが生まれるなら、最初から会わない方がよかったのに……」 「…………」 私は、何を言えばいいのかわかりませんでした。彼女のその瞳の端に浮かぶ涙を見ていたら、何も言えなくなりました。 でも同時に、一つの希望が見えました。 「……そんなあなたに、頼みたいことがあります」 言わなければなりません。この子には悪いですけど、あの少女のためです。 「人助けをしてくれませんか?」 「人助け……ですか?」 「はい、そのデータの人です」 彼女は軽く目を閉じ、再び開けました。 「奏萩樹羽、16歳中卒。身長155cm、体重48Kg、スリーサイズは……」 「それは言わなくていいです」 私がピシャリと言うと、彼女はまた目を閉じて、開けました。 「……高校を中退後、現在まで無職。神姫に関する知識は少ない。また、運動は得意。料理を初め、家事全般が出来る」 ずいぶん詳しい情報まで入ってます。調べたのは店長なのでしょうか? だとしたら後で断罪を加えなくては。 「この人……ですか?」 「はい、神姫のマスターになりたいとおっしゃっていました」 私は姿勢を正します。 「この人の、神姫になって欲しいんです」 「…………」 あー、もう口開けてポカンとしてます。完全にアウトですね、これ。 「いえ、もちろん無理にとはいいません。こちらとしても厚かましいと思っていますし、マスターがいなくなったばかりで気持ちを整理したい時だってのもわかってるんですけど、そんなあなただからって言うと大変アレですけど適役って言うか、普通の神姫じゃダメって店長が言ってたというか、だから何が言いたいかって言うと……」 「はぁ、いいですけど」 「いえ、もちろん承諾していただこうなんて思ってな……っていいんですか!?」 「はい、構いません」 あっさり頷きました。驚きです。こんな突拍子もないお願いを聞いてもらえるなんて思ってませんでしたから。 「今データを詳しくみてみたんですけど、この人も、辛い経験をしてらっしゃるんですね」 「はぁ……それってどんな?」 「彼女のお父様が経営していた会社が、部下の裏切り行為で倒産したんだそうです」 「倒産って、じゃあ今は?」 「記録によると、もう8年も前のことで、今は別の会社に就職してるそうです。しかし、彼女はそれが原因で人を信じれなくなったようで……」 店長と話していた彼女を思い出します。一応まともに話していましたが、あれでも内心信用してなかったんですかね。 「他人を信じられず、他者と距離を開けてしまう。そんな彼女を外に連れだして、社会に復帰させるのが、私の役目になるんですね」 「いいんですか? ホントに」 あんなに前のマスターのことを気にかけていたのに、ちょっと切り替え早くありません? 「いいんです。いつまでも、クヨクヨしてられません。それに……」 彼女は笑います。 「この方なら、絶対に私を裏切らない。そうな気がするんです」 確かに、裏切らない、というか、裏切れないと思います。 だって、人の裏切りを知っているから。 裏切られてしまった人が身近にいるから。 自分は、裏切られる悲しみを味わいたくないから。 「えぇ、私もそう思います」 だから、あの子なら任せられる。 同時に、この子なら任せられる。 そういうことでいいんですよね? 店長。 「…………」 「…………」 エリーゼとあの神姫を二人きりにして、しばらく経った。私は特にすることもないから、棚にならんだ商品を眺めていた。 神姫用の小さな銃や、剣。また、彼女たち専用の防具。 そして、彼女たち自身。 「いいですよね、神姫」 後ろからいきなり話かけられて、かなり驚いた。が、表には出さない。私がこれまでで培ってきた技だ。 「……そうですね」 「彼女たちは機械ですが、もうほとんど人間みたいなものですからね。こうやって並んで箱詰めされているのに、たまに疑問を感じます」 「……人身売買ですか?」 「ははは、手厳しいですね」 柏木さんは薄く笑う。 「僕は、商売を抜きにして、彼女たちがたくさんの人に触れることを願って、この店を開いたんですよ」 「……そうですか」 エリーゼが言っていたことが少し読めた気がした。つまりこの人は神姫のマスターが一人でも増えることを望んでいる。しかも今回の場合、神姫が神姫だ。嬉しさも増すというものだろう。 私は神姫たちを見る。目を瞑り、じっと来るべきマスター待っている。 いつか、この神姫たちにもマスターが来るのだろうか? 「店長~!」 その時扉が開き、エリーゼが姿を表した。後ろにはあの神姫も見える。 「エリーゼ、首尾はどうですか?」 「大丈夫ですー! 一気にマスター登録まで行ってもオールオッケーです!」 どんな会話をしていたのかわからないが、よくあの状態からそこまでことを運んだものだ。 「あなたも、それでいいですね?」 「はい、もう決めました」 はっきりと答える。本当に大丈夫なようだ。 「分かりました。では、こっちに来てください」 エリーゼたちを手に乗せ、柏木さんは店のカウンターへ向かう。私もそれに続いた。 あの神姫をクレイドルに乗せ、柏木さんがカウンターのパソコンを軽く操作する。 「では、手早くやっちゃいましょうか」 「と言っても、樹羽さんのデータは全て彼女にインストールされてますけどね。そうですよね? 店長」 エリーゼがなにやら怖い顔で柏木さんを見る。 「何が書いてあったか定かではありませんが、勘違いしないでください。あれの情報元、及び製作は私ではありません。内容も見てませんよ? 製作者の言いつけでしたので」 「あ、そうなんですか? よかったです」 話から、だいたい私のデータがどうこう言っているのはわかった。柏木さんが作ったのでないなら、誰が作ったのだろう? って、一人しかいないか。 「ま、そういうわけですので、後はこの子の名前と、マスターの呼び方を決めるだけです」 名前と呼び方、か。呼び方は……まあ普通に『樹羽』でいいとして、後は名前か。 私は悩んだ末に、とりあえず言ってみた。 「クラン」 「それでいいんですか?」 確認をとられると、本当にこの名前でいいのか悩んでしまう。物凄くテキトウに考えた名前だし。 じゃあ、なにがいいだろう。 私には知り合いが少ない? んー、知り合い……シリア…… 「シリア……でいいとおもいます」 うん、なかなかしっくりくる名前な気がする。割りと安直な気がするけど。 「じゃあ、呼び方は?」 「それは普通に『樹羽』で」 「分かりました。では入力しますね」 カタカタとテンポよくキーが叩かれ、最後にタンッとエンターキーが押される。 「完了です。どうですか? 『シリア』さん?」 神姫はゆっくりと目を開く。 「はい、大丈夫みたいです」 神姫は私の方を見上げる。 「これから、よろしくね、『樹羽』」 ちゃんとマスター登録は出来たようだ。 「うん、よろしく、『シリア』」 だから、私はそう返した。 第三話の1へ 第四話の1へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2009.html
第壱話 キーンコーンカーンコーン×2 国立学校法人・東都大学の構内に午前の講義が終わった事を知らせるチャイムがなる。 「はい、それじゃあ来月までにレポートの方を提出してください。テーマは「冊封体制と列強帝国主義の比較」です。これを出さなきゃ単位はあげません、よって進級できません」 中年の教授が課題を説明して文学部史学科東洋史専攻の午前の講義は終わった。 「さてと、今日の講義はもう無いし、これからどうしようか」 「いよぅ、同志よ。今はお暇かい?」 帰り支度をしながら考え事をしていた優一は声をかけられた。 今時風にまとめ上げた髪型に雑誌から丸々取ってきたようなファッション、顔つきはジャニーズ事務所に今からでもオーディションにでも行けそうな・・・、いわゆる「イケメン」である。しかし、その人物の本性を知っている優一からしてみればこれでやっとプラスマイナスがゼロになる。 「何だ拓真、言っておくが美少女フィギュアは買わないからな」 優一はそのイケメン、御堂 拓真に否定的な返事をした。実は彼、いわゆるアキバ系だ。 「おいおい優一、オタクに「フィギュアを買うな」は死活問題だぞ。どうせ暇ならサークルに来ないか?姉貴や由佳里ちゃんも来るってよ」 「ふむぅ、それじゃあご一緒させてもらおうかな。それとレッドもいるのか?」 「ったぼーよ、かく言うお前もアカツキちゃんはいつも一緒だろう?」 「私とマスターはいつも一心同体です!」 「それを言うなら以心伝心だろ」 カバンの中から出てきたアカツキに優一は的確なツッコミを入れた。 「おーやっぱりいたか。こんにちはアカツキちゃん。それとどっちもハズレだぞ」 「ハーイアカツキ、ご機嫌いかがかしら」 拓真の上着の胸ポケットから彼の神姫、騎士型のモルドレッドが出てきた。 「拓真さん、レッドちゃんこんにちは。話は聞かせてもらいました。すると、無頼さんもメリッサちゃんもいるんですね」 「そう言うことだ。ささ、行こうぜ」 「はい」 ―十分後・サークル棟内部・神姫同好会部室― 東都大学は他の大学の類に漏れず武装神姫のサークルがある。優一と拓真が所属している「神姫同好会」もその一つだが、初戦は同好会で、活動費用は全員で負担している。 「姉貴ー、クロ連れてきたぞ」 「ご苦労だったな我が弟よ」 部室の一番奥のいすに座った女性が拓真からの報告を受ける。パッチリとした切れ長の二重まぶたにすっきりとした目鼻立ち、髪の毛は焦げ茶のロングヘアーで何も飾り付けはしていないが、よく手入れされている印象を受ける。早い話が「べっぴんさん」だ。彼女の名は御堂 春香(みどう はるか)、拓真の姉であり、この同好会の会長も務めている。 「こんちわっす春香さん。由佳里はまだみたいですね」 「ああ、ゼミで少し遅くなると連絡を受けた所だ。どうせヒマだし、一戦どうだ?無頼もかまわないだろう」 「拙者は主殿の命に従うまでのこと、拒否はせぬ」 傍らに座していた春香の神姫・侍型の無頼も乗り気のようだ。 「ここで引き下がるのは俺の筋に反しますし、良いでしょう。受けて立ちますよ。行くぞアカツキ」 「はい」 実を言うとアカツキは無頼とあまり戦ったことが無く、しかも少ない試合の中で全て負けている。それも無頼本来の戦法が使われたのは一度もない。 「今回ばかりは拙者も本気で征かせてもらうぞ、アカツキ殿もそれでよかろう」 「こちらこそ、全力で征くよ」 今回のバトルフィールドは「円形闘技場」、ローマにあるコロッセオをモチーフにした最もシンプルかつ最も腕が現れるステージである。 アカツキと無頼は既に初期配置に着いている。 今回アカツキはリアウィングを装備していない。その代わりにヴァッフェバニーのバックパックをスラスターとして背中に、アークの後輪を両足に取り付けてランドスピナーとしている。左腕にはシールドではなく、どこぞの戦闘装甲騎からぶんどってきたスタントンファーを装備しており、右手にはビームサブマシンガン持っている。それ以外はいつもと同じだ。 対する無頼は胴と胸、腰回りは紅緒のデフォルト装備だが、左肩に装備されたシールドにはデカデカと「無頼」の文字がペイントされている。手には黒光りする太刀が握られており、左腕には刀の操作に支障が無いよう速射砲を装備している。対抗するつもりかどうかは知らないが、アカツキと同様にランドスピナーを装備している。 「今回は制動刀か・・・、アカツキ、間合いをよく考えて行くんだ」 「わかりました。無頼さん、行きます!」 「先手は譲ろう。いつでも来い!」 天使と武者、紅白が今、ぶつかろうとしていた。 第弐話へ とっぷへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/739.html
麗しき戦い──あるいは予選その一(前半) “鳳凰カップ”は周辺イベントやブースの賑わいも勿論目玉だけど、 一番のウリはやっぱり“聖杯”を目指した、神姫達の戦いだもんね。 だから今年は、ボク達MMSショップ“ALChemist”の面々も全力全開。 その一環としてボク……クララである所の“槇野梓”は、この会期中 お姉ちゃん・槇野晶の全権代理人として、バトルを担当するんだよ? 「梓ちゃんっ、わたしもなんだか“ニキニキ”してきましたの♪」 「……どこで覚えたのかな、ロッテ……ちゃん?それはさておき」 「うん。極力“コレ”を脱がない様に、頑張って戦ってきますの」 「でも、いざって時は迷わず脱いで本気を見せてね。相手も必死」 「もちろん分かっていますの。でも、やっぱりスタイルも大事!」 “神姫”として戦いに出るのは、次女でありボクらの精神的支柱である ロッテお姉ちゃん。ボクは“仮初めのマスター”として、戦局を分析。 本当なら晶お姉ちゃん……“マイスター(職人)”の役目なんだけれど、 今回は物販ブースも展開してるから、晶お姉ちゃんは自由に動けない。 だからフェレンツェ博士に、ボクのマスター参加をお願いしたんだよ。 『それでは、予選Hブロック第一回戦・11試合目を開始しまーす!』 「……出番だよ、ロッテお姉ちゃん。行こうか?戦いの“舞台”へっ」 「はいですの!こういう大会は初めてですから“ゾワゾワ”ですの~」 ……テレビの見過ぎかな?ともかく、ロッテお姉ちゃんは普段通りに “Heiliges Kleid”を装着し、エントリーゲートに入っていったよ。 ボクも手順を教わった通り、“SSS”をサイドボードにセットして オーナー用の席に座って……準備OKっ。開始の合図をじっと待つ。 今回のバトルフィールドは、どうもダンスホールが舞台みたいだよ。 『ロッテ・ヴァーサス・ミモザッ!!レディ──────ゴー!!』 「ミモザ……梓ちゃん、相手の神姫ってマオチャオタイプですの?」 「そうだけど……あ、そう言えば!?だとすると、リハビリかな?」 「みたいですの。でも、遠慮はしませんし出来ません……さぁっ!」 ロッテお姉ちゃんは勿論、ボクも伝聞でその名前は知っていたんだよ。 裏バトルの犠牲となってデータを“拉致”され、眠っていた猫型神姫。 ついこの間ホビーショップ・エルゴの日暮さんから返却されたばかり。 まだ一ヶ月も経っていないはずだから……多分これが、復帰の第一戦。 でも、そこで手加減するのは却って失礼。二人ともそれを知ってるよ。 『やっちゃえミモザ!運動不足だったろ、駆け回ってこいっ!!』 「うにゃーっ!!あ、アーンヴァル……なのに、装備がないにゃ?」 「お久しぶりですの、ミモザさんっ!ほら、“ALChemist”の♪」 「ロッテにゃんにゃ!?……その格好、今日の売り物にゃ?」 ロッテお姉ちゃんは肯く。事実、現在天使型の神姫が着込んでいるのは “Heiliges Kleid”ではなく、今回展示ブースで販売している神姫用の トータルコーディネイト“フィオラ”の……エクストラエディション。 実際の製品を微調整して、ロッテお姉ちゃんに最適化したバージョン。 見た目は、春らしく淡い空色のジャケット姿。でも、能力は確かだよ? 「ええ。でも、戦いだって手抜きしませんの!さ、踊りましょうっ?」 「うにゃ!ずっと縛られてて遊べなかったから、一杯遊ぶにゃっ!」 「行きますっ!……“フェンリル”、頑張ってくださいですの♪」 サイドボードに収納していたのか、ぷちマスィーンズが周囲に現出。 でもそれに頼るよりも速く、ミモザさんはロッテお姉ちゃんに突進! “研爪”を両手に嵌め込んで、猫科動物らしい俊敏さで迫るんだよ。 対してロッテお姉ちゃんは……動く事なく、二挺拳銃を構えるだけ。 でも余裕のある微笑から、何をしたいかはボクにも分かったんだよ。 「こっちから攻めるにゃーっ!!えやーっ!!!」 「よい……しょっ!」 「あにゃ!?」 煌めく爪が空を切る!……けど、ロッテお姉ちゃんはそこにはいない。 折角補助アーマーを着込んでるんだもん。急速移動用ブースターだって 使えないと勿体ないんだよ……というわけで、後退用のそれを駆使して ロッテお姉ちゃんは数smの距離をバック・ステップ。“フィオラ”の エクストラエディションって、補助アーマーを活かす工夫の事だもん。 「さ、まだまだ来てくださいの!」 「う、ううう~。ちょこまか逃げるにゃー!!」 「ふふ……えいっ!」 『ビビーッ!!』 「あにゃ、ぷち一号っ!?」 華麗にバク転を決めながら、お姉ちゃんは“フェンリル”を曲撃ち。 アーンヴァルタイプの姿勢制御力を活かして正確に撃たれた鉛玉は、 そんな状況でも正確に一機のぷちを撃ち抜いて、射撃を殺すんだよ。 ボクらには武装が多く与えられているけど、だからって個々の武装を 疎かにはしない。これだって、マイスター流教育の賜物なんだもん。 「にゃううう……撃て、撃つにゃーっ!!」 「そうです!もっと楽しみましょうっ♪」 ──────舞い踊る様に、優雅に戦う。それがボクらの使命だもん。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/425.html
戦乙女は、かく降臨せし(前半) ヒートアイランド現象の所為であたたかいと言え、今は冬真っ只中。 流石に冷えるが、ここは今日も賑やかで熱気に満ちているな。有無。 秋葉原神姫センター3階、ヴァーチャル式バトルフィールド装置前。 ここではサードリーグとセカンドリーグの試合を、年中やっている。 設置台数は、両リーグを合わせて凡そ……16基という所だろうか? 「お兄さんお姉さん達でいっぱいですの~、それとわたしの妹達もッ」 「そうだぞロッテ。今日はここで初バトルをやるんだ……大丈夫か?」 「はい。ちょっぴり緊張しますけど……精一杯がんばってきますの♪」 「良い娘だ~……こほん、勝ったらご褒美も考えてやろうか、有無?」 「むむむっ。そう聞いたら、もっとも~っと頑張っちゃいますの~♪」 そう、我々は先日“解除”と並行してサードリーグに登録したのだ。 草リーグとは違い、大小織り交ぜた“公式試合”が月に何度かある。 今日は初めてそれに挑戦してみよう、という訳である。心が躍るな。 私・槇野晶が引いている改造スーツケースには、神姫・ロッテ専用の 軽量級用装備一式が積まれている。いきなり重量級でもいいのだが、 まだまだ“アレ”は開発途上である。試作一号機が完成してからだ。 「さ、着替えようか。戦乙女ロッテの初お披露目と行こうじゃないか」 「はいですの!ん、しょ……マイスター、トランク開けてくださいの」 「よし。ではじっとしていろ……?最終点検も一気にこなすからなッ」 「了解ですの♪──────火器管制用ジステム……エクセス(接続)」 システムメッセージ用の無機質な声を確認し、私は一気に彼女を脱がす。 素体に専用アンダーウェアを施しているとは言え、やはり少し照れるよ。 ……「百合幼女萌え」とか言った奴には、飛び膝蹴り9本くれてやろう。 第一、補助アーマーとブースターを装備して“裸”とは言わぬだろう!? 「と言っても、何時もロッテを着せ替えする時は緊張するものだ……」 ……兎も角、その上に武装を施していく。まずは蒼穹の輝きを持つ装甲、 次に青き一角獣の槍を、更に死神の手……そして霊鳥の脚と神々しい翼。 仕上げに、大いなる天使の輪を宿す冠を。これで軽量級戦闘装備は完了。 おっと、愛用のチタン製ブレードと二挺拳銃も、装備させてやらねばな。 「よしっと。プランL009で動作スキャン、その後モード復帰してくれ」 「──グリューン。復帰します……マイスター、準備はOKですの♪」 「よし、では往こうか。間もなく試合時間だ、気合い入れろロッテ!」 「はいですの!なんとしてでも勝って、マイスターを喜ばせますのっ」 ウェアラブルPCを介してスキャニング結果を参照、異状は……ないな。 私の為に戦ってくれるとはしゃぐロッテに少し照れつつも、点呼に従って ロッテをバトルフィールドのエントリーゲートに入れてやる。私の出番は ここまで。後は彼女を信じて指示を飛ばすのみである。……そういえば、 今回の対戦相手は誰であったか。確認を忘れていたが、もう仕方ないな。 『ロッテvsフリッグ、本日のサードリーグ第39戦闘、開始します!』 「フリッグさんですか~……今回のフィールドは、どんな所ですの?」 『設定は“夕焼けの古戦場”らしい。そなたは初顔か、我が姉妹よ?』 「はいですの。マイスターに連れられて、今日は初めての戦いですの」 『そうか。私は幾度か戦った……初陣とはいえ手加減はできぬ、許せ』 「構いませんですの。マイスターの心があれば、勝つのは私ですから」 フィールド審判システムのアナウンスに混じって、相手神姫の声が入る。 その言葉通り、筐体内部のフィールドは朱に染まった草原を映し出した。 しかしロッテの、臆面もなく照れる台詞を言う癖は……正直赤面物だな。 まんざらでもないと思う私も大概ではあるが……ともあれ姿が見えたな。 「ほう、その姿。アーンヴァルタイプと聞いていたが、私に近いな?」 「ん……そういうお姉さんは、サイフォスタイプのカスタムですの?」 「如何にも。与えられた名をフリッグ、“大剣士”のフリッグという」 「私は、ロッテと言いますの。二つ名は~……えっと、うんと~……」 ロッテや……今度にでも考えてやるから、今は目の前の神姫に集中しろ。 しかし相手も青き鎧を纏った戦士か、“戦乙女”の初陣には相応しいな。 さて、早速モーションなどの情報収集を行うか。これこそが私の役割だ。 「では……いい試合をしようではないか、ロッテとやら。いざ、参る」 「マイスターの神姫、ロッテ!いざ尋常に勝負ですの!……ヤァッ!」 ──────ロッテが頭部バイザーを閉じた。“舞踏”の開始だ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1152.html
蒼天にて、星を描きし者(前編) そしてその日はやってきましたの。わたし達三姉妹がセカンドに向けて、 ついに扉を通る日がッ!……あ、申し遅れましたの~♪わたしはロッテ。 “マイスター(職人)”槇野晶お姉ちゃんと共にある、神姫が一人ですの♪ 今は皆、準備でてんてこ舞いですの。武装は用意出来たんですけど……。 「クララや、躯の洗浄が終わったなら服を選んでおくれ!時間がない!」 「分かってるんだよマイスター、ボクのは決まってるけど……大丈夫?」 「あうぅ……これも可愛くていいんですけど、こっちも棄てがたいです」 「わたしの予定時刻まで、もう一時間弱ですのアルマお姉ちゃん~!?」 わたし達は“服を着る神姫”、素体のまま外に出る習慣はないですの。 だから今日は下着と戦闘用補助アーマードレスに、お気に入りの一着を 着込んで、近所の秋葉原神姫センターに赴く事になったんですけど…… わたし達はマイスターのブランド“Electro Lolita”を背負う看板娘、 生半可なファッションセンスではいられませんの!だから、つい……♪ 「そういうロッテちゃんだって、決まってないじゃないですか~!?」 「こっちの水色のワンピースもいいんですけど、白のドレスも……♪」 「……こっちは大忙しだもん……マイスターの服選びも、大丈夫かな」 「む?う、有無……ストラップレスと長袖のどちらにしようかとな?」 「今日も四十度近くになるらしいし、日焼け対策次第だと思うんだよ」 どうしても皆、服選びや躯の洗浄には拘ってしまいますの。わたし達の オーナーであるマイスターは女の子ですし、わたし達もその辺の影響を いっぱい受けていますから、しょうがない所ですの。そんなこんなで、 準備が出来て皆で住居代わりのビルを出たのは、四十五分前でしたの。 「ふぅ……今日も街が灼けるな、水分補給しないと死んでしまうぞ」 「……ボクらも、熱暴走しない様こまめに冷却水を補給するんだよ」 「そうですね~……大事な日ですし、コンディションは大切ですッ」 「バッテリー充電率98.16%……他の機能も全部問題ないですの~♪」 そうですの、今日は高みに昇る日……昇進を賭けた試合の予定日ですの! この日の為に用意した“アルファル”他の装備も、バッチリカートの中。 ここ数ヶ月は、全て今日この時の為に使ってきたとさえ言えますの~っ♪ その割に、神姫センターで受け付け出来たのは刻限五分前ですけど……。 「サードの槇野晶様……神姫はロッテ、アルマにクララの三機ですね?」 「有無。事前に昇進試合への予約を通してあるはずだ、マッチメイクを」 「畏まりました……三機が応募してます。ランダムでよろしいですか?」 「構わぬ。どんな相手でもこの娘らならば、打ち倒してくれるだろう!」 「はいっ……では皆さんの試合をこれから準備します、お待ちください」 どうやら今日セカンドを目指しているのは、わたし達を含め六人ですの。 誰と戦う事かはわかりませんけど、マイスターの為に勝ってみせますの! ……と一人で集中していた時、マイスターの呼び出しが掛かりましたの。 『槇野晶さん、ご希望のバトルが開始出来ます。オーナー席にどうぞ』 「よし……さ、まずはロッテだ。姉妹達に、しっかり見せるのだぞ?」 「ロッテちゃん!……頑張ってくださいね、勝てると信じてますっ!」 「……大丈夫。これまでの積み重ねを大事にすれば、必ず行けるもん」 「はいですのっ!!皆、見ていて下さいですの……わたしの、戦い!」 マイスターに促されるまま、エントリーゲートを降下していきますの。 サイドボードへの武装装填完了を示すシグナルを確認して、準備OK! 選んで身につけた水色のワンピースを翻して、発進位置へと付きます。 ここで“意識”がヴァーチャルフィールドに投影される仕組みですの。 降下を完了したわたしの意識は、ゲートの閉鎖と同時に揺らいで……。 『ロッテvs狛恵、本日のサードリーグ第7戦闘、開始します!』 「ヴァーチャル化完了……では、行きますの~っ!!」 次の瞬間には、水平なレールを電磁加速する様に打ち出されていました。 そうして駆け出していったのは、最初の戦いでも使った古戦場でしたの。 ただ今度は、バトルのダメージを反映してか剣が突き立っていますけど。 でもじっと見ている暇はないですの!空を切る様な砲弾の音が、すぐ側を 切り裂いて……直後にわたしの躯は軽く吹き飛ばされましたの……痛ッ。 「きゃっ!?遠距離からの砲撃、でもフォートブラッグ程じゃ……!?」 『これは……ロッテ、相手は砲撃特化のハウリン系列だ!!』 「“砲狗の”狛恵、行きますッ!ドラドラドラドラドラァッ!!」 「く、確かに……大きな姿が見えていますの!」 「むむ、見つかりましたか!でもアタシは、破壊するのみですッ!」 「きゃあああっ!?く、このままじゃ……!」 カメラアイで見たのは、四肢……自分の脚とパックパックの補助脚……を 地に降ろし、両手・両肩・胸・背中の火器でわたしを撃つ神姫でしたの! 短くカットされた榴弾砲やミサイル、ガトリング……実弾ばかりのそれは 質より量という勢いで、わたしの服を灼き焦がしていきますの……でも! 「……でも数撃てば当たる、という悠長な結果は待てませんのッ!」 「そんな丸腰の姿で何が出来ますかっ!一気に殲滅してあげますッ!」 「黙ってやられはしませんの……“フィオナ”ッ!」 『Yes,sir(強襲します)』 わたしがその名を呼んだ時、夜闇の空に逆三角形状のラインが生まれ、 それに沿って“妖精の騎士”が、UFOの姿で飛び出してきましたの。 下部に据え付けられたのは、二挺のビームガトリング“セイバー”…… 青き流星は、そのまま戦場へ降下して狛恵さんに威嚇射撃をしますの! 「うあぁぁっ!?あれはぷち、いや……レインディア・バスター!?」 「そっちがオリジナルの砲撃支援システムなら、こっちは……!」 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「変身、した!?聞いてた姿と違います、その服と剣は一体……!」 「蒼天の旋姫(セレスタイン・ヴァルキュリア)の、真の姿ですのッ!」 フィオナが作り出した一瞬の隙を使って、わたしは戦闘の為にある姿を 呼び出しましたの。それは即ち、アーマードレス“レーラズ”と魔剣! 煤けたワンピースは消えて、手先や足首まで覆う青のドレスがわたしを 包んで、両の腰にライナストとフェンリルが光の中で装着されますの。 シンプルな“変身”で驚かせましたが、ここから“本番”ですの~っ♪ 「虚仮威しでしょう、春の大会でのマグレには騙されませんッ!」 「マグレかどうかは……これから貴女に確かめてもらいますのッ!!」 ──────さぁ、ここからが天国への階段ですの! 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2715.html
何かを得るためにはそれ相応の代価を支払はなければならない 7月26日(火) そして次の日、私はまたあの騒音の中にいた。耳が痛くなってきそうなほどの音量で、様々な音が混ざり合っている。やっぱりこの空間には慣れそうにない。 「そう? あたしは慣れてるけど」 「私は二回目」 「私に関しては初めてですよ……」 肩に乗ったシリアが、私の顔を支えに座っている。冷たい指の感触が頬に伝わる。 「大丈夫?」 「うん、なんとか……」 シリアもこの空間には馴染めそうにないな、と思いながら私は神姫バトルのコーナーを見た。 今日もいい賑わいを見せている。中学校や高校が夏休みに入ったためか、若いマスターが多く見受けられた。中には親子連れの姿まである。 ちなみにお金に関してだが、ちゃんとリアルマネーだ。さすがにゲームセンター側としても運営が成り立たなくなってしまっては困るだろう。 だが神姫センターでの買い物にはspt(神姫ポイント)を使うらしい。これはバトルに勝てば手に入り、また運営にお金を払えばもらえるそうだ(倍率は0.2倍だとか)。 ただまあ、神姫バトルでリアルマネーを賭けた勝負は禁止らしい。3年前にはちらほらやっていたらしいが、今は警察の目が鋭くなっていてここ最近では数は少なくなったとか。全部華凛から聞いた。 「これって交代制だよね?」 「そうよ、沢山いても回転率次第で早く回ってくるから、今のうちに用意して起きなさいよ?」 相変わらず天井に吊られているモニターを見る。なるほど、確かに画面右上には時間制限のような数字が見える。300秒らしい。つまりいくら長引いても5分で片がつく作りになっているようだ。 つまり私の番が回ってくるまで軽く時間がある。それまでに私は華凛に聞きたいことがあるのを思い出した。 「華凛、神姫持ってないんだよね?」 「んー? ないわねー」 華凛はあくまでモニターから目を離さずに生返事した。 「じゃあ、なんでこんなに神姫に詳しいの?」 「…………」 華凛はモニターを見たまま黙っている。だがその横顔には戸惑いの色がハッキリ見て取れた。 「……知りたい?」 その時、華凛の声が幾重にも重なったゲームの音に遮られずにやけに鮮明に聞こえた。何か、変な気分だ。まるで、知ってはならないことを知ろうとしているような―― まるで、華凛の嫌な過去を知ろうとしているような、そんな感覚。 私は、華凛のことはだいたい知っている。私のことは話したし、華凛のことも話してもらった。 だが、まだ私の知らない華凛がどこかにいるようだと薄々思っていた。まだ私は、親友のことを全部知っていない。 「……知りたい」 私はそう答えた。華凛が進んで話してくれるなら、私も黙って耳を傾けた。だが、今はそうではない。私から求めている。今までにない緊張感が、私の体の中に走る。 「…………」 華凛は目を閉じた。逡巡しているようにも見える。やがて、ゆっくりと目を開いた華凛は、 「えいっ」 私の頬を両手で引っ張っていた。 「そっかー、知りたいかーっていうか柔らかっ、あ、なんかクセになりそう……」 「か、かふぃん?」 しばらく私の頬をむぎゅむぎゅと引っ張った後、ようなく華凛は離してくれた。 「あー、柔らかいわね、いやホント。マシュマロみたいってこういうこと言うのね」 「……痛い」 「ごめんごめん。で、なんであたしが神姫に詳しいかだったわよね?」 「うん、そう」 「それはね……」 「……それは?」 華凛は十分に間を取ってから話しだした。 「実は、あたしも神姫が欲しいのよ」 「……?」 それがどう神姫に詳しいことに繋がるのだろうか? 「あたしって下調べとかは結構するからね、神姫が欲しいから、色々調べたのよ」 仁さんも色々教えてくれたし、と華凛は語った。確かにあの人の神姫の話は面白い。調べているうちに詳しくなったと華凛は語った。 だが、なんだかんだ言って今の理由は嘘だろう。華凛が私の考えてもいることが分かるように、私だって華凛が嘘をついているかどうかぐらいすぐに分かる。 華凛は嘘をついている。でも、その意味まではわからない。 (話したくなったら、話してくれるよね……) 私は華凛がいつか話してくれると思いながら、自分の番を待った。 (何で……話せなかったんだろう……) あたしの隣にいる小柄な少女は、緊張した面持ちで自分の神姫と話している。 それにしても、なぜあたしは樹羽に話せなかったのだろう。 (神姫……か) 神姫を見ていると、不安になってくる。その小さな体は簡単に壊れてしまいそうで―― (違う……そうじゃない……そんなの言い訳だ) あたしはもう一度樹羽を見た。さっきよりは緊張はほぐれ、真っ直ぐ前を見ている。 あの真っ暗な部屋で塞ぎ込んでいた子が、2週間も経たないうちにここまで成長するとは、あたしも驚いた。 違うな、多分これが本当の樹羽の姿なのだろう。自分の殻を少しずつ割って、ゆっくりと本来の樹羽が出てきているのだ。 (この調子で行けば、夏が終わる前に樹羽の引きこもりは治るわね……。そしたら、あたしは……) そこまで考えて、あたしは頭を振った。今からそんなことを考えても仕方がない。 だが静かに迫るその時を、あたしはただ待つしかなかった。 直前の人がバトルを終え、私の番が回ってくる。 相手は青年だった。椅子に座り、対戦相手を待っている。ポケットからイヤホンを出そうとしたが、こちらの姿を確認すると黙ってまたポケットにしまった。 少し背が高い。それにしっかりとした目、キレのある顔立ち。なんだかんだ言って、つまりかっこいい人だった。 だが、なんとなく近寄りがたいオーラが出ている。私が声を掛けようか悩んだが、 「よろしく……お願いします……」 とだけ言った。だが、声が小さかったせいか、相手には聞こえていなかったらしい。 私の中で気まずさが残った。どうしようか悩んでいると、後ろから声がした。 「あれ? 東雲じゃん。何やってんの?」 華凛だった。後ろから対戦相手をに話し掛けている。話し掛けられた方は、華凛を見るや、目を見開いた。 「あ、秋已? お前こそ、神姫も持ってねぇのに何やってんだよ?」 「あたしは付き添い。本命はこの子」 東雲と呼ばれた人は、こちらを改めてみた。 「てことは、やっぱり対戦相手ってことか。俺は東雲榊(しののめさかき)。よろしくな」 「奏萩樹羽……よろしく……」 適当な言葉が見当たらず、私はそう答えた。東雲くんは肩をすくませると、 「シンリー、対戦相手だ」 と台に向かって言った。 台には一人の神姫の姿があった。普通の神姫より少し小さい。黒いポディに金髪。生では初めて見るが、アルトアイネス型の筈だ。 シンリーというらしい彼女は台の上で何やら書いていた。神姫サイズの小さなノートに、何やら走り書きのような文字がちらほら書いてある。 「ちがう……こうじゃない……もっとこう、テーマを絞って……」 ああでもないこうでもないと何やらぶつぶつ呟いている。 「な、なにがあったんだろう……」 「さあ」 シリアも対戦相手に挨拶しようと出てきたが、肝心の対戦相手が取り込み中だ。 「ちょっと東雲、どうしたのアレ」 「ああ、あいつ作曲出来てな、最近スランプらしいから気分転換に来たんだが……」 気付けばネタ帳を持ち出し、気分転換にならないらしい。 「曲作れるんですか? すごいですね」 シリアは初対面の相手に普通にしゃべっている。社交性はシリアの方が上だな、やっぱり。 「ああ、ネットで『Day Black』って偽名であげてるよ」 『Day Black』、直訳すると、『東雲』になった筈だ。 「そう、なんですか……」 シンリーはまだぶつぶつ言っている。あれでバトル出来るのだろうか? 「バトルは、出来るの?」 疑問をそのまま口にしてみる。すると、東雲くんはちゃんと答えてくれた。 「出来るっちゃ出来るな」 「何よそれ、つまり100%じゃないってこと?」 「ま、そうなるな。だけどナメんなよ。強いぞ、俺たちは」 にやりと笑う東雲くん。 「いいじゃない、その勝負、乗ったわ!」 「華凛、戦うの私とシリア」 だが華凛はそんなことお構い無しでことを進めた。気付けば椅子に座って、ヘッドギアを着けている自分がいる。 「シリア、行ける?」 ポッドに収納されたシリアに尋ねる。 『私は問題ないよ。でも、シンリーさん大丈夫かなぁ?』 耳元のスピーカーからは、シリアの心配そうな声が聞こえてくる。 「相手のことを考えるのはいいけど、バトルには集中しよう」 『うん、そうだね。集中集中……』 私もあの状態のシンリーは気になる。だが、対戦相手なのだ。やるなら、全力でやらないと失礼だろう。 私はボタンを押した。既に聞きなれたアナウンスが流れ始める。 『…3、2、1、0、RideOn―――』 そしてカウントがゼロになり、私の意識は神姫にライドした――。 東雲と樹羽の勝負が始まった。あたしはモニターで二人の勝負を観戦している。 (また、やってしまった……) 昔から挑発には弱く、すぐに受けてしまう。これは樹羽の勝負なのに、何やってるんだろうねあたし。 (でもまだあたしが引っ張らなきゃいけない時期か、さすがに一人でゲーセン行けって言うのは時期尚早よね……) モニターの中の樹羽は、武装を展開している。まもなく戦いが始まるだろう。 (それにしても、樹羽のあの能力だけは予想外だったわね……) 通常、人の脳では指示することの出来ないブースター部分に指示を送ることが出来る。これは普通に身に付くものではない。この能力を使いたいからといくら努力しようとも無いものはどうしようもない。 (樹羽は……普通じゃない……) だからどうと言うわけではないが、やはり気にはなる。 (でも、本人も知らない能力だし。樹羽のお母さんに聞く? いやいや、そんなこと聞けないでしょ) 結局あたしは、樹羽の能力については何もわからないままなのであった。 第六話の2へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/x-game/pages/42.html
wiki主不在を理由に新wikiを立ち上げた管理人。 移転作業=コピペの手際はやたらといいがスレに絶対現れずなぜかいつも名無しの擁護が沸く摩訶不思議な存在。 スレのテンプレを大量転載して元wikiより更新が進んでいると主張するなど手口や名無し擁護の口調から自動多元との関連性が疑われている。 スレが大荒れになるのは火を見るより明らかだったが元wikiの管理人が復帰したため移転口実を失い事なきを得る。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1326.html
SHINKI/NEAR TO YOU 良い子のポニーお子様劇場・オマケ 『ぶるーめんばいちゅの日常』 >>>>> ――人々に愛を笑いを振りまく神姫センターのアイドル、 ブルーメンヴァイス。 人々に感動を与える彼女らの影には、 人に語れぬ汗と涙のドラマがあった。 これはそんな愉快な出来事のゲシュヴィッツ(無駄話)。 それは夏が間近にせまった とある日―― ・ ・ ・ 目の前には神姫用の水着があった。 来客を楽しませることと、宣伝のための目引き効果を狙って一流デザイナーにプロデュースしてもらったという。そのデザインは先鋭的といいうか、コンセプトに忠実というか…… 「なんか、えちぃね~☆」 「そ……そんなことはないわ。これが最善で最良で、最先端で……つまりは一番ってことなのよ。す……素敵じゃ、ない?」 「なら、まずはフィシスが着てみるべき。リーダーの務め」 「!……そんなことはないわ。みんなで一緒にしましょ。チームワークが大切よ」 そのフィシスの反応を見て、白雪――にんまり。白夜――愉しげに。 「おやおや、そんなことを言うなんて……」 「フィたん、恥ずかしいの~? にやにや」 「そんなことはないわ。その……フィはただ、どうせならみんな一緒の方がいいかと……」 フィシス……平静を装うのが、返って動揺を証明。 白雪&白夜、にやにや。「素敵な水着なんでしょ☆」「まずは言ったものが実践するが常道」 *** 「ほ……ほら。やっぱり素敵な水着だわ。こ……これでビジターもきっと喜んでくれるでしょうね!」 流行の最先端で最善で最良な水着――きわどい黒と白のセパレート的超ハイレグ――を着たフィシス。 必要最低限の部分だけ隠した、ある意味では水着の機能を必要最低限だけ保持した――別の意味ではその機能を最大限に発揮したシロモノ。 自然に赤らむ頬に、押し隠した羞恥への可能な限りの抵抗としてボディの上や下のメリハリの効いた箇所に添えられる手。それでも隠し切れないものをどうにかしようと、手段を講ずる体――結果として、あっちにくねくね、こっちにくねくね。 流れる銀糸の髪、薄く上気した顔、潤んだルビーのように紅い瞳。その均整さ、美しさを爆発的に主張するような、肢体。まるで芳醇な果実を思わせる、艶に彩られたフィシス。 その姿に同じ武装神姫ながら圧倒された白雪と白夜は、しかしその過剰なまでの「攻撃」を何とか耐えしのぎ、持ち前の意地悪さと無邪気さを発揮する。 「だめだよ、フィたん☆ そんな風に隠しちゃ」「肝心の水着がよく見えない。問題あり」 「――――!」 ふたりに指摘されたフィシスは、カッと顔を真っ赤に染める。涙ぐんだ表情――観念と自棄とかそんないろいろなものがこう入り混じったカンジ――でキッをふたりを睨むと、 「これで、いいんでしょう――っ!」 「おおおう×2」 そこに現れたのは、完璧な姿だった。 美しき肢体と、芸術的な水着によって作り出される、物質的な色香と美。 羞恥、ためらい、そうした感情をすべて乗り越え、そして到達された何かを乗り越えるという気高き魂、凄絶なまでの精神的な高揚と美。 完璧だった。 すべての量子、非線形方定式、そのほか宇宙の神秘とかなんかこういろいろなものが複雑な焦点を結ぶことによって生まれた奇蹟がそこにあった。 白雪と白夜は泣いた。 読者も泣いた、筆者も泣いた。 オール・ワールド・ザ・スタンディング・オべーション! そのなか、フィシスだけは全てを越えた者こそが辿り着ける、無垢なる微笑をその身に称えていた……。 その日の夜。 フィシスは泣いた。 白雪と白夜のいないところで、影でこっそり泣いた。 身をくるめ、自らの身を抱きしめながら、しくしく泣いた。 全てを越えた代償がそこにあった。 *** 後日、なんかいろいろ関係各所からの意見とかで水着を使ったステージは保留。当分はやらない――水着も一転、無用の長物に……といったことが淡々と告げられた。 フィシスが眠りから起動した後のクレイドルは、何故か水に濡れていたという。 それはなんともキレイな、なんの不純物も要さない、無垢なる純水だったそうな――。 『ぶるーめんばいちゅの日常』良い子のポニーお子様劇場・オマケ//fin 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1335.html
山と森の台、響く神の音(前半) 結論から言えば、相変わらずであり同一ではなかった。従姉・碓氷灯だ。 人目を気にするが故の“奇行”は全く治っていないが、そもそもからして 奴は一人でハンバーガー屋に入る様な性格ではない。待ち合わせでもだ。 その細かい変化に、私・槇野晶も少々驚いている。色々と聞いてみるか。 「で、だ。引っ込み思案の田舎娘な貴様が、どういう風の吹き回しだ?」 「い、田舎などと馬鹿にせんでほしいですぞ?!……で、ええぇーと?」 「貴様は用がなければ、決して表に出んだろう?学業等、最低限以外は」 「あー……これでありますか?はは、私も偶にはハン……ギャアー!?」 「貴様正直に吐かぬとためにならんぞっ!さぁ何があった、さぁさぁ!」 躊躇無く私は、灯のコメカミに拳を当ててグリグリと捻る。梅干しだ! だが、そんな私の横暴を止めたのは六人・十二本の神姫の腕だった…… 六人だと?妙な事に気付き、私はすぐ下を見る。三人は我が“妹”達。 もう三人は“灯の妹達”……黒の堕天使を模した三姉妹の神姫だった。 「ちょーっと、晶さん!ミラ達の姉様に酷い事すると怒るわよっ!?!」 「姉様、大丈夫?……もー、相変わらず横暴なんだから姉様の従妹は!」 「む、ミラにイリンとティニアだったか……ほう、これはなかなか可憐」 「な、何よ何よッ!?褒めたって私達は姉様一筋なんだから……もうっ」 「あー……晶ちゃんは神姫の服飾やってるですしなぁ。どうですかな?」 その服装は……黒色基調の華美系と言えばいいか。だが、細かい装飾の 配色は勿論の事、服の微細なデザインやアイペイントまで違っていた。 殆ど没個性気味に統一されていた東京での邂逅とは違って、誰が見ても その違いがよく分かる。服はピンクとマリンブルーに、モスグリーン。 瞳は紅・蒼・翠。初めから順番にミラ、イリンにティニアである様だ。 「ふむ……成程。彼女らが更に貴様を変えていった、という所か?」 「そうよ!姉様にもっと色々見せて、外に行こうって言ったのよ!」 「そうしてたら、灯さんが徐々に応じてくれた……って事ですの?」 「うん。私達の個性が欲しいって願いも、こうして叶えてくれたし」 三人が、スカートの裾を摘んでたくし上げ優雅にターンをしてみせる。 以前は違いを見つけるのに手間取った仕草も、今は容易に区別が付く。 そして私は気付くのだ。彼女らのネクタイを止めている“階級章”に! 「……同一であり、しかし個性もある。綺麗になったと思うんだよ」 「ふふーん、普段の服だけじゃないんだから!あっと驚くわよっ?」 「え?えーと……あ、ひょっとして武装ですか!?新しい武装ッ!」 「そ、そう言う事ですな。ただ負けるだけというのは、嫌ですしッ」 「その執念が、貴様らを中信地域のセカンドへと押し上げた……か」 灯とその“妹”達は、ハッキリと肯いてみせる。それに応えてか、私の “妹”達もペンダントになったセカンドの“階級章”を掲げてみせる。 鎧袖一触、一触即発!少々ピリピリした空気がテーブルの上に流れる。 が、灯がそれを押し止める……断言しよう、奴は変わった。神姫でな! 「え、えと。それは明日!今日は晶ちゃん達を、楽しませるのですなっ」 「……ほう、貴様が場を仕切れるまでになるか。強ち嘘でも無さそうだ」 「明日は目に物見せてやるわよ、ロッテちゃん達!と、今日の予定っ!」 「そう言えば……今日はこの後、蕎麦フェスティバルと音文だったっけ」 「それは来月だしッ!それに音文はえーと……確かパイプオルガンよ!」 「……すまない、尚更分からんぞ。灯、順を追って説明してくれんか?」 落ちついて話を聞けば、なんて事はない。蕎麦を食い、郊外の公衆浴場で 入浴ついでに着替え、夜はパイプオルガンのあるホールでコンサートだ。 言われてみれば、旅をした私やロッテ達は勿論の事、灯やその“妹”達も 着替えや神姫用の洗浄剤を持っている。もてなす準備は万端という事か。 「というわけで、ハンバーガーの次は松本城で蕎麦を食べるのですな!」 「……だったらそもそも軽食など要らぬだろうが、何を考えているッ!」 「ギャァー!?ちょ、ブレイクブレイク!えうえうっ……ヘルプー!?」 「そうは言っても……わたし達、ハンバーガーとか食べちゃいましたの」 「……ボクはまだ入るし、アルマお姉ちゃんは全然足りなそうだけどね」 ひとしきり灯をいびってやった後、私は三姉妹の口を拭いてやる。灯の 神姫達は……当然だが……摂食行動が出来ぬので、冷却水を呑んだ口を 灯が拭いてやった。クララ達“私の”三姉妹は慣れた物で、肩に乗って じゃれてくるが、ミラ達“灯の”三姉妹は、普段と勝手が違う様だな。 「んっ……はむ。ね、姉様皆見てる……んむ……っ!」 「だ、大丈夫ですな。すぐ終わるから我慢して……ね」 「そうは言っても姉様、優しいんだもん……ねーっ?」 「ねー♪……って貴様、変な目で見ているなッ!!?」 「こら私の科白を掠め取るんじゃない、ティニアッ!」 ──────変わっていく姫達に、注目かな? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/419.html
サムライ男に見る、最近の犯罪事情 2007年初旬、英国の地で押し込み強盗を働いた5人組がいたらしい。 彼らは駆けつけた警官2人をナイフで刺そうと襲いかかる。その時! 突如何処からか現れた侍が一人を斬り伏せ、逃げるもう一人も斬る! 結果警官は助かったが、“サムライ男”は既に姿を消していた……。 「……だそうだ、なんか何処ぞのVシネマ時代劇でありそうな展開だな」 「マイスター、マイスターっ。わたしも、ばば~んと活躍したいですの」 「うむ、最近はハイテク犯罪も多いし、その中でこそローテクは光るな」 「特に神姫犯罪は最近多いですの、わたし達の姉妹が悪い事してますの」 深夜のティーブレイク。暇な時は旧時代のニュースアーカイブを見る。 そして最近と比較していろいろ沈思黙考。これぞ私・槇野晶の休息だ。 昨今は……恐らく私が生まれ出る前から……この国は荒れ放題であり、 尚克アレ放題であるが、こういう“正義”にはやはり心動くな。有無。 「神姫犯罪か……奴ならどう思うのであろうな、割と普通の男だが」 「奴?えっと、ホビーショップ・エルゴさんちのお兄さんですの?」 「そう。奴めは典型的なヲタだが、知識も腕もあり、魂も暑苦しい」 「あう。マイスター、それを言うなら熱い魂だと思いますの~……」 「構わぬ!で、そんな奴なら“正義”について何か一家言あろう?」 成人男性としての評価はさておき、その心意気は私も買っているのだ。 OK、「幼女の癖に」とか言った奴は今すぐに根性焼きしてやろうか? ……まあ、表面上のみとか絵空事ならそこまでなのだが、万一もある。 技術的な相談事もあるし、今度行った時にでも軽く鎌を掛けてみるか。 奴が本物なら、さぞ有意義な議論ができるだろう。その折は……有無。 「……あの、マイスターっ。それよりも、それよりもっ!!」 「ん?ああ、すまない。危うく己の思考に溺死する所だった」 「新作のお洋服の仕上げ、もうすぐ終わりそうなんですの?」 そうだった。MMSショップ“ALChemist”のショップブランドである、 神姫用服飾“Electro Lolita”の新作を今は作っていたのであった。 先日渋谷でスキャンした最新モードの女性服。ああ言った物を参考に 私なりのアレンジを混ぜ込み、神姫のボディサイズに合わせていく。 この小さなキャンパスに感性を詰め込むのも職人(マイスター)の技。 「今回のお洋服もステキみたいですから、早く着てみたいですの♪」 「ああ、今回はクロスタイプだからもう少しで出来る。焦るなよ?」 「はーい。そして早くマイスターとおそろいで歩きたいですのっ!」 「う゛、どうしても着ろと言うのか……仕方ない“妹”だ、全くッ」 今回の“モデル料”で選ばれた洋服は、あろう事かスキャン元の服。 私のコンパクトボディに合わせた同じブランドの別物ではあるが…… これも“妹”を華やかにしてやりたい姉の心情なのかも知れないな。 「マイスターとおそろい、おそろいっ。おそろいの服~♪」 「出かけるのは明日だぞ?今晩はもう遅いから試着だけだ」 「はい。それだけでも、わたしはとても嬉しいですの~♪」 「ふふ……しょうがない“妹”だ。すぐに着せてやるッ!」 ──────今日も月が昇り、星に楽しい夜が訪れる様だ……。 次に進む/メインメニューへ戻る