約 2,072,290 件
https://w.atwiki.jp/retrogamewiki/pages/855.html
今日 - 合計 - これがプロ野球’89の攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月09日 (火) 13時59分20秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して
https://w.atwiki.jp/yuto51/pages/34.html
荒木飛露彦デザイン・ユニクロTシャツ(1000円!!) 「なんつぅーか ヤッベェーぜッ!! スゲェーいい!!」 つーか、これメンズサイズのみ!下のダンスのやつがレディス! 近日発売予定(もちろん1000円) よ、よすぎる・・・・ ・ ・ ・ [荒木飛露彦]というビジネスは絶対に成立する。 よ、よすぎる・・・ どっち買おうか、という迷いすら愚か。 「りょ・・・両方ですかアァーッ」 (YES!YES!YES!)--ホリエ とりあえずアゲ。今から、ユニクロ行ってきます!! --sinsho
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/3255.html
「マリカァァァァァァァァァァァ!!!」 初登場時からずっと泣き叫びながら、金髪碧眼のチビおっさんは奔っていた。 ついさっき、個々あたりに隕石が落ちたわけだが コメディ補正とでもいうべきか、このおっさんことガリレオは無事だった。 ただ、ふっ飛ばされた際に電信柱に激突しただけで。 とにかく、さっきから同じ叫びしか上げていないガリレオは混乱していた。 いつも通り、マリカやキュリー夫人たちと一緒にゆるゆるな1日を送っていたかと思えば 見知らぬ空間に飛ばされ、殺し合いをするよう宣告されたのだから。 もうわけわからんし、帰りたいしで、ガリレオの頭の中はごっちゃごっちゃだった。 そんなガリレオの混乱した頭は一瞬でクリーンナップされた。 飛んできたひとつの弾丸で。 地面に倒れたガリレオを前にする5人の男女。 その中のひとりの男が言った。 「ただギャーギャー泣き叫ぶだけか?何もせずに助かれる程バトロワは甘くないのだよ」 その男、ルーファウス。王の名のもとにズガンを繰り返す男。 【ガリレオ@マリー&ガリー 死亡確認】 【三日目・13時05分/東京都練馬区跡地】 【再生マーダー軍団】 【再生ジャイアンの母@ドラえもん】 【状態】全裸 【装備】不明 【道具】不明 【思考】うるさいオッサンだったね 基本 王様に従いマーダーする 【再生マグニスさま@テイルズオブシンフォニア】 【状態】健康 【装備】不明 【道具】支給品一式、不明支給品 【思考】なんでここにいるか?想像に任せる。 基本 王様に従い首コキャする 【再生ルカ・ブライト@幻想水滸伝2】 【状態】健康、豚殺し 【装備】鋼の剣、鋼の鎧 【道具】支給品一式、他不明 【思考】セリフないし……orz 基本 王様に従い殺し合いに乗る 【再生ルーファウス@FF7】 【状態】健康 【装備】銃、速射弾、タオル、正宗 【道具】支給品一式×2 【思考】これがバトルロワイアルというものだ 基本 王様に従いズガンする 【王様@ドラゴンクエスト】 【状態】健康 【装備】不明 【道具】支給品一式 【思考】 基本:優勝する ※ジャイアンの母を蘇らせたのも彼です ※マグニスさまを蘇らせたのも彼です ※2784で富竹を蘇らせたのも彼です
https://w.atwiki.jp/datui/pages/390.html
これが私の全力だから ◆NIKUcB1AGw 市街地の一角に、張り詰めた空気が満ちる。 相対するのは、星のカービィとコロコロカービィ。 共にカービィシリーズの系譜に身を置きながら、戦う宿命を背負った二本のソフトだ。 二人は、共にまだ動かない。相手の出方をうかがっている状況だ。 戦いを見守る形になったスーパーデラックスも、固唾を呑んで二人に視線を送っている。 その空気は、とても第三者が割って入れるものではなかった。 だが、それでも割って入るのが空気の読めない男だ。 「あ?」 「え?」 コロコロカービィと星のカービィは、ほぼ同時に驚きの声をあげる。 突然、二人に向かって歩いてくる人物が現れたからだ。 その姿は、誰がどう見ても野球選手だった。 (すでに野球ゲームは全滅していたはず……。 ということは、他のゲームが支給品か何かで姿を変えている? だが、何のためにそんなことを……) コロコロカービィが考えを巡らす間にも男は歩を進め、二人のカービィの中間地点で止まる。 そして、おもむろに振りかぶった。 二人の警戒心が跳ね上がり、動こうとする。 その刹那、男は言った。 「今年は荷物を盗るね~ど!」 『は?』 意味不明の宣言に、二人の思考が一瞬停止する。 その時点で、すでに彼らは術中に落ちていた。 次の瞬間、男は凄まじい速度で二人の所持品を奪い取っていた。 「はっ!?」 「ちょ、え?」 「グエッヘッヘッヘ! 二人とも、ずいぶんと所持品を溜め込んでいたようだな!」 困惑する二人に対し、男は下品な笑いを響かせる。 そして、変装を解いた。 その素顔は、当然この男。桃鉄DXである。 「な、なんだ貴様は!」 「何だチミはってか! そうです! わたすが桃鉄DXです!」 動揺するコロコロカービィに、桃鉄DXはどや顔で答える。 別に桃鉄に志村けん要素はないが、ギャグキャラがああいう聞き方をされたらこう答えざるをえないというものだ。 「俺様はどちらの味方でもない! そしてどちらの敵でもない! ただ他人の邪魔ができればそれでいいんだー!」 「いや、そんな力強く宣言されても、意味わからないんですけど!?」 星のカービィも、かなり困惑している。 「とりあえず邪魔はもうできたので、俺様は満足だ! 後は二人で自由に決着をつけるがいい!」 「いや、その前に盗ったもの返せよ!」 「お前は何を言ってるんだ。返したら盗った意味が無いだろうが」 「たしかにそうだけど!」 何を言っても、桃鉄DXには立て板に水。 まるで状況が変化しない。 「ええい! こうなれば実力行使だー!」 しびれを切らし、コロコロカービィは桃鉄DXに向かって転がり出す。 だが、桃鉄DXはうろたえない。彼には、絶対の防御手段があるのだから。 「貴様にもボンビラスの世界を見せてやろうかぁー!」 「何をわけのわからないことを!」 微動だにしない桃鉄DXに、コロコロカービィが激突する。 しかし、桃鉄DXは平然としていた。 「どういうことだ!」 「グエッヘッヘッヘ! 俺様はたった今、お前に取り憑いた! そして俺様は、取り憑いた相手からの攻撃を無効にする能力を持つ!」 「なんだそれは! そんな反則的な能力、許されるのか!」 「許されるも何も、現にこうして存在してるのだから仕方ないだろう」 「ぐうう……!」 怒りのやり場がなく、頭をかきむしるコロコロカービィ。 その肩を、星のカービィが叩く。 「星のカービィ……」 「コロコロカービィ、あなたの気持ちはわかるわ。 私も決死の覚悟で挑もうとした戦いに水を差されて、正直イラッとしてる。 でも、こんなことをしていても不毛だわ。 このままこの人のペースに乗せられてぐだぐだになるよりは、決着を優先すべきだと思うの」 「そうだそうだ、さっさと戦え」 「あなたは黙ってなさい」 美貌を歪めてにらんでくる星のカービィに対し、桃鉄DXはやれやれとばかりに肩をすくめてみせる。 その態度に改めて神経を逆なでされる星のカービィだったが、本人の言うとおり相手にするだけ無駄というもの。 グッと感情を抑え、会話を打ち切るのだった。 ◆ ◆ ◆ 星のカービィとコロコロカービィは、改めて対峙する。 一度は霧散した緊張感が、再びその場に広がっていった。 この状況はまるで、「刹那の見切り」のようだ。 スーパーデラックスはそんなことを思いながら、戦況を分析する。 (桃鉄DX……。あのおっさんに持ち物を全部奪われて、お互い頼れるのは肉体のみ……。 だがフィジカルを比較すれば、ただの成人女性にすぎない星のカービィ姉ちゃんより 転がることで力を増すコロコロカービィの方が有利……。 姉ちゃんが勝つ策はあるのか……?) スーパーデラックスの心配をよそに、二人はにらみ合いを続ける。 そのまま、時間だけが過ぎていく。 まるでこの状態が永遠に続くかのような錯覚をギャラリーが抱き始めた、その時。 「!」の代わりを果たすかのように、一枚の木の葉がその場に降ってきた。 木の葉が、地面に落ちる。 二人が、同時に駆け出す。 「もらったぁぁぁぁ!」 先手を取ったのは、コロコロカービィ。 体を丸めて、星のカービィにぶつかっていく。 距離が短いのでさほど威力は出ないが、一般女性準拠の身体能力でしかない星のカービィをダウンさせるには充分。 後は一方的に攻撃できる。コロコロカービィはそう考えていた。 だが彼は、重要なことを見落としていた。 ぼよん 柔軟なクッションが、コロコロカービィの体当たりを受け止める。 そう、星のカービィの肉体は単なる一般女性ではない。グラビアアイドルっぽい女性である。 「バカな……!」 バランスを崩したコロコロカービィの体は、強烈な吸引力に引き寄せられる。 星のカービィの吸い込みだ。 だが星のカービィの目的は、コロコロカービィを飲み込むことではない。 あくまで密着することだ。 コロコロカービィの体が眼前まで来たところで星のカービィは吸い込みをやめ、彼を捉える。 「うああああ!!」 後はもう、策も能力も関係ない。 星のカービィは全身全霊の力でコロコロカービィを投げ、アスファルトに叩きつけた。 「が……は……」 コロコロカービィは、動けない。 ゲームソフト同士が火花を散らすこの場において、あまりにも地味で泥臭い。 されどたしかに全力を尽くした戦いが、ここに終わった。 【C-3 市街地】 【星のカービィ】 【状態】疲労(中)、ダメージ(小) 【装備】なし 【道具】なし 【思考】 1:勝った…… 2:スーパーデラックスを助ける、はずだったけど…… 3:今までの償いの為に戦う ※外見はほしのあきに似た女性です。 ※「飲み込んだ相手の能力をコピーする」能力を持っています。 【コロコロカービィ】 【状態】憎しみ、疲労(小)、ダメージ(大) 【装備】なし 【道具】ピカチュウ 【思考】 1:殺し合いに優勝し、続編の『コロコロカービィ2』を誕生させる 2:負けた…… 3:新作や続編を作られるゲーム達が憎い ※外見は丸々とした体型の巨漢の男です。 ※身体を丸めて転がることで超スピードでの移動が可能で、さらに跳ね上がることで周囲にいる者を跳ね上げて転ばせることができます。 転がるスピードと破壊力は連続して転がり続けることにより上がっていきます 【とっとこハム太郎2】 【状態】ダメージ(中) 【装備】なし 【道具】支給品一式、ハム語辞書@とっとこハム太郎2 【思考】 1:仲間を集める 2:ゼルダの伝説 夢をみる島DXを止める ※外見は5歳くらいの男の子です ※とっとこハム太郎2内で出てきたハム語以外の言葉をしゃべることができません 【星のカービィスーパーデラックス】 【状態】疲労(小)、ダメージ(中) 【装備】『全てを0にする』能力の☆ 【道具】なし 【思考】 1:参加者を主催本部へ連れて行く 【スーパー桃太郎電鉄DX】 【状態】ダメージ(中)、手が臭い、コロコロカービィにとりつき中 【装備】サイコロ×10 【道具】支給品一式×9、不明支給品×5、ピッピにんぎょう@ポケットモンスター緑、桃鉄のカード(各種) スーパーゲームボーイから奪ったゲームボーイカセット、ゲームボーイ付き拡声器 【『サンダーLV.68』×1枚、『雷エネルギーカード』×59枚】のデッキ モンスターボール(ピッピ)、コピーのもとDX(プラズマ)@星のカービィスーパーデラックス 斧、す~ぱ~ぷよぷよの☆、サバイバルキッズの☆、サンリオタイムネット未来&過去編のミックス☆、「ワープスターを操る能力」の☆ 【思考】 1:主催たちを邪魔する 2:『立ち上がれ! 対主催!』 3:道具欄がえらいことになった ※外見はキングボンビーの格好をした小太りのおっさんです。 ※取り憑いた相手からの攻撃を無効化できます 対象は原則として一人です ※スリの銀次への変身が可能になりました。(他にも変身が可能かどうかは不明です) ※スーパーゲームボーイから奪ったゲームボーイカセットを星のカービィのコピー能力に利用できるかもと考えています 080 星のカービィ・コロコロカービィ「「空気読めよ!!」」へ 082 電気鼠は冒険の夢を見るか?へ
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/579.html
http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1354280210/ いつからだろうか。 「負けてもいい」と思わなくなったのは。 久「ツモ。これで逆転ね」 和「ふぅ……捲られてしまいましたか」 京太郎「うぅ……また俺がラスか……」 優希「はっはっは、犬ごときが私に勝とうとは百万年早いわ!」 まこ「お前さんも、威張れるほどの点ではないじゃろ」 優希「とっ、東場だけなら私がトップだったじょ!」 京太郎「いっつもそれだろ、お前は」 優希「なっ、なにをー!」 なぜなのだろうか。 みんなの下にいることに、耐えられなくなったのは。 京太郎「なぁ、咲。前から気になってたんだけどさ」 咲「どうしたの、京ちゃん」 京太郎「なんでお前、いつも槓材が入ったり嶺上牌が分かったりするんだ?」 咲「え、えぇ……それは、何と言うか……自然にと言うか……何となく?」 京太郎「何となくで済むわけねーだろ、あんなに連発されりゃあ」 咲「と言われても……」 京太郎「はぁ……俺も咲みたいに、欲しい牌を都合よく引けたら少しは勝てるかもしれないのになぁ……」 咲「京ちゃんだって、欲しい牌を引けたことくらいあるでしょ」 京太郎「そりゃ何度もあるけどさ、肝心な時に引けずに負けるんだ」 京太郎「そう……俺は、ここぞって時に欲しい牌が引けたことは一度もないんだよ」 咲「そうなんだ……」 京太郎「咲と何が違うのかなぁ、俺は……」 咲「うーん……ちょっと考えてみたんだけど、京ちゃんは『この牌で和了れる』って思って引いたことないんじゃない?」 京太郎「は?」 咲「私はいつも嶺上牌を引くときは『この牌が和了り牌だ』って信じてる。牌のことを信じてる」 咲「だから……その気持ちに、牌が応えてくれるんじゃないかなって、ふと思ったんだ」 京太郎「何だそりゃ。信じるだけで引けるわけないだろ」 咲「そんなことないよ。麻雀が好きなら、きっと引けるようになるよ」 咲「愛する麻雀を、牌を、信じる気持ちがあれば……」 ――――――――その言葉は、俺の心の奥深くに―――――――― 咲「きっと、京ちゃんにも引けるよ。京ちゃんの、和了り牌を」 ――――――――溶けて、消えていった―――――――― 京太郎(……結局、気持ちなんか関係なかったんだ) 京太郎(俺と咲の差は、牌を愛しているかどうかじゃない。牌に愛されているかどうかだ) 京太郎(咲は牌に愛され、そして俺は……牌に、愛されなかった) 京太郎(努力だけでは、埋めることのできない壁がある。俺と、咲のような……魔物たちとの間には) 京太郎(そんな俺が、勝ち進むためには……方法は一つしかない) 京太郎「……リーチ」 京太郎(何かを犠牲にしてでも……) 京太郎(一方的に敵を蹂躙できるほどの、圧倒的な力を得ること!) えり「……結局、順当に前チャンピオン宮永照の連覇で終わりましたね」 咏「結果だけ見れば確かに順当だねぃ。でも、彼女の優勝への道のりは決して平坦なものじゃなかった」 咏「荒川憩、神代小蒔、原村和……彼女らとの対戦は、彼女にとっても楽なものじゃなかったはず」 咏「特に、決勝戦の宮永咲との熱戦……最後の最後まで、どちらが勝つか私にも分からなかった」 えり「宮永咲……団体戦優勝の清澄高校の、大将ですね」 咏「宮永照は今の力ですら、即プロに放り込んでもそこそこやれるだろうさ」 咏「彼女のような有望な若者が、どんどん現れてくるんだ。私もうかうかしてはいられないかもねぃ」 えり「……そういえば、今年からエキシビジョンマッチをやるんでしたね」 咏「そうそう。男女の各個人戦優勝者と、プロ2名で戦うアレ」 えり「女子の優勝者は宮永照……彼女にしてみれば、今の力を試すチャンスといったところですか」 咏「それはどうかな。しょせん非公式のおまけバトルだから、彼女はともかくプロ側はどこまで本気だか」 えり「そういうものですか……そういえば、男子の部はどこまで進んだんですか?」 咏「ちょっと遅れて、今は準決勝って聞いたよ。ね、ね、今から見に行こうぜ!」 えり「はぁ……構いませんけど……」 咏「いや~、男子の部も楽しみだなぁ」 えり「なんだかずいぶん、ワクワクしているように見えますが」 咏「男子も女子に負けず劣らず、強い子がいっぱいいるからねぃ。どんな奴がいるのか楽しみってのもあるし、さらには」 えり「さらには?」 咏「噂によると、とんでもなく強い奴がいるらしいんだよ。しかもなかなかのイケメンだとか」 えり「とんでもなく、強い……?」 咏「どんだけ強くて、どんな顔してるんだろうなぁそいつ。楽しみで仕方ないさ」 えり「あの……一つお聞きしますが、強さと顔、どちらを楽しみにしてるのですか?」 咏「決まってんじゃん、両方!」 えり「……………………」 咏「……お、着いたな。さすがに観戦者も沢山だ」 えり「モニターによると……ちょうど真っ最中みたいですね」 咏「ほうほう、さすが準決勝まで残った連中だ。かなりのつわもの揃いだねぃ」 えり「見ただけで、分かるのですか?」 咏「強者からはそういうオーラってものが発せられるんだよ。えりちゃんは、感じないか?」 えり「わ、私は麻雀は素人なので……」 咏「宮永照からももちろん感じたし、今打っている彼ら……モニター越しからでも、十分わかるさ」 咏「例えばAブロックの方の準決勝は、あの七三分けの彼がヤバい。彼は相当デキるねぃ」 えり「そうなんですか……」 咏「Bブロックの方の準決勝では……トップがずいぶん独走してるな。何て子だい、彼は?」 えり「少々お待ちを、今確認しますね」 咏「やっぱりオーラも、彼から圧倒的に強いものを…………感…………」 咏「…………じ…………」 咏「…………………………………………」 咏(え?) 「ロン、タンピン三色ドラ1。8000」 咏(おい……ちょっと待て……) 「ツモ、リーヅモ七対ドラドラ。3000・6000」 咏(なんだこいつは……高校生だろ、そんな……ありえない……) 「ロン、発中チャンタドラ1。7700」 咏(こんな……こんな、奴が……) 咏(存在、していいのか…………?) カラーン えり「三尋木プロ、扇子落としましたよ」 咏「…………」 えり「三尋木プロ?」 咏「…………えりちゃん」 えり「え?」 咏「…………彼…………何者だい?」 えり「えっと、今の子ですよね。彼は、清澄高校一年の」 「リーチ」 えり「須賀、京太郎……という名のようです」 咏「須賀……京太郎……」 京太郎「ツモ」 京太郎「リーチ一発ツモ……海底撈月。4000オール」 『決まったぁーっ! 初出場ながらも、ダントツのトップで決勝進出!』 『強い! 圧倒的に強い!』 『清澄高校一年、須賀京太郎選手! この強さは本物だぁーっ!』 まこ「お疲れさん、咲」 優希「準優勝なんて凄いじぇ! さすが咲ちゃんだじぇ!」 咲「う、うん、ありがとう……やっぱりお姉ちゃんには届かなかったけど……」 和「でも、素晴らしい戦いでした」 久「……不思議なものね。去年まで大会にも出られなかった状態だったのにね」 優希「まるで酷い配牌だったのが、国士無双に化けたような気分だじぇ!」 久「あら、昔からいる私は酷い配牌だったのかしらねぇ~?」 優希「じぇっ! そそそ、そういう意味では……!」 まこ「こらこら、優希をからかうのはやめんしゃい」 和「ふふふ……」 池田「おーい、清澄ー!」 透華「見事な戦いぶりでしたわ、皆さん」 ゆみ「うむ、素晴らしい結果だな」 咲「あ……風越と龍門渕、鶴賀の皆さん……」 久「ありがとう。みんなもわざわざ東京まで応援に来てくれて」 一「いやいや、ボクたちも楽しかったよ」 睦月「こちらも、勉強させていただきました」 池田「でも、来年こそはキャプテン率いる風越が優勝をいただくし!」 美穂子「か、華菜、私卒業するんだけど……」 純「オレたちも今度は負けねえぜ」 蒲原「ワハハ、じゃあうちもだー」 妹尾(私たちはそもそも来年出られるのかな……) 久(……思えば、ここまでの道のりは険しいものだったわね) 久(県予選での龍門渕戦は今考えても勝てたのが不思議なくらいだし……) 久(全国でも宮守、永水、姫松、有珠山、臨海……そして白糸台。どの学校も、紛れもない強敵だった) 久(またあの舞台に立つには、これらの強豪と再び戦わなければならないけど) 久(きっと、皆ならやってくれるはず。咲たちなら、きっと) 蒲原「それにしても、本当に清澄は大活躍だったなー」 ゆみ「団体戦は優勝、個人戦は準優勝だからな」 池田「いやいや、もしかしたらそれだけじゃ済まないかもしれないし」 美穂子「他にも何かあるの、華菜?」 未春「あれ? キャプテン、知らないんですか?」 池田「清澄、もう一つタイトル取りそうな勢いなんですよ」 美穂子「もう、一つ…………?」 池田「今やってる男子の部個人戦で、須賀京太郎とかいう清澄の一年が決勝に進んだみたいだし!」 「「「「……………………!」」」」 美穂子「ええっ!? け、決勝に!?」 池田「ネットでも、イケメン強豪男子として評判ですよ」 未春「その暴力的なまでの圧倒的強さに、ヘルカイザー京というニックネームまで付いていると聞いています」 モモ「は、初耳っす……」 ゆみ「なんだ、そんな強い部員がいるのなら話してくれてもよかったじゃないか、久」 久「あ……う、うん……」 智紀「…………」 一「須賀君……か……」 福路「龍門渕の皆さんは、ご存じだったんですか?」 透華「え……えぇ、まぁ……」 池田「?」 咲「…………京ちゃん…………」 まこ「京太郎は……きっと、この大会を最後に麻雀部を辞めてしまうじゃろう」 未春「えぇっ!?」 ゆみ「ど、どういうことだ!?」 和「……須賀君は、元々はとても弱かったんです。それこそ、初心者同然に」 和「それが、全てを犠牲にすることで……圧倒的な力を得てしまったんです。誰一人、太刀打ちできないほどの」 モモ「ど、どういうことっすか?」 池田「華菜ちゃん、話が全然見えないし!」 久「……そうね、話しておくわ。須賀君のことを」 久「かつて私たちの仲間だった、一人の男の子のことを…………」 透華(……………………) 透華(あら…………?) 透華(そういえば、衣はどこに?) 京太郎(もう少しで、決勝開始か……) 京太郎(体の方はもう、この力には慣れた。具合が悪くなることはない) 京太郎(今までの相手も、皆県予選を勝ち抜いた猛者だが……全く寄せ付けず、ここまで勝ち上がることができた) 京太郎(これが、清澄のみんなが……咲が、見ていた景色。高校麻雀の頂か) 京太郎(ここまで来るのに、何を犠牲に……いや、考えるのはよそう) 京太郎(後悔など、100点棒の一本ほどもしていないのだから) 京太郎(そう、俺は後悔なんかしているはずは……) 京太郎「……………………」 京太郎「県予選前の……満月の晩以来ですね」 京太郎「お久しぶりです、天江さん」 衣「…………京太郎…………」 京太郎「東京に来たのは、清澄の応援ですか?」 京太郎「それとも……俺を、止めに来たんですか?」 衣「……決勝の舞台まで来たお前に、この場で力を捨てろとは言わぬよ」 衣「それに、衣が何を言っても聞く耳持たぬだろう」 衣「だが、それを承知で言わせてもらおう。もう、これっきりにしてほしい」 京太郎「……どういうことです?」 衣「衣は辛いのだ。闇の道を歩み続ける京太郎を見ているのが」 衣「そして、その京太郎を見ている清澄の面々を見ているのが……たまらなく、辛いのだ」 衣「何せ、今の京太郎を生み出してしまったのは、他ならぬこの衣なのだからな……」 京太郎「……………………」 衣「お前は、自分だけ力がないことに……舞台に立てないことに、絶望を抱いていた」 衣「だが、この大会でお前は、誰も彼をも魅了するほどの華々しい麻雀を打ち抜いた」 衣「須賀京太郎の名は、大会の記録にはもちろん……全国の観衆全ての記憶に深く焼きついたことだろう」 衣「ならば、もう十分じゃないか。これ以上、何を望むというのだ」 京太郎「……天江さん。あなたには感謝しています」 京太郎「そのあなたに負担を強いてしまったことは、申し訳なく思います」 京太郎「でも……俺はやっぱり、この力を捨てることはできません」 衣「……どうしてもか?」 京太郎「俺だって、本当に心から望んでこの道を歩んでいるわけではないです」 京太郎「出来ることならば、今まで通りの生活の中で、この舞台に立ちたかった」 京太郎「でも、気付いてしまったんです。あの、女子団体県予選の日で」 衣「…………」 京太郎「俺には、悪待ちを和了る力はない」 京太郎「気付かれずリーチをかける力も、捨て牌を見えなくする力もない」 京太郎「嶺上牌や海底牌で確実に和了る力もない」 京太郎「そして……槓を繰り返し、役満を作り出す力も……ない」 京太郎「素人でもわかります。そこには……努力だけでは埋めることのできない、魔物たちとの壁がありました」 衣「京太郎…………」 京太郎「俺は勝ちたいんです。望んだ牌を引くことのできない俺でも、そんな連中に勝ちたい」 京太郎「だから……俺は、この力を捨てることはできません」 衣「…………だが」 京太郎「……そろそろ決勝の時間です」 京太郎「もう、俺には関わらないで下さい。お互い、苦しむだけでしょうから」 京太郎「では、失礼します」 バタン 衣(…………京太郎…………) 衣(お前の苦悩は理解できる……勝つための力を欲するのもわかる……) 衣(だが、なぜなのだ。京太郎よ) 衣(なぜ、お前は……そこまでして、勝ちたいのだ……?) ガチャリ 京太郎(ここが、決勝の舞台か……) 京太郎(……咲の奴は、個人戦準優勝……) 京太郎(あの気弱で泣き虫な咲が、準優勝……全く、大したもんだ……) 京太郎(だが、俺は咲には負けない……優勝して、お前を完全に超えてやる) 京太郎(見てろよ、咲、和、優希、部長、染谷先輩……) 竜「一年坊……あンたの背中は一人もしょえない、やめなよ麻雀は……」 京太郎(俺こそが最強だってことを……見せてやる!) 『それでは、いよいよ男子個人戦決勝開始です!』 久「……これが、彼に関する事実よ」 美穂子「そんなことが……」 ゆみ「強さを求めるために、他の全てを犠牲に……か」 透華「彼があの日、龍門渕を訪ねて来た時……確かに感じましたわ。強くなりたいという強い意志と……若干の、狂気を」 透華「ですが、ここまでとは……衣も、私たちも、全く予想していませんでしたわ……」 久「私も気付いてあげられなかったわ……彼がそこまで、自分の力にコンプレックスを抱いていたなんて」 久「もう少し私が彼に気を配っていれば……こんなことは、避けられたかもしれないのに」 和「ぶ、部長のせいじゃありませんよ!」 優希「そうだじぇ! 一人になってまで強くなりたいなんて考える、あいつがどうかしてるじぇ!」 池田「……私は……正直、ちょっとわからないでもないな。須賀君の気持ちが」 未春「華菜ちゃん……?」 池田「私もさ、あの決勝戦……天江衣にボロボロにされた時、やっぱり思ったよ」 池田「もっと自分が強ければ、こうはならなかった。もっと自分が強ければ、みんなを勝たせてあげられた……って」 池田「でもそれは、大好きな仲間を捨ててまでやることじゃない。それで得た強さに、意味なんかない」 美穂子「華菜……そうね、私もそう思うわ」 純「ああ、そうだな。あいつのやり方は、絶対に間違っている」 和「でも……須賀君は、そのことに気付かなかった。何としてでも、強くなりたかったんですね」 咲「……………………」 ゆみ「……男子は、今決勝の真っ最中だろう。行ってみなければな、彼を見に」 久「……ええ」 咲(……京ちゃん……) 咲(京ちゃんは……自分のやり方が間違ってるって……) 咲(本当に、気付いていなかったの?) 咲(私は知ってる。京ちゃんが、本当はとても優しい人だってことを) 咲(私は知ってる。京ちゃんが、影でどれだけ部のために働いてきたかを) 咲(そんな京ちゃんが、麻雀部を捨ててまで強くなるってことが間違ってるなんて、気付いてないとは思えない……) 咲(でも、もし気付いてたのなら……) 優希「咲ちゃん、行くじぇ」 咲「あ……うん」 咲(京ちゃんが、もしそのことに気付いてたのなら……) 咲(京ちゃんは、どうして……そこまでして、強くなりたかったの?) 咲(教えてよ……京ちゃん……) 咏「決勝でも相変わらず、トップ独走……か」 えり「こんなに強い選手が眠っていたなんて、驚きですね」 咏「……えりちゃん、私が彼に驚いたのは、その強さじゃないんだよ。いや勿論、強さもだけど」 えり「と、言いますと……?」 咏「麻雀ってのは元々、競技ではなく娯楽の一種さ。勝つことよりも、楽しむことが第一だ」 咏「だけど、こういう大会やプロの試合になると、その目的が勝つことにすり替わってしまう」 えり「ですが、それは仕方ないことなのでは……」 咏「その通りさ。変な言い方だけど、勝利のみ求めてるように見えても……みんなそれを含めて、麻雀を楽しんでるんだ」 咏「県大会を勝ち抜くほど、打ち込んできたんだ。この大会の参加者に、麻雀を好きじゃない奴なんか、一人もいないはずなんだよ」 咏「そう……彼一人を除いてね」 えり「彼が……麻雀を、好きではない?」 咏「元々は好きだったはずなんだろうけど……今はむしろ、憎んですらいるように見えるよ」 咏「麻雀とは本来、青少年に希望と光を与えるもの。彼の華々しい麻雀は、日本全国の視聴者を魅了しているだろう」 咏「でもその傍らで、彼が対局相手にもたらすものは、恐怖と闇。そこには、相手へのリスペクトなんかひとかけらも存在しない」 咏「ただ貪欲に、勝利のみ求める……そんな高校生、かつて一人でも存在しただろうかねぃ」 えり「ヘルカイザー京……と、言われるわけですね」 咏「なぜ彼が、そんな道を歩んだかは知る由もないけど、彼は間違った道を歩んでいるはずなんだ」 えり「……負ければ彼も、気付いてくれるんでしょうか?」 咏「かもしれないねぃ。だけど……」 『決勝戦もついにオーラス! 優勝候補筆頭の竜選手を抑え、トップは初出場の須賀選手!』 咏「彼に勝てる者は、この大会には……ただの一人も、いなかったみたいだ」 衣「む……お前たち、大勢でどこに行ってたのだ?」 透華「こっちのセリフですわ! 迷子のアナウンスを出そうかとすら思いましたわよ!」 衣「こ、衣は子供じゃないっ!」 優希「それより、決勝はどうなってるじぇ?」 衣「オーラスで、京太郎がダントツのトップだ。幸いに……とは、とても言えぬがな」 まこ「京太郎……ついに、ここまで……」 和「信じられません、あの須賀君が……」 咲「京ちゃん……」 京太郎(あと一局……それで優勝) 京太郎(清澄の雑用係でしかなかった時から二ヶ月……我ながら、よくここまで来たもんだ) 京太郎(誰にも勝てなかった俺が、最強の高校生だ……) 京太郎(これで、清澄麻雀部ともお別れだ。俺は、一人で戦い続ける) 竜「一年坊……その力、真っ当なもんじゃないな……」 京太郎「…………」 竜「あンた、背中が煤けてるぜ……」 京太郎(背中が煤けている……か、そうなのかもな。でも……) 京太郎(俺は、望んでこの道を選んだんだ) 京太郎「……カン」 ズォッ! 咲「…………」ゾクッ 咏「……!」 小蒔「……ん……」 巴「あら、お目覚めですか?」 小蒔「……今、何か強大な力を感じました。禍々しいほどの、何かを」 初美「わずかですが、私も感じ取れましたよー。方角的には……男子の会場の方ですか?」 霞「小蒔ちゃんのように、神を降ろせる殿方がいらっしゃるのかもしれませんね」 小蒔「……いえ、神の力とは異質のものだと思います。ですが、もし神の力であったならば……」 小蒔「それはきっと、悪鬼と呼ぶべきものなのでしょう」 洋榎「うわっ、靴紐が切れてもーた……」 恭子「なんや、不吉やなぁ」 絹恵「不幸な事故でも起こるんとちゃう、お姉ちゃん」 洋榎「……ん……」 洋榎(不幸な事故……か) 洋榎(これから起こるのか……もしかしたら今、どこかで起こっているんかもな……) シロ「……なんだろう、今の……」 胡桃「どうかしたの、シロ?」 シロ「男子会場の方から……物凄く、異常な感じがした……神代とか、ここで会った一部の打ち手のような」 塞「そんな遠くから? とんでもない化け物がいるのね、男子の部は」 エイスリン「…………」バッ ← 仏教地獄絵図みたいな絵 胡桃「豊音、サインでも貰いに行く?」 豊音「そうだねー、ついでにみんなでお手合わせをお願いしてみようか? せっかく東京まで来たんだし」 胡桃「でもどれだけ強くても相手が一人なら、塞がいればさすがに勝負にならないんじゃない?」 塞「私、すっごい疲れそうだけどね……」 シロ「……やめておいた方がいいと思う」 胡桃「何で?」 シロ「うーん……何となくだけど……」 シロ「今の人とは、打っちゃいけない気がする」 淡「ねぇねぇ、照。今の気付いた?」 照「……うん……」 淡「凄かったねぇ。なんて言うか……おどろおどろしいって感じ?」 照「…………」 淡「この大会で見た人たちとは、何か違うよね。一体誰なんだろ」 照「…………」 淡「照?」 照(今の感じ……) 照(…………) 照(どこか……懐かしいような……) 京太郎(見てるか……咲) 京太郎(これが、俺の力だ!) 衣「…………」 衣「須賀……京太郎……」 衣「地下より生まれし……怪物……」 京太郎「ツモ、嶺上開花。400・700」 京太郎(優勝……か) 京太郎(昔の俺みたいに、ほとんどの人は雲の上の話と思うも、欠片ほどの期待を胸に抱き) 京太郎(一部の人間は、本気でその座を目指し切磋琢磨している……) 京太郎(全国の頂点。高校生プレイヤーの、誰しもが憧れる場) 京太郎(これが、あの5人の……咲たちの、立った頂) 京太郎(でも……なぜだろうな) 京太郎(そこまで、感慨深くもないのは) スタッフ「須賀選手、そろそろ対局場を移動をお願いします」 京太郎「……わかりました」 京太郎(……きっと、現実のその地位が手に入ってしまったからなんだろう) 京太郎(ハッキリしていることは、この力を得なければ……ずっと、昔の弱い俺のままだった) 京太郎(みんなが全国の舞台で戦っている時も、指をくわえて眺めていることしかできないままだった) 京太郎(咲みたいに、俺も活躍したい。全国の場で、勝ち進みたい) 京太郎(あんなに強く思っていたことだ。嬉しくないわけがないはずだ) 京太郎(……いや、何も考える必要なんてない。今の俺にできることは、ただ上を目指す……それだけなのだから) 京太郎「もう入室して、いいんですか?」 スタッフ「はい。小鍛治プロと三尋木プロが到着し次第、開始致します」 京太郎「……女子の、チャンプは?」 スタッフ「もう入室済みです」 京太郎「……わかりました。では」 ギィッ 照「……さっき、感じた力。なんとなく覚えがあった」 京太郎「……お久しぶりです。照さん。俺のこと、覚えていてくれたんですか」 照「昔から……咲が、ずいぶん懐いていたから」 京太郎「…………」 照「驚いた。京ちゃんが、そんなに強くなってたなんて」 京太郎「俺がこの場に立っていられるのは、奇跡の産物ですよ。本来、そんな力は俺には無かった」 照「だとしたら……その力のために、一体何を犠牲にしてきたの?」 京太郎「……どういうことです?」 照「個人戦決勝……対局が終わった後、少しの時間だけだけど……咲と、何年かぶりに会話をした」 照「咲は、私と会うためにこの大会に参加したみたいだけど……その咲の第一声、わかる?」 京太郎「……いえ」 照「ずっと心待ちにしていた姉との会話で、最初に切り出したのは……自分のことでも、私のことでもなかった」 照「震えながら、か細い声で……『京ちゃんを、止めてあげて』って、言ったんだ」 照「これから、この場で京ちゃんと対局する、私に向かって」 京太郎「……咲が……」 照「色々と積もる想いがあったはず。負けた悔しさも、再会の感動も」 照「話したいことは山ほどあっただろうに、与えられたわずかな時間の中で、咲の言った言葉は……それだった」 照「自分の想いを押し殺し、京ちゃんの心配をしていた」 京太郎「…………」 照「京ちゃんがどういう経緯でここに立っているのかは分からないし、今更姉ぶる気もない」 照「でも、もし今の京ちゃんが、誰かを不当に悲しませた末の結果なのだとしたら」 照「私は……この勝負、負けるわけにはいかない。京ちゃんの、ためにも」 京太郎「……無理ですよ。俺も、もう止まれないんです」 照「だったら、止めてみせる。私が」 京太郎「…………」 京太郎(照さん……咲だけでなく、俺のことも心配してくれているのは有難く思います) 京太郎(でも……すいません。今回は……) ギイッ 健夜「お待たせしました」 咏「…………」 京太郎(あなたの相手をしている余裕は、なさそうなんですよね) 健夜(この子が、須賀京太郎……) 健夜(カメラを通してでも、思ったけど……やっぱり直に見ると、桁が違う) 健夜(こんな高校生、今まで見たことない。私や咏ちゃんでも、油断すると、やられかねないほどの力が既にある) 健夜(でも、その力は……本来、この場に似つかわしくない、黒きもの) 健夜(……どうして、こんな子が生まれてしまったのかなぁ……) 咏「須賀君……だね」 京太郎「はい。今日は、よろしくお願いします」 咏「あっはっは、非公式のおまけ試合だ、気楽にやりなよ……って言いたいところだけどさ」 咏「悪いけど、こんなに負けられないって感じているのは、初めてさ」 咏「この大会の、目的って知ってるかい?」 京太郎「誰が、どの学校が高校最強か決めること……ですか?」 咏「それも勿論あるねぃ。だけど、一番の目的はそういうことじゃない」 咏「この大会の参加者は、誰もが上を目指して努力してきた」 咏「努力を積み、仲間とも協力し……研磨を重ね、強い意志を持って戦ってきた」 咏「結果、敗れてしまった者も、それまで培った努力や、仲間と作った思い出は、一生モノの宝物になるだろう」 咏「そういう、青少年の健全な育成ってのが、一番大切なことなのさ。そっちの女の子は、そのことを体感しているはず」 照「…………」 咏「須賀君。君だって元々は、そういう類の人間だったはずだ」 咏「勝てば喜び、負ければ悲しみ……仲間と共に、目標へ向かって走り続けていたはずだ」 京太郎「目標……」 『タコス力、充填だじぇ!』 京太郎(そう、俺には目指すものがあった) 『ほいじゃあ、行ってくるかのー』 京太郎(でも、それはあまりに遠くて) 『悪い待ちにしても……いつも、勝っちゃうのよね』 京太郎(その時の俺では、まるで手が届かなくて) 『見えるとか見えないとか、そんなオカルトありえません』 京太郎(だからこそ、俺は……) 『ツモ。清一、対々、三暗刻、三槓子、赤1――――――嶺上開花』 『32000です』 京太郎(強くなりたいって、思ったんだ……) 京太郎「…………」 咏「おせっかいだと思うだろうが、その時の心を……この麻雀で、思い出してほしいね」 咏「せっかく、グランドマスターまでいるんだ。須賀君ほどの奴でも、相手としては申し分ないだろうから」 京太郎(首位打点王で、日本代表の先鋒、三尋木咏) 京太郎(そして……グランドマスター、小鍛治健夜) 京太郎(二人とも紛れもない、トッププロ……その強さは、間近で見ると対局せずとも何となくわかる) 京太郎(どのくらいの差があるのかは、分からないが……きっと、今の俺よりも少し上だろう) 京太郎(ならば、この勝負……やることは、一つだけだ) 京太郎(俺は……さらに、上を目指すって決めたんだから) 『それでは、対局を開始してください』 「「「「よろしくお願いします」」」」 【東1局 親:咏】 咏(東一局……確か宮永照は、最初の局は和了らず様子を見る傾向にある) 咏(須賀京太郎は、東一局だろうと何だろうと、関係なしにガンガン仕掛けてくる) 咏(何にせよ、争う相手が一人少ないのは助かるねぃ。この親番はぜひとも和了っておきたいところだ) 咏(配牌も……ツモも悪くない。いいスタートが切れそうだ) 健夜(……ちょっと微妙、かな) 健夜(咏ちゃんの親番は怖いから、さっと流したいところなんだけど……) 健夜(まぁ、この面子で怖くない人なんていないか) 咏(よしっ、張った!) 咏「リーチ!」 健夜(親リー……振るわけにはいかない) 健夜(脇の二人も、迷わずベタオリ……和了られちゃうかな) 3巡後 咏「ツモ。リーヅモ平和ドラ1、裏1。4000オール」 京太郎「はい」 健夜(リードされちゃったか。まぁ、仕方ないね) 照(……) 咏(さて、幸先良いスタートを切れたはいいけど、問題はここからだ) 咏(宮永照は次から動き出す。他の二人も当然、このまま黙ってやられるタマじゃない) 咏(いよいよ、試合開始ってところかな) 【東1局1本場 親:咏】 咏(今回も、いい手が入った。メンタンピンドラ1、裏次第で跳満まである) 咏(発を鳴いた下家の宮永照に振る可能性もあるが、一気に突き放すチャンスだ。勝負するしかないな) 咏「リーチ!」 照「ロン。発のみ、1000点」 咏(あっちゃあ……ま、しょうがないか。それより……) 健夜(始まる、かな……宮永さんの、連荘) 照(……さっきの局) 照(私の鏡で、京ちゃんの力を覗いてみた。でも……何も、見えなかった。京ちゃんの、姿すらも) 照(見えたものは、ただの闇……こんなことは、今まで一度たりともなかった) 照(私の理解の及ばぬ力……京ちゃんの力であり、京ちゃんの力ではない何かがそこにあった) 照(でも……あれは何だったのかな) 照(闇の中に一瞬だけ煌めき、すぐに消えて行った……花びらのような、欠片は) 【東2局 親:照】 照「ロン、平和ドラ1。2000」 健夜(……やっぱり、点数が上がってる) 健夜(宮永照……和了るたびに点数が増えていく特徴がある。団体戦でも個人戦でも、その力は猛威をふるった) 咏(エンジンかかってきたねぃ、女子チャンプ) 【東2局1本場 親:照】 咏(……このへん、か?) 健夜「ポン」 咏(よしよし、鳴いてくれた) 健夜(この子に連荘させると、一気に持っていかれる。無理矢理にでも止めにいく) 咏(私も早和了りに徹したいんだけど……上家のこの少年、なかなか鳴かせてくれないんだよねぃ) 京太郎「……」 咏(かと言って攻めにも守りにも徹してるって感じでもないし、何考えてんだか) 咏(ま、しょうがない。すこやんと二人で、何とか止めに……) 照「……ツモ。2100オール」 咏(って思ったそばから、これだよ) 健夜(次はきっと、満貫級が来る。いいかげん何とかしないとね) 照(……京ちゃん) 照(ここまで全く動きがないどころか、戦う意思すら感じられない) 照(でも……このまま終わるつもりはないよね。どうやって止める? 私の親を) 【東2局2本場 親:照】 照「リーチ」 咏(くっ、また……) 健夜(ドラ3のいい手だけど、先制された……でも……) 京太郎「……」タンッ 咏(……まずいな。このままだと宮永照にまた和了られてしまう。なら……) 咏「チー」 咏(彼の切ったこの牌、一見鳴きにくいところだけど、ここで鳴いて……この牌を) 健夜「ポン」 健夜(よし、張った!) 照(……これは……) 健夜「ロン。タンヤオドラ3、7700」 照「……はい」 咏(何とか止まってくれたか) 健夜(さて……ここからだね。出遅れたぶん、巻き返させてもらうよ) 【東3局 親:健夜】 健夜「ロン、11600」 咏「ありゃあ、黙ピンピンロクかぁ。いたた」 咏「でも……」 【東3局1本場 親:健夜】 咏「ツモ。リーチ一発メンピンツモドラ1。3000・6000の1本場は、3100・6100」 咏(たとえ2万点取られても、3万点取れば勝てる。それが麻雀なのさ) 健夜(咏ちゃんも、調子づいてきた。そして……次は、いよいよ須賀君の親番) 健夜(ここまで、彼は全く動きがない……ずっと様子見しているって感じで来てる) 咏(この親番まで、様子見しているとは思えない。そろそろ動いてくるはずだ) 咏(さぁ。須賀京太郎……ヘルカイザーとまで謳われるその力、とくと見せてもらおうか) 京太郎(……さっきの連携も火力も、見事なもんだ) 京太郎(そして、直に感じてもわかる……予想通りこの二人には、まだ俺は届かない) 京太郎(それなら……やるべきことは一つだ) 【東4局 親:京太郎】 照(京ちゃん、今度こそ動いてくると思ったけど……) 照(今までと同じように、やっぱり戦いに来る気配がない……何を考えてるの、京ちゃん) 照(いいよ、それなら……戦いの場に引きずり込むまで) 照「リーチ」 健夜(宮永さんの、リーチ……) 咏(ラスの京太郎としては、そう簡単にはオリたくないはずだが……) 京太郎「……」タンッ 咏(……あっさりオリるもんだな。手牌、悪かったのか?) 京太郎「ノーテン」 咏「テンパイ」 照「テンパイ」 健夜「ノーテン」 健夜(南入、か……) 咏(しかし、どうなってるんだ? さすがに何か変だぞ) 咏(本当に何もしていない、っつーか戦う気すらなさそうだ……) 咏(これ本当に、私を戦慄させた……最強の高校生、須賀京太郎なのか?) 健夜(須賀君……きみは一体、何を企んでるの……?) 【南1局 親:咏】 咏(さて……下家の宮永照が、ダブ南をポン) 咏(ここで和了られると、またしんどいことになっちまうな) 健夜(しかし、須賀君はやっぱり何も……) 京太郎「……」タンッ 照(……二筒?) 咏(何かビミョーな牌だな。鳴くべきか、鳴かざるべきか……) 健夜(宮永さんに対しても安全と言い切れるほどではない……でも、手が進んでる様子もない……) 照(……京ちゃん、一体……) 咏(……!) 健夜(す、須賀君……!) 咏(京ちゃん、まさか……!) 咏(そ、そうか……わかった、須賀京太郎の狙いが……) 咏(こいつ……何てこと、考えやがるんだ……!) 健夜(須賀君、戦う気が感じられなかったんじゃない……最初から、まともに戦う気なんてなかったんだ) 照(京ちゃん……) 照(いくら非公式とはいえ、トッププロ二人と打ってるのに……こんな……) 照(何で……何で、そこまでするの……京ちゃん……) 健夜「ツモ、300・500……」 咏「……終局だねぃ」 照「……ありがとうございました」 京太郎「ありがとうございました」 健夜(こんな……) 健夜(こんな、勝った気のしない……後味の悪い麻雀は、初めてだよ……) 咏「……なぁ、須賀君」 京太郎「何ですか?」 咏「背中は、見えたかい?」 京太郎「……はい」 咏「……そうかい。おっそろしいねぇ」 恒子「すこやん、お疲れー!」 えり「お疲れ様です、三尋木プロ、小鍛治プロ」 恒子「いやぁ、さっすがグランドマスター。この面子相手でも、しっかりトップとはねー」 健夜「…………」 えり「お二人とも、さすがにお疲れのようですね」 咏「あぁ……とんでもないバケモンを、間近に見ちまったからねぃ」 恒子「え、そこまで? やっぱあの宮永照って凄いんだねー、咏ちゃんを抑えて2位だったんだから」 咏「いや……私が言ったのは、須賀京太郎の方さ」 咏「あいつの狙いに気付いてからは……もう私は、戦う意欲を完全に削がれてたよ」 えり「須賀京太郎? 男子チャンプの?」 恒子「彼、和了らず振らずの空気ラスだったじゃん。狙いって何?」 健夜「……ねぇ、こーこちゃん。もしこーこちゃんが、あの場に出て打てたら、どんな気持ちで打つ?」 恒子「え? そーだねぇ……やっぱりトッププロ二人が相手なんだし、胸を借りるつもりで全力で……」 健夜「そう、それが普通だよね」 咏「あぁ。現に宮永照もそうしてた……まぁ彼女の場合、全力だったのは別の理由もありそうだったけどね」 健夜「でも……須賀君は、最初から勝ちに行くつもりなんて全くなかった」 えり「え?」 咏「ずっと彼は、戦いの輪の外から、あることをしていた」 咏「それにハッキリ気付いたのは……あの南1局の、二筒切りさ」 恒子「? それがどうしたの?」 咏「あの二筒切りは……和了りに行くための一打ではない。でも、オリるため一打でもない」 咏「あれは……私たち、トッププロとの力量差……距離を、測るための一打だった」 咏「この半荘、彼は最初から勝負を捨て……ずっと、私たちの力を測っていたんだ」 恒子「なっ……!」 えり「そ、そんな……」 健夜「まともに打ってたら、きっと私たちには勝てないと思ったんだろうね」 健夜「だから、彼はあっさりとこの勝負をオリた。高校生の発想とは思えないよ」 咏「麻雀を楽しもうとか、そんな気持ちは微塵もない。完全に、勝利以外目に入ってないねぃ。アレは」 えり「どうして彼は、そこまで……」 咏「わっかんねー……全然わっかんねーよ……」 健夜「……これは私の予想だけど……きっと彼は、今までずっと負けてきた」 恒子「負けてきた? あんなに強いのに?」 健夜「負けてきたからこそ……誰よりも勝利に飢えている。渇いている」 健夜「それがどうして、あんな化け物になってしまったかは、知る由もないけどね……」 咏「…………」 健夜「圧倒的な力を持ちながらも、今回はまだ粗削りなところも多少あったから、まだ私たちには届かなかった」 健夜「でも……もう数年経って、より洗練されれば……もはや、手のつけられない存在になる」 健夜「その時こそ、真に叫ばれるだろうね」 健夜「ヘルカイザー京……と」 咏(今までずっと負けてきた……か) 咏(清澄高校……女子団体戦の、全国優勝校……) 咏(君だって、昔は楽しく麻雀を打っていたはず。君を変えてしまったのは、彼女たちなのかい?) 咏(もし、そうだとしたら……) 咏(きっと……彼を、戻せるのも……) 照「……京ちゃん」 京太郎「照さん、お疲れ様です」 照「何で、あんな打ち方をしたの?」 京太郎「……何のことですか?」 照「とぼけないで。勝ちに行く気、なかったでしょ」 京太郎「……今の俺じゃ、多分あの二人には勝てない。だから、今回は『見』に回った。それだけですよ」 照「……私は、相手にもしていなかったってことだね」 京太郎「…………」 照「私は、咲ほど京ちゃんと遊んだことはないけど……それでも、わかる」 照「最初から目の前の勝負を捨てて臨むような、相手へのリスペクトを欠くような人じゃなかった」 京太郎「何年も経てば、考えも変わります」 照「それで……ひたすらに勝利のみを求めるようになったってわけ……」 京太郎「……昔の俺じゃ、誰にも勝てませんから」 照「だったら、真っ当な方法で強くなればいい」 照「白糸台にはたくさん部員がいるけど、みんな一軍目指して、毎日努力を積み重ねている」 照「京ちゃんだって、それができるはず」 京太郎「……できないんです」 照「できない……?」 京太郎「確かに、普通に麻雀を打っているだけでも、強くなれるでしょう」 京太郎「実際、以前はそうしてました。麻雀を楽しみながら、強くなれればって思っていた」 京太郎「できればいつか、清澄のみんなよりも強くなれれば……そんな風に、思っていた」 照「だったら……」 京太郎「でも……気付いてしまったんです。あの、団体戦県予選の日に」 照「気付いて、しまった……?」 京太郎「えぇ」 ――――――――ツモ。清一、対々、三暗刻、三槓子、赤1―――――――― 京太郎「鬼にならねば……」 ――――――――――――32000です―――――――――――― 京太郎「見えぬ地平が、ある……」 久「長野も、半月ぶりね」 まこ「東京に比べれば寂しいところじゃが、やっぱり落ち着くのう」 和「いったん、部室に行くんですか?」 久「ええ。みんなでトロフィーを、飾りにだけ行きましょう」 久「……須賀君。悪いけど、それ持って付き合ってくれるかしら?」 京太郎「ええ、勿論です」 咲(京ちゃんは、今3つのトロフィーを抱えている) 咲(団体戦のものと、私のと……京ちゃんの、優勝トロフィー) 咲(重いだろうから自分で持つってみんなが言っても、雑用は自分の仕事だって言って……) 咲(まるで、これが最後だからって言ってるようだった) 咲「このへんに置けば、いいですか?」 久「ええ、いい感じよ」 まこ「……わしら、優勝したんじゃな」 優希「正直、まだ実感わかないじぇ」 久「……ありがとうね、みんな。いい仲間を持って幸せよ、私」 まこ「素晴らしい後輩たちに恵まれたのぅ」 和「そ、そんな……私なんて、大したこと……」 久「いえ、あなたたちがいなければ、ここまでは決して辿り着けなかったわ」 久「和も、優希も、咲も……それと須賀君も、ね」 京太郎「……ありがとうございます」 咲(……部長も……いや、部長だけじゃない) 咲(和ちゃんも、優希ちゃんも、染谷先輩も……みんな、わかってる) 咲(これが、京ちゃんの……清澄麻雀部としての、最後の仕事になるってことに) 京太郎「俺と咲のトロフィーはどうします?」 久「……それは、あなた達のものよ。好きにしていいわ」 京太郎「……じゃあ、持って帰らせていただきます」 京太郎「それじゃ、みんな」 咲「……京ちゃん……」 和「…………」 優希「…………」 まこ「…………」 久「…………」 京太郎「さような……」 咲「……嫌だよ」 咲「行かないでよ……京ちゃん」 咲「一緒に学校行って、同じ教室で授業受けて……」 咲「お昼も一緒に食べて、部活で麻雀打って……」 咲「最後はまた明日ねって……ずっと、ずっと、そうしてきたじゃん……」 京太郎「……咲……」 咲「もう、そんな風に京ちゃんと過ごせなくなるなんて……私、嫌だ」 咲「もっと、もっと」 咲「京ちゃんと……一緒に、いたいよ……」 和「さ、咲さん……」 優希「咲ちゃん……」 まこ「咲……」 久「…………」 京太郎「咲……」 咲「だから、お願い……行かないで、京ちゃん……」 京太郎「…………」 京太郎(咲……ありがとうな) 京太郎(最後の最後まで、ずっと俺のことを思ってくれて……) 京太郎(でも……) 京太郎「ごめんな。もう、決めたことだ」 咲「……っ!」 京太郎「だから……」 久「……須賀君。一つだけ、お願いしてもいいかしら?」 京太郎「何ですか、部長」 久「最後に私たちと、一局だけ打ってほしいの」 京太郎「…………」 久「須賀君。あなたは確かに、この清澄高校麻雀部の部員だったわ」 久「短い間だけど、部活でも、合宿でも、大会でも……苦楽を共にした、私たちの仲間だった」 久「強くありたいというあなたを、止めることはできない。だけど……最後に一局だけ、麻雀を打ってほしいの」 久「もちろん、須賀君さえよければだけど……ダメかしら?」 京太郎「…………」 京太郎「わかりました。一局だけなら」 久「ありがとう。でも、今日はみんな移動で疲れてるでしょうから、また後日でいいかしら?」 京太郎「俺は構いません」 久「じゃあ後日、また連絡するわね」 久「……約束よ。私たちと、一局だけ麻雀を打つって」 京太郎「はい、わかりました。じゃあ……失礼します」 バタン 咲「部長……」 まこ「何か、考えでもあるんか?」 久「彼はもう、言葉では止まらないわ。私たちが何を言っても、彼の心には届かない」 和「それは、そうかもしれませんが……」 久「だったら、元の須賀君に戻せる手段は……もう、麻雀しかないわ」 久「麻雀を通して、麻雀を楽しんでいた頃の気持ちを取り戻してもらう……それしか、手はない」 優希「麻雀で、京太郎を……」 和「でも……そううまく行くんでしょうか? たった一局で……」 久「何言ってるの。一局じゃないわ、五局よ」 まこ「……へ?」 優希「部長、でもさっき一局だけって……」 久「彼と約束したの、聞いてたでしょ? 私たちと、一局だけ麻雀を打つって」 久「つまり、一人ずつ打てば計五局になるでしょ?」 和「あ、あの……それって、屁理屈では……」 まこ「京太郎が、そんなもん認めるとは……」 久「大丈夫よ、約束したんだもの。彼は約束を破るような人じゃないってこと、みんな知ってるでしょ?」 まこ「まぁ、それはそうじゃが……」 和「でも、私たちの誰か、須賀君……残りの対局者二人は、どうするんですか?」 久「他校から誰かを引っ張ってくるしかないわね。今は龍門渕はもちろん、風越や鶴賀も事情を知ってる。協力してくれるはずよ」 久「……咲」 咲「…………」 久「これが、最後のチャンスになるわ」 久「彼と、離れたくないんでしょ?」 咲「……はい」 久「きっと、この機会を逃したら、もう昔の須賀君には戻らない」 久「だから……この五局で、取り戻すわよ。麻雀は弱くても、部のために献身的に働いてくれた、優しかった頃の須賀君を」 咲「……わかりました。私、やります!」 和「私も、力になります。絶対に、やりましょう」 まこ「……うむ……」 優希「京太郎のタコス、また食べたいからな! 私もやるじぇ!」 久「……みんな、ありがとう」 和「ところで、順番はどうするんですか?」 まこ「大会と同じなら優希じゃが、同じにする必要は別にないからの……何か、案はあるんか?」 久「……特にないわ。私自身、どういうオーダーが最善なのかはわからない」 久「でも、先鋒は決まってる。こればかりは、他の人では駄目だって思ってる」 和「先鋒……ですか……」 咲「誰、なんですか?」 久「ええ。先鋒は――――――――――――」 久「……ということで、まず第一局目は三日後、清澄の部室で。詳しいことはまた連絡するわね」 京太郎『部長、一局だけってそういう……』 久「え? 何もおかしくないでしょ?」 京太郎『はぁ……部長は相変わらずですね。思えば、俺もいつも振り回されてましたし』 久「また振り回されたくなったら、いつでも言ってね」 京太郎『遠慮致します。ところで、相手は誰なんですか?』 久「それは三日後のお楽しみ」 京太郎『……わかりました。言っておきますが、手加減はしませんよ?』 久「勿論よ。それじゃ、またね」 ピッ 久「…………」 久「ありがと、須賀君。受けてくれて」 久「でも、受けてくれると思ってたわ。だって……」 久「あなたには、最後に戦いたいであろう人がいるのだから」 京太郎「まったく、あの人は……いくら何でも強引すぎだろ」 京太郎「と言っても、部長の強引は今に始まったことじゃないけど……」 京太郎「……まぁ、いいか」 京太郎「最後に、今の俺の力を見せておくのも悪くない」 京太郎「優希にも、染谷先輩にも、部長にも、和にも」 京太郎「そして……咲にも」 京太郎(それにしても……) 京太郎(あの五人、他校の面子集められるほど交友関係広いのかな?) 京太郎(特に染谷先輩とか、誰を呼ぶのか全く見当もつかねーぞ……) 三日後 京太郎「まだ、誰も来てないか……」 京太郎「あと五局だけど……四ヶ月、この雀卓ではずいぶん打ったな」 京太郎「お前には、世話になった。もっと一緒に遊んでたいが、俺は去らなきゃいけないんだ。悪いな」 京太郎「俺がいなくなった後も、みんなに大事にしてもらえよ……って、何言ってんだ俺は」 京太郎「しかし、インターハイ出発前からここ放置しっ放しだから、よくよく見ると汚れてるな」 京太郎「……こんなことが気になるあたり、すっかり雑用精神が身に付いちまってんな……」 京太郎「ま、立つ鳥跡を濁さずだ。掃除くらいはやっておくか」 京太郎「……こんなところでいいだろ」 京太郎「あとは、相手が来るのを待つばかりだが……」 京太郎「先鋒は、きっと……」 ガチャッ ゆみ「失礼します」 美穂子「こんにちは。今日はお招きいただき、ありがとうございました」 京太郎「……驚きましたよ」 京太郎「なんだかんだで、先鋒は斬り込み隊長らしく優希の奴かと思ってたんですが」 久「あははっ、本人はやりたがっていたんだけどね」 久「どうしても……譲れなかったのよ。この位置は」 京太郎「…………」 久「最初の相手は……私よ。須賀君」 ゆみ「須賀君、だったな。君の活躍はよく知っている」 美穂子「今日は、よろしくお願いします」 京太郎「……いえ、こちらこそ」 久「じゃあ、早速始めましょうか」 京太郎(部長……それと、風越の福路さん。鶴賀の加治木さん) 京太郎(みんな長野屈指の強豪だが……誰を誘おうが、今の俺の相手じゃない) 京太郎(そのことは、部長も理解しているはず。何か、目的でもあるのか……?) 【東1局 親:美穂子】 京太郎「ツモ。1300・2600」 美穂子(……予想はしていたけど、こうして対峙してみるとよくわかるわね) 美穂子(やっぱり、私たちよりも一段上の力がある) ゆみ(私も全国の猛者相手でも、そこそこ程度には渡り合える自信はあったが……さすがに、格が違う) ゆみ(その分、代償を考えると痛ましいものを感じるな。久にも、彼にも) 【東2局 親:久】 久(親番でいい手が入った……南切りで、258-47萬の五門張) 久(でも、私なら……やっぱり、こうよね) 久「リーチ!」 久(さぁて、どう出るかしら? 須賀君) 京太郎(7m切りリーチ……か) 京太郎(福路さんは現物、そして俺のツモは……南) 京太郎(リーチ者は部長、ということは……) 京太郎(…………) タンッ 久「ロン。リーチ一発ドラ1、裏1。12000」 京太郎「五門張を捨てての地獄単騎……ですか。和が見たらまた騒ぎそうですね」 久「須賀君も知っての通り、これが私のスタイルだから」 京太郎「……相変わらずですね、部長は」 久(ただ……) 久(須賀君相手に、どこまで通用するかしら) 【東2局1本場 親:久】 久(また張った……今度も、悪待ちで) 久「リーチ……」 京太郎「ロンです。平和ドラドラ、3900は4200」 久(……! 狙われた!?) 京太郎「部長、あなたの悪待ちは。もしかしたら、全国でも有数の能力かもしれない」 京太郎「ですが、それはあくまで和了率を高めるだけのもの」 久「…………」 京太郎「それ以上の力の相手には、通用しません」 久(予想はしてたけど……) 久(こんなに早く、破られるとはね……) 【東3局 親:ゆみ】 ゆみ(私の親番か……七対ドラドラの9600) ゆみ(リーチすれば倍満まで見えるが、ここは黙で確実に和了りたい) ゆみ(一枚切れの南単騎、掴めば出るような牌だが……) ゆみ「テンパイ」 京太郎「テンパイ」 美穂子「ノーテン」 久「ノーテン」 ゆみ(私と同じ南単騎の仮テン……ピッタリ止められている) ゆみ(好防共に全く隙がない。さすがは最強の高校生といったところか) ゆみ(だが、今のところは天江衣ほどの迫力は感じない) ゆみ(本気を出すまでもない……ということか……) 久(東4局も終わり、現在の点はほぼ並んでいる……) 久(須賀君は、まだ本気を出している風はない……) 久(…………) 久「須賀君。今更だけど、この二人のことは知ってるわよね」 京太郎「風越の福路さんと、鶴賀の加治木さん……長野でも有数の選手ですから」 久「……彼女たちは、あなたから見ても高い実力があるということね?」 京太郎「勿論です」 久「でも……知ってるかしら。美穂子はともかく、ゆみが麻雀を始めたのは高一。須賀君と、ほとんど同じ時期だって」 京太郎「……高一?」 ゆみ「ああ。昔から麻雀をしている二人とは違い、私が始めたのは高校生になってからだ」 ゆみ「決して、天江衣のように才に恵まれていたわけではない。だが二年かけて、ようやく県のトップが見える位置まで来れた」 美穂子「……私も、そう。観察眼は人より優れているかもしれないけど、それだけの話だったわ」 美穂子「それでも……今くらいの力なら、つけることができるのよ」 京太郎「…………」 ゆみ「須賀君のことは、聞かせてもらった。元々は、みんなと共に全国に行きたかった……そうだな」 京太郎「……はい」 ゆみ「だが君は、今や全国最強の高校生だ。これ以上、望むものはないはずだ」 ゆみ「久たちが、どんな思いで君のことを見ているか、知らないわけではないのだろう」 京太郎「……この力を捨てて、努力だけで強くなってほしいと。福路さんや部長も、同じ意見ですか?」 美穂子「……ええ」 久「……そうよ」 京太郎「……加治木さん。一つ聞いてもいいですか?」 ゆみ「何だ?」 京太郎「あなたは、天江衣に勝てますか?」 ゆみ「……!」 京太郎「福路さん、あなたは宮永照に勝てますか?」 美穂子「……それは……」 京太郎「部長、あなたは……小鍛治健夜に、勝てますか?」 久「須賀君、何を言って……」 京太郎「世の中には、牌に愛された者たちがいます。生まれ持って、天賦の才を身につけた者たちが」 京太郎「そうした人たちの世界には、努力だけでは決して到達できない」 京太郎「鬼にならねば、見えぬ地平がある」 久「……須賀君の、目標は」 京太郎「確かに、最初は全国出場でした。でも、それを決めてもいまだに満足できない自分がいた」 京太郎「もはや俺の目指す場所は、全国ではなくなっていた」 ゆみ「ならば、何処だと?」 京太郎「……わかりません。何か目指す場所はあったはずなのに、それが何かわからない」 京太郎「ならば、ひたすらに上に行く。そうすれば……いずれ辿り着くはずですから」 京太郎「部長……あなたは、まだ俺にこの力を捨てて戻ってきて欲しいと思ってますか?」 久「……勿論よ」 京太郎「そう思うのは、部長が強いからです。部長は、弱者の立場を知らない」 久「弱者の、立場……」 ゴッ! 久「なっ……!」 美穂子「!?」 ゆみ(これは……天江衣、いや、そんなレベルじゃない……!) 京太郎「教えてあげますよ、部長」 京太郎「力がないということが、どれほどまでに辛いことか」 【南1局 親:美穂子】 京太郎「ツモ。リーチ一発ツモ裏1、2000・4000」 美穂子「三門張を捨てて……単騎!?」 ゆみ「これは……久の……」 京太郎「多門張だとか悪待ちだとか、そんなことは関係ない」 京太郎「和了れる者は、和了れる……そういう人間というものが、存在するんです」 京太郎「たとえば、嶺上開花で必ず和了れる……みたいに」 久「…………」 【南2局 親:久】 京太郎「ツモ。白中ドラ1、1300・2600」 久「……また、多門張を捨てて……」 京太郎「初めて真似してみたんですけど、案外簡単ですね」 【南3局 親:ゆみ】 京太郎「ロン。8000です」 美穂子(駄目だわ……) ゆみ(次元が、違いすぎる……) 久(……須賀君) 【南4局 親:京太郎】 京太郎「……ツモ。2000オール」 美穂子「……はい」 ゆみ(これが、最強の高校生か……本物の、化け物だ) 久「……対局、ありがとうござい……」 京太郎「挨拶は、まだ早いですよ」 美穂子「……え?」 京太郎「確か……オーラストップ親の和了り止めは権利であって、義務ではないはずです」 美穂子「す、須賀君……何を言って……」 京太郎「続行です。オーラス一本場」 ゆみ「ちょ、ちょっと待ってくれ……点数を引き継ぐ団体戦ならともかく、この場で続ける意味は……」 京太郎「部長、さっき言いましたよね。力がないということが、どれほどまでに辛いことか教えてあげますって」 久「…………」 京太郎「まだまだ、終わらせるには早い」 京太郎「続けます。あなたに、絶望の淵が見えるまで」 京太郎「……ツモ、満貫です」 美穂子(また、須賀君の和了……) ゆみ(これで何連続だ……とても、止められる気がしない) 京太郎「連荘です。次、行きましょう」 久「……まだまだ、終わらせる気はないみたいね。でも、いいのかしら?」 京太郎「何がですか?」 久「連荘すればするほど、私の逆転の目も増えるのに」 京太郎「…………」 京太郎(部長……なぜですか) 京太郎(これほどの点差が開いて……これほどの力の差を見せつけられて……) 京太郎(それでもあなたは、士気が下がった様子はない) 京太郎(逆転の手段なんか、あるわけないのに……もうひと押し、してみるか) ゆみ(久はもう飛び寸前。私も美穂子も、一万点もない) 美穂子(トップが無理なら、せめて2確で終わらせなきゃいけないのに……) 久「…………」タンッ 京太郎「ロン。タンヤオのみです」 美穂子(……! それは、私が一巡前に切った牌!) ゆみ(美穂子から見逃して、久から直撃を取りに……) 久(……そういうことね。これで私の持ち点は0) 久(県大会の天江衣と同じ。心を折りに来た狙い撃ち……) 京太郎「続行です。次、行きましょう」 久「……須賀君。辛いものね、力がないって」 久「負けて悲しい思いは何度もしてきたけど……今日まで、本当にそのことをわかっていなかった」 久「わかって……あげられなかった」 京太郎「……さすがにそろそろ、終わりそうですけどね」 京太郎(そう……ツモでも部長からの直撃でも、部長は飛んで終局) 京太郎(福路さんや加治木さんも、さすがにこの期に及んで俺の当たり牌を切ったりはしないだろう) 京太郎(でも……なぜなんですか? 部長) 京太郎(0点にもなって、こんなにみじめな目に遭って……) 京太郎(なぜ部長は、心が折れないどころか、笑みまで浮かべて打てるんですか?) 京太郎(一体、なぜ……) 久「…………」タンッ 京太郎(なぜ、辛い思いをしているはずなのに、そんなに……) 京太郎(…………! まさか!) 京太郎(部長、あなたは……!) 美穂子(何回目の、連荘かしら) ゆみ(須賀京太郎……本当に、恐ろしい男だ。高校最強というのもうなずける) ゆみ(だが……真に恐ろしいのは、もしかしたら久なのかもしれないな) ゆみ(須賀君の、親番での大連荘で飛び寸前までじわじわ削られていく) 美穂子(最初に聞いた時は、耳を疑ったけど……) ゆみ(まさか、本当に……久の言った通りの展開に、なるなんてな) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 久「でも、先鋒は決まってる。こればかりは、他の人では駄目だって思ってる」 和「先鋒……ですか……」 咲「誰、なんですか?」 久「ええ。先鋒は――――――――――――私よ」 和「部長が……ですか?」 まこ「……他の人では駄目とまで言うくらいなら、何か理由があるんじゃろう?」 優希「まさか部長、必勝策が!?」 久「そんなのあるわけないでしょ。彼に勝てたら、個人戦全国優勝してるわよ」 咲「じゃあ、一体……」 久「……思えば、彼にはずいぶん重荷を背負わせてしまったわ」 久「部員の中で一人だけ弱い上に、ろくに麻雀も打てず雑用ばかりを押し付けてしまった」 咲「……それは、私たちに全国行きの可能性があったからです。京ちゃんもそのあたりは、理解してるはずです」 久「ええ、理屈の上でなら納得してると思う。でも、それはあくまで理屈。感情とは別物よ」 久「彼には、やっぱり私たちへの不満が心の底にはあるはず。力のない者の苦悩を、分かってもらえないってことも含めてね」 久「そんな彼と真っ先に打つ先鋒は、どうなると思う?」 まこ「……その不満が、爆発する可能性がある……ってことか?」 久「ええ。きっと開始早々あっという間に圧倒的な火力で飛ばされるか……」 久「もしくは、最後の最後まで連荘でじわじわ嬲られるか、どちらかよ」 和「部長は、それを自ら背負う気ですか!?」 久「当然よ、あなた達にそんなこと任せられないもの。むしろ、できるだけボコボコにやられる方が有難いわ」 優希「……そのぶん、私たちが楽になるから……」 久「それもあるし……力のなかった彼の苦悩も、少しは理解に近づけるかもしれないしね」 まこ「そ、それだったら、わしら全員が負うべきものじゃろ」 久「まぁ、そのへんは彼と打てば自然と入ってくるものでしょうね」 咲「部長……」 久「やっぱり私も、みんなと同じように……彼のこと、好きなのよ」 久「こんなこと言う資格があるのか分からないけど……」 久「部員の苦しみや悲しみを理解できれば、部長冥利に尽きるってもんじゃない?」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 京太郎(部長、あなたは……) 京太郎(最初から、負けることが目的だったんですね……) 京太郎(それも、できるだけ無残に……) 京太郎「テンパイ」 美穂子「ノーテンです」 久「ノーテン」 ゆみ「……テンパイ」 久「私の飛びで、終了ね。テンパイで連荘目指してたんだけどなぁ、残念」 京太郎(……強がりなんかじゃない) 京太郎(部長は……本当に、テンパイを目指していた……) ゆみ「……お疲れ様でした」 美穂子「対局、ありがとうございました」 京太郎「いえ、こちらこそ……」 久「やっぱり、勝てなかったわね。もしかしたらって、思ってたんだけど」 京太郎「部長……あなたがどうして最初に俺と打ったのか、何となくわかります」 京太郎「最後の最後まで、部長には振り回されっぱなしでしたね……俺は」 久「……私のこと、恨んでる?」 京太郎「……いえ」 京太郎「それでもやっぱり、俺は戻りません」 久「あら、それは残念。でも、きっと須賀君は戻ってくるわよ」 久「だって私には、頼りになる後輩たちがいるんだから」 京太郎「…………」 久「清澄の次鋒は、きっと……」 優希「京太郎……」 優希「待ってるじぇ!」 久「一筋縄じゃ、いかないわよ」 京太郎「……こんにちは」 優希「お、京太郎! 来たかー!」 純「よっ、久しぶり」 華菜「私は初めましてだな。風越二年の池田華菜だ」 京太郎(今日の相手は優希……) 京太郎(他の二人は井上さんと池田さんか。二人とも優希の奴とは仲良さそうだったし、想定はしていたけど) 優希「京太郎! いよいよ決着をつける時が来たな!」 華菜「チャンピオンと打てるなんて光栄だ。キャプテンのリベンジだし、今日はよろしくな」 京太郎「いえ、こちらこそ」 優希「無視するなー!」 優希「……リーチ!」 純「ったく、相変わらず東場だけは調子いいな」 優希「タコスもちゃんと持ってきたし、パワー全開だじぇ!」 京太郎「ロン。1300だ」 優希「ぐぐ、東場なのに」 京太郎「東場だろうが、どうしようもないくらいの実力差がある。もうお前は俺には勝てない」 優希「うー……京太郎のくせに腹立つじぇ」 華菜「まぁまぁ、勝負は最後までわからんよ」 京太郎「……ツモ。1300・2600」 華菜「うーむ、やっぱり隙がないな。さすがヘルカイザーだし」 優希「正直その呼び名ださいじょ、京太郎」 京太郎「俺がつけたわけじゃねえ!」 華菜「じわじわくるな、その名前」 純「……お前ら、楽しそうだな」 京太郎(……いかんいかん。以前のようなノリに戻っちゃ駄目だ) 京太郎(俺はもう、麻雀部は捨てたんだ。ただ目の前の対局をこなし、淡々と勝利する) 京太郎(それだけを考えろ、須賀京太郎) 京太郎「ロン、2600」 華菜「うぐっ……」 純「おい、タコスチビ! タコスパワーとやらでこいつ何とかするし!」 優希「む、無理だじぇ! タコスも全部食べ終わっちゃったし、東場ももう終わりだじぇ!」 華菜「いや、まだまだ! 華菜ちゃんはずーずーしいから、最後まで……」 ゴッ!! 優希「……っ!」 華菜「うひゃっ!」 純「きょ、京太郎……!」 京太郎「……もう、楽しい麻雀は終わりです。ここから先は、あなた達は減っていく自分の点を眺めることしかできない」」 京太郎「昔の俺が、そうだったように。勝利の芽なんか、もう残らない」 京太郎「ツモ。2000・4000」 純(こいつ……鳴いて流れを変えようにも、全く関係ねえ) 純(予想はしていたが、龍門渕に来ていた頃よりも、格段に強くなってやがる) 華菜(やっべぇ……やられっぱなしだし。つい最近まで初心者だったなんて、とても信じられんな) 優希(……今まで麻雀で負けたことなんて、山ほどあるけど……) 優希(こんなにも勝てる気がしないって感じたのは、初めてかもな。やっぱり、辛いものだじぇ) 優希(……京太郎は……) 優希(京太郎は、ずっとこんな思いをしながら、私たちと打ってた……) 優希(今の京太郎を作ったのは、やっぱり……) 京太郎「オーラスですね」 華菜「うひー、いいとこなしだし。でもこのオーラスで逆転してやるし」 京太郎「……池田さんは」 華菜「ん?」 京太郎「池田さんは、どれだけ負けてても……心が折れたりは、しないんですね」 華菜「んー、数か月前の私なら折れてたかもね。でも今は、まだ勝つ気満々さ」 京太郎「……天江さん、ですか」 華菜「そそ。あれは苦い思い出だけど、いい経験になったよ」 華菜「須賀君も、たまには負けるってのも悪くないもんだと思うし」 京太郎「負けなんて、死ぬほど経験してますんで」 華菜「あはは、そうだったな……ん、どうした? 清澄の」 優希「……いや……何でも、ないじぇ」 京太郎「……ツモ。終了です」 華菜「あーあ、和了られたか。やっぱ現実は甘くないな」 純「すっげぇな……衣と打った時よりも、プレッシャーあったぜ」 優希「……京太郎。その、最後に……言いたい、ことがあるじぇ」 京太郎「ん、何だ?」 優希「その……ごめんなさいっ!」 京太郎「……は!?」 優希「私は京太郎が悪いって言ってたけど、本当は薄々わかってたじぇ……」 優希「京太郎も辛い思いをした。そこまで追い込んだのは、さんざん弱いだの何だの言ってきた、私にも責任があるって」 京太郎「…………」 優希「だから、一言、謝りたかったじぇ……ごめん、京太郎」 京太郎「……優希は」 優希「ん……」 京太郎「優希は、俺に戻って欲しいのか?」 優希「…………」 優希「戻って、欲しいじょ……」 優希「また昔みたいに、馬鹿なこと言い合ったり……」 優希「京太郎の作ったタコスを食べたり……」 優希「そんな毎日を、また過ごしてみたいじょ……」 京太郎「……そうか……」 優希「でも、京太郎は私たちを恨んでる。だから……」 京太郎「……俺は麻雀部に戻る気はない。悪いな」 優希「…………」 優希「そっか……これで、お別れか……」 京太郎「……あぁ。それじゃ井上さん、池田さん。失礼します」 華菜「あ、須賀君」 京太郎「何ですか?」 華菜「楽しかったぞ。また、打とうな」 京太郎「……機会があれば」 純「……ふぅ。久しぶりに打ったけど、洒落にならねぇな、あの強さは」 優希「…………」 純「残念だったな、タコスチビ」 優希「……いや。最初から、わかってたじぇ」 純「ん……何がだ?」 優希「私じゃ、以前の京太郎を取り戻すことはできないってことに」 優希「私じゃ、ダメなんだじぇ……だって……」 優希「京太郎の目に、ずっとずっと前から映っているのは……私じゃ、なくて……」 京太郎(……優希。それに部長……) 京太郎(俺は、別に恨んでるわけじゃないんだよ……) まこ「……わかった。次はわしの番じゃな」 久『お願いね。面子の当てはある?』 まこ「まぁな……なぁ、久」 久『何?』 まこ「……京太郎との対局、好きにやらせてもらってもええんじゃな?」 久『もちろんよ。まこのやりたいようにやりなさい、あなたなら悪い結果にはならないと思うし』 まこ「……そうか。じゃあ、わしのやりたいようにやらせてもらうわ」 久『うん。それじゃあね』 ピッ まこ「……京太郎」 まこ「お前さんとも、沢山打ったのぅ。まさかこんな状況になるとは、思いもしなかったわい」 まこ「でも、次がお前さんとの、最後の対局になるのかもしれんな」 京太郎「今日は、染谷先輩ですか」 まこ「そうじゃ。まぁ、座れ」 京太郎「……はい」 まこ「なぁ、京太郎。打つ前にもう一回だけ聞いておく。やっぱり、麻雀部に戻る気はないんか?」 京太郎「ええ。俺はこのまま、一人で戦い続けます」 まこ「……そうか」 京太郎「あの、染谷先輩」 まこ「ん?」 京太郎「他の二人は? 俺たちだけでは、打てませんよ」 まこ「京太郎。十七歩って、知っとるか?」 京太郎「一応、ルールは。実際やったことはありませんけど」 まこ「そっか、それなら問題ない。わしら二人で、やるとしようか」 京太郎「他の二人が来るまでですか?」 まこ「……来んよ」 京太郎「え?」 まこ「今日は、誰も来ない。わしら二人だけじゃよ」 京太郎「……誰も、呼ばなかったんですか?」 まこ「あぁ」 京太郎「染谷先輩……やっぱり、他の学校に友達が……」 まこ「いるわい! 呼べなかったんじゃない、呼ばなかったんじゃ!」 京太郎「す、すいません……でも、なぜです?」 まこ「……ま、ちょっとした事情があっての。じゃ、始めるとするか」 京太郎(十七歩……二人で遊ぶための特殊ルール) 京太郎(自分の山から好きな13牌を選び、リーチ込みで満貫以上の手を作る) 京太郎(プレイヤーは残った山牌から交互に切っていき、相手のリーチをかわしつつロンを狙う) 京太郎(お互い17牌捨てるまで和了ることができなかったら流局……それゆえ、十七歩) 京太郎(漫画で見たことはあるけど、実際にやるのは初めてだな) 京太郎(でも、どうして染谷先輩はわざわざ普通の麻雀ではなく、これを……?) まこ「こっちはOKじゃ」 京太郎「俺も、終わりました」 まこ「よし、じゃあわしからじゃの。リーチ」 京太郎「……リーチ」 京太郎「……流局ですね」 まこ「うむ。テンパイじゃ」 京太郎「……ノーテンです」 まこ「おや、ノーテンじゃったか?」 京太郎「配牌で満貫が作れそうになかったので、とにかく安全そうな牌ばかりを集めて……」 まこ「なるほど、そういう手もある。どうじゃ、案外満貫縛りってきついものじゃろ?」 京太郎「はい、結構簡単に出来るものなのかと思ってたんですが……」 まこ「なかなか難しいんじゃよ。さ、次いくぞ」 京太郎(うーむ、今度は満貫自体は混一で作れそうなんだが……) 京太郎(そうなると必然的に、捨牌は他の色が並ぶ。これはそうそう出してくれないだろうな) 京太郎(かといって、さっきみたいに和了り放棄するのも……まぁ、これでいくしかないか) まこ「お、それロンじゃ。満貫じゃな」 京太郎「うぐっ……これでしたか」 まこ「普通の麻雀ならボコボコにされるんじゃろうが、こっちなら京太郎の力も少し弱まってるようじゃな」 京太郎「……みたいですね。あくまで俺は、普通の麻雀で勝ちたいと思ったわけですから」 まこ「意外と頭を使うもんじゃろ、これ」 京太郎「……そうですね」 まこ「テンパイ」 京太郎「……ノーテンです。いや、難しいですよ……満貫作るの」 まこ「作れても、相手が出してくれるかって問題もあるしのぅ」 京太郎「……染谷先輩」 まこ「なんじゃ?」 京太郎「何を、考えてるんですか?」 まこ「何を……というと?」 京太郎「確かに奥が深いゲームだということはわかりましたが、所詮はこんなもの遊びでしかない」 京太郎「どうして、誰か二人を呼んで普通の麻雀にしなかったんですか?」 まこ「……考えの相違ってやつじゃよ」 京太郎「考えの……相違」 まこ「風越も、鶴賀も、龍門渕も……みんなみんな、京太郎の事情を知っている」 まこ「そして久たちが、昔の京太郎に戻ってほしいと思っていることも知っている」 まこ「だから、それに協力するつもりなんじゃ。実際に、風越の福路たちがそうしたように」 京太郎「……染谷先輩も、そうじゃないんですか?」 まこ「正直に言うと、最初はわしもそう考えておった」 まこ「何かを犠牲にして、誰かを悲しませて……そうまでして強くなりたいなんて、間違っている」 まこ「そう、思っておった」 京太郎「…………」 まこ「だけど、大会で勝ち進んでいく京太郎を見ておったら……」 まこ「今のお前さんを、応援したくもなってきての。だから、他の誰かを呼ぶことはできんかった」 京太郎「……俺がこのまま、戻らないことを望むんですか?」 まこ「それは違う。本心ではわしも、久たちのように麻雀部に戻ってきてほしいと思っとるよ」 京太郎「じゃあ、なぜ……」 まこ「……京太郎は、十分に苦しんだからじゃよ」 京太郎「苦しんだ……?」 まこ「もし京太郎が、何も考えずただ強くなりたいって思い、今の道を歩んだら、一発ぶん殴っとったかもしれん」 まこ「でも、実際はお前さんは大いに悩み、大いに苦しみ……苦渋の選択の末、今の道を選んだはずじゃからの」 京太郎「……なぜ、そんなことがわかるんです?」 まこ「そうでもなきゃ、そこまで強い力は得られんじゃろ。それに、わしは昔の京太郎をよく知ってる」 まこ「いくら負けても、笑顔で過ごしていた……麻雀部を楽しんでいた頃の京太郎を、よく知ってる」 まこ「あの京太郎が、麻雀部を捨てるなんて、辛い思いをしたに違いない。そうじゃろ?」 京太郎「…………」 まこ「ん、それロンじゃ。跳満じゃの」 京太郎「……染谷先輩、強いですね」 まこ「結構打ったこともあるからの。経験だけなら、そうそう負けんぞ」 まこ「思えば、お前さんには雑用ばっかりさせて、ろくに指導もできんかった」 京太郎「……そのことについては、実力的には仕方なかったとは思いますけど」 まこ「うむ、不満もあったろうにちゃんと仕事をやってくれたことには、深く感謝しとる」 まこ「今、久たちは京太郎に麻雀部に戻ってもらおうと、色々頑張ってるようじゃがの」 まこ「もう、わしはいいと思うんじゃ。京太郎の好きなようにさせて」 京太郎「……このままの俺で、いいんですか?」 まこ「それが真剣に考えた末の結論なら……わしが何か言うことなぞ、できはせん」 まこ「京太郎。お前さんの望んだ道を歩むとええ」 京太郎「染谷先輩……ありがとう、ございます」 京太郎「思えば、一番俺に仲間として接してくれたのは、染谷先輩だったのかもしれませんね」 まこ「な、何言っとるんじゃ! 照れるわ!」 まこ「……ロン、満貫じゃ」 京太郎「はぁ……飛びですね。染谷先輩、強ぇっすよ……」 まこ「経験がものを言ったかもの。さすがに特殊ルールでも負けたら、心折れるわい」 京太郎「……それじゃ……」 まこ「うむ……そうだ、最後に一言だけいいか?」 京太郎「何ですか?」 まこ「せっかくなら、トップを目指してみぃ。日本一……いや、世界一じゃ。今のお前さんなら、夢物語ではないぞ」 まこ「なんたって、こんな美少女まで犠牲にしたんじゃからな。そのくらいはやってもらわんと、寂しいわい」 京太郎「……美少女?」 まこ「そこを疑問に思うんじゃない! 先輩の顔を立てんか!」 京太郎「……ははは、そうですね。すいませんでした」 まこ「……それじゃあの。覚えておいてくれ、京太郎」 まこ「麻雀部に戻ってこようとも、このまま修羅の道を歩もうとも……わしは常に、お前さんの味方じゃからな」 京太郎「……はい。それでは、さようなら……染谷先輩」 まこ「ああ……さようならじゃ、京太郎」 まこ(京太郎は、悩み抜いた末に今の道を選んだ。そんなこと、久や優希だってわかってる) まこ(それでもあいつらが、京太郎を麻雀部に戻したいと思うのは、京太郎のことが好きだからってだけじゃない) まこ(みんなみんな、気付いているからじゃよ。京太郎……お前さんが、本当に望んでいることに) まこ(強くなるってのは、その目的のための手段の一つに過ぎないってことに) まこ(結局、そのことを言えんかったのぅ……いや、わしが言っても意味ないんじゃがの) まこ(それは、京太郎が自分で気づかないと意味がない。そして……) まこ(それに気付かせられる者は……わしらでは、ないんじゃからな) 咲(……部長も、優希ちゃんも、染谷先輩も駄目だった……) 咲(京ちゃん……京ちゃんはもう、麻雀部に戻ってくる気はないの?) 咲(京ちゃんはもう……私と、麻雀を打ってくれないの?) 咲(どうして、京ちゃんは……) プルルルル 咲「ん……電話」 咲「はい、宮永です」 照『……咲?』 咲「え……お姉、ちゃん……?」 京太郎「…………」 ムロ「よろしくお願いします」 マホ「全国優勝者と打てるなんて嬉しいです! 今日はよろしくですー」 京太郎「……和?」 和「中学時代の後輩です。ほら、ご挨拶を」 ムロ「あ、すいません……室橋裕子、3年です……」 マホ「2年の夢乃マホです。えっと、須賀先輩ですね?」 京太郎「あ、あぁ……須賀京太郎だ。でも、驚いたな……まさか中学生を連れてくるとは」 和「私がお願いしたんです。ぜひ卓に入って下さいって」 京太郎「和が……てことは、二人とも相当な強さってわけか?」 ムロ「いっ、いえ全然! 全然大したことないです!」 和「マホちゃんにいたっては、レーティング1200台ですし」 京太郎(せ、1200……昔の俺と同レベルじゃないか……) マホ「えへへ、お手柔らかにー」 京太郎(他にも当てはあったはずなのに、中学生を引っ張ってきた) 京太郎(和が言うなら、本当に初心者なんだろう。だが、わざわざこの場に呼ぶくらいだ) 京太郎(何もないはずはない……それに、このマホって子からは何となく感じる) 京太郎(咲や天江さんと、同じ感覚を……) 京太郎(それで、俺が麻雀部に戻るとでも思っているのか……? 和は) マホ「では、私の親からですね……お、ダブルリーチです!」 ムロ「うわ、いきなり優希先輩か」 京太郎「優希……?」 ムロ「マホの奴、優希先輩や和先輩に憧れてて、真似した打ち方をしようとするんですよ」 京太郎「真似だって? そんなこと、しようと思ってもできるもんじゃ……」 和「私もそう思うんですが……なぜか一半荘に一局くらい、できてしまうことがあるんです」 マホ「ツモです! 6000オール!」 ムロ「あいたた、いきなり親っ跳ねかー」 京太郎(……模倣の能力、ってわけか……) マホ「ノーテン」 和「テンパイ」 ムロ「ノーテン」 京太郎「テンパイ」 京太郎(……今度は、まるで和みたいな綺麗な打ち筋だ) 京太郎(一手の無駄もなく手を進め、和のリーチを見て勝負は危険と見てすぐオリた) 京太郎(憧れが強くて模倣に走る……か……) 京太郎(…………) マホ「この局も和了りますよー」 ムロ「……マホ、それ取ったら多牌だよ」 マホ「わわっ! す、すいませんです!」 和「はぁ……マホちゃんは相変わらずですね」 京太郎「……本当に、初心者なのな」 マホ「うぅ、恥ずかしいところをお見せしてしまったのです……」 京太郎(まったく、調子狂うな……でも、間違いない。この子は魔物側に属する人間だ) 京太郎(今までは優希、和と模倣を続けてきた) 京太郎(……まさか……) 京太郎「……リーチだ」 ムロ「リーチですか……うーん、困ったな……」 マホ「……カンです」 ムロ「カン? リーチ相手に?」 マホ「はい。何となくですけど……」 京太郎(やっぱり……この子は、咲の麻雀を……!) マホ「マホ、嶺上で和了れるような気がします」 タンッ マホ「ツモ。嶺上開花ドラ3、2000・4000」 京太郎「……マホ、だったかな」 マホ「はい、何ですか?」 京太郎「咲の麻雀を、見たことがあるのか?」 和「この前の合同合宿に来ましたから、その時に打ってましたね」 マホ「県予選で見た、宮永先輩の打ち筋がものすごくて……」 マホ「マホもああいう風に打ちたいって思ってて、何回か真似してたら、時々成功するようになったんですよ」 京太郎「……咲の、ように……」 和「人の真似をするより、自分の底上げをしないと……」 マホ「でも……一人だけ、どうしても真似できなかった人がいるんです」 京太郎「真似できなかった人……?」 和「聞いてませんね……」 マホ「はい。テレビで見ただけなんですけど、宮永先輩以上に、凄くカッコいい麻雀だったんです」 京太郎「誰だ、それは?」 マホ「須賀先輩です」 京太郎「……俺?」 マホ「はい。豪快で、華々しくて、カッコよくて……マホ、釘づけになっちゃいました!」 マホ「だから私も、須賀先輩のような麻雀を打とうって、何度もチャレンジしたんですけど……」 ムロ「まだ一度も、成功したことないんだよね」 マホ「はい……なぜでしょうか……」 ムロ「そりゃー全国最強の人だもん。そうそう真似なんてできるわけないって何度も言ってるじゃん」 和「そもそも人の真似ができるなんて、そんなオカルトありえません」 京太郎(……違う……) 京太郎(俺の打ち方が、真似できないのは、きっと……周りを犠牲にして得た、力だから) 京太郎(本当の俺自身は、昔から何も変わってない……能力も何もない、初心者のままだから) マホ「うぅ、リーチ一発ならずです……今回も、失敗しました……」 和「今回も?」 マホ「須賀先輩でしたら一発でツモって裏3乗っただろうから、マホも真似してみたんですが……愚形だけが残ってしまいました」 ムロ「そういうことは言わなくていいの」 京太郎「…………」 マホ「でも、次こそ成功させますよー」 ムロ「諦めなよ、マホ」 京太郎(……これ以上見てるのは、辛いな……) 京太郎(終わらせに……いくか) マホ「」 和「ま、マホちゃん……大丈夫ですか?」 マホ「」 ムロ「ここまでボッコボコにされるとは……まぁ予想はしてたけど」 マホ「うぅ……須賀先輩、容赦ないのです……飛び寸前です」 京太郎「悪いな、これも勝負なんで。あと、俺の模倣はもう諦めたほうがいい、おそらく無理だろうから」 マホ「そ、そんなことないです! 信じていれば、必ずできます!」 京太郎「リーチだ」 マホ「ぴぃ……」 マホ「あ、ツモりました……ツモのみ、400・700……」 ムロ「首の皮一枚繋がったね」 マホ「……あれ?」 和「どうかしましたか?」 マホ「いや、そんなはずは……あれ? でも……え?」 京太郎「?」 ムロ「マホ?」 マホ「い、いえ何でもないです……」 京太郎「ツモ。6000オール」 マホ「飛びましたです……」 ムロ「ありがとうございました……マホ、どんまい……」 和「ありがとうございました」 マホ「……今日は、ありがとうございました! ボコボコにされたけど、楽しかったです!」 ムロ「いい勉強になりました。ありがとうございました」 京太郎「二人とも、清澄を受けるのか?」 ムロ「はい、今のところはそのつもりです」 マホ「えへへー、再来年は同じ麻雀部ですね! よろしくお願いします」 ムロ「マホはもうちょっと勉強頑張らないと、入れるか怪しいんじゃないかな?」 マホ「あうっ……」 京太郎「……俺は、麻雀部には……」 和「そうですね。もし合格できたら、みんな一緒ですね」 京太郎「……和」 ムロ「それでは、失礼します」 マホ「またよろしくお願いしますー」 和「はい、お元気で」 京太郎「和」 和「はい」 京太郎「……言わなかったのか? 俺は、麻雀部にはいないって」 和「今はそうかもしれません。でも、確信していますよ。きっと戻ってくれるって」 京太郎「……なぜ、そう言えるんだ?」 京太郎「あの二人を呼んだのだって、何か考えがあってのことだろうけど……」 京太郎「少なくとも、和やあの二人と打って……麻雀部に戻ろうなんて考えは、強くなることはなかった」 和「考え、ですか……」 京太郎「どうして、わざわざ中学の後輩を呼んだんだ?」 和「強い人と打てるのは、いい経験になると思ったからです。それに、打ちたがっていましたしね」 京太郎「それだけじゃないだろう。何か、俺を麻雀部に戻らせるための……」 和「それだけですよ?」 京太郎「……それだけ?」 和「本当にそれ以外の意味はないです。彼女たちに、そんなことは期待していませんよ」 和「いえ……そもそも、そんなこと出来るわけがないんです。部長も、優希も、染谷先輩も、最初からわかってました」 和「須賀君を麻雀部に戻らせることができる人なんて……」 和「この世に、たった一人しかいないってことが」 京太郎「…………」 和「そういえば……須賀君は、大切なものを犠牲にして力を得る……でしたよね。にわかには信じ難い話ですけど」 京太郎「……それがどうかしたか?」 和「確か最初に犠牲にしたのは、私でしたよね?」 京太郎「……あ、そういえば水がかかった時……」 和「それは思い出さなくていいです! ま、まぁ、それだけ大切に想ってくれているというのは嬉しいです」 和「でも須賀君は、本当の本当に大切なものは、きっと最後まで捨てきれない人でしょう」 和「その人は……誰でしたか?」 京太郎「…………」 和「彼女ならば、きっと……って、私は思いますよ。ふふ」 和「だから……また、打ちましょうね。須賀君」 照『そう……そんなことが……』 咲「うん……」 照『……咲は、京ちゃんがことが好きなんだよね?』 咲「ふぇっ!? ななな、何言ってるの!?」 照『違うの?』 咲「う……えっと……その……」 照『……いや、もういい。大体わかったから……ねぇ、咲。まだ他の面子、席あるんだよね』 咲「え……うん、一応……一人はもう話ついてるんだけど、もう片方は空いてるよ」 照『……じゃあ、行く』 咲「お姉、ちゃん……」 照『力になれるかはわからない。でも……このまま京ちゃんとお別れなんて、したくない』 照『私も……京ちゃんと、戦うよ』 ムロ「さすがに強かったねー、須賀先輩。マホもさすがに真似できなかったか」 マホ「……そこ、どうしても気になることがあるんですよ」 ムロ「何?」 マホ「須賀先輩の真似……出来た感触があるんです」 ムロ「え、ホント? いつ?」 マホ「最後、須賀先輩のリーチをツモのみで流した時がありましたよね」 ムロ「……あのしょぼい手が、須賀先輩の真似!? そんなバカな……」 マホ「私もバカなって思うんですよ。須賀先輩なら、追っかけ一発裏3くらいはしそうですし」 マホ「でも……確かにあれは、須賀先輩の模倣をできた感触でした」 ムロ「……どういうこと? まさかあの人の真の能力は、リーチを安手で流す力とか……」 マホ「いえ、それはさすがにないと思うです」 ムロ「だよねぇ。じゃあ、一体……」 マホ「うーん……わかりません。ただ……」 ムロ「ただ?」 マホ「あの和了り……高い手でもないし、綺麗な手でもない、平凡極まりない手なんですけど……」 マホ「充実感溢れるというか、何というか……よくわかりませんが」 マホ「嬉しい、和了りでした」 ハギヨシ「衣様。宮永様から連絡がありました」 衣「何だ?」 ハギヨシ「須賀様との対戦の残りの一席、宮永照様が入ることになったそうです」 衣「……そうか。下がっていいぞ、ハギヨシ」 ハギヨシ「はい、失礼いたします」 衣「ふぅ……」 衣「お前と会ってからまだ数ヶ月というのに、幾星霜の時を経たようにも感じるよ」 衣「それほどまでに、お前のことが気になっていたようだ」 衣「京太郎……これで終わりになんか、させはしないぞ」 『ツモ、嶺上開花。70符2翻は、1200・2300です』 京太郎(思い返せば、あの日から……ずっと俺は、咲を追ってきた) 京太郎(あんな風に、強くありたいと思った。だから俺は、力を欲した) 京太郎(今の俺は、誰にだって勝てる。たとえ咲だろうと、負けはしない) 京太郎(それでも……いつもいつも、頭にチラつくのは……咲の麻雀。咲の声、咲の姿) 京太郎(……もう、終わりにする。俺は次の、清澄麻雀部員としての最後の麻雀で……完全に、断ち切る) 京太郎(決着をつけるぞ。咲) 京太郎(部長。優希。染谷先輩。和。そして……咲) 京太郎(みんなの想いは、よくわかった。まだ俺のことを、仲間として見てくれていることも) 京太郎(この力さえ捨てれば、昔に戻れる。またみんなと楽しく麻雀が打てる) 京太郎(でも……俺は、やっぱり) 京太郎(今の強い状態のままで、ありたいんだ) 京太郎「さて……」 京太郎「行くか、最後の戦いに」 ガチャッ 京太郎(まだ、誰も来ていないか) 京太郎(この部室とも……今日で、本当にお別れだ) 京太郎(数ヶ月前、咲を引っ張りこんで……今思えば、あれが人生の境目だった) 『ツモ、嶺上開花。70符2翻は、1200・2300です』 京太郎(咲の麻雀は凄かった。圧倒的な力と華麗な打ち回し、そして……あの嶺上開花) 京太郎(惹きつけられると同時に……自分と比べて、辛い気持ちになった) 京太郎(咲も、和も、優希も、部長も、染谷先輩も。みんなみんな、強かった) 京太郎(弱かったのは……俺だけだ。みんなが活躍しても、俺だけは雑魚のまま) 京太郎(俺も、輝きたかった。そしてみんなに……咲に、負けたくなかった) 京太郎(だけど、今の俺は力を得た。咲すらも、問題にならないほどの) 京太郎(だから……) 京太郎「今日でお別れだ。咲」 咲「負けないよ。京ちゃん」 咲「……こうしてお話するのも、久々だね」 京太郎「そうだな。でも、今日で終わりだ」 咲「…………」 京太郎「わかっているはずだ。今の俺は、お前よりもはるかに強い」 咲「……そうかもしれないね」 京太郎「お前には、俺の心を変えることはできない。ただ俺が和了り続け、そのまま終局だ」 京太郎「そして……今度こそ、さよならだ。咲」 咲「……一つだけ、不思議なことがあるんだ。京ちゃん」 京太郎「不思議なこと?」 咲「今の京ちゃんは、トッププロにも勝てるかもしれない。本来私なんかじゃ、勝負にならない」 咲「でもね、どういうわけか知らないけど」 咲「私……今の京ちゃんには、全く負ける気がしないんだ」 京太郎「……意味がわかんねぇよ。それじゃあお前は、トッププロレベルなのか」 咲「まさか、そんなわけないじゃん」 京太郎「じゃあ、俺に勝てるなんて……」 ガチャッ 照「勝てるよ。咲なら、きっと勝てる」 衣「うむ。衣もそう思うぞ」 京太郎「……照さん。天江さん」 照「また会ったね。京ちゃん」 京太郎「来てたんですね、長野に」 咲「お姉ちゃん……」 照「話は咲から聞いた。今までの、京ちゃんのことも、全部」 照「強くなるために、全てを犠牲にしてきたってことも」 京太郎「……それで自分なら、俺に勝てると?」 照「それは……わからない。でも、今の京ちゃんじゃ、咲には勝てない」 京太郎「…………」 衣「京太郎……衣はここ最近、ずっと考えていたことがある」 京太郎「……何ですか?」 衣「ふふ、それがあまりに突拍子もないことでな。言っても何を馬鹿なと笑い飛ばされるだけだろう」 衣「だが今は、衣は衣の仮説の自信を持っているよ」 京太郎「…………」 衣「一つだけ言っておこう。京太郎、お前は強くなんかなっていない」 衣「今の京太郎では、決して咲には勝てない」 京太郎「……天江さんも、そう言うんですか」 衣「……思えば、京太郎のことは、道を踏み外した弟子のように思ってたよ。実に刺激的な日々だった」 京太郎「だとしたら、今日は恩返しをしなければなりませんね。師匠を倒す、という形で」 照「それじゃあ……」 衣「うむ」 咲「…………」 京太郎「始めましょうか。最後の、戦いを」 【東1局 親:衣】 衣「そういえば……照だったか。こうして打つのは初めてだな」 照「……去年のインターハイでの活躍は、よく覚えている。龍門渕高校、天江衣」 衣「照ならば、衣の遊び相手としては申し分ない。一度全力で手合せ願いたいものだが……」 照「うん……ちょっと、そんな状況にないかな」 京太郎「ツモ。2000・4000」 衣「衣の親が、こうもあっさり流されるとはな」 京太郎「これでもまだ、俺が強くなんかなっていないとか言う気ですか?」 衣「言うさ」 京太郎「…………」 衣「京太郎。お前は全国優勝を遂げるまでになったが、お前は最初に衣を訪れたあの日から、何も変わっていない」 京太郎「…………」 京太郎「それなら……」 【東2局 親:照】 京太郎「卓上で、黙らせるまでです」 京太郎「ツモ。1300・2600」 【東3局 親:咲】 京太郎(やっぱり、何も変わってない……照さんや天江さんだろうと、相手にならない) 京太郎(このまま、いつものように和了り続けて、終わらせる) 京太郎(そして……) 京太郎「リーチ」 京太郎(咲、お別れだ) 京太郎(俺は一人のままで、戦い続ける) 衣(京太郎からリーチか……) 照(咲……どうする?) 咲「…………」 咲「リーチ」 京太郎(……追っかけ!?) 咲「……ロン。12000」 京太郎「……はい」 京太郎(くっ……まさか一発でツモれないどころか、掴まされるなんて) 京太郎(……偶然だ、気にするな。次こそ……) 【東3局1本場 親:咲】 咲「ロン。7700の一本場は、8000」 京太郎(ま、また……!?) 【東3局2本場 親:咲】 京太郎(おかしいぞ! こんなこと、力を得てからは一度もなかった!) 京太郎(間違いない、俺は最強の高校生だ! 咲よりも、絶対に強いはずだ!) 京太郎(負けるなんて……) 『今の京ちゃんには、全く負ける気がしないんだ』 京太郎(…………) 京太郎(そんな、はずは……) 咲「リーチ」 京太郎「……チー!」 京太郎「……ツモ、タンヤオのみ……」 京太郎(くそっ! タンピン三色イーペーコーまで見える手だったのに、安手で流さずにはいられなかった!) 京太郎(次の親番で、何とかしなくては……) 【東4局 親:京太郎】 京太郎(……よし! いい手だ、跳満……いや、倍満まで狙える!) 京太郎(今度こそ、叩きのめしてやる!) 京太郎「リーチ!」 咲「……ねえ、京ちゃん」 京太郎「……何だ、咲」 咲「さっきも言ったけど、今の京ちゃんはトッププロにも見劣りしないと思う」 咲「それでもね……やっぱり、思った通り」 パタリ 京太郎「!?」 咲「負ける気が、しないよ」 咲「カン……ツモ、嶺上開花。8000点、責任払いです」 京太郎(嘘……だろ……) 京太郎(俺は、全国優勝者のはずだ……) 京太郎(俺は、最強の力を手に入れたはずだ……) 京太郎(誰が相手だろうと、問題なく勝利してきた。俺に勝てる奴なんか、いなかった) 京太郎(なのに、なぜ咲に……こんなにも……) 京太郎(……咲に……) 京太郎(よりによって……咲に……) 京太郎「…………」ギリッ 照「…………」 咲「……京ちゃん……」 衣「…………」 衣「京太郎、次行くぞ」 京太郎「…………」 衣「……の、前にだ。京太郎、すまないがトイレの場所を教えてくれ」 京太郎「……トイレですか? そこの角を曲がって……」 衣「口で言ってもわからぬ! 案内してくれ!」 京太郎「は?」 衣「ほら、さっさと案内してくれ」 京太郎「いや、でも……」 咲「……京ちゃん、お願い。一旦中断しよ」 京太郎「え……」 衣「京太郎」 京太郎「わ、わかりました……じゃあ、行きましょうか」 衣「うむ、かたじけない」 衣「では、行ってくる」 照「……うん」 バタン 咲「……お姉ちゃん。京ちゃん、昔みたいに戻ってくれるのかな……」 照「咲……」 咲「全力でぶつかれば、きっと戻ってくれると思ってた。以前の、ちょっと意地悪だけど優しかった頃の京ちゃんに」 咲「それでも、やっぱり……本当にそうなるのかって、不安は拭いきれなくて」 咲「あんなに辛そうな京ちゃんを見てたら……私も、辛いよ」 照「大丈夫だよ、咲。京ちゃんなら、きっと気付いてくれる」 照「なんたって、咲が好きになった男の子なんだもの」 咲「……お姉ちゃん……」 照「京ちゃんなら大丈夫。だから……信じて、待っていよう」 咲「……うん」 衣「……不可解か? 最強のはずの自分が、ここまでやられるのが」 京太郎「…………」 衣「言っただろう。今のお前では、咲には勝てぬと」 京太郎「……なぜですか……」 京太郎「俺は、全てを捨てて力を得た。誰にも負けないほどの、力を」 京太郎「なのに……なぜ! なぜ、咲には勝てないんだ!」 京太郎「俺の方が! 俺の方が、絶対に強いはずなのにっ!」 衣「……咲に、勝ちたいか?」 京太郎「…………」 京太郎「……勝ちたい、です」 京太郎「咲には……咲にだけは、負けたくないです」 衣「……ならば京太郎。一つ、教えておこう」 衣「咲の麻雀に、能力はあると思うか?」 京太郎「そりゃ……ありますよ。嶺上で必ず和了るじゃないですか」 衣「では照と衣は?」 京太郎「打点が順々に上がっていくのと、海底で和了る……ですよね?」 衣「ふむ。では京太郎、お前自身は?」 京太郎「……何かを犠牲にして、力を得る……」 衣「なるほどな……なぁ、京太郎」 京太郎「…………」 衣「全部ハズレだ」 京太郎「……は?」 京太郎「ど、どういう意味で……」 衣「言った通りだ。咲には嶺上で必ず和了る能力なんてない」 京太郎「あ、あの……」 衣「照に打点を順々に上げる能力なんてない。衣に海底で必ず和了る能力なんてない」 京太郎「えっと……」 衣「ましてや、何かを犠牲に力を得るだと? そんなオカルト、あるわけがないだろう」 京太郎「ちょ、ちょっと! 天江さん、意味がわかりませんよ!」 衣「ははは、だいぶ混乱しているようだな。無理もない、衣もそのことにハッキリ気付いたのはごく最近だ」 衣「大体、嶺上で和了るだの何だの、そんなのできるはずがない。超能力じゃあるまいし」 京太郎「いや、でも現にみんな……」 衣「……同じものだったのだ。全て」 京太郎「……同じもの?」 衣「咲も、照も、衣も、京太郎も」 衣「みんなみんな、ただ一つ……同じ力を持っている。それだけのことだ」 京太郎「同じ、力……」 衣「それは本来、誰もが持っているものだ。大人も、子供も、プロも、初心者も」 衣「麻雀を打つすべての人間が、その力を持っている。だがそのほとんどは、それに気づくことがないままなのだ」 衣「お前の言う能力者たちだけが、気付いてる。だからこそ、咲は嶺上で和了れるし……」 衣「今、京太郎を倒すことができるのだ」 京太郎「そ、それじゃあ俺が全てを犠牲にして得た力ってのは……」 衣「そうだ。そんな力、元からありはしない」 衣「ヘルカイザーなど、最初から存在していなかった」 京太郎「…………」 衣「言っただろう。お前は強くなんかなっていない、と」 京太郎「……はい……」 衣「確かに京太郎は、全国優勝を遂げた。だが、それは『強くなった』からではない」 衣「もし今の京太郎が『強い』としたら……お前は、衣を訪ねてきたあの日から……最初から、強かったのだ」 京太郎「俺が……強い……」 衣「今までよく頑張った。胸を張れ。他人を犠牲にして得た力なんかじゃない」 衣「京太郎は……自分自身の力で、全国の頂点に立ったのだ」 京太郎「……じゃあ、何なんですか! その誰もが持つ『力』ってのは!」 京太郎「咲が嶺上で和了ったり、俺が全国優勝できたりする『力』は!」 衣「……京太郎。今のお前なら気付くことができるはずだ。そして気付かなければ、咲には勝てない」 京太郎「…………」 衣「そろそろ戻ろうか……京太郎。お前なら、きっと気付けるはずだ。期待しているぞ」 京太郎(咲の嶺上開花……照さんの連続和了、天江さんの海底撈月……) 京太郎(そして、俺の力……) 京太郎(それらは全て共通した、ある一つの『力』だった……) 京太郎(…………) 京太郎(咲……今、お前はその『力』を使って、俺を圧倒しているんだろう) 京太郎(一体……どんな『力』なんだ……) 京太郎(全てを犠牲にして、俺も何かは確実に変わった……俺もその『力』とは、間違いなく接しているはずだ) 京太郎(一体……どんな『力』なんだ……) 京太郎(咲……) 咲「ツモ、嶺上開花」 照(……咲が止まらない) 照(本来ならば、この四人で勝つ力は京ちゃんにある。私や天江衣よりも、はるかに上なのだから) 照(でも今の咲は、その京ちゃんを完全に上回っている。だから、咲が勝つ) 照(……どうして京ちゃんが勝てないのか、何となくわかる) 照(きっと天江衣も気づいてる……そしておそらく、咲も) 照(……京ちゃん……) 京太郎「あと、2局か……」 咲「……うん」 京太郎(……無様なもんだ) 京太郎(全てを捨てて、最強の力を手に入れたはずだった。誰も、俺に敵う者はいなかった) 京太郎(でも、そんな俺が……咲には、全く歯が立たないなんてな) 『そんな力、元からありはしない』 『ヘルカイザーなど、最初から存在していなかった』 京太郎(昔の俺から変わってないまんまだったら……そりゃ、咲には勝てないだろう) 京太郎(だったら、何で今まで俺は勝てていたんだ?) 京太郎(どうして今、咲に勝てないんだ?) 京太郎(咲の力って……俺の力って、一体、何なんだ……?) 京太郎(くそっ、また違う牌……) 京太郎(リーチをかけても、和了れない……こんなこと、今まで……) 京太郎(どうして……) 京太郎(どうして、咲には……勝てないんだ……) 咲「……ねぇ、京ちゃん」 京太郎「……何だよ」 咲「私ね、今まで一人じゃ何もできなくて、自分に何も自信が持てなかった」 咲「だから京ちゃんに、ずっと頼ってきた。思い返せば、昔からそうだったよね」 咲「今だって……きっと一人じゃ、京ちゃんに勝てなかったと思うんだ」 京太郎「……いきなり何言い出すんだ。麻雀なのに、一人じゃ勝てないなんて意味がわからねぇよ」 咲「ううん、京ちゃんならわかるはずだよ。今の私が、一人じゃないってことに」 咲「全国優勝した時の京ちゃんは、本当に凄かった。堂々としてて、自信に溢れてて……」 咲「自分の力を、完全に信じていた。一人きりでも、誰よりも強かった」 京太郎「…………」 咲「でも今の私は……部長に、優希ちゃんに、染谷先輩に、和ちゃん」 咲「それに……お姉ちゃんに、衣ちゃん。みんなの想いを背負っている」 咲「だから、私は今の京ちゃんには負けない。京ちゃんの勝ちたいという想いより、私たちの想いの方が強いから」 京太郎「意味わからねぇよ。想いの強さが麻雀の強さになるなんて、あるわけ……」 咲『愛する麻雀を、牌を、信じる気持ちがあれば……』 咲『きっと、京ちゃんにも引けるよ。勝利への、和了り牌を』 京太郎(…………!) 京太郎(昔……確かに咲は、そんなことを言っていた……) 京太郎(俺を元気づけるための、適当なでっちあげじゃなくて……本気で、言ってたってのか) 京太郎(信じていれば、きっと牌は応えてくれるって……) 衣「ツモ、海底撈月。2000・4000」 照「オーラスだね」 咲「……うん……」 京太郎(昔の俺が、弱かったのは……自分を、信じてなかったから。弱い自分が勝てるだなんて、思ってなかったから) 京太郎(俺が勝てるようになったのは、全てを犠牲にして力を得たからではなく……力を得たと、思い込んでいたから) 京太郎(だから、自分が最強だと思い、自分のことを信じていた) 京太郎(そして、その気持ちに牌が応えてくれたから……勝ててたっていうのか) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 京太郎『なぁ、咲。前から気になってたんだけどさ』 咲『どうしたの、京ちゃん』 京太郎『なんでお前、いつも槓材が入ったり嶺上牌が分かったりするんだ?』 咲『え、えぇ……それは、何と言うか……自然にと言うか……何となく?』 京太郎『何となくで済むわけねーだろ……あんなに連発されりゃあ』 咲『と言われても……』 京太郎『はぁ……俺も咲みたいに、欲しい牌を都合よく引けたら少しは勝てるかもしれないのになぁ……』 咲『京ちゃんだって、欲しい牌を引けたことくらいあるでしょ』 京太郎『そりゃ何度もあるけどさ、ここぞって時に引けたことは一度もないんだよ』 咲『そうなんだ……』 京太郎『咲と何が違うのかなぁ、俺は……』 咲『うーん……ちょっと考えてみたんだけど、京ちゃんは『この牌で和了れる』って思って引いたことないんじゃない?』 京太郎『は?』 咲『私はいつも嶺上牌を引くときは『この牌が和了り牌だ』って信じてる。牌のことを信じてる』 咲『だから……その気持ちに、牌が応えてくれるんじゃないかなって、ふと思ったんだ』 京太郎『何だそりゃ。信じるだけで引けるわけないだろ』 咲『そんなことないよ。麻雀が好きなら、きっと引けるようになるよ』 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 京太郎「……咲が嶺上で和了れるのも、天江さんが海底で和了れるのも……」 京太郎「信じる気持ちに牌が応えてくれるからってのか……?」 衣「……海底は、衣の領域だ。絶対に、応えてくれる」 京太郎「そんなこと……そんなこと、出来るわけない!」 衣「出来るさ。現にお前は、ずっと信じ続け、それで勝ち続けてきたではないか」 衣「他人を犠牲に得た力ではなく、自分自身の力で」 京太郎「あれは……」 照「……よくわからないけど、想いの強さってことなら、京ちゃんは誰にも負けないよ」 京太郎「……照さん」 照「だって、全てを捨ててでも勝ちたいって思ってたんでしょ?」 照「それくらい、麻雀に入れ込んでたんだよね。麻雀が好きだったんだよね」 照「その想いの強さなら……誰にも負けないよ、京ちゃんは」 京太郎(逆転には、役満ツモが必要……) 京太郎(昔の俺なら、もう諦めてた。全国優勝した頃の俺なら、可能だった) 京太郎(今の、俺は……) 京太郎(…………) 京太郎(仮に、信じれば牌が応えてくれるなんて力があったとしたら……) マホ『そ、そんなことないです! 信じていれば、必ずできます!』 マホ『あ、ツモりました……ツモのみ、400・700……』 京太郎(マホ……お前が模倣したのは、俺の……信じる力、だっていうのか……) 京太郎(俺が自分を……牌を信じ、その気持ちを模倣したから、和了れた) 京太郎(俺にも、そんな力があるっていうのか……) 京太郎(……これで、二暗刻目) 京太郎(役満が見えてきたのは、なんでだろうな。ただの偶然か、俺の力の残骸か) 京太郎(それとも……) 咲「……リーチだよ。京ちゃん」 京太郎(ケリをつけろっていう、天からのおぼしめしか) 京太郎(ケリなんて……もう、とっくについてるのにな。俺じゃ、咲には勝てないって) 京太郎「……結局……」 京太郎「結局、俺は……咲には、勝てないままだったな」 咲「……京ちゃん」 京太郎「すべてを犠牲にしても、全国の頂点に立っても」 京太郎「俺は……咲には、一度も勝てないままだった」 咲「……勝てるよ。京ちゃんなら、きっと勝てる」 咲「自分を、牌を、信じてれば……必ず、応えてくれるよ。京ちゃんの、想いに」 京太郎「……本気で、言ってるのか」 咲「もちろんだよ。私、ずっと見てきたから」 咲「京ちゃんの、麻雀にかける想いを。京ちゃんの一番そばで、ずっと見てきたから」 京太郎「…………」 咲「だから……」 咲「お願い、京ちゃん」 ―――――――私を、信じて。 京太郎(…………) 京太郎(そっか……) 京太郎(そういうこと、だったんだな) 京太郎(俺には、目標があった) 京太郎(それが何かはハッキリとはわからなかったが、何となく、昔の俺には手が届かないものだって気がした) 京太郎(だから、俺は……強くなりたいって、思った) 京太郎(……やっと、わかったよ。俺が、本当に目指していたもの) 京太郎(それは、みんなと一緒に全国に行くことなんかじゃなかった) 京太郎(全国大会で、優勝することなんかじゃなかった) 京太郎(誰よりも、強くなることなんかじゃなかった) 京太郎(俺は―――――――) 京太郎(……四暗刻を張った次巡のツモが、これかよ) 京太郎(はは……決着をつける舞台まで、神様はしゃれた用意をしてくれたってわけか) 京太郎(……乗るしか、ねぇよな) 京太郎「カン」 照(暗槓……) 衣(……この嶺上牌が咲の当たり牌。もしくは……京太郎の和了り牌だろう) 衣(そして、どちらかというと、おそらくは……) 『ここまでやられたのは、完全に咲のことを捨て切れていなかったからじゃないのか?』 京太郎(まぁ……捨て切れてなかったってのは、認めるよ) 『今度こそ完全に咲のことを捨てきれば、きっとツモ和了れるだろう』 京太郎(その可能性は、確かにあるかもしれないな) 『前みたいに、誰よりも強くなることもできるだろうさ』 京太郎(いいんだよ。俺の目標は、そんなことじゃないんだ) 京太郎(俺の、本当の目標は……) 『愛する麻雀を、牌を、信じる気持ちがあれば……』 『きっと、京ちゃんにも引けるよ。勝利への、和了り牌を』 京太郎(自分の力なんて、別に信じてない) 京太郎(だけど……) 京太郎(和了り牌を引けるって、咲が言ってくれるなら……) 京太郎(俺は……引けるはずだ!) カツッ! 京太郎「…………」 照「京ちゃん……」 衣「……はは、衣の予想が覆されるとはな」 咲「…………」 咲「その嶺上牌……本当は、私の当たり牌だったはずだった」 咲「でも、私が嶺上牌を信じる想いより……京ちゃんの信じる想いが、上回った」 咲「だから、牌はそれに応えてくれたんだと思う」 京太郎「……俺は、別に自分を信じちゃいなかった」 京太郎「やっぱり、咲には勝てないのかなって……ちょっと、思ったりもした」 京太郎「だけど……信じるものは、自分以外にもあった」 京太郎「俺は、咲を信じた。俺を強いって言ってくれた、咲を信じた」 京太郎「今、初めて知ったよ……麻雀って、一人でやるものとは、限らないんだな」 京太郎「ありがとう……咲」 咲「京ちゃん……こちらこそ、ありがとう」 咲「完敗だよ。やっぱり、京ちゃんと打つ麻雀は、楽しいな」 京太郎「これから先、山ほど打ってやるよ。何度も負かしてやるぜ、以前の俺とは違うからな」 衣「おっと、その時は衣も混ぜてくれ。この上なく、楽しい遊戯となりそうだ」 衣「それと……天江さんなんて他人行儀な呼び方は、もうやめてくれな」 照「京ちゃん……私はもう卒業しちゃうけど、今度はプロの立場に立つから……」 照「だから、来年も優勝して……また、あの舞台で戦おう。ね」 京太郎「……衣さん、照さん……」 照「それより、点数報告がまだだよ。ほら」 京太郎「あっ、すいません」 京太郎「ツモ、嶺上開花……四暗刻。俺の……逆転トップです」 久「もう一年経つのか、早いものね」 和「そうですね。またみんなで全国に来れたなんて、夢みたいです」 京太郎「部長もわざわざ東京まで、ありがとうございます。それに、マホも」 久「そりゃもう、可愛い後輩たちの全国の晴れ舞台だもの。OGとして応援に来るのは当然でしょ」 マホ「私も暇でしたのでー」 ムロ「本当は勉強しなきゃ駄目なんだけどね」 マホ「……ま、まぁそれは置いといて!」 まこ「そもそも、今の部長はわしなんじゃがの」 優希「でもやっぱり、部長は部長だじぇ!」 咲「あはは、そうだね」 久「でも……咲と和は流石としても……」 久「須賀君も、よく代表取れたじゃない? 激戦区の男子で」 京太郎「いやいや、俺は運がよかっただけですよ」 優希「去年の決勝で当たった三人が実はみんなその時三年で、今年はいなかったみたいだじぇ」 まこ「おかげで、今年は層スッカスカだったと評判じゃったの」 京太郎「そのスッカスカの層の中ですら、ギリギリの代表獲得だったんですよ」 京太郎「部内でもそこまで勝ててないし、俺、代表者の中で最弱なんじゃないかな……」 咲「そ、そんなことないよ……多分」 久「多分……ねぇ」 咲「ぶ、部長!」 京太郎「はは、ですよね。でも、そのぶん気楽に打てますよ。負けてもともと、勝てればラッキー程度のものですから」 京太郎「それじゃ、そろそろ時間ですので。行ってきます」 京太郎「…………」 衣「京太郎」 京太郎「……あ、衣さん」 衣「すまないな。最初から最後まで、衣はお前を振り回してばかりで、何もしてやれなかった」 京太郎「何言ってるんですか。衣さんには、感謝してもしきれませんよ」 京太郎「衣さんがいなければ、俺はずっと麻雀にコンプレックスを抱いたまま……自分の気持ちにも、気付けなかった」 京太郎「俺がこうして堂々とこの舞台に立てるのも、衣さんのおかげですよ」 衣「……惜しくは、ないのか? 去年の自分が」 京太郎「…………」 衣「あのまま衣たちが何もしなければ、京太郎は去年以上の力でいられただろう。全国制覇など、たやすいはずだ」 衣「そのことを……惜しくは、感じないのか?」 京太郎「……全然、惜しくなんかないですよ」 京太郎「だって、俺の目標は、全国制覇なんかじゃなかったんですから」 衣「……そうか。ならば、衣も気兼ねなく応援できるよ」 京太郎「見ていてください。勝てる可能性は限りなく低いかもしれないけど、全身全霊で戦ってきますんで」 衣「うむ、思いっきり暴れてこい、京太郎!」 京太郎「はい! では行ってきます、衣さん!」 衣「京太郎……」 衣「お前との付き合いは一年程度。決して長い期間とは言えぬ」 衣「だが衣にとっては、何よりも大切な一年間だった。京太郎にとっても、そうであれば嬉しいよ」 衣「……いいところを見せられるといいな。頑張れ、京太郎」 アナ「……しかし妙な組み合わせですね、宮永プロ。初戦から、去年の優勝者と準優勝者が当たるなんて」 照「京ちゃ……須賀選手は、今年はギリギリの予選突破でしたから。この対戦システムには一考の価値があるとは思いますが」 アナ「ええ。須賀選手ですが、去年とはまるで別人のようなヨレヨレの県大会突破だったようです」 照「……確かに去年みたいに、圧倒的な力で相手を叩き潰すような麻雀は鳴りを潜めています」 照「ですが、きっと須賀選手が打ちたかった麻雀は、今の須賀選手の打っている麻雀だと思います」 アナ「……去年は不本意な麻雀だった、ということですか?」 照「はい。ですが当時は、そのことに彼は気付いていませんでした」 照「ヘルカイザーと言われた去年も、かろうじてギリギリの県予選突破だった今年も。本質的には、同じ須賀京太郎だったんです」 アナ「……はぁ……」 照(……いけない、喋りすぎた。わけのわからない子だって思われてないかな……) 竜「…………」 京太郎「…………」 竜「……今年のあンたは、背中が煤けねぇな」 京太郎「……よろしくお願いします」 アナ「それでは、試合開始です!」 照(牌を、自分を、信じれば……きっと応えてくれるから) 照(だから……頑張って、京ちゃん) 京太郎(衣さんが言っていた。昔の自分は麻雀を打っていたんじゃない、打たされていたんだって) 京太郎(思えば俺も、そうだったのかもしれない。ただ強くなりたい、勝ちたいとだけ思っていた) 京太郎(今の俺は……本当に自分の望んでいる麻雀が、よくわかっている) 京太郎(それは……) 京太郎「カン」 京太郎「……ツモ! 嶺上開花、中ドラドラ、2000・4000!」 竜「……へぇ」 京太郎(見ててくれよ、みんな!) 優希「やったじぇ、京太郎の先制和了だじょ!」 和「……須賀君、楽しそうですね」 まこ「そりゃそうじゃ。あいつほど麻雀が好きな奴は、そうそうおらんよ」 ムロ「去年打った時とは、全然雰囲気違いますね」 マホ「んー……確かに去年の方が強そうだったんですけど、今の須賀先輩の方が何だか、生き生きとしてるって思います」 咲「そういえば……一つ気になることがあるんですけど」 まこ「何じゃ?」 咲「結局、京ちゃんの目標って何だったんですか?」 咲「全てを捨ててまで、強くなろうとして……でも、目指していたのは全国出場でも、全国制覇でもなかったみたいで」 久「……は?」 咲「本人に聞いても適当にはぐらかされるし……みんな、何か知りませんか?」 和「……宮永さん……」 優希「咲ちゃん、それ本気か?」 咲「え? え?」 マホ「部外者の私でも、とっくに気付いてますよ……」 久「わかってないわね……じゃあ、教えてあげる」 久「須賀君はね、他の誰でもない……あなたに、勝ちたかった。それこそ、彼の本当の目標だったのよ」 咲「わ、私に……?」 まこ「ずっと前から、咲以外みんなわかってたぞ」 咲「……やっぱり……」 咲「やっぱり、悔しかったんでしょうか? こんなどんくさい私なんかに、全然勝てないってことが」 久「まぁ……それもあるかもしれないけどね。本命の理由は、そんなんじゃないわよ」 咲「え、じゃあ一体……」 優希「……咲ちゃん、さすがに酷いじぇ」 和「須賀君、かわいそうです……」 ムロ「お気の毒です、先輩……」 咲「え? え?」 まこ「……本当にわからんのか?」 久「やれやれ……一年経ってもこれじゃあ、まだまだ時間かかりそうね」 咲「お、教えてくださいよぉー!」 久「だぁーめ。それは似た者同士、自分で考えなさい」 昔から、決まってるじゃない。 男の子っていうのは。 好きな子の前じゃ、強くありたい、いいところを見せたいって思うものだって。 咏「……ふーん、いい顔するようになったじゃん、彼」 えり「確かに去年とは、だいぶ印象が違いますね」 健夜「うん。去年はただ勝利だけを求め、相手へのリスペクトなんて全く感じなかったけど……」 恒子「何かあったのかな?」 咏「だろうねぃ。それも、きっといいことがね」 えり「……そういえば彼、妙なんですよね」 咏「妙?」 えり「はい。県大会のデータを見ると、去年みたいな圧倒的な火力はないのですが……」 えり「どういうわけか、嶺上開花の和了率が高いままなんですよ」 恒子「高いって、どのくらい?」 えり「えぇ。彼が嶺上を引く時は……大体、3回に1回くらいは和了っています」 咏「確かに高いけど低っ!」 健夜「嶺上か……何だか、宮永さんみたいだね」 恒子「あ、確かに。長野ってところも同じだね」 咏「……もしかしたら、彼女に対して何か思うところがあったのかもしれないねぃ」 えり「思うこと?」 咏「うん。それが対抗心か、憧れか、はたまた別の感情かはわからないけど……」 咏「あんな風に戦いたい。あんな麻雀を打ちたい。そんな思いを、ずっと持ってたのかも」 健夜「……それが去年は、ヘルカイザーとして昇華することになったと?」 咏「わかんねーけど、今の彼、ずいぶんいい顔してるよ」 咏「それだけでも、あちら側の世界に足を踏み入れた価値はあったんだろうさ」 咏「……頭ごなしに彼を否定しちゃった私は、後で謝らないとねぃ」 健夜「……やっぱり若い子って凄いね。どんな道に進んでも、色々な未来がさらに広がってる」 健夜「もし、自分が間違った道に進んだって彼が思ってたとしても……きっと、後悔はしてないだろうね」 恒子「ほうほう、アラフォーらしい若い子に嫉妬した発言だね」 健夜「アラサーだよ! あと別に嫉妬してるわけじゃないよ!」 京太郎「……ふぅ……」 咲「……京ちゃん、お疲れ様」 京太郎「咲か。わざわざありがとうな」 咲「……残念だったね」 京太郎「いやぁ、あそこまでフルボッコにされると、かえって気持ちいいさ」 京太郎「もともと、ここに来れたこと自体が不思議なくらいだからな。それに、楽しかったし」 京太郎「ところで、みんなは?」 咲「いや、その……せ、せっかくだし、私だけ先に行ってこいって……」 咲(……こんなことまで、気を回してくれなくてもいいのに……) 京太郎「しかし、やっぱりなかなかうまくいかないな。どうしても嶺上で和了れるとか、ありえないって思っちまうし」 咲「あはは、まだまだ信じ切れてないのかな。無理に私の真似なんかしなくても……」 京太郎「咲の真似してるわけじゃないさ。ただ、ここぞって場面だといつも咲を感じるんだよ」 京太郎「そういう時は……嶺上牌も、いつも応えてくれるんだ。何せ、咲と一緒に打っているんだからな」 咲「……京ちゃん……」 京太郎「でも……欲を言えばやっぱりもう少し、カッコいいところを見せたかったな」 咲「……カッコよかったよ、十分すぎるくらい」 京太郎「ん……咲にそう言ってもらえるなら、おおいに価値ある一戦だったな」 咲「来年、また来ようよ。今度は、もっと強くなって」 京太郎「……そうだな。見てろ咲、完全に負けたって言わせるくらい強くなってやるから」 咲「……私、いっつも京ちゃんには負けてるよ……」 京太郎「え?」 咲「ううん、何でもない。みんなが待ってる、戻ろう」 京太郎「あぁ、そうだな」 京太郎「……なぁ、咲」 咲「何? 京ちゃん」 京太郎「今思えば、最初に俺が麻雀部に連れてきてプラマイ0を連発してた時から……」 京太郎「ずっと、魅せられてたんだなって思うよ」 咲「……私の麻雀、そんなに凄かったの?」 京太郎「麻雀も確かにそうだけど……本当に魅せられたのは、きっと……」 京太郎「……やっぱ教えてやんねー!」 咲「ええっ、何それ! そこまで言っておいて!」 咲「部長たちも、何だか肝心なところは言わないし……私だけ、のけ者にされてる気分だよ」 京太郎「ま、そのうち言う日が来るさ。いや、そうしなきゃ駄目だろうな。男として」 咲「何言ってるの?」 京太郎「……ま、今はまだこれでいいかな。でも、そのうち……な」 久「おかえり、須賀君」 和「お疲れ様でした」 まこ「惜しかったのう、京太郎」 優希「優しい私が、頭なでなでしてやるぞ犬!」 マホ「うっへっへ、お二人さんいい雰囲気で~いたたっ!」 ムロ「こら、マホ!」 「「ただいまっ!」」 END
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/685.html
魔法少女、これからも。(中編) ◆Vj6e1anjAc 先行したガジェットの軍団が、聖王のゆりかごへと向かっていって。 3人組の妹達が、それを追うように出撃して。 高町なのはとユーノ・スクライアの2人が、彼女らを迎え撃つために出てくる。 「聖王陛下サマは出てこないのね」 ドゥーエは脱出艇の操縦席につき、その光景を頬杖をつきながら眺めていた。 「出せないのよ。ゆりかごのシステムは、彼女の生命反応がなければ機能しないから」 「それもそうか」 どうやら敵はこちらの逮捕よりも、ゆりかごによる逃走を優先させるつもりらしい。 なるほど、あのボロボロな状態ならば、その方が賢明な判断か。 ウーノの返事を耳に入れながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。 その傍らで長女の五指は、せわしなくキーボードを叩いている。 戦況に応じてガジェットのAIを書き換え、戦術をリアルタイムで変更しているのだ。 さすがに何百何千という機体を動かすのは無理だそうだが、これくらいならばギリギリ許容範囲とのこと。 「……ま、せいぜい高見の見物でもさせてもらおうかしら」 言いながら、ドゥーエは両手を後頭部で組み合わせた。 今の彼女に仕事はない。せいぜいスカリエッティとのコンタクトを試し続けるくらいだ。 戦闘能力に乏しく、ウーノ程のスキルもない隠密型には、できることなどさしてないだろう。 今回の仕事は、プレシアを刺し殺しておしまいか。 そんな暢気なことを考えながら、未だ返事をよこさない、通信画面を見つめていた。 ◆ 「はあぁぁぁぁーっ!」 女の叫びが戦場を揺らす。 女の右手が風を切り裂く。 妖しく煌めく太刀筋が、緑色の軌跡を描いた。 轟――鳴り響くは破壊の咆哮。 刀身から放たれた莫大な妖気が、無数の敵機へと襲いかかる。 爆散。爆裂。そして爆砕。 まるで獣の軍勢だ。鉄の軍勢を噛み砕き、飲み込み蹂躙する剣の波動を、エースオブエースはそう評していた。 「IS発動、レイストーム」 「!」 上空より響く、声。 程なくして天から殺到するのは、雲霞のごときレーザーの束。 殺意を孕んだ光の嵐を、縫うようにしてかわしていく。 白衣の女が天に向けるは、腰だめに構えた漆黒の杖。 「ディバィィィーンッ――」 魔法の呪文を口にした。 桜花の光が杖に宿った。 己が身より湧き上がる奇跡の波動を、練り上げかき集め砲弾へと変える。 魔力スフィアの照り返しを受け、バリアジャケットを輝かせる姿は、さながら神話に謳われた女神か。 「バスタァァァァァ―――ッ!!」 それが奇跡の砲弾のトリガーだ。 チャージされた桃色の魔力が、叫びと共に解放される。 風を唸らせ、大気を焦がし。 伝説の龍のブレスのごとく。 膨大なエネルギーの奔流が、一条の光線となって発射された。 「っ……」 目標には、当たらず。 茶髪を短く切った戦闘機人には、しかし命中することなく。 敵の射撃をことごとく飲み込み、天上高く放たれたそれは、虚空を穿つのみに留まった。 「アクセルシューター!」 黒杖ルシフェリオンを振る動作に合わせ、魔力の宝珠が展開される。 逃げるターゲットを追いかけるべく、10発の誘導弾を連続発射。 反撃に放たれた緑の光雨は、自身がそうしたようにかわしていった。 しかし半数が避け切れず、空中で相殺・四散した。 そして残り半数も、横合いから飛んできたブーメランに、次々と叩き落とされていく。 「くっ……!」 そして今度は、右脇からの強襲だ。 弾丸のごとき速度で突っ込んでくるガジェットⅡ型を、右手の妖刀で叩き落とす。 両断された残骸は、しばし虚しく宙を舞い、彼女の背後で爆発した。 魔性の剛剣・爆砕牙を構え直し、女は態勢を立て直す。 「はぁ、はぁっ……」 微かに息を荒げながら、エースオブエース・高町なのはは、次なる敵機へと魔力弾を放った。 今の彼女の戦闘スタイルは、爆砕牙とルシフェリオンの二刀流だ。 そうでもして立ち回らなければ、とても手数が足りなかった。 恐らくフィールドから出たことで、能力制限から解き放たれたのだろう。 あのアルハザードを脱出してから、魔法の調子は元に戻っていた。 しかし、もはやその程度の条件では、余裕を取り戻すには至れないのだ。 日付が変わってからの6時間の中で、なのはは二度もの激戦を繰り広げていた。 呪われし魔剣を携えた、異世界の八神はやてとの苦闘。 最強の不死者を自負していた、コーカサスアンデッドとの死闘。 立て続けに行われた戦いは、なのはの魔力と体力を、極限まで奪い取っていたのだ。 (このままじゃジリ貧だ……!) 眼下のユーノを見やりながら。 焦りの冷や汗を浮かべながら。 放たれるガジェットのレーザーを、プロテクションの光で防いだ。 双剣の機人を相手取る彼も、どうにか防衛線を築いてはいるが、 恐らくは自分同様、かなり厳しい戦いを強いられているだろう。 疲労は鎖となって四肢に付きまとい、負傷は体力を五体から削ぎ落とす。 本来なら楽勝であるはずのガジェットとの戦いが、今はどうしようもなくキツい。 そこに3体ものナンバーズだ。勝算の有無は、火を見るよりも明らかだった。 「っ!?」 その瞬間、背後より襲いかかる気配。 反応した時には既に遅かった。 極限状態に追いつめられたなのはは、それほどまでに判断力を削られていた。 触手のごとく迫るのは、ガジェットⅠ型の真紅のコード。 総勢4機の鉄の機影が、純白の四肢へと絡みつく。 「くぅっ……!」」 無人兵器の金のモノアイが、視界の片隅でちかちかと光る。 ぎりぎりと込められる圧力が、女の手足の自由を奪う。 利き腕でない方の右手から、爆砕牙がすり抜けるようにして落ちた。 両手両足を縛られたなのはは、空中で大の字になって拘束されていた。 「なのは! うわっ……!」 「ユーノ君っ!」 眼下から響いてきた悲鳴に、弾かれたようにして視線を向ける。 地上を見れば、ガジェットの一斉砲火を喰らったユーノが、後方へと吹っ飛ばされる姿が目に移った。 そしてそこへと迫る追撃の影。 茶髪の少女の振り上げる双剣と、桃髪の女が構えるブーメラン。 このままでは彼が八つ裂きにされる――! 「っ……レイジングハート、ブラスタービット!」 首から提げた愛機へと号令。 同時に背後に顕現するのは、黄金に輝く4つの聖槍。 レイジングハートの穂先を模した、合計4基の機動砲台が、なのはの背中から一斉に放たれる。 斬――と触手を切り裂いたビットは、その勢いを保ったまま、ユーノの待つ地上へと飛び去った。 天を舞い地へと迫る様は、さながら宇宙より降り注ぐ金色の流星。 その先端より放たれるのは、彗星のごとく煌めく灼熱の砲火。 どん、どん、どん、どん。 連続して放たれた砲撃が、ディードとセッテの2人を牽制する。 《すまない、なのは》 敵が後ずさった隙に、態勢を立て直したユーノから、なのはの脳へと念話が届いた。 《どういたしまして。それより、ユーノ君……》 《うん、思った以上に消耗が響いてる……このままじゃじきに押し切られるよ》 聞くや否や、耳に飛び込んできたのは爆発音。 先ほど放ったブラスタービットが、オットーのレイストームに撃ち落とされたのだ。 ひび割れ傷ついたフォルムが、爆炎に呑まれ消えていく。 その様はまさに未来の暗示だ。金の装甲に映ったのは、なのは自身の顔だった。 《……ユーノ君。ほんの少しの間でいいから、敵の戦闘機人を一か所に留められる?》 故になのははそう切りだした。 これ以上戦闘を長引かせるわけにはいかない。 そうなれば我が身どころか、ヴィヴィオ諸共共倒れだ。 この身に限界が来る前に、勝負をつけなければならなかった。 この力が枯れ果てる前に、覚悟を決めなければならなかった。 《やってみせるよ。というか、ちょうど同じことを考えてたところだ》 《何だかんだ言って、考えることは一緒か》 《君の考えくらい分かるよ。お互い、付き合い長かったしね》 くすり、と互いに苦笑を向き合わせた。 こんな状況でも笑っていられるのは、暢気というか、何というか。 まぁそれでも、そんな気分になってしまうのも仕方ない。 今肩を並べて戦っているユーノは、異なる世界で生きてきた、それも4年も前の人間なのに。 それでも心が通じ合うというのが、何だかおかしく感じられて、何だか暖かく感じられたから。 《――ヴィヴィオ、聞こえる?》 さぁ、そろそろ始めよう。 そのためにはもう1つだけ、条件を満たす必要がある。 最後の準備を整えるべく、なのはは後方へと念話を飛ばした。 ◆ 「なのはママ……!」 聖王のゆりかご、玉座の間。 そこに1人残されたヴィヴィオは、苦闘を続ける魔導師の姿を、不安げな視線をもって見つめていた。 ぐ、と手のひらを握りしめる。 もどかしい。 もっと早くゆりかごが直れば、彼女達を回収して逃げることができるのに。 自分がここから離れられれば、飛び込んで共に戦うことができるのに。 誰も死なせないと決めた誓いを、今の自分は果たせずにいる。 事実は自責となって胸に刺さり、ヴィヴィオの心を苛んでいく。 だが、それももうすぐ終わりだ。既にゆりかごの自己修復は、残り20パーセントを切っている。 完全に修復が完了すれば、なのは達を助けに行ける―― 《――ヴィヴィオ、聞こえる?》 そこまで思考した、その瞬間。 外の光景が大映しになったモニターに、新たなウィンドウが表示された。 画面越しに伝わってくるのは、母なのはから届いた念話だ。 「ママ? どうしたの?」 一体何があったのだろうか。まさか、何か悪い知らせでもあるのだろうか。 嫌な予感を感じ取ったヴィヴィオは、おずおずとなのはに問いかける。 その様子は幼子そのものだ。 聖王モードと化したことで、大きく成長した姿には、ひどく不釣り合いな仕種だった。 《今、ゆりかごの修復率はどれくらい?》 「84パーセント……もうすぐ、また飛び立てるようになるよ」 《うん、ならいいんだ……いい、ヴィヴィオ? ゆりかごが飛べるようになったら、すぐにこの世界から離脱して》 「えっ……!?」 一瞬、耳を疑った。 目の前の顔が発した声を、言葉通りに受け止められなかった。 世界が反転したかのような。 天と地がひっくり返ったかのような、衝撃と虚脱感が襲いかかった。 何だ、それは? この人は一体何を言っているんだ? すぐにこの世界から離脱? 馬鹿な。そんなことができるものか。 それはつまり修理が終わったら、なのは達の帰還を待たず、即座に逃げろということじゃないか。 冗談じゃない。それじゃあ筋が通らないじゃないか。 みんなで帰ると決めたはずなのに、何故2人を見捨てなければならないのだ。 「なのはママ……それって、どういう……」 軽い放心状態の中、何とかそれだけを口にした。 《残念だけど、ママ達はもう帰れないの…… 今ここで私達が、ゆりかごに戻るために後退したら、そのまま敵に押し切られちゃう。 だから私達は、ヴィヴィオを無事に帰すために、敵を抑えておかなくちゃならない》 理屈で判断するのなら、なのはの言うことはもっともだ。 少しずつ減ってきてはいるが、それでもガジェットの数はまだ多い。戦闘機人に至っては、未だ3機とも健在だ。 浮上時の無防備なところを狙われれば、所詮レプリカにすぎないゆりかごは、あっという間に攻略されてしまうだろう。 「そんな……そんなの駄目だよっ!」 それでも、そんなものはあくまで理屈だ。 理屈と感情は全くの別物だ。 そんな事実を受け入れられるほど、ヴィヴィオは冷徹な人間ではなかった。 「ユーノさんや、なのはママを置いてくなんて……ママ達を守るって、決めたのにっ……!」 涙がぼろぼろと溢れ出す。 ルビーとエメラルドが水滴に滲む。 オッドアイの両目から、とめどなく雫が込み上げてきた。 もう少しで、手が届くのに。 もう少しで、助けに行けたのに。 それでも諦めなければならないのか。最愛の母を捨て置いて、自分1人だけで生き延びなければならないのか。 そんな残酷な結論を、貴方は私に迫るというのか――! 《――大丈夫》 刹那。 耳を打った、母の声。 今まで自分を支えてくれた、優しくも力強いエースの声。 今まで自分を愛してくれた、慈愛に満ちたなのはの声だ。 《ヴィヴィオは、私に言ってくれたよね。ひとりで立って歩けるって……私みたいに強くなるって》 画面に映った母の顔は、これまで見てきたどの顔よりも、優しく穏やかに笑っていた。 この戦乱の最中にありながら。 まるで戦闘などなかったかのように。 画面越しの高町なのはは、何度となく惹かれたその笑顔を、涙するヴィヴィオに向けている。 《だから私は、ヴィヴィオに“これから”を託せるの。 ひとりでも歩いていけるって……強く優しくなるって信じてるから、ヴィヴィオを送り出していけるんだよ》 生まれて初めて巡り会った、自分に優しくしてくれる人。 生まれて初めてこうなりたいと思えた、誰よりも強く立派な人。 生まれた時からずっとずっと、私を支えてくれたなのはママ。 生まれた時からずっとずっと、私を愛してくれたなのはママ。 《だからお願い。ヴィヴィオだけは生き延びて。 この事件に巻き込まれた、全ての人達が生きた証を、生きて帰って、みんなに伝えて。 きっとそれが私達の――生きた証になるはずだから》 ああ、ずるいなぁ。 そんな笑顔を向けられたら、断るに断れなくなってしまう。 もうどんな反論も無駄なのだと、思い知らされてしまうじゃないか。 「……うん……」 高町なのはの最大の強さは、圧倒的な大火力でも、堅牢無比の防御力でもない。 自分がこうと決めたなら、最後までその道を貫き通す、決して折れない不屈の心だ。 そのなのはママが心に決めた想いを、誰かに止められるはずもない。 そのなのはママが心に抱いた願いを、誰かが止めていいはずもない。 「約束するよ……必ず、生きてミッドチルダに帰るって……みんなが生きてきた証は……絶対に無駄にしないって」 改めて、誓いを口にした。 貫き通すと決めた想いを、声に出して宣言した。 それが高町なのはにとって、せめてもの救いとなるのなら。 それが高町なのはにとって、一番の報いになるのなら。 《ありがとう――》 最高の笑顔をその顔に浮かべて、ヴィヴィオの愛したなのはママは、モニターの上から姿を消した。 ◆ 願いは伝えた。 想いは届けた。 これでいい。思い残すことはなくなった。 これでもう何も怖くない。 どんな戦いであろうとも、迷うことなく飛び込んでいける。 たとえこの身体が朽ち果てようとも、一切の後悔を抱くことなく、この身を捧げることができる。 この身がこの地に眠っても、その魂は死ぬことはなく。 受け継いだあの子が生きる限り、永遠に生き続けるだろう。 《……いくよ、なのは》 ああ、なんてことだろう。 今にも死んでしまいそうなほど、身体中が軋んでいるのに。 命を投げ出すような作戦に、身を投げ込もうとしているのに。 この殺し合いで多くを喪ったあの子の背中に、自分の死すらも背負わせようとしているというのに。 《うん》 私は今――この上なく幸せに感じてしまっているのだ。 ◆ (何をする気なんだ、あれは?) 内心でオットーが訝しがる。 高町なのはが奇妙な行動に出たのは、ちょうどこの瞬間だった。 これまで戦闘行動を続けていた、白いバリアジャケットの魔導師が、突如高度を上げ始めたのだ。 高く、ただ高く。 上へ、上へと飛んでいく。 ちょうど今まさに彼女と戦っていた自分の、およそ倍の高度まで上がったところで、彼女は静かに停止した。 分かっているはずだ。 そんな高度に敵はいないということも。 そんなことに意味はないということも。 ならば何故、そこまで飛ぶ? ゆりかごを守らなければならないこの状況で、何故戦場からわざわざ遠ざかる必要がある? 《まずいわね……彼女、集束砲のチャージを始めるつもりだわ》 その疑問は即座に氷解した。 己が身体に組み込まれた無線に、ウーノが通信を入れてきたからだ。 なるほど確かに、それならばあの行動にも合点がいく。 強力な魔法のチャージを行う際、その術者は完全に無防備になる。 敵の攻撃を逃れるために、射程外へ退避したというのなら、合理的だと言えるだろう。 《撃ち落としなさい。あれを撃たせては駄目よ》 言われるまでもない。 恐らく敵はこの一撃で、一気にケリをつけるつもりなのだろう。 もちろん、既に敵は虫の息だ。普通なら警戒する程の相手ではない。 しかし不屈のエースオブエースは、普通の範疇に収まる相手ではないのだ。 たとえ満身創痍の身体でも、あの集束魔法を撃たれれば、こちらもただではすまなくなる。 そうなるのは真っ平御免だった。故にレイストームの照準を、天上のなのはへと合わせた。 びゅん、と。 両脇から2つの影が飛び出す。 ツインブレイズを携えたディードと、ブーメランブレードを構えたセッテが、ターゲット目掛けて上昇する。 そちらの思うようにはさせない。 むしろ我々3姉妹の手で、逆に高町なのはに終止符を打ってやる。 「――ぐぅっ!?」 刹那。 ぐっ、と何かが食い込むのを感じた。 弾幕を放とうとした自分の身を、何物かが強固に圧迫する感触を覚えた。 これは一体何なのだ。攻撃を止めたのは一体何だ。 己が身体を見下ろした先には、緑の光を放つ魔力の鎖。 「ぅっ……!」 「ガ……ッ!」 うめき声が近づいてくる。 近づいたと思えば遠ざかる。 頭上へ飛んでいったはずのディード達が、眼下へ落ちていくのを感じた。 そして自分自身もまた、地上へと急速に手繰り寄せられていった。 「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーっ!」 風圧の中で耳にしたのは、ユーノ・スクライアの放つ雄叫び。 緑の鎖の正体は、彼の魔力によって形成された、拘束魔法・チェーンバインド。 魔道の枷を嵌められた身体は、懸命な抵抗も虚しく地に堕ちる。 ウーノやドゥーエの待つ脱出艇へと、身体が勢いよく放り出される。 《そんな……一体どこに、あれほどの力が……!?》 驚愕も露わなウーノの声が聞こえた。 それはオットー自身も感じた驚愕だ。 「逃がす、ものかぁぁぁぁっ!」 何故あの男はこうまでやれる。 とうに魔力の尽きかけた男が、何故こうまで強力なバインドを発動できる。 考えられる可能性があるなら、それは火事場の馬鹿力。 自身の生存を度外視し、生命維持に必要なエネルギーさえも、根こそぎ発揮したが故の力。 こいつはそれほどの覚悟なのか。 それほどまでに思い詰めて、これだけの力を発揮したのか。 「くっ……!」 避けられない。 身動きがまるでとれやしない。 このままではあの一撃を喰らってしまう。 このまま反撃ができなければ、高町なのはの本気の一撃を、まともにこの身に浴びてしまう。 エースオブエースの必殺技が――集束魔法の一撃が、来る! ◆ 「風は空に、星は天に――」 ぽぅ、と輝く光があった。 空に瞬く小さな光が、1つまた1つと浮かんでいった。 夜空に煌めく星々のように、淡い光が天に浮かんで。 夜空を駆ける流星のように、桜の光が天を走って。 されど今は夜ではない。光の浮かぶ空は青く、天頂に座しているのは太陽だ。 なればこそ、蒼天に煌めく星々は、自然の放つ煌めきではなく。 「――不屈の心は、この胸に」 人の想いが手繰り寄せた、魔道の輝きに他ならなかった。 円環をなすテンプレートが、天上を駆け廻り形を生む。 青一色の大空へと、桜色のラインが刻まれていく。 その円の中心にて脈動するのは、より強く大きな魔力の結晶。 人が己の身より湧き立たせ、形を成した奇跡の力――超特大の魔力スフィアだ。 光は全てを飲み込んでいく。 暗黒のブラックホールのように、全ての光を取り込んでいく。 高町なのはが繰り出した、幾多の攻撃魔法の桃の光も。 ユーノ・スクライアが繰り出した、数多の防御魔法の緑の光も。 この地の大気に漂っていた、様々な色の光でさえも。 がしゃん、がしゃんと響く音。 漆黒の杖に備えられた、カートリッジシステムの駆動音。 鋼の弾丸に封じられた魔力が、コッキング音と共に解放される。 この身の魔力は僅かしかない。一撃で勝負を決するためには、限界までエネルギーを取り込まねばならない。 デイパックの中に貯め込んでいた、予備のカートリッジさえもロード。 10発、20発と装填した弾丸が、己が身に魔力を注ぎ込んでいく。 「――――――っ」 同時に五体を襲うのは、苦痛。 このルシフェリオンに備わった機能が、見た目通りのものであるなら。 10年前のレイジングハートと、寸分たがわぬ構造であるのなら。 当時未成熟であったカートリッジ・システムは、術者の身体にも負担を強いる、諸刃の剣でもあるはずだった。 数発ロードするだけでも、相当な苦痛を強いるものを、既に2桁も使っているのだ。 その身にはね返る反動は、10年前の比ではなかった。 狙いを定めようとするだけで、全身の関節が砕けそうになる。 身体中の穴という穴から、鮮血がどくどくと溢れ出てくる。 目の前は霞み、意識は揺らぎ、もはや足元すらもおぼつかず、地へと墜ちてしまいそうになる。 それでも。 だとしても。 構うものか、と杖を握った。 負けるものかと己を鼓舞した。 どうせこの身はここで朽ちる。この一撃を放てば最期、高町なのはの肉体は、永遠に失われることになる。 ならば、何を気にすることがあろうか。 何を恐れることがあろうか。 どうせ中途半端に痛むくらいなら、地獄の苦痛を味わってもいい。 不発に終わるくらいなら、全力全開の覚悟で臨む。 痛みと苦しみに震える手を、確固たる意志で構えさせた。 血の涙が流れる双眸を、不屈の心で見開かせた。 持てる力の全てを込めて、狙うべき標的を確かに見定め、脈動するスフィアを地へと向けた。 轟――と。 耳に入った爆音は、自身の放ったものではない。 遥か眼下に身を横たえた、聖王のゆりかごの船体が、再び浮上を開始したのだ。 まったく、妙にちょうどいいタイミングで浮き上がるものだ。 ほんの少し、苦笑が漏れた。 ならばそれも悪くない。 この命の最期の一花を、愛娘に見せつけてやるのも悪くない。 ああ、そうだ。そうしよう。 これから放つ一撃を、彼女への餞別に捧げよう。 この命の全てを燃やし尽くし、盛大な花火で見送ってやろう。 それが母親としてしてやれる、最期のことであるならば。 エースオブエースと謳われた己の、持てる力と誇りの全てを、この一撃に注ぎ込んでやる。 「受けてみて」 デバイスの非殺傷モードを解除。 ありとあらゆるリミッターを解放し、星の光を最大限に高める。 殺さずに捕えるという選択肢は、既に存在していなかった。 眼下に拘束された者達は、どの道ミッドチルダへ連れて行くことはできない。 余計な手心を加えていては、確実にヴィヴィオを守りきることはできないかもしれない。 故に、一切の手加減はできない。彼女達には悪いとは思うが、目の前の標的は、ここで消す。 長きに渡る戦いの果てに、最後にたどりついたのは。 死と殺戮のゲームの中で、力強く否定し続けてきたはずの、殺意という名の意識だった。 「正真正銘――」 それでも、それを悔やむつもりはない。 後悔なんてあるはずがない。 自分自身で選んだ道だ。 他の誰でもない自分が選び、自分の手足で道を進み、自分の意志で示した選択肢だ。 殺人の業は自分で背負う。 自分で決めたことならば、自分で受け止めることができる。 だから、この手を止めはしない。 決して歩みを止めることなく、自分の道を貫いてみせる。 「――これが最後の、全力全開!」 魔法の杖を高々と掲げた。 決意の言葉を高らかに叫んだ。 大気をも震わす桜花の光は、自身が最も頼りとする超新星の煌めき。 管理局最強のエースとまで呼ばれた、高町なのはが思い描く、何物にも敗れぬ最強のイメージ。 この身に宿す力を。 この身が描く奇跡を。 今、万感の想いと共に。 揺らぐことなく駆け抜けた、不屈の誓いの名の下に。 これが高町なのはの放つ、一世一代の輝きだ――! 「スターライトォォォ―――ブレイカアアァァァァァァァァ―――――――――ッッッ!!!」 奇跡の名前を口にした。 それが最後のトリガーだった。 煌々と輝く極星は、引き金を引かれた弾丸は、遂に地上へと発射された。 極限まで練り上げられた集束砲は、その軌道を微塵もぶれさせることなく、鮮やかな直線を描いて降下する。 仮に彼方から見た者がいれば、それは美しき彗星として、その者の瞳に映るだろう。 されどそこに込められた破壊力は、彗星と呼ぶにはあまりにも苛烈。 目の前の大気の壁はぶち破った。 目の前に漂う空気は焼き焦がした。 必倒? 必殺? もはや必滅の領域だろうか。 全天全地、三千世界の果てまでも、万象一切を滅ぼさんばかりの一撃は、さながら新星の大爆発。 熾烈、激烈、そして猛烈。 いかな形容詞を並べようとも、その本質には届かない。 いかに言葉で言い表そうとも、その真実には至らない。 宇宙創成の瞬間を、誰も見たことがないように。 天地創造の大爆発を、誰も言い表すことができないように。 道理の通らぬことが起きた時、人はそれを奇跡と呼ぶ。 道理を捻じ曲げてみせるからこそ、奇跡は奇跡として存在たりえる。 故に幾千万の奇跡を束ね、一条の光へとまとめた波動は、 地表へと着弾した瞬間、容易く世界の法則を捻じ曲げた。 雲ひとつないサバンナの大地に、巻き起こったのは熱風の嵐。 弾丸につきまとった衝撃波が、地表を舐め回し駆け廻り、獰猛な竜巻を形成する。 サイクロンをなす熱風は、その場に在った一切を、瞬きの間に蒸発させた。 無様に大地に横たわった、半壊状態の脱出艇も。 血と肉と鋼を元に構成された、一騎当千の超人達も。 超人達をも抑え込んでいた、魔性に輝く緑の鎖も。 死を前に微笑みさえ浮かべていた、盾と結界を操る魔導師すらも。 そこに善悪の区別はなく、有象無象の容赦もなく。 全てが平等に公平に、極大の奇跡へと飲み込まれ、存在を無為へと掻き消されていく。 どん、と爆発音が続いた。 最初に悲鳴を上げたのは、ナンバーズの脱出艇の動力だ。 スラスター周辺の故障により、容易く魔力の侵入を許したそれは、なす術もなく爆炎によじれた。 続いて炸裂したものは、彼女らが運んでいた積み荷だ。 プレシア・テスタロッサの研究成果には、当然ロストロギアの現物も存在する。 言うなれば火事に晒されたダイナマイト。 それが途方もないほどに、規模を拡大させたと考えればいい。 アルハザードの技術によって、大量の魔力を蓄えた遺失物は、次々と大爆発を起こし消えた。 激突が衝撃を巻き起こし。 衝撃が新たな衝撃を呼ぶ。 大地をめくり、岩盤を削り。 無間地獄をも連想させる破壊の連鎖は、戦場一帯を丸々呑み込み、世界に巨大な風穴を開けた。 見る者の網膜を、聞く者の鼓膜をも焼き切らんばかりの大爆発は、 この文明なき辺境の世界に、深々とクレーターを刻んだのだった。 目を覆いたくなるほどのカラミティが過ぎ去り。 耳を疑いたくなるほどの静寂が訪れ。 ぱらぱらと虚空を舞う桃色の残滓と、もうもうと立ち込める灰色の煙のみが、世界の全てを支配した頃。 純白の装束に身を包んだ天使が、ゆっくりと戦場跡へ墜ちていった。 ふわり、ふわりと風を掴み。 重力が衰えたかのような緩慢さで。 まるで桜の花びらのような、光の群れに包まれて。 ぼろぼろに引き裂けた戦装束を、翼のように羽ばたかせながら、魔導師の成れの果てが地に墜ちていく。 もう、何も残っていない。 自らが生み出した弾丸は、自らの身体の力の全てを、根こそぎ奪い取ってしまった。 天を掴む羽は実体を失い。 地を貫く杖は身を砕かれた。 もはや生きているのかどうかさえも、曖昧となった搾り滓が、ゆっくりと焦土へと向かっていく。 「……なのはママァァァァァァァ―――っ!!!」 聞こえるはずのない声が、彼女の耳に届いた気がした。 墜ちていく魔法使いの顔に、笑みが浮かんでいたような気がした。 ◆ 「やーれやれ、結局今回は出番なしか……」 退屈そうな女の声が、薄暗い部屋にこだまする。 無人となった時の庭園の、プレシア・テスタロッサの部屋。 誰もいないはずのその部屋で、1人のうら若い女性が、大魔導師の椅子に腰かけていた。 「邪悪な魔女と化学者は、正義の味方に退治され、悪夢のゲームはめでたくおしまい…… ……何となく嫌な予感はしてたから、元々目立たないようにはしてたんだけどねぇ」 ぐわん、とリクライニングを傾けながら、右手を高々と掲げる。 外見年齢の割には大人げない仕種で、手に握った携帯端末をいじり回す。 左肩に刻み込まれた、藍色の羽の刺青が、妙に印象に残る女だった。 「ま、異世界の技術が手に入っただけでも、収穫とさせてもらいますかね」 言いながら、ひょいっ、と席を立った。 背もたれを倒し寝そべっていた身体を、飛び跳ねるようにして軽やかに起こす。 かつりと漆黒のブーツを鳴らして、女は出口へ向かって歩いていった。 「それにこれだけの小説があれば、しばらく暇潰しには困らないだろうし」 にっかと笑って見つめたものは、右手に持った携帯端末。 『CROSS-NANOHA』――表示されたアルファベットは、キングの携帯電話に登録されたサイトと、全く同じ名前だった。 違うところを挙げるならば、そこに蓄えられた蔵書量か。 プレシアが観測者の世界と評した世界――そこに存在するオリジナルのサイトと、 寸分たがわぬ量のテキストが、彼女の端末には保存されていた。 この実験における女の貢献度は、あのジェイル・スカリエッティに比べればあまりにも低い。 せいぜい強固な首輪を作るために、自分達の特異体質のデータを、プレシアに与えてやったくらいだ。 当然、大した見返りを望める立場ではない。 だからこそ彼女は、プレシアにとって価値が薄そうで、なおかつ自分にとっては楽しめるもの――この小説を報酬として所望した。 これが見事に大当たりだったのは、僥倖としか言いようがない。 管理局の英雄達や、異世界のヒーロー達の活躍を、様々な解釈・見地から楽しむことができるのだ。 史実通りとまでは行かずとも、アクション小説・時代劇小説としては、十分に楽しめるものだった。 「さってと! みんなも待たせちゃってるし、そろそろ元の世界に帰りましょうか」 ぱたん、と携帯端末を閉じる。 ぷしゅ、と自動ドアを開く。 黒ずくめの衣装を翻し、硬質なブーツの足音を鳴らして。 藍の羽のタトゥーを持った、プレシア・テスタロッサの最後の協力者は、誰にも知られることなく庭園を去った。 「これにてバトルロワイアルは終了。 フッケバインの大親分――カレン・フッケバイン姉さんは、本業に戻らせてもらいますよ、っと」 ◆ Back 魔法少女、これからも。(前編) 時系列順で読む Next 魔法少女、これからも。(後編) 投下順で読む 高町なのは(StS) ユーノ・スクライア ヴィヴィオ ウーノ ドゥーエ セッテ オットー ディード
https://w.atwiki.jp/gone0106/pages/132.html
第六十四話 これが俺の十倍返しだッ!! 投稿者:兄貴 投稿日:09/02/26-22 37 No.3856 湖に浮かぶ二体の巨人。 その荒々しい成り立ちだが、今この瞬間は静寂が続いている。 互いに様子を見合っているのかは分からないが、ド派手なロボット対決かと思いきや、辺りに緊迫した空気が流れる。 あれほど騒いでいた生徒達も、向かい合う両雄から醸し出される空気に当てられて、今は黙って見守っている。 その静寂を先に破ったのはシモンだった。 シモンはラガンのスピーカーから、茶々丸に向けて語りかける。 『茶々丸、覚えているか? あの時も夜だった』 通信機の回線からシモンは話し掛けるが、相変わらず茶々丸の返事は無い。しかしそれでもシモンは話し続ける。 『俺が初めてこの世界に来た日・・・その夜に俺達は出会い、そして戦った』 忘れるはずは無い。 あの満月の日の夜。シャークティたちと出会った日、シモンは桜並木の通りで夜空に浮かぶ吸血鬼とガイノイドと遭遇し、戦った。 そしてそれが魔法との出会いだった。 『この世界での最後の夜に最後の相手がお前なんてな、奇妙な縁じゃねえか』 この世界での戦いの歴史は茶々丸から始まった。たしかに奇妙な縁だった。シモンは思わず笑ってしまう。 『昨日の夜の約束どおり、最後までやるぜ!!』 だが、茶々丸は何も返してこない。それが今の彼女だと思うと寂しくなるが、こうして向かい合うことになったのだ、 やることは一つ。 『シモンさん、・・・準備はいいカ?』 『ああ、いくぜ!!』 超とシモンは操縦桿を握りグレンラガンを走らせる。 感知したモドキも向かって走り出す。 再び両者が拳を繰り出す。今度は互いの拳同士がぶつかり合った。 伸ばした拳をしまうと同時に両者はもう片方の拳をまたもや突き出した。 『威力・・・互角・・・更ナル魔力強化』 魔力で強化されている拳にグレンラガンの拳はまったく引けを取っていない。しかしその威力を目の当たりにしても茶々丸は相変わらず冷静に巨大ロボットに指令を送る。 『強化強化、芸が無ぇんだよ! 本物の力は強化される物じゃねえ、湧き上がるものだ!!』 『回避スピードアップ、超絶魔力光弾充電』 『シモンさん、レーザー砲が飛んでくるヨ』 グレンラガンから距離を置き、モドキは胴体のグレンモドキの口からレーザー砲を放つ。するとグレンラガンは背中のブースターと胸のサングラスを取り外した。 『面倒だ! 正面から破壊するぞ!』 『命令カ?』 『命令じゃなくて、提案だ』 『だったら異議なし!!』 ブースターとサングラスを重ね合わせてグレンラガンは思いっきり投げつける。 『『ダブルブーメラン・スパイラル!!』』 『超絶魔力光弾射出!!』 ブースターが火を噴きブーメランが大加速し、巨大なレーザー砲に正面からぶつかり、切り裂いていく。 そして一直線にモドキに飛んでいく。 『威力計算、速度、回避不可能。絶対防御システム起動』 しかし茶々丸の操縦技術も伊達ではない。交わせないと分かると、瞬時に機体から無数のドリルを伸ばす。 フルドリライズである。 『またそれか!』 『シモンさん、ブーメランが弾かれるヨ』 フルドリライズのドリルを高速回転して生み出した竜巻の防御の風がモドキを守り、加速したブーメランを弾き飛ばす。 だが一度見た技に驚くことはしない。 弾かれたブーメランを空中でキャッチして、グレンラガンは竜巻に正面から突っ込んでいく。だがそこで超が何かを感知した。 『シモンさん、竜巻の中に何かが光っている! 無闇に突っ込むのは危険ネ!』 『なに?』 超の警告でグレンラガンを一旦止める。 するとモドキは竜巻を止めて姿を現し、シモンと超を驚かせた。 モドキの周りには螺旋の形をした魔力のミサイルが無数にこちらを向いているのである。 竜巻に隠れていたために、モドキが攻撃を溜めていたことに気付かなかった。 『超絶穿孔ドリル弾・連続射出!!』 『まずいヨ、あの数は!?』 世界樹から無限に近い魔力を補充するモドキは魔力を溜めてからの攻撃が異常に早かった。 そして射出されたミサイルが周囲360度全てを囲んだ。 一発一発が相当な破壊力を持っているはずである。全弾喰らえばグレンラガンとはいえ保障は出来ない。 すると慌てる超はグレンラガン全体に行き渡る温かく、力強い光を感じた。 それはシモンの螺旋力だった。シモンが膨大な螺旋力を溜めて何かをしようとしている。 『茶々丸、こういう技があるのも覚えておけよ!!』 迫り来るミサイルの雨の中、シモンは叫びながら操縦桿を前に押し倒す。 するとグレンラガンがフルドリライズ形態になり、そこで止まらずに、フルドリライズのドリルの一本一本が、ギガドリルの大きさに進化した。 『ギガドリル・マキシマム!!!』 『!?』 『うおお、これはスゴイネ!!』 大爆発が起こった。 それは世界の終焉を思わせるほどの爆音と衝撃を生み出していた。 『ぬうう、これは・・・・』 『うろたえるな超! テメエの夢見たコイツは、この程度の爆発なんて物ともしない!!』 もはやこの戦いに近づく者など居ない。 少し離れた世界樹の広場に居ても、その威力が伝わってくるほどなのである。 『ふう、ふう、・・・』 『流石シモンさんネ、まさかあれを無傷で乗り切るとは』 しかし爆炎が晴れて、無数のギガドリルに包まれたグレンラガンは無傷で現れた。 その光景を黙ってみていることなど出来はしない。 「す・・・・・」 「スゲー・・・・・」 一人、また一人とポツポツと目の前の光景に呟いていく。 「ねえ、・・・シモンさんも、超りんも・・・それに茶々丸さんも、あんなノリのいい人だったの?」 「これって・・・エキジビションみたいなものかな・・・?」 「いや・・・もう細かいことは抜きにしてさ・・・とにかく・・・」 「ウン・・・・」 世界樹広場から眺める裕奈、美砂、円、桜子たちはしばらくは呆然としていたものの、次の瞬間周りの生徒達と同時にとにかく叫んだ。 「「「「「「スゲええーーーーー!!!」」」」」」 「生きてて良かった!!」 「感動をありがとう!!」 イベントなのか本物なのかはどうでもよかった。一人一人がこの際細かいことを抜きにして、目の前の熱戦に大声を上げる。 超もその光景をグレンのコクピットから眺めて、気分が良かった。 『まったく、やはりここは特等席ネ!』 『それは何よりだ! はあ、はあ、・・・ところで超』 『?』 その姿に超が感心すると、通信から息を切らしたシモンが思わぬ言葉を告げる。 『ふ~う、少し疲れた。しばらく休むから交代してくれ』 『はあ!?』 するとモニターに映るシモンは操縦桿から手を離して座席に深く座り直した。どうやら本当に休む気である。 『ちょっ、シモンさん!? 交代するといっても、どうすればいいネ!?』 慌てふためく超、しかしその間にもグレンラガンを感知したモドキは迫ってくる。 すると突然グレンのコクピットに貫かれているラガンのドリルが口を開き、中から滑り台のようにして、上からブータが落ちてきて超の膝に座った。 『ブータ、何を・・・』 「ブミュウゥゥ!!!」 『なっ、これは・・・・』 突如ラガンのコクピットからやって来たブータは、超の膝の上で螺旋力を解放する。そしてブータの螺旋力が超を包み、グレンラガンをも包み込んだ。 『超、・・・俺が休んでいる間、この時だけはグレンラガンはお前の物だ! 好きなようにしろ!』 聞こえるシモンの声に超はまた興奮した。 『まったく・・・しかしブータ、感謝するヨ! これで百人力ネ!!!』 シモンの言葉に甘えて超はグレンラガンを己の手足のように動かしていく。 そう、この時だけは彼女だけの時間だった。 『茶々丸、スマナイ・・・私の意地のためにお前をこんな目に合わせてしまった・・・・』 『ターゲット・・・機体内デ静止中・・・操縦者変更・・・』 『相変わらずお前はシモンさんが目的カ? それは私の指令・・・それとも茶々丸の意思なのカ? だが・・・済まないが・・・もう少し付き合って欲しい!』 それは残酷な光景かもしれない。 自分が作り出した茶々丸と、偽りのグレンラガンが、生みの親である自分に向かってくる。 だが、超は自身の生み出した二人に一度謝ってから、前を向く。 超が己のやりたいようにグレンラガンを操作する。 しかし茶々丸も反応する。 奇しくも二人が選んだのは同じ行動だった。 『『グレンブーメラン!!』』 ブーメランの刃で互いに斬りかかり、鍔迫り合いになる。 その巨大さと威力のぶつかり合いに火花が飛び散るほどだった。 『流石ネ! しかし・・・・』 『敵機ノ武器・・・破壊シマス』 一度間合いを取り、再びモドキが斬り掛かって来る。しかし超が動かすグレンラガンは飛んだ。 そしてロボットらしからぬ柔軟な動きで跳び蹴りを炸裂させる。 『私を誰だと思ってやがるキック!!』 『グッ!?』 蹴りを真正面から受けたモドキ。しかし即座に立ち上がり、再びブーメランで襲い掛かる。 だが、 『少し痛いが我慢するネ!!』 超が操縦桿を強く握り締めてコクピット内で手を振り上げる。その動作と想いがグレンラガンに伝わったのか、グレンラガンの拳となって繰り出される。 そしてグレンラガンの拳から二本のドリルが突き出して、モドキのブーメランを受け止める。 だが受け止めただけではない。 高速回転しだした二本のドリルがモドキのブーメランを粉々に砕いた。 『!? 武器・・・破損・・・修復作業・・・』 粉々に砕かれた武器に対して、僅かに茶々丸の表情に変化が見られた気がした。だが、すぐに元の機械の表情に戻り、魔力を流して壊された武器を修復しようとする。 『させないヨ!!』 グレンラガンが拳のドリルを出したまま、走り出す。そしてその拳のドリルが、障壁も、モドキの機体も貫いていく。 『機体損壊・・・貫通ダメージ・・・』 『状況把握する暇あるなら、その目で少しでも前を見るネ!!』 突き刺したドリルが高速回転し、モドキの機体内から竜巻を起こして、機体を内部から抉り取っていく。 『スカルブレイク!!』 『ブースター出力最大! 緊急離脱!』 だが茶々丸はそこから最善の対処法で、ギリギリの所で逃れる。背中のブースターに火を吹かせて、突き刺さったドリルから強引に逃げ出した。 『やるじゃないか、お前も・・・茶々丸も・・・そしてお前の作った過去の夢もな・・・』 『当然ヨ、私を誰だと思っているネ?』 『はは、たしかにな』 本物相手に茶々丸もモドキも粘っている。だが徐々に握り締めた拳の中にあるものの差が見られてくる。 そして、 『理解不能・・・』 モドキのスピーカから声が漏れた。それは紛れも無く茶々丸の言葉である。機体への指令以外で彼女が初めて言葉を発した。 『茶々丸!? 意識が戻ったのか!?』 『いや、まだヨ。しかし私の作ったメカの魔力による修繕の力も無限ではない。機体自体が徐々に魔力の力に耐えられなくなっている。そのお陰で、茶々丸の自我が少し戻ったネ」 強力な魔力を吸収しすぎないようにリミッターまで取り付けたのである。それを解放すればたしかに一時的な力を得られるものの、その力に機体はいつまでも耐えられることは無い。 気付けばモドキの機体は超が付けた傷も僅かに残り、完全には修復されないでいる。 『気合・・・以前ニモ検索履歴アリ・・・シカシ明確ナ答エハナシ・・・』 それは初めてシモンと戦った次の日。気合が無いと言われた茶々丸は気合について考えた。「気合」というものをプログラム出来ないかとハカセにも聞いた。 だが、それが叶うことは無かった。 『気合トイウ付加価値ガ勝率モ計算モ狂ワセル。気合トイウプログラムガ無イ限リ・・・勝機ハ・・・』 それは見ようによっては冷静に状況判断をしようとしているロボットに見える。しかしシモンにも、超にも、溢れ出す言葉から、茶々丸の漏れ出した感情を僅かに感じ取った。 だからシモンは語りかける。 『茶々丸、あれから俺達は何度も会った。そして修学旅行ではお前と背中を合わせて戦った』 シモンと茶々丸はネギたちの道を作るために100を越える鬼を相手に共闘した。 『最初会った時に、俺はお前に気合がないって言った。でも鬼と戦ったときのお前は限界ギリギリまで力を出して戦った。あの時俺はお前の中にある気合を感じた』 命令ではなく、己の身を省みずに彼女は戦った。一度は拳を交え、共に戦ったからこそ、シモンは茶々丸をよく理解しているつもりだった。 『気合ってのは、無いから付け足すって言うモノじゃない。人間だからあるってモノでも、機械だから無いってモノじゃないと思う。グレンラガンがその証拠だ』 自分達の気合をいつだって具現化したグレンラガン、だったら機械に気合があってもいいとシモンは思っている。 『俺はお前の気合を知っている。そこから引きずり出して、思い出させてやる!!』 その瞬間、コクピット内の螺旋ゲージのメーターが振り切れた。 シモンの気合が最高潮に達する。 『超・・・決めるぞ・・・いいな?』 シモンは超に最後の確認をした。 目の前の偽者に風穴を開ける。しかし偽りといっても、超が目の前の物を作っていた時の気持ちは、紛れも無く本物だった。 その詰まった過去の夢を打ち砕くのだ。 すると超は小さく笑いながら頷いた。 『もう、夢は十分見させてもらったよ。そしてこれのお陰で本物と出会うことが出来た・・・、友を救い、・・・そろそろ昔の夢とも見切りをつけて・・・私も・・・明日へ向かうヨ』 過去を変えようとしていた超の告げた「明日」、その言葉からシモンは超の覚悟を感じた。 『分かったよ、超。お前の明日に連れて行ってやるって言ったのは俺の方だ。だから・・・一緒に行くぞ!!』 『心得た!!』 超とシモンが同時に動き出した。するとグレンラガンの腕には巨大なドリルが現れた。 『そして超、お前も忘れるな! たしかに俺はお前の世界にはいない。でも・・・仲直りした俺たちは、もう敵じゃない・・・』 『・・・ウム』 『たとえ時代と次元の違いがあっても、今ここに居る俺は・・・お前の味方だ!』 グレンラガンは唸る。 それはもはや説明不要。 幾多の強敵と困難を突き破ってきた本家本元のあの技である。 『私ノ・・・使命ハ変ワラナイ・・・』 だが茶々丸はその技に正面から向かってくるようである。 『魔力最高値、超絶ギガドリルブレイク、スタンバイ』 魔力の渦がモドキの機体を覆い尽くしていく。 そしてその渦が次第に螺旋状へと変わって行き、モドキを覆った魔力自体が巨大なドリルと変わった。 機体がその力に耐え切れずに徐々にヒビが入っていくが、それを構うことなく茶々丸は技を発動させる。 それは最早真似でも、パクリでもない、一つの技として完成していた。 紛れも無く、超の作った偽りのグレンラガンも、茶々丸の腕も進化していた。 その膨大な魔力から危機を感じ取った学園長。だが、行く手をエヴァに阻まれた。 「むっ、これはマズイぞい!」 「手を出すな、・・・心配無用だ。奴らを誰だと思っている」 ネギたちも遠く離れた場所で見守っている。 「シモンさん、超さん・・・茶々丸さん」 「何と巨大な・・・」 「でも・・・あの人達が・・・このまま終わるはずが無いよ!」 「せやな、負けるはずが無い!」 告げる言葉に偽りは無い。瞳が全く揺らいでいない。 新生大グレン団も、ヨーコも、美空達も、信じている。 『なんと・・・悲しい力・・・中身がスカスカに見えるヨ・・・』 『威力も大きさも、パイロットの腕も満たされている・・・だけど・・・グレンラガンに一番必要な物が足りなかったな・・・』 『気合・・・あれほど否定した物が勝敗を分けるとは、やっぱり皮肉なものネ』 巨大な魔力で練り上げたギガドリルを前にしても、超もシモンも驚かない。むしろ切なそうに眺めていた。 気合という言葉の重要性を、超は本物を知ったことにより、ようやく理解した。 『限界値、超絶ギガドリルブレイク発動!!』 巨大な螺旋の渦が、矛先をこちらに向けて飛び込んでくる。 『シモンさん、アナタが私の味方なら・・・どんな理由にせよ、今は同じ世界に居る・・・だから・・・』 『ああ、だから今だけでも、一緒に行くぞ、ダチ公!!』 彼らは既に、この戦いの結末が分かっていた。 そして最後の一撃のために力を溜める。 『超、茶々丸はラガンモドキに乗っている・・・風穴開けて爆発する前に掴み取れ』 『随分難しいことをアッサリ言うネ。だが、私にはそれぐらいの責任があるネ』 そして目前と迫った巨大な螺旋を前に、グレンラガンもようやく動いた。 『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』 両者が雄叫びを上げてギガドリルを片手に、巨大な螺旋の矛先に向けて突き返す。 攻撃の大きさで言ったら間違いなくモドキの方が上である。 しかしグレンラガンは耐え切る。 質量が目に見えて違うはずのドリルに対して突き返し、それだけでなく・・・ 『超絶ギガドリル・・・押シ返サレ・・・・』 『まだ分かんねえのか! 掘り抜けようとする気合のねえ紛いモンのドリルで、コイツを打ち破れるはずがねえだろうが!! 限界を出すことが気合なんじゃねえ! 限界を超えようとする想いこそが気合だ!』 『最大出力・・・維持・・・』 『それが間違いヨ、茶々丸。グレンラガンにもグレン団にも、・・・いや、不屈の気合を持った者に限界は無かった・・・自分でソレを最大といっている時点で既に負けている・・・』 魔力は未だに無尽蔵に溢れ出し、茶々丸とモドキに力を与えている。しかしそのドリルは一歩も前に進まずに、むしろ目の前のドリル相手に後退していく。 『計算外・・・計算外・・・計算不能・・・計算・・・』 『その時点で計算違いだ!! 無限の壁を突き破る俺達に計算を当てはめようとした時点で!!』 茶々丸のコンピュータの頭脳が乱れ始めた。 『たとえ絶望の明日が阻もうと、無理を通して明日を掴む。計算して突き進むのではない。己を信じて突き進むのだ。私はそれを学んだヨ! 茶々丸、思い出せ! お前はもっと早くに学んでいたはずネ!』 『超・・・私ハ・・・・』 光り輝き突き進むことを止めないドリルが徐々に茶々丸を覆った壁をも突き破る。 『コイツが・・・俺たちがッ、今までどんな壁を打ち破ってきたと思ってやがる! どれほどの気合を振り絞ってきたと思ってやがる! どれほどの想いを背負ってきたと思ってやがる!』 『・・・・シモン・・・サン・・・・』 茶々丸の口が小さく呟いた。 『さあ、最後だ・・・私の明日を見せてくれ・・・・』 超が目尻に僅かな涙を浮かべながら、己の昔の失望した夢との別れに浸る。 「見せてやりなさい、シモン! その物語が捻じ曲がろうがどうなろうが、今のアンタが私達の魂を、この世界に見せつけてやりなさい!!」 「ぶみゅうう!!」 ヨーコ、ブータ。 「兄貴・・・超・・・茶々丸・・・・」 「兄貴・・・・」 「見せてください! 私達が信じたアナタの魂を!!」 美空、ココネ、シャークティ。 「シモンさん・・・超さん・・・・」 「私達は目を逸らさないわ!! だから・・・」 「はい、私達にも・・・・・」 「シモンさん、ウチらにも見せてや!」 ネギ、アスナ、刹那、木乃香。 「「「「リーダー!!」」」」 「「「「シモンさん!!」」」」 「ゆけ! 天も次元も魔法も突破して! どこまでも高く突き進め!」 グレン団も学園の生徒達もエヴァもその瞬間を見守った。 『見せてやる、これがグレン団! これがグレンラガン! これが本物のギガドリルブレイク! そして・・・これが・・・・』 全ての壁を突き破り、この世界で出会った家族、友、仲間、敵、全ての者に向けてシモンは叫ぶ。 『これが俺の十倍返しだァァァァーーーーーーーーーー!!!!』 グレンラガンは突き進んだ。 夜空に輝く星に向かって、この世界での最初で最後の天に向かって突破する姿を見せ付ける。 巨大なドリルによって紛い物のドリルは回転を止め、砕け散る。そして超のかつての夢と共に風穴を開けられる。 巨大な風穴が開き、行き場を失った魔力が暴走し始める。それは数秒後の爆発を示唆していた。 だがその前に、天に登り、降り立ったグレンラガンが、空中に投げ出された爆発寸前のロボットに向けてもう一度飛び、手を差し出す。 『『茶々丸―――――ッ!!』 超とシモンは叫ぶ。友に向かって思いっきり叫ぶ。 すると言葉を返す前に、風穴開けられたモドキのラガン部分が機体から切り離なれ、離脱した。 グレンラガンはそのラガン部分に手を伸ばし、空中で掴み取った。 その一瞬後に大爆発が起こった。 なんとも荒々しい祭りを締めくくる花火となった。 『茶々丸・・・・』 爆煙の中から、グレンラガンは夜空に突き抜けた。そして大事そうに手に抱えたラガンモドキのコクピットに向かって話しかける。 すると・・・ 『シモンさん・・・超・・・・』 『『茶々丸!?』』 声がようやく返ってきた。 『ありがとうございます。・・・受け取りました、十倍返し。・・・また明日から・・・気合を入れ直してがんばります・・・』 自分達の知っている茶々丸だった。ロボットでありながら、人間臭い女。 シモンも超も、コクピットの中で拳を力強く握り締める。 友を救い、超にグレン団を証明し、一人も欠けることなく全てに決着を着けた。 やることは全てやった。だから迷うことなくシモンは叫んだ。 『俺達の、勝ちだッ!!』 シモンの言う俺達の中に誰が含まれているかは分からない。 しかしその声を聞いた者たちが、所属するチームに関わらずに声を上げた。 誰が何に勝ったのかは分からない。しかし超も含めて、そこに敗者の顔をする者は一人も居なかった。 『終わったヨ・・・何もかも・・・・』 突き抜けた先から、歓喜の渦に包まれる生徒たちを眺めながら超は苦笑しながら呟く。 『終わった? なに言ってやがる、お前の明日も・・・俺たちの明日も・・・ここから始まるんだ!』 『・・・そうネ、なら・・・この光景を今日のうちに味わいながら・・・私は明日へ向かおう』 夜空に浮かぶグレンラガンは手に茶々丸を乗せながら、ゆっくりと飛行した。 地上では生徒たちがお祭り騒ぎで盛り上がっている。今から後夜祭の準備に入るのだろう。 その光景を見ながらシモンはラガンのコクピットの中で肩の力を抜いた。 『・・・勝ったよ、みんな。・・・誰も失わずに・・・誇りも穢したりはしていない・・・・』 ――そうね、シモン。だって、みんながんばったもの。 『!?』 愛する者の声が聞こえた気がした。 だがそれは幻聴だった。 だがシモンは慌てて辺りを見渡してしまい、思わず苦笑してしまった。 『ったく、・・・待たせすぎたな・・・でも・・・安心しろ。すぐに会いに行くよ』 グレンラガンは地上にそのまま降りずに、進路を別の方向へ向けた。 それはシモンのこの世界での家、教会だった。 シャークティと美空とココネ、そしてヨーコはそれの意味をよく分かっていた。 グレンラガンは元の世界での希望の象徴。それをこれ以上この世界に置いたままにしては、ロシウたちに心配させてしまう。 そして元々、言っていたことだった。 学園祭が終われば自分たちは元の世界に帰る。 愛する者の眠る地へ。 だからシモンは最後に家に立ち寄ることにした。それは「サヨナラ」を言うためではない、「いってきます」と言って必ず帰るという誓いをたてるためである。 ヨーコは黙って教会へ向かう。 そしてシャークティたちはシモンに「いってらっしゃい」を言うために自分たちの家へと向かった。 「シモンさん・・・・」 グレンラガンが教会へ向かうのを見て、木乃香は寂しそうな表情をした。彼女にも理解が出来たのである。 そんな彼女の肩にアスナは優しく手を置く。 「いこ。シモンさんに、早く帰ってくるように言わなくちゃね♪」 「アスナ・・・」 「そうです。だから、私たちも行きましょう」 「・・・うん、せやな・・・・」 ぎゅっと唇を噛み締めて胸の中の寂しさを押さえながらネギたちはグレンラガンの後を追う。 全ての壁を突破して、今ここに完全決着。 そして暫しの別れの時がやって来た。 後書き。 あまりご都合主義はやりたくなかったのですが、この際目を瞑っていただければ幸いです。 強敵は全員ラガンインパクトですが、やはり自分の中ではギガドリルブレイクがよかったのです。 さて、ギガドリル・マキシマムは忘れていたわけではありません。しかしアレって結構大技中の大技に思えるので、あまり安売りしたくなかったので、ここまでとって置きました。 最近のネギまのパワーインフレを考えると、学園祭編でシモンに使わせるのは早いと感じ、シモン本人にはやらせませんでした。しかし本物には、せっかくなので使わせました。 せっかく兄貴と会ったのですから、ネギ達ももう少し絡めたかったのですが、あれで限界でした。登場人物が多すぎる! とにかく長かった学園祭編は次で完結です! シモンとヨーコとブータは、グレンラガンと共に去ります。 ぶっちゃけた話、特に変わったことをやることは無いですが、せっかくなので、見てやってください。
https://w.atwiki.jp/monosepia/pages/10709.html
病名は? 浜崎あゆみ、精密検査の結果を報告「この病気との付き合い方を…」、足首は手術 一時意識不明 都内の病院にて精密検査を行い、緊急時の対応やこの病気との付き合い方についてしっかりとした知識を身につけると共に、医師の指導を仰ぎ、活動を再開して参りますhttps //t.co/8gpHFIP3nn — macaron (@fraisst) November 12, 2021 .
https://w.atwiki.jp/ondoluru/pages/134.html
第二話「これが僕等の生きる道」 加賀美はいきなりわけのわからんヤツラにわけのわからん電車に連れ込まれ、 ワケの分からんコントを見させられていた。 加賀美「で、お前ら何なん?」 良太郎「て、テンションが低いですね…」 ハナ「とりあえず説明するわ。かくかくしかじか」 加賀美「ふん、これこれうまうま」 ハナ「というわけなのよ、分かった?」 加賀美「バカな俺でも分かったぜ!」 ナオミ「本当かなぁ…」 ところ代わってここは東京・地下闘技場 地上最強を目指して何が悪い!!! 人として生まれ男として生まれたからには 誰だって一度は地上最強を志すッ 地上最強など一瞬たりとも夢見たことがないッッ そんな男は一人としてこの世に存在しないッッ それが心理だ!!! ある物は生まれてすぐにッ――――ある者は父親のゲンコツにッ ある者はガキ大将の腕力にッ ある者は世界チャンピオンの実力に屈して それぞれが最強の座をあきらめそれぞれの道を歩んだ 医者 政治家 実業家 漫画家 小説家 パイロット 教師 サラリーマン しかしッッッ 今夜あきらめなかった者がいるッッ とは特に関係がない、『ライダープロレス』というのが開かれていた。 仮面ライダーホーガン「オーゥ、SHIT! 今日モマタ負ケテシマイマシタァ~!」 仮面ライダー日明「しかし、あのライダーレスラー、強すぎじゃねぇか?」 そのライダーレスラー達の視線を一斉に浴びたのは、 このライダープロレスの看板レスラー、仮面ライダーイマジンだった… ここは、そう、仮面ライダー(のようなもの)達がプロレスをする場だったのだ。 イマジン「フハハハハ!!この闘技場を滅茶苦茶にしてやる~!!」 良太郎「そんな事はさせないぞ。鬼の手!!」 鬼の手「行くぜ行くぜ行くぜ!!」 イマジン「グワァァァァァ!!」 この世には目には見えない闇の住人たちが 良太郎「ウワァァァ!!ハァ・・・ハァ・・・夢か・・・」 加賀美「仮面ライダー…装甲鍬形…」 良太郎「加賀美さん、起きてください。 そんな変なパワーアップの夢見てる場合じゃありませんよ。」 加賀美「ハッ!?」 モモタロス「俺は炎の転校生だ…」 加賀美「モモタロスも起きろ! どうやら何かおかしなことになったみたいだぜ!」 千葉にイマジンが出た! 何故かイマジンは人を襲う! 町が危ない! 急げ、電王!! イマジン「よぉし、これくらいでいいだろう。 後は特異点が来るのを待つだけだな。」 ここに現れたイマジンは公園の人間を総て殺し、 そこをステージとしていた。 来るべき、電王と戦うために! そしてそこへ、時を超える列車が現れた。 イマジン「ようやく来たか、さぁ、お前らと戦うに相応しいステージを用意したぞ!」 モモタロス「ひとぉ~つ人世の生血を啜り ふたぁ~つ不埒な悪行三昧 みっつ醜いこの世のイマジン 退治てくれよう…」 加賀美「お前の好き勝手にはさせないぜ!」 モモタロス「おいおい、セリフのジャマすんなよぉ~!」 イマジン「俺の名前はオーガイマジン! この金棒で貴様らをギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやろう! 美しくなければ戦いではないのだ!」 加賀美「………」 加賀美「……」 加賀美「…」 良太郎「ど、どうしたんですか加賀美さん三行ぶち抜きで…」 加賀美「いやもう何からツッコんでいいのか ネタ切れなのか何なのか」 オーガイマジン「そんな事はどうでもいい! 行くぞ!!」 とその時、謎の銃弾がイマジンを襲い、 イマジンはその場に倒れてしまった。 そこに現れたのは、 蒼いまた別のライダーだった。 ??「このお宝は頂いていくよ。」 そう言うと、青ライダーは金棒を持ってどこかへと去っていった。 イマジン「えっと・・・・」 良太郎「・・・・」 加賀美「・・・いやいいよ。武器ないなら、戦うのまた今度にしても」 イマジン「なめるなぁぁぁぁ!!」 良太郎&加賀美「変身!!」 イマジン「グァァァァ!!逃げるに限る!!」 結局、戦おうとしたオーガイマジンも、電王とガタックの二人相手に、勝てるはずもなく逃げていった。 イマジン「チクショー、オボエテロ! こうなったら最後の手段だ、 過去に飛んで、過去の俺と一緒に戦ってお前らを倒してやる!」 加賀美「それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」 ??「大樹を知っているんでしゅか!?」 良太郎「へっ?」 ??「いや、さっきのライダー…いや、何でもないです。」 Mタロス「なんなんだよぅ!?」 オーガイマジンは過去へ飛び、 過去の自分に出逢った。 イマジン(未来)「しかし過去のこの世界にも俺がいるとはなぁ。」 イマジン(過去)「いや、何か分からん、 多分まったく別の次元の俺何だけど、 何かの次元の流れが狂って俺がここにきたとしか思えん…」 イマジン(未来)「ま、そんなこたぁどうでも良いよ。 とにかくっ! 後はあいつらがこの時代に来るのを待つだけだ!」 ―一週間後― イマジンズ「来ないなぁ…」 イマジン(過去と未来)が待っていると、ようやくデンライナーが到着。 Mタロス「俺、参上!」 イマジン(未来)「やっときたか! 遅い!」 イマジン(過去)「一体何をやってきたんだ! 正義のヒーローならすぐにこんかい!」 良太郎「いや、ちょっとスターバックスでコーヒーを…」 イマジン(未来)「コーヒーならナオミちゃんに出してもらえ!」 加賀美「定額給付金が出たから使わないとなって。 っていうか、待ってるお前らもお前らだぜ…」 イマジン(未来)「とにかく、勝負だ!」 良太郎「行くよ、モモタロス!」 Mタロス「がってんでぃ!」 加賀美「ガタック、変身!」 続く! モモタロ「来週も見てくれよな!」 次回予告ッ 加賀美「さぁ、イマジン…殺しあおうか!」 良太郎「ぼ、ボク、出来ないよ…」 モモタロス「バッキャロー!討て、良太郎ーーーーー!!!!」 第三話「お前のコトさ」
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/15331.html
KC/S67-023 カード名:これが駆逐艦の本分です! カテゴリ:クライマックス 色:黄 トリガー:1・炎 【永】 あなたのキャラすべてに、パワーを+1000し、ソウルを+1。 (炎:このターン中、このカードをトリガーした攻撃キャラが次に与えるダメージがキャンセルされた時、相手に1ダメージを与える。) 艦隊! 増速! 突入します! レアリティ:CC illust. すまき俊悟 「艦隊これくしょん -艦これ-」5th Phase収録 ・対応キャラ カード名 レベル/コスト スペック 色 陽炎型駆逐艦13番艦 浜風乙改 2/1 7000/1/1 黄