約 19,732 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3795.html
銀河英雄伝説よりヤン・ウェンリーを召喚 第 1 話 蘇生 第 2 話 平民以上、メイジ未満 第 3 話 執事? 第 4 話 土くれのフーケ 第 5 話 破壊の壷 第 6 話 ロングビルの都合 第 7 話 聖地 第 8 話 名も無き墓 第 9 話 王女アンリエッタ 第10話 第四の選択肢 第11話 異邦人 第12話 門 第13話 ときのかなた 第14話 白の国 第15話 森の奥には子供達 第16話 王が守るべきもの 第17話 昔と今と 第18話 タルブ(前編)/(後編) 第19話 ある村の平和で静かな一日(前編)/(後編) 第20話 SPIRIT 第21話 神の手 第22話 嵐の前後(前編)/(後編) 第23話 ロイヤル・ウェディング(前編)/(後編) 第24話 破局(前編)/(後編) 第25話 その頃、舞台裏では(前編)/(後編) 第26話 世界が変わる日 第27話 挟撃(前編)/(中編)/(後編) 第28話 黄昏から暁へ(前編)/(後編) 第29話 説得(前編)/(後編) 第30話 狂宴は終わる(前編)/(中編)/(後編) 第31話 魔術師、帰還(最終話)
https://w.atwiki.jp/ggmatome/pages/838.html
Wiki統合に伴い、ページがカタログに移転しました。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4202.html
前ページ次ページゼロな提督 「全く驚きだ。まさか目の前に『生存者』がいたとはな。これぞまさに『大いなる意思』 の導きということだろう」 目の前のエルフはヤンを見て『生存者』と呼ぶ。彼の口から語られた『聖地』の門を無 事に通過出来た二つの存在――30年前にヨハネス・シュトラウスが乗車していた装甲車 と、60年前にハルケギニアへ飛び去った飛行物体――とヤンを同じ世界から来たと気付 いたということ。 対するヤンは何もしゃべらない。目の前のエルフの所属も目的も分からない以上、不用 意に口を開けば更に交渉上のアドバンテージを取られる。いや、それ以前に戦闘となれば この場にいる全員が危険にさらされる。 「まず最初に言っておこう。こちらには争う意思はない。少なくとも、お前達に害を為す 必要は、今のところはない」 そう言ってビダーシャルは、その場の全員を見渡す。 タバサはシルフィードの横で無表情なまま立っている。ルイズはハルケギニアの人間の 宿敵、そして竜と並んで絶対に争いたくない相手であるエルフを前に、緊張を隠せない。 例え一度会った相手だとしても、だ。デルフリンガーは少し鞘から飛び出した状態だ。い ざとなったら使え、という事だろう。 「私が今夜来たのは、『聖地』の門から湧いた『悪魔』の足取りを追うためだ。なんとし ても彼等の正体を知り、大災厄を防ぎたいのだ。そのため、彼等の情報が必要なのだ」 ヤンとしても、彼から聖地に関する更なる情報を得たい。前回は救助を呼べないという 事実に打ちひしがれ、十分に話を聞けなかった。情報交換という点でヤンとビダーシャル の利害は一致する。 だが、果たして彼の目的は情報だけなのだろうか?もし『破壊の壷』と呼ばれたゼッフ ル粒子発生装置のように、同盟や帝国の機械類が存在したら?その技術を手にしたいと望 んでいたら?万一、使用可能な状態の兵器だったら? 「お前に関する情報は予め入手しておいた。この魔法学院における儀式において、瀕死の 重傷をおったまま召喚されたそうだな。まさか『悪魔』と同じ世界から召喚されたとは、 そこの娘に感謝せねばならない」 そこの娘、と言われたルイズは言葉に詰まる。 ヤンも、覚悟を決める時だと認めざるを得なかった。 第十二話 門 「ヤンよ、油断すんなよ」 「大丈夫だよ。彼は本当に話し合いに来ただけだ」 ヤンは、僅かながらエルフへの警戒心を解く。その様子にビダーシャルも僅かに微笑み を浮かべる。 『ルイズがヤンをサモン・サーヴァントで召喚した』ことを知っている。タバサに学院 への案内とヤンへの面会を依頼した。 これはつまり、ビダーシャルがハルケギニアにおいて相応の組織をバックに活動してい る事を示している。その組織はタバサに関係がある組織だろう。また堂々と「客」と言っ てルイズとヤンを連れてきた所を見ると、タバサもビダーシャルも、背後の組織を隠す気 はないようだ。それにまさか、ヤンという重要な情報源を口封じに殺すとも思えない。連 れ去るつもりなら既にやっている。捕らえた後『ギアス(誓約)』等の洗脳魔法でもかけ ればいいのだから。 ならば、ここは目の前のエルフをある程度信用すべきだろう。 ヤンは一歩前に進んだ。 「なら、まずは所属を教えて欲しい。君の出身と、ハルケギニアでの君の所属組織を」 聞かれたビダーシャルは少し驚いたように目を開き、そして自分の名前しか名乗ってい なかった事を思い出した。 切れ長の目が視線をずらしてタバサを見る。タバサは小さく頷いた。 「失礼した。では改めて自己紹介しよう。 私はビダーシャル。エルフの中の「ネフテス」という部族の一員であり、「老評議会」 の議員を務めている。テュリューク統領より、シャタイーンの門の活性化を押さえるべく ハルケギニアへ派遣された。 ハルケギニアでの所属だが、今の段階ではどこにも所属していない。ただ、タバサ殿の 故国であるガリアに協力を申し出ている最中だ」 そう言ってビダーシャルが再びタバサへ視線を送ると、ボソッと小さな声が漏れた。 「案内を命じられた」 それだけ言うと、再び押し黙ってしまった。 タバサがガリアから来ていた事や、ガリア王家と縁ある人物だとは、ルイズもヤンも初 耳だ。だからといって、今はそんな事に気をまわしている場合ではないが。 ただ、ガリア王家の意図はともかく、ビダーシャル個人としては敵対する気も隠し事を する気も無い事を理解出来た。むしろガリア王家が、宿敵のはずのエルフに協力の姿勢を 示している事、ヤンが召喚されたのを知っている事、この二つが分かった事は大きな収穫 だろう。 「ヤン…」 ルイズは不安げにヤンを見上げる。 「大丈夫。安心してよさそうだよ」 ヤンは小さな主に、ちょっとぎこちない笑顔を向ける。 それにしても、『聖地』か・・・ ヤンは改めてハルケギニアにおける『聖地』を思い出してみる。 東にある砂漠の彼方、始祖ブリミルがハルケギニアに初めて降り立ったとされる伝説の 地域。エルフはこの地を「シャイターン(悪魔)の門」と呼び、封じている。以来、聖地 への道は閉ざされたままだ。 この「門」はハルケギニアと異世界、即ちヤンが住んでいた宇宙をつなぐものらしい。 現在でも「門」から色々飛び出していることをビダーシャルから聞いた。 ただし、ヤンの世界の人類は、既に宇宙進出を果たし、生活の場は宇宙に移っている。 そして「門」は星系間を航行している艦船等を召喚することがあるようで、その度にハル ケギニアの大気に減速無しで突っ込んだ被召喚物が生み出す大爆発で半径10リーグほど のクレーターを作っている。 「正直に言おう。『門』の活性化により生み出される嵐が、もはや精霊の力でも押さえき れない程になった。その金属板を有していた物体が現れた時を筆頭に、かつて無いほどの 頻度で『門』が開いている。 連日のように『門』が強力な閃光を天へ放ったり、多数の小爆発を起こしているのだ」 ヤンは、改めてルイズの持つ黒こげの金属板を見る。ルイズは黙ってヤンに金属板を手 渡す。 彼はその板に描かれた同盟の国旗を、そして金属板のサイズや形状をじっくりと見てみ る。そして、一つの事に思い至った。そのタイプの国旗が装着されていたはずの兵器を思 い出したのだ。 「スパルタニアンだ…」 その言葉は、ルイズにもタバサにもデルフリンガーにもビダーシャルにも、聞き覚えの ない物だった。ただ一人、ヤンだけが事の重大さを、絶望的なまでの災厄が近付いている 事を思い知らされた。 スパルタニアンは、同盟の単座式戦闘艇のこと。小型高機動の接近格闘戦用機であり、 雷撃艇に似た機能も持つ。高速で宇宙空間を疾走する母艦から発進した時点で、既に母艦 以上の速度を出している。1秒で140発のウラン238弾を撃ち、中性子弾頭や水爆のミサ イルを搭載している。 そんな物を召喚して、よく原型を留めた部品が残っていたものだと感心してしまう。 そして同時に、背筋に凄まじい悪寒が走る。 一体、『聖地』周辺の土・水・大気の汚染はどれ程の物か。いくら大地の精霊が残骸や 汚染土壌を地の底に封じ、風と水の精霊が放射性物質や劇毒物の拡散を押さえ込んでいる としても、いくらなんでも限度がある。風向き次第で、トリステインで死の灰が降っても 不思議はない。 しかも、単座式戦闘艇ということは、パイロットがいると言う事だ。「門」の被害は、 死者はハルケギニアのみならず、同盟や帝国にも及んでいる。しかもそれが千年に渡り続 いている。 そして最近は、精霊の手に余るほどの頻度、ほぼ連日のように召喚をしているというの だ。いや、頻度の活性化だけなら問題は少ない。聖地の大地がだんだん抉れていくだけの こと。 だが今後、「門のサイズ」が活性化しないと言い切れるだろうか? この金属板が貼られていたのはスパルタニアン、小型戦闘機だ。ヨハネスが乗車してい たのは装甲車だ。では、もしも、全長1kmを超える戦艦や大型輸送船が飛び出してきた ら…。 飛び出せたならまだ良い。爆発もせずに飛び出せたなら、あとは地上に落下するだけ。 運が良ければ、M8クラスの大地震や大津波が一発くるくらいで済むだろう。だがもし、 「門」が開ききる前に突っ込んでしまったらどうなるか?通りきる前に「門」が閉じたと したら? ローゼンリッターの斧は綺麗に切り裂かれた。ならば核融合炉も同じく切り裂かれるだ ろう。 核融合は核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じない。だが放射能の 危険性は炉心と燃料の三重水素(トリチウム)において依然として無視できない。そして 何より、考えたくないが、炉の内部は恒星と同じ状態なのだ。物質はプラズマ状態の極高 温で荒れ狂っている。 いや、これはサモン・サーヴァントのように『何かが召喚される』時の話だ。万が一、 召喚とは関係なく、ただ漫然と「門」が開いてしまったら・・・。 ヤンの深刻すぎる懸念と恐怖は、彼を見ているビダーシャルにも漂ってくるほどだ。 「どうやら、事態の重大さを理解してもらえたようだな」 ゆっくりと視線をエルフへ戻したヤンは、ぎこちなく頷いた。 「『聖地』について、もっと詳しく教えて欲しい」 「分かった。では代わりに『悪魔』達について教えて欲しい」 ビダーシャルも涼やかに頷いた。 こうして、二人は語り合い続けた。 それを周りで見ているルイズとタバサとシルフィード、ヤンの背のデルフリンガーも二 人の情報交換を邪魔せず、ほとんどじっと話を聞き入っていた。もっとも、口を挟みたく ても挟めなかったろう。二人の話は、特にヤンの話は想像の範囲を超えているのだから。 ビダーシャルが語る聖地、シャタイーン、虚無。 「『四の悪魔揃いし時、真の悪魔の力は目覚めん。真の悪魔の力は、再び大災厄をもたら すであろう』…我らの予言だ。力は持つ者によって光にも闇にも変わる。かつて我らの世 界を滅ぼしかけた力だ」 「四の悪魔…始祖ブリミルが持つという、伝説の『虚無』の系統。その使い手が4人揃う 時…ということかな?」 ヤンの推測にビダーシャルは「うむ」と呟く。 「六千年前の大災厄以来、かつて何度か、悪魔の力は揃いそうになった。その度に我らは 恐怖した。我らは大災厄をもたらした『シャタイーンの門』をそっとしておきたいのだ。 知を持つ者が触れざる場所にしておきたいのだ。それでこそ世界の安全は保たれる」 その言葉に、ようやくルイズとデルフリンガーが口を挟んだ。 「でも、エルフの世界が滅ぶからって、長年敵対してきたハルケギニアの私達に助けてく れだなんて…」 「だよなー、ちょいとムシがよすぎねーか?」 その言葉を聞いたビダーシャルは少し眉をひそめた。そしてヤンも二人をたしなめる。 「いいかい、二人とも。例え敵同士だとしても、『相手の事なんかどうなってもいい』な んて考えてはいけないよ。双方とも同じ人間…この場合は人間とエルフで少し違うかもし れないけど。でも、見ての通り話の分かる存在だって分かったろう?」 注意されたルイズは「え~?でも~だってぇ~」と納得出来ない様子だ。 「それと、彼の話だけど、滅ぶのはエルフだけじゃないよ。間違いなくハルケギニア、い や、東方を含めた全てが、生きとし生けるもの全てが滅ぶ。これは、それだけの危機を含 んだ話なんだ」 ヤンの言葉はルイズには、いや、タバサにもデルフリンガーにも理解を超えた話だ。理 解出来ているのは、『聖地』の惨状を知るビダーシャルだけ。 だが、そのビダーシャルにしても、ヤンが語り始めた宇宙の物語は想像を絶していた。 『聖地』を知っていてすら、なお理解の範疇を大きく外れている。 当然の事だろう。地上で暮らす彼等に、真空とか無重力とか理解出来るはずがない。ヤ ンが異界から召喚された事を知っている一同にとってすら、ヤンの正気を疑いたくなる話 だ。 話を聞き終えたビダーシャルが、ようやくなんとか質問する気になった。 「・・・つまり、ええと、君たちの船は音より遙かに速く飛んでいるというのか?風の精 霊が全く存在しない、『しんくう』とか言う世界を?あの星空の中を?」 切れ長の目は頷くヤンを見ていない。満天の星空を見上げている。 「そのままの速さで大気にぶつかったら、その瞬間に燃え、溶け、砕ける…『聖地』の嵐 はそれが原因だと、そう言うのだね?」 「はい」 ヤンは当然のように答えるが、ビダーシャル含め、その場の全員がポカンとしている。 ヤンも予想していた事だ。音より速く飛ぶ、というより音に速度があるという発想自体が 彼等にはないのだから。エルフの技術水準なら音が波であり速度を持つと知っているかも 知れない。だが大気にぶつかって燃えるなど、さすがに想像も付かない話なのはやむを得 ない。 そしてエルフは、さらに眉をひそめて話を続ける。 「そして、もし万が一、門が直接君の世界と繋がったら、空気が全てしんくうの中に吸い 出されてしまう、と?」 再び頷くヤン。 「そうです。これがサモン・サーヴァントなら、召喚の門に接触した物体のみを、こちら の世界へ喚び寄せます。…そうだよね?二人とも」 ヤンは後ろで話を聞いているメイジの少女二人に確認する。かなり話に置いて行かれて いた二人だが、睡魔と戦いつつも、ともかく頭を上下に振った。 ちなみに青い風竜は、既に熟睡して大イビキをかいている。 「…ということですので、だから気圧差の問題が生じないのです。『真空』とは空気も含 めて『何もない』ことですから、何も召喚の門に触れません。 ですが、もし直接に僕らの世界と繋がったら、そしてそれが宇宙空間だったら…まず門 を開いたメイジ本人が周囲の全てごと宇宙空間に吸い出されて、死にます。 それで門が閉じればいいですが、万一、聖地の門と同じく開きっぱなしになったりした ら…底が抜けた樽と同じです」 真剣に語るヤンとは裏腹に、ビダーシャルは腕組みをして考え込んでしまう。嘘か真か 判断が付かず困っているのは明らかだ。デルフリンガーは既に聞く事自体を放棄してる。 ルイズとタバサは、何とか話についてこようと必死になって二人の会話に耳を澄ましてい た。 ビダーシャルは散々思索を巡らした後にようやく、観念したような口調で考えを口にし た。 「何とも想像を絶するというか…正直、荒唐無稽としか言いようのない話で、今この場で お前の話を信じる事は難しい」 「でしょうね。私も信じてくれとは言いません。ただ、『門』がこれ以上活性化すれば、 本当に世界が滅ぶということだけ分かってくれれば十分です」 ビダーシャルは、どうにか理解出来る結論に落ち着いて、安心したように息を吐いた。 「うむ。その点を同意してもらえたなら、私も遠路はるばる来た甲斐があるというもの。 出来るなら、他の者達にも伝えて欲しい。『虚無に触れてはならない』と」 ここでタバサが、初めて自分から口を開いた。 「門の向こうへ、手紙を送れない?」 その言葉に、ヤンは諦め混じりで首を横に振った。 「だめだよ…。僕は魔法関連の本をいくらか読んだだけなので、魔法には詳しくない。で も、『召喚』のゲートが開くという事は、門の向こうから何かが飛びだしてくる時だ、と いうことなのは分かるよ。 つまり、こっちに向かって飛んでくる物を押し返した上で手紙を突っ込まなきゃならな い、ということだよ。半径10リーグの大穴をあける物体を、ね。 しかも、宇宙のどこに門が繋がってるかも分からない。広大な星の海の中で手紙が届く 可能性なんて、ゼロと言っていいさ」 口にはしなかったが、通信機から信号を送るのも同じく無理、と考えている。宇宙のど こに繋がるかも分からない門へ信号を送ったところで、その信号を拾う人が門へ突っ込も うとしている『被召喚者』以外にいる可能性は低い。例え信号を拾っても、その内容は常 識からかけ離れている。どこかの暇な変人によるイタズラと考えるのがオチだろう。信じ るはずがない。そもそも、そんな通信をしようとしている間に爆風で自分が死ぬから、結 局送れない。 信じたとしても、門は宇宙のどこにいつ開くかなんて分からない。開いた瞬間には回避 不能な状態になっている。警戒のしようがないのだ。 始祖ブリミルが残した遺産は、両世界にとって大いなる災厄の種となっているというこ とだ。 ともかくだ、とビダーシャルは結論を語り出した。 「お前の話…ええと、自由惑星同盟と銀河帝国、イゼルローン要塞に皇帝ラインハルト… だったな?その宇宙に広がりし蛮人達の物語、そしてお前の教えてくれた大災厄の姿。一 旦ネフテスに戻り老評議会で報告しようと思う。 正直、とても信じてはもらえないと思うが、な」 「構いませんよ。参考にくらいはなるでしょう」 ビダーシャルはヤンに一礼する。そして横を向き、暗い森の奥を見つめた。 「そこの者も、今聞いていた話を良く覚えていて欲しい。そして、出来る限り広く語って 欲しい」 とたんに茂みの奥からガサガサガサッ!と音がする。 少々の静けさの後に闇の中から現れたのは、いつものようにロングビル。 ヤンも毎度の事に呆れ顔。 「いやはや、気付かれてたかい…さすがエルフだねぇ」 出てきたロングビルは、ヤンに呆れ顔をされても気にとめた様子はない。既に開き直っ てる。 「やれやれ…また夜の散歩中に見つけたってわけかい?」 「ま、そういうわけさ。なにせ、夜にあんたを見つけると、ほぼ必ず面白い事が起きるん だ。最近じゃ用が無くても、ついつい寮塔の周りをうろついちまうよ」 その言葉に、ルイズとデルフリンガーまで呆れてしまう。 そんな闖入者は気にせず、ビダーシャルとタバサはシルフィードに飛び乗った。 「では、異界からの来訪者よ、また会おう!」 そしてエルフは白み始めた空を貫いて、東へ去っていった。 後には、夜を徹して語り続けたヤンと、その話を聞き続けたルイズとロングビルが残っ た。全員、睡眠不足の大あくびをしてしまう。 そんなわけで、話は後にしてとりあえずは学院に戻って少しでも休もうという事になっ た。 無論、その日の授業中、ルイズは寝てばかり。散々教師に怒られた。 ヤンとロングビルも学院長室で勉強をしようとして、そのまま机に突っ伏して寝てしま う。 それを横で見ているオスマンは、 「おーい、二人とも。起きなされ~」 でも二人とも起きる様子はない。 「ロングビルや~、仕事中じゃぞ~」 緑の長い髪を机の上に広げたまま、すぅすぅと寝息を立てている。 「モートソグニル」 学院長の机の下から、小さなハツカネズミが現れた。ちゅうちゅうと鳴きながら、秘書 の足下へ走っていって、すぐ戻ってくる。そして学院長のローブを器用に登って肩に乗っ た。 「なにっ!?今日は黒のレースじゃと…信じられん。これは、この目で確認せねばなるま いて!」 と呟くや、オスマンは男の本能丸出しなニヤニヤ笑いをしだす。 すすぅ~とロングビルに近寄り、体を屈めて、二人が本を広げている机の下に頭を突っ 込もうと 「ふんぬっ!」ドゴッ!「んぎゃっ!」 どうやら若さを持て余す老人の邪心が強すぎたらしい。本能で身の危険を察知したロン グビルのヒールが白髪の頭にめり込んだ。 こうして3人とも、メイドのカミーユが昼食に呼びに来るまで、机を囲んでグッスリ眠 るのだった。 ヤンは、その日の午後にロングビルと共にオスマンへビダーシャルとの話を、出来る限 り分かりやすく報告した。また、夜はルイズと共にキュルケにも話してみた。 その結果は、言うまでもないが、「想像が付かない」「信じられない」等だった。 ヤンは青息吐息で寝る事にした。 「なんでぇなんでぇ辛気くせぇなぁ。そんなにしょげかえるなよ」 デルフリンガーが励ましてくれるが、ヤンの表情は冴えないままだ。 「はぁ~、困ったもんだよ…こんな重大な話なのに、誰にも信じてもらえないなんて」 上着を脱ぎながらぼやくヤンに、制服を脱ぎながらルイズが声をかける。 「そりゃ、しょうがないわよ。あのシュトラウスって人の手記を知ってる私や学院長です ら、信じられないのよ?『始祖が残した虚無の力が世界を滅ぼす』なんて、このハルケギ ニアでは誰も信じないわ。でも、これは別にあなたのせいじゃないから、気にしてもしょ うがないわよ。 あ、これ、洗っておいてね。毎度毎度シエスタに頼んでないで、たまには自分でやりな さいよ!」 と言ってヤンに投げてよこしたのはルイズのショーツ。 慰めの言葉と鞭打つセリフを同時に投げかけるのが、僕の主の魅力なんだろうか…なん て複雑な心境を抱きつつ、ヤンはクローゼットから取り出した黒のネグリジェをルイズに 着せる。 ついでに、いい加減、僕に服を着させるのはやめてくれないかなぁ…これじゃ執事とい うより保父さんだよ、とも思ったが。口にしたら殺されかねないので黙っておいた。 次の日の朝、未だにヤンはぼんやりしていた。 普段からぼんやりしているヤンだが、今朝はさらに輪をかけてぼんやりしている。 立ったまま寝ているんじゃなかろうか?というくらいの勢いなぼんやりっぷり。 「ちょっと…ぼーっとしてないで、ショーツ出してよ」 「・・・え?あ、ああ、そうだね。・・・うん。そうだよね」 ベッドの上のルイズに声をかけられ、ようやくヤンは我に返った。そして何かを自分に 言い聞かせるように「そうだな…うん、そうだよな」と呟きながら新しいショーツを取り 出す。 「よぉ、ヤンよ。さっきから何をブツブツ言ってンだ?」 デルフリンガーの問に、ヤンは答えるのを躊躇した。 ショーツを手にしたまま天井を見上げ、しばし考え込む。 「あのね、ヤン。とにかく着替えるわよ」 「ん?…うん、そうか、そうだね」 再び我に返って慌ててルイズに駆け寄りネグリジェを脱がせる。脱がせながらもヤンは ぼんやりと考え事をしたままだ。裸のルイズに「ちょっと、シャキッとしなさいよ」と怒 られながら、ノロノロと動く。 ルイズに制服を着せながら、今度は「…だな。そうしよう」と、何か決心のような独り 言を言いだした。 「ねぇ。昨日のエルフの話、ずっと考えてるの?」 マントを纏いながら見上げるルイズに、ヤンはようやくまとまった答えをした。 「まあ、ね。聖地の門の件、やっぱりほっとくわけにはいかないなぁ…と思ってね。僕自 身のためにも、僕がいた宇宙のためにも、このハルケギニアのためにも。放置するには危 険すぎるんだ」 その言葉に、ルイズはどう答えたものか首を傾げてしまう。デルフリンガーがツバをカ チカチ鳴らす。 「まぁ、なんだかわかんねーけど、『門』が危険なものだってことは間違いねーんだろ? んで、お前はどうする気だよ『聖地』まで行くってのか?」 「はは、まさか。『聖地』に行ったってどうする事も出来ないよ。何しろハルケギニアよ り文明の進んだエルフでも押さえ込めないんだ。知識を提供するだけなら、ビダーシャル に伝えればいい。 まぁ…どっちにしても、信じてはもらえないから意味無いし」 「それじゃ、どうするつもりなの?」 ルイズに改めて問われ、ヤンは少し息を吸い、彼の出した結論を吐き出した。 「『虚無』を追う。そして、できれば『門』を塞ぎたい」 デルフリンガーは彼の言葉を、そのままに理解した。 「ほっほー、そいつは大層なこったなぁ。大仕事になるぜぇ」 その言葉の意味、最初ルイズもそのままに理解しようとした。 だが、すぐに気付いた。 『門』を塞ぐ事は、彼が故郷に帰還する手がかりを自分で放棄するということ。 彼女のクリクリの目が、鳶色の瞳が彼を見上げる。透き通るような白い肌の頬に、一筋 の汗が流れる。 細い首からツバを飲み込む音がする。 沈黙の後、ルイズは覚悟を決めて口を開いた。 「・・・いいの?」 「うん」 ヤンは、迷いなく答えた。 「使い魔は主の系統を表し、決して偶然に、適当に選ばれるものじゃない…らしい。 なら、君が僕を召喚したのも、もしかしたら失敗じゃなく、ちゃんとした意味があるん じゃないかな?」 「意味…?」 「うん。…まぁ、こじつけかも知れないけど。 ともかく、『聖地の門』は危険なんだ。このまま放置しても、ハルケギニア、エルフ、 帝国や同盟、『東方』も亞人も全て含めて、誰のためにもならないんだ。そして僕は、こ の事実を知ってしまった。恐らく、ハルケギニアで一番『門』の危険性を理解している存 在だろうね。 なら、ビダーシャルの警告には反するかも知れないけど、『虚無』を調べてみようと思 う。そして出来るなら、『聖地』にある召喚ゲートを封鎖したいんだ。これ以上の被害を 出さないために」 ルイズは、真っ直ぐにヤンを見つめる。 デルフリンガーもヤンの真意にようやく気が付いた。 「なら、おめぇ…帰るのは諦めるってことか?」 「諦めたくはないけど…でも、結果として、そうなるかもね」 彼にとって絶望的なはずの言葉だが、彼の顔に絶望は無い。むしろ、強い決意が浮かん でいる。 ルイズはヤンを見上げた。 自分の使い魔を、冴えない外見に似合わぬ知力と胆力を持つ男を。様々な知識を授けて くれるグータラ執事を。 彼女は、小さな右手を差し出した。 「なら、主として協力するとしましょう!あたしだって、あのエルフの話は気になるし。 後の事は安心なさい。あんたみたいなオッサンの一人や二人、ヴァリエール家で老後の 面倒までみたげるわ」 ヤンも微笑んで右手を差し出す。 「それは嬉しいなぁ。是非お願いするよ。出来ればタルブのワインがあれば最高かな」 「それは自分で買いなさい」 「厳しいご主人様だねぇ」 そんな話をしつつも、二人は固く手を握り合っている。 第十二話 門 END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/6933.html
imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Brass's Bounty.png) 「この黄金があれば左団扇で暮らせるというのに、けち臭い小競り合いをしている場合かい?」 ――鉄面提督ベケット "Why squabble for trinkets when we could be living large off all this gold?" ――Admiral Beckett Brass イクサランの相克 統率者2021 機械兵団の進軍統率者デッキ 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/poke_ss/pages/1897.html
5ページ目 女「さて、まずは……」 漣「ご主人様! 艦隊組みましょうよ、艦隊!」 女「あぁ、そういえば編成がされてなかったね……」 女「ローテ出来るように考えないとね」 女「えぇと、うちの戦力は……」 駆逐・軽巡だと嬉しい 当然ながら大淀と漣は除く 6 7 9 Re 【艦これ】漣「提督が基地に着任しました」( No.6 ) 日時: 2014/08/10 17 34 名前: ああ◆9ehHoHsPdA 潮っぱい Re 【艦これ】漣「提督が基地に着任しました」( No.7 ) 日時: 2014/08/10 17 35 名前: ああ 那珂ちゃん Re 【艦これ】漣「提督が基地に着任しました」( No.9 ) 日時: 2014/08/10 17 52 名前: ああ 曙 次へ トップへ
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/601.html
提督×電9-394「黄金色の朝」 の前日談的なものを投下します 今回はタイトルありません(思い浮かばなかったので……) 「あの……もう動いてもいい…ですよ…」 「いや、無理はしないでくれ。まだ慣れていないはずだ。 それにこうして繋がって抱き合っているだけでも幸せな気分なんだ」 俺は布団の中で一人の少女を抱いていた。 彼女の名は電。駆逐艦電の力を宿す艦娘である。そして俺の伴侶でもある。 つまりそういう行為を致していても何らおかしくはない。 繋がってはいたのだが俺は動こうとはしなかった。 かつての経験から、少し慎重になっていた………… 『電、16歳の誕生日おめでとう』 『ありがとう、なのです』 『これ、プレゼントだよ』 『ありがとうございます……こ…これって……』 『これは俺の気持ちなんだ。受け取って…もらえないか……』 『……待っててくれたの?ありがとう……』 電は俺の気持ちを受け取ってくれた。 俺と、秘書艦としてやってきた電が初めて出会った頃は彼女はまだ今よりも少し小さかった。 一目見た時から彼女から目を離せなかった。 その時の俺は司令官として鎮守府に着任したばかりで、同時に彼女も艦娘としての仕事は初めてだった。 互いに左も右もわからない中、大淀や明石らのサポートを受けてなんとか二人で頑張ってこれた。 頑張っているうちに艦隊が大きくなっていったが、それでも秘書艦は電だった。 俺は二人で頑張っているうちに、女として少しずつだが成長してきた電に恋をするようになった。 そして俺は意を決して電にプロポーズした。 電も俺のことを好きだったのか、俺の気持ちを受け入れてくれたのだ。 そして俺達二人は幸せになる……はずだったのだが…… 『はあっ…はあっ…』 『痛い…痛いよう……』 結婚して初めて迎えた夜、俺達も結ばれた。 だがそれは体だけの繋がりだった。 俺も電も、そういうことさえも初めてであった。 俺は初めて味わう快楽に電を気遣うこともなく、ただ快楽を貪っていた。 『はあっ……はあっ……うっ!!』 そして俺はあっけなく達し、彼女の胎内に全てを吐き出した。 『ぁ……ぁ………』 吐き出し終えた後、俺は自分のやったことを後悔した。 彼女の秘部からは大量の白濁液と血が流れ出していた。 それはまるで、意にそぐわぬ蹂躙を受けたかのようだった。 本当は彼女を想いたかったのに…… 『終わったの…………こんなにたくさん………… 気持ちよかったのですね……私も嬉しいのです…………』 俺が後悔する様を見た彼女はこう言った。 それはこれ以上自分が酷い目に会いたくないという思いからか、 あるいは俺を気遣った我慢だったのか…… どちらにせよ彼女の心からの言葉ではなかったのかもしれない。 彼女は元々言葉遣いが丁寧だったのだが、仲良くなっていくうちに口調が少しずつだがくだけていった。 今の丁寧な口調は、取り繕ったものといえよう。 それ以来、俺はほんの少しだが彼女と距離を置いた。 それは傍目から見れば気付かないくらいの距離だった為、 他の艦娘達は気付かなかった。ただ一人を除いて…… 『あなた、最近電のことをほったらかしじゃない?』 『そんなわけ…』 『じゃあなんで電が寂しそうな表情をしているのよ?』 『それは……』 さすがは暁型の長女だ。子供に見えて彼女はしっかりとした女性だったか。 俺は意を決して彼女に相談した。 『初めてなのに酷い事をしちゃったからまた傷付けてしまうかもしれないのが怖いのね。 その気持ちもわからなくはないけど…… でもね、女の子は好きな男の子に自分を必要としてもらえないことが一番傷付くのよ』 『だけどもし否定されたら…』 『大丈夫よ、あなたがただ欲望の為だけにやったわけじゃないのでしょ? あなたは自分がしたことを後悔している。だったら電もわかってくれるわ。 あなたの事を一番よくわかっているのはあの子なんだもの。 だからもう一度向き合って。もしもの時は私が何とかするから』 俺は暁の言葉を信じ、勇気づけられた。 その夜、俺は電をもう一度誘った。彼女は少し怯えながらも俺を受け入れてくれた。 今度は酷いようにしないからと、俺はじっくりと彼女を慣らしていき、 挿入してもすぐには動かず、彼女が俺に慣れるまでじっとしていたのだった…… 「ん……」 俺は目が覚めた。どうやら今までのことを夢で見ていたんだ。 外は明るくなってきていた。 朝の薄い陽の光に照らされた彼女の寝顔はとても安心しきっているようで まるで天使みたいな安らかな寝顔だった。 ふと時計を見ると6時前だった。 「電…起きて」 「ん……」 俺と繋がったまま抱きしめられて眠っていた天使がその瞼を開けた。 「……はわわわわ!寝ちゃったみたい、ごめんなさい……」 「いや、いいよ。こっちこそ寝てしまって」 「いえ……あなたの寝顔、とっても可愛かったな……」 どうやら俺が先に眠ってしまったらしい。 そんなことを考えながら俺は下腹部の感触に気を取られた。 電に挿入されていた俺のちんちんは固くなっていた。 「電……動いていいか」 「……うん……」 「優しくするから……」 俺は彼女を傷付けないよう腰をゆっくりと動かした。 慣れていたのか、初めての時とは感触が違ったけど、 彼女に包まれているという満足感が俺に幸福感を与えてくれた。 「もっと……動いて……いいよ……」 彼女の要求に俺は腰の動きを早めた。彼女を傷付けないよう気を遣いながら。 そして俺はもうすぐ射精してしまいそうな感覚に襲われた。 「電…ごめん、もう出すよ……」 「いいよ…来て……!」 彼女の許しを得た俺はちんちんを彼女の奥深くに押し込んだ。 ビュルルッ!!ビュルッ!ビュルルルッ! 俺は再び彼女の体内に吐き出していた。 「はぁ……ふぅ……はぁ……ごめん、君よりも早くイッちゃって……」 「大丈夫、あなたの暖かさが私を外からも中からも暖めてくれて……」 彼女の言葉に遠慮はなかった。彼女の偽らざる本心なのだろう。 そんな彼女を見て俺の顔から笑みがこぼれた。 「よかった……あなたの顔から暗さが消えて……」 俺、そんなに暗い顔をしていたのだろうか?どうやら彼女に心配をかけてしまっていたらしい。 だけどもう彼女に心配はかけはしない。彼女の気持ちが俺に伝わったからだ。 俺はもう迷ったりはしない。彼女を心でも体でもその証を見せながら愛する。 そう決意をして俺は電に口付けをした。 ―終―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4298.html
前ページ次ページゼロな提督 慌ただしいウエストウッド村の朝食が終わった。 急いでマチルダとティファニアの話が聞きたいルイズとヤン。今朝はルイズまで朝食の後片づけを手伝っている、大慌てで。 ヤンも馬にエサを与えて、即ティファニアの家に向かった。 リビングに集まってテーブルを囲むのはマチルダ・ティファニア・ルイズ・ヤン、そして壁に立てかけられたデルフリンガー。 ルイズとヤンはコップに注がれたワインなど目もくれず、ティファニアの話を瞬きもせずに聞き入っていた…。 ――四年前、降臨祭の始まる日。 母と共に隠れていた家へ王軍が襲撃。モード大公派の貴族は抵抗するも敵わず、無抵抗を貫こうとした母も殺害された。 父より渡された杖を手にクローゼットの中で隠れていたティファニアは、記憶消去魔法で襲撃者の記憶を消して難を逃れた。 この魔法のルーンは、古いオルゴールが奏でる曲を聴いている時に、頭に歌と共に浮かんで来たもの。 財務監督官だったモード大公はアルビオン王家の財宝を管理しており、中には王家の秘宝も多数存在した。 そのうちの一つに、音の鳴らない古ぼけたオルゴールもあった。 子供の頃、同じく王家の秘宝だった指輪を嵌めてオルゴールを開けた所、曲が聞こえてくる事に気が付いた。 不思議な事に、その指輪を他の人が嵌めても、他の人には曲は聞こえては来なかった。 綺麗で懐かしい感じのする曲だった。その時浮かんだルーンと一緒に、いつまでもティファニアの頭の中に残った。 それから何度も、ルーンはティファニアの危機を救った…。 ルイズが興奮した様子で尋ねる。 「ね、ねぇ、ティファニア。その曲って…どんなの?」 「あ、私の事はテファでいいですよ。それじゃ弾きますので、待って下さい」 テファは暖炉の前にハープを抱えて座り、ハープの旋律と共に歌い始めた。 心に染みるように、声が響く。月明かりに光る髪のように、美しい歌声だった。 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。 左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。 あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは陸海空。 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。 あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。 そして最後にもう一人…、記すことさえはばかれる…。 四人の僕を従えて、我はこの地にやって来た… 第十六話 王が守るべきもの 曲を聴き終える。だが、しばし誰も口を開かない。目を閉じたまま、美しくも寂しげな曲の余韻に浸っている。 最初に口を開いたのはマチルダ。 「始祖ブリミルが連れた四人の僕。ビダーシャルが言ってたのは『四の悪魔』。ガンダールヴとかヴィンダールヴとか…、全て符合するわね」 その言葉にヤンも頷く。 「強力な力には、強力な安全装置がかけられる。始祖の力…『虚無』を受け継ぐ王家にかけられた鍵が指輪と秘宝ってわけだね」 ガタンッとルイズが椅子を倒して立ち上がる。 「と、言う事は!その指輪とオルゴールを手に入れれば!あたしは魔法を使えるかも知れないってことね!?それも、『虚無』をっ!」 小さな拳を握りしめてガッツポーズをするルイズをヤンが、まぁまぁ…となだめる。 「まぁ、君が本当に『虚無』の系統だったら、可能性は十分だね。ただ…アルビオンの指輪は所在不明だし、オルゴールは恐らくロンディニウムのハヴィランド宮殿。管理はレコン・キスタだよ」 「だ、だったらっトリステインよ!王家の秘宝の中に必ずあるはずよ!…って、始祖の祈祷書だわ!!多分、城の祈祷書がオリジナル!?ああー!あれって確かクルデンホルフ大公国行ってるじゃないのー!」 「ちょっと!落ち着きなさいって!!」 拳を振り上げて興奮しだすルイズを、今度はマチルダがどぅどぅどぅと静める。 そして壁の長剣を手に取り、錆びた刀身をテーブルの上に置いた。 「でと、その『虚無』の魔法を知っているって事は、やっぱりあんたは六千年前ガンダールヴが持っていた剣…ということかい?」 「おうよ!、ま、そーゆーこった」 威勢良い声を上げる長剣だが、それを囲む4人の視線は、どこか胡散臭いモノを見る感じが混じっている。 「そ…そんな目で俺を見るなよな!そりゃ、なにせ六千年前の事なんだ。記憶だってハッキリしねーよ。だけどよ、そこのエルフのじょーちゃんのルーンを聞いて思いだしたんだよ。自分がガンダールヴに振るわれていた伝説の剣だってこと、ヤンに会った時に感じた『使い手』が何なのか、自分が何故今みたいな錆びた姿になったのかを、よ」 カチカチなる鍔と共に語られる言葉に、ヤンが納得したように頷く。 「なーるほどねぇ…あの時、武器屋で言ってた言葉、やっぱり予想通りだったね。それでと、他の呪文とか使い魔の事とか、どんな事を思い出したかな?」 「え~っとよぉ。ガンダールヴの力だ!」 四人が、特にルイズがずずずぃと前のめりになる。 「『ガンダールヴ』は、手にしたあらゆる武器を使いこなし、主を守るんだ。その強さは心の震えで決まる。怒り、悲しみ、愛、喜び、何でも良い。とにかく心を震わせるんだ」 ルイズが、マチルダが、ティファニアがヤンを見る。ヤンは、自分をじぃ~っと見つめる3対の視線を落ち着かない様子で受け止める。 寝ぼけまなこで、猫背で、寝坊の常習者で、いつでもノンビリのほほんとした中肉中背のオッサンが心を震わせる。 歌のとおり、左手のデルフリンガーと右手の槍を力の限りに握りしめ、天を衝くほどの激情を胸に、大地を震わすほどの雄叫びを・・・ 「他にない?」 ルイズはガンダールヴを後回しにすることにした。 「いや、他はサッパリ」 長剣の答えはサッパリしていた。 「残念ねぇ、ガンダールヴについては収穫無しね」 マチルダは不毛な妄想を早々に忘れる事にした。 「六千年も前の事ですもの。記憶違いもありますよ」 ティファニアは長剣の記憶自体が間違ってると判断した。 「ま、ワインでも飲んで気分を変えようか」 ヤンは皆にテーブルに置かれたままのワインを勧めた。 ゴクゴクとワインを飲み干したルイズは、溜息混じりに肩を落とす。 「はぁ~、まぁ六千年も経てば、錆びてボケるのもしょうがないか…気長に記憶が戻るのを待ちましょう」 「いや、錆びたのは六千年とは関係ねーんだよ」 長剣が抗議すると同時に、刀身が光を放つ。そして光の中から現れたのは、今まさに研がれたかのごとく輝くデルフリンガーだった。 危うい程の美しさを秘めた片刃剣の刃に、四人から感嘆の溜め息が漏れる。 「これが俺の本当の姿だぜ。ただよぉ、なにせ六千年も生きてると、退屈でな。面白い事もねえし、つまらん連中ばっかりだったんだ。飽き飽きして、テメエの姿を変えたんだ」 ティファニアは目を輝かせて長剣を見つめる。 「凄いですね!さすが伝説の剣なんですね」 「おうよ!スゲエだろ!…まぁ、ヤンがガンダールヴである限り、俺が錆びてよーが何だろーが、カンケーねぇんだろうけど…」 「いやいや、そんな事はないよ。うん。これだけ綺麗な剣だと、いやぁ、子供の頃を思い出すなぁ。磨き甲斐がありそうだって思えるよ」 「あんだそりゃ?」 輝くデルフリンガーの問に答えるのは、ヤンの父である星間交易船の船長ヤン・タイロンの話。古美術品の収集が趣味で、よく骨董品を磨き鑑賞していた。 ヤン誕生の報を聞いて父は呟いた。「おれが死んだら、この美術品はみんなそいつのものになってしまうんだなあ」…そして、古い花瓶を磨き続けた。 妻が急性の心臓疾患で急死した時、手にしていた青銅の獅子の置物を床に取り落として、こう言った。「割れ物を磨いている時でなくて良かった…」 で、そんなタイロンは幼いヤンの扱いに困り、しょうがないので壷と布を渡して、二人並んで一緒に美術品を磨いたものだった。 「…でも、父が死んでビックリしたよ!何しろ、あれだけ収拾した美術品がティーカップ一個を除いて全部偽物だったんだ!おかげで僕は一文無し。その万歴赤絵のカップも、家に押しかけてきた暴漢共に壊されちゃったし」 腕組みしながら懐かしそうに父との思い出話をするヤン。 「で、ヤンよ」 「なんだい?デル君」 「俺を、どうするって?」 「磨く」 「…今、俺が自分で自分の錆びを落としたの、見てた?」 「もちろん。でも、父は『美術品は心を豊かにしてくれる』って言ってたよ。鑑定眼は豊かにならなかったようだけどね」 「そうか。まぁいいや、綺麗にしてくれよ」 「任せてくれ」 ポカッといい音がした。ルイズとマチルダが左右からヤンの頭にゲンコツ喰らわしていた。 「と・も・か・く!」 一気に緊張感の失せた場の空気を、ルイズが強引に入れ替える。 「聖地の『門』も、『虚無』も、鍵は王家の血統!目指すは各王国に伝わる始祖の秘宝ってワケよ! こーしちゃいられないわ。ヤン!マチルダも、すぐに出発よ!まずはロンディニウムに行って、ウェールズ皇太子を探すわ!」 マチルダが止めようと声を上げる間もなく、ルイズは自分の荷物の所へ飛んで行ってしまった。 残った3人と一振りは顔を見合わせて苦笑い。 「アルジサマは、止めても無駄そうだね」 「そのようだわねぇ」 「しょうがないですよ。ヤンさんもルイズさんも、必ずまた来て下さいね」 「そんじゃ、エルフの嬢ちゃんも元気でなー」 というわけで、手を振るティファニアと沢山の子供達に見送られ、ルイズ一行は慌ただしくウエストウッド村を後にした。 シティオブサウスゴータ。 サウスゴータ地方の中心都市。人口4万を数えるアルビオン有数の大都市で、小高い丘の上に建設されている。 円形状の城壁と内面に作られた五芒星形の大通りが特徴的。軍港ロサイスとロンディニウムを繋ぐ交通の要衝である。 ちなみに、ロサイスはロンディニウムから南へ300リーグ。ウエストウッド村はロサイスから北東に50リーグほど離れた森の中にある。 影が長く伸び始めたころ、一行は「こんなとこで休んでらんないわよ!」というルイズをなだめ、この都市で一泊する事にした。 ただ、サウスゴータの街に入るに際し、マチルダには幾つかしなければならないことがあった。 「いいね、あんた達。村を出たら、私はマチルダ・オブ・サウスゴータじゃなくて、ロングビルだよ。トリステイン魔法学院学長の秘書。ここやロンディニウムくらいになると、平民でもあたしの顔を覚えてるヤツが出てくるからね」 と言ってロングビルは顔を隠すようにフードを目深に被る。 ルイズが不審げに覗き込む。 「アルビオン王家は滅んだんだから、もうサウスゴータ太守の娘って名乗っても大丈夫なんじゃないかしら?」 「そうもいかないよ。王家が追わなくても、いまだに教会が追ってるかもしれないのさ。 エルフに与する異端としてね。さすがにこの街であたしを教会に売ろうてヤツは少ないと思うけど、念には念を入れないとね」 ルイズもヤンも、少し複雑な想いで頷いた。 始祖の力『虚無』こそが世界を滅ぼす力であり、宿敵エルフは暴走する虚無の『門』から世界を守っている…。 こんな事実が広まれば、始祖ブリミルを崇める教会は根本から存在意義を失う。 いかなる手段を使ってでも事実を知るルイズ達を闇に葬るのは疑いない。教会が味方でなくなったのは、二人もロングビルと同様なのだ。 3人の乗る荷馬車はシティオブサウスゴータに入った。街とその周辺は内戦の焼け跡があちこちに残ってはいたが、もう目立つ程ではない。 むしろようやく訪れた平和を喜ぶ活気で満ちていると言える。 そして内戦終結に伴い軍役を離れたメイジ達が街を走り回る。 土のメイジ達が建築や土木工事に杖を振るい、穴だらけになった道路を補修したり排水溝を整備していく。 火のメイジ達が鍛冶職人として熾した火により鍋や包丁や釘が作られる。 水のメイジは内戦で傷ついた市民達を癒し、あちこちに溜まった汚水を処理する。 風のメイジ達が木材を切り出し材木に変えて建築現場へ運んでいく…。 もちろん平民達も自らの手で同じ事をしている。だが、メイジが杖を振るえばあっという間に同じ事を成し遂げてしまう。 これでは自力で頑張るより、メイジにお金で頼む方が効率が良いし楽だ。 特に水メイジの治癒魔法は、高額ではあっても効果は抜群で、科学を超えていると言えるだろう。 そんな光景を見ていると、御者台のヤンは肩を落としてしまう。 「これじゃ、平民の技術はいつまでたっても発展しないよな…。 メイジが貴族という特権階級になるのも、ここでは当然なんだよなぁ」 手綱を握るヤンのぼやきに、荷台で街を眺めているルイズは、何を当たり前の事を言ってるのかという感じに首を捻る。 「そりゃそうよ。だからこそメイジは貴族たりうるのよ。別に、根拠も意味もなく誇りを抱いてるわけじゃないわ」 同じく荷台でフードに顔を隠しているロングビルも、ルイズの言葉に同意する。 「貴族だからって威張り散らすのは間違ってるけどね…でも、力ある者として責任を持つのは本当さ」 ヤンが戦った銀河帝国での貴族は、ただの人間。平民と遺伝学上において何の差違もない。 だがハルケギニアでは、魔法が血統由来である以上、DNA上に厳然たる差が生じている可能性がある。 ハルケギニアにおいて貴族は平民を支配するが、平民も貴族の魔法に守られている。魔法に甘えて自らの努力を怠っている、というのは酷だろう。 魔法文明がある以上、科学技術発展の必要性が乏しいのだから。 ハルケギニア貴族は銀河帝国貴族のような社会に取り付く寄生虫ではなく、社会の構成要素として以上に文明の基礎として重要な地位を占めている。 「しょせん、政治体制なんて効率よく社会を運営する手段のひとつ。その時代に最も好都合な政治体制が選ばれる。 だから環境次第で王政にも民主共和制にもなる。そしてハルケギニアでは、魔法を使える者が断然強いし責任がある…だからここでは貴族制度も間違ってはいない、か」 歴史における政治体制の推移、その現実の一端に触れたヤンは、自分が今まで信じてきた理想や理念も絶対ではないことを思い知らされてしまった。 「よぉ、ヤンよ。なーにブツブツ独り言を言ってるんだ?」 「うん、デル君・・・平民の地位向上は難しいなぁって思ってね」 ルイズがやっぱり呆れた口調で答える。 「当然よ。誰も彼もがヤンみたいに学があって頭が切れるわけじゃないんだから」 ルイズの言葉を隣で聞くロングビルも当然という風に頷く。自分の力を褒められたヤンではあったが、素直に喜ぶことは出来なかった。 日暮れ前に宿を探そうとした3人だが、復興事業で経済は好調らしく、どこも満室。何軒も回った末に、ようやく上の下といった感じの宿に一部屋を取れた。 ただしベッドは二つだけだったので、ヤンは床で毛布に包まって寝ることになるが。 「あら、私とヤンが一緒のベッドで寝ますよ?」 というロングビルの女神のような微笑みは、鬼のような顔をするルイズには通じなかった。 そして夜。3人とヤンに背負われた剣は、一緒に街へ繰り出し情報集め、ということになった。 遍歴の修道女のごとくフードをかぶって顔を隠したロングビルに連れられ、狭く入り組んだ石畳の細道を抜け、モード大公の時代から縁がある、信用の置ける店や人物を回っていく。 ほとんどはスカボローの町で聞いた話と変わらなかった。だが、ある酒場で店主に紹介された兵士の話は、三人の興味をひくに十分なものだった。 「ああ、確かに見てたぜ。王子は生け捕りにされたよ」 右頬に大きな切り傷を持つ、いかにも歴戦の戦士という感じな男は、麦酒のコップをグイっとあおる。 街の再建事業に従事した沢山の職人達や、故郷に帰る兵士達や、引退して毎晩飲みに来てるのだろう老人など、様々な人でごった返す店内。 そんな店の片隅のテーブルで、貴族の少女と使用人風な男とフードを目深に被った女性に、自らの武勇伝を誇らしげに語った。 たっぷりとおごられた麦酒とローズトビーフを前にして上機嫌で。 「ニューカッスルの戦闘はよ、正直言って戦闘なんてもんじゃなかったな。城壁は戦艦の砲撃であっという間に瓦礫に変えられて、一番槍を焦った兵隊度どもが一気に突っ 込んだわけよ。それを一番に迎え撃ったのが、ウェールズ王子ってわけさ。 王子様の魔法は、そりゃあ凄かったぜ!沸き起こる突風やら竜巻やらで、突っ込んだ部隊は一瞬で全滅しちまったよ!王子とはいえ一人に、だぜ!? が、そこまでだ。んな大魔法を使えば、あっという間に魔力が尽きる。最後は、えと、なんていったかな?杖を剣みたいにする、ああ!ブレイドっつったっけ?それで一人で二番隊へ、俺のいた隊へ突っ込んできたわけよ。 でもよ、杖が切れ味抜群の剣になるっつっても、しょせん一人だ。うちの隊長さん、土のラインでね。王子の足元を泥沼に変えてもらって、足を取られて動けなくなったと ころを、みんなで槍で囲んでプスプスと穴だらけ。偉い人の命令で、死なない程度にしといたけどよ。多分、死んだ方がマシってくらいだったんじゃね?あとは水メイジ達が いろいろ魔法かけながら連れてったぜ。 そのあと、新皇帝と一緒にいるのを見たってヤツが結構いるから、今頃元気でやってんじゃねーの?」 そこまで一気に語った男は、ムシャムシャと旨そうにローストビーフへ噛り付いた。 これを聞いてるヤンは、腕組みしながら一心不乱に考え事をしている。 ルイズは黙って麦酒を口にした。 ロングビルがグィッと前のめりになる。 「それで、他に生存者とかいなかったの?」 聞かれた男はうぅ~んと唸りながら天井を見上げた。 「多分、いねえな。なにせ城壁が崩れてからは、みんな凄かったからナァ。平民だってメイジだって褒美目当てに先を争って貴族の首にたかってた。名のある首を狩り終えた後は城で金銀財宝の奪い合い。死体は身ぐるみはいだし、殺し合いにまでなって」 という所まで語ったところで、横で話を聞いている少女メイジから怒気が立ち上っているのに気が付いた。冷や汗をかきながらチラリと見る。 案の定、ルイズは仇でも見るような目で睨み付けてきて立ち上がった。 「あんた、それでもアルビオン国民なの!?自分の国の王を殺して、死者を辱めて!」 ロングビルが慌ててルイズの口をふさぎ、椅子に座らせる。 「失礼したわね。気を悪くしないでもらえるかしら?」 ルイズの剣幕に驚いた男だったが、特に怒るような様子はなかった。 「ああ、別にかまわねえさ。もしかしてお嬢様、外国からかい?」 「そーよ!トリステインから来てるわよ…それがどうしたってのよ!?」 尋ねられたルイズは顔を真っ赤にして怒っているが、男は納得して頭を上下させていた。 「ジョナサン!?お前、ジョナサンじゃねえか!!」 突然ルイズ達のテーブルに大声が飛んできた。ジョナサンと呼ばれ、目を見開いて武勇伝を語っていた男は振り向いた。 「あ…チャールズ?チャールズじゃないか!!生きてたのかよ」 「もちろんだぜ!俺だけじゃない、ほら、こっちには!!」 「おお!マッシュも!アンディも!みんな生きてたかあ!!」 どやどやと入り口から入ってきた若者達が、ジョナサンの所へと駆け寄ってくる。 いきなりルイズ達ほったらかしで展開される、目の前の再会の輪。肩を組んで涙する彼等の再会は、ロングビルがわざとらしく大きな咳払いをするまで続いた。 ジョナサンは「へへへ、すまねえ。みんな、この4年で散り散りになった、家族みたいなもんでよ」と頭をかく。 そして話は再開された。ジョナサンはじめ、酒を酌み交わしながら再会を喜び合う4人の思い出話として。 「全く、あの四年前以来、ほんとにサウスゴータは苦難の日々だったからぁ」 「ホントだぜ!モード大公がエルフ匿って、ここの太守も一緒に…」 「おまけに!街ごと異端審問にかけられて!マッシュのオヤジさんなんか、太守の家で植木職人してたってだけで、親族、全部…」 「酷かったよな、ありゃ…大釜で一分煮られて、生きてられるワケがねえだろ!何が異教徒だ!俺たちがどんだけ真面目に教会へ通ってたと思ってやがる!! て…あれ?マッシュ…どうしてお前助かったんだ?」 「ああ、そんときたまたまタルブへワインの買い付けに行ってたんだ。以来、帰るに帰れなくてよ」 「そっか…お前だけでも、生きててよかったぜ」 「ああ!まったくだぜ。ンでよ、聞いてくれよ!俺、生き残っただけじゃねえんだよ! 我が一族の恨み、見事にはらしてきたんだぜ!!」 「え?恨みを晴らしたって、もしかして、お前、王を、ジェームズ一世を!?」 「そうさ!あの老いぼれの首、俺が討ち取ったのさ!!」 「ほ!ホントかよマッシュ!?」 「ああ!全く無様だったぜえ!杖を振り上げて呪文唱えようとしたけど、舌がまわんねえんでやんの。まずは槍で腹を串刺し!そのあとナイフで滅多刺しにしてやった! ホラこれ、その功績でもらったんだ!」 そういってマッシュと呼ばれた若者は、懐から勲章を取りだした。金色に輝くそれは、店のランプの光を反射してキラキラと輝いている。 マッシュは、見るからに立派そうな勲章を愛おしげに頬ずりした。 「全く、これで胸張ってオヤジ達の墓に行けるぜ…あのジェームズの死に損ないがよ、俺の、俺の!全てを、奪いやがってよぉ…。 レコン・キスタの蜂起を聞いて、すぐに参加したさ。死ぬ思いで戦場かけずり回って、棺桶に片足突っ込んで。それもこれも、あのボケじじいの首を取る、ただそれだけを、それだけを、支えに…」 勲章を握りしめ、ポロポロと涙を流す。誇らしげな言葉とは裏腹に、どう見てもうれし涙には見えなかった。 ジョナサンも、チャールズも、アンデイも、身体を丸めて泣き崩れる若者の身体を優しくさすった。 「すげえよ、おめえは立派だよ!サウスゴータの誇りだぜ」 「わかるぜ、その悔しさ。この四年、貴族だろうが平民だろうが、みんな異端審問で家族を失ったからなぁ。新しい領主は無茶苦茶な税金かけやがったし。誰も彼も教会に睨まれるのが怖くてビクビクしっぱなしだ。おかげで街は、どんどん人が逃げていく有様だったしなあ」 「ま、税金がたけえのは新皇帝も同じだけどよ。おまけに元は坊主なのが気にくわねぇけどな。でも、恨み晴らせただけでもめっけもんだわ。街から逃げた連中もドンドン帰って来てるし、これでやっと元通りだなぁ」 既に彼等の念頭には、ルイズ達の事はない。彼等は四年間の事を語り合った。モード大公の一件でサウスゴータの民が彼等がどれ程の辛酸を舐めたか。 アルビオン王ジェームズ一世と教会へ、どれ程の恨みを募らせていたか。 ロングビルもヤンもデルフリンガーも、そしてルイズも彼等の姿を黙って見つめていた。 宿に戻ってからも、ルイズは何もしゃべらなかった。 夕食にも手を付けなかったが、それはどうみても、夕食のプディングが不味そうだというだけの理由ではない。 深夜。そろそろ寝ようかというヤンの言葉に小さく頷くルイズ。だが着替えずそのまま寝ようとしたので、慌ててヤンが服を脱がせた。さすがにこの時は、隣で見ているロングビルも「甘やかしちゃダメ」とは言わなかった。 もそもそとネグリジェを頭から被りながら、ボソッと独り言のように呟く。 「王族は…立派なメイジで、ウェールズ皇太子だって、風のトライアングルで…なのに、なんで…」 ヤンは一瞬答えに窮する。横を見るが、ロングビルも困った顔をする。 代わりに答えたのは、長剣だった。 「でも、同じような事は、この前あったじゃねえか」 ルイズがチラリとデルフリンガーを見る。 「王女様の手紙の件だよ。公爵は言ってたよな、おめーさんがアルビオンで死んでたら、王家に叛旗を翻すつもりだったって。 モード大公みてえにお家取りつぶしになるか、さっきのニーチャン達みたいにレコン・キスタの一員になってたかはしらねーけどよ」 ルイズは、何も言い返さなかった。 二つ並んだベッドにルイズとロングビルが眠っている。 ヤンはテーブルの横で、布団にくるまっている。 レースのカーテンの向こうには、双月に照らされた街が見える。 ベッドの片方から、人影が起きあがった。 そっと床に降り立ち、静かにヤンの所へと歩いてくる。 頭から毛布を被ってこんもり丸くふくらむヤンの横で、躊躇するように立ちつくしている。 しばらく悩んだ後、毛布の裾をめくって中に入り込んだ。 「・・・?」 布団の中、自分の目の前に、何かが丸まっているのに目覚めたヤンが気が付いた。 一瞬ロングビルかと思ったが違った。もっと小さくて細くて、髪がフワフワしてる。 「…ルイズ?」 一瞬ビクッとした。 だが、そのまま何も言わず動かない。 ヤンは、丸まった少女の頭を優しく抱きしめた。 「・・・王家って…魔法って、なんなの?」 囁くような声で、ルイズが問う。 「…魔法で戦争は出来ても、政治は出来ない。それだけの事だよ」 ヤンの言葉に、ルイズは何も答えない。 ただヤンの胸の中で、小さく丸くなる。 ほどなくして、ルイズは健やかな寝息を立て始めた。 ヤンもルイズの小さな頭を撫でながら、眠りの世界へと旅だった。 「やれやれ…先を越されちまったよ…」 「残念だったなぁ。ま、今晩くらい譲ってやれや」 もう一つのベッドでは、ロングビルがデルフリンガー相手に愚痴りながら寝ていた。 次の日。 昨日までの落ち込みはどこへやら。ルイズは御者台で元気に手綱を握っていた。 荷台ではヤンと、フードを深く被ったロングビルがルイズの背中を眺めている。 「さーって、それじゃロンディニウムよ!ウェールズ皇太子に絶対会うんだからね!ンでもって指輪と、オルゴールと」 ルイズは既に王家の秘宝を手にする気らしく、気がはやってしょうがない。馬も半ば駆け出している。 そんなルイズにヤンが不安げに声をかけた。 「ちょっと待ってよ、ルイズ。どうやって皇太子に会うつもりだい?何かあてでも」 ルイズは肩越しに振り返り、ニヤリと笑う。 そして、胸元から封書を取り出してヤンとロングビルに示した。 ロングビルはキョトンとする 「それって、公爵からの手紙が入れられていた封書よね。それがどうしたの?」 「ふっふーん♪これに入っていたのは手紙だけじゃないの。例の不可侵条約締結、その祝賀式典への招待状が入っているんだから!」 ポンッとヤンが手を打つ。 「なーるほど!さすが公爵、アルビオンの貴族を見てきなさいという事かぁ」 だがロングビルは渋い顔だ。 「私には縁の無い話よね。もし私まで出席したら、マチルダってばれてしまうわ」 ルイズは得意満面で封書を戻した。 「ま、その辺の事は後で考えましょ。ただ、まだトリステインの大使がロンディニウムに滞在しているかどうかが分かんないの。手紙には、恐らく明日までアルビオンにいるって書いてあったけど とゆーわけで、急ぐわよ!」 御者台で立ち上がるルイズの姿に、ヤンとロングビルは顔を見合わせる。荷物の上のデルフリンガーが不安そうな声を上げる。 「おいおい、そんなに急いで荷馬車がコケたりしたら」 「だーいじょうぶよ!あたしの腕を信じなさいっ!」 ルイズのかけ声と共に手綱が空を切る。 荷馬車はロンディニウムへ向けて、一路北へ走り出した。 第十六話 王が守るべきもの END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3796.html
前ページ次ページゼロな提督 ゆめ ゆめをみていた 長い、長い夢を見ていた。そんな気がする。 誰か傍で泣いていたかな あれは、誰だったろう ああ、あれは私の息子だ あれ?泣いてたのは女の子じゃなかったかな そもそも、私は子供がいなかった気もする どっちだろう どうして泣いていたんだろう 大事な事だったはずだけど、頭がはっきりしない。思い出せないな ああ、まぶしいな もう朝か。しょうがない、起きるとしよう 起きたら、まずは蜂蜜入りの紅茶を入れてもらおうかな あれ?誰にいれてもらうんだろう。自分じゃいれられないよな 誰だったろう・・・あれは、妻?息子?娘? いやそもそも 私は、誰だったろうか・・・ 目を覚ますと、彼の視界に見知らぬ風景が広がった。 朝日が照らす部屋。ベッドの上で横たわっている。 天井は、妙に古くさい。今時、木造だの石造りの壁だのを使ってる。 視線を横にずらすと、部屋全体がまるで貴族の屋敷のようなゴシック調。 家具もカーテンも、あり得ないような古典趣味。 窓から見える風景は空。のぼり始めた太陽に追いやられる闇。 彼は窓際のベッドに寝ていた。いまだに覚醒しきらない頭で周囲を見渡している。 「―――・・・んです!目を、目を覚ましまし!先生っ!」 横から叫び声がした。 その人物は、メイド服の女性だ。 彼には信じられない格好だ。彼の国では、よほど特殊な趣味をした人の世界でしかお目にかかれないはずの服なのだから。別の国はどうだか、彼はよく知らない。資料ではともかく、実際に目にした事がないので何とも言えなかった。 彼は身体を起こそうとした。だが、起こせなかった。 全身に、ほとんど力が入らない。長く動かなかったので身体がなまってしまっているらしい。 そうか、私は随分と長い間、ベッドで寝ていたんだな ぼんやりと、そう考えていると、遠くから何人もの人が駆けてくる音が響いてくる。 すぐに数名の老若男女が部屋に飛び込んできた。 ヘンな連中だなぁ、と彼は感じてしまった。何しろ、白衣の医者と看護師が飛び込んで来るならともかく、実用性の全くない、奇妙なマントを着た男性と老人と少女などだったのだから。そして少女の髪はピンク色。妙な色に染めたんだなぁ、最近の流行なのか、と驚いてしまう。 しかもその行動もおかしいとしか思えなかった。彼等の中の数名が杖を手に、なにか呪文のようなものを呟き手をかざす。本当に医療者なんだろうか、呪い師の類に見えてしまう、そう彼は考えていた。 マントの一団は、そんな彼の違和感には気付かないようで、心配げに彼の顔を覗き込んでくる。髯の老人が優しい声で彼に言葉をかけた。 「あ~、気がついたかね?」 彼は、蚊の鳴くような声で答えた。 「・・・ええ・・・。ここは・・・どこですか?私は、何故ここに」 私の返答を聞いて彼等は安心した様子だ。特に少女が、なにやらとても嬉しそうにしている。 老人が微笑みながら言葉を続けた。 「どうやら、もう大丈夫のようじゃな。心配はいらん。君は死の淵から生還したのじゃ。ところで、名前は言えるかな?」 名前、そうだ、私の名前は・・・私は・・・ 中肉中背、学者のような容姿で、おさまりの悪い黒髪の男は答えた。 「私は、私の名は・・・ヤン、です。ヤン・ウェンリー」 第一話 蘇生 「信じられない。私は確かに左脚の動脈を撃ち抜かれ、死んだはずだったのに」 「我々もビックリしましたぞ!死体を召喚してしまったのかと、皆大騒ぎでしたからな。あなたはとても幸運でした。幸いにも、蘇生に成功したのです」 ヤンはどうにか身体を起こして、ちょっと頭髪が寂しい男の話しを聞いていた。召喚て何の事だろう?と感じはしたが、今はそんな事を気にしている時では無い、と思考の隅に追いやった。 ヤンは病衣の裾をめくり、撃ち抜かれたはずの足の傷を見ようとした。だが出来なかった。傷自体が消えて無くなっていたからだ。 「私は、随分と長い間寝ていたんですね」 「ええ、全く、ずっと眠りっぱなしでしたからな」 傷自体が消えてしまうほど、か。おそらく1ヵ月やそこらではないな。 部屋の造りや外の様子からすると帝国領だろう。 どうやら帝国軍に救出され、そのまま治療施設に送られたらしい。ここは貴族向けのリハビリ施設というわけだ。 そうだ、結局交渉はどうなったろう?ユリアンは、フレデリカは、メルカッツ提督や、いやイゼルローンや同盟は? 戦争はどうなったんだ!? 「え、えっと、すいません。まずは助けて下さった事に感謝します。それで、戦争はどう なったのでしょうか?」 「戦争?」 ヤンの言葉を聞いて、その場にいた全員がキョトンとしていた。すぐに男が何かに気付いた顔をする。 「ああ、そうでしたか。あなたが着てた服の階級章らしきものから、もしやとは思っていたのですが。やはりあなたは軍人だったのですな?」 「ぐ、軍人だったの、ですな・・・て。・・・はぁ、確かに私は軍人に見えないと、よく言われるのですが」 今度はヤンがキョトンとする番だ。 彼の常識から言えば、彼等の患者が誰か知らないはずがないのだから。どう考えても、皇帝ラインハルト自身が勅命をもってヤンへの最大限の救命と治療を命じたはずだ。でなければ、間違いなく一度は失血死したはずの自分を強引に蘇生させ、傷が消えて無くなるまで治療を続けるはずがない。 帝国も戦乱で社会システムが疲弊しているとはいえ、医者として、機密に触れない程度の患者の情報は与えられているはずだ。 これは、ヤンがどう見ても軍人らしくない、というレベルの話しではない。 ヤンは混乱しつつも、とにかく現状を確認すべきと判断した。 「えっと、すみませんが通信を使わせてもらえませんか?イゼルローンか、皇帝陛下か、ああ、捕虜の身で通信は無理でしょうね。ではとにかく、ここがどこなのか教えて頂けませんか?」 ベッドサイドの人々が視線を交じわせる。どう答えようかと思案しているようだ、というより質問の内容が分からない、といった感じだ。 ヤンの混乱はますます深まりつつあった。 この人たちは、銀河の二大勢力による長きにわたる戦争を知らない、とでも言うのだろうか?まさか遙か昔の植民団が、どこか辺境の星系に流れ着き、そのまま帝国とも同盟ともフェザーンとも接触を持たずに独自の発展を遂げた、とでも言うつもりなのか? ヒゲの老人がオッホンと咳払いして、前に進み出た。 「えー、君もいきなりの事で、混乱しているのだろうと思う。まぁ、とにかく落ち着きなされ。 ここはハルケギニアのトリステイン。トリステイン魔法学院ですじゃ。君は召喚されてから三日三晩、治療を受け続けていたのじゃよ」 ヤンは、老人の言葉が頭に入らなかった。聞き慣れない単語や知らない地名が当たり前のように出てきたからだ。その上、なんというか、非常識な数字が出てきた気がする。 「・・・え~っと、すいません。どうも蘇生したショックからか、あなたの言う事がよく理解出来ませんでした。なので、一つずつ確認させて下さい。 三日三晩、と言いましたか?」 「うむ、学院の水系メイジを総動員し『治癒』の魔法をかけ続けた。おかげですっかりよくなったようじゃ」 「ま・・・ほう?魔法、ですか?」 ヤンは、もしいま鏡があれば、自分の目が点になっているのが見れたろうに、とバカな事を考えた。 「そうじゃ。治療費は、ほれ、君を召喚したそこの生徒、ミス・ヴァリエールが出してくれたんじゃ。感謝しなされよ、大きな家が一軒買えるくらいの金額だったでな!」 ミス・ヴァリエールと呼ばれた少女は、やれやれようやく名乗れるわね、と言った感じで前に進み出た。 「まずは名乗りましょう。我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたを召喚した、あなたの主よ」 少女は、胸をはって宣言した。自分はヤンの主だ、と。 ヤンは、自分は魔術師とかなんとか呼ばれてたなぁ、いやそうじゃなくて、この人達は何を言ってるんだろうか、と必死で考えた。 ほどなくして、ミラクル・詐欺師とも呼ばれた彼の脳細胞が出した結論。それは、甚だ頭の悪い、というかおかしいとしか言いようの無いモノだった。 「え~っと、すいません。もし間違っていたら遠慮無く指摘して下さい。 私は、たったの三日で、足の傷が跡も残さず消えたんですね? この施設の、魔法使い達が使った魔法によって、ですね? で、高額な治療費は、そこの女生徒が払ってくれたというんですね? しかも、その少女が私を召喚した、私のご主人様だ・・・というのですね?」 「うむ、その通りじゃ」 老人は、ヒゲをなでながら満足そうに答えた。 対するヤンは、極めて不満だった。いっそ、彼の頭がどうかなってしまったから治療のやり直しだ、と言って欲しかった。 これが帝国風のジョークなのか?帝国軍では敵将の治療費を学生が支払う風習でもあるのか?何かの策略か?第一、魔法って何だ。ヤン・ザ・マジシャンなんて呼ばれた私への当てつけだったら、言いがかりの極みだぞ!呼んだのは私じゃないし、頼まれたってそんな呼び方されたくなかったんだ。おまけにご主人様ってどういうことだ、帝国では捕虜を召使いにするのか!?というか、私は捕虜なのか?どう見ても周囲に監視の兵士はいないし。 混乱の極みにあった彼は、頭を抱えてしまった。頭痛すらしてきた。 何かの救いを求めてか、窓の外を見た。 すると、大きな青い爬虫類が空から降りてきた。いや爬虫類なのはいい。問題は、どうみても数トンある巨体を、どうみても支えきれないはずの翼で、滑空しながら降りてきた事だ。ヤンは遺伝子操作で翼竜を復活させたのだろうか、とも思ったが、あの爬虫類は地球の歴史上の生物では無かった。重力制御かとも思ったが、そんな装置は見えない。 どちらかというと伝説上の生物、竜だ。 そしてその竜の背には、燃えるような赤い髪の女性と、鮮やかな青い髪の少女が乗っていた。 窓からそれらを見下ろしていると、二人の女性はヤンがいる建物――石造りの塔に駆け込んだ。 石造りの・・・塔!? ヤンは、改めて周囲を見渡した。 周りには、周囲の人々も、さっきから極めつけの違和感を放っていた。だが、今になってようやく違和感の最も大きな原因が分かった。 彼等は、全く機械の類を所持してない。 部屋には患者の生体情報を表示しなければならないモニター類も、ケーブルも、立体TVも、エアコンすら全くない。そこら辺の家具や壁に偽装してあるのかと思ったが、それも違う。ベッドもカーテンも壁も本当にセンサー類が無い。 だんだんとヤンは、自分の周囲の異常さを悟り始めていた。自分が、何かとんでもない場所に連れてこられた事に、気がついてしまった。 バタンッ!と扉が開け放たれ、さっきの女性達が入ってきた。 「あっらぁ~、ルイズったら、ようやく使い魔とのご対面ねぇ」 赤く長い髪の女性が、ルイズと名乗った少女に挑発的な台詞を放った。 「ふ、ふんっ!まぁ、多少のトラブルはあったけど、これでようやく儀式は終了よ」 ルイズとかいう少女が、少々の虚勢を張って応える。だが、その言葉はヤンには届かなかった。 彼の視線は、赤い髪の女性の足下に向いていた。 そこには、赤い大きな爬虫類がいた。 古代の恐竜に似て無くもない。どちらかというと、ワニとか言う生物に形は似ている。だが、絶対に違う。そしてペットロボットでもない。こんな見るからに可愛くなくて、家庭での使用に耐えられない危険なペットロボットはありえない。 シッポから絶えず炎を上げるロボットなんて、どんな変人の玩具職人でも作らない。買う変人もいない。家が燃える。 そして地球にこんな生物は存在しなかった。銀河のどこでもありえない、異常な生物。遺伝子工学がどうとか言うレベルを超えている。生体改造にしたっておかしすぎる。 へえ~、あれが例の・・・そうそう!さっすがルイズよね・・・ どこからか声がする。ヤンは声の方を振り向いた。 窓の向こうの空中に、人がいた。何人も浮いていた。 間違いなく、目の錯覚でも立体映像でもなく、ただの人が棒きれを片手に、何の機器も無しにふわふわと飛んでいる。物珍しげにこちらを窓越しに見物している。 「さぁ、ミス・ヴァリエール。それではコントラクト・サーヴァントを・・・」 頭髪の薄い男が何かを言った。だが、最後まで聞けなかった。 彼の疲労し衰弱した肉体は、この大きな負荷に耐えられなかった。 ヤンは再び意識を失った。 再び気がついたのは、次の日の朝。 ベッド上でヤンは、頭髪の薄いコルベールという教師から大まかな話を聞かされた。聞かされはしたが、理解するのは至難の技だった。 ハルケギニア、始祖ブリミル、6000年の歴史を持つ魔法世界、4王家の一つトリステイン、貴族の子弟が集う魔法学院、進級試験兼春の使い魔召喚、サモン・サーヴァントによって彼が死体の状態で召喚された事、コントラクト・サーヴァントによってヤンが使い魔にされる予定である事・・・ どれもこれも、ヤンにはあまりに非現実的過ぎる。だが、視界に入る全ての事象が、ここが同盟領でも帝国領でもフェザーンでもないと、それどころか科学に基づいた世界ではない事を示していた。 結局、彼の脳がこの非現実的現実を理解するのに昼までかかった。 だが、理解したからといって、受け入れられる事では無かった。 「ヤンが使い魔になる予定」など、自由と民主共和制のために戦い抜いた彼にとって、受け入れられようはずがない。 「お断りします」 彼は、キッパリと拒絶した。 コルベールは、予想通りという風に不快感も何も示さなかった。示したのは、事務的な決定事項のみ。 「申し訳ありません。ですが、春の使い魔召喚は神聖な儀式ですので、あなたの意思はどうあれ、もう変更できないのですよ」 「それは、そちらの勝手な都合に過ぎません。私を救って下さった事には感謝します。ですが、だからといって自分の自由意思を捧げる気はありません」 「お気持ちは分かります。あなたにとっても極めて不本意な事でしょう。ですが、もはや変更出来ないのです」 「私に、拒絶する権利がない、とでも言うわけですか?」 「そうです。残念ながら、平民のあなたには貴族の命を拒めません」 ヤンは、怒りを通り越して、呆れた。 一体この世界はどうなっているんだ、未だに貴族制度がまかり通っているなんて。ゴールデンバウム王朝時代の帝国でも、ここまで酷くはなかったように思う。少なくとも、表向き奴隷制度は無かったはずだ。 だが、この教師は明らかに、ヤンに対して「使い魔」という名の奴隷になれ、と言っている。窓の外を歩き回るペットみたいな怪物達のように、魔法とやらで自由意思すら奪われた、本物の奴隷に。 「ちなみに、拒んだ場合はどうなると?」 「いえ、拒めないのです。申し訳ないのですが」 コルベールは申し訳なさそうに、だが当然と言った感じで答える。 「つまり、既に私には選択権すら無い、と言うわけですね?」 「はい。不本意でしょうが」 彼は気が短い方ではない。どちらかと言えば忍耐強い。だがいい加減、ヤンの我慢の限界を超えた。 「そう言う問題じゃない!付き合ってられるかっ!」 怒声と共にヤンはベッドを飛び降り、立ち上がろうとした。 だが、立ち上がったとたんに目まいを起こし、床に膝をついてしまった。 「く、くそ、何て事だ・・・こんな時に・・・」 彼は急に立ち上がったため、貧血をおこしてしまった。意識が遠のき視界が暗くなる。 「ああ、いけませんぞ!まだ立ち上がっては」 コルベールが彼に駆け寄り身体を支える。 ガチャッと医務室の扉が開いた音がした 「ミスタ・コルベール、お昼休みになりましたので参りました」 少女の声。彼の主と名乗ったルイズだ。 「おお、ミス・ヴァリエール。良い所に!さあ早く儀式を済ますのです」 「分かりましたわ。それでは・・・我が名はルイズ・フランソワー・・・」 暗くなる視界の中、呪文のようなつぶやきが彼の耳に届く。そしてその声はだんだんと彼に近づいてくる。 「よ、よせ、やめろ!くる、な・・・」 イゼルローン艦隊を率いて圧倒的多数の帝国軍を退け続けたヤンも、今は少女が近付くのを阻む力すらなかった。あとずさって逃げようとしたが、コルベールが彼の身体を支えると同時に動かないよう押さえている。 少女の手がヤンの頬を捉え、彼の唇に何かが触れた。いや、唇が重ねられた。 ヤンは、いきなりの行動に仰天してしまった。 そして次の瞬間、左手に燃えるような激痛を感じた。 とたんに彼は再び気絶した。弱り切った彼の身体には耐え難い激痛だったから。 彼が気がついたのは、その日の夕方だった。 目覚めたとたんに左手を確認したヤンは、手の甲に文字が書かれているのを見つけた。 彼にはそれがルーン文字だというのは分かったが、読み方までは知らなかった。知っていた所で、家畜の烙印同然に刻まれた文字など、読む気にもならなかったろうが。 だが彼にとって幸いな事が一つ。 ヤンは、自分の主と名乗った少女に対する忠誠心を、欠片も感じていなかった。魔法の失敗か、洗脳効果が意識出来ないほど低すぎるのか。いずれにせよ、現時点ではヤンの自由意思は、いまだに彼の元にある。それを確認出来ただけでもヤンは心から安堵した。 「全然良くないわよっ!」 と、今度はルイズがベッドの横で騒ぎ始めた。なんでも、使い魔として全然役に立たないと。 彼女が言うに、使い魔と主が共有するはずの感覚が無いというのだ。そして、別世界から召喚されたヤンにハルケギニアの秘薬の材料とやらを集められるはずもない。その上、身体が弱り切ったヤンに彼女を守る力なんかあるはずがない。 その上、主に対する忠誠心も無い。というか反抗心を剥き出しにしている。 彼女にしてみれば、使い魔を召喚したはずが、全財産をはたいて救命活動をした、ということになる。何の役にも立ちそうにない恩知らずな平民の中年男を。 「うーん、君の事情は分かったよ。君にとっては残念な事だったんだね。でも、それは私も同じなんだ。 助けてくれた事には、とても感謝している。そのために大金を支払った事もありがたいと思うよ。 でも、私には君の使い魔とやらは勤まりそうもない。奴隷扱いも御免だ」 「そ、そんな、こんなことって・・・これじゃぁ、あたし、ホントにゼロ・・・」 少女は立ちつくし、必死になって涙をこらえていた。 その様子に、さすがにヤンも可哀想になってくる。 「ねぇ、ルイズさん」 とたんに少女はヤンを睨み付けた。その目には、涙が溢れそうになっている。 「ルイズ様、よ。主には敬語を使いなさい!」 やれやれ、これじゃあこっちが悪役だ・・・ヤンはそう感じ、溜め息をついてしまう。 「オーケー。それじゃあ、ルイズ様。別の使い魔を召喚してはいかがですか?そして私めのような役立たずは、どこかに捨ててくるのがよろしいかと」 実際、こんな右も左も分からない異世界に衰弱したままで放り出されるなど、死ねというに等しい行為だとは分かっていた。それでも言わざるを得なかった。 そして少女の答えは、ヤンの提案並に厳しかった。 「無理よ・・・新たな使い魔を召喚するには、前の使い魔が死ななきゃいけないの。つまり、あんたを殺さなきゃいけないのよ」 「そう・・・ですか・・・」 彼は、覚悟を決めた。 「では、殺して下さい」 「なっ!?」 少女の顔は驚愕と、怒りと、そして絶望に染まった。 「どっどういうことよ!あんた、死にたいっての!?せっかく生き返ったのに、また殺されたいって言うの!??」 「あまり殺されたくないんですが・・・」 ヤンは、窓の外を見つめる。 遠い夕焼け空を眺めながら、ゆっくりと語り始めた。 「昨日話したとおり、私は軍人です。いえ、軍人でした。 全く向いてない職業ではあったんですが、どういうわけかやっていました。 そして私は私の所属する国家、というより思想や信条のために戦っていました」 「思想・・・信条?」 「ええ。自由と、民主共和制です」 「・・・何、それ?」 少女は、本当に言葉の意味が分からないという様子で聞き返してくる。だが、ヤンは構わず話しを続けた。 「自由と民主、その思想を守るために、私は戦い続けました。私の部下達も、同じ思いで戦ってくれていました。いや、もしかしたら違うかも知れない、彼等には彼等の信じるものや守るものがあったかも知れない。それでも、私達は戦っていました。 帝国、貴族、専制政治等から自由を守る戦いを」 「な・・・!」 少女が驚愕して目を見開く。それでも彼は気にせずに話を止めない。 「結果、多くの兵士が、市民が、敵も味方も死にました。その死の一端は、私に原因があるのです。私が彼等を死に追いやったのです。 だから、自由と民主政治のために多くの人々を死へ追いやった自分が、我が身可愛さに自由を手放して貴族の奴隷として生きるなど、許されはしない。そう思うのです」 「そんな・・・あんた、レコン・キスタ・・・?」 レコン・キスタ。その名にヤンは心当たりがある。古代の地球で行われた宗教戦争、その中の国土回復運動の名だ。だがルイズは、同盟の政治体制を示す言葉として、この名を口にした。 どうやら民主共和制の芽は、この世界にもあったのか・・・そう思うとヤンは久しぶりの嬉しさを感じてしまった。自分は孤独ではないのだ、と。 と同時に、彼の覚悟も一層強固なものとなった。 「どうやら、私とルイズ様とは、立場も思想も完全に異にするようですね」 ルイズはわなわなと震えたまま、なにも答えない。答えられない。 そしてヤンの、表面だけの敬意は消えた。 「なら、迷う事はない。殺すといい。 もちろん僕は抵抗する。けど、まぁ、こんな歩く事もままならない人間なんて、楽に殺せるだろう」 言い放つや、ヤンはゆっくりとベッドを降りた。病衣のまま、ふらつく足取りで扉へと向かっていく。 「ちょ、ちょっとあんた、どこ行く気よ!?そんな身体で」 ルイズが杖を抜き、ヤンに向ける。 杖が魔法を放つための触媒である事は、目覚めてから周囲の人々を観察して気付いていた。そして、それが自分に向けられるという事は、銃口を向けられるに等しい行為だということも。 だが、ヤンの覚束無い足取りは、それでも止まらない。 「僕の治療費は君が出したんだろ?使い魔にするために。でも、私はそれを拒んだ。ならもはやこれ以上君の世話にはなれない。ここを出て行くとするよ。 今まで既に払った治療費の事は、諦めてくれ」 ドンッ! ヤンの足下が爆発した。 ルイズが震えながら、杖を彼の足下へ向けている。 「止まりなさい・・・」 「やだね」 ヤンは振り向きもせず、壁をつたって扉へ近づいていく。 ピンクの髪を振り乱し、ルイズはヤンの前へ駆けてきた。扉を塞ぐように。 そして、杖をヤンの胸に突きつける。 「これが、最後よ。死にたくなかったら、主に忠誠を誓いなさい。あたしの前に、跪きなさい!」 少女の台詞は、その文面だけなら勇ましいものだ。ハイネセンの立体TVで良くいる典型的悪役貴族の言葉だ。 ただし、顔を真っ赤にして肩を震わせ泣いている美少女が言うと、どうにも悪役っぽくない。どちらかというと、やっぱり悪役に見えないはずのヤンが、この場面では悪役ということになりそうだ。 だからといって、ヤンは命惜しさや少女をなだめるために主義主張を曲げるほど、器用な人間ではなかった。 彼は、出来る限り優しく、だが迷い無く、ルイズを押しのけた。そして扉の取っ手を掴む。 ヤンは、次の瞬間には自分が爆死しているものと予想していた。 だが彼の身体は、さっきの床のように爆発はしなかった。 振り向くと、ルイズはしゃがみ込んでいた。 声もなく、俯いて泣いている。 小さな身体を小刻みに震わせ、止めどなく涙を流し続けていた。 扉が開けられた。 だが開けたのはヤンではなかった。 廊下から、コルベールが開けたのだ。心底申し訳なさそうな顔で。 コルベールの後ろにはメイドがいた。ヤンが着ていた軍服と軽食と、銃が載せられた盆を持っている。 「・・・出て行かれる前に、少し、お話しませんか?」 コルベールの、当たり障りのない提案。そしてヤンが出来る最大限の譲歩でもあった。 ヤンは、軍服に着替えた。 「やっぱり、これがないと落ち着かないなぁ」 鏡の前に立ち、ベレー帽を被り直す。 ルイズはベッド横の椅子に座っている。ようやく泣きやんでいた。 コルベールはヤンの銃を手に持って立っている。 メイドはヤンに洗って血を落とした服を渡すとすぐに出て行った。 「ところで、銃まで返してくれるのかい?」 「構いませんぞ。それは元々あなたのものです。それにしても、形からそうじゃないかと思ったんですが、やはりこれは銃だったのですな」 コルベールがヤンの銃を手にして、しげしげと見つめている。 「この数日、あなたの所持品を色々調べさせてもらいましたぞ。いやはや、驚きました。どれもこれも見た事のない素材ばかりです。例えばその服、繊維の丈夫さや細さは言うに及ばず、織り方の一つに至るまで、人間技とは思えない微細さですぞ!あ、穴は繕っておいてもらいましたぞ。 そして、この銃らしきものです。使い方も分解の仕方も分からないのです。まぁ、魔力は帯びていませんし、あなたも護身具の一つくらい必要でしょう。 平民から銃や剣を奪うのは、メイジから杖を奪うのと同じ。死を意味しますからな。さすがに平民の銃まで奪うのは、酷というものでしょう。 そして何より、あなたは捕虜では無いのです。だから、あなたの武器を奪う事は許されません」 「・・・そうですか、感謝します」 ヤンは、出来る限り感情を押し殺していた。すぐにも銃を返して欲しかったが、その焦りを気付かれるわけにはいかない。鏡に向いて、のんびりとベレー帽を直す仕草を続けてコルベールの長話を聞いていた。 ヤンは実のところ、襲撃された時に自分が銃を持っていたかどうか覚えていない。 というか、普段は銃を持ち歩かない。持っていても当たらないから。それに、襲撃時は導眠剤を服用していたため、記憶がハッキリしない。 でも、ここに銃はある。なら持っていたのだろう。もしかしたら、最後まで守ってくれた護衛役のパトリチェフが渡してくれたのかも知れない。 彼等は、ヤンが所持していた銃が、危険なものだと気付いていない。どうやら、このトリステインの銃と同程度か、毛が生えた程度だと考えているようだ。もしくは、自分たちの持つ魔法を過信している。 見たところ、この世界は魔法により成り立っている。と言う事は逆に科学工業は貧弱となる。魔法を使えない平民とやらを蔑視し所有物扱いする点からも間違いないと彼は見ていた。ならばこの国の銃も極めて原始的なものなのだろう、と。 故に、彼等は気付いていない。呪文を唱えるより速く、エネルギーパックが空になるまでビームを放ち続ける恐ろしさを。 可能な限り穏やかに話し合い、さりげなく銃を取り戻す。それが彼が今やらなければいけない事だと理解した。例え、それを自分が持っても多分、いや絶対、狙った所に当てられないとしても。 「ああ、あんまりいじらないで下さいね。この世界に飛ばされた時のショックで、どこか壊れていないとも限りませんから。暴発したら危ないですよ」 できる限り平静を装って、コルベールに歩み寄った。そして彼が手にする血の付いた銃を眺めてみると、やはり安全装置がかかったままになっていた。これでは撃てないのだから、使い方が分からないのも道理だ。そして、まだ安全装置の存在に気付かれていなかったのは幸運だった。 自分はあの状況で、銃の安全装置も外さずに持ち歩いていたのか。 実際には、何かのショックで安全装置が再びかけられたかも知れない。だがヤンは、絶対外していなかったんだろうなぁ、という確信を抱いてしまった。自分なら、やりかねないと。 思わず、ぷっと吹き出してしまう。 「どうかしましたか?」 「あ、いえいえ。自分が殺されるっていう時に、こんな役立たずのオモチャを手にして何をするつもりだったのやら、と思ってね」 「オモチャ、と言う事もありますまい。ともかく、確かにお返ししますぞ」 と言って、コルベールは銃をヤンに差し出す。 ヤンは、自身の焦りを気付かれぬよう、ゆっくりと右手を差し出す。 銃まで、あと3cm、2cm、1cm・・・ やっと、銃に手が触れる。 とたんに、彼は自分の身体の異常に気がついた。 「ルーンが・・・光ってる・・・」 隣で黙っていたルイズが、彼の左手の甲から放たれる光を見つめている。 コルベールもヤンの左手に視線が移る。 瞬間、ヤンは銃を握りしめ、コルベールから慎重にゆっくり、だが確実に銃を手に取った。 「これは・・・ルーンが光ってますね」 ヤンも右手の銃を握りながら、左手のルーンを見つめた。 そして同時に、身体が軽くなったのも感じている。まるで羽のように、自分の体重を意識出来ない程だ。今なら走って逃げる事もできるのではないか、と思えるほどに。 ところでヤンは普段、銃を持ち歩かない。だから、ホルスターもない。しょうがないのでかなりきついが、胸の内ポケットに差し入れる事にした。 そして、銃から手を離した瞬間、光が消えた。同時に身体のだるさも戻ってきた。 コルベールがヤンの身体を上から下まで観察する。 「ふむ・・・えと、ヤン・ウェンリーと言いましたな?他に何か、変わったところはありませんか?」 「え?いや、別に何も」 ヤンは精一杯の演技力でとぼけた。 「ふむ、ではもう一度銃に触れてくれませんかな?」 言われたとおり、素直に銃に触れる、そしてルーンが光る。離せば光も消える。銃に触れたり離したりするたびにルーンがチカチカと点滅する。身体も軽くなったり重くなったり。 ヤンも、一体どういう事だろうかと首を捻ってしまう。 「何か、銃に魔法をかけましたか?このルーンと連動するような」 「いや、そんなものはかけていませんぞ。そして間違いなく、この銃は魔力をおびてはいませんぞ」 ルイズがうわごとのように呟く。 「なら、これはルーン自身の効力・・・先生、このルーンって」 「え!?あ、いや、さぁ、珍しいルーンなのは間違いありませんが、さて、どのようなものかまでは分かりません」 何故かコルベールは冷や汗をかきながら答えた。何かを誤魔化すかのように慌てて。 「う~ん、何なのか分かりませんが、ともかく今のところ実害は無いようですね」 ヤンは改めて二人に向き直り、敬礼した。 「それでは、これで失礼します。短い間ですが、お世話になりました」 「ちょっちょっと待って下さい!」 コルベールが慌てて引き留める。 「出て行くと言いましても、どこへ行かれるつもりですかな?」 聞かれたヤン自身、聞きたい事だった。思わず大げさに肩をすくめてしまう。 「では、行き先が決まるまででも、このミス・ヴァリエールの」 「奴隷が欲しければ、奴隷市場に行きなさい。私が使い魔とやらにならない事に不満があるのなら、私の精神を支配出来ない己の無力を嘆きなさい」 冷徹に言い放ち、ヤンは背を向ける。だがその右手は、既に銃へとゆっくりと伸びている。 「でっですが!あなたが出て行かれると、このミス・ヴァリエールが、メイジとしての将来が・・・」 「彼女自身の無能ゆえです。誰を怨みようもありません」 ヤンの左手は、扉の取っ手にかかる。 「執事!」 ルイズが、いきなり叫んだ。この場に相応しくない言葉を。 きょとんとして、男二人がルイズの方を見る。 「あ、あの、だから・・・使い魔として、じゃなくて、執事として働きなさい、ということよ。給金と引き替えに」 「私を、雇う?執事として?」 意外な台詞に、ヤンも思わず聞き返してしまう。 「そ、そうよ。どうせあんただって、このまま出て行っても、のたれ死ぬだけでしょう?そしてあたしも、あんたがいないと進級出来ないどころか、多分、退学になるの。使い魔に逃げられたとか使い魔を殺したとか、前代未聞で、もうメイジ失格だもの。家に呼び戻されて、杖すら奪われて、一生外に出してもらえないかも知れない。 だったら、協力しなさいよ!お互い、ここで分かれたら、すっごく困るのは目に見えてるんだから!」 少女の、恐らくは自分の人生を賭けたであろう一言。そしてヤンも思案してみる。 このまま出て行っても、何のあてもない。 あるのは銃一丁。何かの敵に襲われれば、すぐにエネルギー切れになるのは明らか。 この世界を支配している魔法についても全くの無知。 第一、この左手のルーン。正体不明の呪印を刻まれたまま闇雲に動くのは危険。 少なくとも、この少女は自分の待遇について譲歩した。 コルベールという教師も、力ずくでルーンを刻ませたものの、とりあえず今は話し合う態度を示している。 だが、自分が執事として働くとなると・・・ 「え~っと。私はこの国の執事としての仕事が分からないが」 「そ、そんなの、教えてあげるわ」 ルイズは必死にヤンに詰め寄ってくる。 「それと、私は王族や貴族制度そのものに敵対する勢力の、軍人だった」 「それは、もう、おいときなさいよ。今は別の国にいるんだし」 ルイズは諦めず、ヤンを引き留める。 「君への忠誠心は、ないよ。反感なら山ほど」 「きゅ、給金分で結構よ。とりあえず、表向き使い魔って形だけど、給金分以上は求めないわ。あなたの衣食住と身の安全も保証する」 「なるほど、ね・・・」 ヤンは、冷静にもう一度考え直してみた。 ここから今すぐ出て行くのと、しばらくこの世界の情報を集めてから出発するのと、どちらがましか。 異世界の中で孤立無援なのはどちらも同じ。では、とりあえず話の通じる相手との協力や取引があれば、それだけでも心強い。いつ敵になるか分からない相手だとしても、今は味方になるという。 ヤンは、扉から手を離し、ルイズに向かって再度敬礼した。 「承知しました、ミス・ヴァリエール。執事としての雇用契約、受け入れましょう」 と言った所で、ヤンは敬礼をしている自分の手を見つめる。 「失礼、執事としてならこうですね」 そういって、ヤンは右手を胸に当て、頭を下げた。 ルイズとコルベールは、ようやく笑顔を見せた。 その夜、ルイズの部屋。 ルイズはベッドでネグリジェ姿。ヤンは床で毛布にくるまっている。 「あんたの寝床も、買わなきゃね」 布団にくるまったまま、ルイズのささやくような声が聞こえる。 「いや、構わないさ。軍での生活が長かったからね。野宿だって散々経験したよ」 ヤンは窓から空を見上げる。 二つの月がぽっかりと浮かんでいる。 「これから、あたし・・・どうなるのかしら」 ベッドから、力ない声が漂う。 「さぁ・・・でも、ともかく、これだけは言えるよ」 ルイズがひょこっと頭をもたげる。 床で毛布にくるまったヤンが、空を見上げながら呟くように言った。 「命を助けてくれて、仕事と寝床をくれて、ありがとう。 何もかも失った自分に何が出来るか分からないけど、とにかく執事をやってみるよ」 ルイズは慌てたように頭を戻す。 「当然よ、主だもの・・・」 「主、か」 みんな。なんだかおかしなことになったけど、必ず帰るからな。 待っててくれ。 二人は、それからすぐに眠りについた。 第一話 蘇生 END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/5368.html
838: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22 46 24 この作品は『日本国召喚』と『提督たちの憂鬱』のクロスものです。 原作の平成日本は転移していません。 俺TSUEEE系が入っています。 オリ設定もあります。 以上に留意してお読みください。 提督たちの憂鬱×日本国召喚クロスネタ ロデニウス沖大海戦 後編 パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルは震えていた。 自分が乗っている帆船は、運よく撃沈されなかった。 彼にとっては、この戦争について記録することが任務であった。 蛮族どもが原始的戦法でどう戦うのかと内心バカにしていた彼であったが、今は違う。 パーパルディア皇国には、帆船を増速させる「風神の涙」と呼ばれる魔石があり、指定供与制限技術目録で輸出が制限されている。 しかしそんなものを使っていないどころか、そもそも帆が無い。 にもかかわらず、敵船は圧倒的に速かった。 しかも、遠目で見てもその船が、重く、水に沈むはずの鉄で出来ているという事実は、彼を余計に混乱させた。 蛮地に無いはずの大砲があり、それも驚くほどの命中率で当て、しかも砲撃でワイバーンの波状攻撃を防いだ事も驚愕である。 パーパルディアであれば、竜母を使用し、ワイバーンにはワイバーンをもって対抗する。 そもそも大砲は、空を飛ぶ物に当たるはずが無いため、それが常識だった。 しかし、彼らはワイバーンにさえ命中させた。 こんなことが有るはずが無い。 しかし、現実である。 いったいどう報告すればよいのか・・・。 そう悩んでいた彼であったが、その思考は一時中断される。 「東の方角から黒煙! あの旗は・・・クワトイネの船だ!!」 「な、なんだあれは!? さっきの船ほどではないが、速いぞ!!」 乗っている帆船の見張り員からの知らせに、艦長ら乗員がざわつく。 先ほどの艦に掲げられていた太陽を模した赤と白の旗とは違い、今近づいてくる敵艦には緑色の下地に紋章のようなものが描かれた旗を掲げている。 伝え聞く、クワ・トイネ公国の国旗で間違いないだろう。 しかし、その船もまた、帆を張っておらず、蛮地に無いはずの大砲が甲板上にその存在をアピールしていた。 839: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22 46 59 「日本艦隊から『敵艦隊は撤退した』と聞いてどうしようかと思ったが、こんなところで敵艦に出くわすとはな」 クワ・トイネ公国の第2艦隊提督パンカーレは、艦橋でそう言葉を漏らす。 彼らが乗る出雲型装甲巡洋艦は、クワ・トイネがそれまで持っていた帆船とは速度差が大きすぎるため、艦隊行動は不可能であった。 そのためパンカーレは、艦隊に先んじて2隻でアウトレンジから砲撃を行い敵艦の数を減らすことで、後続する味方艦隊の移乗戦闘を有意に進めようと考えて、2隻を先行させていた。 しかし日本艦隊からの無線通信(『出雲』に最初から備え付けられている)で、「ロウリア艦隊が撤退を開始した」と報告を受け、当てが無くなり、 仕方なしに日本艦隊と合流してブルーアイら観戦武官を回収しようかと考えていたその矢先であった。 「見る限り、損傷している艦もいるし、統率が取れているようにも見えません。 どうやら、闇雲に撤退して、我々と遭遇したとみるべきでしょう」 艦長のミドリがそう推測する。 原作では日本国の『いずも』の臨検を行い、日本人とファーストコンタクトを取った彼は、この世界線でも同じく日本人とファーストコンタクトを取っていた。 その経歴から、供与された出雲型装甲巡洋艦の艦長に選ばれることとなり、日本から派遣された軍事顧問らの指導を受け、初めての蒸気船の指揮に四苦八苦していた。 なお、原作でもこの世界線でも『いずも』に縁があるが、偶然にも使用できる装甲巡洋艦で新しいものを選んだら出雲型であったため、作者が意図したものでないことをここに記しておく。 現にここで書いていて気付いたし・・・ゲフンゲフン! ともあれ、接敵した彼らは戦闘準備に入る。 彼らの常識からして、亜人殲滅を掲げるロウリアが自分たちに降伏をするわけがない。 撤退するならば、如何せん拍子抜けするが、それでもなお良し。 だが、彼らが取る手段は始めから決まっていた。 「敵艦隊、向かってきます!」 敵艦隊は隊列を整えず、バラバラに向かってくる。 やはりロウリア艦隊は戦闘を選んだ。 事前に予想していたパンカーレはそう心に思った。 「顧問殿。右に回頭して、左舷方向に砲戦を展開しようと思うが、どうかな?」 2隻の運用等の指導要員として同乗している日本の軍事顧問に自身の戦略について訊いてみる。 彼としても、蒸気船での実戦は初めてであるからだ。 日本人顧問は、彼の戦略に問題は無いと答える。 「良し。ミドリ艦長、面舵20度。左砲戦用意!」 「了解しました!面舵20!左砲戦用意!」 『出雲』は右に回頭しつつ、主砲を左舷に向け、左舷側に並ぶ砲も砲撃準備に入る。 後続の『磐手』もそれに続く。 840: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22 47 34 この『出雲』と『磐手』は、史実では重油専焼缶に換装されたが、 憂鬱世界ではそこまで旧式艦を大事に使う気もなく、どうせ練習巡洋艦が完成すれば廃艦にするのだからと、兵装の換装のみに留めていた。 このため、未だ石炭専焼缶を使用しているが、武装はこのロデニウス大陸では強力であった。 主砲の四五口径20.3cm連装砲はそのままであり、副砲の四〇口径15.2cm単装砲は4基にまで減じられており、四〇口径7.6cm単装砲や魚雷発射管は撤去されている。 だが、対ワイバーン用に旧式であるが、四〇口径八糎単装高角砲が4基、エリコン20mm機関砲が艦中央部の舷側の至る所に設置されていた。 それに、竣工時からそのままである20.3cm砲と15.2cm砲も非常に強力であった。 機関室では機関員たちが、クイラ王国産の日本ではなかなか産出しない高品質の無煙炭を次々とボイラーに入れていき、缶圧が上昇させる。 速力を15ノットに増速した両艦は、イの字を描くように相対する。 「砲撃開始!」 パンカーレの命令一下、20.3cm砲8門、15,2cm砲4門、八糎高角砲4門が火を噴いた。 忽ち、数隻の帆船が被弾し爆発が起きる。 2隻に積み込まれている砲弾も、やはり榴弾がメインであり、木造帆船ではその威力に抗えることは出来なかった。 数回も砲撃を行うと、残存艦は半分近くに陥っていた。 先ほどの蛮勇はどこへやら、ロウリア艦隊は退却を始めた。 「なんとまぁ、あっさりと・・・」 戦闘が忽ち終わってしまったことに、パンカーレはいささか拍子抜けする。 自身が知る水夫の切り込みで終始する帆船の戦闘でもこのように短時間で終わることは無い。 改めて大砲の威力を実感するとともに、これらを有する日本への畏怖がさらに強まる。 そしてやはり安堵する。 彼らが友好で接してくる国であり、祖国が敵対の意志を示さなかったことに。 海に投げ出され、漂流するヴァルハルは最早全身が恐怖で染まっていた。 これまで魔法力が弱く、魔法技術が低い文明圏外の国々は、第一・第二・第三世界それぞれの文明圏の列強の魔法技術に遠く及ばないのが常識だった。 その常識が完全に打ち破られ、それどころか、文明圏列強すら凌駕している。 このような事実は認めたくないが、現実がそれを物語っていた。 『出雲』と『磐手』が近付いて来るのを見て、我に返った彼が取ったのは泳いで逃げることだった。 幸い、南に陸地が見えており、岸まではそう遠くない。 もし自分が捕まれば、パーパルディア皇国の関与がクワトイネ側に発覚してしまう。 列強に挑む愚を犯すとは思えないが、我が国の関与を知って激昂すれば、そうなるかもしれない。 祖国が負けることは無いだろうが、それでも少なくない損害を被ることは間違いない。 それだけの軍事力をあの軍艦は物語っていた。 彼は必死に泳いだ。 そして誓う。見たまま、ありのままを本国に報告することを。 あれほどの軍艦を作り上げ、あまつさえそれらをやすやすと供与する国。 これまでパーパルディア皇国は、その高い魔法技術に指定供与制限技術目録という形で輸出制限をかけ、周辺国を支配してきた。 属国は皆、その高い技術力による支援を受けるために、パーパルディア皇国の支配を甘んじて受け入れざるを得ず、それによって皇国の支配体制が確立された。 しかし、パーパルディア皇国よりも優れた技術を有した国の存在が知られれば、その支配体制が根底から崩されてしまう。 彼の国について一刻も早く知らせなければ・・・。 その後、彼は無事に岸に辿り着き、すぐに内陸に逃げ、魔伝で本国に報告を行った。 841: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22 48 10 ロウリア王国王都『ジン・ハーク』 王城『ハーク城』 34代ロウリア王国大王、ハーク・ロウリア34世は、ベッドの中で震えていた。 先刻発生したロデニウス沖大海戦で大損害を被った味方艦隊が帰還し、空前絶後の大敗北を決したという報告がもたらされた。 しかも、大日本帝国と名乗る新興国のたった2隻の軍艦によってだ。 帰還途中に沈没、あるいは漂流する等して未帰還になった船を含め、最終的に艦船2800隻余りが撃沈され、200隻余りが修理不可能と診断された。 実質、4400隻中3000隻以上を失い、残っているのは1400隻にも満たない。 艦隊だけではない。 ワイバーン350騎が全滅したのだ。 先の陸軍の侵攻で投入された150騎も失ったのだから、今回の戦争に備えて用意した500騎全てを失ったため、事実上、我が国にワイバーンは1騎もいない。 これでは侵攻どころか、防戦において制空権を取ることすらできない。 逃げ帰った船団には上陸戦のために多くの陸兵を乗せていたため、その損失も大きい。 しかも、こちらからの攻撃による被害は一切確認されていない。ほぼ皆無である。 報告には荒唐無稽な部分が多い。 曰く、敵は一発でこちらの船数隻を一度に破壊する魔導を連続して打ち出した。 どれほどの魔法力が必要か、想像も付かない。 ワイバーンもこれにより10騎単位で墜とされた。 神話に登場する古の魔法帝国でも復活したのか? いったい我々は何を相手に戦っているのかが解らない。 6年もの歳月をかけ、列強パーパルディアに服従と言っていいほどの屈辱的なまでの条件を呑んで支援を受け、ようやく実現したロデニウス大陸を統一するための軍隊。 錬度も列強式兵隊教育により上げてきた。 資材も国力のギリギリまで投じ、数十年先まで借金をしてようやく作った軍。 念には念を入れ、石橋を叩いて渡るかのごとく軍事力に差をつけた。 圧倒的勝利で勝つはずだった。 これが、日本とかいうデタラメな強さを持つ国の参戦により、保有している軍事力のほとんどを失った。 最初、国交を結びに来た彼らが「ワイバーンというものは初めて見ますが、欲しいとも思いませんね。我が国にはワイバーンよりも優れた飛行機械が有るので」と答えていた。 ワイバーンのいない蛮国のくだらぬ虚勢と見下し、足蹴にして追い返したが、それが大間違いであることに気づかされる。 とんでもない!ワイバーンが全く必要の無いほどの超文明を持った国家ではないか! 当初、国交を結ぶために訪れた日本の使者を、丁重に扱えば良かった。 もっとあの国を調べておくべきだった。 国交を結びに来た時、きちんとした対応をとるべきだった。 くやんでも、くやんでも、くやみきれない。 しかし、過ぎたことを後悔しても最早手遅れである。 彼に出来ることは侵攻軍3万と4400隻の艦隊を打ち破った敵軍の逆侵攻に備えることだけだった。 特にロデニウス大陸の戦闘において、陸戦は数がものを言う。 そのため、逃げ帰った艦隊から生き残った陸兵のみならず、水兵の半分も投入して、防衛線を展開するしかなかった。 王は、その日、眠れない夜を過ごした。 結局のところ、彼の努力は無駄に終わることになる。 数日後、ロウリア艦隊を撃破した日本海軍とクワトイネ海軍の連合軍の合わせて100隻余りが、王都の北の港付近の海岸線に展開。 上陸作戦において日本一を自負する第五師団と海軍連合特別陸戦隊、さらに旧式装備ながら日本軍事顧問が直接指導して鍛え上げたクワトイネとクイラの精鋭部隊が艦隊の支援の下、上陸。 王都を直ちに占領し、ハーク・ロウリア34世以下王都に残っている首脳陣のほとんどが捕縛されてしまう。 かくて、日本がこの世界で最初に加わった戦争は、終わった。 おわり。 以上です。 ようやく完結した・・・ あれもこれもと加えたらここまで増えてしまった。 自分のアイデア力と想像力と欲求が怖い・・・ 原作では空挺作戦が実行されましたが、憂鬱日本ではヘリコプターは初期のレシプロヘリですので、 わざわざ空挺作戦をするよりも堅実な上陸戦で制圧する手段を選択しました。
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/544.html
322 :名無しの紳士提督:2014/09/10(水) 11 35 45 ID hx4Xp/wM 私は知らなかった 大人になれば、自然とレディになれるのだと思っていた もちろん、レディになるための努力は欠かさなかったし、だからこそあの時、夜警も引き受けたのだ 私は知らなかった大人というものを でも、あの時ついうっかり寝入ってしまったのは私が紛れもない子どもであったことの証明だと思う 「やっ…!やめっくひぃっ!暁…っちゃんが!あ!こんな…こんなぁ…」 「ふふ…そんなに騒いで起きちゃったらどうします? お か あ さ ん ?」 「あぁ…っそんなそんな言い方!堪忍…堪忍してくだっんひぃ!あ!あ!あ!あぁっ!!」 何か水っぽい音と、妙に鼻にかかったような声に意識をくすぐられ、薄目を開けた私の見たものは… 「??、へ?え…?」 そこにいたのは楚々とした仕草の美しい軽空母でも、少し意地悪だけど大好きな司令官でもなく ただ、獣たちが、そこにいた 323 :名無しの紳士提督:2014/09/10(水) 11 42 03 ID hx4Xp/wM 「あぁ、暁起きたんですね…いや遂に観念したのかな?っと!」 「んひィっ」 私が憧れて"いた"2人…獣、いやケモノはそんな声を上げると組み敷いていたケモノの顔をぐいとこちらに見せてきた 「ぁ…あぁ…」 綺麗にまとめていた髪はほつれ、優しい表情を浮かべていた顔はよだれまみれでひきつり、目はうつろで…! 咄嗟にかけられていた毛布にくるまり、目を閉じ、耳を塞ぐ アレはダメだ、見てはいけないものだ、だって私の理想の中にあるものは… あんなに、きたなく、ない その後のことはよく覚えていない 何か顔にかけられた気もするけれど、本当に覚えていない ただ、思い出そうとするだけで切なくなるのがもどかしくて、ついに私は姉妹に相談することにした でも、自分でも要領を得ないと思う私の話を根気よく聞いてくれた妹は、響は私に顔を近づけてきて… 「それは…もしかしてこんな感じだったかい…?」 そう、ささやいたのだった 324 :名無しの紳士提督:2014/09/10(水) 11 48 58 ID hx4Xp/wM 憧れは人を盲目にする きたないケモノと同じモノになってしまった暁 暁はきたなくなんかない 全てをさらけ出しているからこそ 暁は綺麗なんだよと耳元で囁き続ける響 自己卑下と響の囁く甘言の板挟みになった幼い精神が悲鳴を上げる 次回、暁に響き亘る やはり赤ずきんは狼に喰われるが宿命か これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/