約 233,547 件
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/542.html
太陽と月と星がある 第十四話 ひんやりと涼しい診療室の中、私は変な写真付き三面記事が面白いカツスポを眺め、時折顔の横に垂れている付け耳を撫でて気持ちを落ち着けます。 さらさらふわふわで触り心地のいい垂耳…頑張れ、私。時給20%アップだ。 スカートの裾に手が掛かりそうになったので軽く払います。 「そこから先は別料金になります」 「えー?ひっどーいキョウダイなのにー」 「普通、膝に乗せるために時給を上げる兄なんて居ません」 現在、私が座っているのは椅子ではなく膝の上です。 何故かといえば、膝に座るだけで時給が上がるからです。 座らなくても触られるなら座ってお金が貰える方がいいに決まっています。 …つか、ジャックさん、鼻息荒い…。 「キヨちゃんキヨちゃん、リボンとかつけようよー赤いのとピンクどっちがいい?」 …ピノコかよ。 「ホラ見て下さい、砂漠で謎の巨大甲殻生物を見た!ですって。でも砂漠にカニって居るんでしょうかね?」 先日、とうとう付け耳の支払いが終わりました。 というか、このエセナースが代金だと思っていたのは私だけだったらしく、この件について切り出したところ非常に驚愕され、 足にしがみつけられ頬擦りされながらオスカーを取れる勢いで泣き真似されました。 そして気がつくと時給300センタでエセナース続行が決定されていました。 なんだかんだありますが…自分で食費を稼げるって、素敵です。 「キヨちゃーん、ちょっと愛を込めてお兄様ダイスキ☆って言ってみて」 「お断りします」 ぽふぽふと足を触ってくる手を無視して今日の連載小説を。 このタブロイド紙に連載されているハッサク・ユメーノさんの他の著作も面白いのですが、ジャックさんの好みではないので感想を語れないのが残念です。 エロ描写が皆無だからでしょうか…。 髪に鼻面を突っ込まれ匂いを嗅がれていますが、無視します。 外は快晴、歩いている人達も暑そうです。 患者さん、来ないなぁ…。 対照的にひんやりと涼しい診療所。 閑古鳥が鳴いています。 いえ、暇でもお給料は貰えるみたいだから全然構いませんが。 ノルマないって、素敵…。 心の中で感嘆していると静寂を破るベルの音。 私は、手に持っていたタブロイドを畳んで仕舞うと、ジャックさんの足を踏みつつ膝から降りて、待合室に急ぎました。 「ルフイアさん、お久しぶりです。今日はどうなさいましたか?」 患者さんは以前神経性の脱毛症で来た方でした。 パピヨンぽいスーツ姿も愛らしいイヌ男性です。 ルフイアさんは私の姿を認めると、手入れの良さそうな尻尾をパタパタさせました。 「あ、お、お久しぶりです!実はたまたまこちらを通ったので、経過のご報告ついでにちょっと御挨拶に!!」 「わざわざありがとうございます」 笑顔で示された箇所には、確かにハンパな長さの柔らかそうな短い毛が生えていました。 どうやら脱毛症はちゃんと治っていたようです。 「あのあと、仕事の方も無事企画が通って、何とか職場にも慣れて」 「良かったですね」 やった事がちゃんと評価されるのは良い事です。 ルフイアさんは、うんうんとうなずくと笑顔で袋を差し出してきました。 つい受け取り見てみれば…プリンです。 「差し入れです。お口に合うといいんですが」 思わずプリンとピンクの舌がはみ出した顔を交互に見比べ、背後に音もなく忍び寄っていたジャックさんへ振り返ります。 「患者さんから戴いていいのでしょうか?」 ジャックさんの目が丸くなりました。 「なんで駄目なの?」 えーっと…父さんが入院したときにお祖母ちゃんがナースさんになんか渡そうとしたら断られて…えーっとでもそれは向こうの話だけど、えーっと… ……。 「ルフイアさん、ありがとうございます」 郷に入っては郷に従えといいますし、なによりプリンは好きです。美味しいそうなのでなおさらです。 ルフイアさんはイヌだけどかなり良い人、と心の中でメモ。 「お礼に気持ちを込めてるーくんダイスキって言って」 「るーくんダイスキ……ハッすみませんすみませんつられてついちょ!大丈夫ですかどうしましたか貧血ですか」 ルフイアさんが急に俯きしゃがみこんでしまいました。 熱射病でしょうか。 「ジャック先生どうしましょう、取り合えず椅子でいいですか?」 慌てて長椅子を引いてそちらへ誘導して、と必死になってやっているというのにジャックさんは無言で立ち尽くしたままです。 医者として失格です。役立たずです。 仕方なく無視して、されるがままのルフイアさんを長椅子に寝かせ、勝手に上着の前を開きネクタイを緩め、 こんな事もあろうかと冷やしておいたお絞りを額に載せ失礼ながら手首で脈を測ってみました。 ……脈が速いです。 なおも立ち尽くすジャックさんをファイルボードで突いて体温計を取り出し、もう一度ファイルボードで背中を叩くとやっとジャックさんが反応しました。 「キヨちゃん…ひどい…オレにはそんな風に言ってくれた事ないのに…っしかも笑顔?あんまりだー」 何故かしゃがみこんでいじけています。 …うぜぇ。 「仕事して下さい」 頭にボードを落とすと、随分と良い音がしました。 「――と、いう事がありまして、ジャックさんの仕事にかける情熱の無さは問題だと思いませんか?」 エプロンを着け、晩御飯の準備をしながら今日あった出来事をかいつまんで御主人様に報告する私。 御主人様は私の背後で椅子に腰掛け、テーブル越しにぼんやりとしたまま動きません。 眼を開けたまま寝ているんじゃないかと思い、目の前で手をひらひらさせると睨まれました。 「そういえば、まだだ」 「何がですか?」 口を開いたと思えばコレです。 意味不明過ぎます。 「ただいま」 「おかえりなさい」 何故睨みますか。 「いい加減覚えろ」 喉元を掴まれました。顔が近いです。近過ぎます。ちかッ 「鍋が焦げますので、ご注意下さい」 「他にいう事ないのか」 「無いです」 …なんか、まだ感触残っている感じがして落ち着きません。 御主人様に背を向け、指先で唇を触りつつ焦げ付きそうな鍋を引っ掻き回す私。 セーフです。たぶん。食べれる、いけるいける。 キッチンに私が鍋を掻き回す音だけが響きます。 「今度の休み、出かけるからな」 あ、人参焦げてる…まぁいいか。 「どちらまで?」 「川」 …釣針垂らしている御主人様を想像し、あまりの似合わなさに吹きそうになりましたが、なんとか耐えます。 多分、御主人様の事だから… 「…カエル採りですか?」 「あそこにはいない」 良かった。晩御飯にナマを持ってくる事はなさそうです。 「最近、サボっていたからな、いい加減練習しないと腕が鈍る」 練習…川…。 「泳ぐんですか?」 思わず振り返り尋ねると、御主人様はやや驚いたような表情を浮かべていました。 「あの、えーっと…人目とかあるじゃないですか、大丈夫なんですか?」 トカゲ男な時ならともかく、今の姿で外をうろついていたら大変です。 思わずガン見してしまいます。 目の保養的な意味で。 「問題ない。人家も無いしな」 ……へぇ。 「じゃあ、水着…とか買っても宜しいでしょうか」 「水着?」 目を張り、鸚鵡返しの御主人様。 私は頷いて手に持った菜箸を意味もなく宙でワキワキ。 泳ぐのなんか、久しぶり。 なんだか、わくわくする。 水着はやっぱり尻尾穴ついてるのも多そうだから、形に注意しなきゃ駄目だろうな、あとチェルの分も買わないと。どんなのが似合うかな。 あと、サンダルとか、帽子もあった方がいいかな。どんなのにしよう。 「だって、泳ぐんですよね?私は水着持って……」 無表情の御主人様を見て、自分の勘違いに気がつきました。 「すみません、なんでもありません」 180度回転し、菜箸を鍋の中に戻します。 当たり前だ。私は、ヒトなんだってば、なに期待してるんだろう……。 それよりこれ、何とかしなくちゃ。 「その日は――晩御飯、必要ですか?」 ……一人とは、限らないわけだし。 しまった、混ぜすぎて具が潰れています。 …いっそ全部潰して誤魔化そうか……。 考えつつ菜箸をぐるぐる……しまった。もはやどう誤魔化せばいいのかわからない状態です。 ふと気がつくと御主人様が無言で隣に立ち、無表情で鍋を覗き込んでいました。 「魔女の鍋かこれは」 「肉ジャガのはずだったんですが……」 こんにゃく抜きの。 いまや肉とイモ類の潰れた何かのどろどろの何かです。茶色です。 今から、作り直して…いや、他のもの作ったほうがいいかな。 途方に暮れる私の背中をバシバシと叩き、御主人様が口元を吊り上げました。 「オマエは本当に面倒だな」 「申し訳ありません」 何故笑いますか。 「もっと甘えていいぞ」 ……耳の病気を疑うべきか、御主人様の頭を心配するべきか。 考えすぎてか、心臓の動悸が激しいです。 「着いてから水着忘れました。はナシだからな」 どうやら、上機嫌で私の頭を撫でる御主人様。 「行っていいんですか?」 返事の代わりに更に頭を撫でられました。 なんか、そんな風に優しくされると、なんか……。 ……うわ。 *** 天気は快晴。平均気温32度。 絶好の行楽日和です。 ……馬車にさえ乗らなければ。 街から国境近くの村までの定期便の乗合馬車というのを現在体感しているのですが…日本のアスファルトで綺麗に舗装された道路と違いほぼ……土。 雨が降れば水溜りで道は陥没。 風が吹けば辛うじて残っていた舗装部分が崩壊。 つまり、道はでこぼこ。 揺れます。 ムチウチになりそうです。 プチジェットコースターです。 そしてこの世界の住民の半数近くがモッサリフッサリ。 お風呂、嫌いな人も多いです。 香水とか、発達しています。 …で、当然雨露を凌げる程度に密室な馬車内はその残り香が…。 荷馬車とどっちがマシかといわれたら微妙な所です。 あ、でも鎖無しだから、こっちの方がいいですね。…悲鳴も聞こえないし。 「キヨカ大丈夫?」 チェルの声に軽く頷き窓枠に凭れ、瞼を開くとスナネズミな女の子が心配そうな顔で覗き込んでいました。 揺れる馬車の中、危なげもなく自分の席とジャックさんの膝の上を行ったり来たりしています。 一方、私は揺れた拍子に窓に頭ぶつけました。 …痛い。 サフはバイト先の先輩の女の子と楽しそうです。 保護者同伴デートってどうなんだろうと思うのですが。 …どこか行きたいと言われたので誘ったのは私ですけど。 ……御主人様に誘った事を報告したら何故かほっぺた引っ張られましたが、もしやコレを予期していたんでしょうか。 だとしたら慧眼です。 私はサフに彼女が出来たなんて、まったく気がついていませんでした。 目の前でラブラブされるのは心にダメージです。 正直、年齢=居ない暦としては全力で羨ましいというか…。 あとジャックさんも一応誘った事を伝えたら御主人様は一日口を利いてくれなくなりましたが、今のジャックさんの姿を見れば一目瞭然です。 落ち着きありません。そわそわしっぱなしです。 …うっとうしい…。 「木陰とか草むらって、サイッコーだよね!震える彼女を焚き火の横で押し倒しちゃったりと か !雪山の山小屋で裸で抱き合ったりとか☆」 きゃーとかいいながら顔を手で隠されても、なんだかなぁ、という気分です。 教育に悪いので、そろそろ口止めの必要があるかもしれません。 御主人様は無言で本を読んでいます。 酔わないのでしょうか…。あ、文面に目をやっただけで吐き気がしてきました。 激しい手振りで座っているのを邪魔され不満そうなチェルにガムを渡し、再び窓枠に凭れていると、無言で座っていた御主人様が首に手を回して自分の方に寄りかからせてくれました。 御主人様は鱗で堅いのですが、窓枠よりは安定感があります。 普段はこういう甘えた行為は全力で遠慮すべきなのですが…服越しだけどひんやりしてるし…。 御主人様は毎日お風呂入るし体毛ないから体臭も薄いし…。 御主人様サイコー。 気温もぐんぐん上がり始めた時間帯、茂った木々からマイナスイオンがだだ洩れしていそうな絶好のキャンプ地点…みたいな河原。。 穏やかな川は斜面に接している方が深いのか、青々とした木々を反射し水の色が深い翡翠色。 浅瀬のこちら側では、メダカくらいの大きさの銀色の魚が石の間を泳いでいるのが見えます。 私がおろしたてのミュールで足元の小石をつつき川へ落とすと、小魚はあっという間に見えなくなりました。 そんな遊びに絶好の場所にも拘らず、人の気配はまったくありません。 一応、運河の支流らしいのですが、近くの村まで徒歩で二時間かかるそうなので。 しかもネコの国では水で遊ぶという習慣が基本的にはないそうで…最近は、他国の影響もあって変化しつつあるけど、とのジャックさん談。 早起きしてお弁当を作って、馬車酔いに耐えてた甲斐がありました。 楽しいです。 …帰りにまた馬車の中継地点まで一時間ぐらい歩いて、更に馬車に耐えるという事さえ考えなければ…。 河原では、サフと彼女さんが荷物を広げてあれこれおしゃべり。 ……羨ましくなんかないもん。 二人はちょっとはなれたところで泳ぐんですか、…へぇ。 「まだ着替えないの?」 「着ていますよ」 スイカを深さ流れともに丁度良さそうな所にセッティングし、水を跳ねかせながら石の上を何とか進み、岸までたどり着いてから水着のスカートを示すと、ジャックさんが石になりました。 眠そうなチェルを片手で抱いた御主人様は、無言でバックを開けタオルやら水筒やらを取り出しています。 非常にお父さんぽいです。 本人には絶対いえませんが。 「日焼けしたら痛いんですよ」 全身毛だから日焼けとか、縁なさそうですよね。 元々肌荒れしやすいからこちらの日焼け止めを塗るのもちょっと怖いし、別に学校の授業でもプールでも無いわけだから、上から服を着ていてもまったく問題は無いわけで。 ですので私は水着の上からTシャツ派です。 まぁ、パっと見で判断できなくても仕方ありません。 「チェルと色違いのお揃いなんですよ」 チェルは白とピンク。私は黒です。 赤だと金魚っぽくて非常にかわいいのですが、さすがに似合わないので諦めました。 彼女さんは明るい黄色のワンピース。 かわいい。 褐色の肌と白い髪の毛に良く映えます。尻尾も長くてかわいい。触りたい…。 仲良くなりたいけど、何故か異様に警戒されています。 フーッって言われました。 人見知りなんでしょうか。 「…水着って、…むちむちぷるーんで…ポロリは?ツルペタは嫌いじゃないけど間違ってるよ?」 ジャックさんが死にそうな声を出しながら、御主人様の腕の中でうにゃうにゃしているチェルの方を指しました。 馬車と、これまでの道のりで体力使い切っちゃったのか、とろけそうな目つきです。尻尾もてれんとしています。 幼児体型に合うのって、着替えさせる手間も含めて考えるとビキニが一番楽なんですよね。 「これもそうですよ。チェルのも本当はスカート付です」 フリルにレースが付いているので非鋭角的です。 そして私は付属のレース仕様の腿半くらいまでのスカート付き三点セットですので、わりと無難です。 スカートが落ちたら困るので裾をキッチリ縛り、ピンで留めたので完璧です。付け尻尾いらずです。一応つけていますけど。 「キヨちゃん…ちょっとお兄さんの話、聞いてくれるかな」 ジャックさんが珍しく、真面目な声です。 どうしたんだろう。 *** ――水着―― 水泳競技やフィットネスに用いられる水着。 体を動かす支障にならないこと、脱げにくいこと、水の抵抗を減らすことが求められる。 木陰の下、巨大黒ウサギがTシャツにスカート姿で正座する彼女に向かって真剣に説教していた。 が、当の相手は説教を半分以上聞き流し、他の事に気を取られている事が丸分かりである。 いつもの憂いげな表情とは違い、明るい楽しげな雰囲気が傍から見ていても伝わってくる。 なんだか、とてつもなく悔しくなった。 「――というわけで、ソレは邪道!さっさとそのシャツを脱ぐべきだとお兄ちゃん思うな!」 ビシリと指を指され僅かに動揺を面に表わす彼女。 「だって、日焼けするじゃないですか」 正座を解き、黒ウサギに詰め寄る。 「なんなら体感しますか?剃りますか?じかにナマ肌に直射日光浴びますか?日焼け止め無しの日焼けの痛みを思い知りますか?」 どこからともなく剃刀を取り出して詰め寄るキヨカ。 「ウサギねーちゃんコエーんだけど。なにあの迫力。怖いよウサギ怖いよ。なんでオマエの周り怖い人ばっかりなの?」 「怖くないよ。キヨカだってば」 気の強そうな瞳に怯えを宿したネコが自分より小柄なイヌにしがみ付き小さく震える。 「だって、ねーちゃんがいってたし!ウサギに背中を見せたらオワルって!ダテにされるって!」 「ハイハイ。がっくんー僕らあっちらへんで泳いでるからねー」 なおもにゃぁにゃぁと訴えるネコを引っ張り去っていくイヌを見送りヘビは小さく溜息を吐いた。 腕の中で涎を垂らしているのを揺すぶり起こし、地面に降ろされ胡乱な目で見つめるネズミ。 「がっくん、おやつたべていい?」 「それよりキヨカと遊んで来い」 ヘビが頭を撫でるとネズミは目を細めた。 「がっくんは?」 「オレはちょっと離れた所にいるから、何かあったらジャックに頼んでおけ」 物分りよく頷かれ、ヘビは少し複雑な気分になる。 そのまま見守っていると、両手に抱え上げられた二人が川の中に放り込まれ、嬌声を上げていた。 仕返しに水を滴らした二人から耳を集中的に狙われ、川の中を右往左往するジャック。 「がっくんタスケテー!」 無視して荷物を片すヘビ。 足を滑らせ頭を川底にぶつけ、どんぶらこと川を流れていくウサギを尻目にずぶ濡れになったニセウサギとネズミが手を繋いで岸に上がり彼に微笑みかけた。 「…一緒に遊びませんか?」 「二人で遊んでろ」 そっけなく返され、不満げな表情の二人に思わず瞠目する。 「がっくんのけち!いじわる」 「最初から、練習だといっただろう」 ヘビの言葉に頷き、彼女はぐずるネズミを抱き上げ重さに息を吐く。 「お昼には一旦帰ってきてくださいね。ジャックさんああだし、サフも彼女さんもどうするか判りませんから」 濡れた服が張り付き、体の輪郭が露わになり柔肌が透けて見える。 白い肌に頬だけが紅潮し、水を滴らせた黒髪は一層艶やかだ。 「…わかった」 確かに彼女も水着を着ているという事実を心に刻み、彼は目を背けた。 *** 川のせせらぎと小鳥の鳴き声、木々がざわめく音。 不機嫌そうに小石を蹴り上げる軽い足音。 二人っきりになりたいから、わざわざ下流に歩いてきたのに、凄く不機嫌そうだ。 「オマエ、ガン見し過ぎ」 そういって小石を投げつけられた。 顔の横を放物線を描いてとぶそれを見送り、耳の後ろをカリカリと引っかく。 「何で怒ってるの?」 「怒ってねぇよ」 ふわふわした尻尾を膨らませ、語気荒く吐き捨てる彼女。 「泳いでもいいって言ったの、そっちじゃん」 「ウッセーバカ、毛皮バカ」 無尽蔵にある小石を蹴り上げられ、とっさに跳び後ずさる。 「遊びに行きたいって言ったの、そっちだろ?」 「誰がウサギと行きたいなんて言ったよ!」 「別になんかされたわけじゃないのに、何だよその言い方!」 思わず牙をむき出すと、彼女も負けずに怒りの形相になった。 「へらへらしやがって!バカじゃねーの!」 「してない!」 怒声に彼女の耳と尻尾がピンと空を向き、悔しげに唇を噛み、八つ当たりに石を川へ投げつけ始める。 手当たりしだいに投げつけ、手ごろなのがなくなったので頭よりも大きな石を持ち上げ、投げつけられた。 「あっぶな!」 足元で砕けた石をみて睨みつけると、意外にも彼女は金色の瞳を見開き、うっすらと涙を浮かべていた。 「やっぱりウサギの方がいいんじゃねぇか!あっちばっかり褒めやがって!」 思わず言葉を失い、口を上下させる。 褒める? 首を傾げ、今日の言動を振り返る。 朝、挨拶して、引き合わせてあとはずっと2人で話してた。 ああ、キヨカとちびがおそろいだとかいう水着を…。 「ニキの方がかわいいよ?ごめん、当たり前だから言うの忘れてた」 褐色の肌が更に濃くなり、大きく開いた瞳と口が盛んに上下し、ごくりとつばを飲み込み何とか言葉を搾り出す。 「べ、べつにオマエの為に水着買ったわけじゃないけどな!!」 予想外の大声にちょっと耳が痛くなったもの、何事も無かったように首を傾げてみる。 「じゃあ、脱ぐ?」 「だめ 、そんなにずんずんしたら っ あたまおかしくっ ひゃぁっ 」 目の前の小ぶりな乳房を舐めあげ、うなじを噛むと甘い悲鳴。 引き伸ばされた水着の隙間からはとめどなく蜜が滴り地面を濡らす。 押しつけられた木の幹からは緑の濃いニオイ 背中を掻く痛みすら快感に変わる 腰を押さえた手で尻尾の根元を締め付けるといっそう甘い悲鳴 「んww だめっ そこだめっ あっあっあつっ」 荒い息を吐き、身体を揺すると彼女はいっそう爪に力を込めてきた 「出すよ」 込み上げる快感の波を堪えて囁くとうっすらと瞳が開く 「だめっそんなことしたらっ あっ」 「なら足」 細い足はしっかりと腰に巻きつき離れようとするどころか、いっそう押し付けられた 無意識に震える腰が快感を求めて更に奥へ導こうとする きゅうきゅうとナカと外から締め上げられ、喘ぎながら必死で負けん気を振り絞る が 「ばかっぁ! なかに出したらだめぇっ」 「抜けよ」 「ムリ」 身体を揺さぶられきゅっと顔を歪める。 肩紐だけはどうにか戻したものの、無理やり引き伸ばした箇所は相変わらず肌に食い込む。 突き出された鼻面を指で弾くと痛そうな顔をされた。 「オレの方がデカイんだから、ムリするなよ」 固めの毛皮が汗ばんだ素足を擦り、むずがゆい。 向かい合わせに抱っこされ、しかもそれが自分よりも年下で、小柄で、異種族で、なんだか恥ずかしい。 背中を撫でられるたびにどきどきする。 本当はもっと撫でて欲しい。 「抜けなくなるのわかってて出すなんて、バカだろバカ」 「抜かせなかったの、そっちじゃん」 「ンなわけないだろ!お前の方が早すぎたせいだよ!」 無防備な頭をぽかぽかと殴るも、たいした効果は無いらしい。 「オマエなんかがオレをイかせられる訳無いだろ!演技演技!」 顔を見られないように頭を抱きかかえると、無防備なところを舐められ、また腰を振りたくなる。 グネグネする尻尾を堪えようと頑張るが、あまり効果がない。 「またエッチな気分になってるでしょ」 言い当てられ言葉につまり、思わず頭を殴るものの尻尾を握られて情けない声を上げてしまった。 胸元から見上げてくる仔イヌの顔がむかつく。 殴ろうとした拍子にまた キモチイイトコロ に太くて固いモノが当たり動けなくなる。 「ここ、キモチイイ?」 思わず頷きかけ、慌てて首を横に振るが、輝く眼に見つめ返され背筋がそそり立った。 「なら、いっぱいしても平気だよね」 そんな事言われたら、逆らえないのに、ズルイ。 *** 精密に 緻密に それだけを命じる 煮え滾る水面 岩に無数の穴を開ける 周囲を濃霧が包み込む 川面を凍結 砕く 渦巻く水に何もかもを沈め 水音が喚起させる過去 砂漠に追放されしモノ 呪われた盲目のヘビ 暗闇に蠢くおぞましい――― 「お昼もって来ました」 黒髪の娘が照り返す日差しに眩しそうな表情を浮かべている。 「オニギリとサンドイッチどっちか迷いましたが、ご飯の方がおなかに溜まるので」 適当な場所に木陰を見つけ、腰掛ける二人。 笑顔で差し出された何かの葉で包まれた「オニギリ」を受け取り、ニオイを嗅ぐがよくわからず不安を殺して見つめる。 黒い。 「オニギリ初めてでしたっけ?ご飯を塩とおかずで握ったものです。それの中身は塩焼の魚です。黒いのはノリです。えーと…海で採れます」 不安と期待の入り混じった瞳に耐え切れず、口に運ぶ。 呑み込む。 塩と米とノリが口内に張り付く感触を堪える。 手渡された茶で流し込み、息を吐く。 「玉子焼きとウインナーと、ちゃんとウインナーはスパイシーなのにしましたから!」 卵というものは塩で味付けがされているという先入観に負ける。 何故、ウィンナーが半分花びら状になっているのか。判らず無言のまま噛み砕く。 次に渡された オニギリ は ノリ が付いていなかったので安心して食べると酸味に噎せそうになる。 呑み込む。 「ウメ大丈夫なんですね!よかったーみんな苦手みたいでして」 正直、味覚に合わないとはっきり言っても構わなかった。 今後もこれを食べるかと思うと、気が滅入ってくる。 様子を見つつ時折出してくる茶色で複雑な味は、今まで食べた事のない種類で苦手だとしかいいようがない。 ただ―― 彼女が、キツネの雑貨屋とやらにたどり着いたと報告してきた日の、零れんばかりの笑顔は昨日の事のように鮮やかだ。 「えーっと…これお勧めです美味しいですよ。甘辛くて」 噛まずに呑み込んだ。 「お口に合いますか?」 黙って頷くと輝く笑顔。 ――― 一生、勝てる気がしない。 眼が明るい。 心が波立つ弾む声、もっと傍で聞いていたい。 「今日、楽しいか?」 「はい ありがとうございます」 湿った髪を撫でるとくすぐったそうな表情を浮かべた。 不意に手を伸ばされる。 「ごはんつぶ、ついてます」 人差し指の火傷は、魔洸調理具に慣れなかった頃の名残。 あの頃は、目を合わせることも出来なかった。 「こういうの、おべんとうついてる って言うんですよ」 指先についた米粒がそのまま口に運ばれた。 意図がわからず見返すと、首を傾げてから自分で舐め取っている。 なんだかわからんが、今度はそうしよう、彼は思った。 「キヨカ」 瞬きして首を傾げた拍子に、濡れて重くなった付け耳がとれそうになったので慌てて抑えてやる。 焦った様子で直そうとするのを手伝うと困惑した表情を浮かべ、何か言いたげな風。 薄く開かれた唇が甘い。 脆い皮膚を裂かないようにそっと指を握り、細い腰を引き寄せる。 濡れた服と水着がいかにも邪魔そうなので脱がそうとしたら、裾をつかまれ抵抗され、一瞬驚く。 「俺は、浮気しないから、安心しろ」 「衛生的な意味でも大変素晴らしいと思います」 一瞬眉を顰められ、言葉を失うが咄嗟にうろ覚えの知識を掻きだす。 「最近は、他種族なら妊娠の危険がないとかって気楽にするせいで性感染症が増加傾向にありますので、お気をつけて。やっぱりゴムは必要らしいです」 眉間の皺が一層深くなり、背筋に冷たいものが垂れるが、確りと服の裾を押さえる。 「信用してないのか。俺を」 首を横に振る。 頷き、華奢な体を腹の上を跨がせ尻尾を巻きつけると形容しがたい表情になった。 柔らかい素肌を締め上げないように注意する。 出来るだけ、緩く巻く。 「鱗、嫌か?」 長い睫に縁取られた眼が戸惑ったように瞬きした。 細い首筋に舌を這わせ、このままか、押し倒すか検討していると、唇が開かれる。 「スイカひやしたままです。二人から、早く戻るように言われてますし」 真顔と氷のような表情とが向き合う。 「残念ながら今日は、団体行動ですから、迷惑をかけるわけにはいきません」 彼女は周囲に置いたままの弁当箱を手早くまとめはじめた。 状況を掴めず呆然と見上げるが、まったく伝わらず生真面目に頭を下げられる。 「サフが彼女を連れてきて対応に困るのはわかりますが、大人なんですからよろしくお願いしますね」 脱ぎかけのミュールの紐を直し、皺の寄った服の裾を少し伸ばす。 「スイカ、早く来ないとなくなりますから。今日は育ち盛り三人ですよ」 つかもうとした手が空しく宙を掻く。 形のいい脚、白い肌が遠ざかる。 しばし呆然としたあと、日差しに熱せられた砂利に爪を立て、心に誓う。 今度は、もっと強めに締めておこう。 *** 木陰の下、気持ち良さそうに眠るふわふわした毛並みの黒ウサギとそれを枕に眠るネズミの女の子。 …いいなぁ…。 せっかくみんなで来たというのにバラバラで少し寂しい気がしますが、そこまで贅沢は言えない訳で…。 スイカ、いつ食べればいいんだろ。 御主人様とサフ達が帰ってきたら…かな。 ていうか、御主人様ナニやってるんだろう。 もう一度眠る二人を見て、しばらく考える私。 人が来る様子はありません。 2人とも、よく寝ているし、御主人様も居ないし、サフ達はお昼をもって更に上流の方へ行ったままです。 私は荷物の中からタオルを取り出し、こそこそと下流の方へ向かいました。 湿った付け耳を外し、肌に張り付くシャツをどうにか脱ぎ捨て、髪の毛を纏めて、申し訳程度に準備体操。 変なのが居たらイヤなので足は脱がない。 川の水は、やっぱり冷たい。 ずっと昔、連れてきてもらった時も、こんな感じだったような気がする。 また三人で行こうって言ったのに、結局二人とも居なくなってしまった。 ……うそつき。 底が見えるくらい透明度の高い水に躊躇したものの、二度とないかもしれないチャンスなので思い切って泳いでみる。 ドキュメントで見たような深みをクロールで進む。 すぐに息が切れて脇が痛くなった。 ……前は、もっと泳げたのに。 ジャマなスカートと付け尻尾を取ってもう一度潜る。 思うように身体を捻れない。 昔みたいに水を掻けない。 前みたいに息が続かない。 浅瀬に這い上がって、深呼吸。 深く息を吸うたびに浮いた肋骨が軋む。 鼻の奥が少し、痛い。 ――― もう少し、やってみよう。 唇を噛んで顔を拭って、髪を直してもう一度。 手足を伸ばして、無駄な力みを抜いて。 思い出すのはあの夏のプール。 友達の歓声、先生の笛。 蝉の鳴き声、チャイムの音、へたな合唱、音車の排気音、子供の笑い声、暑い陽射し。 あの頃はもっと髪の毛が短かった。 あの頃はもっと背が低くて、日焼けしていて、体重とニキビに悩んでた。 先輩に憧れて、分厚い本を読んで途中で挫折した。 父さんが死んでしまって、時々布団の中で泣いた。 伯母さんと受験に合格したら、あの人のコンサートに行かせて貰う約束をした。 将来は、写真の中の母さんみたいにカッコよくなると決めてた。 ずっと狭い部屋の中にいたから、泳ぎ方が思い出せない。 息継ぎのタイミングを間違えて水を飲み込み噎せた。 呼吸を整えて、もう一度。 重い体を引きずるようにして、岸辺に戻る。 解け掛かった髪をおろして手で絞ると、ビックリするほど水が滴った。 髪の毛、切りたい。 御主人様に、切ってもいいか訊いてみよう。 他の人にヒトだとばれたら困るから、美容院にはいけないけど。 髪の毛を纏めなおして左右を見渡す。 …違和感。 顔をもう一度拭って、付け耳やシャツを探す。 あった。 風に、飛ばされたのか、予想よりだいぶ遠くにシャツを発見。 軽く叩いて、濡れたままのそれに腕を通したけど、冷えて、濡れた服は寒い。 けど……半分見えなくなって、少し安心する。 下を向いて、丹念に探す。 スカートを発見。 飛びすぎじゃないかと思いつつ、張り付いた落ち葉を取って、腰に回す。 足の傷も見えなくなって、安心する。 けど、付け耳が尻尾も見当たらない。 無いと困る。 「探し物は、これ?」 顔をあげると、釣りの衣装を着た茶色のネコが私の付け耳を持っていた。 息を呑む。 「返して、欲しいかい」 声の感じからすると多分成人はしてる。 凄く楽しそうな雰囲気。 私が頷くと、一層眼が煌いた。 「首輪は?」 御主人様は、私に首輪をつけようと、しない。 ヒトは、首輪が無ければ所有権を主張できないのに。 「濡れると締まるので、今だけ外していただいています」 今だけ、の所に力を込めた。 風が吹いて、身体が寒い。 人は、ヒトより力が強い。 人は、ヒトより足が速い。 ヒトは、モノだから好きなように扱って、構わない。 殺しても連れて帰っても、首輪無しなら犯罪にすらならない。 「拾っていただきまして、ありがとうございます。どうか、それを返していただけませんでしょうか」 木の葉の擦れる音と、川の音と、心臓の音。 「どうしようかにゃーただっていうのも…にゃ?」 嫌な色をした眼が身体を這い回るのがわかる。 この眼をよく、知ってる。 あの頃は、何かしてもらうために客以外にも、しなきゃいけない時があった。 それ以外、私には何も無かったから。 …ひどく、寒い。 大丈夫、前みたいにすればいいだけだから。 大丈夫、慣れてる。 だから、大丈夫。 四つんばいになって頭を下げ、どうやら病気持ちではなさそうなモノの先の方を咥える。 下腹の毛が鼻に当たるので、呼吸がしにくい。 耳を触られるのが不快。 手が離れ、背中やシャツ越しに胸を触ってくる。 痛い。 右手で睾丸を緩く撫でる。 左手で竿に髪を巻きつけて扱く。 口の中で膨らんでいくのをじっくりと舐める。時々吸う。吐きそうになる。 不意に後頭部を押されて喉の奥に押し込まれ、えづきそうになる。 何事も無いように裏筋に沿って舌を這わす。手は休めない。 左腕と背中に食い込む、ネコの爪が痛い。 そろそろ呼吸困難になりそう。 …どうか、遅漏じゃありませんように。 緩く噛んだりきつめに吸い上げると、腰が浮いて、一層奥へ押し込まれる。 嘔吐感を堪えて吸い上げて飲み込んだ。 熱の篭った眼でまじまじと見られ、背中に氷を押し込まれたような気分になる。 「耳、返していただけませんか」 口を拭って出た声は、ずいぶん掠れて自分でも聞き取れないくらいだった。 ……寒い。 道具が無いから、これ以上の事をするとたぶん凄く痛い。 だから出来ればここで終わりにして欲しいのに、案の定、圧し掛かられた。 動こうとして身体を捩ったところだったから、足を捻った。痛い。 爪を立てられた背中が砂利の上で擦られて、痛い。 爪が立てられた手首から細く血が垂れる。 ネコの舌はイヌと違ってザラついて痛い。 さっき出したばかりだっていうのに、もう反り返っている赤黒いのを顔に押し付けられる。 気持ち悪い。 足をバタつかせてどうにか、ふり落とそうとするも、バランス感覚に優れているネコには無駄な行為らしい。 荒い息遣いが気持ち悪い。 頬を打たれて、口の中が切れた。 何か言っているみたいだけど、何も聞きたくない。 どうせ、言う事は、みんな同じ。 逆らう気か、奴隷の分際で 中古のクセに 飼ってやるから、ありがたく思え 不意に視界が歪む。眼を閉じる。 ……そういえば、御主人様はそういう事を一回も言わなかった。 なんだか胸の奥が痛い。 唇を噛みすぎて、血が出てる感じがする。 ――― 大丈夫、慣れてる。 寒くて、仕方ないけど、大丈夫。我慢すればすぐ終わる。 そしたら、そしたら――― 身体を弄る感触が、不意に止まった。 痙攣する瞼を開いたけど、何も見えないのでどういうわけか自由になった右手でどうにか拭う。 見えた風景をしばらく凝視して首を傾げる。 「幻覚?」 声が変な声。 先程と同じ、腰巻オンリーの御主人様(ただしトカゲ男)が目の前で仁王立ちしてます。何故かずぶ濡れで湯気が立っています 同じくずぶ濡れで湯気を立てているネコは下半身丸出しで座り込み、口あけたまま、尻尾をピンと逆立ててる……驚いているらしい。 しかし、なんというか…御主人様がヘビのはずなのにどんどん怪獣映画のアレに似てる気がしてきました。 トゲが生えてて、口からアレ吐く、アレ。 中身と声と手は美形なのに……。 「このまま貴様の血を沸騰させてやろうか?」 声は美形なのにドスが効いています。地を這うような声です。子供が聞いたら泣きます。ガン泣きです。 視界が歪んできたので、目元をごしごしと擦っていると、砂利を蹴り上げる気配。 物を落とす音。 ウロコがどうとか、中古がなんとかという捨て台詞と、熱い鉄板の上に水を垂らした様な音と悲鳴。 必死でズボンを上げながら逃げるネコの後姿。 慎重に立ち上がり、自分の状態を見てみる。 シャツはボロボロで所々血が付いてる。 水着は方紐が解けているので、慌てて御主人様に背を向けて直します。 スカートの角度もなんか、ひどい。 全身がずきずきする。 鼻の奥が痛い。 視界がまた悪くなってきたので目を擦る。 「ウサギみたいなツラになってるな」 冷たいものを手のひらに落とされて、驚いて見るとなんと板状の氷。 お礼を言ってそっと当てると、ずきずきする頬がひんやりしてきもちいい。 眼から熱いものが垂れて止まらない。 困ったなと思いながら、しゃがみこむ。 誰かの、泣き声がする。 *** 草むらを大股で進む御主人様。 どういうわけか、少し開けている木の間ではなく鬱蒼と茂って足元に石や木の根っこがごろごろしている所を選んで歩くせいで、障害物を踏むたびに御主人様の身体は上下します。 落ちそうになって思わず私は躊躇しつつ腕に力を込め、いっそう首にしがみつきます。 御主人様の鱗は固い。 ナニゆえ私は姫抱っこされているのかといえば、足を捻っているため歩行が亀を這うようなスピードになり、御主人様が焦れたからです。 スイカを食べるためにみんな待っているそうなので早く行かなくてはいけないのですが……。 …後から行くと言ったらバカかと吐き捨てられました。 おまけにデコピン喰らって気が付いたらこの状態です。 しかし、それならおんぶの方がバランス的にも御主人様の視界の良さ的にも私の腕力の限界的にも良心的です。 ……右腕がプルプルしてきました。 「あの……」 目だけギョロリと動きます。ちらちらと宙を舞う赤い舌。 「…重くてすみません」 荷物のある場所まで、目前です。 御主人様もそれに気が付いたのか口が開閉され、…どうやら少し考えた後、そっと降ろされました。 「服持ってくるから、ここで待ってろ」 今の私はボロボロのシャツと水着。洗っても滲んでくる血の所為でちょっと凄惨です。 少なくとも、子供に見せられるもんじゃありません。 「申しわけありませんが、よろしくお願いします」 頭、撫でられました。 憔悴した風の御主人様が私の服を持ってくるのに十分ほどかかりました。 礼儀正しく背を向ける御主人様。 紳士です。 「チェルに泣かれたぞ。お前がいないから」 「…すみません」 私は水着を脱ぎ、持ってきてもらった服に腕を通します。 ……下着ありません…。 御主人様にそこまで求めるのはムリですね。 …湿気るけど…。 ボタンを最後まではめ、思わず安堵の息。裾の長い服を着ると、安心します。 傷に服が擦って少し痛いけど。 「今日は、ありがとうございました」 嫌な事もあったけど…御主人様が助けてくれるなんて、思ってもいなかった。 「よろしければお礼に何か……」 つい言ってしまった言葉に、真面目に考え込む御主人様。 私は自分の言葉に冷や汗が垂れてきました。 お礼って…私何も持ってないのに、何ができるの。 ご飯作るくらい?でもそれなら…… 「足の裏でも舐めますか?」 私の提案は氷のような眼差しで一瞥されて終わりました。 他、何かあるかな。 中古でも高く買ってくれるところを探す……とか。 「昔、落ちモノ映画で見たんだが」 予想外の言葉に虚を突かれ、黙って耳を傾ける私。 「茶や金髪の男女が出るヤツだ。わかるか。眼も緑とか青い連中だ」 邦画ではないだろなということしか、わかりませんが。 「馬車が賊に襲われた所を、馬に乗った男に救われるんだ」 西部劇とか中世モノによくあるパターンですね。 大抵、貴婦人が出てきてお礼を言ったり、お礼に…お礼……? 「だだだ大丈夫ですかアタマ生水にあたりましたか寄生虫ですか正露丸のみますか」 急にひざまずき手をとられた事に驚いて仰け反り後ずさり、木にぶつかって止まります。 御主人様は、大股でこちらに近寄り、木の幹に掌をつけ、私を見下ろしました。鱗顔なのにわかる不思議そうな表情です。 近いです近過ぎです!! 「見たこと無いのか、映画」 「いいえ、なんとなく想像は付きますけども!日本人的にありえませんから!!」 欧米かってヤツです。 「国が違うのか」 「違います全然違うし、舞台の時代も違いますよ!」 焦り過ぎて声が裏返りました。 「だが、内容は理解できるわけだな」 顔が近すぎます!普段と違うヘビ顔なのに心臓がバクバクいってます。御主人様には違いないから?困ります困ります。 「できるよな」 「ナニをでしょうか」 平静を装いつつ後ずさり…できません。 「映画の真似だ」 御主人様ナイトですか、配役考えると御主人様はとにかく、私が相手だと白馬の騎士じゃなくて、ドンキホーテになりませんか。 それは困ります、だって、最後に死ぬじゃありませんか。 だとすると…つまり…その……。 「むむむりですむり!別にしましょう!ぜぜんりつせんまっさーじとか、いがいとわたしうまいですよ!しますか五分切れますよ!」 べちんと、素突っ込み入りました。 デコ痛いです。 「日本人に何求めてるんですか!御礼は菓子折りに決まってるじゃありませんか!!」 御主人様、顔近い。 「お礼」 御主人様的にはアレですか、アタマ大丈夫ですか。ジャックさんが伝染りましたか。 しかし御主人様のご要望です。でも、するの?まじで? 私奴隷なのに? 奴隷なんだから、もっと色々させて構わないのに? 「わわかりました」 「わかればいいんだ」 どことなく満足そうな御主人様。 「そこじゃ届かないです」 御主人様が顔を寄せた。 「眼も閉じてください」 「面倒だな、本当に オマエは」 ぶつぶつ言いながら眼を閉じる御主人様。 素直です。 ……顔の鱗まで硬いって、生活上、支障ないんでしょうか。 虫に刺される心配だけはなさそうでいいわけですが。 頬から顔を離した途端、くわっと眼を見開かれ、ちょっとびびる私。 御主人様眼が金色ですけど、怒ってますか。大激怒ですか。 ……締められた。
https://w.atwiki.jp/suthipo/pages/11.html
■ 概要 2006年 12月22日(金) 発売 1ケース(2枚入り・ランダムソーティング) 525円(税込) 1ボックス(8ケース入り) 4,200円(税込) ■ 構成内容 全48種類(図柄24種類) ◆特別仕様…24種類 ◆通常仕様…24種類 ■収録タイトル 「おたくのビデオ」「王立宇宙軍~オネアミスの翼」「これが私の御主人様」 「新世紀エヴァンゲリオン」「DAICON III&IV OPENINGAMIMATION」「トップをねらえ!」 「トップをねらえ2!」「ふしぎの海のナディア」「フリクリ」「プリンセスメーカー」 ■作家・絵柄一覧(作家50音順) 現津みかみ 「フリクリ」<サメジマ・マミ美> あきまん(安田朗) 「新世紀エヴァンゲリオン」<綾波レイ> あらきかなお 「プリンセスメーカー」 うたたねひろゆき 「おたくのビデオ」<ミスティメイ> okama 「トップをねらえ2!」 小原トメ太 「トップをねらえ2!」<チコ・サイエンス> 介錯 「トップをねらえ!」<アマノ・カズミ> 香川友信 「フリクリ」<ハルハラ・ハル子> カワタヒサシ 「トップをねらえ!」<タカヤ・ノリコ> 高河ゆん 「これが私の御主人様」<沢渡いずみ> こうたろ 「新世紀エヴァンゲリオン」<伊吹マヤ> 駒津えーじ 「新世紀エヴァンゲリオン」<惣流・アスカ・ラングレー> さくら小春 「トップをねらえ2!」<ラルク・メルク・マール&ノノ> 桜沢いづみ 「これが私の御主人様」<沢渡みつき> しゃあ 「フリクリ」<ニナモリ・エリ> 篤見唯子 「プリンセスメーカー2」 なかむらたけし 「王立宇宙軍~オネアミスの翼」<リイクニ・ノンデライコ> 七尾奈留 「トップをねらえ2!」<ノノ> 左 「ふしぎの海のナディア」<ナディア> まりお金田 「新世紀エヴァンゲリオン」<葛城ミサト&赤木リツコ> 美樹本晴彦 「トップをねらえ!」<タカヤ・ノリコ> みつみ美里 「これが私の御主人様」<沢渡いずみ&倉内安奈> 矢野たくみ 「ふしぎの海のナディア」<エレクトラ> 蘭宮涼 「DAICON III IV OPENING ANIMATION」
https://w.atwiki.jp/kskani/pages/502.html
鎧袖一触~鎧の端の心に触れろ~ ◆2XEqsKa.CM さわわっと、夜風が草根を分けそよぐ。 草原に群ぐ雑草たちが、陽光の名残を惜しんでさんざめき。 明日の我が身を鑑みることもなく、ただただ光を求めて揺れる刹那草。 この殺人ゲームを模すかのように、今を生き足掻いていて美しい。 そんな草叢を掻き分け、夜闇に熔けて強殖装甲が駆ける。 草原を、抜ける。次なるフィールドは水辺。強化された脚力で泥底を踏みしめたその瞬間。 異形が、割れる。甲殻を思わせる鎧が弾けるように外れ、"中身"が露出していく。 泥と藻に足を取られ、"中身"は転倒した。押し寄せる水に、全身が翻弄される。 熱を、寒気を、怖気を、良識を、後悔を、内外あらゆる障害物を排除し、装着者を守ってきた鎧が、今はもうない。 そうして"中身"は無防備だった。肉体はもちろん、精神すらも、磨耗しきっていた。 辛うじてそんな"中身"に存在意義と存在理由を与えていた強殖装甲。 無機質なそれは、自己を否定する者に恩恵を与える情など持ち合わせない。 不幸と失態の果てに、全てを拒絶した"中身"は。 遂に、己の『根』をも手放しつつあった。 「う……ごおええええ!!! ごえええええ!!! 」 嘔、吐。黄色じみた血の混ざった吐瀉物が、水面を汚して広がって。 たった今まで仮面に覆われていた顔からは苦痛しか読み取れない。 体内の全ての水分を吐き出した、と思えるほどの穢れを垂れ流しながら、"中身"は泣いていた。 「――――●∴→!! φ〆!!!」 のたうちまわり、仰向けになった"中身"が激しく痙攣しながら声にもならない雄叫びを飛ばす。ズキン、ズキン。 はて、"中身"の頭にズキン、と響くもの。それは痛み? 心の痛み? いや、"中身"の心は既に痛みを感じない。 何故なら"中身"は壊れているから。この場の仲間を見捨て、この場の肉親を見捨て、日常へ戻る事だけを求めてきた。 そう、"中身"はその実最初から――この島に降りたった瞬間から、その為だけに生き、殺してきたのだ。 ..... (そうだ……俺は、最初に何をした!?) 気付いた。"中身"は、自分の『根』に、今始めて目を向けた。 この殺し合いの舞台に落とされ、"中身"が最初にとった行動。 それは、他者の身を案じる事ではなく、自分の武器の確認だった。 (SOS団の仲間を救う? その為にハルヒとここで仲良くなった奴を殺して長門の親玉を満足させる!? うっかりハルヒを殺しちまって、ええと次は何だっけ? そうそう、長門に皆を生き返らせてもらって、 都合よく記憶を消してもらって万々歳! ああ、そんな感じだったそんな感じだった、俺の思考ッ!!! 仕方ないよなぁ、そういう思考なら俺以外の奴を皆殺しにしてもいいんだ、仕方ない、仕方なかったよなぁ。 って馬鹿か! 死んだ人間は生きかえらねえし、長門一人ならまだしも、草壁のおっさんがいるんだぞ、 殺し合いの結果を無意味にする願いなんて叶えるわけがないだろ! はっきりしない口約束だけで、 なんで俺は信じちまったんだ? 信じなけりゃ、それで終わりだったからさ! ああ、希望に縋りついて何が悪い!? 畜生、痛え、痛くねえっ! こんなもん、ハルヒに比べりゃ全然痛くねえだろ、多分。って俺誰に話してんだ? 【俺】か? 【俺】って誰だよぉぉぉぉぉっ!!! そんな奴、どこにもいねえよ! 俺は一人! 生き残るのも一人! だからって、何で殺しちまったんだろうな? そんなの決まってんだろ……生き残りたかったからだよ……。 怪物がいっぱい居るこんな島で生き残るには、こっちから攻めるしかないんだ! 俺は力を手に入れたんだから! でも、もうガイバーもなくなっちまった! スバルを殺したのがそんなに堪えたのか? もう何人も殺したのになぁ、 おかしいなぁ……はは、はははは……ハルヒィィィィィィィーーーー!!!! ハルヒィィィィィィィーーーー!!!!) 激しく流れる、まとまらない、指針のない思考で痛みが麻痺し始める。 鎧を失った"中身"には、狂気、恐怖、憐憫、忘失志願、自己肯定etcetc...数多の感情が飛来していた。 力によって抑制され、押さえつけられてきたいわゆる人間らしい感情が、窯窪にくべられた様に燃え上がる。 それが一段落着くと、次は一旦棚上げされた痛みが帰ってきた。 痛みの出所は、ウォーズマンのスクリュー・ドライバーを喰らった左頭部の挫傷。 そのダメージの回復中に起こった、"中身"の揺らぎ。仲間と肉親の死による、大きな揺らぎ。 心が壊れていても、"中身"には変えられない過去があり、変わらない精神がある。揺らぎも無理ならぬ事。 だが、その揺らぎの代償は大きい。途中で回復を中止された挫傷からは、じわじわと血が流れ始めていた。 血は"中身"の目に入って、視界を赤く染めていた。仰向けに倒れた"中身"は、四肢で水の流れを感じながら、 口元にたどり着いた血を舌で拭う。味を感じているのかいないのか。"中身"は無表情のまま、空を見上げる。 「星が、星が見えないぞ……長門、そりゃお前は天体観測なんてする必要ないだろうがな、風情って物がなぁ……」 うわ言のように呟き、ふらりと立ち上がる。おぼつかない足取りで水場から離れて、草原に戻る。 「まったく……なんで、こんな事になったんだろうなぁ……一日足らずで人間ってここまで変われる物なのか?」 自分が何をしてきたのか。"中身"は、それを無性に誰かに話したい気分になっていた。 がさり、と背後から物音。今はガイバーならぬ身、気付かなかったのは当然。 背後から近寄ってくる物がなんであれ、"中身"に抗う術はない。 だから、"中身"は"振り向いた"。この島に来てから恐らく初めて、何の計算もなしに、自然に。 「キュックルー!」「ガウウ……」「キュア~♪」「ヴォー!」『Mr.キョン……』 「よりにもよってお前らかよ……」 『キョン』。 それは、"中身"の名前ではない。 それでも、今現在の"中身"にとっては。 『……キョ、ン? な、何なのよその変な格好はー!!!』 最も心地よい、呼ばれ方だった。 「ヴォー?」 「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」 ◇ 「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」 少年……ケリュケイオンが言うには、キョンと言うらしいが……キョン少年は、ぼそりとそう呟いた。 全く、人型種族ってのはいつもこうだな。自分達が最も賢いと思っていやがる。 まあ、ライガー族の俺からすれば賢さなんぞ二の次。 忠義と敵を食い破る牙さえあれば生きていける事が、俺達の誇りだ。 さて、俺の御主人様はどうこいつに接するのかね……? 「ヴォー」 おいおい……また見逃すつもりか。 今までの流れから見ても、こいつが御主人に害をもたらす存在であることは明らか。 本来ならこの場で俺がこのキョンとやらの首を噛み千切っているところだ。 だが、この島では俺は(恐らくは、ピクシーのババアも、フリードさんもだろうが)、 御主人様の意志に沿う行動しか取れない。俺が御主人様の為を思っても、命令があるまで動けない。 そして御主人様は今まで、自分の身に危険が迫っても俺やババアやフリードさんを矢面には立たせなかった。 その優しさには胸を打たれるが、それでは何故俺達を召喚したのか分からないではないか。 今のところ賑やかしとしてしか活動してないぞ、俺達……。別に戦いたいわけではないが、俺もあと数時間の命。 どうせ死ぬならこの命、せめて御主人様のために燃やし尽くしたいものだが……。 『Mr.キョン。貴方を追って温泉から飛び出してきたMr.ケロロから話は聞きました。今すぐ我々と共に……』 「どの面下げて戻れってんだ? 俺はスバルを殺した……」 『Ms.スバルは死んでいません。マッハキャリバーが身を呈して守ったそうです』 「……そうかよ、まだあいつを戦わせたいってわけか……せっかく楽にしてやろうと思ったのに」 『どうやら錯乱して起こした行動ではなかったようですね。それならばなおさら、温泉に出頭するべきです。 貴方はMs.高町達に裁かれなければならない。このまま人殺しを続ける事は、貴方にとってよくない事です』 「いや。もう、俺は戻れない」 ケリュケイオンの野郎が、キョンに話しかける。そうそう、このキョンが温泉から尋常ならぬ様子で飛び出してきて、 皆で何事かと温泉の前まで向かった時にあの旨そうなカエルが飛び出してきて、俺達に一部始終を説明したのだ。 しかしこのデバイスって連中は何故俺達と違って共通語が喋れるのだろう。動けないからか? マッキャリ君や一口サイズのボインちゃんも喋れてたよなぁ……いいよなぁ……御主人様の言葉は分かるが、 こっちの言葉が通じてるのか分からないのは地味にやり辛いのだ。って、そうだった! コイツ……キョン野郎! 「ガウガウ! ガガウ!(てめえよくも貴重なロリ巨乳を殺してくれたなぁ! 俺はボインちゃんが大好きなんだよ!)」 「吼えるなよ……俺はお前らとは違うんだ……今から話すよ、俺がやってきた事を。聞いてくれ……頼む……」 全く、言葉が通じないのは不便だ。誰もお前の言い訳なんぞ聞きたくないってんだ。 罪悪感を感じてるならさっさと自殺でもなんでもしやがれ、この災害野郎。 と、御主人様が俺の方を見て、ヴォーと鳴く。……ああ、ボインちゃんを殺したのはコイツじゃないのか。 あのカエルの慌てた口ぶりじゃコイツのせいでボインちゃんとマッキャリ君が死んだって印象だったが……。 御主人様には、他者の感情を深読みする力があるのかもしれない。 だからか、御主人様は俺に大人しくキョンの話を聞くように、ともう一度短く鳴いた。 「俺はここに来てからすぐ、男の子を殺した。大人しそうな、中学生くらいの子だったよ。 軍曹とか姉ちゃんとか、死に際に言ってたなぁ……殺した理由は、ほら、覚えてないか? 最初にルールを説明したあの女の子。あの子、俺の仲間なんだよ。楽しくやってた、仲間だったんだ……。 涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくる、それとあの長門有希。SOS団、なんてもんを作ったりして、 学校で本当に仲良くしてたんだぜ? でも、ハルヒって奴にはちょっとした不思議な力があってな。 俺以外のメンバーはそれを調べるためにハルヒに近づいてたんだ、最初はな。 でも、あいつの無茶苦茶に振り回されるうちに、俺達は本当に"団"になってたと思うんだよ。 だから長門も、目的……ハルヒがこういう舞台に巻き込まれてどういう反応をするかって事だと思う……それをさ、 その目的さえ達成すれば、俺達を元に戻してくれると思ったんだ。笑えるだろ? 笑えよ、アクセサリー」 『……』 「次に俺は、妹を殴った。運悪く出会っちまってさ。で、そのバチが当たったのか、ナーガっておっさんに負けた。 で、その後に、肝心要のハルヒを殺した。本当はヴィヴィオとかって子供を殺して、ハルヒを刺激しようとしたんだ。 長門の目的の為に、な。でも、ハルヒは死んじまった。だから俺は……参加者を皆殺しにして、優勝して長門達に 全部元通りにしてもらおうと決めたんだ。最初は俺自身は日常に戻るつもりはなかったんだが、 雨蜘蛛やナーガに何度も負けたり、土下座したりしてるうちに、俺にも"生きたい"って気持ちがある事に気付いた」 『虫のいい話ですね。死者の蘇生? そんな世迷言を本気で信じていて、しかも自分も生きたい、と?』 「アクセサリーに説教されるようじゃ、俺もいよいよだな……。ああそうだ、白状するよ。俺は、帰りたかった。 ハルヒのためだ、みんなのためだって口では言ってたし頭でも無理矢理そう思ってたが、本当はきっと、 あの日常に帰って、何もかもを忘れたかったんだよ、そんな甘っちょろい考えだったから、【俺】だの夢だの、 くっだらねえ現実逃避をうじうじ続けて、目的も手段もダメにしちまったんだろうなぁ……。 でもよ、俺は何で責められなきゃいけないんだ? 俺はお前らみたいな戦いが日常の奴等とは違う、 まともな人間だったんだよ。いきなり殺人鬼になんてなれるわけないじゃないか。ヒーローなんてもっと無理だ。 だから俺はショウやスバルを偽善者と呼んで見下し、ナーガのおっさんには"様"をつけて服従した。 芯のある奴を、真っ直ぐ見れなかったんだ……我ながら、情けないって思うよ。もう嫌だ……辛い……」 『自分を客観視することは更正への第一歩です。しかし貴方はまだ本当の意味で自分に向き合っていない。 貴方がどれだけの心痛を感じていたかは理解しましたし、貴方の行動の動機も大方分かりました。 しかし、貴方が殺した人にはそんな事は問題にはならない。貴方は現実に裁かれなければならない』 「現実なんて糞くらえだったよ。普通に考えれば死んだ人は生き返らないし、こんな事をした長門が全部を元通りにして、 更に元のSOS団に戻るなんてことはありっこないって、最初ッから分かってはいたさ。でもそれを認めたら、 俺には何も出来なかった。ナーガのおっさんを巨人殖装で殺したときに、長門に会ったんだ。その時、 長門は俺に対して特に感情を見せなかった。いや、普段から感情を見せないのが普通な奴なんだが。 それでも俺には、あいつが変わっちまったことくらいは分かる。それでも、もう戻れなかったんだ。 その後、長門が俺の妹を殺したって分かってから、そこで初めて、長門の変化を実感した、そう思う。 俺はもう何人も殺した。全部元通りになる、なんて馬鹿げた夢も捨てた。もうバトルもロワイヤルもないんだよ……。 だからって死ぬのは嫌だ。殺すのも、うんざりだ。全部忘れて元の世界に戻れないなら、俺はどうすればいいんだ? もう、後の事を考えないで妄想レベルの希望にだけ進むなんて事は出来ない。自分の本心に気付いちまったからな」 『確かに、死んだ人間は蘇りません。貴方自身が殺したというMs.涼宮も。しかし、死者は無価値ではない。 貴方からMs.スバルを守って死んだマッハキャリバーが決して無価値ではないように。 Ms.涼宮も、親友だった貴方に今のような醜態を晒して欲しいとは思わないでしょう。 死ぬのも殺すのも、現実逃避さえも嫌だというのなら、貴方はさながら悪夢のように彷徨うしかない。 死んでいても生きていても同じ、無価値な存在になる。それはとても悲しいことです。だから、私達と共に来なさい。 Ms.長門達に逆らい、勝利しましょう。そして貴方は仲間のいない貴方の世界に戻り、貴方の世界の裁きを受けなさい。 それで初めて、貴方が殺したMs.涼宮達に、貴方は顔向けが出来る様になる、と私は判断します』 「そういう異世界じみた考えとは相容れないってんだよ……。 俺は普通の人間だと言ってるのが分からないのか? 俺の生きてきた人生には、殺し殺され殺しあうなんてイベントはなかった。だからこそ、人を殺すってのがどれだけ おかしくて、許されないことかっていうのが分かるんだよ。俺はもう、お前たちの側にはいけない。 俺は人を殺した。人を殺したんだよ……。お前らみたいな、戦いに明け暮れてるヒーローワールドの住民には 分からないだろうがな、人間が人間を殺すってのは、普通の感覚だと在り得ないんだ。だから、俺ももう在り得ない。 俺はもうどこに戻れないしどこへも行けないんだ。無価値な存在? ああそれでいい、それでいいからほっといてくれ。 スバル達に伝えてくれ、俺にはもう構わないでくれってな。俺はもう疲れた。もう何も考えたくない」 『……』 川にゲロが流れていくのを見てもらいゲロしそうになってたら、会話が途切れた。っていうかセリフ長えな、オイ。 キョンの野郎、「僕はもう疲れたからほっといて!」って言うのにどれだけかかってんだよ。 あとケリュケイオン、機械仕掛けの癖によく喋るなぁ、ウゼえ。御主人様の方を見ると、悲しそうな顔でキョンを見ている。 御主人様にこういう顔をさせるだけで本来なら死刑確定なんだが、命令がないのでストレスが溜まるぜ。 会話にも参加できないので、余計にゲージが上がるって感じだ。今なら大技が出せる、気分的に。 大体何だコイツ、のほほんとした世界にいた事が免罪符みたいな口を聞きやがって。 俺の勘では、こういう情けない声の奴は俺達の世界にいても凶悪なワルモンになっていたに違いない。 と、ケリュケイオンが再びキョンに話しかけた。こいつの声の調子は常に一定だが、やや不快なニュアンスを孕ませて。 『わかりました。Ms.高町たちにはその旨伝えます。スバルは貴方を更正させられると思っていたようですが、 客観的に見てそうは考えられませんので、貴方の申し出を拒否する理由はありませんから。……ここからは私見、 デバイスである私が私見など、本当は言いたくないのですが、あなたが我々に二度と近づかないよう、あくまで Ms.高町たちの為に申し添えます。私もインテリジェント・デバイスとしての機能上、多くの悪党と相対してきましたが、 貴方ほど美点を見出せない醜い人間は滅多に見ません。自分の行為を恥じ、後悔している風に振る舞いながら、 それを改めも戒めもしない。それは、貴方が貴方の心の平穏の為に後悔を装っているだけだからです。 貴方は悪党ですらありません。貴方の言うような普通の人間でもありません。要らない人間、まさしくそれです。 Mr.キョン、さようなら。今後もし貴方に出会っても、私やMs.スバル達が貴方に関心を寄せることはないでしょう』 「う……」 キョンがたじろぐ。全てを否定しても、自分が否定されるとこれか。コイツ、本当に見所ねえな……。 多分ケリュケイオンは自分のマスターの同僚に危険が迫るのを避けるために、 機械的な動作でこういう毒舌を吐いているんだろうが、大体俺も同じ意見だった。ババアやフリードさんもそうだろう。 が……我らが御主人様は、違う。 「ヴォーヴォーロォーーー!!!」 『Mr.troll……? 何をおっしゃりたいのですか?』 翻訳もしてやれねえが、簡潔に言うとこういうことだよ、ケリュケイオン。 『それでも、放っておきたくない』。御主人様は既に自分が守ろうと思っていた子供を何人か失っている。 ここでキョンを放っぽり出せば、メイやサツキ、シンジの二の舞は確定だからな。 こんな無意味なこいつを見捨てない、それが俺達の御主人様なんだよ、ケリュケイオン……。 お前もそのうち、理解してくれるだろう。少しづつだが、俺達の意思を汲み取れるようになってるみたいだしな。 さて、御主人様の意向は分かった。御主人様への忠誠心と、キョンへの嫌悪感を天秤にかける。 忠誠心は俺の心のテーブルをぶち破り、地球の反対側まで沈んでいった。当たり前だ、この小僧と御主人様を 比べること自体が不忠。俺は御主人様の方を見て、小さく唸る。御主人様は少し驚いた顔をしながらも、 ニカーッと微笑んで、俺に命令(御主人様からすればお願い、だろうが……)を下さった。 『Mr.ライガー……?』 「ガウ、ガーウ……(あばよ、ケリュケイオン、ババア、フリードさん……いつか必ず再びあなたの御前に、御主人様)」 俺が、目が死にきったキョンの目の前まで歩き、背に乗るように促す。 キョンは驚いたように一歩後ずさったが、御主人様を見て無言で首を垂れ、俺の背に乗った。 不快だが、感じる体重にさえもう生気がない。惨めな野郎だ。 消える瞬間に御主人様の側に居られないのは、無論辛い。だが、御主人様が俺を信頼して、任せてくれたのだ。 もちろん本当は御主人様自身がキョンを運びたいのだろうが、せっかく仲間と会えたケリュケイオン達をそれに 付き合わせるのはどうか、と考えておられた。だから、俺が単独でコイツを運ぶ役を買って出た。 御主人様は、キョンがきっといつか改心できると信じている。善の極地におられる御方だからな。 その是非はどうでもいい。俺は忠義を果たすのみ、ライガー族の誇りにかけて、キョンを落ち着ける場所へ運ぼう。 俺が消えるまで後数時間、それでどこまでコイツを運べるか。御主人様の命令では、なるべく安全な場所がいいらしい。 御主人様の身の安全を考えるなら禁止エリアに突撃するのがいいのだろうが、俺が従うのは御主人様の御心。 俺は走り出す。決して振り向かない。御主人様が俺に求めたのは、劣情と隷属ではなく、友情と共生。 友達が泣く姿など、御主人様は見たくはないだろう。御主人様――どうか、御無事で。 最後の忠義、御覧あれ。 いや――最後はあえて、こう呼ぼう! さらば、我が友! ◇ 狼みたいな獣の背に乗って、視界が激しく変わっていく。 ガイバーでもないのに、このスピードはキツイ。あの怪獣も、余計な気を回してくれたもんだ。 もっとも、もう俺には今までみたいに偽善者の気遣いを蹴って悪態をつくような余裕もなかったんだがな。 殺し合いに乗ってもどうせ全て元通りになんかならない、と認めちまった以上、もうそんな意地を張る意味もない。 襲われたら抵抗するだろうし、朝倉辺りが襲われてたら助けるかもな。でも、自分からはもう戦う気はない。 で、利用できる物は全部利用するだけだ。今までやってきた事を考えれば、そんな物はもうほとんどないだろうけどな。 狼をチラリと見ると、なんか泣いていた。泣くほど嫌なら乗せなければいいのにな。可哀想に。 「採掘所は……ダメだな、掲示板の書き込みで古泉を裏切った以上、もうノコノコいけるわけもない」 「ガウ」 俺が操縦しているわけでもないが、そう言うと狼は多少進路を変えたように感じた。 それ以外にどこか行きたくない所、行きたいところを思い浮かべてみたが、特に浮かばなかった。 強いて言うなら、ハルヒの死体の場所だろうか。放置されているなら、埋葬したい。 もう、誰も殺さなくていいんだから、それくらいの時間は悠々取れるだろう。 まあ、この狼がたまたまあの学校にたどり着いたりしたら、そうしようかな。 その後は……ハハ、何も思い浮かばねえや。誰にも会わなけりゃ、それが一番なんだろうなぁ……。 あれ? それだと、死んじゃうのか。オレンジジュースになって。 死にたくねえよ。どうすりゃいいんだ? 死ななくても、どうにもならないんだろうけどな。 あーあ。誰か、俺を導いてくれよ。『団長』とかって腕章をつけた、ポニーテールが似合う無軌道凶悪女子高生とかさ。 全くどうして……。 「どうしてこんなことになったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!! 」 答えてくれる奴は、もちろんどこにもいなかった。 【G-5 草原/一日目・夜】 【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱 【状態】ダメージ(中)、疲労(大) 無気力 【持ち物】デイパック(支給品一式入り) ライガー@モンスターファーム~円盤石の秘密~ 【思考】 1:もう何も考えたくない。 2:誰か俺を導いてくれ。 3:もし学校に着いたら、ハルヒを埋葬する。 【備考】 ※「全てが元通りになる」という考えを捨てました。 ※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。 ※あと3~4時間程でライガーは消えます。ライガーはそれまで『キョンを安全な場所に運ぶ』為に行動します。 ※ガイバーは使用不能になりました。以後使えるようになるかは後の書き手さんにお任せします。 『Mr.troll、何故……?』 「ヴォー……」 『彼の弱さに同情しているのなら、それは間違いです。彼は強い。この世で最も悪い方向に、ですが』 温泉へと戻りながら、ケリュケイオンは問い掛ける。 ……理解不能。何故、あんなものに情けをかけるような真似をするのだろうか? Mr.ライガーはあと数時間の命。Mr.キョンなどをどこかに運ぶことが最後の活動など、あまりに残酷だ。 Ms.高町たちから遠ざけると言う意味では、悪くないが……それより、彼女達にMr.キョンの事をどう話すかが問題だろう。 『Ms.ヴィヴィオ……』 Mr.キョンが襲ったという、Ms.高町の娘。 これを聞いて、Ms.高町がどういう行動を取るかは大方予測できる。 Ms.スバルが重傷の今(更に、もうすぐ夜中だ)、戦力の分散は出来るだけ避けたい。 言うべきか、言わざるべきか……。 インテリジェントデバイス、ケリュケイオンは、早くもキョンをメモリーから消しつつ、深く考えるのであった。 【G-4 草原/一日目・夜】 【トトロ@となりのトトロ】 【状態】腹部に小ダメージ 【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム~円盤石の秘密~ 円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム~円盤石の秘密~、デイバッグにはいった大量の水 フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 1.自然の破壊に深い悲しみ 2.誰にも傷ついてほしくない 3.???????????????? 【備考】 ※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。 ※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます。 時系列順で読む Back カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ Next 彼女らのやったコト 投下順で読む Back カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ Next 彼女らのやったコト ピエロのミセリコルディア キョン どうしてこうなった トトロ war war! stop it
https://w.atwiki.jp/83452/pages/2021.html
斎藤「お嬢様、空をご覧ください。星が綺麗ですよ」 紬「そうね」 琴吹の家名から解放されたからだろうか、 車から眺める星がやけに輝いて見える。 大人になったからといって変わらない、 昔見たのと同じ星空だ。 紬「はくちょう座…」 斎藤「紬お嬢様が最初に覚えた星座ですな。夏の大三角の一部です」 紬「車を止めて」 私達は車から降り、河原へと足を運ぶ。 偶然にも、ここは幼少の頃に、 よく斎藤に連れられて遊んだ河原である。 斎藤「昔を思い出しますな」 紬「あなたも覚えていたの?」 斎藤「娘と遊んだことを忘れる親などおりません」 紬「ふふ、そう」 紬「ね、またアレやって?」 幼少の私は少しでも星に近づきたくて、 毎日のように斎藤に肩車を頼んでいた。 幼女紬「さいとー」 斎藤「はい」 幼女紬「あれやって!あれ!」 斎藤「はい」 私は斎藤の肩に股がる。 幼少紬「おおお!」 幼少紬「ほしがちかくなったよ!」 斎藤「お嬢様、あれがはくちょう座でございます」 幼女紬「ふーん。よくわかんないや」 斎藤「これはこれは。帰ったらお勉強ですね」 幼女紬「えー。もうべんきょうやだー」 斎藤「ここで…でございますか」 紬「冗談よ。あなたの困った顔を見るのは何年ぶりかしら」 斎藤「一本取られました」 紬「ふふ」 紬「…」 紬「帰ろうっか」 斎藤「よろしいのですか?」 紬「ええ、もう満足だから」 屋敷に帰ると、当然ながら私達の失踪で大騒ぎになっていた。 このことは父の耳にもすでに入っていて、斎藤に対して激怒しているらしい。 紬「斎藤…」 斎藤「心配なさいますな。紬お嬢様は先に休んでいて下さい」 紬「でも…」 斎藤「子は親の言い付けを守るものです」 紬「わかったわ…何かあったら呼んで」 斎藤「はい」 今日は色々ありすぎて、少し疲れてしまった。 斎藤の言葉に甘え、ベッドに入った私はすぐに深い眠りについた。 次の日、いつも起こしに来るはずの斎藤がこない。 昨日のこともあったし、疲れて寝坊でもしたのだろうか。 私の予想は外れだった。 私の枕元には一枚の紙が置いてあった。 丁寧で武骨な字が書かれたその紙は、 斎藤が私に宛てて書いた別れの手紙である。 親愛なる紬お嬢様へ まずは昨晩の蛮行をお許しください。 思い悩む紬お嬢様を見ると、胸が締め付けられる思いだったのです。 紬お嬢様がお休みになった後、御主人様と電話致しました。 御主人様は今回の件についてひどくご立腹でしたが、これからも職務を全うするならばお咎めなしとのことです。 我が御主人様ながら本当に心の広い方です。 御主人様のような父を持てたことを誇りに思って下さい。 今はわかり合えずとも、よくよくお話すればきっとお二人の絆深まることでしょう。 しかし、今回の私の行動は決して許されるものではありません。 御主人様の御厚意を無下にするのは心苦しかったのですが、私自らお暇を頂くことを決心いたしました。 この先、紬お嬢様の成長を見届けられないと思うと大変残念ですが、致し方ありません。 琴吹家の益々のご発展と、紬お嬢様が健やかに育つことを心から願っております。 さて、私には琴吹家執事、お嬢様の教育係としての最後の仕事が残っております。 明朝、御主人様とともに婚約者様とそのご家族に、今回の婚約断る意を伝えにまいります。 この行動がお嬢様のためになるからわかりませんが、育ての親の最後のわ 紬「バカ」 紬「バカバカバカ!」 手紙を読み終えた私は、パジャマのまま屋敷から飛び出した。 どこ? どこに行けば斎藤に会える? 空港、それとも駅? 私はどこに行けばいいのかわからないまま、ただただ走り出していた。 靴を履いていないことに気付くのはもう少し後のことである。 唯「あっ、ムギちゃんおは」 紬「おはよ!」 唯「よー。って、行っちゃった…慌てて走ってるムギちゃんも珍しいなー。漏れそうなのかな」 唯「ふふ、可愛い」 途中、通学中の唯ちゃんに声を掛けられたが一言だけ挨拶し、 止まること走った。 後で美味しいお菓子で埋め合わせしよう。 優しい唯ちゃんならきっと許してくれるはずだ。 そんなことを考えて走っていると、 幼少の頃、そして昨晩斎藤と一緒に星を眺めた思い出の河原にたどり着いた。 斎藤「スーッ…ゴフッ」 斎藤「紬お嬢様がお生まれになった日にタバコを止めたから…16年ぶりか。さすがに体が受け付けないな」 斎藤「…」 斎藤「お嬢様、どうかお幸せに…」 紬「斎藤!」 斎藤「紬お嬢様!?」 紬「ここにいたの…やっと見付けた…」 斎藤「何故ここに…いやそれよりも足がボロボロですが」 紬「靴を履き忘れたのね。ううん、今はそんなことどうでもいいの」 斎藤「お嬢様、一体…」 紬「斎藤!琴吹紬が命じます!」 そして次の日の朝。 斎藤「御主人様、おはようございます。本日の車での送迎は如何なさいますか」 紬「今日は車で送って」 斎藤「はっ、失礼致しました。ではお気をつけて電車に…は?」 紬「あなたもまだまだ未熟ね。私が毎日電車で通学すると思ってたら大間違いなんだから」 斎藤「これはこれは…」 紬「執事業は流れ作業じゃないの。御主人様の言葉はちゃんと聞かなくちゃね」 斎藤「一本取られましたな。さすが御主人です」 さらに話は前日に戻る。 斎藤は琴吹家の執事を自ら辞めた。 その決意は堅い。 今更戻れと言っても、真面目で頑固な彼のことだ、 絶対に首を縦に振らないだろう。 ならば… 紬「今日から私が斎藤の御主人様です!」カーッ 顔が熱くなった。 何かとんでもなく恥ずかしいことを言っている気がする。 斎藤「は…?」 紬「あなたは今から琴吹家執事ではなく、琴吹紬の執事です!お給料も私が払います!」 私が就職するまでは斎藤のお給料はお父さんに立て替えてもらおう。 そうだ、長い休みにはアルバイトをして少しずつ返していこう。 どこでアルバイトしようかな。 斎藤「それは屁理屈というものです」 紬「わ、私の命令は絶対なのー!」 斎藤は笑いたい時には笑い、泣きたい時には泣いていいと言った。 ならばわがままを言いたい時にはわがままを言っていいはずだ。 斎藤「しかし…」 紬「私が御主人様…命令なの…」ポロポロ 斎藤「…ふっ」 斎藤「アッハッハ、そうですね。執事として御主人様の命令は聞かねばなりますまい」 紬「斎藤…」 斎藤「これからよろしくお願い致します、御主人様」 その後、私は斎藤と父と一緒に先方に頭を下げに行った。 先方も私がまだ学生ということでひどく追求してくることはなかったが、 当の父は政界進出のチャンスを失って非常に残念がっていた。 泣きっ面に蜂、そういうことは他力本願ではなく、自分の力で掴むものだと斎藤から説教を食らっていた。 ちょっぴりいい気味だと思ったのは内緒だ。 今日からまたいつもの毎日が始まる。 斎藤が私専属の執事になったと言っても、何かが変わるわけではない。 親子の距離はこれから徐々に縮めていけばよい。 今回のことで、私の中で斎藤がいかに大きな存在か気付かされた。 斎藤には斎藤が死ぬまで、あるいは私が死ぬまで執事を続けてもらうつもりだ。 斎藤、これからもよろしくね。 そして待ちに待った温泉旅行。 澪ちゃんとりっちゃんは相変わらずケンカ中だ。 唯「りっちゃんと澪ちゃんは幼馴染みだから、何も言わなくても澪ちゃんなら理解してくれると思ったんじゃないの~?」 紬「そうかもね。それだけ長く一緒にいたら何も言わなくてもお互い理解できたりするもの。私も…」 斎藤が何を考えているかわかるし、 斎藤も私が考えていることがわかるだろう。 私達の間に言葉などいらない。 澪「え?なに?」 紬「ううん、なんでもない」 唯「私も和ちゃんが何を考えているかわかる時あるよ~!」 梓「幼馴染み、親友ってそういうものですよね」 紬「澪ちゃんは今りっちゃんが何を考えているかわかる?」 澪「それは…」 唯「ちゃんと話し合って、仲直りしないと部屋に入れてあげないからね」プンプン 温泉から上がり食事を済ませた後、 宿内をブラブラしていたら、玄関の方から唯ちゃんの声が聞こえた。 なんだか怒っているみたいだ。 どうやら、澪ちゃんとりっちゃんを仲直りさせるために、外に閉め出したらしい。 なんという荒治療。 でもあの二人ならきっと大丈夫だろう。 唯「それじゃあ私達は部屋に戻ってトランプでもしよっか!」 紬「そうね♪」 次の日、玄関前で凍死寸前の澪ちゃんとりっちゃんを発見したのは新聞配達員だった。 唯「今夜星を見に行こう」―紬編― 完 戻る 唯、憂、梓編
https://w.atwiki.jp/trinity_kristo/pages/494.html
マタイとルカで状況設定は異なるが、概ね次のとおりである。ある主人が遠出をした際に、僕に財産を預からせた。その財産を増やしたものは褒められたが、増やさなかった者は責め立てられた。そして主人は、財産を増やしたものに、その増やされなかった財産を渡すよう命じ、「持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる」と言った。これはランプのたとえにも出てくる言い回しである。 マタイ25 14-30 「天の国はまた次のようにたとえられる。ある人が旅行に出かけるとき、僕たちを呼んで、自分の財産を預けた。それぞれの力に応じて、一人には五タラントン、一人には二タラントン、もう一人には一タラントンを預けて旅に出かけた。 早速、五タラントン預かった者は出て行き、それで商売をして、ほかに五タラントンをもうけた。同じように、二タラントン預かった者も、ほかに二タラントンをもうけた。しかし、一タラントン預かった者は、出て行って穴を掘り、主人の金を隠しておいた。 さて、かなり日がたってから、僕たちの主人が帰って来て、彼らと清算を始めた。まず、五タラントン預かった者が進み出て、ほかの五タラントンを差し出して言った。『御主人様、五タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに五タラントンもうけました。』主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』 次に、二タラントン預かった者も進み出て言った。『御主人様、二タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに二タラントンもうけました。』主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』 ところで、一タラントン預かった者も進み出て言った。『御主人様、あなたは蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集められる厳しい方だと知っていましたので、恐ろしくなり、出かけて行って、あなたのタラントンを地の中に隠しておきました。御覧ください。これがあなたのお金です。』主人は答えた。『怠け者の悪い僕だ。わたしが蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集めることを知っていたのか。それなら、わたしの金を銀行に入れておくべきであった。そうしておけば、帰って来たとき、利息付きで返してもらえたのに。さあ、そのタラントンをこの男から取り上げて、十タラントン持っている者に与えよ。 だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。この役に立たない僕を外の暗闇に追い出せ。そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。』」 ルカ19 12-27 イエスは言われた。「ある立派な家柄の人が、王の位を受けて帰るために、遠い国へ旅立つことになった。そこで彼は、十人の僕を呼んで十ムナの金を渡し、『わたしが帰って来るまで、これで商売をしなさい』と言った。しかし、国民は彼を憎んでいたので、後から使者を送り、『我々はこの人を王にいただきたくない』と言わせた。 さて、彼は王の位を受けて帰って来ると、金を渡しておいた僕を呼んで来させ、どれだけ利益を上げたかを知ろうとした。最初の者が進み出て、『御主人様、あなたの一ムナで十ムナもうけました』と言った。 主人は言った。『良い僕だ。よくやった。お前はごく小さな事に忠実だったから、十の町の支配権を授けよう。』 二番目の者が来て、『御主人様、あなたの一ムナで五ムナ稼ぎました』と言った。主人は、『お前は五つの町を治めよ』と言った。 また、ほかの者が来て言った。『御主人様、これがあなたの一ムナです。布に包んでしまっておきました。あなたは預けないものも取り立て、蒔かないものも刈り取られる厳しい方なので、恐ろしかったのです。』主人は言った。『悪い僕だ。その言葉のゆえにお前を裁こう。わたしが預けなかったものも取り立て、蒔かなかったものも刈り取る厳しい人間だと知っていたのか。ではなぜ、わたしの金を銀行に預けなかったのか。そうしておけば、帰って来たとき、利息付きでそれを受け取れたのに。』そして、そばに立っていた人々に言った。『その一ムナをこの男から取り上げて、十ムナ持っている者に与えよ。』 僕たちが、『御主人様、あの人は既に十ムナ持っています』と言うと、主人は言った。『言っておくが、だれでも持っている人は、更に与えられるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられる。ところで、わたしが王になるのを望まなかったあの敵どもを、ここに引き出して、わたしの目の前で打ち殺せ。』」 ナザレ人福音書18
https://w.atwiki.jp/jibunno/pages/595.html
タカ 【Distance -ディスタンス-】【Silksoft】(2009-09-18) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart14 754 名前:名無したちの午後 :2009/10/05(月) 00 18 33 ID qIx2u7ec0 756 名前:名無したちの午後 :2009/10/05(月) 00 34 56 ID qIx2u7ec0 【Distance】【silksoft】 主人公 南瀬高 (ミナミセ タカ)…変更不可 小森江早輝(cv.かわしまりの) 高ちゃん、高、御主人様 香椎ことは(cv.民安ともえ) 先輩、南瀬先輩、コーチ 福間麗(cv.柚木かなめ) コーチ、南瀬先輩、先輩、高、御主人様 ラウラ・オリオ(cv.鈴田美夜子) タカ、お兄さん、タカ様、ダーリン 南瀬小梅(cv.春河あかり) お兄ちゃん 海老津茉子(cv.上田朱音) 南瀬 小森江冴(cv.一色ヒカル)高ちゃん 東郷蒔人(cv.横田紘一)高 南瀬まみや(cv.水上司郎) 高 南瀬大和(cv.水島理音) 高 全国の「タカ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ Hシーンでは呼ばれないけど「ミナミセ」さんもオメデトンヽ(´ー`)ノ
https://w.atwiki.jp/schwarze-katze/pages/580.html
太陽と月と星がある 第十四話 ひんやりと涼しい診療室の中、私は変な写真付き三面記事が面白いカツスポを眺め、時折顔の横に垂れている付け耳を撫でて気持ちを落ち着けます。 さらさらふわふわで触り心地のいい垂耳…頑張れ、私。時給20%アップだ。 スカートの裾に手が掛かりそうになったので軽く払います。 「そこから先は別料金になります」 「えー?ひっどーいキョウダイなのにー」 「普通、膝に乗せるために時給を上げる兄なんて居ません」 現在、私が座っているのは椅子ではなく膝の上です。 何故かといえば、膝に座るだけで時給が上がるからです。 座らなくても触られるなら座ってお金が貰える方がいいに決まっています。 …つか、ジャックさん、鼻息荒い…。 「キヨちゃんキヨちゃん、リボンとかつけようよー赤いのとピンクどっちがいい?」 …ピノコかよ。 「ホラ見て下さい、砂漠で謎の巨大甲殻生物を見た!ですって。でも砂漠にカニって居るんでしょうかね?」 先日、とうとう付け耳の支払いが終わりました。 というか、このエセナースが代金だと思っていたのは私だけだったらしく、この件について切り出したところ非常に驚愕され、 足にしがみつけられ頬擦りされながらオスカーを取れる勢いで泣き真似されました。 そして気がつくと時給300センタでエセナース続行が決定されていました。 なんだかんだありますが…自分で食費を稼げるって、素敵です。 「キヨちゃーん、ちょっと愛を込めてお兄様ダイスキ☆って言ってみて」 「お断りします」 ぽふぽふと足を触ってくる手を無視して今日の連載小説を。 このタブロイド紙に連載されているハッサク・ユメーノさんの他の著作も面白いのですが、ジャックさんの好みではないので感想を語れないのが残念です。 エロ描写が皆無だからでしょうか…。 髪に鼻面を突っ込まれ匂いを嗅がれていますが、無視します。 外は快晴、歩いている人達も暑そうです。 患者さん、来ないなぁ…。 対照的にひんやりと涼しい診療所。 閑古鳥が鳴いています。 いえ、暇でもお給料は貰えるみたいだから全然構いませんが。 ノルマないって、素敵…。 心の中で感嘆していると静寂を破るベルの音。 私は、手に持っていたタブロイドを畳んで仕舞うと、ジャックさんの足を踏みつつ膝から降りて、待合室に急ぎました。 「ルフイアさん、お久しぶりです。今日はどうなさいましたか?」 患者さんは以前神経性の脱毛症で来た方でした。 パピヨンぽいスーツ姿も愛らしいイヌ男性です。 ルフイアさんは私の姿を認めると、手入れの良さそうな尻尾をパタパタさせました。 「あ、お、お久しぶりです!実はたまたまこちらを通ったので、経過のご報告ついでにちょっと御挨拶に!!」 「わざわざありがとうございます」 笑顔で示された箇所には、確かにハンパな長さの柔らかそうな短い毛が生えていました。 どうやら脱毛症はちゃんと治っていたようです。 「あのあと、仕事の方も無事企画が通って、何とか職場にも慣れて」 「良かったですね」 やった事がちゃんと評価されるのは良い事です。 ルフイアさんは、うんうんとうなずくと笑顔で袋を差し出してきました。 つい受け取り見てみれば…プリンです。 「差し入れです。お口に合うといいんですが」 思わずプリンとピンクの舌がはみ出した顔を交互に見比べ、背後に音もなく忍び寄っていたジャックさんへ振り返ります。 「患者さんから戴いていいのでしょうか?」 ジャックさんの目が丸くなりました。 「なんで駄目なの?」 えーっと…父さんが入院したときにお祖母ちゃんがナースさんになんか渡そうとしたら断られて…えーっとでもそれは向こうの話だけど、えーっと… ……。 「ルフイアさん、ありがとうございます」 郷に入っては郷に従えといいますし、なによりプリンは好きです。美味しいそうなのでなおさらです。 ルフイアさんはイヌ男性だけどかなり良い人、と心の中でメモ。 「お礼に気持ちを込めてるーくんダイスキって言って」 「るーくんダイスキ……ハッすみませんすみませんつられてついちょ!大丈夫ですかどうしましたか貧血ですか」 ルフイアさんが急に俯きしゃがみこんでしまいました。 熱射病でしょうか。 「ジャック先生どうしましょう、取り合えず椅子でいいですか?」 慌てて長椅子を引いてそちらへ誘導して、と必死になってやっているというのにジャックさんは無言で立ち尽くしたままです。 医者として失格です。役立たずです。 仕方なく無視して、されるがままのルフイアさんを長椅子に寝かせ、勝手に上着の前を開きネクタイを緩め、 こんな事もあろうかと冷やしておいたお絞りを額に載せ失礼ながら手首で脈を測ってみました。 ……脈が速いです。 なおも立ち尽くすジャックさんをファイルボードで突いて体温計を取り出し、もう一度ファイルボードで背中を叩くとやっとジャックさんが反応しました。 「キヨちゃん…ひどい…オレにはそんな風に言ってくれた事ないのに…っしかも笑顔?あんまりだー」 何故かしゃがみこんでいじけています。 …うぜぇ。 「仕事して下さい」 頭にボードを落とすと、随分と良い音がしました。 「――と、いう事がありまして、ジャックさんの仕事にかける情熱の無さは問題だと思いませんか?」 エプロンを着け、晩御飯の準備をしながら今日あった出来事をかいつまんで御主人様に報告する私。 御主人様は私の背後で椅子に腰掛け、テーブル越しにぼんやりとしたまま動きません。 眼を開けたまま寝ているんじゃないかと思い、目の前で手をひらひらさせると睨まれました。 「そういえば、まだだ」 「何がですか?」 口を開いたと思えばコレです。 意味不明過ぎます。 「ただいま」 「おかえりなさい」 何故睨みますか。 「いい加減覚えろ」 喉元を掴まれました。顔が近いです。近過ぎます。ちかッ 「鍋が焦げますので、ご注意下さい」 「他にいう事ないのか」 「無いです」 …なんか、まだ感触残っている感じがして落ち着きません。 御主人様に背を向け、指先で唇を触りつつ焦げ付きそうな鍋を引っ掻き回す私。 セーフです。たぶん。食べれる、いけるいける。 キッチンに私が鍋を掻き回す音だけが響きます。 「今度の休み、出かけるからな」 あ、人参焦げてる…まぁいいか。 「どちらまで?」 「川」 …釣針垂らしている御主人様を想像し、あまりの似合わなさに吹きそうになりましたが、なんとか耐えます。 多分、御主人様の事だから… 「…カエル採りですか?」 「あそこにはいない」 良かった。晩御飯にナマを持ってくる事はなさそうです。 「最近、サボっていたからな、いい加減練習しないと腕が鈍る」 練習…川…。 「泳ぐんですか?」 思わず振り返り尋ねると、御主人様はやや驚いたような表情を浮かべていました。 「あの、えーっと…人目とかあるじゃないですか、大丈夫なんですか?」 トカゲ男な時ならともかく、今の姿で外をうろついていたら大変です。 思わずガン見してしまいます。 目の保養的な意味で。 「問題ない。人家も無いしな」 …へぇ。 「じゃあ、水着…とか買っても宜しいでしょうか」 「水着?」 目を張り、鸚鵡返しの御主人様。 私は頷いて手に持った菜箸を意味もなく宙でワキワキ。 泳ぐのなんか、久しぶり。 なんだか、わくわくする。 水着はやっぱり尻尾穴ついてるのも多そうだから、形に注意しなきゃ駄目だろうな、あとチェルの分も買わないと。どんなのが似合うかな。 あと、サンダルとか、帽子もあった方がいいかな。どんなのにしよう。 「だって、泳ぐんですよね?私は持って……」 無表情の御主人様を見て、自分の勘違いに気がつきました。 「すみません、なんでもありません」 180度回転し、菜箸を鍋の中に戻します。 当たり前だ。私は、ヒトなんだってば、なに期待してるんだろう……。 それよりこれ、何とかしなくちゃ。 「その日は――晩御飯、必要ですか?」 ……一人とは、限らないわけだし。 しまった、混ぜすぎて具が潰れています。 …いっそ全部潰して誤魔化そうか……。 考えつつ菜箸をぐるぐる……しまった。もはやどう誤魔化せばいいのかわからない状態です。 ふと気がつくと御主人様が無言で隣に立ち、無表情で鍋を覗き込んでいました。 「魔女の鍋かこれは」 「肉ジャガのはずだったんですが……」 こんにゃく抜きの。 いまや肉とイモ類の潰れた何かのどろどろの何かです。茶色です。 今から、作り直して…いや、他のもの作ったほうがいいかな。 途方に暮れる私の背中をバシバシと叩き、御主人様が口元を吊り上げました。 「オマエは本当に面倒だな」 「申し訳ありません」 何故笑いますか。 「もっと甘えていいぞ」 ……耳の病気を疑うべきか、御主人様の頭を心配するべきか。 考えすぎてか、心臓の動悸が激しいです。 「着いてから水着忘れました。はナシだからな」 どうやら、上機嫌で私の頭を撫でる御主人様。 「行っていいんですか?」 返事の代わりに更に頭を撫でられました。 なんか、そんな風に優しくされると、なんか……困る。 ……うわ。 * * * * * * * * 天気は快晴。平均気温32度。 絶好の行楽日和です。 ……馬車にさえ乗らなければ。 街から国境近くの村までの定期便の乗合馬車というのを現在体感しているのですが…日本のアスファルトで綺麗に舗装された道路と違いほぼ……土。 雨が降れば水溜りで道は陥没。 風が吹けば辛うじて残っていた舗装部分が崩壊。 つまり、道はでこぼこ。 揺れます。 ムチウチになりそうです。 プチジェットコースターです。 そしてこの世界の住民の半数近くがモッサリフッサリ。 お風呂、嫌いな人も多いです。 香水とか、発達しています。 …で、当然雨露を凌げる程度に密室な馬車内はその残り香が…。 荷馬車とどっちがマシかといわれたら微妙な所です。 あ、でも鎖無しだから、こっちの方がいいですね。…悲鳴も聞こえないし。 「キヨカ大丈夫?」 チェルの声に軽く頷き窓枠に凭れ、瞼を開くとスナネズミな女の子が心配そうな顔で覗き込んでいました。 揺れる馬車の中、危なげもなく自分の席とジャックさんの膝の上を行ったり来たりしています。 一方、私は揺れた拍子に窓に頭ぶつけました。 …痛い。 サフはバイト先の先輩の女の子と楽しそうです。 保護者同伴デートってどうなんだろうと思うのですが。 …どこか行きたいと言われたので誘ったのは私ですけど。 ……御主人様に誘った事を報告したら何故かほっぺた引っ張られましたが、もしやコレを予期していたんでしょうか。 だとしたら慧眼です。 私はサフに彼女が出来たなんて、まったく気がついていませんでした。 目の前でラブラブされるのは心にダメージです。 正直、年齢=居ない暦としては全力で羨ましいというか…。 あとジャックさんも一応誘った事を伝えたら御主人様は一日口を利いてくれなくなりましたが、今のジャックさんの姿を見れば一目瞭然です。 落ち着きありません。そわそわしっぱなしです。 …うっとうしい…。 「木陰とか草むらって、サイッコーだよね!震える彼女を焚き火の横で押し倒しちゃったりと か !雪山の山小屋で裸で抱き合ったりとか☆」 きゃーとかいいながら顔を手で隠されても、なんだかなぁ、という気分です。 教育に悪いので、そろそろ口止めの必要があるかもしれません。 御主人様は無言で本を読んでいます。 酔わないのでしょうか…。あ、文面に目をやっただけで吐き気がしてきました。 激しい手振りで座っているのを邪魔され不満そうなチェルにガムを渡し、再び窓枠に凭れていると、無言で座っていた御主人様が首に手を回して自分の方に寄りかからせてくれました。 御主人様は鱗で堅いのですが、窓枠よりは安定感があります。 普段はこういう甘えた行為は全力で遠慮すべきなのですが…服越しだけどひんやりしてるし…。 御主人様は毎日お風呂入るし体毛ないから体臭も薄いし…。 御主人様サイコー。 気温もぐんぐん上がり始めた時間帯、茂った木々からマイナスイオンがだだ洩れしていそうな絶好のキャンプ地点…みたいな河原。。 穏やかな川は斜面に接している方が深いのか、青々とした木々を反射し水の色が深い翡翠色。 浅瀬のこちら側では、メダカくらいの大きさの銀色の魚が石の間を泳いでいるのが見えます。 私がおろしたてのミュールで足元の小石をつつき川へ落とすと、小魚はあっという間に見えなくなりました。 そんな遊びに絶好の場所にも拘らず、人の気配はまったくありません。 一応、運河の支流らしいのですが、近くの村まで徒歩で二時間かかるそうなので。 しかもネコの国では水で遊ぶという習慣が基本的にはないそうで…最近は、他国の影響もあって変化しつつあるけど、とのジャックさん談。 早起きしてお弁当を作って、馬車酔いに耐えてた甲斐がありました。 楽しいです。 …帰りにまた馬車の中継地点まで一時間ぐらい歩いて、更に馬車に耐えるという事さえ考えなければ…。 河原では、サフと彼女さんが荷物を広げてあれこれおしゃべり。 ……羨ましくなんかないもん。 二人はちょっとはなれたところで泳ぐんですか、…へぇ。 「まだ着替えないの?」 「着ていますよ」 スイカを深さ流れともに丁度良さそうな所にセッティングし、水を跳ねかせながら石の上を何とか進み、岸までたどり着いてから水着のスカートを示すと、ジャックさんが石になりました。 眠そうなチェルを片手で抱いた御主人様は、無言でバックを開けタオルやら水筒やらを取り出しています。 非常にお父さんぽいです。 本人には絶対いえませんが。 「日焼けしたら痛いんですよ」 全身毛だから日焼けとか、縁なさそうですよね。 元々肌荒れしやすいからこちらの日焼け止めを塗るのもちょっと怖いし、別に学校の授業でもプールでも無いわけだから、上から服を着ていてもまったく問題は無いわけで。 ですので私は水着の上からTシャツ派です。 まぁ、パっと見で判断できなくても仕方ありません。 「チェルと色違いのお揃いなんですよ」 チェルは白とピンク。私は黒です。 赤だと金魚っぽくて非常にかわいいのですが、さすがに似合わないので諦めました。 彼女さんは明るい黄色のワンピース。 かわいい。 褐色の肌と白い髪の毛に良く映えます。尻尾も長くてかわいい。触りたい…。 仲良くなりたいけど、何故か異様に警戒されています。 フーッって言われました。 人見知りなんでしょうか。 「…水着って、…むちむちぷるーんで…ポロリは?ツルペタは嫌いじゃないけど間違ってるよ?」 ジャックさんが死にそうな声を出しながら、御主人様の腕の中でうにゃうにゃしているチェルの方を指しました。 馬車と、これまでの道のりで体力使い切っちゃったのか、とろけそうな目つきです。尻尾もてれんとしています。 幼児体型に合うのって、着替えさせる手間も含めて考えるとビキニが一番楽なんですよね。 「これもそうですよ。チェルのも本当はスカート付です」 フリルにレースが付いているので非鋭角的です。 そして私は付属のレース仕様の腿半くらいまでのスカート付き三点セットですので、わりと無難です。 スカートが落ちたら困るので裾をキッチリ縛り、ピンで留めたので完璧です。付け尻尾いらずです。一応つけていますけど。 「キヨちゃん…ちょっとお兄さんの話、聞いてくれるかな」 ジャックさんが珍しく、真面目な声です。 どうしたんだろう。 ――水着―― 水泳競技やフィットネスに用いられる水着。 体を動かす支障にならないこと、脱げにくいこと、水の抵抗を減らすことが求められる。 木陰の下、巨大黒ウサギがTシャツにスカート姿で正座する彼女に向かって真剣に説教していた。 が、当の相手は説教を半分以上聞き流し、他の事に気を取られている事が丸分かりである。 いつもの憂いげな表情とは違い、明るい楽しげな雰囲気が傍から見ていても伝わってくる。 なんだか悔しくなった。 「――というわけで、ソレは邪道!さっさとそのシャツを脱ぐべきだとお兄ちゃん思うな!」 ビシリと指を指され僅かに動揺を面に表わす彼女。 「だって、日焼けするじゃないですか」 正座を解き、黒ウサギに詰め寄る。 「なんなら体感しますか?剃りますか?じかにナマ肌に直射日光浴びますか?日焼け止め無しの日焼けの痛みを思い知りますか?」 どこからともなく剃刀を取り出して詰め寄るキヨカ。 「ウサギねーちゃんコエーんだけど。なにあの迫力。怖いよウサギ怖いよ。なんでオマエの周り怖い人ばっかりなの?」 「怖くないよ。キヨカだってば」 気の強そうな瞳に怯えを宿したネコが自分より小柄なイヌにしがみ付き小さく震える。 「だって、ねーちゃんがいってたし!ウサギに背中を見せたらオワルって!ダテにされるって!」 「ハイハイ。がっくんー僕らあっちらへんで泳いでるからねー」 なおもにゃぁにゃぁと訴えるネコを引っ張り去っていくイヌを見送りヘビは小さく溜息を吐いた。 腕の中で涎を垂らしているのを揺すぶり起こし、地面に降ろされ胡乱な目で見つめるネズミ。 「がっくん、おやつたべていい?」 「それよりキヨカと遊んで来い」 ヘビが頭を撫でるとネズミは目を細めた。 「がっくんは?」 「オレはちょっと離れた所にいるから、何かあったらジャックに頼んでおけ」 物分りよく頷かれ、ヘビは少し複雑な気分になる。 そのまま見守っていると、両手に抱え上げられた二人が川の中に放り込まれ、嬌声を上げていた。 仕返しに水を滴らした二人から耳を集中的に狙われ、川の中を右往左往するジャック。 「がっくんタスケテー!」 無視して荷物を片すヘビ。 足を滑らせ頭を川底にぶつけ、どんぶらこと川を流れていくウサギを尻目にずぶ濡れになったニセウサギとネズミが手を繋いで岸に上がり彼に微笑みかけた。 「…一緒に遊びませんか?」 「二人で遊んでろ」 そっけなく返され、不満げな表情の二人に思わず瞠目する。 「がっくんのけち!いじわる」 「最初から、練習だといっただろう」 ヘビの言葉に頷き、彼女はぐずるネズミを抱き上げ重さに息を吐く。 「お昼には一旦帰ってきてくださいね。ジャックさんああだし、サフも彼女さんもどうするか判りませんから」 濡れた服が張り付き、体の輪郭が露わになり柔肌が透けて見える。 白い肌に頬だけが紅潮し、水を滴らせた黒髪は一層艶やかだ。 「…わかった」 確かに彼女も水着を着ているという事実を心に刻み、ヘビは目を背けた。 川のせせらぎと小鳥の鳴き声、木々がざわめく音。 不機嫌そうに小石を蹴り上げる軽い足音。 二人っきりになりたいから、わざわざ下流に歩いてきたのに、凄く不機嫌そうだ。 「オマエ、ガン見し過ぎ」 そういって小石を投げつけられた。 顔の横を放物線を描いてとぶそれを見送り、耳の後ろをカリカリと引っかく。 「何で怒ってるの?」 「怒ってねぇよ」 ふわふわした尻尾を膨らませ、語気荒く吐き捨てる彼女。 「泳いでもいいって言ったの、そっちじゃん」 「ウッセーバカ、毛皮バカ」 無尽蔵にある小石を蹴り上げられ、とっさに跳び後ずさる。 「遊びに行きたいって言ったの、そっちだろ?」 「誰がウサギと行きたいなんて言ったよ!」 「別になんかされたわけじゃないのに、何だよその言い方!」 思わず牙をむき出すと、彼女も負けずに怒りの形相になった。 「へらへらしやがって!バカじゃねーの!」 「してない!」 怒声に彼女の耳と尻尾がピンと空を向き、悔しげに唇を噛み、八つ当たりに石を川へ投げつけ始める。 手当たりしだいに投げつけ、手ごろなのがなくなったので頭よりも大きな石を持ち上げ、投げつけられた。 「あっぶな!」 足元で砕けた石をみて睨みつけると、意外にも彼女は金色の瞳を見開き、うっすらと涙を浮かべていた。 「やっぱりウサギの方がいいんじゃねぇか!あっちばっかり褒めやがって!」 思わず言葉を失い、口を上下させる。 褒める? 首を傾げ、今日の言動を振り返る。 朝、挨拶して、引き合わせてあとはずっと2人で話してた。 ああ、キヨカとちびがおそろいだとかいう水着を…。 「ニキの方がかわいいよ?ごめん、当たり前だから言うの忘れてた」 褐色の肌が更に濃くなり、大きく開いた瞳と口が盛んに上下し、ごくりとつばを飲み込み何とか言葉を搾り出す。 「べ、べつにオマエの為に水着買ったわけじゃないけどな!!」 予想外の大声にちょっと耳が痛くなったもの、何事も無かったように首を傾げてみる。 「じゃあ、脱ぐ?」 「だめ 、そんなにずんずんしたら っ あたまおかしくっ ひゃぁっ 」 目の前の小ぶりな乳房を舐めあげ、うなじを噛むと甘い悲鳴。 引き伸ばされた水着の隙間からはとめどなく蜜が滴り地面を濡らす。 押しつけられた木の幹からは緑の濃いニオイ 背中を掻く痛みすら快感に変わる 腰を押さえた手で尻尾の根元を締め付けるといっそう甘い悲鳴 「んww だめっ そこだめっ あっあっあつっ」 荒い息を吐き、身体を揺すると彼女はいっそう爪に力を込めてきた 「出すよ」 込み上げる快感の波を堪えて囁くとうっすらと瞳が開く 「だめっそんなことしたらっ あっ」 「なら足」 細い足はしっかりと腰に巻きつき離れようとするどころか、いっそう押し付けられた 無意識に震える腰が快感を求めて更に奥へ導こうとする きゅうきゅうとナカと外から締め上げられ、喘ぎながら必死で負けん気を振り絞る が 「ばかっぁ! なかに出したらだめぇっ」 「抜けよ」 「ムリ」 身体を揺さぶられきゅっと顔を歪める。 肩紐だけはどうにか戻したものの、無理やり引き伸ばした箇所は相変わらず肌に食い込む。 突き出された鼻面を指で弾くと痛そうな顔をされた。 「オレの方がデカイんだから、ムリするなよ」 固めの毛皮が汗ばんだ素足を擦り、むずがゆい。 向かい合わせに抱っこされ、しかもそれが自分よりも年下で、小柄で、異種族で、なんだか恥ずかしい。 背中を撫でられるたびにどきどきする。 本当はもっと撫でて欲しい。 「抜けなくなるのわかってて出すなんて、バカだろバカ」 「抜かせなかったの、そっちじゃん」 「ンなわけないだろ!お前の方が早すぎたせいだよ!」 無防備な頭をぽかぽかと殴るも、たいした効果は無いらしい。 「オマエなんかがオレをイかせられる訳無いだろ!演技演技!」 顔を見られないように頭を抱きかかえると、無防備なところを舐められ、また腰を振りたくなる。 グネグネする尻尾を堪えようと頑張るが、あまり効果がない。 「またエッチな気分になってるでしょ」 言い当てられ言葉につまり、思わず頭を殴るものの尻尾を握られて情けない声を上げてしまった。 胸元から見上げてくる仔イヌの顔がむかつく。 殴ろうとした拍子にまた キモチイイトコロ に太くて固いモノが当たり動けなくなる。 「ここ、キモチイイ?」 思わず頷きかけ、慌てて首を横に振るが、輝く眼に見つめ返され背筋がそそり立った。 「なら、いっぱいしても平気だよね」 そんな事言われたら、逆らえないのに、ズルイ。 * * * * * * * 精密に 緻密に それだけを命じる 煮え滾る水面 岩に無数の穴を開ける 周囲を濃霧が包み込む 川面を凍結 砕く 渦巻く水に何もかもを沈め 水音が喚起させる過去 砂漠にのたくる邪竜 呪われた盲目のヘビ 暗闇に蠢くおぞましい――― 「お昼もって来ました」 黒髪の娘が照り返す日差しに眩しそうな表情を浮かべている。 「オニギリとサンドイッチどっちか迷いましたが、ご飯の方がおなかに溜まるので」 適当な場所に木陰を見つけ、腰掛ける二人。 笑顔で差し出された何かの葉で包まれた「オニギリ」を受け取り、ニオイを嗅ぐがよくわからず不安を殺して見つめる。 黒い。 「オニギリ初めてでしたっけ?ご飯を塩とおかずで握ったものです。それの中身は塩焼の魚です。黒いのはノリです。えーと…海で採れます」 不安と期待の入り混じった瞳に耐え切れず、口に運ぶ。 呑み込む。 塩と米とノリが口内に張り付く感触を堪える。 手渡された茶で流し込み、息を吐く。 「玉子焼きとウインナーと、ちゃんとウインナーはスパイシーなのにしましたから!」 卵というものは塩で味付けがされているという先入観に負ける。 何故、ウィンナーが半分花びら状になっているのか。判らず無言のまま噛み砕く。 次に渡された オニギリ は ノリ が付いていなかったので安心して食べると酸味に噎せそうになる。 呑み込む。 「ウメ大丈夫なんですね!よかったーみんな苦手みたいでして」 正直、味覚に合わないとはっきり言っても構わなかった。 今後もこれを食べるかと思うと、気が滅入ってくる。 様子を見つつ時折出してくる茶色で複雑な味は、今まで食べた事のない種類で苦手だとしかいいようがない。 ただ―― 彼女が、キツネの雑貨屋とやらにたどり着いたと報告してきた日の、零れんばかりの笑顔は昨日の事のように鮮やかだ。 「えーっと…これお勧めです美味しいですよ。甘辛くて」 噛まずに呑み込んだ。 「お口に合いますか?」 黙って頷くと輝く笑顔。 ――― 一生、勝てる気がしない。 眼が明るい。 心が波立つ弾む声、もっと傍で聞いていたい。 「今日、楽しいか?」 「はい ありがとうございます」 湿った髪を撫でるとくすぐったそうな表情を浮かべた。 不意に手を伸ばされる。 「ごはんつぶ、ついてます」 人差し指の火傷は、魔洸調理具に慣れなかった頃の名残。 あの頃は、目を合わせることも出来なかった。 「こういうの、おべんとうついてる って言うんですよ」 指先についた米粒がそのまま口に運ばれた。 意図がわからず見返すと、首を傾げてから自分で舐め取っている。 なんだかわからんが、今度はそうしよう、彼は思った。 「キヨカ」 瞬きして首を傾げた拍子に、濡れて重くなった付け耳がとれそうになったので慌てて抑えてやる。 焦った様子で直そうとするのを手伝うと困惑した表情を浮かべ、何か言いたげな風。 薄く開かれた唇が甘い。 脆い皮膚を裂かないようにそっと指を握り細い腰を引き寄せる。 濡れた服と水着がいかにも邪魔そうなので脱がそうとしたら、裾をつかまれ抵抗され、一瞬驚く。 「俺は、浮気しないから、安心しろ」 「衛生的な意味でも大変素晴らしいと思います」 一瞬眉を顰められ、言葉を失うが咄嗟にうろ覚えの知識を掻きだす。 「最近は、他種族なら妊娠の危険がないとかって気楽にするせいで性感染症が増加傾向にありますので、お気をつけて。やっぱりゴムは必要らしいです」 眉間の皺が一層深くなり、背筋に冷たいものが垂れるが、確りと服の裾を押さえる。 「信用してないのか。俺を」 首を横に振る。 頷き、華奢な体を腹の上を跨がせ尻尾を巻きつけると形容しがたい表情になった。 柔らかい素肌を締め上げないように注意する。 出来るだけ、緩く巻く。 「鱗、嫌か?」 長い睫に縁取られた眼が戸惑ったように瞬きした。 細い首筋に舌を這わせ、このままか、押し倒すか検討していると、唇が開かれる。 「スイカひやしたままです。二人から、早く戻るように言われてますし」 真顔と氷のような表情とが向き合う。 「残念ながら今日は、団体行動ですから、迷惑をかけるわけにはいきません」 彼女は周囲に置いたままの弁当箱を手早くまとめはじめた。 状況を掴めず呆然と見上げるが、まったく伝わらず生真面目に頭を下げられる。 「サフが彼女を連れてきて対応に困るのはわかりますが、大人なんですからよろしくお願いしますね」 脱ぎかけのミュールの紐を直し、皺の寄った服の裾を少し伸ばす。 「スイカ、早く来ないとなくなりますから。今日は育ち盛り三人ですよ」 つかもうとした手が空しく宙を掻く。 形のいい脚、白い肌が遠ざかる。 しばし呆然としたあと、日差しに熱せられた砂利に爪を立て、心に誓う。 今度は、もっと強めに締めておこう。 * * * * * * 木陰の下、気持ち良さそうに眠るふわふわした毛並みの黒ウサギとそれを枕に眠るネズミの女の子。 …いいなぁ…。 せっかくみんなで来たというのにバラバラで少し寂しい気がしますが、そこまで贅沢は言えない訳で…。 スイカ、いつ食べればいいんだろ。 御主人様とサフ達が帰ってきたら…かな。 もう一度眠る二人を見て、しばらく考える私。 人が来る様子はありません。 2人とも、よく寝ているし、御主人様も居ないし、サフ達はお昼をもって更に上流の方へ行ったままです。 私は荷物の中からタオルを取り出し、こそこそと下流の方へ向かいました。 湿った付け耳を外し、肌に張り付くシャツをどうにか脱ぎ捨て、髪の毛を纏めて、申し訳程度に準備体操。 変なのが居たらイヤなので足は脱がない。 川の水は、やっぱり冷たい。 ずっと昔、連れてきてもらった時も、こんな感じだったような気がする。 また三人で行こうって言ったのに、結局二人とも居なくなってしまった。 ……うそつき。 底が見えるくらい透明度の高い水に躊躇したものの、二度とないかもしれないチャンスなので思い切って泳いでみる。 ドキュメントで見たような深みをクロールで進む。 すぐに息が切れて脇が痛くなった。 ……前は、もっと泳げたのに。 ジャマなスカートと付け尻尾を取ってもう一度潜る。 思うように身体を捻れない。 昔みたいに水を掻けない。 前みたいに息が続かない。 浅瀬に這い上がって、深呼吸。 深く息を吸うたびに浮いた肋骨が軋む。 鼻の奥が少し、痛い。 ――― もう少し、やってみよう。 唇を噛んで顔を拭って、髪を直してもう一度。 手足を伸ばして、無駄な力みを抜いて。 思い出すのはあの夏のプール。 友達の歓声、先生の笛。 蝉の鳴き声、チャイムの音、へたな合唱、音車の排気音、子供の笑い声、暑い陽射し。 あの頃はもっと髪の毛が短かった。 あの頃はもっと背が低くて、日焼けしていて、体重とニキビに悩んでた。 先輩に憧れて、分厚い本を読んで途中で挫折した。 父さんが死んでしまって、時々布団の中で泣いた。 伯母さんと受験に合格したら、あの人のコンサートに行かせて貰う約束をした。 将来は、写真の中の母さんみたいにカッコよくなると決めてた。 ずっと狭い部屋の中にいたから、泳ぎ方が思い出せない。 息継ぎのタイミングを間違えて水を飲み込み噎せた。 呼吸を整えて、もう一度。 重い体を引きずるようにして、岸辺に戻る。 解け掛かった髪をおろして手で絞ると、ビックリするほど水が滴った。 髪の毛、切りたい。 御主人様に、切ってもいいか訊いてみよう。 他の人にヒトだとばれたら困るから、美容院にはいけないけど。 髪の毛を纏めなおして左右を見渡す。 …違和感。 顔をもう一度拭って、付け耳やシャツを探す。 あった。 風に、飛ばされたのか、予想よりだいぶ遠くにシャツを発見。 軽く叩いて、濡れたままのそれに腕を通したけど、冷えて、濡れた服は寒い。 けど……半分見えなくなって、少し安心する。 下を向いて、丹念に探す。 スカートを発見。 飛びすぎじゃないかと思いつつ、張り付いた落ち葉を取って、腰に回す。 足の傷も見えなくなって、安心する。 けど、付け耳が尻尾も見当たらない。 無いと困る。 「探し物は、これ?」 顔をあげると、釣りの衣装を着た茶色のネコが私の付け耳を持っていた。 息を呑む。 「返して、欲しいかい」 声の感じからすると多分成人はしてる。 凄く楽しそうな雰囲気。 私が頷くと、一層眼が煌いた。 「首輪は?」 御主人様は、私に首輪をつけようと、しない。 ヒトは、首輪が無ければ所有権を主張できないのに。 「濡れると締まるので、今だけ外していただいています」 今だけ、の所に力を込めた。 風が吹いて、身体が寒い。 人は、ヒトより力が強い。 人は、ヒトより足が速い。 ヒトは、モノだから好きなように扱って、構わない。 殺しても連れて帰っても、首輪無しなら犯罪にすらならない。 「拾っていただきまして、ありがとうございます。どうか、それを返していただけませんでしょうか」 木の葉の擦れる音と、川の音と、心臓の音。 「どうしようかにゃーただっていうのも…にゃ?」 嫌な色をした眼が身体を這い回るのがわかる。 この眼をよく、知ってる。 あの頃は、何かしてもらうために客以外にも、しなきゃいけない時があった。 それ以外、私には何も無かったから。 …ひどく、寒い。 大丈夫、前みたいにすればいいだけだから。 大丈夫、慣れてる。 だから、大丈夫。 四つんばいになって頭を下げ、どうやら病気持ちではなさそうなモノの先の方を咥える。 下腹の毛が鼻に当たるので、呼吸がしにくい。 耳を触られるのが不快。 手が離れ、背中やシャツ越しに胸を触ってくる。 痛い。 右手で睾丸を緩く撫でる。 左手で竿に髪を巻きつけて扱く。 口の中で膨らんでいくのをじっくりと舐める。時々吸う。吐きそうになる。 不意に後頭部を押されて喉の奥に押し込まれ、えづきそうになる。 何事も無いように裏筋に沿って舌を這わす。手は休めない。 左腕と背中に食い込む、ネコの爪が痛い。 そろそろ呼吸困難になりそう。 …どうか、遅漏じゃありませんように。 緩く噛んだりきつめに吸い上げると、腰が浮いて、一層奥へ押し込まれる。 嘔吐感を堪えて吸い上げて飲み込んだ。 熱の篭った眼でまじまじと見られ、背中に氷を押し込まれたような気分になる。 「耳、返していただけませんか」 口を拭って出た声は、ずいぶん掠れて自分でも聞き取れないくらいだった。 ……寒い。 道具が無いから、これ以上の事をするとたぶん凄く痛い。 だから出来ればここで終わりにして欲しいのに、案の定、圧し掛かられた。 動こうとして身体を捩ったところだったから、足を捻った。痛い。 爪を立てられた背中が砂利の上で擦られて、痛い。 爪が立てられた手首から細く血が垂れる。 ネコの舌はイヌと違ってザラついて痛い。 さっき出したばかりだっていうのに、もう反り返っている赤黒いのを顔に押し付けられる。 気持ち悪い。 足をバタつかせてどうにか、ふり落とそうとするも、バランス感覚に優れているネコには無駄な行為らしい。 荒い息遣いが気持ち悪い。 頬を打たれて、口の中が切れた。 何か言っているみたいだけど、何も聞きたくない。 どうせ、言う事は、みんな同じ。 逆らう気か、奴隷の分際で 中古のクセに 飼ってやるから、ありがたく思え 不意に視界が歪む。眼を閉じる。 ……そういえば、御主人様はそういう事を一回も言わなかった。 なんだか胸の奥が痛い。 唇を噛みすぎて、血が出てる感じがする。 ――― 大丈夫、慣れてる。 寒くて、仕方ないけど、大丈夫。我慢すればすぐ終わる。 そしたら、そしたら――― 身体を弄る感触が、不意に止まった。 痙攣する瞼を開いたけど、何も見えないのでどういうわけか自由になった右手でどうにか拭う。 見えた風景をしばらく凝視して首を傾げる。 「幻覚?」 声が変な声。 先程と同じ、腰巻オンリーの御主人様(ただしトカゲ男)が目の前で仁王立ちしてます。何故かずぶ濡れで湯気が立っています 同じくずぶ濡れで湯気を立てているネコは下半身丸出しで座り込み、口あけたまま、尻尾をピンと逆立ててる……驚いているらしい。 しかし、なんというか…御主人様がヘビのはずなのにどんどん怪獣映画のアレに似てる気がしてきました。 トゲが生えてて、口から吐く、アレ。 中身と声と手は美形なのに……。 「このまま貴様の血を沸騰させてやろうか?」 声は美形なのにドスが効いています。地を這うような声です。子供が聞いたら泣きます。ガン泣きです。 視界が歪んできたので、目元をごしごしと擦っていると、砂利を蹴り上げる気配。 物を落とす音。 ウロコがどうとか、中古がなんとかという捨て台詞と、熱い鉄板の上に水を垂らした様な音と悲鳴。 慎重に立ち上がり、自分の状態を見てみる。 シャツはボロボロで所々血が付いてる。 水着は方紐が解けているので、慌てて御主人様に背を向けて直します。 スカートの角度もなんか、ひどい。 全身がずきずきする。 鼻の奥が痛い。 視界がまた悪くなってきたので目を擦る。 「ウサギみたいなツラになってるな」 冷たいものを手のひらに落とされて、驚いて見るとなんと板状の氷。 お礼を言ってそっと当てると、ずきずきする頬がひんやりしてきもちいい。 眼から熱いものが垂れて止まらない。 困ったなと思いながら、しゃがみこむ。 誰かの、泣き声がする。 * * * * * * * 草むらを大股で進む御主人様。 どういうわけか、少し開けている木の間ではなく鬱蒼と茂って足元に石や木の根っこがごろごろしている所を選んで歩くせいで、障害物を踏むたびに御主人様の身体は上下します。 落ちそうになって思わず私は躊躇しつつ腕に力を込め、いっそう首にしがみつきます。 御主人様の鱗は固い。 ナニゆえ私は姫抱っこされているのかといえば、足を捻っているため歩行が亀を這うようなスピードになり、御主人様が焦れたからです。 スイカを食べるためにみんな待っているそうなので早く行かなくてはいけないのですが……。 …後から行くと言ったらバカかと吐き捨てられました。 おまけにデコピン喰らって気が付いたらこの状態です。 しかし、それならおんぶの方がバランス的にも御主人様の視界の良さ的にも私の腕力の限界的にも良心的です。 ……右腕がプルプルしてきました。 「あの……」 目だけギョロリと動きます。ちらちらと宙を舞う赤い舌。 「…重くてすみません」 荷物のある場所まで、目前です。 御主人様もそれに気が付いたのか口が開閉され、…どうやら少し考えた後、そっと降ろされました。 「服持ってくるから、ここで待ってろ」 今の私はボロボロのシャツと水着。洗っても滲んでくる血の所為でちょっと凄惨です。 少なくとも、子供に見せられるもんじゃありません。 「申しわけありませんが、よろしくお願いします」 頭、撫でられました。 憔悴した風の御主人様が私の服を持ってくるのに十分ほどかかりました。 礼儀正しく背を向ける御主人様。 紳士です。 「チェルに泣かれたぞ。お前がいないから」 「…すみません」 私は水着を脱ぎ、持ってきてもらった服に腕を通します。 ……下着ありません…。 御主人様にそこまで求めるのはムリですね。 …湿気るけど…。 ボタンを最後まではめ、思わず安堵の息。裾の長い服を着ると、安心します。 傷に服が擦って少し痛いけど。 「今日は、ありがとうございました」 嫌な事もあったけど…御主人様が助けてくれるなんて、思ってもいなかった。 「よろしければお礼に何か……」 つい言ってしまった言葉に、真面目に考え込む御主人様。 私は自分の言葉に冷や汗が垂れてきました。 お礼って…私何も持ってないのに、何ができるの。 ご飯作るくらい?でもそれなら…… 「足の裏でも舐めますか?」 私の提案は氷のような眼差しで一瞥されて終わりました。 他、何かあるかな。 中古でも高く買ってくれるところを探す……とか。 「昔、落ちモノ映画で見たんだが」 予想外の言葉に虚を突かれ、黙って耳を傾ける私。 「茶や金髪の男女が出るヤツだ。わかるか。眼も緑とか青い連中だ」 邦画ではないだろなということしか、わかりませんが。 「馬車が賊に襲われた所を、馬に乗った男に救われるんだ」 西部劇とか中世モノによくあるパターンですね。 大抵、貴婦人が出てきてお礼を言ったり、場合によってはお礼に…お礼……? 「だだだ大丈夫ですかアタマ生水にあたりましたか寄生虫ですか正露丸のみますか」 急にひざまずき手をとられた事に驚いて仰け反り後ずさり、木にぶつかって止まります。 御主人様は、大股でこちらに近寄り、木の幹に掌をつけ、私を見下ろしました。鱗顔なのにわかる不思議そうな表情です。 近いです近過ぎです!! 「見たこと無いのか、映画」 「いいえ、なんとなく想像は付きますけども!日本人的にありえませんから!!」 欧米かってヤツです。 「国が違うのか」 「違います全然違うし、舞台の時代も違いますよ!」 焦り過ぎて声が裏返りました。 「だが、内容は理解できるわけだな」 顔が近すぎます!普段と違うヘビ顔なのに心臓がバクバクいってます。御主人様には違いないから?困ります困ります。 「できるよな」 「ナニをでしょうか」 平静を装いつつ後ずさり…できません。 「映画の真似だ」 御主人様ナイトですか、配役考えると御主人様はとにかく、私が相手だと白馬の騎士じゃなくて、ドンキホーテになりませんか。 それは困ります、だって、最後に死ぬじゃありませんか。 だとすると…つまり…その……。 「むむむりですむり!別にしましょう!ぜぜんりつせんまっさーじとか、いがいとわたしうまいですよ!しますか五分切れますよ!」 べちんと、素突っ込み入りました。 デコ痛いです。 「日本人に何求めてるんですか!御礼は菓子折りに決まってるじゃありませんか!!」 御主人様、顔近い。 「お礼」 御主人様的にはアレですか、アタマ大丈夫ですか。ジャックさんが伝染りましたか。 しかし御主人様のご要望です。でも、するの?まじで? 私奴隷なのに? 奴隷なんだから、もっと色々させて構わないのに? 「わわかりました」 「わかればいいんだ」 どことなく満足そうな御主人様。 「そこじゃ届かないです」 御主人様が顔を寄せた。 「眼も閉じてください」 「面倒だな、本当に オマエは」 ぶつぶつ言いながら眼を閉じる御主人様。 素直です。 ……顔の鱗まで硬いって、生活上、支障ないんでしょうか。 虫に刺される心配だけはなさそうでいいわけですが。 頬から顔を離した途端、くわっと眼を見開かれ、ちょっとびびる私。 御主人様眼が金色ですけど、怒ってますか。大激怒ですか。 ……締められた。
https://w.atwiki.jp/utumeido/pages/51.html
rBjC0nR70 460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/01/23(水) 08 23 48.48 ID rBjC0nR70 男「・・・お前はいつもアレだな・・・暗いというか」 メ「はぁ・・・」 男「もうちょい、はきはき、爽やかに出来たら人生も楽しくなるんじゃないか?」 メ「・・・はきはき、爽やか・・・」 5分後 メ「御主人様ぁ!何か御用はないでしょうかッ!!」 男「うお、ビックリした!」 メ「洗濯物を干していたら、手違いで庭まで落っことしちゃって死にたくなりました!テヘ」 男「うわ、コイツ俺の指示の趣旨がまるで分かってねえ・・・」 メ「うっわあ!コレって新しいナイフですね!私、リスカの時だけすっごく安心するんですよぉ!!」 男「・・・爽やかじゃねーだろ、それ。はきはきとはしてるが」 メ「あは、御主人様にここまで失望されるなんて、欝ですっ! 一番、メイド、死にまーす!!」 男「ぎゃー!待て早まるな・・・ってメチャクチャ良い死に顔ーーッ!!」 病院にて 男「あの・・・」 メ「なんですかっ!?御主人様ぁ?」 男「すいませんでした・・・やめてください・・・」 メ「・・・・はぁ・・・」
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/522.html
太陽と月と星がある 第八話 「ねぇコレみてみて!」 御主人様曰く居候二号のスナネズミ幼女、チェルが抱えていたのは―――なんだろう。 チビトトロを彩色してふさふさ尻尾をつけて一つ目にしたような怪生命体。 昔、家庭科の時間に作ったぬいぐるみを思い出します。失敗的な意味で。 トドメに形容し難い音声発してます。異界の神様召還系の。 どうせ一つ目なら唐傘お化けとか一つ目小僧の方が。と言いたいのを堪え笑顔を作ってみる。 うっかり馴染んでいましたが、ここは異世界です。 不思議生物の闊歩するファンタジーです。 そりゃ見たことのない生命体が千や万はいるのは当然です。 「それは、煮込み?焼き?刺し?それとも漬け?」 チェルは質問の意味が分からなかったのか、きょとんとした顔になりました。 「寄生虫とか怖いから、火は通すべきでしょうね。二人の意見も聞いてみましょうか」 きびすを返そうとしたところで後頭部に何か当たって私は思わず蹲りました。痛い。 「チェル、ソレ、元の場所に戻して来い」 「えー?なんで?飼っちゃダメ?」 食べ物じゃないんだ。アレ。てっきり今日のおかずにする分かと思ったのに。 というか、前振りもなく後頭部チョップはひどいです。御主人様。 「ダメ」 「雨にぬれてふるえてたんだよ?」 「今日は晴れてるだろうが」 あ、でもそもそもアレを捌く包丁は無かった気が。 刃毀れしたら困るし、頼むとしたら肉屋さんかな? 「がっくんのケチーたんしょー!」 「どこで覚えたそんな言葉」 押し問答をする二人をよそに、手にふさふさした感触。 「キヨカ、大丈夫?」 しゃがみこんでいる私にフンフンと心配そうに鼻を寄せてくる強面わんこ。 御主人様曰く居候一号のサフです。 真剣な目とピンクの鼻とふさふさした毛とピンとたった耳を見ると手がむずむずします。 じっと見ていたのを何か勘違いしたのか、心配そうな表情のままサフが私に手を貸してくれました。 立ち上がるとイヌとはいえ子供なので私の胸くらいまでしか身長のない彼は、「でっかいふさふさわんこ」そのもので 思わずぎゅっとしたくなる様な愛らしさです。 サフは真剣そうな表情になり、ピンクの口を開いて一言。 「キヨカ、大きくなったら結婚しようね!」 「オマエは骨でも齧ってろ」 間髪居れずに御主人様の尻尾がサフの頭を直撃。 予想外にいい音が室内に響き渡り、驚いた怪生物がチェルの腕から飛び出しました。 ちなみにサフは微動だにしません。 …丈夫過ぎるだろ常識的に考えて。 それはともかく、奇声を発しながら部屋中を飛び回る怪生物。 壁に当たっても平然とバウンドし、ゴムボールのように別方向へ飛び回ります。 それを大はしゃぎで追いかけるチェルとサフ。 怪生物は二人の手を避け、花瓶に激突しましたが、そのまま何事も無かったように跳ね回ります。 花瓶は破壊されました。 鼻先でバウンドされ、興奮したサフが思いっきりこけ、流し場に凄まじい破砕音が響き渡りました。 ああ、最後の陶器製食器が…。 明日からは全部木製食器です。 窓際で必殺の一撃をかわされ、意外と鋭いチェルの爪が換えたばかりの春物カーテンを引き裂きます。 御主人様は無言でその光景をみつめています。 春らしく爽やかな印象を醸しつつ、意外と厚手で暖房効果ばっちりの素材を選んだのは御主人様でしたね。 怒りのオーラとともに普段の三割くらい体が大きく見えるのは気のせいでしょう。きっと。 「さて、じゃあ私は晩御飯のおかずを買いに行きますね」 後ずさりして付け耳を手に取り、そのままダッシュ。 同時に足元を怪生命がすり抜けて行き―――背後から物凄い音が聞こえたような気がしましたが、きっと気のせい。 晩御飯はエセブッフー肉大セールというのがやっていたので焼肉にしました。 美味しかったです。
https://w.atwiki.jp/schwarze-katze/pages/574.html
太陽と月と星がある 第八話 「ねぇコレみてみて!」 御主人様曰く居候二号のスナネズミ幼女、チェルが抱えていたのは―――なんだろう。 チビトトロを彩色してふさふさ尻尾をつけて一つ目にしたような怪生命体。 昔、家庭科の時間に作ったぬいぐるみを思い出します。失敗的な意味で。 トドメに形容し難い音声発してます。異界の神様召還系の。 どうせ一つ目なら唐傘お化けとか一つ目小僧の方が。と言いたいのを堪え笑顔を作ってみる。 うっかり馴染んでいましたが、ここは異世界です。 不思議生物の闊歩するファンタジーです。 そりゃ見たことのない生命体が千や万はいるのは当然です。 「それは、煮込み?焼き?刺し?それとも漬け?」 チェルは質問の意味が分からなかったのか、きょとんとした顔になりました。 「寄生虫とか怖いから、火は通すべきでしょうね。二人の意見も聞いてみましょうか」 きびすを返そうとしたところで後頭部に何か当たって私は思わず蹲りました。痛い。 「チェル、ソレ、元の場所に戻して来い」 「えー?なんで?飼っちゃダメ?」 食べ物じゃないんだ。アレ。てっきり今日のおかずにする分かと思ったのに。 というか、前振りもなく後頭部チョップはひどいです。御主人様。 「ダメ」 「雨にぬれてふるえてたんだよ?」 「今日は晴れてるだろうが」 あ、でもそもそもアレを捌く包丁は無かった気が。 刃毀れしたら困るし、頼むとしたら肉屋さんかな? 「がっくんのケチーたんしょー!」 「どこで覚えたそんな言葉」 押し問答をする二人をよそに、手にふさふさした感触。 「キヨカ、大丈夫?」 しゃがみこんでいる私にフンフンと心配そうに鼻を寄せてくる強面わんこ。 御主人様曰く居候一号のサフです。 真剣な目とピンクの鼻とふさふさした毛とピンとたった耳を見ると手がむずむずします。 じっと見ていたのを何か勘違いしたのか、心配そうな表情のままサフが私に手を貸してくれました。 立ち上がるとイヌとはいえ子供なので私の胸くらいまでしか身長のない彼は、「でっかいふさふさわんこ」そのもので 思わずぎゅっとしたくなる様な愛らしさです。 サフは真剣そうな表情になり、ピンクの口を開いて一言。 「キヨカ、大きくなったら結婚しようね!」 「オマエは骨でも齧ってろ」 間髪居れずに御主人様の尻尾がサフの頭を直撃。 予想外にいい音が室内に響き渡り、驚いた怪生物がチェルの腕から飛び出しました。 ちなみにサフは微動だにしません。 …丈夫過ぎるだろ常識的に考えて。 それはともかく、奇声を発しながら部屋中を飛び回る怪生物。 壁に当たっても平然とバウンドし、ゴムボールのように別方向へ飛び回ります。 それを大はしゃぎで追いかけるチェルとサフ。 怪生物は二人の手を避け、花瓶に激突しましたが、そのまま何事も無かったように跳ね回ります。 花瓶は破壊されました。 鼻先でバウンドされ、興奮したサフが思いっきりこけ、流し場に凄まじい破砕音が響き渡りました。 ああ、最後の陶器製食器が…。 明日からは全部木製食器です。 窓際で必殺の一撃をかわされ、意外と鋭いチェルの爪が換えたばかりの春物カーテンを引き裂きます。 御主人様は無言でその光景をみつめています。 春らしく爽やかな印象を醸しつつ、意外と厚手で暖房効果ばっちりの素材を選んだのは御主人様でしたね。 怒りのオーラとともに普段の三割くらい体が大きく見えるのは気のせいでしょう。きっと。 「さて、じゃあ私は晩御飯のおかずを買いに行きますね」 後ずさりして付け耳を手に取り、そのままダッシュ。 同時に足元を怪生命がすり抜けて行き―――背後から物凄い音が聞こえたような気がしましたが、きっと気のせい。 晩御飯はエセブッフー肉大セールというのがやっていたので焼肉にしました。 美味しかったです。