約 26,221 件
https://w.atwiki.jp/zange/pages/228.html
おい、被ってるぞ、なんとかしろ! \_ _______ V __ , - ―- 、< ; ;;\ '.゙fー== ノ ; ; ; ; ヽ (((( ヽリ)∠酸二二ゝ くl li ゚ ー゚ノi( ・∀・) へいへい ノつ卯kう (つ|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ノi w ! |\|| OXY | し ( ) '\.リ==========|ョ γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ヽリ)) くl li ゚ ー゚ノil ノしw卯k}う .ノ_! w iゝ し ( ) こりゃまるっきりメーテルだぞ、おい聞いてるのか? \___ _____ V γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ヽリ)) ∧酸∧ くl li ゚ ー゚ノil (( ・∀・)) ノしw卯k}う ヽ / .ノ l 人 ヽ w.,__.,.,. oゝ し´ (_) γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ヽリ)) くlli#゚ ー゚ノil <あの馬鹿元素め・・・ ノしw卯k}う .ノ l w.,__.,.,. oゝ γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ヽリ)) ∩li ゚ ー゚ノう <とりあえずこんな帽子は脱いでしまってだな・・・ ヽw卯k}ノ l l w.,__.,.,. oゝ γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ヽリ)) ∩l;゚ ー゚ノil <・・・手が届かないな・・・ ヽw卯k}つ ノ l w.,__.,.,. oゝ γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ヽリ)) くl li ゚ ー゚ノil <おーい酸素、ちょっと話があってだな ノつw卯kつ .ノ l ≡≡三とw.,__.,.,. O お前までなんで変な格好してるんだ? \____ ______ V γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| /´ ̄> ________ (((( ヽリ)) / ヽ / くl li ゚ ー゚ノil ∠二二酸ゝ < おいす~ ノしw卯k}J ヾ(・∀・ ) \ .ノ _l ヽ 旦とヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ((( o.,__.,.,.wO (_(_つ とにかく服を作れ!!! \____ ______ V γ´ ̄`ヽ | | /´ ̄ゝ |___(†)| / ヽ ________ (((( ハリ)) ∠二二酸ゝ / くl l#゚ ー゚ノil (・∀・;.) < は、はーいはーい! ノ○w卯k}つ つ つ \ .ノ _l / Y ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ wO__.,.,.wO (_ (_) 終わるまで監視だからな! \_ _______ γ V ヽ __ | |< ; ;;\ ________ |___(†)| ノ ; ; ; ; ヽ / (((( ヽリ)∠酸二二ゝ < にゃああああああああ くl li ゚ ー゚ノi(.;・д・) \ ノつ卯kう (つ|| ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ノ ; ; ; ; ; ; | .|\|| OXY | '\.リ==========|ョ γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ハリ)) くl li ゚ ー゚ノil iしw卯k}う ノ; ノ i ヽ、 く_丿ノ^J-ゝ γ´ ̄`ヽ | | |___(†)| (((( ヽリ)) くl li ゚ ー゚ノil iしw卯k}う ノ; ; ; ; ; ;ヽ くw ; ; ; ; ; o`ゝ 寝てる間に作っとけよ! / ̄ヽ /ハ⌒ハ∠二二二ヽ (((( ヽリ)) | || くl li ゚ ー゚ノilつ! .┸ ∧酸∧ 〃⌒ヽ)⌒⌒⌒ヽ (・∀・;.) はいはいはい /' ヽ ( とノ / .. . .ヽ (_(_) ( ) `~ー------―~''" どいつもこいつも・・・# \____ ______ V γ´ ̄`ヽ | | /´ ̄ゝ |___(†)| / ; ; ; ;ヽ ________ (((( ヽリ)) ∠二二酸ゝ / くlli#゚ ー゚ノil (・∀・ ) < にゃはは、僕は信じているやらいないやら ノ /つ旦とヽ と つ \ く__ノ_)_)ヽゝ (_(_つ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 私が5歳だってことをみんなに知らしめて来い!! \____ _____________ V γ´ ̄`ヽ | | /´ ̄ゝ |___(†)| / ヽ ________ (((( ハリ)) ∠二二酸ゝ / ∩ l#゚ ー゚∩ (・∀・;.) < えええええええええ ノヽ 卯k}ノ と と丿 \ ノ ノ !i!i! O / Y ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ く__ノし´~^´ (_ノ (_) ○______________ ┃\ ; ;;; 丿___彡 γ´ ̄`ヽ .┃ |○ >~~~~~~;; ; ( 彡 | | ┃ | >~~~~~~; ; (~~~~~彡 |___(†)| .┃ / >======; (~~~~~ ミ (((( ヽリ)).┃  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (===== ミ くl li ゚ ー゚ )il┃  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ミ ,)つ 卯くに} ,) ,) !i!i! .┃ く__丿し~~Jヽゝ ○ _______ .┃ー|)◎))3333Ξ巛 γ´ ̄`ヽ .┃ 二二二二二__ | | .┃ー|)◎))3333Ξ巛 |___(†)| ┃ ._二二二二__ (((( ヽリ)) ┃ー|)◎))3333Ξ巛 くl li ゚ ー゚ )il┃ . ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ,)つ 卯くに} ,) ,) !i!i! .┃ く__丿し~~Jヽゝ | 楽しいのか・・・それ・・・? \____ _______ V γ´ ̄`ヽ _ _ | | \ \/\/./ |___(†)| ヘ酸へ ________ (((( ヽリ)) /二二二二\ / くl l;゚ ー゚,)il  ̄(・∀・ ) ̄ < まあつまんなくはないですにゃあ ,)とゞ卯くつ し し \ ,) ,) !i!i! ヽ l ス  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ く__丿し~~Jヽ_ゝ し´ し | わかってんのか!! \____ _______ V γ´ ̄`ヽ _ _ | | \ \/\/./ |___(†)| ヘ酸へ ________ (((( ヽリ)) /二二二二\ / くl l#゚ ー゚ノil  ̄(・∀・;.) ̄ < あああああすいません! ,)とゞ卯くつ つ つ \ ,) ,) !i!i! ヽ / ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ く__丿し~~Jヽ_ゝ し´ \) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/1859.html
1 ※サンジュSS 閲覧注意:イジメあり 2009/05/14 http //takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1242293715/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る これ初期のSSじゃねえか。いつからサンジュってあったんだろ あとりっちゃんの誕生日は夏休み中の筈 -- (名無しさん) 2014-04-17 13 04 06 サンジュであろうとなかろうと、澪の扱いの悪いSSは多い だから澪がよく書かれているSSを見ると嬉しくなる -- (名無しさん) 2013-11-02 00 33 48 最終的に誰が誰を苛めたんだ? -- (さくにゃん) 2012-11-24 07 53 17 サンジュネタは唯厨に関係なく、律に暴力ふるう割に怖がりって二面性な所が在日的な体だから出来たんじゃないの? -- (名無しさん) 2011-12-07 07 14 44 勘違いしてる人もいるかも知れないが これは韓国に関する物が出てないから、サンジュではないと思う。 ただの、自己中か性格が悪い澪だと思う -- (名無しさん) 2011-12-07 06 50 57 なるほど酷い 笑えるひどさじゃなくただ胸糞悪い酷さだな -- (名無しさん) 2011-12-07 04 35 43 これは酷いだろう… -- (名無しさん) 2011-12-07 01 12 43 澪嫌いな、作者さんや律イケメンにするSSだと、 澪のキャラクター崩壊酷いの多いから辛い。 -- (名無しさん) 2011-12-06 20 56 27 イジメあったか?澪が唯を、って認識でいいのか? -- (名無しさん) 2011-12-06 20 18 52 まあこれは極端だけど澪基本的に原作でもこんな感じの性格だよね。 -- (名無しさん) 2011-12-06 18 54 03
https://w.atwiki.jp/tearoom/pages/19.html
サングマ茶園 生産年:2009年 等級:SFTGFOP-1 Supreme Musk 販売店:シルバーポット(http //www.rakuten.ne.jp/gold/silverpot/) ダージリン紅茶2010年セカンドフラッシュ・サングマ茶園 夏摘みらしく、ボディはしっかりしています。渋みはそれほどでも無いように思いますが、あります。苦みはありません。 2010.12.22 生産年:2010年 等級:SFTGFOP-1 China-Classic/DJ-226 販売店:リンアン(http //liyn-an.jp/index.html) 売り切れのため、商品へのリンクページはありません。 えーーーっと、飲み終わってから随分時間が経ってしまって、よく覚えていないのですが、たぶん、かなり軽い感じのセカンドだったような…。ただ、セカンドらしさはありました。 2012.9.8 リッシーハット茶園 生産年:2010年 等級:DJ197 SFTGFOP1-WIRY-MUSK 販売店:くもりぞら(http //www.rakuten.co.jp/kumorizora/) 売り切れなので、販売ページへのリンクはありません。 あんまりセカンドっぽくないかなぁ。ちょっと、ファーストっぽい感じがします。 渋みや苦みはほとんどありません。 でも、あとからちょっとだけ、口の中にさわやかな渋みが残るような感じがします。 2011.6.25 ジュンパナ茶園 生産年:2010年 等級:EX-55 FTGFOP1 販売店:くもりぞら(http //www.rakuten.co.jp/kumorizora/) 売り切れなので、販売ページへのリンクはありません。 渋みも苦みもなく、セカンドにしてはちょっと軽い感じ。 まぁ、その分お気軽に飲めます(^_^;)。 2011.10.16 シーヨック茶園 生産年:2013年 等級:FTGFOP1 DJ-99 販売店:リンアン(http //liyn-an.jp/index.html) 〈ダージリン〉シーヨック茶園 2013 2nd DJ-99 リンアンの店舗に行ったときに飲んで、 ものすごくおいしかったので茶葉を買って帰って、 自宅でも淹れて飲んでみました。 自宅でもおいしくいただいたのですが、 リンアンで飲んだのとなんか違う! もちろん、リンアンで飲んだ方がおいしかった! 何が違うんだろ〜? 茶葉は同じなのにな〜〜〜(^_^;)。 ちなみに、セカンドなのに渋みはほとんどなく、 非常にクリアーでちょっとファーストっぽい感じです。 2014.1.29
https://w.atwiki.jp/orealn/pages/125.html
チ・チャンウクの公式ファンクラブが「怪しいパートナー」スタッフのために、コーヒー&紅茶を提供した。 SBS水木ドラマ「怪しいパートナー DVD 」(脚本:クォン・ギヨン、演出パク・ソンホ) 側は5日、「5月末、一山の撮影現場にチ・チャンウクの公式ファンクラブ(DAY ROCK) がコーヒーと紅茶、チュロスを出演者とスタッフのためにスリッパを持ってサプライズ訪問した」と述べた。 チ・チャンウクのファンが提供したコーヒーと紅茶には「あ、これおいしさが通り過ぎた!」「弁護は適性ではない番人 DVD 。当たっても撃つことに適しているジウクががいたします」というセンスあふれるフレーズが書かれており、スタッフ全員が楽しんだいうエピソードだ。 今回が2度目の訪問であるファンクラブは、いつのまにかスタッフらと気兼ねない関係になっているが、さらに7月初めには再びサプライズ訪問を予定している。キャリーバッグいっぱいの恋 DVD 「怪しいパートナー」関係者は「本当に多くのファンの方々が、このようにコーヒー紅茶をで応援をいただき、さらに力が出る」とし「この心強いサポートに支えられ、良いドラマを作っていくので引き続き期待いただきたい」と感謝した。シグナル DVD 「怪しいパートナー」は、毎週水、木曜日の午後10時に放送中。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3086.html
「不思議探索スペシャル、夏の不思議大操作は終了よ!」 「ふぁ~・・・暑いから物凄い疲れたぜ」 「谷口はナンパしかしてないよ」 「あ~めがっさ面白かったにょろ~」 「そう・・・」 「さて、では帰りましょうかね」 「そうですね」 「ルソー、おいでなのね」 「由良達は帰り道解るか?」 「うん」 「ここら辺はよく来てたから」 「今日は楽しかったよ。皆さん、またね~」 二人きりと匂うは紅茶 第二話「夏のアイスのように」 「キョンくん、家に寄りませんか?」 夏休み中。 いつものメンバーに谷口やら阪中やらを加えて大人数となったSOS団の夏の不思議大捜査の終わった後。 夕暮れの帰り道で俺は朝比奈さんに誘われた。 「え?」 珍しい。いつもは俺の家でお茶などをするのに。 そんなわけで驚いて声を上げてしまった。 「あ、ハーゲンダッツのバニラを大量に鶴屋さんに頂いたんですよ。それを一緒に食べようと思って」 俺の反応に気付いて説明して下さったおかげで納得した。 「あぁ、なるほど。喜んでよらせてもらいます」 まぁ、マイ・スウィート・エンジェルに対して断る事なんて出来ませんがね。 ・・・でもなんで大量のバニラ? バニラ限定? ん~どうしてだ。わっけわかめだな~・・・。 おっと、わかめと言っても生徒会の人じゃないぞ? ・・・・・・。 「はい、どうぞ」 朝比奈さんは冷凍庫からカップアイスを取り出す。いつ見ても小さいな、ハーゲンダッツ。 「ありがとうございます」 「いえいえ、うふふっ」 「いただきます」 「まだまだありますからね」 朝比奈さんと向かい合って食べるバニラアイスは格別である。 夏という季節であるのも格別である理由だと俺は思うね。 この冷たさが夏には良い。麦茶は氷入れても限界があるし、カキ氷では冷たくなり過ぎる。 「やっぱり夏のアイスは美味しいですね」 俺はそう言って高級アイスのバニラを味わった。 「夏に限らず冬も美味しいですよ?」 ふと朝比奈さんがそう言った。少し冗談かと思ったね。 冬にアイス? 「冬は寒くないですか?」 「いえいえ、美味しいから良いんですよ」 そういう問題なんでしょうか。 「食べたら凍死しますよ」 冗談交じりの口調は俺はそう言った。半分本気だけどな。 「むぅ・・・そういう事いう人嫌いです」 そう言って、ややむすっとした可愛い膨れっ面でぷいっと向こうを向いてしまった。 「ごめんなさい、冗談です。そうですね、冬も美味しいかもしれませんね」 そう言うとすぐに俺の大好きな笑顔をにぱ~☆と浮かべて、 「というわけでキョンくん、冬も一緒に食べましょうね」 と言ってきた。うん、断る理由はない。 「そうですね」 まぁ、貴女が一緒なら寒い冬も暖かそうですしね。 「と、言うよりもずっとこの先一緒にアイス食べましょうね」 「えぇ」 「約束ですよ? ずっと一緒ですよ?」 そう言って細い小指を突き出してくる。だから俺はそこに自分の小指を絡ませる。 「勿論です。離れろと言っても離れませんから」 さっきまでアイスを持っていたせいで冷えているらしく小指に伝わるのは冷たさ。 だけど朝比奈さんのぬくもりがその奥から届いている。 だから心が温かくなる。 「指切り拳万嘘吐いたら・・・どうします、キョンくん?」 「そうですねぇ・・・じゃあ、お詫びのキスで」 「約束破りたくなっちゃいますね」 朝比奈さんはそう言って笑った。 「駄目ですよ、破ったら」 「解ってますよ」 俺達はそこで笑いあう。 「あ、そうだ。キョンくん、目を瞑って下さいませんか?」 「え? あぁ」 俺はそっと目を閉じた。何だろう。何だろう。ワクワクがとまらないぜ。 マイ・スウィート・エンジェルは何をするつも・・・ん? 何だろう。口の中が本当にスウィート・・・バニラアイスの味・・・と、何か、蠢くものが・・・。 キュピーン! 頭にそれがひらめいた。 これはまさか・・・!! 俺は目を開けて状態を確認する。 「ん・・・ふぅ・・・」 朝比奈さんが俺にバニラアイスを口移ししていたのだ。 蠢いていたのは正真正銘朝比奈さんの舌。 「あ、朝比奈さん?」 「ば、バレンタインデーのお返しです・・・丁度良い機会と思って・・・えっと・・・」 とても甘いキスが味わえました。 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに朝比奈さんは言った。 全く。俺も顔があっちっちだ。 しかし・・・どうしてこんな事をしたんだろうか。やるような人じゃないのに。 俺がそう悩んでいると、 「ねぇ、キョンくん・・・」 ふと顔を伏せて名前を呟いてきた。 「どうしましたか?」 「・・・ずっと一緒だよね? 約束だよね?」 そう言って朝比奈さんは顔を上げた。 その顔は不安に満ちていた。何かにひたすら怯えていた。 「朝比奈さん?」 心配になって大好きな人の名前を呼ぶ。 「私は、いつか未来に帰ってしまうけど・・・それでもずっと一緒に居られる?」 声が震えている。 そういう事か。俺は理解すると同時に簡単に約束などと言った自分を恥じた。 「私、私・・・キョンくんが大好きです。だから・・・だから、辛い・・・・・」 「・・・・・・」 「離れたくないよぉ・・・キョンくん・・・ぐすっ・・・うぇ~ん・・・」 「・・・大丈夫ですよ」 俺は肩を震わせてなく朝比奈さんをそっと抱きしめた。 胸の感触が凄い。まぁ、それはどうでも良い。 この華奢な体には大変な責任がある。未来から来たこの女の子には。 「キョンくん?」 潤んだ瞳で俺を見つめるその顔に、泣き顔は確かに可愛いですが似合いません。 「ずっと一緒です。俺はずっと一緒と約束した以上は、死んでも離れるつもりはありません」 「・・・!」 頭を撫でると指に髪が絡んでさらりと抜けていく。だけど、 「だから、朝比奈さんも、俺から死んでも離れないで下さい」 貴女だけは抜けないように抱き締めている腕は強く強くその体を抱き締めていた。 「ぐすっ・・・はい」 「俺のアリス、貴女が望むなら俺はそれを叶えます。だから断言します。ずっと一緒だと。信じてください」 「ありがとう・・・キョンくん・・・・・うん、私信じますよ!」 お礼なんていらないですよ。 俺は貴女のその笑顔が見れるなら何だって出来るのですから。 それだけ愛しい人なんですから。
https://w.atwiki.jp/pityu_sim/pages/156.html
旅程表 序幕(第零話):ジャスリーさまの旅支度(べいろす) ↓(ジャスリーさま、単身鉄道でせらふぃーへ) 第一話:せらふぃーで集合、アイスクリームでも食べて出発(すたーげいざー) ↓(マーテル河下り) 第二話:くらるべるんで昼食にパスタでも(べいろす) ↓(鉄道、たぶんクロノクリア急行) 第三話:ぐりゅっくで夕食は高級レストラン、旧アレスレーヴァを見に行くもよし(すたーげいざー) ↓(地中海を船で東へ) 第四話:ロスマリン(フォールン領)でお茶(べいろす) ↓(地中海東岸を飛行船で南下) 第五話:合衆国上空で飛行船と東方入り、二人の旅はこれからだ!(すたーげいざー) ↓(大陸横断鉄道で東へ) 第六話:スターテンでお買い物(べいろす) ↓(ヨーグ海南下) 第七話前編:塔王国、ガトーに到着。ケトルポリット塔でアンゼの本さがし(すたーげいざー) 第七話中編:茶塔を訪れ茶畑見学、百茶で紅茶ついでに緑茶とかも楽しむ(べいろす) 第七話後編:ツトラウスト塔でお茶片手に天体観測(すたーげいざー) ↓(ヨーグ海を東へ) 第八話:ロフィルナでたまにはSushiもいいよね!…食あたりすると悪いからNG?(べいろす) ↓(ヨーグ海を東へ) 第九話:極東島でプランテーションティー(すたーげいざー) ↓(ナアド海をひたすら東へ) 第十話:イーゼンで結婚を祝う(べいろす) ↓(夢の中へ) 番外編:アン・ディー・フロイデの悲劇(すたーげいざー) ↓(夢から覚めて) 第十一話:リムジアで服をとっかえひっかえ(べいろす) ↓(北極海を東へ) 第十ニ話:エラキスで柑橘類を食す(すたーげいざー) ↓(アンゼの操る飛行艇で大空を翔る) 第十三話:レッチェルドルフで切手購入(べいろす) ↓(飛行) 第十四話:くらるべるんに帰還、実は一日余裕があることに気付く(すたーげいざー) ↓(飛行) 第十五話:せらふぃーで天体観測でもして終了(べいろす) ↓(たぶんクロノクリア急行) 終幕(第十六話):じゃすりーさまの厄災封じ行事(ここから先はべろたんのご随意に) 第零話・プロローグ(ジャスリーさま視点) クラルヴェルン帝国の皇帝ジャスリー・クラルヴェルンは不老にして不死の王であり、夢魔と帝国二億五千万の民を統括する、惑星ルヴァース有数の重要人物である。 しかしながら彼女は全知でも全能でも無かったし、ロボットでも聖人君子でも無かったから、海外旅行に行きたいという欲求は常に持っていた。 彼女のゆるやかな統治の下で、帝国の人間たちは知識と資本を蓄積し、産業革命を引き起こした。それによる蒸気船の出現や鉄道の発達は、世界一周旅行の現実味を徐々に増していった。 ティー・ロード条約の成立後、彼女はひとつのプランを友人に持ちかけた。地中海からティー・ロードを通り、各国のお茶を楽しみながら極東島やクルドンを経由して帰還するという世界一周旅行。 初めは渋っていた友人も、ジャスリーさまの再三の「お願い」により最後には了承した。とはいえ、ジャスリーさまとその友人との関係はいつもそういったもので、半ば様式美となりつつある。 ともかく夢遊宮にて世界旅行の準備が進められた。ジャスリーさまは護衛を引き連れて旅行することを好まなかったし、秘境探検しにいくわけでもなかったから、トランク一杯に着替えを用意して、ティー・ロード共通の小切手帳や、最低限の保存食と医薬品のみを持つだけの軽装となった。 旅券は帝国の一般市民と同じ形式のものをわざわざ用意した。訪れる予定の国々の大使館にはすでに伝えてあるから、予期せぬトラブルの際は助けになるだろう。 「留守をよろしくね。ペトロシアン。それにテリブル」 「お任せ下さい」 「行ってらっしゃいませ。お気を付けて」 セラフィナイト行きの電車のホームにて、列車窓から見送りに手を振りながら声を掛けるジャスリーさま。 宰相ペトロシアンは無表情に、テリブルドリームは心配そうな顔で見送る。テリブルはいつも何かに心配しているような悲観的な子だが、今回ばかりはテリブルを責められまい。仮にジャスリーさまの身に何かあれば帝国の存続にすら関わる。 だが帝国政府の閣僚たちも夢魔たちも、皇帝の旅行を止めることはしなかった。ジャスリーさまが旅行について語るのは数百年も前からのことだったし、嬉しそうに語る皇帝を前にしては誰も何も言えなかった。 産業革命の恩恵。石炭を燃やし湯を沸かし、その蒸気の力で車輪を回す陸蒸気が警笛を鳴らす。独特の駆動音を伴ってセラフィナイトに向かって走り出した。 ジャスリーさまはゆったりとした一等車両の席から窓外の風景を眺める。メッサーナ市街を抜けると田園風景が広がっていく。 これから待ち受ける楽しみと、おそらくは不可避であろう困難を思い浮かべながら、ジャスリーさまは最初の楽しみである友人との再会を思い描き、目を閉じた。 「待っててね、アンゼロット。今捕まえにいくから」 第一話・プロローグ(アンゼロット視点)&セラフィナイト編前編 本気ですか。 ある時、旧友―こう呼べる間柄になるまでにも紆余曲折があったがあまりにも長いのでここでは触れない―が手紙の中で世界一周旅行を提案してきたときの率直な感想だった。 この感想を抱いたアンゼロット記念大学学長の名を、“幻月の学徒”アンゼロット。 そして、初代クラルヴェルン皇帝にしてそんな旧友の名を、“夢魔姫”ジャスリー・エルツ・クラルヴェルンという。 さて、アンゼロットはそんな感想を抱いたので、返事の手紙にはそのままを記して返すことにした。 なにしろ彼女は2億5千万の上に君臨する大皇帝なのだ。その身に万一のことがあってはたまったものではないだろう。 もし旅行するとなれば、帝国の宮廷部も旅先の政府も冗談ではなく胃に穴が空くし、当時はコタン戦役の混乱でそんな場合ではなかったのだ。 しかしながら、彼女は本気だった。 いつの間にか手紙の内容は行くか行かないかからどこに行きたいかに取って代わられ、具体的な旅程の計画に取って代わられた。 そして、不思議な事にアンゼロットの書棚にはそのために必要な地図、時刻表などの資料は全て揃っていた。 …紅茶探訪世界一周。今まで明確に考えたことはなかったが、無意識的な願望にそんなものがあったのかもしれない。 出発日はルヴァ歴31年7月14日。旧友には10月1日、つまり80日後に行事があるので、予定は80日間のうちに詰め込んでいる。 平穏な時の続くことの少ないこの世界が、コタン戦役の終わりのあとの微睡に身を委ねている今のうちに。 さて、そんなアンゼロットは、今、その直前の朝はアルティチュード郊外の山にある大学付属の観測所でお茶を飲んでいる。ちょっとした研究がお茶請けだ。 この場所は風が清々しくて気分がよく、たまに来てはお茶を飲む。旅先でいろんな風を浴びる前に、この国の風を感じるのも悪くない。 ちなみに、旅行に必要な物資などは既に鞄に詰め終えており、着ている白衣は旅先では必要のないもの。 朝食は近くのベーカリーで買ってきたパンで軽めに済ませることにした。腹持ちがよくないが、むしろそのほうが都合がいい。 昼食は彼女の国で彼女の薦める料理店で、の予定となっている。東方にはおかわりは皿に少し残した状態で、が礼儀の国があるらしいが、ここは西方だ。 なにより…彼女の前で彼女の薦める料理を残し次に向かおうということが彼女に何を感じさせるか、と。 そんなことを考えるアンゼロットの傍らのテーブルではストレートで砂糖のないカーニャムのFTGFOPが馥郁たる香りを添えている。 いつもは研究の際には頭に糖分を、というわけで紅茶に砂糖を入れることにしているのだが、今は前述の理由で血糖値は抑え目にしておこう。 さて、紅茶を飲みながらのんびり研究をしていたのだが、突如後ろから声がかかる。 「マスター。お客様です」 アンゼロットはその声に一瞬口にした紅茶を吹き出しかけたが、踏みとどまりこう返す。 「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずですけど」 「私はこの記念大学の教授ですよ?問題ありません」 その声に振り返り、声色から想像していた通りの人物と対面する。 「ミリティアは教育学部ですので理学部のここでは部外者です。そんなことより声真似するならもっと似せてくださいよ」 「よその事情はよくわからないわ。声は幻術使っていいならいくらでも似せられるけど」 「幻術と星術で勝負しますか?二度と戦うのはごめんですが。しかし早いというか、早すぎませんか?二時間後にリーゼロッテ港で待ち合わせの予定ですけど」 「何てったって楽しみでね。そんなことよりアンゼの白衣姿って新鮮ね」 「…着替えてきますよ。こんなに早く、まさかこっちまで来るとは思いませんでしたからね」 「さて。まずは世界一周の出発点にして経線の基準点、セラフィナイトです。朝食は…あれ、まだですか?」 「船内で食べてきたけど、朝早かったから間食も悪くないわ」 「間食ですか。何かセラフィナイトといえばアイス、という印象があるんですよねえ。まあとにかく紅茶とアイスの用意があります。ミリティー、用意を」 最後の呼びかけはどう考えてもここにいない人物へのものだったが、後ろからそのミリティアがティーセットを持って現れる。 「なるほど…こういう仕掛けで声真似がばれたわけね」 「あの声だと最初からわかりますよ。さて、今日の間食はアイスです。世間ではフロスティヴンのものが有名ですが、まあこれも味は保障します」 こっそりアンゼロットの皿のアイスが少な目なのは内緒だ。これはミリティアの気配り。 「お茶請けに純連盟産の小麦粉と牛乳と砂糖だけを使っているクッキーが良いって聞きましたけど」 「あれは保存が利くので帰ってきたときにお土産として渡しますよ。あとリーゼロッテの知り合いの職人が天文腕時計作成最短記録に挑むとか言ってましたから戻ってきたときにできていればそれもお土産です」 「さて、今日の旅程はどうなっているの?」 「まずはクラルヴェルンへ参りましょう。昼食はそこでパスタでしょう?あなたがどれほどのものを出してくるか、期待していますよ?」 第二話・クラルヴェルン編前編 旅行者二人を乗せた小型船が、昨年完成したばかりのマーテル運河を下る。この運河は内陸国たるセラフィナイトとの交易の促進と、レッチェルドルフとの接続のために建設されたものだ。 帝国の大地を貫く運河には、平和な田園風景と緑の木々が並ぶ。牛や馬が水を飲み、小鳥が歌い、日陰では釣り人が糸を垂らしている。はるか遠くのアディリクでは鋼鉄の機械が人間を挽きつぶし、人々は狂気と絶望の中を彷徨っているというのに。 「貴方の統治は悪くはありませんよ」 アンゼロットは自分の膝を枕にして微睡むジャスリーの髪を撫でながらそういう。 「そう? ……ウィルバーの時と一緒よ。私はただそこにいて、微笑むだけ」 夢魔姫が幻月の学徒の指を絡める。 「そういえば、アンゼの研究は進んでいるの?」 「ええ、少しずつ。ミュリエルもいますし。そういえば彼女とは面識がありませんでしたね」 「星の天使でしょう? 嫉妬しちゃうわ」 「大丈夫ですよ。貴方が心配することはありません」 「こんな風に膝枕したりしない?」 「しません。そもそもしたいと言うのは貴方くらいのものです」 「そう、安心したわ」 ふふふ。と夢魔姫が笑う。 「何が可笑しいのです?」 「あの千年は幸せだったと思って」 「今は?」 「もっと幸せ」 クラルヴェルン帝国、とりわけ地中海沿岸のボロネーゼ人の気質は、食べて寝て歌って恋すること。 陽気で美味しいものを食べ、長い昼食の後に昼寝をしてほどほどに働き、人生を楽しむこと。 「貴方みたいですね」と苦笑するアンゼロットに、ジャスリーは「ええ」とにこやかに返す。 港湾都市フェーティムのレストラン「アルゾーニ・クラルヴェルン」は、そんなボロネーゼの魂をよく理解していると夢魔姫はいう。 店内は二層になっており、上層ではガラス越しに地中海の風景を見ながら料理を楽しむことができ、下層では専用の竈でピッツァが焼かれるのをみることができる。 上層席に案内された二人が注文したコースは、地中海のパルシェン貝を使ったヴォンゴレスパゲッティと、熱々のコーンポタージュ。そして八分の一に切られ、様々な魚介類の載ったラウンドピッツァ。 アンゼロットの抱いていたささやかな心配は最初の数口で取り除かれた。 「ふむ。悪くないですね。……大変よろしい」 「良かった。心配だったの。厳しいアンゼのお眼鏡に叶うかなって」 「美食評論家ではないのですから、そんなに厳しくありませんよ」 ただこう、貴方のパスタへの偏愛はちょっと理解しかねますけど。とは言わないでおいた。 第三話・ヴォールグリュック編 ヴォールグリュック南部、ナウムヴァルデ侯爵領。そこは、世界有数の食文化地域である。 ある作家に「神に愛された」とまで言わしめたこの地域は、農産物・畜産物・水産物の全てが揃う、東フォルストレアの美食の聖地といっても過言ではない地域だろう。 さて、料理というのは旅の楽しみ中でも最も重要なものの一つ。 世界一周の旅の計画を立てる際、最初の午餐をヴォールグリュックでということは最初から決まっていた。最初のうちからそうそう重いものを食するのもどうかとはいえるが、ヴォールグリュックから次の目的地フォールン・エンパイア領ロスマリンまでは船で二日かかる。その間の食事はそれほど重いものにならないだろうから、問題はないだろう。 【紅茶探訪八十日間世界一周 Third Country ヴォールグリュック編】 そんなわけで、クラルヴェルンからヴォールグリュックまでを列車に揺られてきた二人の少女はハイゼルベッカー湖畔駅に降り立つ。 この駅は暴食王の私城と呼ばれるヴォールグリュック有数のレストランの最寄駅で、検討を重ねた結果ここが初日の午餐とするに相応しいだろうということになった。 「ようこそいらっしゃいました。ご予約のジャスリー・クラルヴェルン様、それにアンゼロット様ですね、お待ちしておりました。お席は最上階の展望席にご用意してございます」 一般客として予約は入れているため、入って名前を告げるとこう迎えられる。 しかしながら、ジャスリーさまは「ジャスリーさまを目にした者は、視界から出てから数時間経つまで、彼女がクラルヴェルン皇帝だと気付けない」という幻術を使っているため、周囲の客がざわついたりすることはない。 ちなみに、この幻術は別に暗殺の危機を回避するためなどといった政治的な理由ではなく、二人水入らずなのを邪魔されたくないという実に私的な理由のためなのだが、アンゼロットは幻術がかかっていることは気付いていてもその本当の理由には気づいていない。 …さらにちなみにを付け加えるならば、実のところ、クラルヴェルン帝国宮廷部は事前に店に「うちの皇帝がばればれな恰好で行くけど、気付かないふりをしておいてください」と連絡しているので、店員はみんな最初から気付いている。まあ、結局宮廷部の取り越し苦労で、必要のないことだったのだが。 そんな裏話はともかく席に着く。 さて、最初の料理はパン。最初の、というのは配膳の順番上の話で、料理と一緒に食するものだが、まずは味見である。 「平凡ですね」 「自信があるか、あるいは食文化の根本はパンにある、という宣言かしら」 「そうかもしれませんね。焼き立て、基本ですが確かにおいしいです」 前菜はマスの燻製。 「マスなら、セラフィナイトでも獲れるんじゃない?」 「確かにリーゼロッテあたりの店では燻製売ってますけど、やっぱり正直に言ってグリュック人のほうが魚の使い方は手馴れてますね」 次にツヴィーベルズッペ。 「オニオンスープ、ですね。セラフィナイトではチーズがかかっていることが多いんですが、私はない方が好きです」 「セラフィナイトではチーズがかかっているの?食べたことないわ」 「あれ、200年ほど前に作りに行きませんでしたっけ?」 「今でもメニューは覚えているけど、なかった気がするわね」 「じゃあ、帰りのセラフィナイトの晩餐にしましょう」 副菜、スズキの香味焼き。 「そもそも香味焼きって何なの?」 「え、…風味際立つように焼いたら香味焼きじゃないんですか?」 ちなみに、香味野菜を使って料理に香りとまろやかさを出すと香味焼きという話もあるが、香味野菜入れても香味焼きとは言わないこともある気がする。何なんだろう。わけがわからないよ。 主菜、ナウムヴァルデ・ツェンデンオクセ(牛ステーキ ナウムヴァルデ風の白いソースを添えて)。 ちなみに、焼き方はアンゼロットはレア、ジャスリーさまはウェルダンを指定した。 「きましたね、看板料理。…アンゼ、断面を見てどうしたんです?」 「いえ。…中央部が生でありながら火は通っている。…結構なことです」 「アンゼは美食評論家じゃないんじゃなかったの?」 「いえ、まあそうなんですけどね」 冷菓、イチゴ・ヨハニスベーレン(季節のシャーベット)。 「季節的には、確かにそろそろ冷たいものが食べたくなってくる時季ですね」 「アンゼが汗をかいている姿なんてみたことないけど」 「冷涼な国出身の人間のほうが、低温でも汗をかくっていいますけどね」 副菜その二、鴨のフォレストル風蒸し焼き。 さらに、貴腐ワイン「暴食王の遺産」も出てくる。相当甘い。 「…かなり甘いですね、このワイン」 「200年前の時にアンゼが持ってきたワインもこれぐらい甘くなかった?」 「ああ、アイスヴァインですね。糖度はともかく、貴腐香はあれにはありませんよ?」 「ところでフォレストル風って何なんでしょう…?」 「でも、東方にはちょっと似合わないわ」 ちなみに、二人ともフォレストルをフォルストレアのことだと思っているらしいが、実のところヴォールグリュック南部諸邦の一地域である。 そんなことより最後に、サラダ、イチゴ・ベリー類の盛り合わせ、そして食後のコーヒー。 「これで締めのようですね。まあ、山海の幸が混ざった…こういうのはヴォールグリュックに特有ですよね。良いものです。今回の旅、コーヒーを飲むのはたぶんこれで最初で最後。少しくらい、いいものです」 「エスレーヴァでももう一杯ぐらいいいんじゃない?ドミニオ・ノーヴァスはコーヒー派って聞いたわ」 「あなたが望むなら、別にいいんですけどね」 第四話・ロスマリン編 ロスマリン。 地中海西部に浮かぶ大小五つの島で構成される島々。 地中海の交易の要所に存在するこの島々は、長い歴史の中で主を転々と変え、サーペイディアの手に渡り、今は魔王国の直轄領として栄えている。 ヴォールグリュックのツァオバーヴート港から、蒸気客船に乗って数日の海路。 入港した蒸気船にタラップがかかり、乗客がぞろぞろと降りてゆく。旅行者二人は他の乗客が降りきったあとに悠々と歩き、今まさにロスマリンの地に足を踏み入れた。 【紅茶探訪八十日間世界一周 4th Country ロスマリン編】 「ここはもうエスレーヴァですよ」 「ええ、そうね……」 ジャスリーさまは感慨深く青い海と青い空、眩しい太陽、そしてロスマリン・ネレイドの建築物を見やる。 「異国に来たのね」 「ええ」 人間に混じって当然のように街を闊歩するオークやオーガーなどの亜人たち、そして海人類たち。 帝国では考えられない光景を前にして、ジャスリーさまは自分自身が夢魔という亜人であることを棚に上げながら、これでよく秩序が保てるわねと関心する。 「彼らにとってはこれが普通なのでしょう。もともと人類が外見で判断しすぎるのかもしれません。ケトルポリットはさらに凄いですよ」 「私ね、サーペイディアには少し責任を感じているの」 「魔王ドロレスですか?」 「ええ、フォールンが彼を目覚めさせなければ、この国は別の歴史を歩んできたと思うの。あの子はちょっと羽目を外しすぎるところがあるし」 「気にすることはありません。サーペイディアは他種族・他国家が乱立する紛争の絶えない地域でした。彼がいなければ統一もされず、豊かな国にもなれなかったでしょう」 「そうね……」 ジャスリーさまは魔王について悪感情を抱いてはおらず、むしろ好感を持っていたし、舞踏会では踊りを楽しんだりもした。 ただ、この国で行われている美女狩りという闇については、同じ女として複雑な気分にならざるを得なかった。 心地よい潮風にあたりながら、二人はガイドブックを片手に海底都市へと向かう。 海底にドーム状の巨大な泡が存在し、その中に地上の生物が生存できる環境と、都市が存在する。泡は水圧に押しつぶされることもなく、海人類の遙か昔よりの技術によって維持されている。 空の変わりに海が、雲の代わりに魚の群れが存在するというその光景にジャスリーさまはしきりに感嘆しながら、目的のホテルを探して都市を散策した。 かつてのロスマリン王侯の宮殿を改装したこのホテルは、美術館も付属しており、それ自体が観光名所を兼ねている。オーナーはペルスネージュ辺境伯。 少女達はホテルに迎えられると、白亜の壁に赤絨毯、クリスタルのシャンデリアの通路を経て、豪奢な客室に案内された。 「いい部屋ね。ありがとう。すこし歩いて疲れたから、ロスマリンのお茶を入れてきてくださらない? お茶請けは適当でいいわ」 「畏まりました。ご主人様」 夢魔姫はスウィートロリータのメイド服に身を包んだエステルメイドにルームサービスを指示する。メイドが小悪魔のように可愛らしく一礼して退出した後、苦笑してこう評した。 「うーん。あれはもう、別物ね」 「確かに。リリスに無理矢理メイド服を着せるとああなりそうです」 本場で飲むロスマリンティーは、帝国で手に入るものよりも透明で、香り高いものだった。 「……ふむ。香りも風味も甘いですね。私は滅多に飲みませんが」 「そうなの? 夢遊宮では 砂糖要らず といってよく飲んでいるけど」 「夢魔は甘党ですからね。まあ糖分の取りすぎは良くないですから、シュガーレスとしては最適かもしれません」 そういいながら、アンゼはお茶請けに出された小さなケーキを、これまた小さなフォークで切って口に運ぶ。 「今日はここで一泊するとして、明日はどうしたのかしら」 「海底の次は空の上です。この季節では南西からの風を利用しての飛行船が、船よりも一日早く合衆国にいけますから」 第五話・ドミニオ・ノーヴァス編 アンゼロット記念大学の附置研究所には、航空科学研究センターというものがある。 そこではまだようやく実用化したばかりの飛行機、飛行船に関する科学技術が研究されている。 さて、その記念大学の長として幻月の学徒アンゼロットは旅路のどこかで飛行船に乗ろうと考えていた。 セラフィナイト、クラルヴェルン、ヴォールグリュック、フォールン・エンパイア。 これら諸国は、どれも列強に名を連ねる工業国で、そしてどれも近接している。そのためにどの国を結ぶルートでも飛行船の利用はできる。 しかし、問題は、どれにしても運賃が高く、その飛行船の給仕の月収の数十倍という、とんでもないことになっているということだ。 故に、卓越風に乗って時間を短縮でき、乗っている時間の分だけ値段も安いフォールン→合衆国便を利用するのが一番手頃というわけだ。 【紅茶探訪八十日間世界一周 Fifth Country ドミニオ・ノーヴァス編】 飛行船での旅というのはあまり揺れることもなく、グランドピアノまである充実した設備と、至れり尽くせりだ。 …まあ、それでも運賃を考えると、これぐらいあっても当然、といえなくもない。 載せられる人数が少ないのと、まだまだ飛行技術が未発達なために超富裕層相手の商売でしか成り立たないのだろう。 そんな状態なので乗客は皆正装で着飾った者ばかりだが、彼女たち旅行者二人はその中でも遜色がない。 まあ、この二人が超大国の皇帝と世界トップクラスの大学の長であると気付けるような、魔法抵抗の高い者はそういないのだが。 果てしない雲海を切り裂いて、飛行船は緩やかに高度を落とす。 雲海を構成する層積雲の隙間からは薄明光線…いわゆる天使の梯子が降り立っている。 そんな幾重の層をなす雲を潜り抜けたその先に、高高度からではわからなかった新天地の景色がはっきりしてくる。 「このあたりの地域は世界有数のフィードロット式の大牧場地帯らしいですね。壮観です」 「ロスマリンとは違ってやっぱり乾燥しているのね」 「連盟の牧畜業は酪農主体ですから、こうはいきませんね。バーベキューでもします?」 「大陸横断鉄道の車内弁当にステーキ弁当があるって聞いたわ」 「ステーキ弁当ですか。まあ、確かにここでの食事は正確な予定を決めていませんでしたから、それも悪くないですね」 地上がさらに近づく。まもなく着陸だ。ここから先は夢魔文化圏の外。 …たぶん、多くの苦労と、それを超えるだけの発見があることだろう。 「ここから先はいわゆる東方。何が待っているのか楽しみですね」 「いろんなものが待っているとは思うけど、その中でどれだけのものがアンゼの表情を変えることになるかも楽しみだわ」 外伝・セラフィナイトの平凡な日常 または私は如何にして夢魔であることをやめてまで彼女の傍らの日々を望むようになったか 主の留守中。夢魔ピースフルドリームとミリティア・アロートのお茶会での会話。 「夢魔の幸せ? どうしたのよ藪から急に」 「うーん。ちょっと。気になりましたので」 「人間の幸せはいろいろ、生きる目的もいろいろ。それは夢魔であろうと天使であろうと変わらないと思うわ」 「それでも、貴方たちを見ているとなんらかの傾向があるとは思えます」 「そうね…。愛することと、愛されることかしら。愛は、絶望の中を彷徨う私達夢魔にとって、その暗闇を照らす唯一の希望の光。それは、ジャスリーさまを見ればわかるでしょう」 「でもマスターはもう千年以上に渡ってそれに答えていません。永遠に片思いのような気がします。それでも夢魔姫は幸せなのですか?」 「ええ、片思いでもいいの。二人分愛するから」 「では私は、夢魔失格でしょうか」 「いいえ。気づいていないの? あなたもアンゼロットを愛しているのよ」 第六話・スターテン・ヘネラール編 「せーんろはつづくよー どーこまーでーもー」 「のーをこえやまこーえー たーにーこえてー」 ジャスリーさまが調子外れに歌を口ずさむ。アンゼロットや相席した交易商たちは最初苦笑しつつ聞いていたが、曲目が変わると次第に夢魔の心地よい美声に恍惚と酔いしれた。 大陸横断鉄道は広大なエスレーヴァ大陸の大平原と大山脈と、幾多の峡谷を乗り越えて、無人の野に敷かれた鋼鉄のレールの上を走ってゆく。 地平線の彼方まで伸びる線路と、どこまでも続く大自然。 途中、バッファローの大きな群れが運行を阻害し一時ストップしてしまったが、少女達の乗った寝台列車「東方を征服せよ号」は数日の遅れがでたものの、無事にスターテン・ヘラネール領にまで到達した。 【紅茶探訪八十日間世界一周 6th Country スターテン・ヘラネール編】 摩天楼。 少女たちが辿り着いたリッテルダムを一言で表すとすれば、まさにその一語に尽きる。 数十階建てのビルが林立し、ビルの下にはアスファルトで覆われた道路に自動車が往来する。 交差点には赤黄青の電気式の信号機が、自動車の流れる時間と人の流れる時間を管理している。馬車などという前時代の乗り物はどこにもいない。 ラジオで漏れ聞いたコタン会議問題などを話しながら、旅行者二人は近代都市を散策する。 「うーん。やっぱり帝国は、十年くらい遅れているかも」 「メッサーナでは高層建築は制限されていると聞きましたが」 「ええ。私の我が儘だけど、昔からの景観を大切にしたいの。メッサーナには歴史的な建築物が一杯あるし。フェーティムやベリザンドでも同じような制限がかかっているわ」 「蒸気機関の排煙はいいのですか? フェーティムは煙の都などといわれていますが」 「うん。あれはいいの」 わけがわからないよ。 休日の女学生たちに混じってクレープを食べ歩きながら、名物である高級百貨店 ヴァン・サインコルフ に足を運ぶ。 一階。贈答品と東西の菓子のフロア。 「うさぎ饅頭。苺大福。草餅。ミラーミディアでしたっけ」 「住民投票の結果、鎖国したそうだけど、スターテンとは貿易してるのかしらね?」 「この国のことですから、掴んだ利権は絶対離さないでしょうね」 「帝国も見習いたいわ」 「それで、その饅頭買うんですか?」 「ええ。」 二階。高級衣服・ブティックのフロア。 「…どう?」 「似合っていますよ。良いところのお嬢様という感じで。まあ、あなたは何を着ても似合ってしまいますけどね。スターテン・ヘラネールのファッションは機能性重視というイメージがありますね」 「ふりふりは夢魔圏の特権なのかしら?」 「ああいう少女趣味は帝国と魔王国だけという気もしますね」 「そうね、ふりふりは着るのに時間が掛かるし、洗濯も大変だから」 「それで、その服買うんですか? 」 「ええ。」 三階。化粧品のフロア。 「化粧品なんて夢遊宮には一杯あるでしょうに」 「ブランドによって微妙に違うのよ。場や服装によっても変える必要があるの。私は行事とか会議に出席しないといけないし、これは必要なものなの」 「それで、その化粧品セット買うんですか? 」 「ええ。」 四階。ファッション雑貨と宝石装飾品のフロア。 「コタンのハンドバッグも必要なんですか?」 「ええ。」 五階。インテリアと趣味小物のフロア。 「高級羽毛枕の必要性は聞くまでもなさそうですね」 「ええ。」 九階。レストラン街。 「帝国に送る手続きをしておきました」 「有難うアンゼ。あんな分量になるなんて思わなくて」 「私はなんとなくそんな予感がしていましたよ」 そんな会話をしていると、煮込み茹でソーセージ、ブロッコリーやにんじんなどの茹で野菜、そしてチーズグラタンが運ばれてくる。 スターテン料理はバリエーションが少ないことで有名で、ウェイターにもクラルヴェルン料理を勧められたほど。しかし夢魔姫はにこやかに「貴方の国の一番美味しい料理をください」と注文した。 摩天楼の夜景を見ながら、少女達は日程の確認と塔王国への船の選定を話し合う。 二人の旅はつつがなく進む。距離にして三分の一に達しただろうか。 外伝2・43は線路―only our railway. 飛行船を降り大陸横断鉄道、はるかスターテン・ヘネラール行きの列車「東方を征服せよ号」に乗って進んでいたある日のこと。 車内販売のステーキ弁当を食べ終え、飲み物片手に車窓の外を眺める。 珍しく二人が飲んでいるのは缶コーヒーである。 「ここから先は国番号43、合衆国領でもスターテン・ヘネラールでもありませんね」 「実質、スターテンが管轄しているんじゃなかったの?」 「確かにそうですが、スターテンは鉄道の管理はしても領有はしていません。駅を降りれば無政府地帯ですよ」 「治安は悪いの?」 「そういうわけではありません。というより、人口希薄地帯ということなんでしょうね」 【紅茶探訪八十日間世界一周・外伝 Pre-6th Country 「43は線路」】 「…夢魔の幸せ、ねえ」 「ええ。こうやって缶入りの飲料を飲んでいると、いつも給仕をしているミリティアを思い出しましてね。彼女とそんな話をした覚えがあるんですよ」 「うーん…ミリティアはあなたのそばにいるだけで満足しているなら、それでいいんじゃない?」 「そうなんでしょうか?ミリティアは私に今でも仕えてくれていますが、彼女の目的は昇格だったはず。私に仕えてくれてももう応えることはできません」 「面倒を見てあげるといいんじゃない?昔もそういった気がするわ」 「そうでしたね…ですが、もう彼女はれっきとしたビショップです。これ以上上げることは…」 「何なら悪魔化してみる?アンゼも世代的には悪魔化の力があるはずだけど」 「ええ。ですが、それを彼女は望んでいないようですが」 「そうでしょうね。…しっかりと面倒をみてあげるといいわ」 ふと、ジャスリーさまはアンゼロットが黙考に入りかかっていることに気付く。旅先での気分ではない。気分を転換しよう。そう思い、ちょっと調子を外し気味に、列車の中で歌うにふさわしいとある歌を口ずさみはじめる。 第七話前編・ケトルポリット、ガトー・ケトルポリット塔 さて、今回の旅の一番の目的はタイトル通り紅茶探訪である。そのため、この国を外すことはありえないことだ。 ケトルポリット塔王国。なぜか某堕帝にはケトルポッドとか呼ばれているが。だいたいあってる。 さて、そんな塔王国は世界の茶園とでも言うべきお茶の産地であり、生産量でフォールン領極東島に迫られつつあるものの、品質においては他国の追随を許していない。 エスレーヴァ南東端に存在する、ティーロードの始点であり、ティーロード条約の提唱国でもある。 ちなみに、その軍事演習の異常なほどの活発さも国情としては特筆に値するが、それは今回はどうでもいいことだ。 【紅茶探訪八十日間世界一周 7th Country(1st Part) ケトルポリット編前編、ガトー・ケトルポリット塔】 さて、旅行者二人を乗せたスターテン発ケトルポリット行の船はガトーと呼ばれるギガ・フロートにたどり着く。 「前にも一度来たことはありますけど、こんなギガ・フロートはありませんでしたね」 「前に来たときはどんなだったの?」 「前は…確か、あの塔は高さがまだ32mで、あっちの塔はありませんでしたね」 目測なのにごく普通に正確な数字で高さを表現しているが、星術者ではよくあることらしい。まあ異伝の中はファンタジーなので、奇跡も魔法もあるわけだから仕方がない。ついでに言うと魔法の中にも星術とか幻術とか夢術とかの区分があるが、どう違うのかはわけのわからないことだ。 まあそもそも、この国は様々な亜人が多数存在している、というよりむしろ人類“も”いるというべきレベルの種族のサラダボウル(昔はるつぼって表現が多用されていたが)であるため、魔法がなかろうと十分ファンタジーだという気はするが。 「どの塔が今から行く塔なの?」 「さっき高さが32mといったあの塔ですよ。ちょっと探している本がありましてね」 ケトルポリット塔は現在では300m近くある。いったい何年前に訪れたんだろうといいたいところだが、年齢四桁の彼女たちにとってはよくあることなので、ジャスリーさまも気にしている様子はない。 書店に向かい、本を探す。この国には商書法という法律があるため、よその国では持っているだけで捕まるような本も手に入る。別に今日はそんな本に用事はないが。 手に抱える積み重なった本の山の単位からセンチが抜けようかという頃、アンゼロットはこれだけあれば十分でしょうと言い、書霊族らしい店員に読書の邪魔して申し訳ないとか言って勘定を済ませる。 「すごい量ね。どうするの?」 「こっちに来ている星術者たちに任せますよ。一応、塔の出口まで取りに来る予定になっています。まだちょっと早すぎますが…」 「お待たせしてしまったようですね、評議長。この国の職人が作った車で迎えに上がりました」 「…フィリオリならこうなりますよね。ああ、あなたは初めてでしたか。こっちは擬天使の一人のフィリオリです」 「夢魔姫、ジャスリー・クラルヴェルン陛下ですね。初めまして。評議長がいつもお世話になっているそうで」 「初めまして。擬天使を見たのは初めてですね。…研究は進んでいるようですね」 「フィリオリ。私が評議長だったのはもうかれこれ二千年は前のことですが」 「ええ、初めまして。研究は進んでいますが、やはり先は長そうですね。それと、確かに評議長だったのは二千年前のことですが、しかしアンゼと呼ぶのはそっちの彼女だけでいいでしょう。アンゼロットさま、そっちの荷物をお預かりします。本を回収するついでに送っていきますよ。どちらまで?」 「茶塔まで、ですね」 そうして三人を乗せた自動車は走り出す。ケトルポリットの自動車は単品生産で高コストだが、無茶な改装も受け付けてくれるのが魅力だ。乗り心地は上々で、とても乗りやすい。どういう発注をしたのかは知らないが、これならうちにも一台ほしいところだ。まあ、そもそも東フォルストレアでは道路より線路が先に整備されるので、買うことはたぶんないだろうが。 第七話中編・ケトルポリット、茶塔 学長と擬天使と夢魔姫を乗せた自動車が、塔の林立する奇妙な国を行く。 塔といっても、七十メートルを超える超高層建築物であり、中に都市そのものが入っている都市塔だ。その非現実的な光景に最初驚き、次にため息をつき、最後に物思いに耽るジャスリーさまであった。 「どうしたのですか?」 「いえね。こんな高い都市塔をいくつも建てられるなんて、凄い技術だなって思うの」 「嫉妬しているのですか」 「全く感じないといえば嘘になるわ。スターテンを見たとき、もっと頑張らなくちゃとおもったけど、帝国は百年経ってもこんなアーコロジーは作れないなって思うの」 「いいえ、貴方はこの世界で最高の君主です。この国は特殊な環境と経歴からできたもので、帝国が劣っているわけはありません。気にすることはありませんよ」 「そう言って貰えると助かるわ」 【紅茶探訪八十日間世界一周 7th Country(2nd Part)ケトルポリット編中編、茶塔】 茶塔と呼ばれるその塔は、他の塔と比べてもさらに風変わりな外見と機能を有している。 フィリオリに見送られ、ドールワーグの案内人に塔の中に迎えられた二人は、大量の反射鏡と導光線で照らされ、外のように明るい各階層を見学することになった。 塔の中の空中庭園といった風情の茶農園が、視界に広がる。 金属と硝子、光と水、緑と土、風と電気が集約された、ケトルポリットの聖域。 「ここが、ティーロードの終着点なのね……」 「正確には極東島がありますが、終着点と行って差し支えないでしょうね」 「素敵なところだわ」 「ええ」 ドールワーグの案内人が、片言のクラルヴェルン語とともに指し示す。 指の先にはぽつりと置かれた白い丸テーブルと、座り心地の良さそうな緩やかなカーブを描いた二つの椅子。 「どうぞ」 「ありがとう」 アンゼが引いた椅子に、ジャスリーさまはちょこんと腰掛ける。 アンゼはドールワーグが持ってきた茶器と茶筒を受け取ると、陶磁器のポットとカップにお湯を注ぎ、暖め始める。ティーセットは帝国製だった。 「どれから始めましょうか?」 「じゃあ、リーゼ」 「解りました」 リーゼの茶筒の封が切られ、金のティースプーンを使って茶葉が入れられる。ポットにお湯が入れられ、蓋が閉められた。そのまま茶葉が開き、蒸れるのを待つ至福の数分が過ぎる。 やがて茶こしで茶がらを取り除きながら、二人分の紅茶がカップに注がれた。 「どうぞ、お姫様」 「ありがとう」 今日、ここに辿り着くまでの一ヶ月以上の道のり。二人のその労に報い、疲労を癒すように、紅茶は喉に心地よく染み渡っていく。 「うん。美味しい」 「よいことです」 「世界で一番美味しい紅茶って、なんだか知ってる?」 「知っていますよ。好きな人が自分のために入れてくれる紅茶でしょう」 「ええ。だから、次は私が淹れるわ。どれが良いかしら?」 「ルーエンにしましょうか。正統派らしくミルクも入れて」 第七話後編・ケトルポリット、ツトラウスト塔 瞬く星。静かで清冽な空気。静かに闇に染まった遥か眼下の光景。 ケトルポリット塔王国のツトラウストという塔は、ただでさえツトラウスト山の山腹に位置しているにも関わらず塔王国で最も高い400mという高さを誇っている。 その塔の最上部には天文台がある。そこでは現在大型化のための改修が行われているが、その最上部への立ち入りは特に問題がないらしい。 連盟が関与したためか、なぜか屋上にはティーハウスがある。晴れていれば地上の景色も絶景だろうが、夜になっては地上の様子はうかがい知ることはできない。 まあ、それは光害が少ないという、天文台を立てるに相応しい条件ともなるのだが。 【紅茶探訪八十日間世界一周 7th Country(3rd Part) ケトルポリット編後編、ツトラウスト塔】 茶塔では紅茶は浴びるほど、あるいは飽きるほど飲んだが、あれは正統なアフタヌーンティーの作法には沿い、ついでにテイスティングも兼ねたもので、疲れをとるには不十分。夜のこの時間、ゆったりとリラックスしてアフターディナーティーとすることにした。まあ、そういう言い訳でお茶が飲みたいだけなのだが。 このティーハウスの経営者はフィリオリで、大体は適当な者に任せているらしいが、今日のこの時間帯は暇なので参加することにしたらしい。 「すぐ下の山で採れたOPにキャラメルで着香したもののミルクティーです。どうぞ。…でもアンゼロットさまとミリティーにはいつも敵わないんですよね」 「…甘ったるいですね。淹れ方の技術は…まあ、亀の甲より年の功、ですよ。あなたも長生きすれば大丈夫です」 「いまのアンゼロットさまのレベルを越えたころには二人とも年齢が五桁になるんじゃないですか?それにその理屈だとどこまでかかっても越えられません」 「まあ、ミリティーの紅茶淹れるのには私も敵わないですけどね。あれは別格です」 「…亀の甲より年の功、かあ」 「どうしました?ああ、あなたが確かにこの中で一番年長ですね」 「…そうね。でも、その分アンゼに対して優れた何かがあるかなって」 「まだダウナーな気分続けてるんですか?心配しなくてもあなたは世界一の君主だと思いますよ」 「でも昔、アンゼの大学に入ろうかって言った際、アンゼは別にそんなことしなくていいって言ってくれたじゃない。内緒で入試受けてみたら、全然わけがわからないし」 「まあなんの準備もせずに大学受験して受かったら天才ですよ。受かりたいなら…あなたが学校を出てからいつなのか、というかどこの学校を出たのか知りませんが、さすがにブランクありすぎですねえ。それに、そんなのはあなたには似合いません」 「その時もそういわれた気がするわ」 「そうでしたっけ」 「ええ」 そんな風にして、甘い香りを片手にケトルポリットの夜は更けていき、ついでに甘い香りとくつろいだ雰囲気が多少疲れを持って行った気がした。 まあ、まだ折り返し地点にたどり着いてもいないので、ここから先も疲れるようなことがたくさんあるはずだが。 第八話・ロフィルナ王国編 茶王国からロフィルナまでは蒸気船に乗って約十日の旅路。 その間、ジャスリーさまとアンゼロットは船室の中で大人しくしていなければならない。 二人にとっては些細なことだった。茶塔の市場で買い求めた大量の茶葉が、船倉の中でため込まれているのである。一銘柄につき、一缶。百を超える銘柄。百を超える茶葉の缶。 店員に勧められるまま、白茶や緑茶なども購入した。旅行中のお茶の心配は皆無だし、旅行後もしばらくはレパートリー豊富なティータイムが楽しめるだろう。 数日後のことである。 珍しい光景が船室の中で展開されていた。 ベッドの上で、アンゼロットがジャスリーさまの膝を枕にして横になっているのである。 「外洋の天気は崩れやすいとはきくけど。地中海とは大違いね」 「…そうですね」 船が揺れる。船室の調度品も音を立てて。 船室の外からは、豪雨と雷鳴がひっきりなしに聞こえてくる。 蒸気船は季節外れの嵐の中にいた。 ヨーグ海の大海原に浮かぶ小さな蒸気船は、波に翻弄される木の葉のように揺れる。 「まさか船酔いをするなんて思いもしませんでしたよ」 「ふふ。私もアンゼの弱っているところをみるのは久しぶり。可愛いわ」 「あなたの膝枕も久しぶりですね」 「私のお守りをして無理が祟ったのよ。今日は、このままお休みなさい。have a good dream」 【紅茶探訪八十日間世界一周 8th Country ロフィルナ王国編】 ロフィルナ王国は魔王国の保護下に入って随分と経過するが、政情は安定しており、独立闘争の機運も目立つほどではない。理想的な属国統治といえるだろうか。 「これは魔王国だけでなく、ロフィルナ側の政治的手腕に拠るところも大きいでしょうね」 「そうね。結局は信頼だもの。支配するものされるもの、お互いに愛がなくてはいけないわ」 「そういえば、貴方は同盟を結婚に例えていましたね。同盟は箱庭の墓場。言い得て妙ですね」 「ふふ。国家というのはね、判断力の欠如によって同盟し、忍耐力の欠如によって同盟破棄し、記憶力の欠如によって再同盟するの」 そういった政治的批評は置いておいて、旅行者二人はこの鎖国状態にあるロフィルナ王国、港湾都市トルメンタに、魔王国からの特別な計らいで入国を果たした。 事前に取り寄せていたパンフレットを頼りに、名門寿司屋に足を運ぶ。 奥の畳の座敷席に案内され、座布団に座り、名物である寿司を注文した。 彼女たちには注意しなければならないことがあった。ここロフィルナでは食事におけるマナーが大変厳しいのである。 暴食を忌むために発達したものされるが、いずれも上品さが追及され、食器の持ち方にまで作法が存在し、完食することさえもマナー違反である。 クラルヴェルンの皇帝が食事中にマナー違反で逮捕、という事態は考えたくはなかった。 「でも、クラルヴェルンの宮廷料理にもマナーはあるのでしょう」 卵の載った酢飯を、醤油をつけるかつけないか、数秒ほど判断に迷いつつ、結局つけずに食すアンゼロット。 「うーん。あるけれど、凄く寛容なの。ナイフやフォークの使う順番なんて気にしないし、手を使って食べることも許されてるわ」 ジャスリーさまはサーモンの切り身の載った料理を優雅に口に運ぶ。 「貴方に合わせて作法が作られたんじゃないですか」 「否定できないわね。でも宮廷料理なのだから、君主に合わせるのは仕方ないわ」 今度は中トロだ。アンゼロットはマグロ。 「必要があるのなら、完璧にやってみせるけれど」 「そうですね。貴方はそういう人です。フィンガーボウルの水だって飲んでしまう。あの話はAED諸国の道徳の教科書にも載っていますよ」 「覚えてるわ。あのときは、そうしなきゃいけないと思ったの。でも数十年経っても引き合いにだされるとは思わなかったわね」 「マナーはともかく。これは美味しい。ですね」 アンゼロットが美味しいという。それは海苔で巻かれた酢飯の上に、イクラの卵が置かれた料理であった。 ジャスリーさまも興味深げにイクラを食す。ぷちぷちと口の中で弾ける食感。弾けた瞬間にコクと旨み、そしてイクラ独特の甘味が広がる。そして熱い緑茶で喉を潤した後、『イクラこそがロフィルナの至宝である』という名言を残した。 第九話・極東島編 さて、満載の茶葉を消費しつつヨーグ海を東に進む二人は、次なる寄港地に降り立つ。 フォールン・エンパイア領極東島、シャスティナ・トゥール。その名の通り、はるか東にあり、セラフィナイトの裏側に位置する。 ケッペンの気候区分のひとつ(いや無名世界にケッペンはいないだろうけど)、Af…熱帯雨林気候。 これをなんと言い表すのか、私は知らない。Cでa系統なら温暖、CやDのb系統あたりなら冷涼、Dc,DdとかEなら寒冷とか言うのだが。 【紅茶探訪八十日間世界一周 9th Country 極東島編】 さて、旅行者たちは極東島シャスティナ・トゥールにたどり着いた。宿にはクラルヴェルン商館を利用することもできるだが、お忍びなので適当なホテルに泊まることにした。 荷物を部屋において、二人はのんびり散策することにする。 「極東島の名物っていったら何でしょうねえ?」 「チョコレートとかバナナとか、あと砂糖とか?」 「砂糖といえば、スイートドリームもこの島で仕入れしているんですか?」 「ええ。さっきクラルヴェルン商館の前を通り過ぎた際に見かけたけど、気付かなかったことにしたわ」 「え、気付いていたのに挨拶もしないでいいんですか?」 「まあ、忙しそうだったから」 そんなことを言い合いつつ、適当な喫茶店に入る。茶園直営とか書いているが、まあ要するに観光客向けのアピールだろう。 二人はシンシャなる白茶、極東紅種の紅茶と極東産カカオ豆・コーヒー豆のチョコ&コーヒークッキーを頼むと、話を続けた。 「スイートドリームは実業家だから。私には商売はよくわからないし」 「あなたが頼めば、たいていの人はなんでも譲ってくれそうですね。しかし白茶、でしたか?結構おいしいですね」 「二日酔いに効くらしいけど、船酔いには効くのかしら?」 「船上で塔王国産の白茶を飲んだ際には別に軽減されなかったような気がしますけどね」 「そうかもね」 いつのまにかチョコクッキーがなくなる前にコーヒークッキーがなくなっていた。どう考えてもコーヒークッキーのほうがおいしいので仕方がない。 「紅茶についてはやっぱり塔王国産のカーニャムが一番好きですね」 「そう?これも悪くないと思うけど。舌の肥えたセラフィ人は違うのかしら?」 「なあに、大体の人はこれはカーニャムのFTGFOPだっていっておけばごまかせますよ。まあ、そんなことをする人がいればSSVDに捕まるでしょうが」 第十話・イーゼンステイン王国編 世界一周。エスレーヴァからヨーグ海を越え、ナアドを北上して再びフォルストレアに至る。 ジャスリーさまとアンゼロットは長い船旅を星見とお茶と昔話とともに過ごし、フォルストレア大陸の西端、イーゼンステインに到着した。 数日前、蒸気船のラジオから、ブリュンヒルデ女王とジークフリート卿の新婚旅行出発のニュースを知ったため、お忍びということもあり、王宮には寄らない予定だった。 【紅茶探訪八十日間世界一周 10th Country イーゼンステイン王国編】 予定だったという過去形で記述したのは、二人が今王宮にいるからである。 王国海軍立港で戦乙女グリムゲルデは二人を 偶然 見つけ、客人を持て成すのは王家の義務である〜と力説したのだ。招かれては断る理由もなく、二人は王宮に。そして荷物を置くと、二人のお茶と戦乙女のイーゼン菓子でお茶会が始まる。女三人と書いて姦しいというものである。 「女の子らしくなりたい……? うーん。戦乙女らしくもないお話ですね」 「そうでしょうか?」 「そういうのにうつつを抜かすのは夢魔のお仕事ね」 「でもジャスリーさま。私だって戦乙女である前に女なのです」 むくれるグリムゲルデ。微笑むジャスリーさま。それを眺めるアンゼ。 「今の自分に不満があるというなら、イメージチェンジでもするといいかも」 「イメージチェンジ、ですか……」 「そうね、例えば……ちょっと待っていてね」 ジャスリーさまが席を立つと、アンゼロットに耳打ちする。アンゼロットは怪訝な顔をしつつも自らも立ち上がり、悪戯っぽく笑うジャスリーさまに手を引かれて部屋から出て行く。 一人残されたグリムゲルデの前に二人が戻ってきたのは十数分後のこと。 「……。凄い。可愛い」 グリムゲルデはエステルメイドの衣装を着こなしたアンゼロットに息を呑んだ。 「でしょう?」 得意げに語るジャスリーさま。 「お褒め頂き、光栄の限りです。グリムゲルデ様」 目を伏せ、優雅に一礼するアンゼ。ふりふりのエプロンドレスに、ヘッドドレスまで着用している。 少女性、儚さ、清楚さを夢魔によって引き出された、アンゼという名のお人形。 「服装を変えれば印象も変わるものよ。そして内面にすら影響を与えるの」 「はい。ジャスリーさま。とても勉強に……」 グリムゲルデの瞳に狂気が潜んでいることをジャスリーさまは気がついていたが、あえて何も言わなかった。狂っていない愛など面白くないから。 番外・アン・ディー・フロイデ編 視界が少しだけ明るくなる。 目の前には変わらぬ満月の夜空と、変わらぬ荒原。 そして、…先ほどまではいなかった、月を背にして立つ二人の少女。 その片方が何かを呟くが、意識が遠くなっていき、聞き取ることができなかった。 頭の隅にすこし疑問を感じたが、その疑問が頭を占有する前に、再び視界は闇に閉ざされる。 …こうして、またアン・ディー・フロイデの人口が一人減った。 【紅茶探訪八十日間世界一周外伝 An irrational number アン・ディー・フロイデ編】 アン・ディー・フロイデ・クロウズ。 全ての始まりにして終わりの地。ディスコードの原点。超古代文明が現代文明を遥かに凌ぐ繁栄を迎えていた地。 無数の伝承が残り、無数の呼称を有するそこは、豊富な資源の埋蔵の可能性もあるため、古来から争いが絶えなかった。 しかし現在では、体のいい演習場として、名だたる文明諸国が軍事演習を繰り返し、繰り返し、だた繰り返している。 そして、その文明国には、二人の少女の国、クラルヴェルンとセラフィナイトも含まれている。 「…これはひどいことです」 近くで多数のひどい悪夢がある。夢魔姫ジャスリー・エルツ・クラルヴェルンがそう感じたのは、イーゼンステインからリムジアへ向かう列車でのことだった。そこで、二人は今回の旅行では禁じていた、夢を介しての移動を行うことにした。 そうしてやってきたのがここ、アン・ディー・フロイデ・クロウズ。 本来なら湖の周辺ではアドミン族と呼ばれる種族が観察活動をしていて、事前に配置を知らなければ気付かれずに近づくのは簡単ではないのだが、“偶然にも”アドミン族の観察者たちからもっとも離れた湖畔にたどりついたのだ。星は運命を司るのである。 もっとも、アドミン族の感知能力はとても高いのだが、これもまた“偶然”だれも気付かない。夢魔は夢を司ることで、現実の認識も司れるのである。 そうはいっても、あまり長居をするわけにはいかないだろう。別に見つかったから何か困るわけでもないし、そうなれば打つ手はいくらでもあるが、まあ気分的な問題だ。 「弔ってあげたいところだけど、私にはどうすることもできないわ」 「私がやりますよ。月光花、学名:Helichrysum bracteatum…通俗名:麦藁菊」 少女の呟きに、満月から一筋の月光が舞い降り、その照射先、先ほどの人物の胸の上に一輪の、まるでドライフラワーのような花が咲く。 この花の原産地は東方の某国であり、アン・ディー・フロイデに咲くことはありえない。 「花言葉、常に記憶せよ。平安あれ」 月光が強くなり、先ほどの人物の姿がかききえ、一輪の花だけが残される。 彼女は花を摘み、湖の方向に投げ入れる。 「…そろそろ参りましょう。次の国はリムジア…、確か一人当たり所得でセラフィナイトと世界一を争っているんでしたっけ、観光には悪くなさそうです。…ここに寄ったせいで、少々時間に無理が来ています。早いうちに戻りましょう。少々先を急がないとあなたの国の行事が始まってしまいます」 そうして再び二人の姿がかききえる。残されたのは湖底の一輪のドライフラワーのような花だけだった。 第十一話・リムジア編 世界一周の旅もそろそろ佳境を迎える。イーゼンステインとリムジア大公国は強固な同盟関係にあり、またAED諸国の重要な一角でもある。 特に列車網は重要な軍事的連絡手段であるためか、旅の安全と順調さは今までの比ではなかった。 折良くチケットが手に入った特急列車に乗って、一日でも一時間でも遅れを取り戻そうと、暢気にティータイムに興じていた。 「そういえば、北フォルストレア鉄道の構想を聞いたことがあるわ」 「意外ですね。イーゼンステインからクラルヴェルンまで接続ですか? 途中のカラキジルが了承するとは思えませんが」 「エラキスのブルゴス総統からの手紙があったの。彼がカラキジルと折衝するみたい」 「さらに意外ですね。あの二国は水と油のような関係かと思いましたが」 「そうね。でも皇帝の私よりは、まがりなりにも市民代表の彼が交渉役に相応しいかも。イーゼンステインと帝国が列車を利用するだけでお金が落ちるのだもの。彼も必死だわ」 「なるほど…たしかに。今魔王国が建設中の海峡トンネルの開通も見通してるのかもしれませんね」 【紅茶探訪八十日間世界一周 11th Country リムジア大公国編】 リムジア大公国はエスレーヴァやヨーグ海の国々よりも、クラルヴェルンにより近い。 距離的にもだが、文化的にも。親夢魔国、というくくりに入るかは微妙なところだが、重要産業であるファッションブランドの多くが帝国に進出していることからも注目度が伺える。 「リムジアに来たからには、カリオペとアティマを見ていかないといけないわ」 リムジアでの観光目的地は、ジャスリーさまの一言で決まった。 リッテルダムを連想させる近代的な都市の路地に、ガラスのショーウィンドウが並ぶ。 ウィンドウの奥には様々な衣装で着飾ったマネキンと、装身具、小物、インテリア、あらゆる美の結晶が並ぶ。 カリオペの直営店を訪問し、年若いコーディネーターの少女店員の勧めに従って、様々な衣装を試すジャスリーさま。 「ふむ。…やっぱり貴方は永遠の女の子ということですね。服をとっかえひっかえなんて、とても数千歳の皇帝とは思えません」 「楽しく生きるためには感情は重要よ。それに私は人間の心を弄ぶ悪魔ですもの。喜怒哀楽や、母子の愛情や、暗い欲望も解らなければならないの」 「でもそれは少し、奇抜すぎないですか」 「そんな事無いわ。いえ、それが良いのかしら。ね、えーっと、メルエリエラさん」 「はい! 奇抜と言われることはカリオペでは褒め言葉です!」 ジャスリーさまはコーディネーターの少女の手をとってくるくると回る。 普段は古風なドレスなどのゆったりとした服を着ている夢魔姫だが、ここでは身体の線が強調された現代的に過ぎる衣装を基本に、シルクのドレープや繊細な宝石飾りで着飾った『黒の女王』として存在していた。 「アンゼにも服を紹介してあげて」 「かしこまりました」 「いえ、私はこの間のメイド服で十分ですから」 「ではアティマに参りましょう! メイド服も奥が深いのですよ!」 「……貴方、ここの仕事はどうするのですか」 「よくあることよ。気にしてはいけないわ」 第十二話・エラキス編 内戦で壊滅した地、エラキス。 ブルゴス総統の独裁制の下で、観光業はそれほど推奨されているわけではなく、特別な物産もない。 マイティアの大聖堂を訪れた後、二人の旅行者は早々に宿に戻り、これが最後であろう旅の計画確認をすることにした。 【紅茶探訪八十日間世界一周 12th Country エラキス編】 エラキス産のベルガモットによるフレーバーティー…いわゆるアールグレイを片手に最後の計画確認だ。 「…悪いニュースです。私たちは当初の予定通りマーテル河を遡航していくと10月2日にクラルヴェルンにつくことになります」 「災厄封じの儀式に間に合わないわね…鉄道に切り替えればどうなの?」 「エラキスの鉄道はよく乱れますし、工業化の進展の遅さ同様に列車も遅く、本数も少ないです。レッチェルドルフでの観光をあきらめるなら、間に合わないこともないですが…」 「レッチェルドルフの文具がきれいだっていうから、見てみたかったんだけど…」 「覚悟があるなら、一つだけ。レッチェルドルフでの観光をしつつ、災厄封じに間に合わせるための手はあります」 「覚悟?」 「…飛行機ですよ。飛行船よりなお早く目的地にたどり着けます。ただ、墜落のリスクはかなり大きなものです」 「アンゼがいるから、別に怖くないわ」 「…そうですか。では、記念大学の連中から飛行機を呼んでみます」 そういってアンゼロットは電話をかける。 数時間後、エラキスのとある海岸。 「私たちが乗る飛行機ってのはどんなものなの?」 「さあ…客が二人乗れて、なるべく早いもの、と指定しましたが、具体的な機のスペックは聞いていませんねえ」 とその目の前に、複座単葉の飛行艇が着水する。そのパイロットはそこから降りるとこういった。 「どうもお待たせしたようですね、マスター。頼まれていた通りの飛行機です」 「頼まれていた通りって…三座を頼んだような気がするんだけど」 「ちょうどいい機がなかったんですよ。それに、航空科学研究センターの連中が言うにはそれが一番いいのだそうです。何より、三座では私が夢魔姫様を乗せて運ぶことになってしまいますが、それでは適任とはいえません。姫様を乗せる馬車の手綱を握るのは騎士の役割と相場が決まっていますので」 「…まあいいわ。でもミリティーはどうやって帰るつもり?」 「この国の列車は乱れることもしばしばと聞きます。どれほどのものか見ながら、のんびり帰りますよ」 「上空をのんびり飛んでいて空軍が撃墜に来る、なんて可能性については?」 「外務省からエラキス、レッチェルドルフ、クラルヴェルン宛に連絡はしています。同盟国の国旗が横に書かれていれば誰も撃墜になんてこないでしょうがね。まあそもそも擬天使と空中戦をして勝てる人間などそうそういませんよ。こっちは最新鋭の機体、あっちは旧型機ならなおさらです。…ジャスリーさまも、一度マスターの飛行機捌きを見ておくといいですよ」 「ええ、そうするわ。楽しみね」 「大した楽しみはありませんよ。どうせ安全のために低空飛行です。後ろに乗ってください、行きますよ」 主が操る飛空艇が空へ向かうのを見届けたあと、ミリティア・アロートは微笑み、そして市街地へ向かった。 第十三話・レッチェルドルフ編 故郷へ。二人を乗せた飛行機、形式名Tw-II、愛称ソングオブオールは軽快なプロペラ音とともに空を駆ける。 天気は快晴。眼下に広がるのは帝国式の田園風景と、帝国式の街並み。つい二年前までは帝国の一部であったレッチェルドルフ公爵領だ。言語も通貨も同一。帝国と公国の国民は自由な往来が許されているから、帝国に戻ってきたと言ってもあながち間違いではない。 「アリーセ公爵も、帝国で過ごすことが多いと聞きましたけどね」 「独立は彼らの名誉と、帝国の財政面の都合という面が大きいわね。レッチェルドルフ家の引き受けた帝国の国債は、公国の地価総額を遙かに超えていたし」 「財政赤字にも程があるんじゃないですか」 「ちゃんと経済は回っていて、国民は潤っているから良いのよ」 【紅茶探訪八十日間世界一周 13th Country レッチェルドルフ公国編】 「紙は人類最大の発明の一つですよ」 「そうね。紙もそうだけど、文字もそう。郵便なんてシステムも」 ベルゲンシュタインの文房具店に立ち寄った二人。二人ともその仕事柄インクや万年筆には拘りがあったし、その地位に見合うほどの達筆ぶりだ。 「そういえば最近、タイプライターの手紙がきますね。貴方がキーを打つところをちょっと想像できませんが」 タイプライターの展示品を触りながら、アンゼがふと疑問を口にする。 「口述筆記よ。ソファに寝そべりながらテリブルに打たせるの。あの子は打つの速いし、楽で良いわ」 「これももう少し安くなれば普及するでしょうにね」 「事務用品や計算機の普及は大切よね。援助や投資をしたほうがいいのかしら」 「もう既にアリーセ女公が投資してそうですけどね。最近のレッチェルドルフ印紙社は電話やファクシミリだって作っていると聞きましたよ。計算機も手回し式のものであればセラフィナイトにあります。電気式のものは……実用化はまだまだでしょうね」 「視察で見たことあるわ。パンチカードを吐き出すあの大きい箱でしょう。ニックネームに私の名前を付けられてて驚いたわ」 「あのプロジェクトですか。まあ国家事業ですからね。 戦艦プリンセスジャスリー よりは遙かにましでしょう。耳を疑いましたよ」 「兵器に夢魔の名前をつかうのやめてって頼むの、結構大変だったんだから」 「よいことです。貴方の名前の船が、他国の街を砲撃するなんて想像したくありませんからね」 第十四話・クラルヴェルン編後編 レッチェルドルフを発ち、二人の旅行者を乗せたTw-IIはプロペラを回し南下する。 皇帝搭乗機である以上、時代が違えば航空管制をにぎわせたかもしれないものだが、時代が時代。 航空管制の制度自体が未発達である以上、その旅路は静かなものだ。 秋の朝早く、上空は涼しいというより寒い。下界は朝霧に覆われ、今日も変わらぬ一日を迎えようとしている。 そしてその先に霞む、八十日ぶりに見る古都にして音楽の都メッサーナの街並み、そして右手にはマーテル河の静かな流れ。 旅の終着点。本来ならセラフィナイトを起点に出発した以上、終点はセラフィナイトのはずだ。 が、時間的にもう間もなく夢魔姫として臨まねばならない儀式が始まるはず。 その儀式の意味は、アンゼロットにとっても重要なものである以上、終着点はクラルヴェルンにせざるを得なかった。 スロットルレバーを少し引く。このままマーテル運河近くのとある飛行場まで軽く一飛び。 長い旅の終わりは、もうすぐだ。 【紅茶探訪八十日間世界一周 14th(or 2nd) Country クラルヴェルン編―それはただ一つ千年続いた君主国】 「長いようで短い旅だったわね」 「そうですね。また千年ぐらい経ったらもう一度世界一周でもしてみます?」 「千年後には多分八十日どころか一週間とかからずに一周できるようになりそうね」 「百年あれば一週間かからないでしょうが、千年後なら一日で行けるかもしれません。それまでこの文明が崩壊しなければの話ですが」 二人は今回かなり平穏な時間を過ごしてきたが、その間も世界情勢は動き、時に緊張に軋む音を立てている。目下の懸案はやはりレプンコタン会議でのティーロード諸国とルヴィド=エドとの権益争いと、各地に蔓延する無政府主義・社会主義革命政権の誕生の二つだろう。 「しかし結構いろんな国を見てきましたね。政治体制もいろいろです」 「アンゼから見るとどう?いい君主とか見つけた?」 「その調子だともうあなたが最高の君主ですとも言う必要はなさそうですね。まあ私が思うにはあなたが最高の君主ですけど」 「領土の拡大だとフォールン・エンパイアの魔王には敵わないわ」 「二番手探しですか?私はヴォールグリュックのジークリット女王を推しますけどね。産業革命の立役者ですし、後世で教科書に載りそうです。魔王は確かに現状では領土を相当拡大しましたが、先行きが読めませんから。たぶん、ヨーグ海での影響力を今後も拡大し続けるだろうとは思いますが、賭けるには少々ハイリスクだと思いますね」 「リスクっていうならブリュンヒルデ女王とかどう?長く安定した統治をしているようだけど」 「彼女は確かにこれまで安定した統治を続けてきましたが、ニーベルンゲンという保護国を得たのが少々気になるところですね。ロフィルナは近代体制に適応しつつあるようでしたし、調べた限りでは首相が開明的な人物らしいですのでうまくやっていくでしょうが、ニーベルンゲンにそれができるかどうか。あそこには長命の有翼種がいるとか聞きましたが、豊富な経験は時には適応力の喪失に転化することがあります。…豊富な経験はよいことですが、ただの老害にはなりたくないですね。そういう意味では時にあなたが羨ましくなることもありますよ」 「でも北フォルストレアは彼女に任せておいても問題ないんじゃない?あとはレッチェルドルフのアリーセ女公とか」 「メルエリエラ大公を忘れていませんか?リムジアのあの軍事力…運用法次第では後世の評価にはむしろイーゼンステインより可能性があるかもしれません。今の彼女は少々天真爛漫にも程がありますし、現状ではたぶん行政府の官僚が優秀という話なんでしょうけどね。アリーセ女公は確かに金融分野の能力は相当のものですが、全体としての統治能力では少々厳しい評価を付けざるをえないと思いますね。北フォルストレア社会主義共和国というものが誕生した以上、これからのレッチェルドルフには防衛力が必要です。…彼女には、その方面では少々厳しいかもしれません。あとは…ティーロードだとケトルポリットのアーカイブ総塔主とか、スターテンのシフォン総督とかでしょうか?」 「あっちのほうの政治体制はよくわからないわ。ケトルポリットはあのいろいろな亜人たちが、スターテンは商人たちが、それぞれ自主的にまとめているという印象を感じるけど」 「よくわからないというならルヴィド=エドの政治体制のほうがよっぽど謎に包まれていますけどね。あとはコタンも、何があったのか今では検証する手立てはありませんが、あれを後世の歴史家がどう考えるか、どうなんでしょうね」 「じゃあ君主制じゃない国の元首ならだれか有能なのいないかしら?」 「そもそも共和制(注:ここでは君主制ではないという程度の意味)国家で連盟以外にまともなのがあんまりないんですよね。列強以上…いえ、準列強クラスを含めたとしても共和制国家なのはそもそも連盟しかありませんし。クルドンは悪くはないのですが、アディリク合衆国というのは彼らには荷が重すぎるとは思います」 「連盟の元首…えーと、フィールズ議長、だったっけ?確かジークリット女王即位式のときにスピーチしているのを見かけたくらいだけど、優秀なの?」 「んー…まあ選定は私の半分趣味みたいなものですからねえ。悪くはないんですけど、やはりこの世界ではリリスに鍛えられてないからか、今まで出てきた君主たちの中に混じれば霞んでしまいますね。理由についてはあまり認めたくはないですけれども。そうですね、ほかに誰もいないという意味で…いや、クルドンの前大統領あたりも確かに人気はあるのですが、少々先の読めていないあたりを見るとまあ順位付けを入れ替えるには至らないでしょう。そういうわけで、うちの議長が共和制国家最高の元首ですよ。ただほかに誰もいないってだけですけどね」 そんなことを話しているうちに飛行場が近づく。そこに降り立てば、長い旅はようやく終わる。アンゼロットはそう思ったのだが、ジャスリーさまはとんでもないことを言い出した。 「ねえ、アンゼ。このままセラフィナイトまで行って戻ってくることは不可能かしら?」 「むちゃくちゃ言ってくれますね。災厄封じに遅れますよ」 「遅れるのは何時間ほどになりそう?」 「まあ一時間ぐらいですかね。しかし…」 「最初の二時間には結構儀礼的な部分も多いわ。あとに回すことは可能じゃない?」 「…大丈夫なんですか?」 ジャスリーさまはアンゼロットに軽く押されていた操縦桿を引き戻す。それに合わせて機首が上を向き、慌ててアンゼロットは機首を水平に戻す。 「…本当に大丈夫なんでしょうね?」 「ふふ。危ないじゃないですか、とは言わないのね」 どうせ結果は最初から見えていたようなものだ。アンゼロットは何も言わず、操縦桿を回す。その動きにTw-IIが応じ、二人には緩やかに力がかかる。そうして飛行艇Tw-II Song of Allは朝日を背中に浴びながら、西へ、セラフィナイトへと向かっていった。 第十五話・セラフィナイト編後編 紅茶探訪八十日間世界一周。その長い旅の八十日目にして、ついに二人の乗った飛行機は始発点にして終着点の国家である、セラフィナイト星術者連盟に辿り着く。 帝国が千年の帝国というのであれば、セラフィナイトは千年の共和国といえる。統一の時期だけを見れば、むしろセラフィナイトの方が古いだろう。 エタブリッシェの空港管制に連絡を入れ、その誘導のもとでTw-IIは優雅に着陸する。 最初にセラフィナイトの地を踏んだのはジャスリーさま。そして程なくアンゼロットも操縦席からすとんと飛び降り、埃を払う。 【紅茶探訪八十日間世界一周 15th(or 1st) Country セラフィナイト編―それはただ一つ千年続いた共和国】 「お疲れ様」 「お疲れ様でした」 「これで、八十日間世界一周達成ね」 旅券にスタンプされた各国の出入国査証の印をお互いに見せ合い、感慨に耽る二人。 「有り難うアンゼ。この旅券と思い出は、私の宝物」 「お互い様です」 アンゼロットは腕時計を見やる。予想より悪い数字を見て顔をしかめた。 「ですが、もう時間的余裕がありません。今からとんぼ返りして、メッサーナに戻らなければ」 「アンゼ、ぎゅっとさせて?」 「はい?」 がしっ。そんな擬音が聞こえるかのようにアンゼを強く抱きしめる。 「……ここに来たいと言ったのはね、一分でも一秒でもアンゼと一緒にいたかったから」 「……」 「隣の国に居るとわかっても、別れるのは辛いわ」 「……」 「アンゼロット。愛しています。愛しているの」 「それは、知っています」 「貴方を虜にして、私だけのものにしたいの」 「貴方の虜になった私など、嫌いでしょう」 「そうかもしれないわ」 「貴方の虜にはなりません」 「そう」 「でも、私は私なりに受け止めてあげます」 一呼吸置いて、唇を交わす二人。 愛を囁き続ける夢魔姫。囁きを受け止める幻月の学徒。 この天使と悪魔の、危うい愛の均衡はもう数千年続いている。 それは二人にとっては幸福に満ち、もっとも愛しく思える関係だった。 「……もう完全に、間に合いませんね」 「いいのよ。私が存在を賭して、ディスコードの一つや二つ、なんとかしてみせる」 「貴方だけに危険を犯せられません。私も手伝いますよ。サイレスの杖もありますし」 「お帰りなさい。ジャスリーさま。アンゼロット首相」 完全なタイムオーバーに落胆する二人に、意外な声がかかる。 それはスーツを着た少女といった姿の夢魔で、ここにはいないはずの存在だった。 「ピースフル、今日は厄災封じの儀式でしょう。どうしてここにいるの?」 「儀式は明日です。本日は9月30日ですから」 「え…?」 「……忘れていました。東回り航路だから」 「日付変更線越えというオチですか? お約束ですね」 こうして、二人の旅は終着した。 訪問した国と地域は13。 道のりは蒸気船、鉄道、徒歩、飛行船、飛行機などを乗り継ぎ約4万km。 所用日数は八十日だった。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/5030.html
紬「ミルクティーがよかった?」 唯「そうじゃなくて、普通のミルク。牛乳!」 紬「ごめんね、牛乳は用意してないの」 唯「そっかー……あっ!」 紬「??」 唯「ムギちゃんがミルク出せばいいんだよ!」 紬「出すって!?」 唯「母乳」 紬「ごめんね、それも無理よ」 律「出るわけないだろ!」 唯「やっぱり駄目かー」 唯「じゃあ、澪ちゃんは母乳出せる?」 澪「出せてたまるか!」 唯「うーん……りっちゃんとあずにゃんは…どう見ても無理だし」 律梓「どういう意味だ!?」 梓「母乳は赤ちゃんを産んで初めて出るんですよ?」 律「さわちゃんならあるいは」 澪「産んでないよ!……多分」 紬「あ、でもね。こんな話があるのよ」 紬「親がいなくなっちゃった子どものキツネを犬に育てさせたらね」 唯「うんうん」 紬「その犬には当時子どもがいなかったんだけど」 梓「うんうん」 澪「梓まで……」 紬「なんと母乳が出て、仔ギツネに飲ませてあげたんだって!」 律「へー」 澪「ほぉ」 唯「すごい!すごいよ!愛が通じたんだね!」 紬「唯ちゃん!」 唯「ムギちゃん!」 紬「なんと母乳が出て、仔ギツネに飲ませてあげたんだって!」 律「へー」 澪「ほぉ」 唯「すごい!すごいよ!愛が通じたんだね!」 紬「唯ちゃん!」 唯「ムギちゃん!」 紬「唯ちゃんのためなら私…きっと!」 律「お前らの間に愛はあるのか?」 唯「ムギちゃんと私は今日から愛し合っているのです!」フンス! 梓「今日からって……」 唯「ということでムギちゃん♪」 紬「恥ずかしいから澪ちゃんたちは向こう行っててくれない?」 澪「おいムギ!お前本当に」 紬「私、母乳飲ませるのが夢だったの~♪」 律「そりゃ女子なら誰でも夢見ることだろうけどさ」 梓「や、やっぱりそんなのHですよ!」 唯「えー、そんなこと無いよー!」 紬「梓ちゃんだって飲んで育ってきたのよ?」 梓「それはそうですけど……」 唯「何もおかしいことはないのだよ」 フンス! 澪「(何で既に母乳が出るってことで話が進んでるんだよ)」 律「分かった分かった、むこう行ってるから好きなだけしゃぶってろ」 梓「言い方がいやらしいです」 紬「さて」ぬぎぬぎ 唯「おおぉ」 紬「はい♪どうぞ唯ちゃん」 唯「いただきます!」ちゅー 紬「あっ!うぅ…どう?」 唯「ほえ?」ちゅー 紬「で、出てる?はぅっ」 唯「出ないよー」ちゅー 紬「どうすればいいのかしら?ひゃうん!」 澪「色々やばくないか?」 梓「ムギ先輩が変な声出してる…」 律「唯も唯でよく躊躇無く吸えるよな……」 唯「口が疲れちゃった」 紬「はぁ…はぁ……やっぱり無理みたいね」 唯「愛が」 紬「え?」 唯「愛が足りないんだ!」 紬「愛が…?」 唯「ムギちゃん!もっと私を愛して!」 紬「唯ちゃん……」 澪「おい!その辺にしてそろそろ練習を」 唯「ミルク飲んでないからやる気でなーい」 へなへな 澪「もー!」 律「しゃあない。今日は切り上げるか」 梓「結局今日も練習にならなかった…」 紬「ごめんなさいね唯ちゃん。明日までにちゃんと出るようにしておくから!」 律「(それは無理だろ)」 澪「(唯がコンビニで牛乳買ってくれば済む話じゃん)」 唯「うーいー」 憂「どうしたのお姉ちゃん?」 唯「憂は私のこと愛してる?」 憂「え!?」ドキッ 唯「ねえ愛してるー?」 憂「(な、何?お姉ちゃん…そりゃ愛してるよ!え、でもでもそんな突然)」 唯「あのね、今日学校で……」 憂「え~っ!?お姉ちゃん、紬さんのおっぱい飲んだの!?」 唯「飲んでないよ。出なかったんだもん」 憂「そりゃ出ないよ」 唯「多分愛が足りなかったんだよ」 憂「へ?」 唯「憂のだったら出るかな」 憂「(出るわけないよ!でもお姉ちゃんのためならもしかして……)」 憂「吸ってみる?」 唯「いいの!?」 憂「う、うん(私も姉ちゃんにおっぱい吸ってほしい…けどやっぱり出なくてがっかりさせちゃうかな……)」 唯「ありがとういー」 だきっ 憂「え?今ここで?」 唯「だめ?」 憂「うーん、お風呂でやってみようよ」 唯「なるほどー。どうせ裸になるもんね」 唯「憂と一緒にお風呂入るの久しぶりだね」 憂「そうだね、なんだか懐かしいね」 唯「じゃ、いいよね」 憂「…いいよ」 唯「はむっ」ちゅーちゅー 憂「んっ!」 唯「ういー出ないよー?」ちゅー 憂「頑張ってみる…あんっ」 唯「私ももっと力強く吸ってみる!」ちゅー 憂「(だめだよお姉ちゃーん!!)」 唯「やっぱり出ないねー」 憂「ねえお姉ちゃん」 唯「なぁに?」 憂「今度は私がお姉ちゃんの吸ってもいいかな?」 唯「えっ?私…出るかなぁ」 憂「私のこと、愛してる…?」 唯「勿論あいしてるよ~♪」だきっ 憂「(かわいいなぁ)」 唯「はい、どうぞ憂」 憂「じゃ、吸うよお姉ちゃん」 唯「よさこい」 憂「(お姉ちゃんのおっぱい!お姉ちゃんのおっぱい!)」ちゅー 唯「うぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛おー」 憂「! うそ…?」 唯「どうしたの?」 憂「出た」 唯「へ?」 憂「おっぱい、出た」 唯「え?」 憂「出たよお姉ちゃん」 唯「ホントに!?」 憂「うん!」 唯「私の愛が憂に通じたんだね!」 憂「うん!」 唯「明日みんなに自慢しようっと♪」 唯「おはよー」 律「おーっす」 澪「今日も遅刻ギリギリだな」 唯「えへへー」 紬「あのね、昨日帰ってから色々調べたんだけど……」 唯「何を?」 紬「母乳、どうしたら出るかなって」 唯「そのことだけどね!」 律「どうした?」 唯「放課後までのお楽しみです!」 澪「?」 ガチャ 梓「あ、みなさんこんにちh」 唯「あずにゃーん」 スリスリ 梓「ああもう!今日はちゃんと練習しますよ!」 澪「そうだぞ!」 唯「その前にみんなにお知らせがあります」フンス 律「お、なんだよいきなり?」 唯「実は私!母乳が出たのです!」 澪律紬梓「………」 澪律紬梓「な、なんだってーーー!?」 澪「おい唯!馬鹿な事言うな!」 律「出るわけ無いだろ!?常識出来に考えろ!」 唯「本当に出たもん!」 梓「よだれが丁度いいところに垂れただけじゃないんですか?」 唯「本当だもん!昨日憂が吸ったら出たんだよ」 梓「嘘!?」 律「つーか姉妹でそんなことするか普通」 澪「憂ちゃんの勘違いじゃないのか?」 唯「本当だってばー!そんなに疑うならみんなも吸ってみる?」 澪「えっ」 梓「いやそれは流石に」 紬「私、吸いたいです!」 澪律「(お前はそう言うだろうと思った)」 律「でも本当に出たって言うなら大変なことだぞ」 唯「そうかなー?」 澪「ま、まあ真偽を確かめる意味で吸ってみるか」 梓「そうですね!別に唯先輩のおっぱいが飲みたいとかじゃないですけど」 律「そうだな、これは健康診断だ」 唯「じゃあみんなどうぞ。一列に並んでね」 澪「お店か何かかい」 唯「じゃあまずはムギちゃんからだね」 紬「いただきます!」ちゅー 唯「はうっ!」 唯「ん…あっど、どう?ムギちゃん」 紬「……」ちゅーちゅー 紬「……!」 唯「はぁ……はぁ……出た…でしょ?」 紬「出た」 紬「出たわ!凄い!凄いよ唯ちゃん!」 律「おおおおい!マジかよ!?」 唯「ね!言った通りでしょ!?」 澪「ムギ、唯と一緒に私たちをだましてるんだろ?」 紬「そんなこと無いわ。澪ちゃんも吸ってみて!」 唯「ほらぁ次は澪ちゃんの番だよー♪」 澪「ああ。す、吸うからな」 ちゅー 唯「むぉぉぉぉ」 澪「変な声出すなよ…あ!」 律「まさか」 澪「本当に…出た」 梓「ええ!?」 澪「母乳だよコレ……」 唯「りっちゃん!あずにゃん!まだ疑ってるの?」 律「だって、なぁ」 梓「そりゃ信じられないですよ」 唯「じゃあ吸ってみて」 律「…分かったよ」 唯「あずにゃんももう片方どうぞ」 梓「……はい、じゃあ失礼して……」 律梓「あむっ」 唯「あああ゛ぁ゛~流石に両方同時は凄いよ~」 澪「何言ってるんだよ……」 紬「………」 ぼたぼた 澪「おいムギ鼻血!」 律「はっ!」 梓「出た……!」 唯「ね!みんな信じたでしょ!?」 律「唯!お前子どもが!隠し子がいるのかー!?」 唯「いないよーそんなの」 梓「でもそうだとしか……」 唯「私の愛がみんなに通じたんだって!」 律「んな訳あるかいっ!」 唯「それよりみんな、おいしかった?」 澪「へ?」 唯「私のおっぱいだよ。美味しかった?」 梓「うーん、想像してた味と違いました」 律「そうだなー、もっと牛乳みたいなもんだと思ってた」 澪「と言うか殆ど無味だったな」 紬「すごく美味しかったわ!」 キラキラ 唯「ムギちゃん……」 紬「これが唯ちゃんの味なのね!」 唯「もっと飲む?」 紬「いいの?」 唯「勿論だよー。いっつもムギちゃんの紅茶やお菓子貰ってるもん」 澪「紅茶のお返しが母乳ってのはどうなんだ?」 唯「たーんと飲んでね♪」 紬「ありがとう唯ちゃん」 ちゅー 唯「ぁぁぁあ~!」 梓「……」 唯「どうしたのあずにゃん?」 紬「梓ちゃんも飲みたいのかしら」 唯「おいでーあずにゃん」 梓「べっ別に私は!」 唯「そっかー残念だね」 シュン… 梓「あ!やっぱり飲みます!」 澪律「梓……」 ガチャ 和「入るわよ って何してるの!?」 唯「あ。和ちゃん」 律「何故か唯が母乳出るようになっちゃってさ」 和「うそっ!?」 唯「和ちゃんも飲む~?」 紬「とっても美味しいのよ~」 和「遠慮しておくわ…」 和「それより唯、あれそろそろ返してくれない?」 唯「あれって?」 和「胃薬よ。唯、この前ちょっと胃の調子が悪いからって私に借りたじゃない」 紬「……!」 唯「あー、あれかぁ。もうちょっと借りてていい?」 和「うん、まあいいけど」 紬「分かったわ!!!」 唯澪律梓和「うわーびっくりした!」 唯「何が分かったの?」 2
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/464.html
928 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/01/11(木) 01 49 49 薔薇乙女《ローゼンメイデン》第一ドール。 かつて、水銀燈は自分のことをそう名乗った。 薔薇乙女《ローゼンメイデン》第五ドール。 今日、アーチャーは自分のドールのことをそう言った。 第二、第三、第四ドールのことは分からない……まだ聞いてないが、もしかしたら雛苺がいずれかに当てはまるのかもしれない。 まだ見ぬドールは、少なくとも二人以上、ということか。 とにかく、第五ドールの存在を知ってから、水銀燈の態度は一変してしまった。 その相手に会いに行くか、行かないか。水銀燈は、楽しそうにしながらも、しばらく悩んでいたようだったが、やがてキッパリと決断した。 「決めたわ。決めたわ。 あの子に会いに行きましょう。 真紅に会いに行きましょう」 『銀剣物語 第五話 健康と美容のために、食後に一杯の紅茶』 「さあ、行くわよ士郎。 もうこんな時間だもの、ぐずぐずしていたら、真紅が寝てしまうわ。 せっかくの再会なのに、寝てしまっているなんて許せない」 水銀燈はすっかりその気だ。かつてないほどうきうきしているのが見て取れる。 そして俺には、それについていく以外の選択肢は与えられていないのだった。 「行くのはいいけど……なあ、水銀燈。 その真紅って奴のところまで、どうやって行くつもりなんだ?」 俺がせめてもの抵抗がわりに、ふと思いついたことを口にしてみると、水銀燈は鳥は何故空を飛ぶのか、と尋ねられたみたいに眉をひそめた。 「……何を言ってるの、お馬鹿さぁん? nのフィールドを使えば簡単じゃない」 「いや、確かにnのフィールドなら、簡単だろうけどさ。 わざわざnのフィールドを使わなくても、普通に歩いていける場所にいると思うんだ、そいつ」 アーチャーと契約したドール……真紅。それが居るとすれば恐らく、遠坂邸に違いない。 なにしろ、あの男の性質から考えれば、主である遠坂以上に屋敷のつくりを把握していることは想像に難くない。屋敷のどこか一室に、遠坂に気付かれないように匿うことはそう不可能じゃないだろう。 それに……キャスターとの会話が脳裡をよぎる。 夜。 鏡。 新都のドール。 今から、この姿見の中に足を踏み入れるのは、何かよくないものと出会うような気がする。 「……ふぅん。 そんなに近くに居たなんて、水銀燈知らなかったわぁ。 うぅん、じゃあどうしようかしら……」 少しだけ何かを考えた後、水銀燈は方針を決めた。 それは……。 いきなりダブルクロスルール 一人1記号。第一群と第二群のどちらかに投票してください。 両方に投票した場合は無効とした上で真紅ぅ波動拳。 第一群 α:今夜―― β:明日―― 第二群 γ:nのフィールドを通って会いに行く。 δ:遠坂邸へ直接会いに行く。 投票結果 第一群 α 4 β 5 決定 第二群 γ 0 δ 5 決定
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/484.html
238 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/01/27(土) 23 58 57 「士郎、交差点だけど」 「ああ、そこを右に曲がってくれ」 バス停のある交差点を右に折れる。まっすぐ進めば、大橋に到る道だ。 ……遠坂邸に向かうには、商店街を突っ切るのが一番早い。けど、商店街は午前中でも人が多いし、流石に駆け抜けるには分が悪い。 なので、少し回り道になるが、まず大橋側に向かってから、遠坂邸を目指す。 学園側に迂回することも考えたが、休日とはいえ、部活動をしている生徒もいる。なにより、知り合いに遭遇する確率で言えば商店街よりも高い。恐ろしくて近寄れない、というのが本音なのだ。 「…………」 「…………」 俺も水銀燈も、互いに無言。 道を尋ねること以外は、何も口にしないまま、走り続ける。 息が苦しい。 運動のせいじゃない。水銀燈に合わせて走るペースはそれほどキツくはない。 だから、この息苦しさは、横たわる沈黙のせい。 置いていかれているわけじゃないのに、話をするわけでもない、微妙な距離感。 昨日の夜から……いや、昨日の夜に初めて明確に示された境界線。 「士郎、次の道はぁ?」 「左に。その後はしばらくまっすぐだから……」 「そう」 俺の先を飛ぶ水銀燈の背中。 小さく、そして美しいそれを追いかけて走る。 俺が追いかけるのは水銀燈の背中。 水銀燈が向かう先はドールの住処。 目指しているところは同じだが、見ているものは違っている。 ……ふと、水銀燈が言っていた言葉を思い出す。 『アリスになるのは、この私』 水銀燈は、アリスになるのが最たる願いだという。 アリス……人形師ローゼンが求め続けた究極の少女。 だが、そのためには他のドールを倒し、その命とも言えるローザミスティカを奪わなければならない。 「…………なんか、ひっかかるなぁ」 言いたいことはあるんだが、それが上手く言葉にできない。 そうしている間にも、どんどん沈黙という名の重圧は増していく。 この状況を変えるには、何かきっかけが必要なんだろうけど……。 α:思い切って、昨日のことを水銀燈に謝る。 β:思い切って、真紅のことを水銀燈に尋ねる。 γ:あれ? あそこにいるのは、バゼット? δ:あれ? あそこにいるのは、カレン? 投票結果 α 0 β 0 γ 5 決定 δ 4 銀剣物語 第五話 健康と美容のために、食後に一杯の紅茶 第11話時点登場人物紹介
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3467.html
放課後の部室、無人の室内。 他の団員は爆睡していたらしい俺を置いて帰ってしまったようだ。 キョン「…なんて薄情な奴らだ。」 口ではそう呟きながら、おそらく起こすのを躊躇う程の幸せな寝顔をしていたのだろう、そう納得していた。 体を起こした俺の目に止まったのは1冊の本。 キョン「…漫画?」 『RozenMaiden』、そう銘打たれた本の表紙には赤いドレスを着たかわいらしい女の子が写っている。 誰がこんなもんを? と言いつつも俺は即理解していた。 ハルヒは不思議と混乱を、朝比奈さんは癒しとお茶を、長門は本と安心を、古泉は要不要問わずの知識を、そして三井はとっておきの飛び道具を、 ならばこれは、 キョン「…長門が漫画?」 イメージが違うな、一瞬そう思ったが長門の事だ、何か重要な意味があるのかもしれない。 キョン「帰ったら読んでみるか。」 本を鞄にしまい込み俺は部室を後にした。 自宅に帰ると、べットを占拠する希少種をどかす代わりに寝転がり例の物を読み始めた。 漫画を含め読書をする習慣がほとんどない俺だが、これはなかなかに面白い。 生きた人形に導かれ戦いに巻き込まれていく少年を描いたストーリー、巻き込まれ型という点ではいたく共感を覚えてしまう。 そして、1刊の最終ページに挟まれてるのは今となっては見慣れたあの栞。 やれやれ…、今度は何が書かれてるのか。 一抹の不安を押し込め栞を裏返し、そして見た。 『まきますか、まきませんか』 …そうきたか。 きっとこれは長門流のギャグなんだろうな。印を付けて返してやれば長門もきっと喜ぶだろう。 少し気になったんだが、「まきます」「まきません」に丸をつけるならわかるが「まきますか」に丸を付けるのはちょっと変じゃないか少年JUN。 いやそんなことはどうでもいいか。 俺の答えは当然YES。まきますだ。 栞に丸をつけ本に戻した俺は簡単に着替え部屋を出る。 妹「あれ~、キョン君どこ行くの~?」 キョン「ブッ〇オフだ」 疑惑の目を向ける妹をよそに俺は自転車に跨がった。 翌日 キョン「…まさか決着がつかずに終わるとは…。」 徹夜で全8刊を読み終えた俺は落胆の境地にいた。8刊の薄さには驚愕、動揺、憤慨、様々な感情が入り交じる。 そしてこの後すぐ分かる事だが、どうやら同じ感情を抱いた人間がごく身近にいたらしい。 いつも以上の眠気に堪えなんとか授業を終えた俺はそそくさと部室に向かった。 いつも通りにパイプ椅子に座り分厚いハードカバーに目を走らせる長門に漫画を返す。 キョン「面白かったぞ長門、続きが気になって古本屋で全巻揃えちまったよ。 まぁラストはちょいと不満だが…。栞にも〇つけといたからよ。しかし意外だな、長門は漫画も読むんだな。」 長門との付き合いももう長い、…そう、なり、…たまに、なり何か返答があると思っていた。だが…、 長門「………………。」 無言の長門。瞳に浮かぶのは…今の俺ならば分かる、クエスチョンマークだ。 キョン「…お前じゃ、ないのか?」 長門「……。」コクリ。 ミリ単位で頷く長門。 じゃあ誰が…。 遅れてやってきた朝比奈さん、古泉からも違うとの返答。 ……ならハルヒが?あれを? ハルヒ「ヤッホー、遅れたわ!!」 と、騒がしく扉を開けちょうど現れたハルヒに問いかけようとしたその時、 ハルヒ「みくるちゃん!!…いや、やっぱやめ。キョン、紅茶を入れて頂戴。」 ………やはりこいつか。 キョン「やっぱりお前かこれは。」 ハルヒ「あれ、アンタも読んでたの?ハカセ君家にあったからカテキョの合間にアタシも読んでたのよね。 でもあのラストは有り得ないわ、出版社に乗り込んでやろうかしら!!幻冬社だったっけ? あ、さっさと紅茶を入れて頂戴。お湯の温度はわかってるでしょうね!?」 キョン「お茶の事なら和洋問わず朝比奈さんに任せた方が賢明だ。そうか、これはハカセ君のだったか、面白かったと伝えておいてくれ。」 ハルヒ「何言ってんの?アタシが又貸しなんてセコい真似するわけないじゃない。」 キョン「…お前じゃない?昨日部室に置いてあったんだが…。」 ハルヒ「ここに?私じゃないわ。みんなも違うの?有希も?」 困惑する団員一同。だが俺は、いやおそらくハルヒ以外の全員は誰の仕業か気付き始めていた。 長門が本を閉じるパタリという音を合図に席を立つ団員達。帰り道で古泉が口を開く。 古泉「自分がおもしろいと思った本をあなたにも読んでもらいたい、そう思ったんでしょう、かわいらしいじゃないですか。」 キョン「…反論する気にもならねぇよ。」 俺も古泉も甘く考えていた。いや古泉は原作を読んでいないのだから仕方がない、俺だけは気付くべきだったんだ。 『決着していないアリスゲーム』 その事実に。 扉を開けた俺の部屋の床に横たわっていたのは、予想外か予想通りか、豪華な装飾を施されたスーツケースだった。 あいつがあの結末に納得してる訳はなかったな、原作者に代わってアリスゲームを決着させる気か。 …アイツらし過ぎてため息が出る。 まぁこうなったからには受け入れよう、もう慣れた。問題は…、 キョン「白薔薇、黒薔薇はできれば遠慮したいところだな、白は特に…。」 ハルヒの紅茶を~のセリフから察するにアイツは真紅確定だろう。お互い命令タイプなだけに相性は悪そうだが…。 落ち着け落ち着け、たかだか7分の2じゃないか、当たりっこないさ、これの中身は翠中身は翠中身は翠中身は…………えぇいままよっ! キョン「………………は?……俺?」 スーツケースで眠っていたのは紅茶大好き第5ドール、真紅だった。 同時刻・朝比奈宅 雛苺 「うにゅ~が食べたいの~。」 みくる「あ、あの、未来から来たんですか?私に何か伝えるとか…、うにゅ~っていうのがなにか重要な…。」 雛苺 「うにゅ~なの。」 みくる「うにゅ~、ですかぁ…?」 長門宅 長門 「…………。」 翠星石「…な、なんかしゃべりやがれですぅ…。」 長門 「…………。」 翠星石「…あの……。」 長門 「……………。」 翠星石(こ、これが今流行りの画面越しでしかコミュニケーションを取れないという、噂の現代っ子ですか…カレー美味しいけど…。) 古泉宅 古泉 「なるほど、つまりそのアリスゲームというのに勝利するのがあなたの使命だと。」 蒼星石「…そうです。他のドール達も同じです。」 古泉 「ですがあなたは戦うことに肯定的ではないようですね。」 蒼星石「それは…その通りです、姉妹で争い合うなんて…。」 古泉(…おそらく彼のところにも行っているはず、さてどうお考えでしょうか。) ハルヒ宅 ハルヒ「…で、アンタ強いの?」 金糸雀「最強の名を欲しいままにしているかしら。マジカル頭脳パワーで言えば所ジョージかしら。」 ハルヒ「嘘言いなさい、アタシ原作読んだから知ってるわ。正直微妙じゃない、てかほとんど戦わなかったじゃない。」 金糸雀「…か、カナは三日会わないだけで別人の様に成長するのかしら、刮目せよなのかしら。」 ハルヒ「ホントでしょうね?アタシはやるからには負けるのは御免なの。途中でやられたりしたらそのバイオリン売っ払ってコントラバスに買い替えてやるから。」 金糸雀「そ…それはカナには荷が重すぎるかしら…。」 ―――――― キョン「…とても人形には見えないなコレは。」 肌の質感、髪の手触り、まさに人間そのものだ。 キョン「おっとイカン、ベタベタ触ったらネジ巻いた瞬間に1バイオレンスくらっちまう。」 ふ…真紅よ、俺をJUNの野郎と同じだと思わないでもらおうか。悪いが主導権は俺が握らせてもらうぜ。 まずネジを巻く前にやる事があるな。一旦下に行き準備を済ませた俺はいよいよネジを巻き始めた。 ゆっくりと開いていく、碧色の瞳。 真紅「…あなたが私のミーディアム?私の名は真紅、ローゼンメイデン第5ドール、真紅よ。あなた、名は?」 ……本名を答えるか、いや、本名を呼んでくれるのが人形だけなんてあまりにも悲しすぎる…。 キョン「キョン、とでも呼んでくれ。」 真紅「ふぅん、地味な名前ね。早速だけどキョン、」 キョン「紅茶だ。」 真紅「!!」 先手はもらった…!まだ俺のターンの様だな。 キョン「湯の温度は95度、時間にも気を配ったつもりだ。高い茶葉ではないがそこは経済状況を察してくれると助かる。」 真紅「…人間にしては中々気が利くじゃない。あなたは私のネジを巻いた、なら誓いなさい。私の」 キョン「ローザミスティカだな。あぁ護ろう。」 真紅「!!!」 フッフッフ……ペースは掴んだ。 真紅「……予知能力のあるミーディアムは初めてだわ。」 キョン「まさか。俺には特殊な力などない、掛値なしの一般人だ。」 ――― キョン「寝起き早々であれだが一つ、聞いていいか?」 真紅「何?」 キョン「ここに書かれている内容は事実なのか?」 漫画を受け取りパラパラとページをめくる真紅。ごくわずかな変化だが、日頃の長門観察のおかげか俺にはわかった。 真紅「……事実よ。」 ――瞳に浮かぶのは哀しみの色。 真紅「なぜこんな記録がこの世界にあるのかはわからないけれど。私達が渡り歩いて来た数多の世界、数多の時代、その中の一つでしかないのだわ。」 でしかない、と思っていない事は表情を見れば分かる。 それでも聞かずにはいられなかった。 キョン「どうなった。その…8巻の後。」 真紅「……質問は一つなのでしょう?あまり詮索するものではないわ、キョン。」 キョン「…そうだな、悪かった。」 おそらくは団員の元に届いているであろう真紅の姉妹達、勝つのが誰にせよ決着はつけてやらないとな。 ―――そうだろ、ハルヒ。 ヴー、ヴー、ヴー。 携帯電話の着信音、マナーモードにしっぱなしだった為真紅との話に夢中で気付かなかった。 真紅はというと、抜き打ちで部屋を訪れた妹に優しく拉致された。 人形が動き、話すという事実に1ミリの疑問も持たない。 こいつはきっと将来大物になるだろう。 着信履歴は古泉、ちょうどいい、こっちも話がある。 古泉 『もしもし』 キョン「俺だ。用件は人形だな?お前のとこには誰が来た。白ならば悪い事は言わん、家中の鏡を叩き割って即逃げろ。」 古泉 『白、というのが誰かは分かりませんが。私の所に来たのは蒼色の方です、蒼星石、と自己紹介を受けました。』 キョン「蒼星石か、当たりだ古泉。ドール達の良心、一番の良識人形だ。接し方さえ間違えなければの話だが。」 古泉 『えぇ、理知的で大変話しやすく安心しています。あなたの所には?』 キョン「真紅。若干物腰柔らかで丁寧口調の金髪碧眼ハルヒを想像しろ。」 古泉 『なるほど相性は良さそうだ。重ねて安心しましたよ。』 キョン「言ってやがれ。…で、聞いたか?アリスゲームの事は。」 古泉 『大まかな所は。ですが蒼星石さんは、』 キョン「戦う意思はあるが乗り気ではない、そうだな?」 古泉 『えぇ、真紅さんはどうなのですか?』 キョン「口には出さないがおそらく同意見だろう。俺個人としては決着を付けさせてやりたい。 血を分け…てはいないだろうが姉妹同士で争うなんざ見ていてあまり気分のいいものじゃない。 何より決着しなくて一番困るのは俺達、特にお前だろう?」 古泉 『その通りです。一度集まった方がいいようですね。涼宮さんは除いて。』 キョン「何の連絡もないところを見ると明日いきなり披露して驚かせる腹だろう。とりあえず俺は長門に連絡する。お前は一度原作に目を通しておけ。」 古泉 『了解です。しかしあれですね、涼宮さんは学校に人形を持ってくる気でしょうか?』 キョン「………俺から連絡しておく。」 古泉 『ええ分かりました、ではまた。』 俺はいったん電話を切り、長門の番号をコールした。 トゥルルル・・・ ???『はい、警視庁捜査二課第4係。』 キョン「……あいにく俺の知り合いに詐欺事件担当の人間はいない、誰だ?」 ???『人に名前を聞くときはテメーから名乗りやがれです。』 …翠星石か、安心した。まぁ長門が人形に遅れをとるとは思わないが。 キョン「長門の知り合いの、…キョンだ。代わってくれ。」 翠星石『小一時間待ってろですぅ。(おーいシャイ人間ー、シャイ人間ー!!ヒョンとか言う奴から電話ですぅー!!)』 長門 『…もしもし。』 キョン「…意外と仲良くやってるんだな。」 長門 『…それなりに。』 翠星石『(彼氏か?ん?なんとか言えですぅシャイ人間。)』 キョン「事情は聞いているか?アリスゲームやら人形師ローゼンやらそこら辺の。」 長門 『把握はしている。』 翠星石『(無視とはいい度胸ですぅ。無口キャラがもてはやされる時代は終わりを告げたですぅ。)』 キョン「やはり涼宮絡みか?」 長門 『半分は。』 翠星石『(これは手強い…でも必ずお前を社会に適合する人間に育ててやるですぅ。グランパの名にかけて)』 キョン「半分?半分は別の意思だってのか?まさかお前狙いのあいつらか?」 長門 『違う。別の意思を感じる。詳細は不明。』 翠星石『(一人で寝るのは寂しいだろうから待っててやるです。早く切れですぅ。)』 …ならおそらくはローゼンの意思というやつか。長門とその親玉の情報網をすり抜けるとは…。 キョン「分かった。とりあえず明日学校で話し合おう。なんとかなだめて学校には連れてこないようにな、騒ぎになる。」 長門 『分かった。』 ツー、ツー、ツー、 次は朝比奈さんだな。ただただオロオロしている事だろう。 みくる『はーい、あ、キョン君、どうしたんですか?』 キョン「こんばんは、朝比奈さんのところに小さな人形は届いてますか?スーツケース入りの。」 みくる『人形?女の子ならいますけど。…え、この子人形なんですか?動いてますよ?』 実に癒される。タイムマシンのある未来でも動く人形は開発されていないのだろうか。家政婦ロボットとか。 キョン「肘のあたりを見れば分かりますよ。他の団員の所にも別の人形が来ています。」 みくる『そうだったんですかぁ。私の所は雛苺ちゃん。いちご大福食べて、さっき寝ちゃいました。』 似合いすぎる。朝比奈さん×雛苺。なんて凶悪な可愛さだ。 キョン「よくいちご大福だって気づきましたね?うにゅーとか言ってませんでした?」 みくる『お茶菓子用にたまたま買ってあったんです。明日部室に持って行くつもりで。』 キョン「そうですか。とりあえず明日は雛苺には家で留守番するよう説得してください、騒ぎになってしまうので。放課後人形を連れて集合という事で。」 みくる『う~ん、なんとか頑張ってみます。』 キョン「はい、それではおやすみなさい。」 さて、次はハルヒだな。俺の予想は、アイツには水銀燈ってところか、なんとなくだが。アイツなら互角に渡り合いそうだ。 トゥルルル・・・ ハルヒ『ハイ、珍しいわねアンタから電話かけてくるなんて。何の用?アタシいま教育に忙しいんだけど。』 教育? キョン「お前、明日学校に人形連れてくるつもりだろう。」 ハルヒ『…アンタ盗聴でもしてんの?返答次第では全身あらゆる関節はずすわよ。』 キョン「アホな事ぬかすな。家にも来たからお前にもと想像しただけだ。」 ハルヒ『アンタんとこにも来たの!?誰?水銀燈?あれが一番カッコいいのよね!ウチの金糸雀と交換しなさい!!』 金糸雀『(い、いないところで言って欲しいのかしら…。)』 キョン「真紅だ。お前に金糸雀とは果てしなく意外だぜ。他の団員のところにも来てる。とにかく学校には連れてくるなよ? 授業中部室に隔離しようとか考えてるんだろうが、おとなしく待ってるような奴らじゃないだろう。」 ハルヒ『いいわよ、みんなのとこにも来てるんじゃ驚かしようがないもんね。でも真紅もいいわねぇ、交換しなさい!!』 金糸雀『(うぅ…、くじけそうなのかしら…。)』 キョン「断る、こっちはそこそこ仲良くやってるんでな。あんまりいじめてやるな。とりあえず明日は金糸雀は置いて学校に来い。」 ハルヒ『わかったって言ってるでしょっ!!んじゃ明日ね。』 キョン「あぁ。おやすみ。」 ふぅ、とりあえず白は当たってない様でほっとしたぜ、しかしハルヒに金… ――何だ。何か違和感がある。 …部屋を見渡しても特におかしな所は無い。ベッドの下…綺麗なもんだ、何もいない。 窓ガラスに反射するのは変わらぬいつもの間抜け面…、じゃないっ!! キョン「真紅っ!!」 派手にガラスが砕ける音、電灯も破壊され視界不良の室内、見えるのは輝く赤い瞳のみ。 (ダメだ、真紅がいなけりゃ話にならん。) 幸い扉は俺の方が近い、行くしかない。 キョン「…くっ!!」 水銀燈「遅いわぁ。」 真紅「あなたもね。」 水銀燈「!!」 俺にめがけて飛んできた黒い羽がもれなくはたき落とされている。気づいてくれたか。 真紅「派手な浸入ね、夜なのだからもう少し気を使いなさい。」 水銀燈「あらぁ、残念。この部屋鏡がないものだからこんな方法しか無かったの。あなたもう少し身だしなみに気を使いなさぁい。」 キョン「余計なお世話だ。やはりお前も来ていたか、誰と契約した。」 水銀燈「内緒。でもすぐに会えるから安心しなさぁい。今日は挨拶程度だからそろそろ失礼するわぁ。」 真紅「待ちなさい!」 追う真紅よりも一瞬早く、黒い翼は闇に消えていった。 キョン「悪い、助かった。」 真紅「いいわ、あなたに死なれては私も困るもの。そんな事よりあなた、どうして黙っていたの!!?」 キョン「…は?何をだ。」 真紅「猫よ!!あの汚らわしい生物よ!!」 ……そういえばそうだった。こいつは猫がダメだったな。さて、どうする。 ――やるしかないか。 キョン「聞け、真紅。」 真紅「何よ!?」 キョン「昔ある所に、天才の名を欲しいままにしたぬいぐるみ職人がいた。」 真紅「……は?」 キョン「その男はぬいぐるみ以外にとても好きなものがあった。そう、猫だ。 ある日、新しく購入した猫図鑑を眺めていた男はある猫と出会う。 メスしかいないはずの三毛猫、その中においてわずか1/30000の確率で現れるという、伝説のオスの三毛猫だ。」 真紅(…ゴクリ) キョン「男は魅了された。欲しい、どうしても欲しい。オス三毛猫の魅力の前では今まで愛でてきた猫達が霞んで見えた。 男は悩んだ、一体どうすればオス三毛猫をこの手に抱ける。どうすれば…。…そうか!」 真紅「……。」 キョン「―――オスの三毛猫を作ればいい、私の手で―――」 真紅「!!」 キョン「その日から、猫のぬいぐるみ作りに打ち込む日々が始まった。何年も何年も三毛猫のぬいぐるみを作り続けた。 100体、200体、何百もの失敗を繰り返した末のある日、一匹の猫がにゃあ、と産声をあげた。 奇しくもそれは、ぬいぐるみ職人シャミが猫を作り始めてからちょうど1000体目、それが我が家の飼い猫、 ――――シャミシリーズ第千ドール、シャミセンだ。」 真紅「ぬいぐるみだっていうの?…あれが。」 キョン「その通り、それにアイツは極めて大人しい。家の妹よりもよっぽど大人だ。」 真紅「…なんて技術なの‥。でもそう、ぬいぐるみなら安心ね。」 …え、嘘だろ? 真紅「あら、9時を7分も過ぎてしまったわ。おやすみなさい、キョン。」 …信じたよオイ。 翌日。 キョン「よ、ハルヒ。うまく説得できたみたいだな。」 ハルヒ「わけないわ。プレーンオムレツ三つであっさり納得したわよ。家でテレビでも見てるんじゃないかしら。」 キョン「そりゃよかった。ちょっと長門のとこにも行って来る。あいつんとこには翠星石だ、うまく説得できたかどうか…。」 ――――――― キョン「おーい、長門。どうだ、人形は家で大人しくしてるか。」 長門「…問題無い。」 翠星石「…問題無い。」 キョン「そうか良かった……ってオイィッ!!バッチリ失敗してんじゃねーか!!」 長門「斜光フィールドで保護している。あなた以外には見えていない。」 翠星石「??…チャコールフィルターは解散している。あなた以外には見えていない。」 キョン「…失言だ、全国のファンに謝罪しておけ。それで、ホントに大丈夫なんだろうな?」 長門「私の傍を離れなければ。」 翠星石「そいつぁ約束出来かねるです。内に秘めたる好奇心という名の宝石(ジュエル)を抑えるのには翠の両手ではあまりに小さすぎたのさ…、です。」 キョン「……放課後までなんとか持たせてくれ。放課後俺の家で落ち合おう。」 長門(…コクリ) 翠星石「あんな地味なののどこがいいですかシャイ人間。あの顔はせいぜい係長止まりの顔ですぅ。」 ―――シバく、絶対にシバく。 放課後自宅 金糸雀と雛苺に纏わり付かれ迷惑顔の真紅、双子はちょっと危ない色の空気を醸し出している。 …5体も揃うとさすがに壮観だな。 ハルヒ「…緊迫感ゼロね。顔合わせた瞬間にガチの殴り合いかと期待してたのに。こいつら戦う為に現れたんじゃないの?」 キョン「期待すんなそんなもん。しかし目的がハッキリしないって点では同感だな。おい、ドールズ。」 十の瞳がこちらを向く。 キョン「お前らアリスとやらになる為にローザミスティカを集めるのが一応の目的だよな? 戦いが嫌だって気持ちはよく分かるが、それならどう解決をつけるつもりなんだ?」 真紅「……。今は心理戦よ。」 翠星石「……。油断を誘うと共に急所の探り合いですぅ。隙あらば頚椎もらうです。」 金糸雀「…そ、そうそう。すでに戦いは始まってるかしら。」 蒼星石「……そうだね。」 雛苺「……なの。」 長門「……………。」 …こいつら何か隠してやがるな。 長門を見る限り即どうこうなる感じでもなさそうだが。 キョン「はぁ…。まあ今日のところはそれでいい。係わっちまった以上は協力してやるさ。お前らはどうだ。」 古泉「出来るだけの事はさせて頂きますよ。」 みくる「わ、わたしもです。」 長門(…コクリ) ハルヒ「白いのが来たらアタシとカナを呼びなさい。秒殺してやるから。アンタ達の相手はその後ゆっくりしてやるわ。」 金糸雀(…目が本気かしら…。) キョン「早速だが昨日水銀燈に襲われた。平日でも人形と離れるのはお互い危険だろう。早朝に登校して部室にいてもらうしかないだろうな。」 ハルヒ「…面倒ねぇ。ま、それでいいわ。カナもいいわね?こん中で言えば生まれた順番はカナが1番早いんだからちゃんとみんなをまとめんのよ?」 金糸雀「…そんな設定すっかり忘れてたかしら…。」 翠星石「やってみやがれです。」 真紅「まとめ返してやるわ。」 ……不安だ。 翌日早朝。 大きめのリュックに真紅を隠し、いつもより1時間も早く家を出た。 真紅「髪が乱れるわ。」 キョン「もうすぐ着く、その紅茶の飴でも舐めててくれ。」 真紅「全く…こんな飴一つで、……っ!(…これは!!)」 …大人しくなったか。 地獄の坂を登りきりやっと学校に到着した俺を待っていたのは、今ではすっかりおなじみ、下駄箱から滑り落ちた手紙だった。 ―――そうだった。 人形のインパクトが強すぎて忘れかけていたが、トラブルの種は身内にも蒔かれているのだ。 …俺の旧型CPUではマルチタスクは不可能なんだが。…まぁそうも言っていられないか、外ならぬ朝比奈さんの頼みだ。 部室に真紅(飴に夢中)を置きトイレにかけこんだ俺は手紙を開いた。 『今日のお昼休み、生物室に来て下さい。みくる』 …直接指令が書かれてるかと思ったが。それほど重要な指令だという事だろうか。まあいい、考えても始まらん。 教室に着いた俺は自席に着き、削られた睡眠時間を取り戻す旅に出た。 昼休み ――我ながらよく寝たもんだ。朝ハルヒに叩き起こされたのは覚えてるんだが…。 部屋から出したら3食豆腐しか食べさせないと脅しといたから大丈夫、とかなんとか言ってたような…さっぱり意味がわからん。 当のハルヒは教室には見当たらない、ちょうどいい、行くか。 ―――。 生物室で待っていたのは、予想通り朝比奈さん(大)。 みくる「こんにちは、キョン君。」 キョン「こんにちは。またいつかに跳べばいいんですか?」 みくる「はい、そこである事をしてほしいの。跳ぶ時間はもうすぐやってくる昔の私に伝えてあります。」 キョン「…それも規定事項?」 みくる「はい。その意味にもやがて気付きます。…ごくごく近い未来に。」 キョン「…今回は何のヒントもなしですか。」 みくる「そうね、じゃあ一つだけ。扉はいろんな場所に開いています。閉鎖空間もそう、パソコン部の部長さんの部屋もそう、いろんな場所に。 その扉はね、過去と未来を繋ぐだけではないの。…こんなところかな?」 キョン「…とりあえず納得しておきます、いずれ理解できるのなら。」 みくる「ありがとう、キョン君。…それじゃあまたね。」 …前と香水が変わってるな。薔薇の香りを残し、朝比奈さん(大)は去っていった。 そのすぐ後。ノックが2回。 みくる「キョン君いますか―?」 キョン「はい、開いてますよ。」 みくる「よかったぁ。実はまた指令が届いてしまって。今から一緒に2年半前に行って欲しいんです。」 キョン「いいですよ、外ならぬ朝比奈さんの頼みです。で、2年半前のどこへ?」 みくる「うーん、それがよく分からないんです。ある程度栄えた都市であればどこでもいいって…。」 キョン「?そんな指令がありえるんですか?…で、そこで一体何を。」 みくる「その時間にインターネット上で開催されている童話投稿サイトのコンテストにそれぞれ考えた童話を投稿してください、 …って書いてあります。あっ、優勝賞金50万円だって!すごーい!!」 キョン「は…童話?」 あいかわらず訳が分からない指示だ…。ま、仕方ない。なんせ相手は規定事項様だ。 みくる「うーん、童話かぁ。童話…。」 キョン「まあとりあえずその時間に行きましょう。難しく考えないでも大丈夫ですよ、投稿しろとは書いてあるが優勝しろとは書いてない。」 みくる「あ、そうですね。えーと場所はどこがいいかなぁ、えーと、…京都に行ってみたいんですけどいいですかキョン君。」 キョン「えぇ、構いません。」 みくる「やったぁ、じゃあ目をつぶってキョン君。」 ―――地面が消える感覚、何回跳んでも慣れそうにない。うー、気持ち悪ぃ。 気を失いかけた次の瞬間、 みくる「着きました。ちょうど2年半前、えーと場所は、あれ?京都駅に着くはずだったのに…。 京都府宇治市木幡大瀬戸32番地?どこだろここ…。」 キョン「まぁ探せば駅とか見つかりますよ。先にネカフェにでも入って指令を済ませましょう、宇治茶はその後で。」 みくる「な、なんで宇治茶だってわかったんですかぁ?」 あぁ、癒される。 結論から言うと、その時間旅行中に特記するような事態は起こらなかった。 ネカフェで席に着いた俺達は、いや席ではない、「カップル席」だ。いいかもう一度言う、「カップル席」だ。 「カップル席」についた俺は目的のサイトを探し出し、ものの15分で投稿を終えた。 みくる「すごいですねキョン君、こんなにすぐ書けるなんて。私まだ何にも考え付かなくて…。」 キョン「ゆっくり考えてください。あ、そうだ朝比奈さん、質問なんですが。 例えば今俺がネット上に未来に起こる出来事を書き込んだりするのはまずいんですか?」 みくる「うーん、内容にもよるけど書き込む程度なら特に問題は無いはずです。説明はうまくできないんですけど…。」 キョン「ほーう、それは面白い…。」 アメリカにはジョン・タイターとかいうのが降臨したんだったな、なら俺は…いやダメだ、いつハルヒの目にとまるとも限らん。 その日2ちゃんねるという巨大掲示板に、ジョン・億次郎という未来人が現れ向こう2年半に起こる出来事を次々と予言していったという。 たっぷり3時間パックを消化し、朝比奈さんは投稿を終えた。 どんな話かは最後まで見せてはもらえなかったが。朝比奈さんなら日常生活をそのまま綴れば立派な童話が出来上がるだろう。 その後軽く京都散策をし、宇治茶を土産に元の時間に戻ってきた。跳んだ時間から5分も経っていない。 みくる「ありがとう、キョン君。放課後このお茶煎れるから楽しみにしててね。」 キョン「ええ、ではまた部室で。」 放課後部室 そこには予想に反し大人しく座って待っている5体の人形の姿があった。 キョン「何食ってんだこいつら。」 ハルヒ「今朝アタシが作ったオムライス。放課後まで大人しくしてられたらあげるって言っておいたの。 小さいとはいえ5人分ともなると重いったらなかったわ。」 真紅「このお米、微かに紅茶の香りがするわ…!」 雛苺「ヒナのだけケチャップじゃなくて苺ソースなのーっ!!」 なんだかんだで結構可愛がってるんだな。金糸雀の衣裳もよく見りゃ昨日と違う。 朝比奈さんのコスプレ衣裳にあれだけ情熱を注ぐこいつだ、リアルな着せ替え人形でしかも動いて話すとなりゃたまらないものがあるんだろう。 キョン「長門は荷物そんだけか?翠星石はどうやって持ってきたんだ。例の斜光なんとかか?」 すっ、と長門が指差す先、コスプレチェック用の鏡? 長門「通って来た。」 キョン「…おい真紅、そんなんできるのか。」 真紅「目的地のイメージがはっきりしていれば可能よ。話したじゃないの。」 …聞いてねぇ。 翌日 キョン「朝比奈さん、その衣装は…。」 みくる「雛苺ちゃんがどこからか持ってきて。ちょっと派手かなぁとは思ったんですけど…。」 雛苺「おそろいなのっー!」 キョン「最高です。もし家に来たら0.1秒で契約を決断するでしょう。」 ハルヒ「……。」 蒼星石「キョン君、早く続きをやろう。」 キョン「ああ、悪い悪い。てかなんでこんなに将棋強くなってるんだお前は。」 古泉「僕と何十回も対局しましたからね。」 キョン「お前相手じゃ何回打っても強くはならんだろう。」 …それともやはり隠してるだけで実は強いのかこいつ…? 蒼星石「フフ、キョン君と遊ぶために研究したんだよ。」 キョン「…なんだそりゃ。」 ハルヒ「…………。」 真紅「キョン、抱っこして頂戴。」 ハルヒ「…!?」 キョン「ちょっと待ってろ。今対局中だから。」 ハルヒ「…帰る。」 キョン「?なんか用事かハルヒ。」 ハルヒ「うるさいっ!!」 ――バタンッ キョン「…どうしたんだあいつ?」 真紅「あの本を取りたいわ、早くして頂戴。」 キョン「…はいはい。」 ―ピリリリリリリ 古泉「…おやおや、これは久々ですね。――ハイ、ええ分かりました、すぐに。」 蒼星石「…!」 キョン「…おい、まさか…。」 古泉「えぇ、どうやら発生したようですね。最近は落ち着いていたんですが。」 キョン「…まさか今の゛抱っこ゛じゃないだろな。…相手は人形だぞ?」 古泉「ただの人形ではありませんからね、涼宮さんのフォローはお願いします。」 蒼星石「マスター。」 古泉「――ええ、手筈通りに。」 キョン「?」 蒼星石「翠星石、ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど。」 翠星石「今対局中なのですよ。今日をもってネット囲碁界の神はsaiではなくsui…」 蒼星石「いいから来て!」 ――カチカチッ 翠星石「あっ、何するですか蒼星石!」 キョン「あいつらまで一体何を…。」 ―――――― 古泉「遅れてすみません、…なかなか派手に暴れていますね。」 機関員1「久しぶりだからな。…さて、さっさと片付けるか。」 古泉「少しだけ待ってもらえませんか。おそらくもうすぐ動きが止まるはずなので。」 機関員2「なんでそんな事がわかる。」 古泉「実は今回ある助っ人をお願いしていましてね。」 ―――― 蒼星石「…見つけた、これが金糸雀のマスターの樹…。」 翠星石「こんなの探してどうするですか?…まさか切断…!?」 蒼星石「フフ…これで金糸雀は脱落…って違うよ! マスターから頼まれたんだ。『僕がアルバイトに呼ばれる時にはおそらく涼宮さんの心の樹に雑草が絡み付いてるはずだから刈り取っておいて欲しい』、って。」 翠星石「…確かにものすごくオフェンシブな雑草があるですね…。」 蒼星石「何か嫌な事でもあったのかな。結構楽しそうに見えたんだけど。 ――ジョキン、これでよし、と。」 翠星石「翠星石はやる事ないじゃないですか…。」 蒼星石「…い、いや樹が元気無かったらじょうろも使ってもらおうかと思ってたんだよ。 ――まぁいいじゃない、2人だけで話すのは久しぶりだし。」 翠星石「そ、そうですね、たまにならいいですよっ…。」 ――――― 古泉「(うまくやってくれた様ですね。)」 機関員1「本当に止まったぞおい…。」 機関員2「お前…超能力でも目覚めたか?」 古泉「フフ、…さて、ゆっくり片付けるとしましょうか。」 ――――― キョン「おい、ハルヒ!何怒ってんだよ!」 ハルヒ「怒ってないわよ!ついてくんなっ!」 …怒ってんじゃねーか。 キョン「待て、そんな引っ張ったら金糸雀がかわいそうだろ。お前のペースで歩くな、歩幅を合わせろ。」 ―グイッ ハルヒ「…なんでアンタまでカナと手繋いでんのよ。」 金糸雀(…な、なんか親子連れみたいかしら。) キョン「お前の家までだ、ゆっくり歩け。」 ハルヒ「…分かったわよ。」 金糸雀(…ひょっとしてちょっとイイ感じかしら?) 下校時。 あれから1週間、鏡を通じて登下校する日が続いている。 あの坂を上る必要が無いってだけでここまで晴れやかな気持ちになれるとは。 なにより朝始業直前まで寝てられる。こんな裏技があるなんてな。 今日も次々と鏡に吸い込まれていく団員&ドールズ。 鏡の中にはどこまでも続く海が広がっている。 確か無数の記憶がどうとかいう話だったな。 先を行った団員達の姿はもう見えない。 ――その時。 どこか暖かさを感じさせていたフィールド内の空気が、一瞬にして凍りついた気がした。 どこからか響く、温度の無い声。 ???「可哀相なお姉さま。…今度は誰に壊される?」 何だ? 真紅「キョンっ!!」 真紅に突き飛ばされ、空中に放り出される俺の体。 次の瞬間目に写ったのは、蜘蛛の巣状に広がった荊に捕らえられた真紅の姿だった。 いつのまにこんなもんが!? キョン「真紅っ!!」 真紅「逃げなさい!!自分の家をイメージして!早く!!」 雪華綺晶「…今度は誰に奪われる?…それは、」 白薔薇が真紅に向かって動き始めたその瞬間、 突如現れた2つの影が白薔薇と交錯した。 ???『『私♪』』 雪華綺晶「!!?」 ザシュッ、という音と共に当たりがもやに覆われる。 キョン「今度は何だ!?」 ゆっくりと晴れていく爆煙。 徐々に見え始めた白薔薇の体に、深々と突き刺さる2本の楔。 ――黒い翼と、アーミーナイフ―― 水銀燈「あらあらぁ、いい格好ねぇ真紅。」 朝倉「お久しぶりね、キョン君。」 …朝倉涼子…!! キョン「お前が契約者だったのか…!」 真紅「水銀燈…。」 雪華綺晶「…フフ…少し分が悪そう。また改めて伺いますわお姉さま…。」 白薔薇の体が海原に溶けていく。 姿が見えなくなると同時に、真紅を捕らえていた蜘蛛の巣は消えていった。 水銀燈「追うわよ涼子。」 朝倉「ほっときなさい、向こうから来るって言ってるんだから。」 キョン「…なかなかお似合いのコンビだな朝倉。一体どうやって復活した?」 朝倉「…復活、ね。できたらよかったんだけど。残念ながら違うわ。」 キョン「何?」 朝倉「あなたの人形から聞いてない?ここは記憶の海。あなた達の記憶の中に残る朝倉涼子、それが私。私はこの空間でしか存在できないの。」 キョン「記憶なんぞとも契約できるのか。…まあいい。助けてくれたようだが、俺達に危害を加える気は無いんだな?」 朝倉「うーん、どうかな?この娘がそうしたいなら付き合うつもり。今はそんな気は無いみたいだけど?」 水銀燈「適当な事言わないで。行くわよ。」 朝倉「あら、怒らせちゃった。またねキョン君。」 真紅「私達も行きましょう、キョン。」 キョン「…ああ。」 ―――――― キョン「…というわけだ。鏡を通じて登下校するのはやめておけ。」 古泉『分かりました、みなさんにも連絡しておきます。』 キョン「あぁ、頼む。」 古泉との電話を終えた俺は、どこか放心した様子で窓の外を見つめ続ける真紅に声をかけた。 キョン「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」 真紅「……。」 キョン「現にああして襲われたんだ。お前と契約した以上、何も知らないってわけにはいかない。」 真紅「……。明日話すわ。放課後あの部屋で。」 キョン「…ああ、分かった。」 放課後文芸部室 キョン「ハルヒと金糸雀はどうしたんだ?」 蒼星石「さっき二人でどこかに行ってしまったけど。」 キョン「たく、こんな時に…。」 まぁいないのなら仕方ない。古泉的にハルヒに聞かれちゃまずい話も出てくるかもしれないしな。 キョン「真紅、始めてくれ。」 真紅「…ええ。まず始めにキョン、あなたに一つ嘘をついていたのだわ。」 キョン「…なんだ?もう今更だ。大低の事は受け入れてやる。話してみろ。」 真紅「……今私がいる世界、その4つ前にいた世界の話よ。」 真紅が語り始めた物語、それは不思議には慣れ過ぎたはずの俺や団員達でさえ言葉を失う内容だった。 真紅「才能のある男の子がいたわ、ちぎれた薔薇人形の腕を繋ぎ合わせる事さえ出来る程の、とても才能ある男の子。 それは7体のローゼンメイデンが同時に存在した時代、…最初で最後のね。」 キョン「今は違うのか?」 真紅「途中で口を挟むのはやめなさい、…続けるわ。」 翠星石「…黙って聞きやがれです。」 真紅「突然現れた7体目のドール、実体のないそのドールはそれぞれのミーディアムを狙い、私達を追い詰めていった。 罠に嵌まり絵画の中に閉じ込められた私達。…契約を解いた私と翠星石、契約者を奪われた水銀燈…とても相手にならなかったわ。 その時は逃げ切った金糸雀も、ミーディアムを捕らえられ同じ結末を辿った。先に倒されていた蒼星石、体を奪われた雛苺。 …あの時私達薔薇人形は全滅したの、第7ドールの手によって。」 全滅?だが現に今…、 真紅「私達が目を覚ましたのは戦いから20年後。」 キョン「…20年?」 真紅「そう、そしてここからは先の話は、私達ではなく彼の記憶の内容よ。」 ―――――― 真紅「ジュンが駆け付けた時、全ては終わった後だった。バラバラにされた私達、その悲惨な光景に彼は再び心を閉ざしたの。 彼には人形を修復する技術があった。Nのフィールドをさ迷うパーツをかき集めれば、直す事も出来るかもしれない。 でもローザミスティカが無ければドールは動き、話す事は出来ない。第一ドール無しではフィールドに入る事など…。 そんな思考のループを繰り返し、希望と絶望を繰り返す日々。でもある日突然、彼は一つの考えに行き着くの。 ―――修復ではなく、新たな人形達を自分自身の手で作り出す。という考えにね。」 ……。 ……ちょっと待て。 真紅「記憶の中に生きる私達を生み出す為、彼は研究を重ねたわ。 でも5年が過ぎ、10年が過ぎ、どれだけ試作を重ねても、人形が動き出す事はなかった。」 この話… 真紅「そして20年と2ヶ月が過ぎたある日、ついに限界が来たの。数多の人形に囲まれた自室で彼は意識を失った。 その時よ。彼が倒れたその瞬間、私達は目覚めたの。」 …まさかあれは… ――その時間にインターネット上で開催されている童話投稿サイトのコンテストにそれぞれ考えた童話を投稿してください。―― ……あの指令。 ――すごいですねキョン君、こんなにすぐ書けるなんて―― 即席で童話を作る才能なんて俺にはない。さっさと目的を済ませようと俺が書いた話。前の晩、真紅に話したホラ話。 その時ネット上に半永久的に保存されたであろう俺の投稿。 そして絶望の淵で部屋に篭もりパソコンと向かい合うだけの生活を過ごしていた少年。 ――でもある日突然、彼は一つの考えに行き着くの。―― …読んだんだ、あれを。 ―――オスの三毛猫を、『作ればいい、私の手で』――― ……そういう…事か。 これだったんだ、あの指令の意味は。 再び人形達が生まれるためには俺があの時間に跳ばなければならなかった。 …いや違うな、俺がいなくてもいずれ自分自身で気づいたのかもしれない。でもそれでは間に合わなかったのではないか。 時間がどう流れているかは分からないが、その小さなズレが未来を大きく歪ませる可能性は無いとはいえない。 人形達は今この時間、SOS団の元に現れなければいけなかった。 全てを解決するために。 だがちょっと待てよ? 俺の投稿が2年半前、それを見てから人形が完成するまで20年? ……まぁいい。全て終わったらゆっくり聞かせてもらう。真紅の話の途中だった。 真紅「2日間病院のベッドで過ごした後、彼は息を引き取った。 その時覗いた記憶の中の私達人形は争う事などなく、狭い家の中で少年時代の彼と駆け回っていたわ。 …でも彼は結局、動き出した私達を目にする事は出来なかった。」 …文字通り命と引き換えに、か。 そして、真紅がついていたという嘘。 今の真紅達は厳密に言えば、――“ローゼン”メイデンではない―― 真紅「――私達の生みの親はローゼンではない。記憶の共有はあってもアリスになる事への執着は失われていたの。 それでも、私達はお父様に会わなければならない。アリスゲームの本当の意味を、真意を問いただすために。」 キョン「…第7ドールはお前らを倒してアリスとやらになったのか?」 真紅「私達を襲ってくるという事はおそらくまだなのでしょうね。そしてあの娘はローザミスティカではなく、 ミーディアムを奪う事でアリスに近づこうとしている。」 アリスか。確か無垢で穢れの無い超美少女とかそんな感じだったな。 今の時代ならとんだ妄想親父と後ろ指を指されること必死だろうが。なんなら長門を会わせてやろうか、条件にはピッタリだ。 まぁあれだ、7体目が契約者を狙うなら、 キョン「身に降る火の粉はなんとやら、だな。」 真紅「7体のドールが一斉に目覚めた今こそ、決着をつける。」 次の瞬間、景色がグニャリと歪んだ。 ???「ふふふ…やってみなさいな。」 キョン「…来やがったか。」 グニャグニャに歪んだ文芸部室。朝比奈さんとの時間旅行の時に目を開いたらこんな感じなのかもしれない。 真紅「後ろに隠れて!」 声を張り上げる真紅に対して、俺は努めて冷静に答えた。 キョン「真紅、実は俺達もお前らに隠していた事がある。」 真紅「後にしなさい!話なんてしてる場合じゃ」 キョン「いいから聞け。こいつらは、つまり俺以外の団員は世間一般でいうところの普通の人間じゃない。」 真紅「何を言って…」 雪華綺晶「また…バラされに来たのでしょう?」 団員+ドールズを囲む巨大な蜘蛛の巣状の白荊。 真紅「いけない!!」 キョン「長門っ!!」 真っ直ぐに突き出した長門の細腕が、巨大蜘蛛の巣を捉えた。 長門「空間座標確認、」 そして、 朝倉「ついでだし手伝おうかしら。」 キョン「朝倉!?」 長門&朝倉『『――情報連結解除、開始』』 雪華綺晶「!?」 風が流れるような音と共に辺りを覆い尽くしていた蜘蛛の巣が光の砂になり溶け消えていく。 蒼星石「……?」 大鋏で荊を刈り取ろうと飛びかけていた蒼い子が驚きに固まっている。 そして怯える、朝比奈さんと雛苺。…朝比奈さんはそろそろ慣れて下さい。 翠星石「…シャイ人間…今の何です?」 長門「……それは、禁則事項……なのだわ。」 みく・紅「なっ…!」 キョ・翠「ブッ!」 真紅「…わ、私の物真似なんていい度胸ね。それにしても、禁蘇駆磁光…なんて恐ろしい技なの。」 翠星石「…とんだトゥー・シャイ・シャイガールですぅ。」 吹き出しちまった、まさか長門がボケるとは。 それに朝倉、毎回毎回カッコいいタイミングで出てきやがって。 だが、当の長門はどこか様子がおか… ――ふらっ、 キョン「…おいっ、長門!!」 倒れかけた長門を受けとめる。呼吸が浅い…それに何だ、この体の冷たさは…。 雪華綺晶「…ふふ、まず一人。」 …ちっ、こいつが!! キョン「おい真紅!攻撃す…」 こちらを向いた真紅の顔は蒼白に染まっていた。 …そうかこの状況は、このアホが… 真紅「…キ、キョン、契約を…」 キョン「解いてどうする。逃げるか?」 真紅「!」 キョン「あれから4つ世界を渡って来たとか言ったな。契約者が危機に陥る度にそうやって逃げ出してきたのか? 口では7番目を倒すと言いながら!ローザミスティカを護れと言いながら!!」 真紅「それは…」 古泉「…っ。」 蒼星石「マスター!!」 雪華綺晶「…ほぅら、二人目。」 …くっ、古泉まで!やはりここじゃ力は使えないのか…!? キョン「真紅!!お前は後悔した事はないのか!?契約を解かずに闘っていたら、1度でもそう考えた事はなかったか!!」 真紅「!!」 キョン「俺は長門を守らなきゃならない、一応古泉の野郎もだ!手を貸してくれ!!」 真紅「……。」 雪華綺晶「お話は、終わった?スゥーウィ。」 キョン「真紅っ!!」 真紅「ホーリエ!!」 派手な衝撃音、そして閃光。 キョン「…やっとやる気になったか。俺の体力なら好きなだけ持っていけ、死なない程度にな。」 真紅「ええ、そうするわ。二人のミーディアムと後ろに下がっていて。水銀燈、手を貸して頂戴。」 水銀燈「私一人で足りるのだけど。…まぁ、いいわ。後ろから来なさい。」 空中で複雑に交錯する紅・黒・白、3色の花びら。 よし今の内に…、 キョン「しっかりしろ長門、古泉!」 朝倉「睡眠時の状態に近いわね、それに衰弱が激しい。有希…。」 翠星石「シャイ人間…しっかりするです…!」 蒼星石「マスター…!」 長門「…朝倉涼子、手伝って。」 朝倉「……。やめなさい、それ以上消耗したら死ぬわよ。」 長門「構わない。」 朝倉「…あーもう、わかったわよ。」 キョン「おい、お前ら一体何を…」 長門&朝倉『………』 …ん? 長門&朝倉『…………………』 これは… 翠星石「…なんです…、もっとはっきり喋りやがれですぅシャイ人間…!!」 ――ヒュンッ、 ん? なんだ…白荊…!? …まさかあの二人を相手しながら…マジか!? 真紅「…!?キョン!!」 …なんだ、この眠気…マズ…い… 雪華綺晶「…三人目ね。」 長門「…………。終わった。」 その時、どこかで扉を開くガラッ、という音がした。 扉? …あぁそうか。長門と朝倉がこじ開けたのだ、この歪んだ空間を。 ???「おりゃーっ!!!」 ドロップキック一閃。 目の前まで迫っていた白薔薇の姿が一瞬にして俺の視界から消え去った。 …来たか。 ハルヒ「アンタ何勝手に人んち部室を異空間化してくれてんのよ。そーいう事はね、アタシのいる前でやりなさい!カナッ!!」 金糸雀「はっ、はい!」 慌てたようにバイオリンを奏で始める金糸雀。 バイオリンは全くのド素人の俺でも上手いか下手か位は分かる。…これはなかなか、 ハルヒ「G線もっと押えるっ!!」 金糸雀「はいぃ!!」 ゲーセン? ったく、教育なら後にしろ…んな事してる場あ ――ドッゴォオーーーーンッッ!!!!―― ドールズ「………は?」 ハルヒのドロップキックの比ではない衝撃、突然吹き飛ぶ雪華綺晶。 キョン「……今の、金糸雀が…?」 ダイナマイトが至近距離で爆発したような(見た事はないが)原作とは桁違いの破壊力。 …またハルヒパワーか? 真紅「なんなの今の…あの子にあんな事できたなんて…。」 水銀燈「…あ、あの子ちょっと前まで空気扱いだったじゃないの…。」 翠星石「…殺人バイオリンですぅ、早急に法規制するべきですぅ。」 金糸雀「……今の、カナが…?」 ハルヒ「そーよ、それでいいのよ!やればできるじゃないのカナ!! それに比べてアンタ達っ!!なにボサーッと突っ立ってんの!!!」 ドールズ(ビクッ!!!) ハルヒ「逃がすなっ!!!!」 …やれやれ。 水銀燈「そろそろイキなさい!!」 朝倉「フフ、殺してあげる♪」 金糸雀「もらったかしらっ!!」 ハルヒ「おぉりゃぁーーー!!!」 翠星石「ブッ飛びやがれですっー!!!」 長門「………、…、……、………。」 蒼星石「行くよマスター!!」 古泉「もう、必要なさそうですが。一応動いておきましょうか。」 真紅「キョン、根こそぎ体力もらうわよ。」キョン「根は残せ、死ぬだろうが。」 雛苺「どっか行っちゃえなのー!!」 みくる「あ、あの私やる事が…。」 雪華綺晶「…くっ!!」 真紅「薔薇の竜!!!!」 ―― ―――― ――――――――。 数日後 朝比奈宅 みくる「いつでも遊びに来てくださいね、雛苺ちゃん…。」 雛苺「みくるー…。絶対来るの。すぐ来るなの…。毎日来るなの…。」 みくる「雛苺ちゃん…」 雛苺「みくるー…」 みくる&雛苺『ふ…ふぇ…うわーん…。』 長門宅 翠星石「もっと自分から話しかけないとダメですよ、シャイ人間。円滑な人間関係は毎日のコミュニケーションからです。」 長門「…努力する。」 翠星石「…努力する。 暗い!!もっと明るくしやがれです!!あのカルビとかいう女からヒョンの野郎を奪い返すです!!」 長門「…努力する。」 翠星石「…これはかなりの教育が必要ですぅ…。次会う時には週8のペースでトークを叩き込んでやるから覚悟しとけです。」 長門&翠星石『……そう。』 翠星石「暗い!!全くあきれたシャイ人間…」 長門「カレー」 翠星石「へ?」 長門「作って待っている。」 第?????世界 朝倉「少しはお役に立てたかしら?」 水銀燈「ふん、いないよりはマシって程度にはね。」 朝倉「…まったく。で、これからどうするの?」 水銀燈「決まってるじゃない。残りを壊しに行くのよ。」 朝倉「…はぁ。私が言えた義理じゃないけど、その性格直した方がいいわよ。あとその目つき。」 水銀燈「常にナイフ持ち歩いてる様な奴に言われたくないわ。」 朝倉「アハハハ、それもそうね。ま、たまには会いにきて、この中すごくヒマなの。」 水銀燈「…そうね、考えておくわ。」 古泉宅 蒼星石「そろそろ行くよ、マスター。」 古泉「そうですか。他の人形達にもよろしくお伝えください。」 蒼星石「うん。マスターのいろんな話、すごく面白かった。特に金糸雀のマスターの話。僕達の世界よりずっと不思議だ。」 古泉「僕も楽しかったですよ。またいつでもいらしてください。次に会うときまでに話の種も増えているでしょうから。」 蒼星石「うん、必ず。じゃあ、またねマスター。」 ハルヒ宅 金糸雀「ハルちゃん…。」 ハルヒ「なんかあったらすぐ呼びなさい。団員全員でブッとばしに行ってあげるから。」 金糸雀「ハルちゃぁん……。」 ハルヒ「泣くんじゃないの!会おうと思えばいつでも会えるわよ。」 金糸雀「うん…。また来るかしら…絶対また来るかしら…!」 ハルヒ「次来る時まで毎日バイオリン練習しとくのよ?もっとうまくなったらピアノで合わせてあげる。」 金糸雀「…うん、頑張るかしら…!ありがとうハルちゃん…。」 ????? 雪華綺晶「…お礼を言います、マスター。あなたのおかげで、私はアリスになる事ができた。」 ???「…………。」 雪華綺晶「あなたはもう、目覚める事は無いけれど…どうか、よい夢を…マスター。」 ――― ???「ふふ…可愛い寝顔。」 雪華綺晶「…………。」 ???「お礼を言うのはこちらの方です。あなたのお陰で、涼宮さんの退屈は晴れてくれた。 だから今は、ゆっくりと休んで下さい。…せめてその傷が癒えるまで、」 雪華綺晶「………。」 喜緑「――偽りの夢に抱かれて、お眠りなさい…雪華綺晶――」 ―――――― キョン「最後に一つだけいいか。」 真紅「何?」 キョン「新しく生まれてから4つ世界を渡り歩いたと言ったが、必ず過去から未来に飛ぶのか?」 真紅「時間の流れなんてあってないようなもの、前にいた世界と今いる世界が地続きのものとも限らない。別の世界とを繋ぐ扉は至る所に開いているの。」 キョン「分かったような分からないような…。」 真紅「けど…そうね、前いた世界で見た映像には21――年と表示されていたわ。」 キョン「この本に描かれているのはいつだ?ジュンがいた年代は。」 真紅「確か、20××年だったかしら。」 …やはり、行き着くのはそこか。 ――3年前。 跳ぶ前後の世界が地続きとは限らない。 だがジュンが俺の童話を読んだであろうこと、そもそもこんな本がこの世界にあること、 それを考えればこことジュンの世界は確かにどこかの扉とやらで繋がっているのだろう。 そしてもし、地続きの世界であるとするなら。 ジュンは今この瞬間も一人どこかの部屋に篭もり、新たな人形を生み出す途中なのだろうか。 真紅「そろそろ行くわ。世話になったわね、キョン。」 キョン「妹も淋しがるだろう。いつでも会いに来い、部屋に鏡を用意しておく。」 真紅「紅茶も用意しておきなさい。」 キョン「ああ、上等な葉を仕入れておく。それと真紅、」 真紅「何?」 キョン「俺達に手に負えそうにない厄介事が起きたら、手伝いに来てくれ。」 真紅「ええ、そうね。全員で駆けつけるわ。この薔薇の指輪にかけて。」