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8月20日午後1時30分、『猟犬部隊』32番待機所 冥土帰しと寮監が帰り、残ったのはいつものメンバー。 天草式との戦いを終えた残留組が、全員揃って遅い昼食をとる。 インデックス。 ステイル。 ヴェーラ。 管理個体。 テレスティーナ。 木山春生。 そして――木原数多。 一見するといつもと変わらぬ光景。 だが、それは錯覚だった。 変質、変化、変異、あるいは変貌か。 それまでと変わらぬ者がいる中で、人知れず大きく変わった者がいる。 この日、長い序章は終わりを告げた。 歪んだ世界は、さらにおびただしい量の鮮血と涙を求めて静かに蠢く。 「…………」 渦巻く策謀は未だその姿を見せず、各人が胸に隠した思いは密かに成長を続け――。 やがて終焉の時を迎える。 それから2日間、世界は不気味なほど穏やかに回っていった。 8月22日午前9時30分、学園都市統括理事会 ――『ワシリーサ……?』 ――『ロシア成教の修道女、ね。美人なら大歓迎なんだが』 ――『言ってる場合かね。我々の対応姿勢をどうするかは重要な問題だ』 ――『……面倒はキライ……』 ――『無視できる類のものではなさそうですし、わたくし達のスタンスは歓迎でよろしいでしょう』 ――『けどよ、そうなるとイギリス清教が反発するんじゃねェか?』 ――『ああ、だが仕方あるまい。現状がすでに険悪な関係なのだから』 ――『そうそう。今更ご機嫌取りは無意味だって。何かあったら全部木原数多に対応させりゃーいいじゃん』 ――『意見は賜りました。が、新参者にしては少々慎みが足りないようですね』 ――『そりゃースイマセンでした、何分新入りは礼儀だの慣習だのに疎くて』 ――『いいじゃねーの、これぐらい元気な方が頼りがいがあるってもんだ――イザとなりゃ前任者と同じく交換するし』 ――『っ……』 特に声色が変わったわけでも、威圧感を感じたわけでもない。 その逆。 あまりにも平然と他者を潰そうとする異様さにこそ、新たな統括理事は怯んだ。 ――『議題は終わってねェぞ、続けようぜ?』 ――『では、続いて木原数多の……』 歯車は変わり、されど動き出した道筋に変化はない。 深く、深く、さらに深く。 8月22日午後1時00分、第23学区の国際空港 統括理事会の承認を経て数時間。 小型のチャーター機が、学園都市の空港へ降り立った。 中から現れたのは2人の修道女。 ワシリーサとサーシャである。 「もーう。こんなに手間がかかるなんてー!」 「第一の私見ですが、むしろ総大主教やニコライ司教がこの訪問を許した事が奇跡的です」 そして相手側がそれを受け入れた事も、とサーシャは心の中で付け足した。 「言うじゃないのサーシャちゃん。ま、イギリス清教もローマ正教も、どうやら1本取られたみたいだしね」 「第一の質問ですが、その一筋縄ではいかない学園都市相手にあなたは何をするつもりですか?」 禁書目録の離脱、『必要悪の教会』の魔術師の敗北、そして聖人の肉体の奪取。 屈辱的なバチカン会議、『C文書』の破壊、そして結ばれた密約。 学園都市は、イギリス清教とローマ正教の両者に数々の痛撃を与えている。 もちろんロシア成教もそれらを全て把握しているわけではないが、ある程度は現在の力関係を読み取れた。 その二の舞になることだけは、避けなくてはならない。 しかし、ワシリーサにはプレッシャーを感じている様子は見受けられなかった。 文字通り、ロシア成教の命運を背負っているにも関わらず。 だから彼女は、質問したミーシャにこう答えた。 「何をするって……お話かな。それって結構大事じゃない?」 「第一の解答ですが、対話の重要性は理解しているつもりです。ですが……」 そもそも、この状況で何を話し合うのだろうか。 魔術サイドと科学サイドの溝は、極めて深い。 ましてや両者が手を結ぶことなど、非現実的だ。 そんな風に思うサーシャだが、ワシリーサは違った考えを持っているらしく、自信ありげに笑って見せた。 「もー、心配性なサーシャちゃんもカワユイなあ。大丈夫大丈夫、任せなさいって」 すたすたと先を歩くワシリーサを、小柄なサーシャが早歩きで追いかける。 彼女が追いつく直前、上司が漏らした言葉には気づかなかった。 「木原数多……あなたは不実で醜い大人なのかしらん?」 同時刻、胤河製薬学園都市支店 研究棟地下3階の一番奥で、とある老人が虚空を見つめている。 その表情は優しげで、かつて多くの子供を犠牲にしたマッドサイエンティストとは思えないほど。 「学園都市のモノとはまるで異なる法則……かつて私も、君と同じように魅了されたものだ」 「那由多をはじめ、多くの被験者を使ってそれに近づこうとした」 そこまで述べて、彼の言葉が一瞬詰まった。 優しげな表情が徐々に曇り、続く独白からは力が感じられない。 「……だがやがて悟ったよ」 「科学者では、立ち入れない一線があるのだと」 「数多、君はそれにいつ気が付くのかな?」 嘲笑と、悔恨と、ほんの少しの期待。 それっきり、彼は何も喋ろうとしなかった。 同時刻、『猟犬部隊』32番待機所 アビニョンから戻ってきたマイクは、木原に事の顛末を報告していた。 「――これらの点を踏まえ、『C文書』の奪還は不可能と判断し、焼却することにしました」 「なるほど。馬鹿かテメェは?」 そう言いながら、木原からはそれほど怒りは感じられない。 「だったら最初から爆撃機で事足りたろーがよぉ。部隊の派遣に幾ら掛かったと思ってんだ間抜け」 「申し訳ありません」 「……戦闘記録と、新型兵器の実戦データ。その2つに免じて殺しはしねぇ」 「ありがとうございます」 なんだ、それぐらいは予想できてたか、と木原がつまらなさそうに褒める。 内心綱渡りの心境だったマイクも、死なずに済んでホッと深呼吸した。 「つーかよぉ、すぐに忙しくなるんだ。正直無駄に殺してる余裕もねえ。これから挽回しろ」 「了解」 それから幾つかの伝達事項を確認すると、マイクはトレーニングルームへ向かった。 トレーニングルームには、ヴェーラとナンシー、エツァリとショチトル、そしてステイルが集まっていた。 「どうにか命は長らえた。ナンシーも安心していいぞ」 「……ふう、冷や冷やしたわ」 マイクの言葉でようやく安心したナンシーに、ヴェーラが飲み物を手渡す。 「良かったわねナンシー」 「ホント。木原さんの怒りは、何度経験しても慣れないのよ」 「まあ、何人も部下を殺すの見てきたもんね」 木原を好いているヴェーラがどこか平然と答えるのを聞いて、ナンシーは話す相手を間違ったと苦い顔をした。 「なにはともかく、まずは互いの無事を喜ぶことにしましょう」 「あ、そう言えば義手の調子はどうなのデニス?」 エツァリの言葉に反応したヴェーラが、彼の右腕を見ながら問いかける。 「問題ありません、良く馴染んでいます」 そう言いつつ、エツァリが右手をヒラヒラと振って見せた。 今回の戦いで、最も傷ついたのはエツァリである。 何しろ右腕を失ったのだ。 代わりの義手がすぐに用意されたとはいえ、復帰にはしばらく時間が掛かるだろう。 「『神の右席』を倒せたのですから、腕1本ぐらい安い買い物ですよ」 「エツァリ……すまない……」 それでも明るい彼とは対照的に、ショチトルが暗く沈んだ声で謝罪した。 「私がもっと役に立っていれば、こんなことには……!」 「自分を責めないでくださいショチトル。2人とも生きているんですから」 そんな2人を横目で見ながら、ステイルが煙草の煙をフーッと吐き出す。 「傷を舐め合うなら、話が終わってからにしてもらいたいね」 「どうせまた、ロクでもない仕事が待っているんだろう?」 ステイルの投げやりなセリフに、マイクが首肯して資料を取り出した。 同時刻、学園都市第11『門(ゲート)』管理室 普段なら有り得ない出来事に、門を警備する2人のアンチスキルが揃って困惑した。 「警察……?」 「何だってまた、警察が学園都市に?」 学園都市の警察業務は、アンチスキルやジャッジメントが代行している。 故に本職の警察が来ることはまず考えられなかった。 しかし今、闇咲と名乗る警官が、捜査のため立入許可を求めてきたのだ。 おまけに後ろには、短いスカートの修道服を着た少女までいる。 「君らで判断が出来ぬのなら、上層部に取り次いでもらいたい」 「――2年前の“文科省職員焼死事件”の捜査だと言えば通じるはずだ」 「はあ……少々お待ちを」 それから15分ほどして、闇咲とアニェーゼは中へ入る許可を得た。 学園都市に新たな火種が持ち込まれた瞬間である。
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最初に簡単な注意を ・主人公は木原数多と木山春生になります ・作者が台本形式を苦手としているため、セリフの前に名前はつきません ・恋愛要素が入ってきますが多分甘くなりません ・少し残酷な描写が含まれます これらの点を踏まえて、お付き合いしてくださる方はよろしくお願いします 人口の8割を学生が占める街、学園都市。 彼ら子供達は、特別な脳開発(きょういく)によって「超能力」と呼ばれる異能の力を手に入れている。 その多くは実生活で大して役に立たない程度の能力しか持たないが、中には軍隊と戦えるレベルの圧倒的なチカラを行使する者も存在するのだ。 当然ながら。 それほどのチカラを持つ学生を抱える学園都市には、小説20冊を割り当てても尚終わらないほどのストーリーが用意されている。 ――だがここでは、そんな学生達の話は語られない。 このちっぽけな、誰の目にも留まらないような片隅で語られるのは。 残る2割――科学者(おとな)達が繰り広げた、とある歪んだ物語。 第17学区の特別拘置所 『幻想御手(レベルアッパー)』事件と呼ばれる、1万人もの学生に生じた昏睡事件をとある少女が解決してから3日後。 まだ日が出たばかりの早朝、その事件の首謀者である木山春生を訪ねる者がいた。 「久しぶりだな木山ちゃん。じーさんの実験に参加してた気弱ちゃんが、まさかこんな派手な事をするとは思わなかったなぁ」 その面会に来た男の姿を見て、木山は驚愕し――次いで激怒した。 「貴様……木原数多か!」 「嬉しいねぇ。実験の手伝いをしてただけの俺を、フルネームで覚えてくれたなんて」 彼女の怒りをニヤニヤと受け流すのは、白衣を着た長身の男。 顔に特徴的な刺青を彫っていながら、木山春生と同じ学園都市の天才研究者。 そう。 面会人は、この特別拘置所にいる誰よりも悪党な存在――木原数多だった。 「忘れるはずが無い……貴様が木原幻生の一族で、あの実験の真の目的を知っていたのは分かっているんだ!」 「おいおい、落ち着けって。幻生のじーさんと俺は遠縁だし、あのチャイルドエラーも全員生きてるんだろ?」 「ふざけるな! 今もあの子達は目を覚まさないままなんだぞ……それが分かっているのか!」 「OK、じゃあその哀れなクソガキ共の健やかな回復をお祈りします。これでいいですかー?」 「な……」 あまりにもひどい木原の態度に、木山は言葉を失う。 だが木原は、彼女のそんな様子を一顧だにしないでこう告げた。 「大体、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム) 』の代わりに1万人のガキ共を利用しようと考えた木山ちゃんが、俺を責めるってどーなのよ」 「……それは!」 「可愛い教え子のためならぁ? 無関係な人間を巻き込んでもぉ? 全然構いませんってかぁ?」 そこまで言うと、木原はその顔に浮かべた笑みの種類を変えた。 楽しげなニヤニヤ笑いから、どこか深く淀んだ得体のしれないソレに。 「――その通りだぜ! 大正解だ木山ちゃんよぉ!」 「……何を、言っている……?」 子供のようにはしゃいだまま、木原は弾んだ声で喝采を送る。 「目的の為なら何だって利用するべきだ。そんな覚悟も出来ねえようじゃ科学者とは言えねえよなぁ!」 「いやー、俺は本気で嬉しいんだぜ、木山ちゃん」 そう言いながら彼が取りだしたのは、特殊な麻酔ガス入りのスプレーだ。 「俺らクズへの仲間入り、心からオ・メ・デ・ト・ウ」 「!」 ブシュー、と木山の顔に直撃したガスは、一瞬で彼女の意識を奪い取った。 何一つ抵抗できないままぐったりと倒れた彼女を見て、木原はスッと無表情になる。 「よし、さっさと連れてくぞ」 その声に応えたのは、彼の部下である『猟犬部隊』の1人だ。 「了解。……木原さんも一緒に待機所へ?」 「ん? いや、俺は後で合流するわ」 「そうですか。では我々は先に帰還します」 部下はそう言うと、あっさりと拘置所の牢を開けて木山を運び出した。 その光景を見ていた木原が退屈そうに漏らした、独り言に気付くことなく。 「――ようこそ黒く染まったシンデレラ。カボチャの馬車へご招待、てか?」 ましてや、木山が気絶した時に落としたロケットになど目もくれず。 唯一気付いた木原は、それを一瞥すると遠慮なく踏み砕いた。 「まあ、行先は素敵なお城じゃなくて地獄なんだけどな」 『猟犬部隊』のとあるアジト 木山春生が目を覚ましたのは、誰かに頭を小突かれたからだ。 「ちょっと、いい加減起きなさいよ」 「……ここは……?」 床に寝かされていたらしく、体の節々が痛む。 それを我慢してゆっくり起き上ると、目の前にいた2人の女性の片方が溜息をついた。 「珍しく木原さん直々にスカウトしたっていうから、どんな人間かと思えば……てんで使えそうにないんだけど?」 「状況の把握も出来ていない相手に、それは酷よナンシー」 「それ止めて。何がナンシーよ、馬鹿みたい」 「そう? 互いを呼びあえる名前は、こんな私達にとって貴重だと思うけど」 「はいはい。本当ヴェーラは変わってるわ」 (……) どうやら性格のきつそうな黒い短髪の女性がナンシーで、明るく人懐っこいセミロングの茶髪がヴェーラらしい。 たが、どうみても2人は日本人に見える。 「ここはどこだ? それに、君達は日本人ではないのか?」 「はぁ?」 木山の疑問に、ナンシーがとても嫌そうな顔をして首を振った。 「どう見ても日本人に決まってるでしょ。だから嫌なのよコレ」 「?」 頭が疑問符だらけの木山に、ヴェーラが端的に回答する。 「気にしないで。ナンシーとかヴェーラっていうのは、コードネームなの。私達はとっくに名前を失ったから」 「コードネーム、だと……?」 「あんた、木原さんから何にも説明受けてない訳?」 ナンシーのその言葉を聞いて、ようやく木山は自分が意識を失う前の事を思い出した。 (そうだ。私は木原数多によって、あの特別拘置所から連れ出された) (……だが何のために?) (確か彼女……ナンシーは、スカウトがどうとか) (スカウト……?) (確か、特別な境遇にある犯罪者は学園都市の暗部へ送られると聞いた事がある) (まさかこの私が、暗部落ちとは……) 「人の話を聞いてる?」 「!」 自分の状況を分析していた木山に、ナンシーが怒りを露わにして詰め寄った。 「質問ぐらい答えろっての。説明は受けたの?受けてないの?」 「あ、ああ、聞いてない」 ますます不機嫌になったナンシーは、チッと舌打ちしてそっぽを向いた。 代わりにヴェーラが、おどおどする木山に優しく説明する。 「詳しくは後で木原さんから聞けるでしょうから、簡単に言うけど」 「ここは『猟犬部隊』のアジト。私もナンシーもその一員。リーダーは木原さん」 「『猟犬部隊』……か。本物を見るのは初めてだ」 「おめでとー。ついでにここにいるのは、男女問わず軽蔑に値するクズばかりだから気負わなくていいわよ」 ヴェーラの冗談(ではないのだが)に、木山は力なく口元を歪めた。 その雰囲気が気に食わなかったのか、ナンシーが再び話しかけてくる。 「あんた人事みたいだけど、自分も今日からその仲間入りって言うのは分かってんの?」 「まあ、それぐらいは。拒否権は無いのだろう?」 「またしても大正解だぜ、木山ちゃん」 いつから話を聞いていたのか、タイミング良く会話を遮って木原がアジトに入ってきた。 特別拘置所で見たときと違って、両手にマイクロマニピュレータと呼ばれる金属製の精密作業用グローブを付けている。 「……念のため聞くが、私が黙って貴様の言う通りにするとでも?」 「分かってるくせに、そういう無駄なハナシは止めようぜ」 木原が取りだしたのは、木山のかつての教え子の写真。 「人質ぐらいは用意してるって、想像付いてたんだろ?」 「……クッ」 悔しそうに歯を食いしばる彼女の姿を見て、木原は交渉は終わったと判断したらしい。 写真を無造作に放り捨てると、すぐに本題を話し始めた。 「汚れ仕事を引き受ける『猟犬部隊』にようこそ。今日からしっかり働いてもらうぜ」 「……私はただの科学者だ。銃に触れたことも無い私に、戦いなんて無理だと思わなかったかね?」 「言ってくれるなあ木山ちゃん。『幻想御手』を使って大暴れしてたのはどこの誰よ?」 「だが、すでに『幻想御手』のネットワークは存在しない……」 「じゃあ、“また”作るか。ぎゃはははは! 今度は1万人と言わず100万人ぐらいに聞かせんのはどーよ!」 「何を馬鹿な!」 出来るはずが無い。 データは全て消去したし、一度事件を経験した学生が怪しい音楽ファイルに2度も引っかかるとは思えない。 (そもそもそれだけ大勢の人間に、短時間で特定の音楽を聞かせるなど不可能だ) 頭ではそう分かっているのだが。 目の前の男は、どれだけ突拍子もない事でも、実現させてしまいそうな雰囲気を持っている。 だが、木山の警戒を彼はあっさり否定した。 「冗談だって。そもそも木山ちゃんを戦闘要員で補充した訳じゃねーし」 「では、何のために彼女をスカウトしたのです?」 予想外の言葉に、ナンシーが首を傾げた。 ヴェーラも意外そうな顔で木原を見つめる。 「これは、他の連中が集合してから説明するつもりだったんだけどなぁ」 いつになく機嫌の好さそうなリーダーに、部下の2人はむしろ恐怖を感じるが。 木原はその怯えを感じ取った上で、逃がさないように1歩近づいた。 「これから『猟犬部隊』の戦う相手は大きく変わる。――『魔術』って知ってるかオイ?」 木原数多率いる『猟犬部隊』が魔術と交差するとき、物語は始まる――!
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【種別】 人名 【初出】 十二巻 【CV】 藤原啓冶 【解説】 学園都市の研究者の一部では有名な、『木原一族』の科学者で、 第一位の超能力者(レベル5)一方通行を直接開発した、能力開発のエキスパート。 つまり、学園都市で最も優秀な能力開発研究者である。 顔の左側の刺青と両手につけたマイクロマニピュレータが特徴。 暗部組織猟犬部隊のリーダー。 その中でも上の地位にいるらしく、アレイスターから直接指令を受けている。 部下を平然と使い捨てにし、雑草を抜くような感覚で躊躇なく人を殺す残虐な性格。 同じ猟犬部隊の隊員が意見しようとした際には、 部隊を人権もないクズの集まりと称し、作戦の邪魔をするなら殺しても構わないと言ったり、 失態に対しては死んだ程度では許さず、死体から心臓を取ってでもケジメを付けさせたりと、常人の枠を超えた残酷さである。 そもそも殺人に悪意とか良心の呵責が一切絡まないため、天罰術式にも引っかからなかった。 一方通行によれば、以前は「ヒトのツラァ見ンのにビビッて目ェ背けてたインテリちゃン」。 一方通行の高すぎる才能に怯えていた数多くの研究者達と同様だったらしい。…が、彼の性格や行いからはそんな様子は微塵も感じられない。 科学者としての能力も高く、ヴェントの天罰術式は非科学なのではと、伝聞だけで推察していた。 また科学サイドでありながらオカルトを否定しない稀有な存在。 何千何万と実験を行っていると、理論だけでは演算できない妙な数値がチラリと出てきたりもしていたらしい。 アレイスターの命令で打ち止めを捕獲するため現れ、 「『反射』を適用される直前に手を引き戻すことにより、戻るベクトルを反転=直撃させる」 という凄まじい理論の実践で一方通行を圧倒した。 十三巻においても、覚悟を決めて一段と手強くなり、 猟犬部隊を手玉に取った一方通行をも終始圧倒し続けたが、 全演算能力を失いレベル0となった一方通行に大苦戦。 最後は謎の黒翼を発現させた彼の手により吹き飛ばされて死亡した。 無力化したはずの一方通行に苦戦したのは、 木原の理論が「自身が開発したデータ」や『性格・行動原理』などを元に組まれた、 『対最強の能力者』専用のものだったことに起因する。 故に、正常な思考能力と異能を失った相手には必勝パターンが通用しなかったのである。 しかしその理論を用いても、一方通行を手玉に取る偉業には絶対的な格闘センスが必要なことに変わりはなく、 その点では木原は間違いなく天才であった。 その戦闘スタイルは木原円周に「金槌レベルの破壊力を顕微鏡サイズで制御する」と表現された。 なお一方通行側も、「反射」の角度・方向に変更を加えれば木原の体術に対抗可能ではあるのだが、 木原はそれさえも予測し対応できるほど能力者『一方通行』及びその脳に関して精通している。しかし、前述したようにそれほどまで一方通行に精通し過ぎていた事が最終的に彼の敗因となってしまうこととなる。 なお、作中で「一方通行は魔術(オカルト)にも能力を適応できるのか?」という疑問を初めて抱いた人物でもある。 【備考】 木原数多を演じた藤原啓治氏は2020年4月12日にガンのため逝去。 その後、ゲーム『幻想収束』にて、メインストーリー及びキャラクターに関する藤原氏のボイスが実装された(ライブラリ出演ではなく生前に新録されたもの)。 体調悪化のためか、アニメ『禁書目録II』とは声がかなり異なっている。 余談だが、数多に初めて藤原氏のボイスが付いたのは『禁書目録II』ではなくPSPゲーム版である(麦野沈利の小清水亜美氏と同じ)。 【参照】 →木原神拳
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【名前】木原数多 【スペック概要】猟犬部隊を率いる。木原神拳使い。高い格闘能力がある 【サイズ】 【攻撃方法】 木原神拳 拳の引き戻しで一方通行の反射を突破する。鉄パイプでもできる 携行型対戦車ミサイル 追尾ミサイル。余波のコンクリ片でワンボックスカーを引っくり返せる見込み。爆発至近距離の猟犬部隊が吹っ飛ぶ 対人殺傷用の手榴弾 金槌やノコギリなど収めた工具箱 【防御方法】 【移動速度:移動方法】 歩行 【反応速度】 一方通行の砂利散弾を避ける(少し離れている) 【特記事項】 ストラップ 一方通行の風向き操作を妨害する音波を発する 【基本戦法】 ミサイル発射
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8月22日午後2時00分、『猟犬部隊』32番待機所 「……時間だな」 会議室の机にだらしなく足を乗っけていた木原が、ゆっくりと起き上がる。 それを見て、彼の後ろに控えていたマイクとナンシー、そしてエツァリも警戒態勢に入った。 現在統括理事会を訪ねているロシア成教のシスター2名が、間もなくここを訪ねることになっているからだ。 その目的は不明。 だが公式な手続きを経ている以上、木原の権限で面会を断るのは難しい。 (十字教三大宗派が一角、ロシア成教の魔術師) (このタイミングで、いったい何を狙ってやがる……?) そして、場違いなほど明るい声が木原の耳に届いた。 「はろはろーん。学園都市の皆さんこんにちはー!」 同時刻、第1学区の合同庁舎ビル15階 木原が抱える問題は、これだけではない。 突然現れた外部の警察官による捜査も、同時に対応しなくてはならなかった。 本来なら木原ではなく他の暗部組織が片を付けるべき案件なのだが、今回はそうもいかない。 何故なら、やってきた警察官はこう名乗ったからだ。 自分は捜査零課の人間である、と。 それは眉唾物と思われた魔術サイド専門の部署を指す。 そして相手が魔術師ならば、それは木原率いる特別編成隊の管轄だ。 木原はしばらく考えた末、その対応をステイルとショチトル、そしてヴェーラに任せることにした。 選ばれた3人は、会合場所であるこのビルの応接室に先に到着している。 服装は、装甲服を警備員のものに偽装したものだ。 「どうして僕達が、日本の警察なんかの対応をしなくちゃいけないんだ」 苛立ちを隠そうともしないでそう述べるステイルに、ヴェーラが静かに反論した。 「木原さんの人選よ、間違いなく何らかの意味があるわ」 「ふん。それはどうかな」 ステイルが白煙を吐き出し、ジロリとヴェーラを睨む。 「そもそもあの男は、今回警察が何で来たのかも分からないと言っていたじゃないか」 「言ってたわ」 「だったら……」 「馬鹿ね」 ステイルの言葉を、ヴェーラが失笑気味に否定した。 「あの人が、自分の胸の内を私達ごときに教えるとでも?」 「な!」 「“分からない”はずがないでしょう? 既にあの人は、何手先をも見据えて駒を配置している」 「そんな当たり前のことも想像出来ないなんて、随分と素直な性格なのね」 「……チッ」 ステイルが悔しそうに顔を歪めるが、反論はしない。 けれど両者が険悪な雰囲気になったのは明らかだった。 そんな2人の間に、ショチトルが割って入る。 「2人とも、ここで争って何になるんだ?」 「「……」」 「私とステイルは、日本の警察を良く知らない。ヴェーラは魔術師についてあまり分からない」 「なら協力するしかないだろう。失敗なんかしたらエツァリお兄ちゃ……いや、とにかくマズいことになる」 ショチトルの訴えを聞いて一応は納得したのか、それ以上の言い争いはなくなった。 応接室の扉がノックされたのはその後すぐだ。 「失礼する。捜査零課の闇咲……む、これは……?」 「ちょっとちょっと、入り口で止まりやがるのはやめてくださいよ。入れねーじゃないですか」 闇咲が突然立ち止まったので、後ろにいたアニェーゼが文句を言う。 しかし彼は、彼女の話をまるで聞いていなかった。 普段は閉じている両目が、驚きでクワッと開いている。 その視線は、ヴェーラへとまっすぐ向けられていた。 「……2年前に焼死したはずの君が、何故ここにいる?」 木原による“先手”が、相手の思惑を嘲笑う。 8月22日午後2時05分、『猟犬部隊』32番待機所 ワシリーサがあまりにも楽しげに登場したので、マイク達は気勢を削がれて立ち尽くす。 「ロシア成教のお二人さん、ようこそ学園都市へ」 唯一動揺を見せない木原が、おざなりに歓迎の言葉を吐く。 それでもワシリーサは、嬉しそうにニッコリと笑った。 「そう言ってもらえると嬉しいにゃーん。あ、あとTV見ました、木原数多さんサインくださーい」 「……ワシリーサ」 サーシャが呆れたように注意するが、他の人間はそれどころではない。 特に魔術師であるエツァリは、ワシリーサの放つ圧倒的なプレッシャーに冷や汗が止まらなかった。 (『神の右席』に対面した時と同じような、圧倒的な魔術師としての“格の差”……) (何ですかこれは……『原典』……否、もっと違う“何か”だ) 隣にいるマイクとナンシーも、ワシリーサの得体の知れなさだけは鋭敏に感じ取っている。 今この場にいるのは僅か4人。 木山とインデックスは念のため別室に移動しているし、テレスティーナは今も地下で実験中だ。 いざとなればクローン部隊を使うとはいえ、エツァリは生きた心地がしない。 「俺もそちらさんの名前は知ってる。有名な童話のヒロインに出会えて光栄だ。……サインくれっかな?」 だからこそ、木原が平然とそう言い返した事に驚愕した。 「やだもー、ヒロインだなんて照れちゃう」 「第一の質問ですが、話が進みませんのでとっとと本題とやらに入ってはどうですか?」 「やん、サーシャちゃんったら怖い。じゃ、改めて名乗りましょうか。『殲滅白書(Annihilatus)』のワシリーサよん」 「サーシャです」 2人がそう言うと、マイク達が1歩近づいて少しばかり頭を下げる。 「マイクだ」 「ナンシー」 「デニスと言います」 そして最後に。 「木原数多だ。この学園都市で、魔術サイドとの“交流”を任されている」 臆面もなくそう言い切った木原に、ワシリーサがますます楽しそうに笑顔を向けた。 「……交流、ね。良かったあ」 「いきなり攻撃されちゃうかもって、実は不安だったし」 欠片も怯えを見せずにそう言ってのけるワシリーサに、木原も同じ態度で言い返す。 「俺もだ。てっきり殴り込みに来たのかと思ってたんだが」 「うふふ、まさか」 腹の探り合いは、そこが限界だった。 それまでの空気を一変させ、木原が鋭く質問する。 「じゃあ目的なんだ?」 そしてワシリーサは、この場にいる全員を驚かせる一言を告げた。 「実はロシア成教から逃げてきました。だから学園都市で匿ってほしいな☆」 誰もが――木原ですら――驚いて言葉を失うが、この中で最も愕然としたのはサーシャである。 (え、は、へ?) (どういう事ですかワシリーサ聞いてませんよ知りませんよ何ですかこれはどういう状況ですかいい加減にしろよクソ野郎) (ちょ、ちょっと落ち着いてサーシャちゃん。口調がおかしいゾ?) ワシリーサの首を掴んでガクガクと揺さぶるサーシャだったが、やがて深呼吸して小声で尋ねた。 首に掛けた手は離さず、その力を少しも緩めないまま。 (……第二の質問ですが、何でこういう事に?) (えっとぉ、ニコライの指示でスパイ活動を……) (第三の質問ですが、嘘ですよね? ってゆーか、この訪問本当に上の方の許可を取ったんですか?) (……てへ) (それじゃあホントに反逆行為じゃねーか!) ブチ切れたサーシャが、完全に口調を乱してギュウギュウとワシリーサを絞める。 (ああ、Sなサーシャちゃんも素敵……けどだんだん目の前が暗く……) (第一の解答ですが、そのまま死ねこの変態) そんな2人を見ていた木原が、これからどうすべきか分析する。 (この女、目的がまるで見えねえ) (確かに懐に抱えるには危険すぎる爆弾だが……) (かといって、このチャンスを捨てるのもな) すでに結構な量の問題を抱えているのだ。不用意なリスクは避けたい。 では、彼女達を安全に活用する方法はあるか。 ――ある。 (ワシリーサか……用意していたカードの1枚、切る価値はありそうだ) (フィアンマに連絡を入れておこう) (こっちの世界の木山ちゃんにもな) こうして、その日のうちに“元ロシア成教『殲滅白書』”の修道女2名が、新たに猟犬部隊へ加わった。 (虎穴に入らずんば虎子を得ず。これからが楽しみね、木原数多)
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8月22日午後2時10分、第1学区の合同庁舎ビル15階 予想だにしない展開に、闇咲は沈黙した。 今回の捜査は、2年前の“文科省職員焼死事件”に関するものだとあらかじめ伝えてある。 その会合に焼死した当の本人が出てくるなどと、予想できるはずがない。 (何のつもりだ……?) (捜査零課の名を出した以上、間違いなく木原数多が手を出してくると思っていたのだが) (……いや、むしろコレが木原数多の意図だとすれば) 闇咲が1つの可能性に思い至ると同時。 彼以上に唖然としていたヴェーラが、焦燥も露わに立ち上がる。 否、立ち上がろうとしてステイルに阻まれた。 ヴェーラは咄嗟に振り払おうとするが、ステイルがそれを一喝する。 「落ち着け。君がここにいるのも“あの男”の人選なんだろう?」 「けど……私の事がバレてるなんて……!」 「だから落ち着けと言っている。大人しく座ってればいい」 それだけ言い捨てると、ステイルは闇咲へ向き直って不敵な笑みを浮かべた。 「さて、とりあえず事情を説明してほしいな。何せ僕達は、上司からこの会合の目的すら聞かされていないからね」 非常識極まりない要請を、彼は堂々と口にする。 だがそもそもこうなったのは、リーダーである木原が情報を伏せていた所為であって不可抗力だ。 その開き直った態度に一瞬面食らった闇咲だが、彼はやがて、ふむ、と頭を掻いて説明を始めた。 「私が学園都市に来たのは、2年前のとある事件の再捜査の為で――」 こうして、ステイル達はヴェーラが過去に巻き込まれた事件を知ることになる。 大方の概要を説明した闇咲に、ステイルはフンと鼻を鳴らした。 この話を聞いて、彼は木原の目的を理解したからだ。 「話は分かった。そこの彼女が焼死したとされる事件について、調べに来たわけだ」 「ああ」 「だったら、話はこれでオシマイだね。見ての通り、彼女はそこで生きている。以上」 「……ふざけているのかね?」 「いいや、大真面目さ」 並の人間なら耐えられそうもない闇咲の威圧感を、ステイルは気にも留めない。 むしろそれを楽しむかのように一呼吸おいて、彼はゆっくり会話を続ける。 「真面目に、本題に入れと言っているんだよ」 それを聞いて、隣にいたヴェーラもようやく理解した。 自分がここにいる意味と、ステイルが選ばれた訳を。 「あの男が彼女をここに寄越したのは、下らない“建前”をさっさと終わらせるためだ」 「ほう」 「捜査零課が、たかが1人の行方不明者の為に動くはずがない」 「そうだろう? 神道系魔術師を統括し、この国における魔術関連事件を一手に引き受けている君達はそこまで暇じゃないからね」 「ふ、詳しいな」 闇咲の純粋な賞賛が、ステイルに贈られる。 「どうも。で、学園都市に目を付けた本当の目的は?」 彼はそれを軽くあしらいつつ、さらに鋭く切り込んだ。 「……」 「……」 両者の沈黙を破ったのは、言葉ではない。 キリキリ……という何かを引き絞るような音。 「!」 闇咲の右腕に装着された、梓弓の絡繰りが動いた音だった。 同時刻、『猟犬部隊』32番待機所の地下研究所 ロシア成教や捜査零課といった新たなファクターを迎え、目まぐるしく変化する周囲の状況。 そんな中、テレスティーナは1人研究に没頭していた。 何しろ“敵”は幾らでもいる。兵器開発の手を休ませるわけにはいかない。 「あら、ここでエラー?」 とはいえ、そんな理由は後付けだと言える。 ただ単純に彼女は研究や実験が大好きなのだ。 ましてや、とびっきりのモルモットが手に入ったとなれば尚の事。 「じゃあこれでどうかしら?」 キーボードの上に這っている手が、高速でコマンドを修正して打ち直す。 その度に真横で痙攣する物体など、テレスティーナは見向きもしない。 その物体こそ、眼球・声帯・四肢を切り取られた五和である。 しかし、彼女を知る人物は誰も彼女を五和だと認識出来ないだろう。 頭髪は抜けきり、顔面は歪に変形してしまっている。 止まらない涙と涎、そして汗で皮膚はかぶれてボロボロ。 さらに苦痛のあまり力みすぎて、各部の毛細血管が破裂して全身が真っ赤に染まっていた。 だがそれより重症なのは、彼女の内面だった。 五和を認識出来ないのは知り合いだけではない。 “本人”ですら、もはや自分が誰だか分かっていないのだ。 何日も絶え間なく続く実験。 それはテレスティーナによって脳を弄られていた事を意味する。 「……っ」 「……!」 肉体的には死なないように調整された上、その叫びはモニターに表示される数値のみ。 学園都市製の悪趣味な機械装置を大量に取り付けられた今の彼女は、呼吸するだけの肉塊と成り果てていた。 ――エラー:変換エネルギー、目標数値に届かず。4,574,164/69,882,735 ――エラー:想定された物理現象を計測せず。 ――エラー:原因の分析。失敗。入力した理論式を確認してください。 「おかしいわね。魔力変換コードに異常はないはず」 「これが能力者なら、脳内回路を精査するだけでいいんだけど……」 現在テレスティーナが行っているのは、外部からの刺激による魔術の発動実験だ。 もしもこれが成功すれば、クローン部隊を使って魔術を扱うことが出来る。 いずれは、禁書目録の知識を利用した大規模魔術だって展開可能になるかもしれない。 だが、その分析は難しく困難を極めた。 「やっぱり、比較サンプルが必要よね」 モルモットが1匹だけでは、自ずと研究にも限界がやってくる。 彼女は残念そうに嘆いて、『歩く教会』の開発ブースへ出かけて行った。 同時刻(日本時間)、ランベス宮のとある一室 選ばれた3名の女性魔術師が、部屋の清掃や魔術の構築を行っている。 構築された魔術は、いずれも精神系の回復術式だ。 その対象となるのは、部屋の中央、馬車を象った大理石の上で倒れ伏す1人の女性。 3週間前に、学園都市で木原とテレスティーナに敗北したゴーレム使い。 暗号解読のスペシャリスト、シェリー・クロムウェルである。 「これで本日は終了ですね」 「はい」 「では退室しましょう」 いつも通りの日課をこなした魔術師達は、速やかに部屋を出ていく。 彼女らが退室した直後。 「…………」 静寂が支配するこの部屋で、ゆっくりと人影が起き上がった。 「…………」 暗闇の中、血走った眼を爛々と光らせながら。 同時刻、天草式十字凄教のとある拠点 学園都市から逃げた建宮達25名は、これからの策を話し合っていた。 だが、相手の圧倒的な索敵能力に対抗する方法は存在しない。 「一番確実なのは、木原数多を学園都市の外へ誘き出す事よな」 「確かに。だが向こうも、そう易々と出てきたりはしないだろう」 建宮の言葉を、諫早が首を振って否定する。 先の戦いで仲間の半分を失ったのだから、消極的になるのも当然だ。 「ん?」 その時、建宮の携帯から場にそぐわぬ明るいメロディが流れた。 警戒しつつ彼が応答すると、電話相手は感情が全く読めない声色でこう述べる。 『天草式の方々ですね。木原数多を抹殺する方法、お教えしましょうか?』
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「ギャハハ!よぉく逃げ回ったにゃーん?褒めてやるよ『グループ』!」 エツァリは単純に、逃げ回って時間を稼いだ。能美クドリャフカを逃がして、建物の中で支給品の手榴弾で決着させる。 だが、現実は甘くはなかった。麦野の『原子崩し』は手榴弾を空中で焼ききり、破壊する。 エツァリは再び手榴弾のピンを引くが、麦野の手から数多の閃光が噴き出し、撃ち落とす。 「(ここまでですか。すいません、御坂さん…。)」 そして、エツァリの心臓を『原子崩し』が撃ち抜き、絶命させた。 「こんなもんかにゃーん?」 麦野は口元を邪悪に歪め、別の方向を向いて歩きだした。 ★ 「超うるさいですね…戦いでしょうか?」 「筋トレの音には聞こえないな。へっ、最愛。俺の筋肉にお前の能力があれば無敵だぜ?」 「私の『窒素装甲』に筋肉は超関係ありませんからね」 くだらない会話を交わす中、桃色の髪をした小柄な少女が足取りもふらふらになって歩いてきた。 ただ事ではないーーーー。真人と最愛は直感し、身構える。 「駄っ……目っ!逃げてえっ!」 少女の後ろから現れたのは、最愛にとって驚愕だったろう。片腕と片目を能力で補った第四位の超能力者が、そこにいた 「………麦野…ッ!?」 「ハーイ、絹旗。今なら即死コースもあるけどどうするかにゃーん?」 絹旗は窒素を纏い、麦野に突撃する。麦野は笑いながら、ショットガンを撃って少しずつ装甲を削っていく。 押し負ける。絹旗は地面を殴りつけ、衝撃波で麦野のバランスを奪う。当たれば勝てる。絹旗は堅く拳を握り、麦野の顔に放つ。しかし、莫大な閃光が絹旗を襲った。 かなりの速さで装甲を削り、更に身動きも取れない。完全な王手だ。 パシュウッ、と一本の光が絹旗の腹を撃ち抜く。血が噴き出し、倒れる絹旗。 最後に見たのは、かつての仲間達の笑顔。走馬燈の中、光が自分を撃ち抜くのを待った。 その時だった。真人が、絹旗をかばうように前にたったのだ。 胸に穴が開き、絹旗と同じく倒れ伏した。 興味を失ったように麦野は逃走した少女を追うために去る。 「貴方…本当に超超超馬鹿なんですね」 「うるせえな…。俺は筋肉馬鹿だよ」 「で…も。あな…たの…お…友達も…生き残……ってる…と…いいで、すね。わ…たし…も…次は…光の中で…浜面たちと…楽し…く」 絹旗は二度と目を開けなかった。真人はああ、きっとそうなるさ、と言ってやった。 真人にも訪れる最期の時。なにを想い、誰に言ったかはわからないが、 「ーーーーーこれも永遠だよな、最愛」 そして真人も二度と目を開けなかった。 【エツァリ@とある魔術の禁書目録】 【絹旗最愛@とある魔術の禁書目録】 【井ノ原真人@リトルバスターズ!エクスタシー】 死亡確認 【残り20/30人】 【一日目/夜明け/a-3商店街】 【麦野沈利@とある魔術の禁書目録】 [状態]高揚感 [装備]ショットガン [所持品]基本一式、不明1 [思考・行動] 基本:優勝して浜面仕上に復讐する。 1.楽しいねえ! 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]疲労(大)、精神的ダメージ(大) [装備]なし [所持品]基本一式、不明2 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1.怖いよ…。 遙か彼方-僕らのstory- 投下順 すれ違いの切なさ 遙か彼方-僕らのstory- 時系列順 すれ違いの切なさ 疾走する魔術師のパラベラム エツァリ GAME OVER 起こすぜ筋肉旋風(センセーション) 絹旗最愛 GAME OVER 起こすぜ筋肉旋風(センセーション) 井ノ原真人 GAME OVER 疾走する魔術師のパラベラム 麦野沈利 まどかアーチャー 神が下す審判 鹿目まどか まどかアーチャー
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8月1日午前11時00分、『猟犬部隊』32番待機所 時刻は遡り、侵入者を感知した後の作戦会議。 「よし、そろそろ作戦を開始するか」 「獲物は上手い具合に分かれてくれたし、2チームで戦闘を行う」 「……チーム分けは、どうしますか?」 マイクの疑問に対し、木原は。 「良く聞け、男の方の相手をするのはテレスと猟犬部隊4人、それにMARから数人ってトコだな。あ、ショチトルも同行させる」 「で、では……!?」 「ああ。女の相手は俺と木山ちゃん、そして“デニス”の3人って事だ」 あまりに戦力が偏った指示に、マイク達は返答が出来ない。 唯一テレスティーナだけが、眉をひそめて抗議する。 「……女の方が厄介だってのに、どういうつもり?」 「分かってねーなぁ。あの女と警備員との戦いをちゃんと観察すりゃ、むしろこっちの方がやりやすいって丸わかりだろーが」 「……?」 「とにかく、油断するなよモルモット。失態を見せたらテメェでも遠慮なく心臓(パーツ)採取だからよ?」 「ふん。『超大型駆動鎧』が調整中でも、侵入者1人ぐらいどうとでも出来るっつーの」 その時、唯一名前を呼ばれなかったインデックスが会話に加わった。 「私は、どうしたらいいのかな?」 「決まってる。――留守番だ」 「え!?」 「下手に現場に連れて行って攫われたら、元も子も無いじゃねーか」 「……」 「だから、代わりに皮膚を寄こせ」 それにピクリ、と反応したのはアステカの魔術師2人だ。 「まさか、この子の姿になれと?」 「当たり前だろうデニス。2人ともガキに化けておけば、敵はどちらも魔術を使えないからな」 「……もし偽物だと気付かれたらどうするのだ?」 ショチトルがそう尋ねるが、木原はその心配を一蹴した。 「戦局はこっちがコントロールするんだ、気付く暇すら与えないように攻撃の手順を組め」 「ま、その辺はテレスが熟知しているから問題ねーしな?」 そのまま答えを聞かずに、木原はインデックスに向き合って薬品を取り出す。 「これは麻酔だ、皮膚を切る痛みは無ぇから安心しろ」 「……でも……」 「今までお前を追ってきたアイツらの前に、バカ正直に本人を連れて行くのはアホすぎる」 「だが『禁書目録』がいると思わせるだけで、アイツらの行動は制限可能なんだ」 「――頼む、俺達に力を貸してくれ」 殊勝にも丁寧に頼み込む木原だが、当然これも作戦の1つだ。 手っ取り早く腕の一本を切り落とす程度、彼は毛ほども躊躇しない。 インデックスから無理やり皮膚を剥く事と、自発的に提供させる事。 彼が後者を選んだのは、単に後々の作戦効率を考えたからだ。 (あのゴーレム使いがやられた直後に敵地(がくえんとし)に乗り込んできたって事は、それだけの理由が存在するって意味だ) (今この状況で魔道書を狙う連中が来るとも考えにくい) (となれば十中八九、あのガキの知り合いだろう) (コイツの姿を見せるだけで動揺を誘えるし、場合によっては……) (なんにせよ、“全て”の条件が整うまではガキを有効活用しなきゃな) (……大切な『魔道書図書館』サマだし) 誰よりも。 ひょっとしたら、あのイギリス清教よりも。 木原数多こそがインデックスを人間扱いしていない事に、当の本人は最後まで気付かなかった。 8月1日午前11時35分、第7学区のとある広場 自分を取り囲んだ敵に対し、ステイルは落ち着いて炎剣を振るう。 (どうやら、先ほど戦った人員とは“種類”が違うらしい) (人を殺す事に手慣れている……科学側の暗殺部隊ってところかな) (……相手をするだけ無駄だろう) 警備員や警備ロボとは異なり、駆動鎧やショットガンで武装を固めている敵を前にして。 ステイルはこの場からの退却方法を考え始めた。 「――ちょっと待って欲しいんだよ」 自分が最も大切にしている少女の声が、その耳に届くまでは。 思った通りに動きを止めた侵入者の姿を確認して、テレスティーナは満足そうに笑った。 「アッヒャッヒャッヒャッヒャ! その反応からすると、やっぱりただの敵じゃねーって事か!」 「な、ここに連れてきていたのか!?」 「テメェは自分の身を心配しろや、魔術師!」 「く……」 テレスティーナの操る駆動鎧が、高速でステイルに殴りかかる。 結果目の前にインデックスがいるにも関わらず、ステイルは引き下がらざるを得なかった。 ルーンを極めた天才魔術師である彼は、優秀なその実力を持って数多の魔術結社を1人で灰燼へ還した実績を持っている。 ただし、相応の犠牲を彼は支払っているのだ。 すなわち体力や接近戦能力。 ひたすらにルーン魔術のみに特化した彼は、それ以外の全てが一般的な魔術師よりも弱まってしまった。 (仕方ない、ここで使うしかないのか……?) 引き換えに得たチカラは強力だが、事前の準備が欠かせない。 そしてそれはまだ完了していなかった。 (周りに配置したルーンはおよそ一万枚、万全には程遠いが……!?) ステイルの思考を遮るかのように、マイクが閃光手榴弾を幾つか放り投げた。 ――『絶対等速』の能力を使って。 (なんだこの遅さは!?) 不気味に迫ってくる脅威に対し、ステイルは炎剣で薙ぎ払おうとするが。 「甘いな、魔術師」 炎剣が到達する直前にマイクは能力を解除した。 そして閃光手榴弾は、重力に従って落下する。 「!?」 薙ぎ払う為にそれを凝視していたステイルは、当然閃光も見る事になり。 「う、わあぁぁぁぁぁ!」 学園都市製の光が、彼の視界を焼きつくした。 作戦通りに事が運んだので、マイクは安堵を隠せない。 そもそも能力のこういった変則的な使用方法は、猟犬部隊に入ってから木原によって仕込まれたものである。 もしもそれで失敗していたら、間違いなく木原によって殺されていただろう。 「よし、ナンシー捕獲しろ」 「了解」 両目を覆って叫ぶステイルを捕まえようとして、猟犬部隊が走る。 が、テレスティーナがそれを阻んだ。 「テメェら避けな!!」 「!」 もしもその警告が無かったら、今頃ナンシーは炭になっていたかもしれない。 先ほどの炎剣とは比較にならない熱量が、ステイルの前に猛然と現れたのだ。 「その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)」 「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)」 「――魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」 ステイル・マグヌスという天才魔術師が、1人の少女の為に己を犠牲にして習得した絶対のチカラ。 それは、まさに魔術を象徴する怪物。 紅蓮の炎が人の形をとり、全てを圧倒して君臨した。 「炎の巨人だと……信じられん」 あまりに非現実的な光景に、ステイルを囲んでいた全員が唖然とする。 「悪いが、僕の視界を奪ったぐらいで勝った気にならないでもらえるかな?」 「あの子がここにいる以上、君達を焼きつくして保護するまでだ」 この時、ステイルの視界が回復していれば。 テレスティーナの表情に。 インデックスの姿をした少女の表情に。 違和感を感じたかもしれなかった。 ――だが、そんな未来は訪れない。 8月1日午前11時50分、第7学区のとある広場 燃え盛る炎の巨人を前にして、テレスティーナは舌打ちした。 (あー、殺せないのってタルいわね) (とっとと撃ち殺しゃ早いっつーのに、生け捕りとか言いやがってあの数多(ゴミ)が!) (にしても……どうやら超能力と違って、アレは自律行動をとれるらしいな) (めんどくせえ、こいつを使うか) 彼女の装着している駆動鎧の右手。 そこに備わっているのは、『書庫』に登録されている御坂美琴の能力を解析して作り上げた、超電磁砲(レールガン)だ。 連発こそ出来ないが、その分一撃の威力は並大抵のものではない。 木原数多の指示は魔術師の生け捕り。 である以上ステイル本人を狙う訳にはいかないが――。 (あの炎の巨人を、吹っ飛ばしてやんよ!!) ステイルを守るように立ち塞がるイノケンティウスなら、攻撃しても構わないはず。 そう判断したテレスティーナは、全力で超電磁砲を発射した。 「これで……!」 炎とは全く異なる人工的な青白い光が、轟音と共に眼前のイノケンティウスを跡形も無く吹き散らす。 テレスティーナはにんまりと笑みを浮かべようとして、そのまま凍りついた。 「呆れるね、そんな事で僕のイノケンティウスを破れるとでも?」 「……んだとぉ……どうなってやがんだ、あァ!?」 周りに散ったはずの炎が、ビュルン!!と得体のしれない音をたてて再び集合したからだ。 (強力な自己再生能力……?) (いや、燃焼現象を固定化する能力か?) (あの超電磁砲の威力なら、ごく短時間とはいえ燃焼に必要な酸素量を周辺から弾き飛ばすハズだけど) (……魔術……ねえ) 理屈はともかく、現状ではあの炎の巨人を無力化するのは不可能らしい。 「炎を攻撃しても、無意味なんだよ」 「!」 そこに聞こえてきたのは、インデックスに化けたショチトルの声だ。 ステイルに疑われないように、そしてステイルを追い詰める為に、魔術の解析を行っている。 その方法は極めて簡単だ。 今までの戦いをアイ・カメラで見ていたインデックス本人が、無線でショチトルに適切な指示を出しているだけ。 そうする事で、彼女は本物と全く同じ言動をとる事が出来るのだ。 無論、これも木原の作戦である。 「この魔法はルーンを使った迎撃魔術。辺りに刻まれたルーンを消さないといつまでも倒せないの」 「ルーン? 古代言語の?」 「そう。多分、この広場一帯に張られた紙1つ1つにルーン文字が書かれているのかも」 スラスラと魔術を看破していく少女の姿に、ステイルが歯ぎしりした。 「……君は、何故こんな奴らに……!」 「あなたは私の敵だから」 インデックスの指示による言葉ではなかった。 それは紛れもないショチトルの本心。 かつてエツァリとショチトルは、『原典』所持の罪でイギリス清教の魔術師に捕まっている。 捕縛者は他でもない――ステイルと神裂だ。 (組織から私を助けてくれたエツァリお兄ちゃんを、よくも捕まえてくれたな) (絶対に許さない。お前も、あの得体のしれないキハラも!) エツァリを人質にされているので、その木原に利用されていると知りながら従うしかない。 となれば、その行き場のない感情は当然ステイル1人に向けられる。 その悲痛な姿を見ていたテレスティーナが、心の中で嘲った。 (まんまと乗せられやがって、バカじゃねーの) (これも全部あの数多(カス)の思惑どおりだって事に、どうして気付かないのかねえ) エツァリにはショチトルを、ショチトルにはエツァリを。 互いを人質にすることで、表面的な反抗を抑え込む。 それだけではない。 あえてこの段階で“敵”であるステイルと対峙させることで、現在おかれている状況を作りだしたのはイギリス清教だと思い込ませる事が出来る。 ――インデックスと同様に。 (せいぜい憎むのね。その感情ごと利用してあげるから) (……ふふ。素直な子供って本当にステキ) 既にこの時。 悪意と言う名の『糸』は、静かに魔術師達に絡みついていた。 インデックスの助言を受けたテレスティーナ達は、迅速に行動を開始する。 「ブルーマーブル、付近一帯を“清掃”しな!」 「了解!」 MARのブルーマーブル隊5名が、思い思いの武器で辺りのコピー用紙を塵にしていき。 さらに、付近の清掃ロボを大量に広場に呼び寄せた。 只でさえ数の足りていなかったルーンが、みるみるうちにその姿を消していく。 「けど、その前に……イノケンティウス!」 「お前の相手は俺達だ」 焦って指示を出すステイルへ、マイク達猟犬部隊が立ち塞がった。 「邪魔だ素人が!」 「ナンシー、ヴェーラ、あの炎の移動速度は覚えたな?」 「ええ。一定の距離を取ったまま時間を稼ぐわ」 イノケンティウスはかなりの脅威だが、自動追尾ゆえか標的を追う際に一定のタイムラグが発生する。 1対1で倒さなくてはならないならともかく、複数の人間で単に逃げ回るだけなら。 相応の訓練を受けた『猟犬部隊』にとって不可能な任務では無くなるのだ。 何しろここは学園都市。 異能を相手に戦う事など、日常茶飯事なのだから。 こうなってしまえば、後残るのは目の見えないステイルだけ。 戦力を分断されたステイルに、テレスティーナが一瞬で肉薄した。 「ほーら、手品はオシマイなのかしら」 「!」 高速で繰り出されたローキックが、ステイルを狙う。 (殺さない程度には手加減してやんよ!) だが、またもテレスティーナの目論見は外れる事になった。 (……感触が……ない!?) (バカな、一体何をした!?) 直撃するはずの蹴りが、手応えの無いまま空を切る。 確かにその場にいるはずのステイルが、奇妙に揺らいで笑ってみせた。 「確かに、僕では勝てそうにないな」 「――だから一先ず退散するとしよう」 その背後では、ルーンを消されたイノケンティウスが儚く消えかかっている。 それでもステイルの声色は、余裕が感じられた。 (幻覚……うざってえ真似を!) テレスティーナが歯ぎしりするが、どこにもステイルの姿は確認できない。 このまま逃がすと厄介だ、と彼女が焦燥を覚えるより早く。 「……悪いが、俺達『猟犬部隊』は一度狙った獲物を逃がさない」 静かにマイクがそう告げた。 「ヴェーラ、“どこ”だ?」 「そこから右に8m、前に12m。インデックスの後方に反応アリね」 直後、指示通りの場所をナンシーが体当たりした。 「ぐはっ」 「残念でした。姿を隠したぐらいじゃ私達は誤魔化せないわ」 隠れてインデックスを連れて行こうとしたステイルが、うめき声を上げる。 すでに蜃気楼はかき消えて、彼はその姿をハッキリと晒してしまっていた。 「何故、だ?」 「俺達は鼻が利く、それだけの事」 「……くそ、こんなところで!」 マイクの冷徹な声に対し、ステイルが無念を叫ぶ。 人の視界を欺く蜃気楼では、匂いまでは操れない。 ヴェーラの持っていた『嗅覚センサー』は、ステイルの居所を完全に探知していたのだ。 幾つか計算外の事がったとはいえ、無事に標的を捕まえた事にテレスティーナは満足していた。 もしもこの作戦を失敗したら、間違いなく木原の怒りを買っていたのだから当然だが。 「殺すなら、さっさと殺すといいさ」 そんなテレスティーナに対し、拘束されたステイルが挑むように言葉を発した。 「あぁ?」 「言っておくが、僕からイギリス清教の情報を得ようなんて考えても無駄だよ」 「……」 「拷問にかけたところで、絶対に口を割ったりはしないからね」 「……」 じゃあ死ねよ。 そんな風に投げやりになるテレスティーナだが、ふとある事を思い立った。 (そういえば、数多(クズ)から面白い報告が来てたな) (イギリス清教による非人道的な記憶利用だっけか) (コイツはその事を知ってんのかねえ) その情報を使ってみるか、と呟いてテレスティーナはステイルに近づく。 「ねえ。今から話す事を聞けば、世界が変わって見えるかもしれないわよ?」 「何を言っている……?」 今さら丁寧に語りかけてくるテレスティーナに、ステイルは怪訝な表情を見せた。 それから15分ほどの時間。 他ならぬ自分の所属していたイギリス清教が、何よりも大切な少女を今まで苦しめていたと聞かされて。 「最大主教が、そんな事を……!」 ステイルは極度の混乱状態に陥った。 「今も無事なあの子の姿がその証拠。記憶のしすぎで人が死ぬなんて有り得ないわ」 「あの子を助けたいのなら、私達と共に行動しなさい」 「……」 「今死ぬよりも、ここであの子と一緒に生きた方が幸せだと思うけど?」 「……」 それからたっぷりと100秒近くが経過した後。 「……分かった。あの子を守れるなら、幾らでも無様に生きてやる」 「そう、良い子ね」 イギリス清教『必要悪の教会』所属の魔術師、ステイル・マグヌスの猟犬部隊入りが決定した。 (ここまでやれば十分か) (……いや、どうせなら完璧に心を折っておこう) (おもしれー事思いついたし) 「じゃあ、最初に頼みたい事があるのだけれど?」 「いきなりかい」 「そうよ、言わば入社試験ね」 「何をすればいいんだ?」 「簡単よ。――あなたの元同僚を殺すお手伝いをしてほしいの」 ステイルは、言われた言葉の意味が本気で分からなかった。 「まさか、僕に神裂を殺せと!?」 「あの女、神裂っていうの。……別に直接手を下す必要はねーよ。そのお手伝い」 「そんな事出来……」 「言っておくがな、」 抗弁するステイルを、テレスティーナは一言で抑えつける。 「もし逆らうなら、今ここであのガキの頭を吹き飛ばす」 「な!?」 「考える時間は3秒。その間にハイと言いな。さもなきゃガキの脳みそとご対面ね」 楽しげに追い詰めるテレスティーナは、わざわざ猶予など与えない。 「3、2」 「待て、言う通りにする!」 結果ステイルは、そう言うしかなかった。 「良く聞け数多、面白い事になったぞ」 『んー?』 「ちょっとした余興なんだけど」 後は、地獄まで一直線。 その作戦を気に入った木原により、即座に事態は進展する事になった。 8月3日午前10時00分、『猟犬部隊』32番待機所 木原の手により聖人である神裂が葬られ、同時にステイルが猟犬部隊に入ってから2日後。 その日も、いつもと同じように研究が進められていた。 ――彼らに1通の手紙が届けられるまでは。 「ようやくのお返事か」 仰々しい封筒を見た木原が、送ってきた相手の名を見て思わず笑う。 だが、その中身を一読すると一気に表情を変えた。 「……バチカンへの招待状、だと……」 世界の揺らぎは、さらに加速する。
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8月20日11時00分、『猟犬部隊』32番待機所 「ん……?」 地下の研究所から出てきたテレスティーナが、会議室で蹲る木山を発見した。 「ちょっとあなた、大丈夫?」 「ああ、ちょっと気分が悪くてね。すこし休めば良くなると思うんだが」 そう話す木山は、いつも以上にぐったりして見える。 公園からふらふらと帰ってきた後、彼女はずっとこんな感じで覇気を失っていた。 「それより、君は今までどこに?」 木山がふと気になって尋ねると、テレスティーナはニッコリと微笑んだ。 「ちょっと地下の研究所で実験をね。なかなか面白い研究材料が搬入されたから」 「……そうか」 傍から見れば魅力的なその笑顔が、木山の“何か”を刺激する。 (この嫌な感覚、どこかで感じたことがあるような) (何故だ……妙に心がざわつく……) それは消された記憶からの警告――だったのかもしれない。 「あれ、はるみ? お帰りなさいなんだよ!」 「!」 だが、とてとてと走り寄るインデックスの声が注意を奪う。 ステイル達の戦闘が終わり、インデックスはサポートをやめておやつを探しに来ていたところだった。 「ねえねえねえねえ、このおまんじゅうは食べてもいいのかな?」 「ああ、構わないと思うが」 木山の返答を聞くや否や、インデックスは嬉しそうにおまんじゅうを頬張る。 あっという間に4つが消え去ったところで、テレスティーナが話しかけた。 「ちょうど良かった、あなたを探していたのよ」 「ふえ?」 「また聞きたい事ができたの。少し時間をくれるかしら?」 「『歩く教会』のことかな?」 「……それも含めて、イロイロとね」 そのままテレスティーナとインデックスは、地下の研究所へ降りて行った。 嬉しそうにおまんじゅうを食べるインデックスを見て、木山は何とも言えない表情を浮かべる。 本人が手を下したわけではないとはいえ、天草式を虐殺した後なのだ。 カメラ越しにその光景を見ていたはずなのに、インデックスにそんな素振りは見えなかった。 彼女の性格が何か大きく変化したわけではない。 天性の明るさも、見る者の顔を綻ばせる愛くるしい表情も、旺盛な食欲も。 全てがそのまま残っている。 それでも、そこにかつての修道女インデックスは存在しなかった。 本来の彼女なら、他人の死を無感動に受け止める様な事は出来なかったはず。 「もうあの子は……」 その先を言えずに、木山が口を堅く結ぶ。 インデックスの精神に起きたのは、言うなれば一種の麻痺。 優しすぎる彼女の心が、直面する現実に耐え切れず石のように固くなってしまったのだ。 「……」 自分達が引き起こした悲劇。 木山は無言で自分を責め立てた。 地下の研究所へ向かうエレベーターの中で、テレスティーナは過去に思いを向ける。 かつて自分の祖父から受けた、苦痛極まりない『実験』。 その経験は、祖父である幻生が消えた後も色濃く彼女に残った。 “実験に際し一切のブレーキを掛けず、実験体の限界を無視して壊す” テレスティーナも、その矜持に従って壊された。 自分が壊れる音、それを世にも嬉しそうに眺める祖父の顔。 幼かった彼女はそれ以降変貌する。 (私はただのモルモットで終わるつもりはない) (木原一族の実権を握る。その為にはクソ忌々しい数多のヤツを引き摺り下ろす必要がある) そしてその手段を彼女は持っていた。 隣に居るインデックスに、心の中で語りかける。 (あなたには悪いけれど、犠牲となってもらうわ) (“この能力”を使うのは抵抗があるけれど、これが一番確実なのよね) 木原数多とは違い、テレスティーナは能力開発を受けている。 彼女がモルモットと呼ばれる所以だ。 普段は決して能力を使おうとはしないのだが、今回はその枷を外す。 「マーブルチョコ、食べるかしら?」 「もちろん食べるんだよ。ありがとう!」 その返事を聞いて、テレスティーナはチョコの入った筒をシャカシャカと振った。 「じゃあ、何色が出るが当てっこしましょうか」 「?」 「赤、青、黄、白、緑、茶、ピンク――どれが出てくるかしらね」 「……むうう……白かも!」 そして、転がり出たチョコの色は――。 同時刻、とあるビルの屋上 凶悪な夏の日差しが降り注ぐ中、1人の女性が汗ひとつ掻かずに立っている。 しかもそこは、手すりのない屋上の縁。 だと言うのに彼女は欠片も恐怖を感じた様子を見せなかった。 時折強く吹く風で、彼女の纏う白衣が激しくバタバタとはためく。 「ふふ」 そんな中、彼女が漏らした笑いは誰にも聞こえることなく風に溶け込んだ。 「準備は整った。間もなく“本当の”幕が開く」 「十字教三大宗派の最後、ロシア成教との接触がほど近い」 「かくて事象は決定し、歪みはやがて世界に至る」 「そうだろう、木山春生?」 そこに居たのは“木山春生”だった。 この世界について、少しだけ言及しよう。 統括理事長アレイスターが存在する世界をA世界、この世界をB世界と仮定する。 A世界で『幻想御手』事件を起こした木山は、B世界で拘禁された直後へと飛ばされた。 ならば当然、“B世界で『幻想御手』事件を起こした木山春生”が存在する。 そうでなくては彼女がB世界で拘禁されている理由がない。 この世界でも事件が起きたからこそ、スタートが特別拘置所だったのだ。 ただし、こちらの『幻想御手』事件の真相はA世界と大分異なっている。 「そもそも、こちらには君が救うべきチャイルドエラーなど存在しない」 「ふふ。つくづく救えないな」 1万人もの学生を利用した、前代未聞の凶悪事件。 それは教え子の恢復方法を探すためではなく、もっと利己的で醜悪な理由で行われた。 そして決定的な違いは、こちらの木山はわざと捕まったこと。 御坂美琴が事件を解決するように仕向け、異世界の来訪者を迎える準備をしたのである。 では、何故このような事を計画したのか。 答えは明白である。 別世界から飛んできた木山を、こちらの木山が利用するためだ。 それもとある人物の助けを借りて。 その人物とは誰か。 これも答えは明白である。 この世界で、A世界の『幻想御手』事件を知っていたのは彼女以外にただ1人。 「――と、電話か」 『よぉ。楽しそうだな、木山ちゃん?』 「そうでもないさ。向こうの世界の私が打ちひしがれているのを見るのは、さすがに辛いものがある」 木山春生をスカウトした、木原数多その人だ。 同僚だった木山との取引により、木原は別世界の木山を手中に収めた。 彼は特別拘置所で最初に木山と接触した際に、記憶の確認作業を行っている。 ――「嬉しいねぇ。実験の手伝いをしてただけの俺を、フルネームで覚えてくれたなんて」 ――「忘れるはずが無い……貴様が木原幻生の一族で、あの実験の真の目的を知っていたのは分かっているんだ!」 ――「おいおい、落ち着けって。幻生のじーさんと俺は遠縁だし、あのチャイルドエラーも全員生きてるんだろ?」 そして存在しないチャイルドエラーの事を持ち出して、確かに彼女が異世界の人間であることを確かめた。 『白々しいな。ま、こっちは魔術相手に楽しんでるからどーでもいいけど』 「提供した情報が役に立ったようで嬉しいよ」 そもそも、木原に魔術の存在を教えたのも彼女である。 故に木山は救われない。 異世界の自分をも利用した悪意――その歪みからは。 人質である教え子の写真も嘘、いずれは木原から教え子を助けるという希望も同様に。 ――「その辺が木山ちゃんは甘いからなぁ。まだ自分が救われると勘違いしてんだ」 最初から、木原はそれを分かっていた。 10分ほどして、木原達は会話を終える。 『――にしても、本当に木山ちゃんが呼び寄せたわけじゃないんだな?』 「ああ。向こうの世界の私が来た原因はこちらにはないよ」 『じゃあ、どうやってそれを予測した?』 「企業秘密と言っておこう。手札は残しておきたいからね」 『……今日はここまでか。またひと段落ついたら続きと行こうか』 「そうだね、君の活躍が楽しみだよ」 そして会話が切れる刹那、木原は楽しそうにこう言った。 『やれやれ。向こうの世界の木山ちゃんとは随分と違うな』 「……」 『まるで別人だぜ。なあ、本当に“同一人物”かよ?』 答えを聞かず、一方的に木原が電話を切る。 「やはり侮れないな、君は」 屋上にいた『人間』の賞賛は、この世界の誰にも届かない。
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8月20日午前9時50分、第7学区のとある路地裏 ルーン文字が焼き付いているここは、とある魔術師が用意した狩場だ。 「はあ、はあ、はあ……くそ、どうなってるんだ!?」 その狩場――否、処刑場から逃げる者がいた。 野母崎と呼ばれる、天草式の1人。 連絡の取れなくなった仲間の元へ駆けつけた彼は、そこで学園都市に有ってはならないものを目撃する。 すなわち魔術。 『魔女狩りの王』と呼ばれる、業火の巨人を。 「あ、あ、あぁぁぁぁ」 すでに対馬達は無残に焼き焦げた後で、怒りのままに突入した浦上達も同じ末路をたどった。 「あんなの……単身で勝てる相手じゃない」 紅蓮の手が迫る寸前、彼は身を翻して路地裏を脱出する。 「あの化け物に対抗するには、みんなの協力が必要だ」 「この事を早く教皇代理に知らせなくては」 通信術式を使用するため、一旦戦闘区域から離脱を図る野母崎。 彼の警戒心の全ては、背後の炎に向けられている。 だからこそ。 飛び出した自分を待ち構えていた、真っ黒な装甲服を着ていた女性に気づくのが、僅かに遅れた。 「ちゃお」 「!?」 ショットガンから放たれた散弾が、野母崎の胸部を一瞬で粉みじんにする。 醜く崩れた自分の体を知ることもなく、彼の意識はそのままブラックアウトした。 人の形を留めていない犠牲者の姿を見ても、ヴェーラは心が痛んだりしない。 彼女にとって、木原数多以外の人間は生きようが死のうが大して違いがないからだ。 「お疲れ様、ステイル。今からあなたの補佐をするからよろしくね」 「……ああ」 ただし、矛盾するようだが彼女は仲間思いでもある。 自分と同じく“木原に仕える”数少ない仲間は、例外として仲良くしたいと思っていた。 協調を求め、互いに信頼を築きたいとさえ願っている。 「周囲に反応。すぐに接敵するわ」 「……君は……」 「え?」 一見すると善人にしか見えないヴェーラの、根底に存在する歪み。 それに気づいたステイルが何か言おうとして、結局諦めた。 ――「蔑むべき『猟犬部隊』へようこそ。心から歓迎するぜ」 『必要悪の教会』とは、違った意味での汚れ役。 リーダーである木原自身が言った通り、ここにいるのは蔑むべきクズばかり。 そして皮肉なことに、ステイルも今はその一員なのだ。 「なんでもない。……いくぞ『魔女狩りの王』」 同時刻、第7学区の地下街 『エッジ・ビー』に発見されておよそ10分。 建宮は、付近にいた仲間20名と共に戦っていた。 優勢なのは天草式だ。 すでに『エッジ・ビー』の半数は無力化してある。 「お得意の科学ってモンに頼り切りじゃあ、これが限度なのよな!」 そう語る建宮を、『エッジ・ビー』が高速で追いかける――が。 突然、それは空中で動きを止めた。 その場をしっかりと観察すれば、『エッジ・ビー』のプロペラにあるものが巻き付いているのが確認できる。 鋼糸。 天草式が得意とする鋼糸は、空中の至る所で円盤を縛り上げていたのだ。 何しろ相手は機械的に追尾してくるだけ。 予め張ってある鋼糸の所へ誘導することは難しくない。 (いつまでも隠れたま、勝てると思うなよ木原数多!) その時だった。 『おいおい。ずいぶんと余裕だなぁ、侵入者?』 本能的に不快感を覚えるような声。 これ以上なく侮蔑に満ちた嘲笑が、どこからか聞こえてきた。 言うまでもなく、声の主は木原数多本人だ。 「ふん、やはり気づかれていたか。ようやくご本人の登場って事よな」 即座に正体を看破した建宮が、辺りを警戒する。 それは周りで戦っている仲間も同様で、自分達の女教皇を殺めた人物への殺意を漲らせていた。 『テメェらさぁ、もしかしてこの俺が痺れを切らして自ら出向いたとか思ってんのか?』 しかし、相手の木原の声からは戦闘時の高揚が伝わってこない。 むしろ退屈な映画を見てるかのような、怠惰な感じさえ受ける。 『俺を引きずり出してぇんなら、もうちょっと有能になる事だ』 ため息交じりの木原の言葉を、天草式が訝しむ。 「まさか……!」 木原の狙いに気づき、かつ反応出来たのは建宮を含む10名ほど。 鋼糸に捕まっていた『エッジ・ビー』が、一斉にピッと電子音を鳴らす。 「自爆だ!」 そして地下街に、爆風と轟音が炸裂した。 気づくのが遅れた天草式のメンバーが、抵抗も許されずに吹っ飛ぶ。 とっさに術式を構築して踏みとどまった者には、何百もの釣り針が襲い掛かった。 伏せたりして身を守った人間もいるが、彼らとて安心する余裕はない。 爆発によって鋼糸は千切られた。 つまりもう同じ作戦は使えない。 体勢を整える間もなく、残った半数の『エッジ・ビー』が彼らに攻撃を開始する。 『ほぉーら、そろそろウォーミングアップは終了だろ。もっとやる気出してくれよ』 『ま、こっちとしちゃあこれでほぼチェックメイトなんだけどな』 学園都市に侵入したのは、50名で構成された天草式の魔術師。 うち12名は、ステイルとヴェーラによって対処済み。 しかも、『エッジ・ビー』が地下街に隠れていた20名を発見、半分は戦闘不能にした。 すでに天草式は散り散りとなったも同然。 (わざと『エッジ・ビー』を捕獲させて油断を誘う) (数がある程度まとまった時に自爆させれば、間抜けはその餌食になる) (あの聖人サマと戦った時から、テメェらが鋼糸を使うことぐらい分かってんだからよ) ただし、木原は地下街にいる天草式の全滅を望んではいない。 最初からその気なら、敢えて直前に会話などせずに無警告で爆破する。 木原の目的は、彼らを疲弊させ生け捕りにする事。 ステイルはその術式上生け捕りは難しい。 が、こちらの戦闘はある程度のダメージコントロールが出来る。 そして捕まえてしまえば、それは他にいる居場所の分からないメンバーへの人質となるのだ。 天草式の固い絆を利用した、卑怯な作戦である。 (もしも人質が通用しなかった場合、そのまま研究に流用すればいいしな) (どっちに転んでも、ただ殺すよりはメリットがある) そして、木原の狙いはもう1つ。 ――「よお、待ちくたびれたぜ。相手の情報は?」 ――『……侵入してきたのは、神裂の仲間である天草式十字凄教の人間だ』 ――「天草式? 聞き覚えがあんな。確かあれは……」 木原は、天草式の事を全く別の観点から知っていた。 それはクローンを統括する『聖痕』の共鳴実験の時、『樹形図の設計者』が参照したデータ。 ――(まあ、伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』が、そのお手本になるとは予想外だったがな) 『大日本沿海與地全図』と呼ばれる、偶像の理論を逆利用した地図がある。 それを使った瞬間移動法が、天草式十字凄教には伝わっているのだ。 (その現物さえ手に入れば) (学園都市の技術を使って、新たな日本地図を作れる) (いや、それどころか世界地図クラスの移動法が実現するだろう) その術式を明らかにするまで死なない様頑張ってくれよ、と木原は一人薄く笑った。