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前ページ次ページSSまとめ 26-873 26-873 名前:ビリヤード[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 01 11 ID ??? ビリヤード 1/6 「ついつい買ってしまった……。さすがに少々高くついたが、たまにはこういった金の使い方もいいだろう」 龍宮神社にある真名のプライベートルーム。そこで真名は納品されたばかりのブツを前に、一人悦に浸っていた。 「さて、と。記念すべき初プレイはアキラと楽しむ事にするか……」 真名はいそいそと携帯を取り出し、メールの作成に勤しんだ――― 「何故だ……。何故こんな状況になってしまったのだ……」 小一時間後。私は額に手を当てながら天を仰いだ。最も、視界に飛び込んできたのは天井だったが。 「やった事がないのなら私が懇切丁寧に教えてあげるというのに……」 「だって、真名に手取り足取り教わったんじゃ、途中からえっちな事されそうだったし……」 アキラの言い分は至極当然であった。だが、だからといって親友を連れてくる事はないだろう。 「―――でさ、キューはこう構えて……」 「ほえ〜……。なんやさまになっとるな〜」 私の購入したビリヤード台では、明石が和泉に指導している最中であった。 「まさか明石にビリヤード経験があるとは不覚だった……」 私は思わず泣きそうになる。たまにはエロ抜きで純粋にアキラと二人きりで楽しもうと思っていただけなのに、 この仕打ちはあんまりです、神様。 「まあ、ゆーな達が一緒だから真名も手は出せないでしょ?」 にっこり笑うアキラが恨めしい。こうなったら三人まとめて食っちまうぞ? 「えっへへー。お金の無い中学生にこんな娯楽を提供してくれてありがとねっ!」 こちらも嬉しそうに笑っている。ほほう、そんなに私に食われたいのかね、明石君。 「ほな、ウチとゆーな、ほんでアキラと龍宮さんで勝負せーへん? えーカンジにバランス取れとるやん?」 「そうだね。楽しそう……」 「ふっ。ならば負けたチームは勝った方の言う事を聞く、という罰ゲームでどうだ?」 むしゃくしゃしてたので私は適当な事を言ってみた。勿論、私が勝った場合の命令は夜伽だがな! 「おっ? おっ? 面白そーじゃん!」 早速、明石が食い付いてきた。こいつの性格はこういう時は重宝するな……。 26-874 名前:ビリヤード[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 02 28 ID ??? 2/6 「私は真名と一緒のチームだから構わないけど……」 アキラはジト目で私を睨みながら尋ねる。うっ……、私の命令はバレバレのようだ。 「あはは……。ウチはゆーなを信じとるからええよ。アキラも足引っ張らんよーに、お互い頑張ろうな!」 和泉も思ったよりあっさりと承諾してくれた。これは、明石の実力を知っての余裕なのだろうか? 「では9ボールで7ゲームやろう。4ゲーム先取したチームの勝ちだ。いいな?」 こうして、ビリヤード対決の幕が切って落とされた――― 「じゃあ明石、バンキングといこうか」 「おっけー!」 まずは相手の力量を知るために、私はあえて明石を指名した。向こうも同じ考えだったらしく、気合い充分と いった表情でバンキングに挑む。 「―――むっ」 私と明石の放ったショットはぴったりとバンクにくっ付いていた。なかなかやるな、明石。 「もう一度だね」 「ああ」 私は本気を出す事にした。狙うは角ポケットの手前。ここならバンクよりも深い位置に止まる。 しかし、明石の狙いは私の読みの上をいっていた。明石の手球はなんと私の球を追っているではないか! こつん。……ごとん。 ポケットの直前で停止した私の手球は、あえなく明石の球に弾かれ、ポケットに落ちた。くっ、なかなか大胆な 作戦に出たものだ。一歩間違えれば自分の球が落ちていただろう。明石がここまでやるとはな……! 「上手くいったにゃ〜。たつみーの実力なら絶対ココ狙いだろうと思ったからねっ!」 「ぶつけるのってありなんだ……」 「まあ、今回は明石の読み勝ちだな」 アキラのいう事はもっともだが、私はあっさり引き下がった。ふっふっふ、どうやら本気で楽しめそうだ! 「じゃあ。あたしたちが先攻ね。さあ、頑張ってね、亜子!」 「う、うん……!」 和泉は緊張した面持ちでブレイクショットを放つ。何とも弱々しいものであったが、どうにか2番が入ったようだ。 26-875 名前:ビリヤード[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 03 48 ID ??? 3/6 「わっ、入った! 入ったで!」 「あはは。まだ1番が残ってるから、そっちから狙ってね〜」 明石の応援を受け、和泉は1番を狙う。だが、当たっただけでポケットに沈める事は出来なかった。 「アキラ。ここからなら7番が狙い目だ。軽くでいいからな」 「うん……」 アキラは私のアドバイス通り、手球を使って1番を7番の方へ運んだ。ポケットの手前で止まっていた7番は、 軽く触れただけでポケットに吸い込まれた。 「よし、次はそのまま1番を沈めてしまえ」 「分かった」 アキラはこくりと頷き、ショットを放つ。……い、いかん! 押し球になっているじゃないか! がこがこん。 「あ……」 手球は1番を弾いた後も前に転がり、一緒にポケットに落ちてしまった。まあ、素人によくあるミスだ。 「さんきゅーアキラ。へへー、ファールであたしから、ってのは運が悪かったね!」 そう言って明石は恐ろしい場所に手球をセットした。こいつ……、いきなり終わらせるつもりか! 「ほいっ!」 明石の放った手球は的確に的球を捉え、そのまま9番を狙って疾走する。くっ……、キャノンショットも使い こなせるのか……! かこん! 「おっけー! 9ボールゲット!! これで先制だねっ♪」 明石は不敵な笑みを浮かべながら挑発してくる。次は奴のブレイクか……。私は一撃では終わらせないように、 わざと隙間を作った配置をセットした。 「まあ、そう来るのはとーぜんだよね」 ガガガガッ……! 第2ゲーム。明石のブレイクは勢い良く放たれ、まんべんなく球を散らしていった。ポケットしたのは 3・7・8番の三つか。 「んー、ちょっとたつみーの腕試しに……!」 そう言って明石が仕掛けてきた。これは……、かなり凶悪なセーフティーだな。 26-876 名前:ビリヤード[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 05 13 ID ??? 4/6 「えっと、1番が的球だよね。どうするの、真名?」 アキラが心配そうに伺うのも無理はない。手球と的球の間はすっかり他の球にコースを遮断されていた。 ご丁寧にバンクショットも狙えない配置である。となると…… 「こうするしかないな」 私はテーブルに腰を下ろし、マッセの体勢に入った。本当はジャンプショットという手もあったが、私は 見栄えのいいマッセを迷わず選択した。何やら完全に明石の挑発に乗った気もするが。 「はあっ!」 私は気合いと共にマッセを放った。手球は猛烈なスピンを描き、ぐるりと回り込むように的球を捉えた。 そのまま的球はポケットに吸い込まれ、後には楽な配置が残された。 「すごい……。そんな打ち方があるんだ……」 「うわあ……、やっぱ龍宮さんは上手やね……」 アキラと和泉はしきりに感心している。ふふ、少しサービスし過ぎたか。 「あっちゃー。わざわざマッセでくるとは思わなかったにゃ〜。こりゃこのゲームは取られたね」 「ふっ、当然だ」 明石に言われるまでもない。私は次々と的球を落とし、そのまま9ボールまで突き切ってみせた。 狙った獲物は逃さない。それが真名さんだからな! 調子に乗った私は明石に負けていられない、とばかりに渾身のブレイクショットを放つ。 ガキィ!! ズガガガガガガガッ……!! 凄まじい勢いでボールがテーブル上を駆け巡る。だが…… 「な、何ぃっ!? 一つも入らないだと!」 「ありゃ……、運がないね〜。さあ、亜子の番だよ」 「う、うん……」 私ががっくりと肩を落としている間に、和泉はちょこちょことテーブルの周りを動き回っている。一体、 どうしたというのだ? 「亜子、床から足が離れちゃダメだよ」 「そ、そーなん? ううー届かへん……」 どうやら手球と的球の位置関係からか、体格の小さい和泉には打ちにくいようだ。ある意味セーフティーに なっていたのだな。 26-877 名前:ビリヤード[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 06 39 ID ??? 5/6 「たつみー、グッジョブ!」 こっそりと明石がそんな事を言ってくる。成程……、確かに和泉がぷるぷると懸命に手を伸ばす姿はかわいい。 「え、えーい!」 やっとのことで和泉はショットを放った。だがまあ、当てただけだな。 「私の番だね……。ここから狙うのが一番かな?」 (うほっ!) 私の目の前で、アキラはぷりぷりしたお尻を突き出したのだ。こ、これは堪らないポジションだな……! 「たつみー、ちょっと寒くない? もっと空調上げてよ」 「うむ。そうだな。その通りだ」 私と明石の意識は完全に同調していた。我等二人の考えは勝敗を度外視したところにあった。素人の二人には バレないように、我等はわざとショットを外して試合をもつれさせる。そして小一時間後……、 「ねえ、ちょっと暑くないかな?」 アキラがそんな事を言ってきた。ふっふっふ、室温が上がり切るまで粘った甲斐があったな! 「いや、私はこのくらいが丁度いいが……」 「あたしも〜。そんなに暑いんなら、少し脱いじゃいなよ」 「せやな〜。ウチも一枚脱ぐわ〜」 「うん……」 アキラと和泉は素直に薄着になってくれたのだ。私はこっそりとガッツポーズを作った。まさかこの季節に 胸元を開けたブラウス姿のアキラと、キャミソール姿の和泉が拝めるなんて思わなかったぞ! (おおっ、やりましたな明石さん!) (うんうん。やっぱりチラリズムは重要だよね〜) 嗚呼……、たまには爽やかなエロもいいものだ……。アキラの谷間、和泉の脇、アキラのおへそ……。 私と明石は食い入るようにアキラと和泉に見入っていた。じゅるり、と涎を拭いながら。今や、私と明石は プールサイドで水着のねーちゃんを視姦するエロオヤジと化していた。これもある種のスワッピングなのだろうか? となると、どうにかしてここから乱交に持ち込みたいところだが……。 この時、こっそりとアキラと和泉が密談を交わしていた事に、私は不覚にも気付かなかった。 26-878 名前:ビリヤード[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 08 11 ID ??? 6/6 「亜子。そろそろお仕置きが必要だよね」 「せやな。ちょいサービスしすぎたわ」 私と明石が浮かれている間に、この二人の技術はかなりの進化を遂げていたようだ。では、どれ程上達したのか というと……、 「えーいっ!」 ごんっ! 「ふみゃっ!?」 まず、和泉の放ったジャンプショットが、かぶりつきで眺めていた明石の顔面に直撃。そして、 どすっ。 「ぐおっ!?」 アキラは背後に陣取っていた私のみぞおちにキューを突き刺したのち、同じくジャンプショットを放ったのだ。 こちらも見事に明石に命中している。や、やるなアキラ……、この真名さんの隙を突くとは……。 ゲームはそのままなし崩しに終了。明石は和泉にぺこぺこ謝りながら帰っていった。そして、アキラは……、 「真名。亜子にも色目使ってたでしょ?」 うっ……。さすがによく私の事を理解していらっしゃる。 「い、いやほんの2割くらいだぞ? 後の8割はアキラの谷間やお尻をだな……」 「10割……」 ぽつり、とアキラが呟いた。 「全部私だけを見てくれなきゃイヤ……」 そう言ってアキラは私を押し倒したのだ! な、何ぃっ!? 今日はこの私が受けなのか! 翌日。私と明石は報告会を行った。どうやら明石もネコにされたらしい。 「たまには受けもいいものだな……」 「そうだね……。あの二人が攻めに回るなんて予想外だったよ……」 また今度ビリヤード大会をやろう、と誓い合う我等二人は、全く懲りていなかった――― (おしまい) 26-885 26-885 名前:真名ちゃんもっこり日記3[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 50 07 ID ??? 真名ちゃんもっこり日記3 アキラが子猫を拾ってきた。 どうやらまた道端で捨てられていた動物を引き取ったようだ、なんて優しいんだアキラは。 とりあえず飼い主が見つかるまではこちらで飼うことになるだろう。 しかしいつの間にかペット王国だな。 猫、犬、リス、亀、ハムスター、兎、とにかく私たちは拾って貰ってだからな。 「…かわいいね、真名」 「あぁ」 いや、かわいいのはかわいいが… 「アキラ!」 「ま、真名!?駄目…子猫が見てる…」 あぁぁぁ…そんな子猫みたいな目をしたお前が一番かわいい hearts ―しばらくお待ちください― ふぅあれから子猫の見ている前で5発も決めてしまったが個人的には満足だ。 大浴場でひとっ風呂浴びてくるか。 「…待って真名、浴場には…」 何か言いたげだったが5発も決められてグロッキーなんだろ、少し休め。 やはりこう大きな浴場だとゆったりできるな。 誰も居ない大浴場を一人で…ちょっとした金持ち気分だな。まぁいい、そろそろ上がるか。 ん?足で何かを踏んだぞ? ってちょっと待てーーーーーーーーーー!!何でこんな所にあwせdrftgyふじこlp; アキラ、動物を可愛がる心意気は理解しよう。 だが誰も居ない昼の間だけとはいえ大浴場でワニを飼うのは止めてくれ。 26-888 26-888 名前:へべれけさん・5[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 00 54 00 ID ??? へべれけさん・5 麻帆良学園中等部女子寮。そこには夜な夜な徘徊する酔っ払い女が棲むという……。 「う〜い。今日も美味しいお酒で〜す」 すっかり千鳥足の柿崎さん。今夜は誰の部屋に押し掛けるのでしょうか。 「まーどかー。愛しの美砂さんが帰ってきましたよ〜、っと」 鍵の掛かってないドアを開け放ち、柿崎さんは部屋に上がり込みました。 「なっ…! か、柿崎さん!?」 「いやああっ!?」 そこには愛を語り合っている最中のまき絵さんとあやかさんがいました。部屋を間違えた柿崎さんが 悪いのは当然ですが、この場合は不用心なまき絵さんにも非がありますね。 「お、おっ? おおっ! まき絵〜、いつの間にいいんちょをゲットしたのよ〜。こりゃ祝杯だ〜っ!」 早速、柿崎さんはぐびぐびとワインをラッパ飲みします。酔っ払いにとって、飲む理由があれば何でも 構わないのです。柿崎さんはすっかりご機嫌な様子で座り込んでしまいました。 「さあさあ、こんなヨッパーに構わずお二人は存分に愛し合っちゃって下さいっ! ……ひっく」 「そんなのムリだって〜っ!」 「わたくしにも恥じらいというものが……」 柿崎さんが急かしても、まだ付き合って日の浅い二人にはそこまで堂々と開き直る勇気はありません。 しかし、そこは愛の伝道師。柿崎さんはすぐさま追い討ちを掛けました。 「いいんちょ、うちのクラスでも有名なカップルのこのかと桜咲さんはぁ、私の前でもどーどーと 愛し合ってたよ〜? こりゃあ負けてらんないっしょ?」 そして、柿崎さんはまき絵さんにも挑発を仕掛けます。 「まき絵〜。アンタの親友のアキラはねぇ、龍宮さんと一緒にもっと先を進んでるわよ〜」 この挑発を受けた二人は、みるみる内に目の色を変えてしまいます。 「わたくしたちも負けてられませんわね!」 「うんっ! よーし、アキラに追いついちゃうぞ〜!」 「よーしその意気だ〜。景気付けに一杯やってこーい!」 柿崎さんはすかさず二人に一杯振る舞います。そして、じっくりと二人の愛を見届けました。 「ふふん。この二人ってノリが似てるのかもね〜。お似合いじゃない。……ひっく」 こうして柿崎さんが見守る中、二人は初めて結ばれたのでした――― (おしまい) 26-898 26-898 名前:Dr.アコー診療所2nd・3[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 06 59 08 ID ??? Dr.アコー診療所2nd・3 1/2 麻帆良学園中等部の保健室。そこにはちょっと性癖に難のあるドクターがいました。 「おっ、チャオりんも保健室に?」 放課後。裕奈は超さんと廊下でばったり会いました。 「ふふ、まき絵が待ってるからネ!」 「へー、すっかりらぶらぶじゃん」 二人は和やかにおしゃべりしながら保健室に入りました。しかし、そこは鬼の棲む魔界と化していたのです。 「あはは! たゆんたゆんやぁぁ〜っ!!」 「ひぃっ!? も、もうやめるアルー!!」 保健室には煙を吐いて横たわるまき絵、すっかりぼろぼろになった古菲さん、そして、乳揉み鬼と化した 亜子先生がいました。 「…………うあ」 「亜子先生暴走中ネ……」 裕奈と超さんは戸口で固まってしまいました。亜子先生は二人に気付かないくらい、一心不乱に古菲さんの 胸をたゆんたゆんしています。 「ほーら、まだまだ序の口やで? たゆたゆたゆたゆ……」 「ぅにゃあ! そ、そんなに激しく…ひぃん!? はぁはぁ…あっ、ああっ、あああああっ!!」 そして、古菲さんの身体がびくんと跳ねました。大人の階段をまた一段上がったようですね。 「ゆーなサン、昨日何かあったカ?」 超さんの問いに、裕奈は苦笑しながら答えます。 「や、亜子があんまり患者さんに手を出してたものだから、ちょっとおあずけを……」 「僅か一日で禁断症状カ……。亜子先生はよっぽどゆーなサンのおっぱいが好きなワケネ……」 「あはは……。喜んでいいのかな……」 「しかし、この暴れっぷりは重症ネ。ひんぬーのまき絵にまで手を出すなんて……。フェイもそこまで たゆんじゃないヨ?」 「い、いい加減に助けるアルーッ!!」 古菲さんの悲痛な叫びが保健室に響きました――― 26-899 名前:Dr.アコー診療所2nd・3[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 06 59 51 ID ??? 2/2 「仕方ない……。ほーら亜子先生、こっちのたゆんは美味しいヨ?」 「にゃっ!? こ、こらチャオりんやめっ……!」 そう言って超さんは亜子先生に見せつけるように裕奈にたゆんたゆんを敢行しました。すると亜子先生の 表情が一変します。 「おかーさーん!!」 亜子先生は恐るべき速さで裕奈のおっぱいに飛び付きました。そして、歓喜に満ちた表情で手を動かします。 「たゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆ……」 「こ、こら、激しすぎ…んんっ! やっ、はぁん、ひああっ!」 亜子先生が裕奈を貪っている間に、超さんはまき絵を介抱しています。ちなみにたゆん地獄から解放された 古菲さんは、ぴくぴくと悶死していました。 「はいはいそこまでっ! これ以上やったらまたおあずけだよ!」 裕奈はぎゅっと亜子先生を自分の胸に埋めるように抱きしめました。この千鶴さん直伝の抱擁が効いたのか、 単におあずけという言葉に反応したのか分かりませんが、ようやく亜子先生はおとなしくなります。 「スゴいゆーなサン……。あの亜子先生をしっかり飼い慣らしてるネ……。これが愛の力なのカ……」 「ま、恋人ですから。全く……、あたし以外の女の子に本気出しちゃダメでしょ?」 そう言って裕奈は亜子先生の頭をなでなでします。すると亜子先生はいつもの笑顔で答えました。 「えへへ。くーちゃんの反応が良かったもんやから、つい……」 「た、確かにちょっとカワイかったかも……」 「フェイは敏感だからネ……」 亜子先生と裕奈、そして超さんの視線が古菲さんに注がれます。 「くーちゃんは桜咲さんに太刀打ち出来る逸材とちゃう?」 「これほどの受けキャラはそうそういないよね……!」 「ワタシとしたコトがフェイの素質に気付かなかたヨ……!」 三人はごくりと唾を飲みます。そして、復活したまき絵が保健室に鍵を掛けました。 「じゃあさ、みんなでくーちゃんを美味しくいただいちゃおうよ!」 まき絵の合図と共に、愛の狩人たちが一斉に古菲さんに襲い掛かりました――― 古「みんなは私にひどいことしたよね(´・ω・`) 」 (つづく。インスパイアスマソ) 26-915 26-915 名前:BMG[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 19 14 40 ID ??? 1/5 #x002d;2月2日- ザジ「ちう!誕生日おめでとう!」 千雨「誕生日?ああ、そっか今日は私の誕生日か…覚えててくれたのか?」 ザジ「ザジはちうのこと何でも覚えてる!」 千雨「そっか…嬉しいよ、ザジ… ザジの誕生日は確か来月の17日だったな? ようし、じゃあザジの誕生日には私からお返ししなくちゃな!」 ザジ「うん!約束だよ!」 千雨「ああ。約束」 BMG #x002d;3月16日- 千雨「あー忙しい忙しい」 ザジ「ちーうー!!」がばぁっ 「ねぇ明日何の日か…」 千雨「あー悪いけどよそでやってくれるか?私は今忙しいんだ」 ザジ「ちう忙しいの?じゃあザジ手伝う!」 千雨「いや、お前なんかいらない」 ザジ「!!!!!!!」 千雨「あー忙しい、あー忙しい…」 ザジ「いら…ない……?」 ポカッ! ダッ バタン! ザジ「ちうのバカーー!!」 千雨「……あんにゃろ…思いっきりぶちやがって…」 「…………」 26-916 名前:BMG[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 19 15 29 ID ??? 2/5 -公園- ザジ「…ちうのバカ」 和美「あれ?ザジちゃんどしたの独りで?ちうちゃんと喧嘩でもした〜?」 ザジ「え…うええぇぇぇ」 和美「あれ!?本当に!?」 それから朝倉はザジの話を聞いてやることにした…ザジは泣きながらも 明日はザジの誕生日だということ… なのに千雨はそんなこと忘れてしまっていること… 自分は嫌われているのかという不安… ゆっくり、ゆっくり話をした 朝倉はただ黙ってそれを聞いた 26-955 名前:BMG[sage] 投稿日:2006/03/17(金) 00 07 37 ID ??? 3/5 和美「…いつの間にかこんな時間になっちゃったね 誕生日おめでと」 気が付けば日付は17日になっていた。 和美「はぁー、すっかり暗くなっちゃった」 さよ「オバケでも出そうな時間ですね…」 ザジ「…和美……お部屋泊めて……」 和美「え゛っ」 ザジ「…お部屋泊めて」 和美「いやっ、部屋に戻りづらいのは分からんでもないけどさ、ホラ、17日はまだ始まったばかりだし、さり気なく気付かせてあげたら!?」 ザジ「…和美の部屋に泊まる」 和美「えっと、えっと…!! そう!じゃあお泊まりセット取りに一旦戻ろっか!」 ザジ ……コク -千雨とザジの部屋前- ザジ「すぐ取ってくるから」 和美「あぁ、うん。これで私も一安心だ」 ザジ「?」 ガチャ 26-956 名前:BMG[sageやっぱり5レスになたorz] 投稿日:2006/03/17(金) 00 10 55 ID ??? 4/5 パーン パパーン 『ハッピーバースデイ!ザジ・レニーデイ!!』 ザジ「――え?」 桜子「おっめでとー!」 風香「おめでとー!!」 史伽「おめでとですー」 ザジ「え? え??」 **「悪かったな、ザジ」 ザジ「――ちう」 千雨「お前を驚かせたくってな。本当は0時ちょうどに部屋に来てもらう手筈だったんだが…」 和美「いやー、ちょいと想定外なことがあってね」 千雨「昼間はその…本当にごめんな。ザジと顔あわせたら顔が弛んじゃって隠しとおせそうになかったから…」 ザジ「じゃあちうはザジの誕生日覚えててくれたの?」 千雨「忘れる訳がないだろ」 ザジ「ザジのために…こんなことまでしてくれたの?」 千雨「お前のためなら新田とも闘うぞ」 ザジ「――ザジのこと、嫌いになってない?」 千雨「当たり前だ。大好きだよ」 26-957 名前:BMG[sage計画性ないな俺…] 投稿日:2006/03/17(金) 00 12 06 ID ??? 5/5 ザジ「……うっ……うぇっ」 千雨「!? ど、どうしたザジ!?」 ザジ「…よかった…ちうがザジのこと、嫌いになってなくて…よかった……」 千雨「ザジ…」 ザジ「ちう……」 二人はそれ以上言葉を交わすことなく、そっと唇を エヴァ「へえっきしょい!!!!」 千雨「うっはぁぁ! って…お前らいつまでいる気だ!さっさと帰れ!」 亜子「え?だってザジさんの誕生パーティやろ?」 千雨「うるせー!とっとと消えろ!」ドカッ 「まったく…」 がばっ ぎゅっ 「あ、ザジ…いや、あいつら邪魔だったからさ… ザジ…離れて…ちょっと苦しい………ザジ?」 ザジ「…スー」 千雨「…寝ちゃったか… やれやれ、(チュッ) 誕生日おめでとう、ザジ」 お わ り 26-942 26-942 名前:明日菜 唇 18[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 23 41 04 ID ??? 明日菜 唇 18 明日菜 「ほ〜ら、猫じゃらしよ〜」 ふりふり・・猫じゃらしとは言っても野生に生えているやつじゃなくておもちゃ。これで裕奈が釣れると思ったんだけど・・ 裕奈 「ば、馬鹿にするにゃ〜!!!」 うん、やっぱり猫だ。こちらを向いて全身の毛をたてて威嚇する猫、そんな感じかな でも、猫じゃらしで反応してくれないなんて・・ノリ悪いなあ 裕奈って猫の姿が似合うなあ 猫耳カチューシャとかひげとかしっぽがまたいい味出してる。でも何で運動服なんだろう 裕奈 「明日菜、最近みんなの唇を狙っているという噂は本当だったんだ・・でも!!私の唇は奪えな・・むううう!!!」 もー、そんなこと言ってる暇があったら逃げればいいのに でも、クラスで一、二番の足を持つ私から逃げるなんて出来ないだろうけどね じたばたじたばた・・しばらくは抵抗していたけど、やがて裕奈はおとなしくなった 明日菜 「参った?」 裕奈 「き、キスしたね」 まだ理解していないのかな?じゃあ、もう一度・・ 裕奈 「ふむっ!!」 暫くして唇を離す。私は自分の唇を舌で舐めてみた 明日菜 「青春の甘酸っぱい味・・裕奈の汗の味かな?」 裕奈 「二度もキスした!!父さんにもキスされたことないのに!!」 明日菜 「甘いわね、キスもされずに一人前になった奴なんていないわよ」 裕奈 「うわぁぁぁん!!おとうさ〜ん!!裕奈、汚れちゃったよう!!」 走り去ってゆく裕奈、だから、キスぐらいでは汚れないんだってば 汚されたって真実を知りたいなら真名と木乃香と新田呼ぶよ? 完 26-950 26-950 名前:『One More Sweet』[sage] 投稿日:2006/03/16(木) 23 51 44 ID ??? 『One More Sweet』お弁当 おっひる〜♪ なーんか今日はすっごく待ち遠しかったねっ! はい、あたしのおべんとっ! 今日は早起きして作ったもんね〜。あはは、やっぱり亜子も? さーて、亜子のお弁当は……、やった、あたしの好きなエビフライはっけーん! んじゃ、いっただっきまーす! もぐもぐもぐ……。ん〜、美味し〜っ! やっぱ亜子って料理上手だよねっ! あたしの作ったきんぴらも美味しいって? 嬉しいコト言ってくれるじゃない、くのくの。 じゃあさ、だし巻き卵食べてみてよ! 初めて作ったんだけど……。 どきどき……。 ど、どうかな? ……めっちゃ美味しい? ぃやったあっ! 大成功!! えっへへ、何度も失敗した甲斐があったよ! あ、いや、今のは聞かなかったコトにして。 もう、そんなに笑わないでよ〜。亜子に食べてもらうんだから、そりゃあたしも真剣勝負だよ。 亜子だってさ、このベーコン巻きアスパラはまき絵に教わったんでしょ? ふふん、まき絵の得意料理だからね。それくらいお見通しだよ! えっ? あたしの唐揚げだってアキラ直伝じゃないかって? あっはは、バレた〜? でもね、あたしの方が愛情た〜っぷり入ってるから美味しいでしょ? うんうん、亜子のおべんとも美味しいよ! なんたって愛妻弁当だもんね! あれっ? 亜子ちょっと……。 ほら、ほっぺにごはんつぶが……。 ぱくっ。 はい、取れたよっ! あはは。亜子ってば真っ赤になっちゃってカワイイ〜。 ごちそうさま〜っ! もうお腹いっぱいだ〜。幸せだにゃ〜。 また今度、おべんと交換しようねっ! 料理の腕も上がって、一石二鳥だしねっ! おっ、シメに熱々のほうじ茶ですか! うわ〜、さっすが亜子! ごくごくごく……。ぷはーっ! もう最高〜! 亜子だーい好きっ! (おしまい) 26-963 26-963 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/03/17(金) 00 38 16 ID ??? 真夜中の亜子先生 1/3 夜。亜子先生と裕奈は今夜も愛を交わしていました。 「たゆんたゆんたゆんたゆん……」 亜子先生は一心不乱に裕奈のおっぱいをたゆんたゆんしています。やや汗ばんだ感触が掌に吸い付くようで、 亜子先生は夢中で裕奈のおっぱいを激しく揉み回します。時折、亜子先生はピンク色の突起を指で挟みつつ、 振動を与えるようにたゆたゆたゆ……、と細かいビートを奏でました。 「ああっ……、いいっ、いいよ……、すごく気持ちいい…んっ、くっ、ああっ!」 「そろそろやな……。もっともっとゆーなのかわええ顔みせてえな……!」 亜子先生のリズムが次第に速くなっていきます。亜子先生は裕奈の可愛らしい乳首を親指でぐりぐりしたまま、 たゆたゆたゆたゆと上下左右に揺さ振りました。 「ふあっ! も、もうあたし…ああんっ! んんっ、くっ、ひぃんっ! イッちゃう……!」 裕奈の吐息に合わせ、亜子先生はラストスパートに入りました。 「そ、そんなに速く…はうっ!? ああっ、ダメッ、ひぃっ、あっあっ、ふああああああっっ……!」 絶叫と同時に裕奈の身体が大きく跳ねました。どうやら昇りつめたようですね。亜子先生はそっと手を離し、 裕奈に軽くキスをしました。 「えへへ。めっちゃカワイかったで、ゆーな……」 「はあっ…はあっ……。き、今日は随分と激しかったね……」 「あはは。さよちゃんのたゆんたゆん見とったら、ウチも負けてられへんなあ思うて……」 「じゃあ、今度はあたしの番だからね……!」 裕奈は亜子先生の首に腕を回し、唇を重ねたまま抱きしめました。そして、存分に亜子先生の舌の感触を 味わいます。 「んんっ……ふっ……」 そのまま裕奈は身体を入れ替え、上になったところで顔を引きました。つつー、と唾液の糸が滴ります。 まず裕奈は亜子先生の首の付け根を強く吸いました。 「あん、キスマークつけんといて……!」 「だーめ。あたしの愛の証だもん」 26-964 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/03/17(金) 00 39 54 ID ??? 2/3 裕奈はじっくりと亜子先生の身体をなぞるように舌を這わせます。わざと感じやすい箇所は避け、裕奈の舌は 亜子先生のつま先にまで侵略しました。 「やぁん、そ、そないなトコ舐めたらアカンて」 けれど裕奈は不敵な笑みを浮かべながら亜子先生の足の指をちゅぱちゅぱとおしゃぶりします。よっぽど 恥ずかしいのでしょうか。亜子先生は手で顔を隠したまま甘い声を漏らします。 「ふふ、ダメたよ。あたしにも亜子の顔見せてよ……!」 裕奈はそっと亜子先生の手を開き、ゆっくりと亜子先生の胸に手を掛けました。亜子先生の慎ましい乳房は 裕奈の掌にすっぽり収まってしまいます。 「ほーら、亜子の好きなたゆんたゆんだよ」 そして裕奈はゆっくりとたゆんたゆんを始めました。裕奈の指は優しく刺激を与えながら踊ります。 「ああん、ウ。ウチが好きなんはたゆたゆする方や…んっ、はあっ…ああっ!」 「ふーん。じゃあやめよっかな?」 言葉通り、裕奈はパッと手を離してしまいます。これには亜子先生も潤んだ目で哀願しました。 「ああん、やめんといて……。もっとウチのおっぱい、たゆんたゆんしてえ……!」 「うんうん。よく出来ました」 再び裕奈の手が小刻みに動きます。小柄とはいえ、亜子先生のおっぱいは懸命に弾んでいました。 「ひぃん! あっくっ、ふあっ! ひああっ! はああっ!」 「ふふふ。相変らず亜子は感じやすいにゃ〜。ホント、敏感なんだから」 裕奈はもう辛抱出来ない、といった様子で、亜子先生の足を開きました。そこはもう、既に大洪水です。 「スゴい……。亜子ってばホントにえっちなんだから……」 「そ、そないじっくり見んといてえ……!」 「じゃあ早速……!」 裕奈は充分に濡れ濡れになっていた秘所をなぞるように舌を這わせました。そして、わざと音を立てながら 突起に吸いつきます。 「ひゃっ! そない強く…はうっ、す、吸ったら…ああっ! ひぃっ、くっ、あっあっ、はうっ!」 遠慮を知らない裕奈の責めに、亜子先生は一気に高まってしまいました。 26-965 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/03/17(金) 00 41 55 ID ??? 3/3 「イキたい? じゃあ一度イカせてあげる……!」 裕奈の指が窮屈な割れ目に侵入しました。そして、ぴちゃぴちゃと淫猥な音色を奏でながら動きます。 「ああっ! ウチもう…いやっ、はあっ、ひぃんっ! あっあっ、ふあっ、ふああっ!」 亜子先生は裕奈の身体を強く抱きしめました。裕奈は激しく右手を動かしたまま、亜子先生の耳たぶを 甘かみします。そして、残った左手は亜子先生のおっぱいを優しく撫で回していました。 めくるめく快感の波が亜子先生に押し寄せます。そろそろ限界が近付いているようですね。 「ゆ、ゆーなぁ、ウチ、ウチもう、あっあっ、あああああっっ……!」 亜子先生の視界が真っ白になりました。そして、最初の絶頂を迎えたのです。 「まだまだ……。ここからが本番だよ……!」 ぐったりと横たわる亜子先生に、裕奈はごくり、と唾を飲みながら、はち切れんばかりに膨れ上がった 百合棒を構えました。 「さあ、お注射の時間だよ……!」 亜子先生は期待感に目を潤ませながら、裕奈の百合棒を受け入れました。 こうして亜子先生は夜な夜な裕奈のお返しをタップリと味わうのでした――― (これ以上はシャレになんないので終わり) 26-973 26-973 名前:Dr.アコー診療所2nd・4[sageあ、新スレと誤爆した] 投稿日:2006/03/17(金) 00 50 51 ID ??? Dr.アコー診療所2nd・4 1/3 麻帆良学園中等部の保健室。そこにはちょっと性癖に難のあるドクターがいました。 いつもと同じ風景。亜子先生が治療のついでに患者さんにたゆんたゆんして、裕奈がツッコミを入れる。 そんな穏やかな日常。ただ一つ違うのは、ある見学者がいたのです。 「いや〜、ここにいればネタに困らないね〜」 スケッチブックを手に、ハルナさんがからからと笑っていました。 「ったく、いいの? あんなコト言ってるけど」 裕奈は呆れながら亜子先生に尋ねます。 「ま、パルが泣きついてくるなんて珍しいやん? よっぽどネタに困ってたんやね〜」 亜子先生は太平楽に答えました。しかし、その眼はハルナさんの胸に注がれています。 「朝倉といいパルといい、そんなに亜子の餌食になりたいのかなあ?」 ぽつり、と裕奈は呟きました。 「えへへ。そら、ウチの隣にはいっつもゆーながおるから安心しとるんやろ?」 そう言って亜子先生はすかさず恋人の胸に手を掛けました。 「ほーらパルにサービスや〜。たゆんたゆんたゆんたゆん……」 「おおっ、さっすが亜子先生! 気前いいね〜♪」 ハルナさんは大喜びでペンを走らせていますが、当の裕奈は何故かノーリアクションです。一体、 どうしたのでしょう。 「亜子……。サービスだったらここまでやんないと、ね!」 「たゆ?」 突然、裕奈はハルナさんの前で亜子先生を押し倒しました。そして、ピンクのナース服に手を掛けます。 「おおっ! 逆転ktkr!! こりゃどーなるの!」 「ゆ、ゆーな、さすがにちょい恥ずいんやけど……」 「ふっふっふ……。このままお注射しちゃおっかにゃ〜?」 「明石、ここから先は私に任せろ!」 『…………はい?』 全員の視線が集まります。そこには、いつの間にか龍宮さんが立っていました。 26-974 名前:Dr.アコー診療所2nd・4[sage] 投稿日:2006/03/17(金) 00 52 35 ID ??? 2/3 「ここから4Pに持ち込むのだろう? ならば先陣を切るのは当然もっこり真名さんだ!」 龍宮さんはいそいそと自分の衣服を脱ぎに掛かります。 「あ、アキラ」 ぴたっ。 ほつり、と亜子先生が呟くと、一瞬龍宮さんの動きが止まりました。しかし、 「ふ…ふはは……! その手はアスナで体験済みだ! 聖闘士と真名さんに二度も同じ手が通用するか!」 そう言って龍宮さんは亜子先生の可愛らしいブラのホックを外しに掛かりました。 「はい注目〜」 裕奈は龍宮さんの顔を掴むと、むりやり入口の方に向けました。当然そこには…… 「真名のバカ……」 アキラがエヴァさんの呪文よりも冷たい視線を送っていました。 「ア、アキラ違うんだ……。これはだな……」 「パルの為にお芝居しとっただけやって」 亜子先生は笑って衣服を正します。そして、裕奈とハルナさんに無言の圧力を掛けました。 「ならいいけど……」 亜子がそう言うのなら、とアキラは強張った表情を弛めました。 「―――いいの? たつみーのフォローなんてしちゃっても」 「―――ウチの保健室で殺傷事件なんて起こったらシャレにならんやろ?」 亜子先生と裕奈はひそひそと密談を交わします。そして、亜子先生はちらり、と龍宮さんにアイコンタクトを 送りました。龍宮さんもしぶしぶ頷きます。どうやら今ので亜子先生にたゆん一回の借りを作ったようですね。 「―――しっかし私のネーム通りの展開になり掛けたから驚いたなあ……」 ハルナさんは呑気にスケッチブックを見せました。どれどれ、と亜子先生が目を通すと、そこには…… 「わ、ホンマや。ゆーながウチを押し倒して、そこにパルとたつみーが乱入、ほんでアキラに見つかり修羅場、 ってなっとるやん……」 亜子先生はハルナさんがボツにしたネームを読みながら驚いていました。と、そこである事を実行してみようと、 そのスケッチブックにペンを走らせました。 27-33 名前:Dr.アコー診療所2nd・4[sage] 投稿日:2006/03/17(金) 01 00 07 ID ??? 3/3 亜子先生が書いた内容。それは、 『アキラが保健室の鍵を閉める』 と、いうものでした。そして、アキラは何気なく鍵を閉めました。これはスケッチブックの内容通りです。 「こ、これはもしかして……!」 亜子先生はすぐさま次の文を書きました。するとどうでしょう、亜子先生を除いた四人が一斉に服を脱ぎ 始めたのです! 四人は瞬く間に上半身裸になってしまいました。そして、口を揃えてこう告げたのです。 『亜子先生、私たちにたゆんたゆんして……!』 「ま、間違いあらへん! このスケッチブックはウワサに聞くデス…こほん、『エロノート』やっ!!」 ハルナさんの執念が乗り移ったのでしょうか。亜子先生の手にしていたスケッチブックには恐るべき能力が 秘められていたのです! 「せやったらウチのすべきコトはただ一つやっ!!」 亜子先生は興奮を隠し切れない、といった様子で手をわきわきさせました。目の前には龍宮さん、ハルナさん、 裕奈にアキラ、といったそうそうたる生乳が並んでいます。 「みんなまとめてたゆんたゆんやあぁぁぁっ!!」 亜子先生は歓喜の表情で生乳の海にダイブしました。後には件のスケッチブックが残されるのみです。 そのスケッチブックには、こう書かれていました。 『ここにいる四人が亜子先生にたゆんたゆんをおねだりする』 こうして、亜子先生の周りには一日中たゆんたゆんが満ち溢れていたそうです――― その翌日。件のエロノートは必死になって奪い合う亜子先生と龍宮さんとハルナさんを尻目に、裕奈とアキラの 手で焼却処分にされたそうです――― (愛を見失ったままつづく) 前ページ次ページSSまとめ
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「ふぅ、やっと着いたか。やっぱ高すぎやしないかここ」 ここは白玉楼の階段、はるか天空から繋がる冥界の中に存在する白玉楼の一歩手前。 またがっていた箒から降りて魔理沙は遥か遠くに見える地上を見下ろしながらぼやく。 彼女達が全速力で飛んでも中々に時間がかかるのだから実際相当な高さである。 未だに飛ぶことになれていないシンは途中で力尽きて魔理沙の箒の柄にしがみついていたという有様だ。 魔理沙自身は特に白玉楼にも八雲紫にも用という用は無いのだが、しかしシンがいくというのなら話は別だ。 なんだかんだでシンのことはまだ知らないことも多い、出来るだけ知っておきたいというのが魔理沙がここまで来た理由。 ………知りたいのならシンに直接聞けばいいだろう、とは言ってはならない。 もし言ったら彼女の乙女心が高熱をまき散らしながら襲いかかってくるに違いないだろうから。 具体的にはマスタースパークとかスターダストレヴァリエとかその辺が。もしかしたらファイナルスパークかも。 そんな乙女をよそに他の少女達も各自この白玉楼に思いをはせている。 一番分かりやすいのは早苗だろう、きらきらと目を輝かせながら遠くに見える白玉楼を見つめている。 「こんな高いところに建造物だなんて……本当に、幻想郷では常識にとらわれてはいけないのですね」 「だからって常識をブン投げないようにね。で、霊夢。ちゃんと私も来るって話は通してるのよね?」 霊夢が紫に紹介するためと強引に連れてこられた早苗は最初こそ文句ばかりだったが、冥界に存在するこの白玉楼を見てから不満も吹き飛んだらしい。 感慨深げにつぶやく早苗を不安半分で横目に見ながらアリスは改めて霊夢に向き直る。 彼女も紫に用があるからこそ霊夢についてきたのだが、この腋巫女の場合面倒臭がって白玉楼に自分も来るということを話していない可能性がある。 そんなアリスに霊夢は鷹揚に手を振りながら暢気な口調で嘯く。 「え? あーうん、大丈夫大丈夫多分」 「なんなのよその適当さ加減は!? 本当に大丈夫なんでしょうね、冥界の機嫌損ねるなんて私嫌よ!?」 「早苗とシンは来ることが決まってたし、三人くらい増えてもまあなんとかなるでしょ」 霊夢からそう言われ増えた三人の一人―――デスティニーは何も言わずに肩をすくめる。 竦めた原因は言うまでもなく霊夢の言葉、もそうなのだがそれ以上に頭を抱えているアリスにだ。 本当に心中察する、相当霊夢との付き合いが長いのだろうがデスティニーからしてみれば正直同情しかない。 それにしても、当初の予定から倍になっているのになんとかなると言える霊夢ははたして呑気なのか大物なのか。 大物なのは間違いないだろうがただそれで済ませるのも癪だ。しばし考え、両方だなと結論付ける。 そんな益体の無いことを考えながら荒い息を吐くシンに視線を向けた。 「大丈夫かね御主人。大分辛そうだが」 「そうだぜ、ちょっと休んだ方がいいんじゃないか?」 魔理沙もデスティニーの言葉に同意してくる、実際シンの姿を見ていればその心配も当然かもしれない。 流れる汗や息の荒さはまだしも、ただでさえ白い顔色がさらに白くなり見ている者に不安を抱かせる。 霊夢達も同意見なのか、霊夢は早くも石段に腰掛けている。しかしシンはそんな彼女達を振りきって。 「いや、休んでなんかいられないさ。早く行こうぜ」 荒い息をつきながらもシンは立ち上がり全員を急かす、しかしその姿は今にも倒れてしまいそう。 よろめいたシンを慌てて魔理沙が支える。誰が見たって休んだ方がいいのだが。 「なあ、やっぱり無理しない方がいいんじゃないのか?」 いつ倒れてもおかしく無いシンを見ているのは魔理沙からしてみれば気が気でない。 しかしそれでもシンは止まろうとはしなくて。疲れ切った目、しかしその赤い目はしっかりと遠くにそびえたつ白玉楼を見据えている。 「早く行かなきゃ―――あいつが待ってるんだ」 ―――――遡ること二週間ほど前。シンがレイダー達を追い払った翌日のことだ。 「どうかしたのかね、御主人」 顔中に青あざを作り、ぶすっと不貞腐れたシン。そんな彼に縁側に座っていたデスティニーが訝しげな声を上げる。 昨日はほとんど動くこともできなかった彼女だが、ある程度機能が回復したのか自分の足で歩くことぐらいならばできる。 とはいえ、出来ることと言えばそれぐらいだ、まだ目も片目でしか見えておらず右手もロクに動かせない状況。 紅魔館の再建が大体終わっていたから良かったものの、そうでなければ面倒なことになっていた。 時間がたてば直っていくだろうが、少なくともあと二日は満足に動くことはできないだろう。 付喪神だからこそそれで済むとはいえ、やはり道具としての本懐を果たせないのはデスティニーにとって本意ではない。 そんな彼女の心中を知る由も無く、シンはその表情通りの不機嫌そうな声を上げる。 「別に。なんでもないよ」 「なんでもないって顔はしてないわね。何なわけその青あざ」 霊夢からツッコまれて、ぐ、と答えにくかったのか一瞬言葉に詰まる。 しばし唇を曲げて答え辛そうにしていたが、せめて青あざの理由だけでも話さなければ引き下がりそうにない雰囲気で。 その空気に気付いたのか、話すべきか少し悩んでいたがやがて諦めたように息を吐く。 「美鈴さんから叱られただけだよ、大して身についてもいない技法を使うものじゃないって」 あの状況ではああするしかなかった、なんて言葉は言い訳だろう。 自分では思いつかなかったが自分が持っている技術で切り抜けられたかもしれないのだ。 それに、例えそうなのだとしてもはいそうですかとなあなあにしてしまっては師としての威厳も何もあったものではない。 シンだってそのことは承知している、だから修正されたところで機嫌が悪くなるはずが無いのだ。 ………もっとも、身体で覚えさせると言って発勁を何度も何度も叩きこまれたのには流石に辟易したが。 「ふーん………その青あざが関係無いんなら、じゃなんで機嫌悪いのよ」 「それこそなんでもないって言ってるだろ、意外としつこいな」 声に少し険が混じりだす、眉間にも皺がより見るからに不機嫌そう。 らしくない、と霊夢は思うがだからと言ってわざわざ機嫌の悪い理由を聞く気にはなれない。 苛立っているシンに気を使った、わけではなく単純に面倒だからだ。 理由を話そうとしない以上無理に聞きださなくてはならないだろう、そこまでしてまで知りたい訳ではないのだ。 と、そんなことを考えていたら地面がぐらり、と揺れ出して。 「――――っと、また地震? 最近多いわね」 「大丈夫なのかよこの神社、その内崩れたりしないだろうな?」 「今崩れるのは困るね、僕が動けない以上神社と運命を共にしてしまう」 「この程度の地震じゃ崩れるわけ無いでしょ、と、収まったか」 数週間前に初めて地震が起こった時は流石の霊夢も慌てたのだが、それからは毎日のようにぐらりぐらりと揺れている。 今ではすっかり慣れてしまったのか、霊夢はおろか里の人間達も騒ぎ立てることもなかったりする。 それはシンも同じことだ、ああまたかとその程度の感想しかない。それ以上に今日の里の出来事でまた機嫌が悪くなってしまう。 面白くもなさそうにあの女狐めとぶつくさ呟いているシンの姿を呆れた目で霊夢は眺めていたが、やがて昨日のデスティニーの言葉を思い出す。 「まあいいいわ、どうでも。そんなことよりデスティニー、あんたシンに用があるんじゃなかったの?」 「確かにそうなのだが……バッジは君に預けてあるはずだが?」 「あれ、そうだっけ。んじゃ、ほい」 霊夢から小さい何かを投げ渡され、怪訝な顔で掴みまじまじと掌の中のそれが何なのかを見る。 しげしげとバッジを見ていたシンだが、それが何なのかを認識すると目を見開いて言葉を失う。 「――――」 「おお、同じ反応」 そんな昨日のデスティニーと同様の反応を見せるシンに霊夢は呑気な声を上げるが、シンからしてみれば霊夢に何か言う余裕なんてない。 ただただFAITHの証であるこのバッジが幻想郷にある驚愕とかつて自分がつけていたことへの懐かしさで声も出せない。 驚愕と懐かしさ、しかし胸にあるのはそれだけでは無く。ひょっとしたら、もしかしたら。そんな幾許かの期待が間違い無くあって。 「あの、霊夢。このバッジ」 「売っていい?」 「いや何言ってんだこの腋!? 駄目に決まってるだろ!」 チッ、と舌打ちされた。正論を言ったのにこの反応、まったくもって理不尽である。 思わず頭を抱えたくなったが、霊夢なりの冗談なのだろうと思い直し気持ちを切り替える。 どう見ても目がマジだった気がするがきっと気のせいだろう。 「………えっと、このバッジはどこから?」 「ん、昨日届いた。ほら、この手紙と一緒に入ってたのよ」 そう言うと霊夢は白玉楼から届いた手紙を懐から取り出しひらひらと振って見せた。 どこからの手紙なのか確認しようと、シンはひったくるようにして霊夢の手から手紙を奪う。 強引なやり方に霊夢がぶーたれるが無視。差出人の名前と内容を見る、が。 「…………………なあ、霊夢」 「何よ」 「読めないんだけど」 「………………あんた、文字が読めないほどのおバk」 「達筆過ぎるんだよ!!」 実際、手紙に書かれている書体は非常に美しいものだ、文字の美しさには疎いシンでもそれを感じさせるほど。 だがだからといって読みやすさとは全くの別問題。あまりの達筆振りに何と書かれているのかさっぱり分からない。 当然デスティニーも読めず、実のところ手紙の内容までは分かっていなかったりする。 全力のツッコミでぐったりとした雰囲気が漂っているが、どうにか気を取り直す。 「まあいいさ、霊夢は読めるんだろ?」 「当然。あんたみたいなおバカとは違うわよ」 「だーから頭は関係無いって言うに………ああ、もういい、バカでいいよ、話が進まない。で、なんて書いてあるんだ?」 霊夢の言葉に一々ツッコんでいたら話が進まない。いい加減で適当に流して霊夢に手紙の内容を確認しなくては。 そんなシンに霊夢は面白くなさそうな顔を浮かべるも、これ以上引っ張っても面倒なだけだと判断。 「かいつまんでだけど、いい?」 「大事なところを略さなけりゃな」 「チッ、読んでたか………ま、いいわ。簡単に言えばあんたの噂を聞いたから幽々子とお客さんがあんたに会いたいんだと」 霊夢の言葉にシンは意外そうな表情を浮かべるが、霊夢からしてみればそう意外な話でもない。 実のところ、シン・アスカという外来人の存在は幻想郷の識者には割かし知られている。 理由は当然ながら赤い館のU.N.オーエン、気の触れた吸血鬼にして悪魔の妹フランドール・スカーレットを打倒したこと。 シンからしてみればあれは勝利とは到底言い難いものだ、最終的に自分の足で立つことが出来なかったうえに彼女の脆さを最大限に利用したもの。 とてもじゃないが実力で勝ったとは言えないだろう、少なくとももう一度戦えば呆気なく負けることを予測している。 大体、勝ったのは自分ではなくデスティニーなのだから自分に注目されても、という思いがどうしてもある。 とはいえ、シンのそんな思いなど幻想郷の識者は当然ながら知る由もないのだが。 「んで、あんたの興味を引くためにこのバッジを入れた、そうよ」 「ふぅん………ま、そう言うことなら行くしかないじゃないか。で、そのお客さんの名前って?」 そこがシンにとっての最大の懸念事項。このバッジが送られてきたということは客人も十中八九FAITHだろう。 加えて白玉楼にいる、ということは幽霊である可能性、有り体に言うのならば故人である可能性が高い。 さらにはシンのことを知っており、会いたいと手紙をよこす存在。否が応でもそれは「彼」の存在をシンに思い起こさせる。 今もなお、彼の様な冷静さを纏おうと心がけている決して忘れることのできない存在。メサイア攻防戦で命を落とした、自分にとってかけがえのない親友。 レイ・ザ・バレル。 口さがない連中は利用していただけだと笑うが、自分は、いや、ルナマリアやヴィーノ、ヨウランは断じてそれだけではないと信じている。 彼には彼なりの想いがあって、口数こそ少ないが自分達と同様にお互いよき友人だと思っていたのだと。 公に口にすることはないがきっとアーサー艦長も同じように思っているだろう、人を見る目は自分達よりも確かなのだから。 望郷の念にとらわれ、胸が苦しくなってくるが首を軽く振ってその思いをひとまずは追いやる。 まずは白玉楼にいるのがレイなのかを確認する方が先決だ。シンの言葉を受けた霊夢はシンの手から手紙を奪い返すと手紙に目を落とし。 「ん………いや、名前は書いてないわね。さてはわざとかしら、あの性悪幽霊め」 「書いてない、そうか。いいさ、直接会って確かめればいいだけだしな」 そう言うとシンは気合を入れるように顔をぴしゃりと叩く。この辺りにはそれらしい場所は無かったのだ、それなりの距離があるはず。 夕飯までに帰ってこれればいいのだが、いや積もる話もあるのだからとてもじゃないが夕飯には間に合わないだろう。 先にアリスに話を通しておくべきか。そんなことを考えながら欠伸を噛み殺している霊夢に口を開く。 「霊夢、白玉楼はどこにあるんだ?」 「んー? 上に真っ直ぐ一、二時間ぐらいー」 「上………言いたいことは分かるけど、ちゃんと東西南北で答えろよな」 上ということはまあ北なのだろう。幻想郷の地図でも北を上にして描いていることだし。 霊夢が言った時間も飛んでの話、歩きとなると三時間、下手をすれば四時間はかかるのかもしれない。 デスティニーの力を借りればそれよりも早く行けるだろうが、あの状態ではとてもじゃないが動かすことは出来ない。 しかし急いで行けばなんとかなるはず、最悪アリスに黙って外泊することになるがそれはそれで仕方が無い。 そう勝手に決めて神社の階段を走り降りようとする、と、背中に霊夢の声がかかってきた。 「あー、何か勘違いしてるみたいだけど。白玉楼があるのは北じゃないわよ、上よ上」 「………………上?」 「そ。うえ」 人差し指をぴんと空に向かって立てる、その仕草で白玉楼のありかをはっきりと表していて。 北ではなく上、空のはるか高みに桜咲き誇るその楼閣は存在している。 その後も何度か諦め悪く自分一人でたどり着く方法を模索していたがどうやっても不可能と判断、素直に霊夢の退魔業を待つしか無く。 デスティニーが治るのを待ってデスティニーでいくという選択肢もあったのだが、それはやめておいた。 彼女が自身がMSであることに拘っていることは知っている、ならば足代わりに使うのはデスティニーに失礼だろう。 とはいえ、どちらにしてもそれはデスティニーの「ある機能」の調整に時間を食ってしまって出来なかったのだが。 急に変化する天候やら頻発する地震やらで色々とあり白玉楼を訪ねることが出来たのは手紙の存在を知ってから二週間がたってから。 シンが急くのも無理のない話である。 「別に急ぐ意味無いんだからゆっくりまったり行けばいいじゃない」 「用事あるんと違うか?」 ましてや本来先導すべき人物である霊夢がぐうたらしてばかりなのだから尚のことだ。 魔理沙達が何とも言えない目で霊夢のことを見ている、多分自分もそんな眼を浮かべていることだろう。 どうツッコミを入れてやろうかと考えていると、裾をちょいちょいと引っ張られて。 何かと思い振り向いてみるとすぐ側に魔理沙の顔が。少しだけ驚くが、それ以上に魔理沙の方が驚いていて。 「わ、わ」 「ちょ、危なっ!? 階段で急に動くなよな、落ちても知らないぞ?」 「お、おう、ありがとな」 後ろに転びそうになった魔理沙の腕を慌てて掴んで引っ張り上げる。 シンからしてみれば何でも無いことなのだが、シンの手の力強さが伝わり魔理沙は思わず赤面してしまう。 どうにかバランスを取って真っ直ぐ立つが顔の赤さは中々引いてくれない。 すぐにはどうにもならないと諦めて魔理沙は一つ咳払いをし。 「えっと。霊夢じゃないけどそんなに無理して急ぐこと無いんじゃないか。今のお前、見てて不安になってくるぜ」 「ン………いや、でもな」 「お前を呼んだのって、お前の友達なんだよな」 レイが幻想郷入りしていて、白玉楼から自分を呼んでいる。 はっきりそうと決まったわけではない、しかし相手は自分のことを知っている可能性が高い。 それに加えて白玉楼は冥界に存在している、そこに住まう者はやはり死を迎えた者たちなのだろう。 その上でFAITHなのだとしたら否応なしにレイの顔を思い浮かべてしまう。 レイの思惑はともかくとしても、少なくともシンはレイのことを親友だと思っている。 軽く頷いたシンに魔理沙も満足げに頷き返してきた。 「だったらさ、逃げたりするわけじゃないんだからそんな無理すること無いだろ」 ぐ、と言葉に詰まってしまう。確かに魔理沙の言う通りなのだ、そもそも手紙が送られてきてからもう二週間もたっている。 逃げようと思えばいくらでも逃げられる期間だ、しかし逃げるのならわざわざ手紙など寄越すはずもない。 だったら魔理沙の言う通り無理をする道理も無いということ。それは分かっている、自分でも無理をしすぎだとは思う。 だけど。だけど、それでもだ。 会いたい。結局はそこに行きつく。死に別れてしまった親友に会いたい、例えその口から発せられるものが罵倒なのだとしても会いたい。 レイは自分のことを親友だなんて思っていないのかもしれない、それでも会いたいものは会いたい。 ただ利用していただけ。本当は自分のことなど疎ましいと思っている。彼にはデュランダル議長さえいればそれでよかった。 そんな言葉がなんになる。そんなものはただの言葉でしかない。 どんなに言葉を重ねたって、シン・アスカはレイ・ザ・バレルという人間を親友だと未だに認識しているのだから。 「………けど」 「けど会いたい。まあそりゃ分かるけどさ、その………えーと?」 「レイ」 「そのレイって奴もお前に無茶して欲しくないって思うんじゃないか? 少なくとも私は、友達にはあんまり無茶してほしくないしな」 友達じゃない奴はいくら無茶しても知ったこっちゃないけどな、と魔理沙はおどけて笑う。 釣られてシンも笑いそうになるが、疲労で僅かに唇を持ちあげるのが精一杯。他のみんなもそうなのかと視線を向けると。 「ぶっちゃけどうでもいい………って睨まないでよ魔理沙、惚れたらどうするの」 「え、ほ、惚れるのか!?」 「ううん全然。ま、焦って会ってものんびり会っても結果がそんな変わるわけでもないでしょうに」 太平楽な霊夢らしい、しかし的を得たコメントに怒る気も失せてしまった。こんなことを臆面も無く言える彼女はある意味最強だと思う。 思うが、それでもシンは渋い顔で。そんな顔を浮かべるシンを仕方が無いなあと言いたげに早苗は人差し指を立てる。 「シンさんは友達だって思ってるんですよね、レイ・ザ・バレルさんのこと?」 「ああ、それは間違いなく」 「だったら待ってくれますって、ていうか、待たされた程度で怒るなんて友達じゃないですよ」 それはいくらなんでも適当すぎだろうとも思うのだが、しかし確かに待たされた程度で腹を立てるレイというのも想像できない。 彼女達の言う通り焦りすぎなのだろうか、そう思いながら黙っている残り二人をなんとなくちらりと見る。 ふんぎりがつかない、というわけではない。腹の内ではすでにどうするか決めている。 だからこそ、今度はデスティニーとアリスの反応も少し気になる、という悪戯めいた気持ちが湧いてきていて。 そんなシンの悪戯心を知ってか知らずか億劫そうに肩をすくめたのはデスティニーだ。 「僕は特に何も言うことは無いのだけれど」 「じゃあ言うなよ、って、悪かったよ、睨むなって。で、なんだよ」 「焦って会って、ちゃんとした話が出来るのかい? 僕は君がそんな上等な人間だとは思えないのだけれど」 「あー確かに。馬鹿なのにごちゃごちゃ考えすぎでしょ。単純馬鹿は単純馬鹿らしく行きなさいって」 霊夢の身も蓋もない言い草には少しカチンとくるものはあったけれど、確かにその通りなのだ。 デスティニーの言うようにシンは上等なわけではない、きっと言いたいことが空回りして気持ちの三分の一も伝えられない。 焦っていては尚のことだ、そのことに気付いているのに突き進もうとしていたのだから単純馬鹿と言われても仕方が無いだろう。 …………仕方が無いのだが、それでも腹は立つのでとりあえず二人の胸を嗤っておいた。 デスティニーと霊夢からアームロックを極められるシンに冷めた目を送りつつもアリスは何を言うべきか考える。 「えーと、なんか私もコメントしなきゃいけない空気だから言うけど」 他と被っていない方向性のアドバイス、且つうっかりシンから好意を向けられないであろう言葉。 考えた末に出した言葉は。 「重いわっ」 「え」 「友達に会うのに一々重くしてるんじゃないわよ、なに、あんた実はヤンデレ入ってる?」 いくら死別した友人だとは言えアリスから見てみれば執着しすぎである、いい加減疑っても罰は当たらないはずだ。 シンも痛いところを突かれたのか、ぐ、と押し黙ってしまう。 あくまでもレイとは純粋な友情のはず、流石にそう思われるのは心外だ。 心外だが、冷静に言動を思い返してみると疑わしい要素がちらほらと見え隠れしていて。 「そういうのはね、ごめーん待ったー? ってぐらいサクッとやっちゃえばいいのよ」 「いや流石にそういう女友達のノリはやりたくないぞ!?」 「う、うるさいわね、物の例えよ例え。普通に会えばいいのよ、普通に。一々劇的にしようとするから話がおかしくなる」 照れ臭いのか、早口気味にまくしたてるとそっぽを向いてしまった。どう反応した物か戸惑い頬をかくが、言いたいことは確かに伝わる。 不器用ではあるがこれもアリスなりの思いやりなのだろう。少女達からそんな思いやりを向けられているのにぐじぐじ言っているわけにもいかない。 「………分かったよ。少し、のぼせてた。心配掛けて悪かったな」 ぺこりと頭を下げたシンにようやく少女達―――主に魔理沙―――は安心したように肩から力を抜く。 頭を上げると軽く伸びをして、シンは気持ちを切り替えるように頬をぴしゃりと叩く。 「ただっ。止まったりはしないからな。急ぎはしないけど、歩いていこう」 まあ、それが妥当な落とし所だろう。ゆっくり歩いていけばシンの体力もある程度は元に戻る。 立ち止まっていたって結局シンが焦るだけ、それでは休んだとは言えない。 最適解とは言えない妥協案。しかしアリスの言うように一々劇的である必要はない。 劇的で誰もがそれしかないなんて思えるような最適の答えなんて思いつけないし思いつく意味もない。 妥協だろうがなんだろうがそれで進めるのなら良しとすべき、誰も傷つかないのなら最適で無くても最良だ。 それに霊夢だって本気でこの階段でのんびり腰掛けるつもりはないはずだ。 「えー。もうちょっと休んでいきましょうよ」 ………ないはずだ。きっと冗談のはずだ、きっとそう。 「ていうかもう帰らない?」 そのはずだ。 博麗神社のそれよりもさらに長い、石造りの階段を全員そろって上っていく。 疲れただの面倒臭いだの帰りたいだの不満たらたらな霊夢は最早アリスが無理やり引っ張っている形に近い。 そんな霊夢に苦笑しながらも早苗はシンのことをちらりと覗き見る。 先ほどまでの様な焦りこそないものの、それでもやはり無心に階段を上るその姿。 それだけ親友に会いたいということなのだということは分かっている、分かってはいるのだが。 不安げな早苗の視線に気付いたのか、シンは不思議そうに視線を返してきた。 まさか気付かれるとは思わずに慌てたように早苗は両手を横に振る。 「あ、いえ。えーと、その………そう、本当に友達なんだな、って」 「ん? ああ、まあね。死に別れてから大分経つけど、やっぱりそうそう忘れられるもんじゃあない」 屈託なく笑うシン、それだけレイとの再会が楽しみなのだろう。しかしその笑顔が真っ直ぐであればある程早苗の心は曇ってしまって。 シンはレイのことを友人だと言うが、しかし、そのレイ・ザ・バレルは彼のことを。 顔に出したつもりはなかったが、早苗の沈黙に何を言わんとしているのかを察したのかシンは軽く笑う。 「けど。レイはシンさんのこと友達だとは思ってなかったじゃないですか………か?」 自分が心で思っていたことを言い当てられ早苗はぐ、と言葉に詰まってしまった。 見透かされていたという思い以上に、シンの責めるでも咎めるでもない穏やかな口調に戸惑ってしまう。 しかし戸惑ったところで何かが変わるわけではない、確かにシンの言う通りだ。 シンはレイのことを友人だとは言うが、当のレイは彼のことを利用していただけではないのかという思いは早苗の中に根強く残っている。 「え、と。その」 「ああ、いいよ別に。気にするなって、俺は気にしないからさ」 気にするなとは言うが、しかしそれでも心に引っかかる物はどうしてもあって。 友情を疑われたのなら気を悪くするだろうに、なのに本当に気にしていない様子。 「別に、君に初めて言われたってわけじゃないからさ。まあ、うん。何度かはね、色んな人から言われてるよ」 のんびりと足を進めながら穏やかな表情で訥々と語るシンに欠ける言葉が見当たらずに神妙な顔で聞き入るしかない。 シンにとっては様々な感情が入り混じっているのだろう、表情から窺える感情は決して激しいものではなかったが静かなだけの物ではない。 ただ、色んな、と言った時不快そうに眉をしかめたのが印象深かった。 聞くべきではない、とも思うが気にならないと言えばやはり嘘になってしまう。 「あの、色んな人、って?」 「ん? まあ色んな人は色んな人だよ………テロリストとか、ね」 目を覚ませ、奴は利用していただけだ、そんな言葉にとらわれるな、我々と共に行こう。 反デュランダル派のテロリスト共からさんざん聞かされた言葉。シンからしてみれば大きなお世話だ、とそれ以上の言葉を言えない。 利用していた? そんなことは百も承知だ、言われなくったって分かっている。 分かった上で聞き返してやりたい。だったら、自分達と共にいた時レイが浮かべていた笑顔はなんだったのだ、と。 それすらも自分を利用するために浮かべていただけ? そうかもしれない、それを否定する材料なんてどこにもない。 だが、信頼のために笑顔は必要だったのか? レイは滅多に笑うことはなかった、正直自分が見たのは数えるほどしかない。 それでも彼を信じられたのはいつだって冷静で的確な言葉を投げつけてくるからこそだ。 加えて戦争を無くしたいという真摯で揺らぐことの無い意思。 極論ではあるが、彼の笑顔を見たことが無いのだとしてもシンはレイのことを親友だと胸を張って答えられる。 そう、笑顔は必要が無いこと、理と意思だけでも信頼を得ることは十分に可能。レイだってそのことには気付けるはずだ。 必要が無いこと、それでも彼は笑っていた、それはつまり「そういうこと」なのだろう。 もちろんそれすらもレイの計算づく、と言われれば否定は出来ない。しかしそこまで言ったら際限が無くなる。 だったら後は自分の心の問題だ。レイを信じられるか否か。選んだ答えはレイ・ザ・バレルはシン・アスカの親友という答え。 もしかしたらレイの上っ面しか見えていないのかもしれない、しかしそれでも自分の心の中にいるレイを信じたい。 確かに彼は目的のために自分を利用したが、戦争を無くしたいからこそ友人に力を貸して欲しいと考えたのだと信じている。 そんなことを思い出していたら早苗から心配そうな顔を向けられていることに気付いた。 少しぼうっとしていたらしいことに気付き苦笑、心配を拭うために笑える話でも提供すべきかと考え。 「ああ、後はルナにも言われたっけ、レイが友達だったのは事実だけど神格化しすぎるな、って」 「ルナマリアさん、ですか」 その名前を聞いてピコピコと揺れる赤いアホ毛を頭の中で想像する。奇跡の赤服だの誤射マリアだの狙いは完璧よ(笑)などの言葉も踊ったが。 彼女には様々な蔑称をつけられていることはシンには黙っているべきだろう、自分の恋人を罵られて流石に笑ってはいられないだろうから。 しかしシンから帰ってきた言葉は予想外な物で。 「うん、たまに赤いビッチとかブタマリア・ポークって言われてる」 「ちょ!?」 ケラケラと笑うシンに流石につっこまざるを得ない、恋人ではないのか。 「あーうん、何考えてるのかは分かるけど、正直笑い話なんだって。俺も聞いた時はむかっと来たけど」 「来たけど?」 「……………言った奴全員、ルナにブッ飛ばされたから」 「う わ あ」 本当にあの時は大変だった、クライン派のパイロットが陰口をたたいている場面に出くわしたからさあ大変。 全員男だったにもかかわらずブチ切れたルナマリアは全員漏れなく病院送りにしてのけた。 シンが止めなかったら人死にが出ていた可能性すらあったと思う。 言った連中はどうせいてもいなくても大差ない有象無象のパイロットだったのは幸いだったが。 とはいえ、そりゃもうこれでもかというほどにボコボコにされた彼らに少々同情はしないでもない。 ………あくまでも少々であり、自分含めてヴィーノやヨウランは大して同情はしていないのだが。 アカデミー以来の付き合いである友人を侮辱されて笑っていられるほどシンも無神経ではない。 それに、彼らの陰口にはシンやレイに対する物も含まれていたのだから尚更だ。 自分に対する物ではなく、むしろシンや、特にレイに対する言葉にルナマリアは強く反発しているように思えた。 そのことはルナマリアが言った、真っ当に生きていける奴に何が分かるんだという言葉から察することが出来て。 結局彼女だってレイのことを親友だと思っているのだ、だからこそああまで憤ったのだろうとシンは考えている。 「何と言うか、まあ………すごい話ですね」 「まあねえ。おかげでザフト兵にはルナに逆らう馬鹿なんて今となっちゃ一人もいないぞ?」 そうは言うが、決してルナマリアは他人の言葉に一々噛みついてくる凶暴な性格というわけではない。 彼女が反応するのは悪意を持って言われた時だけだ、そうでもなければ冗談で返してくる。 ヨウランが「そう言えばお前の行動って冷静にみるとビッチ臭がするよな、赤いビッチ(笑)」といった時にはやだーと笑いながら投げっぱなしジャーマンをかまし。 ヴィーノから「アスランがお前の名前呼ぶ時ブタマリアって聞こえるんだよな、ブタマリア・ポーク(笑)」といった時にはやめてよーと笑いながらスーパーウリアッ上を決め。 言うことが思いつかなかったのでとりあえず「赤ビッチのブタマリア(笑)」とシンが言った瞬間意識が飛び、気付いた時には見知らぬ病室の天井だった。 まあ概ねそんな感じで冗談を返してくる、ルナマリア・ホークとはそんな素敵な淑女である………たまに血の雨降らすけど。 「ふうん………恋人が強いって大変ですねえ」 「恋人か、はっはっは、ルナが恋人かあ!」 「え、何ですかその反応?」 はっはっは、と乾いた笑いをしばらく立てていたが、ぴたりと笑いやむと。 「自然消滅しましたが、何か」 「……………え、ええと。な、なんでそんなことに」 「分かんね。おかげで未だにどうて、と、これは関係ないか」 遠い目をするシンにどう声をかけた物か分からずに引きつった笑いを返すしかない。 まさか自然消滅していたとは。傷のなめ合いなんてそんなものか、と納得してしまうのもまた何とも。 とはいえ魔理沙を応援すると決めたのだから、シンとルナマリアには悪いが好都合とも言える。 納得はしたし好都合だと思う、のだが。同時にふと心の中で何かが呟くのを感じる。 本当に、完全消滅しているのだろうか? 当事者のシンが消滅したと言っている以上消滅したのだろうが、しかし彼の言葉からは肝心のルナマリア・ホークからの言葉が抜け落ちている。 それに加えて、シンの鈍さを考えると彼の自己申告は正直なところかなり怪しいものだ。 少し気になってしまい、そのことを聞くため口を開こうとした時。 「ああ、やっと来た。待ちかねたわよ、もう」 頭上からかけられる呆れたような声に思わず顔を上げる、見ればもう白玉楼の門が見えていて、そこには一人の少女が背筋を伸ばして立っていた。 どこかハイカラさを感じさせる緑色の上着とスカートを白いシャツの上から着こなし、首元には黒い蝶ネクタイを付けている。 青く透き通った瞳に軽くかかる銀の髪には黒いリボンのついたカチューシャをつけて、ごく自然な感じにさらりと流す髪型。 背中には先端に白い花がついた黒塗りの鞘に収まり、柄に豊かな白毛をあしらった刀―――楼観剣を結わえ付けている。 腰にはそれより少し短いもう一振り―――白楼剣が背中側に回されている。鞘からちらりと見えるその刀の文様はまるで儀式に用いられる物のよう。 そしてその背後にはふよふよと浮かぶ白い物体。ぷにぷに且つぽよぽよ、さらにはふわっふわな感触のそれは彼女の半身、半霊と呼ばれるもの。 白玉楼に住まう半人半霊の庭師、魂魄妖夢がようやく到着した来客に不機嫌そうな顔を浮かべていた。 そんな妖夢を見ても霊夢は悪びれた様子もなく、むしろ怒りを受け流すような態度のままで。 「へーいへい、ゴメンナサイネーっと」 「まったく………ほら、幽々子様が待っていらっしゃるんだから、さっさと行く」 「うーい」 「そうやって人の神経を逆撫でするものではないだろうに……失礼させてもらうよ」 「ええ、さっさと屋敷まで放りこんでください。自己紹介はまた後ほど」 相も変わらず呑気な霊夢を急かすが、まったく急ごうとしてくれない。 苦笑するデスティニーが仕方がなさそうに後ろから押してようやく人並みの速さといったところ。 まあ彼女の性格は今に始まったことではない、そう自分に言い聞かせて納得する。 ………それでも完全には納得しきれず、背中の半霊が不機嫌そうに暴れていたが。 そんな妖夢を面白そうに見ていた魔理沙が気さくに片手を上げて挨拶をした。 「おっす、お勤めご苦労さん。ところで髪型変えたか?」 「髪型には触れないで」 今の妖夢の髪型は、前髪を切って揃えている普段の彼女とは明らかに違っている。 決して魔理沙は髪型の変化に目ざといわけではないが、流石にこれぐらいは気付く。 魔理沙からしてみれば見て分かる変化を何気なく指摘しただけなのだが、魔理沙の予想に反して即座にぴしゃりと返してきた。 妖夢自体は無表情を装っているが、その表情からは何とも言えない微妙な苛立ちが感じられて。 どう反応していいのか分からずにぱちくりと目を瞬かせていたが、気を取り直したように妖夢が咳払いを一つ。 「というか。白黒、貴女も来てたの。正直呼んでないんだけどなあ」 「いーや、呼ばれたぜ? 行間からそれがビンビン伝わってきた」 「キノコ弄りすぎて幻覚の類でも見てるんじゃないの」 ばっさりと切り捨てるような妖夢の言葉にもどこ吹く風ですたすたと白玉楼の門を通ろうとする。 そんな魔理沙に唇を尖らせながらどうにか自分の味方をしてくれそうな人を探す。霊夢、は論外。絶対手伝ってくれそうにない。 ならば、と視線を向けるのは。 「アリス、貴女からもなんか言ってやってよ」 「言って聞く子じゃないことぐらい妖夢も分かってるでしょうに」 助けてくれるものと期待の目を向けたアリスに門を通りながら肩を竦められて、ぐ、と言葉に詰まってしまう。 確かにアリスの言う通り魔理沙は言ったぐらいで聞く奴ではないのだが、なにかこう、釈然としない。 釈然としない感情に腕を組んでいるとすでに門を通った魔理沙の不満の声が聞こえてきて。 「て、おい、なんで私は駄目でアリスはスルーなんだよ?」 「日ごろの行いって知ってる?」 「私が善人って意味だろ?」 「しっかり躾けておいてね、アリス」 ぶーぶー不満たらたらの魔理沙に呆れたように溜め息をつきながら顔を上げると、どう反応した物か困った顔を浮かべた早苗と目が合う。 誰なのだろうと少し考え込むが、幽々子から妖怪の山に神社ごと越してきた外の世界の住人がいるということを耳にはさんでいたことを思い出す。 だとするとこの巫女服から察するに、彼女がその神社の現人神なのだろう。 なんでその現人神が直接来るのだろうという疑問もないわけではないが、礼を失するわけにはいかない。 「ああ、貴女がお山の………お噂はかねがね。私、この白玉楼で庭師をしている魂魄妖夢です」 「あ、いえいえ、御丁寧にどうも。東風谷早苗です、お山で神様やってます………お茶菓子持ってきた方が良かったかな」 「いえいえ、お気になさらず。こちらこそ大したおもてなしもできずに」 「いえいえそんなこと。それにしたって立派なお屋敷ですねえ」 「時々立派すぎますけどね。掃除も中々時間がかかってかかって」 「あ、やっぱり。何かお掃除のコツってあります?」 完全に世間話に興じている早苗と妖夢に苦笑しながらもシンも白玉楼の門を通ろうとする。 が。妖夢が背中に背負った刀を鞘ごと抜くとシンの前を塞ぐように構えて。 「お前は通すわけにはいかないな」 じろりと睨まれてしまった。どうしたものかとぽりぽりと頬をかくがどうしていいのか分からない。 まさか白玉楼は男性が入ってはならない、なんて決まりはないはずだ。もしあるのなら霊夢がそうと伝えている。 …………伝えてくれると信じたい。それに、レイがここにいるのなら男子禁制なんてことはないだろう。 結局どうして通ってはならないのか分からず、妖夢に自分も客なのだということを証明するほかない。 「ええっと。いや、ここにいる俺の知り合いに呼ばれてきたんだけど」 「黙りなさいこの女の敵め!」 びしりとシンに指を突きつける妖夢、その言葉からは敵意がありありと感じられて。 しかしシンからしてみれば彼女が抱いている敵意は全く身に覚えが無い。 普段なら機嫌も悪くなりそうなものだが、戸惑いの方が強く出てしまいそれどころではない。 妖夢らしからぬ態度に魔理沙も疑問を感じているのか、シンの服の裾をちょいちょいと引っ張って不思議そうな顔を浮かべている。 「………お前妖夢になんかしたのか?」 「い、いや、間違い無く初対面のはずなんだけど?」 そう、初対面。名前だけなら霊夢から聞いた覚えはあるが会ったことは無いはずだ。 当然何かしたはずもないのだが、その割には彼女はシンのことを知っているようで。 首を傾げていると、そんなシンの態度に腹を立てたのか妖夢が言葉を続けてきた。 「咲夜さんから聞いているぞ、紅魔館のみんなのむ、胸を揉みしだいたと!」 ぐ、と呻いて言葉に詰まってしまう。そうなのだ、事故とは言え紅魔館のある特定の身体的特徴を持つ四人の胸にラキスケしてしまったのは事実。 弁明は無意味とは思うのだがここで黙ってしまっては通ることなんてできないだろう。 どうしたものかと考えていたシンだが、横から魔理沙が口を挟んできた。 「ちょっと待て、確かにそれは事実だけど……事故だぜそれ。私その場にいたからな、間違いない」 魔理沙の言葉に驚いたのか妖夢は目を丸くして魔理沙に念を押してくる。 そんな妖夢に仕方が無い奴と言わんばかりに魔理沙は肩をすくめる。 「シンだってその後すぐに謝ってたからな、妖夢が思ってるようなことじゃないぜ、なあシン」 「え、そ、そうなの?」 「ん、まあ、な。謝ったことは謝ったけど、それでもやっぱり俺が悪いと思うよ」 あの時のことを思い起こしてみると本当にひどい話である。不可抗力とは言え紅魔館の人々には色んな意味で迷惑をかけてしまった。 そのことを思い出しながらぽつりとシンは呟く。 「事故とは言えパチュリーさんの胸に顔面ダイブしたり咲夜さんと美鈴さんの胸に同時に手が当たったり小悪魔の胸を両手で触ったりしたからな」 「言い訳しようも無く女の敵だッ!!!!」 何か言いたそうにシンはしているが、言い返すべき言葉が見当たらない。 魔理沙も余計なことを言ったシンに呆れたようなジト目を向けてきている。 実際妖夢の言っていることはもっともである、女性の胸を触るなど事故とは言え許されることではないだろう。 大体事故で済ますには色々あまりにもミラクルすぎるし。 とはいえこのまま通れないというのも困る、どうしたものかと思い悩んでいると。 「双方の言い分は分かったわ、ここは穏便に済ましましょう」 二人の言葉を黙って聞いていた霊夢は一つ頷いてそう言うとシンと妖夢の間に立つ。 何をする気なのか、何を始めようとしているのか分からずに二人は訝しんだ目を霊夢に向ける。 そんな二人の視線を満足げに受け止め、霊夢はさっと両手を上げ。 「――――ファイッ」 開戦の言葉を高らかに叫んだ。
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79 :第三帝国:2013/11/30(土) 17 38 20 衝号ぬきの太平洋戦争~第12章「艦隊決戦」 戦闘はまず空ではじまった。 アメリカ側は自身の不利を知っていたので出せるだけの観測機を上げて、 照明弾を投下するつもりであったが、夜間戦闘機使用の『烈風』に阻まれ落とされるか逃げ回るかの選択を強要された。 夜間に空中戦をこなすクレイジーな光景に愕然とするアメリカ軍であったが、驚愕はまだ終わらない。 水上でも電探を有する日本がやはり先手を打ち、距離2万で戦艦『長門』『陸奥』『伊吹』『鞍馬』の4艦が一斉に砲撃を浴びせてきた。 夜間でしかも距離2万となると光学標準のみなら誤差が大きく、命中どころか挟叉に至るまで酷く時間がかかるだろうが、 だがこの世界では電探と連動させた射撃管制システムに、 トランジスタが実用化されたため実現された自動射撃管制装置等により、初弾で挟叉というとんでもない成績を出した。 (※参考43話:トランジスタの開発によって電子機器の小型化に成功した海軍は射撃システムそのものの自動化を進めていた。) おまけに発射速度も自動化されているお陰で今までのよりも早く、立ちあがる水柱がアメリカ艦隊を包んだ。 だが、覚悟を決めたキンメル提督は直ちに全艦ジグザグに航行して接近を図るように命じた。 これによりある程度回避することに成功したが既に観測機にまで観測されていたため、 丁字に押さえられていたこともあり先頭を走っていた『サウスダコダ』に砲撃が集中してスクラップへと変化してゆく。 何せ戦艦12、重巡洋艦10からの砲火を一身に受けているのでしかたがないことであった。 そして1万5000で何とか照明弾を落とすことに成功した味方の観測機のお陰で、 その全容を捉え、さらにサーチライトで旗艦『長門』を照らして砲撃を開始、同航戦に持ち込むべく進路を変更した。 しかし、サーチライトを照らしたことで日本側の射撃精度がより向上して『サウスダコダ』は大破炎上しつつあり、 おまけに日本側は足が速く、同航戦などせずそのまま頭を押さえて殲滅するつもりであった。 だが夜間照明弾で海面が照らされ、サーチライトで相手を捉えたことで『長門』に2発の命中弾を得ることに成功。 80 :第三帝国:2013/11/30(土) 17 39 03 1発は煙突付近に着弾、速度が低下しマストをなぎ倒したせいで通信が一時的に不能に。 2発目は艦尾の非装甲区画を突き破りスクリューと舵に損傷を与えて艦の進路がアメリカ側に寄るような形になった。 継続する艦は『長門』の異常に気付かぬまま自然と同航戦へと移行してしまう。 気付いた時は遅く、アメリカにとって待ち望んだ至近距離での殴り合いをする羽目になった。 もっともその状況を作った『サウスダコダ』は大破漂流で脱落してしまい、後を残りの9隻に託した。 一方、日本側の水雷戦隊の戦いが味方の戦艦の砲撃に合わせて開幕を告げた。 ギリギリまで砲撃を禁止して密かに接近を図る日本側であったが、距離9500でアメリカの補助艦艇群に発見されお互い激しい砲火を交わす。 立ち上る水柱が艦橋を濡らし、打ち上げられる星弾、硝煙の香りで怯むどころかこれぞ夜戦とばかりに士気は高揚し、 『艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー』『ギッタギッタにしてあげましょうかねぇ~~!!』『雷ちゃんと電ちゃんのおしっこだあああ!!』と咆哮する。 数で日本側が圧倒し、電探統制射撃に対空射撃も想定しているため各駆逐艦、 巡洋艦の主砲の発射速度も早く火力の面でアメリカ側を押していた。 それだけでなく重雷装艦のスーパー北上さまこと『北上』に『大井』、第1水雷戦隊から放たれる予定の128本もの酸素魚雷。 他にも第2艦隊所属の第3、第4水雷戦隊、各防空戦隊から放たれる魚雷を数えれば実に250本近くになる。 アメリカに不幸であったのは目視だけでなく電探で連動して狙う上に半数が誘導魚雷と実に不運としか言いようがなかった。 が、それでもアメリカ海軍は奮闘し、接近している事もあり日本側に多数の被弾を受ける。 特に第2防空戦隊の旗艦『神通』には火災が発生したせいで砲火が集中し大破、指揮権を次艦の駆逐艦『雪風』に譲渡。 『三隈』には艦橋に20サンチ砲弾が飛び込み艦長以下艦橋要員が全滅してしばらく迷走することになる。 だが、そうした損害を前提に至近距離から魚雷を放つことのみを海軍人生の全てを掛けて来た男たちは、距離6000で斉射。 接近したさいと同様に全力で反転し、特型駆逐艦では魚雷の再装填を急がせる。 そしてタイマーを手にした水雷長の「じかーん!」という潮風でしわがれた声が響くと閃光が闇を照らした。 連続して轟音と水柱が上がり、アメリカの重巡洋艦、駆逐艦で構成された23隻の艦隊は全滅に等しい被害を被った。 『史実』のように酸素魚雷の遠距離からの雷撃にこだわるあまり、 信管の不調による早爆に、遠距離ゆえの命中率の低さなどを戦訓にした至近距離から雷撃に耐えられる艦はなかった。 だが、流石ダメコンの本家アメリカというべきか艦首を砲塔ごと吹き飛ばされても浮かぶ重巡洋『シカゴ』など、 生存する艦船が存在していたが、例え轟沈しなくても誘導魚雷で舵やスクリューを破壊された艦がかなりの数にのぼり、もはや戦闘力を喪失したのと同意義であった。 対する戦艦同士の殴り合いでは、やや違った光景が見られた。 戦艦12対9で日本側が有利であったが1万5000以下の距離で殴り合う羽目になった上に、 アメリカ側が全力で星弾を放ち、夜間を昼間のごとく照らしているので電探がなくても奮闘できた。 脱落した戦艦『サウスダコダ』の代わりに戦艦『コロラド』が陣頭指揮に当たり、再度サーチライトを『長門』に照射させる。 81 :第三帝国:2013/11/30(土) 17 39 56 そのお陰で『コロラド』自身の4発、さらに残り8隻の戦艦群からの集中砲火を浴びた『長門』が大破脱落。 爆沈しなかったのは、2番砲塔の天蓋をたたき割られてたが直ぐに主砲弾薬庫に注水を行ったためである。 しかし、損害は大きく傾斜し、黒煙をたなびかせてあちこちから炎を噴き出す酷い有様であった。 指揮権を次艦の戦艦『陸奥』に譲渡とすると『陸奥』は姉の仇とばかりに直ちに報復の一撃を加える。 相手は、戦艦『コロラド』で対14インチ程度の防御しかなく、しかもこの時距離が近かったせいで3斉射で大破。 SHS(スーパーヘビーシェル)に相当する砲弾を日本側が採用していたため更に一撃を受けて速度を落として脱落する。 このころになる各艦がそれぞれの艦に狙いをつけるようになり、 さらに『ウェストバージニア』『メリーランド』も同じ16インチ砲ながらも、 新鋭戦艦である『伊吹』『鞍馬』の猛射を受けて被害を拡大させる。 『伊吹』型は16インチ三連装砲2基6門を前部に集中配備した特異な艦で、 1万5千~1万8千においては米戦艦の装甲を十分に貫通することができる能力を持っていた。 それでもお互い16インチ砲と言う事もあり日本側も『伊吹』の1番砲塔が破壊され、火力が減少など相応に被害を受ける。 だが新鋭戦艦なだけに防御力は高く『伊勢』『日向』のみならず『陸奥』が主砲を向け出すとアメリカの旧式戦艦は苦戦を余儀なくされる。 『扶桑』『山城』『金剛』『比叡』と戦っている、 『テネシー』『ニューメキシコ』『アイダホ』『ミシシッピ』も押され気味、 というよりもスクラップにされつつも何とか『扶桑』『山城』に命中弾を与えて中破判定の被害を与えることに成功した。 『霧島』『榛名』を相手にする『ニューヨーク』『テキサス』はもはや奇跡とかしか言いようがない善戦で。 『ニューヨーク』は大破しつつも『霧島』の艦橋を損傷させ大破、電気系統の故障で射撃不能となり『霧島』は大破漂流。 が、怒りに燃える『榛名』の電探射撃を受けて沈黙を余儀なくされ、『テキサス』は何とか命中弾を浴びせてお互い中破に持ち込むが先に根負けするのは『テキサス』であろう。 82 :第三帝国:2013/11/30(土) 17 41 14 アメリカ側の被害は、 『サウスダコダ』『コロラド』『ニューヨーク』の大破 『ウェストバージニア』『メリーランド』『テキサス』 『テネシー』『ニューメキシコ』『アイダホ』『ミシシッピ』の中破 日本側の被害は、 『長門』『霧島』の大破、 『伊吹』『扶桑』『山城』『榛名』の中破 等とキルレシオは日本側に有利だが当初の楽観的な予想を覆すものであり、合衆国海軍の意地を知る羽目になった。。 しかし、日本側の重巡洋艦からの砲撃でアメリカの戦艦群は装甲こそ貫通されないが非装甲区画が続々と破られてゆく。 副砲で『鳥海』『古鷹』『那智』を中破に追い込むなどするが、重巡洋艦10隻からの砲撃でジリジリと削られる。 主導権は日本側にあったが、このままだと唯でさえ少ない戦艦にさらに被害を拡大するのでは? そう焦りを生みだし、どうすべきか判断に迷ったがここで乱入者、水雷戦隊が現れる。 「天佑、今まさに我らにあり。全艦突撃せよ!」 第1水雷戦隊の司令官、木村昌福の命令の下、第3、第4の再装填を済ませた特型駆逐艦と防空戦隊、重雷装艦が砲火の中を突撃。 戦艦との殴り合いに集中していたアメリカ側が気付いた時は遅く、慌て副砲を放つがどの艦も損傷が激しかったせいでその数も少ない。 逆に夢にまで見た戦艦への雷撃に心を躍らせた水雷屋たちは6000どころか距離5000で一斉に雷撃を敢行。 150本近い雷撃の結果、全艦轟沈、全艦全滅という後々まで語り継がれることになる光景が演出された。 残るは早期に脱落した『サウスダコダ』と『コロラド』のみとなり、あらゆる火器が集中する。 駆逐艦の主砲からすら撃たれる中、辛うじて発砲可能な主砲で反撃し『サウスダコダ』の砲弾が戦艦『伊吹』の残った砲塔を破壊させ大破に追い込む。 さらに、『コロラド』と共同で『陸奥』にも中破判定の被害を与えることに成功したがそれまであった。 大小無数の命中弾で『コロラド』の電気系統が完全に停止し砲火を浴びつつゆっくりと転覆して沈没。 『サウスダコダ』は元々大破していたが、3番砲塔の主砲弾薬庫が水中弾となった一発で引火、大爆発。 誰もが終わりを悟ったのか刹那、戦場で砲火が止む。 そしてここまで奮闘した敵旗艦の最後を見ようと固唾をのんで見守る。 『サウスダコダ』は何度も爆発を繰り返し、軋む艦首をゆっくりとを持ち上げてゆく。 やがて90度近くも持ち上がった『サウスダコダ』は静かに海に沈んだ。 そして、ここにミッドウェー海戦が終了した。 次話:第13章「終結、MI作戦」:目次
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海舟全集第9巻 鶯谷庵独言 おれが此一両年、始て外出を止められたが、毎日毎日諸々の著述、物の本、軍談、また御当家の事実、いろ〳〵と見たが、昔より皆々、名大将、勇猛の諸士に至まで事々に天理を知らず諸士を扱ふ事、又は世を治るの術、乱世治世によらずして、或は強勇にし、或はほふ悪く、或はおごり女色におぼれし人々、一時は功を立るといへ共、久しからずして天下国家をうしなひ、又は知勇の士も聖人の大法に省く輩は始終の功を立ずして、其身の亡びし例をあげてかぞへがたし。和漢とも皆々天理にてらして君臣の礼もなく父兄の愛もなくして、とんよくきょうしゃ故に全き身命を亡し、家国をもうしなふ事、みな〳〵天の罪を受る故と、初めてさとり、おれが身を是までつゝがなくたもちしはふしぎだと思ふと、いよ〳〵天の照鏡をおそれかしこみて、なかなか人の中へも顔出しがはづかしくて出来ずと思ふは、去ながら昔年、暴悪の中よりして多くの人を金銀をもおしまず世話をしてやり、又人々の大事の場合も助けてやったから、夫故に少しは天の恵みがあった故、此様にまづあんのんにしているだらふと思ふ。息子がしつまい故に、益友をともとして、悪友につき合ず、武芸に遊んでいて、おれには孝心にしてくれて、よく兄弟をも憐み、けんそにして物を遣はず、麁服をもはぢず麁食し、おれがこまらぬよふにしてくれ娘が家内中の世話をしてくれてなきもおれ夫婦が少しも苦労のないよふにするから今は誠の楽隱居になった。おれのよふな小供が出来たらば、ながく此楽は出来まいと思ふ、是もふしぎだ。神仏には捨られぬ身と思ふ。孫や其子はよく〳〵義邦の通りにして子々孫々のさかえるよふに心がけるがいゝぜ。年は九歳からは外の事をすてて、学文して武術に昼夜身を送り諸々の著述本をみるべし。へたの学問よりははるか増だから女子は十歳にもなったらば髪月代を仕習て、おのれが髪も人手にかゝらぬよふして縫はりし、十三歳ぐらゐよりは我身を人の厄介にならぬよふして手習などもして人並に書く事をすべし。他へかしても事をかゝず一家を治むべし。おれが娘は十四歳のときから手前の身の事は人の厄介になった事はない。家内中の者が却々世話になる。男子は五体を強よくして、そしきをして武芸骨をり一芸は諸人にぬき出ていを逞ましくして旦那の為には極忠をつくし親の為には孝道を専らにして妻子にはじあいし下人には仁慈をかけてつかひ勤をばかたくして友達には信義をもって交り専らにけんやくしておごらず、そふくし益友には厚くしたひて道をきゝ師匠をとるなら業はすこし次にても道に明らかして俊ぼくの仁をゑらみて入門すべし。無益の友は交るべからず。多言を云事なかれ。目上の仁は尊敬すべし。万事内輪にして慎み祖先をまつりてけがすべからず。勤は半時早く出べし。文武を以て農事と思ふべし。少しも若き時はひまなきよふ道々を学ぶべし。ひま有時は外魔が入て身をくづす中だちの遊芸にはよる事なかれ。年寄は心して少しはすべし。過ればおのれのよふになる。庭へは諸木を植ず畑をこしらへ農事をもすべし。百姓の情をしる。世間の人情に通達して心にをさめて外へ出さず守べし。人に芸の教受せば弟子を愛して誠を尽し気に叶ぬものには猶々丹誠を尽すべし。ゑこの心を出す事なかれ。万事に厚く心を用ひする時は天理にかなひて、おのれの子孫に幸あらん。何事も勤と覚らば、うき事はなかるまじ。第一に利欲は絶つべし。夢にも見る事なかれ。おれは多欲だから今の姿になった。是は手本だ。高相応に物をたくわへて、若、友達か親類に、ふ慮の事があったならば、をしまず、ほどこしやるべし。縁者はおのれより上の人と縁組べからず。成丈にひん窮より相談すべし。おのれに勝るとおごりかって家来はびんぼう人の子を仕ふべし。年季立たらば分限の格にして片付てやるべし。女色にはふけるべからず。女には気を付べし。油断すると家を破る。世間に義理をばかくべからず。友達をば陰にて取なすべし。常住坐臥とも、にうはにして家事を治め主人のいかうをおとすことなし。せいけんの道に志て万慎みて守るときは一生安穏にして身をあやまつ事はなかるまじ。おれは是からはこの道を守心だ。なんにしろ学問を専要にして能く上代のをしへにかなふよふにするがいゝ。随分して出来ぬ事はないものだ。それになれると、しまひには、らくに出来る物だ。けっして理外の道へいることなかれ。身を立、名をあげて、家をおこす事はかんじんだ。譬へばおれを見ろよ。理外にはしりて人外の事ばかりしたから祖先より代々勤めつゞいた家だが、おれがひとり勤めないから家にきづを付た。是が何寄の手本だは。今となりて覚て、いく様も後悔をしたからとて、しかたがない。世間の者には悪輩の様にいわれて持てゐた金や道具は、かしとりにあいて夫を取にやれば隠居が悪法で拵らへた道具だから何返すに及ずといふし、金もまた其の心持で居るから、ろくに挨拶もせずによこさぬは。悟ば向ふが尤と思ふ。よい。かよふの事が出ても人をばうらむものではない。みんなこちちのわるいと思ふ心がかんじんだ。怨敵には恩を以てこたへば間違はない。おれは此度も頭よりおしこめられてから取扱のものどもをうらむだが、よく〳〵考へて見たらば、みんなおれが身より火事を出したと気がついたから、まいばんまいばん罪ほろぼしには、ほけ経をよんで陰ながら、おれにつらく当ったと、おれが心得違た仁々は、りっしんするよふに祈てやるから其せいか此ごろはおれの体も丈夫になって家内のうちに、なにもさいなんもなく親子兄弟とも一言のいさかひもなく毎日〳〵笑てくらすは誠に奇妙のものだと思ふから子々孫々も、こふしたらば、よかろふと気がつゐた故に、ひまにあかして折々出付た。善悪の報ひをよく〳〵あぢはふべし。恐多くも東照宮の御幼少の御事、数年の御なんせん故に、かくの如くに太平つづき、万事さかへるうれひ忘れ、妻子をあん楽にすごし、且は先祖の勤苦、思ひやるべし。夫より子孫はふところ手をして先祖の貰た高を取うけて昔を忘れて美服をき、美味をくらひ、ろくの御奉公をも勤めざるは不忠不義ならずや。ここをよくおもって見ろ。今の勤めは畳の上の畳事だから少もきづかひがないは万一すべってころぶ位の事だ。せめては朝は早く起き其身の勤にかゝり夜は心を安じて寝て淡白のものを食し、おごりをはぶひて諸道に心をつくし不断のきるいは破れざれば是として勤の服はあかのつかざれば是とし家居は雨もらざればよしとし畳きれざれば是として専らに、けん素にして(脱落有り)よくはすべからず。倹吝の二字を味をふてすべし。数巻の書物をよんでも心得が違ふと、やろふの本箱字引になるから、ここを間違ぬよふにすべし。武芸もそふだ。ふころの業を学ぶと支体かたまりて、やろふの刀掛になる故、其心すべし。人間になるにも其通りだ。とくよく迷ふと、うはべは人間で心は犬猫もどふよふになる。真人間になるよふにい心懸るが専一だ。文武諸芸ともみな〳〵学ぶに心を用ひざれば、不残このかたわとなる。かたわとなるならば学ばぬがましだ。よくよくこの心を間違ぬよふに守が肝要だ。子々孫々とも、かたくおれがいふことを用ゆべし。先にもいふ通り、おれは之までも、なんにも文字のむつかしい事はよめぬから、こゝにかくにも、かなのちがひも多くあるから、よく〳〵考へてよむべし。 天保十四寅年の初冬、於鶯谷庵かきつゞりぬ 左衛門太郎入道 夢酔老 気心は勤身 気はながくこゝろはひろくいろうすく つとめはかたく身をばもつべし 外に まなべたゞゆふべになろふみちのべの 露のいのちのあすきゆるとも おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまり有まいとおもふ故に孫やひこの為に、はなしてきかせるが、能く不法もの、馬鹿者のいましめにするがいゝぜ。おれは妾の子で、はゝ親が親父の気にちがって、おふくろの内で生れた。夫をほんとふのおふくろが引取て、うばでそだてゝくれたが、がきのじぶんよりわるさ斗して、おふくろもこまったと云事だと。夫におやぢが日きんの勤め故に内には居ないから毎日〳〵わがまゝ計りいふて、強情故みんながもてあつかった、と用人の利平次と云ぢゝいがはなした。其時は深川のあぶら堀といふ所に居たが、庭に汐入の池が有て、夏は毎日〳〵池にばかりへは入てゐた。八ツにはおやぢが御役所より帰るから、其前に池より上り、しらぬ顔で遊んで居たが、いつもおやぢが池のにごりてゐるを、利平ぢゝにきかれるとあいさつに困ったそふだ。おふくろは中風と云病ひで、立居が自由にならぬ。あとはみんな女計りだから、ばかにして、いたづらのしたいだけして、日をおくった。兄きは別宅していたから、なにもしらなんだ。おれが五つの年、前町の仕事師の子の長吉といふやつと凧けんくゎをしたが、向ふは年もおれより三つばかり多きい故、おれが凧をとって破り、糸もとりおった故、むなぐらを取て、きりいしで長吉のつらをぶった故、くちびろをぶちこはして、血が大そう流れてなきおった。そのときおれが親父が、庭の垣根から見ておって、侍を迎ひによこしたから、内へかへったら、親父がおこって、人の子にきづをつけてすむかすまぬか。おのれのよふなやつはすておかれずとて、椽の柱におれをくゝして庭下駄であたまをぶちやぶられた。いまにそのきづがはげて、くぼんでゐるが、さかやきをする時は、いつにてもかみすりがひっかゝって血が出る。そのたび長吉の事を思ひ出す。 おふくろがほふほふより来たくゎしをしまっておくと、ぬすみ出して食てしまふ故、方々へかくしておくを、いつもぬすむ故、親父にはいはれず、こまった。逸體はおふくろがおれをつれて来た故、親父には、みんなおれがわるいたづらは、かくしてくれた。あとの家来はおふくろをおそれて親父におれが事は少しもいふことはならぬ故、あぼれほふだいそだった。五月あやめをふきしが、一日に五度までとって、しよ婦打をした。利平おやぢが、あんまりだといって親父にいつけたが、親父がいふには、小供はげんきでなければ医師にかゝる病人になるは。いく度もふき直し菖蒲を沢山買入れよといった故、利平も菖蒲がなくて困った、とおれが十六七才のときはなした。このおやぢも久しくつとめて兄の代には信濃国までも供して行おったが、兄きがつかった侍は、みんな中間より取立て信州五年づめの後、江戸にて不残、御家人のかふを買てやられたが、利平は隠居して、かぶの金を貰って、身よりの処へかかりて、かねを不残、其やつにとられてしまった。兄きの家へ来たが、ほふばいがじゃまにしてかあいそうだから、おれが世話をして、ぼふづにし千ケ寺にだしてやったが、まもなく又きたから谷中のかんのふ寺の堂ばんにいれておいたが、ほどなく死におったよ。おれが三十ばかりのときだ。 おれ七ツのとき、今の家へ養子にきたが、そのとき十七歳といって、げしぼふずの前がみをおとして、養家の方で小普請支配石川右近将監と組頭の小尾大七郎に、初て判元の時にあったが、其時は小吉といったが、頭が、年は幾つ。名はなんといふ、ときゝおった故、名は小吉。年は当十七歳、といったら、石川が大きな口をあいて、十七にはふけた、とてわらいおった。其時は青木甚平と云大御番、養父の兄きが取持をしたよ。 おれが名は亀松と云。養子にいって小吉となった。夫から養家には祖母がひとり、孫娘がひとり、両親は死んだ後で、不残深川へ引取り、親父が世話をしたが、おれはなんにもし知らずに遊んでばかり居た。此年にたこにて前町と大けんくゎをして、先は二三十人ばかり。おれはひとりでたゝき合、打合せしが、ついにかなはず、干かばの石の上においあげられて、ながさをでしたたかたゝかれて、ちらしがみになったが、なきながら脇差を抜て、きりちらし、諸せんかなはなく思たから、腹をきらんと思ひ、はだをぬひで右の上にすはったら、其脇に居た白子やと云米屋がとめて、内へおくって呉た。夫よりしては近所の小供が、みんなおれがてしたになったよ。おれが七つの時だ。 深川のやしきもたび〳〵のつなみ故、本所へやしき替へをおやぢがして、普請のできるまで駿河台の太田姫稲荷の向ふ若林の屋敷を当分かりて居たり。其やしきは広くって庭も大そふにて隣に五六百坪の原があったが、ばけ物やしきとみんながはなした。おれが八つ計の時に、親父が内中のものをよんで、其原に人の形をこしらへて、百ものがたりをしろといった故、夜みんながその隣の屋敷へひとりづゝいって、かのばけものゝ形の袖へ名を書たふだを結付て来るのだが、みんながこわがって、おかしかった。一ばんしまひにおれが行ばんであったが、四文銭をみがきて人の形の顔へ目にはりつけるのだが、夫がおれがばんにあたって夜の九つ半ぐらゐだと思たが、其晩はまっくらでこまったが、とふとふ目を付て来たよ。みんなにほめられた。 おれが養家のばゝどのは、若い時からいぢがわるくって、両親もいぢめられて、夫故に若死をしをったが、おれをまい日〳〵いぢめをったが、おれもいまいましいから、でほふだいに、あくたいをついたが、その時親父が聞付て、おこっておれに云には、年もゆかぬに、ばゝさまにむかって、をのれのよふな過言を云やつはない。始終が見届けない、とて脇差を抜て、おれに切付たが、清といふ妻はあやまってくれたっけ。 翌年、よふ〳〵本所のふしんが出来て、引越たが、おれがゐる所は表の方だが、はじめてばゝどのと一所になった。そふすると毎日やかましいことばかりいひをったが、おれもこまったよ。不断の食ものも、おれにはまづいもの計くはして、にくいばゝァだと思て居た。 おれは毎日〳〵そとへ計り出て遊んで、けんくゎばかりして居たが、或時亀沢町の犬が、おれのかっておゐた犬と食合て、大げんくゎになった。そのときは、おれが方は、隣の安西養次郎と云十四計のがかしらで、近所の黒部金太郎、同兼吉、篠木大次郎、青木七五三之助と高浜彦三郎におれが弟の鉄朔と云ふと八人にて、おれの門の前で町のや郎たちとたゝき合をした。亀沢町は緑町の小供を頼んで、四五十人計だが、竹槍を以て来た。こちらは六尺棒、木刀、竹刀にてまくり合しが、とふ〳〵町のやつらを追かへした。二度めには向ふにはおとながまじって、又〳〵たゝき合しが、おれが方がまけて、八人ながら隣の滝川の門の内へはいり息をついたが、町方では勝にのって門を丸太にてたゝきおる故、また〳〵八人が一生けん命になって、こんどはなまくら脇差を抜て門を開いて不残切り立しが、其のいきおひにおそれ、大勢がにげおった。こちらは勝にのって切立しも、おれが弟は七つ計だがつよかった。一番におっかけたが、前町の仕立屋のがきに弁治と云やつが引返し来て、弟の手を竹やりにてつきおった。其時おれがかけ付て、弁治のみけんを切たが、弁治めがしりもちをつき、どぶのなかへおちおった故、つゞけうちにつらを切てやった。前町より小供の親父らが出てくるやら大さわぎさ。夫から八人が勝どきを揚て引返し、滝川の内へはいり、互ひによろこんだ。そのさわぎを、親父が長屋の窓より見て居て、おこって、おれは三十日計り目通止られ、おしこめにあった。弟は蔵の中へ五六日おしこめられた。 九ツの時、養家の親類に鈴木清兵衛と云御細工所頭を勤める仁柔術の先生にて一橋殿、田安殿始、諸大名、大勢弟子を以て居る先生が横網町と云所に居る故、弟子になりにゆくべしと、親父が云故いったが、三八五十の稽古日にて、はじめて稽古場へ出て見た。始は遠慮をしたから段々いたづらを仕出し、うち弟子ににくまれ、不断ゑらきめにあった。或日稽古に行と、ばんの木馬場と云所にて、前町の小供、其おやどもが大勢あつまって、おれが通るを待って居る。一向にしらずして、其前を通りしが、それ男谷のいたづら子がきた。ぶちころせ、とのゝしりおって、竹鎗、ぼうちぎりにて、とり巻しが、直に刀を抜てふりはらひ〳〵、馬場の土手へかけ上り、御竹蔵の二間計りのぬま堀へはいり漸々にげ込しが、其時羽織はかまなどが泥だらけになりおった。夫から御竹蔵番の門番は、ふだん遊びに行故に、いろいろ世話をしてくれたが、内へかへる気がひがある故、たのんでおくって貰た。四五十人ばかりまち伏をしおった。大まなめにあった。その後は二月ばかり亀沢町はとほらなんだが、同町の縫はくやの長と云やつが、門の前を通りおったから、なまくら脇差にてたゝきちらしてやったが、内の中間が漸々とめて、辰の内へつれていって、はんの木馬場のしかへしのよしをそのや郎のおやによくいったとさ。夫よりは亀沢町にておれに無礼をするものはなくなったよ。 柔術のけいこ場で、みんながおれをにくがって、寒げいこの夜つぶしと云事をする日、師匠からゆるしがでて、出席の者が食いものをてん〳〵にもち寄てくふが、をれも重箱へまんぢうをいれていったが、夜の九ツ時分になると、稽古をやすみ、皆々持参のものを出してくふが、おれもうまいものをくってやらふと思って居ると、みんなが寄って、おれを帯にてしばって天上へくゝしあげおった。其下で不残寄おって、おれがまんぢうまでくひおる故、上よりしたゝかおれが小便をしてやったが、取ちらした食ものへ小便がはねおった故、不残捨てしまひおったが、その時はいゝきびだとおもったよ。 十の年、夏、馬の稽古をばしはじめたが、先生は深川菊川町両番を勤める一色〳〵幾次郎と云師匠だが、馬場は伊予殿橋の六千石とる神保磯三郎といふ人の屋敷で稽古をするのだ。おれは馬がすきだから、毎日〳〵門前乗をしたが、二月めに遠乗にいったら、道で先生に逢ってこまった故、横町へにげこんだ。そふすると先生が、次の稽古にいったら、こゞとをいひおった。まだくらもすわらぬくせに、以来はかたく遠乗はよせ、といひおった故、大久保勘次郎と云先生へいって、せめ馬の弟子入したが、この師匠はいゝ先生で、毎日木馬に乗れとて、よくいろ〳〵をしへて呉たよ。毎月五十くら乗をすべしとて、借馬引にそふいって、藤助・伝蔵・市五郎といふやつの馬をかり、毎日〳〵馬にばかりかゝっていたが、しまひには馬を買て、藤助にあづけておいたが、火事には不断でた。一度、馬喰町の火事の時、馬にて火事場へ乗込しが、今井帯刀と云御使番にとがめられて、いつさんににげたが、本所の津軽の前までおっかけおった。馬が足が達者故とふ〳〵にげおふせた。あとで聞ば、火事場は三町手前よりは火元へ行ものではないといふ事だよ。 壱度、すみだ川へ乗行しが、其時は伝蔵といふ借馬引の馬をかり乗たが、土手にて一さんにおひちらしたが、どこのはづみか、力皮がきれて、あぶみを片っぼ川へおとした。其まゝ、かたあぶみで帰たことがある。 十一の年、駿河台に鵜殿甚左衛門と云剣術の先生がある。御簾中様の御用人を勤む、忠也流、一刀流にて銘人とて、友達が咄しをった故、門弟になったが、木刀の形ばかりをしへをるゆへ、いゝことにおもってせいを出しいたが、左右とかいふ伝受を呉たよ。其稽古場へ、おれが頭の石川右近将監のむすこがいでしが、おれの高や何かを能しっている故、大勢の中で、おれが高はいくらだ、四十俵では小給者だとって笑ひをるが、不断のこと故、おれも頭の息子故内輪にしておいたが、いろ〳〵ばかにしおる故、或とき木刀にて思ふさまたゝきちらし、あくたいをついて、なかしてやった。師匠にひどくしかられた。今は石川太郎左衛門とて御徒頭を勤めているが、古狸にて、今になんにもならぬ。女を見たやうな馬鹿野郎だ。 十二の年、兄きが世話をして学問をはじめたが、林大学頭の所へ連れ行やったが、夫より聖堂のき宿部や保木巳之吉と佐野郡左衛門と云きもいりの所へいって、大学をしへて貰たが、学問はきらひ故、毎日〳〵さくらの馬場へ垣根をくぐりていって、馬ばかり乗ってゐた。大学五六枚も覚しや。両人より断わりし故、うれしかった。 馬にばかり乗りし故、しまいには銭がなくなってこまったから、おふくろの小遣又はたわいの金をぬすんでつかった。 兄きが御代官を勤めたが、信州へ五ケ年つめきりをしたが、三ケ年目に御機嫌窺に江戸へ出たが、そのときおれが馬にばかりかかってゐて銭金をつかふ故、馬の稽古をやめうとて、先生へ断の手紙をやった。其上にておれをひどくしかって、禁足をしろといひおった。夫から当分内に居たがこまったよ。 十三の年の秋、兄が信州へかへったから、又々諸方へ出歩行、のらくらしてゐたが、とかくおれがばゝあどのがやかましくて、おれがつらさへ見ると、こゞとをいひおる故、おれもこまって、しまひには兄よめに咄して、智恵をかりたが、兄よめも気の毒におもって、親父へはなして呉たが、そこで或る日親父がばゝあどのへいふには、小吉もだんだん年もとる故、小身者は、にたきまで自身に出来ぬと身上をばもてぬものだから、以来は小吉が食物などは当人へ自身にするやうにさっしゃるがよい」といって呉た故、猶々おれがことはかまはず、毎日〳〵自身に、にやまをしたが、醤油には水をいれておくやら、さま〴〵の事をするから、心もちがわるくってならなかった。よそよりくゎし、何にても貰へば、おれにはかくして呉ずして、おれがきものは一ツこしらへて呉ると、世間中へふひちょうして、わるく計いひちらし、きもがいれてならなかった。親父にいふと、おれ計しかるし、こんなこまったことはなかった。 十四の年、おれが思うには、男は何をしても一生くはれるから、上方あたりへかけおちをして、一生ゐやうとおもって、五月の廿八日に、もゝ引をはきて内を出たが、世間の中は一向しらず、かねも七八両ぬすみ出して、腹に巻付て、先品川まで道をきゝ〳〵して来たが、なんだか心ぼそかった。夫からむやみに歩行て、其日は藤沢へとまったが、翌日早く起きて宿を出たが、どふしたらよからふと、ふら〳〵ゆくと、町人の二人連の男が跡より來て、おれに、どこへ行と聞から、あてはないが上方へゆく、といったら、わしも上方まで行くから一所にゆけ、といひおった故、おれも力を得て、一所にいって小田原へとまった。其時、あしたは御関所だが、手形はもってゐるか、といふ故、そんな物はしらぬ、といったら、銭を二百文だせ。手形を宿で貰てやる、といふから、そいつがいふ通りにして関所も越たが、油断はしなかったが、浜松へ留った時は、二人が道によく世話をして呉たから、少し心がゆるんで、はだかで寝たが、其晩にきものも大小も腹にくゝしつけた金も、みむなとられた。朝、目がさめた故、枕元を見たらなんにもないから、きもがつぶれた。宿屋の亭主に聞たら、二人は尾張の津島祭りに間に合ないから先へゆくから後よりこひ、といって立をったといふから、おれもとほふにくれてなゐて居たら、亭主がいふには、夫は道中のごまのはいといふ物だ。わたしは江戸からの御連とおもったが、何にしろきのどくなことだ。どこを志してゆかしゃる、とて、しんじつに世話をしてくれが、いふには、どこといふあてはないが上方へゆくのだ、といったら、何にしろじゅばん計にてはしかたがない。どしたらよからう、と、十方にくれたが、亭主が飛しゃく一本くれて、是まで江戸子が、此海道にては、まゝそんなことがあるから、おまへも此ひしゃくをもって、浜松の御城下在とも一文ツゝ貰ってこい、とおしへたから、漸々思ひ直して、一日方〳〵貰って歩行たが、米や麦や五升ばかりに、銭を百二三十文貰って帰った。 亭主、いゝものにて、其ばんはとめてくれた。翌日、先伊勢へ行て、身の上を祈りてくるがよかろうといふ故、貰た米と麦とを三升計に銭五十文ほど、亭主に礼心にやって、夫から毎日〳〵こじきをして伊勢大神宮へ参ったが、夜は松原又川原或は辻堂へ寝たが、蚊にせめられてろくに寝ることも出来ず、つまらぬさまだっけ。 伊勢の相生の坂にて、同じこじきに心易くなり、そいつがいふには、龍太夫といふおしの処へいって、江戸品川宿の青物や大阪やの内よりぬけ参りに来たが、かくのしだい故、留てくれろといふがいゝ。そうすると向ふで張面をくりててとめる、とをしへて呉た故、龍太夫の内へいって、中の口にて其の通りいったら、はかま抔きたやつが出て張面を持って来てくり返し〳〵見をって、奥へ通れといふから、こは〴〵通ったら、六畳敷へおれをいれて、少し立て其男が来て、湯へはいれといふから、久しぶりにて風呂へはいった。あがると、麁末だが御ぜんをくへ、とて、色々うまいものを出したが、これも久敷くはないから腹いつぱいやらかした。少し過て、龍太夫はかり衣にて来おった。能こそ御参詣なされた、とて、明日は御ふだを上ませう、といふ故、おれはたゞ、はい〳〵といってじぎばかりしてゐた。夫から夜具蚊やなど出して、お休みなされといふから寝たが、心もちがよかった。翌日は又々馳走をして御札を呉た。そこでおれが思ふには、とてものことに金も借てやらふと、世話人へそのことをいったが、先の取つぎをした男が出て来て、御用でござりますか」といふから、道中にてごまのはゐのことをいひ出して、路銀を二両計かして呉るやう頼むといったら、龍太夫へ申聞かすとてひっこんだ。少し間だが過て、おれにいふには、太夫方も御らんの通り大勢さまの御逗留故、なか〳〵手廻りまさぬ故、あまり軽少だが是を御持被下やうとて壱貫文呉た。夫を貰って早々にげ出した。夫から方々へ参ったが、銭はあるし、うまいものを食ひどふしだから、元のもくあみになった。 龍太夫を教へて呉た男は、江戸神田黒門町の村田と云紙屋の息子だ。夫からこゝで貰ひあそこで貰ひ、とふ〳〵空に駿河の府中迄帰った。なにをいふにも、じゅばん壱枚、帯はなわをしめ、わらじはいつにもはひたこともねへから、ざまのわるいこじきさ。府中の宿の真中ごろに、くゎんおんか何かの堂があったが、毎晩夜はその堂の椽の下へ寝た。 或日、府中の城の脇の御紋付を門のとびらにつけた寺があるが、其寺の門の脇は竹やぶ計の所だが、その脇に馬場の入口に石がたんとつんで道からそこへ一夜ねたが、翌日、朝早く侍が十四五人来て借馬のけいこをしてゐたが、どいつも〳〵へただが、むちうになって乗てをるから、おれが目を覺しておきあがったら、馬引どもが見おって、爰にこじきが寝ておった。ふてい奴だ。なぜ、かこひの内へ、へゑりおった、とてさん〴〵しかりおったが、いろ〳〵わびごとして其内へかゞんで居て、馬乗を見たが、あんまりへたがおほいから笑ったら、馬喰共が三四人でしたゝかおれをぶちのめして外へ引づり出しおった。おれがいふには、みんなへただからへただといったがわるいか、と大声でどなったらば、四十計の侍が出おって、これ、こじき、手前はどこのやつだ。子蔵のくせに、侍の馬乗をさっきからいろ〳〵といふ。国はどこだ。いへ〳〵、と云から、おれが、国は江戸だ。それに元からこじきではない、といったら、馬はすきか、といふ故、すきだといったら、ひとくらのれ、といひおる故、じゅばん壹枚で乗て見せたら、みんながいひをるには、この小蔵めは侍の子だらふ、といひおって、せんの四十計の男が、おれの内へ一所にこひ。めしをやらふ、といふから、けいこをしまひ、帰るとき、其侍の跡につひていったら、町奉行屋敷の横丁のかぶき門の屋敷へはいり、おれをよんで台所の上りだんで、したゝか飯と汁をふるまったがうまかった。 其侍も奥の方で飯をくって仕舞って又台所へ出てきて、おれの名、又親の名をきゝおるから、いゝかげんにうそをいったら、なんにしろ不便だからおれが所へいろ、とて単物を呉た。そこの女房も、おれがかみを結て呉た。行水をつかへとて湯をくんでくれるやら、いろ〳〵とかあいがった。今かんがへると与力とおもふよ。其侍は肩衣をかけて、どこかへいったか、夕方内へ帰った。夜も、おれを居間へよんでいろ〳〵身の上の事を聞たから、町人の子だ、といってかくしていたら、いまに大小と袴をこしらへてやるから爰にてしんぼうしろ、といひおる。六七日もいたが、子のやうにして呉た。 おれが腹の内で思ふには、こんな内にしんぼうしてゐてもなんにもならぬから、上方へゆきて公家の侍にもなるほふがよからふと思ひて、或ばん単物帯もたゝんで寝所におひて、じゆばんをきて其内をにげ出して、安部川の向ふの地蔵堂に其晩んは寝た。翌日、夜のあけないうちに起て、むやみに上方のほふへにげたが、銭はなし、食物はなし、三日計はひどくこまったが、夫から一文づゝ貰って、宇都宮の地蔵堂にふた晩寝たが、其夜五ツ時分に、堂の椽がわに、どんと音がする故、其音にゆめがさめたが、人がゐる様子故、せきばらひをしたら、其人が、そこに寝て居るはなんだ、といひおるから、伊勢参りだといったら、おれは此先の宿へばくちにゆくが、此銭を手前かつひでゆけ、御伊勢さまへおさいせんを上るから、といひおるゆゑ、起出て其銭をかつひでゆくと、たしかまり子の入口かとおもった、普請子屋へはいりしが、おれもつゝひて入しが、三十人計、車座になりおって、おれを見て、其こじきめはなぜ爰へ這入った、と親方らしい者がいふと、連の人がいふと、こいつは伊勢参りだからおれが連て来た、といふと、そんなら手前はめしでもくってまってろ。今に御伊勢様へ御初穂を上るから、とて飯酒を沢山ふるまった。 少し過ると、連てきた人が銭を三百文計、紙にまひてくれた。外のものも五十、百、廿四文、十二文てん〴〵に呉たが、九百計貰た。みんながいひ居るには、はやく地蔵さまへいってねろ、といふ故、礼をいふてこの子屋を出ると、ひとりがよびとめて、大きなむすびを三ツ呉た。 うれしくって又半道計の所をもどって、地蔵へさいせん上てねたが、夫よりふらふら壱文づゝ貰ひ、四日市までゆくと、先頃龍太夫ををしへた男に逢た。其時の礼をいって百文計、礼にやったらば、其男がうれしがって、久敷飯をはら一ぱいくわぬから飯をくはふ、とて、二人で飯を買て、松原にねころんで食た。 別れてより楽にいろいろのめに逢た咄しをして、其日は一所に松原に寝たり、こじきの交りは別なものだ。 夫から二人いひ合て又々伊勢へいった。其男は四国の金比羅へ参るとて、山田にて別れ、おれは伊勢に十日計ふらふらしてゐたり。段々四日市の方へ帰って来たが、白子の松原へ寝たばんに頭痛強くして、ねつが出てくるしみしが、翌日には何に事もしらずして松原に寝てゐたが、二日ばかり立て漸く人こゝろが出て、往来の人に壱文づゝ貰ひ、そこに倒れて七日ばかり水を呑で、よう〳〵に腹をこやしゐたが、其脇に半町計り引こんだ寺があったが、そこの坊主が見付て毎日〳〵麦のかゆを呉た故、やう〳〵力がついた。 二十二三日計、松原に寝てゐたが、坊主がこも弐枚呉て、壱枚は下へしき、壱枚は夜かけて寝ろ、といった故、其通にして、ぶらぶらして日を送ったが、二十三日めごろか足が立た故、大きにうれしく、竹きれを杖にして少しつゝ歩行た。 夫から三日計りして、寺へいって礼をいったら、大事にしろ、とて坊主の古いかさとわらぢを呉た故、漸く一日に一里位つゝ歩行きたが、伊勢路では火でたいた物は一向くはぬ。生米をかじりて歩行たり。病後故に腹がなをらぬから、又々気分がわるくって、處を忘れたが、或河原の土橋の下に大きな穴が横にあいて居るから、そこへはゐつて五六日寝て居た。 或晩、若い乞食が弐人来て、おれにいふには、その穴は先月まで神田の者が寝処にした所だが、どこへかゆきをった故に、おらが毎晩寝る處だ。三四日か稼ぎに出た故、手前にとられてこまる、といふゆへ、病気のよしをいったら、そんなら三人にて寝よう、とぬかして、六七日一所にゐたが、食ひ物に困り、どふしよふ、と二人へいったら、伊勢にては火の物は太神宮様が外へ出すをきらいだからくれぬ故、在郷へいって見ろ、といふから、杖にすがって、そこより十七八町の脇の村方へ這入ったら、番太郎が六尺棒を持て出て、なぜ村へ来た、其為に入口に札が立てある、このべらぼうめが、とぬかして棒でぶちをったが、病気故に気が遠くなって倒れた。そうすると足にて村の外へ飛ばしおった故、匍匐ばうようにして漸く橋の下へ帰て来たら、二人が、どふした、といふから、其しだいをいったら、手前は米はあるか、といふから、麦と米と三四合貰ひためたをだして見せたら、そんならおれがかゆこを煮てやらう、といって、徳利のかけを出して、土手のわきへ穴を堀て、徳利へ麦と米と入て水をも入れ、木の枝をもして、かゆを拵へて呉たから、少しくった後は礼に二人にふるまった。 夫よりおれも古とく利を見付て、毎日毎日貰た米麦、引わりを其徳利にて煮て食たから、こまらないやうになったが、夫迄は誠に食物にはこまった。 だん〳〵気分がよくなったから、そろ〳〵とそこを出かけて府中まで帰たが、とかく銭がなくって困るから、七月、丁度盆だから、毎夜〳〵町々を貰て歩行たが、伝馬町と云所の米屋で、ちいさい小皿に引わりを入てせぎゃうに見勢へならべて置から一つとったが、一つのさしに銭の壱文あるから、そっと又一つとった。そうすると、米をついていた男が見付おって腹を立て、二度取りをしおる、とてにぎりこぶしで、おれをしたゝかぶちおったが、病後故、道ばたに倒た。 やう〳〵気が付た故、くゎんおん堂へいって寝たが、其時は漸く二本杖であるく時故か、翌日は一日腰が痛くって、どこへも出なんだ。 夫から或日の晩がた、飯がくいたいから、二丁町へはいったが、麦や米計呉て飯をくれぬから、段々貰って行たら、まがり角の女郎やで、客が騷いで居たが、おれにいふには、手前は子蔵のくせ、なぜそんなに二本杖であるく、わずらったか、といふ。さよふでござり升、といったら、そふであろふ、よく死なゝかった、どれ飯をやろふ、とて、飯や肴やいろ〳〵のさゐを竹の皮につゝませ、銭を三百文つかんで呉た。おれは地ごくで地蔵に逢たやうだと思って、土へ手をつゐて礼をいったら、其客が、手前は江戸のやうだが、ほんのこじきでは有まい、どこか侍の子だろふ、とて女郎にいろ〳〵はなしおるが、ひぢりめんの袖口の付た白地のゆかたと、こんちりめんのふんどしを呉れが、うれしかった。 其の晩は木賃宿へ留つて畳のうえへ寝るがいゝ、といった故、厚く礼をいって、夫から伝馬町の横町の木賃宿へ夜になると留ったが、しまひには宿せんやら食物代がたまって、はらひにしかたがないから、単物を六百文のしちに入れて貰て、さう〳〵そこのうちを立て、残りの銭をもって、上方へ又志してゆくに、石部までいって、或日宿のはづれ茶やの脇にねて居たら、九州の秋月と云大名の長持が二棹きたが、其茶屋へ休んでゐると、長持の親方が二人来て、同しくせう木に腰をかけて酒を呑で居たが、おれにいふには、手前はわづらったな、どこへゆく、といふから、上方へ行、といったら、あてが有のか、といふ。あてはないが行、といったら、それはよせ、上方はいかぬ所だ、それより江戸へかへるがいゝ、おれがつひていってやるから、まづ、かみさかゆきをしろ、とて向ふの髪結所へ連ていって、させて、そのなりでは外聞がわるい、とてきれいのゆかたを呉て、三尺手拭を呉た。 何にしろ杖をつひては、らちがあかぬから、かごへ乗、とて、かごをやとひて、のせて毎日〳〵よく世話をして呉た。 江戸へいったら送ってやらふ、とて、府中まで連て来たが、其晩、親方がばくちのけんくゎで大さわぎが出来て、おれを連た親方は国へ帰るとて、呉た単物を取返して木綿の古じゅばんを呉て、直に出て行おったから、今一人の親方がいふには、手前は是迄連てきて貰たをとくにして、あしたは一人で江戸へ行がいゝ、とて、銭を五十文計呉おったが、しかたがないから、またこじきをしてぶら〳〵来て、所は忘れたが、或がけのところに其ばんは寝たが、どふいふわけか、がけより下へ落ちた。 岩のかどに、きん玉を打たが、気絶をして居たとみえて、翌日漸々人らしくなったが、きん玉がいたんであるくことがならなんだ。 二三日過ぎると、少しづゝよかったから、そろ〳〵とあるきながら貰ていったが、箱根へかゝってきん玉がはれて、うみがしたゝか出たが、がまんをして其翌日、二子山まであるいたが、日が暮れるから、そこに其晩は寝て居たが、夜の明方、飛脚が三度通りて、おれにいふには、手前ゆふべはこゝに寝たか、といふ故、あい、といったら、つよひやつだ、よく狼に食れなんだ、こんどから山へは寝るな、といって、銭を百文計呉た。 夫から三枚橋へきて茶屋の脇に寝て居たら人足が五六人来て、子蔵や、なぜ寝て居る、といひおるから、腹がへってならぬから寝て居る、といったら、飯を一ぱい呉た。 其中に四十位の男が云には、おれの所へきて奉公しやれ、飯は沢山くはれるから、と云故、一所にいったら、小田原の城下のはづれの横丁にて、獵師町にて、喜平次と云男だ。おれを内へいれて、女房や娘に、奉公につれてきたから、かあひがつてやれ、といった。女房娘もやれこれといって、飯をくへ、といふから、飯を食ったら、きらずめしだ。魚は沢山あつて呉た。 一日たつと、あすよりは海へ行て船をこげ、といふから、江戸にて海へは度々いった故、はい〳〵、といって居たら、子蔵の名はなんといふ、と聞から、亀、といったら、おはちのちさいのを渡して、是に弁当をつめて朝七つより毎日毎日ゆけ、手前は江戸子だから、二三日は海にて飯は食へまいから、もってゆくな、と喜平がいひおるから、おれは江戸にて毎日海に船を乗たから、こはくない」といったら、いや〳〵江戸の海とは違ふ、といふから、それでもきかずに弁当をもっていった。 夫から同船のやつが内へおれを連ていってたのんだから、翌日より早くこひ、と云。それから毎朝〳〵船へいったが、みんなが云には、亀があるくなりはをかしい、といひおる。そのはづだ、きん玉がはれが引ずに居て、水がぽたぽたたれて困ったが、とう〳〵かくしとふしてしまったが、困ったよ。 毎日、朝四ツ時分には沖より帰って、船をおかへ三四町引上げ、あみをほして、少しづゝ魚を貰って小田原の町へ売にいった。 夫から内へかへつて、きらづをかって来て四人の飯をたくし、近所のつかひをして二文三文づゝ貰た。内の娘は三十計だの、いゝやつで、時々、すゐくゎんなどを買てくれた。女房はやかましくつて、よくこき遣った。 喜平は人足故、内へは夜許り居たが、是はやさしいおやぢで、時にくゎしなんぞ持て来て呉た。十四五日計居ると子のやうにしおった。 おれに江戸事を聞て、おらが所の子になれ、といゝおる故、そこで考へて見たが、何にしろおれも武士だが、内を出て四ケ月になるに、こんな事をして一生居てもつまらねへから、江戸へ帰って、親父の了簡次第になるがよかろふと思ひ、娘へきげんをとり、引ときものゝつぎだらけなのを一ツ貰ひて、閏八月の二日、銭三百文、戸棚にあるをぬすんで、飯を沢山.弁当へつめて、浜へゆく、といって、夜八ツ時分起て喜平が内をにげ出して、江戸へ其日の晩の八ツ頃にきたが、あいにく空はくらし、すゝ森にて犬が出て取まひて、一生けん命大声を揚てわめくと、番人こじきが犬をおひちらして呉た故、高輪のりゃう師町のうらにはいりて、のり取船があったから、夫をひくり返して其下に寝たが、あんまり草臥たせいか、あくる日、日があがっても寝て居たから、所のものが三四人出て目付てしかりおった。 わびことをしてそこを出て、飯をくひなどして、あたご山へまで一日寝て居て、其晩は坂を下るふりをして山の木のしげみへねた。 三日計、人目を忍んで、五日めには、よる両国橋へきて、翌日ゑかふ院のはか場へかくれて居て、少しづゝ食物かって食て居たが、しまひには銭がなくなったから、毎晩〳〵かきねをむくり出て貰ていたが、夜はくれてが少ないから、ひもじい思ひをした。 ゑかふ院奥のはか場にこじきの頭が有が、おれに、仲間にはいれ、とぬかしおったから、そやつの所へいって、したゝかめしを食た。そして夫から亀沢町へ来て見たが、なんだか、しきゐが高いやうだから、引返してニツ目の向ふの材木問屋のかげへいって寝た。 三日めに朝早く起て、内へかへったが、内中、小吉が帰った、とって大さわぎをし、おれが部屋へはいって寝たが、十日ばかりは寝どふしをした。 おれが居ない内は、加持祈禱いろいろとして従弟女の恵山といふびくは上方迄尋て登たとてはなした。 夫から医者がきて、腰下に何か、しさゐがあらふ、とていろ〳〵いったが、其ときは、まだ、きん玉がくづれていたが、強情に、ない、といってかくしてしまった。三月ばかりたつと、しつができて段々大そふになった。起居もいできぬやうになつて、二年計はそとへもゆかず、内ずまひをしたよ。 夫から親父が、おれの頭、石川右近将監に、帰りし由をいって、いかにも恐入事故、小吉は隠居させ、外に養子いたすべき、といったら、石川殿が、今月かへらぬと月切れ故、家は断絶するが、まづ〳〵かへって目出たい、夫には及ばぬ、年取て改心すれば、お役にも立べし、よくよく手当して遣すべし、といはれた。夫から一同安心した、とみなが咄した。 十六の年には漸く、しつも能なったから、出勤するがいゝ、といふから、逢対をつとめたが、頭の宅で張面が出て居るに銘々名を書くのだが、おれは手前の名がかけなくつてこまった。人に頼んで書て貰た。 石川が逢対の後で、乞食をした咄しをかくさずしろ、といったから、初めからのことをいったら、能く修行した、今に御番入をさせてやるから心ぼうをしろ、といはれた。 また内ではばゝあどのが、猶々やかましくつて、おのれは勝の家をつぶそうとした、なと、いろいろいひおってこまった故、毎日〳〵内には居なんだ。 兄きの役所詰に久保島可六と云男があったが、そいつがおれをだまかして連て行きおったが、おもしろかったから、毎晩〳〵いったが、かねがなくって困て居ると、信州の御料所から御年貢の金が七千両来た。役所へ預りて改て御金蔵へ納るのだ。其時、おれに番人を兄きよりいひつけたから番をして居ると、可六が云には、かねがなくては吉原は面白くないから百両計ぬすめ、と教たが、おれも、左うだ、といって千両箱をあけて弐百両とったが、跡ががた〳〵する故こまったら、久保島が石ころを紙につゝんでいれて呉た故、しらぬ顔で居たが、二三月立と知れて兄きがおこったが、色々せんぎをしたら、おれが出したと役所の小遣めが、はく状しおった故、おれに金を出せとて兄がせめたが、しらぬ、とて強情をはり通したが、兄が親父へ其訳を咄したら、親父がいふには、手前も年の若いうちは度々そんな事は有ったけ。わづかの金で小吉をきづものにはできぬ故、なんとか了簡してみやれ、といった。そこでいよ〳〵おれが取ったに違ひない故、それぎりにしてたれもしらぬ顔でおさまった。おれは其金を吉原へもっていって、壱月半ばかりにつかってしまったが、夫から蔵宿やほうぼうを頼んで金をつかった。 或日、おれの従弟の処へいったら、其子の新太郎と忠次郎と云兄弟が有が、一日色々咄しをして居たが、そこの用人に源兵衛と云が居たが、剣術遣ひだと云ことだが、おれに云には、お前さまは色々とおあばれなさりますが、けんくゎはなさいましたことが有升か、是はきもがなくってはできません、と云から、おれは喧くゎは大好だが、小さい内から度々したが、おもしろいものだ、といった。左やうで御座升が、あさっては蔵前の八幡の祭があり升が一喧嘩やりましゃうから、一所にいらっしゃいまして一勝負なさいまし、といったから約束をして帰った。 其日になりて夕方より番場の男谷へいったら、先の兄弟も待て居て、よく来た、今、源兵衛が湯へいったから帰ったら出かけやう、と支度をして居ると、間もなく源兵へが帰った。夫より道に手はづをいひ合て八幡へいったが、みんなつまらぬやつ計で、相手がなかったが、八幡へはいると、向ふよりきいたふうのやつが二三人で鼻歌をうたって来る故、一ばんに忠次郎がそいつへ、つばを顔へしかけったが、其野郎が腹を立て、下駄でぶってかゝりおった。そふするとおれがにぎりこぶしで横つらなぐってやると、跡のやつらが惣がゝりになってかゝりおるから、目くらなぐりにしたら、みんなにげおったゆえに、八幡へいったってふらふらして居ると、廿人ばかり、ながとびを持てきおった。 なんだ、と思って居ると、壱人が、あのや郎だ、とぬかして四人を取まきおった。それから刀をぬひて、きりはらったら、源兵衛が云には、早く門の外へ出るがいゝ、門をしめると取こになる、と大声でいふから、四人が並で切立て門の外へ出たら、そいつらが加勢とみえて、又三十人計、とび口を持て出おったから、並木の入口の、すなばそばの格子を後ろにして、五十人計を相手にして、たゝき合たが、一生けん命になって、四五人ばかりきづを負したら、少し先がよはくなったゆゑ、むやみにきりちらし、とび口を十本ほどもたゝき落した。そふすると、また〳〵加勢がきたが、はしごを持て来た。其時源兵衛が云には、最早かなわぬから三人は吉原へにげろ、跡は私がきりはらひ帰るから、と、早くゆけ、といったが、三人ながら源兵衛ひとりをおくを不便におもひ、一所におひまくつて一所ににげやう、といったら、おまへさん方は、けがゝ有てはわるいから、是非〳〵早くにげろ、と、ひたすら云故、おれが源兵衛の刀がみじかいから、おれの刀を源兵衛に渡して、直に四人が大勢の中へ飛こんだら、先のやつはばらばらと少し跡へ引込だはづみに、にげだして、漸々浅草の雷門で三人一所になり、吉原へいったが、源兵衛がきづかいたから引もどして番場へいって飯をくはふと思っていったら、源兵衛は内へ先へ帰つて玄関で酒を呑で居た故、三人が安心した。 夫から源兵衛と又々一所に八幡の前へいってみたらば、たこ町の自身番へ大勢人が立て居るから、そこへいって聞たら、八幡で大喧嘩が有て、小揚の者をぶったが始まりで、小あげの者が二三十人、蔵前のしごと師が三十人で、相手をとらへむとしてさはいだが、とふとふ一人もおさへず、にがした。其上にこちらは十八人計、手負が出来た。今、外科がきづを縫て居る、といふから、四人ながら内へ帰って、おれは亀沢町へ帰ったが、あんなひどい事はなかったよ。 翌年正月、番場へ遊びにいったら、新太郎が忠次郎と庭で、剣術を遣って居たが、おれにも遣へと云故、忠次と遣ったが、ひどく出合頭に胴をきられた。其時は気が遠くなった。夫より二三度遣たが、一本もぶつ事がで出来からくやしかった。 夫から忠次に聞て団野へ弟子入にいった。先の師匠からやかましくいったが、構はず置た。夫から精を出して早く上手にならふと思って、外のことはかまはず稽古をしたが、翌年より伝受も二つ貰た。夫からあんまりたゝかれぬやうになつてからは、同流の稽古場へ毎日〳〵いったが、大勢が暴ってきて、小吉〳〵といふやうになつた。他流へむやみと遣ひにいったら、其時分はまだけん術が今のやうに、はやらぬから、師匠が他流試合をやかましくいった。他流は勝負をめったにはしないから、皆へたが多く有た故、おのれが十八の年、浅草の馬道生江政左衛門と云、一刀流の師匠が居たが、或時新太郎と忠次とおれと三人でいって、試合をいひ入たが早速に承知した故、稽古場へゆって、其弟子とおれと遣ったが、初めての事故、一生けん命になって遣ったが、向ふがへたでおれが勝た。夫から段々遣って、師匠と忠次に政左衛門が体当りをされて、後の戸へつき当られて、雨戸がはづれて、あほのけに倒たが、起る処をつゞけて腹を打れた。其日は夫きりで仕舞たが、始めに師匠が高まんをぬかしたがにくひから、帰りにはおれが玄関の名前の札を抜打にして持て帰った。夫から方々へ行、あばれた。 馬喰町の山口宗馬が処へ神尾。深津、高浜、おれ四人でいって試合をいひこんだら、上へ通して宗馬が高慢をぬかした故、試合をしやう、といったら、今晩は御免被下。重てこゐ、といった故、帰りがけに入口ののれんを高浜が刀で切さゐて、奥へほふりこんで帰った。 夫から同流の下谷あたり、浅草、本所共に他流試合をする者は、みんなおれが差図を受たから、二尺九寸の刀をさして、先生づらをしていたが、だん〳〵と井上伝兵衛先生が其頃は門人多く、おもだったやつら皆おれが配下同然になり、藤川鴫八郎門人、赤石郡司兵衛が弟子、団野のはいふに及ばず、きり従ひ、諸方へ他流に行たが、運よく、みなよかった。他流は、中興、先づおれがはじめだ。 翌年夏だが、遠州掛川在の、雨の宮大明神の神主、中村斎宮の息子が、江戸へ国をにげて来て、石川瀬兵次といふ剣術遣ひの弟子になったから、諸々をたづねているから、其時おれが世話をして弟子にしてやったら、瀬平次が三州吉田へ行時、其斎宮方へきて、息子の剣術の師、何の隼太といふやつと試合をしたが、手もなく隼太が石川に負けた。その時、石川が、まん心して、隼太をもゝへ乗て、鎗のすごきをしてみせた故に、名人だとおもって、江戸へあとを追てきたといったが、田舎者は馬鹿ものだ。其頃は石川先生の中にも、へただった。斎宮の息子は帯刀といふたが、だん〳〵出精して、目録になつて国へ帰た。 十八の年、又信州へいったが、其年は兄きが、きしょくがわるくって、榊木といふ村の見所場の、けん見をおれにさせたが、出役して、一番悪処の場へ棹を入て、取並の時、もみ一升二合五勺あったから、六合五勺の取並を云付たら、一同百姓が嬉しがった。 此月、陣屋元の郡代百姓の所へ、上州の仁田万次郎が近親、桜井某とか云家来がねだりにきて、けんくゎになり、刀を抜て一人百姓をきった。 夫より、さわぎになったが、大勢出て召捕とったが、二尺八寸計りの刀を真向にかざし、郡代の門をいるやつをきりおる故、役所より手代が二三人出て下知をしたが、こわがった。只わめく計りだから、兄がおれに、いっておさへろ、といふから、一さんに飛んでいったが、門と、そやつがいる所と、四尺計りで、はゐる事ができぬから、見ていたら、ゑたがいふは、私がとり様がある、といって、六尺棒を一本ぶつけたが、其者が二ツにきった刀を上る所へつけこんで組付たが、こしたからもゝへかゝりて切れた。 其時、おれが砂をつかんで面へ打つけたが、目に入てしか、うつぶせに伏たから、先刻のゑたが、きんをとって引すへた。夫より二三人ゑたが打かさなってしばった。それから陣屋のろうへ入たあとは上州の仁田と懸合になった。 きられたゑたは榊木の者だが、七人扶持、公儀より一生貰た。片輪にはなったが、つよゐやつらだっけ。 夫から、けん見に諸々へいった。其内江戸でおふくろが死だとしらせてきたから、御用を仕まって、江戸へ来る道で、信州の追分で、夕方、五分月代の野郎が、馬方のかげにはゐいて下にいたが、兄が見付て、おれに、とれ、といふから、かごの脇から十手を抜いて、かけ出したら、其野郎は一さんに朝間の山の方へ逃げおったから、とふ〳〵おっかけて近寄たら、二尺九寸の一本脇差をそりかへして、御役人様、御見のがし被下ませ、といったから、うぬ、なに、見のがす物だ、とそばへゆくと、其刀を抜おったが、引廻しをきて居たが、其すそへ小戻が引かりて、一尺計、抜おったが、おれが直にとびこんで、柄を持て中がへりをしたら、野郎も一所にころんで、おれの上になったが、後から平賀村の喜藤次といふ取締が来て、野郎の頭をもって引くりかへした故、おれも起上りて十手にて、つゝきちらした。夫からなはを打て、追分の旅宿へ引来た。 上田、小諸より追々、代官、郡奉行が出てきて、野郎を貰にきた。いったい、こいつは小諸の牢に二百日計居たが、或晩牢ぬけをして追分宿へきて、女郎やへ金をねだり、壱両とって帰る道だといった。音吉とて、子分が百人もあるばくち打だと、役人がはなした。夫から、大名へ渡すと首がないから、中の条の陣屋へやった。其後、そいつの刀を兄が呉たが、池田鬼神丸国重と云刀だつけ。二尺九寸五分あった。おれが差料にした。 夫から、うすゐ峠で、小諸の家老の若い者等が、休足所へきて、無礼をしたから、塩沢円蔵と云手代とおれと、その野郎をとらへて、向ふの家老のかごへぶつけてやった。 上州の安中でも、所の剣術遣ひだといったが、常蔵と云中間の足を、白鞘を抜て、ふいにきりにかゝつたから、其時もおれと二人で打のめしてしぼってやった。宿役人へ引渡して聞たら、酒乱だといった。 十一月初めに江戸へ帰った。夫からまた〳〵他流へあるきさわひだが、本所の割下水に、近藤弥之助と云剣術の師匠が居たが、夫が内弟子に小林隼太と云奴があったが、大のあばれ者で、本所ではみんながこはがった。或とき、小林が智恵をかって、津軽の家中に小野兼吉と云あばれ者が、おれの所へ他流をいひこんだ。其時は内に居た故、呼入て、兼吉へ逢たが、中西忠兵衛が弟子で、其はなしをして居ると、兼めが大そうな事計ぬかし、手前の刀をみせて、長ゐのを高まんをいひをるから、聞て居たら、十万石の内にて、この位の刀をさす者がない。私計だ、といふから、刀を取て見たら、相州物にて、二尺九寸、そこでおれのさし料を見せたが、平山先生より貰た三尺二寸の刀故、兼吉めが大きにひるみをったから、つけこんで高まんをいひ返してやった。 夫から、試合をしやう、といったら、なんと思ったか、今日は御免、とぬかしをる故、日限を約束して、兼吉の所へ行つもりにして、下谷連へいってやったら、四五十人計、集た故、兼吉方へ手紙を持せてやったら、たゞ今屋敷へ来る、とて返事はよこさず、待て居たら、近藤の弟子の小林めが肩衣なんど、き居って、おれの所へ来て、色々あつかひを入て、兼吉にわびをさせるから了簡しろ、と云故、急度、念をしたら、此後、兼吉がおまへ様を、かれ是いったら、私が首を献じます、と云からゆるしてやった故、本所はたいがい、おれの字になった。 此年、芝の片山前に居る湯屋が、向ふ町へ転宅をすることにて、仲間もめがして、山内の坊主が町奉行の榊原へ頼んでやるといって、金弐十両とったが、元よりうそ故に、其湯屋がほんとうにして、右の趣を奉行所へ願書にして出したら、奉行所でいふには、湯屋は樽屋三右衛門の懸りだから差越願ひだ、とて取上ぬ故、大きにこまった。中野清次郎といふ者がおれに頼だから、幸ひおれが従弟の女が樽屋へよめにいって居るから、其親父の正阿弥といふものは心易いから頼んでやろふ、といったら悦び、其の坊主を連て来たから、おれが正阿弥の所へいって、訳をだん〳〵咄して、夫より樽やへいってやったら、樽やが承知して、奉行所より願出を下て、惣方利がいをいって聞して、其湯やが向ふへ引越したが、嬉しがった。其礼に樽やへ三十両、正阿弥へ二十両、おれに四十両、呉た。其からは酒井左衛門の用人のめかけがもって居るといひをった。湯やは向ふへ普請をすると、八十両かぶが高くなる、と清次郎がはなした。 此年、又々兄と越後蒲原郡水原の陣屋へいった。六万八千、巡見したが面白かった。越後には支配所の内には大百姓が居る故、いろ〳〵珍らしき物も見た。反物、金をも、たんと貰てかへった。夫から江戸へ帰たが、近藤弥之助の内弟子、小林隼太が、男谷のほうへ替流して、りきんだが、あばれ者故に、みんながこはがって居るから、相弟子どもを馬鹿にしをる故に、おれにも咄があった故、隼太めを目に物見せんと思て居たが、久敷、風を引て寝て居るから、夫れなりにしておいた。或日、少し気分がいいから寒稽古に出たら、小林も来ていて、勝様、一本願たい、とぬかすから、見る通り、久しく不快で、今に月代もそらず居る位だが、せっ角の事だから、一ぽん遣ひましゃう、といって遣ったが、先、二本つゞけて勝たら、小林が組付たから、腰車に掛てなげてやると、あふのけにたをれたから、腹を足にておさへて、のどをついてやった。其時、小林が起上り、面をとっておれにいひをるには、侍を土足にかけて済かすまぬか、とぬかすから、是は貴公の言葉にも似ぬいひ事かな、最初の立相に、みじゅく故、差図をして呉ろ、と御申故、侍の組打は勝とかやうの物だと仕形をして見せたのだ、いひぶんはあるまい、といったら、御尤、一言もござりませぬ、といひをった。夫から、おれをやみ打にするとて、付をったが、時々油断を見ては夜道にて、すっぱ拔をして切をったが、時々羽織なぞ、少づゞきったが、きづはつけられた事はなかった。夫からいろ〳〵しをったが、おれも気を付て居た故に、或時、暮に親類に金をかりにいった時に、道の横町より小林が酒をくらった勢ひで、おれが通ると、いきなりではなの先へ刀を抜て、つき出た。昼だから往来の人も見て居る故、其時、おれがわざと懐手をして居て、白昼になまくらを抜てどふする、といったら、小林が、此刀を買ましたが、切れるか切れぬか見て呉ろ、といふから能みて、骨位はきれるだろふ、といったら、鞘へ納めて別れた。人が大勢、立留て見て居た。古今のめっぼふけい者だ。 十八の年に、身代を持て、兄の庭の内へ普請をして引移た。其時、兄から借金三百両計の証文と家作代を家見に呉た。親父よりは家ざいの道具を一通り貰たから、無借になって嬉しかった。夫からいろ〳〵の居候者が多く来おったから、幾らもおいたから、借金が出来たよ。 十九の年、正月稽古始に男谷の稽古で、東間陳助と平川右金吉と大喧嘩をして、互に刀を持て、けいこ場へ出てさわいだが、其時も、おれが引分てやう〳〵和睦させた。 此年より、諸方の剣術遣ひを、大勢子分のやうにして、諸国へ出したが、みんな、おれが弟子だといってあるく故、名が広くなって来た。夫から、本所中のいゝ頭をしているのらくら者を不残たいじして、みんながおれが差図にしたがった故、こわゐ者はなくなったが、夫には金もいるし、つき合がはったから、たいそう借金が出来た。 又、他流試合を商売のやうにして、毎晩喧嘩にみんなを連て歩行た。或とき平山孝蔵と云先生へもいって、いつも〳〵和漢の英雄の咄しを聞ては、みんなをしこなして居た。夫から色々馬鹿計して居たから、身上がわるくなって来て、借金がふへる計。仕方がないから、出来ないそうだんに、むやみに借金をして居たが、廿一の年には一文もなくって、しやうがなかったから、さし料の刀は、終や、久米右衛門といふ道具やより買た盛光の刀、四十一両で買た故、夫を売かと思ったが、夫も、をしいからよしたが、逢対に行にも、きたまゝになつたから、気休めに吉原へ行た。親が呉た刀やら、色々質に置て、相弟子へも金をかり、色々して、漸々、三両二分計、出来たを持て、其の晩は吉原へいって、翌日、車坂の井上の稽古場へ行、剣術の道具を一組かりて、直に東海道へかけ出した。 其日はむごくに歩行て、藤沢へ泊て、朝七ツ前に立て、小田原へ行て、先年世話になって居た内の喜平次を尋ていったが、喜平もこじきが侍にばけて来たものだから、初めはふしんした。喜平の内を出た亀だといったら、漸々思ひ出して、いろ〳〵酒などふるまったが、三百文ぬすんだ事をいひ出して、金を二分二朱やった外に、酒代を二朱出して、以前、船へ一所に乗った野郎共を呼で、酒を呑して、今は剣術遣ひになったことを咄して笑ったら、みんながきもをつぶして居た。今晩はぜひとも泊れ、といったが、江戸より追手がくるだらふと思たから、早々別れて、そこを立て、箱根へかゝった。喜平次と外三人計、三枚橋まで送て来たが、そこより返して、漸々関所へかゝったが、手形がないから、関所の椽がはへいって、剣術修業に出し由申、御関所を通して被下、といったら、手形を見せろ、といふから、そこで、おれがいふには、御覧の通り、江戸を歩行通りのなり故、手形は心づかず。けいこ先より、不計、思ひつひて、上方へ修業にのぼり候。雪踏をはき候まゝ、たび支度もいたさず参りし事故、相なるべくは御通し被下候様に、といったら、番頭らしきがいふには、御大法にて手形なき者は通さず。しかし御手前の仰の如く、御修業とあれば無余儀故、御通し可申、以来は御心得可被成、といった故、かたじけない、とて、夫から関所をこして、休んで居たら、後よりきた商人がいひをるには、今、私が御関所を通りましたが、おまへさまの噂をしてござったが、今通った侍は飛脚でもないが、はん中でもなし、なんだらふとて噂をして居ました、といふから、其筈だは、おれは殿様だから、といってやった。山中で日が暮てから宿引めが、泊れ、とてぬかしたが、とふ〳〵、がまんで三島までいったら、四里が間、五月二十九日の日だから、まくらがりでなんぎした。せったをぬいで腰へはさみ、漸々夜の九ツ時分、みしまへ来て、宿へかゝって戸をたゝき、泊て呉ろ、といったら、当宿は、にら山さまから御ふれで、ひとり旅は泊ぬ、といふから、問屋場へ奇て、おこして宿をたのんだら、そいつがいひをるには、問屋が公儀の御触れはやぶられぬ、差図はできぬ、ときめるまま、そこでおれがいふには、海道筋みしま宿にては水戸のはりまの守が家来はとめぬか、おれは御用の儀が有り、遠州雨の宮へ御きがんの使に行のだが、しかたがないから、是より引返して、道中奉行へ屋敷より掛合ふ故、夫迄は御用物は問屋へ預け参から大切にしろ、とて、稽古道具を障子ごしになげこんだ。そふすると、役人共がきもをつぶし、起て出をって、土に手を付をって、はりま様とは不存、不調法恐入た、とて色々あやまるから、図に乗て、荷物はあづけるから、急度、受取りをよこせ、といったら、困りをって、外に二三人も出て、はいつくばり、いかやうにも致しますから、まづ〳〵宿屋ゑへいって少しの内、休足して呉ろ、といふ柄、漸々、案内といったら脇本陣へ上ゲをって、段々不調法の訳をわびをり、飯を出したから、猶々やかましくいったら、役人が重ねて、当宿の宿役人が不残しくじるから、何分にも勘弁しろ、と云から腹がいた故、ゆるしてやった。そふすると酒肴をだして馳走しをった。其時、書付をよこせ、といったら、夫に因って、夫も出すまいといった故、又々引くり返してやったら、金を一両弐分出して、又々あやまりをった故、金が思ひよらず取れる故、済してやった。其内に夜が明かゝったから、寝ずに三島を立たら、道中かごを出したから、先の宿迄寝て行た。其筈だ。稽古道具へ、箱根を越し、水戸と云ふ小札を書て、さして置たものだからうまくいったのだ。おれが思ふには、是からは日本国を歩行て、何ぞあったら切死をしやうと覚悟して出たからは、なにもこはいことはなかった。 夫からだん〳〵行て、大井川が、九十六文、川になったから、問屋へ寄て、水戸の急ぎの御用だから早く通せ、といったら、早々、人足が出て、大切だ、はりま様だ、とぬかして、一人前、はらって、おれは、れん台でこし、荷物は人足が越たが、水かみに四人並んで水をよけて通ふしたが、心持がよかった。 夫から遠州の掛川の宿へ行たが、昔帯刀を世話したことを思ひ出したから、問屋へ行て、雨の森の神主、中村斎宮迄、水府の御祈願の事で行からかごを出せ、といふと、直にかごを出して呉たから、乗て森の町といふ秋葉海道のしゅくへ行た。宿でかご人足に聞たら、旦那は水戸の御使で中村さまへゆかしゃると云たら、一人かけだして行きをったが、程なく中むら親子が迎ひに出てきたから、おれがかごから顔を出したら、帯刀がきもをつぶして、どふしてきた、といひをるから、「内へいってくわしく咄そふ、とて、帯刀の座敷へ通りて、斎宮へも逢たが、江戸にて帯刀が世話になつたことを厚く礼をいひ居る。夫から江戸の様子をはなして、思ひだしたから逢ひにきた、といったら、親子が悦で、まづ〴〵ゆる〳〵と逗留しろ、とて、座敷を一間明て、不自由なく世話をして呉たから、近所の剣術遣ひへ遣ひに行やら、色々すきなことして遊んで居たが、其内弟子が四五人出来て、毎日〳〵けいこをして居たが、所詮こゝに長く居てもつまらぬ故、上方へゆかふと思ったら、長州萩のはん中に城一家馬と云修行者が来たから、試合をして、家馬が諸々歩行た所を書写して居る内、家馬が不快で六七日逗留をしたいと云から、泊って居る内はたゝれず、いろいろと支度をしたら、斎宮が或晩、色々異見をいって呉て、江戸へ帰れ、といふから、最早けっして江戸へはかへられず、此度で、二度まで内を出た故、夫は忝ないが聞ぬ、といったら、そんなら今暑いさかりだから、七月末までゐろ、といふ故、世話にもなったからふりきられも出来ぬから、向ふのいふ通りにしたら、悦で猶々しんせつにして呉た。 毎日〳〵外村の若ひ者がきて、けいこをして、その後では方々へ呼れていったが、きものは出来、金も少しは出来て、日々入用のものは通ひ帳が弟子よりよこしてあるから、只買て遣ふし、こまることもなく、そこより七里脇に向坂といふ所に、さき坂浅二郎と云が居るが、江戸車坂、井上伝兵衛の門人故、江戸にてけいこもしてやったもの故、そこへ度々行て泊て居たが、所の代官故に工面もいゝから、おれがことはいろ〳〵して呉、夫故にうかうかとして七月三日迄、帯刀の内に逗留して居たが、或日、江戸より石川瀬兵衛が吉田へくる序に、今日こゝへよるといふから、座敷のそうじをして居たら、おれが甥の新太郎が迎ひに来をったから、夫からしかたなしに逢たら、おまへの迎ひに外の者をやったら、切ちらして帰るまいと、相談の上わたしが来たから、是非とも江戸へ帰るにした。 翌日、斎宮方を立て、段々帰るうち、三島の宿で甥が気絶して大さはぎをやったが、気が付て、夫から通し籠駕で江戸へ帰ったが、親父も兄もなんにもいはぬ故、少し安心して内へいった。 よく日、兄が呼によこしたからいったら、いろ〳〵馳走をした。夕方、親父が隠宅から呼にきたからいったら、親父がいふには、おのれは度々不埓が有から、先、当分は、ひっ足して、始終の身の思案をしろ、しょせん、直には了簡は付物ではないから、一両年考て見て、身のをさまりをするがいゝ。兎角、仁は学問がなくてはならぬから、よく本でも見るがいゝ、といふから内へ帰ったら、座敷へ三畳の、をりを拵て置て、おれをぶちこんだ。それから色々工夫をして一月もたゝぬ内、をりの柱を二本ぬけるやうにして置たが、能々考た所が、みんなおれがわるいから起たことだ、と気がついたから、をりの中で手習を始めて、夫から色々、軍書本も毎日みた。友達が尋て来るから、をりのそばへ呼で、世間の事を聞て頼しんで居たら、二十一の秋から二十四の冬迄、をりの中へはいって居たが、苦しかった。 其内、親父より度々、書取にしていけんをいって呉た。其時、隠居をして、息子が三ツになるから、家督をやりたい、といったら、それは悪い了簡だ、是まで種々の不埒があったから、一度は御奉公でもして、世間の人口をもふさぎ、養家へも孝養をもして、其上にて、すきにしろ、と親父がいってよこしたから、尤のことだ、と、はじめて気が付た故、出勤がしたいと兄へいったら、手前が手段で、勤道具、衣服も出来るなら勝手にしろ、おれはいかひこと手前にはいり上た故、今度は構はぬ、といった故、其時はおれが、ほふの下に、はれ物が出て居て寝て居たが、少も苦労をかけまい、と云書付を出して、をりを出で、翌日、拝領屋敷へ行て、家主へ談じて、金子二十両かり出して、色々入用のものを残らず拵て、十日めに出勤した。 夫から毎日〳〵上下をきて、諸々のけんかを頼んであるいたが、其時、頭が大久保上野介といひしが、赤坂喰違外だが、毎日毎日行て御番入をせめた。それから以前よりいろ〳〵わるいことをした事を、不残、書取て、只今は改心したから見出して呉ろ、といったら、取扱が来て、御支配よりおんみつをもって世間を聞糺から、其心得にていろ、といふから、待て居たら、頭が或ときいふには、配下の者は何事もかくすが、御自分は不残行路を申聞た故、所々、聞合た所が、いわれたよりは事大きい、しかし改心して満足だ、是非見立やるべし、精勤しろ、といふから、出精して、あいにはけいこをして居たが、度々書上にもなったが、兔角、心願ができぬからくやしかった。 此年、親父や兄へいひ立て、外宅をして、割下水、天野右京といった人の地面をかりて、今迄の家を引たが、其時居所に困たから、天野の二階をかりて居た内に、俄に右京が大病にて死んだ故、色々と世話をしたが、其内に普請も出来、新宅へ移り居ると、右京方にては跡取りが二歳故、本家の天野岩蔵といふ仁が、久来の意趣にて、家督願ひの時、六ツかしくいひ出して、右京の家をつぶさんとしたから、いろ〳〵もめて片付ず、其時おれが本家とは心あひから色々なだめ、とふ〳〵家督にさせた故、天野の親類が悦で、猶々跡のことを頼みをったから、世話をして居る内、右京のおふくろが不行跡で、やたらに男ぐるひをして、ふだん、そうどふして困るから、折角、普請をしたが、其家を売て外へこそふと思って、右京の子、金次郎が頭向へいひ出したら、その取扱がいふには、今おまへにゆかれると跡は乱みゃくになるから、一両年居て呉ろ、といふから居たが、人のことはおさめても、おれが内がをさまらぬから困って居たら、或老人がをしへて呉たが、世の中は恩を怨で返すが世間人の習ひだが、おまへは是から怨を恩で返して見ろ、といったからだ。其通りにしたら、追々、内も治て、やかましいばゝア殿も段々おれを能して呉るし、世間の人も用ひて呉るから、夫から人の出来ぬ六かしい相談事、かけ合、其外、何事に限らず、手前の事のやうに思てしたが、しまひには、おれに、はむかった奴らが、段々したがって来て、はい〳〵、といひ居る。是も、かの老人がたまものとうれしく、同流の剣術遣いが、ふらち、又は遣込して、とほふにくれて居る者は、夫々、少づゝ金を持せて、諸方へ遣し、身の安全をしてやったら、幾人か数もしれず、其後おれが諸国へいった時、いかひ事、とくになった事がある。歩行た所で、おれが名をしって居て、世話をしたっけ。 天野のが地面に居る内も、とかく地主のごけが事でむづかしいこと計がいって、こまったから、三年めに同町の出口鉄五郎が地面へ家作が有から引越たが、此鉄五郎が惣領は、元より心易かったが、いろ〳〵内をかぶつた時に、世話をやいてやった故、其ばゝア様が、是非地面へこひ、といふから行た。此年、勤の外には諸道具の売買をして内職にしたが、始は、そんばかりして居る内、段々なれて来て、金をとった。始は一月半ばかりの内に五六十両損をしたが、毎晩〳〵道具やの市に出たから、随分、徳が付た。なにしろ早く御勤入をしやうと思った故、方々かせいであるひて居た内に、男谷の親父がしんだから、がっかりとして、なにもいやになった。 しかも、そっ中風とかで、一日の内、死だから、其時はおれは真崎いなりへ、出稽古をしてやりに行て居たから、内の子侍が迎ひにきたから、一さんにかけて親父の所へいったが、最早ことが切た。それからいろ〳〵世話をして、翌日帰へった。毎日、其事にかゝって居た。息子が五ツの時だ。夫から忌命があいたからまた〳〵かせいだ。 此年十月、本所猿江に、摩利支天の神主に吉田兵庫と云者があったが、友達が大勢、此弟子になって神道をした。おれにも弟子になれといふから、行て心易くなったら、兵庫がいふには、勝様は世間を広くなさるから、私の社へ亥の日講といふを拵て被下ませ、とて頼だから、一ケ月三文三合の加入をする人を拵たが、剣術遣ひはいふに及ず、町人百姓迄いれたら、二三ケ月の中に百五六十人計、出来たから、名前を持て兵庫にやったら、悦で受取た。夫から一年半かゝったら五六百人になった。全くおれが御陰だから、当年は十月亥の日に神前にて十二座并跡でおどりを催して、神いさめをしたい、とて頼むから、先づ構中の世話人を三十八人拵へた。諸々へ触て、当日参詣をして呉ろ、といってやり、其日には、皆々、見聞のためだから世話人は不残御紋服を来て呉ろ、といふから、其通りにしてやったら、兵庫はしゃうそくをきて居た。段々、参詣も多く、初めてこのやうなにぎやかな事はないとて、前町へはいろ〳〵商人が出て居た。夫から講中が、段々、来ると、酒肴で跡で膳を出して振まってゐると、兵庫めがいつか酒に酔てゐるをって、西の久保で百万石ももったつもをしをり、おれが友達の宮川鉄次郎と云に太平楽をぬかして、こき遣ふ故、おれがおこってやかましくいったら、不法の挨拶をしをるゆゑ、中途でおれが友達をみんな連て帰った。そうすると外の者があつかひをいってあやまるから、おれがいふには、ひつきょうは此構中はおれが骨折故出来たを、難有もおもはなひとみえて、太平楽をぬかすは、ものをしらぬやつだから、構中をばぬけるからそふいって呉ろ、といったら、大頭伊兵衛、橋本庄兵衛、最上幾五郎と云友達が、尤だが、折角出来たのに、おまへが断ると皆々断るゆえ、兵庫、今更、後悔してあやまるから、ゆるしてやれ、と種々いふから、そんなら以来は御旗本様へ対し慮外致すまいと云書付を出せ、といったら、どの様にもさせるから、と云故、宮川、并深津金次郎といふ者と一所に兵庫の所へいった。そうすると大頭伊兵衛が道迄、迎にきていふにには、おまへがお入には兵庫は、かり衣をきて門まで御迎に出る。それから座敷へ出て、昨日の不調法をわびさせるから、挨拶をしてやれ、といふから、聞届た、といへ、たゞ、それからは講中が不残出て、馳走するから、跡では決して右の咄しはして呉るな、といふから、おれがいふには、不残、承知したが、外の者へよくよく口留をしなさい、若しも、昨日の咄しをしたやつが有、其時は世話人がうそつきになるから、片はしより切て仕舞つもりで来たから、よくいひきかして置なさるがいい、とていじょうをこめて帰した。間もなく兵庫が宅へいったら、同人が迎に出るし、世話人も不残、玄関迄、でたから、座敷の正面へ通ったら、刀かけに、おれが刀をかけて、皆々、座に付た。 兵庫も出て、おれに、昨日は酒興上、不礼の段々恐入たり。以来つゝしみ可申由、平伏していひをるから、おれがいふには、足下は裏だな神主なる故、何事もしらぬと見える。御籏本へ対して不礼、言語同断故、咎めしなり。講中、漸々広くならんとする時に、最早心におごりを生じた故、右の如く不礼有り。随分慎て取続く様に、とて、夫から一同がおれにいろ〳〵機げんを取てもてなしたが、酒がきらひ故に、人々酔てさはぐを見てゐたら、兵庫の甥に大竹源太郎と云仁が有が、おれが裏だな神主だといったを聞をって腹を立て、きのふのしまつを、宮川をだまして聞をり、小吉はいらぬ世話をやく、宮川のことで、伯父に大勢の中で、はぢをかゝしをった、是からはおれが相手だ、さあ小吉でろ、といって、其身、御紋服をきながら、はち巻をして、片はだぬぎて、座敷へ来る故に、しらぬ顔して居たら、直におれが向へ立て、じたばたしをるから、おれがいふには、大竹は気が違ふたそふだ、雑人の喧嘩を見たやうに、はち巻とはなんのことだ。武士はぶしらしくするがいゝ、此方は侍だから中間小者のやうなことはきらいだ、といったら、ふとひやつだ、とて、吸物ぜんを打付たから、おれがそばの刀を取て立上り、契約を違へて、たわごとをぬかすは、兵庫が行届ざるからだ。甥が手向ふからは云合たにちがひないから、のぞみ通り相手になってやらふ、とていったら、大竹が、くそを食へ、とぬかしたから、大竹より先へつきはなして呉やうと思ひ、おっかけたら、みんなが、にげ出した。 夫から兵庫が勝手の方、大竹もにげたから、おひ行くと、折わるく兵庫が、なん戸へおれがはいったから、大勢にて杉戸を入て、おさへて居から、出ることが出きぬ。大竹は恐て丸腰で、うぬが屋敷の伊予殿橋まで帰った。夫から大勢が杉戸口へ来て色々といふから許してやったら、大竹と和じゅくして呉、といひをるから、大竹が不礼の事をとがめたし、色々あつかひがはいって、特には大竹がおふくろがないてわびたから、伊よ橋へ呼にやって、源太郎が来たから、段々、酒酔の上、恐入たとて、殊更相支配ゆゑに、何卒、御支配へは、はなしおして呉るな、とて和ぼくをした。 それから酒がまた出て、大竹が云ふには、一ばい呑め、といふから、酒は一向、呑ぬ、といったら、夫はまだ打とけぬからだ、とぬかす故、盃をやう〳〵取たら、汲物わんで呑、とみんなが云。かんしゃくにさはったから、汲物わんで、一杯、呑だら、大勢よって、今一ぱい、とぬかす。夫からつゞけて、十三杯、呑だ。後のやつらは酔ていろ〳〵不作法をしたから、おれは其席では少しも間違たことはしなかった。 兵庫が籠駕を出したから乗て、橋本庄右衛門が林町の内迄来たが、それからは何もしらなかった。内へ帰っても三日ほどはのどがはれて、飯がくへなかった。翌日みんなが尋て来て、兵庫が内の様子をいろ〳〵はなした。其時、橋本と深津は後へ残て居て、以来は親類同様にしてくれ、といふから、両人が起証文を壱通づゝよこした。夫から猶々、本所中がしたがったよ。兵庫が、むねがわるいから講中も断てやった。其時おれが加入した分は、不残、断た故、段々すくなくなってつぶれたとよ。 (つづく)
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人気商品一覧 @wikiのwikiモードでは #price_list(カテゴリ名) と入力することで、あるカテゴリの売れ筋商品のリストを表示することができます。 カテゴリには以下のキーワードがご利用できます。 キーワード 表示される内容 ps3 PlayStation3 ps2 PlayStation3 psp PSP wii Wii xbox XBOX nds Nintendo DS desctop-pc デスクトップパソコン note-pc ノートパソコン mp3player デジタルオーディオプレイヤー kaden 家電 aircon エアコン camera カメラ game-toy ゲーム・おもちゃ全般 all 指定無し 空白の場合はランダムな商品が表示されます。 ※このプラグインは価格比較サイト@PRICEのデータを利用しています。 たとえば、 #price_list(game-toy) と入力すると以下のように表示されます。 ゲーム・おもちゃ全般の売れ筋商品 #price_list ノートパソコンの売れ筋商品 #price_list 人気商品リスト #price_list
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統一地球圏連合政府中央政庁は、オーブのオロファト市中心部の官庁街、そのやや西寄りにそびえ立っている。 高さは400メートル弱、100階を越えるその姿は、天を貫く柱にも雲海へと繋がる門にも例えられ、統一連合の権威の象徴として威容を誇示していた。 主席公邸の最上階は丸々、主席代表専用の執務フロアとなっている。 豪奢な内装の施された廊下を、濃い藍色の髪の青年士官が歩いていた。 年の頃は20代前半。 若々しい引き締まった体躯を、統一連合正規軍の第一種軍装で包んでいる。 胸元の階級章は少将。 だがその緑眼と秀でた額が特徴的な整った容貌を見れば、若年に似合わぬ階級を疑問に思う者は殆どいないだろう。 現主席の側近中の側近である近衛総監アスラン=ザラを知らぬ者は、軍には皆無なのだから。 従者の案内で、アスランは目指す部屋の前へとたどり着く。 受付の秘書官に形式的な手続きをすますと、部屋へ通じる重厚な木製扉が開いた。 扉の奥に広がっていたのは、主席が休息や仮眠を取るためのプライベートルームだ。 広々と広がる室内の内装や調度品は、よく吟味されているものの華美とは程遠い。 万事において気取らない主の為人(ひととなり)を反映したのだろう。 窓際で眼下の市街を見下ろしていた人影が、ゆっくりと振り向く。 金に近い琥珀色の瞳が真っ直ぐにアスランへと向けられた。 背筋を伸ばし、アスランは敬礼をした。 「お迎えに上がりました、主席」 「ご苦労、ザラ少将」 統一連合首席代表カガリ=ユラ=アスハは、今年で23歳を迎えた。 いつもは妙齢の女性にも関わらずオーブ首長服の上下で通しているものの、今は式典のためにドレスを着ている。 オーブの民族衣装を現代風にアレンジした薄緑色のドレスはカガリに良く似合っていた。 大胆に開いた首筋から肩にかけてのラインを隠すように、純白のマントを羽織っている。 数年前から伸ばし始めた金髪は、結い上げず自然に背筋の中程まで流されていた。 よく見ると、どこか少年じみた顔にも薄っすらと化粧が施されているのに、アスランは気づいた。 「まだ時間に余裕はあるが、そろそろ行くとするか。アスラン」 上品に微笑むカガリに、アスランは一礼した。 空調の効いた中央政庁から出ると、オーブの暑い空気が広がっている。 主席公邸を出発した公用車の前後に、SPを乗せた護衛車両が半ダースほど続く。 後部座席では、カガリがうんざりした表情をしていた。 「やっぱりこういうヒラヒラした服は苦手だ。気を抜くと裾を踏んで転びそうになる」 そういってドレスを摘み上げるカガリに、アスランは苦笑した。 20を過ぎて猫の被り方を覚えても、こういう素の部分は変わらないな――そう思いながら、アスランはカガリをたしなめる。 「折角の晴れの式典なんだ。こういう演出が必要なのは分かってるだろう」 こうやって2人きりになると、ついアスランの口調も昔の俺お前のそれに戻ってしまう。 ちなみに公用車の前後は特殊な偏光ガラスで区切られているため、後部座席のやり取りは運転手に届かないようになっている。 「分かっているさ、それぐらい」 口をとがらせたカガリは、窓の外に視線を移す。 首都オロファトの市街を行き交う人々に混じって、要所要所に青とグレーに塗り分けられたMSが立哨していた。 治安警察省特別機動隊保有の無人MS、ピースアストレイだ。 旧式化したかつてのオーブ軍主力機MBF-M1アストレイを再利用し、高性能AIを搭載した機体である。 武装もスタンロッドや放水銃といった対人非殺傷兵器が中心。 当然ながら対MS戦闘能力は低いものの、暴徒鎮圧やデモ隊の誘導などで大きな成果を挙げていた。 街並みを眺めていたカガリが感慨深くつぶやいた。 「豊かだな、オーブは」 「ああ」 アスランもそれにうなずく。 「カガリやラクスががんばったからさ。おかげで『統一地球圏連合』という、やっと世界を平和に出来る仕組みも作る事ができたからな」 ―『統一地球圏連合』― 通称、統一連合。 これはメサイヤ攻防戦、後の世に言う「第二次汎地球圏大戦(ロゴス戦役)」後、オーブが提唱した新しい国際的政治体制である。 過去二度にわたって世界は、人類絶滅すら危ぶまれるう世界規模の大戦争を引き起こした。 その反省から戦争勃発の危険を廃し、地球圏の恒久的平和の実現を求めて設立された。 それが『統一地球圏連合』である。 世界の国々は統一連合に加盟し、政府と議会が制定した「統一地球圏連合憲法」と、加盟各国の代表者(人口に合わせて増減。数名~十人前後選出)より構成された議会「統一地球圏連合最高議会」、そこで承認を受けた各連合政府機関のもとに、統治される。 議会からは代表主席が一名選出され、強力な権力によって軍や政府機関を統括していく。 加盟国は地球圏連合憲法の枠組みを超えて行動してはならない。 また議会や政府の決定に服す義務を有する。 その代わりに、国家間の諸問題(紛争や貿易問題、経済格差など)はもちろん、一国で処理できない問題(内戦や財政破綻など)の解決・援助を、議会や政府に求めることが出来る。 事実上、世界を支配する統一政治機構なのである。 オーブが世界各国の有力国をまとめあげて作り上げた経緯から、首都はオーブの首都オロファトに置かれ、そして現在の統一連合代表主席は、オーブ永世首長であるカガリ=ユラ=アスハとなっていた。 しかし世界を統べる盟主となったのに、カガリの表情は今一つ浮かない。 「……世界を平和に……か。ならいいんだけど」 「……何かあったのか?」 その声の微妙な響きに気づいたアスランが水を向けると、ややあってカガリは答えた。 「ついさっき、西ユーラシア総督からの報告があってな」 ああ、と頷いたアスランは、ようやくカガリの言葉にも納得できた。 CE73年に勃発した第二次汎地球圏戦争――ロゴス戦役において、地球で最も大きな被害を受けた国はユーラシア連邦だった。 まず開戦のきっかけとなったユニウスセブン落下の際、破片の1つが中心部である西ヨーロッパを直撃。 ローマ市が消し飛び、穀倉地帯のフランスも大打撃を受ける。 続いて以前からユーラシア政府の施政に反発をしていた黒海沿岸部で分離独立運動が起こる。敵の敵は味方、との判断からこの地域はプラントに支援を要請し、プラントもザフトの派遣で答えた。 対抗して地球連合も第81独立機動軍やオーブ遣欧艦隊を増援として投入するも、地中海を舞台とした一連の戦いで敗退する。 反連合の動きは、ロシアや東欧といったユーラシア東部全域に広がった。 追い詰められた地球連合軍は非常手段に訴える。 ユーラシア政府の黙認の下に超大型MA、GFAS-X1デストロイを投入して独立運動の鎮圧を計ったのだ。だが、モスクワやベルリンといった4つの大都市の壊滅と100万人以上の死傷者という悲劇の末、デストロイは撃破され、この暴挙は失敗に終わる。 激怒した『東』ユーラシアは、CE74年5月のメサイア攻防戦に前後して『西』ユーラシアに独立と宣戦を布告。 『東ユーラシア共和国』を名乗った。 以降、翌75年5月にピースガーディアンとオーブ軍を中心とした連合軍が介入するまで、約1年に渡って泥沼の東西内戦が続く。 ユーラシアの欧州半島からシベリアに至る広大な版図は、分断されたまま統一連合に編入される。 その分断ラインが旧西暦時代のいわゆる<鉄のカーテン>にほぼ沿っていたのは、歴史の皮肉だろうか。 それでも東ユーラシアは、かろうじて主権を持つ加盟国としての体裁を保っているものの、西ユーラシアは自治権すら放棄した直轄領として、統一連合政府から派遣された総督に統治されている。 現在の西ユーラシアは、莫大な数の領域内難民と壊滅した経済、戦禍で荒廃した国土を抱えこみ、統一連合から投下される援助物資を頼りにかろうじて復興が始まった状態だ。 欧州が人類の中心の1つだった時代は、過去のものとなっていた。 「どうやら、今年の冬は餓死者を出さずにすみそうだけど――」 「去年は酷かったからな。ユニウスセブン落下から続く異常気象が原因で、北半球は記録的な冷夏。そのせいで北半球全体でも500万もの餓死者を出す大惨事だ。しかもその犠牲のほとんどが東西ユーラシアときている」 「私達も、統一連合も打てる手は打ったんだ……。でも間に合わなかった」 「……」 「こうやってオーブの人間が平和と繁栄を謳歌する一方で、飢えと寒さに怯える人達もいる。矛盾だな」 「そうだな……」 今年の1月から4月にかけて、反統一連合勢力による一斉蜂起。いわゆる『九十日革命』まで起こった。 反乱軍と戦った統一連合軍もその中核は、旧オーブ軍とクライン派ザフトであり、アスランも近衛総監としてユーラシア戦線に出征している。 実の所、近衛総監という地位は、ほとんど名誉職に近い。 平時にはカガリの側近兼護衛、戦時には切り込み隊長。 もっとも、その立場を不満に思ったことはないが。 「でも今の世界にオーブの力が必要なのは分かっているだろう」 「……」 「オーブが揺れれば世界が揺れる以上、オーブ市民の不満を呼ぶような政策は取れない。違うか?」 「そのためには、ユーラシアの人達を見捨てろと?」 「彼らからの搾取の上で、オーブが太平楽を楽しんでいるわけじゃない」 「そういう問題じゃないだろう!」 思わずカガリは声を荒げる。 たとえ統一連合の元首であっても、現実にカガリが拠って立つ足場はオーブなのだ。 「世界のためだ。泥を被る覚悟ぐらいしろ」 「嫌な話だ……」 「安心しろ。何があっても、俺がお前を守る」 「え?」 アスランの真摯な眼差しに、カガリはきょとんとしてしまった。 思わず一瞬、ほんの一瞬だけかすかに頬を赤らめてしまうが、すぐもぎ放す様に視線を外すとそっぽを向く。 「ば、馬鹿! そういう事は私じゃなくメイリンに言ってやれ!」 「え、いや、そういう意味じゃ――」 妻の名を出され、急にしどろもどろになったアスランを横目で見ながら、カガリはふんと鼻を鳴らした。 沿道で歓声を上げる群衆の中に、黒衣の青年――シン=アスカの姿があった。 車載ラジオは、カガリの功績をたたえる放送を繰り返す。 「統一連合樹立3周年記念式典か。いい気なものだな、独裁者。今日が貴様の命日になるのも知らずに」 小声で吐き捨てるように呟くと、シンは足早にその場を立ち去った。 街路の角を何度か曲がり、路地裏に停車していた古い型のバンの助手席にに乗り込む。 シンが固いシートに腰を下ろしてドアを閉めると、バンはくたびれたモーター音と共に発車した。 「コニール、状況は?」 「今の所は予定通りだね。サハラの虎や南米の連中は、もう配置についてる。いけすかない、バラに十字のお歴々もね」 運転席でハンドルを握っている若い娘――コニールが答える。 年の頃は二十前後。 よく日に焼けた肌は褐色、頭の後ろで括られた髪は茶色だった。 気の強そうな眉が特徴的な顔立ちは、どこか猫を思わせた。 「ふん、どうやら幸運の女神は、まだ俺達にそっぽを向いていない様だな」 「女神さまはどうでもいいけどね」 ハンドルを切りながら、コニールがシンにどこか剣呑な口調で言う。 「1時間前に公園で騒ぎを起こしたの、あんたでしょう?」 「捕まるようなへまはしないさ」 「オセアニアのみんな、カンカンだったよ!うまく誤魔化しておいたけどさ」 悪びれずに肯定するシンに、コニールは声を荒げた。 「まったく、連絡役で間に入ってるあたしの身にもなってよ」 「元々、この作戦に参加する予定だったのは俺とレイだ。勝手についてきたのはお前だろうが」 「なっ――」 あまりの言い草に、激昂しかけるコニールだが、寸前で思いとどまると深々と溜め息をついた。 「あんたねえ。その前後左右360度に喧嘩売って回ってる態度、何とかしなよ」 「性分だ。今さら変えられん」 「……あっそ」 再び溜め息をつくコニールとシンの間に、第3の声がかかる。 《シン、この作戦で俺達リヴァイブの役割は、あくまでサポートだ》 不思議な事に、バンの中にはシンとコニール以外の姿は無い。 もっとも注意すれば、その3人目の声が合成された電子音声だと気づくだろうが。 《オセアニア解放軍はこの作戦の下準備に、少なからざる時間と人員を費やしている。それを忘れるな》 「ああ分かっているさ、レイ」 素っ気無く、レイと呼ばれた声の主にシンは答える。 その眼は街並みの向こうに覗く式典会場、クライン=アスハ平和祈念スタジアムに向けられていた。 式典パレードの隊列は、オロファト市中心部のメインストリートを進んでいた。 このままクライン=アスハ平和祈念スタジアムへと行進するのだ。 隊列を組んでいるのは、オノゴロ島に置かれた統一連合地上軍総司令部の直隷下、オーブ防衛を主任務とする精鋭師団「地上軍第1機動師団」だ。 100機を越える鋼鉄の巨人は、併走する軍楽隊の奏でる行進曲に合わせて一糸乱れぬ歩調で進み、沿道を埋める数十万にも達する市民の興奮を高める。 ザフトMSの系譜に連なる曲面主体のシルエットと、ダガー系列の特徴が強く現れた頭部ユニットを併せ持ったその姿が、陽光を受けてきらめく。 統一連合軍の現行主力MSであるGWE-MP006Lルタンドだ。 外見から分かるように連合・プラント双方の技術を組み合わせて開発された機体で、『ナチュラルとコーディネイターの融和の象徴』として地球圏全域に配備が進められていた。 興奮した少年達が、目を輝かせて吹奏に合わせて合唱する。 他の大人達もそれに唱和し、歌声はあっという間に広がっていった。 歌が終わらぬうちに、それまでとは質の異なる甲高い響きが上空から降って来る。 見上げた市民の目に映ったのは、鏃のような隊形を組んだ、3機の戦闘機。 鋭角的な前進翼と機首のカナードが特徴的な機体は、だが正確には戦闘機ではない。 GWE-MP001Aマサムネ――第2次大戦時のオーブ軍可変MS、ムラサメの後継機だ。 原型となったムラサメ同様、空戦型MAへの変形による高い機動力を誇っている。 3機のマサムネは、飛行機雲の尾を引きながら上昇する。 続いて旋回、錐揉み、急降下。 一隊だけではない。 十数の編隊が入れ代わり立ち代わり僅かな時間差で現れては、巧みなアクロバット飛行の軌跡を蒼穹のキャンパスに描く。 その度に地上からは、大きな歓声が上がった。 尽きぬ歌声と歓声の中を、パレードは進んだ。 「フン……下らんな」 官庁街の一角にある、統一連合政府情報管理省の大臣執務室。 部屋の主――アンドリュー=バルトフェルドは呟いた。 執務室にすえられたTVでは民間放送のレポーターが、式典の様子を実況中継している所だった。 《ご覧下さい。沿道を埋め尽くす人、人、人……。ここオロファト中央通りには記念式典のパレードを一目見ようと人々が殺到しております。今ちょうど私の後ろをオーブの守り神、第1機動師団の精鋭MS隊が人々の歓喜の声の中、整然と行進しております……》 「……連中に真実など必要無い。ただ奴らが望む情報を、餌として与えてやればそれでいい」 最高級のスーツに包まれた逞しい肩が、小刻みに震える。 笑っているのだ。 「愚民どもが」 浅黒い精悍な顔に、傲慢そのものの笑みが浮かぶ。悪意と嘲弄が広い室内に満ち―― 「……で、今日は愚民ごっこですか?」 心底、呆れ返った一言で雲散霧消した。 「その手の台詞は、夜景でも見下ろしながらブランデーグラス片手に口にして下さい。真っ昼間からコーヒー飲みながら言っても、馬鹿にしか見えません。遊んでる暇があったら仕事して下さい」 「手厳しいね、ダコスタ君」 むしろ淡々と続ける声に、バルトフェルドはマーチン=ダコスタ補佐官を振り返る。 ザフト以来の腹心の部下は、本来ならバルトフェルドが決済すべき書類の山と格闘していた。 先程までの凄味はどこへやら。 緩み切った表情と声で、バルトフェルドはだらしなく背もたれに寄りかかると、両足を机の上に投げ出した。 「いやあ、持つべきものは有能で勤勉な部下だねえ」 「一応は閣僚の一員なんですから、もっとしゃんとして下さい。折角の礼服に皺が寄りますよ。式典で恥をかいても知りませんからね」 「夜の睡眠時間まで削って取り組んでいた一大イベントが、一応の成功を見せてるんだ。多少だらけても罰は当たらんさ」 「その代わり、昼寝はしっかり取ってましたね――何にせよ、お疲れ様でした」 実際、バルトフェルドの演出は完璧と言って良かった。 統一連合を構成する加盟国の元首達が集うこの場で、統一連合軍はその力を遺憾無く見せ付けていたのだ。 「どうせならピースガーディアンも出した方が、印象が強いと思うんですが」 「今日の主役はアスハ主席だからね。正規軍に花を持ってもらうさ。と、本命のお出ましか」 TVが真紅と黄金に輝く2体のMSを映す。 パレードの隊列に参加したのだ。 赤い機体はGWE-X002Aトゥルージャスティス、金の機体はGWE-X003A旭。 それぞれアスランとカガリの専用機であり、統一連合の力を象徴する超々高性能MSだ。 真紅の騎士と黄金の王者の勇姿に、レポーターは興奮し、群集は一際大きな歓声が上がる。 「目立つねえ。ま、宇宙艦隊を丸ごともう一揃え建造できるだけの予算をつぎ込んでるんだ。せめて看板の役には立ってくれないとね」 「またそんな事を。その内、舌禍で失脚しても知りませんよ」 「そうなったら、田舎に引っ込んで暴露本――もとい、回想録で一山当てるさ。ダコスタ君、君の事は誠意と勇気に満ちた、有能な人材として描写しておくからね。安心したまえ」 「そいつはどうも……」 どこまでも気楽に振る舞う上司に、ダコスタは深々と溜め息をついた。 アンドリュー=バルトフェルド情報宣伝長官と比較すれば、カガリ=ユラ=アスハ首席代表は少なくとも1万倍は勤勉だった。 彼女はまだ若く、指導者として多くの欠点を有していたが、少なくともその中に怠惰は含まれていない。 オーブ中が式典に沸くころ、遥か遠くにスタジアムを望む高層ビルの一室に仏頂面の男が入ってきた。 肩には大きめのバッグを背負っている。 ここは以前は空部屋だったのだが、二ヶ月ほど前から事務所として借りられている。 しかし不思議なことに部屋には机一つなく、使われた形跡が全く無かった。 だが男はそれが当然のように、全く関心を示さない。 バッグを下ろすと、中にあった数々の部品を組み立てる。手馴れた手つきだ。 十分足らずでそれは完了し、彼は窓際に自身を配置、窓を開ける。 高層ビルであるにも関わらず、窓が開けられる。 何故ならこの日のために、そういう風に仕掛けたのだからそれは当然だった。 男は懐から取り出した通信機に語りかける。 「こちら『雀"1"』、配置に着いた。あとは『駒鳥』を待つだけだ。オーバー」 《こちら『牡牛』、了解。オーバー》 短い通話はそれっきりで切れた。 この日、カガリは忙しかった。 まず主席公邸で式典に参列する各国元首の表敬訪問を受ける。 そして次にドレスからパイロットスーツに着替え、旭に乗り込み、自らパレードに参加してスタジアムへと向かう。 さらに礼服に着替えた後、スタジアムで式典に参加。 大戦の犠牲者を追悼し、統一連合の成果を高らかに謳いあげる演説を行う。 その後は戦没者慰霊公園に向かい、遺族達を弔問。 夜はドレスに着替え、迎賓館でパーティー。 招待した各国元首や貴賓客をもてなす……。 分刻み、秒刻みのタイトなスケジュールだ。 「あーあ、着せ替え人形にでもなった気分だな」 スタジアム到着後、一角に用意された控え室で、カガリは大きく伸びをする。 式典での演説に備え、礼服に着替えていた。 「やはり、子供の頃はそういうので遊んでいたのか?」 湯気の立つ紅茶のカップを差し出しながら、アスランが言った。 「うーん、どちらかというと、外で駆け回ってた方が多かったかな」 紅茶にやや多目の砂糖とミルクを加えながら、カガリは答える。 甘めのミルクティーを1口。 疲れた体には心地良かった。 「ラクスにももっと手伝ってもらえばよかったなあ」 「カガリの演説のあと、一曲歌うんだろう?」 「知ってるよ。でも不公平だ」 「ぼやくなよ。統一連合の主席なんだから、仕方ないさ」 「む゛ー」 ラクスは統一連合の特別顧問、キラは精鋭部隊「ピースガーディアン」の隊長を務めている。 二人ともやはり式典には参加しているが、それでも仕事の量はカガリの方が圧倒的に上だった。 役職の責任に比例して、仕事量が増えるのは判るが何かずるいぞ、とカガリは思ってしまう。 そんなむくれるカガリの様子に、アスランは思わず苦笑してしまった。 その時、従者がドアをノックする。 来客だという。 「誰だ?余程の事が無い限り誰も近づけるな、と言っておいたはずだが」 不審そうに眉をひそめるカガリを置いて、アスランが応対する。 「フラガ大将が、御家族と一緒に挨拶に見えたらしい。どうする?疲れているならまたの機会に、と言っているが」 「ば、ばか!早く通せ!」 待つ事しばし、30代半ばの長身の軍人と、同年輩の軍服を着た女性が姿を現した。 女性の胸では、ふくよかな赤ん坊がぱちりとした目で辺りを見回している。 統一連合宇宙軍総司令ムウ=ラ=フラガ大将と妻のマリュー=フラガ予備役准将、そして2人の間に生まれた愛娘のアンリだ。 無数の傷痕が残る端整な顔に陽性の笑みを浮かべ、ムウは敬礼する。 「お久しぶりです、主席閣下」 「そういう物言いは止めてくれ。ここには私達しかいないんだから」 カガリにとってムウとマリューの2人は、何よりも前に1次大戦以来、共に戦ってきた大切な『仲間』だった。 差し出されたカガリの右手を、ムウは苦笑しながらも力強く握り返す。 マリューもいつもの柔らかな笑みで、それに倣った。 来客用のソファーに腰を下ろしたムウとマリューに、アスランは新しく淹れた紅茶を差し出す。 「上手く淹れられたか判りませんけど、どうぞ」 「近衛総監直々の御点前とは、いたみいるわね」 珍しく軽口で返しながら、マリューは紅茶を受け取った。 現在のムウは月の新プトレマイオス基地におかれた宇宙軍総司令部が任地であり、マリューとアンリはオーブに残されている。 何気ない雑談を交わしながらも、久しぶりに愛しい夫に会えた喜びが、言葉の節々から滲み出ていた。 「キラ達は?」 「キラとラクスはピースガーディアンへの閲兵を済ましてこちらに来ます。もうすぐ着くでしょう」 「そうか。式典って奴は作法と格式と手続きの塊みたいなもんだからなあ」 ムウとアスランの問答を聞きながら、カガリは冷めかけた紅茶をすする。 嘆息するカガリの目が、アンリに止まる。その頬が嬉しそうに緩んだ。 「アンリも、少し見ない間にずい分と大きくなったなあ」 「ああ、親の俺もびっくりさ」 アンリのすべすべした頬をつつきながら、フラガはカガリに答えた。 その指を、アンリは丸まっちい両手でしっかりと握り締める。 まるで、もう二度とどこにも行かさないと宣言するように。 「アンリも、お父さんに会えて嬉しいのね」 優しく娘の頭を撫で摩るマリュー、そして愛する妻子を見守るムウ。 ありふれた、だが何よりも尊い家族の肖像に、カガリは胸をつかれた。 アスランの方へと泳ぎかけた視線を、慌ててもぎ離す。 もう遥か昔に思えるあの頃、カガリは自分とアスランの人生が不可分のものだと信じていた。 言葉にはしなかったものの、アスランもまた同じ想いを抱いていると思っていた。 「カガリ、少し早いがそろそろ準備をしよう」 カガリの想いを知ってか知らずか、アスランが時計を確認しながら言った。 「おっと、じゃあ俺達は先に会場に行っとくから」 「じゃあ、また後でね、カガリさん」 立ち去るムウとマリューを見送りながら、カガリは小さく頭を振った。 もう、全ては終わった事だ。道は既に別たれている。 たとえアスランが常に自分の傍らにあり続けているとしても、2人の軌跡が交わる事は、もはや決して無いのだから。 「カガリ……?」 「何でも無い。私達も行こうか、ザラ少将」 主席代表の顔と声で、カガリは答えた。 《――会場より、情報管理省報道局のミリアリア=ハウがお送りします》 つけっぱなしのラジオから流れる若い女性報道官の声に、シンは顔を上げた。 ゆっくりと立ち上がり、首をめぐらす。 目に映るのは日の光も照明も無い、暗く薄汚れた階段の踊り場だった。 腕時計に内蔵された通信デバイスから、レイの声が流れる。 《そろそろ時間だ》 「ああ」 シンは大小2つのケースを持って階段を登る。 登り切ったつきあたりの鉄扉を力を込めて押すと、軋んだ音を立てながら錆びついた扉がゆっくりと開く。 《――ただいま、会場に汎ムスリム会議のザーナ代表とアメノミハシラのサハク代表、そして南アフリカ統一機構のナーリカ代表が到着しました》 扉の向こうに広がっていたのは、狭くコンクリートが剥き出しの床面と、雲1つ無い空だった。 ここは、オロファト市東部の再開発地域にある小さな廃ビルの屋上。 地上の喧騒もここまでは届かず、沈黙に閉ざされた中にラジオの音声だけが白々しく響いていた。 《――ご覧下さい。世界中の国と地域の指導者が、互いの手を取って平和と融和を誓い合っています。あの悲惨な大戦から4年半、人類は、世界はここまでたどり着きました》 感極まった報道官の声を無視し、シンは鋭い視線を地上の一角に向ける。 狭隘なビルとビルの隙間から、平和祈念スタジアムが小さく覗いていた。 「こちら『雀”3”』。"牡牛"。オーバー」 《こちら『牡牛』。どうぞ》 「俺だ。予約していた特等席についた。いい眺めだ。舞台が一望できる」 腕時計の通信機を操作し、指定のチャンネルに合わせると、シンは低い声で囁きかける。 ややあって、通信機から若い娘の声で返事があった。 言わずと知れたコニールだ。 《了解。他のみんなはもうとっくに席に座ってるよ。『雀”1”、"2"』もね。弁当もちゃんと配り終わった。あんたもしっかりね》 「ああ、わかってるさ」 全チームが配置完了、別ルートで持ち込んだ武器も支給済み、作戦内容に変更無し。 符丁を頭の中で変換すると、シンは通信を打ち切った。 傍らのチェロケースを手にし、ロックを解除。 中身――長大な狙撃用ライフルを取り出す。 「ここにするか」 伏射姿勢を取るのに適当な位置を選び、腰を下ろす。 銃身固定用の二脚架を展開し、ライフルを抱えたままうつ伏せになった。 銃床を肩に当て、両腕でライフルを構えると、都市迷彩が施されたシートを頭から被る。 二脚架で銃身を支えているため、重量の割に荷重は少ない。 シンの鍛え上げられた背中と首の筋力は、易々とライフルの重量を受け止めた。 片手でもう1つのケース(中型の携帯用コンピュータだった)を手繰り寄せる。 ケーブルを引き出し、ライフルの上部にマウントされた電子スコープに接続する。 念のため空を見上げ、シンは太陽の位置を再確認。 陽光が差し込み、レンズの反射光で位置を知られる心配は無い。 スコープのキャップを外し、覗き込む。 各種の照準情報と共に標的――遥か2,500メートル先のスタジアムの演壇に立つカガリの姿が、網膜に直接投影される。 これだけの長距離狙撃になると、風や湿度による僅かな弾道の捻じれが、無視できない大きな影響を与える。 それに対処するため、シン達は前もってビルとスタジアムを結ぶ直線上に、複数の偽装センサーを設置していた。 もたらされた様々なデータは観測手――本来とは意味が異なるが便宜上そう呼ぶ――のレイによって解析され、その結果がスコープに表示される。 現在、快晴で湿度は約15パーセント、風は東南東の微風。 狙撃には絶好の状況だ。 《――いまだ争いは現実として世界に存在し続けている。「九十日革命」は、まだ皆の記憶にも新しい事だろう》 ラジオから流れる声は、いつのまにかカガリの演説になっていた。 《――しかし、たとえ何度も芽が摘まれ、踏みにじられようとも、私達は種をまき続けよう。いつか、平和という大輪の花が咲き誇るその日まで》 「さすが、奇麗事はアスハの御家芸だな」 苦々しく呟くと、シンは弾倉をライフルに差し込んだ。 レバーを引き、薬室に初弾を装填する。 スコープの向こうに見えるカガリの脳天に照準。 だが、まだ指は引き金にかけない。 演壇の周囲は、防弾仕様の強化プラスチックのケースによって守られている。 この時点で発砲しても射殺は不可能だ。 今は、まだ。 《時間だな。状況開始だ》 レイの静かな声が、ひどくはっきりと聞こえた。 「ありがとうございましたー」 コーヒー1杯で1時間近く粘っていた常連客を笑顔で見送ると、ソラは小さく息をついた。 急にがらんとした店内を見回し、エプロンに包まれた細く華奢な肩をとんとん叩く。 ここは、オロファト市の南部にある喫茶店『ロンデニウム』。 半年ほど前から、ソラはこの店でアルバイトをしていた。 「ソラちゃん、ご苦労さま」 カウンターの向こうから、マスターが人懐っこい笑顔を向ける。 半白の髪をした初老の人物で、ソラたち従業員や馴染みの常連客も本名を知らず、『マスター』とだけ呼んでいた。 「店が空いているうちに、少し休むといい。何か食べるかい?」 「あ、じゃあカルボナーラを」 「判った。今日は僕のおごりだ。せっかくの祭りの日にわざわざ出てもらったお礼だよ」 「わあ、ありがとうございます。マスター」 そう答えると、ソラはカウンター席に腰を下ろした。 少しぼんやりとした目で、窓の外を眺める。 オロファトの街並みには、つい先程まで続いていた軍事パレードの熱気がまだ冷えずに残っていた。 「お待たせ」 しばらく待つと、店の奥の厨房からマスターが出てきた。 手にしていたトレーをソラの前に置く。 トレーの上には、湯気を立てるパスタとサラダの皿、アイスコーヒーのグラスが載せられている。 「いただきま~す」 ソラは手を合わせて歓声を上げると、フォークを取った。 フォークでスパゲティの麺を巻き取り、白いソースをたっぷりとからめて口に運ぶ。 バターと卵と生クリームの濃厚な味と、ベーコンの程良い塩辛さが口中に広がる。 お腹が空いてたため、つい麺をすする大きな音を立ててしまった。 「ソラちゃん。慌てずもう少し上品に食べて欲しいな。料理は逃げやしないよ」 「す……すいません。お腹減ってたんで思わず……」 「大丈夫。何だったらお替り用意しようか」 「もう、マスターったら」 ソラは思わず赤面する。 いたずらっぽく笑いながらマスターは口にパイプをくわえた。 「そういえば、今朝は大変だったみたいだね」 「そうなんですよ。信じられますか、マスター。大の大人がよってたかってお年寄りに暴力を振るうなんて!?ホント酷すぎます!!」 「まあまあ落ち着いて」 あの騒動の後、警官がまだ混乱しているうちにソラは老人を連れて逃げ出した。 普段の自分から全く考えられなかったが、頭で考えるより体が動いてしまったのだろう。 ふとソラは、記念式典の中継を流しっ放しにしているTVに目を留める。 主席カガリが威風堂々と演説をしていた。 《……世界の恒久の平和のため、人類の永遠の未来のため、どうか皆の力を貸して欲しい……》 「……あんな事、ラクスさまやカガリさまが喜ばれるはずないのに」 「ソラちゃんみたいに優しい娘もいれば、平然と酷いことをする人もいる。世の中には色々な人がいるよ。でも、ラクス様やカガリ様の様な御方はそうそういないからね」 「そういうものなんですか。なんか悲しいです」 小さく溜め息をついたその時、ズンという鈍い音と共に辺りがぐらりと揺れた。 「……地震……!?」 国土が火山島であるオーブは、当然ながら地震も多い。 思わず悲鳴を上げたソラだが、揺れはその一度きりでおさまった。 マスターはコップやグラスを手で押さえている。 「大丈夫かい、ソラちゃん――」 胸を撫で下ろすソラに話しかけたところで、マスターは硬直した。 「あ……、あれは……?」 窓の外へと釘付けになった視線を、ソラもたどり、そして気づいた。 オロファト市南の高層ビル街。 そのうちのビルの1つが、炎と黒煙を噴き上げているのを。 「火事……事故――?」 呆然と呟くソラの胸に、不安が黒雲の様に湧き上がっていった。 カガリの演説が後半に差し掛かった時、アスラン=ザラのポケットから呼び出し音が鳴り響いた。 こんな時に、といぶかしみながらも通信機に手を伸ばす。 「私だ」 呼び出しに答え、部下の報告に耳を傾けるアスランの顔にさっと緊張の色がよぎる。 周囲に気取られないように、小声で答える。 「爆破テロだと!?」 《はっ、郊外の軍施設と市街地外れの政府機関が数箇所、爆破されました》 「式典警護のため、市の中心部に兵力を集中させていたのを、逆手に取られたか。式典自体ではなく、手薄になった施設を狙うとはな」 《申し訳ありません。テロリスト達に裏をかかれたようです》 舌打ちするアスラン。 《幸い、民間人にはほとんど被害が出ておりませんが》 「分かった。以後はオノゴロの軍司令本部の指揮下に入れ。私も急いで現地に向かう」 そう答えると、アスランは通信を打ち切った。 「何があったんだい?」 隣に座っていたムウが振り向く。 表情も声色も緩んでいたが、目だけは鋭かった。 前列のバルトフェルドも同種の視線を向けてくる。 <エンデュミオンの鷹>と<砂漠の虎>――かつての旧連合軍とザフトで屈指のエースパイロットだった2人だけに、鉄火場への嗅覚が並みではない。 「実は――」 後事を任せるため状況を説明しようとした正にその時、スタジアムを閃光と轟音が襲った。 あの爆発がセレモニー用の花火で、殺傷能力は皆無だと知れば、連中はどういう顔をするだろうか。 2,500メートル先からスコープ越しに、パニックに陥った式典会場を覗き込んでいたシンは、意地悪く考えていた。 あれは統一連合主席を、穴から燻り出す煙なのだ。 本来、オセアニア解放軍が立てた原案では、武装した決死隊を会場に潜入させる予定だったらしい。 しかし警備の厳しさからそれは不可能と判断され、代わりに狙撃での暗殺となった。 さらにその狙撃も一弾が外した場合のフォローを考え、三方向から狙う。 スタジアム内で花火を焚き、防弾装備の演説台から主席を引きずり出す。 そして――。 マザーグースの童話『Who killed cockrobin?』になぞらえて、弓を持った三羽の雀が駒鳥「カガリ=ユラ=アスハ」を射抜くのだ―― 。 シン達の狙い通り 会場が混乱する中、逃げ惑う市民達を尻目に各国要人や政府首脳といったVⅠPは、SPに守られながら会場から脱出しようとしている。 カガリも例外ではない。 演壇を下り、アスラン達と合流する。 激しく動揺した表情が、スコープ越しからでも見て取れた。 「煙で燻せば狐は巣穴から飛び出してくる、か」 口元を、笑みというにはあまりにも歪んだ形に吊り上げる。 《風力、風向き共に変化無し。いけるな?》 レイの問いに頷き、シンはライフルの引き金に指をそえる。 いいだろう。貴様らが目を背け続けるのならば、襟首をつかんで引きずり回してでも見せ付けてやろう。 かつて踏みにじられた者の無念を、いま切り捨てられている者の怒りを―― 「思い知れ」 低く呟くと、シンはトリガーへとかけた指に力をこめた。 不意にアスランの背筋を、ぞくりと悪寒が走った。 周囲、少なくともコロシアムの中にテロリストとおぼしき姿は無い。 だが、幾多の戦場で培われたモノが警鐘を鳴らす。 ―――殺気――― 自分は知っている。 ―――戦場で幾度も向けられた、あの殺気――― 初めてのものではない。忘れていたものでもない。 ―――背筋に馴染む、この殺気は……!――― それが戦士としての勘なのか、それとも無意識下で現状と経験を照らし合わせて判断した結果なのか。 自分自身でも理解できないままアスランは、咄嗟にカガリを突き飛ばした。 その瞬間、アスランを凄まじい衝撃が襲う。 超音速で飛来した何かがアスランの側頭部を掠め、一瞬前までカガリの頭部が存在していた空間を貫いたのだ。 「アスラン!?」 「頭を上げるな!!」 こめかみの辺りから生暖かいものが流れるのが判る。 飛びそうになる意識を必死で繋ぎとめ、アスランは倒れたカガリの上に覆いかぶさった。 「なっ!?」 倒されたカガリは状況が理解ができずに呆然としていたが、すぐに"理解させられる"。 次の瞬間、さらに彼女がいた空間、すぐ傍らに弾痕が数発、たてづづけに穿たれたのだ。 「ひっ!!」 怯えるカガリを抱きかかえたまま、アスランは集まったSPに怒鳴った。 「カガリ様!アスラン様!ご無事で!!」 「狙撃だ!!主席を守れ!!」 「アスラン=ザラっ!!」 スコープに映された狙撃の結果に、怒りと失意の叫びを上げるシン。 信じられなかった。 この距離からの銃撃に、対応できる人間がいた事が。 どうやら他の連中もしくじったらしい。 素早くライフルのボルトを操作する。 薬莢排出、次弾装填。 だがその数秒の間に、SP達がカガリの周囲で横並びの隊列を組む。 カガリへの射線を塞いでいるSPを狙い、発砲。 打ち抜かれた頭から血と脳漿をぶちまけながら崩れ落ちるSP。 だが生じた穴は、あっという間に他のSPによって埋められた。 「アスハの狗が!!」 叫ぶシンに、レイが冷静な言葉をかける。 《失敗だな。撤退するぞ》 「何を言ってるんだ、レイ!?」 《元々、博打の要素が高い奇襲だ。こうも態勢を固められては、付け入る隙が無い」 「馬鹿な!?」 指を、式典会場に突きつけて押し殺した声を上げる。 「あそこに――すぐ手の届くあそこに連中がいるんだぞ!!それを見逃せというのか、お前は!?」 《直にこの位置も特定される。軍なり治安警察なりの特殊部隊がやってくるぞ。無駄死にをするつもりか?》 「…………」 淡々と指摘するレイに、数秒の逡巡の後、シンは頷く。 「その通りだ。レイ、お前が正しい。撤退しよう」 内心でいかなる葛藤があったとしても、その声は冷静さを取り戻していた。 《式典自体の妨害には成功した。俺達の一方的な敗北ではない。それより、β班の撤収が遅れているらしい。援護に向かうぞ》 「了解」 素早く立ち上がるシン。 最後に一度だけ振り返り、怒りと憎悪に燃える目でスタジアムを睨みつける。 そして足早にその場を立ち去った。 銃撃は数度あった後、唐突に止んだ。 (諦めてくれたのか?) ずきずきと痛むこめかみを押さえながら、アスランはゆっくり立ち上がった。 傍らにいた兵士の1人が、首から高倍率の電子双眼鏡をかけているのにアスランは気づいた。 ひったくると、最初の銃弾が飛来して来たと予想される方向を覗き込む。 (銃弾の方向と角度は――。まさか、再開発地域から撃ってきたのか?) 内心で呻くアスランの目が、ぴたりと止まる。 いかなる偶然か。 小さな廃ビルの屋上にライフルを持った人影、その後ろ姿を発見したのだ。 倍率を最大に上げる。 黒髪に黒尽くめの服装をした、まだ若い男。 黒一色のその姿は、まるで死を告げる大鴉のごとき不吉さがあった。 不意に男が振り返った。燃え上がるような真っ赤な瞳が、正面からアスランを貫く。 「な――っ!?」 驚きのあまり、双眼鏡を取り落としかける。 慌てて再び覗き込んだときには、すでに男の姿は無かった。 「だ、大丈夫か、アスラン!?傷はどうなってる!?」 心配のあまり狼狽するカガリの声も、届かない。 アスランは意識が遠くに引きずられていく感覚を覚えていた。 過去という遠くの世界へと。 ―――殺気――― 自分は知っている。 ―――戦場で幾度も向けられた、あの殺気――― 初めてのものではない。忘れていたものでもない。 ―――背筋に馴染む、この殺気は……!――― 「お前、なのか――シン……?」 このSSは原案文第一話Aパート後編(DC私案)、第一話Bパート前編(DC私案)を再編集、一部加筆したものです。
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統一地球圏連合政府中央政庁は、オーブのオロファト市中心部の官庁街、そのやや西寄りにそびえ立っている。 高さは400メートル弱、100階を越えるその姿は、天を貫く柱にも雲海へと繋がる門にも例えられ、統一連合の権威の象徴として威容を誇示していた。 主席公邸の最上階は丸々、主席代表専用の執務フロアとなっている。 豪奢な内装の施された廊下を、濃い藍色の髪の青年士官が歩いていた。 年の頃は20代前半。 若々しい引き締まった体躯を、統一連合正規軍の第一種軍装で包んでいる。 胸元の階級章は少将。 だがその緑眼と秀でた額が特徴的な整った容貌を見れば、若年に似合わぬ階級を疑問に思う者は殆どいないだろう。 現主席の側近中の側近である近衛総監アスラン=ザラを知らぬ者は、軍には皆無なのだから。 従者の案内で、アスランは目指す部屋の前へとたどり着く。 受付の秘書官に形式的な手続きをすますと、部屋へ通じる重厚な木製扉が開いた。 扉の奥に広がっていたのは、主席が休息や仮眠を取るためのプライベートルームだ。 広々と広がる室内の内装や調度品は、よく吟味されているものの華美とは程遠い。 万事において気取らない主の為人(ひととなり)を反映したのだろう。 窓際で眼下の市街を見下ろしていた人影が、ゆっくりと振り向く。 金に近い琥珀色の瞳が真っ直ぐにアスランへと向けられた。 背筋を伸ばし、アスランは敬礼をした。 「お迎えに上がりました、主席」 「ご苦労、ザラ少将」 統一連合首席代表カガリ=ユラ=アスハは、今年で23歳を迎えた。 いつもは妙齢の女性にも関わらずオーブ首長服の上下で通しているものの、今は式典のためにドレスを着ている。 オーブの民族衣装を現代風にアレンジした薄緑色のドレスはカガリに良く似合っていた。 大胆に開いた首筋から肩にかけてのラインを隠すように、純白のマントを羽織っている。 数年前から伸ばし始めた金髪は、結い上げず自然に背筋の中程まで流されていた。 よく見ると、どこか少年じみた顔にも薄っすらと化粧が施されているのに、アスランは気づいた。 「まだ時間に余裕はあるが、そろそろ行くとするか。アスラン」 上品に微笑むカガリに、アスランは一礼した。 空調の効いた中央政庁から出ると、オーブの暑い空気が広がっている。 主席公邸を出発した公用車の前後に、SPを乗せた護衛車両が半ダースほど続く。 後部座席では、カガリがうんざりした表情をしていた。 「やっぱりこういうヒラヒラした服は苦手だ。気を抜くと裾を踏んで転びそうになる」 そういってドレスを摘み上げるカガリに、アスランは苦笑した。 20を過ぎて猫の被り方を覚えても、こういう素の部分は変わらないな――そう思いながら、アスランはカガリをたしなめる。 「折角の晴れの式典なんだ。こういう演出が必要なのは分かってるだろう」 こうやって2人きりになると、ついアスランの口調も昔の俺お前のそれに戻ってしまう。 ちなみに公用車の前後は特殊な偏光ガラスで区切られているため、後部座席のやり取りは運転手に届かないようになっている。 「分かっているさ、それぐらい」 口をとがらせたカガリは、窓の外に視線を移す。 首都オロファトの市街を行き交う人々に混じって、要所要所に青とグレーに塗り分けられたMSが立哨していた。 治安警察省特別機動隊保有の無人MS、ピースアストレイだ。 旧式化したかつてのオーブ軍主力機MBF-M1アストレイを再利用し、高性能AIを搭載した機体である。 武装もスタンロッドや放水銃といった対人非殺傷兵器が中心。 当然ながら対MS戦闘能力は低いものの、暴徒鎮圧やデモ隊の誘導などで大きな成果を挙げていた。 街並みを眺めていたカガリが感慨深くつぶやいた。 「豊かだな、オーブは」 「ああ」 アスランもそれにうなずく。 「カガリやラクスががんばったからさ。おかげで『統一地球圏連合』という、やっと世界を平和に出来る仕組みも作る事ができたからな」 ―『統一地球圏連合』― 通称、統一連合。 これはメサイヤ攻防戦、後の世に言う「第二次汎地球圏大戦(ロゴス戦役)」後、オーブが提唱した新しい国際的政治体制である。 過去二度にわたって世界は、人類絶滅すら危ぶまれるう世界規模の大戦争を引き起こした。 その反省から戦争勃発の危険を廃し、地球圏の恒久的平和の実現を求めて設立された。 それが『統一地球圏連合』である。 世界の国々は統一連合に加盟し、政府と議会が制定した「統一地球圏連合憲法」と、加盟各国の代表者(人口に合わせて増減。数名~十人前後選出)より構成された議会「統一地球圏連合最高議会」、そこで承認を受けた各連合政府機関のもとに、統治される。 議会からは代表主席が一名選出され、強力な権力によって軍や政府機関を統括していく。 加盟国は地球圏連合憲法の枠組みを超えて行動してはならない。 また議会や政府の決定に服す義務を有する。 その代わりに、国家間の諸問題(紛争や貿易問題、経済格差など)はもちろん、一国で処理できない問題(内戦や財政破綻など)の解決・援助を、議会や政府に求めることが出来る。 事実上、世界を支配する統一政治機構なのである。 オーブが世界各国の有力国をまとめあげて作り上げた経緯から、首都はオーブの首都オロファトに置かれ、そして現在の統一連合代表主席は、オーブ永世首長であるカガリ=ユラ=アスハとなっていた。 しかし世界を統べる盟主となったのに、カガリの表情は今一つ浮かない。 「……世界を平和に……か。ならいいんだけど」 「……何かあったのか?」 その声の微妙な響きに気づいたアスランが水を向けると、ややあってカガリは答えた。 「ついさっき、西ユーラシア総督からの報告があってな」 ああ、と頷いたアスランは、ようやくカガリの言葉にも納得できた。 CE73年に勃発した第二次汎地球圏戦争――ロゴス戦役において、地球で最も大きな被害を受けた国はユーラシア連邦だった。 まず開戦のきっかけとなったユニウスセブン落下の際、破片の1つが中心部である西ヨーロッパを直撃。 ローマ市が消し飛び、穀倉地帯のフランスも大打撃を受ける。 続いて以前からユーラシア政府の施政に反発をしていた黒海沿岸部で分離独立運動が起こる。敵の敵は味方、との判断からこの地域はプラントに支援を要請し、プラントもザフトの派遣で答えた。 対抗して地球連合も第81独立機動軍やオーブ遣欧艦隊を増援として投入するも、地中海を舞台とした一連の戦いで敗退する。 反連合の動きは、ロシアや東欧といったユーラシア東部全域に広がった。 追い詰められた地球連合軍は非常手段に訴える。 ユーラシア政府の黙認の下に超大型MA、GFAS-X1デストロイを投入して独立運動の鎮圧を計ったのだ。だが、モスクワやベルリンといった4つの大都市の壊滅と100万人以上の死傷者という悲劇の末、デストロイは撃破され、この暴挙は失敗に終わる。 激怒した『東』ユーラシアは、CE74年5月のメサイア攻防戦に前後して『西』ユーラシアに独立と宣戦を布告。 『東ユーラシア共和国』を名乗った。 以降、翌75年5月にピースガーディアンとオーブ軍を中心とした連合軍が介入するまで、約1年に渡って泥沼の東西内戦が続く。 ユーラシアの欧州半島からシベリアに至る広大な版図は、分断されたまま統一連合に編入される。 その分断ラインが旧西暦時代のいわゆる<鉄のカーテン>にほぼ沿っていたのは、歴史の皮肉だろうか。 それでも東ユーラシアは、かろうじて主権を持つ加盟国としての体裁を保っているものの、西ユーラシアは自治権すら放棄した直轄領として、統一連合政府から派遣された総督に統治されている。 現在の西ユーラシアは、莫大な数の領域内難民と壊滅した経済、戦禍で荒廃した国土を抱えこみ、統一連合から投下される援助物資を頼りにかろうじて復興が始まった状態だ。 欧州が人類の中心の1つだった時代は、過去のものとなっていた。 「どうやら、今年の冬は餓死者を出さずにすみそうだけど――」 「去年は酷かったからな。ユニウスセブン落下から続く異常気象が原因で、北半球は記録的な冷夏。そのせいで北半球全体でも500万もの餓死者を出す大惨事だ。しかもその犠牲のほとんどが東西ユーラシアときている」 「私達も、統一連合も打てる手は打ったんだ……。でも間に合わなかった」 「……」 「こうやってオーブの人間が平和と繁栄を謳歌する一方で、飢えと寒さに怯える人達もいる。矛盾だな」 「そうだな……」 今年の1月から4月にかけて、反統一連合勢力による一斉蜂起。いわゆる『九十日革命』まで起こった。 反乱軍と戦った統一連合軍もその中核は、旧オーブ軍とクライン派ザフトであり、アスランも近衛総監としてユーラシア戦線に出征している。 実の所、近衛総監という地位は、ほとんど名誉職に近い。 平時にはカガリの側近兼護衛、戦時には切り込み隊長。 もっとも、その立場を不満に思ったことはないが。 「でも今の世界にオーブの力が必要なのは分かっているだろう」 「……」 「オーブが揺れれば世界が揺れる以上、オーブ市民の不満を呼ぶような政策は取れない。違うか?」 「そのためには、ユーラシアの人達を見捨てろと?」 「彼らからの搾取の上で、オーブが太平楽を楽しんでいるわけじゃない」 「そういう問題じゃないだろう!」 思わずカガリは声を荒げる。 たとえ統一連合の元首であっても、現実にカガリが拠って立つ足場はオーブなのだ。 「世界のためだ。泥を被る覚悟ぐらいしろ」 「嫌な話だ……」 「安心しろ。何があっても、俺がお前を守る」 「え?」 アスランの真摯な眼差しに、カガリはきょとんとしてしまった。 思わず一瞬、ほんの一瞬だけかすかに頬を赤らめてしまうが、すぐもぎ放す様に視線を外すとそっぽを向く。 「ば、馬鹿! そういう事は私じゃなくメイリンに言ってやれ!」 「え、いや、そういう意味じゃ――」 妻の名を出され、急にしどろもどろになったアスランを横目で見ながら、カガリはふんと鼻を鳴らした。 沿道で歓声を上げる群衆の中に、黒衣の青年――シン=アスカの姿があった。 車載ラジオは、カガリの功績をたたえる放送を繰り返す。 「統一連合樹立3周年記念式典か。いい気なものだな、独裁者。今日が貴様の命日になるのも知らずに」 小声で吐き捨てるように呟くと、シンは足早にその場を立ち去った。 街路の角を何度か曲がり、路地裏に停車していた古い型のバンの助手席にに乗り込む。 シンが固いシートに腰を下ろしてドアを閉めると、バンはくたびれたモーター音と共に発車した。 「コニール、状況は?」 「今の所は予定通りだね。サハラの虎や南米の連中は、もう配置についてる。いけすかない、バラに十字のお歴々もね」 運転席でハンドルを握っている若い娘――コニールが答える。 年の頃は二十前後。 よく日に焼けた肌は褐色、頭の後ろで括られた髪は茶色だった。 気の強そうな眉が特徴的な顔立ちは、どこか猫を思わせた。 「ふん、どうやら幸運の女神は、まだ俺達にそっぽを向いていない様だな」 「女神さまはどうでもいいけどね」 ハンドルを切りながら、コニールがシンにどこか剣呑な口調で言う。 「1時間前に公園で騒ぎを起こしたの、あんたでしょう?」 「捕まるようなへまはしないさ」 「オセアニアのみんな、カンカンだったよ!うまく誤魔化しておいたけどさ」 悪びれずに肯定するシンに、コニールは声を荒げた。 「まったく、連絡役で間に入ってるあたしの身にもなってよ」 「元々、この作戦に参加する予定だったのは俺とレイだ。勝手についてきたのはお前だろうが」 「なっ――」 あまりの言い草に、激昂しかけるコニールだが、寸前で思いとどまると深々と溜め息をついた。 「あんたねえ。その前後左右360度に喧嘩売って回ってる態度、何とかしなよ」 「性分だ。今さら変えられん」 「……あっそ」 再び溜め息をつくコニールとシンの間に、第3の声がかかる。 《シン、この作戦で俺達リヴァイブの役割は、あくまでサポートだ》 不思議な事に、バンの中にはシンとコニール以外の姿は無い。 もっとも注意すれば、その3人目の声が合成された電子音声だと気づくだろうが。 《オセアニア解放軍はこの作戦の下準備に、少なからざる時間と人員を費やしている。それを忘れるな》 「ああ分かっているさ、レイ」 素っ気無く、レイと呼ばれた声の主にシンは答える。 その眼は街並みの向こうに覗く式典会場、クライン=アスハ平和祈念スタジアムに向けられていた。 式典パレードの隊列は、オロファト市中心部のメインストリートを進んでいた。 このままクライン=アスハ平和祈念スタジアムへと行進するのだ。 隊列を組んでいるのは、オノゴロ島に置かれた統一連合地上軍総司令部の直隷下、オーブ防衛を主任務とする精鋭師団「地上軍第1機動師団」だ。 100機を越える鋼鉄の巨人は、併走する軍楽隊の奏でる行進曲に合わせて一糸乱れぬ歩調で進み、沿道を埋める数十万にも達する市民の興奮を高める。 ザフトMSの系譜に連なる曲面主体のシルエットと、ダガー系列の特徴が強く現れた頭部ユニットを併せ持ったその姿が、陽光を受けてきらめく。 統一連合軍の現行主力MSであるGWE-MP006Lルタンドだ。 外見から分かるように連合・プラント双方の技術を組み合わせて開発された機体で、『ナチュラルとコーディネイターの融和の象徴』として地球圏全域に配備が進められていた。 興奮した少年達が、目を輝かせて吹奏に合わせて合唱する。 他の大人達もそれに唱和し、歌声はあっという間に広がっていった。 歌が終わらぬうちに、それまでとは質の異なる甲高い響きが上空から降って来る。 見上げた市民の目に映ったのは、鏃のような隊形を組んだ、3機の戦闘機。 鋭角的な前進翼と機首のカナードが特徴的な機体は、だが正確には戦闘機ではない。 GWE-MP001Aマサムネ――第2次大戦時のオーブ軍可変MS、ムラサメの後継機だ。 原型となったムラサメ同様、空戦型MAへの変形による高い機動力を誇っている。 3機のマサムネは、飛行機雲の尾を引きながら上昇する。 続いて旋回、錐揉み、急降下。 一隊だけではない。 十数の編隊が入れ代わり立ち代わり僅かな時間差で現れては、巧みなアクロバット飛行の軌跡を蒼穹のキャンパスに描く。 その度に地上からは、大きな歓声が上がった。 尽きぬ歌声と歓声の中を、パレードは進んだ。 「フン……下らんな」 官庁街の一角にある、統一連合政府情報管理省の大臣執務室。 部屋の主――アンドリュー=バルトフェルドは呟いた。 執務室にすえられたTVでは民間放送のレポーターが、式典の様子を実況中継している所だった。 《ご覧下さい。沿道を埋め尽くす人、人、人……。ここオロファト中央通りには記念式典のパレードを一目見ようと人々が殺到しております。今ちょうど私の後ろをオーブの守り神、第1機動師団の精鋭MS隊が人々の歓喜の声の中、整然と行進しております……》 「……連中に真実など必要無い。ただ奴らが望む情報を、餌として与えてやればそれでいい」 最高級のスーツに包まれた逞しい肩が、小刻みに震える。 笑っているのだ。 「愚民どもが」 浅黒い精悍な顔に、傲慢そのものの笑みが浮かぶ。悪意と嘲弄が広い室内に満ち―― 「……で、今日は愚民ごっこですか?」 心底、呆れ返った一言で雲散霧消した。 「その手の台詞は、夜景でも見下ろしながらブランデーグラス片手に口にして下さい。真っ昼間からコーヒー飲みながら言っても、馬鹿にしか見えません。遊んでる暇があったら仕事して下さい」 「手厳しいね、ダコスタ君」 むしろ淡々と続ける声に、バルトフェルドはマーチン=ダコスタ補佐官を振り返る。 ザフト以来の腹心の部下は、本来ならバルトフェルドが決済すべき書類の山と格闘していた。 先程までの凄味はどこへやら。 緩み切った表情と声で、バルトフェルドはだらしなく背もたれに寄りかかると、両足を机の上に投げ出した。 「いやあ、持つべきものは有能で勤勉な部下だねえ」 「一応は閣僚の一員なんですから、もっとしゃんとして下さい。折角の礼服に皺が寄りますよ。式典で恥をかいても知りませんからね」 「夜の睡眠時間まで削って取り組んでいた一大イベントが、一応の成功を見せてるんだ。多少だらけても罰は当たらんさ」 「その代わり、昼寝はしっかり取ってましたね――何にせよ、お疲れ様でした」 実際、バルトフェルドの演出は完璧と言って良かった。 統一連合を構成する加盟国の元首達が集うこの場で、統一連合軍はその力を遺憾無く見せ付けていたのだ。 「どうせならピースガーディアンも出した方が、印象が強いと思うんですが」 「今日の主役はアスハ主席だからね。正規軍に花を持ってもらうさ。と、本命のお出ましか」 TVが真紅と黄金に輝く2体のMSを映す。 パレードの隊列に参加したのだ。 赤い機体はGWE-X002Aトゥルージャスティス、金の機体はGWE-X003A旭。 それぞれアスランとカガリの専用機であり、統一連合の力を象徴する超々高性能MSだ。 真紅の騎士と黄金の王者の勇姿に、レポーターは興奮し、群集は一際大きな歓声が上がる。 「目立つねえ。ま、宇宙艦隊を丸ごともう一揃え建造できるだけの予算をつぎ込んでるんだ。せめて看板の役には立ってくれないとね」 「またそんな事を。その内、舌禍で失脚しても知りませんよ」 「そうなったら、田舎に引っ込んで暴露本――もとい、回想録で一山当てるさ。ダコスタ君、君の事は誠意と勇気に満ちた、有能な人材として描写しておくからね。安心したまえ」 「そいつはどうも……」 どこまでも気楽に振る舞う上司に、ダコスタは深々と溜め息をついた。 アンドリュー=バルトフェルド情報宣伝長官と比較すれば、カガリ=ユラ=アスハ首席代表は少なくとも1万倍は勤勉だった。 彼女はまだ若く、指導者として多くの欠点を有していたが、少なくともその中に怠惰は含まれていない。 オーブ中が式典に沸くころ、遥か遠くにスタジアムを望む高層ビルの一室に仏頂面の男が入ってきた。 肩には大きめのバッグを背負っている。 ここは以前は空部屋だったのだが、二ヶ月ほど前から事務所として借りられている。 しかし不思議なことに部屋には机一つなく、使われた形跡が全く無かった。 だが男はそれが当然のように、全く関心を示さない。 バッグを下ろすと、中にあった数々の部品を組み立てる。手馴れた手つきだ。 十分足らずでそれは完了し、彼は窓際に自身を配置、窓を開ける。 高層ビルであるにも関わらず、窓が開けられる。 何故ならこの日のために、そういう風に仕掛けたのだからそれは当然だった。 男は懐から取り出した通信機に語りかける。 「こちら『雀"1"』、配置に着いた。あとは『駒鳥』を待つだけだ。オーバー」 《こちら『牡牛』、了解。オーバー》 短い通話はそれっきりで切れた。 この日、カガリは忙しかった。 まず主席公邸で式典に参列する各国元首の表敬訪問を受ける。 そして次にドレスからパイロットスーツに着替え、旭に乗り込み、自らパレードに参加してスタジアムへと向かう。 さらに礼服に着替えた後、スタジアムで式典に参加。 大戦の犠牲者を追悼し、統一連合の成果を高らかに謳いあげる演説を行う。 その後は戦没者慰霊公園に向かい、遺族達を弔問。 夜はドレスに着替え、迎賓館でパーティー。 招待した各国元首や貴賓客をもてなす……。 分刻み、秒刻みのタイトなスケジュールだ。 「あーあ、着せ替え人形にでもなった気分だな」 スタジアム到着後、一角に用意された控え室で、カガリは大きく伸びをする。 式典での演説に備え、礼服に着替えていた。 「やはり、子供の頃はそういうので遊んでいたのか?」 湯気の立つ紅茶のカップを差し出しながら、アスランが言った。 「うーん、どちらかというと、外で駆け回ってた方が多かったかな」 紅茶にやや多目の砂糖とミルクを加えながら、カガリは答える。 甘めのミルクティーを1口。 疲れた体には心地良かった。 「ラクスにももっと手伝ってもらえばよかったなあ」 「カガリの演説のあと、一曲歌うんだろう?」 「知ってるよ。でも不公平だ」 「ぼやくなよ。統一連合の主席なんだから、仕方ないさ」 「む゛ー」 ラクスは統一連合の特別顧問、キラは精鋭部隊「ピースガーディアン」の隊長を務めている。 二人ともやはり式典には参加しているが、それでも仕事の量はカガリの方が圧倒的に上だった。 役職の責任に比例して、仕事量が増えるのは判るが何かずるいぞ、とカガリは思ってしまう。 そんなむくれるカガリの様子に、アスランは思わず苦笑してしまった。 その時、従者がドアをノックする。 来客だという。 「誰だ?余程の事が無い限り誰も近づけるな、と言っておいたはずだが」 不審そうに眉をひそめるカガリを置いて、アスランが応対する。 「フラガ大将が、御家族と一緒に挨拶に見えたらしい。どうする?疲れているならまたの機会に、と言っているが」 「ば、ばか!早く通せ!」 待つ事しばし、30代半ばの長身の軍人と、同年輩の軍服を着た女性が姿を現した。 女性の胸では、ふくよかな赤ん坊がぱちりとした目で辺りを見回している。 統一連合宇宙軍総司令ムウ=ラ=フラガ大将と妻のマリュー=フラガ予備役准将、そして2人の間に生まれた愛娘のアンリだ。 無数の傷痕が残る端整な顔に陽性の笑みを浮かべ、ムウは敬礼する。 「お久しぶりです、主席閣下」 「そういう物言いは止めてくれ。ここには私達しかいないんだから」 カガリにとってムウとマリューの2人は、何よりも前に1次大戦以来、共に戦ってきた大切な『仲間』だった。 差し出されたカガリの右手を、ムウは苦笑しながらも力強く握り返す。 マリューもいつもの柔らかな笑みで、それに倣った。 来客用のソファーに腰を下ろしたムウとマリューに、アスランは新しく淹れた紅茶を差し出す。 「上手く淹れられたか判りませんけど、どうぞ」 「近衛総監直々の御点前とは、いたみいるわね」 珍しく軽口で返しながら、マリューは紅茶を受け取った。 現在のムウは月の新プトレマイオス基地におかれた宇宙軍総司令部が任地であり、マリューとアンリはオーブに残されている。 何気ない雑談を交わしながらも、久しぶりに愛しい夫に会えた喜びが、言葉の節々から滲み出ていた。 「キラ達は?」 「キラとラクスはピースガーディアンへの閲兵を済ましてこちらに来ます。もうすぐ着くでしょう」 「そうか。式典って奴は作法と格式と手続きの塊みたいなもんだからなあ」 ムウとアスランの問答を聞きながら、カガリは冷めかけた紅茶をすする。 嘆息するカガリの目が、アンリに止まる。その頬が嬉しそうに緩んだ。 「アンリも、少し見ない間にずい分と大きくなったなあ」 「ああ、親の俺もびっくりさ」 アンリのすべすべした頬をつつきながら、フラガはカガリに答えた。 その指を、アンリは丸まっちい両手でしっかりと握り締める。 まるで、もう二度とどこにも行かさないと宣言するように。 「アンリも、お父さんに会えて嬉しいのね」 優しく娘の頭を撫で摩るマリュー、そして愛する妻子を見守るムウ。 ありふれた、だが何よりも尊い家族の肖像に、カガリは胸をつかれた。 アスランの方へと泳ぎかけた視線を、慌ててもぎ離す。 もう遥か昔に思えるあの頃、カガリは自分とアスランの人生が不可分のものだと信じていた。 言葉にはしなかったものの、アスランもまた同じ想いを抱いていると思っていた。 「カガリ、少し早いがそろそろ準備をしよう」 カガリの想いを知ってか知らずか、アスランが時計を確認しながら言った。 「おっと、じゃあ俺達は先に会場に行っとくから」 「じゃあ、また後でね、カガリさん」 立ち去るムウとマリューを見送りながら、カガリは小さく頭を振った。 もう、全ては終わった事だ。道は既に別たれている。 たとえアスランが常に自分の傍らにあり続けているとしても、2人の軌跡が交わる事は、もはや決して無いのだから。 「カガリ……?」 「何でも無い。私達も行こうか、ザラ少将」 主席代表の顔と声で、カガリは答えた。 《――会場より、情報管理省報道局のミリアリア=ハウがお送りします》 つけっぱなしのラジオから流れる若い女性報道官の声に、シンは顔を上げた。 ゆっくりと立ち上がり、首をめぐらす。 目に映るのは日の光も照明も無い、暗く薄汚れた階段の踊り場だった。 腕時計に内蔵された通信デバイスから、レイの声が流れる。 《そろそろ時間だ》 「ああ」 シンは大小2つのケースを持って階段を登る。 登り切ったつきあたりの鉄扉を力を込めて押すと、軋んだ音を立てながら錆びついた扉がゆっくりと開く。 《――ただいま、会場に汎ムスリム会議のザーナ代表とアメノミハシラのサハク代表、そして南アフリカ統一機構のナーリカ代表が到着しました》 扉の向こうに広がっていたのは、狭くコンクリートが剥き出しの床面と、雲1つ無い空だった。 ここは、オロファト市東部の再開発地域にある小さな廃ビルの屋上。 地上の喧騒もここまでは届かず、沈黙に閉ざされた中にラジオの音声だけが白々しく響いていた。 《――ご覧下さい。世界中の国と地域の指導者が、互いの手を取って平和と融和を誓い合っています。あの悲惨な大戦から4年半、人類は、世界はここまでたどり着きました》 感極まった報道官の声を無視し、シンは鋭い視線を地上の一角に向ける。 狭隘なビルとビルの隙間から、平和祈念スタジアムが小さく覗いていた。 「こちら『雀”3”』。"牡牛"。オーバー」 《こちら『牡牛』。どうぞ》 「俺だ。予約していた特等席についた。いい眺めだ。舞台が一望できる」 腕時計の通信機を操作し、指定のチャンネルに合わせると、シンは低い声で囁きかける。 ややあって、通信機から若い娘の声で返事があった。 言わずと知れたコニールだ。 《了解。他のみんなはもうとっくに席に座ってるよ。『雀”1”、"2"』もね。弁当もちゃんと配り終わった。あんたもしっかりね》 「ああ、わかってるさ」 全チームが配置完了、別ルートで持ち込んだ武器も支給済み、作戦内容に変更無し。 符丁を頭の中で変換すると、シンは通信を打ち切った。 傍らのチェロケースを手にし、ロックを解除。 中身――長大な狙撃用ライフルを取り出す。 「ここにするか」 伏射姿勢を取るのに適当な位置を選び、腰を下ろす。 銃身固定用の二脚架を展開し、ライフルを抱えたままうつ伏せになった。 銃床を肩に当て、両腕でライフルを構えると、都市迷彩が施されたシートを頭から被る。 二脚架で銃身を支えているため、重量の割に荷重は少ない。 シンの鍛え上げられた背中と首の筋力は、易々とライフルの重量を受け止めた。 片手でもう1つのケース(中型の携帯用コンピュータだった)を手繰り寄せる。 ケーブルを引き出し、ライフルの上部にマウントされた電子スコープに接続する。 念のため空を見上げ、シンは太陽の位置を再確認。 陽光が差し込み、レンズの反射光で位置を知られる心配は無い。 スコープのキャップを外し、覗き込む。 各種の照準情報と共に標的――遥か2,500メートル先のスタジアムの演壇に立つカガリの姿が、網膜に直接投影される。 これだけの長距離狙撃になると、風や湿度による僅かな弾道の捻じれが、無視できない大きな影響を与える。 それに対処するため、シン達は前もってビルとスタジアムを結ぶ直線上に、複数の偽装センサーを設置していた。 もたらされた様々なデータは観測手――本来とは意味が異なるが便宜上そう呼ぶ――のレイによって解析され、その結果がスコープに表示される。 現在、快晴で湿度は約15パーセント、風は東南東の微風。 狙撃には絶好の状況だ。 《――いまだ争いは現実として世界に存在し続けている。「九十日革命」は、まだ皆の記憶にも新しい事だろう》 ラジオから流れる声は、いつのまにかカガリの演説になっていた。 《――しかし、たとえ何度も芽が摘まれ、踏みにじられようとも、私達は種をまき続けよう。いつか、平和という大輪の花が咲き誇るその日まで》 「さすが、奇麗事はアスハの御家芸だな」 苦々しく呟くと、シンは弾倉をライフルに差し込んだ。 レバーを引き、薬室に初弾を装填する。 スコープの向こうに見えるカガリの脳天に照準。 だが、まだ指は引き金にかけない。 演壇の周囲は、防弾仕様の強化プラスチックのケースによって守られている。 この時点で発砲しても射殺は不可能だ。 今は、まだ。 《時間だな。状況開始だ》 レイの静かな声が、ひどくはっきりと聞こえた。 「ありがとうございましたー」 コーヒー1杯で1時間近く粘っていた常連客を笑顔で見送ると、ソラは小さく息をついた。 急にがらんとした店内を見回し、エプロンに包まれた細く華奢な肩をとんとん叩く。 ここは、オロファト市の南部にある喫茶店『ロンデニウム』。 半年ほど前から、ソラはこの店でアルバイトをしていた。 「ソラちゃん、ご苦労さま」 カウンターの向こうから、マスターが人懐っこい笑顔を向ける。 半白の髪をした初老の人物で、ソラたち従業員や馴染みの常連客も本名を知らず、『マスター』とだけ呼んでいた。 「店が空いているうちに、少し休むといい。何か食べるかい?」 「あ、じゃあカルボナーラを」 「判った。今日は僕のおごりだ。せっかくの祭りの日にわざわざ出てもらったお礼だよ」 「わあ、ありがとうございます。マスター」 そう答えると、ソラはカウンター席に腰を下ろした。 少しぼんやりとした目で、窓の外を眺める。 オロファトの街並みには、つい先程まで続いていた軍事パレードの熱気がまだ冷えずに残っていた。 「お待たせ」 しばらく待つと、店の奥の厨房からマスターが出てきた。 手にしていたトレーをソラの前に置く。 トレーの上には、湯気を立てるパスタとサラダの皿、アイスコーヒーのグラスが載せられている。 「いただきま~す」 ソラは手を合わせて歓声を上げると、フォークを取った。 フォークでスパゲティの麺を巻き取り、白いソースをたっぷりとからめて口に運ぶ。 バターと卵と生クリームの濃厚な味と、ベーコンの程良い塩辛さが口中に広がる。 お腹が空いてたため、つい麺をすする大きな音を立ててしまった。 「ソラちゃん。慌てずもう少し上品に食べて欲しいな。料理は逃げやしないよ」 「す……すいません。お腹減ってたんで思わず……」 「大丈夫。何だったらお替り用意しようか」 「もう、マスターったら」 ソラは思わず赤面する。 いたずらっぽく笑いながらマスターは口にパイプをくわえた。 「そういえば、今朝は大変だったみたいだね」 「そうなんですよ。信じられますか、マスター。大の大人がよってたかってお年寄りに暴力を振るうなんて!?ホント酷すぎます!!」 「まあまあ落ち着いて」 あの騒動の後、警官がまだ混乱しているうちにソラは老人を連れて逃げ出した。 普段の自分から全く考えられなかったが、頭で考えるより体が動いてしまったのだろう。 ふとソラは、記念式典の中継を流しっ放しにしているTVに目を留める。 主席カガリが威風堂々と演説をしていた。 《……世界の恒久の平和のため、人類の永遠の未来のため、どうか皆の力を貸して欲しい……》 「……あんな事、ラクスさまやカガリさまが喜ばれるはずないのに」 「ソラちゃんみたいに優しい娘もいれば、平然と酷いことをする人もいる。世の中には色々な人がいるよ。でも、ラクス様やカガリ様の様な御方はそうそういないからね」 「そういうものなんですか。なんか悲しいです」 小さく溜め息をついたその時、ズンという鈍い音と共に辺りがぐらりと揺れた。 「……地震……!?」 国土が火山島であるオーブは、当然ながら地震も多い。 思わず悲鳴を上げたソラだが、揺れはその一度きりでおさまった。 マスターはコップやグラスを手で押さえている。 「大丈夫かい、ソラちゃん――」 胸を撫で下ろすソラに話しかけたところで、マスターは硬直した。 「あ……、あれは……?」 窓の外へと釘付けになった視線を、ソラもたどり、そして気づいた。 オロファト市南の高層ビル街。 そのうちのビルの1つが、炎と黒煙を噴き上げているのを。 「火事……事故――?」 呆然と呟くソラの胸に、不安が黒雲の様に湧き上がっていった。 カガリの演説が後半に差し掛かった時、アスラン=ザラのポケットから呼び出し音が鳴り響いた。 こんな時に、といぶかしみながらも通信機に手を伸ばす。 「私だ」 呼び出しに答え、部下の報告に耳を傾けるアスランの顔にさっと緊張の色がよぎる。 周囲に気取られないように、小声で答える。 「爆破テロだと!?」 《はっ、郊外の軍施設と市街地外れの政府機関が数箇所、爆破されました》 「式典警護のため、市の中心部に兵力を集中させていたのを、逆手に取られたか。式典自体ではなく、手薄になった施設を狙うとはな」 《申し訳ありません。テロリスト達に裏をかかれたようです》 舌打ちするアスラン。 《幸い、民間人にはほとんど被害が出ておりませんが》 「分かった。以後はオノゴロの軍司令本部の指揮下に入れ。私も急いで現地に向かう」 そう答えると、アスランは通信を打ち切った。 「何があったんだい?」 隣に座っていたムウが振り向く。 表情も声色も緩んでいたが、目だけは鋭かった。 前列のバルトフェルドも同種の視線を向けてくる。 <エンデュミオンの鷹>と<砂漠の虎>――かつての旧連合軍とザフトで屈指のエースパイロットだった2人だけに、鉄火場への嗅覚が並みではない。 「実は――」 後事を任せるため状況を説明しようとした正にその時、スタジアムを閃光と轟音が襲った。 あの爆発がセレモニー用の花火で、殺傷能力は皆無だと知れば、連中はどういう顔をするだろうか。 2,500メートル先からスコープ越しに、パニックに陥った式典会場を覗き込んでいたシンは、意地悪く考えていた。 あれは統一連合主席を、穴から燻り出す煙なのだ。 本来、オセアニア解放軍が立てた原案では、武装した決死隊を会場に潜入させる予定だったらしい。 しかし警備の厳しさからそれは不可能と判断され、代わりに狙撃での暗殺となった。 さらにその狙撃も一弾が外した場合のフォローを考え、三方向から狙う。 スタジアム内で花火を焚き、防弾装備の演説台から主席を引きずり出す。 そして――。 マザーグースの童話『Who killed cockrobin?』になぞらえて、弓を持った三羽の雀が駒鳥「カガリ=ユラ=アスハ」を射抜くのだ―― 。 シン達の狙い通り 会場が混乱する中、逃げ惑う市民達を尻目に各国要人や政府首脳といったVⅠPは、SPに守られながら会場から脱出しようとしている。 カガリも例外ではない。 演壇を下り、アスラン達と合流する。 激しく動揺した表情が、スコープ越しからでも見て取れた。 「煙で燻せば狐は巣穴から飛び出してくる、か」 口元を、笑みというにはあまりにも歪んだ形に吊り上げる。 《風力、風向き共に変化無し。いけるな?》 レイの問いに頷き、シンはライフルの引き金に指をそえる。 いいだろう。貴様らが目を背け続けるのならば、襟首をつかんで引きずり回してでも見せ付けてやろう。 かつて踏みにじられた者の無念を、いま切り捨てられている者の怒りを―― 「思い知れ」 低く呟くと、シンはトリガーへとかけた指に力をこめた。 不意にアスランの背筋を、ぞくりと悪寒が走った。 周囲、少なくともコロシアムの中にテロリストとおぼしき姿は無い。 だが、幾多の戦場で培われたモノが警鐘を鳴らす。 ―――殺気――― 自分は知っている。 ―――戦場で幾度も向けられた、あの殺気――― 初めてのものではない。忘れていたものでもない。 ―――背筋に馴染む、この殺気は……!――― それが戦士としての勘なのか、それとも無意識下で現状と経験を照らし合わせて判断した結果なのか。 自分自身でも理解できないままアスランは、咄嗟にカガリを突き飛ばした。 その瞬間、アスランを凄まじい衝撃が襲う。 超音速で飛来した何かがアスランの側頭部を掠め、一瞬前までカガリの頭部が存在していた空間を貫いたのだ。 「アスラン!?」 「頭を上げるな!!」 こめかみの辺りから生暖かいものが流れるのが判る。 飛びそうになる意識を必死で繋ぎとめ、アスランは倒れたカガリの上に覆いかぶさった。 「なっ!?」 倒されたカガリは状況が理解ができずに呆然としていたが、すぐに"理解させられる"。 次の瞬間、さらに彼女がいた空間、すぐ傍らに弾痕が数発、たてづづけに穿たれたのだ。 「ひっ!!」 怯えるカガリを抱きかかえたまま、アスランは集まったSPに怒鳴った。 「カガリ様!アスラン様!ご無事で!!」 「狙撃だ!!主席を守れ!!」 「アスラン=ザラっ!!」 スコープに映された狙撃の結果に、怒りと失意の叫びを上げるシン。 信じられなかった。 この距離からの銃撃に、対応できる人間がいた事が。 どうやら他の連中もしくじったらしい。 素早くライフルのボルトを操作する。 薬莢排出、次弾装填。 だがその数秒の間に、SP達がカガリの周囲で横並びの隊列を組む。 カガリへの射線を塞いでいるSPを狙い、発砲。 打ち抜かれた頭から血と脳漿をぶちまけながら崩れ落ちるSP。 だが生じた穴は、あっという間に他のSPによって埋められた。 「アスハの狗が!!」 叫ぶシンに、レイが冷静な言葉をかける。 《失敗だな。撤退するぞ》 「何を言ってるんだ、レイ!?」 《元々、博打の要素が高い奇襲だ。こうも態勢を固められては、付け入る隙が無い」 「馬鹿な!?」 指を、式典会場に突きつけて押し殺した声を上げる。 「あそこに――すぐ手の届くあそこに連中がいるんだぞ!!それを見逃せというのか、お前は!?」 《直にこの位置も特定される。軍なり治安警察なりの特殊部隊がやってくるぞ。無駄死にをするつもりか?》 「…………」 淡々と指摘するレイに、数秒の逡巡の後、シンは頷く。 「その通りだ。レイ、お前が正しい。撤退しよう」 内心でいかなる葛藤があったとしても、その声は冷静さを取り戻していた。 《式典自体の妨害には成功した。俺達の一方的な敗北ではない。それより、β班の撤収が遅れているらしい。援護に向かうぞ》 「了解」 素早く立ち上がるシン。 最後に一度だけ振り返り、怒りと憎悪に燃える目でスタジアムを睨みつける。 そして足早にその場を立ち去った。 銃撃は数度あった後、唐突に止んだ。 (諦めてくれたのか?) ずきずきと痛むこめかみを押さえながら、アスランはゆっくり立ち上がった。 傍らにいた兵士の1人が、首から高倍率の電子双眼鏡をかけているのにアスランは気づいた。 ひったくると、最初の銃弾が飛来して来たと予想される方向を覗き込む。 (銃弾の方向と角度は――。まさか、再開発地域から撃ってきたのか?) 内心で呻くアスランの目が、ぴたりと止まる。 いかなる偶然か。 小さな廃ビルの屋上にライフルを持った人影、その後ろ姿を発見したのだ。 倍率を最大に上げる。 黒髪に黒尽くめの服装をした、まだ若い男。 黒一色のその姿は、まるで死を告げる大鴉のごとき不吉さがあった。 不意に男が振り返った。燃え上がるような真っ赤な瞳が、正面からアスランを貫く。 「な――っ!?」 驚きのあまり、双眼鏡を取り落としかける。 慌てて再び覗き込んだときには、すでに男の姿は無かった。 「だ、大丈夫か、アスラン!?傷はどうなってる!?」 心配のあまり狼狽するカガリの声も、届かない。 アスランは意識が遠くに引きずられていく感覚を覚えていた。 過去という遠くの世界へと。 ―――殺気――― 自分は知っている。 ―――戦場で幾度も向けられた、あの殺気――― 初めてのものではない。忘れていたものでもない。 ―――背筋に馴染む、この殺気は……!――― 「お前、なのか――シン……?」 このSSは原案文第一話Aパート後編(DC私案)、第一話Bパート前編(DC私案)を再編集、一部加筆したものです。
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