約 3,071,664 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2584.html
「・・・ごめん。心拍数および血圧が異常な上昇をみせた。大丈夫。問題ない」 本当かよ。 ともかく、俺はやりすぎちまったようだ。 まさか長門をからかうと鼻血を出してぶっ倒れちまうなんて、親御さんの情報統合思念体とかいうやつすら知るまい。 「悪かったな、長門」 「いい。・・・いつか、必ず・・・」 何か言いかけた長門は唐突に口を塞ぐ。 「今はとにかく、眼前の懸案事項を片付けるべき」 Sing in Silence 涼宮ハルヒの融合7 ――――――そして月曜日。 作戦決行日がやってきた。 例の下着類は長門が紙袋に入れて持ってきてくれる手はずになっていたので、俺は特に準備するものも無く登校・・・したんだが、心の準備くらいはしておくべきだったね。 凄く反省してる。 なんてったって、俺の後ろの席に「涼奈みるひ」の席が無かったからな。 おまけに朝比奈さんが居たであろう3年生のクラスにも居らず、挙句の果てにこの学校にそんな生徒は創立から現在に至るまで居たことは無いらしい。 しかしながら。 SOS団はこのみるひという生徒が北高に居ない世界にも存在している。 何故か。 それは。 「ごめんなさい!遅れました~。教職員会議が長引いちゃって・・・。さぁ、始めましょう。ミーティングを」 涼奈みるひなる女性はこの学校の生徒でもなく、ましてや卒業生でもなかった。 ・・・彼女は、この学校の教員だったのだ。 どうやら彼女はこのSOS団顧問にして、団長と言う位置づけらしい。 まさかこの絶世の美人が女教師だなんて先週は思わなかったぜ。 「・・・やれやれ」 「あーっ!キョンほら、そんな風に人生を達観しちゃってるから、薄幸そうなオーラが出ちゃうのよ。しゃきっとなさい!」 この世界でのSOS団の存在理由。 宇宙人と未来人と超能力者を集めて遊ぶでもなく はたまた世の中の不思議を探すでもなく 『薄幸そうな生徒を集めて、皆で遊ぶ』 ただ、それだけらしい。 俺、薄幸そうに見えたのか。 長門や古泉ならともかく。 「さて、ただ今より S生徒達がより明るい生活を送るため Oオリジナリティー豊かなイベントを提供する S涼奈みるひの 団 月曜日定例ミーティングを開始します!」 パチパチパチパチ・・・と拍手か賛辞でも送っておくべきなのか? おい古泉、この期に及んで無意味スマイルは辞めるべきだ。 長門も無感動を装うな! 「キョン?どうしたの?」 やばい。目立ちすぎちまった。 「・・・ふふふ、どうしたの?有希が気になるのかなぁ?」 そりゃ気になる。あんたが考えているであろうものとは別な意味でな。 長門、顔を赤らめるな! 「ふふっ。健全な恋愛というものも学園生活には必須なのよ?隠すこと無いわ、ほら、古泉君、キョンと席を替わってあげて。 キョンが有希の隣に行きたがっているようだから」 「それはいいアイディアです。どうぞ」 古泉、お前はこれ以上事態をややこしくしたいのか。 「大丈夫です。これしきのことで事態は悪化しませんよ」 何を小声で言いやがるんだお前は。 「さ、キョン座りなさい」 仕方ない。まあ長門が嫌なわけではないが。 「じゃあ長門、失礼する」 「・・・どうぞ」 「ああんもう有希ったら、凄く可愛いですよ!!」 まぁ、みるひが絶叫してしまうのもわかる。 確かに赤く俯き加減にある長門は非っ常に可愛い。 妖精だな。これは。 「ささっお二人、手を握りなさい」 っておい! そういや抱きついたり、胸に顔押し付けたことはあっても、手握ったことは無いよな。 なんだか無駄にどきどきしちまう。 ・・・それ以前にだ。 そもそもなんでおれは長門と仲良く手を握りっこしなきゃならないんだ? いや、改めて言うが長門が嫌とかじゃないんだけどさ。 こっ恥ずかしいよな。長期間彼女なし人間の男が美少女と手を握るなんて、そう機会は無いだろうし。 「・・・嫌?」 「握った方が良いか?」 「・・・握ってくれるのなら」 そして俺は、長門がおもむろに差し出してきた右手をぎゅっと握った。 「やーん!もう、二人ったらラブラブねっ!!」 お前がつなげって言ったんだろうが。 『聞こえる?』 ・・・長門? 『そう。貴方の神経に直接作用させることでこの会話を構築している。しゃべらなくて言い。・・・一種の念話だと思って』 ・・・了解。 念話まで使えるとはな。恐れ入った。 『ひとまず怪しまれないように涼奈みるひの方を見ておいて』 ああ、そうする。 『・・・貴方の記憶中枢の一部を精査・・・えっち』 って勝手に人の記憶を覗くな!! 『冗談。タイミングを見計らう』 下着はどうするんだ? 『私の足もとの紙袋に入っている』 無いぞ?紙袋なんて。 『既にビジュアルステルスシールドを一部展開させている』 なるほど。不可視状態か。 『そう。タイミングを見計らってステルスモードを解除するから、貴方は中から下着を掴んで涼奈みるひにぶつけて。パイの要領で』 「ちょっとキョン、聞いてるんですか!?」 ・・・おおっと。完全に聞いてなかったぜ。 「んもう!」 みるひは団長席にふんぞりかえりながらぶーと口を膨らませて怒った様なそぶりを見せる。 『どんな内容だったか言ってみなさい!』とか言われるのかと思い内心ビクビクしていると 「ごめんなさい、ちょっと今日は時間が無いの。古泉君か長門さんに聞いておいて下さい。人の話はちゃんと聞かないと駄目ですよ?キョン」 はいはい、判っておりますよ・・・おい、帰っちまうのか? 「じゃあ今日はこれで解散です!戸締りよろしくお願いします!」 長門どうすんだ!?行っちまうぞ? 『強硬手段に出る。私が直接ぶつける』 「強行って・・・おい!」 俺が止める暇は無かった。長門はみるひが一瞬窓のほうを向いた隙に紙袋のビジュアルステルスを解除し、それを思いきり空中高く飛ばして中身をぶちまけ、 重力制御か何かを用いて一度飛び上がった自分の手のひらに収束させ、バレーのサーブでもするようにこちらを向いたみるひの顔に向かってぶっ飛ばした。 ・・・そりゃないぜ、長門。 古泉はぽかーん。 俺もぽかーん。 下着塊を食らったみるひはもっとぽかーんだろうな。 「・・・っふわっ!!何この下着!ペッ!顔から剥がれない!?」 まだ長門の重力制御だか慣性制御だかが効いている様だ。あれじゃ匂いを嗅がずには要られまいな。 「・・・ふあっ、取れた・・・有希?・・・これをやったのは有希なんですね?・・・あなた・・・一体」 「・・・あれ?」 と長門。 ・・・匂い、嗅げてないのか? 「・・・あなた・・・説明してもらいましょうか」 つかつかと絶句する長門の元に歩み寄るみるひ。これはやばい。何故効かない!? 怒気満面の顔だ。 ドイツのナマハゲより怖い。 「有希・・・歯、食いしばりなさい」 おっと!制裁という名の体罰という名の制裁が来るのか!平手打ちか!? ・・・グーかよ。痛いぞそれは。 みるひはかなり力をこめ、長門を三回殴り、 「・・・あなたがこんなことをするなんて、思いもしませんでした」 と悲しげな表情で言い放った。 「・・・色々と理由があります」 「言いなさい。一体どんな理由なのか」 「・・・言えません」 ・・・再び長門を殴りやがった。1発、2発・・・って古泉! 「ちょっと・・・やりすぎです!」 古泉と俺は長門を殴り続けるみるひの腕を掴んで止めようとする。 それでもみるひは俺たちを払いのけ、蹲る長門へ容赦の無い打撃を見舞い続け・・・その、まるで何かの格闘ゲームのコンボを見ているような速さだった・・・ 十数秒後肩で息をしつつも拳のプレゼントを中止し、 「・・・今日は忙しいの。明日までに精々笑える言い訳でも考えて置いてください」 そう吐き捨てるように言って壊れんばかりの勢いで部室のドアを開け、出て行った。 ・・・これは。 もうヤバイを通り越している。 どこのレスラーだこいつは。 俺は恐怖に足をすくめながらも、ぶっ飛ばされた長門に駆け寄る。大丈夫なのか? 「長門、大丈夫・・・!ってお前!?」 「ちょっと、長門さん大丈夫ですか・・・あれ?」 拳の圧力で以って1メートルばかりすっ飛ばされた長門だったが、 むくっ、と何事も無かったかのように起き上がった。 そういやこいつ万能宇宙人なんだっけな。 「・・・頬をちょっと切っただけ」 「大丈夫か?」 「わりと」 そうかい。見た感じかすり傷程度だが・・・ 痛いんなら無理するなよ? 「大丈夫。舐めておけば直る」 口からそんな遠いところを舐めるわけにもいくまい。 それに、女の子にとって顔は命の次に大切なもんなんだろ? 「・・・そうでもない」 そうかい。 「でも絆創膏ぐらい張らせてくれ」 俺はポケットから絆創膏を取り出して長門の頬に張る。 ・・・妹から貰った奴なのでかなりファンシーなガラだがそれで勘弁してくれ。 「ありがと」 どことなく居心地悪そうな表情を浮かべ 「うかつ。キョン、貴方にやらせるべきだった。ごめんなさい」 謝られてもね。 「俺がやっていてもあんな風にボコボコにされてただけかもしれんぞ?」 そういうと長門は首を横に振り 「違う。貴方がやっていた場合、結果は変わっていた。・・・と思う。ただ、私が先ほどした風にやってもだめ」 やってもだめ、というか俺には重力制御は出来ない。 「・・・そういうことではない」 「つまり、何かが足りないってことなんだろ?」 「・・・おおむねそう」 長門、なんだか拗ねてる様な雰囲気だな。 「どうした長門」 「・・・なんでもない」 なんでもないこと無いだろう。 「・・・帰る」 「おい長門!?」 「・・・放っておいてくれると有難い」 長門、様子おかしいぞ、って待ってくれ! 俺の制止を振り切って、荷物を持った長門は勢い良く部室を飛び出していった。 あいつでもメランコリー状態に突入することってあるんだな。珍しい。 「仕方ありませんよ」 「そう・・・かもしれんな」 長門、明日までには回復してくれよ? そう思いつつ、俺と古泉は団長席の周囲にぶちまけられた下着類の回収作業をはじめたのであった・・・匂いで誰の持ち物か判別しながらな。 やばいぜ俺たち。 そして火曜日。 今日こそは決着をつけるべく、万全の体制で学校に来・・・たものの、今日はもろもろの事情で半ドン、昼までだ。 なんかいろんな意味でやる気がそがれたな。 ・・・とは言ってられんのが現状。 とにかく今日までにあの二人を分離させないと、長門いわく 「・・・これ以上私の身が持たない」 らしいし、古泉いわく 「僕の仕事、無くなっちゃいますから」 らしい。 おい古泉、お前の場合は仕事がなくなったほうが良いんじゃないか? 「それはまあ、そうですね」 相変わらず裏で何考えてんのか判らん仮面の笑みを浮かべやがる古泉。 「まぁ、僕は機関の構成員である以前にSOS団副団長です。本来あるべきSOS団をとりもどすことが僕の使命です」 同調しておこうかな。一応。 前回のように無計画ではいかんということで、長門立案実行俺、支援古泉なプランが作成された。 まず、長門と俺がみるひが部室に来る前に入る。俺は長門が作ったビジュアルステルスシールドで身を隠し、長門はみるひが来るまで待つ。 みるひが来ると、長門はビジュアルステルスシールドで隠れる俺からは死角になる位置に立つ。確実に長門はみるひにどやし付けられる筈なので、 長門は殴られようが蹴られようがひたすらそれを耐え忍ぶ。 そして、ころあいを見計らい俺が背後から飛び込み、みるひに二人の下着の匂いを嗅がせる。 そういう寸法だ。 ちなみに、古泉は長門謹製の昏倒棒(触れただけでも失神してしまう凶悪な棒切れ)を持って、俺が失敗した場合部室に突入し、みるひを失神させる手はずになっている。 ・・・大丈夫なのか?こんなんで。 「・・・恐らく」 「まぁ、こんなものでしょう」 そうかもしれんな。 「それより長門、また殴られることになりそうだが、大丈夫か?」 「・・・大丈夫」 まだメランコリー長門さんだった。 そんなに殴られるのが嫌なら、別な作戦にしようぜ。 「・・・そういうわけではない」 「じゃあどういうわけさ」 マリアナ海溝の奥底より暗い色を浮かべておられるな。 「・・・なんでもない」 「なんでもないことないだろう」 ああ、ちょっとしつこいな俺。 と俺自身がそう思った瞬間・・・ 「なんでもないったらなんでもない!!詮索しないで!」 長門の声が部室前の廊下の空気を文字通り切り裂いた。 その声はエアーカッターより鋭く、鉄工所のプレスより高圧で、バンシーの泣き声より物悲しい。 俺は猛烈な寒気に襲われた。 長門が怒っている。眼孔に涙を湛えながら。 俺がしつこ過ぎたから?それとも長門の心のデリケートな部分に触れてしまったからか? ともかく、これだけは言える。俺が悪かった。 「悪かった、長門。すまん」 「・・・・・・」 プイ、と俺から視線を外す。 相当怒ってるな。 俺は長門の怒気に押され、それ以上声すら出なかったが、古泉が 「ひとまず目の前の懸案を解決するのが先です。作戦を開始しましょう」 と言ってくれたおかげで、凍りついた場の空気が若干動いたような気がした。 「・・・・・・」 あさっての方向にあるコンクリート壁をぶち破らんばかりの眼光でにらむ長門。こりゃあしばらく俺とは口聞いてくれそうに無いな。 さて。 機嫌激悪の長門に影響されて、俺の気持ちも若干沈む中作戦が決行された。 ・・・わけなんだが、待てど暮らせどみるひがやってくる気配が無い。 いつまでもたちんぼしているのに疲れた不機嫌ユッキーは、定位置にパイプ椅子を持っていって読書を開始してしまった。 俺の方をちらちらと睨みながらな。 頼むからそんなに怒らないでくれ。ハルヒや朝比奈さんならともかく、お前にそんな態度をとられるのは慣れてないんだよ。 という心の叫びが長門に通じる筈はなく、俺は魂が出んばかりの深い溜息を吐いた。 にしても暇だ。長門・・・は話し相手にはならんな。 仕方が無いので長門のこしらえたビジュアルステルスシールドの影響圏から出たり入ったりして遊んでいたが、 長門から投げかけられる視線があまりにも痛冷たいので、若干趣向を変え、ステルスシールドから首だけ出して 「生首ー」とかやって長門を驚かそうと思ったら がちゃ 古い部室のドアをガタピシ言わせながら 奴が来た。 「ひゃあああああああああ!!??」 そりゃな。首だけ浮いてたら誰だって驚くわ。 「キョキョ・・・キョ・・・有希!!」 部室に入るなりびっくりして腰を抜かし床にへたり込んだみるひは、長門に助けを求める・・・が、何故か長門まで腰砕けになっているようで、俺を凝視したまま微動だにしない。 どうしろって言うんだよ! ・・・って今がチャンスなんだよな。 俺は咄嗟に足元にある下着入り紙袋から下着群を鷲づかみにしてステルスシールドから飛び出し、 「往生せいやあああああ!!!!!」 と半ば自分を勇気付けるために怒声を発しながら突っ走り、みるひの顔に下着を文字通り突き刺すようにして押し付けた。 むにゅっ 奇妙な手ごたえがあった。 なんだこの昔理科の実験で作った巨大スライムの中にこぶしを埋めたような感覚は。 「あ・・・?」 下着を持ってみるひの顔を襲った右手を見てみる。 顔、貫通しとるがな。 「うわあああああぁぁぁあ!!!?」 これなんてB級ホラー?非現実的すぎてある意味怖いです。 まぁ貫通したとは言っても、こんにゃくか寒天で出来た人形を思い切りついたような感じなので、頭の中身はおろか血すら出てないが。 「大丈夫。作戦は成功した」 と後ろで長門が言うものの、正直これはいろんな意味でヤバイと思うぞ。 「早く手を顔から抜いて」 ああ、突っ込んだままだったんだな。 ぬちゅっという嫌な音を立てて拳を引き抜くと――― みるひは太陽10個分以上の光に包まれ――――うおっまぶしっ――――そして 光は収束し、二つの物体がみるひが今まで居た空間に現れた。 ほかでもない。例の涼宮ハルヒと朝比奈みくるである。 さっきの長門以上の怒気をともなってな。 「・・・キ・・・キョン?」 「・・・キョン・・・君?」 多分この二人は、自分がどういう状況に置かれているのか判っていない。 俺はふたりの下着を、律儀に上下セットで持っている。 俺から見れば、これは二人を取り戻すのに必要不可欠なものであり、今彼女達にしたことは必要不可欠かつ不可避な行動である。 対して、彼女側から見れば、俺は単に二人の下着を持って、それを眼前に押し付けている変態さんに過ぎない。 わなわなと怒りに肩と腕を震わせているのが見て取れた。 ・・・やれやれだぜ。 「「最ッッ低ッッ!!!!!」」 俺は殴られ、目潰しされた。グーとチョキで。 痛いよ。全然痛いよ。 俺を含めたSOS団に再び平和が訪れた。 ただ、暫くハルヒは口を利いてくれなかったし朝比奈さんは長門が弁明に入ってくれるまで俺を明らかに避けていたし、長門は長門で微妙にメランコリーだった。 出番のなかった古泉も若干ダウナーなオーラが出てたりする。 「涼宮さんが分離した、ってことはまた例のアルバイトが始まるってことですしね。正直僕も憂鬱だったりします」 あれ。こいつ「僕の仕事、なくなっちゃいますから」とか言ってなかったっけか。 ガチホモの云う事はいまいち一貫性が無いな。 「ははぁ、そうかもしれませんね」 と負け戦の将棋盤を見つつ、ダウナーオーラをまといながらもいつもの無意味スマイルを浮かべた。 「キョン君、どうぞ」 麗しの朝比奈さんがお茶を入れてくれる。今までこれは日常的かつ当たり前のことで、団史にわざわざ刻むまでも無いような出来事なのだが、 あの一件を経験してからというもの俺は今まで以上に朝比奈さんのお茶を味わって飲むようになった。 六甲の美味しい水だろうが水道水だろうが雨水だろうが、朝比奈さんの入れるお茶は甘露、いや俺にとっちゃソーマや仙丹みたいな霊薬ですよ。 これが無いと何も始まらんね。 「エロキョン!何ニヤニヤしてんのよ!」 おっと、あまりにお茶が美味くてニヤニヤしちまったか。 ―――あの一件以来俺をエロキョンと呼ぶようになりやがった我らが団長様だが、幸いなことに自分が長門や朝比奈さんと合体してしまったことは全く覚えていないような素振りだった。助かったぜ。 ・・・覚えていないなら、だ。授業中に聞こえた声はハルヒの無意識下に存在する”何か”が発したものなのか、それとも現行のハルヒの人格とは別のものが発したものなのだろうか。今となっては到底判らんが。 そして、長門。 明瞭なる感情を獲得し、ついでに”個”というものも獲得したように感じた長門だが、みるひにボコボコにされる前とは打って変わり口数少なげに窓際で本を読んでいる。 何でそんなにナーバスなのか訊きたかったが、また怒られそうな気もしたので何も訊かないでいる。 まぁ、そのうちまた戻るだろう。あんなに明確に怒気をはらんで怒るようになった、というだけでもめっけもんだ。 夏を向かえ、いっそうのエネルギーを加えつつある陽に映る、長門とハルヒと朝比奈さんと古泉、そして俺。 あたりまえの、日常的な、しかしながら貴重なこの空間、そして時間。 「なべて世は事もなし――――」 窓際にたたずむ小さな影が、誰に告げるともなく呟いた。その語尾に心地よいながらも、不思議な余韻を残しながら。 涼宮ハルヒの融合 オワリ 前 目次
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/546.html
キョン(今日はSOS団市内不思議探索パトロールの日だ。) ハルヒ「」くじ引きで分けるから引いて。」 キョン(そして俺はハルヒと当たっちまった。) ハルヒ「行くわよ。キョン。絶対不思議探してね皆。」 探索中 キョン「ハルヒ。不思議って言ってもどうやって探すんだ」 ハルヒ「普通に探すの。こんな事もわからないの?」 キョン(御前としての普通って何だよ。) 6時間後 キョン(やっと終わったぜ。) ハルヒ「今日の市内不思議探索パトロールはこれにて終了!!」 キョン(ようやく帰宅できるぜ。この事が待ちどうしかったよ。) ハルヒ「あれ?雷落ちてるじゃない。早めに帰らないとね。」 キョン「おい、ハルヒ。ちょっと涙目になってるけど雷怖いのか?」 ハルヒ「当たり前じゃない・・・あっさっきの無しね。忘れなきゃ死刑だから。」 キョン「忘れられるか。ハルヒも可愛い所あるな。」 ハルヒ「忘れてよ。じゃあ元々可愛くないわけ?デパート寄るからキョンも付いて来て。」 キョン「はいはい。(断ったらどうなるかわからないからな)」 ハルヒ「おいしそうな物があれば絶対買うからね。勿論あんたのお金で。」 キョン「俺の金でかよ。」 ハルヒ「当たり前じゃない。あんたも神聖な団長様にお金を使わない賢い人になりなさい。」 キョン「はいはい。で?何を買えばいいんだ?」 ハルヒ「ノートパソコン買ってくれたらうれしいけど。食材でいいわ。」 1時間後 キョン(疲れた。重い。買いすぎだ、あいつ。) ハルヒ「向こうのソフトクリームでも買ってきて。」 キョン「俺もほとんど金残ってないぞ。買うなら自分で買えよ。」 ハルヒ「しょうがないわね。」サッ キョン「待てハルヒ。俺の財布を返せ。」 ハルヒ「はい。返すわよ。でももう買っちゃったけどね。それよりあんたも食べなさい。」 キョン「ハァ?何で俺も食わないといけないんだ?自分で食えよ。」 ハルヒ「団長の言ってる事が聞けないの?聞かないと死刑だからね。」 キョン「分かったよ。食えばいいんだろ?食えば。」 帰り道 ハルヒ「感謝しなさいよ。団長様が付いて来てあげたんだから。」 キョン(御前が勝手に連れてきたんだろうが。俺の金がなくなったじゃねえか。) ハルヒ「なんか頭がクラクラするわね。昨日から調子悪かったし。」 キョン「おいおい、大丈夫か?ハルヒ。」 ハルヒ「大丈夫よ・・・朝少し熱あった・・だけ・よ・・・」バタッ キョン「おいハルヒ、大丈夫か。(なんとかキャッチには成功できた。)」 ハルヒ「大丈夫・・・」 キョン(ひとまずコイツの家に連れて行かないとな。) ハルヒの家 ハルヒ「何勝手に人の家入ってんのよ・・・出て行きなさい・・・」 キョン「何強がってるんだよ、熱あるじゃねえか。」 ハルヒ「熱なんてないわよ・・でも少しだけ一緒にいて・・」 キョン(正直コイツの家に行きたくなかったがまあ38度もあればしょうがないな。) ハルヒ「ああ、しんどすぎて死んじゃうわ・・・」 キョン「ハルヒ、寝るなよ(俺どうすればいいんだろ。)」 1時間後 ハルヒ「ううん・・あれ?キョン、人の布団で勝手に寝ないで。殴ってやる」 キョン「いてぇ、何すんだよ。そうか、俺寝てたのか」 ハルヒ「ちょっとキョン、あたしの日記み、見た?」 キョン「日記って何の事だ?ああ、これね。見たけど何か文句あんのか?」 ハルヒ「ううっ、勝手に人の日記を見るんじゃないわよ。」 キョン「ハ・・ハルヒ、何泣いてんだよ。俺が何かしたか?」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4455.html
「覚えてないのも当たり前ですよね、だって私が記憶をけさせたんですから」 俺はこの一言に、愕然とした。なんだって? 内から込み上げる怒りという衝動を抑えつつ問いただすことにした。 「何故、俺が記憶を消されなくてはならないんだ?」 なんとか抑えたものの、表情までは抑えれなかったかもしれん。 少しの沈黙が、俺を不愉快にさせる。自然に拳に力がはいってしまっていた。 俺の目の前の少女は不適な笑みを浮かべ、 「あなたは、涼宮ハルヒの鍵であり、佐々木さんの鍵でもあるからです」 俺は自分の耳を疑った、佐々木?なんで佐々木が? それに鍵だって?なんの事かさっぱりだが、古泉もそんなことを言っていたような気がする。 少女は続けて、 「私は佐々木さんの友達、いや。佐々木さんとの契約者とでもいったほうがいいでしょう」 契約?なんのことか解らないが、どうやらこいつは佐々木と少なからず縁がある者らしい。 「あなたはね、私の計画とは違う動きをされてもらっては困るのですよ」 さてね、俺がなにしようがお前には関係ないし、指図されるのはごめんだね。 俺は皮肉を込めて言ったつもりだが、少女は気にすることなく続けた。 「あなたが佐々木さんを裏切るような事をするからいけないのです。 あなたは佐々木さんだけを見ていればよかった。そうしたら、世界は幸せになれたのに。 涼宮ハルヒにあの能力を持たせていればいずれは世界は滅んでしまう。 彼女は感情を露にしすぎですし、なによりコントロールできていませんから」 と饒舌に語りはじめるそいつを俺は黙ってみていた。 それもそうだ、ここ数日で俺の周りが目まぐるしく変化しているからだ。 これで混乱しないほうが普通ではない。 「佐々木さんはいいました、あなたを手に入れられるなら。 他はなにもいらないと、だから私は彼女にあなたを与える計画を企てたってところです。 それでも、私一人じゃ出来ないことなので彼女に協力していただきました。」 少女が指を指した方向に目をやった、しかし最初はそこに何が在るか解らなかった。 目を凝らしてみると、確かにそれはいた。俺はこいつを知っている。 だが記憶に靄がかかり、鮮明に思い出すことは不可能だった。 俺が呆気に取られた表情を浮かべていたのか、少女はクスッと笑った。 「あなたの側に未来人の子が一人いますよね。実は私の側にも一人います。 彼が言うには涼宮ハルヒが能力を持ち続けるのは規定事項だ。というんですよ。 でも、それが事実であれば私達はただの脇役でしかなくなっちゃいますよね。 私はね、未来は与えられるものじゃなく造るものだと思っているんです。 これは私達の組織の創意でもあるんですが。 そう、与えられなかったが為にそれを欲するのは至極当然の事だと思うんですよ。 それに、彼ら未来人は過去を固定する為だけに暗躍するんですよ。 可笑しいですよね、未来から来てるならその未来が確立されているはずのに、 だから私達の考えでは、「過去」つまり現在に当たるのですが、 実にあやふやなものなのじゃないでしょうか。あなたもそうだったはずです。 なにも告げられずにただ言われたままに動いて未来を確立させられていた。 とはいっても、今のあなたは覚えていないでしょうけど」 俺は自分の知識以上の事を言われ、更に混乱しはじめていた。 それに、頭も割れそうに痛み出してきた。くそ、なんだってんだ。 少女は笑顔を殺し、俺の側に歩みよってきた。 「だから、私は未来を変えたいと思うんですよ。だからそれにはあなたが必要なんです」 というと、少女は足を翻し背を向けた。遠くに佇む得体の知れないものになにか話しかけているようだが。 ここで逃げ出せばよかったものの、強張る体と痛む頭の所為で俺は身動きできなかった。 少女はこちらを振り返り話を続けた。 「あなたを助けにくる人は誰もいません。彼女に結界を張って頂いているので、 長門さんも気付いていないはずです」 長門だって?俺は痛む頭を支えながら少女に問いかけた。 「あら、今のあなたは聞いていないんですか?まぁいいでしょう、教えてあげます。 彼女は対ヒューマノイドインターフェイス、情報統合思念体が派遣したアンドロイドです。 アンドロイドといっても、体を構築しているものは私達と一緒らしいんですが。」 なんですか、そのなんたら思念体っていうのは。くそっ訳がわからなくなってきた。 俺が困惑の表情を浮かべると、少女の顔付が変わった。 「そろそろ始めましょう。これからあなたにはただの人形になって頂きます。勿論、 これから喋ることも出来なくなると思います。本当はすぐ死んで頂きたいんですが、 そうするとかなりの確立で情報爆発が起こる可能性があるので、 無駄な事は私達は望んでいないのです。情報爆発のタイミングが必要なんですよ。 だから、あなたにはそれまで生きた屍になって頂きます。」 はは、何を言い始めるんでしょうこの人は。 と笑っている場合ではない、はやくここから逃げないと。 「無駄ですよ、周防さんお願いします」 少女がソレの名前を読んだその瞬間、一瞬で俺の目の前にきたソレは無機質な表情をしていた。 その曇ったガラスみたいな瞳に俺が映りこんでいた。 あぁ、俺は今恐怖に駆られているんだ。それは絶望でもあった。 ソレの手が俺の頭を掴み、何かを高速でつぶやき始めた。 その瞬間俺の頭の中が掻き乱されるような激痛が走った。 「やめ、やめろ…うがぁが…」 俺は声を張り上げることすら不可能になっていた。 さっきまであんなに幸せな時間を過ごしていたのに、脳裏に浮かんだ映像が全て消えていく。 だんだんと意識が薄れ、俺は気を失った。 どれくらい眠っていたんだろう、ピッピッっという電子音で気が付いた。 俺の目の前には真っ白い天井があった。ここはどこなんだ。 少し考えにふけっていると、唐突にそれは訪れた。 俺は、誰だ。 言い知れぬ恐怖と、絶望が俺を襲った。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1601.html
おいおい、何なんだこれは…………… やれやれ、非常識な事に慣れたとは言えこれはパニックになるぞ。 俺は額に手をやり、ため息をついた。 朝、今日は妹のうるさい攻撃が無いなと思い。 やっとあいつも大人しくなったかと思って体を起こすと、毎朝見慣れている俺の部屋ではなかった。 かといって閉鎖空間っぽい雰囲気の学校に飛ばされたわけでもなく、 時間を越えたわけでもないし、別世界に行ったわけでもなさそうだった。 上の3つはまぁ、俺の希望的観測であるだけな訳だが。 目の前には見る限り生活感のない殺風景な部屋、俺が知る限りでは長門の部屋以外には考えられなかった。 なんで俺がこう皮肉臭く言っているのかというのであれば、体がどうもその部屋の主の姿になっているようだったからだ。 そう、俺は長門になってしまったらしい。 俺が長門になっているなら、俺はどうなっている。 そう思った俺は、学校に登校することにした。 どうやら長門は制服のまま寝ていたようで、着替える手間がかからなくてありがたかった。 学校に着いた俺はすぐさま、俺がいるはずの自分のクラスへ足を向けた。 教室をのぞくと、その席は空席のままだった。 教室で話しているやつを捕まえて、聞いてみたが 「まだ来ていない」との事だ。 ついでにハルヒも来ていないかと聞いたが、同様の返事が返ってきた。 とりあえず、この状況を打破したい俺は教室から背を向け。 その足をいけ好かない笑顔の超能力者のいるクラスへ向けた。 1年9組に足を運んだ俺は、古泉がいるかと教室の入り口側に立っていたやつに聞いた。 「あー、古泉君?いるよ、ちょっと待っててね」 そういうとそいつは、古泉くーん女の子が呼んでるよーと叫びながら 古泉の場所へ向かっていった。 目の前に来た人物は、いつものへつら笑いをせず無表情のままであった。 それをみて俺はこの非常識な現象をあと3回見るのであろうなと盛大にため息をついた。 「お前は長門か」 「……………」 しばし沈黙の後、ある意味もう見ることのできないであろう 無表情の古泉はこくんと頷きこう言った。 「…………そう」 「とりあえず、昼に部室に行こう ほかのやつらもどうなっているかわからないしな」 「……………」 古泉の姿をした長門は、もう一度頷きおそらく古泉の席であろう場所へ戻っていった。 それを見届けた俺も長門の教室へ行き、教えてもらった席へ座り一通り授業を受けた。 幸か不幸か、普段から無口な長門の振りをしたまま授業を受けるのはそう難しくなかった。 授業の合間の休憩時間にもクラスメートから話しかけられる事は皆無だ。 休憩時間中に自分のクラスに行きたい衝動に駆られたが。 時間が短いこの時間ではやれる事も少ないので、昼休みまで俺はじっと我慢をした。 4時間目のチャイムが鳴り終わったあと、席を立ってすぐさま部室へと足を向けた。 長門ととりあえず話をするためだ。 まぁ他のメンツにも異常が起こっているなら、部室へ来るだろうと思ったのもあるわけだが。 部室を開けようとドアノブに手を触れようとした時こちらに向かって走ってくる人物がいた。 朝比奈さんだが、何かが違う。 「有希~~~~~!大変よ大変!!」 大変と言いつつもその目はキラキラと輝いている、この顔をする人物を知っている。 「あたし、みくるちゃんになっちゃったみたい!! もしかして、有希も違う誰かになったりしているの!?」 息を弾ませながら、こちらを見る。 たしかに、朝比奈さんはこんなハイテンションにならないからな。 こんな朝比奈さんを見るのも、おもしろいがそれではダメだ。 俺の朝比奈さんはおっとりしてて、ちょっとドジで、ほんわかとした笑顔を振りまいてくれる朝比奈さんじゃないといかん。 ハルヒ……………、お前は朝比奈さんになったんだな。 「って、キョン~~~~~!?」 朝比奈さんの姿で絶叫した声は、外で歩いている人物がビックリするほどの大きなものだった。 「なんでこうなっちゃったのかしらね!!」 「キョンと私と有希が入れ替わったって事は、古泉君とみくるちゃんも変わったかもしれないわね!」 「そうだ!みくるちゃんの格好だし、コスプレしてみようかしら!」 etc、etc……… 弾丸のように朝比奈さんの声で、俺の耳に入ってくる。 長門は姿が変わっても、部屋の隅で本を読んでいる。 古泉の姿でやられるのは、不気味とも思えた。 やれやれとため息をついていると、ガチャと扉が開いた。 入ってきたのは妙におどおどしてなみだ目のハルヒと、いけ好かない笑顔をしている俺だった。 「ふぇぇ………、一体どうなっているんでしょう」 泣きそうなハルヒ、いや朝比奈さんか。 一生で見られるか見られないか判らないような珍しい光景を今日一日で一生分見たような気がしてきた。 「いやはや、これは5人が入れ替わってしまったみたいですね」 俺の姿をした、古泉は笑顔を崩さずにそう言った。 どうでもいいが、俺の顔でそんな顔をすると気持ち悪いからやめてくれ。 「おやおや、と言われてましても困りましたね」 「そんな事どうでもいいじゃない!! いまはどうやって元に戻るのかが大事よ! みくるちゃんの体もいいけど、やっぱ自分の体が一番だしね!」 と会話しているところに、ハルヒが大きな声でみんなを制す。 「おい、これは一体どういうことなんだ」 俺は小声で古泉に話しかける。 「さぁ、僕にはわかりかねますが。 おそらく何か外因的な要素の所為で入れ替わってしまったんだと思います」 俺はその外因的な何かが何なのかと聞いているんだが。 「詳しい事はわかりません、涼宮さんが願ってしまってこうなったのかもしれませんし。 精神を入れかえてしまって、涼宮さんの能力を無効化してしまおうと情報思念体の急進派が行ったことかもしれません」 俺は本を読んでいる、長門の方に体を向けた。 「お前はこの現象はどうなのか説明できるか?」 「……原因不明。 情報思念体とコンタクトも取れない」 じゃあ俺が取れるってか? 「おそらくそれも不可能………。 長門有希としての個体能力は、一般人並になっている。 そのため情報思念体としての能力は使えない」 「なるほど、長門さんの精神を別の固体に入れることで能力を封印させているわけですね」 古泉がそれに返答をする。 長門なら何とかしてくれると思っていたんだが、この分だと古泉の超能力にも朝比奈さんの力も使えないんだろう。 その事実に俺は愕然とした。 「何こそこそ話してんの!! とりあえず、ここでグダグダやっていても仕方ないし放課後にもう一回集合しましょ!! じゃあ授業終わったら、みんなここに集合ね!」 わくわくした様子のハルヒがそう言って、みんな部室を後にした。 とりあえず午後の授業を受けて、今後のことを相談するんだそうだ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2499.html
まぶしい。目の奥がきゅっと締まるような痛みに、俺は苦痛ではなく懐かしさを感じた。 同時に全身の感覚が回復し始める。手を動かし、指を動かし、足を動かす。やれやれ。どうやらどこか身体の一部が無くなっている ということはなさそうだ。 俺はどうやらベッドに寝かされているらしかった。右には――あー、映画か何かでよく見る心電図がぴっぴっぴとなるような 機械が置かれ、点滴の装置が俺の腕に伸びている。 「病院……か、ここは?」 殺風景な病室らしき部屋に俺はいるようだ。必要な医療器具以外は何もなく、無駄に広い部屋が俺の孤独感を増幅する。 窓から外を眺めると、空と――海のような広大な水面が広がっていた。ただ、その窓自体が見慣れたような四角いものではなく、 船か何かにありそうな丸いものだった。 「ここはどこだ……?」 寝起きの目をこすりつつ、俺は立ち上がる。幸い点滴の器具は移動式のようで、それとともに移動すれば 点滴の針を抜かずにすみそうだった。本当はこんな得体の知れない液体を体内に注入されているなんて 精神的に良くないから引っこ抜いてしまいたくなるが、万一のことを考えてこのままにしておくことにする。 俺は円い窓のそばまで行き、そこから外をのぞき込む。青空の下に広がっているのはやはり海だった。 広大な海原におとなしめの波が沸き立っている。 ――と、背後で扉の開く音が聞こえた。俺が反射的に身構えながら振り返ると、 「……やあ、どうも。ひさしぶりですね」 そこにいたのは、妙に大人びた古泉一樹らしき人物。少し顔つきが引き締まり、背も高くなっている。 「古泉……だよな?」 「ええ、そうです。あなたが憶えている僕に比べて少々成長しているでしょうけどね」 くくっと苦笑を浮かべる。その口調と苦笑でようやくそいつが古泉であることに確信を持てた。 しかし、その成長した姿は何だ? 朝比奈さん(大)みたいに未来の古泉が現れたなんていう話は勘弁だぞ。 「まあ、話せば大変長くなるわけでして。とりあえず、医師による検査を受けてもらえませんか? 積もる話はその後でも十分にできますから。なにせ、あなたは2年もずっと眠っていたんです。身体のどこにもおかしなところが 無いという方が無理があるでしょう?」 「2年……だって?」 あまりに唐突な話に俺は視界が再び暗転しそうになる。確かにさっきまで眠っていたようだが、俺はそんなに寝ていたのか? まるで三年寝太郎だな。それだけ長い間眠っていたらさぞかしたくさんの夢を見ていたんだろうと思うが、 いまいち思い出せん。夢って言うのはそんなものだろうけどな。 気がつけば、白い服を纏った医者らしき人間数人が病室の入り口から俺の方を見ている。 どうやら結構注目を浴びている存在のようだ。ならとりあえず、お言葉に甘えておくかね。 おっと、でも一つだけ聞いておきたいことがある。 「ここはどこだ? 外には海原が広がっているが、まさか三途の川を渡っている最中って事はないよな?」 俺の言葉に古泉は肩をすくめて、 「ご安心を。あなたは死んでいません。僕が保証します。で現在僕らがいる場所ですが……」 わざとらしく古泉は一拍置いてから、あのニヤケスマイルを浮かべ、 「ここは米海軍空母ジョージ・ワシントンの中ですよ」 古泉の言葉に、俺は「はあ、そうですか」としか答えられなかった。 ◇◇◇◇ 結局、医師に囲まれて数時間に上る検査を受けさせられたあげく、ようやく解放された俺は寝ていた病室で 黙々と夕食のスープをすすっていた。隣には古泉がパイプ椅子に座り、俺の検査結果の容姿をパラパラとめくっている。 「驚きましたね。ずっと寝たきりの生活だったというのに身体的にも精神的にも全て良好。 それどころか、2年前のあの日から何一つ変化がないとは。通常、成長的な変化は存在しているはずなんですが、 それもない。医師たちもこれは奇跡だとうなっていましたよ」 「へいへい」 俺はさっきから医師達に同じ台詞をバカになるまで聞かされたおかげでうんざり気分100%だ。 奇跡と崇めてくれるのは結構だが、人を人外の化け物のようにいじくるのは止めてくれ。 「不愉快にさせてしまったのであれば謝罪します。ですが、これが医学的にどれだけとんでもないことであるか その辺りにもご理解をいただきたいですね」 わかっているさ。俺がこうやって2年ぶりに目を覚ましたとか、気がついたらアメリカの空母の中にいるとか、 普段では考えられないような奇跡が連発しているだ。もう一つや二つ起きても今更驚かん。 しばらく、俺たちは各々の作業――俺は飯を食って、古泉は書類を眺める――を続けていたが、やがて同時にそれが終わる。 俺は肩をもみほぐして、これから始まるであろういろいろとめんどくさそうな話に備えた。 「あまり肩に力を入れなくても良いですよ? 結構長い話になりますからね、リラックスして聞いて貰わないと」 「わかったよ。で、まず何から話してくれるんだ?」 その問いかけに古泉はすっと俺の方に手を伸ばして、 「僕の方から説明し始めると、あなたを混乱させてしまうかもしれません。この2年でとても世界は変わりましたからね。 まずあなたが知りたいことを言ってください。それに僕が可能な限り答えていきますから」 そうこっちにボールを投げ返してきた。そうかい、なら遠慮無くきかせてもらうぞ。 「まず最初にだ。SO――」 俺のその言葉に古泉の表情が一気に曇った。そして、俺の心にも強烈な引っかかり感が生まれる。 ……どうやら、それを聞くのはまだ早そうだ。もっとどうでもよさそうなことから聞いていくか。 「あー、えっとだな、機関ってのはある意味秘密の組織じゃなかったのか? それが堂々とアメリカ軍の空母の中にいて いいのかよ? それとも身分を偽って入り込んでいるのか? でもそれじゃ、俺がここで寝ていた理由にはならないが」 「機関の立場はあなたが寝ていた2年で大きく変わりました。以前のように水面下で動く組織ではなく、 今では国連の承認を得た公式組織ですよ。名目は国際連合の一部とされていますが、実際には独立していて、 国連はその支援をしているという状態ですが」 「また大出世じゃないか。おまえのアルバイトも国際的公務員の仲間入りだ」 「怪我の功名みたいなものですから、手放しには喜べませんけどね」 そう寂しげな表情を浮かべる古泉。俺は構わずに続ける。 「で、何でまたそんな大躍進を遂げたんだ?」 「そうなる必要があったからです。閉鎖空間というものが、もう機関という一部の非公開組織だけの中の存在として 扱えなくなった。やむ得ず、僕たちはその存在を世界へ公表し、同時に閉鎖空間というものについて情報を提供しました。 そうでなければ、全世界の混乱は収まらなかったでしょう。原因のわからない異常事態が拡大する一方では 人々はより猜疑心を抱き、混乱が助長されます。そこで僕らがその原因についての情報を伝え、また対処法を伝えることによって 安心感を与えました。おかげで元通りとは到底言えませんが、世界情勢はある程度の平静さを保ち続けています」 「……何があったんだ?」 俺は核心に迫った質問をぶつける。古泉はすっと目を細めて俺の方を見ると、 「あなたはどこまで憶えていますか? 眠りにつく前のことです」 その逆質問に俺は後頭部を掻き上げながら、しばらく脳内の記憶をほじくり返し、 「ハルヒの奴に、ジュースを買ってこいと言われたことまでは憶えている。その後、横断歩道を渡って――そこからはわからねえ」 「……わかりました。では、時系列で何があったのかを説明しましょう」 古泉はパイプ椅子に背中を預け、目をつぶって話し始める。 「あの日、あなたは大型のダンプカーに追突されました。ちょうど横断歩道を渡っているときにです。 一応、あなたの名誉のために言っておきますと、信号はきちんと青でしたよ。トラックの運転手が居眠りをしていたのが 原因みたいですね。そのトラックはそのまま近くの電柱に激突し、運転手の方も亡くなっています」 「マジかよ……」 俺は全身をぺたぺたとさわり始める。実は指が一本ないとか、身体の一部が機械仕掛けになっているとかという オチはないよな? 「ご安心ください。あなたは全くの無傷でした。いえ、現実的にそんなことはあり得ないんですが。 実際にあなたはこれ以上ないほどに血まみれになっていましたからね。しかし、その後やってきた救急隊員も 首をかしげていました。どこにも大量出血するような傷がない。この血はどこから出てきたんだと混乱していました。 一時は僕らによるイタズラなんていう疑惑もかけられたほどです」 「そりゃそうだろ。というか、相手が大型トラックなら全身がバラバラになって即死していそうなもんだが」 「長門さんが何かをしたと思いましたが、彼女は何もできなかったと言っていました。となると、後は涼宮さんしかいません。 衝突した瞬間は重傷を負っていたんでしょうけど、その後傷ついたあなたを修復したんでしょうね」 「全くハルヒ様々だ。危うくこの若さで天に召されるところだったぜ」 「ですが、問題が発生していました。涼宮さんの修復に何らかの問題があったのかわかりませんが、 あなたが一向に目を覚まさないのです。あらゆる検査をしましたが、全く異常なし。以前階段から落ちて 意識不明に陥ったことがありましたが、あれと同じ状態でした。当然、原因がわからないので対処の仕様もなく、 ただ僕たちは見守ることしかできません。最初は涼宮さんもあの時と同じようにすぐに起きると思っていたみたいでしたが、 一週間経っても目を覚まさないあなたに少しずつ罪悪感を募らせていきました。自分の責任だと。 自分があなたにジュースを買ってこいと言わなければこんなことにはならなかったと」 「んなことで悩んでも仕方ないだろ。どうみても不幸な事故だったとしか言いようがない。 それがどこかの悪の組織の仕業でもない限りだれのせいとも言い切れない」 「あの事故は本当に偶然起こったものでした。どこかの誰かが仕組んだものではありません。ただの事故。 だからこそ、何の対処もできていなかったのですが」 そう嘆息する古泉。ハルヒの奴、そんなに悩んでいたのか……ん、何だっけ? どこかでそんなハルヒの言葉を聞いたような…… ダメだ。思い出せねえ。 「どうかしましたか?」 「いや……何でもない。続きを話してくれ」 額に手を当てて思い出そうとしたが、結局思い出せず、古泉の話を続けさせる。 「事故が発生してから一週間が過ぎたころ、涼宮さんの様子がおかしくなり始めました。授業出ず家にも帰らず、 ずっとSOS団の部室にとじこもるようになったんです。同じ団員である僕たちも部室から閉め出されてしまいました。 それまではずっとあなたの病室に泊まり込んでいたんですが、それ以降見舞いにも行かなくなっています。 その間、僕や長門さん、朝比奈さんでどうにかあなたを目覚めさせようと努力しました。 しかし、僕がどんなに優秀な医者を連れてきて検査して貰っても、朝比奈さんの未来の技術を使っても、 長門さんのTFEI端末としての全能力を使っても、あなたは決して目覚めなかったんです。理由はわかりません。 長門さんに言わせれば、涼宮さんがあなたを修復した際に何らかのバグのようなものが混じってしまったのではないかと。 涼宮さんの能力は情報統合思念体でも解析できていませんからね。対処できなくて当然なのかもしれません」 「……いろいろ手をかけさせちまったみたいだな。すまねえ」 「いえ、これも――SOS団の仲間として当然のことしたまでです」 にこやかな古泉の笑顔に、俺は感謝と気色悪さが入り交じった微妙な感覚に困ってしまった。 そんなことにはお構いなしに古泉は続ける。 「そして、事故発生から2週間後、ついに恐れていた事態――いえ、恐れていた以上の事態が発生してしまいました。 閉鎖空間の発生です。ただの閉鎖空間ではありません。いつもは通常空間とは異なった灰色の世界で神人が勝手に暴れるだけですが 今回はその通常空間に神人が現れたのです。もちろん、そこには一般人が多く住んでいますが、そんなことはお構いなしに 神人は暴れ回りました。それも数十体もの数で。しかも、北高周辺だけではなく全世界規模でね」 古泉の言葉に俺は心臓がつかみ出されたような痛みを憶えた。ハルヒがそんな大量虐殺のようなマネを? 嘘だ。いろいろ変なことをやる奴ではあるが、人が目の前で死にまくるようなことを望むはずがない。 「なぜ、閉鎖空間ではなく通常の空間で暴れたのか。これに関しては機関内でも意見が分かれています。 僕としましては、涼宮さんに長らく触れていますからね、閉鎖空間を発生させるつもりが何からの問題により、 神人だけができてしまったという不慮の事故という解釈を持っていますが」 ――古泉はここでいったん口を止めて、肩がこったというように腕を回す―― 「その時の光景はもう特撮映画の世界でしたよ。最初は警察が応戦していましたが、やがて歯が立たないとわかると、 今度は自衛隊が投入されました。航空機やら戦車やらが神人と武力衝突です。滅多に見れるものではありませんでしたね。 しかし、やはりあの化け物には歯が立ちません。そこでついに正体が知れることを覚悟の上で、機関の能力者達が 神人を撃退するために動きました。さすがにあれだけの数を片づけるのに数週間を要しましたが、何とか制圧しています。 そのことがきっかけとなって機関は全世界に公表されることになりました。同時にその存在意義と神人というものについて 情報を公開しました。そのおかげか、一時大パニックに陥った世界情勢が平静さを取り戻したことは先ほども話しましたよね」 古泉の説明で俺ははっと気がつく。 「おい、まさかハルヒのことも言ったんじゃないだろうな? まだあいつがやったと決まったわけじゃないってのに」 俺は思わず古泉の肩をつかんでしまう。万が一、そんな大惨事を引き起こしたのがハルヒだと公表すれば、 犠牲になった人々やあの白い怪物に恐怖した人々の恐れや憎しみを全てぶつけられることになるんだぞ。 古泉は俺の問いかけにしばらく黙ったままだったが、やがてすっと視線を落として、 「……言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、これだけは言っておきたい。僕は最後まで涼宮さんの名前を出すことに 反対し続けましたし、今でも間違った判断だと思っています。あなたの言うとおり、これは涼宮さんの起こしたものかどうか まだわかりません。しかし、機関の大半は涼宮さんが引き起こしたものであると断定していました。 それに次に言われた言葉はもっと僕を失望――そうですね、はっきりと言いますが失望させました」 古泉は両手を握り、そこに額を預け、 「こういったんです。一連の破壊行動に対して明確な責任を持った人が存在すると名言しなければ、世界は納得しない。 対処すべき原因を公表しなければ、人々は憶測を重ねて混乱するだけ。明確な『敵』が必要だと。 あ、ご安心ください。あなたの存在については伏せています。『鍵』の存在を公表すればあなたにかかるプレッシャーは 大変なものになるでしょうから」 寝たまま何もしていなかった俺のことなんざどうでもいい。問題はハルヒだ。なんだよそれは。 まるで仕方が無くハルヒに原因を押しつけただけじゃねえか。ひどすぎるだろ、いくらなんでも。 古泉は苦悶の表情を浮かべたまま、 「あなたの言うとおりです。しかし、僕はその時それ以上の反論ができませんでした。世界中規模で起きている政情不安、 略奪、紛争勃発を見てそれを収まらせるために他の良い案が浮かばなかった。そして、そのまま全世界に公表されます。 原因は涼宮ハルヒという日本人の一人の少女が引き起こし、彼女は現在北高の部室に閉じこもっていると。 彼女の存在をどうにかすれば、この異常事態は収まるとね」 「全部ハルヒのせいかよ……。いくら混乱を収まらせるためとは言え、あんまりじゃねえか……」 俺はがっくりと肩を落とす。と、ここで長門と朝比奈さんのことを思い出し、 「長門と朝比奈さんはどうしたんだ? 二人とも宇宙人・未来人であると公表したのか?」 「それはしていません。神人と機関はその力を間近に発揮したからこそ、受け入れられたんです。 実体も不明な宇宙人・未来人ですと言っても、胡散臭さが増すだけですから」 そりゃそうか。そのタイミングでそんなことを発表したらかえって信じてもらえなくなりそうだからな。ならその二人は? 「長門さんと朝比奈さんは現在行方不明です。二人ともSOS団の部室に向かっていったきり、何の音沙汰もありません。 僕だけは神人の対処に追われたため、涼宮さんの元へはいけませんでした。今では北高周辺は危険すぎて侵入できない状態です。 二人がどうなったのか、涼宮さんが今どうしているのかさっぱりわかりません」 ここで古泉はようやく顔を上げ、続ける。 「それから2年間、神人は現れなくなりましたが閉鎖空間の浸食は続いています。現実の世界が閉鎖空間のように 無機質な世界に作り替えられていっているんです。一番大きな発生ポイントは北高周辺を中心とした地域。 それ以外にも世界中のあらゆるところで虫食いのように発生し、すでに世界の三分の一が閉鎖空間に飲み込まれました。。 そこではどんな資源も採掘できず、食物も育たない不毛な世界で、そこに入った人間はひたすら消耗を続けやがて死に至る。 この地球上を全て覆い尽くせば人類滅亡は必死ですね。機関がもっとも恐れていた事態が現実に進行しているんですよ」 「もうスケールがでかすぎてついて行けなくなってきた……」 俺は疲労感から来るめまいに身体が揺すられる。突然閉鎖空間が発生し、全世界であの化け物が大暴れ。 しかも、それを全部ハルヒのせいにされ、問題が解決することなく地球滅亡のカウントダウンは続いている。 もうね、一体どうしろってんだと怒鳴り散らしたくなる気分さ。 と、古泉が急に俺の前に顔を突き出してきたかと思えば、 「ですが! 僕たちはようやく解決の糸口を見つけたのかもしれません。なぜならば、あなたがようやく目を覚ましたから。 この異常事態の発生は、あなたがあった事故による昏睡状態が原因だと言えます。ならば、あなたの目覚めにより 何らかの情勢が動く可能性が高い」 「俺が目を覚ましてから半日以上経つが、何か変わったのか?」 「いえ、何も」 「だめじゃねえか」 俺の失望の声に古泉は困った表情を浮かべて、 「あなたが起きた=即座に解決になるとまでは思っていません。しかし、あなたの存在は確かに閉鎖空間に影響を与えていることも 事実なのです。実はもともとあなたは日本の医療機関に入院していたんですが、より精密な検査を受けるために 欧州へ移動させようとしたことがあるんですよ。その時は肝を冷やしましたね。あなたが北高から離れれば離れるほど、 閉鎖空間拡大の速度が速まるんですから。あわてて日本国内に戻したほどです。ちなみに、今米海軍空母内に移転したのは、 それが理由でして。できるだけ涼宮さんのいる場所の近くにあなたを置くためには、即座に移動できて、 なおかつ医療設備や生活環境が維持できる場所が必要だったんです。それでもっとも適切な施設がこの空母だったと。 おかげで予定よりも人類滅亡までの時間が大幅に長くなりましたよ」 俺一人のために、こんなばかでかいものを動かしたのか。やれやれ。VIP待遇にもほどがある。 言っておくがあとで使用料を請求されても払えないからな。 「ご安心を。その辺りはきちんと国連内で処理しますから」 そんな俺の不安に古泉はインチキスマイルで答える。 「で、これからどうするつもりなんだ? ただ、ここで黙って見ているわけじゃないだろう?」 「まだ機関内で検討中ですが、やれることは一つしかないでしょう」 古泉は気色悪いウインクを俺にかまして、 「北高に乗り込むんです。機関の超能力者としての僕の力を使えば、閉鎖空間にも普段と変わらずに入れますからね」 ……どうやら、とんでもないことになっちまいそうだ。やれやれ。 ◇◇◇◇ 翌日オフクロたちが俺の見舞いに来た。ついでにミヨキチも来てくれたんだが、 我が妹とますます差が開いていることに驚きを隠せない。このまま大人になったら一体どんな超絶美人になるんだ? それに比べて我が妹の幼いこと。もう中学生になっているのに、俺が憶えている妹の姿と寸分の違いもないぞ。 一部の人たちには歓迎されるかもしれないが、そんな人気は兄として却下だ却下。 しかし、ヘリコプターで送迎とは豪華だね。全く家族そろって某国大統領にでもなった気分さ。 とりあえず、オフクロ達が無事だったことには安心した。俺の住んでいた町も神人にど派手に破壊されたようだったので その安否が気がかりで仕方なかったが、国の方が機関と連携し、素早く住民達を非難させていたようだ。 現在は被害のあった場所に住んでいた住民は政府の用意した指定地域に避難している。そのおかげといっては何だが、 妹も友人たちと離ればなれになることもなくそこそこ今まで通りの生活を送れているとか。 ただ、今済んでいる場所は仮設住宅みたいなものだから、近いうちに引っ越しも考えているらしい。 どのみち、長くは住めないようなところなのだろう。俺もとっとと帰って家のことについて手伝ってやりたかった。 ◇◇◇◇ その次の日、俺はようやく医療的束縛から解放されて自由の身となった。ただし、オフクロ達のいる場所への移動は認められず、 あくまでもこのナントカって言う空母の中だけの移動に限られてはいるが。古泉曰く、下手に出歩かれて、 また事故にでも遭ってしまえば取り返しがつかないんですよ、だそうだ。警戒しすぎじゃないかと思うし、 それだけの期待を俺みたいな凡人まるだし男にかけられていることに、いささかの違和感と窮屈感を憶える。 で、ようやく今後についての話し合いが始まったわけだが、 「さて、これからの予定についてですが、ようやく機関内で決定されたのであなたに伝えておこうと思います」 古泉の野郎にどこかの会議室に連れ込まれた俺に数枚の資料が渡された。他には森さん・新川さん・多丸兄弟と 機関おなじみの面々がそろっている。しかし、古泉は結構成長したように見えたが、この4人は全く変化がないな。 変な改造手術でも受けているんじゃないだろうな? 古泉が続ける。 「以前、あなたに話したように涼宮さんがいると思われる北高へ向かいます。 そして、そこの状況に応じて涼宮さんを解放し、事態の解決を図るというものです」 「おいおい、肝心な部分が曖昧すぎるんじゃないか?」 俺の指摘に、古泉は困ったように頬を書きながら、 「その辺りはご勘弁を。現在、北高周辺が一体どうなっているのかさっぱりわからない状況なんですから。 ついてからは全てあなたにお任せしますよ。それこそ、以前にあの世界から戻ってきた方法を使って貰ってもかまいません」 だから、それを思い出させるなと言っているだろうが。 そんな俺の抗議に構わず古泉は話を続ける。 「僕たちはまず北高から100km離れた地点までヘリコプターで移動し、そこから目的に向かってひたすら歩きます。 予定では一週間程度かけて中心地点である北高に到達できると予想しています」 「100kmって……どうして一気に北高に行かないんだ? いくらなんでもそんな距離を歩く自信はないぞ」 古泉はすっと森さんの方に手をさしのべると、ぱっと会議室の明かりが落ち、正面のモニターが映される。 そこには北高を中心としてとして大きな赤い円が描かれている地図があった。 円の中には何重にも円が重ねられ、円とその中の円の間に、%を表す数値が書き込まれている。 ここからは古泉に変わって森さんが説明を引き継ぐ。 「この高校を中心に大規模な閉鎖空間が広がっています。大体半径100km前後の距離ですね。 この中には古泉のような能力がなくても侵入可能ですが、著しく体力・精神的に消耗することが確認されています。 そのため、機関のサポート無しでは長時間の作戦行動を取ることは不可能でしょう」 「その何重に描かれている円は何ですか?」 俺が地図に向かって指さすと、森さんは指し棒を持ちだし、円の部分を指しながら、 「閉鎖空間といっても地域によってその危険度が違っていて、警戒度別に円を引いています。 今まで機関のサポートの元、何度も特殊任務として閉鎖空間に侵入していますが、この%は生還率を示したものです。 基本的に円の中心に近づくごとに危険度が高いことがわかっています」 「ってことは、古泉みたいな連中はもう何人もやられてしまっているって事か?」 「その通りです。僕の同志もすでに3人失いました。しかし、彼らの尊い犠牲によりこれだけの情報が得られています」 悲しげな声で古泉が答える。古泉たちも相当な負担を強いられているって事か。ん、ちょっと待った。 「さっき森さんは中心に近づくほど危険といったが、一番外側の部分の生還率がその内側よりも低いのは何でだ? ゲームチックに第一関門が用意されているってわけでもないだろ?」 「これはいろいろと原因がありましてね……」 古泉がリモコンらしきものを押すと、映像が切り替わる。そこに映し出されたのはどこかの戦争映画のワンシーンみたいに 戦車やら飛行機やらがたくさん並び移動している光景だった。 「今から8週間前に、一向に事態が進展しないことに業を煮やした国連安保理はついに武力行動の決議を出しました。 規模は世界大戦勃発といえるほどのものです。国連軍10万人近い兵士が出撃し、一路北高に向けて進撃を開始しました。 当初の予想では、最初は抵抗も緩く、中心部に近づくにすれて激しくなると考えていましたが、 完全に予想を覆されます。閉鎖空間に侵入したと同時に正体不明の攻撃が国連軍に襲いかかりました。 突然、兵器という兵器が崩壊し兵士達はバタバタと倒れていく。いかに最新兵器で武装しても戦っている相手が 何なのかわからない状態では反撃のしようもありません。結局、損害だけが積み重なり、敗走することになりました。 その時の結果がこの生還率に反映されてしまっているんです。このときの戦いで機関の超能力者一人失いました」 苦渋の表情を浮かべる古泉。相手は神人みたいな常識はずれな奴らだ。現実に存在している軍隊じゃ歯が立たないだろうよ。 誰か止めればよかったんだと憤る自分がいるお一方で、こんな無謀な強硬策をとるしかないほどまでに もう他に打つ手が無くなっているんだろうと理解してしまう自分もいる。 と、無謀な強硬策でちょっとしたことをひらめき、冗談めいた口調で、 「そんなにせっぱ詰まっているんじゃ、その内ミサイル――いかも核ミサイルとかが撃ち込まれたりするんじゃないか?」 「それはとっくに実施済みです」 ……おい古泉さん。俺は冗談のつもりで言ったんだが、まじめに返すなよ。さすがにそのジョークは笑えないぞ。 だが、古泉は首を振って、 「残念ながらジョークではないんですよ。某国が独断で核ミサイルを発射しまして」 そんなバカなことをやった国があるのか。あきれてものも言えん。しかし、その割には北高周辺は無事のようだがどういう事だ? 「それがですね。ミサイルは正確に北高に落ちたように見えたんですが、次の瞬間、まるでビデオの巻き戻しをしているかのように 北高に飛んできたのと全く同じ軌道で、某国のミサイル発射基地に直撃したんですよ。まるで途中でUターンしたみたいに」 「なんだそりゃ。あの閉鎖空間の主はドクター中松だったのか?」 俺の言葉に古泉は苦笑するばかりだ。 森さんはぱんと一つ手を叩くと、話を進めましょうと言い、 「わたしたちは最後の希望と言っても過言ではありません。そのため、少しでも危険のある地域には徒歩で入ります。 ヘリコプターでは撃墜されてしまえば、助かる見込みはほぼありませんので。同理由により車輌などもしようしない予定です」 死ぬ可能性を少しでも下げるために、みんなでハイキングか。全くここは戦場か? 森さんは国連軍基地とするされている位置を指し、 「そのため、まず航空機でここまで移動し、さらにそこからヘリコプターで閉鎖空間との境界線ぎりぎりまで移動し、 そこから徒歩で閉鎖空間内に侵入します。あとは一直線に目的地までに進むのみになります」 そこからでもかなりの距離になる。森さん達みたいなエキスパートならさておき、俺みたいな一般高校生が 歩いていけるのか? しかも、正体不明の敵の攻撃をかわしながらだ。 古泉はくくっと苦笑すると、 「あなたの体力は一般的な高校生以上のものですよ。あれだけ涼宮さんに引っ張り回されていたんです。 一年で動いた運動量は運動部ほどとは言えませんが、それなりの量になっているはずですよ。僕が保証します」 「だがよ、そんな毛の生えた程度じゃ明らかに足手まといになるだろ」 「確かにそれも事実です。だから、そのための訓練を受けて貰います。あなたの友人達と協力してね」 古泉が俺の視線を促すように、首を動かした。俺が振り返ってみると、そこには谷口と国木田の面影を持つ人物が居た。 古泉と同じように成長しただけで本人なんだろうが。 「よぉ、キョン」 「ひさしぶりだね、キョン」 二人の声と口調は俺が知っているものと全く変わっていなかった。どこまでも軽い谷口とどこか丁寧な印象を受ける国木田。 二人とも見慣れた北高の制服だったが、何でこの二人がここにいる? 「ずっと前からあなたが目覚めたときのために準備していたんですよ。できるだけあなたに近い人間を集めて、 そして、あなたとともに涼宮さんの居るところへ向かう。今のところ、それが唯一閉鎖空間に障害なく侵入できるはずです。 あの閉鎖空間を作り出したのは涼宮さんであるかどうかわからないですが、そこに涼宮さんがいることは確かです。 ならば少しでも彼女に近い人間であれば、少なくとも涼宮さんは僕たちを受け入れてくれる。 拒絶する理由なんて無いはずですから。とくに事故の後遺症から立ち直ったあなたをね」 古泉の言葉に、俺はようやくこのばかげた現状を受け入れる気分になった。そして、同時に決意もできた。 やれやれ、行くか。ハルヒのいるあのSOS団の部室へ。 ◇◇◇◇ 翌日から俺の訓練が始まった。主に谷口と国木田が指導してくれた。二人とも結構しごかれているみたいで 以前とは別人のように強靱な肉体ぶりを見せつけてきやがる。 「ほら情けねえぞ、キョン! このくらいの壁、とっととのぼっちまえよ!」 「無茶を言うな! まだ病み上がりなんだぞ、俺は!」 鬼教官、谷口のしごき毎日だ。一方の国木田はそんな俺たちを生暖かく見守るだけ。少しはこのアホをセーブしてくれよ。 訓練は一ヶ月間、この空母内に特設された場所で行われている。とは言っても、一ヶ月で劇的に体力がつくわけもなく、 ならこの訓練の意味は何だと古泉に確認したところ、体力をつけるのではなく、いかに体力を使わずに効率よく動けるかを 身体に憶えこませるためとのこと。おまけに、銃の扱いや手榴弾の使い方、軽傷ぐらいなら自分で直せる程度の医療知識まで 頭の中に押し込めてくるんだからたまらん。全く傷病兵や病人まで戦場につぎ込む羽目になった戦争末期のドイツじゃあるまいし こんな突貫訓練で大丈夫なのか俺は? ちなみにそういった軍事知識まで詰め込まれるのは、そういった対応方法が 必要になった事例が多他にあるからだそうだ。気分は戦争だね、もう。 結局、そんな調子で一ヶ月間散々絞り上げられる羽目になった…… ◇◇◇◇ いよいよ作戦実行の前日。俺は今までの疲れを癒すための全日休暇を満喫していた。 まずオフクロ達に今後の予定について話したわけだが、危険地帯に行くといったとたんに妹含めて泣いて泣いて こっちが涙ぐんでしまったぐらいだ。ただ、それでも行くなと引き留めなかったのは、現状を理解しているからだろう。 物わかりの家族で本当に助かる。 その日の夜、俺はせっかくだからと水平線の上に浮かぶ満月の鑑賞を満喫していた。 周辺に繁華街とかがあるおかげで、俺の自宅――元自宅からはいまいちぼやけ気味に見えていた月だったが、 辺り一面が真っ暗で障害物も何もない満月は、この世のものとは思えないほどに美しかった。 願わくば、もう一度これが見れればいいと本気で思うよ。 「よっ、キョン。なに黄昏れているんだ?」 せっかく人がしみじみとした気分を味わっているってのに、無粋な声をかけてきたのは谷口の野郎である。 「なんだよ、せっかくの満月がお前のアホ声で色あせちまったぞ」 「……ひでぇことを平然といいやがるなぁ。でも……確かにきれいだな。みとれちまう気持ちはわかるぜ」 そう言って谷口も空に浮かぶ満月を眺める。 と、俺はずっと機構としていたことを思い出し、 「なあ谷口、一つ聞いておきたいんだが」 「なんだよ?」 「……何で古泉からの要請を受け入れたんだ? こういっちゃなんだが、イマイチお前らしくないと思って仕方がないんだが」 俺の言葉に谷口ははぁ~とため息を吐いて、 「キョンよー。おまえは俺をそんなにへたれと認識していたのか?」 「違うのか?」 「……おまえな」 あっさりと断言する俺に、谷口は口をとがらせる。まあ、そんなことよりもどうしてやる気になったんだ? 谷口は俺の方にぐっと手を突き出し、親指を立てる仕草をすると、 「世界平和のために決まっているだろ! そして、救世主となってみんなから尊敬のまなざしを向けられ、 女の子にもモテてウハウハっていう素晴らしき未来が俺を待っているのさ!」 「…………」 あきれて開いた口がふさがらない。やっぱり谷口は谷口か。そっちの方が安心できるけどな。 が、谷口はすぐにそんないつものTANIGUCHI印のアホテンションを引っ込めると、 「冗談だよ。理由はこれさ」 そう言ってポケットから一枚の写真を指しだしてきた。それにはお下げでめがねのかわいらしい少女が写っている。 歳は俺と――谷口よりも少し年下ぐらいか? 清楚な感じが好印象だが、俺に紹介でもしてくれるのか? 「お前のは涼宮がいるだろ?」 何でそこでハルヒの名前が出てくるんだ。言うなら俺の癒しのエンジェル、朝比奈さんだろうが。 そんな俺の抗議に谷口はハイハイと流して、 「聞いて驚け。この写真の女の子は俺の彼女さ!」 「なにィっ!?」 その大胆発言には俺もびっくり仰天で満月までジャンプしそうになる。以前に付き合っていた奴とはあっさり破局したってのに すぐにこんな可憐な女性を手に入れていたとは。くそー、俺がのんきに寝ている間に先を越されちまった。 「あの化けモンが暴れ回って街に住めなくなっただろ? その後、避難キャンプに移ったんだが、そこで知り合ったのさ。 きっかけは炊き出しの手伝いだったんだが、俺の献身的な働きに彼女が一目惚れしてしまってな」 絶対に、おまえが彼女の献身的な働きに一目惚れしたんだろ。 「そのまま意気投合って状態だ。もう意思の疎通もバッチリだぜ! 絶対に手放したくねえ。だから――」 谷口はすっとその写真に目を落とすと、 「……守ってやりたいんだよ。彼女をさ。そのためにはあの灰色の空間をなんとかしなけりゃならん。 だから、あのいけすかねえ美形野郎の申し出を受けたのさ。お前相手だから言っちまうが、この混乱状態が収まったら 結婚しようと約束しているんだ。平和な新婚生活を送るためにも何としてでも世界を正常にしなけりゃならねぇ」 「そうか……」 何だかんだですっかり男らしくなっている谷口だ。全く……守るべき人間がいるってのは、 あのアホをここまで変えてしまうのかね? 「で、キョンはどうして行く気になったんだ?」 今度は谷口は同様の質問を俺にぶつけてきた。俺はしばらく答えに困りつつも、 「世界崩壊の危機で、しかも全人類が俺に期待しているんじゃやらないわけにいかないだろ?」 「あのな、キョン。これから生死を共にする仲なんだぞ。こんなときぐらい素直に本音を言っても良いだろ?」 俺は痛いところをつかれて、ぐっと声を上げてしまう。やれやれ、今の谷口には建前は通じないみたいだな。 「……二つある。まず一つはSOS団の日常を取り戻したい。ハルヒもそうだが、長門も朝比奈さんも取り戻して、 またバカみたいに楽しい日々を送りたいのさ。外側にいた連中にはわからんだろうが、俺はすごく幸せ者だったんだよ。 無くして――本当に無くして今それを実感している」 そして、もう一つ。これが最大の理由…… 「ハルヒの無実を証明してやりたい。どんなにぶっとんだ発想と行動力を持っていても、あいつはこんな世界滅亡なんて 心から願うはずがないんだ。きっと何かおかしなことが起きている。俺はそれを見つけ出したい」 「……そうか。なら大丈夫そうだな。中途半端な理由じゃなさそうだし……あ」 と、ここで谷口が何かを思い出したように手を叩き、 「わりい! お前に用事があったのをすっかり忘れていたぜ!」 おいおい、本当に今更だな。 谷口はすまんすまんと手をひらひらさせつつ、 「お前に用があるっていう奴が来ているぞ。しかもとびっきり魅力的な女性だ」 そう谷口はうひひと嫌らしい笑い声を上げて去っていった。女性? 今更俺に会おうとするなんてどこのどいつだ? ◇◇◇◇ 「やあ、キョン久しぶり」 「……なんだ佐々木か」 俺の前に現れたのは、古泉と同じように+2年された佐々木の姿だ。こちらもすっかり女っぽさに磨きがかかっているな。 「なんだとはずいぶんな言い方だね。これでも結構心配したんだよ」 いやすまん。全く予想していなかったんでな。少々面食らってしまったんだ。 「まったく……前から思っていたがキミは結構薄情なところがあると思うんだ。 高校に進学してからというもの、全く音沙汰が無くなり、ようやく連絡が来たかと思えば、 年賀状という文面のみで受け取り側にその意味合いを依存するような意思の伝達方法を採用しているんだから。 そして、今度は事故の後遺症から目覚めて一ヶ月だというのに全く連絡をよこさない。正直、君の出発が明日と聞いて 突然地動説を主張された宗教学者達みたいに驚いてしまったよ。会いたいならヘリを手配してくれると言うんで、 そのご厚意に甘えさせて貰ってここまで来た次第だ」 「本当にすまん。そっちの方まで頭が回らなかったんだ……ん? その話は誰から聞いたんだ?」 「キミの家の方に電話した際に教えてくれたよ。向こうとしてはいろいろと……いや、止めておこうか。 すでにキョンはご家族の方と話を終えているようだからね。今更蒸し返すのは、国際的歴史問題をいつまでも引きずっていることと 同じ愚行だろうから」 そう佐々木は空母の壁にすっと背中を預ける。しかし、月明かりに照らされるその姿は見れば見るほど大人っぽくなっているな。 古泉が以前非常に魅力的だと表現していたが、2年眠った後でようやく実感できる俺の美的センサーにも問題があるぞ。 そのまま二人の間に沈黙が流れる。 どのくらい経っただろうか。やがて佐々木が口を開く。 「キョン、行くなとは言わない。だが、聞かせて欲しい」 ――佐々木は俺の方に目を合わせずに―― 「……本気でキミは、本心から望んであそこに行きたいのか?」 佐々木の口調はいつもと変わらないはずだった。だが、それはまるで俺の内部に突き刺すように問いつめている言葉に聞こえた。 俺はしばらくどう答えようか迷っていたが、ま、正直言うしかないだろ。こんなシチュエーションじゃな。 「ああ、行きたいと思っている。誰からも強制されているわけではないぞ。120%俺の確固たる意志だ」 正真正銘の本音。2年あまりの眠りから目覚めた時は正直余りぴんと来なかった。 しかし、この一ヶ月間で集めた情報やオフクロ達から聞かされた話。谷口と国木田が遭遇した体験だ。 それらを聞く内に、俺の意志が固められていった。無論、世界を救う救世主という役割なんかよりも、 あのSOS団としての日々を取り戻したいと言うことと、ハルヒの無実を証明したいという気持ちを、だ。 気がつけば佐々木は俺の方をじっと見ていた。まるで俺の全身を品定めするかのように見ていたが、 やがて軽くため息を吐くと、 「そうかい。わかった。キミの意思ははっきりと確認させて貰ったよ。ありがとう。 では、おじゃまものはそろそろ引き上げようかね」 「何だよ。それだけを確認したかったなら電話でも十分だったんじゃないか?」 俺の指摘に佐々木はやれやれと首を振って、 「あのね、キョン。人間ってのは声だけで判断できるような安っぽい作りはしていないんだよ。 宗教にさして興味はないが、本当に神が人間を創造したって言うなら、神様というのは実に陰険で神経質だったと思うね。 キョンの声だけ聞いても判断できないから――声帯を振るわした生声を直接鼓膜に当てて、全身の身振りを確認した上で その意思を確認したかったのさ。わがままとか欲張りといって貰っても結構。せっかくのご厚意だ。とことん甘えさせて貰ったさ」 それで佐々木が満足だって言うなら、別に俺はこれ以上どうこう言うつもりはねえよ。 しかし、せっかく来たって言うのに滞在時間数十分では遠出してきた意味が無いじゃないか。 「そうだ。ここから見える月はすごくきれいなんだ。せっかくだから堪能して行けよ。こんなチャンスは滅多にないんだからな」 「キョン。キミって奴は本当に……」 佐々木の声に少しいらだちが入ったことに気がつく。 「良いか、キョン。人間ってのはやっかいな精神構造をしているもので、たまに間違いを犯すんだ。 それが正解だと思ってやってみたら間違いだったというのはまだいい。しかし、問題なのは間違いとわかっているのに、 それを犯さなければ気が済まないという感情が発生することがあるんだ」 言っていることがよくわからないんだが…… 佐々木は困惑する俺に構わず続ける。 「……そうだな。確かにキミの言うとおりこのまま帰るだけじゃ、後悔するだけかもしれない。 ならば、これはキョンからのご厚意として受け取らせてもらうよ。最初に謝っておく。ちょっと間違いを犯すが許して欲しい」 ――佐々木は一呼吸置いてから―― 「僕はね、キョン。ふとこんな事を考えてしまうんだ。キミと一緒にエアーズロックの一番高いところで、 沈んでいく夕日の如く終わる世界をただ眺めているってのも悪くないんじゃないかってね」 おいそんな人灰を巻かれてしまうような場所で、俺は若い内に人生の終わりを迎えたいとは思わないぞ。 縁起でもないことは言わないでくれ。 俺の反応に、まるでそれを楽しんでいたかのように佐々木はくくっと笑うと、 「そうだろうね。済まない。少し冗談が過ぎたようだ。許してくれたまえ」 そう言うと佐々木はくるりと俺に背を向けて、 「さて、そろそろ本当に帰らせてもらうよ。これでも大学生の身でね。高校時代に頭の中に押し込まれた鬱屈した気分を 解放するので大変なんだ。あとは周りの人たちに対する対応もしないとね。それに――何よりもこれ以上間違えるつもりもない」 そう言ってさっさと俺の前から立ち去ろうとする。 正直、ここで引き留めるのも何だか気が引けたが、どうしても言っておきたいことがあった。 「佐々木」 俺の問いかけに、振り向きはしないものの足を止める佐々木。俺は続ける。 「せっかくだ。世界が正常になったらSOS団に入ってみないか? おまえとはちょうど話が合う奴もいるし、 団長様も――こればっかりは話してみないとわからないが、多分OKしてくれるんじゃないかと思う。 いい加減SOS団にも新しい風も必要な頃合いだ」 佐々木は俺の言葉をただ黙って聞いていただけだったが、やがて振り返ることなく答える。 「……そうだね。せっかくのお誘いだ。でもいきなりっていうのも難しいから体験入団という形にとどめて欲しいな」 「それでもいいさ。あとは佐々木が判断すればいい」 これにて俺の話は終了。あとは佐々木の見送りでお別れだ……ったが、佐々木は足を止めたまま動かない。 そして、大げさにため息を一つついてから、腕を上げて指を一つということを表すかのよう人差し指を上げ、 「帰る気になっていたのに、それを呼び止めたことへの報いだ。もう一つだけ。間違えさせてもらうよ。 キョン、キミに言いたかったことは、それはキミがグースカ眠りこけている間に言わせてもらったよ。 その様子じゃ、きっと憶えていないんだろうけど、この場でもう一度言おうという気持ちにはどうしてもなれないんだ。 おっと卑怯者とか言わないでくれ。別に教えたくない訳じゃない。ただ、この場ではどうしても言う気になれないってことさ。 じゃあ、いつ言うのか、という質問をしたくなるだろ? それはキミが帰ってきてからと答えよう。だから――」 そこで佐々木はすっと振り返り、軽い感じで俺の方を指差す。 その時見せた佐々木の表情、全身を見たとたん、俺はかつて無いほどに佐々木の魅力を見せつけられたと思った。 いつか見せてもらった朝比奈さん(大)の表情にも負けないほどの魅力。 「僕のかけがえのない親友に対する要望だ。必ず帰ってきてくれ」 ◇◇◇◇ 佐々木を見送った翌日。ついに俺の出撃の日がやってきた。目標は――北高。 俺は甲板から飛び上がる白いヘリコプター――シーホークって名前らしい――の中で緊張しきっていた。 これから行く場所は見慣れた街のはずだ。だが、あの記憶に残る灰色の空間の中に、それも命を狙われることは確実とされる世界に 足を踏み入れようとしているんだから、緊張ぐらいは許してくれ。おお、懐かしきマイタウンよ。 空母から飛び立って数十分。この時には緊張感なんてすっかり無くなっていた。なぜなら、 「ヘリコプターって結構揺れるんだな……うぷっ」 「エチケット袋なら完備していますよ。遠慮なさらずにどうぞ」 他の面々はまるで平気そうだ。ちくしょう、こんなに揺れるなら酔い止めを飲んでくれば良かった。 さて、ここらでメンバーを確認しておこうか。 まず部隊長に森さん。あの何でもこなしてしまいそうなプロフェッショナルな女性である。 次に副隊長に新川さん。こっちも森さんに負けず劣らずプロの空気をビンビン醸し出している。 あとは、多丸兄弟・古泉・谷口・国木田、そして俺の総勢7名の部隊だ。人数の面で少々頼りなさを感じてしまうが、 以前の10万人大侵攻で何もできずに逃げ出す羽目になったことを考えると、多ければいいってもんじゃないと思っておく。 そして、全員迷彩服を着込み、手には自動小銃やら機関銃が握られている。 俺たちは閉鎖空間近くに作られている国連軍基地へいったん降りて、そこから別のヘリで閉鎖空間の目の前まで移動する。 あとは俺たちが100kmに及ぶ道のりを行進しながら北高に向かうわけだ。やれやれ。 それから数十分後、古泉がヘリの外を指差し、 「見えてきましたよ。あれが閉鎖空間です」 はっきりいってゲロゲロな俺はそんなものを見る余裕もなかったんだが、これから向かう場所ぐらい見ておくべきだと 気合いを入れて外を見回す―― 「……こりゃぁ――すごい――」 その瞬間、俺の酔いはどこかにすっ飛んでいってしまった。透き通るような青空に、そして、その下に存在する海と陸。 ちょうどその中間に位置するかのように黒いドーム上の空間が存在している。 視界にはいるだけで強烈な拒絶感を感じるところを見ると、あの中にいる奴はあの領域に誰一人として入れたくないようだ。 よっぽど人間不審な奴がいるみたいだな。 俺はしばらくその光景を睨んでいたが、やがてヘリが緩やかに降下を始める。 「もうすぐ、国連軍基地に到着します。着陸に備えてください」 森さんの声とともに、俺は閉鎖空間の観察はいったん中止して着陸態勢を整え始めた。 ◇◇◇◇ 国連軍基地に到着後、次のヘリに乗り換えるまでしばしの休息を得ることができた。 到着後、俺が真っ先に言ったのは酔い止めの薬の確保である。またヘリに乗って移動する以上、 閉鎖空間に酔っぱらって侵入するのでは格好が付かない。 何とか酔い止め薬をゲットして、胃を落ち着かせることに成功。それでももうしばらく時間があったので、 国連軍基地内を散策することにした。地方の空港を接収して再利用しているらしく、空軍基地としても活用しているみたいで、 たまにやかましい音を立てて戦闘機やら偵察機やらが離発着している。事実上の前線って事で、 かなり基地内にいる人間はピリピリと緊張感をあからさまにしていた。古泉の話では、閉鎖空間の拡大に伴って 近日中に撤収し、数百キロ離れた場所へ移設する予定だそうだ。確かにここから閉鎖空間までは15kmぐらいしかない。 あと数ヶ月で飲み込まれることになるだろう。もちろん、基地周辺にある民家も全てだ。 「ん?」 国連軍指揮所の建物の壁にやる気なさそうに寄りかかっている人物が目にとまった。 どこかで見たことがあると目をこらして確認した結果、はっきり言ってそのまま無視しておこうかとても迷うような 人物であることが判明した。とはいっても、あの野郎がいる以上、何らかの目的があることは明白であり、 そいつを問いただしておかなければ、後々面倒なことになるかもしれないので、 「おい、こんなところでなにやってんだ」 そこにいたのはあのいけ好かない否定後連発の未来人――自称:藤原だった。退屈そうに空を黒々と浸食している 閉鎖空間を眺めている。 その未来人野郎はちらりと俺の方に視線を向けると、 「ふん、やっと来たみたいだな。いつまで待たせれば気が済むんだ?」 ……敵意むき出しの発言に、やっぱ話しかけなけりゃよかったと後悔する。 あまり長い間話すと別の意味で俺の胃がムカムカしてきそうだったので、とっとと本題をぶつけることにする。 「で、こんなところでなにをやっているんだ? まさかとは思うが、俺たちに協力しようってんじゃないだろうな?」 「自分たちにそれだけの価値があると思っている時点で、傲慢に値すると評価してやるよ」 ますますむかつく野郎だ。ここまで挑発的な物言いばかり沸いてくるなんて、さぞかしゆがんだ環境で育ったんだろうよ。 藤原はまた閉鎖空間の方を見つめると、 「僕はただ見に来ただけだ。この事態の行く末を見る。それが今の僕の仕事だ。介入するつもりはない」 ああ、そうかい。それなら好きにすればいいさ。じゃあな。 俺はとっとと未来人野郎の前から立ち去ろうとする。が、一つだけ確認すべき事を思い出し、 「朝比奈さん――ああ、成長したでっかい方の朝比奈さんだ。あの人は今どうしているんだ? やっぱりお前と同じようにただ事態を見守っているだけなのか?」 俺の問いかけに、藤原はしばらくきょとんとしていたが、やがて苦笑するような笑みを浮かべ、 「あんたの思考能力の薄さには敬意を表したいよ。少しは考えてみればどうだ? あんたと一緒にいた小さい方の朝比奈みくるが 消失しているんだぞ? だったら、あんたのいうでっかいほうの存在がどうなっているのかすぐに答えが出るだろ?」 俺は――俺はしばらくその意味がわからなかった。だが、何度か未来人野郎の言葉を脳内リピートしてようやく気がつく。 この時代の朝比奈さん(小)は消えたままだ。そうなれば当然朝比奈さん(大)の存在も消える。 つまり、今起きている事態は朝比奈さん(大)にとって規定事項ではない、明らかな想定外の状況であるということ。 なんてこった。事態は俺が考えている以上にひどいのかもしれない。少なくともこのままでは確実に世界が崩壊し、 未来にも影響を与えている。どうにかしなくては…… 「おおーいキョンー! もうすぐ出発だよー! 早くこっちに集合してー!」 唐突に耳に入る声。見れば国木田が手を振って俺を呼んでいる。いつの間にやら出発時間を過ぎてしまっているらしい。 俺は焦りに似た気持ちを引きずりながら、出発場所へと走った。 ◇◇◇◇ 俺たちを乗せたヘリが飛び立つ。今度はさっきのヘリの黒いバージョンだ。そのまんま、ブラックホークというらしい。 どのみち、あと10分以内で降りるんだから憶える必要もないだろうが。 ヘリは山岳地帯の森の上をなめるように跳び続ける。辺りは快晴。雲一つ無い。こんな日に戦争か。 やれやれ、やりきれない気持ちでいっぱいだな。 酔い止めの薬の効果は偉大なようで、国連軍基地に来るまでに味わされた車酔い――じゃないヘリコプター酔いも起きずに それなりに快適に外の様子を眺めることができた。相変わらずの威圧感の強い閉鎖空間の黒い領域が目の前に迫るたびに その迫力で身震いさせられる。もうすぐあそこの中に突入するんだな。 気分を変えようと、下に広がる下界の様子を見回す。森の間に畑が広がっているのが目に入ったが、 同時に農作業に従事する人たちや、作業用の軽トラックが走っていくのも見えた。なにやってんだ? もう閉鎖空間は目の前に来ているって言うのに、早く逃げろよ。 俺は国木田を捕まえて、 「おい、何で逃げていない人がいるんだ? 時機にこの辺りも閉鎖空間に飲み込まれるんだろ?」 「確かにそうだけど、それでも避難を拒否する人たちって結構いるみたいなんだ。何でも自分の生まれ育った土地を 離れたくないんだって。どうせ死ぬなら、そこで一生を終えたいっていうインタビューをテレビで見たよ」 郷土愛って奴だろうか。確かに生まれ故郷を離れたくない気持ちはわかるが……死んでしまったらどうにもならねえだろうが。 俺はやりきれない気持ちを胸に、ただその過ぎ去ってゆく光景を眺めることしかできなかった。 ◇◇◇◇ 国連軍の最前線基地に降り立った俺たちの頭上を、ヘリがバタバタと飛び去っていく。 閉鎖空間から一キロ。まさに敵地と接した最前線だ。先ほどの国連軍基地とは桁違いの緊迫感に包まれていることが 手に取るようにわかった。ただ、すでに撤収命令が下っているようで俺たちを送り出した後、この基地は即時閉鎖されるとのこと。 無理もない。目の前には襲いかかる津波のように閉鎖空間の黒い領域が広がっているんだからな。 ちょっと目を離したすきに俺たちに襲いかかってくるんじゃないかと不安になる。 しばらくすると、森さんが手続きを終えたようで指揮所から出てくる。 「準備できました。これから目的地に向けて移動を開始します」 「さあ、出発しますぞ。まだ閉鎖空間の外ですが警戒を怠らないようにお願いしますな」 新川さんも森さんに続いて歩き出す。それに続いて他のメンバーも歩き始めた。 ずんずんと俺たちが歩くたびに近づいてくる黒い空間。実際には俺たちの方が近づいているんだが、 立場がひっくり返されるほどの威圧感だ。本当に入って大丈夫なのか? 「大丈夫ですよ。今までも何度もやっていますから問題ありません。ここで閉鎖空間内に入ったことがないのは あなただけです。他のみなさんは全て経験済みというわけです」 見れば谷口が得意げに親指を立てている。国木田もひょうひょうとした表情でうなずいていた。やれやれ。 じゃあ、経験者のみなさんを信じて勢いよくあの灰色空間に飛び込みますか。 数分後、ついに閉鎖空間から数メートルの位置に俺たちは立った。数歩先は未知の世界となる。 そういや、古泉の力を使わなくても、入れるらしいが…… 「ええ、その通りです。ちょっと試してみますか?」 イタズラっぽく言ってくる古泉に俺は即座にNOのサインを返した。そんな火山の噴火口に素っ裸で飛び込むようなマネは したくないね。これから100kmのウォークラリーが始まるならなおさら無駄な体力を使いたくない。 「冗談はここまでです。さあ……では行きましょうか。みなさん、僕の手に捕まってください」 古泉の指示通り、俺たちは一斉にその腕を手に取る。一人の人間に一斉にとりついている光景は端から見れば すごく異様な光景なんだろうなと余計なことを考えている間に、 ――特になにも感じずに俺たちは閉鎖空間の中に足を踏み入れた。古泉の方に見ると、もう話しても良いというサインを 返してきたので、俺は古泉から離れてみる。 特になにも感じない。心身ともに閉鎖空間侵入前と変わっていないようだ。ほっ、とりあえず第一歩は完了だな。 俺の視界にはあの薄暗く灰色の世界が続いていた。以前に見たあの閉鎖空間と全く同じものであることがすぐにわかった。 しかし、何度入ってもこの鬱屈した空気になれることはないだろう。 「さあ、ぐずぐずしていられません。前に進みましょう」 そう森さんの合図が飛び、俺たちは目的地に向かって歩き出し―― ――キョン―― 一瞬、本当に一瞬だがはっきりと聞こえた。ハルヒの声だ。間違いない。 俺は立ち止まって、また聞こえないか耳を澄ませる。しかし、それ以上ハルヒの声が聞こえてくることはなかった。 「どうかしましたか?」 様子がおかしいことに気がついたのか、古泉が俺のそばによってくる。その表情を見る限り、どうやらこいつの耳には ハルヒの声は届いていないらしい。 「ハルヒの声がしたんだ。空耳じゃない。確かにあいつの声だ。やっぱりこの中にいるんだ……」 「……行きましょう。まだ先は長いんです。立ち止まっている余裕はありません」 そう古泉に背中を押されるように、俺は歩き出した。 ハルヒ。やっぱりこの中にいるんだな。そうなれば、長門と朝比奈さんもきっといるはずだ。 待っていろよ。すぐにこんな薄暗い世界から出してやるから。 ~~その2へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/254.html
暖かいまどろみの中 聞き慣れない目覚ましの音が鳴り響く キョン「ん・・・う、うるせ・・・」 ジリリリリリリ キョン「・・・・ん?クソ・・・この」 毎朝の習慣。右手を軽く伸ばす。しかし、いつもあるはずの場所に目覚まし時計がない キョン 「な、なんだ?・・・」 軽く目を開ける。目覚まし時計は、枕元の見慣れない小棚の上にあった カチッ キョン「んー?・・・・・・ぁ?」 違和感。おかしい。あきらかに。ベッドがデカいし・・・部屋も見慣れない・・・枕も2つある キョン「ここどこだ・・・」 少なくとも俺の部屋ではないことはわかる。いや、俺はいま起きるまでは何をしてたんだっけか いや、いま起きたんだから寝たんだよな・・・どこで?たしかに俺の部屋で寝たよな・・・キャトルミューティレーション? ガチャ キョン「・・・!」 ハルヒ「あ、起きた?キョン」 キョン「・・・誰ですかあなたは・・・」 いや、みりゃわかる。ハルヒだ。どう見てもハルヒ。・・・しかし、ハルヒではない。 ハルヒは・・・こんなに胸もないし・・・エプロンなんて・・・ キョン「おわわわ・・・近づくな」 ハルヒ「?」 俺の知ってるハルヒの目だ。ちょっと吊り目がちな目で見つめてくる・・・て、おい、こいつはハルヒだぞ。 ちょっとドキドキしてしまう キョン「なにを俺は」 ハルヒ「なーにぶつぶつ言ってんのよ。仕事遅れるでしょーが」 キョン「ほあ?」 ハルヒ「ほあ?じゃないでしょ。さっさと朝ごはん食べて会社行きなさい!」 か・・・かいしゃ?・・・学校じゃねーのか・・・てか、・・・これは ハルヒ「・・・・・・」 キョン「な・・・んだよ」 ハルヒ「・・・・・んー」 んんーーーーーーーーーー??これは!これはあああ!見たことあるぞ!漫画で!ドラマで!映画で!そう!キスのおねだりだ!! キョン「お、おい・・・!おまえな・・・悪ふざけも大概に」 ハルヒ「あ!パン焦げちゃう!」 ドタドタドタ ハルヒ似の人妻は、ハルヒそっくりな騒音を立てながら階段を降りていった いや、わかった。あれは、ハルヒ似でも人妻でもない。いや・・・現実を見ようか・・・あれはたしかに『人妻』のハルヒだ 暑苦しい部室だ・・・もうこれが高校時代最後の夏か・・・ キョン「・・・ふー」 古泉「キョンさん。いままで僕たちは防戦一方でした」 キョン「なんだいきなり。俺は疲れてるんだ・・・そっとしておいて・・・許可なく隣に座るな」 古泉「ははは、キョンさんの隣は涼宮さん専用でしたね失敬」 キョン「もうなにもいわん」 古泉「そうですか、助かります。では、本題に入ります」 思えば三年間。こいつはずっとこうゆう話の展開の仕方だったな 古泉「話は簡単です。キョンさんに涼宮さんの『願望』の中に入ってもらうんです」 キョン「・・・大丈夫。驚かない。」 古泉「もう、慣れたものですね。ははは」 キョン「まず、言おう。俺をハルヒの願望の中。つまり宇宙人や未来人、超能力者。いや、それだけじゃないだろ。恐竜や怪獣。スーパーヒーローにスーパーロボット はたまた・・・・とにかく、そんな中に俺をぶちこんで」 古泉「ええ・・・・それなんですがね。どうやら、最近の涼宮さんの願望に大きな変化があるようなのです」 キョン「変化・・・それ3年前も言ってただろ・・・悪い風に変化してるって」 古泉「違うみたいなんですよ、それが。涼宮さんを変えた決定的なのが」 キョン「おまえがなんでそれを知っている」 古泉「やだなぁ。僕はまだなにも言ってませんよ」 俺とハルヒが去年の冬に・・・あの日からハルヒが俺にあまり突っかかってこなくなった 古泉「で、ですね。その変化を見に行ってもらいたいんです。あ、キョンさんは、いつもどおり夜に自室で寝てるだけでいいんです 私たちが飛ばしますから」 キョン「超能力も便利になったものだな」 古泉「ははは。ええ、我々も進化してますからね」 キョン「進化じゃなくて、進歩といえ。おまえに進化されるとなんか怖い」 古泉「ははは」 ハルヒ「はい、それじゃ鞄持ったわね」 キョン「ん、ああ」 ハルヒの作った朝食は、ごく一般的とはいえ、俺には十分満足できるものだった 鞄を持ち、玄関まで行く。ハルヒは・・・マンションより一軒家がいいのか・・・それに結構大きめだな。ハルヒらしといえばハルヒらしいか 俺は心の中で笑ってしまう ハルヒ「はい、お弁当」 キョン「おう、あんがとな」 靴を履き終え、玄関のドアに手をかける ハルヒ「・・・・・」 例といえば例のごとくだが・・・ キョン「・・・・・・」 ハルヒが軽く俺のスーツを掴む キョン「・・・・・・ん」 ハルヒ「・・・ん・・あ」 長いキスだ。こんな長いキスを毎朝すんのか ハルヒ「・・・・ん・・・ん」 いや、まあ・・・決して悪い気分では・・・ キョン「・・・・んあ・・・・ん」 俺はやっぱハルヒが好きなのか ハルヒ「はい!終わりね!いつまでキスしてんの!」 キョン「う・・・」 いきなり口を離され、なんだか不憫な気持ちになってしまう ハルヒ「本当にキョンはスケベな 結婚したら少しは落ち着くかと思ったんだけどね」 キョン「あ・・・あのなぁ」 俺は玄関のドアを開け、外に足を出す ここどこなんだろうなぁ・・・ 玄関の外も見慣れない景色だ キョン「じゃ、行って来る」 ハルヒ「さっさと行きなさい!」 いってらっしゃいませご主人様とか言え・・・いや、普通はないか キョン「・・・ふー、これがハルヒの『願望』なのか」 しばらく歩くと後ろからタタタタと足音が聞こえる キョン「あ・・・弁当」 キスして忘れたよ・・・ ハルヒが弁当片手に駆けてくる 右手の人差し指を下まぶたにつけて 舌を出して・・・ベーっとしながら ハルヒ「キョン!あんたってほんとーにあたしがいなきゃダメね!アハハハ」 それは本当に楽しそうなハルヒの笑顔。無垢な子供のような、それでいて女性の優しさが溢れている この笑顔を俺は・・・叶えたい。いや、叶えられる・・・俺は、そう確信を持ったんだ 暑い・・・寝苦しい・・・ ジリリリリリリリリリリリジリリリリリリリリリリリ キョン「・・・あ・・つい・・・う、うるせ」 カチッ 俺はいつもどおりの部屋で、いつもどおりの位置の目覚ましを止めた キョン「・・・今日から夏休みだ」 プルルルルルルルルルル ピッ キョン「んあ」 ハルヒ「キョン!おきてるー!?SOS団発進よ!すぐに学校に来るように!以上」 おわり
https://w.atwiki.jp/niko2/pages/118.html
涼宮ハルヒ 【元ネタ】 涼宮ハルヒの憂鬱 【中の人】平野綾(他の役では泉こなたなど) 【参考動画】 愛しの彼が振り向かない~キョンデレハルヒver~ http //www.nicovideo.jp/watch/sm890821 他、晴れハレユカイ系動画 【関連人物への呼称】 一人称→私 二人称→あんた キョン→キョン 長門有希→有希 古泉一樹→古泉くん 朝倉涼子→朝倉さん 【キャラ紹介】 涼宮ハルヒシリーズの主人公、またはヒロイン。 典型的なツンデレであり、キョンに好意を抱いている。 自分勝手で常に面白い事(超常現象)を探しているが、常識が無いというわけではないらしい。 神様なので世界を自由に構築できる。 かつてはコンピ研の部長に痴漢冤罪まがいの事をして脅しパソコンを強奪するというDQNどころではない悪行を働いた事もあったが、 これもキョンの影響かそういった悪行はなりを潜めて来てはいる。 【能力】 神様としての能力は全て封じられております。 しかし身体能力、頭脳ともに女子高生ではトップクラスの天才肌。 涼宮ハルヒのこれまでの移動経路 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 (一日目)A-4川岸→A-5森→A-5大樹→(B-4→)C-4道路→D-4→E-3薬局内部・台所→D-3橋の手前 →(二日目)D-2橋の下→D-3草原→D-3橋の近く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4218.html
九章 まどろむ朝。今日もまたSOS団雑用係としてのハルヒに振り回される一日が始まるのか、という北高に入学して以来、 ずっと抱いている憂鬱ながらまんざらでもない感傷に浸り、 その直後、現在自分の身体に起こっている異変を思い起こし、絶望する。 それが俺のここ一日二日の朝だった。 それだけでも俺は今すぐ自分の首を締め上げたい衝動にかられるのに、今日はさらに最悪だ。 俺は昨日ハルヒにお別れを………… 何だ、もう学校に行く必要もないじゃないか。 お袋、親父、それに妹よ。悪いな、俺は今日この家を出て行く。お前達は無事生き延びて帰ってきたら、今まで通りの日常を過ごしてくれ。 やったな、これで一人分の食費、生活費、その他諸々が浮くぞ。 何だ。最悪だと思ってたが案外清々しいじゃないか。昨日はいい夢も見れたしな。 ハルヒが抱き締めてくれる夢…………を?ん?あれは本当に夢だったのか? 布団の中で、そこまで思考を展開していると………… 「コラーーー!!あんたいつまで寝てるのよ!いい加減起きな!!!さい!!!」 その声とともに俺を覆っていた布団が舞い上がり、俺の体は外気に触れブルッとなる。 妹か?なんて思考を巡らす暇もなく、俺はそこにいる人物が誰かを理解した。 「えー、あー……ハルヒ…なのか?学校……は?」 「あんたまだ寝ぼけてるの?今日は日曜でしょ!それに明日からは冬休みじゃない!ほら、朝ご飯出来てるわよ!さっさと顔洗って来ちゃいなさい!」 何だ、その休日なんだからいて当然!みたいな言い方は。 何故こいつがここにいる?夢か、これも夢なのか?いやだが妙にリアルに感じるな。 まるで昨日の夢みたいな……いや、そもそもあれは夢なのか?夢であってほしい。 というか、そうでないと困る。だって夢の中のハルヒは俺の今の状態を………… 「ぶつぶつ夢だなんだ…うるさいわね。」 しまった、混乱しすぎて口に出していたか。いや、でもこれも夢なら別に問題は………… 「はぁ…………夢じゃないわよ。昨日も、今もね。」 ハルヒは妙に説得力のある声で言った。 「じゃあもしかして……お前……………」 「ええ、あんたが何をしていたのか……全部……………知ってるわ……そう……全部ね…」 ――ずっとあんたと一緒にいるから―― 夢と思っていた記憶の奥底にある、その言葉を思い出した。 「帰れ!!!」 突如、俺の心に羞恥にも似た不快な感情が溢れだし、それはその言葉を発するまでに至った。 「俺を見るな!お前は俺と関わるべきじゃないんだ!!お前のためなんだよ!!帰れよ!ほら早く!!!」 叫び始めた寝起きの俺を前にしても、ハルヒはその目を少しも泳がせたりせず、じっと見ている。 「何ヤケクソになってんのよ!あんた今のまんまじゃどうなるか分かってんの?!」 「ああ、分かってるさ!!こんな命……ましてお前の世話になって得る命なんて願い下げだ!」 ハルヒの表情がみるみる怒りの感情をあらわしていく。 「はぁ~、ダメ、我慢しようと思ってたけど…やっぱ感情のコントロールって難しいわね。」 その言葉を聞き終わらないうちに俺の部屋に『パン!!』という心地よい音が響き渡った。 ほっぺた、いてぇ…… 「ふ…ざけんじゃないわよ!!許さない……死ぬなんて絶対許さないんだからね! 言いなさい!何であんたは覚せい剤なんてバカなことやったの!!」 ……何でだ…クソ!何でだよ!何で思った通りに動いてくれないんだ!ちくしょう!ちくしょう!………………そうかよ…………なら……… 「こっちにだって考えがある。」 俺はそう言うと台所に駆けていった。大丈夫、理性はある。脅すだけ……ギリギリの所で止められるはずだ。 お前のせいだからな。もし万が一が起こってもお前の責任だ。お前が俺の思い通りにならないのが……悪いんだからな。 台所には味噌汁のいい香りがしたが、そんなのに構ってられる程の余裕は今の俺にはない。 調理に使ったであろうその包丁を手に取る。 ドクン!! それを持った途端、心臓の鼓動が、鼓膜にダイレクトに聞こえてきた。 一瞬、朝倉がそこにいるような感覚がしたが、すぐに消える。 だ、大丈夫だ。落ち着け、俺。早まるなよ。脅すだけ、そうだ脅すだけだ… 俺は急いで部屋に戻るため階段を駈け登り、扉を強引に開く。 ……とハルヒは部屋を出て行く前と同じポーズでそこにいた。 「ったく!あんた何しに行ってたのよ!悪いけど、あれはもうこの…い……」 ハルヒの目がわずかに下に下がり、 俺の両手で前に突き出すように握っている包丁を捕らえると、その顔は一気に蒼白くなっていった。 大丈夫…忘れるな。理性を忘れるな。 「悪いが本気だ!これ以上俺の家に居座るならどうなるか…こいつを見りゃわかるだろ。 今の俺は正気じゃないからなぁ!!何するか分からないぞ!」 自ら作り出した狂気じみた演技に飲み込まれそうになる。落ち着け…落ち着け! 「キョン…あんた…」 ハルヒがみるみる恐怖に染められていく……はずだった。 何でだ…何でお前はこの状況でそんな顔が出来る… 俺の前には、もう何十年ぶりになるのではないかと思うくらい、久々に感じる、 大胆不適で強気な笑みがあった。 ズン!と音がするくらいしっかりとした足取りで、ハルヒが一歩ずつ近付いてくる。 一歩、また一歩。ついには俺とハルヒの距離は、俺が突き出した包丁一本分しか無くなってしまった。 あと一歩踏み込んだら、確実に包丁はハルヒに突き刺さる。 後ろに下がろうにも、部屋の壁がそれを許さない。 完璧に追い詰められてしまった。ちくしょう…こんなときまで俺はハルヒに…… !!!!! 俺の思考はそこで中断してしまった。ハルヒが前に踏み出すかのように右足を僅かに浮かせたからだ。 「バッ!!!」 咄嗟に包丁を横に投げた瞬間、ハルヒは俺にのしかかってきた。 仰向けの俺に覆いかぶさっているハルヒの顔は俺の胸に押しつけているため、確認出来ない。 そうか、こいつはこれを狙っていたのか。だけど、もし俺が動揺せず包丁を構えたままだったら、こいつは…… 「はあ……はあ……」 ハルヒの超高速で鳴っている心臓の鼓動が伝わってくる。それと同時にハルヒの肩が小刻みに震えているのも確認出来た。 「ハルヒ…………」 「黙ってなさい。」 その言葉と同時にハルヒは顔をこちらに向けた。 なんつーか……俺は何てことをしてしまったんだろう。ハルヒの顔は冷や汗でびしょびしょだった。 「………から……」 「え???」 「負けないから。絶対にあんたを治すまで……もう…決めたんだから……!」 俺は何て声をかけたらいいか分からなかった。俺がずっと黙っていると、ハルヒは、 俺の上からどき、素早く包丁を取り上げると言った。 「さっさと顔洗って来ちゃいなさい。」 俺はハルヒに言われた通り、顔を洗うため洗面所にいる。やれやれ、結局ハルヒに言いくるめられちまった。 …………あいつ、あんなに震えてた。当たり前だ。一歩間違えれば死んでいた、その恐怖は計り知れない あの時、あいつは信じたのだろうか。ドラッグに侵され、おかしくなっちまった俺を。 命をかけるだけの価値、俺にはもうねえだろうが……俺は…お前を裏切ったんだぞ? ふと俺は顔を上げ、鏡を見た。 「何だよ、こりゃ……」 お前はバカな奴だよ、ハルヒ。こんな目の下にクマがあって、 肌は土気色で表情筋が暴走したように引きつってる奴が包丁持って目の前にいたら、普通逃げ出すだろ………… リビングに戻ると、何とも豪華な朝食と、エプロンを脱いでる途中のハルヒが俺を出迎えた。 献立は……魚の塩焼きに味噌汁、厚焼き玉子、肉じゃが、これ以上ないってくらい純粋な日本の朝食だ。 ハルヒがこういう純和風なメニューを作るのは新鮮だな。何となく、サンドイッチとか洋風なイメージがあった。 「ちゃっちゃと食べちゃいなさい。」 「あ、ああ…………」 そういや昨日は何も食ってなかったな。一気に空腹感が増してきた。 急いでイスに座り、味噌汁を一口飲む。途端、俺に衝撃が走った。 「…………!!!」 声にならないとはこのことだろうな。この世のものとは思えないくらいうまい、冷えきった心身が温まってくる。 魚を箸でほぐしもせずかぶりつく、うまい、うまい……幸せだ……… こんな当たり前のことが、今の俺にはどうしようもなく嬉しかった。 「ハ……ルヒ……」 涙が止まらない。俺は…人間に戻れる…… 「なあに?」 にじむ視界の先にはハルヒが微笑んでいる。 「俺……生きたい………」 この時のハルヒの顔は忘れられないね。どうしたらあんなにも喜びを表情で表せられるのだろう。 「当たり前よ!!」 「それから、もう一つお願いがあるんだ。」 もっと生きてる喜びをかみ締めたい。 「ポニーテール……してくれないか?」 機関運営の葬式場。そこでオレは河村から衝撃の告白を受けた。 「神を……殺す?それって涼宮さんのことを言ってるのか?」 目の前の男は狂気に顔を歪ませ、続ける。 「他に誰がいるんだよ。お前なら奴を呼び出すくらい簡単だろ?センパイの苦しみを味合わせてやるのさ。」 思考がまとまらない。こいつは今何と言った? 確かに今までにも河村は涼宮さんへの不満をよくオレに漏らしていたが、これは明らかに別物だ。明確な悪意と殺意。 「い、言ってる意味が分からない。」 「お前だって嫌気が差してたんじゃないか?俺達の進む人生は奴によって180度ねじ曲げられたんだぜ? 神様ごっこはここいらでやめにしようじゃないか。」 冗談じゃない、確かに涼宮さんを恨んだ事がないと言えば嘘になるし、 もし自分がこの力を与えられなかったらどれだけ平和な毎日を送れていただろうと考えることもあった。 それは嘘じゃない。 だけど、この力のお陰でオレはSOS団に出会えた。何もない、平凡な暮らしから脱却出来たんだ。 オレはいつの間にか、涼宮さんに感謝していた。殺すなんて有り得ない。 「少し、考えさせてくれ。」 思考とは裏腹に、オレの口から出たのは臆病で怠惰な先送りの言葉だった。 「ああ、分かった。いい返事期待してるぜ。それから美那にこのことは言わないでくれ。余計な心配かけたくない。」 「田丸さん、少しいいですか?」 場面は変わってオレは田丸さん(兄)と話している 「実は………」 この時オレは親友を売った。 「そうか、河村が…いつかはこんな時が来るかもしれんと思っていた。…………古泉。」 田丸さん(兄)は真剣な表情でオレを見つめている。 「私はこのことをたまたま耳に入れた。お前達の会話を盗み聞きしてな。 お前は誰にも、このことを漏らしていないし、これから私がやろうとしていることも何も聞かされていない。いいな。」 オレは数人の機関の面々に取り押さえられている河村を目の当たりにしている。 「大人しくしろ!!」 田丸さんや荒川さんが激をとばす。 「古泉!お前……裏切ったな!何故だ!答えろ!!古泉ぃ!!!」 「タックン!タックン!!やめて!タックンを放してよぉ!」 オレはその時河村を見捨てた。涼宮さんを守るために。 それから河村は自らを捕縛しようとする仲間達を何とか振りほどき市内を駆け回った。 最後にたどり着いたのは春日さんの家だ。家の周りを包囲されると抵抗する気力もなくしたのか、大人しく捕まった。 その時は夢にも思わなかった。河村が春日さんの家で押収され残した覚せい剤を手に入れていたなんて。 河村は、機関本部の地下に幽閉された。人権無視も甚しい話だが、何せ世界の破滅がかかっている。 だから、この決定に疑問を抱く者はいなかった。あの春日さんですら。 「春日さん……オレ……」 「気にしなくていいよ。機関にいる以上、涼宮さんに害を及ぼす存在は抹消しなければならない。 古泉くんにはあれ意外の選択肢はなかったもんね…」 正直、かける言葉が見つからなかったオレは、 「ごめん……」 という謝罪の言葉が精一杯だった。 「あれ~?古泉くんは告げ口してないって話じゃなかったの~?」 いじわるそうに聞いてくる春日さんの笑顔は、今にも壊れそうで。 「別に恨んでないよ。全ては……涼宮ハルヒが悪いんだから……」 だからこそ、その言葉を聞いた時はゾッとした。 それから日がかなりたったある日、河村は食事を持ってきた見張りの一瞬のスキをついて、屋上に脱走した。 その時、河村は見るもの全てに自殺願望を与えるような表情をしながら言った。 「なあ、古泉、美那……」 地獄から響いてくるようなその声を、オレは忘れられそうもない。きっと春日さんも同じだろう。 「俺は今、とても清々しい気分なんだ……」 その言葉を最後に、河村は人間とは思えない程の跳躍でフェンスを飛び越え………落ちた。 授業が終わり、HRが終わり、いつものようにオレはSOS団部室にその足を運ぶ。 「古泉くん!!」 春日さんが走ってきた。あんなことがあったから休んでいるとばかり思っていた。強い人だ。 「どうしたんです?」 「え?ちょ、敬語……ううん、別にいいや…今日もあの部室に行くの?」 「そうですが。」 オレが行かない事で涼宮さんがイライラを積もらして閉鎖空間を作ったら大変だからな。……なんて、自惚れすぎか。 「何で?だって…だって涼宮さんは…!」 「聞きたくない。」 オレは咄嗟に言葉を遮った。 「僕だって何かにすがりついてなきゃやっていけない気分なんです。」 その言葉の持つ残酷さを知っていたが、自分のことだけで精一杯だった。 春日さんは呆然と立ちすくしていた。それをOKの合図と無理矢理解釈して、オレは歩き出した。 ノックを数回。無言が自己主張しているのを確認すると、オレは扉を開けた。 部室に入ると一番に目に入ったのは長門さんだった。いつもの指定席で本を読んでいる。 「他の皆さんはまだ来てませんか。」 ゆっくりと長門さんが目を合わす。 「休まなくていいの?」 ああ、やっぱりこの人は気付いているのか。彼女なりの気遣いが嬉しい。 「おや、僕の心配をしてくれるのですか?」 「……………」 ドガン!! 突然の爆音だ。それと同時に残りの三人がなだれ込んでくる。 「さぁ~みくるちゃん!さっさとこれに着替えるのよ!!」 変わらない。 「ふぇ~、やめてください~」 あんなことがあっても関係なく回り続けている。 「おい、ハルヒ!朝比奈さんがいやがってるじゃないか!何だっていきなりこんな服を着せようとしてるんだ。」 オレはこっちの居場所を選んだ。 「何でって、みくるちゃんもあと半年後には卒業じゃない!今のうちに出来る格好は全てやっておくべきよ!!」 楽しいな。 「だからってだなぁ。もう少し朝比奈さんの心労やその他諸々も考えてやって……」 「っだーー!うっさいわね!あたしはみくるちゃんの為を思ってやってるんだから!うれしいわよね!みくるちゃん!」 あの場所を霞ませてくれる程に。 「ふぇ、あの、あたし………」 「ほら!これとーっても可愛いでしょ!こんなのみくるちゃんに着せちゃったら男共は失禁モノよ!ね!有希!」 「……………そう」 次はオレにくるな。もう既に答えは用意してある。 「ね!古泉くん!!」 何も知らない、だからこそ明るい笑顔で涼宮さんは尋ねてくる。さて、オレもとびきりの笑顔を作ってと…… 「誠に結構かと。」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1967.html
第一話『古泉一樹の事件』 私達は気絶した彼を引きずりながら 森の外に見える村に向かって歩いていた さっきの彼の行動からか会話がまったくない 人はこれを空気が重いというらしい 実際は空気の質量は変わらないのでそんなことは無い しかし、人間にはそういう風に感じてしまうらしい 説明を長々としていると原作十冊分になると計算結果が出たのでこれ以上はやめておく 「あれ?俺は…?」 後ろで彼が気が付いたらしい 彼を立たせてやる 「俺は一体何をしてたんだ?」 「いわゆる暴走という状態に陥っていた」 「暴走?俺が?本当なのか?」 「長門さんが言っているのは本当よ、斬撃を飛ばして触手ツリー(第一章最後の敵)を倒した後、あなたは明らかにおかしかったわ」 おそらく彼の記憶領域には保存されてないのだろう 私が一通り説明する 「あなたは、予期せぬ自分の能力の開放に混乱した。 混乱によって理性が壊れ、欲望を抑制する機能が無くなった脳は本能で動くようになった あなたの本能は少し特殊で、攻撃することを快感としていた そこで私が、あなたの欲望の源である攻撃手段、すなわち剣を奪い、あなたの正常化を計った 作戦は成功。攻撃する術を失ったあなたは機能を一時停止しその場に倒れた」 「それで現在に至るってわけか…ちょっとショックだな…」 「あなたのせいではない、もし剣を持つことが無かったら今回のようなことは起こらなかった」 「そうか…ありがとよ、長門」 「そう…」 「今の気分はどう?あれだけ暴れていたんだから体が痛いとかないの?」 幽霊である涼宮ハルヒが聞く 余談ではあるが幽霊には痛覚はない、あるのは聴覚と視覚と嗅覚くらい 彼女が人の体を操ればまた話は別になるが 「なんか全身の筋肉痛と倦怠感があるな…誰か俺を運んでくれないか?」 「それ無理♪」 「即答かよ」 「後もう少し歩けば村よ、もうしばらく辛抱しなさい」 「わかったよ、ハルヒ。すぐに宿でも見つけてゆっくりするか」 私達はまた歩き出した 森を抜け、村の入り口まで来た私達は一人の少女を見つけた 「キョンくん!?」 「みくるちゃん!!」 隣で涼宮ハルヒが叫んでいるが、彼女には聞こえてないし、見えてない 「朝比奈さん!どうしたんですか。こんな所で!」 「ふぇぇ…キョンくん、会いたかったよぉ~」 そう言うなり朝比奈みくるは彼に抱きついた 涼宮ハルヒの精神が不安定になっている ほぼ同時に私の内部でエラーの発生を確認した 私が機能停止したエラーとは別物で一時的な物なので無視をする しかしこのエラーの発生は頻発している 特に最近は一日に最低一回は発生している 前の世界に戻ったらエラーの解析を進めておくことにする エラーの話は保留しておく 涼宮ハルヒの表情から不機嫌だということが私にもわかる ~~~~~~~~~~~~~~~~~ キョン視点 えーとこれは喜んでいい状況なのだろうか それとも自分の心配をした方がいいのか 朝比奈さんは俺に抱きついている あの、胸当たっていますが… 「ぐすっ…うぅ…」 よほど恐ろしかったのだろう。朝比奈さんは俺の胸の中で泣いていた 正直言おう、こんな場面を俺は待っていた!! しかしこの状況喜べない! なぜなら後ろにハルヒがいるからだ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという効果音がはっきり聞こえるほど 後ろのハルヒが怒っているのがわかる まてハルヒ、俺が悪いんじゃない すべては朝比奈さんを泣かせたこの変な世界が悪いんだ! しかしそんな言い訳聞いて許してくれるはずがない 後ろで神人が拳を振り上げた音を聞いて俺はこう言った 「いってきます…」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 再び長門視点 彼は涼宮ハルヒによって殴られ気絶した 「いってきます…」と言っていたが 状況から逝って来ますという漢字をつかうのが適切だろう 「ふぇぇぇ!?何があったんですか!?」 状況把握できてない彼女がおろおろしていた 再び気絶したキョン おろおろする朝比奈みくる ゴゴゴという効果音付の涼宮ハルヒ ガクガクしている朝倉涼子 ユニーク 「彼を棺桶に入れて教会まで運ぶ。手伝って」 「それなんてドラ○エですかぁ?朝倉さんも止めてくださいよぅ!」 「気絶なんだから棺桶に入れる必要はないんじゃ…私が言えるセリフではないけどね…(過去の過ちの事)」 「ふん、こんなやつここで埋葬すればいいのよ!」 それはやりすぎである そういえば朝比奈みくるに涼宮ハルヒを見えるようにしないと そう思っていると朝倉涼子が近づいてきた 「さっきから朝比奈さんを見ていたけど今涼宮さんを見せるのはまずいんじゃない? 彼女に見せたら失神しちゃうわよ」 確かにそのとおりだ 朝比奈みくるの見てないところで涼宮ハルヒにも言っとく必要がある とりあえず村に入ることにする もちろん彼は引きずっていく 村に入った私達は宿を探していた 「安いよ安いよ、今なら新鮮なちゅるやさん1/1人形が150円だ!」 「百発百中!フューチャの占いの館はこの路地裏!」 「最新ゲーム機勢ぞろい!GAMESHOPマシナ本日開店!」 村だというのに見事な賑わい振りである ちなみにこの世界の裏で操っている誰かのネーミングセンスについては触れないでおく 歩いているとINN(宿)とかかれた看板を見つけた 私達はそのドアをノックし、中に入った 古泉一樹がそこにいた 「おや、奇遇ですね。まさかここで会えるとは」 「知り合いですか?」 宿の主人らしき女性が古泉一樹に話しかけていた 「ええ、そうです。ずっと探していた人たちですよ」 「なるほど、だからここに毎日きてたんですね」 おそらく、古泉一樹は私達が宿に泊まることを予想して毎日来ていたのだろう 「しかし、まだ探している人が後一人居る筈なのですが…、代わりの人がいますね」 鶴屋さんのことだろう 「私が紹介する。こちらが朝倉涼子、こちらが古泉一樹。」 「初めまして」 「初めまして、いろいろあってキョン達の道案内していたの。後一人の場所はまではわかってないけど」 「そうなのですか、ところで肝心の彼が気絶していますが…」 「あとで説明する。いまあなたが家にしている場所に案内してほしい」 「わかりました。私の家は豪華ですよ」 「わぁ~楽しみですぅ」 「私も興味あるわね。どんな家に住んでいるのかしら?」 しつこいようだが、朝比奈みくると古泉一樹には涼宮ハルヒの声は聞こえていない 「あの朝倉さんって、この世界ではどこに住んでいるんですか?」 朝比奈みくるが古泉一樹の家に向かう途中、こう言い出した 「大きな城の城下町に住んでいたんだけど、今はわけあって住んでないわ。」 「そうなんですか、私はこの世界に来てから住む場所も寝る場所も作れなくって…」 彼女の人見知りな性格を考えれば当然であろう 「私は涼宮ハルヒ(偽)に指名手配されている。そこで彼の家を隠れ家にしていた時もあった」 「あれ?あ、そうか気絶してたんだ。運んでくれてありがとな。長門」 彼が気が付いたらしい 「別にいい。」 「そうか。」 ~~~~~~~~ キョン視点 長門の状況説明によって現状を理解した俺は 「おや、やっと気付きましたか」 古泉がここにいる理由も理解した 「色々とお聞きしたいことがあるのですが…」 「今ここで話すのは非常に不味い。後にしてくれ」 ハルヒのこと話しても驚くか笑うだけだろう そして古泉の家の前まで来た 「おおっ!!」 その言葉しか出なかったね 昔の洋館とでも言うだろうか 違うのは新築同様にピカピカということ その立派な家が目の前に建っている 「もう気付いているでしょうが、執事もメイドもいます。 もちろん、執事は新川、メイドは森さんです。 同居人として多丸兄弟もいますよ」 ここは孤島じゃねぇぞ 古泉、お前絵に描いたような金持ちじゃねぇか 逃亡生活している俺たちの身にもなってみろよ なんていろいろ考えているうちに古泉が洋館の扉を開けた 「おかえりなさいませ」 そういったのは森さんだ。 「森さん、この人たちが探していた人です。」 「初めまして」 森さんは前にも会ったが、多分覚えてないんだろう 仕方ないちゃ仕方ないが 「古泉さんがいつの間にか友達を作っていたなんて驚きました。」 こいつと知り合ってもう八ヶ月以上なんですがね 「とりあえず、皆さん疲れているでしょうから、部屋に案内します」 古泉に案内してくれたが 部屋数が半端ないな、一人一部屋とっても余るじゃないか 「今日はここを使ってください。トイレはこの廊下の先を右にありますし 内線も繋がっているので何かあったら新川さんか森さんを呼んでください もちろん各部屋鍵がかかりますよ」 「古泉くんはどの部屋にいるんですかぁ?」 「この廊下を左に曲がってくださいすぐに扉があるのでノックしてください。必ず返事します」 「空腹になったらどうしたらいいのかしら?」 朝倉も腹は減るんだな、いやインターフェースも食べるくらいだから当たり前か 「食堂で食べ物を用意します。後一時間後、七時位に来てください」 「凄く豪華ね。古泉くんの家って」 うおっ! いつの間に後ろにいたハルヒ!! 「どうかしましたか?」 「いや、なんでもない」 古泉はハルヒのことみえてないからな 「さて話があるので少し食堂に行きましょうか」 食堂に移動した俺たちはこの世界の現状について確認を始めた 「さて、僕たちは一昨日、四日前かも知れませんが この世界に飛ばされました。ここまでに間違いありませんね?」 「間違いない、一昨日城の牢屋で気が付いたからな。」 「私のデータベースでもこの世界が構築されたのは一昨日になっている」 「私も同じです。周りには知らない人しかいなくて怖かったですよぅ」 「私はこの世界が構築されてから作られた存在だから詳しくはわからないけど、 キョンくんの存在を確認したのは一昨日で間違いないわ」 「一昨日の時点で未来や情報統合思念対と連絡取れましたか?」 「現在も含めこの世界が構築されてから一度も情報統合思念体にアクセス出来てない。」 「わたしも同じです。一度も未来には連絡できていません。本当に普通の人間になってしまいましたぁ…ぐすっ」 朝比奈さん、気持ちはよく分かります。誰でも故郷と連絡が取れなくなったら不安なりますから 「この世界には未来や情報統合思念体、機関は存在しません 世界が改変されたため消されてしまったのでしょう 仮に、外部に存在したとしても、この世界にとっては無に等しいです この世界は外部から切り離された世界なのです 今回涼宮さんが起こした行動は情報爆発や時空振動に値する物です。 仮に存在して影響を及ぼすことが出来るなら、未来に、情報統合思念体にせよ、 何らかのアクションを起こしているでしょう」 古泉の長ったらしい解説を黙って聞いていたが、 「それじゃあ、朝比奈さんの故郷や、長門の生みの親は消えたって言うのかよ!?」 「やめて!古泉くんは何も悪くないわ!」 いつの間にか熱くなっていたらしい、当たってもしょうがない相手に当たってしまった ハルヒになだめられた俺はイスに座りなおした 「こうなった以上、仕方ありません。私の仲間と呼べるものもほとんどバラバラになってしまいましたから」 古泉には機関という仲間とも言える存在がいた ところが今はどうだ?一応一つ屋根の下に住んでいるが 前みたいな仲間意識を持ったやつはこの家に住んでいないじゃないか こいつだって寂しい思いしてるんだ 「スマン、熱くなってしまったようだ。」 「いいえ、熱くなって当然です。むしろこの状況下で落ち着いてられる僕自身に自ら怒りを感じています」 一瞬の沈黙 古泉がまた話を切り出した 「朝倉さんは、今この中で一番涼宮さんに近い存在です。何か知っていることがあるなら教えていただきたいのですが…」「今は涼宮さんと関わりは薄いけど、彼女の部下だったのは間違いないわ 彼女の部下のメンバー全員まで私は把握できてないけど、 彼女の知っているメンバーが多いみたい。実際何人か知っている人がいたわ 部下の中にはいくつか階級があって、エリートクラスなどがあるの メンバー総数は数百人、一般兵士は何万といるはずよ」 「では、この中で二つの記憶、つまり、この世界の記憶と前の世界の記憶両方持っている方は?」 「俺は持ってないな。前の世界の記憶だけだ」 「私も同じ。この世界の歴史は、本を読んで初めて知った」 「私もです。いきなり知らない世界に飛ばされてはじめはパニックになってしまいましたぁ。」 「私はキョンくんの存在を確認してから、前の世界の記憶を手にいれたの。はじめは混乱したけどね」 「僕もこの世界と前の世界の二つの記憶を持っています。弓の達人ということもね。 僕の場合、人と接する場面が多いため、矛盾が生じないように作られた記憶を刷り込まれたんでしょう。 朝倉さんの場合はよく分かりませんが、おそらく誰かがそうなるように仕向けたんでしょう。 そうでなければ朝倉さんはこの席にいなかったでしょう。」 「じゃあ俺たち以外に誰かが干渉しているって事か?情報統合思念体や未来は消えてしまったんじゃないのかよ」 「そのとおりですが、現段階で誰が干渉しているかは分かっていません。」 「敵対する存在か?それとも協力する存在か?」 「それも不明です。なぜ朝倉さんの記憶を取り戻すようなことをしたのか、謎ですから」 「長門は何か、わからないのか?」 長門に頼ってしまう癖何とかしないとな 「分からない、今の私は情報収集能力が普通の人間と同じのため」 「つまり、どうゆうことだ?」 「人並みにしか情報が集められない。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、全部があなたとほぼ同じ。」 「つまり、情報操作(制限付)を出来る事以外は普通の人間ということか?」 「そう」 なんてこった、通りで異常事態にもかかわらず喋る頻度が少ないと思ったんだ 今回は長門に頼りすぎるのはやめて置こう 「おや、長々と話していたみたいですね。もう七時です。」 壁にかかっている時計を見たら六時五十七分を指していた もうそんなにたつのか。 俺たちはその後ゆっくり食事を取り、 八時頃それぞれの個室に入って鍵を閉めた おそらく皆疲れていたんだろう 隣の部屋から何も聞こえてこない。 俺は速めにベッドに横になり色々考えながらいつの間にか深い眠りについていた ~~~~~~~ 長門視点 コンコン 古泉一樹の部屋のドアをノックする 「どうしましたか?長門さん?」 「涼宮ハルヒについて話がある。少し時間がほしい。」 「ええ、いいですよ。」 中略 「長門さん、大体事情がわかりましたが…いくらなんでも突然すぎます」 「あなたには事実を伝えておく必要があると判断した。」 「涼宮さんが幽霊だったとは…これがあなたじゃなかったら、冗談としか聞こえませんよ。」 「今のあなたは涼宮ハルヒが見えるようになっているはず。横にいるのが見える?」 「ええ、見えますよ。ふわふわ浮いている涼宮さんがね」 「やっと話せるようになったわね。久しぶり古泉くん。」 「お久しぶりです。さっきの話し合いは全部聞いていたんですね?」 「そうよ、前の世界で何があったのかもね。」 「今日はもう遅いですから朝倉さんの隣の部屋を使ってください。 幽霊だから鍵は必要ありませんね?」 「ええ必要ないわ、寝る必要も無いけどしばらく休んでる。じゃあまた明日」 「おやすみなさい」 普段使わない言葉を使ってみた。古泉一樹は少々戸惑ったようだが、 「おやすみなさい」 と笑顔で返してくれた ~~~~~~~ キョン視点 AM6:37 俺は起床した。この世界に来てからやけに早起きしている気がする 俺は風呂場の横にある洗面台に向かった 顔を洗い、さっぱりした俺は部屋に戻ることにした。 眠い、そして頭が痛い。もう少し寝るか。 廊下の奥に朝比奈さんがいるのを見つけた 「どうしたんですか?朝比奈さん?」 「あの、古泉くんが部屋から出てきてないの…」 「まだ寝てるんじゃないのか?」 「いえ、森さんに聞いたらもうそろそろ起きて食堂に来るはずだといわれて見に来たんです。」 俺はためしにノックしてみた 起きているなら返事をするはずだ。 返事が無い… ドアノブに手を当てるとかちゃっと開いてしまった 「誰もいない…?」 「どこ行っちゃったんでしょう?」 「食事時までには戻ってくるでしょう。食堂で待ってましょう」 のんきに考えすぎかもな 「はい」 食堂に行くとハルヒと長門と森さんと多丸さん兄弟が居た。 「古泉さんは起きていましたか?」 「部屋には居なかったですね、それよりも新川さんと朝倉さんは?」 「新川は朝ご飯を作っています。朝倉さんはまだ来ていませんね」 「彼女は朝からナイフを買いに行ってる。七時頃には戻ってくると思われる」 長門の言う通り七時ごろに朝倉は食堂に来た。 「ナイフ良いの無かったわ。研ぎ石見つけたからご飯の後に磨いてみる」 朝倉はそんなことをいいながら席に座った。 「おかしいですね、もう来てもおかしくないのですが」 森さんがそういったので時計を見てみる。七時十二分を指していた 嫌な予感がする。 新川さんのせっかくの食事が冷めてしまうという予感だ、それ以上でもそれ以下でもない 「皆さん、古泉くんの部屋に行って見ましょう。何かあったのかもしれません」 皆と一緒に食堂をでて屋敷の一番端の古泉の部屋まで来た やっぱり中には誰も居ない。 「屋敷の中を捜してくれ!なんだかとてもいやな予感がする!」 森さんと多丸兄弟は二階を探し始めた 俺たちは一階をくまなく探し始めた 捜索から十分後、一階の倉庫前に来ていた 「ここしかないですね…」 鍵がかかっている。それも中から。 本来ここはクローゼット兼試着室だったそうだ 今は物が乱雑に置かれているだけの部屋になっていると森さんが教えてくれた。 屋敷の中に居る場所と言えばここしかいない 「ドアを破るしかないみたいだな… すみませんが三人とも手伝ってくれませんか?」 「いいとも。せーのでいくぞ、準備はいいな?」 『せーの!』 どん! 大きな音共にドアが開く そこで見たものは 「古泉っ!?」 「血・・・?イヤアアアアアア!!」 後ろで朝比奈さんが叫んでいた。 古泉が頭から血を流して倒れていた。 第二話『壊れた信頼』 「古泉っ!?」 「血・・・?イヤアアアアアア!!」 後ろで朝比奈さんが叫んでいた。 古泉が頭から血を流して倒れていた。 それからはもう大騒ぎだった。 森「新川!医者の手配を!」 新川「了解!」 みくる「どうしてっ・・・どうしてっ・・・」 朝倉「警察も呼んで!!明らかに事件だわ!」 キョン「古泉!?おい生きてるよな!?」 多丸祐「この屋敷の防犯システムは最新式なのに!まさかこの中に犯人が!?」 ハルヒ「古泉くんはまだ死んでないわ!応急措置を急いで!」 長門「応急処置を実行、止血をする、清潔な布を持ってきて」 セリフの横に名前をつけたのは俺が解説する暇もなくいろいろとしゃべりだしたからだ たぶんこの後もセリフの前に名前をつけるだろう。誰が何をしゃべってるか重要だからな この後もいろいろあったが省略しておく。長々話すのは俺の性に合わない バタバタが、古泉は一命を取り留めた ただ問題が発生した 古泉が意識を取り戻さない 「冗談かよ」と最初は思ったが医者に言われたら信じるしかない しばらく入院と言うことになっている。 戦闘なんかには参加できないだろうな それで俺たちは古泉屋敷の食堂に集まっている 昨日と同じ席、ただ古泉の席には誰も座っていない 長門「事件について少し整理する。 この事件は、古泉一樹が何者かに鈍器で殴られ、倉庫で発見された」 朝倉「倉庫が犯行現場という可能性は?」 朝倉はいつも冷静だな 長門「限りなく低い、あの場所自体ほこりで足跡がつく位積もっていたのに、誰の足跡もついていなかった。」 流石長門、細かい所まで観察している 長門「おそらく、犯人は古泉一樹の部屋で殴り、倉庫に運んだと思われる」 キョン「待った、俺と朝比奈さんがあいつの部屋を見に行った時血なんてどこにもついてなかったぞ」 長門「おそらく犯人は血をふき取ったと思われる。床がフローリングならふき取るのは簡単」 古泉発見を遅らせるためか、やられたぜ 森「この屋敷にはあの倉庫を除いて、最新式の鍵を使用しています。鍵を持っていなければ入ることは出来ないはずです。」 つまり、屋敷内部の犯行って可能性が高いわけか そして犯人と古泉が知り合いの可能性が高い そうじゃなきゃあいつが部屋の鍵を開けるはずが無い キョン「犯行推定時刻は?俺が六時四十分頃に見に行った時はすでに居なかったぞ」 みくる「古泉くんが殴られてからそんな時間は経っていないと思います。そうでなかったら古泉くんは今ごろ・・・」 まだ涙目の朝比奈さんが考えを述べた 多分彼女には一生物のトラウマだろう。実際、俺もあの現場が目に焼き付いて離れない 長門「彼がまだ生きていることも含めて犯行時間は六時半前後。屋敷内部の人間なら誰でも犯行可能」 キョン「つまり容疑者は、俺、長門、朝比奈さん、朝倉、多丸圭一さん、多丸祐さん、新川執事、森さんの八人と言うことか?」 自分で言うのもなんだが俺も容疑者で間違いない。間違いなく疑われている ハルヒ?あいつは幽霊だから無理だ。スタンドで撲殺は出来てもあの倉庫に古泉を運ぶことは出来ん 長門「おそらく犯人は単独犯、この屋敷は廊下狭いため二人以上で行動していると目立つ」 足音も結構響くからな。犯人にとって協力者は邪魔でしかないだろう そういえば、あの部屋は鍵がかかっていたな キョン「倉庫には鍵がかかっていたよな?あそこには他に出口が無いし 外から中の鍵はかけられないぞ?多分犯人は見つかりにくくするために鍵をかけたんだろうが」 長門「それが一番の謎。これから調べる必要がある」 朝倉「ここで話をしても、何も進まないわ。まだショックを抑えられてない人もいるみたいだし 一回部屋に戻りましょ?」 それぞれが部屋に戻っていった所を見送った俺は最後に食堂を出た。 長門「話がある、部屋に来て」 うぉ!って・・・なんかこれデジャブ? ちょっと大げさすぎるリアクションをスルーし、長門は部屋に入っていった 長門の部屋に入る 長門が奥でイスに座っていた キョン「用事は何だ?お前は俺が必要な時しか呼ばんからな」 長門「今回事件にかかわっている人物について少し補足しておきたい」 キョン「よりによってなんで俺を呼んだ?適役なら他にも居るだろ」 長門「いや、あなたが一番犯人の可能性が低く、洞察力が鋭いから一番の適役」 長門が俺を初めて頼ってきた そこまで逸材か、俺? 長門「この屋敷に居る人物の中で私、あなた、朝比奈みくる以外の人物について 情報が少ないため、彼らが何をするか分からない ある程度人格について分かっているなら行動パターンがつかめるがそれが出来ない 彼らは孤島でも会っているが、その時の彼らは演技をしていたため、行動パターンがまったくの未知 朝倉涼子についても同じ事が言える」 キョン「つまり、長門にはこの事件の犯人がまったくわからないと言うことだな?」 長門「そう。色々な情報を集めておく必要があるが、 この屋敷内部に妨害電波を発生してる物があるため、思ったように集められない」 キョン「前に気絶してたあれか。長門がインターフェイスって知ってるやつだな。それよりも長門は平気なのか?」 長門「ある程度波長の解析が出来たため、前のように体の制御を失うことはない」 キョン「そうか」 長門「妨害電波を発生する装置は携帯電話ほどの大きさで ほとんどの場合隠されているため今の私には探査不可」 「きゃあああああああああ!!」 あの声は朝比奈さん!? 何が遭った!? 三部屋隣の朝比奈さんの部屋に急行する 急いでドアを開けた俺。 後ろでバタバタとはしってくる音。 どうやら屋敷に居る全員が駆けつけたらしい そして朝比奈さんを探す。 割れた急須が部屋にちらばっている 部屋の端っこでうずくまっている朝比奈さんを発見。 キョン「どうしたんですか?」 みくる「ぼーっとしてたらうっかりお湯をこぼしてしまって・・・」 圭一「イインダヨ!」 祐「グリーンダヨ!」 新川「疑惑度30%OFF!!」 真性のアホだこいつら。 長門「右手を氷水につけることを推奨する」 みくる「ひゃ、ひゃい!」 長門に話し掛けられて、発音が変な返事をした朝比奈さんは キッチンの方に消えていった。氷はあそこにしかないからな 何もなくてよかった 古泉の事件のあとだからな 朝比奈さんが犯人に襲われたのかと思った 多分他の人たちもだろうが 急須が割れたのは森さんと新川さんが処理してくれることになり、 他の人たちは部屋に戻っていった。 そういえば古泉の部屋は誰も居ないんだよな 一回調べてみるか がちゃ やはり開いた あれから誰もこの部屋に来てないんだろう。 部屋を色々と見ていたが一部分の床がピカピカに光っていた。 おそらく犯人が血をふきとった後だろう 長門の推理どおりだ ん?これは・・・砥石?なんでここにあるんだ? もしかして・・・ 砥石を裏返すと血がついていた これって・・・ 思考の停止(正しくはフル回転)をした俺は 青い髪のクラスメイトの顔が思い浮かんだ・・・ 「ナイフ良いの無かったわ。研石見つけたからご飯の後に磨いてみる」 俺は砥石を置き、皆を呼び、 また部屋に戻ってきた キョン「皆さんを呼んだのは他でもありません。凶器と呼ばれるものを発見しました」 圭一「何だね、その凶器というのは?」 キョン「これです。」 そういうと床に転がっている砥石を拾い上げる そんなに重くなく片手で持てる 朝倉「私の砥石!?」 キョン「朝倉、長門と祐さんと一緒に部屋に行って砥石を探してきてほしい」 朝倉「わ、分かったわっ!」 バタバタと部屋を出て行く三人 みくる「もしかしてキョンくん朝倉さんを・・・?」 キョン「いや、犯人がわざとおいたと考えるのが普通だ。 これじゃ朝倉さんが犯人ですといってるような物だからな」 本当に犯人じゃないとは言い切れないが 新川「血の付き方から見てこれが凶器で間違いなさそうですね。」 圭一「ますます、わけがわからなくなってきた。犯人は何が目的だ?」 森「おそらくこの屋敷を混乱に落としいれるためですね。犯人がみつかりにくくなりますから」 キョン「その通り。そして犯人はここで犯行に及び砥石を捨て、倉庫まで運んだそう考えるのが打倒だろ」 息を枯らした朝倉が戻ってきた 朝倉「ない・・・ないわ!・・・私の砥石が部屋には無かったわ・・・!」 キョン「朝倉、砥石はどこに置いていた?」 朝倉「部屋の机の上よ・・・でも私が帰ってきてすぐに食堂に向かったから犯行時間と矛盾するのよ!」 キョン「いいところに気が付いた。六時半の時点で屋敷内部にあるはずのない砥石が犯行に使われた。 おかしいと思いませんか?」 みくる「キョンくん、田村●和みたい・・・」 キョン「そんなことはどうでもいいんです。で、話の続きですが、おそらく犯人は朝倉さんが砥石を買うと知っていた人物 この村に良いナイフが無いことを知ってる人物、 砥石の売ってる場所を知ってる人物となると犯人がしぼられませんか?」 森「つまり昨日この村に来た四人は省かれますね」 祐「俺たちの中の誰かが犯人!?」 圭一「そうなりますね。」 新川「古泉に、恨みがあった人物と考えれば私達でしょうな」 長門「彼の言うことは矛盾していない。よって彼がこれから事件に付いて調べることを推奨する」 みくる「賛成です」 朝倉「賛成だわ。洞察力するどいもんね」 森「賛成します。将来探偵にでもなってみてはいかがですか?」 キョン「進路の一つにでも入れておきますよ」 祐「子供が探偵!?俺は反対だ」 圭一「そういうな、彼思った以上に有能だ、任せて構わないだろう」 新川「ここまで賛成が多いなら私が言う必要もありません」 どうやら俺が探偵と言うことで決まったようだ 忙しくなるな。やれやれ キョン「森さん、鍵をかしてくれませんか?屋敷の中を動き回るにはあったほうが便利ですし」 森「わかりました。これが合鍵です」 鍵束を渡してくれた 倉庫行ってみるか。あの場所に犯人の手がかりを残しているかも知れんし キョン「長門、ついてきてくれ。お前なら何かわかりそうだしな」 長門「分かった」 他の人たちを部屋に戻し俺たちは倉庫へ行く キィィィ ドアがきしむ音を聞きながら目の前に広がる光景を確認した 床にまだ残っている血痕。これからの人生何度事件のこと思い出すだろうね? また俺と長門は部屋の確認をし始めた。 密室にしたトリックを暴かなきゃならんからな 俺はふとドアの鍵を見る かなり老朽化していて所々錆びている あれ?そういえば壊れてないな?鍵かけた状態でドアを開けたら鍵が壊れると思うんだが 長門「この木の棒は何?」 振り返ると長門が大きな木の角材を持っていた 長門の1.5倍ほどか? こんな形をしている?(<??????> 俺はなんとなくひらめいた ドアを閉め壁と壁にクロスするように立てかける ちょうどドアをふさぐように木が立てかかった 下に固定するように金具があることから間違いないだろう これがドアを開かなくしてた物だ 想像しにくいと思うのでAAをかいてみた(この場合書くか描くかどっちだ? ┌─────────┐ │ .| │┏ . | │ \\ . | │ ̄ \\───┐ ...| │ \\ │. | │ │ \\ │ ...| │ │○ \\. | │ │ \\ ..| │ │ │.┛ | └─────────┘ 長門「上の棚と角材の端と壁に急激に冷えた後がある」 ドアの左には棚が設置してある AAの都合上それまでかけなかったが変わりにドアの左上の線をそれだと思ってくれ それにしても急激に冷えた後? 氷くらいしか思い浮かばんな。 でも濡れてないし・・・ 長門「多分ドライアイスだと思われる。この部屋の二酸化炭素の割合が他の部屋と比べて少し高い」 なるほど、流石長門 頭の回転が速い つまりドライアイスで棒を押さえ 溶ける前に部屋を出れば 後は何もしなくてもドライアイスがとけ 棒が倒れドアが開かなくなる 密室の完成だ。 賢いな、俺も犯人も 一通り考えがまとまった俺は 犯人が誰なのか考えながら部屋に戻ることにした 後ろで長門がドアを閉める音がしたのが気になって振り向くと ハルヒ「あんた、有希の事しか見てないんじゃないの?」 キョン「うぉ!なんだ、浮遊物体Aか」 浮遊物体A「何よ、それ!まるで私が単なる物みたいじゃない!! 第一Aって事はBもCもいなきゃおかしいじゃない!!」 キョン「お前、名前が浮遊物体Aになってるぞ」 浮遊物体A「何よこれ!?責任者でてこーい!!」 作者「責任者ですがなにか?」 浮遊物体A「待ってたわ、私の拳受けなさい!オラオラオラオラオラ!!」 作者「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」 付き合いきれん・・・ 気分を変えて食堂に向かうことにした もうすぐ十二時だ 腹が減った。考えすぎたのか頭が痛い 頭痛薬も貰うか あ、タ○フルだけは勘弁な 食堂につくと SOS団メンバー以外集まっていた 森さんに一つ質問した キョン「森さんは今日の朝、新川さんと料理を作っていたんですよね?」 森「ええ、彼のアシスタントをしてました。一人では大変ですから」 キョン「祐さん、圭一さん、六時半頃何してましたか?」 圭一「自分の部屋で仕事してたよ。締め切りが迫った仕事があったからね」 祐「私は寝てたよ君が食堂に来る直前までね」 だめだ、これといっていい情報がない。 犯人はだれだ? 犯人のした行動はわかった。 しかしそれは誰でも出来る行為だ やろうと思えば俺でもやれる。 しかし俺はやっていない なぜ、古泉を殺したのか? これも謎だ。犯人の目的がつかめない 外部犯の可能性は? 無理だ、この屋敷の人は絶対に無理と口をそろえていっている なぜ犯人は倉庫に運んだ? わからない 結局俺にこの事件を解決するのは不可能なのか? 誰かこの迷路の出口を教えてくれ 朝比奈「大丈夫?なんかキョンくん疲れてるみたい・・・」 朝比奈さんが食堂に来ていたみたいだ気付かないほど考えていたのか キョン「朝比奈さん、大丈夫ですよ。右手は大丈夫ですか?」 痛々しい右手を見る 朝比奈「ええ、すぐ冷やしたから平気」 長門「古泉一樹の様子をみてきた。記憶喪失になっている 混乱を招くから今は見舞いに行かない方がいい 左後頭部の怪我は心配ないと医者が言っていた」 俺の中で点と点が繋がった すぐに俺は全否定した しかし否定すればするほど犯人は一人に確定していく これが現実か・・・残酷だな・・・ さて、どこかで覗き見している誰かさんに挑戦だ。 この事件の犯人は誰か? 見事当てたらジュース一本おごってやるよ 第三話、解決そして崩壊 犯人が分かった俺は激しく悩んでいた どうするべきだ? 全員が集まったらすぐ言うべきか? それとも犯人のを自供を誘うべきか? みくる「キョンくん・・・ほんとに大丈夫ですか?」 俺は非常に悩んでいた 隣で誰かが話しているのにもかかわらず 何も聞こえていなかった どうするべきだ?どうするべきだ?どうするべきだ? 同じ言葉が何度も繰り返される ダメだ、犯人がわかった以上長引かせるわけには行かない おそらく全員疑念が尽きてないだろうだからな 今この食堂には全員いる、喋るなら今だ しかし、犯人を指摘した所で犯人がすぐに認めてくれるはずがない やはり犯人を罠に嵌めたほうがいい 行動しよう、そうするしかない キョン「みなさん、今思ったんですがあの時鍵かかってましたっけ?」 森「鍵がかかってなかったらあの部屋は簡単に開くはずですが?」 祐「何当たり前なこと言ってるんだ?鍵かかっていたから体当たりまでしてあけたんだぞ?」 みくる「わざわざ、私が確認したじゃないですかぁ?キョンくん疲れてないですか?」 キョン「みなさん、とんでもない思い込みをしている。 あの部屋の鍵はかかってなかったんです ただあの部屋に開かないように押さえ棒がしてありましたが」 長門以外の全員が驚く 圭一「じゃあ、犯人はどうやってその押さえ棒を使ったんだ? 外側にいたら棒など使えないだろうが」 キョン「押さえ棒にさらに押さえ棒がしてあったんですよ」 朝倉「何を言ってるの?」 キョン「正確にいえば消えてなくなる棒ですが、 冷えていて常温で形が無くなるものです」 祐「氷か?確かにそれならしばらく放置したらドアが開かなくなるが」 みくる「でも、あの場所は濡れていませんでしたよ?溶けたら水に濡れちゃいます」 キョン「確かにあの場は濡れていませんでした なぜならあの現場にはドライアイスが使われたようです しかし現場を一瞬だけしか見てない人がどれだけその時の状況を正確に覚えていられるでしょうね?」 みくる「!!」 全員が一斉に朝比奈さんの方を向く 発見当時彼女は古泉を見た瞬間 顔に手を当てそのまま泣いていた その後も森さんに連れられてやっと自分の部屋に入ったほどだ 当然彼女が正確に現場を覚えているはずがない しかも泣いているのだ 濡れているかどうかなんて判断が出来るはずがない そう、朝比奈みくるは現場が濡れていない事を知っていたのだ 朝倉「朝比奈さんあなたもしかして・・・」 キョン「あなたが犯人です、朝比奈みくるさん。」 みくる「!!・・・でもそれだけじゃ疑う理由にならないんじゃないですか?」 キョン「もちろん、誘ったのはちゃんとした理由があります。 それも含めてあなたがした行動の推理を聞いてください。」 俺は一通り周りを見渡す ほとんどの人が驚いているようだ。当たり前である キョン「朝早く起きた朝比奈さんはまず、ドライアイスを倉庫に運んで食堂に向かいました そこで森さんと会い、古泉くんを呼んでくるといって部屋を後にした。 もちろんアリバイ作りのためです。時刻はたぶん六時二十五分頃だろうと思います」 森「確かに六時半前には朝比奈さんは食堂に来てましたね。」 キョン「そして古泉の後頭部をあらかじめ用意した砥石で殴って倉庫まで運んだ。その後ドライアイスで倉庫が密室状態になります」 圭一「それは誰でもできるのでは?」 キョン「ええ、そうです。ただ朝比奈さんはここで一つミスを犯しています。 ドライアイスに直接触れてしまったんですよ、おそらく右手でね。」 朝倉「それって・・・」 みくる「!!」 キョン「そう、あなた今右手に凍傷おこしていますね? おそらく事件後の火傷騒ぎもそれを誤魔化すため。 そして、氷水で冷やしてくると見せかけて朝倉の砥石を盗み出したんだ。 長門、古泉一樹が殴られた所は?」 長門「左後頭部」 キョン「もし右手で殴ったなら右後頭部に殴られた後があるはず なのに左後頭部、これは犯人が左手で殴ったことを示しています そして、今ここで朝比奈さんの部屋を調べれば盗んだ砥石があるはずです。」 長門・朝倉・森「調べてくるわ!!」 三分後・・・ 朝倉「あったわ、間違いなく私の砥石よ。自分の名前が書いてあるし」 キョン「言い逃れできますか?朝比奈みくるさん」 みくる「素晴らしい、戦闘能力だけでなく知能も高いとは!」 なんだ?急にふいんき(なぜか変換できん)がかわったぞ みくつ?「ますます、涼宮ハルヒ様の部下にふさわしいことが分かった。」 ここで無理にでも連れ去るべきだな。」 キョン「お前・・・別人だな!?」 おそらく朝比奈もどきが喋っているハルヒとは偽者の方だ 新川「今までに数々の修羅場をくぐってきたがここまで危機感を感じたことはいまだかつてない・・・!!」 森「何?何をする気なの・・・?」 圭一「さらに存在感薄くなってしまうではないか。」 祐「それはもともとじゃないか?」 どうでもいい会話をしているやつらはほっといて こちらは戦闘準備を始めている みくる?「遅い!」 うぉ、まだ鎧着終わってないって ひょい あれ、朝比奈さんっておれを持ち上げるほど頑丈な体の作りしてましたっけ? 長門「対象の有機結合の解除を申請。」 朝比奈「無駄よ、私のほうが情報操作の能力が高いわ。」 長門「キャンセルされた・・・?」 朝倉「これだとうかつに攻撃できないじゃない」 浮遊物体A「結局名前直してもらってないし・・・(前話参照)」 えーと今朝比奈?さんに捕まってる俺がなんとかした方がいいよな・・・ 俺はブランと垂れ下がっていた自分の左手を顔めがけて殴りかかった。 ぱしっ! みくる?「無駄よ。能力開放をしてないあなたが私に抵抗することはできないわ。」 むかつく野郎だ。おそらく村の入り口で会ったときから演技してたんだろう まんまと騙されていたわけだ。 じゃあ偽ハルヒにココの場所が知れているって事だろう くそ、また俺は何もできないのか! 長門「対象の―――能力の―――開放を―――実施―――」 朝倉「なに・・・?長門さんの雰囲気が変わった・・・?」 キョン「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 獣のような雄たけびが部屋中に響く それが俺自身の声と認識するのに数秒かかった みくる「まさかっ!」 朝倉「暴走・・・?」 浮遊物体A「なんかどこかで似たような状況を見たような気がするわ。」 作者「いろいろとネタ引っ張ってきてますから。」 浮遊物体A「お前は自重しろ!」 作者「サーセンwwwww」 えーとだな・・・ 朝比奈さんが泣くまでやめてくれないような連続パンチを続けている俺だが・・・ 俺はココまでやろうとは思わん おそらく本能の暴走とかそういうやつだな 今回もまた大暴れするのか あれ?でもなんで意識がはっきりとあるんだ? ???「よう、キョン」 誰だ?誰が話し掛けているんだ? キョン裏「俺はお前だ、理性のキョン。もちろん他の人間に声が聞こえてるとはおもわんがな」 じゃあお前は本能のキョンとでもいうのか キョン裏「その通りだ。まあ俺自身が出てくることはほとんど無いんだがな」 何しに来た。 キョン裏「何しにって、お前=俺を守るためだが?それ以上に何がある?」 ああ、そうか本能は自分を守るのが最優先だったな。どこかで聞いたことがあるぜ キョン裏「さて、偽みくるはどうするんだ?場合によっては殺そうとも思ってるんだが」 待て、殺す?why?そこまでする必要があるか? キョン裏「流石にまずいか?まあその辺の判断はお前に任せるがな。」 しばらくの沈黙 こうしてる間にも朝比奈?さんへの打撃音はやまない キョン裏「殺すのも拘束するのもお前の自由だ。煮るなり焼くなり好きにしろ。 ただお前がまた窮地に立つような行動をした場合、俺が判断する。」 そういってもう一人の俺はどこかに消えた それと同時に体が殴るのをやめた みくる?「うぅ・・・」 どうする?朝比奈?さんの体すでにボロボロだ。 キョン「長門・・・縄貸してくれ」 長門「―――わかった―――」 場に重い空気が流れる・・・ 長門「―――圭一――祐―――新川―――森―――四人の―――記憶の一部を削除―――及び改変―――」 俺は縄で偽朝比奈さんを縛っていた。 とりあえず両手は後ろで拘束しきつく縛った。 みくる?「不覚だわ、目標の目の前で失敗するなんてね。 でもただでは終わらないわ。」 ボン! 煙幕!? 「けほけほ」 いたるところで咳き込む声がする その煙幕が晴れてきたら キョン「いない・・・!!?」 長門「うかつ―――煙幕と同時に―――テレポートされた―――」 朝倉「おわったの・・・?」 新川「高校生が・・・・信じられませんな」 森「一瞬の出来事でしたね・・・」 祐「朝比奈さんがナイフを持っているのが見えたと思ったら、次の瞬間には朝比奈さんを取り押さえるなんて」 圭一「へたなアクション映画よりも迫力がありますな・・・」 長門・・・GJ 第四話事後処理 キョン「逃がしちまった・・・」 森「逃げられたものは仕方ありません。それよりも色々と片付けなければ。」 ユーレイハルハル「誰か(作者の暴走を)止めて!!」 長門「君がくれた勇気は―――億(ry」 新川「新しいダンボールでも買おうかな」 祐「実は俺ポニーテル萌だったんだ」 圭一「嘘だ!!」 朝倉「いろんな意味でガクガクブルブル・・・」 あえて言おう、カオスであると 元ネタ分かるやつ何人いるんだろうね? 人の事言えないが そんなどうでもいい文章稼ぎに俺はイライラしていた もうちょっとテンポ良く進めよ 古泉一樹が退院した !? いくらなんでも話が進みすぎだ!! 医者「信じられん、数時間前まで生死の境を彷徨っていたと言うのに!!」 よく退院を許可しましたね。 やぶ医者「すまんね、ベットが足らないんだよ。」 説得力無いな 古泉「いやぁ、一時はどうなる事かと思いましたよ。」 キョン「平気なのか?」 古泉「えぇ、長門さんの情報操作で直してもらいました」 長門「妨害電波発生装置の―――破壊に成功―――不可能だった事の一部が可能になった―――」 キョン「雰囲気かわったな?どうした?」 長門「心配ない―――私はいたって正常―――」 圭一「今日の晩御飯は何かな?かな?」 祐「おまえ、キャラ変わったな。」 新川「過度なギャグは命に関わるぞ。」 森「チョココロネってどうやって食べる?」 古泉「今はそれを話してる場合ではないでしょう。」 長門「話が進まない―――強行手段に入る ikuyotagan=dogegahcdogsUJmCCPnat=dog」 長門が例の高速早口をつかった。 さて何が起こるやら・・・ 古泉「そろそろ、鶴屋さんの捜索に向かいたいのですが・・・」 いっている事はまともなんだが顔が近すぎる せめて息が当たらない位置を保ってくれ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 地震!? 朝倉「痛ッ!」 朝倉!? 圭一「カナカナカナ・・・」 ひぐらし!? ピタ 変な効果音とともに地震が終わった 古泉「いやぁ~驚きましたね。もしかして本当に怪物でもいるんでしょうか?」 キョン「何だその怪物とやらは?」 小泉「この屋敷には元々吸血鬼が住んでいて、当時は地下室へ続く階段があったそうです その地下室には吸血鬼の妹が『あまりに危険すぎる』という理由で封印されていたそうです もちろん、そんなのは伝説にしかすぎず嘘だと思いますが、 この屋敷の外壁が真っ赤なのは吸血鬼に襲われた人間の血なのかも知れませんね 余談ですが、この屋敷には元々門があったらしくそこにはかわいそうな門番がいたとかいなかったとか。」 キョン「吸血鬼の妹ねぇ・・・仮に本当だったらとしたらこの屋敷は化け物やしきだな」 古泉「そういえば、森さんはいつも、変なところから現れて行動も早かったりしますね」 キョン「化け物の能力引き継いでいるじゃないか?例えば時を操る能力を持っているとか」 古泉「ありえますね」 とりあえず、屋敷の中は事件とさっきの地震のせいで散らかっていたので 掃除するためにしばらく屋敷をでてと森さんと新川さんに言われた 俺は長門とハルヒをつれて村の近くにある森近くまできたのだが・・・ 一人の老人が墓石の前に立っていた なんとなく興味を引かれたので見に行ってみると墓石には名前が書かれていなかった 老人「おや、見かけないかおだねぇ。旅人かい?」 キョン「ええ、ところでこの墓は誰の墓なんですか?」 老人「この墓はね、ある旅人の少女の墓なのさ 村の入り口で倒れているのが発見されてね。どうやらモンスターに襲われたらしいんじゃよ 持ってる食料もなく、やっと見つけた村の前で力尽きてしまったらしいのぅ。 そういえば不思議と長くて黒い髪だけは綺麗だったのぅ」 そんな話を聞いてると隣にいる長門の様子が少し変な事に気が付いた。 黒い瞳をこちらに向ける キョン「どうした?長門」 長門「この墓に妙な感覚を抱いた―――」 なんだかいやな予感がするのは俺だけか? 一応手を合わせすぐその場から離れる事にした 村に戻ってきたが時報を知らせるスピーカーから変なノイズが聞こえてきた スピーカー「ザッザッザッ ザッーーー ザッザッザッ ダンッ」 頭がキーーンとして痛い!! ハルヒ「痛いわよ、この音!!」 長門「不協和音がひどい―――、これは―――」 住人A「やめて!!音がひどいから!!」 住人B「買い物できないじゃない!!まともに!!」 住人C「落ち着かない!これじゃ!」 おまえら倒置法でしゃべるな!わかりずらいから! ボー―ン!! な、スピーカーが爆発して壊れた!? 振り返るとそこには戦車の軍団がいた 戦車兵「これよりこの村は革命軍の占領下にはいる!!」 何だこの展開!? メガホンを持った戦車兵の隣の戦車から出てきたのは・・・ 「やあ、ひさしぶりだねっ!!」 「鶴屋さん!?」 美しい緑の髪の所持者、鶴屋さんがそこにいた 第三章へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5013.html
涼宮ハルヒのOCG③ (2008/9/1の制限改訂です) 「やっほー! みんな、新しい制限改訂が出たわよーーー」 団員全員が机に座って向かい合ってるという、いつもと少し違う日常を過ごしていた俺たちだが、その日常を変えるのが、ドアを蹴破るようにして部室に入ってきた我らが団長涼宮ハルヒ。まったく、もう少し静かに入ってきてくれ。ドアが壊れても俺は知らんぞ。 「さっきコンビニ行ってVJ買ってきたわ、みんな見ていいわよ?」 なんかえらくハルヒが上機嫌だな。とはいえ制限改訂となれば俺も気になる。前回は死者蘇生が戻ってくるなんていうハプニングもあったしな、どれどれ・・・。 新禁止が・・・早埋、混黒、次元融合とかか、まあ妥当だな。インスタントワンキルはもうこりごりだ。サイドラも制限か、世界大会での採用率が高かったらしいしこれも普通かな? 準制限と制限解除が・・・・ 「裁きの龍はライトロードというファンデッキのエースカードのはず、準制限は疑問。」 長門、それは流石に無理があるぞ。制限にならなかっただけでも喜ぶべきだ。 「・・・そう」 「ダムドが準制限でよかったあ。それに増援とディアボリックガイが解除です。これは私の時代が・・」 朝比奈さんがいつものメイド服のままはしゃいでいる。というか朝比奈さん、未来人ならこの制限改訂の結果も知ってたんじゃないですか? 「ふふ、禁則事項です☆」 朝比奈さんはいたずらっぽくウインクしながら、ハルヒのお茶を淹れる為に食器棚に向かっていった。今回の制限改訂、うーんまあ風帝が緩和されなかったのが俺としては残念だ。邪帝が無制限なら風帝ももう少し緩和を・・・、んっ、ちょっと待て、ダムドビートはダムドが準制限、ライトロードは裁きの龍が準制限。剣闘獣はどうしたんだ? 「どうやら○ナミも剣闘獣の規制に関してはお手上げだったようですね。」 頼んでもいないのに古泉がしゃべりだした。お手上げなんてことはないだろ、ガイザレスなりベストロウリィなりチャリオットなりを規制することはできたはずだ。 「そうは言われましても、もう発表されてしまったものはしょうがないです。僕としては、これで今日は閉鎖空間へ行かなくて済みそうなので大歓迎ですが。」 といいつつハルヒを見ると満面の笑みを浮かべている。やれやれ、この改訂もハルヒが願ったからなんて言わないでくれよ。 「さあみんな!デッキを新制限にむけて組みなおすわよ!キョン、あんたは大してデッキ変わんないんだから、有希やみくるちゃんが組みなおしてる間にあたしと勝負しなさい!」 よーし受けてたってやる。環境最前線ばかりが強いわけじゃないてことを教えてやるぜ。 「キョンのくせに生意気ね、マッチで勝ったほうがジュースおごりよ。ジャンケン、ポン!あたしの先攻!」 こうしてやたら白熱した放課後は過ぎていった。正直に言おう、けっこう楽しい。 カバンをとって部室をでようとすると誰かに袖をつかまれた。こういうことをやるやつは1人しかいない。 「どうした?長門。」 振り返ると黒曜石のような目をして俺をみているヒューマノイドインターフェイスがいた。何かいいたそうだな。 「今日、7時にいつもの公園に」 長門は透き通るような声でそれだけをいうと、すたすた歩いていった。またなんか事件か?ハルヒは今日終始ご機嫌なように見えたのだが。もしかしたら長門自身のことかも知れない。まあいずれにせよ、長門の頼みを断る理由なんてあるわけない。俺でも長門の役にたてるなら、なんだってやるさ。 家族には適当な言い訳をして俺はいつもの公園へとチャリをとばしていた。あの公園もいろいろあったものだ。まだ眼鏡だったころの長門との待ち合わせ、朝比奈さんとのタイムトラベル、さて今度はなんだろうか。とまあいろいろ考えてるうちに公園に着いた。だが、珍しいことに長門はまだ来ていなかった。まさか時間か場所を間違えたか?だが、まだ時間前だったのでベンチに座って待っていると、 「久しぶり」 背後から聞き覚えのある声がかけられた。と、同時に俺は身震いして声のした方へ身構えた。この声は・・・ 「5月以来?それとも冬以来かな?」 クラスの元委員長にして情報統合思念体急進派のインターフェース、消えたはずの朝倉涼子が立っていた。 「どういうことだ、なんでお前がまたここに?」 俺は少しずつ後ずさりながら言った。くそっ、部室にいた長門は偽者だったのか?いや表情を見る限りそんなことはなかったはずだが・・・ 「あれ、長門さんから聞いてないの?」 朝倉は微笑みながらゆっくりこっちへ近づいてきた。その手にはいつのまにかナイフが握られている。そして周りの風景はいつかの情報封鎖空間と化していた。やばい、マジでやばい。長門、来れるなら来てくれ・・・・ 「彼に説明するのを忘れていた。・・・うかつ。」 長門が俺のすぐ横にいた。長門、頼むからどういうことか分かりやすく説明してくれ、俺では理解できん。 「今目の前にいる朝倉涼子はあなたに害意をもっていない。彼女は一度情報連結を解除された後、思念体に回帰し派閥を変えて穏健派となった。穏健派になって以降の彼女とは私は定期的に連絡をとっていた。最近の活動内容を話したところ、彼女も興味をもち、今日はあなたとデュエルするためにここに私が呼んだ。だが彼女はまだインターフェースを持たない為、通常空間では長く存在することが難しい。よってこの空間を生成し、現在に至る」 長門にしては分かりやすい説明だ。だがなんで朝倉はナイフをもっているんだ? 「それは・・・」 「演出、そうよね?長門さん」 「そう。」 まったく勘弁してくれ。こっちは寿命が3年ほど縮まったような気がするぞ。 「驚かせてごめんね。で、さっそくデュエル始めない?」 朝倉は悪びれた様子も無く笑い、ナイフを捨てて(ナイフはすぐに消えた)言った。いや、別にやるのは構わないんだが、机も椅子も無いこの空間でどうやってやるんだ?というか俺はデッキをもってきてないぞ。 「私が今作成した。こっちがエキストラ。」 長門がデッキを俺に向かって差し出していた。スリーブの色までまったく同じだ。ちなみに茶色だ。朝倉は濃紺のようだ。 「方法は・・・せっかく情報封鎖空間にいるんだし、ちょっとリアルにやってみない?」 朝倉はそういうと例の高速詠唱を始めた。3メートルほど離れて対峙していた俺と朝倉それぞれの前に、半透明で空中に静止しているデュエルフィールドが現れた(なんかスペースがいつもより1つ多いと思ったら除外ゾーンだった。○ナミより気がきくんだな) 「やり方はいつもあなたたちがやってるのと全く同じ。ただ、モンスターや魔法・罠がCGで私たちの間に実体化されるだけ。それじゃ、準備はいい?」 こうなったら俺も男だ。売られた勝負は買ってやるぜ。それに今回は命の危険があるわけでもないしな。いざとなったら長門がいる。どうにでもなるさ。よし、いつでもいいぞ朝倉。 「ただ決闘普通に決闘やっても面白くないから、何か賭けをしない?」 賭けだと?別に構わないが、互いの命を賭けるとかは無しだぞ。 「もう、そんなこと言わないって。信用無いなあ、私」 とはいっても俺は二回もお前に殺されそうになってるんだ、そのくらいは警戒して普通だろ? 「二回目はここにいる私の意志と関係ないんだけどな・・・。まあいっか。負けたほうが勝ったほうの言うことを一つだけ有機生命体ができる範囲でなんでも聞く。これでいい?」 了承だ。ならジャンケンだ朝倉、先攻後攻を決めないとな。 「先攻はあなたにあげる。5月のおわびも兼ねて。」 少々詫びる観点がずれてる気もするが、くれるものはありがたくもらっとくぞ。俺の先攻、ドロー! ハーピイ・クイーンを攻撃表示で召喚。カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「私のターン、ドロー。豊穣のアルテミスを攻撃表示で召喚。カードを3枚伏せてターンエンドよ。」 俺のターン、ドロー。やたら伏せカードが多いのが気になるな・・召喚権は残しておこう。バトルフェイズ、ハーピイ・クイーンで敵モンスターに攻撃だ。 「攻撃宣言時に伏せカードを発動するわ、次元幽閉。」 そうはいくか、こっちも伏せカードオープン、ゴッドバードアタックの効果でハーピイ・クイーンをコストに・・・ 「うん、それ無理。チェーンして魔宮の賄賂を発動。ゴッドバードアタックは無効ね。」 くっ・・・魔宮の賄賂の効果で1ドロー。逆順処理終了か。しかしこのCGシステムはリアルだな、本当に次元の裂け目にハーピイ・クイーンが吸い込まれていきそうになりやがった。ダイレクトアタックの時はどうなるのか、考えたくも無いね。 「魔宮の賄賂で罠カードをカウンターしたことにより、手札より冥王竜ヴァンダルギオンを特殊召喚するわ。残念ながらあなたのフィールド上にカードがないから効果は不発だけどね。」 なんだって、これは予想してなかったぜ。というか朝倉のデッキはパーミッションか。けっこう頭使うんだよな、このデッキは。 「さらに豊穣のアルテミスの効果で1ドロー。あ、安心して。このデュエル中、私は一切の情報操作は使えないわ。普段なら読もうと思えばいつでも読める有機生命体の情報をあえて読めなくすることによって駆け引きがうまれる。こんなに面白いことはないわね」 朝倉はニコリと微笑んだ。1学期当初に見ていた笑みとは違って、心から楽しんでいるような笑みだった。こいつもこんな笑い方するんだな。メイン2、裏守でモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「私のターン、ドロー。ねえキョン君、私は派閥を移して長門さんと定期的に連絡をとるようになってから、昔はわからなかった感情とかがいろいろと理解できるようになったわ。パーミッションのデッキを組んだのも、相手との駆け引きがしたかったから。ただ単純にモンスター効果で攻めて倒すのは私にとってつまらないの。」 今日はよくしゃべるんだな、朝倉。別にしゃべるのは自由だがお前のターンだぞ。 「普段は長門さんとしかしゃべらないからね・・。少し嬉しくて。バトルフェイズ、ヴァンダルギオンで裏守に攻撃よ」 裏守は魂を削る死霊だ。こいつは戦闘では破壊されない。どうする朝倉? 「どうしようもないわね。1枚伏せてターンエンドよ」 俺のターン、一枚ドローして、メイン入るぞ。霞の谷の戦士を召喚。7シンクロで呼び出すのは、ブラック・ローズ・ドラゴン。誘発効果で全体除去を・・ 「モンスター効果にチェーンしてコストを払い天罰を発動。効果は無効に・・」 あまいぜ朝倉、こっちも天罰にチェーンして伏せカード発動!神の宣告だ。ライフを半分払って天罰を無効にする。 「そんな・・・。」 ブラック・ローズ・ドラゴンの効果は有効。よってフィールド上のカードは全て破壊だ(全体除去は爆発するんだな・・。これもなんかリアルだ)。俺はこのままターンエンドだ。 「アルテミスの永続効果でドローするわ。全体除去をした後にフィールドに何も伏せないの?こっちがモンスター召喚したらダイレクトアタックをうけるわよ?」 ああ、かまわん。これしかなかったんだ。パーミッションならモンスターもそう多くはないだろう。大丈夫だ、多分。 「私のターン、ドロー。残念、いいモンスターはひけなかったみたい。裏守をセット、カードを2枚伏せてターンエンドよ。」 正直助かった。ライオウとかでてきたらどうしようかと思ったぜ。やれやれ。俺のターン、ドロー、よしいいカードを引いたぜ。手札から(今ドローした)死者蘇生を発動、墓地のハーピイ・クイーンを蘇生させる、ハーピイ・クイーンをリリースして邪帝ガイウスを召喚、効果で裏守を除外するぜ。裏守は・・・・おっと危ねえ、マシュマロンだ。さらに墓地の風闇2体を除外してダーク・シムルグを特殊召喚!2体で攻撃だ。 「両方とも通すわ。けっこう痛いわね」 これで朝倉のライフは2800.俺は4000.どうなるかはまだ微妙なところだな。ターンエンドだ。 「ドロー、豊穣のアルテミスを攻撃表示で召喚、ターンエンドよ。」 俺のターン、朝倉の場には伏せカードが2枚。1枚はさっきの召喚・攻撃のときなにも発動しなかったからおそらくブラフだろう。問題はもう一枚だが・・・。あれが何かのモンスター破壊だったとしても、もう1体の攻撃は通る。伏せが少ない時にパーミッションは叩いとかないとまずいからな。ちなみに聖バリはさっきブラックローズの除去のときに墓地へ行ったのを確認してあるぜ。よし行くか、邪帝でアルテミスを攻撃! 「ダメージステップに速効魔法、収縮を発動するわ」 くっ・・・400のダメージか、だがこれは想定内だ。ダルシムで豊穣のアルテミスに攻撃だ! 「それも無理、ダメージ計算時、手札からオネストを墓地に捨てて効果発動よ」 うおっ・・これはやばい、やばすぎる。俺のライフは残り2000。オネストめ・・ああ忌々しいカードだ。だがまだ召喚権が残っていたのが幸いだったな。裏守を一枚セット、カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「オネストは忌々しいカードではない。非常に有用。」 今まで黙っていた長門が急にしゃべりだした。どうやら俺が忌々しいって言ったのが耳に入ったようだ。まあそりゃ長門もライトロード使ってるんだし有用なのは分かるが・・・こっちとしては嫌なもんなんだぜ。 「・・・そう。でも環境を破壊するカードではない。」 そうだな。仕方ないなオネストは。分かったからこっちを微妙に睨まないでくれ長門。 「えーっと私のターンに入っていいかしら?」 ああすまん朝倉、デュエル中だったな。どうぞやってくれ。 「アルテミスで裏守に攻撃よ」 攻撃宣言時に聖なるバリアミラーフォースを発動だ。チェーンは・・ 「あるわ。罠にチェーンして神の宣告を発動。聖バリは無効にするね」 マジでくたばる5秒前、ずっと伏せてあったカードはブラフじゃないかったのか。やられたぜ朝倉。だがまだ俺のライフポイントは残るはすだ。 「罠カードをカウンターしたことにより、手札からヴァンダルギオンを特殊召喚。これで終わりね、キョン君。ヴァンダルギオンの攻撃!死になさい。」 まだだぞ朝倉、さっき破壊された裏守モンスターはネクロ・ガードナー。こいつを墓地から除外してヴァンダルギオンの攻撃は無効だ。間一髪、助かったぜ。 「惜しかったわね。ターンエンドよ。」 朝倉のライフは1400、俺のライフは400。朝倉のフィールドに伏せカードはない。だが、今の俺の手札では次のターン確実に終わりだ。朝倉の言うことを何か一つ聞かなくちゃいけなくなる。・・・長門がいるからそう無茶は言えないはずだが、そんなことより俺は負けたくないね。なんとかして勝ちたい。いくぜ、俺のラストターン、ドロー! ・・きた。悪いな朝倉、この勝負俺の勝ちだ。 「手札にオネストがあるっていっても?」 朝倉はニコリとわざとらしく笑って言ったが、今の俺には関係ないね。オネストがあろうがなかろうが俺の取るべき方法は1つしかない。手札から魔法カード、地割れを発動。アルテミスを破壊するぜ。そしてハーピイ・クイーンとデスカリバーナイトを手札から除外して、ダーク・シムルグを墓地から特殊召喚! 「ヴァンダルギオンの攻撃力は2800。ダルシムじゃ勝てないわよ。」 ああ、わかってる。だが俺はまだバトルフェイズに入ってないんだな。ダーク・シムルグをリリースして、風帝ライザーをアドヴァンス召喚!起動効果でヴァンダルギオンをデッキトップに戻す。バトルフェイズ、風帝ライザーでプレイヤーにダイレクトアタック! 朝倉のライフが0になった瞬間、俺らの前に展開していたデュエルフィールドが消滅した。 「あ~あ残念。まさかあの状況から負けるとは思わなかったな。」 俺だって風帝を引かなかったら負けだったさ。まあデュエルの勝負はこういう逆転劇があるからこそ楽しいんだ。 「私の負けね。キョン君、何か1つ私に命令していいよ。賭けだからね。」 朝倉は柔らかく微笑んで言った。谷口がAAランク+をつけただけのことはある。心から笑ってる朝倉は朝比奈さんやハルヒにも劣らないほど可愛いね。さて、朝倉に何か命令・・・か。まあ言うことは決まっているんだが、どう伝えるか。 「あなたの思うことを言えばいい。私も賛同する。」 長門がそういってくれると心強いな。よし、なら言うぞ・・・ 「朝倉、命令だ。俺とまたデュエルしてくれ。」 朝倉はキョトンとして首をかしげた後、言った。 「今日はもう無理だけど、長門さんに頼んで情報封鎖空間をつくってもらえば私はいつでも・・・・」 そうじゃない。俺はこんな妙な空間でお前とデュエルしたいわけじゃないんだ。お前がまた北高に戻り、俺たちと一緒に普通の生活をしてほしい。ハルヒが世界改変を行ったとき、俺はみんなに会いたいと思った。そのみんなの中に、朝倉、お前も入ってたのさ。まあ教室でやるわけにもいかないだろうが、SOS団の部室に来ればいつでもできるさ。ハルヒには俺と長門から言っておけばなんとかなる。もしかしたらお前をSOS団に勧誘するかもしれない。これが俺の命令だが、どうだ?朝倉。 「私はそうしたいんだけど・・・統合思念体は・・・」 「今許可が下りた。一両日中に以前使用していたインターフェースを用意するとのこと。ただし能力は非常時を除いて制限される。」 決まりだな。長門、北高に転入してくるときはお前のクラスにしとけよ。 「なぜ?」 長門は黒曜石のような目でこっちを見てきた。何故かって?お前もSOS団にいる時だけじゃなく、クラスにも友達がいたほうがいいだろ? 「・・・・そう。」 長門は僅かにうなずいた。俺の目の錯覚じゃなければ、少し嬉しそうにみえた。 「この空間はあと33秒で崩壊する。」 長門は視線を朝倉へと移すと、淡々と告げた。周りを見ると、よくわからん幾何学模様が渦巻いてた空間が、徐々にいつもの公園の風景になっていく。 「今日はいろいろありがとう。キョン君、長門さん。私は楽しかった。」 見ると朝倉も徐々に光の砂になって消えていた。もう上半身しかない。 「じゃあね。それと・・・・・また明日。」 消える直前に朝倉は微笑み、消滅した。同時に空間も消えて、いつもの公園とベンチがそこにあった。 「・・・あなたのおかげ、感謝する。」 長門はそれだけ言うと、俺に背をむけて歩き出した。感謝するのはこっちの方だぜ、長門。お前が会わせてくれなかったら、朝倉は戻って来なかった。それにな、気を許せる同姓の友達ってのはどんなやつにもいた方がいいんだ。改変世界での朝倉は、お前のことをいろいろと気づかってた。最後に俺を殺そうとしたのも、長門を守る為だったんだろう。今となってはそう思う。 「パーミッションか・・・。やれやれ、明日も部室は決闘祭りだな。」 そう呟いて、俺は自転車にまたがって帰路へついた。 END