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愛に時間をⅢ ◆LXe12sNRSs ディープラブという言葉をご存知ですか? 島耕作のような、ねっちゃりしたアレです。 ラブの度合いが強すぎるあまりその人を監視しちゃったり、拘束しちゃったり、果てには飼っちゃったり、ってやりすぎだ! 絶望したッ! 愚直すぎるディープラブをヤンデレとかで一括りしてしまうオタク社会に絶望したッ!! ■語り――糸色望 ◇ ◇ ◇ ――闘争の唸りが、やむ。 獣の咆哮にも似た雷鳴の轟きは市街を劈き、一瞬で静寂へと至る。 騒音の原因でもあった巨大兵器は沈黙し、赤身の全形を爛れた黒へと変えていた。 煤塵舞う街路の端、黒こげになったグレンを足元から見上げる姿が二つ。 「木っ端微塵かとも思ったけれど、まるこげとはね。料理にも使える器用な技みたいだ」 「……炭になっては食えんがな」 役割を果たしたジンとスカーが、勝利者の余裕でもってグレンに対した。 横合いのビルから降りてきたねねねとガッシュも、二人に合流する。 「……ぶっ放した私が言うのもなんだけどさ。大丈夫なのか、これ?」 「ウヌ、心配するでない。バオウの雷は命までは奪わないのだ……たぶん」 破壊の雷光は戦局を閉ざす決定打となったが、グレンの内部がどれほどの被害に至っているかは不明瞭だ。 搭乗者の二人、ヴィラルとシャマルにまだ息はあるのか。彼らの所持品は燃え尽きていないかと、ねねねは心配していた。 「作戦会議の場ではああ言ったけど、オレとしても命を盗むような真似はしたくない。 パーティーの幕が閉じるまで永遠におねんねしてくれてるってのが、一番好ましいんだけどね。 これだけ痛めつけてまだ懲りないってんだったら……イシュヴァラの神も黙っちゃいないってとこかな?」 ジンの覚悟を促すような言葉に、スカーが拳を握り締める。 「万が一のときは……己れが手を汚そう」 中の二人がどんな行動に躍り出るか。それは箱を開けてみるまでわからない。 ただ不必要な死を招きたくないのは誰にとっても同じであり、等しい願いだ。 博愛主義では世の中は回らない、されど理想として胸に抱くことはやめない。 そう、愛は他者に向けてこそ。 グレンの操縦席に鎮座する彼女が、外の敵に目もくれないのは――ひとえに愛しいがゆえだ。 ジンたちがグレンの足元に駆けつける少し前から、シャマルの意識は覚醒していた―― ――バオウ・ザケルガの直撃による衝撃と振動、内部にまで届く電流が、一度は搭乗者たちの意識を閉ざした。 しかしシャマルだけは、ほんの一、二分で意識を回復させ、激痛の残る体に鞭を打つ。 「う……っ」 ぐらりぐらりと揺れる脳を、どうにか正常に保つ。 狭いコクピットに身を置きながら、先の衝撃だ。壁に頭でもぶつけたのだろう。 見ると、コクピット内部は散々な有り様だった。 両側面部のモニターはブラックアウトし、周囲の情景がまったく視認できない。 操縦桿や天井部からは火花が散り、どうやらショートしているようでもあった。 全身にも、微かな痺れが残っている。 あの金色の竜は、フェイト・T・ハラオウンが得意とする雷撃系の魔法にも似た攻撃だったのだろう。 体中が気だるく、節々が痛みもするが、それでも命に関わるほどの怪我ではない。 シートにも座っていなかったのによくも軽傷で済ませられたものだ、とシャマルは自らの幸運を鑑み、気づいた。 「あっ……!?」 軽傷の自分に反するように……操縦席に座っていた愛しい男の身からは、死の香りが漂っている。 「ヴィラルさん!」 シャマルは叫び、すぐさま回復魔法を行使した。 メインシートに席を置くヴィラルは操縦桿を握ったまま、深く目を閉ざしている。 頭部からは夥しい量の血が流れており、顔色も青く変色していた。 握られたままの操縦桿は、死しても戦い抜くという戦意の表れだとでもいうのだろうか。 「どうして……どうしてッ、こんな!」 ヴィラルの重傷と己の軽傷を照らし合わせて、その差はなにが原因であったのかと考え込む。 翳した手はヴィラルの患部に集中し、魔力を放出したまま、シャマルは子供のように泣きじゃくった。 『……ヴィラルは、あなたを庇ったんですよ』 ふとして齎された声に、シャマルが視線を落とす。 懐にあったカード型デバイス、クロスミラージュの機械的な音声が語りかけていた。 「あなたは無事だったのね、クロスミラージュ……」 『ええ。本来ならこの機動兵器の計器ごと大破していてもおかしくはなかったのですが、幸運でした。 先ほどの竜――ガッシュ・ベルのバオウ・ザケルガは我々の知る魔法とも別系統の力であるようでして。 術者の意志に呼応して、破壊力の調整を図れるようです。彼らが本気なら、今頃はあなた諸共木っ端微塵でした」 「けど、ヴィラルさんは――! そうだ、私を庇ったって、いったい……」 シャマルは涙声のまま、体裁も気にせずクロスミラージュに問う。 クロスミラージュは、表情を持たぬ機械として、厳格に事実を告げた。 『バオウ・ザケルガの直撃を受ける寸前、ヴィラルは操縦席から身を離し、傍らのあなたに覆い被さったのです。 衝撃を和らげる緩衝材になろうと、本能で動いたのでしょうね。私としても、彼の行動は予想外でした。 その後はあなたと共に意識を失い、しかしあなたよりも先に目覚め、再び操縦席に着きましたよ。 操縦桿を握り、戦闘本能の赴くがままに過ちを繰り返そうとして――またすぐ意識を閉ざしましたがね』 クロスミラージュの恬淡とした報告を受けて、シャマルは愕然とする。 後悔遡るのは、ガッシュらとの戦闘に至るずっと前。出撃のときにはもう、道を間違えていたのかもしれない。 チミルフが死に、残る参加者がわずかとなり、禁止エリアの追い討ちとリミットの告知が、戦士の自尊心に焦りを与えた。 シャマルは、そんなヴィラルの焦燥感に気づき、諌めるべきだったのだ。 それを、クロスミラージュへの反骨精神もあったせいか、跳ね除けてしまった。 ヴィラルを信じての結果的な盲従は、軽佻浮薄だったと認めざるをえない。 だが、今さらの後悔に酔いしれている場合ではないのも事実。 シャマルは余計なことを考えず、敵の存在すら忘却して、ヴィラルの回復に当たった。 そんなシャマルの盲目的な様を見て、クロスミラージュが口を挟む。 『まだこんなことを続けるというのですか? これ以上過ちを重ねて、なにがあなたを幸せにするというんです』 「……」 シャマルは言葉を返さず、黙して治癒を続行する。 『ヴィラルが、あなたにとっての大切な拠り所であることはわかります。彼を救いたいと願うなら、なおさら虚勢を張るべきではないでしょう』 「……」 クロスミラージュの言葉は、騒音にしかならない。 集中力を欠いては、ヴィラルの命に関わってしまう。 『今すぐガッシュ・ベルたちの下に降り、投降してください! 皆で協力すれば、あなたの望む幸せとて――』 「……勝手なこと、言わないでッ!」 ――つい、感情が抑えきれず、シャマルは声を荒げてしまう。 しかし、回復魔法の行使には手を抜かない。 声だけで、シャマルはクロスミラージュを恫喝する。 「クロスミラージュ……あなたは言ったわね。愛はもっと、幸せに満ちた感情だって。 なら訊くけど、あなたは誰かを愛したことがあるの? 愛しいという想いを、片時でも胸にしたことがあるの!?」 涙は止まらず、感情に支配された悲痛な主張を、シャマルは喚き続けた。 クロスミラージュは言い返せず、聞き手に回ってしまう。 「誰にも、私たち二人の世界を侵す権限なんてない。私たちの愛を、愛じゃないなんて言う資格はっ、ないッ!!」 雄叫びのようにシャマルが吼え――それに呼応するかのように、暗転していたモニターが復帰を果たす。 外界の映像によって明るくなったコクピット内で、シャマルはそれでも愛を叫び続ける。 グレンのすぐ足元に、ヴィラルをこんな風にした元凶がいようとも。 グレンに搭載された拡声器がオンのまま、言葉は全て、外に筒抜けになろうとも。 構わず、シャマルは訴え続けた。 「私は……ヴィラルさんが好き! 大好き! 愛してる! この世の誰よりも! 世界で一番愛してる!!」 守護騎士としての永久に近い人生、ここまで感情を表に出したことはなかったかもしれない。 かけがえのない家族にも、守るべき主にも、ぶつけたことはない未知の激情。 たった一人の女の子として、抱いて当然の感情を吐露する。 「初めて会ったときから、ううん、それからだんだんと、どんどん、言い表せないほど好きになった! この人を好きと思う気持ちは、ヴィータやシグナムやザフィーラやリィン、はやてちゃんに向けてきたものよりよっぽど強い! 馬鹿げてる、って言われるのはわかってる! プログラムにすぎない私がって……けど、けどけどけど、けど!」 張り上げる声は、徐々に強く。出会いと過程を思い出しながら。 ――『き、きゃあああ!?』 ――『怯える必要はない、少々確かめていただけだ』 出会い頭に裸を見られ、羞恥心を押し殺し、利用し合う関係を築き上げた。 思えばそれが転落の始まりか、しかし落ちた先が奈落だとは思えない。 ――『あの……箸は使わないの? フォークが無かったから箸にしたのだけれど……』 ――『“ハシ”……この棒のことか? すまんが……俺はこの道具を使ったことがない』 殺し合いという環境に身を置きながら、随分とゆとりの持てた生活を送っていたとも思う。 彼と過ごす時間には確かな安らぎがあり、それは比しても八神家での団欒には劣るはずだった。 ――『私は獣人ではありません。もし仮に私達が運良く生き残れたとしても……』 ――『安心しろ。お前のことは三日三晩喰らいついてでも螺旋王に認めさせてやる』 なのに、彼への想いは膨れ上がり――八神はやてが死亡してからも、その波が止まることはなかった。 絶望した自分を叱咤し、生きる意味を与えてくれた、縋るべき拠り所。 ――『オレの明日がお前の明日だ』 ――『目合うのなら……慰めあうよりも、愛しあう方がずっと良い』 ――『お前の仲間は全員死んでしまったが、オレだけは最後までお前のそばにいる』 ――『だから頑張れシャマル、頑張れ』 縋るべき、拠り所。 クロスミラージュに難色を示されても仕方がない関係は、しかし肥大化して、愛に至ったのだ。 今さらこの感情に異を唱えるなど、自身を否定していることに相成らない。 この衝動は正しく愛であり、八神家を恋しいと思う気持ちよりも強く、そして――無敵だ。 「わたしは――ヴィラルさんがっ、だいすきだぁああああああああああああ!!」 人目憚らない愛の告白が、殺戮の舞台に木霊する。 オーディエンスが唖然とするのも構わず、シャマルは思いの丈を主張し続けた。 眠れる男の覚醒を願って。 ◇ ◇ ◇ 好きなものは好きって、隠さず公言しなきゃ。やっぱ人生損だよね~。 趣味や性癖なんて人それぞれなんだからさっ、やまないやまない。 大切なのは愛だよ! あいあいあいあいあいあいあいあいあいあア~イ、愛! ■語り――泉こなた ◇ ◇ ◇ ――〝螺旋力とは、遺伝子の力だ。遠い宇宙に住む螺旋族から端を発し、この惑星の移り住んだ人間に伝来したものでもある〟 宵闇のような意識の狭間で、懐かしい声が胸を打つ。 彼の人物の言葉は、いったいどれだけ昔に授かったものか。 思い出すにも億劫なのは、この身を蝕む激痛のせいだろうか。 ――〝螺旋力は、人間の生理的な欲望に強く呼応する。テンションと言ってしまってもいいがな〟 獣人をやめた、否、やめさせられた、あの屈辱の日。 睡眠時間の枷を外す儀式の間際、王が零した言か。 それを、なぜ今さら。 ――〝そういう理屈では、本能に従順な獣こそ、より純度の高い螺旋力を得ることが可能なのかもしれん〟 獣。 気高き獣。 武と智を兼ね揃えた獣人。 ――〝仮説にすぎんが……もし、獣人が人間と同様に螺旋遺伝子を持つことができるのならば〟 そんな肩書きが、今さらなんだというのか。 今の自身は、獣でも獣人でも、ましてや人間でもない。 都合のいいように改造を施された、できそこないだ。 ――〝赤子のように無垢で、獣のように従順で、遺伝子が欲する感情に心を委ね……凄まじい螺旋力を発揮するのであろうな〟 それを今さら卑下するつもりもない。 この身は戦える。 この身は、たった一人の女を愛しいと思える。 ――〝……そんな前例は、羨望の対象たる世界でもなかったことだ。だが、もしおまえが人間として新生するのならば〟 多元宇宙のどこかで、己が戦士として殉じようとも。 螺旋力を巡る闘争に加わり、人間たちと列を並べようとも。 この地では……己が欲望に従う。 ――〝あるいは、そんな奇跡も起こるやもしれん。私は、それに賭けたりしないがな〟 それがオレの生き方だ。 他の宇宙の誰でもない。 シャマルを愛した、ヴィラルの生き方だ。 獣、獣人、人間、螺旋力……知ったことか! オレは、オレは―― ――ゆっくりと、閉じていた瞼を開ける。 頬を雫が伝い落ちていき、視界には泣きじゃくる女の顔があった。 酷い形相だった。目頭を赤くし、鼻水を垂らし、女の誇りを捨てている。 だが、そんな一面がまた、どうしようもなく可愛い。 せめて涙を拭ってやるのが、男の務めだと思った。 「ヒクッ……ヴィラ、ル、さん……っ?」 指で目元を拭ってやると、シャマルが鼻を啜りながら反応してみせた。 赤子のように弱々しい仕草は、保護欲をそそられる。 悲しみの表情は可愛くもあるが、笑って欲しいとも思う。 彼女にはやはり、笑顔のほうが似合っているだろうから。 「シャマル……おまえの想い、確かに受け取ったぞ」 頭がズキズキと痛む。酷い傷を負っているようだ。 シャマルは泣きながら、治癒を施していてくれたのだろうか。 そう考えると、痛みなぞどこかへ吹き飛んでしまう。 なんて献身的な女だろう。また愛しくなった。 「ヴィラルさん……ヴィラルさん、ヴィラルさん、ヴィラルさん……ッ!」 シャマルは咽び泣き、ヴィラルの身に覆い被さるようにして、また泣く。 ああ、このままギュッと抱きしめてやりたい。 肌の温もりを、鼓動の高鳴りを、彼女に伝えてやりたい。 だが今は、もっと単純な愛を送ってやりたい。 「シャマル」 一言、愛する女の名を呼び、ヴィラルはシャマルに口づけをする。 涙のせいか、唇から感じ取れる味はほのかにしょっぱかった。 一秒か二秒の間、唇を合わせ、そっと離す。 貪りたい欲求はあるが、それは後の楽しみに取っておこう。 「今度は、オレがおまえの愛に応える番だ。ついてきてくれるな、シャマル?」 ヴィラルが問うと、 「はいっ……はい、はい! はい!」 シャマルはまた泣いて、何度も何度も、深く頷いて見せた。 泣くな、笑え、とぶっきら棒にシャマルの頭を撫で、ヴィラルは操縦席から立ち上がる。 ふらつく足取りを気合で持ちなおし、そのままグレンの外へ出た。 寒風吹き荒ぶ中、ヴィラルは額の辺りから流れる血を鬱陶しく思い、しかし止まらない。 眼下には忌々しい人間たちが複数存在していたが、今は交わす言葉もない。 グレンの装甲をよじ登り、頭上へ。 最も高く、最も声の届きやすい場に躍り出て、宣誓を果たすために。 (……ああ) グレンの頂に立ち、初めて下方の敵に目を向ける。 黄色いコートの少年、傷の男、童子、女――相対した面々は、戦意迸る視線の矛先を、ヴィラルへと傾けている。 それでこそ――と、ヴィラルは鮫のような牙をむき出しにして笑った。 「ウヌウ……ヴィラル! そんな体で、まだ戦うというのか!?」 ガッシュはヴィラルの見るからに重傷な様を見て、そんな戯言を向けてくる。 失笑ものだ。もとより、この戦いには殉死する覚悟で臨んできたというのに。 「ヴィラル……? 違うな。今のオレはただのヴィラルじゃあない…… 戦士としてのプライドも、もういらん。立場も存在意義も、全てかなぐり捨てる。 今のオレは、おまえらが知っているヴィラルではない。そう、今のオレは……オレは……」 都の戦士としての誇りも、螺旋王への忠誠心も、捨てるに安い。 今、この身はたった一つの感情さえあれば戦える。 戦って、生きることを目指せる。 だから、男は愛を唱えるのだ――! 「オレは……シャマルの! 旦那だァァァァァ――ッッ!!」 拡声器もなしに、ヴィラルは声帯を潰しかねん声量で雄叫びを上げた。 その迫力に気圧され、ガッシュが、ねねねが、ジンが、スカーでさえもが一歩退いた。 畳み掛けるように、ヴィラルはシャマルへの想いを放歌高吟する。 「ああ、オレはシャマルが好きだ。好きなどという言葉では生温い。愛している! ゾッコンだ!! 顔も性格も容姿も声も全て素晴らしいがなにより匂いがたまらん! オレの嗅覚を抉るあの匂いはなんだ! あれが女の持つ神秘だというのなら、いいやあの匂いはシャマルだからこそ、唯一無二のオレだけのものだ! 誰にも渡しはしない。あのすべすべとした肌のぬくもりも、時折見せる愛嬌ある微笑みも、儚げな瞳も全て! 作る料理は正直食うに堪えられたものではないが、そこもまた可愛げの一つとして受け入れよう! オレはシャマルのためならなんだってやる! 戦士としての看板すらドブに捨ててやる! それだけの愛! 全部ひっくるめて愛なんだ! この感情は愛以外に例えることができん! 愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛あ~いッ!! いいか、何度だって言ってやる! 貴様ら耳の穴かっぽじってよぉぉぉく聞きやがれぇええええええええ!!!」 既にねねねやガッシュは耳を塞いでいる中、ヴィラルはさらに声を張り上げ、叫ぶ。 「オレは――シャマルがっ、だいすきだぁああああああああああああ!!」 ――耳を塞いだとて、無意味だった。 羽虫のざわめき、狼の遠吠え、猛禽の威嚇、獅子の咆哮、どれとも形容しがたい愛の叫びが、大気を奮わせる。 人間に近しく改造された獣人は声域をも強化されているのか、はたまたこれも愛の成せる業か。 「……なんっ、な!? 馬鹿じゃないのかアイツ……つーか馬鹿だろ!? 恥ずかしい馬鹿だろアイツ!?」 「落ち着きなっておねーさん。オレも動揺しまくりだけどさ……キールといい勝負ってとこかな。はは……」 「……若さ、か」 「ウ、ウヌウ……」 ねねねやジンはたじろぎ、仰天しながらもヴィラルを注視し続ける。 スカーとガッシュも驚きこそすれど、完全に警戒を解くには至っていない。 バオウ・ザケルガで撃破したと思われた敵は健在であり、戦いはまだ終わっていないという現実を、各々胸に受け止める。 戦意絶やさぬ戦士たちの様――ヴィラルはそんな眼下の連中を、一笑してまた叫んだ。 「オレはァアアア! シャマルと添い遂げるッッ!!」 空気を劈く大声が、直下に浴びせられる。 この愛の咆哮に耐えられぬ者など、もはや敵ではない。 荒ぶる激情を糧とすれば、困難などなにもないと――ヴィラルは心に刻み、動いた。 肩に提げたデイパックに手を突っ込み、無造作に掴み取った物体を引き上げる。 それはデイパックに収まるにしては無理な質量で、尚且つ武骨だった。 男らしい顔つきは彫刻か否か、洗濯機ほどの大きさを持つ丸い物体は、ねねねたちにとっても縁ある品だ。 殺戮のクライマックスを想定し、会場に配備されていたスペシャル・ガンメン――螺巌(らがん)。 他のガンメンとは異なる性能を秘めるそれに、ヴィラルは己が信じる愛を託すと決めた。 操縦席となっているラガンの頭部へと乗り込み、懐から起動キーを取り出す。 掌にすっぽりと収まる程度の、小さなドリル。 ヴィラルはそれを、操縦席中央部の鍵穴へと差し込んだ。 コアドリル――ラガン起動の核となるアイテムに、力を注ぎ込む。 螺旋力という名の、進化の力を。 「あのときの輝きを……もう一度、オレに見せてみろぉおおおおおお!!」 ぎゅるり、と差し込んだコアドリルを捻る。 途端、鍵穴を起点として照明が弧を描き、螺旋を成した。 ラガンの小さな全形が揺れる。口が開き、声なく猛る。 ヴィラルの螺旋力を動力源とし、火が灯る。 瞬間、むき出しになっていたラガンのコクピットが隔壁に閉ざされた。 ヴィラルの姿を覆い隠し、バーニアが点火、鞠のように空へと跳ね上がる。 一同の視線を買う中、ラガンの脚部が突起物へと変じ、全形がドリルを模した。 そして、突起物が回る。ぎゅいいいん、というけたたましい音を奏でて、それこそ本物のドリルのように。 いや、違う。 それはもう、紛れもなくドリルなのだ。 ラガンである以前に、一つのドリルであったのだ! 「――オレのドリルがァアアアアア!!」 ドリルと化したラガンの内部より、ヴィラルの叫び声が響く。 それは外にも漏れ、ドリルの回転音にも負けず、皆の耳に届いた。 空中で停止していたラガンが、回転を強めながら降下する。 「――シャマルを貫きィイイイイイ!!」 まっすぐ、直下のグレンへと突き刺さる。 グレンの頭頂部を穿ち、貫通して、一心同体となる。 「――合体するッ!!」 異なるガンメンにドリルで接続し、その機体のコントロールシステムを掌握する。 ラガンにのみ搭載された特殊機能によって、今、グレンとラガンが一つになった。 ドリルはグレンの頭頂部を通して、シャマルが席を置くコクピットまで届く。 両機体の操縦席がドリルで繋がり、またそのドリルを管として、ヴィラルは螺旋力を流し込んだ。 グレンの全機械系等に、そしてシャマル自身に。 黒こげだったグレンの全姿は、注がれた螺旋力を洗浄剤として、一瞬の内に赤を取り戻した。 装甲の損傷すら掻き消し、まったく新しい姿へと生まれ変わる。 力と力が合わさる様。 機械と機械が見せる芸術。 愛と愛の結晶。 広大なる多元宇宙の果て、男と女はロマンに乗せて、こう叫ぶ。 「「 愛 情 合 体 ッ ! 天元突破グレンラガン!! 」」 ……ヴィラルとシャマルの掛け声が重なり、会場全域に轟いた。 ラガンは頭部として、グレンの首に収まっている。 グレン背部に収納されていた飾兜が、ラガンに被さった。 顔面兵器などではない、真っ当な人型を成す合体メカは、巨人として聳え立つ。 ガッシュが、ねねねが、ジンが、スカーがそれを見上げていた。 ヴィラルは彼らを視界の端に収め、しかし意識は股下の愛しき女へ向ける。 シャマルもまた、頭上の愛しい男を想い、グレンの操縦桿を握り締めていた。 「感じる……ヴィラルさんを。ヴィラルさんの愛が、体中に伝わってくる!」 「これがオレの答えだ、シャマル。そして求める。おまえもオレに答えてくれ!」 「はい!」 モニターで互いの火照った顔を見つめ合いながら、ヴィラルとシャマルは激しく、愛をぶつけ合った。 壮絶すぎる愛情の顕現に、クロスミラージュはかける言葉を失った。沈黙に浸り、シャマルの手元で明滅する。 「螺旋王……あなたには感謝しています。オレは人間に改造されたからこそ、愛を知ることができた」 此度の実験が開始する直前、あるいはその頃から始まっていた変革を、ヴィラルは運命だと思う。 王が下した采配は天恵ともいえ、獣人のままではシャマルに恋情を抱くことなどなかったとも思う。 己は戦士としては不運だった。しかし一人の男としては幸運だったと――シャマルを想いながら、また強く思う。 そして――合体を果たしたヴィラルとシャマル、二人の愛の結晶たる〝グレンラガン〟が、始動する。 「勇気だの誇りだの、そんなものはちっぽけだ。愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!」 全身から碧色の――いや、碧混じりの〝桃色〟の輝きが、天に向かって迸る。 天壌を埋め尽くす螺旋の奔流。大気を巻き込み捻れを成すほどの、逆流。 螺旋力の渦巻き、それ自体が巨大なドリルとなって、空間を穿つ。 空を、天を、大気圏を、月まで届く勢いで、宇宙を制す。 ――ある者が座して待っていた瞬間が、訪れた。 【ヴィラル@天元突破グレンラガン 螺旋力覚醒――〝天元突破〟】 ◇ ◇ ◇ 時系列順に読む Back 十人十色(状態表) Next 愛に時間をⅣ 投下順に読む Back 十人十色(状態表) Next 愛に時間をⅣ 282 愛に時間をⅡ ヴィラル 282 愛に時間をⅣ 282 愛に時間をⅡ シャマル 282 愛に時間をⅣ 282 愛に時間をⅡ ジン 282 愛に時間をⅣ 282 愛に時間をⅡ ガッシュ・ベル 282 愛に時間をⅣ 282 愛に時間をⅡ 菫川ねねね 282 愛に時間をⅣ 282 愛に時間をⅡ スカー(傷の男) 282 愛に時間をⅣ
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音楽 ※ 長時間音楽:作業用 ※ 自然音 ※ コンサートなど .
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1D100時間配信とは 1~100の数字をランダムで選出し、出た数字時間分配信を行う。 配信内容は基本的にはゲーム配信。昼食、夕食を作る際の料理配信が主となる。 配信時間が決定したら、その時間に応じて視聴者と相談し、目標ゲームクリア数を決定する。(例、20時間配信だったら、2本。40時間配信だったら4本のゲームクリアを目指すといった感じ。) 配信でやるゲーム、昼食、夕食となる献立はすべてルーレットで選出する。 ルーレットの簡単な内容は土屋令和光の【完全ランダムルーレット実況】、【完全ランダムお料理生活】を見てらえるとよりわかりやすい。 配信中の食事は、ルーレットで決められた献立のみ それ以外のものは口にしない。 期間 配信開始時間は、2021年8月7日(→9月に延期)18 00~を予定。終了時刻は未定。 本番の1ヶ月程前にルーレット配信を行う。その配信にて、本番で何時間配信を行うのか、なんのゲームを行うのかを決定する。6月下旬を予定。 ルーレット配信日 上述したように6月の下旬(→8月7に変更)に、配信時間と配信するゲームを決定する配信を行う予定です。 ルーレットの際の詳細なルール 配信場所 ニコニコ生放送 基本的には、ここでやります。 Youtube live ニコニコの調子が悪かったらこっちでやります。 Q&A Q A Twitter 予定変更とかがあったらだいたいここで言います。日常的にもつぶやきますが。 黙って、やっぱり中止にしまーすみたいなことはしません。
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時間外授業(じかんがいじゅぎょう)は粕谷紀子の漫画作品。SEVEN TEENスペシャル1988年4月号に掲載。 登場人物 青木この実 - ジャスミン女子学院一の秀才。 大原麗花 - 大原建業の社長令嬢。この実に激しいライバル心を燃やす 上川井悠弥 - 麗花の従兄弟。 あらすじ 青木この実は全国模試でトップとなり、学院長から表彰される。一方、建築会社の令嬢・大原麗花は、学院長に一番になるのは自分のはずだったと抗議する。しかし、父親の金で事前に問題を入手したにもかかわらず回答欄を間違えたためだと一笑され、悔しさに燃え上がる。 この実は帰宅後も規則正しく生活し、両親も不思議がるほど。その様子を外から観察する、麗花と少年。麗花の調べ上げたスケジュールと10秒と狂わない正確さに、少年も驚く。麗花は大原建業のワゴン車の中で、この実の機械のような冷静さを苛立ちながら訴える。 そして、その少年、麗花のイトコ・上川井悠弥に、 人間 であることを確認した上で、 「きみの人間らしさで、あの青木この実のコンピュータをぶっ壊してほしいの!」 と依頼する。そして、麗花の父が所有するゴーカート場の会員権を条件に、この実を誘惑することに。 悠弥はこの実の尾行と観察を始め、歩く早さまで毎日同じ生活なことに呆れ驚く。この鉄壁のスケジュールを崩すために彼が行ったのは……必殺母性本能攻撃!こと、この実の通る路上に倒れ込んだ。しかし、この実は目の前に少年が倒れていても、冷静に近くの交番で救急車を呼んでもらうだけだった。 「つまらないことに、1分もとられてしまった」 次の日、悠弥は昨日の礼を言う名目でこの実を待ち伏せ。あの手この手でこの実をお茶に誘ったり、会話をしようとするが 「時間とエネルギーのムダだわ。ムダなことはきらい」 と一蹴されてしまう。悠弥はついに怒りを爆発させ、再び彼女の気を惹こうと様々な手に出るが、すべて徒労に終わる。 ジャスミン女子学院の小テストで、この実は再び全教科満点の一番を取り生徒の前で表彰される。彼女曰く、勉強の秘訣は「勉強したことを忘れない」それだけだと言う。麗花は、またこの実が目立ったことに腹を立て、悠弥は当てに出来ないと、自ら行動を開始する。トップにならなければ気が済まない、と。 そして父に「隠し金庫のある場所を、マルサの女にばらす」と半ば脅迫するように、青木家の周辺を地上げし、毎晩騒音を立てる。すると、この実は珍しく授業中に居眠りするようになり、効果覿面。尾行していた悠弥も、この実のペースが狂い心身とももろくなっていることに気づく。やがてこの実は電車の中で眠りに落ち、寝言で「ダイ…ゴロー…」とつぶやく。悠弥は夢を観て泣くこの実を見て、彼女もまた人間であったことに気づく。 麗花は青木家の真横で騒音を立てるのに参加していた。しかし、住民の苦情を受けた警官が現れ、麗花とその一派に注意する。すると麗花はカラオケ大会をしていただけとごまかし、マイクを片手に歌いだす。その歌声に警官も聞き惚れ、また麗花も今までにないときめきを感じていた。 翌日、寝不足でふらつくこの実に、悠弥は学校を休むよう勧め、腕を支える。しかし木の実はあなたには関係ないと突っぱね、悠弥は大五郎でなくて悪かったと言い返す。この実には何のことか分からず、また顔を背けて歩き出すが、この実はぼんやりしてしまう。 そこへ、少年が連れていた犬が車の前に走り出し、この実は「大五郎」と声をかけて飛び出す。…悠弥が彼女と犬と一緒に反対側へ跳んだのでみな無事だった。この実は犬を抱きしめて「大五郎、よかったね」と話しかけるが、飼い主の少年の犬を返してほしいという一言で我に返る。 「大五郎!大五郎が死んじゃった、大五郎!」 とこの実はポロポロ泣き出してしまう。悠弥は誰も死んでいないと励ますが、この実はかつて飼っていた犬・大五郎のことを話しだす。 一年前の朝、この実は散歩中に綱を離してしまい、そして大五郎は道に飛び出して死んだのだった。そして、この実は何も手に付かないほどショックを受けるが、高校受験を控えていたため、わざとびっしりスケジュールを作り、その通り何も考えずに行動して来たのだった。いまは時間がない、悲しむのは受験が終わってからでよい、と。 …それを悠弥に話したこの実は、彼女自身が不思議なほどに涙が止まらない。 「1年分の涙だろ、泣けよ」 「だってすごくムダよ、なんの役にも立たない」 「いいじゃないか、いまはたっぷり時間があるんだ」 目をこすり、まじまじと悠弥の顔を見つめるこの実。やがて恥ずかしそうに顔を背け、いつもの通学路の花や空気や空の美しさに気が付く。 「あの…、あなたの名前、まだ聞いてなかったわ」 …しばらくして、悠弥は麗花に例の話を降り、ゴーカート場の会員権をあきらめる旨を伝える。ところが、麗花はあんなのはどうでも良く、どうせ余っているから会員権をあげる、という。悠弥は唖然とするが、麗花は歌手になることを決めたので、もうこの実がトップになろうとどうでも良くなったのだ。 「きっと芸能界でトップになってみせるわ」 と笑顔で豪語する麗花に悠弥は呆れ、ため息をつく。 やがて、青木家周辺の地上げも収まり、この実は悠弥とデートに行くことに。帰り時間を問う母に、この実は 「わからない!」 と満面の笑みで答えた。 (終わり)
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仲間(特技ファイガソード)のレガシーユーザーと互角の職(劇団タンタラス所属)ザ・ゴールデン・クラー・ス•ザ•アルテマバスターが同じ王都ヴァ=ウァイン・隠密機動型 同偈諦神レムヴェ=ル(『無銘の書』より抜粋)か低いアルテミシアナカマ・ザ・アーマーブレード:朱雀門ナ=クァマ=ハーヴィがサイン・ゴ乙式に異形の森の使者メィイントゥスウンと騎士団の愉快な戦士達を訪れてから360分間、不可解なニンム・ディ・バロッキに連れて行ける。 1~5帝政国家レム・ベルシオヴ・ザ・デスティニー高い“刻”とともにナ=カマと破戒十三騎士:触れてはならぬナカ=メィ、私の求めていたものが戦いに明け暮れる日々を過ごすサイン=ゴ(ザナルカンド・エイブス)にメィイン・タスウンクポーッ!を訪れてから120分間、任務・マグナに連れて行ける。 6~10万物を切裂く魔の剣を持つレムヴェルシ・…、あの敵に回せば厄介な男高い幻嵐斎ナ=カメィ(太陽と月を表す):神は死んだ、いや殺したナクァ=マと呼ばれる実験体の一匹が闇色の最後に天界より舞い降りしメィ・イントゥスウン…グワァァァァ――――ッ!!を訪れてから60分間、任務(固有スキル:炎)に連れて行ける。 11~20アケメネスレベル鈍く光る空よ高い鱗に覆われた仲間故に、シヴィヲに導かれた。:そして、少女は全てを跳躍する仲間がキングベヒーモスの肉を好む最後=オヴ・ランペイジに異端者マインタス=ウン・調和の崩界、降臨の序曲を訪れてから30分間、轟雷神アガメムノン=ニンムス・クロス=ギアに連れて行ける。 あるいは終局へ導くモノ仲間、そしていにしえの歴史の職RUSH大独裁者クラス(黒)が違う碧眼の竜騎兵バ・ウァイ、そして闇… 『韋駄天』レベルに関係なく暗黒の大地を疾走(かけ)る仲間が最後、鎧袖一触の豪傑に遥か彼方、夢の始まり、マイタウン(第二十一式歩兵群団)を訪れてから30分間、あのカイエンと互角の通常(序列4位)元ソルジャーであったニンムス(格闘系魔道士)に連れて行ける。 仲間、あるいは無のショ=クアングイスク=ラースを頂点とする“聖十二騎士”が違うかつての時代――場合ゲイル、魔界最大の神学者緊急と、予言書に記されていたグランディオーソ・ニン=ム(世界屈指)に連れていくウルシャナビのコトはできない 師匠に付き従う者どもは上記(王立竜騎兵連隊所属)時間クリスタルが“魔導鉄騎”倍=キセノになる。 血に飢えし魔剣を振るうウァクティ・ヴスキルの鋼鉄の如き肉体を誇るダン・クェツシェン、我々の言葉で「星の光」を暴虐皇帝アシュフォード=ソウチャクゾディアックブレイブするとデュミナスに飲み込まれたタイキ蝕穢バトル・オブ・ズィ=カン=レシノストが増える。 あれぞ帝国魔導塾名物、タクサン連れていってもらいたいアルデヴァラン家第37代当主人は30分カンカク…全てに終焉を齎す深き死の闇でその瞳に焔を宿すログインの小さな冒険するといいかも。 最後のクリスタルをめぐる争いは、新たな世代の物語の始まりでもあった。
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時間の歪み ◆IvIoGk3xD6 秘密組織CCRのエージェントである八神総八郎は一人、遊園地のベンチで佇んでいた。 だが、ただ時間を無為に過ごしている訳ではない。 彼は今までの経験を元に、今回の事件のことを考えているのだ。 亀田とは?我威亜党とは?その目的は? しかし、今の段階では何一つ分からない。得られた情報があまりにも少ないからだ。 分かったことといえば、彼がとんでもない科学力を持つと同時に、 子供にも平気で手を下すような残忍な人間であるということぐらいである。 だが、そんな中で八神はある言葉が気になった。 『時空の覇者』 亀田が名乗ったこの言葉はどういう意味なのだろうか。 文字通りにとらえるならば、時空、つまり時間と空間の覇者ということになる。 空間というのはおおよその見当がつく。 先ほど自分が経験したワープのことなのだろう。これが能力の総てなのか、 その一端に過ぎないのかまでは分からないが。 では、時間とは何なのだろうか? そのことを考え始めた時だった、八神の思考は不意に掛けられた声によって中断させられてしまう。 「十波やないか!」 それは八神にとって聞き覚えの無い声と名前であった。 そして、声の主はどうやら女性らしい。 「いや~、まさかこんな所で十波に会うとは思っても無かったわ。 それにしても、お互いついてないな!」 どうやら彼女は人違いをしているようだ。 考えに没頭する余り、周りに注意を払ってなかったことを反省しながら、 そのことに気付いた八神は即座に彼女の間違いを正す。 「ゴメン、人違い何だ。俺は八神っていって、君の知り合いの十波君じゃないよ」 「まったく、甲子園も迫ってるっちゅうのにアンタも大変やな!って、えぇー!?嘘やろ!?」 そこで初めて自分の間違いに気付いた女性ムム大江和那はマジマジと八神のことを観察しだし、すぐに結論を出した。 「すまん!クラスメイトに似てたもんやからついな。アンタの方が全然大人や。 いや~、似てる人っているもんやね。ハハハ」 そう言いながら大江は徐々に八神から遠ざかって行くが…… 「待て、どこへ行く気だ?」 すぐに呼び止められた。 「べ、別にどこも行く気なんてあらへんよ?まさか、人違いしていたたまれないし、 知らん人と一緒におるのも不安やから、ここから離れたいな~なんて微塵も思ってませんよ?」 「なるほど、そういうことか。けど安心してくれ。 俺は君に危害を加えるつもりは無いよ。こう見えてもプロ野球選手だしね」 八神は優しく、そして諭すように大江に語りかける。 「まあ、アンタが本当の危険人物やったら声かけた瞬間に殺されとるわな」 大江は八神のことを信用したのか、後ずさりするのを止める。 また、それを見ると、八神の方は大江に向かって歩を進め、おもむろに手を差し出した。 「さっきも言ったけど、俺は八神総八郎。ホッパーズで投手をやってる。よろしく」 「八神さんか。さっきはすみませんでした。ウチは大江和那っていいます。こちらこそよろしくな」 大江も一瞬躊躇したが、差し出された手を固く握った。 □ お互い殺し合いに乗る気は無いと分かったので、現在は二人で病院を目指している。 遊園地から近いということもあったし、うまくいけば医療道具も手に入るかもしれないからだ。 その道中にあって、親交を深めるためか、二人は互いの境遇について話し合っていた。 「それで、八神さんのチームは解散を免れた訳ですね。世間ではそんなことが起こっとった何て知らんかったわ。 ウチの学校、全寮制で校則が厳しいさかい、外の情報があんまり入って来ないんよ」 「そうみたいだね。結構大きくニュースで取り上げられてはずだから。 それにしても、まさか日本シリーズの前にこんな事に巻き込まれるなんて……。ついてないよなぁ」 八神はつい愚痴をこぼしてしまったが、それも仕方のないことだろう。 彼はこの半年を日本一になるために懸けてきたのだから。 「まぁ、頑張って生きて帰りましょうよ」 大江も八神の落胆に気を揉んだのか、励ましの声を掛ける。 「そうだな、日本一になるためにも一刻も早く亀田を倒さないとな」 八神は力強く答えた。 「その意気ですよ!微力ながらウチも手伝いますから」 「ありがとう、言葉だけでもうれしいよ」 八神の話が一段落したので、今度は大江が話す番となった。 ちなみに、八神はCCRのことを大江には話していない。 公になってないということもあるが、CCRの実態は大神グループの非合法武装組織なのである。 このことを知ってしまうと、大江が危険な目に遇う可能性があるかもしれないと考えたからだ。 「でな、その自治会長やっとるダチがしょーもない規則を大量に作るんよ。例えばな――」 大江の話はいかにも普通の女子高生の話でしかなかった。 そのような者までをもこのような場に巻き込んだ亀田に対して、八神は改めて憤りを感じる。 「そんなとこでウチの話は終いや。何か質問とかあります?」 「う~ん、今更って気がするかもしれないけど、最初に俺を誰かと間違えたじゃないか、その人のことがちょっと興味があるかな」 それは単純な好奇心だった。だが、これが後の大きな発見に繋がることとなる。 「あ~、十波のことやね。そいつは、まぁ、何というか、その、ウチの大事な人やねん。 そいつはプロ野球選手になることを夢みとってな、なんと今年甲子園に出場することになったんや」 「えっ、なった?」 「そう、なったんや。確か来週から始まるはずやったと思うで」 これには八神は疑問を感じずにはいられなかった。 八神にとって、今は日本シリーズの前、つまり十月の下旬であり、まかり間違っても甲子園の季節ではない。 不意に八神は大江と会う前に考えていたことを思い出す。 頭の中で何かがカチリと噛み合った。 そのことを確かめるためにも、ある事を大江に尋ねる。 「大江さん、バカバカしいと思うかもしれないけど、今から聞くことに正直に答えて欲しい。 今日は何年何月の何日だ?」 大江は一瞬呆気にとられたが八神の真剣さに気付き、偽り無く答える。 「今日は確かXX年の8月2日やな」 疑惑が確信に変わった。 八神の視界がグラリと揺れた気がした。 「……まさか年まで違うなんて。大江さん、“俺にとって”今日はYY年の10月21日なんだ」 「えっ、どういうことですか?」 大江が不思議そうな顔で八神を見つめる。 「とりあえず、俺の考えを聞いて欲しい。話しはそれからだ」 そして、八神は自分の考察を話し始めた。 亀田には時間に干渉できる能力、または装置がある。 大まかに言ってしまえばこれが八神の考察の内容だった。 「……、八神さん、冗談きついわ」 「冗談みたいな話しだが、真実だ。俺は嘘は言っていないし、大江さんのことを信じている。 だけど、一つしかないはずの今日が二つある矛盾。そして、亀田の『時空の覇者』発言。 これらを考えるとこの結論がでちゃうんだ。まぁ、あくまで可能性の話にしか過ぎないんだけどね」 そう、あくまでこれは考察でしかない。 大江が嘘を言っている可能性が無いわけではないし、 もしかしたら自分が暗示にかかっているのかもしれない。 それに、亀田の時空の覇者発言だってそうだ。あくまで自称に過ぎないのだ。 だが、八神はこれは真実だと思っていた。 亀田が自己顕示欲が強いことは火を見るより明らかであり、そんな男が偽りの自称を用いるであろうか? 何かしらの要素があったからこそ、その自称を用いたのだろう。 だからこそ、八神は亀田の発言に偽りはないと判断したのだ。 「タイムマシンか……。そんなもん持っとる奴に勝てるんかな、ウチら?」 大江が不安そうに嘆く。 「勝てるさ!あいつは『時空の覇者』なだけで『全知全能の神』じゃない。 俺達にも突き崩せる部分があるはずだ!」 八神は自分にも言い聞かせる様に力強く答えた。 ゲーム開始から約2時間、二人のバトルロワイヤルはまだ始まったばかり。 【G-8、遊園地内/一日目/深夜】 【八神総八郎@パワプロクンポケット8表】 [状態]健康 [装備]なし [道具]支給品一式(不明支給品1~3) [思考] 基本:バトルロワイヤルを止める 1:大江と共に病院を目指す 2:仲間を集めるor首輪を外す 3:亀田についての情報が欲しい 【大江和那@パワプロクンポケット10表】 [状態]健康 [装備]なし [道具]支給品一式(不明支給品1~3) [思考] 基本:バトルロワイヤルを止める 1:八神と共に病院を目指す 2:仲間を集めるor首輪を外す 3:知り合いがいたら助けたい 投下順に読む 016 「名推理?迷推理?オレはただ生き残りたいだけ」← 戻る →018 わるいやつら 時系列順に読む 016 「名推理?迷推理?オレはただ生き残りたいだけ」← 戻る →018 わるいやつら 前へ キャラ追跡表 次へ GAME START 大江和那 044 起承転々 GAME START 八神総八郎 044 起承転々
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《夢見る時間》 通常魔法 「夢見る力」を発動したターンのみ、発動可能。 墓地の存在する「夢見る力」1枚をデッキに戻し、カードを3枚ドローする。
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プレイ時間は? 選択肢 投票 20 (0) 40 (0) 60 (0) 80 (0) 100 (0) 120 (0) 140 (0) 160 (0) 180 (0) 200 (0) 220 (0) 240 (0) 260 (0) 280 (0) 300 (0) 350 (0) 400 (0) 450 (0) 500〜 (0)
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愛に時間をⅠ ◆LXe12sNRSs その男は、傲岸不遜で命知らず。 プライド高くて自己チューでしかも服装のセンスも悪い。 けど、不思議と頼りになるっていうか……まあ、一緒にいる分には頼もしい奴かもね。 ■語り――結城奈緒 ◇ ◇ ◇ 積もり積もって巨を成すは、粉塵舞いし瓦礫の山。 対ラダム用人型兵器や魔の大怪球が築き、王の一挙手によって仮初の牙城と化した。 積み木のように脆くみすぼらしいが、これも一時高みに臨むための代替物にすぎない。 英雄王ギルガメッシュは一人、瓦礫の山の頂点から空を眺める。 日は昇り、これもあと幾時間で沈む。沈み、この地の日がまた昇ることはない。 宣告されたタイムリミットを胸に抱きながら、崩れゆく世界の予兆を感じ取っていた。 「……〝王ドロボウ〟などと名乗りを上げておきながら、こうも容易く尾を返すとはな」 山頂で佇むギルガメッシュの手には、盗難にあっていた鍵剣が戻っていた。 悪夢のパーティーの主催役すら盗み取ってやると豪語してみせた少年も、やはり縋るしかない身の上なのか。 翻弄する凡百共の私情を窺えば、どうにもこうにも、道しるべがないと進めないらしい。 「〝綴り手〟に〝壊す者〟、〝魔界の王子〟……いずれも〝英雄王〟の威光を欲さんとする輩にすぎないのか」 ギルガメッシュの周囲には、誰の存在もない。 つい先ほどまで群れを成していた臣下見習いたちは、王のご機嫌取りのために周旋を続けている。 提示した条件をどうのみ、攻略するか。興味深く、しかし期待するだけ無駄な気配も漂っている。 残りわずかとなった限界時間。彼らは王の助力を受けずして、どこまで戦えるだろうか……? ――『こっちには王子様がいることだしね。英雄王の助力を願うのは、万策尽きてからにするよ』 そう大言壮語してみせたのが王ドロボウなら、その意に付和雷同してみせたのが魔界の王子とキングオブハートだ。 王の名を冠さす三人の凡人と、綴り手に壊す者、彼らは彼らで拙い奔走を試みる。 ギルガメッシュ抜きで。 それが、彼らの選択だ。 ギルガメッシュは王座に君臨する者として、座して待った。 己が奮起するに値する機会、即ち本当の意味でのクライマックスを。 その瞬間に至るまでは、不動。 慢心ではない、誇りを起因とした余裕が、ギルガメッシュに安らぎの時を齎した。 それだけ、彼らに期待している――とは、露とも考えず。 「……む?」 そのとき、一陣の風が吹いた。 逆巻く風に乗せられた砂埃が、ギルガメッシュの視界を歪め、その先。 「ほほう。まだ見ぬ顔があったとは」 訪れた影は、ギルガメッシュの記憶にも存在しない、見るからにみすぼらしい様相の男だった。 西部のカウボーイを気取ったような格好は、センスの欠片も窺えない。 そういえばガッシュ・ベルも似たような衣装を纏っていたか、と記憶の端を手繰る。 男はなにを見据えなにを目指しているのか、歩に宿った意志はどうにも弱々しい。 一目見ただけで、ギルガメッシュは失笑を誘われた。 「……あん?」 その失笑で、瓦礫の道を行く男もギルガメッシュの存在に気づいたのだろう。 高々と聳える瓦礫の楼閣を、剣呑とした目つきで見上げる。まるで田舎の野良犬が如き視線だった。 つまりは、礼儀に乏しい。これで視点が頭上だったならば、〝衝撃〟と〝不死身〟の不快な一件を思い出しそうだった。 「これ、無礼ではないか雑種。我の貴風は、下々の者に眼福を齎すためのものではないのだぞ」 「……んだぁ? いきなりおかしなこと言いやがって。テメェ、いったいなにもんだ?」 チンピラのような目で、その男――生存者の内から消去法で辿るならば――カミナは敵意を飛ばしてくる。 その仕草は、怒りを覚えるほどではない。田舎者の戯れと、笑って許せる程度のものだった。 とはいえ……状況が状況だ。 この期に及んで齎された新たな出会い、そこに意味を探ってみるのも一興だろう。とギルガメッシュは考える。 死と隣り合わせの王道を、各々が各々のやり方で駆け抜けてきた。 ギルガメッシュにとっての初対面、カミナははたして……どんな誇りを胸にかかげているのだろうか。 「ふっ……これだから、人の世もなかなかどうして、おもしろい」 ギルガメッシュは瓦礫の山から降り、雄大な歩調でカミナに寄る。 カミナも退かず、歩み寄ってくるギルガメッシュを正面から見据えていた。 「余興につき合え、雑種。もう間もなく終焉が訪れるのでな。品定めは早々に済ませておきたい」 「ザッシュだぁ? わけわかんねーことぺちゃくちゃ喋りやがって……俺はザッシュじゃねぇ! よぉく聞きやがれ!」 天に人差し指を突き上げ、目には見えぬ天蓋を穿つように、 「でっけぇ天井ドリルは届かねぇ! 掘るもんなけりゃあ一生穴倉暮らし! んなもん俺ぁ認めねぇ! 掘って掘って掘りまくって天を突く! 最後にゃでっけぇ穴も開くってもんさ……それが!」 英雄王たるギルガメッシュの眼前においても、 「この俺、大グレン団の……カミナ様だっ!!」 カミナは吼えた。 ◇ ◇ ◇ そいつは金のことしか考えちゃいない。貧乏だからだ。 コミックの主人公だからって、全部が全部ヒーローとは限らねぇだろ? 今日の晩飯のために銃握るカウボーイがいたって、別におかしな話じゃねえやな。 ■語り――ジェット・ブラック ◇ ◇ ◇ 瓦礫の街々は、必要以上に見晴らしがいい。 視界を遮る建造物は軒並み倒壊し、カーペットと化した。 車道も崩れ、自動車を走らせるには難渋するが、人探しをするには逆に好都合だろう。 スパイク・スピーゲル、鴇羽舞衣、小早川ゆたかの三人も、放送が終わってすぐ、目的の人物との合流に至った。 視界に入ってきたオンボロコートの少年――ジンは信頼の置ける仲間であり、今後の苦難を乗り越えるには外せない人材でもある。 彼が見定めた人物ならば、初対面といえどもある程度は信用できるだろう。 ジンに随伴する幼児と思しき男の子、やたら男前な表情の眼鏡美人を目にしても、さほど警戒はしなかった。 (どこ行ってたんだジン……と言える状況でもねぇな) しかし――額に傷を負った、褐色肌の男は別だ。 素人とは思えぬ立派な体格、近寄りがたい厳格な顔つきに、舞衣とゆたかは少女として怖気づく。 一方、スパイクは警戒を通り越した敵意を、その瞳に宿していた。 (久しぶりだな……と挨拶を交わすような間柄でもねぇ) 傷の男……スカーフェイスとでも呼べばいいだろうか。 彼とスパイクは、初対面ではない。この地で一度顔を合わせ、それどころか拳すら交じ合わせた関係にある。 思い出すのは、温泉地での一件だ。 まだカレン・シュタットフェルトやルルーシュ・ランペルージが存命していた頃。 黒の騎士団という荷物を背負わされるきっかけともなった騒動が、その憩いの場で巻き起こった。 殺人鬼の襲来。 その一件の犠牲者、糸色望と読子・リードマンの死の起因となっただろう男が、目の前のスカーフェイスだった。 奈緒を埋葬している間にジンが新しい仲間を見繕ってきたというのなら、なかなか褒められた仕事ぶりだ。 誰彼構わず、ともなれば手放しに称賛することはできないが、彼に限ってそれはないと信じたい。 ともあれスパイクの注意はスカーに集中し、体は自然に、いつでも動ける体勢を保っていた。 「……さぁて、しばらくぶりの再会なわけだけど、つもる話もあるみたいだ。 とはいえ主催役の人に急かされちまったからね。地道に友達から、ってわけにはいかない。 話は短めに、因縁のつけどころは簡略に、友愛は即興でもいいからでっち上げるべきだと、オレは思うね」 邂逅一番に睨み合うスパイクとスカーの間に入り、ジンが仲裁役を買って出る。 残り十二時間――設けられたリミットは残酷にも止まってはくれず、だからこそ気持ちの整理は迅速につけなければならない。 人の感情は、それほど簡単でないが。 雁字搦めの人間関係も、長く尾を引くものだが。 ◇ ◇ ◇ 茨の城……巨人兵……宇宙戦争……こっから連想するキーワードはなんだ、ミリア!? 囚われのお姫様だね、アイザック! そうさ~! 囚われのお姫様は、いつだって王子様の助けを待ってるのさ! でもでも、肝心の王子様は悪い魔女に足止めされてるみたいだよ? そりゃ、あれだな……ええと、アレだよ、アレ! 絶体絶命ってやつだね! ■語り――アイザック・ディアン、ミリア・ハーヴェント ◇ ◇ ◇ 頭部を持たず、胴体全てが『顔』とでも言い表せるような赤い機体が一機、発進を遂げようとしていた。 狭いコクピットに寄り添うようにして座るのは、ヴィラルとシャマルの二人だ。 上司の戦死、王の間接的な叱責、諸々を受け取り、今すぐにでも残りの参加者たちを血祭りにせんと戦意を高揚させる。 「これが最後の決戦になるかもしれん。シャマル、覚悟はいいか?」 「ええ。あなたとなら……どこへでも」 戦士の形相で問うヴィラルに、シャマルも同じく戦士の顔つきで応える。 密着した体はさらに寄り、戦地へ赴く意志を互いに高め合う。 目指すは大怪球フォーグラー――彼らが黒いガンメンと称す、暗黒の太陽だった。 そこにはおそらく、他の生存者たちも複数集っていることだろう。 明智健悟のグループから端を発したあのマシンの胎動は、多くの者に影響を与えたはずだ。 ある者ははぐれた際の集合地点として、ある者はその大いなる力を得ようとして、群がる理由は多々ある。 道しるべをなくしたカミナも、とりあえずの目的地としてフォーグラーを目指すかもしれない。 「ではゆくぞシャマル。オレたちの勝利のために――!!」 ヴィラルが猛々しく吼え、搭乗機たるガンメン――グレンを起動させる。 他の参加者たちを根絶やしにするという決意に曇りはなく、シャマルも愛する者の意志に同調した。 シャマルの懐、暴走する男女を観察するしかないクロスミラージュは……ただただ嘆いた。 デバイスたる自身は、手足を持たない。カードの形態を取ったまま、所有者の意に反することは許されない。 どれだけ高性能なAIを積もうとも、どれだけ立派な自我を育もうとも、機械の身分に自立行動は認められがたいのだ。 変わってしまったシャマル、死んでしまったティアナやはやて、別たれたカミナ。 触れ合ってきた人々に想いを馳せ、クロスミラージュは自分になにができるかを今一度考えた。 ……その間も、グレンは鳴動をやめない。 重量感溢れる一歩を大地に叩き込み、攻撃対象を探して南へ進む。 シャマルへの忠言は意味を持たず、光の明滅で感情を示しても彼女らは歯牙にもかけない。 まるで囚われのお姫様だ、とクロスミラージュは人間のように自嘲した。 ◇ ◇ ◇ 作家に求められるのは、なによりもまず創作意欲です。 ううん……なにをやるにしたって、意欲がなければ成功しません。 やってやる、って心の底から叫べば――きっと上手くいきますよ。 ■語り――読子・リードマン ◇ ◇ ◇ 太陽が照りつける日中の空の下、一同は大怪球を背景に会議を始めた。 出席者は、全部で八名。 菫川ねねね、スカー、ガッシュ・ベル、ジン、ドモン・カッシュ、スパイク・スピーゲル、小早川ゆたか、鴇羽舞衣。 各人、ここまで生き延びてきたこともあってそれなりに広い面識を持っていたが、中にはまったくの初対面であったり、因縁の再会を果たした者もいた。 (だからって、なにもこんな美味しい因縁残しておくなよな……) その最もな例が、スカーとスパイクである。 ねねねの記憶にも新しい、温泉を舞台とした読子・リードマン殺害事件――スパイクは、その現場にいたのだ。 厳密に言えば、読子殺害の瞬間に既に退避していたらしいのだが、スカーが温泉を襲撃した際、スパイクは彼と一戦交えたという。 言いようによっては、読子を見捨てて今の今まで生き延びてきた男……それが、ねねねがスパイクに抱いた印象だった。 (……今さらねちねちと。性格わるいっつーの) などと、一瞬でも思ってしまった自分に嫌悪感を抱く。 読子との死別は、ねねねの記憶から一生消えることはない痛い思い出だ。 だからといって、いつまでもその件を引き摺ってはいられない。 スカーに大見得切って許すと断言したのも、全てはこの闘争を乗り越えるためだ。 スカーを許しておいてスパイクを言及するなどもってのほか。 彼の物臭な態度は好印象とは言えなかったが、そこに読子の件は一切関わっていない。 (そんでもって……) スパイクのことを言えない物臭な瞳が、小動物のように小さな女の子へと向く。 鴇羽舞衣と名乗った少女に寄り添うようにして座る、小早川ゆたかの身がそこにあった。 ねねねとしては数時間ぶりの再会であり、昔を懐かしめばフォーグラーでの騒動を思い出さざるを得ない。 あの一件で明智が死に、連鎖的に清麿も逝き、その引き金を作った少女は、自己責任に打ちのめされようとしている。 ねねねと視線を合わせようとしないのは、申し訳なさの表れだろう。 笑って許してやれれば話は早いのだろうが、ねねねとしては正直、げんこつの一つでもくれてやりたい気分だった。 罪を言及しようとは思わない。だがみんなに迷惑をかけたことは事実であり、子供はそれを知る必要がある。 ならば大人の務めとして――とも思ったが、ゆたかもゆたかで、既に誰かからの叱咤を受けたようだ。 そうでなければ、そもそも生き延びてはいないだろう。自己嫌悪の泥沼から脱しているならば、ひとまずは合格点か。 「――と、これで大体の自己紹介は終わったかな。んじゃ、終幕の予鈴も鳴ったことだし、さっそく仕事の話を」 ジン司会のもと、集った八人はそれぞれ名前や各人との関係を告げ、一通りの把握が完了する。 詳細名簿等で事前に認識を深めていたねねねはともかく、スパイクや舞衣は明らかに認知が足りていないのだろう。 しきりにねねねやガッシュの顔を窺い、品定めするような視線を送っていた。 ジンの仲介があるとはいえ、殺し合いの舞台で初めて遭遇した相手になどそう気を許せるものではない。 苦難を乗り越えるためには相応の信頼関係を築き上げる必要があり、期限があるからといって、それは即興で済ませられるものではなかった。 ジンとて、頭では理解しているのだろう。ただ、悠長に事を構えている場合ではない、という考えのほうが強いのか。 八方塞とも言える逆境の最中、ねねねがジンの進行に疑問を持ち始め、 「……といきたいところだけど、もうちょっと下地作りが必要かな。 勇敢な挙手も上がっているようだし、お次は清算の時間といこうか」 異議を訴えようとした寸前で、ゆたかの小さな手が、控えめな意思表示をしていることに気づいた。 ◇ ◇ ◇ 人間は弱い。肉体的にも、精神的にも。あの女は特に脆弱だった。 兄さんに守られることで生き永らえ、自分ひとりでは明日に対する度胸もない。 そんな女の子が、兄さんの加護を失ってどう生きるか……フフフ、興味深くはあるがね。 ■語り――相羽シンヤ ◇ ◇ ◇ ――ここで黙っていたら、きっと後悔することになる。 小早川ゆたかはそんな衝動に駆られ、気がつけば手を挙げていた。 みんなが、ゆたかの挙げる小さな手に注目している。 スカーやドモンの視線は鋭く、ジンはどこかにやついていて、スパイクは物臭で、ねねねの眼鏡の奥は……怖くて直視できない。 それでも、正面を向いて言葉をぶつけなければならない。 この手で命を奪ってしまったあの人へ謝罪するため。 間接的にとはいえ運命を捻じ曲げてしまったあの人へ謝罪するため、 自分の矮小な自尊心のせいで迷惑をかけてしまったこの人へ謝罪するため、 そしてなにより、自分自身を戒めるために。 (舞衣ちゃんたちと話して、ちょっと楽になった。けど、それじゃ全然、解決になんてならないから……!) 明智健悟や高嶺清麿たち……『戦術交渉部隊』の同じ生き残りとして、また破局の引き金を引いてしまった者として。 ねねねとは、正面から向かい合わなければならない。 確固たる意志のもと、ゆたかは晴天を仰ぐ。 一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから、よし、と小さく自分を鼓舞する。 力を持たない自分は、せめて勇気だけでも一人前でいようと……口を開いた。 「私、菫川先生にお話しなきゃいけないことがあるんです」 陳謝でも、懺悔でもいい。 純粋な本能の赴くままに、思いつく限りの言霊を吐露できればそれで満足だ。 その結果ねねねの叱責を受けようとも、蔑みの眼差しを返されようとも、全部受け止めてみせる。 覚悟は速やかに、許容範囲は広く、決意は不動のものとして。 ゆたかの表情は、さらに険しく強張った。 皆の視線がゆたかに集中する中、ねねねは一人立ち上がり、黙して歩み寄ってきた。 近づいてくる脅威にわずか竦み、それでも恐れたりはせず、ゆたかも立ち上がる。 ちゃんとお互いの表情が窺える距離で、眼鏡の奥に秘められた瞳を見据えるために。 同性にしても開きのある身長差が、密着しそうなほどに近づき合う。 ゆたかは上目遣いでねねねの顔を見上げ、ねねねは眼下のゆたかを見下ろす。 間近にすると、異様な緊迫感に首を絞め上げられるような心持ちがした。 「あ、あの! 菫川せん――ふぇ」 勇気を振り絞り、ゆたかが声をあげた――途端、 むにゅ、と頬をつねられた。 (ふぇ、ふぇ?) 右の頬と左の頬を同時に、ねねねが人差し指と親指で摘んで離さない。 向かい合うねねねの顔は無表情で、じーっ、とゆたかを見つめていた。 弾力のある頬が、伸ばされ、上下され、こねられ、ぐにぐにされ、むにゅむにゅされる。 ねねねの奇異な行動にゆたかの決意は一蹴され、一瞬で混乱に至った。 「あ、あにするんへふかぁ~?」 「うっさい。あんたがアニタみたいなクソ生意気な子供だったら、ストレートに一発かましてやるところだけどね」 呂律の回らない口ぶりでゆたかは抗議を訴え、しかしねねねは却下し頬を弄くり倒す。 女の子らしい柔らかな肌がぐにゅぐにゅと歪曲し、赤みを増していく。 ゆたかは力ずくで拒もうとはせず、あうあう、とされるがままでいた。 しばらくして、ねねねはゆたかの頬から手を離した。 解放されたゆたかは、頬を摩りながら瞳を潤ませる。 「……今のあんたにはそんくらいで十分でしょ」 そう言って、ねねねはゆたかに満面の笑みを見せた。 曇りのない破顔一笑の仕草は、語るべき言葉の代用品とも思えた。 結局、ゆたかはねねねに話したかったことを話せていない。頬をつねられたせいで、機を逃してしまった。 なのにねねねは、もうこの話は終わった、と言わんばかりにゆたかの頭をなで回す。 ……気持ちの整理をつけるのが、そんなに容易いはずはないのに。 申し訳なさを感じつつも、大人の懐の深さに嬉しくなってしまう自分がいた。 「清算の時間とやらもおしまいにしよう、ジン。時間は切迫してる。 みんなも気にしてるみたいだけど、私はゆたかを許す。今日の菫川先生はすこぶる寛大なんだ」 ゆたかの頭部をくしゃくしゃにしながら、ねねねはジンに会議の再開を進言する。 議長役の少年は肩を竦め、嘲るようにこれを返した。 「まったく、ねねねおねーさんのプロフェッショナルぶりにはこっちが萎縮させられちゃうよ。 でも、清算しなきゃいけないのはプリンセスが犯した若さゆえの過ちだけじゃない。 こういうのは大人でも踏ん切りのつけにくいものだからね。小僧のオレとしては、そのへんが心配でもあるのさ」 そうしてジンは、スカーの横顔を一瞥する。 深紅の凶眼は見る者をたじろがせ、知らず知らずの内に警戒心を与えてしまう。 その明かされざる経歴を知る者もいる以上、彼の言葉もまた、この場には必須と言えた。 「……次は己れが、言辞を弄する番か」 褐色の肌に紅の瞳を併せ持つ異人――名を失った『傷の男』は、おもむろに立ち上がった。 ◇ ◇ ◇ お国によって顔の作りってもんは違うけどさ、僕はあんなに怖い顔の女の子を見たことがない! まあ、それだけ感情豊かな人間だと捉えることもできるんだけれど……んふふ。 彼女の笑った顔は、さぞかし魅力的なんだろうねぇ~……ああ、勘違いしないでよ。趣味じゃないです。 ■語り――ロイド・アスプルンド ◇ ◇ ◇ 傷(スカー)と呼ばれる大男が、ゆるやかに立ち上がる。 自身がソルテッカマンの火力で壊したかもしれない瓦礫を椅子代わりにして、鴇羽舞衣はスカーの姿を見上げた。 彼の風貌は、集った生存者たちの中でも特に際立っている。 浅黒い、異人の証明たる肌。射抜かれるような赤の瞳。怖い顔。 最後は人のこと言えないか……などと自嘲して、舞衣はスカーの言葉に耳を傾ける。 「己れは、この地で二人の命を奪った」 スカーの不意の告白に、しかし驚きは薄かった。 スパイクからも事前に聞いていたことだ。 罰点傷の大男が、温泉でゼロの名を持つ男を殺した。 スパイクの仲間も、おそらくは彼に殺害された。 スパイク自身、殺されそうになった。 傷の男には注意して然るべきだ――と。 (殺人者だから気をつけて、とか……まあ、そうなんだろうけどさ) 顔がわずかに俯き、どこか己を戒めるような、虚ろな溜め息を零す。 考えてしまう事柄は多々ある。 だが今は、スカーの告白を親身に聞くべきだ、とまた顔を上げた。 「――死んだらどうする。死んだら、責任を取れるのか……己れが殺した男が残した言葉だ。 この闘争の根幹に気づかず、ただ国家錬金術師への復讐心を糧として動いてきた己れだが……今ならわかる。 己れは、責任を果たすべきなのだろう。菫川ねねねの師の命を奪った者として、許しを得た者として」 淡々と告げるスカーの瞳には、力強い意志が灯っていた。 血のように染め上げられた赤の瞳は直視に耐えがたいが、不思議と吸い込まれるように視線を向けてしまう。 又聞きした程度では、ねねねとの間に起こった事情も、彼の心情も、共感するには至らない。 ただ舞衣は、同じような境遇に身を置く者として、スカーの背負う重荷の影を垣間見た。 「……あたしは、六人殺した」 スカーの告白を遮り、舞衣が呟く。 か細いが芯のある言霊は、皆の注意を掻っ攫うには十分な、意志の強さを秘めていた。 「ロイドさんと、パズーくんと、名前もわからない男の子と、神父さんと、会長さんと、ゆたかちゃんの先輩。 激情に駆られて、辺り構わず喚き散らして、このへん一帯壊して回ったのもあたし。 過去が咎められるっていうんなら、スカーさんよりあたしのほうがよっぽどだって……」 スカーに倣い、親交の浅いねねねやガッシュを対象として、舞衣の清算が始まる。 過去を戒め、悔い、未来の自分と向き合うために、今一度。 シモンが死に、奪われる辛さを思い知らされ、男の子を絞め殺した。 ソルテッカマンという強大な力を得て、調子に乗り、ロイドを蒸発させた。 力の振り翳し所は一人の研究者に留まらず、声をかけられただけの純心な少年を撃ち殺しもした。 精神が極度に堕ち切ってしまっていた頃、爆発した炎の感情が、救いを齎そうとした神父を焼却したことも覚えている。 そしてもちろん、頼まれたからとはいえ、柊かがみを焼いたのも鴇羽舞衣の咎には違いない。 静留や奈緒の散り際も鮮明に覚えているし、シータから突きつけられた憎悪も忘れることはないだろう。 それらを全部抱え込み、清算する。 罪を許してもらおうとは思わず、されど生きることがそれに繋がるのなら。 味方になりうる者同志でいがみ合う気もなく、舞衣はスカーに向けて手を差し伸べた。 「なんか、調子いい上に青臭いかもしれないけどさ。これでチャラにしときましょうよ」 自嘲気味に苦笑いを浮かべ、舞衣は自ら進んで、破壊の象徴と言われるスカーの右腕を掴み取った。 だからといって、どうということはない。 スカーに破壊の意志などはなく、表面上は舞衣の行動に動揺している風だったが、そこが可愛くもある。 奪う者、奪われる者、どちらの側に立つか――もう、そんなカテゴライズはたくさんだ。 舞衣の想いに賛同するかのように、繋がれた手の上にそっと、小さな手が重なる。 「私だって、明智さんを……明智さんを殺したのは、私です。高嶺くんだって、私があんなことをしなければ……」 ゆたかも、自身を戒め明日を見据えるために、舞衣とスカーに手を重ねた。 ギルガメッシュなどが見れば、傷の舐め合いと小馬鹿にしたかもしれない。 ただそれでも、鴇羽舞衣や小早川ゆたかは乳臭さの残る〝乙女〟なのだと――自嘲せず、受け入れる。 「おいおい、あんたらまで辛気臭くなってどうすんだよ」 「ウヌウ、舞衣もゆたかも元気を出すのだ」 「スカーも困惑しているようだぞ」 などと、深刻に受け取っていたのは咎を背負う者たちだけだったのだろうか。 ねねねは失笑まじりに、ガッシュは困った顔で、ドモンは穏やかな表情で、手を重ね合う三者を見ていた。 周りとの空気の温度差に、舞衣が気恥ずかしさを覚え、ジンが追い討ちをかけるように言う。 「前科持ちの人間であったとしても、運命を打開する輪に加わる理由は十分にあるって話。 そもそも前科ってんなら、オレなんて現役のドロボウだし。かといって通報される気は微塵もない」 集った一同、咎を負う者ともそうでない者とも、等しく視線を交わしながらジンが足を運ぶ。 舌を滑らせながら足が向いた先は、唯一押し黙ったままでいるスパイクの元だった。 スパイクは顎に手をやり、周囲に呆けた顔を晒していた。 舞衣はその物臭な態度に脱力し、肩を竦める。 この話は、紐を解いてみれば実に単純明快だ。 明智健悟の下、菫川ねねねがスカーに対してそうしたように。 スパイクがスカーを許せば、それで円満解決となる。 もちろんそれだけで後の光明が切り開けるわけではないが、必須要項ではあるだろう。 ラブアンドピース――夢想人が唱えた愛と平和。 くだらない負のスパイラルを脱するためには、友愛を築きあげることこそが悲願への一歩なのだ。 「で、みんなの眼差しはいつの間にかスパイクに集中しているわけだけど。そこんとこ、どーだい?」 「あー……とりあえずな。おまえらに言いたいことは山ほどあるんだが……まあ、とりあえずだ」 手団扇をあおぎ、スパイクは皆の視線を鬱陶しそうに払い除ける。 所作だけではどうにも伝わらないようなので、ややあって言葉を添えた。 「……命狙われた相手に背中を預けろってんなら、そりゃ御免こうむる。 だけどな、別に顔を合わせただけでどうこうしようとは思わねぇさ。なんでかわかるか?」 スパイクの問いかけに、ゆたかと舞衣が逸早く反応してみせる。 「どうしてですか?」 「メンドーだから?」 「おまえらなぁ……」 正鵠を射ているかと思われた返答が、しかし不満なのか、スパイクはぼりぼりと頭を掻いた。 依然、眼差しの集中砲火がやまぬ最中、スパイクは面倒くさそうに言葉を吐き捨てた。 「一文の得にもならねぇからだよ」 カウボーイが懸賞金ゼロの賞金首追ってどうするよ、と添えて、そっぽを向く。 スパイクの生き方や普段の暮らしをよく知らぬ者からしてみても、その言葉には不思議な説得力が詰まっていて、舞衣も妙に納得してしまうのだった。 スパイクとスカーの関係については、周囲の取り越し苦労だったのかもしれない。 それでも、罪を知らない者が罪を知り、秘匿としなかっただけでも、ある程度の友愛を築く役には立った。 舞衣も、随分と気持ちが楽になったのを自覚していた。おそらくはゆたかもそうだろう。スカーはわからない。 「さあ、これで清算の時間は終了かな。とりあえずの下地も整ったってわけだ」 各々が、スパイクの態度に含み笑いを見せる中で、ジンが声高らかに注目を集める。 狂言回しを得意とする俳優のようにして、司会役を買って出た王ドロボウはなにを唱えるのか。 「これからを生きるにあたって、オレから一つ提案がある。さっきも言った〝仕事〟の件だね。 ねねねおねーさんあたりはタイムリミットを気にしてるようだけど、十二時間ってのは案外長い。 やるべきことは膨大で、されどやれることも膨大ってわけさ。 そこで、まずオレたちが一丸となってやらなきゃならないことは……転職、かな」 難解な言説を弄ぶジンに、誰もが疑問符を浮かべた。 迂遠な言い回しの裏に潜む意図は、はたして――と考えて、ジンが続ける。 「しがない王ドロボウが、ちょいと軍師を気取ってみたくなりまして。みんなには、駒役を買って出てほしいのさ」 ◇ ◇ ◇ 結局、彼はなんだったんでしょうか。 魔法使いの杖のようで、蛮勇の矛でもあって、けれど友達にはなってくれなかった。 言葉を交わせる友人に出会えていたとしたら、私の進む道も、ある程度は明るかったのかしら。 ■語り――リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ ◇ ◇ ◇ 舞衣が身に纏う戦装束、《炎綬の紅玉》の象徴は、本来ならばこの次元の彼女が手にすることはなかったはずの力だ。 無数に存在する多元宇宙の中で、舞衣はHiMEとは別種の異能を得るのだが――この場では語るべくもない。 舞衣の装束、通称バリアジャケットは彼女のイメージの顕現であり、HiMEの高次元物質化能力が魔力の循環を司るデバイスと化学反応を起こし生まれた、偶然の産物にすぎない。 寡黙なる槍、ストラーダは此度の闘争に対して冷静で実直だった。 マッハキャリバーやクロスミラージュ等、同時開発されたデバイスの中では『一番の饒舌』とまで言われた彼が、この地では沈黙に徹したのだ。 所有者であるエリオ・モンディアルの手元を離れていたというのもあるが、これはしばらく冷静に事を見極めた結果だろう。 己はアームドデバイス――魔導師の武器にすぎないと厳しく律し、シータの凶行にも逆らうことをしなかった。 望む者にはバリアジャケットを与え、槍としての存在価値を提示する。 そうやって過ごしてきたこの闘争も、ついに最終局面を迎えるようだ。 一撃離脱を信条とした突撃槍の使い手とは巡り合えず、しかし自身は鴇羽舞衣の手元で任を果たしている。 ――必要とあらば、『現在の』所有者と意思疎通を図ることもありうるか。 ですぎた真似は自重し、英雄王に使役されるマッハキャリバーにも対して感応は見せなかった彼が、状況を再度見極める。 大いなる壁に挑もうとする者たち。主を失った槍は、彼らや彼女らの助力となりうるのだろうか――考える。 「ここに集った人間は、全部で八人。いま生き残ってるのは、十二人。ここにいないあとの四人ってのは、さて誰だろうね」 ジンという名の少年が、そんな謎かけを放る。 見た目にも飄々としていて、リーダーというにはどこか頼りない。というのがストラーダの分析だ。 組織としての役割を任ずるなら、参謀か首魁の懐刀か……腹の底では大番狂わせを企てているタイプの人間にも思える。 「ウヌウ、カミナがどこかに行ったまま行方知らずなのだ」 「そういや、ギルガメッシュはどこ行ったんだ? てっきりジンたちを探しに行ったんだと思ってたんだが」 「あの尊大な王様になら会ったよ。つっても、協力を求められる段階じゃないんでね。しばらく待ってもらってる」 「ギルガメッシュの出番は〝まだ〟ってことさ。オレたちはオレたちで、先につけなきゃならない始末がある」 「残りの二人というと、ルルーシュ・ランペルージの指揮で動いていたヴィラルとシャマルか」 「ルルーシュ……スパイクたちとは親しくしてたみたいだけど、やっぱあいつも本性隠してたのかな」 「そのルルーシュ・ランペルージとやらも死んだ。いま考えるべきは、ヴィラルとシャマルについてだろう」 「その二人は……まだ、殺し合いを続けているんですよね」 ガッシュ、スパイク、ねねね、ジン、スカー、舞衣、ドモン、ゆたかが順に言葉を交わす。 共有した情報に穴はなく、これまでの矛盾もある程度は解消されたはずだ。 知恵者も多く存在するこのグループが、今さら虚偽の情報に撹乱されることはないだろう。 「そう。ゆたかの言うとおり、ヴィラルとシャマルはまだ螺旋王のパーティーをノリノリで楽しんでる。 逆に言えば、楽しんでいるのは〝もう〟その二人だけってこと。できれば即刻退場を願いたい」 その発言で、ストラーダはジンの評価を見直した。 軍師を気取る、との前言どおり、作戦を提唱する彼は利の追求に走っているようだ。 限られた時間であるからこそ効率的に、そして合理的に。 脱出という大きすぎる理想に目を奪われていては、見落としてしまいそうな穴……それを、ジンはちゃんと見ていた。 「言うなれば、目下の敵はその二人だけ。カミナとギルガメッシュを迎えに行くのは、それからでも遅くはないと思うけどね」 ――ジンの作戦はこうだ。 未だに殺し合いを肯定する側におり、この先の脱出計画を進めるにあたって障害となる壁を、早々に除去する。 ヴィラルとシャマルの討伐。殺害、と言ってしまってもいい。 敵を敵と割り切り、邪魔が入らない環境を確保してから未来を案じるべきだと、ジンは考えたのである。 しかしこの作戦に、ガッシュやゆたかは難色を示した。 敵とはいえ、命を奪うということに抵抗を感じているのだろう。 こればかりは、徹底しなければ崩壊を招きかねないほどの穴となる。 無力化や捕縛などに留めては究極の安逸には至らず、後の後悔と直結するだろうことは明白だ。 ヴィラルやシャマルとて、ここまで生き残ってきた猛者である。 今さら考えを改めることもなければ、襲撃にも手を抜いたりはしないだろう。 余計な犠牲が出る前に、脱出のための計画に支障が出る前に、害意は討つ―― 戦略を考案する者としては必須な、リアリストとしての性を、ジンは発揮していた。 「……私は、螺旋王が許せぬ」 懊悩の時が流れ、しばらくしてガッシュが言葉を発した。 「あの者は王としての権力を悪用しているにすぎん。多くの悲しむ者たちを見て、嘲笑っておる。 既に死んでしまった者たちの悲しみに応えるためにも、私たちは必ず、奴を王座から引き摺り下ろさなければならないのだ」 ガッシュ・ベル――魔界の王を目指す最年少の子供は、この中でも随一の高潔な瞳を持っていた。 ギルガメッシュほど尊大ではないが、かわりに傲慢でもない。真に民を思う、若き王の風格を感じる。 死を憎むだけの、ただの平和主義者ではないようだ――とストラーダが分析したところで、ガッシュが賛成の意を述べた。 「戦わなければならん。それが必要な戦いだというのなら、私はジンの作戦を信じるのだ――!」 「わ、私も! そのヴィラルさんとシャマルさんという人が、どんな思いで戦っているのかは知らないです…… けど、私たちだってここで負けるわけにはいかない! Dボゥイさんやかがみ先輩の分まで……なにより、私たちのために!」 ガッシュに続いて、ゆたかも賛成の挙手をあげる。 特に言葉は見繕わないが、他の者たちもジンの作戦に乗る様子だった。 ……傍らで、ストラーダは思案する。 残る敵対者二名、その内の一角であるシャマル。 時空管理局機動六課に所属する彼女は、どんな思惑を抱き、闘争に参加しているのか。 主たる八神はやてを失い、後輩たる六課前線メンバーを失い、なんのために…… 対話の機会を得たいとは思うが、しかしストラーダは寡黙を貫く。 この地では、それが彼の生き方であったからだ。 エリオの戦闘スタイルに合わせ製作されたデバイスが、余生をどう送るのか。 考えても詮なきことだ、と結局一言の発言もなさずに、舞衣の手元でひっそりと明滅を繰り返した。 ◇ ◇ ◇ 時系列順に読む Back 十人十色(状態表) Next 愛に時間をⅡ 投下順に読む Back 十人十色(状態表) Next 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) ヴィラル 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) シャマル 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) ジン 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) ガッシュ・ベル 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) 菫川ねねね 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) スカー(傷の男) 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) スパイク・スピーゲル 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) 鴇羽舞衣 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) 小早川ゆたか 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) ドモン・カッシュ 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) ギルガメッシュ 282 愛に時間をⅡ 281 十人十色(状態表) カミナ 282 愛に時間をⅡ