約 1,644,902 件
https://w.atwiki.jp/schwarze-katze/pages/570.html
太陽と月と星がある 第四話 今日も今日とて雪が降るネコの国のとある地方都市。 窓の外はこんもりと雪が積もり、イヌもネコもネズミも子供は外を駆け回り、 大人は無言で帰宅を急ぐ。 そんな姿を窓から眺め、ああ、部屋の中っていいなぁとしみじみ思う今日この頃です。 ヘビな御主人様は、冬眠したいと言いながら日々を過ごしています。 あまりに朝辛そうなので、湯たんぽになりましょうか?と訊ねたら返事をしてくれませんでした。 失敗。 御主人様曰く、「居候一号」のサフは雑種らしいのですが、毛色は黒銀と灰白の毛皮をした狼顔のわんこです。 今は冬毛で覆われ、まるでぬいぐるみのようです。 小さな体に不釣合いな太い手足。 しかも肉球ピンク。 尖った耳の内側もほんのりピンク。 鼻先もまだらピンク。 眼だけが薄い蒼で、将来の姿をいやおうなく期待させます。 そんなナリで私の服の裾を掴み、きらきらした目で 「キヨカ、耳かきしてくれる?」 「ぜひ」 世の中に神様っているんだなー、と思う瞬間です。 現金だなぁ、私。 「サフずるい。ちーも」 「喜んで」 ふにふに幼女とふわふわワンコの両手に花状態です。楽しいです。 背後から凄い目線を感じるのですが、きっと気のせいだと思う事にします。 ジャックさん、そろそろ帰らないと夜道は危険ですよ。 ですから帰りましょうよ。明日に響きますよ。 居候とペットではどちらが格上か微妙なラインだからなのか、 外見上は私の方が年上だからなのか、二人ともまだ子供だからなのか、 サフもチェルも私がヒトだということをあまり気にせず接してきます。 というか、まだ二人は親元にいるべき年代だと思うのですが…ペット風情が何か言える立場でもありませんけど…。 サフの頭を膝に乗せていると、隣に座っていたジャックさんがテレビを見ながら口を開きました。 「キヨちゃん、なんか欲しいものある?」 不意にそんな事を言われ、一瞬ピンク色の扉を連想してしまいました。もちろん大竹のぶ代ボイス。 今は綿棒で耳をいじっているんだから、…動揺、させないで欲しい。 「そうですね、明日食べたいものありますか?」 「んーとね、ちーはねー、シチューがいいな」 ジャックさんの膝の上に座ったチェルからテレビから目を離さずに返事が来ました。 「なら、肉とパンとキノコが欲しいです」 「じゃーオレは豆も入れて欲しいなー」 「善処します」 闇鍋シチューか、そういえばカレーがあると知った時、御主人様に「マジで!?」とか言っちゃったんですよね…。 ジャックさん曰く『王都の方には専門店もある』そうなんですが、 なにせここはネコの国でも地方の方なので山の幸に恵まれていても、手に入らないものが多いのが…。 御主人様は流通がどうとか、大手企業の市場寡占がなんとか言っていましたが、結局カレーのルゥは手に入らず。 私は香辛料から作る技能は持っていませんので。 ああ、あつあつのねぎたっぷりカレーうどん。 福神漬けたっぷりの大盛りカレーライス…。 思わず遠い目になってしまった自分に叱咤し耳かきを再開しようとした所、 膝がぬるりとしたので見下ろすと、サフがよだれを垂らして寝ていました。 子供だから仕方ないとはいえ…。 ぬるぬる…。 悪戯心で耳に息を吹き込んだら、ひゃうんとか言われました。かわいい。 「起きました?」 「どきどきした」 口元を拭ってあげお風呂に入るというのを見送り、次のチェルを探すと何故かジャックさんがスタンバってました。 いや、ぐって、親指立てられても…。 チェルは食卓にノートを広げ、鉛筆を握り眉間に皺を寄せています。 ああ、お勉強タイム突入でしたか。 御主人様が隣に座り、何事か教えているのが微笑ましいというか、なんというか、なんというか…。 いいなぁ…勉強…。 「さあさあ、キユちゃん!初えっちみたいに優しくしてね!」 成人ウサギの頭、重いです。 いきなり足が痺れて来ました。 ああ、触られると余計に痺れがっ 「めいどさんのひざまくらーひざーふっともー …また甘いもの買って来るから、もうちょっと柔らかくなろうね」 この人、ホントなんでネコの国にいるんでしょうか。 足の痺れが治まったので耳をひっくり返し観察。 あ、汚れてる。 さすがに自分でするのは限界があるのか、非常にやりがいのある事になっています。 いやいや、別にわくわくだなんてしてませんけど! していませんよ?ホント、気のせいです。 深呼吸して、意識を集中し 「あっ いたいっ もっとっ 優しくっ あぁっんっ やぁっ」 騒音が気になるものの、気に留めずに集中。 凄いです。大きな耳だけに凄いことになっています。 手持ちの綿棒が使い物にならなくなったので選手交代を考えていたところ、 ふと手元が暗くなり、照明の方を振り返ると御主人様が無言で佇んでいました。 逆光で表情は分かりませんが、手には雑巾を持っています。 「これから拭き掃除されるんですか?」 手を止め訊ねると、御主人様は尻尾をうねらせ、重々しく頷きました。 「 ぎゃあっ ちょっ きよちゃっ!?つつめた!つめた!!! だっ がっくん!!! ああああああああああっ え? あ そこはやめっ 耳はっ耳はっ アーッ 」 いつも口数が少なくて表情の分からない御主人様ですが、ジャックさんとはよくじゃれています。 じゃれるときはいつもある眉間の皺がとれ、ほんの少し口元が吊上がり笑顔らしきものが浮いているように見えます。 美少年は笑顔もいいなぁ、と心の中で感嘆したり。 ジャックさんが私で遊んでいると、御主人様が乱入というのがパターンなようです。 仲いいなぁ。 あ、ちなみに私は遠くからお二人を見守っています。 ノートを広げ、悪戯を増やしているチェルを見ると、不満げに唇を尖らせていました。 「いいなーたのしそうーちーもあそびたいなー」 「もうちょっと頑張ってから加わってください」 ところで、いつの間にかお風呂から出たサフが物凄い勢いで落ち込んでいるのですが、何があったんだろう。 声をかけたら物凄く気まずそうな表情を浮かべられました。 なんでだろう…嫌われるようなこと、したかな…。 「おい、」 チェルのノートを見せてもらっていると、御主人様からお呼びが掛かりました。 妙に満足げな雰囲気を漂わせています。 その後ろではジャックさんが女の子座りで耳を撫でながらなにかブツブツ言っているのがホラー過ぎます。 なんか、…事後っぽくて凄くイヤ。 いえ、御主人様の行動に口を出す気はありませんが、…なんとなく。 「なんか、欲しいものないのか」 流行ってんでしょうか、その質問。 「明後日の晩御飯のおかず ですね。あと小麦粉が切れそうです」 御主人様の眉間がぴくっとなりました。 何が失言だったのか…。 「あ、入浴剤もそろそろ空になりそうです」 「そんなもの、自分で買いに行け」 さっきと打って変わって固い口調です。 もしやお怒りですか。 確かに御主人様かサフしか買い物にはいけないとはいえ、御主人様をパシらせるのは問題です。 まぁ私もここで飼われる様になってずいぶんと体力戻ったし、買い物ぐらいは行けるかもしれません。 その前に問題がありますが。 「それなら、必要なものがあるんですが」 子供の前で言うのはちょっと触りがある気がします。 いえ、私がヒトだって言うのは二人だって分かりきっていることなんですが、そういう配慮って子供には必要な気がするので。 多分、まだ。 席を立って御主人様の横に立ち、お耳を拝借。 ターバンの裾が頬をくすぐるのがちょっとこそばゆい感じです。 「外に出るなら、首輪が必要なんですが」 御主人様の目が見開かれ、ウサギだけにやっぱり聞こえたのか、いつの間にか復活したジャックさんが眼を瞬かせました。 「ほら、無いとノラだと思われますし」 御主人様はヒトを飼うことに関して疎い部分が多いようです。 というか、普通はこういう知識が必要ないんでしょうから仕方ないことなんでしょうが。 そういえば、首輪っていくらぐらいするんだろう? あまり高くなければいいのですが…。 初めて着けられた時はあんなに必死で抵抗したのに……皮肉な話です。 「キラちゃん、ちょっとここ座って」 ジャックさんが床を指したので取り合えず正座。 また名前違うけど、もう訂正するのも面倒です。 足に御主人様の長い尻尾がちょっと当たるのは多分役得。 ひんやりざらすべ。 出来ればいつか触らせてもらいたいなぁ…。 そして、ジャックさんは無言で懐をまさぐり、出てきたのは太い皮製の首輪、鎖つき。 準備万端ですね。 買う手間が省けたというか、常備しているジャックさんはいったい何者なんだろう… …ホントに医者なんだろうか。 ジャックさんはソレを私の前に差し出し、真面目な顔になり 「これ付けてちょっと上目遣いでオレの事、御主人様っ(はぁと)て呼んでみ゛っ!!」 御主人様の尻尾がジャックさんの頭に見事ヒット。 凄く痛そうな音が響きました。 「ジャックさん、大丈夫ですか?」 「大丈夫じゃないのは、お前の頭だ―――ッ!!」 御主人様、ご乱心。 肩を捕まれ、かくかく揺すぶられました。 目が回る目が。 御主人様、指に圧力掛かりすぎです。 「キヨカーもう寝るから、お話して」 動きが止まりました。意図的かどうか分かりませんが、チェルに感謝です。 しかし手は放されたものの、頭の中がくるくる…。 ううチェル更に肩揺すぶるのやめて下さい…。 「お話、今日どんなのがいいですか?」 御主人様、また怒っているみたいで、無表情です。あー…。 「あのね、この前のゾウの話がいいな」 チェルのリクエストに応え、更に町のネズミと田舎のネズミまで語って疲労困憊です。 途中からもぐりこんで来たサフもついでに寝かしつけ、気分はお母さんです。 いえ、自分がヒトだとは自覚していますが、やっている事は大体そんな感じなので…。 あんなパワフルなお子さんを育てるんだから、この世界のお母さんて最強なんじゃないでしょうか。 起こさないようにそっと部屋を出ると、キッチンに御主人様がいらっしゃいました。 ジャックさんはもう帰ってしまったのか、気配がありません。 まだ怒ってるのかなー…と様子を伺ってみれば。 一人晩酌。 御主人様、侘しいです。 尻尾も心なしか元気がありません。 せっかくの美形台無しです。これはいけません。 試しに作ってみた味付け卵と自作漬物…もといピクルスを小皿に盛って空いている椅子へ。 先日からお酒禁止を言い渡されてるので私は飲みませんが。 言われなくても言われなければ飲みませんけど。未成年だし。 「御主人様」 睨まれました。その上、溜息です。ここは機嫌をとりたい所です。 取り合えず、おつまみを差し出してみました。 御主人様が卵好きと言うのは把握済みです。 「宜しかったら」 無言でつまむ御主人様。指先が綺麗です。 ええ、手フェチですが、なにか? ちなみに御主人様の口元がちょっとだけ緩んだのも見逃していませんよ。 役得です。 「いかがでしょうか?塩足りていますか?」 あっという間に無くなってしまったのが返事だと思うことにします。 「あのですね、御主人様」 あれ、微妙に眉間に皺が寄ってしまった。 無言でグラスを傾けています。 「先程の首輪の件なのですが」 こちらを見る御主人様。 御主人様の瞳はヒトと違う虹彩で思わず見入ってしまいます。 ああ、もしやこれがヘビに睨まれたカエル状態…ちょっと違うかな。 「良く考えたら、首輪はマズいので撤回させて頂こうかと思いまして」 グラスが空のようなのでお代わりを注いで、 「ヒトが居るって思われたら、強盗とか来ますから」 多いみたいですよ。ヒト=落ちモノ=高価=お金持ちですからね、普通。 「みなさんに何かあったら大変ですし」 …なんで眉間の皺が深くなってしまうのでしょうか。 何か言いたげでしたが、結局何も言わず…この無言に凄く緊張するんですけど…。 不意に手を伸ばされシャツの襟を捲られました。 まさか、ここでするんですか、あ、まだお風呂入ってないんですけどーいいのかなー第一回目ここで… 「おまえなぁ」 御主人様、いきなり脱力しています。何か萎えるようなことしましたか、私。 もしや内心を発言しましたか。それは相当恥ずかしい。 「痛いならいえ、痣になってるじゃないか」 顔近いです。 「どこですか?」 「ここだここ、さっき掴んだときだな、早く言えバカモノ」 ああ、かっくんかっくんされた時ですか。角度的に見えないのですが、…後で見ておこう。 「気がつきませんでした」 アレくらい、痛いの内に入りませんし。 「いや、俺が悪いんだが、お前も… なんでもない」 そう言って、鎖骨の辺りをまじまじと見つめ、 私の顔を見て―――手を放し、早く服を戻せとぶっきらぼうに言われました。 言われたとおりボタンを嵌め、見上げると何故か苛立った表情で指先で顎骨を触られました。 「お前、もうちょっと食え痩せ過ぎだ」 「御主人様、デブ専でしたか。これは意外」 あ。 でこぴん一回で済みました。 痛かったです。
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/617.html
太陽と月と星がある 第十九話 季節は移り、だんだんと寒さが身に染みるようになって来ました。 ジャックさんは一体いつまで夏休みなのか、ちょっと不安です。 そんな事を考えつつ台所を片付けていると、音もなく御主人様が忍び寄っていました。 御主人様は下半身がヘビ尻尾なので、ネコでもないのに音を立てずに近寄れるという嫌な特技があります。 しかもお皿を拭いているのに耳を噛むのはやめて欲しいです。 湯上りとはいえ、私より低い体温の手を腰に回すのもやめて欲しいです。冷たいです。 「まだ終わらんのか」 御主人様は長い尻尾の先でぺちぺちと床を叩きながらぼそりとそういいました。 エプロン外すの、やめましょう。 「じゃあがっくんも手つだってよ」 テーブルの下から顔を出したのは、スナネズミの女の子。 御主人様より少し早くお風呂を出たのですが、まだ頬は真っ赤です。 あ、御主人様の手が離れた。 「寝たんじゃ…ないのか」 御主人様、棒読みです。 「キヨカのお手伝いですぅー!はいフタあった」 「ありがとう」 ビンのふたを落としてしまったのを探してくれていたのですが、どうやら御主人様は気がついていなかったらしく動揺しているようです。 「がっくんキヨカに文句ばっかり!シュートメイビリ!」 チェルは学校に行くようになり、色々厳しい言動をするようになりました。 周囲に染まったというべきか、成長したと見るべきなのか。 御主人様はチェルの言葉に固まった後、私の顔を覗き込んできました。顔近いです。 端正な顔がちょっと焦っているように見えるのは、気のせいでしょうか。 「キヨカ、ガツンといっちゃっていいよ!ふーちゃんのおばさんが、二人ならいつでも来ていいって言ってたから今から行こうよ!」 チェルの瞳がキラキラしています。 それは、自分がお泊りしたいだけではないかという疑問が一瞬湧きましたが、とりあえず置いておいて。 「チェルあのね、どう考えてもご迷惑だし、苛められてるわけでもないから。大丈夫」 半月型の耳を撫でると、チェルは不満そうに口を尖らせ、ぎろりと御主人様を睨みました。 「そうすぐやってあまやかすー!」 地団太を踏むチェルの髪の毛をぐしゃぐしゃし、更にお餅のように柔らかい頬をむにむにしました。 文句を言われるのは、私が至らないせいだから仕方ありません。 というか、基本的に口だけで食事抜きとか折檻とかしない御主人様は最高にいい人です。 しかもいう言葉だって、その……下品な事とか、言わないし。 「ほーら、だんだんねむくなるー」 「こどもあつかいしないでー!ねるならいっしょにねよぅよー」 すっかり眠そうな表情になったチェルがひしりと足にしがみ付いてきました。 心揺れるお誘いですが、チェルは寝相が悪いので一緒に寝ると床で目が覚める羽目になります。 「昨日も一緒だっただろうが」 ずっとそわそわした様子だった御主人様が、やっと口を開きました。 「いいじゃん。寒いもん。ねぇキヨカいいよね?」 チェルの上目遣いにはかなりの威力があります。 コレに耐え切れず、今までどれだけおやつを購入してしまった事でしょうか。 「だめだ」 「なんでがっくんが言うの!おーぼー!たんき!そうろう!どうてい!うろちゅー!」 チェルのほっぺたが御主人様によってぐんにゃりと伸ばされました。 ちょっと痛そうです。 「あの、あんまり……子供のいう事ですし。私があとでちゃんと注意しますから」 ひっぱる手を無理やり引き剥がすと、涙ぐんだ目でチェルが私を見て、後ろに隠れました。 御主人様に……逆らってしまいました。 心臓が妙に響き、じっとりと嫌な汗が垂れてきます。 唾が、嫌な味。 御主人様の上半身が動き、肩が動いて、腕が回され 「詰めが甘いな」 反射的に竦めた体に掛けられた言葉を理解できずに首を捻って、床を見て御主人様の尻尾からじっと眼をあげる。 御主人様はすっと戸棚のガラス戸を指しました。 うん、チェルも私の後ろからあかんべーをしているのが戸棚のガラス戸に写っています……。 思わず顔を見合わせると、御主人様は凄く変な顔をしました。 「なんだ。寒いのか」 「……いえ」 長い尻尾でチェルを引き倒し床でごろごろと転がしてます。 子供特有の甲高い笑い声を上げながら、眼を輝かせ尻尾に噛み付くチェル。 かなり深く噛んでいるように見えるのですが、御主人様は頓着せず尻尾ごとチェルを振り回し、遊んであげているようです。 じゃれ合う二人を見てどっと力が抜け、思わず椅子にへたり込む私。 ……疲れました。 「ねぇキヨカいっしょにねようよ」 「しつこいぞ」 「だって、大体のことは押せば何とかなるって、ジャックもいってたよ」 「アレを見習うな。バカになるぞ」 「えぇーー!で、でもなんでがっくんがキヨカといっしょにねるの!」 「ジャックのバカが忍び込んで来たらキヨカが困るからだ」 「ならちーがいっしょだからだいじょうぶっ」 「子供はちゃんと寝ろ」 お友達のはずの御主人様にボロクソ言われるジャックさんは、一体今どこを旅しているんでしょうか。 水着ギャルを追いかけて、海の藻屑になっていなければいいのですが。 「ならばジャンケンだ!」 「いいよ、負けないから!」 ちなみにチェルはいつも最初にチョキを出します。 御主人様は、今回は負けてあげませんでした。 *** 真っ暗な部屋の中、薄着ですが室温が高いので十分暖かく、冷えた手でまさぐられていても震えるほどではないというのが、ちょっと嬉しいです。 もちろん、御主人様が寒いと動けなるからだって事は重々承知ですが。 百歩譲ったとしても、私が風邪引くと家事ができなくて、家が汚れるし食事の準備とかが面倒だからとか、そういう理由です。 この前も、結局一日寝込んでしまいましたし。 悪化してうっかり死んだら一円にもなりませんからね。 飽きて売る前に死んだら損ですからね。わかってます。 ……大丈夫。 「なぁ」 長々と口を貪っていた御主人様がやっと言葉を発しました。 「なにか言え」 「ナニカ?」 藪から棒に意味不明な事を言われても困ります。 しかも御主人様はそれ以上いう気が無いようで、鎖骨の辺りをかぷかぷと咬みはじめました。 投げっぱなしです。 しかしここでめげてはいけません。 なにせ落ちてこの方御主人様に拾われるまでこんな事しかしていないわけですから、その経験を生かし推理すれば簡単な事です。 ヒト娼婦に相手方が希望する言動といえば…… 「御主人様のおちんぽ汁いっぱいくださいっ」 「黙れ」 ……理不尽。 まぁ黙ってようと真っ暗で何も見えなかろうと、する事はするわけで。 御主人様の荒い息が胸元にかかりちょっとくすぐったいのを我慢しつつ上下運動に励みます。 御主人様が尻尾と腕を腰に回してきました。 動くのを阻害したいようです。 仕方なくペースを落として、わざと焦らすように動くと、回された腕に込められた力が一層強い。 そうか、この人はこういう風にするのが好きなんだ。…多分。 内心メモりつつ、回された腕と柔らかい所に食い込む指の感触を堪能する事にします。 御主人様は毛じゃなくて鱗なのでさらさらしていて、汗ばんでいても毛が張り付かなくていい。 ん、でももしかして御主人様は不快だったりするかもしれないと気になってきました。 ほら、……髪の毛とか。 数は少なくとも時々目にするヘビの女の人はみんなやっぱり鱗みたいだし……。 というか体毛とか、なかったり……して……えーいやー……えー……うー…えー……えぇー。 色々考えていると御主人様が唇を重ねてきた。 一層体が密着する。 御主人様、あったかい。 つまり、普通なら熱っぽいと表現できる感じ。 イヌだと暑苦しいだけですが、御主人様は平熱が低いですからね。 こんなふうに私とくっついていれば体温も上がるってもんですか。 自家発電式湯たんぽ、手元にあると便利ですよ。御主人様。 よければ60年ちょっとぐらい使えるんじゃないかななんて、 ……あ、いや、うん。ムリだって分かってる。大丈夫。 体重がかかりベッドに埋まる。 心なしか、呼吸が速くなってきました。 この体位は非常にその……殴ったり締めたりとか、しやすいじゃないですか。 思わずシーツを握ってしまった手の上に、そっと手が重ねられ指が絡みます。 じっくりと奥へ押し込まれ、なんか、ごりごりする。 ゆっくりと息を吐くと御主人様が微かに笑う気配がして、顔に吐息がかかりました。 もう一本の方もお腹の上でちょっと膨張し内側と外側で同じあたりを圧迫してきて、少し苦しい。 重さに喘ぐ私とは対照的に、御主人様は耳やら首やら肩やらを甘咬みしたりちらちらと舐めたり、尻尾で接合部のあたりを触ったりと色々忙しない。 鱗が擦るので、相変わらず変な感じ。 しかし、こんなに動いて疲れないのだろうか。御主人様。 やはりヒトとするのは珍しい体験だからだろうけど、あまりいっぺんにすると飽きるのも早そうなので歓迎できない。 飽きが見えてきたら…やっぱり、アレとか勧めた方がいいんだろうなぁ……どれも痛いから嫌なんだけど……仕方ないです。 そこらへんは努力と根性でカバーするとして……。 でも御主人様に恋人とかできたら意味ないかな……なら御主人様に恋人ができない努力……なんか間違ってる。 そこまで人間性捨てた覚えは無いし、親に顔向けできないような事したくないし……。 いや、そんな事、今更遅いか…… 伸びた足先を御主人様に絡ませて、何とか動く。 胸を触っていた手が背中に回されて、尻尾が胴に巻きつき雁字搦めになる。 ここまでぎっちり巻かれると、身動きがほとんど取れない。 逆に言うと御主人様もほとんど動けないはずなわけで、正直、悪い気はしない。 それでもって、私の名前を呼んでくれたりすると、なんか、まるで 「何か、欲しいものとかないのか」 一通りすんで休憩していると御主人様が意外な事を言い出しました。 何か、買わなきゃいけないものとかあったっけ。 えーっと……。 「明日のセールなので買出しに来て頂けると凄く助かります」 セールだから多めに買っておくと食費が浮く。 食べ盛りが二人も居ると大変なのです。 あと葉物とか、小麦粉も買っておかないと。 と、御主人様の返事がない。 機嫌を損ねるような事を言っただろうか。 「すみません。やっぱり結構です」 尻尾を踏まないように探りながら足を動かし、抜けないように注意しながら体勢を変える。 まぁ、何割かのイヌと同じように御主人様も出すと太くなるからそう簡単には抜けないわけですけど、一応。 捻ったり擦り上げるように上下すると、結合部からだらりと生暖かいものが零れるのがわかった。 入り口から、一番奥のほうまでゆっくり動かしていると、二本目のほうも復活したらしく自己主張されており、ちょっと動きにくい。 御主人様が尻尾を回してきたので、動きを合わせ満足させられるように膣を締めるように努力する……頬をつねられた。 「搾るな」 「しぼる?」 何の事だろうか。首を捻っても答えが出ないので、考えるのを放棄。 御主人様も積極的に腰というか…尻尾を使い、また出た……。 ゆっくりと体を締め上げてくる御主人様。 次はどうするべきか考えていると瞼がだんだん重くなってきた。 暗いから、目を閉じててもばれない。だいじょうぶ。 「おい、寝るな」 ばれた。 *** 「サフ、ヒゲにチーズくっついてる」 お皿にがっつくように食べていたふわふわワンコの鼻面からのびるハンパな長さのひげにくっついた食べかすを手で取ると、鼻をくすぐってしまったのか小さくくしゃみしました。 かわいい。 見るたびに背がのび、毛が固くなって大人っぽくなっているような気がしますが、サフはまだまだかわいい。 「そうだ晩御飯何がいい?」 「肉」 「あまいのー」 という事は骨付き肉たっぷりのシチューでいいかな。 ぺたぺたとパンにジャムを塗りつけ差し出すと、小さな手が何倍もあるそれを受け取り、あっという間に消え去るのはまるで魔法のようです。 ……パンも買ってこないと。 満面の笑みを浮かべてトマトを丸齧りし、ジャムと卵の黄身で口の周りをべたべたにしているチェルに濃くて苦そうなコーヒーを飲みながら、虚ろな眼をしている御主人様。 いつもの朝の光景。 しかし御主人様は、変温動物なヘビなので季節の移り変わりと共に朝のテンションは下がる一方です。 今日は休日なので問題ないわけですが…仕事のある日もこの調子だと少し困ります。 しょうがないので目玉焼きを挟んだ丸パンを差し出すと口をひらきました。 仕方ないので口に押し込めば、無言のまま咀嚼……それをサフがただれた眼差しで見つめています。 子供にこういうだらしない姿を見せるのはどうかと思うわけですが。 私もサラダを頂きつつ今日の予定を頭の中で検討。 そろそろ寒い事ですし、冬物を出しておこうかな。 「所で大通りの角の喫茶店でアルバイト募集してるのご存知ですか?」 パイが美味しいお店で、近いうちに二号店を出すとかで人手が必要という話なのですが。 三人とも知っているらしく三者三様な反応でした。 「ジャックさんも帰って来ないので、もしよければアルバイトしたいのですが、どうでしょうか」 サフは天井を見上げ、ヒゲにジャムがくっついている事に気がついたのかごしごしと拭いました。 「なら僕ん所でも事務募集中だよ?」 サフは宅配のアルバイトをしています。 彼女であるネコのニキさんもそこで知り合い、二人が仲良く歩いている姿を見たことがあります。 ちょっと、羨ましい。 手繋いで歩くとか。 「キヨカがパイ買ってくるところ?」 チェルは口の中のものを飲み込んでから口を開きました。 前はこぼしながらでしたから、ちゃんと成長しているなと思わず感心。 「そう、あの制服が可愛い所」 シンプルながら制服がかなり可愛らしいのです。 拘束時間が少なく、給料がわりと良いというのも魅力的です。 客層は女性と、甘いものを出すお店にしては驚きの男性比率。つまり誰でも美味しいと感じるパイのお店ということです。 もちろんまだどうなるかわかりませんが、パイを買いに行った時にいつでも歓迎だとお店の人に言われたので望みはあります。 「アンミャラーズだっけ」 「そうそう」 肝心の御主人様の反応はといえば……眼が怖いです。 「ダメだ」 「なんでー?パイいっぱい食べれるじゃん!」 「僕も反対。あの制服着たいならジャックが持ってるし。絶対駄目」 ぶんぶんと首を振るサフ。 御主人様も眉間に皺を寄せています。 ……いや、でもパイ売ったり、ウエイトレスするぐらいだから大丈夫だと思うのですけど。 「えーっと、じゃあ……」 他にいくつか目星をつけていたアルバイト先はことごとく却下されました。 制服可愛いのに……。 基本的には飲食系の接客業です。資格とか魔法とかムリですから。 先日TVでヒトの男の子が揚げ物屋さんでアルバイトしているのが特集されていたので、王都の方ではそれなりにヒトの職業もあるみたいなんですが……。 あ、いや私は一応ウサギのフリをしているのですけど……。 「一応、理由をお伺いしても?」 「だって全部、髪の毛結ばないといけないじゃん。耳見えたら大変だもんね?がっくん」 一瞬の間のあと頷く御主人様。 今の間はなんだったんだろう……他の理由だったんでしょうか。 「ねぇねぇ!ちーもいっしょにバイトしたい~」 「ダメだ」 御主人様はチェルに駄目な理由を色々と説明しているので、私は俯いてパンを齧りました。 ヒトだってバレたら……泥棒とか、来ても困るし。 御主人様は首輪を下さらないで、所有権を主張しない以上、盗難されても文句も言えないのです。 以前、首輪をもらえないか尋ねた時、速攻却下されてしまいましたし。 かといって、今のところは……盗難されたら困るみたいだし。 御主人様の考えている事は理解不能です。 「サフの所も、荒い連中が多いから却下だ」 「だよねぇ」 サフは長い溜息を吐き、グラスのミルクを一気飲みしました。 「キヨカ気をつけなきゃ駄目だよ。自覚持たないと」 更に深い溜息。 自覚……十分持ってるつもりなんですけど。 いや、確かにそうかもしれませんが……チェルを見れば、御主人様のように眉間に皺を寄せながらデザートの葡萄を食べています。 すっぱかったようです。 「ジャックって、実は役に立ってたんだね」 「いると邪魔だが居ないと問題があるな」 ひどい会話です。 まぁ、私なんかがまともに働いたり出来るかもなんて、期待するのが間違っていたんでしょう。 それに、よそで働いて、何かあったら御主人様に迷惑がかかりますしね。 ……本当に役に立たないなぁ、私。 「ヒモテのひがみ」 ぽつりと漏れたチェルの言葉に二人が固まりました。 「ジャックなら、ダメダメいわないのに」 葡萄で紫に染まった唇を突き出すチェル。 「だっからジャックと違ってもてないんだよ」 「ジャックさんて、もてるの?」 私にはセクハラしてはリーィエさんに蹴倒されたり、患者さんに抓られたり店員さんにぼったくられたりしている印象しかありませんでしたが。 「だってヘンタイだけどジャックやさしいから好きってみんないうよー」 多分、その好きは何か違うと思いますけど。 「バレンタイン、結構貰ってたっけ」 主にネタ的なものを。 芥子入りとか、肉入りとか。 ホワイトデーには三倍返ししたそうですが、怖いので追求はしていません。 「そーそー!がっくんみたいに怒んないし、バカ毛皮みたいにいじわるいわないもん!」 学校で嫌な事があったのか、ちょっと私怨が混ざっているような……。 でも私もクラスの男の子達、苦手だったからなんとなくわかります。 私はチェルの寝癖の残る頭を少し撫でました。 もしも本気で喧嘩する事になったら、子供とはいえネズミとネコでは勝負にならないだろうし。 うっかり魔法でも使われたら大変です。 「そのうち慣れるから、諦めたら?」 「そんなのヤだ。ぜったいにあやまらせるもん。向こうがわるんだもん」 チェルは膨れっ面をしていても、可愛い。これは欲目なんでしょうか。 いや、そんなことはありません。チェルは可愛い。凄く可愛い。 うーん頬ずりしたいです。 でもジャムと卵と葡萄の汁でスゴイ事になってるのでやめておこう。 「チェルが結婚する事になったら私、号泣しそう」 「ちーはキヨカと結婚するからだいじょぶっ!」 うっかり口走った妄言にニコニコと答えるチェル。 私より大人なんじゃないでしょうか……。 御主人様がコーヒーカップを振ったので、席を立ち、ポットからお替りを注ぎます。 注ぎ終わってもなお見つめてくる御主人様。 「そんなに冷めてないと思いますが、淹れなおしますか?」 首を振られました。 「慣れれば、諦めがつくのか?」 ああ、何だ。そんな事。 サフはすっぱさに顔を顰めつつ葡萄に手を伸ばしています。 わかってるなら、食べなければいいのに。 「俺には理解できない」 世界種族事典によると、ヘビの美徳は執念だそうです。 執念といえばちょっと聞えがよくありませんが、挫けぬ心とか目標を達成するための根性とか、言い換えば…ちょっとカッコイイ気がします。 けど、まぁ 「それはそうですよ。私はヒトなんですから」 諦めるの、慣れたし。 だから、だいじょうぶ。
https://w.atwiki.jp/kotye/pages/21.html
373 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/12/27(土) 19 40 10 ID XoPVypB20 (PC) なら今のところ出てないクソゲを語らせてもらおう TH2ADや戦極姫などに隠れている為、あまり世に知られていないが、俺が今年一番憤慨したクソゲはこれだ 『冬のロンド』 現代世界にありながら中世欧風の世界観を作り出したのは一品。 またキャラデザ等もかなりクオリティが高く、キャラクタ設定もまずまず。 魔法の存在しないファンタジックな雰囲気が味わいたきゃコレだ! と思ったら・・・ 普通のエロゲというのは共通ルート→個別ルート、という感じに分化していく訳だが。 この冬のロンド、90%以上共通ルートという作り。 個別ルート?んなもんねぇよ、というスタッフの心意気すら感じられる。 ややネタバレの為、詳しくは省くが、ストーリーは完全な王道で、ヒロインに許婚がいてそれと決闘する、というシナリオ。 ヒロインには個別に許婚がいるらしく、決闘方法もまちまちなのかな、と思いきや…… なぜか他ヒロインの時もメインヒロインの許婚と決闘する主人公。 意味分からん。 しかも決闘後、唐突に別ヒロインから告白されて終了。 意味分からん。 さらにフラグミスのせいか、見ていないイベントを夢想する主人公。 まるで意味分からん。選択肢次第では確実に話がおかしくなるぞ さらに言えば主人公の性格が気持ち悪い。 ヒロインが許婚と結婚しないと国が成り立たない、と言われてるのに 「ヒロインの方が大事」の一言でバッサリ。国滅びるぞ、おい。 アイ惨のようにゲームとして破綻してたり戦極姫のようにデザインがおかしい訳でもなく、シナリオがおかしい訳でもない。 ただどう考えても個別シナリオなしって手抜きすぎだろ、という作品。 俺自身これが一番ムカついたので挙げておく。 11eyesのようだ -- 名無しさん (2010-03-08 02 34 00) きっと主人公は予知夢を見ていたんだ -- 名無しさん (2010-04-01 15 01 22) 意味分からん。の繰り返し部分にフイタ -- 名無しさん (2010-05-08 19 35 13) ここを見て体験版をやって見たわけなんだが……キャラには魅力があるし、ストーリーには引き込まれる。けれど、フラグ管理がなってなかったなww すっげぇもったいない作品かも。 -- 名無しさん (2011-02-20 21 29 01) キャラも可愛いし、世界観も独特だし、CGも上手くて綺麗なのに…残念すぎるな -- 名無しさん (2012-02-14 23 16 18) 個別に入ってもう少し長くいくか、共通を削って個別長く取るかすれば普通の作品にはなった。タイトルのヴィクトリアズームアウトがなにげにキモうざかった。好みのキャラなのに・・・。そう感じたのは俺だけ? -- 名無しさん (2012-02-14 23 54 14) ふと思ったが、ここまで一本道なら全キャラ攻略後のエクストラシナリオ?をハーレムにすれば万事解決だったのでは・・・? -- 名無しさん (2012-02-26 04 53 04) ヒロインが許婚と結婚しないと国が成り立たない→主人公「今は思いつかんがいつか何とかしてやる!」→いきなり次のシーンで数年後、具体描写無しで主人公「何とかなった!」っていうのが酷かった。葛藤とか台無し。 -- 名無しさん (2012-04-22 05 59 42) これ、メインヒロインとの一本道にして、エクストラかFDで他ヒロインをやれば良かったんじゃないのか? -- 名無しさん (2012-05-21 22 46 29) ↑処女作じゃなかっか?エクストラはいいとしてFDまで体力のあるメーカーでは・・・ -- 名無しさん (2012-06-08 23 32 11) ↑うわ、スマン。処女作じゃなかったか?だ。 -- 名無しさん (2012-06-12 11 03 19) このゲームってよくよく考えればディティールがおかしい。例えば北極圏の近くにあるというのだから、少なくても水くみの行き帰りは真夜中でなければおかしいし、このシチュエーションだと水くみで遭難の可能性があると思うのはオレだけ? -- 名無しさん (2012-12-12 22 21 03) 国家レベルの課題完全に投げっぱなしってのは、有名作「けよりな」でもやってるからなぁ -- 名無しさん (2012-12-13 07 32 07) タグ 2008年の作品
https://w.atwiki.jp/wikisj/pages/194.html
新・風のロンド 放送年 :2006 放送日 :0105~0331 放映局 :CX 区分 :連 役名 :野代大介 出演話数: ソフト化: 備考 :◇放映期間:0105~0331 ◆ひるおび!にて、大変だった撮影第1位として、似顔絵を食べるシーンが挙げられた 2006 CX 昼ドラ
https://w.atwiki.jp/toho/pages/5844.html
永き夜のロンドII サークル:Silver Forest Number Track Name Arranger Lyrics Vocal Original Works Original Tune Length 01 into the area NYO - - 東方永夜抄 シンデレラケージ ~ Kagome-Kagome [01 56] 02 invisible trickster NYO Silver Forest さゆり 幻視の夜 ~ Ghostly Eyes [03 59] 03 Let me try again NYO アキ あやや 少女綺想曲 ~ Dream Battle [03 55] 04 Direction still unknown NYO アキ あやや 夜雀の歌声 ~ Night Bird [02 57] 05 Lunatic Beat (KaNa's Happy Euro-NRG RMX) KaNa NYO さゆり 東方永夜抄 竹取飛翔 ~ Lunatic Princess [04 58] Lunatic Beat Lunatic Beat 06 silent moon… NYO Nano なつみ オリジナル - [03 13] 07 Seventh Soul KaNa Remix KaNa NYO アキ 東方永夜抄 懐かしき東方の血 ~ Old World [03 57] Rebirth seventh soul ~ 十六夜モード 08 moment NYO kuma さゆりなつみあややアキ 東方永夜抄 千年幻想郷 ~ History of the Moon [05 04] 09 幻想ダイヤモンド NYO Silver Forest なつみ 東方永夜抄 月まで届け、不死の煙 [03 49] 恋色マスタースパーク 10 マリサ☆クエスト -- instrumental NYO - - 東方永夜抄 恋色マスタースパーク [02 25] 永き夜のロンド マリサ☆クエスト ~お宝探し大冒険~ 11 幻想ダイヤモンド -- instrumental NYO - - 東方永夜抄 月まで届け、不死の煙 [03 49] 恋色マスタースパーク - 幻想ダイヤモンド 詳細 博麗神社例大祭8(2011/03/13)にて頒布予定 (東北地方太平洋沖地震の影響により開催中止) イベント価格:1000円 ショップ価格:1470円(税込) レビュー 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gcmatome/pages/2701.html
冬のロンド 【ふゆのろんど】 ジャンル 恋愛アドベンチャー 対応機種 Windows 2000/XP/Vista 発売元 DIVA 販売元 ホビボックス 発売日 2008年10月31日 定価 8,800円(税別) レーティング アダルトゲーム 配信 2009年12月18日/3,800円(税別)配信停止 判定 なし ポイント ツッコミどころが満載過ぎる世界観非常に雑なシナリオ良い所もあるにはあるが… 概要 作品概要 評価点 問題点 総評 余談 概要 大手アダルトゲーム会社F Cの重鎮だった金杉肇氏が、同社から独立して新設したブランド「DIVA」の処女作。 ブランド名が日本語で「歌姫」を意味する通り、本作はヴォーカリストや作曲家の豪華さをウリとしている。 作品概要 ストーリー 父親の再婚によって雪降るヨーロッパの小国ルミアウラで暮らすことになった主人公。 そこで待っていたのは再婚相手の子である美少女で優しくてなおかつ姫君という新しい姉妹たちと(*1)、貧しいけれど純朴な人々。 水道も電気もネットもないけれど満ち足りた日々を過ごしていくうちに、彼女たちに姉妹以上の感情を覚える主人公だったが知らなかったのである。 姫君という立場故に課せられた定めを...。 舞台設定 本作はルミアウラを舞台に進行する。中世の趣を色濃く残す日本から飛行機と鉄道を乗り継いで40時間もかかる、北極圏にほど近いヨーロッパの小国。 所要時間に引っかかりを覚えるが、便数や本数が少なくて乗り継ぎに時間が掛かると解釈すれば、不自然ではないだろう。海外ではよくあることである。 主産業は林業だが、それだけでは国が立ち行かず、「王家の姫を世界各地の王家や有力者に嫁として売り飛ばす」事で国を保っている。 慢性的な電力不足のため、電気は一部公共機関のみ通っている。上流階級である主人公の家も暖炉やランプが頼りである。 冬場は極寒のせいで水が凍結するため、水道や井戸水が使えず、 片道徒歩一時間以上もかかる山奥まで歩いていって 水を確保する必要がある。 学校に通えるのは国民の4割ほどである。授業は午前中のみ行われ、午後は子供たちも労働に勤しむ。 教師はボランティアである。 移動手段は徒歩もしくは馬。 騎士団が存在するが、これが他国における警察 及び軍隊に相当する存在 である。 建国当初は国民が少なかったので、近親婚が当然の如く行われていた。そのため、近親婚のタブーは軽く触れられる程度で 現在も問題とされていない。 評価点 魅力的なキャラクター 見た目はちびっこだけどきちんと姉している長女。優等生だけどヤキモチな次女、寡黙な読書家だけど気配りの効く三女、見た目は美女だけど中身は甘えんぼな四女といった具合で魅力的に描写できている。 その中でも次女のヴィクトリアはメインヒロイン級の扱いであり、描写に不足はない。 ヒロインのCGは概ね問題ない 歌曲・BGM ウリとしているだけあり、相応に高品質のものが揃っている。 問題点 舞台・キャラクター設定が稚拙過ぎてツッコミが追い付かない まず本作の舞台は北極圏にほど近いヨーロッパの小国となっており、本文中に「北極圏にもそう遠くはない」「21世紀なのに」「携帯の充電も出来ない」(大意)などの文章が出てくるので現代且つ現実路線の話であろうことが分かる。それでいて建国5000年以上というとてつもない歴史の長さだが、建国時の初代女王は魔女だったという言い伝えがあるなど、なぜかファンタジー要素もある。 シナリオの核となるのは「王族人身売買の文化(姫を金持ちに嫁として売り飛ばし国を保つ)」という珍奇でクレイジーな文化。姫を売り飛ばす行為も、それに応じて国家予算級の金を差し出すのも意味不明。 環境面ではルミアウラの日の出が日本とほぼ変わらない。北極に近いということは季節による日照時間の変動が激しいはずだが、ゲーム中では日本と変わらないように描写される。ゆえに、『冬のロンド』というタイトルからして不自然。北海道の冬だろうか? 前述の説明通り姉(長女)が「この時期だと凍結するから井戸は使えない」といって、山奥まで片道1時間もかけて水を汲みに毎朝出かけるのだが、実際には凍結深度(外気温の影響を受ける領域よりも深く掘れば地下水は凍結しない)というものがある。なお現代では地下水をくみ上げる水道管やポンプが凍結して水が出ないという事もあるが、機械的なテクノロジーと無縁なルミアウラでは関係ない話である。 姫の魅力を描くゲーム的な都合と王国や姫の過酷な環境を描写したかったのだろうが、「それは姫ではなく世話係などがすべき仕事だろう」「大切な商品である姫を狼が徘徊する地域に向かわせるのはどうか」「(民衆共々)山の近くに移るべきだろ…というより先祖は何故そこに定住した?」などツッコミどころが多過ぎて霞んでしまっている。なお、この件以外にも危険な行為を姫がしていたり丁重に扱っていなかったりとおかしい場面が多い。 王様や騎士団が何故かプレートアーマー(全身型)を装備している。現代設定うんぬん以前の話で、北極圏の近くでこれはない。 深く考えず中世ちっくな世界観を演出したかったのだろう。観光客向けのアピール……というわけでもない…。実際に重要なことを現代ではまずありえない中世ちっくな行為で決定したりする。 ゲームにツッコミを入れても仕方ないと言う意見も中にはあるが、あまりにも説得力がなさすぎて論外の域に達しており、もはや笑うしかないレベル。せめて架空のファンタジー世界観にしていれば、ここまで目に付くことはなかったことは言うまでもない。 主人公は主人公らしいことはしているものの、著しく思慮が欠けており、説得力皆無のわがままだけで動く。その上で能力的にも見るべきところはないので、不快に感じたユーザーが多数居る。 ルミアウラの文化を知らなかったり文字の読み書きも出来ない。しかし何故か会話は完璧。ゲーム上の都合と言えばそれまでだが、それなら文字の読み書きが出来ないってのは要らないのでは…。 主人公に対する周囲の反応も一々異常で、わがまましか言っていない彼をヨイショしまくる。姫を購入する側の婚約者ですら何故か感動して、何の得にもならない決闘を受けてわざと負けたりする。とても分かりやすいマンセーっぷり。 主人公をフォローする為に終盤では設定の根幹が破綻しており、『(元々微妙だったけど)主人公のせいでシナリオが破綻した』という意見すらある。 シナリオ 実質的に個別ルートがない。シナリオの90%が共通ルートと思えば概ね合っている。 ヒロインの描写に差がある 前述の通り次女の扱いは良い、ヒロイン毎に差があることも許容したとして、次女以外のヒロインは適当過ぎる描写なので個別に期待していると肩透かしで終わるのは問題。 + シナリオの核心に関するネタバレ 本作は、主人公がヒロインの許婚との決闘に勝利してヒロインと結ばれるという流れだが、次女以外の許婚が登場しない。そのためか、長女や三女らの攻略を目指しても彼女らとは無関係な次女の許婚と戦う。 次女を攻略するのならばまだ自然な流れだが、それ以外のヒロインの場合だと不自然極まりない展開。 そもそも国家運営に関わる話なのに、とにかく決闘で勝てばいいという文化も意味不明。政治も文化もぐちゃぐちゃである。 更に付け足すと、一応彼の行動に対するフォローも入ってはいるのだが、それによって更なるつっこみどころが発生するので、結局頭が痛くなってくる。 主人公は人身売買を止めさせたが、王国の財政難などをどうにかする能力などあるわけがなく、根本的な問題はスルー。解決の為の道筋もつけられていない。 エンディングでは大団円のような雰囲気を出しているが、実は何も解決していない。 総評 クレイジー過ぎる 独特な雰囲気とBGM・CGを楽しむ分には良いだろう…とりあえず次女に関してはそこまで問題がないはずである。 その一方で、主人公やサブキャラ・シナリオ・設定などに目を向けた場合はネタとして楽しむ他ない。 真面目に楽しみたいなら、ヒロイン以外にはなるべく目を背けることが大切である。 凡作と評価しようにも酷い部分ばかりが目立つので、駄作扱いされることの多い作品と言えるだろう。 余談 DIVAブランドは次回作『こいらぼ』を最後に公式サイトが消滅している。 ダウンロード版も配信停止され、体験版配信サイトも消滅している。
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/614.html
太陽と月と星がある 第十七話 最近、帰宅した時の御主人様の機嫌がいい。 とてもいい。 ひょっとして仕事でいいことがあるんだろうか。 それとも……。 試読用と赤く印字された新聞を開くと三面を飾るのは、『けん☆どる ナリタ 引退!!!』という文字と剣を咥えた血まみれの青年の写真。 ボロ布同然の服と、半分ほど千切れた左腕と、嫌な方向を向いたままの右手。 髪の上に獣の耳はなく、尻尾も無い。 ヒト、だ。 ヒト同士を闘技場で戦わせる…K-1とか、ああいう感じのものの有名な選手だった らしい。 過去形。 ヒトの値段は高く、それなのに命の価値はとことん低い。 ……まぁ、どうせそんなもんですけど。 記事を流し読みした所、彼は今後後進指導にあたる予定。 オーナーの元には、優秀な子種を求めて大量の 縁談 が申し込まれて―――― 「キヨちゃぁぁああああんっ!」 タックルを喰らって、ついでに新聞を取られる。 「もう、なんなんですか!お茶にはまだ早いですよ」 勢いよく椅子から落とされたせいでお尻が少し痛い。 スカートと髪を直して、意図的に肩をすくめる。 深緑色の瞳に、自分の顔が映っているのが見えたので唇を曲げてみる。 短く刈られた髪の下から覗く、血の気の失せた顔暗い眼。 ――― 大量の 縁談 が ――― こちら生まれなら免疫があるし、容姿が整っていて才能があって最初から立場を弁えている…… 「だってぇーそなんあ新聞よりもっと俺に熱い眼を注いで。もっと過激に!もっと激しく!」 しっかりと新聞を抱きしめて、くねくねしながら気持ち悪いことを言うジャックさん。 先程のは、毎朝NEWニャン新聞……カツスポのライバル紙…みたいなものです。 ジャックさんが取っているのはカツスポの方。 勧誘の人が置いていったのを読んでいたらこのザマです。 細かいことを追求していくと疲れるので、考えるのを止めてリクエスト通り白衣のジャックさんを上から下までじっくりと眺めました。 相変わらず毛がふわふわしていて、無駄に暑そう……。 「あ、その眼は止めっダメ!そんな眼で見られたらオレ!あっ!」 気持ち悪いので床でのた打ち回る白衣からそっと目を逸らし、窓の外に眼をやりました。 相変わらず、外は暑そうです。 今日も医院は閑古鳥。 暑いのでみんな昼間は外に出たくないらしく、最近は熱射病で運ばれてくるイヌがせいぜいです。 あと換気忘れて室内で熱射病とか。 日が落ちれば多少は常連さんが来るのですが……。 暇過ぎてやることも無いしなぁ……ジャックさんをほっといてもろくな事にならないし……。 そうだ。 「ジャックさん、暇なら私の髪の毛切ってくれませんか?」 *** 襟首がちくちくします。 まだ湿り気の残った髪が気恥ずかしい。 なんとなくショーウィンドを確認しては手櫛で梳いていると、反対側から見たことのある女の子がこちらを見ているのに気がつきました。 確か、サフの彼女の。 「ニキさん」 相変わらず可愛らしい。……いいなぁ。 白い髪には前髪がジャマなのか花柄のピンで留められ、夏らしいフリルっぽいノースリーブにハーフパンツ、長めの尻尾がちょっと膨らんでいます。 かわいい。 「…どうも」 「こんにちは、おひさしぶりです」 何故、一歩下がるんだろう……。 彼女は周囲を見渡すと、ちょっと嫌そうな感じで口を開きました。 「あの、サフって今日…」 「確か、魔法を習いに行くって行ってましたよ」 遊ぶ約束でもあったのか、耳がぺったりして、露骨にがっかりした姿。 ラブラブですか。いいですね。 「そろそろ終わる時間だと思うから……」 「…どうも」 警戒されているんでしょうか。上から下までじっくり眺められ、非常に居心地が悪いです。 なんか、悪いことしたかな……。 「髪留め、可愛いですね」 場を和まそうと取りあえず口にした言葉に、ニキさんの顔が一瞬緩みました。 「よく似合ってます」 「サフに貰ったんだ」 「へぇー意外とセンスいいんですねー。知りませんでした。凄く可愛いですよ。服にも似合ってるし」 ニキさんは髪留めに手をやり、尻尾をくねらして恥ずかしそうな表情になりました。 「マジでそう思う?」 「思います」 この表情は、見覚えがあります。 好きな人が出来たと報告してきた友達と同じ表情です。 「で、でもアンタもサフになんか貰ったことあるんだろ?」 くわっと眼を見開き、表情が一変しました。感情が豊かなことは確かです。 というか、話題いきなり飛んでいませんか?なんでそうなるんだろう……。 「ないですよ?」 ニキさんの返事を聞く前に不意に影が差し、頭の上に重さを感じて見上げるとほっぺたをむにむにされました。 「キヨカ、見つけた」 「リーィエさん?」 み、みえない……。 いや、そこぐりぐりしないでください。だめそこいたきもちいい。 「ジャックに聞いて追いかけた」 ぐにぐにむにむに 「ちょ、オレが話してんだけど、今大事な話してるとこなんだけど!ねぇ今のマジ?ホント?嘘じゃないよな?だってサフってみんなに優しいじゃん?」 ニキさんに腕を引っ張られました。 大事な話だったのか……。 「こちらも大事な話がある」 首に手を回され、そのまま引きずられそうです。 女性二人とはいえ、密着されるとそれなりに暑苦しいものがあります。 私を挟んで、よくわからない会話を続けるお二人。 あーリィエさん、つなぎなのによくわかる柔らかい感触が凄く羨ましいです……。 ニキさんはー…今後に期待ですけど、可愛いし…いいなぁ2人とも可愛く綺麗で。 御主人様もこういう子がいいんだろうなぁ……。 こういう風だったら、よかったんだろうなぁ……。 話しながら、腕を引くニキさんと首に回した手を離さないリーィエさん。 どうなるかといえうと、私がうまいこと首を締められたかたちになります。 なんでこっちの人って、首を狙うのでしょうか……。 暑さと酸欠で薄れ行く意識の中、2人が言い争う声がぼんやりと聞こえました。 *** 「つか、キヨカがウサギのクセに地味だから逆に疑わしいっていうかさーだから、そのー…にゃー…ぁ」 「見苦しい嫉妬」 「普通思うだろ!ウサギだし。そっそういうのを好きなのを引っ掛ける罠だって思うじゃん!」 「そこまでは思わない」 「オレはそう思ったの!ねーちゃんだって言ってたし」 「シスコン」 「うっさいヤマネコ女!」 「ご注文のカキ氷三点お持ちしましたー」 「自分は女ではないと自覚しているのだな」 「ありがとうございますーそれはこっち、これはあっちです」 「どこがだ!そっちこそおっさんみたいな格好のクセに!」 「ごゆっくりどうぞー」 「これは仕事着。君が着るとマダラと誤解されるので勧めない」 「にゃー!!むかつくー!キヨカも!笑ってないでなんか言えよ!!」 初対面なはずなのに、非常に楽しそうな2人。 私は無言で小倉をかき混ぜました。 ニキさんはレモン、リーィエさんはイチゴ練乳。 2人はお互いの様子を伺いつつカキ氷に手を伸ばします。 一口食べて頬を緩め、もう一口食べてから同時に頭を抱え悶えました。 わりと面白いです。 「つ、つかさ。だって、キヨカだって超地味じゃん。メイドみてぇだからさ、そういうの好きなのかと思うじゃん。ワナだと思うじゃん。もっと普通なの着ればいいのに」 何をいわれたのか理解できずに一瞬そのままになり、それから首を傾げてみた。 「地味?」 リーィエさんにまで頷かれました。 正直、ヒラヒラでスケスケなのばかり着てたからこれぐらいで十分……まぁ、興味が無いわけではないんですが……。 第一、私はメイドというか家政婦というか……ペットみたいなものなわけで。 ジャックさんからお給料をもらうようになったといっても、御主人様に養っていただいてる身の上で贅沢とか……。 それに……その……。 「私には……似合いませんから」 ちょっと気まずいので笑顔を作って茶化した瞬間、椅子が引っ繰り返る音とどたばたとした騒がしい気配が喫茶店内に響きました。 「衛生兵ーっ衛生兵ー!誰か!恋に効くクスリかバカにつける薬を!」 「もう駄目だ、ヘンリー頼む、オレの代わりに…あ、あの娘の…」 「判った!デートに誘っとく!」 「しっねぇええ!」 ……路上パフォーマンスというのでしょうか。 ネコの青年達が小芝居をしています。 あまり他の人をじろじろと見るのも失礼だという事を思い出し、続きが気になりつつむりやり首を戻すとリーィエさんは夢をみているような表情を浮かべていました。 「リーィエさん?」 「ああ、うん」 瞬きし、やけに慌てた仕草をするリーィエさん。頬がちょっと赤い。 ニキさんは小芝居している青年達とリーィエさんを呆れた目で見てから、深く溜息をつきました。 「そういえば、お二人とも何か話があるって言ってませんでしたっけ?」 「あ、そうだ忘れてた。あのさぁ、なんでキヨカってサフと暮らしてんだよ。キョーダイならウサギ男と住めばいいじゃん」 先に口を開いたのは、ニキさん。 テーブルに手を着き、覗き込むようにしてこちらを詰問してきました。 「サフと暮らしているんじゃなくて、あの人に住まわせてもらってるんですよ」 ニキさんが口を開けたまま動かなくなったので、小倉を掬って、口の中に入れてあげました。 白い尻尾がぶわっと逆立ち、涙目で睨んでいます。 「あんこ苦手?」 こくこくと頷く姿が、可愛らしい。 一生懸命飲み込もうとする姿を見て、何故か胸がきゅんとしました。 「キヨカ、私にも」 「あーん」 クールな人がお茶目な事をするのも相当可愛らしいものがあります。 「はい、キヨカあーん」 ちらりとこちらを見たウェイターさんの鼻先や耳の内側がピンクになるのがみえました。 気持ちはわかります。 あ、練乳も美味しいしレモンもいいなー。 「それで、リーィエさんの御用は?」 私より背が高いのに上目遣いされました。 やけに胸がどきどきします。 「試合、何故来ない」 「え、あー ……」 リーィエさんとは以前、拳闘の試合を見に行くという約束をした覚えがあります。 確かに、行くつもりでした。 でも、……。 私は言葉に詰まり、濡れたガラスの容器を見つめました。 「ごめんなさい」 本当は、私はここにだって居るべきじゃないんです。 御主人様の許可も得ず何かしたら、御主人様が不快に思うかもしれません。 不快に思って、私を売ろうと思うかもしれません。 できるだけ長く飼ってもらうには、失点を少しでも減らさなくてはいけません。 もっと働いて、できればお金も稼いで、御主人様に今みたいに飼ってる方が得だと思ってもらわなくてはいけません。 でないと…… 「すみません、用事思い出したので先に失礼しますね」 思ったより、椅子が派手に鳴った。 喫茶店のある通りは、衣料品店が立ち並びおしゃれな格好をした人々で溢れています。 ショーウィンドで着飾って並ぶマネキンには、大きな耳や尻尾や羽が当然のようについています。 だって、ここは日本じゃないから。 ヒトで中古の私には、こっちの服装は似合わない。 綺麗な服を着たって、褒めてもらえるわけじゃないし、そもそも服だって買えばお金が掛かるし。 今だって、ジャックさんにお給料を戴けるのだって奇跡みたいなものなんだし。 私なんか、他のお金を稼ぐ方法も……無いわけじゃないけど、きっとムリだし。 ご飯を食べさせてもらえて、寝るところがあって、少しは役に立ってる。 十分私は幸せ。 あとどれくらいこうしていられるのかわからないけど、私は幸せ。 ヒトだっていう事を隠しておけば、みんな普通の人みたいに接してくれる。 ヒトだからって蔑まれたりしない。 だから大丈夫。私は幸せ。 石畳の隙間の雑草を眺めながら、何度も自分に言い聞かせる。 私は、しあわせ。だから…… 「あのさ、この前、川行った時の」 耳元で急に声を掛けられて、とっさに掴まれた腕を振り解こうとしたらニキさんでした。 「ごめんなさい。ちょっと…驚いて」 驚いた顔をしているニキさんに謝る。 「あ、ああ」 こくこくと頷き隣りを歩きだす彼女に内心首を捻り、捉まれた指先をちょっとだけ握り返す。 「オレ、米苦手だったんだけど意見変わったかも」 何の話かわからずに首を傾げると、ニキさんは白い耳の内側をほんのりピンクに染め、ちょっと恥ずかしそうにした。 「おにぎり」 最近わかったのですが、御主人様もサフもジャックさんも和食より洋食派です。 チェルは何を食べても美味しいというので、あまり参考になりません。作り甲斐はありますが……。 「アレ、美味かったよ。オレああいうの結構好きかも」 そういって指を握り、ちらりと笑いました。 友達の笑い方に、よく似ていました。 辛いときに隣に居てくれた友達に似ていました。 「…ありがとう」 ニキさんはこちらから目を逸らし、ショーウィンドのマネキンを指差しはしゃいだ声でその服装のよさを力説しはじめました。 「そういう顔はしない方が良い」 不意に頬を引っ張られ、焦る。 引っ張ったのはいつの間にか後ろに居たリーィエさん。 さすがネコ科、足音が全然聞こえませんでした。 「色々釣れてしまうから、ダメ」 やけに真面目な顔をしています。 「ちゅれるって」 引っ張られた箇所を撫でてつつ尋ねると、ニキさんとリーィエさんは顔を見合わせ深刻な表情を浮かべました。 「念の為に聞くけど、キヨカって付き合ったことあるよな?」 「つきあう?」 「男でも女でもいいけどーそのアレ、恋人とか」 男性経験ならありますよ。死ぬほど。 とは言えないので曖昧に笑うと、再び2人は顔を見合わせました。 「あのヘビ男との関係は?」 「家主さん」 御主人様とは言えませんので。 「掃除、苦手みたいなので、居させてもらってるし…掃除くらいじゃ全然足りないんで他の事もしてますけど」 何故かニキさんの表情が引き攣りました。 「オレ…よくわかんないけど、そういうのってよくないんじゃないかな…ねーちゃんも身体は大事にするべきだって言ってたし……」 俯いて私の肩に手を置きぼそぼそと喋っています。 「ジャックん所住めばいいのに?」 「血の繋がり、有りませんので……」 形容し難い表情を浮かべたリーィエさんはニキさんを物陰に引っ張り込み、何やら二人で言い争いを始めました。 夕暮れ時、帰宅を急ぐ人々から不審そうな視線が集まるのがよくわかります。 今夜は何にしよう。コロッケでいいかな。キャベツっぽいの買わなきゃ。 「なー、キヨカぁ」 口元に泡が付いてるニキさんとリーィエさんが耳をピンと立ててこちらを見ました。 二人とも目が笑っていません。 「あのヘビと実際どうなんだよ…してたり、するの?アレと。ウロコだし、毒あるよなアレ」 物凄く真剣な眼差しで詰め寄るニキさん。鼻がくっつきそう。 私は口元に軽く人差し指を押し当て 「 ひ・み・つ 」 そう囁くと、リーィエさんが妙な声を上げて鼻を押さえました。 「いつでもウチに来ていい。むしろ一緒に住もう。そんな横暴な男は捨てるべき!掃除しなくても人は死なない!」 そういって私の頭に手を伸ばすリーィエさん。 そして……むぎゅっと……。 ……ちょっと巨乳好きの気持ちがわかってしまいました。 「リー、キモい」 ニキさんの呆れた声。 「友達だから問題はない」 「いや鼻血ぐらい拭けよ…」 あのー……私、いつまでこうしてればいいんだろう……。 どうしても帰るのかと執拗に引き止めるリーィエさんを振り切り、夕食の買い物を済ます頃には二つの月が空に輝きだしていました。 *** 普段よりもかなり遅く帰宅した御主人様の機嫌は、ここ一ヶ月内で一番最悪でした。 何か嫌な事でもあったのか、いわゆる殺気…みたいなものが漂っているような気がします。 早めに晩御飯にして良かった。 2人とももう寝ちゃってるから、もし御主人様が怒る事があっても2人には見られなくて済むし……。 「お疲れ様でした。残業ですか?」 御主人様は返事をせず自室へ向かいました。 どうやら、そうとう嫌な事があったようです。 キッチンに入り、晩酌の準備。 凶悪犯罪者フェイスなトカゲ男から、美貌のボスモンスターに戻った御主人様は疲れた様子で椅子に腰掛け小皿満載のテーブルを一瞥してから目付きを悪くしてこちらを見ました。 「なんだこれ」 「嫌いでしたか?これ」 御主人様に内緒で購入しておいたおつまみとかなんですが。 「買った覚えはないぞ」 そういって指されたのは地味な容器に入った赤いお酒。 砂漠でしかとれない実をお酒にしたとかで、ワインよりも透明度が高い赤色は、なんとなくアセロラを思い出します。 「というか、売ってないだろう」 「酒屋さんでお願いしたら売ってくれました」 御主人様は私とお酒を交互に見て、眉間に皺を寄せました。 「嫌いでしたか」 しょうがないので片そうとしたら、手首を掴まれました。 「お願いって、なにか変な事とか、されてないだろうな」 変な事って。 ナニ。 私の困惑に気がついたのか、御主人様は尻尾の先を床にぴしぴしと叩きつけ、こちらから顔をそむけるとつまみに手を出し始めました。 てゆうか、これだけ色々用意したのに、一番最初に手を出すのがカエル……。 そりゃ、好き好きですけど……。 卵料理とか鳥とか漬物とか色々あるのに……。 「カロティポは、久し振りに見たな」 あ。御主人様笑いました。 何千回でも言いますが、御主人様は美形なので、何をしてても美形ですので笑っても当然美形です。 ……あ、壁ちょっと汚れてるから、掃除しなきゃ。 「これは、客に出すものだ」 ……ぬ? 御主人様が隣の椅子を叩いたので取り合えず、腰掛けます。 お酒、喜んでもらえたみたいです。 「あとは…祝いのときか」 「砂漠の名物辞典にはそんな事書いてありませんでしたが」 うっかり漏らした呟きが聞こえてしまったらしく、御主人様はお酒と私を交互にみて顔を逸らしました。 「今日呑むのには勿体無いな。いつものを頼む」 私は頷いて買ってきた分を片し、いつもの方を準備します。 「今日は、映画を観てきた」 なにやら話し出す御主人様に耳を傾けつつ、お酌する私。 「映画……ですか」 そりゃ、御主人様だって息抜きが必要だって事ぐらいわかります。 ペットごときが御主人様の交友関係を気にする必要だってありません。 ……少なくとも、ジャックさんと見に行ったわけではないのくらい、想像がつくだけです。 「非常に胸糞悪い内容だった」 で、機嫌が悪かったと。 なら、一緒に行った人ともあんまり盛り上がっていないって、思ってもいいんでしょうか。 ちゃんと帰ってきたし……。 いいなぁ……御主人様と映画。 「どんなジャンルですか?恋愛?アクション?まさか特撮?」 あ、御主人様がすごい無表情です。 無言でぱりぱりと干し海老みたいなのを食べ、ちらりとこちらを見てから目を逸らしました。 「女優が……」 固唾を呑んで御主人様の口元を見つめる私。 「お前に似てた」 思わず俯いて、膝の上に載せた指先を睨みました。 マニキュアも何もしていない短い爪に、指先も少しざらざらしています。 ちょっと……不機嫌だった理由が、私だと暗に言われたような気がしただけです。 居ると不快だとか、見た目が悪いとか まだ 言われたわけじゃないし……。 ……貞子みたいな人が出る映画だったらどうしよ。オバケ似とか、へこむ。 明日の仕度でもしておこうと椅子をずらし、席を立とうとしたら物凄い目で睨まれました。 一体何を考えているのか……。 無言の圧力のようなモノを感じ、仕方なく夜食用のパンとナイフを手に取り席に戻ります。 御主人様が好きなのは、柔らかくて軽い食パンではなく、円形の固くて分厚くて重いパンです。 ナイフで切ろうとすると、やたらとパン屑がこぼれ薄切りではない何かになるタイプ。初めて切ろうとした時、台形になったのもいい思い出です。 それにつまみとして出したサラミやチーズや野菜類を挟んだものを作ったはしから食べていく御主人様。 「ヒトオタクが作った映画とかでな。酷かった」 御主人様はソーセージを食べながらそう言って、なんだかどこか痛いような表情を浮かべていました。 「ノンフィクションですか?」 トマトの輪切りをぱくりと飲み込み、首を横に振る御主人様。 「なら、今度から観なければいいじゃありませんか」 御主人様の健啖ぶりを半ば呆れながら眺めていると、目の前にフォークで刺した香草入りハムを突き出されました。 「食え」 「もう晩御飯は戴きましたので、これ以上食べたら太ります」 「太れ」 理不尽発言来ました。 「太っても巨乳にはなりません」 私がそう返そうと口を開くと、無理やり押し込まれました。 フォアグラですか、と言いたくなったのを堪えてもぐもぐしながら見れば、御主人様はどことなく満足げな雰囲気を漂わせています。 最近、機嫌の緩急が激しすぎるんじゃないでしょうか。 それとも、私が御主人様のことをわかってきただけなんだろうか……。 「美味かった」 「お粗末さまです」 大半が空っぽになったお皿を見て、まだ皿洗いという自分の仕事が残っていることがわかってほっとする。 まだ、私は役に立つから大丈夫。 片そうと席を立ち、御主人様に背を向けると急に引き寄せられました。 「 」 耳元で囁くのも止めてください。よく聞こえないから。 私、体重増えたので重いのになんでそうあっさりと持ち上げますか。 内腿を尻尾で触るの止めてください。背中をそんな風に触らないで下さい。 服の中に指を差し入れられて、冷たい指先に心臓が鷲掴みにされる。 間近な顔から目を逸らし、恐る恐る肩に腕を回してみた。 少し冷たい温度を頬で感じながらイヌに比べれば相当薄い御主人様のニオイを嗅ぐ。 これ、アレですよね? 夜だし?その、なんか……溜まったもの的な? デートに失敗して、お預け食わされちゃったし……とか? 違ったらどうしよう。 そしたらこっちが飢えてるみたいで凄くイヤなんですけど…だって最初の頃に聞いても普通に迷惑がられてただけだったのに。 あれから、少しは私の身体はマシになってるんだろうか。 それこそ安物のマネキンみたいな固くて棒みたいな状況から、ちょっとはその……女らしく? 一応、女優さんに似てるって言われたし……。 外見じゃなくて、役柄の事だったらどうしようとか色々考えつつ、唾を飲み込んで何とか声を絞り出す。 「あの……」 首に顔を埋めていた御主人様がこちらを見た。 御主人様の眼は、暗い所だと瞳孔が広がってヒトの眼に良く似たふうになる。 「触るだけで、いいんですか」 返事の代わりに噛むのは止めましょう。 舐めるのもダメです。 吸うのも絡ませるのもよくありません。 言って下さい。ちゃんと。 どうすればいいのか、わからないから。 不意に顔が離され、見上げれば御主人様の目線は私の後方を見つめていました。 つられて振り返ると、じっとこちらを見つめるチェルの姿が眼に入ります。 飛び跳ねる心臓をなだめて深呼吸。 「2人とも、なにしてるの?」 鋭い質問に返す言葉も無く、私は胸元のボタンをそっと直し御主人様は際どい所に潜り込んでいた尻尾をさり気無く解き始めました。 そっと降りてから、念の真似に御主人様の服装を確認し、チェルを手招きします。 早くも飛び跳ねている柔らかな髪を手で撫でつけ、パジャマの襟を直し、泣いた跡が付いた目元を触りました。 「怖い夢みたの?」 唇をかみ締めて頷く小さな身体を抱き上げた。 思ったより、重くて少しふらつく。 ―――あとどれくらい、こうしてあげられるんだろう。 背中に回された小さな手の温度が下がらない内に早くベッドに戻してあげようと思い、御主人様の方を振り返る。 「では、先に休まさせていただきますので」 御主人様、口が半開きです。 「普通」 私に抱かれたままのチェルが解かれた私の髪の毛をちょっと握りました。耳元で聞こえる小さなあくび。 「また後で、じゃないのか」 時刻は深夜を回っています。 御主人様は明日もお仕事です。 早く寝ないと、明日に差し障ります。 「お皿はそのままで結構ですので」 ずりおちそうなチェルを頑張って抱き直す。 「それでは」 小さな温かい指と、歯磨き粉の甘い匂い。 「おやすみなさい」
https://w.atwiki.jp/schwarze-katze/pages/577.html
太陽と月と星がある 第十一話 気温も高くなり、抜け毛の舞う季節…… 今日も私はエセナースとしてジャックさんのところにお邪魔しています。 「ここ、なんて読むんですか?」 「ネコ風邪の罹患率…つか、なんでこんなの読んでるの?」 「…少しは役に立つかな、と思いまして……余計でしたか」 背後から抱きしめられ、ナース服にべったりと黒い毛が…サフに比べればマシですが…。 家庭の医学を閉じ、毛を摘んでいると軽い音。 患者さんかと思って見ていると、入ってきたのは御主人様トカゲバージョン…もといオティスさんでした。 やけに緊迫した空気を纏っていましたが、私の方を見ると僅かに肩を緩め…眉間に皺を寄せ、懐からスリッパを取り出しました。 ……スリッパ? 「オマエは営業時間中に何してるんだ!」 スリッパでも結構威力があり、おかげであやうく付け耳が取れる所でした…。 患者さんが居なくて良かった…。 ジャックさんのこめかみをぐりぐりしつつ、目線がこちらにむきました。 「そっちもおとなしく膝に乗ってるんじゃない」 何故怒るんでしょうか…。 「ジャック…兄さんが、ウサギなら膝が空いてたら上に座るのが礼儀だと……」 「信じるなー!」 ジャックさんがポイ捨てされ、私は襟首を掴まれ、がくがくと揺すられました。 最近知ったのですが、普通こちらの姿の方が表情が乏しく見えると思うのですが、御主人様はこっちの方がユカ…リアクションが大きいのです。 ゆえに何を考えているのか、わかりやすくて楽です。 普段はあんなに怖そうな雰囲気なのに…御主人様がさっぱり理解できません。 「いいか、コイツの言う事は八割嘘だから、信じるな」 吐息が掛かる距離まで顔を寄せ真剣な声色で囁かれ、ちょっと心臓が高鳴りました。 なにせ顔は鱗なヘビですが、中身も口調も手も鱗も模様も瞳も御主人様ですから。 なんとなく視線を落とすと、足元で大きなこぶを作ったジャックさんが頭を抱えてぐにゃぐにゃと蠢いていました。 床で悶えられると白衣が汚れます…洗うの私なのに…。 「オニーサマ、私の無知に付け込んでそういう事するなら…今度からお金取りますよ」 「え?お金出せばヤらせてくれるってこと?」 頭を抑えていた手を離し、キラキラした眼を向けてきたジャックさんに横手から蹴りが襲いました。 ガッツンガッツンいっています。 …相場、幾らぐらいなんだろう、イヌの国よりこちらの方が物価が高いみたいだし…あ、そもそも一晩幾らだったのか知らないや。 「私、一晩幾らぐらいだと思いますか?」 取りあえず私の持ち主にそう尋ねると、悶える黒芋虫状態のジャックさんに更に連打を加えようとしていた動きを止め、無言でチョップされました。 い、痛い…。 その隙にジャックさんは床を転がり私の足元へ逃げてきました。 そして、首を僅かに曲げ、おもむろに口を開き… 「ブルーの水玉~」 私は椅子で黒芋虫を潰そうとしたのですが、十数回程振り下ろしたあたりで止められました。 残念です。 「でね、狐の雑貨屋さんは自分の所でお惣菜も作って売っているんですよー」 周囲を気にしながら頷く…オティスさん。 片手には脱け毛と血で汚れた白衣とナース服の入った袋とカバンを提げています。 反対側の手は何故か私の手首を掴んでいます。 毎度の事ながら…迷子になるとでも思っているのでしょうか。 しかも二人のときは人通りのない裏道を通ることが多いです。謎です。 付け耳付け尻尾とはいえ、首輪無しのヒトが街中を歩くわけにはいかないから…かなぁ…。 …買い物の為に毎日のようにひとりで外出はしているのですが…もっと危機感持つべきかも、もしヒトだとバレて強盗とか来たらチェルとか心配だし…。 …何故ほっぺたが引っ張られているんでしょうか。 「タイヤキ食べるか」 顔、近いです。 ちらちら覗く細い舌が気になります。 「いえ、結構です」 御主人様猫舌なのに…何で急にタイヤキ…。 「あら、デート?」 振り返ると陽気そうなチャトラなネコ中年女性がいました。八百屋の奥さんです。 「こんにちはフューリーさん、いつもチェルがお世話になっています」 フューリーさんは全体的にふっくらとし、貫禄を感じます。 …そして眼を輝かせています。好奇心、旺盛ですよね、ネコだし。 ご、オティスさんを見上げてみれば…虚ろな眼をして舌をひらひらさせています。 今までこういう風に二人で居る所を問われたこと、ありませんでしたもんね。 「いえ、これは偶然……荷物を持ってくれるただの親切さんです」 フューリーさんは目だけで笑いました。 笑うと年齢を感じさせない魅力的な表情になります。チェルが懐くのも無理はありません。 「いつもおせわになっています」 御主人無難な返答ですが棒読みです! 「あの、すみませんちょっと急ぐもので」 失礼だとは思いつつ頭を下げて道を急ぎ角を曲がったところで、御主…オティスさんのが脱力するのがわかりました。 見上げると表情が暗いです。 いえ鱗顔だから全然変わらない気がするのですが、どうも…雰囲気が重いです。 「知人の方が良かったですか?」 一応…ジャックさんの知人という事になってるんですよね。 私だけがオティスさん=御主人様だと気がついていないフリをする必要があるようなんですが…。 大体……最初に御主人様が自分だって言ってくれれば…そりゃ、ちょっと判りませんでしたけど…ジャックさんは間違った名前しか言っていないのに、私の名前を知っている時点でピンポイントなのに。一人だけハブです。 どう対応すればいいのかわからないし、相談も出来ないし。 だからこう行き当たりばったりな発言になるんですけど。 隣を見上げると、…何故か隣の凶悪そうなヘビ男性からブルーな雰囲気が醸し出されています。 冷血美青…美少年な時には絶対に見られないであろう雰囲気です。 そんな風にされたら、無駄と判っていても何とかしたくなる自分が居ます……馬鹿みたい。 「アメ食べますか?」 ポケットからジャックさんに貰ったアメを取り出し、憂鬱そうな口元へ差し出すと指ごと食べられました。 指を引っ張り出しハンカチで拭ったものの…御主人様、相当重症なようです。 どうしたものか…。 「そういえば、お箸使えますか?」 「獅子料理とか、スシで使うな」 これは有望です。たしか獅子料理は中華なカンジだったと思います。 「何で笑うんだ」 「今日は稲荷寿司と冷奴にしようかと」 冷奴に稲荷寿司なら猫舌な御主人様もベジタリアンなジャックさんでもおいしく食べられます。 チェルとサフが嫌がらないといいんだけど…そんなにクセがあるわけじゃないから多分、大丈夫。 「ウチの人が喜んで貰えるかなーと思いまして」 複雑そうな表情な御主人…じゃなかったオティスさん。 危ない危な…… 「キヨカーっ」 …最近、タックルされるのに慣れてきました。 でも口の中まで舐めるのはヤメテ。生臭い…毛が、毛で息ができない。 「あーがっくんアメずるーい!」 「こら裏道は危ないから使うなって言っただろうが!」 「だって、ふーちゃんちのオバさんがキヨカがいたってゆーからー」 しかし……どうしようかな、御主人様次第…なんだけど。 あ、意識が遠くなってきました。 「ぴっすたちおーくりーねぇキヨカはどっちがいい?」 「カボチャ」 大きなこぶを作ったサフと手をつなぎチェルの選んだ商品を受け取り、サフのもつ籠の中へ。 二人の好きな飲み物などが入っているので相当重いと思うのですが、あまり苦にした様子はありません。 荷物持ちが居てくれると買い物って本当に楽です。 「ねぇキヨカ、がっくんといつもああやって帰り一緒に居るの?よくニオイついてたけど、そういうことだよね」 ……目が厳しいです。 原因である御主人様は隣の酒屋さんでお酒を物色しているはず…。 「ねぇ、キヨカ。何で黙るの?」 「サフもチェルも好き嫌いが多いから、手伝って貰ってたんですよ。あ、アメもらったんで後でね」 「あじなに?ちーね、イチゴがいいな」 「アフア果汁入り……」 「アレ臭いよ。嫌い」 アフアというのは一言で表すとドリアン系ココナッツです。 味はバナナとリンゴを混ぜた風で栄養価も高く、こちらでは割と好まれていますが…ヒト限定で嫌な効果があります。 そしてニオイが異様に生臭いのです。戻しそうになります。 ジャックさんいわく、ウサギの国では高値で取引されているとか。 北国なだけに南に対する憧れ的なものもあるのかもしれません。 「キヨカは?」 「アレルギーだから」 嘘です。でも似たようなものです。 何故か不満げなサフの鼻の頭を掻いてあげると抜け毛が浮いてきました。 「チェル、そこの櫛とガムテープも」 何でもそろう雑貨屋さん。便利です。 チェルはアメで頬を膨らませ非常にご機嫌です。 御主人様に肩車され、似てはいないけど親子そのものにみえます。 絹糸の様な髪の毛が夕日に反射してきらきらとひかり、明るい瞳に目が吸い寄せられます。 「チェルって、将来絶対美人になりますよね、どうします?お嬢さんを僕に下さいっていう人が来たら」 「くだらない」 「無い、絶対無い。昨日もおねしょしたし」 御主人様、チェルにがしがしと蹴られていますが全く意にした様子はありません。 「サフがこわいはなしするからじゃん!」 「聞きたいって言ったのそっちじゃん」 睨みあうネズミ幼女とショタわんこ。 非常に微笑ましい光景です。 しかし私を間に挟んでやるのはやめて欲しい…。 御主人様の掴む手首は痛いし、サフに腕ごと引き抜かれそうでドキドキです。 気持ちはまさに連行される宇宙人。 あんまり間違ってないですね。 しかもサフがくっついている側はべったりと抜け毛が張り付き大変な事になっています…。 うん…あの…御主人様…手首マジ痛いんですけど。 「キヨカいい匂いするー」 ぐりぐりと頭をこすりつけながら甘えるサフの姿勢を正し、丈夫な櫛で頭の後ろから首元、背中にかけ櫛を通すとそれだけで櫛から溢れるほどの毛が抜けました。 「集めたらセーターが出来そうですね」 後ろのソファーでいつものように座っている御主人様の方を振り返ると、無表情を返されました。 膝の上でチェルがTVに見入っているのはいつも通りです。 ジャックさんが私の隣に座り、スカートに手を伸ばそうとするたびにサフに威嚇されるのもいつも通りです。 御主人様がいまだにトカゲ男のままだということを除いて。 ……実は御主人様の真の姿はトカゲ男だったのでしょうか。 意外といえば意外です。普通逆です。いやしかし、そうするとわざわざ家の中で変身というのも謎です。 ……修行? 以前考えた呪い説は消えました。他には… 考えながらブラッシングするも、なにせサフはもこもこワンコです。手が足りません。 「ジャックさん、どうせなら手伝って下さい」 「えー!男の毛なんか楽しくないよー!」 「明日、肉抜きの肉じゃが作りますから」 男性用の長くて大きいブラシを渡すとしぶしぶブラッシングをはじめてくれました。 助かります。 「なんか、こういう共同作業していると夫婦みたいだね!」 サフが急に立ち上がろうとしたので首を押さえそのままブラッシング続行。 「ジャックさんて、これぐらいの息子さんがいる歳なんですか?」 あ、黙った。 どちらかと言うとサフはやんちゃな弟って気持ちなんですよね。 前言ったら落ち込んでたから言わないけど。 「ジャックが父親だったら自殺する」 床に爪を立てて呻くサフに思わず噴出してしまいました。 「キヨちゃん、ソレ酷くない?ちょっとちーちゃんなんか言って!」 「ジャマ。TVみえない」 「あんまりだー」 幼女の痛烈な一言にジャックさんは大袈裟な素振りで私に泣きついてきました。 抜け毛がべったりと服に付きます。 思わず溜息が出そうになりました。 サフも凄い抜けるし……腕が疲れてきました。 なんとなく振り返ると御主人様は相変わらず無表情です。 いつもだとここで冷血美青…いや、今の御主人様もそれなりにありです。 頭に角らしき突起がありますが、ちょっと珍しい感じで格好いいですよ。ハイ。感情もわかり易いし。 でもこう…なんか物足りないというか…いえ、眼の保養的な意味じゃなくて、 御主人様の膝の上でチェルはTVにかぶりつきですがなんとなく手持ち無沙汰な様子です。 「あのー… ガエスさん」 御主人様が物凄い眼でこちらを見ました。 怖いです、久々に怖いです。 アレです。ボスモンスターです目から怪光線出るアレです。 こっちバージョンでも怖さ健在でした。 「なんでもないです…」 ジャックさんにぼふぼふと肩をたたかれ、またも毛が舞い散りましたがなんかすべてどうでもいい感じです。 「そういえば、キヨちゃんアメ食べた?アフア果汁 ヒト専門店で購入したんだけど」 笑顔で尋ねられました。 ヒト専門店とは多分、首輪とか大人のオモチャやヒト用服が売っているヒト奴隷用品専門店の事です。 高級店なので前はともかく今は幸い縁がありません。 今の服?適当に裁縫してます。当然です。 尻尾穴ひとつのために無駄に高い物を買って欲しいなんて言えません。 …話がそれました。 アフア飴、普通に人用で売ってるのを買ったなら仕方ありませんが、ヒト用と銘打っているというからには当然…… 「効用:滋養強壮精力増進欲情発情 って説明付きでした?」 「説明つきでした」 笑顔です。期待に満ちた眼差しです。 ガムテープをめ一杯伸ばしジャックさんの耳と腕に貼り付け、落ちてた毛をかき集め手早く片し、 「じゃ、今日はここら辺で気をつけてお帰り下さい」 小首を傾げるジャックさんの手からブラシを受け取り、 「私、お風呂入りますので」 背後からガムテープを剥がす音と凄い悲鳴が聞こえました。 知らないならともかく……ね。 私を発情させて、どうするんでしょうか。 多分、何も考えてないんだろうな…ジャックさんだし…。 「やったーこれでオレも大金持ちだ…なんだよメスかよ。まぁいいやヘンリーもって帰って味見しようぜ……へっ」 落ちたてと落ちたてでも中古じゃ随分の価格差があって、あのイヌは地団太踏んで悔しがっていた。 ざまあみろ、だ。 湯船から体を上げ、軽く拭いて戸を開くと凶悪そうなヘビ男性が居ました。 平たく言えば、御主人様トカゲ男版。 御主人様の目が大きく見開かれ、鱗だらけの顔だというのにすごく分かり易く表情が歪みました。 おそらく、嫌悪で。 やあ、でも暗くすれば全然大丈夫だし… 客はわりとついたから、この世界の人のヒトに対する興味は無限大というか穴さえあればあとは一緒というかなんというか。 ……気持ち悪いものをみせてごめんなさいというか……。 「申し訳ありません、すぐに出ますので」 手早く着替えて、それでも御主人様が立ったままなので少し考える。 お風呂入りに来たんじゃないんだろうか? てかこれはアレ、一応少年漫画とかのお風呂でドッキリ的な? 「宜しければ、背中とか流しますが…」 ギクシャクとした動きで拒否されたので棒立ちのままの御主人様の横をすり抜け脱衣所を出ようとしたら、 ひどくわかりやすい、ぐぁっとかいうやられ役のような悲鳴と妙な物音と長くて重そうなものが床にぶつかる音。 振り返ると御主人様美少年バージョンが突っ伏してはいないけど、ソレに近い状態になっていました。 いわゆる攻撃状態な眼の色で下から睨まれまています。 何でまた急に…いいけど。 「文句あるのか」 「いえ。大丈夫ですか?」 御主人様は甥の油断がどうのとぼやきながらぶつけた尻尾を撫でてます。 しかしあれです。 普段ターバンで隠れている頭部にはやっぱり硬そうな鱗と角が二本、驚きです。 上から見下ろすのもなんなので、しゃがんで目の前でうねうねしている尻尾に視線を移し、せっかくなので質問など。 「今のって、魔法が解けたんですか?魔法?魔法なんですか?」 顎掴まれました。 「話すときはこっちを見ろ」 いや、それは無理な相談です。この距離で美形を見るには近すぎます。 あー、壁掃除しないと。 「……で、魔法?それとも脱皮の一種なんですか?」 「そこまで避けるか普通」 ムキになったらしく、腕に尻尾が絡みつき引き寄せられました。 …そこは、痛い…。 そのままズルズルと引きずられ…ええ、脱衣所ですから当然その先には先程出たばかりのお風呂です。 「尻尾洗ってくれたら教えてやる」 「言いたくないなら別に構いませんが……」 私の言葉は当然のように無視され、ズルズルと段差を超えて石鹸と湯気のニオイの残るお風呂場へ。 私、…着替えたんですけど…。 御主人様は残っていた上衣を脱ぎ捨て、鎖骨とか、ふ、腹筋とか…あ、途中から鱗なんだ…へぇ…いかん、鼻血が出そうです。 御主人様は湯船に体を沈め、長くて太い尻尾だけが洗い場に残っています。 パっと見ホラーです。風呂場にのたくる巨大ヘビ。怖い。 これを…洗うわけです。 「……コレで宜しいですか?」 「拷問してくれとは頼んでないが」 タワシは駄目だったらしいです…。 濡れた尻尾を膝に載せて、恐る恐るスポンジで擦ってみる。 服が濡れますが、諦めました。 御主人様は頭にタオルを載せ、興味深そうにこちらを観察しています。 「なぁ、落ちモノは鱗が苦手という話を聞いたんだが、お前はいいのか」 …この状況で鱗全否定したらある意味勇者です。 「私はどちらかというと足が多い方がちょっと…」 クモとか、ハチとかハチとか…噛むし縛るし痛いし…毒あるし痺れるし…。 御主人様は私の返答が気に食わないのか、小さく呻ったきり何も言わないので、私はそのまま尻尾磨きを続行…。 堅い背中側に比べ腹側の方はヒト肌に似た色で鱗もなんだか柔らかい。 しばらくやっているとひんやりしていたはずの御主人様がほのかに温まってきました…まさに変温動物…。 膝の上の尻尾がバタバタするので抗議の意味を込めてそちらを見ると、何故か睨まれていました。 「今まで我慢していたが、お前は俺に対する態度だけ非常に差別的だと思う」 「はぁ…」 出っ張っている所とかに汚れが溜まりやすい気がしたので丁寧に少しずつ洗う。軽く丁寧に。 「女子供と違うのはいいだろう。だがジャックとの態度の差はなんだ」 ジャックさんに対しては気を使う必要は無いとか言ったの、御主人様だったんですけど…。 「設定上兄なのでつい引きずっている部分があると思いますので、今後改めます」 「何故そうなる」 御主人様、頭を抱え尻尾でお湯を羽散らかしています。…濡れる…。 「取り合えず、少し話し方を変えて俺に対して…その親しげにしてみるとか、そういう意味だ」 親しげ…?ざっくばらんに話せってことでしょうか。 御主人様が妙な動きをしているのでお湯がばしゃばしゃと零れました。 「それは…今すぐですか?」 「少しづつでいいから、そうしてくれ」 しかし下手な話し方をして、お仕置きされるのも困ります。 御主人様はそういう意味で理不尽な扱いをしませんが、油断は出来ません。 私は軽く頷くと尻尾の手入れに戻りました。 しかし長い尻尾…これを毎日手入れするのは大変かもしれません、毛があるよりはマシですが…。 この面倒な事をやらないと皮膚病や寄生虫の心配が出てしまうわけで…まめに手入れをするには、毛や鱗の少ない女性が最適と。 なるほど、この世界は男性の方が力がハンパなく強い分、こういうところでバランスが取れているわけですね。 ひとつ勉強になりました。 「ここまで終わりましたが、あとどうしましょう?」 ずるりと、残った部分が出てきました。まだあるんですね、そうですよね。 「今、面倒だと思ったろう」 「移動が大変だろうとは思います」 「面倒だ。しかもここらは石畳だから摩擦があるしな」 うんうんと頷く御主人様、鱗が擦れるわけですから確かに痛そうです。 「どうせなら美少女とかになれませんか?その方が見た目が楽しいです」 御主人様の目が冷たいです。 しょうがないので鱗を磨きます。 「遊び半分で性別転換なんて高度なのを出来る筈がないだろうが。猫や兎じゃなくて蛇だぞヘビ」 「ガ……筋肉質にはなれるのに…」 「アレはジンの組成を転化させて…言っても判らんか」 御主人様が湯船から手を出すと、手の周りに水で出来たミミズ…じゃなくて小さな……ギャラドスもどきが纏わりつきました。 「コレが俺の精霊だ」 差し出された掌の上でキングコブラの如く威嚇してきます。 ちょっと可愛い。水の精霊です。ファンタジーの王道です。 「喋ったりしないんですか?」 「無理だな」 そっけなく返されちょっと残念…なかなか上手くはいかないようです。 恐る恐る手を出すと指の周りに絡みついたり噛みつく真似をしたりと愛嬌があります。 「可愛いですね」 水そのものなのですが、なんだか面白い感触です。 ふと視線を感じて御主人様を見れば、御主人様もちょっと頬が緩んでいます。 やっぱり水の精霊との契約!とかやったりしたのかなぁ…夢が広がります。 「ありがとうございました。またね」 御主人様に精霊を返すと精霊はお風呂のお湯に戻ってしまいました。 「私、精霊さんを見たのは初めてです」 「そうか」 やっぱり山奥とか行けば風の精霊とか居るんでしょねぇ…うわー見たいなー。 やっぱり少女の姿かな、ふんどしだったら壮絶に嫌だなー 色々想像していると御主人様が何故か微妙な表情を浮かべていました。 「何か」 「いや、別に」 鱗磨きを再開しろって事でしょうか…。 石鹸の泡を立てわしゃわしゃと擦ります。 「つまりだ、アレのようなモノを作る際の魔力を転化させてる程度で、俺には連中のような理不尽な事はできん…精々半日しか続かないしな」 もしかしたら、ほんの少し悔しそうな御主人様。 柔らかい腹側や鱗と鱗のつなぎ目に着目し先程よりも細かく擦ってみたりとか。 浴室に私が鱗を磨く音だけが響きます。 「キヨカ、怒ってないか?」 「何をでしょうか」 適当に返してごしごしと洗います。 「別に騙す気はなかったんだ。ただ言い出すタイミングとか、その、お前の話し方も普段と違うしな」 語尾が弱めです。ちらちらとこちらの様子を伺っています。 「ああ、オティスさん…いえ、お気なさらず」 御主人様、なんだか気まずそう…罪悪感あったんですね。別に気にしなくていいのに。 「というか、だいぶ前から知ってましたから大丈… あ」 全力で逃げようとしたものの、膝の上の尻尾がぎゅうぎゅうと体を締め付けます。 キツイきつい折れる折れる折れる。 ずるずると浴槽に引きずり込まれお湯がざぶざぶと溢れました。 お風呂のお湯がぬるいです。 そりゃ冷血な御主人様が入ればお湯の温度は下がります。 代わりに御主人様がいつもと違い、ぬくくて不気味です。 体を拘束され身動きできません。腕も尻尾同様凄い圧力です。 頭に顎載せられました。このまま沈められるんでしょうか。 水責めは苦手です…毛が喉に張り付くし…あ、御主人様は鱗だからそれはないか。 髪の毛がぺったりと肌に張り付き不快です。使わないなら長くする意味もないし…切りたい…。 「ちなみにどの時点からだ?」 耳元で囁かないで下さい。 「結構初期…だって私の名前知ってるし、ジャックさんの知り合いって時点でほぼバレます普通」 御主人様は溜息らしき吐息を吐くと体をもぞもぞと動かしました。 剥きだしになった肩や足に鱗が滑り、慣れない感触に困惑が隠せません。 尻尾磨き途中なのにいいんでしょうか。 アレ、よく考えるとお風呂で背中を流す→御奉仕 の流れなんでしょうかコレ。 不意に首を噛まれました。 御主人様の指が私の服の中に滑り込んでいます。 思わず体を強張らせてしまい、何か言われるかと思いましたが何も言われず…。 濡れた服がまとわりつく不快感と、お湯の冷たさでどうも体が震えます。 御主人様は何も言わずに首を噛む作業に専念しています…舌は二股に分かれているし、イヌよりも細いから妙な感じです。 尻尾がお風呂の中で動き回るのを凝視していると、やけに心臓の動悸が激しくなり、息が苦しくなってきました。 どうやら原因は胴に巻かれた尻尾…言うべきか我慢すべきか迷っていると、酸欠に陥っている事に気がついたのか、拘束が緩みました。 咽喉が嫌な音を立てています。俯いて咳き込んでいると足や手からも尻尾が離れました。 恐る恐る縁を掴んだ手が震えています。 体、冷えたせいです。そうだ、たぶん、そのはず。 お風呂上りだったのにぬるま湯に浸かれば、そりゃ震えの一つや二つ、来ます。 「大変申し訳ありませんが、この後は乾いた所でお願いできないでしょうか」 背後からほっぺたが引っ張られています痛いです。 「これで寒いのか。お前は」 溜息です。寒いですよ。風呂の温度は41度が適温ですよ。歯が鳴るのを食い縛って堪えます。 御主人様の腕や尻尾が再び絡みついてきました。 …これって、本気…ですよね。マジで?私なんか要らないとおもってましたが。 あーそういえば魔法を使うとお腹が減ったり眠くなったり…性欲が増す…とかジャックさんが言ってたような…。 今日は帰宅してからもあっちのトカゲ男だから余計疲れてる…とか? 背は腹に変えられないとか、そういう…正しい使い方ですね。 御主人様の鎖骨をガン見するのは役得だけどセクハラだろうかと考えつつと見上げると御主人様は落ち着いた目の色をしています。 尻尾は臀部を彷徨ってますけど。 無言で…抱き締められてるって言っていいんでしょうか。 「なんか白いぞ。大丈夫なのか」 「これで風邪引いたらジャックさんに100%自業自得だとお仕置きされると思うのですが、いかがでしょうか御主人様」 御主人様が憮然とした表情を浮かべ、再び溜息をつきました。 「その…ゴシュジンサマって呼び方、やめろって言っただろう」 そう言って、御主人様は低く唸ると私の顎に指をかけました。 …がっつり、がっぷり。 でもあえて言おう、舐めればいいってもんじゃねぇぞ、このへたくそ。 しかも私なんか、不特定多数のイチモツ咥えたり舐めたりしてきたのに、気持ち悪いとか思わないんでしょうか。 御主人様の思考は私には理解不能です。意味不明です。 放してくれそうも無いのでこちらも下唇を舌の先で舐めて、開いた口の中に進入し細い舌を軽く吸う。 頬の内側を舐めると、かすかに痺れみたいなものが走りました。 びくりと体を離されそうになりましたが、そのまま続行。 それにしても御主人様の背中、鱗でびっしりと覆われ、まるでヤクザの刺青です。 色がわりと地味なので目に優しくていい感じ、撫でるとしっとりした中にごつごつとした感触が残ります。 回された手が案外優しくこちらの背中を撫でてきます。 ……キス下手超下手ど下手糞、カエル好き、冷血、冬眠、あと…なんだ、もっと冷める事考えないと…ああ、えーと…私美青年好きだから!美少年は範囲外…おかしい、説得力がない…。 …まぁ、御主人様ですから、ね。今更、どうでもいい事を考えてしまった…。落ち着きましょう、私。 尻尾がバシャバシャしだしたので体を離し口を拭うと随分べったりとつきました。 あれ…赤いものが。 「ひゃ…」 舌が回りません。つーか口痛い凄く痛い。血が出てます。ありえん。 「キヨカ?」 なんで? 焦ってお風呂場から飛び出し、洗面所で口を漱ぐとたらたらと血がたれました。 舌も腫れている感じです。 水を滴らせながらどうしようか迷っていると何故かジャックさんが背後でポーズをとっていました。 いつもたれている耳が半分がほど立ち上がってます。 あ、ちょっとガムテ残ってる…。 「アイツ毒あるもんね…ププッ今薬あげ…ぷっ…いやぁ、背中痒いね!青春青春!」 血を垂らしているというのにジャックさんに口をまさぐられ「味見」とかされ… その現場を御主人様に見られ、夜だというのに蛇VS兎です。五月蝿いです。近所迷惑です。 …ああ、ウサギだから比べても仕方ないけど、御主人様ももうちょっと上手になってくれるといいんだけどなぁ…。 恐らく近いうちに現れるであろう恋人なりお嫁さんなりも、きっとそう思う事でしょう。 口が痛くて、涙がでそうな気分です。
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/616.html
太陽と月と星がある 第十八話 風が涼しくなり、夏の気配も遠のいた今日この頃。 ここは日本と気候が違いますが、秋は空が高いという事と食べ物がおいしいという事は共通しているようです。 「天高く 馬肥ゆる 秋」 この場合は、ヒト肥ゆる秋 でしょうか。 御主人様は私に太れと言うので、それもいいかもしれませんが、そうすると服を丸ごと買い換えなくてはいけなくなるので困ります。 ただでさえ、ぶかぶかだったはずのナース服を少しきつく感じ始めているというのに……。 キケンです。 今のジャックさんからのお給料では、これ以上の出費は賄いきれません。 ……困りました。 「キヨちゃんキヨちゃん」 今日も今日とてジャックさんはエロ雑誌を読んだり、官能小説を音読したりしていたはずなのですが、珍しく耳を半分ほど立てて目を煌かせています。 「オレちょっとバカンスに行こうと思うんだけど!」 「いってらっしゃい」 「ううううううう妹が冷たいよぉぉぉぉおおぉぉぉ」 そう言って床へ押し倒し、太腿にすがりつくジャックさん。 膝裏に頬ずりするのはやめましょう。 というか、私は喉が痛いのです。マスクつけたほうがいいかもしれません。 「ほらさぁ、よーやく涼しくなってきたし?オレとしてもそろそろリフレッシュ!みたいな」 ヒトの足にのの字書くのはやめましょう。甘噛みも禁止です。 「やっぱりね、こう真面目に毎日働いているわけだし?」 どうやらウサギの真面目とは、エロ雑誌の発売日に本屋へ猛ダッシュしたりすることを指すようです。 「まぁ、そんな風に過ごしてると、気持ちがダレるっていうか、NEWナース服探しの旅!ていうか?漲るパッション全力投球☆みたいな」 じょしこーせーみたいな口調が心底キモイです。 「遅れてきた夏休み!ひと夏(期間無期限)の思い出をオレは作る!!」 そっと足を引き抜こうとしましたが、あっさりバランスを崩されうつ伏せになる私。 毎度綺麗に掃除しているからいいものの、何故私はこう床に縁があるのでしょうか。 毎日のように突っ伏す床が冷たいです。 季節の移り変わりを床の温度で感じます。 ジャックさんは抵抗できないのをいい事にガブガプと咬んだりしていて大変キモイです。 「所でキヨちゃん」 ひとしきり足を撫で回した後、満足そうな溜息をついたジャックさんは、真面目な表情を作って私の顔を覗き込みました。 「スッパツは邪道だと思うよ!」 とりあえず、全力で蹴った。 *** 翳り始めた陽に照らされた小さな体に似合わないリュックサックには、ぎっしりと教科書やノートが詰め込まれていて、重そうで危なっかしい。 「今日ねー作文で花丸もらったよ」 学校の帰りと、買い物がたまたま被ったため、手を繋いで帰宅する私たち。 本当に、たまたま。 偶然。 小さな手を握って今日あった事を聞いて、晩御飯の話をして明日の話をする。 ジャックさんが旅行に出たと聞いて、チェルはつまらなそうに鼻を鳴らして、私の手をぎゅっと握った。 「ジャック、おみやげもってかえってくるかな?」 現金な発言に笑ってしまったけど、チェルも楽しそうだから問題はないみたいだ。 「おかし持って早くかえってくるといいねぇ」 頑張れジャックさん。 サンタクロースよろしく大きな袋を背負っている姿を想像したら、なかなか様になっているような……。 ネコの国にクリスマスってないんだろうか。 プレゼントを枕元に置いたら絶対喜ぶ。 御主人様は嫌がるだろうか。 バレンタインと七夕は反応していたから、案外いけるかもしれない。 御主人様はヘビの国だし、私はこっちの事をあまり知らないから、行事とかに疎くなってしまうけど、こういうイベントは色々やってあげたい。 ジャックさんが居れば色々訊けるのに。 今夜出発すると言い出して荷造りを始めてしまったから、何も出来なかった。 こっちの人は気が早いのか、ジャックさんはそんなに旅行に行きたかったんだろうか。 ジャックさんが帰ってきたら、相談してみようか。 色々考えてニヤニヤしていると、チェルが丸い瞳をきょとんとさせてみていた。 「キヨカ、楽しそう」 バレてた。 頭をぐしゃぐしゃさせると、小さな顔が緩む。かわいい。 嬉しくて撫でていると、咳が止まらなくなってきた。 顔をそむけ咳き込む私を心配そうな顔で覗き込むので、笑顔を作って誤魔化す。 「だいじょうぶ?」 「だいじょーぶ」 見上げる顔の柔らかい頬をぐにぐにして笑わせる。 「あ、そうだ。あのねー明日お休みだからって、ふーちゃんがね……」 チェルがお友達の家にお泊りという事になってしまって、結構寂しい。 台所で色々していても、賑やかな声が聞こえないと作り甲斐がないし……。 サフはアルバイトだから、多分帰りは相当遅い。 勤務時間はそろそろ終わりのはずだけど、ニキさんとデートしたりするから結局帰りは遅くなる。 ここら辺は歓楽街から少し外れているので、事件に巻き込まれるっていう心配は少ないけど……。 デート……。 二人が成長するにつれて、どんどんそういう事が増えるんだろうなと思うと、気落ちしてきた。 私、どんどん要らなくなる。 二人が成長するのは、とってもいい事なのに、そういう事を考える自分が嫌だ。 色々考えていたら咳が出てきたので、念の為に診療所から持って帰ってきたマスクをつけた。 ヒトの風邪が人に伝染するかどうかは、ジャックさんも判らないそうだけど、万が一という事もある。 御主人様に伝染したら大変だ。 のろのろと晩御飯の仕度をしていると、少し熱も出てきたらしく頭がぼんやりしてきた。 誰も居ないと緊張感が無くてよくないのかもしれない。 何か、仕事を作ろう。 そうだ、えーと…… *** 時にはイヌよりも厚い毛を持つネコの中には、暑い昼より涼しい夜を選択し夜間業務に励む人々がいる。 需要には、供給を。 お客様なら神様です。 漆黒の夜の帳に覆われる時分、最小限の明かりがついた店内に毛並みのいいイヌの少年が床掃除に励んでいた。 「サフー 暇、なんか芸しろよ。芸」 カウンターに、頬をつけ億劫そうに言う彼女の言葉にモップを動かす手が止まる。 「店長はじめ出勤予定者が風邪で寝込んだから人手が足りなくて、休みなのに出勤になったの誰」 振り返りもせず尋ねると、億劫そうな欠伸の後にのろのろとした返答。 「サフー」 「ニキが事務やる分、宅配をいつもの倍以上やってるの誰」 鼻を鳴らすと、あまりの人員の少なさに常連から哀れみの眼差しと共に差し入れられた見舞いの菓子の匂いがした。 「サフわーん」 カリカリと、お菓子を齧る音。 それ、僕の分なんだけど。 「新月で暗いから、夜番一人じゃヤだって、職権乱用して引き止めたの誰」 カウンター越しに鼻を突き合わせ金色の瞳をじっと見据えると、白い尻尾がパタパタと床を叩いた。 「……にゃー …ん」 甘えた掠れ声に負けて耳の後ろを掻くと、小さなゴロゴロが聴こえる。 掃除を諦めカウンターの後ろに回ると、待ってましたとばかりにしなやかな体がタックルしてきた。 「今日、ちょー寒いじゃん?毛皮毛皮」 喉を鳴らし、顎の下に顔をこすり付けられ押し負けて床に座り込むとそのまま上に乗っかられた。 「一応、まだ仕事中なんだけど」 「こんな晩に来るのは、強盗か恋人いないヤツだけじゃねー」 にゃふっと笑って、シャツをめくりあげ尖った爪を毛皮に突き立てる。 「ちょっと背伸びたな」 軽くキスしてから背中のホックを外し、チャックを下ろす。 あっという間に褐色の肌に下着が眩しい姿になった。 「まだ晩御飯食べてないね」 「後で屋台行こうぜ」 寒くなってきたとはいえ、昼はまだそれなりに暑い。 鎖骨のくぼみを舐めると夏の名残の味がした。 「屋台って?」 下着の隙間に指を入れて柔らかい色合いの部分を丹念に愛撫しながら尋ねる。 向こうもその気になってるのがわかって、早くも下半身に血が溜まりつつあるのが判った。 「ラーメンのっばっ ちょ んっ」 もどかしげに開いた唇は、さっき食べた砂糖菓子の味がした。 小さな舌と絡ませ零れそうな唾液も一緒に嘗める。 こんなときのニキの表情は、凄くえろい。 「ね、いい?」 尻尾の付け根を強く握ると甘い悲鳴が上がったので、フリルのついた下着をずり下げてそっと角度をあわせた。 白くて薄い毛に覆われたそこは薄く濡れ、雌の匂いを立ち上らせている。 同じくらい濡れた金色の瞳がとがめるようにきゅっとすぼまった。 「ナカダシ禁止だかんな」 返事をせずに濡れた部分に中指を慎重に差し込み熱い部分をゆっくりとかき回すと濡れた水音と一緒に締まるのが判った。 指を増やし中をほぐす傍ら、尻尾の付け根を強弱をつけ握ると膝ががくがくと震えだす。 ホックを外して茶褐色の先端を噛むと甲高い悲鳴が上がった。 笑うと悔しそうな表情で睨まれる。 「早漏の癖に」 「その早漏におねだりしてるくせに」 今度こそ怒りの表情になり、肩を押された。素直に床に転がるとそのまま乗られた。 赤黒く起立したものを太腿で挟まれ、指先でゆっくりと擦り上げられると重さとじれったさで荒い息が洩れた。 ネコならではの柔軟な体を駆使され、先のほうだけザラザラとした舌で舐められて思わず目を閉じる。 あえて焦らす仕草が小憎たらしいので、お返しに柔らかな双丘を撫でたり、谷間を指先で弄ると抗議するように尻尾が左右に揺れた。 「ごめん、でそう」 「バカ我慢しー――」 同時に来客を知らせるベル音が店内に響き渡った。 多分、今日も全力で土下座決定。 *** 帰宅するとキヨカがマスクをつけていた。 差し出された白くて細い指に握られたチラシを受け取り、いつものように鞄を差し出す。 いつものように地味な装いにエプロンを着け、編み上げた髪にマスクが不釣合いで思わず凝視していたが、チラシを指差され仕方なく目を落とした。 赤と白の二色刷りのチラシには「大特価 魔洸TV大画面云々」裏には、懸命に書いたらしい文字。 「かぜのため、こえがでません。ごじょうしゃください?」 薄く隈を作った目が点になり、チラシをじっと見つめた。 「……ごようしゃ?」 聞くに堪えない、痛々しく掠れた声に思わず顔を顰める。 「もう喋るな。黙ってろ。あと、チビ共はどうした」 用意周到に複数の紙が取り出され、溜息が洩れた。 こんなものを準備するくらいなら、もっと自分に気を使えと言いたい。 子供ではないので、そこまで口出ししようとは思わないが……心配になる。 本当に風邪だろうか。そういえば、昨日から少し咳き込んでいたか? 『チェルはおとまりです』 「泊り…?どこにだ」 学校における交友関係、泊まりに到る経緯と近所の悪餓鬼の名前が複数書かれた補足チラシが追加された。 しかし、なぜそんなに矢印が入り組んでいるんだ。 みればイヌらしい名前や、ネコではありえないであろう名前もちらほらと出ている。どうやら子供にとって種族の壁は薄いらしい。 泊まり先は知った名前だったので安心した。 いざとなれば、即座に駆けつけられる距離だ。 最後に差し出されたチラシには『はつおとまりなので、ιんぱいです』 「そうだな」 同意するとこっくりと頷かれ、全力で抱き締めたい衝動に駆られたが、堪えた。 代わりに額に掛かる前髪を掻きあげ、温度を計る。 チェルと同じくらいの温度だから、平熱だろう、多分。 ついでに閉じられた目蓋とそれを縁取る睫を軽く撫でてから手をどかすと薄く潤んだ瞳で上目遣いされた。 なんとなく頭をそのまま撫でる。おうとつのない丸い頭はヘビと同じように撫でやすい。 「ジャックのバカはどうした。アイツなら咳止めぐらい持ってるだろう」 頷くと同時に咳き込む細い体を見て、ようやく玄関に居たままでは体を冷やす事に思い当たる。 何でさっさと言わないんだ。 『ジャックさんから』 糊付けされた封筒から出てきた薄紙には見慣れた文字で簡潔にこうあった。 『ちょっと千人斬りの旅にでます』 細切れにしてゴミ箱へ叩き込んでいると、夕食の準備をしていたキヨカが更にチラシに書き記し差し出してくる。 『おぼれてきたなつやすみらしいです』 黒いウサギが海に沈む風景を想像したら、少し気が晴れた。 うるさいのが三人も居ないと、必然的に食事中も静かになる。 普段ならあれこれと料理の説明をしてくれる彼女が口を利けないとなれば、食べる事に専念せざるをえない。 マスクを取った顔は、予想よりも血色が良く、本当に喉が腫れているだけらしい。 そういう訳で、当然食事も早く終わる。 最近はいかに仕事を家に持ち帰らないかに心血を注いでいるので、食事も終わればすることも無く、余裕があるので普段はしないような事にも手が回る。 居間に山積みになっていた乾いた洗濯物をテレビを聞きながら畳んでいると、皿を洗い終わったキヨカが入り口の所で立ち尽くしていた。 呼び寄せると床に座り、近くの洗濯物を畳ながらちらちらとこちらを窺ってくる。 三角の布を手に取った瞬間、えらい勢いで奪い返された。 目を見開き、マスク越しに荒い呼吸音。 しばらく考えて、先ほどのものがなんだったのか、思い当たった。 大学ともなれば年頃の男女が大勢いる。 どいつもこいつも好奇心が強く、享楽的なネコの国。 人気の無い物陰では喘ぎ声が聞こえるし、油断してると避妊具を踏んだり、学生がマタタビを実験室で爆発させて教員含めて乱交状態になり、収拾に終われたこともある。 服装だって、夏場ともなればきわどいを通り越して全裸同然だっている。 つまり何が言いたいかといえば 恥 じ ら い 最 高 ! 一瞬、アイツの気配を感じ、悪寒が走った。 これ以上のことを考えるのはやめにして、賑やかなテレビに目を移す。 やけに暗い画面に派手なネオン、妙な効果音。 『特攻東部警察!きょうはすぺしゃるです』 チラシが切れたのか、字の練習をしているノートをちぎって渡された。 真剣にこちらを見てくる様子から鑑みるに、どうやらこれが見たいらしい。 「好きにしろ」 何が面白いのかテレビを真剣に観る彼女の顔はマスクで覆われ、表情もわからないのでうかがい知る事はできない。 ソファーに寝そべりぼんやりと横顔を眺めていると、不意に顔がこっちを向いた。 しばらく見詰め合ったあと、ギクシャクとした動きで台所から茶菓子と酒を運んでくる。 気が利く。 テレビの騒々しい音だけが部屋を占めている。 僅かばかり開いた窓から流れ込む夜気は、砂漠に比べれば温いのに部屋の中が少し寒い気がする。 床に正座してテレビを凝視している細い姿も両脇を占める毛玉が居ないと違和感がある。 「おい」 振り向いたのでソファーに腰掛けさせると、落ち着かないのか体を動かしていた。 枕は柔らかくて心地いいというのに、動かれると頭が揺れて落ち着かない。 「動くな」 大人しくなったので、足に触ってみる。ちょっと、肉がついたか? いや、まだまだだな。 今日、何か買って来れば良かったか。 女の並ぶ店で買うのは嫌なんだが……でも買うと喜ぶからな。 まだまだ細い体を見ると、この前の映画を思い出して憂鬱になる。 ナニが待遇改善の為、だ。 アレを観た連中の感想はな「同じ事を試してみたい」だぞ。 女優のファンとかいう連中は途中発情して、最後は号泣していたが。 テレビの中では、妙な服を着たネコ女が繁華街を走っている映像が流れていた。 落ち着いた男の声で『御禁制のナインイレブンの闇取引の情報を掴み、夜の街を駆ける継承権第十何位の姫君』なる説明。 王家の暇潰しの一環を取材するとは、つくづくこの国は平和だ。 その背後には洒落た服装のマダラと、スーツのネコ男達、画面が切り替わり、映ったのは不思議な内装のクラブだった。 暗い店内に様々な色の照明が灯され、薄着の女が盆を持って愛想と媚を売っている。 『このクラブは、ヒトの世界のクラブを模したものだけあって、客は富裕層ばかりであり、同時にナインイレブンの顧客でもあるのだ』 偏見だろう、それは。 暗い画面の中、さり気無くネコ女を守る位置に立つ少年は、良く見ればマダラではなかった。 髪があるからヘビではなく、尻尾が無いからそれ以外でもない。 首には細い……首輪ではないものが巻かれている。 キヨカはテレビを食う入るように見つめ、身動きしない。 「あっちのクラブというのは、本当にああいうものなのか?」 本当は、そんな事に興味は無い。 ややあって差し出されたノートの切れ端には、相変わらずの文字が並んでいる。 斜めの角度だと、余計読みにくい。 『みかいねんはにゅうてんきんく。らいかとかどらむはああいうらんじ』 誤字が多い。そんなに気になるのか。 名残惜しいのを我慢して頭を上げ、顔を寄せた。 無粋なものをどうにかしたい。 多少遠慮しつつマスクを引っ張るが、キヨカはテレビから目を離そうとしない。 画面の中で少年とスーツが黒服を追い散らし、ネコ女は犯人らしい男を踏みつけ、朗々たる声で罪状とやらを読み上げている。 下らない道化芝居だ。どこが面白いんだ。 「キヨカ」 こっちを向け。 「あの子供はオマエより年下なのか?」 「中学……年下です。多分」 掠れた声の返事。 字を書くのも惜しいらしく、即座に画面に戻った。 退屈凌ぎに周囲を見ればノートが目に入る。 引き寄せ、中を見ればノートの大半が細かな字で黒く埋まっていた。 見慣れた文字もあれば、見当もつかないような文字もある。 「おい、これはなんと読むんだ?」 「えーっと、かんぴょぉぉおぁあっわわわわわきゃあああ!!!」 取ろうとするので届かない位置で掲げると、必死になって手を伸ばしてきた。 「ななっなんで持ってっ!」 よほど見られたくない事でも書いてあるのか、床を跳ねて取ろうとしてくる。 普段の落ち着いた動作の欠片もなく、バタバタと暴れる姿が新鮮だ。 手で体を押さえ、ギリギリの所でノートを振って見せるとジタバタと悶えていて面白い。 「少しぐらい、構わないだろう」 からかいを込めてそうそう言うと、悲鳴ともうめきとも取れる小さな叫びをもらし、子供のように暴れる姿が珍しく、新鮮で…… 華奢な身体が水から揚げられた魚のように跳ねる。 だがこの暖かくて柔らかいものを離すことなど絶対に無理なので、そのまま。 「だッ…ジャックさんみたいな事しないで下さいッ!」 やはりアイツは一度、キッチリと絞め折る必要がありそうだ。 *** 御主人様がダメっぽい。 多分、みんな留守だから寂しいんだろうなと思うけど、膝枕とか、どうでしょうか。 いいけど。 御主人様に膝枕とか、なんか、アレだ。アレみたいで心臓によくない。 いいけど。 テレビの特番でネコのお巡りさん達が麻薬組織とドンパチしているのを観ていたら、やけに御主人様が絡んできた。 いいけど。 うっかり体を寄せたくなってしまうので、あえて目をテレビにやった。もふもふなお巡りさんは見てて楽しい。 制服じゃなくてスーツだから、刑事さんなのかもしれない。 テレビだから良くみえてるだけかもしれないけど、やっぱりああいうお仕事の人はカッコイイ。 お父さんもああいう風に頑張っていたんだろうかと思うと、自然と姿勢を正しくしてしまう。 そんなワケで、真剣に観ていたら、御主人様が私のノートを手に取っていた。 ノートは基本的には字の練習用だけど、まあちょっとだけ色々書いたりはしてる。 日本語とか、忘れないように、日記というほどまめに書いているわけではないけど、見られてもいいものでもないわけで。 それを御主人様が……普段無表情の癖に、心なしか凄く楽しそうな笑顔だ。 しかもかなり意地悪い。 尻尾でノートを持ってからかってくる。 ありえん。 御主人様の中の人がジャックさんに乗っ取られたのかもしれない。 途中で力尽きて諦めたら、ちょっとつまらなそうな顔になって背中に腕を回してきた。 長くてたくましい腕は、服越しでもひんやりしているので、微熱のある状態だと非常に気持ちいい。 御主人様の背中は、固いけど広くて安心する。ゆっくりと、心臓が脈打つ音が聞こえる。 ばさりと、髪の毛が落ちた。 指が髪と首筋を触っているのが判って、ちょっと背筋がぞくぞく……気のせい、気のせい。 そういえば、背中半分くらいまであったのを、肩の下ぐらいまで切ってもらって一週間ほど経ちますが、御主人様からは何の反応もありません。 ……まぁ、御主人様には関係ない事なんでしょうけど……。 唇噛まれていますが、御主人様はイヌやネコと違い牙らしい凶悪な歯ではないので大変いいと思います。役得ですよね。超役得。 しかも毒とか、ちょっと気を使ってくれてるみたいで。 御主人様超優しい。 あと疑問なんですが、歯って味するんでしょうか。 するはずありませんよねせいぜい歯磨き粉の味ですよね、いやダメですだめです。困ります。 ファーストキスはレモン味とかアレ嘘ですからだから別に何回やったって生臭いだけですよキモイだけですよしかも私なんかだってそのだって。 「……ひゃ ぅ 」 いけません、これ以上はいけません。 頭が何も考えられなくなりそうなのを何とかフル稼働させている間にも、御主人様の手つきが、その。 まずいですやばいですええええっとほらあのそのあの…えー……と…… 「あの、でんき…」 ブラウスの四番目のボタンを外す手が止まった。 視界が開ける。 本来なら膝がある場所には柔らかい色合いの尻尾があって、ざらりとした感触と冷たい温度。 こちらを見る訝しげな表情は人のようで…………人じゃない。 あ、そうか。 こっちは、魔洸なんだ。 電気、ないんだ。 だって、ここは…… 私、人じゃ、なかったんだっけ。 すっと、頭が冷えてきた。 ここは、寒い所だった。 私、人じゃないんだっけ。 「あの、できたら照明消して頂けると光栄なんですが、どうします?しゃぶってから消しますか?消してからしゃぶります?」 「なんだその二択は!」 別に舐めるんでも噛むのでも構いませんけど。縄はヤだな。跡付くし、痛いし。 ん?もしかして縛ったり踏んだりするのは私の方なのかな? 性癖は外見からじゃわからないし……。 そんな事を考えつつ、寒気を感じてゲホゲホしていたら、御主人様はこちらを睨み、目線を下げ低く喉の奥で呻いてからボタンを直し始めました。 「あれ、やめるんですか?」 「ふざけてるのか」 まぁ、うっかり雰囲気に流されてこんなのに欲情しかけて恥ずかしいとかいうのは、判る気がします。 いくら、男性は出せればいい的なアレでも、ねぇ? 中古はやっぱり、キズあるし、気持ち悪いでしょうしね。 「前もいいましたが、病気は持ってないから安心ですよ?後腐れもないからお手軽だし」 幸い今日なら何が起きても情操教育に悪影響を及ぼす恐れがないわけだし。 む、そう考えるとこの機会は貴重かもしれない。 もうちょっとアピールしておきましょうか。 「あとで掃除しますから、噛んでも撲っても切っても絞めても心配無用ですよ」 スリッパで叩かれた。 「お前、実は俺の事が嫌いだろう」 「まさか。滅相もない」 「ならいい」 いいんですか。そうですか。 身を起こそうとした御主人様の服を引っ張ってちょっと待ってもらい、目の前でスパッツを脱いだ時の御主人様の反応は面白かった。 目が真ん丸で、誰かに似てると思ったら驚いた時のチェルに似てる。 その後、昔取ったなんとかで服を着たまま下着を取ると、見るからに挙動不審になった。 日本の学生なら必須技術なわけですが。 中学校に更衣室なかったし。 御主人様はムード重視…というか、普通はこういう事しないのだろうか。 普通って、どういう風にするんだろう。 客にやるみたいに、一枚ずつ脱いだ方が良かったのかな。 ブラウスの下から触れるように指先を握って肌を沿わすと、そのあとは積極的でした。 ……冷たい。 手つきが柔らかいのが、結構意外。 ご満足いただけるほど巨乳じゃないので、かなり不満はあると思ったのに何も言わずにやわやわと触ってくる。 手付きに違和感を感じるのは、御主人様の手がヒトの手に似てるからだろうと、思う。多分。 私、手フェチだし。 毛とか、ホントいらない。 しかし、この御主人様どんだけキス好きなんでしょうか。 二人分の体重でソファーが悲鳴を上げています。 ついでに私の背骨も悲鳴を上げそうです。御主人様重いし。 天井を見ていたら、御主人様も顔を上げ尻尾で照明を消した。 便利だ。 「いいなぁ…しっぽ」 真っ暗な部屋の中で思わず呟くと微かに笑う気配。 軽く腰を浮かすと、尾てい骨を探りそれから更に下へ降りた。 「ここ、どうした」 触って判るグロ部分。 明かり、消してもらえてよかった。 これ見て、急性インポになったら即転売だ。 「昔、ひっかくのが大好きな人が居まして」 普通、商品に傷をつける客は遠慮してもらうはずなんだけど。 ああいう施設の監視する、保健所だか衛生局かなんかのエライ人だったかなんかで、色々目を瞑ってもらう代わりに。 キズモノだけど、希少で高価だったから、ちょうどよかったんだろう。 質感が違うのがわかるのか、執拗に撫でてくる。 いつ爪を立てられるのかわからなくて、緊張しているとかぷりと耳を噛まれた。 喉から小さく声が洩れる。我ながら、今のは悲鳴っぽかった。気をつけよう。 「もう話さなくていい」 言われたとおり、私は黙った。 全体を触って、時々舐められたり、軽く歯を立てられ、尻尾でさわさわされる。 だんだんと場所が限定され、局所のあたりを弄られた。 やけに熱心な動きにヘビの人とやっぱり違うのだろうかという、疑問がよぎる。 ……何か、やっぱり変だとか、思われてるのかな……。 女の人でもなく、毛のない大きな手は凄く違和感があって落ち着かない。 なんとなく意図がわかったので、体を少し押して体勢を変えてもらう。 でないと、動けないし。 踏まないように気をつけながら御主人様の鱗を舐めたり、背中の硬い鱗を丁寧に触る。 あと、たぶん、ここらへん。 臍の下から、真ん中に沿って舌を沿わす。 皮膚から、柔らかい鱗に代わって、少し下。 襞のようになっている所を念入りに舐めると出てきた。 どれくらいの力を込めるべきか。 体内収納型という事は、それなりに繊細なんだろうと思い、丁寧に扱うために姿勢を代えそっと手に……。 なんか、多かった。 うっすらと、背中に汗が伝う。 落ち着いて、冷静に冷静に冷静に冷静に。 暗いので当然触感のみだけど、触った感じは普通。 味…も許容範囲。御主人様、お風呂大好きですもんね。清潔な人は大好きです。 毛とか、ホントいらないし。 オーケー大丈夫。 普通が一番です。 口に含んだものは、それなりに反応がいい。……若いなぁ。 先端を探って、すぐに苦しくなってきたので口から離して横から舐める作業に移る。 頑張っている最中、御主人様が体を撫でてくれた。 御主人様は、淫乱だとかヒトの癖にとかまな板だとか人形女だとかボッタくりとか、言わないのでとてもいい。 なんか言わないと怒るわけでもないし。 それにしても、寒い。 まぁ、どうせ動いているうちに暑くなるだろうけど。 久しぶりなので、上手くできるか不安だったものの、御主人様が協力的だったのでスムーズに入った。 黙れって言われたけど、謝るべき、ですね。 「すみません、緩くて」 片方入れててもう片方は素股状態って、どうなんだろうか。 ムリしてでも入れてみるべきだったかな。 「……小さいといいたいのか」 腰を押す手が止まった。 「ああー、そういう発想もありますね。いえ、とんでもない」 「なら力抜け」 肩を掴まれ、ゆっくり前後しながら更に奥へ。 予想した痛みが来なかったのでちょっと拍子抜けした。 いや、小さいとか細いとかそういうわけじゃないんだけど。 違和感バリバリだし。むきゅむきゅしてるし。 出ている方を何とか手で触りつつ、ゆっくりと動かそうとすると御主人様が体を抱きかかえた。 御主人様、息荒いです。尻尾巻きすぎです。ごそごそしすぎ。毛じゃないからいいけど。 私も御主人様の背中越しに足を絡ませる。相変わらず御主人様の体温は低い。 外に出ている方も腹部の辺りでぬるぬると自己主張してるし。 こっちだけ長いという事もないだろうから……これぐらい入ってるのか……。 これって、かなり痛いはずなんだけど、大丈夫なんだろうか、私の体。 「……でそうだ」 「どうぞ」 もしかしてちゃんとご飯食べてるから何か、変ったのかな。 運動も、大してしてるわけじゃないけど、外に出歩ける分増えてる。 そんな事で、変るもんなんだろうか。 だったら私の今までは、なんだったんだろう。 *** シーツがさらさらしていて気持ちいい。 ひんやりした畳の上にねっころがって、裸足で畳の感触を感じるのが好きだった。 あの頃は父さんも母さんもいて、風邪を引くからやめなさいと叱られて 目を開けば、しらない天井。 胸を突く恐怖に体が竦んだ。 ここ、どこ 額と頬を撫でた手が冷たい。頭がぐらぐらする。 「大丈夫か」 ぶっきらぼうに掛けられた言葉に頷き、周囲を見回す。 掃除以外では、めったに入らない御主人様の寝室だ。 最初の頃、夜伽しにいったら速攻追い出されて……なんであの時はダメで今はいいんだろうか。 御主人様は何も身に着けていない。御主人様裸族ですかそうですか。 私の方はなんか着ている。 アレだ、筒っぽい形の寝巻きでダブダブしてる。砂漠では一般的なものだって聞いて、この前御主人様用に買ってきた。 自分と御主人様を交互に見て、しばらく考えたものの何も思い浮かばない。 着せてくれたという選択肢しかないわけだけど。 そりゃそうか、私、沢山傷があって、気持ち悪いし、そりゃ隠しますよね。 けど、それなら終わった後ほっとけば良かったのに、御主人様の寝室に居るってどういうことだろうか。 こっちで続きしてたのかな、 ていうか、私、最後まで頑張れたんだろうか。 ……覚えてない。不満、残らなかっただろうか。ちゃんと発散してくれてるといいんだけど。 取り合えず起き上がったものの、目のやり場に困って俯くと頭を撫でられる。 「痛いところないか」 感触とかなんか色々のこってますけど、今までのように痛くはないというのが凄い。御主人様、凄い。 手が離されると、どこかがへこんでいるような気分になった。 「熱がまだあるな」 喋ろうとしたけど、うまく声にならなそうなので黙って頷く。 まだ外は暗い夜明け前。 なのに暗い室内でもわかるくらい御主人様が美形過ぎて、目のやり場に困る。 モテるんだろうなぁ……。 もてなきゃいいのに。 フラれちゃえばいいのに。 それで 「具合が悪いなら、ちゃんと言え。熱あるなんて、聞いてないぞ」 口調のワリに怒ってないらしく、再度撫でられた。 冷たい手が気持ちいい。 「朝までには、直しますから」 どうにか絞り出した声は、我ながらひどい。 「黙って寝て、さっさと治せ」 頭から毛布を被せられ、ベットに押し付けられた。 ちゃんと、言わないと。 朝までには直すから、これからもずっとたくさん働くから ――― だ か ら … … 津波のような眠気が襲ってくる寸前、冷たい指に触れたのだけ覚えてる。
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/536.html
太陽と月と星がある 第十二話 滑らかな肌を蹂躙する黒い指。 鮮やかな紫痣を撫上げると、それだけで掠れた吐息が漏れました。 鼻にかかった鳴声、伏せた睫の下から覗く潤んだ瞳。 何かいいたげに開かれた濡れた唇に指を這わせ 「そおい」 なかなかいい音を立ててジャックさんの頭に衝突するファイルボード。 以前使っていたのが破損してしまったので必要経費として勝手に購入した金属製のコレ、なかなか役に立っています。 「オレ、そのうちハゲるんじゃないかな…」 「自重すればまだ間に合うと思いますよ。おにいさま。真面目に診察してください」 グリグリとの角を捻り込むとようやくジャックさんが患者さんへのセクハラな手つきを止めました。 最近女性の患者さんが訪れるのです。驚いたことに。 腕を期待されるのは大変喜ばしい事ですが、訴訟を起こされないために今日も私は頑張らねばならないのです。 大変です。 「ちゃんとした診療だよ!ね、リっちゃん!!」 「初耳」 堅い口調のハスキーボイス。 リっちゃんと呼ばれた患者さんは診察台から身を起こすと、私の方へ顔を寄せました。 ツナギをはだけたタンクトップ姿の二十代前半くらいにみえる長身のネコ美女です。 琥珀色の瞳に明るい茶髪に所々焦げ茶と白斑点のメッシュ、妙に尖った耳、耳の先端の黒くて長い毛がお洒落。 ズボンから覗く短めの尻尾が可愛らしいです。 「ナースがいなきゃ来なかった」 首を傾げる私。 一瞬ジャックさんが笑い、患者さんの手を取り軽く口付けをしました。 「リっちゃん拳闘やってるからメンテ大事なのに、なかなか来てくれなくてさ~☆」 「お前がそうやって余計な事をするから」 舞踊のような上品な動きのまま、白衣に重い一撃。 面白い動きをしながらジャックさんが床に転がりました。 芋虫が悶えていますね。 「こうすると後で困るから来なかった」 困惑した表情を浮かべていますが、ほっそりとした体型に似合わないがっちりとした握られた拳にはごっつい指輪が輝いています。 見返すと微かに唇を笑みの形に歪め、切れ長の瞳は狡猾な肉食獣そのもの。 ここら辺の出身ではないのか、僅かに口調に訛りがあります。 「今度はもっと早くコイツを止めて」 床で転げるジャックさんを軽く示し、腕の大きな痣を撫でる患者さん。 「判りました。次からはもっとキツめにします。えーと…」 「リーィエ、正確に言うとリーィアェパパロトル 夜飛ぶ蝶の名を貰った」 夜飛ぶ……蛾? いや、きっといるに違いありません。夜行性の蝶が……。 「キヨカです。頑張ります」 リーィエさんは抜群のバランスでもって診察台から降りると、ジャックさんの背中に金属音のするブーツの踵をぐりぐりと捻り込みました。 「コイツにはしょっちゅうヒドイ目に合わされているから、あまり来たくなかったんだけど。君が見張ってくれるならまた来る」 激しく頷く私。 出来ればまた来て欲しい患者さんです。 なにしろ美人だし、声も素敵です。 それに、なんかちょっと先輩に似てる…オトコマエな感じとか。 「いつでもお待ちしています!ほら、早く寝てないで起きて!さっさと診療してください!」 白衣を叩くとひどく恨めしそうな眼で見られました。 「ジャック・キサラギです!キヨちゃんの兄です!実家は帽子屋を営んでいます!アトシャーマ出身の28歳です!好みのタイプはりっちゃん!」 今更自己紹介しなくても…帽子屋なんだ…。 「キヨカはコレと違っていい匂いがするね」 必死で自己主張するジャックさんをガン無視するリーィエさん。 ジャックさん俯いて床にのの字書き始めました。 「そんな事ありません。リーィエさんだって、凄い綺麗だし格好いいし」 美人に顔を近づけられると照れます。 頭撫でられました。 なんだか顔が熱いです。 「今度、試合観に来て。勝つから」 柔らかそうな口元から覗く白い八重歯がきらりと光ります。 「頑張ってくださいね!」 「来たら勝つ。来なくても勝つ。約束」 堅い指輪に守られたしなやかな指と指きりをして顔を合わすと自然に笑みがこぼれました。 「約束」 軽くハグされたのでお返するとリーィエさんが短い尻尾をパタパタと振りました。 「え、ごめん、なんでそこでそうなるの?百合なの?この前はりっちゃんあんなによろげっ」 長い足から炸裂する一撃。 長い耳が宙を舞って床へ激突しました。 キックもいけるんですね。 かっこいい……。 *** もうオレのらいふぽいんとはゼロよ!とジャックさんが打ち止め宣言をしたので、今日は早めの帰宅です。 医者としてそれでいいのでしょうか……。 この街には御主人様が勤めている学校をはじめ、複数の教育施設があるとかで若い人の姿が目立ちます。 普段はまったりしている商店街も、この時間は若い人で溢れとても賑やかです。 ネコの国ですから、イヌやそれ以外の種族の姿も有りますがやっぱりネコが大半を占めています。 ウサ耳をつけている私はなんとなく目立たないように隅の方へ。 私の背が低いわけではないのですが、こちらの男性は体格が良すぎて相対的に小さく見えるという…… 平均だもん、こっちの平均値がおかしいだけだもん…。 「あのーすみません、そこのウサギさん、ちょっと道教えて欲しいんスけど~」 振り返るとネコ男性…服装と声から察するに青年ぐらいでしょうか、黒、赤、黄色の短毛三人組です。 耳に飾りを付けたり引っ掛けると痛そうな装飾品をつけていたり、多分流行なんだろうなぁ…。 リーィエさんも指輪いっぱいつけてたし。 彼等が挙げたのは、裏道にある宿泊施設の名前でした。 通り過ぎたことならあります。観光客なのでしょうか。 「それなら―――」 通行の邪魔にならないように道の端に寄って道順を説明したものの、三人ともあまり真面目に聞いていません。 三人で顔を見合わせてから、黒猫が頬を掻き、顔を寄せてきました。 「ちょっと良くわかんないんでー一緒に行ってもらえないッスか?」 顔が、近くないでしょうか。 「えーっとここの路地を真っ直ぐですから、そしたら看板が……」 「いや、そうじゃなくってさー」 「ウサギって凄いんでしょ?楽しもうよ」 「オレーウサギ初めてなんだよね。優しくしてね~ハハッ」 意味がわかりません。 何故肩を掴みますか。 「ね、頑張るからさ、いいじゃん」 口調は穏やかですが言っていることが意味不明です。理解できません。 三人で囲まれると、視界が遮られ他の人の姿が見えません。 「ごめんなさい、今急いでますから」 隙間をすり抜けようとしたら肘をつかまれました。 「そんなつれない事いうなよ。本当は好きくせにさ、メスウサギちゃん」 種族の違いはあれど、見覚えのある下卑た表情。 野卑な笑い。 「もーそういう事なら、もっとちゃんと言ってもらわないと判りません」 私は笑顔を作り、肩に回された手をそっと外し、肘と掴む手を軽くつついて笑みを作りました。 汗ばんで獣臭い毛深い指を軽く握ると、三匹は顔を見合わせ相好を崩しました。 「そっかーオレ達アタマワルイからさー」 「でも四人でなら楽しめると思うぜ」 口が生臭いです。毛が臭いです。 もっと毛深いサフですら十億倍清潔なニオイだというのに。 「そうですね、三人ともとっても晴天とは正反対の天気のときに置いたままの布を再利用して作った清掃用具の香りがするので遠慮します」 何を言われたのか脳味噌に染み込むまで間のあるらしい三匹の間を擦り抜け、人込みに紛れ別の通りへ出てから猛ダッシュ。 念の為にいつもとは違う道順を使い、脇腹が痛くなったので速度を落として。 ショウウィンドーに映った自分はなかなかダメな顔でした。 初ナンパがアレって、ひどいと思うんですけど。 ……ウサギって、実は大変なんですね。 *** 窓の無い部屋。 仄かに漂うアルコールと官能を引き立てる媚薬と精液と血のニオイ。 荒い息と肉を叩く音に混じって僅かに漏れる掠れた啼き声。 ル・ガルが誇るエリート階級、一滴の混ざりもない由緒正しき軍犬血統。 血族は軍や官僚を占め、一般では手の出ないような高級品を当然のように召し上がる。 今夜は落ちたばかりの十代前半という事が売りのメスヒト。 近隣にもメスヒトを所有する館は数点あるが、最近のお気に入りはコレ。 残念ながらオスヒトは個人所有が主体のため未経験。 きちんとした教育を受け、容姿の整った従順な「養殖」ではなく、反抗を叩き折り、力づくで調教した「オチモノ」であるという事が重要視される希少品。 日焼けしていない青白い肌に「せーらー服」「るーずそっくす」と、理想の姿に欲求を抑えきれずに扉を閉める手も慌しくなった。 細い首に不釣合いな太い首輪についた鎖を引くと、一瞬抗う仕草を見せたもののすぐに目を伏せる。 手始めに紅の無い薄い色の唇をねぶり、口を開かせてからおもむろに味わうと、ぎこちない舌使いでこちらに合わせてきた。 離してやると半開きの口からたらたらと涎を垂らし、潤んだ瞳で哀願するように見つめてくる。 弱いモノはひたすら媚びるしかない、ヒトの存在がそれを体現している。 弱いオスヒトよりも更に弱いメスヒト。 この格子で覆われた部屋の絶対強者はこの自分。 セミロングの黒髪を掻き揚げると現れる異様な丸耳を舐めうなじに移り、 肉の薄い肩甲骨を舐めるには服が邪魔だと気がついたのでしぶしぶながら服に手を掛けると メスがそれを制して、すぐさま身に着けていた衣服を脱ぎ去り部屋の隅へ後ろ手で放り投げる。 前回は待ち切れずに破り捨てた事を覚えていたらしい。 日焼けしていない白い肌に前付けた痕がまだ生々しく残っている。 嬉しくなって同じ所を噛んでやると小さく声を上げた。 成長途中である事を主張する薄い胸の先端を自慢の舌で舐め上げると下の獲物が体を震わせる。 執拗に腰を使い胎内を抉り奥の方で何度目かの射精を行うと、結合部から僅かに赤と白の混合物が溢れた。 「ああっ御主人様ッキモチいい! だめぇっ もっとっ」 最初の抵抗が一変して快楽に流される弱いヒト。 「こんなによがって、ヒトには羞恥心てものがないんだな」 ずぶずぶぐちゅぐちゅという水音に鎖の音が混ざる。 耳障りなので首輪ごと押さえつけると締りが更に良くなった。 もっと反応が欲しくて薄皮の張りかけた脇腹に爪を立てると体をバタバタと暴れさせる。 うるさいので首輪から手を離して、口を押さえると更に締りが良くなる。 嬉しくなって届く範囲をひたすら噛むと、一層甘い血の香りが部屋に立ち込めた。 快感を堪えながら今度は接合部に程近い柔らかな内股を掻く。 白いシーツに赤い染みが良く映える。 まるで処女のように。 「ああ、残念だな、ウチで飼えたら毎晩こうやって可愛がってやるのに」 目を開くと褐色肌の異国風激烈イケメン。 「っつっつ!!」 思わず逃げて部屋の隅から確認すると御主人様でした。 「お、おかえりなさい」 そうでした。洗濯物畳ながらうっかり寝てしまったのです。不覚。 御主人様はぐちゃぐちゃになった洗濯物と私を交互に見比べて溜息。 「すみません、まだ(美形に)慣れなくて」 急に立ち上がったせいでクラクラする頭を押さえながら謝ると何故か更に重い息をつく御主人様。 失礼な事を言ってしまったんでしょうか。 「服、めくれてるぞ」 確かに、白いシャツがめくれてへそが出ていました。 ついでにグロ指定な傷跡も見えそうな感じです。公害です。 服装を整え、ついでに髪も直してから洗濯物をたたみに戻ると、帰宅して一息入れようとしています、といった風情の御主人様が上から下までじっくりと私を眺めてから何故か手招き。 恐る恐る近づくと尻尾でもって巻きつかれました。顔が近いです。 「うなされてたな」 「実は今日、ジャックさんの所にリーィエさんという美人さんがいらっしゃいまして。今度試合に来て欲しいといわれました。いつか行ってもみても宜しいでしょうか」 「汗かいてるぞ」 無視です。 襟元に顔を押し付けるのはどうかと思います。顔近いです。 イヌじゃないんですから、におい嗅がないで下さい。舐めないで下さい。 呆れてみていると御主人様が不意に顔を上げ口を開きました。 「忘れてた。ただいま」 「おかえりなさい」 そのまま妙な沈黙。 何故か睨まれています。何故か悔しそうです。 至近距離です。顔近すぎです。 「今日の晩御飯は串焼きです。カエルとトリでチャレンジしてみましたのでお楽しぐっ!」 薄い唇に細い舌。 イヌと違うとわかっていても、いまだに違和感を感じます。 てゆーか、……下手。 しかもなんか今回長いし…… いつまでするんだろうとか、そろそろ二人が帰ってくるんじゃないでしょうかとか、 もしやこのままするんですか、こちら的に性教育ってどんなもんなんだろう、まさかコウノトリはないですよね?キャベツ畑とかありますか? 等と思いながら明日の献立を考えているとやっと御主人様が体を離しました。最長記録です。 ぬるつく唇を半開きにし、酸欠で喘いで俯く私とは逆に無言の御主人様。 なんですか、その握り拳。 殴られるのかな、私。 見える所だと、聞かれたときに困るなぁ……。 *** 「あーあ、空からヒト降ってこないかなぁーそしたら大金持ちなのに」 げふっ 狼じみた容貌の小柄な少年が口に含んでいた水が気管に入って噎せた。 それを通りすがりの老婆に微笑ましそうに笑われ、羞恥を感じる。 「なーサフ、やっぱウサギって凄い?頼んだらやらせてくれる?」 じりじと照りつけつける太陽の下、大きな鞄を斜めにかけた少年の周りを、それより幾分か小さめの鞄をかけたネコがふらふらと飛び回っている。 ビルの谷間を通り抜けた風に艶のある毛がそよぎ、熱気に喘いでいた顔が一瞬安堵する。 トラネコ宅急便と書かれた鞄を背負い直し、水筒を逆さにして最後の一滴を舐め取った。 「まだ次があるんで」 無視して走り出そうとしたのに前方に立ち塞がれた。 「ねぇねぇウサギ凄いの?童貞捧げちゃったの?処女奪われたの?ねぇねぇ」 コイツしねばいいのに。 表情に出さないように苦労しながら、少年は真っ白毛並みのネコを睨んで心の中で舌打つ。 鋭い視線を向けられたネコは細身の体に白い毛を靡かせ、金色の瞳を輝かせる。 立場上、向こうの方が年上で先輩なので歯向かい難い。 「先行きますから」 「いいじゃん、隠すなよ オレとオマエの仲だろ?」 うぜぇ。しね、心の中で罵倒し横を通り過ぎるも、ネコはついて来る。 「なんだっけ黒ウサギのー」 「ジャックですか?アイツならいつでもOKですよ」 言い捨てて薄暗いビルの中に入っても話しかけてくる。 「アレじゃなくてさー、悪趣味な妹の方」 階段を二段抜かしで駆け上がり、事務所の扉を叩いて書類を渡し、サインを貰って戻る。 階段の下で待つネコに心の中で舌打ち。 「センパイ、配達は?」 「もう終わってるにゃぁん」 ムカツク。 笑いながら鞄を逆さにして目の前で振られ、苛立ちで肩を震わせる。 「ワンワンは?」 「あと二通」 「ふーん、でさーやったの?ウサギ女とどうなの?スゴイの?」 しね。 心の中で絶叫。 「キヨカはただの同居人ていうか、家族なんで」 家族にも色々種類はあるけど。 「えーでもさーあのぶっさいくなヘビといちゃついてんじゃん。夜も凄いんでしょ?三人でするの? ナニ、オマエはさせてもらえないの?おチビだから相手にされないワケ?にゃぁーサフくんカワイソー」 こけそうになったから、靴紐を直してもう一度住所を確認して方角を確認する少年の横をなおもしつこく纏わりつくネコ。 「えー?ねぇねぇ怒った?怒ったの?機嫌なおしなよー」 不真面目な態度で仕事を邪魔されている様に感じて、更に苛立ちが募る。 コイツはアルバイト先で最初に顔を合わせたときから、何かというと突っかかってくる。 親代わりのヘビにネコは遊び好きだから気をつけろって言われたって、気をつけてもどうなるもんじゃない。 バイト先の先輩じゃ逆らうわけにも行かないし、さっさとやめたいけど業務は嫌いじゃないし、応援してくれた人にも申し訳が立たない。 金が貯まって、体を動かして、頭が要らなくて、健全な仕事。 配達はこの街を支える重要な仕事だ。 自分はこの仕事が好きだと思う。 「ねぇねぇ、こっち向きなよー」 コイツさえいなければ。 心の中で呪文のように唱え、給料日を目算し、配達範囲を変更して貰えないか考えてみる。 無理だ。この狭い路地裏に大柄なイヌや、トリは向かない。 一番小柄だから路地に向いているという不名誉な理由はさておき、持久力があって正確性が必要だから君向きだと言われたときの誇らしさが胸をつく。 勉強は得意じゃない。魔法は向いてない。体格は良くない。 同じ年頃のイヌが近くにいないから、自分はどの程度なのかわからずに時々不安になる。 ネコの国に住むイヌの弊害、家族が異種族であるという弊害。 きっとあのままスラムでゴミを漁ってても行く先なんか見えてたけど。 老人の鞄をひったくろうとしたら通りすがりの醜悪なヘビにど突き倒され、やっぱり凶悪そうなウサギに首を掴れた時は正直ちょっとちびった。 そのままお決まりである筈の所ではなく、大柄な二人に挟まれ、明日ゴミ捨て場に自分が転がっているのを想像して震え上がり、 親はどうしたのか尋ねられ、母親はエライ人の娘だったけど盗賊に攫われ捨てられて、膨らんだ腹では高貴な家にも帰れず、 アンタさえ生まれなければといわれ続け、気がついたら居なくなったと拙い説明をしたら風呂に投げ込まれ、生まれて初めてたらふく食べさせてもらった。 あの日見た夜明けの太陽を今でも覚えてる。 昔を思い出して感傷にふけり、にゃあにゃあとうるさいのを無視し続けるのも問題なので顔を向けたら頭殴られた。 「ってーなこの石頭ッ!」 自業自得だろ、と心の中で絶叫。 ほんの少しばかり骨に当たったぐらいで大袈裟なんだよ! 手を押さえてしゃがむのを無視して次の配達先へ急ぐ。 「バカ毛皮イヌ覚えてろ!」 言葉とは裏腹の悄然とした姿に彼は気が付かない。 「フッサフサーサッフくーんコレにゃーんだ。いいだろーアイス食べたい?食べたい?三回まわってワンて言ったら一口やるよ」 うぜぇ。 空調の効いた待機室でアイスクリームを見せびらかされ、余計に苛立つ。 口の中の氷をバリバリと噛み砕き、テーブルに突っ伏す。 仕事再開まで後五分。 「ニキって、本当にサフの事好きだにゃ。オジさん妬けちゃうニャー」 店長、と書かれたエプロンを身に着けた中年トトロなトラネコに指摘され、ネコが尻尾を膨らませる。 白い耳の内側が少し赤い。 「ん、にゃわけーねーじゃん!こんなチビ!クソチビ!」 八つ当たりで背中を叩かれ、募る苛立ちを堪えるサフ。 郵便よりも割高で代わりに短時間での配達をするメール、小包。 従業員は自分のようなアルバイトや、短距離飛行が得意なトリが主体。 教育施設の充実したこの都市では切っても切り離せない、出版社、印刷会社、流通卸etcetc… 丁寧迅速24時間いつでも対応を売りにしたトラネコ宅急便。 自分で見つけたバイト先。 簡単にやめるもんかと、苛立ちを氷と一緒に飲み下す。 その表情を家族が見たら、辛抱強くなったときっと褒めていただろう。 「サフ君は、今日直帰でいいにゃ、お疲れ様」 笑顔でトトロからずっしりと重い配達鞄を渡され、一瞬顔が引き攣る。 どう考えてもサビ残です。本当にありがとうございます。 入れ替えに戻ってきた先輩格の黒いトリに挨拶して、荷物の受付に来た客に頭を下げ店を出た。 無視されたネコが寂しそうな顔でアイスを舐めているのに、彼は気がついていない。 小雨のぱらつきだした夕暮れ時、商店街の裏手、家の前で一呼吸。 香辛料と…蛙のニオイ…キヨカの努力に期待。蛙ダメ、生理的に無理、死ぬ。 玄関に手をかけようとして、家の中から聞こえるどことなく楽しげな会話。但し一方通行。 妹分の声はしないから、ここで入ると恨まれそうな気がする。特にヘビに。 ――結構、気を使ってんだよね、僕だって。 ていうか、大人なんだからもうちょっとこう…年頃に対して気遣いとかあってもいいと思うんですけど。 深夜に漏れ聞こえる背中が痒くなるような会話とか、自重すべき。 もしかして、聞こえてないと思ってるのか…イヌ舐めんな。 仕方なく踵を返し、雨の中、どこで時間を潰そうかと考えを巡らせながらうろついているとさっき散々邪魔してきた相手が再び参上。 「あーちょーラッキー!ねぇねぇサフわんどっかいくのー?」 「別に」 厄介な相手と会ったと心の中で溜息。 これならジャックのところへ嫌がらせに行くか、私塾に顔を出すかすればよかった。 「…なら、オレんち来ない?オレも暇だし…この近所だし…」 断るつもりで口を開き、相手の姿を見て思わず絶句。 ブーツにタンクトップにカーゴパンツという作業服ルックから、アクセサリーのついたサンダルに雨の中では寒そうなキャミソールにホットパンツ姿が褐色の肌によく映える。 非常に健康的かつ爽やかな服装。好感度高い。 「お茶くらい、出すから…だめ?」 ヒトでいうなら14,5歳くらいのネコ少女は、白い尻尾を褐色の太腿に這わせ、年下で自分より小柄なイヌに羞恥で頬を染め、そう言った。 アレ、何で僕ここにいるんだろう。 外とは打って変わってやけに内気な態度のネコに動揺を隠しきれないイヌ一匹。 なんとなく断るずに強引に腕を引かれ、気が付いたら女の子の部屋にはじめて入ることに気が付いた。 一応年頃の異性のはずが絶望的に殺風景な同居人の部屋と違い、やけに華やかな女の子の部屋。 姉と共有だという部屋は、大小さまざまなぬいぐるみや落ちモノの類似品などが溢れ、壁と天井にはTVでよく見るマダラのアイドルのポスターが笑顔を向けてくる。 ――なんか、色々ニオイするし。 不快になるほど甘ったるいのやわずかにマタタビ、お菓子と花のにおい、それに――――おんなのこのにおい。 なんだか恥ずかしくなって俯き、尻尾を握り締めた。 「こ、紅茶でいいかな」 「あ、はい、お構いなく」 そわそわと落ち着かない仕草のネコと同じように落ち着きのないイヌ。 「あの…先輩」 「ニキって呼んで」 差し出されたティーカップを手に取ろうとして重なった指を慌てて引っ込め俯く。 結構、細い…思ったより柔らかいし…キヨカより爪尖って綺麗だし…。 僕、何やってんだろ。 「あ、あのさ、サフの家のウサギの人…どういう関係?本当にただの同居人?」 まだ引きずってたらしい。 「キヨカは――ジャックの妹で、ウチで家事してくれてる人だから、僕的には…しいていえば…身内みたいな」 ヒトだと言うことを他人には絶対言ってはいけないといい含められている。 妹分にもそれはしっかりと教えてあるから、近所で知っている人はいないはず。 「ジャックって、あの変態医者だろ?その妹って事は…」 「キヨカはまともだから!全然違うから!天然だけど!」 思わず力説していたことに気が付き、恥ずかしくなる。 「キヨカはなんていうか…ちょっと事情があって苦労してたから、ほっとけないっていうか、僕が守らないとっていうか…優しくすると嬉しそうにしてくれるし…」 ずいぶん良くなったものの、相変わらず全体的に細いというか痩せてるし、時々蒼白だったりするし。 前に比べて笑顔の回数が増えたけど、その顔を見るたびに胸が痛くなって仕方なくて…… まぁちょっとこの前見ちゃって正直僕失恋状態なんで、家に帰りにくくてアルバイトに精を出してるわけですけど。 不穏な気配を感じて顔を上げると少女が思い詰めた眼をしていた。 「ウサギに奪われるくらいならいっそここで!!」 「ちょ!まってな!」 押し倒され唇を奪われ絶句する。 ちょっと前に真剣に捧げたつもりのファーストキスはあっさりスルーされたわけだけどこれはなんというか自分より身長はあるけど細身の身体に年頃らしい膨らみを感じて思わず興奮する。 ぎこちなく伸ばされた舌を舐め上げ、逆にひっくり返し夢中になって口内を蹂躙し、やっと口を離すころには金色の瞳は潤み、はぁはぁと荒い息をつくメスネコが一人…。 「先輩、人の事童貞って馬鹿にしてたけど、もしかして処女なの?」 「んんんんわけにゃいだろ!オレは!オトコをちぎっては投げちぎっては投げ、お、お前なんか年上の魅力とテクでヒィヒィ言わせてやるんだからな!!」 細い手足をバタつかせ、顔を真っ赤にして反論するもあまり説得力が無い。 自分よりも小柄なイヌに馬乗りにされ、跳ね落とそうとするもあっさりと腕をつかまれ再び口内を蹂躙され、小さく喘ぎを漏らした。 「ちょ、ナニなめてっにゃっ!ひゃっあっあんっ」 首筋から鎖骨に掛けて、わずかに塩と石鹸のにおいのする褐色の肌を舐め上げ片手でキャミソールを引き上げ片腕ずつ脱がし、迷彩柄なブラジャーに手を掛けようか、悩む。 当然舌は休まない。 「ねぇ、いい?」 全力でかぶりつきたいのを堪え、一応お伺いを立てる。 反面教師曰く、「時代は強姦を超えて和姦」らしいので。 一応下手に出ているも絶対的優位を確信した強い自信。 ナリは小さくとも、肉食獣の本能に突き動かされ、嗜虐的な興奮が野性味あふれる容姿を一層引き立てる。 少女は薄青の瞳を見つめ、一瞬瞳を蕩かせ、 「す、すきありいいいいい!!!」 「わっわわわんっ!!」 また上下が逆転し、今度は完全にズボンに手を掛けられ、一気に剥かれた。 一気に立場を奪われ、動揺するショタわんこ。 一気に畳み掛け、今度こそ主権を握るために少女は目をギラつかせ宣言する。 「動いたら噛み千切るからな!!」 牙剥きだしで威嚇され、思わず尻尾の毛が逆立った瞬間、勢いよく咥えられ不器用に舐め上げられる。 生暖かいざらりとした舌の感触に総毛が逆立つ。 「あああっちょちょだめ、そこはっ あっ せ、せんぱいっだ、だめっ」 「ど、どうひゃっ」 もごもごと口を動かされ、堪えるのが精一杯。 真下の白いショートカットをぐしゃぐしゃと乱し―――――― 「不味い苦い生臭い」 「すみません」 すっかり冷め切った紅茶を飲み干し、それでも残る後味の悪さに顔をゆがめるネコに土下座するイヌ。 「気持ちよくて、つい」 「…ふぅーん…気持ちよかったんだ。オレに舐められて」 心底自分がマダラではなかったことを感謝する。 絶対顔が赤くなっていたはずだ。彼女と同じくらい。 汚してしまった顔を綺麗に舐めとり、脱がせた服を手渡す頃には熱狂が去り冷静さが戻ってきた。 「もうすぐ親帰ってくるし、姉ちゃん達にバレないようにここ掃除するから」 「うん」 少女は俯きもぞもぞと尻尾を揺らす。 「続きは今度な」 「あるんだ。続き」 「あ、あああたりまえだろ!!いきなり出しやがって!この童貞!!バカ覚えてろよ!!」 頬を赤くしてうろたえきった声を出す少女を見て、なんだか胸がきゅんとした。 細くて華奢で守ってあげたい系とは違うなんか、これは……。 「ニキって、実はかわいいんだね」 「ばかしねしねしね!!!」 殴りかかられたのを甘んじて受ける。 毛皮のおかげで爪は刺さらない。 「早くオレより身長伸ばせバカ!!一緒に外出るとき恥ずかしいじゃないか!」 思春期な悩みである。 「一杯食べて運動してよく寝れば伸びるってジャックが言ってた」 爪が刺さらなくとも、たたかれればそれなりに痛い。でもほっぺたが真っ赤で眼を潤ませて…かわいい。 腕をそっとつかんで止めさせる。 「特に女の子とする運動が一番だってジャックが言ってた!」 「ウサギの言うことなんか真に受けるなアホ―――!!!」 再び自分よりも小さなイヌに押し倒されるネコの悲鳴が土砂降りの雨の中に小さく響いた。 *** 「サフが帰ってきません」 串焼きの準備は万端なのに。アレ以外。 チェルもずぶ濡れドロドロで帰ってきたのでお風呂に入れて着替え中。 ジャックさんも途中で降られたとかで濡れていますが…あ、魔方陣だしてる。 「大丈夫でしょうか…ご………ジャックさんどう思いますか?」 御主人様がエプロンをつんつんと引っ張り、怖い視線を向けてきます。 気が付いていないフリをする私。だって、名前とか呼びにくいし…。 ジャックさんは濡れた毛を魔法で乾かし、準備の出来ているテーブルにつくとキラキラした瞳を向けてきました。 「キヨちゃん、アザどうしたの?」 「え?」 思わず手先を確認するも特に何も無く。 ちょっと爪が伸びてるから、あとで切らないと。 指先荒れてるなぁ…ガサガサだと痛いらしいから前は気をつけてたけど、今はそれで文句言う人いないし…。 こっちの洗剤や消毒薬って、結構荒れるし…チャーミーグリーンとか欲しいような……。 複雑な感情を隅の方に押しやって、顔をあげ首を傾げてました。 「どこですか?」 長袖だから、あとは……足?でもロングだから見えるはずないし…。 ニヤニヤと笑うジャックさんに首を傾げ、相変わらず隣でアレの仕込みに余念のない御主人様をチラ見すると非常に険悪な表情です。 目が合うとぐっと睨まれました。 「首のボタンしめろ」 ぼそりと告げられ、言われたとおりボタンを普段より更にひとつ。 息苦しい……。 「まぁサフわんも男の子だからねぇ、いろいろ有るよ」 ポリポリとにんじんを齧りつつ、ビールのプルトップに手をかけるジャックさん。 「男の子でも、まだ全然子供ですよ?大体…23じゃ、イヌは三倍だから…チェルより少し大きいぐらいですよね?可愛いんですから、誘拐の危険だってありますよ!」 8歳にしてはちょっと大きいと思うけど。 そして何故吹くんですかジャックさん。 御主人様も包丁を滑らして、丁寧に骨抜きしていたのを真っ二つにしています。 何か違ったようです。 「まぁオレは見た目どおり28だからいいけどね」 ごしごしとヒゲについた泡を布巾で拭うジャックさん。 毛に覆われているので年齢とかよくわかりませんけど……間違いなく嘘ですね。 「お前、まだそんなこと言ってるのか」 片手にアレ、片手に包丁を握りあきれた風な御主人様。 ちなみに今御主人様は軽快に動くためにわざわざトカゲ男に変身中です。 そこまでして食べたいのか、アレ料理……。 今回は、私の為に香辛料控えめなのも作ってくださるそうです。 なんか涙が出そうです。いろいろな意味で。 せっかく串焼きで個人別にして回避しようと思ったのに……。 「一応いうと、別に寿命が長いからって、そのまま成長も同じくらいかかるってわけでもないよー ほら、ネコの赤ちゃんが六年ハイハイ歩きだったら大変でしょ?そりゃ個人差はあるけどね、ロリ百歳とか某ショタ犯罪者とか」 にんじんを食べ終え、きゅうりに取り掛かるジャックさん。 味噌付けたら美味しいのに、そのまま食べてるし……。 着替えて戻ってきたチェルが期待に満ちた眼差しを向けてきたので、仕方なく串焼きに火を通し始めます。 そうか…じゃあ御主人様は…いくつなんだろう。 訊きたいような訊きたくないような……。 もしかしたらそろそろ結婚を考える歳だったり……出会いとか、協力するべきだろうなー…。 サフ、どうしちゃったんでしょうか…遊びに行くときはいつも一言言ってくれるのに…。 「オマエ、意外とモノを知らんな」 洗ったとはいえ、アレをいじった手で頭を撫でないでいただきたいわけですが。 …教えてくれる人なんか居なかったんだから、仕方ないじゃないですか。 「あーそうそうキヨちゃん新しい本買ったから後で読んで置いてね、コレ『マイマイでもわかる外科手術~日常編~』」 …綺麗なヒトの男の子と女の子がきわどい格好で絡んでいる表紙の雑誌を差し出されました。 ピンクです。 思わず凝視すると半笑いで引っ込められ、改めて差し出された専門書を受け取り、中身を一応確認…まともっぽいです。 でもマイマイってなんだろ…カタツムリ? 「ジャックさん…さっきの雑誌ですが、チェルやサフの前で読んだら、私、工具を修理や組み立て以外の目的で使用しますから、よろしくお願いしますね?」 「ほかの使いかたって?」 お酒のつまみに出した茸の漬物を横から手を出しつつ訊ねてくるチェルに私は微笑みながら口を開き 「まずニッパーでヒゲを…」 「わあぁあぁあああああああー!しません!というか、いちおうこれ健全だよ!ちょっと誤解を招く表現がしてあるけど!!!」 雑誌を取り出し押し付けられ、読みにくい書体の目次を指されました。 「ヒトノキモチ創刊号!~ヒトと人の生活総合誌~ほらっ健全!健全!記念日一覧とかあるし!父の日とかさ!」 体位一覧とか、ケンドル(?)チラリシーンとか、ヒトが居る風俗店とかも掲載されるみたいですけど。 「ほら、オレのコメント!ヒトも診れるお医者さん一覧で載ってるでしょ?褒めて!ミケっちの隣だよホラ!ミケっちは凄いんだよ?りたーなんとかかんとかって」 とっても必死なジャックさんに軽く頷く私。 ヒゲ切りはリーィエさんのアドバイスでしたが、予想以上の効果です。 リーィエさん凄い、かっこいい。 串焼きはだんだんと香ばしいいい匂いをさせてきました。 御主人様の方もほぼ出来上がってきたみたいだし……。 あーあ、サフ遅いなぁ…ご飯、冷めちゃうのに。