約 3,071,719 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3921.html
三 章 そんなこんなで、とりあえず会社という体裁は整った。作る人、売る人がちゃんと働けば会社は回る。だがSOS団にひとつだけ足りないものがあった。 「あー、みくるちゃんに会いたいわ。帰ってこないもんかしらね」 このところ、これがハルヒの口癖だった。これだけタイムマシン開発を豪語しているのだから、朝比奈さんからなんらかの接触があってもよさそうなものなのに。朝比奈さんはあれから未来に帰ってしまい、それからは音沙汰がない。たまにひょっこり帰ってくることもあるのだが。ハルヒへの説明ではスイスの大学院に留学していることになっている。 「こんにちわ、株式会社SOS団はこちらでしょうか」 ドアが開いた。来客も珍しく、誰がやってきたのかと全員がそっちを見た。 「みくるです。その節はどうも~」 会いたい願望が通じたらしい。さすがハルヒである。こいつにかかれば時間を越えようが空間を越えようが、逃げ切れるものではないな。 「これはこれは朝比奈さんじゃないですか。お久しぶりですね」 「キョンくん、みなさんもお久しぶり」 「……」 「あら、みくるちゃん。帰ってたんだ」 「お元気そうでなによりです」 「もう、ずっとずっと会いたかったわよ~」 ハルヒはひとまわりグラマーな体つきになった朝比奈さんに抱きついた。朝比奈さんは困った顔をして笑った。朝比奈さんの風体は、俺が知っている朝比奈さん(大)と同じタイトスカートと白のブラウスだった。左腕に金色のブレスレットもしている。もしかしたらあのときの朝比奈さんなのだろうか。 「どう?チューリヒ大学は。いい男捕まえた?」 「やだ涼宮さん、そんなことしませんよぅ」 「赤くなってるところを見ると、いい獲物がいたようね」 「ちがいますってばぁ」 未来に帰っても朝比奈さんは朝比奈さんだ。照れて頬が染まるところとか、そのままだな。 スイスのお土産です、と小さな包みをくれた。俺が開けてもいいですかと言い終わらないうちにハルヒが早々と中身を検めている。 「キョン見て見て、金塊よ金塊。スイスゴールドよ!」 「ほんとかオイ」 「やだ、それチョコレートですよ」 なるほど、スイスといえば金塊チョコか。にしても、わざわざアリバイ作りのためにこんな高価なものまで、と苦笑めいた俺の表情を見てか、 「あら、ほんとにスイスにいるんですよ今」と俺だけに聞こえるように言った。 「えっそうなんですか」 「スイスのある研究所で働いてるの」 「へー。やっぱ時間関係ですか」 「スイスだけにね、ってちがうちがう」 手をぶんぶんと振る朝比奈さんのノリツッコミはかわいい。 「あとでちょっと話せます?」 俺は腕時計をさして尋ねた。 「ええ、時間は大丈夫です」 ハルヒたちがチョコを食ってる最中に抜け出して、俺と朝比奈さんは喫茶店に入った。 「ハルヒが今度は、タイムマシンを作ると言い出したんですよ」 「ええ。詳しくは言えないけど、わたしはそのために来たんです」 「ひょっとして、ハルヒがタイムマシンを作るのは既定事項なんですか」 「いいえ。涼宮さんは時間移動技術のはじまりに関わってる人の知り合いっていうだけで、開発に直接的には関わってないはずなんです」 「もし完成でもしたら、どうなります?」 「我々はそれを懸念しているんです。そんなことになったら時間移動技術に支えられている既定事項が崩れてしまうから」 「というと?」 「タイムマシンが完成する前にタイムマシンが完成したら、既定の歴史が混乱するの」 「ややこしいですね。あきらめさせたほうがいいですか」 「そうとも言えないの。涼宮さんの存在は時間移動技術に深く関係があるの。本人自身は関わらないけど、事が始まるための最初のポイント、と言えば分かってもらえるかしら」 「つまりハルヒがタイムマシン開発のスタート地点ということですか」 「そういうことね」 「朝比奈さんの役割は何なんです?」 「涼宮さんと、この会社の監視。時間移動の実験はいろいろと危険が伴うの。時空震もそのひとつだけど、そのための監視ね」 「ということは、しばらくこの時代にいるわけですか」 「そういうことになります。しばらくお世話になると思うけど、よろしくお願いしますね」 「もっちろんですとも」 俺は俄然やる気が出てきた。また朝比奈さんと一緒に過ごせる日々が訪れたんだ。 「いくつか質問していいですか」 「教えられることなら、どうぞ」 「ええと、あなたは高校時代の俺に会った朝比奈さんなんでしょうか。つまり、白雪姫の話をしてくれた?」 「あれはわたし。すべて終えてからここに来たの」 「それと、あなたの本当の歳は……教えてもらえないんでしょうね」 朝比奈さんは人差し指を立ててウインクした。 「禁則事項です」 相変わらず、この人の笑顔は男をときめかせる。 「忘れてました。朝比奈さん、いつだったか車に轢かれそうになった少年を助けたことがありましたよね」 「え、ええ」 「あの子とこの会社のつながりはあるんでしょうか」 「ええと、この会社自体が既定事項にないことなので本来は関係ないはずなんです」 「というと、今後つながりがある可能性も出てくるわけですか」 「なんとも言えないの。禁則事項ではなくて、わたしにはそういう未来は見えないから」 「というと?」 「歴史というのはいくつかの既定事項が重なって出来ているの。だからこの会社がどういう既定事項をたどるかで別の未来になってしまうの。別の道を進み始めた歴史はわたしには見えない」 相変わらず時間というのは難しいようですね。 「その少年の様子を見に行ってみませんか。あれから音沙汰ありませんし」 「わたしも気にはなっていましたから、行ってみましょうか」 ハルヒには営業に行くと言い残して、二人で電車に乗って祝川駅まで出かけた。ハカセくんの家はハルヒの実家の近くらしいんだが、俺はどの番地なのかまでは知らない。先を歩いていく朝比奈さんは知ってるようだ。 あのとき敵対するグループとやらに誘拐拉致までされたにもかかわらず、朝比奈さん(大)は俺たちがなにをやっているのか教えてはくれなかった。川べりからカメを投げ込んだ様子はどう考えても時間移動に関係のあることらしい。すべてが明らかになる日には、朝比奈さんの所属する時間移動の組織が生まれていて、それはずっと未来の話だろう。 俺と朝比奈さんは東中学校の校区をうろうろ歩き、番地を確かめつつ住宅街をあちこちさまよった挙句、それらしき家にたどり着いた。 「朝比奈さん、いきなり尋ねちゃっても大丈夫でしょうか。怪しまれませんか」 「それもそうですね。こっそり様子見るだけにしましょうか」 二人で隣の家の壁に隠れて人の気配をうかがった。金融公庫と銀行の三十年ローンで買えそうな、ありきたりな一戸建てだ。 「誰もいませんね。住所は確かにここですか」 「ええ、記録ではそうなっています」 その場で十五分ほど見張っていたが、誰の出入りもない。二階の窓のカーテンは閉まったままだ。一階の掃き出しの窓は生垣の向こうでよく見えない。犬は飼っていないようだし、ちょっと忍び込んでみるか、なんて法に抵触しそうなことを考えていると、「あの、どちらさまでしょうか」突然背中から呼びかけられて俺と朝比奈さんはビクと飛び上がった。 「あの、いえ、なんでもないんですっ」 空き巣に入る算段をしているところを見つけられた泥棒になった気分だ。 「あ、もしかしてウサギのお姉さんですか?」 ずっと前に見た面影のある、少年と呼ぶにはやや歳を食っているかもしれない眼鏡の少年がそこにいた。ハカセくんだった。 「ハカセくん?だいぶ前に祝川公園でカメを渡した」 名前を知らないので俺たちの通称で呼んでみたのだが、少年は特に違和感のない表情をしていた。 「そうです。僕のあだ名ご存知なんですね」 ハカセくんは笑った。昭和の某漫画じゃあるまいに、いまどきハカセくんをあだ名につける子供もいないだろう。俺と同じく親戚の叔母さんか爺さんにでもつけられたのだろうか。 「ここじゃなんですし、ちょっと上がりませんか。今学校から帰ってきたところなんです」 「その制服、北高?」 「ええ、そうです。もしかしてOBの先輩ですか?」 「まあそうだ」 俺たちの後輩にハカセくんがいたなんて知らなかった。二人はハカセくんの案内で家の中に入った。ふつーにありそうな一般的庶民の雰囲気だ。調度品やら家具は俺んちの居間に似てなくもない。当たり前だがタイムマシンもなかった。 「ということは今受験生?」朝比奈さんが訊いた。 「ええ、そうです」 「どこを志望してるの?」 「いちおう、ここから通える国立なんですが」 ハカセくんは少しはにかんで答えた。へー、それはまた奇遇だね。俺は朝比奈さんを見た。 「これは偶然ではないですよね」 「どうかしら……」 朝比奈さんは考え込んでいるようだった。 「なにが偶然なんです?」 「俺はその大学のOBなんだ」 「そうだったんですか。もしかして涼宮姉さんもですか?」 「そうそう。ハルヒもだ」 あと宇宙人と超能力者もそうだが。 「ハカセくん、どこの学部なの?」 「いちおう物理学で素粒子物理を専攻したいと考えてるんですが」 朝比奈さんの耳がピクと動いた。 「あの、ヘンなこと聞いていいかしら。もしかして宇宙論とか時間論とか時間平面……じゃなくて時空構造論とかかしら」 「詳しくは知りませんが、たぶんそっちにも繋がるんじゃないかと思います」 朝比奈さんは腕組みをしてうーんと考え込んでいた。ハカセくんがお茶かなにかを用意しにキッチンへ引っ込んだところで、耳打ちした。 「朝比奈さん、どうかしましたか」 「あの、わたしが彼と話をしていること自体問題あるのかもしれないけど、この子が時間移動技術に関わるのは間違えようのない事実なの。でもこんなに早くから関わっていたとは思わなかったわ」 「ということは時間移動技術を知っている朝比奈さんが開発に関わってしまうということですか?」 「そこが問題なの。そういう歴史は知らないし、知らされてもいないの」 しばらく考えていた二人は、納得できるひとつの妥当な答えにたどり着いた。 「これはハルヒじゃないですか」 「もう、それしか考えられないわ」 「この際だから、ハカセくんをハルヒに引き合わせてみませんか」 「え、でもそれは……」 それはどういう結果を招くのか分からない、と確かに俺も思う。 「元々ハルヒが勉強を教えていたみたいですし」 「うーん……。こんな歴史はないはずなんだけど」 未来と通信しているらしき仕草をしていたが、困った表情で唸るばかりだった。未来にいる時間移動管理のお役人とやらも前例がないことへの対応を苦慮してるんだろう。 「最近会っていないんですが涼宮姉さんは元気ですか」 ハカセくんがお茶と羊羹をお盆に載せて戻ってきた。 「ああ、元気元気。もう元気すぎて空回りしてるよ」 俺は渋いお茶をすすりながら苦笑して言った。 「いいですね。あの人にはなにかしら人を巻き込んでしまう台風みたいな不思議なエネルギーを感じます」 俺はその台風と七年も付き合わされてるんだけどね、えへへ。 俺はまだ意見を決めかねている朝比奈さんの様子を伺いながら、フライングを切った。 「そのハルヒなんだが、会社を作ったんだ。ハカセくん、よかったらうちでバイトしないか」 案の定、朝比奈さんが目を丸くして止めようとした。 「キョンくん、そんなこと言って大丈夫なの!?」 「ええ。ちょうど人手も足りなかったことですし、物理学に多少なりとも覚えのある人が欲しかったんですよ」 「いいですけど、どんな仕事なんですか」ハカセくんはちょっとだけ考えて答えた。 俺はできるだけ目を泳がせないように、ハカセくんを正視して言った。 「タイムマシン、を、作る」 ほとんど棒読みだった。その場の空気が摂氏四度くらいに急速降下して凍りついた。俺ってハルヒと付き合ってきて人との話し方を忘れてしまったんじゃないか。 「それ本気ですか?」 「本気も本気、猿並みに本気」 「いいですけど」 ボソリと呟いたハカセくんの目がキラキラしているのは気のせいだろうか。この目、誰かのに似てないか。 「どうやって作るおつもりですか」 「それもまだこれから考えるんだ」 「なるほど……」 「ハカセくんもなにかと物入りだろう。遊びに来てくれるだけでいいから時給出すよ」 「それは嬉しいお誘いですが、毎日は通えません。学校やら塾やらでいつも帰りが遅いですから」 「どうだろう、ハルヒが受験勉強の手伝いをするというのは」 「それなら助かります。たぶんうちの親も承諾するでしょう」 こういうとき、こっちの都合のいいように事を運ぶ知恵が働くのは俺の得意とするところだ。 「じゃあ、二三日中にハルヒから連絡入れさせるから」 「分かりました。よろしくお願いします」 ハカセくんがぺこりと頭を下げた。素直でいい子だよな。こういう貴重な人材は早めに確保しといたほうがいい。 俺たちはお茶のお礼を言ってハカセくんの家を後にした。 「俺思うんですけど、朝比奈さんが知らない未来ってことはまだ既定事項じゃないってことですよね」 「そう、だと思うけど」 「ということは、ここからの未来は当事者が作ってもいいんじゃないですか」 「そうね。そうかもしれないわね」 まだ合点が行かないように考え込む朝比奈さんは、たぶん歴史の保全ばかりを気にしていて、自らが作る歴史というのに不安があるんじゃないかと俺は思った。あなたは自分で自分の歴史を作るつもりはないんでしょうか、と尋ねるには俺はまだ若すぎるが。 「じゃあ、わたしはここで」 「俺は一度会社に戻ります」 「また明日ね」 朝比奈さんは右手をにぎにぎして言った。振り返るともういなかった。もしかして未来と現在を日帰りしてんのかな。 会社に戻ったときには六時を過ぎていた。ハルヒと古泉はいなかった。 「待ってたのか長門、すまんな。帰りに晩飯おごるよ」 「……乙、あり」 「ハルヒが昔家庭教師をしてやっていたやつで、今高校三年生の子がいてな。そいつに会った」 「……知っている。未来からの干渉で交通事故を装った殺人に巻き込まれそうになった」 「知ってたのか。あの子をバイトに雇おうと思うんだ」 「……そう」 長門はあらかじめ知っていたという感じで、頭を七度くらい傾けてうなずいた。 「あの子、長門のいた学部を志望してるらしいんだが。もしかして予定の行動?」 長門は何も答えず、ただ微笑らしきものを浮かべただけだった。こいつのことだ、すべて知っていたに違いない。ハルヒが会社を作るとわめき始めるのも、タイムマシンを作ると豪語するのも。 「……知っていたわけではなく、予測と誘致」 「なるほど。じゃあハルヒがタイムマシンを作ることに関しちゃそれほど懸念はないんだ?」 「……阻止するより、コントロールするほうが望ましい」 ハルヒの監視を続けて十年、長門はついに悟りを開いたようだ。 翌朝、ハルヒ社長から重大な発表があった。 「みんな、いい知らせよ。みくるちゃんが非常勤務でうちの会社を手伝ってくれることになったわ」 「それは素晴らしい。またあの頃のように五人で賑やかにやりましょう」 古泉が喜んでいた。あの頃みたいな非日常的騒動の毎日はごめんだぞ。 「さあっ、みくるちゃん。あなたのために衣装を用意したのよ。さっそく着替えて」 ハルヒはフリルの付いたドレスを取り出した。朝比奈さんのために新調したようだ。俺と古泉は、またあのコスプレを見られるのかとワクワクしていた。ところが朝比奈さんは顔を縦には振らなかった。 「それはいやです」 「えー、せっかく買ってきたのに。ちゃんとサイズも合わせてるのよ」 「だめです。わたしはもう涼宮さんの着せ替え人形ではないの」 ハルヒが唖然とした。はじめて見せる、ハルヒに対する朝比奈さんの頑とした態度だった。睨まれたハルヒはたじたじとなった。 「ねえ、お願い。あたしじゃ似合わないのよね」 「いや、です」 朝比奈さんは腕組みをして譲らなかった。 「困ったわ……」 ハルヒは用意した衣装を持ったまま、どう取り繕えばいいのか分からず俺たちに視線をさまよわせた。よくぞ言った朝比奈さん。今まで朝比奈さんを散々おもちゃにしてきたから、ハルヒにはちょうどいいクスリなのだ。俺にはちょっと残念だったけど。 「……わたしが、着る」 それまで黙ってパソコンのモニタに向かっていた長門が、ぼそりと言った。 「そ、そう?有希が着てくれるの?」 もう、この際誰でもいいという感じでハルヒは渡りの船に乗った。 「……貸して」 長門はハルヒの手から衣装を受け取り、会議室のドアを閉めた。 「有希、手伝おうか?背中ちゃんと締められる?」ハルヒがドア越しに尋ねた。 「……いい。やれる」 しばらくごそごそと衣擦れの音が聞こえていたが、やがてドアが開いた。アリス系ロリータのエプロンドレスに身を包んだ長門が現れた。それを見た四人が、ほぅ!まぁ!これは!と感嘆の声を漏らした。小柄な長門にはボリュームのあるドレスが似合う。似合いすぎている。朝比奈さんとは別の意味でいい。朝比奈さんとはサイズも体型も違うはずだが、分子情報操作とかで裁縫か。 「ピンクが栄えていますね。今までこういう衣装を着た長門さんを見られなかったのが、もったいないくらいです」 「なぜ今まで気が付かなかったのかしら。有希、すっごく似合うわ。ほら、ヘアバンドしてみて」 そう、ロリータファッションと言えばヘアバンドだ。 「……どう」 ヘアバンドを髪に巻いてあごのところで小さく結んで、俺を見た。微笑っぽいものが浮かんでいるところを見ると本人も気に入ってるようだ。俺はにっこり笑って親指を付きたてた。 「長門、似合ってるぞ」 「な、長門さん、似合ってますよ……」 気のせいかもしれんが、朝比奈さんの口数が減っている。もしかして役柄を取られて後悔してるんじゃありませんか。 「部長氏、ちょっといいものを見せたいんだけど」 俺は内線をかけて、長門の親衛隊を自称する開発部の連中を呼んだ。 「おおおお」 ドアを開けるなり部長氏以下五名の感嘆のコーラスが響いた。 「スバラシイ。とてもよくお似合いです、副社長」 もう長門の元にひれ伏して靴にキスでもしそうな勢いだ。 「……そう」 長門がちょっとだけ微笑んだ。これ、来客のときも着てくれると営業効果あるかもな。長門にはなにかこう、特殊な部類の人種を惹き付けるオーラのようなものがあって、黙っていてもそいつらが寄ってくる。俺もそのうちのひとりなわけだが。 そのようなわけで我が社のマスコット的コスプレイヤーはしばらくの間、長門ということになりそうだ。 「そういえばハルヒ、お前高校の頃家庭教師やってたろう」 「突然なによ。まあ、やってたけど」 「あのときの男の子はどうしてるんだ?」 「さあ……もう高校生くらいなんじゃないの?」 「あの子をアルバイトに雇ってもらいたいんだが」 「いいけど、バイトなんか必要なの?」 言っとくが開発部の連中はマンパワーぎりぎりで、いつでも人を欲しがってるんだぜ。 「タイムマシンに興味があるらしいんだが」 この単純な社長を動かすにはこれだけで十分だった。 「へー、そうなんだ」 「今年受験生で物理学部を受けるらしい」 「そうね、人材にも投資しないとね。昔の人はいいこと言ったわ。腐ったリンゴをつかみたくなければ、木からもぎ取ればいいのよ」 それってなにか、俺は腐ったリンゴか。 ハルヒは自宅に電話をかけ、ハカセくんの家の電話番号を聞き出しているようだった。再度かけなおし、ハカセくんを呼び出していた。 「今週中に来てくれるって」 「そりゃよかった」 「あんた、ほんとにタイムマシンなんか作れると思ってんの?」 「お前が言い出したことだろ」 「あたしは過去に行ってみたいだけよ。タイムマシンの仕組みなんか知ったこっちゃないわ」 この人はいつもこれだからな。 「まあなんとかなるんじゃないか?科学技術は日進月歩爆走してんだろ」 「あたしが今から開発をはじめて、孫の孫くらいに完成すればいいくらいに思ってるだけよ。そしたらどの時代にでも連れて行ってくれそうじゃない」 未来への投資か。自分の手でなんでもやってやるという、いつものこいつらしくないな。こいつの願望を実現する能力がなけりゃ、とても今世紀中の完成は無理だろう。 「創始者のお前がそんなこっちゃできるもんもできなくなるぞ。もっと自分を信じろ。やればできる、成せば成る。心頭滅却すれば火もまた涼し、じゃなくて、石の上にも三年、じゃなくて、我田引水じゃなくてええとなんだ」 「それを言うなら、千里の道も一歩からでしょ」 「そうそう、それだ」 いまいちぱっとしないよなあ。やっぱ古泉のいうとおり、ハルヒの活力やら突拍子思いつきエネルギーやらが薄まっちまってる。ここはひとつ、まわりが盛り上げてやる必要があるかもな。 「実は俺も時間旅行が好きなんだ」 「へー、そうだったの。初耳だわ」 朝比奈さんと目の回るような時間移動を何度も経験している俺がいうんだから、嘘じゃない。たまに吐きそうになるくらい好きだ。 「どの時代に行くんだ?」 「完成したらの話よ」 「じゃあ完成したらいつの時代に行くんだ?」 「そうね。十年前ぐらいがいいわ」 「十年前ってーと中学生くらいか。自分にでも会いに行くのか」 「自分に会ってもしょうがないでしょ。ちょっと会いたい人がいるのよ」 十年前……?死んだ爺さんか婆さんにでも会うのか。 「勝手に殺すんじゃないわよ。まだピンピンしてるわ」 「じゃあ完成したらみんなで行こうぜ。俺は自分に小遣いでもやりたいぜ。あの頃はバイトもできなくて貧乏だったからな」 「そうね。それもいいかもね」 ハルヒは頬杖をついてぼんやりと遠くを見ていた。こいつのメランコリーの原因はどうやら過去にあるようだ。 次の日ハカセくんがやってきた。学校の帰りにハルヒに捕まったらしい。 「期待の新人、ハカセくんを連れてきたわよ」 「あ、先輩こないだはどうも」 ハカセくんに先輩呼ばわりされちまってるぜ俺。 「よう、来たな。こっちが古泉、こっちが長門だ。長門はハカセくんが志望する専攻の研究室にいる」 「ほんとですか、よろしくおねがいします」 「……長門有希」 「ようこそハカセさん、なにもないところですが。今お茶を入れます」 「ありがとうございます」 丁寧に腰を四十五度に曲げてあいさつをするハカセくんだった。今日は朝比奈さんが来ていないので古泉がお茶当番だ。 「あれからいろいろと調べてみました」 「なにを?」 「タイムマシンに使えそうな技術です」 この子はピザの宅配並みに気が早いというか。 「すごいわねハカセくん。将来はノーベル科学賞ね」 「涼宮姉さん、気が早すぎますよ。まだ勉強しはじめたばかりです」 ハカセくんはてへへと照れた笑いを浮かべた。 「ハカセくん、本を買ったら領収書もらっておいてね。会社の経費で清算してあげるから」 それより図書カードを渡しといたほうがいいんじゃないか。いくら清算してやるといっても財布に限界があるだろう。あとで経費で商品券でも仕入れとくか。 「ほかになにかいるものは?」 「ええと、とくにないと思います。今のところは」 「そうだ、白衣が必要だわ」 「白衣ってまさかナースか」 「バカね、実験着の白衣よ」 ああ、科学者が着てるやつね。長門にナース服を着ろというのかと思った。それはそれで見てみたい気もするが。 「……これ、読んで」 長門が分厚い本をハカセくんに差し出した。前に見たようなシーンだな。 「量子論ですか?」 「……そう。それからこれも」 「量子力学ですか」 長門の抱えた本は古びて表紙の文字が薄く消えてしまっていた。これ見覚えがあるんだが、もしかしてかつて文芸部部室にあったやつじゃ。 「ちょっと僕にはまだ難しいです。高校の物理程度のことしか……」 パラパラとページをめくるハカセくんは苦笑いしていた。 「……大丈夫。わたしが教える」 まあ長門と庶民的高校生じゃ知識の差がありすぎるが。いい教師にはなるだろう。 ハカセくんはハルヒの尽力(もとい圧力)によって今通っている塾をやめ、大学受験のための勉強をハルヒに、さらにタイムマシン開発のための勉強を長門に教わることになった。勉強を教えてもらってしかもバイト代が出るってのもエサで釣ってるようでアレだが、まあ本人が喜んでいるのでいいとしよう。 【仮説1】その1へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5999.html
涼宮ハルヒの遡及Ⅰ 『ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい』 と、高校入学の初顔合わせの自己紹介の場で、至極真剣な表情でのたまった女がいたとするならば、たとえ、そいつがどんなに可愛くてスタイルが良かろうとも、大多数の男はコナをかけるのに二の足どころか三の足、四の足を踏む……いや、それ以前に、決して関わらないようにしよう、と心に固く誓うことだろう。 むろん、俺もそうだった。いや、そのはずだったんだが…… 「こらキョン! あんた聞いてるの? 今、大事な話をしてるところなのよ!」 「心配するな。ちゃんと聞いている。明日の不思議探索パトロールのことだろ」 「そうよ。で、あたしが何て言ったのかも聞いてたの?」 それはまだだろ。と言うか、それを今から言う気だったろうが。 「あら、ちゃんと聞いていたのね。意外だわ。なんとなく失礼なモノローグを頭の中に流しているように見えたから聞いてないかと思ってた」 む……なかなか鋭い奴だ…… 「んじゃまあ続きだけど」 気を取り直したハルヒが再び勝気満面の笑顔に戻って、 「明日の不思議探索のテーマはUMAと心霊現象よ! と言う訳で、午前9時にいつもの駅前集合ね!」 んまあ、関わっちまったもんは仕方がない。などと開き直っている俺がいる。 あの十二月の出来事で俺は自分の気持ちに気づいてしまったんだ。冒頭のような感想を持っていた入学当時の俺が今の俺を見たら何と言うのか、なかなか興味深いことでもあるのだが、今の俺から言わせれば当時の俺なんざつまらない奴に映ってしまうだろうから、人間、変われば変わるものだと妙にしみじみしてしまう。それはハルヒにも言えることだし、長門、古泉、朝比奈さんも同じだな。みんなSOS団発足当時と比べれば明らかに変わったと言っても過言ではないだろう。 ん? ああ、ハルヒが何で宇宙人、未来人、異世界人、超能力者って言わなかったか、ってことか? そりゃそうだろ。 なんたってハルヒはもう、俺たちの正体を知ってしまったからだ。 長門が宇宙人、朝比奈さんが未来人、古泉が超能力者で、自分に新しい世界を創造できる力があるということをな。知らないことと言えばハルヒは自分が想像したことを現実化できる力を持っている、てことくらいだ。 むろん、俺がジョン・スミスだということも知っている。もっともだからと言って俺たちの関係が変わる訳じゃない。 むしろ、ハルヒが望んでいたのはこういう団体なんだから最近は機嫌が最高潮にいい日しかないくらいだ。 さらに加えるなら、ハルヒは異世界人との邂逅も果たしている。 ただ、異世界人は少し勝手が違っていて、この世界の存在ではないだけに、ハルヒが望んでもハルヒの力の影響を全く受けないものだから、そうそう出会えるものではないらしい。なんたってハルヒもこの世界の存在だからな。てことはこの世界じゃない世界まではその力が及ばないって訳だ。 とと、話を戻すが、どうして今だに不思議探索なんぞをやっているかと言えば、ハルヒの不思議への欲求が目的対象を見つけたからと言って、それで弱くなることはないからだ。見つけたなら次の不思議へと突っ走る奴だしな。 だから探索目標が変わったのさ。 ところがだ。 ハルヒの夢が叶った現実を快く思わない人間というものもいるんだよな。 ……いや違うな…… その人たちは別段、ハルヒを悲しませようとか困らせようとかなんて微塵も思わなかったはずだ。それは断言してもいい。 ただ、都合が悪かったんだろう。自分たちにとってではなく、少なくともハルヒと俺にとっては……いや、もしかしたらSOS団にとってもか? だからこそ、心を鬼にせざる得なかったんだろうな。 俺は今、心からそう思う。 てな訳で、話は今回の不思議探索パトロール当日の午前七時半ぐらいから始まるだろうか。 いきなりで申し訳ないが、ちょうど着替えが終わった俺は目を丸くして口をぽかんと開けて絶句した。 「さて、質問があるけどいいかしら?」 なぜなら、俺の目の前には見覚えはあるのだが、もう二度と会えないと思っていた人物が、文字通り、突然、現れたから。 癖っ毛でやわらかそうな腰まで届こうかという頭髪を、一度、さらりと掻きあげて、 「あなたはあたしの知ってるキョンくん、よね?」 「ア……アクリルさん!?」 艶やかな髪をふわりと揺らす彼女を俺は見紛うはずがなかった。 「ふぅ、よかった。今度こそ蒼葉(あおば)の補正がうまくいったみたい。やっと、ちゃんと目的地に着いたのね」 苦笑とも自嘲ともとれる笑顔を浮かべる彼女を俺は忘れるはずがない。 容姿端麗、プロポーション抜群、山吹色のノースリーブシャツに、スカイブルーのホットパンツ、までならなんとも艶めかしい姿を想像できても、ヘアカラーが桃色でマントを羽織ってた日にゃ、コスプレ会場以外であれば絶対に頭を疑われるような風体だったりすることだろう。 しかし、あくまでそれはこの世界で、のことだ。 本来、彼女が住む世界ではそこまでの違和感はないはずである。 なぜならば。 この人は異世界に生きる魔法使いだからだ。 言っておくが嘘でも冗談でもないぞ。 彼女が出した名前、蒼葉さんとは、ハルヒの創り出した閉鎖空間で出会い、その後、俺がハルヒに関わってしまったばっかりに得体のしれない存在に目を付けられて蒼葉さんと彼女が住む世界に飛ばされてしまったことがあったんだ。その時は、ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉の尽力と蒼葉さんとこの御方の協力で俺を元の世界に戻してくれたのである。その時に使用したのが『魔法』だったし、俺は彼女が魔法を振るう姿もこの目でしかと見た。 だから間違いない。 しかし、彼女たちは言ったはずである。自分たちと俺たちが再会する可能性は皆無に等しいと。 なら、どうして今ここに現れた? 「はい、モノローグ説明ごくろうさん。オリジナルキャラクター登場シリーズでしかも連作っぽいから色々と面倒なのよね」 「いや、それは言ったら身も蓋もないと思うのですが?」 「仕方ないでしょ。あなたは大丈夫でも、オリジナルキャラクターを快く思わない人も決して少なくないみたいで、賛否両論。しかも両極端だし……って、いつまでもこの話題で引っ張るわけにもいかないわ」 それもそうですね。んじゃまあ話を戻しますけど、 「どうしてアクリルさんがこの世界に……?」 当然の疑問をぶつける俺。 「うん。ちょっと困ったことが分かったんでどうしてもこっちに来なきゃいけなくなったのよ。なかなか大変だったけどね。ここに着くまでに何度別の並行世界に辿り着いてしまったことか……まあ何にせよ、ようやくうまくいって良かったわ」 困ったこと? 「覚えてる? キョンくんをこっちの世界に戻すときに話した後遺症のこと」 「ああ……あれですか……」 俺は思わず苦虫をつぶした顔をした。 それは仕方がない話で、蒼葉さんとアクリルさんが俺をこっちの世界に戻す際に使った魔法、まあ、それしかなかった訳だから仕方ないっちゃ仕方ないことではあるのだが、その魔法=召喚術の影響で俺はハルヒと、そして今は長門にも絶対服従の責務を背負ってしまっているのである。その所為で毎日、どうにも苦労が絶えないんだ。なんせあの二人にまったく逆らえなくなってしまったわけだからな。どんな無茶でも聞いてしまっている俺が忌々しい。何度か本気でこの世界に戻って来なければ良かった、なんて考えてしまったほどだ。 そんな俺の表情が目に入ったアクリルさんがウインクをしつつの笑顔で続ける。 「それを是正しに来たのよ」 って、なんですと!? むろん、俺は驚嘆と希望で、比喩表現ではあるが胸が朝比奈さん並に膨らんだ気がしたぞ。 「で、何でこんな格好しなきゃいけないの?」 「ええっと……アクリルさん、ご自身の姿形をちゃんと自覚していますよね……?」 ここはアクリルさんが本来住んでいる世界ではない。 桃色の髪もマントも肩当ても標準装備のはずがない。ならばこっちの世界の流儀に合わせてもらわないと後々面倒なことになる。 しかも、このアクリルさんから「今回は別に慌てる必要がないから、少しこの街だけでいいんでこっちの世界を案内して」とせがまれたのである。 理由か? んなもん決まっている。ただの好奇心だ。 というか、俺だってもし、絶対に元の世界に戻れる保証があるなら、アクリルさんの住む世界を案内してほしいと思うことだろう。 それだけ『異世界探検』という行為は胸を躍らせるものだ。それはアクリルさんも同じなんだ。 しかしだからと言って事情を知っていれば『異世界人スタイル』で割り切れるだろうが、圧倒的大多数の事情を知らない人間が見ればアクリルさんは異様な姿にしか映らないことだけは確かなんだ。しかも案内を頼まれたということは俺はご一緒しなければならず、万が一、SOS団以外の知り合いに見られてしまえば、次回の登校からは疎外感たっぷりの視線に晒されるであろうことは想像に難くないんだ。一応は社会性を大事にしたい俺としては、それは是が非でも避けたいので変装をお願いしたのである。 という端的な説明をアクリルさんにはもっと丁寧かつ慎重に伝えた。 「分かったわよ。なら仕方ないわね」 ふぅ、どうやら理解してくれたようだ。証拠に彼女は髪を黒く染め、黒のカラーコンタクトを嵌めている。 「……別にあたしはどっちでも構わないんだけど」 ん? 何か言いました? 「ああ、聞こえても聞こえてなくても大丈夫よ。大した話じゃないから」 そうですか。 おっと、それとアクリルさんって呼び方も変えていいですか? 「何で?」 「蒼葉さんなら違和感ないんですけど、この世界、と言うよりこの国ではカタカナ名前はまだまだ稀なんです。怪しまれないためにも別の呼称の方がいいかと」 「ううん……そんな大袈裟なことでもないと思うんだけどなぁ……だいたいキョンくんだってカタカナ名前じゃない」 大袈裟なことになります! その髪の色と名前は明らかに不自然なんですから! あと俺は本名じゃなくてニックネーム! 「ふうん、そうなんだ。でもまあ郷に入っては郷に従え、ね。キョンくんの提案を受け入れましょうか。で、あたしのこと、何て呼ぶことにするの? あ、キョンくんの本名はいいわ。覚えても多分、今回の任務を終えて向こうの世界に戻ってしまえば、もう会えない可能性の方が圧倒的に高いし」 なんかアクリルさんの態度がどうにも釈然としないんだがまあいいとしよう。 世界が違うんだから常識が違うのかもしれん。 って、向こうの世界にも『郷に入っては郷に従え』なんて言葉があるんだな。 「そうですね。『さくら』さん、というのはどうでしょう? この国の代表的な花でみんなに愛されています」 「なるほど。その花の色が桃色な訳か」 ぎく。 「気にしなくていいわよ。別に怒ってないから。そもそも向こうの世界でもあたしの一番の特徴はこの髪の色なんだから今さらってやつよ」 その割には少し目が怖いような…… あっそうか。そりゃそうだよな。俺だって慣れてしまっているところはあるが『キョン』って呼ばれるのはあまりいい気しないもんな。それと同じだ。 「何か思い当るところがあるみたいね。ま、いいけど。ところでとりあえず今日はこっちの指定で案内してもらえないかしら?」 「え? どこに?」 「んと……前にキョンくんが魔石を通じて交信していた相手で、あたしからは顔とかはよく見えなかったんだけどキョンくんと抱き合ってた女の子が居るところ……名前なんだっけ?」 だ、抱き……!? 「そ。あの女の子の名前」 …… …… …… 『抱き合っていた』はスルーですかーそうですかー。 「どんなツッコミを期待していた訳?」 い、いえ……別にそう言う訳では……!? 「だったらあの子の名前教えて。もう会うことない、って思ったから覚えてないのよ」 そう言えば蒼葉さんも同じようなことを言ってたな…… 「ハルヒです。あ、そう言えば今から集合なんですけどアクリ……じゃなかった、さくらさんもご一緒にどうです?」 「ん? お邪魔じゃないの?」 「いや……そういうんじゃないんで……その……他のツレもいますから……」 「なんだ。みんなで遊びに行くってやつか」 「まあ……似たようなものです……」 俺は苦笑を浮かべるしかない。遊びに行くことで間違いはないのだろうが、普通の高校生がやるような遊びじゃないしな。 「んじゃあ早速、行くわよ」 「へ?」 そんな俺の心の内を知らないアクリルさんは俺の手を取って、窓を開けた。 って、まさか! 「集合場所までの案内よろしく!」 満面の笑顔を浮かべて、アクリルさんは開け放した窓から飛び出した。 「レビテーション!」 真っ青に晴れ渡った空の下へと、俺たちは舞い上がったのである! つか怖っ! 速っ! て、手を離さないで下さいね! ね! 涼宮ハルヒの遡及Ⅱ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/256.html
「ねぇ、キョン。駆け落ちしよっか?」 朝っぱらから物思いに耽っていると思ったら・・・何を言い出すんだ、コイツは。 ”駆け落ち”なんていう言葉は、お互いを愛し合っているが結ばれない運命にある二人がその運命を打ち破るためにだな。 「あたしとさ、樹海に行かない?」 しかも、死ぬこと前提でかよ。 頬杖つきながら、ぼーっとした顔で空を眺めんでくれ。 俺はいつも馬鹿みたいにテンション高いお前しか知らんのだ。 そんな違う一面を見せられたら、したくなくても『なぜか』動揺してしまう。 「ねぇ、聞いてるの?」 頬杖を止めてこちらを向いたハルヒの眉がキリキリと上がる。 これでこそ、俺の知っているハルヒだ。 論理的な思考型な俺は、理由を聞いてから何事にも答えるようにしているが、 ハルヒは突飛なことを言う割りにその理由を聞かれると不機嫌になるし、答えようとはしない。 『駆け落ちしよっか?』って言った理由をハルヒに聞くのはナンセンスだ。 …だが、聞いてしまう。 だって、それが俺の思考パターンだからだ。 「聞いてたけど、どうしてまた駆け落ちなんだ?・・・その前にどうして俺なんだ?」 こいつはいつも主語と述語が抜ける。そして、その経緯、説明もない。 まるで”私の思考はアンタには伝わってるから、説明しなくてもいいのよ”みたいな。 あいにく俺は、古泉みたいに超能力者でもないから相手の思考を読み取ったりできない。 …ってアイツは閉鎖空間の中でしか能力使えなかったか。 例えにもならないとは、本当に使えない奴だ。 「キョンなら、着いてきてくれると思ったの!」 恥ずかしそうに目線を外す・・・普通の女の子っぽい仕草も出来たんだな。 って、どうして俺なら着いてきてくれるなんて思ったんだ? 俺の思考を読み取ったかのようにハルヒが続けて口を開いた。 「だって、アタシのいう事素直に聞いてくれるんだもん。だから」 ちょっと待て。この際、俺の長所・性格・人物像は関係なしかよ。 どうみても、ハルヒの主観イメージだけじゃねぇか・・・ しかし、俺が安易に否定すればハルヒはまた不機嫌になるだろう。 古泉・長門・朝比奈さん(大)は口を揃えて、その事を忠告したけど、俺には関係ないし、 どうするかはハルヒ次第なのだから・・・ごく平凡一般の俺がとやかく言っても仕方がない。 まぁ、古泉の言っていたハルヒの言葉をできるだけ尊重するようにしてやんわりと話を流してみるか。 「お前がどうして『駆け落ち』だとか、『樹海に行きたい』とか言ったか分からんが、そんな事しなくても俺は3年間お前にこきつかわれる運命だ」 「いつ、何処で、何時、何分、何秒にアタシがアンタをコキ使いたいって言ったのよ!」 「お前の俺への態度を見たら、誰が見ても奴隷とご主人様みたいな関係に見えるぜ?」 ハルヒが何か言おうとしたので、トドメの一撃を刺しておこうと思う。 「でも、別にお前に使われるのは嫌いじゃない」 ちょっとでも、恥ずかしい台詞を言われるとあたふたして、柄にもなく論理的に否定したり、話変えたりするから この戦法はかなり有効なのだ。・・・しかも、実証済み。 すると、暫くハルヒは何か考え込んだ後、パチンと手を合わせて、俺を指差した。 「決めたっ!アタシに使われるのが好きなら、高校3年間と言わずその後も使ってあげるわ」 「・・・なーんて、事があったんだよ」 部室にて、古泉と将棋を指しながら今日の昼休みにあった事を話した。 …というか、どうしてコイツは手数掛かるのに穴熊作ろうとしてんだ?その間に攻め込まれたら終わりなのに。 「キョン君はまた仕出かしましたね」 なんて、真剣な台詞をにこやかに言う古泉。 続けて「僕のバイトもずっと続きそうですねぇ」なんて言いながら、ため息つきやがって。 「どういうことだよ?俺がなんかやったか?」 俺が質問を投げかけると、古泉は鼻の頭を撫でながらこう言った。 「涼宮さんは新たに思い込んでしまいました・・・いや、決意したと言ったところでしょう。彼女は言ったのでしょう? 『高校3年間と言わずその後も使ってあげるわ』と。その意味は分かりますか?その後とは彼女にとってどれぐらいの期間なんでしょうねぇ。 その言葉を推理して、最も現実的で実現可能な事となると・・・」 「なんだよ」 「キョン君。結婚式には呼んでくださいね。・・・あと、あなたは主夫に向いてますよ」 古泉がまたアホな事を言い出した。 こいつは、推理してるとき自分に酔っているんじゃないかと思うことがある。 推理に気を取られて、将棋がおざなりになっているのはコイツらしい。 「王手・・・はい、どうやっても詰みな。しかし、お前の例えはよく分からん」 「はは、負けちゃいましたね」 自分が負けたのにニコニコとしているのもコイツらしい。 さて、と。ハルヒが朝比奈さんの写真撮影を終えて帰ってくる前に、このフラッシュメモリにmikuruフォルダを移動させておくか。 将棋の片付けをしている古泉がポツリとこう言った。 「あなたは、涼宮さんにプロポーズしてOKされたんですよ。順序から言うと、涼宮さんがプロポーズして、あなたがOKしたというか」 なんて言いながら、クスクス笑う古泉。 今のお前相当キモイ悪いぞ。 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3389.html
事態は深刻。北高創生以来一番の大事件が起こっている。 事の発端は30分程前に遡る。我等SOS団がいつもの活動――まぁオセロやパソコンくらいだが――を部室でしていた時の事だ。 突然放送が鳴り、俺らは仰天する。 「ここの学校の放送室は乗っ取ったぁぁ!放送委員4人が人質だぜ!!」 明らかに高校生らしくない、中年男性の声がする。乗っ取った?…放送室を? 「これは強盗からあたしたちへの挑戦ね!!受けて立とうじゃない!!」 勝手に解釈するな!…言うと思ったけど。 「しかし涼宮さん。これはさすがに少々危険では…」 「古泉くん!この学校を救えるのはあたしたちしかいないの!あたしたちがやらなきゃ誰がやるの!?」 「そうですね。分かりました、やりましょう。」 そして勝手に納得するな古泉!ハルヒの奴が調子に乗るぞ。 俺らが放送室に向かおうという時に放送が鳴る。 「とりあえず金と酒を用意しろぉー!さもなくばこいつらの命はねぇぞ!!」 …この強盗、馬鹿か?何故金と酒目的で学校なんだ?しかも放送室って… そうこうしつつも放送室前に到着。そこには既に大勢の先生方が集まっていた。 岡部が放送室の中へ聞こえるように叫ぶ。 「金と酒は用意した!!どうやって引き渡すんだ!!」 用意周到なこった。っておいおい、酒があるのは問題なんじゃないか? 「生徒一人が入ってきて渡しに来い!!」 と、犯人の声。さっきの放送の声とは違うところから考えると、強盗は2人組らしい。 「あたしが行くわ!!」 さすがにハルヒの危険を感じた俺はハルヒを制止する。 待てハルヒ!ここは俺が行く。 「あんたはここで待ってなさい!言ったでしょ!この学校を救えるのはあたししかいないのよ!」 さっきは『あたしたち』だったような気がするが、まぁそこはスルー。 用意された金と酒(酒はビール瓶2本のようだ)をハルヒが受け取り、放送室の戸の前に立つ。 「さぁ、開けなさい!!」 ガチャという鍵の開く音。ハルヒは中へ入っていき、戸は閉まった。 緊張する一同。まるでドラマのワンシーンのようだな。 突如、中から騒音と奇声が聞こえてきた。 『バリーン!!』 「うわああぁぁ!!」 「くたばりなさい!」 『バリーン!!』 「ぐおっ」 「さぁ、あなたたち逃げて!」 「待てぇっ!」 「あんたはそこで倒れてなさい!!」 「ぎゃああぁっ!!」 しばらくすると戸が開いた。すぐに人質の放送委員4人が出てきて、その後に泡を吹いてる強盗2人をハルヒが鷲掴みにして出てきた。 「フンッ!ざっとこんなもんよ!」 いやあ、素直に感心したね。本当にたった一人でこの学校を救ってしまうとは。 その後警察が駆けつけて強盗2人を逮捕。ハルヒは警察から感謝状をもらっていた。 そうしてまたSOS団の歴史に新たな1ページが刻まれた。この活躍の象徴となる感謝状は、団長様の机の中に大切に保管されている。 end
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2502.html
さて紹介しよう。 新・長門有希である。 どこら辺が新しいのかは俺にも良くわからない。俺の隣にいる古泉も良くわかっていないようだ。 時に長門よ、自分ではどこら辺が変わったと思う? 「・・・脳の各所でいくつかの変化が発生している。それ以外は不明。ただ・・・」 「ただ?」 「性格、趣向等が確実に変化している可能性がある。残念ながら自分では観測できない」 つまり、お前が朝比奈さんみたいな愛らしくちょっとおっちょこちょいな未来人のようになったり、ハルヒみたいな迷惑極まりない 核融合ロケット女のようになったりしてる、ってことか? 「それはない」 長門はやんわりと否定し 「しかしながら、二人が持っている性格が確実に私に影響を及ぼしている」 いつにもましておしゃべりな長門はさらに言葉を紡ぎ 「これはある種の『自立進化』ともいえる。情報統合思念体にとってはある意味喜ばしきこと。 私にとって喜ばしきものかはまだ不明。これから精査が必要だと思う。まぁ、たいした問題では無いと思うけど」 そうかい。長門がもうちょっと外向的な性格になるんなら、それはそれで良いかも知れないな。 「そうかもしれない。それより」 なんだ。 「おなかの中身までは分離時持っていくことが出来なかった。かなりおなかが空いた。ちょっと食堂に行ってパン買ってくる」 来る?と言って長門は俺と古泉を見たが、ついてこないと判断したのかそそくさとドアを開けて行ってしまった。 取り残された俺と古泉、頭をねじ切らんばかりの勢いで捻る。 「長門の言動が変わった?」 「そのようです。まぁ、もうちょっと観察しないとなんともいえませんが。それより・・・」 そうだ、みるひ(仮)はどうなったんだ・・・っておい。 何だこいつは。 「長門さんが抜けたことで、涼宮さんと朝比奈さんが残りました。このみるひ(仮)さんは二人の融合体と見るべきでしょう」 そりゃそうだよな。 「にしてもまぁ・・・二人が融合したらこんな風になるんだな」 先ほど怪しい光を放ちながらモゴモゴ蠢く物体Xと化していたみるひ(仮)だが、現在は落ち着いて普通の人間もとい超絶美少女に変化していた。 黄色いカチューシャをつけたセミロングな栗色の髪に、愛らしい小さな口。そして巨乳。 ああ神様、どうか彼女には朝比奈さん譲りの優しく、ちょっとおっちょこちょいな性格をお与え下さい――! 「ほれはにゃいとおもふ」 ? 「長門さん、お帰りなさい」 「たふぁいま」 部室の戸口を見ると、長門が帰ってきていた。早いな。 アンパンを口にくわえ、ただの茶色い塊と化している袋詰めにされた大量のパンを抱えながら。 「どうしたんだそれ」 長門は食っていたあんぱんを小さい口に一気に詰め込み、ろくに噛まずに飲み込んで―――って! パンをのどに詰まらせて悶絶していた。 あの長門が、である。 「おい、水だ水!」 あわてて古泉はペットボトルの水を長門に投げてよこす。 見事に空中キャッチし、急いでふたを開けて苦しそうにグビグビと飲む姿は全然長門らしくない。 つーか、長門におっちょこちょい属性は無かったはずだ。 「・・・っはぁ・・・。古泉君、ありがとう。このパン?購買が閉店時間で見切りセールをやってたから大量に買ってきた」 食えんのか。見た感じ2、3キロありそうなんだが。 「私にとってこれくらいは朝飯前」 「ちゃんと栄養のバランス考えろよ」 「わかってる。心配ない。それより」 何だ。自分に変化が起こってるのやっと判ったか? 「いや。普通どおりだけど。そうじゃなく、キョン。あなたがさっき彼女に対して言ってたこと」 はて。優しくちょっとおっちょこちょいな性格でありますように、っていう祈りがどうかしたか? 「二人は完全に融合している。そんな都合のいい性格になるわけが無い」 ふん、とでも言いたげな表情の長門は 「主体涼宮ハルヒちょっと朝比奈みくる、な性格になるかと思われる。不満?」 さらにぶー、と一瞬口を膨らませ 「それに、さっきからあなたと古泉君の様子がおかしい。なんで半笑い?」 半笑いどころで済んでいたか。てっきり完全なるニヤケ顔になってるかと思ってたんだが。 てか、お前、自分がめちゃくちゃ変化してるのに気がついて無い? 「私はいたって普通のつもり」 「そうですか。これはこれは・・・以前の長門さんをビデオに録っておくべきでしたね」 「同感だ」 怪訝な顔をしながら首をかしげる長門。 「・・・すまない。以前の私はどんな風だったか、具体的に教えて」 俺と古泉はあらん限りの「以前の長門像」を叩き込んだ。 無口で内向的で、いつも本ばかり読んでる宇宙人。 だけど必ず困ったときは助けてくれる宇宙人。 迷惑ばかりかけてた俺とハルヒと朝比奈さんと古泉。 しかしながら、うんうんとか言いながらも、今にもはてなマークが頭上に飛び出しそうな顔となっている長門。 「どうやらお前が覚えてる記憶と、俺たちが覚えてる記憶とでは大分違うようだな」 「大まかなアウトラインは同じの様だけれど」 「・・・ともかく、感謝してる」 「たしかに・・・私はあなたたちを助けてきた」 長門は言葉を紡ぎだした。 「だけど、殆どが私のミスで起こるか、最初から不可避のものだった。だから、お礼なんていい。でも・・・」 長門は頬を赤らめ、ばつが悪そうに頭をかき 「こう面と向かって言われると、ちょっと照れちゃうな・・・」 俺はお前に惚れたぞおおおおおおおおおっ!!!長門おおおおおおぉぉぉ!!!! とは口が裂けてもいえない俺。 「しかし、そんなキャラだったのか私は」 「ええ。覚えていませんか?」 「恐らく私の記憶中枢、・・・もしくは、私を定義付けている基底現実内の情報まで書き換わっているのかもしれない。確認をとる。少し待って」 長門はかくん、と首をもたげて宇宙的な何かと交信を開始した・・・かと思ったら、すぐに元に戻り、部室のドアを開けた。 「こんにちは」 喜緑さん、お久しぶりです。 「お久しぶりです。長門さんからの呼び出しで来たんですが・・・?」 「私の様子、何処かおかしいか精査してもらうために呼び出した。何処か変?」 明らかに困惑している喜緑さん。 何やら小声で俺に 「あの・・・長門さん・・・ですよね?」 と怪訝そうな顔で聞いてきたが、多分そうですとしか答えるほか無く、さらに 「おかしなところは無い。そんなに私が不満?」 と、ぶーと頬を膨らませる長門を見て抱腹絶倒の装いを呈し始め、ついに 「これは・・・っ・・・流石に・・・ないです。ないですぅ!ないですぅぅぅ!!」 と笑い転げ回りだした喜緑さん。大丈夫か?って俺も大爆笑しかけてるわけだけどさ。 「そんなに変?」 ああ。変だ。俺は萌えまくりで嬉しいがね。 「僕の恋敵が増えたようですね」 黙ってろガチホモ。 「そう。そこまで変だとキョンが言うのであれば、情報統合思念体内にある私の構成情報を上書き初期化するけれど」 「無駄無駄無駄ァですぅ・・・!!ひぇっひぇっっひっく」 横隔膜痙攣を起こしシャックリまで出すほど笑いまくる喜緑さんは 「・・・っ!既に長門さんのバックアップを含めた構成情報はあっ、、完全に今のっ長門さんのっ・・・ひぇっ!データを元としたものと置き換わってるんですぅ」 どういうことですか。 ・・・と無駄なようだ。喜緑さんは笑いすぎて呼吸もままならなくなってる。そのうち笑い死ぬんじゃないか? この神様的宇宙人に死というものがあるのかは不明だが。 「恐らくです」 出たな解説員古泉。 「長門さんははじめからそういうキャラクターであった、という風にこの時間平面上の情報が書き換えられているのでしょう」 判らんぞ、もっと平たく言え。 「涼門みるきさんですが、彼女もまた同じように時間平面上の情報・・・主に来歴ですが・・・が完全に書き換わっていたはずです。涼宮さん、朝比奈さん、そして以前の長門さんとは似ても似つかないような来歴に」 そういや雨乞いしたり、ハゲの頭にオリーブオイルを塗りたくったなんて話は未だかつて聞いたことが無かったな。 「この長門さんにも同じことが言えます」 ・・・そうだな。よく考えればそうだ。 「だがな、喜緑さんはともかくなぜ俺とお前は元のハルヒも朝比奈さんも、長門のことも知っているんだ。書き換わるなら俺たちが覚えてるようなことも全部書き換わらないとおかしいだろ」 「それもそうですね。ですがあなたは既に同じようなことを経験している筈です」 とスマイル青年。 「・・・あれか」 長門が世界を作り変えちまい、俺以外の奴らが皆それぞれ別の人生を植え付けられて生活することになっちまった、あの12月18日。 「長門さんに必要とされていたから、貴方だけ時間平面の改変の影響を殆ど受けなかった。今回も、貴方がキーとして必要とされたから、時間平面の改定の影響を殆ど受けなかった」 「おい、今回に限ってはお前もだろう」 「たぶんそれはですね」 古泉は髪をガッと大げさに掻き揚げるしぐさをして 「貴方と僕は運命共同体だからですよっ!」 そうほざいた。 ・・・そろそろ肉塊に変えとくべきだろうか、なあ長門。 長門? 「私がキョンを必要として・・・確かにそうだけれど・・・必要・・・私にとって・・・キョン・・・キョン・・・」 頬どころか耳まで赤くなってやがるぞ、長門。 ああもう萌えるなぁ。 そうそう、長門以外にも別の萌えるべき存在が居たんだっけか。 俺の背後に。 どうやら覚醒モードに入ったようで、ふるふると体を震わせ静かなる唸りを上げていたかと思ったら 某巨神兵よろしく不気味なほどゆっくりと目を見開いた。 「ちょっとうるさいんですけど・・・あれ、ってここ何処?なんであたしここにいるんですかぁ?お腹が空きましたぁ、キョン」 やれやれ、また良く判らんのが出来ちまったようだ。 前 次
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3580.html
・涼宮ハルヒの決闘王国 ・涼宮ハルヒの決闘王国2
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/894.html
涼宮ハルヒの追憶 chapter.6 ――age 16 ハルヒは気付いていた。 でも、それを言ったらSOS団はなくなってしまうかもしれない。 そしたら、ハルヒ自身が楽しいことは行えなくなってしまう。 ハルヒはそれにも気付いていた。 そもそも、ハルヒの鋭さからいったら気付かないほうがおかしいんだ。 長門は知っていたのだろうか。 朝比奈さんも知っていたのかもしれない。 古泉だって本当は分かっていたのかもしれない。 そう、俺だけが気付いていなかった。 のんべんだらりと日々を過ごし、SOS団にそれとなく参加する。 それの繰り返し。 俺は何をしていたんだ? いいんだよな俺は? 傍観者でいていいんだよな? その夜、そんなことをベッドに入り考えた。 あまりに色々なことがありすぎて、落ち着くことができず、寝たのは明け方だった。 学校へと向かう上り坂。 最近の不眠の影響は俺の肩を上から押さえつけた。 俺の体調は最悪を超えて、すでに限界を迎えていた。 いつ倒れてもおかしくない、本当だったら一日中寝ていたいぐらいだ。 だが、家に寝ていることが一番の苦痛だってことは俺は分かっていた。 それは、俺の望む傍観者なのかもしれない。 でも、それでは一向にこの問題は解決せず、俺の目の前をちらつくんだ。 俺にはこんだけの経験を踏んで分かったことがある。 今回の事件は俺が解決することはおそらく不可能だ。 そんな俺が唯一できること。 それは、あの部室でみんなが帰ってくることを待つことだ。 そして、思いを馳せればいい。 みんなの苦しみを少しでも感じていたいんだ。 その思いの通り、俺は放課後部室へ向かった。 夕方の部室に哀愁を感じながら、パイプ椅子を取り出して、どっと座り込んだ。 後ろに飾ってある朝比奈さんの衣装達。 デフォルトのメイドさんに、映画祭の時のウェイトレス衣装や呼び込み用のカエルスーツ、 野球に出たときのナース服。 どれもすでに必要の無いものとなっていた。 その気持ちはあの時の公園に似ていた。 長門の指定席は空席のままで、目の前にはハンサムスマイル野郎もいない。 団長様も椅子にふんぞり返ってはいなかった。 でも、俺は待たないといけないんだ。 そのまま、俺は一時間ぐらいSOS団の思い出をめくっていた。 少しうつらうつらきていた頃、部室のドアが音を立てて開けられた。 ビクッと身体を震わせ、ドアの方を見た。 「ハルヒ……」 そこにはハルヒが真剣な顔をして立っていた。 春だというのに顔は汗ばんでいて、髪が顔に張り付いていた。 「キョン! 古泉君が……」 そこまで言うと、ハルヒはその場に崩れた。 古泉、お前は大丈夫だよな? どうしたんだよ? 「ハルヒ!」 俺はハルヒに急いで近寄り、ハルヒの肩をつかんだ。 「どうしたんだ! 古泉がどうしたんだよ?」 「古泉君が、怪我で、分かんないけど大怪我で病院に運ばれたって」 予想が当たってしまった。 「死ぬわけじゃないんだろ? どこの病院だ!」 「前にキョンが入院してた病院よ」 ハルヒはやけに小声で話した。 「いくぞハルヒ! 古泉のとこに行ってやらないと!」 「行きたくない」 「え?」 「行きたくない」 「なに言ってんだ! 古泉を見舞いに行かなくていいのかよ!」 「じゃあ、手つないで?」 ハルヒはうつむいたまま、俺に顔を見せようとしない。 「分かった。俺の手ぐらい貸してやる、だから古泉のところにいこう。 俺達以外の最後のSOS団団員なんだ。見守るのは団長の役目だったんじゃなかったのか?」 「うん」 「ほら、手を貸せよ」 そう言って、俺はハルヒの手を力強く引っ張った。 ハルヒの手はとても冷たかった。 「ちょっと、痛い! 強く引っ張りすぎよ!」 ハルヒは立ち上がると、俺に精一杯の笑顔を見せた。 「まったく、キョンのくせに生意気よ! 団長様が手をつないでやろうっていうのに、どういう考えなのかしら!」 と、ハルヒは笑顔から怒り顔にフェイスチェンジした。 「古泉君をお見舞いするわよ! 早く!」 そう言うとハルヒは突然走り出した。 そして、ハルヒは振り返って心からの笑顔で――そういう風に見えた――俺の手を引っ張った。 「待てよ、急に何なんだ! さっきのはなんだったんだよ」 「どうでもいいでしょそんなこと!」 そうして俺達は学校を出た。 俺とハルヒは手を繋いだまま古泉の待つ病院へと向かっている。 ひたすら無言で、春だっていうのに手が汗ばんでいた。 どこか気恥ずかしくて、手を離してしまいたがったが、 俺には手を繋いで欲しいと言ったハルヒの気持ちも少しだけ分かった。 ハルヒは怖いのだ。今、ハルヒははっきりではないが自分の能力に気付いている。 長門も朝比奈さんも消えてしまっていた(ハルヒにとっては転校と、嫌われた)。 それを自分のせいだと思っている。 そして、今回の古泉も自分が悪いんじゃないかと思っているのだろう。 不可抗力なのはハルヒも分かっているはずだ。 でも、それでも、責任を感じてしまっているのだろうか? 俺はそんなハルヒの冷たい手を温めているのが少しだけ誇らしかった。 俺は繋いでいる俺の左手を通して、ハルヒにかかる苦しさと寂しさが少しでも伝わって欲しかった。 「ねえ、キョン?」 ハルヒは俺を見つめてきた。 「なんだ?」 「古泉君は大丈夫よね? いなくなったりしないわよね?」 「不吉なことを考えんな、古泉なら大丈夫だ」 「そうよね」 そうだよ。それに、そんな暗い顔はお前には似合わねーんだよ。 どうすれば、元のハルヒに戻ってくれるんだ? 「ハルヒ、顔が暗いぞ、お前らしくもない」 「暗くなんかないわよ!」 ハルヒはムスッとした後、そのままうつむいたまま歩き続けた。 痛い。苦しい。 ハルヒは明らかに無理をしていて、それは鈍感な俺でも分かるほどだ。 「大丈夫だ」 俺が言うと、ハルヒは返事もせず黙って歩き続けた。 ハルヒは俺の手を強く握った。 病院に到着すると、俺は受付で看護婦さんに古泉のことを聞いた。 怪我は主に左足の大腿骨骨幹部(膝から上の太い骨)骨折で、 高所からの転落や高速度での自動車事故が原因で起こる重大な損傷らしい (らしいというのも、看護婦さんも原因がわからないみたいだ)。 その他にも踵骨(かかとのことだ)にヒビが入り、靭帯も損傷しているみたいだ。 運良く血管や神経の損傷は免れたみたいで後遺症が残ることはないらしい。 骨の位置を直す緊急手術はすでに行われていて、 この後は歩行のためのリハビリテーションが始まるらしい。 まあ、つまり、命に別状はなかったわけだ。 「よかった、古泉君なら大丈夫だと思ってたわ!」 ハルヒはほっと胸を撫で下ろし、やっと笑みを見せた。 「さっきまで暗い顔してたのはどこのどいつだ。 言っただろう、古泉なら大丈夫だって」 「バカキョンに言われたくないわ!」 ハルヒは満面の笑みで俺の手を引っ張った。 「行きましょう! 古泉君が待ってるわ!」 「まったく、お前は調子がいいな」 よかったよ。ハルヒが笑顔になって。 「やれやれ」 俺とハルヒは急いで古泉の寝ている病室に向かった。 「ハルヒ、すまんがもう手は離してくれないか?」 そう俺達はここまでずっと繋いだままだった。 「分かってるわよ! キョンが寂しそうだったから繋いであげていたのに! こっちの気持ちも考えて欲しいものね」 ハルヒは手を腰に当て病院だというのに怒鳴り散らした。 逆だろとは言わないでおこう。あとが怖そうだ。 看護婦さんから聞いた病室は俺がかつてお世話になったところだった。 無駄に広い病室でハルヒが一緒に寝泊りしてくれていたんだっけな。 ノックしてドアを開けた。 「古泉入るぞー」 俺はできるだけの笑顔で病室に入った。古泉の真似だ。 古泉はベットに横たわっていた。 いつもの如才のない笑みはなく、ただぼんやりと天井を見上げていた。 病室は簡素なもので、ベッドと小さなテーブルがあった。 階は最上階で、風の通りもよかった。 部屋の雰囲気は長門のそれと似ていて、無機質に感じられた。 「おい、古泉! 人が来たのになにぼーっとしてんだ!」 古泉はこちらを見ると、 「あ、お二人とも無事でしたか。よかった」 と言って、困ったような笑みを見せた。 「なにが無事でしたかだ、お前のが無事じゃねえだろうが」 「そうでしたね。当分動けそうにはありません」 「古泉君、安心して、副団長の座は帰ってくるまで誰にも明け渡さないから」 これがハルヒなりの最高の気遣いなのかもな。 「それはありがたいことです」 古泉はハルヒに微笑みかけた。ハルヒはそれに応じた。 だが、古泉の笑顔はいつもと違い、引きつっているように見えた。 「高いところから落ちたんだってな。受付の看護婦さんから聞いたよ。 『子供とホモは高いところが好き』って言うのは本当だったんだな。 都市伝説かと思っていたんだが」 重い空気を変えようとできるだけ鉄板ネタから入ることにした。 「ホモは余計です。僕は同性愛者ではありませんよ。 純粋に女性のことが好きです」 「古泉の女性の趣味って気になるな」 と俺は気にもならないことを言った。 でも、沈黙のままでいるのは苦しすぎた。 「女性の趣味ですか。そうですねえ、涼宮さんみたいな人ですかね」 「と、突然何を言い出すんだ! いるんだぞハルヒはここに!」 「みたいな人といっただけで涼宮さんではありませんよ」 古泉は少し困ったような表情を浮かべた。 「そ、そうよ! 団員同士の恋愛は硬く禁じられているのよ!」 ハルヒは腕を組みながら、顔をあさっての方向に向けて言った。 というか、なんだその反応はハルヒに恥ずかしいなんて感情あったのか? そんなことを思っていると、古泉が俺を真っすぐ見据えていることに気付いた。 「ん、どうした?」 「いえ、なんでもありません。それはそうと、涼宮さん。 一階に行ってジュースを買ってきてくれませんか? 団長に頼むのも悪いのですが、お願いします」 「えー、なんで? キョンに行かせればいいじゃん。 雑用係はキョンって決まってるのよ?」 古泉は俺と二人で話したがってる。 おそらくハルヒには話せないことなんだろう。 古泉がハルヒにお願いすることなんてありえないし、 それに古泉はさっきから俺をずっと見つめ続けていた。 「お願いします」 古泉は強く言った。ハルヒに対する初めての意見だ。 「しょ、しょうがないわね! 今回だけよ! 古泉君が怪我してるからだからね!」 「すまん、ポカリ頼む」 「ちょっと! なんであんたの分まで買ってこなきゃならないのよ!」 「お前らの分は俺がおごってやるから、それで勘弁してくれ」 「すみません、僕もポカリスウェットでお願いします」 「もう!」 俺はポケットに入っている財布から千円札を抜き出し、ハルヒに渡した。 ハルヒは俺から引きちぎるように奪って、肩を怒らせながら病室を出て行った。 「行ってくるわよ!」 「やれやれ、ジュース買いに行かせるのにどれだけかかるんだよ」 「まったくです」 古泉はデフォルトの笑顔を見せた。 「時間がありません、始めましょうか。 涼宮さんが帰ってくるまでに話し終わらなければ」 「やっぱりか。なにか話したそうだったもんな」 「やはり分かりましたか。 でも、あなたが分かったということはおそらく涼宮さんも分かったことでしょう」 「そうだろうな」 そして、古泉は天井を見つめたまま話し始めた。 「まず、あなたには謝らなければなりませんね。 部室で突然殴りかかって申し訳ありませんでした。 あの時は僕も精神的に限界だったんです」 「いや、それはいい。俺も悪かったからな。 それはそうと、お前が精神的に限界とは珍しいな何かあったのか?」 「荒川さんが亡くなられました」 古泉はそう、事務的に伝えた。 「は? 荒川さんが? どうしてなんだ?」 「理由は僕と同じです。高所からの転落です。 ……というのは半分は本当で、半分は嘘です」 「で、本当の理由はなんなんだ?」 「少し長くなりますが」 「かまわん。続けてくれ」 古泉は白い天井を見つめたまま息をふうっと吐き出すと、 ゆっくりと一語一句聞き取れるよう話した。 「閉鎖空間でのことです。 その日涼宮さんの機嫌は大変悪く、最大級の閉鎖空間が生まれました。 そうですね、大きさとしては関西全域といったところですか。 その日というのは、長門さんが消えた日のことです。 僕達『機関』のものはほとんど総出で『神人』狩りに行きました。 当初はいつも通り、アクシデントも無く無事に終わると、 おそらく全員が思っていたことでしょう。規模が大きいだけだと。 閉鎖空間内に入るとその楽観的な思考はいっぺんに吹き飛びました。 いつもの灰色の空間ではない、薄暗く、『神人』だけが光るものでした。 ただ、それだけなら予定通り『神人』を倒してしまえば終わりです。 でも、そうはいかなかったんです。 『神人』は僕らを排除するかのように、暴力性を増し、明らかに強くなっていました。 安易に飛び込んだ者は叩きつけられて、死にました。 僕の隣には荒川さんが浮かんでいました。 荒川さんの顔は見て取れるほど怒りに満ちたものでした。 そして、僕自身も怒りというか、憤怒というか、 そうですねやるせなさと無力感、突撃してはやられていく仲間たちを見続ける悔しさ。 僕達『機関』の者はいわば戦友のようなものです。 そういえば分かってもらえますか?」 古泉はここまで話すと、俺の方を見て微笑んだ。 俺は古泉の語るその話に圧倒されていた。そこには明らかな意思があったからだ。 「ああ、分かるよ」 古泉はまた天井を見つめ、続けた。頬には涙がつたっていた。 「僕は強くなった『神人』に対して恐怖を感じ、その場から動くことができませんでした。 しかし、荒川さんは仲間を助けるために飛び込んでいきました。 無常にも『神人』によって一撃で叩き落され、底の見えない暗闇へと落ちていきました。 僕はそれをただ見つめていました。もう、赤い球体の数は二、三ほどのものでした。 その直後、僕は激しい嘔吐感に襲われ、吐きました。 頭がふらふらして、そのまま意識を失いました。 そして目覚めると、この病院だったわけです」 「そうか」 「後で聞いた話によると、その時残った者は閉鎖空間内から脱出したそうです。 そして僕も助けられ、一命を取り留めたわけですね。 閉鎖空間は拡大する一方でした。 あなたと部室で会った後、僕は再び閉鎖空間に向かいました。 『神人』が弱体化していたら、という淡い期待を抱くことで自分を保ちました。 僕はあの時見た『神人』が頭の中でフラッシュバックして、僕の中に居続けました」 古泉はそこでまた息を一つふうっと吐き出した。 「それは怖かったですよ」 古泉は俺を見て笑顔を見せた。 「閉鎖空間に入ると、前回と同じ、薄暗く、どこか陰鬱とした空間が僕を包みました。 『神人』は暴走を続けていました。 ただ、あなたが見たときと違い、街があるわけではありません。 『神人』は破壊の対象がないため、街を破壊するのではなく、 空間自体を破壊しようとしていました。 あまりの既視感に僕はまた意識が朦朧としてきていました。 どうしようもありませんでした。 僕はまた意識を失っていき、深い、深い、底へと落ちていきました。 薄れゆく意識の中で、その空間に僕達とは違う存在が飛び回っていることに気付きました。 『神人』でもなく、『機関』のものでもない別の存在がね。 あれはなんだったんでしょう。 そして僕はそのまま、底の見えない暗闇と同化していきました」 「これで僕の二日間にあった出来事は終わりです」 「そうか」 「また気がついたら病院にいました。 僕は何もできませんでした。僕は無力なんです」 「古泉、お前は無力なんかじゃないぞ。 何もしないでただぼんやりとしていた俺なんかよりずっとな」 そうなんだ、古泉は守ろうとしていた。 俺は何をしていた? 長門からただ逃げて、朝比奈さんに抱きしめられても何も答えられず、 ハルヒが苦しんでいても何もしてやれない、最低の男だ。 「ありがとうございます。その一言で僕は救われます」 古泉は笑った。俺はどんな顔をしてる? 「このぐらいでいいなら何度でも言ってやるぞ」 「もういいですよ。あなたに褒められるのもこそばゆいですから」 と言って、古泉はまた笑った。 「時間が無いので、次にいきましょう。今までのは僕の話です。 これから話すことは涼宮さんのこと、そしてSOS団についてです」 「頼む、俺は知りたいんだ」 「分かりました。では今回の事件についておさらいしましょうか。 現在、涼宮さんの能力は収束に向かっています。 理由は分かりません。残った『機関』の者が調査しています。 閉鎖空間は今もって存在し、強靭な『神人』によって、 空間は指数関数的に拡大し続けています。 長門さんを始めとするTFEI端末は減少し続けています。 朝比奈さんら未来人も一斉に帰還しました。 これらから分かることは何でしょう?」 「何も分からん」 実際に分からない。なぜハルヒの能力が収束しているのかだって? 「実は昔からいろいろな疑問が生じているのですよ。 なぜ涼宮さんはあの能力を持ち、そして行使することができるのか。 そして能力の元となるエネルギーはどこから来ているのか。 前にも言いましたよね。この世界の物理法則は保たれたままだと。 物理法則で一番大事なものはなんでしょう?」 こんなの俺でも知ってる。 「質量保存の法則かな」 「そうです。この世界にあるものは保存されるという、 ごく単純な理論がすでに破綻してしまっているのです。 では、涼宮さんがどこからエネルギーを持ってきているのか。 昔から『機関』内では論争が続いていました。 ある人は涼宮ハルヒがすでに内在していたものだと言い、 またある人は涼宮ハルヒは現人神なのではないかと言いました。 そして僕はそのほとんどがくだらない、馬鹿げたものだと考えていました。 人は人である以上、神のことを考えることはできないからです。 ですが、ただ一人、そう荒川さんの意見だけが僕の心に引っかかりました。 涼宮ハルヒの能力の元はこの世界とは違う、 パラレルワールドから引き出されたものではないか? 『機関』内では無視されましたが、 僕はこの意見がとても気に入りました。 『機関』がほぼ壊滅し、そして能力が収束していっている今なら、 この荒川さんの意見が正しいものだったと僕は声を大にして言えるでしょう」 「俺にはまったく分からないが」 古泉は俺を無視して続けた。 「パラレルワールド。つまり、異世界のことです。 この世界とは時間も空間も違う存在。 これだと、全ての辻褄が合ったんですよ!」 古泉は少し興奮しながら言った。 俺は妙に『異世界』という言葉だけが気になった。 それ以外は全く理解できなかったが。 「どう辻褄が合うんだ?」 「まず、これを裏付ける証拠として、 長門さんが涼宮さんの能力が収束している理由が分かっていないのが挙げられます。 宇宙的存在であるはずのTFEI端末が分からないもの、 それはこの宇宙外の話なのではないでしょうか? 次に、朝比奈さんもそうです。 未来が分かるはずの朝比奈さんが帰らなくてはならなかったのでしょう? 帰った理由は簡単です。時間をワープすることができなりそうだったからです。 そもそも、タイムジャンプはこの時代の科学者ですら否定的な意見です。 ではなぜ、可能だったのか? 涼宮さんの能力の発現によって、 タイムジャンプが可能なほどの時間の揺らぎが生じたと考えるのが妥当でしょう。 そしてその能力が収束している、つまり時間の揺らぎは減少していったのでしょう。 そのため、緊急で帰還することを選んだのでしょう。 ここに矛盾があります。未来が分かるはずの未来人が帰ったのか。 それはこの後起きることがこの時間軸とはまた別の時間軸の出来事なのでしょう。 つまり、異世界での出来事なのではないかと」 「理屈は分からんが、 とにかくその異世界というのはハルヒが望んでいたことなのは確かだ」 「そうです。それが第三の証拠です。 未だ現れない異世界人。これも前からの疑問ですね。 でも、僕はおそらく異世界人であろう人に会いました」 「さっき言った、閉鎖空間で見たって人か」 「その通り。閉鎖空間に他人がいるのはおかしな話ですよね。 そう考えると、あれは異世界人だったとしか思えないのです」 「なんでいるんだろうな?」 「これも推測ですが、こちらの世界に来ようとしたのではないかと」 「ハルヒに会うためか?」 「わかりません。ただ、分かることが一つだけあります。 涼宮さんが能力を発するたびに、 この世界のエネルギーは増え、あちらの世界のエネルギーは減少します。 これは何を意味するでしょう?」 「なんだろうな」 「あちらの世界が不安定になる、これだけは明らかです。 今回の能力の収束はこれに由来するのではないか。 あちらの世界が不安定にならないように、涼宮ハルヒに対抗してきた。 こう考えてみてはどうでしょう。 そして、こちらの世界とあちらの世界を繋ぐもの。 それは、閉鎖空間なのではないかと。 今回の閉鎖空間は今でも拡大を続けている、史上最大のものです。 そのためあちらの世界と繋がり、異世界人がやってきたのではないかと、 そう僕は考えるわけです。以上です、長くなってすみません」 「いや、いいよ。全く分からなかったが、妙に説得力があった」 そう、俺は全く分からなかった。 だが、一生懸命に語る古泉はとても格好よく見えたし、 俺はただ相槌をうつだけだったが、なんとなく伝わった気がした。 「あ、あと一つこれは涼宮さんには言えませんが、 僕は彼女を非常に憎んでいます。 それも殺してやりたいぐらいにね。 でも、涼宮さんは悪くないんです。だから、苦しんです。 閉鎖空間は彼女の心そのものです。 そして、僕達を排除しようとしたのも、殺そうとしたのも彼女です。 僕達『機関』の戦友たちは涼宮ハルヒに殺されたんです」 古泉は俺をじっと見つめながら笑った。 俺はそれに恐怖を感じ、狂気を感じた。 静まる俺と古泉の病室に、外から女性の声が突然聞こえた。 「あの、中入っても大丈夫ですよ?」 ガランッ。 何かが落ちる音共に、人が駆けていく音が遠くなっていった。 もしかして。 「もしかして、ハルヒが聞いていたのか?」 「そうかもしれません。でも、これでいいのかもしれません」 「バカ野郎! 殺したいなんていわれて平気でいられるやつがいるか!」 「早く追いかけないんですか? 涼宮さんは僕ではなく、あなたを待っているはずですよ」 古泉は嫌な笑みを浮かべた。 「分かってるよ! くそっ! どいつもこいつもなんなんだ!」 病室のドアを開けると、角のへこんだポカリスウェットが3つ転がっていた。 みんなで飲むつもりだったんだろう。 俺はその一つを病室のテーブルに置き、 古泉に「早く直せよ。ありがとな」と言って病室を飛び出した。 病院で走るわけにもいかず、歩いてハルヒを探した。 一階まで降りると、ハルヒは自販機の横のベンチに座っていた。 顔を両手で覆っていた。 近づくと、肩を震わせ、声にならない声で泣いていた。 「聞いてたのか?」 「……うん」 ハルヒはひどく詰まった声で答えた。 「どうしよう、古泉君にも嫌われちゃった。もうSOS団は解散ね」 「そうかもな」 俺はハルヒの右側に座って、地面を見つめた。 「あたしね、あたしだけで生きていけるように、頑張っていたの。 でも、みんなと出会って、楽しくなってた。 今まで全部一人でやって生きてきたのに、みんなといるのが楽しくなってたの。 でも、でもね。あたしは大切なものができるのが怖いのよ。 大切なものはいつか別れる時来るの」 いつか別れる時が来る。 俺は自分の中で繰り返した。それは朝比奈さんが話したことでもあった。 「だから、あたしは友達なんて作らなかった。 それより一人で生きていったほうが楽だし、強くなれるもの。 その分努力もした。でも、あたしは寂しかったのかもしれない。 宇宙人とか未来人とか超能力者とか全部人ではないものを求めてた。 だって、その人たちとは別れが来ないかもしれないでしょ? 楽しいだろうなってのは本当。でも、それは表面上の理由。 あたしはまた手に入れて、また失った」 ハルヒ。言ってくれるのは嬉しいんだ。 でもな、ハルヒ。俺はまだお前を受け止める自信が無いんだ。 「あたし、古泉君に殺されるのかな? あたし、いつのまにか殺人者になってたのね」 ハルヒは泣き続けていた。ハルヒの泣き顔はとても綺麗だった。 ハルヒ。ごめん、何も言えなくて。 ハルヒ。 「バカ。お前は殺されないし、殺人者でもねーよ」 「キョンが言ったって、意味が無いわ」 確かに気休め程度のクソみたいに陳腐な言葉を並べて、 ハルヒを慰めることができるか? できねえよ。 「分かった。何も言わない。 ただ、ポカリスウェットは飲んどけ。 時間が経って冷えるとまずくなるからな」 俺がへこんだ缶を手渡すと、ハルヒは力なく受け取り、膝の上で持った。 俺はもうひとつの缶を開け、一気に飲んだ。 そして左手でハルヒの右手を取り、ゆっくりと握った。 ハルヒの右手は震えていて、ひどく冷たかった。 二十分ぐらいたっただろうか、 突然ハルヒは立ち上がり、ポカリスウェットを一気に飲み干した。 「ぷはっー!」 お前はおっさんか、というツッコミをする暇もなく、 「帰るわよ! キョン! こんなとこいても無駄だわ!」 「おい、突然どうしたんだ?」 「帰るって言ったのよ、聞こえなかったの? もう、家に帰りましょ。暗くなってきてるし」 「あ、ああ。じゃあ、帰るか」 戸惑う俺を横目にハルヒは缶用のゴミ箱に空き缶を投げ入れると、 俺の手を引っ張った。 病院を出ると、空には月だけが輝いていた。 俺達を照らすのは街灯の光と、行きかう車、建物から漏れる白い光だ。 隣にいるハルヒは泣いてすっきりしたのか、急に機嫌が良くなっていた。 SOS団でのハルヒと同じはずなのに、不自然なのはどうしてだろう? もうすぐ駅に着く。その間俺達は手を離さなかった。 無言のまま歩き、つながっている手だけをしっかりと握った。 春の夜風が心地良い。肌寒いぐらいのそよ風が頬を撫でた。 もうすこしでさよならだ。 虫達も息を潜める、そんな静かな深い夜だった。 突然、後ろから大きい足音が聞こえるまでな。 それは一瞬のことだ。 突然に後ろで人が走る音が聞こえて俺が振り返ると、 そいつはやたらと大きなナイフを胸に構え、俺たちに突進してきていた。 「※※※!※※※※※※※※※?※※※※※※※!」 訳の分からない奇声を上げながらものすごい勢いで突っ込んできた。 「危ない! ハルヒ!」 「え? なに?」 俺はハルヒを引っ張り、倒れるようにしてそいつの一撃を避けた。 なんなんだ? 俺達はいつ暗殺者に狙われるようになったんだ? 避けられた謎の暗殺者はすぐに切り返し、俺たちを見つめた。 かなり大きい男? 「※※※※※?」 訳が分からない。何語を喋ってるんだ? 俺の英語の成績ぐらい調べといてくれ。 とりあえず立ち上がらなきゃ! このままだと逃げられん! 「※※※!」 またそいつは突っ込んできた。まずい! 逃げられん! しかし、ハルヒがナイフを突き刺そうと突っ込んできた暗殺者の手をタイミングよく蹴り、 ナイフを吹き飛ばした。 そのあとハルヒは左足で暗殺者の膝辺りを蹴り、そいつは横に倒れた。 「まったく! その程度であたしを狙うなんてバカ丸出しだわ!」 ハルヒは立ち上がるとそう叫んだ。 だが、そいつもすぐに立ち上がり、背中からさらに大きなナイフ? いや、もう剣といってもいいぐらいの長さの刃物を取り出し、 ハルヒに向かって一直線に刃物を突き立てた。 まずい、近すぎる。避けきれない! ハルヒをかばおうにも間に合わず、目をつむってしまった。 目を開けると、ハルヒに突き刺そうとしたナイフを右手でつかみ、 手を血だらけにした、短髪の少女が立っていた。 「長門、だよなお前?」 そう、そこには消えたはずの長門が立っていた。 「有希なの?」 「そう」 暗殺者はガクガクと震えだし、ナイフの柄から手を離した。 「今は時間が無い。事情の説明は後」 「情報連結解除開始」 そういうと、あの日と同じようにナイフがサラサラと分解していった。 「※※※!※※※※※※!」 そいつはいきなりうめき声のようなものをあげると、長門を睨み付けた。 長門は高速で何か呪文のようなものを呟いた。 「――――パーソナルネーム―――を敵性と判定。 当該対象の有機情報連結を解除する」 「※※※※※※※※※※※※!」 「んっ!」 目の前で謎の言葉の言い合いが行われていた。 長門はその内容が分からなくて、暗殺者は何語かも分からなかった。 が、突然暗殺者は消え、俺は呆然とその様子を眺めていた。 「逃げられた」 長門は俺達のほうを振り返り、そう言った。 右手からはおびただしい量の血が流れ出ていた。 よく見ると、少し悔しそうにも見えた。 「有希!」 突然ハルヒは長門に抱きついた。 「有希! どうしたの? 転校したんじゃなかったの? 大丈夫なのその右手」 そういうとハルヒは頭のトレードマークを解いて、長門の右手首を縛った。 「これで、少しは血が止まると思うわ」 ハルヒはにっこりと笑って長門を見つめた。 「ああ、有希。ありがとう、あたしを助けてくれたのよね?」 「そう。右手の損傷もたいした事無い。今、直す」 長門はまた高速で呟くと、長門の右手は徐々に塞がっていった。 「すごい!すごい! どうやったらそんなことできるの?」 ハルヒは目を輝かせて長門を見つめている。 そんなハルヒと長門を見ている俺は無様に尻もちついたままなんだがな。 って、おい! ハルヒの前でそんなことやっちゃっていいのかよ! 「問題ない。あなたたちを守るために再構成された。 記憶も何もかも全てそのままで」 「有希!」 ハルヒはまた長門に抱きついた。 「よかった。有希が戻ってきてくれて。 でも有希は人間じゃないのね? もしかして宇宙人?」 「そう」 「当たりね。その右手首に付けてるやつはあげるわ! あたし達を守ってくれたお礼よ!」 「分かった」 ハルヒに抱きつかれてる肩越しに、長門は俺を見つめた。 「なんだ?」 「そろそろ」 「なに―――」 「キョン君ー! 涼宮さーん! 無事でしたかぁー?」 遠くから愛らしい声が聞こえた。 やれやれ、そういうことか。この団専用のエンジェルがお出ましだ! 俺は立ち上がり、手を振ってその声に答えた。 ハルヒもその声に対して大声を上げ、手を振って答えた。 朝比奈さんは息を切らしながら俺達のところにたどり着くと、 「よかったぁー。殺されちゃうかと思いましたよおぉ」 と言って、可憐な涙を拭った。 「ばかねぇー。あんなんであたしが死ぬわけ無いでしょ?」 ハルヒはそういって、朝比奈さんを抱きしめ、頭を撫でた。 顔は困ったような、嬉しさを隠せない様子だ。 「でもでもぉ。本当に危なかったんですよぉ? 長門さんが遅かったらって思うと……」 「大丈夫よ。あたしはここにいるし、キョンもあそこでぼけーっと突っ立ってるでしょ?」 いや、普通に立ってるだけだがな。まだ動悸はおさまらないが。 「みくるちゃんは未来人なのよね?」 「そうです」 って、おい! 朝比奈さんまで認めてるんだよ! 古泉の話をどこまで聞いたか分からんが、ハルヒも信用しすぎだろ。 「てことは、古泉君は超能力者ね。キョンはただの一般人ぽいし」 まあ、俺もすぐに気付いたがな。 それより聞いておかなきゃならないことがあるな。 「ところで長門、さっき襲ってきた人は何者なんだ? ここの国の人ではなさそうだったが」 俺は平然と立っている長門に尋ねた。 「この宇宙ではない宇宙から来たもの。 通俗的な用語を使用すると、異世界人にあたる。 この宇宙空間には存在しないため、我々情報統合思念体も把握できていなかった。 でも、今回対象はこの世界に突然に現れ、明らかな意思を持って行動した」 「明らか意思か」 「そう、彼の意思は『涼宮ハルヒを殺す』ことだけ」 ハルヒは朝比奈さんとじゃれあっていたのをやめ、長門の話に集中した。 「そうなんです」 朝比奈さんは唐突に割り込んだ。 「この時間軸上に存在しないはずのことだったんです。 でも、突然現れて、緊急に出動要請が出たんです。 涼宮さんの命が狙われているって。今回は光線銃の携帯も許可が下りました」 そう言って朝比奈さんは腰につけていた光線銃を取って、俺達に見せてくれた。 ハルヒはそれを興味深げに見ると、朝比奈さんから奪い、俺に打つ真似をしてきた。 あぶないからやめなさい! 子供じゃないんだから! ハルヒは銃を下げると、 「とにかく、あたしの命を狙ってる異世界人とやらがいるわけね。 そいつらは危険なの?」 長門はハルヒをじっと見つめると、 「とても危険。我々情報統合思念体でも勝てるかどうかは微妙。 でも、彼らにも弱点がある。この世界では、こちらの物理法則に従わなければならない。 これからあなたはわたしや朝比奈みくると一緒にいることを推奨する」 長門は俺の方を向くと、 「あなたも、わたしたちとともにいなければ危険」 俺もか。 「そう、文芸部の部室に泊まるのが一番安全。 あの空間はちょっとした異空間になっていて相手も攻め込みにくい」 「部室? そこで泊まるのか。ばれたらまずいんじゃないのか?」 「大丈夫、情報操作は得意」 確かにお得意だろうがな。 はあ、一般人だったはずの俺がいつのまにか暗殺者に狙われるまでになったか。 「部室でお泊りか、なんか楽しくなってきちゃった! もっといろんなもの持ち込まないと!」 ハルヒは乗り気だがな。 「わたしもいっぱい準備しなくっちゃ!」 朝比奈さんもだいぶ乗り気のようで。 そして俺は気付く。なんであの部室はあんなに生活できるまでにものが溢れていたのか、 実はこのためだったのかもしれない。なんてな、偶然だろ? 「これでSOS団も復活ね! 今日の夜から部室でお泊りよ!」 「はぁーい」 朝比奈さんの愛くるしい声が月夜に舞う時、長門は細い光を放つ街灯を見つめながら頷いた。 やれやれ、好きにしろよ。 もう。 「SOS団はやっぱりこうでなくっちゃ!」 仁王立ちするハルヒの叫び声が、肌寒い春の夜に響いた。 chapter.6 おわり。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1077.html
第1話 ~夢~ 「…ョン…ん……きて。…ぇ、起きて…キョ…」 んん? 「…起き……たら…キョンくんっ!!!」 むをっ!? ズドン 「朝だよ、キョンくん!!」 気が付くと俺はベットからずり落ちていた。 正確には落とされただが。 「キョンくん起きて。遅刻しちゃうよ~」 「あ、ああ。」 はて?何やら妙な夢を見ていたような気がするのだが ……思い出せん。 「どおしたの?キョンくん、お腹痛いの?」 「いや、平気だ。何ともないぞ。」 「良かったぁ。」 まぁ、どうせ大したことじゃないだろう。 そして俺は、いつものように強制ハイキングコース的を、 谷口と共に今日も働きアリの様にせっせと歩いていた。 しかし今日の谷口は妙に機嫌が良いな。一体どうしたんだ? 鬱陶しい、あぁ鬱陶しい鬱陶しい。 ナンパが失敗し過ぎてついにおかしくなったか? 「何だ?気になんのかキョン?どうしてもっつーんなら教えてやらないこともないぜ。」 別にお前のナンパの失敗武勇伝など 古泉が1日に肩をすくめる回数より興味がない。 「しょーがねーなあ。どーしても聞きたいみてーだから教えてやるよ。」 何でも谷口は昨日珍しくナンパが成功し、 更にその娘と意気投合して、そのまま付き合う事になったらしい。 「まさか……冗談だろ…」 「ま、俺は一足先に幸せを掴ませてもらうぜ。 お前もいつまでも妙な部活で遊んでないで、 さっさと涼宮とくっついちまった方が良いぜ。」 だから何でそこでハルヒが出てくるんだ。 何度も言うがハルヒなんかより、どーせなら朝比奈さんとくっつきたいね。 「だーから、お前は校内の男子生徒を全員敵に回すつもりか? 俺は友達としてお前に忠告してやってんだぜ。」 うるせぇよ。男子全員を敵に回そうが、俺には朝比奈さんさえ居ればそれで良いんだよ。 「まっ、放課後は出来るだけ1人で居ないようにするんだな。ケケケ。」 と、そうこうしている内に俺達は教室に着いた。 ハルヒは2年になった今年も、背後霊よろしくといったように相変わらず 俺の後ろの席に居座り続けている。 そんなハルヒも最近はいつもの破天荒な考え を発揮する事なく、いつも物憂げに空を見ている。 何故我らが団長様がこんな事態に陥っているのかというと、 そう。今は全国一斉七夕シーズンなのである。 ちなみに今日は7月6日なので七夕は明日だ。 コイツはどうせまた4年前の事でも思い出してナイーブに成っているのだろう。 しかし、今年はその小鬱状態も去年より重症になっており、 何と団活中まで何をするでもなくただボーっと空をみているのだ。 古泉曰わくこんなことは初めての事で、機関も混乱しているらしい。 「よう、おはようハルヒ。」といつもより優しめに話しか けてみる。しかし「ん…」としかハルヒは言わなかった。 オイ、そんなけかよ。何か文句を言ってやろうと思ったが、 チャイムがなり岡部が颯爽と入ってきてホームルームを始めたため諦めて席についた。 授業中、俺はとてつもない睡魔との戦いを強いられた。 やるじゃねぇか、久々にキちまったよ。俺はすぐさま睡魔に敗北を喫する事になった。 ……… …… … はっ!! 俺は今朝と同じ夢を見ていたようだ、内容は思い出せない、 しかし何故か同じ夢だったとゆう事だけは分かった。何なんだ一体。 「お、やっと起きやがったかキョン。」 「ほんと、今日はよく寝てたね。」と、話し掛けて来たのは谷口と国木田である。 あん?そんなに寝てたのか俺は。 「今は何時間目だ?」 「何言ってんだ、もう放課後だぜ。」 なに!?俺は昼飯も食わずに1日中寝てたのか? とゆうかコイツらも何故起こしてくれんのだ。 「何言ってんだよ、お前がちっとも起きなかったんじゃねえか。」 「そうだよ。キョン何しても起きなかったんだよ。」 何だそりゃ?一体どこの寝キョンだそいつは。いや、俺だが。 そんな事より部室へ向かわねばならんな。 「じゃあなキョン。歩きながら寝んなよ。」 「気を付けてね。」 そして俺は部室へ向かった。しかし妙な夢を見たな、何故内容が思い出せないんだ? 朝見た夢と同じだったということしか思い出せん。 そんな事を考えている内に俺は部室に着いた。 もう大分時間も経ってるし今日はノック無しで良いか。ガチャ入りますよ~ 「あ、キョン君。こんにちは」 部室には俺のマイスウィートエンジェルの朝比奈さんしか居なかった。 それに今日メイド服では無く、普通の制服姿だった。何か有ったのか? 「他の奴らはどうしたんですか?」 「えっと、古泉くんと長門さんは今日は学校に来てないみたい。それと涼宮さんは用事が有るからって先に帰っちゃいました。」 何?古泉だけならまだしも、長門まで休むとは珍しい事も有るもんだな。 まぁハルヒの奇行は今に始まった事じゃないが… 「それじゃあ今日はもう帰りましょうか。」 「ぁ、はい。」 そうして朝比奈さんの帰り支度を待ち、俺達は一緒に帰った。 この時点では俺も、少し変なだけで、普段の日常と何ら変わりの無いものだと思っていた。 途中まで他愛の無い話をしていた俺達だったが、 別れ際になって朝比奈さんは急に真剣な顔になって 「キョンくん、実はキョンくんに一緒についてきて欲しいところがあるの。」 はぁ、またどうせ未来関係のお遣いなんだろうな。 「今日はいつへ行くんですか?」 「あ、違うの。今日は未来関係の事じゃなくてね…ぇえと……その、わたしの家に来て欲しいの。」 な、何だと!?朝比奈さんの家に!? 「あの、やっぱりだめですかぁ?」 いえいえ、あなたのご自宅にお邪魔出来るのなら、また4前に遡れと言われても、構いませんよ。 「ほんと?ありがとうキョンくん。」 そして俺は今朝比奈さんの家の前にいる。朝比奈さんは 「ちょっとだけ待っててね。」 と言って家に入っていってしまった。きっと部屋のかたずけでもしてるのだろう。 しかしどうもおかしいな。これで家に入ったら、朝比奈さん(小)のかわりに 大人版朝比奈さんが出てくるんじゃないだろうな。 ガチャ 「お待たせしましたぁ、どうぞ。」 そこにいたのは俺の朝比奈さん。つまりあの小さくて可愛い方の朝比奈さん(小)だった。 良かった。どうやら本当に未来絡みじゃないようだ。 つまり朝比奈さんはただ俺を家に招待したかっただけらしい。しかし年頃の女の子が同年代の男を部屋に入れるってのはどうなんだ? まさか朝比奈さんは… 「どうしたの?キョンくん。」 はっ!どうも変な方向に考えが行ってしまっていたようだ。 「い、いえ、何でもありませんよ。さぁ入りましょうか。」 朝比奈さんは不思議そうな顔をしていたが俺を部屋に入れてくれた。 そして俺がドアを閉めた時、それは起こった。 ポスッ へ?何だ何だ!?何が起きた!!? 下を見るとなんと朝比奈さんが俺に体預け、抱きつくような体制になっていた。 ま、まさか本当に朝比奈さんは…OK取り敢えず落ち着け俺。 朝比奈さんにこんなことされたら応える意外の選択肢は無いだろ。 「朝比奈さん。」 俺は覚悟を決め、出来るだけ真剣な声で朝比奈さんの名前を呼び、朝比奈さんの両肩を掴んだ。 と、その時 「すぅ…すぅ…。」 なっ!寝息!?朝比奈さんの顔を見てみると、それはもう天使のような可愛らしいな寝顔だった。 なんと言うことだ。朝比奈さんはマジ寝していた。おいおいマジかよ、 前にもこんな展開無かったか?と俺がこの状況に既視感を覚え始めた頃、 「こんにちはキョンくん。」 という声が家の中から聞こえてきた。 振り返ってみると、案の定そこにいたのは朝比奈さん(大)だった。 「今回はどんな用ですか?朝比奈さん。」 俺は朝比奈さん(小)を支えながら言った。 「キョンくん最近変な夢見てない?」 なっ!? 「何で朝比奈さんが知ってるんですか!?」 朝比奈さんは少し困ったような顔をして言った。 「ごめんなさい、禁則事項なの。それでね、あなた達は近い内にまた大変なことに巻き込まれるわ。」 またですか。今度は何が起こるんですか? 「ごめんね、今はここまでしか言えないの。あと、 あなたは今日はだけは最近のあの夢とは違う夢を見るはずです。その夢の内容だけは絶対に忘れないで。」ら それは良いんですが、すいませんが寝室は何処ですか?こっちのあなたを寝かしてあげたいので。 「ふふ、そこの部屋よ。」 俺が朝比奈さん(小)をベッドに寝かすと、朝比奈さん(大)は小声で 「夢のこと、忘れないで…それから、今日あなたをその子呼んだのは、 本当に未来のことは無関係なの。その子はわたしが来ることは知らなかった。」 と言った。俺は驚いて振り返ったが、そこにもう朝比奈さんは居なかった。 一体今度は何が起こるってゆうんだ? まさかまたハルヒとあの灰色空間にでも閉じ込められるのか? それとも新手の宇宙人どもが攻めて来るのだろうか。 ………それで、俺はどうすれば良いんだ?たとえ来たとしても俺に何かできるのか? そんな事を考えながら俺は帰ったら飯食って、風呂入ってすぐに眠った。 ……そこは、夜も深いある学校。そのその校庭の真ん中。そこにソイツは立っていた。 ソイツは黄色のリボンを夜風になびかせながら空を見上げていた。 何をするでもなくただ空を見上げていた。まるでそこに来るであろう何かが来るのを、ただひたすら待っているようにも見えた。 「…………今年こそは……会えるわよね…ジョン……」 涼宮ハルヒの方舟 第1話 ~夢~ 終わり 第2話へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/622.html
涼宮ハルヒの出会い 『アイツノソンザイ』プロローグ 私はただの人間だった………… そう自覚してから何年がたったのかしら? もう3年もたったのね… 明日は入学式か~ 『…つまんない』 平凡な入学式、ホントつっまんない そしてこのクラスもホント見るからに平凡、なんでなの? なんで私だけ… そんなこと考えてるうちに自己紹介とかいう平凡な行為の時間になったらしい たんたんと終わっていく、前の奴の自己紹介なんて頭に入ってなかった 別に目立ちたいとかじゃない、けど気がついたら私はこういっていた 『東中学出身、涼宮ハルヒ』 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者 がいたら、あたしのところに来なさい、以上』 涼宮ハルヒの出会い 『アイツノソンザイ』エピローグ02 別にどう思われてもいい、でももしかしたら、って思うと… だからって別に後悔なんかしてない、平凡なことはいやなの! 数日後、前の席の奴に話しかけられた 「しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」 やっぱりね…そうだよね、普通に考えたら誰でもそうだよね… わかってた、私は何度も自分に言い聞かせた だからかな、冷静に対応もできなかった、ただただ返事をしただけで… でもその後なのよね、なんかこいつは違うな~って思えたの 髪型に気がついたときはって思ったし、それに話も面白いのよ 合わせてくれるっていうのかしら?でも今までと違う感じがした すごく私は面白かった、それからSOS団を作ったのはすぐだったわね 終 第1章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5816.html
…… 「…ここはどこだ?」 気がつくと、俺は真っ暗な空間へと浮かんでいた。 目の前には地球が広がっている…隣には月らしきものも見える。 「ここは…宇宙?」 あまりに広大すぎる暗黒の大空間に、 青く澄みきった水の惑星を目の当たりに 俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。 ! 「地球が燃えている…」 青かった地球がいつのまにか赤く変色していた。 「一体何がどうなってんだよこりゃ…」 自分の置かれている状態もそうだが、全く状況がつかめない。 !? 「今度は透明に…?」 次の瞬間には地球は水色に近い透き通った色へと化していた。まるで氷で覆われたかのごとく…。 …… 「…また青に戻ったか。」 再び地球は青色へと戻った。しかし、どうやら何か様子がおかしい。 「陸地が…ない…?」 地球全体が真っ青な球体へと化していた。緑や茶色といった陸地が ことごとく消滅してしまっているのが見てとれる。陸が海に呑まれてしまったとでもいうのだろうか。 …… 今度はどこからか泣き声が聞こえてくる… 「この声どこかで…」 どこか聞いた覚えのある声。 「まさか…ハルヒか!?」 そう叫ぶと、いつのまにか声は聞こえなくなっていた。 「…え?」 ふと地球のほうに目をやって俺は驚愕した。なんと、先程まで見えていた地球が消滅してしまっている… いや、消滅というのは言い方が悪い。正しくは【見えなくなっている】と言うべきだろう。物を見るためには 言うまでもなく光が必要であるが、その光が四方を見渡しても見当たらないのだ… 光源体である太陽は一体…どこへ行ってしまったというんだ?? 再び声が聞こえる。 「…や…い…あた…したく…な…」 その声は、しだいに大きなものへとなっていく。 「いや…い…あた…こ…な…くない…」 …… 「嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!」 !? ッ!! …… …デジャヴ いつもと同じ見慣れた俺の部屋。窓から朝日が射していることから、 おそらく今は朝なのであろう。昨日のように時計を確認するまでもない。 いや… 一応確認しておくか。 時刻は7 38 ほら見ろ、やはり朝じゃないか!と得意げに語っている場合でもない。一歩間違えりゃ遅刻じゃねーか畜生。 急いでかばんに教科書やノートをつめる俺。にしても自らの不覚さを嘆かずにはいられない。 なぜ俺は【目覚ましセット】という当たり前にして当然のごとく行為を、昨夜忘れてしまったというのか? それほどまでに、俺は昨日疲れてたってのか? 準備を終えた俺は廊下で妹と軽く挨拶を済ませた後、 食卓に並んだトーストを口に頬張り、潔く玄関を飛び出した。 …… 「はあ…はあ…まったく、いい運動だぜ…。」 今俺がいる位置は、学校に隣接するあの忌々しい長い長い坂のちょうど真下である。つまり、 俺はここまで全速力で走ってきた…というわけだ。携帯で時刻を確認、とりあえず遅刻は免れたようである…。 時間的余裕もあるので歩くとする。この坂を走らねばならないとなった日には自殺ものであろう。 それが防げたというだけでも、俺は今日も力強く生きられるというものである。 …ようやく落ち着いたところで、俺は昨晩の事象を振り返ることができた。 「まさか二日続けておかしな夢を見るとは…。」 その一言に尽きる。支離滅裂かつ荒唐無稽な夢など一体誰が進んで見ようなどと思うのか… まあ夢など言ってしまえば、全てそういうもんなのかもしれないが。とにもかくも、 まず話をまとめることから始めるとするか…と思ったのだが、そもそも抽象的すぎて 何をどうすればいいのかもわからん。とりあえず…特徴らしきものだけでも挙げていってみるとしよう。 ・地球の崩壊 ・謎の声 …明確に挙げられるのはこの二つくらいか。なぜ俺があのとき宇宙にいたのかは知らんが… (単に視点が宇宙だったってだけかもしれんが)地球が燃えたり氷ったりするのを、確かにこの目で見た。 ならば崩壊という表現は別に差し支えないだろう。そして極めつけは、夢が覚める直前に聞こえてきたあの声… 「あの声は…ハルヒだったのか?」 もしそうなのだとしたら、一昨日みた夢との関連性が見えてくる。一昨日の夢では地震やその他怪奇現象で 町が壊滅。昨日は地球が…規模こそ全く違うが、同じ【崩壊】というワードでくくることができる。そして… 思い出したくはないが、地震により家族が息を引き取った際、放心状態に陥っていた俺の脳内に響いてきた… ハルヒの声。あのときハルヒは『助けて!』言っていた。昨日の例の声は…確か『こんなことしたくない!』 とかいう内容だったかな。両者に共通することは、俺に向かって何らかのSOSを発信していたということである。 俺は常識人だ。ゆえに町や、ましてや地球荒廃などといった異常にさらに異常をかけたような とんでも事態が発生するなどとは…微塵も思っていない。ただ、あれらがハルヒの無意識の内に 発動した…俺に対する干渉なのだとしたら?一連の超常現象はあくまで比喩であり、夢の本質自体が 実は、ハルヒが俺に救助信号を発信するだけのただの手段でしかなかった可能性が浮上してくる。 つまり、ハルヒは今現在とてつもない悩みを抱えている…その可能性が非常に高いということである。 その悩みが何なのかは俺には見当もつかないが。というのも、最近のハルヒに変わった様子など 特に見受けられないからだ。万一それに俺が気付かなかったとして、長門や古泉がそれを見逃すとは 考えにくい。だから、なおさらである。 …… とまぁ、ここまでカッコよく主張してみたはいいものの… 一連の夢がハルヒの能力とは無関係の、本当の意味でのただの【夢】だったのだとしたら、 ここまで深く熟考している俺など、傍から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。 そうである場合、谷口にすら嘲笑される自信がある。それでもだ、俺自身こんなネガティブな展開など 望んじゃいない。ハルヒが何か多大な悩みを抱えて苦しんでる姿なんて、想像したくもないからな。 「あら、キョンおっはよー。予鈴ギリギリね。」 教室に着き、俺はいつもと同じく後部座席にて座っておられる団長様に声をかけられた。 「そうみたいだな。遅刻を免れて助かったぜ。」 どうするか…朝っぱらからいきなりハルヒにこんなこと質問すんのもアレかもしれんが、 一応言っておこう。杞憂であれば、それに越したことはないんだからな。 「なあハルヒ。」 「ん?何?」 「お前さ、今何か悩んでることとかあったりするか?」 「…は?」 「言葉通りの意味だ。」 しばらく沈黙が続いた後、その均衡を破ったのはハルヒだった。 「…ぷっ、あっはっはっは!キョン、朝からどうしたの?何か悪い物でも食べた?あはははっ!」 どうやら、団長様は真面目に答える気などさらさらない様子である。 「んー悩みねーまあ、ないこともないわよっ!!」 おや?一応答えてくれるみたいである。しかし万遍無く浮かべている笑みから察すると、 やはり真面目には答えてくれないらしい。しかも、展開が大体予想できた。 「悩みの種はね…あんたよあんた!テストは赤点スレスレだし今日は遅刻しそうになるわで、 ヒヤヒヤもんもいいとこよ!あんたはもう少しSOS団の団員なんだっていう自覚を持ちなさい! 団長に泥を塗るマネなんて許さないんだからね!」 楽しそうに俺を断罪するハルヒさん。うむ、やはり予想通りだった。相変わらず、俺に言い放題なのであった。 「まあそれは半分冗談としてさ、朝からそんなこと聞くなんて一体どうしたのよ?」 さて…どうしようか。変にはぐらかすと直感が鋭いハルヒのことだ、 ややこしいことになる可能性大。ゆえに、ここは素直に答えておくとしよう。 「いや、お前が俺に助けを求めてる夢を最近見ちまってな。ちょっと気がかりになって聞いてみたってところだぜ。」 「…何それ、気持ち悪い夢ね…。」 同意しておこう。現実的に考えて、お前が俺に助けを求めるなんてことまずありえんからな。 「もしかしてあんた、あたしに従順にさせたいって欲望でもあるんじゃないでしょうね??」 気持ち悪いって、そっちのほうかよ! 「助けを請うってのはつまりその裏返しだし、夢ってのは密かに思ってるようなことが 反映されたりするもんだし…あたしに何か変なことでも考えてたら承知しないわよ!?」 いやいや、そりゃ考えが飛躍しすぎだろう…ってか願望が夢で具現化なんて、一昨日、昨日の 夢見りゃ絶対ありえんことを、俺は知っている。何が楽しくて家族が死ぬことや地球の滅亡を 望まにゃならんのか…まあ、さすがにこういう夢の内容までハルヒに話そうとは思わないけどな。 …そんなこんなで時は昼休み。俺は谷口&国木田と席を囲って弁当を食っていた。 ハルヒは相変わらず学食のようだ。 「ところで国木田、昨日休んでいたようだが体のほうは大丈夫か?」 「ん?ああ、おかげ様で。」 「さてはお前、勉強のしすぎで熱でも起こしたか?」 谷口が横から言葉をはさむ。 「だったらまだよかったんだけどね…単なる風邪だよ、ほら、もうすぐ12月だってこともあって 冷えてきたじゃない?そのせいかな。二人は風邪ひかないよう気をつけてね。」 「おーおー、まあそのへんは大丈夫だぜ。特にキョンはな。バカは風邪ひかないって言うだろ?ははは!」 谷口よ、どの口がそれを言うんだ…確かに俺は成績も下の中くらいでバカかもしれない。 が、お前はお前で俺より成績悪かった記憶があるんだがなぁ…気のせいか? 「それを言うなら谷口もバカだから風邪ひくことないね。いや~二人とも羨ましいよ。」 おお、俺が言わんとしていたことを代わりに国木田が言ってのけてやったぞ。 が、しかし、最後の一言は残念だ国木田…お前も俺のことバカだと思ってたんだな…。 「でもよ~そうそう例年通り寒くなるわけでもないみたいだぜ? 今朝の天気予報見てたら、来週の中頃は夏みたいな気温になるとかなんとか。」 「…谷口が天気予報を見るなんて珍しいな。」 「うるせーよキョン、俺だってそんくらい見るぜ。」 「どうせ朝食ついでに適当にTVのリモコンいらってたら偶然映ったってところなんでしょ?」 「国木田…お前鋭いな…。」 鋭いも何も、普段のお前の性格や言動を考えりゃ当然の帰結だとは思うがな。 しかし、夏みたいな気温か…そういや夢の中でも確かあのとき暑かった記憶が… …… 「キョン、大丈夫?顔真っ青だけど。」 「おいおい、バカは風邪ひかないって言った手前にこれかよ。」 気付かないうちに、俺は随分と陰鬱そうな顔になってたらしい。 「あー、いや、何でもないぜ。ちょっと寒気がしただけだ。」 「まさか風邪にでもかかったのかよ?」 「じゃあもうバカは谷口一人になっちゃったね。」 「国木田てめーッ!!」 お前らのコントを眺めてたら、あの悪夢が少しでも薄れたぜ。感謝するぞ谷口、国木田。 あんな未来…俺は絶対信じねーぞ…。 操行している間に放課後。またいつものごとく部室へと向かう俺。 「お、長門、お前だけか。」 「そう。」 俺が定着席に座ると、何かのCD-ROMをもってこっちにやってくる長門。 「これがSinger Song Writer…軽音楽部から借りてきた作曲用ソフト。 パソコンにインストールすれば即行使える。そして、これが説明書。」 「ん?ああ、これが昨日古泉が言ってたやつか!サンキュー、長門!」 早速パソコンを立ち上げてインストールする俺。 …部室に、団員それぞれにパソコンが宛てがわれていることには深く感謝せねばなるまい。 これもハルヒがコンピ研から強奪だの従属命令などといった暴虐の限りを尽くしたおかげか。 コンピ研の皆さんにはもはや乙としか言いようがない…ありがたく、今日もパソコンを使わせていただきますよ。 インストールが完了したあたりで古泉と朝比奈さんが部屋へと入ってきた。 と、よく見たら二人とも楽器を担いでいるではないか。おそらく昨日言っていたように 軽音楽部から借りたものなのだろう。来るのが遅かったのはこのせいだったんだな。 「って、大丈夫か古泉?」 「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。」 キーボード1台のみの朝比奈さんはともかく、 古泉はあろうこともギター2台に加え、ベース1台の計3つも担いでいるではないか。 「わ、私古泉君を手伝おうと思ったんですけど…。」 「朝比奈さんはキーボードだけで十分すぎるくらいですよ。僕は好きでこれらを担いでいるんですから。」 相変わらずのさわやかフェイスで涼しく答える古泉。なるほど、女の子に負担を負わせたくないというヤツらしい ジェントルマン精神だが、俺がお前の立場でも間違いなくそうしていたであろう。何しろ朝比奈さんだからな。 「そうだ、良い機会だ。古泉よ、ベースの弾き方俺に教えてくれないか?」 「お安い御用ですよ。では早速始めてみるとしましょう。」 「じゃあ私もキーボードのいろんな機能を確認しとくとしまーす♪」 「私も…ギターをいらっておく。」 「長門はギター弾けるから別にその必要もないんじゃないか?」 「単純にギターに興味がある…ただそれだけ。」 長門に読書以外に関心のもてるものが現れるとはな…。文化祭にて、突発でいきなりギター引っ提げて ステージ上にハルヒたちが現れたときは何事かと思ったが、今ではそのことがこうやってSOS団みんなで バンドを楽しんだり長門の人間的嗜好の開拓といったことに繋がってる…こればかりはハルヒには 感謝しないといけねーかもな。あのときのハルヒの飛び入り参加は、長い目で見れば英断だったわけだ。 「なるほど、左から右へ1フレットずつ移るにつれて音が半音ずつ上がっていくのか。」 「その通りです。ちなみに手前の太い4弦から順に開放弦の状態だと E、A、D、Gの音が鳴りますよ。ミ、ラ、レ、ソのことですね。」 「開放弦ってのはどういう意味だ?」 「左手で何も弦を押さえずに弾く状態のことですよ。」 「おー、了解したぜ。」 「慣れたらTAB譜を見て弾くのもいかがでしょうか。 そっちのほうが、フレット番号が明記されていて弾くのには楽だと思いますよ。」 「TAB譜って何だ?」 「それはですね…」 ピン! ん?何だ??長門のほうから何やら音が聞こえたぞ。 「どうしたんだ長門?」 「ギターにチョーキングをかけていたら弦が切れた。ただそれだけの話。」 …その弦、まだ新しいやつじゃなかったか?一体どんなチョーキングをかけてたんだ長門?? 「おやおや、しかもこれは一番細い1弦ですね。これでは切れてしまっても仕方ありません。」 「やりすぎた。次からは自重する。」 …仕方ない…のか? まあ、しかし そんな長門が楽しそうに見えるのは 決して気のせいではないはずだ。良い趣味を見つけられてよかったな長門。 「な、長門さ~ん、助けてくださ~い!」 「何かあったの?」 「いくら鍵盤押してもキーボードから音が出ないんです…電源は入ってるはずなのにどうしてなんでしょうか?」 「これはシンセサイザーの部類。よって単体では鳴らない。 シールドでアンプに繋いで初めて、アンプから音が鳴る仕組みになっている。」 「あ、これアンプからじゃないと音出ないんですね…勉強になりました!ピアノから入った私には そういうの疎くて…あ、でも今ここにはキーボのアンプがないです…今日はあきらめるしかないみたいですね…。」 「その必要もない。そこにあるベースアンプでも代用は可能。」 「本当ですか!?ありがとうございます長門さん!」 「礼ならいい。」 「キョン君、ベースのアンプ貸してください!お願いします!」 「どうぞどうぞ、使っていただいて結構ですよ。今日はベースの基本技術を学ぶだけでアンプは使いませんからね。 そんな感じで、俺たちは有意義な会話をしていた。いつもは古泉とボードゲームだのカードゲームだので 時間を費やしていた俺であったが…こういう時間もなかなか楽しいじゃないか。一昨日、昨日の悪夢のことを 一時的にでも忘れられるという意味でも、尚更貴重な時間である。特に、昼休みに谷口から例の天気予報の話を 聞いてからというもの、放課後までずっとそれを引きずっていた俺には…な。もちろん、今でもそんな未来は 信じちゃいないさ。ただ、一つでもそういった判断材料があると不安になる…それが人間というものであろう。 本来なら放課後にでもこれら夢の一部始終について長門や古泉に相談しようと思ってはいたのだが、 正直今のこの談笑している空気を壊したくはなかったし、何よりハルヒ本人が部室に顕在だから話せなかった ってのが一番の理由だな。本人の目の前で能力云々語るのは言わずもがな、禁句である。 …いや、待て。 今気がついた。そういえば、ハルヒはいまだ部室には来ていないではないか。 いつものあいつなら…とっくに来ていてもおかしくないはずだが。 「おや、どうされたんです。涼宮さんのことが気がかりですか?」 「いや、気がかりってわけでもないんだが…やけに来るのが遅いなと思ってな。」 「掃除当番にでもなってるんじゃないですか?」 良い指摘ですね朝比奈さん。が、それにしても遅いような気がしますが…。 「!」 突然立ち上がる長門。 「涼宮ハルヒが…倒れた。」 …俺はベッドで横たわっているハルヒを見つめていた。 「先生、ハルヒの具合はどうなんです!?」 「大丈夫、大事には至ってないわ。おそらく軽い貧血ね。」 「そう…ですか。」 「今日のところは安静にしておけば大丈夫よ。幸い明日は土曜日だから、 それでも気分が治らないようなら、病院に行って診てもらえばいいと思うわ。」 事なきを得たようで、ひとまず俺は安堵の表情を浮かべた。 ------------------------------------------------------------------------------ 「倒れたって…どういうことだ長門!?」 「涼宮ハルヒの表層意識が、たった今消滅した。」 …??意識が消滅?何を言っているんだ?? 「原因は不明。今それを解析中。」 「長門さん!涼宮さんは今どこにいるんですか!?」 「旧校舎の玄関口からすぐ入ったところの廊下。おそらく部室へ向かう途中に倒れたものだとみえる。」 「キョン君、何をボサっとしてるんですか!?早くそこへ行ってあげてください!!」 突然の事態に状況が把握できずうろたえていたのであろう俺に、怒鳴りつける古泉と朝比奈さん。 「お…おう…!お前らはどうすんだ!?」 「長門さんが解析に手間暇かけている時点でこれは非常事態に他なりませんよ。 身体機能における単なる物理的損傷ではない…そういうことですよね長門さん??」 「そう。」 「であるからして、我々は我々でできることをします。原因の調査および機関への連絡その他をね。」 「今、涼宮さんの隣にはキョン君がいてあげるべきです!」 考えるよりも先に体が動いたのか、気付くと俺は廊下へと跳び出していた。 もちろん、ハルヒのもとへとかけつけるために。 正直、いまだに俺は混乱していた。そりゃそうだろう?ついさっきまでいつものごとく ピンピンしていたハルヒが…意識を失う?倒れる?一体何をどうしたらそんな展開になるってんだ?? 説明できるやつがいるなら今すぐ俺の所に来い。 しかし、自分にだって今すべきことはわかってる。この際、原因などどうでもいい… ただ一つ言えることは、一刻も早くハルヒの容態を確かめ、そして救ってやることである。 …… ハルヒを見つけるのにそう時間はかからなかった。案の定、長門の指定位置にて ハルヒはぐったりとした様子で壁に背を向けた状態でもたれかかっていた。 とりあえず最悪の事態は回避できたようだ。意識を失うタイミングにもよるが、頭から地面に激突した際には 最悪、脳震盪に陥る可能性だってある。しかし、このハルヒの体勢から察するに、どうやらハルヒは徐々に 薄れてゆく意識の中、反射的に頭だけは守ろうとしたのであろう…壁にもたれかかっているのがその証拠である。 例えば街中で運悪く出くわした不良に背負い投げでもされたとしよう。柔道に精通している者ならば、 とっさに受け身をとろうとするはずである。野球にてピッチャー返しをしようものなら、投手は瞬間の中で 球をキャッチしようとする動きに出るはずである。 今のハルヒにも同じことが当てはまる。スポーツ万能&運動神経抜群の涼宮ハルヒだからこそ、 成し得た芸当と言えるかもしれん。正直、俺がハルヒの立場だとどうなっていたかわからない。 ハルヒの顔に手を近付ける俺。どうやら息はしているようだ。俺の動作に一切の反応を見せないことから、 どうやら本当に意識を失ってしまっているようである。見方によっては眠っているようにも見えるが… とにかく、俺はハルヒを背負い、急いで保健室へと駆け込んだ。 ------------------------------------------------------------------------------ そして話の冒頭へと戻るわけである。 …しかし保健の先生には悪いが、俺にはハルヒの倒れた原因が単なる貧血には思えない。 元気のかたまりとも言えるハルヒに貧血など、不似合いにもほどがある。おそらく、それだけは 天地がひっくり返っても起こりえない事態のはずだ。何より、長門や古泉の尋常ではない焦りから判断しても、 単なる生理現象でないことだけは確かだろう。とにかく一刻も早いハルヒの回復を…俺は待ち望んでいた。 「……ん…」 …意識を取り戻したようである。 「…ハルヒ?!大丈夫か??」 「あれ、キョン…何でこんなとこに?…ってか何であたし保健室にいるわけ…?」 「お前が旧校舎の廊下で倒れているところを、俺がここまで運んできてやったんだ。」 「うそ…?そういえば手や足に力が入らないわ…。倒れたってのは本当…みたいね。 無様な姿をあんたに見せちゃったわね…。」 「どうってことねーよ。お前が無事で何よりだ。」 「…とりあえず、運んだってのが本当なのなら、一応礼は言っとくわ。ありがと…しかし困ったわね。 家までどうやって帰ろうかしら…。」 「それについては心配およびませんよ。」 うお?!いつのまにか背後に長門に古泉、朝比奈さんが立っているではないか。 もう調査とやらを済ませてきたのであろうか。 「タクシーを呼んできてます。いつでも発進できる用意はできてますよ。」 もうそんな手配まで済ましていたのか…相変わらず対応が速くて助かるぜ古泉。 「古泉君ありがとう。みんなには迷惑かけちゃったわね…。」 「そんなことどうでもいいんですよう!涼宮さんが無事でいられただけでも私嬉しいです…。」 「みくるちゃん…心配してくれてありがと。でも、もうあたし平気だから!ほらこの通り!」 潔くベッドからとび降り、仁王立ちしてみせるハルヒ。っておい、いきなりそんなことして大丈夫かよ?? 「ハルヒ、お前が元気だってことはわかったから、とりあえず 今日は無理はするな?俺がタクシーのとこまで背負っていってやるからさ。」 「まあ、あんたがそこまで言うなら仕方ないけど。」 渋々俺の背中にもたれる団長様。 …… タクシーには俺とハルヒの二人が同乗した。本当は長門と古泉、朝比奈さんも 付き添いたかったらしいが、あいにくタクシーにはスペースというものが限られている。 一旦古泉たちとは別れ、俺はハルヒを家まで送っていくのであった。 「しかしお前が倒れたというからびっくりしたぞ俺は。一体何があったんだ?」 「それはあたしが知りたいくらいよ!気付いたら意識がとんでたんだし…。」 「最近何か無理でもしてたんじゃないか?そのせいで一気に疲れがドバーッときたとか。」 「特に、何か無理をした覚えもないわ。」 「じゃあ精神的なものか?ストレスとかさ。」 「何に対してのよ?」 「いや…俺に聞かれてもな…。」 結局そんなこんなではっきりとした原因はつかめないまま、俺たちはハルヒ宅へと着いた。 「今日はゆっくり休めよな。なんせ明日は土曜だ。昼まで寝てたっていいんだぜ?」 「あんたねえ…あたしをバカにしてんの?ま、いいわ。とりあえず、今日はどーも。」 団長様が一日に二度も俺に礼を言うなんて、珍しいこともあるもんだな。 ハルヒと別れを済ませたあたりで、ちょうど携帯から着信音が鳴る。古泉からだ。 「もしもし、俺だ。」 「古泉です。涼宮さんは無事家まで戻られましたか?」 「おお、そりゃ元気な様子でな。」 「それはよかったです。ところで、涼宮さんが今日突如として昏睡状態に陥った原因についてなんですが…。」 息をのむ俺。 「長門さんとも話したんですが…正直に申し上げましょう。これは一言二言で伝えられる代物ではありません。」 …どうやら予想以上に深い事情がありそうな様子である。 「明日何か用事はあったりしますか?」 「用事?特にないぞ。」 「それは助かります。突然ですが…今日の夜11時に駅前近くのファミレスに来てほしいと言われたらどうします?」 「つまり、朝まで長話できそうなとこに集まろうってことだろ?全然構わないぜ。」 「ご明察です。それに加え、こういった場所だと食事も好きなときに注文できたりしますから、 聞き疲れを起こしたりしたときに、何かと都合がいいかと思いまして。」 なるほど…どうやら相当長い話になりそうである。それにしても食事か。なかなか用意周到じゃないか。 「だがな、なぜ11時なんだ?今6時だし、8時集合にしたっていいようなもんだが。」 「確かにその通りですね。しかし、もう少しだけ我々に時間をくれませんか? まだ原因の全てを把握できたわけではないのですよ。」 何、そうなのか。 「いえ、今のは表現が適切ではないですね。あくまでこれは僕自身の問題です。」 ?どういうことだ? 「今回の原因について、僕はかつてないほどの膨大な情報の処理や解釈に追われ… 弱音を吐こうなどとは思ってはいないのですが…正直、今僕はパニックに陥っている と言っても差支えないかもしれません。それほどまでに窮した事態なんですよ…。」 「な、何だ??その原因とやらがそこまで震撼させるような内容だったってのか??」 あの古泉が壊れかかってるんだ、おそらく話とやらは想像を絶するレベルなんだろう。 それを改めて認識したせいか、しだいに話を聞くのが怖くなってきた自分がいる。 「ですからその処理および解釈にもう少し時間がかかるということです。 そのへんはどうか、ご察しのほどをお願いします…。しかしですね、僕はこれに立ち向かいます。 立ち向かわずしてどうやって涼宮さんを救えますか。」 そうだ…これに目を背けたら、ハルヒは一体どうなるんだ?今日はあの程度で済んだが、もしかしたら次は こうはいかない可能性だってある。最悪の事態も考えられる。なら、俺も覚悟して立ち向かおうじゃないか。 それがハルヒを助けることに繋がるのならば…俺はそのための努力を惜しまない。 「長門さんと朝比奈さんにも連絡はつけています。では、夜11時にまた会うといたしましょう。」 「おう、またな。」 …まだ集合の時刻まで時間はある。 それまで家で仮眠でもとっておくとするか。話とやらは朝までかかるのだろうし。 …… 家に着いた俺は、とりあえず晩飯を食い、部屋に向かった後ベッドに横になった。タイマーは…念のために 10時半にセットしておく。寝過ごしたりでもしてしまうようなら、それこそ打ち首にされてもおかしくない。 そう例えられるくらい、今後を左右する重要な会議になるはずだ。 「少し眠るだけ…だ。さすがにまたあんな夢は見ねえよな…?」 内心不安だったが、しかしこればかりは気にしてもどうしようもない。 とりあえず、俺は目を閉じ、寝ることに専念した。 音が鳴っている… 俺はアラームを消した。 10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。 さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。 俺はコートを手に取り、部屋から出ようとした。そのときだった。 「ようやくお目覚めってわけだ。」 ふと背後から声が聞こえた。はて、これは幻聴か何かであろうか?当たり前だが、この時間帯俺の部屋には 俺一人しかいない。妹が勝手に部屋に侵入した?それはない。なぜならその声は男のものだったからだ。 しかもどこかで聞き覚えがある… 俺は後ろを振り返った。 「てめえは…!」 予想外の人物に俺は驚愕した。いや、俺が忘れていただけで、こいつと再び会うことは 必然だったのかもしれない。とっさに拳に力が入り、臨戦態勢に入る俺。 「おいおい、そんなに身構えなくったっていいだろう。別に僕は、あんたに危害を加えようなどとは思っちゃいない。」 どの口がそれを言うんだ。俺はお前らのしでかしたことを忘れたわけじゃねえぞ。 「誘拐の件についてはすでに謝っただろう?…まあ、それはいい。 今日は言いたいことがあってここに来た。」 朝比奈さん大の言葉を思い出す俺… 『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』 …藤原…てめえ、一体何企んでやがる? 「差し金は誰だ?何の目的でココに来た??」 「…勘違いしてないか。確かに、この時代への時間移動命令については上からの指示だが、 あんたに会いにきたことに関しては、単なる僕の独断だ。」 「独断だと?そこまでしてお前は俺に何か言いたいってわけか。が、生憎様だな。どうせ俺に巧みな言葉をかけて 騙そうって魂胆なんだろうが、そうはいかねえ。朝比奈さんから、すでにそれに関しては忠告を受けてある。」 「何、朝比奈だと!?」 しまった、つい朝比奈さんの名前を出してしまった…まあ、もともと朝比奈さん大は藤原たちの勢力とは 敵対関係だったから、これも今更か。別に危惧するような情報流失でもない…と、とりあえず俺は信じたい。 「まさか…昨日の異空間からの転移は…ふ、まさか現行世界に直々干渉してくるとは。」 「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」 「いや、とりあえずあんたの話を聞いて理解はした。おそらく、僕が伝える予定内容を聞かせたところで、 あんたはそれに従わないであろうことにはな。やはり、僕らだけで何とかする問題だったか。」 「聞くだけ聞いてやる。一体何を伝えるつもりだったんだ?」 「『朝比奈みくるには気をつけろ』端折って言うならそういうこった。」 「なるほど、どうやら聞くだけ損したみたいだ。お引き取り願おうか。」 「まあ、はなからあんたは宛てにしちゃいないさ…さて、面倒なことになる前に撤収するとしようか。 九曜、もういいぞ。ここの時間軸を正常に…加えて、今の会話記録もこいつの記憶から抹消してやれ。」 「---了解した-------」 !?九曜だと??あいつもいたのか!!? その瞬間だったろうか 俺の意識はブラックアウトした