約 540 件
https://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/448.html
◆「設問」の部 第1回(明治18年) 1 牽ト云フ語ハ如何ナル意味ナルヤ 且ツ作用言中幾段ノ活用ヲ為スヤ。 2 里はあれて人の?ふりにし宿なれ や庭もまがきも秋の野らなる 右ノ歌ノ係リ結ビハ如何。 3 作用言ノ中変格ノ種類及ビ其格中 ノ語数幾何アリヤ且ツ良行四段ノ中用 法ノ異ナル詞幾何アリヤ。 4 作用言ノ中毎段変格共使令ノ詞ノ 用法ハ如何。 5 (本文略) 右文中ノ誤リヲ正スベシ。 第2回(明治19年) 1 鶉,蛙,雀,鼠,瓦,器,杖, 笛,苗,竿 右,十字に訓をつくべし 2 箒ははゝきなるをはうきとも書く は如何なるゆゑぞ 3 春毎に心をそむる花の枝にだれが なほざりの袖やふれつる 4 故里へゆく人あらばことづてんけ ふ鶯の初音きゝしと 右,二首の歌のあやまりを直すべし 5 作用言の中の四段言を命令につか ふ時はいかなるいひかたにするかまた 四段言の命令のいひかたはてにをはの 結び辞となることありや 第3回(明治20年) 1 短,虹,梶,躑躅 蚯蚓,法師, 格子 右,訓の仮名をつくべし 2 小路は古来こうちと書き日向は古 来ひうがと書く 右,何故にうと書きてふとは書かぬ か其説明をすべし 3 思ふ事千枝にや繁し呼子鳥そのだ の森の方に鳴くなる 4 出づるとも入るともなくて足引の 山の尾上にすめる月かな 右,二首の歌のあやまりを直すべし 指点して其正誤をつくべし 5 はたらかす,生く 右,二語何段の活用といふ事を説明 すべし 第4回(明治21年) 1 く(来) す(為) 右二つの語の活用を説くべし 2 もみぢばをさこそあらしのはらふ らんこのやまもとはあめと降るなれ 3 おのづから思ひいづともかひぞな き契りしまゝのこゝろならずば 4 日にそへてふしたちにけりわが園 のたけの小枝のうぐひすのこゑ 右三首の歌の誤を指すべし 第5回(明治24年) 1 左の歌についててにをはの調不調 を説明すべし (い)つくばねの峰までかゝるそら 雲を君しもよそにみるは何なり (ろ)春がすみたなびく田居にいほ りしてあき田かるまで思はしむらく 2 左の歌についてうすみとふりみふ らずみとの区別を説明すべし (い)春のきるかすみのころもきぬ をうすみやま風にこそみだるべらなれ (ろ)神無月ふりみふらずみさだめ なきそぐれぞ冬のはじめなりける 3 左の歌について過去現在などとい いふ時の調不調を説明すべし (い)花見にとゆかましものを春が すみたなびく山のかひなかりけり (ろ)誰が方になびきはてゝかひじ のねのけぶりの末のみえずなるらん 4 左の歌についててはのはは清濁い づれにすべきかを説明すべし (い)みちのくにありといふなるな とり川なき名とりてはくるしかりけり (ろ)うめが香を袖にうつしてとヾ めては春はすぐともかたみならまし 右答案の末に熟読及び看過せし語学書 名を列記すべし 第6回(明治26年) 1 左の歌についててにをはの調不調 を説明すべし (い)ひとよりもこゝろのかぎりな がめてし月はたれともわかじものゆゑ (ろ)ほとゝぎす峰の雲にやまじり にしありとはきけどみるよしもなき 2 左の文について詞づかひの調不調 を説明すべし (い)玉はたとひ竜のあぎとにみい でしともそれ得るべき術のなからまし かばいかでかはそのかひあらん (ろ)硯もかわかせず夜毎にてなら ふまゝにいつしか消息をもかよはする ほどになりにけり 3 左の文について時または自他など の調不調を説明すべし (い)かの神龍をとらへては我また 害せられなましよくこそとらへ得ずは なりにけれ (ろ)和歌はひとつこゝろを種とし てよろづのことのはとぞなれりける 右答案の末に熟読及び看過せし語学書 名を列記すべし 第7回(明治27年) 1 左の文について天爾乎波の調不調 を説明すべし 手かくわざは文字のひとつにて上代 は殊にすぐれたりしをいつの頃よりや 漸くすたれて今はふつに学ぶ人だにな くなりしあわれ盛衰の理はたゞ人のう へのみにはあらじかし 2 左の二首の歌について詞づかひの 調不調を説明すべし (い)ゆくさきもみえぬ波路に船出 して風にもまかす身こそうきたれ (ろ)法のみちゑば ふみわけて 吉野の宮に いりにしを などかあら しの おちかへり 志賀山ざくら ち らすらん 3 左の十字に字音の仮字をつくべし 氷 火 僧 章 勝 納 信 心 (資料)「文検国語科」試験問題(1885年~1934年) 58 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) 孝 公 4 左の四条の問に答ふべし (い)有りといふ作用言を何故に変 格の活用といふか (ろ)とといふ天爾乎波はいかなる 時に連体言をうくるか (は)現在の時をあらはす作用言は いつも現在の一箇のみをあらはすか (に)音便の仮字をいうとするはい かなる故か 右答案の末に熟読及び看過せし語学書 名を列記すべし 第8回(明治28年) 1 動詞自他の弁 2 テニヲハの定義を与へかつ其分類 を示せ 3 維新以前の有名なる国語学者三名 を挙げその略伝と学説の一斑とを記せ 4 平安,室町,江戸各時代文学の特 質を略述せよ (国語教授法問題) 1 作文の採点は如何なる標準に拠る べきか 2 読方教授の方法及び其目的 3 読書科と作文科とは如何にして連 絡せしむべきか 4 尋常師範学校,尋常中学校,高等 女学校の国語科時間各々四学年間毎週 四時と見做し学科目及び教科用書の配 当表を作るべし (受験者ハ第一第二第三ノ三問ノ中其 二ヲ撰ブコトヲ得) 第9回(明治29年) 1 母音,子音,促音,拗音の定義を 与えよ 2 に,へ,と,の,が,も,を,の あらゆる用法を示せ 3 枕詞の性質を説き併せて之に関す る参考書を列挙せよ 4 語学の発達を略述せよ 5 左の書は如何なる事柄を記せるも のぞ 歴朝詔詞解 金塊和歌集 扶桑拾葉 集 藩翰譜 和漢朗詠集 6 左の人々の文学上の事蹟を問ふ 源隆國 一条兼良 北村季吟 貝原 益軒 瀧澤馬琴 7 長歌,短歌,旋頭歌,今様歌の形 式を問ふ 8 書牘文は如何にして発達せしか 第10回(明治30年) 【予備試験】 1 左の漢字に國訓を施せ 数 俵 鬼 菔 笈 刄 楫 醉 鵼 靨 潮 教 籖 氏 葛 屑 瓦 犯 竿 蝙蝠 紫陽花 2 左の漢字に漢語音を附しその用例 を示せ 京 右 奴 行 留 圖 慧 皇 女 人 宗 男 武 定 明 3 助動詞を分類してその用例を示せ 4 本邦助辞沿革の一斑を述べよ 5 左の人々の文学上の事蹟を問ふ 藤原俊成 石川雅望 村田春海 藤 原公任 安藤爲章 6 左の書の記載事項と編著者の名と を挙げよ 奥の細道 花月草紙 新葉和歌集 古今著聞集 古今和歌六帖 7 連歌とは如何なるものぞ 8 元禄時代の文学の状態を略述せよ 【本試験】 1 国学者の伝記を知らむには如何な る書を見るべきか 2 公事,衣冠,軍器のことを知らむ には如何なる書を見るべきか 3 土佐日記と古今集の序とを比較論 評せよ 4 読書科教授をして最も興味あらし むる方案如何 第11回(明治31年) 【予備試験】 1 左ノ文章ニ就キテ品詞ノ種類文章 ノ構造ヲ説明セヨ 見じといふ人こそうけれ山里の折か け垣の梅をだに情なしと惜みしに今更 薪になるべしとかねて思ひきや 2 左ノ語ニ仮名ヲ施シ意義ヲ説明セ ヨ 青侍 遠侍 年官年爵 引出物 切 米 緌 桑門 御釐降 檀越 冥加 3 左ノ人名ヲ漢字ニ写シ且ツ其時代 ヲ挙ゲヨ カタノアヅママロ ヤマノヘノオク ラ モトヲリノノリナガ オホトモノ ヤカモチ ケイチウアジャリ 4 左ノ書ヲ解題セヨ うけらが花 本朝文粹 吾妻鏡 玉 葉集 男信 同文通考 南留別志 安 齋随筆 莵久波集 蜻蛉日記 【本試験】 筆記試験無し 第12回(明治32年) 【予備試験】 (文法) 1 かなづかひ法のおこれる所以を問 ふ 2 方言の性質を略述せよ 3 明治以前に成れる語学書の重なる もの五種を挙げよ 4 左の文章中に誤謬あらば之を指摘 しかつ其の理由を述べよ (い)室内にては高声に談話を禁ず (ろ)その誠忠大に人を咸ずるもの あり宜なるかな芳名嚇々として後世に 伝ふるや 5 左の文章を文章法の上より解剖せ よ 灸治あまた所になりぬれば神事に穢 ありといふことは近く人のいひ出せる なり (文学史) 1 足利時代の文章の概略を述べよ 2 歌学に関する書五種の名と其の著 書の名とを挙げよ 3 俳諧歌と俳諧との別如何 4 三鏡を解題せよ 5 左の人名を時代の順序に配列せよ 藤井高尚 藤原爲兼 都良香 小澤 蘆庵 紀時文 藤原基俊 仙覚律師 【本試験】 (師範学校中学校高等女学校国語科用 読本には差異を立つる必要ありや) 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 59 第13回(明治33年) 【予備試験】 (文学史) 1 国文学に影響せる漢文学の書三種 を挙げよ 2 源氏物語の後世の文学に及ぼした る影響如何 3 左の天皇及び士庶の文学上に於け る事蹟を問ふ 後鳥羽院 戸田茂睡 京極黄門 林 述齋 善相公 4 徳川時代に現はれたる国語上の辞 書を挙げよ 5 明治以後の文章にして普通文の模 範たるべきものを挙げよ (文法) 1 左の文句中の誤謬を正し併せて其 理由を説明せよ (い)来(キ)しかた行末のみ案ぜ られて・・・・・・ 来(コ)しかた行末のみ案じ られて・・・・・・ (ろ)甲氏は体格つよしや否や 甲氏は体格つよきや否や 甲氏は体格つよきか否や 甲氏は体格つよきか否か (は)余り規則に拘泥さるヽはよろ しからざるやに聞及び候 (に)図書の検査を了はるときは 一々之に検印を附す例なるも時々は之 を略すこともなきにはあらずといふ 2 左の歌文の主語並に説明語を指示 せよ (い)世のうきも人のつらさも忍ぶ るに恋しきにこそおもひわびぬれ (ろ)彼等が首を正行正時が手にか けて取り候か正行正時が首を彼等にと られ候か 3 左の文句中の國,妻の二語は全く 同格なりと認めて可なるや否や之を詳 説せよ 法然國を去る 友人妻を去る 4 弖爾乎波研究に関する書籍中重要 なるもの三種を挙げよ 5 左の文章を国語の法則に拠りて書 下にせよ(女子の受験者には之を省く) (問題文略) 【本試験】 (1~3は解釈問題) 4 左の二文の意義の異同を説明せよ いかになりたまひにきとか人にもい ひ侍らむ いかになりたまひしと人ににもいひ 侍らむ 5 左の歌の係結を詳細に批評せよ 山里にたれをまたこはよぶこ鳥ひと りのみこそすまむとおもふに(山家集) 第14回(明治34年) 【予備試験】 1 言語学の効用を略述せよ 2 文語の動詞の活用と口語動詞の活 用とを対照して其の関係を述べよ 3 左の文字の用法を説明せよ (い)又 亦 復 (ろ)則 即 乃 輙 4 左の文章の構造を説明せよ 吾が郷神戸にうそ鳥多くきたり庭の 梅竹軒ちかき枝までこの鳥ならぬとこ ろなかりき 5 左の人々の文学上の事蹟を問ふ 宗良親王 歸震川 三蘇 太安万侶 【本試験】 3(1~2は解釈問題)左の歌に文法 上の誤謬あらば其の理由を附して説明 せよ うめがかをそでにうつしてとゞめて ははるはすぐともかたみならまし 4 左の語の差別を説明せよ 見す 見さす 見せさす 第15回(明治35年) 【予備試験】 1 用の字の活き方に幾種類あるか, その孰れが正しき。 2 左の文章の品詞を区別し且つ活用 ある語はその種類と段とを指示せよ。 ゑやせましせずやあらましとおもふ ことはおほやうはせぬがよきなり 3 左の人々の文学上の事蹟を問ふ。 元好問 李夢陽 本居春庭 大伴家 持 4 左の書籍を解題せよ。 説文解字 山口栞 続世継 名物六 帖 文選 【本試験】 1 口語と文語につき尊敬及び謙遜の 意をあらはす語法を説明せよ。 2 文法と美辞学との関係を問ふ。 3 徳川時代における小説の沿革を説 き且重なる書籍と作者とを示せ。 第16回(明治35年) 【予備試験】 1 左の歌を文章上より解剖せよ 世の中にあらまほしかぼと思ふ人な きが多くもなりにけるかな 2 左の歌中の「ながら」といふ語を 説明せよ。 彼は書を読みながら道をありく。 人道を唱へながら掠奪を事とす。 光秀は皮ながら粽を食へり。 3 鎌倉時代の著名なる文学書三種を 挙げて解題せよ。 4 諧声文字と会意文字との区別を説 明し且つ二三の実例を挙示せよ。 5 孟荀学説の異同を略述せよ。 (女学校のみの教員志望者は第四, 第五問に答ふるを要せず) 【本試験】 (漢文の部) 1 詩体の種類につきて知る所を挙げ よ。 2 故事成語を調ぶるに必要なる参考 書を挙げよ。 3 左の文章を漢文に復すべし。 (問題文略) (国語の部) 1 名詞及動詞は文の如何なる成分と して用ひらるゝか其種々の場合を挙げ よ。 2 連歌,狂歌,狂詩,今様歌に付い て知れる所を記せ。 3 動詞助動詞を教授する順序方法を 述べよ。 4 中古文と普通文との主要なる差別 60 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) は如何なる点にあるか。 第17回(明治36年) 【予備試験】 1 左の文の傍線を施したる語を説明 せよ。 (イ)やかすとも草は萌えなん春日 野をたゝ春の日にまかせたらなん (ロ)桜花散らばをしけん玉ほこの 道行ぶりにをりてかざさん。 2 左の文に誤謬あらばこれを正し且 つ其理由を説明せよ。 (イ)露こぼれぬ。 露ぞこぼれぬ。 (ロ)文治二年四月二日のはしを昇 りしも八島の内の大臣宗盛を生捕り賞 と聞ゆ。 ハ,委しく調査を為せしかとも遂に 何等の結果をも得ざりし。 3 左の伝説に就きて知れる所を記せ。 眞間手兒名 松風,村雨 阿新 丸 竹取翁 浄瑠璃姫 4 詩の六義とは何ぞ。 5 謚,諱,名,號,の別を問ふ。 6 左の文字に音と訓とを附し二音以 上有る者は其音に相当せる義を記せ。 (イ)己 (ロ)樂 【本試験】 (国語の部) 1 左の歌を作られたる時代を判別せ よ 梅の花それとも見えず久方のあまざ る雪のなべてふれゝば 鶯の鳴けどもいまだふる雪にすぎの 葉白しあふ阪の山 ほとヽぎすなかぬ國にも行きてしが そのなく声をまてば苦しも 蜩のこゑきく山の近けれやなきつる なべに夕日さすらん わが宿にさける藤なみ立ちかへりし ぎがてにのみ人の見るらん こと問へよおもひおきつの浜千鳥な くなく出でしあとの月影 2 左の語を解釈せよ。 秀句。 片歌。 落首。 前句附。 根合。 (漢文の部) 1 文学史上に於ける歐陽修 2 支那の人名を捜索すべき辞書二三 種を挙げよ。 3 左の語を解釈せよ。 (イ)詩餘。 (ロ)樂府。 (ハ)清談。 (ニ)壟断 第18回(明治37年) 【予備試験】 1 左音文を文章法の上より解剖せよ。 (イ)牛にひかれて善光寺参り。 (ロ)花より団子。 (ハ)人間万事塞翁が馬。 2 左の文に誤謬あらばこれを正し且 つ其理由を記せ。 (イ)貝ども拾いつヽうちさはぐ程 にやがて汐みつる頃となれば飽かず口 おしけれど返りぬ。 (ロ)火曜と木曜の午後は在宅に候 得ば御閑も候はヾ御来社被下度候。 (ハ)この地海に近く白帆を青松の 間に隠見して風光絶佳なり。 (ニ)人に命じて書かしたれば誤を やあらん。 【本試験】 (1~2は解釈問題) 3 次の事項について知れる所を記せ。 古今伝授,川柳,漢和連句。 4 維新以後の文学を概説せよ。 第19回(明治38年) 【予備試験】 1 左の名称を解釈せよ。 母音。 子音。 長音。 促音。 鼻音。 2 動詞の時を口語文語について説明 せよ。 3 左の文字の意義を説明し其用例を 示せ。 選,撰 篇,編 殉,徇 候,侯 僭,譖 5 左の傍線を施したる仮名に適当な る漢字を填充せよ。 顔ををかして諌む。 姓名ををかす。 疾にをかさる。 6 左の語の意義を説明せよ。 敢不為。 不敢為。 独不楽。 不 独楽。 【本試験】 1 左の文を文章法の上より解剖せよ。 (イ)今の儒者は天朝の故実を知ら ず夏夷順逆の理に暗くして名を乱り言 を紊る百五十年来比々として皆是なり。 (ロ)執行の時日は地方長官之を指 定する。 2 文部省文法許容案とはいかなるも のぞ。 3 左の事につき知れる所を記せ。 東 遊。 催 馬 楽。 延 年 舞。 田 楽。 浄瑠璃。 4 元稹,白居易につきて知れる所を 記せ。 5 左の書籍につきて知れる所を記せ。 論孟の註釈書 漢文典に関する書籍 第20回(明治39年) 【予備試験】 1 左の語につきて音韻の変化を変明 せよ。 なんなんとす。 とほたうみ。 いはゆる。 2 左の語につきて動詞と形容詞との 区別を説明せよ。 有り 無し 静かなり 3 抒情詩,叙動詩,戯曲詩の区別如 何。 4 弘法大師,日蓮上人の時代に於け る国文学の状況如何。 5 詩の古体と近体との区別を説明せ よ。 6 六書の区別及其実例を示せ。 7 左の人々を時代の順に配列せよ。 駱賓王, 陳思王, 朱?尊, 陸 放翁, 李夢陽, 昭明太子, 謝霊 運, 李? 宗景濂 【本試験】 1 小学校に於ける文法の教授案を示 せ。 2 文法と修辞学との限界如何。 3 左の書を解題せよ。 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 61 和字正濫抄。 和訓栞。 悦目抄。 玉霞。 歌袋。 4 朱陸学術の異同。 5 左の文を文章法の上より解剖せよ。 古者言之不出耻躬之不逮也。 第21回(明治40年) 【予備試験】 1 次の各項の書名を列記せよ。 (イ)六国史 (ロ)三代集 (ハ)四 鏡 (ニ)春秋三伝 (ホ)六経 2 延喜天暦時代の国文の状況如何。 3 左の事項につき参考すべき書目を あげよ。 (イ)皇国の御系図 (ロ)徳川時 代の女子の服装 4 左の文を(文?)章法の上より解 剖せよ。 (イ)知らざるを知らずとせよ是れ 知れるなり (ロ)物言へば唇寒し秋の風。 5 清初学術の状況如何。 6 支那歴代の国号を時代(順?)に 記せ。 【本試験】 1 歌論に関する書数種を挙げよ。 2 左の人々の語学上の事蹟を述べよ。 富士谷成章。 本居春庭。 鶴峰戊 申。 中島廣足。 3 左の名称を説明せよ。 宇治十帖。 古今六帖。 相聞。 東歌。 和讃。 組歌。 4 左の音韻学上の名称を説明せよ。 清音。 濁音。 摩擦音。 破裂音。 5 名詞と副詞との差異を述べて左の 縦線ある語の品詞を論定せよ。 沅湘日夜東に流れ去りて愁人の為に 住ることしはらくともせず。 6 支那の制度に関する参考書を挙げ よ。 7 曹大家蔡文姫につきて知れる所を 記せ。 8 七言絶句につきて平仄韻字の排列 を記せ。 第22回(明治41年) 【予備試験】 1 左の語の読方を問ふ。 盤渉調, 豊楽殿, 春宮大夫, 袙, 直 衣, 母 屋, 除 目, 歌 合, 万里小路, 流鏑馬。 2 左の語を説明せよ。 衆議判。 旋頭。 序歌。 浮世草 子。 宣命。 3 左の熟語を説明せよ。 格物致知。 径庭。 函丈。 良知 良能。 度支。 4 左の文法上の名称を説明せよ。 音便, 副詞, 修飾語。 5 唐宋に於ける古文復興の始末を略 記せよ。 【本試験】 (注意)第二種受験者は設問の(五) (六)に答ふるを要せず。 1 左の圏点を附したる語を品詞上よ り解剖せよ。 (イ)心あてに折らばやをらん初霜 のおきまどはせる白菊の花。 (ロ)うゑし植ゑば秋なき時や咲か ざらん花こそ散らめ根さへ枯れめや。 2 左の文を文章法の上より解剖せよ。 この殿には後夜に卯酒のさかなには 只今殺したる雉をぞ参らせける。 3 神楽歌,催馬楽に関する註釈書を あげよ。 4 俳句と川柳との区別如何。 5 左の人名につき知れる所を記せ。 庾信 李夢陽 6 左の文中の之の字の用法を区別せ よ。 自誠明謂之性。自明誠謂之教。(中庸) 博愛之謂仁。行而宜之之謂義。(韓 文原道) 7 左の句を漢訳せよ。 (イ)氷は水より寒し。 (ロ)病は口より入る。 (ハ)彼は此より善し。 (ニ)生民より以来未だ孔子より 盛なるはあらず。 第23回(明治42年) 【予備試験】 1 左の語を説明せよ。 衣冠,束帯。 宰相,相国。 公卿, 公家。 宣旨,令旨。 堂上,地下。 2 本居宣長の学問上における事蹟を 略叙せよ。 3 左の文を文章法の上より解剖せよ。 さしたる事なくて人がり行くはよか らぬ事なり用ありて行きたりとも其事 はてなばとくかへるべし久しく居たる いとむつかし。 4 左の書につきて知れる所を記せ。 文心彫龍。 通鑑網目。 【本試験】 1 係辞ありて結辞なき場合を挙げよ。 2 左の文の誤を正して其の理由を述 べよ。 (イ)雉子も鳴かねばうたれまじ。 (ロ)僅の費へを厭ふて大なる功を 空しふするな。 3 左の書につきて知れる所を記せ。 拾芥抄 東雅 令義解 懐風藻 紐 鏡 4 左の人々につきて知れる所を記せ。 安原貞室 浅井了意 藤原家隆 伴 信友 屋代弘賢 5 左の語を説明せよ。 隻声 畳韻 連句 6 大学の三綱領を挙げよ。 7 漢籍の解題に関する重要なる書名 を挙げよ。 第24回(明治43年) 【予備試験】 1 鎌倉時代の文学の概況を記せ。 2 左の語を説明せよ。 (イ)校倉 盤渉調 縣召除目 直 会 牛頭馬頭の呵責 (ロ)抽象 対象 概念 人格 散 文詩 3 左の名目を説明せよ。 音便 助数詞 副詞句 修飾語 4 周末の諸学派と之に属する学者の 名とを挙げよ。 5 平安朝時代の詩文集数種を挙げよ。 【本試験】 1 左の書の成れる時代を問ふ。 62 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) 新勅撰集 蜻蛉日記 岷江入楚 紫 家七論 月の行方 桂園一枝 古事記 古今著聞集 靖獻遺言 和名抄 2 枕詞の文学的価値如何。 3 自動詞他動詞を説明し左の語の孰 れに属するかを論ぜよ。 心の欲する所に従ひて矩を踰えず。 青柳絲を乱る。 何の仕出づる事もなし。 其是非を知らずといふ。 4 孔子の四科四教を挙げよ。 5 左の人々の時代と著書とを挙げよ。 趙翼 王弼 孔頴達 朱彛尊 第25回(明治44年) 【予備試験】 1 仮名の発達に就きて知れる所を記 せ。 2 べし,らる,や,に,と,の種々 の用例を列挙せよ。 3 左の語を説明せよ。 連枝 散楽 聟引出 究竟 笑止 荒凉 散位 娑婆 修羅 雑色 4 左の人々の文学上の事蹟を問う。 源親房 小澤蘆庵 林羅山 柳亭種 彦 三善清行 5 左の語の意義を問ふ。 風雅頌 起承転合 6 左の書に就き知れる所を記せ。 太極図節 玉台新咏 【本試験】 1 左の人々に就きて知れる所を記せ。 谷川士清 荒木田麗女 伊藤東涯 建部綾足 平賀源内 藤井高尚 肖柏 山崎闇齋 2 左の語を説明せよ。 科白 歌劇 句題 脚本 物名 賦 物 3 左の文を文章法の上より解剖せよ。 東洋の一大強国世界有数の軍国を以 て自ら居る日本が財政上に於いては欧 州二等国より劣等なる地位に就かざる べからざるが如き根本の原因は果して 何にあるか。 4 左の書につき知れる所を記せ。 小学 鍾嶸詩品 唐六典 5 左の事項に就いて知れる所を記せ。 三綱五常 魏晋の清談 第26回(大正元年) 【予備試験】 1 国文学に於ける韻文の形式を説明 せよ。 2 釈契沖の仮名遣に関する意見を述 べよ。 3 左の動詞の活用を示せ。 考 報 堪 用 栄 悶 据 教 抑 誣 4 左の語を略解せよ。 申文 節折 采女 頭陀 胡散 搦手 官憲 法人 人 為淘汰 群集心理 5 左の年号は何朝何帝の時なるか。 万暦 慶暦 建安 開元 6 左に就きて知れる所を記せ 姚江学 桐城派 【本試験】 1 明治時代に歿せし文学者二三人の 名を挙げてその事業を略述せよ。 2 祝詞と宣命とを比較論評せよ。 3 左の場合における品詞転成の例を 示せ。 (イ)名詞より動詞に (ロ)動 詞より副詞に (ハ)名詞より形容詞に 4 左の事項に就きて知れる所を記せ。 漢代に於ける国郡県の区別 唐代 の節度使 5 文章上の隻關法を説明せよ。 第27回(大正2年) 【予備試験】 1 謡曲に就いて知れる所を記せ。 2 欧州語より転化して我国の通用語 となれるもの若干を挙げよ 3 左の文の縦線を施したる部分を品 詞上より解剖せよ。 万里の長城未だ全く成らずして山東 既に乱れ坑灰なほ温にして咸陽の宮殿 三月紅なりあはれ万世無窮と期せし始 皇が遺図も忽ち二世にして尽きぬ盛な る者豈竟に久しからんや 4 左の語を解釈せよ。 起請 怠状 命婦 家司 優婆塞 連想 対照 暗示 本能 不文法 5 絶と律との特質を問ふ。 6 十八史略の名称の由来を説明し併 せて書中秦以後の国号を列記せよ。 【本試験】 1 左の書に就きて知れる所を記せ。 群書一覧 玉葉集 新葉集 金塊集 俚言集覧 詞の通路 2 左の人物に就きて知れる所を記せ。 松永負徳 伊勢貞丈 出口延佳 石川雅望 源順 阿佛尼 3 左の文を文章法上より解剖せよ。 夕さり大納言斬られ候はんに於ては 成經生きても何にかはし候ふべきなれ ば唯一所で如何にもなるやうに申して たはせ給ふべうも候ふらん 4 三礼に就きて知れる所を記せ。 5 類書の性質を略述し併せて其の二 三の書名を挙げよ。 6 二三の例を挙げて簡単に反切の法 を説明せよ。 第28回(大正3年) 【予備試験】 1 左の語に就きて知れる所を記せ。 東鑑 悦目抄 草庵集 文芸 類纂 詞の玉緒 2 左の語の読方を記し簡単に其の意 義を説け。 律令格式 公卿 法会 精進 上﨟 続松 3 助動詞助詞の意義用法を例を挙げ て説明せよ。 (イ)つ (ロ)らん ハ,ぬ べ し ニ,さ ら し ホ,は ヘ,が 4 左の人に就きて其時代及文学上の 特別の事蹟を記せ。 李夢陽 劉歆 5 左の書に就きて知れる所を記せ。 近思録 唐宋詩醇 【本試験】 1 俳文につきて知れる所を記せ。 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 63 2 左の語句の意義を解け。 六日の菖蒲 いさかひ果ててのち ぎりき 横紙破り 秘事はまつげ えてに帆をあげる 3 文章法の上より左の歌を解剖せよ。 世とともに峯へ麓へおりのぼり行く 雲の身は我にぞありける 4 正史編年史紀事本末の三史の区別 を略述して各一二の例を挙げよ。 5 漢学と宋学との特色を概説し,代 表的学者の名を挙げよ。 第29回(大正4年) 【予備試験】 1 左の人々に就きて知れる所を記せ。 安藤年山 屋代弘賢 藤井貞幹 四方赤良 清原元輔 2 左の語の読方を記し簡単に之を説 明せよ。 内舎人 門跡 廻立殿 白酒 黒酒 五節 准三宮 3 左の文中の用言を摘出しその活用 を示せ。 たとしへなくながめしをれさせ給へ る夕ぐれに沖の方にいとちひさき木の 葉の浮べると見えて漕ぎくるをあまの 釣船かと御覧ずるほどに都より御消息 なりけり(増鏡) 4 大学中庸の表章せられたるに就き て知れる所を記せ。 5 刑名学の意義を述べて其の著名な る人を挙げよ。 6 漢文の倒装法の例を挙げよ。 【本試験】 1 平安文学と漢文学との関係に就き て知れる所を記せ。 2 新井白石の著書の主なるものを挙 げよ。 3 左の文章を文法上より解剖せよ。 此の者さして猛き者とは見えず思ふ に狐狸のしわざにてぞあるらんこれを 射も殺し斬りも止めたらんはむげに念 なからまし同じく生擒にせん 4 主格をあらはす種々の助詞を文例 により示せ。 5 詩の六義を略述せよ。 6 楽府の起源及び其の体裁を略述せ よ。 7 濂洛關?の学とは何人の学と称す るか。 第30回(大正5年) 【予備試験】 1 左の人々に就きて知れる所を記せ。 太安麻呂。 西山宗因。 上田秋 成。 一條兼良。 高崎正風。 2 左の書籍の主なる註釈書の書名と 著者とを記せ。 万葉集。 源氏物語。 枕草子。 古今集。 徒然草。 3 左の文中の動詞,助動詞を摘出し て其活用を示せ。 三位討たれしと聞きしかども今朝ま では誠とは思はでありつるが此暮程よ りげにさもあらんと思ひ定めてあるぞ とよ。 4 左の事項に就きて知れる所を記せ。 寛政の三博士, 5 支那に於ける論語の註釈書三種以 上と著者とを記せ。 【本試験】 1 徳川時代に於ける左の各種の文章 の性質を述べよ。 和漢混淆文。 擬古文。 俳文。 狂文。 2 左の発句の修辞上の技巧を説明せ よ。 (イ)船となり帆となる風の芭蕉か な。 (ロ)木枯に二日の月の吹き散るか。 ハ,行く秋や手を広げたる栗のいが。 3 左の文を文章上より解剖せよ。 (イ)上も御涙の隙なく流れおはし ます。 (ロ)優なりなりと覚ゆるばかりす ぐれたると取る方なく口惜しきとは数 ひとしくこそ侍らめ 4 左の事項を説明せよ。 孟子の四端説。 詩の古体と近体。 5 左の事項につきて知れる所を記せ。 陸象山の学説の梗概。 伊藤東涯の 著書。 第31回(大正6年) 【予備試験】 1 韻文の価値を判断すべき標準につ き述べよ。 2 議論文と説明文との区別及其関係 を述べよ。 3 左の文中の動詞,助動詞を摘出し て其活用を示せ。 栗田殿の「いかにおほしならせおは しまぬるぞ。只今過ぎさせ給はゞおの づから障も出でもうで来なむ」とそら なきし給へるはこの時ぞかし。 4 左の文に誤あらば之を正し,且つ その理由を略記せよ。 孔子周に行き,礼を老子に問ふて大 ひに得る所ありしと云ふ。 5 儒教に於ける義利の弁につきて意 見を述べよ。 6 相城派の主要ある人名を挙げよ。 【本試験】 1 左の著作及び人物に就きて知れる 所を記せ。 山口栞。 後拾遺集。 怜野集。 本 朝文粹。 岷江入楚。 林信勝。 藤原 公任。 菅原孝標女。 竹田出雲。 2 大鏡にあらわれたる貴族生活を概 説せよ。 3 左の文を文章法上より解剖せよ。 五月雨の短夜に寝ざめしていかで人 より先に聞かんと待たれて夜深く打出 でたるに郭公の声らうらうじう愛敬づ きたるいみじう心あくがれてせんかた なし。 4 格物致知の意義を問ふ。 5 白楽天に就いて知れる所を記せ。 第32回 大正7年 【予備試験】 1 徒然草の所説に矛盾ありと云ふは 如何なる点なるか,又其の矛盾は如何 に之を解釈すべきか。 2 縁 語。 切 字。 黄 表 紙。 合 巻。 平面描写。 印象批評。 3 左の助動詞及び助詞の種々の用法 を例を挙げて説明せよ。 64 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) ぬ。 ま し。 ら る。 し か(欲 望)。 な(禁止)。 4 王陽明の良知説に就きて知れる所 を記せ。 5 青苗の法を略説せよ。 【本試験】 1 尊皇精神を内容とせる我が国の文 学に就いて知れる所を記せ。 2 叙事詩,抒情詩,劇詩の区別並に 其関係を説明せよ。 3 左の文を文章法上より解剖せよ。 おきなまろいいづく命婦のおもとく へといふに,まことかとてしれものは しれかゝりたればおびえまどひてみす まの中に入りぬ。 4 下の語の意義を問ふ。 居敬窮理 5 楚辞について知れる所を記せ。 第33回(大正8年) 【予備試験】 1 左の文を品詞上より解剖せよ。 (用言には活用及法(形段)をも記せ。) かくあやなき業の出で来ぬるはこの 世一つの事にもあらざらめども迷のお ろかなる前にはなほいとあやしかし。 2 口語の主格助詞「が」「の」の別 及動詞「ある」「をる」の別を例を挙 げて説明せよ。 3 左の修辞学上の名称を例を挙げて 説明せよ。 隠喩。 調和。 擬人。 漸層。 4 孟子の知言養気説を略述せよ。 5 物徂徠の文学につきて知れる所を 記せ。 【本試験】 1 源氏物語と枕草子に就きて比較論 評せよ。 2 京伝と馬琴とにつきて記せ。 3 左の文を文章法上より解剖せよ。 4 左の語の意義を問ふ。 博文約礼 5 文選に就きて知れる所を記せ。 第34回(大正9年) 【予備試験】 1 左の文章を口語に訳し,相対照し て口語法と文語法との異なる所を説明 せよ。 勝海舟壮時西洋式の兵術を学びける が一書肆の店頭を過ぎしに舶載の兵書 あり。当時得難き良書なり其価を問へ ば「五十両なり」と云ふ海舟之を購は むと欲すれども家貧にして直ちにその 金を弁ずること能はず。 2 我国における甲冑装束及び官職に 就きて参考書を示せ。 3 人心道心の意義を述べよ。 4 三蘇につきて知れる所を記せ。 【本試験】 1 八大集の書名を選集の年代順に列 記せよ。 2 新井白石谷川士清本居春庭の語学 上に於ける事蹟を記せ。 3 我国現代の文学にあらはれたる思 想上の傾向に就いて述べよ。 4 支那に於ける性の説の梗概を記せ。 5 陶淵明に就いて知れる所を記せ。 第35回(大正10年) 【予備試験】 1 左の文の誤を正し其の理由を略記 せよ。 口は食物を入る関門にして之を掩う 唇堅き歯柔き舌等はいはゆる発音機関 なり。吾人は之によりて自在に思想を 語ることを得る。言語は思想を通ずる 大切なるものなれども妄に用ゆれば不 測の禍を招くことあり。 2 左の動詞助動詞の活用を示せ。 肥 堪 支 率 恋 恨 らる ぬ べし まじ 3 左の名称を説明せよ。 今様 落首 俳諧 物名 歌枕 4 克己復礼の意義を述べよ。 5 司馬遷班固に就いて知れる所を記 せ。 【本試験】 1 文学上より平家物語を論評せよ。 2 左の文を文章法上より解剖せよ。 生物進化の事実なることは己に十九 世紀の後半の研究によつて全く確実と なつたから今世紀に入つてからは真理 を応用して直接に人間社会を利するこ とに計画する人が追々と出来た。 第36回(大正11年) 【予備試験】 1 左の文中の動詞形容詞助動詞を摘 出して其の活用を法(段)に当てゝ表 示せよ。 其の子家継は父には似ず大剛の者に て敵数多撃取つて引きにけるが父が馬 は射られて伏しぬ主はなし生捕られに けりと思ひて無念なれば只ひとり取つ て返し多くの敵を斬伏せて或兵と引組 んで落ち刺違へて死しけり 2 左の人々の年代を示しその著作物 の名を知れる限り挙げよ。 一条兼良 尾崎紅葉 紀貫之 賀茂真淵 北村季吟 3 左の名称に就いて知れる所を記せ。 (イ)道家 名家 法家 (ロ)四六文 【本試験】 1 源氏物語と枕草子とを比較論評せ よ。 2 左の文を文章法上より解剖せよ。 未成年者が其の飲用に供する目的を 以て所有し又は所持する酒類及其器具 は行政の処分を以て之を没収し又は廃 棄其の他の必要なる処置を為さしむる ことを得 第37回(大正11年) 【予備試験】 1 左の文を品詞に区別せよ。 まさをさんそんなにうちにばかりゐ ないでちつと外へおいでなさいいつ しょにあそびませう。 2 (イ)左の歌集の著者を挙げよ。 金塊集 山家集 うけらが花 桂園一枝 (ロ)左の名数について説明せよ。 四鏡 六国史 国学四大人 六歌仙 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 65 3 左に就きて知れる所を記すべし。 (イ)文選 (ロ)唐詩選 (ハ)人心道心 【本試験】 1 言語と文字との関係を簡単に説明 せよ。 2 室町時代の文学の特質を記せ。 第38回(大正12年) 【予備試験】 1 左の人々の著作に就いて所見を記 せ。 高山樗牛 徳富蘇峰 有島武郎 芥川龍之介 2 左の文中の動詞形容詞助動詞を摘 出し其の活用を法(段)に当てゝ示せ。 あないみじとて雪打払はせ給へりし 御もてなしこそいとめでたかりしか御 袍は黒きに御単衣は紅の花やかなるあ はひに雪の色もも.てはやされてえも いはずおはしまししものかな(大鏡) 3 左に就いて知れる所を記せ。 (イ)白居易 元槇 (ロ)近思録 伝習録 【本試験】 1 左の人々を論評せよ。 西行 兼好 芭蕉 2 左の諸項に就いて知れる所を記せ。 鉢の木 道中膝栗毛 小説神髄 浮雲 3 左の文を文章法上より解剖せよ。 世にあればこそ望もあれ望の叶はね ばこそ恨もあれしかじうき世を厭ひ誠 の道に入りなむには 第39回(大正12年) 【予備試験】 1 語尾,語句,語幹につきて説明せ よ。 2 左の書籍につきて知れる所を説明 せよ。 国歌大観 古事類苑 国文註釈 全書 古今著聞集 東関紀行 3 左の文章の構造を説明し文中の用 言の活用を表示せよ。 知らず生れ死ぬる人何方より来りて 何方へか去る,知らず仮のやどり誰が 為に心を悩まし何によりてか目を悦ば しむる 4 左につきて知れる所を記せ。 賴襄の日本外史 張載の西銘 【本試験】 1 近松門左衛門の芸の説と本居宣長 の物語の説とに就て述べよ。 2 形象文字と音標文字とに就きて説 明せよ。 3 官職,服飾,武器に関する参考書 を挙げよ。 第40回(大正13年) 【予備試験】 1 左の人物及著作の時代を問ふ。 松永貞徳 曽根好忠 玉勝間 四方赤良 頓阿 落窪物語 莵玖波集 正岡子規 大和物語 折焚柴の記 たけくらべ 日本 永代蔵 東上縁 性霊集 北村 透谷 2 左の文中の動詞形容詞助動詞を摘 出して其の活き方を法(段)に当てて 示せ。 凡保元平治より以来乱りがはしさに 頼朝と云ふ人もなく泰時といふ人もな からましかば日本国の人民いかがなり なましこのいはれをよく知らぬ人は故 もなく皇威の衰へ武備のかちにけると 思へるは誤りなり 3 左の事項に就きて知れる所を示せ。 (イ)魏の曹操父子の文学上に於け る事蹟 (ロ)知行合一 4 左の文を鑑賞批評せよ。 「平凡」(二葉亭四迷)(本文略) 【本試験】 1 愛読する国文学書の一を挙げて評 論せよ。 2 左の文を文章法上より解剖せよ。 昔は五たび譲りしあとをたづねて天 日嗣の位にそなはり八隈知る名をのが れて藐姑射の山にすみかをしめたり 第41回(大正13年) 【予備試験】 1 短文の異なる形式五種を例示せよ。 2 左の文中の動詞形容詞助動詞を摘 出して其の活き方を法(段,形)に当 てゝ示せ。 若し道のほとりに辱くも鳳輦を先立 てゝ御旗をあげられ臨幸の厳重なる事 も侍らむに参りあへらばその時の進退 いかゞ侍るらむ。 3 左の文を鑑賞批評せよ。 出典不明(本文略) 4 左の事項に就きて知れる所を記せ。 (イ)蒙求 (ロ)井田 【本試験】 1 江戸時代の歌論とその時代の歌と の関係を述べよ。 2 左の書を説明せよ。 東雅 詞八衢 和訓栞 本朝 文粹 新葉集 3 左の文を文章法上より解剖せよ。 やうやう天の下にあぢきなう人のも の悩みぐさになりてといとはしたなき 事多かれど忝なき御心ばへの類なきを 頼にて交らひたまふ(源氏物語) 第42回(大正14年) 【予備試験】 1 左の学者の国語学上に於ける重要 なる著書を挙げよ。 僧契沖 新井白石 富士谷成清 本居宣長 2 左の文章に就きて文の成分を説明 し且文中の用言を抜出してその活用表 を作れ。 行く川の流れは絶えずしてしかもも との水にあらずよどみに浮かぶうたか たはかつ消えかつ結びて久しく止るこ となし(方丈記)。 3 左の事柄に就きて知れる所を記せ。 (イ)三綱五常 (ロ)四六文 4 左の文を批評鑑賞せよ。 「作文第三十三講」(五十嵐力?) (本文略) 【本試験】 1 源氏物語の文章の特色を述べよ。 2 平家物語太平記を比較論評せよ。 66 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) 3 国語のアクセントに就いて知ると ころを述べよ。 第43回(大正14年) 【予備試験】 1 左の文章中の主語とそれに対する 述語を指示し次ぎに動詞を抜き出して その活用表を作れ。 年頃思ひつる事果し侍りぬ聞きしに も過ぎて尊くこそおはしけれその参り たる人毎に山へ登りしは何事かありけ むゆかしかりしかど神へ参るこそ本意 なれと思ひて山までは見ず 2 平安時代の著名なる物語及び日記 の書名を記せ。 3 左に就きて知れる所を記せ。 (イ)濂洛關閩の学 (ロ)建安 の七子 4 左の文章に就きて傍線を附したる 語を説明し且つ文中に表はれたる芭蕉 の心持を述べよ。 出典不明(本文略) 【本試験】 1 左の事項に就いて述べよ。 風俗歌 宴曲 時代物 幸若 舞 旋頭歌 2 徳川時代に表はれたる武家精神に 就いて述べよ。 第44回(大正15年) 【予備試験】 1 「べ し」「な り」「た り」「な む」「や」「か」の各種の用例を挙げ その意味を説明せよ。 2 現代文(日露戦争以後の文章)の 特徴に就いて述べよ。 3 講談派,桂國派,明星派,アラヽ ギ派に就いて知れる所を記せ。 4 (イ)三体詩 古文眞寳 (ロ)訓詁学と性理学 【本試験】 1 古今集より新古今集までの和歌の 展開を略述せよ。 2 左の書に就きて知れる所を記せ。 和名類聚抄 浜松中納言物語 鉢かづき 椿説弓張月 冠辞考 3 西洋文典の日本文法に及ぼしたる 影響を略述せよ。 第45回(大正15年) 【予備試験】 1 左の文章に就き単文及び復文を指 摘し且その構造を説明せよ。 野分の又の日こそいみじう哀に覚ゆ れ立蔀透垣などの乱れたる前栽ども心 苦しげなり大なる木ども倒れ枝など吹 き折られたるが萩女郎花などの上によ ろぼひはひ伏せるいと思はずなり(枕 草子) 2 国語の興隆につきて略述せよ。 3 左につきて諸氏の説を批評せよ。 「蕪村夢物語」(木村架空)(本文略) 4 左につき知れるところを記せ。 (イ)淮南子及び文中子の著者 (ロ)小学及び近思録 【本試験】 1 祝詞に表はれたる精神を説明せよ。 2 能楽の芸術としての性質に就いて 述べよ。 3 仮名遣の標準に就いて述べよ。 第47回(昭和2年) 【予備試験】 1 左の歌につきて文の構成を説明し 歌中に於ける用言につきて文語口語両 様の活用表を作れ。 かたちこそみ山がくれのくちきなれ 心は花になさばなりなむ(古今和歌集) ひさかたの月の桂も折るばかり家の 風をも吹かせてしがな(拾遺和歌集) 2 左の人々につきて知れるところを 述べよ。 橘守部 小林一茶 石川雅望 荒木 田麗女 松永貞徳 3 左の文を鑑賞批評せよ。 島崎藤村「小諸なる古城のほとり」 (本文略) 4 左に就きて知れるところを記せ。 (イ)格物致知 (ロ)呂氏春秋 文心雕龍 【本試験】 1 平家物語に現はれたる武士の精神 につきて述べよ。 2 紀貫之紫式部藤原定家の閲歴につ きて述べよ。 3 明治時代の口語文の発達につきて 述べよ。 第49回(昭和3年) 【予備試験】 1 左の語を例を挙げて説明せよ。 縁語 序詞 懸詞 折句 枕詞 2 左の歌の係結の関係を説明し歌中 に於ける用言の活用表を作れ。 淡路島通ふ千鳥のなく声にいくよね ざめぬ須磨の関守(金葉和歌集) ふる雪のみのしるごろもうちきつゝ 春来にけりと驚かれぬる(後撰和歌集) 3 左の文の意義を実例を挙げ敷衍し て説明せよ。 出典不明(本文略) 4 左の人物に就いて知れる所を記せ。 (イ)柳宗元 (ロ)新井白石 【本試験】 1 口語の文法と文語の文法との間に 存する主なる差異に就いて述べよ。 2 平安朝の女流日記文学四種を挙げ 簡明に解説せよ。 3 左の四種の文は如何なる文献にも ちいられたるものなるかを示し且つ漢 字使用の異同について述べよ。 (本文略) 第51回(昭和4年) 【予備試験】 1 和歌と連歌との関係を述べよ。 2 左に就きて「さび」の意義を説明 せよ 野明曰 句のさびはいかなる物にや 去来曰 さびは句の色也閑寂なる句 をいふにあらずたとへば老人の甲冑を 帯し戦場に働き錦繍をかざり御宴に侍 りても老の姿あるごとし賑なる句にも 静なる句にもあるものなりたとへば 花守やしろきかしらをつき あはせ 先師曰 さび色よくあらはれたり (去来抄) 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 67 3 左の文章に就きて文の構成を説明 し且つ用言の活用表(口語のみの)を 作れ。 呉服屋の手代が大きなふろしきづつ みを石地蔵の前におろして休みました がよほど疲れてゐたものと見えていつ の間にかぐつすり寝込んでしまひまし た。 4 左に就きて知れる所を記せ。 (イ)孝 経 (ロ)資治通鑑 (ハ)文献通考 【本試験】 1 江戸時代に於ける歌論の中著しき 数説を挙げよ。 2 本居宣長は何故に日本書紀より古 事記に重きを置きしか。 3 万葉集に現はれたる文法と古今集 に現はれたる文法とに於ける主なる差 異に就いて述べよ。 第53回(昭和5年) 【予備試験】 1 浦島伝説羽衣伝説義経伝説を取扱 ひたる文学的作品を挙げその作者並に 成立時代に就いて知れる限りを記せ。 2 左の文中より主語を摘出してその 性質を説明し又助詞形容詞及助動詞の 活用表を作れ。 萬のことは月見るにこそ慰むものな れ或人の月ばかり面白きものはあらじ と言ひしに又一人露こそ哀れなれと争 ひしこそをかしけれ 3 左の詩を評論せよ。 「泉」(クラブンド 訳 森鴎外) (本文略) 4 左に就きて知れる所を記せ。 (甲)太極図説 (乙)大日本史 【本試験】 1 発音的仮名遣と歴史的仮名遣 とによりて口語の動詞の活用に及ぼ す異同について説明せよ。 2 浮世草子・読本・合巻・滑稽本の 性質を簡単に説明せよ。 3 左の人々の重なる著書の名を挙げ よ。 契沖 谷川士清 伊勢貞丈 平田篤 胤 橘守部 第55回(昭和6年) 【予備試験】 1 左の文法の問題につきて説明 せよ。 (イ)過去の助動詞「き」は動詞に 如何に結びつくか。 (ロ)左の文章を品詞に区別し用言 の活用表をつくれ。 なんとも言へぬ美しいきれいな 花が野原一面に咲いて居りました。 2 道行文の特色を挙げよ。 3 左の書につきて説明せよ。 詞玉緒 古今要覧稿 小説神髄 古事類苑 貞丈雑記 和訓栞 稜威言 別 猿蓑 歴朝詔訶解 新学異見 4 左の二項につきて知れるところを 記せ (イ)伊藤仁斎 (ロ)唐宋八家 【本試験】 1 藤原定家の文学史的地位に就きて 記せ。 2 国語国文に関する年表・解題・索 引の書名を挙げて簡単に説明せよ。 3 片仮名の発達に就いて述べよ。 第57回(昭和7年) 【予備試験】 1 左の文章に於ける主語と述語との 成分を説明し文中の用言を抽出して活 用表を作れ。 文ことばなめき人こそいとどにくけ れ世をなのめに書きなしたる詞のにく ここそさるまじき人のもとにあまりか しこまりたるもげにわろきことぞ 2 紀行文学に就いて略述せよ。 3 左の文の要旨を述べそれに基づき て芭蕉の俳諧を論評せよ。 出典不明(本文略) 4 左に就いて知れる所を記せ。 (イ)昭明太子の文学上に於ける業 蹟 (ロ)王陽明の良知説 【本試験】 1 お伽草子の性質を説明せよ。 2 江戸時代における国語辞書の重な るものに就いて述べよ。 3 左の人々を年代順に排列し主なる 著書を挙げよ。 一条兼良 仙覚 二條良基 藤原公 任 源順 源俊頼 第59回(昭和8年) 【予備試験】 1 左の文章につき主語と述語との成 分を説明し動詞形容詞助動詞の文語口 語活用対照表を作れ。 (イ)この人々の深きこころざしは この海にもおとらざるべし。 (ロ)牛のたくさんのつてゐる車が いつかとほりました 2 南北朝時代の和歌について述べよ。 3 左につきて知れる所を記せ。 八代集 六国史 六歌仙 国学四大 人 芭蕉七部集 4 左につきて知れる所を記せ。 (イ)会澤安 (ロ)王夫之(船山) 【本試験】 1 契沖ノ仮名遣意見ニツイテ論評セ ヨ。 2 歌合ニツイテ略述セヨ。 3 左ニツイテ知レル所ヲ記セ。 梁塵秘抄 藤?冊子 伽婢子 無名 草子 往生要集 第61回(昭和9年) 【予備試験】 1 左の文章につき主語述語及補足語 の成分を説明し動詞形容詞助動詞の活 用表を作れ。 秋の月はかぎりなくめでたきものな りいつとても月はかくこそあれとて思 ひわかざらん人は無下に心うかるべき ことなり 2 歴史物語と軍記物語を比較論評せ よ。 3 左の事項につきて記せ。 (イ)和讃 (ロ)詞書 (ハ)六 義 (ニ)両部神道 (ホ)心学 4 左につきて知れる所を記せ。 68 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) (イ)陸 象 山 (ロ)山 鹿 素 行 (ハ)近思録 (ニ)言志録 【本試験】 1 方言研究の目的と方法とにつきて 述べよ。 2 江戸時代の小説に及ぼしたる支那 文学の影響につきて述べよ。 3 縣居派と桂園派の歌論を比較論評 せよ。 ◆「作文」の部 第1回(明治18年) 某(各人奉職スル所ノ校名ニ従フヘシ) ノ学校記 教育博物館記 修身学中ニ西洋修身ノ書ヲ加フルノ可 否ヲ論ズ 学力試験ニ赴クトキ同校教員ニ遺シ置 ク書翰 上京中学校ヨリ依託ノ書籍器械等ヲ購 求シテ其ノ仔細ヲ報知スル書翰 方今ノ作文ニハ何如ナル文体ヲ目的ト スベキヤノ問ヒニ答スル書翰 第2回(明治19年) 某学校の記 和文を教ふる順序を論ず 和文を人にすゝむる書翰 第3回(明治20年) 女学校創立の記 和漢学教授法の論 史をすゝむる書翰 第4回(明治21年) 史学の論 観桜の紀 第5回(明治24年) 大風の記 第6回(明治26年) 旅行の記 第7回(明治27年) 師範学校卒業生に告ぐ 尋常中学校卒業生に告ぐ 高等女学校卒業生に告ぐ (通行文と中古文体と両様) 第8回(明治28年) 戦死者の遺族に与ふる書 第9回(明治29年) 国語教育の要旨 第10回(明治30年) 【予備試験】師道を論ず(普通文体) 修学旅行の記(中古文体) 【本試験】*不明 第11回(明治31年) 【予備試験】文字ノ説 【本試験】*筆記試験無し 第12回(明治32年) 【予備試験】神皇正統記を読む(普通文 体) 【本試験】(師範学校中学校高等女学校 国語科用読本には差異を立つる必要あ りや) 第13回(明治33年) 【予備試験】国語統一の方法を論ず(普 通文体) 【本試験】作文添削の標準を論ず 第14回(明治34年) 【予備試験】中等教育に於ける国語漢文 の関係を論ず(普通文) 【本試験】自己の経歴(叙事文) 第15回(明治34年) 【予備試験】?吾が郷里 【本試験】? 第16回(明治35年) 【予備試験】海(普通文) 【本試験】*不明 第17回(明治36年) 【予備試験】*不明 【本試験】*不明 第18回(明治37年) 【予備試験】*不明 【本試験】*不明 第19回(明治38年) 【予備試験】戦争と文学 【本試験】吾が家庭(普通文) 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 69 第20回(明治39年) 【予備試験】婚礼を祝ふ文 死亡を弔ふ文 【本試験】高等女学校開校の祝辞 第21回(明治40年) 【予備試験】新聞紙(普通文) 【本試験】寄宿舎(普通文) 第22回(明治41年) 【予備試験】夏期休業(普通文) 【本試験】 第23回(明治42年) 【予備試験】公徳(普通文) 【本試験】 第24回(明治42年) 【予備試験】学校と家庭(普通文) 【本試験】吾が幼時(普通文) 第25回(明治44年) 【予備試験】山と海 【本試験】支那歴史を読む(普通文) 第26回(大正元年) 【予備試験】図書館(普通文) 【本試験】我が私淑する人物(普通文) 第27回(大正2年) 【予備試験】我が郷里(普通文) 【本試験】菊を観る(普通文) 第28回(大正3年) 【予備試験】読書法(普通文体) 【本試験】欧州戦乱に就きて(普通文) 第29回(大正4年) 【予備試験】学校卒業式祝辞(普通作文) 【本試験】秋(普通文) 第30回(大正5年) 【予備試験】旅行(普通文) 【本試験】秋の田舎(普通文) 第31回(大正6年) 【予備試験】わが母校(普通文) 【本試験】わが友(普通文) 第32回(大正7年) 【予備試験】体育(文語体) 【本試験】我が家(文語体) 第33回(大正8年) 【予備試験】わが郷の秋(口語文) 【本試験】講和大使を迎ふ(文語文) 第34回(大正9年) 【予備試験】夏の夕(文体随意) 【本試験】現代の時勢に鑑みて青年に諭 す(文語文) 第35回(大正10年) 【予備試験】わが愛読の書(普通文) 【本試験】わが希望(文語体) 第36回(大正11年) 【予備試験】わが勉強の状況を友人に知 らする文(口語文) 【本試験】月夜(文語体) 第37回(大正11年) 【予備試験】大正十一年を送る(口語体) 【本試験】万葉集を読みて(文語体) 第38回(大正12年) 【予備試験】初夏の田園(口語文) 【本試験】卒業式告示(校長に代りて) (文語体) 第39回(大正12年) 【予備試験】震災の感想(口語体) 【本試験】わが経歴(文語体) 第40回(大正13年) 【予備試験】五月初の感想(口語体) 【本試験】夏期休業(文語文) 第41回(大正13年) 【予備試験】我が時勢観(口語体) 【本試験】我等の進むべき途(文語体) 第42回(大正14年) 【予備試験】新緑(口語体) 【本試験】わが国文研究の態度(文語体) 第43回(大正14年) 【予備試験】晩秋(口語体) 【本試験】運動競技についての感想(文 語体) 第44回(大正15年) 【予備試験】旅に出て(口語体) 【本試験】方丈記を読む(文語体) 第45回(大正15年) 【予備試験】現今の世相に対する教育者 の覚悟(口語体) 【本試験】祖国(文語体) 第47回(昭和2年) 【予備試験】菅原道真伝を読む(口語体) 【本試験】昭和の御代と国民の覚悟(文 語体) 第49回(昭和3年) 【予備試験】思想善導に関する意見 【本試験】御大礼に際して国民の覚悟を 述ぶ(文語体) 第51回(昭和4年) 【予備試験】時勢に鑑みて節約を人に勧 む(口語体) 【本試験】我が読書法(文語体) 第53回(昭和5年) 【予備試験】我が国の韻文の将来に就い て(口語体) 【本試験】我が国体(文語体) 第55回(昭和6年) 【予備試験】秋の夜(口語体) 【本試験】正義の勝利(文語体) 第57回(昭和7年) 【予備試験】鎮守祭(口語体) 【本試験】平家物語を読む(文語体) 70 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) 第59回(昭和8年) 【予備試験】我が最も敬慕する学者 【本試験】日本精神(文語体) 第61回(昭和9年) 【予備試験】人格と其の感化 【本試験】昭和九年を送る(文語体) ◆ 「解釈」の部 (但し出題作品名のみ) 第1回(明治18年) 1 「栄華物語」 2 「源氏物語」 3 「伊勢物語」 4 「増鏡」 5 「落窪物語」 6 「宇治拾遺物語」 7 「神皇正統記」 8 「徒然草」 9 「読史余論」 10「万葉集」 11「万葉集」 12「万葉集」 13「古今和歌集」 14「古今和歌集」 15「古今和歌集」 第2回(明治19年) 1 「源氏物語」 2 「枕草子」 3 「徒然草」 4 「十六夜日記」 5 「琴後集」(村田春海) 6 「泊?舎文集」(清水浜臣) 7 「万葉集」 8 「万葉集」 9(イ)「古今和歌集」 (ロ)「古今和歌集」 第3回(明治20年) 1 「伊勢物語」 2 「枕草子」 3 「徒然草」 4 「増鏡」 5 「琴後集」(村田春海) 6 「北邊文集」? 7 「万葉集」 8 「万葉集」 9 「古今和歌集」 10「古今和歌集」 第4回(明治21年) 1 「枕草子」 2 「続日本紀」 3 「日本(書?)紀」 第5回(明治24年) 1 「源氏物語」 2 「万葉集」 3(イ)「古今和歌集」 (ロ)「古今和歌集」 4 「後拾遺集」 5 「新古今和歌集」 6 「日本書紀」 第6回(明治26年) 1 「源氏物語」 2 「大鏡」 3 「万葉集」 4 「古今和歌集」 5 「新古今和歌集」 第7回(明治27年) 1 「宇治拾遺物語」 2 「徒然草」 3 「古今和歌集」 4 「新古今和歌集」 5 「新葉和歌集」 第8回(明治28年) 1 「枕草子」? 2 「十六夜日記」 3 出典不明 4 さうざうし ゆふけ ゆふげ そ ばそぱし わくらはに らうたし ら うがはし さくじる みづはぐむ ほ うけづく 単語句の解釈(意味) 5 略 書取問題2問 第9回(明治29年) 1 出典不明 2 出典不明 3(イ)「万葉集」(4373) (ロ)「古今和歌集」(1060) 4 出典不明 傍線部の単語句問題4問? 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 71 第10回(明治30年) 【予備試験】 1 「枕草子」 2 出典不明 3(イ)出典不明 (ロ)「万葉集」(978) 4 出典不明 *傍線部のみ 5 靱負の佐 公卿 回録 攝籙 亭 子院のみかど けやけき奴かな 飾磨 のひたゝれ 弓矢の冥加 うるはしき 事よりも艶になまめかし むくつけく おそろし 単語句の解釈(意味) 【本試験】 筆記試験に解釈問題はなし 第11回(明治31年) 【予備試験】 1 出典不明 2 「源氏物語」(?) 3(イ)出典不明 (ロ)出典不明 (ハ)出典不明 (ニ)出典不明 4(イ)「拾遺和歌集」(?) (ロ)「古今和歌集」(?) 【本試験】 筆記試験無し 第12回(明治32年) 【予備試験】 1 「枕草子」 和歌を含む 2 「太平記」(?) 3(イ)出典不明 (ロ)「蕪村句集」(?) 【本試験】 1(イ)「増鏡」? (ロ)「古今和歌集」(1094) 2 出典不明 第13回(明治33年) 【予備試験】 1 「増鏡」? 2 出典不明 3(イ)(内容 形式) (ロ)(消極的 積極的) 4 参勤交替 刀自 行縢 左ノ宰相 中将 怠状 【本試験】 1 「東関紀行」 2 「新古今和歌集」 3 「蕪村句集」 4(イ)いかになりたまひにきとか人 にもいひ侍らむ (ロ)いかになりたまひしにと人に もいひ待らむ 二文の意義の異同を説明せよ。 第14回(明治34年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2 「十訓抄」 3 斎王 御息所 おほいまうちぎみ 扶持米 柳営 矛盾 塞翁馬 朝三 暮四 櫂輿 布衣の侍 単語句の意味 【本試験】 1 「枕草子」 2 「泊洦舎文集」 3 「古今和歌集」(46) 誤謬の指摘 第15回(明治34年)【予備試験】 1 「増鏡」 2 「古今和歌集」(1879) 3 羅城門 節折 郢曲 准后 膠柱 池魚禍 友于 白龍魚服 神嘗祭 新嘗祭の別 単語句の意味 【本試験】 1 「土佐日記」 2 「源氏物語」 3 「室鳩巣文」 第16回(明治35年) 【予備試験】 1 「枕草子」 2 めもあやなり おほどか 塗籠 壷切の劔 御湯殿の鳴絃 献芹之誠 点心 度牃 単語句の解釈(意味) 3 澪標 賢木 槿 雲隠 總角 蜻 蛉(以上源氏物語の巻名) 小大君 伊 勢大輔 万里小路藤房 月次祭 荷前 幣 慰斗目 褂 春宮坊 単語句の読み方 【本試験】 1 「鎌倉右大将西行法師を召し問ふ 記事」(上田秋成) 大意の要約・傍線部の解釈 2 「庭訓往来」 第17回(明治36年) 【予備試験】 1 出典不明 2(イ)「平家物語」 (ロ)「太平記」 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「愚管抄」 第18回(明治37年) 【予備試験】 1 「枕草子」 2(イ)「小袖曽我」 (ロ)「小督」 何れも謡曲 【本試験】 1 「うけらが花」 2 出典不明 第19回(明治38年) 【予備試験】 1 理想 連想 定義 現象 寝殿 四阿屋 いつきの宮 単語句の意味? 2(イ)謡曲八島 (ロ)「奥の細道」 (ハ)(犬も歩けば棒にあたる) (ニ)(仏の顔も三度) (ホ)(武士は食はねど高楊枝) 3 「今鏡」 4 「しみのすみか物語」(石川雅望) 【本試験】 1 「大鏡」 2 出典不明 72 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) 催馬楽 第20回(明治39年) 【予備試験】 1 出典不明 2 自然淘汰 万有 人格 軽文学 純文学 刹那 一機軸を出す 中原の 鹿誰が手に落つ 単語句の意味? 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「泊洦舎文集」 第21回(明治40年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2(イ)「古今和歌集(962) (ロ)「古今和歌集」(1097) (ハ)「古今和歌集」(867) 【本試験】 1 「万葉集」(16) 2 「古今和歌集序」 3 「平家物語」 第22回(明治41年) 【予備試験】 1 「徒然草」 2 「太平記」 【本試験】 1 「万葉集」(13) 2 「源氏物語」 3 「増鏡」 第23回(明治42年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2(イ)「古今和歌集」(161) (ロ)「新古今和歌集」(693) 【本試験】 1 「古事記」 2 「枕草子」 3 さうじみ はしたなし すげなう みじろぐ なよびか 五十日の餅 蹈歌 叙爵 攤うつ 上﨟 単語句の意味? 第24回(明治43年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2(イ)「古今和歌集」(867) (ロ)「古今和歌集」(420) (ハ)「古今和歌集」(212) 【本試験】 1 「万葉集」(45) 2 「源氏物語」 第25回(明治44年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2(イ)「古今和歌集」(277) (ロ)「古今和歌集」(872) (ハ)「古今和歌集」(1098) 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」 第26回(大正元年) 【予備試験】 1 「平家物語」 2(イ)「古今和歌集」 (ロ)「奥の細道」 (ハ)「風俗文適」 【本試験】 1 「大鏡」 2 「枕草子」 第27回(大正2年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2(イ)「古今和歌集」(901) (ロ)「新古今和歌集」(51) (ハ)「蕪村句集?」 (ニ) 出典不明 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」(38) 第28回(大正3年) 【予備試験】 1 「徒然草」 2(a)「古今和歌集」(277) (b)「古今和歌集」(1098) (c)「千載和歌集」 【本試験】 1 「枕草子」 2 「古事記」 第29回(大正4年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2 「平家物語」 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「古事記」 3(イ)「万葉集」(267) (ロ)「新古今和歌集」(340) 第30回(大正5年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2 「太平記」 傍線分のみ解釈 【本試験】 1 「枕草子」 2 「古今和歌集序」 第31回(大正6年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2 「平家物語」 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」(973?) 第32回(大正7年) 【予備試験】 1 徒然草 2(a)「古今和歌集」(1094) (b)「古今和歌集」(1097) (c)「新古今和歌集」(261) 【本試験】 1 「古事記」 2 「枕草子」 第33回(大正8年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2(イ)「新古今和歌集」(1617) 小笠原 拓:「文検国語科」の研究(2) 73 (ロ)「新古今和歌集」(1773) (ハ)「新古今和歌集」(987) 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」(319) 第34回(大正9年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2 「虞美人草」 要旨説明 【本試験】 1 「枕草子」 2 「万葉集」(1047) 第35回(大正10年) 【予備試験】 1 「徒然草」 2 「現代詩人選集」 要旨説明 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」(230) 第36回(大正11年) 【予備試験】 1 「徒然草」 2 「小鳥の来る日」(吉田絃二郎?) 要旨説明 【本試験】 1 「枕草子」 2 「万葉集」(207) 第37回(大正11年) 【予備試験】 1 「十訓抄」 2(a)「新古今和歌集」(861) (b)「新古今和歌集」(1558) 3 「惜しみなく愛は奪ふ」(有島武郎) 要旨説明 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」(800,801) 第38回(大正12年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2(イ)出典不明 (ロ)出典不明 3 「一本の枝」(武者小路実篤?) 要旨説明 【本試験】 1 「枕草子」 2 「万葉集」(971,972) 第39回(大正12年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2 「文学序説」(土居光知?) 要旨説明 【本試験】 1 「古事記」 2(a)「新古今和歌集」(1644) (b)「新古今和歌集」(1738) (c)「万葉集」(458) 第40回(大正13年) 【予備試験】 1 「増鏡」 2(a)「新古今和歌集」(980) (b)「古今和歌集」(300) 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」(1047) 第41回(大正13年) 【予備試験】 1 「十訓抄」 2(a) 「古今和歌集」(934) (b)「古今和歌集」(1057) (c) 「新古今和歌集」(452) 【本試験】 1 「万葉集」(897) 2 「源氏物語」 第42回(大正14年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2(a)「古今和歌集」(976) (b)「新古今和歌集」(156) 【本試験】 1 「枕草子」 2(a)「万葉集」 (b)「万葉集」 (c)「万葉集」 第43回(大正14年) 【予備試験】 1 「十訓抄」 2(a)「古今和歌集」 (b)「古今和歌集」 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」 第44回(大正15年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2(イ)「古今和歌集」 (ロ)「後撰集」 (ハ)「新古今和歌集」 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」 第45回(大正15年) 【予備試験】 1 出典不明 2(a) 出典不明 和歌 (b)「新古今和歌集」 【本試験】 1 「古事記」 2 「万葉集」 第47回(昭和2年) 【予備試験】 1 「今鏡」 2(a)「古今和歌集」 (b)「曽丹集」 【本試験】 1 「枕草子」 2 「万葉集」 第49回(昭和3年) 【予備試験】 1 「平家物語」 2(a)「古今和歌集」 74 地 域 学 論 集 第 10巻 第 3 号(2014) (b)「千載和歌集」 【本試験】 1 「源氏物語」 2 「万葉集」 第51回(昭和4年) 【予備試験】 1 「藤蔞冊子」(上田秋成) 2(a)「新古今和歌集」 (b)「柿園詠草」 【本試験】 1 「新古今和歌集序」 2(a)「万葉集」 (b)「万葉集」 (c)「万葉集」 第53回(昭和5年) 【予備試験】 1 「大鏡」 2(a)「古今和歌集」 (b)「調鶴集」 【本試験】 1 「源氏物語」 2(a)「万葉集」 (b)「万葉集」 (c)「万葉集」 第55回(昭和6年) 【予備試験】 1 「太平記」 2(a)「新古今和歌集」 (b)「千々廼屋集」 【本試験】 1 「大鏡」 2(イ)「賀茂翁家集」 (ロ)「柿園詠草」 第57回(昭和7年) 【予備試験】 1 「伴蒿蹊におくる」(村田春海) 2(イ)「新古今和歌集」(1755) (ロ)「竹亭夏月」 【本試験】 1 「枕草子」 2(イ)「古今和歌六帖」 (ロ)「赤人集」 (ハ)「古今和歌六帖」 第59回(昭和8年) 【予備試験】 1 「駿臺雑話」 2(a)「新古今和歌集」 (b)「桂園一枝」 【本試験】 1 「源氏物語」 2(a)「万葉集」 (b)「万葉集」 (c)「橘守都家集」 第61回(昭和9年) 【予備試験】 1 出典不明 2 (イ)(田安宗武)*和歌(神楽) (ロ)「人の七十の賀に橘によせて」 (賀茂真淵)*和歌 【本試験】 1 出典不明(古事記?) 2 出典不明(万葉集?) 「文検国語科」の研究(2)――筆記試験の構成と全体像―― https //repository.lib.tottori-u.ac.jp/files/public/0/4685/20180622151445442755/rs10(3)_47.pdf
https://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/449.html
巻首に 受験にいそしんで居られる諸君に何時か呼びかけて親しく語りたいと思いつつも、今まで其の機会が無かった。二三の註釈本で片言隻句を以て語ったことがあったが、思いのままに私の抱懐する考を述べる時が無かった。 今回計らずもその機会が与えられることになった。と言うのは大同館主阪本氏の慫慂しょうようによって本書をものすることになったからである。漢文受験の指導書は私の様な未熟者が出さなくとも既に二三種それぞれに特徴を持った立派なものが出来て居るのであるが、私の屋下屋を架するの愚を敢えてするのは、漢文科受験を中心として衷心から諸君と語り合いたい念願の為に外ならぬのである。 為せば為し得る有為の資を抱きながら、未だ覚醒せずに惰眠を貪って居る人々に、「暁は来たぞ!!」と警鐘を打ち鳴らして、共々に手を取って進みたいのである。道草を喰っている人々にも「さあ油断なしに進もう」と背後から押して見たい。 「自分はつまらぬ人間だ!!」と自分で愛想をつかしてかかる位冒涜なことは無いだろう。有為の資を抱きながら小成に安んじて安閑として一生を過して終う位惜しいことは無い。「文検なんて、及びもつかぬ、俺の頭などでは何年かかっても駄目だ」などと始めから諦めて終う人々の多いのは一体何故であろうか。 私は言う。「文検に合格する位は平凡な頭の持主で大丈夫だ」と普通の頭でありさえすれば沢山だ。天才でなくとも秀才でなくとも平々凡々の人間で沢山だ。只やろう!!と言う確乎たる決心さえ出来た人なら二三年で何学科によらずきっと合格する。万が一若し合格しなとしたら、それは要領が悪いのだ。無駄な勉強に没頭して居るのだ。そんなことして居ては何年経っても合格は出来ない。要領よく短時間で合格するにはそれ相当の方法がある筈だ。 その要領を指導する書としては余りに本書は貧弱であるかも知れぬが、これを十分信じてこの方法に従ってやって呉れさえすれば一ヵ年後はきっと漢文科合格の栄冠は勝ち得られると信ずる。迷わずに一つ実行されたい。 現今の人々に欠乏して居る物は熱である。精神一到何事か成らざらんやとか吾も人なり彼も人なりとかの意気に奮い起つ者の少ないことは慨なげかわしいことだ。大いにやろうじゃないか。我々の前には高等教員試験の峻坂が待って居る。これ位の小さい坂道に辟易してはならない。文検位は楽々と一挙に屠って終おうでは無いか。 諸君の勉学される机辺に、この小著が訪れて少しでも緊張味を齎したら私の望に叶ったのである。読書に倦いた時、もう断念しようと思った時、世の中が厭になった時、この小著によって奮起して欲しい。どの頁をめくられても諸君を思って筆を運んだ熱意だけは受け取って呉れようから……。 昭和六年秋 東近江にて 著者識 文検漢文科合格秘訣 目次 序 [一]序説 (1)奮起すべきの秋 (2)国語科だけでは半人前 (3)決心→敢行→合格 [二]試験概説 (1)試験の概要 (2)予備試験と本試験 (3)参考試験委員其の他 (4)出願の手続 [三]計画案の作製 (1)計画案作製の必要 (2)計画案作製上の諸注意 (3)一ヵ年合格の計画案 (4)計画案の運用 [四]参考書 (1)はしがき (2)解釈の参考書」 (3)設問の参考書 (4)其他の参考書 (5)参考書余録 [五]研究法(※(2)の「解釈の研究法」は、主に漢文の訓読法と解釈の仕方を述べたものであり、当然訓点が振ってあるが、web公開の便宜上、それらを忠実に載せることはできなかった。よって掲載を諦めた。 (1)緒言 (2)解釈の研究法 (3)設問の研究法 (4)口述の研究法 (5)仕上げ [六]答案の研究 (1)要領よくきびきびした答案 (2)文字を綺麗に速く書く [七]試験委員の談話 (1)漢文の成績が低下してきた (2)漢文科受験準備の急所 (3)国漢科予試答案審査所感 (4)試験成績を見て (5)漢文科研究者の根本的態度 (6)漢文の試験に就いて [八]最近出題の傾向 (1)漢文解釈予備試験出題の傾向 (2)漢文解釈本試験出題の傾向 (3)口述試験出題の傾向 (4)復文出題の傾向 (5)設問出題の傾向 (6)作文出題の傾向 [九]口述試験の研究 (1)口述試験 (2)口述試験の準備 (3)口述試験に対しての注意 (4)口述試験の実際 [一〇]断想 [一一]受験者談話室 (1)過ぎ行くもの (2)本試征服記 (3)漢文科受験準備時代を語る (4)恵まれざるの記 (5)半ヵ年合格 (6)六十三歳にて合格 結び 附録 [一]文検検定に関する諸規則 [二]最近文検問題集 文検漢文科合格秘訣 笠松彬雄 著 [一]序説 (1)奮起すべきの秋 有資格者教員の大洪水!! 就職に喘ぐ教師群、 失職を哭する阿鼻叫喚! ……とまではいかずとも、毎年毎年一万人以上の有資格者が社会へ吐き出され、而も需要は僅かに千四五百に過ぎず、残りの八千五六百は敗残の身のうらぶれて、喘ぎを続けて行く。羽が生えて飛ぶ勢であった高師出さえも、就職難の声に脅かされるの現状である。 何と教師の多いことよ!! けれども諸君、心配すること勿れだ。何時の世とても喩に漏れず、「人多き人の中にも人ぞなき」の嘆、至って深いものがある。人多くして而も役立つ人物に乏しい今日である。有為の士の奮起を望むこと大旱の雲霓を望むよりも尚甚だしきものがある。奮起すべきは此の時である。腕ある者の立つべきは今なのだ。 有資格者の寥々たる時代には、資格さえあれば誰彼無しに採用された。玉石混淆も甚だしくて、石でありながらよい地位に一躍して達したものもあった。 けれども今は実力の時代となって来た。麗々しい何々学校出身は何の看板にも役立たなくなって来た。裸一貫、出身学校の立看板なしに、腕と腕との競争になって来た。所謂文検出の台頭すべき好機が廻って来たのである。 私立大学出身などの有資格者が、職を求めてうようよと泳ぎ廻って居る時に、文検出は此等競争者を一蹴して涼しい顔ですぐにどんどんと就職して行く。宜なるかな、腕の時代なること!! 国漢科などは特に有資格者が多くて就職困難であるけれども、一度官報にその氏名が発表せらるるや、直に草廬を三顧して諸葛孔明の出廬を請うた如く、諸君を訪れる劉備が踵を接することであろう。 諸君!!就職に就いて危惧の念を懐く勿れ。それよりも優秀の成績にてパスせんことを祈れ。実力さえあればきっと誰かが拾い出すに相違ない。 私の最近聞いた話――。 「コツコツと朝は早くから夜遅くまで、所謂夙興夜寝を文字通り行って、而も二三年の日子を費やして、うまく行って合格だ。運が悪かったら何年目に合格するか見当もつかない。而もだ。僥倖にして合格した処で、今の現状では就職などは思いもつかぬ。して見れば文検位馬鹿馬鹿しい話しが無い。書籍代は嵩み、健康は損ね、家庭は暗くなる位が関の山だ。それよりものんびりと魚釣りに囲碁に思いのまま生活する方が一生の利得とくだ。」 斯う言う考の持主は此の書を読むの資格がない。 しかし蛇足ながら之に反駁を加えて見ると、一生の得とか損とかを評価する標準が全然違って居ること、就職に対して杞憂を抱き過ぎること、更に根元に遡って言うならば、向上なき生活に満足して居ることである。 我々お互いは向上なき生活に満足してはならない。平凡に無難に長生きをしようなどと考えてはならぬ。百歳まで長生して何の事業もせずに死んでいく人があり、三十歳に足らずで死んで、国家に関係する大業績を残す人もある。丈夫は当に玉砕すべきである。瓦全を愧づべきだ。 今年担任して居た五年の一生徒が三高に入学しようとして、夜半尚端座して勉強に熱中するのを見た母親が、「早くお寝みなさい。身体に触るといけないから」と子の身体を心配の余り再三注意したところ、「三高に入学できない位なら、身体が達者でも仕方がありません」と、ずばと答えたと聞いたが、此の意気こそ望ましいものだ。向上の無い生活を十年や二十年延長して見た処で五十歩百歩だ。それよりも緊張した短年月の向上への精進こそ我々の辿るべき白路なのだ。 躊躇すべきでは無い。奮起すべきの秋! (2)国語科だけでは半人前 国語科だけでは半人前だ。国語の教師で国漢の合格する人なら漢文も何の困難もなしに合格するに決って居る。而も予備試験を受ける為に、相当はやって居る筈である。今一歩の努力である。 中学校令が改正されて、国語と漢文が接近して終って、今にも一科目になって終いそうだ。一学年などは国語時間中に漢文入門を教授する様にさなって来た。名称も従来は「国語及ビ漢文」と変更なって来て、一科目とする色彩を明瞭にした。 早晩、検定も当初の通りに国語漢文両科を一度に合格せねば免許状を貰うことが出来ない様になり、従来の免許状も書き変えられると思う。即ち国語科だけでは今後の国語科教師とはなり得ないことにより、結局国語科と漢文科と二科目の免許状所有者は一枚の新しい国語科免許状を下附され、今まで国語科だけの人ならば漢文科を受験合格せなければ、新しい国語科免許状は下附されないことになると思われる。 従って国語科だけの人々は是が非でも漢文科に合格して置くことが必要である。 よくこんな話を聞いたり、質問されたりする。 「近く漢文科が廃止されるようだから、漢文のべんきょうをしても無駄ではないか」と。 此の疑問は私自身も一寸持ったことがある。全く漢文が廃止されて終うものとの誤解からであった。たとい漢文科と言う科の名目が仮に無くなったとした処で、国語科の名の下に堂々とこれまでの漢文科は事実存続するに違いない。それであるから漢文なる名目は姿を消したところで、国漢の教師になろうと思えば従前通りの漢文試験を受けなくてはならぬ。決してこの方面から考えても無駄にはならない。 更に高所に目を転じて考察するならば、漢文学の影響を受けて培養され成育して来た国文学を研究するにはどうしても漢文学の研究が必須欠くべからざるものとなって来る。近い話が故事熟語の一語にせよ、枕草子の一節うぃ講義するにせよ、漢文のお陰を被らぬと言うことは無い。勉強して無駄になると言う様な馬鹿な間違った考えは毛頭起こすべきでは無いと信ずる。 大体此の書を手にせられる諸君は、国語科合格者だと思うが、中には漢文の方から進もうとして居られる人もあるだろうと思う。漢文の方が得意だと思うなら先ず漢文を征服してからと言うのも一法ではあろうが、概して言えば国語の方は容易で、漢文の方は少し厄介だ。而し、何れにした処で各人自信のあるものから進んだらよい。二か一時にやることは、二兎を追う者は一兎をも得ずの結果に、えてなり勝ちであるから、確実に段階的に進む方がよい。 (3)決心→敢行→合格 静かに反省して見ると、我々一日の中凡そ幾時間位勉強して居るだろうか。恐らく一分も一秒も自己を培う為に努力して居ない人も居るのではなかろうか。新聞の連載小説と三面記事を読むのが最大の勉強で、新刊の書物も読むではなく、それかと言って教材の研究に没頭するでも無く、無駄話に花を咲かして、職員室に煙草の煙幕を張る位で、その日その日を糊塗して過ごして居る人々も随分多い様に思われる。 その無駄に費やす零細の時間の利用と、家庭にごろごろ寝転んで居る不節制な時間の利用とに依って、自己を培い、よりよき自己の実現を企図したらどんなものであろう。 こんな愚痴は、本書を読まれる人々に対しては所謂釈迦に説法の観があるが、余りに小さい現状に満足し愉悦して居る人々の多いのが、腹立たしいので書いて終った。 ただ何事も、決心→敢行→月桂冠だ。 「漢文は仲々厄介なそうだ。俺などでは到底合格せぬだろう。合格もせぬのに三年四年の日を費やすのは惜しい話だ。囲碁でも上達して書籍代だけ酒でも飲もう」 などなど、自分が自分で自分の力を見縊って終う者が可成り多い。彼も人なり我も人なりの自信が無くては何事も成功せない。同じ人間に生れながら、彼のなし遂げた仕事が自分に何故出来ないのだろうと、その不甲斐のないのに泣くのはよい。自分の努力の足らぬのに切歯するのはよい。誘惑に打ち克ち得ないことに立腹するのはよい。 而し頭から自分の力では到底不可能だと諦めてかかることは大禁物である。勿論自惚れの余り強いのも困り物ではあるが、尻込みの消極主義に勝ること万々である。 そこで、漢文科を愈々受験しよう!!と決心が出来たら、敢然猛進、馬車車的の驀進をやる。中途で立ち止って右顧左眄したり、目的地の遠望をして落胆したり、甚だしきは、長大息之を久うして、もう止めて置こうなどと弱音を吐いたりもしてはならぬ。 苟も決心した以上はやり遂げねばならぬ。二度や三度の失敗は伴うかも知れないが、人生の行路から言えばそれ位のことは何でも無い。 敢行すればきっと成功に到達する。 その成功までの過程―而も最短距離のコースを示そうとするのが本書の使命である。 [二]試験概説 (1)試験の概要 初めの中は国語漢文科として合併して一科であったものが、大正十年から独立して、国語科と漢文科の二科となった。そうして現今にまで及んで居るのであるが早晩は、前節で述べた様に国語漢文が一科となり試験も一緒に施行されることになろうと思う。 而しその改正案が発表されるまでは、二科各々独立したものとして別々に受験したらよい訳である。 試験は始めは年一回であったが、教員払底期の大正十一年から年二回宛と変更になった。而しその後教員が沢山増加してきたので昭和二年から又元通りの年一回になって終わった。国語漢文は秋季に行われる。 試験の出願締切は、七月の末か八月上旬かで、それ以前五月か六月頃の官報によって告示される。そして予備試験は九月末か十月中に行われ、その結果は十一月中に官報で発表(予備試験合格者)され、十二月に本試験が施行されて、その合格者氏名が翌一月頃の官報に出るのが通則になって居る。多少の早い遅いは年々ある様だが大体これ位である。締切期日に遅れて終って折角の苦労が水泡に帰する様なことがあっては、つまらない。官報に注意して期日に間に合う様にせねばならない。官報は中学校は勿論とっているが、田舎の小学校などで一寸見られない時は、村役場に行くと必ずある。その上いつもいつも官報にばかり注意して居なくとも、何か一種位刺激の材料に受験物の雑誌を取って居たら委しく報道される。 だが大抵は国語科合格者であろうから予備試験は受ける必要が無い。直ぐに本試験だけ受けたらよいのである。それでは始めて漢文科の方を先に征服しようとする方は、一体どうしたらよいか?と言うと、前述した様に予備試験を受けそれから本試、後述と進んで行かねばならない。 (2)予備試験と本試験 言うまでも無く一班に承知して居られる如く、試験は予備と本試との二つに分れる。まだ国語科を取って居ない人で漢文科を受験しようとするならば此の予備試験から進んで行かねばならない。漢文科を受けるにしても予備試験だけは必ず国語と漢文の両科目に亙って受けなければならない。従って国語科を受験する者も予備試験には漢文を受けねばならぬ。即ち国語科を受ける者と漢文科を受ける者との予備試験問題は全然同一である。 予備試験では更に、中等教員か小学校正教員かの免許状を持って居ない者は、教育大意と国民道徳要領との試験を受けなければならぬ。 予備試験を受験する者は、試験日の一二日前に受験地に行くといい。そして試験の前日頃地方庁に行くといい。そして試験の前日頃地方庁に行って受験票を受け取り(此の時捺印せねばならぬから形印を持参する)、試験場の下検分をも済まして置く。 予備試験は全くの筆記試験である。用紙は配布される。持参の必要が無い。ナイフ万年筆、インク、吸取紙などを机上に置いて、受験票も出して置く。用紙が配布されると、それに受験票に書いて居る受験番号を記入して、自分の姓名は決して書かない。 問題を受け取ったなら心を静めてよく注意書を読む。必ず一問毎に別々の用紙に書くのである。これは採点する人が違うから一々別紙とするのである。若し二枚以上になったら一問毎に別々に紙捩りで綴じる。 試験の結果は二十日余り後の官報で発表される。私は東京の宿屋から案内状で知った。 本試験は東京でやる。本試験は筆記試験と口述試験とに分れ、筆記試験は予備試験と何等変わりなし。その筆記試験の結果が受験後一週間位して、文部省の正門に掲示される。それには第一日の口述試験には、何番と何番と、第二日は何番と何番とと言う工合に発表される。郷里の近い人は帰るが遠い者はその日までぶらぶらして発表の日を待つのである。発表があると第何日目かを見て、後述の準備などする。 私の受けた時は、筆記試験はお茶の水女高師で受け、口述は大塚の高師で受けた。予備試験に合格した者が二〇〇名で、昨年の本試で不合格になって今年一緒に受験する者と合すと二五六名であった。その中筆記試験に合格した者は六十三名であった。 口述試験は高師の東館で受けたが、その日は受験者の履歴書を返されて、抽籤で順番を定め、順次考査場へ行くのである。履歴書を持って行ってその時試験委員に渡すのである。口述のことは後で委しく記すことにする。 口述試験が終るとこれで本試験が全部終了したことになる。その結果は一ヶ月位後の官報に発表され、間もなく出願地方庁を経て免許状が下附される。 (3)参考試験委員其の他 前述の如く予備試験から本試へ進む者には国語の方も必要であるからそれも便宜記して見ると、文部省指定の参考書は 国語<古事記、万葉集、源氏物語、枕草子、大鏡、増鏡、古今和歌集、新古今和歌集、平家物語、太平記、徒然草、俳句、謡曲、現代文 漢文<大学、中庸、論語、孟子、小学、韓非子、左伝、史記、十八史略、唐宋八家文、古文真宝後集、唐詩選 この他に設問に応ずる為の参考書もあるが、委しくは参考書の解説の処で述べることにする。 試験委員は、年に依って多少の変更はあるけれども、大体に於いて次の先生方である。 [国語] 御歌所寄人 鳥野幸次先生 東京帝国大学教授 藤村作博士 東京高等師範学校教授 松井簡治博士 同 保科孝一先生 東京女子高等師範学校教授 尾上八郎博士 第一高等学校教授 菊池壽人先生 [漢文] 東京帝国大学教授 宇野哲人博士 東京高等師範学校教授 諸橋徹次博士 第一高等学校教授 島田釣一先生 学習院教授 小柳司気太博士 早稲田大学教授 牧野謙太郎先生 どの先生がどう言う方面を担当せられるかは分って居るのであろうが、我々では忖度出来ぬ。誰が何方面であろうとも、決して試験委員の説そのままを書かなければ不合格などと言うことはないから、詮索は無用である。而し委員の先生の著書は見られるだけ見て置くと便宜が多いことは事実である。 何点以上は合格だろうかと言う風の疑問はよく持つものであるが、六十点位でなかろうかと思われる。このことに就いては、大月静夫氏著「文検国語科受験法」に詳しく記されて居るから参照せられたい。同署の十七頁にある。 予備を受験する時に、「自分は漢文科だから、国語の方は大目に見て呉れるだろう」などと考えてはならぬ。国語科受験者も同じ程度で採点せられる。 (4)出願の手続 官報の告示と公告をよく見て、巻末の付録の様式に従って願書を書いて出す。 国語科合格者ならば、受験者の処へ国語科合格と記入する。漢文科からやろうとする人なら受験資格の処へ「小本正」とか「専正」とか「中学校卒業」とか記入する訳である。 履歴書は前述した様に口述の時に、委員が見ながら試問されるのであるから、出来るだけ綺麗に書いておく方がよい。 受験料は7円である。本籍地現住地の上に貼って、最後の氏名の下に押すのと同じ形印で、消印する。そして自分の受験しようとする府県の学務課宛に書留便で出したらよい。なるべく早く出してたとえ不備の点があっても、返戻されて十分訂正する余裕のある様にして置く。 [三]計画案の作製 (1)計画案作製の必要 行き着き放題、出鱈目の勉強では何年経っても成功は覚束ない。例外が出来たり遊んで終ったりして中々予定表を作って置いてさえ実行が困難であるのに、何の計画もなしに、只漫然と「来年受験したいから少しは勉強しておこう」位のことで始めても合格しないこと請合いである。 頗る綿密に用意周到なる予定案を作製して、例外なしに之を実行して行くならば、二年なり三年なり経過した時に、受験準備が出来上る訳である。 只実行にあるのみである。 而しその計画案は綿密であればある程効果を挙げ易い訳である。それでは如何にして計画案を作製するか。以下順序として私の考えを述べよう。 (2)計画案作製上の諸注意 綿密である程よいが、綿密になればなる程計画案の作製は困難を加えるのである。何故なら先ず何年でこれを完成させるか、一日何時間ずつ之に当てるか、参考書はどれどれに依るか、等々と言う先決問題が出て来るからである。 国語科の合格者なら一ヵ年で大丈夫である。漢文科から始める人ならば、国語の準備も入るし、その上まだ大してやって居ないと思われるから二年は当然見なければなるまい。 一日に大体四時間やればよい。多い程勿論よいのであるが平均して毎日四時間やると言うことは仲々の難事業である。どんな時間を利用するかなどは追って述べて行く。 参考書は一体どれとどれに依ったらよかろうか?これは本書の参考書の解説欄を見て、「この本は何と何とを買う」、「この本はあれを誰から借る」、「あれは学校のを見る」等と参考書を決定せねばならぬ。 そこで大体の見当が付いたら計画案作製に取りかかる。 (3)一ヵ年合格の計画案 一ヵ年で仕上げようとするのは楽な仕事ではない。五年六年を費やしてさえ仲々に合格しない人さえあるに、一ヵ年の勉強だけで一挙に牙城を屠ろうとするのであるじゃら、十分の覚悟と努力とを必要とするのは勿論である。 これでは短期に過ぎて自信を以て受験出来ないという人は、二ヵ年計画にして、月数を二倍にして行けば十分出来る訳だ。 以下一例を示してみよう。参考書の関係などで多少先後することもあろうと思われるが、大体の見当はつくことと思う。 計画表 月次 漢文解釈 設問 一月 唐宋八家文、唐詩選 漢文典、時文 二月 同 三月 古文真宝後集 四書集註 四月 同 五月 史記列伝、十八史略 漢作文、復文 六月 同 七月 韓非子 支那哲学史 八月 同 九月 左伝 支那哲学史 十月 同 十一月 擬答案作製 擬答案作製 十二月 総復習 総復習 (備考)中学卒や、専正などで教育大意・国民道徳大意などやらねばならぬ者は、これ以上にやらねばならぬ。 漢文科から始める者は、予備試験の、国語科の勉強の為に、徒然草、増鏡、大鏡、平家物語、太平記、古今集、新古今、国文学史、文法等をやらなければならぬ。それでこの一ヵ年の表では無理である。 (4)計画案の運用 以上述べた計画案はほんのアウトラインである。家で譬えるならばやっと骨組みが終ったに過ぎない。どんなに上手に立派に之を仕上げて行くかは、これからの運用如何にある。 先ず始めるに必要なだけの書物を購入するか借用するかして調達する。本が無いからと言うので計画案の順序の反対などにやったり、順序を換えてやったりしては面白くない。最も効果が多いだろうと思われる順序に配列して居るのであるから、その順を狂わせたらそれだけ斬新的の段階が前後する訳である。 一日四時間(出来得べくば多い程よいが)として、一ヶ月の中に二千頁を読破して、それを消化して行こうとするには、 2000頁/4時間×30=2000/120時間=50/3 となり、一時間に十七頁位宛確実にやって行けばきっと二千頁は完全に読了出来る。これはほんの一例に過ぎないが…。 而し例外の時―来客があったり、家の用事が突発したり、学校の仕事が増加したりして―の遣繰りを日曜土曜の二日間にして、少しは予定よりも進み得る様にするとよい。余り欲張った計画案を立てて置くと、融通がつきにくく、二三日も病気で寝ることになれば、もう計画に大きな狂いを生じて終って挽回が出来ないと言う羽目に陥る。 夏期休暇、冬期休暇、春休み等の一週間以上も学校の休む時には、午前中五時間位の時間は十分出来るから、それは予定の中へ入れてもよい。又入れて置かないで不足と思われた分を復習してもよい。今後は秋の初旬に国漢科の試験があるのであるから、夏期休暇の利用法如何は、相当に大きい結果を齎して来る訳である。 更に一日の中で、朝晩の中、漢文解釈の方の準備を朝するか、夜するか、朝するならば、何時から何時までが適当か。設問の準備は何時するか、夜は何時からかと言う風に綿密にやらねばならない。 朝五時から七時まで二時間、夕食後七時から十時までの三時間、放課後帰宅して夕食前の一時間と合計六時間位の時間は捻出されそうであるが、さてやって見ると仲々困難であるから、先ず四時間として、朝の二時間に設問の準備、夜の部に解釈方向の準備をやればよい。 整然と勉強の頁数と時間とが割り当てられても、そこは人間の悲しさ、苦痛を感じて来て嫌気がさしたり、自信が持てなくなって迷って来たりする。その時が実際一番危険な時で、その心の油断が長く続いて予定をめちゃめちゃにして終うと、中止の形となり頓挫を来たして終う。 そんな時は受験雑誌を読むなり、受験記を読むなりして、不屈不撓でやって居る人々を見、自分の怠惰心を鞭撻し、初志を貫徹せずんば已まずの意気を奮い立たせるとよい。 [四]参考書 (1)はしがき 文検成功の鍵は良書の選択にあると言っても過言でない位までに選択が必要である。折角多大の時間と労力とを費やして読破して行くのに、つまらぬ参考書では実力もつかないし、役にも立たないことになる。 良書と言う意味は、斯界の権威書の意味ではない。私の所謂良書とは、間違少なくして、了解し易き書の意である。如何に学会に於いて重視されて居る権威ある書物でも、文検受験者の学力に不適当なものならば、良書とは言い得ない。 良書とは即ち。 〈1〉講義の煩簡に注意して文検受験者の程度に適切なるもの。 〈2〉精髄を抜粋して居て、最少の時間に最大の効果を収め得るもの。 〈3〉価の低廉なるもの。 等の条件を具備したもので無ければならぬ。文検受験の為に編纂された便利書があるならば、それが一番よい訳である。而し中には、文検受験用と銘は打って居るが、何の考えも無しに、無闇に書きなぐられた書物もあるから、そこで、大体此処に標準になりそうな書名を列挙して行きたいと思う。 国語科方面の参考書の必要な人は、大月氏著の「国語科受験法」を参照されたい。三十二頁に委しく出て居るから…。 更に一言したいことは、時々受験記を見ると、「一流の書物に依って勉強すべきだ。史書集註や少なくとも漢文大系本でやる」などとの理想論を述べて居ることに就いてである。学界の重鎮が長年月を費やした著書や先哲の書き残した註釈書に依って飽くまでも学究者の態度を取り正々堂々と歩を進めて行くことは誠に望ましいことであるが、それは理想論に終り、机上の空論に終る。そんな事をして居たら日暮れて道遠しの嘆に陥るだろう。 高教試験などは一流の書物によって学究者としての研究の態度を保持すべきであるが、文検に於いてはそんな必要は無い。最も簡便にやれる方法で速成を目指すべきであろう。 受験者は大袈裟な話に肝を潰してはならぬ。原本に依るべきだなどと駄法螺を吹いて喜んで居る者の言に迷わされてはならない。望洋の嘆を懐いて断念すべきではない。 自分の力に適応した書によって、文検恐るるに足らずの態度で進んで欲しい。然し一流の権威書がどんどん氷解される人は、最善最高の参考書によるべきは勿論一番よい方法である。その位の人なら文検など受けなくともよい。大学の教授位は勤まるであろう。 以上良書とは如何なるものかに就いて参考書選択の標準を示したが、次に注意すべきは 中心書は一冊 として、それを精読することである。あれもこれも走り読みすることは我々検定受験者には大禁物である。分って居るのか分って居ないのかさえ分らない様な勉強をして置くから不合格になるのである。若し余裕が十分有る人は、その中心書に他書の研究を記入して行くとよい。 (2)解釈の参考書 〔大学〕 大学は元、礼記中にあったが、宋以前の学者は余り之を尊ばなかったのに、宋時代になって、司馬光が礼記中から抜いて「大学広義」を作った。程子は表章して論語・孟子・中庸と共に子弟の教科として、「諸学徳に入るの門なり」と言った。併し大学は道徳と政治との関係を論じたものと言う方が当たって居る。それは兎に角として四書の一として多く読まれるに至った。 註釈本としては ○宇野哲人博士著 四書講義(大学) が一番よい。其他にも沢山あって挙げ尽くせない位あるけれども、これで他は見なくてよい。全部を読むべきである。 〔中庸〕 子思が倫理の本体を誠とした。これを論理付けて述べたのが中庸である。これこそ修養書であり、格言となって居る多くの言葉が出て来て面白い。 これも参考書としては ○宇野哲人博士著 四書講義(中庸) これ一冊で十分である。全部精読する。「詩に曰く」とか「書に曰く」とか詩経や書経のことにも関係があり興味が深い本である。 〔論語〕 孔子の弟子達が論撰したもので、孔子の言行に依って儒教の如何なるものかを説明している。修養書であるから、研究することによって多大の刺戟を受け発奮し、愉快の裏にこれを読破することが出来る。この中にも沢山故事熟語等の原拠がある。 ○島田釣一氏著 論語全解 がよい。私は大町桂月の著した「論語評釈」で面白く読んだ。尚教育学術會著「文検受検用論語解義」がある。これは本文を白文としてあるから練習に都合がよい。 〔孟子〕 孟子が孔子の道を祖述したものである。比喩が整然として居るから、難解な処は時々あるが全体としては、非常に面白い、全くうまく譬えて居るのに感嘆することがある。 参考書としては、矢張り ○島田釣一氏著 孟子全解 が手取り早く要領を得られると思う。又最近出来た ○文検受験用 孟子解義 これも中々初学者の為に至れり尽くせりの書で其儘答案に用いられる程である。 中心書を一冊に、精読主義で進むと言うモットーの下に、以上の良書を選択した訳であるが、設問の準備―と言うよりも口述の準備と言った方が適切なんだが、その為に四書集註をやるから、以上の四書(大学・中庸・論語・孟子)に漢文の註したものを再びやる訳である。この事は又後で述べる。 〔十八史略〕 史記・漢書・後漢書…南宋史に至る十八の史書から抄略した為に十八史略と名付けられるのである。史書として見ても価値があるし、修養の書と見ても面白い。その文章も簡明であり、漢文入門として格恰のものである。 ○桂湖村氏著 十八史略国字解 上下二巻 ○笠松彬雄著 十八史略評解 は最もよい。これは全訳であるから、その骨髄をつかむだけならば拙著「十八史略詳解」で十分である。文検程度としてはこれの方が手早く会得し得る。 〔史記〕 史記と言っても列伝の個所だけである。文章は紀伝体の権輿として、二十四史の冠冕として頗る勝れたものである。これには文検受検に適当と思われる本はない。而しそう大して難解でも無いから ○漢文体系本の「史記評林」でやるとよい。抄出して解釈した本に ○森山右一氏著 文検受験用 史記選釈 がある。あの大部の物を僅に三百頁ばかりに文検問題を基いて抄出したのであるから、これだけは一寸不安な気もする。 ○国字解本 史記列伝 はよいけれども、一寸手がつけられない位浩瀚である。 〔左伝〕 孔子が筆削した春秋の註釈書で、左氏の書いた伝であるから、春秋左氏伝と言うのを略して左伝と称うるのである。左伝は漢文本試の中心書であり、精髄である。これさえ十分征服して置けば八九分までは合格したのと同様である。 ○竹添井々氏著 左氏会箋 三十巻 は権威ある書で、漢文大系中に収められて居るが、一寸手出しが出来ぬ。而し時間は長くかかってもよいからコツコツやろうと言う人にはこれ以上よい本はない。而し手取り早く左伝の学習を終りたい人々は ○笠松 彬雄著 精要左伝詳解 を熟読すればよい。文検合格を目的とするのならば本書で十分である。どんな初心者にも了解出来る様に頗る詳密に解釈している。 〔韓非子〕 韓の諸公子が、法術の要を説いた書物である。識見の俊邁なことや、さては行文の凌勵奇矯なことは比喩する者もなく、本書位なる程と感心させられる書物はない。 ○吉波彦作氏著 精要韓非子詳解 は良書である。 〔八家文〕 「南宋八大家文読本」と言う処を略して、唐宋八家文、若しくは唯だ単に、八家文と言うのである。唐と宋とから八人の大文豪を選び出して、その文章を収録して、模範文章たらしめたものである。 韓退之を始めとして柳宗元、老蘇、大蘇(蘇東坡)、小蘇、欧陽脩、王安石、曾鞏の八人で、諸君の既にご承知の通りである。本書は予備にも本試にも共に出題されることは史書と同様である。 註釈本は ○笠松 彬雄著 精要唐宋八家文詳解 で十分である。二三回も反復して置けば了解出来る。 〔古文真宝〕 古詩文の中で真に宝となし得るに足ると思うものを集めたものである。前集と後集とに分れて居るが、前集は詩集で、後集が文集である。 八家文と重複したり、文章軌範と重複したりするものが可成多い。 註釈書としては ○吉波彦作著 古文真宝(後集)詳解 がよい。 詩の全盛期なる唐時代の詩を選したもので、此の名がある。明の李攀龍編と言われるけれども、偽書であることは明瞭で、射利の為に出版屋が李攀龍の名を巻首に冠らせたものである。而し大体に於いて唐時代の代表作を網羅して居て、吟誦措かざらしむるものがある。 ○笠松 彬雄著 唐詩選詳解 は文検受験者の為に特に執筆したものであるから、無駄なく勉強出来る。最近簡野道明氏著の「唐詩選詳説」が出たが頗る詳密なものである。 × × × × 以上で大体漢文解釈に関する参考書の紹介が終ったから一目瞭然たらしめる為に表示する。(※この表は当時の字体のままにした) 予備試験 著者 書名 定価 発行所 桂湖村 笠松彬雄 宇野哲人 宇野哲人 島田釣一 島田釣一 笠松彬雄 笠松彬雄 十八史畧國字解 十八史畧詳解 四書講義(大學) 四書講義(中庸) 論語全解 孟子全解 唐詩選詳解 唐宋八家文詳解 5,00 2,80 2,30 2,80 1,80 2,70 2,80 4,80 早大出版部 啓文藤 大同館 大同館 有精堂 有精堂 大同館 大同館 本試験 著者 書名 定価 発行所 森山右一 笠松彬雄 吉波彦作 吉波彦作 笠松彬雄 史記選釋 左傳詳解 韓非子詳解 古文眞寶(後集)詳解 唐宋八家文詳解 3,50 3,50 4,80 3,80 4,80 大同館 大同館 大同館 大同館 大同館 (3)設問の参考書 支那時文は解釈の部に入るべきであるが、便宜上此の所で述べる。 〔支那時文〕 支那時文とは、支那で現今新聞雑誌等に用いて居る各種の通用文のことである。即ち現今行われて居る通俗文のことである。語句にも全然意味の取れぬ物が出て来るから一寸厄介である。而し大体は我々の漢文の力を以て読解は出来るが、特別な意味の言葉などは見て置く必要がある。 参考書としては ○吉波彦作氏著 漢文白文訓読・復文作文・支那時文研究要訣 がよい。一般に定評のある書である。 ○田井嘉藤次氏著 最近支那時文宝鑑 で見てもよい。 〔漢文典〕 私などは漢文典知らずに受験したりして随分無鉄砲な事をやった。解釈するのにも作文するのにも文典の力が必要である。深い研究はやって居る隙も無いけれども大体は知って居なければならぬ。 ○石川誠氏著 復文作文応用漢文典概説 ○佐々木藤之助著 漢文典 等によったらよい。 漢文の相当出来る人なら ○児島献吉郎氏著 漢文典 ○同著 続漢文典 〔四書集註〕 口述試験の準備であり、漢文の註に馴れる為であり、四書の解釈方面を補う為でもある。徹底的にやることは望ましいことであるが、言うべくして行われ得べくも無いから、こんな書物にも親しんで行くと言う程度でよい。根気よく見て居ると、少しずつ分って来る。 ○漢文大系本 によるとよい。上欄には註釈もあり大抵読めると思われる。 〔漢作文、復文〕 これは読んで知る性質のものでない。幾度かの練習によって習熟すべき性質のものである。根気よく練習を積んで会得しなければならぬ。 ○吉波彦作氏著 漢文白文訓読・作文復文・支那時文研究要訣 によって、練習されたらよい。私などはこの書のお陰でうんと力が付いた。其他にも同種の書物が沢山あるがこれで十分である。 〔支那文学史〕 従来まとまった良書はなかったが最近に左の書が出版せられた ○小林甚之助著 文部省検定受検参考支那文学史要 最近の出題傾向を中心に系統だてこれまでの文検問題を集めて各時代に各章に掲げてあるので大変都合がよい。 ○石川誠氏著 文検漢文科研究者の為に ○佐々木藤之助著 漢文科の組織的研究 などの支那文学史の部に依っても十分受験が出来る。 ○児島献吉氏著 支那文学史 は良書であるが、惜しい哉絶版である。私はこれを早稲田の講義録で読んだ。 〔支那哲学史〕 これは迷うことが入らぬ。 ○宇野哲人氏著 贈訂支那哲学史講話 一冊を熟読することによって、支那太古より近世に至るまでの哲学を整然として知り悉することが出来る。 (4)其他の参考書 ○ 霜島勇気男氏著 高等漢文漢語詳解《設問の解釈があって便利》 ○ 龍澤良芳著 文検受験用国語漢文科問題詳解 ○ 岡田稔氏著 小学新釈《重要な個所抜の註釈である》 ○ 教育学術界著 文検受験用論語解義《本文が白文の為に練習に都合がよい》 ○ 簡野道明氏著 論語解義 ○ 簡野道明氏著 孟子通解 ○ 教育学術界著 文検受験用孟子解義 ○ 石川誠氏著 文検漢文研究者の為に (5)参考書余録 私は殆ど早稲田の講義録によって国語科を受けた。毎月二冊ずつ来るのを片端から読んで行くのであるが講義録が枚数に制限があるから、切れ切れでまとまらないのが欠点だ。最後になって綴じ直さなければならぬ。それに一ヵ年半もかかってやっと完結であり仲々悠長なものである。速成には不適当である。 漢文講座などはよい。 しかし何と言っても、以上挙げた中心参考書を十分読破して受験するの賢明に及ぶものがない。迷わず恐れず、躊躇せず以上の参考書を徹底的に征服したら合格は誠に易々たるものである。 受験に関係の有る雑誌を見て刺激を受けることも重要なことがらである。月一回宛訪れて呉れて撓み勝ちな心を鞭って呉れる。中には感奮させる体験記もあり、参考になる受験法や、学力養成の講座もあろう。一種は必ず読むべきだ。誌上を通じて慰め会う意味から言っても必要である。 文検世界 文検受験生 前者は老舗として貫録を占し後者は新しい編輯法によった雑誌である。 其他刺激を得べきものに ○ 大月静夫氏著 若き検定学徒の手記 ○ 山田耕氏著 小検より文検まで独学研究者の為に ○ 稲家詛風氏著 青年教師の歩める道 [五]研究法(※(2)の「解釈の研究法」は、主に漢文の訓読法と解釈の仕方を述べたものであり、当然訓点が振ってあるが、web公開の便宜上、それらを忠実に載せることはできなかった。よって掲載を諦めた。 【五】研究法 (1)緒言 文検は恐るるに足らぬ、高等常識試験に過ぎない。と言ったとて、そんなに容易なものではない。一生かかってものらくらとして受験したのでは合格はしない。文検々々と口ににはたやすく言い得るが、いざ一挙屠ろうと思って、見上げると中々高い城砦である。 であるから文検に志した以上は不撓の精神で飽くまでも完成せずんば已まずの意気で進まなければならない。 (一)目標を失うな 常に文検に志して居ることを念頭から忘れてはならなぬ。道を歩む時、散歩する時、食事する時―総べての時に、文検に志して居ることを忘れてはならね。「文検突破!!」の目標さえ見失わなかったら日常の生活も緊張を加えるであろうし、無駄に時間を費やさないであろう。 同僚の下品な雑談に花を咲かす時、静かに文学史の復習をやる時もあろう。囲碁に皆の耽って居る時に、昨夜の抽き出した疑問の個所を学校の図書で研究することもあろう。要するに充実した生活を続けて行くべきだ。 (二)陰口を気にかけるな。 大きい事を口にして如何にも英雄豪傑らしいことを剛語して居る連中も案外心の狭いもので、他人の成功立身出世を非常に嫉むものである。それで文検などに志して孜々として勉強を継続する者は、同僚から毛嫌いされる。悪口陰口も言われる。恐れられるのである。 人間だもの陰口されることは相当苦痛である。時には孤独を嘆じて文検などは断念して終わるとまで思うこともあるに違いないが、翻って合格後の輝かしい考えると又勇気を奮い起こして、いそしむのである。嫉む者には嫉ましてやるが可い。笑う者には笑わしてやるがよい。自分は自分として自己の深化を計ったらよい。行き詰った自己を救うて呉れるものは文検のみだ。 陰口位に辟易してはならない。「犬は恐ろしいから吠えるのだ」そうな、そうだ彼等も薄気味悪いから悪口陰口するのだ。 (三)命あっての物種 拮据黽勉(きっきょびんべん)、数年の後憧憬の文検突破は成功しても身体が虚弱になる様では面白くない。散歩も運動も十分心得てやるべきである。 放課後の一時間位はテニスか捕球か何かをやるとよい。疲れた頭を回復させ、気分は爽快になり身体は剛健になる。これ以上よい方法はない。而し対手のない時、雨の日などは出来ないから散歩する。その目的地も出来るなら五六町の場所にあるお宮へ参詣する様にしたらよい。参った度毎に今日までの健康なことに対する感謝と、今後の健康ならんことに対する祈祷、薄志弱行の自分の志のぐらつかぬ様にお祈りするのである。この方法は非常に効果が大である。森厳なる社の前に額づいて、「来年の文検に幸あらしめ給え」と祈ってもよい。撓み勝ちな心の手綱を神様の力で締めて貰うのである。若し見晴らしのよい場所や、閑静な場所であるならば書物を携えて行って勉強してもよい。印象深く記憶出来ることだろう。 人間は緊張さえして居れば決して病魔に犯されない筈なのだ。油断したり怠けたりして居るときも、つと病に捉まる。 (四)精読主義に終始せよ 広く浅く読んで悔を残してはならぬ。句調が自然と口を突いて突出する位にまで熟読せなければならぬ。一語句を聞いて先後の関係が思い浮かぶ位にならねばならぬ。少量の精読こそ文検の正道である。そこには確実なる智識の収得がある。不確実な物を山程積んでも砂上の楼閣で何の役にも立たぬ。 (五)交友関係に注意すること 環境の整理と言った方がよいかもしれぬ。釣好きの連れや囲碁将棋好きの友達と交っては時間を空費するばかりだ。断然廃するのが一番よいが都合が悪かったら已むを得ざる場合の外は対手せざること、此方から決して誘い出さぬことにして置けばよい。 兎角青年時代には若き女性との交りに全力を注ぎたくなり易い。「青春我に幾時ぞ、紅き血潮のさめぬ間に」と言う様なことを言って、「この二度とない黄金時代を何を苦しんで嫌な勉強に費やしてよかろうか」などと考えるものであるが、其の時によく考えて貰わねばならぬ。現状の地位身分で得られる女性と、文検合格後に得られる女性は果たしてどんなであろうか。これを思って先づ文検突破の先決問題であることを知って欲しい。三十才位までは未だ未だ女性の事は考えないで此方に没頭して居てよい。ぐんぐんと研究が積んで高等教員でも合格してから、十分の選択をして女性を得るならただ御意のままにどんなのでも手に入るであろう。年若くして人の親となり安月俸に貧乏するよりも遥かによい方法である。 小我を殺して大我に就くのである。明日のに今日の苦労をして置くのである。而し少しやれば決して苦痛ではなくきっと面白味を発見し、やがては楽しみとさえなって来るであろう。 ※(2)の「解釈の研究法」は、主に漢文の訓読法と解釈の仕方を述べたものであり、当然訓点が振ってあるが、web公開の便宜上、それらを忠実に載せることはできなかった。よって掲載を諦めた。 (3)設問の研究 〔研究の方法〕 設問に出されるものは記憶を主としたものである。文学史でも文学概論でも言語学でも皆前後左右に連絡があり順序正しく記憶することは困難なものである。その為に「ノート」に取って最小限度に簡約して書いて置く。智識が確実になりよく記憶が出来、整理された知識を持ち得ることになる。 ▲機械的記憶の方法 記憶にはよく了解して秩序的に記憶するのと、無茶苦茶であるが兎に角丸暗記するのとがある。即ち機械的の記憶である。これは何の連絡も無いものを記憶するので忘れ易いものである。この忘れ易いのを防ぐ為に聯想を利用して順序立てて記憶する方法を取るとよい。その方法は、先づ自分の家を出発点として西の方向へなり東の方向へなり、隣家を数えて一二三四五…二十位まで順番を作る。そして八番と言えばその八番に当った家が眼前に浮ぶ様に何回もこれを練習する。十五番はどの家、十番は誰の家と言う練習が出来たら、その家の一二三四回となって居る順序に結びつけて記憶して行くのである。 今八代集を記憶するとする。 自分の家―紀伊の国(私の郷里は和歌山)であるから紀貫之を思い出し、その友の紀友則に連絡する。これが古今集。 一軒隣―大きい梨の木があるので、梨壷の五歌仙を聯想する。古今集より後に撰ばれたから後撰集。 二軒隣―椿の花の美しく咲く家だ。それで花山院を思い出し、子供等がよくその落椿を拾い集めて遊んで居るから拾遺集と覚える。 三軒隣―二軒目の直ぐ隣であるから拾遺集とは関係があって即ち後拾遺集である。 四軒隣―葉鶏頭をよく作る家だから葉が金色に光って居て金葉集だ。この家に老人があるから俊頼(としより)の編だと覚える。 五軒隣―辨口が伸々上手な内儀だから詞葉集。 六軒隣―剽軽者(ひょうきんもの)の居る家でよく万歳の真似などして居るから万歳ならぬ千載集と記憶する。 七軒隣―新古今、恰度自分の家の分家に当るので面白いことには古今集からの分家の新古今となる。 これは私の記憶して居るほんの一例に過ぎないが、文学史は皆此の方法で秩序立てる。従って年代順に人物を並べることなんかは易々たるものである。 「ノート作成法」は省略する。委しく大月氏の「国語科受験法」の中に出て居るから…。要点を掴んで最小限度の必要なことだけ記載することだ。 ▲支那文学史の研究 その時代の概観、特徴などを研究し、主要中心人物を記憶し、著書と結びつける、著書の内容に就いては大体だけ知って居ればよいので、委しくやる必要はない。例えば、「詩品」と問題に出た場合には、 斉梁時代の鐘嶸の著、詩話の祖であって、漢魏以後百余人の作詩の優劣作者の月旦を記したもの と書けたら満点に近いが、合格するだけならば、 六朝時代の鐘嶸の著、詩に就いて意見を述べたもの と位に書けたらよい訳だ。 而し文部省指定の参考書は勿論内容も著者も委しく調べて置く必要がある。時には比較評論せなければならぬこともある。 ▲支那哲学史の研究 これは余程確り記憶せぬと混同して終って異同を述べよと言われても分らなくなるから、常に比較をしたり反対説を考えたりせなければならぬ。 「二程の理気説と、朱子とを比較せよ」などの問題が出た時に面喰う様ではならぬ。明瞭にノートなどに取って比較して記憶して置くことが必要である。 時に設問として哲学上の術語が出される。これも小さいことだと思って粗末に取扱ってはならない。十分注意すべきだ。 ▲復文の研究 これは練習だ。漢文法を会得してそれから推論して斯くなる筈であると学問的にやって行くのは中々手間取るから、簡便に早く出来る様になるには、練習によって、こんな場合には斯うなるのだと記憶する。何故斯うなるのかを研究し出した仲々六(む)つかしい問題になって終う。それには合格してから研究しても遅くはない。先づ何よりも合格への突進が先決問題だ。 ▲作文の研究 復文が十分出来るならば、作文は案外容易なものである。勿論名文などは作れないが、漢文の少し位はやっと分って居ると言う程度の作文ならば易々たるものだ。普通の文語体の文を作って、それを復文しても漢作文が出来るが、何となく歯切れが悪く、引き締まったキビキビした文にならぬ。漢作文は矢張り漢文直訳文を練習して置かないとよい物にならぬ。私などは二三の文例を暗誦して置いてそれを骨子として前後左右を補綴した。始めから自分の力だけで作文を書き上げようとするのは無理である。 (4)口述の研究法 これは別に欄を設けて委しく述べたいと思って居るが、大抵漢文科は四書集註が問題として出される。 それで此の方面の準備をして置くことが必要である。今その一例を示すと、昭和四年(五十一回)の漢文科口述試験問題は、 喜怒哀楽之未発。謂之中。発而皆中節。謂之和。中也者天下之大本也。和也者天下之達道也。 (註)喜怒哀楽情也。其未発則性也。無所偏倚。故謂之中。発皆中節。情之正也。無所乖戻。故謂之和。大本者天命之性。天下之理皆由此出。道之体也。達道者循性之謂。天下古今之所共由。道之用也。此言性情之徳。以明道不可離之意。(中庸) 孟子曰。人之所以異於禽獣者幾希。庶民去之君子存之。 (註)幾希少也。庶衆也。人物之生。同得天地之理以為性。同得天地之気以為形。其不同者独人於其間得形気之正。而能有以全其性。為少異耳。雖曰少異然人物之所以分。実在於此。衆人不知此而去之。則名雖為人。而実無以異於禽獣。君子知此而存之。是以戦兢惕厲。而卒能有以全其所受之理也(孟子離婁下)。 これが十分に訓読も出来、解釈も出来るならば口述の方は大丈夫だと思う。私などは準備が全く無かった為に散々に間違って、しどろもどろの体で引揚げたことであった。 (5)仕上げ 計画表の中の擬答案作製と総復習とが此の仕上げに相当する。一通り予定通りの勉強が出来たら巻末付録の試験問題集によって擬答案を作製して見るのである。その作り方等は次の章に委細説明するが、大体自分の力で消化出来、どうかこうか答案が書けなそうならばそれで、その方面のことはまずまずよいとして、若し手の付けられぬ位のものが出て来たとすると、その方面の勉強がまだ不十分であると言うことに帰着する。 再びその方面の研究へ逆戻りせねばならぬ。そして丹念に復習を終って更に問題に当って見て、すらすら分ればよろしいし、分らぬならば更に研究の要がある。この方法を撓まず繰り返すことが仕上げである。文学史哲学史などはもうノートばかりでやったらよい。 時に同志があるならば互に出題し合って答案を検討し合うのも一つの面白い仕上げ法だ。先輩に出題して貰って答案の批評を請うのも良法である。而しこれは十分了解を得て置いてからやるべきで、未知の人などに突然答案など送りつけることは失礼になる。 【六】答案の研究 (1)要領よくきびきびした答案 簡潔な文章で、要領よく、きびきびした答案でなければならぬ。だれ切った弛んだ答案は試験委員をうんざりせしめる。その中へ混じってピリとする様な気の利いた一字一句もそつのない答案が見えると「フム、中々やるわい」と思わせる。それで合格だ。 同じ解釈を同じ調子で同じ方法でやる中に、整頓された急所に触れた答案が出て来ると、思わず愉快になって良い点がつけたくなるのは人情だ。平常勉強する時から特に気を付けて居なければならぬ。 一歳二歳の日子の結晶だと言って差し出す研究物、即ち答案が何の苦労もない薄っぺらい物であったら、今までの努力が瀬戸際で捨てられて終うであろう。合格か否かの制定は、この答案のみにかかって居ることを十分知ったら、そんなに迂闊な答案は書いて出せない筈である。けれども案外多くの人は力さえあればどんなに書いても佳いものだと誤信して居る。それは勿論有り余る力の人ならどんな下手な順序で書きなぐっても随所にその人の滋味が泌み出て、「仲々実力があるぞ」と感ぜさせることが出来るが、多くは八の力を十に見せたいのだ。それが為には要領よく書く方法を研究せねばならない。 抽象的に只、要領よく、きびきびした答案と言って終っては余りに捉え所がないから少しく説明してみよう。と言って実例を出さなければ普遍的に何へでも応用出来る様な順序方法などはない。問題に当面して初めてこの問題の急所は此処だと分る訳である。 四十五回(大正十五年)に (イ)淮南子及ビ文中子ノ著者 (ロ)小学及ビ近思録 に就いて知れる所を記せと言うのが出て居る。 右に対して要領よくきびきびとした答案を書いて見ようならば、 (イ)淮南子ー著者 淮南王劉安(前漢時代。老荘主義を鼓吹した) 文中子ー著者 王通(隋時代。儒家に属する) (ロ)1.小学 名義と作者。南宋の大儒家朱熹の著で、「大学」に対して「小学」と命名した。 形式と内容。内容は修養方面のことを述べて居る。 2.近思録 名義と作者 同じく朱熹の著。名義は論語中の語から取ったもの。 形式と内容 十四巻あるが雑録で統一がない。大極説を始め格物致知等が論ぜられて居る。 以上の数語で十分である。 (イ)に就いては「淮南子と何故言われるかと言うこと、それは、淮南王の著であるからである。淮南王は漢の高祖の子淮南王厲王の子で実は賓客に集録せしめたものである。形式は内篇外篇に分れ今は二十一篇だけ残り三十三篇は亡失した」などと書く必要はない。 「賓客に集撰せしめた」と言うことは附記する方がよいが、若し曖昧にしか記憶が無かったら書かない方がよい。文中子に就いてもその通りである。 (ロ)に就いては、先づ書物の作者、その書の内容はどうしても説明せなければならぬ。それが抜けて居たら他の事を如何に縷々と述べ立てても徒労である。 尚その要領は模範答案などによって、会得されたい。 (2)文字を綺麗に速く書く 下手でも宜しいから綺麗に書く練習をして置かねばならぬ。字形よりも分り易いか否かが問題である。次に速く書く練習が必要だ。四時間半あれば随分長い様に思うがさて答案を作って見ると二時間や三時間は瞬く隙に飛んで終う。時間は迫るこつこつと暗記して居ると言う様では気が急くから碌な答案ができない。この二つは一朝一夕に出来ないことであるから平常から、注意して常に練習を怠らぬ様にする。特別にその時間を設けなくとも平常の業務に従事して居る中に注意してやれば十分出来ることだ。 【七】試験委員の談話 少くとも一星霜、多きは数星霜の日子と多大の労力とを費して、研究した結果を、身血を注いで作り上げた答案が、果してどう言う考を持った人々に依って評価され合否を決定されるのであろうかと考えて来ると、試験委員の談話も決して等閑に附せられるべき問題ではない。大いに関心を以てその説を拝聴すべきである。以下二三のものをあちこちから拾録して見る。 而して委員の方々は理想論を述べられる。我々は理想論を実行して居たのでは合格が何時巡って来るか見当がつかなくなる、その心境で読んで見るべきだ。 (1)漢文の成績が低下して来た 児島氏(※原本では姓名が書かれているが、ここでは特に個人名を載せる必要はないと判断し、姓のみを載せることにした。以下同じ) 漢文を受験する人の学力が、近年非常に低下して来たように思われる。或る雑誌に出て居た一国語科合格者の疑答案を見ると、其の中復文の所などは非常な間違をなしている。どう見ても一二点より外に採点の仕ようのないものである。 自暴者不可与有言也。自棄者不可与有為也。言非礼儀謂之自暴也。吾身不能居仁由義謂之自棄也。 とあるべきを、 自暴者与不可有云也。自棄者与不可有為也。言非礼儀云之自暴也。吾身居仁不能由義謂之自棄也。 と書いている。与の置き場所と不能居仁などは、之を誤ってはならぬ箇所であるのに、平気で間違って居られる。 (2)漢文科受験準備の急所 小柳氏 一、東洋文化と漢文 多くの答案の中には非常に悪いのがあります。単に様子を見に来ただけであって、自分としても及第出来る等と思って試験に臨まれたとは思えない。漢文の素養の全くないと云ってもいい様なのが見受けられます。斯様な甚だしいのは除くとしましても、全体として学力が足りないと言うこと、及び年一年と低下の傾向にあると言うことは、否定することの出来ない事実であろうと思われます。教育が多義多端に分れて居り昔程国漢に対して多くの時間を割り当てることの不可能である今日に於ては、学力の低下は必然的のものである。大勢の然らしむ処として、敢えて学ぶ方の側の人のみを責める訳には行かないかも知れません。教育上に於ける漢文の位置を論ずる為には或は教育制度の事にまで及ばなければならないかとも考えられますが、今暫く之に論究することを止め単に学力の点に就いて考えて見ましても、之が低下を来すと云うことは決して、喜ぶべき現象ではなかろうかと考えられます。 尤も近年国漢を刑死する風がないではありません。学力の低下は此の傾向に原因して居るのかもしれませんが、若しそうであるとするならば之は誠に遺憾なことであります。何となれば、東洋の文化と漢文とは密接不離の関係に在り、東洋を知らんとするには是非とも漢文を必要とし、漢文を離れて東洋を知らんとするは、木に縁って魚を求むるが如きものであるからであります。私は漢文を謳歌して之が偏重を力説するものではありませんが、之を軽視することには賛意を表することが出来ません。欧米の文化にも大なる長所がある事は否定しません。然し横文字のみを学ぶことや、西洋文明のみに接することが、我々の目的でもなければ、又教育上採らざるべき策ではないでありましょう。彼の国の文明に接すると共に又東洋文明をに併せ知るべきではないでしょうか。彼我相補う所ある様、洋の東西に亙りて広く目を注ぐことが採らるべき道ではないでしょうか。現在の教育制度が改革された暁には、或種の学校に於ては漢文が教授されなくなるかも知れませんが、たとえ教授されなくなっても、漢文は宛も西洋文明に於けるLate Greekの如く、其の重要性に於ては聊かも変る処がないでありましょう。随って之を軽視することには反対でありまして、学力の低下が若し此処に原因して居るとしますれば、此の考え方は一日も早く改められんことを希望するものであります。 二、漢文としての普通学 学力が次第に低下して来て居ると言うことは、之を軽視することにも因るのでしょうが、亦他方之を学ぶに当っての態度が誤っているいる為では無かろうかと考えられます。順序を追って進むべきであるのに、直に高い程度のものに取りかかるかと云うことに原因していることが少なくない様であります。漢文を勉強するには漢文としての普通学が必要であって先ず四書十八史略より始め、之に精通し以て基礎を養うべきであります。基礎を作ることを怠り直ちに詩経書経を読まんとするのは、宛も加減を知らずして代数幾何を学ぶが如きものであって、効果の無いことは勿論であります。然るに十八史略は子供の読む物の如く考えて読まなかったり、或は読むとしても抜書を読んで全部を精読せない。為に時代の観念もなければ人の名も書けないと云うことになるのであります。例えば蘇東坡や李白は何時頃の人かと尋ねても知らなかったり、堯舜と云う字も知らないと云う様なことが生ずるのであります。斯様な事では試験を受ける資格の無いのは勿論、苟も漢文を学んだとは云えないでありましょう。四書十八史略は何処から出されても一通り解釈が出来る様になっていなければなりません。将来先生となった時にも困ります。文学歴史を始め故事・熟語・固有名詞等大抵の事は十八史略に出て居ますから、之を精読して居れば先ず大体のことは分り、他の程度の高い書に及んだ時にも極めて楽であり、又口述の際などにも見苦しいことなどは無かろうと考えられます。普通学とも言うべき四書十八史略に精通したならば、次に文章軌範、八家文等の文章に進み、更に唐詩選、三体詩等の詩に進むべきでありましょう。 要之、先ず順序を追って進むべきであります。然るに普通学を修めずして直に詩経書経にかかるが如き本末を顛倒したことをするが為に、折角の勉強も非常に効果が薄くなり、結局力がつかないと云う結果を招来するのでありますから、此の点大いに反省する処あって、決して焦ることなく、先ず根柢を養うことに勉むべきでありましょう。白文を読む力は年一年と落ちる一方ですが、上海版の本で容易に手に入るのがありますから、これなどによって出来るだけ白文を読む力をつけておかれることを望みます。 三、漢作文及び口述試験 漢作文に対しては余り多くを期待して居ません。ただ文字の顛倒や、文法上の誤がなければ、先ず大体に於いていいとしなければならないでしょう。文字の選択と言う点までは要求出来ない様であります。 口述試験は白文を読ませ、教授法を試験するのがその趣旨であります。試験委員に対する答では無く、生徒に対する講義の形式を取るのであって総て生徒に言い聞かせる本位で行うのであります。講義の士振り、説明の士振りを見るのでありますが、その時によって出来不出来もある事でありましょうから、試験管の方でも仲々その辺の斟酌がむずかしいのであります。勿論此の際本試験の成績を考慮に入れて居るのでありまして、本試の成績がよければ口述が甚だしく不出来で無い限り従来は大抵、及第の圏内に入り得ているようであります。 (3)国漢科予試答案審査所感 内野氏 一、漢文の基礎的知識 去る十月施行した中等教員国漢科検定の予備試験答案を審査して、感じた点について受験者並びに研究者の為に留意考慮して貰いたいと思うこと二三を述べよう。 一番驚いた事は、漢文の形式と云うものをまるで理解して居ないで、自分勝手な読み方をして居る者の多かったことである。漢文読法の中、下から上への返し等に就いて、初学の者でも知って居なければならぬ位のことを、漢文の規則に拠らないで、勝手の考えで下から上へ返して読んでいる。随って人名や地名や官名と云うものを、或は動詞として読んで居たり、又は形容詞として読んで居たりする珍妙な答案が甚だ少なくなかった。 之等はつまり漢文の読み方の基礎知識として、知って居なければならぬ漢文特有の形式を理解して居ないこと、換言すれば、漢文の文法的知識が極めて薄弱だと言う結果によるのである。同時に又人名や地名や官名やを動詞にしたり形容詞にしたりして読むなどは、歴史的知識が極めて僅少な結果であると思われる。之等のことは試験場に望んで急に追い付くものではないから、平素より十分に注意していなければならない事柄である。 二、註釈書の選択 又甚だ遺憾に思ったことは、ある問題に対して、幾つかの異説を並べ比較するのもよいが、其の説なるものが、大抵現代の人、それも余り権威にならない人が受験用に書き下した講義本を引合いに出して居ることである。現代の而も余り権威にならぬ人の説を幾つか並べて居るのでは甚だ困る。そうしたことをするより、鄭玄なら鄭玄、朱子なら朱子と言った人の説を、唯一つだけでよいから挙げて置いて貰いたい。此の様な欠陥を示す人は、其の原拠ともなるべき註釈書を読まないで、手取り早く仮名交りの解釈本に依って終う為で、従って其の学問に根底が無く、上すべりがしていけない。 我々の希望としては四書などは少なくとも朱子の註位充分読んで居て貰いたい。近年、本試験に四書の朱子註などが読まされて居るのであるが、仲々読めないようである。之等は将来受験者の大いに努力して準備しなければならない点であると思う。 三、設問について 設問と云う項目の下に、書物の名前などを掲げて其の解答を求めて居るのであるが、之は漢文常識とでも言うべきものであって、これ位の事が分らない様では、漢文が教えられぬと言う程度の、極めてやさしいものなのであるが、それでいてさて受験者の答案を見ると、随分突飛な出鱈目な解答が出て来る。これは独学の人が多いので已むを得ない現象ではあろうが、それ等の人はつとめて図書館などを利用して、漢文を学ぶ上の材料に就いて十分研究して置く可きである。 之を要するにそうした漢文常識とも言うべき方面の知識の甚だしく欠如して居ることを、今度の試験に於いて特に痛感したのであった。 四、国文法の知識 尚最後に、予備試験では国語科受験者と漢文科受験者と同一問題で試験するのであるが、答案を見ると、国語科の受験者でさえも、漢文の送り仮名を多く誤っているのに驚いた。即ちそれは日本の文法に合致しない読み方をしていることである。音便を間違え、語尾と語源との区別がよく分らぬ者などが多くあった。漢文の返点や送り仮名は、少しばかりの約束を覚えさえすれば、後は凡て国文法の力で完全に分るものなのである。然るにそれが案外にも乱雑であったのには驚いた。受験者は将来、送り仮名などを付けるに当って国文法の力を応用して行くことに注意しなければならない。 以上は自分が予備試験を終えて、特に気付いた受験者の欠点を述べたのだが、今後の受験者は、少くとも以上のことに充分注意して準備し、且つ研究して戴き度いことを切に望むものである。 (4)試験成績を見て 牧野氏 一、中等教育改善規定 前年第五十三回の文検受験者の数はこの就職難の不況に拘わらず志願者は例年よりも多かった。それは如何なる関係若しくは影響か、我々は充分知らないが、察するに望を将来の教育界の者に属したる結果だと思う。将来の教育は果して如何にしてよきかと言うことは既に社会の大問題になっている。文部省辺りでも、師範学校・中学校・実業学校に関しての規則の改定をやって居る。既に其の中では公然と発表になって居る者もあるが、今茲に改めて向上進歩を計ると言うことは至極結構なことであるが、何と言っても教育は人である。機械ではない。如何に規則や法令をよくしても、第一其の局に当る教育其の人が問題である。 「其人存則其政挙其人亡則其政熄」という古聖の訓言があるが、如何によい政治でも、政治を行う人が立派でなければ法典や規則が整って居ても駄目である。という意味だが、誠にその通りであるが、殊に教育は教師の人物に俟つことが大なるものである。これは吾輩が言うまでもなく、既に受験者諸氏於いて充分承知されて居ることと思う。 二、試験成績を見て 近来の文検受験者の成績を見るに、大抵どの科も同じ様な声を試験委員が放って居る様に思われる。それは明治は勿論大正の初め頃よりは遺憾な事には他の事は暫く措いて学力が少しずつ減退して居るのではないかと疑われる点もある。それは一概に減退しているとは言えないが、仮に漢文科の一科目に就いて見ても其の科の主要科目に於いても云えるのである。答案は出してあっても其の答案の内容振りが中にはどうも解釈力の点に於いて、又読方に点に於いても之を往年の受験者の答案に比較すると掩う可からざる遺憾があることを免れない。之は国語科に於いても同様な声を聞いて居る。なかなか比較的時間の多くない中で、受験科目が多いからして無理は無いとも思われるけれども、人間に大正の人頃のも、現代の人も変りは無い。茲に至ると受験者の努力が又一層尽くされることを希望して止まないのである。 三、漢作文と復文につきて 試験の採点の上に於いては凡ての受験科目に就きて総点は決定する訳であるが、主要科目に於いて失敗をとることが多い時はこれ如何とも匡救すべき方法のないことは矢張り他の試験も同じ事である。主要科目さえよければ、他の科目は如何様でもよいという様な考は持っては宜しくないが、既にその科目に於いて主要科目と認められている科目は特に注意を要さなければならないのである。 読書はもとより作文をも少し注意と努力とを準備の時に要求する。他の作文は暫く措いて、漢文科に於いては、予備試験に復文と言うのがあり、本試験に於いては平易なる漢文を作らせる。字数は三百字位な程度である。この復文と言うものは受験者に取って、頗る苦痛と言う声を聞いて居るが、この復文の練習をも少し多くやって置く必要がある。 それは何の書でもよいから、自分で漢文二十字位のものを一旦漢文直訳体の文に書いてそれをもとの漢文に復訳する様に努めて行くべきである。初めそれをやる時は、文字の位置が顛倒したり間違ったりしてとんでもない所へもって行くというようなことが、自分が復文したものと、もとの漢文と対照する時は直ぐに分ってくる。それが余りに間違いが多いので、これでは駄目であると言う考を起こして十分に励み努めることを怠り勝ちになる。ここを一つ謂所勉学心を引き起こして間違が多ければ多い程それを少くするように努めて行って居る中には自然にその間違が少くなってくる。そうして自分が漢文に復訳したものと初めに書物からとった漢文との違いが全くないとは僅かの時日の練習では保証は出来ないが、先ず自分の間違が原文と照して僅かばかりの間違ですむ位になった時に、其の道の先輩の人、尤も漢文専門の人ならよい、仮令専門でなくても自分の信ずる人について、自分は斯くの如くなるのがよいと思うが、もとの書物の原文とは違っているが、其の原文の意味は一体どう言うものであろうか、自分の訳したのとどういう意味から違って来るのであろうかと言う様に質問して置けば、自然にこれが脳裏に止って居て、試験場に臨んだ場合でも、さ程の苦労を要することはない。それを漢文典を見るとか、或は復文の参考書等というものを見てやるときは初めから法則に拘泥して束縛を受ける様な感があって充分に自分の力をつけることが出来ぬ。さればと言って漢文典の法則や参考書を全く無視してはならないことは当然なことである。 何と言っても作文は実地である。読書をはなれて実地にやって見なくては分らぬ。実地で行くようにしなければならぬ。本試験の時の作文も同様な心掛を加えて行かなければならぬ。 四、今後の受験者に望む 多数の受験者の中には或は万一を僥倖して来る人もあるかもしれないが、僥倖はどこまでも僥倖である。幸にして受験の時に僥倖が得られれる様なことがあっても、合格後実地の職に就いた時に直に其の馬脚は露われることである。自己の精力なり精神なりを正当に尽してそれで行かない場合は不幸と言うもので、天地に対しても又良心には恥じないのである。 将来の教育者として立つ者は誠心誠意を以て事に当らねば、仮令政府が如何に法令を改めて見た所で、畢竟先に言った様な「其人存則其政挙其人亡則其政熄」ということになって、只それは虚飾、徒労に過ぎないことになると思うのである。我輩は政府に向ってもどうか誠意を以て事に当られることを希望すると共に、実際の事に当られる教員諸君に同一なる冀望を持つ者である。それ故に受験者諸子に於いては、今一層努力されることを切に希うのである。 (5)漢文科研究者の根本的態度 小柳氏 〔漢文教師の自覚を促す点〕 漢文科を受験する人は動(やや)もすると自分の将来負担すべき学科を何だか非常にむずかしいものだという風に考えている。而して愈々(いよいよ)教員になると、同僚などに対し、漢文は至難な面倒なものだ、中学校の初年級などでは難しいと云う人もあるが、之は非常に誤った考えであるし、又それは引いて自分で自分の学問の勢力範囲を狭小にすることである。世間では英語とか数学の難しいのは当然だが、漢文のむずかしい所を研究して苦しむのは、つまらぬことだと考えている。そこに更に漢文を教える教師自身が、漢文をむつかしい面倒なものであると考える謬見を以て臨むならば、漢文の生命は何等理解されないし、世間はますます漢文を疎外し更に自らの学問の勢力範囲を減少するものであると云える。 〔漢字と日本人及日本文化との関係〕 東京朝日新聞六月十一日の行政整理座談会に平生氏という人が「我国の小学校で漢字を教えるのを全廃したら、尋常六年は尋常四年で終るように二ヶ年短縮出来て、この二ヶ年の教育費用を節約することが出来る。この節約出来る費用は一ヶ年約七千五百万円であるが、世の中の人は、漢字に執着心があって、仲々行なわれないようであろうが、行なわれたら幸だ」という意味のことを述べられているが、成程そうかも知れぬ。二ヶ年と言う日子と多額の経費が節約され得るのであるから。然し乍ら我国では仮名だけでは用が弁じないのである。如何に小学校で仮名でつづりを教えて、漢字を廃しても、小学校を出て社会に出たらどんな簡易な職業に就いても、社会に漢字があるから、用を弁ずることが出来ないで、非常に不便になるであろう。英国の如く一般に表音文学でなければ行なわれぬことである。然らば漢字を全廃して仮名だけにするかと言うに是もまた困難である。結局平生氏の意見は不可能の説といわねばならぬ。 我が国の様な文化の程度の高い国で、今更仮名やローマ字に変えることは至難な事であり、又無意味なことであろうと思う。勿論便利と言うことは理論的には分るが、社会の事は凡て便利のみで片付ける事は出来ないし、実施上甚だ困難のことである。凡て必要があれば無理に成し遂げなくとも自然に改廃されて行くのである。 元来漢字は日本人と密接な関係がある。往昔は勿論、今日我々の言葉にも漢語が入っていて、若し之を除けば用をなさない位である。そうして言語に漢語を用いている以上は漢字を除くわけには行かない。本来漢字は表音文字であるから、表音文字の仮名では十分に之をうつし取ることが出来ない。万葉集は万葉仮名で、昔から書かれてあるが、普通の仮名を振ってなければ読めない。又漢字漢語の意味を知らなければ意味が通じない。従って今ローマ字や仮名にしてしまえば、その仮名なりローマ字の傍に振仮名をつけると同様、漢字を振らなければ意味が分らないであろう。小学校で漢字を全廃せば国民一般の教育程度が低くなり、或は十年か二十年後の人にとりては、現代の我々の書いたものは、読めなくなるだろう。従って国民の大部分は自国の歴史又は文化に関係する文書を理解すること能わず精神も理想も無い国民となるだろう。 〔我国の歴史と漢文の関係〕 漢文がむすかしくて教育上種々の問題が起ることは知っているが、それは自然の解決を待つ他に仕方がないことであって、人力を以て改めようとする意図は不合理なことである。然るに文部省の国語調査などは漢字を減じたり増したりしているが、之等の増減は一体何を標準としてやっているのであるか、少しも意味をなさぬことである。必要があれば自然に減って行き、又増えて行くのであるのに、わざわざそんなことをする必要が何処にあろうか。殊に漢字は我国に絶対に必要なものである。従って漢文も何処までも保存して行くべきである。 漢文は西洋のギリシャ語ラテン語とは決して同じものではない。相似て居る点もあるが非常に異なっている。等しく古典という意味では似ているが。ギリシャ、ラテン語は現代の西洋では使われていない。然るに日本では現代の日常に使用している点に大いにその性質を異にしているのである。漢文は現在生きて働いていて死語ではない。我国の六大国史其他国家に必要な文献は漢文で出来ているのである。それが読めなくては我国の歴史や本当のことは分らない。今の教育は外国語本位の教育だから、外国のものは読めるが日本のものは読めない、で外国から種々の思想が侵入して来ると、すぐそれを理解し、之にかぶれるが、自分の歴史を読み思想を理解する力が出来ていない。漢字漢文の知識が無いから此等の書物を読まんとするも、読む事が出来ない様になって居る。そんな教育で所謂危険思想を防ぐのは矛盾している。まるで危険思想の入るように、便利な教育を施しながら、一方には之を防ごうとしているものである。 〔漢学の意義の再考察〕 漢文は従来の文化の結晶物である。従って漢字漢文は大切なものであり必要なものであるということを、学校教育の任に当る者は理解して、そこを目的にしなければならない。ただ文字の返り点をつけたり送り仮名をつけたりすることを教えて漢文教授の能事足れりとするものは浅薄な思想である。返り点や送り仮名をつけたりするのが漢文教育の目的ではない。大切な精神即ち漢学精神を把握していなくてはならないのである。 現今でもドイツ学とか英学とか言う言葉は行なわれて居なくて、英語、ドイツ語であるが、之に対し漢学ということは一種の意味を持っている。その漢学の意味をよく理解しないもの、それを考えねば西洋の語学を習うのと同一であるようではならぬ。其の点をよく考えることが必要である。 漢文を修める人、文献漢文科を受験しようとする人は、そうした根本的なことに注意しなければ無意味であると思うのである。
https://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/450.html
(6)漢文の試験について 島田氏 多くの受験者は地方の独学受験者であるが、この科は相当参考書も多いから、文部省指定の書目をばこれ等の参考書によって勉強したら相当学力もつくと思う。そこで漢文研究の根本ともいうべきは、四書を熟読玩味し殆んど暗記するまでに徹底させることだ。これは支那の文学・哲学の根本になっている。 復文の研究には児島さんの漢文典の概念をしっかり入れて置いて、四書を書き下したものを原文に依って練習したら先ずよかろう。 設問の準備としては、支那の歴史の概念を捉えて、支那文学・哲学を研究する順序がよいと思う。それは問題の表面に表われるものは、主として文学・哲学といったものであるが、時の観念からそれ等を歴史に結び付けることが順序でなければならぬからだ。受験者の大きな欠点は、歴史の概念に乏しい点にある。之は人に教える上に於ても必要な知識なのだから、十分注意されたいものである。 最後に口述試験の注意にもなろうから言うて置くが、正直に而も明瞭に考えるが得策である。例えば何々を知っているかと聞いて見ると、嘗て読んだこともなく知らぬことをば、如何にも知って居るかの如く答えるものがある。併し委員の方では、其の辺のことは大抵知って居るので、之を胡麻化そうとしても徒労であるばかりでなく、その人の成績の上にも人格の上にも関係することだから、男らしく知らざることを知らずと答える方が遥かによいのである。それから受験者の答えが曖昧だから正確の方へ導いて行く為「こうだろう」と問い返すと、受験者の方ではこれは反対の事を言っているのだろうと変にとって「否」と答えるものがある。委員の方では落第させようとして受験者のあら捜しをするのではなく、全く受験者の立場に同情して、出来るだけ救済して上げようとする考から、不審の点を正したり或る時は救い舟を出したりなどして居る。実際地方の受験者が予備に通って本試験に上京して落ちるのは残念であろう。子を思う親の心である。時に落第にするも孔明涙をふるってするので、之はどうすることも出来ないのである。 【八】最近出題の傾向 各方面から出題傾向の研究を行って見たいと思う。 1.漢文解釈予備試験出題の傾向 書名 大学 中庸 論語 孟子 十八史略 八家文 史記 小学 唐詩選 古文真宝 回 (年度) 26(大正元) 〇 〇 〇 〇 27(二年) 〇 〇 〇 〇 28(三年) 〇 〇 〇 29(四年) 〇 〇 〇 〇 〇 30(五年) 〇 〇 〇 〇 31(六年) 〇 〇 〇 〇 〇 32(七年) 〇 〇 〇 〇 〇 33(八年) 〇 〇 〇 〇 34(九年) 〇 〇 〇 35(十年) 〇 〇 〇 〇 36(十一年) 〇 〇 〇 〇 37(十一年) 〇 〇 〇 〇 〇 38(十二年) 〇 〇 〇 〇 〇 39(十二年) 〇 〇 〇 〇 40(十三年) 〇 〇 〇 〇 41(十三年) 〇 〇 〇 〇 42(十四年) 〇 〇 〇 〇 〇 43(十四年) 〇 〇 〇 〇 〇 44(昭和元) 〇 〇 〇 〇 〇 45(元) 〇 〇 〇 〇 〇 〇 47(二年) 〇 〇 〇 49(三年) 〇 〇 〇 〇 〇 51(四年) 〇 〇 〇 〇 〇 〇 53(五年) 〇 〇 〇 〇 〇 55(六年) 〇 〇 〇 2.漢文解釈本試験出題の傾向 書名 左伝 八家文 史記 韓非子 古文真宝 支那時文 中庸 大学 ●論語 〇孟子 回 (年度) 26(大正元) 〇 〇 〇 27(二年) 〇 〇 〇 28(三年) 〇 〇 〇 29(四年) 〇 〇 〇 30(五年) 〇 〇 〇 31(六年) 〇 〇 〇 〇 32(七年) 〇 〇 〇 〇 33(八年) 〇 〇 〇 34(九年) 〇 〇 〇 35(十年) 〇 〇 〇 36(十一年) 〇 〇 〇 37(十一年) 〇 〇 〇 38(十二年) 〇 〇 〇 39(十二年) 〇 〇 〇 40(十三年) 〇 〇 ● 41(十三年) 〇 〇 42(十四年) 〇 〇 〇 〇 43(十四年) 〇 〇 〇 44(昭和元) 〇 〇 45(元) 〇 〇 〇 47(二年) 〇 〇 〇 49(三年) 〇 〇 〇 51(四年) 〇 〇 〇 〇 53(五年) 〇 〇 〇 55(六年) 3.口述試験出題の例 書名 論語 孟子 大学 中庸 回 (年度) 51回(昭和四) 〇 〇 〇 49回(三) 〇 〇 〇 これは一二の実例を示しただけで分るから、これだけにして置く。最近ずっと四書集註から出て居る。 4.復文出題の傾向 書名 大学 中庸 論語 孟子 八家文 回 (年度) 53(昭和五年) 〇 51(四年) 〇 49(三年) 〇 47(二年) 〇 45(元年) 〇 〇 44(元年) 〇 〇 43(大正十四年) 〇 〇 〇 42(十四年) 〇 〇 以上の、(1)(2)(3)をよく観察して見て次の表が出来上がる。最近10ヶ年のもの。 書名 予備試験 本試験 口述試験 復文 計 大学 2 1 ● 3 中庸 2 ● 2 論語 10 1 ● 3 14 孟子 7 3 ● 9 19 十八史略 5 5 八家文 4 5 1 10 史記 0 小学 2 2 唐詩選 15 15 古文真宝 1 1 左伝 9 9 韓非子 3 3 口述試験問題が手許に無いので正確な数が出ないが大体の見当だけはつくと思う。論語と唐詩選の数は出題回数で無くて、問題数によって計算した。 〇予備試験に必ず出る書 唐詩選 孟 子 論 語 欠かさず出るもの 十八史略 八 家 文 殆んど毎回出るもの 大学 中庸 次に出るもの。 小 学 古文真宝 割合が少い 〇本試験に出るもの 支那時文 これは一回も欠かさず出る。 左 伝 本試験の中心となるもの。最も多く出る。 韓 非 子 左伝に次ぐ中心書。 八家文 史 記 欠かさず出るもの 論語 孟子 最近よく出される 〇口述試験に出るもの 先ず四書集註で独占の形である。恐らく当分はこのままで進むものと思う。即ち白文を読み、講義するのを主眼とするのである。 〇各書の出る個所 〔唐詩選〕 全巻に亙って出されて居るが、古詩の中の長いものは出されない。絶句は矢張り一番多い。 五言古詩…3 七言古詩…1 五言律…6 五言排率…1 七言率…7 五言絶句…5 七言絶句…16 この中で同一の詩が二回出題されたのも相当あるから、出された回数にすると多い。 最近十二年間の傾向を見ると、 回 五言古詩 七言古詩 五言律 五言排律 七言率 五言絶句 七言絶句 38 観猟 度桑乾 39 登古鄴城 40 岳陽楼 41 罷相作 従軍行 42 春夜落城、憶兄弟 43 懐張子房 44 兗州城 45 詠史 度桑乾 47 和賈至 49 三閭廟 与廬員外 51 赴北庭秋下荊門 53 逢侠者 塞下曲 これで見ると最近の傾向は七言絶句と五言絶句とから各一題苑出されているのが普通の様である。時には受験者の裏をかいて、七言率や五言律から出すこともあるが、それ等は却って平易なものである。(昭和六年には七言絶句から二題出た) 〔四書〕 全部から出る。而してよく見ると篇によって数回出たのや出ない処もある。けれどもこれは厚薄なしに万遍なく研究し、復習の時に、よく出そうな処をやるとよいと思う。 最近十ヶ年を調べて見ると、 回 (年度) 大学 中庸 論語 孟子 40(大正十三年) 小人間居 尽心上 41(十三年) 雍也 42(十四年) 堯舜師天下 尽心 43(十四年) 〇 〇 〇 44(昭和元年) 君子専徳情 〇 〇 45(元年) 〇 〇 47(二年) 離婁下 49(三年) 子路問 憲問 51(四年) 公冶長・衛霊公 万草下 53(五年) 泰伯 〇 何にしても本書は予備の中心書である。 〔十八史略〕 よく読んで人名地名などを知って置くことである。これが分らぬでは基礎がないと言うことになる。全部の通読は望ましいがさてそんな余裕もあるまい。 最近出題傾向を調べると、 (44) 昭和元年 李沆為相時 ( ) (47) 二年 隗囂 (光武紀) (49) 三年 孝章皇帝 (東漢孝章紀) (51) 四年 曹彬 (宋太祖紀) (53) 五年 唐荘皇帝 (唐荘宗皇帝) 初巻の方から余り出たことがない。大抵中頃以後が多く出題される。先ず漢以後だ。それかと言って初めの方も忽に出来ない。日本の古事記に相当する部分も支那を知る為に必要だから。 〔唐宋八家文〕 予備にも本試にも漢文にも至る処に出題される。程度が丁度文検受験者位に格恰の書である。同じ文が三回も繰り返されたなどがあり、二回目は珍しく無い位である。 最近の出題傾向を一つ調べて見よう。 回 (年度) 蘇軾 蘇轍 欧陽修 王安石 40(大正十三年) 決雍蔽 41(十三年) 九曲亭記 43(十四年) 李氏山房… 上梅直… 尽心 44(昭和元年) 蘇氏文集序 45(元年) (赤壁賦) 無沮善 47(二年) 敦教化 49(三年) 上仁宋皇帝 51(四年) 送除無党 53(五年) 答呉克秀才 蘇軾のものが最近一番多く出されている。43回の如きは予試にも本試にも共に蘇軾のものが出された。 次は欧陽修となって居るが、柳宗元、韓愈も従前は多く出題されたのである。 赤壁賦は古文真宝の方であるが作者が同じであるから参考までに括弧して入れたのである。 〔史記〕 勿論列伝だけでよいが、項羽の処は見て置く方がよいと思う。最近は余り出されないが見て置くことは必要だ。 〔小学〕 41回・42回と続けざまに出題されて、小学の必要を思わせたが、又でなくなった。善行、嘉言などから出て居る。 〔古文真宝〕 八家文の重複するものもあり、余り回数多くは出ないが、名篇を集めて居るのだから読んで面白い。 大体以上は予備試験に主として出るものであったが、以下本試にのみ出題される左伝韓非子に就いて述べてみよう。 〔左伝〕 何回も繰り返す通り漢文科本試験は本書の十分なる読解力養成のみにて事足る位のもので、中心書中の中心書である。 毎回欠かさず出される。最近の様子を見ると、 (40回) 大正十三年 昭公三年 (41回) 大正十三年 昭公五年 (42回) 大正十四年 僖公九年 (43回) 大正十四年 僖公二十七年 (44回) 昭和元年 昭公八年 (47回) 昭和二年 僖公四年 (49回) 昭和三年 昭公二十年 (51回) 昭和四年 宣公十五年 これまでの出題は昭公と僖公とからばかり出題されて殆んど交互に出される有様であったが、51回には宣公から出された。 今各篇回数を第1回から調べて見ると、 隠公…1 荘公…1 閔公…0 僖公…7 文公…1 宣公…1 成公…3 襄公…8 昭公…8 定公…0 哀公…0 となる。昭公・襄公・僖公などは最も注意して熟読反復すべきであろう。 〔韓非子〕 左伝の出題されない時にはきっと出される位、重要なるものである。 31回から八回程連続的に出題され毎回欠かさなかったが、最近少し出る率が少なくなって居る。而し近くその反動で又連続的に出されるものと思われる。 解老、孤憤、外儲説右上、顕学、外儲説、六反、姦劫弑臣、外儲説、孤憤。 31回以後の出題個所を列記したのであるが、これから観察しても外儲説3、孤憤1、其他1宛であるが名高い個所から出題されている。 その他、説難、難言、難勢、五蠧、心度、安危、説林などは名高いが、全部読むとよい。 5.設問出題の傾向 回 (年度) 予備試験 本試験 39(十二年) 頼義の日本外史、張載の西銘 イ、許愼、鄭玄 ロ、本朝文粋 靖献遺言 40(十三年) 曹操父子の事跡、知行合一 イ、中唐の誠 ロ、宋濂、高啓 41(十三年) 蒙求、井田 一、朱陸学派の異同 二、方苞(望渓)、王士禎(漁洋) 42(十四年) 三綱五常、四六文 一、漢初ノ黄老 二、桐城派ノ文章 43(十四年) 濂洛関閩ノ学、建安ノ七子 一、楊子法言ト文中子 二、絶律排律古詩ノ形式上ノ区別 44(昭和元) 三体詩、古文真宝、訓詁学ト性理学 一、刑名学 二、文学史上ニ於ケル司馬光 45(元) 小学及近思録、淮南子、文中子 孔頴達、朱彝尊、駢儷文 47(二年) 格物致知、呂氏春秋、文心彫龍 孔子ノ仁ト墨翟ノ兼愛トノ異同、建安ノ文学 49(三年) 柳宗元、新井白石 風雅頌、説文 51(四年) 孝経、資治通鑑、文献通考 董仲舒、初唐四傑 漢文科としての設問は支那哲学史、支那文学史、国文学史などから出題される。上述の表で分る様に予備試験には、我が国の漢学者、漢書等に就いて時々出ることもあるが、多くは支那の、著書、学者、儒学上の術語、哲学等に就いて出される。本試験は多く支那のものばかりである。 最近のものを表示すると、 予備試験 本試験 人名 19 15 書名 13 4 術語 8 6 井田の如きは政治に関しての事であるが、その当時の社会を知るにはこれ位の事を知って置く必要があると言うことになるのであろう。此処に術語と書いたが、寧ろ哲学思想の説明とした方がよいかも知れぬ。しかし大体の見当はこの数字からつくと思う。 6.作文出題の傾向 本試験の漢作文の課題のみを列挙する。最近のものから既往へ遡って行くことにする。 迎教育勅語渙発四十年恭書所蔵(53回) 見利思義説(51回) 恭観今上即位図書感(49回) 仁者有勇説(47回) 過則勿憚改説(45回) 忠恕説(44回) 有文事者必有武備説(43回) 智仁勇説(42回) 読韓非子(41回) 君子不器説(40回) 剛健説(39回) 温故知新説(38回) 大勇説(37回) 論語などのなかにあって名高く誰でも知って居る様な言葉が題となる。41回・49回は別として其他は同一である。儒学張りにカンカンの堅い文章を作って復文して漢文にすればよい。 最近の傾向は時事問題を取り入れる様になって来た。即ち御大典の秋には今上即位図云々が出、勅語渙発四十年にはそれに関したものが出る類である。 【九】口述試験の研究 1 口述試験 私の漢文科を受験した時には、二百五十余名が本試を受けて、口述試験に残った者は僅か六十三名であった様に記憶して居る。その口述試験にも無事通過したものは五十名で十三名程は瀬戸際で脊負い投げを喰った。思い諦め様にも諦められなかったであろうと思う。斯う考えて来ると口述試験は総仕上げと言うことになるから、一層重要性を帯びて来る訳である。口述試験研究の忽諸に附すべからざるは自明の理である。 而しそれをよく仔細に観察するならば三種の段階のあることに気づくだろう。 (1)筆記試験が上々で口述の成績如何に関係せず合格の確定して居る者。 (2)筆記試験が中位であるが口述の成績に依って合否の確定する者。 (3)筆記試験が不出来であったが、口述試験の成績が非常によくば救われるもの。 この中言わずと知れた(2)(3)に相当する者は全力を傾注してこの難関突破を試みるべきである。だからと言って二日や三日で口述試験の準備が出来る筈がない。前以て十分の注意を払って置くべきだ。譬え(1)に該当するものでも、よいのに越したことはない。散々味噌をつけたら発表までの幾日かを煩悶懊悩で送らねばならぬことになる。 2 口述試験の準備 最近の出題傾向で述べた様に、近年は殆んど毎年連続的に四書集註から出題される。それで試験委員の談話中にもあった様に、その白文の問題を約十分間位の下読の後は、委員の前に出て、読み且つ講義させられる訳であるから、集註の何処から出されても十分講義の出来る様になって置くことが必要だ。 四書集註は委しく言えば、 大学章句、中庸章句、論語集註、孟子集註、 のことである。宋の大儒朱熹の著であって参考書としては、四書集註(上海本)などはよい。白文で出題されるものと全く同じものであるから。 而し手に入り易いこと、研究に便なることから言えば、 漢文大系本 四書 簡野道明氏著補註 学庸章句 〃 論語集註 〃 孟子集註 が手に入り易く見易い訳である。 3 口述試験に対しての注意 知らぬことは知らぬでよいから曖昧な答をしてはならない。真実の自分の力を見て頂く心算でなければならぬ。胡麻化そうとしても天下の学者を対手にして仲々胡麻化し終せるものではない。 言語は明晰に出来るだけ丁重な言葉を使う様に注意せなければならぬ。 4 口述試験の実際 二三受験者の実記を拝借しよう。私の時のことは朧気にしか記憶がないので生々しいものの方が役に立つと思われるから。 〇 二十一日再び上京した。 例の宿に着いて、明日国語の口述に出るのだと言う方と話して居ると、其の日漢文の口述に出た方が試験場から帰って来られた。 問題は論語の註であった。学政篇(「為政篇」の誤り?)の 孟武伯問孝子曰父母唯其疾之憂 武伯懿子之子名彘言父母愛子之心無所不至唯恐其有疾病常以為憂也人子体此而以父母之心為心則凡所以守其身者自不容於不謹矣豈不可以為孝乎旧説人子能使父母不以其陷於不義為憂而獨以其疾為憂乃可謂孝亦通 で不容於不謹が読み得ないで困ったと語られた。 いよいよ二十二日、口述試験の日である。七時に神田の店を出て試験場たる高等師範学校に向った。電車の中でやがて来ん口述受験の実際を想像しながら、試験場に着いて見るともう既に七八名の受験者が来て居た。 漢文大系の註を読んでいる者、簡野先生の論語集註を読んで居る者、全くの試験気分である。段々と受験者が集った。全部で二十六七人も居たであろう。中に婦人が二人見えた。何れも二十一歳と言う方。やがて時間が来ると試験監督が来て、受験者の各に受験願書が渡された。 抽籤で受験順が定められた。暫くすると一番が呼び出された。 「少し控目にして呉れ。君が余り出来がよいと後の我々が大いに困るから。」 「一番は必ず合格だから、安心して不出来にやって呉れ」などと揶揄半分の言葉に送られて一番が出て行った。 二番三番四番と順々に呼び出されて、遂に自分の番が来た。 グッとドアを押して内に入った。見ると検定委員の先生が二人並んで居られる。二人とも何れが誰か分らぬ。一礼して願書を一人の先生に差し出した。 検定委員の先生の前に出る前に十五分間準備室で問題の下調べをさせられる。下調べと言っても何も参考書もある訳ではない。読めるか否か質問されそうな箇所の答え方位を考えるに過ぎない。 問題は論語である。公冶長篇である。 宰予昼寝子曰朽木不可雕也糞土之牆不可朽也於予與何誅 范氏曰君子之於学惟日孜孜斃而後已惟恐其不及也宰予昼寝自棄孰甚焉故夫子責之胡氏曰宰予不能以志帥気居然而倦是宴安之気勝儆戒之志惰也古之聖賢未嘗不以懈惰荒寧為懼勤勵不息自彊此孔子所以深責宰予也 読みだけは通ったが如何なる質問をされるか不安でたまらぬ。范氏とは誰か胡氏とは誰か詳かでない。 「それを読んで御覧なさい。」 と一人の先生が言われた。 始めから終りまで調子よく音に抑揚をつけて一回読んだ。読み返りにも成績の如何は関係する筈だと常に考えて居たので、下調べの際此の点に十分注意して準備して置いた。読方に誤りは無かったと見えて読み直しを命ぜられなかった。 「講義して御覧。」 と言われて、文字通り講義した。 これから一問一答。 「『以志帥気』を今一回詳しく講義しなさい。」 講義する。 「今講義中に志気之帥という語が出たが、それは何にあるか。」 「孟子にあります。」 「志と気との関係を言って御覧。」 長々しく説明したが、自分ながら徹底した説明ではないと思った。 「気のつく語を挙げて御覧。」 「気象、勝気、陽気、元気、活気。」 「ここの気はその元気に当ると思えばよい。」と教えて下さった。 「宴安の気とはどういうことか。」 説明する。 「自強不息という語を何かで読んだことがあるか。」 「戊申詔書にあります。」 「何から出た語か。」 「易にあると言うことですが、よく調べて見たことはありません。」 「よく読めました。もうよろしいです。」 といわれて立上がって一礼して室を出た。(牧羊生) 〇 口述は十二月二十二日に大塚の高師で行われました。私は第三日でした。当時の手記がありますのでそのまま次に掲載いたします。 宰予昼寝子曰朽木不可雕也糞土之牆不可朽也於予與何誅 范氏曰君子之於学惟日孜孜斃而後已惟恐其不及也宰予昼寝自棄孰甚焉故夫子責之胡氏曰宰予不能以志帥気居然而倦是宴安之気勝儆戒之志惰也古之聖賢未嘗不以懈惰荒寧為懼勤励不息自彊此孔子所以深責宰予也 〇「読んで下さい。」 「ハイ。」 〇「註の処だけ解釈して下さい。」 「ハイ。」 〇「あなたは古之聖賢云々の所を、為懼から返って読みましたが、それでは後の続工合変ではありませんか…そして勤励やまずんば自ら強しと読んだようですが、自ら強しとはどんなことですか。」 「学問が深くなって自身が強くなることです。」 後にして思えば出鱈目に自ら呆れる。 〇「強しの字は他に読み方はありませんか。」 先生はツトムと読ませるつもりらしかった。然し之も後の祭り。 「自強と読めます。」 〇「すると、勤励、不息、自強と同じ意味の字で、三つも並んで居ますが、古の聖賢はそれをやるのですか、やらぬのですか。」 「やるのです。」 小学生の如し、苦しい答。 〇「そうすると…」 「古の聖賢はまだかつて…自強せずんばあらず。」 やっと正しく読む。 〇「宴安の気とは何ですか。」 「楽しみ安んずる事です。」 総じて私の答は学問的でなく、余りに常識的であることに気がつく。 〇「何かの本で見ましたか。」 「わかりません。」 〇「きっと読んだ筈ですよ。」 「わかりません。」 〇「左伝にあるのですね。以志帥気とはどんな意味ですか。」 「自分のやろうとする心で、安逸の気を戒めるのです。」 〇「こんな言葉を何かの本で見ましたか。」 「孟子にありました。」 〇「どんな言葉でしたか。」 「………」 〇「それ志は。」 「それ志は気の帥なりです。」 〇「支那の論語の註にどんなのがありますか。」 余りの意外な問にはっとして、 「鄭玄…」 〇「鄭玄のもありましたが滅びましたね。その他は。」 「何晏。」 私は此の際、此の言葉が出たのを全く天佑だと思っている。まぐれ当りだった。 〇「そう、何晏の本の名は。」 「わかりません。」 〇「論語集解ですね。日本の徳川時代の学者では。」 「伊藤仁斎。」 〇「何と言う本を書きましたか。」 「………」 〇「もう一人。」 「荻生徂徠が居ります。」 〇「本の名は。」 ウッカリして、 「大学解。」 〇「それは大学でしょう。論語では。」 上っているのに気がついて苦笑。 「論語徴。」 〇「仁斎は別号を何といいました。」 「………」 〇「古学先生ですね、だから。」 「………」 〇「論語古義ですね。此の註(机の問題を指す)は集註から取ったのですが、これは誰が書いたのですか。」 「南宋の朱熹です。」 〇「朱子の本とそれ以前の本と別つ時に何と呼びますか。」 「新註と古註といいます。」 〇「そうですね。あなたは読む力は可成りよく出来ていますが、(愚考するに、此のお言葉が真実だと己惚れさして頂くならば、それは筆記の訓点がよかった意味であろうか。口述では前記の如く深い痛手を負っている。)まだ広く本を読んでいない様ですから、今後は益々広く読まれるように進まれたらよいでしょう。よろしゅう御座います。」(約十五分) 朱註は昨年出ましたので、今年はまさかと思いましたので、下読の時ギクリと来ました。大系本でも少くとも四書位はみっしりやって置くとどんなに力強いだろうと思いました。今顧みればよくまあこんな成績で合格したものだったと自分乍ら不思議な感じがします。(大和 瑞穂氏) 〇 二十一日。昨日来の雨名残りなく霽(は)れて、年晩の陽はうらうらと大東京の街々を恵み深く照らしている。 我等の身の上にも幸あれ。 八時までに今日の受験者二十三名が全部高師東館階上の控室に集った。若い人も老いた人も、誰もが一様に一様の緊張と不安との中に漂うている。 やがて時間が来た。例の如く受験上の諸注意があってから、願書類を還付されて、いよいよ抽籤。 かくて銘々の順番になるまでは、思い出したようにストウブの傍に寄り寄り、試験上の雑談が始まるが、それもしばらくして、何時止むとなくヒッソリとなる。受験の重苦しい空気が偲ばれる。 一番二番が呼び出された。又一しきり問題の予想で花が咲いたが、まもなく元の様に皆は四書に集註本に眼が吸い取られて終う。十八史略本を持って来た自分には、不安でたまらない。幸にも同郷のYさんの所持本を拾読みさせて戴く。 十一時近く、いよいよ自分の順番が来た。最後の審判だ。一種悲壮な感がする。下調室に入る。どんな問題だろう。 机上の問題紙を見る。意外!!意外!!又しても孟子離婁章からである。 孟子曰。人之所以異於禽獣者幾希。庶民去之。君子存之。 幾希少也。庶衆也。人物之生。同得天地之理以為性。同得天地之気以為形。其不同者。独人於其間得形気之正。而能有以全其性。為少異耳。雖曰少異。然人物之所以分。実在於此。衆人不知此而去之。則名雖為人。而実無以異於禽獣。君子知此而存之。是以戦兢惕厲。而卒能有以全其所受之理也。 時間は二十分。下調には充分であるが、疑問の解釈は出来る筈がない。疑問は疑問として、室外に出て廊下で待つ事凡そ二十分位。 前番者の帰って来るのに入り代って試験委員室に赴く。 ドアーを開けて入ると、其処に委員の先生お二人が腰を掛けて居られた。一礼をして書類を差出し、前の机に腰を掛ける。 机の上には下調室同様の印刷した問題紙が載せられてある。 委「それを読んで御覧なさい。」 私「孟子曰く、人の禽獣に異なる所以の者は少し。庶民は之を去り、君子は之を存す。幾希は少なり。庶は衆なり。人物の生るるや、同じく天地の理を得て以て性と為し、同じく天地の気を得て以て形と為す。其の同じからざる者は、独り人の其の問に於いて刑気の正を得、而して能く以て其の性を完うし、少異を為す有るのみ。少異と曰うと雖も、然も人物の分る、所以、実に此にあり。衆人は此を知らずして之を去る。則ち名人為すと雖も、而れども実は以て禽獣に異なる無し。君子は此を知りて之を存す。ここを以て戦兢惕厲、而して卒に能く以て其の受くる所の理を全うする有るなり。」 下調の時、幾希は殆(ほと)んど希(まれ)なりと読むのではないかと、大分迷ったのだが自身がつかなかったので、註に従って読んで終った。 次に而能有以全其性、為少異耳のところを而能有㆔以全㆓其性㆒、為㆓少異㆒耳とするか四五回も繰り返したのだが、前の通り読んで終った。 委「中学生に教える積りで、其の語の所を解釈して御覧なさい。」 私は極めて卑怯な態度であったが、出来るだけ万全策を取るつもりで、字面を辿り辿り表面的な解釈をして行った。自分としても情けなくもあり、不満足に堪えなかったが、漸くにして渋り渋り為し終った時、実際冷汗の背を湿らすを禁ぜざるを得なかった。 委「第×行目のところ(而能有以全其性の項)何と読むかね。」 前に読んだのが悪かったのだなと感じたが、下調に迷った事を言って、両方を読んで見た。そうすると「どちらがよいと思うか」と仰言られたので、後者に決めた。又、 委「其の性を全うする有ってかね。」 と念を押されたので、 私「其の性を全うする有り、と致します。」 委「そうだね。その方が口調も良くて宜しい。」 委「人物とは何かね。」 私「人間以外この世に生存する生物をいいます。」 委「では樹木などをもいうのか。」 私「イーエ、漢文に禽獣などとありますから、主として禽獣を指しているものと思います。」 委「天地の理を得て以て性を為すとあるが、其の天地の理とは何をいうのか。」 是には私も内心困ったなと思った。下調の時も、天地の理や天地の気を質問されたら、どう答えようかと全く見当がつかずに終ったのであったから、最早絶体絶命の至り、仕方がない。 私「此の天地間に一環する道理だと思います。」 委「一貫する道理とは何か。」 私「孟子でいう本然の性ともいう可きものでありますまいか。」 だんだんと脱線して行く。 委「本然の性とは何か。」 どこまでも追究される。 私「すべての道義の根本となる誠などそうだろうと思います。」 委「イヤ、もっと哲学的に説明して欲しいのだ。」 私「どうも判然と分りかねます。」 到頭兜を脱ぐ。 委「じゃ、性とは何か。」 私「性質と言う様なものです。」 委「性質とはどういうものか。」 私「宋代の学問でいった性理学などでの道心人心を指していうのでありますまいか。」 薄氷を踏む気持―いや全くもう淵に陥込んでいるのかも知れぬ。 委「質とはどういう事か。」 私「本然の性に対して、外界の事情、境遇に依って左右され動揺させられる人心の如きものの、由って来る所のものだと思います。」 自分でも何が何やらさっぱりわからぬ。 委「本然の性の對して、他の之に対するものは。」 私「気稟の性。」 委「イーヤ、考え出せぬかナ………気質の性じゃ。」 委「これらについては、もっとよく調べる必要があるね。」 全く四分五裂、答弁の形をなして居ない。此の頃尚追究を重ねられた様に思うが、記憶が明瞭でないので省略する。 委「衆人不知此而去之の之は何か。」 私「少異だと思います。」 委「君子知此而存之の之は何か。」 私「同じく、人と禽獣との異なる点、少異だろうと思います。」 委「戦兢の意義は?」 私「戦々兢々の意味です。」 委「其の意味は。」 私「戦々兢々薄氷を踏む如しなど言いますから、小心翼々、よく注意深く慎重の態度を取る事と思います。」 委「戦の意味は―兢―の意味は―其の出典は。」 続々と質問される。 委「惕厲の意味はどうかね。」 私「よくわかりません。惕は怵惕の惕ですから、慈しむでないか知らと思いますし、厲は励と同じだと思います。それで、めぐみ励むの意と思います。」 委「怵惕という意は。」 私「怵惕惻隠の心など云いますから、矢張りメグムと思います。」 委「委怵も惕と同じ意味かなァ。」 委「孟子は何で調べたか。」 私「大体漢文大系を中心としました。」 委「それじゃ、是は分る筈だがね。しかしここでは之が一番むずかしい語だな。易経から出た語じゃ。」 委「それじゃよろしい。」 是で漸々にして口述が終って、外に出たが、全く以てお話にもならぬ。 ホッと息はついたものの、自分の心の中には、黒雲のような苦しいわだかまりが、次から次へと拡大されて行く。 歳の幕の午下りの陽は、暖に何のくったくも無さそうに煦々と輝いている。往来の人の顔ものどかに見える。けれど自分の胸に―ああ遠く此処まで来て、そして最後のどたん場で、総てを水泡に帰せしめられるのかと思うと、自然に目頭の熱くなるのを感ぜずには居られなかった。唯自分として口述については、筆答試験を受ける以上に実力の涵養は肝要だと、此度という此度は泌々と体験したのであった。(扇濱生) 【一〇】 断想 「資格取っても就職口が無い」 と心配して遊んで居る隙に一頁でもよいから参考書を読め。資格が取れたなら活路は自ずから開ける。 遅疑逡巡して居る人は一生敗者として世を渡る人だ。 □ 朗らかな心でありたい。生き甲斐を感じて生活したい。酔生夢死に近い生活は自己への冒涜だ。 □ 朝顔が美しい花を咲かせて居る。蝉は朝早くからセッセと鳴いている。ー凡てが自己拡張に懸命の努力だ。朝寝と昼寝に過ごしてよかろうか。 □ 寸言を拾録する。 ×怠らず行かば千里の外も見ん牛のよし遅くとも。 ×努力なくんば安楽なく休息なし。 ×自ら労せずして獲る所の者は一も貴ぶに足るものなし。 ×才は天より受くと雖も之を完成するは自修の功に由るなり。天分を惜しまずして人力を尽すべきなり。 ×如何に弱き人と雖も其の全力を単一の目的に集注すれば必ずその事を成し得べし。点滴も絶えず墜つれば巌をもうがつ。 ×人生は労力を費やさざる人には一物をも与えず。 ×懶惰(らんだ)の頭脳は悪魔の工場なり。 ×起てる農夫は坐せる紳士よりも高し。 ×明日為すべき事は今日之を成せ。 ×天は万物を人に与えずして働きに与うるものなり。 ×仕事をば追うて仕事に追わるるな。 ×唯進みて誤り倒るるも起き上がりて更に進め。 ×男らしき仕事とは汝のなし能う事を全力を尽して為す事である。 ×憂き事の尚此の上に積もれかし限ある身の力ためさん。 ×気根強きものは勝ち弱きは敗けるべし。 ×勤勉の人は万物を化して黄金となす術あり光陰と雖も亦之を黄金に化すべし。 × 物に退屈するな。 × 努力の手は成功をつかむ。 × 努力は天才に勝つ。 □ 初めて文検に取り掛かる人は、雲梯に登る位に過大視する。通過して安易なのに驚いてからは常識程度だと思う様になる。只自己の力を信ずべきだ。 誰しも己惚れない人は無い。それで居て文検は到底取れぬと始めから諦めて見向きもせぬ人がある。矛盾も甚だしいでないか。 骨折って苦労して永年かかっても合格せぬ位なら始めから手をつけぬ方が得だ・・・と言う。一体その損得は何を標準に言うのだろうか。 □ 学校騒動があって十三名一度に馘首されることになった。退職すべき理由が出ないからと言って頑張ったのがたった一人だけ。其他は威嚇されて早速退職願を出して終った。「二級飛ばしてやるから」「何とか就職の方も考えてやるから」と言ったのは其の時だけであった。経済的に窮乏でビクビクした連中は退職後四ヶ月の今日、まだ退職給与金に有りつかず、今更腰の弱かった事を後悔もし憤慨もして居る。 正しい理論を主張し得るのも結局金があってのことだ。これが無くては何時も御無理御尤で終らねば ならぬ。 □ 卒業早々貯金しようなどと思う者には研究心が起らぬ。新刊の書物を欲しいが金が惜しいと思う位では研究も何も出来そうなことはない。そんな人には昇級も遅く結局金の出来るのが遅い。世の中は面白いものだ。「急がば回れ」は瀬田の唐橋だけではない。 研究心の旺盛なものは新刊書を買うにも金は入る事は入るが、よい地位にどんどん昇って結局は寿命も永く、研究せぬ者が僅かの小銭を貯えて首になる頃には大校長で収まって居られる。 □ 一日の業務を終えて床に就く時、今日一日ほんとに緊張した心持で過し得たかと考えた時、満足して安らかな眠りにつける人は幾んど有るまい。 やろうと思えば未だ未だやれたのに怠けて遊んで終ったり、或は全く無為に過して居たことに気付くことだろう。 緊張した生活、はち切れそうな充実した一日一日の集積ーそれがその人一生の功績事業となるのだ。 ともすれば逃げて行く時を十分活用せなければならぬ。「秒に鞭うて!!」は慥に至言だ。 □ 就蓐(就寝)する時、一日の働きを反省して満足してニッコリとして眠れる人は幸福である。無反省に寝入って終う人は向上なき人である。反省した結果焦慮する人は向上しつつある人である。 大不満家であれ!!大野心家であれ!!大空想家であれ。若い者でありながら、小じんまりとまとまった様なものは恐るるに足らぬ。一生を平凡に過す人間だ。 【一一】 受験者談話室 ―受験記― はしがき 勉強に倦んだ時、勉強に嫌気がさした時、受験などにこの青春を浪費(?)して終ってたまるものかと思われた時、二度目でも三度目でもよいから此の辺を繙(ひもと)いて見られたい。「これではならぬ。やろう!!」ときっと奮起されるであろうから。 此処へは「文検世界」や「文検受験生」などへ掲載された血の記録、熱血の迸(ほとばし)りを転載することにする。筆者諸君も後輩への刺激発奮剤となる点に於いて無断転載を諒とされたい。最初の私の述懐から始める。 1 過ぎ行くもの 「小さき足跡」 至って平凡に小さい足跡を残して来たに過ぎない私であるが、有りのままに過去を語り、現代を話し、更に未来をも考えて見たいと思う。 私は大正六年和歌山県師範学校を卒業した。そして海辺の一小村に教鞭を執る身となったが、其の一ヶ年の生活は先ず無自覚の一星霜であった。始めて教え児に接し我が担任の一学級を思いのままに活動せしめることに依って生ずる歓喜に心を打ち顫(ふる)わしめて夢の如き一歳の日子を過した。他を顧みる余裕も無く、只児童と一緒になって楽しい月日を費やした。 翌年家兄の死に依って私は家庭の関係上故郷の山村に奉職することになった。旧友の多い故山に入っては、全くの村人と化して終って囲碁や将棋やさては浄瑠璃などに熱中して、真の教育者からは稍縁遠いものになって行った。これには種々の原因もあったのだが、一つは家庭の鉄鎖に縛られて故山に蟄居せねばならぬ運命づけられたことに起因して居たのである。 斯くして貴かるべき二三年は過ぎ、新刊の書は読むでなく、徒らに新聞小説を唯一の読物として退歩廃頽の日を送って居た。けれどもこの頃何とはなしに生活に興味が無く緊張の無い其の日暮しで、何日も何日も心が満たされなかった。 忘れもせぬ大正十二年末の冬休みの時であった。 雪の日に炉辺で黙然として居る処へ、校友会誌が投げ込まれた。封切る隙ももどかしく同級生の動静を見た。―××が師範の訓導に、〇〇が中学校の教諭に、△△が女学校の教師に、それぞれに行く可き道を見出して邁進して居た。 その時に「これではならぬ!」と思わず叫んだ。卒業後の四年間に或る者は文検に合格し、或る者は研究を積んで附属に入って居る。それに自分は何たる事だ。無意義にも等しい無自覚な日を過して何の向上も無く、何の希望も無く漫然としてその日その日を糊塗して居る。何たる惨めさだ!!。これではならぬと躍り上がったのである。 早速三里ばかりの川下に友を訪ねた。じっとして居られなかったからである。友は喜んで迎えて呉れた。私は此処でも更に「これではならぬ」と叫ばざるを得なかった。と言うのは新聞の連載小説以外に読書もしなかった自分の眼を、彼の書棚から、哲学、宗教、其の他新刊の教育関係図書が金色燦然としてずらり行列して驚かしたからである。 私は有りのままに自分の考を話した。向上したい。よりよき緊張の生活に入りたい。生き甲斐のある生活がしたい。それには如何なる努力をしたらよいであろうかと相談した。友は言った。「附属の訓導に行くか。文検取るかだ。この二つ以外に進む道は先ず無いよ。」 二人で久しい間語り合って別れる時、私は文検を受けることに決心すると告げて別れた。 〔悲しい哉。薄志弱行の我〕 教育を受けようか、修身にしようか、それとも数学にしようか、国語にしようかなどと考え迷った。何れも皆自身の無いものばかりであるが、国語は何となしに深くやったら面白そうな気がした。迷い迷いつつも早速、早稲田の講義録を注文した。毎月二冊宛送られた。始めの中は待ち受けて居て読破した。三ヶ月目四ヶ月目になると、先の分をまだ一頁も読んで居ないのに後の分が来ると言う始末で、見るのさえ厭になって来た。 ―会誌を見た時に起った興奮は早や醒めて終ったのである。― けれどもポケットへは毎時講義を入れて置いた。読む為では無く、虚栄からである。これ位の物は読んで居るぞと広告する為にである。隙の時にはそれでも思い出して一頁二頁と拾読みをした。 斯くして一年は文検受検を覚悟しながら、中止の形で過ぎて終った。四月が来た。同級生はどんどんと昇級した。けれども怠けて居る私は矢張り本の黙阿弥であった。而も分教場へ左遷せられた。 如何に薄志弱行の私も奮起せざるを得ぬことになった。朝から晩まで一人教員室に呆然と座って居るだけでは堪えきれなくなった。 新刊書の濫読となり、講義録の精読となり夜も昼も読書した。柳子厚の墓誌銘などを読んで柳州の名声を博したのは永州に左遷せられたことに起因して居ると云う様な所に至ると、恰も子厚にでもなったつもりで大いに共鳴したものである。 十二年郡教育会に「読方研究会」があって会員研究発表があったが、其の際に日頃濫読したところを以て「読むの本質」と題して研究発表をした。その為と言うのでもあるまいが、同級生などの推薦もあって翌年附属訓導として抜かれた。 国語主任としての傍、受験準備をして翌十四年に予試本試ともに合格した。 〔現代の生活〕 文検に合格すると同時に、「官報で見たが自分の学校へ来て呉れないか」と五箇所ばかりから手紙を貰った。今ならば就職難であろうが、十四年の私の時などは何処へでも行けた。しかし私は中学校へ出る考は毛頭なかった。文検を目指した理由は中等教員になるに非ずして、多少認められるには文検を取るか附属訓導になるか、何れかを選ばなければならなかったからである。その上八年余りもやって来た初等教育界に対しては十二分の未練執着があったので、惜しい気がしたが、友人達の勧告もあり、国語そのものの面白さも稍々分って来た時なので、愈々決心して中等教員の末班を汚すに至った。 かくて十四年秋T中学校教諭拝命。昭和二年漢文科合格。翌三年初夏現在校Y中学校に転任。そして現代に及んで居る。未だに国漢科の末席を汚すの光栄に浴して居る。 〔勉強の傍ら著書] 師範在学中から詩に興味を持って居たので、唐詩選の平易な講義を思い付いて着手した。 而し浅学非才の事とて意の如くならず、諸先輩の説を自己の脳力で咀嚼出来るだけして、それを最も了解し易く書いて行った。殊に早稲田の講義録に出たものは、そのままそっくり之に倣ったものなどもある。斯くて一学期中に纏め上げて昭和二年の秋出したが、一ヶ月足らずで三版を出し、三年で九版を出し非常な好評を得た。勿論宇野博士の序文のお陰であると思うが、又内容が繁簡その要を得て居ることにもよるだろうと自惚れている。「唐詩選詳解」と題する本で大同館から出した。 私は毎時、少しなりとも自分の力で出来るだけの事をして、独学者の好伴侶となり、よき道連れとなり、慰安者となりたいと心がけて居る。今の処私としては最も平易にして能率を挙げ得る参考書を書くことだけが与えられた仕事の様に思うので勉強の傍ら書き纏めて居る。 漢文科を受験した時に、史記・八家・左伝のよい選択のないのにはほとほと閉口した。漢文大系に依っても漢籍国字解本によっても、少年漢文叢書によっても、時間さえかけたら十分勉強は出来るのであるが、何がさて短時間で最も能率の多いやりかたをしようとするのであるから、あの全釈では手間取って仕方が無い。左伝をやるにさえ二三年の日子を費やして終う。殊に印刷其の物の体裁が頗る読みづらく出来ているので、内容は非常に親切に説かれて居るけれども読むのに倦怠を生じて仕方がない。それ等を思って「唐宋八家文詳解」「左伝詳解」を出した。左伝は今春二月に出したばかりであり八家文の方は既に再販を出した。両書ともに精髄を抜いてあの大冊の講義を見なくとも、此の一冊で十分事足りる様に仕上げた。 そんな理由から「十八史略詳解」も啓文社から発行した。大いに実力を涵養し独学者の倦まず撓まず勉強出来る様に工夫した。今後とも著述を続けて行き度いと思って居る。 [これから?] 目下私は第三次計画に取り掛かって居る。(第一次は国語、第二次は漢文、第三次は高等教員。)何時の日に成功を見得るであろうか。私如き駑馬は如何に鞭うてどもかの峻峰を攀(よ)じ得ぬかも知れない。けれども孜々として勤め、汲々としていそしんだら、やがては高嶺に立って玲瓏たる月光を仰ぐことが出来るものと信ずる。それを楽しみとして零細の時間をコツコツとして机に向って居る。 年若い人々の合格談を聞かされる度毎に、本気になって勉強に取り掛かることの遅かった事を悔いつつ、遅れ走せながら進みたいと努力して居る。 2 本試験征服記 〔卒業早々受験〕 大正十二年岡山師範二部卒業後少々無謀とは思いましたが、翌十三年国漢科を受験した。僥倖にも予試に合格しました。本試は無論失敗に終りました。翌十四年四月から現在のA中学に職を奉ずることになりまして、勉学上にも何かと便宜を得同年夏の本試に国語科に合格しました。 併しそれと同時に少し健康を損ねましたので、漢文をやりたいと思いながらも、はかばかしい勉強は出来ませんでした。殊に少々酒を飲むことなんか覚えて来まして、十五年の暮から昭和二年一ぱいは全然駄目でした。 愈々本気になって、漢文科の準備にとりかかったのは昭和三年一月からでした。大体のプランを立てて同年十二月まで文字通り専念にやりました。好きな庭球や散歩なんかも殆んど中止の形で必勝を期して読みました。併し十二月の本試はまだまだ時文の研究が不十分であった為と漢作文が稍々出鱈目であった為失敗しました。 翌四年は今まで郷里へ帰して置いた妻子を引き寄せて再び庭球生活を始めるやら、五月には足部の腫物のため病院通いをするやら、夏には母の重病続いて父の死等で随分ゴタゴタしましたので、可なり苦しい勉強をしなければなりませんでした。取り分け父の死に際会した時なんかは落胆も手伝って今年はとても落ちついた気持で準備なんか出来ない。一層のこと受験を中止しようかとまで思ったのでした。併し九月半ば頃その方もどうやら一段落ついたものですから又思い直して準備にとりかかりました。 十二月十日上京するまで可なり真面目に読みました。こんな有様で五十一回の本試に幸にも合格する事が出来た訳なんです。漢文科を稍々真面目にやり出してから二ケ月かかった訳です。半ヶ年か一ヶ年少々の準備で合格せられます人々のことを思って誠におはずかしい次第です。以上大体私の通って来た道を述べましたから次に貧弱ながら私の準備法を述べさしていただきます。 読みもしない本を羅列することは而後受験せらるる人々に対して親切でないと思いますから、ここには私の実際参考に供した書籍につき、ありのままに申述べることにいたします。これっぱかしの本を読んでパスするのかと読者の皆様が不思議にお思いになる位しか読んでいない私です。無論多くのものを読むと言うことは結構な事と存じますが、併しここにあげましたものだけを精読すれば合格する程度の実力は十分に養えることと信じます。 (一)解釈方面 A 左伝 〇共益商社 高等漢文読本七 〇鹽谷博士 左伝新鈔 〇瀧澤良芳 左伝選釈 〇少年叢書 春秋左氏伝講義 右の内高等漢文を中心にやります。これは白文ですから(もっとも白文ともうしましても句読点だけはわりますが)始は少し骨が折れますが最初からこれで練って行きました。少年叢書を参考にしながら難解な処は余白へドンドン書き込むのです。 併し返点送仮名は絶対につけません。少くも試験前これを見れば九分通りは了解出来るまで反復練習するのです。そしてこの本以外で大事な個所がありますからそれを新鈔と選釈で補います。大系本を一読したいとは思いましたが、何分時間の余裕もなし、それにこれでウンと白文練習をやって置けば左伝は大凡そ読みこなすことが出来ると考えましたので止しました。 B 韓非子 〇共益商社 高等漢文読本八 〇吉波彦作 韓非子詳解 吉波氏のものは実にいいと思います。これを中心にやりました。二三回精読すれば大体理解出来ます。高等漢文は少し量が少いので最後に復習的に見ました。併し左伝と同じく白文ですから実力を試すには手頃のいい本です。 C 史記 〇共益商社 高等漢文読本四 〇漢文大系 史記列伝 〇二大漢籍 史記列伝及項羽本紀 高等漢文を中心にやりました。やはり白文ですからウンと力がつきます。分らない文を大系本や国字解本で見る程度にするのです。項羽本紀は無論入れてありますし、列伝全部はありませんけれ共これだけのものを理解して居れば他は十中八九分通り読解出来ます。 D 四書 四書の必要なことは予備本試共通です。四書は必ず予備のものなど独り合点することは甚だ無謀なことです。徹頭徹尾やりました。 〇宇野博士 四書講義大学 〇宇野博士 四書講義中庸 〇簡野道明 論語解義 〇簡野道明 孟子通解 右のものを先ず精読してから左記のものをやりました。これは朱註によったものですから口述の準備として甚だ必要です。 〇簡野道明 補註学庸章句 〇簡野道明 補註論語集註 〇簡野道明 孟子集註 尚復文漢作文の準備にもなると思いまして大学論語孟子の前半を白文として筆写しました。 E 時文 〇田井嘉藤治 最近支那時文実鑑 〇吉波彦作 漢文 白文訓読復文作文 研究要訣 吉波氏の時文篇は全部精読し、時文実鑑は三分の二位まで研究しました。この外に昨夏広島県教育会主催の国漢講習会で斯波教授の講習を受けました。 F 八家文 最近八家文の読方が殆んど毎回本試に出されます。併し試験に出される程度のものでしたら以上AからFまでのものを精読していれば別にやらなくとも大体は読解出来ます。私は本試受験に際しては八家文として大部なものは読みませんでした。只 塚本哲三 漢文解釈法 の中の八家文の部を白文について見ただけです。予備の時読んだ記憶も多少はあったかも分りませんが本試には二度とも八家文の読方には苦しみませんでした。併し余裕があれば次の本位は見ておくといいと思います。 〇鹽谷博士 唐宋八大家文鈔 (二)設問方面 A 文学史 〇児島博士 支那文学史綱 〇西澤道寛 支那文学概説 〇橘文七 支那文学史要 〇石川誠 漢文科研究者の為に 児島博士の著を精読し、次いで西澤氏のものを一読しました。試験前になってから橘氏のものと石川氏のものを中心に只管暗記につとめました。この二書はノート代用として誠にいいと思います。合格するだけの力をつける点から考えますと後の二著を精読するのみで十分と思います。 B 哲学史 〇宇野博士 支那哲学史講話 哲学史はこれ一冊を精読しただけでした。これだけで十分と思います。併し性理学の研究なんかには、朱子の近思録を読んで置くと口述の場合なんかに非常に役に立つことを感じました。お恥かしい次第ですが、私はこれを読んで居なかった為、口述の時まごつきました。委員の先生もこれを読む様に親切にお教え下さいました。 今後の受験を希望される皆様は通読だけでもなさいます様切にお勧めいたします。 C 文法 〇児島博士 漢文典 〇佐々木藤之助 漢文典 児島博士の著を中心として佐々木氏の著を一読しました。尚吉波彦作氏の「漢文研究要訣」中の白文訓読篇は大いに参考になります。精読すべきだと思います。 D 其の他 〇鹽谷博士 支那文学概論講話 〇石川誠 漢文科研究者の為に 鹽谷博士の著は大変分り易く書かれていますので、一読するだけで大抵理解出来ます。石川氏の著の中で第一巻の汎論と第二巻の漢文学概論亦一読を要します。作詩法としては次のものを一読しました。 〇森槐南 作詩法講話 (三)漢作文 〇吉波彦作 漢文研究要訣 まとまったものとして見たのはこれ一冊です。併し真面目にこれを研究すれば大いに見る所があります。何を言っても作文は自ら作ることです。既往の題をとらえて一つでも多く作る努力を惜しんではならないと思います。私は約三十題ばかり作って見ました。作ったら唯我独尊をきめこまずにその道の人に必ず見ていただくことが何よりも肝要と思います。前述の佐々木氏の漢文典中には漢作文上の要領を可なり親切に述べてあります。 尚私は半分位読んだだけでしたが次の書に就いて漢作文の要領を会得すべきだと思います。 〇高於菟三 漢作文作法要義 (四)問題集其他 〇霜島勇気男 高等漢文漢語詳解 〇瀧澤良芳 国語漢文科問題詳解 〇中等学校漢文教科書 三・四・五の巻 右は必ず一読すべきです。殊に漢文科教科書は徹底的に研究すべきです。私は富山房の服部博士のものによりました。 以上大体私の準備法に就いて申述べました。月並的な方法で別にこれというべきものはございません。併し多少でも受験の皆様に参考になることが出来ますれば嬉しく存じます。 合格したにつけても父にこのよろこびを分つことが出来ない事を非常に悲しく思います(岡山、岩佐氏) 3 漢文科受験準備時代を語る ◇神の試練 今年失敗すればもう受験は放擲(ほうてき)しようと思っていた予試であった。それが国語の方は可成り出来て、最も得意であるべき筈の漢文が思いがけぬ不成績に終ってしまった。もう駄目だと思った。 受験最後の日、恩顧を受けている人に私は手紙を出した。 「私の将来を決定する受験は全然失敗になって終ったらしい」と。それからの懊悩は友人達が心配して呉れる程に甚だしいものだった。少年時代からの逆境は随分苦しいものであったけれども、併し努力に相応して漸次光明の域に近づいて居る様に思って居た私は、「失敗は幸福の基」と言うよりも「私に失敗なる語無し、世人の所謂失敗なるものは、幸福の一部分なり」とも考えて居た。私の堅く心に銘じて居た信念でもあった。 故に如何なる苦境の立っても決して失望はしなかった。苦しいとも思われなかった。不平や噴怨もなかった。一昨年昨年本試に二回落ちても落胆しなかった。努力すれば運命の神は決して自分を見捨てはしない。失敗があってもそれは神はより大いなる幸福を与えて呉れる為の一の試練に過ぎないのだ。かくて私は一切を運命の手に任せてしまっていた楽天的運命論者だったのだ。 それが昨年三月のある機縁から信仰の団体と交渉を持つ様になり、宗教から見て運命論の極めて幼稚なものであることを知った。運命の神といった程度のところに安住して居る自分をつまらなく思って一文字に宗教へ走った。 併し小さい理知と懐疑は遂に徹底した信仰を私に許さなかった。為に安心する境地を全然失って終った訳だ。恰度(ちょうど)その頃の予試の不成績だった。暗い将来を思って泣いた。過去の逆境を呪って身をたぎらせた。 勿論本試の準備には少しも手をつけない。私は只管何も考えまいと務めた。殆んど馬鹿になり切って日がたった。所が思いがけなく予試の合格である。本試までに後二十日程しかない。短い時日だ。 併し私のからだには力が漲(みなぎ)って来た。やるのだ。 ◇祝賀会 それから懸命の準備に取りかかった。国漢兩科を出題していたが、国語に二分の力をさき、残りの力を漢文に注いで、悪戦苦闘の日をつづけて行った。 一身の興廃此の一戦に在りの緊張、今度こそ必ず合格してみせるの意気を以ての奮戦であった。筆答試験の日が来た。八分通りの安心を抱いて即日三島の震災の地に走り恩人の許に労力を捧げて数日過ぎた。帰京して口述をうけ、幾分の不安があったが、大して悲観もせず、発表の日を待ち、遂に合格の吉報に接することが出来た。此の日天気晴朗とでも言いたい気分だった。友人達が集って祝賀会を開いて呉れた席上私は私の通って来た十五年間の受験生活を回想した。波高しの苦しい過去であった。併し今はその波瀾重畳の過去に却って懐かしさを感ずるのだった。 ◇受験生活十五箇年 小学を出る時、当時の私の村が専門学校出一人、中学校数名位のものであった為に、別に中学入試の熱望もなく、又貧の為のあきらめも手伝って何の苦しみも不平もなく当然の事として高等科へ進んだ。その時恩師は私の為に中学講義録を取って下さった。 それが私の受験生活の発端だった。 専検へ、専検へ、これを目標にして高等科を卒業して神社の小使になった。それから神戸へ出て歯科医の書生にそれから郵便局の事務員、外国商館の給仕へと、食う為の職業に転々して行った。 その内に私は私の頭脳を余り信じ過ぎて居たことを知った。全くの独学に英語はリーダー四で、代数は級数、幾何は立体で行きづまらせてしまった。私自身に愛想をつかせて専検を放棄してしまった。 十八の秋会社員にでもなるのだと考えて、三ヵ月の準備で商業会議所の試験を受けて一科だけ合格した。先ずこれからと思っていたその翌年の二月、父の死にあって帰郷し、兎も角一人して食う道を見つけなければならなかった時、幸に恩師の厚情によって一ルンベンは小学校の代用教員に採用されて、十九の四月初めて教壇に立った。 その五月尋淮を受けて合格したが、師範出ではない為の苦痛を味わいつつ又その為に一層の努力をしながら、先生で満足しきれない寂しい日を続けて、教師生活五年の日は過ぎた。その間に尋正の受験に二回行ったが、一回はその地の図書館で小説に読み耽り、一回は一燈園へ走って、勿論合格することは出来なかった。 あせっている中、某専門学校の入学試験を受けて見る気になった。十日間を山奥の家へと閉じこもって準備した程度の力で、それでも汽車賃を工面して上京した。課目は国漢だけであるが、日本外史と徒然草を読まなかった私には難問揃いであった。併し幸にビリの方から近い成績で入学することが出来た。先輩の好意で金は某会から借りることに話がついた。 順風に帆をあげる幸運にめぐまれて意気揚々、学校生活に一歩を入れた。小学校教員免許状を有する者は卒業後漢文科高等教員の無試験検定の特典を受ける資格ありとの規則書を信じて入学後の私は幸運であった。六年後の輝かしい生活を想像して居た。私を尋淮である故に軽蔑していた小学校時代の同輩に対しての事も思った。光明にからだを包まれて一年は過ぎた。 一年過ぎて幸福から絶望の谷間へ私はつき落されなければならなかった。規則書の小学校教員免許状のうちに尋淮免許状は入って居なかったのである。為に卒業後の特典は全然私には与えられない。怒って見てもどうにもならないのだ。今までの時間と金との空費、併し退学すれば借金一時払いの義務がある。といって此の先在学して何の効果があるのだ。進退に迷ったが結局在学することに定めて終った。在学中に中等教員の資格をとれば卒業後の特典をうけることが出来るかも知れぬとの頼りないことを便りとして文検への進路を辿ることに決意した。 又これから受験生活がつづくのだ。やれ!元気よくやれ。学生であり独学生である私の生活が、それから慌ただしく続いて行った。入学した翌年千葉県へ小准を受けに行って体操で味噌をつけて帰った。その秋山梨へ行って時間に遅れて逃げ帰った。 その翌年東京府の小准をうけ、長躯して奈良三重に転戦した。いずれも筆答にパスしたが、東京府の体操実地にだけ出席して合格し、二県のは棄権して終った。 その四月皇典研究所の神職試験をうけて筆答にパスしたのは、私の受験史の道草だった。七月末東京府の発表があって、愈々予備試験へ取りかかる。本もない金もない。数冊の本のみによって予試を受け、僥倖にも合格、本試筆答も通過、破竹の勢いで口述に突進して功を一簣に欠いてしまった。これでいい。落胆もしない。失望もするな。 翌年二回目の本試筆答は切り抜けた。今年こそはは決死の覚悟で、口述へ進んだ。結果は多少楽観して居たにも拘らず、万事休すの悲運に遭遇せなければならなかった。 愈々翌年二回目の受験だ。今度合格しなければ、もう私の受験生活におさらばを告げてしまうのだ。この意気で昨年の一月を迎えていながら準備に手をつけないで七月まで過ぎて了った。 八月の夏休を知己の家の留守番に組まれたを幸、毎日五時間を準備の時間にあて、克明に勉強して行った。予試を受けて後からの事は初に記した通り、再言する必要はない。 ◇無試験制度 小学校教員時代に私の編輯して居た文集に、「卒業生諸君に」と題して「学校は時間と金との浪費所である」と書いたことがある。現代学生生活をやって居ることから考えると独学時代のこの言葉は、全く当って居るとも言えないが、誤って居るとも言えぬ。独学によって受験する人々は、学校に入ることを羨望せないで、真の自己の力によって免許状を獲得すべきだ。無試験の特典ある学校にいてこんなこと言うのも変であるが、学校卒業生に与えられる無試験検定制度も全廃するのが至当だと私は思っている。 学校出の智識は広い。けれども浅い。又狭くて浅いのも多い。私の知人にも無資格で入って無試験の特典が与えられぬ男がいる。その男より以下の成績の多くの者が卒業の時には得々として免許状を持って行くことなど、どう考えても不合理な話だ。 ◇参考書 準備と受験の実際を記すことは、私が一方学校生活をやって居る為、一般独学者諸氏の参考にはなるまいと思う。ただ受験に用いた書名だけをつらねて置くことにする。 予備試験(国語は除く) 四書 少年叢書四書講義 宇野博士著大学・中庸、四書集註(上海本) 十八史略 漢籍国字解、箋註十八史略、少年叢書 唐詩選 漢文大系 八家文 漢文大系 設問 支那文学史綱、支那哲学史講話、漢文捷径、漢文科研究者のために 本試験 左伝 少年叢書、春秋左氏伝校本、春秋左伝(上海本) 史記 少年叢書、史記評林 韓非子 韓非子集解(上海本)、韓非子講義、韓非子詳解 時文 支那時文教程 設問 予試と同じ 口述 四書大全、東洋通史 最後に私は明治三十六年生れ、兵庫県宍粟郡は私の郷里である。同郡は文検熱の盛んなところ、若し同郡の人で本誌の読者があれば健闘と成功を祈って止まない。(黒郎生) 4 恵まれざるの記 〔一将成功万骨枯〕若し断章主義を以てすれば自分は万卒の仲間に当たる、失敗者成功之母也の西諺から言えば、失敗何んぞ敢えて悲しむに足りない。然しながら功を誇るは易く恥を露すを好まぬが人情だ。漢書に覆車之戒あり、詩に曰わずや他山之石可以攻玉と。 予備試験を終った其の夜、私は士気を鼓舞するために、安井息軒先生の三熟記を読んだ。そうして本試準備のプランを立てた。十二月二十五日まで七十八日。この間に史記、八家文、左傳、韓非子を読まねばならぬ。設問作文もやらねばならぬ。思えば多忙の事なる哉と嘆息せざるを得なかった。過にして九月までは渾身の勇気が凡て是れ予試に注がれてあったからだ。 〔本試への準備〕この七十八日を三期に分けて見た。 第一期 読解 第二期 時文 作文 第三期 設問 既出問題研究 読解で骨を折ったのは左傳だった。尤も私は先輩からの注意で、「予試と本試との間に期間が短いから予備の準備前に必らず本試の参考書の一つだけは後で見なくともよいという程度に実力を附けて置け」と言われたので、昨年十月から本年一月まで四月刊間、左傳を抄録し、且つ先輩から白文課題で採点して頂いて居たが、恥しい事には韓非子はまだ一度も目を通して居ない。八家文と史記とは中学の四五年の漢文を受け持った事があるので、どうやら一通りは見ている訳だった。 漢作文には一番苦しんだ。山下賎夫氏の復文の系統的練習と、吉波彦作氏の漢文研究要訣をやって、高於菟三氏の漢文作法要義を一通り見て、皆川淇園の習文録を少し許りやった。 韓非子は吉波氏の韓非子詳解を読んで菁萃録韓非子で整理した。 十一月十二日、官報は本試験の日割を示して呉れた。見ると漢文筆答試験は十二月十四日である。俄然、私の計画に驚異と齟齬とを来した。それはプログラムよりも十日間も短縮されたからであった。だから大車輪大急行でやらねばならなかった。越えて十六日の官報は漢文予備試験の合格者の名を発表し、辛じて驥尾に附することができた。 十二月九日、私は指導を受けた先輩に、匏有苦葉、済有深渉、深則広浅則掲の賦を送って非常の決心を示し、自ら背水の陣を布き、東都を指して勇ましくも進軍の門出に上ったのである。 郊外の親戚の家は閑静で、勉強には此の上もなく好かった。私は先輩の意見を聞いて、一室に雑居させられる様な旅館生活には足を入れずに只一人静かに読書に耽って、暁燈燭只管参考書に親しむことができた。 〔本試験筆答の日〕愈々明日に迫った。いつもよりは早く床に入ったが、夜半夢破られて眠れなかった。八家文や韓非子の既出問題に一通り目を通して試験場に向った。電車の中では、共益社の高等漢文読本巻之七の左傳を見て居た。試験場についた頃は未だ開始の時間に間があったので受験者は余り集って居なかった。定刻近くなると、試験監督からの訓示があって、薄暗い場内にパッと点いた時、思わず私は胸のときめくを覚えた。 私は場内を一瞥して見た。白髪禿頭の老翁もあれば美髯紅顔の士もあり彩とりどりの裡に、万緑叢中紅二点を発見し有髪紳士を後に瞠著たらしめた。これでは緊褌一番せねばならぬと考えた。見ると其の一人は今春或女学校で確かにお目に懸った方。あの時ストーブの傍で韓非子詳解を見て居られた方だった。顔見知りと言っては外にも一人美しいカイゼル髪の有る中学校の退役大尉、この人は去年も受けられたそうで、彼と同僚の私の先輩からその時の本試の問題を知らして戴いた事があったが、不幸にして尊名を知らなかった。 受験者凡て百三十五名、机を見ると鹿子斑の欠席はあるが、満堂是一騎当千の闘士かと思うて貧弱な自分の力を顧みた時一種の戦慄を感ぜざるを得なかった。 やがて答案用紙と問題とが配られる。一渡り目を通す。孟子、左傳、八家文、時文設問、作文、都合六題。 第一に意外々々。出ると思った韓非子は意地悪く出ないで、出ないと思った(予試の復文に出て居たから)孟子の離婁が出た。先ず句読訓点をつける。次に解釈、最初の規矩方円之至也、聖人人倫之至也の至を至宝と解した。これは註の至極也に気がつかなかった誤りだ。それから欲レ為レ君尽二君道一、欲レ為レ臣尽二臣道一の欲の管到を間違えて、 欲三為レ君尽二君道一、欲三為レ臣尽二臣道一 と書いて終った。これは文法を思い出さぬ失敗だった。我ながらルーズの感がする。実際を言うと、孟子の出題は実に意外だった。それは四書は予備の時に見ただけだったから。これで見ても四書は徹底的にやらねばならぬ。 第二が左傳、宣公十五年楚子園宋之條、支那の鳥居強右衛門たる解揚の処だ。霧島勇気男氏の「高等漢文漢語詳解」で確かに見た事がある既出問題だし、漢文講座に飯島忠夫氏の訳があったことを想出す。先ず読方から始めて句読点をつける。ヤマが三つ四つある。最後の、下臣護考(ママ)。死又何求。楚子舎之以帰。に至ってトント詰って了った。考の字がどうしても訓めない、仕方がない。「下臣死を獲考(ママ)せり、又何ぞ求めん。楚子之を舎るして以て帰らしむ」と無理に訓んだ。思えば是れが致命傷だった。後になって註をよく読んでいなかったことを悔いた。考成也以率也とある。ああしまった。註なくば漢文なしだ。漢文はどうしても原書に親しんで註をよく読まなくてはならぬ。 第三は八家文、欧陽脩の送除無党南帰序だ。是は昨日既出問題集で読んだ所だ。これで見ても機尾出問題は忽にしてはならぬ。何となれば既出問題は大抵参考書中の名文のエキスであるからだ。 第四は時文、これは只管漢文講座の内田復氏の時文と吉波彦作氏の漢文研究要訣を読んだ丈けで、先輩から借りた山田岳陽氏の支那時文釈義は只拾い読みをしたばかりで大なる自信がなかったが、ヤマは人名の係り工合と、弁公処接洽一功…だけだったので辛うじて仮名交り文に直した。以上一通り読方を終えて解釈を書き終った時は、もう二時間半を費やして了っていた。 第五は設問、(一)董仲舒(二)初唐四傑 (二)は既出問題だ。既出問題の設問は全部答案用紙に抄録していたので直ぐに書けた。児島氏の支那文学史綱と宮崎来城の作詩術に負う処が多かった。 (一)の問題には全く面喰った。時代を前漢の武帝のことを後漢の武帝の時代などと間違って書いたり、賢良対策などはテンデ思い出せなかったりしたが、宇野博士の支那哲学概論と早大プリントの牧野氏の支那経学史とによって儒道二教の融和を計った人だったことだけを記したが、著書の春秋繁露はどうしても思出せなかった。陸賈の新語と間違えて書いたりもした。凡そ三行許り。自分ながら何と貧弱な答案だろうと思った。 第六、最後に漢作文だ。題は見利思義説だ。一寸手が出ない、時間を見ると余す処一時間この時自分は文章軌範巻五の小序にあった、場屋中日晷有限、巧遅者不如拙速を想出さずには居られなかった。構想凡そ二十分、勇を揮って筆を呵す。 見利思義議 天下誰有不謂利者哉。利也者厚生也。利而無義不可以称利也。余嘗読論語。至子罕言利与命与仁。慨然嘆息矣。方今世人。汲々栖々営利之務。不日不索利。故見利敏而喩義迂焉。是以将相之尊、受縲絏之辱。如斯者見利而為有勇。見義而為無勇。昔日顔子在陋巷不改其楽。孔子曰不義富且貴、於我如浮雲。可以為箴矣。 やっとの事で書き上げた時、与えられた四時間半の時間は遠慮もなく去って「起立」の声が鋭く耳に響いた。ああ運命は遂に決したのだ。読み返す時間さえない。況んや熟慮推敲の時をやだ。 〔万事窮矣〕斯くして不安の数日は過ぎた。私は答案の模様を先輩のY氏とS氏とに送って合否如何を待った。Y氏からは「大丈夫」と書いてあった。S氏からは「神ならぬ身にて到底判断を下し得ぬ処に候も多分合格すべしと愚考仕候」とあったが心配して居た漢作文だけは両氏とも褒めてくれた。 十九日午後四時は成績発表の時刻だったので、雨の文部省前には受験者が黒山の様だった。悲喜交至のシーンが展開されていた。自分は静かな足取で掲示板に近づいた。不幸にして口述受験中に自分の番号を見出すことが出来なかった。万事窮矣。 然し私は徒らに悲観しなかった。帰りの電車の中では徐ろに袖珍本の四書集註を繙くことが出来た程我ながら不思議な位ゆとりがあった。 老詩人からは私の失敗を弔せずして却って祝して来た。友人からは鼓舞激励の手紙が着いた。私は涙を以て此等に感謝した。 やがて自分の寓居に戻った時、書斎は雪で包まれて居た。私は寂しく独り此の詩を吟んだ。 関レ戸且忘名利心。四隣人定夜沈沈 草堂埋雪年将レ暮。独対二寒燈思古今一。 来るべき庚午の歳yお。 我は捲土重来の意気と鎧袖一触の勇気とを以て、無駄なく、無理なく怠らず、本試の鉄壁に邁進せんとして居る。 最後に言いたい事は、受験後の友人の談話によると、漢文科の授点法は総点三百点読解二百四十点、作文設問六十点だそうであることである。(五一回失敗生) 5 半ヶ年合格 〔はしがき〕私は昭和三年度に国語科を合格し、昭和四年又僥倖にも漢文科を合格した訳でありますが、その実白状しますと其の間四年度第一次に柄にもない習字科の受験をしましたから―但し失敗でした。努力と時間は国語の二三倍は使って居ますが―漢文科の準備はその予試後から着手したので正味半ヶ年の準備しか出来なかった訳です。でもその半ヶ年は随分心身共酷使無理をしたものですが、とにかく普通の頭と健康の持主ならば半ヶ年でどうか準備が出来ることを体験上で信ずるものであります。 然かるに国語科有資格者にして運の悪い方になると三四度も遠い国から多大の経費と日子を費して上京なさり失敗の恨を繰り返されている方のあるのは衷心同情に耐えないと共に、其処には屹度何等か準備上について欠陥のあることを思わされるのであります。ついては此処に私の体験上気づいたことや又準備の実際を赤裸々に告白し、受験生活に対して幾分の参考の資ともなればと思って敢えて誌上を汚す次第であります。 〔参考書の選定〕誰も言う常套句ですが、それだけ又動かすことの出来ない真理があると思います。書物あさりや濫読はやめて良書を精読することです。選定については雑誌を通じたり又本人についたりして経験者の指導を受けるのがよいと思います。但し試験合格を標準として。 〔研究の順序〕暗記的である設問はなるべく受験近くに、而して読解物を先にし、又同じ解釈物にしても思想の基礎をなす四書を先とし、左傳、韓非、八家、時文という順序がよいと思います。八家文は大部なものですが、其れ迄の書物が十分に咀嚼出来実力さえついて居れば、大系本によって恰も小説でも読んで行く様にさっさと渉るものであります。時文も同様です。古文によって白文が可なりにこなせるだけに実力がついて居れば、あとは二三の書物によって時文としての、特殊の用字熟語を一二千当って置けばよい様です。 〔作戦三分に実力七分〕作戦倒れは禁物、大体に於いて実力主義をとるのがよいと思います。と云って例えば左傳に於て二三行で終っている断片や又随処に出て来る易的の解や甚しきは経の部までも一々繰り返し読んで居てはまた受験としては迂なものだと思います。其処には三分の作戦が肝要。之を解釈物について具体的に申しますと、 1過去の問題により出題傾向を呑み込むこと。 2第一回は全部を丁寧に読んで行き、其の際出題されそうな処を片端から符号をつけて置き、二回目からはその個所のみを繰り返し読むこと。かくする時は頁数に於いて左傳は約四分の一、韓非は二分の一弱に整理することが出来ます。 〔設問〕に於いても 1出題傾向に就いて研究 2合格程度の深さに於いて確実に 3哲学史、文学史、文学概論、書籍解題等各別々に問題化した一覧表によって整理すること 等の様にやるのが得策です。 〔一気呵成〕誰の頭でも既得のことをぐんぐん忘れて行って居るものです。而して忘れる量が日月と正比例するものです。故に一気呵成にやることです。試験間近く頑張りがどんなに価値大なるかを小生一流の算式で表わしますと 平常時の収得量を10とす(大体時間4時間の勉強として) 試験間近の収得量を20と仮定す(毎日8時間の勉強として) 毎日の忘れる量を5と仮定す(実際1年も前にやったら此位である) 試験に於ける価値―平常時=10-5=5 ―試験時=20-0=20 価値上の此値=20÷5=4 即ち試験間近の一日は一年も前にやる四日分にも相当することになるのである。私はもっと無理して日に十時間から十二時間位までやりましたから一日分がこの算式で行くと或は五六日に相当したようなことも少くなかったかと思います。之が合格の秘訣とも言えるかと思います。 〔解釈物の重視〕之さえしっかりやって置けば、設問が少々しくじっても大した問題でない様です。殊に四書と左傳は最も重要視すべき様です。四書は朱註の白文によりて註まで自由自在にこなしておくことが肝要です。近年口述にはずっと朱註が出題されます。序に参考書としては博文館の漢文叢書中の四書(三冊)がよいです。之は朱註に又毛利貞齋が註をしたもので日本訳です。特におすすめします。 〔半ヶ年戦跡一覧表〕以上の考と作戦計画のもとに私が半ヶ年奮戦した実際を一覧表にして示して見ます。 第一回読破日 書名 頁数 読破回数 備考 自五、一七 漢文學び方の研究(西脇) 二四〇 二 至五、二一 復文の系統的練習(山下) 一七六 二 自五、二二 大學(宇野本) 二八二 三 中庸(宇野本) 二五二 三 論語(三島本) 四三八 三 孟子(簡野本) 一〇二五 三 自七、二七 四書朱註(白文) 三七五 一 自七、二八 至八、二〇 韓非子(国字解本) 二四四三 五 大系本参照して 自一〇、五 八家文(笠松本) 六七八 一 韓欧三蘇のみ 至一〇、二〇 八家文(大系本) 一三一七 一 自九、二一 時文(早大講義録) 一三〇 一 時文(吉波氏本) 一三〇 二 時文のところのみ 時文(時文実鑑) 三九七 一 自一〇、二一 至一一、二八 左傳、韓非子、四書時文の復習 自一一、二九 支那哲學史(宇野本) 三三九 一 至一〇、四 四書研究(教育學術會本) 四一二 一 参考までに 至一二、二 支那哲學概論(宇野本) 二三九 一 自一二、三 支那文學史(児島本) 三八一 一 至一二。六 漢文研究者のために 四九六 一 文學概論書籍解題として 自一二、七 至一二、一三 解釈物の総復習 自一二、一一 至一二、一三 設問の総復習 自一二、一五 至一二、二一 四書朱註(博文館本) 二八八三 一 孟子は時間がなくて出来なかった 附記 1十二月六日上京、旅館での一週間の勉強は最も価値大であった。 2作文は文法さえ徹底して四書がこなれていたら大したことはない様です。私は試験前日四五時間を費やして吉波本の白文時文云々の作文十四五篇をよみ、自分で三文作ってみたのみであった。 3文法設問の各項は国語科予試の際整理したノートがあったので大助かり。 4七月末から八月末までは大阪府下の能勢妙見山に避暑(毎日最高二十三四度)し専念左傳研究に没頭大体こんな次第であります。何分皆様の健康と御成功を祈って筆を擱くことにします(大谷氏)。 6 六十三歳にて合格 (一)受験前の経歴及境遇 余は山陰道の一部市に生れたものなるが、父は維新の改革の為に潘録に離れ、余の小学校に入りし頃は其の生活もまだ甚しく逼迫せざりしも、四ヶ年の小学課程を卒えて県の師範の附属校中等科に入る頃より漸時左前となりたれば、学校に行きて何でも勉強して偉いものにならねばならぬと思いながらも春さきになると、武者紙鳶を揚げることが至って大好きなる故に、通学せずして野原にて人の紙鳶をかりて揚げ、無我夢中になりて喜んで居りしが、一度より二度、二度より三度と度重なるに従い遂に学校行きは嫌になり、雨天の際には人通の少い家の檐下(のきした)にて落つる雨滴にて、真黒になりし草紙を無茶に濡らして持ち帰りしが、或時祖母より手習草紙を出せと言わるるにより、「何するものか」と怪しみながら、祖母のなす処を見れば、指先を濡し草子の上を擦りしに、水のみ着きしのみなれば大いに叱られしことを今以て記憶せり。之を以て大いに恐れ明日は進まぬ足を強いて前に出して、努めて学校に行きしに、悪太郎の生徒数人、余を見るや否や、「あのバカめが、何を思い出したか来やがった」と、こんな調子なるを以て、二三時間たったかたたぬに帰りて遊びたりき。かかる怠惰放縦の結果は、学年試験に落第となり、受持教員の申渡しによりて退校させらるることになりたり。是余が十一歳の時なりき。 父は余の退校を命ぜられしを以て大いに怒り勘当すべしと言って青筋を立て頭上より湯気を立てて怒鳴りしも、余を熱愛せる伯母は之を気の毒に思い、幸に伯母の家に道春點の論語近藤圭造氏(?)の十八史略、唐詩選などがありしを以て、誰に問う人もなく、画字引と首っ引して、苦心惨憺して精進せり。かくの如き独学にても、勉強すれば、大なり小なりの本の意味も分って来るにより「漢文は面白いものだ」という念生じ来れり。諺に曰く「好きこそ物の上手なれ」と、好ければそれに親しむし、親しめば種々とより多く分って来る。そうなると愈々面白くなるといった調子になりき。 (二)受験の動機 かくの如くして徐々に漢文を研究する中に、十七歳の時に小学校授業生の試験を受けて幸に首席にパスせしを以て、愈々学問することに興味を覚え、殊に漢文は余の学問の中心となり、恰も蝸牛の歩みを続くる如く徐々に研究を続くる中に文検制度発布せられしを以て一つ是非やっつけようと決心せり。 (三)準備期間と準備法 何分に授業生の初任給は四円五十銭にて、当今とは違って其の当時は昇給など二三年に一回といった位で、両親を養って行かねばならず、研究すべき本代などは残る筈なく、よしそれが有りしとても、当時は本屋に思わしき本もなく、例の外史や四書などを幾回も幾回も復習して、読書百遍意自通の独学的苦行を続けて、忘れぬようにし、又読書癖をつけようとせしものなりき。殊に現今と違って文検受験生向きの雑誌とて一冊もなき時代なれば僅に供覧せる本を独学にて辿り行くと言った調子なりき。故に準備法と言った如きもの先ず無しといって可なり。 明治三十二年島根県師範学校第二種講習所に入りて十ケ月講習を修了して初めて尋正の資格を得しが、文検に没頭すれば、何処の学校へ行きても、腰掛教員として、多大の圧迫を受け、その為に、学校の勤務時間には絶対に研究書を読まざる事になし、宿或は学校の宿直室に於いて密に研究せむとすれば来客ありと言った風にて、実に弱らされたり。 殊に兵庫県に大正五年度に入りしより、一層この圧迫を感ずること甚しかりき。 而して大正十二年十月を以て小学校教員の職を退きし以後は、其境遇は全く波瀾重畳真に私自身生きた小説と思う位なり。 東京に出でしは大正十四年の四月と思うが或は新聞配達となり或は筆生となり、或は外交員となり、あらゆる苦心刻骨の境遇にぷつかっても一心未だ嘗て一日たりとも文検一件を忘れず。唯だ最初文検決意の時より一回にて国漢ともに合格せむと望みしが、国漢二科を出願して国語は予試だけパスせしも、本試に落ちしは、所謂流星光底長蛇を逸すのそれよりも尚残念なりき。 その文検決志の年より合格せし期間を通算すれば、驚く勿れ三十七八年の星霜を経過せしものなり。而して準備法は別に記述すべきことなく、唯だ漢文の指定必読書を中心として、精深に研究せりというに尽く。 (四)参考書と其の読破要領 参考書は各文献雑誌にて教えられし良書を選んで、講読し、尚足らずと思う点は、図書館に行きて適当と思わるる書物をあさりて補足したりき。読破要領と云うものは無し。何分青年時代より精深に研究する癖つきしを以て甚しき遅読性なれば、指定書の研究に多大の日時を費やして所謂要領のよい受験勉強などせむとすること能わざりき。 (五)受験直前の準備法 国語科も漢文科とともに、東華堂発行の文部省教員検定受験案内(国語及漢文科)によりて、出題せられし書目の統計をとりで(予試本試とも此の方法による)その最高点のもの程、注意して徹底的に読解することにせり。併かくすれば時間を非常に取るを以て、最初の一回は精深に研究して不審の所、記憶し易からざる所は、しるしをつけ置き、二回目の復習にも其の個所を解釈して見、解釈がつけば、そのしるしを消して更に他のかかる個所に進みて同一方法にて研究するが良法なりと思う。更に委しく言えば余は参考書の註釈を本文の傍に書いて記憶することにせしが、かくすれば覚ゆることはよく覚ゆるが、それでも時間が立てば忘却すること少なからず、寧ろ二回三回四回と前記の方法にて多読することが得策なりとするものなり(老儒生)。 結び 奮闘の血涙史を読んで血を湧き立たせない者は酔生夢死の徒だ。我々は一分一秒も軽忽にしてはならない。 「やればきっと誰にでも出来る。」この信念で飽くまでも戦って欲しい。 もう一息と言う処まで進んで置きながら絶望して断念する様な人々の多いことを衷心から遺憾に思う。 やろう! やろう! 人生は死ぬまで奮闘してこそ価値がある。無意義な灰色の生活などは呪われてあれ。 https //web.archive.org/web/20160324130551/http //www.geocities.jp/shou_ryuu_dou/bunken_kanbunka_hyoudai.htm
https://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/323.html
目次 漢文法 漢文法基礎(著:二畳庵主人、加地 伸行) 漢文・漢文法基礎/文検漢文科合格秘訣 笠松彬雄 著 前編 漢文・漢文法基礎/文検漢文科合格秘訣 笠松彬雄 著 後編 「吉波彦作『漢文研究要訣』を読む」 文検受験用漢文白文訓読復文作文支那時文研究要訣 支那時文軌範 評釈 漢文教授ニ關スル調査報告http //snob.s1.xrea.com/fumikura/1 基本漢文解釈法 塚本哲三 著https //dl.ndl.go.jp/info ndljp/pid/1453134 標準漢文法 (外部リンク) 漢籍 漢文訓読文 十八史略 全文 魏書巻1訓読(北魏) 大学 四書五経(朱熹) -温故知新- http //www.1-em.net/sampo/sisyogokyo/sisyogokyo_.htm 漢籍リンク集 http //www.1-em.net/sampo/kanseki/index2.htm 孔子の『論語』の書き下し文・現代語訳と解説 https //esdiscovery.jp/knowledge/classic/confucius02.html 精講 漢文 三国志演義訓読文 大清帝國の漢文 満州国の漢文 大日本帝国の漢文 教育勅語 軍人勅諭(日中対訳) 戦陣訓 日中対訳 終戰詔書 偽中国語 漢文訓読で解読する中国語2020年 偽中国語 伪中国语 (偽)日文 もし日本語可以這樣書く就もっと簡單と思います。 台日網友玩到出LINE貼圖的「偽日文」、「偽中文」到底怎麼玩?這篇把竅門一次教給你! 塞氏翻譯法 やば日本語 梁啓超『和文漢読法』(盧本)簡注 復文を説いた日本語速習書https //meisei.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_view_main_item_detail item_id=1238 item_no=1 page_id=13 block_id=110 -- 香港国家安全法 https //zh.wikisource.org/w/index.php?title=%E4%B8%AD%E5%8D%8E%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E9%A6%99%E6%B8%AF%E7%89%B9%E5%88%AB%E8%A1%8C%E6%94%BF%E5%8C%BA%E7%BB%B4%E6%8A%A4%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E5%AE%89%E5%85%A8%E6%B3%95 amp;variant=zh-hant amp;uselang=ja -- 中華人民共和國香港特別行政區維護國家安全法 (2020-07-03 22 28 18) https //xiang-dian.hatenablog.com/entry/nsl -- 香港国家安全法全文和訳 (2020-07-03 22 28 36) (下記管理者専用) HSK単語集 1級 https //w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/373.html HSK単語集 2級 https //w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/374.html HSK単語集 3級-1 https //w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/375.html HSK単語集 3級-2 https //w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/376.html HSK単語集 4級 https //w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/378.html https //www.ldbj.com/lunyu_pinyin/lunyu.htm -- 論語ピンイン (2020-06-14 15 12 02) https //xuetui.hatenadiary.org/?page=1260915904 -- 論語ピンイン 文言基礎 (2020-06-14 23 05 39) https //bszip.com/magazine-92954.html -- 名無しさん (2020-07-12 09 18 25) https //xuetui.hatenadiary.org/entry/20091114/1271219427 -- 千字文 文言基礎 (2020-08-07 16 57 26) https //www.libral.jp/1227 -- 毛沢東語録 (2020-08-08 10 23 37) https //yuyu.miau2.net/chinese-glossary/ -- 中国語 インターネット用語集 2014/11/18 2 (2020-08-08 17 07 26) https //anond.hatelabo.jp/20200714032032 -- 観光遺書 (2020-08-09 16 04 56) https //labtechs-notes.com/magazine-download/#toc2 -- 雑誌ダウンロード (2020-08-22 16 36 41) https //18siryaku.kyukyodo.work/honbun/taiko/post-57.html#comment-7 -- 十八子略 (2020-09-21 11 59 36) https //www.isc.meiji.ac.jp/~katotoru/20131201katotoru.htm -- 十八子略 三国志 (2020-10-03 07 25 57) https //blog.goo.ne.jp/ta-dash-i/m/200810?cal=1 -- 寡黙堂 十八子略 (2020-10-08 19 31 45) www2s.biglobe.ne.jp/~Taiju/classi -- 日本古典テキスト (2020-10-09 07 07 25) https //blog.goo.ne.jp/ta-dash-i/m/200811 -- 春秋戦国 (2020-10-10 23 04 27) http //zaco.no.coocan.jp/text/kan/index.html -- 漢文テキスト (2020-10-11 11 40 10) https //m.pc6.com/s/99624 -- 三国志2 (2020-10-18 13 38 30) https //w.atwiki.jp/orifusai/ -- 三国志wiki (2020-10-18 13 39 06) https //diamond.jp/articles/-/244266?page=3 -- ショートカット (2020-10-18 22 22 34) https //wyw.hwxnet.com/view/hwxE6hwx89hwx80.html -- 所 文原文辞典 (2020-11-03 21 31 42) https //news.nhk-book.co.jp/archives/13870 -- ステップ中国語音声 (2020-11-03 21 32 14) https //radiotalk.jp/talk/408584 -- むいむいらじお (2020-11-16 19 48 03) http //casillero.client.jp/tool.html -- tool (2020-12-03 07 37 04) http //hima.que.ne.jp/sangokushi/index.shtml -- 瀬戸大将 -三國志 舞踏仙境- (2020-12-03 07 38 15) https //12daimedaimonya-chinese.com/hsk-word-download/ -- 中国単語 (2020-12-15 19 37 29) https //gogakuru.com/ -- ゴガクル (2021-04-12 07 15 50) http //www.ic.daito.ac.jp/~oukodou/kuzukago/kundoku.html -- 漢文訓讀指南 (2021-04-18 20 50 16) https //note.com/kiyohara_f/n/n56e02e54ce31 -- 中国語リンク (2021-04-20 06 21 02) http //kunitama2664.sakura.ne.jp/ujiko_org.htm -- 氏子の心得 (2023-02-15 21 36 59) http //www.project-imagine.org/mujins/ -- むじん書院 (2023-02-21 11 45 46) https //zh.m.wikisource.org/wiki/%E6%B8%85%E5%AE%A4%E9%80%80%E4%BD%8D%E8%A9%94%E6%9B%B8 -- しんしつ退位詔書 (2023-05-06 14 06 25) http //home.t02.itscom.net/izn/ea/index.html -- 三國志修正計画 (2023-06-08 21 51 56) http //www.mitene.or.jp/~hokkekou/hokekyou/hk.html -- 法華経訓読 (2023-09-17 10 13 52) 中華民國臨時約法(wikisource中文) 中華民國臨時約法 漢文訓読 中国原子能设施的氚(液体)的年排放量(2020年和2021年) 核电厂放射性流出物排放情况 (2020年) 秦山第三核电站 143兆贝克勒尔 阳江核电站 122兆贝克勒尔 宁德核电站 111兆贝克勒尔 红沿河核电站 107兆贝克勒尔 (2021年) 秦山核电站 218兆贝克勒尔 阳江核电站 112兆贝克勒尔 宁德核电站 102兆贝克勒尔 红沿河核电站 90兆克勒尔 ※1-4号机组、5-6号机组的合计 (出处:中国核能年鉴2021、2022)
https://w.atwiki.jp/ohden/pages/573.html
全文検索 全文検索システム、全文検索エンジンの利用について ■Apache Solr http //lucene.apache.org/solr/ 2014-05-20 4.8.1 release ■groonga http //groonga.org/ja/ 2014-05-29 4.0.2 release ■Hyper Estraier http //fallabs.com/hyperestraier/ 2007年で開発止まってる? ■Namazu http //www.namazu.org/ 2011-07-18 2.0.21 release ■QuickSolution http //www.sei-info.co.jp/quicksolution/ ムリポ。(´Д`) ■Senna ■Tritonn ■Sphinx ■Lucene ■elasticsearch 更新日: 2015年01月29日 (木) 11時27分55秒 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/sevenlives/pages/1786.html
逐次型検索? インデックス型検索? 全文検索エンジン
https://w.atwiki.jp/abcdmousou/pages/346.html
呪文検索 Sorcery 5(水水) / 300f あなたの手札を一枚選んで捨てる。ライブラリー内からクリーチャーとクリスタル以外のカードを一枚選び、 ライブラリーの一番上にに置く。 -- http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/27456/1135510382/84 コメント欄 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kuroneko_miku/pages/24.html
宇宙・天文検定○× 宇宙・天文検定四択 宇宙・天文検定連想 宇宙・天文検定並べ替え 宇宙・天文検定文字パネル 宇宙・天文検定スロット 宇宙・天文検定タイピング 宇宙・天文検定キューブ 宇宙・天文検定エフェクト 宇宙・天文検定線結び 宇宙・天文検定一問多答 宇宙・天文検定順番当て
https://w.atwiki.jp/ctrlmech/pages/17.html
論文検索サイトです。よく利用するので、1ページにまとめておきました。 CiNii Articles - 日本の論文をさがす - 国立情報学研究所 http //ci.nii.ac.jp/ 数多くの論文がまとめられている大規模な情報サイトです。 一部は概要だけでなく詳細も読むことが出来、他のデータベースへのリンクもあるため なにか探したい論文があるならまずここで検索をかけてみると良いかも知れません。 Google Scholar http //scholar.google.co.jp/ ご存じ超大型検索エンジンGoogleの論文限定検索モード インターネットに散らばる論文をかき集めてくれます。 ただし、ページの情報量にばらつきがあるため、 ある程度目星をつけてから検索すると良いかも知れません。 Microsoft Academic Search http //academic.research.microsoft.com/ astamuse(アスタミューゼ): 知的創造活動のための発明・特許、製品、サービス検索 http //astamuse.com/
https://w.atwiki.jp/internetkyogakusys/pages/2.html
| 今日: - 昨日: - 合計: - 全ページ合計: - メニュー ★(おすすめコンテンツ) 銀行業務検定・銀行資格 預かり資産系 ★ FP語呂合わせまとめ ★ FP1級応用編の解法 生命保険募集人(外貨建保険販売資格試験) 損害保険募集人 融資系 ★ 財務3級・財務2級 ★ 財務3級過去問・問題集 ★ 法務3級 税務3級 (作成中) 簿記3級 融資審査3級・2級 (暫定版) 資産査定3級2級と実務 (暫定版) 事業性評価3級・経営支援アドバイザー2級 (暫定版) サステナビリティ検定 銀行業務 融資 無利子融資(回想) 伴走支援型特別保証 銀行事務・融資事務 住宅ローン事務 マル保事務 銀行の預かり資産業務 NISA 預金業務 預金窓口 預金諸届 銀行・金融機関 銀行業界・偏差値・その他 金融の本 業種別リンク(非公開) 経済学 ★ 経済学の本 ★ マクロ経済学入門 国際金融論 中学公民 マルクス経済学 行動経済学 本 ★ 経済学の本 経済の本 金融の本 中田敦彦youtube大学動画まとめ その他の本 農業 ★ 農業経営アドバイザーテキスト ★ 農業経営アドバイザー問題集 農業融資・事業性評価 師範農業 漢文 漢文法基礎(二畳庵主人)ノート 作成中 漢文訓読で解読するまいにち中国語 ★ 三国志演義訓読文・年表 作成中 ★ 十八史略の全文書下し文 作成中 大清帝國の漢文 満州国の漢文 香港人抗争宣言 国文・日本史 ★ 初等科国史 全文 ★ 尋常小学国史 小學國史教師用書 (外部リンク) 日本書紀書き下し文 初等科国語 全文(外部リンク) 中等文法(口語編・文語編) (外部リンク) 初等科修身全文★ 文検国語科試験問題 精神日本人大学 参考書乞食 軍事学 ★ 統帥綱領 全文 ★ 諜報宣伝勤務指針 国土決戦教令 戦闘間隊員一般の心得 ★特高警察執務心得 警察手眼 行政警察官執務心得 昭和九年警察操典 野外令 ネット関係リンク アングラサイトの歴史 torの歩き方(torのリンク集・サイト集) internetarchive youtube動画のDLサイト~offliberty ようつべDL VIDDL 日本電子台 その他 ヨーガ(オウム含む) 共産趣味 [[]] [[]] [[]] 更新履歴 取得中です。 当サイトは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。 管理用ページ (作成中) 法務2級 (作成中) 税務3級 (作成中) FP1級・預り資産・税務2級 (作成中) [[]] [[]] [[]] link_anchor plugin error idが指定されていないか、存在しないページを指定しています。 (旧 経済まとめwiki) 今日: - 昨日: - 合計: - 全ページ合計: - 5chスレ