約 3,071,701 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/813.html
ハルヒ「いやっほー!!!みくるちゃん、行くわよー!」 みくる「あ、はーい」 古泉「この暑さだと言うのに元気ですね、涼宮さんは」 キョン「お前は泳がないのか?」 古泉「自分はちょっと準備しなければいけないので失礼」 古泉は微笑みながら海の家に向かって歩き出した 俺はビーチパラソルの下で本を読んでいる長門を見た つーか、わざわざ海まで来て読書なんだ? まぁ、海に来たからって泳がないと妖怪・わかめ野郎に襲われるって訳じゃないんだし・・・ 長門「・・・・・」 キョン「泳がないのか?」 長門「・・・・・あとで」 キョン「そうか・・・俺もそろそろ行くか」 俺は海に向かって歩き出した と、急な話だが我がSOS団は海に来たのである 話は3日前になる …………… ………… ……… …… … ハルヒ「急だけど3日後に海に行くわよ!」 いつもの喫茶店でハルヒは言った 今日はパトロールと緊急ミーティングの為、全員喫茶店にいるのだ ハルヒは本当に急なことを言い出すから困る 俺は自然に溜息をついた 古泉はアメリカ人みたいなお手上げのポーズをしている 朝比奈さんは目が点になっている 長門は・・・いつもどうりだな 誰もハルヒに質問しないから俺は仕方がなく聞いた キョン「何故だ?」 ハルヒ「特に理由なんて無いわよ」 キョン「海なら行っただろ?あの孤島で泳いだりしたじゃないか」 ハルヒ「あら、海に2回行ったらいけないって法律でもあるわけ?」 確かに、そんな法律なんてない もし、あったとしたら日本の偉い人はなにやってんだと思う ハルヒは本当に理由など無く、SOS団で海に行きたいだけなのだ キョン「まて、皆の予定とかあるだろ?」 古泉「その日なら僕は空いていますよ」 みくる「あ、あの~、私も大丈夫ですよ」 長門「・・・・・コクリ」 ハルヒ「決定!3日後に行くわよ!」 ちょっと待て、俺の事情とかは無視か? ハルヒ「どうせ暇でしょ?」 まぁ、その日は何もすることが無いので暇だ ハルヒ「車は従兄弟のおじさんが出してくれるからそこらへんは大丈夫よ!」 みくる「も、もし良かったら、お弁当でも作ってきましょうか?」 ハルヒ「さっすがみくるちゃん!気が利くね!」 朝比奈さんがお弁当を作ってくれるなんてこんなレアなイベントは無いぞ 古泉「僕はビーチパラソルとか色々持ってきましょう」 長門「・・・・・ビニールシート」 ハルヒ「うんうん、流石SOS団ね!」 海に行くことが決定し、緊急ミーティングは終った そして、いつものくじ引きをしてパトロール 赤い印が付いている爪楊枝を引いたのは 俺、古泉、長門 そして無印の爪楊枝を引いたのは ハルヒ、朝比奈さんだ キョン「お前の仕業じゃないのか?」 古泉「今回は僕の仕業じゃないですよ ただ単に皆で海に行きたいだけじゃないですか?」 なんだ、てっきり機関のヤツが協力しているのかと思った 古泉「最近では閉鎖空間の数も減りましたし、そんな事をする必要が無いのですよ」 古泉は微笑みながら言った 結局、何も不思議なことが無いままパトロールは終わった ハルヒ「今日は解散!集合時間とかはメールでするからね」 古泉「じゃ、これで」 みくる「さようなら~」 長門「・・・・・フリフリ」(手を振っている) 俺は自転車置き場に行き、家に帰った 帰り道に妹にバレないようするにはどうすればいいのかと考えていた ―――そして3日後――― ハルヒ「遅いじゃない!もう9時15分よ!」 集合時間の9時30分には間に合ってるからいいじゃないか てか、なんで皆こんなに早いのか? もしかして、メールで早めに来るように連絡しあっているのか?・・・まさかな ハルヒ「キョン!海の家で皆にジュース奢りなさいよ」 キョン「わかったよ」 いつもの事だからなれた・・・ってなれていいのか? 自問自答しならがハルヒの従兄弟のおじさんの車に乗った …………… ………… ……… …… … そして今に至るのだ ハルヒ「ちょっとキョン!遅いじゃない!」 ハルヒと朝比奈さんはビーチボールで遊んでいた みくる「はぁい、キョン君」 ポーンッと朝比奈さんからのパス・・・ハルヒが居なければ周りから見るとカップルに見えてるだろうに とボールを取ろうとした瞬間 ハルヒ「隙あり!」 キョン「うぉあっ」 ザッバーン あれだ、海に行ったらお約束と言ってもいいのか? キョン「な、何しやがるっ!」 ハルヒ「隙を見せたあんたが悪いのよ!」 技名は知らんがハルヒは急に俺を投げたのだ おかげで海水飲んじまったじゃねぇか 俺とハルヒが言い争っている間に朝比奈さんが みくる「あ、あれって・・・」 キョン「・・・・・ん?」 俺は目を細め、朝比奈さんが見ている方向に目をやった まぁ、アレだ、まさか本当にこんな状況があるなんて考えもしなかった ハルヒ「さ、サメよ!!!」 ジョーズだか何だけ知らないがサメ注意報など聞いていないぞ 俺と朝比奈さんとハルヒは猛ダッシュで逃げようとしたその時 みくる「あうぅ~」(ピシッ) どうやら足を攣ったらしい キョン「あ、朝比奈さん!!!」 みくる「ふ、ふぇえ~ん」 誰もがダメだと思ったその時 ザッバーン 古泉「あれ?驚きました?」 サメの正体は古泉だったのだ 古泉「まさか、こんなに驚くとは思いませんでしたよ」 サメに変装・・・とは言っても背びれとか着けてるだけなんだけどな ハルヒ「ちょ・・・古泉君!?び、ビックリしたじゃない!」 みくる「もう・・・ヒック・・・ダメかと思いました・・・ヒック」 キョン「大丈夫ですか?」 と、俺はすぐに朝比奈さんに駆け寄った 古泉め、朝比奈さんを泣かした代償は大きいぞ ハルヒ「古泉君!バツとして皆に焼きトウモロコシ奢りなさいよ!」 古泉「そこらへんは覚悟していましたよ」 そこらへんも計算していたんだな ハルヒ「ん・・・そろそろお昼の時間ね」 なんで分かるのかは置いといて・・・いいのか? 俺達は長門が居るビーチパラソルに戻り、朝比奈さんが作った弁当を食べる事にした みくる「あんまり自信ないですけど・・・」 いやいや、何言ってるんですか 例え、塩と片栗粉を間違えたオニギリでも美味しいに決まっていますよ ハルヒ「いっただっきまーす」 キョン「いただきます!」 長門「・・・・・いただきます」 みくる(ドキドキ) 俺は可愛らしいタコさんウィンナーを食べた 見た目は普通だが味は格別 フランス人が食べたらきっと腰を抜かすだろうと思うぐらいに美味い、美味すぎる キョン「とても美味しいですよ」 みくる「キョン君、ありがとう」 朝比奈さんは見るものすべてを悩殺する位の笑顔で俺に言った 死ぬ前に食べたい物は? と聞かれたら即答で答えるね 朝比奈さんが作った弁当だと しばらくして、古泉が焼きトウモロコシを持って来た 古泉「あ、ズルイですよ 先に食べるなんて」 みくる「ご苦労様です、お茶飲みますか?」 古泉「ありがとうございます」 憎い、憎いぜ古泉・・・ ハルヒ「本当に美味しいわよ、みくるちゃん」 みくる「ふふ・・・ありがとう」 長門「・・・・・」 こいつは無表情でパクパクと食べている・・・こいつには味覚とかあるのかと考えてみたがやっぱりやめる 楽しい会話もしながら俺達は昼飯を食べた ハルヒ「さ、ジャンケンよ!負けた人がアイス買ってきてね」 みくる「ま、負けませんよ~」 古泉「じゃ、僕はグーを出しますね」 長門「・・・・・コクリ」 キョン(嫌な予感がするぜ・・・) ハルヒ「じゃーんっけーん」 全員「ホイッ!」 ……… …… … 結果は俺の負け・・・まぁ、予測していたがな 俺は海の家に向かって歩いていると後ろから ハルヒ「ちょっと待ちなさいよ」 ハルヒが小走りで来た 何故だ? ハルヒ「あんたが何味を選んでくるのかが心配だったのよ」 おいおい、俺のセンスが悪いみたいな言い方だな 少しばかり歩いて、海の家に到着 ハルヒ「おじさーん、オレンジ3つとミルク2つね」 おじさん「まいど! おや、お二人お似合いだね」(ニヤニヤ) 冗談でもやめてくれ・・・と思いたいのだが、何故か満更でもなかった ハルヒ「何ニヤニヤしてんのよ」 キョン「そう言うお前も顔真っ赤だぞ?」 ハルヒ「ち、違うわよ! ひ、日焼けよ、そう、日焼けよ!」 変に強調すると逆に怪しいぞ ハルヒ「さ、戻るわよ」 ハルヒはアイスを受け取り先に歩いた なんだ、コレがツンデレってヤツなのか? キョン「お、おい ちょっと待てよ」 俺が行こうとした瞬間 おじさん「ま、頑張るんだよ」(ニヤニヤ) 俺は無視してハルヒを追った ハルヒ「はい、みくるちゃん、ユキ」 ハルヒはオレンジ味のアイスを渡した キョン「ほれ、古泉」 古泉「どうもすみませんね・・・ところで涼宮さんと何かありました?」 キョン「・・・なぜわかる?」 古泉「おや? 冗談で言ったつもりなんですが・・・」 しまった、墓穴掘ってしまった キョン「おい、アイス返せ」 古泉「食べかけですがいいのですか?」 俺は溜息をついた 古泉「ふふ・・・涼宮さんを見ていれば分かりますよ」 お前はハルヒの何なんだ? 古泉「ま、とりあえず頑張ってください」 何をだ ドイツもコイツもまったく・・・ ハルヒ「さて、休憩もしたところだし皆で泳ぐわよ!」 長門も泳ぐ気になったのか、本を閉じて皆とビーチボールで遊んでいる 古泉「いきますよ、朝比奈さん」 みくる「あ、はい」 古泉「そーっれ!」 古泉の投げたボールそこそこ早い やらせるか! キョン「とぁーっ!」 俺が飛び込み、朝比奈さんをかばおうとしたその時 古泉「マッガーレ」 ハルヒ・キョン「すごっ!」 なんと古泉が投げたボールが曲がったのだ その曲がったボールは長門に向かって行った が、長門は何も変わりなくキャッチ 流石だぜ長門 ハルヒ「古泉君!どうやったの?ぜひ教えてほしいわ」 何故か古泉は俺に向かってウィンクした 気色悪いぜ キョン「長門大丈夫か?」 長門「平気」 キョン「だろうな・・・」 長門「彼の行動は予測できた」 キョン「何故だ?」 長門「・・・・・・・・秘密」 古泉とはいったいどんな関係なんだ? と考えていたその時、ボールが俺の顔面に飛んできた ハルヒ「今のが戦場だったらあんた死んでいたわよ!」 ありえん、絶対にありえん もしあったとしても曲がり角を曲がったらパンを銜えた少女が・・・(以下略 とりあえず、それぐらいここが戦場だと言う確立は極めて低いのだ キョン「やれやれ・・・」 時間はあっという間にすぎ、もう夕方だ 楽しい時間は早く感じ、嫌な時間は遅く感じることをしみじみ思った ハルヒ「キョン、そっち持って」 ハルヒはビニールシートを片付けていた 古泉「結構焼けましたが・・・どうです、似合ってますか?」 俺は華麗に無視し、ハルヒを手伝った ハルヒ「さて、荷物も片付いたことだし・・・みくるちゃん、夏と言ったら何?」 みくる「え、あ、う、うーん・・・スイカですか?」 ハルヒ「スイカもいいけど、やっぱり花火でしょ!」 ハルヒはバックから花火セットを出した あらかじめ準備していたみたいだな 古泉「お、花火ですか いいですね」 キョン「おい、長門 花火やったことあるか?」 長門「・・・ない」 キョン「そうか、結構楽しいぞ」 長門「・・・そう」 なんだか長門の目が輝いて見えたのは気のせいか、気のせいではないのか ビーチパラソルやら色んな物を片付けているうちに日が落ちてもう夜だ ハルヒ「じゃ、花火するわよ!」 長門「・・・」 長門は花火をじぃっと見てる キョン「これに火を点けるんだよ」 長門「わかった」 長門は線香花火に火を点けてじぃっと見ている 古泉「花火に興味があるようですね、長門さん」 キョン「長門だってそれぐらいあるだろ」 古泉「そうですね」 当たり前だ 長門だって好奇心とかあるだろ ハルヒ「ちょっとキョン、古泉君!これ持って!」 ハルヒは両手に花火を持ってはしゃぎながら言った キョン「やけにハイテンションだな」 古泉「純粋に楽しいからじゃないですか?」 みくる「本当に嬉しそうですね」 未来には花火なんてあるんですか? みくる「ふふ、言うと思いますか?」 朝比奈さんは指を唇に当てて言った ぶっちゃけ可愛いです ハルヒ「コラーッ!キョン、デレデレしないでさっさと来なさーい!」 俺は仕方がなく歩いていった 正直足が痛い ちょっと遊びすぎたか しばらく皆で花火で遊んだ ハルヒはねずみ花火を俺に向かって投げてくるし 長門は線香花火を見ているだけだし 古泉は俺を見てみぬフリ 朝比奈さんはオロオロしている シュルルル... パン! キョン「うぉあ!」 ハルヒはケラケラ笑っている キョン「ちょ、ちょっとノドが渇いたからジュース買ってくる」 ねずみ花火から逃げていたからノドがカラカラだ ハルヒ「あ、私も行く 皆何か飲む?」 古泉「お任せします」 みくる「あ、私もお任せします」 長門「・・・・・」 何だ、ハルヒが奢ってやるのか? ハルヒ「あんたが奢るのよ」 俺は財布と相談したが・・・大丈夫だ 俺達が花火しているところから自動販売機まで少し距離がある 100mぐらい歩いた時だった ハルヒ「ねぇ、楽しかった?」 キョン「あぁ、普通に楽しかったぜ 水着とか見れたしな」 ハルヒ「へ、変態」 俺だって健全な男だ ハルヒ「で・・・どうだったのよ?」 キョン「ん、何がだ?」 ハルヒ「・・・ずぎ・・・」 キョン「はっきり言わんと聞こえんぞ?」 ハルヒ「・・・・・水着似合ってた?」 キョン「あぁ、最高に似合っていたぞ ナンパされないのが不思議だ」 我ながら何言ってんだ 事実だけどな ハルヒ「ば、バカ・・・」 しばらく沈黙が流れ、自動販売機に到着し、適当にジュースを買った キョン「おい、持ってやるからジュース渡せ」 ハルヒ「べ、別に大丈夫よ!」 ハルヒは何故かムキになって全部持っている キョン「無理すんなって」 ハルヒ「大丈夫だって言ってるでしょ!」 キョン「お、おい!」 俺はハルヒの方に手を置き、振り向かせた カランカラン... ハルヒが持っているジュースが落ち、目が合う ハルヒ「・・・・・」 キョン「・・・・・」 鼓動が徐々に早くなっていく・・・ 心臓の音と波の音しか聞こえない ドクン...ドクン...ドクン... ハルヒの顔が真っ赤になっている 多分、俺も真っ赤だな ハルヒ「きょ、キョン・・・」 キョン「・・・・・な、何だ」 変な汗が出ているのが分かる ハルヒ「じ、実は・・・」 こ、この状況は何なんだ? もしかして・・・ ハルヒ「私・・・キョンの事が・・・・」 その時だった 大砲を撃った様な音が聞こえた ヒュ~・・・ドーン! 打ち上げ花火だ 近くの公園でやっているらしい ハルヒ「わぁ~ キレイ・・・」 俺とハルヒはしばらく打ち上げ花火を見ていた ハルヒはまるで、カレーに肉を入れ忘れていていたかのように ハルヒ「あ、ジュース忘れていたわ! い、急ぐわよ、キョン!」 ハルヒは慌ててジュースを拾い 走って行った 結局ハルヒは何が言いたかったんだろう・・・ まさか・・・な 俺はハルヒを追いかけるように走った 古泉「また何かありましたか?」 キョン「・・・何もねーよ」 古泉「ふふ、そうですか」 コイツ分かっているな ムカツク野郎だ キョン「長門、花火はどうだった?」 長門「・・・ユニーク」 どうやら長門は花火に興味をもったらしいな 長門「・・・・・またやりたい」 そうか、やりたかったらいつでも言え 協力してやるぜ ハルヒ「車が来たから帰るわよー!」 ハルヒの従兄弟のおじさんの車が来たようだ ハルヒ「早く来ないと置いて行っちゃうわよー!」 はいはい、今すぐ行きますよ 俺は急いで車に向かった そうだ、ハルヒ 今度来るときはカメラでも持っていこうぜ あと、鶴屋さん、谷口、国木田とか誘って行こうぜ 大勢で行った方が楽しいだろ? おまけで妹とシャミセンも連れて行ってもいいぜ それと、あの時、何を言おうとしたか ちゃんと言ってくれよ 俺は車から見える夜景を見ながらそう思った ~ Fin ~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2647.html
「・・・・・・・・・・・やっぱりこのままじゃいけないみたいね・・・・・あのときやってさえいれば・・・」 俺たちももう高校二年生になり、桜の花もその役割を終え、新しい季節が 始まりを告げようとしていたとき、SOS団の活動もひと段落ついた学校の帰りの坂道で、ま~たハルヒが妙に気になることを呟いた。 まあ、どうせろくなことじゃないだろうがな。ハルヒのこの無茶な発言にもいいかげん慣れている。 この言い回し・・・・・ろくなもんじゃないってことはわかるぜ。 まあ、もっともこいつがまともなことを言ったことは雀の涙程度しかないがな。 まあ、朝比奈さんの新しいコスプレ衣装に関しては文句なしだがな。 しかし、今回に関してはなにか嫌なー予感ーがするぜ。 少なくとも、いらないのについてくるケータイ電話のストラップくらいろくなもんじゃないな。 で、今度はいったいどんなことを言い出すんだろう・・・・・ 思考をめぐらせてみよう。 ①UMA探索 ②UFOを呼ぶ ③地底人探索 ④GAN○Z部屋に行こう ⑤スタ○ド能力が使えるようになったのよアタシ! ⑥オ○シロ様の正体を探りましょう! ⑦幻○郷に行ってあの貧乏巫女にあいたいわ! ⑧聖○戦争に巻き込まれちまったぜ ⑨直○の魔眼を手に入れた ⑩左手が鬼になっちゃった ・・・ ・・・っと、これくらいかな。あいつが言い出しそうなのは。 しかし、こんな普通に考えるとほぼ100%できないようなことでも、言い出したら最後、飽きるまで暴走し続けるのがこの涼宮ハルヒの得意技だ・・・ ああ、もしかしたら俺、自称ハルヒ心理学者の古泉よりもハルヒの心境がわかるかもしれないぞ。 まあ、もっとも分かりたくもないがな。・・・・・・・おいそこ、嘘だッ!!っとか早くも叫んでるそこのお前、俺は断じて嘘などついておらん。 っていうか、なんで今の俺の考えが嘘と思われるのか知りたいところだ。 てか、俺は誰に向かって話してんだ?俺もそろそろヤバイかな。嘘は谷口の存在だけにして欲しいぜ。 ・・・・・・・・・・なぁんてことを溜息交じりに考えて、俺は手をやれやれだぜといった具合にしながら、ハルヒに問いかけた。 「どうしたんだハルヒ?このままじゃいけないって・・・・・なにがだ?俺はこのままで十分高校生であるべきLifeを堪能しているがな。なにより朝比奈さんが淹れてくれるお茶はそれはもう言葉では言い表し難い程ウマイし、長門は無口、無表情、無感動の3M(?)だし、古泉は古泉だし、何一つとして困ることや不安はないと思うが?」 それにしても、俺たちももう高校二年生か。しっかし色々あったな。 まぁ、色々ありすぎたわけだが。朝比奈さんはもう3年生かあ・・・・・・ 早いものだ・・・・・・・・朝比奈さんは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・3年生・・・・・3年・・・・卒業・・・・・・・・ん?・・・・・・ってちょっと待て! 俺たちよりも早く卒業するとなると、あ、あの極上のお茶・・・別名「天使の涙」(命名俺)が、もう飲めなくなるじゃねえか!! ・・・・・・・・・参ったぜ畜生、思わず声に出しちまったじゃねえか。 ほら、さっき道の角ですれ違った中学生っぽい男の子も、俺のほう見てるよ・・・・・ああ、ハルヒもあきれてモノもいえないみたいだな。 ・・・・・・・で、どの部分から声に出ていたのだろうか? このときの俺には知る由もなかった・・・・・・ ~角川書店 著者キョン『倦怠に満ちた俺の日々』より~ 「・・・・・・あんたもう相当頭が谷口化しちゃったみたいね・・・・・・・・そんなんだからいつまで経っても本名で呼んでもらえないのよっ! 団長の気持ちもわからないようじゃ今後、一生雑用みたいね。 ・・・それはさておき、去年の文化祭のライブ覚えてる?バンド演奏よ。あれ来年の目的とかいって、それからSOS団のライブ活動をちょこっとやっただけじゃない。あの応募して落選したやつ。なんか落選したらさ、もういいや~って思えるようになってね? それっきりやってないじゃない!やっぱり続けるべきなのよ!」 おいおい、バンド演奏ならもういいじゃねえか。それに、俺はもうハルヒの作り出した曲で、あのわけのわからん音符の怪物と戦うのはもういやだぜ? サウンド・ウォーム(命名俺)だっけか? まあ、せっかくベースも弾けるといってもいいレベルまで達したわけだし?俺としても、やりたくないなんていったら嘘になるな。そんな心にもないこといったら針千本を飲まされるぜ。 しかし、俺たちももう高校二年生だ。来年は受験だし、二年の成績はかな~り内申に響くんだぜ? もし、あまりにもできないんで補習!・・・な~んてことになったら、俺はお袋の怒りを買いかねない。 そうなったら最後、バンドはおろかSOS団の活動の参加すら危ういんだぞ。 え~、つまり、大きくまとめると第一に、ハルヒが作った曲にはあのトンデモパワーが宿り、それを聞いたら最後、一生その曲が頭の中で これ以上聴いたらノイローゼになりかねないぞくらいのリピート状態になる。 第二に、俺たちはもう高校二年生だ。わかる?受験だよぉ~・・・ そういうことだからさ、いいかげんそこんとこ学習しようぜ!ハルヒ! ・・・・・という理由である。 まあ、俺的には後者のほうが大きいかな。 理由としては。 しかし、学習してないのは俺も同じだった。 つかさ、俺が本名で呼ばれないのとさ、そこで谷口の名前が出てくる意味がわからねえ。 「なに言ってんの!SOS団の団員である以上は、好成績を残さないとだめだめよ!補習なんてもってのほかだわ!・・・・・・・・・こりゃあま~たあたしが勉強を教えるしかないようねぇ~♪」 はい、俺の話は全然届いていなかったようだ。ようするにやめて欲しかっただけなのにな。ていうか妙にうれしそうだな~、ハルヒよ。 バカに勉強を教えるのは、ペットに芸を教える感覚と類似したものがあるのだろうか?だとしたら、俺には一生無縁な感覚だな。 「バ、バカッ!ぜんっぜんうれしくなんかないわよっ!このうんこっ!」 わかった。もううんこでいいからさ、ネクタイをこれからカツアゲする不良みたいに引っ張らないでくれよ。 でもまたなんで急にそんなことを思いはじめたんだ? 「ハァハァ・・・・・・ふぅ・・・・それはね、昨日部屋のなかを整理してたらね、ビデオが出てきたのよ。結構古かったわね~。それをさ、なんとなく再生してみたら、昔やってた音楽番組だったのよ。でね、あるバンドの演奏してる姿を見たのよ。 それみたらもういても経ってもいられなくなってね! あれがまたすごいのよ! あの哀愁漂うアルペジオのイントロから始まり、終わったかと思いきや、ここから『静』から『動』!ヴォーカルがね、なんていったかしら・・・・・あ、そう!紅だああああああ!!って叫んだのよ! そしたらね、そこからはもう疾走感溢れるアップテンポでね~。 ホント、あれ見て思わず身震いしたほどよ! あのバンドの名前なんていったかしら・・・・・・・・たしか・・・・・アルファベットだったような・・・・? あ、Xなんとかだったわ! 」 こいついったいいくつなんだ? XJAPANだろ?そんでもって曲は紅だ。 なんでそんな古いもん見て興奮するんだよ。Xっていや~・・・・・1989年デビューしたんだっけか。 お袋がファンで、嫌というほど話を聞かされたから覚えてる。 紅はデビュー曲だよな。聴いたことはないけど・・・・・ ああ、そういやこいつ、ロックも聴くんだっけか。いつだったか、『マリリン・マンソン』の曲を口ずさんでたっけ・・・・・・・・・・ 興奮するのも分かる気がする。 「そう!それよ! XJAPAN!懐かしいわね~♪」 だから、お前一世代古いって。 「なにいってんのよ! 彼らの1番の魅力は、『時代を感じさせない音楽』 よ! 『DAHLIA』や、『ART OF LIFE』なんか、90年代の曲だけど、今の邦楽なんかには感じない凄味があるわ! 全然色褪せてないもの! あんたも一回聴いてみなさいよ!絶対ハマルって!」 だ~か~ら~、ハルヒよ、俺はもう勉強でいっぱいいっぱいなの。 そんな音楽聴いてる暇なんかないぞ。 「勉強はアタシが見てあげるっていってんでしょうが!人の話は最後まで聞きなさい! アンタの悪い癖よ! ・・・・・・・・!! 思いついたわ・・・・・・・・!!」 嫌なー予感ーがする。またなんかバンドで俺たちを巻き込むつもりだ・・・・・・・・・・。 まあ、それはいいか! ハルヒが見てくれるって言ってくれてるしな。こちらとしてもそれは大いに助かる。巻き込まれてやろうじゃないか。 なんだかんだいって、俺もバンドをやりたいらしいな。 Xにも興味があるし。・・・・・・で、その思いついたことはなんだ? 「前のときは、容姿が普通すぎたからダメだったのよ! 今度からは、あれよ、あれ。ん~っと・・・・・そう! ヴィジュアル系! これしかないわ~。 邦楽でいいのは、ほとんどヴィジュアル系だしね!PIERROTに、LUNASEA、PENICILLIN、Laputa、Dir en grey、ラファエル、プラスティック・トゥリー、CASCADE、陰陽座、Janne Da Arc、ラルクアンシェル、SHAZNA、上海アリス幻○団・・・・・あげたらきりがないわ!」 わかった、わかったからもう言わなくても、いいぞ? ていうか90年代多いな。ほんとは年ごまかしてんじゃねえのか?・・・・・ていうかさ、ラルクアンシェルをV系呼ばわりしたら、怒って帰っちまうぜ? それに上海アリス幻○団はヴィジュアル系でもないし、バンドでもねえよ。 それに、前に落ちたやつの応募方法は、デモテープを送ることだったろ? 容姿なんて見えないんだから意味ねえじゃねえか。ああ!つっこみどころが多すぎる! 「細かいところは気にしなくていいの! それもあんたの悪い癖よ! それに!アタシがV系っていったら、それはもうV系なの!わかった!? ・・・・・で、これからキョンの家にみんなを呼んで邪魔しようと思うんだけど。 どうせ親はいないでしょ? だったら早くいきましょ!もういても経ってもいられないの!」 どうやらこいつの辞書には遠慮という単語は存在していないようだ。ま、別にかまわんが・・・・・・・・いったいなにをしに来るんだ? 「練習よ練習!みんなだいぶうまくなったようだけど、アタシから見たらまだまだよ。みんなが作詞作曲できるようなレベルにならないとね!」 それはレベルが高すぎだろう。思わず溜息が出ちまったじゃねえか。 気づけば、俺たちがいつも分かれる道まで来ていた。 早いもんだな。 「それじゃあ! 準備が整い次第! あんたの家に行くからねっ!ちゃんと片付けておきなさいよ!」 じゃあねと手を振ったハルヒは、そのまま元気良く走り去って行った。 「やれやれだぜ・・・・・・」 思わずだれかのセリフが出ちまった。 俺はこのあと、ハルヒが去っていった道をただボーっと突っ立って眺めていた。 「そろそろ帰るかな・・・・・」 ハルヒたちが来るので、部屋の片付けを済ませなくちゃならなくなった。やらなかったら死刑っぽいからな、うん。 死刑はやだろ?死刑は。 そして俺は、自分の家に帰るために歩を進め歩き始めた。 これからどんなことになるのかな? なーんてことを考えながらな。 しかし、俺が思っている以上に、大変な出来事に遭遇することは、このときの俺には知る由もなかった・・・・・・・・・・ 続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/20.html
ハルヒ「宇宙人っていると思う?」 キョン「禁則事項です」 ハルヒ「・・・・・・」 キョン「すまん、言ってみたかったんだ」 ハルヒ「・・・・・」 キョン「長門にはコスプレさせないのか?」 ハルヒ「あら、みたいの?じゃあ選んで」 キョン「あ、いや別にそこまで見たいわけじゃないんだ」 ハルヒ「そう・・・・・」 ハルヒ「ねえキョン! 今度の日曜日卓球のダブr」 キョン「断る」 ハルヒ「今から連sy」 キョン「断る」 ハルヒ「な、何よ……もういい! あんたなんかに頼んだ私がバカだったわ。みくr」 みくる「断る」 ハルヒ「k」 古泉「断る」 ハルヒ「…………」 長門「…………」 ハルヒ「…………」 長門「……一緒に出る?」 ハルヒ「断る」 ハルヒ「有希であいうえお作文しまーす!」 ハルヒ「な!夏でもCOOL!」 ハルヒ「が!学校でもCOOL!」 ハルヒ「と!とにかくCOOL!」 ハルヒ「ゆ!融通が利かないけどCOOL」 ハルヒ「き!キョンにはHOT!」 ハルヒ「…何だろう…この空しさ…」 キョン「スレタイ変えたほうが良いんじゃないのか?」 長門「代案の提案を希望する」 キョン「・・・・キョンと愉快な長門達」 長門「・・・・・・」 キョン「スマン聞かなかったことにしてくれ」 長門「・・・・・・長門と801なキョン達」 キョン「・・・・・」 長門「・・・・・ゆずれない」 キョン「・・・・・」 長門「・・・・・」 ハルヒ「ハルヒとy」 キョン「やはり今のままでいいな」 長門「コクリ」 ハルヒ「(´・ω・`)」 小泉「ハルヒさん、あなたにあきれて ほかの人は帰ってしまいましたよ。」 ハルヒ「待ちなさいよ、何にあきれたわけ?」 小泉「・・・その服、どっからどう見ても 裸ですよ。」 ハルヒ「・・・・・!!」 女子A B「きんもぉ」 谷口「キョン、放課後遊びに行こうぜ」 国木田「谷口がゲーセン行こうってきかないんだよ」 ハルヒ「何言ってるの!キョンは今日もSOSだ キョン「おういいぜ」 谷口「おっしゃ!今日こそ勝たせてもらうぜ!!」 国木田「谷口ゲーム弱いのに好きだよねー。」 キョン「まったくだ。今日も賭けのジュースはいただいたも同然だな」 ハルヒ「ちょっとキョン何勝手に話進めてんのよ!ちゃんとあたしの キョン「なんかうるせー幻聴聞こえるから早く行こうぜ」 ハルヒ「………」 ハルヒ「みくるちゃん、お茶入れて」 キョン「あ、俺にもお願いします」 みくる「はぁい」 みくる「どうぞキョン君」 キョン「ありがとうございます」 ハルヒ「あれみくるちゃん、私にh」 みくる「今回はおいしく入れれたんですよ」 キョン「いつも通りおいしいですよ」 ハルヒ「・・・・」 長門「(パタン)」 ハルヒ「あっ、もうこんな時間になったのね。今日の活動終わり!解散!」 キョン「なあハルヒ、ちょっと話があるから部室に残っててくれないか」 ハルヒ「な、なによ、みんなの前じゃ言えないような話?」 キョン「ああ」 ハルヒ「わ、わかったわよ」 … …… ……… キョン「ただいまー」 妹「キョンくんおかえりー」 キョン「腹減ったー」 ハルヒ「遅いなキョン…」 ハルヒ「暇ねえ~、まったくなにかおもしろいことはないのかしら」 キョン「チェックメイトだ」 古泉「おやおや、また僕の負けですか」 ハルヒ「ちょっとあんたたち無視してんじゃないわよ! そうね、暇だからしりとりでもしましょう。 じゃあ私からいくわよ!しりとりで『り』よ!」 キョン「…………」 古泉「…………」 みくる「…………」 長門「…………」 ハルヒ「ちょっと、誰でもいいから答えなさいよ! もういいわ、キョンあんたでいいから答えなさい」 キョン「…りぼん」 ハルヒ「…………ハ、アハハハッ『ん』が付いたわ、キョンの負けね! もう、まったく馬鹿なんだから。 じゃあ、もう一度ね次はもっと長くしなさいよ!」 古泉「キョン君もう一戦やりましょうか。次は負けませんよ」 キョン「いいぞ。何度やっても同じだろうがな」 ハルヒ「ちょっと!」 ハルヒ「続き…」 ハルヒ「なによ……」 ハルヒ「…………」 みくる「あ、みなさんケーキ食べます?」 ハルヒ「え?ケーキなんてあるの?ひとつちょうだい」 みくる「フフフ、涼宮さん面白い」 ハルヒ「え?なんで?」 みくる「だって涼宮さんにあげるケーキある訳ないじゃないですか」 ハルヒ「どうゆういm」 キョン「ひとついただけますか?」 みくる「はい、ただいま」 ハルヒ「・・・・・・」 金曜日の部室 ハルヒ「じゃあ皆、明日9時だからね」 みくる「すいません涼宮さん私用事があるので・・」 ハルヒ「あらそうなの?、じゃあ4人で行きましょ」 キョン「すまんハルヒ、俺も朝比奈さんと用事があるんだ」 ハルヒ「え?ふたりで一緒n」 古泉「すいません、僕も朝比奈さんと彼と一緒に町内不思議探しパトロールしなくては」 ハルヒ「え?だから皆で行けばいいじゃない?・・・・ねえ有希?」 長門「まだわからないの?、一緒に居たくないんだよ!!」 ハルヒ「いつもとキャラ違っ」 キョン「じゃあなハルヒ、明日来んなよ」 ハルヒ「・・・・・・・うぐっ」 ハルヒ「今日の会議についてだけど・・・。」 「プゥッ。(おなら)」 みくる「いやぁぁあ!臭い!」 長門「ッ・・・!」 長門は手をくちに押さえたまま倒れこんだ。 小泉「なんてことだ!!学校中が・・・!」 キョン「長門を病院に!」 小泉「はい!」 みくる「・・・・・」 小泉「だめです!みくるさんも!!」 ハルヒ「うう・・・み、みんな、その・・・」 「ブゥウウウ~・・・」 キョン「お、ごっぷ・・・・・・」 バタッ 小泉「・・キョン君!!!!しっかり・・・くそっ!!」 先生「だめです校長!生徒たちが・・・!!」 小泉「オーアァー!!」 ハルヒ「嘘よ・・・こんなの・・・」 女子A「たすけ・・て・・・ハルヒ・・・さん・・・」 ハルヒ「いや・・・・やぁぁああ!」 キョン「寝言うぜぇんだよ」 小泉「今は16時ですよ。寝る時間ではありません。」 みくる「えいっ」 みくる は窓から突き落とした。 私は・・・・・死んだ・・・・ キョン「はははwwみろよ、鼻血が舌にたれてるぜwwくはははは!!」 小泉「おやおやww写真をとりましょうか、記念ですww」 みくる「最高ですー♪」 一同「豚は 死ね!」 高校に入り折角、SOS団を作ったのに誰も来ない。 結成時に入部させたキョンも有希もみくるちゃんも初日以外姿を見せない。 今日も、私はこの元文芸部の部室で開くはずもない扉を見る日々を過ごさなくてはいけないのだろうか。 ガチャ ハルヒ「っ!キョン!?」 扉を開けて入ってきたのは、数名の教師だった。 ハンドボールバカの岡部もいる。 ハルヒ「ちょっと何の用よ?」 教師A「文芸部の部室を無断で占拠しているという報せをうけた」 教師B「まったく同好会にもなっていないくせに勝手なことをしおって」 岡部「とにかく指導室まで来い。それに、うちのクラスの***と 2年の朝比奈がお前に強制的に入部させられたという報せもけたぞ。 なに考えているんだ?」 その後、あたしは指導室で親父と母さんまで呼ばれて、たっぷりと説教をうけた。 部室も没収され、SOS団も解散。 そうして、私は再び世界に絶望した ハルヒ「マッガーレ鼻メガアアアアネ~」 ハルヒ「(´;ω;`)」 キョン「なあハルヒ、大切な話があるんだ。」 ハルヒ「な、なによ///」 キョン「おまえ、シュールストレミング臭いぞ」 補足 シュールストレミングとは、腐ったニシンの缶詰です キョン「ハルヒ、お前ん家教えてくれ」 ハルヒ「なによ、急に・・・・まあ教えてあげてもいいけど・・・・」 キョン「じゃあ一緒に帰ろうぜ」 ハルヒ「こっちよ、ついてきなさい」 キョン「へー、これか」(明日からポストにいたずら手紙詰め込んでやる」 次の日 ハルヒ「あれ?いっぱい手紙来てる」ビリッ ハルヒ「・・・・・・・・・」 キョン「なあハルヒ、俺の弁当食わないか?」 ハルヒ「あんたの弁当なんて食いもんじゃないわ!」 キョン「そうか、じゃあ長門、食うか?」 ………コクッ 長門「・・・美味しい」 ハルヒ「や、やっぱり食べる」 キョン「へ?」 ハルヒ「食べるって言ってんの!早くだしなさい!!」 キョン「そうか」 ハルヒ「あら、美味しいじゃない!これならいくらでも食べれるわ!」 キョン「そうか、じゃあ吐くまで食ってくれ」 ドサッ ハルヒ「え、ちょっとキョン、それじょうだ・・キャァ」 ……………………………… …放課後 みくる「こんにち、、、うわぁ、涼宮さん、くさいですぅ」 長門「・・・臭い」 古泉「これは・・・ひどいですね」 鶴屋「めがっさくさいさ、キョンくんかえるにょろ」 ハルヒ「・・・・・・・・・」 ハルヒ「ふっふっふっ、出来たわ。改心の出来よ! この手作り弁当でキョンのハートは頂いたも同然ね」 ―――― 昼休み キョン「やっと昼休みか。おい、谷口飯食おうぜ」 ハルヒ「待ちなさいキョン!」 キョン「あん?なんだやかましいぞハルヒ」 ハルヒ「うるさいわね。それより今日はこの団長様がわざわざ、 いつも貧相な顔をしている団員のために弁当を用意してあげたわ」 キョン「は?弁当?」 ハルヒ「そうよコレよ。さあ、今まで生きていたことに感謝しながら食べなさい」 キョン「馬鹿かお前は。俺は自分用の弁当があるからそんな重箱一杯の弁当なんか食えるか」 ハルヒ「え、キョン!?」 その時、1年5組に弁当を手にしたみくると長門が入ってきた。 みくる「あのキョン君。今日ちょっとお弁当多く作りすぎちゃったので よかったらいかがですか?」 長門「…作ってきた」 ハルヒ「ちょっ、あんたたt」 キョン「ありがとう朝比奈さん、長門。喜んで食べさせてもらいます。 部室ででも、一緒に食べませんか」 ハルヒ「え?ちょっと、キョン…」 キョン「なんだハルヒ、まだいたのか?早くしないと学食席なくなるぞ。 さあ、いきましょう朝比奈さん、長門」 そうして3人はハルヒを残して部室へと向かった。 ハルヒ「そんな…なんでよ私だけ……キョンの馬鹿…」 ハルヒ「キョン、飲み物買ってきなさい。」 キョン「へいへい、行って来ますよ。」 ハルヒ「え…やけに素直ね?」 古泉「僕もご一緒しますよ。」 みくる「私も行きます~。」 長門「…。(テテテ…)」 ハルヒ「…え…。」 ハルヒ「…。(ぽつん)」 ハルヒ「…。」 ハルヒ「…早く戻って来なさいよぉ…。」 ハルヒ「キョン、もうすぐ夏休みよ、今年は一日も無駄にしないで遊びまくるわよ!」 キョン「ハルヒ、俺はおまえと遊ぶつもりはないぜ」 ハルヒ「えっ、そんな…」 キョン「まあ、どうしても遊びたいなら、ポニーテールにして来いよ!」 キョン「なぁハルヒ夏合宿しろよ」 ハルヒ「な…いきなり何言ってんのよ!どうせあたしの水着s」 キョン「黙れよ…お前がいるとうざくて部室に来れないだろうが。 夏休みなんだから学校に来なくても別にかまわないだろ? 古泉と谷口でゲームを徹夜漬けする予定何だからお前がいると邪魔なんだよマジで。 お前みたいな女マジでうざいんだからとっとと富士の樹海にでも行ってろよ。」 ハルヒ「……」 ハルヒ「みくるちゃん今日はこれ着てみよっか~?」 みくる「くっ臭い、生理くさいですぅ」 ハルヒ「…」 ハルヒ「うほっ!いい男」 キョン「誰もお前となんかやりたくねーよ」 ハルヒ「・・・・」 ハルヒ 「ちょっとキョン! あたしのプリン食べたでしょ?!」 キョン 「知らんな」 朝比奈さん 「えっ・・・・私? 食べてないけど・・・・」 古泉くん 「僕も食べてませんけど?」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしの昔の写真見たでしょ?」 キョン「ああ」(四年前の七夕の日に会ったことあるから知ってるけどな。) ハルヒ「ふん、でどうだった?」 キョン「別に、昔も今も変わらなず生意気だな」
https://w.atwiki.jp/otomadstar/pages/557.html
▽タグ一覧 ウサギ カチューシャ ツンデレ ポニーテール リボン 団長 涼宮ハルヒの憂鬱 音MAD素材 ニコニコで【涼宮ハルヒ】タグを検索する 概要 涼宮ハルヒシリーズのメインヒロイン。 性格は唯我独尊・傍若無人・猪突猛進かつ極端な負けず嫌いで、「校内一の変人」としてその名は知れ渡っている。 実は「願望を実現させられる」という、神にもなぞらえられるほどの力を持っており、様々な組織が彼女に関心を抱いている。 しかし本人はその力に全く気付いておらず、願望が本人の知らない内に具現化され、その度にキョン達は事態の収拾を付けるために奔走している。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1874.html
“っぅ…やばいわね” あたしはさっき飲んだジュースに猛烈に当たり散らしたい気分だった。 今日は日曜日。あたしはバカキョンのために家庭教師をしてやっていた。…別にキョンの事が心配だからとか、一緒にいたいからって訳じゃないんだからね。ただ…そう、補習とかになって団の活動をサボられると困るのよ! …で、今あたしの目の前にはキョンが座っている。真剣な目で問題を解いてるキョン。間違ってるんだけどね。 でも、今のあたしにはそれをバシバシ叩きながら指摘する余裕がない。あたしは足元にある空のペットボトルを見つめた。 まずいは…かなりまずいは。調子に乗ってあんなに飲むんじゃなかった。…これはキョンが悪いのよ! 『ハルヒ、まあ、飲め。暑苦しくてたまらん』なんて言うから。あたしもついつい…だいたいキョンの覚えが悪いから怒鳴って…だから喉が渇くのよ! “…ぁぅ…” やばい、本気でやばい。よりによってなんでこんな日に断水?!水道局の怠慢だは!ダムに水がないなんて嘘よ。あたしのダムはもう満水なのよ…。 『ぁぁ…』 思わず声が漏れる。キョンが怪訝そうな顔で見てる。あたしは横座りしていた足を組み変えて正座にする。 “こうすれば踵が当たって直で押さえられるは!”まだいける…と思うけど。断水解除は4時だから…後30分ね。もっと早く動いてよ時計… まだ、マヌケ面でこっちを見ているキョン。 『ハルヒ、顔が赤いぞ、汗も凄いし。大丈夫か?暑いのか?』 なんて聞いてくるし。大丈夫そうに見えるの?滴る汗を拭うあたし。 て、あんた何クーラーの温度下げてんのよ!嫌がらせ?もう!バカキョン! …“ヴーーン、ヴーーン ” その時、床に置いてあったキョンの携帯のバイブが床を伝わり僅かな振動をあたしの身体に与えた。 『…ひゃっ…』 “…プシュッ” あっ、あれ?今のはまさか? “ひょっとして…今のはひょっとして…”何か生暖かい感触が下着の中に広がる…。 今、あたしちびった?愕然となる。すぐに確認したいけど今はキョンがいるから無理。今だけどっか行ってよ…キョン。 あたしは祈った。そしたらキョンの奴電話をもって立ち上がり『悪い。親からだ。下で電話してくるは。すぐ戻る』ですって。 部屋を出て行こうとするキョン。チャンスよ!ハルヒ。って…キョン歩かないで…今のあたしに振動は…振動は…。 “プシュッ…ジュッ” …ぁっぁ…えっ?う、嘘… その時のあたしにはもう一刻の猶予もなかった。 キョンが部屋を出るのを見ると速攻でスカートの中に手を入れ下着の上から直接股間を押さえる。 “グジュッ…” あたしの下着は濡れていた。信じられない現実…そして今も染み出すように出てる液体。 “止まれ!止まれ…止まって…お願いだから… 団長たるあたしがこんなところでお漏らしなんて…” 心の中で祈りながら押さえ続ける。 祈りが通じたのか、ちょっと出ちゃったからなのかはわからないけどなんとか止まった…。 …恐る恐る手を離して下着を見る。 “見たくはないけど現状は確認しなきゃ” 純白の下着は薄く黄色く色付き、濡れてしっかりと透けていた。そして白のミニスカートにも…。 “あ、あたしキョンの家で…” 目の前が真っ暗になった。軽いパニックになる。 その時あたしの中でもう一人の冷静なあたしが囁いた。 “大丈夫よ!ハルヒ!まだキョンには気付かれてないわ!今ティッシュを使って吸い取ればごまかせる!” あたしは冷静な自分を取り戻した。幸い今は尿意が引いている。 あたしは部屋の隅に置いてあるティッシュに向かった。 …刺激を与えないように部屋の隅に向かう。 あと…3歩…2歩…1歩…。 ティッシュの回収成功。作戦の第一段階は成功ね。あとは元来た道を戻るだけ…。 中腰、擦り足で元の場所に戻るとあたしは下着とスカートからおしっこを拭った。 …その時、今迄の比じゃないの尿意があたしを襲った。耐え切れない欲求…。 『ぅぅぅ…』 “負けない…あたしは負けない…” 時計を見る。後5分。この波さえ乗り切れば後は天国よ!ハルヒ! ティッシュをもった右手を力いっぱい股間に押し当てる。 … … … 『ガチャ…』 ドアが開く。 『あースマン、ハルヒ。ちょっとこいず…いや、親がなうるさくてな』 あたしはとっさにドアに背中を向ける事しかできなかった。 全身の震えが限界に近づいてる現状を教えてくれる。 キョンはそんなあたしに近づいてきた。 落ちていたティッシュを拾うのを気配で感じる…。 ダメよ!キョン!そのティッシュはあたしの…あたしの…心の中で絶叫する。 キョンは震えるあたしと濡れたティッシュから想像したのだろう…明らかに検討違いな事を言ってきた。 『大丈夫か?ハルヒ…おまえ泣いてるのか?辛い事があるなら話してみろ…』 そう言うとキョンは“ポン”と、あたしの肩に手を置いた。 『…ぃ…嫌…ダメ…』 今のあたしの我慢はその衝撃に耐えられなかった。 『…あっ…あっ…ぁぁ…』 “ショワーーーッ!” という布越しに液体が吹き出す音が聞こえる。それは“びちゃびちゃ”と床を打つ。あっという間に広がる水溜まり。白い下着が黄色味をおびなら透けていく。 『ダ、ダメ…見ないでキョン…!』 それだけ言うのが精一杯だった。出せた事への気持ちよさよさより、下着に広がる生暖かい液体の感触とキョンに見られてることへの羞恥心の方が大きかった 一度出始めたものを止める事はできなかった。 下着だけでなく、スカート、靴下にまで不快なものを感じる。 あたしにはその時間が永遠にも感じられた。 “ちょろ…ちょろろ…” やっと勢いがなくなり、そしてあたしのおもらしは終わった。 あたしは自分に起こった事が信じられなかった。高校生にもなって…ましてや他人の、キョンの前で…消えたくなるような恥ずかしさ…。 『…ハ、ハルヒ?』 キョンの声が背後から聞こえる。突然の事で動揺してるのか声が震えてる。あたしは恥ずかしさで答える事も顔を上げる事もできなかった。 …どうしよう…おもらししちゃった…。 謝らなきゃ…とにかく早くキョンに謝らなきゃ…。 焦りと謝罪したいそんな心とは裏腹にあたしの口をついたのは理不尽な責めの言葉だった。 『…あんたのせいなんだからね…あんたが押さなきゃ全然問題なかったんだから…』 嘘…キョンは悪くない。ジュースがぶ飲みして、もらしちゃったのはあたし。 それでもあたしの理不尽な言葉は止まらなかった。 『…せ、責任とりなさいよ…責任とらなきゃ死刑なんだからね…』 …情けない姿を晒した自分と素直に謝れない自分が許せなかった。 だからキョンに八つ当たりしてるだけ…。解ってる。責任のとりようもないことも、ましてやキョンに責任がないことも…自分が子供みたいなことを言ってることも…。 … … … …キョンはそんなあたしの理不尽な怒りに対して何も言わなかった。 足が濡れるのも構わずあたし前に立つと、一言“ゴメンな”と言ってあたしを優しく抱え上げ、お風呂場に連れて行った。 …お風呂場についた私の服と下着をキョンは優しく脱がせてくれた。 あたしのおしっこのついた物なんて触りたくもない筈なのに…嫌な顔一つしないで…。 それに今はあたしの出したものを片付けるために部屋に戻ってるし。 『シャワーでも浴びてすっきりしろ …俺は着替えを用意するあと、お前の…始末をしとく』の一言を残してあたしを一人にしてくれた。 “…優し過ぎるよ…キョン…” キョンの前では団長として弱みは見せられないと思って我慢してた涙が頬を伝う。 お風呂場の中はあたしの出したおしっこの臭いがうっすらしていた。 シャワーを浴びながらあたしは考える。 “あたしキョンに凄いとこ見られちゃったな…キョンになんて謝ろう? どうしよう…顔合わせられないよ…” “トントン” ドアを叩く音。意識を戻す。 『…ハルヒ、着替えここに置いとくぞ。…あ~それとだな。気にすんな。誰にでも…『わかったわよ!そこに置いてって!!』』 あたしは精一杯虚勢を張り声を出す。そして言ってから後悔の念に押し潰されそうになる。 …またやっちゃったは。今なら顔合わせないで謝ることもできたのに…。 あたしの中で“不安”が広がった。 …“不安?”なんで不安なんだろう? おもらししたことを他人にバラされたらどうしよう…って不安? …違う。キョンはそんなことするやつじゃない。 そんな事は解ってる。 じゃあ、何の不安? …そう、キョンに嫌われるんじゃないか?って不安。汚い女だって見捨てられる不安… なんで嫌われるのが怖いの? …それはあたしがキョンを好きだから。 初めて自分の気持ちに気付いた…。 シャワーを出る。 …身体はすっきりしたけど心は晴れない。 あたしはキョンの用意してくれた服を着る。 今あたしはキョンの部屋の前にいる。 早く入らなきゃ…謝って、そしてキョンに確認しなきゃ… でもあたしの足は動かなかった。 きっと嫌われちゃった。見捨てられちゃう…って不安が大きくなる。寒くないのに膝が震える。 『ハルヒか?もう片付けたから入って来いよ』 気配を察したのかキョンがあたしを呼んだ。 『ガチャッ…』 扉を開けて中に入ると部屋の中は綺麗になっていた。 キョンの顔をまともに見られない。でも謝らなきゃ… 『…ゴメンなさい……キョン…こんなあたしの事なんて嫌いに…なっちゃった……よね』 最後のほうはかすれてよく聞き取れなかったかもしれない。 あたしは泣いていた。 いつの間にか『ゴメン…』と『嫌いにならないで…』を連発していた。 そんなあたしに近づいてきたキョンはあたしを優しく抱きしめてくれた。 『俺のほうこそゴメンな。おまえが我慢してるのに気付いてやれなくて…俺が気付いてやれればなんとかできたかもしれんのに… だからゴメン。…それに嫌いになる訳ないだろ。誰にだって起こりえることだ。だからもう気にすんな。もう済んだことだ…。もちろん誰にも言わない。俺も忘れるからおまえも忘れちまえ!』 『だから泣くな!…いつもの傍若無人なハルヒに戻ってくれ。俺はいつものハルヒが…その…なんだ…好きなんだ!』 えっ?今キョン“好き”って…あたしのこてを。嫌われてないだけじゃなく好きって…。 あたしの涙は止まらなかった。でもそれは今迄の不安から来るものじゃない。嬉しさから来るものだ…。 そんな泣き止まないあたしを見てキョンはいつもの“やれやれ”って表情じゃなく、今迄見せたことのないすっごく優しい眼差しであたしの口を塞いできた…自分の口で…。 そして…。 翌日文芸部室にて… …今日も暑いわ。なんでこんなに暑いんだろ?授業中“夏だからだろ?”なんて月並みな事を言ったキョンには既に罰ゲームを言い渡してある。 今、眉間にシワを寄せながらパンツ一丁にエプロンで席に座ってるわ。涼しそうねキョン。パンツを残したのは団長としての優しさよ!感謝しなさい! そんなキョンを見てニヤニヤしてる古泉君を見てると“ホモ説”もあながち間違いじゃない気がするのは気のせい? 『みくるちゃん!お茶!頭痛くなるくらい冷たいやつよ!』 今日何度目かになる注文をみくるちゃんに出す。 その声に反応してあたしを見るキョン。 お馴染みの“やれやれ”って顔で『飲み過ぎだろ!そろそろ止めとけ…』って言ってきた。 …っと…まあ、そうね。みくるちゃんも大変そうだし、また昨日みたいなことになったら嫌だからね。ここらへんで止めとこうかしら。 …でも、今みたいな“やれやれ”な顔じゃなく、あたしを慰めてくれた時のキョンの…今はあたしの“恋人”のあの優しい顔が見れるならまた……… そんな考えを振り払うかのようにちょっと乱暴にコップを置き、いつもの調子で叫んぶ。 『ねえ!キョン!!』 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/18.html
ハルヒ「ちょっと・・・みんな、私を無視しないでよ・・・・・・・」 キョン「うるさいんだよ、お前は毎日毎日、人使い荒くて 何なんだよお前は、何様だってんだ!」 ハルヒ「・・・!!」 キョン「朝比奈さんも古泉も長門も何も言わないけど きっと俺と同じでお前の事うっとおしく思ってるはずだぜ。 くだらないことしてないで、いい加減大人になれよお前。 じゃあな」 ハルヒ「ちょっとキョン待ちなさい・・・!!キョン・・・。 私を一人にしないでよ・・・。もう一人はイヤなの・・・」 ハルヒ「ねぇ!?なんで昨日部室に来なかったのよ!? 今日もサボったら死刑だからね!」 キョン「うるさいから話しかけるな(ボソ」 ハルヒ「え・・・。」 部室 ハルヒ「ね、ねぇ、み、みくるちゃん・・・」 みくる「・・・なんですか・・・」 ハルヒ「み・・・みくるちゃんは!わたしの事無視したりしないわよね・・・」 みくる「・・・・・・・・・」 スタスタスタスタスタ・・・ ハルヒ「み、みくるちゃん・・・」 ハルヒ「!・・・そ、そうだ、ユキ!・・・え・・・?」 古泉「みなさんもう多分ここには来ませんよ。」 ハルヒ「そ、そんな・・・」 古泉「では、私も出て行かせてもらいます」 スタスタスタスタ・・・ ハルヒ「そんな、なんでみんな・・・」 ハルヒ「なんでなの、みんな。・・・私が駄目なの?どこが駄目だったの?ねぇ、誰か・・・」 自分しかいない部室で、ハルヒは独り泣いていた 翌日 教室 ハルヒ「お・・・おはよう!みんなゲンキーッ!」 ハルヒ「・・・・・」 誰も返事を返してくれない。 そのままハルヒは黙りこんで自分の席についた。 休み時間 ハルヒ「・・・」 ヒソヒソ 女子A「聞いた?あの娘唯一の友達だったSOS団とかいうグループの人たちからも 無視されてるらしいわよ。」 女子B「え~可愛そう(笑)。でもあの娘っていつも変なこと言ったりやったりしてるから 自業自得だよね~。」 女子A B「クスクス、クスクス」 ハルヒ「・・・・・・・」 鶴屋さんの反応 ハルヒ「あっ!鶴屋さんおはよう!」 鶴屋「何?みくるやみんなにさんざん迷惑かけて何しらばっくれてんの?みんなもう疲れてるんだよ。!あっ!みくるーッ!おはよう!今日もかわいいねぇ!」 ハルヒ「・・・・・」 コンピ研部長の反応 ハルヒ「あっ!・・・えーっと、誰だか忘れたけどおはよう!」 コンピ「あぁ、もうなんだよ。君にはさんざんやりたい放題されてこりごりなんだ。もう近寄らないでくれよ。」ハルヒ「えっ、なんで・・・」 キョンの妹の反応 ハルヒ「!あっ!キョンの妹!こんにちは!」 妹「ねぇ、なんでおねえちゃんはみんなにひどい事するの?人をいじめちゃいけないって学校の先生言ってたよ?」 ハルヒ「そんな、わたしそんなつもりじゃ・・・」 妹「あっ、あんまりおねえちゃんと話しちゃだめってキョン君言ってたから、じゃあね!」 ハルヒ「・・・・・・」 ハルヒ「みんな無視する…まぁW杯でも見てその話すれば大丈夫よ」 ポチッとな 「……何、この黒い奴。一人で突っ込んで周り見てないじゃない」 「あっもしかして私、この黒いのと同じ…かも」 ハルヒ「わたし、サッカー好きなのよ~!」 キョン「サッカーはお前のことが嫌いだがなっ」 ハルヒ「・・・小笠原が特に好k」 キョン「小笠原はお前のことが大っ嫌いだけどなっ」 ついに登校拒否になってしまったハルヒさん。 おや、なにやら窓の外から聞き慣れた声がします。 ふと見てみると、いつものメンバーが笑いながらあるいています。 ハルヒさんの家の前なのに誰も気にしてないようです。 (私の居場所は本当になくなっちゃったんだな・・・) 暗い部屋の中で体育座りをしているハルヒさん。 こうしてれば自分を傷つける人はどこにもいない。 嗚呼、可哀想 「うう、うっ、わぁ、うわぁぁん。」 怖い夢をみてしまったハルヒさん もう落ち着ける場所はどこにもない。 嗚呼、可哀想 もう誰も信じられなくなったハルヒちゃん (もう虐められるのはイヤ) そう思いながらコツコツ貯めていたお金で遠くへ逃げます そこへキョンが訪れてきました。 キョン「なぁハルヒ、少し金貸してくれよ」 ハルヒ「え、あ、今は・・・」 キョン「ん?なんだこれは・・・ お、金じゃん!しかもスゲー金額!」 ハルヒ「あ、それは!」 キョン「別にいいじゃん。俺ら、友達だろ?」 そう言われ、お金を持っていかれたハルヒちゃん 人生お先真っ暗 嗚呼、可哀相 ハルヒ「えー!なにこれー!もう最悪ぅー!」 キョン「お前の性格がなっ」 ハルヒ「・・・直すように努力するわ」 キョン「努力では掴みとれねー物もあるんだよ、いい加減オトナになれヴァーカっ」 警察「すみません 涼宮ハルヒさんですね?」 ハルヒ「・・・?はい、そうですが」 警察「実は貴方が朝比奈みくるさんの卑猥な画像を インターネット上に公開したとの通報がありまして ちょっと署までご同行願えますか」 ハルヒ「ちょ、あの、それは」 キョン「朝比奈さんの気の弱さにつけこんで 散々酷いことをした罰だ 少し頭を冷やしてこい」 ハルヒ「・・・・」 キョン:それじゃあ、明日は2000年前に行ってピクニックをしよう! ──────────────────────────────── みくる:賛成! ──────────────────────────────── 長門:それはいいわね! ──────────────────────────────── 古泉:じゃあ僕は外国から取り寄せた高級お菓子を持ってくるよ! ──────────────────────────────── 『ハルヒ』が入室しました ──────────────────────────────── 『キョン』が退室しました ──────────────────────────────── 『みくる』が退室しました ──────────────────────────────── 『長門』が退室しました ──────────────────────────────── 『古泉』が退室しました ──────────────────────────────── ハルヒ:・・・・・・ ──────────────────────────────── 長門:しかし最近の若手芸人のつまらなさには腹が立つよね ──────────────────────────────── みくる:そうよね。それを雇うテレビもテレビだわ ──────────────────────────────── 古泉:昔の番組は凄く面白かったよね ──────────────────────────────── 『ハルヒ』が入室しました ──────────────────────────────── キョン:つまらないから早く消えてしまえばいいのにな ──────────────────────────────── 『ハルヒ』が退室しました ハルヒ「(今まで何やってたんだろ私)」 ハルヒは学校の屋上に来ていた ハルヒ「あっちの世界に逝けば 宇宙人や未来人よりも面白いことがあるのかな・・・」 そう呟くと なるべく何も考えないようにして 屋上から身を投げた たまたま教室から外を眺めていたキョンの目に 落ちてゆくハルヒの姿が映ったが キョンは眉一つ動かさず そのまま外を眺めていた 数分後 学校のグラウンドにサイレンの音が鳴り響いた 長門「…」 ハルヒ「あ!ユキ…っ」 長門「これ…」 ハルヒ「え?本?」 長門「読んで…」 ハルヒ「あ…お勧めの本なの?そ、そうね。本はあんまり興味ないけど どうしてもっていうなら読んであげてもいいわよ」 ハルヒ「えっとなになに…完全自殺マニュアル………?」 みんな「王様だ~れだっ?」 キョン「あ、オレだ。じゃあ二番のヤツ、振り返りながら「大好き」ってやってくれ」 長門「・・・私」 長門「・・・大好き」 キョン「なんかそうじゃないんだよな~、もう一回!」 長門「・・・大好き」 キョン「ハルヒ、お前やれ」 ハルヒ「なんで私g」 キョン「やれ。」 ハルヒ「・・・やるわよ、やればいいんd」 キョン「早くやれ、ブス」 ハルヒ「・・・d」 キョン「やっぱりいい。きめえから」 みんな「ぎゃははははははははははははははははは」 キョン「悪いな、今日4月1日だったから調子に乗りすぎた」 ハルヒ「何考えてんのよバカ・・・」 キョン「おま・・・うっ(泣き顔モエスwww)」 ハルヒ「何よ・・・」 キョン「いや、その顔もかわいいなと・・・」 ハルヒ「・・・信じらんない///」 キョン「・・・と言うとでも思ったのか? だいたいちょっと優しくされただけですぐ顔を赤らめるな気持ち悪い。 じゃあ俺は帰るからな。」 バタン ハルヒ「・・・・・・・」 ハルヒ「あ、あのさ、今度のSOS団の活動なんだけど」 長門「…………フッ」(嘲笑) 古泉「あのう、誰に話しかけているんでしょうかね、彼女は?」 みくる「さあ、独り言じゃないですか?」 キョン「SOS? まだ言ってたのかよwww寒っwww」 ハルヒ「あ・・・上靴が。。。」 ~朝会~ 担任「え~涼宮さんの上履が無くなってしまったそうです。 見かけた人がいたら涼宮さんの所に届けてあげください。」 クラス一同「クスクス」 朝比奈「そうですね、許してもらいたかったら以前あなたが 私にしたこと全てをあなた自身も体験して下さい。 まずはコンピ研からですね」 ハルヒ「……え?」 キョン「っくははははは! そりゃいいや、行って来いハルヒ」 古泉「コンピ研で何があったんですか?」 長門「セクハラ」 一同「誕生日おめでとー」 キョン「・・・何て言うと思ったか?」 朝比奈「わーすごーい。勘違いして生きていけるって幸せですよねーww」 小泉「一度入院されたほうがいいのでは?」 長門「死ね。氏ねじゃなくて死ね。」 ハルヒ「・・・・・・・・・・・・」 ハルヒ、クラスメイトからの疎遠増幅 不注意からみくるを大怪我させSOS団からも疎外 映画部、PC部にかけた損害が生徒会に周りSOS団強制解体 それでもどうにかSOSのメンツを集めようとするが誰一人集まらず そしてハルヒは「毎週土日になると街をさまよう電波女」として都市伝説になった キョン「おーい サッカーしようぜ」 古泉「いいですね 実は最近、新しいボールを買ったんですよ その名も・・・涼宮ボール!」 そこにはロープで雁字搦めにされたハルヒの姿 口を糸で縫い付けられているので 喋ることができないようだ 古泉「このボールをよく飛ばすにはちょっとしたコツがありまして」 キョン「ほう どうするんだ?」 古泉「この部分を力いっぱい・・・蹴る!」 そう言うと古泉はハルヒのみぞおちを思いっきり蹴り飛ばした ハルヒ「・・・・!!」 口の隙間から液体が溢れ 糸が赤く染まる 古泉「あらら・・・ボールが裂けてしまったようですね」 キョン「ははは 水風船みたいだな」 キョン「ハルヒ誕生日おめでとう、意地悪して悪かったな」 ハルヒ「そんなのいいのよ~!ありがと!キョン、みんな!」 古泉「さあ、ロウソクの火を消してください、涼宮さん。」 ハルヒ「そうするわ、(フゥー)」 キョン妹「消えた消えたー♪」 キョン「ハルヒの生命もこの火の様に早く燃え尽きてほしいよな」 みんな「ぎゃははははははははははははははははは」 長門「ww」 ハルヒ「なにこれ・・・まさかドッk」 みくる「ドッキリなんかじゃないですよ、現実なんだよぉっ!!」 古泉「あぁ…いけない。 ちょっと忘れ物をしてしまいました。 取ってくるから待っていて下さい。」 ハルヒ「分かったわ。」 ――――――――――――5分―――――――――――――10分――――――――――――――――20分―――――――――――――――30分――――――――40分――――50分―――――――― ハルヒ「遅いなぁ…」 キョン「お前黒いな…」 古泉「クスッ…それはお互い様でしょう…。 さぁ早く行きましょう。遅れますよ。」 ――――――――― ハルヒ「……おそい…なぁ…」 古泉「ちょっとシャーペンお借りしますよ。」 ハルヒ「え?あ…うん」 キョン「俺も借りるぜ。」 長門「借りるよ。」 みくる「私にも貸してね。」 ハルヒ「ぇ?ぇ?…… …私の分が…無くなっちゃう…」 古泉「ぇ? あなたには別に必要ないでしょう。クスクス…」 キョン「激しく同意。」 ハルヒ「…………」 ハルヒ「キョン、ちょっときなさい!」 キョン「は? なんで俺がお前の言うこときかにゃならんのだ」 ハルヒ「うるさいわねぇ! いいからついてきなs」 キョン「うるさいのはお前だ。きゃんきゃんきゃんきゃん喚きやがって」 ハルヒ「な、なによ! アンタなんかが私に……」 キョン「鬱陶しいんだよ、マジで。もううんざりだ、お前に付き合うのは」 ハルヒ「わ、私だって……う、うんざりよ! アンタなんかとは、もう口きかないんだからね!」 キョン「ああ、そうしてくれ。というか、そのつもりだ。わかったら俺に近寄るな」 ハルヒ「あ、アンタがどっか行きなさいよ!」 キョン「へいへい。じゃあな、馬鹿ハルヒ」 ハルヒ「…………っ……なによ、馬鹿……」 涼宮ハルヒの構造 キョン「なあ、古泉、何でハルヒは憂鬱の後、あんまり活躍出来ないんだ? 古泉 「おや、あなたは、またあの灰色の空間に閉じこめられることをお望みですか?」 キョン「いや、もう二度とゴメンだ・・・」 古泉 「要するにこの物語における涼宮さんの役割は終わってしまったのですよ。 彼女は平凡な高校生であるあなたをキテレツな言動と行動で振り回し、 あげくの果てに暴走し異世界へ拉致監禁までしようとした。 そこで、窮地に陥ったあなたが王子様のキスをして彼女の目を覚ましてあげたのです」 美しい話じゃないですか。 つまるところ、彼女があなたに与えられるお話など もう、じれったいラブコメくらいしか残っていないのですよ」 キョン(ハルヒ、えらく、ひどいこと言われてるぞ・・・) ハルヒ「ちょっと来なさい!」 キョン「何か言ったかトラブルメーカーさんよ。」 ハルヒ「はぁ!?あたしが・・・」 古泉「キョン君もあなたのわがままにつきあわされるのがいやだと言ってるんです。 わかりませんか?(ニコニコ)」 ハルヒ「そ・・・そん」 キョン「そういうことだ。古泉、帰るぞー」 古泉「わかりました。」 キョン「二度と関わるなよ、トラブルメーカーさん。じゃあな。」 ハルヒ「あたしが・・・トラ・・・いやぁぁぁああああ」 今日もSOS団から無視をされたハルヒ。 自宅の部屋のベッドで泣きながらうなだれていると、机の上に置いた ハルヒの携帯のランプ部分が点滅しているのに気づいた。 人から電話やメールなどは滅多にこないので、いつもマナーモードになって いるため、偶然机に目がいっていなかったらきっと朝まで気づかなかった だろう。 ハルヒ「このメール・・・キョン・・・バカ・・でもありがと・・」 メールの送り主はキョンからのもので、メールにはこう文面がつづられていた。 Title:ハルヒへ さいきん冷たくしてごめんな。 っていっても、あれは本当はみんなの演技なんだ。 さいきんハルヒがみんなにわがままばかり言うから、ちょっ とお前をからかってやろうと思ってたんだ(笑) しつれいなことをしたと今は思ってる、本当にごめんな。今日はもう ねるよ、また明日学校で。SOS団の活動もがんばろうぜ。俺も ボーっとしてないで、ちゃんと活動に参加するからさ。 ケッセキなんてするなよ、お前がいないとつまらないからさ(^▽^) キョンより。 キョンに勇気付けられたハルヒは、明日からは心を入れ替えて頑張ろう、と 心から思ったのだった。 ――――― まとめてる人「ヒント:縦」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5455.html
SOS団に平和な空気が広がり 長門と古泉は膝を突き合わせてヒソヒソ話し合っている 今日はハルヒも来ないし つまらないので帰ろうかなと思っていた するとドアに小さなノックがあった 長門も古泉も立ち上がろうとしないので、仕方なく俺が立ってドアを開けた そこには俺の精神安定剤的頭痛不安イライラ解消お人形さんが立っていた 「あの…あのぅ…わわわわたし…」 どうしたんですか朝比奈さん? ご無事で何よりです とても大活躍だったそうで、まあいろいろありました こんな所に立ってないで、さあ中にどうぞ 「あのっ、わたし、ここに入ってもいいんでしょうか?」 朝比奈さん? どうしたんですか? 朝比奈さんはカバンを胸に抱え、内股に閉じたかわいい膝小僧をカクカクさせている この姿はまさに、最初にハルヒに拉致されてきた時と同じだ 「何か全然覚えてないんですぅ…学校に来て授業を受けて、その後何をしたらいいのか全然分からないんです でも何となくここに来なくちゃいけないような気がして、それで…」 まあどうぞ朝比奈さん、とにかく入りましょう 俺は小さな朝比奈さんの肩を抱くようにしてとりあえず中に案内した フワリとした巻き毛から爽やかな香りが立ち昇る ああこれは気持ちがいい 「え、ええとあの、わたしはここで何をしたらいいんでしょうか?」 えっと、まずはメイド服に着替えて、それからお茶を入れて、それはいいですからまずはどうぞ座って下さい 「あの…キョンくんってあなたですか?」 はい? まさか朝比奈さん 本当に覚えてないんですか? 俺の事もハルヒの事も? 「ななななんとなくは記憶があるんですけど、禁則事項で禁則事項してから後の事とか、禁則事項に行って転んで泥だらけになって禁則事項に会って、そして禁則事項の事がちょっと気になって禁則事項で調べたたら今度はは禁則……」 ああもういいです朝比奈さん とりあえず座って落ちつきましょう 「あの…今朝学校に来てから気がついたんですけど、私のカバンにこんな物が入っていて、それでキョンくんに…」 そう言って朝比奈さんはカバンから封筒を取り出した かわいい花柄のファンシーな封筒の送り主はもちろんすぐに分かった 表書きにはきれいな大人文字で『これをキョンくんに渡して下さい』と書かれ、裏面には小さく『朝比奈みくる』と書いてある 俺の頭に?が点滅した はて? 朝比奈さん(大)の存在は俺にも分かっている 何せつい今朝死ぬほど厳しいお説教を食らった直後だ でも朝比奈さん(小)には禁則のはず 朝比奈さん(小)に手紙をことづけるのにわざわざ自分の名前を書くとは? おっちょこちょいの朝比奈さん(大)が慌てる所を想像したがすぐに気付いた 朝比奈さんは俺に手紙を出すとも言っていた 早朝に現れたのはイレギュラーだから予定にない行動だったのだろう あの時はもう現在の朝比奈さんに手紙を持たせた後だったのかもしれない なのに朝比奈さんは何も言わなかったって事はこれは規定事項なのか? 考えるより行動した方が早い 俺は封筒を開けて中から1枚の便箋を取り出した 今の朝比奈さん(小)よりもかなり達筆になった筆跡で書かれていた 「キョンくんへ あなたのおかげで未来は正常な姿に戻りました 本当に感謝しています いつまでも自分に正直に生きて下さい そうすれば、あなたの想いは必ず実を結びます 涼宮さんを大切にしてあげて下さいね 朝比奈みくる P,S, そこにいる私はかなり混乱しているはずです めまぐるしい時間移動でTPDDのキャパシティがオーバーロードしちゃいました。あの異世界空間の影響と涼宮さんの力が合わさって、通常では考えられない動作をしちゃったので、しばらくその状態が続くと思います もしかしたら長門さんが修理してくれるかもしれないけど、数日経てば元に戻りますから心配はいりません それでも若干記憶が欠損してる部分もあると思いますので すみませんけどいろいろ教えてやって下さい あなたには禁則事項はありませんから これからもそこにいる私をよろしくお願いします」 俺は3回読み返してから手紙を朝比奈さんに渡した もうこの手紙を見せてもいいだろうと思った どうやら今回の事で、朝比奈さんは出世の階段を1つ上がったようだ 少なくとも朝比奈さん(大)の存在を明らかにしてもいいという事が まるでルーブル美術館から強奪されたフランス人形のように、かわいそうにぶるぶる震えている朝比奈さんはおっかなびっくりその手紙を読んでいたが、当然事情は全く把握できていない 「ななな何で私の名前が書いてあるんですかぁー? 何で記憶がなくなってるんですかぁ? TPDDって何なんですかー? 禁則事項って、もしかしたら禁則事項の事かなぁー?」 朝比奈さん ちょっと落ち着きましょう とりあえず心配はいりませんから ここはあなたの部室です 手紙に書いてある通り、すぐに記憶は戻りますから 何でしたら長門がすぐに 「禁則」 ああそうだった とにかく心配する事はありませんから 「これは面白いですね TPDDにも副作用があったとは やはり長門さんのおっしゃる通り、まだまだ開発途中だという事ですか」 「通常はあのような条件でTPDDを多用する事はないと想定されていた あれはあくまでイレギュラーなイベント でも開発者は今後十分認識しておく必要がある あの時の朝比奈みくるのTPDDの使用方法はまさに画期的 これからの改良に多大な経験値を与える事になる、はず」 気がつくと古泉と長門も朝比奈さんの背後に立って一緒に手紙を読んでいた 古泉の手がさりげなく長門の腰にまわされている ムカつく 「何も心配いりませんよ朝比奈さん 僕たちがついてますから この手紙に書いてある通り、あなたはすごい事を成し遂げた これは自慢すべき事です」 「そっそっそっそうなんですかぁー?」 ようやく朝比奈さんが落ち着いたので 本来ならここで俺にとってのルイ13世である、朝比奈ブランドの最高級日本茶などを味わいたい気分なのだが、メイド姿に着替える事も忘れている今の朝比奈さんにそれを要求するのは酷だろう 古泉と長門はヒソヒソ何かを話しているし、仕方ないか 俺は立ち上がってお茶の用意をした ヤカンでお湯を沸かしながら急須にお茶っ葉を投げ入れる お湯が湧くのを待っている間に胸ポケットに入れた携帯がブルブル震えた ハルヒからだった しかもメールじゃないか いつものハルヒはメールを送るようなまどろっこしい事は絶対にしない こちらの都合も考えずに名前も名乗らず用件だけを告げ、返事も聞かずに切ってしまうようなヤツが何でわざわざメールなんかするのだろう そもそもあいつがメールの打ち方を知っていたとは初耳だ 「駅前にバイキングのお店が新しくできたみたいよ 本日17時オープンしかも初日に限って半額だって!」 時間を見るとまだ4時10分過ぎだ お茶を飲んでからでも間に合うだろう お湯が沸騰したので急須に注ぎ、全員に配ってやる 古泉の前に置く時だけは憎しみを込めてドンと叩きつけた 自分の席に座ってさしてうまくもないお茶をズルズルすすり 呼吸を整えてからハルヒに返信した 「お茶飲んだらみんなで行くからそこで待っててくれ」 携帯を閉じて胸ポケットにしまい、再び湯呑みを手にするとまた電話だ 今度はハルヒからの普通の電話だった また携帯を取り出して開き、耳に当てた 「バカキョン!!!!!!!!!!」 携帯の小さなスピーカーから聞こえてきたほとんど原音のままの大音響は、俺の右耳から入って脳内を7周半ほど高速で駆け巡り、左の耳から抜けて部室中に轟音をとどろかせた おそらく部屋の全員が聞いていたのだろう 古泉も長門も、そして朝比奈さんまでもが口をポカンと開けていた 「な…な…何だったんですか今のは?」 俺はすでに切れていた携帯を閉じて、5秒で状況を説明した まだ鼓膜がジンジンしていて右耳がおかしい 鼓膜が破れたらハルヒに治療費全額負担させてやる 「やれやれ……」 おい古泉 それは俺のセリフだ 「長門さんと話していたのですが、今回の事で涼宮さんの精神に重大な変化があったようです。これは機関も同意見です 近々我々の任務にも大きな変革が訪れるかと期待していたのですが、長門さんによるとあくまで暫定的なものらしいですね 朝比奈さんからの手紙がどういう意味を持つのか、それは今から考える事ですが、長門さんの暫定的という意味が今分かったような気がします」 何だ古泉 もうちょっと分かりやすく言え 「つまり涼宮さんの精神は今は安定していますが、それはあくまで一時的なもののようですね 再び爆発する可能性が非常に高いという事です そして次に爆発するとしたら、その原因を作るのは間違いなくあなた あなたの今後の行動次第では、すでに力を自覚してしまった涼宮さんが何を始めてしまうか、予想するだに恐ろしいとはまさにこの事です」 すまん古泉 俺の取った行動のどこがおかしいのか、箇条書きにして説明してくれ 「あっあの・・・キョンくん すっすっ涼宮さんは、キョンくんと2人で行きたかったんじゃないかしら?」 うっ 「だから内緒でメールにしたんだと思いますぅ」 「ふふふ、お分かりでしょう。もう涼宮さんは大きく変わり始めています 早起きして弁当を作ったり、あなたが居眠りなどしないように気を配ったり そこまで献身的にあなたの事を考えてくれている涼宮さんなのに 当のあなたがこの調子ではね」 分かったよ じゃあこのお茶飲んだら行くから みんなも気をつけて帰れよ その時長門が突然立ち上がった 何年か前にどこかのアニメでやっていたような舌足らずのゆっくりした声で 俺は長門が物真似までできる事を初めて知った 「まったくお前はどこまで他人に迷惑ばっかりかけて生きているんだ そろそろ他人の気持ちを考えられるように努力できないのかよ いつになったらお前は学習能力というものを身につけるんだ いいからさっさと出て行きやがれ、この大バカ野郎」 俺は長門のすさまじい殺気を感じた 急いでカバンを引っつかみ、部室を出ようとした 追い打ちをかけるように、長門の詠唱が響く まさかこの俺が、長門の呪文の餌食になってしまうとは… 「………」 間一髪、有機情報連結の解除から逃れた俺は校門に急いだ 昇降口で靴を履きかえるのももどかしく、転がるように学校の外に出た その瞬間だった 背中を見えない手で押され、俺は時速100km近い速度で坂を駆け下りた 途中で何人もの通行人とすれ違うが、そのたびに鋭い横移動に体を揺さぶられ、襲いかかる横Gに気分が悪くなってくる 赤信号は全て俺の手前で青に変わり、2分もかからずに駅前の広場に着いた 腕組みをして待ち構えるハルヒの目の前数cmの所で、俺は急停止した 「わ……」 すさまじい加速と激しい横G,それに恐怖と緊張感で、俺は汗びっしょりだった 吐き気が喉元に突き上げてくる トイレはどこだ? 「あんた、えらい早かったじゃないの。ってか早すぎ」 ちょっと待っててくれハルヒちゃん 俺は公園のトイレに急ぎ、汚物を処理した 何度もうがいをして顔を洗い、ようやく一息ついてからハルヒの元に戻った 「1人なの?キョン」 ああ1人だ 「みんな連れて来るって言ったじゃないの」 いやそれは訂正します 訂正させられた 「何でこんなすごい勢いで走ってきたの?」 それは禁則で ああもう禁則じゃないのか 長門が怒り狂って俺に呪文をかけた 「有希が?呪文?」 そうだよお前ももう見ただろ 「あたしにもかけてくれるかしらね?」 長門に聞いてみろ 「面白そうねそれ!ちょっと学校に戻りましょうよ、今すぐに!」 ハルヒ、それは明日でいいだろ 今から学校に帰ったら俺は間違いなく長門に殺される 「何よもうキョン!」 ハルヒ 俺は学校で長門に呪文かけられて喜んでるお前よりも 俺と2人でメシ食ってるお前を見てる方が今は楽しいんだ 「キョン?」 本当だ。だから今日はメシ食いに行こう。半額なら俺がおごってやれるから お願いですから俺と一緒にバイキング食べに行って下さい ハルヒはやっと笑顔に戻ってくれた 両目と口が同じ大きさの正三角形になった 「ふっふーん!いいわ!あんたがそう言うんならね! でもまだ早いからちょっと歩きましょう!」 そう言ってハルヒは俺の腕を取り、さっそうと歩き出した ハルヒの髪からは甘いいい匂いが漂い、柔らかな胸のふくらみが俺の腕に伝わってくる ありがとう長門、俺を分かってくれて お前のジョークにはこれからさんざん振り回されそうな予感がするけど いいんだよなこれで SOS団は全員がハッピーエンドを迎えるんだよ そう 全員だぞ絶対に 涼宮ハルヒの共学 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/674.html
涼宮ハルヒのX-FILES <序章> 高校生活も終わり皆それぞれの道を歩むことになった。 朝比奈さんは未来へ帰り、古泉は未だ「機関」に属して仕事をしているらしい。 長門は「次の任務がある」といい俺たちの前から姿を消した。 で、俺とハルヒはというと・・・アメリカの大学を出てワシントンのFBIに勤めている。 そもそもの発端はというと・・・ 高校卒業間近の時期、いきなりハルヒが話し始めたことから始まった。 「私思うのよね。」 「なんだよ。」 「宇宙人も未来人も超能力者も実は政府が隠しているから見つからないんじゃないかって。」 宇宙人も未来人も超能力者もすぐ目の前にいるし別に政府が隠しているわけではないのだが。 「だから、日本なんて狭い国よりアメリカよアメリカ!」 「アメリカ行ったって当てもあるわけじゃなかろう。」 「だ~か~ら~、FBIに入って探しまくるのよ!もちろんあんたも来なさい。来ないと死刑よ。」 こうしていきなり進路がアメリカ留学になり、その後ハルヒパワーのおかげかすんなり FBIに入り今に至る。 しかし、いくらFBIに入ったからと言って好き勝手に飛びまわれるわけも無く、大抵は デスクワークの日々である。 「FBIならアメリカ中飛び回ってUMAでも探し回れるかと思ったけど、正直ガッカリだわ。 ワシントンの通行人に銃乱射したい気分よ。」 おいおい、ジャック・バウアーじゃねえんだから物騒なこというな。 「暇だから地下の倉庫でも探索してこよっと。」 「おいおい仕事中だぞ。ただでさえ問題児扱いされているのにあんまり下手なことするなよ。」 そう、すでにFBIですらハルヒは問題児扱いされているのである。 そしていつも俺のことをキョンキョン呼ぶものだから、局内の誰もが「キョン捜査官」 と呼ぶのである・・・いつになったら本名で呼んでくれるんだろうね。やれやれ。 30分位してからだろうか、ハルヒが目を輝かせながらこっちに戻ってきた。 「キョン、いい物見つけたわ!」 「いい物って何だ?」 「いいからこれを見てみなさいよ。」 ハルヒから手渡された書類には『X-203156』と表題がある。たしか・・・Xナンバーは未解決 事件分類の書類のはずだ。 「未解決事件がどうかしたのか?」 「いいから中身見てみなさいよ。」 ハルヒに言われるままに書類を読んでいくと・・・どうも普通とは思えない事件の記録の ようだ。 いかにもハルヒが飛びつきそうな内容の事件の記録であった。 「で、これがどうかしたのか?」 「地下の倉庫にこんな事件の記録がたくさんあったのよ。中には宇宙人がやったんじゃないか っていうような事件もあったわ!」 それ以来、ハルヒは暇を見つけては地下の倉庫に行くようになった。 そして3ヵ月後、ついに始まったのである。 その日局に行くと上司であるスキナー副長官から呼び出しを受けた。 「キョン捜査官」 お偉いさんのあなたもその名前で呼ぶのですか・・・ 「はい、なんでしょうか。」 「涼宮捜査官が新しい課を設置したいと言う旨の申請書を提出した。聞いてるか?」 「いえ、何も聞いていませんが・・・」 そういうとスキナー副長官は提出された申請書を俺に手渡した。 まさか、『世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの課』とかいうんじゃないだろうなと思いつつ その書類の内容を見てみると、 課名:X-FILE課 配属人員:涼宮ハルヒ、○○○○(キョンの本名) 捜査内容:未解決事件となっている事件を再検証し解決することを目的とする。 と簡単に言うとこう書かれていた。 「キョン捜査官、君はどう思う?」 「どうといわれましても・・・未解決事件を再捜査して吟味するのは有効であると言えます。」 どうせハルヒのことだからそれ以上のことをやるに決まっているがそこは伏せておくことにする。 「ふむ・・・」 スキナー副長官は窓から外を見ながら数秒考えた後こう言った。 「よろしい。X-FILE課の設置を認める。」 設置を認められたものの空いている部屋が無いということでX-FILE課は地下の倉庫を 流用することになった。 こりゃ完全に出世の道は立たれハルヒと一蓮托生だなと思いつつ地下の倉庫へ向かった。 「待ってたわよ、キョン。」 「ご希望通り課の申請は通ったぜ。まさか新しい課まで作っちまうとはな。」 「まあね、議会にちょっとしたコネを作ったのよ♪」 この3ヶ月の間に一体こいつは何やってたんだろうと思いつつ部屋を見渡した。 初めて地下倉庫に来たが、書類棚の数がかなり多いことに気がついた。 「この棚の中ってまさか全部X-FILEか?」 「そうよ。膨大な数があるからまだ全部読みきれてないけど・・・とにかく、 これから忙しくなるわよ!覚悟しなさい、キョン!」 「なあハルヒ、宇宙人・未来人・超能力者がいるとしてそれが見つかった後 お前は何を捜し求めるんだ?」 ハルヒは少し間をおいてこう言った。 --「真実よ」-- こうしてハルヒによるX-FILE課は誕生したわけである。 この先どうなるか、それは書類棚に格納されているX-FILEとハルヒのみが知るということか・・・ やれやれ。 <序章・終> 涼宮ハルヒのX-FILES おまけ ハルヒ「ついに見つけたわ、これは宇宙人がいる物的証拠よ!」 ???「そこまで....」 キョン「その声は・・・長門か!」 長門「それを明るみに出させるわけにはいかない。よってあななたちを抹殺する。」 ハルヒ「ちょっと有希、なにを・・・」 キョン「どういうわけだ、長門説明し・・・」 長門「ジェノサイドモード発動。標的ロックオン」 キョン「ハルヒ、逃げろ!今の長門には声は届かない!」 ハルヒ「有希どうして・・・」 次回 涼宮ハルヒのX-FILE <再開> ハルヒ「というドリームをみたわ。」 キョン「作者は気まぐれだから多分内容変わるな。」 次へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3905.html
超能力者。 涼宮ハルヒによって、閉鎖空間と神人を倒すための力を与えられた存在。機関と呼ばれるハルヒの情報爆発以降に発足した組織に属し、 その意向、つまり世界の安定に協力している。 三つほど前の世界では、その目的は変わらず「世界の安定」だったが、情報統合思念体が排除行動に出たため、 手段を「ハルヒの安定」から「ハルヒとその影響下にある人間の排除」へと変化させ、ついにはそのために核爆弾を炸裂させた。 でリセット。 未来人。 涼宮ハルヒによって、時間遡行能力を与えられた存在。組織名やそれが一体いつの時代のものなのかは不明。 目的は自分たちの未来への道筋を作り続ける涼宮ハルヒの保全。そのためには別の未来を生み出しかねない存在は かたっぱしから抹消している。 それが原因で二つほど前の世界では、ハルヒの観察を命じられた朝比奈みくるという愛らしいエージェントがその役割を 押しつけられ、結果目も当てられない惨劇が次々と演じられていった。 んで、その過程でハルヒの能力自覚がばれて情報統合思念体の排除行動が始まったためリセット。 宇宙人。 唯一、ハルヒが関わらない形で存在している。その名称は情報統合思念体。基本的な目的を自律進化の可能性を秘める 涼宮ハルヒの観測にする一方、能力を自覚してしまった場合は地球ごと抹消することにしているようだ。 その監視には対有機生命体コンタクト用インターフェースと呼ばれる人造人間を送り込み、近い距離からのハルヒの観測を行っている。 前回の世界では、そのインターフェースの一人、長門有希と俺が文芸部活動に没頭した結果、彼女が一人の少女になろうと その任務を放棄し人間になる決断の末、情報統合思念体をハルヒの力を使って抹殺しようと試みたため、 長門は初期化されてしまった。同時に長門は俺との文芸活動の過程で、ハルヒの力の自覚を知っていながら隠していたため、 初期化の際にその情報が情報統合思念体にも渡り、排除行動が開始された。 それでリセット。 これが今まで俺とハルヒが歩いてきた軌跡だ。 はっきり言って全部バッドエンド。まあ、ハッピーエンドならリセットなんて起きず、平穏無事な世界が続き 今頃俺は自分の世界に帰ってSOS団の活動に没頭しているだろうが。 しかし、その過程で得られたものは無駄なものは無かった。情報統合思念体と超能力者と未来人の微妙な関係が 世界の安定に大きく貢献している事実が得られたんだからな。ただ、おまけとして、俺の世界が絶妙なバランスで 成り立っているのかという事実も突きつけられた。そこにあって当然だと思っていたから。まさか、同じにならずとも 安定させるだけでこれだけの苦労をさせられるとは、初めてこの世界のハルヒに引っ張り込まれたときに考えもしなかった。 さて。 材料は全てそろった。まだ唯一にして最大の懸案事項は残っているが、この際仕方がない。次にやることは一つ。 宇宙人・未来人・超能力者が存在している世界を作ることだ。 ◇◇◇◇ 俺はもう4回目になる北高入学式の早朝ハイキングコースを歩いていた。俺の世界の正式・正統な入学式を含めれば もう五回目か。一体俺は何度入学すれば気が済むのだと愚痴りたくなりつつも、それ自体は俺も同意しているんだから グダグダ抜かすなと心の中の天使だか悪魔だかの声が聞こえてくる。 そして、平穏無事に終わった入学式後、教室での自己紹介タイムまで到達した。 俺は背後の席にハルヒがむすーっとした表情で座っているのを確認しつつ、自分の席に座った。 と、ここでハルヒがごんと椅子の底を軽く蹴ってくる。全くなんだ。いきなり事前の打ち合わせを無視した行動を してほしくないんだが。 「……何か?」 俺がゆっくりと振り返ると、やっぱり不機嫌顔で腕を組んだハルヒがこっちを睨みつけてきている。 その視線を見ると大体は言いたいことはわかったが、はっきり言ってただの意味のない文句だけみたいだから 相手しないようにしよう。だからこそ、ハルヒも口を開こうとしないんだろうし。 この宇宙人・未来人・超能力者のいる世界を作ったときに、ハルヒとこういう取り決めで行動することにしていた。 まずハルヒは中学時代――自分の力を自覚した直後からこの世界には行ってもらい、俺は北高入学式からにする。 これに関しては校庭落書きの一件を意識した上での俺の要望だ。同じになるとは限らないが、ひょっとしたら 眠りこけた朝比奈さん(小)を連れた俺が現れるかも知れないからな。念には念をってことだ。 ただし、その間に起こること――例えば、学校の校庭に落書きするハルヒとか、実はその時重なるように 俺は三人存在(中学生の俺・七夕のときの俺・冬のあの日の俺)していたりとか、俺の世界で起きたことについては ハルヒにまったく教えていない。前回の世界で思い知らされたように俺の世界とまったく同じにするのは不可能だし、 予定を決めてハルヒに動いてもらうと返って不自然さが増すだけだからな。中学時代どうするかはハルヒに一任することにした。 ちなみにふと俺の方からその時に聞いてみた今更な疑問だったが、前回までのように中学時代をすっ飛ばしたら その間のハルヒはどういう立場になっているんだ?と聞いてみると、 『ダミーみたいなものを置いておくのよ。後はこっちから操作して、時間軸を早回しして問題が起きないか確認。 で予定時間になったらあたし自身と入れ替えるわけ』 外部から操れる人形がおけるなら、今までだってわざわざ作った世界に入らずにダミーとやらをこの時間平面の狭間から 操っているだけで良かったんじゃないかと突っ込んでみたところ、 『外から見ているだけだと臨機応変に対応できないし、なんていうか自分の目で見ているのとは大きく異なるわ。 それにあんまり不自然に操っていると情報統合思念体に勘づかれる可能性もあるから。だから、その手を使うのは 大した問題が起きないってわかってときだけよ。幸い中学時代は平穏だってわかっているからこの手が使えるんだけどね』 頭半分で理解しておくにとどめた。難しいレベルに突っ込むと頭がパンクするからな。 話を戻して。 俺が高校からだったのは、ハルヒ曰く脳天気なあんたを三年間も日常生活を歩ませたら何をしでかすかわからんとか 言うからである。まあ、三年も非現実的な世界から遠ざかっていたら、入学後の驚異の世界への突入に拒否反応を 示しかねないから正しい判断だろう。どうせ何の宇宙人とかの属性を持っていない俺なら、ダミーとやらで十分だからな。 で、俺の入学後も俺とハルヒは目立つように接触しない。これも取り決めの一つだ。なぜかというと前回の世界で 長門が俺に注目したのは入学当初から、変人ハルヒが俺とだけ気兼ねなく接触していたからと言っていたである。 確かに何の接点もなかった二人がぺらぺらとしゃべっていたらおかしいと言える。そんなわけで、GWが終わるくらいまで 二人とも大人しくしておこうと決めている。 ……多分、その大人しくしておくというのの不満が積もっているんだろう。さっきの蹴りはそれを意味しているんだと推測する。 ほどなくして、教室に担任の岡部が入ってきた。快活な口調で自己紹介などを生徒たちにさせ始める。 もちろん俺はこの時に朝倉がいることを見逃していない。前回の世界でずたぼろになりながらハルヒが消滅させたのに、 やっぱり復活しているんだな。前の世界の存在をリセットして情報統合思念体にもそんな世界はなかったと 誤認させているんだから仕方がないんだが。 やがて俺の順番になり、適当な挨拶をすませた。 そして、その後ろにいるハルヒへと順番が回る。 その時のハルヒの自己紹介はとても懐かしい気分にさせられるものだった。 「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人・未来人・超能力者がいたら あたしのところに来なさい。以上」 ――すでにいる異世界人(俺)は抜けていたが。 ◇◇◇◇ 入学式から数日後の放課後、俺とハルヒは人目を避けて非常階段の踊り場で落ち合っていた。一度だけは情報収集+意識あわせで 話し合うというのも事前取り決めの一つだった。 「で、自己紹介はあんな感じで良かったわけ?」 「ああ、あれでお前が変なものに興味津々ってのがアピールできただろうから」 しかめっ面のままのハルヒに、俺はそう答える。 さてこの状態で長くいるのはまずいからさっさと意識合わせするか。 「で、この三年間変わったことはあったか?」 「真っ先に思いつくのは、中一のときにあんたとみくるちゃんが来たわよ。あたしの校庭落書きに付き合ってくれたわ」 「……お前、アレやったのか」 俺は呆れ顔になる。教えてもいないのに、団長ハルヒと同じことをやるとはやっぱり基本的人格は同じってことか。 ハルヒは肩をすくめつつ、 「何よ、思い当たる節でもあるわけ? まあそれはいいけど、ちょっと暇だったからなんとなくね」 そうなるとこのまま行けば、七夕のときのTPDD~長門の部屋で三年間朝比奈さんと添い寝があるってことか。 ん、ならひょっとして…… 「一応そのときの状況を確認しておきたいんだが、俺と朝比奈さんは手伝っただけなのか?」 「みくるちゃんはすやすや眠っていたわよ。あんたなんかやったんじゃないでしょうね?」 何もしてねえよ。まあ、朝比奈さん(大)からはチュウぐらいならOKと言われていたが、自制したぞ。 いやそんなことはどうでもいい。 「ってことは、手伝ったのは俺だけか。その後に何か言っていなかったか? 世界を大いに盛り上げるジョン・スミスをよろしくとか」 俺の指摘にハルヒは記憶の糸を穿り返すようにあごに手を当てて思案顔になるが、 「そんなことは言っていなかったわよ。ただ手伝って、完成したらあたしはとっとと家に帰っちゃったし。 大体、ジョン・スミスって何よ。あんたにそんな風に名乗られた覚えはないわ」 ハルヒの返答に俺ははっと気がつかされる。そりゃこのハルヒと俺はとっくに顔見知りなわけで、さらに朝比奈さん(小)が 眠っている間だったことも考えると、わざわざ偽名をハルヒに名乗る必要はない。俺の世界では一種の切り札みたいな名前だが、 この世界ではハルヒが力を自覚している時点でまったく意味を成さないのだ。そういうわけで、その名はハルヒに対して 今後も使われることはないだろう。この時点でもう俺の世界とは大きく異なっているな。しかし、二度目の接触、 よろしく!に変わるものがまったくなかったのに、俺は疑問を覚える。どうなっているんだ? あの冬の日の事件は 今後も起きないことになっているのか、それともあったがその必要がないから何もしなかっただけなのか。 ううむ、この時点では判断のしようがない。 ただ冬の事件がなかったことについてはもう一つ確信を得るような状況があった。少し前に部活動について調査したところ 長門は文芸部には入っていなさそうだからな。そうなると、俺は三年前長門に文芸部室で待っていてくれと 言わなかったことになる。 「…………」 とりあえず、そのことについては保留だ。この世界で唯一の問題は長門の暴走を情報統合思念体がどう対応するのかだからな。 成功してハッピーエンドになるかどうかはそれ次第な以上、時期が来るのを待つしかない。長門が暴走せずに穏便に 一人の少女になってくれるのが一番ありがたいから、そうなるように努力すべきだろうが。 「他にはなんかなかったのか?」 「何にもなかったわよ。あまりになさ過ぎてずっとイライラしっぱなしだったわ。ただ待っているだけっていうのはつらいものよ。 おかげでかなり閉鎖空間で大暴れしちゃったから、古泉くんも結構苦労したでしょうね」 ハルヒのあっけらかんとした発言に、俺はお気の毒にと古泉へと手を合わせておいてやる。 まとめると、変わったことは校庭落書きだけか。そうなると、特別な対応は発生せず予定通りに動けばいい。 GW終了後にSOS団――名称は何でもいいから、宇宙人・未来人・超能力者が集う団体の設立ってことになる。 おっとそういえば未来人と超能力者はきちんといるんだろうな? 「昼休みにみくるちゃんは確認したし、三年間機関らしい連中があたしの周囲を見張っていたから問題ないわ。 同時に前回の世界みたいな小規模組織の乱立も起きていないからね。機関か未来人のどっちかが大半のものを つぶしてくれたみたい。おかげでこっちは大助かりだわ」 ハルヒの言葉に、俺はほっと安堵で胸をなでおろす。これで役者は全員そろったって訳だ。あとは俺たち次第になる。 「大体事態は把握できた。じゃあ、後はGWまで大人しくしていようぜ。そっから行動開始だ」 「ちょっと待って」 俺はとっとと解散しようとしたが、すんでのところでハルヒに足を止められる。見れば、少し迷いながらもようやく決意したと 言った表情のハルヒの視線がこちらに向けられていた。 「あんたの世界であった冬の一件について教えて。それだけはやっぱり事前に知っておきたいから」 その要求に俺は顔を困惑で顰める。この世界に入る前、俺の方から同様にハルヒへ教えておこうと思ったんだが、 それを拒否したのはハルヒだぞ。どういう心変わりだ? ハルヒは肩をすくめつつ、 「あの時はまだ有希の消滅が受け入れられていなかったから正直そんな話を聞きたくなかったのよ。でも、三年間じっと考える 余裕ができてやっぱり聞いておこうと思い直したわ。条件が同じなら、この世界でも同じことが起きるかもしれないしね」 俺はやれやれと思いつつも冬のあの日のことについて教えてやることにする。 朝起きてみたらまったく異なる世界に改変されていたこと。 そこではハルヒと古泉は別の学校にいて、長門はごくごく普通な文芸少女になっていたこと。 結局長門の緊急脱出プログラムで脱出できたこと。 そして、その世界を改変した犯人は長門だったということ。 全部話すといつまでたっても終わらないのでかいつまんで説明してやった。 ハルヒはその話を聞いて、少し憂鬱そうに顔をうつむかせ、 「そっか……有希がそんなことをしたんだ」 「……当時俺は長門に何でもかんでも頼りっぱなしだったからな。そんな状態に追い込んだ責任は俺にもあると思っている」 だが、現在における最大の問題はどうして情報統合思念体がそれを許したのかがわからない。前回の世界の長門と 何の差があるというのだろう。奴らにとってはインターフェースが暴走しハルヒの力を消して自らを抹殺したという点は まったく変わらないはずなのだ。ひょっとしたら、何だかんだで長門は緊急脱出プログラムを用意していたし、 時間という考え方が俺たちとは全く異なることから考えて、結局元通りになるとわかっていたから…… いや――さっきも言ったがやめておこう。今考えてもどうにもならん。俺にできるのは長門に負荷をかけることなく、 普通の少女になってもらう努力をするだけだ。 この話を最後に俺たちは解散した。ハルヒはあと一ヶ月か……とまたも憂鬱そうな表情を浮かべていた。 一方で俺はどうでもいいことを思っていた。 せっかくだから中学時代にハルヒに髪を伸ばしてもらって置けばよかったと。それならまた曜日で変わる髪形が 見れたかもしれなかったのに。 ◇◇◇◇ 入学式から一ヶ月特に変わったこともなく過ぎてGW明けとなった。 さて、休みがてらそこそこにしゃべれるぐらいの関係になったことをアピールしていた俺とハルヒは、 ここから本格的な行動開始となるわけだが、授業終了後ハルヒは一目散にさてどうしたものかと考える俺のネクタイを 引っ張って走り出す。動くならせめて前準備をしてからだな…… 「そんな悠長なことを言ってられないわ! この日のために三年も待ったのよ!」 そんなことを言いながら、まずは6組へ突入。帰ろうとしていた長門をとっ捕まえて自分についてこいと一方的に告げる。 ただ長門自身も拒絶することはなく、 「わかった」 そう了承し、今度は二年の教室へ全力疾走するハルヒの後ろをついてきた。やれやれ、なんと言う猛進振りだ。 そして、二年二組に入ると部活動へ行こうとしていた朝比奈さんの腕をつかみ、 「はーい、確保!」 「ふえ? ――うひゃあああああ!」 ハルヒはもう朝比奈さんの意思も聞かずに抱きかかえて走り出した。おい、今度はどこに行くつもりだ。 まだ古泉は転校してきていないぞ。長門と朝比奈さんをそばに置いたがために、古泉は転校を余儀なくされたわけだけどな。 「あ、ちょっとみくるをどうするつもりだいっ!?」 その様子を見ていた鶴屋さんは、あわててとめにかかるが、持ち前の機敏さでハルヒはするりとよけて、 「キョンっ! あたしたちは文芸部室に行くから、鶴屋さんに事情を説明しておいて! あとよろしく!」 そう言って朝比奈さんを拉致して立ち去って行っちまった。ちょこちょことその後ろを長門がついていっている。 やれやれ、本当に鉄砲玉みたいな野郎だ。三年間溜まりに溜まった我慢を今爆裂させているんだろう。 さてこのままだと鶴屋さんに通報されかねないからフォローしておかないとな。 「お騒がせしてすいません。とりあえず、朝比奈さんに危害は――ええとそこまでひどいことはしませんのでご安心ください。 ただちょっとお友達にと」 「ふーん、キミとさっきの女の子は誰なのさっ?」 珍しく疑惑の視線を見せる鶴屋さん。まあ朝比奈さんの保護者みたいな存在だから、心配なのだろう。 「一年のものです。さっき朝比奈さんを強奪して言ったのが涼宮ハルヒ。うちのクラスの名物暴走女ですよ。 朝比奈さんを見かけてどうやら一目ぼれしてしまったみたいで。もう一人は長門有希。となりのクラスの人であって5分も たっていませんが」 思わず自分の説明で苦笑いしてしまう俺。無茶苦茶な状況すぎるだろ。 案の定、鶴屋さんも訳がわからないという疑問符を浮かべていたが、やがてぽんと手をたたき、 「ああっ、あれが涼宮ハルヒって人なんだねっ! ちょっと忘れていたけど思い出したよっ! そっか、みくるが気に入ったかっ!」 のわはっはっはと大声で笑い出し、突然自己完結してしまった鶴屋さん。何でそんなにあっさり…… ってそりゃそうか。鶴屋さんは遠巻きながら機関の関係者であり、ハルヒのことについても何らかの情報がわかっているはず。 俺の世界ではそう言ったことを断言はしなかったが、匂わせる発言はあったからな。ハルヒが特別な存在というぐらいは 知っていてもおかしくはないだろう。 ここで鶴屋さんは俺の肩をパンパンとたたき、 「よっし、わかったよ。深い事情は聞かないからみくるをキミに任せるっ! でも、あの子は弱い子だからあまりいじめちゃ だめにょろよっ」 「ええ、それはもちろん。ハルヒの魔の手からできるだけ守りますんで」 鶴屋さんが物分りのいい人で本当に助かった。これでこの場は落ち着いたはずだな。 俺はがんばれと手を振る鶴屋さんに一礼すると、文芸部室へと向かった。 「……遅かったか」 文芸部室に入った後の俺の第一声。見れば、相当もみくちゃにされたのだろう。床にひざを抱えて しくしくとすすり泣いて座り込んでしまっている朝比奈さんの姿が。全くハルヒの奴は加減というものを知らんからな。 一方のハルヒはかばんから何かを取り出そうとごそごそとやっている。まさかバニーガールではあるまいな? さすがに初日にアレをやると、朝比奈さんがパニックを起こすから全力で止めさせてもらうぞ。 拉致されたもう一人の長門は、文芸部に置かれている本棚をじーっと見つめていた。どうやら何か感じるものがあるらしい。 せっかくだから、俺は前の世界で最初に読ませてやったあのSF小説を取り出すと、 「読んでみるか? 結構面白いと思うぞ」 「…………」 長門はめがね越しの視線でその表紙を見つめていたが、やがてそれを受け取るとぺらぺらとページをめくって 内容を読み始めた。よし、これで読書狂長門できあがりっと。 ここでハルヒはようやくかばんから取り出したものを俺たちに配り始める。内容は文芸部への入部届けだ。 ハルヒが勝手に書いたのか、後は自分の名前をサインすれば言いだけの状態になっていた。 「はーい注目。これからここにいる全員はいったん文芸部に入部してもらうわ」 「おいちょっと待て。文芸部に入ってどうするんだよ?」 俺の突っ込みにハルヒはちっちっちと指を振って、 「文芸部は仮の姿。一応部室を占拠しておくにはそれなりの理由が要るからね」 偽装入部かよ。なんてことを考えやがるんだ。長門が文芸部入りしていない以上、ここを使うにはこの手しかないのは事実だろうけど。 「ほらほらとっとと入部届けにサインしなさいよ。あとみくるちゃんはいつまで泣いてんのよ。そんなのじゃ、 渡る世間は鬼ばかりの世界は生きていけないわよ」 鬼はお前だろうが。まあいい、これ以上続けても仕方ないからとっととサインしてしまおう。 どういうわけだか――いや予想通りかもしれないが、長門はもうサインを終えて、SF小説の続きを読んでいるからな。 ここでようやく朝比奈さんはローン30年が残っている家が地震で倒壊したのを目撃したサラリーマンのように 肩を落としたまま立ち上がり、 「で、でも、あたし書道部で……」 「じゃあ、そこちゃっちゃとやめちゃって。我が部の活動の邪魔だから」 一応抵抗を試みたのだろうが、ハルヒは全く取り付く島もない。 朝比奈さんはどうしようとおろおろをしばらく続けていたが、やがて長門がサインした入部届けを見て、 「……そっかぁ。わかりました。こっちの部に入部します……」 その声は可哀想になるぐらい悲愴なものであった。しかし、やっぱり長門の存在が気になるようだな。 ふと、朝比奈さんはまたまた困ったという顔を浮かべて、 「でもでも、あたし文芸部って何をするところなのかよく知らなくて」 「さっきもいったでしょ。文芸部は仮の姿だって」 「?」 ハルヒの言っていることの意味がわからないらしい朝比奈さんは、頭の上にはてなマークを浮かべるような 愛らしい疑問を顔に浮かべた。 ここでハルヒは高らかに宣言する。 「我が部の本当の名前――それはSOS団よ!」 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。 それを聞いたとたん、朝比奈さんを取り巻く空気が固まった。しかし長門は無視してSF小説に没頭している。 一方で俺は呆れ顔だ。 おいハルヒ。その名前でいいのかよ。事前の打ち合わせで、なにその安直なネーミングセンスはとか言っていただろ。 なんだかんだで実は気に入っているんじゃないのか? 朝比奈さんは何かを聞こうとして顔をいったん上げるものの、すぐにあきらめたような表情に変化してうつむいた。 だんだんハルヒっていう奴の性格がわかってきたんだろうな。長門はどうでもいいと完全に無視だが。 そんなわけで、俺の世界のときと同じように、ここにSOS団がついに誕生したのである。 いやはや、ここにたどり着くまで長かったから少々感慨深いものがあるな。 ただ……ハルヒが力を自覚し、長門・朝比奈さん、そしてもうすぐやってくるであろう古泉の正体を知っている限り、 その活動内容には若干異なるところが出てくるだろうけど。 ふと、俺は長門と朝比奈さんを交互に見渡す。 朝比奈さんは自分の任務に耐えられなくなり自殺を試みた。 長門は俺とハルヒとともに居たいがために、情報統合思念体を抹殺しようとして初期化されてしまった。 こうしていつもどおりの二人を見るとうれしいが、一度見てしまった惨劇と悲しみは早々心から消えるものではない。 俺の中では少々複雑な感情が入り混じっていた。やれやれ、トラウマになっているようだな。 ◇◇◇◇ SOS団結成から数日間、俺はその活動初期の悪事を抑えるべく奮闘していた。まずはコンピ研パソコン強奪。 あれをやると後腐れが残るからな。もっともハルヒはハルヒでも別のハルヒなんだからやらないんじゃないかと 淡い期待をしてみたが、言い出したときにはパソコンショップで強奪対象を精査するという事前準備までして 突撃準備OKの状態だったりしたもんだから、俺は即刻その計画を阻止した。やっぱり根本は同じ奴だよ、全く。 ただこれを阻止すると、のちにコンピ研とのゲーム対決がなくなって、長門がパソコンに興味を抱かなくなる可能性が 頭に引っかかったが、ただパソコンを使わせるのならそんな因縁めいた舞台なんて用意する必要はない。そのうちどうにかするさ。 ちなみにハルヒにはもうすぐ古泉がやってくるから、そっちに言えば用意してくれるさと言い聞かせておいた。 あと、バニーガールでのビラ配りだがこれはハルヒの方からやるとは言い出さなかった。まあ、すでに宇宙人・未来人を 確保し、もうすぐ超能力者までやってくるSOS団がこれ以上この世の不思議を募集する必要なんてない。俺の世界との違いを考えると こうなるのは必然と言えよう。ただし、ハルヒの朝比奈さんに対するコスプレ癖はそのままのようで、 事あるごとにバニーガールやメイドに変身させていた。パソコン強奪を取りやめにしてくれたのと引き換えに これは容認しておいたが。それにこれがないとなんつーかSOS団らしくないというか…… で、ようやく最後の一人古泉の到着だ。 「ヘイお待ち! 本日一年九組に転校してきた即戦力をつれてきたわよ!」 その日の放課後メイド姿の朝比奈さんとオセロに興じていた文芸部室に威勢のよい声とともに飛び込んできたのはハルヒだ。 その手に引きつられてきたのは、あの胡散臭いインチキスマイルを浮かべているあいつだ。 「古泉一樹です……どうもよろしく」 そう言って近づいた俺に握手を求めてきたため、俺もそれに答える。 ……その瞬間、超能力者オンリーの世界の出来事、特に機関の暴走のシーンが脳裏によぎり俺の顔が少しゆがんだのを 自分でもわかってしまった。やっぱりトラウマになりかけているな、やれやれ。 「どうかしましたか?」 「い、いやなんでもない。よろしく」 俺は平静を取り繕って、不思議そうな顔を浮かべている古泉に挨拶を返す。思えば、こいつは一番最初に 構築した世界だったため会うのは相当久しぶりだ。 ハルヒは手でSOS団の部員をそれぞれ指差して言って、 「それが有希。そっちのかわいいのがみくるちゃん。で、今握手したのがキョン。みんな団員よ。で、あなたが4番目の団員。 そして、あたしがその頂点にいる団長涼宮ハルヒ! よろしく!」 「ああなるほど」 古泉は部室内の団員を一通りまるで観察するかのように見回すと、そううなづいた。宇宙人と未来人の存在を確認できたということか。 しかし、異世界人(俺)までいるとはわかるまい。何か出し抜いてやった気分だっぜ。 「入るのはいいんですが、一体何をするクラブなんでしょうか? 申し訳ないんですが、いまいちピンとこないので」 この古泉の問いかけに、ハルヒはにやりと笑みを浮かべると、 「いいわ。教えてあげる」 そう言って大きく息を吸うと、部室どころか旧館全体に響くでかい声で宣言した。 「ここにいる全員友達になって遊んで遊びまくることよ!」 ハルヒの宣言に空気が死んだ。 まあ無理もない。突然、宇宙人・未来人・超能力者をピンポイントに集めたかと思えば、一緒に遊び倒しましょうってんだからな。 そんなハルヒに古泉はスマイルを絶やしていないし、朝比奈さんはおろおろするばかり、長門は話を聞いているのかいないのか ひたすら読書中である。 俺の世界のハルヒは、宇宙人みたいなものを探すことを目的としているが、それはすぐ近くにそんな奴らがいることを 知らないからそう言っているのであって、このハルヒはそれを知っている以上探す必要などない。 とはいっても、SOS団団長――ああ、今両方とも同じになったか。俺の世界のSOS団も不思議なことを探すとか言って おきながら実際にはそれとはあまり関係のないお遊びサークルと化しているからな。活動内容自体に大差はないといえる。 「SOS団の旗揚げよ! いえーい、これからみんなでがんばっていきまっしょー!」 ついに全員そろったことに喜びを爆発させているのか、ハルヒの声はどこまで明るく透き通っていた。 さてと、ここからが本番だな。この先、平穏無事にことが進んでくれることを祈るばかりだ。 ◇◇◇◇ それから数日間は俺の世界と同じようにカミングアウトラッシュとなった。 まず長門が本に仕込んだ栞のメッセージで俺を呼び出し、宇宙人であることを告白。 週末のハルヒ主催の出歩きツアーで朝比奈さんが未来人であることを告白。 その週明け、俺の方から古泉へ接触し超能力者であることを聞かされる。同時に機関とその役割についてもだ。 それと同時に始まったSOS団活動だったが、ハルヒはこれでもかというぐらいに団員たちを引っ張りまわした。 ある時は読書狂の長門に答えるかのように古本屋めぐりで変わったものがないか捜し歩いた。 次に朝比奈さんのコスプレ衣装を選ぶとか言ってデパートで衣装の選び大会。どこからそんなに金をがめてきたのか。 さらに古泉用にとボードゲーム大会を休日の部室で開き、ハルヒ先生による攻略法講座までやった。それでも古泉は弱いままだったが。 ――ただ、俺はこのハルヒに少しだけ違和感を感じ取っていた。それが何なのか言葉には出来なかったが。 ◇◇◇◇ そんな状態が続いたある日、下校時刻になった俺たちはいつもの長い坂を下っていた。ハルヒは朝比奈さんに何かを熱心に語り、 長門はやっぱり読書したまま歩いている。最後尾には俺と古泉が歩いていたが、 「さすが涼宮さんですね。この十日程度でこれだけのパワーを見せ付けてくるとは思いませんでしたよ」 「最近のハルヒのはしゃぎっぷりについてか?」 「そうです。まるで僕たちと一緒にいるのが楽しくてたまらないという感じですね。最初はまさか未来人や宇宙人を集結させて 一体何をするつもりなんだろうかと思っていましたが、このような遊びで満喫しているだけのようなので一安心です」 そうにこやかな笑みを浮かべる古泉。 ま、それがハルヒがSOS団を作った理由だからな。当然といえば当然のことだ。 ふとここで俺はこいつの役割について思い出し、 「そういや、最近お前の仕事のほうはどうなんだ? やっぱり頻発していたりするのか?」 「いえ、涼宮さんも十分に楽しんでいるようでして、全くストレスを感じていないようです。そのためか、閉鎖空間・神人も 全くご無沙汰な状態ですよ。僕も落ち着いて日常的学校生活を楽しめています」 古泉の話にほっと安堵する俺。最近のハルヒの行動は少々違和感を感じていたからな。実はストレスを溜め込みまくっていて、 あの灰色世界で暴れているんじゃないかと不安になっていたが、ただの取り越し苦労で済みそうだ。もっとも、このハルヒは 意識して意図的に閉鎖空間を作っているんだから、たとえストレスを溜め込んでいてもそれを発生していないだけかもしれんが、 あいつの性格を考えるとその可能性も低いと思われる。 古泉は続ける。 「中学時代の涼宮さんとは雲泥の差ですよ。あの時は毎日ストレスを抱えていて、ことあるごとに閉鎖空間で暴れていましたからね。 SOS団設立後では本人の表情もまるで違うのは、入学当初から一緒だったあなたも感じていることなのではないですか?」 「まっ、確かにあいつが元気になったのだけは鈍い俺でもわかるよ。今の学校生活を心底楽しんでいるんだろうな」 事実を知っている俺からしてみると、思わず突っ込みたくなる衝動に駆られてしまうが、ここは堪えて適当に流しておく。 演技を続けるって言うのもつらいもんだ。そういや、俺の世界では古泉がその不満について愚痴を言っていたが、よくわかるよ。 戻ったらご苦労さんの一言ぐらいかけておこう。ああ、ついでに生徒会長にもな。 ふと、ここで古泉は前を歩くハルヒを見つめながら、 「ですが、少々疑問があるのも事実です。SOS団結成前後では涼宮さんの心情は全く異なっている。なぜなんでしょうか。 まるで僕たちが集まるのを待っていて、中学生時代はそれをストレスに感じていたのでは、と疑いたくなるほどですよ」 俺は一瞬ぎくりと心臓の鼓動が跳ね上がった。まさにその通りだった。ひょっとして機関――古泉はその可能性を疑っているのか? しかし、古泉が続けた言葉が少々意味合いが異なっていた。 「つまりですね。涼宮さんは入学式の自己紹介で――これは機関からの情報で僕は実際に聞いたわけではありませんが、 宇宙人・未来人・超能力者を探していたじゃないですか。この場合、長門さん・朝比奈さん・僕が上手い具合に当てはまるわけです。 そして、僕たちがそろったのと同時に涼宮さんのストレスは一気に解消された。つまり、涼宮さんは目的を達成したと認識している 可能性があるということです」 そうきたか。だが、それでも矛盾があるだろ。 「そうなるとハルヒはお前らが普通の人間じゃないと認識していることになっちまうじゃねえか。だが、SOS団設立の時でも ハルヒにそんなそぶりなんてまったくなかったぞ。大体、せっかくそういった連中を集めたって言うのに、やっていることは 普通のお遊びサークル状態だ。何のために宇宙人みたいな連中を集めたのかさっぱりわからん。それにお前らがそれを ハルヒに察知されるようなことをしていたわけでもない」 「涼宮さんは無意識下でそれを望んだんですよ。だからこそ、僕たちが集められた。これはこないだも話しましたよね。 さらにその無意識下での認識でありながら、涼宮さんは現状に満足してしまった。そう考えられませんか? 事実、SOS団の活動であなたも言った通り、宇宙人・未来人・超能力者に関わることは何一つとして言っていませんから」 無意識下ねぇ……実際には無意識どころか待ちに待った連中がついにやってきたんだから、そんなことはないと言える。 しかし、それを言うわけにもいかないから、 「難しく考えすぎじゃないか? 俺には単にハルヒが遊ぶことに夢中になって、そんなことはどうでもよくなったと思っているんだが」 そう別の方向に誘導しておく。あまり深く突き詰められて、真実にぶつかっても困るだけだからな。 古泉は苦笑しつつ、 「確かにその可能性はあります。僕のは個人的な推測に過ぎませんので。しかし、今の涼宮さんは幸せだというのは 確実にいえることですね。以前の灰色の砂嵐だった精神状態からは完全に脱していますよ」 「それについては異論はねえよ……中学生時代のハルヒはよく知らんが、この一ヶ月でもその変化ははっきりとわかっているさ」 ここで俺たち二人の会話が途切れる。前を歩くハルヒはまだ朝比奈さんに対して得意げに語っていた。 日が傾き、空をカラスの集団が飛んでいく。 俺はふと思いつき、 「なあ古泉。一つ聞いておきたい」 「何でしょう?」 「今の立場に満足しているか?」 「十分に満足していますね。涼宮さんの精神状態は安定し、閉鎖空間の発生頻度もほとんど――」 「そうじゃなくて」 俺は古泉の言葉を手で静止してから、 「お前自身はどうなのか聞きたいんだ。ハルヒにここ最近引っ張りまわされているだろ? それはお前にとって、 面白いのかつまらないのかってことだ」 その質問に、古泉は顎に手を当ててしばらく思案を始めた。そして、やがてゆったりと口を開き始める。 「難しい質問ですね。僕としましては、楽しいとかそんな感情よりもどうしても涼宮さんが安定してくれてうれしいという 考えに至ってしまいます。これもずっと機関で彼女を見続けたことが原因でしょう。僕はSOS団の前に、機関の一員なんです」 「そうか……」 俺の世界の古泉とは真逆のことを言われて、俺は少々気分が重くなった。やっぱり今俺の目の前にいるのは、 ただの超能力者・古泉なんだな。SOS団を作ってからまだそんなに経っていないから無理もないんだが、 こう直接言われるとやはりショックを受けてしまう。 そんな俺を見ていた古泉はここで、ですがと話を続け始め、 「確かに今はそんな感情しか生まれてきません。でもたまに思うんですね。機関の一員とか超能力者とかそんな属性を 投げ捨ててみたら自分はどんな気分になるんだろうと。ひょっとしたら、純粋にとても楽しい学校生活を歩めるかもしれない……」 そうしみじみと言った。 そうか。古泉もそういう感情はあるんだな。それを確認できただけでもほっとするよ。 「この際だから言っておくが、俺は現状が楽しくてたまらない。ハルヒはわがままで横暴だが、あいつのやることには どこか興奮させられる部分があるからな。だから――この生活を失いたくない。絶対にだ」 「…………」 俺の言葉を古泉はただいつものスマイルのまま見ていた。おっと、ついでだから言っておくか。 「お前の話を聞く限りだと、どうもこのSOS団をぶち壊しかねない思想の連中がいるみたいだったな。 そいつらの好きにはさせないでくれ。俺は現状を守り抜きたい」 「肝に銘じておきましょう」 古泉の返答からは、それが機関の人間としてのものなのか、SOS団としてのものなのか判断は出来なかった。 ◇◇◇◇ SOS団設立からしばらく経った後、俺は朝倉に襲われた。シチュエーションは俺の世界のときと全く同じで 放課後に教室に呼び出し→ナイフで襲われるという形だった。 この件については事前に予測が出来ていたため、ハルヒと対処について相談していた。なにせ、この世界の現状の推移は 俺の世界とは似通っているとはいえ、根本的にSOS団の活動内容など異なる点も多い。長門の救援が間に合わなかったり あっさりと俺が殺されてしまう可能性も否定することなど出来ない。ただ、それを考えると朝倉が暴走しない可能性だって 十分にあるわけだが、前回の世界といい俺の世界といいそれは低いんじゃないかと思いたくなる上、 殺される恐れがあるなら用心するに越したことはないはずだ。 そんなわけで事前に長門たちの隙を見計らって昼休みにハルヒと相談していたんだが、 ……… …… … 「ふーん、なるほどね。もうすぐに朝倉があんたを殺しに来るっていう可能性があるわけか」 「そうだ。で、当時は長門に助けられたわけだが、ここでも同じになるとは限らない。そこで事前になんかいい手がないか 相談したいんだ」 いつもの非常階段踊り場の壁に寄りかかり思案顔になるハルヒ。 正直なところ、ハルヒに相談したところでどうにかできるのかという疑問もある。こないだのハルヒVS朝倉では、 戦うというより一方的に蹂躙されまくっただけで、最後にサヨナラ逆転満塁ホームランが飛び出して勝利しただけだ。 しかし、だからといって事前に長門に相談するわけにも行かず、古泉にそれとなく話したところであの朝倉と対等に 戦えるだけの力を持っているとは思えない。ああ、朝比奈さんは論外な。実力云々の前にそんな危険なことにあの人を関わらせたくない。 とはいえ、命の危機が迫っているかもしれないのにただ黙っているのは何かこうむずむずしてきて嫌だ。 ハルヒはしばらく黙ったまま考えていたが、 「でもさ、有希ってそういうこと事前に察知できるだけの情報操作能力を持っているような気がするんだけど。 あいつら、あたしたちの言う時間の流れとは異なる概念を持っているみたいだしね。そうなら朝倉に襲われても 必ず助けに来るんじゃないの? 文芸部活動でおかしくなるほどに負荷をかけているとも思えないから」 ハルヒの指摘に俺は腕を組んで考える――と同時に思い出した。そういえば、長門は冬のあの事件を起こすまでは 未来の自分と同期ができるとか言っていたっけ。ん? そう考えると、長門は三年前の七夕の時に未来の自分と同期を 取っていたわけだから、自分が暴走することも知っていたし、そうなると当然朝倉が暴走することも事前に知っていたことになる。 ならあのぎりぎりの救出タイミングはわざと狙っていたのか、長門さん? わざわざかっこよさを演出する必要なんて 長門には全くないからきっと別の理由があるんだと考えておこう。 俺はそれを認識してそれなりの安心感を覚えると、 「ああ、そういや長門はそういうことも可能だって言っていたな。なら大丈夫か」 「そうよ。どのみちインターフェースの動向に関しては連中の内部で処理させたほうがいいわ。あたしが動くとばれる可能性が 飛躍的に高くなるしね。有希なら何とかできるでしょ」 … …… ……… とまあそんな結論至っていたため、安心は出来なかったが特に対応策はとらずに、そのまま朝倉に襲われることになった。 やれやれ、襲われるのをわかっていながらホイホイとそれを受け入れるってのも酷な話だぜ。 結局のところ、途中で長門が助けに来てくれたおかげで俺は無事生還。朝倉も無事消滅させることに成功した。 順調に言ってくれて何よりだ。長門が痛めつけられるのを見るのは辛かったけどな。 ついでに、やっぱり教室に入ってきた谷口を追い出しつつ、長門にメガネをはずして置くように促しておいた。 前回の世界だと結局最後までメガネ姿だったが、やっぱり俺はメガネ属性ないし。 朝倉襲撃に関しては全く同じ展開だったのに対して、その次に会った朝比奈さん(大)との遭遇はなかった。 これに関しては最初は動揺し、何かとんでもない間違いをどこかでしたんじゃないかと不安になった。 なぜなら朝比奈さん(大)がいない=朝比奈さん(小)が未来人オンリーの世界のときのように今後自殺という 悪夢の惨劇が待っているかもしれないからだ。 しかし、当時の状況をしばらく考えてから当然であるという結論に至る。あの時朝比奈さん(大)は白雪姫という キーワードを俺に伝えるためにやってきたようだった。もちろんその意味は、ハルヒによる世界改変の時の対処法についてだろう。 思い出すと耳から火を吹きそうになるから、あまり脳内再生したくないが。 ん? ちょっと待て。ということは朝比奈さん(大)はアレをしろと事前に俺に言っていたわけか? さらに言えば、 あの閉鎖空間で長門がsleeping beautity とか告げてきたが、それもアレをしろということなのか? 二人そろってなんてことを求めやがるんだ、全く。 まあ、そんなことはどうでもいい。それは俺の世界ですでに起こった話であって、この世界では同様の事態は発生しないと 断言できる。なぜかといわれれば、そんなことを力を自覚しているハルヒがするはずがないからだ。やるならリセットだろうしな。 そういう意味で朝比奈さん(大)は俺にヒントを告げる必要が発生しなくなり、その姿をあらわさないということになる。 あのナイスバディを超えたダイナマイトが見れないのは少々残念ではあるが、今後は嫌でも顔を合わせる必要が出てくるだろうから、 それまでの楽しみに取っておくかね。 ◇◇◇◇ そこから夏休み直前まで話を進めよう。何でかというと特に変わったことも無かったからだ。 まず、ハルヒによる世界改変は無し。何度も言っているがこれは当たり前の話だ。 SOS団活動で目立ったものといえば、野球大会に参加に参加したぐらいか。結局一回戦で辞退したのも変わらない。 まあ優勝したらしたで面倒事になるだけだし、ハルヒは辞退すると言ったらムスーとしていたが、まあそれなりに楽しんだようだった。 カマドウマ大発生はいつ起きるのやらとハラハラしていたが、考えたらここのSOS団はHPを持っていないんだから 起きるわけがなかった。 おっと、七夕の話があったな。あれについては、やったことは同じだったが、ハルヒの態度が違うのは当然としても、 そこでようやく出会えた朝比奈さん(大)がちょっと意味深なことを言っていた。 ……… …… … 俺と朝比奈さんが三年前の七夕に戻り、夜の公園のベンチでそのまま朝比奈さん(小)が眠らされた時に、彼女はやって来た。 女教師みたいな服で、年齢は20歳前後、ゴージャスがダイナマイトになったあの朝比奈さん(大)である。微妙に空いた胸元に どうしても視線が行ってしまうのは男の性だ、許してくれ神よ。 「キョンくん……久しぶり」 朝比奈さん(大)は(小)を放って俺の手をつかんできた。本当に久しぶりの再開のようで、その表情は懐かしさを発揮している。 このタイミングで久しぶりとか言われると何だか妙な気分だ。思わず俺は困惑して後頭部を掻いてしまう。 「どうかしたの?」 俺が面食らうかと予想していたのだろうか、不思議そうな視線を向けてくる。いかん、これでは不審に思われるな。 えーと当時はどうやって答えたんだっけ? そう必死に記憶の糸をたぐりつつ、 「あの……朝比奈さんのお姉さんですか?」 「あ、うふ、わたしはわたし。朝比奈みくる本人です。そこで今寝息を立てているわたしよりもずっと未来から来た わたしというところですね」 そうにっこりと笑みを浮かべて説明する。だが、すぐにまた感激の表情に切り替えるとぎゅっと俺の手を握り占め、 「……会いたかった」 その言葉に、俺もちょっと懐かしさを憶える。考えてみれば、こっちの世界に旅立ってからかなり経つが朝比奈さん(大)に 遭遇したのは初めてだった。握られた手から暖かい体温が伝わって来るに連れて、その実感が増してくる。 俺は朝比奈さん(大)が前屈みでこっちを見ているため、どうしても上から胸元を除いているような状態になっているになり、 こそこそと視線を外しつつ、 「えっと、なるほど。わかりました。つまり朝比奈さん+何歳かってことですね」 とりあえずとっとと納得しておこう。こういう状態をあまり長引かせるとボロを出す確率が高くなるだけだからな。 しかし、そんな俺の態度を朝比奈さん(大)は納得していないと判断したのか、頬をふくらませると、 「信じてないでしょ? それに女性を歳で判断するのは失礼です」 「ああいえいえ、信じています。確実に。実際に今俺は三年前に戻るなんていうSF体験をしたばかりですからね。 ちょっと変なことが起きてももうあっさり飲み込める自信がありますよ」 俺はあわてて手を振りつつ答える。 朝比奈さん(大)はホントに?と疑いの視線を俺の目に合わせてくるが、同時にこっちの視線が時たま胸元へ向かっていることに 気が付いたらしい、顔を赤らめつつあわてて前屈みのポーズを解除して直立状態に戻った。 このまま話を止めていても仕方がないので、 「で、その朝比奈さんが何の用なんですか? わざわざ三年前に来て、さらに高校生の朝比奈さんを眠らせるなんて 状況がよくわからないんですけど」 「この子の役目は一旦終了です。再開はもうちょっとしてからね。そして、あなたを導くのはわたしの役目になります」 東中へ行けってことかと考えると、朝比奈さんは俺の思考を後追いするかのように、向かい先――東中へ行くように言った。 全く予言者か心の透視能力を持った気分だよ。 ここで朝比奈さん(大)は一歩離れると、 「時間です。これでわたしの役目も終わり。後はあなたに任せます」 この後に、冬のあの時の俺と落ち合うんだな――いや、ちょっと待てよ? それなら、この世界でも長門のエラーによる事件は 起きるっていうことになる。そして、それを越えられたからこそ、この朝比奈さん(大)(小)が存在しているわけだ。 俺は思わず笑い声を上げてしまいそうになったが、あわてて喉から逆の胃袋の方向へと流し込んだ。何でこんなことに 気が付かなかったんだ。 朝比奈さん(小)がいる時点で、この世界は情報統合思念体による排除行動は発生しない。 朝比奈さん(大)がいる時点で、あの思い出したくもない惨劇も起こらない。 つまり未来人絡みの問題は全て解決したということになる。平穏かどうかはわからないが、世界は存在し続ける。 この事実に、俺はまるで勝利気分になった。当然だろ? あれだけ右往左往・七転八倒を続けてようやくここまでたどり着いたんだから。 よし帰ったらハルヒに報告してやろう。俺の役目も終わったも同然だしな。 だが。 次に朝比奈さん(大)の口から出た言葉は、そんな俺の気分をあっさりと覆すものだった。 「別れる前にキョンくんに言っておきたいことがあります」 「……何ですか?」 少し真剣気味な朝比奈さん(大)の言葉に、俺の気分が若干削がれる。 しばらく考える素振りをしてから、彼女は続けて、 「これから先、キョンくんたちは二つの大きな分岐点にぶつかります。詳細については禁則事項になってしまうので言えません。 その他の既定事項についてはわたしたちがどうにか出来る問題だけど、その二つだけはあなたと――涼宮さんにしか解決できないのものなの」 「……二つ?」 その言葉に、俺は真っ先に冬のあの日の事件が思いつくが、もう一つは何だ? 俺の世界でも朝比奈さん(大)でも対処不能で 俺とハルヒだけができるというのは、ハルヒによる世界改変ぐらいしか思いつかないが、それはとっくに時間的に通過済み& ハルヒがそんなことをするわけがないという結論に至っている。 そうなると、この世界特有の問題がこの先に起きるって訳か。全く9回表に満塁ホームランで逆転したのに、9回裏のツーアウトから 土壇場でまた追いつかれた気分だぜ。 朝比奈さん(大)は真剣なまなざしのまま続ける。 「その二つを超えた先にある未来からわたしとそこで眠っているわたしはやって来ているんです。 でも過去は非常に不安定なものであって、脇道にそれないようにわたしたちのような人間が動いています。だけどその二つだけは こちらではどうしようもありません。自分の力を自覚していない涼宮さんは頼れないので、あとはキョンくんだけなんです」 朝比奈さん(大)にも結局ハルヒについてはばれていないのか。いやそれよりもだ。 「よくわからないんですが、俺が失敗したら朝比奈さんの未来へつながらなくなるっていうことですか? それだと、どうして 今ここに朝比奈さんたちが存在しているのか――ああええと、何か矛盾してる気がしてくるんですけど」 「それについては禁則事項というよりも、わたしたちが用いるSTC理論をあなたに教えるのは不可能だから言えません。 概念も立脚もこの時代に生まれた人に教えるのは無理なんです。あ、決してキョンくんの頭が悪いということではないんですよ? この時間平面状で、その話を理解できる人なんて誰一人としていないってことなの」 朝比奈さん(大)の説明を聞く度に、俺の好奇心が揺さぶられてくるがどうせ聞いたってわからないだろうから、 深く尋ねるのは止めておこう。考えるのに夢中になって俺の正体がばれるようなボロを出したらとんでもないことになるからな。 俺は話を打ち切ることを決めると、朝比奈さん(小)をオンブし、 「とりあえずその辺りは深く突っ込まない方が良さそうなんで、今の役割を果たすことにします。でも、その二つの問題っていう ヒントぐらいはもらえませんか? できれば事前準備ぐらいしておきたいんですけど」 「ごめんなさい。全て禁則事項なんです。それほどまでに難しくてデリケートなものだから。ただ一つだけ言えるのは、 それが起こればあなたはすぐにわかるはずです」 朝比奈さん(大)が申し訳なさそうに頭を下げた。やれやれ、ヒントゼロか。今の時点で当てたら一気に無条件で 甲子園優勝の旗が貰える難易度だな。だが、起こればすぐにわかる――つまり、気を抜いたらあっさりと 見逃すようなものではないということだ。それだけでもありがたい情報かな。 「じゃあ、キョンくんまたね。次逢えることを願っています」 またもや意味深な言葉と共に、朝比奈さん(大)は公園の暗がりへと消えていった。二つの問題が解決されたなら、 やっぱりこの後俺と落ち合うことになるんだろうか。その辺りの茂みを探してみたくなる衝動に駆られるが、 そんなことをしたらいろいろぶちこわしになるかも知れないんで止めておこう。 さてと。 俺は軽いんだろうけど、肉体労働に慣れていない俺には重く感じる朝比奈さん(小)を背負いつつ、東中へと向かった。 ここからはちょっとした余談になる。 俺は東中の門前でそこを乗り越えようとしている子供っぽい人影を発見し、 「おい」 そう声をかけてやった。そいつはすぐに反応して、何よとこっちを睨みつけてきたが、 「……なんだキョンじゃないの。何やってんのよ、みくるちゃんなんて背負って」 「朝比奈さん――というより未来人からの指示だよ。俺の世界でも同じだ。どうせこれから校庭に落書きするんだろ? そのお手伝いをしろってさ」 俺は溜息混じりで答える。 電灯で照らされたハルヒはまだ小柄で、朝比奈さんには劣るもののパーフェクトなボディは未成熟だった。 唯一、俺の世界の七夕と違うのはハルヒの髪が短いってことぐらいか。活動的な性格のこいつから考えれば、 短くするのが当たり前な気もするが、この違いは何なんだろうね? どうでもいい話だろうけど。 そんなことを考えている間に、中学生ハルヒは俺の背中で眠っている朝比奈さんのほっぺを突っつきながら、 「あんた、みくるちゃんが眠っている間に何かしなかったでしょうね?」 「してねーよ。てか今から三年後にも同じことを聞かれたぞ」 ハルヒはジト目で俺の否定に、疑惑の視線をぶつけてくる。しまった、朝比奈さん(大)にチュウぐらいならというのを 確認し損ねたな。やるかどうかはさておき聞けることは聞いておけば良かった。 ここでハルヒはまあいいわと言ってポケットから東中の門の鍵をプラプラさせて、 「じゃあせっかくだからあんたに手伝ってもらうわよ。一人だと結構大変だからね」 「ちょっとそこ曲がっているわよ! 本当に方向音痴ね」 「方向音痴は意味が違うんじゃないのか?」 俺はハルヒのキリキリ声を背後に、線引きをひたすら走らせていた。全く何を考えたら、家でゴロゴロするのより、 こんな犯罪まがいの行為をしたくなるのやら。俺なら絶対に前者を選ぶね。 ほどなくして、石灰を白巨大ミミズが暴走した後のような地上絵が完成する。ん、俺の知っているものとかなり異なるものだが、 何か意味でもあるのか? 「一応意味なら込めてあるわよ。人に言うことじゃないし、わからないように暗号化しているけど」 「おいおい、これ仮にも織姫と彦星へのメッセージだろ? 暗号化なんかしたらわからんだろ」 「良いのよ。そのくらい神様なんだからきっと解除するなんて朝飯前よ」 ハルヒは校庭に描かれた不気味な模様を満足そうに眺める。こんな時だけ都合の良い理論を引っ張り出すなよ。 しばらく俺もそれを眺めていたが、ふと時間の経過に気が付き、 「そろそろ朝比奈さんが目を覚ます頃合いだ。解散しておこうぜ」 「わかったわ。あたしも目的が果たせたからとっとと帰る」 俺は再び朝比奈さんを担ぎ、ハルヒはすたすたと人に散々作業させた割に礼の一つも言わずに校門へと向かっていった。 が、途中で急に振り返ったかと思うと、 「ねえ、三年後みんなちゃんとそろったの?」 距離が離れてしまったため、月明かりだけではある日の表情はわからなかったが、その口調はやや不安げなものに感じた。 俺はできるだけ明るい声で、 「ああ大丈夫だ。お前は喜びを爆発させて、毎日楽しんでいるよ。三年後を楽しみにしておけ」 それにハルヒはほっと肩を落とした。そして、すっと空を見上げぽつりと言う。 「三年か……長いなぁ」 … …… ……… そんなこんなで目を覚ました朝比奈さんと共に長門のマンションへと行き、そこで三年間の時間凍結で現代に戻ってきた。 その辺りは俺の世界と変わりなく進んでいった。 帰った後、ハルヒにはこれから二つばかしでかい問題が待ちかまえていることを告げておいた。当の本人は、 情報が少なすぎるからそれが起こるのを待つしかないと言い、静観する構えを見せていた。 そして、期末テスト明けの部室。 ハルヒが意気揚々と夏休みに何をするか離している間、俺はぼーっと考える。 朝比奈さん(大)が言っていた二つの大きな分岐点。一体何なんだろう。未来に多大な影響を与える上に、 未来人が全く手の出せないこと。一つは冬のあの日の可能性が高い。しかしもう一つは? 俺はこの時それがもう目前に迫っていることなんて考えもしなかった。 ◇◇◇◇ 夏休みが直前に迫り、学校も短縮営業になった部室では、相も変わらずSOS団の面々が生まれた川に戻ってくる サーモンのごとく集まっていた。現在は夏休みのSOS団予定作成ミーティング中である。 ハルヒはホワイトボードを団長席の前に置き、延々と『夏休みにやろうと思うこと一覧』を書いている。 しかし、その量がまた凄いこと。これじゃ、夏休みの全部がつぶれてもおかしくないぞ。お盆は避暑と里帰りを兼ねて 田舎に戻るんだからキツキツなスケジュールは勘弁してくれ。 ――だが、以前から少しずつ感じていたハルヒに対する違和感がここに来て、さらに拡大してきている。何だ? 俺は一体何に気が付いているんだ? 全く自分の心の内が読めないってのも嫌なもんだ。 一通り書き終えたハルヒは、ぱんぱんとホワイトボードを叩き、 「さて、夏休みと言ってもSOS団に休みなんて無いわ。どうせキョンみたいなぐーたらタイプはガンガンに効かせた クーラー部屋でさして興味のない甲子園の生中継を判官贔屓で負けている方を何となく応援するなんていう 無駄極まりない過ごし方をするに決まっているんだから。でも、そんなのは却下よ却下! 充実して二度と忘れないくらいの 夏休みにするんだからね!」 全く元気満々な奴だ。しかし、俺を使った例が適切すぎるぞ。確かに受験勉強とかしていなかった夏休みの過ごし方は ずっとそんな感じだったからな。人の生活を密かに除いたりしていないだろうな? 俺はすっと古泉に視線だけを向けて、 「お前たち――機関とやらは何かたくらんでいないのか? ハルヒの退屈を紛らわせるぐらいに、孤島への旅行パックぐらい 持ってきそうだと思っていたんだが」 俺の世界だと古泉の方からハルヒに進言していたわけだが、今のハルヒの様子から見てどうもそんな雰囲気じゃない。 やっぱりこの辺りで際は出ているか。 が。 「全く……たまにあなたと話していると、本当にあなたが涼宮さんに関わらない純正のESPをもっているのかと 疑いたくなりますね」 げ。 心の中で舌打ちした俺だったが、古泉はそれに気が付くわけもなく、 「あなたの言うとおり、涼宮さんの好みそうな孤島への旅行がついさっきまとまったところだったんですよ。 ただし、涼宮さんは涼宮さんなりに予定を考えてきているみたいでしたから、それとかち合わなければ言うつもりでした」 そう言いつつじーっと俺の方に好奇心を込めた気色悪い視線を向けてくる古泉。 いかんいかん。危うくこんなどうでも良い場所でヘマをやらかすところだった 俺は首筋にたまった汗を乾かそうと、襟首をぱたぱたとさせながら、 「いんや、孤島で事件なんてハルヒが望みそうなところだったからな。ただの推測だ。それに本当にそんなパワーを持っているなら 今頃宝くじや競馬で大もうけして学校なんぞとっくに辞めている」 「それもそうですね」 俺の言葉に、古泉は疑惑からインチキスマイルへと表情を変化させた。さらにハルヒがこっちを指差し、 「こらそこ! なに会議中におしゃべりしているのよ! そんな不真面目な態度を取っていると旅行中は永遠荷物持ちの刑にするわよ!」 「これは失礼しました」 古泉は大仰に頭を下げる。一方の俺はあごに手を乗せたまま、やっぱり何か引っかかるハルヒの態度に困惑していた。 ええい、もどかしい。 ハルヒは腕を回しながら、山登り・海水浴などの大イベントを手で叩きながら、 「こういうのはね、最初が肝心なのよ! つまり夏休みの初日! これがうまくいくかどうかで、全休日が上手く過ごせるか 決まると言っていいほどだわ。そんなわけで、当然強烈なものを一発目に持ってくるのが当然ってわけ。 そうね……海水浴なんてどう、古泉くん!」 「大変よろしいかと」 「何かやる気なさげねぇ……じゃあ、みくるちゃん! 山登りなんてどう? 今の時期は暑いけど、高いところは 眺めも良いし涼しくて良いわよ。みくるちゃんは汗でいろいろ大変でしょ?」 「ふえ? ええっと……確かに汗の処理は大変ですけど、その……ちょっときつそうで……あ、でもいいですよ。 涼宮さんがそこに行くならついて行きます」 「ああもう……そういうこと言っているんじゃないのよ。んじゃ、有希! 読書ばっかりして身体中に文字列がしみこんでいるんじゃない? 温泉に行ってそれを一旦排出するってのもいいわよ。どう?」 「わたしは構わない」 「かー! もー!」 ハルヒは心底いらだったように頭頂部の髪の毛を掻きむしる。何をそんなにかりかりしてんだ。それになんで俺には聞かないんだよ。 俺の突っ込みも無視して、ハルヒはまた次々と案を俺以外の団員たちに出していく。 しかし、元々ハルヒのそばにいるのが仕事みたいな連中だ。ハルヒがそこに行くと言えば、どこだって付いていく。 決して反論や代案を出したりはせずにな。こればっかりは俺の世界でもまだまだ改善されていない部分だ。 だが……ハルヒの行動に対する違和感が俺の中でさらに増大していった。このレベルになってくるとさすがの鈍い俺でも 気がつき始めた。理由は知らんが、ハルヒは焦っている。夏休みが終わるなら時間がないと焦る気持ちもわかるが、 まだ始まってもいない夏休みの予定表作りになんでだ? エスカレートし続ける痛々しさにさすがに見かねた俺は、 「おいハルヒ」 「それならハイキングって言うのはどう!? その辺りでいい場所があるのよ」 「おい」 「あ、宝探しならみんなワクワクしない? 鶴屋さんの家は昔からあるみたいだし、古びた蔵とかあされば宝の地図ぐらい――」 「おいハルヒ。ちょっと落ち着けよ」 俺は自分の席を立ち上がり、ハルヒの肩を叩いて暴走状態を止めにかかる。直にハルヒに触れて初めて気が付いたが、 全身にかなりの汗を掻いていた。顔にも無数の汗の粒が浮き、ハルヒ特有のオーバーリアクションで頭を揺さぶったせいか、 まるで風呂上がりで髪の毛を放置した状態みたいだ。一体どうしたってんだ。 ハルヒは俺を無視して、また何か言おうとして――すぐに口をつぐんだ。そして、しばらく沈黙を保った後、 少しだけうつむいて団員たちから視線を外すと、 「……ごめん、何かちょっとテンパってた」 そうぽつりと言うと、顔を洗ってくると言って部室から出て行ってしまった。本当にどうしたんだ一体。 古泉が少々心配そうに、 「どうしたのでしょうか? 最近もちょくちょく感じていましたが、涼宮さんの様子がおかしいですね。 特に夏休みが近づくほどにその度合いが強まっているように思えます」 「何だ、閉鎖空間も乱発状態だったりするのか?」 「いえそれはないんですが……何なんでしょう」 ハルヒの精神分析担当の古泉もお手上げか。ん、何かまたちょっと引っかかったぞ。ええい、どうして俺の頭は 断片ばっかりキャッチするんだ。粉砕した野球ボールの破片を取っても意味無いぞ。 「涼宮さん、確かにちょっとおかしいですね……あのあの、あたし何かまずいこととかしちゃったんでしょうか?」 オロオロし始める朝比奈さん。……何だか少しわかってきた気がする。 「…………」 長門は読書こそ止めていたが、無言のまま俺の方を見つめていた。なんとなーく理由が…… ………… ………… ああ、そうか。そういうことか。良く気が付いたぞ、俺。 俺は団員全員を順次見回していくと、 「ちょっと聞きたい。みんなハルヒが言っている夏休み初日にどこかに行くのに反対か? ハルヒは今いないから正直に答えてくれ」 「涼宮さんが行くという場所へはどこにでも」 「あたしも涼宮さんと一緒に」 「そう指示されるのなら」 古泉・朝比奈さん・長門の順に答えが返ってきた。全くハルヒがいらだつ気持ちもわかるぜ。 「そうじゃなくてだ。みんなの意思――つまり宇宙・未来・超能力とかそんなの関係なしにハルヒと一緒に 夏休みを過ごしたいのかと聞いているんだよ。組織とかそんなのはこの際無視して答えてくれないか?」 俺の呼びかけに、朝比奈さんと古泉がお互いを見つめ、長門はじっと俺を見たままだ。 やがて、朝比奈さんが手を挙げて、 「あたし、それでも構いません。ただ運動は苦手なので、山登りとか体力を使うのはちょっと……」 次に古泉。 「僕としましては、自分のプランを用意したこともありますので、それを推したいですね。おっと組織の都合とかではなく、 これには僕の仲間も加わる予定なのでそれなりに楽しめるはずです」 最後に長門。 「読書が出来るのなら」 そうだよ。それでいいんだ。 俺は手を置いて、 「だったらハルヒにそう言ってやれ。それだけであいつの違和感は消えるはずだ。ただあいつはみんなと一緒に遊びたいだけなんだ。 ハルヒをそんな特別扱いした目で見ないで、普通のSOS団の団長として見て欲しい」 ハルヒはただみんなを楽しませることに必死なんだ。でも、肝心の団員がハルヒの顔色をうかがっているばかりで、 本当に楽しんでくれているのかわからない。ひょっとしたら無理やり付き合わせているだけなんじゃないか。 恐らくハルヒはそんな疑念があるのだろう。やれやれ、一方的にこっちを引っ張り回すウチの団長様とは大違いなデリケートぶりだ。 まあ、ここの団長ハルヒは何度も喪失感を味わって、二度と失いたくないという気持ちが強いせいで、そんな状態になっているんだろうが。 事実、俺も一度失って以降SOS団に対する執着みたいなものは大きく変化したしな。 俺の主張に、古泉が感心したような笑みを浮かべて、 「なるほど。確かにその通りです。わかりました。涼宮さんが戻り次第、僕の方から孤島への旅行を提案してみます。 SOS団は一人で作られるものではありませんでしたね」 「あ、あたしもそれで良いです。そっちの方がいいです」 「異論はない」 朝比奈さんと長門も同意した。 ほどなくして、顔を濡らしたハルヒが戻ってくる。俺はそそくさと自分の席に戻る。 代わりに古泉が立ち上がり、 「涼宮さん、言うのが遅れて申し訳ありません。実は僕の友人からちょっとした誘いがありまして――」 古泉の孤島招待に、ハルヒが全力で頷いて100Wどころか核爆発の熱球のような笑顔でOKしたのは言うまででもない。 ああ、あとついでに古泉をSOS団副団長に任命したことについてもな。 その日の放課後、どういう訳だか長門・朝比奈さん・古泉は用事があるからと言って別々に帰宅して、 俺とハルヒだけで下校することになった。 「孤島よ孤島! 古泉くんから持ってきてくれるなんて思ってなかったわ! ようやくSOS団も一丸となりつつあるわね! あー、もう待ちきれないわ! 早く出発日にならないかしら!」 古泉からの提案がそんなに嬉しかったのか、帰りになってもまだハルヒのテンションは爆発モードのままだ。 このハルヒにはあの必死さが全くなく、違和感なんてみじんも感じない。ようやく元に戻ったようだな。 「古泉からの意見がそんなに嬉しかったのか?」 「もっちろんよ! だってみんな今までただあたしの言うことに付いてきていただけなのよ? 初めて自分から意思を 示してくれたんだから嬉しいに決まっているじゃない! なんていうか、初めて意思疎通が成り立ったって言うか……」 ――ここでハルヒは少し声のトーンを落として―― 「SOS団を作ってからずっと不安だった。みんなそれぞれの目的だけで一緒にいてくれるんじゃないかとか、 実は嫌々ついてきているんじゃないかって。でも、今日初めて意思を示してくれて、そうじゃないってわかった。 夏休みでばらばらになって、二学期になったら疎遠になっていたっていうのが一番怖かったのよ」 ハルヒには少々悪いが、古泉の孤島はひょっとしたらその組織絡みの可能性があるから何とも言えないんだけどな。 これについては言わないでおこう。それにハルヒに意見を言ったという点が重要っていうのもあるし。 夕焼けに染まったハルヒは少しうつむき、 「あたしはもう絶対にみんなを離したくない。絶対にこの世界を成功させてみせる。組織のためにとかそんなんじゃなくて 純粋にみんなで遊んで楽しめるようになりたい。そうすれば――きっと何もかもがうまくいく気がするから……」 そうだな。きっとみんなで楽しく過ごせる世界が作れるさ、きっと。今までそのために沢山のものを犠牲にしてきたんだ。 にしても、本当に団員を思いやっているんだな。今の内に爪のアカをほじらせてくれないか? 元の世界に戻ったら、 ウチの団長様の茶に混ぜておくから。 だが、ここでハルヒはうつむいたまま立ち止まると、 「ただ――」 そう何かを言いかけた――が、すぐに頭を振って、 「ううん、なんでもない」 そう言ってまた歩き出した。 ……まだ何か不安があるんだろうか? ~涼宮ハルヒの軌跡 SOS団(後編)へ~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4826.html
文字サイズ小でうまく表示されると思います 世界の真ん中に立つ塔は 楽園に通じているという 遥かな楽園を夢見て 多くの者達が この塔の秘密に挑んで行った だが、彼らの運命を 知る者はない そして今、また一人…… 優しい太陽の日差しと、どこまでも続く水平線。 バニーガールに似ていて決定的に何かが違う衣装を着せられたままの朝比奈さんが、吹き付ける 風になびく髪を気にしながら海を眺めて微笑んでいる。 長門はと言えば木の陰に座りいつものように本を読んでいて、古泉とハルヒは何やら地面に地図の ような物を書きながら目的地を探しているようだ。 ハルヒ率いるSOS団のメンバーは海に遊びに来ている……んだったらよかったんだけどな。 今、俺達5人は海に浮かぶ小さな島の上にいる。 何も知らない人が見れば救助を待つ遭難者に見えるだろうし、実際そうだと言えなくも無い。 しかし俺達は見渡す限りの大海原に浮かぶこの島に取り残されてしまったのではなく、この島に乗って ここまで来たのだ……とまあ、我ながら理解不能としか言えないこの説明で現状が把握できるような人は、 今すぐハルヒの前に行きなさい、以上! ……それはたった、10分程前の事だった。 「船のように走る……島?」 その情報を聞いたときのハルヒの顔は、今まで見たことの無い程に生き生きとしていた。 俺達がゲームの世界に閉じ込められてしまった……という事は前回の話を読んでもらっていればわかるん だろうが、この話を先に読んでいる人に説明するならば、だ。 ゲームセンターに遊びに来た俺達5人は、ごくごく普通の高校生にも、謎の宇宙人にも、可愛い未来人にも、 怪しい超能力者にも理解できない不思議な何かによって、俺達はゲームの世界に閉じ込められてしまった……。 つまり何故こうなってしまったのか、当事者である俺達の誰一人わからないでいるわけだ。 現在の状況は、塔の上にあるという楽園を目指すというこのゲームをクリアする為に、俺達が街で情報収集を した中で古泉が聞いてきた話にハルヒが文字通り食いついたところだ。 「ええ。この世界では海賊が多くて船は出せないそうなんですが、そんな島を見たと言ってる人が居たんです」 俺達は持ち寄った情報を交換していたのだが、ハルヒの興味は古泉が聞いてきた船のような島に釘付けになっている。 「詳しい場所は!」 「残念ながらそこまでは……ですが、船が出せない状況という事ですから見たというのはこの島の近くでしょうね。 北東の島にも街があるそうなので、そこまで行くことができれば詳しい事もわかるかもしれません」 話についていけないみたいで、朝比奈さんはおろおろしている。 「キョン君、つまりここって大海賊時代であってますか?」 いや、それは色んな意味で無いと思います。 ……それはそれで面白そうですが。 さて、そこからのハルヒの行動は早かった。 さっそく町を飛び出し、俺達が追いかけて町を出た時にはすでに近くにあったヤシの木によじ登っているのを見た時は、 正直このまま何も見なかった事にして帰りたくなったぜ。帰れないんだがな。 なんでこいつは高いところが好きなんだ? 俺達の見上げる視線を受けながら船のような島とやらを捜索する事数秒、 「見つけた!あれに間違いないわ!」 発見。ここまで古泉の話が終って1分くらいだったろうか。 お前はいったいどんな視力をしてるんだ。 ヤシの木から飛び降りたハルヒは、さっそく船のような島が見えた場所への道を探し始めた。 塔の扉の先にあったこの島は500メートル四方程度の大きさしかない。 長門が聞いてきた情報によれば、近くに見える島へ行くには洞窟を抜ける必要があるそうだ。 それらしい洞窟は確かにあるが、果たしてその洞窟はどこにつながっているのか? 目的地へと通じているのか? 何てことはまあ些細な問題なんだろうな。 迷いなく洞窟に向かって走り出したハルヒの後姿を、のんびりと追いかける事にした。 「足元に気をつけてくださいね」 先頭を歩く古泉がそう言い終える前に、俺の後ろを歩いていた朝比奈さんがつまづいて俺に寄りかかってくる。 「あっ、ごめんなさい」 いえいえ、お気になさらず。 暗い場所は苦手らしい朝比奈さんは、俺の腕を掴んで歩く事になった。 洞窟は海の下を通っているせいか空気が冷たく、ひんやりとしている。 「ここでもし、海水が漏れてきたりしたら誰も生き残れないでしょうね」 古泉が面白そうに笑えない事を言い出した。 お前、そんな事言うとだな。 「そ、そんな怖い事言わないでください」 ほらみろ、朝比奈さんが脅えてるじゃないか。怖がる朝比奈さんが、さらに力をこめてしがみついてくる事で、 腕に感じられる柔らかな感触については古泉に感謝の念を禁じえないね。 しかし実際には洞窟は海底の堅い地層を掘った物らしく、今にも崩れそうといった感じには見えない。 だからといってのんびりする理由もない。 早く通り抜けましょう……できればハルヒが迷子になる前に。 洞窟に入った時は聞こえていたハルヒの走る音は、どうやらすでに洞窟を抜けてしまったらしくもう聞こえてこない。 ……それにしてもこの世界に来てからのハルヒは楽しそうだ。 今までどんなに望んでも手に入らなかった非日常が、ここではバーゲンセールの用に続いているんだから無理も無いが。 あいつ、この世界から出たくないとか言い出したりして。 俺はそんな不安を感じ出していた。 洞窟を抜けると 「遅い!」 勝手に一人で先に行ったハルヒの第一声がそれだった。 ハルヒの声は怒ってたが、器用な事に顔は顔は笑っている。 噂の島ってのはあったのか? ハルヒはこれ以上ない程に胸を張ってから、自分の後ろに見える小さな島を指差して高らかに叫んだ。 「あれよ!我等がSOS団初の船舶、その名も「みくるちゃん号」!」 「ふえ?」 間の抜けた声で驚く朝比奈さんの名前が付けられたその船舶とやらは、海にぷかぷかと浮かぶ直径7メートル程の島だった。 島の中央には立派なヤシの木があり、それ以外は草地しか無い。 質問は2つだ。 「何よ」 なんで島に朝比奈さんの名前が付けられたのか、もう一つは確かにこの島は浮いてる島らしいがどう見ても船舶には見えな いんだが。 俺の質問を鼻で笑ってから、ハルヒは一人島に飛び乗った。 「いい?見てなさいよ~」 ハルヒが島の中央にあるヤシの木に力を入れると、 おおおお!? なんと、ヤシの木が僅かに傾いた方向へと島が動き始めたではないか! 「涼宮さん凄いです~!」 「これは驚きですね」 速さでいえば自転車くらいの速さだろうか、意外に早いスピードでみくるちゃん号は波を掻き分けて進んでいく。 その後、ハルヒは思い通りに島を操縦してみせてから得意げな顔で戻ってきた。 「どう?みくるちゃん号の性能は」 「素晴らしいです」 頼む古泉、ただでさえ制御不能なハルヒをこれ以上調子にのらせないでくれ――まあ制御できた事など一度としてないんだがな。 原理は不明だけど確かに凄いな……で、なんでみくるちゃん号なんだ? あたりまえでしょ?とでも言いそうな顔で溜息をついてからハルヒが答える。 「い~い、船の名前は古来より女性の名前を付ける事が多いのよ」 それなら、お前や長門でもいいじゃないか。 むしろ、お前の性格なら自分の名前をつけそうなもんだ。 「私の名前じゃ、船が沈んだ時にSOS団の士気が落ちるじゃない」 俺達に士気なんてものがあったのか。 っていうか勝手に人の名前を付けておいて、船が沈むとか不吉な事を言うほうが士気に関わるんじゃないのか? 当然の事ながら俺の発言は聞き入れられる訳もなく、島の名前はみくるちゃん号に決まったようだ。 ――その後、俺達を乗せたみくるちゃん号がハルヒの舵により快適なスピードで大海原を走り出し。ごくごく自然な流れで、地図も 持たずに海に出た無謀な俺達は迷子になったというわけさ。 船旅における航海士と海図の必要性を実体験によって認識できたのは稀有な人生経験と言えなくもないかもしれないが、 その経験を生かす事無くこのまま干からびるなんて事がないように祈ろう。 どうやら朝比奈さんはこれもイベントの一つだと思っているらしく、慌てた様子もなくのんびりと海を眺めている。 真実を伝えて混乱する姿を見てみたい気もしないではないが、今はそんな余裕はないよなぁ。 古泉とハルヒは現在地から見える島と、今までの航路を地面に書いているようだが、地形を覚えようと意識していたわけでは ないのでうろ覚えみたいだ。 最大の問題は、肝心の目的地が最初の街で聞いていた「北東の島」というなんともアバウトな情報だけだという事。 せめて現在位置と北がわかればなんとかなりそうな気もするが、残念ながら空に太陽は高く星は見えない。 かといって北極星が見えるような時間では視界が取れないから、目的地が定まらない現状と変わらずみくるちゃん号を動かす のは無謀だ。 っていうか、その前にこの世界に北極星があるのかすらも疑わしいぜ。 禁じていた溜息を無理に抑え込む元気もない。 長門。 木陰で本を読んでいる長門の横に座って、ハルヒ達に気づかれないように視線を向けないまま小さな声で話しかけてみた。 長門は読んでいた本は広げたまま、俺のほうへわずかに顔を向けてくる。数値にして2センチ程。 長門にしてはオーバーリアクションなのかもしれない長さだな。 GPSとは言わないが、何か地図みたいなものはないか?あと、できれば方位がわかる何かもあるとうれしいんだが。 我ながら他力本願だとは思うが朝比奈さんや古泉は一般人ではないとはいえ、そこまでドラえもん的な能力は持っていない。 というか朝比奈さんにいたっては地図があっても迷子になりかねない。 これは決して個人、もしくは女性差別的な思考ではなくそれこそが朝比奈さんの個性であり魅力なのである。 などと考えている余裕もない。 もう宇宙人に頼み込むしか手はないというのが、手持ちの飲み物をハルヒに全て強奪された上に太陽に照らされ続けた結果、 すでに体内の何%かの貴重な水分を失いつつある俺の結論だ。 「……」 長門はどこからかシャーペンを取り出すと、本の最後の白紙ページに迷い無く地図を書き始めた。 機械的にページの左上から絵を描くというよりもプリントアウトするかのような不自然な動きで――実際、プリントアウトなのかも しれないが――地図はあっさりと完成した。 しかもご丁寧に方位だけでなく街や塔の場所に現在位置まで記入してあるではないか。 ……もしかして、データを解析したらMAPがあったとかか? 長門は小さくうなずき、首元から小さなネックレスを取り出した――ってさっきまでそこにネックレスなんてなかったぞ? 「磁石」 長門に渡されたネックレスの先には小さな細長い金属がついている。磁力を使った健康関係の商品らしく、裏側にはご丁寧に SとNの記入までしてある。 これって今「創った」のか? よく見てみれば、長門の着ていた服の襟の部分が無くなっている。 長門は質量保存の法則をあっさり無視した事を肯定しつつ、長門は何事も無かったかのように読書へと戻った。 最初の街で長門がどこからともなく見つけてきたその本には、俺には読めない単語が並んでいる。 もしかしたらそれは世界中の誰にも読めない文字なのかもしれないが、俺にとって読めない文字である以上それが何語なのか なんてことは俺にとってはどうでもいい事だ。 などという哲学的なようでどうでも言い事を考えている間も、長門は最小動作で読書をするという世界記録を狙っているような 動作で読書を続けている。 それにしても熱心だよな。長門ならバーコードを見ただけで内容も値段も把握しそうなもんなのに。 面白いか? 以前、俺が長門に部室でしたのと同じ質問をしてみる。 あの頃の長門はまだ眼鏡をかけていて、今よりもほんの少しだけ無表情だった。 無表情ランキングなんてものがあるなら1位はぶっちぎりであの頃の長門だろう。 当然2位は今の長門だ。 もしもあの時と同じ返答がくるとしたら、 「ユ」 ユニークか? 長門が答えるのに合わせて、先に言ってみた。 俺はこの対ヒューマノイドインターフェイス?とやらがいったいどんな反応が返ってくるかと期待したのだが、長門は小さくうなずく だけだった。 まあ長門らしいといえばそうかもしれない。 ――その後、俺はMAPと磁石をハルヒに渡し(さっさと出しなさいよ!と理不尽に怒られた)みくるちゃん号は一路、北東の町 へと進み始めた。 「海底の城に空気の実……あの!キョン君やっぱりここって大海賊時代なんじゃ」 俺の服の袖をひっぱりながら、わくわくした顔で聞いてくる朝比奈さんには申し訳ないが、 それは無いです、きっと。 著作権的な意味でも無いはずです。 「あう……そっか、大海賊時代だったらエアエアの実とかですよね」 叱られた子犬のような顔も素敵ですよ。 そういえばこの人は未来人だったな、あの漫画の結末もやはり禁則事項なんだろうか?もしくはまだ連載中なんだろうか。 いつものように情報収集を終えた俺達は、一度みくるちゃん号に戻りこれから先の目的地を決めている最中だ。 青龍ってのは多分ボスだよな、最初のボスが玄武だったし。 「おそらくそうでしょう、つまり他にも朱雀と白虎がいる。という事になりますね」 俺と古泉はゲームでのパターンからこの先の展開を予想していた、ここまでの展開から想像する限りは鬱展開には進みそうに ないのはありがたい。 塔を昇っていき、途中の世界をクリアする事で先に進めるようになり最上階にラスボスが居るってところだろうか。 「あんた達、さっきからなんでそんな事がわかるの?」 俺達の会話を聞いて不思議そうな顔でハルヒが聞いてくる。 パソコンの時といい、ハルヒはインドア関係には疎いようだな。 玄武、青龍、白虎、朱雀ってのはゲームではありがちな名前なんだよ。四字熟語みたいなもんでセットで使われる名前さ。 「へ~たまには役に立つじゃない」 たまに、は事実だが余計だ。 「今の情報から言えるのは、南の小屋に住む老人から情報を集めて空気の実を手に入れる。その後、海底の城で青龍と戦って クリスタルを手に入れる……といったところでしょうか」 古泉もなんだかんだで楽しそうだな。 竜王ってのもどこかにいるんだろうな、多分それは途中でわかるんだろう。 最初の世界もそうだったが、基本的なRPGで助かった。 「決まりね、じゃあさっそく南の老人に会いに行きましょう!」 操船は古泉に代わり、ハルヒはみくるちゃん号の先に立って地図を見ている。 当然、浮き島に手すりなどという物があるはずもないのにだ。 そんなとこに立ってると海に落ちるぞ? と言ってやるべきなのかも知れないが、ハルヒが海に落ちたところであっさり這い上がってくる姿が容易に想像できるので、俺は 何も言わない事にした。 これが朝比奈さんなら別だし、長門ならそれ以前にハルヒとは別の意味で心配する事も無い。 「あんた、なんか失礼な事考えてない?」 突然振り向いたハルヒが俺に向かって問い詰めるように聞いてくる。 別に何も。 超能力者かお前は? もう間に合ってるぞ。 半眼で睨んでくるハルヒは、そうする事で相手の心が読めるかのように俺をじっと見ている。 なんだか本当に思考を読まれているんじゃないのか?と思い始めた所で、 「キョン君キョン君、古泉君が呼んでますよ」 古泉に呼ばれたというオフィシャルな理由により、俺はハルヒの追求から逃げる事に成功した。 「これは異常事態かもしれませんよ」 俺の顔を見て古泉はいきなりそんな事を言い出した。 ゲームに閉じ込められてから一度でも異常事態じゃない時があったのか、初耳だな。 「いえ、そうではなく今の涼宮さんについてです」 ハルヒが? ハルヒは相変わらずみくるちゃん号の先頭で地図と海とを見比べている。 別に普通だと思うが。 俺には普通にいつもの暴君にしか見えないぞ。 「そうなんです」 古泉は正解です、とでもいいたげにウインクしてみせる。 やめろ気持ち悪い、朝比奈さんならともかくお前にそんな事されたくはない。 「普通なんですよ、あの涼宮さんがいるのに」 何を言ってるんだ……それはいい事なんじゃないのか? 俺が不思議そうな顔をしているのを見て、古泉は楽しそうに微笑んでいる。ええい気色悪い。 わかるように説明しろ。 「涼宮さんは最初の世界で、自分にも僕や長門さんのような超常的な力が欲しいと願っていました……が、それは叶わないでいる。 海で遭難した時も助かったのは貴方のおかげです、戦闘でも物理法則が乱れてしまう様な事も今のところありません」 まあ俺の盾はどう考えてもチートだけどな。 俺としては終わりかと思ったゲームが続いていたり、この浮き島の存在その物がハルヒの想像だと思ってるんだがな。 終わらない夏休みみたいな事になってなければいいんだが。 「ゲームが続いていたのについては長門さんに聞いたところ仕様だそうです、全部で5つの世界があるようですよ。それにこの浮島 については僕が話すまでハルヒの知識には無かったはずです」 確かに浮き島の話を聞いた時のハルヒは、聞いたことがあるって感じじゃなかったな。 ……そうだとしてそれが何故、異常事態なんだ?今までだって何もかもがあいつの望んだ通りになってた訳じゃないし、たまたま 不調なだけかもしれないだろ? 「その可能性も否定できません。ですが前にもお話したようにこの世界には神人の気配が無い、そしてこの世界は一つの物語と して成り立っているのに涼宮さんの知識にはない出来事ばかりが起きている」 わざと難しく説明しているとしか思えないな。 結論から言え。 「まだそこまでは」 いつもの営業スマイルで古泉はごまかす。 「ですが、何かわかった時には貴方へ最初にお伝えします。必ず」 できれば伝える前に解決して、事後報告って事にしてもらいたいもんだ。面倒な内容なら秘密裏に処理してもらえたらなおいい。 俺みたいな一般人にできる事なんて限られているって事をそろそろ理解してくれ。 「見えたわ!あれが老人の住む島じゃない?」 ハルヒが指差す方を見ると、米粒ほどの大きさの島が見えた。 目を細めて見ていると、近づくにつれて島に建つ小さな小屋が見えてくる。 本当にどんな視力をしてるんだよ、お前。 「凄い……凄い綺麗です……」 「本当、これは凄いわね」 島の外周は風を避ける為らしくヤシの木が綺麗に並んでいたが、その向こう側には一面の向日葵の花が広がっていた。 「まさに壮観ですね」 爽やかな向日葵畑を歩く羽つきバニーガール姿の朝比奈さんは、どう考えても違和感があるはずの取り合わせの はずなのにとても絵になっていた。 製作者さんよ、画面保存機能のショートカットは何キーなんだ? 向日葵は全て太陽に向かって顔を向けている……と思ったらそうでもないんだな。 全て同じ方向を向いていたが、それは太陽とは違う方向だった。何かのヒントとかかもしれないな。 綺麗に区画分けされた向日葵の先は少し高くなっていて、小さな小屋が見える。 朝比奈さんが景色に感激しながらゆっくりと歩くペースにあわせて、俺達はその小屋へと向かった。 「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」 ハルヒが家の扉を叩いてしばらく待ってみると、中から小さな老人が出てきた。 真っ白い髪の毛と髭が繋がってしまっていて、お揃いのような白い着物のような服を着ている。 老人は俺達をぐるりと見回した後、 「空気の実は真ん中のヤシの木になっている」 退屈そうにそれだけ言って小屋に戻っていってしまった。 初対面で自分の目的にとって有意義な他人には極端に愛想のいいハルヒも、これでは愛想を振りまく出番すら無い。 「なんなの?」 怒るタイミングを逃してしまったのかハルヒは怪訝な顔をしている。 「人嫌い……なんですかね」 流石の古泉もこの対応には困ったようだ。 まあ情報は手に入ったんだし、いいとするかな? 俺達がみくるちゃん号へと戻ろうとすると、 「あ、あの!私、おじいさんと少しお話してきてもいいですか?」 何故か朝比奈さんが立ち止まりそんな事を言い出した。 普段は自分から何かしようとしない人だけに、ハルヒも驚いた顔をしている。 「え、う~ん。そうね、時間をかければ何か聞きだせるかもしれないし……みくるちゃんの色気に期待するわ。 みくるちゃん一人じゃ不安だし古泉君、一緒に残ってあげて。私とキョンと有希で空気の実を捜してくるから」 長門と古泉はお前の指示通り行動するだろうが、俺の意見は聞くまでも無いのかよ。残すなら俺にしてください。 「わかりました、それではここで待ってますね」 あっさり承諾して古泉は朝比奈さんの隣に立つ。 古泉、朝比奈さんに変な事するなよ? とハルヒのように釘を刺したい所だが、朝比奈さんの恋人でもない俺が言うのは どうかと思うので古泉を睨むだけにしておく。 「大丈夫ですよ、お早いお帰りを」 俺の視線の意味がわかっているのかわかってないのか、古泉はいつもの笑顔で手を振っていた。 みくるちゃん号に戻った俺達はさっそく地図を広げた。 「真ん中のヤシの木ってのには心当たりがあるの、ほらここ」 ハルヒが指差す場所には小さな島があり、その中央にはヤシの木が描かれていた。 「ここだけなのよ、こんな印があるのは」 確かにそれっぽいな、というかわざとわかるように長門が書いておいたのかもしれんが。 妙に可愛いデザインのヤシの木の絵を見た後に、それを描いた長門へ視線を送ってみる。 しかし、すでに定位置で読書に戻っていた長門の表情からは、何一つ考えを読み取る事はできなかった。 いつもの事だけどな。 「じゃああたしが指示するから、キョンあんたは船を動かして。有希は敵が来ないか警戒。いい?」 僅かにうなずいて長門は開いたばかりの本を閉じて立ち上がると、さっそく周りをきょろきょろと見回し始めた。 「有希もやる気ね!じゃあしゅっぱーつ!」 さっそく規則的に辺りを見回す長門が、俺にはイージス艦のレーダーに見える。 実際、索敵範囲はイージス艦級かもしれんが。 言われるままにヤシの木に力を入れて、みくるちゃん号は再び大海原へと進み始めた 「まずは北北西に進んで、指示があるまでずっとよ」 へいへい。 長門のペンダントを木の板に乗せ、地面に掘った穴に海水を満たした上にそれを浮かべただけのお手製簡易方位磁石を 見ながら、俺はなんとなく北北西であろう方向へヤシの木を押す方向を変えた。 快適なスピードでみくるちゃん号は進んでいき、振り返って見ると朝比奈さんと古泉を残した島はどんどん小さくなっていく。 そういえば、朝比奈さんは何故残ると言い出したんだろう? 向日葵の種を分けてください~などという、朝比奈さんらしいファンシーな理由だろうか? それならその場で言えばいいんだろうし、わざわざ残る必要なんてない。 そもそもゲームの登場人物にそんな質問に答える知識はないだろうし、何を聞いても「空気の実は真ん中のヤシの木に なっている」と答える気がするな。 視線を前に戻すと周囲を見回している宇宙人の姿が目に入る。 長門。 こいつはこいつであれからずっと、健気にレーダーとしての任務を忠実に繰り返している。 疲れたら休んでもいいぞ。 俺がそう話しかけても左右を規則的に見回し続け。 「大丈夫」 そう答える一瞬止まっただけで、また索敵に戻ったようだ。 そっか。 朝比奈さん一人居ないだけで、みくるちゃん号は一気に味気なく感じるから不思議だな。 ヤシの木までどことなく寂しそうにすら見える。 まったく、彼女の存在がいかに大きい物かを再認識させられてしまうね。 「あれね」 地図を畳みながらハルヒがそう言った時、俺にも一本だけ長いヤシの木が立つ小さな島が見えてきた。 この辺りには小さな島がやたらと多いので普通に探したら大変だっただろう、どうやらハルヒのナビは優秀だったようだ。 そろそろ島に接岸するところになって、 「私一人でよさそうね……船を止めて待ってて。取ってくるから」 そう言い残しハルヒはまるで新大陸を発見したコロンブスのように一人で島に乗り込んでいった。 まあ、コロンブスなんて名前しか覚えてないがなんとなく、だ。勢いよく走り出したって事が伝わればそれでいい。 等とどうでもいい事を考えているうちに、ハルヒは木の根元に辿り着いた。 そのままさっきみたいに木登りを始めるかと思ったが、一旦立ち止まる。 遠くから見た時にはわからなかったが、木の太さはハルヒの体よりも一回り近く太いようだ。 上の方は細くはなっているが、いくらハルヒでもこれは道具無しじゃ無理だろう。 長門、船を見ててくれ。 うなずく長門を残して、俺も島にあがった。 「あ、キョン。ちょ~どいいところに」 俺の気配に気づいたハルヒが嫌に微笑んでいる。……肩車で届く距離とも思えないがどうするつもりだ? これは道具がいるな。 俺も真下に立って見上げてみたが、木の高さは低く見積もっても軽く10メートル以上はあるように見える。 「そうね」 意外にもハルヒはあっさりうなずくではないか? 表情にこそ出さなかったが俺は驚いていた。 こいつなら「そんな回り道してる時間はないわ!キョン、気合で取ってきなさい!」とでも言いそうな気がしていたんだが。 もしかして古泉が言っていた異常事態っていうのは、ハルヒが一般人化しているということなのか? 大歓迎だぞ? 「キョン、ちょっと木の真下で木の方を向いて立ってて」 ハルヒはそれだけ言って木から離れていく、俺の身長で高さを計るのか? 俺の身長は知ってるか? まあ、多少の誤差はどうでもいいんだろうけど。 「大丈夫よ、じゃあ行くわね」 はいはい、別に計るのに合図はいらないと思うんだが。 嫌な予感を感じる時間すらない。 俺の腰に突然かかった衝撃と荷重に崩れる間もなく、続いて俺の肩を踏みつけてハルヒは一気にヤシの木の上部に 飛び上がった。 頭上で、ガスッ! という音を聞いて肩をさすりつつ見上げると 「見るな!」 上空から降ってきたハルヒの靴が俺の視界を塞いだ。 顔を塞ぐ前に見えた物については不可抗力だ! 決して意図して見上げたわけではない! っていうか事前に説明しろよ! それとお前がスカートで木に登ったりするからいけないんだ! 朝比奈さんがここに居ない事に俺は少しだけ感謝した。 ……結果的に偶然視界に入っただけとはいえ、多少の罪悪感もある。 俺は間違ってもハルヒが視界に入らないように注意しつつ、念の為ヤシの木から靴を投げても届かないくらいに離れてから 振り向いた。 ヤシの木に突きたてたレイピアにハルヒはぶら下がって足だけで靴を脱いでいた、そのまま靴下も脱ぎ終えると器用に レイピアから幹に移動してするすると登っていく。 この島の原住民でもそこまで器用じゃないと思うぞ? ここは無人島っぽいが。 「キョン! これ!」 一番上まで登りきったハルヒが、何か果実のような物を投げてきた。 足元に落ちたそれは不思議な形の木の実で、皮はとても堅くこのままではとても食用にはできそうもない。 「空気の実ってそれかな?ちょっと試してみてー」 わかった! 確か空気の実なら海水に浸せば酸素を出すんだよな?とりあえず俺はみくるちゃん号に戻ることにした。 戻ってみるとあいかわらず長門はみくるちゃん号の上で一人ぽつんと立って、左右を見回しながら索敵中だった。 俺が視界に入っても何の反応もない。もしかしたら近づく前に索敵されていたのかもしれない。 疲れないか? なんとなく返答は予想できるんだが聞いてみると、 「大丈夫」 こいつは言われたら断わる事を知らないからな。 本を読んでいてもいいんだぞ? 提案してみたらどうなるんだろうか? そう思って言ってみたのだが……。 長門は一旦止まると木の根元に置いていた本を拾い、今度は本を読みながら左右に体を振り始めた。 よけい疲れないか? 「大丈夫」 本を見ていたら警戒にならない気がするが、まあいい。 ハルヒを木の上に残してきた事を思い出した俺は、さっそく例の実を海水に浸してみた。 それはもう泡が出るとかそんなレベルではない、海面を押し下げる程の勢いで実から空気が噴出しているようだった。 まるで抵抗はないくせに風船を水中に無理やり入れているみたいに海面が凹んでいる、何せ実を持つ手が濡れていない。 あきらかに物理法則を無視している気がしなくもないが、長門に聞いても俺が理解できるようには説明してもらえないだろうから 聞くまでもないだろう。 俺にわかるのはこれが空気の実に間違いないって事と、早く戻らないとハルヒが怒り出すって事だけだ。 ――念の為、ありったけの空気の実を収穫した俺達はさっそく老人の島に戻った。 船を操縦していると老人の島の上で手を振る朝比奈さんの姿が見えてきた。 隣に立つにやけ顔の古泉も見えてきたがそれはどうでもいい。 「おかえりなさい!どうでした?」 「ふふ~ん、これよ!」 ハルヒは自慢げに空気の実の小山を見せびらかす。 「これで海底の城に行く準備はできましたね」 古泉とハルヒはさっそく地図の上で海底の城がありそうな場所を探しはじめた。 それなら長門に聞けばいい……とは流石に言えない。が、もし見つかりそうになかったらこっそり聞くことにしよう。 そんな事よりもだ。 朝比奈さん。 「はい、なんですか?」 空気の実を手にとって、まじまじと見ている朝比奈さんにこっそり聞いてみる事にした。 あの老人に用って、いったい何だったんですか? 軽く聞いたつもりだったのだが、意外にも朝比奈さんは表情を曇らせてしまった。 突然の事にフォローする言葉を考えてみたが思いつかないでいると、 「キョン君には伝えておいた方がいいのかも……。あの、涼宮さんには内緒にしてくださいね?」 手で口元を隠しながら朝比奈さんが寄ってくる。 背伸びしても俺の耳までは届かないようなので少ししゃがむと、朝比奈さんは小さな声で 「あの……この世界ってゲームじゃなくて、本当に存在する別の世界みたいなんです」 ……驚くべきなんだろうな、ここは。 「その、急にこんなこと言われても困っちゃうでしょうけど……本当なんです」 深刻そうな顔でそう続ける朝比奈さん。 うわ~そうだったんですか! 驚きですね! とでも言うべきなのかもしれないが、嘘はいつかばれるものだろう。 朝比奈さんなら騙しとおせる気もしなくはないが、つかなくていい嘘はつくべきではない。多分。 先に言いますね、ごめんなさい。 「え?」 最初の白い場所に来た時に気づいてました。 鳩が豆鉄砲をくらった顔ってのは多分こんな感じなんだろう。 朝比奈さん、ぽかーんと口を開けたまま固まっているその顔も可愛いですよ? 作戦会議の結果、地図の配置からすると現在地の北西には重要な物がないので怪しいという結論に至ったらしい。 長門にこれは正解のルートなのか? と、そっと視線を送ってみたが特に反応は無かった。 「それじゃあ海底城目指して出発!」 ハルヒのいつもの号令でみくるちゃん号は大海原を進み出した。 目的の海域まではさっきの真ん中のヤシの木に移動した距離の2倍程、時間で言えば10分程で到着するはずだ。 それにしても本当にどうやって動いてるんだろうな、この島。長門なら普通に知っていそうだな、後で聞いてみよう。 ハルヒの指示で古泉が操船、長門がまた警戒に指名されたので 警戒は俺が変わるよ、ずっとじゃ大変だろうし。 と、立候補した。イージス艦から一般人まで警戒レベルは落ちるが、こんな小さな島を狙って何か来るとは思えないしな。 「じゃあキョンでいいわ。さぼらないで見張ってなさい」 へいへい。 船の先頭はハルヒの定位置になっているから俺は後方を見ていればいいだろう、俺は島の最後尾に座ってのんびり と海を眺める事にした。 忙しい毎日を過ごしているとのんびり海でも眺めていたくなるって言うが、あれは日常に戻れる保障がある時にしか 当てはまらないもんだな。 現実世界に戻れるかどうかわからない今の俺には、海を見て癒されるだけの精神的余裕は無いらしい。 「キョン君」 みくるちゃん号の動く音で気がつかなかったが、俺の隣に朝比奈さんが来ていた。 朝比奈さんはいつもの笑顔でそっと俺の隣に座る。 こっそりとこの世界の秘密を教えてくれた後、すでに俺がその事を知っていたのを聞いてしばらくの間怒った顔をして いたのだが、どうやらご機嫌は治ったらしい。 いつも優しい朝比奈さんの怒った顔というのは中々見られるものではなく、こっそりと脳内に焼き付けておいたのは秘密だ。 すみませんでした、ずっと黙っていて。 「いえ、いいんです。もしも最初に聞いてたら私パニックになっちゃっただろうから」 確かに。 そのままハルヒにもバレてしまったらどうなっていたかと思うと……。 実際どうなったんだろうな? 思い出したくも無いが、あの時と同じならば異世界に放り込まれたハルヒはやはり大人しくなるのだろうか? まあ、リスクが大きすぎて試してみる気にはなれないが。 ハルヒだけはまだ気づいてないみたいです。あいつに気づかれるとどうなってしまうか誰にもわからないですから、秘密に しておきましょう。 「わかりました」 あ、そういえば。どうして気づいたんですか?これがゲームじゃないって事に。 「あのお爺さんの時間軸が……えっと禁則事項に関わるので詳しくは言えないですけど、あのお爺さんは私達と同じだったんです」 爺さんが俺達と同じ? 朝比奈さんは真剣な表情でうなずく。 「お爺さんも違う世界、それが私達の居た世界とは違うかもしれませんが、少なくともこのゲームの世界の存在ではなかったんです。 他の町の人やモンスターは時間の流れが無いデータ上の存在でした。でもお爺さんにはちゃんと時間の流れが存在していたんです」 なんというか未来人らしい判断理由だな。 えっと、つまりあの爺さんは俺達みたいにこの世界に迷い込んでしまっている……って事ですか? 「はい。TPDDの反応が……っとその」 朝比奈さんが不自然に話を止めるってことは、 禁則事項なんですね? 「はい、すみません」 大体わかりましたから大丈夫ですよ。 っていうかそもそも、大体わかってしまう事自体は問題じゃないんだろうか? もしかしたら、他にもこの世界に迷い込んでいる人が居るのかもしれませんね。 それが事実だったら大変だな。 俺達はハルヒの暴走で不思議体験に巻き込まれる事に慣れてしまっているからいいが、普通の人がこんな世界に取り残され たら発狂するんじゃないか? 「あ、いけない……あんまり一緒に居ちゃダメなんでした!」 朝比奈さんは慌てて立ち上がりハルヒの様子を伺っている。 どうやら目的地探しに一生懸命でこちらには気づいていないみたいだ。 あの、何があるんですか? 「え?」 何度か朝比奈さんに言われてますけど、俺と朝比奈さんが一緒に居ると何か起こるんですか? 貴女にはまだ言ってませんが、大きい朝比奈さんにも何度か同じ事を言われてるんです。 俺とハルヒをしばらく見比べてから朝比奈さんはにっこり笑って、 「隠し事してた人には内緒です」 と言いながら離れて行ってしまった。 ……大きい朝比奈さんも秘密にしてるって事は、もしかして永久に秘密ってことなのか? ん、なんか速度が上がったような気がする。 一定の速さで進んでいたみくるちゃん号だが、少しずつだが速度が上がっているような気がする。 そんな急がなくてももうすぐ目的地に着く頃だと思うんだが。 古泉、スピードを落とせ。 あいつが海に落ちる事はないだろうが、これ以上あいつのテンションがあがるのは困る。 「……そうしているつもりなんですが……すみません、手を貸してください」 珍しく真剣な声で話す古泉に驚いて振り向いてみると、古泉は進行方向とは反対にヤシの木を倒していた。 それなのにみくるちゃん号は意図せぬ方向にますます加速して進んでいく。 急いで立ち上がり俺もヤシの木に力を加えたが、島は減速するどころかどんどん加速していく。 何だ? 舵が壊れてしまったのか? 「みなさん、この木に捕まってください!」 古泉が叫んだ時、俺達がどこに向かっているのかがようやくわかった。 進行方向に見える大きな渦に向かってみくるちゃん号はどんどん引き寄せられていっている。どうする?長門に頼んでみるか? そう考えてみたが長門もヤシの木を掴んでいた、片手は本を開いたままだったが。 こいつが冷静って事は危険はない……そうだよな? な? 恐怖のあまり震えている朝比奈さんを抱きしめるハルヒ、ヤシの木を倒し最後の抵抗を試みる俺と古泉。 ヤシの木に片手を触れただけの長門を乗せたみくるちゃん号は大きな渦の中を回りながら加速していく。 渦の外周を勢いよく回りだした中で何故かのんびりと本のページをめくる長門の姿が見えた気がした。 いよいよ渦の中心に飲み込まれようとした時、俺達に降りかかろうとする海水の壁は……。 ――いつまで経っても一定の距離から近寄る事無く、みくるちゃん号は巨大な泡に包まれたまま海底に沈んでいった。 「……わ……わー! 凄い! 凄い! 凄いです!」 その光景に最初に歓声をあげたのは、一番怖がっていた朝比奈さんだった。 ハルヒと古泉は幻想的な海中の風景に言葉をなくしたまま立っている。長門は相変わらず読書中だ。 俺? 俺はあれだ。ヤシの木にもたれて休憩中だ。決して腰が抜けて立てないわけじゃないぞ? 巨大な空気の泡に包まれたみくるちゃん号は、ゆっくりと海底目指して沈み続けている。 遥か上空、いや海上には太陽に照らされた海面が薄っすらと見えていて、さっきまでの渦の恐怖がまるで夢だったかのようだ。 ハルヒも今は島の中央に立っている、ここで落ちたりしたら戻る事はできそうにないのは自覚しているらしい。 俺もようやく立ち上がり、今更だが海中観察に参加する事にした。 海面からの光は徐々に弱くなり、遠くの方は暗く見えずらくなっている。 その間もゆっくりと沈み続けていたみくるちゃん号だが、そのスピードはどんどん遅くなっていきついには殆ど止まってしまった。 「あ、あれ?どうしたんでしょう?」 「変ね、さっきまではちゃんと沈んでたのに」 僅かな間だが、一瞬完全にみくるちゃん号が止まってしまった。 何かをめくる音がして、その後何事もなかったのように再び沈み始める。 一斉に俺達が振り向いてみると、長門がさっきまでと同じようにヤシの木の根元に座って本を読んでいる。 いつもと違ったのは、長門の片手は常にヤシの木に添えられていて、本をめくるときだけヤシの木から離していた。 長門の手が木から離れるたび、みくるちゃん号は僅かに揺れて沈む速度を落としている。 木に触れている間だけ沈むって事なのか? 試しに俺も木に触ってみたが、特に速度に変化はなかった。 「違うようですね、何か特別な条件があるんでしょうか」 「有希じゃないとダメなのかな?」 長門は別に特別な事をしているようには見えないんだけどな。 もしも長門が船を潜行させてくれているのなら、ここで停止する意味がわからない。もしかして何かイベントが起こるとかなのか? 直接聞くわけにもいかないのでじっと長門の様子を伺ってみたが、片手で不自由そうに読書を続けているようにしか 見えなかった。 誰かが服をひっぱる感覚に振り向くと、朝比奈さんが白い顔で俺の服を掴んでいた。 「どうしました?」 ぱくぱくと口を動かしながら震える指で朝比奈さんが指差す先には、 ……うそだろ? そこには信じられないほどに巨大な魚がこちらに向かって泳いでくるのが見えていた。 遠近法ってやつで大きく見えるだけだと思いたいが、残念ながら俺の頭脳はそこまで楽観的にはできていないらしい。 例えるとしたら、滑走路に立っていたら1k程先から飛行機がこちらに向かって加速してくるのが見えた、そんな感じだ。 たまたま進行方向がこっちに向いている、と考えてしまいたいがそうではないだろう。 まだかなりの距離があるにもかかわらず魚の姿は異様な程大きく見える。 実際のサイズをどんなに過小評価しても、みくるちゃん号など俺達ごと一口で飲み込まれてしまうに違いない。 鯨かな……鯨にしては縦に細長いよなって魚の種類はどうでもいいっ! とにかく逃げないと俺達は餌として食べられるの だけは確かだ。 急いで海上と同じようにヤシの木を倒してみると、海の中をふわふわと進み始めた。 「古泉君、迎撃してみて!」 ハルヒは古泉と代わってヤシの木を押しながら指示を出す、朝比奈さんと長門――本を読みながら――も一緒になって 押しているが魚が迫る速度には到底及ばない。 ぎりぎりで避けようにも速度が全然足りないぞ? 「……だめみたいですね」 古泉の赤い玉は魚に向かって正確に飛んで行ったが、特に変化は無くダメージを与えられたようには見えない。 俺達の中で古泉以外に遠距離で戦えるのは朝比奈さんくらいだが、古泉の赤い玉程の威力はないし海中で弓は殆ど意味が ないだろう。 だからといって接近戦ができる相手じゃないぞ? どうみても。 「どど、どうしましょう?」 やはり朝比奈さんには期待してはいけないようだな。 すがりついて聞かれると男らしく答えたい所なんですが、どうしたらいいかはむしろ俺が聞きたいです。 みくるちゃん号の移動速度は海中ではそれ程出ないようだ、まさか巨大な魚に食べられるのもストーリーの内なのか? ピノキオみたいな展開なのか? 間違ったら確実にゲームオーバーだぞ? 断言しよう、今ほどゲームの攻略サイトを見たいと願った事はない。 「なんとか目くらましをしてみます!」 古泉が両手を上に伸ばして赤い玉を作り出す。 それは見ている間に古泉の頭上でどんどん巨大化していき、みくるちゃん号を包む泡よりも大きく膨らんだ所で止まった。 古泉がそっと手を前に降ろすと、玉はそれに従い魚の進路を塞ぐ位置で静止する。 そいつをぶつけるのか? 「それで倒せるのでしたらそうしたいところですが……残念ながら巨大化させても威力は変わりませんし、こうすると殆ど操作 できないんです。ですから僕には魚の視界を塞ぐ事しかできません。ですがそうしたところでこのままでは」 玉ごと俺達も一緒に食べられたらそれまで。 「その通りです。僕は玉を維持しなくてはいけません、皆さんでなんとか逃げる方法を考えてください」 古泉の表情は一見いつもの営業スマイルなのだが、そこにいつもの余裕がないのが感じられてしまった自分が嫌だ。 「わかったわ、任せておいて!」 ハルヒが満面の笑顔で自分の胸を叩く。 魚がここまで来るのにそんなに時間は無いぞ? 無駄に自信いっぱいで請け負っているが何か考えがあるのか? どうするつもりだ? ハルヒはヤシの木の根元、長門の隣に積まれた空気の実を一つ手に取った。 「この空気の実が多過ぎるから沈む速度が遅いと思うの、だからあの魚が迫ってきた所でこの実を捨てちゃえば みくるちゃん号は一気に沈んで逃げられると思わない?」 なるほど、確かに効果はありそうだな。でもな? それで助かったとして、今より浮力を減らしてどうやって海上に戻るんだ? 「それはそれよ、いざとなれば泳げばいいじゃない。いい? 緊急事態では現状を生き残るのが最優先なの! 緊急避難なら 自分の命を守るって名目だけあればどんな罪でも許されるの! 後悔は後で悔やむから後悔なの! 助かった後の事は 助かった後に考えればいいのよ!」 わかったようでわからない説明だ。ハルヒはといえば早く自分のアイデアを試したいのか、うずうずしている。 しかし他に何かいいアイデアがあるわけでもないな。 わかった、タイミングが勝負だぞ? 「それは任せて、このあたしが最高のタイミングを指示してあげるわ!」 俺と朝比奈さん、今回ばかりは読書をやめて手伝う長門の3人は両手いっぱいに空気の実を抱えてハルヒの合図を待った。 念の為に残した空気の実は5つ。最悪の場合には一つずつ持って海に逃げる為だ。 「だ、大丈夫ですよね?うまくいきますよね?」 不安で脅える朝比奈さんの手は震えている。 大丈夫ですよ、なんとかなりますよ。 何の力も無い一般高校生の俺には、不祥事が発覚した政治家の参考人招致の如く適当な事しか言えない。 が、それで朝比奈さんの不安が僅かでも解消されるのであればいくらでも適当な事を言い続けよう。 長門はいつものように無表情だった。 何か緊張をほぐすような事を言おうかと思ったが、思いつかないしそれ以前に緊張していないだろうから必要も無い だろうな。 「みんな構えて!」 いよいよ時間もないらしい、空気の実を持つ手が汗ばむのがわかる。 迫ってきた巨大な魚は、すでに古泉の巨大な赤い玉よりも大きくなっていた。 空気の実を投げてすぐに効果が出るかはわからない、ここはハルヒの悪運にかけるしかないな。 俺達の視線を一身に受け続けているハルヒが、 「今よ!」 自分も空気の実を投げながら叫んだ。ハルヒの声にあわせて俺達も空気の実を海中へと投げる。 海水に穴を開けるように空気の実が進んでいくと、みくるちゃん号を包む泡が目に見えて小さくなった。 「嘘」 ……嘘だろ? 「そんな」 「……」 最後の沈黙は長門。 変化はただそれだけだった。 島を包む泡が小さくなっただけで、浮島は下降することなく海中で静止している。 流石の古泉も青い表情でこちらを振り向いて固まっていた。時間が無いのを思い出したのか、古泉が再び両手を 赤い玉へと向ける。 「ふんもっふ!」 気合を込めて両手を突き出す古泉に押されるように、巨大な赤い玉は魚に向かって進んでいく……が、その速度は あまりに遅くてとても巨大な魚を退治する様な効果があるとは思えない。 このまま玉ごと俺達は飲み込まれておしまい……そんなバットエンドが頭をよぎる。 神様! もう二度とバットエンドのCG回収なんてしません! などという悠長な事をしている場合じゃない、神様よりも長門様だ! 長門はどうしてる? SOS団の秘密兵器は空気の実を投げた体勢のまま、無表情で立っていた。 嘘だろ? こいつにも予想外の事態だとでもいうのか? 魚がいよいよ目前に迫り、その巨大な口を開いた時 「きゃー!」 みくるちゃん号はまるで生きているかのように急速に下降を始めた! 間一髪ってのはこの事だろう。 ぎりぎりの所で回避は間に合い、みくるちゃん号は魚の通り過ぎる勢いで多少島は揺れたもののそのまま急速に 沈み続けていく。 獲物を食べ損ねた魚はすぐに旋回してこちらに向かってこようとしたが、 「どうやら……助かったようですね」 みたいだな。 魚は潜行できずにどんどん海上へと浮き上がっていっている。 よく見ると俺達が投げた空気の実をいくつか飲み込んでしまったのか、腹部が異常に膨れあがっていた。 全部偶然か? それともイベントだったのか? 「よかった……私たち助かったんですね」 半泣き、というか本気で泣いている朝比奈さんがしがみついていたヤシの木からよろよろと立ち上がった。 その途端にみくるちゃん号の下降が止まる。 「え? え?」 あまりのタイミングのよさにみんなの視線が朝比奈さんに集まる。 「わ、私何もしてないです。怖くてヤシの木にしがみついてただけで……」 「みくるちゃんそれよ!」 ハルヒがいつもの元気を取り戻して朝比奈さんを指差した、というかつきつけた。 思わず悲鳴をあげて、朝比奈さんの視線がつきつけられた指に集まり寄り目になる。 「ヤシの木を掴んで下にひっぱればよかったのよ!」 ハルヒは俺達をかきわけてヤシの木に近づくと、木の幹を掴んで下に引っ張るようにしゃがみこんだ。 その動きに合わせるようにみくるちゃん号は下降を始める。 「なるほど!長門さんが手を添えて読書をしていた時も腕の重さで僅かですか加重がかかっていたから、島は沈み続けて いたという事ですね」 俺が試した時は木に触っただけだからダメだったって事か。 「ナイスよ、みくるちゃん! 船に貴女の名前を付けて大正解だったわ!」 「え……あ、そんな」 ハルヒと古泉の説明を聞いてもいまいちわからなかったようで、朝比奈さんは表情に疑問符を混ぜたまま微笑んでいる。 「ただいまをもってみくるちゃんをSOS団、団員から団長補佐に大抜擢するわ! 2階級特進よ! これは栄誉な事よ? 町内や親戚中だけでなく末代まで語り継がれるに違いないんだからね?」 お前の補佐が昇進って新手のいじめかよ、2階級って事は団長補佐は副団長より上もしくはそれ以外の階級がある事に なるのか? ……まあ突っ込むのはやめておこう、なんだか面倒ごとが増える気がする。 あ、朝比奈さんの末代となるといったい何十年先の話になるんだろうな。 一人で盛り上がるハルヒと困った顔の朝比奈さん、適当に相槌を打つ古泉……。 そんないつもの光景の中で、やはりいつものように問題点に気づくのは俺の役目だったらしい。 それは長門の事だ。 さっきの渦といい今回の魚といい、本当に危険だったのにも関わらず長門は何もしないでいた。 ハルヒの観察が目的だとは聞いているが、こいつは本当の意味での危機にはいつも人外の活躍をあっさりやってのけて くれてきた。 そのおかげで俺の心臓は土に還る事無く今も体内に血液を送り続けてくれている。 でも今の長門はいつものような読書好きの最終兵器って感じじゃない気がするんだが……。 なあ長門。 いつの間にか定位置で読書に戻っていた長門が、俺に僅かだが顔を向ける。そんな仕草はいつも通りなのだが違和感は 消えない。 もしかして、今のお前はいつもみたいに何もかも全部わかっている……ってわけじゃないのか? 「……」 質問の意味がわからないのか、長門は何も答えない。 その、いつもの長門にはどんな異常事態が起きても対処できるって感じの自信があるような気がしてたんだが。 あまりにも無責任な押し付け的発言にしか聞こえないだろう、俺もそう思う。 捨て猫を拾ってしまったとか、テスト前に筆記具を忘れたのに気づいたとか、同じクラスの誰それが好きになってしまった~とか そんな感じの普通の相談であれば俺を頼りにしてもらっても構わない。 しかし、だ。 野良猫が流暢に日本語を喋ったとか、テスト週間に彼氏が閉鎖空間に閉じ込められたとか、同じクラスの委員長に放課後 呼び出され突然命を狙われた~とかそんな感じの相談をされても俺には何も出来ないんだ、すまん。 って俺が謝る事かどうかはわからんが。 しばらく黙ったままだった長門が、読書に戻る間際に呟いた。 「情報統合思念体と限定的にしかコンタクトできない今の私に、貴方の言う危険排除的行為は限定的にしか出来ない」 本に目を戻した長門の表情が悲しそうに見えるのは俺の罪悪感からなのか、本当に長門が悲しいのかは判断できそうにない。 っていうか俺が無茶を言ってるだけで長門が悪いんじゃないしな。 最初の街で不調な事を聞いてはいたけど、まさかそんな深刻な状態だったとは思ってなかったぜ。 命の危険から助かったはずの俺が、この先の事を考えて再び青い顔でしゃがみこんだのは仕方が無い事だ。うん。 「……どうやら見えてきたようですね」 しばらく潜行を続けたみくるちゃん号から、ついに海底が見えてきた。 岩地や珊瑚といった自然の景色の中に、一際目立つ人工物が見える。 海水越しで歪んで見えてはいるが間違えようも無い日本建築、巨大な城が海底にあった。 またあの魚やまだ見ぬ巨大海洋生物が出て来ないとも限らない、俺達は急いで城へと 「待って、あっちに町が見えるわ」 ハルヒが指差す方には僅かな明かりが見えた、海底に明かりを放つような物……くらげとかだったら嫌だな。 「建物も見えるしちゃんとした町みたい、先に武器を揃えましょう」 そうだな、城の情報が聞けるかもしれない。 少しでも情報はあったほうがいいに違いないな、実はさっきの魚がボスなんて事じゃなければいいんだが。 「さっきの魚でも相手に出来るような武器が欲しいわね」 そんな武器がもしもあってもお前にだけは渡さん、俺はそう心に誓いながらみくるちゃん号の進路を町の方へと変更させた。 ――みくるちゃん号を海底の町の入口に止めると、最初に降りたのは予想通りハルヒ、空気の実を掴んだまま島から 飛び降りていった。 空気の実の効果は絶大で、空気の層は大きくハルヒを包みこんでいてどうやら海水に濡れる事はないようだ。 それにしても普通は躊躇うだろ? 恐怖ってもんを幼稚園辺りに置き忘れてきたんじゃないのか? 「みんな早くきなさい!ゲームなんだから大丈夫だって」 ……そうか、こいつはまだここがゲームなんだと思ってたんだったな。 「涼宮さんに不審に思われる前に僕達も続きましょう」 続いて古泉、 「……」 長門、俺と順番に降りて 「あのキョン君、手を貸してもらえますか?」 朝比奈さんが最後に降りて俺達は海底の町へと入っていった。 「有希、またどんな武器がいいか見てくれない?」 ちいさくうなずく長門。 頼むぞ長門、なるべく殺傷能力が低そうな武器を選んでやってくれ。ああでも、敵を倒せないのも困るな。 火力と安全を天秤にかける俺を無視して、 「決まりね、じゃあみんなは情報収集! 私達ですんごい武器を大量に仕入れてきてあげるから期待してなさい! 10分後に ここで集合! 時間厳守だからね?」 別れて行動する事になった、らしい。 ってまさか買うのは武器だけかよ?防具も買えよ! 長門を引っ張って武器屋を探して走っていくハルヒ、あいかわらず俺達の意見は聞く気はないようだ。 っていうか俺はいつまで盾だけ装備してればいいんだろうな。 「では僕は向こうに行ってみます。朝比奈さんは一人じゃ危ないですし、キョン君と一緒に向こうをお願いしますね」 お前がキョン君と呼ぶな!と普段ならそう思うところだが、むしろよく言った古泉! 以心伝心ってやつをちょっと信じそうになったじゃないか。 もしもお前が本気で望んでいるのなら、今度いっちゃんと呼んでやってもいいぞ。 古泉が近くの店に入っていくのを見届けてから じゃあ俺達も行きましょうか。 「はい」 俺達は2人並んで海底の町を歩き始めた。 今までは落ち着いて見る時間も余裕も無かったが、この海底の街では上を見上げれば小魚が群れをなして泳いでいたり、 回りの岩陰には色彩豊かな珊瑚があったりと生涯見ることもないような凄い景色が広がっている。 これがゲームだってわかってても、綺麗な物を綺麗だと思って問題なんてないよな。 「凄く綺麗なところですね~」 そうですね。 まさか朝比奈さんと海底散歩が出来るなんて思ってもみなかったよ、本当。 数時間前までは俺達はごくごく普通に電車に乗って隣町まで移動して、ゲームセンターを楽しみにしてたんだとは 到底思えない展開だ。どっちがよかったかと聞かれたら迷うところだな、これで危険はなく平和に元の世界に戻れるという 確証があるのなら正直悪くない面白さなんだが。 なんとなく会話が途切れて、俺達は無言で歩いていた。 途中、朝比奈さんが立ち止まった事に気づいた俺は、数歩進んでも朝比奈さんが歩き出そうとしないのを見て立ち止まった。 「キョン君、あの「へへへ、線が交わった所だぜ兄ちゃんよ。交わったへへへへー線だぜ。へへ」 朝比奈さんが何か言おうとした瞬間、俺と朝比奈さんの前にふらふらと割り込んできた男はでかい独り言を言って、また ふらふらと立ち去って行ってしまった。 なんだ?今の……。 「なんだったんでしょうか……」 何かのヒントでしょうね、きっと。 それが何の事なのかはまだわからないですけどね。 「え、本当ですか?」 朝比奈さんが嬉しそうに微笑むその顔を見たら、このゲームの製作者は間違いなく泣いて喜びます。 今の内容を覚えておくと、後で役に立つと思いますよ。 「ま、待ってください。えっと、メモを持ってきてたと思うんだけど」 小さな可愛らしいバックからメモとペンを取り出して 「えっと……へへへ……なんでしたっけ?」 そこは覚えてなくていいと思いますよ? でもそこが貴女らしいと思います。 あえて訂正しない事にしよう、後で朝比奈さんがメモを朗読する時が楽しみでもある。 確か、線が交わったところだぜ~だったと思います。 「線の……線の交わった……」 俺が言ううろ覚えなセリフを真剣な顔でメモを取る朝比奈さん。 その様子をなんとなく見ていると、メモのページに色々書かれている文字が見えてしまった。 偶然ですよ、偶然。日付とお弁当の内容なのだろうか?色んな料理の名前が書かれている。 あれ? 俺の名前が書いてあるような……。 何が書いてあるのか確認しようと少し顔を寄せると 「あ」 俺の視線に気づいた朝比奈さんが急いでメモをしまってしまう、その表情は怒るというより驚いているといった感じだ。 「見、みミ」 う、これは隠しても仕方ないよな。 少しだけ。 指で小さいというジェスチャーをしながら俺は素直に謝る事にした。 さらにショックを受けた朝比奈さんは後ろを向いて、そのページに何が書いてあったのか確認している。 そのまま10秒ほど固まっていたが 「な、何行目まで見ちゃいました?」 後ろを向いたまま泣きそうな声で聞いてきた。よく見ると肩が小刻みに震えている。 えっと、そこまで詳しくは覚えてないんですが……ここは少なめに伝えた方がよさそうだな。 すみません、ベーコンとポテトのオムレツってとこだけです。 確かページの一番上にはそう書いてあったはずだ。 「よ……よかったぁ……」 まるで携帯電話を洗濯してしまったと思ったら洗濯機の裏に落ちていた、くらいの安堵感を感じさせる声を出しながら 朝比奈さんは振り向いた。 すみませんでした。 何故そこまでショックを受けているのかわからないが、きっと未来人独特の理由があるんだろうな、多分。 「あ、いえ私が悪いんです。もっと注意深く行動しないとダメって何度も言われてるんですけど」 困った顔で笑っているが、朝比奈さんにそんなダメ出しをしているというのはいったい誰なんだろう? そのメモ内容って禁則事項だらけなんですか? 「あ、そうでもないんですけどそうなんです」 すみません、長門や古泉の説明くらい意味がわかりません。 「えっと、これは本当にただのメモです。でも私は過去の情報を全てじゃないですけど知っているので、万一の事を考えて 過去の歴史を変えてしまわないようにメモとか私的な文章はその時代の人に見せちゃいけないって事になってるんです」 なるほど、意識して書いた文章ではなくても歴史を変えてしまう事があるかもしれないからか……。 でも待てよ? 以前、夏休みの宿題の時に見せてもらった朝比奈さんのノートって、色んなメモがそこら中に書いてあったと思うん です……って朝比奈さん? 突然、顔面蒼白になりついには声を上げて泣き始めた朝比奈さんをあやしていると 「キョン……あんたまさか……」 純度150%、明確な殺意がこもったハルヒの声が俺の背後から聞こえてきた。 100%よりも50%多いのはまず半殺し、その後殺害するという意志の表れだとかなんとか。 恐る恐る振り向いて見ると、長門を連れたハルヒが大きな袋から何かを取り出そうとしているのが見える。 それにしても最初から見張っていたかのようなタイミングだな。 これが偶然だと言いはるのであれば、さっきの魚を回避できた時よりも偶然なのかを疑うね。 「涼宮さん違うんです! 全部私が悪いんです!」 真っ赤に目を腫らして涙声で朝比奈さんが謝っても効果があるはずもなく、むしろ逆効果だった。 ハルヒは仕入れたての武器を構えて俺を再び睨んでいる。 右手に持ってるそれは青竜刀ってやつか? 叩き切るのを目的としたような無骨なデザインだな。それだけでも十分に 危険なのだが、反対の手に持ってるのは凶悪さではさらに上を行っている。 黒く光る金属の塊、アメリカさんの娯楽映画でよくみかけるそれは…… ま、待て落ち着け! ハルヒ、まずはその物騒なマシンガンを降ろせ! 銃は剣より強し、って誰の名言だったっけな? その中に盾を混ぜても銃より上になるとは思えない。 「サブマシンガンよ!」 名前なんてどうでもいい! その後、圧倒的な火力の前に無実にも関わらず無条件降伏させられた俺は、やっと泣き止んだ朝比奈さんのたどたどしい 嘘によって無事開放された。 その間には情報収集を終えた古泉も戻ってきていたのだが、当然援護に入るわけでもなくのんびり微笑んでいやがる。 お前、まさかこうなる事を最初から予測していたのか? 長門はと言えば、ハルヒから「調整する」と言ってサブマシンガンを受け取り、まるで長年愛用してきた私物であるかのように 手早く分解して整備している。 もしかしてこれは万一にでも俺が射殺されてしまわないようという長門なりのフォローだったのかもしれないな。ありがとう長門。 ――かくして刑は宣告される。 「理由がなんだろうと女の子を泣かせたんだから罪は罪よ! ゲームが終わるまで荷物持ち、いいわね!」 武装を充実させたハルヒはその実力を試したくて仕方が無いらしく、 「さあ! 青龍をやっつけに行くわよ!」 ある意味、目的に相応しい名前である青竜刀をぶんぶんと振り回しながら先頭を歩いている。 黒光りする金属の塊、サブマシンガンはどう考えても似合わない朝比奈さんに渡された。 「みくるちゃん、今度キョンが変な事したら撃っちゃっていいからね。あたしが許可するわ!」 などと言ってハルヒが押し付けたのだ。 古泉と長門は相変わらず装備無し。 俺には新装備が支給された――予想通りまた盾だったよ。 ああ、それと俺には大量の荷物が追加された。それは大きな袋に入っているのだが、長門のおかげらしく殆ど重量を感じない。 中身はジュースやお菓子、後はサブマシンガンの弾なんかが入っているらしい。 ハルヒ。一応言っておくが、目的は青龍が大事にしている赤い宝玉を手に入れる事だからな? それもイベント的に見て重要そうだから、だというだけの盗賊まがいの理由で探しているんだが。 「そんなのついでよ、宝探しもいいけどボスを倒すほうが楽しいに決まってるじゃない。ドラゴン殺しよ? ドラゴン殺し!」 どうやらこいつに戦闘を回避するという発想は無いようだ、青龍ってのが戦うのを躊躇うような友好的な奴じゃないといいが。 町で聞いた内容をまとめると、青龍は赤い宝玉を大事に守っている。 竜王ってのは地上で隠居していて青い宝玉を持っていたらしい。 どうやらその二つがイベントアイテムらしく、例の「線の交わった所」というヒントは今のところ何の事かわからない。 と、こんな所だ。 空気の実のおかげで海底を歩く事ができる俺達は、何事もなく海底の城に辿り着いた。 ――城の門は開いたままで門番の姿はなく、門の上には 「竜宮城……ですか」 乙姫様でも居るのか? 年代を感じさせる木の看板に、達筆な文字で竜宮城と書かれていた。 城の名前を見て色々考えている俺と古泉を無視して、ハルヒはさっそく城の中へと入っていく。 「鯛やヒラメはみんなまとめて活造りにしてあげるわ!」 せめて踊らせてやれ。 城の中は外見とは違って質素な造りだった。考えてみれば海中にあるんだから調度品があっても流れていってしまうもんな。 迷路らしい迷路もなく、単純な通路を進んでいくと 「……卵?」 巨大な人間ほどの大きさの卵が並んでいる部屋に出た、大きな広間を横切るように一列に並んで卵が置かれている。 「奥にも部屋があるようですよ」 同じような部屋が奥にもあり、そこにも卵が一列に並んでいた。さっきの部屋と違うのは卵の並びが縦に並んでいる事 だけのようだ。 その奥にも部屋があったのだが 「うわぁ……」 その先の部屋は床一面に卵が並べられていた。 全部で100個以上はあるだろう、まさかこの中から宝玉を捜すって事なのか? 「ねえキョン、これって割っていいの?」 ぺしぺしと卵を叩きながらハルヒが怖い事を言い出す。 それはまずいだろ。 ゲームの中とはいえ無用な殺生はしないほうがいいに違いない。 なんとか割らずに済む方法はないだろうか? と考えていると――ピシッ――ハルヒが触っていた卵が突然音を立てて 亀裂が入った! 驚いて距離を取った俺達が見たのは、卵の中から這い出してくるヤドカリもどきだった。 何がモドキかと言えば 「この辺りの海は生態系そのものが巨大化しているのかもしれませんね」 何をのんきな事を? でかかったのだ、単純にサイズが。流石にあの魚程ではなく大型犬サイズなのだがそれでも十分に怖い。 しかしハルヒはそう思わなかったらしく、躊躇う事無く青竜刀を叩きつけやがった。 あっさりと貝は真っ二つに割れて宿を失ったヤドカリは逃走していく。 「雑魚の相手をしてる時間はないわ。これからどうすればいいのかしら」 あれが雑魚なのかよ。 あまりに一瞬の出来事だったが、正直俺ではあのヤドカリにも勝てないのは間違いない。 「全部の卵を確かめていたら大変ですね、今までの情報の中で何かヒントがあるはずです。聞き逃してしまっているのなら、 一度町まで戻らないといけませんが」 「あ、ヒントなら!えっと……」 朝比奈さんがメモを取り出して、さっきの事を思い出したのか慌ててメモ隠しながらこそこそとページをめくる。 そんな怪しい動作をするとですね? 「みくるちゃ~ん、何か見せられないような事を書いてるのかな~?」 声色は優しいが、絶対に中身を見てやるという意思を感じさせる声をかけながらハルヒが朝比奈さんに近寄っていく。 俺の予想通り、最悪の人物に興味をもたれてしまったようだ。 「あ、ありました! ヒントは、へへへ、線が交わった所だぜ兄ちゃんよ。交わったへへへへー線だぜ。へへ……です!」 「そんな事はどうでもいいの」 いいのか。 あっさりとヒントを無視されて驚く朝比奈さんは、自分が獲物に選ばれている事に今更ながら気がついたようだ。 「団長補佐たる者、団長に対して隠し事を持ってはいけないわね」 ああ、あれはもう謎解きの事は記憶の片隅にも残っていない目だ。 絶望的な表情を浮かべて逃げ場を探す小動物のような朝比奈さんを、大型肉食獣さながらの威圧感でじわじわと追い つめるハルヒを見ながら、 「こう見えて謎解きには少し自信があるんですよ」 任せた。 俺達は先にゲームを進める事にした。 線……っていうとなんだろうな。ただの石造りの大部屋には卵があるだけで、床に線が書いてあるわけでもないようだ。 「もしかして卵の下に線が書いてあるのかもしれませんよ?」 なるほど、ありそうだな。 俺はハルヒが結果的に割ってしまった卵のかけらを避けてみた、が。 何もないな。 殻の下には他の床と特に変わりはなかった。 長門は謎解きって得意なのか? 長門ならナンプレやピクロスなんてノータイムで埋めそうな気がするんだが。 しかし意外にも長門は首を横に振った。それこそノータイムで。 そのまま長門は何も喋らなかったので仕方なく そ、そうか。 と俺が言う事になったようだ。 「人の心はかくも複雑である、という事なんでしょう」 古泉は無責任にわかったような事を言っているが、案外それが正解なのかもしれない。 と、なるとだ……もしかしてこの卵そのものが線って事か? 「素晴らしいです、きっとそれが正解ですね!」 古泉がわざとらしい拍手をしながら歓声をあげる。 お前、実は全部わかってて言わなかったんじゃないよな? 今更だが、これが全部お前達の機関の仕業だというなら俺は喜ぶぞ?もう十分に楽しんだ、今からでも現実世界に帰してくれ。 「卵の大きさからすると……横の軸をA、縦の列を1とするならば……縦は2いや3ですかね……」 残念ながら古泉からネタばらしの告白はなく、俺達は目的の卵探しを淡々と続けた。 ああ、朝比奈さんはハルヒにあっさりと捕まって、今は床を転がりながらメモの争奪戦が行われている。 すみません朝比奈さん、あいつの興味をメモからゲームに戻すには俺達が頑張るしかないんです。 しばらく耐えていてください。 ――数分後。 「これが目的の卵のようですね」 古泉がそう言って選んだ卵は、他の卵と見た目では何も変わらなかった。 「じゃあ俺が触るから、お前はヤドカリだった時の為に攻撃準備。長門は少し離れててくれ」 「了解です」 俺は2人がそれぞれ離れたり、手のひらに赤い玉を浮かび上がらせたのを確認してからそっと卵に手を触れた。 硬い質感の殻に触れると、それはあっさりとひび割れて砕け散り、 「ビンゴ、本物ですね!」 砕けた卵の中には、赤い玉が真珠のように殻の中央に置かれていた。 そっと玉を手に取ると、 「誰だ。俺の玉を盗んだ奴は?」 部屋の奥の壁から大きな声が響いてきた。 「何? 見つかったの?」 今更だがハルヒがやってきた。戦利品らしいメモは、すでにボロボロで解読不能になってしまっているがどうでもいいらしい。 一緒に涙目の朝比奈さんも居るのだが、ただでさえ肌の露出が多い衣装がはだけてしまって最早、直視するだけで こっちが逮捕されそうな感じになっている。 「ええ、ボスの登場のようですよ」 古泉は何故か楽しそうに答えるが、俺としてはそんな楽観的にはなれそうもない。 逃げたほうがいいんじゃないのか?どう考えても悪いのはこっちなんだ、あの声は謝れば許してくれるって感じじゃないぞ? 極めて常識的な提案をしてみた。無駄だとは思うが今ではそれが俺の義務のようにも感じている。 「だったら後腐れなく、ここで退治するまでね」 窃盗犯が強盗犯になる理論をそんな力強く言われてもなぁ。 「でもでも、空気の実がいつまで効果があるのかわかりませんから、キョン君が言うように逃げたほうがいいんじゃ」 確かに、信用材料が「ゲームだから」という理由だけでは命を賭ける気にはなれないぞ。 ハルヒも酸素がなくなるのは多少困るらしく、一瞬考えた後 「そうね。じゃあ海上までおびき出して、そこでやっつけましょう」 何故そこまでやっつけるのにこだわるんだろうね、こいつは。などとのんびり話している時間はなかったようだ。 壁の一部が開いて、巨大な蛇に腕と髭と鬣が生えた様な姿、いわゆる骨董品に描かれている龍が生き生きとした 動きで現れた。 あまりにも非現実すぎる光景にこれってCGじゃないのか? と思ってしまうのは、俺がゲームのやりすぎなんだろうな。 一旦退却と決まった以上、ここに留まる理由はない。 逃げるぞ! 俺達は一斉に走り出した。それを見た青龍も巨体をくねらせて結果的に卵を次々と壊しながら追いかけてくる。 部屋を抜けるのは俺達のほうが早そうだが、卵という障害物がなくなったらすぐに追いつかれてしまうだろう。 どうしても走るのが遅い朝比奈さんをフォローする為、 古泉! 「了解です」 俺は上着を脱いで朝比奈さんを包み抱えて走り出し、古泉は赤い玉で青龍を牽制しだした。 「キョ、キョン君?」 すみません! 驚いた声をあげる朝比奈さんは今回ばかりは無視だ。 詳しい説明をしている時間はないし、それ以前に今の朝比奈さんの服装を長く見ていたら俺の理性のほうが青龍なんか よりよほど危ないんですよ。 「貴様っ! 俺の宝玉を投げるな!」 青龍は感性の法則を無視して飛び回る古泉の赤い玉を追いかけていく、これはもしかしていけるんじゃないのか? 「どうやら、宝玉と僕の赤い玉を間違えているようですね」 古泉は青龍の手が、ぎりぎりで届かないように赤い玉を操作して時間を稼いでいる。 ハルヒと長門はそろそろ城の外に出た頃だろう、俺達もそろそろ逃げたほうがいい。 最後の曲がり角まで来た古泉は、時間稼ぎの為に赤い玉を今走ってきた通路の奥に向かってまっすぐ飛ばして 自分も逃げ出した。 「早く乗って!」 城のすぐ外ではみくるちゃん号が待機していた、長門とハルヒがヤシの木を掴んで待っている。 俺は朝比奈さんを先に島に乗せて、自分も急いで島に登った。 古泉急げ! 島は少しずつ浮上を始めている。 「お待たせしました」 最後に出てきた古泉の腕を掴んで、 いいぞ! ハルヒ達3人が一気にヤシの木を引っ張り上げるのと同時に、重力を感じるほどに急加速で浮上していくみくるちゃん号。 直後に城から怒り狂った青龍が飛び出してきたが、すぐに小さくなりついには見えなくなっていく。 楽しそうにヤシの木を引っ張っているハルヒにその事を伝えたら、本気で減速しかねないので俺は黙っておく事にした。 ――だが、その事を直後に後悔する事になる。 3人の手でひっぱられたみくるちゃん号はどんどんと上昇速度を加速させていき、遥か上に僅かに見えていた太陽の煌きは あっという間に広がっていって おいハルヒ、ちょっと減速し 俺が喋り終える前に 「いけーー!」 海面を突き抜けてみくるちゃん号は空を飛んだ。 あーもう、どうにでもしてくれ。 勢いだけで海中から飛び出したみくるちゃん号はその後勢いを失い、当然の如く引力に引かれて落下をはじめた。 幸いなのか垂直に飛び出していたらしく、下には海面が見えている。 ああ、こんな状態で冷静でいる自分が嫌だ。 これはハルヒと一緒にいる時間が長い為にみられる症状だと断言できるが、労務災害として認定されるのかね? されるんだとしても誰に請求すればいいのかわからないがな。 「ひぃえええ~~」 可愛い声でヤシの木にしがみつく朝比奈さんみたいに正気を失ってしまえたら、今より少しは楽になるのだろうか。 だが、俺が悲鳴をあげたところで可愛くもなんともないので、やはりこれは朝比奈さんの役目なのだろう。 他の奴らはといえば、何故かここでも余裕で本を読む長門、それ以上に余裕で何にも掴まらないまま仁王立ちで 笑っているハルヒ。 気づいてないだろうがな、スカートは落下中は慣性に逆らう事無く浮き上がって……突っ込むのはやめておこう、 言っても無駄だしそんな時間も余裕もない。 俺と古泉は一般人らしく地面に伏せて海面との衝突に備えた。古泉は一般人ではないが。 みくるちゃん号ほどの質量を持つ島が数メートルの高さから海面に叩きつけられた時の衝撃を想像して、そうする事に 意味は無いが思わず目を閉じる。 不意に重力に引っ張られて落下していく感覚が消え……そのまま待っても続いて来るはずの衝撃はいつまでたっても 来なかった。 「……あれ?」 みくるちゃん号は何事も無かったかのように海面を漂っている。 何故か不満げなハルヒ。 「拍子抜けね。水飛沫がこう、ど~んってあがるのを期待してたんだけど……まあ現実はこんなもんよね」 いや、現実なら俺達は落下の衝撃で海面に放り出されて波間を漂ってると思うぞ。 「怖かったです~」 さっきから泣きっぱなしの朝比奈さんだ、ここまで可哀想だと彼女にそろそろ何かいい事が起こらないかと願ってしまう。 「はいはい泣かないの、有希を見てみなさい。この余裕。団長補佐ならこれくらいの余裕を持ってなきゃだめよ?」 長門は海中からの脱出中もずっと読書を続けていたよう……ん? よく見ると長門の左手が、ハルヒから死角になる位置で地面を触っている。 長門にしては1ページを読むのに時間がかかっているなと思っていたがそうではないようだ。 何をしてくれていたのかはわからないが後で聞いてみよう。 「無事脱出できた事を喜びたいところですが……僕の赤い玉がたった今、破壊されました。あれが宝玉では無い事に 気づかれてしまったようですね」 ってことは俺達を追いかけてくるって事か。 「なになに? さっきのドラゴンと戦えばいいの?」 だから何で戦いたがるんだお前は、その闘争心を別の事に活かせよ。 「そうなるのも時間の問題でしょうね。ですがここでは足場も狭いですから、どこか陸地に向かうべきだと思います」 「そうね……じゃあ、あの島なんてどう?」 ハルヒが指差す先には小さな島が見えていた、確かにみくるちゃん号の上で戦うよりはよほどましだろう。 でもあれでは逃げようが無い。 古泉にはこれ以上提案する様子がないようだ、暗に俺に言えと言われている気がして気に入らないが仕方ない。 海底の町で朝比奈さんと2人っきりにしてもらった借りもあるからな。 ハルヒ、ここから最初の島に戻れないか? 「え? なんでよ?」 う、ここで退路を確保するなんて理由ではこいつは動かないだろうな……。 「時間短縮にもその方がいいかと思います、このゲームはまだ先がありそうですが、効率的に進めれば今日中に クリアできるでしょうし」 ナイス古泉、今日はずいぶん協力的じゃないか。 「もちろんクリアして帰るわよ、中途半端なんて絶対嫌だからね!え~っと……あの島が地図のここなら……えっと」 ハルヒの闘争心をボスからクリアにうまく誘導する事に成功した俺達が、視線を合わせ心の中で小さくガッツポーズを したのは言うまでも無い。 塔に着いても青龍が現れなければ、そのまま塔に逃げてしまえばいいもんな。 あ、しまった。クリスタルを手に入れないと塔の上には進めないんだったっけ? 腕を水平に伸ばし、親指と小指を広げたりしながら島と島を見比べていくハルヒはなんというか素人には見えない。 それってなんか意味があるのか? 「後方公開方よ、常識でしょ?」 さらりと言いやがる。 どこの国の常識だ。独裁国家、ハルヒハルヒ帝国とかか? 「そうよ」 自分が独裁者だという事を認識していたのか、そうかそうか。 「まあ冗談はいいとして、前に大きな図形を書きたくて勉強したの。便利よ?これ」 ああ、今更だがお前があんなに巨大な文字を書けた理由がわかったよ。正しくは書いたのは俺で、指示したのはハルヒだが。 自作宇宙人語で「私はここにいる」だっけか?俺は文字の意味をハルヒからではなく、長門に教えてもらったんだが一つ 疑問が残っている。あの文字はハルヒが適当に書いたのが宇宙人語の文字とたまたま一緒だったのか、それともハルヒが そうであると望んで書いた適当な文字が宇宙人語になってしまったのか……。 まあ、どっちでもいいさ。たまごが先か鶏が先かみたいな答えが出ない話になりそうだ。 どうせ本人には聞けない質問だしな。 地図と海とを何度か見比べて、 「わかったわ、ここからほぼ真南に進めば塔のある島に辿り着くはずよ。時間で言うと3分半ってところね」 「了解です」 古泉は待ちかねたようにヤシの木を倒し、みくるちゃん号は海上を再び進みだした。 「どうやら役者が揃ったみたいね」 ハルヒの予測で言えば、塔のあった島まで残り1分という所で不吉な呟きが聞こえてしまった。 こいつが何か言い出す時は予想の斜め上の出来事が待ってるんだ。だが、なんの対策を取る事もできないとわかっては いるがせめて心の準備はさせて欲しい。 なんのことだ? ハルヒの邪悪な笑顔を見た途端、最悪の想像通りだった事に気づいた俺は聞き返した事をに後悔した。 「ドラゴンがお待ちかねよ!」 そう言いながらハルヒが指差す先には、塔の姿とその前に居座る青龍の姿が見えていた。 ……やれやれ、戦闘回避は失敗に終わったか……。 「待ちわびたぞ人間、さあ俺の玉を返せ!」 青龍はご丁寧に俺達が全員上陸するのを待ってから話しかけてきた。 意外にいい奴じゃないか、今更だが悪いのは完全に俺たちなんだし戦うのは気がひけてくる。 「いやよ。それよりあんたクリスタルって持ってないの?この世界でクリスタルの話題がでないから困ってるのよ」 お前、人の宝物を盗んでおいてその態度はないだろう。 「何をふざけた事を……その宝玉こそがクリスタルの片割れだ。貴様などが持っていていい物ではない、さっさと返さねば 海の藻屑となってもらうぞ!」 「あ、これがクリスタルなんだ。じゃあますます返せないわね! 残りの片割れってのを渡しなさい! でなきゃ剥製にして 部室の入口に……いいわねそれ! 決定、あんた剥製にしてお持ち帰りにしてあげるわ!」 ……最早どっちが悪党なのかわからないとすら言えない、間違いなくこっちが悪党だ。 こいつに機械の体を手に入れる為に宇宙を旅した少年の動機を教えてやりたい。 いつもの笑顔でいる古泉といい、この会話に僅かも参加の意思を見せない長門もたまには反論しろよ。 俺達は悪党なんじゃなくて、そこの履歴書には「触らなくても危険」と書いてあるに違いないハルヒだけだと言ってやれ。 聞く耳は持ってないだろうがな。 ああ、朝比奈さんは下がっていてくださいね?危ないですから。俺が朝比奈さんをかばう位置に移動していると、 「やれるものならやってみるがいい!」 我慢の限界がきたらしく、大きく吼えて青龍はこちらにむかって突き進んできた。 すまんな青龍、俺達もこのゲームを終わらせなきゃいけないんだ。 何故かすまない気持ちでいっぱいになった俺は、しぶしぶと盾を構えた。 長門印の盾には慣性の法則を無視するかのような力があるのは前の世界で実証済みだ。 俺は青龍の突進をなんなく防ぐ事に成功する。 しかし、止めたはいいのだがこの盾はその後はただの壁でしかない。 何故突進が止まったのか不審に思った青龍が再び力を篭めると、あっさりと俺は突き飛ばされてしまった。 「頭部は傷つけちゃだめだからね!」 無茶な事を言いながらハルヒの青竜刀が青龍の腕をあっさりと切り離した。 グロテスクな光景が広がるかと思ったがそこはゲームらしい。 切り取られた腕は地面に落ちた後、霧のように消えてしまい傷口もそのままで出血する事はなかった。 古泉の赤い弾は青龍の肌に弾かれてしまい、殆どダメージが与えられないようだ。 仕方なく後退して、止めの指示を待つ長門の護衛に専念している。 「わ、わ、ごめんなさい~」 目をつぶったまま銃を乱射するというとんでもなく危険な行為を続ける朝比奈さんだが、弾は味方に当たる事無くまるで ビデオを逆に再生しているかのように青龍の体に浴びせられていった。 何気に一番ダメージを与えているのはこの人だったのではなかろうか。 「いいわよみくるちゃん! どんどんやっちゃって!」 ハルヒと朝比奈さんの猛攻に青龍は一方的に痛めつけられていく、なんというか……すまん。 結局、いいところ一切無しで青龍は動かなくなった。 長門によって青龍の遺体は消去してもらおうとすると、ハルヒはやはり抗議してきやがった。 どうしても青龍の頭部を持ち帰りたいらしい。 聞こうじゃないか、持ち帰るとして誰が運ぶんだ? ……いや、聞くまでもないから聞かないでおこう。 「生物ですから諦めましょう」 という古泉の説得にしぶしぶ諦めたようだ。ハルヒの中でゲームと現実が混ざり始めているような気がして怖いんだがな……。 「まあいいわ……後はなんだっけ、クリスタルの片割れを探すの?」 どうやらゲームを進める事に意識が向いてくれたらしい。 「地上に隠居している竜王が持っているという玉が怪しいですね」 また強盗か、できれば犯罪行為はハルヒ一人でお願いしたい所だ。 「あ、あの。探してるのってもしかしてこれでしょうか?」 そう言っておずおずと朝比奈さんが差し出したのは、青龍から強奪した赤い玉の色違いのような青い玉だった。 「みくるちゃんこれ、どこで見つけたの?」 ハルヒが青い玉を太陽に透かしたり、傾けたりして調べている。 「あのお爺さんがくれたんです」 ああ、例の向日葵の島の老人か。 「という事はあの老人が引退した竜王だった、という事ですね」 説明役が楽しくて仕方ないのか、古泉はご機嫌だ。 「へ~これとさっきの玉が揃えば……」 ハルヒがどう見てもただの球体にしか見えない二つの玉を合わせると、急に玉は溶けるように一つになって、そこには 前の世界と色違いのクリスタルが残っていた。 まるで海の様な青色のクリスタルが、ハルヒの手の上で太陽の光を受け輝いている。 「よ~しこの世界もクリア! 次行きましょ、次!」 高々とクリスタルを掲げて真夏を体言しているかのような笑顔のハルヒ。 それを見守るように微笑む古泉。 こっそりと俺に「しばらく上着を借りていてもいいですか?」と聞いてくる可愛い朝比奈さん。もちろんいいですよ。 読む本が無くなったのか何もしていない長門。お疲れさん、全部終わったら今度また図書館に連れて行ってやるからな。 全部ってのが何の全部なのかは俺にもわからんが。 こうして二つ目の世界をクリアした俺達は意気揚々と再び塔へと戻って行った。 やれやれ、残る世界は確か3つだったはずだったよな? 涼宮ハルヒの欲望 Ⅱ ~終わり~ 涼宮ハルヒの要望 Ⅲへ その他の作品