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587 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 21 58.80 ID Mq31vBKI0 [2/15] 『俺が幼女に恋した日』 俺は今日、ひょんなことから一日限定で再びマネージャー業に返り咲いた。 ひょんなことって何かって?まあそこはあんまり気にするな。それは今回さほど重要なことじゃない。 んでもって今は仕事を終えて帰り支度をしているところだ。 ついさっき加奈子が散々俺の仕事ぶりにダメ出ししながら帰っていき、部屋には俺とブリジットの二人しかいない。 そんな時、いきなり後ろからブリジットに呼ばれて俺は振り返った。 「あ、あの…マ、マネージャーさんっ!」 「ん?」 この時俺はかなりくぐもった声で返事をしたと思う。 何故って、俺はさっき買ったペットボトルの麦茶を飲み干している最中だったからさ。 丁度控え室にゴミ箱あるしな。後でかさばるくらいなら今飲んじゃった方が…… 「わ、わたしと、付き合ってください!」 「ブフォオッ!」 な、なんだって!? あまりに突然の申し出に、俺は思わず飲んでいた麦茶を吹き出してしまった。 「大丈夫ですか!?マネージャーさん!」 「ご、ご、ごめん!濡れたりしてないか!?」 心配そうな顔で俺にハンカチを差し出してくれるブリジット。 こんな小さい子に心配される俺って……。 「ホントにごめんな、ブリジットちゃん…。」 「いいんです。わたしの方こそ、驚かせてしまってごめんなさい…。」 俺はさらに差し出されたティッシュで濡らしてしまった床を拭きながらつくづく思う。 この子ってホントにいい子だよなぁ…。 幼いながらに礼節をわきまえていて気配りも出来て、周りへの配慮を決して忘れない。 今だっていつの間にか一緒に床拭き手伝ってくれてるし。 まさに、理想の女の子像じゃねえか。 …っておいおい………こんな小さい子相手に何考えてるんだろうな俺は。 そんなことより聞きそびれた話の続きを聞かないと。 「そ、それで…さっきの話は……?」 「は、はい。実は…」 ブリジットは再びあらたまって話し始めた。 ごめんな…。俺が茶を吹き出したばっかりに……。 「わたし、最近外に出かけると誰かの視線を感じる気がして………」 「ええっ!?それって、まさかストーカーってことか!?」 なんでもブリジットの話によると、最近歩いてると何だか常に人の気配を感じるらしい。 確かにブリジットは最近徐々に知名度が上がってきてるから注目が集まるのは仕方がないことなのかもしれない。 この間は某朝の情報番組でちょっとした特集が組まれてたし。 だが、それにしてもだなぁ、こんな小さい子にベタベタまとわりつくなんて一体どこの変態だよ!? ったく、とんでもねえヤツだな。 「それでわたし、ちょっと心配で…」 最後の方は小声で、いかにも怯えている様子が伝わってきた(ように感じた)。 その姿を見て、当然俺の心は即決されたね。 よし!俺はこの子のために一肌脱ぐ! この高坂京介、困っているいたいけな少女をほったらかすほど落ちぶれちゃいねえぜ! 588 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 23 32.57 ID Mq31vBKI0 [3/15] 「なるほどな…。ブリジットちゃんを怖がらせるなんて許せねえ!俺も力になるよ。俺に出来ることなら何でも言ってくれ!」 「ありがとうございます、マネージャーさん………」 俺が力を込めて全面協力の意思を伝えると、ブリジットは少しホッとした様子で微笑んでくれた。 「んで、俺は何をすりゃいいんだ?」 「えーと…その……『一日だけ誰かに彼氏のふりでもしてもらったら』って、かなかなちゃんが…。」 加奈子が? なるほどね。彼氏の存在をアピールして相手に諦めさせようって作戦か。 まあきっと口調はもっと汚かったに違いないが、ちゃんとアドバイスしてやるなんてあいつも何だかんだでいいとこあるじゃねえか。 ん?でもこの流れからすると……… 「ってことは…俺がブリジットちゃんの恋人役を?」 「ダメ…ですか?」 ブリジットは俯いて、とても申し訳なさそうにしてしまっている。 俺がブリジットの彼氏役…。 いや、決して嫌なわけじゃない。 いつも大抵あの加奈子とセットだから尚更そう感じるのかもしれないが、ブリジットは礼儀正しく純真でとても可愛い。 この子と一日デート出来たら、きっとすごく癒されるんじゃないだろうか。 …だが、さすがに俺だって世間の目は気になる。 少し年が離れすぎていやしないか!? まあ確かに最近は年の差カップルなんて珍しくもないけどさ。 実は、好きだったアイドルがよくわからない年上のミュージシャンと交際していた、なんてことはよくあることだ。 でもなぁ…。 例えば、30歳の男性と22歳の女性が8歳差婚。これは何となく受け入れられると思う。 しかし、18歳の高校生と10歳の小学生が付き合ってたら?何となく前者とは異なる違和感を感じないだろうか? これは世間的にはその…ロ、ロリコン……になってしまうわけだよな…。 もしも皆がこのことを知ったら…。 『言い訳なんて問答無用』ってのがアイツらのスタイルだからな。 桐乃にブチのめされ、黒猫に冷めた目で見られ、沙織にネタにされ、加奈子にバカにされ……。 あやせには普通に通報されてしまいそうだ。場合によっちゃ殺されたりするんじゃ…。 麻奈実は………ってアイツは気にしなさそうだな。 本来なら『ストーカーと対決することになるかも』なんてことを心配するのが普通なんだろうが、俺の頭に真っ先に浮かんだのはこんなことだった。 ズレてる?ええ、自覚してます……… 589 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 24 01.03 ID Mq31vBKI0 [4/15] 果たして、こんな俺で本当に大丈夫なんだろうか? しかし!このか弱く健気な少女は、他でもない俺を頼ってくれてるんだ!ここは男として期待を裏切るわけにはいかねえだろ! 「ダメならいいんです…変なことお願いしてごめんなさ…」 「い、いやっ!ダメじゃない!!その……俺なんかでよかったら、引き受けるよ。」 さっき『何でも言ってくれ!』って言ったばっかりだしな。まあ、『ホントに俺でいいの?』って感じなんだけどさ。 「ほ、本当ですか!?マネージャーさんっ」 不安そうな表情から一転、ブリジットの顔はパッと輝いた。 ブリジットは感情がわかりやすくて好感が持てるなぁ。なんて素直でいい子なんだろう。 …どっかの妹とは大違いだ。 「ありがとうございます、マネージャーさん!」 「いいってことよ。それで、作戦決行はいつ頃になるんだ?出来るだけ早い方がいいよな?」 「今週の土曜日…は空いてますか?」 「…土曜日だな?ああ、オーケーだ」 土曜日はたしか麻奈実と勉強会する予定が入っていたが……許せ幼馴染よ! 「んでさ…どこ行く?ブリジットちゃんはどっか行きたいとことかあるのか?」 俺は一体この子とどこに行ったらいいんだろう? このくらいの年代の女の子ってどんなとこ連れてけば喜ぶんだ?見等もつかん。 「動物園とか水族館とか植物園とか…。ただどっかに買い物に行くってのもアレだしなぁ……。」 「あっ!そ、それなら大丈夫です……」 優柔不断な俺を見かねてか、代わりに相手が答えてくれた。 偽装デートとはいえ、我ながら情けねえよ。こういう時は普通男がバシッと女の子が目を輝かせるような場所を……。 勝手に一人で落ち込む俺をよそに、当のブリジットは何やらカバンの中をごそごそと漁っている。 そして、どうやらお目当てのものを見つけたようだ。 「…これ、事務所の人からもらったんです。『よかったらお友達と行ってきたら』って」 そういってブリジットは俺に二枚の長方形の紙を差し出した。 やたらとカラフルなそれは、なんと某遊園地で一日遊具が乗り放題になるチケットだった。 「い、いいのか?これって結構貴重なものなんじゃ……」 「わたしは全然…。じゃあ、朝の9時に入り口で待ち合わせでいいですか?」 「お、おうっ!」 女の子と二人きりで遊園地なんて、ぶっちゃけ俺の人生の中で最大規模のデートだ。なんかそう思うと緊張してくるな…。 いや、今まで妹との偽装デートしかしたことないけどもさ。 「それじゃあ、わたしそろそろ帰らなくちゃ。マネージャーさん、土曜日ですよ?忘れないでくださいね?」 「大丈夫だって!そんなすぐには忘れないから安心してくれ」 「はい!それじゃあマネージャーさん、お疲れ様でした!」 「そっちこそお疲れさん。またな~」 ブリジットを見送った後、俺はふと考えた。 そういえばブリジットと会うにしても、俺は『マネージャーさんスタイル』にしなきゃならんわけか。 でもな…。 スーツにグラサンにガチガチのオールバックで遊園地なんて絶対に浮くよな…。どうしたもんか…。 590 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 25 26.04 ID Mq31vBKI0 [5/15] こうして迎えた当日。 俺はブリジットとの約束通り、朝9時に某大型遊園地の入り口の前にやってきた。 悩んだ末、俺はスーツの名残を出そうと私服は黒っぽい色を基調としたシンプルなデザインのものをチョイス。 さらに髪形は『オールバック気味』ってレベルにしてグラサンは伊達メガネで代用…ってホントにこんなんで大丈夫なんだろうか? 我ながらなんか…変じゃねーか? 自分の格好に改めて疑問を抱きながらも、 今更後戻りは出来ないので、俺はこれ以上身なりを気にするのをやめてブリジットを探すことにした。 今日は休みの日だからか親子連れが目立つ。 周りをぐるーっと見た感じ、ブリジットはまだ現れていないようだった。 あの子は待ち合わせ時間に遅れるような子じゃないと思うんだが……もしかして何かあったのか? そういえばブリジットの私服ってあんま見たことないけど、どんなのなんだろう? …まさかアルファ・オメガのコスプレでは来ないだろうしな。 そう思って今度はゆっくり慎重に周りを見渡す。 すると…………。 ブロンドの髪をしていなかったらおそらく気がつかなかっただろう。 俺の目線の先には、見慣れたコスプレ衣装の水色ベースではなく、 明るいピンク色を基調としたとても可愛い格好をして、髪をお団子に結ったブリジットがここから少し離れた木の下のベンチに座っていた。 パッと見はとても小学生とは思えないが、よく見るとどこか少女のあどけない感じも醸し出しているようで……。 この、大人のようで子供のような不思議な外見と、純真そのものである中身がブリジットの魅力の一つなのかもしれないな。 不覚にも一瞬ドキッとさせられちまったよ。 いや、別に小学生相手に本気でときめいたわけじゃなくてだね、いつもとギャップがあったからであってだね……… …おっと。こんな呑気にしてる場合じゃねえ。 ブリジットを探してるうちに約束の9時を少し過ぎてしまっているではないか。 俺は小走りで待ち合わせ相手のもとに向かった。 「ブリジットちゃん……だよな?」 「は、はい…」 「ごめんな、ちょっと遅くなって。ブリジットちゃんの印象が変わってたから見つけるのに時間かかちゃってさ…。待たせちゃったか?」 「どなた……ですか?」 「…えっ?」 …あれ?これちょっとヤバいんじゃねーか? 『待たせちゃったか?』に対する王道的返し文句・『ううん、私も今着たとこ!』の代わりに俺を迎えたのは明らかな戸惑いの表情だった。 「あの、もしかして…マネージャーさん?…ですか?…それとももしかして……お兄…さん?」 案の定、俺の中途半端なスタイルは早速待ち合わせ相手を混乱させてしまったようだ…。 しかもなんかもう半分バレちゃってるし。 もうこうなったら仕方がねえか。これで今日一日ごまかせるほど俺は嘘が上手くないからな。 「…ちょっと……待っててくれないか?」 俺は近くのトイレに駆け込んだ。 そして鏡を見ながら大急ぎで髪型をいつもの『お兄さんスタイル』に戻し、伊達メガネを外して、再びブリジットの前に姿を見せた。 「な、何回も待たせちゃってごめんな………」 「やっぱり、お兄さんだったんですね?あれ?でもそれじゃあマネージャーさんは…?」 「ブリジットちゃん…実はこれにはワケがあってだな………」 俺はブリジットに全てを打ち明けた。 今まで変装してマネージャーになっていたこと、桐乃とは実は兄妹であるということ、全部だ。 デート開始前にこんなことを説明することになるなんて…。なんか非常に申し訳ない。 「…と、こういうわけだったんだ。今まで長い間隠しててごめんな。」 「いえ、わたしは別に…。やっぱり、マネージャーさんは優しい人です。お姉さんのためにそこまで…」 ブリジットは目をキラキラさせながら俺を見ている。 ちくしょう…。そ、そんな顔されたら……なんか照れちまうだろーが! 「あのさ、それで…このことは加奈子には言わないでおいてくれると助かるんだけど……」 「かなかなちゃんにはナイショ…?どうしてですか?」 「いやっ、その…と、とにかく言わないでくれっ!頼むっ!」 そうなってくると後々面倒なことに……。 俺は手を合わせてブリジットを拝んだ。 「じゃあこれは、わたしとマネージャーさん、二人だけのヒミツですね!?」 ブリジットはとても嬉しそうにこっちを見ながらニコッと笑った。 うっ!これが噂のキラースマイルか!?不覚にも一瞬ドキッとしちまったぜ。 なるほど、これなら確かにロリオタが熱狂するのはわかるかもしれん……いや、俺は違うぞ!? …でも、何でブリジットはあんなに嬉しそうなんだろう? まあいいか。とりあえず一山超えたな。桐乃にも後から報告しておかねえと。 「マネージャーさん、今日は一日よろしくお願いしますっ!」 「ああ、こちらこそ。」 開始前に色々あったが、ようやくここから、俺とブリジットの一日デートがスタートした。 591 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 27 26.56 ID Mq31vBKI0 [6/15] 受付を済ませて中に入ると、早速遊園地の定番が俺たちを出迎えてくれた。 「マネージャーさん、わたし…あれに乗りたいです!」 ブリジットが指差したのはでっかいメリーゴーランド。まあ、定番中の定番だよな。 最後に乗ったのいつだっけ?随分前のように思える。 他にもゾウとか色々動物がいたが、俺たちはこれまた定番の巨大な馬に二人乗りした。 ブリジットが前で俺が後ろだ。 知っての通り、メリーゴーランドってのは基本的にずっと円運動だ。しかもこれは上下に動いたりもしないタイプ。 うーん…なんつーかその……正直、高校生の俺には若干物足りないな。うん。 心なしか周りの客層も子供ばっかりな気がする。 まあブリジットは喜んで乗ってるみたいだからいいんだけどさ。 その時、どこからともなくすごくいい香りがしてきた。なんだかほどよく甘い…。 どっからだ?何の香りだ? ちょっと考えてから匂いの原因を嗅ぎつけて俺はハッとした。 ブリジットのブロンドの髪からだ! 一見単なる甘い香りのようだがほのかに刺激的で…嗅げば嗅ぐほど違った魅力を発見できる絶妙な香り……… …っていかんいかん!この状況でクンカするなんて完全に変態だろ! 俺は慌てて首を横に振った。 「マネージャーさん?」 おそるおそる前を見ると、ブリジットが不思議そうな顔でこっちを見ていた。 さっきまであんなに景色を楽しんでたはずなのにまさか振り向くとは! こいつはヤバイぞ…。 「いっ!?いや、何でもない!何でもないんだ…ちょっと虫が飛んできて……ハハ」 笑え笑え。自慢じゃないが俺は言い訳がドヘタクソだ! 果たして、今のでごまかせたんだろうか? 「あの…マネージャーさん……。」 「えっ!?ど、どうした?ブリジットちゃん」 まずい!やっぱバレてたか!? 「あの、えーと…今日は一応恋人だから……。 やっぱり、“ブリジットちゃん”じゃなくて、ちゃんと“ブリジット”って呼んでほしいんですっ…」 ふう。俺のクンカの件はバレてないようだな……って、今なんつった!? ブリジットを見ると、なんとなくこっちを向いてはいるがとても恥ずかしそうに視線をそらしている。 まあそりゃあ恥ずかしいよな。 それにしても『呼び捨てで呼んでくれ』なんて結構この子は本格主義なんだな…。 なんにせよ、ここは空気を読んで爽やかに快諾しよう。 「あ、ああ!そうだよな!気がつかなくてごめん。その……」 何でだろう?労力的には『ちゃん』を外すだけなのになんだか緊張する。 俺は軽く息を吸い込んだ。 「ブ、ブリジット。…これでいいか?」 俺の口から発された彼女の名前は、自分でもびっくりするくらい小さかった。 年下の女の子を呼び捨てで呼ぶだけなのにこんなにドキドキしちまうとは…。 悔しいが、自分が女の子の扱いに慣れていないと認めざるを得ない。 「あのぅ…」 「ど、どうした?」 …あれ?呼び方が気に入らなかったのかな? それともやっぱり俺に呼び捨てで呼ばれるのは違和感があるか? まあ、正直俺もだよ。全然慣れてねえしな。 「わ、わたしも…マネージャーさんのこと、名前で呼んでもいいですか?」 「ええっ!?」 俺はびっくりして大きな声を出してしまい、周りの親子から痛い視線を感じた。 なっ!?今度は俺を名前で呼びたいだとぉ!? この子はどこまで本格派なんだ?確かに恋人の呼び名が『マネージャーさん』じゃ変だけども。 でも、さすがにそれはちょっと恥ずかし「きょ、今日だけ!今日だけでいいんです!ダメ…ですか……?」 「い、いや!全然いいぜ!じゃあさ、俺のことは“京介”って呼んでくれ」 心の葛藤をいとも簡単に抑え、俺はいつのまにか反射的にOKを出していた。 どうも俺はブリジットにお願いされると弱いらしい。それも、顔を赤らめてお願いされると尚更な。 …いやいや。お前ら、頼むから変な誤解だけはやめてくれよ!?俺はそっちの人種じゃないからな! 「は、はい!ありがとうございます!きょ、きょうすけさん!」 ブリジットは嬉しそうな声で元気よく俺にお礼を言った。 あっ、俺の名前を言うときは少し恥ずかしそうにしてたかもしれない。 でも、やっぱり『さん』は付けるんだな…。まあそこもブリジットらしくてイイんだけどさ。 よし、今日はこの可愛らしいプリンセスにとことん付き合ってやるとするか! 592 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 29 26.66 ID Mq31vBKI0 [7/15] ちょっと稼働時間が長すぎるんじゃないかと思っていたメリーゴーランドがようやく止まり、 いよいよ俺たちは広い遊園地の中枢へと歩いていった。 「よーし、じゃあ次行こうぜ!次は何がいいんだ?ブリジット。」 「次は……あれ!あれに乗りたいです!きょうすけさん!」 こうして、メリーゴーランドを皮切りに俺たちは本格的に遊園地巡りを始めた。 数年ぶりのジェットコースターにビビって、乗車前から若干顔が引きつる俺。 「ぬおおぉぉぉぉぉ~!」なんて叫び声出してたのは多分俺だけだったよな…。 その隣で、「きゃあ~!」というありきたり過ぎる歓声をあげてはしゃぐブリジット。 う~ん、微笑ましいねえ。…俺には微笑むほどの余裕はなかったけどさ。 回転ブランコってのには初めて乗ったが、あれには吹き飛びそうになる錯覚に陥る独特のスリルがあるな…。 まあ途中からはそれが快感に思えてきたんだがな。慣れれば面白いもんだぜ。 しかし後ろから「きょうすけさ~ん」て呼ばれてた気がしたけど何にも反応出来なかったな……。 でもよ、さすがに回転中に後ろは向けないだろ!? だが、ゴーカートでは少しはいいとこ見せられたんじゃねえか?なんせガキの頃レースゲームで鍛えてたからな! 見事なドライビングテクニックを披露してブリジットから尊敬のまなざし(多分)を向けられ、俺は少し得意になった。 …久しぶりのバイキングの揺れで酔ってしまう、というヘタレアピールも忘れなかったが。 いやぁ~。それにしても懐かしい。 久しぶりに童心に帰った気分だよ。 ブリジットも楽しんでくれてるみたいで何よりだ。 そして、時間も丁度昼飯時になってきたので、俺たちは施設内の昼食コーナーで食事をとることにした。 ぶっちゃけ、昼食コーナーを甘く見てたよ。メニューも種類豊富で、そこら辺のファミレスにも負けてないレベルだ。 ここは食券を買うタイプか。でも、こんだけあると迷っちまうなぁ…。 ここでふと隣を見ると、ブリジットはメニューをじーっと見ながらカバンからメルルの顔型の財布を取り出そうとしていた。 もちろん、俺はそれを制止したさ。 男として、こんな小さい女の子に金払わせるわけにはいかねえだろ? いや、だから変な意味じゃないって!一般男性の立場としてだぞ!? 「ああ、いいよいいよ。俺が払うから。」 「ええっ!?」 「ほら、何が食べたい?好きなの選べよ。」 「でも…パパからお金ももらってるし……。」 「遠慮すんなよ。今日は一応デートなんだからさ。こういう時は男に甘えておくもんだぜ?」 「は、はい…。ありがとうございます…。」 なんだかまだものすごく遠慮してるみたいだけど、一応は俺に奢らせてくれるようだ。 もしかして、親戚以外の男にメシ奢ってもらうの初めてなのかな? それともイギリスの文化では日常茶飯事だったりするんだろうか?わかんねーけど。 「んで、何にするんだ?俺は……オムライスにしようかな?」 「わたしもっ!わたしも…オムライスがいいっ…です……。」 顔赤くして俯いちゃって……その………か、可愛いじゃねーか。 誤解すんなよ?ここで言う『可愛い』は小動物的可愛さだ。断じて変な意味じゃないからな! でもさ、こういう反応してくれると俺も自腹を切った甲斐があるってもんだよ。 593 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 30 47.11 ID Mq31vBKI0 [8/15] 「…ところでブリジット。今更だけど…お前は俺と一緒にいて大丈夫なのか?」 俺はスプーンでオムライスを口に運びながら、ふと疑問をぶつけてみた。 「えっ?どういう意味ですか?」 「ほら、ブリジットは今や売れっ子タレントなわけだし。 それにさ、俺なんかと一緒にいるところを学校の友達とかに見られたら変な誤解されちゃうんじゃ…。 ぶっちゃけその……嫌だったりしないか?」 正直、これは偽装デートを頼まれた時から思っていたことだ。 確かにオファーしたのはブリジットの方だが、実際無理してるんじゃ…。 だってよ……その…自分で言うのも悲しいけどさ………お、俺だぜ!?残念ながらお世辞にも冴えてるとは言いがたいしさ。 それにブリジットは絶対学校でもモテてそうだし、 『俺なんかじゃなくても一緒に遊園地行ってくれるボーイフレンドは山ほどいたんじゃないのか?』 と続けようと思ったがやめておいた。これ以上自分を卑下するのはよしておこう。 しかし、ブリジットの口から出たのは意外な言葉だった。 「わたし……わたし、きょうすけさんとがよかったんです!」 「……えっ?俺が?」 一瞬、心の声を読まれたのかと思ってドキッとした。 「わたしは、きょうすけさんと一緒にいるところを友達とか他の人に見られても全然嫌なんかじゃありませんっ!」 こんなに主張の激しいブリジットは初めて見た。ちょっと怒っているようにも見える。 「ご、ごめん…変なこと聞いて……。でも、そんなつもりじゃ………」 驚いたのと申し訳ないのとで自然と声が小さくなってしまう。俺は本当にバカだ。こんなこと聞いても何にもならないのに。 「…それとも……きょうすけさんは私に付き合うの嫌ですか?め、迷惑……でしたか?」 力ない俺の謝罪を聞くと一転、ブリジットは俯いてとても悲しそうな声になった。 それを見ているとなんだかいたたまれない気分になってくる。 「そんなことない!…俺も、今日はブリジットと遊園地で遊べてすごく楽しいよ! …ほら、俺くらいの年だとなかなかこんなとこ来る機会もないだろ? なんか今日は久しぶりにリラックス出来てるって感じするぜ!…ブリジット、誘ってくれてホントありがとな。」 これはもちろん本音だ。 だからこそ、俺はブリジットの誤解を解きたくて必死だった。 「…は、はい!よかった…。わたしも、わたしもとっても楽しいです!きょうすけさん!」 俺が素直な気持ちをぶつけるとまたもやブリジットの表情は一転。今度はとってもいい笑顔になってくれた。 よかった…。俺の気持ちは届いてくれたみたいだ。 ブリジットは子供らしく表情が豊かだが、やっぱりこの子には笑顔が一番似合う。 この時は、この笑顔のためなら何でもしてやりたいとさえ思ったね。 さて。ブリジットの機嫌も直って一安心したところで、俺はふと考えた。 そういえばさっきの言葉は……? 『わたしは、きょうすけさんと一緒にいるところを友達とか他の人に見られても全然嫌なんかじゃありませんっ!』 俺は女の子にこんなこと言われたの初めてかもしれない。っていうか初めてだ。 これって、好意的に見られてると思ってもいい………のかな? …って、俺はさっきから何考えてるんだ!?何でこんな小さい子相手にマジなテンションになってるんだよ!? 俺は照れ隠しの意も込めて、必要以上に大声で元気よく言った。 「よーし!メシも食ったしそろそろ移動するかぁ!ブリジット、次はどこ行きたいんだ?」 594 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 32 41.54 ID Mq31vBKI0 [9/15] その後も俺たちは色々なとこをまわった。 お化け屋敷ってさ、『ここら辺で来るっ!』って思っててもビクついちまうんだよな…。 ぶっちゃけ効果音の大きさにビックリすることが多い気もするが。 そんな中、ブリジットはずっと俺の服の袖を掴んでいた。 「きょうすけさん、置いていかないでくださいね…」 なーんてあの心配そうな顔で言われた時は、思わずお化けから守ってやりたくなっちゃったね。 …いや、だからお前ら、変な目で見るなって言ってるだろ!これは、この感情は…えーと……と、とにかく違うんだよ! あとはあれだな。ジェットコースターのボート版みたいなヤツ。『急流すべり』だっけ? なぜか俺だけ尋常じゃない量の水を被ったんだが…。またブリジットにハンカチ貸してもらっちゃったよ。 ミニボールバズーカで的当てするヤツなんかは結構ハマる。ミラクルショット連発したブリジットにスコアは負けちゃったけど。 そして、コーヒーカップの予想外の高速回転に少し参っちまった俺はベンチに座って休ませてもらうことにした。 ブリジットには大変申し訳ないと思ったが、「わたしも疲れてたからちょうどよかったです!」だってさ。 …この子にはいつまでもこのままでいて欲しい。一生汚れないでいて欲しい。これが切実な俺の願いだ。 それにしても、なんか遊んでるはずなのに意外と疲れるもんだなぁ…。 俺もそろそろオッサンの仲間入りってことか? …なーんてね。まだまだ俺はそんな弱音は吐かないぜ。 だってブリジットを見てみろよ!俺より全然はしゃいでるのに顔色一つ………ってあれ?ブリジットがいねえ!?どこ行った!? 「きょうすけさ~ん!」 俺が辺りをきょろきょろ見渡し始めたその時、ブリジットが両手にソフトクリームを持ちながらこっちに走ってきた。 「おいおい、そんなに走って転んじまったら大変だぞ?…って、それは?」 「さっきは、きょうすけさんがオムライスをご馳走してくれたから…今度はわたしからご馳走します!」 な、な、な、なんて優しい子なんだ! もう俺、嬉しくて泣いちゃいそうだよ。 これが桐乃だったらきっとソフトクリームもパシって俺に買わせるに違いねえ…。 ここは素直に相手の好意に甘えておこう。つーか普通に嬉しい。 「なんか気ぃ使わせちゃって悪いなぁ……でもありがとよ。じゃあ遠慮なくご馳走になるぜ。ブリジットはホントにいい子だな。」 「えへへ………。あの…きょうすけさんはどっちの味が好きですか?」 右手にバニラソフト・左手にチョコソフトを持って照れた様子のブリジットが訊いてくる。 「うーんと……じゃあ、バニラもらっていいかな?」 そう言って俺は右手からバニラソフトを受け取った。 まあ俺自身バニラ味は好きだし、女の子はチョコの方が好きなんじゃないかと思ったからだ。 それにしても、自分じゃなくてまず俺の好みを優先にしてくれるなんて、この子はどこまで出来た子なんだろう。 「…うん!甘くて美味しいな」 「はい!とっても!」 ああ、この子と一緒にいるとホントに癒されるなぁ…・。 なんかこいつと一緒にいると楽しくて落ち着くっていうか…。 ついさっきまでここに二人で来ている目的すら忘れてたよ。 まるでガキみたいに『こっから帰りたくない』とか思っちまうぜ。 ――あれ? もしかして、この気持ちは…。も、もしかして……… …っていやいや、そんなわけないだろ。 俺はロリコンじゃねーぞ? いくらなんでも俺がブリジットに…… 595 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 33 53.26 ID Mq31vBKI0 [10/15] 「あの…きょうすけさん……。」 「!?」 完全に自分のだけの世界に入っていたところで不意に声をかけられて俺はビクッとした。 まずい。俺は多分今すげえ変な顔になってたに違いない。 「その…バニラ味………一口だけもらってもいいですか?」 「えっ?」 ブリジットは俺の食いかけのバニラソフトを指差しながら少し恥ずかしそうに言った。 もちろん俺はさっきとは違う意味でビクッとしたさ。 これってアリなのか!?大丈夫なのか!? もしかしたらイギリスでは自然なことなのかもしれないがここは日本だぞ!? こ、こ、これは完全に、その…か、間接キスってことになるんだよな!? だがここで変に動揺を見せればまたブリジットに変な顔されるかもしれん…。 そうか、今の小学生はきっとそんなの気にしないんだ!そうに違いない! それに頼んでるのは向こうだ。だからその……………いいよな?い、いいんだよな!? 「お、おう!いい…ぜ…。」 そう言って右隣に座るブリジットの方にバニラソフトを差し出す。恥ずかしくて見られないから顔は逸らしたままで。 「は、はい!じゃあ、いただきますっ……」 バニラソフトを持っている右手に少し力がかかった。 どうやら今、ブリジットがパクッといったらしい。俺はまだ恥ずかしくて隣を見れない。 「…おいしい……ありがとうございますっ………」 感想が聞こえてきてようやくブリジットの方を向くことが出来た。 自分から申し出たはずなのに、向こうも相当動揺しているようだ。 それは思わず俺のアイスをせがんでしまった恥ずかしさなのか、それとも俺とその……かっ、間接キスした恥ずかしさなのかはわからないが。 「あのぅ……」 「な、なんだ?」 「よかったら、その…わ、わたしのもっ………」 そう言ってさっきの俺と同じく、顔を赤らめて目を逸らしながらチョコソフトを差し出してくるブリジット。 「え゛!?い、いや!お、俺はいいよ!ほら、早く食べないとお前のアイス溶けかかってきちゃってるぜ!?」 そ、それはさすがに無理だろ!!!!! 溶けかかっていたのはブリジットのチョコソフトだけじゃない。 キザな言い方かもしれないが、俺の顔も恥ずかしくて溶けちゃいそうなくらい熱かった。 そう言いながら自分のバニラソフトも溶けてきていることに気がつき、 急いで、そしてかなり緊張しながらついさっきブリジットが口をつけたばかりのバニラソフトを口に運ぶ。 味は……なんとなく、さっきより甘くなったような気がする……… …って俺は何言ってんだよ!?相手は小学生だぞ!?なんつーキモいコメントしてんだ!!自重しろ、俺!!! ――でも、なんだろうな。一向に止まらないこの胸のドキドキは。 596 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 35 53.48 ID Mq31vBKI0 [11/15] 俺たちは恥ずかしさから少し互いに気まずくなりながらも遊園地巡りを再開した。 …ブリジット、お前って意外とジェットコースター好きなんだな…。これ、さっきも乗らなかったか? よくわからない動物の着ぐるみと一緒に写真を撮ったりもした。 これはこの遊園地オリジナルのキャラなんだろうか?どっかで見たことあるようなデザインだな…。まあ、深く詮索するのはやめておくか。 そんなこんなで、二人で散々道に迷ってようやくミラーハウスから出られた頃には辺りはすっかり薄暗くなってきていた。 夕日が綺麗だ。 「そろそろ帰ろうか?あんまり遅くなったらお前んちの親にも心配かけちゃうかもしれないし…」 「は、はい…。そう…ですね……。」 ブリジットはちょっぴり残念そうだが仕方ねえ。 小学生の娘が遠出してなかなか帰って来なかったらきっと親御さんはたいそう不安だろう。 「じゃ、じゃあ…最後にあれに乗ってもいいですか?」 さて、本日すっかりお馴染みになった、ブリジットの指差しのラストは……? 「観覧車かぁ…。」 観覧車と言えば大定番だよなぁ。俺の中では遊園地って言われてまず思い浮かべるのがこれだ。 それにしてもこりゃ随分と大型サイズだな…。一周するまでどんくらい……………ってなんだと!? 俺を驚かせたのは『観覧車』の看板のすぐ下に、ピンクの可愛い字体で書かれた文字だ。 『カップルシート』 確かに言われてみれば、ゴンドラ一台一台やけにハートをかたどったデザインだけども。 というよりカップル専用の観覧車ってなんだよ!? 俺が慌てて隣を見ると、ブリジットも固まっていた。 どうやらあっちも気がついてなかったみたいだな…。いや、まさかこんな観覧車があるなんて普通思わないだろ。 もう本日一番恥ずかしそうにしちゃって声も出ないようだ。 つーかすごく気まずい!この空気をなんとかしなくては…。 「アハハ…まさかこんなのがあるなんてな……。お、俺も初めて見たよ!カップルシートの観覧車なんてさ!」 我ながらすごくわざとらしいテンションだ。 何で俺はこういう時うまい切り替えしが出来ないんだ!?最近は自分の中でツッコミキャラが確立してきたと思ってたのによ…。 真壁君だったらもうちょい上手いこと言えるんだろうか? とにかくこのまま続けるしかねえか…。ブリジットはまだ固まったままだし…。 「いや~、今の遊園地にはこ、こんなのあるんだな!?じゃあ、普通の観覧車探しに……「い、今だったら!」………へ?」 「今だったら空いてるから……。きょ、きょうすけさんは、わたしと乗るの、い、嫌ですか?」 「い、いやっ!別に嫌じゃないけど……」 「じゃ、じゃあ!………わたし、きょうすけさんと一緒にあれに乗りたいですっ!」 597 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 37 17.76 ID Mq31vBKI0 [12/15] こうして俺たちは今、カップルオンリーの短い行列に並んでいる。 周りの雰囲気が何だか熱気を帯びていてものすごく気恥ずかしい。 ブリジットは何でそこまでして観覧車に乗りたいんだろうか…? も、もしかして……まだ帰りたくないから?そ、その…まだ俺と一緒にいたいから、だったりして………。 …なっ、なななななな!俺は今なんつーイタい妄想を……。相手は10歳の女の子だぞっ!? いやっ、でもっ!さっき、「『きょうすけさんと一緒に』乗りたい」って………。 あーもう!俺はどうしちゃったんだよ!!何でブリジットのことを考えるとこんなに落ち着かないんだよ!!! つか、そもそも俺たちが恋人って言って通用するんだろうか? いや、確かにそんなこと言ったら今日の企画自体成立しないけどさ、係の人にもどんな顔されるか………。 そんな俺の心配をよそに俺たちの順番がきた。 俺は必死によさげな言い訳を考えていた最中だったのだが、 係員さんは笑顔で「楽しんできてください」とだけ言ってあっさり誘導してくれた。 そりゃ客の余計なことは詮索はしないだろうけど、特に変な顔はされてなかったよな…? もしかしてその……………俺たちって意外とお似合いだったりするの…かな? ま、まあ……そんなに…悪い気はしない…かな………。 「キ、キレイな、夕日だな…」 「は、はい…」 いざ乗ってみたはいいが、『二人っきりで観覧車』というシチュエーションで何を話せばいいか全くわからない。 反対側の席に座っているブリジットもそれは同じみたいで、この後は長い沈黙が続いた。 俺たちの乗ったゴンドラもそろそろ頂上に差し掛かろうとしていた。 それにしても随分ゆっくりだなこの観覧車は………。 そうか。きっとカップルが長くイチャつけるようにスピードもゆっくりなんだろう。なるほどねえ…。 このゴンドラが地上に着いたら偽装デートは終わり。つまり、俺とブリジットの“恋人”としての一日が終わる。 そう思うとなんかちょっと名残惜しいような気もしてくるぜ。 ――もうちょっとだけ、ゴンドラのスピード遅くならねえかな? 俺がそんな事をぼんやり考えていると… 598 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 39 27.15 ID Mq31vBKI0 [13/15] 「きょうすけさん、今日は私にお付き合いしてくださってありがとうございました。」 ブリジットが先に沈黙を破ってくれた。 ごめんな…もし俺が赤城くらい気さくだったら気まずくならずに済んだのに………。 「いやいや、こちらこそ。誘ってくれてありがとな。楽しかったぜ。」 白状するとこの時、俺は完全に今日ここに来た目的を忘れてちまってたよ。 …しょうがないだろ?そのくらい素で楽しかったんだよ。 「わたしも今日はきょうすけさんと一緒にいられて、すごくすごく楽しかったです! だから…あのぅ……また今度、もう一回私とお付き合いしてください!」 丁寧にお辞儀してくれるブリジット。 ブリジットは小さいけど礼儀をちゃんとわきまえてるから、これはもしかしたら社交辞令かもしれない。 でも、なんかすごく嬉しい。 「ああ。俺でよかったら、何度でも付き合うよ。」 もしも、もしもだぞ!? もしもその…今度は俺から誘ったら………この子はどんな顔をするだろうか? 「きょうすけさん、あの…ちょっと……」 不意に、ブリジットに手招きされた。目を逸らしながら何だかモジモジしている。 「ん?」 何だろう?内緒話か? 俺は言われるがままブリジットに近付き、耳を傾けた。何となく自分の鼓動が早まっているのがわかる。 「も、もうちょっと…」 「こ、こうか?」 この時点で、俺の顔の高さはほぼ完全にブリジットの顔の高さと等しくなった。 ちゅっ…。 その時、不意に俺の頬になんか柔らかいものが触れたんだ。 最初にメリーゴーランドで嗅いだ、あの甘くてほのかに刺激的な香りと一緒に―― あまりに突然で、何が起こったのか理解するのに少し時間がかかった。 「ブ、ブ、ブ、ブリジット!?」 「今日だけはその…わ、わたしたちは恋人だから………。」 俺は今まで周りの目ばっかり気にしてた。 「ブリジットは小学生だから」だの「世間的にはロリコンだぞ」だの。 無意識のうちに自分の気持ちに嘘をついてたんだ。 でもその瞬間、俺は確信した。 もう否定はできねえ。 これは…。この気持ちは…。 俺はやっぱり、ブリジットに―― 「ブリジット。俺は、俺は――」 「きょ、きょうすけさんっ」 まだ若干の迷いを含んだ俺の言葉は、ブリジットに簡単に遮られた。 「お願いが……ありますっ………」 ブリジットの声には小さいながらも力がこもっていて、少し緊張しているようにも見える。 その…なんというか…………………すごく可愛い。 「わたしが…」 夕日でカモフラージュされているが、その顔は夕焼けに負けないくらい真っ赤になっているのがわかる。 さらにブリジットは続けた。 「わたしが、もうちょっと大きくなったら……」 その口調と様子からは、つたないがすごく勇気を出して話しているのが伝わってきた。 そんなブリジットを見て、俺もようやく決心がついたんだ。 「わたしが、もうちょっと大人になったら………わたしと――」 「ブリジット!」 今度は、俺がブリジットの言葉を遮った。男として、その続きは女の子に言わせちゃいけない気がしたからだ。 いや、むしろ俺が自分の口から言いたかった。 ロリコン上等!笑いたきゃ笑え。 俺の心にはもう何の迷いもない。 「ブリジット。俺もお前に大事なお願いがあるんだ。俺は、お前が大人になるまでなんて待ってられねえ。今すぐに、俺と――」 (終わり) 599 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage] 投稿日:2011/03/16(水) 00 40 05.26 ID Mq31vBKI0 [14/15] (おまけ) そういえばすっかり忘れてたけど、結局ストーカーの件は何だったんだ…? もしかしてストーカーなんて最初からいなかったんじゃ…。 まさかブリジットが俺とデートするために嘘を? …ってそんなわけねーか。 俺の可愛い彼女に限ってそんなことするわけねえ。 きっとあいつの勘違いだったんだろうな。急に忙しくなった芸能活動で疲れもあったんだろう。 …だが数日後、コンビニで何気なく目にした週刊誌の表紙に俺の目は釘付けとなった。 『本誌独占スクープ!あのロリコスプレイヤー、ブリジット・エヴァンスちゃんに超年上恋人発覚!遊園地デートを激写!』 あいつの言ってた『誰かの視線を感じる』ってまさか…。 …なあ、ブリジット。 俺たちなら乗り越えられる………よな? (続かないよ)
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[ verse1 / Naoki ] 泣き疲れた 街は歩けど悪路、人気は無い。 クラクション耳を刺す ソイツが俺の存在の位置侵す 全部仮初、どれもハリボテ 欲張るだけのマリオネット 東の空はバイオレット 交わり無き紙とペン 今こそこの罪と罰抱いて 書き出す「What s my name?」 例えば「ラヴ≒クラシック」、例えば「you」 例えば「時雨」 あの日のREPLAY 生まれ育ちもFucik n JAP そのハンディキャップからさんぴんCAMP 闇へ繰り出すadidas Boys be ambitious! Go!!!!!!!!! [ hook ] sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景 sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景 [ verse2 / 委員長 ] マイク握り約5年半 常にBreakBeatsに費やした時間 クソ喰らってる鼻から だからこそ見返すんだこうやって 喉から伝わってくる声 音に乗せ 耳に放り込むんだ You Know Say? 優等生だったら用は無ぇ 所詮俺は先人のモノマネか? 胸にまだ降ってるんだ時雨 はしくれだが捨てるぜ恥くれぇ はじくぜレコードの溝で待ち伏せ 盗んだ言葉に価値なんか無ぇ 貰ったボロい安モンのマイクロフォン 未だに何も出来ずに立ち往生 これで紡ぎ出すMy story 仲間たちと吐き出すんだ B-Y Shit!! [ hook ] sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景 sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景 [ verse3 / FATIGUE ] 知らずなってたリスナーの奴隷 思い出したいつかの光景 自分が聴きたい曲が作りたくて 思い50音に崩し託せ 誰が先高み行こうが アマのてっぺん探し行こうか 他のやり方が賢しかろうが あの日叩いた音楽の扉 時がいくら経とうが 変わらない緊張度 こんなライバル達と色とりどりのビロード上に乗り込む 蜃気楼も いつか触れられる気がする 安く売り渡すつもりもない 売値ゼロだがクオリティ高い 言わす為に辛い&TRY これが素人の三文プライド [ hook ] sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景 sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景 [ hook ] sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景 sayonara sayonara 俺の嫌いなところだけ いいとこ残し、今過去からNew day 掴みたい、いつか見たい風景
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ロリッ!幼女だらけのクリスマスパーティー ~ボインもあるよ!~(後編)◆Vj6e1anjAc ◆ あれ…… 一体、何が起こったんだろう…… 何だかよく分からないけど、胸がすごく痛い。 すぅっと力が抜けていって、身体を起こすこともできない。 おかしいな。 一体、どうしちゃったのかな。 早く立たなきゃいけないのに、身体がぴくりとも動かない。 エリオ君を助けなきゃいけないのに、身体が起きたくないみたい。 ――キャロ。 エリオ、君……? よかった……また、会いに来てくれたんだね…… 待ってて、エリオ君。もう少しで、また一緒になれるから。 このゆりかごでみんな殺せば、生き返らせてあげられるから。 ――もうやめるんだ。こんなことをしちゃいけない。 ……え……? 何で……? どうして、急にそんなことを言うの? 私のしたいようにすればいいって、エリオ君は言ってくれたじゃない。 なのに、何で……そんなことを……? ――確かに、そう言ったかもしれない……でも、これは本当にキャロの望んでることなの? おかしなことを言うんだね、エリオ君。 私はのぞんで殺し合いに乗ったんだよ? 私はエリオ君のためなら、他の人を殺してもいいって、自分からそうおもったんだよ? ――なら、何故……君は今、泣いているの? これは……たぶん、胸が痛いから。 私の目が涙でかすんでるのは、胸がきゅうに痛んだから…… ――そうじゃない。君はルーを殺した時から、ずっと涙を流していた。 こんなことをしたくなかった、殺したくなんてなかった…… 実際に人を殺しちゃった瞬間に、自分でも気付かないうちに、君はそう思って、泣いてたんだよ。 ……? よく、分かんない。 エリオ君のいってること、むずかしくて、よく分からないよ。 ――僕も君の涙は見たくない。だから、もう休むんだ。もう、無理をしなくていいんだよ。 ……まぁ、いいや。 やっと、またあえたんだもんね。 ずっと会いたかった、エリオ君に。 なんだか、ねむくなっちゃった。 エリオ君は、もういなくなったりしないよね? 私をおいていっちゃったりしないよね? あんしんして、ねちゃってもいいんだよね? ――大丈夫。もう、大丈夫だから。もう僕は、どこにも行ったりしないから。 よかった……やっと、ゆっくりやすめる…… えへへ……あんしんしたら、よけいにねむくなっちゃった。 ありがとう、エリオ君。 いっしょにいるっていってくれて。 わたしといっしょにいてくれて。 ――僕は、ここにいるから。 だいすきだよ……エリオくん―― 【キャロ・ル・ルシエ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】 ◆ 「やっ、た……」 蚊の哭くような掠れ声で。 全てを傍観していたフェイト・T・ハラオウンは、1人満足げに呟いていた。 あのルーちゃんなる少女を目撃した瞬間から、何もかもが彼女の思うままに進んでいた。 腕を切り落とされたこの身では、キャロとまともに戦えない。 ならば彼女とぶつけ合わせて、生き残った方を殺せばいい。 幸いあれから時間が経っただけあって、一発分の弾丸を撃つだけの魔力は回復していた。 それを確実に命中させるために、この瞬間を待ち続けた。 案外一方的な勝負になってしまった時には、さすがにもう駄目かとも思ったが、上手いこと警戒を解いてくれたことが幸いした。 ああ、それでももう駄目なようだ。 がちゃり、とオーバーフラッグを取り落とす。 魔力はちゃんと回復したが、体力はこれっぽっちも残っていない。 ちゃんと止血をしておけばよかったと、今頃になって気付く辺り、もう自分は終わりなのだろう。 生き残るための戦いの果てに、無理をして命を落とすなど、本末転倒もいいところではないか。 それでも、最後に残された力を振り絞り、這うようにして歩みを進める。 ふらふらとよろめき、血の雫の道を作りながら。 黒服のミンチを通り過ぎた辺りで、遂に両足が動かなくなった。 どさり、と倒れたのろまな身体を、左腕だけで引きずった。 胸を撃たれた死体の脇を、芋虫のようにして進んでいく。 「ん……」 光り輝く宝石の向こうで、微かに声が漏れていた。 震える瞼の向こうには、新緑の色と烈火の色。 グリーンとレッドのオッドアイが、柔らかな金髪を揺らして開く。 「ひっ……」 びくり、と身体を震わせる。 まぁ、普通はそうなんだろうな。 傍らには風穴の空いたキャロの死体、向こうにはぐちゃぐちゃの肉塊になったルーテシア。 普通なら、誰もが嫌悪して当然の惨状。 それでも平然としているのだから、いい加減自分の感覚も麻痺してきたと見て間違いない。 「……フェイト、ママ……?」 そう呼ばれて、我に返った。 自分よりも年下のこの少女は、ようやく自分の存在に気付いたらしい。 言うことを聞かぬ首を強引に持ち上げ、顔と顔とを向き合わせる。 「やっぱり……君が、ヴィヴィオなんだね……」 彼女のことは聞いていた。 このヴィヴィオという娘のことは、生前のキャロから聞かされていた。 未来のなのはが養子として引き取り、彼女と自分をママと呼び慕う少女。 過酷な運命を辿った先に、彼女と深い絆で結ばれた少女。 それが、ヴィヴィオという娘だった。 「待って、て……今……外す、から……」 手探りで玉座を弄り、拘束を解く。 身体を固定していた手枷が、かしゃんと音を立てて解除される。 これでヴィヴィオは自由だ。 身を縛る枷もない。命を狙う敵もいない。 心残りがあるとすれば、キャロが最後に施した処置だ。 何をしたかは知らないが、あれはさすがに戻せない。もはや、時間が残されていない。 「フェイトママ……どうしたの……? どこか、痛いの……?」 「うん……多分、私は……もう……死んじゃう、から……」 そうだ。 ここまでに自分は血を流しすぎた。 もはやこの命は風前の灯火。残り数分ともたず消えるだろう。 「そんな……やだ、やだよフェイトママ! せっかく……せっかく会えたのに……!」 ああ、嬉しいな、と。 不謹慎かもしれないが、そう思えた。 こんなことになってなお、自分を求めてくれる人がいる。 こんな空虚な自分のために、涙を流してくれる人がいる。 こんな人殺しの命を、惜しんでくれる人がいるのだ。 「最後に、1つ……お願い、したい……ことが……あるんだ……」 まだくたばるわけにはいかない。 まだ意識を手放すには早い。 最後の力を出しきった身体から、更に力捻り出す。 魔力が生命力に変わるなら、それを使ったって構わない。 「私のっ、こと……嫌いに……ならないで、ほしいんだ…… 私は、なのはを助けたくて……人を、殺しちゃった…… 許されないって、分かってても……独りで……いるのが……耐えられ、なかった……」 言えば嫌われるかもしれない。 幻滅され、嫌悪されてしまうかもしれない。 フェイトママを信じていたヴィヴィオを、裏切ることになるだろう。 「わがまま、だってことは……分かってる…… でも……私の、こと……こんなに、悪い私でも……こんなに……弱い、私でも……嫌いに……ならないで…… 誰からも、愛されなくて……誰からも嫌われて、死ぬなんて……そんなの……寂しすぎるから……」 それでも。 だとしても。 言わずに死ぬことはできなかった。 こんな小さな子を騙して、聖人君子のふりをして死ぬなんてことは、もっと耐えられなかったから。 ああ、分かっている。 これも所詮は自分のためだ。 最期まで自分可愛さに、懺悔することしかできなかったのだ。 「嫌わないよ……フェイトママを嫌いになんて、なれないよ……! だから……だから、死なないでっ!」 ああ、もうそれだけで十分だ。 一体その一言で、どれだけ救われたことだろうか。 これでもう安心して逝ける。 死の恐怖とだって向き合うことができる。 何者でもないあやふやな存在でなく、フェイト・T・ハラオウンとして死ぬことができる。 世界でたった独りになったと思っていた。 それでも、自分は独りじゃなかった。 こんなに愛してくれる人に、自分は看取ってもらえるのだ。 こんなに幸せな気持ちで、自分はなのは達の元へと旅立てるのだ。 「ありが、とう……」 できるなら、もう泣かないでほしい。 自分を愛してくれる人が悲しむ顔は見たくない。 その涙を拭いたくて、重い左手を持ち上げる。 「最期に……会え、て……」 本当に――よかった。 「フェイトママァァァァァァァ――――――ッ!!!」 【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA s 死亡確認】 【残り:30人】 ◆ 意識を取り戻した瞬間、最初に知覚したものは、見覚えのある天井だった。 続いて両手が動かないことに気付き、目の前にレリックがあることに気付く。 何故、私はまたここにいるのだろう。 何故、あの聖王のゆりかごにいるのだろう。 昔の夢でも見ているのだろうか。 愛するママと、本当の家族になった瞬間の夢を、今まさに見ているのだろうか。 しかしそんな考えは、充満した鉄の臭いに断ち切られた。 機動六課のキャロ・ル・ルシエが、背中に穴を空けて死んでいる。 自分をさらった少女の身体が、ぐちゃぐちゃのひき肉みたいになっている。 そして――死んでしまったはずのフェイトママが、腕から血を流して苦しんでいた。 目の前にいたフェイトママは、何故か小さな子供のようになっていた。 どうしてそんなことになってしまったのか。確かにそれは気になった。 だが、重要なのはそこではなく、彼女の命が消えようとしていること。 そして数分と経たぬうちに、フェイトママは事切れた。 この目の涙を拭うこともできず、命を落としてしまったのだ。 もう、何を叫んだかも分からない。 ひたすらにフェイトママの名を叫んでいただけなのかもしれない。 ただひたすらに悲しくて、ただひたすらに苦しかった。 やがて胸に沸き上がるのは、かつて経験した激情の奔流。 変わっていく。 身体と心が、変わっていく。 抑えきれぬ感情と共に、身体を駆け巡った凄まじいエネルギー。 それがいけないことだとは分かっていた。 それを取り込んでしまった結果、なのはママを傷つけたことも覚えていた。 この力は殺戮を呼ぶ。 かつて古代ベルカの地を、究極の闇の淵へと落とした、凄まじき戦士の力が蘇る。 また、大勢の人々を傷つけてしまう。 それでも。 そうだと分かっていても。 もう、拒むことはできなかった。 拒む理由が見つからなかった。 今度は自ら望んで、なのはママを裏切ってしまった。 そうして私は――この怒りと憎しみを、受け入れた。 ◆ コンシデレーション・コンソール。 特定の条件下を満たした対象の自我を奪い、怒りや悲しみの感情を増幅。 情動のバランスを欠いた人造魔導師を暴走させ、自己の生存を度外視した破壊活動を強要するための技術である。 かつてルーテシアを狂わせ、意のままに操った悪魔の技術は、今まさに古代の聖王へと向けられていた。 幼く小さな娘の姿は、もはやどこにも残されていない。 巨大戦艦の玉座に立つのは、美貌と豊満な肢体を持ち合わせた1人の女性。 金の長髪をサイドポニーにし、しなやかなスタイルを黒の騎士甲冑に包み。 その双眸に宿すのは、緑と赤の危険な光。 聖王ヴィヴィオ、遂にここに覚醒す。 世界に究極の闇すらもたらす、凄まじき戦士の再誕だ。 「………」 金のポニーテールを揺らし、恐怖の聖王が歩みを進める。 堂々とした立ち振舞いには、あどけない童女の面影はない。 存在そのものがプレッシャーの塊。下手に触れようものなら、即座に圧殺されんばかりの圧倒的存在感。 ぐい、と。 何かに導かれるようにして。 さぞ大事そうにキャロが抱いていた球体を、強引にその手から引ったくった。 「許さない……」 ぽつり、と呟く。 かっ、と発光。 稲妻と闇色に染まる憑神鎌(スケィス)が、一瞬にして臨戦態勢へ移行。 心に虚がいるのなら、とっくに条件は満たしている。 心の力がいるのなら、この憤怒と憎悪を刃としよう。 「なのはママとフェイトママを傷つける人は……もう絶対に許さない!」 復讐だ。 この身を突き動かすのはその一念だ。 もはや許しておくわけにはいかない。 自分の大切なものを奪うというのなら、ぶち殺してでも止めてみせる。 誰も手出しができないように、1人残らずぶち殺してやる。 かつてのゆりかご攻防戦の折、クアットロに洗脳されたヴィヴィオは、一時的にそれまでの記憶を喪失していた。 その方がまだよかったのかもしれない。 殺し合いという状況が飲み込めないままに、大人しくしていた方がよかったのかもしれない。 されど、今は違う。 それでは面白くないと踏んだ主催者側が、記憶喪失の措置を無効化する仕掛けを組んだのだろうか。 今のヴィヴィオには、確固たる戦う理由がある。 記憶に残る愛する母を、血に染まってでも救う覚悟が。 沸き上がる怒りと憎しみに従い、母の敵を皆殺しにする意志が。 「みんな、みんな……殺してやるッ!!」 かつり、かつりと歩き出して、聖王は玉座の間を後にした。 先ほどゆりかごを起動させようとはしたが、その時謎のエラーが発生し、起動シークエンスが中断された。 死んだ人間の数が足りないのか、はたまた特定の時間を過ぎる必要があるのか。 いずれにせよ、まだ時期ではないということなのだろう。 であれば、動かぬ居城に用はない。 自ら戦場へとうって出て、直接標的を抹殺する。 古代の聖王と、古代の刃鎌。 最強にして禁断の組み合わせが、今まさに野へと解き放たれた。 【1日目・夕方】 【I-5/聖王のゆりかご・玉座の間】 【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、聖王モード、洗脳下による激しい怒り 【装備】レリック(ルーテシアの体内にあったもの・シリアルナンバー不明・ヴィヴィオと融合している)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning、 【道具】支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、 ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:ママの敵を皆殺しにする 1.なのはママとフェイトママを殺した人は優先的に殺す 2.頃合を見て、再びゆりかごを動かすために戻ってくる 【備考】 ※浅倉は襲い掛かって来た矢車(名前は知らない)から自分を救ってくれたヒーローだと思っています。 ※浅倉をまだ信頼しており、殴りかかったのは何か理由があるのだと思っています。 ※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道を助けてくれるいい人だと思っています。 ※クラールヴィントは浅倉を警戒しています。 ※ヴィヴィオの身体に適合しないレリックと融合しました。どのような弊害が生じるかは、後続の書き手さんにお任せします。 ◆ 最初に入ってきたルーテシアは、キャロに首を落とされ死んだ。 続いて入ってきたキャロは、フェイトに背後から撃たれて死んだ。 続いて入ってきたフェイトは、斬られた傷からの出血で死んだ。 最後まで残っていたヴィヴィオは、戦うために自ら出ていった。 《気をつけてください、相棒……》 そしてそれら全ての経緯を、横から俯瞰する者がいた。 正確にはそれは人ではなく、インテリジェントデバイスのAIなのだが。 スバル・ナカジマが走具――マッハキャリバーは、遥か彼方の相棒を想う。 《今の彼女と……ヴィヴィオと戦ってはいけない》 それは警告。 凄まじき戦士と出会ってはいけない。 聖王ヴィヴィオと戦ってはならない。 全てを見ていたマッハキャリバーだからこそ、その理論的危険性を理解できる。 高町なのはと互角の実力者の手に、魔導師殺しのデータドレインが渡ったのだ。 たとえ一度の戦闘において、一撃ずつしか撃てずとも、聖王の圧倒的戦闘スキルをもってすれば、命中させることなど容易いこと。 そして魔法を封じられれば、勝てる可能性は微塵も残らない。 否、生き延びる保障すらありはしない。 《我々では――彼女には、勝てない》 【全体の備考】 ※聖王のゆりかごの起動には、特定の条件を満たす必要があります。少なくとも、現段階では起動しません。 ※聖王のゆりかご・玉座の間に、以下のものが散らばっています。 フェイト・T・ハラオウン(A s)の死体、キャロ・ル・ルシエの死体、ルーテシア・アルピーノの死体、 首輪(ルーテシア)、オーバーフラッグ(仕込み刀なし・カートリッジ残量0)@魔法妖怪リリカル殺生丸、 支給品一式、医療品(消毒液、包帯など)、パピヨンスーツ@なのは×錬金、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning、 マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現!、 キャロのデイパック(支給品一式×2、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、 葉巻のケース@NANOSING、オーバーフラッグの仕込み刀@魔法妖怪リリカル殺生丸)、 ルーテシアのデイパック(支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、 エボニー(9/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン×1、 レギオンのアサルトライフル(100/100)@アンリミテッド・エンドライン、 ラウズカード(クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、支給品一式(名簿の裏に記述あり、内容は情報交換のメモと同じ)、 SIG P220(8/9)@リリカル・パニック、情報交換のまとめメモ(内容は守りたいもの参照)、 支給品一式、フリーズベント@仮面ライダーリリカル龍騎、光の護封剣@リリカル遊戯王GX、レイとフェイト(A’s)のデイパック) ◆ それは小さな願いでした。 何事もない穏やかな日々、大好きなママと過ごす日々……何よりも愛しかった日々に、暗く、静かに落ちた影…… 私の力で、誰かを救うことができるなら、ママの助けになることができるなら……どんなにつらくても、頑張ろうと思えました。 だけど――もう、いいんです。 願いなんて……もう、どこにもありません―― Back ロリッ!幼女だらけのクリスマスパーティー ~ボインもあるよ!~(前編) 時系列順で読む Next Blue Swear―――蒼い誓い 投下順で読む Next キングの狂宴/狙われた天道(前編) ヴィヴィオ Next 13人の超新星(1) フェイト・T・ハラオウン(A s) GAME OVER キャロ・ル・ルシエ GAME OVER ルーテシア・アルピーノ GAME OVER
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せっかく女の子になったんだから女子の輪に入って話してみよう。唐突にそう思って僕は話しかけやすそうな女の子を探してみました。おっ、あのこなんか幼い顔してて人もよさそうな顔してるから話しかけてみよう。ええと、名前はなんだっけ……。そうだ大時代(だい ときよちゃんだ。よーし声をかけてみよっと。 「時代さん。時代さん。私女の子になったばかりで……色々教えてほしいことがあるんですけれど」 「あいやそなたは、同級の輩の佐々木さんではないか。先日女体となったと聞いてはいたが……目にしてみると、余計に面妖なことに思えてくる。むうう……不思議也」 「えっ、あっはい。そうですねぇ」 どうやら人選ミス。こんな土地狂った子だとは思わなかった。早々にこの場を離れないとまずいような気がする。 「あっ雄二。どうしたの? あっゴメンね時代さん。呼ばれちゃったから。後でね」 脱出成功。自分から声かけておいて後でねはないと思うけれどもしかたがないんです。 さてさて次のターゲットは。おっ、あそこにいるのは学級委員の女の子。小柄でかは委員だよなあ。よし突撃だっっ!! 「すいません。私女の子になったばかりで……色々教えてほしいことがあるんですけれど」 「あいわかった。この国の長を務めるものとして、あなたの願い、確かに聞き入れた。協力してしんぜよう」 時代さん? いや違う学級委員の女の子だまちがいなく。とりあえず。 「あっ雄二。どうしたの? あっゴメンね。呼ばれちゃったから。後でね」 脱出成功。仕方ない。次はあの小柄な子にしよう 「すいません。私女の子になったばかりで……色々教えてほしいことがあるんですけれど」 「むう……見覚えのない女也。どこかでおうたかの?」 「あっ雄二。どうしたの? あっゴメンね。呼ばれちゃったから。後でね」 くそう次は……。 「すいません。私女の子になったばかりで……色々教えてほしいことがあるんですけれど」 「見知らぬ人に頼まれぬ道理などありませぬ」 「あっ雄二。どうしたの? あっゴメンね。呼ばれちゃったから。後でね」 会話が成り立ってない。次っっ。 「すいません。私女の子になったばかりで……色々教えてほしいことがあるんですけれど」 「しらぬ」 僕も知らぬ。次っっ。 「すいません。私女の子になったばかりで……色々教えてほしいことがあるんですけれど」 「えっ。なんですか?」 「お友達になってください」