約 3,071,703 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5645.html
翌、土曜日。 ハルヒの一存で決定された市内パトロールに意気込んで、というわけではなく、早く会っておきたいやつがいるために俺は早く家を出た。今日ばかりは妹の必殺布団はぎもなしである。一人で起きた朝ってのは爽快感に満ちあふれているもんなんだろうが、俺の心は昨日のホームルーム前から陰鬱にまみれている。 ママチャリをこぎこぎ、駅前の有料駐輪場に自転車を止めてから俺が集合場所に到着するまでには十分とかからなかった。時計は八時三十分を指している。 あたりを見回してみたが団員は誰も見あたらなかった。この時間帯に来れば俺が奢るはめにもならなさそうだが、ハルヒのことだ、屁理屈をねじ曲げて理屈にした上で俺のサイフから金を徴収するに違いない。それに、どうせ今日は俺の奢りが確定しているのだ。木曜日に宣告された。五人分、いや四人分だっけ。 「やあ、おはようございます」 俺がサイフの中身を確認していると声をかけられた。 ハッとして振り向いた。 見飽きたような微笑がある。昨日閉鎖空間で青カビ野郎とバトルしていたとは思えないほどの颯爽さをまとうそいつは、見間違いようもなく古泉一樹だった。 俺は何を言ってやろうかとしばし思い悩んでから、 「姿を見れて安心した。とりあえず、そう言っとく」 「そうですか。そう言ってくれると嬉しいですよ。僕がいることであなたが安息を感じるのだったら、僕も努力のしがいがあるというものです」 何やら思惑のありそうな笑みをたたえている。誤解しているようだったら俺は即座に今の発言を取り消すぜ。 「いいじゃないですか。人間誰しも、他人に必要とされるのは嬉しいものなんですよ。僕が思うに、本質的に孤独が好きな人間というのはこの世にはいないと思いますね」 「そういう話は佐々木とやってくれ。そんなことを言われても、俺には何とも答えようがないぜ」 古泉は苦笑して申し訳ありませんと謝罪すると、ではと言ってあさっての方向を指さした。指先からレーザーでも出ているのか? 「違いますよ。僕は平常の状態ではそんな力は持っていませんからね。僕が指さしているのは喫茶店です。長門さんが消えたことについて、僕が知っているだけをお話しようかと思いまして。立ち話も何ですからね」 * 提案通りに喫茶店に入って腰を落ち着けたところで、ハルヒは朝比奈さんと一緒に来る、と古泉は言った。 「涼宮さんがいつもの調子だと、あと十分と経たずに到着してしまいますから。申し訳ないですが朝比奈さんに足止めをお願いしました。時間稼ぎしてください、とね」 ムチャな話だ。朝比奈さんにハルヒの足止めを頼んだところで三秒ほど遅らせられるかも微妙なところだが、そこの無用なツッコミは控えておく。 「本題に入ってくれ。なぜ長門がいないんだ。冬の時みたいに世界改変があったのか?」 「いいえ」 古泉は俺の説をあっさり否定した。 「と、僕は思っているんですがね。せっかくですから段階を踏んで考えてみましょうか。たとえば、今の状況とあの時の状況を比較してみればそういう答えにたどり着けます。思い出して下さい、冬に長門さんの世界改変があったとき、その世界は元の世界と何が違いましたか?」 古泉の問いに、俺は記憶を探った。つい半年前のことがかなり昔のことに感じられる。 「そんなもんは簡単だ。まず、俺の後ろの席にハルヒじゃなくてカナダに行ったはずの朝倉がいた。そしてハルヒはお前と一緒に光陽園学院にいて、長門や朝比奈さんは何も知らない眼鏡っ娘と上級生だった。SOS団がなくて、SOS団の部室はただの文芸部室で……」 「いえ、そんなところはいいんですよ。僕が言いたいのは、あの世界の涼宮さんや長門さん、朝比奈さん、僕に不思議な力があったかどうかというところなんです」 断言してやる。なかった。 「そうでしょう?」 古泉はウーロン茶の入ったコップをカチャカチャと音を立てて振りながら、 「では今の状態と比較してみましょうか。現在、少なくとも僕や朝比奈さんには超能力者や未来人といったプロフィールが失われていません。冬に世界改変が起こったときにSOS団の団員からそういう力がなくなったことを思えば、僕たちの力がまったく何も変わっていない状態は世界改変だとは考えにくいですよ」 そんな強引な。 疑わしそうな顔をする俺に、古泉は続けた。 「もう少し推理ゲームを続けてみましょう。今度は別の観点からです。あなたは昨日ずいぶんと学校を探索なさったようですが、その時違っていたものは何でしたか? 長門さんがいたときと、いないときで違っていたものです」 「長門の机と椅子、長門の本、長門の七夕の短冊とか、そんなところだな。全部なかった」 「他には?」 「特にない。ああ、マンションの長門の部屋が空き部屋になってたか」 俺の返答を聞いて、古泉はわざとらしく笑った。 「ものすごく単純明快ですね。もうお解りになっていると思いますが、変わっているのは長門さんに関するものだけなんですよ。いえ、正確に言うのならば、地球上に存在するTFEI端末に関するものだけ、ですね。考えてみて下さい、長門さんや喜緑さんのもの以外のものは何一つとして変わってなかったのではありませんか?」 その通りである。長門に関わる記憶と長門の所有物をのぞいて、木曜日と金曜日で変わっているものは何もない。偶然にしてはできすぎだというのは俺も思っていた。 今言ったことをふまえれば、と古泉がまとめをするように述べた。 「つまり、これは世界改変で世界ごと変わってしまったのではなく、むしろ正しい世界からTFEI端末だけがきれいさっぱり消え失せてしまったというほうが考えやすいですね。それ以外のものは以前と変わっていないのは不自然ですから。ようするに、TFEI端末なんてのはこの世界に最初から存在しなかったんですよ。だから誰も長門さんのことを知らない。そういう理屈です」 俺は大きく息を吸った。そして吐いた。 世界改変ではなく、長門たちだけがこの世界から消失したのだ。長門が最初から世界にいないのだから、それに関する記憶もそれに関する物も一切ない、と。 そんなバカなと思う一方で、俺は納得していた。 古泉の言うとおりである。変わっているのは長門に関するものだけで、他におかしなところはない。まるで長門有希という存在や喜緑江美里という存在が最初からなかったかのように扱われているのが現在の状況だ。それは世界改変が起こって長門たちがいなくなったのではなく、もっと単純に、長門や他のインターフェースが何かの事情で元の世界から消えてしまったということなのではないか。筋が通った理屈ではあるが、これでは何の解決にもなっていないぜ。 何らかの事情ってのは、何なんだ。誰かが意図して長門たちを消し去ったのか。だとしたら、それは誰なんだ。いや、誰かという部分でなら大方見当はついているのだが。 「ほう、もう見当がついているんですか? 奇遇ですね、実は僕もだいたいこれではないかという予測なら立っているんですよ。そしてもっと奇遇なことに、おそらく僕が思っている人物とあなたが思っている人物は同じです。当てて見せましょう、それは周防九曜です。違いますか?」 違わん。しかし、かといって俺は驚かなかった。奴の他に心当たりなどない。 「そうですね。長門さんのようなインターフェースたちを一気に片づけることのできる存在など、他にはありえません。それに彼女たちは前々から敵対していたため、いつ侵攻が再開されてもおかしくはありませんしね。ところが、ここで疑問が浮上してきますよ。そうですね、三つですか」 古泉は顔の前で手を組んで、おもむろに言った。 「一つ目は、なぜ長門さんたちがそのような圧力に簡単にやられてしまったかということです。長門さんたちのことですから、完全敗北などというのはまずありえません。それなのに情報統合思念体製のインターフェースはほとんど何の痕跡もなく一夜にして姿を消している。それはなぜかということです。 そして二つ目の疑問ですね。それは、存在を消去するなどということが本当に周防九曜にできるかどうかということです。長門さんたちのような強大な存在を元からいなかったことにするわけですから、これは相当の情報改変能力を持っていないと不可能ですね。 さらに三つ目ですが、これはちょっと種類の違う問題です。それは、なぜ僕たちだけが普通の人間とは違う記憶を持っているのかということです。普通の人間は消えてしまったインターフェースについての記憶を持っていないらしいですが、なぜか僕たちは持っている。長門さんが世界に存在していたことを知っている。どうしてでしょうね」 「いや、一つ目の謎なら解ったぜ」 俺は思わずにやけた。そうか、そういうことだったのか。 なぜ長門たちが九曜相手にそんな簡単にやられちまったのか。聞いた瞬間ピンときたね。 まず古泉の考え方が間違っているのだ。九曜は長門を相手に真っ向勝負などしていない。真っ向勝負なら長門だって互角か、勢力的にはそれ以上だ。それでも長門や他のインターフェースは抵抗できずに消されちまった。なぜか。 部室で聞いた長門の言葉が蘇る。 ――天蓋領域が、彼らのインターフェースを地球上から退去させた。 ――天蓋領域の持つ力は情報統合思念体とほぼ互角だと判明している。退去の理由をはっきりさせないまま放っておくわけにはいかない。今、情報統合思念体が総力を挙げて天蓋領域の位置特定をしているところ。 そういうことだったのだ。やはり俺の勘は正しかった。長門は簡単にやられちまったんじゃない。敵がどこにいるか解らなくて防御できなかったのだ。九曜が行方をくらましたのもそのためだろう。自分の攻撃を見切られないために、長門たちの死角に回ったのだ。そして不意打ちのごとく奇襲を仕掛け、見事インターフェースたちの存在を消すことに成功した。 そんなところだな。 俺が話してやると、古泉は感嘆したように唸った。 「なるほど。不意打ちですか。確かに充分ありえます。まったく、考える役まで取られたら僕はどうしたらいいんでしょうかね」 「取る気はねえよ。それに俺にも二つ目と三つ目は解らん」 なんで俺らだけが正しい記憶を持っているのかとか、存在を消去するなんて芸当が九曜にできるのか。まず二つ目、存在を消去するということが九曜にできるかだな。 しかし、さすがに手がかりなしで解る問題ではない。できないんじゃねえか? 勘だけどさ。 「同感です」 意外にも古泉が乗ってきた。若干真面目っぽい口調で、 「たとえ話をしますが、朝倉涼子が長門さんと戦って敗れたときがあったでしょう。事実上はカナダに転校したことになっていますね」 その話はあまり思い出したくないのだが。朝倉と聞いただけで鳥肌が立つ。 「申し訳ありません。少しですから辛抱して下さい。ここで浮上する問題は、なぜ朝倉涼子はカナダに転校したなどと、事実をねじまげてややこしいことにしているのかです。もし長門さんが個体の存在を消す能力を持っているのだとしたら、朝倉涼子という存在を消して、そういう人間は最初からいなかったことにすればいいのです。そのほうが安全で、より確実ですしね。周りの人間の記憶にも、最初からいなかったわけですから、朝倉涼子に関することは何も残らないわけです。ちょうど今回の長門さんのようにね。しかしあの時の長門さんがそれをしなかったということは、つまり存在自体を消してしまうのは不可能だったんですよ。だから仕方なく、カナダに転校したということにしてすませたんです。無論、長門さんにできないことが周防九曜にもできないという保証はありませんが、彼女が長門さんと同程度の力を持っていることを考えればできない可能性のほうが高いですよ。どうです、解りましたか?」 …………。 ああ、まあ解ったと言えばそうなのだが、否定するだけ徹底的に否定されてもな。九曜には長門たちの存在を消せないだろうというのは理解したが、じゃあ現に長門が消えてるこの状況は何なんだよ。実は長門はどっかに隠れてるとか、そういうオチか? 「いえ、それはありません。我々の組織が世界中をくまなく調査しました。ですから長門有希という存在が消えていることは事実です。長門さんの消失に直接的または間接的に周防九曜が関わっているということも事実でしょう。しかしそれ以上は解りかねますね。それ以上を推理しようとすると、それはただの予測になってしまいます。何かヒントのようなものでもあればいいのですが……」 古泉がウーロン茶のグラスをかたむけながら俺に流し目を送ってくる。何だよその目は。 「あなたが何かヒントのようなものでも握っているのではないかと思いまして」 何だこいつ、さては知ってるんじゃないのか? 俺はせめて聞こえよがしにため息を吐いてポケットに手をつっこんだ。どうせこいつに見せるために持ってきたのだ。あるだろうと言われてあえて隠すほど俺は幼稚じゃないからな。 「ほらよ」 俺は古泉に例のコピーを手渡した。喜緑さんが書いたと思しき文書である。 古泉はにやりと笑ってコピーに目を通し、俺に出所と作者を言わせた。そのまま教えてやると、古泉は興味深そうな顔をしてあごに手を当てていたが、 「少々お借りするわけにはいきませんかね」 と言い出した。いいぜ。しかしそのパスワードは部室のパソコンのものじゃないみたいだ。起動させたところでロックがかかってるパソコンは一つもなかった。 「了解しました。鋭意努力させていただきますよ。場合によっては、二つ目の謎――周防九曜に存在抹消能力があるか――も解けるかもしれません。僕にはあなたのように涼宮さんをどうにかできる力はありませんから、僕は僕のできることをするまでです」 古泉は宝物を扱うような手つきでコピーをポケットにしまい、 「では、三つ目の謎に移りましょうか」 ふむ。 古泉が提示した三つの謎のうち最後の謎。 なぜ俺や朝比奈さんや古泉だけが、谷口や国木田とは違う記憶を持っているのか。つまり、なぜ俺たちだけが長門有希という人物が存在したことを知っているのか。 そういえば十二月に長門の世界改変があったときも俺だけが正しい記憶を持っていた。しかしあれは違う世界に俺が一人放置されたからであり、今回はどうも世界が違うわけではないらしい。元の正しい世界で条件は一般人と同じはずなのに、なぜか俺たちだけがいないはずの長門の記憶を持っている。 「いくつかの仮説が立てられますね」 古泉は言い、 「一つ目は僕たちが長門さんの近くにいたからという仮説です。長門有希という存在が消されるにともなって他の人間の記憶から長門有希という存在は抹消されたわけですが、長門さんに関する記憶をたくさん持っていた僕たちは、記憶が完全に抹消されずに痕跡が残っているという仮説です」 「それはダメだな。俺と同じくらい長門の記憶を持ってるハルヒは長門のことを完全に忘れちまってるみたいだ。昨日いろいろ話してみたが、ちっとも思い出さなかった。それに後半部分も否定させてもらうが、俺の長門に関する記憶はこれっぽっちも破損してない。痕跡なんかじゃなくてしっかり残ってるんだ」 だから世界のほうが変わっちまったんじゃないかと勘違いしたのだ。木曜日から金曜日になった時点で、俺の記憶は昨日とこれっぽっちも変わっていない。 「ううむ、では二つ目です。次の仮説は、この状態を創り出した人物が何らかの理由で僕たちの記憶だけを操作したのではないかということです。つまり長門さんを消した後に僕たちに長門さんの記憶を埋め込んだという仮説ですね。これは少し現実味があって、たとえばこういう状況下で僕たちはどういった行動を取るかなどというデータを採取するためとかいう理由も考えられます」 確かにそれはありえるかもしれん。どうせあの地球外生命体のことだから、俺たちのことは実験用モルモット程度にしか考えてないに違いない。いつか窮鼠になったとき噛んでやりたいものだが。 「あるいは」 と、古泉は重々しい表情で最後の仮説を口にした。 「これから僕たちの身に何かが起こるという可能性です。最初は僕や朝比奈さんのような能力者たちも統合思念体のインターフェースと一緒に消すつもりだったのが、何らかの事情で失敗してしまった。結果、僕たちは長門さんの記憶を持ったままこの世界にとどまることになった。しかし推理小説で真相を知ってしまった人物が殺されるように、僕たちもまた消されるのを待つ身なのかもしれません」 俺が何か言い返してやろうと模索しているとき、 「こらあーっ!」 耳が痛い黄色い叫び声が大音響でした。 同時刻に居合わせた店の客が何事かとそちらを振り返る。 ああ……。古泉が渋い顔になるのが解ったね。 客の視線を受け止めながらも傲然とこちらに向かって歩いてくるその女、周りの人間はその叫び声が自分に向けられたものでないと解ってさぞかし安堵したことだろう。ただしその中に必ず一人はどんよりしなければならない人間がいるわけで、それが俺と古泉であるのは言うまでもない。 Tシャツとデニム姿で憤然とした顔をしてこっちに歩いてくる女の横には、ワンピースにカーディガンを羽織って顔を赤らめる朝比奈さんの姿を見て取ることができる。俺を見つけると、ゴメンナサイと手を合わせた。 その朝比奈さんを従えるようにして、見物客の興味深そうな視線と下心ある視線を受け止めるそいつは、我がSOS団の団長に他ならないのだった。 * 「何でここにいたのよ」 周りの視線が痛くて非常に居心地が悪いためできれば場所を変えたいのだが、ハルヒがそんなことを聞き入れてくれるわけがなく、俺はただただ平身低頭するのみだった。 どうやら俺の予想通り、朝比奈さんのハルヒ引き留め作戦はまったく長持ちしなかったらしい。それでも時計を見ればもう九時五分なのだから、朝比奈さんにしては無理な敵相手に充分健闘したほうだろうね。 「いや、九時よりも三十分も前に来ちまったんでな。この暑い中で立ってるのも嫌だったから、一緒にいた古泉と涼ませてもらうことにしたんだ。悪かった」 当然ハルヒがそれだけで収まるわけもなく、目を三角形に吊り上げて、 「あたしたちはこの暑い中を五分も待たされてたのよ! ねえ、みくるちゃん?」 「え、ええと……あの、その……」 朝比奈さんはどうしていいか解らないらしい。いやいや俺なら構いませんよ。 「申し訳ありませんでした。副団長として失格ですね」 一方で、白々しいにも程がある言葉を平気で吐いているのは古泉であり、それにハルヒが納得顔でうんうんうなずいているのもなんかむかつく。 「古泉くんはいいのよ。働き者だし、SOS団の発展に大いに貢献してくれてるもんね。一回くらいのミスなら充分許せる範囲よ。けどキョン、あんたは一番古参のくせにいまだに平団員なの。恥ずかしくないの? もっと気を引き締めなさい」 誰に恥ずべきものか。むしろこの珍妙な団体に所属していること自体を恥じるべきなのではないかと思いながら、 「だからすまなかった。謝る。悪かった」 「口だけの謝罪なら受け取らないわ。そんな行動を伴わない謝り方じゃ全然ダメよ」 では他にどうしようがあるかと思い悩む俺にハルヒが言った。 「代償は今日のお昼ですませてあげるわ。今日のお昼、キョンの奢りだから!」 * 私服にエプロン姿の店員がアイスミルクティーを運んできてハルヒの前に置いた。他の二人は俺のサイフを気遣ってか何も注文していないのに。ハルヒ、空気を読め。 「じゃあクジ引きね。いつもみたいに二人と二人のペアで」 ハルヒはストローに口をつけると遠慮知らずに半分ほど一気飲みし、テーブルの容器から楊枝を四本取り出した。ささっと印をつけると俺たちの手元に楊枝をやり、古泉、朝比奈さん、俺の順番で楊枝を引く。最後に残った楊枝はハルヒが持った。楊枝は四本。これだけ。 瞬間、俺は目眩を感じた。 ああくそ、何だこの違和感は。 いや理由なら解っているのだ。 俺の対面にいるはずの誰かがいない。印入りの楊枝を珍しいものでも見るような目でじっと見つめている読書少女が。希薄のようで強い存在感を誇る長門が。まるで、ぽっかりと空いた底なし穴のようだ。決定的に違うのに誰も指摘せず、自分も指摘してはいけないというこのもどかしさ。長門の分を忘れるんじゃねえと叫んでやりたいのに。 「ふうーん。この組み合わせね」 ハルヒの一声で我に返った。 自分の手元にある楊枝を見ると、赤印入りだった。朝比奈さんを見ると無印の楊枝を握っていて、古泉を見ても営業スマイルを崩さないまま無印の楊枝を握っている。四人だから、ということは。 「あんたはあたしとねえ」 ハルヒが楊枝と俺を見比べて不気味に笑っている。 うむ、俺はとことん運に見放されたようだ。いや別に俺がハルヒと一緒だからとかいう意味ではなく、古泉と朝比奈さんが一緒だからという意味でだ。一応釈明しておくが。 「都合がいいじゃないですか」 隣に座っていた古泉が耳打ちしてきた。顔が近い。 「大丈夫ですよ。あのメッセージについては僕と朝比奈さんでよく検討してみます。あなたはどうぞ、涼宮さんとゆっくりなさっててください」 「よく言うぜ。俺がハルヒといてゆっくりできた経験なんて数えるほどしかねえよ」 「数えるだけあれば充分ですよ。僕からすれば、そんな涼宮さんはえらく貴重ですからね。あなたにとってどうなのかは知りませんが」 俺にとっても何も、ハルヒはいつもああなんだろ。傍若無人とか猪突猛進とか、そういう感じの四字熟語で簡単に表現できる。 「さあ。あなたなら彼女の本質を見抜けているものだとばかり思っていたのですがね」 古泉は音もなく笑い、俺はハルヒに目をやった。朝比奈さんに意味もなく抱きついてひいひい言わせている。何が本質だ。 「じゃ、みんなそういうことでいいわね。みくるちゃんも、いい?」 「え? あ、はい」 朝比奈さんはハルヒに無理やりうなずかされ、古泉はイエスマンで、俺にはもともと反対票を投じる権利がなく、よって俺は午前中の間ハルヒと街をぶらぶらする権利もとい義務を負ったのだった。ハルヒは残っていたアイスティーをきれいに飲み干して、 「そうとなったら出発ね! さあみんな、じゃんじゃん不思議を見つけてきなさい!」 俺はそんなハルヒの声をバックに聞きながら、誰も手に取る気配がない伝票へひっそりと手を伸ばした。 * 俺が会計を終えて喫茶店を出たところで朝比奈古泉ペアと別れた。 「まずは服ね」 よくよく考えてみれば、ハルヒと不思議探索を行うのはけっこう稀なことである。ハルヒのチートパワーが無意識のうちに働いているのか、まあ二月頃に八日後から朝比奈さんが来たときには俺のほうから長門に頼み込んでイカサマをやってもらったときもあったわけだが、それにしてもハルヒと二人で市内ぶらぶら歩きを共にしたのは、以外と団員の中で一番少ないかもしれない。 故に俺はハルヒが普段どのような不思議探しっぷりをするのか知らない。当の団長様である。マンホールの中に侵入してUFOの破片を探せとか人気のない神社の裏側で幽霊とツーショットを撮れとか言うのだろうか、とりあえずメジャー運動部並の肉体労働程度は強いられるものだと思っていたが、意外なことにハルヒが俺の手を引いて真っ先に向かったのは駅の近くにある総合デパートだった。 食品、衣料品がメインの大型デパートである。俺が団活動外でもたまに足を運ぶほどの超一般的な場所ということに加えて、この街でもトップ争いに加わるほどメジャーな場所である。いったいここに何があるというのか。 「服よ」 ハルヒは言ってのけ、他の物には目もくれずにエスカレーターで衣料品売場に上がっていった。俺もハルヒの大股に置いて行かれまいとしてエスカレーターに足を乗せる。 到着した先は確かに衣料品売場であった。夏が近いからか、目一杯に広がった店内には水着の類の姿も見受けられる。どうせ俺には縁のないシロモノだな。朝比奈さんか長門あたりに着せてみたい水着ならいくつかあるが。 「おいハルヒ、こんなところに不思議があるのか?」 「あるわよ」 ハルヒは自信満々に答えた。 「最初は裏路地とかマンホールの中とか探してたんだけどね、でもおかしいくらいに何も出てこなかったのよ」 当然である。 「それで閃いたわけ。不思議のほうも、最近はあたしみたいな不思議探索者に見つかるまいとして、あえてマイナーな場所じゃなくてメジャーな場所に来てるんじゃないかってね。だって、見るからに怪しそうなところにいなかったんだもん。消去法的にメジャーなこういうところにいることになるのよ」 「それだったら、不思議は普通の買い物客にも見つけられちまうんじゃないのか?」 「普通の買い物客の目は所詮一般人並よ。あたしみたいな熟練した目を持ってないと不思議なんか見つかりっこないわ」 都合のいいハルヒ的理屈である。マイナーなところにもメジャーなところにもオトモのように従わせてハルヒが身をくっつけている長門や朝比奈さん、古泉が実は不思議の塊だったと気づくのはいつだろうね。 「じゃ、こっからは別行動で。みくるちゃんとかの新しい水着も見ておきたいしね」 と言い残し、ハルヒはさっさとどこかへ消えてしまった。 あいつは何だろう、こんなところで本気で不思議が見つかるものと思っているのだろうか。 いや思ってるはずがないね。目的が服の物色であることは明らかだ。 だったらなぜ不思議探しをするなどと言って休日に俺たちを集めるのか理解できないが、まあそれでいいんだろうよ。そうでなけりゃこんなSOS団とかいうハルヒが探す不思議以上に謎な団体があるわけないし、ありもしない幻想を追い求めるのが涼宮ハルヒという女の定義だからな。いまさら朝比奈さんや古泉の肩書きが一般高校生に戻されても俺を含む全員が困惑するだけだろうし、そう考えると現状維持ってのは大切なものだと思えてくる。何の不可抗力だろうと、長門だろうが朝比奈さんだろうが、たとえ古泉だとしても、団員の誰かが突然いなくなるなんて事態になってもらっちゃ困るんだよ。誰だってそう思うだろ? * 結局さっきの衣料品売場ではボロ雑巾製造器(シャミセンのことだ)に引き裂かれたGジャンの代用品になりそうなものは見つからず、その代わり去年の夏だったか長門が恐ろしく貴重なことに私服だったときのクロスチェックのノースリーブを売っているのを見つけた。だからどうしたという話だが、俺はそこに合わせて長門の小柄な姿がそこにあるような錯覚を受けて、いやもうこれは本当にヤバイのかもしれん。精神疲労が溜まりすぎて視覚情報がぶっ飛んじまってるのだろうか。 ところで、ハルヒは終始まともな女子高生を演じ続けた。話の内容がアレだったことは否めないわけだがデートしてますよと言われればそう見えなくもない状態であり、ついでに俺にはそんな意識などノミほどもなかったことを付け加えておく。 まあ楽しかったさ。 メガネ少年を助けたときに朝比奈さんと食った地下食品売場の団子もハルヒと一緒に食べたりした。不思議探しと名付けられた暇つぶしだ。 「あら、もう時間ね」 他の店を見たりして適当にぶらぶらしているうち二時間はあっという間に過ぎ、ハルヒのその一声で俺たちはデパートの自動ドアをくぐった。 ちょっと意外だった。ハルヒもけっこう常識人並の時間の使い方を知っているものだ、と。 * デパートから出ると俺はハルヒに無意味なダッシュを強要され、それに加えて夏の日差しのが容赦なく照りつけるために駅前に着く頃には全身汗まみれになっていた。そんな状態の俺を出迎えたのはスマイルの古泉と、それに伴われて買い物袋を提げている朝比奈天使である。古泉、てめえ朝比奈さんに寄り添うんじゃねえ。 「何か不思議なものは見つかった?」 訊くハルヒに古泉は苦い顔になって、 「いえ、何も見つかりませんでした。申し訳ありません」 「あっそう」 ハルヒはずいぶんとどうでもよさそうに反応する。 「ま、やってりゃそのうち何かが出てくるわよ。今まで一年やっても出てこなかったんだから持久戦になるかもしれないけど、絶対に諦めちゃダメよ。みくるちゃんも、お茶ばっか買ってるんじゃなくてしっかり不思議を探しなさい」 「え、あ、はい」 いきなり話を振られて動揺する朝比奈さんである。その顔がいつもより若干疲れているように見えるが、それは古泉と一緒だったからという理由ではなく、未来と接続を絶たれたからなんだろうね。俺がどうあがいたところで、朝比奈さんの故郷はあっちらしいからな。 「じゃ、お昼ご飯にしましょ」 ハルヒの一声で、SOS団の面々は駅前からファーストフードへと居場所を移すことになった。俺の財産を慮ってくれたのか知らないが、安上がりの店で助かった。 昼飯を食べている途中、ハルヒは楊枝を取り出してまたチーム分けしようと言い出した。 「また二人二人のペアでいいわよね」 ナポリタンスパゲティをズズズと口に収めると、ハルヒは朝と同じように二本の楊枝に赤印をつけ、俺たちの手元に持ってくる。 「おお」 俺の引いた楊枝には赤印が入っている。そしてどうだろう、向かいに座っている朝比奈さんがぽわっとした感じで見つめているその楊枝にもしっかりと赤印が入っているではないか。当然、残りのハルヒと古泉は無印である。 何ということだ、どこぞの神様が不運の果てに漂着した俺を見かねたのだろうか。 俺が思わずにやけでもしていたのだろうか、ハルヒは朝比奈さんと俺を見比べてペリカンのような口をした。 「ふうん、あんたはみくるちゃんとね。強運なことねえ」 ハルヒは目を細めて俺を見ると、伝票を俺に叩きつけて席を立った。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3115.html
事件が起きたのは、高校3年生の春だった。 SOS団に引きずりこまれて約2年が経過し、もうすっかり身体のリズムがSOS団に順応してしまった。 そして俺は、1つの決心をした。ハルヒに告白をすることを。 なあなあで来た俺達の関係を、1つの形にしようと思い立ったってわけさ。 部活終了後、俺は他の3人を先に帰らせてハルヒと二人きりになった。 「なによあたしだけ残して。言っておくけど、くだらない用事だったら死刑だからね。」 「ハルヒ……俺と付き合ってくれ。」 「……え!?」 「お前が、好きなんだ。」 「……このバカキョン!!言うのが遅いのよ!あたしだってアンタのこと好きだったんだからっ!」 と、まあこうして俺とハルヒはめでたく付き合うことになったわけだが、 翌日、部室でとんでもない事実を告げられた。 「よう。ハルヒは掃除当番で遅れるんだとさ。」 「あなたに伝えたいことがある。」 いきなりなんだ。またハルヒ絡みか? 「そう。……涼宮ハルヒの能力が、完全に消失した。」 「な、なんだって!?」 いきなりだなオイ!そんなに突然消えるもんなのか!? 「いきなりでは無い。徐々に減少傾向にあった。おそらく昨日の出来事がトリガーになったと思われる。」 ああ、昨日の……って、確かまだみんなには話して無かったと思うが? 「終わった後二人で残ったことを考えれば、想像はつきますよぉ。 ようやく、って感じでしたもん♪」 なるほどね。朝比奈さんですら予想できていたならば、長門や古泉にとっちゃ確信的なものだったんだろう。 ん?そういや、さっきから静かなヤツが一人いるな。 今までの言動を考えたら、こういう時こそ多弁になる男のはずだが。 「古泉、やけに静かだな。悪いもんでも食ったのか?」 「いえ……そういうわけではありませんよ。」 と言って古泉は笑顔を作る。だがその笑顔は、いつもより30%減って感じだ。 「よくわからんが、お前もようやく閉鎖空間から解放されたんだろ?もっと喜べばいいんじゃないか?」 「ええ……そうですね。あの……」 古泉が何かを切り出そうとしたその時 「やっほー!!遅れてごっめーん!!」 けたましくハルヒが入ってきた!相変わらずのテンションだな。 能力を失ってもハルヒはハルヒだ。俺はそんなハルヒを好きになったんだからな。 「あ、そうそう。あたしキョンと付き合うことになったから!」 まるでいつも通りイベントを持ってきた時のように軽く発表した。 おいおい、もっとムード的なものが……まあバレバレだったんだけどさ。 「おめでとうございますぅ!お似合いだと思いますよぉ!」 全力で祝福してくれる朝比奈さん。 あなたに祝福されれば嬉しさ120%というものですよ。 「……おめでとう。」 淡々とつぶやくように祝福してくれる長門。まあここまではいつものテンションだ。だが…… 「おめでとうございます。心から祝福させて頂きますよ。」 その古泉の笑顔は、やはりどこか陰りがあった。 散々俺達をくっつけようとしてたくせにどうにも元気が無い。 まさかハルヒのことが好きだったのか?……それは無いだろうな。 と、柄にも無く古泉の心配をしているうちに、部活は終了となった。 明日は土曜日。不思議探索は無い。 代わりにハルヒと二人きりで約束をしてある。つまりハルヒとの初デートの日ってことだ。 「エスコートはアンタに全部任せるわ!光栄に思いなさい! あたしを楽しませないと死刑だから!じゃあね!」 そしてハルヒと俺は別れた。まさか、これが生きたハルヒを見る最後の姿だと思いもせずに…… その夜。俺達は病院に集まっていた。 「なんで……なんでこんなことに……」 朝比奈さんは泣いている。長門もどことなく沈んだ雰囲気だし、古泉にも笑顔は無い。 そう、ハルヒは、死んでしまったのだ。 ハルヒは俺と別れた後、突然通り魔に襲われたらしい。 胸を刺されて、病院に運ばれたが既に息は無かったそうだ。 家でのんびりくつろいでた俺は、突然長門からの連絡を受け、病院までやってきたってわけだ。 「……ウソだよな。なんの冗談だよ。面白いジョークだよな。はははは……」 ほんと笑えてくるよ。くだらなすぎてな。タチの悪いドッキリだぜ。 「なあ?みんなもそう思うだろ?一緒に笑おうぜ?ははは……」 笑うヤツは、誰もいない。 「みんなも笑えよ……笑えよ!ほら!!」 「落ちついて。」 「落ちついてられるか!!こんな状況で!!ハルヒが死ぬわけないだろ!あの団長がよ!!」 「落ちついて!」 長門が珍しく声を荒げ、俺の肩をつかむ。 「……これは、事実。」 はは……マジかよ。 俺の笑いは、涙へと変わっていった。 「……お話があります。」 今まで黙っていた古泉が口を開いた。なんなんだ。今はお前なんかの話を聞く気分じゃねぇんだよ。 「彼女を殺した通り魔は恐らく機か……」 古泉が言い終わる前に、俺は古泉を殴っていた。 「キョン君!」 朝比奈さんが悲鳴をあげる。だが知ったことじゃない コイツは今何を言おうとした!?機関の人間がハルヒを殺しただと!? 俺は倒れた古泉に駆け寄り、二発目を当てようとする。 ……!!長門!離せ! 「お願い。落ちついて。」 「落ちついていられるか!ハルヒは機関に殺された!そうだろ!?」 「古泉一樹は悪くない!」 「いえ……僕が悪いんですよ、長門さん。」 古泉が起きあがった。 「通り魔は恐らく機関の人間です。知っての通り涼宮さんは閉鎖空間を作り、僕等がその処理にあたる。 僕はSOS団の団員であるということに誇りを持っていますから、彼女を恨んではいません。 しかし、そうでない人間も確実にいるのです。彼女を恨んでいる人間も…… それでも彼女には能力があり、手出しは禁じられていました。世界がどうなるかわかりませんからね。 でもその能力が消えたことで、彼女に手を出す人間が出ることは不思議じゃありません。」 古泉は長々と話す。だが弁明という感じでは無い。ひたすら自分を責めているような感じだ。 「その可能性に気付いていながらこのような結果になってしまったのは全て僕の責任です。 僕を責めるなり殴るなり好きにして貰って構いません。なんなら、殺しても……。」 「もういい。お前を責めたところでハルヒは戻っては来ないからな。」 そうだ。古泉を責めたところでしょうがないんだ。 重要なのは、俺はこれからどういう行動を起こすべきか。 「ハルヒを取り戻すには、自分で行動を起こすしかないんだ。」 「取り……戻す?」 朝比奈さんが尋ねる。だが今は、それに答えるわけにはいかない。 俺は1つの決意をした。したからにはもう、1分の時間も惜しいんだ。 「みんな、もう俺はSOS団には来ない。 あいつがいないSOS団なんて意味無いし、なによりやることが出来たんだ。 悪いけど、もう帰らせてもらう。」 そう言い残し俺は去った。そうだ、俺がやらなきゃいけないんだ……! ~~~15年後~~~ 俺はあの後ハルヒの通夜にも出ずに、ひたすら勉強を続けた。 寝る間も惜しんでの受験勉強により、赤点スレスレから校内トップクラスにまで成績を押し上げた。 そして国内でも1,2を争う大学に入学。そのまま大学院に進み、異例の若さで教授にまでなった。 俺は今コンピュータサイエンスを専門としている。あの時からこの分野だと決めていたからな。 そしてつい先日、ようやく俺は研究を完成させたのだ。 さて、そんな中街を歩いていると、懐かしい人物に出会った。 「お前……古泉じゃないか?」 「あなたは……。お久しぶりです。」 「元気でやってるか?」 「ええ、それなりにやらせて頂いてます。あなたの方は凄い活躍ですね。 コンピュータサイエンスの権威として名前を聞きますよ。」 「そうかい。……あっ、もうこんな時間じゃないか。悪いけどここで失礼するよ。」 「お急ぎなのですか?」 「ああ。」 俺は古泉に喫茶店の金を渡して、こう言った。 「ハルヒが待ってるんだ。」 「え?」 古泉が素っ頓狂な声をあげる。 「今、なんと?」 「だから、家でハルヒが待ってるんだよ。遅れるとうるさいんだ。アイツは。じゃあな。」 呆然と立ち尽くす古泉を尻目に、俺は家へと急いだ。 「ただいま!」 俺は家のドアを開ける。やべぇな。遅れちまった。 『遅い!!罰金よ罰金!!』 やれやれ、予想通りのセリフだな。意味は無いと思うが一応弁明しておくか。 「いやさっき古泉と会ってな。つい話し込んでしまって遅くなった。」 『古泉くん?懐かしいわね。あたしも会いたいわ。……でもそれとこれとは話は別よ!』 「へいへい」 相変わらずあの時と変わらないな。 そうだ、「変わらない」のさ。研究室となった部屋にある、一台の大きなパソコン。 そのディスプレイ一杯に映し出されるのは、高校の時そのままのハルヒの姿。 そして左右に設置されたスピーカーからは、高校の時そのままのハルヒの声。 そう、これが俺の十年以上の研究の成果。 コンピュータ人格プログラム『涼宮ハルヒ』だ。 続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1038.html
「おかえりなさいませ、ご主人様」 夕焼けで学校が赤く染まる頃、学校にようやくたどり着いた俺を待っていたのは、変態野郎からの気色悪い発言だった。 あまりの不気味さに、俺はその言葉を発した古泉に銃を向けたぐらいだ。 古泉は困った顔を浮かべて両手をあげて、 「失礼しました。いろいろつらい目にあったようですから、癒しを提供して差し上げようかと思っただけです」 「癒されるどころか、殺意が生まれたぞ」 俺はあきれた口調で、銃をおろす。まあ、本気で撃つつもりもなかったけどな。どうせなら朝比奈さんを連れて……う。 あの後、俺たちは北山公園を南下して無人の光陽園学院に入ったが、敵に動きが悟られないように、 そのまま数時間そこで待機していた。もちろんハルヒには連絡を入れておいたが。 俺はしばらく学校内を見回していたが、古泉が勝手に解説を始める。 「北高の方はほとんど無傷ですね。敵歩兵の襲撃もありません。涼宮さんに作戦失敗を印象づけるには、 北山公園に僕らが入ったのと同時に学校を襲うのがもっとも効果的だと思いますが、 どうして敵はその手を使わなかったんでしょうか。僕が相手の立場なら必ずそのようにしますがね。 ま、大体察しはつきますが」 「しらねえし、今はそんなことを考える気分でもないな」 古泉を無視しつつ、俺は学校内を歩き回る。どこにいるんだ? ふと、俺の目に学校の隅に並べられている黒い物体が目に入った。見るのもいやになるその形状は、 明らかに死体袋だった。あの中に谷口も入れられているのだろうか。 「死者52名、負傷者13名。これが北山公園攻略作戦で出て犠牲です。 死者よりも負傷者が少ないという事態が、今の我々の力のなさの現われかもしれません」 やや声のトーンを起こした古泉が言う。俺の小隊も合計16人の命が失われた。 鶴屋さん小隊なんて生き残った方が少ないし、ハルヒや古泉の小隊の損害もかなりあるはずだ。 と、そこでスマイル野郎が重苦しくなった空気を変えるようにわざとらしくぽんと手を叩き、 「ああ、なるほど。涼宮さんを探しているのですね。それなら、前線基地に詰めていますから、学校にはいませんよ」 「なんだと?」 古泉に向けた俺の表情は、鏡がないんだから確認しようがないんだが、どうやら抗議めいたものだったらしい。 めずらしくあわてたように、 「いえいえ、僕はきちんと止めましたよ。いつもとは違い、かなり食い下がったつもりです。 涼宮さんと言い争い一歩手前までいくなんて初めてでしたからね。閉鎖空間が発生しないかヒヤヒヤものでした。 しかし、どうやってもあそこにいると言い張りまして。ああなったら、てこでも動かないことは あなたもよくご存じでしょう?」 しかし、何でまた前線基地にいるんだ? 敵の襲撃が予想されるのはわかるが、 総大将がいる必要もないだろうに。 「何となく予想がつきますけどね」 古泉はくくと苦笑し、 「涼宮さんはあなたの帰還を学校でただ待っているなんてしたくなかったんですよ。 ぼーっとしているといろいろ悪いことを考えたりしますからね。何かして気を紛らわせたかったんでしょう。 あとは……」 古泉がちらりと背後を見る。そこには朝比奈さんが相変わらずのナース姿でこちらに走ってきていた。 「鶴屋さんのことを直接言いたくなかったんではないでしょうか。これはあくまでも僕の推測ですけどね」 「キョンく~ん!」 息を切らせて走ってくる朝比奈さんに、俺は激しく逃げ出したい衝動に駆られた。こんな気分は初めてだ。 「よかった……無事だったんですね……!」 感激の涙を浮かべる朝比奈さんに、俺の心臓はきりきりと痛んでしまった。この後、確実に聞かれるんだ。 鶴屋さんのことについて。 「本当に心配したんですよぉ……。学校からはなにも見えなくて、どうなっているのか全然わかりませんでしたから」 「ええ、いろいろありましたが、無事に帰って来れてなによりです」 「あ、あと、鶴屋さんは?」 この言葉とともに、俺は心臓がつかみ出されたのではないかと言うぐらいの痛みが全身に走った。 だが、次に朝比奈さんが言った言葉は予想外のものだった。 「古泉くんから聞いたんですけど、鶴屋さん、足を怪我してどこかの民家に隠れているんですよね? あたしもう心配で心配で……」 俺ははっと古泉の方を振り返ると、ウインクで返してきた。この野郎、しっかりと朝比奈さんに事前に告げておいたのか。 変なところで気が利きやがる。でも助かった。そして、つらいことをいわせちまってすまねえ。 「鶴屋さんは無事ですよ。いつものまま元気です。ただ、ちょっと動くには厳しそうなんで、 ばかげたドンパチが収まるまで隠れていた方が良いと思います。幸い、隠れ家には食料もあるらしく、 3日間隠れるには十分だそうですよ」 「無線とかではなせないんですか? あたし、鶴屋さんの声が聞きたくて」 俺はぐっとうなりそうになったが、ぎりぎりで飲み込む。 「えーあー、無線ですか、あー無線なんですけど、なにぶん学校から離れたところにいる関係で、 あまり連絡できないんですよ。敵に――そう敵に傍受されて発信源を突き止められたらまずいですからね」 「そうなんですか……」 がっくりと肩を落とす朝比奈さん。すみません、本当にすみません……! でも、朝比奈さんはそんな俺の大嘘を信じてくれたのか、 「仕方がないですね。みんな大変なんですから、あたしばっかりわがままは言えませんし」 「3日経てば、また会えますよ。それまでがんばりましょう」 何とか乗り切れたか。こんな嘘は二度とつきたくねえ。 と、朝比奈さんはいつものかわいい癒しの笑顔を浮かべて、 「あ、そういえば、皆さんご飯まだなんじゃないですか? 長門さんがカレーを作ってくれたんです。 ぜひ食べに来てください」 神経が張りつめたままだったせいか気がつかなかった。学校中を覆うカレーのにおいに。 ◇◇◇◇ 「食べて」 食糧配給所になっていた教室で待ちかまえていたのは、迷彩服の上に割烹着を着込んだ長門だった。 これだけ見ると、あの正確無比な砲撃の指揮官とは思えない。ちなみに朝比奈さんは作業があると言って、 またぱたぱたとどこかへ行ってしまった。 「すまん、もらうぞ」 「いただきましょう」 俺は紙製の皿にのったカレーを受け取ると、がつがつとむさぼるように食いついた。 よくよく考えれば、15時間近くなにも食べていない。戦闘中は携帯していた水筒の水ぐらいしか口にできなかったからな。 「おいしいですよ、長門さん」 こんな時まで格好つけたように、優雅にカレーを食する古泉。全くどこまで行っても余裕な奴だぜ。 しかし、長門は大丈夫なのか? 相当疲労もたまっているはずだろ。 「問題ない。身体・精神ともに異常は発生していない」 そうか。それならいいんだが、あまり無理はするなよ。 「今のわたしにできるのはこのくらい。できることをやる。それだけ」 「でも、あきらめるのが少し早すぎるのではありませんか?」 背後から聞こえた最後の台詞は俺でもないし、古泉でもない。どこかで聞き覚えがあるようなと思って振り返ると、 「なぜ、ここにいる」 長門の声。トーンはいつもと変わらないが、内面からにじみ出ている感情は【驚】だとはっきりと見えた。 声の正体はあの喜緑さんだったからだ。生徒会の人間であり、また長門と同じく宇宙的超パワーによって作られた 対有機生命体インターフェース……で良かったんだよな? 北高のセーラー服を纏っているが、 やたらとそれが懐かしく見えるぜ。 「私の空間・存在把握能力で確認した限り、ここには存在していなかったはず」 「この固定空間での時間座標で10分ほど前にこちらに来ました」 ひょうひょうと喜緑さん。ちょっと待て、最初はいなくてさっき来たと言うことは…… 長門はカレーをすくってお玉から手を離し、喜緑さんの元に駆け寄る。 「この空間に干渉する方法を有していると判断した。すぐに提供してほしい」 「残念ながら、それは無理です」 「なぜ」 「外側から必死にアクセスを試みて、本当にミクロなレベルのバグを発見することができました。 ここにはそれを利用して侵入しましたが、現在は改修されています。同じ手で、ここから出ることはできません。 思った以上にこの世界を構築した者は動きが速いです」 喜緑さんの言葉に長門はがっくりと肩を落として――いや、実際には1ミリすら肩を動かしてもいないんだが、 俺にはそう感じた。 「不用意。打開のための機会を逃したのだから」 「すみません。外側から一体どんな世界になっていたのかわからなかったんです。 まさか、こんな得体の知れないものが構築されているとは思いもよりませんでした」 めずらしく非難めいたことを言う長門を、あの生徒会室で見せていたにこにこ顔で受け流す。 「しかし、一つの問題からこの世界に介入することが可能だったのは紛れもない事実です。 なら、まだ別の方法が残されていると思いませんか?」 「…………」 喜緑さんの反論じみた台詞に、長門はただ黙るだけだ。 どのくらいたっただろうか。俺のカレー皿が空になったが、空腹感が埋まるにはほど遠くおかわりがほしいものの、 なんだか気まずい雰囲気の中でそれもできずにどうしたものかと思案し始めたくらいで、 「わかった」 そう返事?を長門はした。さらに続ける。 「協力を要請する。この空間に関しての情報収集及び正常化を行いたいと考えている。 ただし、私一人では効率的とは言えない。状況は悪化の一途をたどっているため短時間で完了する必要がある」 「もちろんです。そのためにここに来たのですから。お互い、意志は別のところにありますが、 現在なすべき目的は一致しています。問題はありません」 なにやら交渉がまとまったらしい。二人は食糧配給所の教室から出て行こうとする。 おいおい、こっちの仕事はどうするんだ? 「するべきことができた。そちらを優先する。現在の仕事は別の人間に変わってもらう。問題ない」 「砲撃の指揮はどうするんだ?」 「そちらは続行する。今持っている情報を精査した中では、私がもっとも的確にそれが行えると判断しているから」 長門の言葉にほっと俺は胸をなで下ろす。あの正確無比な援護射撃がなくなったら、 正直この先やっていく自信もない。しかし、一方でこの非常識世界をぶっ壊してくれるならそうしてほしいとも思うが。 「どちらも行う。状況に応じて切り替えるつもり。その時に最も有効な手段をとる。どちらにしても」 長門は俺の方に振り返り、 「私はあなたを守る」 ◇◇◇◇ さて、なにやら長門が頼もしい事を言ってくれたし、 少しながらこのばかげた戦争状態から脱出できる希望が見えてきたわけだが、 どのみちもうしばらくは俺自身もがんばらなければならないことは確実だ。 そのためにはいろいろとやるべきこともあるだろうが、 「台車でカレーを運搬するのを護衛するのは何か違うんじゃないか?」 「いいじゃないですか。腹が減っては戦はできぬというでしょう。これも生き延びるためです」 俺の誰に言ったわけでもない愚痴を、古泉がいつものスマイル顔で勝手に返信してきた。 今俺たちは、学校から前線基地へ移動中だ。別に散歩しているわけではなく、 2台の台車に乗せたカレー満載な鍋とご飯の詰まった箱を載せて、それを護衛している。 まあ、ストレートに言うとハルヒたちに夕飯を届けている最中というわけだ。 しかし、武装した10人で護衛して運搬するカレーとは一体どれだけの価値があるんだ。 「美味しかったじゃないですか、長門さんのカレー。犠牲までは必要ありませんが、厳重・確実に 涼宮さんたちに届ける価値は十分にあると思いますよ」 「それに関しては別に否定しねえよ」 実際にうまかったしな。腹が減っているからという理由だけではないほどに美味だったぞ。 護衛を担当しているのは、俺と古泉、他北高生徒10名だ。とは言っても、俺と古泉の小隊の生徒はいない。 さすがに疲労の色も濃かったので、今の内に休ませている。国木田もだ。今ここにいるのは、 その辺りをほっつき歩いていた生徒をかき集めて編成している。だんだん気がついてきたが、 生徒一人一人の戦闘における能力は全く同じだ。身体能力も銃の扱いも。そのため、生徒を入れ替えても 大した違和感を感じない。 そんな中、俺と古泉はカレー護衛隊の一番後ろを務めていた。古泉がこの位置を勧めていたのだが、 どうせ何か話したいことがあるんだろ。 「せっかくですし、お話ししたいことがあるんですが」 「……俺にとって有益なら聞いてやる」 「有益ですよ。それも命に関わる話です。ただし、内容はいささか不愉快なものになるかもしれませんが」 気分を害するような話は有益とは言えないんじゃないか? まあ、そんなことはどうでもいいが。 古泉は俺が黙っているのを勝手にOKと解釈したのか、いつもの解説口調で語り始める。 「まず、率直にお伺いしますが、あなたが生き残って鶴屋さんが亡くなった。この違いはなぜ起こったと思いますか?」 「俺は腰を抜かしてとっとと逃げ帰った。鶴屋さんは勇敢に戦い続けた。それだけだろ」 「言葉としては同じですが、意味合いは違うと思いますね」 どういう意味だ。もったいぶらないでくれ。 「敵は最初からあなたと鶴屋さんが植物園まで撤退することを阻止しようとしていなかったんですよ。 だから、あなたは犠牲者は多数でましたが、意外とあっさり戻れています。 これは、敵の目的は涼宮さんに自らの決定した作戦でぼろぼろに逃げ帰ってくる生徒たちの姿を 見せつけようとしていたのではないでしょうか」 「おい待て、それだと鶴屋さんもとっとと逃げれば死ななかったって言う気かよ?」 「率直に言ってしまえば、その通りです」 なんだかむかっ腹が立ってきたぞ。おまえは鶴屋さんの命をかけてやったことを非難するつもりなのか? どうやら俺の内心ボイスが表情に浮かんできていたのか、古泉はあわてて、 「いえ、別に鶴屋さんの判断が間違いだったとは言っていません。逆に、敵から主導権を奪い去ったという点では、 これ以上ないほどの英断だったと思いますね。おかげで敵は一部の作戦を変更する必要までできた」 「公園南部を散らばった鶴屋さん小隊を追いかけ回す必要ができて、さらにロケット弾発射地点を守る必要ができた。 そのくらいなら俺にだってわかる」 「それだけではありません。敵は鶴屋さんを仕留める必要に迫られたんです。 必死にあなたたちを鶴屋さんと合流させなかったのはそれが理由だと考えていますね」 「何だと?」 「敵は涼宮さんに逆らう――そこまで行かなくても反抗する人物なんていないと踏んでいたのでしょう。 見たところ、ある程度は涼宮さんとその周辺の人物の下調べも行っているようですし。 ところが真っ先に鶴屋さんは涼宮さんの指示を拒否して、自らの意志で行動した。 これはこの状況を仕組んだ者にとって脅威であると映るはずです。明らかに予定外の人物ですからね。 だから、あの場で確実に抹殺する必要に迫られた。今後の予定に影響を及ぼさないためにも」 古泉の野郎の言うとおりだ。なんだかだんだん不愉快になってきた。有益な情報はまだか? 「今、これを仕組んだ者はこう考えているでしょう。何とか鶴屋さんは抹殺できた。 ところがどっこい、今度は別の人間が涼宮さんに反抗――それどころかある程度コントロールした。 ならば、次の標的は当然あなたですよ」 古泉の冷静な言葉に俺はぞっとする。突然、周辺の見る目が変わり、その辺りの物陰に敵が潜んでいて、 今にも俺を狙撃しようとしているんじゃないのかという不安が頭の中に埋まり始めた。 「ご安心ください。そんなにあっさりとあなたを仕留めるつもりはないと思いますよ。 なぜなら、あなたは涼宮さんにもっとも影響を与える人物です。敵も扱いは慎重になるでしょう。 下手に傷つけて一気に世界を再構築されたら、元も子もありませんからね」 古泉は俺に向けてウインクしてきやがった。気色悪い。 まあ、しかし、確かに有益な情報だったよ。敵が俺を第一目標としながら、早々に手を出せない状態らしいからな。 うまく利用できるかもしれん。珍しくグッドジョブだ古泉。 「僕はいつもそれなりに良い仕事をしているつもりですよ」 古泉の抗議じみた声を聞いた辺りで、ようやく前線基地の到着した。 ◇◇◇◇ なにやら前線基地ではあわただしいことをやってきた。窓を取り外したり、どこからか持ってきた鉄板を廊下などに 貼り付けている。ハルヒはここを要塞にでもするつもりか? そんな中、ハルヒはトランジスターメガホン片手に指示をとばしまくっていたが、 「くぉらあ! キョン!」 俺の姿を見たとたんに、飛び出してきた。やれやれ、どうしてこいつはこう元気なんだろうね。だが―― 「あんたね! 帰ったなら帰ったと一番にあたしに報告しなさいよ! いい? あたしは総大将にして総指揮官なの! 常に部下の状況を把握しておく必要があるってわけ! 今度報告を怠ったら懲罰房行きだからね!」 怒っているのに、顔は微妙に笑顔というハルヒらしさ満点だ、と普通の人なら思うだろ。 でもな、付き合いが長くなってくると微妙な違いに気づいちまったりするんだ、これが。 ハルヒは運んできた台車上のカレー鍋をのぞきこみ、 「なになに? カレー? すっごいじゃん、誰が作ったの?」 「長門だそうだ」 「へー、有希が作ってくれたんだ。じゃあ、みんなで遠慮なく食べましょう」 ハルヒは前線基地の建物に戻ると、 『はーい! よっく聞きなさい! 何とSOS団――じゃなくて、副指揮官である有希からカレーの差し入れよ! いったん作業を止めて休憩にしなさい!』 威勢の良い声が飛ぶと、腹を空かした生徒たちがぞろぞろとカレー鍋に集まり始めた。 ただ、その中にハルヒはいない。 「では、僕はいったん学校に戻りますね。あとはお願いします」 そう古泉は何か言いたげな表情だけを俺に投げつけて戻っていった。言いたいことがあるならはっきりと言えよ。 俺は前線基地とされている建物の中に入り、 「おいハルヒ。せっかくの差し入れなのに食わないのか?」 そう玄関口に寝っ転がっているハルヒに声をかける。 「あたしは最後で良いわ。あんなにいっぱいあるんだし、残ったのを独り占めするから。 その方がたくさん食べられそうだしね」 「そうかい」 俺はヘルメットを取り、ハルヒの横に座る。 じりじりと日が傾き、もう薄暗くなり始めていた。がやがやとカレー鍋に集まる生徒たちの声が建物内に響いているのに、 「静かだな……」 「そうね……」 俺とハルヒは共通の感想を持った。 「あんなにいた敵はどこに行っちゃったのかしら。てっきりすぐにまた攻撃して来ると思ったのにさ。 ちょっとひょうしぬけしちゃったわ」 「来ないに越したことはないだろ。まあ、そんなに甘くはないだろうけどな」 ――またしばらく沈黙―― 「大体、何で連絡くれなかったのよ。いろいろ考えちゃったじゃない」 「何だ、心配してくれたのか?」 「あったりまえでしょ! 部下の身を案じるのは上官なら当然よ、トーゼン!」 ――ここでまた会話がとぎれる。そして、もう日がほとんど降りてお互いの表情も見えなくなった頃―― 「ねえ……キョン……あ、あのさ……」 「なんだ?」 「その……」 「はっきり言えよ。どもるなんて珍しいな」 ――それからまた数分の沈黙。俺はただハルヒが話を再開するのを待ち続け―― 「その……鶴屋さんなんだけどさ。なんか……言ってなかった?」 「何かって何だよ?」 「……恨み言とか」 俺はハルヒに気づかれないように、視線だけ向けてみる。しかし、もう辺りは薄暗く、その表情は読み取れなかった。 「そんなこと言ってねえよ。また学校で会おうだってさ。いつもと同じだった――最期まで」 「そう……」 ハルヒが俺の言葉を信じたのか信じていないのかはわからなかった。ただ、明らかに落ち込んでいるのはわかった。 いつものダウナーな雰囲気どころではない。完膚無きまで叩きのめされているような感じだ。あのハルヒが。 それを認識したとたん、激怒な感情がわき上がる。額に手を当てて必死に我慢しないと、すぐに爆発しそうなほどだ。 あのハルヒをこんなになるまでめちゃくちゃにしやがった。絶対に許さねえ……! ~~その5へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/984.html
俺はホテルで朝を迎えた。 まず最初にすることは決まっていた。 昨日の出来事が夢でなかったかどうかだ。 洗面台へ行き、顔を確認する。 細い目をした二枚目がそこにいた。 9月9日 俺が古泉に替わって二日目。 昨日と同じく俺は古泉のままだ。 この調子ならおそらく古泉は長門に、長門は朝比奈さんに、朝比奈さんは俺になったままだろう。 地下の食堂でバイキング形式の朝食を取り、 早めにチェックアウトを済ませた。 普通、高校生が独りでこんなビジネスホテルに泊まっているところを見られたら 家出人として警察へ通報されそうなもんだが、 ホテルの従業員たちはとても丁寧な対応をしてくれた。 古泉の紹介のホテルだ。 きっと古泉のいう『機関』とやらが関わっていると思って間違いあるまい。 ホテルの玄関からでたすぐのところに、 小柄な女の子が柱にもたれかかりながら立っていた。 長門有希・・・今は古泉がその体に宿っている。 「よく眠れましたか」 「ああ、昨日はなんだか疲れたからな」 長門(古泉)と一緒に学校へ向かう。 一見他から見ると美男美女の組み合わせだが、 中身は男同士である。 「昨日はあの後大変だったんですよ。 あなたに電話した1時間後にですが・・・閉鎖空間が発生しました」 一瞬頭の中にあの灰色の空が浮かび上がる。 昨日古泉からの電話を受けて、一番に考えた「最悪の事態」を思い浮かべる。 誰もいない空間で複数の青い光の巨人がビルを壮大に破壊している。 灰色の空間は瞬く間に広がり、空と大地と海を覆いつくしていく。 「小さな規模でしたが出動は久しぶりのことでした。 僕……いや私もこの体で動けるのか少し不安でしたが、 やはり能力的には変化がなかったようで、無事神人を退治することが出来ました。 ですが、ことはそれだけでは収まらなかったのです。 今朝方……つまりつい先ほどになるんですが、 また閉鎖空間が発生したのです。 ……今度は少し大きめでした」 長門(古泉)が眉を下に下げてワンパクな子供に手を焼いている母親のような表情を見せる。 「ここのところは大変落ち着いていたはずだったんですが、 急にまた様子がおかしくなってきたのです。 数時間おきに閉鎖空間を生み出す……まるで中学生時代の涼宮さんを見ているようです。」 中学時代のハルヒがどうだったかは知らないが、 その頃の古泉の睡眠時間はだいぶ削られていたことだろう。 「おかげで今日も朝ごはん抜きです」 長門(古泉)は昨日のハルヒの言いつけを律儀に守ったといえる。 俺はそんな約束を今頃思い出しながら長門の姿で青い光の巨人と戦う古泉を想像していた。 そんなことがあったにも関わらずホテルのベッドでグースカ寝ていた俺こと古泉一樹の体は、 やはり超能力の素質はないと考えられる。 これでは閉鎖空間に閉じ込められてもあの巨人を倒すことは果たして出来ないであろう。 「ご飯といえばそうでした。昨日のお昼はきちんと食べられましたか? お金を渡すのを忘れていましたね」 といって長門(古泉)は定型封筒を手渡してくれた。 中には千円札が3枚ほど入っていた。 昼飯代にするには十分すぎるくらいだ。もちろん余ったお金は俺のものにすることにした。 このくらいの手当てをもらったところでバチは当たるまい。 クラスについて鞄を置く。 ホームルーム前の時間は朝の挨拶やら昨日のテレビ番組の話やらでくだらない賑やかさを演出していた。 特待生クラスといってもこの辺は俺のいた5組と同じだった。 こうしてみるとこの9組も5組もクラスの雰囲気は変わらないようだ。 目を瞑れば5組にいると錯覚してもおかしくはない。 どちらもどこにでもよくあるクラスといった感じで、 全国を探せば同じようなクラスは雨後の竹の子のように探しあてることが出来るだろう。 ハルヒが前に言っていた「自分が世界で一番楽しいと思っていたクラス出来事も、 日本の学校どこにでもありふれたものでしかない」というのも間違いではないのだろうな。 だがなぁ、ハルヒ。 お前がもし俺の体に乗り移ってみたらわかることだろうぜ。 お前のいるこのクラスにはいつも突拍子のない言動をするヤツがいて、 全く先の読めない思い付きでいつも周りを巻き込む事件を起こしていることをな。 しかもそいつは我侭で自分勝手で他人のことに一切関心をもたないくせに、 自分の願っていることを全て叶えながらも、 自分ではそのことに気づいていない変なヤツなんだ。 1年5組は世界で一番楽しいクラスではないかもしれないが、 世界で唯一お前がいるクラスなんだぜ。 2時間目の授業は物理だった。 なんと読んだらいいのかわからない記号が黒板にズラズラと陳列し始めた。 これでは授業を見ていても仕方がない。 外の景色を眺めてみると5組の連中がグラウンドを走っていた。 今日の体育は陸上か。 こうして自分のクラスを見学するのは初めてだな。 その中で一番目立つのはやはりこの女だろう、涼宮ハルヒ。 いつものように豪快なステップでハードルを……なぎ倒していた。 100mの間にあるハードル10個全てをなぎ倒してスタスタとベンチへ向かう。 普通、倒したハードルは自分で直すものだろうに…… この様子ならタイムを計るまでもなくクラスで一番だろう。 でもな……ハードルは倒さないで飛び越したほうがずっと早く走れることを知らないのか? 春にやった体力測定のときはうまく飛んでいたように記憶していたが気のせいだったか? それともアメリカのなんとかという選手を真似て走法を変えたのだろうか。。 その後を走っている男子も……今日は目立っていたな。 俺の中では今一番気になる存在だ。 「うんしょっうんしょっ」と掛け声が聞こえてきそうなおぼつかない足取りで、 今にもこけてしまわないか心配である。 ハードルの前に立つとハードルに手を掛け、 大きく足を投げ出しゆっくりと跨いでいく。 ハードルって飛び越す物じゃなかったっけ? 100mのハードルを50秒くらいかけて歩いているんじゃないだろうか。 周りの女子からはクスクスと笑い声が、男子からは野次のようなものまで飛んでいた。 ああ、こんな姿見たくない! 長門の力でこの数日間の記憶はなかったことにできないだろうか。 少なくとも野次を飛ばしていた男子は今後朝比奈さんに好かれることはないだろうがな! 背中に何かが当たるような違和感を感じふと脇のほうをみると、 後ろの席から左手がこっそりと伸びている。 小さな手につままれているものは、ノートの切れ端のようだった。 じゃあ、次のところを。と物理教師が言ったところでようやく理解できた。 さきほどから前の席から順番に問題を当てられている。 まさしく今前の席の女子の発表が終わり、 次は古泉一樹の番である。 って俺じゃないか! そう、もらったノートの切れ端には記号が並べられていたのだ。 しかもその記号にフリガナまで振ってある。 だから瞬時にこの状況を理解できた。 俺はすっと立ち上がりノートの切れ端の記号をさらりと読み上げ席に着いた。 もらったノートの切れ端を裏返し「ありがとう」と書いて そっと後ろの席へ返した。 後ろの席の人間に感謝したのは高校に入ってからは初めてのことだった。 4時間目の授業も無事に終わり昼休みになった。 俺はこの学校の食堂で飯を食ったことがなかったが、 食堂常連のハルヒいわく、 人気メニューは早い段階で売り切れるから最初のダッシュが肝心なのよ!だそうだ。 それではと立ち上がろうとしたとき、 右隣に座っていた女子からの視線に気づいた。 じっとこっちを見つめ何か言いたそうだ。 「……あ、あの、い、一緒にお弁当食べませんか」 見ると両手で抱えるような大きな弁当箱である。 その合図待っていたかのように周りの女子たちもさっと集まり始め、 みんなでお弁当交換会をしましょうという流れになった。 俺は何も持っていないのだから交換ではなく単なる譲渡だ。 ここからの流れは割愛する。 俺自身、古泉の自慢話ほど聞いていて腹の立つ話はないことをよく知っているからだ。 「もう元の体に戻らなくてもイーンダヨー!」 そんな天の声が聞こえてきても誰が俺を責めることができるのであろうか。 放課後、クラスの女子の全員とさよならを交わして部室へと向かう。 この後、大食い大会とやらに出なくてはいけないのはわかっているが、 朝も昼も食べてしまった俺は優勝候補から最も遠い存在だ。 部室の扉をノックすると俺(朝比奈さん)の声がした。 中に入ると俺(朝比奈さん)が朝比奈さんの定点、お茶汲みポジションに座っていた。 見ると破産宣告を受けた債務者のように暗い表情をしている。 「キョンくん……ごめんね……」 俺(朝比奈さん)の表情がどんどん暗くなる。 「ごめんね、わ、わ、わたしがうまくできなくて……その、 キョンくんに迷惑をかけちゃって……」 最初から潤んでいた目はついには大きな水溜りとなって流れ落ちた。 「わたし……男の子になるのは向かないみたい…… クラスで変なあだ名がついちゃいました。 ……オカマって……うぅ……」 ああ、なんとなくわかっていたさ。 だが誰と誰が言ったのか後でたっぷり谷口に聞き出すとして、 今つらいのは朝比奈さんの方だ。 俺の替わりにトイレや風呂など、嫌でも男の体を意識しなければならない時間を強制されるのだ。 さっきの体育の時間だって6組に移動して男子の中で着替えるのは耐え難いものであっただろう。 男の体になったからといってそれをいじくって楽しむような趣味は朝比奈さんには絶対にないと言い切れる。 「もう私……ぐす、つらくて……ごめんなさい。 キョン君の体なのにこんなことを言って……本当に……ごめんなさい……ごめんなさい」 この人は感情を全て感情に出してくれる。 こんな人が未来の組織からの指示で、 俺の体を使って何かを企むことなんて出来るわけがない。 そんなことをしたらすぐにハルヒにバレるだろう。 肩を両手で支え、そっとハンカチを差し出す。 早く元に戻りたいね、と言いながら涙を拭う仕草は、 紛れもなく朝比奈さんのものであった。 俺(朝比奈さん)の姿に元の朝比奈さんの姿が投影して、とてもいとおしく見えた。 それからじっとこちらを見つめながら何かを言いたそうにしている。 口元がかすかに震えて潤んでいる。 これは我ながら可愛い……のかもしれない。 肩に置いた両手がずっと離したくない気持ちになる。 ドサッ 何かが扉の方で落ちる音がして2人の体がビクッと反応し、とっさに離れる。 いつのまにか扉は開いていた。 音もなく扉を開けてそこに立ち尽くしていたのは朝比奈さんに扮した長門でもなく、 長門に扮した古泉でもなく。 ああ……ハルヒであった。 「へぇ~~~~~」 ハルヒの左右の眉がピクピクと痙攣を起こしているのを見て、 中学のときにやったカエルの解剖の実験のときの、 あの太ももの筋肉の動きを思い出した。 ハルヒは怒っているのか驚いているのか笑っているのかよくわからない表情で立ち尽くしていた。 朝比奈さん(長門)の顔がハルヒの肩越しに覗いている。 ハルヒと一緒についてきていたのだろうか。 こちらを見ながら首を傾け、何か不思議そうな顔をしている。 今俺は何をしていた? そう、俺こと古泉は今俺(朝比奈さん)の肩を揉んでいただけだ。 お互い向き合ってだがな。 別にやましいことをしていたわけではないぞ。うん。 ……こんな言い訳では余計誤解を招く。 何も言わない方がまだ被害は少なくて済む。 俺(朝比奈さん)は血の気の引いた顔で震えていた。 さっきまで泣いていたので目も赤く充血している。 俺(朝比奈さん)の方に向かってそれとなくアイコンタクトを送るが、 それをどう受け取ったか、戸惑いながら「ち、違うんです……」と言った。 ハルヒの方へそっと目をやるとさっき落とした自分の鞄を拾いながら、 汚いものを見るような目でこちらを見ている。 「へぇ~~~~~~~~」 2へぇをもらった。さきほどから送っているアイコンタクトはむしろ逆効果か? 「なんか昨日からキョンの様子がおかしいとは思っていたのよねえ」 俺(朝比奈さん)の体がビクッと反応する。 ハルヒは昨日から俺(朝比奈さん)の様子がおかしいって気づいていたのか。 そりゃそうだわな。 気づくに決まってる。 朝比奈さんは絶対映画女優には向かない。 見た目は大変よろしいがこの人を女優にしようという監督などまずいまい。 せいぜいハルヒが監督する映画くらいだろう。 いつかハルヒが映画を作るなどとふざけたことを言い出さなければいいのだが。 「こういうことだったのね」 どういうことだ。 変な納得をしないでほしい。 俺は朝比奈さんが心配なだけだ。 古泉だったらもっとうまい言い訳を考えられるんだろうが、 その点、俺はまだ古泉になりきれていない。 「ま、いいわ」 よくない。非常によくない。 「恋愛は自由よ」 性の垣根を飛び越えるような自由はいらない。 ハルヒはわざとらしく俺たち2人を軽く避けるような仕草をしながら 団長机に歩いていき、足を投げ出して座った。 デスクトップパソコンに電源を入れてからもずっと不機嫌な顔をしている。 「こ、古泉くん。古泉くん」 俺(朝比奈さん)が服の袖を必死に引っ張っている。 今くっつかれるとまた怪しまれると思いつつも振り向くと、視線の先に淡い肌色が映った。 朝比奈さん(長門)が制服を脱いでいた。 もう下着に手を書ける寸前であった。 あわてて2人で廊下に出る。 朝比奈さん(長門)も一言くらい言ってから着替えろって。 そもそもなんで朝比奈さん(長門)がいきなり着替え始めてるんだ? これから5時に駅前の大食い大会に出るというのにわざわざ着替える意味がわからない。 扉の前で待機していると、廊下の向こうから長門(古泉)が歩いてきていた。 「今、朝比奈さんが(長門)着替え中だ。もちろんお前でも中に入っちゃダメだぞ」 無表情でコクンと小さくうなずく。 無言のまま昨日と同じホテルの鍵を古泉(俺)に手渡す。 こいつ、だんだん長門の真似がうまくなっている。 「12時30分、閉鎖空間発生。本日二回目」 廊下の壁に背をつけてまっすぐ遠くを見ながら長門(古泉)がつぶやいた。 「ついさっきおわった」 恐ろしいことをさらっと言ってのける。 「今までで最大級」 真剣な瞳がこちらを貫く。 今ハルヒの身に何かが起きているのは間違いないらしい。 それは俺たちの態度の変化に対してなのだろうか? それとも他に要因があってのことなんだろうか。 変な様子がなかったか俺(朝比奈さん)に聞いてみる。 「う~ん……変な様子といえば涼宮さん今日はずっと不機嫌でしたねぇ。 あと……あ、そうだ。今日私、お昼食べてないんですよ」 はい? 意味が今ひとつ掴めず、目が点になる。 「あ、あ、違うんですよ。 お昼休みに涼宮さんに大食い大会に出るんだから食べるなって言われまして…… それでずっとお昼は涼宮さんに連れられて校内不思議探索をしていました。 探索中もずっと不機嫌でその途中でもあの空間を発生させていたわけです……」 なるほどね。ハルヒ監修の元、お昼を堂々と取るのは難しかったかもしれない。 「でも、不思議なんですよねえ。 涼宮さんもお昼取らなくて良かったんですかね? 今日は涼宮さん大食い大会に出るつもりないみたいなこと言ってませんでしたっけ」 そういえばそうだ。 ハルヒは昨日大食い大会に4人は登録したが、 自分は監督だから出ないと言っていた。 もしかしたら俺達が昼メシを抜くのに自分だけ食べるわけにはいかないという、 ハルヒなりの優しさとでもいうべきなのだろうか? すまんが古泉(俺)は昼飯は食べてしまっている。 あるいは急に気が変わってハルヒ自身も参加するつもりなのかもしれないな。 あの大食い王だ。 自分で優勝をかっさらいたい欲求が出てきて不思議はない。 「もーいーわよ」 中からハルヒの投げやりな声が聞こえて部屋に入る。 朝比奈さん(長門)がピシッとメイド服を決めてお茶を入れるためのお湯を沸かしていた。 少し、いつもの朝比奈さんっぽい仕草に見て取れる。 「もう少ししたら行くからね」 時計をちらりと見ながらハルヒがぶっきらぼうにつぶやく。 お前は今何を考えているんだ? そんなに気に入らないことがあるならみんなにぶつけてくれた方がまだマシだ。 重い空気の部室でハルヒの方を見ないようにしながら朝比奈さん(長門)の入れてくれるお茶を待った。 「お、とっとっと……」 突然お盆を持った朝比奈さん(長門)がゆっくりと棒読みのようなセリフを吐いた。 お茶の載ったお盆を左右に振り子のように振りながら、 スローモーションのようにこちらに倒れ掛かってきた。 ガッシャーン!バシャ! 熱熱熱あつあつあつーっ! 豪快にお盆の上のお茶がこぼれ机の上に散らばった。 熱気を帯びた湯気が一瞬部屋を白く覆った。 異変を感じ、とっさによけたが足に少し掛かってしまった。物凄く熱い。 上靴を脱いで足にふーふーと息をかける。 あわてて俺(朝比奈さん)が雑巾を持ってきて床を拭いた。 「ドジだから……」 朝比奈さん(長門)が割れた茶碗を拾いながらポツリとつぶやく。 えええ?まさか……まさか今のわざとか? 「あーっはっはっは、みくるちゃんサイコー! あはは、あはは、いい!いいわ!そうよ、みくるちゃん。 やればできるじゃなーい! それこそメイドでドジっ娘! 萌えの最強な組み合わせパターンよ! これであなたは無敵の萌え娘に一歩前進よ~!」 そう叫ぶとハルヒは机のどこからか腕章を取り出しマジックで「メイド長」と書きなぐった。 「喜びなさい! 今日からみくるちゃんはメイド長に昇進よ! そうだ!もう今日はどうせだからその格好で大食い大会に出場よ! いいわね?」 朝比奈さん(長門)が腕章を受け取りながらこくりと首を縦に振った。 俺(朝比奈さん)が露骨に嫌な顔をし、がっくりとうなだれる。 だがおかげで男2人の怪しい空気を吹き飛ばしてくれたのだ。 朝比奈さん(長門)が機転を利かせてくれたのかもしれない。 長い坂を下る。 いつもなら帰り道だが、これから俺たちは大食いの大会に出なければならないらしい。 開催場所の北口駅はここから歩くと結構な距離がある。 ハルヒは先頭を軽快に歩きながらドン・キホーテのテーマを歌っている。 その後を右腕にメイド長と書かれた腕章をつけたメイドがシャキシャキと歩き、 高校生3人が後に続く。 俺(朝比奈さん)の足取りが少し重い。足元がちょっとふらふらしている。 「ちょっと貧血気味で……大丈夫です。なんとか歩けますから……私をあまり心配しないで……」 体を支えようとしたところで前のハルヒが振り向いて不機嫌そうな顔でこっちを見ていた。 あわてて離れる古泉(俺) 俺は何をやってるんだほんとに。 俺(朝比奈さん)の話だとハルヒも昼飯を食べていないはず。 ならちっとは元気を落とせ。まったく。 「本当に……私なら大丈夫ですから心配なさらずに」 にっこりと俺(朝比奈さん)が微笑む。 この俺(朝比奈さん)はあまりしゃべらないほうがいいかもしれない。 ちっとも俺らしくする素振りなんてない。 これじゃあオカマといわれても仕方ないか…… でもそれだけ本当の朝比奈さんは女らしさに満ち溢れているということなのだ。 体が男になろうとも女らしさを失わない。 ハルヒも一度朝比奈さんに乗り移ってもらえ。 一日で今までの評価を一変できるぞ。 駅前広場についた。 大会種目はカレーライスのようだ。 昨日チラシをよく見てなかったからよく覚えてはいないが、 北口駅前の広場には異常なまでのカレー臭が漂い、カレーの街と化していた。 夕飯の支度帰りの主婦や、会社帰りのサラリーマンなどが野次馬になってごった返している。 この様子だと北高の生徒もかなり見ていることだろう。 隣にいる俺(朝比奈さん)の顔がまた暗くなっていく。 大会受付本部には大きなテントが張られ。 カレーライスの大食い大会を知らせるでっかい垂れ幕が堂々と掲げられている。 TV局も来ているらしく、 意外に大きい大会らしい。 TVカメラマンがメイド姿の朝比奈さん(長門)を見つけてカメラを回していた。 ニュースの時間にでも流すのだろうか。 この映像が使われないことを祈る。 ハルヒが受付からゼッケンを4つ持ってきた。 「じゃ、頑張るのよ! SOS団のメンツにかけても絶対に優勝すること! いいわね!」 それだけ言い切ると手刀を切るような仕草をして、 観客席の見やすいほうへとずかずかと人を掻き分けていった。 本当にハルヒはこの大会に出ないらしい。 出れば優勝候補になれると思うんだが。 控え室となるテントの中へ移動する。 みれば相撲取りのように太っている選手もいれば、 ガリガリにやせている選手もいる。 全部で20人くらいいるだろうか。 優勝しても商品券程度の物しかもらえないというのに良くやることだと関心する。 大会開始10分前になった。 舞台のテーブルに一列に並び、観客の視線を大量に浴びる。 かなり恥ずかしい状態だ。 司会者が一人一人名前を読み上げていく。 前回の優勝者が先ほどのガリガリ君だというから意外だ。 俺たちの登録名はSOS団団員1号、2号、3号、4号であった。 ハルヒのネーミングセンスの男らしさにはいつものことながら頭が下がる。 朝比奈さん(長門)がSOS団団員3号として紹介されると、 会場からへぇーとかほぉーといったため息交じりの歓声が沸き上がった。 やはりメイド服の美少女はかなり目立っているようだ。 その歓声を聞いて団員1号の俺(朝比奈さん)が顔を真っ赤にしてうつむいている。 ちなみに古泉(俺)の名前は4号。 数字は入部した順番である。 机の前に大皿に盛られたカレーが並べられていく。 ルールは20分で何杯のカレーライスが食べられるかという単純なもの。 一杯500gと言っていたので結構な大皿だ。 食べる前からお腹イッパイだな。 ま、こういう大会に一生に一度くらい出るのもいいだろう。 開始の合図を待ちながら俺の心はもうすでにギブアップしていた。 そのとき団員2号の長門(古泉)が素早くポツリとつぶやく。 「……閉鎖空間発生」 ………。 なんだって? 横を振り向くと俺(朝比奈さん)は左耳を手で押さえ、 朝比奈さん(長門)は右手にスプーンを握り締めたまま虚空をじっと見つめている。 いつかみた光景そのままである。 この真剣な顔つきはカレーの大食いにかける意気込みとは違うようだ。 いつぞやの野球大会みたいに優勝しないと世界が大変なことになるとかそんなんじゃないだろうな? 「わからない。前回と違い、始まる前から発生している。 この大会との因果関係が不明。とにかく急速に拡大中」 おい長門(古泉)、お前本当に中身が古泉か? 一人だけ元に戻っているようなしゃべり口だ。 すぐにでも長門(古泉)に駆けつけてもらいたいところだが、 これから大会が始まろうとしている段階で抜け出すわけにはいかない。 「こらー! キョーン! 絶対優勝するんだからねー!! みくるちゃーん! 頑張ってテレビにガンガン映るのよー!!」 観客席の一番前に陣取ったハルヒが大声で叫んでいる。 こうして見る限り、ハルヒは非常に元気である。 それにこれからみんなの試合が始まるというのだ。 こいつが本当に今閉鎖空間を広げているのか? とてもそうは見えない。 本当はハルヒと違う人物が閉鎖空間をつくっているんじゃないのか? そう思えてきた。 長門の魔法のような力を使えば簡単に優勝できるかもしれない。 しかし、テレビも回っている大勢の観衆下の元でそれを使うのは余りにも危険である。 出来る限り実力でケリをつけるべきである。 今この4人の中で一番この競技に向いているのはSOS団1号の長門(古泉)であろう。 得意のカレーライスとなればかなりのものだ。 物理的な胃の容量が違うとしか思えない。 ただ、心配なのはこの長門はいつもの長門と違って、 中身が古泉だということだ。 これがどのように影響するかはわからない。 とにかく長門(古泉)! 頼んだ! お前の食いっぷりに任せた! さっさと優勝して光る巨人を倒しに行ってくれ! 運命の開始のブザーが鳴った。 15分が経過。 自分の胃の領地は全てカレー色に占領されていた。 2皿食った。もうお腹一杯だ。 朝比奈さん(長門)は4皿の目の中ほどまで食べたところで、 スプーンに乗せたカレーを凝視している。 長門にとって大好きなカレーもさすがに朝比奈さんの体には応えたか。 「こら、バカキョーン!! 休んでる場合じゃないでしょー! カレーなんて口の中に全部詰込んじゃえばいいのよ! 食べるんじゃなくて全部飲み込む感じよ! こうやって、があぁーって! ああ!んもう! みんなしっかりしろー!」 ハルヒは見てるだけのクセになかなか無茶ばかり言ってくれる。 俺(朝比奈さん)はなんとか2皿完食していたが、 3皿目には手もつけず、グッタリとしていた。 もうみんな限界が近い。 それでも長門(古泉)は頑張っていた。 自分の背負った使命の重さは地球の重さである。 その顔には必死さと真剣さが伝わってくる この大食い大会の結果次第では世界の破滅もありえるのだ。 ガ・ン・バ・レ・長・門(古泉)! その一口には人類の明日が掛かっている! コップの水を口に含みながら隣の席の朝比奈さん(長門)がため息混じりにつぶやいた。 「閉鎖空間の拡大が加速している」 なんだって?これでもダメなのか? 長門(古泉)の前には空の皿が7枚積み上げられている。 たしかにこれは女子高生としてはすごいのかもしれない。 だが、前回優勝者の意地か、ガリガリ君の食べる速度はそれ以上のものがあった。 すでに10枚。もうすぐ11枚目のお皿が積まれるところだ。 長門(古泉)は負けているなりにも立派に健闘している。 これに勝たないとハルヒのイライラは収まらないのか? ハルヒの方を見ると爪を噛みながら恨めしそうな顔でこちらを睨んでいる。 さきほどとは違ってまるで鬼気迫る表情だ。 なんとなく閉鎖空間の拡大もうなずけるような気がする。 今勝つための最低ボーダー、カレー12皿は女性の一日辺りの消費カロリーの3倍に達している。 ここまでやらせると危険である。 長門(古泉)の手が急に止まった。 額にはすさまじい量の汗が溜まり、目は充血していた。 いかにも苦しそうな表情を浮かべた長門(古泉)は口パクで「無理」と言っているようであった。 こうなったら仕方ない。 頼む。なるべくばれない方法を使ってくれよ…… 朝比奈さん(長門)の口元が素早く何かをつぶやいたかのように見えた。 一瞬動きが止まったかに思えたが、 そこからいきなりスプーンの回転速度が加速した。 4皿目を一気に流し込んだ朝比奈さん(長門)は 5皿目から皿を持ち上げてそのまま一気にサラサラと口の中へ放り込んだ。 食べているというよりもほとんどどこか異空間へ捨てている感じである。 現にお腹が膨れていく様子もない。 よく見ると朝比奈さん(長門)の喉が全く動いていない。 だがそこはうまく皿を持ち上げることで周りから見えないようにカバーしている。 会場は壮絶な盛り上がりを見せた。 メイド服を着た上品で可愛い女の子がすさまじい食いっぷりを披露しているからだ。 朝比奈さん(長門)のその姿はメイドとしてはあまり上品な食べ方とは言えないだろうが、 この際贅沢は言っていられない。 こうなると次の皿にカレーを盛るのが間に合わないくらいである。 司会者が残り一分を告げたところで、 朝比奈さん(長門)があっという間に20皿目のカレーを異空間に流し込み それを見たガリガリ君はついに諦めたか、手を止めた。 会場はの歓声はヒートし、大盛り上がりを見せた。 市内大食い選手権大会の歴史にSOS団団員3号朝比奈みくるの名が刻まれた。 「表彰状、SOS団団員3号朝比奈みくるどの。 あなたは第6回市内大食い選手権大会において……」 表彰式の最中、すでに長門(古泉)の姿はなかった。 あの満腹の体で閉鎖空間の巨人とどこまでやれるのか知らないが、 朝比奈さん(長門)の優勝により、 幾分か閉鎖空間の拡大は抑えられているということだったのでたぶん大丈夫だろう。 この優勝は無駄ではなかったと思いたい。 ハルヒには長門は急用で帰ったと伝えておくか。 それにしても朝比奈さん(長門)の食いっぷりは見事という他なかった。 見事すぎて逆に怪しまれないか不安である。 実際、前に野球大会でインチキを使ったときも相手チームにはかなり怪しまれたものだが、 今回も周りの選手たちからは疑いの目としか思えない視線が注がれていた。 これ以上SOS団という名前でこのように目立つことをするのは大変危険である。 しかし、ハルヒにはそんなことはどうでもよかったらしく、 「やったわ!みくるちゃん!優勝賞品の商品券でみくるちゃんの新しい衣装を買ってあげるからね! そうだ!今度は女王様なんてどう?結構高いのよ、ああいう服は。」 と朝比奈さんにとっては何ともありがたくないであろう公約を掲げていた。 ハルヒは朝比奈さん(長門)の手から商品券を当たり前のように奪い去りながら自分の鞄の中に入れていた。 その横で俺(朝比奈さん)がぐったりとしながら、自分にはさも関係のない話のようにしている。 俺ももうしばらくカレーは食いたくない。 大会を終えた4人はすることもないのでそのまま帰宅の途についた。 辺りはすっかり暗くなっている。 「ねえ、キョン」 なんだよ、と返事をしそうになった。 そうだ。俺は今、古泉である。 キョンと呼ばれたら俺(朝比奈さん)が返事をする役目である。 道路のカーブにある反射鏡を見上げるとしっかりとそこに反射鏡を見上げる古泉(俺)の姿がある。 俺(朝比奈さん)は呼びかけに何も答えず、考え事をしていたのか黙々と足を進めていた。 「こら、バカキョン!」 「いたたたっ! は、は、はい! なんでしょう?」 左上腕部をぎゅっとつねられて初めてハルヒの呼びかけに気づいた俺(朝比奈さん)はあわてて振りむく。 「んもう、さっきから何ぼーっとしてんの? どーせみくるちゃんのことずっと見てたんでしょうけど。 ……言っとくけど、みくるちゃんはあたしの物だからね! 変な気起こさないでちょうだいね」 ハルヒは朝比奈さん(長門)に後ろから抱きつくと、 まるで自分のおもちゃを自慢する子供のような顔で朝比奈さん(長門)を軽々と持ち上げた。 持ち上げられた朝比奈さん(長門)は無抵抗なまま ハルヒの右腕の上で一回転したところで放り出されるようにして着地した。 俺(朝比奈さん)はなにか言いたげな顔をしていたが、 今ハルヒの力で俺たちが入れ替えられているのであれば、 やはり俺たちはみんなハルヒの物といっても過言ではないのかもしれない。 ……いや、そんなことはさせないぞ! させたくないが…自分の体が自分の物でないこんな状態ではあまり説得力もない。 「あたしん家こっちだから、じゃあね」 とハルヒは一言だけ言い切ると、そのまますぐに十字路を左に曲がり暗闇に颯爽と消えていった。 ハルヒは本当に元気なままだ。 何か不機嫌な要素を残しているとは思えない。 そのことが余計こちらを不安にさせる。 俺(朝比奈さん)とも次の角でわかれ、 そこからしばらくは朝比奈さん(長門)と二人きりとなった。 朝比奈さん(長門)はいつものとおりの長門らしくずっと無言のままだ。 途中すれ違う人たちが朝比奈さん(長門)のメイド服姿に驚いていたが そんなことはまるで目に入っていないようだ。 光陽園駅が見えてきたところで朝比奈さん(長門)は急にまま立ち止まった。 朝比奈さん(長門)の右腕についたメイド長の腕章が風にゆれ動く中、 体は1ミリも動かさず顔だけをゆっくりこちらへ向けてきた。 長門がこんな風な行動を取るときは必ず何か重要な意味がある。 あるのだが、その行動は少し遅い。 早く言えって。 「……わたしの家に来て」 突然心臓の音がドクンからドキンに変わったような気がする。 いつか本物の朝比奈さんにこんなことを言われる日が来てほしいものだ。 「なんで?ここでは話せないこと?」 「話したいことがあるの」 朝比奈さん(長門)の目は真剣そのものであった。 長門のマンションは昨日来たばかりだ。 あのときはだいぶ混乱していたな。俺も。 二日たって落ち着きは取り戻したが、肉体は取り戻せないままだ。 エレベーターに乗って7階を押す。 「何か食べたいものある?」 朝比奈さん(長門)が珍しく人の注文を受けようとしている。 「…冷凍庫にカレーしかないけど」 思わず驚いてしまった。 そして少し笑ってしまった。 長門、お前いつの間にか冗談がうまくなったなぁ。 部屋の電気をつけてコタツ机に座っていると、 朝比奈さん(長門)が台所から盆に急須と湯飲みを載せて持ってきた。 いつか最初にこの家に来たときと同じ状況なのだが、今ここにいるのは朝比奈さんと古泉だ。 周りから見たら全然違う風景である。 さきほどのようにドジッ娘発動でお茶をこぼさないうちに空中で茶碗を受け取った。 「話ってなにかな?」 こちらから切り出してもすぐに話し出さないのが長門の癖だ。 俺もとりあえず飲めといわんばかりに出されたお茶に口をつけて押し黙った。 朝比奈さんの入れたお茶と少し味が違う気がする。 だがこれはこれでおいしいと思えるから不思議だ。 朝比奈さんの体からはお茶をおいしくさせる成分が抽出されているのだろうか。 ふと、昨日長門(古泉)が言っていたことが気になった。 「ところでお前、朝比奈さんの体になってから、ハルヒに対する観測の視点とやらに変化はあったのか?」 昨日の長門(古泉)からの電話のときの話題だ。 長門はもしかしたら今回の事件を意図的に起こした張本人かもしれないというものだ。 今日のハルヒの様子を見ていると、もしかしたらこの長門という線も考えられなくはない。 人間を入れ替えるなんてことが出来るのはあとは長門くらいのものだからな。 朝比奈さん(長門)はうつむいたまま何も答えない。 何か心の中で葛藤しているのか。そしてようやく口にしたことばは… 「もしかしたら私たちは……元の体には戻れないかもしれない。」 な、なんだって? 「私を含め団員の4人は恒久的にこの体のまますごすことになる可能性がある」 衝撃的かつ無責任な発言だ。 古泉が言っていた最悪な予感の一つを自ら宣言したのである。 そのくせ俺の質問には何も答えていない。 …待ってくれ長門。昨日と話が違うぞ。 お前が俺たちの体を元に戻せないとなったら俺たちはどうすればいいんだ? またハルヒのきまぐれで俺たちの体をシャッフルする日を待てというのか? それともそうさせるように仕向けろというのか? しかもハルヒには入れ替え事件を知らせずにだぞ? 話は長くなる、といったん前置きをおいた後お茶を静かにすすって答えた。 「今回の騒動の発端は涼宮ハルヒ。 彼女による小規模時空変換の際に、私の中にある変化がもたらされた。 それは人間が有機生命体である以上、体内細胞に微小ながら蓄積される思考情報の残骸。 …あなた達の言葉で言うところの残留思念ともいうべきものを解析したときに起こった」 残留思念などという言葉を使ったことなどないが、 とにかく体に残った記憶のようなものだろう。 そんなものがあるなんて気づかなかった。 じゃあ、この古泉の体にも残留思念があるというのだろうか。 しかしながら俺は今、古泉の使う超能力もなければ意識も記憶も何も持っていない。 「人間にはどのようなデバイスを用いてもこの残留データから情報を汲み取ることは出来ない。 このことは未来人である朝比奈みくるも同じこと。つまり私だけにできる…」 と言って朝比奈さん(長門)が急に隣に体を寄せてきた。 ドキっとして思わず体を反らそうとしたが朝比奈さん(長門)密着してくる。 そして右手の人差し指をゆっくりと古泉(俺)の額に伸ばし、軽く触れた。 いや、触れたのだろうか。触ると同時に感覚がなくなったのでわからなかった。 目の前が突然真っ暗になったのである。 いや、急に暗いところに来た時のフラッシュバックともいえる状態だろうか。 徐々にボンヤリと周りの状況が確認できる。 ぼんやりと明るい灰色の空、無音の空間、誰もいないビル群。 …閉鎖空間である。 だが不思議なことに今回の閉鎖空間は今までと感覚を全く別にしていた。 言葉では説明できない何かをたしかにそこに感じていた。 誰かがここにいる。わかる。 そして戦っている。あの光の巨人とだ。 そしてこの空間を生み出した主の存在をはっきりと感じる。 ──ハルヒ。 急にまたフラッシュバックした。今度は眩しい。 気づくとまた長門の部屋にいた。 朝比奈さん(長門)の指がゆっくりと目の前から離れていく。 今の映像が古泉の体にあった残留思念なのだろうか。 やけに生々しい。今起こっている出来事のようであった。 「朝比奈みくるの情報を解析しているうちに、意識下における情報の中で、 今回の騒動の原因の因子とみえる意識の片鱗を捕らえた」 つまり、朝比奈さんに原因の一部があるってことか? もしかしてそれを言うために俺をここへ呼んだのか? 「朝比奈みくるは自己の言動により涼宮ハルヒへ大きな影響を与えたことを無意識の元に自認している。 そのことが今回の入れ替え騒動を引き起こした原因になったかもしれないということも。 しかしそれは…朝比奈みくるとして、言ってはいけないことが含まれている。」 なんだそれは。 知っているけど教えてくれないというのだろうか。 朝比奈さん特有の禁則事項とでもいうのか? 朝比奈さん(長門)は押し黙ったままうつむいている。 「……以前の私なら言えたこと。 私は…朝比奈みくるの残留思念のもたらすエラーにこれ以上対処できない」 どうしても教えてもらえないのか? 「わからない。このことがなぜか朝比奈みくるにとっての意識の中で特別なカテゴリーを持ち、 その情報は身体における理解の分別の中にいくつかの情報とともにタブーを伴って存在している」 タブー…それは未来人としての特性なのだろうか。 とにかく長門の使う言葉がわかりにくく、理解が全てに及ばない。 こういうのをなんていうんだっけ? 長門は情報の伝達に齟齬が発生するって言ってたな。 「私は現在、情報統合思念体と直接同期できない。 このことが個としての私本体の能力に限界をもたらすと同時に、 朝比奈みくるから受ける情報同期への回避行動を不可避なものへとさせている。 そして、朝比奈みくるによってもたらされた蓄積情報が、 排除できないデブリとなって私に大きなエラー情報を与えている。 いつか私にもたらされるかもしれない大きなバグが情報回路に形成されつつある。 それが発動したときの行動を予測できない。 きっとあなた達を元に戻すことは出来ないだろう」 長門は普段は全くの無言だが、しゃべるとなると一気にしゃべる癖がある。 お茶はすっかり冷たくなってしまっている。 頭の中もすっかり冷めてしまった。 長門にとって朝比奈さんの体でいることはいろいろと不都合があるらしい。 だからハルヒの能力による規制が外れても、 そのまま能力が落ちたままになる可能性があるということだろう。 ざっとこんな感じの意味だったと理解した。 これ以上は今の俺にはついていけない。 「ところで、長門の今の状態が徐々に変化していくものとして…、 9月12日になった時点で俺たちの体を元に戻すことのできる可能性はどのくらいあるんだ?」 「おおよそ…99.9996%」 ほぼ確実に大丈夫じゃないか。 たったの0.0004%がそんなに長門を不安にさせる材料となっているのか。 いや、長門のことだ。 この極少の確率がいずれ大きな可能になることを知っているのかもしれない。 だから俺にそのことを警告しているのだ。 そのときが来たら助けてくれと言いたいのかもしれない。 部屋から出たときに初めて気づいた。 俺は今まで、朝比奈さんと二人きりで一緒の空間にいたのだということを。 中身は長門にしろ、体はあの犯罪的なボディーである。 むしろ中身が長門であるからこそ間違いが起きても朝比奈さんにはわからないということで… いや、間違いはないんだが、もちろんする気はないんだが、何言ってるんだ俺は。 せっかくの貴重な時間を何もせずにただ話を聞いているだけに終わってしまった自分を情けなく思った。 さっさと帰ろう。っと今日も泊まりはホテルだ。我が家が恋しい。 古泉が用意してくれたホテルは昨日と同じ、 部屋の番号だけが違う部屋であった。 部屋の配置などに変化もない、つまらないビジネスホテルの一室。 シャワーを浴びて横になると同時に携帯が鳴った。 長門(古泉)からだ。 「やあ、すいません。もう寝ていましたか?まだ大丈夫でしたらお伝えしたことがありまして」 すっかり口調は古泉だ。 昼間の長門(古泉)とは別人のような語り口である。 「いえいえ、あれは長門さんのフリですから。 うまくなったものでしょう?僕も俳優やらせたらなかなかの物になるんじゃないですかね?」 「疲れてるんだから用件だけ言え」 「ああ、すいません。もちろん他でもない涼宮さんの話なんですが」 長門の次は今度はハルヒか。 SOS団は問題ばかり発生する団ともいえるな。まさにSOSだ。 「閉鎖空間の発生が頻発しています。 あなたと別れた後もあれから二回も閉鎖空間が発生しました」 やっぱり原因はハルヒなんだろうか。 古泉がそう感じるだけで他の人が作り出した閉鎖空間ってことはないのだろうか。 さっき朝比奈さん(長門)は自分の力が制御できないと言った。 さらに朝比奈さん自身に原因の発端があるとも言った。 「いいえ、それはありません。 間違いなくこの閉鎖空間を発生させたのは涼宮さんです わかってしまうのだから仕方がないのです。」 そう、それはさっき古泉の体とシンクロしたときなんとなく感じていた。 あの一瞬で今ハルヒの心の中に抱えている意識下ストレスの大きさがわかったのだ。 だから古泉の言いたいことはよくわかる。 「今までの涼宮さんの場合、閉鎖空間を広げるときは何か物事がうまくいっていないときでした。 そういうときの涼宮さんの様子であれば、顔色や態度からなんとなく読み取れるはずでした。 ですが今回は違いました。 あなたも目の前で見ていたでしょうが、 涼宮さんの提案した大食い大会に優勝しているにも関わらず、ストレスは増大していったのです もちろん閉鎖空間の規模もどんどん大きくなっています。 今まではあなたの力でかなり涼宮さんのストレスを抑えることが出来ていました。 少なくともイライラの原因を推し量ったり、 涼宮さんの行動をコントロールしたりはできましたからね。 ですが、今僕たちは自分の体を離れ、各々の行動を制御できません。 あの朝比奈さんではあなたの肉体を使って涼宮さんのストレスをとめることは出来ないのです」 俺はもうハルヒの相方として離れることができない存在だとでも言いたいのだろうか。 俺はアンコウの雄と雌じゃない。 あいつの伴侶としていきるつもりは毛頭ない。 だが、このまま灰色の世界に飲み込まれて消えるのはもっと嫌だ。 「このまま行くと明後日くらいが持ちこたえられる限界です。 長門さんの力で元に戻してもらうにしても 少なくとも9月12日まではこのままでいなくてはなりません。 もしかしたら……」 もしかしたら? 「もしかしたら9月12日という日は人類滅亡の期限なのかもしれませんよ」 人類の滅亡だと? そういうことを軽々しく口にする古泉の癖にはもううんざりする。 早く電話を切ってくれ。 「この調子では明日は学校に行けないかもしれません。 そのときは涼宮さんを頼みます。 とにかく涼宮さんのストレスの原因を探ってください。お願いします。では」 頼まれてもどうしようもない。 さっき古泉がいったように俺は今古泉になっているせいでハルヒに対して影響力が少なくなっているからだ。 そしてその体を動かしている朝比奈さんは今回の原因について何も話してはくれてはいなかった。 朝比奈さんの体に乗り移っている長門もだ。 細かいことは明日直接聞くしかない。 まずはハルヒのストレスの原因を探ることから始めなくては… 携帯を机の上に置き、ぐったりと横になって時計を見ると時間は12時を差していた。 明日は9月10日。 何をするのか具体的にはつかめぬまま、とにかく明日にかけるしかない。 古泉になって二日目の夜が更けていった。 第3章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4059.html
人物設定がやや変化した団員。 しかしなぜかSOS団の活動は当たり前の様に行われている。週末のアレもまた然り。 ここ数日の観察で、どうやら人によって変化度(ハマり度)に差がある事が分かった。 朝比奈さん>古泉>長門>ハルヒ=俺って感じだろうか。 上位2名が何やら密談を交わしている。 「…朝比奈さん。」 「…ええ、近いですね。」 何がだアホ共…。 「(ちょっとキョン…なんかみくるちゃんと古泉君変よ…。)」 「(良かったじゃないか…変なのは大好物だろう?)」 「(身近過ぎるのはちょっとキツいって事が分かったわ…。 それにあんな「不安定な年頃」みたいのを求めてる訳じゃないのよアタシは…。)」 他が異常でハルヒがまとも。これこそ真の異常事態かもしれん。 「(いいキョン?有希?絶対どっちかがアタシと同じ組分けになるのよ? 今の二人と会話を続けられる自信がないわ…!アタシを一人にしないで、泣くわよ!?)」 「(お…おう、わかった…。)」 「さ、さあ、ちゃっちゃとクジ引いて探索行くわよ!せーのっ」 ハルヒ・色なし みくる ・色なし 長門 ・色あり 古泉 ・色なし キョン ・色あり 「(こ、このバカキョンーっ!!!)」 スマン、耐えろハルヒ…。 ―― 「図書館行くか?他に希望があるならそっちでもいいぞ。」 「…図書館。」 「おう、そうしよう。」 (コクリ) 「…それでだ、歩きながらでいい。分からん事がいくつかあるんだがな。」 「…何?」 「今回の件も多分ハルヒの奴が原因なんだろうって事はなんとなく分かる。 だがちょっと中途半端な気がしないか?あいつにしてはさ。」 「……。」 「あいつが小説に影響受けて『SOS団にはバトル要素が足りなーいっ』とか言い出すならまだ分かる。でも小説もフレイムヘイズも知らないって言うんだぜ?その割にはメロンパン食ったりうるさい×3言ったりしてる。 …そこが分からない、さっぱり分からない。」 「――実に面白い。」 「…ノリがいいな長門。」 「…おそらくは、彼女が断片的な知識しか持たないからだと思われる。」 「どういうことだ?」 「例えば、アニメ。眠りに付けない彼女がテレビで暇を潰そうと考えた。 無作為にチャンネルを変更している中で、「灼眼のシャナ」の1シーンを目にした。 メロンパンを食べているシーン、照れながら坂井悠二をうるさいと罵るシーン、そして戦闘のシーン。」 「…なるほどな。それで名称は記憶に無いが印象や設定のいくつかだけ頭に入った、と。」 「そう。そしてその僅かな情報の中には、「敵の存在」、「意中の男性の重要度」も含まれると思われる。」 「…なんか怖い事言ったな今。」 「あなたの携帯電話。」 「…?」 「毎晩自動的にフル充電されている。」 「は?古泉との電話を盗聴でもしたのか?ありゃ俺の妄言で…」 「零時迷子」 …本気で…、言ってんのか…? 「彼女はおそらくこう考えた。『バトル要素はアリだ』『バトルするには敵が必要だ』 そして、『主人公が好きな相手には何かとんでもない秘密があるべきだ。』」 「…好きな相手うんぬんは置いておく。たかが携帯がフル充電される事のどこがそんなに重要なんだ?」 「今は接続されているのが携帯電話のバッテリーという小容量の物だから。 そこに別の、もっと容量の大きな物を接続させたとしたら。」 「……………。」 「各国が頭を悩ませているエネルギー問題を全て解決に導く事のできる代物。 そしてそれは、争いの種ともなり得る。」 ――近々あなたを狙う輩が現れるかもしれません。―― …あれは古泉の妄想じゃないってのか…!? 「――という電波を受信した。」 「オイィッ!!」 ―― 「きょ、今日はなんにも見つかりそうにないしそろそろ駅前に戻ろっか。ね、…みくるちゃん?古泉君?」 「いえ、おそらく近くにいるはずなんです。でも気配が曖昧…何かの自在法なのかなぁ?」 「ええ…可能性はありますね。」 「うぅ…。孤独だわ…みんなと一緒にいるはずなのに今私は孤独…。――ん?」 古・朝「「――!!」」 ―― 「――来た。」 「ん?何が…」 ――!? 閉鎖空間……いやこの色は…!! 「封絶。」 「…って、さっきのはお前の電波話なんだろ!?」 「それは携帯電話の話。涼宮ハルヒが目にし興味を持ってしまった以上、敵はいる。」 ―― 「ハハッ、この気配は『雁ヶ音』か。楽しめそうだなマリアンヌ。」 「『赤光』は私の相手です。邪魔はさせないのです。」 「―――退屈――満たす―――――私を――『万象』―――――」 「……マリアンヌって何だい?」 「何を言っている。マリアンヌならここにいるじゃないか?ねえ、マリアンヌ。」 「ハイ、ご主人様。」 「今の明らかに裏ご……いや、無粋な突っ込みはやめておこう。」 くくっ、僕が何かした覚えもないし、涼宮さんかな? だとしたらキョン、君も一枚噛んでいるのかい? つづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3120.html
自室兼研究室となった部屋で、キョンは一人パソコンに向かい合っていた。 「流石だなハルヒ。もう集めたのか。」 パソコンの画面には、元機関のメンバーの居場所が一人残らず羅列されている。 そして、得意げにそのリストを見せている涼宮ハルヒの姿も写っていた。 『あたしは世界中のネットワークと繋がってるのよ?この程度ワケないわ。』 「ははは、そうだったな。さあハルヒ、コイツらがお前を殺したんだ。どう思う?」 『ハラがたつわね。懲らしめてやりたいわ!』 「そうだ。じゃあ懲らしめてやろう。作戦はもう考えてある。」 『へえ、やるじゃない。キョンのくせに。』 「くせには余計だ。さあハルヒ、やってやろうじゃないか。お前にはその力がある。」 そしてキョンは一人笑った。 十年以上かけて作り上げた、コンピュータ人格プログラム『涼宮ハルヒ』を眺めながら…… ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 僕、古泉一樹は今、街を歩いています。 そこでの出来事を話す前に、涼宮さんが死んでからのことを振り返りたいと思います。 彼は宣言通り、僕らの前に姿を見せなくなりました。 ほどなくして、朝比奈さんが未来に帰り、長門さんは情報統合思念体の元へ帰りました。 よってSOS団は自然解散という形となったわけです。 僕はあの事件のあと、きっぱりと機関と縁を切りました。 当然ですね、もう愛想はつかしていましたから。 何よりあの中に涼宮さんを殺した人間がいると思うと、 もう彼らとコミュニケーションを取ることは不可能です。 その後の僕は平凡な大学に入り、平凡な会社に勤め、平凡な生活をしています こんな姿、涼宮さんに見られたら怒鳴られてしまいますね。「それでもSOS団なの!?」ってね。 さてそんな平凡な僕が、すっかり平凡とは程遠い存在になった彼と出会ったのです。 彼は既にコンピューターサイエンスの権威となっていました。僕とは大違いですね。 彼の様子は昔と変わりませんでした。話し方も外見も対して変わっていません。 もうあの事件のことは吹っ切れたのかなと少し安心していたのですが、 彼は信じられないことを口にしたのです。 「ハルヒが、待ってるんだ。」 ……僕は自分の耳を疑いました。彼女は間違いなく既にこの世を去っています。 精神を病んでしまっているのかとも思いましたが、彼の様子はいたって普通です。 結局その言葉の真意を確かめることが出来ないまま、彼は去ってしまいました。 そんな出来事から数日後、自宅に居た僕に電話がかかってきました。 発信者は……森さんです。 『もしもし?古泉。久しぶりね。』 「お久しぶりです。僕はもう機関とは縁を切ったはずですが?」 『分かってるわ。でも聞いて。これはあなたにも関係のある話なの。 ……元機関のメンバーが、次々と事故死しているわ。』 「……事故死?」 彼らは訓練をつんだ人間のはずです。そんな方々が……事故死? 『そう。それも普通ではありえない死に方よ。 田丸兄弟は自宅にヘリコプターがつっこんできて、二人とも即死。 新川さんは乗っていた飛行機が突然ありえない落ち方をして、そのまま死亡。 その他にもたくさんの元機関のメンバーがどんどん死んでいっているの。 そして、共通している事実が1つあるわ。』 「なんですか?」 『事故原因のものを制御していたコンピューターが、全て何物かにハッキングされた形跡があったの。 普通に考えても、ヘリコプターが家に突っ込むなんておかしいでしょ? きっとその時も、ハッキングされて操作されてた可能性があるわ。』 「そしてそのハッキングをした主は、元機関のメンバーを狙っていると……」 『恐らくね。あなたも縁は切っているけど、元機関のメンバーであることには変わりないわ。 だから伝えておこうと思ったのよ。』 「ご忠告感謝します。森さんもお気をつけて。」 『ええ。それにしてもこんな高度なハッキング、普通の人間には不可能だわ。 きっとコンピューターのエキスパートよ。そして私達機関に恨みを持っている。 心当たりが無いかどうか、考えてみて頂戴。』 「わかりました。では。」 僕は電話を切った。どうやらとんでもないことになっているようだ。 そして僕自身も、殺される可能性がある。 しかし僕は、森さんが言っていた「心当たり」が1つあった。 コンピューターのエキスパートで、なおかつ機関に恨みを持っている人物…… 僕の知る限りでは、そんな人物は一人しかいません。 プルルルル…… とここで、更なる電話がかかってきました。 また森さんからでしょうか?しかし先程とは番号が違います。 「もしもし、古泉です。」 『古泉一樹?』 「その声は……長門さん!?」 確かにその声に聞き覚えがあった。聞いた瞬間分かりましたよ。 『そう。』 「何故あなたが?情報統合思念体の元に帰ったのでは……」 『緊急事態につき回帰した。会って話したい。あの公園に。』 あの公園、とは北高の近くにあるあの公園でしょう。 今僕の現在地とは少し離れていますが、そんなことを言っている場合でないことはわかります。 「了解しました。急いで向かいます。」 そして僕は、あの公園へとやってきました。 あの頃とまったく変わっていません。楽しかった頃のSOS団を思い出します…… そして長門さんはベンチに座っていました。姿形はまったくあの時と変わっていません。 「お久しぶりです、長門さん。変わっていませんね。」 「そう。あなたは変わった。」 「15年も経っていますからね。今ではすっかり僕も平凡な人間ですよ。」 「本題に入る。最近あなたの所属していた組織の人間が事故死する事件が多発している。 それを引き起こしているのは……おそらく彼。」 「やはり彼ですか……僕もそう思っていました。」 「しかしどのような方法を使っているかは不明。だから、彼の家に向かいたい。」 「わかりました。あ、でも今はもう昔の家には住んでいないと思いますよ。」 「大丈夫。彼の今の居住区は既に把握している。」 「頼もしい限りです。では、行きましょう!」 本当にこの事件を引き起こしているのが彼なのかどうか。 僕としては違うことを願いたいです。しかし、こんなことが出来るのは彼ぐらいなものです。 ……とにかく今は、彼に会わないことに始まりません。 そして僕らは、大きな一軒家の前に立っています。 本当にここが彼の家なのですね? 「そう。間違いない。」 では……僕はインターホンを押しました。 ガチャ ドアを開けて彼が顔を覗かせていました。 意外な訪問者に、彼は少し驚いた顔を見せました 「古泉……それに長門!どうしたんだ、一体。」 「ええ、少しあなたとお話したいことがありまして。」 「そう。」 「ああ……なるほどな。」 彼は何かを理解したように笑い、僕らに手招きしました。 「来いよ。あいつもお前らに会いたがってるぜ。」 あいつ……?あいつとは誰でしょうか。 まあ拒絶はされずにすんだので、言葉通り招かれることにしました。 「しかし古泉は老けたが、長門は変わらないな。」 「つい昨日回帰したばかり。それまでは情報統合思念体の元に居た。 だから歳は取っていない。」 「なるほどな。おーいハルヒ、お客さんだぞ!」 え……?今彼は確かに彼女の名前を呼びました。 まるで、そこに彼女がいるかのような。 『お客さん?アンタにお客さんなんて来るの?』 今の声は……!? 僕の聞き間違いで無ければ、その声は確かに…… 『あっ!有希に古泉くんじゃないの!!久しぶりね!!』 そしてその姿は確かに、涼宮さんそのものでした。……パソコンの画面の中にいるという点を除けば。 あまりに驚くと声すら出ないと言いますが本当のようです。 僕はただ、呆然と目の前にある光景を眺めるしかありませんでした。 そんな僕の様子は無視して、彼は自慢げに彼女を紹介します。 「紹介するよ。……と言ってもお前らはイヤというほど見知った顔だろうがな。 我らが団長『涼宮ハルヒ』。俺が蘇らせたんだ。」 続く
https://w.atwiki.jp/animerowa/pages/82.html
涼宮ハルヒ 「涼宮ハルヒの憂鬱」のメインヒロイン。北高に通う女子高生。CVは平野綾。 キョン、朝倉涼子とは同じクラス。長門有希とは同級生で 朝比奈みくるとは先輩後輩の関係にあたる…が、主導権を握るのはハルヒのほうである。 「宇宙人、未来人、超能力者はあたしのところに来なさい」を目的に、キョン、朝比奈みくる、長門有希と共に 「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」、通称「SOS団」を結成し、その団長を務める。 (その活動は、事実上サークル活動のようなものである) なお実際に長門有希が宇宙人で、朝比奈みくるが未来人で、 企画には参加していないが同じくSOS団のメンバーである古泉一樹が超能力者であることは彼女のみが知らされていない。 性格は自由奔放で、唯我独尊。 自分が気に入らない事に対してはなかなか折れず、興味を持つことがあったら周りを巻き込んでも即実行する。 一応、キョンに対してだけは若干の配慮が見られるようである。 【能力】 物事を自分の思い通りに進めることのできる、「世界改変能力」を持つ。 ただし、本人はそれを自覚していない。 その他「閉鎖空間」だの「神人」だのといった詳細の面倒なトンデモ設定をいくつも持つ恐ろしいキャラ。 (企画発足当初は、彼女を主催者にしようという話まで持ち上がっていたほどだ) しかし本企画ではこの能力は能力制限により禁止されたため、 基本的に一介の女子高生としての能力しか持ち合わせていない。 それでも運動神経などはよく、何をやらせても人並み以上の能力を発揮する描写がある。 【関連人物への一人称】 一人称→「あたし」 二人称基本→「あんた」「あんたたち」 キョン→キョン 朝比奈みくる→みくるちゃん 長門有希→有希 鶴屋さん→鶴屋さん ※ただし原作での話 朝倉涼子→朝倉さん 【本編での動向】 ルパン三世に突然襲い掛かるも、綺麗に返り討ちされ気絶する。 すぐ近くのエリアに長門有希と朝比奈みくるが居たが、気付かなかったようだ。 その後、古手梨花から逃げてきたアルルゥと遭遇。 ルパンともども勝手にSOS団特別団員に任命し、市街地に向かう予定だったが、長門の性格を考慮して図書館に進路変更。 アルルゥを玩具に景気よく進行中。図書館が火災の末倒壊している事にも気付いていない。 放送を聞いて暴走するアルルゥを抑えている隙に、シグナムに襲われ負傷。 その場はルパンに任せて逃げることによって事なきを得るが、長門と合流するや否や、ルパン支援の為にヤマトを団員に任命、トラックで共に橋へと向かうように命令する。 だがその道中でアーカードの襲撃によりトラックが横転。その際頭部を強打し意識不明の重態に陥る。 眠りの中、ハルヒはカラシニコフの精なる謎のおっさんに誘われ、吸血鬼メイドと化した朝比奈みくると再会。 映画の撮影と称して楽しい時間を過ごす中、彼女は知った。みくるとは、もうお別れなんだということを。 支給品は小夜の刀(前期型)、ソード・カトラス、着せ替えカメラ。 名前 コメント よろ^^ -- ハルヒ (2008-01-29 09 08 58)
https://w.atwiki.jp/yaruoperformer/pages/69.html
__ _ . ´ . . . . . . . . ` ..、 / /----- 、 . . . . \ , ' . . /─……─‐ミ . . . . . .ヽ , -―- 、 -― - 、 ノ ̄/ . . ./ . .{ . . . . . . . . . . . . .ヽ . . .V⌒i / ,_ -―‐- _ \ 7 .イ . . ./ . . ハ . . . . . .l . . . .ハ . | . . .|\」 / ,ィ/_ -――- _ヽ ヽ \| . . .' . .Nー ト . . . ト斗匕イ . . |イ l / ,.-/ /´ / \ \`ヘ ヽ. ', / | .{ .l . . .芹芯 \l イf芯'| . . .| ヽ / rイ / 〃./ .{ . l . ヽ .ヽ .ハ fヘハ // {ハl从{ 込ソ 込ソ | . . .| 爪゚, / 〉i,'./ {{ ..{ . ハ .. . ! .... ! ヽ..', i| |ヽ ', // /| . . . . .∧ ′ ム . . | } . ハ / く/| l. ij>k{八 . {\ ..};ィ匕} i| |_∧ハ ' i / | . . .l . . 込、 ` ´ .イ | . . .l ' . | | ,' i ヽ| l. |ィfチ必`\ヽ くfチ必メ'! L!Nハ Ⅵ」 | . . .| . . | . . .〕ト -- ≦{ . ./ . . .イ/ . .|_l i ! . l. {| ヽト, r'_;;ソ r'_;;ソ l | l ..i i | . . .| . . l ̄≧=ー‐=== / . . / . . . . . | .| ! ! ! i. ム ´ _' ___ ` ハ j j l | イ i i / . . ハ -{_ ト. / . . /〕iト . . | .| ! ! ! ∧ {ヘ { } ,イ,' / ,' i | / i i i / . . / i }__//「\ / . . / i | i i i i 〕iト .ヽ!ハ ヽ ヽ .', >,、 ゝ._ _ノ , イ / / ./ i! ! l .ィ i i i i / . . / / .′ / . . / iく i i i i i i i i ハ ,‐<゙ヽ=、{ヾヽ f,/>ー<{_1`/ / /_ノ} リ/ / i i i i i/ . . / 〈 .{c | ' . . .ハ i 》i i i i i i i i i i i ./ /⌒ン<ヽ \ ト、_ _,, レ/ { / }}ヽ〈' ./ i i i i i i / . . ∧ i i `T¨¨ l/ . . / ¨ i / i i i i i i i i i i i| / / / | `! V‐===-V ヽ }} l ヽ_ / i i i i i i i i i i . . / i i゚, i il ./ . . イ i i iイ i i i i i i i i i i i i | 〈_ ' ' j ! V ̄ ̄ V / / } ヘ≦\ .イ i i i i i i i i i /| . 八 i i iヾi∧.c{ { . . { i / i i i i i {i i i i i i i i i| ./ ヽ,、 / i! i! / / / j ヽ { i i i i i i i iヾ{/ . .V . . ゚, i i i \Ⅵハ . .!" i i i i i i i/| i i i i i i i | r‐ '― / `~ ∧ i! i! / / / / } ∨ i i i i i i i∧ . . .} . . . .} i i i i i i iヾイ从 i i i i i i / . ! i i i i i i i i| / /. ∧ ヽ ! rtz ! ./ / / / /\ 名前:涼宮ハルヒ(すずみや ハルヒ) 性別:女 原作:涼宮ハルヒの憂鬱 一人称:私 二人称:名前呼び 口調:命令形 AA:涼宮ハルヒの憂鬱/涼宮ハルヒ 才色兼備の完璧超人めいた美少女。ボブカットに黄色いカチューシャ、セーラー服が特徴。 スタイルも非常によく、本人も「みくるちゃんはあたしよりデカい」と発言している以上自信があることがうかがえる。 (『らき☆すた』作中で放送されたCMでは更に巨乳に描かれている) しかし、その性格は奇天烈にしてエキセントリック、バイタリティに満ち溢れて我儘。 異性にはモテていたがすぐにフる為、長続きしなかった。 この世の不思議を求めて「SOS団(世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団)」を結成し、 キョンをはじめとした周囲の人間を振り回す。 だいたいにしてこれらの騒動では朝比奈みくるが第一被害者となり、 頻繁にセクハラを受けている。(そのケがある訳ではないらしい) このように書くと「理想と現実の区別が付いていない中二病患者」のようだが実は真逆であり、 作中の人物によれば「本質は非常に理性的で常識人」。 不機嫌で頓狂な言動は「不思議なものがあってほしい」という願いと 「そんなものあるわけがない」とする理性が自己矛盾を起こしているから。(タイトルの『憂鬱』もそれゆえ) 故に彼女は物語の中核たる存在でありながら、その性質上「主人公になることが出来ない」という矛盾を抱えている。 原作では終始主人公はキョンであり、アニメ版等の派生作品では「主人公の涼宮ハルヒが~」等書かれることがある。 本人には全く自覚がないが、願望を実現する能力を秘めているらしく、それゆえ複数の勢力から監視されている。 それを認識されては困るため、幾多のトラブルの震源地でありながら解決作戦では蚊帳の外。 ちなみに本人すら自覚がないがキョンに対してかなり好感度が高く、結構ヤキモチを焼いていることも多い。 シリーズ第4作「消失」およびスピンオフ「長門有希ちゃんの消失」では 他校に通っている場合のIf、通称「消失ハルヒ」が左のAAで登場する。 そちらはロングヘアでブレザー。 キャラ紹介 通常/消失 やる夫Wiki Wikipedia アニヲタWiki ニコ百 ピクペ 登場作品リスト タイトル 原作 役柄 頻度 リンク 備考 ハルヒたちはあっ軽い人びとのようです 機動警察パトレイバー 泉野明役 主 まとめ 完結 ハルヒとヤルオー ジョジョの奇妙な冒険 主人公。ふきだしを操作するスタンド使い 主 まとめ 完結 ハルヒはツンネコのようです あっちこっち 御庭つみき役 主 まとめ キョンは全てを振り切るようです 仮面ライダーW 鳴海探偵事務所所長・鳴海亜樹子役 常 まとめ 完結 GESUの使い魔 オリジナル 佐々木と共に異世界に召喚される 常 まとめ R-18 完結 サバイバルヤルオ サバイバルキッズ やる夫とともに無人島に漂着した女性 常 まとめ R-18 完結 大長編ドラえもんのび太のそして伝説へ… ドラえもんドラゴンクエストIII 勇者やる夫を越えた超勇者と自称証明のため勇者の軌跡を一人で旅している 常 まとめ 予備 完結 旅をするために旅をするひとたち オリジナル 神を自称する女子高生やらない夫を道連れに異世界へ旅立つ 常 まとめ 完結 超絶!適当三国志 ~やる将伝~ 三国志 魏の軍師・司馬懿。AAは消失版 常 まとめ 完結 遠回しで、大胆な告白 オリジナル やらない夫の幼馴染で、自作ゲームを彼にテストプレイさせようとする 常 まとめ 予備 予備 完結 ドラクエ5っぽいもの ドラゴンクエストV デボラ役 常 まとめ 完結 ハンニバル・やる夫・バルカスがローマに喧嘩を売るようです 歴史(ハンニバル・バルカ) 共和制ローマの英雄スキピオ 常 まとめ 完結 文芸部のバカップル共 オリジナル 文芸部員。キョンの恋人 常 まとめ 完結 マジカルライダーやる夫 仮面ライダーシリーズ キョンの相棒 常 まとめ 完結 森のくまさん オリジナル 都会から家出してきた少女山で遭難しているのをやる夫達に見つけられる 常 まとめ やる夫がフランス革命を生き抜きます 歴史(フランス革命) ナポレオン・ボナパルト役 常 まとめ 予備やる夫Wiki 完結 やる夫がローエングラム候と戦うようです 田中芳樹「銀河英雄伝説」 ヤン・ウェンリー役 常 まとめ 完結 やる夫たちでソードワールドバニーPT! ソードワールド2.5 人間の妖精使い 常 第1話 まとめrss 安価 短編集完結 やる夫たちと学ぶ江戸時代 学ぶスレ(江戸時代) 徳川綱吉役 常 rss やる夫Wiki エター やる夫達は一味違う冒険者になりたいようです D D3.5 PTメンバーのグレイエルフ 常 まとめ やる夫とキョンのドラクエ6 ドラゴンクエストVI バーバラ役、メインヒロイン 常 まとめ 完結 やる夫とハルヒとTRPG部の日々 オリジナル TRPG部部長 常 まとめ エター やる夫とハルヒのデビルサマナー物 女神転生シリーズ オカルト研究会の会長 常 まとめ R-18 やる夫の恋人は宿敵のようです オリジナル 「スマートブレイン」首領 常 まとめ 完結 やる夫の白い切り身 オリジナル ヒロインの一人 常 まとめ R-18 エター やる夫はキョンと旅をする ドラゴンクエストV ビアンカ役 常 まとめ 完結 やる夫はコスモスの戦士に選ばれたようです ドラゴンクエストシリーズ ドラクエIVの主人公 常 まとめ 予備 完結 やる夫は涼宮ハルヒに夢をみるようです オリジナル モニターすることになった人型ロボット 常 スレ 悪役令嬢と石田三成 オリジナル スズミヤ公女 原作ゲームでの主人公ガッツを護衛に大望を求める 準 まとめ rssやる夫Wiki あんこ 完結 うろ覚えで甲子園を目指すパワポケ1 パワプロクンポケット1 四路智美役だが、原作と立ち位置が大きく異なる 準 まとめ 完結 キル夫は復讐のために戦うようです ドラゴンクエストIV バトランド王 準 まとめ 完結 白頭と灰かぶりの魔女 オリジナル 清教徒高位修道女 準 まとめ rss R-18 探偵と魔法少女 オリジナル 椚ヶ丘学園高等部一年 準 まとめ 完結 できる夫で「罪と罰」 ドストエフスキー「罪と罰」 長門有希をいじめていた女子高生 準 まとめ 完結 引き籠りの長門有希はリトルバスターズを結成するようです サモンナイト2 ミモザ・ロランジュ枠 準 スレ やる夫Wiki あんこ 完結 放課後仮面ライダー 仮面ライダーシリーズ キョンの彼女 準 まとめ 完結 メカ沢さんちの日常 合金さんちの日常 お隣の夫婦の奥さん 準 まとめ 完結 元リア充のぐだ子は召喚獣に人権のない世界に放り込まれるようです サモンナイト1 ミモザ・ロランジュ枠 準 スレ やる夫Wiki あんこ 完結 やらない夫はモンスターマスターとして召喚されたようです ドラゴンクエストモンスターズ キョン子の母 準 まとめ 完結 やる夫が0からはじめるようです オリジナル 勇者パーティの一人。自称「超勇者」 準 まとめ / スレ やる☆おだ 歴史 秀吉の正室お春 準 まとめ 予備 やる夫とおっぱいゴーレム オリジナル こなたのクローン 準 まとめ R-18 ~やる夫とキョン子のほのぼのな毎日~ オリジナル 人気アイドル 準 まとめ 完結 やる夫とジャギのデビルバスターズ 女神転生シリーズ 妖精女王・ティターニア 準 まとめ R-18 完結 やる男が応天門を焼くようです 学ぶスレ(歴史) 空海役 準 まとめ エター やる夫は地球侵略に来た帝国の戦闘員のようです オリジナル キョン子の双子の姉。音フェチ 準 まとめ R-18 ゆーちゃんとあっちゃん オリジナル なのはの母 準 まとめ 完結 ユーノは中学生で主夫のようです オリジナル ユーノのお隣さん 準 まとめ 完結 CHRONO TRIGGE──やらない夫の不思議な冒険── クロノ・トリガー、ドロヘドロ、BioShock パレポリの町長、通常と消失両方のAAで登場娘のAAも小学生のAAを使用 脇 まとめ rssやる夫Wiki エター あんこ時々安価でクトゥルフ神話TRPG クトゥルフ神話TRPG シナリオ「雪山密室」に登場する、看護師で遭難者の1人 脇 登場回 wiki R-18G 安価あんこ エン女医なのは先生 エン女医あきら先生 歩(ユーノ)の旧友・響役 脇 まとめ エター 彼らは本能に従うようです。 モンスターハンター 飛行船に乗ってたハンター、HR6 脇 まとめ 予備 項羽と劉邦は乙女だらけの楚漢戦争を戦うようです 歴史(秦朝末期~楚漢戦争) 魏豹役 脇 まとめ あんこ 完結 純狐は魔術学園を卒業したいようです オリジナル デスゲームの参加者死体を操る魔術の使い手 脇 まとめ rsswiki あんこ 完結 なのはな ドラゴンクエスト 邪教の大神官ハルーゴン、蛇足編に登場 脇 まとめ 完結 鋼の巨人やらない夫 オリジナル 新聞社の編集長 脇 まとめ 予備 完結 メアリの夏 オリジナル メアリの学校の友人 脇 まとめ 予備 やらない夫と導かれし仲間達 ドラゴンクエストIV サントハイム王 脇 まとめ 完結 やらない夫は彼女と共にデスゲームを生き抜くようです オリジナル アマデウスの開発者 脇 まとめ やらない夫は鉄血宰相と呼ばれたようです 有川浩「シアター!」 やらない夫の母 脇 まとめ 予備 完結 やる夫が徳川家康になるようです 歴史(徳川家康) 日本一の兵・真田信繁(真田幸村) 脇 マトメ 完結 やる夫がドラゴンクエスト3で遊び人になるようです ドラゴンクエストIII 魔王バラモス 脇 まとめ 完結 やる夫、もりそば、うおのめ、薫 DQIII+ドラゴンクエスト4コマ漫画劇場 ハーゴン役 脇 まとめ 完結 やる夫が伐折羅王をこらしめにいくようです 新桃太郎伝説 三千世界役 脇 まとめ 完結 やる夫達は王道を突き進むようです オリジナル 科学者 脇 まとめ 予備 第一部完 やる夫のファイナルファンタジー2 ファイナルファンタジーII 皇帝役 脇 まとめ 完結 やる夫は夢に惑うようです ペルソナシリーズ 故人、SOS団の団長だった 脇 まとめ 準備 完結 勇者やる夫の軌跡 オリジナル カミナの妹 脇 まとめ rss プロレスAA列伝 学ぶ系(プロレス) WWEオーナー・ビンス・マクマホン まとめ 完結 短編 タイトル 原作 役柄 リンク 備考 活字原作・短編やる夫ハルヒ登場 江戸川乱歩「お勢登場」 お勢役 まとめ 短編 涼宮さん宅の場合 オリジナル 父親と情を交わした娘。近親相姦 まとめ 短編 R-18
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/31.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム 今日も地球は凍えそうに寒い。 アリのように勤勉なシベリア寒気団によって、日本列島は寒さに震えていた、というのが言いすぎだとしても、俺が寒さに震えていたのは間違いようもなく事実だ。 「……寒いね。キョン、手、つないでもいい?」 ああ。俺はハルヒの冷たい手をとると、自分の手と一緒に、コートのポケットの中に突っ込んだ。 「ふふ、キョンのポケットの中、あったかいっ」 ハルヒは、にっこりと笑うと、ポニーテールを揺らして、俺に体をぴったりとつけた。反対の手には大荷物を抱えているが、ハルヒは嬉しそうにそれをブンブン振り回している。 俺は、その上にセリフが書き込めそうなほど、真っ白な息を空中に吐き出した。 「いっやあ、いつ見ても、おあついなぁ、お二人さんよぉ!」 後ろからアホの声がすると思ったら谷口だ。ハルヒは、停止を示す信号のようにパッと顔を赤くすると、谷口に噛み付く。 「馬っ鹿じゃないのっ!寒いからこうしてキョンで暖まってんじゃないのっ!!そんなんだから、あんた、いっつもテストが赤点ギリギリの低空飛行なのよ。あんた、ちょっとはキョンを見習ったらっ!?」 「くうっ……キョン、なんでお前はそんなに勉強ができるんだ……頼む、俺にも秘訣を教えてくれ」 テストの話題が出た瞬間、谷口はシュンと空気を抜いた気球のようにしぼんでしまった。恨めしそうに俺の方を見る。 「……特にないな、スマン」 まさか、ハルヒの起こした時間のループのせいで、学校の科目はどれもこれも既に習っているから、とは言えまい。 クリスマスまで、一週間を切った12月18日―― いつもと変わらないような朝。 それは、すでに、密かに始まっていたというべきなんだろうか? 『ループ・タイム――涼宮ハルヒの消失――』 このループする一年間、俺と長門は、SOS団のさまざまなイベントを、懸命に蜜を集める働き蜂のようにこなしてきた。 SOS団が二年目に入ろうとしたとき、なぜか突然時空改変を起こしたハルヒが、「やり残したこと」のためにもう一度ループさせてしまうことがないようにだ。 その結果、朝倉涼子がSOS団に加入したり、ハルヒに代わって長門が文化祭の映画の監督をやったりと、さまざまな部分で変更点が生まれてしまった。 だが、まあ、これまではなんとかSOS団としての活動をこなして、ハルヒを満足させてこれたかな、と思っている。 だが、一つ。 俺としては決して繰り返したくないことがある。 もちろん、長門の世界改変だ。 世界改変後の世界で出会った、眼鏡をかけた、内気な文芸部員の長門。 その長門に向かって銃を構えた時の、長門の怯えた表情。 今でも、その小さな姿がくっきりと記憶の底に焼きついて残っている。 まあ、ついでに言えば、情報統合思念体の急進派が派遣した朝倉涼子に、腹をぐりぐりとぶっ刺されたことも、強く記憶に残っているが。 こっちの記憶のほうは、長門によって無害に再構成された、今の朝倉を見ていると、どんどん薄れてきているのが幸いだな。 「どうしたの、キョンくん、ボーッとして……?」 文化祭で作ったウエイトレス衣装で、胸の前にお盆を抱えた朝倉涼子が、俺の顔を覗き込んでいた。 おっと、いかん、SOS団の会議をはじめなくちゃな。 「えーと、今年もSOS団恒例の、クリスマス鍋パーティーを行う」 ニヤニヤ笑うハンサムエスパーは、ちょっと肩をすくめた。 「まだ、結成してから一年経たないのに、恒例の……ですか。なるほど」 うるさい、クリスマスといえば、部室で鍋パーティーだ。これは一年前からの既定事項なんだよ。 それに、長門の改造によって、部室にはほぼ完璧なキッチンが設置されている。これで料理をしないのはいかにももったいないじゃないか。 ちなみに、女子用の更衣室も小さいながらある。まさに至れり尽くせりのSOS団である。 「鍋ぇ!?クリスマスなのに?まあいいけど。あ、あたし、蟹は嫌だからね。あれ、身をほじくるのが面倒くさいったらありゃしないんだからっ!いっそのこと――」 「……甲羅まで食べられる蟹は存在しない」 はい、長門、その通り。先手を取られて、ハルヒは、うっと言葉を詰まらせる。 「有希……。まだ、何も言ってないじゃない」 「だが存在しない」 「むー……」 ハルヒが例のアヒル口になった。SOS団の部室は暖房設備が行き届いているとはいえ、さすがにこの季節だバニーガールの衣装では寒すぎる。ハルヒは北高の制服姿だ。 「ハルヒ、それより、持ってきたものがあるだろ」 俺の言葉に、ハルヒはスイッチを切り替えたようにパッと顔を輝かせると、朝の大荷物をごそごそとかき回した。 「うんっ!クリスマスグッズ揃えてきたわっ!!クラッカー、ローソク、ミニツリー、雪だるま人形、モール……あ、あったあった!みくるちゃんっ、これっ!じゃじゃーんっ」 ハルヒが得意満面で取り出したのは、もちろん、サンタクロースのコスチュームである。 こちらは季節と関係なくメイド姿の朝比奈さんが、ビクリと体を震わせる。 「ふえぇ、ここここれ、下のズボンはないんですかぁ?み、短いかと……」 「当然っ!!さ、着替えてきなさいっ」 サンタ服を押し付け、朝比奈さんを更衣室に放り込んだ後、ハルヒはごそごそと、とんがり帽子を取り出し、ふかふかの椅子に深く腰を沈めて本を読んでいる長門の頭にポンと乗っけた。 やれやれ。と、俺は溜息混じりに苦笑した。こんなところまで一年前と同じだな。 パラ、と長門がページをめくる。巫女さんの衣装に、いつもの無表情。 ……だが、心の中では、何を考えているんだろう? 『……改変の恐れはない』 そうか……すまん、なんだかんだ言って、気になってな。 『万が一、私が改変を行ったとしても、あなたは、一年前と同じように行動すれば良いだけ。問題ない』 ……お前が、緊急脱出プログラムを組まない可能性は? 『大規模な時空改変が起きたとき、涼宮ハルヒたちSOS団員が部室に集合することで、緊急脱出プログラムを起動させるよう、既にパソコンにプログラムしてある。 その場合、時空改変の起こる一時間前の私の部屋に、あなたを転送するようセットした』 まるでシステムの復元だな。 『そう』 やれやれ。そこまで長門が用意していてくれたら、心配することはなさそうだな。 『もし、改変が起きたら、文芸部の私に、やさしくして欲しい』 もちろんだ。怖がらせるような真似はしない。あと、改変防止のプログラムは、出来たら銃の形はやめてくれ。あっちの世界の長門が怖がっていた。 『考えておく。……あと』 なんだ? 『ゴムを付けてくれれば、改変を行った私との結合を許可する。やさしくしてあげて』 俺が反論の言葉を考える前に、長門は電話を切った。 ゴムの用意か……はっ、いかん、いかん!あっちの世界の長門を襲うなんてことができるかっ! さて、翌日。 朝出会った谷口は、しっかりと白いマスクをしていた。いつもは陽気な谷口が、流行の重い風邪でどんよりと苦しんでいるようすは、見ているこっちも辛いものがある。 やれやれ。 俺は日本海溝のように深い深い溜息をつく。 昨晩の長門の言葉に反して、しっかりと改変は行われたようだ。 まあ、俺があたふたと騒いでも仕方がない。周りの人間に、痛い痛い電波を受信しているやつだと思われるのがオチだ。一年前の経験が、そう教えてくれる。 今回は、長門がきっちり緊急脱出プログラムを組んでくれていることだし、その発動条件も分かっている。 ハルヒ、朝比奈さん、古泉、長門、俺、朝倉、六人のSOS団メンバーを文芸部室に連れて行けばいい。 まあ、焦ることはないさ。フライパンに乗っけられたアヒルみたいにうろたえるのはごめんだ。 クラスで風邪が流行っていてどうのという谷口の話にも、俺は適当にあわせて相槌を打つ。 教室に入ったら後ろの席にはハルヒが居ないんだろうな。おそらく、古泉と一緒に別の学校に飛ばされたはずだ。 ……そうだ。丁度いい、確認しておくか。 「谷口、涼宮ハルヒって知ってるか?」 「知ってるもなにも、ゴホ……東中出身であいつのことを忘れてるやつがいたら、まず間違いなく若年性のアルツハイマーだな。断言してもいい。 面のほうは、すっげえ美人なんだが、とにかく頭の中が年中あったかくて……」 「いや、涼宮の武勇伝はいい」 俺は谷口を遮る。 「今、そいつはどこの高校に行ってるんだ?」 「光陽明学院だよ……。駅前の進学校だ。ゲホ、あいつ、頭はおかしいのに成績はよかったからなぁ……」 やれやれ、間違いなさそうだ。 「なんだぁ、キョン、どっかで涼宮に一目ぼれでもしたかぁ?忠告するぜ、やめとけ」 谷口、ニヤニヤしてるのが、マスク越しにもわかるぞ、気持ち悪いからやめろ。 「お前の女房が悲しむじゃねえか、だろ?」 女房? なぜかエプロンをつけた長門の姿が頭に浮かんできて、あわてて頭を振って打ち消した。 教室に入ると、ハルヒが座っているべき俺の後ろの席には、ポニーテール姿の美人委員長、朝倉涼子が座っていた。 ……まあ、想定の範囲内だな。 俺が入っていくと、朝倉は飛びっきりの笑顔で出迎えてくれた。一年前とはえらい違いだ。 まあ、当たり前といえば当たり前か。いまの朝倉は、長門が無害化して再構成した、普通の高校生だからな。 「おはよ、キョンくん!」 「ああ、おはよう。朝倉、風邪は大丈夫か?」 朝倉はちょっと顔を赤らめて、にっこりと微笑んだ。ポニーテールがふわふわ揺れる。うーん、やっぱり朝倉にはポニーが似合う。 「うん、ようやく治ったみたい……心配してくれてたの?」 嬉しいな、と小さく呟くと、朝倉は、頬を染めながら、俺の耳に口を寄せた。 「……ね、今日、一緒に帰らない?おでん作ったから、晩御飯、食べさせてあげる」 おでん、おでんか……ああ、よだれが出そうだ。一年前、朝倉が作ってくれたおでんは、死ぬほど旨かった。そして、実際そのあと死にかけた。 「ちょっと、放課後、用事があってな。そのあと、お前の家に行ってもいいか?」 「ううん、じゃあ、この教室で待ってる。キョンくん、用事って?」 「文芸部に仮入部」 朝倉涼子はまじまじと俺を見つめて、亀が甲羅を脱いで走り出したかのを目撃してしまったように、実に意外だという表情をした。 やれやれ、そんなに俺は本を読んでいるイメージがないのかね? 放課後、部室棟に向かう途中、朝比奈さんと鶴屋さんが仲良く向こうから歩いてきたのに行き当たった。 こんにちは、朝比奈さん…… 「……?えっと、どなたでしたっけ……」 しまったっ!朝比奈さんは俺のことを知らないんだったっ。 鶴屋さんが、まじまじと俺の顔を見つめて、何かを悟ったかのように、ポンと手を打ち合わせた。 「ははあ、少年っ!さてはみくるファンクラブの会員だねっ!?うん、一年生かなっ?」 鶴屋さん、相変わらずのハイ・テンションだ。だが、ナイスフォローです。 「……ま、そんなとこです。キョンとでも呼んでください」 とたんに、朝比奈さんは顔を赤らめる。恥ずかしがってプルプルと首を振る仕草が可愛らしい。 「ふえ、そそそんな、ファンクラブだなんて……その、あ、ありがとうございます……えっと、キョンくん……?」 一年前、朝比奈さんが心底怯えて、俺のことを拒絶する目で見ていたことを考えれば上出来だ。俺は笑顔をつくって頷いた。 「おやおや、みくるっ!赤くなっちゃって、可愛いなっ!!あはは、キョンくん、うちの娘をよろしく頼むさっ!」 「つつつ鶴屋さんっ!もうっ」 朝比奈さんが顔を真っ赤にして、プッと頬っぺたを膨らます。 「また、そのうちお会いするかもしれません。そのときは宜しく」 「あ、はぁい。さよなら、キョンくん」 「じゃあねっ、少年、大志を抱きなっ!!」 文芸部のドアの前で、俺は一つ大きく深呼吸をした。 久しぶりの、こちらの世界の長門有希との再会だ。頭に、眼鏡をかけた内気な文学少女の姿が浮かんでくる。 俺はドアに手をかけ、思い切ってドアを開けた。するとそこに―― いた。 長門有希。 座っていた粗末なパイプ椅子から立ち上がって、じっと俺を見つめる、驚いたような表情。 その端正な顔には、眼鏡が―― あれ? 眼鏡が――ないぞ。 ど、どういうことだ?俺はまじまじと長門を見つめ、一年前との違いにようやく気が付いた。 手に持っているのは分厚い本じゃなく、薄っぺらな新聞。そして傍らに置いたラジオ。イヤホンが片耳に伸びている。 そして、眼鏡のつるがかかっているべき耳には―― 赤鉛筆だ。 俺は絶望的な気持ちで溜息をついた。 競馬狂、長門有希がそこにいた。 俺がいきなり入ってきたので、一瞬立ち上がった長門は、すぐまた椅子に戻り、視線を競馬新聞に落とした。まるでスプーンを曲げようと試みる5歳児のように真剣な目つきだ。 「あのー、長門、さん?」 長門は、ちら、とこちらに、草むらに隠れた路傍の石でも見るような視線を送った。 「なに」 それっきり、また競馬新聞に没頭する。 「ちょっと、その……話があって……」 「あと」 戦場で聞かされたら、相手の戦意を完全に断ち切るような即答だ。 「レースが始まるから」 長門は、イヤホンに片手を当て、ラジオから流れる実況に耳を澄ましているようだ。 やれやれ……。 俺はひょいと、長門の手元にある競馬新聞を覗き込んだ。びっしりと赤鉛筆で、予想やデータが書き込まれている。相変わらずのきれいな楷書体だ。 と、そこで昨日の記憶がフラッシュ・バックする。 たしか、昨日、SOS団の巫女さん長門も競馬新聞をチェックしていた。何でも、今世紀四番目の大穴がでるから、資金をまわすとか……。 あいつの場合は、実際に結果を知っているのだから、予想ではなくただのインチキなのだが。 はて、そのとき、長門が赤丸で囲んだ馬は……たしか……。 「……長門さん、この、アサクラアサシンって馬が一着になると思うぞ」 長門有希は、幸運を呼び込む壺を売りにきたセールスマンを見るように、胡散臭そうに俺をみて、ばっさりと袈裟切りで切り捨てるように断定的に言う。 「ない」 「いや、でも……」 長門はやれやれといった表情になる。古泉だったら肩の一つもすくめるところだ。 「不可能。無理。素人考え。……火傷をする前に馬はやめたほうがよい」 このやろう……いいだろう。未来を知っている人間の強さを見せてやるよ。 「…………………」 レースが終わり、長門有希は三点リーダを大量生産しながら、俺の顔を穴が開くほど見つめている。 その視線は、先ほどまでの、石ころに向けるような無感動なものから、うって変わって、驚嘆と尊敬に満ち溢れてきらきらと輝いている。 「……師匠」 こら、誰が師匠だ。 調子を狂わせられっぱなしの俺は、ようやく本題を切り出した。……とはいえ、この分じゃ期待はできないがな。 「あー、長門、お前、俺と会ったことがあるか?」 「ない、師匠」 そうか……やはりな。こちらの世界の長門有希が、読書狂じゃなくて、競馬狂になっているんだから、図書館で俺に出会った記憶がないってことは、まあ、不自然じゃない。 「……でも、師匠のことは知っている」 ああ、まあ同じ学校なんだから、見たことぐらいはあるだろう―― 「師匠は、私と同じマンションに住む、朝倉涼子の婚約者」 「あ、いたいた」 そのとき、当の朝倉涼子が、ドアを開けて文芸部室に入ってきた。 い、今、長門はなんと言った?婚約、俺と朝倉涼子が? 谷口の言葉が頭を掠める。女房。あれは、朝倉のことだったのか。 朝倉はにこやかに、黙り込んでしまった俺を長門に紹介する。 「長門さん、こちら、キョンくん。知ってるよね、あたしと同じクラスの……。彼、文芸部に入りたいんだって」 その一言で、長門は、納得したようにこっくり頷いて、パタパタと棚に歩いていくと、入部届けの用紙を持ってきて、俺にさしだした。 「今、部員は一人」 長門は、ちょっと頬を赤らめた。そして、微かにだが、笑ったように見えた。 なんだか、あれほど見たいと思っていた長門の笑顔さえ、異質なものに思えてしまう。 変だぜ、この世界。競馬狂? 「師匠で、二人目」 俺と朝倉と長門は、三人で朝倉の家まで帰った。 うーむ、思考が上手く働いてくれない。あと、長門、頼むから師匠って呼び方はやめて欲しい。 朝倉が俺の腕に、ごく当たり前のことのように自分の腕を絡めてきたのも、俺の思考を停止させるのに一役買ったと思われる。 これじゃまるで恋人同士じゃねーか――と、突っ込んでみても、事実、この世界ではそうなのだから仕方がない。恋人どころか、既に婚約しているのだ。 SOS団にいるときのような、少し翳のある笑顔ではなく、心の底から喜んでいるようないい笑顔をつくる朝倉涼子の顔を見ていると、なんだか、俺のほうまで変な気持ちになってくる。 まるで、ずっと前から朝倉が恋人だったような―― やめろ、俺。元の世界にかえれば、俺にはハルヒがいるだろうが。 しかし…… 俺はちらりと横を見る。 長門は、すっかり尊敬のまなざしで、俺のことをその黒曜石のような瞳でじっと見つめている。 そう見るなよ、俺には予想師の才能なんてまるでないんだから……。 「師匠、聞いて欲しい」 なんだ、長門? 「この長門有希には夢がある――いつか、馬主になりたい。自分の馬で、レースを勝ち抜いてみたい」 ……その馬につける名前も、もう決まっているんだろ? 長門はコックリと頷く。 俺と長門は同時に言った。 『サイレントユキ』 やれやれ。 長門の大食漢ぶりは相変わらずで、すっかり腹の減っていた俺も、朝倉の作ったおでんを貪り食う。うむ、うまい、やはり絶品だ。 あっという間に夕食を平らげると、長門有希は、つと立ち上がった。 「長門さん、帰るの?」 長門は無言で頷く。そして、俺の方を見て言った。 「師匠、また明日、部室で」 そう言い終ると、長門はするりと玄関から出て行った。 「ふふ、意外だな、キョンくんが、長門さんと仲良くなるなんて」 長門を見送った俺に、朝倉が嬉しそうに言った。 まいったね。 いずれにせよ、明日、ハルヒと古泉、朝比奈さん、朝倉を連れて、文芸部室に行けば片がつくことだが。 元の世界に戻ったときに、長門にじっくり話を聞いてみたい。何考えてんだ? 「じゃあ、俺もこれで――」 と腰を上げてかけると、朝倉は助けた亀に殴られた浦島のように、びっくりして目を丸くした。 「ど、どうしたの、キョンくん。なにか特別な用事でもあるの?」 い、いや、そんなものは別にないが。 「じゃあ、いつもみたいに泊まっていくんでしょ?一緒に、お風呂はいろうよ」 お風呂?いつもみたいに?お風呂?一緒に? 急に、朝倉はクリスマスプレゼントが貰えなかった子供のように、悲しそうな目になる。 「……あたしのことが嫌いになったの?だから帰るって――」 「ち、違うっ、違う違う!そ、そうか、そうだな、風呂に入らせてもらおうか」 慌てて力いっぱい否定してしまった。 朝倉は顔を赤くして、下を向きながら言った。 「じゃあ……お風呂場行こう、ね?」 俺が戸惑っている間に、朝倉はするすると自分の服を脱いだ。それがさも当然であるかのように、俺の前に豊かな白い裸体をあらわにする。 「キョンくん、脱がないの?」 「あ、いや、その緊張して……」 実際は膨張だがな。主にトランクスの中が。 「ふふ、変なの、婚約者なのに、いまさら緊張なんて……しかたないな、脱がしてあげる」 「い、いや、大丈夫だっ、自分で脱ぐからっ」 朝倉が屈み込んで俺のズボンのチャックを下げようとしたのを止めて、俺はあわてて、朝倉を風呂場に押し込んだ。 腰にタオルを巻いても、息子の頑張りは隠しようもない。諦めて、タオルは手にもったまま風呂場に入った。 「背中流してあげる」 朝倉は、俺を座らせて、背中に石鹸を塗りたくる。スポンジの感触が背中を這い回り……ってあれ、なんか違うものの感触だ……これは…… 「あ、朝倉、その、胸があたってる」 「そう、こっちが元気になっちゃうかな?」 朝倉は、いたずらっぽく笑うと、俺の股間に手を伸ばした。 うっ、おいよせ朝倉っ、息子をなでなでするな! 「後でたっぷり頑張ってもらうんだもの……ねぎらわなきゃ、ね」 ねぎらう必要なんてない。十分に元気いっぱいだ。こいつは今100パーセント中の100パーセントになっているところだぞ。 朝倉がシャワーで泡を洗い流し、俺が逃げるように湯船につかると、朝倉が後から湯船にはいってきた。 広めの湯船とはいえ、二人で入れば当然ながら、俺と朝倉の体は、ちょうど抱きかかえるように密着した。 「キョンくん……その……硬いの、あたってる……」 朝倉が赤い顔をして呟く。すまん、だがどうしようもない。 「ね、手をまわして……抱きしめて……」 言われたとおりにした。朝倉の体はひどく柔らかい。 朝倉の肩から漂う、石鹸の匂いに、脳みそが融けそうだ……。 朝倉が髪を乾かしている間、朝倉に言われたように、朝倉の部屋で、ベッドに腰掛けて待つ。 さすがに、自分のパジャマが用意されているのを知ったときには愕然としたね。どんだけ入り浸ってるんだ、俺は。 ふとベッドの枕元の方を見ると、そこに―― あった。 シンプルな写真立て。そして、あの写真が。 夏合宿の時に撮った、SOS団の集合写真。困惑したような、朝倉の微笑。 写真を見つめるうちに、融けきった脳みそが、ようやく少し動き出す。 だが、また疑問が増えちまった。 なぜ、この写真は改変を免れた?なぜ、長門は図書館に行った記憶を持っていない? 今度の改変は、一年前のときとどこか違っている。そのことは分かる。 では、どこが違うのか? そこで俺の思考はフリーズする。 やれやれ。 長門有希、一人きりのがらんとしたマンションで、今、何を考えているんだ? 浮かんできた映像は、大量のデータと睨めっこしながら、予想師としての腕を磨く長門の姿だった。 ううむ、緊張感がない……。 パジャマ姿で朝倉涼子が部屋に入ってきた。 「朝倉、この写真、いつ、どこで撮ったか覚えているか」 「え、写真?」 朝倉は、写真立てを取り上げると、しげしげと覗き込んだ。 「変だな……この写真、撮った覚えがないわ……あなたと長門さんと……後は知らない人たちね」 おかしいなあ、と朝倉は首をひねった。 「キョンくん、この人たち知ってる?」 ああ、知ってるさ。明日、お前にも会わせてやるよ。 「ふぅん……ずいぶん仲が良さそうね……」 俺の腕を取ったハルヒの笑顔をまじまじと見つめながら、朝倉がぼそりと呟く。 ひょっとして、やきもちか、朝倉? 「……ばか」 朝倉はプッと頬っぺたを膨らませた。ドスンと俺の横に腰を下ろし、俺の肩に頭をもたれさせる。 俺の心臓はバクバクと鼓動を速めている。 ……さて、どうする? どうしようもない。流れに従うこと以外に、俺になにが出来るだろう? 俺は朝倉の肩に、震える手をまわして、朝倉涼子を抱き寄せた。 「キス、して」 朝倉が目をつぶった。 パジャマを脱がせ、シンプルな白い下着をとると、朝倉が一糸まとわぬ姿が現れた。ふくよかで柔らかそうな体、大きな胸。相変わらず、プロポーションは抜群だ。 「やだ、そんなにまじまじ見つめないで……」 慌てて朝倉が胸を隠そうとするが、腕に圧迫された乳が横からこぼれて、余計に興奮させる。 朝倉も、恥じらいのためだろうか、ミルクのように白く艶やかな肌の胸元を、ほのかに赤く染めていた。 俺は、さらに速く、バクバクと心臓を鼓動させながら、手を伸ばして朝倉の胸に触れてみた。吸い込まれるように柔らかい。 「んっ……」 朝倉がピクンと体を震わせる。さらにピンク色の乳首を触っていると、次第にその突起は硬くなってきた。 「んん……もお……」 朝倉が俺に抱きついてくる。貪るように、朝倉は俺の口を吸った。 「んくっ……ちゅる……ぷはっ……ねえ、キョンくん……」 ん、どうした? 朝倉が赤い顔で、わずかに瞳を潤ませている。 「……今日も、あれ言わなくちゃ駄目?」 あれってなんだ――と言いかけたが、ここは無言で頷いておこう。きっと好きだとか愛してるだとかなんとか、そんなセリフだろ、おそらく。 朝倉は、恥ずかしそうにコックリ頷くと、俺から体を離し、ごろんとベッドに寝転がり、柔らかな太腿の奥にある、自分の茂みの下を広げてみせた。 「キョンくん、お願いします……涼子のおま×こ、な、舐めてください……」 えええええ!? 懸命にそのセリフを言い終わった朝倉を、俺は呆然とした顔で見つめていた。 俺は朝倉に、こんなことを言わせていたという設定になっていたのか……。 朝倉にこんなことを言わせている自分をぶん殴ってやりたい。 いや、そのように世界改変をしたのは、そもそも長門だから…… 「も、もう一回?お願いします……涼子のおま×こを――」 「い、いや、いいんだ、スマン、朝倉!」 慌てて遮ると、俺は朝倉の腿の間に顔を埋めた。 「あんっ……くうっ……キョンくん、いいよお……くぅん」 長門、長門、そっちの世界に戻ったら、じっくり話を聞かせてもらうからな!! 俺は、朝倉の大事な部分に、身を硬くした自分の息子をあてがい、一気に腰を沈めた。 「あはぁっ……うう、キョンくんのが、入ってる……あんっ……」 そのまま、ゆっくりと腰を動かす。 「あんっ……んんっ……気持ちいいよ……キョンくん……」 うう、腰の動きが自然と速くなる。朝倉は嬉しそうな声を漏らした。 「あんっ……あはあっ……いいよぉ、キョンくんっ、あん、あん、あん、ああんっ、気持ちいいっ!!」 下半身に比重の重い液体がたまっていくような感覚。それがゆっくりとせり上がってきて、あふれ出ようとする。 「ああん、ああんっ!!あん、あん、ああん、あはあっ……いっ、いい、いきそお、キョンくんっ」 朝倉が腰をくねらせ、ビクンと体を震わせた。 「あうっ、あはああああああああっ!!!……あふっ……あはっ……ふうっ……」 俺は、達してビクビクと体を震わせている朝倉に口付けをした。 「……大好き」 俺もだ……決して嘘じゃない。 だが……。 俺の居場所はここではないんだ。 「朝倉、ちょっと用事があって、午後の授業はサボるから、放課後、文芸部で待っていてくれないか?」 翌日の昼休み、俺と向かい合ってお弁当を食べていた朝倉涼子は、ご飯を運ぶ箸を止めた。 「うん、いいけど……それって、写真の人たちのこと?」 「そう」 俺はブレザーのポケットから写真を取り出す。今朝、朝倉に言って借りたものだ。 これが切り札の一つになる。そんな気がしたからな。 「キョンくん、成績いいから大丈夫だと思うけど、あんまりサボっちゃだめよ」 朝倉はウインナーを箸でつまむと、にっこりと微笑んで、俺の方に差し出す。 く、口をあけろというのか……クラス中が微笑ましい光景でも見ているように、俺とお前の昼食風景を眺めているんだぞ。 「……食べたくない?」 朝倉が悲しそうに瞳を潤ませる。クラス中から放たれる、突き刺すような鋭い視線が痛い。 俺は観念して、口を開けた。 朝倉が嬉しそうににっこりと微笑む。 「はい、キョンくん。あーん」 うう、俺はなにをやっているんだ……長門、俺に何をさせたいんだ……お前は。 光陽明学園の前で待つこと、二時間近く。 もう少し遅く出てもよかった気もするが、一年前とのズレは看過できないレベルだ。なんかの拍子で、ハルヒと古泉に出会えなかったら痛い。 男子は詰襟、女子はブレザー。共学になった私立学園の、制服姿の高校生たちが次々と下校してくる。 さて、古泉とハルヒが出てきたら、なんと言って話しかけるか? 俺が苦心して適切なセリフをひねり出そうとしているとき―― 出てきた。 涼宮ハルヒと、古泉一樹。 ハルヒの髪が長い。腰まで届くロングヘアだ。そして、入学当初のような、つまらない日常に苛立つ不機嫌な表情。 一年前と変わっていない。金魚の糞のように古泉がくっついているが、さて、こっちの古泉は、ハルヒのことが好きだとかぬかすかね? 「古泉一樹と、涼宮ハルヒだな?」 古泉とハルヒは、キャッチセールスでも見るように、胡散臭そうに立ち止まった。 「ええ、そうですが……はて、あなたはどなたでしょう?」 ハルヒも絶対零度のように冷たい視線を俺に向ける。 「なんであたしの名前を知ってんの?あんた、ストーカー?北高の制服ね……なんの用?ナンパならお断りだから」 視線で殺そうとでもいうのか、ギロリと俺を睨みつけるハルヒ。やれやれ、まあいい。どうせ、言うべきことは決まっているんだ。 「三年前の七夕、お前は学校の校庭に白線でメッセージを書いた」 む、とハルヒが眉をしかめる。 「……それがなんだってのよ、ふん、誰だって知ってるわ、そんなこと」 「聞け。そのメッセージは、織姫と彦星に宛てられたもので、内容は『私はここにいる』だった……」 さっとハルヒの顔色が変わる。猛牛のごとく俺のネクタイを引っつかもうとするハルヒを、俺はひらりとかわす。 「な、なんで読めるのよ……あたしが考えた宇宙語を……確かにそう書いたけど……」 なんで知ってるか、教えてやるよ。だってな…… 「ほっとんど俺が書いたじゃねえか、あれは!」 よし、言ってやったぜ。ハルヒが瀕死の金魚のように口をパクパクとさせた。 「あ、あんた……じゃあ……」 そう。その通り。 「俺がジョン・スミスだ……まあ、キョンってあだ名のほうが慣れてはいるが」 さて、話を聞いてもらおうか。 ハルヒは、呆然とした顔で、コックリと頷いた。 「SOS団か……楽しそうね」 はあ、と涼宮ハルヒは溜息をついた。一方、古泉の方は、相変わらず半信半疑の表情だ。というか、完全に信じてないだろうな、この表情じゃ。 「信じられないか?」 俺は古泉に聞いてみる。古泉は肩をすくめた。 「あなたがジョン・スミスさんである、という確証もありませんしね。北高には、三年前に本物のジョン・スミスさんがいて、あなたは単にその話を聞いたのかもしれません。 その場合、タイム・トラベルを持ち出さなくとも説明がつきます」 「なるほど。ちなみに、俺のいた世界では、お前はガチでホモだったぜ」 「こちらでもそうですよ」 古泉はさらりと流す。 爽やかだがぞっとする。実にぞっとする。 俺はポケットから、かねてからの写真を取り出した。 「じゃあ、これはどう思う?単なる合成に見えるか?」 俺たちSOS団が写っている、この世界では唯一の写真。 古泉は、まじまじと写真を覗き込み、写真をひっくり返し、またまじまじと眺め、やがて溜息をついた。 「お手上げです。まるで本物ですね……この写真の季節は夏ですか?」 「SOS団の夏合宿だ。孤島に遊びに行ったんだよ。俺が平行世界からやってきたことの、唯一の証拠になっちまったが……」 ハルヒも目を丸くして、自分の写った写真を眺めている。 「これが……SOS団の団員たち?」 その通りだ。宇宙人、未来人、超能力者。あと、俺と朝倉が普通人だ。 さて。 「北高にくれば、そいつらに会わせてやれる。どうだ、来るか?」 ハルヒは、全力でブンブンと音がしそうなほどに首を縦に振り、古泉もしぶしぶといった様子で頷いた。 ハルヒと古泉を、朝倉と長門が待つ文芸部に押し込み、「師匠……」「キョンくん……」という声を振り切って俺は書道部に向かう。 ちょっとお話が……というと、朝比奈さんは案外素直に頷いてついて来てくれた。昨日挨拶しておいたことが功を奏したようだ。 俺がドアを開けて、一同、訳がわからない、といった顔をしている文芸部室に朝比奈さんを連れて入ると―― パソコンの電源が入った。 俺はまっすぐパソコンの前に座る。やれやれ、これで任務完了だ。 YUKI.N> これは緊急脱出プログラムである。起動させる場合はエンターキーを、そうでない場合はそれ以外のキーを選択せよ。起動させた場合、あなたは時空改変の機会を得る。 カーソルが言葉を紡ぐ。 YUKI.N> このプログラムが起動するのは一度きりである。実行ののち、消去される。非実行が選択された場合は起動されずに消去される。Ready? 「なんなのこれ?どういうこと?ちょっと、ジョン、説明しなさいっ」 ハルヒがわめく。 「自分の世界に帰るんだよ……」 俺は、長門の顔を見る。困惑した表情。 そして―― 朝倉、涼子。 「キョンくん……どういうこと……ど、どこに行くの……」 怯えた声を出す。泣き出しそうな顔だ。 Enterキーにかけた手が震える。俺だって、この世界が嫌いじゃないさ。 だがな、朝倉。 俺がお前に――本当のお前に会うためには、俺は、ここにいるわけにはいかないんだ。 「キョンくん、待って――」 朝倉の声が聞こえたが、俺は、ぐっと目をつぶって、Enterキーを押し込んだ。 次の瞬間には、俺は長門のマンションにいた。 「あなたを待っていた」 おう、二日ぶりだな長門。といっても、お前は今日俺に会ったばかりか。 目の前の長門有希は、すっと立ち上がった 「時間が惜しい。今すぐ出かける。説明は途中で」 「お、おい、どうしたんだ?」 「道々話す」 俺は長門にものすごい力で引っ張られて、走るように長門のマンションを飛び出た。 「ど、どこ行くんだ?」 長門はワイヤーロックがかかったスクーターに近づくと、高速呪文を唱えてロックを外した。同時に、キーもなしにエンジンがかかる。 「あなたの家。……乗って」 おいまてそれは窃盗だ――という俺の抗議もむなしく、俺が後ろに乗った瞬間、長門は全速力でスクーターを発進させ、俺は後ろに吹っ飛びそうになった。 「スピルバーグの映画では、宇宙人との二人乗りはもっと優雅だったぞ!」 俺は長門の腰にしがみつきながら叫ぶ。 「しっかりつかまって……ブースターモードで加速」 長門がさらに高速呪文を唱え、さらにスクーターは急加速した。 「時空改変を行うのは、朝倉涼子」 俺の家に向かう途中、そう長門が言ったとき、俺は長門の腰にしがみつきながら叫んだ。 「まて、そんなはずはない……だって、今の朝倉にはそんな力はないはずだ!お前が、無害に構成した普通の女子高生のはずだろ!!」 「そう」 長門が呟くように言う。 「だが、情報統合思念体の急進派が、朝倉涼子に干渉した。朝倉の情報操作能力を復元し、その任務を進めようと独断専行……」 朝倉の任務? 「あなたを殺して、涼宮ハルヒの情報爆発を誘発すること」 一年前の、薄く笑ってナイフを構えた朝倉の姿が頭に浮かぶ。 「じゃ、じゃあ、朝倉は、俺を殺すために、俺の家に向かっているってのか!?」 「そう。だが、朝倉涼子は、あなたを殺さなかった。そのかわりに……」 ようやく、俺の頭の中で、すべてのことがつながった。 俺の家の前について、俺と長門はバイクを乗り捨てた。誰だか知らないが、持ち主、スマン。 「間に合った」 朝倉涼子は、まだ来ていないようだ。 長門は、ふと目を伏せる。 「……本来、安全を考えれば、あなたを連れてくるべきではなかった。だが――」 俺にも長門の言いたいことは分かった。 そう、俺が見届けなくてはならないんだ―― この事件の、決着を。 俺は長門に向かって頷いた。 そのときだった。 暗闇の中から、ゆっくりと人影が出てきた。 長い髪、制服のスカートの下に伸びる足、白いハイソックス。そして、凍りついたような薄い笑み。 右手に持った、大型のごついナイフが、電燈に照らし出されて冷たい光を放つ。 情報統合思念体の急進派が、俺を殺すために作成したヒューマノイド・インターフェイス。 朝倉、涼子。 「あら、長門さんじゃない……こんな時間に何をしているの?」 朝倉が長門に問いかける。にこやかな笑顔。だが―― その表情は、薄っぺらの作り物だ。 長門によって再構成された、SOS団団員の朝倉涼子の表情が、俺の頭をよぎる。 困ったように微笑む顔。喜びにあふれた表情。うつむいて涙をこらえる顔。 どれもこれも、作り物の表情じゃなかった。本物の感情が表れた顔だ。 今、目の前にいる、朝倉涼子の、笑顔とは違う。どれだけそれが、笑っているように見えたとしても、こいつの表情は作り物だ。 「あなたの目的は分かっている……彼を殺させるわけにはいかない」 「彼?」 そういった瞬間に、朝倉がピクリと体を震わせた。 「それが私の任務だもの……そうしなくてはならないの。それとも、邪魔する気?」 朝倉の動きがおかしい。 体を小刻みに震わせ、動きがぎこちない。言葉も、微かにどもるような口調になっている。 長門が言う。 「あなたは、蓄積したエラーデータによって正常稼動することが出来ない。……私には勝てない」 「……やってみなくちゃ分からないわよ……殺さなくちゃいけななないいいののの……彼を……キキキキョンくんんんをを」 朝倉の言葉は、異常動作をしたCDのように、奇妙な繰り返しをする。 ぶるぶると朝倉の体が震えだし、朝倉の顔に張り付いた冷たい笑顔が、はっきり分かるぐらいに歪んだ。 朝倉涼子の表情が変わる。 その顔が――いまにも泣き出しそうな顔になった。 はっと俺は息をのんだ。 ――朝倉だ、SOS団団員の。間違いない! 「朝倉っ!!」 朝倉は、涙をぽろぽろこぼしながら、ぎこちなく俺の方に顔を向ける。 「かかか体が、勝手にににっ……あああたしは、キョンくんんんのことを殺したたくなんかないのににに……」 がくがくと震えて、朝倉は体をよじりながら、地面にひざをついた。 長門の方にやっとのことで顔を向けた朝倉は、苦しそうに涙をぼろぼろと零した。 「なな長門さん……たたたたたすすけて……こんなのこんなのののいいいややああああああ!!」 それっきり沈黙すると、一回大きく、ビクン、と体を震わせ、やがて朝倉涼子は体を起こした。 朝倉の体の震えは止まっている。 俺の方を見た、朝倉涼子の冷たい目。その顔には、凍りついたような笑みが浮かんでいる。 「さよなら、死んで!!」 一閃、ナイフと腰だめにして、朝倉涼子は、俺に向かって飛び掛ってきた。 ズンッ 白刃が、柔らかい肉体を突き通す音。 だが―― 俺が刺されたわけじゃない。朝倉のナイフは、俺から50センチほどのところで止まっていた。 「キョン……くん……」 長門の腕が輝く刃に変わって、朝倉の胸を突き通していた。 長門はひどく苦しそうな表情を浮かべている。涙が一筋、長門の頬をつたった。 ズブ、と長門は朝倉の体から白刃を引き抜く。胸から血を噴出させながら、朝倉涼子は地面に崩れ落ちた。 「朝倉ああっ!!」 俺は朝倉に駆け寄った。 朝倉涼子は、体をビクビクと痙攣させながら、微かに呟いた。 「かか改変ん……しししなくちゃ……今度こそそそそ……ふつうののの……おお女の子で……キョンくんと……一緒……に……」 長門が、朝倉の前に屈み込んで、朝倉の耳に囁く。 「……その必要はない」 長門を見つめる、朝倉の虚ろな目。 「あなたを情報統合思念体から再切断する……目覚めたとき、あなたは元の、普通の高校生に戻っている……」 朝倉が、かすかに微笑む。 「安心して」 そういった長門の目からは、涙が流れていた。 「あ……り……が……と……」 俺は、ようやく朝倉を抱きおこす。 朝倉涼子は、既に意識を失っていた。 さて、後日談。 朝倉は眠ったまま病院に運ばれた。そのまま三日間、眠り続けている。 もちろん、肉体的に傷がどうこうってわけじゃない。長門が、情報統合思念体からの干渉を防止する防壁プログラムを、じっくりと時間をかけて構築するために、構築のあいだ朝倉には眠ってもらっていた。 そして、今日の朝、長門が電話で、プログラムの構築が終わったと連絡してきた。情報統合思念体の干渉は、今後、まず起きないだろうと長門は言う。 そう信じたい。 椅子に腰掛けた俺は、病院のベッドで眠り続ける朝倉涼子の美しい顔を見た。 ……朝倉は、俺を殺すように、情報統合思念体の急進派によって、プログラムの干渉を受けた。 自分の意志に反して、俺を殺すために、俺の家に向かっているとき、朝倉はどんな気持ちだったのだろう。 そして、そのぎりぎりの瞬間、朝倉はハルヒの能力を利用して世界改変をした。 後のことは、俺が体験した通りだ。 朝倉が改変した世界では、朝倉涼子は俺の婚約者になっていた。 俺の弁当を作り、一緒にそれを食べ、ポニーテールを揺らして、幸福そうに笑っていた。 あのとき、Enterキーを押さなければ―― 果たして朝倉は幸せになれたのだろうか? 俺は首を振った。 断言する。 答えは――NOだ。 なぜって? 俺は立ち上がって、朝倉の眠るベッドの枕元に置かれた写真立てを取り上げた。俺のポケットに入ったままだった写真。 長門がもってきた写真立てに入れて、朝倉の枕元においてある。 SOS団の集合写真だ。ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さん、妹に抱きつかれた俺、そして―― 困惑したように、微笑する朝倉。 朝倉が、改変をした世界で、唯一そのままにしたもの。 これが、お前の答えだと受け取っていいんだよな? SOS団のみんなと一緒に、この世界に留まることが。 俺は、朝倉の顔を覗きこんだ。――そろそろだろうと思う。そんな予感がする。 朝倉涼子が、目を覚ます。 やがて、ゆっくりと開いていくまぶた。その瞳が―― 俺を見る。 泣くんじゃないぜ、俺。ここは笑うべきところだ。朝倉にお前の笑顔を見せてやれよ。ほら、笑え。 俺は、こぼれてきた涙をぬぐうと、無理やりに笑顔を作った。 「おかえり、朝倉」 「……うん」 朝倉涼子が、微笑んだ。 おしまい 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3477.html
2.レトロウイルス それはわかってたさ。倒れた状況、長門の態度、どれを取っても普通じゃない。 おおかた長門の話を聞いた古泉が、先に病院に連絡をしていたのだろう。 「だろうな。とりあえず何が緊急事態なのか教えてくれ」 長門はまっすぐに俺を見据えていった。その表情はわずかに暗い気がする。 「涼宮ハルヒの精神が、浸食されつつある」 浸食? 何かがハルヒに入り込んでいるってことか? 「そう」 それは何だ? そう聞く俺に、長門は表情を変えずに答えた。 「珪素構造生命体共生型情報生命素子」 またその長ったらしい名前か。久しぶりに聞いたよ。未だに全部覚えられないけどな。 あれだな。1年生が終わるってころに阪中が持ち込んだ事件。 阪中の、あの哲学者と同じ名前を持つ何とも愛らしい犬に憑依した存在。 あれと同じか。ウイルス、と定義してたな。 「そう」 「ハルヒも陽猫病にかかったってことか??」 俺はシャミセンの頭に宿っているはずの何かを想像しながら言った。 確か、消し去ることは許可されなかったからそんなことになったんだったな。 だったら、ハルヒもどっかに圧縮保存しておけば治るんじゃないのか? 少し希望が見えた気がした。 「今回はルソー氏と少し状況が違うようです」 笑顔の消えた古泉が口を出した。 お前には聞いてない、と言いたいところだが、長門が説明するより簡単な言葉で話してくれそうだ。 ここは大人しく聞いておくことにする。 「情報生命素子は、どんな珪素構造体にも寄生できるわけではないそうです。 どんなハードウェアにでもインストール出来るOSがないようなものですね」 わかったようなわからないような。それが何の関係がある? 「普通の情報生命素子は、宿主を選択して自分が寄生出来る構造体を選びます。 しかし、今回の情報生命素子は宿主の構造を探索して自分を変化させる能力を 有していた。そうですね、長門さん」 「そう」 長門がわずかにうなずく。 「大気圏突入により珪素構造体は自身の大部分を失った。 情報生命素子は新しい宿主が必要」 長門が後を続ける。 「情報生命素子は涼宮ハルヒの脳神経回路を始めとするネットワークを探索中」 探索? SOS団が週末に行っているあれ──なわけないな。 「涼宮さんの精神は、探索をかけられることによって過負荷がかかっている 状態です。それで他の機能──と言うべき部分に反応出来ない。 それが意識不明という結果です。本能的かどうか、生命維持の部分は 動いているようですが……。パソコンで一度にスペック以上の大量処理を させたときと同じ状態、と言えますね」 相変わらずお前の例えはよくわからん 「探索中に消去を実行した場合、涼宮ハルヒに及ぼす影響は未知数」 「そこでいきなり負荷を除いたらまずいってことか?」 「未知数。避けるべき」 「今回、お前のパトロンは消去には賛成なのか」 長門は軽くうなずいた。 「涼宮ハルヒの観察に支障を来す」 その探索とやらが終わったらハルヒは目覚めるのか? 「探索が終わると更新を開始する」 「更新?」 「涼宮ハルヒの精神が、情報生命素子に書き換えられる」 ──つまり 「目が覚めたとき、彼女は涼宮ハルヒではなくなる」 頭を殴られたような衝撃を受けた。 なんてこったい。ハルヒがハルヒでなくなる? バカな。冗談だろ? あのハルヒが別物になっちまうなんて考えられるか。 『神聖にして不可侵な象徴たる存在、それがSOS団の団長』 そう言っていただろ? ハルヒ。 「大丈夫ですか?」 気がつくと手を握りしめていた。暑くもないのに全身汗をかいている。 「そちらに座ってください。今にも倒れそうですよ」 古泉が指した椅子に素直に腰掛けた。 頭がくらくらする。異常にのどが渇いていることに気がつくと、古泉がコーヒーを差し出した。 「とりあえず飲んで落ち着いてください」 これが落ち着いていられるか? 「すみません」 古泉はあっさり引き下がった。俺も素直にコーヒーを飲むことにした。 「そう言えば朝比奈さんは?」 タクシーに同乗していたはずの彼女が見あたらない。 「涼宮さんのご両親に事情を話して貰っています。 女性からの方がいいと判断しましたので」 確かに、こんな訳のわからない状態で男が一緒だと、何か疑われかねない。 「まさか本当のことを言うわけにはいかんだろうが」 「大丈夫です。彼女は頭を打って意識不明ということにしています」 俺たち全員がその場にいたこと、学校の階段から転がり落ちたことにする、と説明を受けた。 あのときの俺と同じか。しかし何でわざわざ全員いたことにしたんだ? 「貴方と2人きりだと、何か疑われるかもしれません」 本当に抜かりがないな。だが詳細にこだわるとかえってボロがでるぞ。 コーヒーの効果はあったようだ。冷静にこんな会話が出来るほどにはな。 「すまん、古泉。ありがとう」 ここは素直に礼を言った。古泉は驚いた顔をしたが、今日始めてニヤケ面を見せた。 「貴方に素直にお礼を言われるとは」 しかし、直ぐに真顔に戻った。 「長門さん、聞きそびれていたのですが、情報生命素子を消去出来るタイミングは あるのですか」 「今は無理。探索が終了し、更新を開始する直前のみ」 「チャンスは1回ってことですか……」 「更新が開始されると涼宮ハルヒの一部となり、消去とともに涼宮ハルヒの情報も 消去される」 それは大問題だろ。 「私は涼宮ハルヒにつきそう。探索は1週間程度かかるとみられるが、 正確に判断はできない」 そうか。また長門に負担をかけちまうな。 「問題ない。SOS団の保全が私の使命」 俺は少し驚いた。以前は俺とハルヒの保全が使命だと言った。今はSOS団の保全と言い切った。 それだけ、長門にとってSOS団が大切になっているということか。 「長門、すまん、頼む」 今はただありがたい。 「僕たちは学校に戻りましょう」 古泉に促されるが、俺はハルヒについていてやりたい。 「長門さんもおられますし、もうすぐ涼宮さんのお母様も見えますから」 俺は眠っているようなハルヒを見た。精神に負荷がかかっている状態のはずだが、苦しそうには見えない。 そういう表情を表に出す余裕もないということか。 ハルヒ、必ず助けるからな。 心の中でそうつぶやくと、俺たちは病室を後にした。 「キョンくん、古泉くん!」 病院の入り口で朝比奈さんに会った。知らない人を連れているが、ハルヒに似ている。 「こ、こちら涼宮さんのお母さんです」 朝比奈さんが紹介してくれた。 「はじめまして、古泉です」 古泉が頭を下げる。俺も倣って、はじめましてと言って頭を下げた。 「涼宮さんはどうですか」 不安げな顔で朝比奈さんが聞いてきた。 「まだ意識不明です。長門さんがついています」 「そうですか……」 暗い顔でうつむいてしまった。そんな顔は似合いませんよ、と言いたいがそんな場合ではない。 「すみません、俺のせいです」 ハルヒの母親にむかって、俺は頭を下げた。 「え? でも、これは事故でしょう。頭を上げて」 朝比奈さんから嘘の説明を受けているハルヒ母は、そう言ってくれた。 しかし、俺は責任を感じずにはいられない。 今回の事件、俺は最初からハルヒ的変態パワーを疑っていた。 そうじゃなくても、何が起こるかわからない、とわかっていたはずだ。 それにもかかわらず、俺はハルヒがあの隕石に触れるのを止めなかった。 UFOとかそんな物じゃなかったということで気を抜いた。 あのとき止めていれば。せめて長門を呼んでいれば。 俺は今までの経験をまるで役に立てることができなかったじゃないか。 それが悔やまれる。 「失礼します」 俺は言って、その場を去った。 「僕はこれで失礼させて頂きますよ。バイトが入りましたので」 バイト、を強調して古泉が言った。 「閉鎖空間が? こんな状況でか?」 「こんな状況だからですよ」 古泉が深刻な顔をしていった。今日は、いつものニヤケ面をほとんどしていない。 さっきコーヒーの礼を言った一瞬だけだった。こいつに取ってもそれだけ緊急事態なんだろう。 「今回は普通では考えられない程の負荷が涼宮さんにかかっている訳ですから」 なるほど、確かにそうだ。ただ、閉鎖空間を作れるほどの余裕が、むしろないと思っていた。 「それは僕にもわかりません。が、現に今閉鎖空間は発生している。 正直に言いましょう。 既に涼宮さんが倒れてから3回、閉鎖空間が発生して います。 規模も今までにない規模です。何度神人を倒しても、また発生する。 こんな事態は初めてです」 「お前らは大丈夫なのか」 「おそらく、涼宮さんに寄生する素子が除去されるまではこの状態でしょう。 僕も学校には行けないと思います。休憩などの調整も含めて、機関で僕らの スケジュールが埋まっていますから。」 僕ら、と言ったのは、超能力者たちのことか。ご苦労なこったな。 「ええ、しかし後手に回るしかできません。 僕が一番恐れているのは、情報生命素子が涼宮さんの持つ能力に気付くことです。 おそらく情報統合思念体もそれを恐れているでしょう。もう気付いているかもしれない」 そうするとどうなるんだ? 「わかりません。情報生命素子がそれをどう考えるかは長門さんにも解らない そうです。いずれにしても、影響は『更新』が行われた後でしょう」 すべてが未知数か。確かに後手にしか回れないな。 「今は僕にできることをするまでですよ。それでは」 古泉は片手をあげて去っていった。 できることをするまで。そんなことは解っている。でもな。 俺にできることって何だ? そこまで考えて、俺は部室においた鞄に財布を入れっぱなしなことを思い出した。 くそ、学校まで歩かなきゃならんのか。 そう思ったが、見覚えのありすぎる黒塗りのタクシーが俺を迎えてくれた。 俺が自分の無力さに半ば打ちひしがれたような気分で学校に戻ると、2時間目が終わる頃だった。 そのまま部室に鞄を取りに行く。 ハルヒが持っていたはずの鍵を長門が渡してくれていたので、それで部室の鍵を開ける。 俺の鞄と、ハルヒの鞄がそのままおいてあった。ああ、これを届けなくちゃな。 俺にはそんなことしかできないのか。 「……っ」 思わず涙がこみ上げてくる。朝はあんなに元気だったのに。 隕石の落下を目撃して、UFOと決めつけてはしゃいでいた。何ともハルヒらしい。 「ハルヒ……っ」 やばい、今は泣いている場合じゃないんだ。 ──泣いてんじゃないわよ、バカ!!── ハルヒが見たらそう言われそうだ。 いっそ怒鳴りつけられたいね。元気なハルヒに会いたい。 ふと、以前の失われた3日間を思い出した。長門によって改変された世界。 あのときも必死になってハルヒを捜したな。 あのときと違って、ハルヒは病院にいる。 それは解っているのだが、長門の言葉が胸に突き刺さったままだ。 『目が覚めたとき、彼女は涼宮ハルヒではなくなる』 これじゃあの3日間よりタチが悪い。 あのとき、見つけたハルヒは変態パワーこそ失っていたが、あくまでも涼宮ハルヒだったじゃないか。 「畜生……」 授業を終えるチャイムがなり、俺は無力感を引きずったまま部室を後にした。 ふらふらと教室に入ると、谷口と国木田が話しかけてきた。 「キョン、朝は大変だったみたいだね」 「涼宮が怪我するとはな。大丈夫なのか?」 この2人なりに心配してくれているらしい。 「まだ意識は戻らんが、怪我はないらしい」 そう言っておいた。本当のことも言えるわけないし、要らん心配もかけたくない。 「そうか、お前も元気出せよ」 そう言って自分たちの席に戻っていった。俺はそんなに顔に出ていたのか。 思わず苦笑した。 3.役割へ