約 2,072,092 件
https://w.atwiki.jp/sylvan/pages/106.html
猟師の村 アデン南部の村で、昔からこの周辺にはモンスターの出現率が高い、危険な狩場が多かった。 これにより専門的なハンターや賞金目当ての猟師らが集まって村を形成し、そこから現在の村の名前が由来している。 猟師の峡谷 フェアリーの谷 フェアリー族は既にエルモアデン時代を最期に絶滅したと知られていた。 しかしフェアリー族で最も力を持っていたエルダーフェアリーは、この渓谷でかろうじて生き残っている。 過去フェアリーたちは、人間特に貴族や王族の貴重な装飾品や収集品として人気を集めていた。 それが絶望の一因だったといわれており、残った少数のエルダーフェアリーだけがこの渓谷で細々と暮らしているのである。 よって、彼らは人間の前に自分の姿を現すことを恐れ、同族を絶滅に追いやった人間を呪っている。 一族の性質はもともと他の種族に対して攻撃的ではないが、このような過去を背負ってからのもの、フェアリーたちは少しでも自分たちに危害を与えそうな存在に対しては態度を一変して集団で襲いかかるようになった。 ただしエルフたちには未だ親近感を覚えているような節がある。 鏡の森 鏡の森は自分と瓜二つのドッペルゲンガーが現れることからこの名前がつけられた。 昔はただの森だったが、シーレンが創りだしたドッペルゲンガーらがこの森に暮らし始めるようになってから、森は人々が容易く足を踏み入れることができないくらい危険な場所になってしまった。 本来ドッペルゲンガーはシーレンの手によって創りだされた悪霊の一種で、自我を持っていないが見たものをそのまま真似できる能力を持っている。 普段は森の動物に変身しているが、人間が森に入ってくるとその人間の姿を真似て変身する。 また彼らにはモラルや理性がないため、その人間に変身した瞬間人間の悪の部分が露骨に表れ、相手を殺そうとする。 初めてこのモンスターに遭遇する者は、自分そっくりの外見にパニックを起こして、満足に抗えないまま命を失ってしまう。 (C1アップデート情報) 森にはこの世界で暮らす種族の姿に良く似た魔物が現れます。 これらは死の神シーレンが自らの姿を真似て生み出した生物です。 しかしそれらは自我は持たず、シーレンの心の中と同様に、他の種族に対して憎しみを持ちつづけている危険な魔物です。 アンヘル滝 失われた高原がグランカインによって宙に浮いた後、もともとこの場所にあった滝も一緒に宙に浮かび、地形の急激な変化によって巨大な滝を形成するようになった。 これが落差数千mに渡る、神が創ったアンヘル滝である。 (C1アップデート情報) 最初は小さな滝でしたが、グランカインの力で「忘れられた高原」が作られたときに、地形の急激な変化によって高さ数千メートルにも達する巨大な滝になったと伝えられています。 ©2003,2013 NCsoft Corporation.
https://w.atwiki.jp/saigonotubasa/pages/178.html
日付 対戦したクラン MAP 結果 備考 09/10/31 KHDxEsprIt DS 6-7負け 09/10/31 てらバリオス DS 7-2勝ち 09/10/27 UnbekaNt DS 6-7負け 09/10/26 KSU DS 7-0勝ち 09/10/26 NST DS 7-3勝ち 09/10/26 Subtly DS 4-7負け 09/10/25 IDiot DS 2-7負け 09/10/25 東京ゴリラ倶楽部 DS 7-1勝ち 09/10/25 JiN DS 5-7負け 09/10/24 NewCentury DS 7-0勝ち 09/10/24 Glitter Sc 勝ち 09/10/23 超速ギガMAX Sc 負け 09/10/21 Falcon Sc 勝ち 7対7 09/10/21 AVA陸援隊 Sc 勝ち 4対4 09/10/20 UnbekaNt DS 6-7負け 09/10/20 comet DS 3-7負け 09/10/19 trial DS 7-3勝ち 09/10/19 CAKE DS 7-1勝ち 4対4 09/10/18 グフカス傭兵団 DS 7-3勝ち 09/10/18 IDiot DS 3-7負け 09/10/18 trial DS 2-7負け 09/10/15 UnbekaNt DS 7-4勝ち 09/10/15 trial DS 4-7負け 09/10/15 Gotwo三途 DS 7-2勝ち 09/10/13 LEVEL7 DS 7-4勝ち 09/10/12 不落城 DS 1-7負け 09/10/10 PeCa DS 7-2勝ち 09/10/10 これはぽにいている DS 5-7負け 09/10/09 Restart DS 5-7負け 09/10/09 Infallible DS 7-4勝ち 09/10/08 comet DS 4-7負け 09/10/08 UnbekaNt DS 6-7負け 09/10/07 PeCa DS 5-7負け 09/10/07 不落城 DS 5-7負け 09/10/06 PeCa DS 7-6勝ち 09/10/06 PeCa DS 2-7負け 09/10/06 TeamhawK DS 3-7負け 09/10/06 超速ギガMAX DS 3-7負け 09/10/06 TerroRist DS 7-1勝ち 09/10/05 GIAVA DS 7-1勝ち 09/10/05 GIAVA HB 7-1勝ち 09/10/05 GIAVA SD 7-1勝ち 09/10/05 GIAVA FOX 7-0勝ち 09/10/04 不落城 DS 2-7負け 09/10/04 Azoth DS 1-7負け 09/10/01 PeCa DS 5-7負け 09/10/01 ShakaBraNd DS 1-7負け
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/1456.html
キラ「ラクス……」 ラクス「キラ!? ああ、ようやく帰って……ひゃあん!?」 キラ「ラクス……ラクス! ああ、君が君で本当の本当に良かった……! 優しくて、可愛くて……抱きしめても足りないよ」 ラクス「あ、ああああ、ああのキララララ!? ここここ、これ、これっ、これって、これれって!!??」 キラ「もう、君の事ないがしろにしない。優しくするから……ごめんね? 大好きだよ、ラクス」 ラクス「大好き!? 私!? だだだだ大好き!? キキキキキキ、キラ!!!?? は……はぅ」 シン「おい! ラクスさん気絶しちまったぞ!?」 ウッソ「向こうで苦労しましたから……」 ジュドー「何があったかは聞かねえ。キラ兄があんな真似するってよっぽどだぜ……」 Tトロワ「お、恐ろしい……あれが絶滅危惧種の白ラクスなのか」 トロワ「白? ああ、確かに彼女はラクス・クラインだが」 ラクス「はぁん……。キラぁ……私、幸せですわぁ……」
https://w.atwiki.jp/dgrpss/pages/298.html
あたしは何にでも飽きっぽい。 そんなあたしがここまでやったんだ。頑張ったほうじゃない? お姉ちゃんを殺し、クラスメイトを殺し合わせ、そして―――あたしも、死ぬ。 別に死ぬことは怖くない。むしろ生きてて最大の絶望を感じれるんだから最高じゃない。 「江ノ島さんっ…待ってよ!」 おしおきに移行する直前、苗木誠があたしに言った。 あたしは聞こえなかったふりをする。何なの、こいつ。何でまだあたしを… 「ねえ、ボクは君に死んでもらおうなんて考えてないんだって!」 「おい苗木、お前はそいつをかばうのか?」 「ね、ねぇ…止めなよ…」 「でもよー、朝日奈っちだって憎いんじゃねえのか?だってこいつのせいでオーガは死んだんだべ?」 「そ…それは…」 「やめなさい、今ここで私たちが喧嘩しても意味がないでしょう?」 「ギャハハハッ!あーははっ、まこちんはぁーどーっちなのさぁーん?」 結局、こいつらも脆い馬鹿な人間なんだ。偉そうに言ったって、みんな誰かを殺そうとした。 絶望に、感染した。 「江ノ島さんっ!」 伸ばしてきた苗木の手をあたしははらい、椅子の上に立つ。 そして大きく深呼吸をし、叫ぶ。 「では改めて… さあ、始まりました!ドッキドキワックワクのおしおきターイム!」 今まで使用したおしおき道具が次々とあたしを襲う。 けど、そんなものでは死なない。だってあたしは「超高校級のおしおき」を受けるのだから。 あたしは強欲で我儘で自分勝手で最低な人間。 そんなあたしを苗木誠、あんたは受け入れようとしてくれた。 バッカみたい。だから嫌いなやつだった。あたしは絶望なのに。最初から絶望なのに。 希望とは相反する存在。だから苗木、あんたとは分かり合えない。無意味なことなのに。 なんで、好きになっちゃったんだろう。そう気付いた時にはもう最後のおしおきだった。 苗木が受けて、生き残ったおしおき。でもあたしは生き残らない。確実に死ぬ。 無意識にモノクマを抱きしめる力が強くなる。それは死ぬ恐怖ではなく、怒りだった。 何で苗木はそんな哀しそうな目であたしを見つめているの?本当に嫌い。 嫌いだったくせに好きになってしまった。それに気付くのがあまりにも遅かった。 これも、絶望。身体がずしっと重くなって息苦しくなる。それが、快感。 プレス機の音が大きくなる。死が近づいてくる。 きっと目にも当てられない無様な死体になるのだろう。どうせ最期なら、想おう。 好き。あたしは苗木のことが好き。 世界中の誰よりも苗木誠の事を愛してる。大好き。 初めて会った時の苗木、今でも忘れられないよ。おどおどしていて、とっても可愛かった。 だからあたしは思いっきり抱きしめたよね。こっそり胸を強調して。 その時苗木は顔を真っ赤にしてあわてて離れた。 そして何でか謝った。あははっ、何も悪くないのにね。 苗木、あんたはこれからいっぱい絶望することだろう。 けれど「希望」のあんたは何があっても立ち向かうことだろう。仲間と共に。 それは何とも思わない。勝手にすればいいじゃない。 けどさ、忘れないでよとか願ってもいいかな?あんたには最低なイメージしかないだろうけど。 苗木、好き。大好き。愛してる。 ああ――― 苗木のことを 好きになるの 飽きた
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/615.html
333 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 31 48 ID IN/7LRg9 世界はなんて美しい。 高校に入学してから一週間ぐらい経ったある日。 良い天気だったので、俺は散歩がてら学校の敷地内を探検するつもりで歩いていた。 この高校は割と広くて、古い。戦前からある進学校という奴だった。ちなみに公立で、家からはバス通学になる。 このあたりでは普通に偏差値の高い高校だ。俺のような馬鹿がここにいることが、今でも信じられない。 全ては半年前の、何気ない会話から始まった。 『兄さん。ところで進学先は何処にするか決めているんですか?』 『ん? いや、別に。近くの適当なところにしようかと思ってるけど。歩いて通えるところがいいかな』 『…………』 『なんだよ、その盛大なため息は』 『兄さん。世の中には、定職に就けず毎日すり切れるほど働いて、それでも貯金もできない人間がたくさんいます。そうして、体を壊して働けなくなりゴミ のように死んでいく……』 『そういった人間と、そうでない人間を分けるのはいったい何なのか、兄さんにはわかりますか? 幸運? 生まれ? いいえ、いいえ』 『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言われている。けれど人の立場に上下があるのは何故なのか。それは学問の差から生まれるものなり』 『人生の上下を決定づけるのは、幸運でも生まれでもなく、それまで積み上げてきた努力のみ。それが唯一、有意義な信仰というものですよ』 『自分の将来を想像してください。惨めな大人になるのが怖いのなら、今、努力するしかないんですよ。しないと言うのなら、未来を捨てると言うことです』 『あ……ああ』 そんなわけで、次の日から受験勉強の日々が始まったのだった。とほほ。 当初から目標は、偏差値が高く学費の安い公立高校と言うことで決まっていたけど、当時の学力ではとても無理にしか思えなかった。 それでもこうして入学できたのは、妹に尻を叩かれて遊びにも行かず、この半年ひたすら勉強をしてきた成果だ。 辛かったなあ……人生であれだけ、長期間勉強したのは間違いなく初めてだ。 しかし優香の奴、この高校一本に絞って、もし落ちたらどうするつもりだったんだ。 334 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 34 40 ID IN/7LRg9 そういうわけで。 そうして入った高校の敷地内を、俺は感慨深く歩いていた。 放課後の学校。 グラウンドでは野球部とサッカー部、陸上部が掛け声をあげながら練習している。体育館ではバスケとバレー、他にも弓道部、剣道部、柔道部、空手部と、活発に活動しているみたいだった。 とりあえず、しばらくサッカー部の練習を見ている。うーん、人が多いし結構熱心に練習してる。血が騒ぐ。 けど、部活に入るかどうかといえば否定的だった。 これは妹にも注意されていることだけど、俺は元々あまり頭がよくないから。毎日勉強していないと、あっという間に授業に追い付けなくなってしまう。 なので気晴らし程度に遊ぶならともかく、中学のように毎日部活に打ち込むというのは無理だ。まあ、妹は両立させてるけど、あいつは出来が違うからなあ。 「ふう」 軽くため息をついて、旧校舎の裏に回る。 木造の旧校舎は、今ではもう使っていないようだ。窓には板が打ちつけられ、周囲にも人気はない。 その裏手。なにもないと思ったそこでは、女生徒が一人倒れていた。 「いや、すまなかったね。助かったよ」 「あの、本当に大丈夫なんですか? 救急車とか……」 「ふふん、気にすることはない。この程度は日常茶飯事さ。ちょっとした運動不足に過ぎないよ」 「倒れるのが日常茶飯事って……それに、なんか薬飲んでましたけど」 正確には。俺が半分パニックになりながら彼女に駆け寄ると。ひゅーひゅーと息をしながらポケットを叩いていたので、そこに入っていた薬を二粒飲ませたのだった。 とても、本人が言うような軽い貧血には思えなかったけどなあ…… 「ああ、昔から少し体が弱くてね。これはそのための薬だよ。運動不足とは関係ない。ふふん」 鼻で笑われた。そこは笑うところなんだろうか。 その人はどうも上級生のようだった。リボンの色を見るに三年生、最上級生だ。当たり前だけど初対面。 綺麗な人だった。 まず目に付くのは、とてもボリュームのある黒髪。お腹のあたりまで伸ばされて、毛先は一直線に切り揃えられている。 優香も髪は背中まで伸ばしてるけど、運動のために側面は切り落としている。けれど彼女は前髪以外が全てストレートで伸ばしている。運動するとき邪魔そうだ。 切れ長の瞳に、薄い唇。よく不適に笑う口元にギャップがあるけれど、俺は妹以上(かもしれない)美人には初めて会った。 背は、同じクラスの女子平均ぐらいだろうか。年長ということを考慮すると、若干低めなのかもしれない。 体の線は細い。スレンダーと言うよりは痩せている。プロポーションもまあ推して知るべし。肌はびっくりするほど白く、そのあたりはやっぱり体が弱い関係だろうか。 着ているのは紺のセーラー服で、これは学校指定のもの。特徴的な装備といえば、小脇に抱えたスケッチブック。 「ああ、これかい? 見ての通り、スケッチのつもりだったんだけどね。目的地に着く前に貧血でばったり倒れてしまったよ。我ながら不甲斐ないね」 「はあ……え、と。美術部の人ですか?」 「一応ね。君は一年生だね」 「あ、はい」 「なるほど。暇ならちょっとついてくるといい。お礼と言っては難だが、いい場所に案内してあげよう」 さっと髪をなびかせて、偉そうにきびすを返した先輩に、俺は言われるままに着いていった。やたら胸を張っているのが、この人のデフォルトなんだろうか。 旧校舎の裏を抜けて、破れたフェンスを潜って、林の中に入り、獣道を抜けて。その先は。 335 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 35 21 ID IN/7LRg9 「わあ……」 思わず、感嘆の声が漏れる。 その先は急に開けて、桜でいっぱいの公園になっていた。満開だ。 風が吹くたびに、ぱらぱらと花びらが舞っている。 公園は石畳の立派なもので、生徒や老人が数人、ベンチで花見やおしゃべりに興じていた。 「ふふん、どうだい。残念ながら独り占めとは言わないが、この季節はなかなかだろう」 「そうですね。へえ……裏にこんな公園があったんだ」 「道沿いだと、ぐるりと回らなければいけないからね。あまり人は来ないが、裏手を抜ければすぐそこだ」 言いながら先輩はスケッチブックを手に、桜の方に歩いていく。ああ、ここでスケッチするつもりだったのか。 なるほど確かに、絵に残さなければ勿体ないぐらいの風景だ。実際、写真を撮っている人もいる。 ざあ、と風が吹いた。 一際舞い散る桃色の中で、彼女は風になびく黒髪を片手で押さえる。 それは。それ自体が一つの絵として成り立つような、とても綺麗な光景だった。 何かが、胸を押し上げるように溢れる。たぶんそれは、感動だったんだろう。 先輩が微笑んだ。 「そういえば、名乗っていなかったね。僕は片羽、桜子だ」 「俺は榊健太っていいます、先輩」 「そうか。よろしくな、榊君」 そうして俺は。高校に入学して一週間で、片羽桜子という奇妙な先輩に出会ったのだった。 片羽先輩は、初対面の時から、妙に気になる人だった。 それは彼女がすごく美人だとか、発見したときに倒れているとか、そういうインパクトを除いたとしても。なんだか気になる人だった。 なんというか……二つ上で赤の他人なんだけど、すごく放っておけない気がした。 それが何故なのかは、うまく口では言えない。もしかしたらそれは、一目惚れという類のものだったのかもしれない。 その日は再会の約束もなく、ただ普通に別れた。家に帰って、勉強して、家族と話して、勉強して、寝た。 その人のことが胸に焼き付いて寝れなかったとか、そんなことはなかった。 ただ 次の日から。登校して、授業を受けて、友達と帰って、勉強して、寝る。その繰り返しの中で何となく、あの妙な先輩のことを捜すようになっていたと思う。 もしかしたら、またどっかで倒れてるんじゃないんだろうか、と。たぶんそんな心配をしていたんだと思う。 片羽先輩と次に会ったのは、一週間後のことだった。 336 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 35 50 ID IN/7LRg9 「こんにちは、片羽先輩」 「やあ、榊君」 その日。片羽先輩はグラウンドの隅で、石段にぽつんと腰掛けていた。 膝の上には例によってスケッチブックを広げて、鉛筆を走らせている。 今日はどうやら、グラウンドのサッカー部を描いているようだった。先輩の指先が、魔法のように輪郭を書き出していく。あ、袖がテカテカだ。 言うべきことを探して、そんな自分に戸惑った。自慢じゃないが人付き合いは得意な方だ。普通に話す方法ぐらい、意識するまでもなく身に付いているはずだった。 そうだ、考えてみれば作業の邪魔をするなんて馬鹿げている。俺も倣ってサッカー部の練習風景を見ていることにした。 グラウンドを見やる先輩の横顔は、普段と違って笑うことなく口を真一文字に引き結んで真剣だった。そうしていると一つの彫像のような美しさがある。 邪魔はしないと決めたはずなのに、気付けば口を開いていた 「サッカー、好きなんですか?」 「ん? いや、競技に特別な興味はないよ。被写体としての彼等には魅力を感じるけどね」 「魅力的……」 自分の足を見る。去年までボールを蹴っていた、制服のズボンに包まれた脚。 たぶん。いや、間違いなく、すごくなまっている。もう半年近くも練習してないのだ。 それに、サッカーに打ち込んだら今のペースで勉強ができるわけがない。今のペースで勉強してたら、満足な練習ができるわけがな……はあ。 「ふふん。君の方はサッカーが好きみたいだね」 「え? いや、好きっていうか、中学までサッカー部にいたんで」 「なるほど。トランペットを見つめる黒人少年のような目つきだったよ」 「トランペット……え?」 はてな顔になった俺を見て、また軽く笑う先輩。冷たい感じの美人なんだけど、よく笑う人だ。 その笑顔は無邪気とはとても言えず、明らかに毒を含んでいるはずなのに。俺は悪い気はしなかった。 うーん……俺ってマゾなのか。それとも、普段から毒舌を浴びてるせいで耐性ができてしまったんだろうか。 まあ、単に美人は得だってだけかもしれない。 それから、横に座って、とりとめのない話をした。 天気のこと、スケッチのこと、この前の公園のこと、サッカーのこと。 「榊君は、もうサッカーをやらないのかな」 「ん……いやあ。俺、バカだから勉強しないとあっという間に赤点まみれになっちゃうんで」 「なるほどね。君が辛くなければそれでいいけど」 「……!」 言われて気付いた。 そうか……俺は、辛いのか。 この半年、ずっと勉強してきて、幸運と努力のおかげでこの高校に合格できたけど。 身の丈に合わない場所にいる俺は、やはり努力をし続けなければ、落ち零れてしまう。 半年、頑張れば終わると思って来たけれど。その先にあったのは、変わらない日々だった。 中学の時のように、自分のやりたいことに最大限打ち込むような自由は、もうない。サッカー部を引退したときに、そんな自由は終わってしまった。 圧力。 俺は、人生にかかる圧力を、初めて明確に意識する。ああ、今まで気付かなかったなんて、俺はなんて鈍感なんだ。 水の中に、潜り続けているような憂鬱。 「先輩は、成績いい方ですか?」 「はは、立派な劣等生さ。まあ、僕の場合は既に諦めてしまってこの位置だけどね」 「うわあ、気楽そうですねえ……」 「ふふん」 けれど、そんなことを知り合ったばかりの先輩に言えるわけもなく。しばらく、どうでもいい話をして、その日は別れた。 それに。そんなことを考えてもどうしようもないから……結局、深く考えることはやめた。 337 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 36 51 ID IN/7LRg9 高校に入ってしばらくしても、友達はあまりできなかった。 中学の時は、自慢じゃないけど交友関係は広かったと思う。 それは部活という接点があったんだろうけど、やっぱり自由だったからだ。 受け続ける圧力が小さく、精神的な自由があったから、他人のことに気を回すことができた。 今だって、友達といるときは馬鹿でいられるけど。一人になるとため息をついていることが多い。 けれど、これくらいの圧力なんて、誰だって背負っているはずなんだ。少なくとも、今の高校に合格した人間は、俺と同じぐらい勉強してきたはずだ。 それでも、屈託無く笑っていられる生徒がいるのだから……単に、俺の器が狭いだけなんだろう。 妹のことを思う。 俺の知る範囲で、間違いなく俺よりも努力し続けている人間。 部活に、勉強に、家事において、絶え間なく努力し続けている、俺の妹。 優香は、どうしてそんな生き方ができるんだろう。 俺は妹が休んでいる時を、特にここ最近見たことがなかった。俺と違って、日々の努力を誰かに強制される場面も見たことがない。 いったい、どうして優香は。そんな日々に一言も弱音を吐かずにいられるのだろう。 それともやっぱり、俺の知らない場所で、我慢し続けているだけなのだろうか。 だとしたら、俺はやっぱり。妹のことを何もわかっていないんだな…… 338 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 37 42 ID IN/7LRg9 そんなある日。 帰宅時。友達の一人と一緒にアーケードを歩いていると、制服姿の優香と出会った。 あれ? 行動範囲的に遭遇しても不思議はないけど……部活の時間、だよな? 「優香? なにやってるんだ、こんなところで」 「あら、奇遇ですね。今日はどうしても買いたいものがあったので、部活は休ませてもらいました」 「買いたいもの?」 「携帯電話です。近くのショップで契約してきたところですよ」 「へえー、母さんは反対してた気がするけど許したのか。頑張ったなあ、優香」 「……ちょっと待ってもらおうか、榊」 がしい、と一緒にいた友人に襟首を捕まれてずるりと引きずられた。 「てんめええ! 何めちゃくちゃ可愛い娘とナチュラルに会話してんだよ! 彼女いないって言ったじゃねえかっ!」 「おおお、落ち着けっ! 首を絞めるな柳沢!」 俺をがっくんがっくんと揺するのは、柳沢というクラスメイト兼友人だった。 席が後ろなので自然に話すようになり、お互い帰宅部なのでたまに(途中まで)一緒に帰ったり、こうして寄り道したりする。 ちなみに性格は……悪い奴ではないんだけど女好き。今の高校も、レベルの高い女子が多いということで死にものぐるいの勉強をしてきたらしい。 外見は茶髪の愛嬌ある顔立ち。俺が言える義理じゃないけれど、相当アホだ。そんな努力に関わらず、未だに彼女は募集中。 「ち、ちがっ! 妹! 妹だって!」 「ああん? 適当な嘘じゃないだろうな、全然似てねえじゃんか」 「俺は母さんに、妹は親父に似たんだよ! いいから離せって!」 「なんだ、そういうことは早く言えよな。可愛いなら特に!」 ぱっと満面の笑みを浮かべて、俺から離れる友人。と思ったら、今度は優香にアピールを始めた。 「俺は柳沢浩一。お兄さんの親友です」 「親友だったのか……?」 「柳沢さんですね。兄からいつもお話は伺っています」 「おい、榊。俺のこと、ちゃんとよろしく伝えてるんだろうな……?」 「普通に言ってるよ。ていうか、俺と妹でよくそこまで表情変えられるなあ」 むしろ感心した。やっぱり、彼女を作るにはこれくらい積極的でないとダメなのかもな。 ちなみに柳沢のことを妹には『スケベでアホだけど悪い奴じゃない』と話している。すまん。でも、どうせ優香は色恋沙汰に関しては鉄壁だから許してくれ。 「優香ちゃん、携帯買ったんだって? じゃあ、せっかくだから番号交換しようぜ」 「あのなあ柳沢。いきなり……」 「メールで良ければ構いませんよ」 「ぶっ!?」 えええええええええええええ! ど、どういうことだ? 優香の奴、確かに今間まで携帯は持ってなかったけど。好きと言われた相手に何一つ譲歩なんてしたこと無かったのに。熱でもあるのか? いや、もしかして柳沢みたいな奴が好みのタイプなのか? いやいや、今までだって同じような奴から求愛はされてるって。いやいやいや、優香にしかわからないものがあったのかもしれない。 いや、しかし、けど…… 「何を目を白黒させているんですか。兄の御学友と交友を結ぶのに何か問題でもありますか? 登録しますから、兄さんも携帯を出してください」 「あ、ああ……ん? 俺と同じ型式じゃんか」 「そうでしたか、偶然ですね……はい。登録しました。次は柳沢さんですね」 「おうっ」 こうしてつつがなく、番号交換は終了した。優香は、柳沢にはメールアドレスしか教えなかったようだけど、それでもすごい譲歩だなあ。 「柳沢。優香は携帯買ったばっかりなんだから、あんまりメールするんじゃないぞ」 「おいおい、いきなり兄貴面するなよ。俺と優香ちゃんの関係じゃねえか」 「兄貴だってーの」 「残念ながらその通りです。それから確かに、まだ慣れてませんから返事は遅れるかもしれません」 「おっけーおっけー。帰ったらメールするからさ!」 うーん……なんか釈然としないな。 339 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 38 54 ID IN/7LRg9 その日から、妹と友人は定期的にメール交換しているようだった。 何でそんなことがわかるかというと、柳沢が毎日優香があーだーこーだと自慢してくるからだった。うーん、正直うざい。 考えられる可能性は二つ。優香は意外と、メールでのやりとりが好きなのか。それとも柳沢本人を気に入ってるのか。 けれど、優香から俺にメールが来ることなんてほとんど無い。かといって、優香本人から柳沢について聞くこともない。 うーん、妹に彼氏ができても別におかしいとは思わないけど、それが柳沢だっているのはなあ……ちょっとどうかと思うが、口出しするのも筋違いだ。 それにしても……メール、か。携帯電話は高校入学の時に買ってもらったけど、あまり活用はしていない。 そういえば俺、片羽先輩の携帯番号もメールアドレスも知らないんだよな…… 放課後にちょくちょく探してはいるんだけど、見つかったり見つからなかったりのレアモンスターみたいな人なので。 今度会ったら、携帯の番号を交換しよう。 それからまた、しばらくして。 桜の季節が終わる頃。 小雨の降る放課後、学校の裏手にある公園までふと出向いた俺は。公園の中で一人、傘を差してベンチに座る先輩を見つけた。 サアアアアアアアアア…… 「片羽せんぱーい」 「おや、榊君じゃないか。久しぶりだね」 「ですね。でも、雨の日にこんなところで何やってるんですか?」 「ああ。まあ、桜を見に来たんだよ」 「桜? でも……」 雨に打たれた花びらは、既に軒並み地面に落ちてしまっている。あれだけ綺麗だった光景は、もう見る影もない。 前は、桃色の絨毯のようだった花びらも。泥にまみれた今となっては、ただのゴミでしかなかった。 そういう、末路を直視すると。胸が締め付けられるような思いがする。 「悪いけど。傘、持っていてくれないかな」 「……あ、どうぞ」 先輩から傘を受け取り、二本の傘を持つことになる。どちらも地味な紺色の物。受け取った小さな方を、先輩の上にかざす。 傘を受け取る時に触れた手は、とても冷たく、とても細かった。思わず、戸惑ってしまうほどに。 「産まれてこの方、ダイエットの努力が必要なかったことが僕の密かな自慢なんだ。世の女性から非難されてしかるべき体質だね」 俺の表情を読みとったのか、軽口を叩きながら先輩がスケッチブックを取り出して広げる。この人、ほんとに絵を描くのが好きなんだなあ。 けど、この間の桜吹雪なともかく。なんでこんな雨の日の桜を描きたがるんだろう。 サアアアアアアアアアア…… 「悲しいね。美しい物の末路は、やはり悲しい」 「あ……はい。けど……どうして、そんなものを描くんですか?」 「悲しいからだよ」 「え……」 「悲しみは、けして間違った感情じゃない。怒りも、絶望も、人が生きるのに必要な感情だと、僕は思うよ。ただ、人はそこから目を逸らしたがる」 「……」 「今のこの悲しみを、できるかぎり形にして残しておきたい。まあ、僕が絵を描く理由は、大なり小なりそんなものさ。日記のようなものだ」 「……」 悲しみ……怒り……目を逸らしたがる…… 俺も……目を反らしていることがある。 どうにかして忘れようとしている。 けれど……けれど、仕方ないじゃないか。 考えたってどうにもならないことなんだ。目を逸らさずにいたって、辛いだけじゃないか。 毎日勉強を続けなければいけないこと。俺はバカだから、他の趣味に打ち込むような余裕はないこと。 そして何より。この状況を打開する方法が思いつかず、きっとずっと続いていくという……閉塞感。 どうしようもない。 どうしようもないじゃないか。 どうしようもないことを直視したって辛いだけだ。 誰でもこの程度の閉塞感は感じているっていうのなら、誰だって目を逸らしているはずだ。 …… 340 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 40 12 ID IN/7LRg9 「どうしようもないことだって……あるじゃないですか」 「うん?」 「見続けたって、辛いことは、たくさんあるじゃないですか」 「たとえば?」 スケッチブックに走らせる鉛筆を止めず、無残な桜を描き続けながら。 先輩が、俺に背を向けたまま。思わず漏れた、俺の情けない言葉を当たり前のように問い返していた。 たとえば。 勉強が辛い、なんて。下らない泣きごとでしかない。言えば誰だって軽蔑するだろう。 成績を保つために、誰だって勉強はしているのだ。それに耐えられないのは、俺が小さい人間だから。それ以外にはない。 飲み込め、飲み込め。苦痛は、飲み込め。そうして生きていくしか、ないんだ。 「勉強が……辛いとか」 ああ。 「これから。ずっと、勉強し続けなきゃいけなくて……卒業しても、働き続けなくちゃいけなくて……」 「うん」 「それなら、もう二度と……うまく言えないんですけど。二度と……」 「人生に二度と自由は訪れない。それが君の絶望なのか」 先輩が。 鉛筆を動かしながら、自分自身形にできなかったことを、あっさりと言い当てた。 ああ……いや……そうじゃない。 俺が、形にしたくなかったもの。わかっていて、形にしたくなかったものを。 絶望……ああ、そうか。これが絶望、っていうものなのか。こんなよくあるものが、絶望なのか。 何処にも行けないという閉塞感。大切なものを奪われ二度と戻らないという喪失感。それこそが絶望なのか。 「幼年期の終わり。労苦への絶望……まあ、それ自体はどうしようもないね。この桜と同じで、どうしようもないことはいくらでもある」 「だったら……!」 「どうしようもないことに直面したとき、どうすればいいのか。君は絶望への対処の仕方を知っているかな?」 「え……」 絶望を、どうすればいいのか? 俺は……知らない。今まで絶望なんてものに遭ったことがなかった。今まで、どんなぬるま湯の中で生きてきたのか、よくわかる。 だから、目を逸らすことしかできなかった。見ない振りをして、気付いたことを忘れようとするしかできなかった。 何故か、優香のことを思いだした。物心ついたときから、心の中で誰からも離れた場所にいた妹のことを。 先輩は。 「越えるんだ。絶望は、強固な目的意識で越えられるものなんだよ」 きっぱりと。 「絶望を越えたとき、それはとても強いものになる。怒りも、悲しみも、絶望も。人が生きていく上で糧になるものだと、僕は思うよ」 ひどいことを言った。とてもとてもひどいことを、振り向きもせずに堂々と言った。 目的……意識。 俺の、目的意識。 それは…… それは…… それは……ない。 ないんだ。 俺には、目的意識なんて、何もないんだ。 ただ 『兄さん。世の中には、定職に就けず毎日すり切れるほど働いて、それでも貯金もできない人間がたくさんいます。そうして、体を壊して働けなくなりゴミのように死んでいく……』 『そういった人間と、そうでない人間を分けるのはいったい何なのか、兄さんにはわかりますか? 幸運? 生まれ? いいえ、いいえ』 『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言われている。けれど人の立場に上下があるのは何故なのか。それは学問の差から生まれるものなり』 『人生の上下を決定づけるのは、幸運でも生まれでもなく、それまで積み上げてきた努力のみ。それが唯一、有意義な信仰というものですよ』 『自分の将来を想像してください。惨めな大人になるのが怖いのなら、今、努力するしかないんですよ。しないと言うのなら、未来を捨てると言うことです』 『想像してください、兄さん。恐ろしいでしょう?』 ただ、怖かった。 俺には目的意識なんてものはなく、ただ背後から恐怖に追い立てられてきただけだった。 そして、これからも一生、追い立てられていくしかないという……絶望。 ああ。 この絶望からは逃げられない。逃げてしまえばそれこそ、優香に散々言い聞かされたような惨めな人生しか待ってはいない。 けれど、そんな恐怖に追い立てられ続けたとしても……待っているのは、永遠に続く未来への絶望だけ。 先輩の言うように、立ち向かうしかない。 けれど、俺には……立ち向かうための確固たる目的意識なんて、無いんだ。 341 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 42 23 ID IN/7LRg9 「無いんです……」 泣き言。 気がつけば、俺は本当に泣いていた。ぼろぼろと、涙が零れて頬を濡らす。 情けない、情けない。何で俺は、こんなことで泣いてるんだ。 目尻を拭おうとしたけれど、両手で傘を持っているせいで無理だった。せめて嗚咽を噛み殺して、先輩が振り向かないよう祈る。 「俺には……そんな、目的意識なんて、無くて……」 「目的なんて、ほんの小さなことでいいのさ。この学校は、好きじゃないのかい? 一緒にいたい友達はいないのかい?」 「それも……」 この学校に対して少なくとも今は、辛い勉強というイメージが強すぎる。友達だって何人かはいるけれど、心底一緒にいたい存在は、いないと思う。 そもそも。学校や友達に対する好意で……毎日、毎日、勉強をし続けることなんてできるとは思えない。 俺が今、戻りたいのは。何も考えずに部活へ打ち込めたあの頃だ。けれど時間は戻らない。それもまた、一種の絶望だ。 うう。 「やれやれ、困った後輩だね、君は」 ぱたん、と先輩がスケッチブックを閉じて膝の上に載せる。ポケットからハンカチを取り出して、振り向いた。 突然の行動にあっけにとられ、直後。涙まみれであろう自分の顔に気付く。 見られっ……! 「ふふん、思ったより泣き虫だね、榊君。よしよし」 「わぷっ」 ぐいぐい、と顔にハンカチを押しつけられる。布は水色単色のシンプルなものだった。やっぱり指が、とても細い。 咄嗟に抵抗しようとしたけれど、両手に傘じゃ動くのもままならない。あっという間に顔の涙は拭われた。 な……なんで? 俺が混乱している間に、先輩はハンカチを手早くしまって偉そうに胸を張った。 「さて。榊君。どうやら君は自分から動くための目的意識に欠けているようだね」 「は、はい」 「つまり、自ら学校に来るような目的意識さえあれば、いい年してぴーぴー泣き喚くようなこともない、と」 「うぐっ……」 「ふふん。それなら榊君。僕と付き合ってみないか」 「……え?」 ………………………………………………………え? 「恋人の一人でも作ったらどうか、ということだよ。青春の張り合いといえばこれだろう」 「え、いや、ていうか、ええ!?」 「ああ。他にお目当てがあるならそれでいいんだ。僕と、というのはただの保険さ。一応僕は美人だからね、ふふん」 偉そうに胸を張る片羽先輩は、ちょっと細いところがあったけど、確かに文句なしの美人だった。 一方十人並みな外見の俺は、極度の混乱で呆然としていた。当たり前だ。 俺がみっともなく泣きだして、それがどうして付き合うかどうかと言う話になるんだろう。むしろ逆に、愛想を尽かされるのが当然じゃないんだろうか。 わけがわからない。 大体、恋人になるというのは。一緒に過ごすうちに、好きになって、告白して、それを受け入れてもらって、そうしてやっとなるものなんじゃないか。 確かに、俺には狙っているというか今好きな人なんていないけど、そんな風に自分を軽々しく扱うっていうのはどうなんだってすごく思う。 「おっと、ちなみに恋人になったからといって、すぐ不埒な真似ができるなんて思わない方がいいよ。僕に触れるまでは長い長い審査が待っているからね」 「え、審査……ですか?」 「あからさまにがっかりしたね。当然だろう? 榊君に対する僕の好感度は初期値のままなんだからね」 「は、はあ……」 え、えーと……これはなんというか。恋人、というよりも。友達から始めよう、ということなのかな? ふふんと偉そうに胸を張る、すごい美人の先輩をもう一度見やる。なんだか、笑えた。 は、はは。 あはははは。 笑うことで、少し楽になった。少しだけ、自由になれた気がした。 先輩は、慰めてくれたんだろうな。 発想も言い方も無茶苦茶だったけど、心の中で感謝する。色恋かどうかはまあ別にして、この人のことを俺は好きになれそうだった。 ああ、悪くない。この変な先輩と話をするために、この学校に来るために、勉強をし続けるのだって悪くない。 ほんの些細な理由だけれど、それを自ら望むのなら。 しとしとと降りしきる雨の日だけど、視界が少しだけ開けた気がした。 342 未来のあなたへ3.5 sage 2008/12/23(火) 17 43 17 ID IN/7LRg9 「ありがとうございます。でもとりあえず、友達から始めませんか?」 「その意見はやぶさかではないよ。そうそう、それを言いたかったんだ」 「あ、それじゃ先輩。携帯の番号交換しましょうよ」 「おっと、それもそうだね」 お互いそれぞれの傘を持って、片手で携帯番号とメールアドレスを交換する。先輩の携帯はシンプルなストレートタイプだった。 「これでよし、と。先輩って何処にいるかわからないから、これで普通に会えますね」 「おや、わざわざ探していたのか。それは悪いことをしたね。ただ僕は携帯の電源が切れてることが多いから、あまり期待はしないでくれよ」 「そ、それって携帯の意味がないんじゃ……」 「ふふん。いちいち充電するのが面倒でね」 それから、先輩が桜のスケッチを再開して。俺は結局それが終わるまで、先輩に傘を差していた。 会話はほとんど無かったし、腕は疲れたし、体は冷えたけど、けして嫌じゃなかった。 真剣に絵を描く先輩の横顔はとても綺麗で見ていて飽きなかったし、雨に打たれる桜の悲しさに俺もまた引き込まれていた。 その後、校門のバス停まで並んで歩き、そこで別れた。先輩は徒歩通学のようだ。 「それじゃ、後でメールしますね」 「ああ。さよなら、榊君」 送信 件名:こんばんわ 本文: 今日はありがとうございました。 描いていた絵ができたら教えてくださいね。 体が冷えたと思うのでゆっくりお風呂に入ってください。 受信 件名:Re こんばんは 本文: 子供か、僕は。心配されなくても、可能な限り毎日入浴しているとも。 絵については、何時になるかはまだわからないが、完成したら君に見せることを約束しよう。 それから、言いそびれたが傘を持ってくれて感謝するよ。結局最後まで付き合わせてしまったな。 機会があれば何か礼をしよう。それでは。 「…………登録は『先輩』…………」 「………………誰?」
https://w.atwiki.jp/relay_campaign/pages/297.html
ヴィスタリア「直接みることを想定してないページですわ、スタートはこちら」 +内容を表示 ヒカリP「すみません…私はいったいどうしてこんなことを…」 ユキ「あのねおにいさん、謝って済む問題じゃないと思うんだボクは」 ヒカリP「はい…返す言葉もありません…」 ユキ「これが他の子だったら殺されても文句は言えないよ?」 ヒカリP「はい…覚悟はできています…煮るなり焼くなり好きにしてください…」 ユキ「他の子だったら、ね」 ヒカリP「へ?」 ユキ「ボクにならいいよ、キミの欲望を受け止める人形になってあげる」 ユキ「それがアイドルのみんなとキミ自身、どちらも救われる唯一の道じゃないかな?」 ヒカリP「な…なにを言って…」 ユキ「遠慮はいらないよ?素直になっていいんだよ?ボクだけはキミの味方でいてあげる」身を寄せながら ユキ「さあどうする?欲望も抑えられない、どうしようも無いケダモノのおにいさん?」耳元で囁く この先にはきっと破滅しか待っていないのだろう。 歪んだ欲望を幾度もぶつけながら、時折そんなことを考える。 今でもステージに降り立つ黒翼の天使の瞳には、いったい何が映っているのだろうか。 希望が絶望へと帰結するそのときまで、ユキは私の"妹"だ。 NormalEND Sister
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5757.html
前ページ次ページ絶望の街の魔王、降臨 ジルが甲高いエンジン音と共に帰ってくると、怒髪天を突かんばかり形相のルイズが出迎えてくれた。 「ジルぅぅぅぅぅ……ご主人様に黙ってぇぇぇぇぇぇぇ……」 「ギーシュに伝言を頼んだ筈だけど」 「そういう意味じゃない!それに、その娘誰よ!?」 ギャーギャー騒ぐルイズを軽くあしらい、コルベールの研究小屋へ向かう。 「話を聞けェェェェェェェェェェェェ!!」 「コルベール、いるかしら?」 呼び捨てである。いつの間にそんなに親しくなったのか。しかし、ファミリーネームなのは何故だ。 「おお、ミス・ヴァレンタイン。どうでしたかな、その……Y2Kは?」 夢溢るる少年の瞳輝く満面の笑顔で現れたコルベールは、真っ先にY2Kの心配をした。容姿以前に、これはもてない。ミス・ロングビルへの恋はブレイクアウト間違いなしだ。 「ガリアまで行ってみたけど、問題なかったわ。燃料が切れないのは魔法かしら?」 「はて?燃料ですか」 首を傾げるコルベール。乗り物であることはジルに教えられたが、それに『燃料』が必要なのは知らなかった。 「軽油……といっても判らないわよね?」 「それが燃料ですかな?」 「そう。もしもの時のために、増産しておいてくれると嬉しいわ。暇な時は手伝うし……あ、それよりも」 四次元サイドパックから、輸血パックを取り出す。 「これを複製して欲しいのよ。なるべく早く」 「これは……血の様にも見えますが」 「ご名答。中身は私の血。重傷の時、流れた血の補填に使うのだけど……」 そこでジルは言葉を切り、小屋の外に出る。日陰でルイズと話していたエルザと、ついでにルイズを呼び込む。 「さて、ここから先は他言無用よ。いいかしら?」 何がなんだか判らないまま連れてこられたルイズはともかく、コルベールは頷く。 「この娘、吸血鬼」 「…………」 世界は、確かに止まった。 「便利そうだから従えてみたの」 そして時は動き出す。 「ななななんあなななななななんあななんななあななん……」 あまりの事に混乱し奇声をあげるルイズと、好奇心で冷静にエルザを眺めるコルベール。断じてロリータ・コンプレックスではない。 「成程、だから血が必要なのですな?」 「そうなの。血さえ定期的にあげれば基本的に無害だし、魔法を使えるし、外見は子供だし、とっても役に立ちそうだから」 「な、なんで吸血鬼を!?」 やっとある程度頭の冷えたルイズが、人間語を話す。 「何でって、前述の通りよ。意志の疎通もできるし、なんら問題は無いわ」 「ありまくりよ!!よりにもよって、この世で最も忌むべき存在、吸血鬼を!!」 「ああもううるさいわね。エルザ、眠らせて」 「らーじゃーだっと!」 「なにをする!?」 ジルの命で眠りの魔法を唱えるエルザ。その従順さに、コルベールは感心する。 「ほう……いったいどうやって従えたのですかな?」 「飴と鞭よ。言う事を聞いたら安全と血を保障する、だけど悪さをしたら殺す。それだけよ」 静かに寝息を立てるルイズを負い、エルザの頭を撫でる。エルザは眼を細めて、嬉しそうに笑う。 「それに、マスターの血は美味しいの。人間が私を狩らないなら、殺す必要もないし、マスターの近くなら安全なの」 確かに、これ以上安全な場所は無いだろう。 「それで、できるかしら?」 コルベールは、渡されたそれがもたらす苦悩を、今はまだ知らない。 その夜。 ルイズはジルの真摯な『説得』により、エルザを部屋に置くことに消極的同意をせざるを得なかった。 「何か変な事したら、容赦なく爆殺すること!いいわね!」 過程と手段はともかく、了承してしまったのだ。それを違えることは貴族としての沽券に関わる。 「じゃあ、明日からジルと一緒に仕事すること。いいわね?」 ルイズの命に、エルザは反応しない。 「ねえ、聞いてる?」 「何故?ルイズはマスターじゃないのに、私に命令するの?」 結論は簡単。ルイズはエルザにとってマスターか、それ以上の存在ではない。それだけだ。 「なっ……」 「エルザ、働かざる者食うべからず、よ。一応、普通の食事をくれるのはルイズなんだから」 ルイズの堪忍袋の緒が切れる寸前に窘める。 「わかりました、マスター」 これではっきりした。エルザは、ジルの言う事しか聞かない。 「わかればいいのよ」 「何故偉そうなの?ルイズ」 「ご主人様と呼びなさい!!」 「嫌よ。私のご主人様はマスターだけ」 「くぬう……」 迂闊に文句を言って血を吸われてはかなわない。にらみつけるルイズとどうでもいいといった様子のエルザ。その状態は、意外なことで終了した。 「?」 最初に気づいたのはジル。窓を開け、外を伺う。 「どうしたのよ……な!?」 外で生徒と教師が何人か騒いでいる。彼らの視線の先には、三十メートルはあろうかという土人形、ゴーレムだった。 「もしかして……フーケ?」 「何?そのフーケってのは」 「泥棒よ!」 ルイズがそう口にした瞬間、頭を押さえつけられる。 「何すんのよ!!」 「エルザ、耳を塞いで伏せて」 「はい!」 既に手にはM134。非常識な連射速度を誇る、ガトリングガンである。 「ルイズも!」 「え?」 戸惑っていたのが痛かった。瞬間、ルイズの視界は途切れぬマズルフラッシュで真っ白に染まり、鼓膜は爆音に叩かれる。反射的に眼と耳を塞ぐが、もう遅い。ズキズキと痛む眼と耳を押さえ、床を転げまわる。 「眼が!耳がぁ~」 「駄目ね。なら」 最終手段、ロケットランチャー。バックブラストが部屋に吹くために使いたくなかったのだが、効果が確認できない以上、これで爆破するしかない。泥棒を逃がすくらいなら、これくらいの対価、安いものだ。 「You lose big guy!(貴方の負けよ、デカブツ)」 同僚の妹の台詞を借りて、トリガーを引く。 「――――というわけです」 翌日の学院長室での報告では、フーケの犯行現場を目撃したキュルケとタバサ、そしてゴーレムを破壊したジルとルイズ、役立たず共(教師達)が呼び出された。もっともルイズに関しては、部屋での小火騒ぎの件が大きい。 バックブラストの煙を目撃した生徒が火事と勘違い。寮からの総員避難命令が出た。 「結果としては良かったの。あのゴーレムが暴れでもしたら事じゃったからな」 学院長のオールド・オスマンが慰めるように言う。小火騒ぎの責任はルイズに無いと。 「しかし、破壊の杖は盗られたままです」 「当直は誰だ!?」 「ミス・シュヴルーズ!あんたって人は!」 「そんな……」 「よさんか!!」 オスマンの一喝で、場は収まる。動じなかったのはジルくらいか。 「誰も真っ当に見回りなんぞやっとらんだろうに。ミス・シュヴルーズを責めるのはお門違いじゃ」 その場の教師全員が、ばつの悪そうな顔をする。全てその通りでございます、と言わんばかりに。 「それよりも……ミス・ロングビルはどこかの。朝から姿が見えんのじゃが」 「そういえば……いつもなら真っ先にここに来そうなものですが」 と、タイミングよく扉が開かれる。 「遅くなりました」 何食わぬ顔で現れたのは、件の人物だった。 「おお、ミス・ロングビル。今までどこにおったんじゃ?」 「早朝から、周囲の聞き込みにいっておりました。近隣の村人から、森の奥の小屋にフーケらしき黒いローブの人物を見たという情報を入手しましたので、その報告を」 「なんと!?」 再びざわざわと騒がしくなる学院長室。 「ええい、静まれ!」 二度目のオスマンの一喝でまた静かになる。 「で、それは何処じゃ?」 「ここから馬で四時間ちょっとの場所です。……!?」 ゾクリ。 背筋に嫌な、冷たい汗が流れた。一瞬だが、絶対的な存在感を持つ殺意に似て非なるもの。恐らくそれは自分にのみピンポイントで放たれたらしく、他の者は気付いた風に見えない。そして、誰が放ったのかも判らない。 「どうしたのかね、ミス・ロングビル?」 「いえ、何でもありません……」 すぐに平静を取り繕って、オスマンににこやかに返す。 「ふむ、そうかね。では……討伐隊を出す!我こそはと思うものは杖を掲げよ!」 「は!?王室に連絡して衛士隊に……」 ギトーが『はぁ?何いってんのこのジジイ』という内心を押し隠して提案するが、 「バカモン!!間に合うものか。衛士隊が着くころには逃げられてしまうわ。それに、大恥を大々的に曝そうというのかね?」 「ぐぅ……」 たかがコソ泥に振り回されて、王室に泣きつく。これほどの恥がどこにあろうか。 「さあ、誰かフーケを捕らえて名を上げようというものはおらんか?」 しかし教師連中は微動だにしない。所詮彼らは魔法を使えるだけのチキンだ。一部例外はいるが。 と、その並んだ役立たずの頭の上に、異形のものが掲げられる。 「は?」 「ちょ、ちょっとジル!?」 杖の代わりになりそうなものを適当に掴んだらこれが出ただけで他意は無い。六銃身の回転式機関銃を掲げるのは、ゴーレムを爆破した女、ジルだった。 「泥棒を捕まえるのは警察の仕事よ。手段が過激であるなら尚更私の出番ね」 その場の誰よりも誇り高く、貴族然とした態度に、しかし無能どもは口汚い。 「平民は黙っていろ!」 「貴族の決め事にしゃしゃり出るな!」 「平民ごときに何ができる?」 ああ、こいつらがこうだから生徒もああなるのか、と納得したジルは、実力行使に出ることにした。 「レビテーション」 最初に文句を言った教師、ギトーに、渾身の力を篭めたアッパーをぶちかます。 それは確かにギトーを空中浮遊させた。ほんの一瞬、滞空した後、学院長室の天井に頭をめり込ませ、静止。そして瓦礫と共に落ちてきた。 気絶している。生きているのが不思議だが、世界の鉄則、ファンタジーというものはそう簡単に人を死なせてはくれない。死亡フラグさえ立てなければ、エピローグまで生き残れるのだ。 「私の『魔法』、ご覧になったかしら?」 地獄の『ぢ』の字も見たことの無い教師達は、ジルがいったい何をしたのか、それすら理解できなかった。ただ、『ギトーが飛んで、天井を破壊して、落ちてきた』、それだけ。 得体の知れない、明らかに魔法じゃないその『力』に、恐れ戦くだけ。 「ま、まあよかろうて。フーケのゴーレムを破壊した彼女なら、全く問題ない」 野郎が一人傷だらけになろうと、オスマンには関係ない。一見派手だが、命に別状はないのもスルーに拍車をかける。 「しかし、一人では……」 杖が、三本掲げられた。 「ミス・ヴァリエールに、ミス・ツェルプストー、それにミス・タバサまで……」 「貴方たちは生徒じゃないですか!?ここは彼女と我々に……」 「誰も上げないじゃないですか。それに、使い魔に先を越された上、使い魔だけ送り出すなんて真似、それこそ恥もいいところです」 「ヴぁリエールに負けられませんもの」 「心配」 そこに、テルミットを注ぐようなジルの一言。 「役立たずで腰抜けの貴方たちよりよっぽど強そうだけど」 ジルの言い放った一言で、その場の温度が一気に下がる。 「よろしい。ならば決闘だ!」 「だが断る。帰ってきてからにして。今は面倒だわ」 「貴族の誇りを賭けた決闘を……面倒だと?」 「あーあー。エルザ」 ジルは面倒臭そうに――――本当に面倒臭そうに指を鳴らす。 「きしゃまは……」 ジルに反抗的だった教師達が、バタバタと倒れる。残っていたのは、討伐隊候補の四人と、シュヴルーズとコルベールを含む数人の良識的(親ジル派)教師、そしてロングビルにオスマンだけだった。 「あー、ミス・ヴァレンタイン。いったい何を……」 オスマンが恐る恐る訊いてくる。 「どうせこうなると思ったので、少し仕掛けを。『スリープ・クラウド』の亜式だと思ってくだされば結構よ」 「そ、そうかね。ならばいいが……」 数百年の軌跡をここで途切れさせたくないオスマンは、追及をやめる。あと百年は、まだ見ぬ美女とキャッキャウフフしたいのだ。このエロジジイ。 「……ま、まあ、ミス・ツェルプストーは優秀な軍人を輩出している家系での出で、彼女自身の炎の魔法も優秀と聞いておる。ミス・ タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士じゃ。ミス・ヴァリエールは……」 言葉に詰まるオスマン。褒めるべき箇所を必死で探している。 「あの爆発の威力は素晴らしいわ。少なくとも、狙われて避けられる者なんていない。対人戦闘で右に出るものはそういないはずよ」 「そうじゃ!それにミス・ヴァレンタインという優秀な使い魔を召喚したのじゃ、文句はなかろう!」 苦しいが、ジルのフォローに乗る。 「よし、では……魔法学院は、諸君の努力に期待する」 「杖に賭けて!」 メイジの三人は直立し唱和。ジルは無言で敬礼した。 前ページ次ページ絶望の街の魔王、降臨
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/1069.html
全てを虚構にする事ができる。 それが球磨川禊の欠点(マイナス)であり過負荷(マイナス)であり不能力(マイナス)の正体。 悪意も善意も渾然一体とし、全てを無に返す。 傷をなかったことに。汚れをなかったことに。距離をなかったことに。視力をなかったことに。筋力をなかったことに。 磁力を、ベクトルを、努力を、理性を、知性を、結果を、過程を、記憶を、生を、死を、世界を。 森羅万象を虚構にする能力。 『それが大嘘憑き(オールフィクション)』 その言葉に学園都市が誇る二人の超能力者は言葉を失い、驚愕していた。 「勝てるわけ……ないじゃないの……」 思わず御坂の口から漏れる諦めの声。一方通行も口にこそ出さないが、似たような意見を持っていた。 自身の持つ長所が、能力が、存在証明が通用しない相手にどう立ち振る舞えばいいのだろうか。 『とは言っても、まだまだ無くしたての欠点だからね。把握してない部分も沢山あるんだよ』 だからまだ諦めないで、とあろう事か二人を励ますように、しかしどこか愉快そうに話すのは絶望の象徴である球磨川。 『黙ってないでお喋りしようよー。それとも僕みたいなのとは喋りたくないのかな?』 『やれやれ、いくら僕がモブキャラみたいな顔立ちだからって差別するのはよくないと思うな』 『僕だって君たちと同じ人間なんだからさ。仲良くしようよ』 ピースサインを向けて屈託のない笑顔を浮かべる球磨川に対し、いまだ口を利けないでいる二人。 「よォ…御坂美琴(オリジナル)」 「なによ」 一方通行が御坂へ囁く。 「こりゃァ勝ち目がねェかもしンねェなァ。いっそ二人そろって逃げるかァ?」 「冗談。佐天さん達を置いて逃げるわけないじゃない」 「さっき敗北宣言したのはどなたでしたっけェ?」 「勝てなくても、止めるのよ」 「ふゥン……」 コソコソと話す二人が囁き会っている姿をじっと眺めている球磨川。 「それなら、一つギャンブルに出てみようじゃねェか」 「え?」 「よく聞けェ」 そして、一方通行から持ちかけられたのは一つの作戦。 だがそれは作戦とは到底いえる物ではなく、仮説を前提に置いたいわば希望だった。 伝達が終了し、いくらか驚いた表情を浮かべる御坂だったがしっかりと頷き了解をする。 『作戦タイム終了かい?それじゃどっからでもどーぞ』 「ハハ!」 余裕を崩さずノーガードで迎える球磨川に、一方通行は短く笑う。 「後悔しないでよね!」 御坂がそう叫ぶと共に二人の作戦が実行された。 『わぁお!ミナデインみたいだね!!』 御坂から放たれた無数の雷をまるで河川敷から花火を眺めているかのように暢気に待ち受ける球磨川。 それをあえて避けず全身で受け止め、自らの体を傷つける。 『あれぇ?なんだか体が動かないぞ』 雷の熱で服が焼け、露出した皮膚の所々が焼け爛れても笑顔を崩さない。 「そのまま死んどけェ!糞野郎ォォォォ!!」 一方通行は絶叫しながら先ほどの攻撃と同じよう無数の崩れたコンクリート片を飛ばす。 これすらも受け入れ体中の至る所に穴が開き、右腕にいたっては引きちぎれて肩から伸びる数本の筋繊維で繋がったままぶら下がっていた。 「く……」 その光景に思わず目をそらそうとするのは御坂だった。 いくら攻撃が無効化され傷が治るとはいえ人間が壊れていく様は直視するには耐えがたいものである。 「攻撃をやめんじゃねェ!!」 「くっそおおおおおおおおおおおおお!!」 一方通行の叱咤により、球磨川を“殺す”決意を固めた御坂は磁力で床から一本の鉄骨を取り出し、球磨川の心臓めがけて飛ばす。 『それは避けなきゃ不味いかなぁ』 的確に球磨川の左胸、つまり心臓めがけて飛来する一本の鉄骨。 残った左手で頬を掻く球磨川は苦笑いを浮かべ、傷もそのまま横にそれて回避をしようとするが、 頭上に浮かぶ自らを覆い隠すほどの鉄板に気がつく。 「悪ィがこの攻撃は一方通行だァ。進入も回避も禁止ってなァ……」 一方通行は口元を歪めながら自らの右手の親指だけを立てて首元を切る素振りを見せ、そのまま手首を返し親指を下に向ける。 その先にある球磨川の運命と、この悪魔のような物語を締めくくるように言葉を添えて 「ジエンドだ」 遥か上空から勢いよく球磨川へ落下を始める鉄板。 鉄骨は回避できるかもしれないが、その傷ついた体では大きい動作ができないのか、球磨川は鉄板を見上げる。 『う、おおお!死ぬ!これは死ぬ!くそおおおおおおおおおおお!!』 そうして巨大な鉄板は、叫びをあげる球磨川へと落ちていった。 一方通行の作戦とは、天井戦と同じく物量で攻めきるという単純なものだった。 大嘘憑きの効果範囲、発動条件などはわからなかったが、 磁力とベクトルを別々になかったことにしたことから、複数の事柄を同時に虚構にすることはできないと一方通行は考えた。 それならば、回復をする暇を与えず全力で攻撃を続ければいい。回避をする間を与えず全霊で殺せばいい。 それが、もはや希望ともいえる一方通行の考えた作戦の全貌だった。 この作戦において、一方通行や御坂は最初の一撃を与えることを課題としていた。 多面攻撃を仕掛けたところで、最初の攻撃と同じようになかったことにされるのが落ち。 だから一撃さえ与えれば動きを止めれ、なおかつ回復と回避の二つの処理を与えれる。 その後は、弾幕のように攻撃を繰り出せば勝機はあると思っていたため、球磨川の油断した状態は正直二人にとっては僥倖といえたのだった。 勝てる。 二人は落ち行く鉄板を眺めつつ少し安堵していた。 事実、処理に追われた球磨川はこうして鉄板の下敷きになろうとしているのだから。 この作戦は成功といえよう。 だが。 『なんちゃって』 だが。それは仮説が正しかった場合の話である。 球磨川はそう言って、鉄板と鉄骨、それに体の傷を同時に虚構にし何食わぬ顔で立ったままだった。 「なっ!!」 目の前の光景に信じられないといった声を上げるのは御坂。 一方通行は自らの希望を打ち砕かれ苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべている。 『同時に消せないと思った?』 球磨川は相変わらず笑顔を浮かべているが、二人にはそれがただただ不気味に見える。 両手には何も持たず、背筋を伸ばした良い姿勢のままスタスタと早足で二人へと歩み寄りながら言葉を続ける。 『二人のレベル5なら何とかなると思った?』 その言葉はまるで呪詛のようで、何かの呪いのようで。 『僕が攻撃を受けたから、切実な表情を見せたから殺せると思った?』 二人の足を地面へ縫い付ける。 『どれだけ自分達が重要な役回りだと勘違いしてたのかな?恥ずかしげもなく』 これが恐怖、これが絶望、これが過負荷。 『この物語に主人公は一人だけ。悪役も僕一人だけ。それ以外は舞台袖へ下がって頂戴』 二人は逃げるという選択をしなかったことを後悔していた。 『一方ちゃん。どうだい?これが殺される恐怖だよ』 一方通行は何も言えない。最強と呼ばれ無敵を目指した少年ですら目の前の最悪の前ではただの人間だった。 『美琴ちゃん。今から僕がミサカちゃん達の敵討ちをしてあげるね』 御坂は立ち竦む。その胸にはただ恐怖と後悔の渦が巻いているだけで他には何も考えることができない。 『心配しないで。ミサカちゃん達を殺した犯人と仲良く戦っていた君も、仲良く殺してあげるから』 そして笑みを浮かべたまま螺子を取り出した球磨川。 その螺子はプラスを螺子伏せる象徴。 その螺子は巨悪なマイナスの権化。 その螺子は二人の終わりを告げる物。 『それじゃ、天国で会おう』 球磨川は螺子を振り上げる。 二人は思わず目を瞑り、その時を待つだけだった。 振り下ろされる螺子が刺さる音だろうか?ドゴッという鈍い音が御坂の耳に飛び込んできた。 おそらく一方通行が刺されたのだろうと、恐る恐る瞼を開き状況を確認する。 「え……?」 螺子伏せられた一方通行の姿を想像していた御坂は目に映った光景を疑った。 無理もない。倒れているのは一方通行ではなく、球磨川禊だったからだ。 そこにはさっきまではこの場に居なかった人物が息を切らしたまま、振り切った拳を伸ばしている少年が一人。 一方通行も目の前の人物に驚き、どこか不機嫌そうな表情を浮かべている。 当然だろう。その少年はかつて一方通行を撃破した少年なのだから。 そして恐らく少年に殴られ吹き飛んだであろう球磨川は対照的に嬉しそうな表情を浮かべていた。 「ふざけんじゃねぇぞ……」 ゆらりと腕を下ろし、球磨川に向けつぶやく少年。 「何が過負荷だよ。何が負能力だよ……」 その姿からは抑えきれない怒りが漏れているのがわかる。 「関係ない人まで不幸にして、不幸から抜け出そうとした人まで巻き込んでんじゃねえよ!!」 とうとう少年は叫びだしてしまった。 「テメエ知ってるんだろ!?御坂の友達が自分の感情抑えてまで友達でいようと努力してたことを」 「必死になって能力者になろうと頑張ってたことを!」 「それだけじゃねえ!妹達がどんな気持ちで死んでいったのか、生き残った奴等がどんな決意で今を生きてるのか!」 「必死に今を生きてるんだよ!死んでいった妹達のことなんざ一瞬たりとも忘れてねぇ!」 「御坂だって同じだ!苦しんで、悩んで、涙を流して、葛藤して、それでも前向いて生きてるんだ!」 「どれだけ不幸だろうと、どれだけ欠点だらけでも皆幸せになろうって必死にもがいてんだよ!!」 「一方通行があの日から何をして過ごしたのかも知ってんだろうが!」 「許されるつもりはねえって十字架背負って、命を懸けて打ち止めを、妹達を救ったんだ!」 「死んで許されるならコイツはとっくに死んでるはずだろうが!?でもこうやってコイツ生きてる」 「そうやってどうしようもない現実に抗って、もがいて生きてる奴等をテメエは何で不幸にしようとしやがる!」 「どうしようもない運命(マイナス)を持っちまったアイツだって頑張ってんだろうが!」 「後悔して、懺悔して、それでもアイツは笑ってるんだ!!」 「どうしてそれが分からない!?なんで分かろうとしねぇんだよ!!」 「なんでテメエはそれを邪魔することができるんだ!!」 少年は叫ぶ。 それは、球磨川に弄ばれた者達の気持ち。 平等を望んだ佐天涙子の願い。 一万回死んだ妹達の痛み。 それを受け止め生きる妹達の重み。 過酷な運命を背負う御坂の悲しみ。 許されることのない一方通行の苦しみ。 存在証明を無くした姫神の悩み。 巨大な負を抱えながらも懸命に生きる青髪の想い。 それを全て、目の前に居る大嘘憑きに向けぶつける。 それは少年の―― 上条当麻の心からの言葉だった。 「立てよ最悪(本物)。俺の最良(偽者)で正してやるよ!」 見下ろす球磨川に向け上条は右拳を突き出す。 「テメエが何でもなかった事にできるって言うんなら……全てを不幸にすると言うんなら――」 「その幻想をぶち殺す!!」
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/11251.html
624 名前:ゲーム好き名無しさん (ガラプー KK8e-HGZj)[sage] 投稿日:2016/05/11(水) 09 36 04.13 ID 0OM9z0EwK その時代に居た困の事を報告しても良いのだよ 627 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイW b98b-10y/)[sage] 投稿日:2016/05/11(水) 10 09 28.52 ID Z5sccqhL0 624 その時代の困筆頭は水野良だろJK。 でそれで思い出した。先日一度やってみようということでグランクレストやったら、うちのベテランGM(普段は上手い)が、強NPC様無双のシナリオ出してきた。PCは横で見てるだけ。 で、普段は上手いGMだけに俺ら戸惑ってどうしてそういうことをしたのか聞いたら「水野良が関わるゲームだからこれが正しい」との答え。 結果我々の間ではグランクレストは封印されました。 変なアンチが絡む状況はよくないね。 632 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 9c2b-DR9V)[sage] 投稿日:2016/05/11(水) 13 05 25.25 ID gQNP3Vm70 [2/2] 627 どんな闇を抱えてるんだw 卓囲んだ627達には悪いが笑ったw 633 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 9c7b-mhju)[sage] 投稿日:2016/05/11(水) 13 05 36.80 ID gpufU5Hn0 [1/2] 627 そういう渾身のネタだったのかガチのアンチなのかで判断が分かれるとこだと思うけど 「封印が決まった」ということはアフターで台詞言ったときのGMおめめグルグルだったのかな 634 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ fa5b-7Olf)[sage] 投稿日:2016/05/11(水) 13 26 36.57 ID 1woH8ibf0 受けると思ってやったらドン引きされた、って話だと思うなぁw 悪いけど他人事としては笑わせてもらったわ 封印された、ってのもファーストインプレッションが悪くて以後やんなかった、を面白く言い換えただけかと 637 名前:ゲーム好き名無しさん (スプー Sdc8-j46Q)[sage] 投稿日:2016/05/11(水) 14 51 52.78 ID g0sHZSgPd [2/2] 水野良世界観しか関わってないのにその理論はおかしくないかw スレ436
https://w.atwiki.jp/keikenchi/pages/311.html
ライモンシティの外れ。 誰も寄り付かないような薄暗い裏路地で、不釣り合いなピンクの塊を見つけた。 それは時折もぞもぞと動き、微かにミィミィという鳴き声も聞こえてくる。 覗いてみれば案の定タブンネだ。親のタブンネが1匹に子タブンネが6匹。 より優秀な個体が見つかり、不要となった親とその子供達といった所か。 皆黒く薄汚れており、親タブンネはそんな子タブンネの汚れを少しでも落とそうと、 子タブンネを1匹ずつペロペロと舐めてやっている。 健気で可愛い、連れて帰ろう。 そう思い背を向けているタブンネ達に近付いていくと、親タブンネの大きな耳が ピクリと動き、こちらを振り向いた。 流石にこの距離では気付くか。 親タブンネは多少警戒しているらしく、子供達を後ろへやり私を見つめている。 しかし、私に向けられたその視線は、 “捨てられたことによる人間への不信感”と、元来タブンネが持つ“皆と仲良くしたいという感情” それらが綯い交ぜになった、実に中途半端なものだった。 いける―― 確信した私は鞄からオレンの実を2、3個取り出しタブンネ達の前へ放り投げる。 すると背後にいた子タブンネ達がミィミィと喜びの声を上げ、オレンの実へ群がってきた。 我先にと実を食べている子供達と私を親タブンネは交互に見ているので、親タブンネの手元にもオレンの実を放ってやる。 暫く呆けて見つめていたが、やがて実を手に取りしゃくしゃくと頬張り始めた。 食べる勢いからして、相当腹が減っていたようだ。 少ない食べ物を子供達に与えていたのだろう。 食べているうちに溜まっていたものが吹き出したのか、親タブンネの瞳からポロポロと涙が溢れてきた。 私は親タブンネの頭を撫でてやり、お前が泣くと子供達が心配しているぞ?と告げる。 事実、子タブンネ達は突然泣き出した親タブンネを 「おかあさん、どこかいたいの?」といった様子で心配そうに見つめている。 親タブンネは鼻を啜り、笑顔で子タブンネ達を抱き寄せてやる。 安心したのか母親のふわふわなお腹に顔を埋める子タブンネ達。 そして、何かを求めるような目で私を見つめてきた。 答えなど、決まっている。 「ウチへ来るか?」 タブンネ達のつぶらな瞳がぱぁと輝く。 私は親タブンネの手を引き、近くにある車へと案内した。 その後ろをちょろちょろと付いてくる子タブンネ達。 タブンネ達は何の疑いもなく、私の車の助手席へ乗り込んだ。 運転席に座りエンジンを掛けた私は思わず笑みが零れた。 計画通り――! これからじっくりと可愛がってやろう。 いい玩具が手に入った私の心は躍った。 家に連れ帰ってきたタブンネ親子を数日間は手厚くもてなし、私への信頼を得る。 毎日シャワーを浴びせ、身体を綺麗に。 食事は木の実のスープやケーキなど、腕によりをかけた品々。 寝床は大きなバスケットに、ふわふわの毛布を詰めたもの。 汚い路上生活から一変した豪華な暮らし。 タブンネ親子が私へ全幅の信頼を置くのに、時間はかからなかった。 下準備は完了だ。 後はその幸せな表情を絶望へ染め上げるだけ。 そしてある日、いつものようにじゃれついてきたタブンネ親子の内、 親タブンネを思い切り蹴り飛ばした。 「ミギュウ!?」 妙な声を上げ、倒れ込む親タブンネ。 何で?どうして? そう、その絶望感溢れる表情が堪らない――!! 私は親タブンネの背中を踏みつける。 そして苦しそうに喘ぐ親タブンネのお尻に、有針鉄線で作った鞭を一切の容赦なしに叩き込む。 「ビャアァァアァアァアアアァア!!」 有り得ない程の絶叫が迸り、打ち据えられたお尻は皮が痛々しく向け、ピンクの身体や純白の尻尾を赤黒く染めていた。 しかし私に攻撃の手を緩める気は全くない。 有針鉄線の鞭を腕、足、耳、お腹、あらゆる所に打ち付けてやる。 その度親タブンネは絶叫し、身体をくねらせのた打ち回る。 いつの間にかピンクと黄色のふわふわの身体に、赤と黒の模様が追加されていた。 子タブンネ達は暫く唖然としていたが、はっとしたように私の足元に纏わりつくと、 「やめてやめて!」とミィミィ喧しく鳴き始めた。 聞く耳を持たずに親タブンネへの私刑を続けていると、ついに親タブンネの表情が虚ろになってくる。 すると母親の危機を感じたのか、子タブンネのうち1匹がキッと私を睨み、体当たりをしてきた。 しかし、全長25cm程の体躯から繰り出す体当たりにどれほどの威力があろうか。 一切動じず、体当たりしてきた子タブンネに嫌らしい笑みを浮かべてやる。 親タブンネを痛みつけるのを一時中断し、愕然としているその子タブンネの首根っこをつまみ上げる。 すると残りの子タブンネ達が一斉に縋りつき、泣きながら制止を求めた。 それらを無視し、手の下でじたばたしている子タブンネの尻尾をナイフで切り落とした。 「ピャアァアァアア!!」 今度は子タブンネの絶叫。 尻尾があった所からは大量の血が吹き出し、手足をじたばたさせて泣きじゃくる。 ここは見せしめが必要か。 思った私は未だ暴れる子タブンネをテーブルに抑えつけ、今度はハンマーでその 小さい手を文字通り叩き潰した。 グチャ、という不快な音と共に骨でドレスアップされた血の花が咲いた。 この世のものとは思えぬ叫びが響き渡る。 続いてふわふわの耳を片方、手で強引に千切る。 子タブンネはもう喉が枯れたのか、全開の口からはヒュー、ヒューという乾いた 息遣いが聞こえるだけだった。 足元の子タブンネ達は耐えきれなくなったのか、気付けば部屋の隅で丸くなり、耳を塞いで震えていた。 見せしめとしては十分だが、ここまで来て中断など出来る訳がない。 ピクピク痙攣している子タブンネの身体を見定めていると、股関にあるものに気がついた。 そうか、コイツはオスか。 私はハンマーを手に取り子タブンネの睾丸に狙いを定めると、一気に振り下ろした。 今日一番の絶叫が室内に反響し、子タブンネは息絶えた。 死んだ子タブンネの下半身は、そこから排泄されるであろうあらゆる体液で汚れていた。 ひとまず満足した私は、未だ虚ろな親タブンネをガラス張りの部屋に隔離した。 子タブンネ達はそのガラスに張り付き、ミィミィと親タブンネに呼びかけている。 分かたれた親子―― 今後どちらを痛ぶろうが、もう片方は何も出来ない、という愉快な状況を作り出すことが出来た。 しかし私は、あえて親タブンネを痛めつけさせて貰おう。 最愛の親が痛めつけれているのに何も出来ない。 特に子タブンネだ。 その無力さはピカ一と言っていい。 漸く始まった最高の日々に興奮し、その日私は一晩中親タブンネを痛めつけていた。 まだ辺りが暗い早朝、昨日の痛みに疲れて眠っている親タブンネを、鞭の一撃を以て叩き起こす。 昨日までは好きなだけ眠らせてやったのだから、これからその分楽しませて貰う。 身体を痙攣させ飛び起きた親タブンネは、私の姿を確認すると弱々しく這いながら距離を取ろうとする。 しかしこの狭い部屋に、逃げ場所などある筈はない。 恐怖を増す為、ギリギリ追い付かない程度の速度で近付いてやる。 すぐに壁際に追いつめられた親タブンネ。 震えた瞳で私を見つめていたが次の瞬間、ギュッと私に抱き付きミィミィ鳴き始めた。 気でも触れたか?いや、違う。 未だ私の本性を信じず「私のふわふわの身体に触れて、優しいご主人様に戻って!」 とでも考えているのだろう。 ぶくぶくに肥えた身体の温もりが、腹の辺りに伝わる。 実に健気――同時に実に馬鹿だ。 この一握りの希望を粉々に打ち砕くのが私の至福。 今それを教えてやろう。 私は抱き付いている親タブンネの触覚を掴み、ありとあらゆる残虐な殺害方法を想像した。 「ミッ……ヒィ!?」 瞬間、顔を青ざめ私から遠ざかろうとするが、触覚を掴んでいるので当然叶わない。 次々に脳に送られてくる恐怖や痛みに頭を左右に激しく振っている。 そんなことなら考えを読めなければいい―― 私は掴んだ触覚を、そのまま力任せに引きちぎってやった。 ブチン、という音と共に触覚が身体から離れ、血とリンパ液が床へ散らばる。 「ミギュアァア゛アァアアアアア゛ァア゛!?」 最後の方はよくわからない奇声となった悲鳴が狭い部屋を越え、家中に反響した。 優れた聴力故に神経が大量に通っていたのだろう。 想像を絶する痛みだったに違いない。 その親タブンネの絶叫が目覚ましとなったのか、隣の部屋ですやすやと眠っていた子タブンネ達が目を覚ました。 寝ぼけているらしく、暫くは呑気に辺りを見回していたが、 隣から聞こえる親タブンネの悲鳴に気付くや否や、ガラスに張り付きミィミィ鳴き始めた。 しかしそんな呼び掛けは何の意味もなさない。 私は俯せに寝かせた親タブンネの片腕を掴み、関節とは真逆の方向に折り曲げる。 「ピィ…ァアァアアァアアァア!!!」 骨が砕ける音のすぐ後に親タブンネの悲鳴が、更にその後を子タブンネの泣き声が追走する。 見事な二部合唱だが、この程度では終わらせない。 間髪入れず仰向けになるよう蹴り飛ばし、ぼてっとしたふんわりお腹にナイフを突き立てる。 「ミギャアァアアアアアアアア゛ア゛!?」 1本、2本、3本4本5本… バースデーケーキの蝋燭のように親タブンネの腹にナイフを増やしていく。 但し致命傷は絶対に避ける。 簡単に死なせては面白くないし、何よりタブンネ達には極限の苦痛を味あわせたいからだ。 自分でも歪んでいるとつくづく思う。 しかし可愛いタブンネの表情が苦痛や絶望に歪む様は、私を惹き付けて離さないのだ。 気付けば腹には十数本のナイフが刺さり、親タブンネは虚ろな表情でピクピクと痙攣していた。 この位にしておくか―― 私は最低限、死を回避する程度の治療を親タブンネに施し部屋を出た。 部屋を出て、手を洗う私の足に軽い衝撃が走った。 「ミィ!ミィ!」 「ミッ!ミィーー!」 見下ろしてみると残り5匹の子タブンネのうち2匹が、私に向かって体当たりをしていた。 残りの3匹は部屋の隅に集まり、怯えた眼で私を見ている。 2匹の子タブンネの顔は涙でくしゃくしゃだ。 大好きだった私が、大好きな親タブンネを傷付けた。 怒りと哀しみがごちゃごちゃになった激情に身を任せ、2匹の子タブンネは体当たりを繰り返している。 そんな所か。実に涙ぐましい。そして、滅茶苦茶にしてやりたくなる! 暫くの間、私は敢えて子タブンネに何もしなかった。 それどころか時折わざと痛がる素振りすらしてみせる。 「ミィ?ミィミィ!」 「ミッ!ミィッ!」 すると子タブンネはもう少し頑張ればコイツを倒せる!と思い始めたらしい。 可愛らしい鳴き声で自分達を鼓舞し、更に体当たりをしてくる。 そんな状況に希望を見出したのか、隅にいた3匹の子タブンネも2匹を応援しだした。 そろそろ頃合いか―― 私は大袈裟な断末魔を上げ、実にわざとらしく床に倒れ込む。 子タブンネ2匹は動かない私に近付き、頬の辺りを短い手でペチペチと叩いている。 動かないのを確認すると、私に背を向け応援していた3匹に対してミィ!と勝利のポーズを決めた。 すると応援していた子タブンネ達も嬉しそうに近付いてくる。 今だ――――! 私は完全に無防備になっていた子タブンネ2匹を両手で1匹ずつ掴み、立ち上がる。 瞬間、駆け寄っていた3匹の子タブンネの表情が凍り付き、両手で捕まえた2匹はその表情を驚愕の色に染める。 勝利を確信した瞬間の絶望感はいかほどのものかは、想像するまでもない。 3匹はミィミィ泣きながら再び部屋の隅に引っ込んでいった。 私は3匹を一瞥し、腕の中でもがいている子タブンネ2匹に視線を移す。 するとつい数秒前の抵抗が嘘のように静かになり、小刻みに身体を震わせる。 私は2匹に軽い笑みを浮かべ、机へ向かう。 机の上にはミキサー2つと七輪1つ。 そして片方をミキサーに入れて蓋をする。 ミキサーの用途の分からない子タブンネは、壁を叩きながらミィミィ鳴いている。 そちらは後回しだ。 私は炭火で十分に熱された七輪にもう1匹の子タブンネを近付ける。 登ってくる熱気にむせかえり、涙を流している子タブンネ。 その様を見てミキサー内の子タブンネは再びミフーッ!ミフーッ!と威嚇しだした。 無視して子タブンネに塩、胡椒を振りかける。 胡椒が鼻に入りミシュン!と嚔をする子タブンネが可愛い。 そして脇にあった串を肛門からプスリと突き刺す。 「ミヒャ!?」 悲鳴を上げてじたばたするが、無情にも串はずぶずぶと沈んでいく。 半身程入った所で止めると、子タブンネは身体をひくつかせている。 そしてその子タブンネを七輪の上に乗せた。 「ミビュアァアアアガガガガガガ!!!!」 短い手足を上下左右四方八方に振り回し、七輪から逃げようともがく子タブンネ。 しかし、串に刺されて軽く浮いた身体ではどうしょうもない。 文字通り身を焼かれる痛みに子タブンネの絶叫が止まることはない。 しかし香ばしい香りが立ち込め出すと、子タブンネの抵抗も弱くなっていく。 「ミ……ィ………」 天を仰いでいた手ががくりと落ち、子タブンネの串焼きが出来上がった。 「ミィィィィィィィィィィイ!!」 ミキサーの中の子タブンネが吠えた。 その表情は今にも私の喉元に食いつかん勢いだ。 それでいい。これから君にも絶望を与えるのだから―― 私はポケットからオレンの実とオボンの実を取り出し、隣のミキサーに詰めていく。 子タブンネは無視するな!とミィミィ鳴き声を大きくするが、気にせずミキサーに木の実を詰める。 子タブンネの怒声を背後に木の実を詰め終わると、私は子タブンネに向き直りミキサーのスイッチを入れる。 金切り声のような甲高い音を上げ、木の実を砕いていくミキサー。 数分もしない内においしいおいしい木の実ジュースが出来上がる。 子タブンネはというと、先程までの怒りはどこへやら。 恐怖に身体を震わせ、失禁までしている。 そして再び大声で鳴き始めた。 但し先程のような怒りではなく、ミキサーから出してもらうことを懇願して。 私は微笑みながら、ミキサーを胸元に押し当てる。 そして泣き叫んでいる子タブンネに触覚を壁に当てるよう指差す。 もしかしたら助かるかも! 僅かな希望を胸に子タブンネはミキサーの壁に触覚を当てた。 美味しいジュースになってね――― 「ミャアァァアアアァアァァァア!!」 伝わった私の意志に、断末魔のような叫びを上げる子タブンネ。 全ての希望が失われた所でスイッチオン。 「ビャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」 下半身から身体が砕け溶けていくという普通に生きていては考えられぬ死に方に、凄まじい声が響き渡る。 その音色は私の歪んだ心を満たしていく。 やがて赤黒い中に所々ピンクが混ざった子タブンネエキスが完成した。 私はそれを串焼き子タブンネにかけると、そのままゴミ箱に放り込んだ。 再会出来て良かったね――― 皿に盛ったオレンの実を、私は子タブンネ達の前に置く。 やはり目の前で調理された兄弟や、今なお痛めつけられている親タブンネを思い出すのだろう。 私が部屋にいる間は、隅に集まりガタガタと震えている。 しかしタブンネも所詮は獣。空腹には勝てないようで、私が部屋から出て暫くすればよちよちと皿に向かいオレンの実を食べ始める。 2匹の子タブンネを調理してから、私は子タブンネ達には虐待は加えていない。 1日に1回、少量の木の実を与えるだけだ。 かといって「もういじめられないんだ!」と、子タブンネ達を安心させてはいけない。 この対策として、私は日課となった隣部屋での親タブンネ虐待を、子タブンネ達にこれでもかという程見せ付けた。 こうすることによって“いつ自分もああなるか分からない”という潜在的恐怖と “大切な肉親が傷つけられていくのを黙って見ているしか出来ない”という無力感を植え付けるのだ。 同時に、極度のストレスに晒された子タブンネ達を具に観察する。 表情、仕草、鳴き声、瞳の動き、耳の動き、食事量、、排泄量、睡眠時間、起床時間……… ありとあらゆる行動を注視し、如何にしてタブンネ達に恐怖と絶望に満ちた死をプレゼント出来るかを見定めるのだ。 恐怖に震える可愛い子タブンネ達に手を出さない事は、大変な忍耐力を要した。 しかし、そのおかげで子タブンネ達の大切なものが見え、良いやり方を見つけることが出来た。 漸く準備を終え、これから実践するところだ。 ドアノブに掛けた手が、全身が歓喜に震える。 やはり、この瞬間はいい―― タブンネの表情を苦痛と恐怖に歪める前の心地良い時間は―― その感覚に酔いしれつつ、私は子タブンネ達の元へ向かった。 ドアを勢い良く開けると、3つの小さいピンクの塊が飛び上がる。 私の姿を確認するや否や、3匹の子タブンネ達はミィミィ鳴きながら逃げていく。 年増もいかぬ子タブンネが、よちよち走りで逃げ惑う様は実にいじらしい。 やがていつもの壁際に集まり、震えている子タブンネのうち2匹を掴んで籠に入れる。 残った1匹は未だ耳を掴み震えているので、放置して我の強い2匹を調理した机へと向かう。 「ミィ……」 「ミ…ミィ……」 以前の2匹とは違いこの2匹は抵抗することはなく、籠の中で互いの身体を寄せ合い怯えている。 観察の結果、この2匹は大層仲が良いのが分かった。 残りの1匹と不仲という訳ではないが、この2匹の仲の良さは目を見張るものがあった。 少ない食事を互いに分け合い、片方が恐怖で眠れない時は、もう片方が必死に励まし身体を抱き合って眠る。 この状況下、より強固となった絆を引き裂くことこそが、この子タブンネ2匹には最上の絶望となることだろう。 向かった机にあるのは巨大なアクリルケース。 間に仕切りがあり、それぞれ子タブンネを収めるには丁度良いサイズで作成されている。 私が籠から子タブンネを取り出し、それぞれアクリルケースに入れると、予想通り仕切りのアクリル板に張り付きミィミィ声を掛け合っている。 さぁ、ゲームスタート。 君達の絆が試されるぞ―― 私は左側の穴からペットボトルに入れた“ある液体”をゆっくりと流し込んでいく。 「ミィ?」 「ミッ…!ミィ~~」 少し黄ばんだぬるぬるの液体を頭から被り不快そうに身体を弄る子タブンネを、もう1匹の子タブンネが心配そうに見ている。 子供だからか、このアクリルケースに逃げ場がないことにはまだ気付いていないようだ。 最も、それも時間の問題だろうが。 「ミッ!?ミッミィー!」 液体が腰の辺りまで登ってきて、漸く気付いた子タブンネ達。 アクリルケースの壁に小さなおててを当ててよじ登ろうとジャンプするが、掴む 箇所もなく身体を濡らした液体はぬるぬると滑る。 アクリル板を滑り尻餅をついてしまう。 そんな間にも液体は注がれ続け、既に子タブンネの胸の辺りまで到達していた。 「ミィ!ミィミィミィミィミィミィミィーーー!」 反対側の子タブンネが私の方を向き必死に鳴いている。 おねがい!あのこをたすけてあげて――! そんな叫びが聞こえてくるようだ。 私はこの間と同様、胸元にアクリルケースを寄せ、触覚を触れるよう指示する。 タブンネの気持ちを読み取る能力は、こういう時には実に便利だ。 言葉は通じなくとも大方の意志を伝えることが出来る。 助けたかったら、自分でその触覚を引きちぎってよ―― 伝わった意志に子タブンネは愕然として後ずさる。 この間の親タブンネからも分かるように、タブンネの最大の特徴にして長所である触覚。 細かな音を聞き取るために通った大量の神経。 文字通り死ぬ程の痛みを味わえ。と暗に言われ、子タブンネは首を振りイヤイヤをする。 じゃあ、君のせいであの子は死ぬんだね―― ハッとした子タブンネは、アクリル板の反対側へ向き直る。 そこには首まで液体に満たされ、顔を上に向けて必死に酸素を吸おうとする子タブンネの姿。 「ミッ……ブ!ミバッ………ハッ!」 しかし更に増えた水嵩にとうとう顔まで覆われてしまい、身体をばたつかせるだけの、泳ぎとは到底言えない動きで必死にもがいている。 「ミッミィ!ミィ!」 もう子タブンネの呼び掛けも聞こえていない。 助ける方法が一つしかないということを、これでもかと見せ付けられた子タブン ネは、震える手で自らの触覚を掴むと、一気に引っ張った。 「ミィーーーーーーーーー!!」 子タブンネは味わったことのない痛みに絶叫し、思わず手を離してしまう。 再び触覚を掴もうと試みるが、先程よりも大きくなった震えから上手く掴めない。 よしんば掴んだとしても、触覚を通して流れてくる イタイよ、いやだよ、イタイのヤだよ―― という心の奥底に潜む自らの意志が邪魔をして、再び触覚を千切ろうとすることが出来ない。 「ミ…ッ………ブィ…」 そんな子タブンネの耳に、容赦なく聞こえる子タブンネが溺れていく声。 頭と身体の相反する意志に、子タブンネは混乱の極みに達する。 「ミ゛ィィィイィイィイイイィィイ!!」 発狂したかと思う程の奇声を上げ、子タブンネは自らの触覚を引きちぎった。 子タブンネは呼吸困難になるまで、口を全開にして叫び続けていた。 私は何も言わずにアクリルケースに穴を開け、液体を外へ排出した。 何とか生き延びることが出来た子タブンネはまだ弱々しい呼吸ながら、懸命に触覚を失った子タブンネに手を伸ばす。 アクリルの仕切りに触れたおててが、丁度かつて触覚があった位置へいくと、ゆっくりと揺らしている。 仕切り越しだが、なでなでしてあげているようだ。 そんな様子に、痛みで泣いていた子タブンネの表情も綻ぶ。 そして2匹は「やくそくだよ?」と上目使いで見上げてきた。 とても可愛らしい。 勿論、頑張ったご褒美に再開させてあげるよ―― 但し、あの世でね―― 私はマッチに火を付けると、それを濡れた子タブンネの方へ投げ入れた。 「ミ゛ッギャア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛!!」 直後、子タブンネの全身が一瞬で燃え上がり、先程までの弱々しい息づかいからは考えられないような絶叫が発せられた。 あの液体の正体は油。 全身が浸かり、しっかりと油が染み込んだふわふわの毛皮は、ウールのようによく燃えた。 燃えている子タブンネは仕切り板に張り付き、ひたすらに助けを求める。 反対側の子タブンネも板に張りつこうとするが、その前に子タブンネの燃え盛る 身体がアクリル板を溶かしてしまった。 漸く再開出来た子タブンネ達。 相当嬉しいのか、燃えた子タブンネは最早タブンネのものだと分からない叫びを 上げながら、触覚を失った子タブンネに抱き付いた。 「ミヒィ!ミッ…ィィィ!!」 しかし余りの熱さに子タブンネは火達磨の子タブンネを思わず突き飛ばしてしまった。 一瞬の間を置き、自らの行いに気付いた子タブンネだが、時既に遅し。 燃え盛る炎に焼かれ、子タブンネは黒こげになっていた。 あーあ、やっちゃったね―― 私は呆然と立ち尽くす子タブンネの残った触覚を掴み、気持ちを送り込んでやる。 あの子は君に助けを求めてたんだよ――? なのに君はそれを突き飛ばしたんだ。たすけて!なんて笑わせるよ―― 「ミッ!ミィミィ!」 私が次々に送り込んでやる言葉に、子タブンネは頭を抱えてちがう!ちがうよ!と言わんばかりに激しく左右に振っている。 だったらどうして受け止めてあげなかったの――? どうして火を消そうとしなかったの――? 簡単だよ。君は単に熱いのが嫌であの子を突き飛ばしたんだ――― たったそれだけの理由で、あの子を殺したんだよ―― 否定する間も、言い訳する間も与えず子タブンネを糾弾し続ける。 この家族殺し――! 「ミィーーーーーーーーーーーー!!」 天を仰ぎ、絶叫し、子タブンネはその場にくずおれた。 その目からは光が消えていた。 精神が壊れ、今度こそ本当に発狂したのだろう。 私はその子タブンネと黒い消し炭を掴むと、この間同様ゴミ箱に放り込んだ。 約束は守ったよ――