約 184,147 件
https://w.atwiki.jp/jyukenkun/pages/21.html
東京都立青山高校 所在地…渋谷区神宮前 最寄駅…外苑前駅 どんな高校? ・「都会のオアシス」と呼ばれる緑豊かな環境 ・進学指導重点校指定。教員は公募により選抜して大学受験指導に定評ある教員を配置 ・土曜授業必修、夏休みにや放課後等には多くの補習・講習を実施。予備校いらずで大学受験可能 ・予備校の衛星講座も受講可能 ・夏休みには外国人講師による英語集中講座を実施 入試概要 東京屈指の人気校。都会的な校風、東京有数と言われる外苑祭などの行事の活発さ、熱心な受験指導で高い人気を集めている。推薦入試は倍率10倍程度になる超超激戦。オール5でもほとんどの生徒が不合格となるまさに「宝くじ」状態。推薦入試はないものと思って受験勉強したほうが得策。一般入試は国数英の3教科で自校作成問題を課す。難易度は上位私立高校と同等。国分寺、立川、新宿、武蔵、両国といった同レベル校の自校作成問題や、難関私立高校の入試問題を練習に受験勉強をしておきたい。理社は理社は共通問題なので、90点以上が目標。特別選考枠も実施しているため、内申が低くても当日点を取れば合格可能。 青高生の声 ・外苑祭は一生の思い出になる最大行事!東京有数の盛り上がりという評判! ・大学受験対策は学校内だけでOK。例年予備校なしで難関大合格者が多数!東大合格者も予備校に通わず。 青山高校のいま(外部リンク) ・学芸大学附属高校や海城高校、桐朋高校よりも日比谷高校や西高校を選ぶ理由 都立高校が大人気。学芸大学附属高校や筑波大学附属高校よりも日比谷高校などの都立トップ校を選ぶ人が増えている理由って? ・大学受験を考えるなら学芸大附属高校・筑波大附属高校より都立トップ校を薦める理由 しっかり大学受験の面倒をみてくれる都立トップ校、塾任せの国立大学附属高校 ・学芸大学附属高校?筑波大学附属高校?都立トップ校? 塾では教えてくれない都立トップ校と国立大学附属高校の違い ・海城高校や桐朋高校の東大合格者激減 背景に高入生の不振 海城高校、桐朋高校といった難関国私立高校からの東大合格者はほとんどが中高一貫校出身の生徒であり、高校から入学した生徒は受かっていないという事実
https://w.atwiki.jp/jyukenkun/pages/20.html
多摩地域の誇る名門校(^o^)/ 東京都立立川高校 所在地…立川市錦町 最寄駅…立川駅 どんな高校? 1901年創立の府立二中を前身とする多摩で最も権威ある名門校。旧男子校時代の気風が今も残っていて、「バンカラ」や「質実剛健」と称される校風で有名。同窓会の絆も強く、千葉や長野に寮も所有。伝統の臨海教室ではOBの指導で遠泳が実施される。「立高アドバンス計画」の実施以後、大学合格実績が急伸長しており、独自の65分授業導入や予備校いらずの受験指導実現などで注目を集めている。 立高生の声 ・ 立川高校のいま(外部リンク) ・学芸大学附属高校や海城高校、桐朋高校よりも日比谷高校や西高校を選ぶ理由 都立高校が大人気。学芸大学附属高校や筑波大学附属高校よりも日比谷高校などの都立トップ校を選ぶ人が増えている理由って? ・大学受験を考えるなら学芸大附属高校・筑波大附属高校より都立トップ校を薦める理由 しっかり大学受験の面倒をみてくれる都立トップ校、塾任せの国立大学附属高校 ・学芸大学附属高校?筑波大学附属高校?都立トップ校? 塾では教えてくれない都立トップ校と国立大学附属高校の違い ・海城高校や桐朋高校の東大合格者激減 背景に高入生の不振 海城高校、桐朋高校といった難関国私立高校からの東大合格者はほとんどが中高一貫校出身の生徒であり、高校から入学した生徒は受かっていないという事実
https://w.atwiki.jp/jyukenkun/pages/22.html
東京随一の面倒見の良さで大躍進の注目校(^o^)/ 東京都立新宿高校 所在地…新宿区内藤町 最寄駅…新宿駅・新宿三丁目駅 どんな高校? 新宿駅から徒歩4分の交通至便な学校。1921年(大正11年)に府立第六中学校としての創立が起源の伝統校。質実剛健の校風で、創立以来80年以上続く臨海教室は、同窓会の支援により続く名物行事。戸山高校と戦う戸山戦も有名。戦艦三笠の鐘が校内に眠っているという伝説がある。「予備校いらずの面倒見主義」で進学実績を大きく伸ばし、多くの雑誌等で取り上げられている注目校。進学指導重視型単位制高校としてきめ細かい教育を徹底。高3になっても予備校通いは少数派。夏期講習等の講習は校内で2000時間を超える。自習室を夜8時まで開放。主要教科は全てが学力別授業編成で、自分の学力に合った授業を受け、テスト毎に入れ替わる。特進クラスである国公立クラスⅡを設置。教員は公募制によって質の高い教員のみを選抜・配置している。 入試概要 東京一面倒見が良い学校との呼び声も高く、進学実績も年々上昇と好材料揃い。私立高校のように行事や部活動を大幅に制限・縮小していない点も好感材料。一般入試倍率でも2倍を超える。自校作成校なので、応用力をつける必要がある。 新宿生の声 ・大学受験で予備校に通う必要はまったくない。 ・主要教科全てが学力別授業なので、苦手教科は克服できて、 得意教科はどんどん伸ばせる ・ライバル校の戸山高校と球技で戦う戸山戦は燃える! ・OBやOGが多く駆け付ける館山の臨海教室は感動もの! 新宿高校のいま(外部リンク) ・学芸大学附属高校や海城高校、桐朋高校よりも日比谷高校や西高校を選ぶ理由 都立高校が大人気。学芸大学附属高校や筑波大学附属高校よりも日比谷高校などの都立トップ校を選ぶ人が増えている理由って? ・大学受験を考えるなら学芸大附属高校・筑波大附属高校より都立トップ校を薦める理由 しっかり大学受験の面倒をみてくれる都立トップ校、塾任せの国立大学附属高校 ・学芸大学附属高校?筑波大学附属高校?都立トップ校? 塾では教えてくれない都立トップ校と国立大学附属高校の違い ・海城高校や桐朋高校の東大合格者激減 背景に高入生の不振 海城高校、桐朋高校といった難関国私立高校からの東大合格者はほとんどが中高一貫校出身の生徒であり、高校から入学した生徒は受かっていないという事実
https://w.atwiki.jp/jyukenkun/pages/34.html
小中高一貫教育の男子校(^o^)/ 桐朋中学・桐朋高校 所在地…国立市 最寄駅…谷保駅 どんな高校? 附属小学校も有する中高一貫校。高校募集は50名と補完的で非常に少なく、中学からの中高一貫教育が主流。自由な校風で知られている。教員組織は日本国憲法擁護や教育基本法改正反対などの政治的主張を掲げている。 高校入試概要 募集人数が非常に少ないため、第一志望として受検する生徒は非常に少なく、多くが併願校として受験している。桐朋高校を第二志望校として、第一志望に都立国立、都立西を受験するパターンが王道。最近では立川高校、国分寺高校、都立武蔵高校レベルにも蹴られているようだ。倍率・偏差値は低迷に歯止めがかからないのが現状。あくまで中学から入学して意味のある学校と思われているようだ。
https://w.atwiki.jp/jyukenkun/pages/16.html
理数の戸山はさらに躍進(^o^)/ 東京都立戸山高校 所在地…新宿区戸山 最寄駅…西早稲田駅・東新宿駅・高田馬場駅 どんな高校? 「理系の戸山」とも称されるほど理数教育に力を入れている。SSH(スーパーハイエンススクール)に指定され、通常授業では体験できない課外授業を積極的に行っている。また、早稲田大学と提携した高度な実験も実施している。校舎は完成したばかりである最新設備を持つ。階段広場やビオトープ、実験施設などが充実。戸山祭では3年生が映画を製作して発表することで有名。新宿戦ではライバルの新宿高校と対抗戦を行う。進学指導重点校として大学受験には非常に力を入れており、夏期講習には100講座以上の講習を実施。予備校に通わずに難関大学に合格する生徒は多い。2011年度の東大・京大合格2ケタ合格達成は見事。 入試概要 都立の準トップ校で、入試難易度は日比谷、西、国立に次ぐ難関校。理数教育に力を入れていて、医学部受験にも強い。一般入試は駿台模試で偏差値60以上が合格圏。VもぎやWもぎでは合否判定ができないので、駿台模試か自校作成模試を受験する必要がある。併願校には、男子は早稲田高等学院や海城、城北、本郷などが多い。女子は豊島岡女子、中央大附属などが定番。これらの定番併願校のうちの私立進学校は、有名大学の進学実績(特に東大や医学部)を内部生で稼いでいる傾向にあり、高校入学者の進学実績は、戸山高校と比べてかなり劣るのが実情と考えたほうが良い。 戸山生の声 ・校舎が超綺麗でハイテク。こんな校舎で学べてとっても幸せ♪ ・課外学習がとても多い。理数系に興味がある人にとっては最高の環境だと思う。 ・教科書を書いていたり専門書を書いている先生が多い。 ・希望者はアメリカのハワイへ行ってすばる望遠鏡を見学できる。 ・フランス語やドイツ語といった第二外国語も勉強できる。 ・早稲田大学と隣り合わせのため、早稲田大学とは提携授業など何かと関わりが多い。進学先も平均層だと早稲田大学が一番多くて、合格者数は100名を超える。 ・ちなみにお隣は学習院女子。 ・副都心線の開通で“超超”便利になった。徒歩30秒で学校に到着。 ・予備校には行く暇がないし、行かなくてもいいぐらい学校が面倒をみてくれる。予備校に通わずに大学受験をしたいなら戸山が良いと思う。 戸山高校のいま(外部リンク) ・学芸大学附属高校や海城高校、桐朋高校よりも日比谷高校や西高校を選ぶ理由 都立高校が大人気。学芸大学附属高校や筑波大学附属高校よりも日比谷高校などの都立トップ校を選ぶ人が増えている理由って? ・大学受験を考えるなら学芸大附属高校・筑波大附属高校より都立トップ校を薦める理由 しっかり大学受験の面倒をみてくれる都立トップ校、塾任せの国立大学附属高校 ・学芸大学附属高校?筑波大学附属高校?都立トップ校? 塾では教えてくれない都立トップ校と国立大学附属高校の違い ・海城高校や桐朋高校の東大合格者激減 背景に高入生の不振 海城高校、桐朋高校といった難関国私立高校からの東大合格者はほとんどが中高一貫校出身の生徒であり、高校から入学した生徒は受かっていないという事実
https://w.atwiki.jp/pawa_paro/pages/15.html
1.ため息をひとつ 「6-0で恋恋の勝ち!礼!」 ホームベースの前に整列したチームメンバーは一斉に帽子を脱いで挨拶すると、 バタバタとベンチの方に帰ってくる。その表情はどれもが弾んでいて、 とても一試合闘い終わった後とは思えない。 「お疲れ様!」 「「お疲れ~!」」 笑ってねぎらいの言葉をかけると、ナインの面々は勝利の余韻を残したまま 私に笑い返して、足取りも軽くグラウンド整地用のトンボを取りに行く。ウチは 部員が少ないから、試合後のレギュラーメンバーでもこういった雑用をこなす 必要があるのだ 。 「ちょっと、ダメです羽和さん!」 ボクもスコアブックを確認してから、グラウンド整備の手伝いをしようと 立ち上がりかけたところで、隣に座っていた子が大きな声を上げた。 「ん?」 きょとんとした様子で振り向いたのは、我がチームのエースにしてキャプテン、 本校野球部の創設メンバーである羽和くん。 今日の練習試合でも被安打5の完封勝利をもたらしたチームの軸……のわりには、 どこか暢気そうな顔をした男の子。 「ちゃんとアイシングつけてください。ホントはトンボ引きも 休んで欲しいくらいなんですから…」 「え~?別に、グラウンド慣らし終わってからでも…」 「ダ・メ・で・す!9回で134球。すぐに冷やさないと疲労が溜まっちゃいます」 「はいはい。こういう時だけ厳しいんだから、はるかちゃんは…」 そのエースに声をかけたマネージャーでボクの親友、七瀬はるかは、 いつのまにか用意していたアイシングパックを持って、羽和くんに駆け寄っていく。 「えっと…じゃあ、ボクが代わりにトンボかけとくよ」 元ピッチャーなのにそこまで気が回らなかったことにちょっと引け目を感じたボクは、 取り繕うように羽和くんからトンボを受け取る。 「ありがと、あおい。ほら 羽和さん。上着脱いでください」 「え……それはちょっと、恥ずかしいかも……」 「早く片づけ手伝いたかったら、大人しく従ってくさいね♪」 「はい……」 はるか、ちょっと前まで男の人が苦手と言っても良かったのに、羽和くんには 随分と気安いんだな…。多分、ボクだったら、真面目な理由があっても 男の子に『上着脱いで』なんて言えない。 羽和くんはしぶしぶといった感じでベンチに座ってユニフォームの上着を脱ぐと、 後ろに立ったはるかに肩にアイシングをつける作業を任せた。 「うーん やっぱりアンダーシャツ湿ってるなぁ…汗くさくない?」 「そんなことないですよ。スポーツ選手のにおいです」 「それって、汗くさいっていうことなんじゃ…」 軽口をたたき合いながら、はるかは手際よく羽和くんにアイシングをつける。 羽和くんのシャツがはだけて、首から肩、胸にかけての逞しい筋肉が目に入って、 やっぱりボクとは体の作りからして違うな……と思うのと同時に、何だかドキッと させられてしまう。 「……あおいちゃん、なにぼーっとしてるの?」 「え?あ、ううん、何でもない何でもない!すぐグラウンド整備行くね!」 視線に気付いた羽和くんの言葉に、やましいことでも指摘されたみたいに慌てる。 ボクはそこから逃げるようにチームメイトのトンボかけに加わった。 今日は遠征の練習試合だったから、電車をいくつか乗り継いで部員達と別れ、 自宅の最寄り駅へ向かう車中で、ほっと一息。 暗くなるのも早くなった初冬の空を窓から見上げながら、ボクは何だか モヤモヤした心を持て余していた。 今日の練習試合は、完勝だった。打線も繋がったし、羽和くんのピッチングも、 バックを守る守備のリズムも良かった。しかも、毎年地区大会のベスト8は 確実なくらいの強豪校を相手に。 そして、この恋恋高校の野球部は、数週間前の秋期大会で決勝まで進み、 あの超名門、あかつき大付属高校を接戦の末破っている。つまり、次の春の 選抜甲子園に出場確実のチームなのだ。 ……そして、そのチームのメンバーに、ボクは入っていない。 今年の夏の大会、チームの人数が揃って初めて参加した甲子園予選。その途中で、 女性であるボクが高校野球大会に参加したということで、出場停止処分を受けて しまったからだ。 「……ふぅ」 そこまで思い返して、ため息をひとつ。 多分、今のチームに、ボクは必要ない。仮に女性選手の出場制限が無かったとしても。 そのことに、改めて気付いてしまったから。 恋恋高校の野球部を創部から1年半でここまで強くしたのは、羽和くんの力に よるところが大きい。 彼は、プロを目指してるなんて言ってるくせに、元女子校で野球部も無い ウチの学校に入学してきた。はっきり言うと、初めはただの変な奴だと思ってた。 でも、彼はてんで揃ってない設備の中での練習でもどんどん上手くなって。 人数は少ないけど、野球の才能は決して悪くない人材が集まって。それをまとめて。 いつのまにやら、背番号が余るような人数しかいない恋恋高校野球部は、 甲子園に行くようなチームになってしまった。まるで、魔法みたいに。 天才っていうのは、あの人みたいな人のことを言うんだろうな。自分だけじゃなくて、 環境までを変えてしまうような人のことを。 また、ため息が出た。自分が降りる駅まで、あと15分ほど。 ――ボク、彼に嫉妬してる。 男女差を抜きにしても、彼はボクより遙かにピッチャーとして完成してる……ううん、 これからもどんどん伸びるだろう。 それでいて、野球をやるのに、女であるボクと違って何の障害も無い。彼だったら、 本気でプロを目指すことができる。 ボクに無いもの。ボクが欲しいもの。ボクが奪われたもの。それを、彼は持ってる。 そういう、どうしようもない妬み。 マネージャーとして応援するって決めたはずなのに、自分が嫌になる。 それだけじゃない。それだけだったら、こんなにモヤモヤした気分にはならない。 彼に関して、もうひとつ、嫉妬してることがあるから。 ……七瀬はるか。 ボクの中学校の時からの親友。彼女に、嫉妬してる。 はるかは、親友のボクにもはっきりとは言わないけど、羽和くんのことが好きらしい。 そして、羽和くんも、はるかのことを少なからず意識しているように見える。 ふたりとも野球部で忙しいせいか、付き合うとかそういう関係ではないみたいだけど、 何かきっかけでもあれば恋人同士になっても不思議じゃない雰囲気だ。 はるかが羽和くんに惹かれているのは、わかる気がする。はるかはボクの影響も あってか野球が好きだ。お嬢様育ちなせいで男の人が苦手なところがあったけど、 同じ野球部で毎日接してる人にとは気軽に話せるようになってもおかしくない。 それに、何より。羽和くんはひたむきで、野球を愛してて、結果も出せて。それでいて 変に気取ることもなくて、どこか暢気でちょっと抜けたところもあって。真面目だけど ちょっと危なっかしいところもあるはるかとは似たもの同士で相性も良いんだと思う。 ……ううん、そんな理由つけなくても。羽和くんは、格好良いから。輝いてるから。 ――――ボクも、好きだから。 ぎゅうっ、と胸の奥が締め付けられるように痛くなった。ボクは、親友に対して嫉妬してる。 大事なチームメイトと大事な友達が幸せになってることを、喜べない。 羽和くんは、ボクよりずっと優れた野球選手で、輝いてて。 はるかは、男勝りなボクと違って、美人で、品があって、気配りもできて、優しくて、 女の子としてボクとは比較にならないほど魅力的で。 ……その二人が、恋人同士になるかもしれなくて。 野球選手として、ボクは羽和くんにとても勝てない。 女の子として、ボクははるかにとても敵わない。 どっちつかず。中途半端。……負け犬、なんて言葉が思い浮かぶ。 「嫌だな、こんなボク……」 大きな駅での乗降中の喧噪に紛れて、ぽつりと呟く。 目を瞑った瞼の裏には、肌に張り付いたアンダーシャツ姿の羽和くんと、 その体に触れてアイシングをつけてあげているはるかの姿が浮かんで消えなかった。 2.はるかの日記 「そーかそーか、白鳥学園相手に完封勝利か!よくやった!!」 お父様は大声で笑いながら、隣の席にいる羽和さんの背中を叩きます。口に飲み物を 含んでいた羽和さんは、危うく吹き出しそうになるのを耐えていました。 「いやー、こんな将来有望な青年を拾ってくるとは、ウチのはるかもなかなか 隅に置けないじゃないか。なぁ?」 「拾ってくるだなんて、そんな羽和さんを犬か猫みたいに…」 「おー、そうだった。倒れていたはるかの方が拾われたんだっけな」 「そういう問題じゃありません……」 なぜか私よりお父様に近い席に座らされてる羽和さんに目をやると、羽和さんも 観念したような苦笑いを私に向けています。私も笑い返して、いつもより豪華に 見える食事を早めに終わらせてしまうことにしました。 どうしてこんな光景が見られるようになってしまったのかというと、私が体調を崩して 倒れているところを羽和さんに介抱してもらい、お礼に自宅へ招いてお食事を ご馳走した際に、お父様が羽和さんのことを大層気に入ってしまったのが事の始まり。 それ以来、今日のように練習試合などで早めに帰宅できる日は、お父様も仕事を 切り上げ、羽和さんを家に招く事を勧めてきて、こうやって一緒に夕食をとることが 多くなってしまったのです。 「ふむ、これを見ると、どうやら羽和くんがやや弱点にしていた左打者も 克服してきているようだな。不安だった右側の守備も失策が減っておる」 お父様は食事もそこそこに私の持ち帰ってきたスコアブックを開いて、勝手に 分析を始めています。 「お父様。食事中なのに野球の話ばっかり……」 「何を言うか。わしに野球に興味を持たせたのはお前じゃないか」 「それは……そうですけど」 注意した私に対してやや的はずれな言い返しをしてきたお父様に、少し言い淀みます。 確かに、お父様がここまで野球狂いになってしまったのは、中学に入ってからあおいの 影響で私が野球のことを調べ始めたのが原因なのです。 「ま、一試合投げ抜いて疲れておるようだが、安心したまえ羽和くん。今日は一流の マッサージ師を呼んでいるからのう」 「あ、ありがとうございます……」 そのおかげで、野球選手である羽和さんにも少しはプラスになる対応をしてくれる ということもあるのですが、何だか複雑です……。 「それじゃあ、お休みなさい。今日は色々ありがとうございました」 「いえいえ、こちらこそ…」 「そうとも。いつでも我が家だと思って来ていいんだからな。あっはっは!」 お父様の用意した車で自宅まで乗っていってもらうことになった羽和さんを、家の前で 見送ります。 「じゃ、また明日」 「はい、さようなら」「また会おうぞ、青年」 羽和さんは私たちに笑いかけてから、車に送られて行きました。後には、ちょっとした 胸の奥の寂しさが残ります。 「いやー、あれだけ才能があるのに、謙虚で実に好青年だのう、羽和くんは」 「そうですね」 「うむ、叶わば我が家にも、あのような息子が欲しかったものだな……」 門をくぐって家の玄関へ向かいながら、お父様はしみじみと言います。 「無論、はるかだってわしが誇れる娘だがな。それに、彼がわしの息子になるという 望みはあながち夢とも言えないからのぉ」 「もう……」 冗談とも本気ともつかない物言いに、思わず頬が熱くなります。 「で、正直な話、どうなんだ、お前と羽和くんは?」 「残念ですけど、ただの友達です。私も彼も部活動が忙しいんです、お父様が期待する ようなことはありません。せっかくうちに招待しても、今度はお父様と一緒だし…」 ちょっと恨みがましくそう言うと、 「何だ、遠慮してるのか。別に気にせんぞ。わしのまえでいちゃついても」 「私は気にします!」 相変わらずのお父様です。 「これからの時期は練習試合も練習時間も制限されるだろう。 少しはお前も羽和くんに唾つけられる時間も出来るんじゃないのか?」 「下世話な言い方しないでください。それに、甲子園行くような野球部にそんな甘いこと 言ってる余裕はありません」 「むぅ。では、こっちでトレーニングルームでも借りてやろうか。冬場は故障の心配が 大きいからの。羽和くんの為にスポーツトレーナーを雇うという手もあるな」 「それは願ってもない話ですけど……考えておいてくれると嬉しいです」 うちの野球部は部費も雀の涙で、グラウンドも設備も名門校とは比較にならないほど 見劣りします。あんまり親に頼りたくはないですけど、やっぱり好意は受け取っておいた 方がいいでしょう。 「でも、あんまり羽和くんばかり贔屓しちゃダメですよ。彼だってあくまで野球部の一員 なんですから」 「なんだ、お前は贔屓しないのか?」 妙に真面目な顔になって、そう切り返されてしまいました。 「えっ ?」 「男は何だかんだ言って独占欲が強いからのう。自分を特別扱いしてくれる女子で ないと、いつまでも心を留めてはおけんぞ」 「そう……なんですか……?」 からかうようなお父様の口調に、何だか不安になってきます。私だって羽和さんに 好いてもらいたいけど、立場上他の部員より特別贔屓するわけにもいきません。 「はっは、青春だなぁ、のうはるか?」 お父様は高笑いして私の背中を叩くと、何が楽しいのか鼻歌なんか歌いながら さっさと家に入っていってしまいました。 「……ふぅ」 部屋に一人になると、少しのぼせてしまっている頭に色んなものが浮かんできます。 勉強にも集中できなくなって参考書を閉じると、私は机の脇に置いておいた スコアブックを手に取り、開きました。 先攻、恋恋高校。先発投手、羽和。一回の裏、先頭打者4球目でセカンドゴロ。 二番打者5球目で三振。三番打者、3球目でショートフライ。三者凡退。 記録を見ているだけで、今日の羽和さんの投球の姿が鮮明に浮かびます。 ページをめくれば、前の練習試合の記憶も。その前の試合の記憶も。……それに、 羽和さんが一番頑張った、秋季大会決勝の記憶もありありと思い出せます。 「格好良かったなぁ……」 今日の試合、7回裏。二死一三塁で相手打者は4番。コーナーいっぱいを突いた 変化球で追い込んで、ランナーを睨みつけてからクイックモーションで速球。 見事な三振で後続をシャットアウト。会心の笑みを浮かべてのガッツポーズ。 弾むような足取りでベンチに戻ってきて、私の差し出したドリンクを 『ありがと!』って本当に嬉しそうに受け取ってくれて……。 …………(記憶リピート中)。 はっ。ちょっとアッチの世界に行ってしまいました。多分今の私、緩みきった 夢見る乙女の顔になってます。恐ろしくて机の脇の姿見に目が向けられません。 ふぅ。もう完全に胸がどきどきしてしまって、勉強どころじゃなくなってしまいました。 私しかいないとわかっているのについきょろきょろ部屋の中を見回してから、鍵付きの 引き出しを空けて日記帳を何冊か取り出します。 高校に上がってからつけている日記。その中でも最近のものの中身は、ほとんど 羽和さんに関係することしか書かれていません。野球部で撮った写真の中から羽和さんの ものだけを焼き増して貼り付けて、その日の気持ちを思うままに綴ってあります。 自分でも読み返して赤面するくらいの内容。蛍光ペンをフル活用してあってカラフル だったり、無闇にハートマークが散乱してたり、妙なイラストが描いてあったり……。 ……コレの存在が誰かに知れたら、私は家宝の剣で切腹して死にます。 それくらい恥ずかしい代物なのですが、私の高校生活でいちばん大事な思い出が 詰まっています。 一番古い日記を開きます。まだ恋恋の野球部が愛好会だった時のもの。あおいに マネージャーをしてくれって頼まれたばかりのこのころは、メンバーも羽和さんと あおいと矢部さんしかいなくて、ただの草野球好きの集まりみたいな雰囲気でした。 貼られている写真や書かれていることも、野球愛好会全般に関してのものです。それも そのはず。そもそもこの日記は野球愛好会の記録のために書き始めたものなのですから。 でも、その記録の中で愛好会が発展していく……特に羽和さんがぐんぐん伸びていく 過程で、ページの中には羽和さんだけが写った写真や、羽和さんのことを書いた文章の 比重が次第に大きくなっていくのがわかります。 この日記は、羽和さんが野球選手として成長していく記録で……そして、私が 一人の人を好きになっていった記録でもあるのです。 真ん中の方の日記までを斜め読みしたところで、ページをめくる手が重くなりました。 貼りつけてある写真の中に羽和さんとあおいが一緒に写っているものが極端に少なくなり、 代わりに羽和さんと私が一緒に写っているものがどんどん増えていっているころです。 ……それは、友達よりも気になる男の人を優先してしまったということで。その人と 一緒のグラウンドで汗を流しているあおいに妬みを感じてしまったということで。 初めて自分で意識して、人を異性として好きになったのだとわかった時で。 そのころの、甘いけどどこか切なく膨らんでいく想いと、親友であるあおいへの 罪悪感を思い出してしまったから。 「羽和、さん……」 合宿の時に撮った写真の中の、屈託のない笑み。 貴方は、こんな私の気持ちに気付いてくれますか? 彼に惹かれていく過程を思い返してしまったら、それは抑えきれなくなって。私の中の 女の子が、じわじわと全身に広がっていきます。 真剣に野球に取り組んでいる彼のことを思いながら、こんな不純な気持ちになるなんて、 いけないって思うのに。ううん、そう思うほど、私の体と心が熱く火照ってしまう。 「ふ……ぁ……羽和さん……羽和、さんっ………」 堪えきれなくなって両の太股をぎゅっと閉じると、じとっとした感覚。ただ、写真を 見ていただけなのに。 お父様は色々と邪推しますけど、私は羽和さんと何回か一緒にお出かけしたくらいで、 恋人関係どころか手を繋いだことだってありません。 思いを溜め込むだけで。ぶつけることもできなくて。こうやって、汚らしい行為で 少しずつ逃がすくらいのことしかできなくて。 「は……ぁ……ふ……ぁ、はぁ………ぅんっ……!」 足の間に右手が伸びるのを止められない。太股に手が触れたただけで罪悪感が全身に 広がる。指先が湿り気を帯びた下着に触れると、何か重い禁忌を犯したような感覚さえ 襲ってくる。 私が貴方に気持ちを伝えたら、貴方はどんな顔をしますか?貴方のことを思ったら、 綺麗な感情だけじゃなく、こんなはしたない高ぶりまで感じてしまうと言ったら。 幻滅しますか?普段の君からは想像も出来なかった。そんな風に思いますか? 違います。普段の私が、猫を被ってるんですよ。努めて、『良い子』の私でいるんです。 本当は、貴方に私だけを見て欲しくて。私だけに笑いかけて欲しくて。私に触れて、 抱きしめて欲しいって、そう思っているんです。 指が、下着の中に入り込む。既にじっとりと湿っているそこに指をあてがって、 ぬるりと上に擦り上げる。顎が上がって、くぐもったような声が喉から漏れる。足指の 先までがふるふると痙攣して、座っていることさえ辛くなる。 それに、もっと。今、私がしているようなこと。いやらしいところ……恋人にしか 触れさせないところ。胸とか、大事なところとか。そこにも触れて欲しい。 大きくて、マメの痕が重なった手で、私のぜんぶを知って欲しいって、思うんです。 「はぁっ……はぁっ……ん……ふ、ぅ………ぁんっ……!」 いやらしい。私、いやらしい。ごめんなさい……一人でこんな惨めなことして、 恥ずかしいと思いますよね。でも、この指が貴方のものだったら。貴方に背中から 抱かれて、鼓動や吐息を感じながらはしたないところを弄られたら。今とは比較に ならないほどに、私、いやらしくなると思います。 身体が浮き上がりそうになる感覚を覚えながら、服の上から胸に触り、先端のあたりに 指を這わせる。すぐにそこは張りつめたように固くなって、甘い痺れを与えてくる。 力が入らなくなった上半身を持て余して、机の上に突っ伏す。肩から落ちた髪が、 机とそこに広げられた日記のページの上に広がる。私が、自分の体の中で一番自信がある、 長いストレートの髪。 「ふ……あぁっ……ゃあっ……あぁっ……!」 頬がページに触れて、間近に迫った視線の先に、羽和さんの写真。私が貴方を思って こんなことしてるなんて全く知らない、純粋な笑顔。 それと目が合ってしまった瞬間。最後の数段を登り詰めるみたいに、身体の奥から 熱いものが込み上がってきて。 「~~~~~~~~~っ!!!」 声を上げないように歯を食いしばった全身に、電流でも流れるみたいに暴力的な 恍惚感が走り抜け、四肢がふるふると震える。感覚だけがどこかに飛んでいって しまったみたいに、体に力が入らなくなる。 「ぁっ……は、ぁ………」 甘い脱力感に支配されながらその波が退くのを待っていると、目の前の羽和さんの 笑顔が滲み、なぜか目尻から零れた涙が、ページの上に染みをつくるのがわかりました。 3.背番号のない少女 小さく息を吸う。軸足を強く踏みしめる。手の中の球に一層力を込め、流れるように ワインドアップ。 見つめるのは18メートル先のミット一点。弓を絞るように右手を引き、渾身の力を 込め、かつ鞭のようにしなやかに振り抜く。 「よーっし、ナイスボール!」 小気味良いキャッチングの音がブルペン内に響く。構えられたミットに寸分違わず叩き 込まれた硬球を、我が女房は満足そうに投げて返した。 「う~ん、久しぶりだと気持ち良いね」 肩を軽く二、三度回すと、今度はさっきより少し抑え気味に投球。体に込めた力が すっと気持ちよく抜けていくみたいに、ボールがミットに吸い込まれる。 練習試合で投げ込んだ後は全力での投球練習が禁止されており、今日はその解禁日。 基礎トレや走り込みを中心にやらされ、しばらくキャッチボールで肩を温めてからの 投球はすこぶる気分が良い。 「ひゃー、今日も一段と球走ってますね。秋季大会終わってから、また速くなったんじゃ ないですか?」 近くの柱にくくりつけたゴムチューブで練習していた後輩の手塚が、汗を拭きながら 感心した声を上げる。 「どっちかというと、疲労が完全に抜けてきたからじゃないか? あんときの連投は さすがに堪えたろうし」 オレの球を受けているキャッチャー、保志は、オレのフォームや球筋を一球一球確認 するように見ながら、手塚にそう答える。 「まぁ、そうでしょうね。キャプテンの半分も投げてないオレっちでも、しばらく 全身がパンパンでしたもん」 自分の二の腕や太股を叩いてパンパンに張っていた筋肉をアピールする手塚。 「手塚には感謝してるよ。一年なのにあれだけ頑張ってくれて…お前がいなかったら まず優勝なんか不可能かった」 「またまたぁ、おだてたって何も出ませんよ、キャプテン」 手塚はけらけら笑うと、再びチューブを掴んで上腕のトレーニングに戻った。 だべるのを止めて投球練習に集中すると、グラウンドの方で内外野に分かれてのノック をしているのが聞こえてくる。あちらのかけ声や走る音もどこか軽快だ。こっちの バッテリー陣のどこか暢気な雰囲気といい、選抜出場がほぼ決まってチーム力もまとまり、 野球部全体が良いムードになっているということだろう。 やや浮ついてるということでもあるけど、恋恋の野球部の努力がようやく身を結んだ 感慨にみんなが浸っているわけだから、もう少しはこのままでもいいと思う。 まぁ、キャプテンの立場としては、最低でも選抜甲子園への本格的な練習に入るまで にはビシっと引き締めないといけないわけですが。 それにしても、よくぞ秋季大会で決勝まで進み、あのあかつき大付属を倒すまでに こぎつけたものだと我ながら思う。 女子校から共学に変わったばかりのこの学校に野球部を作り、甲子園を目指すとか 本気で思っていた一年半前の自分は、正直無謀だった。というかアホだ。 ……ほとんど運、だよな。 たまたま同じクラスで野球経験者、オレが無理に野球に誘ったらついてきてくれた 矢部くん。俊足、好守のセンター。 今オレの球を受けているキャッチャーの保志。はるかちゃんが連れてきてくれた コイツは偶然にも元シニアの捕手で頭も切れ、非常に頼れる奴だった。 加えて、その他のメンバーもはじめのうちから愛好会とは思えない練習量についてきて くれて、驚くくらいに上達した。まさにミラクルだ。 ……そして。 数ヶ月前まで、このブルペンを使っていた姿を思い出す。サブマリンというより イルカが海面に跳ねるような滑らかで柔らかいアンダースローに、揺れるお下げ髪。 ――早川あおい。 女性初のプロ野球選手。規定の上でも体力の上でも不可能に近い夢を、真っ直ぐな瞳で 信じていた女の子。 あおいちゃんがいたことが、うちのメンバーに不思議な活力を与えていたと思う。 彼女は実際、鍛えればプロにも通用するかもしれない変化球に制球力を備えており、 何より、強くて純粋な意志の力みたいなものを持っていた。あの子を前にして、不可能 なんて言葉はとても口に出せない。そんな魅力でチームのムードを作っていた。 女性がプロ野球選手になることと、一学年で男子が9人いない学校の野球部で地区大会を 勝ち抜くこと、どちらが不可能か? 答えは簡単。両方、やってみなくちゃわからない。 そう思わせる力で、後者の方の不可能は、可能にしてしまった。 でも。 内野手の守備練習でノッカーをしている女の子の方にちらりと目を向けて、複雑な 気持ちになる。 早川あおいは、現在、恋恋高校野球部の選手ではない。秋季大会で優勝した時も、 彼女はベンチにいた 背番号をもらえない、マネージャーとして。 それを思うと、勝ち抜いた秋季大会よりも、敗北することなく退場した夏の予選の記憶 が鮮明に浮かび上がる。 控え選手もろくにいないチームで、一戦一戦相手チームを丁寧に分析し、全力で戦って。 オレと、あおいちゃんと、まだ経験の浅かった手塚で繋いで。 そして、4回戦まで勝ち抜いて地元のメディアに新設野球部異例の快挙なんて 取り上げられたところで、女性選手を試合に出した話が広まり、問題視されて出場停止。 あの時ほど悔しかったことは、今までの人生にない。 オレでさえそうなのに、あおいちゃんは、どれだけ悔しかったのだろう。 どれだけ、オレたち部員に申し訳ないと思っただろう。想像することも出来ない。 「おーい、羽和。どうした? 棒球になってるぞ」 「あ、ごめん」 よそ事を考えていた上、沈んだ気持ちになっていたのが投球にも伝わってしまった。 こういうのはメリハリつけないとエースとしてもキャプテンとしても非常に良くない。 「謝るこた無いけどさ……ま、いいや。ちょっと休憩しよう。何考えてたんだ?」 さすが女房役というか、保志はオレが考え事をしていたのに気付いたらしい。 「ん……ピッチャーがオレと手塚だけで、甲子園でどこまで戦えるかってさ」 遠回しな表現にして、そう答える。 「そうだな……手塚がもうちょっとスタミナつけてくれれば計画も立てやすくなるな」 暗に含んだ意味を受け取ったのかどうなのか、保志はチューブを引いている手塚に 話を振る。 「まじっすか、今でもオレっち、死ぬほど走ってるのに……」 「足腰鍛えりゃ制球力も球速も上がるんだよ。お前はもっと伸びる余地があるから 言ってんだ」 「保志さんまでおだてるんですから……」 また、どこか軽い調子のやりとりになる。多分、二人とも気付いていてあえて言わない のだろう。『早川あおいがいたら、かなり継投の幅が広がるのに』って。 秋季大会では、かなりの無茶をやった。毎試合全力投球で、しかも連投につぐ連投。 それは元から選手が少ないのに加えて、あおいちゃんが抜けたから起きた事態。 それでも……いや、だからこそ、自分の力で甲子園を勝ち取ることができない あおいちゃんの為に、チームの為に、気力を振り絞って戦って、そして勝った。 けど、そんな精神論というか根性論が何度も通用するとは思えないのが甲子園だ。 「ま、今考えても皮算用にしかならんよ。当面の目標は、チーム力の向上。これのみ!」 「そうそう。試合の相談は、監督のいるところでしてちょうだいね」 綺麗にまとめた保志の後ろから、いつのまにか現れた女性が声をかける。 「あ、監督。チーッス!」 「「チーッス!」」 我が野球部の監督、加藤理香先生に、帽子を脱いで挨拶。今日は仕事が詰まってるから、 少ししか顔を出せないという話だった。保健室にいるときの白衣のままで、ちょっと用事 の合間に抜けてきたっていう様子だ。 「どう? 羽和くん。ちゃんと言いつけ守ってから投げた?」 「ええ、もちろん。肩も軽くなって、絶好調ですよ」 言いつけというのは、十二分にアップをしてから投げ込みを始めること。スポーツ医学 の知識があるこの人が監督になってくれたおかげで、練習効率もグンと良くなった。 「……うん、力も入りすぎて無くて、良い感じね。今日はまだ仕事があるけど、練習が 終わったら保健室に来なさい」 「はい」 オレの投球を2,3球眺めてから、監督は満足そうに頷いた。 みんな、甲子園へ向けて野球に真剣になってる。感傷的になっても良いことは無い。 ……頑張ろう。それから、頑張れ、あおいちゃん。 ノッカーを続けている女の子の方へもう一度、意識だけを向けてから、全身の力を 込めて球を放った。 4.それは突然に 「はい、次、セカンド!」 「お願いしまっス!」 細長いノックバットを振り切って、勢いのついたゴロを転がす。 二塁手の円谷くんは打球の方向が定まるか定まらないかの時点で駆け出し、危なげ なくグラブに納め、一塁へ送球。いつみても、この子の守備は軽快で上手い。 「うん、今の良いよ!次、6-4-3でゲッツー 」 カゴから次のボールをとったところで、ブルペンで投球練習をしていたバッテリーが グラウンドに入ってくるのが見えた。 「お疲れ、あおいちゃん。オレたちも入ろうか?」 投げ込みが終わったばかりで汗も乾いていないのに、羽和くんはグラブをはめ直して そんなことを言ってくる。 「うーん……ちょっと休んでていいよ。あんまり無茶させるなって監督に言われてるし」 「そうだな。じゃ、俺はキャッチャー入るぜ」 保志くんはボクの言葉に賛成してから、ホームの後ろに座る。ピッチャーにはさっき ブルペンの方から基礎トレを終えて戻ってきてくれた手塚くんが入ってくれているので、 これで内野は全員揃ったことになる。 「えー、オレ、仲間はずれ?」 羽和くんは不満の声を上げると、きょろきょろ何かすることが無いか探している。彼の こんなところは、本当に子供みたいだ。 「あ、そうだ。じゃ、ランナーやるよ」 良いことを思いついたと言わんばかりに、羽和くんはいそいそと一塁へ走っていく。 今から併殺プレイの練習をするところだったのでその提案はありがたいけど、それじゃ 守備に入るのとあんまり変わらないと思う。 「ダメですよ、休むときは休む。軽い柔軟運動かランニングでもしてください」 止めようとしたところで、ボクが言おうと思ったことを先取りしたみたいに、泥臭い グラウンドに不似合いな可愛らしい声が飛び込んでくる。部室で資料の整理をしていた はずの、はるかだった。 「はい、ちゃんと汗拭いてください。冬場はすぐ冷えますから、風邪も心配です」 「ありがと、はるかちゃん」 はるかは真新しいタオルを羽和くんに渡して、念を押す。羽和くんも、素直に受け取る。 この前の練習試合の後といい、そのふたりの姿はどうにも自然に見えて――。 嫌な感情が、ボクの中に生まれるのがわかった。 「……別に、そこまで神経質にならなくてもいいでしょ。じゃあ羽和くん、本気で走ら なくてもいいからファーストランナーやってくれる?」 そう、口に出してしまった。どうしてそんなこと言ってしまったのか、自分でもよく わからない。ただ、はるかの忠告なら聞き入れそうな羽和くんを見るのが嫌だなんていう、 変な嫉妬から生まれた天の邪鬼。 「もう、あおいまでそんな……」 「別に平気だって。タオルありがと」 そんなボクのひねくれた気持ちには気付かずに、羽和くんはダイヤモンドに入って 試合中のランナーのようにリードをとる。はるかも、そこまでしてしまってから無理に 止めることはないと思ったのか、やや不満そうにしながらもそれ以上は口出ししなかった。 「……じゃあ中断しちゃったけど、6-4-3でゲッツーね!」 「お願いしまーす」 頭を切り換えて、練習に集中。ショート横に狙いを定めて、ノックバットを振るった。 「今の、ちょっと雑だよ。送球を急ぐよりも、ちゃんと一つずつアウトとるのが先だからね」 「はーい」 何度か羽和くんに走ってもらいつつ、併殺プレイを想定した練習。やっぱり実戦形式の ノックはランナーがいてくれた方が練習になる。投げ込みで疲れているところを申し訳 ないとは思うけど、もう少し続けさせてもらおう。 「じゃ、次行くよ!」 今度は4-6-3でゲッツー。一二塁間をややセカンド寄りに、強いゴロを打って――。 ……それは、その時に起こった。 ほんの少し、打つ方向と勢いを間違えた。セカンド真正面。それを捕ったら、二塁に 入ったショートに送球するよりランナーの羽和くんに直接タッチした方が早い位置。 「おっと……!」 羽和くんはタッチされるのを避けるために少し走るコースを変え、捕球した円谷くんの グラブから逃げるようにして……。 練習で乱れていた土に足をとられて、その場に転倒した。 「あっ……!」 「先輩!?大丈夫っスか!?」 「っと……悪い悪い、格好悪いことしちゃったな」 恥ずかしそうに笑いながらそう言った羽和くんの声は、平気そうに聞こえたけど 。 「――っっっ!!!」 立ち上がろうとして、顔を歪め、再びその場に尻餅をつく。 「羽和くん!?」 「キャプテン!?」 「羽和さんっ!!」 慌てて、その場にいた全員が羽和くんのところへ駆け寄った。その一瞬でボクは、 何の意味もない妬みで羽和くんにランナーをやらせたことを後悔していた。 右の足首を捻ったことによる捻挫。普通に歩くだけなら数日もすれば大丈夫だけど、 全力疾走やピッチングは数週間は厳禁。 保健室へ連れて行って、加藤先生に羽和くんを診断してもらった結果は、それだった。 そこまで酷いケガじゃなかったことを不幸中の幸いと思うか、エースを故障させて しまったことを重く受け止めるか。少なくとも、ボクにとっては明白だった。 「…それじゃあ、あなたが想定ノックで羽和くんがランナーをすることを許可したのね?」 「はい……」 ケガの原因を深くは聞かれなかったけど、羽和くん以外の部員が練習に戻ってから、 ボクは先生に事情を正直に話した。 「そんな、あおいちゃんは別に……」 「羽和くんは黙ってて」 足に湿布を貼って椅子に腰掛けたままボクをかばってくれた羽和くんに、監督は ぴしゃりと言い放つ。 「……早川さん、別にあなたを責めるつもりはないわ。疲労していない状態であっても 起こりうる事故だもの」 「でも、ボクがノックをミスしたから……!」 「それも普段の練習の範囲内。どちらかというと、疲れてるのにランナーを申し出て すっ転んだ羽和くんの不注意ね」 「面目ございません……」 羽和くんは大げさに頭を抱えて俯いてしまった。その仕草が、ボクの気をほんの少しだけ ラクにしてくれる。 「でも、誰か個人のせいってことは無いわ。いいえ、チームである以上、全員の責任ね。 羽和くんも早川さんも、野球部の一員だってことを自覚して頂戴」 監督はそう言うけど。羽和くんがランナーをするのを認めた理由は、完全な……本当に くだらない、私情からだった。それまで言うわけにもいかないし、気分は重くなる一方。 「まぁ、この話はこれでおしまい。あと一時間もしたら私の用事が終わるから、車で病院 まで送るわ。ちゃんとした設備のあるところで検査してもらいなさい」 「いえ……それには及びません」 監督がまとめた所で、それまで黙って立っていたはるかが口を開いた。 「どういうことかしら?」 「さっき、私が家に電話して車を手配してもらいましたから…もう少しすれば迎えが来ます」 いつものはるかより、心なしか抑揚が無い声。 「あら、助かるわ。病院の場所はわかる? 私の妹が勤めてるから、簡単な紹介状書くわね」 「はい。私が責任持って連れて行って、ちゃんと診てもらいます」 「何か悪いなぁ……そんなことまでしてもらっちゃって」 「いえ、私はマネージャーですし、こんなことくらいしかできませんから」 照れくさそうに笑うはるか。その言葉通り、野球部のため……というより、羽和くんの ために何かできるのが純粋に嬉しいっていう様子だ。 けど……。 はるかはさっきから、一度もボクの方に目を向けていなかった。 5.ただのマネージャー 窓の外には、茜色を少しずつ濃くしていく夕焼けに染まった街並み。 広い座席に私と羽和さんを乗せて、私の家から呼んだ車は病院へ向かっている途中。 気を使ったのか運転手の人は遮音シャッターを上げてくれたので、私と羽和さんが実質 二人っきりという状況。なのに、頭がごちゃごちゃしていて話す言葉が浮かんできません。 「はるかちゃん、さっきからずっと黙ってるけど……」 「えっ…? あ、そうでしたか?」 急に声をかけられて、私はびくっと羽和さんの方に向き直ります。 「ひょっとしてオレの怪我気にしてる? 大したことないんだから、気楽にしてていいのに」 「い、いえ! 違います! あっ、違うっていっても、羽和さんの怪我を気にしてないって ことじゃないんですけど……!」 「いや、わかるよ。落ち着いて」 「すみません……」 何だかわからないうちに慌てて、謝ってしまいました。羽和さんの言うとおりもっと 冷静にならないと、変な子だって思われちゃいます。 「さっき何だか様子がよそよそしかったみたいだけど、はるかちゃんひょっとして、 あおいちゃんのこと責めてない?」 「え……?」 そんなことを言われて、私ははっとして羽和さんの方へ顔を向けました。 「気のせいだったら悪いんだけど…はるかちゃん、保健室でも思い詰めてたあおいちゃん のフォローとか、してなかったみたいだから」 「それは……!」 羽和さんの怪我があおい一人の責任だと思っていたから、というわけではなくて。 「…あおいには申し訳ないと思っていますけど、羽和さんが怪我しちゃって動転してて…」 つくろったみたいないい訳をしてしまいました。もちろん羽和さんの怪我で慌てていた というのもあるのですが、私があおいのフォローをしないで、無視するみたいなことを してしまったのは……。 『……別に、そこまで神経質にならなくてもいいでしょ。じゃあ羽和くん、本気で走ら なくてもいいからファーストランナーやってくれる?』 あおいが、羽和さんと私が話しているのを、邪魔したんじゃないかって、思って しまっていたから。 普段のあおいだったら、あんなこと言いません。なのに、今日に限って。そのことが、 不安に似た感情を生んでいました。その不安の正体は……自分でも、薄々わかっています。 「ならいいんだけど。99%以上オレの自業自得な怪我なのに、あおいちゃん、随分責任 感じてたみたいだから。明日になってもまだ気に病んでたら、はるかちゃんからも何か 言ってあげてくれないかな」 「……はい……」 素直に、返事できません。あおいのことを心底心配しているように話す羽和さんを、 あんまりこころよく思えないから。羽和さんにそう言われても、あおいのせいで羽和さん が怪我をしたのだと思ってしまう自分を止められなかったから。 私……すさんだ、嫌な気持ちになっています。それは――。 あおいを、敵視しているから? 「お願いするよ。いくらマネージャーとして甲子園まで行けるって言っても、野球が できなくなってから慢性的にちょっと沈んでるところがあるからね、あおいちゃん」 「はい、わかりました」 あおいのことばっかり、話さないでください。ここにいるのは、私なんです。 羽和さんの言葉に表面上では穏やかに返事をしながら、私は胸が締め付けられるような 思いを感じていました。 結局あんまり望むようなお話はできないまま病院に到着してしまい、数十分後。 羽和さんは松葉杖を突きながら診察室から出てきました。 「羽和さん、それ……そんなもの使わなくちゃならないほど酷い怪我だったんですか!?」 「あ、いや、そうでもないよ。ほら、オレがスポーツやってるから、多少不便でも極力 早く治るようにってさ」 私が慌てて駆け寄ると、羽和さんは安心させるように空いている方の手を振って笑います。 「それより、わざわざ待っててくれたんだ。ゴメンね、迷惑ばっかりかけて」 「いえ、全然迷惑じゃないです! ちゃんとお家までお送りしますからね」 本当に申し訳なさそうに謝ってくる羽和さんを見ると、こっちの方が後ろめたくなって きます。私は多分、他の部員の人が怪我をしたとしても、今の羽和さんと同じような対応 はしないと思うから。それはつまり、羽和さんと少しでも長く一緒にいたい、羽和さんに 色々してあげて、私に好意を持って欲しいという下心があるから。 何だか自分がすごく打算的に見えて嫌になりますが、羽和さんと二人で話せる機会 なんて滅多に無いし、今日は漠然とした不安な気持ちもあるから。何か一歩進まなければ いけない。そんな焦燥感に駆られてしまっています。 「それじゃあ、やっぱり向こう3週間はまともに練習できないんですね 」 「そうだね。練習できないのもそうだけど、足の筋肉がなまるのも心配だなぁ」 羽和さんをお家まで送る車の中。やっぱり、陰鬱な内容の会話にしかなりません。 何か、無いでしょうか。もっと気が利いたお話。 「えっと…羽和さん、その怪我だったら学校に登校するのも不便ですよね?」 「うん、まぁ、学校休むわけにもいかないしそれは仕方ないけど」 「あの、でしたら羽和さんのお家まで車で送り迎え、しましょうか?」 ちょっとした名案。これだったら、毎日でも羽和さんと二人っきりになれます。 「いや、さすがにそこまでしてもらうのは…」 「でも、私体が弱いから 普段は一人で登校してるんですけど、体調が悪いときは 車で送ってもらったりしてるんです。これから数日間くらい、車を使って途中で羽和 さんの家に寄るくらいだったら、ちっとも負担にはなりません」 いつになく強く押す私。羽和さんは少し視線を上げて考え込むような仕草をして…。 「…うーん…でも、やっぱり遠慮するよ。ただのマネージャーにそこまでしてもらったら、 キャプテンとして示しがつかないし」 そう、断りました。 ――ただのマネージャー。その言葉に、軽いショックをうけます。 『世間一般でいうところの、部活動のマネージャー』という意味で羽和さんは 『ただのマネージャー』と言ったのでしょう。それは理屈ではわかるのに。 羽和さんが私を、『ただのマネージャー』だとしか、見てくれていない。そんな意味に 感じてしまったから。 「……違います……」 『ただのマネージャー』は、そんな提案しません。羽和さんが特別だから、車で迎えに 行くなんて言ったんです。 「え?」 「違うんです……!」 でも、今の私は、常識からちょっと外れたことを言いましたか?『ただのマネージャー』 のくせに、私の家が裕福で、羽和さんにしてあげられることがちょっと多いからって、 モノで釣って恩を着せるような真似をしたって、思いますか? 今日のあおいの様子を見て 不安になっていたからって、焦って先走ったこと、してしまいましたか? 「ちが……!」 気がついたら私は、すがるように、隣にいる羽和さんの、シートに置かれた手に触れていました。 「へ?どうしたの、はるかちゃん?」 羽和さんの、大きい手。固いマメが重なった、エースピッチャーの手。羽和さんは不意 をつかれた声を上げて手を引っ込めかけましたが、それを……逃がすまいとするみたいに、 反射的にきゅっと握ります。 「あっ……すみませんっ」 でも、それも一瞬。我に返った私は、すぐにその手を離して、胸元に抱えるよみたいに 戻しました。自分でも何をしたかったのかよくわからなくて、かあっと頬が紅潮するのが 感じられます。挙動不審……だと思われたでしょうか。 ちらりと羽和さんの方を見ると、腑に落ちないといった顔をしています。 私は視線を逸らすと、羽和さんに聞かれても、聞かれなくてもいいような声で、 「……ただのマネージャーじゃ、ありません……」 そう、呟きました。 6.見えない溝 「ときに羽和くん。羽和くんははるかちゃんとどこまでの関係なんでやんすか?」 いつもより何倍も長く感じた午前の授業が終わり、昼休み。トイレと移動教室以外席に 座りっぱなしで気が滅入る中、唯一の楽しみと言っていい昼食の最中に、矢部くんが そんなことを聞いてきた。 「どこまで、って言われても…別に、オレとはるかちゃんは付き合ってるわけじゃないし」 「またまたぁ、憎いでやんす。あれだけ大事にされてて、何も無いとは言わせないでやんすよ」 オレと向かい合わせに座った矢部くんが、お弁当の箸をびしっとオレにつきつける。 「はるかちゃんは誰にでも優しいでしょ。オレにだけ特別ってわけじゃないよ」 「…これだから朴念仁は……後ろから刺されないように気をつけた方がいいでやんす」 「矢部くん、今日は何だか妙に絡んでくるね……」 昨日、オレが怪我してはるかちゃんに病院まで送ってもらったからだろうか。 「キャプテンがそんなんじゃ精神衛生上良くないでやんす。男ならビシッと決めて欲しいでやんす」 「んなこと言われてもなぁ……」 確かに、オレははるかちゃんが体調を崩して倒れていたのを助けて以来、何度も家に 招待されて食事をご馳走になってるけど、それはあくまではるかちゃんのお父さんが 野球をやってるオレを気に入ってるからだ。それに、食事に呼ばれていることは他の 部員は知らないはず。 「それとも何でやんすか。羽和くんははるかちゃんが気に入らないんでやんすか?」 「そんなわけないでしょ。親切だし、気配りができるし、頭も良いし、マネージャーと しても有能だし、それに……可愛いと思うし」 それはそう思う。少し天然ボケな所がある以外は欠点らしい欠点が無いし、正直な話 オレが身近に知り合った女の子の中では一、二を争うほど美人だ。そもそも、あんな 良い子に彼氏がいない時点でおかしいと思うわけで……。 「それだけわかっていれば十分でやんす。そのはるかちゃんが、何でフリーでいるのか 考えてみるでやんす」 「む……じゃあ、なんで矢部くんははるかちゃんにアタックしないのさ」 考えを読まれたみたいな矢部くんの指摘に、そう切り返す。 「えっ!?あ、それはその、ホラ、はるかちゃんは惜しいことにオイラの絶好コース からボール半個分ほど外れているのでやんす」 「ボール半個だったら打ちに行った方がいいと思うけど……」 野球に例えたせいでよくわからなくなってきた。 「と、とにかく!怪我して練習できなくなったのを機会に、もうちょっと周りの人間に 目を向けてみた方がいいでやんすよ」 「うーん……」 何だか強引にまとめられてしまった。確かに自分も野球ばっかりで他の事をあんまり 考えていなかったところはあるけど。 「……羽和くんは目の上のタンコブでやんす。羽和くんとはるかちゃんがくっつけば、 必然的にあおいちゃんは……」 「ん?何か言った?」 「何でもないでやすん!何でもないでやすんよ!」 矢部くんが策士の顔をしてぼそぼそ何か言ってたみたいだけど、よく聞こえなかった。 そして、放課後。一応野球部が練習しているグラウンドまで来たけど、当然自分は参加 できない。ベンチに座って練習風景を眺めながらハンドグリップを握ってるわけだが…。 「……つまらん」 10分もしないうちに飽きた。まだウォーミングアップのランニングしてるし。 あまり楽しくないランニングでも、できないと思うと無性に走りたくなるから不思議な ものだ。視線を落として、握力トレーニングをしている右手を見る。 ついさっき、矢部くんとはるかちゃんの話をしたせいだろうか。その手に、昨日車の中 でのはるかちゃんの手の感触を思い出す。 ……そういえば、何であんなことしたんだろう。 ハンドグリップを左手に持ち替えて、右手を軽く閉じたり開いたりしてみる。 昨日のはるかちゃんは、何だか様子がおかしかった。落ち込んでたあおいちゃんに 冷たかったり、車の中でも何かを考え込んでたり。会話の途中で急に手を握ってきたのもそうだ。 オレの怪我のせいで、混乱させちゃってた? それだけじゃないような気がする。手際良く車を呼ぶところまでは、冷静だったし。 はるかちゃんがオレを自宅から送り迎えするっていう提案を、断ったから? さすがにそれは野球部員にマネージャーがする手伝いとしてはやりすぎな気がするから、 断っただけだ。彼女にあんまり頼りすぎないための、常識的な判断だと思う。 「……うーむ……」 普段ならあんまり気にしないであろう事だけど、今日は矢部くんに変なことを言われた せいで妙に気になってしまう。 確か、はるかちゃんは部室にいるはずだ。行って、話してみようかな。 まだ慣れない杖を使って立ち上がると、右足をかばいつつ部室棟まで歩いていく。 野球部と書かれたプレートがついているドアを、空いている左手でノック。 「はるかちゃん、いる?」 「あっ……羽和さんですか?どうぞ」 ドアを開ける。ここに入るたびに思うけど、男臭いはずの野球部の部室なのに、文句の つけようがないくらい清潔に片づいている。話によると、野球部の部室ははるかちゃん が掃除や整頓してくれているおかげで、そこらの(女子中心の)運動部の部室より綺麗らしい。 「ボール磨き?手伝うよ」 「えっと、いいんですか?」 「他にすることも無いからね。雑用任せっきりってのも悪いし」 「すみません……じゃあ、お願いします」 汚れた硬球が詰まったカゴを前にして、はるかちゃんはボールについた土を落とす作業 をしていた。オレも、てごろなベンチを引っ張ってきて腰を下ろす。 「えっと、布巾は?」 「これを使ってください」 見た感じ、はるかちゃんはいつもと変わらない様子だった。線の細い体に、流れるように 綺麗な長い髪。端正に整いながらどこか幼さも残した美貌の少女が、とても洒落てるとは 言えないジャージの上下で野球部の雑用をこなすミスマッチ。いつのまにか 見慣れてしまった、恋恋高校野球部マネージャー、七瀬はるかの姿がそこにあった。 やっぱり、昨日に限ってちょっと混乱してただけなのかな? そんなことを思いつつ、ボールをゴシゴシ磨いていると。 「あの……言いにくいんですけど、汚れ、ちゃんと落ちてませんよ」 苦笑を浮かべたはるかちゃんに、そう言われてしまった。 「えっ?あれ、そうかな?」 慌てて自分が拭いた分のボールを見てみると、確かにはるかちゃんが拭いたのより 汚れが残っている。考え事しながらやってたせいだろうか。 「んー、はるかちゃんよりは握力あるはずなんだけどな」 「羽和さんだったら私の3倍はありますよ。けど、力で擦るんじゃなくて、こんな風に 泥を削り落とすみたいにするんです」 はるかちゃんはオレに見せるように手を近づけて、実演してみせる。白くて細くて 滑らかで、爪の形も綺麗に整った指が、硬球の汚れを手品みたいに落としていく。 「……羽和さん?」 「…あっ、ありがと。参考になった」 その様子を、ついぼーっと見入ってしまった。単純に見とれてたというのもあるけど、 昨日のその手の感触を、また思い出してしまったから。 昨日オレの手に触ってきた時も、はるかちゃんの手は驚くくらい小さくて、柔らかくて、 ほんのり暖かくて。とっさには何がオレの手に触れてきたのか気がつかなかったくらいだった。 何というか、そもそもオレの手とは用途からして違うような気がする。素振りやら 投げ込みやらでマメを作っては潰しを繰り返して、ゴツゴツのザラザラに固くなった手や 指と比べると、はるかちゃんの手は不用意に触ったら壊れる芸術品みたいに見える。 ……芸術品といえば、七瀬はるかという女の子自体がお人形さんみたいな雰囲気を 持っている。精巧な日本人形と西洋人形の良いところを合わせたみたいな。 その髪から足の先までが一部の隙もなく上品にまとまってて、育ちが良いせいか、 仕草や話し方なんかも優雅と言って良いくらいの気品すら感じる。汗と泥にまみれて ボール追っかけてるオレたちとは、根本的な作りからして違うような女の子だ。 それでいて、誰にでも優しくて気が利いて、野球部の大変なのに地味な雑用も嫌な顔ひとつ しないで引き受けてくれる。そして、完璧すぎて気後れするかと思えば、ちょっと天然ボケで 危なっかしいという軽い欠点もある。文句の付けようがないくらい、魅力的な同級生。 ……矢部くんの言うとおり、オレはこの子のこと、好きなのかな……。 ただ憧れてるだけとも言えるし、同じ部の仲間として好きなだけとも言えるけど もし、 仮に、はるかちゃんと恋人関係になれるんだとしたら、それは非常に好ましい事に思える。 だったらそれは、好きってこと?はるかちゃんは、オレに対してどう思ってるんだろう。 「……羽和さん、大丈夫ですか?さっきからなんだか上の空みたいな……」 「あっ、う、いやいやいやいや、ごめんごめん、大丈夫であります、はい」 また、はるかちゃんを眺めて物思いに耽ってしまった。あんまり褒められるようなこと を考えていたわけじゃないので、非常にうしろめたい。 よく考えたら、もし、仮に、万が一、奇跡的に、オレとはるかちゃんが恋人同士になれる んだとしても、これから甲子園へ向けて猛練習始めようっていう野球部の中でそんな 浮ついたことできるはず無いじゃないか。二兎を追うもの一兎を得ず。逆に、はるかちゃん に対しても野球に対しても失礼だ。とりあえず忘れよう。 そう思い直して、ボール磨きに意識を集中する。 ……しかし、はるかちゃんを改めて女の子として見てしまったきっかけが彼女の 手だというのは、スケベというよりかなりマニアックだ。反省。 「……そういえば、今日あおいちゃんはどうしたの?」 ボールを半分ほど拭いたところで、あおいちゃんがグラウンドにもいなかったことを 思い出して、聞く。 「あおいですか?修学旅行の実行委員の会議に出るから、遅れるって言ってました」 「へぇ、そんなのやってるんだ」 「二年になってすぐのホームルームで、ジャンケンに負けて任命されちゃったんです」 「あらら」 昨日の様子からちょっと心配だったけど、落ち込んで休んでるわけじゃなくて良かった。 「同じクラスだったよね?今日、あおいちゃんの様子、どうだった?」 何気なく聞くと、はるかちゃんはなぜか、少し沈んだ顔になって。 「…昨日よりはずっと普通にしてましたよ。私も昨日のこと謝ったら、わかってくれましたし」 少し言葉に詰まってから、そう返してきた。何だか、その返答が気になる。はるかちゃん は、昨日あおいちゃんに対して謝る必要がある悪いことをしたと思ってるってことだ。 昨日から、あおいちゃんの話をするとあんまり良い反応をしないのは、それに関係する んだろうか。はるかちゃんとあおいちゃんの間に、何か溝みたいなものがある……? 「ん……はるかちゃん。やっぱり、あおいちゃ……」 「羽和さん」 あおいちゃんと、何かあったの?そう聞こうとしたところで、はるかちゃんに遮られて しまった。 7.崩れた決意 「思ったより早く終わったな 」 修学旅行の実行委員の会議を終えて、部室棟の方へ駆け足をしながら時間を確認。 この時間だったら、今から着替えてグラウンドへ行っても、守備練習の手伝いができる。 羽和くんとはるかのことを考えると、気が重い。今日の教室でのはるかは普段通りの 様子に見えたけど、昨日の態度からしたら、ボクが羽和くんの怪我の原因だということを 意識しているか、それ以上のこと……ボクの、嫌な思いまで感じ取ってしまっている かもしれない。 そんな不安もあったせいか、休み時間や昼休みに羽和くんの様子を見に行くことを 躊躇ってしまった。今日は練習の見学くらいしかできないだろうけど、早く会いたい。 会って、『大丈夫だよ、気にしないで』って笑いかけて欲しい。 そんなことを望んでしまう自分が…そんなことしか望めない自分が、すごく惨めに 感じるけど、ボクにはその程度の権利しかないから。 「羽和さん」 部室のドアに手をかけようとしたところで、中から微かに、はるかの声が聞こえてきた。 羽和くんとはるかが、一緒にいる? それに気付いた瞬間に、少し昂揚していた胸の奥がすぐに冷えて……ドアノブに 触れかけたボクの手は、そのまま止まってしまった。 「……あ、えっと、実行委員と言えば、もうすぐ修学旅行ですよね。羽和さんの足は、 大丈夫なんですか?」 慌てて話題を作ったみたいな、はるかの声。 「え? ……あ、うん。あと10日くらいあるでしょ。その時には普通に歩けるくらいにはなってるよ」 「それは良かったです。せっかくの修学旅行ですからね」 声だけでも、少し白々しいのが伝わってくる会話。急に話題を変えたから? はるかは 『実行委員と言えば』って言ってた。もしかして、それまではボクのことを話してた? そこまで考えて、小さく首を振る。何でもない内容だとしても、盗み聞きなんて…。 「あ、修学旅行が終わったら、すぐ期末テストがありますね。羽和さんはちゃんと復習 してますか?」 「ああ、そっか。試験一週間前は部活禁止だっけ。修学旅行の日を抜かしたら、あと何日 もしないうちに試験前期間かぁ…どっちにしろ、あんま勉強なんてしてないけど」 はるか、無理に話を引き延ばしてる気がする。さっきまでボクの話をしてて、それに話を 戻されたくないから、なのかな……? 別に聞かれて困る話をしてるわけでもないし、ボクは別に気にしないで、たった今ここに 来ましたっていう顔で部室に入るなりノックするなりしてもいいってわかるのに。 なのに、ボクはその会話を邪魔することができないまま、その場に立ちすくんでいた。 「ダメですよ、それじゃあ。今回は羽和さん、自主トレもできないでしょう?」 「そうだね。今回くらいは観念して勉強しようかな」 「えっと……その、あの、でしたら……」 ――っ! 何か、嫌な予感が走る。遠慮しているような、照れているような、はるかの声。今すぐ 戸を開けて中に入ればそれを止められる。けど、止めてどうするの?またはるかの 邪魔をして、はるかに恨まれて、自己嫌悪に陥るの? 「……一緒に、テストの勉強……しませんか?」 嫌な予感の通りの言葉。ボクの中に、はるかの中にあった、何かが崩れる感覚。 「え、はるかちゃんと?」 「はっ…はい!これでも私、試験だけはちょっと得意ですし……」 「ちょっとっていうかはるかちゃん、ウチの学年でいつもトップクラスの点数でしょ。 レベルが違いすぎてあんまり意味無いんじゃないかな」 「そんなこと無いです、私、教えるのも上手いってよく言われるんですよ」 「そうなの?」 もう聞きたくない。なのに、その場から動くことができない。足が震えてる。 はるかに『教えるのが上手い』って言ったのは、ボク。中学の時から、ボクとはるか は時々一緒に勉強してたから。 そのボクを切り捨てて、はるかは、羽和くんと一緒に勉強するのを選んだ……。 「じゃあ、お願いしようかな。さすがに留年とかしたら野球どころじゃなくなっちゃうし」 「あ………はいっ!精一杯頑張りますっ!」 「そんなに気合入れてもらっちゃっても困るな それで、どこで勉強するの?」 そこで、足が動いた。制服から着替えることができかったまま、駆け出す。 はるかとボクが一緒に勉強してたのは、はるかの家。きっと、はるかは羽和くんも家に 呼ぶ。はるかの家で、二人っきりで。 「っ……ぁ、はぁ、はぁ、ぁっ………!!」 ちょっと走っただけなのに、息が苦しい。今にも溢れそうなものを堪えながらだから。 人気の無い校舎裏まで走って。辺りに誰もいないのを確認して。壁もたれかかって。 さっきの羽和くんの返事と、本当に嬉しそうだったはるかの声を思い出して。 だめ――。 涙が、頬を伝って、零れた。マネージャーになるのを決意したあの日から、もう 泣かないって決めたのに。 はるかと羽和くんは、まだ恋人なんて言える関係じゃなかった。けど、これから、きっと、 近付いていく。はるかは、近付こうとしている。 それを、ボクは止められない。祝福することも、応援することも、喜ぶこともできない。 ――何も、できない。 「う………あっ……ぁ、あ………あぁっ……っ!!」 涙すら止められない無力さに打ち拉がれながら、ボクはその場で泣き続けることしかできなかった。 7. 「遠すぎて見えない、未来を信じてみる~♪」 気分良く歌なんか歌っちゃいながら、学校の授業でとったノートや参考書をまとめます。 「これでよしっ、と!」 準備は万端。これで、難しい場所があってもすぐにわかりやすく解説してある参考書を 引くことができます。 「……ふふっ」 ついつい頬が緩んでしまうのを止められません。ノートや本を机の上に置くと、ベッドの 上に仰向けに身を投げ出します。手に何か柔らかいものが触れたので顔の上に持ち上げると、 お気に入りのぬいぐるみのゴン太さんでした。 「あはっ……ゴン太さんには特別に教えてあげます。実はですねー、明日から、羽和さんが 私の家に来て、一緒にお勉強するんですよ♪」 誰かに聞いて欲しくてたまらないので、ゴン太さんに向かって話しかけます。 「えへへ~……」 ぎゅーっ。触り心地の良いゴン太さんを力一杯抱きしめて、ベッドの上をごろごろ。 これ以上ないくらい舞い上がってしまっていますが、仕方ありません。だって、羽和さんが 私個人に招待されて、私の家に来てくれるのですから。 今までにお食事に招待したのは、お父様がことあるごとに羽和さんを呼びなさいと言うからです。 少なくとも、羽和さんは私ではなく、お父様に呼ばれたのだと思っているでしょう。 けれど、今度は違います。私が誘って、羽和さんが受けてくれて。しかもお父様抜きで、 ふたりっきり。 それだけでも心臓がドキドキして仕方ないほど嬉しくて楽しみで、ちょっとだけ不安なのに。 羽和さんが私とふたりで勉強することを承諾してくれたということも見逃せません。 気に入らない相手にそんなことを提案されたら、まず断るでしょう。でも、羽和さんは こころよく受けてくれました。 つまり、羽和さんは私のことを悪い印象は持っていない……少なくとも、一緒にいて 嫌な女の子だとは思っていないということです。 ひょっとすると、『はるかちゃんと一緒に勉強か、ちょっと楽しみかも』なんて期待して くれているかもしれません。 いやいや、ひょっとしてひょっとすると、私と同じように、あわよくばこれを機に私と もっと仲良くなろうなんて、考えてるのかも……。 …………(都合の良いことを次々に妄想中)。 はっ、またアッチの世界に行ってました。反省反省。 こんな調子じゃあ、明日羽和さんが来ても醜態を晒してしまう可能性が高いです。もっと 冷静にならないと。 それに、明日はあくまでも試験の勉強をするんです。それを真剣に努めることが、羽和さんに 良い印象を持って貰えることにも繋がるでしょう。 そう思い直し、私は部屋の中でひとりガッツポーズをとり、決意を新たにしました。 「ふーっ……おっけ、合ってる。はるかちゃん、言われた分できたよ」 「お疲れ様です。じゃあ、ちょっと休憩にしましょうか」 羽和さんが数学の問題を解いている間に、私はお茶の用意をしていました。もう随分勉強 しているので、そろそろ休憩を入れた方がいいでしょう。 「あー、学校の授業以外でこんなに一気に勉強したの、ひさびさかも」 「ふふ……もうすぐお茶が入りますから、そこに座ってて下さいね」 羽和さんは肩をトントン叩きながら勉強していた机を立って、私がティーセットを並べた テーブルの前のソファに腰を下ろしました。 「うわ、随分と高そーなチョコレート」 お茶うけにと思って私が用意しておいたチョコレートを見て、羽和さんが感心した声を 上げます。私は、ちょっとだけぎくっとして。 「えっと、お父様の知り合いの方がたくさん送ってくれたんです。ベルギーに本家がある 有名なお店のショコラティエさんが作ったものらしくて、とっても美味しかったから。 それに、頭を使うときは甘い物をとるといいんですよ」 「そうなんだ。なんか食べるの勿体ないくらい凝ったデザインだね……」 慌てて料理番組のごとく解説してしまいましたが、それは、少し後ろめたい点があったから。 実はこのチョコ、確かに有名なお店のもので美味しいのですが、それだけではないのです。 お父様に聞いたところによると、どうもコレは、恋の助けになるチョコレートなのだとか。 チョコレートは元々中世ヨーロッパで媚薬として珍重されており、人が恋愛感情を持った ときに脳に分泌される成分と同じものが含まれているのだそうです。 そして、このチョコレートには特にその性質が強いらしくて、贈り物として女性が男性に 渡し、恋を成就させた例が何件もあるという、いわくつきの代物です。 もちろん、本気で信じてるわけじゃありませんよ?たまたま……たまたまうちにコレが あって、普通のチョコとしても抜群に美味しいから、羽和さんにもお裾分けしようかな… なんて思っただけです。 ……誰にいい訳してるんでしょうか、私。最近一人で空想してしまうことが多いです。 「どうぞ、羽和さん」 「ありがと。この紅茶も美味しそうだね」 羽和さんの前にカップと、いくつか取り分けてお皿に並べた例のチョコを置きます。 効果なんて期待してませんけど、でも、やっぱりどうしても気になってしまうもので……。 じ~っ…。 「あの……どうかした?あんまり見つめられても飲みにくいんだけど」 「えっ!?すいません、いえいえ、どうぞ、遠慮せずどんどん飲んで食べてください」 「あはは、そんな宴会みたいに言われても困るな」 私も、カップを取って口元に運びます。それを見て、羽和さんも紅茶に口をつけてくれました。 「ふー、ここで食事をご馳走になるときに出るのも美味しいけど、はるかちゃんに 目の前で入れてもらうと、さらに美味しいような気がするよ」 「ふふ……お世辞でも嬉しいです」 お料理やお茶の入れ方なんかも随分勉強したので、羽和さんに褒められると感無量です。 「それであの、羽和さん。チョコの方も……」 「何だか妙にこのチョコプッシュするね。そんなに美味しいの?」 「え、ええ。すっごく美味しいですよ!」 うう……。気にしてないつもりなのに。ついチョコレートに気が行ってしまいます。 何も言わなくたっていつかは食べてくれることはわかってるですが。 「じゃ、いただきます……これ一個いくらくらいするんだろうな……」 後半の方は小声で言って、羽和さんはチョコを摘み上げ、一口大なのに美術品みたいに 細かくデコレートされているそれを遠慮がちに口に運びます。 「うわ……ホントに美味しい。これは確かにそんじょそこらのチョコとは次元が違うね」 「そうでしょう?羽和さんにも気に入ってもらえて嬉しいです」 感嘆の声を上げる羽和さん。ひとつ食べてもらったら、その後は自然にティータイムを 過ごすことができました。 お茶の時間を終えて、再び勉強に戻ります。はじめのうちは、チョコのこともすっかり忘れて 教科書に集中していたのですが。 「………?」 何だかちょっと、暑くなってきた気がします。まだ11月の終わりなので、暖房は控えめに しているはずなのに。 「ん……はるかちゃん、ちょっとこの部屋、暑くなってない?」 「あ、羽和さんもそう思いましたか?」 見ると、羽和さんも少し汗をかいてるみたいです。空調の温度を確かめましたが、室温は ちょっと肌寒いくらいになっていました。 首をかしげながら机に戻り、再びノートにペンを走らせますが、どうにも体が火照って 落ち着きません。 そのうち、体が熱く感じる法則性に気付きました。どうも、向かいに座っている羽和さんの、 表情とか、動作とか、吐息とかを感じたり、ちょっとした会話をしたり。そういうことを する度に、なんだかドキドキして熱くなるようなのです。 「あ……あの、ちょっと……」 このままじゃ顔が赤くなったりして、様子がおかしいのがばれてしまいます。お手洗いにでも 行くフリをして気を静めようと思い、急いで席を立って部屋を出ようとした所で。 「あっ……!」 立ちくらみでしょうか。机の脇に腰をぶつけてしまい、そのまま倒れそうになって――。 「危ない!」 腕を掴まれて軽く引き寄せられる感覚と、そのまま暖かいものに受け止められる感覚。 「えっ……?」 自分のものではない、体温。ちょっとだけ、汗のにおい。服の下の、がっちりした体。 羽和さんに、抱き留めてもらった……? 「あ………ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」 ぼんっ、と音がしそうなくらい一気に頭に血が上ります。はやく、離れないと……! 「すぐに離れます……か……ら……」 なのに。なぜか、体に力が入りません。……いえ、違います。離れようと思えば離れられる のに、このまま羽和さんの胸の中に収まっていたいなんていう気持ちが、離れることを嫌がって いるみたいなのです。 どくんどくんどくんどくん。 自分の心臓の音?それとも、すぐそばにある羽和さんの胸から聞こえてくる音? 頭がとろんとしてきて。ずっとこのままでいたいなんて思ってしまって。もともと熱かった 体はさらに興奮してきて。やっぱり、おかしいです。今の私……。 「あの……羽和、さん……?」 顔を上げて羽和さんの表情を伺おうとしたら、羽和さんが私の体に回した手の力がもっと 強くなって、私の頭は羽和さんの胸に押しつけられるくらいになってしまいました。 「あ………」 「…………」 それを、少しも不快に感じられません。むしろ、不思議な安心感があって。そのまま 何十秒か、何分かの時間が経ちます。どうして、こんなことになっているんでしょうか。 でも、羽和さんの体。羽和さんのにおい。羽和さんの体温。どうせなら、このまま もっと感じていたい。そう思って、こちらからも羽和さんに寄りかかります。 羽和さんの胸に体を預けて、その少し早まった鼓動を聞きながら、のぼせてうまく回らなく なった頭で夢見心地になっていると。 「はるかちゃん……ごめん」 「え……きゃっ!?」 羽和さんは、不意に私を軽々と抱え上げてしまいました。そのまま先程お茶を頂いた ソファまで運ばれて、その上にちょっと乱暴に下ろされます。 私に覆い被さるようになった、羽和さんの顔。その顔が……何だか、普段よりも…… ずっと、私の心を惹きつけるように見えます。 どくん、と心臓が高鳴る。羽和さんの体から離れた自分の体がものすごく寂しく感じて、 また、羽和さんに触れて欲しいなんて思ってしまう。 ――ひょっとして、羽和さんも、私と同じように感じてる? まさか、あのチョコレートのせいでしょうか?そんな、普通にお店でも売ってるものなのに。 いくらなんでもこんな、まるで軽い麻薬か何かみたいな効果なんてあり得ません。 なのに。今の私は、すぐにでも羽和さんに抱きついて、さっきみたいにぎゅってして欲しい という衝動を抑えるのに精一杯でした。 「はるかちゃん……」 「あ……羽和、さん……」 羽和さんは、そのままソファに乗って。私を組み敷くみたいな体勢になりました。 そうした羽和さんが、どんなことを望んでいるのかくらい、私にもわかります。 本当は、こんなことされたら、拒否しないといけません。私は羽和さんのことを好き ですけど、気持ちも伝えていないのにこんなこと、不純だし……不貞です。 なのに、私は、逃げることも、声をあげることもできない……ううん、しないままでいます。 だって、想像できてしまうから。このまま羽和さんに抱きしめてもらって、触れてもらって、 その先のことまでしてもらったら……どんなに嬉しくて、満たされて、気持ちよくなれるか…。 それが手に取るようにわかってしまうから。 だけど、私からそんなことを望んだら、羽和さんにはしたない女の子だと思われて、軽蔑 されてしまわないでしょうか。嫌われてしまわないでしょうか。私は……七瀬はるかは、 貞淑な女の子だって、きっと思われているから。 「………羽和さん、ごめんなさい……」 私は、興奮しきってかすれた声で、羽和さんに謝ります。 「え……?」 「さっき、一緒にいただいたチョコレート……あれ、普通のチョコレートじゃないんです…」 だから、卑怯な手。嘘でもいいから、私以外の何かに責任を押しつけて、羽和さんに いい訳しようとしています。『私は、本当はこんなこと望んではいないんです』って。 「ごめんなさい…こんな効果があると思わなくて……私の責任です……」 私の責任。だから、羽和さんには、私に責任をとってもらう権利がある。 私は、自分から求めているって羽和さんに思われたくないから、羽和さんを誘導して 自分の願望を満たそうとしてる。自分のことしか考えていない、最低の人間です。 「あの……つらい、ですよね……がまんしないで……ください」 羞恥と自己嫌悪から両手で顔を覆ってしまいたくなるのを耐えて、そう言いました。 「はるか、ちゃん……?」 そう、きっと私より、羽和さんの方がたくさん我慢してるんだと思います。でないと、 私を発作的に抱きしめてこんな所まで運んだりしないし……それに、あのチョコレートは、 女性が男性の心を射止めるために送るものだから。 「…………」 私は小さく息を吸うと、目を瞑って、全身の力を抜きました。羽和さんが遠慮しないように。 そして、自分がして欲しいと思うことをしてもらうために。 それを合図にしたみたいに、私の上に覆い被さった羽和さんが動くのがわかって。 唇に、柔らかくて湿った感触。私が初めてキスされたんだってわかるまでに、数瞬。それは、 少しだけ、甘いチョコレートの味が残っていました。 「……っは、はぁ……ふ……はぁ……ごめん…はるかちゃん……」 何秒もしないで離れた羽和さんの口から、荒い吐息と一緒に再び謝罪の言葉が漏れます。 よほど、体が熱くなっているんでしょう。それこそ、理性で抑えがきかないくらいに。 「謝らないで……ください……」 そんな羽和さんを、怖いという気持ちは少しも生まれなくて。むしろ……可愛い、なんて 思ってしまいます。羽和さんが、我慢できないくらいに私を求めてくれてる……。 「え……?」 「羽和さんに、だったら……いやじゃないですから……」 気絶しそうなくらいに高鳴っている自分の鼓動を聞きながら、精一杯の告白。 「はるかちゃんっ……!」 「あ……!」 私の言葉を聞いた羽和さんは、それこそ襲いかかるみたいにその手が私の腰元に伸ばして、 上着のチュニックブラウスとその下のシャツを、一緒に首のあたりまで捲り上げてしまいました。 服の中から外界に露出させられたはずなのに、肌がさらに火照ったように感じます。 今、私、羽和さんに……肌を、見られてしまってる?どんなブラ、つけてましたっけ。 やせっぽちだから、私の体を見て幻滅したんじゃないでしょうか。胸も、自慢できるほどは 大きく無いし……。 とっさのことに混乱してそんなことを考えてしまいましたが、そうじゃなくて。 服まで脱がされかけてしまったってことは……このままだと、その……最後まで、されて しまうってことで……いや、それは覚悟していたつもりなのですが、でも、ここまで来ると 急に現実感が出てきます。 どうせなら、私がためらう余地もないくらい、強くしてくれればいいのに。 「……取るよ、はるかちゃん」 もどかしそうな、羽和さんの声。少し震えています。それだけ、私に興奮してくれているって いうこと。遠慮なんてする必要ないのに。羽和さんの望むように、乱暴にしたっていいのに。 目を瞑ったまま頷き返した途端、涼しくなった胸元がさらに何かから解放される感覚。 羽和さんの手で、私のブラが外された……。こんな時に限ってフロントホックのものをつけて いたのですから、運が良いのか悪いのかわかりません。 「ふぅ……ぁ……」 見られてしまいました。私の胸、ぜんぶ。自分では、体が細いわりにそこまで小さくは ないと思うのですが、男の人は、週刊誌に載ってるアイドルみたいにもっと大きい方が好き なのではないでしょうか。 「……すごい、綺麗だ……はるかちゃん」 そんな私の不安を打ち消すように、羽和さんは感嘆した声をかけてくれました。 「本当、ですか……?」 恥ずかしいのと嬉しいのとでいっぱいいっぱいになってしまい、震える声でそう聞き返すと。 羽和さんは答えの代わりに、私の乳房に、その大きい手を当てて――。 「――あっ……!」 「あっ……ごめん、痛かった?」 「え……いえっ……違います……」 羽和さんは私の反応に驚いたみたいですが、それは胸を掴まれて痛かったからではなくて。 この前の部室での球磨きの時に。その前日にとっさに握ってしまった時に。それよりずっと 前からも、意識してしまっていて……惹かれていた、羽和さんの大きくて固い手で触られた途端、 電流みたいに強い、甘い痺れがそこから襲いかかってきたから。 「……もっと、触ってください。羽和さんの手で……」 それを、もっと味わいたくて、ねだってしまいました。 羽和さんはほっとした顔で小さく笑って、また私の唇に唇を重ねて。そのまま、さっきよりも 強く、私の乳房を手で覆うように触れて。 「んっ……ぁ、ぅん……ふ………ぁんっ……!」 口を柔らかい感触で閉ざされたまま、恐る恐る……もっと衝動のままに動かしたいのに、私を 気遣って努めて優しくしているといった強さで、羽和さんに胸をまさぐられます。 羽和さんの長い指の、重なった固いマメが私の肌を擦るたびに。痛いような、甘痒いような、 私の体の奥に溜まっていたものを引き上げるような刺激が広がっていく。 気持ちいい。羽和さんの指がすごく愛おしく感じます。もっと。もっとしてください。 ずっと、こんな風に。羽和さんの手で、私に触れて欲しいって 思い続けていたんです。 「んんぅっ……!」 羽和さんの親指が、私の胸の先端を弾くようにして。ビリビリと四肢にまで伝わるほど強い 感覚が走り抜ける。今度は、羽和さんは私に躊躇して止めたりしませんでした。そのまま、もっと強く。 私がしてもらいたいことがわかっているみたいに、私のそこをきゅっと摘み上げて。 「ぷはっ……あっ……ふ、あぁっ……!」 キスから解放された口から、荒い息が漏れます。口元にだらしなく涎が流れ落ちましたが、 それを気にする余裕もありません。ただ胸を弄られてるだけなのに、全身を羽和さんに支配 されたみたいになってしまっています。 「あっ……はぁ……ふぁっ……ん……ぁあ……羽和さん……羽和さんっ……!」 体が跳ねてしまいそうになるのを、ソファのクッションを両手で握って押さえつける。でも 羽和さんの指は、追い打ちをかけるみたいに私の快楽を容赦なく引き出します。 身をよじった太股の間に、水音が聞こえてきそうなくらいに湿った感触。たぶん、下着だけ じゃなくて、その下のスカートまで、お漏らしでもしたみたいに濡れています。 こんなの。いくら羽和さんにキスされて、胸を弄られたからって。直接触ってもいないのに、 こんなにはしたなくぐしょぐしょになるなんて。羽和さんに知られたら――! 「あっ……やぁっ、羽和さんっ……!?」 そう思った途端、羽和さんの片手が、私のスカートの中へ潜りました。その手が、太股まで 伝わった湿り気を感じ取って。 羽和さんは、少しだけ、呆気にとられた顔をしました。 「や……そこはっ………」 ごめんなさい。ごめんなさい。違うんです。男の人とこんなことするなんて初めてなのに、 まるで淫乱みたいに。男の人を渇望してるみたいに。こんなになるはず、ないのに。 泣き出しそうになってしまった私に、羽和さんは、可笑しそうに微笑みかけて。 そのまま、私の下着の中に、指を差し入れてきました。 今度こそ、両手で顔を覆ってしまうほどの羞恥。羽和さんの指が、私の下腹部からその場所 に向かって伸びていって。 くちゅっ……。 「あっ!」 触れてる。羽和さんの指が、私の一番大事なところに。ぞくぞくと怖気にも似た感触が背筋を 這い上がってきましたが、これ、嫌じゃありません。むしろ、溢れそうになった感覚にとどめを 刺して欲しいなんて、そんな思いが湧いてきます。 手探りで、羽和さんの手のひらが私のそこ全体を覆うみたいに。中指が、私の割れ目をなぞる ようにぴったり張り付きます。それは、その部分がみっともないくらいに濡れそぼっているのが これ以上無いほどわかってしまう格好で。 「ふ……ぅ……」 そんな、まるで引き金に指がかかった拳銃をつきつけられたみたいな状態で、少し。 もしかしたら羽和さん、私のそこのかたちを手で確かめてるんじゃないでしょうか……。 「凄く、熱いよ……はるかちゃんの、ここ……」 「やぁ……言わないでください、そんなこと……」 耳元でそんないやらしいことを囁かれて、羞恥で死んでしまいそうになります。 羽和さんの手が、私のその部分に邪魔するものもなく直接触れていて、羽和さんの指の形も 細かな震えも、怖いほどに伝わってくる。 触っただけでも、私のそこがほとんど子供みたいなのが羽和さんにわかってしまうでしょう。 私、体が弱かったから背が伸びるのも初潮が来るのも遅かったし、一番大事なところも外からは ただの切れ目みたいにしか見えませんし……。 ちゃんと、その……できるように、なっているんでしょうか。 ちゅっ……。 「ひゃぅっ!!」 不意打ちみたいに、私のそこに当てられたままだった羽和さんの指が、折り曲げられました。 私のものよりずっと太くて長い指がその部分を割って、中に小さく潜り込みます。 「あっ……あっ、あっ……あぁっ……!!」 異物感と、不安と、期待。その敏感で、柔らかくて、ぬるぬるになっている場所を、初めて 自分以外の人の指が弄ってくる。腰を引いて逃げたいという衝動と、そのまま受け入れたい という衝動のせめぎ合いに、体がふるふる震えます。 「もう、トロトロになってる……」 羽和さんの囁くような声。ダメです。そんないやらしいこと言わないでください。そんなこと 言われたら、私、もっと……! 少しだけ中に潜り込んだ指が、私の入り口を探り当てる。溢れるように染み出してくる液体を 絡めて、周りの肉をマッサージするように擦ってきます。 「ひぅっ……あっ、ふぅっ………あぁっ、ふぁあっ……!」 だめ、抑えられません。喉からかすれた声が漏れて、その部分の感覚しか感じられなくなる。 柔らかいソファに寝転がった体から、意識だけが飛んで行ってしまいそう。 だって、そこを掻き回してるのは、羽和さんの指で。自分でするのより、もっと荒々しくて。 なのに、何倍も、何十倍も、気持ちよくて。幸せで。 「こんなになってたら……もう、大丈夫?」 「ぁ……んっ……ふぁ……え……?」 不意に、羽和さんはその手を動かすのを止めて、聞いてきました。その言葉の内容が頭に 入ってくるより、与えられていた刺激が無くなったことに寂しさを感じるのが早かったのですが。 私が否定しなかったのを、肯定と受け取ったのか。羽和さんはいったん手を引き抜き、身を 引いて、スカートのサイドホックを器用に外し、私の両脚から引き抜いてしまいました。 腰を持ち上げて、脱がせる手助けをしている自分が、何だか他人事に思えます。ぱさりと音を 立てて、スカートがソファの脇に落とされました。 どうしようもないくらいぐちゃぐちゃに湿って、肌に張り付いた下着が、晒されてる。 羽和さんが生唾を飲み込むのが聞こえた気がして、その指が下着に引っかけられる。 湿った布が巻き取るみたいにするすると下ろされて、つま先を通り抜けて…… 今度はソファの上に、水分を吸って重くなったものが落とされる音。 もう、隠すものが何もありません。びちゃびちゃに濡れた私の一番恥ずかしいところが、 羽和さんに直接見られている。 私のにも、ちゃんとできるんでしょうか。何か不具合があって失敗したりしないでしょうか。 自分の指だって怖くて入れたことがないのに、男性の……羽和さんのものなんて――。 「ぁ……」 そくっと体が震える。その部分に、柔らかいような、固いようなものが触れています。 それが、何か。直感的に……本能的に?……わかってしまいました。 「はるかちゃん、行くよ……!」 「えっ……んむっ……!」 そう言われてから、何か答える前にまたキスされる。羽和さんの左手が私の頭に回されて、 右手は私の腰に。そのまま、羽和さんの方に引き寄せられます。 「ん……んんぅぅぅっ……!!!」 びくびく体が痙攣する。触れられたことが無い場所まで、大きなものが侵入してくる。 今までに経験がない感覚と、痛みへの不安で身がすくんで……。 「んっ……く、ふ、ぁあ……っ……」 あ……れ?あんまり、痛くありません。お腹の中にものが詰まって、苦しい感じはするけど、 話に聞いていたほどの痛みは襲ってきませんでした。 「……っく……はぁ……はるかちゃん、大丈夫……?」 「あ……はい……大丈夫、みたいです……」 少し息を切らした、何かを耐えているような声で羽和さんに聞かれて、素直に答えます。 羽和さんは、どうなのでしょう。私の中に入って、気持ちいいって、感じてくれているので しょうか。 ……私の、中に。 それを考えたら、今の状況を改めて認識してしまって、頭が沸騰しそうになりました。 「はるかちゃん、動くよ……」 「あっ………はい……」 気持ちに整理がつかないまま、羽和さんは先の段階に進んでしまいます。腰を引いて、今度は 私の中からそれを抜きとる動作。 「ひっ……あ、んぅっ……ああぁっ……!?」 途端に降りかかってきた刺激に、四肢と……指先に、舌までが痺れる。例えようが無い、 それこそ未知の感覚。体の内側の、弱くて敏感で、自分では触れることができない部分を 他人のもので侵されて、擦られる。 何か、致命的な禁忌を破ってしまったみたいな不安と、それを破ったのは、私が誰より好きな 男の人だという悦び。 「ひゃ……ん……あっ…ふ……く……っ……!」 私の体の中から、それが出て行って、抜けそうになる。途端に襲ってくる、驚くほどの喪失感。 嫌。もっと、私の中にいて欲しい。失いたくない……。 ぐちゅっ! 「んあぁっ!!」 私が望んだことを、そのまま満たしてくれるかのように、羽和さんが私の最奥まで再び 突き入れてくる。全身がびくんと跳ねて、羽和さんに組み敷かれていなかったら、ソファから 落っこちてしまっていたでしょう。 「く…ぁ……はるかちゃんっ……すごい……信じられないほど、気持ちいい……!」 羽和さんの、せっぱ詰まったような、色っぽい声。私の体で、喜んでくれているという声。 私も、同じです。羽和さんに抱かれて。突き入れられて、こんなに気持ちいいなんて……。 奥まで入ってきて、引き抜かれて。その度に、全身の快楽を感じ取れる神経をむき出しにされて、 甘い官能の痺れを流し込まれたみたいな愉悦が走り抜ける。 それを繰り返すにつれて、私の中に、ふわふわした……暖かいような、切ないような不思議な 焦燥感が膨らんでいって、今にも弾けてしまいそう。 「は……あっ……はぁっ……ふ……はるかちゃん、はるかっ……ちゃん……!」 「あっ……あっ、あ……んぁっ……あぁっ……羽和さん……羽和さん…はわ、さん……っっ!!」 体を激しく揺らして、揺らされながら、意味もなく名前を呼び合います。すぐ目の前で。 遮るものも無く肌で触れ合っていて。その相手が与えてくれる快楽以外、何もわからなく なっているのに。それなのに、あなたの存在を、もっとはっきり感じたいから。このまま、 意識がどこかへ飛んでしまいそうになっても、あなたにずっとつかまえていてほしいから……。 ぽた、ぽた……と私の肌の上に、断続的に熱いものがたれ落ちる。私の体を貪ることに必死で、 流れるほどに湧き出た羽和さんの汗。私の胸に。首筋に。頬に。空中で外気に晒されても まだ熱いままの液体が落ちて、小さく跳ねる。 羽和さんの汗。羽和さんのにおい。野球部の練習や試合で、その鍛えられたからいつも感じる スポーツ選手の空気。首筋に浮かんだ光る水滴を、腕を伝って落ちる汗の筋を、水気を吸って 張り付いたアンダーシャツを……いつも、素敵だなって思って見ていたんです。ううん、 それだけじゃなくて、私には無い男性のにおいに、時々……欲情さえ、していました。 そして、今感じる、羽和さんの男性のにおいは。汗は。野球ではなく、私のために。私で 感じてくれて、私をもっと味わうために出されたもの。それを思うと、嬉しくて。夢みたいで。 泣いてしまいそうなくらい、幸せです。 口元にもうひとつぽたりと垂れた羽和さんの汗が、唇を伝って舌に触れる。潮みたいな味。 羽和さんの味。それを、もっと得たくて……。 「んっ…んむっ……ちゅ……!」 羽和さんの背中に両手を回して、顔を上げてキス。熱い体同士が、もっと近くなって。羽和 さんの吐息も体温も、私とひとつになって混ざり合ってしまったような錯覚さえ起こします。 体のなかにふくらんでいたものが、四肢に広まって。もう、一息で登り詰めてしまう。 このまま、ずっと羽和さんを感じていたいのに。羽和さんに感じてもらいたいのに。もう、 耐えられません。突かれるたびに。抜かれるたびに。全身が痺れて、壊れてしまいそうなくらい 気持ちよくて……。 「…ぷはっ……あ……もう、だめです羽和さんっ…ん、ぁ……私……わたしっ……!」 「うん……っく……いいよ、はるかちゃん……オレも、もうっ……!」 もう……?羽和さんも、ですか?羽和さんが、私と同じように、限界を迎えそうになっている。 私で。私の体で。私と一緒に。 「………っっ!!」 そう、思ったら。羽和さんの苦しそうな、切なそうな、そして、陶酔したような声を聞いたら。 必死に我慢して、膨らみきっていたものがあっけないほど簡単に弾けて、決壊して――。 「…あっ、ああ、ああぁ……ああぁぁーっ!!」 とても声なんて抑えられない。それくらいに圧倒的で、大きい絶頂が私の中に走り抜けて、 もうこのまま死んでしまってもいいっていうくらい、体が、頭が、感覚が、とろけて、 快楽以外の何も感じられなくなって……。 羽和さんは……?羽和さんも、感じてくれましたか?羽和さんも、私と同じように。 濃い霧か、あるいは水のなかにいるみたいに鈍った頭の隅で、羽和さんの体の感覚を 探します。羽和さんの大きな体。羽和さんの温かさ。羽和さんのにおい……。 ………。 あれ……?どうして?つい今まで求め合って、繋がっていた羽和さんがいません。 どこに行ってしまったのでしょうか。もっと、ずっと抱きしめていて欲しいのに。 快楽の余韻と痺れた手足の感覚がまだ引かないまま、目を開けて辺りを見回すと。 「……私の部屋?」 そこは、羽和さんとお勉強して、お茶をいただいた応接間のソファではなく、私の部屋の ベッドの上。体を起こして部屋の隅から隅までを見回しても、もちろん、羽和さんの姿どころか、 残り香さえありません。 時計を見ると、11月25日の夜遅く。羽和さんが私の家に来て勉強する土曜日の、前日です。 これは、要するに……。 「夢、ってことですか……」 凄まじい落胆と脱力感。思わず、持ち上げた上半身を再びベッドに投げ出してしまいました。 あらためて考えてみれば、夢なのも当然なくらい、不自然なことばかりでした。羽和さんの 足はケガしてなかったし、チョコレートにそのまま媚薬みたいな効果があったり、それに、 その……初めてなのに、痛くなかったり。 不自然というより、単に私に都合が良い内容の夢だっただけです。激しく自己嫌悪。 自分の体を見てみると、上着とスカートがはだけていて、下着がずれて湿っています。 さらに、私の手にも濡れた痕跡が。つまり、ただの夢でもなくて。 ……自分で慰めている最中に、寝てしまったということです。半分が妄想で、半分が夢。 「あぁ……私、最低……」 先刻とは全く違う理由でベッドの上をごろごろ。穴があったら入りたいです。さっきと同じ 表情で私を見ているゴン太さんに手を伸ばして、後ろ向きにしました。 しかも、なんですか、あの夢の中の私は。羽和さんの汗だとかにおいだとかに興奮して、 あまつさえ普段から、よ…欲情、してたとか。そんなの淫乱どころか変態じゃないですか。 私は……確かに、綺麗なフォームでピッチングをして、溌剌とグラウンドを走る羽和さんの 汗なら嫌じゃないし、格好良いとも思いますけど……それに欲情なんて……。 ……してるんでしょうか。深層意識では。 「あああぁぁぁ………」 じたばたじたばた。あり得ないとは言い切れない自分の性癖が怖いです。 それに、せめて羽和さんと私が恋人になっていて、その上で……ああいうことをする 夢ならまだしも、ヘンな効果があるチョコレートのせいにしてその場の勢いでだなんて。 私、無理矢理されたいなんていう願望なんかも持っているのでしょうか……なんていうの でしたっけ……被虐趣味? でもでも、確かに…もしもの話ですよ。羽和さんがそんなことするなんてあり得ませんけど、 万が一羽和さんに強引に、迫られたりしたら……私、拒否できるのでしょうか。 明日は私と羽和さんがふたりっきりになるわけですから、0.00(中略)001%くらい は、そんなことになってしまう可能性もあるかも……。 …………(いらぬ心配を妄想中)。 はっ、またやってしまいました。あんな夢見たあとのせいか、完全に色ボケしちゃって ます、私。 いけません。ついさっき、羽和さんのお勉強を真剣にお手伝いするっていう決意をした ばかりじゃないですか。のぼせてる場合じゃないですよ、はるか。 そう思い直して、またも気合のガッツポーツ。それから……。 今の自分の格好を思い出して赤面。はだけた服を直して、汚してしまった下着を非常に 情けない気持ちで取り替えました。 ……ちなみに、夢の中にでてきたチョコレートは本当にうちに置いてあるのですが、 うしろめたいのでお茶請けに出すのは止しておくことにします……。
https://w.atwiki.jp/jyukenkun/pages/33.html
“硬教育”が売りの中高一貫教育校(^o^)/ 巣鴨中学・巣鴨高校 所在地…豊島区上池袋 最寄駅…大塚駅・池袋駅 どんな高校? “硬教育”で知られる中高一貫の男子校。伝統の巣園流館山水泳学校では白いふんどしを着て指導を受ける。剣道、柔道の教育にも熱心。 高校入試概要 中高一貫教育が主体の学校であるため高校募集は補助的。近年は人気の低下が著しく、100名の募集でも入学者は50名に満たない状況が続いている。内進生とは学力差がかなりあるため、3年間高入生のみ別クラスとなる。高入生の卒業進路は明治大、法政大、東京理科大などが中心。早慶や難関国立大はほとんどが内進生の実績。都立戸山、都立青山、都立両国、都立小山台などの併願校としての受験が多い。
https://w.atwiki.jp/gogolf/pages/3797.html
楽天GORAで予約する 嬬恋高原ゴルフ場
https://w.atwiki.jp/jyukenkun/pages/23.html
理系大学進学&運動会&男子バレーの名門(^o^)/ 東京都立小山台高校 所在地…品川区小山 最寄駅…武蔵小山駅 どんな高校? 1922年創立の府立八中を前身とする伝統校。戦前より何十年も続く運動会が有名行事で、目玉の応援合戦や盛り上がりは東京で一・二を争うとも。理工系大学進学に昔から強い。理系大学進学の名門で、東京工業大やその他理系国公立大に多くの現役進学者を送る。小山台では部活を班活と呼び、理系関連の班や、関東大会出場常連で屈指の強豪として名高い男子バレーボール班などが盛ん。週刊誌が実施した難関私大現役進学率ランキングでは、東京で第一位を獲得した。理工系教育の充実だけでなく、国際理解教育も力を入れ、希望者にホームステイや語学研修を実施。進学指導特別推進校に指定。主要教科教員は独自の公募制によって選抜している。 入試概要 駒場高校や竹早高校、三田高校などと同レベルで非常に理系進学に優れた学校。理系志望の生徒を中心にハイレベルな入試。共通問題なので、全教科で満点を狙う気持ちで勉強する必要がある。2011年度大学受験結果は、昨年に引き続き最難関の東京工業大学にトップクラスの人数を合格させる快挙を達成。理系の名門としてさらに伸びている、驚異の進学力。評判は高まるばかりで、2012年度高校入試もハイレベルな入試になりそう。 小山台生の声 ・運動会は感動的!小山台といえば運動会! ・男子バレーボール班は名門として有名! ・理系大学進学希望者が多いので、理系志望なら最適! ・授業は早慶や国公立大を意識。レベルが高く塾なしで現役大学 進学も多い! 小山台高校のいま(外部リンク) ・小山台高校は評判が良くておすすめ。東工大6人合格はすごい! ・学芸大学附属高校や海城高校、桐朋高校よりも日比谷高校や西高校を選ぶ理由 都立高校が大人気。学芸大学附属高校や筑波大学附属高校よりも日比谷高校などの都立トップ校を選ぶ人が増えている理由って? ・大学受験を考えるなら学芸大附属高校・筑波大附属高校より都立トップ校を薦める理由 しっかり大学受験の面倒をみてくれる都立トップ校、塾任せの国立大学附属高校 ・学芸大学附属高校?筑波大学附属高校?都立トップ校? 塾では教えてくれない都立トップ校と国立大学附属高校の違い
https://w.atwiki.jp/progolf/pages/3878.html
楽天GORAで予約する 嬬恋高原ゴルフ場