約 3,071,703 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4686.html
涼宮ハルヒのユカイなハンバーガー(前編) 涼宮ハルヒのユカイなハンバーガー(後編)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1880.html
どうしたんだろう。舌がなんだか縮こまっちゃって、うまく話せない。 「ね、ねえキョン。その、つまんない疑問なんだけど、さ」 「うん?」 こちらを見るキョンの様子がおかしい。明らかに心配そうだ。そんなに今のあたしはひどい表情をしているのか。 「こないだ、なんとなく深夜映画を見てたのよ。それがまた陳腐でチープなB級とC級の相の子っぽい、つまんない代物だったんだけど」 「ふむ、そりゃまた中途半端につまらなそーな映画だな。しかしハルヒ、あまり夜更かしが過ぎるとお肌に悪いぞ」 「うっさい、話を混ぜっ返すなっ! …でね、その映画ってのが、途中で主人公をかばってヒロインが死んじゃうのよ。でもって墓前に復讐を誓った主人公が敵の本陣に乗り込んで、クライマックスになるわけなんだけど」 べたりと汗のにじんだ手の平を握りこんで、あたしはキョンに訊ねかけた。 「もしも。もしもよキョン、あんたが言った通り映画の主人公がトラブルを乗り越えて行くべき存在なら…ヒロインが死んじゃったのって、それって主人公のせいなのかしら…?」 あたしがその質問をした途端、キョンは「あ」と小さく声を上げた。苦虫を噛み潰したような表情になって、それから、ゆっくり口を開いた。 「おい、ハルヒ。分かってるとは思うが、さっき俺が言ったのは『物語を客観的に見ればそういう考え方も出来る』って程度の話だぞ」 うん、そうよね。それは分かってる。 「脚本家やらプロデューサーやらの都合じゃヒロインが死ぬ必然性はあったかもしれないが、それは当然、主人公の意思とは無関係だ」 それも分かってる。けど。 「だいたい、自分が活躍するためにヒロインが死ぬ事を望むヒーローなんか居るかよ。もし居たとして、そいつはヒーローなんかじゃない。 だからその、何というか。要するに、俺はお前を責めるつもりであんな発言をしたわけじゃないってこった。単純にお前にトラブルを乗り越えてく覚悟があるかどうか確かめたかったっつーか、なんとなく意地悪な質問をしてみたかっただけというか。 大体ここまで人を巻き込んどいて、いまさら遠慮とかされても逆にだな」 「分かってるわよそんな事ッ! だけど…」 そう、分かってる。分かってるのよ。キョンの言い分は全て理にかなってる。こんなに声を荒げてるあたしの方が、きっとおかしいんだ。 でも。それでも! 「でもやっぱり、主人公が英雄的活躍を求めた結果として、ヒロインが死んじゃった事には変わりないじゃない!? あたしは、そんなのは嫌…。あたしのせいでキョンが居なくなるなんて、絶対に我慢ならない事なのよ!」 ああ、言ってしまった。直後に、あたしはそう思った。 それは言いたくなかったこと。認めたくなかったこと。でも言わずにはいられなかったこと。 「――北高に入って、あたしの日常はずいぶん変わったわ。毎日がとても楽しくなった。中学の頃なんかとは段違いに。 あたしはそれを、自分が頑張ったおかげだと思ってた。SOS団を作って、不思議を追い求めて。前に向かってひたすら走ってるから、だから毎日楽しいんだと思ってた。 昨日まで、ついさっきまで、そう思ってたのよ! でも、違った。本当はそうじゃなかった…」 「何が違うんだ? お前が日常を変えようと努力してたって事なら、俺が証人台に立ってやってもいいぞ? その努力の方向性が正しかったかどうかは別問題として」 この湿った雰囲気を変えようとでもしてるのだろうか、軽口っぽくそう言うキョンを、あたしは鋭く睨みつけた。 「だから、それよ! 気付いちゃったのよ、あたしは、その事に!」 「意味が分からん。いったい何に気付いたっていうんだ?」 「あんたが、あたしの背中を見ていてくれるから! だからあたしは走り続けていられるんだって事によ!」 気が付くと、あたしは深くうつむいていた。今の表情を、キョンの奴には見られたくなかったのかもしれない。 「中学の頃だって、あたしは走ってたのよ。日常を変え得る不思議を捜し求めてね。でもあたしはずっと一人で…息切れとか起こしたって、それに気付いてくれる奴は誰も居なかった…」 「…………」 「あの頃と今と、何が違うのか。 今のあたしが前だけ向いて、心地よく走り続けられるのは、それはあたしの後ろで、あたしの背中を見続けてくれる奴が居て…。もしもあたしが転んだとしても、すぐにそいつが駆け寄ってきてくれるっていう安心感の後ろ盾があるからだ――って…気付いちゃったのよ…」 喋っている間に、いつの間にか立ち上がったキョンが、すぐ前に立っていた。あたしはうつむいたままだからその表情は分からないけど、腕の動きから察するに多分、さっきぶつけた後頭部をさすっているんだろう。 「ありがたいお言葉なんだが、お前にそう殊勝な事を言われると、驚きを通り越して寒気がするんだよなあ。 ともかくハルヒよ、別にそれは俺だけの話じゃないだろ。朝比奈さんや長門や古泉、その他もろもろの人がお前を支えてくれてる。俺なんかパシリ役くらいしか務まってないぞ」 「そうよ! あんたはみくるちゃんみたいな萌えキャラでもないし、有希ほど頼りになんないし、古泉くんほどスマートでもないわ! せいぜい部室の隅に居ても構わないってくらいの存在よ!」 「やれやれ、俺はお部屋の消臭剤か」 なんで、あたしはこんなにイラついてるんだろう。どうしていちいちキョンの言葉に反応してしまうんだろう。 あたしの不愉快さは、それはもしかして…不安の裏返しなの? 「そう、あんたは特に取り柄があるわけでもない、ただ単に手近な所に居ただけの奴だったのに! そのはずなのに! でもあの春の日に、あたしの髪型の変化に気が付いたのはあんたで…その後もあたしの事を一番気に掛けてくれるのはあんたで…。 いつの間にかあたしは、あんたに見られる事を意識するようになってた…。あたしがこうしたらあんたはどんな反応するだろうって、それが一番の楽しみになってた。 あんたが変えちゃったのよ、あたしを! もうあの頃のあたしには戻れないのよ! それなのに、あんたがあんな事を言うから…」 ああ、失敗。失敗だ。 うつむいてしまったのは大失敗だった。確かに表情を見られはしないけど、にじみ出てくる涙をこらえられないんじゃ、意味がない。 「あんたが…人間なんて明日どうなってるか分からないとか言うから…。だからあたしは、こんなに不安になってるんじゃない!」 あんまり悔しくって、あたしは涙に濡れた顔を上げ、再びキョンの奴を睨み据えていた。 つい先程聞いた有希のセリフが、また胸の奥でこだまする。 『彼の言っていたのはある面での、真理』 『価値観は主に相対性によって生ずる。最初から何も無かった状態に比して、あるはずだったものをなくしてしまった時の喪失感は、絶大』 今なら、その意味が分かる。 あたしにとってあるはずのもの、そこに居てくれなければ困るもの。それは、キョンだったんだ――。 「もし…もしもあんたを失っちゃったら、きっとあたしは今のあたしのままじゃいられない…。何度も何度も後ろを振り返って、おちおち前にも進めなくなる…。 そんなの嫌! そんなのはあたしじゃない! だから、あたしは!」 こんな事を言ったら、キョンはきっとあたしの事を軽蔑するだろう。そう思いながらも、でも一度ほとばしった罪の告白は、途中で止められるものではなかった。 「あんたをここへ、ラブホへ誘ったのは、なんとか励まして元気付けたかったからっていうのは本当。 でもあたしにはあたしなりの思惑があって…。あんたが目の前に居て、あんたに触れる事が出来る内に、あんたとしておきたかった…。 あんたがあたしと一緒に居たって証拠を、心と身体に刻み込んでおきたかったのよ! 悪い!?」 はあ。 言っちゃったなあ…あたしのみっともない本音を。 キョンの奴も、さすがに愛想が尽きただろう。いつも偉そうぶってるあたしがこんな、ただの利己主義で動いてるような人間だと知ったら。 キョンの反応が恐くて、あたしはギュッと固く目を瞑って、肩を震わせる。そんなあたしの耳に、キョンの呆れたような声が届いた。 「やれやれ。男冥利に尽きるお言葉ではあるんだが、願わくばもう少し可愛げのある言い方をしてくれないもんかね」 「………は?」 「いや、訂正しとこう。可愛げのあるハルヒってのは、やっぱりどうも薄気味悪い。少し横暴なくらいがお似合いだな」 「な、なんですってぇ!?」 あたしの本気を茶化すような、あまりといえばあまりの雑言に、あたしは思わず目を剥いて、キョンの胸倉を掴み上げてしまう。 すると、キョンの奴は悪びれもせずにあたしの目を見つめ返し、子供をあやすようにポンポンとあたしの頭を叩きながら、こうささやいた。 「なあ、ハルヒ。ひとつ訊くぞ?」 「…何よ」 「お前は、俺に消えていなくなってほしいのか?」 「なっ、このバカ! 今までなに聞いてたのよ、その逆でしょ!? あたしは、あんたと…」 「だったら、つまんないこと心配すんな」 え、と顔を上げたあたしに、キョンは驚くほどキッパリと言い切ったの。 「お前が望んでる限り、俺は、ずっとお前の傍にいるはずだから」 ――まったく。 まったくもう、なんでこいつは。 普段は優柔不断の唐変木ののらくら野郎のくせに、こういう時だけは断言できたりするのだろうか。 不覚にも、ぐっと来てしまったじゃないか。 不覚、不覚! 涼宮ハルヒ一生の不覚! 気付けばあたしはキョンの胸にすがりついて、ボロボロに泣き崩れていた。さっき流した悔し涙や、不安と寂しさで流した涙とは全然違う、それは頬がヤケドしそうなくらい、熱い、熱い涙だった。 次のページへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3846.html
「いやーすっかり遅くなっちゃったわね」 全くだ。現在時刻、午後9時半。部活にしては遅すぎるぜ。 朝比奈さんなんかさっきからあくびをかみ殺してばかりだ。ふぁあ。あくびうつった。 とりあえず、早く帰って休もうぜ。明日休みとは言え疲れをためるのは良くない。 「わかってるわよ!…キョン、古泉くん!」 何だ。 「何です?」 「女子をそれぞれの家に送りなさい!こんな時間に女の子が一人で歩いたら危険よ!」 あのなハルヒ、こんな時間になったのはお前が… 「わかりました。ここから一番近いのは長門さんの家ですね」 「じゃあみんなで有希の家へゴー!スパイダーマン♪スパイダーマン♪」 近所迷惑になるからスパイダーマンのテーマ(エアロスミス)歌うな。 「ぅう…暗いですね…」 すみません朝比奈さん、俺がついてますから…本当だったら真っ先にあなたを… 「…キョン」 何だよ… --------- 何となく喋りながら歩き、ほどなく長門のマンションに着いた。 まだ更に朝比奈さんの家・ハルヒの家へと行かなけりゃならん事を考えると少々気が滅入るがまぁ仕方ない。 じゃあな長門。また学校でな。 「………」 「どうしたの有希?」 マンションの門で立ち止まったままの長門に、ハルヒが問い掛ける。 確かに様子がおかしいな。どうしたんだ? 「…あそこ」 「…ぁあっ!ひぃい…」 長門の視線が指す先を俺が見る前に朝比奈さんの悲鳴が夜の住宅地に響いた。 おいおい…あれは… 「おやおや…これは」 おやおやって…お前な… 「キョ、キョン!何なのあれ!」 俺に聞くな!俺にはアレにしか見えんが… 「…有機生命体の言語で言うなら」 待て待て。俺は認めたくないんだ。何かの間違いだ。特撮だ。 「あれは幽霊」 ……はぁ… 「ふみゅう。。。」 崩れ落ちる朝比奈さんを古泉と支えながら、長門に尋ねる。 マジで言ってるのか?幽霊なんてホントにいるのかよ。 「いるじゃない実際に!あたしだってそりゃ100%信じてたわけじゃないけど、 幽霊なんていないって言うならアレは何よ!」 確かにハルヒが指差す先には、中学生くらいの女の子が… その…何だ。浮いてるんだ。宙に。 それに俺は長門に聞いてるんだ。なぁ長門、本当に幽霊なんか… 「…あなたは誰?」 …は?何故それを俺に向かって言うんだ?聞くならアッチだろ? 「あなたに聞きたい。答えて。」 …何か意図するところがあるみたいだな。 俺は俺だ。これでいいか長門。 「いい。次の質問」 ……… 「なぜあなたはあなただと言い切れる?」 ……解らん。 「降りてきなさーい!あんたに聞きたいことがあるのよ!」 向こうでハルヒが拳を振り上げ何やらきゃいきゃい騒いでいるがとりあえず無視する。 「…自意識という情報があるから」 「自分、という概念」 「その情報はとても大事」 「それが確立していないとヒトは自他の境界線を失う」 「だから自意識の情報には強固なセキュリティがかかっている」 「普通死後は全ての情報が破棄されるが自意識の情報はそのセキュリティのせいで残る事がある」 「それが幽霊」 要するに、自意識情報が魂みたいなもんで死後に残ってしまうといわゆる幽霊になるってわけか? 「そう」 なるほどな… 情報統合思念体なんてものの存在を知った今じゃ、 幽霊が完全削除するのを忘れてゴミ箱フォルダに残ったデータだ、 とかいう突拍子もない話の方が、もっともらしい心霊番組よりよほど信じられる。 「キョン!あんたさっきから人を無視して!」 …あぁ、すまん。 「あいつ捕まえるわよ!」 幽霊をどうやって捕まえるって言うんだ! 「頑張るのよ!」 「そうですよ。努力は時に天才を打ち負かすものです」 …古泉を本気で殺したいと思ったのは初めてだ。いや初めてか…?まぁいい。 あのなお前ら、 「あっ!消えた!」 なにっ? さっきまでヤツがいた所を見ると…確かに消えていた。 あぁ…俺の頭にわずかに残っていた特撮説も、一緒に消えちまった。 一般人よりもちょっとばかり超常現象に耐性がついてる俺は、 幽霊が消えた事に驚くよりもさっきから最高の笑みを崩さずこっちを見ているハルヒが、 次に言うだろうセリフを予測しうんざりしていた。 「探すわよ!」 ってな。…まぁいいが、 探しに行く前に、朝比奈さんを起こさないとダメだろ。 「そうね。みくるちゃん起きなさい。気絶なんかしてる場合じゃないわよ」 「う…ん…」 俺の腕の中でかわいらしい声を出す朝比奈さん。 自制しなければ…ってうわぁ! 「……」 いきなりがばっと立ち上がった朝比奈さんは、黙ったまま俺達に視線を向けた。 「みくるちゃん…?」 「これは少々厄介ですね…」 どういう事だ古泉。 「朝比奈みくるの自意識情報が一時的ブランク状態である事を利用して入り込んだ」 …えっとつまり… 「朝比奈さんが気絶しているスキに幽霊が憑りついたということです」 「みくるちゃんが憑りつかれた!?凄いわみくるちゃん! 日頃から巫女さん衣装とか着せてるから霊媒体質になってたのかも!」 …何でそんなに嬉しそうなんだ。 しかし、ハルヒがいくらつねったり胸をつついたりしても無反応な事を考えるとどうやらマジらしい… 「あなたたち」 朝比奈さん(霊)が突然口を開いた。 「あなたたち、私が怖くないの…?」 朝比奈さん(霊)は、朝比奈さんの声で俺達に問い掛けてくる。 不思議と恐怖感は全くない。奇妙なものに遭遇するのにも慣れてきたしな。 「全然大丈夫!ところで、あんた名前は?」 「…ちひろ」 「ちひろちゃんね!どうしてあたし達の前に出て来たの? あと、憑りつくってどんな感じ? そうそう、どうやったら幽霊になれるの?」 朝比奈さん(霊)、どうやらちひろというらしいが… ハルヒのヤツ…幽霊に質問攻めとは… 「好ましくない状態」 長門が呟く。 「一つのフォルダに二つ自意識情報が入っている」 「このまま朝比奈みくるの自意識情報がブランク状態から復帰したら」 「…重大な人格障害を起こす危険がありますね」 「…そう」 人格障害…?まずいじゃないか。何とかならないのか…? 「入り込んだ自意識情報を削除すればいい」 「しかし、セキュリティはどうするんです?」 「外部操作によってセキュリティを解除する」 「正確には自ら解除させるよう仕向ける」 わかったぞ。つまり俺達が幽霊ちひろの未練みたいなのを取り払ってやれば、 セキュリティは解除されるって事だな? 「飲み込みが早いですね。驚きましたよ」 「私も驚いている。 こうも容易に理解することは予測していなかった」 ただ幽霊モノの基本を言っただけなんだが…なんかムカつくな… 長門まで… 「おーいあんたたち!」 俺達をそっちのけで朝比奈さん(霊)となにやら話していたハルヒが、彼女の手をひいてくる。 「ちひろちゃん、生きてた時に付き合ってたひとと話したいんだって!」 またベタな展開だが…いいのか、長門。 「…」コク 正直こんな時間に見ず知らずの人を訪ねるのはどうかと思うが、 朝比奈さんの事を考えれば仕方ない…か。 で、場所は分かってるのか? 「大丈夫。あの人の事はいつも感じているから」 幽霊ならではの能力ってわけか。 「形のない情報として存在しているから自他の境界線はない」 ふむ。 「だから他人を自分として認知することもできる」 頭が痛くなってきた…とにかく行こう。 「こっちです…」 俺達は朝比奈さん(霊)…ちひろについて歩く。 どうやら彼女の恋人の家は例の公園の方向にあるらしかった。 5分ほど歩いたところでふと、ちひろが足を止める。 「………」 …ここか。 「ここね!じゃあちゃっちゃと済ませましょう」 待て! 何普通にチャイム鳴らそうとしてるんだ。 「だって出て来てくれないと話せないじゃない」 あのな…今何時だと… 「…あの…」 …! 「何かご用ですか…?」 …この人は…まさか? ちひろの方へ視線を向けると、彼女は泣きだしそうな表情で呟いた。 「道弘くん…」 やっぱりそうか… 俺達の後ろからやって来た、不審な顔で問いかけてきたサラリーマン風の男。 この人がちひろの探していた人物らしい。 「…どこかでお会いしましたっけ…?」 「あの…私…」 「わからないむぐっ!まいむんももっ!」 何やらわめこうとしたハルヒの口を抑え、古泉と長門に目で合図を送る。 俺達は邪魔者だ。空気を読もうじゃないか。 しばらく遠巻きに見る事にしようと、場を離れかけた時だ。 「何だかわからないけど、制服姿でこんな時間にうろついてたら捕まるよ? 早く家に帰りなさい」 事情を知る俺達にはとてつもなく非情に響く言葉を残し、彼は玄関に歩いて行ってしまった。 「…無理もないですね…彼は何も知らないわけですから」 「話くらい聞いてもいいと思わない!?ふざけてるわ! これじゃあせっかくちひろちゃんが…」 ガチャン… ドアの音がこんなに冷たいとは知らなかったぜ。 「顔が違うだけでわかんないの!? 死んじゃったら忘れるなんて酷い男だわ!信じられない!」 『パパ…か…りーっ』 「いいちひろちゃん、あんな奴の事忘れなさい! もっとマシな男がきっと…」 しっ!ちょっと静かにしろ!今… 『ただい…ちひ…』 …ちひろが息を飲むのがわかる。 いや、息を飲んだのは俺だったのかもしれない。 『ちひろねぇ、パパがかえってくるのまってたんだよ』 『ありがとう。でも夜更かしはダメだぞ』 「「あ…」」 ちひろとハルヒの声が重なる。 「みなさん、こっちを見てください」 古泉が芝居がかったポーズで指し示しているのは… 表札。 そこにはこうあった。 木下 道弘 早紀 千日旅 「これは、何と読めばいいんでしょうね」 「…ち…ひろ…私と同じ…字で」 「これは珍しいですね。きっと出生届を出すときも一悶着あったでしょう。 わざわざこんな字を当てるなんてよほど思うところがあったんでしょうね」 …ハルヒは、驚きと悲しみが混ざり合ったようなよく解らん表情で表札を凝視している。 かくん、と朝比奈さんの体が崩れ落ちる。何とか支えられたが、こりゃ… 「…長門さん」 「彼女の自意識情報は削除された」 …成仏したってことか? 「そう」 「じゃああなたは涼宮さんをお願いします」 再び長門をマンションに送った後、俺と古泉はそれぞれ二手に別れて二人を送ることにした。 あの後ハルヒが終始無言だった事を懸念してるらしい。 懸念だけじゃなく対処もしてほしいんだがな。 「………」 どうしたんだ。黙ってるなんてらしくないじゃないか。 「死んじゃった後の事考えてたの」 …ふむ。 「そしたら…怖くなって…」 あぁ。誰もが体験する感覚だ。自分が死んだらどうなるのか考えて、勝手に恐怖を感じる。 死んだらもう何も感じないし、何も感じない事も感じない。 feel nothingどころかdon t feel nothing の状態になるって事を考えると確かに怖い。 でもなハルヒ、今日した体験で死んでも自意識情報…魂は残る事もあるって解ったじゃないか。 お前ほど自意識の強い奴なら、絶対に幽霊になれると思うぜ。 「当たり前じゃない。幽霊になる方法もちひろちゃんに聞いたし、 死んだら絶対に幽霊になってやるって思ったわ」 …じゃあ何が怖いんだ? 俺は今日の体験で逆に死への恐怖感が減ったくらいだ。ほんの少しだが。 「ちひろちゃんは結局、道弘くんと話せなかった」 …そうだな。でも彼はちひろの事を忘れてなかったじゃないか。 「すれ違いなのよ」 …何がだ? 「例えるなら車道ね。すれ違う時、限りなく近づくんだけど 交わることはないの。だって正面衝突しちゃうでしょ?」 お前まで分かりづらい例えをするようになったか。 要はちひろは道弘さんと話したいし、道弘さんはちひろの事を忘れていないけれど---- 「もう一度二人が会うことはできないってこと…」 …そうか……… 「その事だけじゃないわ。 …そもそも道弘くんがちひろちゃんの事を死んでしまった後も覚えてて、 娘に同じ名前をつけたのって愛してたからよね」 そうだろうな。 「あたしが死んだ時、誰かが同じ事してくれるのかなって考えたら… また怖くなって。」 ハルヒ… 「…あたし死んだらあんたのとこに化けて出るわ」 ……… えーっとこの脈絡でそういうこと言われると…どう反応していいか… 「何よ。イヤなの?」 いや、そういうわけじゃないんだが… お前より先に俺が死んだらどうするんだ? 「あたしのとこに化けて出ればいいじゃない!」 そうする為には俺も幽霊になる方法を知らなければならないんだが… …何赤くなってんだ? 「…すごく、好きな人がいればいいんだって…! もうここまででいいわ!ありがとう!気をつけて帰りなさい!じゃね!」 …はぁ。 何と言うか… 死ぬ時は一緒に…なんて考えちまった俺が憎いぜ。 一緒に幽霊になっちまえば、同じ車線にいるわけだからな。 …疲れてんのかな。明日も休みだし、帰って寝よう。 To ハルヒ Sub 幽霊の件 Txt どっちかが先に死ぬって考えるから怖いんじゃねーか? 例えばお前が先に死んでも忘れられないとは思うが… まぁちょっとした思い付きだ。俺は寝る。 Fm ハルヒ Sub Re 幽霊の件 Txt バカな事言ってないで早く寝なさい!明日9時集合だからね! To ハルヒ Sub Re Re 幽霊の件 Txt 明日は何もなしじゃなかったのか!? Fm ハルヒ Sub Re Re Re 幽霊の件 Txt 今決めたの! fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1838.html
「バンドを結成するわよ!」 そんな声が聞こえた途端、俺は何度目か数えるのも忘れてしまうほどの偏頭痛に襲われた。 ただ今、耳の張り裂けんばかりの大声でバンド結成宣言をブチ上げてくれたのは 我らがSOS団団長涼宮ハルヒその人である。 毎度毎度のことながらハルヒがこのように突発的な思い付きを宣言する時は 決まって何かの騒動に巻き込まれることになる。 それはこのSOS団という得体の知れない団に1年半以上も身を置いてきた俺にとっては 火を見るより明らかな話なのである。 今度は一体何だって言うんだ? 「で、いきなりまたどうしたんだ?」 俺は、これまた毎度毎度になるお決まりの質問を投げかける。 するとハルヒは、満面の笑みで答える。 「文化祭のステージに立って演奏するのよ!」 俺はこれまたこの1年半で何度目になるかわからない溜息をつく。 ふと顔を上げると、すっかりお馴染になったSOS団のメンバー達が思い思いのリアクションを取っている。 朝比奈さんは、急なハルヒの宣言にオロオロしている。 何かイベントとなる度に、またけったいな衣装を着させられ、晒し者になるのを恐れているのだろうか。 俺としては、新しい衣装のバリエーションが見れるのはそれはそれで何とも魅力的な・・・と妄想は置いておこう。 長門は、じっと置物のような静けさを保ったまま、ハードカバーの分厚いSF小説に目を落としている。 その姿には正直リアクションなんてものは認められない。まあ、いつものことだがな。 古泉は、相変わらずのニヤケ顔を浮かべてやがる。 こいつも長門同様、ハルヒの突然の宣言に驚きを見せていない。 ・・・というか急に目配せをするな。俺に向かって微笑むな。気色悪い。 さて、俺も周囲の観察ばかりしていないで、いつものようにクールなツッコミ役に戻らなければならないな。 「ちょっと待て、ハルヒよ。俺達は既に自主制作映画を文化祭で上映する予定じゃないか」 そうなのである。我々SOS団は今年の文化祭に出展するための映画を現在鋭意制作中なのである。 一応去年の映画の続編という位置づけらしい。 が、相変わらず超監督様の考える脚本・演出方針は俺には到底理解不能であり、 相も変わらず頑張りすぎのバニーガール服やウェイトレス服を着させられ、 未来から遣ってきた戦うウェイトレスという普通の感受性を持っているならば 間違いなく失笑モノの役を演じさせられている朝比奈さんのオドオドした姿には同情の念を禁じえない。 まあ、そのキワドイウェイトレス服と舌足らずな台詞回しに俺が微妙に萌えているのはナイショだ・・・。 そして、その映画の撮影自体が超監督の気分と創作意欲の赴くままに行われているため、いつクランクアップするのかは全くの未定である。 仮に無事クランクアップに辿り着いたとしても、その後俺には地獄の編集作業が待ち受けていることは確実であろう。 ちなみに文化祭まではあと1ヵ月と少しというところだ。 「文化祭まではあと1ヵ月しかないぞ。今撮ってる映画だっていつ出来上がるかわからないんだ。 普通に考えて、バンドなどやっている時間なんか無いだろう」 俺は極めて常識的な反論を述べた。しかし、そんな俺の常識論がハルヒに通用しないことはわかりきっていた。 「何よ、1ヵ月もあれば十分じゃない。これしきのことで音を上げるようじゃ団員として失格よ」 ハルヒがそう言ってくるのは予想していた・・・。 「それにバンドをやるったって、俺は楽器なんか何も出来んぞ。」 うむ。これまた常識的な反論だ。しかしハルヒは全く意に介さない。 だったら今から練習すればいいじゃない。1ヵ月あれば楽器のひとつやふたつ余裕でしょ。」 そりゃあお前や長門にとっては余裕だろうが・・・。 「とにかく!コレはもう決定事項なの! 私達SOS団が文化祭のステージをジャックして、 熱い演奏を繰り広げてオーディエンスの魂を揺さぶるのよ!」 この急展開に俺の魂はもう色々な意味で揺さぶられっ放しなのだが・・・。 「そうすれば、私達の宣伝にもなるし――」 既に宣伝の必要もないほどSOS団は有名だ。得体の知れない怪しい集団としてだがな。 「この学校のどこかに潜んでいる宇宙人、未来人、超能力者にもいいアピールになるわ!」 その必要はない。何故ならそれらは既に皆この場所に集まっている。 「さあ、そうと決まったらまずはパート決めね!」 そんな心の中でのツッコミもハルヒに聞こえているはずはなく、 どうやらSOS団でのバンド結成と文化祭出演がいつの間にか正式に決定してしまったようだ・・・。 さて、バンドのパート決めである。 ハルヒがボーカル&リズムギター、長門がリードギターというのは最初から決まっていたらしい。 2人とも去年の文化祭での経験者だしな。 思い起こせばハルヒ&長門が急遽乱入したあのENOZのライブは確かに凄かった。 ここだけの話、普段音楽なんて殆ど聴かない俺でも少し感動してしまったしな。 あのライブの反響はかなり凄まじかったようで、その後、高い評判と共にENOZのデモテープは校内で瞬く間に大量に出回り、 ENOZの面々は北高生なら知らないものはいない程有名人となった。 メンバーが皆3年生のため、今はもう卒業してメンバーは皆バラバラの進路に進んだそうだが、現在でも活動を続けているらしく、 地元のライブハウスでは定期的にライブを行っているらしい。自主制作でCDを出すなんて噂も耳にした位だ。 もしかたらいつの日か彼女達がメジャーデビューするなんてこともあり得るかもな。 それにあの時、まさに熱唱と言っていいパフォーマンスを見せたハルヒは少し輝いて見えた。ほんの少しだけだぞ? そういえばあのライブの後、ハルヒは「今度はSOS団で出よう」的なことを言っていた気がする。 あの時はただの思い付きからの発言でその内ハルヒ自身も忘れているだろうと思っていたが・・・甘かったか。 それで肝心の残りのパート決めの方であるが―― 朝比奈さんがキーボード兼コスプレでの舞台の飾り、古泉がベース、俺がドラムということになった。 ドラム!?俺に出来るのか!?まあ、キーボードでもベースでも同じことなのだが・・・。 因みに俺のこのパート配置の理由はハルヒ曰く、 「なるべくフロントには見てくれがイイ人材が立ったほうがウケがいいでしょ。 だからキョンは後ろでドラム叩いてなさい。」 だとさ。いじけるぞ、チクショウ・・・。 そして、そんな勝手極まりないパート配置に未経験者達の反応はというと―― 「ふええ~。楽器なんか出来ないですよ~。」 と、嘆く朝比奈さん。確かに彼女にはコスプレはともかくキーボードは荷が重そうだ。 女の子なら誰でもピアノとかそれなりに弾けそうなイメージがあるがこの人の場合はカスタネットやタンバリンの方が似合いそうだもんなあ・・・。 「ふむ。さすが涼宮さん、すばらしいパート配置ですね。」 とは偉大なるイエスマン古泉の弁。というかお前、ベースなんか出来るのか? 「未経験ですね。でも男は度胸、何でも試してみるものですよ。きっといい気持ちですよ。」 非常に前向きな姿勢は素晴らしいが、今の台詞に鳥肌が立ったのは俺だけか!? さて、パートが決まってからは、まさに急展開であった。 楽器と練習場所が必要ということになると、ハルヒは朝比奈さんを連れ、軽音楽部の部室に向かった。 数分後、満足げな笑みを浮かべたハルヒと目に涙を溜めた朝比奈さんが戻ってきた。 ご機嫌なハルヒは開口一番―― 「楽器と練習場所は確保できたわよ。親切な軽音楽部の部員さんが私達に貸してくれるわ。 ああ、楽器はもらっちゃってもいいみたいだけどね。」 と、のたまった。 この際、ハルヒが軽音楽部の部室で何をやらかし、朝比奈さんがどんな被害を受けたのかは聞かないでおこう・・・。 そして肝心の演奏曲についてハルヒは―― 「去年ENOZでやったGod Knows...とLost MyMusicはセットに入れましょ。 あとオリジナルも必要だろうから私が何曲か適当に作っておくわ。」 と、のたまった。コイツは作曲まで出来るのかよ。 ホント勉強といいスポーツといい才能には困らない奴だよな。少しぐらい俺に分けてくれたってバチは当たらんぞ。 バンド名はこれまたハルヒの案により『SOSバンド』に決まった・・・。そこ、笑っていいぞ。 もう少しマシなネーミングがあってもよかったとは思うが、ハルヒ的にはあくまでも 『S(世界を)O(大いに盛り上げるための)S(涼宮ハルヒの)ロックバンド』でなければならなかったらしい・・・。 こうして我らがSOSバンドは、本格的に文化祭に向けての練習を開始したのである。 さて、とある日の放課後、SOS団の面々はとある空き教室に集まっている。 この教室はどうやらハルヒが練習場所として元々の所有者である軽音楽部から強奪してきたものらしい。 楽器も全て用意してある。勿論これらも全て軽音楽部の部員から強奪したものであろう。 全く、コンピ研からPCを強奪したときから何も成長しちゃいないな・・・。 「さあて、こうして楽器も練習場所も揃ったことだし、早速練習をはじめましょ!」 ハルヒが満面の笑顔で言い放つ。 「ちょっと待て。練習を始めるのはいいが俺や朝比奈さんや古泉は全くの楽器未経験者だ。 いきなり曲を演奏できるわけはないだろう。」 今日の練習に際し、俺達はハルヒから曲の詳細も何も聞かされていないし、楽譜も受け取っていない。 まあ、楽譜があったところで音楽の成績が良くても3である俺には理解不能であろうが。 「そんなのは後でいいのよ。今日はパフォーマンスの練習よ。」 パフォーマンス?俺達はバンドじゃないのか?それともライブはライブでもお笑いライブに出場するつもりなのか? 「いい?ライブにおいて重要なのは演奏の質も勿論だけど、観客の視覚に訴えるパフォーマンスやアクションなのよ。 いくら演奏が上手くても、ボーっと立ちっぱなし、下向きっぱなしじゃ面白くないでしょ?」 まあ確かにな。しかしだからといってパフォーマンスか。 「そこで今日は演奏中のパフォーマンスの練習よ。まずは有希!」 相変わらず無言で突っ立っている長門。肩からは大層重そうなギターをぶら下げている。 なんでもギブソンという有名なメーカーのギターでかなり高価なものらしい。生憎俺には価値はわからないが。 そしてなぜか長門は、映画の衣装であるあの黒ずくめの魔法使いの格好である。確かに去年のライブはこの格好だったが・・・。 小さな身体に不似合いな大きなギターを肩からぶら下げ、黒ずくめで佇む長門の図は何だかシュールだ。 「そうね、有希は黒魔術にご執心の不気味なギタリストという設定でいってもらうわ。 演奏中は黙々とギターを弾いているけどギターソロになるやいなや、歯で弾き出すのよ! そして、最後にはギターに火をつけ、アンプに叩きつけて破壊、アンプも爆破させる! ってのはどうかしら?」 ちょっと待て。黒魔術にご執心まではいいとして、何だ歯弾きってのは。虫歯になるぞ。 それに爆破なんて起こしたらステージどころじゃないぞ。文化祭も中止だ。 しかしそんなハルヒの無理な要求にも長門は眉ひとつ動かすことなく首肯した。 といっても俺にしかわからないような首を2ミリほど動かしただけのものであるが。 「次はみくるちゃんね。そうね、みくるちゃんにはまずバニーの衣装でステージに立ってもらうわ。 可憐な萌え萌えキャラクターながら、凄まじい演奏をテクニックを持つっていう設定よ。 その反面、キーボードを逆さから弾いて最後にはナイフを鍵盤に突き刺すという狂気の演奏をしてもらうわ!」 ずいぶん物騒だなオイ。というかあの天使のようなお方にナイフなんか扱えるのだろうか・・・。 ツッコむところはそこではないだろうとは言わないでくれ。俺も現実を見つめるので精一杯なんだ・・・。 朝比奈さんは相変わらずオロオロとした様子で「ふ、ふぇ~、そんなコワイことできませ~ん・・・」 と、おっしゃている。しかし朝比奈さん、バニーの衣装を着てステージに立つのはアナタ的には構わないのでしょうか・・・? 「古泉君はベースよね。それならライブ中ずっと全裸で演奏する変態ベーシストって設定はどうかしら。 もしどうしても恥ずかしいなら靴下ぐらいなら着けてもいいわよ」 それはもはや警察沙汰だ。というか靴下を着けるって何だよ。履くんじゃないのか。 それに着けるなら着けるで一体どこに? 古泉も古泉だ、「いいですねぇ」なんて普通に受け入れてるんじゃねえ。 次はドラムの俺の番だ。どんなムチャなことを言われるかとドキドキしていると―― 「キョンはドラムでしょ。だったら、ドラムセットごとグルグル空中で回転するぐらいのことは必要ね」 と、当たり前のように言い放ってくれた。なんじゃそれは、サーカスの見世物か俺は。それ以前に物理的に不可能だろ・・・。 「で、お前は何もやらんのか?そのパフォーマンスとやらは」 呆れ果てた俺はハルヒに疑問を投げかけた。するとハルヒはフンと鼻を鳴らし、不敵な笑みを浮かべ 「私はボーカルだからね。フロントマンがそんな小賢しいことしてもしょうがないわ。」 と、当たり前のようにのたまってくれた。じゃあそんな小賢しいことをさせられる俺達は何なんだ。 まあ、こんなトンデモな発言の連続にさしもの俺もこれ以上反論する気力を失ってしまったのだ。 もうなるようになれ・・・。 さて、肝心の演奏の方であるが、流石というべきかハルヒと長門は上手いのだコレが。 長門の指は目にも留まらぬ速さで動きまくり、素人の俺が聴いても凄いとわかるようなフレーズを次々に弾きこなす。 もはやマーク・ノップラーやブライアン・メイどころじゃない。 メロディアスなソロ、攻撃的なリフ回し、どれをとっても非の打ち所がない。 きっとコイツはどんなにハルヒに高度な演奏の要求をされても2秒後には完璧に実践してみせてしまうだろう。 そしてハルヒである。コイツはやはり歌が上手い。 相変わらずの月まで届きそうなほどの澄み切った声である。音程もリズム感もばっちりで俺も思わず聴き惚れてしまう。 それにギターもかなり上手くなっている。正確無比なコードカッティングを次々にキメている。 去年の文化祭の時には「殆ど担いでるだけ」なんて言ってたけど、あれから練習でもしたのだろうか。 それに比べ、肝心の俺達未経験者組はというと――ひどい有様である。 朝比奈さんは、ハルヒの歌と長門のギターにあわせ、何とかキーボードの鍵盤を適当に押さえているだけである。 「ブーカ、ブーカ」と非常にマヌケな音だ。 「ちょっと!みくるちゃん!そこのコード間違ってるわよ!」とハルヒに怒鳴られても 「コ、コードってなんですかぁ~?キーボードのコードならちゃんとコンセントに刺さってますよ~」 と、流石に俺でもわかるコードについて何ともベタな勘違いをしている。 俺のドラムも酷いものだ。ハルヒが言うにはまずリズムキープが出来ていないらしい。 何度も言うように、俺は昔から音楽の授業は苦手だったんだ。 小学校の合唱のときも適当に口パクでお茶を濁していたし、リコーダーのテストだってよく出来た試しがない。 そんな俺にドラマーとして十分なだけのリズム感を求める方が間違っているのだ。 大体、両手両足をバラバラに動かすのなんて無理だ。全部一緒になっちまう。 辛うじて古泉のベースは何とか形になっているもの、俺と朝比奈さんの奏でる不協和音でバンド全体のアンサンブルは滅茶苦茶だ。 ハルヒの機嫌も目に見えて悪くなってきている。 「ああ、もう!2人とも酷すぎるわ!特にキョン!あんた真面目にやってるの?」 勿論真面目にやっているとも。両手両足が一緒に動いてしまうのは仕様なのだ。如何ともし難い。 「こうなったらいっそアバンギャルドなノイズ音楽というコンセプトに変更したらどうだ?」 「だから、アホなこと言ってないで真面目にやりなさい!!」 おお怖い、怖い。もう少しで鉄拳が飛んできそうな勢いである。 ともあれ、前途多難なSOSバンドの滑り出しに俺も正直不安を隠しきれない。 本当に文化祭に間に合うのだろうか? そこからの数日は壮絶を極める多忙な毎日であった。なんせバンド練習と映画撮影の掛け持ちだ。 平日は授業終了後すぐに映画の野外ロケに出かけるかバンド練習、そして土日は丸ごと野外ロケに費やされている。 もはや家にいる時間より、SOS団の活動に費やされる時間の方が長いくらいだ。 そんなある日、バンド練習のため、軽音楽部から強奪した空き教室にSOS団の面々は集まることになっていた。 するとそこで俺は驚くべき光景を目の当たりにすることになる。 あれから、俺のドラムの腕は全くと言っていいほど上がっていなかった。そりゃあ1日や2日でいきなり上手くなるわけはないのだが。 ああ、今日もまたハルヒにヘタクソと怒鳴られるな、と思いながら俺は教室のドアを開けた。 するとそこには古泉がいた・・・。いや、古泉がいるのは別にいいのだが。問題は古泉がしていることだ。 俺より先に教室に来て自主練習に励んでいたと思われる古泉の演奏は凄いことになっていた。 「バチン、バチン」と鋭い音をはじき出すベース。その音を紡ぎ出している古泉の指は目にも留まらぬ速さで動いている。 正直言ってムチャクチャ上手い。最初からコイツはそれなりに形になってはいたが、いつの間にこんなに上手くなったんだ? 呆けている俺に気付いたのか、古泉はアンプのスイッチを切り、俺に視線を向けるとニコリと気味の悪い笑みを浮かべた。 「おや、いらしていたのですか?ああ、今の演奏はですね、スラップと言って親指で弦を弾くようにして演奏する ベースギターの奏法の1つでして・・・。」 俺は古泉の薀蓄を無視して言葉を投げる。 「そんなことはどうでもいい。お前いつの間にそんなに上手くなったんだ?楽器なんか未経験って言ってたよな?」 古泉はニヒルな笑みを崩さず、 「それには深いワケがあるようでして・・・。」 と、なんとも歯切れの悪い反応を寄越してくる。 そして驚きはそれだけではなかった。そのあとすぐにやってきた朝比奈さんのキーボード演奏である。 もうお分かりかもしれないが、朝比奈さんの演奏も凄いことになっていた。 ついこの間までは、指一本で鍵盤を押さえるというどこかのイギリスのニューウェーブバンドの女性メンバーのような 素人丸出しの演奏しか出来なかった朝比奈さんが今では10本の指を駆使し、流麗なフレーズを弾きこなしている。 俺は古泉にしたのと同様の質問を朝比奈さんに投げかけた。しかし彼女も、 「それがよくわからないんです・・・。」 という曖昧なお答えを俺に寄越したのみであった。 その後、その日はクラスの掃除当番で遅れていたハルヒと長門がやってきて全員での練習が行われた。 ベースとキーボードの目を見張るような上達のおかげか、バンド全体のアンサンブルもかなりマシな ものになってきている。俺のドラムは相変わらずヒドイが。 「うん、今日の演奏はなかなか良かったわね!みくるちゃんも古泉君もその調子よ! 映画の撮影も順調だし、我がSOS団が文化祭を牛耳る日も遠くはないわね。」 やっとまとまってきた演奏にハルヒも上機嫌である。 「それじゃあ明日もまた放課後はこの教室に集まって練習よ。私も新しいオリジナル曲を作らなくちゃいけないし 今日はそろそろ帰るわ。それじゃあ解散!」 そう言い残すとハルヒは颯爽と教室を出て行った。 「さて、今度こそ詳しく事情を話してもらおうか」 俺は古泉に詰め寄った。 「お前と朝比奈さんは全くの初心者だったはずだ。いつの間にこんな上手くなったんだ?」 古泉は少し真剣な顔になり、抑えた口調で 「別に特別な練習をした訳ではありません。 あえて言うならば今日この教室に来てベースギターを手に取った時から上達したとでも言いましょうか・・・。」 と答えた。 「それじゃあ何か?今日いきなり上手くなったとでも言うのか?」 「そうですね。まさにそういうことになるかと」 訳がわからん・・・。俺は質問の対象を変える。 「朝比奈さんも同じですか?」 朝比奈さんは肩をすくめ、答える。 「そうです・・・。私も今日この教室に来たときから・・・。 何て言うのかな・・・キーボードを目の前にしたら自然に演奏の仕方がわかったっていうか・・・ 自然と指が動いたというか・・・そんな感じでした」 ますます訳がわからん。それともアレか? 長門のようにいわゆる未来人的だったり超能力者的な力でも使って弾き方を一瞬で覚えたのか? 「そんな力私にはありません・・・」 「同じく僕もですね。しかし、このようになった原因はあなたなら判るのではないですか?」 こうなった原因?俺に判るわけなんて・・・まさか・・・。 「ハルヒの仕業か?」 俺は最も考えたたくない、しかし同時に最も信憑性のある原因を思いついてしまった。 「はい。僕は今回の件は涼宮さんが原因ではないかと踏んでいます」 そうだった・・・。ハルヒの「力」のことを俺は失念していた。 去年の映画撮影の折、朝比奈さんの目から得体の知れないビームを発射させ、 猫に人語を喋らせ、土鳩を真っ白な鳩に変え、秋の川沿いの遊歩道を満開の桜で覆いつくしたのは 誰でもない、涼宮ハルヒがそうなるよう無意識に願ったからなのであった。 今回の状況もそれに似たものなのだろうか。 古泉は静かに語りだす。 「涼宮さんは、僕達の余りの稚拙な演奏に大いに不満を感じたのでしょうね。 そしてその不満以上に、何とかバンドの演奏を素晴らしいモノにしたいという思いが強かったのでしょう。 その結果、僕と朝比奈さんは一晩にしてプロ並みの腕前を持つミュージシャンに改変されてしまった・・・ ということでしょう」 「そうですね・・・。私もそうなんじゃないかって思います」 もう1人の当事者である朝比奈さんも同意した。 確かに古泉の説には一理ある。俺はこの説にさらなる確実性を求め、 最も信頼に足る答えを出してくれるだろう存在へ話を振ってみた。 「長門、お前はどう思う?」 黒魔術師の衣装のまま、それまで一言も発することのなかった長門が静かに答えた。 「涼宮ハルヒが情報の改変を行ったのは事実。 その結果として短時間で朝比奈みくると古泉一樹の演奏技術が向上した。」 参ったねこりゃ。これは本気でハルヒの仕業ということで確定の赤ランプが灯ってしまった。 しかし、ここでひとつの疑問が浮かび上がる。 そう、朝比奈さんや古泉とは対照的に俺のドラムの腕は全く向上していない。 今日も曲のテンポを乱す度何度ハルヒに睨まれたことやら、というほどだ。 ハルヒは俺達の楽器の腕に不満だったんだろ?バンド全体のレベルを上げようと思ったんだろ? そしたらなぜ俺だけヘタクソなままなんだ? その疑問は予想していましたとばかりに張り切って古泉が答える。 「それはですね、あなたが涼宮さんにとって重要な存在だからですよ」 は?重要な存在だと? 「そうです。涼宮さんはあなたのことを誰よりも信頼している。 だからこそ、どんな無理なことを自分が言い出してもあなただけは自分についてきてくれると思っている。 つまり、あなたならば自分が手を下さずとも、きっと努力の末上達して素晴らしい演奏をしてくれると思っているのです」 いくらなんでもそれは買い被りだろう。 「それでも涼宮さんにとってはそうなんです。 これからの涼宮さんの機嫌如何によっては例の閉鎖空間も発生しかねません。 今後の世界の命運は、あなたにかかっていると言っても過言ではありません。」 文化祭の出し物ごときで世界の危機かよ。情けないな、世界。 「それだけ涼宮さんは今回の文化祭のステージを楽しみにしているということでしょう。 実際、練習初日は我々の演奏の余りの酷さに、その夜小規模ながらも閉鎖空間が発生したのですよ?」 そうだったのか・・・。 「とにかくあなたが涼宮さんの期待に応えることが必須なんです」 古泉の説は正直トンデモ過ぎて俄かには信じられないものだった。 しかし長門も朝比奈さんもどうやら古泉の説に信憑性を感じているらしい・・・。 俺も随分重い責任を背負ってしまったものだ。ああ、頭が痛くなってきた・・・。 ハルヒの力によって楽器の腕がいつの間にかプロ並みになってしまった朝比奈さんと古泉のおかげで 我がSOSバンドの演奏も当初に比べればかなり聴けるものになってきた。 しかし毎日のように続く映画撮影とバンド練習。 前者では雑用係としてこき使われ、後者では一向に上達しないドラムの腕にハルヒからお怒りを受ける。 そんな日々に俺は体力的にも精神的にも限界に来ていた。正直かなりしんどい・・・。 そしてついに決定的な事件が起きてしまった。 文化祭本番もあと2週間程に迫ったある日、SOS団の面々は軽音楽部から強奪した空き教室で バンド練習に励んでいた。今演奏している曲はLost My Music―― ハルヒが去年の文化祭で熱唱した曲のうちの1つである。 あまりにも壮絶な4人の演奏に俺も何とかついていっている。 一応俺だって教則本を読んでみたりとドラムの腕を向上させようと努力をしている。 しかし、やはり限界がある。今だって段々と他の楽器と合わなくなってきている。 まだ両手両足も一緒に動いてしまうし・・・。 もしSOSバンドがメジャーデビューするとしたら俺はアルバム一枚で解雇だろうな。 独裁的なボーカリストとギタリストの兄弟に4文字言葉でこき下ろされて・・・。 って長門はそんなことは言わんだろうし、ハルヒと長門が兄弟なんて事実は無いが。 なんとなくふと思っただけさ。 すると、突然ハルヒがギターをかき鳴らしていた手を止め、腕を上げ、大きく振っている どうやら演奏を中止しろ、という合図らしい。 バンドの音がピタッと鳴り止むとハルヒは俺の方に振り向いた。おお、怒ってる怒ってる。 「ちょっと!キョン!また遅れてるじゃない!」 そう怒鳴るな。唾が顔にかかるだろ。 「そんなのどうでもいいわよ!全く、コレで今日あんたのせいでやり直しは何度目だと思ってるの!?」 俺だって努力してるんだがな。 「結果の伴わない努力に意味は無いわ! 有希やみくるちゃんや古泉君はあんなにいい演奏をしてくれるのに!」 今日のお前はいつに無く攻撃的だな。一体どうしたんだ? 「全く!キョンにドラムを任せたのは失敗だったかしら!」 いつもだったらコレぐらいのハルヒの暴言は心の中でツッコミを入れるだけで流すことが出来ただろう。 しかし、何度も言うが今の俺は体力的にも精神的にもヘトヘトだ。 そんな状況で俺も少し気が立っていたのかもしれない。 『全く!キョンにドラムを任せたのは失敗だったかしら!』 この言葉を聞いた途端、急に視界が紅く染まったそうな錯覚に陥り、溜まりに溜まった鬱憤が爆発してしまった。 「じゃあどうしろっていうんだよ!!俺はドラムなんかやったことはないんだ!! いきなり一丁前の演奏をしろだなんて無理があるんだよ!!」 俺の怒鳴り声に場は静まり返る。 古泉と朝比奈さんは呆気に取られた表情だ。長門の無表情さもいつもより機械的になっているようにさえ感じる。 「大体な、俺は普通の人間なんだよ!! お前や長門や朝比奈さんや古泉とも違う一般人なんだよ!!才能に恵まれている奴等とは違うんだ!! そんな俺に1ヶ月でドラムをマスターするなんて無理に決まってるだろうが!! お前の我侭には付き合いきれん!不満だって言うなら解雇にでも何でもしやがれ!!」 朝比奈さんは「けんかはだめなのです~・・・」と震えながら小声でつぶやいている。 古泉は今にもハルヒに殴りかかってしまいそうな俺をいつでも止められるよう、身構えている。 長門は相変わらず静観してことの成り行きをよりいっそう機械的な目で見守っている。 そんな状況が視界に入っていながらも俺の怒りはまだ収まらない。 沸騰したマグマが煮えくり返っているかのように身体の奥が熱い。 そして俺が続けざまに次の怒りの言葉を吐き捨てようとした時・・・ ズンガラガシャーン!! 思わず目を閉じてしまうほどけたたましい音が俺の耳に入った。 目を開けるとそこは天井だ・・・って天井? どうやら俺は仰向けにひっくり返っているらしい。 視点を戻すと、そこには俺の前に仁王立ちしているハルヒ、そしてその後ろにはグチャグチャに崩れたドラムセット。 そしてヒリヒリと痛い俺の顔面。鼻血も出ているかもしれない。 ここまでの状況から推理するにどうやら俺はハルヒにドロップキックをお見舞いされたらしい。 ドラムセット越しにか。どうやらさっきの音はハルヒがドラムセットに突っ込んだ音だったようだ。 ってハルヒよ、痛くないのか・・・? 何だか急に冷静になってしまった俺と対照的に、尻餅をついたまま見上げるハルヒはワナワナと震えている。そして・・・ 「このバカキョン!!!!」 耳をつんざくような怒鳴り声。俺はもう一撃ドロップキックを食らうこと覚悟した――が ハルヒはそのまま背を向けるとスタスタと歩いていき、乱暴にドアを開閉する音のみを残し、教室から出て行ってしまった。 シーンと静まり返る教室。 どうやら事態は最悪の展開を迎えてしまったようだと、俺は急激にクールダウンしていく脳ミソで考えていた。 「やってしまいましたね」 その静寂を破ったのは古泉だった。 「これでは去年の映画の時と全く同じ展開ですよ。あなたはもっと冷静な人だと思っていましたが。 おっと、この台詞も2度目ですね」 ああ、そういえば去年も同じようなことがあったな。 「状況もあの時とまさしく一緒です。閉鎖空間を生みかねない行動は慎んでほしかったのですが・・・」 五月蝿い。俺だって我慢の限界だったんだ。 「それでもです。前にも申したようにあなたは涼宮さんにこの上なく信頼されているんです。 その信頼を裏切るような真似をしてもらっては困るのですよ」 ドロップキックが信頼の現われってことか? 「まあ確かにあなたの気持ちもわかります。今日の涼宮さんの怒り具合は少々異常でしたし・・・。 とりあえず現段階では閉鎖空間の発生は確認されてないようですが・・・安穏とはしていられません。 去年と同様になるべく早いうちに仲直りしてください」 俺の意志は無関係なのか?お前はハルヒが良ければ俺のことなどどうでもいいって言うのか? せっかく収まりかけた怒りが古泉の発言のせいで再燃してしまった。 俺は古泉にまたもや感情的な言葉を吐き捨てる。 「とにかく無理なものは無理だ。俺は解雇されたってことでいいだろう。 ハルヒのドロップキックもそれを肯定したってことで俺は理解した。 アイツの我侭に付き合うのも限界だ。後は勝手にやってくれ。 ドラマーも軽音楽部の部員から適当に代役を立てればいいだろう。 お前はせいぜい灰色空間で巨人相手にハルヒのご機嫌取りでもしてろ」 再燃した怒りは止まらない。 「そういう訳だ、俺は抜けさせてもら・・・」 パシンッ!!! 乾いた音が静まり返った教室に響く。 その音が朝比奈さんが俺の頬を叩いた音だと気付くまで数秒かかった。 その細腕で平手打ちを食らったところでさっきのドロップキックに比べれば蚊が止まったくらいの痛みしか感じないはずである。 そのはずなのに、何故だろう、叩かれた頬がどんな屈強なレスラーの平手打ちを食らうよりもヒリヒリと痛いように感じるのは・・・。 見れば朝比奈さんは目に涙を溜めている。 「そんな言い方はあんまりです!!涼宮さん、泣いてましたよ!?」 そうなのか・・・気がつかなかった。 「涼宮さんは決してキョン君に悪気があった訳じゃありません!私にはわかります! 涼宮さんは本当にキョン君のことを信頼しているんです!絶対です! 確かにちょっと言い方は酷かったかもしれないけど・・・。 それでもキョン君だけは涼宮さんの気持ちをわかってあげなきゃいけないんです!」 朝比奈さんがここまでストレートに己の感情を吐露するのは初めて見る。 その驚きに俺の怒りは再度クールダウンしかけてきている。我ながら単純な精神構造をしていると思う。 「キョン君はそんな投げやりなことは言いません!言わないんです!」 そう言い終えると、朝比奈さんも駆け足で教室を出て行ってしまった。 俺と古泉と長門。3人だけになった教室は朝比奈さんが出て行ってしまったことでまた静寂さを取り戻した。 「すいません。僕も少々言い過ぎました」 その静寂を破ったのはまたしても古泉だった。幾分申し訳なそうな口調である。 「結局のところ、これはあなた自身の問題なのかもしれません。 僕がいくら口を挟んだところで肝心なのはあなた自身の意思。 今日、家に帰ったらもう一度よく考えてみるといいかもしれませんね・・・」 そんな言葉を残し、古泉も出て行ってしまった。 残されたのは俺と長門。 それまでずっと機械的な目をしてことの成り行きを見守っていた長門に 冷静になった俺は急に質問を投げかけたい気分になった。 「なあ、俺の言ったこと。お前も間違ってたと思うか?」 数秒の無言の後、長門は静かに答える。 「わからない。 でもあなたが涼宮ハルヒに信頼されていること、そして涼宮ハルヒに とって重要な人物であるということは確か」 「ということは、お前も俺がハルヒの信頼に応えるべきだと思っているということか?」 「情報統合思念体の方針からすれば、それが望ましい。 現在の涼宮ハルヒの精神状態では危険な情報爆発を生む可能性がある」 やはり、お前もそうなのか。 「ただ――」 長門は言葉を続けている。 「ただ?」 「一個体としての私は、あなたを信頼している。 あなたならこの状況を打破できると、信じている」 そう言い残すと長門も教室から出て行ってしまった。 教室に残されたのは俺1人。ドロップキックと平手打ちを食らった顔面がヒリヒリと痛む。 それ以上に胸の奥がヒリヒリと痛む、そんな錯覚にするにはリアル過ぎる感覚を俺は感じていた。 1人教室に残された俺。 朝比奈さんの、古泉の、長門の言葉が頭から離れない。 そしてハルヒ。朝比奈さんはアイツが泣いていたと言っていた。 もしそれが本当なら、俺がハルヒを泣かしたことになるのだろうか・・・。 そんな自問自答をしてみても、熱くなってみたり冷めてみたりとさっきから忙しすぎる程 グルグルと回っている俺の思考回路じゃ考えもまとまらない。 とりあえず俺も帰ろう。それで古泉の言うようにもう一度良く考えてみよう。 そう思い、俺はドアに向かってトボトボと歩き出した。 ふと視線を落とすと、床に何かが落ちている。 ほとほと疲れきっている今の俺の洞察力では本当ならそんな落し物には気付かないはずだった。 しかし何故だろう。自分でも不思議なのだがなぜかその落し物はまるで俺の視界の範囲内に 急に現れたのかのように、それでいて最初からそこにあったかのように床に転がっていた。 それは1枚のMDだった。MDにはラベルが貼られている。 『文化祭 新曲』 とシンプルに、それでいて勢いに任せて書きなぐったような字で書いてある。 そこまで確認して、俺はこのMDの落とし主が誰であるかすぐに思い当たった。 このMDはハルヒのものだ。 あいつはバンド結成&文化祭出演に際し、オリジナル曲の作成を宣言していた。 これはきっとそのオリジナル曲のデモテープか何かなのであろう。 これまた自分でも不思議なのだが、俺は無意識の内に当たり前のようにそのMDを拾い上げ、鞄の奥に滑り込ませていた。 家に帰り、トボトボと自分の部屋への階段を上がる。 途中、俺の帰ってきたことに気付いた妹に声をかけられたようだが、正直返答する気力もない。 そんな憔悴しきった俺を見かねたのか、 「キョンくんどうしたの、何だか元気がないよ~?」 妹は妹なりに心配してくれているらしい。 すまんな。俺にも色々と事情があったんだ。それでも心配してくれるのは兄としてちょっと嬉しいぞ。 俺は妹の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。 「キョンくん、くすぐったいよ~」 どこぞのマンチェスターの不良兄弟にもコレぐらいの兄弟愛を見せてほしいものだ。 部屋に入り、バネの壊れたブリキのおもちゃのごとくベッドに座り込んだ俺は鞄の中からさっきのMDを取り出す。 この中にはハルヒが作曲したオリジナル曲が入っているに違いない。 よく見ると、ラベルには『文化祭 新曲』という文字以外にも小さな字で何やら書いてある。 どうやらそれはハルヒが考えた曲のタイトルのようだった。 1.パラレルDAYS 2.冒険でしょでしょ? 3.ハレ晴レユカイ …何ともハルヒらしいぶっ飛んだタイトルばかりである。 そして俺はまたもや無意識の内に自分のポータブルプレイヤーにそのMDをセットしていた。 ――結論から言うと、ハルヒの才能には感服するしかない。 俺が聴いた3曲はどれもまだあくまでもデモテープの段階であり、 内容としてはハルヒがギターやピアノの弾き語りでメロディーを口ずさんでいるものだった。 歌詞も殆ど出来上がっていない未完成な演奏ながらも、その3曲をバンドで演奏した時のイメージもありありと浮かぶほどだ。 そんな俺の脳内イメージ基準では、どの曲もオリコン10位以内になら入ってしまいそうな程、そのクオリティは高い。 しかしハルヒはこの短期間に3曲も仕上げてしまったのだろうか?アイツの突発的な性格は俺もよくわかっているし、 バンド結成宣言をブチ上げるまでに書き溜めていた曲ということはないだろう。 この2、3週間映画の撮影とバンドの練習に追われていたのはハルヒも似たようなものだ。 (勿論、体力的・精神的な疲弊の度合いは俺の方が上ではあるが) そんな短い、しかも多忙を極めたこの期間にこれだけクオリティの高い曲を書いたハルヒ。 一体お前をそこまで突き動かしているものは何なんだ? それともお前にとって、このただの思いつきの産物としか思えないバンド活動はそこまで大切なものなのか? 俺は完全に冷静さを取り戻した思考回路をフル活用してこの青春の悶々とした悩みについて思索を巡らせている。 すると少しずつ、ハルヒに対する罪悪感が生まれてきたような気がする。あくまで少し、だがな。 「しかし全部で5曲か・・・。 いくらなんでも未だ初心者レベルの俺にはやはりちとキツイのではないか?ハルヒよ」 そんな独り言を嘆いたところで答えは返ってこない。 悶々とした夜は更けてゆく・・・。 明くる朝、そんな悶々とした気分は晴れることもなく学校へと着いた俺はクラスの教室の前で立ちすくんでいた。 俺の懸案事項はただ2つ、ハルヒは学校に来ているのか? もし来ているならばどう接したものか?ということである。 考えていても仕方ないと思い切ってドアを開けると・・・ なんのことはない。ハルヒはいつもの席に座っていた。 ちなみに予想はついているかもしれないが一応補足しておく。 俺とハルヒは2年時も同じクラスであり、そしてなぜか席の配置も1年時と全く同じなのである。 古泉が言うには 「涼宮さんがまたあなたと一緒のクラスに、そしてまたあなたの真後ろの席になることを望んだからですよ」 とのことらしい。 その割には国木田や阪中といった面々、 そしてハルヒ自身もあんなにウザがっていた谷口も同じクラスなのは一体どういう訳だか。 ハルヒは頬杖をついて窓の外を眺めている。 その行動自体はいつものことだが、やはり今日は不機嫌なオーラがどことなく出ている。 その証拠に俺が前の席に腰掛けてもハルヒは何のリアクションも示さない。 これは触らぬ神に祟りなし、だな・・・。 その後4時間目の途中まで、ハルヒは窓の外を見つめたままであったようだ。 ようだ、というのは俺は前の席なもんだから後ろの様子がよくわからないからである。 やはりハルヒはまだ怒っているのか・・・そう確信を強めた時、 バイブレータの振動が俺の携帯にメールの着信を告げた。 送信者は古泉。 「昼休みに中庭まで来ていただけませんか?」 だとさ。 昼休みである。俺は古泉の呼び出しに応じ、中庭へと歩を進めている。 ちなみにハルヒは昼休みになるや否やどこかへ行ってしまった。 しかし古泉には昨日散々叱責を受けたはずだが。まだ何か言い足りないことでもあるのだろうか。 中編へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1084.html
第三章 ハルヒを家まで送り、新川さんに駅まで戻っていただいた。 空は暗く、星が出始める。 忘れてた愛車にまたがり、家路を急いでいた時、道の端に人が倒れていた。 俺は善人ではないので無視した。今日も星が綺麗だ。 「待て。怪我人を無視とはいい度胸だ。」 そんな言葉をほざく元気があるなら、大丈夫なのだろうが、優しい俺は親切に反応してあげた。 「おぉ、大丈夫か?酷い怪我だ。救急車呼ぶか?」 よく見ると、本当に酷い怪我だった。ズボンが擦り切れて、足も擦り傷で真っ赤だ。 顔を見ると、額から血も出てる。しかしこの顔どこかで見た。 「お前は!?俺と朝比奈さんの邪魔をし、今日も朝に戯言をほざいた奴ッ!!」 「今頃気付くな。早速だがお前にこれを渡す。大事にしろ。」 そいつは俺に銀色のギザギザを渡した。 「何コレ。もしや『禁則事項です』か?」 「残念。それに見せ掛けた御守りだ。」 紛らわしい。何の為に渡したのだろうか。 「これは、お前が『禁則事項』の時『禁則事項』な事をする有り難い『禁則事項』な品だ。」 よくわからないです。 「とりあえず救急車呼ぶぞ。」 「いや、大丈夫だ。1人でなんとかする。呼ばなくていい。」 「だが断る。」 俺は救急車を呼び、そいつを殴って気絶させ、病院送りにした。 そういえば、何であいつ怪我してたんだろうな。どうでもいっか。 家に帰り、御守りを開けた。罰当たり?知るか。これが御守りなワケない。 中には基盤みたいな物が入っていた。どうやら携帯のminiSDにぴったりなので、入れてみた。 当然、使用出来なかった。 翌々日 谷口は学校に来なかった。ハルヒは何事もないかのように普通だった。 放課後古泉が、「谷口君は精神状態が昔から不安定だったそうです。」などと言っていた。 ハルヒは、「そうなの?今まで気付かなかったわ。」と素っ気なかった。 今日は全員で帰る。ハルヒは先頭で朝比奈さんと談笑。 長門はその脇で黙々と歩く。俺と古泉はその後ろだ。不意に古泉が耳打ちする。 「現在、谷口君は機関で預かってます。会いに行きますか?」 「いや、いい。」 今はまだ適切ではない。事が収まってからの方が良いかも知れん。 「そうですか。」 「そういえばナイフはどうした?あの時は逆上して忘れてたが。」 「それがですね………無くしました。」 俺はてっきり機関で回収してるものだと思っていたので驚いた。 「あの後丹念に探したのですが、見つかりませんでした。」 「……ってことは?」 「誰かが拾った可能性があります。」 これ以上ハルヒのせいで死人が出るのも本当に申し訳ない。 「急げ古泉。機関を総動員させろ。」 「言われなくともやってます。あなたこそ、彼女を落ち着かせる行動をとって頂ければいいのですがね。」 古泉は軽蔑と呆れが混じった目つきで睨んできた。そんな目で見るな。 一週間後 ハルヒはめっきり大人しくなった。俺はもう安心だろうと思う。 古泉も「最近の死亡者の中に、例のナイフ関連の被害者はいませんでした。」と言っていた。 そういえば、古泉がかなりやつれていたけど、どうしたんだろうね。 ハルヒは呪いのナイフなんか忘れてる。 いや、もしかしたら谷口の一件で、ナイフ恐怖症になったのかも知れない。 実に愉快。谷口には感謝しなくてはいけないな。 しかし、まだ谷口は学校に来ていない。そろそろ会いに行きますか。 鼻歌混じりで帰る自分に気付き、かなり恥ずかしかった。 翌日 終わった。 母さん、俺は今日が人生ラストデーになるかも知れません。いままで有難う。 朝、げた箱に手紙が入っていた。 生憎、俺は手紙と相性が悪く、高校に入り手紙で良い思いをした事は無い。 内容は、『午後5時あなたの教室で待ちます。』だとさ。 綺麗な文字だというより、はっきりとした読みやすい文字だった。達筆には変わりない。 どこかで見た字体。行くべきか、行かぬべきか。少し悩む。 教室に入り、自分の席に着くと既にハルヒがいたので挨拶をした。 「よう。」 ハルヒは外を見たままだった。思わず目の前で手をひらつかせた。 「あら、いたの?」 「どうした。不眠症で朝ボケか?」 「あぁー今日ねー、部活、休みね。」 「悩み事でもあるのか?あるなら言ってもいいんだぞ。」 「まーそのうち言うんじゃない?」 ハルヒは一日中こんな感じだった。 放課後部室に行くと長門がいた。 「今日は部活無しだとよ。」 「知っている。」 「じゃあ、何でいるんだ?」 「あなたは?」 「俺か………ヤボ用だ。」 「……わたしもヤボ用。彼女も。」 「彼女?」 「キョン君。」 「朝比奈さん……」 朝比奈さんはいつもと様子が違っていた。何故かは知らんが、俺は少し恐怖を感じる。 「これからこの世界の左右を分ける大きな別れ道が生じます。 キョン君なら既に分かっているかもしれません。」 俺の死神が笑っているらしいな。もうすぐ魂が手に入ると。 「どうでしょう?涼宮さんを制御出来るのはキョン君だけです。 これまで未来の固定化が出来たのもキョン君のおかげです。」 「だけど、俺の死は規定事項なんですよね。」 朝比奈さんは一瞬、意を突かれた表情になるが、直ぐに首をふるふると振った。 「それが規定事項であろうが無かろうが『鍵』であるキョン君は『扉』である涼宮さんの開閉が出来ます。 つまり涼宮さんをコントロール出来るのは、キョン君だけなの。 悪く言えば、キョン君はこの世界の支配者です。動かして下さい。未来を在るべき姿へ。 わたしは一時的に未来に避難します。 次に会う時は、あなたと涼宮さんが作った未来の朝比奈みくるです。 規定事項なんて夢幻に過ぎないの。それだけ未来が在るから。 本来なら未来人が現代人に関わるべきではなかった。知らなければ良かったの。全て。」 朝比奈さんは言い尽くしたようにふぅっと息を吐く。 「そろそろ時間です。行って下さい。」 逃げちゃだめ? 「ここで逃げでも、必ずその時は来る。逃避不可能。あなたに賭ける。」 「長門……分かった頑張って行ってくる。」 俺は教室へ向かう。決着をつける為に。 着いた。携帯を見ると時間ピッタシだった。 俺はゆっくりとドアを開ける。 「遅い。罰金ね。」 夕日がそいつを明るく照らし、俺は冷や汗を流す。 手元にはナイフ。全てはシナリオ通りという事か。 「どうしたの?そんなに恐い顔して。」 それはお互い様だろ お前だって顔が強張ってるぞ。せっかくの笑顔が台無しだな…… 「そうね…」 偽りの笑顔が解け、うつむく。かなり可愛い顔だが、俺は気にくわん。 ハルヒらしくない。俺はお前の笑顔が……あれ?何言ってんだ俺。 「今から独り言を言うわ。軽く聞きなさい。」 「どうぞ、お気に召すままに。」 「前に言ったでしょ。信頼出来る人を殺すのはどんな気持ちかって。 やっぱり苦しいよ。そんな気持ち。殺るよりなら自分がやられた方がマシ。 でも………もう遅い。だから逃げて!!」 「ふざけんな。独り言だろ。俺に振るな。」 「ふざけてるのはどっちよ!!あんた死にたいの!?」 死にたい訳ない。 「じゃあ早く逃げなさいよ!!」 「だが断る。」 「なんで………なんでなのよ。」 ハルヒの目が潤んでいるのが分かる。今にも溢れそうだ。 まぁこいつの気持ちが分からんでもないが、俺はここで逃げ出す訳にもいかない。 「この俺が最も好きな事のひとつは、自分が強いと思っている奴に「NO」と断ってやる事だ。 それに、前に言ったろ、好きな奴の隣で死ねるなら幸せ者だって。」 「……っバカ!!」 ハルヒが走って来る。ナイフを持ちながら、俺の心臓めがけ。 避けきれない。死を覚悟した。 人間は死を覚悟したり、極限状態に陥ると、スローモーションに世界が見えるという話は本当である。 反射的に携帯を持った手が動く。 ナイフは俺の携帯とキーホルダーに当たる。 しかし、ハルヒの力は思いの外強く、携帯は弾かれる。今度こそ終わりだ。 「ごふっ……うぐぅぅ。」 鈍い音と共にうめき声が聴こえる。俺じゃない。俺はここに立っている。ってことはハルヒしかいない。 ハルヒは目の前でうずくまっている。 「な、長門!?」 無情な瞳が俺を見る。 「何故この様な事を?」 ナイフが手に刺さってるぞ。 「質問に答えて欲しい。あなたは私の助けがなかったら約98.801%の確率で死亡していた。 あなたは逃げるべきだった。逃げていたらあなたの死亡していた確率は、約23.333%」 逃げても意外と高い。某野球ゲームでは、危険域である。 「あなた達有機生命体は生への執着が異常に強い。だが、あなたは逃げなかった。何故?」 心のどっかで分かってたような気がした。もしかしたら助かるのかもしれない。 いつものようにお前が来て助けてくれると思ってたのかもしれん。 「それは?」 無表情が少し緩む気がした。 「信用?」 「……信頼かな。」 「どう違うの?」 「さぁ、どう違うんだろうか。」 「………あまり頼らない方が良い。わたしは、常にあなたの期待には添えれない。」 「そうだな。俺は今まで長門に甘えすぎた。感謝しなきゃな。なんか礼でもするよ。」 長門は手に刺さったナイフを抜き、血が流れる手をもう片方の手で抑える。 「……それなら今度、晩御飯を御馳走して欲しい。」 長門にしては、何と人間くさい言葉だろうと、驚いた。 「いいのか?そんなもんで。」 「いい。」 「そうか。」 「そう。」 ハルヒはすやすやと眠って(気絶して?)いた。 「わたしの拳からナノマシンを注入した。暫くは起きない。」 これは酷い。 「これで全て終わったのか?」 「根本的な解決には至ってない。」 長門は俺がこの言葉を発することを知っていたかのように即答した。 「今からあなたと涼宮ハルヒの脳波を利用し、精神を同期させ、仮想現実空間でのメンタルケアを行う。」 言ってることがよく分からないのですが。 長門はしばらく黙り、ふと思いついたような目つきで俺を見直した。 「夢。あなたは彼女の夢に入る。そこであなたは彼女の精神を安定させる。」 つまり、俺がハルヒの精神科医になるという話らしい。 「事態は一刻を争う。 現在彼女は錯乱状態。瞬時に時空間を改変してもおかしくない状況。今すぐ行って欲しい。」 俺にそんなテレパシー能力が有るはず無い。 「出来る。あなたは手段を持っている。」 どこに? 「携帯電話。」 はっとした。もしかしたら、あの未来人が渡した変な基盤じゃないか?俺は急いでそれを取り出す。 「そう。それはあなた達有機生命体が将来、意思疎通をするための基本理念。それを利用する。」 よく分からないから早くやってくれ。 「ひとつ注意する。今回は、あなたの脳波を彼女に送る。 それは彼女の脳に伝わるり、仮想現実空間へ入るが。 あなたは閉鎖空間のように感じるが、危険性が極めて高い。そこは、彼女の願望が暴走する場所。 そこは、涼宮ハルヒの思念を反映し易い状況である。 もし、そこであなたが閉じ込められたり、死亡すると、あなたの精神自体が幽閉、もしくは、死亡する。 タイムリミットは通常約2時間。しかし、ナノマシンの効果で3時間の延長が可能。 それを過ぎたら、私が直接抑えるが長続きはしない。せいぜい、30分程度。」 何やら相当危険そうだ。俺が困惑していると、 「大丈夫。頃合を見計らってわたしも行く。」 「分かった。じゃあ行こうか。」 俺は基盤を長門に渡したら、長門は拳を握り、 「あなたにも眠ってもらう。」 なんですと!?なんでいつもの咬むタイプにしないの? 「その方が効果的と聞いた。」 誰だよ。 「古泉一樹。」 次会ったら必ず殺す。 「彼から伝言を預k」 「要らない。」 「だが断る。『あなた達の体は僕が責任を持って預かります。ぼ く が。』」 次の瞬間。長門の拳が飛んでくる。 「ちょ、おまっ………アッー!!」 腹に痛みが走り、薄れゆく意識の中で走馬灯が駆ける事は一切なく、ふと思う。 ナノマシンじゃない。コークスクリューだ。 第四章へ
https://w.atwiki.jp/gununu/pages/3157.html
涼宮ハルヒ〔すずみや はるひ〕 作品名:涼宮ハルヒの憂鬱 作者名:本家アナあき 投稿日:年月日 画像情報:640×480px サイズ:41,554 byte ジャンル:[[]] キャラ情報 このぐぬコラについて コメント 名前 コメント 登録タグ 個別す 本家アナあき 涼宮ハルヒの憂鬱
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4870.html
時は進んで翌日、土曜日の午前。 俺は今、いつもの不思議探索の際の集合場所である北口駅前で、ハルヒが訪れるのを待っている。 とまあ昨日の今日なので、もしやハルヒを待つ俺の心境は伝説の木の下で待ち合わせている女子のそれと同じなのではないかと思う者もいるかも知れない。 なので説明しておくが、俺は別に告白をするためにここにいるんじゃない。 俺がここでハルヒを待っているのはもちろんこれから不思議探索を行うからであり、そして自分に課せられた責務を果たすためだ。そう。俺は遂にポエムを完成させることが出来たので、それをハルヒに渡さなければならないというわけだ。これの完成までの経緯は、今から昨日のその後を話す予定なので、そこで説明しようと思う。 だから現時点で普段と違うことといえば、俺が待ち合わせに一番乗りしているくらいだろう。 と……ハルヒを含めSOS団のメンバーはまだやってきそうにないので、ここで昨日のあれからを振り返ってみることにしよう。 あの後、俺と古泉と長門は学校へと戻り、小さい方の朝比奈さんは『機関』と未来側との諸々の調整のために元々学校を休んでいたので、そのまま自らの仕事を全うするため公園にて別れることとなった。 そして俺達学校組は、放課後の文芸部室で大人の朝比奈さんと朝比奈みゆきを交えて異世界問題の解決策を講じていたのだが、ここを俺の言葉のみで語るのは少々難儀しそうなので、少しばかり回想して時を遡ってみることにする。 あれは授業が終わってすぐ、掃除当番のハルヒを除いた俺達が文芸部室へと集まったとき、そこには大人の朝比奈さんとみゆきが待っていて………… 「本題に入る前にお聞きしたいのですが」 古泉は朝比奈さん(大)に真面目含有率八十パーセントの微笑を向けると、 「……正直、今日のあなたと『機関』の動きには驚かされてばかりでしたよ。僕の関知せぬところでのTPDDの製造、そしてあなた方未来人との協力体制。組織内でこれほどの重大かつ主要な出来事が僕の与り知らぬ場所で展開されていたなど、機関で僕が占める立場からすればとても信じられません。これはどういうことなのですか?」 返事をちょうだいするように手の平を差し出す古泉。その手を一瞥もせずに大人の朝比奈さんは、 「それを語るのには時間が足りないけれど、そう遠くないうちに彼……藤原くんが、古泉くんの疑問を解消してくれるはずです。だからごめんなさい、それまで待っててね」 その返答に古泉はスッと手を引っ込めると、 「ええ、そうすることにしましょう。これは機関の人間に問いただせばある程度は判明し得えることだ。ですが、あなたの口から是非聞いておきたいこともあります。それは未来側から現代の僕達に、あの次元理論をもたらしたことについてね」 「……古泉、そういった理論に対する質問は後でいいんじゃないか」 特に俺がいない場所で行うことをオススメするぜ。っと古泉はほのかな笑いを作り、「そういうことではありません」と言った後で少し難渋な顔を浮かべると、 「……未来の次元理論では、次元とは性質の足し算によって形成されるものであるとされ、それらは『流れ』という概念によって説明されていましたね。これは確かに、次元の要素が『広がり』という概念によって捉えられ、『縦×横×高さ』……つまりXとYとZの掛け算によって立方体という三次元が形作られるという現在の理論と違っているように思われます。ですが、僕には未来の次元理論に対し疑い問う程の能力は備わっていません。僕が疑問を抱いているのは、未来から現代にその理論がもたらされた、というそのままの事柄についてです」 「その論法で行くと、未来から指示を受けることだってまずいんじゃないか?」 「いいえ、それとも違います。未来側から指示を受ける場合、こちらからは未来を予察できない様に考えられていますから。ですが……次元理論は違う。公理を分出することが出来、その真偽を明らかにしてしまう次元理論とは……いわば人類にとって善悪を知る樹そのものであり、それから知識をもぎ取ることは、まさに禁断の知恵の果実に手をかける行為に等しいと言えるでしょう。……我々にとって未来の次元理論は、知るに時期尚早なのではないでしょうか」 そう言い切るとピッと前髪を弾き、 「そして世界人仮説。次元に関する理論を、人間に関わるものへと置換して考察されているこの理論は実に興味深い。世界人仮説は、矛盾の存在するこの世界を上手く表していますから」 どういうことかと聞けば、 「まず人間の進化において、その身体の進化は原始生命から延々と受け継がれてきたアナログな流れだといえます。ですが、人間の精神……人の心においてはそうではありません。個人の人格、例えるなら僕の思想は、この世界上で新たに組み上げられた全く新しいものです。なので身体の進化とは違い、その過程で発生する人の心の繋がりは、0から1という現象が続くデジタルな流れだと考えることが出来ます」 「それがどうしたんだ?」 「このように人間の『心』には、偽とされる連続体仮説が当てはまるということですよ。そして世界人仮説が矛盾を認めた理論だというのは、まさに世界人仮説が提唱する新概念を表す言葉なのです」 と、古泉は右手の指を一本ずつ開きながら、 「例えば四則計算において、足し算のみならば何も問題は発生しません。1に2を足しても3ですし、2に1を足しても同じく3という答えです。ですが……引き算となるとそうともいかない。何故ならば、1から1、もしくは1から2を引いてしまった場合には自然数では答えを表現し得ませんからね。なので人は、そこで生まれた0やマイナスなどの新しい概念を記号で表すようにしたのです。掛け算と割り算にも同様の流れがあり、このように人間は、算数や数学が展開されていくにつれ様々な概念を発見してきました。そして次元理論とSTC理論によって生まれた世界人仮説は、矛盾を認めるという概念を論じていますね。……いえ、これは『互いを認め合う概念』と言い表したほうが適切でしょう。ですがそれは哲学的見地から表されている世界人仮説の姿で、数学的には……今まで人類にとって不変の法則であった、『イコール』の概念に切り込んだ理論だと言えるのではないかと僕は考えます。これは絶対的な神の摂理である『イコール』で結ぶことの出来ないもの同士が『矛盾』として否定されずに、『認め合う』という人間的な概念によって結びついているという物理法則に対する新たな考察になる。そうであるからこそ、世界には矛盾というものが存在出来るのかもしれませんね」 ……互いを認め合う、ね。なんだか長門と同じようなことを言ってるような気がするな。 「ええ。だって世界人仮説は……長門さんが構築した理論だから」 「は?」 大人の朝比奈さんから飛び出した言葉に疑問符を飛ばしていると、 「……次元理論の姿は『箱』で、STC理論の姿は『紙』だとするなら、世界人仮説の姿は何だと思います?」 「……只の勘なんですが、そりゃあ『人』なんじゃないですか?」 「あたりです」 と朝比奈さん(大)は微笑み、俺達に視線を配ると、 「世界人仮説は、全ての理論を統合した理論なの。世界の全てのモノが混ぜ合わされば、純粋な溶媒と溶質という二つのモノが生まれます。それらを一つの存在として考え、溶媒を『体』、溶質を『心』と置換して生み出される『人』の姿こそが……世界人仮説を総括する姿。それでね、世界人仮説の中での有形の次元理論は、無矛盾な物理法則からなる『人の体』。そして……無形のSTC理論は、時には矛盾を起こしてしまう『人の心』なの。次元理論とSTC理論は本来、お互いを矛盾として否定しあってしまうもの。だけど、それらがお互いを認め合うことによって、初めてわたし達の世界は作られていくんです。そして、そうやって異なる存在が繋がりあうことで『進化』という現象が形作られていく……と、世界人仮説では論じられています」 話を聞いて、沈黙する古泉。俺はそんな古泉を視界にいれながら、 「……よくわからないんですが、その理論を長門が構築したってのはどういうことなんですか?」 それは、と、大人の朝比奈さんが話し出そうとしたときだった。 「……この世界の歴史を成立させるためには、朝比奈みくるの時代まで情報創造能力を維持していかなければならないから」 「………?」 長門が横から言葉を出してきた。長門は続けて、 「また、歴史を知る者による世界の調整も不可欠。だから……誰かが情報創造能力の寄り代となり、この世界を見続けていくことが必要となる。それを実行する際、最も適切と思われるのは……わたし。そして、これから人と共に歩むわたしがその理論を構築していくのだろう」 「――なるほど。世界人仮説……解析するまでもなく、それは長門さんが構築した理論だったというわけですか。そして長門さんは、これから世界の維持と調整を担っていくことになる。となると、僕の機関の成すべきことは……。そして、未来人が僕達にあんな理論をもたらしたのは……つまり……」 何やら呟いている古泉はそれっきり思考の海にダイブしてしまったようで、あいつからこれ以上の質問は出ないようだった。 それはともかく……俺には、一つ気になったことがある。 先程の会話から察するに、長門は朝比奈さんの未来まで長い時間を過ごしていくってことだよな。それは長門が自分らしく――思念体に属したまま――ありのままを生きる道を選んだということによるのだろうが、それでも相当辛いことなんじゃなかろうか。感情を持つ……長門にとって。 そして俺は、中学生のハルヒの言葉を思い出す。 何でも叶っちまう能力ってのは、実はそれを持つ者の自由を奪ってしまうものなんだ。そして長門は、それに程近い能力を自覚的に持ってしまっている。だから…………、 「――長門、」 俺は大人の朝比奈さんから貰った金属棒を長門に差し出すと、 「これ、良くは知らないんだが……花言葉をこの金属棒に書き込むと、お前の能力を制御する髪飾りになるらしい。だからSOS団で不思議探検なんかをするときくらいは……その髪飾りをつけてさ、肩の荷を降ろして遊んだっていいんじゃないか?」 まさに気休め程度にしかならないが、俺が持っているよりは意味があることだろう。……これでいいんですよね? 朝比奈さん(大)。 長門はマジマジと金属棒を見つめ、交互に朝比奈みゆきを見やると、 「……取り扱いは、わたしに任せてもらっていい?」 いいとも。ぶん投げられたら流石にショックだが、それはもうもう長門のモノだからな。 そして俺は朝比奈さん(大)に視線を移し、 「ところで、異世界の問題はどうするんですか? 長門が何か知ってるって聞きましたが、長門、お前何か知ってるか?」 長門は目をパチクリさせると、 「……異世界の状態を打開するヒントは、喜緑江美里と涼宮ハルヒ、そしてわたしの小説の一ページ目によって既に示されている。それらを複合的に読み取って私達が成すべきことは、記憶を取り戻す『鍵』を異世界へと持ち込み、あちら側のわたし達に自ら問題の解決を促すこと」 言いながら長門は俺に前回の機関紙を渡し、俺がそれに目をやると、切り取られていた長門の小説がすっかり元通りになっているのが確認された。長門の小説を読んでいる俺に長門は、 「その小説の二ページと三ページは、わたしが世界を改変した後で生じたエラーデータを不完全ながら解析し、その結果を書き綴ったもの。そのデータの正体は、今回の出来事によって……もう一人のわたしの記憶だったことがわかった。そして一ページ目は、あの世界でのわたしが書いた小説の一部をサルベージしている。尚、これもあの世界のわたしがもう一人のわたしの影響を受けて作成されたものと思われる」 俺の頭の中で七人の長門が騒ぎ立て始めていると、 「つまり二ページ目と三ページ目は彼の小説を見ていた長門さんの記憶であり、一ページ目は、その長門さんから今の僕達に向けられたメッセージだったというわけですか。つまり異世界の問題を解決するためには、完成型TPDDによって閉鎖された異世界へと渡れるようになった朝比奈みゆきさんに『鍵』を送り届けてもらい、まずはあちらの長門さんの記憶を取り戻すことが必要ということですね」 ……よう分からんが、古泉の解説によってやるべきことは判明したみたいだな。 「ええ、流石にあなたも気付いたのではないですか? これから、あなたがやるべきことにね」 スマイル古泉に対し俺は全てを納得した顔を向け、確認するまでもないだろうが、俺の出した答えを伝えることにした。 「ああ。どうやら俺は『いばら姫』の話になぞって、閉ざされちまった異世界を開放するためにあっちに行かなきゃならんらしいな。だから俺が鍵なんだろ?」 ………………。 静寂が広がった。 「ん? どうしたんだみんな? 驚いた顔なんかして」 古泉も朝比奈さん(大)も、長門でさえも目を丸くして信じられないといった表情を浮かべている。 俺はなにか間違ったこと言ってしまったのかなと不安になっていると、 「そうではない」 間違っていたようだ。否定句を飛ばした長門の横から古泉が、 「……一つお尋ねします。あなたが涼宮さんと共に過ごしてきた時間には、実は普遍的なピュアラブコメディの側面があったことにお気づきですか?」 「何言ってる。それはお前が、俺達に内緒で密かにそんなのを繰り広げてたっていう話か? 世界存続のかかった野球大会だったり無限ループの夏休みが、一体どんな見方をしたらラブコメになるってんだ」 「説明しましょう」 古泉はどこか若干嬉しそうに、 「時系列的に順序立ててお話すれば、涼宮さんは、野球大会ではあなたの活躍を見たいと思い、あなたを四番にしましたね。そしてエンドレスエイトの無限ループはあなたの家で遊んだ後に開放されていて、それはつまり、涼宮さんはあなたの家で遊びたかったということを示しています。……そして前回の機関誌では過去のあなたの恋愛話を知りたいと願っており、つまりこれまでの涼宮さんの行動には……恋する少女特有の、複雑な心境が反映されていたのですよ。しかも涼宮さんの望みは、時を経るにつれて順調にあなたへと近づいてきている。そうやって考えてみたうえで、今回の異世界の創出では何を望んだのだと思いますか?」 …………沈黙する俺に、古泉はハッキリとした声調で、 「ズバリ、自分に対するあなたの『気持ち』を知りたかったのです。そして異世界は、これを涼宮さんが知ろうとした結果、情報創造能力のパラドックスに陥ってしまったがために生まれてしまったのだと考えられます」 「……それは佐々木も言っていたような気がするが、そのパラドックスというのはなんなんだ?」 「簡単なことですよ。告白する際、それを行う側としては、嘘偽りのないちゃんとした相手の本音を聞きたいものであると同時に、自分を拒否されたくはないとも願っている。いえ、むしろ受け入れてもらいたいという方向への考えが強いでしょうね。そこで自分が、己の願望が叶ってしまう能力を持っていたとしたらどうです? その者は、好きな人の本音を聞きたいがノーという返事は聞きたくないという願いによって、結果的に相手の本当の気持ちを知り得なくなってしまいます。好きな人と心から結ばれるためには、惚れ薬を飲ませて返事を貰うようなことでは自分が納得出来ませんからね」 「……つまり、ハルヒは俺の、あいつに対する気持ちを知りたいってことなのか?」 「恐らくはね。そしてそれこそが、今回の涼宮さんの願いだったというわけです」 今になってようやく僕も気付きましたよ、と自らを揶揄するように言って古泉は言葉を終えた。 そして……俺は考える。 「じゃあ、俺のやるべきことは……」 「あなたの気持ちを、涼宮ハルヒに伝えること。そしてその方法は、喜緑江美里が生徒会側からこちらに行動を促したことによって、涼宮ハルヒ自身が既に提示している。これを達成すればこちらの問題も解消され、異世界の問題を解消する『鍵』にもなり得る」 「…………」 ――どうやら俺は、幸せの青い鳥の居場所に気付いていなかったみたいだな。 答えはいつも、俺の胸の中にあったんだ。 「……これで全部繋がった気がするよ。ハルヒが俺達に自分の詩を書かせようとしていたこと、そして、これまでの一連の流れがな」 そうさ。俺は自分に課せられたポエムを完成させなけりゃならないんだ。 それは、他の奴らにやらされることじゃない。 俺が自主的に、そう望んでやることだ。 ハルヒはずっと待っていて、待たせていたのは俺であり、今だってあいつは俺を待っているんだ。 だから俺は、俺にとってハルヒってやつはどんな存在なのかってのをそろそろ伝えなきゃならない。だってさ………、 これ以上ハルヒを待たせちまったら、どんな罰ゲームが俺を待っているかわからないだろ? 「……そうか。じゃあ長門、今日は二人そろって遅くまで居残り決定だな」 やっと見えてきた目標に向かって頑張ろうと長門に求めると、 「わたしはしない」 と言われた。目が点になった。 「わたしの分はもう完成しているから。でも、あなたが付き合ってくれというのなら拒否はしない」 その台詞は別の機会に言って欲しいね。お前からそう言われて喜ばないやつなんかいやしないぜ。 「あ、先輩ひどいっ。早速浮気してちゃダメですよっ? 涼宮先輩に言っちゃいますからねっ」 ひどく恐ろしいことを朝比奈みゆきが言っている。すると古泉が、 「ふふ、まだ厳密には浮気だと決まったわけではありません。それに、例え彼の意思がなんであろうと涼宮さんは納得してくれるでしょう。彼女は強いようにみえて脆くもありますが、全てを認め受け入れることの出来る聡明さを備えている人ですから」 とか言いながら、あなたの答えは既に分かっていますよといった顔で俺を見てくる古泉。 「……長門。良かったら、お前の完成した詩を見せてくれないか?」 俺は古泉に対してなんの反応も出来なかったため、古泉の視線を無視することにして長門へと話しかけた。 そして俺は長門から渡された一枚の用紙に目を向ける。 ついぞ完成した長門の詩の内容は、これまたなんとも独創的で俺の理解が及ぶものではなかったのだが、それは以前の長門の小説を締めくくっているように感じられた。 ……あと、一つ言い忘れていたことがある。 これは俺が先程元通りになった機関誌を読んでいたときに気付いたのだが、長門の小説のページからは無題という文字が消え、三枚それぞれに、極短い単語ながらもちゃんと題が記されていた。ページ順にどう書いてあったのかを言えば、それは――――。 『雪、無音、窓辺にて。』 そして今回の長門の詩の題名は……。 何となく、長門が自分の意思で己の歩む道を決めたことの大きさと決心を物語っているような気がした――。 「…………」 と、回想はここまでで十分だろう。 そんなこんなで昨日、俺は自宅に帰ってからも夜遅くまでポエム制作に身を乗り出し、やっとの思いでポエムの完成にこぎつけたってわけさ。 ちなみに、俺は完成したポエムを読み返していない。 それはポエムが書きあがったのと同時に封筒に入れて机の中に仕舞い込んだためであり、なぜそんなことをしたのかといえば、これは深夜のラブレター作成理論に由来する。 恋という題目で俺が書いたポエムは、その、なんだ。はっきり言ってしまえば……今までの生活で、俺がハルヒのことをどう思っていたのかってな内容になってるんだ。 そんな恥ずかしいものを朝の俺が見てしまえばそれは世界の終わりを見るようなもので、顔を真っ赤にした俺が「さよなら世界!」と言いながら紙を破棄し、世界との運命を共にする方を選んでしまう恐れがあったからな。 ……あと、これは言わなくても良いことかもしれないが、俺のポエムは妹が持っていたパステルカラーの便箋に書かれており、封筒もそれにあわせた若干可愛らしいものとなっている。 どうしてそれを選んだのかといえば……まあ、なんとなくとしか言いようがないのだが。 「……あら、キョン。早いじゃない。珍しいこともあるもんだわ」 ――ハルヒがやってきた。 「……ああ、前に一回あったくらいだっけ。俺が一番乗りだったのは」 「たしか、あんたが妙なことを言いだしたときよね。有希やみくるちゃんが……」 「俺が何か言ったのか? まるっきり思い出せないんだが」 鮮明に、かつ明確に覚えている。 あのとき俺はハルヒにみんなの正体を語っていたんだ。 今思うとなんて迂闊だったんだろうと恐ろしい思いでいっぱいになるね。 「まあいいわ」 とハルヒは周囲を見回し、 「他のメンバーは? いつもこの時間には全員揃ってるはずだけど。なにか知ってる?」 「いや、俺も知らん。一体どうしたんだろうな」 と、これは本当だ。俺はいつもより早めに着いた方ではあるが、あいつらの姿は欠片も見かけなかった。何処かで待ち伏せしてるわけでもなさそうだ。 「ま。集合時間までにはもうちょっと余裕があるし、そのうちやってくるでしょ」 それより……、とハルヒは眉間にしわを作って、 「あんた、ちゃんと詩は書いてきたんでしょうね? 昨日の宣誓がちゃんと果たされているか、あたしが早速確認したげる。ほら、早く提出しなさいよね」 「そう急かすなよ。ちゃんと書いてきてるからさ。これでいいか?」 ほい、と俺は封筒を差し出す。ハルヒはそれを見ると、 「ふうん? やけに可愛らしいわね。レターセット? どうしたのよこれ?」 「妹から貰ったんだ。コピー用紙を持ち歩くのもなんだと思ってな。別にいいだろ?」 「いいけど、なんだかこれって……」 ――やっぱりなんでもない。と何やらはぐらかすハルヒ。 そして俺の手から手紙をひったくるのと変わらぬくらいに封筒を開き、中に収納されていた便箋に注視する。 「…………」 俺の書いたポエムを読むハルヒはどこまでも無表情だった。 やがて顔を上げると、 「……んー、見た目もそうだけど、中身もやっぱりラブレターっぽいわね」 「なんでだ?」 「だってそうじゃない。これが告白以外の何になるのか、逆にあたしが聞きたいくらいだわ」 ポエムの内容が……と言いながらハルヒは視線を手元の便箋に落とし、 「……あなたとの日常を振り返ってみたら、ようやく、あなたのことが好きだっていう自分の気持ちに気付きましたなんて……」 「……確か、宛名のないラブレターには何の意味もないんじゃなかったか?」 からかうような口調で答える俺に、ハルヒは納得出来ない自分を納得させるように、 「……そうね。まるで夜更けに書いたやつみたいに言葉を羅列しただけの支離滅裂な出来だけど、これはこれで恋のポエムって感じなのかな。でも……」 ハルヒは片手に便箋と封筒を持ち、ポエムの書かれている文面を俺に突きつけて、 「……これ、誰に言ってるの?」 「誰とはなんだ」 「う……」 ハルヒは少し怯んだ様子を見せた。 ――まあ、ハルヒが言いたいことはよく分かる。前回のミヨキチの小説と同様にこれは俺の実体験を元にしているであろうから、このポエムの登場人物にもモデルがいるのではないか? ということだろう。実際、それは間違いじゃないしな。だから、俺は………。 「ハルヒ?」 「な、なによ……」 「お前が手に持ってる封筒なんだが、ちゃんと見てみたらどうだ?」 「………?」 ――こういうときは、意外と相手の言葉の意味に気付かないものだ。 ハルヒは全くの受身で俺の言葉に従い、手に持っていた封筒をヒラリと裏返す。 そしてそこに書かれている文字に視線を落とし、しばらくそのまま押し黙っていた。 さて。 俺がそこに書いたのは、恐らくハルヒ自身が一番見慣れているものだ。 ハルヒは今、封筒の裏側に書かれているそれを見ながらどんなことを思っているのだろうね。 ――宛名の欄に記されている、自分の名前をさ。 「……キョン?」 「なんだ?」 ハルヒは視線をそのままに、小さく俺へと話掛けてきた。 ……そして、今まで自分が抱えていた不安を一気に押し出すかのように、ハルヒは語り出した。 「……あたしね、今まで、自分の存在っていうのはとてもちっぽけなものだって感じてた。自分が沢山の人間の中の一人に過ぎないんだっていうのを実感したとき、自分の世界がいかに普通かってことに気付いたあたしは、逆に世の中にはあたしの想像もつかないような面白い出来事を体験してるような特別な人がいるんじゃないかって考えたわ。……だからあたしは、宇宙人や未来人や超能力者なんかと友達になりたいってずっと思ってた」 ここで顔を上げ、俺をその大きな瞳で捉えると、 「けどね、SOS団のみんなと出会ってから、その考えは変わったの。実は最近、もしかしてあたしには特別な能力があるんじゃないかって思うようなことがあったんだけど、でも……それはあたしが望んでたことだったはずなのに、なんだか嬉しくなくて、むしろ不安になった。なんでそんな気持ちになったんだろうって考えたら、意外と早く答えは見つかったわ。あたしが特別な存在になる、それってね、今までの普通だったあたしを否定しちゃうことになるのよ。特別な存在なんかを求めることだって、今まで好きだった友達を否定しているのとなにも変わらない。――まあ、つまり何が言いたいのかって言えばね……」 ここまでを話し終えたハルヒからは憂鬱な感情が消え、そして、俺の目が眩んでしまいそうな程の微笑みをこちらに向けて――――、 「あたし……SOS団のみんなと、キョン。あなたに出会えて良かった」 ふんわりと作られた笑顔の端には一粒の涙が零れ出し、それはまるで、灰色の雲に覆われた空の後に訪れる晴々とした太陽のように眩しく、輝いていた。 ……俺がしばらく見とれるばかりであったとき、ハルヒは手で自分の目元を一回だけ拭うと、 「ちょっとキョン! ぼーっとしてるヒマなんてないんだからねっ! ほら、早く探しに行かなくちゃ!」 今まで以上に元気な声で言い放つと、ハルヒは踵を返してそそくさと歩き出してしまった。 「ちょっと待ってくれ」 この言葉でハルヒは進むのを止め、俺はその場に立ったまま、 「それって、宇宙人や未来人や……超能力者をか?」 手を伸ばしたまま質問する俺に、ハルヒは何を言ってるのよといった表情を浮かべ、そして今までよりもためらいのない百ワットの得意顔を作り――心地の良い意気を込めて、こう言い放った。 「有希とみくるちゃんと、古泉くんに決まってるじゃない!」 エピローグ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/741.html
キョン「なぁ、しょっぱなの自己紹介のアレ、どのあたりまで本気だったんだ?」 ハルヒ「『しょっぱなのアレ』って何?」 キョン「いや、だから宇宙人がどうとか」 ハルヒ「あんた宇宙人なの?」 キョン「んなわけねえだろ!!お前のその自己紹介のせいで誰一人俺の自己紹介を覚えてねえんだよ! 俺より目立ちやがって!絶対ゆるさん!」 いきなり怒鳴られた、後から聞いた話によると。 キョンは目立ちたがり屋で、しかも極度の負けず嫌いらしい。 それからというものの、キョンはアタシのすることにいちいち突っかかってくるようになった。 こうしてアタシとキョンは出会ってしまった。 ある日、次の時間は体育で着替えなければならないというのにクラスの男子はなかなか教室から出て行かなかった。 アタシはかまわず男子達の目の前でセーラー服を脱いでやった、すると女子の「キャー」悲鳴と供に一目散に教室から出て行った。 だけどキョンはそこに居た。「俺にもできるぜ?」みたいな顔をして女子の目の前でパンツ一丁になったのだ。 「キャー」という悲鳴と供に女子は一目散に教室から出て行った。 アタシは無視してスカートを脱いだ、 するとキョンは得意気な顔をしてパンツを脱いだ。 キョン「どうよ?」 ハルヒ「どうって…体操着に着替えるのにパンツを脱ぐ必要は無いんじゃないの?」 キョン「お、俺はいつもこうなんだよ!」 そういってキョンは下着をつけずに短パンを履いた。 谷口「おい、キョン。横チン出てるぞ」 キョン「お、俺はいつもこうなんだよ!」 その日の体育で女子の注目の的になったのはブッチギリでキョンとその息子だった。 アタシは何かおもしろいものでも無いかと全ての部活に仮入部してみた。 どうやらキョンも負けじと全ての部活に仮入部していたらしい。 キョン「どうだ?どこか楽しそうな部活はあったか?」 ハルヒ「全然無い。これだけあれば少しは変なクラブがあると思ったのに」 キョン「無いものはしょうがないだろ、結局の所、人間はそこにあるもので満足しなければならないのさ。言うなれば…」 なんかうんちくを語りだした、知的なところをアピールしてるんだろうか。 次の瞬間アタシはひらめいた。 ハルヒ「そうだ!無いなら作ればいいのよ!どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら」 キョン「まぁ俺は最初から気付いてたけどね」 そんなこんなでなぜかアタシとキョンは一緒に新しい部活を作ることになった、 そして潰れかけの文芸部室を乗っ取ることに決めた。 放課後。アタシは2年の教室でぼんやりしていた娘を捕まえて部室へ向かった。 ハルヒ「ごめんごめん遅れちゃって、紹介するわ!朝比奈みくるちゃんよ!」 アタシは得意げにみくるちゃんを紹介した。 しかし、キョンも新入部員を連れてきていた。 古泉「はじめまして、古泉一樹です」 キョン「どうやら俺の連れてきた部員のほうが優秀そうだな」 キョンは勝ち誇った顔で言う、アタシはちょっとムッした、 ハルヒ「見なさいよ!メチャメチャ可愛いでしょ!?萌えって結構重要な要素だと思うわ」 キョン「なんの!古泉もイケメンじゃないか!これだけのいい男はなかなか居ないぜ?」 ハルヒ「それだけじゃないわ!ほら!アタシより胸でかいのよ!ロリで巨乳!完璧じゃない!」 アタシはみくるちゃんの胸をモミながらそう言った みくる「ひぇ~っやめてくださぁ~いっ」 キョン「なんの!どうだ古泉の奴けっこうでかいんだぜ?ほら」 なんとキョンは古泉のイチモツをモミだした 古泉「な、なにをするんですか!?」 キョン「ほ~らドンドン大きくなってきた、まだまだでかくなるぞ~」 古泉「ああっ!はうっ!ううっ!」 キョン「どうだすごいだろうハルヒも触ってみるか?」 古泉「あぁぁっ!」 ハルヒ「わかったわ!アタシの負けよ!やめなさい!」 アタシは暴走するキョンを必死で止めた。 古泉「ハァハァ、ありがとうございます、涼宮さん」 変な声を出すな、息を荒げるな、頬が赤いんだよ気持ち悪い。 こうしてアタシ達の部活はできあがった。 ハルヒ「みんなー!野球大会に出るわよ!」 部活を新設して以来なんのイベントもなく退屈だったので アタシは草野球大会の申し込みをしてきた。 キョン「出るからには優勝するぞ!」 ハルヒ「あたりまえじゃない!」 嫌そうな顔をする他の部員を他所に、アタシとキョンは大乗り気。 野球大会の参加が決定した。 試合当日、初戦の相手は上ヶ原パイレーツ、どうやら優勝候補らしい。 でも楽勝ね。今日はキョンも味方だし。 キョンはどうしても4番サードがいいらしくアタシは1番でピッチャーになった 「プレイボール」 試合が始まった、先攻はSOS団 アタシは初球を2塁打にした、ちょろいもんね。 だけど続くみくるちゃんとユキは見逃し三球三振、そしてキョンの打順がきた。 ハルヒ「キョーン!あんたは打たなきゃ死刑だからね!!」 キョン「誰に言ってるんだ?お前が2塁打なら俺はホームランだ!」 結果は…三球三振。どうやら負けず嫌いだけど実力は無いらしい。 キョンは今までに見たこと無いくらいに悔しがっていた。 すると古泉君がアタシに言ってきた。 古泉「まずいですね、今までに無い大規模な閉鎖空間が現れました」 どうやら古泉君の話によるとキョンは負け始めると閉鎖空間とやらを生み出し そこで暴れまわるらしい、しかもその閉鎖空間が広がりきると世界が終わるとか何とか。 なんて迷惑で自分勝手な…。超常現象マニアのアタシはあっさりその話を信じた。 結局アタシ以外ヒットを打つこともなく打者が一巡した。 その間、マリーンズにはバカスカ点を取られる始末。このままじゃ世界が… 古泉「大丈夫、僕と長門さんに彼にホームランを打たす秘策があります」 古泉君には何か作戦があるらしい。私も秘策を出すことにした。 アタシとみくるちゃんとユキはチアガール姿になって打席に立った。 マリーンズ投手はその姿に動揺してすっぽぬけた球を投げてきた。 結果は三塁打!みくるちゃん、ユキは四球で出塁、満塁の大チャンスとなった。 チアガール作戦は効果テキメンね!!そして2アウト満塁でキョンの打順となった。 古泉「ここで秘策の出番ですね、長門さん」 ユキはバットに何か呪文を唱えてキョンに渡そうとした。 だけどキョンは真っ直ぐ打席には向かわなかった。 キョン「そうか…!おもいついたぞ!ちょっとタイム!」 なんとキョンは例のノーパン体操着に着替えて打席に立った。 隙間から2本目の肉バットをぶら下げて…。 こうしてアタシ達は1回戦で出場停止処分となった。 試合後、キョンはマリーンズの主将と何か話していた。 主将「いい試合だったな、ところでそのバットだが…」 主将は頬を染めながらキョンの2本目のバットを見た。 そして2人は奥へと消えて言った。 「アーッ!アーッ!」 奥から主将の声がいつまでも響いていた。 キョンは帰りにファミレスを奢ってくれた。思わぬ臨時収入があったらしい。 閉鎖空間もキョンの何らか征服感により消滅したらしい。 なにはともあれメデタシメデタシね! キョン「おい!ハルヒ!起きろ!起きろったら!」 キョンの声で目が覚めたアタシは目を疑った。 一面灰色の世界の学校にアタシは居た、たしか家でベットで寝てたはず。 一体何があったの??? キョン「わからない、起きたらなぜかここにいて、隣にお前が寝てたんだ」 学校の周りを調べたがどうやら学校の外には出れないらしい、 とりあえず部室に行くことにした。 キョン「俺が先だ!」 キョンは走って部室に向かった、こんな時まで負けず嫌いな奴ね…。 1人で部室にまで歩いていると、そこへ人型の光が現れた 「やぁ涼宮さん、僕です古泉です。」 ハルヒ「古泉君!一体これはどういうことなの?」 古泉「どうやらここは彼の閉鎖空間の中のようです。どうやら涼宮さんには敵わないと思い始めたことにより作り出されたものでしょう」 ハルヒ「どうすればいいのよ!このままキョンと2人でここで暮らさなきゃいけないわけ!?」 古泉「白雪姫という物語を知ってますか?アレを思い出してください 僕はこれ以上ここにいることは出来ないようですね。では…」 そういって古泉君は消えていった。 白雪姫…ってあの童話の?キスでもすれば戻れるとでもいうのかしら… アタシはキョンの待つ部室へ行った。 キョン「遅かったな」 ハルヒ「キョン…アタシ実は巨根萌えなの」 キョン「はぁ?」 ハルヒ「いつだったか、あんたの短パンからハミ出した肉棒 反則的なほど大きかったわ」 そういってアタシはキョンにそっとキスをした。 キョンは負けじと舌を入れてきた、なんて負けず嫌い、 アタシはキョンの上着を剥ぎ取り体に舌を這わせた。 キョンは負けじとアタシを押し倒し挿入動作に入った。 ハルヒ「あいたたたたっ!無理無理そんな大きいの入らないって 痛いっ!わかったアタシの負け!やめてやめて!」 キョンはふと勝ち誇った顔をした。 …次の瞬間、アタシは自分の部屋のベットに居た。 我ながらなんていう夢を…。 次の日、寝不足の目を擦って学校へいくと キョンはノーパン短パンで席に座ってた。 自慢の息子をはみ出しながら キョン「俺の勝ちだな」 終わり
https://w.atwiki.jp/tanigawa/pages/12.html
1章 涼宮ハルヒの期待1・2・3・4・5 4章 キョンの消失、ハルヒの悪夢1・2 10章 ~if story~ キョンの告白 /~if story~目覚めと……変化 /~if story~ 変わった世界で…… I want to be here01/02/03/04/05 俺とハルヒのXXX01/02/03 /『イレカワリLOVER』 11章 『パパは高校1年生』01/02/03/04/05/06 『JOHNNY GOT HIS GUN』 『涼宮ハルヒの白日』01/02 /『涼宮ハルヒの黒日』01/02/03 12章 涼宮ハルヒの思付01/02 13章 Junebride01/02/03 がんばれキョン01/02 14章 涼宮ハルヒの透過01/02/03 16章 『お泊り会』 17章 『晩夏の夜の夢』 還元 18章 『風邪とお見舞い』01/02 /『風邪とお見舞い・サイドH』『さぷらいず・ぱーてぃ サイドK』 /『さぷらいず・ぱーてぃ サイドH』『ドリーミング・ドリーマー サイドK』 /『ドリーミング・ドリーマー サイドH』 21章 『脱環/檻オンザデイ』 25章 『ループ・タイム――涼宮ハルヒの憂鬱――』 (R指定) /『ループ・タイム――涼宮ハルヒの溜息――』 /『ループ・タイム――涼宮ハルヒの消失――』 (X指定) /『ループ・タイム――涼宮ハルヒの陰謀――』 /『ループ・タイム番外編――雪山症候群――』 (R指定) /『ループ・タイム番外編――エンドレス・エイト――』 (X指定・長門×キョン) 31章 『ハルヒと、雨の密室で』 /『ユキと、雨の密室で』 『二度目の選択』 32章 『密室』 33章 『高速暴走三人乗りーズ』 35章 『ハルヒ、吼えないのか? ~涼宮ハルヒの犬~』 /『犬はどこだ ~涼宮ハルヒの犬2~』 37章 『二涼辺三角関係』 /『佐涼辺四角関係』 『ハルヒの野望・戦国群雄伝』 42章 『ハルヒ最大の敵、その名はミヨキチ』 /『エクスカリバーは突然に』 43章 『涼宮ハルヒの再会』01/02/03/04 46章 『夢で逢えて素直になれたら』 58章 『各段階の涼宮ハルヒを検証してみた。』01/02 60章 『誰にも優しく愛に生きる女』 /『誰にも優しく愛に生きる女・翌日』 62章 『おおよそタテマエ以上、ホンネ未満』ハルキョン 65章 『傘がない』 67章 『スプリングデイ・フロム・ザ・パスト』
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3115.html
事件が起きたのは、高校3年生の春だった。 SOS団に引きずりこまれて約2年が経過し、もうすっかり身体のリズムがSOS団に順応してしまった。 そして俺は、1つの決心をした。ハルヒに告白をすることを。 なあなあで来た俺達の関係を、1つの形にしようと思い立ったってわけさ。 部活終了後、俺は他の3人を先に帰らせてハルヒと二人きりになった。 「なによあたしだけ残して。言っておくけど、くだらない用事だったら死刑だからね。」 「ハルヒ……俺と付き合ってくれ。」 「……え!?」 「お前が、好きなんだ。」 「……このバカキョン!!言うのが遅いのよ!あたしだってアンタのこと好きだったんだからっ!」 と、まあこうして俺とハルヒはめでたく付き合うことになったわけだが、 翌日、部室でとんでもない事実を告げられた。 「よう。ハルヒは掃除当番で遅れるんだとさ。」 「あなたに伝えたいことがある。」 いきなりなんだ。またハルヒ絡みか? 「そう。……涼宮ハルヒの能力が、完全に消失した。」 「な、なんだって!?」 いきなりだなオイ!そんなに突然消えるもんなのか!? 「いきなりでは無い。徐々に減少傾向にあった。おそらく昨日の出来事がトリガーになったと思われる。」 ああ、昨日の……って、確かまだみんなには話して無かったと思うが? 「終わった後二人で残ったことを考えれば、想像はつきますよぉ。 ようやく、って感じでしたもん♪」 なるほどね。朝比奈さんですら予想できていたならば、長門や古泉にとっちゃ確信的なものだったんだろう。 ん?そういや、さっきから静かなヤツが一人いるな。 今までの言動を考えたら、こういう時こそ多弁になる男のはずだが。 「古泉、やけに静かだな。悪いもんでも食ったのか?」 「いえ……そういうわけではありませんよ。」 と言って古泉は笑顔を作る。だがその笑顔は、いつもより30%減って感じだ。 「よくわからんが、お前もようやく閉鎖空間から解放されたんだろ?もっと喜べばいいんじゃないか?」 「ええ……そうですね。あの……」 古泉が何かを切り出そうとしたその時 「やっほー!!遅れてごっめーん!!」 けたましくハルヒが入ってきた!相変わらずのテンションだな。 能力を失ってもハルヒはハルヒだ。俺はそんなハルヒを好きになったんだからな。 「あ、そうそう。あたしキョンと付き合うことになったから!」 まるでいつも通りイベントを持ってきた時のように軽く発表した。 おいおい、もっとムード的なものが……まあバレバレだったんだけどさ。 「おめでとうございますぅ!お似合いだと思いますよぉ!」 全力で祝福してくれる朝比奈さん。 あなたに祝福されれば嬉しさ120%というものですよ。 「……おめでとう。」 淡々とつぶやくように祝福してくれる長門。まあここまではいつものテンションだ。だが…… 「おめでとうございます。心から祝福させて頂きますよ。」 その古泉の笑顔は、やはりどこか陰りがあった。 散々俺達をくっつけようとしてたくせにどうにも元気が無い。 まさかハルヒのことが好きだったのか?……それは無いだろうな。 と、柄にも無く古泉の心配をしているうちに、部活は終了となった。 明日は土曜日。不思議探索は無い。 代わりにハルヒと二人きりで約束をしてある。つまりハルヒとの初デートの日ってことだ。 「エスコートはアンタに全部任せるわ!光栄に思いなさい! あたしを楽しませないと死刑だから!じゃあね!」 そしてハルヒと俺は別れた。まさか、これが生きたハルヒを見る最後の姿だと思いもせずに…… その夜。俺達は病院に集まっていた。 「なんで……なんでこんなことに……」 朝比奈さんは泣いている。長門もどことなく沈んだ雰囲気だし、古泉にも笑顔は無い。 そう、ハルヒは、死んでしまったのだ。 ハルヒは俺と別れた後、突然通り魔に襲われたらしい。 胸を刺されて、病院に運ばれたが既に息は無かったそうだ。 家でのんびりくつろいでた俺は、突然長門からの連絡を受け、病院までやってきたってわけだ。 「……ウソだよな。なんの冗談だよ。面白いジョークだよな。はははは……」 ほんと笑えてくるよ。くだらなすぎてな。タチの悪いドッキリだぜ。 「なあ?みんなもそう思うだろ?一緒に笑おうぜ?ははは……」 笑うヤツは、誰もいない。 「みんなも笑えよ……笑えよ!ほら!!」 「落ちついて。」 「落ちついてられるか!!こんな状況で!!ハルヒが死ぬわけないだろ!あの団長がよ!!」 「落ちついて!」 長門が珍しく声を荒げ、俺の肩をつかむ。 「……これは、事実。」 はは……マジかよ。 俺の笑いは、涙へと変わっていった。 「……お話があります。」 今まで黙っていた古泉が口を開いた。なんなんだ。今はお前なんかの話を聞く気分じゃねぇんだよ。 「彼女を殺した通り魔は恐らく機か……」 古泉が言い終わる前に、俺は古泉を殴っていた。 「キョン君!」 朝比奈さんが悲鳴をあげる。だが知ったことじゃない コイツは今何を言おうとした!?機関の人間がハルヒを殺しただと!? 俺は倒れた古泉に駆け寄り、二発目を当てようとする。 ……!!長門!離せ! 「お願い。落ちついて。」 「落ちついていられるか!ハルヒは機関に殺された!そうだろ!?」 「古泉一樹は悪くない!」 「いえ……僕が悪いんですよ、長門さん。」 古泉が起きあがった。 「通り魔は恐らく機関の人間です。知っての通り涼宮さんは閉鎖空間を作り、僕等がその処理にあたる。 僕はSOS団の団員であるということに誇りを持っていますから、彼女を恨んではいません。 しかし、そうでない人間も確実にいるのです。彼女を恨んでいる人間も…… それでも彼女には能力があり、手出しは禁じられていました。世界がどうなるかわかりませんからね。 でもその能力が消えたことで、彼女に手を出す人間が出ることは不思議じゃありません。」 古泉は長々と話す。だが弁明という感じでは無い。ひたすら自分を責めているような感じだ。 「その可能性に気付いていながらこのような結果になってしまったのは全て僕の責任です。 僕を責めるなり殴るなり好きにして貰って構いません。なんなら、殺しても……。」 「もういい。お前を責めたところでハルヒは戻っては来ないからな。」 そうだ。古泉を責めたところでしょうがないんだ。 重要なのは、俺はこれからどういう行動を起こすべきか。 「ハルヒを取り戻すには、自分で行動を起こすしかないんだ。」 「取り……戻す?」 朝比奈さんが尋ねる。だが今は、それに答えるわけにはいかない。 俺は1つの決意をした。したからにはもう、1分の時間も惜しいんだ。 「みんな、もう俺はSOS団には来ない。 あいつがいないSOS団なんて意味無いし、なによりやることが出来たんだ。 悪いけど、もう帰らせてもらう。」 そう言い残し俺は去った。そうだ、俺がやらなきゃいけないんだ……! ~~~15年後~~~ 俺はあの後ハルヒの通夜にも出ずに、ひたすら勉強を続けた。 寝る間も惜しんでの受験勉強により、赤点スレスレから校内トップクラスにまで成績を押し上げた。 そして国内でも1,2を争う大学に入学。そのまま大学院に進み、異例の若さで教授にまでなった。 俺は今コンピュータサイエンスを専門としている。あの時からこの分野だと決めていたからな。 そしてつい先日、ようやく俺は研究を完成させたのだ。 さて、そんな中街を歩いていると、懐かしい人物に出会った。 「お前……古泉じゃないか?」 「あなたは……。お久しぶりです。」 「元気でやってるか?」 「ええ、それなりにやらせて頂いてます。あなたの方は凄い活躍ですね。 コンピュータサイエンスの権威として名前を聞きますよ。」 「そうかい。……あっ、もうこんな時間じゃないか。悪いけどここで失礼するよ。」 「お急ぎなのですか?」 「ああ。」 俺は古泉に喫茶店の金を渡して、こう言った。 「ハルヒが待ってるんだ。」 「え?」 古泉が素っ頓狂な声をあげる。 「今、なんと?」 「だから、家でハルヒが待ってるんだよ。遅れるとうるさいんだ。アイツは。じゃあな。」 呆然と立ち尽くす古泉を尻目に、俺は家へと急いだ。 「ただいま!」 俺は家のドアを開ける。やべぇな。遅れちまった。 『遅い!!罰金よ罰金!!』 やれやれ、予想通りのセリフだな。意味は無いと思うが一応弁明しておくか。 「いやさっき古泉と会ってな。つい話し込んでしまって遅くなった。」 『古泉くん?懐かしいわね。あたしも会いたいわ。……でもそれとこれとは話は別よ!』 「へいへい」 相変わらずあの時と変わらないな。 そうだ、「変わらない」のさ。研究室となった部屋にある、一台の大きなパソコン。 そのディスプレイ一杯に映し出されるのは、高校の時そのままのハルヒの姿。 そして左右に設置されたスピーカーからは、高校の時そのままのハルヒの声。 そう、これが俺の十年以上の研究の成果。 コンピュータ人格プログラム『涼宮ハルヒ』だ。 続く