約 3,071,547 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2449.html
「佐々木」 俺は言った。 「お前のしわざだったんだな」 これはあの佐々木だ。十八日以降の、SOS団(世界をおおいに見守るための佐々木の団)の団長としての、中学三年生から北高までずっと同じクラスの友人だったことになっている佐々木。 その佐々木はさらに驚いた顔をする。わけがわからないというような。 「なぜ、ここに、キョンが」 「お前こそ、なんだってここにいるのか自分で解ってんのか?」 「散歩だよ」 佐々木は微かな声を出した。目を大きく開けて俺を見つめる少女の顔で、その瞳が街灯の光を反射していた。それを見ながら俺は思う。 そうじゃない。そうじゃないんだよ、佐々木。 こいつは疲れていたのだ。ずっとずっと、俺への想いを封じ込め続けてきたことで、疲労が溜まっていたんだ。 長門が残してくれた緊急脱出プログラムで舞い戻った過去の長門の部屋で、長門は言った。 『涼宮ハルヒの時空改変能力を奪い取った彼女は、自己の望みを実現するために時空改変を行なった』 そして淡々と、 『なぜ彼女がそれを望んだかは、わたしには不明』 俺には解る。 あのときの長門には到底理解できないことだったろう。だが、今の長門なら少しは理解してくれるかもしれない。 ──それはな。感情ってヤツなんだよ。 橘京子は佐々木のことを完全に誤解してやがったな。 「佐々木さんは世界を作り替えたり、破壊しようなんて全然考えないのです」だと? そう考えて佐々木に『力』を移し変えた結果がこのざまだ。 誰だって、世界を自由にできる『力』があると自覚すれば、それを使ってみたくなるのは当然だろ? これは佐々木の望みだ。ずっと俺のそばに居続けて、そして俺に告白するようなそんな世界を、佐々木は望んだんだ。 俺の記憶だけを残して、それ以外を、自分を含めたすべてを変えてしまったのだ。 数日間俺を悩ませていた。この疑問の答えだって今なら自明だ。 ──なんでまた俺だけを元のままにしておいたのか? 答えは単純、こいつは告白に対してありのままの俺の答えが欲しかったんだろう。 すまないな、佐々木。 俺の答えはもう決まっている。 俺の居場所は、「世界をおおいに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」なんだ。「世界をおおいに見守るための佐々木の団」じゃないんだよ。 「佐々木」 俺は立ちすくむ佐々木に歩み寄った。佐々木は動かず、じっと俺を見上げている。 「何回言われても俺の答えは同じだ。元に戻してくれ。お前も元に戻ってくれ。お前の気持ちにずっと気づいてやれなかったことは本当にすまなかった。だけど、俺はお前の気持ちには答えてやれない。それでも、お前は俺の親友だ。それだけは変わらない。だから……」 佐々木の瞳が、脅えたような色を浮かべている。 「キョンくん……」 朝比奈さんが俺のシャツの裾を引いている。 「この佐々木さんには何を言ってもだめよ。だって、彼女はもう自分を作り変えているもの。この佐々木さんは、何の力もないただの……一人の、女の子だわ」 唐突に思い出す。 髪の長い佐々木。ポニーテール姿で、普段からは想像もつかないような俯いた表情で告白してきたあいつ。 佐々木を無邪気に持ち上げまくりの橘京子の笑顔。 本を読むことすらせずに窓際でただ座っている周防九曜の茫洋とした表情。 それらの様子にただひたすら皮肉をかまし続けていたあのいけ好かない野郎。 あいつらとはもう会えなくなる。正直、心残りが皆無なわけじゃないさ。だがこの世界はもともと偽りの存在だったのだ。さよならを言いそびれたのは残念だが、俺は俺のSOS団を取り戻す。決めた。 「すまん」 俺はピストル型装置を構えた。佐々木が身体を凍りつかせ、その反応にかなりの罪悪感を強いられる。しかしここに来て躊躇は無用だ。 「すぐに元に戻るはずだ。おまえが望むなら、クリパで一緒に鍋をつつこうぜ。冬の山荘にもみんなで一緒に行こう。今度はお前が名探偵をやってくれ。完璧な推理で事件を解決するスーパー名探偵ってのはどうだ、それが──、」 「キョンくん! 危な……! きゃあ!!」 朝比奈さんの叫びと同時に、俺の背中に誰かがぶつかってきた。どん、という衝撃が身体を揺らし、街灯の光を受けた俺の影も揺れた。その影に何者かの影が溶け合っている。何だ? 誰だ? 「佐々木さんを傷つけることは許しません」 首をねじって振り向いた。肩越しに女の白い顔が見えた。 橘京子。 「な……」 言葉が出なかった。脇腹に冷たい物が刺さっている。平べったい物が深々と体内に侵入している。やけに冷たい。激痛よりも違和感が勝る。なんだこれは。なんなんだ。なぜここに橘がいるんだ。 「ふふ」 笑うはずのない仮面が笑ったような微笑だった。 橘は滲むような動きで俺から離れ、俺の横腹に突き刺していた血まみれの長い刃物を引き抜いた。 それで支えを失い、俺は錐のように回転しながら地に倒れこんだ。 その俺の目の前で──佐々木が腰を抜かしたように尻餅をついていた。わななく唇が、 「橘……さん」 橘は俺の血が絡みつくアーミーナイフを挨拶するように振った。 「そうよ佐々木さん。わたしはちゃんとここにいます。あなたを脅かす物はわたしが排除します。そのためにわたしはここにいるんですから」 橘は嗤った。 「あなたがそう望んだから。そうでしょう?」 嘘だ。佐々木が望むはずはない。思い通りに鳴かない鳥はいっそ殺してしまえなんて思ったりしない。違う。俺への想いに狂ってしまった佐々木。その佐々木が改変した橘も異常なヤツになったんだ。こいつは佐々木の影役だ……。 橘は俺の上に薄い影を落とした。橘の頭上に欠けた月が見えて、すぐ翳った。 「トドメをさします。死ねばいいんです。あなたは佐々木さんを苦しめます。痛い? そうでしょうね。ゆっくり味わうといいでしょう。それがあなたの感じる人生で最後の感覚ですから」 振り上げられるゴツいナイフ。 (時系列切り替え) 朝比奈さんが走り出し、同時に長門自身も動き出した。夜風よりもすみやかに移動した長門は、一瞬後に橘の振り上げたナイフの刃をつかんでいる。橘が恐懼と憎悪のミックスボイスで叫ぶのを耳にしながら、俺も自分のもとへと向かった。 朝比奈さん(小)が泣きながら『俺』に取りすがっている。心配してくれているのは嬉しいが、そんなに揺すると早死にさせちまいますよ……。 目頭が熱くなることに、必死に『俺』に呼びかける彼女はすぐそばにいる女性に注意を払うことを忘れている。本当にありがとうと叫びたい。 「…………な……」 そう声を漏らしたのは記憶どおりの佐々木だった。心臓に微痛の走る姿だ。ポニーテールのそっちの佐々木は、尻餅をついて驚きにまみれた表情でいる。見開いた瞳が倒れ伏す『俺』から橘へ、そしてセーラー服へ移動し、最後に俺に向けられた。 「どうし……て……」 こっちの佐々木にかけるべき言葉を俺は持たない。俺がするべきこと、言うべきことは一つだった。 過去の長門が作ってくれた短針銃を拾い上げ、俺は自分を見下ろした。例のセリフを言うために俺は口を開き、記憶にある通りの言葉を投げかけた。これで合っていると思うが、だいたい似たようなセリフなら多少の違いは許容範囲だろう。 その『俺』はわずかに開いていた瞼を完全に閉じ、くたりと首を横に向けた。死んだかもしれんと思えるくらいの見事な気絶シーンだが、そろそろ止血しないとマジに死にそうだぜ。 さて、ここからは完全に俺たちの出番だ。これ以降に何が起こったのかは俺にもまだ未知なのである。 まず俺が目にしたのは、橘を止めてくれた長門の行動だ。 「…………」 長門のつかんだナイフが煌きながら砂と化す。飛び退こうとした橘だが、足が地に接着したように動かない。長門が小さな早口を述べた。 「そんな、なぜ……?」 凝然とした橘は最後まで疑問を口にしながら、やがてナイフにつられるように崩れ落ちた。眠らされたようだ。 ほぼ同時に。 「あ?……くう」 朝比奈さん(小)が『俺』に身体をつっぷすように前のめりになっている。柔らかく閉じられた目と薄く開いた唇はどう見ても寝顔であり、力の抜けた愛らしい上級生の首筋に朝比奈さんの(大)の手が軽く乗っていた。 長門が膝をついて屈み込み、ナイフでえぐられた『俺』の脇腹に手を添えた。そのおかげで間違いない。ともかく出血は収まり、『俺』の蒼白な顔が少しはまともに見えてくる。傷を治してこれたのはやはりこいつだったのか。 長門は停滞なく立ち上がると、血がついた指先をぬぐおうともせずに、手を差し出して言った。 「かして」 俺は黙って短針銃を持ち上げた。どうにも手持ちぶさたで困ってたんだ。いざとなると抵抗が勝る。どの佐々木にだってこんなもんを向けて撃ちたくはない。 淡々と銃を手にした長門は、座り込んで怯えた顔を維持しているポニーテールの佐々木へ銃口を突きつけ、あっさりと引き金を引いた。 何の音もせず、何かが発射された軌跡も見えなかったが、 「なっ……!」 佐々木は、驚愕の表情を浮かべて、そのまま固まってしまった。 「私は……なんてことを……」 その佐々木に向かって、長門は淡々と告げた。 「あなたが奪い取った時空改変能力は、涼宮ハルヒに返還した。これより、あなたが実行した世界改変をリセットする」 リセットされたら、今回のことに関する佐々木の記憶はすべて消えてるはずだ。 それが、俺と佐々木が親友であり続けるために必要なことなんだ。 (再び時系列切り替え) 白い天井が見える。自宅の俺の部屋ではない。朝か夕方か、透明感のあるオレンジ色の光が天井同様白い壁を彩っていた。 「おや」 徐々にはっきりしてくる頭に、その声は敬虔な信徒が聞く教会の鐘の音のように安らぎに満ちて聞こえた。 「やっとお目覚めですか。ずいぶん深い眠りだったようですね。お早うございますと言うべきでしょうか。夕方ですけど」 古泉一樹の、穏やかな微笑がそこにあった。 これが藤原だったら、俺は裸足で逃げ出していたに違いない。 古泉は、ここは「機関」関連の総合病院だといった。 このあと、古泉から聞いたところでは、俺は学校の階段から転げ落ちて気絶し、三日間も寝込んでいたことになっているらしい。 どうやらあの三日間の記憶が残っているのは、俺だけらしいな。まあ、その方が好都合だが。 「見舞いはお前だけか?」 ハルヒは、と言いかけてすんでのところで唇を止める。だが古泉はくすりと笑みを落とし、 「さっきから何をキョロキョロしているんです? 誰をお捜しでしょう。ご心配なく。僕たちは時間交代であなたを見舞うことにしているのです。あなたが目を開けたときに誰かが側にいるようにね」 古泉の視線が妙に気になった。エイプリルフールの嘘話をあっさり信じ込んだ友人を見て心で舌を出しているような、その目は何だ? 「いえ、あなたを羨ましく思っているだけです。羨望と言ってもいいでしょう」 この状況で言うセリフじゃないだろ。 「僕たち団員は交代制ですが、団長ともなると部下の身を案じるのも仕事のうちだそうでして。涼宮さんならずっとここにいます。三日前から、ずっとね。さらに、もう一人おりますよ。まったく羨ましい限りです」 指差された方角を俺は見た。古泉から俺のベッドを挟んで反対側。その床。 いた。 寝袋にくるまったハルヒが、口をへの字にして眠っていた。 そして、その隣の寝袋には、なぜか佐々木の寝顔もある。 「心配していたのですよ、涼宮さんも佐々木さんも。お二人の動揺ぶりと言ったら……いえ、これはまたの機会にお話ししましょう。とにかく今は、あなたが真っ先にしないといけないことがあるでしょう?」 「そうだな」 寝顔にイタズラ書き……ではない。それもまた、別の機会でいいだろう。これから何度だって来るさ、そんなチャンスはな。 俺は、二人同時に顔をつねってみた。 「「…………ぉが?」」 二人同時に呻き声をあげる。 しかし、次に叫んだのは一人だけだった。 「あ!?」 ハルヒは寝袋に入っていることを忘れていたらしい。パネ仕掛けのように起きあがろうとしてあえなく失敗、ごろんと横回転してシャクトリ虫のように蠢いていたがワタワタと這い出して、すっくと立ち上がるや否や、俺に人差し指を突きつけて叫んだ。 「キョンこらぁっ! 起きるなら起きるって言ってから起きなさいよ! こっちだってそれなりの準備があるんだからね!」 無茶言うな。だが、そんなお前の大声が現在の俺には何よりの薬だ。 「ハルヒ」 「何よっ」 「ヨダレを拭け」 唇と眉をぴくぴくさせながらハルヒは口元を慌ててぬぐい、そのまま顔をぺたぺたとなで回しながら俺を睨め付けた。 「ふむ、ところでいつまでつねったままなのかな? キョン」 ハルヒとは対照的に、振り払うどころかされるがままになっていた佐々木。 そのせいで俺の左手は佐々木の頬をつねりっぱなしになっていたのだ。 「ちょっといつまでやってんのよ!」 俺が手放すより前に、ハルヒの神速の腕によって俺の左手は振り払われた。 「おや残念」 おいおい、佐々木。何が残念だ。 ハルヒは、佐々木の発言に片眉をぴくぴくとさせていたが、やがてこう言い放った。 「佐々木さん。キョンも気が付いたし、今日はもういいわよ。後はあたしが付き添うから」 意外にも、佐々木が反論した。 「涼宮さんの方こそお疲れでしょう。後は私が付き添いますよ」 それから、二人は言い争いを始め出した。 俺としては、付き添いはいいから一人にして欲しいのだが。 そんな俺の意向は、完全に無視され、二人の言い争いは続いている。 おい、古泉。ニヤケてないで、仲裁してくれよ。 「僕の手には余りますね。三角関係に余計な首を突っ込んだら、被害を受けるのはこちらの方です」 何が三角関係だ。わけのわからないことをいうな。 「相変わらずですね、あなたは。さて、巻き添えを食らう前に、僕は失礼させていただきますよ」 おい待て。俺を見捨てる気か!? 「では、ごゆっくり」 これでも、お前は親友だと思ってたのに、なんて薄情な奴だ! 残されたのは、対照的な口調で言い争う二人の女子生徒と、俺……。 その後、この病室で何があったかは語りたくもない。 まったく、やれやれだ。
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/90.html
涼宮ハルヒちゃんの憂鬱(アニメ) 概要 テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が2006年に放送した後、2007年7月に発売した『月刊少年エース2007年9月号』より連載開始した公式4コマギャグ漫画『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』が原作である。 現在は、『月刊少年エース』『少年エース増刊季刊エースアサルト』偶数月発売『ザ・スニーカー』などで連載中。単行本は2009年2月現在2巻まで発売中。2巻までで累計100万部を売り上げている。3巻は7月発売。 アニメ化が発表されたのは、にょろーん、ちゅるやさんと同日に、2008年8月26日発売の月刊少年エース10月号誌上で発表された。 漫画について詳しく知りたい方は『http //www39.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/39.html』へ。 放送概要 2月13日午後22時より動画投稿サイト『Youtube』上の角川アニメチャンネル内にて配信開始。5月8日配信の第25話、翌週のエンディング配信によって終了、 公式では気まぐれ配信となっていたがそれは前半のみで基本的に、毎週金曜日22時配信となっていた(気まぐれ=不定期配信) 配信は1度に2話分の予定だったと雑誌によると推測できるが、ナイスボート動画の影響か、4話まで1話ずつ公開になっていた。アーカイブは2話のみ。新たに配信されると二つ前以前の話数は非公開に。 配信日 第何話 原作ページ数 時間 ネタ 備考 2009/2/13 第0話 - ナイスボート動画 2009/2/14 オープニング - - - - 2009/2/14 第1話 1巻102P-110P(恨み、羊、キョンの初夢) 5分52秒 2009/2/17 第2話A 1巻23P-24P2本目3コマ目まで(ヒマ、依頼、落下) ABCで2分39秒 2009/2/17 第2話B 1巻17P-18P1本目まで(声、長門の趣味、音量注意) - 2009/2/17 第2話C 1巻7P(助っ人、設定) - 犯人はヤス 2009/2/20 第3話 2巻P136-139(TV、紹介、問題、地域密着、回答、花火、空気) 2分32秒 ハルヒがこなた顔 2009/2/23 第4話A 1巻26P(朝比奈みくるの衝撃、言えません…) ABCで4分30秒 アニメではエロゲ 2009/2/23 第4話B 1巻35P、37P2本目(本vsゲーム、シスター、知らぬ間に…) - 長門のコスプレがゲーム「ななついろ★ドロップス」の高校の制服 2009/2/23 第4話C 1巻38P、41P、56P、77-78P(復活、捕獲、収納、第2の敵、結局、居候、びゅーん、ボケ、ツッコミ) - 2009/2/27 第5話 1巻27P-34P(ハルヒちゃんの熱血ドッジボール) 3分43秒 原作と展開が違う 手書き 2009/2/27 第6話A 1巻54P2本目-55P(危機感、対抗、笑うな) 4分57秒 手書き 2009/2/27 第6話B 1巻75P2本目-76P(クリア、続編、勘違い) - 手書き 2009/2/27 第6話C 1巻P95-96、P113-114(台、結局、プライド、危機回避、ごはん、年越しソバ、お餅、歌の力) - 手書き 2009/3/6 第7話 1巻45P-52P、57P(開会式、チーム分け、借り物競争、心の壁、谷口かわいそう、次の種目、大岡裁き、咲いた) 4分23秒 手書き 2009/3/6 第8話A 1巻129P-130P(節分、歓迎、表、裏) 3分29秒 手書き 2009/3/6 第8話B 1巻149P-150P(トラップ、長門式交渉術、休憩所、お約束) - 手書き 2009/3/13 第9話 2巻140P-143P(企画会議、昼ドラ、ダイジェスト、略奪、余命、愛、メディカルエナジー) 3分30秒 手書き 2009/3/13 第10話 2巻152P-157Pあちゃくらさんの一日(朝、無理、秘技、水責め、恨み、課外活動、お掃除、第二関門、傘と私、天敵、見極め) 2分50秒 手書き 2009/3/20 第11話 1巻117P-120P、131P-132P(収納、バレンタイン大作戦、形にこだわる、再現、復元、トリュフ、活用、忍、収納2、おもちゃ、ケーキ) 4分12秒 手書き 2009/3/20 第12話 1巻121P-128P男達のバレンタイン 3分27秒 手書き 2009/3/27 第13話A 1巻59P-62Pもうすぐハロウィン(情報収集、イメージ、生、きっちり、予定外の物、完成、ハロウィンパーティー) 4分24秒 手書き 2009/3/27 第13話B 2巻158P-159P(買い物、スーパー、シンクロ、就寝) - 手書き 2009/3/27 第14話 2巻25P-29P(風船、鼻の下、穴、尊い犠牲、風船の戦い、素人、決着、風船の遊び方(宇宙人の場合1ページ目まで) 3分53秒 手書き 2009/4/3 第15話 2巻30P-34P風船の遊び方(宇宙人の場合最後まで) 2分30秒 手書き 2009/4/3 第16話 2巻144P-149P(料理、斬る係、簡単、50時間、3分、包丁、自動、匠の技、攻略法、仕上げ、5日) 4分07秒 手書き 2009/4/10 第17話 1巻135P-138P(花見、察し、副団長の実力、わかりやすい解説、イニシャルT、鶴屋さん、いわく) 3分30秒 手書き 2009/4/10 第18話 1巻139P-146P穴は掘っても彫られるな 4分20秒 手書き 2009/4/17 第19話 1巻81P-92P(クリスマスなので、やつら、作戦、加勢、証拠、隠れ場所、決定、谷口と河童最終話 5分31秒 手書き 2009/4/17 第20話 2巻51P-52P(演技、相手にされない、救出劇、後悔) 2分03秒 手書き 2009/4/24 第21話 2巻37P-48P(興味、人気、暇つぶし、なんでもこなす人達、観客、サイン、別行動、鶴屋さんVSメカ森さん(非4コマ)) 5分33秒 手書き 2009/4/24 第22話 2巻71P-72P(こどもの日、主婦モード、褒めて伸ばす、結局) 2分01秒 手書き 2009/5/1 第23話 3巻142P-145P(オープニング、トーク開始、本気、エピソード、特に、シナリオ、選択) 3分12秒 手書き 2009/5/1 第24話A 2巻150P-151P(制服、優先順位、秘策、水風船モード) 4分50秒 手書き 2009/5/1 第24話B 2巻131P-134P(暇人の暇の潰し方) - 手書き 2009/5/8 第25話 2巻1P-19あえてお部屋で(非4コマ-完成度-難易度-出会い-ジャンル)) 8分05秒 手書き 2009/5/15 エンディング - - - - 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 にょろーんちゅるやさんのスタッフ、今回更新したものは下線付きの部分New! 原作=谷川流・いとうのいぢ 漫画=ぷよ(月刊「少年エース連載」)、えれっと(月刊「コンプエース連載」) 監督=武本康弘本編と変わらず武本康弘氏。どちらもギャグアニメになる可能性が高いが、武本氏はギャグアニメ経験は多いので安心してもいいだろう。(ex.ハレグゥ、フルメタふもっふ等) キャラクターデザイン=西屋太志本編のキャラクターデザインの池田晶子氏とは別に2期の総作画監督である西屋太志氏がキャラクターデザインを担当すると発表。 チーフプロデューサー=安田猛角川書店のアニメ部門責任者。伊藤敦氏の上司で1期のハルヒでは製作総指揮などを勤めていた。7,8話以降クレジット。 友情プロデューサー=伊藤敦、八田英明伊藤敦氏は角川書店のプロデューサー、八田氏は京都アニメーション社長。1期本編と変更なし。友情の意味は不明。 演出=坂本一也憂鬱Ⅲのコンテ演出、憂鬱Ⅵの演出補佐、各話原画のほかOP原画も担当。 色彩設定=石田奈央美1期本編の憂鬱と同じく色彩設定を担当。 美術監督=篠原睦雄1期本編の憂鬱の美術監督『田村せいき』氏から変更。篠原氏は1期では参加してはいないが、鍵アニメの美術監督・美術設定を勤めている。 撮影監督=中上竜太1期本編の憂鬱の撮影監督田中淑子氏から変更。 音響監督=鶴岡陽太(楽音舎) 編集=重村建吾(スタジオごんぐ) 音楽=神前暁 音楽プロデューサー=斎藤滋 音響制作=楽音舎 音楽制作=ランティス オンライン編集=板倉玄(キュー・テック) 公式HP制作=旗野篤(山猫) ロゴデザイン原案=佐々木基 番組協力=少年エース編集部(加藤浩嗣)、角川アニメチャンネル(水野寛) 宣伝=西山洋介 アニメーション制作=京都アニメーション以上1期本編の憂鬱と変更なし。 製作=えすおーえす団 クレジット表記=(C)谷川流・いとうのいぢ/えすおーえす団 (C)ぷよ/えすおーえす団※ハルヒちゃんの場合 クレジット表記=(C)谷川流・いとうのいぢ/えすおーえす団 (C)えれっと/えすおーえす団※ちゅるやさんの場合 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 にょろーんちゅるやさんのキャスト}(09/01/23更新)New! 本編アニメである1期憂鬱とキャストは現時点では変更無し 涼宮ハルヒ、涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん、ちゅるやさん=松岡由貴 朝倉涼子、あちゃくらりょうこ、あしゃくらりょうこ=桑谷夏子 谷口=白石稔 国木田=松元恵 キョンの妹=あおきさやか テーマ曲 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱OPテーマ:「いままでのあらすじ」作詞:畑 亜貴 作曲/編曲:神前 暁 歌:SOS団 (涼宮ハルヒ:平野綾、キョン:杉田智和、朝比奈みくる:後藤邑子、古泉一樹:小野大輔、長門有希:茅原実里) CD 2009年04月22日ランティスよりYouTube『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』OPテーマ『いままでのあらすじ』として発売。品番はLACA-4610。価格は1200円(税込)歌い手はえすおーえす団(涼宮ハルヒちゃん:平野綾、キョン:杉田智和、朝比奈みくる:後藤邑子、古泉一樹:小野大輔、長門有希:茅原実里)カップリング曲は発売情報から、『あとがきのようなもの』どちらも(作詞:畑亜貴、作曲・編曲:神前暁)。 DVD(全3巻)セル版、レンタル版ともに発売日は同日。 仕様描き下ろしジャケット/トールケース 収録時間:約37分(本編) 画面サイズ:16 9ビスタサイズ/カラー 音声:リニアPCM ディスク:片面一層/MPEG2 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 にょろーん、ちゅるやさん『DVD最初』(第1巻)2009/5/29発売!価格は5040円(税込)収録時間51分。初回特典は特製サウンドトラックCD(初回生産分のみ、なくなり次第終了) 毎回封入特典は、解説カード(4P)、キャラクタープロマイド1枚(全5種類中)※描きおろしシークレットプロマイドが追加で1枚封入されている場合もある。 DVD第1巻はハルヒちゃんがオープニング+1-10話を収録、ちゅるやさんは1-5話までを収録 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 にょろーん、ちゅるやさん(第2巻)2009/6/26発売!価格は5040円(税込)初回特典は「全巻揃えないと中途半端な全3巻収容DVD-BOX(描きおろし仕様)」(初回生産分のみ、なくなり次第終了) 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 にょろーん、ちゅるやさん(第3巻)2009/7/31発売!価格は5040円(税込)初回特典は特典DVD「鬼口はいかがでしょう(実写映像番組)」(初回生産分のみ、なくなり次第終了) ショップ限定特典 京アニショップ:【名場面フィルム】(涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」3枚/「にょろーんちゅるやさん」3枚/計6枚)「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」「にょろーんちゅるやさん」各巻収録話数の名場面をフィルム風にして、京アニミニCut袋に入れて届けるとのこと BD-BOX 2010年8月27日発売。映像特典はノンクレジットOP/ED、CMスポットなど。発売は角川書店、販売は角川映画。 各話スタッフ 不明(クレジットされず) 話数 サブタイトル DVD収録巻 オープニング いままでのあらすじ 1、2、3巻 1話 体は鶴でも心は鷹さっ 1巻 2話 ん?長門オンリー? 1巻 3話 あの犬の名前は何でしょう? 1巻 4話 キョンくん、長門さんが、長門さんが… 1巻 5話 どっぢボールで勝負しよう! 1巻 6話 エッチなのは関心しませんっ! 1巻 7話 ドキっ、若干、女の子多めの運動会 1巻 8話 豆でも喰うか… 1巻 9話 登場人物は全員メイドです! 1巻 10話 傘、すげー 1巻 11話 じゃあ、みくるちゃん。さっそく服を脱いでちょうだい! 2巻 12話 男もただもらうだけじゃなくてなんかこう努力しなさい! 2巻 13話 そうだ。ハロウィンをしよう! 2巻 14話 主人公がしちゃいけない顔になってるわよ 2巻 15話 風船、すげー 2巻 16話 まっわーれっ! 2巻 17話 そういうお前はとーさんだっ! 2巻 18話 キョンくん、キョンくん。こんなん見つけたー 2巻 19話 みんな、今日はクリスマスパーティをするわよ! 3巻 20話 キミドリさーーんっ! 3巻 21話 ひげ仮面ーーんっ! 3巻 22話 これを着てもらえれば分かる 3巻 23話 自称、オレの笑いは伝染する 3巻 24話 あのころの私はそれはもう使命感に燃えていました 3巻 25話 PCゲーム?「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」 3巻 エンディング あとがきのようなもの 3巻 ファンブック 涼宮ハルヒちゃん ちゅるやさんの公式 (コンプティーク編集、角川書店発行、全48P、2009年9月25日発売、892円(税込)P04-05、OP『いままでのあらすじ』歌詞掲載 P06-07、ハルヒちゃんとSOS団の365日そのいちっ! P08-09、長門とあちゃくらさんの24時間 P10、ハルヒちゃんとSOS団の365日そのにっ! P11、キョンと古泉のあいまい30センチ P12-14、ちゅるやさんのにょろーん64連発 P15、ちゅるやさんとあしゃくらさんの7日間戦争 P16、Youtubeの数字コレクション P17、涼宮ハルヒから涼宮ハルヒちゃんとちゅるささんへ20のメッセージ(谷川流×いとうのいぢ) P18-19、クロストークぷよ×えれっと P20-23、描きおろしマンガ『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』 P24-25、メイキングインタビュー武本康弘×西屋太志 P26-29、描きおろしマンガ『にょろーん、ちゅるやさん』 P30-32、『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』 『にょろーん、ちゅるやさん』大辞典 アニメーションVer. P33-37、『ハルヒちゃん』と『ちゅるやさん』(平野綾×後藤邑子×茅原実里×桑谷夏子×松岡由貴) P38、鶴屋さんと森さんの1本勝負 P39、みくるのPCゲーム『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』攻略 P40-42、ハルヒちゃんとSOS団の365日そのさんっ! P43 、白石稔と鬼口と谷口とキミドリさん P44-45、イラストレーションギャラリー P46-47、あとがきのようなもの キャスト 1話涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 キョンの妹=あおきさやか 鶴屋さん=松岡由貴 2話涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 長門有希=茅原実里 朝倉涼子=桑谷夏子 ゲームの声=あおきさやか 3話涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 無限ライオン=松岡由貴 4話涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 長門有希=茅原実里 朝倉涼子/あちゃくら=桑谷夏子 5話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 コンピ研部長=こぶしのぶゆき コンピ研部員B=ヤスヒロ コンピ研部員D=小野友樹 6話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 長門有希=茅原実里 あちゃくら=桑谷夏子 メイド長=松岡由貴 挿入歌 『Paradaise Lost』 作詞:畑亜貴 作曲編曲:菊田大介 歌:長門有希(茅原実里) TVアニメ『喰霊-零-』オープニングテーマ、『喰霊-零-』主人公土宮神楽(声:茅原実里)の心情を歌った曲。中の人、プロデューサーつながりのネタ。エンディングまで流れたことから、TVアニメ『喰霊-零-』第3話、第12話のパロディ(クレジットと歌のみで絵なしでエンディング) 7話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 キョンの妹=あおきさやか 谷口=白石稔 国木田=松元恵 コンピ研部長=こぶしのぶゆき 子供=桑谷夏子 パロディ(ゴールしても良いよね=TV版AIR第12話参照) 8話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 あちゃくら=桑谷夏子 谷口=白石稔 9話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 無限ライオン=松岡由貴 10話(アニメーションDo制作協力) 涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 長門有希=茅原実里 あちゃくら=桑谷夏子 (単行本第2巻にありました。) 10話(アニメーションDo製作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 長門有希=茅原実里 あちゃくら=桑谷夏子 11話(アニメーションDo製作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 朝比奈みくる=後藤邑子 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 あちゃくら=桑谷夏子 12話(アニメーションDo製作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 鶴屋さん=松岡由貴 森さん=大前茜 13話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 あちゃくら=桑谷夏子 14話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 15話(アニメーションDo制作協力)あちゃくら=桑谷夏子 長門有希=茅原実里 キミドリさん=白石稔 16話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 17話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 鶴屋さん=松岡由貴 18話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 新川さん=大塚明夫 森さん=大前茜 19話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 キョンの妹=あおきさやか 谷口=白石稔 パロディ(いっぺん死んで見る=地獄少女、おそらく杉田のアドリブ) 20話(アニメーションDo制作協力)あちゃくら=桑谷夏子 長門有希=茅原実里 キミドリさん=白石稔 21話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 新川さん=大塚明夫 森さん=大前茜 進行役のお姉さん=松元恵 観客=白石稔 22話(アニメーションDo制作協力)あちゃくら=桑谷夏子 長門有希=茅原実里 キミドリさん=白石稔 23話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 無限ライオン=松岡由貴 24話(アニメーションDo制作協力)あちゃくら=桑谷夏子 長門有希=茅原実里 キミドリさん=白石稔 25話(アニメーションDo制作協力)涼宮ハルヒちゃん=平野綾 キョン=杉田智和 朝比奈みくる=後藤邑子 古泉一樹=小野大輔 長門有希=茅原実里 鶴屋さん=松岡由貴 放送されるまでの経緯 2008年8月26日……漫画『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』、二次創作同人である『にょろーんちゅるやさん』がアニメ化すると月刊少年エース10月号で発表された。放送媒体はYoutubeの再生画面からハルヒちゃんが出てくるピンナップから『Youtube配信のみ』になるのではないかと予想されているが、『アニメ化決定』としか公式発表されていないので不明。スタッフやキャストも含めて未定。2008年12月18日に公式サイト上で。『Youtube』の角川アニメチャンネルで配信すると発表されました。 2008年9月8日……月刊ニュータイプ10月号にて『ハルヒちゃん、ちゅるやさん』のアニメ化について続報。制作会社は2期もとい新アニメと同じく京都アニメーションで、監督も同じく武本康弘氏とのこと。なおネタ扱いではなく、真剣に作っているとのこと。版権絵はどちらの絵とも西屋氏が原画で仕上が石田氏であることから、新アニメとはスタッフは被ると考えて良いようだ。監督のほか『涼宮ハルヒちゃん、ちゅるやさん』ともに、キャラクターデザインは西屋太志氏であることも発表され、『両作とも本編とは別に一味違った楽しい画面を作っていきたいと思います。』と意気込みを語っている。ソースはこちら。 2008年11月26日……月刊少年エース1月号にてキョンとハルヒちゃんの設定ラフが発表された。なおクレジット表記も(C)谷川流・いとうのいぢ/えすおーえす団 (C)谷川流・ぷよ/えすおーえす団に変更されている。 2008年12月10日……ニュータイプ1月号の付録に『にょろーん、ちゅるやさん』のクレジットも(C)谷川流・いとうのいぢ/えすおーえす団 (C)えれっと/えすおーえす団と発表された。 2008年12月18日午前4時23分……SOS団公式サイトにて消失イベントが行われ、ハルヒちゃん ちゅるやさんの詳細スタッフとキャスト 配信媒体が発表された。スタッフは色彩設定、撮影監督、美術監督が追加され、一部は1期『涼宮ハルヒの憂鬱』とは異なる。キャストは現時点の発表では、1期『憂鬱』とは変更なし。『Youtube』の角川アニメチャンネルで配信し、『出来たら配信、気が向いたら更新』とされている。 2009年01月17日……『喰霊-零-』、『ハルヒ』のプロデューサーである、伊藤敦プロデューサーによるとレギュラー出演しているランティスネットラジオ「喰霊-零-」超自然災害ラジオ対策室第14回において、『ハルヒ2期』について述べ、脚本の本読み段階に進んでいたが、喰霊の制作のため少し延期していたらしく、京アニに対して申し訳なかったと述べていた。制作中と思われる。なお、ハルヒちゃんはまだやっていない(=放送していない)とのこと。 2009年01月23日……公式サイト上で『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』、『にょろーん、ちゅるやさん』のアニメーション第一回の配信日時が2月13日22時ごろと発表された。テーマ曲も発表されており、キャストの表記が追加されていたり、スタッフが追加されている。 2009年02月08日……公式サイトに涼宮ハルヒちゃん、キョン、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹、朝倉涼子などの設定画が掲載された。 2009年02月10日……月刊ニュータイプ3月号にてハルヒちゃん、ちゅるやさんに関して、スタッフ・キャストの発表ともに、監督、キャスト陣のインタビューが掲載されていた。(平野、杉田、後藤、茅原、小野、松岡、桑谷、白石、あおきさやかなど(松元はインタビュー未掲載))なお、ハルヒちゃん、ちゅるやさんはシナリオはなく、 漫画の四コマから直接コンテを書いている とのこと。谷川氏やプロデューサーも四コマのアイデア出しをしたと監督は述べている。ハルヒちゃんの版権絵は西屋太志が原画を担当している。 2009年02月10日……月刊コンプティーク3月号のほうは、にょろーん、ちゅるやさんのほうに特化していたが、インタビューはニュータイプの増補版。ちゅるやさんの版権絵は坂本一也。2009年02月11日……月刊コンプティーク3月号や月刊ニュータイプ3月号で省略されたキャスト陣のインタビュー部分も含めて全文掲載&1話アフレコしたキャスト陣の写真が掲載された。http //anime.webnt.jp/nt-news/?detail=817 2009年02月13日……予定時間の22時ごろの配信で専用バナーは用意されたものの、そこをクリックすると、タイトルが『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 第1話』とともに内容はヨットが海で航行している映像いわゆる『Nice boat.』動画だった。(2月14日午前8時)の時点で閲覧回数は20万を突破。コメントも2000を大幅に超えており、関心の高さが伺える。(2期発表を含めて)散々待たされた挙句の「Nice Boat」に失望するコメントが目立つ一方、Youtubeが端緒である「Nice Boat」を大胆に採用したネタを評価する声、『団長の気まぐれにより、配信日時、更新日時はコロコロ変わる可能性があります。ご容赦ください』と予め公式サイトで明言されていたことから、今回のネタを織り込み済みとする声も多く、現時点では評価が真っ二つに割れていると見るべきだろう。 2009年02月14日……-2月14日午後2時ごろ、「ハルヒちゃん第1話」「ちゅるやさんそのいちっ」「ハルヒちゃんOP」が無事公開された。「Nice Boat」は非公開になっている。ハルヒちゃん・ちゅるやさん共に原作を忠実になぞった内容で、全編CGで制作されている。なお、OP映像に第2回以降のものと思われるアニメ映像が使われていることから、すでに複数回の制作が進んでいる模様。 2009年02月17日……午後10時ごろ2話目の配信開始。1話目はハルヒちゃん、ちゅるやさんとともに配信停止。と思われたが、数時間後1話が再配信された。 2009年05月04日……『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』、『にょろーん、ちゅるやさん』の公式ホームページリニューアル。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3648.html
「みくるちゃ~ん、また大きくなったんじゃないの~?」 「ふ、ふぇ~!やめてくださぁ~い!」 あたしはみくるちゃんの背後にまわって、胸をつかんだ。 う~んいつ触っても最高の触りごこちね!ちょっとうらやましいわ。 「こらやめろハルヒ。嫌がってるじゃないか。」 そんなあたし達のやり取りを見て、キョンは目を背けながらあたしに注意する。 その向かいに座ってる古泉君は苦笑い。有希は目も向けずに読書。 いたっていつも通りの光景。不思議なことなんて何1つ無い。 だけどあたしはそれでもいいと思ってる。今では不思議なことよりも、SOS団のみんなと過ごすことが1番楽しい。 だけど団長がそんなこと言ったらみんなに示しがつかないから、不思議は探しつづけるけどね! パタン。 有希が本を閉じた。時計を見るともう6時前。もうすぐ学校が閉まっちゃう。 あたし達は荷物をまとめて、帰る支度をする。 何よりも楽しみな時間である団活の時間が終わる。途中まではみんなと一緒に帰るけど、それぞれが別々の道へと別れていく。 「じゃあなハルヒ。また明日。」 そして最後にキョンと別れて、あたしは一人になる。 1日で1番楽しい時間は終わりを告げて、ここからは1日で1番嫌いな時間が始まる。 またあの家に帰らなきゃいけないんだ……そう思うとさっきまでウキウキしていた心が一気に沈んでいく。 家についた。玄関の明かりは……消えている。 ドアを開ける。部屋の中は真っ暗。 「ただいま……」 帰りのあいさつをしてみる。だけど帰ってくる声は、無い。 ああ、今日もか……分かってはいたけど、やっぱり気分は沈んじゃう。 家には誰もいない。お父さんもお母さんも、あたしを出迎えてはくれない。 別に死別してるわけでも別居してるわけでもないけど、二人とも仕事で帰ってくるのは日付を超えてからがほとんどだ。 休日も仕事に出掛けてるみたいだし、朝も起きた時にはもう仕事に行ってる。 あたしはほとんど親と会話することがない。こんな生活が、もう3年近く続いてる。 テーブルの上には、500円玉が置いてあった。今日も、これで夕飯を済ませろということらしい。 これが普通の家なら、机の上にあるのは親が作ったおいしそうな夕飯なんだろうな。 だけどあたしのところにあるのは、無機質な硬貨1枚。 ……まあ、もう慣れっこだけどね。あたしはもう1度家を出た。コンビニのお弁当でも買おう…… コンビニでお弁当を買った後、もうすっかり寒くなった夜道を、あたしは一人で歩いていた。 寒いのは身体だけじゃないのかもしれないけど。 ……やだなあ。なんでこんなにネガティブになっちゃうんだろう。 元気いっぱいで、何事にもポジティブ。それがSOS団でのあたしなのに、キャラ違うわよ。 こんな姿団員には見せられな…… 「あ、あれは……」 前方に見覚えのある人影が見えた。……キョンだ! キョンもこっちに気付いたらしい。あたしの方に向かってくる。 「よお、ハルヒ、また会ったな。」 理由は無かった。悪いことをしてるわけでも無かった。 それでもあたしは、気付いたらその場から逃げ出していた。 「お、おい!待てよ!」 キョンが追い掛けてくる。やだ、来ないでよ。 あたしは元気いっぱいでいつも強気の団長でなくちゃならないの。こんな弱い姿、あんたには見せられない。 いやキョンだけじゃない、みくるちゃんにも有希にも古泉君にも、こんな姿見せちゃダメなの! でも限界だった。いくらあたしが運動神経いいからと言っても女。キョンは男。 先にバテたのはあたしの方で、キョンに追い付かれてしまった。 「な、なんでキョン、追いかけてくるのよ……」 「そりゃこっちのセリフだ、なんで逃げるんだよ……」 「理由なんてないわよ、ただ……なんとなくよ。」 「おいおい、なんとなくで逃げるほど俺はお前に嫌われてるのか?」 違う。そんなこと無い。でもあたしはなんて言い訳すればいいのか分からずに黙ってしまった。 そしてキョンがトドメの一言を言った。 「別にやましいことしてたワケでもないだろ。それ弁当だろ?普通じゃないか。」 もうダメだ。あたしの抑えこんでたネガティブな感情が……爆発した。 「そうよ!悪いの!?あたしの家にはお父さんもお母さんもいないのよ! アンタの家ではおいしい夕飯が食べれるんでしょうけど、あたしはコンビニ弁当よ!! そんな姿を見られたく無かったから逃げたのよ!みじめでしょ!?笑いなさいよ!!」 だけどキョンは笑うことは無かった。真剣な顔で、あたしを見てくれていた。 「……とりあえず、落ちついて話をしよう。あそこの公園でいいか?」 ~~~~~ そしてあたしのキョンは夜の公園のベンチに二人で座っていた。 周りから見ればカップルに見えるかもしれない。だけど今は、そういう気分にはなれなかった。 あたしは、ゆっくりと話し始めた……。 「お父さんもお母さんも生きてるし、別居はしてないわ。だけど、ずっと仕事で家にいないの。」 「忙しいのか。」 「きっとね。だけど昔はそうじゃなかったわ。お母さんは専業主婦だったし、お父さんも休日は一緒に出かけてくれたわ。 優しかったし、厳しかった。あたしは昔からやんちゃだったからね、悪いことしたら、厳しく叱られたりもした。 だけど中1の夏頃から、急に変わったのよ。」 「変わったって、どういうことだ?」 「悪いことをしても叱らなくなった。何をしてもただ笑うだけで、何も咎めたりはしなくなったわ。 それだけじゃないの。なんだかいつもあたしのご機嫌を伺うようになって、ヘラヘラ笑うようになった。 あたしはそれが気に食わなくてね、悪いことをどんどん繰り返したの。犯罪スレスレのこともやったわ。 だけどそれでも怒ってくれなかったわ!」 「……」 「それでバチが当たったのね。今度は父さんも母さんも家に帰らなくなった。 父さんは仕事の量をふやして、母さんも忙しい仕事を始めた。 それからはずっとこんな生活よ。笑っちゃうでしょ。」 「……なんで黙ってたんだ。俺達に相談してくれれば……」 「相談してなんになるのよ!これはあたしの家族の問題なの!アンタには関係ないわ!」 「そうかもしれないが、何か力になれたかもしれないじゃないか!」 「アンタに何が出来るってのよ!!」 怒鳴り終えた後ではっとする。キョンは何も悪くないのに、ただ心配してくれただけなのに。 それなのに、どうしてあたしはこうやって…… 「俺にも出来ることはあるさ。」 え?出来ること? 「俺に少し考えがある。今は言えないが、お前の両親を元通りにすることが出来るかもしれない。」 「バカ、何言ってるのよ、会ったことも無いくせに……」 「俺を、信じてくれないか?」 そう言ってあたしをまっすぐと見つめるキョンの顔は真剣そのもので。 ただあたしを慰めるためのウソでは無いということが伝わってきた。 何をするのか分からないけど……だけど。 「……そんなに言うなら、信じてあげてもいいわよ。期待はしないけどね。」 お願いキョン。お父さんとお母さんを、元に戻して。 ~~~~ 公園での会話が終了した後、俺はハルヒと別れた。 正直なところこれ以上ハルヒに寂しい思いをさせたくは無かったから、ハルヒの家に行くなり逆に俺の家にハルヒを呼ぶなりも出来たのだが、俺にはやることがあった。 「ハルヒ、もう少しだけ、我慢しててくれ……」 俺はポケットから携帯を取りだし、電話をかけた。こういう時にかける相手は決まっている。あの超能力者だ。 『もしもし、珍しいですね、あなたから電話をかけてくるとは。』 「そうだな。それでいきなりで悪いんだが……今時間は大丈夫か?」 『ええ、大丈夫ですが……何か?』 「ハルヒのことについて話がある。今からいつもの公園に来てくれないか。」 『……了解しました。すぐに向かいます。』 その電話から10分後、古泉がやってきた。その表情はいつものスマイルだが、少し固い。 俺は古泉に先程ハルヒが話した内容をそのまま伝えた。伝え終えた時には、スマイルすら消えていた。 「まさか、涼宮さんにそのような事情があったとは……」 「機関は、把握していなかったのか?」 「申し訳ありません。流石に機関と言えど、家族の中まで監視するということは不可能でして。 学校内の様子を僕が見ることが限界なのです。」 「ハルヒの話を聞いて分かった。急によそよそしくなって、ご機嫌を伺うようになったと言う。それも中1の夏からだ。 ……ハルヒの両親は、ハルヒの能力について知っているんだな?」 「ええ。伝えさせて頂きました。しかし今の話を聞く限り、伝えたのはどうやら失敗だったようですね。」 「ハルヒの親と話すことは可能か?出来るだけ早くアイツを救ってやりたい。」 「そうですね……古典的な方法なら1つありますが。」 ~~~~~~ というワケで、俺と古泉はハルヒの家の前で待ち伏せをしている。 あ、もちろん家の前で堂々と立ってはいないぞ。ハルヒにバレたら元も子も無い。 近くに車を泊めて、その中で張り込みをしている。刑事ドラマでよくやってることだ。確かに古典的だな。 その車は「機関」のもので、運転手は新川さんだ。つまり新川さんもこの場にいるということになる。 「しかし彼女にそのような事情があったとは、見抜けなかったのは僕等機関としては恥ずべきことです。」 「涼宮さんはこの状況を誰にも知られたくないと望んだのでは無いでしょうか。だから今まで誰も気付けなかった。」 「そう言えばハルヒも言っていたな。『こんな姿見られたく無かった。』ってな。 ……ん?だとすると何故俺は知ることが出来たんだ?」 「それもまた、涼宮さんが望んだからですよ。あなたになら話してもいい、話を聞いてほしい、ってね。 もちろんこれは無意識下のことであり、本人は気付いてはいなかったようですが。」 「だが古泉、だったら最初からこんな事態起きなかったんじゃないか? 起きたとしても、ハルヒの能力があれば自然解決するはずだぞ?」 「これは私含め機関の中で有力な仮説があるのですが……」 新川さんが口を開いた。仮説?なんだそれは。 「涼宮殿の力は、親しい人間であればあるほど影響力が弱まるのではないかという説です。 私程度では涼宮殿の力によりいくらでも改変されてしまうでしょう。それも知らずのうちに。 しかしあなた方は、改変されたとしてもその事実に気付くことが出来る。これは大きな違いです。 更に親しい、血縁関係にあるご両親には、涼宮殿の能力も干渉することが出来ないと考えられます。」 「涼宮さんは人の心に土足で踏み込んで改変するような方ではありませんしね、その想いは親しい人ほど強いのでしょう。」 ……バカだな。ビームなんかを出すよりも、こういうことに力を使えよ。 不器用な能力だ。今だからこそ思う、こんな能力を持ったとしても、決して幸せでは無い。 そう、そして今回のケースもまた、ハルヒの能力が…… とその時だった。二人の男女がこちらに向かって歩いてきた。 片方はメガネをかけた優しそうな男性、もう片方は見ただけで分かる。ハルヒにそっくりな女性だ。 「あれは、ハルヒの両親だな。」 「ええ、私とは面識があります。私が行きましょう。」 新川さんは車から出て、ハルヒの両親の前に立った。 「あなたは確か……」 「ご無沙汰しております。『機関』の新川で御座います。」 「何か御用でしょうか?」 「はい、すず……ハルヒ殿のことで少々お話が。」 それを聞いて一気に顔が強張る二人。しかし抵抗することは無く新川さんに連れられ、車に入った。 元々が大きな車だから大人5人が入っても余裕はある。 助手席に移った古泉が後ろを向き自己紹介をする。 「始めまして。僕は古泉一樹と申します。涼宮さんの友人であり、機関の一員でもあります。 そしてこちらの彼は○○君、涼宮さんからはキョンと呼ばれております。」 「どうも、始めまして。」 古泉についでに紹介されてしまったので、俺も合わせて会釈をする。 しかし、こんなときに言うのも難だがキョンのくだりは必要なのか疑問である。 車の中で話す内容では無いということで、近くの喫茶店に場所を移した。 どう考えてもカップルや親子連れには見えない集団であり、若干浮いているが仕方が無い。 「さて、では単刀直入に伺います。」 古泉が話を切り出した。 「涼宮さんから話を伺いました。あなた方はずっと、仕事ばかりで家に帰っていないようですね?」 「……はい。」 答えたのは父親だった。とても人が良さそうな人で、悪意があってやったんじゃないということは一目でわかる。 申し訳なさそうな顔をしながら、彼は続けた。 「忙しかったから、と言い訳する気はありません。私達は怖かったのです。あの子のことが。」 「怖かったとは……能力のことですか?」 「はい。今から4年前の夏でしょうか。あなた方機関に呼び出され、あの子に特別な能力があると告げられました。 願望を実現し、時には世界まで変える能力。そして機嫌次第では閉鎖空間を生み出し世界を滅ぼすということ。 元々あの子はやんちゃで、よく叱っていました。しかしこれからはそのことが世界を崩壊させてしまうかもしれない。 ずっとかわいい子供だと思って育ててきたのに、急に世界を滅ぼすことも出来る能力を持っていると聞かされた途端、まるであの子が怪物のように思えてきて……」 「ふざけるな!!」 俺は声を荒げていた。言葉遣いに失礼があるのは分かってる。だが黙ってられるか。 「ハルヒは怪物なんかじゃない!確かにトンデモない能力は持ってる! だけどアイツは普通の人間なんだ!確かに破天荒な性格だけど、根は優しくていいヤツなんだ、それを……」 「落ちついてください!」 俺を抑えつける古泉。それと同時に、母親が泣き出した。 「だけどどうすることも出来なかったんです!機嫌が悪くならないようにしていたら、あの子はもっと暴れ出して…… だけど叱ることなんて出来ない!もう私達は逃げるしか無かったんです!」 「本当にそうですかな?」 今までずっと黙っていた新川さんが口を開いた。 「ハルヒ殿は本当は、叱ってほしかったのでは無いでしょうか。」 「叱ってほしかった……?」 「ええ。聞くところによるとハルヒ殿は、急に親の態度がよそよそしくなり、寂しかったと言っていたようですぞ。」 「……俺が直接あいつの口から聞きました。だから叱ってもらおうとしてもっとはちゃめちゃなことをするようになったって……」 「だけどそれでもし、閉鎖空間が発生したら……」 「心配しないでください。」 古泉は微笑ながらそう言った。コイツの1番得意な顔だ。 「その時は、僕達がなんとかします。我々「機関」は、そのためにいるのですから。」 「それに、アイツはもう叱られたぐらいで世界を滅ぼそうとする空間を生み出すようなヤツじゃありません。俺が保証します! だから、自分を偽って接しようとしないでください。あいつが望んでるのはご機嫌取りなんかじゃない。 悪いことをしたら本気で叱ってくれる、自然なままの親の姿なんです。」 「……わかりました。」 終始うつむいていた父親は顔をあげた。 「あの子と真正面から、向き合ってみたいと思います。以前のように厳しく叱ることもあるでしょう。 だけどもう、あの子から逃げません。約束します。」 その顔からは、先程までのオドオドとした様子は見られなかった。 大きな決意をした、父親としての顔だった。 ~~~~~ 翌日、俺はいつものキツいハイキングコースを登っていた。 昨日は夜も遅かったということもあり、あの後自然解散となった。 ハルヒの両親はそのまま家へ、そして俺は新川さんの車で自宅まで送って頂いた。 俺の親に「こんな時間まで何をしていたの!」と大目玉を食らったが、反省はしていない。 そして、今回のことについて古泉がこう言ってきた。 「今回の落ち度は我々機関にあります。どうか彼らを憎まないでください。 突然自分の子供に膨大な能力があると知らされれば、あのようになってしまうのも仕方ありません。 親と言えど一人の人間ですから。もし僕自身が同じ境遇に立たされても、今回のようにならないとは言い切れません、 言い訳になりますが当時の機関はまだ出来たてで、思慮に欠ける部分があったようです。 ですから、憎むとするならば我々機関の方を憎んでください。」 確かに、あの時は俺も感情が激高して怒鳴ってしまったが、 両親にしてみたって突然トンデモな境遇に立たされればああなってしまうのも仕方ないかもしれない。 だがそれでも俺は機関を憎むようなことはしないぜ。 確かに思うところが無いと言えばウソになるが、機関のおかげでこの世界があるのもまた事実だからな。 それよりも大事なのはこれからだ。本当にあの両親はハルヒと真正面から向き合ってくれるのだろうか。 と様々な思考を繰り広げているうちに、教室についたようだ。 「よお。」 いつものようにハルヒに声をかけ、自分の席に座ろうとした。だがいきなり、 「うおっ!」 首ねっこを掴まれて引っ張られた。おい、むち打ちになったらどうする! 「キョン!来週の不思議探索は中止だから!」 遅刻も許さない探索を自ら中止?どういう風の吹きまわしだ。 それになにやら、そのことがとても嬉しそうである。 「なんだ、何か用事でも出来たのか?」 「うん!父さんと母さんと一緒に旅行に行くことになったのよ! それで父さんも母さんも仕事を減らして、家に居る時間を増やすって!」 その言葉を聞いて俺は心底ほっとした。だからだろうな、なんというか反射的に 「良かったな、ハルヒ。」 そう言いながら、ハルヒの頭のなでていた。 真っ赤になってびっくりした顔を浮かべるハルヒ。だけどその後、にっこりと笑って 「ありがとう、キョン。」 ハルヒにしては珍しい、素直なお礼の言葉だった。 その笑顔はとても穏やかで、俺を安心させてくれるには充分なものだった。 また辛いことがあったら俺に相談しろよな。「強くて元気な団長様」だって、心休める時は必要だぜ? HRが終わった後の休み時間に、この朝のやり取りを見ていた谷口その他大勢から盛大なからかいを受けたのはまた別の話である。 やれやれ。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5832.html
2012年12月2日…今日というこの日を、俺は一生忘れることはないだろう。多忙的な意味で。 世界を救ったばかりだというのに、昼にはハルヒに叩き起こされ不思議探索。その後、大人朝比奈さんと 長門に会った俺は…今はとある書店の、とある雑誌コーナーの前にて立っていたのさ。カテゴリーは音楽系だ。 ふむ、いろいろ揃ってる。何々…最近話題沸騰のバンド、インディーズからついにメジャーへだと?? 気になる…俺はロキノンを手に取りかける。いや、待て、こっちのCD DLデータも見逃せない… バンプのインタビューが載ってんだから尚更だな。次にリリースする新曲と近々始まる全国ツアーへの 意気込みに関してか。後で読んでみよう。 一方、SHOXはDIR EN GREY特集…どっかで聞いたことあるバンドだな? ほお、欧州で人気確立とは。日本のバンドで海外進出ってのも…なかなか珍しい。 オリスタは、ああ、相変わらずアイドルばっかか。そういうのも嫌いじゃないんだがいかんせん興味が沸かない。 ただ、地味にシンガーソングライターの特集もやってるようだから一応読んでみるか。 …… …というわけで、結局主要雑誌には全て目を通した。いやあ、実に有意義な時間だった。そういや、こうして ゆとり持って音楽誌を眺められたのも随分久しぶりだな。以前はそれなりにチェックしてたはずなんだが… ハルヒとのSOS団が発足してからというものの、そういう日々もすっかりおざなりになっていた。まあ…もっとも、 今回俺がここのコーナーに立ち寄ったのも『あたしに曲を作って提供することよ!!』っていうハルヒの命令が 契機になってんだけどな。つくづく、俺はあいつに振り回されてんだなあと実感したよ、本当。ん?作曲? …… なんと、今の今まで俺は作曲の『さ』の字さえ忘れてしまってたらしい。忘れた上で、 俺は好きな歌手のページばかり見てたらしい。当たり前だが、それに比例して時間も潰しちまったらしい。 無意識のうちに現実逃避とは、これまた高等なテクニックを身につけたものだ。 「さて。」 家に電話する。 「今日は晩飯いらないから…ちょっと今友達の家にいてさ。 そこでとろうと思ってんだ。ああ、遅くとも9時までには帰るよ。それじゃあ。」 伝えるべきことをとりあえず伝えておく。なぜかって?とてもではないが、夕食の定刻ともいえる7時まで 帰れそうにないからだ。というか、今がその7時なんだよッ!!さらにここから作曲本に目を通すのだから… アーユーOK?瞬間移動や情報操作ができる長門でもない限りもはや不可能である。 「じゃ、気を取り直して本来の目的でも遂行しようかね…。」 作曲本は意外と早く見つかった。楽器店ではなく普通の書店だっただけに オーソドックスなものしか見つからなかったが…まあ、立ち読みする程度だし今の俺にはこれで十分だろう。 とりあえず【作曲入門】だの【初心者のためのコード理論】だのいろいろ読みあさってみる。 …… さて、およそ15分が経過したところだろうか。はっきり言おう。わからん! メロディーラインだけでいいと言っていたが…それさえも怪しくなってきたぞ。というのも… わかる人にはすぐわかるはずの基本的音楽用語でさえ、俺には理解しきれてなかったからだ。 つくづくと後悔する。もっと音楽の授業まじめに受けてりゃよかった。…しかし、俺にもプライド というものがある。一度引き受けたからには成し遂げるつもりだ…そう、ハルヒのためにも。 まあ、そういうわけで今日はこのへんにしておくか。帰って中学時代の音楽の教科書でも 引っ張り出して…それでもわからない用語があるようならネットで調べる等して補足しておこう。 粗方の知識が整った上で、また書店に足を運べばいいよな?できれば…今度は楽器専門店で。 去ろうとして、俺は持ってた本を棚に返そうとしたところ…不意に、背後から聞き覚えのある声がした。 「ククク…キョン、君もついに覚醒してしまったんだね。まさかミュージシャン志望とは思わなかったよ。 いや、作曲家志望だったかな?いずれにしろ音楽業界で生き抜いていくのは難しい…それはそれは、 激動の人生を歩むことになるだろう。聞いた話によると、全国でCDを1万枚以上売り上げるような バンドでも、その年収はフリーターと大差ないそうじゃないか。日本では特に、レコード会社や 広告代理店の中間搾取がひどいみたいだからね。必ずしも客観的に成功に見える人、あるいは 才能ある人が報われる世界ではないということさ。しかし、それを知ってもなお、そんな 未知の世界への挑戦をあきらめないというならば、僕はそんな君を全力で応援する次第だ。」 …一言、言っていいか? 「それが今日初めて会った人間に投げかける第一声か…!?長いッ!!長すぎるぞッ!?」 「僕がそういう人間だということは、とっくの昔に君は了承済みのはずだ。 別にそんなに驚くこともないだろう?あとね…ここは本屋だ。声の大きさには気をつけておくべきだね。」 お前がそうさせたんだろうが!?っと、いかんいかん。こいつ相手に本気になっても不毛だということを、 俺が誰よりも一番知ってるはずじゃないか…しかし、まさかこのタイミングでお前に出会うとは 想像だにしてなかったぞ…なぁ?そこでニコニコしてる佐々木さんよぉ? …ホント、今日はいろんな人間と遭う日だ。これも何かの巡り合わせか? 「とはいえ、いきなり話しかけたりしてすまなかったね。久々に君を見てしまったんで、つい…ね。 衝動が抑えきれなかったんだよ。旧友との素晴らしき再会、それに免じて許してはくれないかな? 「それに免じての意味がわからんが、あれこれ考えるのも面倒だからとりあえず許す。」 「そうこなくては。相変わらずノリがいいなぁキョンは。」 お前のノリは特殊すぎて理解不能だけどな。もっとも、相手が女子となると、 途端に口調が普通になるんだから本当…いろんな意味で掴みどころのない人間だお前は。 「まあ、さっきのは冗談としてだ、本当に君は何をしてたんだい?以前からキョンが 趣味としての音楽に熱心なことは知ってたが…ついにその熱意の延長線上として、 作ることさえ趣味の一つとして内包してしまった、といったところなのかな?」 「…そんな大層なもんじゃないぜ。まあ…これには海より深く、空より高い、 それはそれは複雑な事情があってだな…。」 「くっくっく…いや、失敬。君のそのしかめっ面を見て、一発で事情が呑み込めたものでね。 つまりあれだ、また君は涼宮さんたちと面白いことをしてるってわけだ。」 「一発でわかるほどに、俺の顔はひどく単純だったか?」 「おやおや、悲観してはいけないな。それが君の良いところでもあるんだから。おかげで、 僕は退屈することなく、こうやって優雅な時間を君と過ごせてるんだ。むしろ誇るべきじゃないかな?」 なんかもう、もはや喜んでいいのか悲しんでいいのかすら、わからんくなってきた。 しかし、実際のところはどうなんだろうな?思ったことがすぐ表情に出るってのは。それはそれで 円滑なコミュニケーションを…は!いかん!ヤツと本気で対峙してしまった時点で俺の負けだ…っ! 「…まあそんな具合でな、振り回されながらもなんとか生きてんのが俺だ。 そういうお前は何しに来たんだ?」 「それは、君に話さなくてはいけないものなのかい?」 質問を質問で返された。 「おいおい…俺だけ聞いておいてそれはないだろう… それとも、本当に知られたくない理由でもあるのか?」 「ないけどね。」 「じゃあなぜ話さない??」 「だって、そもそもその理由がないんだから話しようがないだろう?」 ニヤッとした表情を浮かべ、今か今かと俺の反応を待ち望む彼女。 ああ…そういうことですか。なんとなく『理由がない』の意味がわかった。 相変わらず、俺はヤツの詭弁に翻弄された哀れな子羊だったのさ。 「あのなぁ佐々木…それならそれで、始めから『なんとなく来た』って言え! ホント、紛らわしい言い方をするよなぁお前は…」 「ククク…そう、それだよ、そんな顔が見たかったんだ。」 「はぁ…」 ため息をつかざるをえない。 「まあまあ。たまにはこういう会話のキャッチボールも悪くないだろう?君も満更ではなさそうだしね。」 キャッチボールどころか、お前が投げる球は変化球ばっかだろ!?ちょっとはそれを必死に追いかけまわす 捕手の身にもなってほしいもんだね…というか改めて思ったが、やはり佐々木とハルヒはどこか似てる。 異なるベクトルで双方とも変人なのには違いないが…前者は意味不明の質問を、後者は無理難題な要求を 突き付ける辺り、立ち位置的にはかなり近いものがあるだろう。…古泉の例の憶測も、強ち間違っちゃ いねーのかもな。まさかこんなしょーもない会話でそれを実感しようとは、人生何が起こるかわからんな。 「ところでキョン。とっくに7時をすぎてるようだが…家のほうは大丈夫なのかい? いつもこの時間に席を囲ってみんなで食事してるのだろう?」 「ああ、いろいろあって遅くなっちまってな。だから家には連絡しといたよ。どっかで食べてくるってな。 お前こそ大丈夫なのか?門限とかどうなってるんだ?」 「おいおいキョン…中学時代ならともかく、高校生にもなってこの時間で門限云々はないよ。 時刻だってまだ7時をすぎたあたりだ。一応9時までとは決まってるけど。 それで…キョンはこれからどこかで外食でもしていくのかい?」 「ん?そーだな…考えてなかったな。まあ、一人で外食すんのもアレだから、 どっかのコンビニで適当に飯でも買って帰ろうと思ってるが。」 「一人で夜食とは、それはそれは寂しいことこの上ないね。」 はぁ…またそれか。何度も何度もそんな煽りに乗せられる俺ではないぞ。 「ああ、結構結構。寂しくて結構さ。」 「ん?反応を変えてきたね。なるほど、これはこれでまた面白い。くっくっく…」 ダメです先生。佐々木さんがどうしても倒せません。あきらめてしまってよろしいでしょうか? というか、俺以外であっても佐々木が倒される姿など想像できん。理論武装した古泉ですら 攻略不能なんじゃないか??とりあえず俺は途方に暮れてみた。 「まあ、そんな君にも朗報がある。実を言うと、僕も君と似たような状況下に置かれてるんだ。」 「じゃあ、俺とどっか食事でもいくか?」 「いいね。そうしよう。」 「ちょ、ちょっと待て?!?!」 ありのまま今起こった事を話すぜ。『冗談で言ったつもりが、いつのまにか既成事実と化していた。』 な、何を言ってるのかわからねーと思うが 俺も何をされたのかわからなかった。 頭がどうにかなりそうだった… ふんもっふだとかセカンドレイドだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 「似た状況って、お前家の人は??」 「仕事の都合で2人とも今日は帰ってこれないらしい。だから、僕はこうやって外を歩いてたというわけだ。 買い出しに行って自炊するか、弁当でも買って帰るか、あるいはどこかに行って外食でもするか… 結局どれでもよかったから、とりあえずは本屋に行った後で、そのときの気分で決めようと思ってたんだよ。 どうだい?納得したかな?」 大体の事情はわかったものの…納得するって一体何に??お前と一緒に食べに行くことか?? 「もしかして、本屋で俺に会ったから外食行く気分になったのか?」 「おいおい、何を言ってるんだい?今は僕の意志は関係ないよ。 そもそも、君が僕を食事に誘ったんじゃないか?」 なんということだ。揚げ足を取られてしまった。調子のったツケが返ってきましたよ、 それも物凄い早い時間でッ!こんなのってあんまりじゃね? 「キョンもなかなか殊勝なことを言うなって、僕は感心してたんだよ。 『一人で食べるよりみんなで食べた方が楽しい。』国語の文章にもよくある常套句だね。 そういう国家公認の美徳を自ら体現しようとしてた君が、僕にはまぶしくすら思えたんだ。」 「安いとこでいいよな?じゃあすき家にでも行くか?こっから近いしな。」 「僕はそれで構わないよ。」 俺は闘うことをあきらめた。っていうか放棄した。『ダメです先生。佐々木さんがどうしても倒せません。』逆襲編、 これにて完結。ちなみに続編の予定はありません。たぶん。 偶然客が空いてたこともあって、俺と佐々木は難なく席を取ることができた。 「で、佐々木は何を頼む?」 「キョンはもう決めたのかい?」 「いや…まだだが。」 「僕はキョンが食べるのと同じものにするよ。」 「それまたどうして?」 「気分さ。」 「……」 闘わんぞ…?闘わんと決めたんだ俺は!! 「ははは、これでは何とも抽象的すぎる回答だ。いや、何、久々に君と会ったんだ。 仲を確かめ合うためにも、なんとなく君とは違う料理を頼みたくなかったんだよ。 ふむ、説明したところで抽象的なことに変わりはなかった。ま、あまり深く考えないでくれ。」 仲を確かめ合うって、そんな大げさな。けれど、俺にはそういう佐々木の態度が嬉しくもあった。今となっては 俺は塾に通ってないし、ましてや在籍してる学校も互いに異なる2人だが…そんな希薄な関係であっても、 俺とは親友でいようと佐々木は思ってくれているのだ。そこまでされて何とも思わないような奴は、残念ながら 人間的ともいえる基本的感情が欠落してるとしか思えない。もっとも、俺と佐々木は、厳密にいえば無関係 というわけではなかったのだが。雪山での遭難事件以来、藤原・橘・周防といったSOS団の面々と敵対する 連中が現れ始め、そいつらが佐々木の取り巻き(本人はそうは思っていないが)となってしまっていたのだ。 あのときは本当に驚いた…そりゃあな、宇宙人、未来人、超能力者といったとんでも存在ならまだわかる。 まさかつい最近まで親友であり、そしてごくごく普通な一般生徒であったはずの彼女が(性格はともかく) 一体どうして涼宮ハルヒにまつわる事件の当事者になっていると考えられようか??言うまでもなくありえない。 妄想であってもそんなこと考えもしないだろう。ならば、古泉・長門・朝比奈さんたちからすればハルヒの 重要なカギともいえる存在だった…そんな俺が佐々木とは関係ないなどとは、もはや口が裂けても言えない。 言えるとすれば、あまりにそれは無責任で、そして現実逃避そのものとなろう。 …… ここまで考えてふと思った。いや、単なる俺の思いすごしかもしれんが…どうも、『仲を確かめ合う』この言葉が 引っかかった。もちろん聞いて嬉しかったし、佐々木が今このタイミングで言った理由もわかる。客観的に見れば それで解釈は終了なんだろうが…どうも俺にはそれとは別のニュアンスがあるように思えた。言うなれば、 『これまでの関係が白紙になったとしても、君は僕と親友でいてくれるかい?』こんなふうに…。根拠はない。 妄想かもしれない。しかし、ハルヒの能力が消えたかもしれない今、どうしても勘ぐり深く考えてしまうんだ。 …即ち、【これまでの関係】=【ハルヒを中心とした関係】が終わりつつあるのではないか… いや、もしかしたら終わってしまったのではないか?そんな予感が俺の中にはあった。 これが指す意味は、つまり佐々木の能力も、ハルヒのそれと同様に…ということである。 古泉の例の推論でいくならば、当然そうなるはずだ。もちろん、そうなった場合本人である佐々木も そのことに気付いてるはず。そのとき彼女は一体何を思ったのか…現在俺の向かい側にて 静かにメニューを眺めてる、そんな佐々木の表情からは何も推し量ることはできなかった。 しかし、結果的にはこのとき俺が…佐々木のことを必死になって推察する必要はなかったんだよな。 なぜなら数分後、本人の口から直接それを聞くこととなったのだから。 「で、キョン。もうメニューは決まったかい?」 「え…あ、すまん、まだだ。すぐ終わるから待っててくれ。」 「ふーん?おかしなもんだね君も。僕の顔を執拗に ジロジロ見るもんだから、もうとっくに決めちゃってるのかと思ってたよ。」 「!?」 視線を合わせたりはしてなかったはずなんだが…!? 「そ、それはあれだ、お前は今どんなモノが食べたいのかなーと、表情から伺おうとしてたんだよ!」 「別にそこまで配慮してくれなくていいけどね。基本、僕は何でも食べるから。 君の好きなように選んでくれていいんだよ。」 「そうだよな…ははは。」 「とでも言えば、満足かい?」 ッ?? 「くっくっく、キョン、それで隠してるつもりかい?その焦った感じ、適当に場を取り繕った感じ、 傍から見りゃ丸わかりだよ…?それにしても何をそんなに…くっくっ…どうしてくれるんだいキョン? 君のその二転三転する顔のせいで、こっちは笑いが止まら…くっくっくっ」 「……」 佐々木様には全てお見通しというわけですか。というか、今直感で思った。 こいつは将来検察官になるべきだッ!その頭の回転の速さ、そして鋭い洞察力をもってすれば裁判など、 瞬く間に終了だろう。弁護人の反論さえ許さない圧倒的詭弁術に加え、挑む者の気さえ削ぐ巧みな心理術… 佐々木みたいのが何人もいれば、裁判の長期化という国が抱える日本特有の司法問題も 一挙にして解決だろう!?ヤツの判断力ならば、冤罪が生まれる可能性も低いだろう。 もっとも…そんな量産型佐々木は見たくないが。こんなの一人で十分だ… 「とはいえ、こんなにも僕を笑わせてくれたんだ。その敬意に感謝し、 追求は控えておくとするよ。むしろ追求しないほうが面白そうだからね。」 「佐々木っ」 「ん?何だいキョン?」 「オクラ牛丼を頼もうと思うが、これでいいか?」 「いいんじゃない?しかし、そんな『オクラ牛丼』という突飛な名前だけじゃ、 僕の気はそれないんだなこれが。チョイス自体は悪くなかったと思うけどね。」 「そうですか。」 俺は抵抗することをあきらめた。っていうか放棄した。さっきも似たようなことを言った気がするが、 んな昔のことは忘れた。もう知ったこっちゃねーや。 しばらくして店員の方が来てくれた。さすがに前回みたいに機関の人間… というわけではなかったので、そこは安心した。もしまた森さんだったらマジメにどうしようかと思った。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 「ええっと…オクラ牛丼2つで。」 「かしこまりました。サイズはいかがしましょう?」 そういやサイズも選べるんだったな。ちなみに、今の俺には選択肢はこれしかない。 「じゃあ特盛りで。」 「…オクラ牛丼特盛り2つ、以上ですね?しばらくお待ちください。」 厨房へと去っていく彼女。 …… 実は今、俺の腹は極限状態だった。皆さんはお気付きだろうか?今日一日の、 今に至るまでの俺の食事情を…!まず、朝食は食ってない。起きたのが昼の3時だったからだ。 で、そこから急いでハルヒたちSOS団と合流して、まずは喫茶店でオレンジジュースを一杯飲んだ。 そして不思議探索中に古泉・朝比奈さんに断って肉まん、おにぎりを腹に入れた。 そこからまた、いろいろ長いプロセスはあったものの…とにかく、その間は何も食していない。 長門のウチでカレーくらい軽くごちそうさせてもらったらよかったかもしれない…後の祭りだが。 つまりである、おわかりだろうか??今日昼に起きて、そして現在夜8時におけるまで… 俺はオレンジジュース、肉まん、おにぎりの3品しか食っていないのである!! 大人朝比奈さんとの話、そしてさっきの作曲本との格闘では、精神的余裕がなかったことが功を成し、 おかげでそれほど顕著な空腹感は覚えなかった。しかし、外食店に入った今となっては限界だ… 意識せざるをえない…!昨日あんなことがあったばかりで、にもかかわらずハルヒに 叩き起こされ、今の今まで奔走してきた俺を一体誰が咎められようか??いや、むしろ褒めてくれッ!! 食事の到着をまだかまだかと心待ちにしながら俺は 切実に、そんなくだらんことを考えていたのさ。 「なんとも…悲惨なくらいに追い詰められた顔をしているね君は。さすがにこの有り様じゃ、 僕でなくとも君の異変には気付くよ。そんなにも腹が減っていたというのかい??」 俺は心なしにそう頷く。気付けばテーブルの上に顔をうつ伏せているではないか… 空腹というのもあるが、何より昨日からの疲労の蓄積というのも大きな原因だろう。 「なあ…佐々木よ。今日って日曜だよな?」 「ほ、本当にどうしたんだいキョン??さっきまで僕の理不尽な質問に 元気よく付き合ってくれてた君は、一体どこへいったというのか??」 ああ…理不尽って自覚はあったんすか佐々木さん。それは何よりです… 「それより…日曜だよな?今日は。」 「そ、そうだよ。日曜だね。」 さすがの佐々木も俺の途方ないマイナスオーラを感じ取ったのか、 すっかり萎縮してしまっている。なんとも、珍しいものが見れたもんだな。 「ってことは…明日はつまり月曜か…」 「きょ、キョン…」 なんということだ…こんな調子で、明日学校だというのか??宿題は??授業は?? いや、そう焦る必要もねえ…要は宿題はやらなきゃいいわけだし、授業中は寝てりゃいいんだ。 なんだ、簡単なことじゃねえか? …… そうでも思わないと、もはややってられない俺なのであった。 …… 「…1日くらい休んだらどうだい?」 「…え?」 今何か佐々木が言ったような気がする。何を言った? 「1日くらい休んだってバチは当たらないということさ。むしろ、今は12月という最も冷え込む時期。 そんな中無理して体をこじらせたら、それこそ本末転倒というものだろう?それに、そんな事情なのなら 涼宮さんだって決して怒ったりはしないよ。それどころか、SOS団の部員を引き連れ団体訪問のごとく、 君のとこにお見舞いに来るんじゃないかな??」 …意外だ。生真面目なこいつのことだから、てっきり説教をくらうとばかり思ってたが。 「それは曲解というものだよキョン。それに、僕はただ合理的な判断をしたまでさ。」 「…ここは、心配してくれてありがとうと言う場面か?」 「当人にそれを確認してどうするんだい…?けど、そう言われて悪い感じはしないかな。」 「じゃあ言ってやろう。佐々木、ありがとよ。」 「どういたしまして。」 …… 「まあ、とりあえずはこれから来たる食事を存分に堪能することだね。案外、腹を満たせば君のその不調も 回復するかもしれない。病も気から…と言うから。良くも悪くも人間は単純なようにできてるのさ。」 「お待たせしましたー。」 「噂をすればだね。」 「では、ごゆっくり。」 職務をこなした店員が再び厨房へと戻っていく。つまり、今俺の目の前には… …ゴクリ 一体どれだけこの時間を待ち望んでいたことか…!?感動のあまり、つい涙腺が弛むのがわかる…!ダメだ… 気を許せばその瞬間食器にかぶりつき、犬食いしてしまいそうな勢い。とりあえず俺は落ち着く必要がある。 「佐々木…ちょっとそこにあるポットでお茶を注いでくれないか?」 「了解だよ。」 俺が差し出したコップに、そっとポットの口を向ける佐々木。 「はい、あなた。お茶ですよ。」 「夫婦か!?」 「なんとも…!正直、今のは死者に鞭を打つようなマネだったから完全スルーも覚悟してたんだが… なるほど、これが人間の底力ってやつなのかい??」 俺に聞かれても知らんわッ!!というかっ、死者同然だと認識しておき、何ゆえお前は 追い打ちをかけようと思ったのだ??俺にはまずそれが知りたい。切実に知りたい。 死者ってのはな、いたわってやらねえとダメなんだぜ…。 まあ、それとは別にいささか元気が出てきたってのは事実だが。おそらくは目の前に置かれた オクラ牛丼特盛り…つまり、いつでも食おうと思えば食える。そんな環境下にあるという一種の安心感、 そして優越感…それだけで、俺の疲弊した精神状態に一時の安らぎをもたらすには十分といえた。 さて、もういいだろう?今俺が成すべきことをしようじゃないか。 「いただきます。」 付属されたカツオブシを丼の上に振りかけ、後はそれを食べるだけだった。 …… 気付けば容器は空だった。俺ってこんなに食べるの速かったっけ?ましてや特盛りだから量はあったはずだが… 「おいおいキョン…君ってやつは。口にありったけ丼をかきこみ、噛み砕いたか怪しい部分は お茶で一気に流し込む。それはそれは、普段の君からは想像もできない荒業を披露していたよ。 こんな文字通りの暴飲暴食をできる人もなかなかいないだろうね。」 …そんなに俺はひどい有り様だったのか。ヒドイやつがいたもんだな…。そういや、よく味わった記憶がない。 ただ、美味かった!それだけだ。 『美味かった!』それだけで十分ではないか??シンプルイズベストと いうだろう??結果的に、俺は腹が膨れる多大なる幸福感にも包まれた。これ以上どう表現せよと言うのだ!? …ああ、そうだな。最後に言うべき台詞があったよな。俺は手を合わせ、そして言う。 「ごちそうさまでした…!」 農家のみなさん、いつもいつもありがとう。おかげで日本の食卓は今日も平和です。 「うーむ…さすがに食べきれないか。参ったね。」 などと思ってたところ、不意に佐々木の声がする。 「どうしたんだ?」 「そのままの意味さ。どうやら完食できそうにないんだ。」 「なん…だと…」 ついさっき農家のみなさんに感謝したばかりだというのに… 残してしまっては彼らに申し訳ないじゃないか。というか、今気付いたことなんだが… 「佐々木よ…俺と同じ特盛りとは、一体どういうことだ??」 本当にどういうことなんだ??佐々木が大食いだった記憶はねえし… ってか、特盛りサイズならそりゃ残しもするだろう?女の子なんだぜ? 「どうしたもこうしたも、君が頼んだんじゃないか。僕はただ、それを素直に受け入れ黙々と食してただけだ。」 俺が頼んだ…?ちょっと待て、あのときは確か ------------------------------------------------------------------------------ 「かしこまりました。サイズはいかがしましょう?」 そういやサイズも選べるんだったな。ちなみに、今の俺には選択肢はこれしかない。 「じゃあ特盛りで。」 「…オクラ牛丼特盛り2つ、以上ですね?しばらくお待ちください。」 ------------------------------------------------------------------------------ …しまった。佐々木のことを全く考えてなかった…いや、だって仕方がないだろう…? ちょうど飢餓感で思考停止してた時間帯だぞ?ああ、御託を並べたところで どうみても言い訳ですね本当にありがとうございました。 「すまない佐々木…あのときお前のサイズも聞いておくべきだったな。けど、それならそうで お前も店員に横から注文入れりゃよかったのに。『片方は並でお願いします。』とかさ。」 「その意見は至極妥当だと言える。そしてサイズだって、自分に不釣り合いなのはわかってたよ。」 むしろ釣り合ってたら驚愕ものだ。まあだからといって、それで佐々木を嫌ったりは決してないが。 「それでも今日だけは君と同じ…あ、いや、何でもない。とりあえずさ、食べるの手伝ってくれないかな? いくら特盛りだったとはいえさっきがさっきだし、君もまだ満腹というわけじゃないんだろう?」 「まあ、実を言うとそうなんだけどな。じゃあ少々いただくとするぞ。」 …というわけで、結局残さず食べることができた。 「ふーっ、満足満足。さすがにこれ以上は食べれないな。」 「お疲れ様キョン。はい、お茶だよ。」 「おう、サンキュ、佐々木。…今度は『あなた』とは言わないんだな。」 「言ってほしかったのかい?まさか君がそういう属性の持ち主とは思わなかったな。」 「違うっつーの。」 そういう属性が何なのか気になったが、聞けば最後ヤツとのイタチごっこ開始である。 即ちそれは俺の負けなんで、とりあえず否定だけしておく。 しかし…結局いただいたのは少々じゃなかったな。半分は収奪してしまったかもしれない。 そうなると、俺と佐々木が同じ値段支払うってのも何か理不尽だ…ここは俺がヤツの半額は出しておくべきか? いや、そもそもだ。よく考えれば佐々木はまごうことなき女の子だった。断って言っておくが、決してヤツに 女としての魅力がないとかそういうわけではない(むしろ外面だけならかなりのトップレベルのはずだが) あまりに友達としての距離が近かったせいか?口調のせいもあると思うが、とにかく、 これまで佐々木のことを女だと意識したことはあまりなかった。そういうわけでだ、昨今の男女観的に 女子相手に割り勘ってのはちょっとまずいような…?そんな強迫観念があった。 しかれば、ここはヤツの肩をもつつもりで…などと考えていると 「…何を考えてるか知らないけど、奢りとかそういうのはなしだからね。」 いや、知らないけどとかじゃなくてズバリ当ててるし…というか、なぜまたしても考えてることがわかった?? ここまでくると洞察力云々の問題じゃないような気がするんだが…アレか?こいつには何か 千里眼のような特殊能力でもあるんじゃないのか…?と、漫画みたいなこと考えても虚しいだけなんで 妄想はこのへんにしておく。どうせ、俺がそういう表情をしてたとか、そう言うんだろう?こいつは。 ここまでわかりやすいのもある意味特殊能力だな。俺。 「…その諦観しきった表情見ると、やっぱり図星なんだね。まったく、君ってやつは… どうしてそう変なとこでマジメになるかな?言っとくけど、僕はそういうの気にしないよ。 というか個人的に言わせてもらうなら、そういう風潮自体あまり好きじゃないんだ。確かに、 表面上は女性が得するようにできてるけどね。逆を言えば、それは暗に女性は男性より経済力がないと 言ってるようなもんだよ。ましてや君と僕は友達の間柄であって、決して特別な関係ではないんだ。 さすがに、そこまで大人の男女観を持ち込むのはね。もしそれを是とするならば、日本の青年諸君は、 きっと満足な青春すら送れなくなること違いない。日々の動作1つでも金銭が絡んでるとなると、 生活しづらいことこの上ないだろう?男はもちろんだが、相手に払わせたくないと思ってる女だって 気が気じゃないさ。そういうわけで君が僕に奢る必要はないんだよ。もちろん、その気持ちは嬉しかったけどね。 そういうのは恋人や夫婦間でのみ成立するものと、個人的にはそう考えてる。」 「そ、そうか…わかった。じゃあそうしよう。」 すっかり俺は佐々木の語るジェンダー論にひれ伏してしまっていた。 なかなか隙のない考えだったように思う。そりゃ男女観ってのが人によって千差万別なのはそうなんだろうが、 とりあえず本人がこう言ってるんだ。なら、敢えてそれに異を唱える道理もないだろう。 しかし…改めて佐々木には感服した。自分の社会的役割や責任というのを、 この歳にしてヤツはすでに自覚してるように思えたからだ。あー、なんというか、つい比べずにはいられない。 どこぞやの団長様に爪の垢で煎じて飲ませたいくらいだな。そう思うと、不意に笑いが込み上げてくる。 「?何やら楽しそうだね。」 「あ、ああ…すまん。なに、あまりにお前とハルヒが対照的だったんでな。つい。 奴なら間違いなくこの局面で俺に奢らせたろうよ。というか、そう命令するに決まってる。 実際問題、俺はこれまで何度も奢らざるをえない境地に立たされたんだからな。」 「それは…あれだろう?君がSOS団の活動時刻に遅れたからとか、確かそういう涼宮さんが決めた 規則によるものじゃなかったかな?彼女自体は男女どうこうとか、そういうことは考えてなさそうだけど。」 「まあ…そうなんだがな。そうなんだが…俺にはどうしてもハルヒが、 あのハルヒが俺と割り勘する姿が想像できねーんだ…」 「ほう…そこまで強く言うとは。ある意味確信の域に近いのかな?」 「そんな感じだ。」 「それはそれは…なんとも羨ましい限りだ。」 「『羨ましい』??お前は、理不尽にも奢らされる俺の身が羨ましいというのか?どういう了見だ…。」 「くっくっく、何を勘違いしてるんだい君は。君じゃなくて涼宮さんのことだよ。」 涼宮?ってことはつまり、お前は…相手に奢ってもらう立場が羨ましいということか?? まあ、ある意味じゃそれは当然か…だとすると 「佐々木…お前、もしかして本当は俺に奢ってほしいんじゃないか?」 当然こういう帰結になる。 「そうきたか…くっくっくっ、相変わらず君という人間は面白いね。残念だけどキョン、またしてもそれは勘違いだよ。」 「……」 一体どういうことなの? 「僕はねキョン、君に行動原理をしっかりと把握されてる、そんな涼宮さんが羨ましいと言ったんだよ。そして、 そんな彼女も君のことを把握してるからこそ、理不尽な要求が通せるんだ。互いが互いのことをわかってる… なんとも理想的な、仲睦ましい男女じゃないか。」 「ちょっと待て…さすがにそれは飛躍しすぎだろう!?ハルヒはな、別に俺に限らず大体あんな感じだぞ??」 「ほう。じゃあ逆に聞こう。彼女が、涼宮さんが君以外の男子に対し 果たして奢ってくれなどという要求をするかな?」 え…?そりゃあ…するんじゃないか?と一瞬考えて思いとどまった。昔ならともかく、 SOS団の発足から随分の時が経過した今…団員以外のメンツに無理難題を言い渡したりするのだろうか? 特に最近のハルヒはおとなしくなってきてるから尚更だ。あ、ちなみに古泉は論外な。 副団長という階級で優遇されてる上、さらには機関とかいうとんでも組織の協力も得ている。 同じ団員への大号令でも、その質は俺と古泉とでは天と地ほどの差があるのは言うまでもない。 で、結局どうなんだろうな?ふと俺の知らない第三者がハルヒに奢らされてるシーンを想像する。 …胸がムカムカしてきたのはどうしてだろう。食べすぎたか? 「さっき僕は言ったよね?男女における奢るという行為は恋人や夫婦間でのみ成立するって。 もちろん、これは僕個人の勝手な考えだ。ただ、涼宮さんにしたって大きくこの考えから逸脱してるようには 思えないんだ…僕からすればね。彼女がじかにそれを意識してるかどうかは知らないけど、 少なくとも君のことは一人の男性として、特別な価値を置いてると思うよ?」 「あのなぁ…お前は、少々人間というものを過大評価しすぎだ。 世の中にはな、損得勘定だけで奢ってもらおうとする奴だってざらにいるんだぞ。」 「じゃあ聞くけど、キョンは涼宮さんのことをそういう類の人間だと思ってるの?」 「……」 …… 「いや…思わない。」 天上天下唯我独尊その人であり、ただひたすら自分の覇道を突き進んでいく… それが涼宮ハルヒだ。が、言ってしまえばそれだけ。良い意味で…あいつは単純なんだ。 ゆえに権謀術数などとは程遠い所にいる存在…それもまた涼宮ハルヒだ。 …… ところで、ふと思ったのだが…。佐々木が指摘するように、とりあえず俺がハルヒのことを よく知ってる人間なのは間違いない。だが、ある意味では佐々木のほうが詳しく見えるのは 俺の気のせいか?2人はそこまで面識もなかったはずなのだが… 「どうしたんだい?難しい顔をして。」 「いや…やけにお前がハルヒに詳しいと思ってな。」 「おや、君にはそう見えたのかい?仮にそうだとしたら、さて…それはどうしてなんだろうね。 彼女とはあまり会ったこともないから尚更だ。なぜだか君にはわかるかい?」 いや、わからないからお前に聞いたんだが…!?しかし佐々木よ…またそれか。付き合い長いからわかるが… あいつは今、決して自分がわからないから俺に聞いてる、というわけではない。敢えて聞いているのだ。 なぜかって?俺の反応を見たいからに決まってるだろう…? 「はぁ…やれやれだな。佐々木さん、わからんからどうか答えてください。」 「随分と早い降参だね。よしんばこの話題を引っ張ろうと思ってたんだけどな。まあ、わからないなら仕方ないか。 答えはね、僕と涼宮さんが似た者同士だから。そのせいかな、なんとなく考えてることがわかるんだ。」 「……」 似た者…同士…??そりゃあな…ある意味では似てるだろうよ。俺に対する立ち位置的意味でな… 実際、さっきそういうこと考えてたからわかる。しかしだ、俺の考えてる【似てる】と佐々木の言う【似てる】は、 果たして一緒の意味なのか??いや、なんとなくだが違うと思う… 「ふむ、どうやら意味をよく呑み込めなかったらしいね。じゃあもっと砕けた表現をしよう。 つまりね、同じ人を好きになった者同士ってことだよ。」 「え?」 こいつ今、さらりと凄いこと言ってのけなかったか?聞き間違いとかそういうオチ? 「すまん…誰が、誰のことを好きだって??」 「僕と、涼宮さんが、キョンのことを。」 「……」 幻聴?俺の耳はついにいかれてしまったのか?この歳で? いや、だって…ありえないだろ??外食店で、それも平然と言ってのける。 …なんだ、ただの普通の会話か。俺の勘違いか。
https://w.atwiki.jp/cookrobidence/pages/18.html
フルネーム 涼宮ハルヒ 参戦作品 涼宮ハルヒシリーズ※Wikipedia参照 ステータス Lv50時点 HP SP 攻撃力 防御力 精神 素早さ 500 0 205 210 300 300 キャラクター一覧へ 技一覧へ 特殊技能一覧へ 装備一覧へ
https://w.atwiki.jp/ishijimaeiwa/pages/11.html
涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫) メディア:書籍 形式:小説 区分:公式 掲載メディア名:角川スニーカー文庫『涼宮ハルヒの憂鬱』 初出年月日:2003年6月10日 掲載箇所:全て コーナー名:全て 概要:巻末に作者あとがきとスニーカー文庫編集部による解説あり。 備考:角川つばさ文庫版、角川文庫版などあり。背表紙が赤色の旧版と水色の新版あり。パノラマカバー版、『バカとテストと召喚獣』コラボカバー版あり。初版など一部は金帯仕様。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3907.html
5 章 それから数日、長門は会社を留守にしていた。物理学の学会で発表があるとかで遠方に出張していて、今日帰ってくるはずだ。 俺は駅前のケーキ屋でスイス風ケーキを買って長門のマンションを訪ねた。入り口でインターホンを押すと、もう帰ってきているらしくいつもの無言でドアを開けてくれた。エレベータで七階まで上がり、踊り場まで来ると七〇八号のドアだけが少しだけ開いているのが見える。長門はいつも、俺が来るのをドアの前でじっと待ってくれている。 「おう、おかえり」 「……ただいま、おかえり」 「研究会はどうだった」 「……いつもどおり」 「そうか。おつかれさん」 こいつなら四年も五年も待たずにさっさと博士号を取ってしまえそうなのだが、大学院にいるのはハカセくんのためで、本人はさほど学歴を必要とは感じてないらしい。まあ人間の作った称号だか。将来は長門博士と呼ばないといけないかもな。 キッチンに入ると、だいぶ様変わりした雰囲気だった。前は小さな冷蔵庫しかなかったが、三ドアの大型冷蔵庫とか水蒸気で調理するオーブンレンジなんかが揃っていた。食器棚に積まれた食器もカラフルなものが増えたし、コーヒーメーカーやフードカッターなんかも並んでいる。 俺がたびたび来るようになってから料理のレパートリーも増えた。キッチンの棚にフレンチにイタリアンに洋風一式、京料理に中華、メキシカンからハワイアン、アフリカンのレシピ本が並んでいる。すべてをマスターしたのかどうかは分からないが、イボイノシシのケニア風ソテーだといって食卓に出されればポレポレ言いながら食ってしまいそうだ。 俺は棚の上から紅茶の缶を取った。そんなに高いブレンドでもないが、北口デパートの専門店で二人で買ったものだ。その隣にペットのエサの缶詰が積んであるのに気が付いた。キッチンの床に小さな皿が二つ並んでいて、星の形をしたペットフードが入っていた。 「長門、犬か猫か飼ってるのか」 「……猫」 見回してみたが、その気配はない。確かに、シャミセンと同じ猫独特の匂いがする。 「どこにいるんだ?」 「……いつもはいない。ときどき、現れる」 「って、もしかして野良猫?」 「……そう」 マンションの七階の部屋まで登ってくる野良猫って、どんなやつだろう。たぶん他所んちの猫がたまに紛れ込んでくるのだろう、と、俺は勝手に解釈した。だいぶ前にメガネの長門に猫を飼えと勧めたことはあるが、この長門はそれを知らないはずで、それはそうとこのマンションってペット禁止じゃなかったっけ。 紅茶のポットにお湯を注いでいると足元でミャーと鳴き声がした。見ると、小さな黒い仔猫が足にまとわりついている。しっぽをピンと立てて俺の足に体をこすりつけるようにしてぐるぐる回っていた。鼻のまわりと両方の前足だけが白い。 「おう、こいつか」俺は仔猫を抱き上げた。「名前、なんて言うんだ?」 「……言えない」 「言えない?まだつけてないのか」 「名前はある。……でも、言えない」 「なんだクイズか?えーっとだな」 俺は冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して猫の皿に少し注いでやった。小さなピンクの舌がチロチロとミルクをなめはじめた。皿の底が見えるまでなめ回し、満足したらしく毛づくろいをはじめた。その仕草がかわいくて、俺は海産物ファミリー的アニメな猫の名前で呼んでみた。 「おい、タマ」 仔猫は耳の後ろを二度ほどかいて、消えた。俺は目の前でなにが起こったのか理解できず、長門の顔を見た。 「今の、見たよな?」 俺が言う、この“消えた”というのはどこかに行ったとかいうんじゃなくて、本当にスッと消えたのだ。 「……この子は、ふつうの猫じゃない」 次の瞬間、仔猫は長門の腕の中にいた。 「……この子は、量子的存在を保持している」 ええとつまり、もっと分かりやすく教えてくれ。 「……名前を呼ぶと、居場所が分からなくなる」 「名前はなんて言うんだ?」 「……ミミ」 ちょっとためらってから長門がその名前を口にすると、仔猫は腕の中から消えた。 「また消えたな」 「……名前を呼ぶと存在が曖昧になる」 「じゃあ、呼ぶときはどうするんだ?」 「イメージを想像すれば現れる。あるいは、この子が自分が気が向いたときに」 試しに姿を思い浮かべてみた。すると、再び長門の腕の中に現れた。まん丸い目が二つ、なにごともなかったかのようにこっちを見ている。 「名前を言っちゃいけないのか」 「……そう」 うちに来て七年になるシャミもかなり妙な猫だが、こいつもまた変な猫だ。 耳の後ろをほりほりしてやると喉をゴロゴロと鳴らした。目の前で指を回すと、前足の爪を出して後を追う。この辺はふつうに猫だな。 ポットの紅茶を持ってリビングのこたつに移った。ミミは長門の膝の上に前足を乗せ、もじもじと足を動かした。長門の細い指がミミを抱えて膝の上に載せ、つやのある毛をなでた。たまに喉を鳴らす音がする。 「生まれて三ヵ月くらいだろうか」 「……それは分からない。さっき見たときは大人だった」 「よくわからんのだが、朝比奈さんとかハカセくんの亀みたいなタイムトラベルか」 「……あれとは理論的に異なる。この子は最初から、時空に対して曖昧な存在」 「もしかしたら十一人、いや十一匹が突然現れたりする?」 「……分からない。ゼロ匹とも、無数に存在するとも言える」 それを聞いて不安になった。どこぞの星の丸っこい動物みたいに増殖しだしたらどうしよう。 ミミは長門の指にじゃれていた。仔猫と遊ぶ長門を見ていると、ほのぼのしていていい絵になると思う。うちのシャミは、最近はもう昼寝をしているだけの肥満猫になってしまった。あれよりはこの子のほうが似合う。 仰向けになってじゃれついていたミミが、何かの気配を感じたのか起き上がって耳をピンと立てた。一心に壁を見つめ、漆黒の瞳孔がまん丸に開いている。長門が手を離すと、ミミは立てたしっぽを左右に振りながら壁に向かって歩き、そのまま壁の向こうへと消えた。 俺は目をしばたいた。 「いま、壁を通り抜けたように見えたが」 「……そう。どこにでも現れる」 ということは、隣の家に忍び込んでサンマを奪ってそのまま逃げることもできるわけだ。便利なやつだな。 俺と長門は、ミミが消えた壁を眺めながらケーキを食った。 「そのうち帰ってくるんだろうか」 「……気が向けば」 静かに紅茶をすすっていた長門が、ふっと呟いた。 「……わたしも、同じことができる」 「その、量子的なんとか?」 「……そう」 そういえば高校のときマラソンで同じようなことを言ってたな。長門はすくっと立ち上がって、バレリーナのようにつま先で立ち、くるりと回った。スカートの裾が舞った。回りながら消えた。俺はしばらくポカンとしていた。数秒後、同じところに現れた。 「思い出した。量子飛躍だったな」 「……そう」 「消えている間はどこにいるんだ?」 「……同じ空間にいる。あなたからは見えないだけ」 長門はそう言って、また消えた。数秒たっても現れなかったので不安になって呼んだ。 「おい……長門?」 気配を感じて振り向くと、真後ろにいた。 「あ、そこにいたのか」 「……捕まえてみて」 ニヤリと笑ったりはしないが、右の眉毛を上げてみせる長門はそんな雰囲気だった。なるほど、こういう遊びは好きだ。俺は笑いながら立ち上がった。 「よーし、捕まえてやるぜ」 俺は部屋の中をむやみやたらに走り回って長門が現れた場所を追いかけた。 「つっかまえた!ってあれそっちかよ」 ゼイゼイと息を切らせながら部屋のあちこちを手探りしていたが、こりゃ作戦がいるな。消えたり現れたりする長門を見ていると、現れるのは正確に三秒後だ。俺は消えた場所と現れた場所に、予測できそうな関係がありそうかどうか考えた。 「……こっち」 微笑を浮かべた長門が、さっきミミが消えたあたりに現れた。これ、かなり高度なもぐら叩きだよな。 長門が消える。三、二、一。「……こっち」声がして振り向くと、また消える。三、二、一。「……あなたの、後ろ」また消える。 手を述べようとするが間に合わず、何度か空振りして俺は宙をにらんだ。ぜったい捕まえてやる。こういうときはもう直感に頼るしかない。そう、頼りになるのは気配だけだ。 現れる直前に空気が少しだけゆれるはずだ、なんて格好つけて考えてみたがまったく分からない。俺は宙を飛ぶ羽虫を捕まえるかのように耳をそばだてた。 長門が再び現れる一秒くらい前だろうか。なんとなく、そこに、いる、ような気がしたのだ。俺は両手を広げ、なにもない空中を大きく囲んだ。 「……あ」 「捕まえたぜ」 背中から俺の腕の中に閉じ込められた長門がいた。 「……どうして、分かった」 少し驚いていた。 「ただの直感さ」 「……興味深い」 ふ。人間には第六感とかヤマ勘とかいう非論理的未来予測機能があるのさ。長門が、ほんとに?という顔をして横目でこっちを見た。ほんとに勘だったのかどうか自分でも分からん。ただの偶然だろう。 俺はじっとそのまま、長門を背中から抱きすくめていた。せっかく捕まえたのを手放すのはなんだか惜しい気がした。このままキスをしようかとふと誘惑にかられそうになったが、足元でミャーミャーと声がした。ミミが俺のズボンに爪を立ててよじ登ろうとしている。仔猫というのは他人が遊んでいると寄ってくるものだ。 「この子を呼ぶ方法がひとつ分かった。俺たちが遊んでいればいいんだ」 「……ときどき、わたしと遊んで」 おう、いつでも遊んでやるさ。俺が遊ばれてる気もするが。 それからミミと長門を追い掛け回す、超高度なかくれんぼに付き合った。ミミには名前を呼んで消えてもらった。壁抜けをする長門より、ミミを捕まえることのほうが存外難しかった。この子には直感が通用しないようだ。 遊び飽きて眠くなった仔猫をなでまわし、俺も時計を見て、そろそろ帰ることにした。長門の膝の上でスヤスヤと眠るミミを起こしたくなかったので、俺は見送らなくていいと言った。 マンションの外に出ると冷たい風が頬を刺した。そろそろ夜が寒い季節だ。帰りの道すがら、俺が長門を捕まえたのは本当に偶然だったのか、それとも長門が狙って現れたのか、ずっと考えていた。 自宅に戻り、部屋に入るとベットに太ったシャミセンが寝そべっていた。 「おい、デブ猫。どいてくれ」 シャミはしぶしぶ場所を空けた。 「今日な、長門んちにかわいい猫がいたぞ。お前も昔はあれくらい器量がよかったのにな」 シャミはいらぬ世話だというように、しっぽを一振りしただけだった。ほとんど家から出ないで食っては寝るだけの生活なんで、まるで歩くハムみたいなありさまだ。もうネズミすら追いかけないだろう。 「少しはダイエットしたらどうだ。肥満は心臓に悪いらしいぞ」 眠そうな目をしたシャミは、腹のたるんできたお前に言われたかねーよという感じなので、俺もどうでもいい感じに放っておいた。 毛布を広げようとしたところ、突然シャミが飛び上がった。ドアに向かって歯をむき出して唸り声をあげている。俺は向こう側に誰かいるのかと思い、ドアを開けてみたが、誰もいない。 「ほら、誰もいないだろ。なにをそんなに怒ってんだ」 なだめてみるが、シャミの戦闘態勢はいっこうに治まらない。しっぽがクリーニング後のセーターみたいにふわふわに毛立って膨らんでいる。 突如、閉まったドアを通り抜けて、一匹の猫が現れた。ミミだった。 「ミミ、お前、ついて来ちまったのか」 ミミはふっと姿を消した。長門に名前を呼ぶと消えてしまうと言われていたことを忘れていた。再びイメージを呼び起こすと、また現れた。あいつの説明によるなら、ついて来たというより直接やってきたというほうが正しいかもしれない。 「シャミ、こいつが長門んちの猫だ。仲良くしろ」 俺がミミを抱いてやると、シャミは警戒しつつ匂いをかいだ。 「ほら、友達だから」 ミミはシャミの鼻先をなめた。猫社会のしきたりは一応知っているみたいだな。 俺は携帯を取り出して、部屋にミミが現れたと長門にメールしてみた。すると返事には「こっちではまだ膝の上で眠っている」と書いてあった。 KYON もしかして異時間同位体みたいなやつ? YUKI.N 厳密には同位体ではなく、量子収束の一形態。 KYON よく分からんのだが。これもミミってことでいいのか? YUKI.N いい。存在が曖昧なだけで、同じ個体。 なるほど。量子世界の話はちょっと理解できん。 「シャミ、そういうことだそうだ。仲良くな」 なにがそういうことなのか俺にも分からんが。シャミは理解したのかしなかったのか、ミミの顔をなめて毛づくろいをはじめた。 オス猫を飼っている人は知っていると思うが、オスというのは季節によっては妙な行動を起こす。二三日ぷいっといなくなったり、傷だらけで帰ってきたり、丁寧に何度もマーキングをやったりする。シャミも若い頃はよく喧嘩傷を残して帰ってきたものだったが。 毛づくろいしていたシャミがミミに向かって嗄れ声で鳴きはじめた。 「おいシャミ、初対面で盛ってんじゃない。この子は長門んちの娘だぞ」 ミミはツンとすました顔で、やって来たのと同じにドアを通り抜けて消えた。まさか夏へと消えていったのではないだろうが。シャミは慌てて後を追いかけ、閉まったままのドアに激突した。鼻を思い切りぶつけたようだ。 「ふられたみたいだな」 俺はくっくっくと笑いを抑えられなかった。 ミミがなぜ長門の部屋に現れたのかを知ることになるのは、数日後のことだ。 何往復かは知らないが、あれから何度か未来とやり取りがあったようだ。分厚い大理石で蓋をしちゃ壊しを繰り返していた。向こうのハルヒからは相変わらず差し障りのない映像くらいしか送られてきてないようだが。 「そろそろ生き物を送ってもいいかもねぇ」 「俺はぜったい行かんぞ。死んでも行かんぞ」 時間移動中に分子レベルまで分解でもしたらコトだ。 「バカね、あんたがこの穴に入るわけないじゃない。もっと小さい、植物とかハムスターとかよ」 それを聞いて安心した。人体実験をやるときには社長自ら志願してくれ。 ハルヒは花束と鉢植えのサボテンを持ち出してきた。このサボテン……。 「あの、長門。ちょっと心配ごとがあるんだが」 「……なに」 「ハエ男って知ってるか」 「……知っている」 「転送中に分子が入り乱れてバケモンになっちまう話なんだが、まさかあんな事故は起こらないよな」 長門は笑いをこらえているようだった。 「……大丈夫。あれとはエネルギー媒体が異なる」 だったらいいんだが。タイムトラベルしてみたらサボテンがハエとかクモと合体してたなんていやだぞ。 「まずはこれ、送ってみましょう。あたし宛にね」 「自分に花束贈るなんて、ちょっと虚しくないか」 「なによ、あんたが贈ってくれるっていうの?」 「ううっ」 「僕が贈って差し上げましょう」 古泉が割って入った。 「うれしいわ、古泉くん。乙女心が分かってるわね。キョンも少しは見習いなさいよね」 よけいなお世話だっつの。 「では、未来の涼宮さんに」 古泉はメモ書きをメッセージカードにして花に添えた。崇高な科学実験だってのになにやってんだこいつらは。 またもや同じように分厚い石の板でフタをしてパテで埋めた。 「思ったんだが、この大理石のフタって意味あんのか」 「蝶番を取り付けて金属製のドアにしてはどうでしょう。毎回壊すのもコストが上がってしまうと思うので」 大量注文した大理石の板で会議室が埋まっている。高く積まれた石が二十枚ほどあり、もし地震でもきたら下敷きになるやつが出そうだ。 「……」 長門がなにか言いたそうだった。後で教えてくれたことだが、ハルヒのかしわ手と、この大理石の分子構造が微妙なマッチングにあり、このワームホールの機能を稼動させているらしい。かしわ手のエネルギーの波が大理石の一部をクォークまで分解して反粒子を生み出している、とか、ふつうにはあり得ないデタラメな現象らしいが。 「手間を惜しんでは科学の進歩はないわ。最初の手順どおりやってちょうだい」 ハルヒの一声で現状継続が決定した。まあ社長自ら肉体労働をやってくれるってんなら止めはしないが。 すぐにメモリカードで返事が来た。今度は小さな包みも一緒に来た。なんだろうこれ。映像には花束を抱えるハルヒが映っていた。 『古泉くん!花束ありがとう。もうあたしったら感激しちゃって(ここで涙を拭く真似)。花もサボテンも、DNA分析してもらったけど異常はないわ。あと、木のタネを送っといたわ。それ、どっか広い場所に、そうね、北高のグラウンドの隅にでも植えといて。あんたが植えてくれたら、あたしが成長した木を見に行けるってわけよ。キョン、これ何のタネだっけ?ああ、そうそう、バオバブ』 「大成功ね」ハルヒがにんまり笑った。 「バオバブって、幹が太いでっかい木じゃないか?」 「アフリカのサバンナに生えてるやつね」 「でかくなりすぎて星を食いつぶしてしまうとかじゃなかったか」 「それは絵本の話でしょ」 相変わらず妙なことを考えつくやつだ。セコイアとか屋久杉じゃなくてよかった。 翌日、ハルヒはペットの移動用ケージを抱えてきていた。中からミャーミャーと鳴く声がする。 「いよいよ動物実験をやるわよ」 「おい、ちょっと待て。大丈夫かそんなことやって」 「植物が大丈夫なんだから、問題ないでしょ」 とは言ってもなぁ。一抹の不安が拭いきれん。 「向こうでバケ猫になって出てきたらどうする」 言ってみて、我ながらバカだと後悔した。 「そんときは送り返してもらえば元に戻るんじゃないの?」 「戻るどころか巨大化したりしないか」 ケージを開けて出てきた猫には、確かに見覚えがあった。ミミだった。俺は長門に目配せをした。 「これ、あの仔猫だよな」 消えてしまうというので、名前は口に出さなかった。 「……DNAは同じ。でも、量子状態が異なる」 「というと?」 長門は仔猫に向かって名前を呼んだ。 「ミミ」 仔猫の姿は消えなかった。 「……この子はふつうの猫。もしくは、量子的変異を起こす前の猫」 「ということは、ハルヒの実験であんな姿になっちまったのか」 「……その可能性が高い」 これはやめさせるべきだ。いくら科学の進歩のためとはいえ、そんな残酷なまねができるか。俺がハルヒにやめろと言おうとすると、長門が袖を引いた。 「……実験を阻止すると、この子の因果律に関わる」 「因果律?」 「この子の未来は、すでにわたしの過去に存在する」 「だとしても、宇宙をふらふらとさまよう姿になっちまうのはかわいそうじゃないか」 「……わたしたちが、面倒を見る」 まあ長門がそう言うなら、命に別状がなければいいか。って今、わたしたちって言ったか。 「わたしたちって、長門と俺?」 「……」 長門は答えなかった。うっかり口がすべったとでもいうような表情をした。ともあれ、物質電送器みたいに細胞が分解したりバケモンになったりするのでなければいいが。 「やってもいいがハルヒ、ひとつだけ条件がある」 「なによ、言ってみなさい」 「時間移動中の心拍と脳波の状態をきちんと記録してくれ」 「なるほどね。あんたもたまにはいいこと言うわね」 たまには余計だ。 ハルヒの命令で獣医が呼ばれた。古泉が連れてきたという獣医のタマゴなんだが、どう見ても機関の人だ。ミミは包帯のようなもので胴体をぐるぐる巻きにされ、そこからコードが出ていた。かわいそうに。俺は自分で提案していて後悔した。しかし異常があったら向こうで治療してくれるだろう。そのための医療用モニタだ。 「そういえばこの子、名前付けてなかったわね」 「……ミミ」 「有希がつけたの?じゃ、ミミ、未来のあたしによろしく」 ミミはケージに入れられたまま、タイムカプセルに押し込まれた。フタが閉められるまでミャーミャー鳴いていた。ハルヒがかしわ手を打ってから数分間は鳴き声が聞こえていたが、突然静かになった。 「おい、そこのマイナスドライバーよこせ!」 俺はまだ乾いていないパテの隙間にドライバを押し込んで、大理石のフタをこじ開けた。 そこには何もなかった。 数分して、メモリカードが返ってきた。 『あんた、いったい何を送ろうとしたの?これくらいの医療機器ならこっちの時代にもあるわ。もっと性能がよくて小型だけど。いちおう残っていた心拍数と脳波のデータをメモリに入れとくわ。次はもっとましなものをよこしなさいよね』 映像のハルヒはコードがぶらんと垂れ下がった医療モニタを持っていた。ケージもそのままだ。 「ミミが消えちまってるぞ」 ハルヒは唖然としていた。 「もしかして、抜け出たんじゃないの」 ケージに入れられるところは全員が見ていたし、それがあり得ないことは分かっている。 「どうしよう……」 ハルヒは真っ青になった。安易に動物なんか使うからだ。 「時間移動中に横穴とか脇道があるんじゃないか」 長門に尋ねてみたが、考え込んでいた。 「……説明がつかない」 長門はメモリ上のファイルを開いて心拍数と脳波の数値を見ていた。 「……大理石のフタを閉じた時間、手を打った時間までは一致している。さらに十三秒後、測定値にエラーを記録。それ以降、データ不詳」 「どこに消えたんだろう」 俺と長門は目を見合わせた。俺はミミが消えたときのことをふと思い出して、試しに姿をイメージしてみた。足元に、やわらかい毛玉がミャーと鳴いて現れた。 「あらっ、ここにいたわ。今、ここに現れた、キョンの足元に」 ハルヒがミミを抱きかかえて頬ずりした。どこも異常はなさそうだ。 「猫ちゃん、ごめんね」 「無事帰ってきてよかったな」 そのとき、返事がもう一通届いた。メモリは手元にあるはずなんだが。封筒を開けると、新品のメモリカードが入っていた。だが容量が俺たちのより千倍以上ある。技術的には向こうのほうが上なんだから、こっちのレベルに合わせてくれないと困るんだがな。 「長門、これ容量が俺たちのよりでかいんだが、読み出せそうか?」 「……やってみる」 長門の超高速タイピングで、いくつかプログラムをいじった後、映像が再生された。 『ごめんごめん、猫ちゃん、後から届いたわよ。いきなり現れたから驚いたわ。今までどこにいたのかしら』 映像の中で、ハルヒの隣で長門がミミを抱えていた。それは届いたんじゃなくて、たぶんそっちにいる長門に会いに行ったんだろう。こっちのハルヒが、自分が抱えた仔猫と、画面に映った仔猫を見比べて、唖然としていた。 「これ、どういうこと?」 「俺には分からん」 「……」 長門はどう説明したものが迷っているようだった。考え込んでいると古泉が分かりやすい答えを披露した。 「未来と過去のエネルギーの総量を保つためにそうなったのでしょう」 つまり、この宇宙にある物質とエネルギーの全体量は決まっている。時間移動したときに勝手に減ったり増えたりするのはおかしい、と。現在でマイナスになった分を埋め合わせるために過去と未来で二匹の猫が生まれた、というのだが、どうやればそういう答えにたどり着くのか俺には分からない。 「なんだ、そういうことなの」 今の説明でほんとに分かったのか、ハルヒ。もし未来に一匹、過去に一匹が行ったんだとしたら、過去と現在の総和は二匹になるんじゃ……いや、やめよう。頭痛くなってきた。俺には長門の言う、曖昧な存在の猫ってのがいちばんしっくりくる。 「これが解決するまで動物実験は中止するわ。それからこの実験結果は社外秘よ、いいわね?」 異議ナシで全員賛成した。こんなことが動物愛護協会にでも知られたらえらいことだ。 ミミは長門が預かることになった。ハルヒのアパートはペット禁止らしい。まあ長門マンションも禁止なんだが。 ハルヒが帰った後、長門と朝比奈さんに尋ねた。 「ひとつ疑問があるんだが、未来のハルヒはなぜ猫が送られてくることを知らなかったんだろう?そのときの記憶がないんだろうか」 「これは別の時間軸が交差しているんじゃないかしら」 「……わたしたちのいる現時点が、別の分岐を生み出している」 「ということは、僕たちが新しい未来を作っているのでしょうか」古泉が口を挟んだ。 「……そう」 「それって、既定事項を真っ向から書き換えてるってことか?」 長門は非常に難しい質問をされたように顔を曇らせた。 「……おそらく、そう。すでにはじまっている」 「わたしが危惧していたのはこれだったの。未来の涼宮さんが知らない歴史が始まっているわ」 「どういうことでしょうか」 「今の涼宮さんが未来の情報を得て、新しい歴史の流れを作ってしまうということなの」 これがどういう状況なのか、俺にはまだピンと来ていなかった。 6章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3118.html
5日間熱心に勉学に励んだ後に訪れる束の間の休息。そんな貴重な休日に我々SOS団がどこにいるのかというと── ハルヒが福引で一発で引き当てた温泉旅館に来ている。 開催初日に引き当ててしまったことにより、客引き要素が70%減となってしまったその抽選会はもう悲惨だとしか言いようがなかったが。古泉に言わせれば 「涼宮さんがそう願ったんでしょうね」 とのことで、まぁそれについては初っ端から特賞を引き当てる確率と、 また都合よく5名様のご招待と書かれているその券を見て考えるとと妥当な推測ではある。 普通ならこんなものは家族で行くものだろうと思うのだが、ハルヒは家族に対しては長門が当てたもの (長門が一人暮らしとの説明も踏まえた上で)と言って誤魔化したらしい。 全く、そんな人生に1度、当たるかどうかも分からないような宝くじに匹敵する旅行券を、わざわざ団員で使おうとは。なんて独り言を漏らしたら、 「・・・・・・鈍感」 と後ろから雪融け水のように冷たな長門の声が耳に入った。 さて、旅館やホテルに着くと予想外に子供心というか、とにかく何かが湧き上がってきてウキウキしてくるのは何故だろう。 「探検しに行こう」と言ったのがハルヒではなく俺の口から発せられたものだから他3名は冷蔵庫にあったプリンが食べてみると実は卵豆腐だった、 なんてような顔になっている。まぁ、確かに俺も言い終わった後で多少しまった!とは思ったが。 「あたしが言う台詞でしょうが!キョンはヒラなんだから──」とそれはもう予想していたハルヒの言葉を軽くいなしながら他3名の意見を聞いた。 朝比奈さんはハルヒの機嫌を損ねないような言葉を選ぼうとしどろもどろで、長門はいつもの通り分厚い本を開いて物語の世界へ。 「僕達は・・・遠慮しておきます、2人で行った方が大勢で行くよりも隅々まで探検できるかと」 棄権なんてこのハルヒが認めるはずが無いだろうと思った瞬間 「じゃあいいわ、キョンと2人で行ってくるから、みんなは体を休めてなさい」・・・なんですと? ハルヒ、お前新幹線の中でなにか変なもの食べたんじゃないか、というかお前が一番疲れてるんじゃないかと聞こうとしたがもうすでに握られた手は そのへんの運動部よりも凄い力で引っ張られていき、こうして旅館探索が始まったのだった。 探索、とは言うものの。商店街が用意したような旅館、流石にそれほど広くもなく。地下の遊戯施設に立ち入っては「温泉浸かったら後でみんなで遊びに来ましょう」だとか、 開いてないレストランの前まで来ては「ここ、朝はバイキング形式で食べられるレストランなんだって」とか、つまり極一般的な会話に終わる探検だったわけで。 下見、という言葉の方がしっくりくるなと思うと同時に我が口から「探検しよう」なんて子供のような言葉が出てしまったことを再度後悔していた。 ふと握られたままだった手を見ながら、こんな風にハルヒと2人一緒だったあの日を思い出す。 当時こそ俺はその出来事を考えるたびに、手の届く範囲に拳銃がありさえすれば!なんて思っていたが。 今ではそんなことを考えていた頭の中の自分に鉛玉を撃ち込んでやりたいね。 俺は意外にもハルヒと共にいる時間を楽しいと思えるような性格を手に入れたらしい。と言えば遠まわしだろうか? 流石に俺でも自分の事を一端の健全な男子高校生だと思っているし、女子に全く興味が無いなんて今時の僧侶でも言わない事を、俺が言うわけが無い。 それがこの手を取っているハルヒなのかはまた別として。・・・だがまぁ、一緒にいて楽しい以上俺はハルヒを嫌いではないと自覚している。 「そういえばハルヒ・・・お前1年前と大分変わったよな」・・・1年前は毎日「退屈」、「暇」の言葉を製造し続ける特注機械だったのにな。 「なんか馬鹿にしてる?」っと、心を読まれかねないから少し控えておかないとな。 とはいえ、今でも毎週1回は「退屈」もしくは「暇」と呟きはするのだが。しかし古泉は「今年は例年に比べて本当に閉鎖空間が発生しなくて済んでますよ」と言っていた。 確か最後に発生したのはこの間のゴキブリ騒動の時だったとも言っていたな・・・ このゴキブリ騒動については家庭科の担任教師が入院の為2週間ほど学校を休んでいて・・・ で、それに伴って調理実習室の部屋が2週間閉鎖され、その後「調理実習室から異臭がする」との噂が囁かれはじめてから どういうわけか「調理実習室を調べて対処して欲しい」という話が悩み相談窓口から入ってきたんだよな。それも生徒会から。 生徒会長曰く、「こんな訳の分からない部を黙認させているのだから、たまにはそれに応じた働きも見せてみろ」だとさ。 便利屋じゃあるまいし。とは言うものの「対処してくれればSOS団の正式な承認を前向きに検討する」とのことなので 俺なりにハルヒを説得してさっさとこんな厄介事を片付けようと息巻いていたのだが。 調理実習室前に着くや、漏れ出てくる異臭。マスクを用意していて正解だったと他団員を見回し・・・ 涙を薄っすら浮かべている朝比奈さんに渡し、流石のパーフェクト宇宙人も若干眉を顰めているが・・・長門にも渡し 「ちょっと用事が・・・という訳にはいかないんでしょうね」当たり前だ、古泉。こいつにも渡し 口数が一瞬で0になって少々顔を引きつらせている我らが団長様にもマスクを渡し。 士気が下がりきってしまう前にさっさと開錠してドアを開け──そこから人間の女子2名の記憶は無いようだ。 惨状と言うべきか。2人が床に衝突するのを避ける為に両手が塞がった俺の目の前に表れた光景。 コンセントが外れ、ドアは半開きの冷蔵庫から飛び回る蝿。外からの空気が入ったことによって蜘蛛の子を散らしたように逃げていったがそれでも十数匹は目視できるゴキブリの集団。 長門がいなければこの惨状はあと数週間は惨状のままだったかもしれない。 高速言語を放つと同時にこの閉鎖(されていた)空間にいたゴキブリ、蝿、異臭、異臭元と思われる腐った食材etc・・・は亜空の彼方に消えていったらしい。 「・・・・・・任務遂行完了」マスク姿の長門がそういい終わると同時に鳴り響く古泉の携帯。 「申し訳ございません。・・・久々のバイトのようです・・・」 さて話を戻そう。 確かに四六時中一緒にいて、こいつの機嫌が手に取るように分かるようになった多大な能力を得てしまった俺が見ても、ハルヒは性格が丸くなったと言える。 が、しかしSOS団の活動意義が発足当時から不変であることも分かっているし、それならば何故ハルヒは閉鎖空間を発生させないような性格を得たのか不思議でならない。 「なぁ、毎日楽しいか?」ふと、答えを聞けば全ての疑問が解決される質問をハルヒに聞いてみた。 「あんたはどうなの?キョン」と返されたのは想定外だった。俺か?俺が毎日楽しいかどうかだって? 「・・・まぁ、楽しいと言えば楽しい、かな?」 「じゃあ、そんなもんなんじゃない?」うーむ。ハルヒらしからぬ答えだ。てっきりここで“退屈で暇でどうしようもないことくらいわかるでしょー! そんな質問をする前にあんたが楽しみを提供するよう頑張るのが有意義よー!”なんて罵倒されて、それに対して俺はそれでこそハルヒだと一人感慨にふける展開を考えていたのに。 そんな話を入浴中に古泉に話してみた。こいつならば涼宮の言わんとしていることを俺に分かりやすく教えてくれることだろう。 「それは・・・その通りの意味ですよ」・・・前言撤回。こいつに話したところで俺の脳は疑問を解決することはできなかった。 「フフ、失礼。しかし今まで常に自分の意見を押し通してきた彼女が、あなたに答えを任せた。それがヒントですかね・・・?」 ヒントなんざ言うくらいならとっとと正解を教えろってもんだ。俺はクイズバラエティーで分かりそうも無い難題を吹っかけられて反応を笑われる芸人じゃあない。 なんて言おうとしたがそれはハルヒによって阻まれた。 「お前!ハルヒ!なんで男湯覗いてんだ!」 「おや、体を洗った後で良かったですね、僕達」そういう問題じゃないだろ。 「ふふん、あんたがこっちを覗かないように監視してるのよっ!」俺は紳士だ、見るわけ無いだろうが。 どーだか、とからかうハルヒを俺もついからかいたくなって自分の胸を指差し 「見えてるぞ。」うそっ、という声と同時に崩れる椅子の音。 「あぁ、嘘だ。」 数秒してから返ってくるハルヒの怒声。久々にハルヒの口から「バカキョン」の言葉を聞いた気がするな。 部屋に着くなり用意されていた豪勢な夕食。ガイドブックや旅番組で見るようなまさにそれと全く同じ光景が目の前に広がっていた。 一番乗りで座布団に座ったのは意外にも長門。おそらく初めて見るんだろうな。生まれてまだ・・・4年しか経ってないんだから当然か。 急かすように他メンバーをじっ、と見つめ、全員が座るまでに要した時間は数秒。 ちなみに、長机を2人と3人で挟むように座布団が敷かれ、3人の方に長門、古泉、朝比奈さんの順で座ってしまったので必然的にもう片方には俺とハルヒが並んで座ることに。 長門は火をつけられた小鍋をまじまじと見続けている。分かるぞ、小学生のときの修学旅行で同じ気持ちを味わったもんだ。 ハルヒのいただきますの号令で料理を堪能・・・相変わらず長門の箸は速いな・・・なんて上の空になっていたら。 「ほら、ご飯粒ついてる」・・・まるで長門以外の時間が停止したようだった・・・漫画さながら、俺の頬に付いていたご飯を手に取り食べてしまったのだから。 「フフ。まるで夫婦のようですね」との古泉の声にハッと向こうに顔をやるハルヒ、耳が真っ赤だ。俺も顔が熱い・・・ さっさと食べて遊戯室行くわよ、と話をそらし、急いで飯をかっ込むハルヒ。・・・と俺。結局料理の味を楽しめなかった・・・ 温泉に浸かって腹ごしらえもして。もう快適な睡眠の安全装置は解除されいつでも引き金を引ける状態である。 適度な運動なんてしたらもう完璧に睡魔と書かれた銃弾は俺の頭を貫くね。 「馬鹿なことを言ってないで、次あんたの番よ!」と言うことで、古泉からラケットを受け取り俺なりに奮闘してみたのだが。 こいつはスポーツの神様が背後霊じゃないのかと思える試合だったな。なんで去年の孤島のときよりさらに強いんだよ・・・ ともあれ、何周かすると流石に全員に睡魔と書かれた銃弾は行き渡ったようで、最下位だった俺の奢りのコーヒー牛乳を振舞いつつ、部屋に戻ることとなった。 さて、人間という生き物は不思議なものであり、眠るという目的が別の事象によってなしくずしになる、なんてことはごくありふれた光景である。 この場合の事象とはトランプのことであり、いくつものメチャクチャなローカルルールが絡み合ってしまったそれはもはや大富豪と言えないゲームだったが。 罰ゲームに酒がハルヒの口から提案されたが、流石に高校生だけで来てるのに酒を飲んだ後の領収書を見られたら学校に通報されるかもしれない、 という説得の末これまたお決まりの奢りジュース。もちろんお決まりで俺の奢り・・・ どういう経緯で全員が睡眠という2文字に負けたのかは定かではない。遊びながらそのまま寝られるように放射状に布団を敷きなおしていたから、最後に電気を消した人間でないと知りようがない。 と、考えているのはつまり自分が起きているからである。変なジュースを罰ゲームで飲まされたからだな・・・キュウリ味のサイダーだっけな、うっ、思い出しただけで吐きそうだ。 暗闇にだんだん目が慣れてくると隣の布団が空になっていたのに気づいた。ハルヒだ。 トイレに行ってるのだろうか?という考えはそのまま5分過ぎたところで否定された。外に出て涼んでいるのかもしれない、が、ひょっとしたら。そう考えると既に俺は部屋を出ていた。 何故ハルヒがいないとこうも落ち着かないのだろうか。・・・そういえば世界が改変されていた時も。 まだ20年すら生きていない俺がこんなに1人の女子で心が不安になるのか?生意気すぎるにも程がないか。いや──俺は俺を誤魔化している・・・のか。 ぴたりと足が止まった。 「俺は、ハルヒのことが──好きなのかな」 がたたんとなにかに躓く音。振り返るとハルヒがソファーに尻餅を付いていて、弱々しい非常灯に照らされたその顔はかすかに赤くなっていた。・・・まさか。 「い、今の聞いてたり・・・?」 無言で頷くハルヒ。 「聞かなかったことにしてくれたりは・・・?」 無言で首を振るハルヒ。 ああ、俺の人生はここで終わったな。明日になれば団員全員に、月曜日になれば学校の笑い話のレパートリーに1話追加されるわけだ。 「あ、あたしも・・・同じ」 やれやれ。こういう話で笑われるのは男だけと相場が決まっているな。古泉あたりの端正な顔立ちの奴なら逆に七不思議に追加されそうだがな。 こんな普通さしか取り得の無い男子学生なら普通という項目が異常という項目に書き換えられて別のファイルに入れられるだけだ。 「あたしも・・・好き」 ・・・え?何?今幻聴が聞こえたような・・・ 「あんたのことが大好きって言ってんで・・・モガモガ」 幻聴じゃなかった・・・いや、危なかった。こんな大声を他の宿泊客に聞かれたら即追い出される。・・・しかし。 「これ夢か?」 スッ、と手が伸びて頬を抓る。古典的だが、確かに現実のようである。 「夢じゃない?」 コクコクと頷くハルヒ。ここでいまだに口を塞いだままであったことに気づく。 「おわっ、す、すまん・・・」 「まったく、部下が団長の口を塞ぐなんて、団員にあるまじき行為よ!」・・・まことに仰るとおりでございます。 「塞ぐならこっちでしょうが!」 ・・・俺の唇は、ハルヒの唇で塞がれた。 次に意識を取り戻したのは布団の中だった。あれは夢だったのだろうか。 時計に目をやるとまだ6時半で、みんな熟睡しているようだ。もちろんハルヒも。 ・・・閉鎖空間?いや、あの時俺の隣(ハルヒと逆)には古泉がいたのは確か・・・って、古泉はそれの専門家だからこれじゃ決め手にならん。 しかしその疑問はすぐに解決された。なぜなら、ハルヒの手と俺の手が握られていたことに気づいたからだ。 ・・・その手を離そうとしたがやめておいた。 ハルヒに夢で終わらせたく無かったから。 なぁ、あの時お前はいつから起きていたんだ? 「フフ。やはり気づいていましたか。」 古泉によると今回の件も特殊だというらしい。 神人が存在しない閉鎖空間だったとか、極めて感知するのが難しい空間だったとか、初めから近くにいたことで偶然入り込むことが出来たようだとか 言っていたが、閉鎖空間内での光景がフラッシュバックして大半は頭に入っていなかった。 「あの閉鎖空間の発生で何か世界に困ったことは?」 「起きていないですね。あ、困ったことではないのですがただ一つだけ変化が。」・・・何だ? 「あなたと涼宮さんの絆がより深いものへと変化したようです。」 そのまた次の週。不思議探索の日にまたも俺とハルヒ以外欠席となった。古泉の根回しだろうか。 ハルヒは特に非難することもなく、俺の奢りの缶コーヒーを飲みながら歩いている。 「あ、そうそう。商店街の福引券がまた1回分集まったのよね」と、いつのまにか丁度福引所の前に着いていた。 開幕と同時に特賞を失った福引と言うものはまるで全く弾まないバスケットボールのようである。 弾まないバスケットボールで観客を沸かす試合が出来ないことは商店街の方が一番よく分かっている。 そう、つまり特例として特賞をもう1本入れて客引きを図っていたのである。・・・が、ハルヒが来てしまったものだから大変。 流石に彼らの頭にも一般的な確率論が入っているはずだろうからそんな事態が起きることはまず予想しないであろう。 しかしそれでも“もしかしたら”が同じ比率で彼らの頭を蝕んでいるようであり、またそれが顔色を悪くさせる要因のであることが俺にも分かってしまった。 ここは俺が助けの手を差し伸べてやらなければなるまい。とまたも自分を誤魔化しつつハルヒに耳打ちする。 「3等の映画鑑賞券が当たったら丁度2人で行けるな」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4956.html
涼宮ハルヒの奇妙な憂鬱 1. 百聞は一見にしかずと昔の人は良く言ったもので、ついさっきまで車の中で俺に向かって長々と持論を浴びせてきたこの男──古泉一樹──が言った事に間違いは無かった。ここは…この世界は、物理法則が全てを支配する超常識的な俺達の世界とはかけ離れていたのだ。今目の前で起きている事実を端的に説明するとなると次のとおりだ。 “古泉は、赤色に鈍く光る球体に包まれ、ビルを一心不乱になぎ倒している巨人相手に空中を自在に舞いながら攻撃している” 俺の生きてきた十何年もの間にこのような夢のような出来事は一切起こらなかった。…そんな出来事があって欲しいと心から願っていた時期もあるにはあったが、しかしこんな夢まぼろしな光景なんぞ、『起こりえる訳がないッ』と考えるのが正解だと既にお子様を卒業した20代目前の俺の頭は解答した。 この常識ハズレな展開が今まさに起こっている状況で、俺は意外にも冷静だった。…冷静に考えている事は…そう、古泉が延々と喋ったうちの一部だ。 “スタンド” スタンドとは生命体が持つ精神エネルギーが力を持ち、実体化したもの。各々に応じた特殊な能力を身に付けているということ。そして。 全てのスタンドは “涼宮ハルヒ” が与えたものであるということ。 涼宮ハルヒというは入学早々に異世界人や未来人、超能力者に宇宙人なんかを本気で招集しようとした、一言で言えばイカレた女子であり、その行動も口頭に負けぬ程の変態っぷりである。というのは半ば無理矢理に入部させられた “SOS団” などと言うハルヒの言動がそのまま反映された新生の奇天烈部にて判明したものなのだが…中学時代の涼宮ハルヒを知る同級生達の噂は全く以って鮮明で正確なものだったのだとこの時になってようやく気づいたのだ。…人間、未来を知る事が出来ればどんなに良い事だろうか。…クソッ! しかしだ。部活を立ち上げたのがこれだと集まる部員も部員だった。部室として強引に借りた文芸部に元々いた長門有希という女子は後に自分を宇宙人と紹介し、書道部から無理矢理拉致してきた2年生の朝比奈みくるさんとやらは後に自分の事を未来人だと言い、そして入学式からそう経っていない妙な時期に転校してきた古泉は超能力者であると自己紹介した。無論、そのような戯言なんぞ信じる気すら無かった。…今日までは。古泉は自分が超能力者であるということを今日、実証して見せたのだ。 さてここで少し1時間前に遡ろう。古泉がしたスタンドの話は確か続きがあった。人の話を完璧に覚えられるほど俺の頭の出来は良くはないが、しかしあまりにも電波的だったその内容は未だに掠れることなく頭の中にあるのだ。 「涼宮さんのスタンドとはまさに世界を “超越” したスタンドと言っていいでしょう。ありとあらゆる法則を無視し、自分の望んだものをこの世界に反映させる事ができます。そして必要が無くなれば世界ごと消してしまえる、実に神がかった能力です。…その正体とは何か? …スタンド名 トウェンティ・ツー 。21を超えた者、スタンドを創り出すスタンドです。」 古泉はこの時俺がスタンドについて理解したと仮定したうえでこう言い放ったのだ。いや、むしろ見抜かれていたのかもしれないな。長門や朝比奈さんが俺に正体を説明した時に既に聞いていた単語だったことを。 自分が涼宮ハルヒによって与えられたスタンドは特定の状況下でないと発動できない特殊なスタンドだと古泉は語る。長話が終わって車から降ろされた俺がこいつに連れられて来た場所こそがその特定の状況なのだと言う。その時古泉が言った言葉を俺は聞き逃さなかった。 「これであなたがスタンド使いなのか解ります。」 古泉に手を引かれて一歩踏み出した瞬間、それまでそこになかった壁のようなものが俺達2人を避けて大きく裂け、不気味な空間に入り込んだのだという感覚に襲われた後あたりを確認してみると、そこはもう俺が普段見慣れた世界とは違っていた。まだ夕方で日が沈みかけていた頃だったのが、今はどうだ。空は曇りでもないのに靄が掛かったように薄暗く、夜になりきらない夕方と例えようか、とにかく異質な雰囲気の漂う世界へと変わっていたのだ。そして古泉が誘うビルの屋上に着いてから俺は目を疑った。マンガやアニメにしか存在しないような、青白い巨人が見下ろしたビルの間にひっそりと佇んでいるのである。 「見えますか?あれが。あれが見えるなら…これも見えるはずです。」 その声に振り向くと。なんと今度は赤いガラス状のものが古泉の身体の周りで球を成すところではないか。続けてこう説明する。 「これが僕のスタンド、僕に与えられたスタンド。名前は ケイク・アンド・ソドミー です。詳しい説明はまた後で。」 そう言うと青白い巨人めがけて重力を完全に無視し、一直線に飛んでいったのだ。そして話は冒頭に戻る。 その青白い巨人とは何か?結論から言えばこれもまたスタンドなのだという。さらに詳しく言えば主を与えられなかったがために暴走して独り歩きしてしまったスタンド。 「名前はゴッド・ブレス・ザ・チャイルド。僕は個人的に “神人” と呼んでいますがね。独り歩きしてしまった哀れなスタンドです……。あれに与えられた能力とは見ていただいた通りの、単なる破壊だけではありません。頭の中でサンドバックを殴るように、誰も見ていないところでクッションを殴るように、…あれを誰にも迷惑のかからないこの空間でのみ暴れられるよう、僕達の世界から放逐したのです。…いえ、そう設定したのでしょう。つまり元の世界と異なるこの世界とは神人が能力によって創りだしたもので、丁度さっき通った壁もスタンドによるものですよ。」 古泉はいとも容易く、その神人とやらを倒してみせた。神人が完全に崩れ落ちるのを見届けた後舞い戻ってきたのはいいが、俺が聞きもしないうちから説明を始めるのはこいつの癖なのだろうか。 「そして僕のスタンド、ケイク・アンド・ソドミーは一言で言えばスタンドの攻撃を “跳ね返す” スタンドなんです。スタンドによる壁があるならば抗力だけでこれを壊せますし、スタンドが攻撃してきたならば立ち向かうだけで圧倒できます。」 「正直、衝撃的な出来事が多すぎて良く把握できないが…とにかくお前のスタンドとやらは余程凄いということでいいのか。」 古泉は意外な回答をした。 「ええ、凄く面倒なスタンドですよ。あまりにも不完全過ぎて今回のような場面で無ければまともに扱えませんから。」 さらなる説明によれば、ケイク・アンド・ソドミーとはスタンドに対して病的に防衛的なスタンドであり、発現させるのに敵の攻撃を待たなければならないこと、そしてスタンドの攻撃以外には無力である、ということがその究極の不完全さの理由であるとの事。まず敵スタンドが正体を曝け出し、真っ向から近づいてきて殴りかかってくる事などまず起こりえないという点、そしてスタンドの腕力で投げられた瓦礫などを防ぐことが不可能なのでその時点で完全に敗北が決定するという点。その2点だ。 「敵スタンド…と言ったな。俺にお前の弱点をベラベラと喋ってしまってもいいのか?俺はこの先、お前の敵スタンドとやらに接触するかもしれないんだぜ?」 「正確には敵スタンド使い、ですね。…それはともかく。こうして僕の手の内を包み隠さず喋ったのは、僕があなたの敵ではない、ということを理解して欲しかったからです。この先、敵であるにもかかわらず、自分の事を味方だのと紹介するスタンド使いが現れるやも知れませんから。」 それをわざわざ俺に言ってどうなる。 「まだ、解りませんか?あの壁が視えたこと、あの巨人が視えたこと、そして僕のケイク・アンド・ソドミーが視えたこと……。スタンドはスタンド使いにしか視認出来ません。」 …俺が……スタンド使い。 「一つ、説明が抜けていましたね。スタンド使い同士は惹かれあうという事を……。」 その時だった。この異質な世界を保つためにあった壁が割れる音が響き渡ったのは。 ……その破片が古泉の頭にクリーンヒットしたのは。 「古泉…。お前の防御のスタンド…今少しの時間、解除しないでかぶってりゃあ良かったのにな…。」 【古泉一樹:ケイク・アンド・ソドミー:装甲型(現時点)】 破壊力-∞(E) スピード-A 射程距離-なし 持続力-B 精密動作性-A 成長性-A 能力:触れたスタンドの攻撃に自身の攻撃力を加算して跳ね返す。 よって、必ず攻撃力を上回ることになる。 ①跳ね返せるのはスタンド、スタンド攻撃のみであり、飛散した瓦礫などには極めて無力。 ②装甲型で射程距離が無いために、自分の身ごと敵に接触する必要があるのがネック。 ③スタンドの性質は「防衛」であり、敵に攻撃されて始めて発動できるスタンド。 ダメージのフィードバック:スタンドの攻撃に対しては無敵。スタンド以外の攻撃には無力。 【本体不明:ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド(神人):独り歩き型】 破壊力-S スピード-B 射程距離-10m 持続力-∞(ハルヒの精神状態による) 精密動作性-C 成長性-D 能力:命令を与えられていないがためにただ暴れまわるだけのスタンド。 無意識的な能力として自身の周囲に自己の世界を構築するための壁を張る。 本来の世界には干渉させないようにしようとしたハルヒの心理が与えた唯一の能力。 ただし現在その抑制力もかなり不安定なようで、 発現した後に野放しにしておくと壁を拡大させて世界を入れ替えてしまうという。 かなり単純な構造のスタンドであり、 倒す事が出来たとしてもまた新たに発生する事がある厄介なスタンド。 【涼宮ハルヒ:トウェンティ・ツー:型不明】 能力:スタンドを創るスタンド。 詳細不明。 2. その後の話を語ろう。 何時の間にか用意されていた車に載って、来た道を戻る事数十分。その間に俺は古泉からのさらなるスタンドの説明にしばらく耳を傾けていた。これがこの会話だけであったなら俺はあっという間に夢の世界へと旅立っていただろうが、実際この眼球でスタンド対スタンドの戦闘の一部始終を見た後では考え方も変わるッてもんだ。そうして家に着いた後はテレビも風呂も無視して真っ直ぐ自分の部屋を目指した。俺もあんなスタンドを使えるのなら、是非とも使ってみたい。その時考えていた事はただそれだけだったのだ。 結論を言おう、からっきし駄目だった。あらゆるポーズを、あらゆる精神統一を、あらゆる掛け声を発してみたものの、何分経ってもスタンドが現れる気配は無い。奇声に反応して現れたのは妹だけだ。その哀れみの眼差しはこれまで生きてきた中で初めて見るものだったように思う。全く、古泉の奴もなんていい加減な事を抜かしやがる。スタンドが見えるからスタンド使いだと?そしてスタンド使い同士は惹かれあうだと?さらにはそれが味方であるとは限らないだと?…実にふざけている。スタンドの出せないスタンド使いが敵スタンド使いに遭遇した時にはどうなるか。言うまでも無い、避けられぬ “死” だ。 やり場の無い怒りをどこへぶつけるでもなく、ベッドに横になってみる。物に当たったって何も解決しないって事はこの歳にもなれば嫌でも解るからさ。 「そういえば、こうして寝転がってる時にここで長門に借りた本の中から栞を見つけたんだよな…」 長門有希。大人しい元文芸部員。その正体は涼宮ハルヒを観察する対有機生命体…ナントカって言ったっけ。俺を栞による伝言で自宅に呼び出し、古泉に負けぬくらいの電波話を始めた張本人。古泉の話が与太話ではないって事が理解できた今、長門の電波話も理解でき始めているのは事実。その話の中で聞いたアレは…アレはもしかすると、長門のスタンドの名前ではないのだろうか。 “……私という個体に情報統合思念体から分け与えられたスタンド、アーティチュードの力を以ってしても涼宮ハルヒ本人に気取られる事無く完璧に観察し続けるのは容易では無かった……。でも、あなたが涼宮ハルヒに部活の立ち上げを促した。その結果、我々が思い描いていた形から外れる事になった。……現在は観察に支障は無し。むしろ至近距離での観察が容易なものとなり、好都合。感謝している。” 覚えている部分は大体このくらいだな。スタンドとは、そしてアーティチュードとは一体何なんだ、と聞けば長門は 「いずれ解る」 とだけ返してきやがった。…たしかに “いずれ” 解ってしまったが。 長門も古泉と同じスタンド使い…。わざわざ自分の手の内を紹介してきた古泉が俺の味方だと言い張るように、長門もまた俺の味方であるということを主張したかったのではないだろうか。それがあの小一時間に及ぶ話の本当の意味なのだろう。 しかし、そうすると一つ理解できない点が出てくる。古泉は俺がスタンド使いであるかを同行中から見極めた訳だが、長門は俺がスタンド使いであるかどうかを何一つ確認しなかったのだ。まるで、既に解っていたかのように。 と、いろいろ考えていると俺がスタンドの出せないスタンド使いだってことをまた思い出してしまった。…やれやれだ。古泉は敵の襲来があるかもしれないと言っていたが…。この状況、ハッキリ言おう。どうにもならん。大体な、敵だのなんだのと言ってもそれが俺の生命の危機に関わるようなものではないだろう。俺達まだ高校生になったばかりだぜ?一体誰の恨みを買ったって言うんだ。仮に買ったとしても、それが殺したい程に昇華しちまった奴が近くにいるって言うのか?ないない、ないね。全く、無駄に脅かすなよ。 しかし、そんなお気楽な考えはこの世界の扉を開けた後では全く通用しないと言う事を、俺は次の日まで知る由が無かった。 その日、俺がまず向かったのは古泉の元だった。こいつは自信満々に俺をスタンド使いだと言い放ったのだ。しかし事実はどうだ?俺のもとには現れてくれるスタンドなんか蚊程もいないぜ。それとも何か?俺のスタンドは妹に哀れみの目で見られるってのが能力なのか? 「あなたが昨夜どれだけ張りきっていたのかは知りませんが、本来スタンドとは僕が最初に説明した通り、その人の精神力の表れなのです。それ以上でも以下でもありません。涼宮さんのスタンドは確かにスタンドを与えるスタンドです。が、その対象の精神力がスタンドに伴っていなければ、それは眠るか、暴走するか、独り歩きするかのいずれかになるのです。昨日の神人のようにね。あなたの場合は…恐らくまだ目覚めていない状態なのでしょう。だからスタンドを出す事ができない。ですが、むしろこの状態は好都合なんですよ。」 何故好都合なんだと聞いてやったら更にこう説明を続けた。 「涼宮さんは、自分がスタンド使いであることに気づいていないようなんです。…それもそのはず、涼宮さんのスタンド、トウェンティ・ツーは遠隔自動操縦型であり、更に知性さえ持ち合わせているのです。いつもどこにいるのか全く見当が付きませんが、トウェンティ・ツーは自分の意思で涼宮さんから離れた場所で力を振るっている訳なんです。」 「ん…?それは独り歩きって奴とは違うものなのか?」 「非常に似通っていますが…トウェンティ・ツーは“スタンドを創る”能力を、涼宮さんの願望どおりに発動している点から、あれは独り歩きとはまた別物と考えていいでしょう。…さて話を戻します。つまり、涼宮さんは今に至るまで自分自身のスタンドを視認していないのです。また同時に、この為に世界は無事でいられると言えますね。これは僕の仮説ですが、涼宮さんの深層心理が100%反映されたスタンドであるがために、どこかで自己を制限するように創られたのではないでしょうか。」 仮にもし、涼宮が自分の事をスタンド使いだと、そしてその能力がどんな能力でも新たに創る事の出来るものだと知っていたら世界は既に涼宮が望んだファンタジーやメルヘンな世界に変貌していただろう、と古泉は説明した。 「そこで僕達はまず、次の一点に気を付けなければなりません。…涼宮さんの目の前で絶対にスタンドを出さない事。」 成る程、確かにそうなるな。形はどうあれ涼宮も列記としたスタンド使いである事は間違いない。ならばスタンドを認識=自分がスタンド使いである事を理解した時点で世界はグラリと形を変える。 「ですから、あなたがスタンドを出す事が出来ない状況というのはむしろ良い事なんです。敵スタンド使いにもあなたがスタンド使いだと気づかれにくいでしょうしね。」 しかしスタンド使い同士は惹かれ合う、という点だけ注意を怠ってはならない。古泉がそう付け加えたところで丁度始業のチャイムが鳴り響き、俺達は向かうべき場所、つまりそれぞれの教室へと戻っていった。俺自身のスタンドについてはひとまず置いておこう。眠っている奴を無理矢理起こせば面倒になるってのは現実世界では良くあることだ。それに則り、対スタンドにおいても無理矢理起こしてやるより自分から起きるのを待ったほうが良いはずだ。いや、決して俺のスタンドの性格が俺と同じく寝起きの悪い奴だと考えているわけではないぞ。 さてそれよりも今はもう一つの気になる事があった。それは古泉に用意しておいた文句をぶつける前。 学校に到着して校内を動き回る為にまずすることといえばそう、靴の履き替えだ。その時俺が下駄箱の中に見つけたもの、それは一通の手紙だったのだ。中を開けてみれば予想通りの文面、わざわざ放課後なんて時間指定までして俺に会いたい人がいるらしい。 何故もこれほど淡々と説明しているかだって?理由は簡単。俺が、モテない人間にカテゴライズされていると、自覚しているからだ。なればこの手紙は悪戯である可能性が極めて高い。浮かれてスキップでこの指定された場所であるここ、つまりこの教室にやってきたものなら待ってましたとばかりに写真に撮られるハメになるだろう。それを平気でやるのは…恐らくあの谷口と国木田か。この手紙を無視する訳にはいかないが、是非とも第六感をフル稼働させて身に降りかかることに対処しなければ。入学早々歩くお花畑なんてあだ名に変えられたくも無いしな。それならばまだキョンと呼ばれるほうがマシッてもんだろう。等と考えつつ、ついにその時間がやってきてしまった。 SOS団などと言う俺がいてもいなくても変わらないような、特に何をする訳でもないような、そもそも部活としての意味が見出せないような、そんな部活が終わった今、決心して俺は教室の前に立ち、呼吸を整えた後一気にドアを開けた。そこで待っていたのはクラス一の美人と認めてやっても良く、さらには性格まで美貌に伴った谷口曰くAA+とランク付けされるクラス委員長、朝倉だった。 正直もう既に話など耳に入っていなかった。前置きが幾らあろうと無かろうと、俺を嵌める為に呼び出したのならいずれ告白タイムが始まる。勿論偽りのだがな。俺がすべき事はただ一点。朝倉に悪事を唆した張本人、恐らくこの教室に潜んでいる谷口か国木田の存在を露にする事だ。どこだ、どこにいる…?幾ら馬鹿でも掃除用具入れの中なんてありきたりな場所にはいるまい。…そう理論立てている時だった。 妙な事に気づいた。朝倉の長々とした前置きはどうにもこの場所、この状況には不似合いなのだ。適当にしか聞いていなかったが、涼宮についてどう思ってるかなんて言って話し始めたかと思えば、人間の行動心理について聞いたり、距離を置いた場所から経済について説いてみたりと、まるで自分が人類の観察者のつもりであるかのように話しているようだ。そんなことに気づけたのはやはり…四六時中思い浮かべたくも無いが、古泉のせいか。 スタンド使いは惹かれあう…もしや。 ついには組織がどうの、上がどうのと頓珍漢な事を喋りだし、ああ、これは確実に普通じゃないなと思った次の瞬間耳に飛び込んできたその言葉を俺はしっかりと聞き取った。 「あなたを殺して、涼宮ハルヒの出方を見る。」 ありのまま今起こった事を話そう。その言葉を発したかと思ったら次の瞬間ナイフを手にした朝倉が俺の胸を目掛けて飛び込んできた。何を言っているのか理解できないとは思うが、俺もこんなことをされるとは思っていなかった。 危機一髪。昨日の一件があるまでの俺ならば確実にその刃は心臓に付き立てられていた事だろうな。 そうならなかったのはこの教室に入ってから今まで警戒を怠らなかった為だ。…しかしこの後はどうする。 今の初撃は避けられたとはいえ、状況は1ミリすら良くなってなどいない。バランスを崩して派手に転んだ朝倉は何事も無かったかのように立ち上がり、再度俺の方に身を向けて完全にロックオンしている。 こういう絶体絶命の状況に陥った場合、次に何をすればいいのか?俺は解っている。俺が親父に教えられた唯一つの、我が家系の伝統的な戦いの発想法。それは… 逃げる、だ!! 「無駄よ。」 さっき通ってきた入り口はあろうことか、明らかに地球上には無い物で塞がれてしまっている。触るとダメージはないが、とにかく“反発”する力だけを備えた壁のようだ。 「何も知らないあなたに何を説明しても時間の無駄だけど、どうせ最期だから教えてあげるわ。今のはアーティチュードによる情報改竄能力。これで入り口の座標に“反発する壁”を書き込んだの。その結果がこれよ。」 「何?アーティチュードは長門のスタンド……あっ!しまった!」 なんてことだ。黙っていれば俺がスタンド使いであることを気づかれずに済んだのに。…いやまて、この状況で俺の能力からすれば知られても知られなくても同じか。…というのは全くの見当違いだった。俺がスタンド使いである事を朝倉は知ってしまった。その為朝倉は一瞬で俺から距離をとった。 「あなたも…スタンド使いだったとはね。気づかずに返り討ちを喰らうところだったわ、危ない危ない。」 そうだ。スタンドを自分の意思で出せないとはいえ、それさえ相手に知られなければブラフが通る。これはチャンスだ。 「チッ。もう少しで巧くいくところだったんだがな。」 とさらにハッタリを掛けてみる、するとどうだ。さっきまで俺を殺そうと躍起になっていた少女は罠に掛かったネズミのように戦意を無くしている。 まず俺の能力をどうやって見極めてやろうかなどと考えているのだろうな。そんな大層な能力、さらっさら無いんだが。さあて、次はどんな大層な能力名でも言って惑わせてやろうか。…そう考えていると。 「…へぇ、…なぁんだ。あなた、まだ自分のスタンドが目覚めてないスタンド使いだったのね。無駄に気張って損しちゃった。」 例えるなら悪戯が母親にばれてしまった餓鬼の心情といったところか。完全に図星を突かれた俺は一瞬よろめきそうになった。 「なっ、何を根拠にそんな事を!」 「う・し・ろ。」 振り返ってみるとそこにいたのは。ドレッドのヘアスタイルのようにコイル状の鋼鉄の束が頭部に張り付いたような出で立ちのクリーチャー。その目元はさながら照準器のようだ。そして腕を組み、ただ観察だけしているだけのような…これはスタンド!しかしどういうことだ?スタンドは基本的に一人一能力のはず。 涼宮のスタンドが幾ら万能なスタンド製造機だとしても、そのルールは曲げられないと聞いたが。 「アーティチュードは私を“創りあげた”スタンド。私達インターフェースはアーティチュードと共にあるの。融合体と言えば理解できるかしら?…厳密にはちょっと違うんだけどね。私たちはアーティチュードを自己の能力として振舞える。…でもそれは本来の持ち主以下に制限がかかるから私にとっては“使えない”の。 …そこで私が“自分のスタンドを手に入れるための起爆剤として一度アーティチュードを捨て去って得た”のがこのスタンド。名前はシャッフルデイズよ。私はあなたのように人を騙すのは得意じゃないから、正直に教えてあげるわ。シャッフルデイズの能力は相手のコピー。一度捨てたアーティチュードの能力は使えなくなる代わりに、姿、性格、そして精神をそれぞれ個別にコピーできるの。どうしてこんな学校にこんな性格の良い、美人がいると思う?…全てはあなたに近づき易くするためよ。」 成る程出来すぎていると思った。朝倉のような普段真面目で成績優秀で気の利く美人(谷口基準でAA+)がこんなパッとしない学校に来るはずが無い。近くにある進学校に余裕で入学できるレベルなのだから。 「そしてこの、精神のコピーこそがシャッフルデイズの最高の能力。精神を知る事、それはつまりその人自身となる事と同義。その人が考えている事は全て筒抜けって事。例えば…あなたがあの子に対して少なからず好意を持っていることもね。クスクス。」 くっ、あの子って誰だよ、なんて突っ込んでやりたいがそれも全て筒抜けだと考えると言い返す気力も削がれる。なんせ打開の案すらバレバレなのだから何かを考える事すら朝倉が言うとおり、“無駄”になる。クソッ、腹の立つ言葉だな。 朝倉は、朝、顔を洗った後寝癖を直すように、靴を履くときに靴べらで足を宛がうように、極自然な動作でナイフを構えなおし、今度こそ俺を殺そうと飛び掛ってきた。 三択──ひとつだけ選びなさい ①ハンサムなキョンは突如アイディアがひらめく ②仲間が来て助けてくれる ③かわせない。現実は非情である 「③よ。負けて死になさい!」 死ぬ寸前には全ての動作がスローに見えると聞いたことがある。ナイフを突き立てられて絶命するまでの時間が何十倍にも引き延ばされて、苦痛も同じように何十倍にも膨れ上がる。だからこそ俺は目を固く瞑った。自分の死は死ぬ瞬間まで実感したくなかったからだ。ああ、俺は死ぬのか…まだまだ青春時代を充分に満喫できちゃいないというのに。…父さん、母さん、そして妹よ、すまん。 しかしいつまでたっても俺の身体を貫くはずのナイフの感触が無い。こっちは断末魔の叫びの一つや二つくらいは用意していたと言うのに。…と、こんな状況でいつまでも冷静ぶるのもやめていいだろう。スローな世界が徐々に速度を取り戻した頃、俺は自分が生きているのか死んでしまったのかを確かめるために、 ついに目を見開いた。 答え ―② 答え② 答え② 「な…がと?」 そこにいたのは元文芸部員、現SOS団員、そして正体は宇宙人の長門有希であった。そしてその20mほど向こうには顔を思いっきり殴られたシャッフルデイズと朝倉がぶっ倒れている。 「…せっかく貸し与えられたアーティチュードも、使い方が荒ければ大きく痕跡を残す、だから私に気づかれる。ならば初めからアーティチュードを用いる必要は無い。なぜなら物理的な手法の延長上でしか無いから。私へも与えられたアーティチュードによって容易に解除できる。…あなたの限界は所詮こんなもの。 私のバックアップでしかないあなたには無理な細工。」 ダメージが足に来ているのか、がくがくと震えながら立ち上がる朝倉。アーティチュードについてようやく解ってきた…アーティチュードとはこいつらの親玉のスタンドってことだ。しかし朝倉はそれを自分用に作り直した、シャッフルデイズへとスタンドを作り変えている。いくら長門がアーティチュードの扱いに長けていると言っても…! 「長門、気をつけろ!朝倉はアーティチュードとやらを作り変えた、“コピーする”スタンドを持ってるんだ。触れられたら最後、姿や性格のコピーはどうでもいいとして、精神をコピーされて思考が全部読み取られてしまう!そうなったら勝ち目は薄い!」 「……理解。そしてその能力は一度消去しなければ新たなコピーが不可能、という制限があると推測。でなければあなたの発言を邪魔している筈。」 「いらない勘違いは避けて欲しいものね。私がキョン君の語りを放っておいたのは、どのみち息の根を止める事になるからよ。…順番が狂っちゃったけどね!」 そう言うと同時に間合いを取って、どこから出したのか大量にナイフを長門目掛けて投げてきやがった。 「長門!!」 その俺の声は激しい金属音によってかき消された。俺の心配は無碍に終わったようだ。長門は涼しい顔で全てのナイフを弾き返しているのだ。朝倉は人間離れした動きで翻弄しながら絶え間なくナイフを投げ続け、長門はその人間離れした手の速さで全てのナイフを叩き落す。その光景を見て、ああ、この二人は確かに人間ではないのだなと心から感じた。 しかし拮抗していたように見えた戦いの空気が一瞬にして変わる。長門が急に振り向いたと思ったら俺を蹴り飛ばし、 「なッ、何をする…」 その瞬間俺が元々いた場所には無数のナイフが降り注いだ。そう、朝倉は無力な俺を狙う事こそ最良の方法だと気づいたのだ。その思惑は正しかった。俺に降るナイフから護る為には長門は迎撃する機会を完全に失う事になる。結果、スタミナが続く限りナイフを止め続ける羽目になるのだ。 「長門…もう、いいよ…」 俺が、俺さえいなければ、こんな荷物が無ければ、長門は勝つ事も難しくなかっただろう。しかし今はどうだ、避け切れなかったナイフが長門の身体を切り刻み、辺りには血だまりが幾つも出来ている。 「問題ない。」 とは言うものの、その言葉と苦悶の表情とは全く結びつかない。 「ダメ押しにもう一本。」 あらゆるものを書き換える能力、アーティチュード。無数のナイフを作り出すだけが能では無かった。朝倉が最後に選んだ武器、それは杭だった。かつてイエス・キリストの死刑に使われたものより遥かに大きく、まるで電信柱を持ってきてそのまま突き刺したような光景が目の前に広がった。その刺された対象とは誰か?それは言うまでも無い事だ…。 「あっははは!邪魔者はこれで消えたわ!…さぁてキョン君、あなたも長門有希の後をすぐに追わせてあげるからね?」 万事休す。絶体絶命。対抗できる力は朝倉の前に散った。これが運命だとしたら、俺は何の為に生まれてきたのだ。死ぬために生きるとはどっかの偉い奴が言った言葉だが、それは結局のところ人生に充分満足した人間が発した言葉にすぎず、本来生きられるであるはずの時間から3/4がマイナスされてしまう俺にはそんな言葉なんぞ理解したくも無い。しかし目の前にある現実はなんだ。ナイフを量産する朝倉、一切スタンドを出せない俺。そして長門は杭に貫かれて……いない!? 「名づけるならば……コズミック・トラベル……あらゆるものを“強化”するスタンド……このナイフの「切れ味」を強化した……」 朝倉のシャッフルデイズの全体的に黒を基調としたカラーリングに対し、長門のコズミック・トラベルは白銀を基調とし、キャップを深く被った中に見える眼光は非常に鋭い。ジャンパーを羽織ったアーティストをモチーフとした筋骨隆々のスタンド、それがコズミック・トラベルだ。 その手に持つナイフは絹を引き裂くかのように、竹を割るかのように、鉄杭を真っ二つに裂き長門の身体を貫かせなかった。 「へぇ…あなたも“自分の”スタンドに目覚めたのね…見た限りではたった今、奇跡的に発現しましたって感じね!そんな軟弱なスタンド、私の敵ではないわ!」 しかし朝倉の指摘は間違いだった。 「……硬性を強化。あなたのナイフはこの木製の机にすら刺さらない。」 そう言って机を盾にするだけで雨の如きナイフの嵐は机に弾かれて山積みになっていく。 「ルーキーの癖に生意気よ。これならどう?」 またも鉄杭を作りだし、軽く投げ飛ばす朝倉。 「血中に含まれる塩分の金属腐食効果を強化。」 長門はそう言うと腕から滴り落ちていた血液の雫を飛んでくる鉄杭に向かって浴びせる。するとどうだ、 巨大な鉄柱は極小隕石が地表に到達することなく燃え尽きるように、長門の目の前ギリギリで鉄の粉と化して消えていったのだ。 しかし。 「発想はまずまず。でも残念、そっちは囮。」 安心したのも束の間、朝倉の急接近を許してしまった長門は朝倉のスタンドに掴まえられてしまった。コピーするスタンド、シャッフルデイズに。 「全てはこの一瞬の為だったのよ!私のオリジナル、長門有希!!…フフフ、あなたのスタンドに滲み出ている強大な精神力、それをコピーすることで私はあなたを上回れる!…シャッフルデイズの完成によってね!」 「なに…を……」 首根っこを掴んだまま持ち上げるシャッフルデイズの身体が眩く光る。長門のコズミック・トラベルがこれをやっとのことで弾き飛ばした頃には。 ソレは、完成していた…。 「うふふ…シャッフルデイズPt.2と名づけるわ。長門有希!あなたによって完成されたこのスタンドに最早欠点は存在しないわ!この“スタンドをコピーする”スタンドにはね!!」 スタンドとは精神力の顕れであり、その大きさに伴った能力を持つ。ひょっとしたら朝倉のスタンドは元々此れほどまでに多様なコピーを可能とする能力を持っていなかったのではないだろうか。精神力を更新してはスタンドを際限なく進化させ、その末出来上がったのが…今俺の瞳に移る漆黒のコズミック・トラベルなのだ。完成したシャッフルデイズ、いやシャッフルデイズPt.2はあろうことか、コズミック・トラベルそのものに形態を変化させた。それが形容ごときの模写ではないって事は容易に解ってしまった。 朝倉のコズミック・トラベルと長門のコズミック・トラベルが対峙する。武器の強化は防具の強化により結局同条件のために拮抗してしまい、勝負が付かないからあえて自己のスタンド同士を戦わせる事を選んだのだろう。単純に身体能力を強化すれば後はスタンドの純粋な性能差で勝負が決まる。これこそが、戦闘能力として成長前のアーティチュードに劣るシャッフルデイズの妥当であり正当なスタンドバトルなのだ…。 先に動いたのは朝倉だった。一動作ごとに「無駄」と言い捨てながら猛ラッシュを浴びせる。これに対し長門は冷静に受け流して対処する。ああ、嫌な予感はしていたともさ。もしも朝倉のシャッフルデイズのコピー能力が、自己に対しての上書きではなく貼り付けだったとしたら?…もしそうならコズミック・トラベルのパワーを1とすると、シャッフルデイズがいくらパワーがなかろうとかならず1を超過する。つまり同じ能力、同じ攻撃方法である時点でパワーが下回る長門のスタンドには勝ち目がないのだ。 それが確証されたのは長門がスタンドもろとも吹っ飛ばされた時だ。 「長門ッ!」 異質な空間に響き渡る叫び声に返事をするかのように体勢を立て直す長門。 「長門!やっぱり朝倉の能力は…」 駆け寄ろうとした俺を長門は黙って右手で制した。 「朝倉涼子のスタンド、シャッフルデイズPt2はコピーした情報を、コートを着るかのように貼り付ける。それを今の攻防で理解した。」 その通りだ。だからこそこのままでは俺達に勝ち目は…無い。 「理解が早いのは結構。でも解決に繋がらせられないんじゃあ、…無駄よねぇ。」 そう言いながら新たにナイフを構える朝倉。 「あなたはあなたのスタンドで殺してあげる。もちろん直接切り刻んであげるわ。 だって、あなたのスタンドでこのナイフがどれだけ殺傷能力を強化できたのか楽しみで、ただ投げつけて終わりだなんて勿体無さすぎるわ。」 最早快楽殺人鬼のような笑顔しかそこには残っていなかった。 「じゃあ、死んで。」 長門を助けようと必死に足を動かそうとしても全く動かなかった。それは朝倉の表情からの、生まれて初めて感じた、吐き気を催すような邪悪が俺を蝕んだからだ。情けない事に、大の大人直前、しかも男という性別にある俺はただ、ナイフが長門の身体に刺さるのを見届けるしかなかったのだ。 しかし凶刃が長門の身体に突き立てられてからもただただ滑稽な姿を晒していたかと言えばそうではない。それ以前に、この大惨事は回避されたのだから。…結論を言ってしまおう。 “さっきまでそこにいた長門の姿は幻影だった。” 「なっ…?!一体どうやって幻を?何故あなたが私の背後にいる!?何故私は身動きが取れないのよおおおおおっ!!!」 尋常ではない朝倉の呻きにも似た叫びに、長門はこう答えた。 「私のバックアップであるあなたがこれしきの事を自分の演算処理能力で解けないなんて、ただ愚かさを誇張しているだけだとは思わない?」 「くっ…質問に質問で返すなんて低脳な人間のやることよ。」 もうただの罵倒にしか聞こえないが。 「……質問には答える。まずはあなたが私と誤認した幻影の正体。私は眼鏡のレンズにコズミック・トラベルを使い、“集光度”を強化した。……それはまるでスクリーンに映像を投影するように、砂埃の舞い上がる空間に私の姿を映し出すのは非常に容易だった。レンズはあの時あなたがいた場所に設置した 。あなたを焦点にちょうど同じ距離後ろに私がいた。それにすら気づかないのはあなたが自分の力に酔っていたから。これが今あなたの背後を取っている理由。そしてあなたが動けない理由は…。」 長門が指差す方向にあった朝倉のスタンド、コズミック・トラベルをコピーしたシャッフルデイズの容姿は微妙に変わっていた。 「私のスタンドは自分自身を強化する事は出来ない。しかしコピーされたスタンドならば…?」 成る程、これはコズミック・トラベルから進化した新たなスタンドなのか! 「そう。名づけるならば“サイコ・トラベル”。朝倉涼子は私のスタンドの取扱い方法を、コピーの段階で手に入れてはいるが、この私さえ知らないサイコ・トラベルの取扱い方法は持ち得ていない。だから動かせない。」 「シ…シャッフルデイズッ!コピーを解除しなさ…」 「遅い。」 哀れ、朝倉はスタンドと共に殴り飛ばされていた。 「げほっ、長門有希!ただそれだけの事で私に勝てると思うなッ…!!解除してしまえばこれしきの事!」 「あなたの敗因は3つ。インターフェースならば誰でも扱えるアーティチュードで罠を張った事。私に劣る演算能力で私に勝負を挑んできた事。そして最後に… …あなたは私を怒らせた。」 朝倉はようやくスタンドを解放して反撃準備をするが、コズミック・トラベルの容赦ないラッシュには無意味だった。 『アァアラララララララララララララララララララララララララアアアァァーーー!!!』 コズミック・トラベルが繰り出す拳は正確に朝倉の顔を、身体を、そしてスタンドを殴りつける。やがて戦意の欠片すら無くなった朝倉は足元から光の泡となって消えていく。 「よ、良かった…わね、キョン君…。長門、さんのおかげで…命拾いして。でもこれで終わった訳じゃないわ……長門さんだって…私のように考え方を“改める”時が…来るかもしれない。…情報統合思念体に創られた存在である限り…。」 朝倉は最後にそういい残し、やがて完全に消滅した。 「……完了。」 という言葉と同時に倒れる衝撃音。 「長門ッ!大丈夫か!?」 今度こそ長門の元へ駆け寄ることができた。長門の身体には朝倉の容赦ないナイフの雨により痛々しい程に傷が付けられている。 「この怪我…」 「私の身体の修復は後回し。先にこの部屋を元に戻す。」 そう言うと身動き一つせずコズミック・トラベルを戻したかと思ったら、教室が異質な世界に変わっていった過程を逆再生するかのように元通りに戻っていったのだ。…コズミック・トラベルを出している間はアーティチュードを使えない、だから一旦コズミック・トラベルを仕舞った。これは紛れもなくアーティチュードによるもの。能力は…“物質を別の物質に作り変える”…なのか? 「身体の修復ってのも、そのアーティチュードがやってくれるのか?」 抱き起こした長門は一言、 「そう。」 とだけ言ったのだが、すぐに何かに気づいたようで、何やら顔をぺたぺたと触って確認している。 「どうした?」 「…眼鏡の再構成を忘れた。」 ああ、朝倉戦で投影機代わりに使ったあの眼鏡か。この教室が元通りになる時に巻き込まれたのだろう。 「してない方が可愛いと思うぞ。俺、眼鏡属性なんて無いし。」 「…メガネゾクセイとは何の能力?」 「妄言だ。なんでもない、気にしないでくれ。」 「…そう。」 丁度その時だった。まるで漫画のような絶妙なタイミングでこの教室に侵入してくる生徒がいるとはッ…。 「WAッWAッWAッ忘れ物~ッ………なッ!?」 …谷口だ。…そして俺と、俺が抱きかかえる長門の姿を見てから一言。 「……………すまんッ!ごゆっくり~~~ッ!!!」 ……十中八九、逢引の現場と誤認して去っていきやがったな…いや、この状況を見れば、そう考えるのも当然だろう。誰だってそー思う。俺もそー思う。 「はぁ~あ、どうすっかな…これから。」 「問題ない。あの男子生徒はスタンド使いではない。」 いや、そういう意味ではなく。 「朝倉涼子の事なら私が対処しておく。」 …もういいや。 【情報統合思念体:アーティチュード:遠隔自動操縦型】 破壊力-なし スピード-なし 射程距離-∞ 持続力-∞ 精密動作性-A 成長性-E(完成) 能力:あらゆる情報を書き換える。 ①原子情報を書き換えれば全く異なる物質すら作り出すことが可能。 ②情報統合思念体とはこのスタンド能力によって生み出され、存在させられている。 故にスタンド体でもある。 ③同様の手段でTFEIを数体創り、能力を貸し与え、 涼宮ハルヒの観察のために地球に送り込んだが、 このせいでスタンドエネルギーをかなり消費してしまった。 (それでもその他の有機物の創造と情報改竄がこれ以上出来なくなるだけの制限。) これによりTFEIに貸し与えられた能力も本来のものより性能が落ちる。 (その際スタンド像は現れない。) ④情報統合思念体の目的は成長性の閉塞を解消する事である。 ダメージのフィードバック:なし 【朝倉涼子:シャッフルデイズ:中距離型】 シャッフルデイズ(Pt.1) 破壊力-C スピード-C 射程距離-30m 持続力-C 精密動作性-E 成長性-A 能力:触れた相手の精神、性格、容姿をコピーする。 ①コピーする箇所はそれぞれ個別に設定でき、 これを使ってキョンに接触しやすい性格と容姿をコピーしたものと思われる。 ②精神をコピーすればその人間の動作すら手に取るように解る。 シャッフルデイズPt.2 能力:触れた相手のスタンドをコピーする。 スタンドを目覚めさせるに至った長門の精神をコピーしたことで、自身のスタンドをも進化させた。 制限としては一度に一スタンドのみのコピー。 ダメージのフィードバック:部位相応 【長門有希:コズミック・トラベル:近距離型】 破壊力-A スピード-A 射程距離-2m 持続力-A 精密動作性-A 成長性-B 能力:触れたものを強化、または進化させる能力。 ①対象は物質でも、生物でも、スタンドでも可能。 ②特性、身体的な能力、基本的な能力についてを強化できるが、 一度には一つの対象に対して何か一つしか強化できない。 (スタンドの能力を強化すれば、第三者の能力は強化できない。) ③自分、またはコズミック・トラベル自身を殴る事は出来ない。 ダメージのフィードバック:部位相応 【キョン:スタンド名不明:型不明】 能力:不明 =To Be Continued
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2540.html
翌日。 例によって体よく休日のみ体感できる究極の怠惰を満喫していた俺だったが、予想通り夕方になって「NO NAME」なる人物から電話がかかってきた。 何も知らず、いきなり「NO NAME」という人物から電話がかかってきたら俺は恐怖しちまうだろうな。 なんせ、そんな名前で電話番号を登録している知り合いは一切いないのだから。 『・・・話は聞いていると思う。7時15分に、長門有希が住んでいるマンションの入り口に来てくれ。以上だ』 誰だったのか、なんで長門の家の前だったのかとかはまあいい。ということでとにかく自転車をころがして急行した俺だったが、指定時間より幾分早く到着してしまった。 ま、既に古泉と長門は居たので良かったが。オフクロに外で食べる、とか言っちまった所為で腹が減った・・・ 「同じく。準備すらしていない」 「僕もです。ことが済んだらどこかに食べに行きましょう。奢りますよ」 ありがたいね副団長。 「ともかく、あと5分程度時間があります。電車でも見て時間を潰しますか?」 生憎俺は電車を見て時間を潰すような技を会得していない。 そういや長門、私服なんだな。 「?休日だし」 ・・・そうだよな。まぁ、私服というか部屋着のようで、某有名メーカー製のジャージの上下を着ていた。中々似合ってるぞ。 「・・・ありがと」 ぽっ、と頬に朱を入れる長門。何かが俺のハートを貫き通さんとしていたが、俺は必死にそれを跳ね除ける。 ・・・しかし、萌えますね。 「・・・僕には萌」 「黙れ」 「やれやれ」 「確かに良い男なのかもしれん。だがな、俺にそんなことをアピールされても困る」 「アピールはしてませんよ。主張はしていますが」 同じことだろうが。 ともかく黙れ。 「・・・」 ジャージの長門はそのビー球みたいに澄んだ目を、駅に繋がる道のほうへ向けている。 「何か来るのか?」 「・・・というより、来た」 ・・・ああ、来たな。 笑顔が似合うロングヘアの天使だ。 まだかなり距離があると言うのに、こちらに気がついた鶴屋さんはぶんぶんと千切れんばかりの勢いで手を振りながら全速力で走ってくる。 なにやら紙袋を持って。 「やっほー!キョン君、ゆきんこ、古泉君!!元気してたかい?」 あなたに会ったらどんな病人だって一瞬にして元気になっちまいますよ。 俺たちの前にくるなり、ぴょん、と飛び跳ねた鶴屋さんは 「ほっほー。それはあたしを口説いてるのかいっ?ははぁ、君もなかなかやるなぁ!」 ぽりぽりと頭をかきながら大笑いする。 ハルヒもこういう風な性格だったら完璧だったんだけどなぁ。 「それよりっ!これ、なんかしらないんだけど、君達に持っていけって言われたからもって来たよっ!」 なんだか知らないけれど・・・って、あなた爆弾だったらどうするんですか。 「大丈夫!金属探知機かけてあるから!」 ・・・そうですか。 「なら、安心です。僕が受け取りましょう」 ほいさっ、と鶴屋さんは古泉に紙袋を渡し 「じゃ、あたしは用事があるから帰るにょろ!まったね~!」 そういい残して鶴屋さんはもと来た道をステップまじりの競歩という妙な歩き方で帰っていった。 ある意味ハルヒ以上に騒がしい人だよな。あの人。 魅力的だぜ。 「・・・」 「それより、この紙袋ですが・・・」 と長門の三点リーダーを押しのけるように、古泉が紙袋を掲げる。 「結構重いです」 神戸風●堂の紙袋だな。ゴーフルでも入ってるのか? 「入っていたら入っていたで嬉しいんですが、それはないでしょうね。 だな。あの人のことだ。 例の謎の棒だったりしたら、それはそれで面白いんだが、重さ的にそれはないだろうな。 「・・・さ、ファミレスかどこかにいきましょうか?詮索は後回しです。お腹がすきました」 「そうだな。近くのサイゼリ●か何処かで良いだろうが・・・」 「うちにくる?」 俺の背後の小さい陰がぼそりとつぶやいた。 「いいのか、二人で押しかけて」 「昨日のカレーがまだ残っている。早く処分したい」 春だからそんなに日持ちもしないし、と付け加えた。 「どうします?僕は大賛成ですが」 「ああ、俺も大賛成だ」 そして俺は再び長門家にお邪魔することとなる・・・ 「クリスマスに訪れたきりだったのですが、この変わりようは・・・すごいですね」 と通されたリビングで、辺りを見回しつつアイスコーヒーを飲みながらつぶやいた古泉。ちょっとしたスペクタクルですね、とでも言うかと思ったが、そこまで達していなかったか? 「まぁ、ある程度は予想していましたしね」 グラスのしずくを指でなぞりとりつつ、古泉は 「正直、あれほど長門さんが変容してしまうとは思っていませんでした。人格ごと変わってしまったといっても過言ではありませんよ」 「嫌か?」 「いえいえ、僕は以前より意思疎通がしやすくなった上、社交的になった今の長門さんのほうがいいかな、と思っています。ただ、・・・この長門さんがずっとこのままである、 という保障は何処にも無いという事を、一応頭の片隅にでもおいといた方が良いかもしれません」 とスマイル古泉。 どういうこったいそれは。 無意味ニヤケに若干皮肉の色を滲ませて 「人は変容の動物です。いつ何時どう変化するかは判りませんよ?」 「それは宇宙人にも適用できると思うのか?」 「・・・さあ。ただ、僕はですね―――」 「ごめん!野菜が無い!サラダは出せないけどいい?」 ビクッと俺とスマイル青年の肩が揺れた。 ・・・大丈夫だ。例によって台所の影からだ。まあ、ハルヒなんかよりよっぽど神様らしい彼女には聞こえていたかも知れんが。 「別にいいよな?古泉」 「ええ。むしろ僕は温野菜派でして」 とよくわからんことをほざきやがったがまあ良い。 「別にいいぞ!こっちはお邪魔してる身だ、お前の思う通りにやってくれ!」 「わかった!」 と長門は台所の影から返答した。 「・・・まあ、何れ。今はまだ早すぎます。何をするにしても。ひとまず目の前の懸案事項を片付けましょう」 一応同調しておくかな。 「あれ?昨日と味が違わないか?長門」 「おやおや、昨日もお邪魔していたんですか。貴方も隅に置けませんねぇ」 黙れホモ。 「昨日、ちょっと煮込みすぎて濃くなってしまった。水とカレー粉とガラムマサラと若干のおからを足した。そしたら・・・味が変化した上昨日と同じ量になってしまった」 ドジッ子ながもん。いや、それくらいのヘマは誰だってしそうだ。 「そう?」 「だと思いますよ。・・・しかし、美味しいですね。長門さんのカレーは」 「そう。ありがとう。今度はスープカリーに挑戦してみようと思う」 ・・・お前、もしかして毎晩カレーとかいわないよな? 「それはない。ちゃんとハヤシライスやビーフシチューも作る」 似たようなもんだろ。肉じゃがは作れるとか言ってたが、それも極論をいうとビーフシチューの延長線上のものだ。 「・・・!私の料理のレパートリーが少ないと?」 むすっとする長門。目を見る限り本気で怒ってはいないな。 「・・・わかった。こんど来た時に、あなたが『ユキ様、一生付き従わせていただきます!』と土下座するような料理を作る」 おいおい・・・古泉は笑うな。 「長門さんの手料理フルコースっていうのも食べてみたいですね」 「・・・がんばる」 なんだか長門の雰囲気が一瞬、新妻のそれになったのを俺は見逃さなかった。 良いお嫁さんになるぜ。こいつは。 俺が保障してやる。 ・・・それにしても長門、食べるの早いな。 「・・・」 何か俺はいけないことを言ってしまったのか。 長門が睨んで来た。 「・・・冗談だよ」 「・・・そう」 こいつにも何かメンタリティというものがあるんだろうか。 「・・・だって私、女の子だもん」 ぼそっとつぶやいた。 そうだよな。 「・・・それより。そろそろ本題に入ろうと思う。キョン、さっきの紙袋かして」 早食い女王長門は、まだカレーを食ってる途中の俺がよこした重めの紙袋を受け取り、中身を取り出・・・ 「どうした長門」 「・・・」 長門、顔が赤いぞ。 「・・・これ」 と長門が引っ張り上げた、紙袋の中身。うん?ハルヒと書かれた透明なビニールぶk・・・ ・・・ ・・・ ・・・・・・ 三点リーダーが支配する世界に、リビングは瞬時に変化した。 「・・・こ・・・こ・・・れは・・・」 「・・・下着」 見りゃ判る。女モノの下着だ。ご丁寧にブラジャーとパンツがセットになって入ってやがる。 おまけに、数セット入っていやがる。 「・・・まだある」 赤面長門はさらに紙袋からビニール袋を取り出す。また下着のセットだ。袋には「みくる」と書かれてある。 赤面しつつもそれらを引っ張り出した長門はまだ紙袋を覗き込んでいた。 まだ何か入ってるのか? 「・・・手紙が底に貼り付けてある」 べりっ、と音を立てて破き、開く。 「・・・『ハルヒと書かれたビニール袋には、涼宮ハルヒの下着(使用済み)が、 みくると書かれたビニール袋には、朝比奈みくるの下着(使用済み)が入っています。 キーワードは『匂い」です。 これをどうにかすることで涼門みるひは分裂、元の二人に戻ります。 下着自体は大きな声でいえないような方法を使用して調達しました。 他言無用です。ご健闘をお祈りします』・・・・・・・・・・・・・・」 おいおい破くな長門! 「・・・皆大きい」 「何が」 「・・・胸」 そんぐらい情報操作とやらで大きくすれば良いだろう。 「・・・自身の身体情報にかかわる操作は、認められていない・・・グスッ」 泣くな、泣くな長門。 「おっぱいのおっきいやちっさいで人は判断されないぞ!落ち着け! おっぱいで人を判断するのは良くないことですよ~って言うじゃないか!」 「・・・でも、貴方は巨乳好き」 そういうわけじゃない!って古泉までなんで落ち込むんだ! 「・・・って言うのは冗談」 ・・・ガクッ、と首を思い切りもたげた俺。 っていうかあんまり冗談に見えないような顔だけどな。実際なんか目から出てるし。 「・・・目から汁」 そうかい。 「ともかく、何故これが我々に渡されたんでしょうね?」 とホ泉、違った古泉。 キーワードは匂い、って何だ? 「嗅いでみる?」 「俺は警察犬でも麻薬探知犬でも災害救助犬でもまさお君でもない」 「・・・ひとまず、嗅いでみて」 ・・・長門、お前これの匂いを俺が嗅ぐってのがどういう行為か、判るよな? はたから見れば変態だぞ? いやはたから見なくても変態だぞ? 「あなたがえっちなのは今に始まったことじゃない」 ・・・はぁ。 判ってる。俺はエッチ魔人だよ。 思いっきり嗅いでやる。過呼吸になるまで吸い込んでやるぞ。 というわけで俺は自分の頬をぱんと叩いて己を奮い立たせ、まずは「みくる」と書かれたビニール袋の攻略から着手することにした。 「・・・」 という長門の熱くてなんか痛い視線を一身に浴びつつ、袋を開いて・・・ おっと、これはなんだ。これ・・・ほのかな香水の匂いか? 俺は意を決し、その下着の詰め込まれたビニール袋の中に頭を突っ込む。 ・・・ ・・・・・・俺・・・あれ?・・・ここ・・・天国・・・ ・・・ハローこちらテンゴク・・・あれ・・・意識が・・・ ・・・ハッ! 「キョン・・・変態・・・最低」 長門にこんなことを言われる日が来るとはね。 でもな、お前が嗅げって言ったんじゃないか。 「・・・もう一つ」 ほれみろ。また嗅ぐのか俺が。 「・・・あなた意外に適任者は居ない」 「古泉は?」 「・・・彼はあなたのようなノンケではない」 ・・・。 まあいい。 そもそも嗅ぐという行為にどういう意味合いがあるのかは不明だが、ひとまず「ハルヒ」と書かれた袋の攻略を開始することにした。 先ほどよりさらに熱く鋭く痛くなった長門光線を浴びつつ、袋を開いて・・・?はて。何も匂って来ないな。 これは顔を突っ込むべきか突っ込まざるべきか・・・ まあ長門がやれといってるんだ、やるべきだろう。 ハルヒ、怒るなよ? 俺はハルヒの下着の山に顔をうずめた。 ・・・? これは・・・かすかな石鹸の匂いと、あとなんだろう・・・甘い匂い? あいつは香水なんかつけてないから、これは・・・肌の匂いだろうか。 ・・・なるほど。これは女の子の匂いだ。 うん、多分そうだろう。 しかしまあ、なんと心地よい・・・あのハルヒからは想像できない匂いだな。 正直このまま埋もれてしまいたかったが、長門光線が殺人光線に変わりつつあることを俺の背中が察知し、ほぼ反射的に俺は起き上がった。 「・・・」 長門の視線が痛い。っていうかいつの間にお前俺の隣に居るんだ。 「・・・今」 ・・・そうですか。 って長門さん、何をされているんですか。いきなりジャージを脱ぎだして・・・インナーのシャツをたくし上げ、 ブラがあらわになり、長門は俺の顔をそれに押し付・・・ 「・・・長門?」 「・・・貴方は二人の匂いを嗅いだ。だから、私の匂いも嗅がないとおかしい」 なにがおかしいんだ。 「・・・色々」 「やれやれ、あなたも隅に置けませんね」 ああ、俺も今実感したぜ。 長門の匂い。石鹸の匂いと、なにやら甘酸っぱい匂い。そして他の二人のと違うのは、体温があるという事。 長門、ありがとう。俺今最高に幸せだ。 「・・・えっち」 ああ、おれはえっちだとも。変態だとも。それでいいんだ。ありのままの自分をさらけ出すことこそ、この成熟された人間同士の社会の到達点なんだ。 「・・・何を言っている」 俺の眼前1センチのところにある長門の朱に染まった肌とブラジャー。・・・Aカップか? お、フロントホック。外して良い? ・・・直後、俺の後頭部を打撃が見舞い、景色は暗転する・・・ ―――キョン―――キョン? ―――――キョン キョン―― 「このまま寝ていると僕が後ろの穴をいただきますよ」 「ア●ルだけは!ア●ルだけはぁっ!!!・・・って」 ・・・ここはどこだ? うん、布団・・・いやこれは長門の家のコタツ布団だ。 ということは俺は長門の家に居るらしい。 「・・・長門?」 心配そうな顔で長門が俺の顔を覗き込んでくる。 ・・・ああそうか、俺は気を失ってたのか。 「・・・どれくらい失神してた?」 「5分程度。・・・ごめんなさい。まさか気を失ってしまうとは」 「何、お前の肌のぬくもりと良い匂いで気を失ったようなもんだよ」 とか言ってみると、長門はみるみる肌を赤く染め、ついでに俺から視線をそらし、俯き加減の顔とともに視線をクッションにうずめた。 可愛いなぁもう。 「・・・それより」 クッションに顔を埋めながら長門は 「・・・ひとまず私はこう考える」 「何をだ?」 「・・・彼女が下着をよこした理由」 まあ俺がもっと幸せになるように、ってよこしたわけじゃあるまいしな。 「これを彼女に見せるか匂いを嗅がせることで、元に戻る可能性がある」 「どういうことだ?」 長門は未だに頬を朱に染めながら 「人間の感覚器官は5つ・・・”カン”も含めるなら6つだけど・・・存在する。けれど、一番負う所が大きいのは、主に視覚と嗅覚。 特に嗅覚については、他の動物ほど優れていないとは言っても無意識に匂いを追い求めることが出来る。だから・・・」 「どうするんだ?」 長門は一瞬考え込んだようなそぶりを見せる。 「・・・みるひの鼻先に二人のパンツでも突きつけるのが望ましい」 ・・・仮に分離したとしても後が怖そうだ。 「やってみる?」 「やるしかねぇだろう」 他に手段が見つからないんだしな。 「さて、僕はそろそろ帰ります。涼宮さんがいないので閉鎖空間も発生しませんし、 今日も良く寝れそうです。あ、長門さん、カレーご馳走様でした。美味しかったです。それじゃあ」 と言ってガチホモ古泉は出て行った。精々英気を養っておいてくれ。 お前に突撃させるかもしれないしな。 というわけで例によってまた俺と長門がこの空間に残されたわけだが・・・ それはそうと長門。 「何?」 まだ赤いな。 「そ・・・そんなこと」 そんなことあるぞ。 「まあそれよりだ。休み明けみるひの眼前にパンツを突きつけることになるんだろうが、勝算はあるか? 正直昨日みたいに『よくわからん謎の力』で押さえつけられそうな気もするんだが」 「大丈夫。昨日のは準備が足りなかった。ビジュアルステルスフィールドを使用して接近し、突きつける予定。 いざとなったら周囲の時間を凍結する。だから大丈夫、安心して」 まるで子供をあやすような表情で俺に語りかけてきた。 まぁ長門がそういうんだから大丈夫なんだろう。 「・・・でもな、失敗してもまた腰は抜かすなよ?」 「・・・ああ、あれは、その・・・」 急にもじもじし出す。俺もそろそろ長門の弄り方が判ってきたぜ。 「そういやお前って何か積極的だよな」 「そ、そう?」 「いきなり脱ぎ出して胸に俺の頭押し付けるなんて、多分ハルヒでもしないぜ?」 「あ、あ、あ、そ・・・その・・・わ・・・忘れて?」 「嫌だと言ったら?」 「・・・『君がッ!泣くまでッ!殴るのをッ!止めないッ!』」 わかった、わかったから。 長門に殴られたんじゃ死んじまう。 「・・・冗談」 ふふっと長門は笑い、俺の胸に頭を埋めてきた。 長門らしくない、不確かで、しかしながら心地よい余韻を持たせた言葉を紡ぎながら。 「・・・私は、一線を越えてしまうことは出来ない。だけど、あなたとこうしてじゃれ合う事は出来る。・・・だから、お願い。 今の私を受け入れて。あくまで二人目、三人目・・・としての」 「・・・としての?」 一瞬間を置いて長門ははっとして俺の胸から顔を上げ、さらに顔を赤らめ、 首を飛ばさんばかりにぶんぶんと首を横に振り、 俺の目を見てさらに顔を赤らめ・・・ 朝比奈さんみたいだな。 「落ち着け、長門」 俺自身も長門のスタンスは良く判っているつもりだ。 観測者としての長門。俺同様ハルヒの添え物としての団員にして、決してハルヒより前に出てはならない”存在”。 だが、鈍感な俺もうすうす感じている。 こいつは俺に、一種の恋愛感・・・いや、長門に限ってそれはない・・・か? まあ仮にそうだったとしても、第一俺に長門に対する恋愛感情はないし、それにハルヒ・・・ いやいや、何であんな迷惑の顕在化みたいな女が出てくるんだ。やばいぞ俺。 ともかくだ。 これだけは言えるぜ。 「長門、今のお前すんごい可愛かったぞ」 長門は鼻血を噴出してぶっ倒れた。 前 次