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第壱話『vs八尺様』 第弐話『vsコトリバコ』 第参話『vs雪の女王クリス』 第肆話『vs狼王ロボ』 第伍話『vs猿夢/きさらぎ駅脱出編』 第陸話『陰陽頭救出編』 第漆話『vs姦姦蛇螺』 第捌話『vs酒呑童子』
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元スレURL 穂乃果「肝試しに行こう!!」 概要 穂乃果の唐突な提案で神社近くの森に出かけた三バカだったが… 参考:姦姦蛇螺 タグ ^高坂穂乃果 ^矢澤にこ ^星空凛 ^スマイル組 ^ホラー 名前 コメント
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紅葉に蹴り飛ばされた人面犬が、ジェット機の如きスピードで飛び込んで来た事により、室内は滅茶苦茶な有様になっていた。 家具は倒れて硝子は割れ、それらの残骸が彼方此方に飛び散っているので、床には足の踏場が殆どない。 しかし、そんな爆心地宛らの光景も、紅蓮の美女――紅葉が一歩でも立ち入れば、漂う埃臭さがたちまちに消え去り、桃源郷へと変化しているかのようであった。 存在するだけで場の雰囲気すらも変える美貌は、まさに魔性のそれである。 紅葉は、裸足同然の脚装備であるにも関わらず、家具の破片が散らばった室内を平然と歩いていた。 一方、音石明は、超常の存在である彼女とは違って、靴を履いていても破片を踏むのが痛いのか、随分と歩きにくそうな様子で進んでいる。 二人は破壊された部屋を強引に通り過ぎた。 そこからまた、古びた廊下を歩き進む。 暫くすると、襖によって封じられた部屋が見えてきた。 閉じられた襖の大きさと枚数から、中が大広間となっていることが窺い知れた。 襖の四メートル手前で、二人は立ち止まる。 「あの中に居ますわね」 と、紅葉。 「巨大な気配が一つと、それに助けを求めにやって来たヤツらの気配が幾つかですわ」 心なしか、声の調子が普段よりも低くなっている。 硝子細工のように美しい瞳に宿る眼光は、普段のおちゃらけたそれではなく、鏃の先端のような冷たい鋭さを持っていた。 屋敷に入った際に感じた閉塞感に対し、少しも表情を変えなかった彼女が、これほどまでの態度を見せるとは――成る程。 襖の向こうにいる巨大な何かは、そんな態度を取るのに相応しい相手だと言うわけか。 「助けを求めにやって来たヤツらはともかく、求められている方はちょっとばかし厄介な相手になるかもしれませんわね。全員が連携を組めば、尚更厄介です」 そんな事を言い出す紅葉に、音石は驚いた。 まさか彼女が、そんな弱気な判断を下すとは……。 普段の言動からは、予想もつかなかった発言である。 聖杯戦争の初陣が、紅葉のテンションに何らかの影響を与えているのだろうか? 「嗚呼、面倒ですわ。面倒ですわ。面倒ですわ。見覚えの無いもののけがうじゃうじゃと――実に面倒な相手ですわ」 溜息を吐きつつ、「やれやれです」とでも言いたげな顔で、紅葉は顔を左右に振った。 次いで、彼女はギターと琴のハーフのような珍妙なビジュアルをした楽器を、手元にアポートする。 それは紅葉の宝具の一つ――先ほど巨女を爆殺する為に使った物である。 「ですから」 白金を磨き上げて作ったかのような美しさを持つ指を、楽器の弦に添えた。 「襖を開けずに――相手の土俵に上がらずに、ここから攻撃を仕掛けますわッ!!」 白金が、弦を高速で横切る。 その瞬間。 ズガァーーンッ!!!――と、文字で表せばこんな風になる音が響いた。 まるで、二トントラック同士の衝突を、音で表現しているかのようである。 聴き心地が良いとは、お世辞にも言えない、聞く者の鼓膜を破壊する為だけに演奏されているかのような、暴力的な曲であった。 慎重さなんて微塵も見受けられない大雑把すぎる攻撃は、床板を剥がし、壁を崩しながら進んで行き、全ての襖をふっ飛ばして大広間へと飛び込んだ。 音の嵐は室内を蹂躙し、破壊する。 当然、紅葉は嵐の突撃を一度で終わらせるつもりは無い。 二度、三度、四度……弦を弾き鳴らし、室内に大音響を叩き込んだ。 十秒にも満たない演奏を終え、紅葉は楽器の弦から指を離した。 音の来襲を受けた大広間は、埃や煙がもうもうと上がっている。 やがて煙が晴れ始めると、室内の様子が見えるようになってきた。 畳は剥がれ、壁は穴まみれになっている。 部屋のあちこちには、気味の悪い日本人形や身体中に針が生えた蛞蝓と云った化物の類が幾つか転がっていた。 彼らはみな音の直撃を受けており、腕は外れ、体の内容物が溢れ出て、と大ダメージを負っている。 これでは、紅葉との戦闘はおろか、この場から逃げ出すことすら出来ないだろう。 この惨憺たる光景に、音石は驚愕すると同時に、敵が戦闘不能に陥ったことに安心していた。 しかし、埃煙が完全に晴れた途端、彼は更に大きく目を見開き、驚くこととなる。 大広間の中央に、山があった。 宇宙の闇を切り取って貼り付けているかのように真っ黒な山であった。 紅葉の演奏を受けても尚屹立しているそれは、まさに『動かざること山の如し』そのままである。 だが、暫くすると、それの正体が山ではないことを音石と紅葉は悟った。 「なんだありゃ。ヘビか?」 「そのようですわね」 それは正確に言えば、頭にあたる部分を覆い隠すようにしてとぐろを巻き、山のようになっている大蛇であった。 よく見てみると、表面が黒い鱗でびっしりと覆われている――これで、先ほど紅葉が放った音の嵐を防いだのだろう。 この大蛇が、紅葉の言う巨大な何かの正体であるのは明白である。 頭にあたる部分を隠すようにとぐろを巻いているのは、音の攻撃からそこを守る為なのだろうか? その時、音の嵐が止んだことを悟ったのか、大蛇は動き出し、とぐろを解き始めた。 瞬間――残像が出来るほどの速度で、大蛇に向かって駆け出す紅葉。 どうやら、大蛇がとぐろを解こうとしている隙にさらなる攻撃を与え、完全に倒すつもりらしい。 走って近づくのは、遠距離からでは攻撃が効かなかったと見て、近距離からより強力な攻撃を行う為だろう。 敵の隙を突くとは卑怯に見える行為だが、それを言うならさっきの演奏攻撃からしてそもそも卑怯である。 けれども、紅葉のマスターである音石は、そういう卑怯だとか不意打ちだとか騙し討ちだとかを好む傾向にある男だったので、紅葉が取った行動に、そのような感想を抱くことはなかった。 強いて文句があるとすれば、『さっきから紅葉ばっかり活躍していて、オレは良いところを全然見せられてねーよなァ』ぐらいだ。 しかし、ここで変にでしゃばって紅葉の邪魔になり、後で痛い目を見るのも嫌なので、ここは静観しておくことにする。 聖杯戦争のマスターとしては、これ以上なく妥当な行動選択であった。 ゼロコンマ一秒で大蛇との距離を詰めた紅葉は、移動の勢いを乗せたパンチを放った。 キャスターらしからぬ肉体攻撃である。 そして、その攻撃は奏功した。 功を奏し、破壊音を奏でた。 紅葉のパンチを受けた大蛇の鱗は、空手の達人が拳を振り下ろした瓦のように罅割れ、砕けたのである。 当然の結果だ。 広範囲を対象とした演奏攻撃ならまだしも、第六天魔王の因子を受け継ぎし者から直々に叩き込まれた拳を防げるものなど、この世にそうそう居まい。 確かな手応えと共に、紅葉は鱗の奥の肉から腕を引き抜いた。 ずぶり――と、生々しい音が響く。 一方、大蛇のとぐろ山の内部からは、痛みに悶えるような声が上がった。 と同時に、紅葉の頰を空が叩く。 蛇の尾が真横から凄まじい勢いで、壁や床板を巻き込みながら迫って来ていたのである。 「痛みに任せての攻撃ですか。雑すぎでしょう」 感じた覚えの無い強大な気配を発していたから少し警戒しましたけど、実際は全然大した事ないですわね――と。 紅葉はひょいとバックステップする。 彼女の鼻先を、黒の風が通り過ぎていった。 攻撃が空ぶった勢いでとぐろが完全に解き終わったらしく、大蛇の頭は完全に姿を現した。 否――姿を現したのは大蛇の頭ではない。 本来蛇の大顎があるべき位置には、女の上半身があった。 ただの女の上半身ではない。 それには左右それぞれ三本、計六本の腕が生えていた。 仏教知識をほんの少しでも齧っている者がその姿を見れば、阿修羅を連想しただろう。 疑いようの無い化物である、 かつて妖怪や鬼の一団を率いていた紅葉であっても、その化物には見覚えがなかった。 外見の要所要所と雰囲気から、辛うじて、それが日本生まれのものであると見受けられる程度である。 (そう言えば、これまでに出会った化物達も、見覚えのないヤツらばかりでしたわね……) 彼女がそれらに見覚えが無いのも当たり前であった。 何せ、この屋敷を巣食う化物たちは、現代に噂される怪異なのである。 平安を生きた紅葉が、それらに見覚えがあるわけがない。 しかし、彼女はそれらに『見覚え』がなくとも、それらを『知って』はいた。 紅葉が聖杯から与えられた知識には、現代の怪異譚までちゃんと含まれていたのだから。 (最初に出会った頭デッカチは……特徴からして『巨頭オ』に出てくる奇形の人間でしょうね。人面犬は人面犬。巨女は……特徴的な鳴き声をあげていましたし、『八尺様』とかいうヤツでしょう。部屋の片隅に転がっている、毛虫と蛞蝓の合成獣みたいなのは――) 今更ながら、自分が倒したものたちが何だったかを復習する紅葉。 どれも皆、ほんのちょっぴりでもオカルト知識があれば、誰でもその名に辿り着けるもの――よく噂される、有名どころばかりであった。 (――そしてこの女蛇は……『姦姦蛇螺』ですかしら?) 姦姦蛇螺。 それは主にインターネット上の情報掲示板で語られ、噂される怪異。 蛇の下半身と、六本の腕を持つ女。 民を守る巫女であったが、民に裏切られ、憤怒と怨念の存在へと堕ちた者。 その悍ましい見た目から分かる通り、非常に邪悪な怪物である。 噂曰く、下半身の蛇の部分を見た者に、解除不能の呪いを与えるとか。 (それにしては、この真っ黒な下半身を見ても、私に何か呪いがかかっているようには思えませんがね) 閉塞感に似た違和感はあるが、それはこの屋敷に入ってからずっと感じていた雰囲気みたいなものであり、呪いとは言い難い。 続いてほんの一瞬、紅葉は音石がいる方向を振り向く。 スタンド使いであるものの、体は一般人のそれであり、魔術師のように魔術や呪術への耐性があるわけではない彼は、しかし、姦姦蛇螺の下半身を見ても、体や精神に何か不調が生じているようではなかった。 呪いを受けているようには見えない。 明らかになった女蛇の外見の醜悪さに、少しばかりビビっているだけである。 (超常の存在がサーヴァントとして召喚される際は、霊器という器に縛られる都合上、生前よりも低いスペックになるんでしたっけ? それと同じように、館の作成者に生み出されたであろうこの姦姦蛇螺は、スペックダウンを起こし、伝承にある呪いの力を失っているのでしょうか?) 紅葉の推測は大体当たっていた。 噂を司るバーサーカー――フォークロアによって生み出された姦姦蛇螺だが、噂の中でそれが登場するのは、こんな館の中ではなく、鬱蒼とした森や山の中である。 伝承とは異なるフィールドに配置された事により、大幅なスペックダウンを起こしているのだ。 【おいおい、紅葉。大丈夫なのか?】 念話で音石が語りかけてきた。 姦姦蛇螺の神々しくも恐ろしい外見には、怖いものなしのギタリストでも畏怖を感じるのだろうか。 【大丈夫大丈夫。こんな英霊(サーヴァント)未満の幻霊(アーバンレジェンド)、私が本気を出さずとも、十六進法の三十二ビートで瞬殺ですわよ】 【だけどよォ〜〜〜〜……】 【シャーラップ!】 野次に対し、紅葉は叫んだ。 【マスターは一々口出しせずに、私の後ろでコソコソしながら、『冷凍ちりめんじゃこ』で自分の身を必死に守っていればよろしいんですのよ!】 【『レッド・ホット・チリペッパー』って言ってんだろがッ!】 【それにですね――】 音石の文句に取り合わず、紅葉は半人半蛇の化物を指差す。 【既に決着は付いているようなものなんですのよ】 瞬間。 姦姦蛇螺の下半身の、先ほど紅葉が拳を突き刺した部分がボンッ! と、ポップコーンのように膨張し、破裂した。 「!?」 飛び散る己の下半身の一部分を眼にし、姦姦蛇螺は深淵へと繋がっているかのように禍々しき双眸に驚愕の色を浮かべた。 何が起きたか分からない――とでも言いたげな風である。 それは音石も同じらしく、最初は目を見開いて驚愕していたが、暫くすると、 「さっきのアレと同じじゃねぇか……」 と呟いた。 彼の言う『さっきのアレ』とは、前編で紅葉が行なった音の攻撃で、巨女の身に起きていた爆発である。 「その通り」 首の上だけ振り向いた紅葉は、音石の驚き顔が余程滑稽だったのか、悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「外側から音を流してもあの鱗が邪魔でしたからね。だけど、鱗を突き破って内側から放った音なら、威力は百二十パーセント通じるはずでしょう?」 なので、先ほど拳を突っ込んだ時、ついでに『魔力放出』の破壊音波を流し込んでいたという訳だ。 音の爆弾による破壊はその一回だけに留まらず、紅葉が腕を突っ込んだポイントから、音波のように伝播して行く。 じわじわと破壊され、砂像のように崩れ落ち行く姦姦蛇螺の下半身に、紅葉と音石は勝利を確信した。 だがしかし。 破壊が蛇の下半身から女の上半身へと到達する直前――予想だにしない事態が起きた。 姦姦蛇螺の上半身と下半身が分かれたのだ。 破壊され行く蛇の下半身に別れを告げた女の上半身は、音の破壊から無事に逃れる。 六本の腕を駆使して行われた軽やかな着地に、紅葉たちは蜘蛛のイメージを見た。 そして一瞬後――上半身だけになった姦姦蛇螺は、F1マシンの如き高速で駆け出した。 「はぁ!? 高速で動く女の上半身って……そりゃもうテケテケじゃねぇですの!」 そんな突っ込みを叫ぶも、姦姦蛇螺が上半身だけになるのが全くおかしい話ではない事を、他ならぬ紅葉が理解していた。 そもそも、原典とも言える話の中では、姦姦蛇螺は女の上半身と蛇の下半身がセットで揃った姿で登場しておらず、女の上半身だけの姿でしか登場していないのだ。 その姿は『巫女』と呼ばれ、本来の姦姦蛇螺と同一でありながら異なるものとされており、姦姦蛇螺がこの姿を取るのは、遊戯感覚で出現する時だけなのだ。 けれども、遊戯感覚で出現する時の姿だからと言って、その力を甘く見るべきではない事は、今しがたそれが見せている機動力の高さを見れば、誰でも理解出来るだろう。 水の中に生きる魚が水の中で本領を発揮するように、サバンナに生息するチーターがサバンナの環境下で一番速く走れるように、噂の中の存在である姦姦蛇螺が噂に登場した際の姿を取り、その結果身体のパーツが欠けようと何ら支障がないのは、当然の理屈なのであった。 こちらに迫り来る巫女に宝具の楽器で対処しようとするも、弾いている暇がない事を悟った紅葉は、ノータイムで用意できる攻撃手段である拳を構えた。 姦姦蛇螺の鱗ですら殴り砕いた拳だ――何も身に纏っていない状態のものがその一撃を食らえば、いとも容易く絶命するに違いない。 石のように固く握り締められた鬼人の手が閃く。 しかし、その一撃が巫女を絶命させる事は無かった。 上半身だけになり、節足動物のように床を高速で疾駆しているそれは、紅葉の拳を回避したのだ。 どころか、カウンターのようにして、六つの拳で殴りかかってきたではないか! 六方向から飛んで来た攻撃には流石の紅葉も『マズい』と思ったらしく、みっともない転がり方であるものの、なんとか回避に成功する。 けれども、避けられたからと言ってそこで攻撃を止める巫女ではない。 それは一切速度を緩めずに、紅葉に向かってまた飛びかかってきた。 紅葉はまた避ける。 巫女がまたまた迫る。 紅葉はまたまた避ける。 巫女がまたまたまた迫る。 紅葉はまたまたまた避ける。 巫女がまたまたまたまた………… 一瞬の隙間もない攻撃と回避の連続だった。 (あっちは六本でこっちは二本――文字通り攻撃の手数が違いすぎますわ。オマケに、小さくなって小回りが効くようになった所為か、こちらの攻撃は回避される始末……せめて、楽器を取り出して弾ける暇があれば良いんですけど) 紅葉がそんな事を考えていると、彼女の視界の端に、何かが雷のような速度でやって来た。 新たな敵かと思った紅葉だが、そうでは無い。 雷のような速度でやって来たのは、雷であった。 雷のスタンド――『レッド・ホット・チリペッパー』だった。 (なっ!?) 紅葉は絶句した。 音石が『レッド・ホット・チリペッパー』を顕現させ、室内に入れたのは、回避に回ってばかりの紅葉の加勢をする為なのだろうが、紅葉でさえスピード戦で苦戦している巫女相手に、紅葉よりも弱い『レッド・ホット・チリペッパー』が立ち向かった所で、一蹴されるだけである――現在の巫女に、蹴りをする脚などないのだけれど。 そんな紅葉の考えを知ってか知らずか、音石はやけに自信満々な顔をしていた。 「オレはさっきから不思議に思ってたんだけどよォ〜〜、この化物はどうしてわざわざとぐろを解いてまで、いかにも弱点な丸裸の上半身を晒したんだ?」 『レッド・ホット・チリペッパー』のの本体は、歌うように語る。 「紅葉。お前とそいつのバトルを見て、その答えは分かったぜ。そいつは『視覚を確保する為』にとぐろを解いたんだ。とぐろを巻いた状態じゃあ、オレ達の姿が見えなくて、大雑把な攻撃しか出来ねえからよォ〜〜。そんな攻撃じゃあ、確実性に欠けるよなァ〜〜〜〜?」 彼が言葉を続ける間も、巫女は紅葉への何度目かの接近を行なっている。 「だから、下半身を失うも、とぐろから脱出し、視覚がはっきりとしている今、そいつは正確にお前へと向かい、攻撃を仕掛けているんだろうさ」 「だったらよォ」 「急に目が見えなくなったら、どうなるんだろうなァ〜〜〜〜ッ!?」 言って、音石はギターを荒々しく、しかし、整ったメロディが出るように弾き鳴らした。 それと同時に、彼のスタンドが爆発した。 いや、違う。 爆発しているかと見紛うほどに激しく発光したのだ! 赤き雷獣が持つスタンドパワーから変換された電光は、室内を埋め尽くす。 スタンドが成長する以前は搦め手頼りの戦法を多く使っていた音石にとって、このような目くらましは息をするように簡単にできる行為だった。 「███ █――!?」 突如発生した閃光を、六本の腕を壁にして防ごうとする巫女だが、それより光の方が速いのは物理法則的に絶対に覆しようのない事だった。 結果、網膜が光に貫かれ、巫女の視覚は一時的ではあるものの著しく低下した。 視界が突如真っ白に包まれた事に魂消た巫女は、動きを止め、軽い混乱状態に陥った。 一方、紅葉はというと、パートナーである音石が何をするかを完全に読んでおり、事前に瞼を閉じていたので視力減退を負わなかった――などという事はなく、普通に網膜を焼かれ、失明に近いレベルで目が見えなくなっていた。 「はあ〜……」 と、深い溜息を吐く紅葉。 「なに自信満々に語って、私の目を潰しちゃってくれてるんですの、マスター。やっぱり、貴方はトークに向いていませんわね」 しかし。 しかし、だ。 音を支配し、音を操る紅葉にとって。 音で相手の位置を把握でき、音で広範囲を大雑把に攻撃できる紅葉にとって。 視覚を失った事など、些細な事なのだ。 『ニヤリ』というオノマトペがこれ以上なく似合う笑みを口元に浮かべながら、紅葉はゆっくりと、実に余裕を持った動作で楽器を取り出した。 それは琴のようでありギターのようでもあるという実に不恰好な楽器だが、今の彼女が持つと、それは連続殺人鬼が持つ凶器のようにおどろおどろしいオーラを纏っているようにさえ見えた。 紅葉は、慣れた手つきで弦に指を添えた。 そして、未だに視力が回復せず、光が網膜を貫いた衝撃でのたうち回っている巫女に向かって一言。 「鬼さんこちら、手の鳴る方へ――って、あらあら……これは私が言っちゃ駄目な台詞ですわね」 手ではなく、弦楽器の鳴る音が部屋に響いた。 ▲▼▲▼▲▼▲ 閉塞感のような息苦しさがすっかり無くなった屋敷の玄関から出ると、紅葉たちが散らかした巨頭人間たちの遺体は、綺麗さっぱり消え失せていた。 霊的な召喚物であるのだから、絶命してしばらくすれば跡を残さずに消え去るのは当たり前である。 「うーん、まだ視界が少しボヤけてますわ……」 「寧ろ、こんな短時間で少しボヤける程度まで回復しているお前の視力にオレは驚きだぜ。話には聞いてたが、サーヴァントの回復能力ってかなり高いんだな」 「まあ、そもそも、マスターがあの時事前に注意の一つでもしていれば、視力の完全回復を待つ羽目にならなかったんですけどね。念話で伝えようとか思わなかったんですの?」 「あの時はそんな事をする暇がなかっただろうが」 「その割には、やけに長い前口上を喋っていた気がしますわね?」 『魅力』の『魅』の字に『鬼』を入れたのは誰だろうか。 その人物を探し出し、「なぜ『魅力』の『魅』の字に『鬼』を入れているのか?」と問えば、「紅玉の如き美しさを誇る紅葉が、鬼だったからだ」と答えるに違いない。 一つの字の起源に関わっているのではと思わざるを得ない程に魅力的な顔に、紅葉は不機嫌そうな表情を浮かべていた。 折角の美貌が台無しである。 それを見て、これ以上この話題を続けるのは拙いと考えた音石は話題を変える事にした。 「ところで、この屋敷にB級ホラー映画に出て来そうな化物たちを放ったのは結局誰なんだろうな」 「……知りませんわよ。少なくとも妖精を放っているキャスターや、死霊の魂を集めているキャスターではないと思いますがね」 「ただ」――と、紅葉は台詞を付け加えた。 「これはほぼ当たっていると思われる予想ですけど、この館を作ったサーヴァント――おそらく、クラスはキャスターでしょうか――は、怪談や都市伝説の類を従える能力を持っていますわ」 屋敷の中で見た、都市伝説上の存在である化物達の姿を思い出しながら紅葉は語った。 「怪談や都市伝説を従えるだぁ? そんな奴がサーヴァントにいるのかよ」 「さあ。それはよく知りませんけど……怪談の噺家とかがサーヴァントになっていれば、あり得ない能力ではありませんわね」 実際には語り手ではなく、語られる話そのものがサーヴァントとなっているのだが、流石にそんな突飛な発想を思いつけるほど紅葉は人間離れしていないようである。 「そんな能力を持つ奴が居るってのは、まあ、分かった。けどよぉ――んじゃあ、そいつがこんな屋敷に化物達を詰め込んだのはどうしてなんだろうな」 「それこそ本当に分かりませんわよ。屋敷内に魔力をプールしていて、それの護衛を化物達にさせていたってわけでもありませんしね。――お化け屋敷でも作りたかったのかもしれませんわ」 最後に紅葉はそう冗談めかして言ったが、それはかなり真相に近い答えであった。 この館の作り主は、ただ訪れた者を怖がらせ、恐怖に陥れる為に化物を生み出し、館の各所に配置したのである。 勿論、そんな狂人の事情を知らない音石たちは、暫く頭を捻るも、納得のいく答えを見つけることは出来なかった。 結局は、噂を操るキャスターには今後も気をつけよう、という結論が出て、此度の議論は幕を閉じたのである。 音石は手首に巻いた高級そうな腕時計に視線を落とした。 「そういや、此処に入ってから出てくるまでで、三十分もかからなかったんだな」 「そんなに短かったんですの? てっきり、十三日くらいかかってたかと思いましたわ」 「それは大袈裟すぎねぇか?」 「そういえば、外にタクシーを待たせていませんけど、ここからマスターの自宅までどうやって向かうつもりですの?」 「あー……。いくら此処に入る場面を見られたくねーからって、待たせてなかったのは失敗だったかもな……。電話で新しく呼ぶか……」 そんな事を喋りつつ、音石達は門を開き、屋敷の敷地外へと出て行った。 彼らが去って、敷地内に残されたのは至る所が破壊された廃墟だけであった。 【深山町 武家屋敷前/1日目 午前】 【音石明@ジョジョの奇妙な冒険Part4 ダイヤモンドは砕けない】 [状態]健康 、スタンドエネルギー消費(その辺から電力を吸収すればすぐに元に戻ります) [令呪]残り3画 [装備]こだわりのギター [道具]携帯電話、財布など [所持金]盗んだ現金(そこそこ)&盗んだ貴金属類(たっぷり・ただし換金手段のアテなし) [思考・状況] 基本行動方針:美味しいトコを掠め取りつつ聖杯戦争で勝利を。ついでに伝説開始 [備考] 1.討伐令には真面目に取り組まないが、チャンスがあれば美味しいとこだけ横取りを狙う 2.442プロのライブの時間に合わせて『路上ゲリラライブ』を決行する! そのための準備だ! まずは場所探し! 3.噂を操るキャスター(推定)には気を付ける。 ※深山町の片隅にアパートがあります。 ※バーサーカー(モードレッド)、セイバー(スルト)、アーチャー(ヴェルマ)の戦闘を途中から観戦していました。 セイバー(スルト)とアーチャー(ヴェルマ)主従の同盟を確認しました。 ※スタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は、バーサーカー(モードレッド)の赤雷の余波を少量吸収しました。 スタンドの色が黄色から赤へと変化し、僅かに神秘の力と魔力を纏っています。 ※噂を操るサーヴァントの存在(フォークロア)を把握しましたが、それの詳細にはいくつか誤解をしています。 【キャスター(紅葉)@史実(10世紀日本)】 [状態]健康、魔力消費(小)、視力低下(数分で治ります) [装備]紅葉琴(ギター型) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:美味しいトコを掠め取りつつ聖杯戦争で勝利を [備考] 1.討伐令には真面目に取り組まないが、チャンスがあれば美味しいとこだけ横取りを狙う 2.442プロのライブの時間に合わせて『路上ゲリラライブ』を決行ですわ! そのための準備です! 3.噂を操るキャスター(推定)には気を付ける。 ※バーサーカー(モードレッド)、セイバー(スルト)、アーチャー(ヴェルマ)の戦闘を途中から観戦していました。 ※冬木市に死者の霊が居ないことに気付きました。何らかのキャスタークラスの干渉を疑っています。 ※キャスター(パトリキウス)が斥候に放った妖精たちの存在に気付いています。 1回に限り脅して支配権を強奪できると読んでいますが、実行すると確実にパトリキウスに察知され対策されます。 ※噂を操るサーヴァントの存在(フォークロア)を把握しましたが、それの詳細にはいくつか誤解をしています。 時系列順 Back Aestus Domus Aurea Next 小碓媛命は■をした 投下順 Back What two and two always makes up? Next 小碓媛命は■をした ←Back Character name Next→ Freaky Styley 音石明 硝子狩 キャスター(紅葉)
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ここに作品タイトル等を記入 更新日:2022/11/28 Mon 19 04 54NEW! タグ一覧 セブンスカラー 魔龍少女へと変身した龍香の姿を見て、天願はたじろぐ。 「その姿は……!!」 「黒衣さん、下がってて。もう、大丈夫だから。」 「な、なんだかよく分かんないけど、任せたわ!」 龍香は黒衣を下がらせると、天願へ向き直る。明らかに動揺している様子の天願に龍香はドンっと地面を蹴って向かう。 轟音と共に踏み込まれた電光石火の踏み込みは一瞬で彼女との距離をゼロにする。 「速っ──」 「はァッ!」 龍香は思い切り“タイラントアックス”を振るう。振るわれた戦斧の刃ではなく峰の部分が天願に炸裂する。 ドンっと鈍い音と共に今まで感じたこともない痛烈な衝撃が天願を襲う。 「うっ」 呻く彼女に続けて龍香は返す刀でまたもや打ち据える。よろめく彼女に龍香は飛び上がって思い切りドロップキックをお見舞いする。 「きゃあああ!!」 吹き飛ばされて地面を転がる彼女を見ながら龍香はカノープスに触れる。 《一点突破!トライセラカラー!》 その言葉と共に龍香のドレスの紫のラインは青となり、左肩に剣竜の頭蓋を模した装甲が装着され、掘削機“ホーンパーフォレイター”を構える。 「たぁぁぁぁっ!!」 龍香は走り出すと同時に掘削機を構えて突撃する。 「くっ」 天願が慌てて斧で受け止めようとするが、龍香の暴走機関車が如き突撃は彼女を防御ごと易々と吹き飛ばす。 《縦横走破!ヴェロキカラー!》 次の瞬間には水色のラインに、両脚部を逆関節の獣脚に変貌させ、尻尾を生やした龍香が目にも止まらぬ速さで天願に迫る。 彼女が迎撃で振るう斧を跳躍してかわすと龍香は彼女を思い切り蹴り付けて上空へと跳躍する。 「この……!」 《一天万衆!プテラカラー!》 今度は黄色のラインに変わり翼を生やし、龍香が構えた弩弓“フェザーバリスタ”から痛烈な一射が放たれる。 《まずいっ!》 “天願のカノープス”が叫ぶと同時に天願はそれを防御するが、その一射は彼女を数歩後退させる。 《百発百中!スピノカラー!》 さらに赤のラインに変わったドレスを纏う龍香は振動波発射銃“フォノンシューター”を構えて落下しながら天願に銃弾を放つ。 放たれた銃弾は彼女だけでなく、その周りに着弾して土埃を舞い上げ、彼女から視界を奪う。 「うっ、視界が…!」 《雲水行脚!プレシオカラー!》 舞い上がった土煙を切り裂き、鞭“プレシオウィップ”が天願の腕に巻き付く。 猛烈な力で引っ張られ、引き寄せられたその先にはオレンジのラインのドレスに身を包んだ龍香の姿があった。 天願を十分引き寄せた龍香は再びカノープスに触れ、ドレスのオレンジのラインが黄緑色へと変化する。 《絶対防御!アンキロカラー!》 戦鎚“ヘヴィプレッシャー”を構えた龍香は引き寄せた勢いそのまま向かってくる天願を戦鎚を振るって大きく上へとカチ上げる。 「ぐぇっっ…!?」 打ち上げられた彼女を追うように龍香は再びカノープスに触れて紫のラインの“ティラノカラー”に戻ると高く跳び上がる。 「行くよカノープスっ!」 《おうよっ!》 龍香は戦斧“タイラントアックス”を構えると紫に輝くその刃をそのまま天願に振り下ろす。 紫の軌跡を描きながら振るわれたその一撃は天願に痛烈な音と共に炸裂する。 「《タイラントトラッシュ!!》」 「ぐっ、あぁっ!!?」 龍香が振るう必殺技を受けた天願は墜落し、地面へと激突すると同時に変身が解けて地面に倒れる。 《ぐっ、うぅ……!おのれ…!》 天願と分離し、同じく地面に倒れるニセカノープスが呻く。龍香も地面へと着地する。 「……久しぶりだけど、意外と覚えているモンだね。」 《当然だ。俺達は相棒だからな。》 多少なりともブランクがあるはずなのにそういったものを一切感じさせない息の合ったコンビネーションを見せた二人は互いに笑ってそう言うと、表情を引き締めて天願に向き直る。 「……もう終わりだよ。天願さん。」 倒れて呻く彼女に龍香はそう言い放った。 シャドウアナザーアンコの剣とエフィと赤羽の剣が火花を散らしながらぶつかり合う。 「あはっはっはっ!やるじゃない!」 笑いながら剣を、さらには肥大化し、鳥の脚のように変貌した左腕を振るう彼女の攻撃を二人は避けると同時に反撃に移る。 「フッ!」 「“ブリッツ”っ!」 赤羽は炸裂弾“椿”を、エフィが雷を放つが、アンコは盾のようなものを取り出すとその攻撃を防ぐ。 「ハハァっ、残念ね。そんな攻撃は効かないわ!」 「──なら、これはどうかしら。貴方にはこれを使っても良さそうね!」 次の瞬間エフィの手には白いレイピアのような武器が握られていた。 エフィはレイピア“ナイチンゲイル”を構えると、アンコへと突っ込む。 「おおう!正面から!」 アンコも負けじと手を剣へと変貌させて、彼女と打ち合う。互いに高速で振るう斬撃がぶつかり合う。 周囲のあちこちで剣同士がぶつかり合う火花が散る中、徐々にエフィの握る白いレイピアが紅く染まり始める。 (!刃が紅く?) その変化に気づくと同時にこのまま打ち合うのはマズイと直感したアンコは剣を大振りにして自分の体勢を崩してまで仕切り直すように斬り払いを振るう。 (?何故自分の体勢を崩して?) 自ら隙を晒すような行為にエフィが疑問を覚えたその瞬間。 彼女の肘の部分から鋭い爪を備えた新たな腕が飛び出てくる。 「なっ」 「貰ったァッ!」 不意の一撃にエフィの反応が一瞬遅れる。だがその一瞬が致命的だった。アンコの繰り出した必殺の一撃が彼女を切り裂こうと目の前まで迫ったその時。 「でぇぇぇぇいっ!!」 彼女と攻撃の間に割り込んだ赤羽が刀を盾にしながら身体全体をぶつけるようにしてその攻撃を受け止める。 「お?」 「っ、ありがとう助かったわ。」 「別に、なんて事ないわ!」 アンコの手にザックリと刀がめり込む。血が溢れるが、特に気にした様子もなく彼女は今度は右腕を剣に変化させると“そのまま赤羽に向けて突き出す。” 突き出された刃は自らの掌を貫通し、赤羽へと向かう。寸前で気づいた赤羽が咄嗟に身を捻って避けようとするが間に合わず、左肩の装甲を破壊しながら剣は彼女を切り裂く。 「おっ、あぁっ……!!?」 左肩に走る灼熱の痛みに思わず赤羽が呻く。 「自分の掌ごと…!」 「あっはっはっはっ!これくらいの事で驚かないでよぉ。それじゃあすぐ死んじゃうよぉ〜!!」 自らの肉体を傷つけることすら躊躇わない先の読めない奇天烈な攻撃を仕掛ける彼女を警戒し、睨むエフィにアンコが迫る。 「三枚下ろしだぁ〜!!」 アンコが左腕の怪物のような鋭い爪を備えた手を振り下ろすと同時にエフィが紅く染まったレイピアを振るう。 次の瞬間振るわれたレイピアは先程とは打って変わって紅い軌跡を描きながらアンコの掌を切り裂く。 「おぉ…?」 「ふっ!」 さらに振るわれる斬撃をアンコは剣で受け止めるが、その剣に紅いレイピアが食い込む。 危険を感じたアンコは咄嗟に剣を解除し、大きく後ろへ下がる。 「痛いなぁ…!」 「…一気に決める!」 エフィが一気に迫るが、接近されてはまずいとアンコは遠距離から巨大な手を伸ばす。それは途中から枝分かれするように分裂を繰り返し、気づけば百は越えようかと言う拳がエフィへと迫る。 「…!!」 エフィは剣を振るい、腕を切り裂いていくが切られた先からその腕は再生し、際限ない攻撃にエフィは徐々に追い詰められる。 「くっ!面倒!」 「はははっ!このまま数で潰して…!」 アンコがニヤリと笑みを浮かべたその瞬間。彼女に向かって数百は越えようかという数の赤羽がアンコへと襲い掛かる。 「多っ!?」 アンコは慌てて腕の何割かを迫り来る赤羽達へ向ける。迫る腕が赤羽に当たるが、当たった赤羽はブゥンとブレると消失する。 「幻か!!」 何処かにいる本体を狙い、アンコが腕を振り回す。振り回す度に攻撃が当てられた赤羽の幻達は消えていく。 そしてとうとうアンコの攻撃によって最後の赤羽を残し、全員が消滅する。 「ははぁっ!アンタが本体ね!」 アンコが多数の腕を振り下ろし、赤羽を叩き潰そうとしたその瞬間。 「燃える夕暮れ、今ここに!アーベント!!」 その声が聞こえたその瞬間アンコの腕が一瞬の内に数百の斬撃で斬り刻まれ、赤い血飛沫と共にべチャリと地面に落ちる。 「なっ」 アンコが振り返ると、そこにはもう片方の手に橙色の刃を持ったエフィがいた。 「気を取られたわね。お陰でこの技を発動出来たわ。」 二振りの剣を持ったエフィが迫る。アンコはすぐさま右腕の剣を構える。 (さっきはビックリしたけど…今度はそうはいかない。) アンコにはまだ奥の手があった。切断された左腕の切り口が盾のような形へと変貌する。 (さぁ、さっきの斬撃を放ちなさい。あらゆる攻撃を跳ね返すこの“アイギスノ盾”でそれを跳ね返してジ•エンドよ。) アンコがほくそ笑む。彼女の脅威の動体視力はエフィの筋肉の動きを正確に読み取り、攻撃のタイミングを正確に予測する。 そして彼女が橙色の剣を構えたのを見たアンコは口角を釣り上げる。 「今だッ!」 エフィの攻撃に対してアンコが盾を構えようとしたその瞬間。 彼女の身体に衝撃が走る。見れば彼女の身体から生えるようにして刀が突き刺さっていた。 「なっ」 信じられない、とでも言いたげにアンコが後ろへと視線を向ける。するとスゥーと背景から滲み出るように赤羽がその姿を見せる。 「と、う、めいか…!?」 アンコがさっきまでの赤羽がいたところに目をやると、その視線の先にいた赤羽は一瞬揺らいだかと思うと消滅する。 「今よ!!」 不意の一撃によって完全に体勢が崩れた彼女にエフィは神速もかくや、と言わんばかりのスピードで近づくと、その二振りの剣を同時に振るう。 「これで、おしまいよ!」 「ば、ばかなっ、これで…!?」 振るわれた一撃は見事にアンコを捉え、彼女の身体が真っ黒に染まったかと思うと砂のように崩れて消滅する。 「……ふぅ。」 エフィが一息つくと、赤羽が彼女へ声をかける。 「やったわね。」 「えぇ……ところで、その肩の傷は大丈夫なの?」 赤羽の左肩は肌が露出し、痛々しい傷が見える。赤羽はその傷を一瞥し、軽く動かすと。 「……ちょっと痛むけど問題ないわ。」 そう言う赤羽にエフィは氷を精製すると手渡す。 「……見てるこっちが痛いから傷口を冷やしといて。」 「悪いわね。」 エフィから氷を受け取った赤羽は座り込むと氷を布で包み、それを傷口へ押し当てる。 それを見たエフィが立ち去ろうとすると、赤羽が声をかける。 「後から行くから。今は任せたわ。」 赤羽の言葉にエフィは腕を上げて返すと、その場を後にした。 「いただきまぁ〜すっ!!」 シャドウソブリーヌが涎を垂らしながらデヴァと黒鳥の二人に迫る。 「僕が前を張るから君は援護を!」 「分かった!」 彼女が振るう鋭い爪を前に出たデヴァが剣で受け止める。 黒鳥は背中から翼を拡げ、翔びあがるとソブリーヌに向けて鋭い切先の羽根を放つ。 「おっとぉ。」 彼女のフォークのような形状の先端を持つ尻尾が唸りを上げてその攻撃を弾く。 「くっ。」 さらに上から襲い掛かる尻尾を見たデヴァは斬り払い、後ろへと下がる。 「バミュータントォッ!!」 下がったデヴァと黒鳥に向けてソブリーヌは赤黒い光弾を放つ。 「危ないっ!」 「っ!」 二人は何とかその攻撃を避ける。放たれた光弾は地面に着弾すると爆発するでもなくゴッソリと着弾箇所を削り取る。 その威力に二人は思わずゾッとする。喰らえば確実にタダでは済まない。 そんな二人の焦りと警戒を感じ取ったのかソブリーヌはニヤリと口角を吊り上げる。 「さぁさぁどうする?言っとくけど、当たったら……ちょーーう痛いとだけ言っておくよ!」 ニタニタ笑いながらそう言う彼女を見て、二人は彼女の言う事はハッタリではないと肌で感じる。 「……出し惜しみをする余裕は」 「……無さそうだね。」 二人はそう言うと覚悟を決め、全身に力を漲らせ、叫ぶ。 次の瞬間デヴァの顔はドラゴンのような顔に変わり、手足も強靭な爬虫類のようなものに変化する。 黒鳥も嘴のようなマスクが彼女と一体化し、嘴そのものとなり、蜘蛛の顔を模したような鋭い爪、強靭な尻尾を兼ね備えた怪物へと変貌する。 それを見たソブリーヌは逆に面白そうに笑みを浮かべると。 「へぇっ!良いねぇ……!面白くなってきたヨォ…!」 二人が動く。デヴァが先程とは比べ物にはならない程の電光石火のスピードでソブリーヌに接近する。 それと同時に黒鳥は猛スピードで彼女の背後へと飛翔して回り込む。 挟み撃ちの形となる超速の一撃。常人には目で追うことすら困難な高速の攻撃に対し、ソブリーヌの視線はガッチリと二人を捉えていた。 「一気に決める!」 「ところがどっこい!そうはいかないよぉ!」 ソブリーヌは二人に向けてそれぞれ掌を向ける。そこから赤黒い光弾が放たれる。 「読まれたっ!」 二人はすぐさま回避するが、それを見たソブリーヌはニヤリと笑って避けた黒鳥の方へと迫る。 「いただきまぁす。」 次の瞬間大口を開けた彼女の牙が黒鳥の腕を捉える。ブチブチと肉が裂け、骨が折れる音が聞こえる。 「ぐっ、あぁっ……!!」 「!まずいっ!」 このままでは彼女の右腕が噛みちぎられると判断したデヴァが黒鳥に食らいつくソブリーヌに接近しようとする。 しかし、彼女の尻尾が唸りながらデヴァを弾き飛ばす。 「私の甘美な食事の時間を邪魔しないでくれる?」 尚も腕に食らいつく彼女に対し、黒鳥は痛みに顔を顰めながらも、全身に力を入れる。 次の瞬間バチィッという弾ける音と共にソブリーヌの身体を電流が走る。 「おごごっ!?」 不意の一撃に驚いた彼女は黒鳥から口を離す。 「ぐっ……!」 それを見た彼女は翼を硬質化させると思い切りソブリーヌを叩く。 痛烈な一撃にソブリーヌは吹っ飛ぶが、ダメージが大きかったのか、黒鳥は膝をつく。 「大丈夫か!?」 負傷した黒鳥にデヴァが慌てて駆け寄る。噛まれた箇所はドス黒く変色しており、あまりにも痛々しい傷にデヴァが目を背けると、吹っ飛ばされたソブリーヌが笑いながら立ち上がる。 「はははっ。その子はもう終わりだヨォ。僕様の牙を通して送り込んだエイリータで傷口から感染が広が」 「……ふんっ!!」 ソブリーヌの言葉の途中で、彼女は意を決したように瞳を閉じると歯を食いしばって、左腕の爪で負傷した右腕を斬り落とす。 「なっ」 「ぐぅ……!!おぉ……!!」 溢れる鮮血を片腕で押さえながら呻く彼女を見て、あまりの決断の素早さにソブリーヌも少し呆気に取られる。 「……わぉ。今の僕様の言葉が嘘だったら君、腕切り損だよ?」 「……ご心配どうも。どうせ動かなくて邪魔だった。」 そう言うと黒鳥は失った右腕へと意識を集中させる。次の瞬間彼女の断面から新しい腕が生えてくる。 「ぐぅぅぅ…!はぁっ……!ふぅー!ふぅー…!」 呻き、荒い息を吐きながらも腕を再生させた彼女を見たソブリーヌはニヤリと嗤う。 「へへぇ。君、面白いねぇ!まるで蜥蜴の尻尾みたいだ!君みたいな生き物は初めて見たよ!」 「悪いけど、私一応人間でやらせて貰ってるから…!」 腕は再生したものの、大きく体力を消費した様子の黒鳥が動く。これ以上攻撃を当てさせまいとデヴァも走り出す。 二人は素早く動いてソブリーヌを撹乱しようとするが、彼女の眼はしっかりと二人を捉えている。 「そこっ!!」 ソブリーヌが赤黒い光弾を発射する。放たれた光弾を黒鳥はバレルロールをしながらかわす。だがデヴァは。 「うおおおおおお!!」 青いオーラを放つ剣を構えると、それを振るって光弾を弾く。 「おおっ。弾くのか!」 「最短で詰めるッ!」 剣を構えて突撃してくるデヴァをソブリーヌは両手を上げて迎え撃つ。 剣と爪がぶつかり合い、激しい火花が散る。 「良いねぇ!やるねぇっ!楽しいよ!」 「悪いけどボクは楽しくないかなっ!」 ソブリーヌが爪を突き出すが、デヴァは尻尾で地面を叩いて跳躍してその攻撃を避ける。 「上に!」 ソブリーヌが上に視線を向けた瞬間、黒鳥は両腕から白い糸を発射して彼女を拘束する。 「あぁっ?」 「トドメだ!」 剣を振り上げデヴァが振り下ろそうとする。だが、それを防ぐように飛んできたソブリーヌの尻尾がデヴァに炸裂する。 「ぐおおっ!?」 「惜しかったねぇ。後もうちょっとだったのに。」 地面へと叩きつけられるデヴァ。笑いながら拘束を力づくで解くソブリーヌ見た黒鳥に苦渋の色が浮かぶ。 (…どうする?奴に死角はない。やはり倒すには相打ち覚悟で正面から行くしか…!) 「さぁ、次はどうする?」 ニヤリと嗤うソブリーヌ。そんな彼女を見ながらデヴァは立ち上がる。 (なにか、決定的な隙さえあれば…!) 二人がどう攻めようかと攻めあぐねながらも、彼女に視線を向けたその時。 スンスン、と彼女の鼻が何かを嗅ぎつけたかのように動く。 「?」 謎の行動に二人は頭に疑問符を浮かべるが、ソブリーヌの方は二人よりも今彼女の鼻腔を擽る香りの方が気になるようだ。 彼女は鼻をスンスンとさせた後、何かを確信したように目を見開いて大きく笑みを浮かべる。 「この、匂いは…!」 彼女が空を見上げる。すると空間に穴が開き、一人の少女が飛び込んで来る。 それは離れた位置にいる二人にも届く程の甘い匂いを纏い、桃色の長い髪を揺らしながらソブリーヌへと手を構える。 「ソブリーヌ!!……じゃない?そっくりさん?」 少女はソブリーヌを見てどうやらシャドウマンが作り出した幻影とは知らないようで、少し怪訝な顔をしつつも彼女の翳した手から桃色の光が溢れる。 「はははァッ!?フルーグたん!?私を追ってここまで!あはは!何て幸運!眼福かな!」 どうやらソブリーヌはフルーグという少女に熱中しているらしく、二人へ向けていた注意が少女へと向かう。 「えーい!スイート•ラブリ•シャワー!!」 次の瞬間彼女がハートを作るように構えた手から桃色のオーラを纏う光が発射される。 それに対しソブリーヌは避けるでもなく、嬉しそうに両手を拡げて浴びるようにその光を浴びる。 「あアアアッ!!いいっ!全身でッ!全身でフルーグたんを感じているッ!」 気色の悪い笑み浮かべなく浮かべながら光を浴びるソブリーヌ。一方の黒鳥とデヴァはその光を浴びた彼女からこちらへの注意が完全になくなった事に気づく。 「今だっ!」 「お互いの最強技をぶつけるッ!!」 次の瞬間デヴァは剣を構え、黒鳥は電撃を纏い、回転しながら彼女へと突撃する。 「「喰らえっ!!」」 「──あっ。」 二人の攻撃が当たる直前にフルーグの攻撃に夢中になっていたソブリーヌがようやく二人に気づく。 だが、時すでに遅し。二人の繰り出した決死の一撃がソブリーヌに炸裂する。 「あっ……!フルーグたんに夢中で…!!戦ってたの忘れてた…!!」 致命傷を負ったにも関わらず、笑みを浮かべながら彼女はそう言うと後ろへと倒れ、黒い塵となって霧散する。 「……やった?」 「ふぅ……強敵だった……。」 ソブリーヌを撃破し、一息つく二人にフルーグと呼ばれた少女が話しかける。 「貴方達凄いのね!ソブリーヌのそっくりさんを倒すなんて!」 「いや、君が隙を作ってくれたお陰だよ。じゃなきゃこうはいかなかったと思う。」 デヴァがそう言うと、私すごい?とでも言いたげなキラキラした瞳をフルーグは向ける。 「ところで君は、一体?」 突然の乱入者に黒鳥が尋ねると、彼女は胸を張り。 「はいっ!今回の件は“オウマがトキ”にとっても他人事じゃないので力を貸すよう“オーナー”から頼まれたのです!」 「オウマがトキ?」 「あー。あの変な空間の。」 一度行ったことのある黒鳥が納得する中、フルーグはある言葉を告げる。 「えーっと。オーナーさん曰く。このままだとマズイそうです!」 それは、とんでもない爆弾発言だった。 天を泳ぐ様に身体をくねらせるシャドウしろうねりを見上げながら、のじゃロリ猫とむらサメが構える。 しろうねりはのじゃロリ猫を見やると口を大きく開け、ドス黒いブレスを放つ。 「おおっとっ!」 「どわーっ!!」 二人はそれを横っ飛びに跳躍して避け、さっきまで二人がいたところにブレスが直撃する。見ればその黒いブレスが当たった箇所はドロドロに腐り、落ちて溶けている。 「うーむ。これ喰らったらワシはまだイケるけどお主死ぬな。」 「見りゃ分かるわっ!」 しろうねりの攻撃力にむらサメが戦慄する中、しろうねりは奇妙な唸り声を上げながら猛スピードで二人へと迫る。 「ちょいと失礼するぞ。」 「うおぅ!?」 のじゃロリ猫はむらサメの首根っこを掴むと跳躍してしろうねりの攻撃を避ける。 だが今度は避けた二人に対し、身体をくねらせて、その巨大をぶつけようとする。 「おおっと!」 その攻撃に対しのじゃロリ猫は右腕を大きく異形化させ、巨大な拳にすると向かってくる巨体に対し振るう。 ドォオン!と、凄まじい音が辺りに響く。衝撃で空気が震える中、のじゃロリ猫はニヤリと嗤う。 「流石、“紛い物”とは言えこれくらいはやるか。」 「⬛︎◼︎▪︎■⬛︎■■⬛︎◾︎◼︎■⬛︎■■▪︎!!!」 しろうねりは絶叫すると口を開いて二人へと凄まじい悪臭のする口を大きく開け、二人を喰らおうと向かって来る。 のじゃロリ猫はむらサメを掴んだまま駆け出す。 「よしっ、お主離れておけ。」 「え?ってちょ」 地面へと激突するしろうねりを後ろ目に彼女はむらサメを解放すると同時に指を立てて文字を描くように動かす。 すると彼女の周りに黒い焔の塊が複数個現れたかと思うと、それらがしろうねり目掛けて飛んでいき、着弾と同時に爆発する。 「挨拶代わりにとりあえず一発の。」 のじゃロリ猫がニヤリと嗤う。だが黒焔の爆発を受けたのにも関わらず、しろうねりは何事もなかったように食らいついた地面から顔を上げる。 唸り声を上げると、しろうねりは尻尾をしならせてのじゃロリ猫へと振るう。 だが彼女も横っ飛びに跳んでその一撃をかわす。さらに脚に力を込め、常人では負えない速度へと突入する。目にも止まらぬ速度で彼女はしろうねりの背後へと回る。 しかしギョロギョロとせわしなく動く怪物の六つの瞳はしっかりと彼女の姿を捉えていた。 次の瞬間ギュルンとしろうねりの首が180度回転し、背後の彼女を真正面から見据える。 「うおっ。」 思わずのじゃロリ猫が驚く中、怪物の口が開き、それと連動するように黒い牙状の靄が現れる。 そしてうねりが噛み付く様に口を閉じると同時に靄の牙が彼女に襲いかかる。そのまま牙が炸裂し、血が飛び散る。 「……やって、くれたのォッ!!」 噛まれた箇所から血を流しながらも、のじゃロリ猫は脚に力を込めて思いっきりしろうねりの横っ面を蹴り上げる。 その衝撃は相当なもののようで、口から牙を何本か零し、謎の黒い液体を垂れ流しながらよろめく。 しかし怪物の眼が見開かれ、脚に黒い靄を纏った爪が彼女へと振り下ろされる。 それを見ながらも、のじゃロリ猫が嗤って対応しようとしたその時。 「どっせーい!!」 横から巨大化したむらサメが痛烈なドロップキックを喰らわせる。突然の横槍に怪物はバランスを崩して、攻撃は明後日の方へと飛んでいく。 「ウチを忘れとったんとちゃうかー!?」 「よくやったぞ!」 よろめく怪物に対し、のじゃロリ猫は右腕を異形化させると腕を振るって怪物を殴り飛ばす。 「⬛︎■■⬛︎◼︎▪︎▪︎■◾︎◼︎▪︎▪︎■⬛︎!!」 怪物が悲鳴の様な叫びを上げながらまたもやよろめく。しかし怪物はとぐろを巻く様に身体を回転させると、黒い靄を全身から溢れさせたかと思うとドス黒い竜巻が発生し、二人へと襲いかかる。 「うおおお!?あれに触れたらヤバい気がする!」 「ヤバい気がするじゃなくてヤバいぞ!」 少しでも被弾面積を少なくするべくむらサメは巨大化を解き、のじゃロリ猫は彼女の間に出て印を結ぶ。 「こーいう呪術系はあんまり得意じゃないんじゃがの!」 次の瞬間黒い化け猫が次元を切り裂き、その裂け目から飛び出すと竜巻とぶつかる。 凄まじい衝撃と攻撃の余波が辺りに撒き散らされる。ある種の小さな天変地異さながらの光景にのじゃロリ猫は歯を食い縛り、むらサメも飛ばされまいと踏ん張る。 「うおおおおお!!?」 竜巻と黒猫が激しくぶつかり合うが、ほんの僅かだが、徐々に黒猫が押され始める。 「ちょ、ちょちょっ!?何か押されてないか!?」 「だから言ったじゃろ!ワシ呪術系はそんなに得意じゃないんじゃって!」 「いや、それってアカンやつ…!?」 バキバキと音を立てて黒猫にヒビが入る。このままでは長くは持たないと察したのじゃロリ猫がどうするか、思考を巡らせたその時。 突然上から太陽の様な光と共に凄まじい熱を持った球が降り注ぎ、竜巻を破壊すると、そのまましろうねりに直撃し、その身体を灼く。 「⬛︎◼︎■⬛︎◾︎◼︎▪︎▪︎■■⬛︎◼︎!!?」 引き裂く様な絶叫と共にしろうねりがよろめく中、その光の球に見覚えがあったのじゃロリ猫は空を見上げる。 そこには一人の少女がいた。 「お邪魔だったかしら?」 太陽を模したヘアアクセで茶色の髪を二つに纏めた快活そうな少女がそう言って得意げにのじゃロリ猫にウインクを飛ばす。 それを見たのじゃロリ猫はフッと笑って。 「いいや!助かった!!」 そう言うとよろめくしろうねりに向かってのじゃロリ猫は異形の右腕を構えて走り出す。 「今がチャンス!っちゅー奴やな!!」 それと同時にむらサメも拳を巨大化させ、振りかぶる。 「「いっけぇぇぇぇぇ!!」」 二人の巨大な拳がしろうねりに向けて放たれる。最後の抵抗か、怪物は黒い牙を纏わせる。 拳と牙がぶつかり合う。果たして、二人の拳はバキバキと牙を砕いてしろうねりの顔面に捩じ込まれる。 「⬛︎◻️⬛︎■◾︎◼︎■■⬛︎◾︎◼︎◻️⬛︎……!!」 しろうねりは断末魔の絶叫と共に倒れると、黒い霧となって霧散する。 「やっ、やった……!?」 「やったみたいじゃの。」 強敵を倒した事で二人が一息ついて、それから上を見上げる。 先程二人を援護してくれた少女……ライジングちゃんは親指を立てて二人にサムズアップする。 それに二人が同じように返すと、彼女はフッと笑って消えてしまう。 「あら。行ってもうた。」 「ま、今回は彼奴に感謝じゃの。」 二人はそう言って空を見上げる。彼女のいなくなった空は太陽の光が燦々と輝いていた。 「はァァァァァァァッ!!」 「うおおおおおおおっ!!」 シェーンとシャドウマンは互いに拳と鋏を繰り出し、凄まじい接戦を繰り広げていた。 シャドウマンの突き出した鋏をシェーンは裏拳で叩いて軌道をズラさせると彼女に突き刺すように蹴りを繰り出す。 「!」 しかしシャドウマンもそれを身体を捻って回避する。 「やるねぇっ……コイツは喰らったらヤバそうだ。」 「鍛えてあるからね。」 そう言いながらもシェーンは拳や蹴りを矢継早に繰り出す。 シャドウマンはそれらを鋏状になった両腕で防御する。 「お返しだっ!」 反撃と言わんばかりにシャドウマンが鋏を突き出す。シェーンは極限の集中力で迫り来る鋏が自身に直撃するギリギリまで引き付け、シャドウマンの腕が伸び切るのを待つ。 そしてそれはほんの刹那、一秒にも満たない時間だが、彼女が狙ったタイミングが訪れる。 「今だ!」 シェーンは鋏に手を添えてスナップを加えるように腕を回す。力を受け止めるのでも強引に逸らすでもない、利用して受け流す防御術にシャドウマンの体勢が崩れる。 「オオッ……!?」 体勢が崩れ、隙が生じたシャドマンの脇腹にシェーンはすかさず指を当てる。 その構えを見たシャドマンは思わず声を上げる。 「ちょっ、待てそれはヤバ」 「ふんっ!!」 シェーンが気合いと共に指を折りたたみ、拳をシャドウマンにぶち当てる。接触箇所から全身に広がる衝撃にシャドウマンは思わず黒い液体を吐き出す。 「ごっ、ぶゔぅぅぅう…!?」 よろめくシャドウマンにシェーンはすぐさま追撃に移る。しかし、彼女の眼はギロリとシェーンを捉えていた。 「させるかぁっ!」 彼女がかざした手から伸びた黒い剣のような影がシェーンを掠める。 「!」 シェーンは攻撃を中断し、後退する。シャドウマンはぜぇぜぇと荒い息を吐きながらも彼女を睨む。 「……驚いた。まさか発勁を受けて、すぐに動けるなんて。」 「くっ、くくく……俺様をあまり甘く見るなよ。この程度……なんとも…?」 グラリと揺らぐ彼女。するとその姿が揺れ、少女の姿から黒い靄のような怪物へと一瞬変貌する。 「…?」 「お、おお……?お、俺は、一体?何、を……!?」 何かに苦しむように頭を押さえ、揺らめく彼女にシェーンが攻撃を中断する。 「お、俺?俺、おれ、はぁァッ、あ、あの時死……?」 何やら記憶が混濁している様子のシャドウマンだったが、急にギョロリと目を見開くとシェーンへ、技を放つ構えを見せる。 「お、あ゛ァッ!?オマエ、俺に何をしたぁァッ!??」 「…発勁以外、特に何もしてないが…!」 困惑するシェーンに向けてシャドウマンは全身から黒い刃の様な影を発生させると、それを一つの巨大なドリルの様に纏め、シェーンに向けて放つ。 「消えろォォッ!!」 放たれた一撃が地面を抉り取りながら、シェーンへと迫る。だがシェーンは一切慌てる様子はなく、冷静に迫り来る黒い一撃を見据える。 「……笑止。どれだけ巨大でも闇雲に放った一撃では、隙だらけだ。」 シェーンが右の拳を構える。すると背後にに龍を思わせるような幻影が浮かび上がる。 「乾坤一擲!この一撃でお前を砕く!」 次の瞬間かシェーンの雄叫びと共に繰り出された一撃は龍の形となってシャドウマンの一撃に食らいつく。 一瞬の均衡があった。しかしそれは本当にほんの一瞬で、龍はその顎で技を食い破るとそのままシャドウマンへと向かっていき、大きく口を開けて彼女に食らいつく。 「オ゛ォッ!!?オオオオオオオオオオ!!」 食らいつかれた箇所からビキビキと彼女の身体にヒビが入る。 全身を砕かれるその刹那。シャドウマンの脳裏をある事が過ぎる。 《貴様の運命は我が書き換える。貴様は今から我の僕だ。》 それは恐竜の骨を継ぎ接ぎにしたような鎧を纏った怪物が傷だらけで動けない自分に向けて手を翳す光景。 「そ、うか……!!き、さま……は…!」 次の瞬間龍の形をした一撃が完全にシャドウマンの身体を噛み砕き、文字通り粉砕する。 砕け散り、黒い霧となって消えたシャドマンがいた場所を見つめながら、シェーンは呟く。 「……まずは、一人。」 ニコニコと笑みを浮かべる姦姦蛇螺を前に雪花は再び“デイブレイク”を纏い、色々な装備を一纏めにした盾のような武装を右腕に装備する。 「あらあら。何ですかその玩具は?」 「舐めた口きけるのも今だけよ。この、お姉ちゃんが作ってくれた武器でアンタを倒す。」 雪花がそう言うと同時に折り畳まれていた刃が展開し、チェーンソーのような装備が飛び出す。 「この複合機能統一強襲兵装“ターゲスアンブルフ”でね!!」 「名前が長いんだよ!!」 飛び出す雪花に向けて姦姦蛇螺が右腕から蛇を繰り出して迎撃する。 「お姉ちゃんのネーミングセンスを馬鹿にする気!?」 そう言いながら藍は武器を振るって蛇を薙ぎ払う。だがそれは織り込み済みだったようで第二撃、三撃と蛇の群れが藍へと向かう。 「雪花ちゃん!右から、次に左から!」 「おうっ!」 女児符号によって攻撃の動きを見極めたきゅーばんが藍に指示を飛ばす。 藍は攻撃を回避、時に斬り払いながら凌ぐと、再びヘアアクセに触れる。 「短期決戦で一気に決める!!“セイヴァー”起動!」 そう叫んだ瞬間藍の纏う“デイブレイク”の装備が緑の発光するラインが走り、飛行ユニットが装着された“デイブレイク•セイヴァー”へと変形する。 「はっ!」 藍が踏み込んで跳躍すると同時に飛行ユニットから光が噴き出し、飛行能力を獲得した彼女の身体は空を泳ぐ。 超高速で飛び回る彼女は姦姦蛇螺の繰り出す攻撃を避けながらあっという間にその懐に潜り込む。 「チィッ、速いッ!」 そう言いながらも姦姦蛇螺は詰められた距離を離すのではなく、逆に雪花へと突っ込む。 「突っ込んできた!?」 予想外の行動にきゅーばんが驚きの声を上げる。だが姦姦蛇螺もヤケになった訳ではない。 (逆にこれだけ近づけば、その刃のリーチじゃ振りにくいでしょ!) そう。彼女の狙いはさらなる超至近距離、インファイトに持ち込む事で刃の射程内から外れる事だった。 禍々しい紫色のオーラを滲ませた彼女がカウンターの要領で藍に手痛い反撃を喰らわせようとした、まさにその時。 「織り込み済みよッ!」 次の瞬間“ターゲスアンブルフ”の刃を折り畳み、収納したと同時に握り手の先に掘削機のような丸刃が迫り出し、極悪なグローブのような形態へと変わる。 「なっ」 「オラァァぁぁァッ!!」 藍の一撃が姦姦蛇螺に炸裂し、大きく吹き飛ばす。吹き飛ばされた彼女は岩壁に激突し、もうもうと砂塵が上がる。 「ふんっ。どんなもんよ。」 得意げに雪花は振り返ってきゅーばんにサムズアップをする。 きゅーばんもサムズアップで返そうとして、気づく。 「雪花ちゃん!後ろ!」 「は…?」 雪花が振り返ると、そこには瓦礫を押しのけながら立ち上がる姦姦蛇螺の姿があった。 「しぶといわね…」 再び構える藍。だが一方の姦姦蛇螺は先程の笑みさえ浮かべていた余裕綽々の態度から一変し、大きく目を見開いて仮面のような無表情を浮かべる。 「……馬鹿なガキ共。この私を本気にさせるなんて。」 「御託は良いからさっさとかかって来なさい。こっちは時間がないのよ。」 「そう……なら後悔するがいいわ。」 藍がそう返すとギョロリ、と姦姦蛇螺の黒目が細まり爬虫類のような無機質な目になり、彼女の身体が嫌な音を立てて変形していく。 顔は鱗に覆われて蛇のようになり、チロチロと二つに分かれた舌を突き出す。 髪の毛は逆上がり、七つに分かれてそれぞれが蛇の顔のように纏まっていく。 ドンドン膨れ上がっていく彼女の身体が変形を終えると、そこには六つの腕を持ち、以前の数倍の体格はあろうかと言う大蛇の怪物が現れた。 「あまり、綺麗じゃないからこの形態になるのは嫌なんだけどねぇ……!」 「あまり?だいぶでしょ。」 「雪花ちゃん、それは失礼だよ……」 つっけんどんな発言をぶちかます藍にきゅーばんが小声でツッコむ。だが、それが再開の合図となる。 「消えなクソガキィッ!」 姦姦蛇螺が叫ぶと同時に髪が変貌した七つの蛇が牙を剥いて藍へと襲いかかってくる。 それを見た彼女はすぐさま上空へと飛翔して、その攻撃を避ける。が、空へと逃げた彼女を追いかけるように蛇達が迫る。 「追っかけてくんの!?」 襲いくる蛇たちをかわしながら藍は“ターゲスアンブルフ”を姦姦蛇螺に向ける。 そしてトリガーを押し込むと掘削機の上部についている集合から銃弾が発射される。 「喰らうかぁ!」 しかし放たれた銃弾は姦姦蛇螺が一対の腕を構えて発生させた障壁によって弾かれる。 「バリア持ち!?」 「言ったでしょう!私は本気だってぇッ!!」 姦姦蛇螺は障壁を貼りながら残った四本の腕を構える。すると魔法陣のようなものがいくつか展開したかと思った次の瞬間、高密度に圧縮されたエネルギーの線が高速で藍へと向かって飛んでいく。 「!!」 咄嗟に藍は身体を捻ってかわそうとするがその一撃のあまりの速さに完全避け切る事は出来ず、左腕を掠めてしまう。 「雪花ちゃん!」 「ッの……!!」 体勢を崩しながらも藍は銃弾を発砲するが、姦姦蛇螺の張った障壁はそれらを全て弾く。 「無駄よ無駄無駄。この障壁を突破する事は不可能。」 藍はさらに腰から“シャハル”投擲装甲完徹弾を取り出して投擲する。放たれたそれは障壁に直撃し、爆発する。 しかし爆煙が晴れると、そこには健在と言った様子の姦姦蛇螺の姿が。 「効かないねぇ。」 「チッ。ウザ過ぎでしょそのバリア……」 藍がそう言いながらも着地したその時。ぐらり、と藍の視界が揺れる。 「あ……?」 すぐに頭を振って気を持ち直すが、妙に身体が重い。まるで全身に鉛が纏わりついたかのような倦怠感に藍は苛まれる。 「雪花ちゃん!大丈夫!?何か、辛そうだけど…!」 「……別に、なんでもないわよ。」 虚勢を張る藍を見てニヤニヤと笑いながら姦姦蛇螺が喋り出す。 「嘘おっしゃい。今の貴方は立つのも辛いはずよ。何故なら……掠めたとは言え私の呪術を喰らったんだから。」 「…呪術……?」 一瞬藍の脳裏に自分の腕を掠めたあの黒い閃光が過ぎる。掠めた箇所を見れば、掠めた箇所には妙におどろおどろしい漢字のような模様が浮かび上がっている。 しかもそれは徐々に拡がっており、それと連動するように藍の身体は不調になっていく。 「私の術は強力……その紋様が全身に達した瞬間。貴方の命の炎は消える。」 「そんな……!」 姦姦蛇螺の言葉にきゅーばんが思わず絶句するが、藍は脂汗を滲ませながらも口角を上げる。 「はっ……それってつまり、これが全身に回る前に。」 藍は地面を大きく蹴り、翼の出力を全開にすると、光のような速度で姦姦蛇螺へと向かう。 常人であれば目に見えない速度。しかし姦姦蛇螺は全く慌てる事なく、髪の毛の蛇を飛ばす。 その蛇達は正確に彼女の動きを捉え、追尾する。 「くっ!」 七つの蛇の猛攻に雪花は近づく事すらままならない。さらに姦姦蛇螺は蛇を飛ばして牽制しながらまたもや四本の腕の間に黒いエネルギーを溜め込むと、高速の呪術を発射する。 「ああッ!?」 今度は藍はその一撃を完璧に避ける。しかし蛇の追撃は止まらない。蛇に追いかけられながら、藍は銃弾を放つが全て障壁に弾かれる。 「クソッ、なら回り込んで……!」 藍が再び高速で移動しようとするが、七つの蛇達の間髪入れない攻撃に、藍は避けるので手一杯になる。 相手の行動を阻害し、自分は障壁で身を守りながら一撃必殺技でこちらをじわじわと追い詰める。 隙のない、まさしく絶体絶命の状況に追い込まれ、流石の雪花の額にも冷や汗が伝う。 「コイツ……!」 「おやおやぁっ?さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」 藍の焦りを感じ取ったのか、姦姦蛇螺の攻撃が勢いづく。藍も何とか攻撃をかわしているが、その動きは呪術に蝕まれ、精細を欠いていく。 (マズイ……ふらつく、視界が揺れる……これは、ヤバい) そしてとうとう彼女は一瞬ふらついて動きが緩慢になる。その一瞬が命取りだった。一つの蛇の一撃が藍に直撃し、彼女はそのまま撃墜される。 「ごっ、ォォッ……!?」 「雪花ちゃん!」 震える脚で何とか立ちあがろうとする彼女に姦姦蛇螺はトドメを刺そうと腕を構える。 何とか気を逸らそうと、きゅーばんはその辺の石を拾い上げるとそれを思い切り投げつける。 投げられたそれは放物線を描いてコツン、と姦姦蛇螺に当たる。 だが彼女は少し煩わしげに眼を細めると。 「そう急かさないで?この金髪のガキを殺したら、次はあなたの番だから。」 彼女はそう言うと再び雪花に向き直る。そして彼女の四本の腕から再び黒い呪術が放たれようとしたその瞬間。 ゴンッッ!!と。 天から降り注いだ剣が姦姦蛇螺の脳天を捉え、その頭を揺らす。不意の一撃に彼女の構えが崩れ、障壁と呪術は宙に霧となって消える。 「お、あぁっ……!?」 「何事!?」 両者にとって予想外過ぎる一撃に、きゅーばんが天を見上げると、そこには銀髪の長い髪をたなびかせ、白銀の翼を広げた紫色の天使を思わせる少女がいた。 「貴方は……!?」 「……何なの貴方はぁっ…!?」 頭を押さえながら姦姦蛇螺が尋ねると、少女は彼女を見下ろしながら、答える。 「……ウリエル。ウルトラガールウリエルよ。」 「ウルトラ……?」 謎の少女、ウリエルの出現に姦姦蛇螺が困惑する中、彼女は静かに尋ねる。 「…けど、良いのかしら?私に注目していて。」 「は?」 「彼女。まだやる気みたいだけど。」 ウリエルの言葉にハッとした姦姦蛇螺が視線を雪花に戻すと同時に、とうとう顔にまで紋様の侵食が及んでいるにも関わらず、武器を構える藍の姿があった。 「“スペクトルリュミエール”最大出力!!」 次の瞬間彼女の飛行ユニットから莫大なエネルギーの光が放たれ、それは翼のように形取る。 「これで決めるッ!!」 次の瞬間藍が光の軌跡を残しながら高速で飛翔する。姦姦蛇螺もすぐに七つの蛇を藍に向けて放つ。 そして動き回る彼女の姿を蛇の一体が捉える。 「取った!!」 そう叫ぶと蛇の口が閉じ、藍に喰らいつく。……だが、その噛まれた藍に手応えはなく、スゥーと空気にでも溶けるように消えてしまう。 それを見た姦姦蛇螺は驚く。 「馬鹿な、確実に捉え……!?」 だが、次の瞬間目の前に拡がる光景に姦姦蛇螺は絶句する。それは、光速で分身を生み出しながらこちらへと迫る藍の姿が見えていたからだ。 (しかも、こいつ!残像が熱も持っているのか!?) 姦姦蛇螺の対象の温度を感じ取り、位置を特定する能力がここに来て裏目に出る。 視覚と温度感知機能が合わさり、まるで高速で熱を持って飛び回る雪花が複数体いるように錯覚してしまったのだ。 「こ、のっ!!」 何とかそれらに目掛けて呪術を放つが、全て虚しく宙を裂くだけで終わる。 攻撃をかわしながら藍は素早く接近していく。だが、姦姦蛇螺もタダでは転ばない。 例え目では追えなくても経験と行動から行動に予測をつけるとその地点に照準を合わせる。 「追えなくても!軌道を読む事くらいは出来る!」 果たして、姦姦蛇螺の狙いは見事藍の進路を補足する。放たれた呪術は狂いなく藍へと向かっていく。 「雪花ちゃん危ないっ!!」 きゅーばんの叫びも虚しく、呪術と藍がぶつかる。直撃の手応えを感じた姦姦蛇螺がニヤリと口角を上げる。 だが藍が強烈に光輝いたこと思うと、呪術を切り裂いて藍が飛び込んでくる。武器を盾代わりにし、防ぎきれなかった衝撃で傷だらけになりながらも、“スペクトルリュミエール”の推進力にモノを言わせて無理矢理突破する。 「ぐっ、障壁を───!?」 「させるかッ!」 次の瞬間“ターゲスアンブルフ”を取り外すと思い切りブン投げる。投げられたそれは姦姦蛇螺の腕に当たり、障壁を精製するのを妨害する。 「なっ」 藍の手甲が青白い光を放ち始める。迫り来る彼女に向けて姦姦蛇螺も迎撃すべく腕を振るう。 「これでトドメだぁ──ッ!!」 「クソガキがぁ──ッ!!」 互いの拳が振るわれる。死力を尽くして繰り出されたその一撃は──姦姦蛇螺の一撃は藍の頬を掠め、藍の繰り出した一撃は彼女の顎を捉えていた。 「お、ぉ……?」 「おああああああああああああ!!」 次の瞬間一際手甲が光輝いたかと思うと、凄じいエネルギーの奔流が拳から迸り、大爆発を起こす。 「………!!」 顔を爆発で灼かれた姦姦蛇螺煙を出しながら白眼を剥くと地響きを立てて倒れる。 それと同時に藍を蝕む紋様の侵食が収まり、スーッと消えていく。 「あっ……」 「雪花ちゃん!」 変身が解除されると同時に膝から力が抜け、倒れそうになる彼女をきゅーばんが慌てて受け止める。 「ふ、ふふん。どんなもんよ。」 「うん!カッコよかったよ…!」 傷で震えながら言う雪花にきゅーばんがそう答える。すると翼をはためかせながら先ほどの少女、ウリエルが降り立つ。 「どうやら勝てたみたいね。」 「あ、さっきの……」 ウリエルに気づいた藍ときゅーばんがそちらに目を向ける。 「助かったわ。正直結構ヤバかったから…。」 雪花の言葉にウリエルは。 「気にしなくていいわ。“知り合い”のよしみよ。」 「……?まぁ、良く分かんないけど。」 藍はそう言うと、きゅーばんの手を借りながらも座り込む。 「悪いけど、私しばらく動けそうにないから。他のとこに援護に行ってあげて。」 「……雪花ちゃん。分かったわ。」 どうやら消耗が激し過ぎたのか座り込む藍にきゅーばんは力強く頷く。 チラとウリエルの方を見れば、彼女も藍にコクリと頷いて返す。 その場から離れていく二人の背中を見た藍は脱力し、パタンと大の字に倒れると微笑んで言う。 「……頼んだわよ。」 各地で激戦が繰り広げられる中、空中にて月乃助とアリックスがぶつかる。 「久しぶりとは言え、中々やるじゃないか!この天才とやり合うとはな!」 「ハッ、人間如きが図に乗るなよ!」 月乃助が複合機能統一突撃銃“エクリスィ•ソラーレ”を構えるとアリックスに向けて発砲する。 その銃弾をアクロバットな飛行で回避しながらアリックスも負けじと翼を拡げ、血の針を月乃助に向けて放つ。 「おおっとぉ!」 月乃助は機械の翼のエンジンを思い切り噴かしてそれを回避しつつ銃を構える。放たれる銃弾は全て回避されるが、月乃助はアリックスの動く軌道をジッと見つめ続ける。 「貴方、美味しそうね!テイスティングしてあげましょうか?」 「ごめん被るよ!痛いのは苦手でね!」 アリックスの軽口と共に放たれた攻撃を月乃助は回りながらかわすと、“エクリフィ•ソラーレ”を連射モードから一射一射が重い榴弾モードに切り替える。 そして狙いを定めると引き金を引く。放たれたそれは軌道を描いて真っ直ぐ高速飛行を続けるアリックスに向かって飛んでいく。 「!」 「君の行動パターンは読み切った!君ならこの軌道で動くとも予想がついた!何も私も考え無しでライフルを撃っていたわけではない!」 放たれた銃弾がアリックスを捉えようとしたその瞬間。シュンッと赤黒い霧となって彼女は霧散し、放たれた銃弾はすり抜けて地上に落ちて爆発する。 「んなっ」 「人間にしちゃ、中々の観察眼だけど。」 霧は月乃助の後ろで再集結して、アリックスがその姿を現す。 「ドラキュリアの私にそれが通じるって思うのは甘い見積もりね?」 アリックス精製した血の槍を構えると、それを振るう。振るわれた一撃を月乃助は咄嗟に逆手で引き抜いた蛇腹剣で受け止める。が、アリックスの常人を超えた人外の膂力で振るわれた一撃を完全に受け止めることは出来ず、思い切り吹き飛ばされる。 「無茶苦茶だな…!」 大きく吹き飛ばされ、体勢が崩れた彼女に追い打ちをかけるようにアリックスは翼を大きく変化させると、それをハサミのように両側面から月乃助に叩き付ける。 「血塗れ翼鋏“ブラム•エール•シゾー”!!」 「うおおっ…!?」 左右から強烈な一撃を叩き込まれた月乃助がよろめいて体勢を崩した彼女にトドメを刺すべく、アリックスは槍の切先を彼女に向ける。 「トドメよ!」 月乃助が体勢を立て直すより先にアリックスの凶刃が彼女に迫る。 防げない一撃に月乃助が思わず青ざめたその瞬間。横から現れた何者かの蹴りが槍の切先を彼女から逸らす。 「何?」 「はっ!」 乱入者はさらに回し蹴りをアリックスに浴びせる。不意の一撃だが、アリックスもすぐに反応して槍を挟んで直撃を避ける。 しかし乱入者はそのまま思い切り蹴り抜き、アリックスを地上へと蹴り飛ばす。 「!!」 蹴り飛ばされたアリックスは翼を拡げ、体勢を立て直すと地面へと着地する。 それを見た乱入者も地上へと降り立つ。 その乱入者は赤と黒の混じった髪をツインテールに纏め、赤と青の目玉がついた角、耳には赤いピアス、紫を基調とした丈の短いドレスを纏った少女の外見をしている。 まだ少し幼さを感じる顔立ちに何処か退廃的な雰囲気を纏った彼女は赤と青のオッドアイを目の前のアリックスに向ける。 「……よく、分からないが、助かったよ。」 そんな彼女の後方に降り立った月乃助がそう言うと彼女はチラと月乃助を一瞥し、またアリックスに向き直る。 一方のアリックスは乱入者を見て、槍を突きつけて言う。 「アンタ……見たところドラキュリアみたいだけど、私をアリックス•ル•カヌレと分かっての狼藉かしら!?名を名乗りなさい!」 アリックスの言葉に少女は少し面倒そうに顔を顰めた後、口を開く。 「…レティシア。レティシア•ノ•グラブジャブンです。」 彼女の言葉にアリックスは目を見開くと、ピキリと青筋を額に浮かべる。 「へぇ……平民階級の“ノ”の分際で高位貴族の“ル”の私に逆らう訳?」 アリックスの怒気の含んだ物言いに乱入者、レティシアははぁとため息をつくと。 「……出来れば、私も関わりたくはないんですけど。見過ごせないので。」 「身の程知らずの下郎が!」 アリックスはそう叫ぶとレティシアに槍を振るう。その槍を身を低くしてかわす。 「ッ!」 かわした彼女にさらに槍を突き出すが、レティシアはそれをかわすと同時に柄の部分を掴み、それに身を乗せながら痛烈な回し蹴りをレティシアにお見舞いする。 「ぶっ!?」 蹴りが顔に直撃してよろめき、槍を手放した彼女にレティシアは拳のラッシュを叩き込む。 「せいっ!」 そして最後に彼女の繰り出した蹴りがアリックスに炸裂し、大きく吹き飛ばす。 「ごっ、あぁっ……!?」 地面を転がり倒れるアリックス。一方のレティシアは息を切らす事もなく、平然としている。 「…む、強いな……。」 月乃助が思わず感嘆の声を漏らす中、傷だらけで立ち上がったアリックスは髪を掻きむしりながら、怒りの視線をレティシアに向ける。 「ああああ!!“ノ”の分際でよくも私を足蹴にしてくれたわねぇっ!醜く、惨たらしく殺してやる!」 アリックスはそう叫ぶと再び血の槍を精製し、霧となって霧散して消える。 「あ、あの消える一撃はマズイ!気をつけたまえ!」 「……」 月乃助が忠告を飛ばすより先にレティシアは目を閉じて右足を半歩前に出す。するとその右足に赤黒いオーラが纏ったかと思うとそこから赤黒い蝙蝠の翼状の刃へと変わる。 霧となって姿を消したアリックスに対し、レティシアはジッと動かず出方を待つ。 一瞬の静寂。そして次の瞬間レティシアの背後に霧が集まったかと思うとアリックスがその姿を見せ、槍を突き出す。 「死ねぇっ!!」 「……!」 レティシアは槍が突き出されると同時に身を翻して脚を振るう。突き出された槍はレティシアの髪を切り裂き、振り抜かれた脚の刃はアリックスの身体を横一文字に裂いた。 「……哀歌•血別“エレジア=ブラム•セパラシオン”」 「そんな、この、私が……!?」 裂かれた箇所から血を流しながらアリックスは倒れる。 ふぅ、と一息をつく彼女に月乃助は近づくと。 「いやー、助かった!何者かは知らないが随分と強いんだな!おかげで命拾いした!この礼は必ずする!」 月乃助がそうグイグイと話しかけるとレティシアと名乗った少女は先程の態度はどこへやら、急にオドオドし始めて。 「い、いや。この位、その、あ、ぜ、全然大したことじゃありま、せんので……その……」 「いやいや、君がいなければ私は死んでいたかもしれないんだが?この天才がこの若さで亡くなるのは全人類の手痛い損失だからな。君のやった事は誉れある行動と言っても過言では……」 月乃助が彼女の手を取ろうとした瞬間、レティシアは猛烈に目を泳がせて、冷や汗を垂れ流すとしばらくあ、あ、と繰り返すと何やらいっぱいいっぱいとなったらしく。 「お、お気持ちだけで充分です──!!」 そう言うと腰から翼を生やして何処かへと飛び去ってしまった。 凄い速さで小さくなって消えていく少女の姿を見つめながら、月乃助はポツリと呟いた。 「……なんだったんだ?」 背中から生やした四本の鋭い爪のついた蟲の脚を振り回す大女郎蜘蛛の猛攻に、変身した龍姫、龍斗、龍賢が立ち向かう。 「人間が三人に増えたところで!!」 「ふん。その人間一人に負けた奴が言ったところでね。」 龍姫が杖を振るい、脚を捌きつつ十字の光の刃を飛ばす。飛び上がってそれを避けた彼女に同じく跳び上がっていた龍斗がかんざきのような武器を振るう。 「喰らいやがれ!」 「喰らうか!」 水を纏った一撃を姦姦蛇螺目掛けて振るうが、それに対し姦姦蛇螺は蜘蛛の巣状の網目の障壁を作ってそれを防ぐ。 だが水を纏った一撃は障壁にぶつかると同時に弾け、凄まじい衝撃が彼女を襲い、大きく吹き飛ばす。 「チッ。厄介な。」 吹き飛ばされながらも、空中で体勢を立て直し、ザマス女郎蜘蛛が着地したその瞬間横から武器を構えた龍賢が飛び込んでくる。 「フッ!」 「次から次へと!」 迫り来る彼に、大女郎蜘蛛は指から細い糸を放つと、それをムチのように彼に振るう。 振るわれた糸を龍賢が避けると、地面に四本の線が刻まれる。 「邪魔ザマス!」 「むっ…!」 横薙ぎに振るわれた鞭。細く見えづらい一撃だがその軌道を予測し、見切った龍賢は肘の刃を抜き取ると、糸目掛けて投げつける。 一瞬の拮抗の後、バチンッと音を立てて糸が切り裂かれる。刃も勢いを失って地面に突き刺さるが、龍賢はその隙に懐に潜り込むと剣振るう。 それを大女郎蜘蛛は脚で受け止めるが、ならばと龍賢はその横腹に蹴りを叩き込む。 「おぅ…!」 怯んだその瞬間、龍斗は地面に手を思い切り押し当てる。 「亡海刺毘突!!」 次の瞬間地面を突き破り、噴き上がった水が槍となって大女郎蜘蛛に襲いかかる。 「チィッ!」 大女郎蜘蛛は素早く脚の一本を叩きつけて、その場から離脱する。 それを追いかけるように龍賢が近づき、剣を構える。 「舐めるなよ人間!」 龍賢を囲むように三方向から残った三本の脚が襲い掛かる。だが龍賢は一才の防御の姿勢を取らず大女郎蜘蛛に突っ込む。 「相打ち覚悟か!?」 それを見た彼女が思わず龍賢の行動を邪推するが、彼は。 「いや!防御する必要がないだけだ!」 次の瞬間どこからともなく飛んできた光の十字刃がそれぞれの脚による攻撃を防御する。 「んなっ、」 思わず大女郎蜘蛛が見回すと、そこにはニヤリと笑みを浮かべる龍姫の姿が。 「貴様ッ」 「ハァァッ!!」 龍賢の振るう一撃が炸裂し、大女郎蜘蛛は体勢を崩す。そして龍賢と入れ替わるようにして前に出た龍姫と龍斗が武器を突き出し、大女郎蜘蛛を吹き飛ばす。 「援護、感謝するよ姉さん。」 「ふん。ま、私の力に感謝しなさい。」 「三人で戦うのは初めてだけど、中々やれるもんだな。」 三人はそう言って顔を見合わせる。 痛烈な一撃を受けて地面に転がる大女郎蜘蛛だが、すぐに立ち上がると嗤って余裕の笑みを見せる。 「ははぁ……成る程、確かに中々の連携攻撃…だけど、私に勝つ事は出来ない。」 大女郎蜘蛛がそう言うと、先程三人が傷つけた傷がみるみる内に再生していく。 それを見た龍姫は舌打ちし。 「…チッ、確かに今の私にはプロウフの凍結能力がないからアイツの再生は封じられないわね。」 「…じゃあ、どうすれば?」 龍賢の問いに、龍姫はニヤリと笑って答える。 「確かに、私達じゃどうにもいかないわね。けど、一人だけ私は心当たりがある。だからここまでアイツを飛ばしたのよ。」 龍姫の言葉に二人がハッとする。大女郎蜘蛛が飛ばされた先、そこには天願を倒した龍香の姿があった。 三人と大女郎蜘蛛に気づいた彼女が振り向く。 「お兄ちゃん達?」 「龍香!あんたの剣でコイツを倒すわよ!」 龍姫の言葉に龍香はコクリと頷くと、カノープスに触れる。 《肝胆相照!ティラノカラー•アトロシアス!》 するとさらにドレスは豪華になり、装甲が増した姿“ティラノカラー•アトロシアス”へと変身する。 武器を構える彼女を見て、三人も武器を構える。 「私達も最大技で行くわよ。」 「あぁ。」 「行くぞ!」 武器を構える四人に挟まれ、何かマズイと悟ったのか大女郎蜘蛛の額を冷や汗が伝う。 「ぐっ!舐めるな人間共ッ!」 次の瞬間背中の脚を拡げると巨大な蜘蛛が脚を振り上げ四人へと向かう。 だが、四人は武器を構え、それぞれの最大必殺技を放つ。 「“ブレイジング•バスタード”!!」 「“撃鉄雷龍徹甲弾”!!」 「“葬無死海•絶”!!」 「“征服王ノ侵略聖光刃”!」 放たれた必殺技が大女郎蜘蛛の技とぶつかる。大女郎蜘蛛の一撃はそれらと数瞬ぶつかり合い、拮抗するが、三人の技が蜘蛛を打ち砕き、龍香の必殺技が大女郎蜘蛛に炸裂する。 「オオオオオオオオオオ!!?」 龍香の一撃は大女郎蜘蛛を切り裂き、いとも容易く吹き飛ばす。ボロボロになった大女郎蜘蛛は全身傷だらけになりながらも立ち上がり、手を伸ばす。 「ぐ、うぅ……!な、中々だけど、この、私には…?」 だが、ここで彼女が気づく。──“傷が再生しない。” 「なっ、ば、馬鹿な。何故再生しない──ッ!?」 思わずよろめく彼女に龍香が動こうとしたその瞬間。 「いや、いい龍香。もう決着はついた。」 龍賢がそう言って制する。実際大女郎蜘蛛は傷だらけで戦闘を続行出来るとは思えない。 天願も変身が解除され、どうにもならない。 龍香が剣を下ろすと龍斗が話しかけてくる。 「って言うか龍香。お前変身出来たのか?」 「む、確かに言われてみれば。」 龍賢も龍香の姿を見てようやく気づく。 「うん。実はカノープスが生きてて……って言うか、カノープスはどうやってここまで……」 《あぁ。それはな……》 カノープスが答えようとしたその瞬間、とてつもない熱さを感じる。 「!」 皆が警戒してその熱の元を見れば、風景から漏れ出すようにして空間から焔が噴き出ている。 「これは…!」 そして空間がガラスのように割れると同時に中から拘束された赤毛の少女が現れる。その顔を見た龍香は以前見た時の疑惑が確信に変わる。 「やっぱりアルタイルちゃん!?」 龍香が驚く中、焔が一際大きく輝き、龍香達へと照準を合わせているように蠢く。 「……!」 「チッ……!」 龍姫が防御の構えを取り、焔が放たれようとするその瞬間。 「そうはさせるかぁ──ッ!」 次の瞬間上空から放たれた風の刃が次々とアルタイルの拘束を切断する。 《何ッ》 さらに白い翼をはためかせ、鳥人のような見た目の少年は急降下するとアルタイルを抱えてそこから連れ出す。 「大丈夫なのか?」 「……助かったわ。アルビレオ。」 少年……アルビレオの問いかけにアルタイルは弱々しくも、微笑んで答える。 「アルビレオ!?」 「龍香!久しぶりなのだ!」 またもや数奇な縁に龍香が驚いていると、カノープスが言う。 《ちなみに俺をここまで連れて来たのはアイツだ。たまたま次元の狭間から転がり込んで来た時に鉢合わせしてな。この状態じゃ動けんから助かった。》 「そうだったんだ…。」 龍香がそう呟くと、アルタイルを抱えたアルビレオが近くに降り立つ。 「アルビレオ……ありがとう。カノープスを連れて来てくれて。」 「全然気にしなくていいのだ。こっちもアルタイルを助け出せたし。」 龍香が礼を言うと、アルビレオはニコニコと人懐っこい笑みを浮かべて応える。 「……う。」 ふと耳に入った呻き声に龍香は声の方に振り返る。そこには倒れている天願の姿があった。 「……天願さん。」 龍香は天願に近づいていく。それに気づいた天願は弱々しくも、顔を上げる。そして倒れている天願に向けて手を差し伸ばす。 「龍香……さん。」 「天願さん。……もう、帰ろう?これからの事、私も一緒に考えるから。」 「なん……で、私に、そんな……優しく…してくれるの?」 天願の問いに龍香は。 「それは、だって貴方は私の──」 龍香がそこまで言いかけた次の瞬間。 「龍香!危ないっ!」 突然龍香は龍斗に襟首を掴まれて後ろへと引っ張られる。何事かと龍香が龍斗に振り向こうとしたその時。 「あ──」 バクンッ、と。突然顎が裂けるほど大きく開いたニセカノープスが天願を呑み込む。 「天願さん!?」 《お前っ……!》 さらにカノープスは口を開けると、今度は大女郎蜘蛛に視線を移す。 それを見た大女郎蜘蛛はその意図を察し、顔を青ざめさせる。 「おいっ、馬鹿、やめ──」 次の瞬間カノープスの顎が大女郎蜘蛛を捉え、バギバキと音を立てながら呑み込む。 「ごっ、あぇええっ、がっ、や、あぎゅ、ぐ」 大女郎蜘蛛の潰れるような悲鳴に、思わず龍香とアルビレオは目を背ける。龍賢達も視線を逸らしこそしないが苦虫を噛み潰したような表情になる。 そして、彼女を捕食したニセカノープスははぁ、とため息をつき。 「──使えない。どいつもこいつも使えない。結局最後に頼れるのは己自身、か。」 そう吐き捨てた。 「……アンタ一人で私達に勝つつもり?」 「そう思われているなら随分と舐められたものだ。」 龍姫と龍賢が武器を構える。だが、怪物はククッと笑うと。 「そんな口がいつまで叩けるか見ものだな。」 そう言うとニセカノープスはアルタイルを拘束し、吸収していた焔の塊に手を翳すと、焔は怪物はの身体へと接触する。 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」 「……何をするつもりだ?」 焔は接触した箇所からドンドンと吸収されるように縮んでいき、そして等々完全に消滅する。 焔に灼かれ、所々ひび割れ、赤い光を漏らしながらニセカノープスは笑みをやめない。 「くく、クククク……ここに来るまで随分と苦労した。良さげな餌場を探し、死者を改変で蘇らせ偽りの記憶を植え付け……使えない僕を増やし……莫大なエネルギーと“世界の杭”を探し出したのも……この時のため。」 次の瞬間ギョロリ、とニセカノープスは目を見開いて叫ぶ。 「全ては究極の生命体へと昇華するため!!」 その言葉に何かを感じ取ったのか、龍姫が動く。 「……何か、ヤバい!」 龍姫はそう言うと最大技の十字の刃を繰り出す。そしてそれはそのまま──ニセカノープスに直撃する。 ドォンっという轟音と共に砂塵が舞い上がる。パラパラと舞い上がった石や砂が落ちる音が響く中、ふとアルビレオが呟く。 「……やったのだ?」 そして砂塵が晴れると、そこには傷だらけでボロボロのニセカノープスの姿があった。目に光は無く、ピクリとも動かない。 「………!」 ピシッとヒビ割れるような音が響く。それは目の前のニセカノープスから聞こえてくる。 その音と共にニセカノープスの身体に亀裂が走り、そしてとうとうその全身に亀裂が回る。 すると突然バキンと言う音と共にその背中を突き破り、二枚の翼竜のような翼が生える。 それを合図にニセカノープスは完全に砕け、中から悪魔のような角を生やし、赤いメッシュの入った桃色と長い髪をポニーテールに纏め、黒いドレスに身を包んだ赤い瞳の女性がその姿を現す。 背からは左側に翼を二枚生やし、右腕は龍のような怪物の顔になっており、その異形さを醸し出している。 さらにはその全身から漂う余りにも他者を圧倒する暴力的なオーラに全員が少なからず戦慄を覚える中、その女性が口を開く。 「……待たせたがじゃ。カノープス改め、がじゃロリキメラザウルス。」 鋭い牙を覗かせる口を笑みで歪めて彼女は言う。 「第二ラウンドと洒落込もうじゃないがじゃ。」 To be continued……
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ep.まとめ【くねくね】怖い話あるある・2ちゃんパターンの入った話まとめ THCオカルトラジオ 【リョウメンスクナ】 収録内容 「くねくね」 「八尺様」 「ヤマノケ」 「コトリバコ」 「おつかれさま」 「姦姦蛇螺」 「リョウメンスクナ」 その他 登録されたタグ 2ちゃんねる まとめ回 名前 コメント すべてのコメントを見る
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姦姦蛇螺という怪談がある。 あるところに、呪術師の一族があり、一族の中でも特に強力な力を持っていた呪術師の女性がいた。彼女は、あまりに強すぎる力をもつがゆえに、親族にもねたまれていた。そんな呪術師は、ある時、山の神を討伐してくれという依頼を受けた。 依頼をしてきた村の住人は、呪術師の親族の手引きもあって、討伐に来た呪術師の女性の手足を切断して、弱った女性の身を山の神に捧げた。 その捧げものを以って神を鎮めようとしたのだ。 呪術師は山の神に食われながらも逆に山の神を乗っ取り、六臂に蛇の下半身を持つ異形、姦姦蛇螺として、自らを裏切った一族も、騙した村の住人たちも祟り殺した。 これが姦姦蛇螺の怪談。 修実の姿はまさに、村も親族も祟り殺した姦姦蛇螺そのものだった。 @ 何故修実はこうも、都市伝説になりきっていないような怪談に語られる化け物と似た姿になったのか。その疑問に対して、久信は二つの理由があるのでは、という見解を持っている。 まず一つ目は、一族の中で異常ともいえるほどの力を持ち、それが元となって組織や町の人々に殺されかけ、その過程で両手足を失ったという、修実が辿った人生が、かの怪談で語られる呪術師のそれと似ていたこと。 もう1つが、かごめかごめの童謡には、1人の子どもを何人もの子供で囲んで歌を口ずさみながら回り、真ん中で目をつぶる子供が最後に自分の真後ろにいる人物の正体を当てる。という遊びがあり、この遊び自体に語られている都市伝説に曰く、この遊びは真ん中の子供に神霊を降ろす呪術であるというものだ。 修実は、かごめかごめが作り出す結界の中、その場にいる全てのモノに取り囲まれて悪意を向けられ、襲われた。 まるで、裏切りにあって袋叩きに遭う呪術師のように。 まるで、唄を口ずさみながら、それと知らず降霊術の手順をなぞる子供のように。 奇跡のように状況が整い、その上で蠱毒という都市伝説が自然発生したか、あるいは結界の中に閉じ込められていたモノのうちの誰かの都市伝説が暴走して、この異形は形成されたのではないだろうか。 また、都市伝説という存在が人々の思いの力に依って存在を確立、もしくは補強する情報生命体であると仮定できるのならば、両手足を失っても尚生きる意志を捨てずに蛇を使役し続ける修実の姿に、結界の中の全員が姦姦蛇螺を想起したのではないかとも思われる。 その場に居た皆の総意によって、蠱毒呪法という明確な形を保たない力は、失われた修実の手足としての形を持ったのではないだろうか。 確信はないが、蠱毒という都市伝説と、その呪法に巻き込まれた者たちの状況を勘案するに、 怪談と似通っていたこと。 修実が怨念の溜まるアンテナ役になりやすかったこと。 修実が蛇を使役する能力者であったため、化け物のイメージを姦姦蛇螺に統一しやすかったこと。 これらの要素が互いに影響し合って、今の修実の姿に結晶した。というのが当たらずとも遠からずな答えだろう。 ならば、郭に今こうして対峙する修実は、郭が偶然にも作り上げた呪術の被害者たちの恨みそのものでもある。 恨みの対象である郭は、修実から逃げる算段をつけようとするように、視線をあちらこちらにさ迷わせている。 対する修実は郭を見据えたまま、目線を動かす気配がない。 無慈悲ともいえる表情を浮かべる修実の姿は、久信も間近でまじまじと見るのは初めてだった。 以前この姿になった吉井を見たのは、姉が居た町へ彼女の安否を確認に居た時だった。 封印を破壊したばかりで意識も朧だった彼女。久信はこの状態の姉を、姉と認識するところから始まって、修実が落ち着いて意思の疎通ができるようになり、怨念によって膨れ上がった彼女の力を抑えこむために修実の中に根付いた新たな力を極力封印し、蠱毒の影響で生成された手足も全て封じてダルマ状態になってもらうまでの間、一連の綱渡りのような事態がせわしなく続いたせいで、じっくりと彼女の姿を眺める余裕はなかった。 月光の下、改めて見る修実の姿は、美しかった。 長い髪が足代わりの蛇身と人の体の継ぎ目でさらさらと揺れて、六本の腕が、いずれも劣らぬたおやかさと、相手を逃す隙の無い力強さで郭を締め上げる。 「郭さん。私と、久くんの濡れ衣を晴らすために、捕まえさせていただきます」 自分たちの目的を突き付ける修実の体からは、周囲に向けて重苦しい瘴気が放出されている。 蠱毒の中を満たしていた、町一つを滅ぼした毒の発現だ。 「……くっ、!」 先程まで優位に立っていた郭が、蛇ににらまれた蛙のように為す術もない状態だ。あとは捕まるだけに見えた郭だが、彼は止めず、今一度起死回生を狙ってか、唄を口ずさみ始めた。 「かごめ かごめ 」 「無駄です」 周囲を包もうとする結界を、もはや視線一つで打ち砕いて、修実は蛇身で都市伝説の体を絡め取った。 六つの腕で郭の東部を包み込むように締め上げて、指で喉を押えこむ修実に、郭が必死に声を絞り出す。 「ば、化け物……!」 「幼い頃からずっとあの町に居たのに、ご存じなかったのですか? 私は、ずっとそうでしたよ」 隻眼を見開いて叫ぶ郭へ、無理のない笑みで修実は言う。 「町の皆の仕打ちを非難なんてできませんね。今では逆に私があの人たちを皆殺しにしてしまったのですから。そう、きっと、あの事件に関わった人は、誰にも誰かを非難することはできないのでしょう。皆が被害者であり、そして、本人が意識しているのかしていないのかに関係なく、皆が加害者でもあるのですから。当然主犯である貴方には、全うすべき責任があると、私は思いますよ?」 それなりの数はいたであろう、子供や、町の実態を知らなかった人間を無視した暴論を告げ、修実は軽く身じろぎした。 蛇身の下から骨が砕ける乾いた音がする。その音を背景に、彼女は続ける。 「そう、ですから。その残りの目も抉り出してしまいましょうか」 締め上げを徐々に強めながらそう口にする修実から本気の殺意を感じ取って、床に置いておかれた久信は慌てて止めに入った。 「待った修実姉! そいつからは証言を引き出さなくちゃいけないから、そこまでだ」 「多少痛めつけるくらいならばかまわないでしょう。証言ができるように、こうして喉だって潰さずに残してあるのよ?」 「修実姉!」 修実の蛇身を殴ると、修実はそれで初めて久信の存在に気が付いたように目を瞠った。 「――ぁ」 背をビクッと震わせ、瘴気を徐々に収めていく。 全てを収めた後、修実は久信に目を合わせて、眉尻を下げた。 「ごめんなさい」 「いいんだよ」 久信は正気を取り戻したらし姉の姿にほっとした。 クラブ跡全体を内側からコーティングしていた結界が砕けていく、ガラスをくだいたような音がする。結界が砕かれたのを確認してから、修実が解放した郭は、気を失っているようだった。 「……これで、一件、落着か……」 郭を蛇でしっかりと縛り上げた久信の耳に、犬の吠え声と、よく知る男の声が聞こえる。 「おい、生きてるか!?」 「おかげさまで……」 警察が到着したようだった。 @ 昌夫が、かれが使役する犬と共に結界を取り払われたクラブ跡の内部に侵入した時、捕獲目標であた郭正吾は、大量の蛇に縛り上げられて気を失っていた。 目立った外傷は見受けられないことから、毒か何かで無効化したのだろう。 精根尽き果てたように床に座り込んでいる友人と、それに寄り添うようにして心配そうな顔をしている、多少外見が変化した友人の姉に、労いの言葉をかけた。 「おつかれさん。結界がいきなり出てきた時はどうなるかと思ったが、どうやら決着はついたみたいだな」 「おかげさまでね。幽霊船のほうはどうなった?」 「あっちはとっくに占領されてるよ」 相応の装備を整えていた幽霊船も、動物による奇襲に脆くも破れてしまったようで、現在は昌夫が読んできた警察の人間が、幽霊船内で無力化されている乗船員たちを運び出している最中だ。 「しばらくはあの船にかかりきりだろうな」 昌夫は警察に対して、この建物の中に今回の最重要捕縛対象が要る事については伝えていない。協力を要請した他の部署所属の人間に手柄が渡るのを避ける、というのが世知辛い理由の一つ。もう1つの理由としては、昌夫も、友人姉弟を窮地に立たせた郭正吾という人物を一度直接見て起きたかったというのがある。そして、これは今この場に踏み入って思い浮かんだ理由だが、修実の今の姿を大勢の人間に見せずに済んでよかった、というものがある。 いったい何の都市伝説の力で失った手足を補填したのかは昌夫には分からないが、何も知らない状態で見るには蛇身六臂の異形という姿は多少刺激の強い外見をしているのだ。 修実をこんな姿に変えた原因が、目の前で転がっている男だという。 「これが、郭正吾か」 「そう、修実姉を媒介にして、偶然だろうけど蠱毒を作り出した原因だ」 「んでもって、例の組織がやらかしていた人身売買やら密輸やらの元締めなんだな?」 「ああ……」 久信は、やけに疲れた調子で応じた。 戦闘を行っていたのなら、体もそれなりに疲労もしているだろう。動作を見る限りでは、昌夫の目にはどうも久信はいくっつか骨を折っているようだ。後で久信は医務室に放り込んでおこうと考えながら、昌夫は修実を改めて見る。 異形の姿は、確かに初見でこそ思わず身構えてしまいそうな威圧感のあるものだが、相手が意思の疎通が可能なほぼ人間のような存在であるということを念頭に置いて、落ち着いた目で見てみれば、 「きれいなもんじゃないか。修実さん」 「そんなことないわ」 恥じ入るように修実は六本の腕で自分の体を抱いた。 ダルマのようだった時とのギャップが純粋に衝撃だ。今の状態の方が、ダルマの時よりも、より人間らしい恰好と言えなくもない辺りもまた、出来の悪いジョークのようでもある。 「なあ、なんでずっとその姿で行動しなかったんだ? 修実さんも自分の意思で動ける分、そっちの方が何かと便利じゃないか?」 確かに高圧的な姿をしているので。この姿の修実が敵意を持っているのを見たら化け物の来襲に見えなくもないだろう。普段から今の姿をオープンにするわけにもいかないだろうが、修実は、昌夫が知る限り、壊滅した町からここまで、一度も今の姿をとったことはない。 今の姿をとるためには、何かの条件が必要なのか、あるいは、ただ単に目立ちすぎるのを避けようとしたのだろうか。 修実の姦姦蛇螺状態がどのような経過を経て存在しているのかをしらない昌夫の純粋な疑問の言葉を切るように、久信が早口に言った。 「それよりも、早いところこの男をしかるべきところに連れて行って洗いざらい吐いてもらおう……。それまで安心はできない」 「おっと、そうだな。とは言ってもこいつが捕まればもうお前たちは隠れる必要もなくなるからな。これで少しは楽な生活が送れるようになるだろう。完全に容疑が晴れるまでは俺が直接身柄を預かるように計らっておく」 「ああ……よろしく……」 応じる久信は疲れ顔だ。戦いの怪我以外にも、ここ数週間の心労が一気に出てきたのだろうか。時間が経つごとに目に見えて久信の疲労の度合いは強くなっているようにも見える。 「おい、俺の息のかかった医者がもうすぐ来る。それまで寝るな。……おい、聞こえてるか?」 「久くん……?」 昌夫と修実の言葉にもあまり反応を示さなくなった久信は、苦しそうに数回呼吸をした後、 「任せた」 小さく言って、ほっとしたように息を長く吐いた。 今にも眠りに落ちてしまいそうな久信に、昌夫は言い聞かせるように言葉をかける。 「おい、お前はよくやったよ。だからもう少しがんばれ」 「俺は……結局何もできなかった……でも、これで、追われることもなく、修実姉と、一緒に帰れる」 「そうよ久くん。一緒に帰りましょう」 「うん……」 久信は修実の手に触れた。 「一緒に帰りたいな……」 そう呟いた久信は、糸が切れた人形のようにその場に倒れてしまった。 「おい、久?」 慌てて久信の体を抱き上げた昌夫は、久信の体がありえない程に冷たくなっていることに初めて気付いた。 「おい?! 久、お前どうした?!」 呼びかける昌夫の横で、うめき声があがった。 「あ……あ……ッ」 「修実さん?!」 何事かと慌てる昌夫の傍で、修実は取り乱した上ずった声で言う。 「ど、どうしよう……私の……私のせいだ。ああ、どうしよう。私の、私の、わたしのせいだ……!」 呻きながら、修実は久信に取りすがる。 「久くん? 久くん!? ねえ、久くん、起きてよ、ねえ?!」 危うく震える声で何度も呼びかけられるが、久信は反応する気配を見せない。 かろうじて息をしている、というのは分かる状態で、昌夫は医者の早い到着を祈りながら、半ば茫然と、友人姉弟を眺めていた。 前ページ次ページ連載 - コドクノオリ
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ep.682 鬼神様に気に入られると…巫女にまつわる怖い話「鬼神様」「◯神祓い」 考察怪談 1.「鬼神様」 田原市の見てはいけないお祭り 関連エピソード → ep.530【わたしにも聞かせて】音楽業界の怖い話「CDに入った霊の声」「ライブハウスの客(ヒトコワ)」ゲストClub Knot尾藤さんと考察、ep.647 人形を山の穴に捨てるお祭りがあったんです…「田舎の風習・おまつり」 2.「◯神祓い」 参加メンバー Tomo Kimura その他 登録されたタグ Google Map club KNOT club KNOT照明・ナガタ君から聞いた神社の祭りの話 「姦姦蛇螺」 『NieR Automata』 『呪術廻戦』 お祭り はんにゃ オードリー 久丸神社 事故 大人の文化祭 女 姦 寝祭り 山車 巫女 幽霊 手筒花火 春日俊彰 田原市 目隠しプレイ 目隠れ女子 神 神事 金田哲 z ⇐PREV NEXT⇒ 名前 コメント すべてのコメントを見る