約 27,624 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3856.html
あったかい。 痛い。 気持ちいい。 離れてく。 それは——。 気持ち悪い。 真っ先に感じたのは全身を包む湿り気だった。 胸が痛い。 心臓がその存在を誇示している。 脈打つそれは左の胸に、そんな当たり前を確認できるくらいに、早い。 そっと手を添える。 ……大丈夫、体の中で心臓が目立たなくなると、あたしはそう呟いて部屋を見渡した。 机の上の写真立て。見なくても目に浮かぶ、誰かさんの。 本棚。あー……、昨日の読みかけはどこにしまったかしら。 タンス。今日は学校だから、ちょっとくらいだらしない格好でも良いわよね。 枕元の携帯。あたしにしては可愛らしいハート型のストラップ。 雨音。不規則にゆったりと、大粒の雨が窓をノックしてるみたい。 あたし。 ……そう、何かとても酷い、でも悦ばしい夢を見ていたはず。 何だっけ、何だったのかしら。 「あぁ、もうっ!」 寝癖頭をかきむしる。思い出せないのが腹立たしいじゃないの。 例えそれが悪夢でも夢泥棒は許しがたいわ。警察につき出してやるっ! と、ファンシーに意気込んだところで何の解決にもならないのよ、分かってるわ。 だからといって。 「……ダメダメ、駄目よ、あたし」 知らず知らずの内に発信履歴の中からキョンの名前を探し出していた自分を抑える。 無理難題をあいつに押し付けて八つ当たっても、後で自己嫌悪に陥るだけなんだから。 溜め息を部屋に響かせて携帯を閉じて、それを脇において——。 「っ!?」 誰よっ、心臓止まるかと思ったじゃないのっ! だから電話はかける方がいいのよっ! 怒りまかせに手に取った携帯のディスプレイには「キョン」と表示されていた。 「あの、バカ……」 電話出たら早々に怒鳴る事になりそうね、これは。 あたしは息を深く吸ってから、 「……あれ?」 指が動かない。 「なんで」 指だけじゃない。全身が、それこそ金縛りにあったかのように。 「ちょっと、なによ」 怖い。 脳裏をよぎったのは、そんな一語。 違う、動かないのは恐怖のせいじゃない。 ……違う、……違わない、……理解できない。 そして沈黙が訪れた。 「……」 あたしは呆然としていた。 自然と体が震えて、ようやく自由を取り戻す。 ——今のはなに? 落ち着いて思い返すと、何てことはないだけに不可解な理由。 あたしはキョンの電話にただならぬ想いを勝手に抱いていた。 精神が極限まで張り詰めて、体もそれにつられちゃったみたい。あがってる、とかそういうの。 ……でも、それってものすごく、馬鹿馬鹿しくて、 「腹立つんだけど」 躊躇うほどの間を空けた再度の電話に自然体——要するに不機嫌——で出られたのは馬鹿馬鹿しさへの憤りのお陰ね。 「何よ」 『あー、……起こした、か?』 「さあね。自分で考えたら」 『すまん』 キョンはすんなり謝った。 「ふん。で、何のよう? 下らない事だ——」 『いや、大事な話だ』 あたしにみなまで言わせず、キョンは断言したけど途端に口を濁し、 『ただ、電話じゃ話しづらくてな。悪いとは思うが、今から学校来れるか?』 「いま?」 慌てて時計を探す。 「まだ五時じゃないの」 『……』 黙るな、何か言いなさいよ、そう思うあたしも口を閉じたまま。 張り付くような雨音はいつしか聞こえなくなっていた。 普段は意識なんかしない時計の針の音、それが大きく、ゆっくり耳に響く。時を刻むこと、ほんの十回ほど。 『待ってる』 「あ、こら! 待ちなさい、キョン! キョン!? ……切りやがったわね」 直ぐにかけ直したんだけど、 『……現在、電話に出ることが……』 「やってくれるじゃないの」 これで下らない用事だったら、人としての尊厳を最後の一欠片まで剥ぎ取ってやるわ。 小気味良い音をたてて携帯がたたまれる。 制服に身を包み、暴れている髪を急いで整え、鞄を手に取り、 書き置きを人気のない食事に残し、食パンを一枚台所から失敬して、あたしは家を飛び出した。 朝方の雨が水溜まりと、ウザったい空気を置き土産に残していた。 走っていると水溜まりに突っ込み、跳ねた水滴が足につく。追い討ちのように靴下が水を吸って張り付くあの不快感。 「あぁ、腹立つ。どいつもこいつもっ!」と、叫んで。 ピッチを上げる。緩んだ唇を結ぶ。空いた手を頭へ。一つにまとめたあたしの——。 「ふん、だ」 頭を左右に振る。雑念には消えて貰わなくちゃね。 「着いたわ」 自己最短記録を更新した自信と確信が全身に満ちてる。だって、普段はこんな急がないし。 ついでに。 遅刻する、とか言ってセコセコ走ってる奴見てるとイライラするのよね。 取っ捕まえて、説教したくなるわ。いっそ堂々と遅刻ぐらいしてみなさいってね。 まだ開いていない正門を当然のように乗り越え、ご丁寧に一つだけ鍵の掛かっていない扉を開けて下駄箱の前に立つ。 「あら」 開けると上靴の他に一つの箱と封筒が入っていた。 濃い赤色の、自分の握り拳より二周りほど大きくて、少しあったかい——人のぬくもりを思い浮かべて——箱。 それとキョンの手書きの封筒。中にはたったの一行。 『プレゼント』 何度も消した後が見えるのが、なんだか、嬉しくて。 でも。 と、心中でキョンに語りかけつつ、上履きを地面に放り投げる、気の抜けた着地音。 一体何のプレゼントなのかしらね、あたしの誕生日は今日じゃないわよ。 勘違いしてたら、表面は怒り、内面は凹みよ。 静かな校舎に足音が響く。まるで世界中にあたししかいないみたい、でもそれは錯覚。 あたしの手のうちの箱、それが、この校舎内のキョンの存在を証明することになる。 継ぎ目のない、形として完璧で、仕組みとしては不良品で、 なぜか時々脈動しているようなそれは、覚えのない記憶であたしを不安にさせる。 あの廊下の曲がり角から突然にこの世の物ならざる物が出てくる、そんな妄想を浮かべながら一歩づつ進んで、 教室が近付くにつれて、心臓が高鳴る。あいつは一体なにを企んでいるのかしら。 宇宙人でも捕まえたの? タイムトラベルでもする気? 超能力者に透視でもさせようっての? 教室の扉がベルリンの壁か万里の長城に思える。全く別な二つの世界の境目。 そして、そのあたしの感想は——。 「なに?」 ツンと鼻をつく鉄の臭い。 真っ赤な内装。 屋内なのにある水溜まり。 教室中央の奇怪なオブジェ。 二つの世界の境目、そのあたしの感想は——正しかった。 明確に分け隔てられていたのは、あたし——生者——と、キョン——死者——との世界。 そう、鼻をつく鉄の臭いはキョンの血の臭い。 壁を染め上げたのもそう。 床上のあれは血溜まり。 そして奇怪なオブジェは、 「うそ、……よね」 あたしは「それ」と一歩距離を縮める。 「ねえ……」 「それ」は微動だにしない。 「冗談なんでしょ」 「それ」は、……人型の「それ」は。 「怒る、わよ?」 キョンだった。 「ねえ、キョン……」 傍観者に徹している自分の中のどこかが無駄だよ、と告げている。 それくらい分かってる。 あたしにだって分かる。 キョンの左胸に、ちょうど拳大の穴があいている事くらい。それは多分、心臓をえぐり出された痕跡。 込み上げる、吐き気、おぞましさ、恐怖。 死。 死。 意識はホームビデオのように間のシーンを完全に欠落させていた。 ここは文芸部室、SOS団の本拠地。 団長席であたしは膝を抱えて震えていた。 さきの光景が信じられなかった、からじゃない。信じちゃったから。 だから震える。 「うっ——」 体が、空っぽの胃からさらに絞り出そうとする。でも何も出ない。嗚咽と涙以外は。 どれくらいそうしてたか。長くはないと思うのよ。全く騒ぎになる様子もないから。 あたしの耳が足音を聞いたのはそんな時だった。 「……ああ」 こんな朝から部室棟に用がある人間なんてそうはいない。 朝練みたいにまともに部活しちゃってるとこは専用の部室があるし、忘れ物を取りに来るには早すぎる。 多分、教師の見回りでもないでしょう。 だとしたら。 不意に確証なしに確信する。 ——ヒトゴロシ 苦い笑みが溢れる。 ——キョンを 息を殺してそいつを待つ。 ——何で あたしはどうしてなのかなんて気にもとめなかった。 ——知りたくもない ただ、こんなちっぽけな物でも命は奪えるんだ、と白けた感動を覚えただけ。 ——一つだけ そうよ、全く不思議に思わなかったの。 ——思念を埋め尽くすの 予定調和のようにあたしの手に収まっていた。 ——うん その鈍く輝く、ナイフは。 ——殺シテヤル 足音が止まる。 ノックがふたつ。 無音を返すわ。 ノブが軽く回る。 いらっしゃい。 姿を表したのは。 あり得ない人。 「よう、ハルヒ」 嘘でしょ? 「キョン——」 「なの?」 ナイフが手から滑り落ちて、硬質の音が響く。 「……どうした、死人を見たみたいに真っ青じゃないか」 どの口がそんな低級ジョークをかましてんのよ! あんたはさっき血まみれで——。 ……でも今は。 確かにキョンの体に外傷は無いのよ。 ポッカリと空いていたはずの左胸の穴は言うまでもなく、かすり傷一つさえ。 血の痕さえない。いたっていつも通りの、冴えないキョン。 「幻覚かしら」 そんなのってありなの? 「……ねえ、キョン。あんたこんなに早くから何してんの」 あたしの問いに、キョンは一拍おいて苦笑し、答えた。 「おいおい、ハルヒ。呆けるにはちょっと早すぎるぞ」 「うっさい、呆けてなんかない」 「そうかい」 「そうよ。……何でも良いから答えなさい」 両の肩をすくめて定型文。 「お前が呼んだんだろ。で、今度は何を企んでるんだ?」 「……ないわよ」 「ん?」 「呼んでないって、言ってんのよ。むしろ呼び出したのはあんたの方でしょ!?」 「新手の冗談か、それは。俺はお前に叩き起こされて朝早くから教室にいたんだぞ」 「知らないわよ、そんなの。からかってるわけ?」 「……待て。本当に知らないのか」 「そうよ」 「じゃあ、あいつは他人の空似か?」 「知らないっての」 投げやりに返して腰掛ける。 「そうか。うーん、……ここに来れば返して貰えると思ったんだが、甘かったか。まさか偽者とはね」 一人ごちながら徘徊し始めるキョン。 「困ったな、アレがないと……。なあ、ハルヒ」 「な、なに?」 「俺の心臓を知らないか」 血の臭いが鼻を突いた。 「お前が持ってった、俺の心臓を知らないか」 キョンの手が何かを——心臓を——求めて伸ばされる。 「来るな!」 咄嗟に払った手は氷のようで。 『何なのよっ! 夢なら醒めてよっ!』 醒めるはずもなく。 狂乱に見舞われたあたしは、あっと言う間に隅に追い詰められた。 「なあ、持ってるんだろ?」 「持ってない!」 悲しみを湛えて、そいつはあたしの言葉を否定する。 「そんなはずはないんだ。分かるんだよ、俺には」 「知らないっていってるじゃないの!」 「深紅の箱」 ……え? 「その中だ」 あの箱なの。あの中に? 「箱は持ってるんだな。貸してくれ」 「確かに持ってるけど……」 あたしが取り出したそれには、取り出す口はない。そいつも落胆の様子を示して、 「これじゃ、ダメだな。……仕方ない、これはお前に返すよ」 「いらない。あんたのなんでしょ」 「そう言うなよ。一度取られたもんだ」 肩に大きく冷たい、そいつの手がかけられる。 「なあ、ハルヒ。やっぱり似合ってるぞ」 抵抗する間もない、冷たい口付け。でも、今度は続きがあった。 そいつは笑った。 「だから、今度はお前の心臓をくれよ」 紅が世界を覆い尽くす。 あったかい。 痛い。 気持ちいい。 離れてく。 それはあたしの。 心臓。 薄れ行く意識の中で最後に見たのは愛しそうに心臓を掲げるキョンの顔。 バカキョン——。 目を開く。 「……ゆめ?」 本当に? 左の胸に手を当てる。 動いてる、……ここにある。 「それも、そうよね」 溜め息を吐き、体を起こしたとき。 着信を告げるメロディ。 キョンから。 あたしはこれに応えるべきなのかしら。 戸惑うあたしと、携帯電話と。 いつまでも、いつまでも。 途切れる事はなく。 FIN.
https://w.atwiki.jp/16seiten/pages/1305.html
「さて、処分しようかァ? 「なめないでよね」 「僕たちはアリスナンバーズ。君たちなんかに負けはしない!」 ジーン・キャロルとジニス・キャロル つい最近までカイザーに保護されていた、かつてアリスナンバーズと呼ばれた双子 視覚、聴覚に訴えかける能力トゥイードルディーとトゥイードルダムを持つ双子は 自分たちに敵意を向ける“それ”に、能力を開放する 二つ合わさることで、無限の分身を生み出すその能力は、敵対する“それ”を混乱に追い込み その隙に応じて反撃に映る…そのはずだった 「あはははははは!なんだい君たち!まぁーったく学習してないねェ!」 「え…!?」 黒いローブに身を包み、仮面で顔を隠した“それ”が左手を上げると 当りにガチガチガチと、固い物と固い物が短い間隔でぶつかる音が聞こえる 例えるならそれは、歯ぎしりに近い 「なん…だ…?」 ジーンはコレによく似た音を知っている 彼にとっては姉と呼べる人物が、能力を使いこなせない時に出していた音 統率のとれない不可視の獣の出す不快な歯ぎしり だがありえない。あれを使いこなせるのは、彼らの二人の姉のみ 「誰なんだ、お前は!」 “ガチガチと音を鳴らす視えない何か”に囲まれ、ジニスは不安から 黒いローブの“それ”に向かって声を荒らげる 「あははは!あははははは!馬鹿だなぁ!ボクの顔を見忘れたのかい?」 “それ”はゆっくりとフードを上げ、仮面を外す その下にあった素顔、それはジーンとジニス、両者にとっては馴染み深く 二度と逢いたくない人物、そして死んだと聞かされていた人物の顔だった 「嘘だ…」 「そんな…ありえない…」 双子の動揺は大きい。 ありえない。ありえない。ありえない。と口の中で呟く 何度も。何度も。何度も。 仮面の下から現われたその顔。顔の半分が崩れているが、間違いない それはかつて ワンダーワールドの奇襲と名付けられた日に、死んだはずの彼らの兄弟 レミー・キャロルそのものだった 「あーははははははは!ははははは!見てごらんよ!ボクの姿をさぁ!」 「すごいだろ?生き返ったんだ。嬉しいだろ?僕が生き返って!」 「すごいだろ?バンダースナッチだ!僕の新しい能力だ!」 「やはり…バンダースナッチだったのか」 等と双子は思わない。思えない。 レミー・キャロルの笑い声。レミー・キャロルのいやらしい目、顔。それら全てが “人”として暮らしていた彼らを、“物”として扱われ、虐待されていた日に 彼らを引き戻していた。彼らは狂える兄を前に、ただ震える事しかできなかった 「おかしいだろ!?ボクは君たちの兄さんなんだ!兄が弟より醜いなんてさぁ!」 「あははは!あははははははははははははははははははははははははははは!」 レミーは笑った。かつて妹たちを殺したときと同じように レミーは笑った。かつて妹たちを殺したとき、その時以上に 「だからさぁ!死んでよ!ボクのために死んでよ?ううん、違う」 「死ね!死ね!死ね!死ね!食らい尽くせ!バンダースナッチ」 レミーは命じた。自身の能力に レミーは命じた。かつて妹達を殺した時のように 「誰だい…?イケナイなぁ…!ボクの邪魔をするなんてさぁ!」 「それがバンダースナッチ?冗談はやめてよね。ボクのバンダースナッチの品位が落ちちゃうなぁ」 「嫌になっちゃうなぁ。ホント、アタシなんでレミーと双子なのかなー…」 元十大聖天No5クリステル・キャロルと アリスナンバーズ初期ロットにしてレミー・キャロルの双子の妹 ネリー・キャロルの姿がそこにあった 十六聖天外伝 夢と、もう一つの世界 序
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/948.html
『Diver s shellⅡ』 第十一話「昔の夢と、お茶会」 昔々あるところに……。 から始まる物語は大抵極端に走ることが多い。 戦力外としか思えぬキジを引き連れ鬼の棲む島を強襲して宝物を取り返すに留まらず片っ端から成敗したり、人になり妻になった鶴に覗くなと言われたのに覗いて出て行ってしまったり……。 これより語るは、極端でもなんでもない、ありきたりな昔話である。 その日彼は夢を見た。 夢と理解して見る夢は珍しい。大抵の夢は勝手に作られた台本と世界観に従い、なんの違和感も抱かず、登場人物でありながら第三者のような視点で見るものだ。脳が情報を整理するときに体感するものらしい。 彼は、自分が寝入ったのに意識を拡散させずに居ることに気が付いた。普段なら暗闇に飲み込まれてしまうはずなのに、今日に限って寝たはずなのに起きたような、光を排除された部屋に閉じ込められたような感覚に陥っていた。 暗い。漆黒が全てを埋めていて、自己のイメージ映像すら映らない。普段なら取り留めなくくだらないイメージ画が流れるはずなのに。 怒鳴ってみようとしたが声も出ない。瞬きも出来ない。呼吸も出来ない。脳髄のみとなってシリンダーの中に浮かべられているかのようと、思念の中心で考える。 と、たちまちの内に自己が拡大して人間の姿をとる。男性としてはやや細い体、長めの灰色髪。 彼の名前は、オルカ=マクダウェル。 彼が彼の姿を取り戻してどれほどの時間が経過したか、いつのまにか辺りは見慣れた風景に様変わりしていた。 コンクリートと鉄で建築された、孤児院……に違いは無いのだが、違和感を覚える。壁の色や庭の木などが記憶の中の孤児院と微細に違う気がするのだ。 「……あ、そうか」 彼は唐突に理解した。 これは、昔の孤児院なのだ。 オルカは孤児院を見下ろす位置に支え無しで浮遊している。夢なのだから、いかなる超常現象も許容されるのだろう。豚が空を飛んでも、夢なら仕方ない。 これからなにが始まるのか? オルカは映画を鑑賞するように虚空に座り込むと(夢だからできる)、待った。 どれほど待ったか。夢の中において時間は無いモノも同然。時空を超えることも、夢は可能とする。 暫くすると、孤児院に人が湧いた。初めから居たように子供達や職員が出現して、各々で時間を過ごしている。鬼ごっこ、談話、お菓子を食べたり日向ぼっこをしたり。 その中で一人の子供が職員の目を盗んで孤児院の塀を乗り越えると、走り去った。その後ろを黒髪の女の子がついていき、塀に手をかけ乗り越えると、弾ける快活さをアピールするが如く駆けて行った。 最初の少年はオルカ自身で間違いない。オルカはしょっちゅう孤児院を抜け出しては遊びに出かけていた。追跡者はジュリア以外に考えられない。 視界が霞み、渦巻くように景色が溶け合うと、再構成されて廃工場になった。 廃工場にかつてのオルカ少年が駆け込んでくると、錆びた鉄製の箱の蓋を開けて銀色に輝く綺麗な鉄パイプを取り出した。少年が持つにしてはやや大きい。 そのパイプが宝物であるかのようにぎゅっと握って、剣を使うように正面に構えた。 この歳の男の子は得てして乗り物や木の棒に執着心を持つものだ。女の子は大抵人形や可愛いものを愛する傾向にあるという。 オルカ少年がパイプを振りかぶるや、目一杯の力で廃工場の柱に叩きつける。かーんと甲高い音が鳴った。オルカ少年は飽きもせずパイプを振り回す。バットの素振りのようだった。 「……恥ずかしいな……これが黒歴史か……」 パイプを剣に見立て、ありもしない敵目掛けて振り回し討ち斃す。 過去に書いた小説を読み返したときもこんな気持ちになるのだろうか。オルカは目の前で再生される過去の日常に顔を赤くした。 一通りの敵(仮想の)を成敗したオルカ少年を、物陰からこっそりと覗くジュリア少女が居た。くすくす笑いを浮かべ、いつ乱入しようかと算段を立てているようだ。 オルカが過去のオルカに語りかけても手を振っても気がつかない。どうやら、過去の映像をまじかで観察するに留まっているようだ。 オルカ少年はパイプの切っ先を地面に降ろし、大きく息を吸った。 「ふー……」 パイプを見つめるオルカ少年を、現在のオルカが見つめる不思議空間。 過去の自分に説教の一つでも垂れたかったが、過去を変えることはタイムパラドックスの観点から不可能だし、何より夢の中で説教をしてみたところで面白みの欠片も無い。 恥ずかしい。 恥ずかしすぎる。 オルカは鉄の棒を振り回して悦に入る自分を張り倒したくなって、両手で顔を隠した。 「隙あり!!」 「ぶはっ」 顔を隠した直後、小柄な少女が物陰から姿を見せオルカ少年に飛び蹴りをかました。クリティカルヒット。オルカ少年は悲鳴を上げつつ廃工場の地面に転がった。 傍観者は自分で、主人公も自分。 漫画調に蹴られそして飛んだオルカ少年は、パイプをぽーんと投げてジュリア少女に挑みかかった。 「痛ったいなぁ! 死んじゃうとこだったろ!」 だがジュリア少女は鉄の防御で突っぱねる。オルカの顔に頭突きを食らわし、よろめいたところで腕で首を絞める。 ちょっと前にやられたような覚えがあるが、はてどこでだったか……。 首絞め状態から近接格闘の要領で地面に寝かせ、腕の関節をレスリング技にて締め上げ。過去あったこととは言っても自分の体。締められてもいない腕がじんじん疼くような気がした。 オルカ少年は半べそをかきながら地面を叩き始めた。 「痛い痛い痛いごめんごめん!!」 「弱っちいなぁ~。はいはい」 これも、つい最近ジュリアにやられた記憶がある。とっても見覚えがある。昔も今も変わらない点は多くあるということなのか。 オルカ少年は腕を擦りながら立ち上がり、ジュリア少女は遊びたくてうずうずしているらしく両手を握ったり開いたりして、ニコニコ笑っている。 オルカ少年が、ぱっとジュリアに飛び掛るが、数瞬早く逃げられる。追いかけっこが始まった。 「待てーっ。おれもかけてやるーっ!!」 「へーん、やれるもんならやってみなー! 泣きべそオルカー!」 「懐かしい……」 通り過ぎる、過去の幻影。 鉄骨やら針金やら家具やらが雨風に晒されるままになっている廃工場内を、二人の子供が相手を捕まえんと追いかけまわる。つまずいて転んで血を滲ませても、痛さより楽しさが勝っているのか、すぐに立ち上がって再開して。 二人の子供が作る靴音をBGMに、一人の大人は腕を組んだ。 いつ頃だったかな、と追憶する。 過去から現在に至るまでの映像・感覚・思い、その全てを整理し引っくり返し一欠けら一欠けら拾い集めぎゅっと固めて水面下から掬い上げる。 オルカは彼と彼女の方に一歩踏み出し―――……目を覚ました。 「あれ……、ここ、は……?」 白い天井にどこにでもありそうな照明器具。光を好む羽虫が天井をぶんぶん飛び回っている。 オルカは、見慣れた天井だなどとありきたりなことを思った。 彼の寝るベッドの隣には小さい物置台があり、その上に目覚まし機能の付いた時計が大人しく座っている。やかましいベル音が鳴るのは彼が目を覚ますずっと後にセットしてあった。 寝起きのためか考えが鈍く、ベッドで布団に包まったまま焦点の合わない目つきのまま時を過ごす。暫くすると脳が活性化してきて、物事をしっかりと考えられるようになってきた。 時計を見遣る。朝だ。窓を見遣る。薄暗いが確かに朝だ。 冬なので気温が低く、布団を被っていても生地の隙間からじわじわと体温を奪われるよう。オルカは布団を被りなおすと、大あくびした。 「あれ?」 そこでやっと、自分が泣いていることに気が付いた。 欠伸の時に出る生理現象ではなく、随分前から泣いていたことを示すように涙の流れた端っこは乾いてパリパリになっていた。手で擦って痕跡を消し去る。 オルカは朝の準備をするため、自分が泣いた事実を頭から捨てると、布団を跳ね除け起きた。 . 所変わってメリッサ&ユト宅。 潜水機の整備技能を活かして街に働きに出かけたユトを除き、ジュリア、クラウディア、メリッサ、そして道中ジュリアに付いてきたクー、その面々がリビングに集まっていた。 紅茶にケーキにクッキー。別に難しいことを話し合おうということではない。軽くお茶会を開こうというだけなのだ。 リビングのソファーに四人の女性。 一人黙々とクッキーを食べるクーをよそに、ジュリアは紅茶の入ったカップに口をつけた。 天候は晴れとも曇りとも言えぬ煮え切らない様相。気温は低いが、部屋の中で孤独に頑張っているエアコンのお陰で苦痛は無い。 「あーえっと、妊娠……」 「お医者さんに診て貰ったら2ヶ月だって」 「二ヶ月ね。了解」 ジュリアがちょっと聞きにくそうにメリッサに質問しかけると、途中で本人が答えてくれた。 メリッサは服装髪型こそ余り変わっていないようだが、無意識にお腹に手をあてている。ツンツンとした棘棘しさもなんとなくながら和らいでいると、ジュリアは思った。 お前ちょっとは遠慮しろよな速度でケーキを平らげ紅茶を飲み干したクラウディアは、口元を指先で拭うと、両腿の上に腕を乗せ手を組み合わせた。なお、この間もクーはクッキーを食し続けている。何しにきたのだ。 「一ついい?」 「うん、なに?」 目に好奇を灯し、質問をしようと両手を合わせ前のめりになってクラウディアが口を開いた。メリッサはやや引き気味になりつつも、負けてなるものかと前にぐっと寄る。 「……『二人っきり』の時はどんな名前で呼んでるのかしら♪」 「え? ええっ、え!? 二人っ!?」 「早速か、お前は」 そして女は、脳がお天気なのか、爆弾を投下した。 二人っきりとは、どういうことだろうか。 例えば映画で重要な情報や味方の裏切りを感知した二人が、関係者だけで話したいときは、席を外してくれ、など二人っきりの状況を作る。例えばお互いがお互いに苛立っているときは殴りあうために二人っきりになる。 では、この場合の二人っきりとは? ユトとメリッサは婚約しており、家に誰かを同居させていない。家に帰れば二人っきり。そう、二人っきりなのだ。 みるみるうちにメリッサとジュリアの顔が赤に染まった。耳から蒸気が吹き出そうだ。 「それは……メリー、とか……」 両手を股の間に挟み、俯いて。頭を傾ければ、頭の後ろで纏め上げられた髪が重力に従い、彼女の頬を隠す。ちょっと前の彼女なら火山が噴火していただろうが、今は小川の水量が増えた程度。愛や恋は人を変えるらしい。 クラウディアはイジメたい衝動をグッと堪え、むふふと笑った。 一方ジュリアは、顔の赤らみを誤魔化す為に紅茶をもう一口啜って脚を組まざるを得なかった。二人っきりの意味にピンときたからが故の行動である。 「幸せそうでなにより」 「あ、ありがとう」 イジる気が失せてしまった。 クラウディアの足でも踏みつけてやろうと策略を立て始めていたジュリアだったが、本心であろう一言で止めた。 恥ずかしいの限界を超えたらしく、母親になる予定の女性は黙った。クーがクッキーを食べ終え、新しい一枚を手に取るとリスのようにもしゃもしゃと歯で噛み砕いては飲み込む作業を続ける。 「聞いていいのか分からないけど、子供の名前とかって決めてある?」 こほん、咳払いをすれば、ジュリアが話題を提供する。カップを置くとカチャッと短く硬い音がした。子供の名前といえば、定番の話題であると思っての行動だった。 お腹を擦っていたメリッサは、頭を振ることでポニーテールの位置を直すと、香り高い紅茶を一口飲み、クッキーをかさりと齧った。そして片手を顎に置いた。 「決めてないのよ、実は。ユトと一緒に考えてるんだけど、いいのが思いつかなくって。男の子か女の子かも分からないから、いくつか候補を考えておいて、性別が分かったら更に絞り込もうって」 「ふーん……」 妊娠二ヶ月だと、赤ちゃんは目に見えるか見えないかほどの大きさしかなく、性別の判別は極めて困難なのだ。だから名前を決めるにしても男の子なのか女の子なのかも分からないため、どうしようもなかった。 流石のジュリアとて、性別を見分けることは成長しないと不明であることぐらいは知っている。彼女が自身のお腹に置いた手を見遣りつつ、脚を組みなおす。 「そっか。名前……良かったら私らも候補を考えておこうか?」 「うーん、そう……ね。暇があったら考える、程度でいいケド」 「いいなぁ、子供。ところでジュリちゃん、結婚のご予定は?」 「ジュリじゃなくジュリアと呼べよ。結婚の予定? そりゃこっちが聞きたいわ」 「相変わらず仲がいい事のねー」 「仲ァ? これを見て仲がいいって?」 「怒らないでよ~ジュリちゃん」 「寝起きで口の中に牛乳ブチ込んでやろうか?」 「白い液を? なにそれえろい」 「バカヤロウ」 「寝起きドッキリは熱々の料理の方が効果的ってオヤジさんが言ってたっけ」 「そうだな、マッハで熱いコンソメスープを流し込んでやんよ」 「私にスープを流し込めるとでも?」 「やるやれないじゃない、やるんだよ。んで写真に撮ってやる」 冷静なのに傍から聞いて居たら怒涛の口論にしか聞こえない会話のキャッチボール。 クラウディアがからかい、ジュリアが口角泡を飛ばす勢いで反論に否定を重ね、愉快げにメリッサが眺め、完全なる一人空間を築き上げたクーは私の人生における最重要課題はクッキーなのだといわんばかりに貪り続ける。 女性というのは、話が好きな生き物である。 男性なら、 『明日部活だってさ』 『分かった』 で済ますのを、女性は、 『明日部活~~~~(略)~~昨日テレビで~~(略)○○君が昨日ね~~(略)学校の先生がさ~~(以下略)』 『そうそう~~~(以下略)』 と、連装ゲームのように繋げていくものだ。 全ての女性がそうであると断定すると色々な方向からご指摘があるから絶対そうだとは言わないが、長電話において、男性は女性に勝つことは出来ない。 一行の話が、子供から平和な世間話に流れ、やれ恋愛がどうの、潜水機がどうのこうの、可変機構に関する是非、メリッサとユトの馴れ初め、紅茶の原産地、最近のニュース、と連鎖し、ふと気が付くと夕方過ぎになっていた。 地平線に隠れかけた太陽は朱色を帯び、街を染めている。 「いけない、もう帰らないと」 「もう時間か、早いな」 クラウディアは、本日三杯目の紅茶を飲み干すと、ぐぐっと伸びをしつつ立ち上がった。遠慮なくお代わりをし続けた結果がこれである。 コーヒー派であり、遠慮を知っていたジュリアは一杯だけ。口元を拭うと、話でやや温まったことを自覚しつつ立ち上がり、玄関の方に体を向けた。 名残惜しげにクッキー類を眺めるクーに、メリッサは苦笑しつつ、キッチンからビニール袋を持ってくると中にクッキーを入れて手渡した。 はし、とクーは受け取る。 「はい、これ」 「ありがとう」 クーは表情こそ変えないが、宝物を手に入れたようにビニール袋を胸元に引き寄せて保持した。なんだかんだで一番食べたのは彼女であった。 ジュリアとクラウディアを先導すべくメリッサが玄関に歩いていき、ドアを開ける。足を置いてドアの位置を固定すると、二人が外に出られるようにした。 二人は外に出ると、なんとなしにメリッサを眺めた。自分より早く結婚して出産の予定があるなんて、と思ったかは定かではないが、羨ましいと思ったのは事実だ。 メリッサは二人の顔を交互に見ると、じりじりと後退した。熱っぽい視線というか、アイドルを見るかのような視線に羞恥に酷似した感情を抱いたのである。 「黙ってないで何か言ってよ、気味が悪い」 「あー、悪い悪い。あのメリッサに子供がねぇ、って。シモネタもさらさら言ってたから、なんというか、ね。悪い意味で言ったんじゃないぞ」 「分かる分かる。活発娘だったんだもの、ちょっと現実味が」 「あんた達、本気で怒るわよ?」 「おー怖い」 「怖いわぁ」 握り拳を作り息を吹きかけ迫るメリッサに気圧されて二人は半歩下がる。メリッサの口元がピクピク震えている辺りが結婚前の彼女の行動そのままだった。 「あれ、お客さん?」 その時玄関から少し離れた場所から声がした。三人が一斉に振り返ると、頬に機械油をくっ付けた金髪眼鏡の青年が立っていた。彼女の夫たるユトである。 メリッサが静止した。目を見開き、口元をきゅっと結んで拳を降ろすと、恋する乙女を絵に描いたように頬を赤らめ、ジュリアとクラウディアが見る前で駆け出した。クーはクッキーの袋の隙間から匂いを嗅ぐのに夢中だった。 彼女の特徴の一つであるポニーテールが体に追いつこうとして纏まって流れ。 「おかえりーっ!」 「うわぁっ!? メ、メリッサ、三人も見てるから!」 「えー……」 「えーじゃなくて、じゃないな、……そうでもないけどぉっ!」 手ぬぐいが地面に落ちた。 作業着姿のユトに、地面を跳ねるように駆け寄ったメリッサが抱きついたのだ。一応男性であるユトはメリッサの勢いを受け止めることに成功したが、目撃者が居る段階で成功うんぬんは意味が無い。 動揺隠せず慌てるユトに、顔をぐりぐり押し付けんばかりにメリッサが抱きしめる。二人の指には同じデザインの指輪が光っている。 ジュリアとクラウディアは、うんうん頷きつつ、足音を殺して夫婦の横を通り過ぎる。クーは黙ってついてくる。 「ゆっくり夫婦の時間を楽しんでね!」 「馬鹿なこと言ってないで帰るぞ」 「あだっ、痛~い」 親指を立て教科書も真っ青な笑顔を作ったクラウディアの頭をジュリアがすぱこーんと叩く。アホ毛が上下にしなる。 リミッターが外れたように抱きついて愛を表現してくる妻に、夫はおろおろするばかりであり。遠ざかりつつある来訪者二人に状況を説明せんと手をばたつかせるが、意味を成さない。 我慢せず顔を押し付ければ、当然胸とか当たったりするわけで。夫婦になった今、色々な意味で我慢する必要は無いのだが、人が見てれば話は別だし、何よりユトという人間の性格上恥ずかしいゲージが限界に達しそうであった。 メリッサの肩に手を置いてやんわり引き離そうとするが、逆にひっついてきてあろうことか足まで絡めんとしてくる。 嬉しい、嬉しいが、人目を気にしてくれると――。 「三人ともっ、これは違っ」 「違くないもん」 「だけどね、見られてるからね、あのね!」 ジュリアとクラウディアが家を離れる時、クーが一人振り返って、抱き合う二人を見遣り、本当に小さく言った。 その台詞は、現状を的確に説明する一言であった。 「……デレ?」 あぁ、なるほど。 二人は納得すると帰路に着いた。 なおクーは二人に食料をねだった後に帰った。 【終】 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) + ... 名前
https://w.atwiki.jp/tukinokaze/pages/214.html
⑦夢と現実の世界~第二十九話~ テ「で…どうするんですか?」 オ「とりあえず、あの大きさでは普通に戦うのは危険すぎる。私が行って様子を見てこよう。」 テ「気をつけてください。」 オ「ああ。」 オリマーが近づくと、オオハルガネムシはオリマーに突進した。 オ「おっと」 オオハルガネムシの攻撃は単純で、一直線に突っ込んでくるだけだったので、オリマーでも簡単に交わせた。 ル「あれ…倒したら…料理しよう…」 テ&初「……;」 オ「テルキ君!ピクミンを投げてくれ!コイツを倒す!」 テ「あ、ハイ!」 テルキはオリマーの指示通り、ピクミンをオリマーへと投げた。 オ「よし!まずは…紫ピクミンだ!」 ドンッ 紫ピクミンはオオハルガネムシの上に落ち、怯ませた。 オ「今だ!全員でかかれー!」 ピ「ワー!ワー!」 ピクミンたちはオオハルガネムシを攻撃した。 だが、倒れず、振り払われてしまった。 オ「まだまだー!もう一度!紫ピクミン!」 ヒュー… オリマーが紫ピクミンを投げようとした時、上から何かが落ちてきた。 テ「オリマーさん!危ない!」 オ「うぉ!」 ドスーーン 上から落ちてきたのは、ダマグモだった。オリマーとピクミンは、なんとか避けた。 初「この状況デダマグモナンテ…!流石のオリマーサンデモキツいのデハ?」 テ「じゃあ僕も行きます!」 テルキが行こうとしたとき、ルーイがテルキの前に出た。 ル「…君は…ここにいるんだ…」 テ「ルーイさん…」 初「珍しいデスネ。ルーイさんが自分から行きたがるナンテ…」 ル「…あれが食べたい…」 初「ソコデスカ!?」 ルーイはそれだけ言うと、オリマーの元へと走り出した。 ル「オリマーさん…手伝います…」 オ「よし!それじゃあ黄ピクミンでダマグモの相手を頼む!」 ル「ダマグモですか…」 オ「なんだ?」 ル「…別に。」(あっちが良かった…) テ「ふぅ。しばらく暇だなぁ…」 初「話し相手にナリマショウカ?」 テ「うん!」 初「デハ、何を話しましょうカ?」 テ「そうだなー…じゃあ、社長は元気なの?」 初「ハイ。今でもイキイキしてマスヨ。ッテ社長をご存知デ?」 テ「うん知ってるよ。欲のある人だよねー。」 初「ホントデスヨ。モウ私モ疲レマシタ;」 テ「あはは・・・;」 そしてしばらく経ち、ルーイがダマグモを倒した。 ル「オリマーさん…こっちは終わりました。」 オ「よし!じゃあこっちを手伝ってくれ!」 ル「はい。」 テ「おぉっ!とうとうオリマー&ルーイだー!」 初「この二人は揃うと強いデスヨ!」 その戦いをテルキはずっと見ていた。 テ「お互いが助け合って、+になってる…。1+1が3にも4にもなってる…」 初「テルキサン。1+1=2デスヨ?大丈夫デスカ?」 テ「いや例えだから;ってかそーゆー感じで誰かが言ってたのパクったんだよ;」 初「まったくその人は算数が出来てませんね!」 テ「いやー、だからね…」 初「あっ!」 テ「え?」 テルキがオリマーたちの方を見ると、オオハルガネムシが大暴れしていた。 オ「皆!一旦離れろー!潰されるぞ!」 ピ「ワー!」 オリマーの指示通りに動き、なんとか被害は0だったが… ル「あれじゃあ近づけませんね…」 オ「ああ・・・」 オオハルガネムシはじたばたしていて、近づけばすぐに潰されそうな感じだ。 テ「しばらく待つしかないんですかね?」 オ「そうしかないだろうが、そうしてしまうと体力が回復してしまう…隙をついてトドメをさすしかないだろう。」 初「でも、止まりそうにナイデスヨ。」 オ「…」 ル「…!…ケメクジ…!」 オ&テ&初「え?」 ルーイが静かに指を指した。その先には、お腹を食い破られたケメクジがオオハルガネムシに近づいていっている。 オ「まさかアイツ、やられた分をやりかえす気じゃ…!」 初「あの状態じゃ返り討ちにあうだけデス!」 テ「オオハルガネムシはまだ暴れてます!」 それでもケメクジは突っ込んでいった。 オ「…そうか…あのケメクジはもう…」 初「どうシマシタ?」 オ「おそらくあのケメクジは、自分の生命活動が終わることを察したんだ。」 初「何故そう思うのデスカ?」 オ「ケメクジは普通、倒れると体が溶けて消滅する。あのケメクジは、徐々に溶け始めている。」 テ「確かに…どんどん小さくなっていってる…」 オ「さてと、今回の探索で2度目だ…。この戦いを見届けよう。」 全員何も言わずに頷いた。 ケメクジはオオハルガネムシの攻撃を受けたが、怯まずに自分の射程範囲まで前進し続けた。 そして、オオハルガネムシの中心目掛けて、ケメクジは攻撃した。 ケメクジの攻撃は見事に敵を貫き、生命活動を停止させ、自分の活動も停止し、消滅した。 そのままテルキ、オリマー、ルーイ、初号機、そしてピクミンたちは、何も言わずに地上へと帰った。 残り51日 続く
https://w.atwiki.jp/16seiten/pages/1320.html
「ねぇ、クリステル」 「どうしたの?ネリー」 「あれってやっぱりワンダーワールドだよね?」 「…そうだね」 クリステルの脳裏に、ネリー達が来る前に彼女と交わした会話が思い出される 「ワンダーワールド?」とクリステルが聞くと、彼女は「そうだよ」と短く返し 自分に一枚の鏡を託して夜の闇に紛れて消えた 「そうだよ」と答える彼女は、どこか悲しそうで、今にも泣きだしそうな、そんな顔に見えたのだ 常に強気で、勝気で、絶対者として存在していたかつての彼女からは想像もできない、そんな姿… あれは本当にワンダーワールドだったんだろうか… 「…テル!クリステルってば!」 「え、あぁ。ごめん。考え事してた」 「怪我の手当てしないと。ジーンとジニスの家にあがらせて貰お?」 「うん」 クリステルはワンダーワールドが消えたあたりを見て、一人祈った 恐らく今もまだ戦っているであろう、自分たちの姉に 恐らく今もまだ戦っているであろう、自分たちの姉に似た少女に ◆ アリス・ザ・ワンダーワールドの周りには5体のナイトメアコードが それぞれ彼女を囲む形で立ち塞がっていた 「アームズグレイブ!」 アリス・ザ・ワンダーワールドのその声に呼応するかのように ハートのトランプの真の力が解放され 大地を割り、夥しいほどの刀剣が天に向かって伸びる 4体のナイトメアコードが足元から伸びてくる刃に貫かれ 文字通り、その剣は彼らの墓となった 『油断したわね!雑魚だけじゃないのよ!ギガンテックフェザアァァーッ!』 何ものをも粉砕する時空振が周囲を粉砕する だが 「そう。それで?」 『馬鹿な…避けれるはずが…』 「鏡の国の力、ルークの技の一つ。これ自分と鏡の位置を入れ替えるの」 勉強不足だったね。とアリス・ザ・ワンダーワールドは笑う そして 「スカーフェイス」 と、これまで倒して来たナイトメアコードと同じく、その命を完全に打ち砕いた 奴ら“赤の女王達”は、死んだナンバーズを再生させれる 何度もナイトメアコードを倒したアリス・ザ・ワンダーワールドの結論がそれである ナイトメアコードの素顔は皆、データで見覚えのあるナンバーズと同じ顔だった 見覚えのない顔など一人もいない つまりナイトメアコードとは、過去に死んだナンバーズに 偽の神器を植え込み再生させているだけの模造品にすぎない その証拠に、ナイトメアコードはオリジナルのナンバーズを襲撃 殺害してその身体を回収していたようだし アリス・ザ・ワンダーワールドが戦えば戦うほど 彼女の前に立つナイトメアコードの数は日を重ねるごとに減っていった オリジナルのナンバーズ、最後の生き残りであるクリステル達を助けれて本当に良かった アリス・ザ・ワンダーワールドは心からそう思う 生まれは違えど、同じ血を引く姉妹には違いないのだから 姉妹。その言葉を脳裏で浮かべると、今はいない自分の半身が思い出されて胸がズキズキと痛む それと同時に、奴らへの怒りがその身を焦がす 「行ってくるね」 と、今はいない自分の半身、双子の姉妹に告げ アリス・ザ・ワンダーワールドは最期の戦いに向けて歩き出した そんな彼女を見守る影が二つ 「マスター。“あの子”を手伝わなくて良いのかね」 「…あれは“あの子”の戦い。私がするべき事は見守ってあげるだけ」 これは、十大聖天の戦いから2ヶ月。真・十大聖天が宣戦布告をして間もない頃 そして彼女たちの仲間が彼女たちを戦わせまいとしていた時期の出来事である 十六聖天外伝 夢と、もう一つの世界 二話
https://w.atwiki.jp/shibumakubungei/pages/125.html
六義園の思い出 タイトル:六義園の思い出 作者:渡名 すすむ 掲載号:2014年初夏号 もてはやされるほど、桜というものに魅力はない。 きっとおそらく、けだし多分、物知り顔で桜はよいものと周りが言うものだから、人間に限らず生物一般の普遍的で、ある種悲劇的な行動原則である集団心理が混じって、一人だけ桜はよくわからないと言うのには気が引けて、桜はやはりよいものだと調子を合わせているのだろう。 そうは言ってみるものの、六義園の夜桜ライトアップに行こうと決めたのも自分であり――人間は自己矛盾が得意な生物だ ――実際に行ったのも自分だった。そうして、桜のよさの一片のようなものに触れられた気がしたのも、自分だった。 六義園を訪れた日の前日は、強風と雨とが重なっていたために、ライトアップされたしだれ桜は、桜と葉桜がまじりまじってしまっていた。それでも、緑と桜色の組み合わせは、決して悪いものではなかった、むしろこちらのほうがよいとさえ思った。午後八時という時刻にも関わらず、しだれ桜のもとには客、それぞれがそれぞれの動きをして、おのおのがおのおのの感想や日常を垣間見せていた、そのために、存外、人の往来が激しかった。 「おととい来ればよかったね」「暗くて写真が上手く撮れないなあ」「これはこれできれいだと思うよ」「それフラッシュをオフにしてみたら?」「そうかなー」「すみません、人が通れなくなるのでここでの撮影はご遠慮ください」「奥の方もあるみたいだけど行かな――」「もきれいだよ」「ありがとう」「ああ、ホントだ、これフラッシュない方がいいわ」 中には、満開の桜じゃなければ桜でないとか、そう言う人も、見物客にいたけれども、見当違いの考えのような気がした。 僕は賑わう夜の客から逃れようと、まるで世界の無数の伝書鳩が白い羽を一斉に広げて飛び立ったかのようにたくさんの花びらをつけたソメイヨシノの梢の下に行った。 僕はいまだ操作に慣れない最新型の携帯電話を取り出して伝書鳩のうららかな夜空への旅立ちを撮影しようとしたが、いかんせん光の加減か何かで、自分の目で見たとおりのものが写らず、暗すぎたり桜のはなびらがブレたりとどうしようもなかったので、あきらめたのだった、そしてそのあきらめた刹那に僕はふとニュージーランドでの出来事を思い出したのだった。 ホストファミリーと夜遅くに車道を歩いていたところ、なんともなしに頭を上に向けたらば、自分の驚きと同じくらいの煌めきを見せる星が夜空に散りばめられていて、僕は思わず、星がすごく綺麗だね、とホストマザーに言い、デジタルカメラを天に向けて撮影してみたが、どう、綺麗に写ったのかしら、とホストマザーが訊ねてきたからさっそく写したものを見たところ、写真からはものの見事に星の光だけが欠落していて、吸い込まれそうな闇だけが被写体になっていたのを思い出したのだった。 この世の現実の何種かには、写真に写りたがらず、直接見られたときにだけ姿を見せるという、自意識過剰でもったいぶる癖があるのかもしれない。そして桜や星空とはそういう現実なのかもしれない。 僕は多数の客の様子を見るのに飽きて、また、これ以上写真を撮ろうとしても徒労に終わるに違いないと思って、池の周りを歩くことにした。六義園には、だいたい渋幕の第一グラウンド二個分くらいの池がある。 しだれ桜の広場から背の低い門をくぐり道なりに進むとそれは姿を現した。向こう岸は丘のようになっていて、その丘の上には盆栽のような落ち着きのある生え方をした木がいくつか並んでいて、ほとんど振動しない水面に、その姿を落としていたものだから、まるで大きな鏡を地面に埋め込んだような景色で、その景色は不思議な魔力を有していたのだった。その魔力が僕に与えた印象は、我々が蝶々として羽ばたく夢を見たとき、ほんとうは我々は蝶々にすぎず、「現実」として慕うものは蝶々が見た意味のない夢なのかもしれないとする説話――胡蝶の夢――を聞いて抱く現実への一定の懐疑と諦めと不可解さとに似ていた。水面の盆栽を眺めて、ほんとうは水面の向こう側が現実で、僕はあくまで向こう側の水面の反射像にしかすぎないのかもしれない、そういう劣等感のような懐疑をすると、途端に今生きている自分が矮小に思えた。 妙なわだかまりを心の中で抱えながら、ひとりで池と向こう岸の景色を眺めていた。僕は来たのとは違う道で広場に戻ろうとした。そのせいで、照明がほとんどついておらず、月影の覗くべき夜空を覆う高木の並び立つところへ来た。枝のわずかな間を縫って降りてきた月の光で、かろうじてとはいえ、ものは見えた、そして光の照らすものを見て、僕は泣き出した。 六義園全体に何個かのベンチが設置されていて、僕がちょうど広場へ向かおうとしていた道で通りかかったところにもベンチがあった、そしてそこには、暗い中で携帯電話の画面を凝視する、ひとりの壮年の女性が座っていた。それだけならばほんとうに言葉を付すに値しない様子ではあったが、その女性の前には、推定だけれども女性の夫がカメラを持ってしゃがんでいた、そして何かひそかな幸せを見つけたような表情をしてカメラを構えて女性に向けていたのだった、むろん、シャッターを押したりしながら。しかし、女性はただの一度も夫を見なかったし、夫のほうも一度も妻にこちらを見ろというようなことも言わず、ただ二人はそれぞれのことに没頭している様子であって、それでありながら、部外者の僕にはうかがい知ることもひと触りすることもできない、二人の世界が彼らの間に浮かんでいたようで、彼らの無言の空間に崇高な愛を感じることができたから、泣いたのかもしれない、泣いたことには内心かなり驚いていたが、静かな愛をはぐくむ壮年女性とその夫の様子を見て、これ以上泣く理由としてふさわしいものはなかろうとも思った。 そうして、どうしてだか、桜はいいものだと思った。
https://w.atwiki.jp/25438/pages/2576.html
※リクエスト じゃあ 律と澪の縁日での昔話とか ◯唯「澪ちゃんを夏祭りに誘ったら断られた」紬「それはね……」 唯「こうやって会うのも久しぶりだねー、ムギちゃん」 紬「えぇ、夏の間はフィンランドに帰ってたから。はいこれお土産」 唯「えっ、何かな~」 紬「ふふっ、後からあけてみて。それでこっちはどうだった? 何か変わったことはあったかしら?」 唯「そうそう聞いてよムギちゃん。一昨日澪ちゃんを夏祭りに誘ったら断られちゃったんだ」 紬「うーん。それは……澪ちゃんにも用事があるだろうから仕方ないんじゃない?」 唯「私もそう思ったんだよ。でもさ、和ちゃんが一昨日お祭りで澪ちゃんを見たって」 紬「えーっと……」 唯「ねっ、酷いでしょ」 紬「澪ちゃん誰かと一緒だったって?」 唯「りっちゃんと一緒だったんだって。それなら私も誘ってくれてもいいのに」 紬「あぁ、それはね……」 唯ちゃんの誘いを澪ちゃんが断った理由は簡単。 二人だけで夏祭りに行く約束をしていたから。 二人だけで? うん。二人だけで。 澪(唯が誘ってくれたのは嬉しいけど、今日は律と二人きりがいいんだ) 澪(ママに着付けてもらった着物、綺麗って言ってくれるかな…) 澪(そろそろ来てもいい時間だと思うんだけど…あっあれ) 澪「律、こっちこっち!!」 律「おっ、澪」 澪「遅かったじゃないか」 律「時間通りだろ」 澪「ううん。三分遅刻だぞ」 律「チェッ、細かいな」 澪「本当に律はルーズなんだから」 律「まぁまぁ、お祭りなんだから細かいことは抜きにして楽しもうぜ」 澪「それもそうだな。それじゃあ何から見て回ろう?」 律「澪は何が見たい?」 澪「私アレ食べたいんだ。リンゴ飴」 律「ほほう」 澪「それと焼きトウモロコシだな!」 律「私は粉物を食べたいな」 澪「お好み焼きとか焼きそばとかか?」 律「うん」 澪「じゃあさっそく見て回ろうか」 律「あっ、忘れてた」 澪「どうしたんだ?」 律「澪、着物で来たんだ」 澪「あぁ、どうかな?」 律「とっても似合ってるよ。じゃあ行こうぜ!」 澪「///」 律「澪?」 澪「な、なんでもない」 澪(タイミングずらして言うなんてズルいじゃないか 澪(こっちにも心の準備というものがあるんだぞ!) きっとこんな感じで二人のデートは始まったの。 デートなの? ええ。女の子が二人きりで出かけるんだもん。デートに決まってるじゃない。 そうなんだ。 澪「うん。やっぱり祭りといったらこれだな」 律「そうか~? 私はやっぱりこっちだと思うけど」 澪「お好み焼きは祭りじゃなくても食べられるけど、リンゴ飴は祭りじゃないと食べられないだろ」 律「そういうものかな」 澪「そういうものなんだ」 律「まぁ澪がそう言うならいいけどさ」 澪「ん? 今日の律はやけに物分かりがいいな」 律「そ、そんなことないぞ」 律(なんだか今日の澪は可愛く見えるんだよな…‥) 律(気のせい、だと思いたいが) あれ、りっちゃんも意識してるの? うん! ほぼ両思いなんだね。 うん。そうだといいわ~。 えっ。 じゃあ、続けるね。 あっ……うん……。 律「あれやろうぜー」 澪「射的か。私はいいから、律だけやってこいよ」 律「んじゃあ、やってくる」 澪「うん」 律「おっちゃん、1回」 おっちゃん「500円だよ」 律「はい」つ500yen おっちゃん「5回撃てるから、頑張って」 律「はーい」 澪「どれ狙うんだ?」 律「どれが欲しい」 澪「えっ」 律「せっかくだから狙ってやるよ」 澪「それじゃあ、あれがいい」 律「う~ん。あのぬいぐるみか~」 澪「無理なのか?」 律「ああ。あれは下で固定されてる気がする」 澪「それじゃあその二つ右の狼の置物は?」 律「うん。あれなら大丈夫そうだ」 澪「がんばれー」 律「おう、任された」 澪(片目を閉じて狙いをつける律、ちょっとだけカッコいい) 澪(あっ、撃った……揺れたけど落ちないか) 澪(また撃った。同じ場所を狙ったのか……でも落ちない) 律「う~ん。難しいな」 澪「無理なら他のでも」 律「いや、ここまで来たら引き下がれないから」 澪「……そうか」 澪(三発目……あっ、外れた。律、悔しそうだ) 澪(四発目……あたったのに、また揺れただけ) 澪(最後の一発……律、頑張れ) 律「ここだ!!」 澪「当たった……落ちそう、あっ、落ち…………………ない」 律「……」 澪「律?」 律「おっちゃん、もう一回」つ500yen おっちゃん「あいよ」 りっちゃん意外と諦めが悪いからね~。 でも、それだけじゃないと思うの。 へっ。 澪ちゃんの前でカッコいいところ見せたかったのよ。 そうかな? きっとそう! (……あれっ、これってそもそもムギちゃんの妄想じゃなかったっけ?) 澪「ありがとう。宝物にするよ」 律「澪は大袈裟だな」 澪「2500円の置物だからな」 律「あぅ……」 澪「そんなに落ち込むなよ。ほら、鯛焼き奢ってやるからさ」 律「澪……ありがとー」ダキッ 澪「うわっ、唯みたいに抱きつくな!!」 律「やっぱり澪は優しいなー」 澪「そんなんじゃないぞ。ただ……」 律「ただ?」 澪「嬉しかったから」 澪「せっかくだからおみくじでも引いていくか」 律「いいぞ」 澪「大吉こい!」つ200yen 律「私はなんでもいいや」つ200yen 澪「……」 律「……」 澪「大吉だ!」 律「私も!!」 澪「ひょっとしたら大吉しか入ってないのかもしれないな」 律「あぁ、最近の神社だとそういうところもあるみたいだ」 澪「だとしても、ちょっと嬉しい」 律「うん」 和ちゃんは大凶だったって。 えっ。 珍しいからってわざわざ写メとって送ってくれたんだ。ムギちゃんも見る? うん。 ほら、これ。 本当だ。私、大凶なんて都市伝説だと思ってた。 私も。 今度いい霊媒師さん紹介してあげようかしら? えっ。 厄祓いが必要だと思うから。 澪「待ち人、遅れるがやがてくる。恋愛、勇気を持って一歩踏み出すことが大事」 律「恋愛、気づけばすぐそこにいる。一つの不注意が取り返しのつかない喪失につながる恐れあり」 澪「……」 律「……」 澪(勇気を持って一歩踏み出す……) 律(気づけばすぐそこにいる……) 律・澪「あのっ!」 澪「あっ、律からでいいよ」 律「いやいや、澪からで」 澪「うんと、じゃあさ。ちょっと葉桜でも見に行かない」 律「葉桜?」 澪「うん。春に花見に行っただろ。あそこだよ。今は葉っぱだけだけど、ライトアップされてて綺麗らしいんだ」 律「あぁ、いいよ」 澪「本当にライトアップされてるんだな」 律「うん。なかなか綺麗だ」 澪「でも、やっぱり花がないと少しさみしいな」 律「……」 澪「律?」 律「な、なんでもないよ」 澪「そうなのか?」 律「……うん」 澪「なぁ、律」 律「ん?」 澪「好きだ」 律「えっ」 澪「律のことが、好きだ」 律「あっ……うん……」 澪「……」 律「……」 澪「ご、ごめん! 変なこと言って。忘れていいから」 律「そうじゃない」 澪「えっ」 律「さっき言おうとしたんだ。桜の花は咲いてなくても、ここに花があるじゃないか、って」 澪「りつ……」 律「私には似合わないと思って言わなかったけど、私は澪のことそう思ってる」 澪「それじゃあ……」 律「あぁ、澪……」 澪(律の目がまっすぐ私の目を見つめてる。真剣そうな律。かっこいい) 律(澪の目、とっても綺麗だ。ずっと私のこと好きでいてくれたんだな……) チュ 澪「なぁ、律」 律「なんだ」 澪「私、幸せだ」 律「……私も」 澪「ふふふっ」 律「なぁ、澪」 澪「なんだ」 律「手、繋がないか」 澪「うん」 律「……」ギュ 澪「……」ギュ こうして二人の夏祭りは終わったの。 ふぅ……。澪ちゃん良かったねぇ。 ええ。二人が結ばれて本当に良かったわ。 うんうん。本当に良かったよ。 明日二人に詳しい話を聞かなきゃ。 (私の妄想なんだけど、いいのかしら……) 唯「という話を昨日してたんだ」 澪「///」 律「///」 紬「澪ちゃん、りっちゃん?」 澪「ち、違うぞ。そんなのでたらめだ。律は目があった瞬間ビビってキスなんてできなかったんだから」 律「おい、澪!」 澪「あわわわわ」 紬「ふふっ、だいたい合ってたみたいね」 唯「ねー」 澪「///」 律「///」 紬「あっ、そうだ。そのお祭りっていつまでなのかしら?」 唯「うーんと。確か今日までだったと思うけど」 紬「じゃあ唯ちゃん。二人で行かない? 私焼きそば食べてみたかったの~」 唯「うん。行く行く!」 紬「それじゃあレッツゴー」 ドタドタドタ 律「行ったな」 澪「……うん」 律「まったくムギには参るよ。なぁ、澪」 澪「……」 律「澪?」 澪「……今度はちゃんとして欲しい」 律「えっ」 澪「今度はムギの妄想みたいにちゃんと……して欲しいんだ」 律「///」 おしまいっ! 戻る
https://w.atwiki.jp/nicomad_srs_event/pages/542.html
[部分編集] http //www.nicovideo.jp/watch/sm7868708 投稿者コメント1.コメント2.コメント3.コメント この作品のタグ:第28回MAD晒しの宴 レビュー欄 原作(D.C.ⅡP.C?)未見(未プレイ)。 男装した女の子にスポットをあててのPVだろうか。 ギャルゲーの特定のキャラだけでPV作るのは素材的にかなり限定されると思うが、上手くまとまっている。 画面構成や演出もセンスが良く、最後までしっとりと見せてくれた。 気になった点といえば、1:05の画面の出方に若干の違和感を覚えたくらい。 -- 名無しさん (2009-08-12 02 05 21) 名前 コメント 第28回MAD晒しの宴
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/16030.html
※ルール改変に伴い、作者名の後ろに「feat.キャラクター名」となっている曲もありますが、ここでは省略しています。 DAM配信中・配信決定済リクエストエントリー中の曲 UGA JOYSOUND - DAM歌手名順【か】 DAM歌手名順【さ】 DAM歌手名順【た】 DAM歌手名順【な】 DAM歌手名順【は】 DAM歌手名順【ま】 DAM歌手名順【や】 DAM歌手名順【ら】 DAM歌手名順【わ】 曲名で調べたい場合はこちら: DAM曲名順【あ】 DAM曲名順【か】 DAM曲名順【さ】 DAM曲名順【た】 DAM曲名順【な】 DAM曲名順【は】 DAM曲名順【ま】 DAM曲名順【や】 DAM曲名順【ら】 DAM曲名順【わ】 JOYSOUND曲名順はこちら: JOY曲名順【あ】 JOY曲名順【か】 JOY曲名順【さ】 JOY曲名順【た】 JOY曲名順【な】 JOY曲名順【は】 JOY曲名順【ま】 JOY曲名順【や】 JOY曲名順【ら】 JOY曲名順【わ】 UGA曲名順はこちら: UGA曲名順【あ】 UGA曲名順【か】 UGA曲名順【さ】 UGA曲名順【た】 UGA曲名順【な】 UGA曲名順【は】 UGA曲名順【ま】 UGA曲名順【や】 UGA曲名順【ら】 UGA曲名順【わ】 BACK(カラオケ情報総合インデックスページへ戻る) DAM配信中・配信決定済 特に記載のないものはPremier DAM・LIVEDAM配信。機種限定または他機種にも対応の場合は曲番号欄にその旨を記載。 歌手名 曲名 曲番号 配信予定 【あ】 あー民P ggrks-ググれカス- 7617-57 配信中● アイ$コン 絶対零度モデラート 7628-17 配信中● ツミトバツガ 7626-47 配信中● ニーソマン 7627-74 配信中● LEVEL9 7627-14 配信中● アイ$コンP 天雪ノ乱舞 7608-10 配信中● チッ!祭だ! 7626-07 配信中● Iristellia 星空と雪の舞踏会 7613-06 配信中● あいんしゅたいんP 俺はクッキーを焼き続ける 7626-81 配信中● out of survice サイコモーション 7623-66 配信中● 7th room 7628-35 配信中● セルリアンヴェスパ 3714-47 配信中● 東京リアルワールド 7624-74 配信中● ブラックエンドターミナル 7625-52 配信中● ホワイトアウト 7625-55 配信中● M AIDER 遭難ガール 7627-24 配信中● ユメサクラ 7625-58 配信中● 横浜バトルライン 7628-36 配信中● 青木月光 夢と葉桜 7608-50 配信中● 青田新名 a.k.a ゆずひこ カトレア 7613-74 配信中● ↑人生ゲーム↓ 7607-19 配信中● 先天性ブリキ症候群 7617-55 配信中● トウメイショウジョ 7622-62 配信中● 毒林檎とシンデレラ 7619-96 配信中● 青屋夏生 月曜の海 7632-81 配信中● 潜水 7632-82 配信中● できれば10代の頃に 7635-61 配信中● 都市計画 7635-62 配信中● UFO 7635-60 配信中● 赤髪 可能世界論 7628-38 配信中● StarCrew-album version- 7624-31 配信中● Time Distortion 7628-37 配信中● アカサコフ 極楽蝶 7619-34 配信中● 本当の自分 7622-27 配信中● リナリア 7619-33 配信中● アゴアニキ 昨日見た夢 7636-89 配信中● 剛毛ハート 7610-57 配信中● サルでもわかる 7603-08 配信中● ダブルラリアット 7603-09 配信中● ダブルラリアット(ミクパ♪2012) 7615-04 配信中● ダブルラリアット(ミクパ♪2012)(LIVEカラオケ) 7615-04 配信中● HAKOBAKO PLAYER 7603-07 配信中● パラダイス明晰夢 7610-59 配信中● ひとつうえのおとこ 7622-28 配信中● ひらひら 7637-09LIVE DAM STADIUM限定 配信中● 方向音痴 7603-10 配信中● よっこらせ(笑) 7603-13 配信中● わすれんぼう 7608-13 配信中● 亜沙 哀愁レインカフェテリア 7628-77 配信中● 池袋黄昏ナイトクラブ 7625-03 配信中● 海の見える町 7627-77 配信中● 浮気者エンドロール 7627-78 配信中● 鏡の中のメモリーズ 7628-78 配信中● 砂漠の雪華 7627-25 配信中● 色彩クリアランス 7622-79 配信中● 上海ラヴァー 7634-40 配信中● 新宿ソリチュード 7628-76 配信中● stardust 7638-10LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ゼンマイアイデンティティ 7637-87 配信中● 東京デイブレーク 7628-79 配信中● 道玄坂ネオンアパート 7628-80 配信中● 匿名希望モンスター 7627-79 配信中● ヴィジュアル系レッドラム 7633-71 配信中● 星詠みエンドラヴァー 7632-62 配信中● 未来ページ 7626-82 配信中● 明正ロマン 7628-81 配信中● 吉原ラメント 7618-30 配信中● 六本木ベイビィバタフライ 7633-72 配信中● あすなろ 青春狂想曲 7634-19 配信中● あすなろP 恋のI・RO・HA教えます 7625-10 配信中● azuma あなたの歌姫 full ver. 7602-76 配信中● charActer 7633-73 配信中● 新妻*イミテーション 7622-80 配信中● Happy fruit! 7619-30 配信中● azuma デッドボールP もーっと!Happy fruit! 7602-78 配信中● アテコスリ 情動クラシック 7621-16 配信中● add9(ヘリP) warm word world 7627-26 配信中● farewell blue 7622-81 配信中● ぼくらのいつか 7628-39 配信中● melodial 7626-83 配信中● 夕焼けグッドバイ 7629-68 配信中● AVTechNO! DYE 7604-80 配信中● ニカソピテキ 7625-47 配信中● free 7629-15 配信中● ATOLS アダム 7631-14 配信中● アリス 7637-24LIVE DAM STADIUM限定 配信中● アワオドリ 7627-80 配信中● オメガ 7619-97 配信中● タカナリ 7636-36 配信中● ハジマリノコトバ 7627-81 配信中● バベル 7618-31 配信中● ブレス 7619-98 配信中● マカロン 7621-56 配信中● ユラグ 7631-15 配信中● ラストシグナル 7627-82 配信中● 立体音響II 7637-88 配信中● Another Infinity 夢現 7609-45 配信中● あばば ティーンエイジエイプリルフール 7630-91 配信中● absorb 桜ノ雨-standard edit- 5315-90 配信中● Fire◎Flower 5687-98 配信中● アフロ1号2号 深層カルマ 7622-29 配信中● 安室奈美恵(ミク調声:Mitchie M) B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU 6679-10 配信中● アモン ポップンロール*サウンド 7628-40 配信中● arata すべてが終わってしまう前に 7612-80 配信中● 二人の虹 7622-01 配信中● ワールドアウトサイド 7607-80 配信中● アリエP 番傘 7630-58 配信中● モノクロスロード 7618-10 配信中● ALT(蕾P) 鴨川桜の舞扇 7626-84 配信中● 存在イマジネーション 7631-96 配信中● __(アンダーバー)P もやし女 7629-98 配信中● ANDRIVEBOiz ガラスティックハート 7635-76 配信中● シークレットメタファー 7635-75 配信中● vividest 7634-87 配信中● メランコリックシューゲイザー 7634-88 配信中● あんP 黒猫モンタージュ 7630-80 配信中● セツナアライブ 7629-16 配信中● 前向きに笑え 7637-11LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ミュージックラウンド 7626-48 配信中● 恋愛カフェテリア 7633-99 配信中● 恋愛フォトグラフ 7637-10LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ロマンティックディスタンス 7633-98 配信中● あんよくん エンドケイプ 花魁ROCK 7627-83 配信中● 【い】 いーえるP@TinySymphony おまいのハートを舗装してあげるッ! 7614-75 配信中● 逆襲のロードローラー 7611-32 配信中● EasyPop イレヴンレイヴガール 7605-43 配信中● オーバーザタイムダンス 7632-47LIVEDAM限定 配信中● 君恋し 7603-53 配信中● 君と見た星空 7619-99LIVEDAM限定 配信中● スウィートタイム 7622-08 配信中● チープタイムディスコ 7603-64 配信中● トゥインクル×トゥインクル 7606-23cyber DAM HD対応 配信中● なきむしのはつこい 7603-51 配信中● 虹色アフタヌーン 7602-88 配信中● ハートフルシーケンス 7606-27 配信中● ハイファイレイヴァー 7618-71 配信中● ハッピーシンセサイザ 7603-67cyber DAM HD対応 配信中● マイルームディスコナイト 7603-61cyber DAM HD対応 配信中● ミラーボールガール 7606-24 配信中● EZFG かけろたてようけろせめよ(Long Version) 7629-17 配信中● グルカゴン 7636-10 配信中● サイバーサンダーサイダー 7610-04 配信中● サイバーサンダーサイダー(本人出演映像) 7610-04 配信中● じっっと見ている 7628-34 配信中● スレッドネイション 7625-25 配信中● とても痛い痛がりたい 7613-57 配信中● ブラフライアー 7629-18 配信中● magician s operation 7615-83 配信中● IA×じん LIVEDRIVE 7621-17 配信中● ワールド・コーリング 7621-18 配信中● 家の裏でマンボウが死んでるP 家の裏でマンボウが死んでる 7605-62cyber DAM HD対応 配信中● ウヒヒ!脱穀しそこねた! 7619-40 配信中● エイは育ち、僕はプロポーズに鉄を曲げる 7620-03LIVEDAM限定 配信中● おでこに生えたビワの性格が悪い 7609-50cyber DAM HD対応 配信中● おニューのかさぶた、ペットに食われろ 7608-52cyber DAM HD対応 配信中● 神様はエレキ守銭奴 7613-84cyber DAM HD対応 配信中● キッチンでカッパがタニシ茹でてる 7613-80cyber DAM HD対応 配信中● 筋肉痛駆け落ちの滑稽な結末 7613-88 配信中● クワガタにチョップしたらタイムスリップした 7607-20cyber DAM HD対応 配信中● 消火器がダンディーで気が利く場合 7613-87cyber DAM HD対応 配信中● 次元跳躍シャンプーハット featuring Dr.冠次(CV 大槻ケンヂ) 7631-91LIVEDAM限定 配信中● 初対面で肘を舐める部 7619-42 配信中● スイートフロートアパート 7611-03cyber DAM HD対応 配信中● 聖夜、愛犬がビデオデッキに詰まる 7620-01LIVEDAM限定 配信中● 先週、肝臓が腎臓にフラれたらしい 7618-97 配信中● 誕生日、ペペロンチーノにやさしくされる 7620-02LIVEDAM限定 配信中● 地底人が見せた抜群の生活感 7631-92LIVEDAM限定 配信中● 粘着系男子の15年ネチネチ 7611-16cyber DAM HD対応 配信中● 欠陥住宅(パラダイス・ロスト) 7619-41 配信中● 病気みたいに君が好き 7619-43 配信中● My Colorful Confuse 7613-81cyber DAM HD対応 配信中● ミートミーツガール 7625-16 配信中● イオシス/ARM 夏のロケット 7627-84LIVEDAM限定 配信中● イオシス/初音ミク 風音レゾナンシック 7627-85LIVEDAM限定 配信中● きみが見つめる空の先に 7627-86LIVEDAM限定 配信中● イオシス/初音ミク,DD"ナカタ"Metal Voice of Truth 7627-87LIVEDAM限定 配信中● イオシス/void カフェラッテ 7627-88LIVEDAM限定 配信中● Eon Satisfier 7636-37 配信中● Libra 7627-27 配信中● ika みくみくにしてあげる♪【してやんよ】 7600-50cyber DAM HD対応 配信中● みくみくにしてあげる♪【してやんよ】(ミクパ♪2012)(生音) 7615-05LIVEDAM限定 配信中● みくみくにしてあげる♪【してやんよ】(ミクパ♪2012)(生音)(LIVEカラオケ) 7615-05LIVEDAM限定 配信中● いかさん(作詞作曲:じーざすP) 誓燈のマルシェ 4999-93LIVE DAM STADIUM限定 配信中● 19-iku- ハイドアンド・シーク 7634-01LIVEDAM限定 配信中● 19 s Sound Factory キミとボク、まわるセカイ。 7625-38 配信中● Gratitude 7607-64 配信中● さかさシンドローム 7624-56 配信中● Story 7629-19 配信中● Dear 7600-31cyber DAM HD対応 配信中● Dear(Game Version) 7615-37 配信中● Dear(Game Version)(本人出演映像) 7615-37 配信中● Tears In Blue 7607-65 配信中● Birth 7600-30 配信中● 不安定彼女 7621-99 配信中● Voice 7607-68 配信中● メランコリー 7607-70 配信中● リマインダー 7609-38 配信中● 石風呂 浮かれた大学生は死ね 7621-19 配信中● きらいな人 7620-04 配信中● 午前3時のヘッドフォン 7620-05 配信中● 少年は教室がきらいだったのだ 7618-32 配信中● ゆるふわ樹海ガール 7611-78 配信中● 龍の谷と太陽の砦 7636-81 配信中● ロック屋さんのぐだぐだ毎日 7620-06 配信中● 磯P 袖触れ合うも他生の縁 7621-20 配信中● BossDeath 7606-29cyber DAM HD対応 配信中● 一/ichi 落葉とワルツを 7612-90 配信中● 一行P 下剋上(完) 7606-30cyber DAM HD対応 配信中● 164 AI 7620-07 配信中● 青 7622-85 配信中● A Transparent Picture 7626-85 配信中● 天ノ弱 7607-25 配信中● 天ノ弱(生音) 7638-66 配信中● 異世界ノットパンピー 7631-52 配信中● inori 7616-54 配信中● excuse 7617-81 配信中● end tree 7626-34 配信中● 神巫詞 7628-83 配信中● 希望の橋と自由の魔法 7631-95 配信中● 嫌われ者の詩 7638-56 配信中● サイコロジック 7626-20 配信中● ザ・ピュアソング 7628-82 配信中● shiningray 7630-59 配信中● STATIC 7631-53 配信中● sleeping beauty 7622-82 配信中● theory 7612-22 配信中● 走馬燈 7636-22 配信中● ソイネ 7627-89 配信中● トオリスガリノダレカ 7630-51 配信中● 毒愛 7627-28 配信中● NO STARS 7622-83 配信中● ビフォーアフター 7622-84 配信中● 1st music 7619-27 配信中● BLURRY 7626-50 配信中● heavenly blue 7607-62 配信中● HOMEROOM 7632-67 配信中● madder sky 7637-97LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ミスターデジャブ 7625-04 配信中● 迷妄少年と小世界 7625-01 配信中● 4時44分 7630-49 配信中● リセット 7620-08 配信中● Rebirth 7626-49 配信中● REROAD 7630-50 配信中● 164 from 203soundworks unused impulse(Album ver.) 7630-52 配信中● good bye monochrome 7637-99LIVE DAM STADIUM限定 配信中● 極悪人 7638-03LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ジブンインチモニター 7638-01LIVE DAM STADIUM限定 配信中● shiningray(Album ver.) 7600-15 配信中● forbidden canvas 7637-98LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ボクソラウミキミ 7638-02LIVE DAM STADIUM限定 配信中● memory 7616-53 配信中● 1640mP(164×40mP) タイムマシン 7604-81 配信中● 未来線 7610-05 配信中● 伊東歌詞太郎 I Can t Stop Fall in Love 5990-76 配信中● さよならだけが人生だ 6001-56br()LIVE DAM STADIUM限定 配信中● 僕だけのロックスター 5990-88 配信中● ミルクとコーヒー 7379-44LIVE DAM STADIUM限定 配信中● イナメトオル(40mP) からくりピエロ 5990-08 配信中● 少年と魔法のロボット 5988-62 配信中● 恋愛裁判 5990-10 配信中● 恋愛マニュアル 7638-41 配信中● 犬丸芝居小屋 かごまないで 7635-85 配信中● 井の頭P(ジギル) カシオペイア 7620-09LIVEDAM限定 配信中● INOSON ラブポーション 7622-11 配信中● Eve 月華 乱れ牡丹 7637-01LIVE DAM STADIUM限定 配信中● imosuke スピンオフ・ヒーロー 7626-86 配信中● イヤイヤP イヤイヤ星人 7622-30 配信中● 氷のなかに 7609-39 配信中● E.L.V.N 動かない空 7608-54 配信中● cloud 7622-07 配信中● 壊セ壊セ 7607-86cyber DAM HD対応 配信中● 色白 キミイロ花火 7626-24LIVEDAM限定 配信中● いろなP ハローグッバイ 7620-10LIVEDAM限定 配信中● iroha moon 7604-87cyber DAM HD対応 配信中● 炉心融解 7603-68cyber DAM HD対応 配信中● イントロP スサノヲ 7619-35 配信中● 夢懸歌 7635-96 配信中● INFINITY∞ 雪花繚乱 7623-67 配信中● 【う】 ウゴP First Kiss and… 3714-28LIVEDAM限定 配信中● マジカリン☆☆☆LOVE 7626-37 配信中● うたたP 一途な片思い、実らせたい小さな幸せ。 7622-86LIVEDAM限定 配信中● 古に封印されし究極黒魔法(物理) 7634-30LIVEDAM限定 配信中● 永遠に幸せになる方法、見つけました。 7619-01 配信中● キミのことが好きでゴメンナサイ 7623-68 配信中● こちら、幸福安心委員会です。 7619-02 配信中● 幸せになれる隠しコマンドがあるらしい 7625-41 配信中● すばらしきふらぐのないせかい 7629-69 配信中● 七転び八起きない 7627-29LIVEDAM限定 配信中● まさに…まさに…女神サマ!! 7632-17 配信中● マジでぉこだょ?ァたし間違ってなぃ 7626-51 配信中● 夢じゃない、嘘じゃない、目の前にある幸せな情景。 7624-88 配信中● utml 彩愛クレパス 7615-54 配信中● 夏の空と君の傘下で 7628-84 配信中● ひとつの国のリラ 7625-08 配信中● 鬱P オトナのオモチャ 7626-38 配信中● 害虫 7626-41 配信中● 看板娘の悪巫山戯 7626-04 配信中● Ghost Under the Umbrella 7630-48LIVEDAM限定 配信中● コロナ 7611-33cyber DAM HD対応 配信中● THE DYING MESSAGE 7626-40 配信中● 絶対音楽で踊れ 7632-18LIVEDAM限定 配信中● ニャン黙の了解 7625-84LIVEDAM限定 配信中● ぬいぐるみになりたい 7622-87LIVEDAM限定 配信中● 馬鹿はアノマリーに憧れる 7626-25LIVEDAM限定 配信中● B-CLASS HEROES 7632-15LIVEDAM限定 配信中● 骸Attack!! 7625-95 配信中● 鬱P ミナツキトーカ(パンドリストP) 夏祭り 3687-19LIVEDAM限定 配信中● 梅とら 一騎当千 7633-25 配信中● 威風堂々 7621-68 配信中● 疑心暗鬼 3714-27 配信中● 虎視眈々 7626-87 配信中● jewel 7626-88 配信中● BURNING 7636-90 配信中● Love Me If You Can 7634-70 配信中● 梅とら(umedy) 一心不乱 7613-98 配信中● 威風堂々 7630-87 配信中● Ultra-Noob MEGANE 7630-92 配信中● 【え】 Eight 四ツ谷さんによろしく 7625-59 配信中● SCL Project(natsuP) Arrest Rose 7610-70cyber DAM HD対応 配信中● 13943号室 7623-97LIVEDAM限定 配信中● IMITATION BLACK 7604-08cyber DAM HD対応 配信中● 孤独の番人 7621-57 配信中● 桜舞イ散リヌ-麗- 7622-89LIVEDAM限定 配信中● 刹月華 7605-40cyber DAM HD対応 配信中● 背徳の記憶~The Lost Memory~ 7611-34cyber DAM HD対応 配信中● Fate Rebirth 7604-89cyber DAM HD対応 配信中● LOVELESS××× 7606-33cyber DAM HD対応 配信中● Le rouge est amour 7633-57LIVEDAM限定 配信中● hr(えっちP) バイバイ 7622-88LIVEDAM限定 配信中● n.k このふざけた素晴らしき世界は、僕の為にある 7634-02 配信中● 咲かせよ乙女、喰らえよ男児 7637-89 配信中● システマチックオーケストラ 7637-03LIVE DAM STADIUM限定 配信中● エハミック 青いコンビニであいましょう 7609-55 配信中● 青いコンビニであいましょう(本人出演映像) 7609-55LIVEDAM限定 配信中● 青いコンビニであいましょう(公式PV Version)(オリカラ) 7609-01 配信中● 青いコンビニであいましょう(公式PV Version)(オリカラ)(本人出演映像) 7609-01 配信中● えへへP なでなで 7618-84 配信中● ぺろぺろ 7618-83 配信中● ボクモテ 7620-11LIVEDAM限定 配信中● えへへPと恥P 初めて買った安いPCを今日俺は売った 7619-36 配信中● エポック 啼衝シンパシー 7636-11 配信中● Ebot 月雪花 7622-09 配信中● M.S.S Project Eternal Knight 7635-97 配信中● M.S.S.Phantom 7628-41 配信中● M.S.S.Planet 7626-32 配信中● ENMA DANCE 7635-98 配信中● CODE RED 7635-99 配信中● THE BLUE 7628-42 配信中● THE WORLDS 7624-18 配信中● Shadow Hearts 7636-01 配信中● Super High Speed Jupiter 7630-63 配信中● CELESTIAL 7630-62 配信中● BLACK and FIRE 7630-61 配信中● 雷凛永彩 7630-64 配信中● RAGNAROCK 7630-65 配信中● サテライト 7628-86 配信中● ジュリエッタとロミヲ 7608-55 配信中● 静電気。 7608-61 配信中● Hard On 7636-67 配信中● Heart Beats 7617-93 配信中● High End City 7628-85 配信中● milky way 7628-87 配信中● Love Timer 7623-87 配信中● えりゃー ニラ 7614-76 配信中● ELSWORD(作詞作曲:ヒャダイン) パラレルワールド 7621-21 配信中● Elm 人生ゲーム 7638-05LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ハイイロの花 7629-20 配信中● ELECTROCUTICA Aquila 7618-72 配信中● ARCA 7617-91 配信中● iDOLLA 7617-90 配信中● Chaining Intention 7611-54 配信中● Dependence Intension 7617-92 配信中● Blindness 7611-55 配信中● エレクトロソナー SNOW GLITTER 7625-09 配信中● 【お】 0-9(OPA Asaki No 9) 道徳の樹海 7621-98 配信中● 忘却心中 7607-60cyber DAM HD対応 配信中● 大柴広己(もじゃ) 妄想疾患■ガール 7632-97 配信中● おかゆ 5℃ 7628-88 配信中● 小川大輝 今日、明後日、いつだって 7626-89 配信中● 翁 献身的人間は優しい人になれない 7632-52LIVEDAM限定 配信中● 堕落夢想ガール 7632-98 配信中● 歯車さん 7631-79LIVEDAM限定 配信中● osu サルベージ 7632-19LIVEDAM限定 配信中● OSTER project 雨のちSweet*Drops 7616-79LIVEDAM限定 配信中● Around the World 7608-64 配信中● Alice in Musicland 7615-27 配信中● EAT ME 7614-01 配信中● おねがいshining☆star 7603-45 配信中● おひめさまになりたいのッ! 7613-99cyber DAM HD対応 配信中● おやすみのうた 7602-39 配信中● on the rocks 7632-36LIVEDAM限定 配信中● 片想イ VOC@LOID 7602-49 配信中● 狐ノ嫁入リ 7613-62cyber DAM HD対応 配信中● 恋色病棟 7604-92cyber DAM HD対応 配信中● 恋スル VOC@LOID 7602-50cyber DAM HD対応 配信中● サマーアイドル 7617-80 配信中● @ 7619-83 配信中● ちょこまじ☆ろんぐ 7602-40 配信中● つきうさぎ 7602-43 配信中● Dreaming Leaf‐ユメミルコトノハ‐ 7602-35 配信中● trick and treat 7604-90cyber DAM HD対応 配信中● バスルームガーデン 7614-07 配信中● 8月の花嫁 7602-34 配信中● PIANO*GIRL 7605-65cyber DAM HD対応 配信中● ピアノ×フォルテ×スキャンダル 7607-96cyber DAM HD対応 配信中● フキゲンワルツ 7602-45 配信中● プリンセス・カウガール・ショー 7619-82 配信中● マージナル 7607-98cyber DAM HD対応 配信中● 三ッ星レシピ 7609-57 配信中● ミラクルペイント 7602-48cyber DAM HD対応 配信中● モーニングコール 7618-79 配信中● ゆきうさぎ 7607-99LIVEDAM限定 配信中● ユメクイ 7622-15 配信中● RING×RING×RING 7602-37 配信中● Ladies First 7616-80LIVEDAM限定 配信中● Lollipop Factory 7617-02LIVEDAM限定 配信中● one more kiss 7608-65 配信中● OSTER BIG BAND project ゴシップ 7609-31cyber DAM HD対応 配信中● シングルベッド 7609-33 配信中● 月夜と黒猫 7609-37 配信中● オッカ Mr.Alice 7608-69cyber DAM HD対応 配信中● おっさんP Holy Star 7605-68 配信中● 乙P イノベーション 7623-40 配信中● otetsu 飴と鎖 7622-18 配信中● Existence 7630-55LIVEDAM限定 配信中● 御手繋ぎ 7611-02cyber DAM HD対応 配信中● カーニバル 7606-87cyber DAM HD対応 配信中● 快楽と葬儀、満たされないディナー 7614-09cyber DAM HD対応 配信中● 君を越えて 7630-75LIVEDAM限定 配信中● graduation 7622-16 配信中● 恋紅綬 7630-56LIVEDAM限定 配信中● Cosmos 7611-39cyber DAM HD対応 配信中● shell 7630-73LIVEDAM限定 配信中● 食物連鎖 7625-73LIVEDAM限定 配信中● speed 7618-03 配信中● スローモーション 7630-74LIVEDAM限定 配信中● 喪失モノクローム 7608-02 配信中● 大嫌い 7622-19 配信中● 小さな蛹は繭の中 7622-91LIVEDAM限定 配信中● Child s Garden 7604-10cyber DAM HD対応 配信中● 宙吊りダンシング 7620-12LIVEDAM限定 配信中● チョコレート 7623-98LIVEDAM限定 配信中● 綱渡り 7616-85LIVEDAM限定 配信中● Desire 7618-02 配信中● transient future 7601-04 配信中● Nostalgia 7634-03LIVEDAM限定 配信中● ノラネコ 7622-17 配信中● ハレバレバイバイ。 7622-90LIVEDAM限定 配信中● ブラックゴールド 7616-83LIVEDAM限定 配信中● 星屑ユートピア 7600-06cyber DAM HD対応 配信中● 蟲と桜、嘘とコンクリート 7611-37cyber DAM HD対応 配信中● 迷的サイバネティックス 7601-05cyber DAM HD対応 配信中● 抑圧錯乱ガール 7634-15LIVEDAM限定 配信中● ルービックキューブ 7611-40cyber DAM HD対応 配信中● otetsu×164×蝶々P 見世物ライフ 7617-58 配信中● 乙女P かくれおに 7622-58 配信中● 鬼ヶ島 HAKUMEI 7611-43 配信中● おにゅうP 祝ってやる 7618-11 配信中● 終わらないハンマー・タイム 7613-15 配信中● J( ー`)しカーチャン 7631-16 配信中● 神曲 7606-34cyber DAM HD対応 配信中● クソゲー実況プレイ 7607-26cyber DAM HD対応 配信中● タイム真心 7628-43 配信中● ハートディスクドライブ 7618-85 配信中● Omoi アンリアル黙示想 7634-25LIVEDAM限定 配信中● スノウドライヴ(01.23) 7631-54LIVEDAM限定 配信中● 全速力協奏曲 7631-55LIVEDAM限定 配信中● 突撃前夜のダンス 7632-01LIVEDAM限定 配信中● ねぇウィリアム 7631-99LIVEDAM限定 配信中● ラストナイトワルツ 7634-49LIVEDAM限定 配信中● 親方P 魔都の謀略フィクサーズ 7627-30 配信中● Orangestar アスノヨゾラ哨戒班 7632-53 配信中● 雨き声残響 7632-54 配信中● Alice in 冷凍庫 7637-37 配信中● 或るひと夏の追憶 7635-47 配信中● Ifの世界設定 7634-83 配信中● イヤホンと蝉時雨 7632-55 配信中● からっぽの街月夜の下 7634-84 配信中● 空奏列車 7635-48 配信中● 残灯花火 7635-50 配信中● 牆壁 7634-60 配信中● シンクロナイザー 7635-49 配信中● 超次元愛歌 7635-46 配信中● 夏色アンサー 7634-85 配信中● ヴァーミンキラー 7637-04LIVE DAM STADIUM限定 配信中● 花と記憶 7634-86 配信中● 真夏と少年の天ノ川戦争 7635-45 配信中● 未完成タイムリミッター 7633-55 配信中● オワタP アンチクロロベンゼン 7605-28 配信中● アンデルツェ 7619-48 配信中● 片想いサンバ 7619-47 配信中● ゲームセット 7637-12LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ゴチャゴチャうるせー! 7620-13 配信中● ジエンド 7625-27 配信中● 進捗どうですか! 7631-80 配信中● スーパートルコ行進曲-オワタ\(^o^)/ 7604-94 配信中● 大丈夫だ、問題ない。 7605-73 配信中● ただし性的な意味で 7619-03 配信中● 探偵弱音ハクの憂鬱 7608-70 配信中● 超ツマンネ 7604-95 配信中● ツマンネ? 7608-15 配信中● どうせお前らこんな曲が好きなんだろ? 7619-04 配信中● トマトきらいのうた 7619-46 配信中● トルコ行進曲-オワタ\(^o^)/ 7604-62 配信中● トルコ行進曲-ツマンネ\(^o^)/ 7614-77 配信中● 悩める少年脱げ少女 7636-82 配信中● はたらけ!ニート 7614-10 配信中● パラジクロロベンゼン 7604-13 配信中● ボーナスステージ 7607-28 配信中● 麻雀中毒 7618-33 配信中● マジカル☆ぬこレンレン 7604-11 配信中● マジカル☆ぬこレンレン 新劇場版 7615-58 配信中● マジカル☆リンちゃんなう!SSs 7637-14LIVE DAM STADIUM限定 配信中● まゆずみのような空から 7622-92 配信中● 妄想するしかない 7620-14 配信中● リンちゃんなう! 7611-79 配信中● レンきゅんなう! 7637-13LIVE DAM STADIUM限定 配信中● ロシアンルーレット 7620-15 配信中● - DAM歌手名順【か】 DAM歌手名順【さ】 DAM歌手名順【た】 DAM歌手名順【な】 DAM歌手名順【は】 DAM歌手名順【ま】 DAM歌手名順【や】 DAM歌手名順【ら】 DAM歌手名順【わ】 リクエストエントリー中の曲 エントリー楽曲【あ】~【た】はこちら エントリー楽曲【な】~【わ】はこちら UGA UGA歌手名順はこちら: UGA歌手名順【あ】 UGA歌手名順【か】 UGA歌手名順【さ】 UGA歌手名順【た】 UGA歌手名順【な】 UGA歌手名順【は】 UGA歌手名順【ま】 UGA歌手名順【や】 UGA歌手名順【ら】 UGA歌手名順【わ】 JOYSOUND JOYSOUND歌手名順はこちら: JOY歌手名順【あ】 JOY歌手名順【か】 JOY歌手名順【さ】 JOY歌手名順【た】 JOY歌手名順【な】 JOY歌手名順【は】 JOY歌手名順【ま】 JOY歌手名順【や】 JOY歌手名順【ら】 JOY歌手名順【わ】 BACK(カラオケ情報総合インデックスページへ戻る)
https://w.atwiki.jp/jojotoho_row/pages/449.html
【夕方】C-3 地下水道 日の射さぬ地下の寒さに、重ね掛けされた灯りの乏しさ。 更には会場内の降雪の影響もやはり色濃く、服一枚では活動にも一苦労するであろう冷えた空気が全面に入り込んでいる。 近代要素を少しずつ内包し変わり果てた幻想郷、もといこの会場内でも地下道は一際夜の暗さを強調してくる場所と言っても過言ではない。 常人には暗夜の礫を恐れずにはいられない、そんな暗澹たる回廊にタップダンスを踊るかのような足取りで闊歩する女が一人。 屈託無き純粋な笑顔にその歩調、半袖を意に介さず、しかもボロボロになったその被服。そして赤に塗れ煌々と輝く右腕。 一挙一動が紛れもなく、夜を恐れぬ人外である事の証左である事を悠々と物語っている。 女の名は、霍青娥。 自らの欲に溺れ、陶酔し、殉じる事を善しとする邪性の仙人。 そして、八雲紫をその手で弑した幻想郷に仇なすモノ。 否。彼女自身に幻想郷に敵対した等という自覚は微塵も存在し得ない。 ただ結果的にそうなったというだけの話。邪仙の目線から語ればそれはただの済んだ禍根で、欲を満たす方法で、他に尽くす道標だったに過ぎない。 愉悦を一網打尽にする最短距離を選んだらたまたまあのにっくき賢者サマが死んでしまいました、という一文で調書は終了である。 食欲を満たすという目的の為、懐石料理みたいな味気なさの連続なんかより中華料理の大皿ばかりのフルコースを選んだ、それと同列に語れるだけの事項。 満漢全席を鱈腹、とまでは行かなかったにしろ珠玉の一皿を貪り尽くせば上機嫌になるのも至極当然であろう。 吾不足止、未不知足也。 しかしながら、探究心も好奇心も彼女の生涯では留まる事など有り得ない。 停滞こそが不浄であり、欲を満たそうとしなくなってしまえば精神的な死が明白となる。 それでも尚、この高揚に酔いしれるのは得た物の大きさ故か。 「~~♪」 どこに誰が潜んでいるのか分からないにも関わらず、彼女は存在を誇示するかのように自らの音色を奏で続ける。 古き元神の鼻歌は、澄み切った音とは裏腹にどこか高らかで混じり気の無い歪さで遠く遠くの客席へとその存在感を顕にし。 ポツポツと点在する灯りをスポットライトかの様にその全身で浴びながら、この世界は自分の独壇場だと謳うように。 誰か敵が来るかもしれないという懸念も置き去りにしたかの様に光学迷彩すら紙の中、青と白で構成されたお気に入りの服装で舞い踊る。 放たれた音色を耳にしてくれる聴衆なんかどこにも存在しないにも関わらず、邪仙自らの為だけに爛々と響き続けるのだ。 その姿は舞台装置の上に据えられた偶像にどこか似ていて。 まさしく、帳に遮られたアンダーグラウンドの世界に相応しい。 ふと、自らの腕で掴んだままであった『戦利品』に目を遣ってみる。 ディエゴに渡されたジャンクスタンドDISCに八雲紫の魂を内包して完成した、娘々3分間クッキングも唸るお手製の『精神DISC』。 即ち八雲紫という大妖怪の歩んだ軌跡の一端であり、幻想郷と共に歩き見守り歴史を紡いだ巻物の別側面。 そんな大それたシロモノがまさか部外者で一介の矮小な仙人の手に収まっているだなんて失笑を禁じ得ない。 天国の大妖怪もこれにはニッコリしているに違いないだろう。彼女の場合は地獄行きに決まっているだろうけれども。 しかし、かの賢者サマの生の大トリを飾ってしまったのは他ならぬ青娥自身でこそあって、別にその中身を有難く頂戴する事に面白味は全くの皆無である。 寧ろそれをDIO様に渡す事こそが歓びであり、そうであって初めて真価を発揮する物。 かの天国を覗き見、並びに飽くなき探究心を満たす為に必要な歯車の一つでこそあるが、事実として彼女には使い道の無い──文字通りの無用の長物。 齎す物に意義はあれど、物品自体は全体的な最終目的に比べれば伽藍の堂。 しかし、それはあくまで傍から見た事実の羅列でしかない。 天国への道筋へと繋がるパズルのピースに、また一つ噛み合う事の出来た高揚感。 嘘と嘘で塗り固められた友人ごっこを最期の刻まで堪能した大妖怪を自らの手で奈落の底まで突き崩した光悦感。 自らから湧き出たそんな欲望を身に纏い堪能し次なるフルコースへと身を躍らせるその姿こそが、彼女が何を思っているのかを口以上に雄弁と語っている。 天へと昇らんとする仙女に似つかわしくないその激情、その欲望こそが青娥を邪仙足らしめているのだ。 羽衣のように舞い、羽衣のように掴み所が無く。感情もすぐ移ろう様はまるで方向性を欲のみに定めているかのよう。 その忠実さは、ある意味では人間以上に人間臭いとまで評せよう。 その人外でありながらヒトであるが故に、高尚な種族でありながらも低俗なままで身を窶す。 当人もそれは理解していたが、それでもなお現状の新しい欲で塗り潰してもすぐボウフラかのように浮き上がるたった一つの感情が許せなかった。 理解などとうに諦めている。そうやって考える事で払拭しようにも無尽に楯突くその疑念。 憤怒が過ぎ、悦楽に身体を委ねても、喉元にチリチリと残って離れない小骨のようなしつこさで脳髄を追い回す。 こんな時にまで底から這い出て来なくて良いのに、そうは許されないのかと顰め面。 脳裏に想起されるはかの最期。血塗られた右腕に残る感触の波濤。 ズブズブと肉を掻き分けて掻き分けて、臓腑を物ともせずに突き破ってさあ御開帳と対面して。 その幕引きといえばマエリベリー・ハーン──否、八雲紫が遺した欲の欠片も感じ取れない妄言。 妄言と掃いて捨てるには失笑も笑顔も上っ面。そもそも唾棄出来る程に価値が無い物かすらも分からない。 ただそこにあった物として明言出来るのは、陳腐で安っぽい夢物語を描いていたかのようなその安らかな死に化粧。 『少女になりたかった』等と宣った、何事にも取れて何事にも取れない上っ面だけの少女の遺言だけが脳裏で鬩ぎ。 さながらは見た目年相応の、将来を信じて止まぬその純粋さの延長線上。 自身の執着心とは対角線を描くように、全てに安堵したのか夢を追いかけた事を悔やもうともしなかったあの姿勢。 (不愉快ですわね、まるであの凡夫〈わたし〉のようではありませんか) それだけは、看過出来ない。 中華、清代始めの短編小説集に『聊齋志異』という書物がある。 著者は蒲松齢、ジャンルは怪奇譚の文言小説、全十二巻。同じく清代に書かれた紅楼夢と比べるとイマイチ知名度が低い。 されどもこんな世まで脈々と保管され続けているのだから、少なくとも駄文の羅列などではないのだろう。 さて、その七巻に『青娥』というタイトルのごくごく短い物語が瀝々と紡がれている。 曰く。秀才な男と結婚して、それでも幼き頃の憧憬を手放せずに俗世を捨てた女。 そして、その幸せを捨てきれずに妻を追い掛け仙人へと羽化するまでに至った男。 傍から見れば、畢竟には仙人の躰でも人の幸せを描く事が出来た夫婦の話。 しかし、それはあくまでも時代の遷移で磐石劫の如く擦り切れる口伝の民間伝承のパッチワーク。 何せ執筆時期と元々の出来事には二桁世紀もの隔たりが存在している。到底正しく伝わっている訳が無い。 斑鳩の聖人が厩で生まれたという伝承が後世に取って付けられて未来の説話で浸透していくように、事実は往々に異なる物である。 当事者から見ればこんな物語等、男が救われない物語を著者か伝承者のお気持ちかそこらで無理矢理改変させられたようなもの。 現実は向こう見ず、理想郷の腕の中に抱かれながら安らかに救いを得ようとするその姿勢。 ハラワタを指という指で掻き回されたかのような、痛みを伴う嫌悪感が己の臓腑を満たす。 確かに文中の少女と同じく、父に憧れ何仙姑に焦がれ道を目指した幼少期を送った事は変わらない。 霍桓という男と簪を通じて結ばれ、それでも道術に恋してやがては形骸だけの家族を捨てたのも全くの同じ。 だが、説話は物語。喩え夢見た幻想がそこに存在していても、空想の域を抜けれぬモノであって現実では無い。 埋葬と同時に霍桓の持っていた簪はすり替えて今は手元にあるし、そもそも事実としてあれ以来霍桓と会う事すら無かった。 きっと本来のアレは失意の内に病床に伏せたに違いない。 それなのに、とりわけ愉快な話でもないハズなのに、その経緯だけは何故か忘れられずにこの頭に明晰な映像を流し出して。 ああ、それでも。 こんなに雨垂れが石を穿てる程の時間が過ぎ去っても。 あの光景は、間違いなく仙人としての原点で――――。 「あら」 肌をくすぐる地下の冷気の奔流の中に、撫でるかの様に仄かに吹き掛ける暖かい風。 受容器の一点の齎したその情報によって、思い返されたさそうに後ろで控えていた昔の記憶が雲散霧消してゆく。 別に感傷までは必要無かったのに何故ムキになったのかなんて軽く思えども、そんな考えすら瞬く間にどこかへ追いやられ。 数秒前までは煮え滾ったお湯の様であった釜も、今や残った感情はと言えば精々どうでもいいという微細な倦厭のみとなっている。 それでも温風はそんな青娥の思考の漂白とは関係無く、ひっきりなしに白磁めいた素肌をなぞり続けている。その暖かさはまるで人肌の温もりのよう。 この風が地上かもしくは地下施設のどこから流れてくるのか、状況証拠だけでは青娥には判別出来なかったけれども、微かに感じたソレは少なくとも今後の進路を決めるのには充分だった。 風吹くままどこへやら、羽衣の流れるままにユラユラと。深海で光を放ちながら漂うクラゲの様に、その身がどこへ向かうのかは青娥自身も分かっちゃいない。 一刻も早く八雲紫の愛くるしい遺品を届けようなんて考えも今や露と消えて跡形も無く、さほど高尚な動機付けも無いまま前進していく様。 未来へ繋ぐ訳でもなく、されども過去に一生苛まれ続けて先に進めない訳でもない。受け継いだ者でも飢えた者でもない。 邪仙は今を生きる生物である。愉しければそれで良し、美しさ見たさに直情的。 だから人を逸脱した。だから天に昇れなかった。 それだけだ。 次第に眼前から吹いてくる風が強まっているのを全身で感じながら、青娥は自分が間違っていないと言わんばかりに笑みを浮かべる。 となれば手に持ったままであった記憶DISCを『オアシス』の能力で背中に隠し持ち、フリーになった両腕をブンブンと振り回しながら歩くのみ。 この先に何が待ち受けているのかを考えているだけで昂ぶりを抑えずにはいられない、そんなウキウキさがそこかしもから漏れ出ているのを咎める相手などどこにも居ないのだ。 向かい風を一身に受けてもその歩みを留めようとする気配なんて微塵もなく、意気揚々と余裕綽々と。 それは立ち止まる事が勿体無いというだけなのか、それとも過去を振り返る必要すら無いという意思表示なのか。 もしかすれば後方遥かに掌を重ねる二つの死骸が存在していた事なんて、もうとっくのとうに忘却の彼方に吹き飛ばしてしまったのかもしれない。 或いは、自らがその結末まで鑑賞したそのドラマの中身がただの陳腐なお涙頂戴物だったという事実に心底どうでも良くなったのか。それを舞台袖から覗く事は叶わない。 長々と続く一本道が段々と光に晒されて色彩を取り戻していく様は、青娥の歩調も加味すればまるで花道を上る歌舞伎役者のそれのよう。 煌々と地面に滴る朱色を除けばモノクロの世界に停留し続けているそれらを闇の中に捨て置いて、青娥は光の方向へと着実に進んでいく。 「――この風、いつになったら止むのかしら」 少しだけ、後悔の音がした。 ───────────────────────────── 光に呑まれて行き着く先。ボヤけた視界が鮮明さを取り戻すと共に、青娥は眼前に広がった光景に息を呑んだ。 最初に目に入ってきたのはその空間に存在する住居、岩肌、人工物、その全てにスクリーンを掛けたかの様に広がる橙色の氾濫。 そして柔らかく一帯を包む橙色の中、天蓋に関してのみが黒茶色を凛として主張し、そこに連なる桜色が一層輝きを増していく。 さて地上を注視してやれば地面に等間隔に並べられては灯されたまま鎮座している行灯、あらゆる軒という軒を囲んでは建物一つ一つを照らし上げる赤提灯の数々。 それらに照らされて見える範囲全ての暖簾は上がっており、そこが店であり殆んどが呑み処である事が漠然と窺い知れる。 しかも住居や店舗の建物が均等にかつ大通りの奥深くまで際限なく続いていて、まるで道が無限に続くかとさえ知覚させてくるのだ。 だが、その通りの先の先に小さいながらも他の建築物とは一線を画した色調の豪邸らしき物が見られるのも薄らと分かった。 これが噂に聞き及んだ旧地獄そのもの、それならばあれは地霊殿とやらであろう。 浮き足立つ足並みを抑える様にして足を踏み出していくと、趣を感じさせてくる物々に興味を惹かれずにはいられない。 酒屋、暖簾無し、暖簾無し、内装が暗くて分からない、呑み屋、通りを挟んで食事処、酒屋、暖簾無し、呑み屋、暖簾無し、また小路を挟む。 大通りを中心にしては他の通りを碁盤の目の様に規則正しく配列させて構想されたであろうその町並みの様相は、青娥に唐代の都を朧げに思い出させるには充分過ぎる物。 だが悲しいかな、あの地にはあの活気と意地と生気と怪異が満ちていたのに、こちらには人の営みがまるで存在していない。 それはある日突然全ての妖怪が有無を言わせず忽然と消失した痕跡かの様にも思われた。 遥か高くで天を満たしている岩肌の荒涼さが、何故か奇妙な程に一帯の雰囲気と合致している。 ここでも本来なら地底の妖怪が喧騒を繰り広げ、空気そのものが酒気に塗れ、昼夜の境も関係無い叫喚が響き渡っていたのだろう。 青娥は旧地獄に足を運んだ事は無かったが、それでも人伝の情報と縁起の記載からすればその想像には難くない。 特に酒乱に満ちた澱みは警戒する所であったものの、いざこの光景を目にすれば些か拍子抜けだったという物。 澄み切った空気では寧ろ恍惚に酔う隙すら与えてこない、そんな色模様さえも感じてしまう程。 今は青娥ただ一人、閑散たる様だけが無音という形で伝播してきている。 こんな様子では閑古鳥も泣けやしない。 ふと、提灯や行灯の光の乱雑具合がいつかの夢殿を思い起こさせる。 低俗な小神霊共が広大な空間の中で右往左往に揺れ動く様がそれと重なったのだろうが、あくまでそんなこともありましたわね程度の事柄。 確かに懐かしい事ではあったけれども、そんな過去に一々心を揺さぶられる訳でも無く。 「さて、家探しでも始めましょうか」 それは今から泥棒活動に勤しみますよ、という邪仙なりの意思表示。 穿窬という単語は間違いなく、今の青娥のやろうとしている行動の為だけに作られたのだと誰もが認めてしまう程の白々しさすらあろう。 適当に見繕った建物の前に立つ。暖簾の掛かっていない家々に混じって、一軒だけ窓も扉も付いていない事実が目に付いたのだ。 壁抜けの邪仙には密室や鍵など効力のこの字も存在せず、衝撃を加えてやれば簡単に砕け落ちるガラス容器と同義である。 こんにちは、と家主に挨拶するかの様なノリで宣言するや否や、身に纏った『オアシス』のスーツと共に飛び込むかの様に華麗に侵入。 屋内に入ってすぐさまスタンドを解除し、足音立てずに着地。かくも鮮やかな工程は10点満点のレビューが付いても許されるだろう。 この出来には青娥もニッコリ。場所が場所なら効果音でも鳴りそうなガッツポーズを自信満々に繰り出した。 「これは……酒蔵ですわね、一発目からツイてますわあ」 さて、その中はギッシリという擬音がこの場所の為だけに作られたと言っても許される程に充満した酒瓶、酒樽。 幻想郷で見られる全ての酒という酒が一つの酒蔵に歴史と共に詰まっているという実感が湧いてくる程の酒の量に、ただ圧巻されるのみ。 実際は古今東西ありとあらゆるなんて言葉で言い表すには、過去から今に掛けて製造された酒の銘の数が多過ぎる気がしないでもない。 中華三千年の歴史と共に歩んできた青娥にとってすれば、まぁ皇帝の宮殿における百年分ぐらいかしらね程度にも捉えられないことはない。 それはともかくとして、普遍的な人里の酒造とは比べ物にならない、そもそも規模に歴然とした差すら存在しかねない程に酒がある事だけは確かである。 さぞかしここに安置された酒の数々も青娥に見付けて貰って喜んでいる事だろう。 「地底妖怪用に醸造されたお酒なら意趣返しにも出来ますわね、私ったらあったま良い~」 それはさる先刻の戦いの怨恨か反省か。過ぎ去った事だが、どちらにせよ邪仙には単なる嫌がらせに過ぎない。 そもそも意趣返しという言葉をわざわざ選んで使っている時点で、そんな怨恨だか復讐だかの心なんてたかが知れているのだ。 実際仙人の肝も胆も一筋縄ではいかない強さだったからこそ良かったし、その結果は青娥自身も十二分に理解している。 そんなシロモノに比類する物をただの人の身に投与すれば劇毒でしかないのだが、それを気にする素振りは一切見受けられそうに無い。 陰湿、悪趣味。どう罵られても気にする事でも無い。ケチを付けられる謂れも無い。 酒瓶を二本程度選りすぐって紙に投入する。 「折角ですしコレも入れてみましょうか」 青娥の目線の先には大きいとしか形容の出来ぬ酒樽の数々。青娥の身長はより若干高い程のそれらは、一つ取っても一石はゆうに超えているだろう。 木々を上手く継ぎ合わせ注連縄で形を整えたその見た目は、素人目に見ても鬼の様な巨躯でも無いと作れそうにない。 そんな精魂込めて醸造したであろう酒樽であったとしても、持ち主も通りすがりも誰も居ない場所では泥棒してくださいと言っている様なものだ。 どちらかと言えばこれは単純に呑んでみたいとかそういった興味本位に過ぎない行動ではあったし、少なくとも実利目的の行動ではない。 それを先程の一升瓶たちと同等に語っているのはまさしく青娥らしさの塊なのだろう。 その中の一つに足を向けて、エニグマの紙をそっと押し当てれば、途端に酒樽が一個丸々紙の中へ吸い込まれて消えていく。 残ったのは酒樽の羅列の中で際立つ大きな空白のみで、まさか泥棒が盗んだ痕跡だとは誰も思うまい。 それにしても、この質量や形態を全部無視して収納可能なこの紙のなんとも万能な事かと青娥は一人驚いていた。 紙面を仙界に繋げて仕舞い込むにしても、その紙の大きさよりも遥かに大きな物まで入るとなれば大掛かりな術式を組まざるを得ない。 手段を明晰に思案してかつそれを実行に移せる仙人が居るか、もしくは例を挙げてみるならばスキマ妖怪の術式が使えれば再現出来る事だろう。 出来そうな人妖を二人記憶の淵から思い当たっては、つい青娥は苦笑を漏らしてしてしまった。 豊聡耳神子も、八雲紫も、等しく青娥自身が弑した相手である。この手段は無かった事になるだろう。 「まぁ豊聡耳様は刀剣でしたから……竹風情とは比べ物にならなかったのでしょうね」 どこか懐かしさや寂しさ、羨ましさといった感情を複雑に表面化させた顔を浮かべて、青娥は遠くへ視線を投げ打った。 その根底にあるのは仙人としての純然たる思いだというのを理解しているからこそ、余計に何かが口惜しく思えてくるのか。 直視するに耐えない己の内面がふと覗いて来た気がして、その情を引っ込めるのに数秒を要してしまうのが、青娥には口苦くてならない。 「……。次の建物でも探しましょうか」 気分転換の方向を探る様に、言葉を投げやった。 口調は軽く繕っても、数歩の間の足取りは先程までとはいかないのに気付かぬまま。 そしてお眼鏡に適う次の建物は、予想していた以上に早く見付かった。 さっきまで居た酒蔵から、通り一本分先にあった何の変哲も無い一軒家と思しきその建物。 暖簾が掛かっていないという事実から妖怪かそこらの住居である事は容易に想像出来るが、それにつけても見た目のボロさに拍車が掛かっていた。 あばら家とまでは言わないにしろ、その無骨な装いをした外観は寧ろ青娥のセンサーに得体の知れない何かがありそうと確信にまで至らせている。 呑み屋と食事処の間で居竦まる様に縮こまったその姿は可愛らしいものだが、そんな雰囲気に惑わされる青娥ではない。 木を隠すなら森の中、一見だけでは価値が分からないけど実は高価な物は安価なガラクタの中に混じっていると相場は決まっているのだ。 考えただけでも胸が躍ろう。重火器近接武器嗜好品なんでもござれである。 「ん~~~~ん?」 いざ『オアシス』のスーツを起動しようとして建物に近付いて、そこでふと感じてしまった違和感。 扉に鍵が掛かっていない無防備さどころか、扉がやや半開きになって壁と間隙を生み出しているのが見て取れる。 人が現在進行形で中に居るのか、それとももう家探しを終えてもぬけの殻なのかまでは分からないにしろ、少なくとも誰かが存在していた形跡は今目の前にあるのだ。 眉を顰めてみるものの、こういう時に限って光学迷彩スーツのバッテリーは再充電の真っ只中。こればっかりはどうしようもない。 しかし姿を隠せないからというだけで、中に何があるのかをその目で確かめずにむざむざ手ぶらで帰るだなんてそうは問屋が卸さない。 逡巡している時間なんて物は必要無かった。 ええいままよ、と言わんばかりにスライド式の扉に手を掛ける間も無くドアに突っ込む――そのの勢いで、『オアシス』のスーツを使って扉を透過。 体が触れた部分から扉は液状化していき、体が離れた部分から次第に元に戻っていくのは、扉を液面に見立てた飛び込み競技かの様。 それにこの動作と侵入が一体となった手法は、青娥には簪を使っている時と同じくらいに気分が良かった。 そもそも疚しい事なんてこれっぽっちもしていないのに何を恐れる必要があるのだろうかと思ってしまえば、行動に移るのは簡単だったのだから。 そしてやっぱりと言うべきか、部屋の隅に先客は居た。 一部屋で構成された屋内の一番奥手の柱にもたれかかって、片膝立ててスヤスヤと眠る一人の少女。 ボロさの残る室内と同じくその体には軽い傷の跡が見え隠れしているが、その艶と輝く黒髪はそれらと比べると場違いな雰囲気さえ放っているかのよう。 普段の青娥であれば芝居掛かった雰囲気であらあらあらあら、とニンマリ笑うところであったが、そうは至れない神妙さがそこにはある。 外見さえ見てくれは服が違うとは言え縁起に聞こゆ藤原妹紅のその姿なのに、挿絵の白髪とはうってかわって目の前のその髪は黒色。 直接会った事は無けれども、その白と黒という正反対の色への変貌は流石に見紛う事は出来ないのだ。 髪の艶やかなのは別に構わない。これでもヘッドセットには気を遣う邪仙なのだから、適当にトリートメントの材料を聞き出せば良いだけのこと。 しかしその黒色、見れば見る程に漆黒を湛えてどこまでも深くて異質で禍々しく。 逆に何をもってすればその様な変化をその身にありありと表現しようか。 ここまでの変容が起こったその経緯とは如何程な物か皆目検討も付かない。 だが、青娥をその黒髪以上に惹き付けるモノがあるのもまた確かで。 「あらあらあらあらあらあら~~~~~~!!」 失敬とでも言わんがばかりの満面の笑み。口からその歓喜を余す所無く高らかに優雅に溢れさせていく。 口角も目尻も、ヒトのそれとは思えぬ程にその感情を満遍なく表現していた。 かつて、青娥は豊聡耳神子に尋ねた事があった。 『完璧な不老不死について、如何お考えですか?』と。 完璧な不老不死。尸解仙の様な死神との縁の切れぬ形骸的な不老不死ではなく、神仙を目指す者の究極の憧れの一つ。 神霊として縁起に記録され、生前を遥かに凌ぐ力を付けて尚、それに向かって進み続ける一番弟子に対しての究極な問い掛けであった。 彼女とて青娥とて浅学とはとても言い表せない求道者で、少なくとも死神を追い返す事など造作も無い取るに足らぬ力を持っている。 それでもなお、その一点は譲れないと他の術以上に熱心に勉む彼女に、当時何を思ったかなどもう定かではない。 ただ驚いた事に、その少し意地悪な質問に対して、神子は最初っから決まっていますとでも言うかの様に口を開いたのだ。 『安寧、ですかね。青娥や私が最終的に目指している道のその先とは別物でしょうけれど』 『例えば屠自古なんかは霊体ですから死神による終焉は齎されません。ですが、他所からの畏れを失えば消えてしまうのもまた妖です。 その理すら及ばない完全性、自己完結。それこそが完璧で純然たる不老不死だと思いますが、一方で魂の在り方を変えなければ辿り着けぬ境地かと』 『ですからね、青娥。私は死という存在が単純に怖いのですよ。何人にもそれは平等に降りかかって、跡形も無く全てを消し去っていく。 私という存在が死によって掻き消されてしまうのがたまらなく恐ろしくて、不安でたまらないだなんて聖人が聞いて呆れるでしょう?』 『仏教だって心の安寧を保証していますけれども、仏像のその瞳は虎視眈々と死を見据えている。現世での救いをあれらは何一つとして成し得ない。 私は救いを求めているのかもしれませんね。――この話は屠自古や布都には内緒ですよ?』 その時の俗っぽい笑顔と、知らしめられた欲の強大さは今でも忘れられない。 生前の豊聡耳様への印象は、視野に広がる全てに対する冷徹さと非情さと求心力。その一方で道への並々ならぬ熱意と縋り付きが多くを占めていた。 俗人の全てを見透かすその耳と、師弟関係すら曖昧になる程に叡智を持った生まれながらの聖人でありながら、その実そればかりを強く希い続けていたのだ。 もしかすれば、邪仙の心に火が灯されたのはこの時だったのかもしれないし、そうでは無かったかもしれない。 けれどもこの人の死に際はさぞ強烈なのでしょうね、とその時心の底から思ってしまったのは否定のし様が無いだろう。 但し一つ言える事があるとするならば、豊聡耳神子という人物はそれを成し遂げてしまえる程の力量があったのだ。 力量だけでなく、その才知までも。その仙骨さえも、全てが凡庸とは一線を画した一級品。 だからこそ『力を持つといつかは欲望に身を滅ぼされる』という事実をそっくりそのまま体現して潰えたのかもしれない。 では、目の前のこの少女はどうだろうか? 藤原妹紅。縁起に堂々と書かれた『死なない程度の能力』。毛髪一本さえ残っていれば再生が可能とも書かれた不老不死。 天人ではない、さりとて同じ道を歩む者でも無さそうな文面。あの時は幻想郷においてはそんな人間腐る程おります故、なあんて一読して記憶の片隅に留めただけで終わりだった。 同じ腐る存在であれば芳香ちゃんの方が何倍も価値があるに違いないし、芳香ちゃんの世話よりも優先度が低いのは実際当たり前であったのだ。 豊聡耳様は藤原氏という苗字に何か思う所があったらしいけれども、歴史の当事者の回顧なんて知った話では無い。 だが、昔交わした会話の中身を照らし合わせ、いざ目の前で寝入っている実物とご対面となればどうしても分かってしまえる物がある。 眼下の少女は紛れもなく、真の不老不死を体現せしめている存在なのだと。 豊聡耳様ですら辿り着けなかった境地に至った存在であるのだと。 この様な状況に置かれさえしなければ、死という物が永遠に訪れる事が無かっただろうにと。 不思議な話かもしれない。 溢れんばかりの聖人オーラを撒き散らす事憚られなかった彼女には成し得ず、こんなどこの馬の骨とも知らぬ平凡そうな雰囲気の生娘がそれを会得しているのだ。 尸解の術を斑鳩の地で掛けて以来長らく各地を放蕩していたと言うのに、その噂話を今まで小耳に挟む事すらなかったというのも余計に謎めいている。 その不老不死の原理を幻想郷に居る内に知っておきたかったという感情も無くは無いが、正直な所今この場においてその事実はさしたる重要性を持たない。 精々不思議でどうしようもなく機会に恵まれなかっただけの話であって、どうせまた次の機会はいつか来る。 問題はそこではない。 完璧な不老不死には魂の在り方から変えなければ辿り着けないのだと、あの時豊聡耳様は口にしていたのだ。 自身がそんな在り方を目指すつもりなど毛頭無かったが、彼女程の聡明なヒトが仰られるのであればそれはきっと真理なのだろう。 一介の人間の魂魄では死を迎えれば気が散り散りになって二度とは戻らないのだから、その魂から変えてやらなければならないのは確かに理に適っている。 それも少なくとも尸解仙の様な魄の再定義とは訳が違う、無から魄を復活させる程の大掛かりな術式や修行が必要不可欠に違いない。 死神によるお迎えすら存在しない、文字通りの完璧な魂魄の兼ね備え。 であるならば当然。 「私ってばほんとツイてますわね、妖怪の賢者に次ぐ程の魂の持ち主とこんな場所で出会えるだなんて~~!!」 それこそは、天国行きの往復切符と成るであろう材料への値踏み。 旧地獄などという天界からしてみれば真反対の概念の場所でありながら、そこへの近道がこんなボロ小屋に転がっていただなんて誰も普通は考えやしない。 それでも彼女はやってのけてしまった。本来であれば虱潰しに探しでもしなければ見付からない代物に、僅か二回の探索で到達してしまったのだ。 短時間でアタリを引き続けるその豪運とまたしても噛み合う歯車を一つ得た高揚感が、今の青娥の感情を占める大半である。 その場でルンルンウキウキと羽衣を舞わせながら踊っても許されるだろう、なんて言わんばかりの優雅な動作も、それを顕著に表している。 被服のボロボロさすら意に介してないと示し付けるかの様に、その場の空気をふわふわと巻き込んでは微細な気流を作り出して。 すぐ傍に寝ている最中の少女が居るというのに、そんな事知ったこっちゃないとお構い無しに足を動かす、手を揺らす。 もしかしたら、青娥は最初から藤原妹紅という存在を少女として見ていないのだろうか。 もしかすれば彼女の視界における眼下の少女は、目的へ一直線に邁進する為だけの道具としてしか存在していないのかもしれない。 「いやはや本当に良い体じゃない、終わったらこの子の体でキョンシーを作るのも悪くなかったりねえ?」 そう言って青娥は覗き込むかの様に、顔をグイと妹紅の顔の方に近付ける。 それは本当に些細な動作。立っていたままの姿勢から若干腰を屈めて、目線を合わせようとしただけの行動。 寝たままの少女がどんな顔をしているのかちょっと拝謁してみようか、ぐらいの軽い気持ちで行われたに過ぎない。 けれども、妹紅にとって青娥のその行動は全く別の意味。 体を休めて寝息を立てていたとしても、本人がそれを望んでいなくとも、眠りは浅いままの状態で維持されていた。 それによって誰かが近くに居るという気配を寝ながらも捕捉されてしまったのは幸か不幸か。 妹紅が意図していなかったと言えど、その体に染み付いた慣行は決して忘れられる事は無いのだ。 寝ていたはずの妹紅の足の筋肉がやや強ばったかと思えば、室内で掃除されずに薄く積もった土埃が舞き上げられ。 次の瞬間には眼前の少女が跳躍していたという事実を、青娥の脳が遅れて警鐘を鳴らしていたとしても時既に遅く。 瞬きをする間も無く、地べたと平行線を描いていたその片足は気付けば軽い炎を纏って中空に丁寧な弧を描いていた。 それはここが私の制空権だと言わんばかりに、反射的に繰り出されたサマーソルトキック。 頭から垂れ下がる黒髪がその動きに同期して艶かしく広がり、その脚は残像を持ってして風を断つに至る。 ただ妹紅の領空に入ってしまったというその一点の事実のみで放たれてしまった自動攻撃。 使い手の記憶が混濁していたとしても、寝込みを襲う賊に対して編み出した過去の成果の腕は鈍らずに、ただ無警戒に近付いた相手を刈り取るのみ。 纏った火の粉さえも揺れ動く髪と似て黒々しく、されど薄暗い部屋の中では煌々とした輝きを見せ付けて。 間一髪でその首を横に寄せた青娥の頬に、軽々しい見た目からは想像出来ない程に鈍重な蹴り上げがチリリと掠る。 だが悲しいかな、その挙動はグレイズには数フレームで間に合っておらず。 その白磁かの様な皮膚をコンマ以下の浅さで幅数センチ抉っていた事に青娥が気付くのと、遅れて舞った黒炎の一端が頬に軽い火傷痕を作るのはほぼ同時であった。 「うううぅぅううう……お前は誰だあああぁぁぁぁぁア?」 優雅な一回転の蹴りを終えた藤原妹紅が床に着地して青娥の側を睥睨する。 酔拳にも及ばぬ程、そもそもそう言い表す事が酔拳に失礼な程にグチャグチャの体幹で上半身を、その黒い長髪をユラユラと揺らして。 瞳に光は宿らずに髪と等しく黒一色、更には藪睨みどころか両眼球がそれぞれ別方向を捉えている。彼女の視界が正しい物を映しているのかも怪しい。 体勢も語調も彼女を表す全てがしどろもどろ。常人とは掛け離れた物以外を感じさせない蓬莱の人の形がそこに居る。 その様相から、青娥は瞬時に理解してしまった。 眼前の彼女が狂いに狂って元の鞘に戻れなくなってしまったのだろうという事を。 藤原妹紅の個はバラバラに砕けてしまったのだという事を。 全てに倦厭して気を狂えてしまったのか、さてはてこの会場にて何か心を壊される様な何かがあったのか。 今まで死を恐れてもいなかった身に急に襲いかかるようになってしまったその恐怖に身も心も支配されてしまったのか。 色々と彼女の身に何が起きたのかの選択肢はあるだろうが、その考えが沸いたとしてもそんな些事を気に留める程の青娥ではない。 だが魂魄を操る事に秀でた道士としての己が、少なくともその内の魂から来る気の淀みを肌で感じ取っていた。 張り巡らされた神経系の一部が断線していると形容するのが正しいのだろうか、妹紅の心を支える回線が数箇所破損しているかの様な感覚。 目で見ずともそれを理解させてしまう程に、藤原妹紅の精神は異常を来たしている。 「誰でもイいかぁ、わたし以外の誰だってぇ」 その言葉を皮切りに、まるで妹紅自身が薪であるかの如く、妹紅の周囲に炎が揺らめき立つ。 そもそもこれは炎と呼称されるべき物なのか、湧く揺らぎ湧く揺らぎその全てが黒。黒。黒。 辛うじて形だけが炎らしさを保っているからこそ炎と認識出来るだけで、本来の炎の醸し出す紅蓮とは到底似つかず。 可視光線のスペクトルを無視した炎色反応。奇術としては悪趣味な、光を全て吸収してしまいそうな底の無い黒一色であった。 それ即ち、攻撃の予感。黄色点滅の余暇すらも許さない赤信号の氾濫を感じずにはいられない程の殺意の数々。 藤原妹紅という個人の魂魄では収まりきらぬ程の怨嗟と憎悪で身を焦がされるのだろうという空気で今居る屋内が満たされる。 今まで会場で味わってきた生ぬるい敵意も、そもそも邪仙になって以来襲来してきた死神の手練手管も、今のそれには劣るだろう。 ちょっと失礼、と言ったか言わなかったか定かで無くなる程のスピードで、青娥は『オアシス』のスーツと共に地面に飛び込む。 水にまつわる擬音で表せそうな波模様を地面に描き、そのスタンド能力で完全に退避したのも束の間。 爆音けたたましく、爆炎の勢いは激しく。 藤原妹紅が爆心地となって、寺や田圃で行われるどんど焼きすらも凌ぐかの如く迸る火柱が周囲を埋め尽くす。 天蓋にまで届きそうな高さまで及んでひたすらに黒色が泳ぐ様は、まるで鯉が点額を描きそうな程の大瀑布。 ベクトルを一歩別に向ければ建物を等しく見境無く軒並み巻き込みそうな程の火力を以て、元来あった荒びた家屋を中心に半径数メートルが業火に包まれた。 ───────────────────────────── 黒炎が止む。雷が落ちて去ったかの様に、周辺家屋の整列の中に一点だけ空白を残して。 炭化し黒ずみ骨組みの一部だけが辛うじて残存し立っているだけのその姿が、未だ燻り続ける煙と併せてそこに元々木造家屋があったのだという事を主張している。 だからこそ、その痕跡の中で惨状を何事も無かったかの様に佇んでいる藤原妹紅の存在は異質でしかない。 「うーん、居なくなっちゃった。幻覚だったのかな、消し飛ばしちゃったかなあ」 周囲を見渡しても、妹紅の周りには誰も居ない。輝夜も永琳も、今までに出会い頭に攻撃してきたロクデナシ共も。 最初っから何も起こっていないとでも言いたげに、剥き出しの建物だった残骸を静けさだけが埋め尽くす。 ただ少なくともこれだけは言えた。己に近付いてくるヒトの皮を被ったバケモノ共は、間違いなく殺しても良い相手なのだと。 「全身青女とか見てくれとしてどうなのよ、赤青半々のアイツとどっこいどっこいじゃない」 『貴方は正しいわ妹紅。立ち塞がる物は全部殺して、殺して、殺し尽くす。そうでしょう?』 誰も居ないハズなのに耳介を通して響き渡る誰かさんの声。鬱陶しいったらありゃしないけど、聞こえないフリ。 幻聴が聞こえるだなんてそれこそ私が『異常者』みたいで癪に障る。異常なのは私以外全員だっての。正常じゃないヤツが正常性を語らないで欲しい。 無論、蓬莱の薬を私が未だに持っていると勘違いして攻撃を仕掛けているのであれば話は別だけれども、等しく殺してやれば関係無いのは正しい。 そもそも蓬莱の薬を誰に盗まれたんだろうか。盗んだならちゃんと盗んだって言って欲しい。 アレさえ飲めば私が糾弾される事もあんな幻聴が聞こえるだなんて事も無くなるだろうってのに。 でも、今からまた蓬莱の薬を新たに手に入れるってのもアリかもしれない。 岩笠だったかそんな名前の人間の一団と、蓬莱の薬を富士山の頂上で燃やす旅に同行した時に火口で変な女が言っていた気がする。 八ヶ岳?に行ってイワナかヤマメかそういう感じの女と蓬莱の薬について話をしろ、だっけか。よく覚えていない。 そこで薬を燃やす算段だったけど、手ぶらで行けばもしかしたら蓬莱の薬を恵んでくれるかもしれない。 だけれど結局私はそこから逃げて逃げてこんな変な場所に居る。 あの後男の部下が怪物に襲われたのか全滅して、残った男と一緒に行こうって話になった気がするけど私はアイツを蹴落とした。 勿論物理的に。富士山を下る時に後ろからドンと一突き。悪い事をしたかもしれない。でも生きる為の行動に犠牲は付き物だから。 だからと言ってなんで私が攻撃されなきゃいけないんだろう。 八ヶ岳に行かない私をあの女は怒っているのか?それとも蓬莱の薬を奪ったから帝が追っ手を差し向けているのか?それとも岩笠が実は生きててその差金? どれでも理由としてありそうだが、少なくともそんな事で私がこんな目に遭わなきゃならないなんておかしいじゃないか。 ただただ生きようとしているだけなのに横槍入れてくるだなんて失礼にも程がある。 『自分が生きる為に他の攻撃してくる相手を皆殺しにするのは何も間違っちゃいない、妹紅にはそれが分かっているでしょう?』 ほら、この幻聴だって私の考えている事を無視してずっと同じ様な事ばっか。 私は今から蓬莱の薬を新しく手に入れる算段を思い付いたってのにそんな事で水を差さないで欲しい。 取り敢えず、今から私は八ヶ岳に行ってヤマメと話して不老不死を得なくっちゃならないのは確かだ。 だから、ええっと……? 「ハロー、また会いましたわね」 「……は?」 突然。しかも地面から生えてきたとしか言い表せない方法で再出現したさっきの全身青女を前に、素っ頓狂な声が出し抜けに出てしまった。 そもそもさっき消し飛ばしたハズなのになんでピンピンしてるのか、地面から生えてきたかの様なこのコイツは一体全体なんだって言うのか。 だから、それらの事実に気を取られた。目の前のコイツが何をしようと現れたのか、考える事が出来なかった。 左足に重石を付けられたかの様な違和感。 何かそこから新しい部位でも生えてきたとでも言いたげに、左足だけが重力に強く引っ張られている様な感触がある。 目の前のコイツがやったのか?私に攻撃してくるならもっと別の事をしてくるだろうに、何の為に? 恐る恐る目線を地面の方から私の真下の方へと向けると。 一本の酒瓶が、私の左足にまるで吸い付くかの様に”くっ付いて”いた。 「こん、のっ!!!!山に行かせろよ青女!!」 「あぁらこわいこぉわい」 全身青女の顔面目掛けて放った渾身の蹴り上げが僅か数寸で届かない。コイツは余裕綽々に首先を軽く動かしただけなのに、いとも容易く避けられた。 お前の攻撃は見切ってるだなんて煽ってくるみたいでムカついてしょうがないな。 それに左足で力強く振り上げたハズなのに、引っ付いた瓶はぴくりとも動かないまま。 どんな幻術が魔法か、ソレは私の左足に癒着して一体化したかの様で、足から離れるという挙動を知らないとでも言いたげに振舞っている。 それにしても一体なんなんだよコイツは。私の蹴りを避ける時に明らかに笑ってやがった。満面の笑みってヤツ。 私みたいなのを甚振って何がそんなに楽しそうなんだ。弱い人間を虐めるのがそんなに愉快だってのか? クソッ、私は八ヶ岳に行きたいんだよ、それなのに……。 ……? 頭が、ズキズキする。 「あんなに激しく動いたら早く回るのも当然でしょうに、本当にお可哀想なお人。 にしても不老不死の肝でもちゃあんと酒精ってキッチリ回るんですのね。興味深いわ」 不老不死……? 何を言って。まだ、私は……。 目の前の、青が、滲んで、霞む。 「こんなに速いのは予想外でしたわ、あの魔女の子ったら随分と焦らしてくれたのですねえ? ま、私の躰が強靭であってこそなのかもしれませんけれども」 立っていられない。 立たな、きゃ……。 私は、山に行って、それで……。 それで……? 「それでは次は天国でお会いしましょう、再見♪」 ……。 掠れながら埋没していく妹紅の五感の中で嗅覚に届いたソレがうっすらと輪郭を残して、捷急に脳へと情報を伝える。 鼻に付く様な強い妖香。白檀とはまた違ったむせ返りそうになる匂い。それでも何故だかそれ程までに嫌気を感じないのは何故だっただろうか。 至近距離で感じたソレは、手で撫でられるかの様な誰かの温かさ。 「よ、しか……?」 無意識に不意に出た単語。自らの発したその意味する所がなんであったかも分からず。 知らない単語を他でも無い自分が呟いているという事実に困惑を催せる暇も無く。 半分以上も閉じた蕩けつつある視界に明晰に映ったのは、頬がドロリと溶ける女の顔。 ――――顔が溶けて溶けて、ドロリと液状化して輝夜が溶けてあれはあれは泥で私の目の前で輝夜で泥で顔が私の下に落ちて輝夜の顔であれは喋って私は私は、私は? 狂乱した思考回路は果たして夢と現実のどちらを視界に捉えていたのだろうか。胡蝶の夢も甚だしく、自問自答には至れない。 僅かに残っている物全てを最後の最後で掌の上から零れ落として手放して狂いに狂え。 そのまま妹紅の意識は闇の更に深くへと沈む、沈む。 一世の紅焔の夢よ、さようなら。 ◆ 「地面に落ちた私の肌ってどうなるのかしら」 崩れ落ちた妹紅を尻目に、青娥はその様をどうでも良いと裏に含ませるかの様に独り言つ。 『オアシス』の能力を応用させて頬の火傷を修繕しているその姿も、もう動かないであろう妹紅の体への興味の無さを浮き彫りにしていた。 皮膚が焼けてその下の桃色が見えている箇所にスタンドを纏った手を当てて、洗顔液を染み込ませるのと同じ手付きで念入りに。 一滴だけ雫が顔を伝って自由落下していったものの、それ以外は万全とでも言うのだろう。火傷の痕跡は一切が無くなり、地面に作られたシミはすぐに消えて跡形も無い。 そしてスタンドを発動させたまま青娥の手は妹紅の足へとその矛先を向け。 ぬるり、と。湿った擬音の聞こえてきそうな動作と共に、目の前の少女の左足で異質さを放ち続けているその酒瓶を抜き取った。 日本酒が半分以下しか残っていないその瓶を揺らしてやれば跳ねるような水音が幾重にも響き、青娥はそれを見て口角をニンマリと。 その気味の悪い笑顔は、妹紅の意識が急に途絶えた原因がこの日本酒であるという事を雄弁と語っている。 やった事と言えば、精々第二回放送前に徐倫と魔理沙の流星コンビにしてやられた無力化の手段をなぞっただけに過ぎない。 あくまでもあの時に注入された酒は選りすぐりの"酔わせる為の"酒で、地底妖怪の箔が付いただけのただの日本酒とは訳が違うという事を青娥は知らない。 けれども、『オアシス』の能力で酒瓶の口と妹紅の表皮を溶かして癒着させ、そのまま中の酒を相手の血管に直で流し込むなんて手段はあの流星コンビには到底真似出来ないだろう。 青娥がここに立っているのは仙人としての躰の強靭さに悪運の強さを持ち合わせ、かつお相手さんの甘さに救われたという事実があってこそだ。 それら全てのハードルが取り払われてしまえば。性格面の上限突破に、相手の体もただのヒト相応であれば。こうも悪辣で奸邪な手法になり得るのである。 それに、あの時の徐倫と魔理沙には冗長にやっていられない焦りもあった。だからこその直接戦闘を介さなくても無力化出来る手段。余力を残していられる容易な策。 その策がこんな場所で、こんな事の為だけに流用されるとは誰が思えようか。たまたま『生かしたまま無力化する』という目的が合致してしまうとは想像し得る訳が無い。 この時ばかりは青娥はあの甘ちゃん二人に感謝の言葉が沸いていた。なお、気持ちは殆んど篭っていない。 「にしても芳香、ねぇ……。一体なんでその名前が?」 妹紅の最後の最期の一絞りの単語。掠れそうな弱々しい声で放たれたそれも、やはり青娥には気に掛かる事柄ではあった。 確かに過ぎ去った確かめ様の無い事ではある。愛しい芳香ちゃんはどこぞやの駄狐のせいでバラバラにされてしまったし、そのパーツも右腕や肚の中。死人に口なしとは良く言った言葉だ。 幻想郷で話を聞いていた限りではこの不老不死人間と交友関係があったとかどうとかは全くその話題に上らなかった。 ならば、何故見ず知らずの他人である藤原妹紅が芳香の名前を知っていよう。 「この会場で初めて会った、となればどうして今際の言葉がそれ?」 この催しでお互いに意気投合したというのが一番自然かもしれない。 しかし、先程の彼女の様子は狂乱そのもの。こんな不審者に近寄る人間もキョンシーも居やしない。 妹紅が狂乱に至った原因が芳香と別れた後と言うのならばまだ分からなくも無いが、だからとして最後にその言葉を遺すだろうか。 「ま、欲の欠片も無い言葉にはなっから期待しておりませぬが」 どうでも良い、というのが短い推論の末に出した結論であった。 先程の賢者サマの時もそうであったが、類推できないイレギュラーの存在など考えは到底追いつけやしない。 事実は小説よりも奇なり。どうせ正気の沙汰を喪った異常者の欲など読み取ろうとも読み取れる訳が無いのだ。時間の無駄になるような事をわざわざ考えている暇も無い。 邪仙の様な、色鮮やかな欲で全てを埋め尽くした世間一般の異常者とは方向性が全く違う。本物の深淵を垣間見るには、自らもその域に至る以外不可能なのだから。 それにメインディッシュはあくまでも魂の方である。魄の方には正直役割などあってほぼほぼ無いような物。 後はこの用済みの体ごとどこかに持って行って、空のDISCを探して埋め込んで殺して終わりである。 刹那、無風の広大な空間に砂を蹴るに近い音が響いた。大きくはないけれども、確かに耳に入る音。 自分と死にかけ一人しか居ない空間なら、当然自身の呼吸音や足音以外は無くて然るべきなのだ。それなのに至近距離で音が鳴っているのだ。 音の主は何なのか。独演の地底世界に来客か。歓迎出来る物は無く、歓迎出来る者は居ない。青娥は瞬間的に身構えた。 が。音の発生源は思ったよりも拍子抜けで。 「抽搐、かしら。ちょっと驚きすぎちゃった」 ジャーキング。うたた寝している時にふとビクッとなるアレである。 意識障害に陥った妹紅の腕の筋肉が不随意に痙攣して砂を掻いていたという、ただそれだけの種明かし。 なんてことのないただの人体に備わった機能だったという事実は安堵と若干の落胆を青娥の瞳に滲ませる。 ディエゴ君が空のDISCを持って来てくれていたならそれはもう大大手柄だったのに、とこの場に居ない人間にケチを付けて、そのまま青娥は妹紅の音を意識の外に捨て置いた。 今最優先で考えるべき事は、目の前でだらんと倒れているこの藤原妹紅の体を運ぶ手段である。 「この先の地霊殿に火車が居るんでしたっけ、死体を運ぶにはうってつけの道具でも置いてないかしら」 もしくは土蜘蛛や鬼が建築道具として使っている手押し車か台車も良いかもね、と舌舐めずり。 ただ、ここに死に損ないの体を置いたままにして一人旧地獄の探索に出るのは、青娥にはなんだか癪な話でもあった。 出払っている最中に誰かがやって来て起こすもしくは殺してしまう可能性、もしくは妹紅が自力で起床してどこかへ行ってしまう可能性。どれらも無い話だとは言えないのだ。 もしこれらを対策するならば、妹紅を引き摺って運んだまま探索という骨の折れる行為をするか、目の届く僅かな範囲のみで探索するしかない。 少なくとも今の妹紅の体は時折痙攣するぐらいで起きる素振りすらも見えないが、用心には越した話でもある。 酩酊しながらも持ち前のボディで酒精を分解し、ものの十数分足らずで快眠を終えた生き証人がまさに青娥自身。 だから、結局この半死人を視界に収めながら運搬用具を探さねばならないという焦燥感が起きるのも致し方無し。 最悪天国に必要な魂に換えは利く、とは言っても時間が経つにつれて次第に減っていく参加者の中からあと二人分。機会損失は余りにも惜しいのだ。 さっくり見付けてさっくり運んでさっくり殺す最短経路を選び取らなければならない。 だから。 それは全く脈絡の無い話で、一瞬一瞬を切り取っても理解が及ばない光景だった。 痙攣が始まってから、青娥は半死人から全く目を逸らしていなかった。己の瞳に常にその変わらぬ姿勢を焼き付けていた。 予兆は何一つとして感じられなかった。人体組成に慣れ親しんだその長年の知識にすら、そんな実例があったなんて事は無い。 妹紅は崩れ落ちた時の体勢のまま、今の今までそこに居たのだと言うのに。 目の前の満身創痍であったハズの少女の体躯が、須臾にも満たぬ間に膨張したかの様な錯覚。 錯覚では無かったのかもしれない。本当にそれは一瞬で、瞼を一回開閉する間に動作は既に終わっていたのだ。 そこには。 昏睡から一瞬で覚醒して立ち上がった藤原妹紅の姿があった。 その佇まいは先程と変わっていない様に見受けられる。黒髪もその衣も変貌を遂げたという事すら無く。 だと言うのに、その立ち上がった体からはこれ以上無いとでも言いたげなぐらいの違和感を放ち続けているのを青娥はしっかりと感じずには居られない。 そもそもあの状況、昏睡した状態からまるで何も無かったかの様に急に起き上がったという事実そのものにも特異的な感触を抱いているというのに。 藤原妹紅の体には、屋内で対峙した時以上に黒炎が漏れ出してその体に纏わり付いていて、最早狂気を隠そうとすらしていない。 いや、黒炎が蛇のように蜷局を巻いて妹紅の体を締め上げているのかもしれないとも思わせる程の苛烈さ。 それは最初から彼女から正気と狂気の境界線すら取り払われていたのかとすら。 何も感じ取れた相違点は外見だけに留まらず。妹紅から来る気の淀みも、先刻感じた物とは似ても似つかない。 精々乱れている程度にしか思わなかったのと対比すればその差は歴然。肌を刺し穿つかの様な痛みや圧迫感となって、その圧は気迫の領域に達している。 それも何も欲を感じ取れそうに無い混沌すら携えて、青娥の仙人としての感覚にこれ以上無い程の警邏を巡回させるのだ。 「■■■■■■、■■、■■■■■■■■、■■■■■■!!!!!!!!!」 突如青娥の耳に雷鳴の様に押し寄せたのは、悲鳴のようなナニカ。 発生源が目の前の少女だと考えるには培ってきた知識や状況からすれば想像に難くないが、それを青娥は理解してしまいたくなかった。 藤原妹紅の口から放たれたソレが、ヒトの発する言葉であるとはお世辞にも言い難い物であったが故に。 放つと表現してしまう事すらも悍ましい、嗟傷と激情と悲嘆と憤怒と全ての負の感情を詰め合わせて一つの釜に詰め込んだかの様な金切り声。 自身の感覚と相手への評価が正しい物であったと、それだけの事によって否応なしに気付かされてしまったのだから。 その精神性の更なる変容のきっかけを青娥は決して知る由も無い。一度は会話は成立しかけた相手がものの数分でこんな事になるとは誰が想像できようか。 そもそも何故こんな短時間で急に覚醒してしまったのかすら定かでは無いと言うのに、そのきっかけの類推など不可能に等しいだろう。 深淵の現に舞い戻った目の前の少女には舌先三寸も通用しないに違いないという確信めいた物すらも青娥に抱かせてしまえるこの状況。 今この場に存在しているのは、相手が何をしてくるのか分からないというブラックボックス要素でもある。 であるならば、先手必勝という言葉は、今の青娥に使うのが最も相応しい。 その思考回路とリソースの全てを相手の無力化に使うのだという強固な意志を体現したかの如く、踏み締めた大地を瞬間的に沈みゆく。 数メートル、青娥の体が三個縦に並んでいれば届いてしまえるぐらいの距離に全速力を賭けて。 酒瓶が残り一本しか無いという事実など知った事では無く。さっき使ったばかりの戦法をもう一度行わんとして。 自らのスタンドを纏い、地表面を水面と捉えて妹紅の立っているその足元を目標地点に一直線に泳ぎ抜く。 だが、恐るべきは藤原妹紅のその反応速度か。 泳ぐ為に地面に半分だけ体を出した青娥のその半身を双眸でガッチリと掴んで、その情報を脳が処理して指令を送る一連の流れが果たして今の妹紅に存在していたのだろうか。 青娥の腕が妹紅の足へ届くその前に。『オアシス』が妹紅の立っている地面を溶解させ身動きを取れなくさせるその前に。 大地を脈動させる程に破裂を伴った勢いで、迫り来る貫手を飛び退き躱したのだ。 目的の為に勢いを殺して妹紅の元居た場所で停止せざるを得なかった青娥の体。攻撃を避けられて伸びきった青娥の腕。 その事実の列挙を妹紅の頭は果たして認識していたのだろうか。 だが、相手の隙が眼下に転がっているのははっきりと理解出来ていたに違いない。 バックジャンプの勢い冷めやらぬまま、空中で退いている最中の妹紅の全身がまた一瞬膨張した。 もう比喩と表現出来る領域を凌駕し終えていた。今度は目の錯覚では無かったのだと青娥は嫌でも思い知らされる。 向こう側へと飛んでいたはずの妹紅が、その腕に黒炎を色濃く横溢させて、追撃しようとしていた青娥の間近まで迫り来ていたのだ。 常識では考えられない肉体の挙動だった。 幻想郷の住人が霊力を用いたとしても、その身に掛かる運動エネルギーを押し殺して逆方向に、ましてや空中で方向転換など出来るものではない。 良くて急ブレーキが限度である。それも、術者の身体に掛かる負担や外傷という余り余る要素を抜きにしての話だ。常人が行えば出血骨折のオンパレード、到底真似できる話でもない。 だが、妹紅はその本来掛かるべき負担全てを蓬莱の薬で得た再生能力に肩代わりさせていた。血管が切れ、腱が断裂してもたちどころに修復してしまえるその能力。 深淵から蘇った今の彼女は、皮肉にもその精神的なストレスによって咎を外し、幻想郷に居た頃よりも再生速度を向上させてしまっていたのだ。 その深淵故に、彼女がその事実を認識する事は永劫に無い。 ところで、急性ストレス反応という物が世の中には存在している。 恐怖といった刺激に反応して脳のリミッターが外れ、神経伝達物質が普段より格段に多く分泌されるという動物の生存本能の一つ。 この話のキモは普段は筋肉の運動単位をセーブしている中枢神経のリミッターさえもが外れてしまう点にある。 生存を脅かされる窮地に直面した際に自らの生命を守る為に命懸けの力を出せる様にする為、その時まで力を温存しておく為の機構。一般的に言うところの『火事場の馬鹿力』である。 その温存分を解き放つのは今だと言わんばかりに、妹紅は自身の抱いた恐怖や狂気によってそのセーブを取り払ってしまったのだ。 今の彼女を押し留める要素は何も無い。筋肉を限界まで酷使して破裂させても、その再生能力によって何度でも蘇る。 傷を負った時に生じる痛覚も、閾値を超えた際限の無い狂乱によって打ち消され続け、それを妹紅が感じる事は無い。 故の暴挙。物理法則を無視したかの様なその挙動すら、妹紅にとっては朝飯前以前の行為と化していた。 向かう速度も爪を振り下ろす勢いも、限界を越えたその筋肉を以てすれば神速果敢の域に到達していて。 恐怖と黒炎に支配された怪獣の爪が、避け損ねた青娥の肩口に鮮明な傷跡を残す。 「いっっっったああああああああ!!??」 悲鳴も斯くや、青娥の目の前で妹紅は更なる追撃を仕掛けようとしていた。 着地した方の脚を軸に横薙ぎ一直線の蹴りだろうか、浮いている脚の先にまたもや黒炎を滾らせて。 地面から上半身を覗かせたままの自身の首筋を刈らんとする軌道をも青娥に予感させたその予備動作を相手に、出来る事は一つしかない。 チャポン、というこの場に似付かわしくない音と共に。 妹紅の蹴りが到達するよりも早く、霍青娥の全身は再度地面の下に沈んだ。 「今のはヤバいとしか言えませんわね……」 地表面のその下で青娥は一人愚痴を溢す。その口調とは裏腹に、その顔は笑っていない。 痛みは傷が浅かったが故に『オアシス』で形を整えてやれば快調と言えなくもないが、それ以上に顔を歪ませていた原因はその黒炎。 掠り傷であったからまだ直に食らわずに済んだものの、至近距離で感じたのは紛れもない大量の怨嗟のソレであった。 呪詛も水子もなんでもござれで扱っている青娥でも、あれ程の物を扱えば自らの身を滅ぼすとはっきりと分かってしまえる程の出力。 まるで、死そのものを体現しているとでも言っているかのように。 藤原妹紅の更なる変貌はまだ御せるだろうと青娥は思っていたし、また無力化してふりだしに戻れば良いとさえも考えていた。 だが現実はこのザマだ。青娥の持ち合わせた純粋なスピードと搦手ですら、相手にとっては反応できる範疇の内ですらない。 貫手してからその傷口に瓶の先端を突っ込む二段階の動きでは到底間に合わず、無力化なんて夢のまた夢。夢として描くには少し夢想らしさが欠けてはいるが。 そして何より青娥が畏れを抱いたのは、一瞬目が合ってしまった時のその双眸。 瞳に光が宿っていないのも、ゆらゆらと両眼を動かしているその様子も、見掛け上は先程となんら変化していないハズなのに。 理性というヒトなら総じて持ち合わせているだろうソレを、全く感じさせない。欲の片鱗すらも覗けないと言うのに、視線だけはやけに直線的で。 そこには人間を構成する要素が、何も残っていなかったのだ。 「諦めたくはありませんが……今は退き時、なのかしら」 戦闘を経らねば決して無力化には至れないだろう、という事実は青娥のやる気を削ぐには充分だった。 術への相手の反応も楽しみたいと言うのに、目の前の相手ときたら何ら感情を抱いてくれないのが目に見えているという見識も拍車を掛けている。 人間らしい凡俗な欲すらも既に持ち合わせていないケダモノの、一体どこに楽しませてくれる要因があろうか。 それに正直、無力化しようとしても非常に骨が折れる。自分一人で相手しようと思えばどうにかなるという仙人としての自負はあっても、そもそも面倒事はキライなのだ。 魂をDISCにする必要性に駆られているのは十全に理解していたし、この絶好の機会を逃したくないとすらも思ってはいる。 ただ余り余るリターンを前にしても、食指を動かすには非常に手間が掛かるのだ。紅魔館でのあの大活劇で体力を消耗していない現状をしても動きたくはない。 色も含めて上海蟹みたいなヤツ。それが現状の妹紅への評価であった。 「あ~あ、ディエゴ君みたいに一発で無力化と運搬の出来る能力があれば良いのに~!」 わざと小悪党の捨て台詞のような言い回しで感情を少し吐露して、そのまま青娥は地中を泳ぎ始めた。 逃亡ではなく、戦略的撤退。あくまでも再度戻ってくるという意思を込めてひたすらに前へ進もうとする。 しかし。 その先の光景を見て、青娥は止まらざるを得なかった。 炎が上から下へと逆流でもしたかのように青娥の進路を塞いだのだ。 龍が急直下するかの如く、地表面からその下方へと突き進んでいるとしか表現できないその軌道。そもそも炎は地表面から先は侵食できないハズだと言うのに。 熱を以て周囲の空気の密度を小さくしているからこそ、炎という化学現象は上へ上へと迸り燃え盛るのだと言うのに。 奇術の域ではあったが、同時にそれは直線的で美に欠け弾幕ごっこに反する代物。当然青娥には面白くない。 ただ、それは厳密に言えば流動体のように地面を侵食していた。重力に沿って下降し、我が物顔で地下の領域を食い破らんとするそれを炎と言う事は出来ない。 粘着質な火で成る岩。地を走り全てを飲み込み黒化させていく自然の猛威。古代ギリシャで糊の意を持ち崇められ、ポンペイを埋め尽くした火砕流の原動力。 人はそれを、畏敬の念を込めてマグマと呼ぶのだ。 だがその事実に気付くと共に、その単純明快なカラクリは酷く恐ろしい物であるとも察知させられてしまうのは何の因果か。 近接する灼熱地獄跡にも確かにマグマは存在していると聞き及ぶが、そこを由来にするよりも遥かに効率的な手段。 『藤原妹紅は地面を炎の熱で溶かしている』、ただそれだけ。スタンド能力のパワーで液状化させるのではなく、単なる物理法則に沿って液状化させている。 これはその身を焦がさんとする黒炎の熱量が膨大であるという、一点の曇りなき現実を明瞭に示し続けていた。 齧ったのみの知識で詳細は知らなかったものの、マグマの温度は時として四桁まで及ぶという事を青娥は辛うじて知っている。 触れるだけなら良い。ではもし、頭部を狙われれば。気管に炎を吸い込まされる事があれば。 たちどころに青娥の体は荼毘に付してしまうに違いない。 あとこれは青娥が知る訳も無く関係の無い話だったが、妹紅が最初に相対し打ち克てなかったエシディシの怪焔王の流法は五百度止まり。 全てを捨てて得た火力で漸くそれに勝てたと言うのに、当の相手の躰がそれよりも高い温度によって果ててしまったのは何の因果か。 「……うわめんどくさっ」 最初の一本を契機に、青娥の周囲では地面越しにですら届く程の激しい音を立てて、更に二本三本と溶解した土砂がマグマとなって地下へ降り注いでいる。 あわや火傷という程の距離でもなく、その熱量も液体の性質によって辛うじて遮断され、仙人の頑強な体によってその残りの熱も然程苦には感じる事は無い。 だが、撤退の策は無残に潰えた。 ランダム要素が多すぎる、その一点。 元々青娥は自身の悪運を有効活用し相手を嘲笑うのが肌に合うタイプだったが、その持ち得た悪運を信用する程では無い。 確かにその時々の運によって何を得るのかに期待を寄せるのは好きだ。人の欲という物は得てしてそういう物でもあるから、まさに今を楽しむのにうってつけである。 勿論籤引きで何を引こうがその後の対処でどうにもこうにも立ち回ってしまう技量こそが最大の武器だと思っているし、そもそも最大の武器が複数個存在している青娥ではあるものの。 不明な一定確率で自分自身の『死』を引く選択肢を取らざるを得ないというのは、死神どもの勝手に仕掛けてくるお遊びの時とは根本から違っている。 死神という存在は相手が如何に頑張ろうとも必ず最後には御せるようになっているのだ。そこに死は決して付き纏わない。何故なら青娥自身が強いので。 だが、今この場では違う。このまま行けば無作為に放たれたマグマの雨のどれかに引っ掛かる可能性を否定できない。 悪運によって炎が肌に掠る程度で終わるのであれば喜んでそこに突っ込もう、なんて博打精神は他人が抱いているのを見るに限るのだ。 それで自分自身がお釈迦になるのは全くの別問題。命をベットする事にさしたる忌避感は無いけれども、リターンの少なさは命よりも重い。 いつもの簪さえあれば炎もマグマも壁と断じて穴を開けるマジックショーが出来るが、そんな事は別に大した話ではないのだ。 再浮上。 今取れる最善手として、青娥はそれを選び取る。 ◆ もう何度目かの旧地獄の街並みに降り立ち前方を軽く一瞥しても、妹紅の立ち位置は殆んど変わっていない。 けれども前回から分単位で経った訳でも無いのに、その立ち姿を異質と断ずるかのように、取り巻く環境は激化し荒廃していた。 先程から更に範囲を広げて地面の上で走り続ける黒く滾る炎。 燃焼域も増えたのか、周囲の家屋がまた何棟か焼け滓となってその骨組を痛々しく曝け出している。 焦げ付く匂いも炎から漏れ出る呪詛の感覚も先程よりなお色濃く、若干の嫌悪の感情さえも顔に滲まされてしまったのを青娥は自覚する。 前方に幾つも広がる小さなマグマ溜まりの池。 土気色さながらの砂の上に、赤と黒を掻き混ぜた泥のような見た目で鎮座したそれは先程までの攻撃の余波か。 青娥の今立っている場所の後方にも幾らか点在しているものの、明らかに妹紅と対峙しているその間ばかりに穴は集中していた。 そして今もまだ対峙は終わらない。 「■■■、■■■■■■■■!!!!!」 目の前でまたそれが低く呻る。警戒心も顕に、光を飲み込む墨染の眼で殺意だけを輝かせて。 燐火がその顔に陰を作っては消えても、その瞳だけはひん剥いて視界の中から離れやしない。 どこまでもソレは人の形をして二足歩行で動くのに、その敵の胡乱な姿を目にした途端に何故か妙なまでに合点が行ってしまった。 「……まるでケダモノね」 ソレには聞こえていないだろうに。もしくは聴覚がよしんば神経までその放たれた言葉が伝わっても、相手は決して理解し得ないだろうに。 それでも、そう唾棄せざるを得なかった。そうしなければ煮立ちそうな感情がマグマの様に堰を切って湧き出てしまいそうだったから。 直線的でただただ暴力に身を任せた動き、次の一手を考えずに繰り出される攻撃、相手を見る目付きに視線、しどろもどろにすらも及ばない唸り声。 一つ一つのピースはただの気を違え狂わせてしまった人間にしか見えないが、点と点を繋げてしまえば後から幾らでもこじつけに至れてしまう要素ばかり。 搦手も連携攻撃も行わない、ただただ激情丸出しの攻撃手段もなんてことは無く、ただただ理性の欠片も見当たらないというだけで。 先程のマグマを生み出す攻撃も、結局は出鱈目に地中を進む敵を殺そうとしただけなのは地表面の痕跡を見れば大体把握できる。 その眼光も要するに相手を敵として見ているだけ。何も感じ取れなかったのも当然だ。だってそれが正しいのだから。 ただ、青娥の情動の釜を沸かせているのはそこではない。 目の前の相手が、理性ゼロの猛獣が仮に藤原妹紅ではなく、他の一般的な人妖であればこんな事を思いもせずに済んでいただろう。 なのに運命の廻りは時として残酷だ。神仙を一度は望んだ身の前に現れたそれが、ただの錯乱者のままで居てくれれば御し易いヒトとして扱えたに違いない。 仙人になったからには神仙を目指すのは道理だし、事実青娥も何仙姑に憧れてかくあるべしと不老不死を目指そうと一時期あったのもまた道理であった。 本質的な不老不死をこんな俗っぽい雰囲気の少女が身にしたのかという思いはあれど、それが憎いと思う青娥でも無かった。 それでも、こんなのは全てに反している。悲哀なんてチャチな感情で片付けられる一過的な物よりもタチが悪い。 憤り。何故。そんな言葉だけが積み重なった疑問。その二つが交互に浮かび上がっては地獄の蓋を開けようと心を揺らして止まないのだ。 元から無かったやる気というスペースに、らしくも無い感情を埋め合わせている現状は不本意と断ずる事は出来たが、かと言って眼前のそれは決して許せまい。 戦闘をする事に意味は無いしするだけ無駄である。しかし邪仙としてではなく、仙人としての自分自身がそうは問屋が卸さないと言っているのだ。 豊聡耳様ですら。死へのカーペットを青娥自身が無理矢理渡らせた彼女だって、その最期の欲は美しかった。あの方ならきっとそう遠くない内に真の不老不死になれただろう。 その道があの向日葵の丘で潰えたのも、互いに仕方の無い事でもあったし、それを後悔する様な陳腐な脳は生憎持ち合わせていない。 だからと言って。 不老不死の末路がこんな野生丸出しの獣だと思いたくもなかった。 完璧な不老不死を得た者が、自らの死に直面したばかりに。 こんな巫山戯た、凡庸な欲すら無い醜い塊になるだなんて想像したくも無かった。 「■■■、■、■!!!」 「邪仙として引導を渡して差し上げます」 羽衣の様に美しく繊細な声には、凛とした力強い芯が篭っていた。 幕が切って落とされるまでは一瞬だった。 先に飛び跳ねたのは妹紅の方。助走も無いのに、その地面の一踏み一蹴りだけで二人の間を瞬間的に詰めるその脚力は並大抵ではない。 それでも青娥は冷静沈着を保ったまま。今までとは打って変わって精悍とした顔付きで眼前の光景を見据えているのみ。 業火のバチバチという弾けるそれも、空中から自らを弑そうとしている紅黒の獣の叫ぶそれも、この場において必要無いとでも言わんとしているのか。 水の雫が一滴水面に落ちて波紋を作るまでの、その全ての音すらも耳に捉えて脳に染み入らせてしまいそうな集中力。 全てはこの相手を殺す為。自嘲すらも遠くに置き去りにして、ただ機会を待ち続ける。 何故コイツを殺すのか。DISCにするなら殺してならないと言っていたばかりではないか。 豊聡耳神子は千載一遇の逸材で最愛の弟子であると共に、あのまま放置しておけば天国行の艱難の壁となり得る人物だった。 八雲紫は芳香ちゃんの仇討ちで魂の確保の試金石で、あの時は戦闘行為をしなくても簡単にそれらが実行可能な状況だった。 二人して幻想郷に居た時のその身には必要であったけれども、今この場において一番優先されるのは幻想郷の諸々ではない。だからその命を奪い何かを遺させた。 だが、眼前のコレは彼女達とは訳が違う。故が無い状況で、ただただ個人的な感情でDIO様の命に半ば悖る行為を取ろうとしている。 死に際の欲を聞き出して死に水を取れさえもしない相手を、わざわざ嫌いな戦闘を経てまでも殺そうとしている。 そうまでして、そこまでの思いをしてまで果たしてやる事ではあるのか。 青娥らしくもない、そう一蹴されて然るべき心の激情。 藤原妹紅の体が刻一刻と近付いてくる。 それが光を遮る壁となって、青娥の体に影を作る。時間が引き伸ばされていく感触。 でも、霍青娥という個においてはそうする必要があると思わされてしまったのだ。自らがその欲の強大さで自滅してしまっても、それだけは譲れない。 欲望を漏らすとは即ち、気としての精を練り仙丹とする仙人の命題とは逆行する概念である。他者の欲は仙丹に加工出来ても、自らの欲は俗の象徴。神仙から一歩遠ざかる行為だった。 けれども、霍青娥は仙人である以上に邪仙である。邪仙になってしまったからには、もう神仙への道を辿る事など許されない。 世間一般では悪事と称されるらしい行為を働き地仙への道を追われた身にとって、その程度の欲ならば千も味わってきたしこれからも味わう予定の事だ。 今を生きている邪仙の身で過去への後悔や懐古をしたとしても、それは魅力的な何かも得られぬ『無駄』な行い。 ただ、昔々憧れを胸にして完璧な不老不死を求めた青娥という少女には、この事を決して看過する事は出来ないのだ。 あの説話集のそれと過去が重なり出したのがいつだったか定かではないが、気付いた頃には青娥は既に邪仙であった。 豊聡耳様の生前のその豪快さと巧緻さ、そして全てを凌ぐ天才さに心を射られてもそれは変わらず。もしくは変わる余地が無かったのか。 燻り錆び付いた想いを如何に手放そうにもそれが原点であったという事実は決して消えてくれない。 もう戻れぬ道であろうと、あの頃に抱いた八仙への憧憬は本物なのだという自覚と共に。 だからせめてこの一時だけは、純然たる仙人であろうと。 「酔八仙拳の一つ、何仙姑の構え」 その口上はスペルカード宣言の物ではない。決別の意すらも込められて、はっきりと口にされたそれは体術の構えの姿勢の名。 酔拳の極意、酔っているかの様に相手を翻弄するという真理を忠実に守っても、思考回路が断絶した相手には効きやしない事は百も承知であった。 それでも青娥は軽快な足捌きと共に、宙を舞って猛スピードで近付いてくる妹紅のその皮衣を右腕で掴む。 元々宮古芳香のモノであったそれの怪力に不足無し。全速力で放たれた飛び掛かりの猛攻を物ともせず、最小限の動作で受け流す。 その動作の鮮やかさ故に妹紅が抵抗する余地も無く、遠心力だけを頼りに円運動へと移行するその優雅さはこの世から隔絶された物すらあって。 右腕が確固たる弧を描き、藤原妹紅の体が本人の意思とは関係無く宙を舞う。 青娥の左手もまた、迅速に。右腕と同期せず、手癖の悪さを体現したかの如き素早さでエニグマの紙が取り出される。 手を入れるまでもない。最初からそれを出すという一心で行われた開閉は、そのままの流れと勢いで目的の物を吐くものだ。 完全な御開帳に至るよりも早く、紙の大きさすらも無視して物体が飛び出る。青娥より何倍も大きく数石もの体積をしていると言うのに、それを物ともせず一弾指に。 先程蒐集したばかりの酒樽がエネルギー保存則を無視して大地に勇み立つ。 右手で掴まれた妹紅の全身。左手から出現した酒樽。 互いの軌道上にそれらが交差して配置されたのは、因果も偶然も介さない出来事で。 投げられた妹紅の体が酒樽に衝突する事無く沈んだのも、『オアシス』の能力を考えれば最早必然ですらあったのだ。 「■■、■■■■、■■■、■■、■■■、■■■■、■■!!!!!!!!!」 藻掻いて液体を掌で攀じらせようとする音、肺の中の空気をガボガボと吐き出す音。 怨念で全てが構成された咆哮と共にくぐもって聞こえるそれらは、紛れもなく妹紅が酒で満たされた樽の中で身悶えしている証拠であった。 その生への執着のみで構成された思考回路の下に精一杯足掻こうとする様は実に哀れで哀れで悲しくて。 水中でどう動こうが樽を破壊して外に出ようと努力しようが、当然そんな行為は徒労に終わるしかないと言うのに。 地底妖怪、特に鬼のような怪力乱神を持ち合わせた物達の為だけに特別に作られた大きさの樽が頑強でないはずがなく。 豪快さがウリの妖怪達が、わざわざ鏡開きのようなチャチな行事をする為なんかに酒を樽に詰めるなんて事をする訳もなく。 日本酒で満ちに満たされたその巨大な樽に、破壊出来る程のヤワさも僅かな空気すらも初めからどこにも存在しないのだ。 だから、藤原妹紅の末路として青娥が現在考えうる物は二つ。 このまま溺れ死ぬか、樽を破壊しようと燃やしてそのままアルコールと共に爆死するか。 酒樽に詰めた時点で既に、妹紅の敗北を決定付けていた。 ふぅ、と後方のソレには一切の脇目も振らずに、青娥は感情の乗っていない軽い溜息を溢す。 体術の行使と片手間に行われた『オアシス』の行使。それ自体は別に大した動作でもない。 あくまでも今ある技量と物資を使って最短で事に及べる方法を取っただけ。戦闘と呼ぶには些か呆気ない幕引きか。 そこに満足も疲労もありはせず、残ったのは終わったのだという実感。 仙人であればもう少し憐憫に満ちた慈愛のある方法であの怪物を御せたかもしれないけれど、と思いはしていた。 溺死。数時間前に感じた命の危険と同じ物ではあるが、パニックとチアノーゼと弛緩のどれにも至らずにそれを脱した身には想像し難い。 爆死。自らの炎に焼べられて命を落とすのは悪趣味で微笑ましい限りの光景だが、今それを見るのは吝か不本意で。 どちらかと言えば、不老不死の存在が死ぬ様をその目で見たくは無かったというのが本心であった。 命を刈り取るのは初めから決まっていた事だったものの、その体現者が生にしがみつこうと必死になる姿を見てしまうのはなんだか遣る瀬無くて。 野生の獣のように生の字だけで埋め尽くされた欲なんて、幾らソムリエとして振舞ったとしても視界に入れたくも無いのだ。 求道者達の夢の末路があの紅黒に満ちたただの名前を亡くしたバケモノであるならば、せめて殺す時は誰の目にも付かない場所で。 良心の呵責なんて物は随分と昔に捨て去ったのにも関わらず、個人としての感情はどうしようにも見過ごせない。 良くも悪くも邪仙であるからこそ、それが青娥にはどうしても我慢が出来なかったのだ。 過去の出来事はしつこくその身を追い回してくる。 捨て去ろうと努力してもそれらは何十年何百年と付き纏い、心を焦がし続ける。それが自分に直結する事柄なら尚更だ。 少しばかし青娥は、先刻の怯える小動物のような秋静葉の姿に重なりを見出した気がしてしまった。 あの強引さの皮を剥かれた様子は、過去に一瞥してしまって心に痼を作らされている自分自身とやや似通っている所があったのだから。 過去に捨てた物。誰だってそれは持ち合わせている。アクセルを踏み込んで大小様々なそれらを亡霊と称しても、決して責任転嫁は出来やしない。 彼女で言えば自らの手で蹴落とした者の声。自らに準えて言えば昔の自分が抱いていた夢物語だろうか。 それらが何かの要因と共に掬い上げられ、もう一度対面させられてしまった時に、その時点で備え持った欲を維持できるかどうかは怪しいと身を持って痛感させられる。 秋の神であれば現在進行形の事情だったし、青娥であれば過去形で一度は踏ん切りの付いた事であったという違いはある。 だが誰も彼もが心の凪を脅かされるのがこの会場でありこのゲーム。欲を見て楽しむ側にその凶刃が降りかかろうとは思いもしなかったし、らしくもない行いもした。 過去を掃いて捨てる事など出来やしない。それが出来るのは全てを未来へ繋ごうとする強靭な精神性。豊聡耳様であり、DIO様であり。つまるところのカリスマなのだろう。 邪仙に出来るのは向き直って今を楽しむ事だ。あの脆弱で高尚な欲を鞭撻に走らせる秋の神とは違う。青娥にはそれが出来る。 八雲紫の最期も、果たしてそうだったのだろうか。 どちらでも、良い。 どちらでも、楽しめる。 重要なのは今この段階に置いて気持ちの区切りが付いたという事実。 これで藤原妹紅という不老不死の人間もその成れ果ての怪物もめでたく死を迎えた。 対峙している最中に自らの内に沸き出した過去への懐古も、無事にエピローグと共に千秋楽と相成った。 ならばこの地に残す物は何も無く、誰にも見られぬ地の底の天蓋の輝きの下で後は立ち去るのみ。 魂についての奸計は、機会損失はしょうがなかったという事でディエゴが一つはやってくれるだろうと決して揺るがず。 「■■――――!!!!」 耳を裂く爆音。 後方からのエネルギーの波には最早興味が無く。 その全てについて今更想う所も消え失せたのだから、と青娥は決して振り返らない。 前を向いて、いつもの表情で、ただ歩む。 「■■■■■■■■、■、■■■■■■、■■■■!!!!!!」 長い叫喚だった。 その声の大きさと持続時間が、後方の壮絶な光景を簡潔に物語っているのだ。 生命力の高さ故に死ねずに居るのか、それとも力一杯の最後の恨み言か。 けれどももう過ぎた事。今その声が聞こえる事に意味は無い。 「■■、■■■■■、■■■■■!!!!」 まだ続いている。しぶといという概念を生まれ持ったかの様に、未だにその勢いは衰えない。 チリチリと身を焦がす音を満遍なく纏いながら未だに生きているのだろう。 じきに終わるのだから関係無い事だと、青娥は踵を返す事すらしない。 「■■■■■■■■!!!!!!」 いい加減飽きそうな頃合になっても、まだそれは続いている。 だが、最初のそれとは何かが違う。それを上手く言語化出来ないのは癪だけれども、そういう時もあると一人。 「■■■■!!!!」 ドップラー効果。 青娥がそれに気付いて振り返らざるを得なくなった時点で。 藤原妹紅の体は炎に飲まれながら、既にすぐそこまで接敵していた。 猛烈な速度の蹴りを湛えた怪物のその見てくれに、見るも無残な姿だな、と青娥は勝手ながら思う。 皮膚のそこら中が熱傷に覆われて爛れ尽くし、黒々と壊死したであろう顔面の中で双眸だけは生を漲らせて自分を一心に見ている。 恐らくは酷い爆風だったのだろうか。左脇付近に至っては衣ごと丸々と肉が吹き飛んで、砕けた肋骨や上腕骨が憎たらしく顔を覗かせている始末。 それでも愚直に、瞳の通り見敵必殺を体現せんばかりに。炎によって自滅しかけたばかりだろうに、黒炎をはっきりと燃え上がらせて。 右脚で空を斬りながら、ただただ前方に存在している元凶を殺してやろうという本能のみで渾身の蹴りを放っているのだろう。 そしてその体の傷跡は、距離が縮まるまでのコンマ一秒単位毎に次第に回復している様に見受けられる。 グズグズと黒色に染まったその顔の皮膚の色が段々と明るさを取り戻し。左脇から弾け飛んだだろう肉も、時間が経る毎に新しく生えるようにして再生していた。 身に着けた衣の内、爆発で持って行かれたであろう部分は流石に元通りなろうとはしていないものの、人としての形は適度に保っている。 この再生速度こそが藤原妹紅の隠し持っていた手の内で、爆発から生還せしめた奥の手で、青娥にとっての誤算。 不老不死の持ち得るであろう再生能力について考慮するべきだったけれども、そもそもここまで耐えられる事自体が想定外である。 最初から一撃で仕留められる手法を使うべきだったのだ。それこそ首への貫手で抵抗の芽を摘まなければならなかった。 けれどもそれは為さず。視認という確実性を考えておらず、情に流された自身の負けである。 炎で体の表面を燃やされるのも、爪で裂傷を作られるのも、仙人の躰と『オアシス』の能力を考えればどうにか補填出来る。 呪詛に満ちた黒炎を受けるのは身に毒かもしれないが、軽く当たる程度なら解呪の範疇に収まっただろう。 だが、徒手空拳や蹴脚はどうにもならない。骨を断ってでも身を穿とうとするその一撃の威力は外傷に留まらないからだ。 幾ら青娥の体が強いと言ってもそこには限度があって、内臓系へのダメージまで防げる程の頑丈さを求めるにおいて相手の攻撃力は些か高すぎた。 脚を動かすには遅すぎるし、今から貫手で首を跳ねても蹴りの威力までは殺せずにそのままの勢いで喰らってしまう。 『オアシス』で蹴りの着弾点を液状化させて避けるにも、やはり残された時間が足りなくて護身にすらなりやしない。 もし眼前のソレが上半身と下半身が二分される程の威力の蹴りであればまだその跡を繋ぎ合わせて生存出来たかもな、という謎の諦観。 なんて事の無い力任せの蹴りだろうに、青娥にはそこから及ぼされる明確な死のビジョンを抱かずにはいられない。 それ程までに視界に収まった情報量は多く、どうしてかそれらの事実を全ていっぺんに脳で処理してしまえる程に青娥は落ち着いている。 明確な死のビジョンは時に人を冷静にさせる、とは誰の言葉だったか。 ――ああこれ、死にましたわね。 やっと出た言葉は、それであった。 時間の経過が更にローラーで薄く引き伸ばされて、藤原妹紅の接近速度が更に遅くなったように見受けられる。 ただ明瞭で捷急な意識とは打って変わって、脚を動かして蹴りを回避するには体の動くスピードはあまりにも緩慢で、まるで水が体中を纏わり付いているかのよう。 それは避けるという選択肢を初めから除いた状態でセーブとロードを行ってしまった詰みの状態を青娥自身に簡単に想起させて。 青娥自身の思考速度だけが急上昇して他全てを置き去りにしているのは火を見るより明らかだった。 気付けば眼中のコマ送りの光景とは別に、脳裏に色々な映像が上映され始めているのを青娥はなんとなしに自覚させられている。 最初に現れたのは映像では無く、タキュスピスューキアと読める古典希臘語の文字がただただ画面いっぱいに表示されていただけだったけれども。 その文字はきっとアルバムのタイトルか何かなのだと思えてしまえる程に、それ以降の支離滅裂な映像群は青娥に馴染みが深い懐かしさの塊で。 これが走馬灯なのでしょう、と青娥には即断で理解出来てしまった。他に観客が誰も居ない上映会の、たった一人のお客様になったかのように。 過去の些細な出来事ばかりが映画館のスクリーンばりに大画面で浮かんでは通り過ぎ、その連続が留まることを知らず。 ――木の重厚さを感じずにはいられない古風な建築物と、その奥で威光を放つヒト。 昔々あるところにおはしましたは、かの高名な聖徳王。道術の弟子にして天に祝福された才知の持ち主。 周囲にて立つ緑髪や白髪にも見覚えがあるけれども、やはりその中でも彼女はズバ抜けていた。 ――暗く澱んだ薄明かりの一本道で、眼前で弱々しく威勢を放つ紫色の少女。 かの妖怪の賢者の最期をその手前から再生しているのだろう、心臓を突き刺す手前から流れてくれるとは実に気が利いている。 彼女もまた、今のこの光景のように走馬灯を見てから逝ったのか。 ――石窟の中、小神霊揺蕩う中を一目散に付いてくる紅白の少女。 これは確か幻想郷での一幕だったか。あの時の豊聡耳様の復活から、聖大僧正や山の仙人様といった浅からぬ縁を繋いだのだったか。 博麗の巫女もジョースターの系譜と同じく、今生きているなら決してその手を止めぬ強さを再燃させて立ちはだかるに違いない。 ――紅々と整えられた煌びやかな内装の建物の中、こちらを見下ろす全身金色のカリスマ性。 それはきっと一目惚れの初邂逅のシーン。その金の髪も服飾も、後光を一面に浴びたかのような神々しささえ放っていた。 だからこそ、その目指した先の天国という概念も含めて少女のように恋をしたのかもしれない。 ――青々とした、なんて事のない空。 透明さが売りの水の色とは違い、他の色に滲んで馴染む事に長けたような一面の群青世界。 その光景が脳内の銀幕に表示されるや否や、青娥の体を包むかのように。 どこかで見た懐かしさのある空色に対し、感傷に浸る猶予さえも許さないと言わんばかりに。 ガクッ、と。体幹全てが崩れる程の衝撃が襲った。 ───────────────────────────── 緊張の根が解けて青娥がまず最初に感じたのは、想定していた腹部の生暖かな感触を全く感じないという事だった。 それどころか腹部への痛みはほぼ僅かで、体が後方に倒れて地面に倒れ込んだ時の物以外の痛みは殆んど感じずに至って健康体のまま。 あれ程までに青娥自身の五感や第六感へと訴え掛けていた死へのビジョンは今や完全に消え失せていたのだ。 自身の体が五体満足であるというのはこの上ない上出来だというのを改めて実感しながら、恐る恐る目を開け立ち上がって周囲の状況を睥睨する。 藤原妹紅の体は、すぐ目の前に。地面の上で横たえて瞼を閉じているが、体を再生させながら肩を微動させているからにはやはり生きている。 だが、その状況だけでは両者共に生きている理由を青娥自身が説明し切れない。こちら側に飛んでくる威力を完全に相殺した上で互いに五体満足であるという事実。 何がどのようにして、もしくは体が動いたのならどのようにして、この運命的な場面が作り出されているのかは分からない。 思考回路は至って冷静だった。あのようなモノを目前としながらもそれだけは軽快で、されど体は鈍重で。意識的に行った動作は思い当たらず、無意識下で行える動作も限られていた。 けれどもそんな最中でこのような状況が作り出されてしまえば、過程を省かれて結果だけを見せられたようにしか思えない。 だが、それよりも驚かされたのはその藤原妹紅の体の近くに転がっていたソレの存在で。 「あの円盤は……記憶DISC……?」 空っぽだったゴミの格を宝物まで引き上げた張本人だからこそ、それを見紛うはずが無い。 他の記憶DISCがどのような色形をしているのかは分からなくとも、少し離れた場所に落ちているそれは、間違いなく先程まで青娥が所持していたハズの八雲紫の記憶DISCであると言えた。 であれば当然湧き上がる疑問。何故というその二文字に尽きる。旧地獄に入る前に確かに背面に隠したハズなのに、どういう訳かあんな場所にあるのだ。 藤原妹紅の倒れている姿と、転がっている記憶DISC。現状存在している二つの点を線で結ぶ事は出来ず、類推もままならない。 走馬灯に意識を集中させていた間、自分が何をしていたのかが分からない。偶然の出来事か、それとも必然の出来事だったのか。 けれども、その思考に専念するよりも先に。青娥には青娥なりのケリを付けなければならないという意志がどうしても色濃く。 指先を天に掲げ気を練る。精神的にも肉体的にも疲労が来ている青娥だったが、決して満身創痍には至っていない。 曲線を描く数条のレーザー弾を、その天を埋め尽くす岩盤に向けて発射する。 今は青空の見えぬ地の下だけれども、レーザーは天へ吸い込まれるように前へと。 ただ、それらは着弾すらしない。 岩肌にフジツボの如くびっしりと張り付いて離れそうにも無い桜色の結晶群が、それらの軌跡を吸収して。 しかし、その光景がまるで想定の内であるかのように、青娥はなお表情を崩さない。 「邪符『グーフンイエグイ』」 そう邪仙が言葉を奏でるや否や、天蓋の上で結晶達がガサガサと揺れ動き。 次の瞬間には、その眼前は桜色の雨で埋め尽くされていた。 この会場でわざわざ幻想郷流のスペルカードルールに則るのは、殺意の無い甘ちゃんか踏ん切りの付かない哀れなヒト達だけだと青娥は考えている。 それか例外的に幻想郷に愛着のあってわざわざそれを行使する物好きな人妖ぐらいしか挙げられないのだとも。 だが、そもそもにして殺傷性が中程度の技を使う事自体が利点となり得る時。そういう場なら寧ろ躊躇無く使える精神性も青娥は持ち合わせている。 その場がまさに今この場この状況。藤原妹紅を傷付ける一番良い方法としてそれが思い浮かんだのはまさしく皮肉か天啓か。 グーフンイエグイ。中国語で「孤魂野鬼」と表記されるそれは、異郷の地で没して供養されなかった者の悲嘆と怨言の魂。 異郷の地という概念がこのゲーム会場に当てはまるかどうかは青娥自身も考えていなかったものの、狙いはそもそもそこではない。 弾幕ごっことしての技として言えば、青いレーザーを媒介に周辺を彷徨う霊に対し青娥の気と指向性を込めて相手を追尾させる形式を取る。 レーザーを介して相手の逃げ道を断つと共に、霊魂を弾幕の一部に組み込ませる青娥お気に入りの奇術であった。 しかしこの会場では残念ながら周辺を彷徨い漂う魂も小神霊も居やしない。代わりに養子鬼を使うのも手だが、それでは余りに殺傷性が高すぎたのだ。 けれども地底空間、それも旧地獄という地の利が青娥に最上の恩恵を齎した。 幻想郷に流れ着いてから一切合切地底へ行く事の無かった身であったが、山に住まう同業者から聞いた話の中にあったのを思い出したのだ。 石桜という旧地獄固有の自然現象。桜色をして殺風景な天盤に花を咲かせる邪悪な色彩。 そして、その鉱物が本を正せば純化された魂の結晶であるという事実も。 即ち、孤魂野鬼を使っていた部分を石桜に置き換える事によって擬似的にスペルカードを発動する。 二つ共に魂である事に変わりは無いのだから、レーザーを介して石桜を攻撃に転じさせる事が可能なのではないかという半ば確信めいた宣言。 それが今回の青娥の目的にして行動であったのだ。 それともう一点青娥がこの手法を取った理由として、藤原妹紅の再生能力への対策もまたそこに組み込まれていた。 霊力が無尽蔵でないかと錯覚させられる程に際限の無いその能力。あの規模の酒精の熱量を以てしても命を奪えない強靭さは全ての上での懸念であった。 先程の再覚醒が何に起因しているのか青娥は全く身に覚えが無かったし、過去のトラウマを刺激されてスイッチが更に深く押し込まれたという事実を永劫知る事は無い。 だが再度酒精による昏睡で無力化しようとするには余りにも未確定要素が多く、出血多量による意識障害も血そのものが再生してしまえば復活される恐れがある。 脳震盪や脊髄損傷によって脳機能から遮断させ、体そのものを行動不能にさせる手も無くはないが、結局の所は再生能力が強ければ回復されてもなんらおかしくはないのだ。 だがもし仮にの話。体の至る場所にナイフが刺さっていたら再生能力はどのようにして発動するだろうか。 医療的には血流を促進してしまわないようにする為、そういう大型の異物が刺さった傷の場合は凶器を抜かずに診療所まで搬送する事で延命を図る。 けれども異常な程に再生能力の高いヒトだったら。凶器を抜いたそばからたちどころにその傷口が塞がるような相手であれば。 寧ろ抜かなければ再生に至らないのではと。抜かずに放置したままならその傷は再生出来ないのではないかと。 であれば、石桜という鉱石の破片はまさに刺し穿つのにうってつけだった。 青娥の気によって方向を定められた石桜の数々が、凶器となって藤原妹紅の体を襲い行く。 その様子はかねてから聞いていた壮観さのある舞い散り方とは少々勝手が違っていたが、それでも美観である事になお変わらず。 大小にかなりのばらつきはあるものの、その雨槍のように降り注ぐ様はなんとも悪趣味。乱反射しては輝きをそこかしこに放つ姿もまた心地良いものである。 あの時の雨粒を固めた純粋な水滴もまた鏡面を思わせる良さがあったが、これもまた別の見てくれの面白さがあると青娥は感じつつ。 『ずっと見ていたら心まで乗っ取られてしまう』という山の仙人様の弁もなんとなく分かったような気がした。 彼女は恐らく青娥とは別の意味で言ったのだろうが、青娥は魂の一端一端が命を刈り取るその鮮烈な様に目を奪われていたのだから。 後に残されたのは横たえる藤原妹紅の体に突き刺さった石桜の数々と、刺さらずに破片として地面に落ちた桜色の散乱。 爛れたままの皮膚から覗く肋骨にも、眼や口といった重要器官にも、容赦なく血の赤色を滲ませるそれらはまるで針山地獄めいた様相すらもあった。 けれども青娥はその姿を一旦尻目に置き、淡麗な歩調で別の方向へと静かに歩を向けて。そして屈んで手を伸ばし、地面に落ちたままのそれを拾う。 八雲紫の記憶DISC。石桜の猛攻に遭っても傷一つ付かないのは、流石スタンド由来の物品と言ったところで。 掴んで拾い上げるとやけに青娥の手に馴染むそれに、図らずとも先程何が起きたのかが思い出されてくる。 「そうでしたわね、確かに……」 あの時、生存に無我夢中になれなかったにも関わらず。 半ば諦観すら抱いて脳内を流れる映像に身を浸していたと言うのに。 無意識的に記憶DISCを背中から取り出して、妹紅の頭に投げ差したのだ。 本当に、無意識の行動だった。視界すら朧げで、蹴られるのだという確信に支配され、走馬灯に完全に意識が向いていたのにも関わらず。 しかも相手の頭に記憶DISCを差し込んだところで、相手が吹き飛ぶとは想定し得ず。現状でも微塵にも思っていないと言うのに。 体が『偶然』にもその行動を選択して、運良く助かったというのが真相だった。 スタンドDISCが差し込まれた人間を拒絶するという例はあるにはある。 農場トラクターの格納庫において、『スタープラチナ』のDISCに弾き飛ばされた空条徐倫がまさしくそれだ。 『スタープラチナ』という強力無二なスタンドのDISCを、スタンドを最初から持っている体に差し込もうとしたから、彼女は得てしてそうなった。 それと同じような事例が記憶DISCにおいてでも発生したのだ。千年以上、下手したら数千年以上もの濃い記憶を束ねた大妖怪のDISC。 そんな代物を千年以上生きているだけの一介の小娘の身に差し込もうとしたからこそ、この状況になったのだと。 血液が自らの物と同じ型以外の血液の流入を拒絶し凝集溶血を起こすかのように。植物が子孫を残す上で自家不和合性を身に付けたように。 そうなる事が紛れもない自然の摂理であったのだ。 だが、それはあくまでも原理を知ってこその話に過ぎない。 原理を知らずして運良く命を拾った青娥のその行動は、果たして『偶然』だったのか。 青娥は考えざるを得ない。 あの時持っていた物が基本支給品や装備品を除けば、酒瓶と針糸とこの記憶DISCであったからこそ、この効果的な行動を体が取れたのなら。 走馬灯の流れるままに身を委ねていたからこそ、論理的な思考を排して効果覿面な行動にいち早く動けたのだとしたら。 酒瓶と酒樽以外を見付ける前に藤原妹紅を発見できたのは。霧雨魔理沙に所持品を軒並み奪取されたのは。 旧地獄という土地。『オアシス』というスタンドを得たからこその記憶DISCの生成。 どこまでが『偶然』でどこまでが『必然』か。 『ジョジョ』というアダ名がジョニィ・ジョースターと一致していた東方仗助という少年が、ジョースターの系譜に連なるのではないかという憶測。 ディエゴとプッチと静葉と四人で足並みを揃えて歩いていた時にも『偶然』『必然』論が既に出ていた。 結局ジョースターの系譜との並々ならぬ因縁は聞けなかったものの、このような状況下に陥った今ならば色々な事を考える余地がある。 ディエゴとDIO様やメリーと紫のような奇妙な一致。それに多方向から何度も出てきた『引力』という単語。 『偶然』を運命にし"引"き寄せる"力"。 推論にしても仮定の多すぎる話であったが、少なくとも理に適っているのを青娥は感じずにはいられない。 盤面の情報を全て読み取って譜面を作り、如何に計算した所で試合を最後に決めるのは努力ではなく『偶然』の成果だ。 五割で吹き荒ぶ暴風か。二割で齎される混乱か。それとも三割で何も起こらない可能性に一縷の望みを掛けるのか。 死力を出し尽くした上で最後に微笑む為の最強の力こそが『偶然』であり、その運命力の強い方が勝者となる。 であるならば。『引力』論を仮にここで唱えるのであれば。 DIO様の求めている天国という概念には、浅からずその『引力』が関わってくるのではないだろうか。 少なくとも天国へと至る間に垣間見る多種多様な欲が重要なこの身であるものの、三つの魂を集める過程と同等にその『偶然』を力とするのもまたお眼鏡に適うのであれば。 記憶DISCを持って生き延びたこの身は、まさしくその力を持っているのだろうと強く実感せざるを得ない。 で、あるならば『ジョースター』というのは何なのか。 「そっちは全然情報がありませんものね、お手上げですわ」 先んじて対峙した空条徐倫や眼下で親子喧嘩をしていたジョルノ・ジョバーナが等しくそれらしいが、そこに何があるのかは分からなかった。 俗に言う白旗。幾らかばかしは思い付く事はあるものの、しっくりと来る推論は全く出てこない。精々水掛け論が精一杯。 但し少なくとも、その過程において絶対的に立ちはだかる壁というのは確かのように思えてならない。 それはプッチの言った『ジョースターを決して侮るな』という短い箴言からも明らかだった。 青娥がああでもないこうでもない、と考え込もうとしたその時だった。 「……そこに、いるのは……?」 青娥一人で立っているこの地底空間で聞こえるはずがない、誰かの掠れた声。否、それを誰かと断ずる事は出来ない。 元より青娥はその耳にしっかりとその声を刻んでいたのだから。けれども声の主が彼女であったからこそ、聞こえるはずがないと言い表したのに。 眼前で石桜が全身に刺さったままの藤原妹紅が、瞼を微かに開いて言葉を放っている。 精神の方面の気の淀みを肌で感じる事も、明確な死を連想させる形相も、先程までそこに居たケダモノもそこには無い。 あるのは肉体方面の気の淀みと、寧ろ向こうの死さえも危ぶまれる程の雰囲気。そしてその表情は痛覚が戻っていないのか、とても穏やかな物で。 ただただ、一人の死に体の普通の少女が真っ当に仰向けになって血を全身に滲ませているのだ。 これを奇跡と呼ぶべきなのかもしれない。この出来事は『偶然』と『必然』のどちらなのか、二択はメトロノームの様に揺れ動く。 不老不死の成れの果てがあんな物ならばと義憤に駆られたにも関わらず、最終的に元通りになっている様は果たして青娥にとって、彼女にとって必然であったのだろうか。 けれども、それを考えるのは可笑しい話だとも青娥は思う。何が原因で発生したかも分からずに事を論じるのは余りにも滑稽なように感じたからだ。 「輝夜……殺しちゃって、ごめんね……」 幻想郷縁起に記載されていた蓬莱山輝夜の名前が青娥の中で想起される。だが、そもそも彼女は放送で呼ばれていないだろうに。 第二回放送後に殺したのかもしれないが、それにしては夢幻を見ているのだろうか、その焦点は虚ろに光を失いつつある。 このままだと横たえたままの少女は死んでしまうのは火を見るよりも明らか。二度も捨てた記憶DISCを再度得るチャンスをまた捨てようとしているのも同義。 それでも、欲の健啖家としての青娥自身がこの状況をこの上なく望んでいたというのはまた確かで。 彼女から見える欲の形はどこまでも人間で、凡庸ではありつつも美食として確固たる物を形成していたのだ。 「芳香、そこに、そこで……生きて、たんだ……」 芳香。宮古芳香。忠実な従者にして家族の名前を他ならぬ青娥が聞き間違えるはずが無い。 この場に居ない者の名前を呼んでいるという時点で、もう相手が長くないという感触がより一層濃くなってしまったのに、その懸念はもう蚊帳の外にしか思えない。 寧ろこの場でわざわざ名前を出されるだなんてという軽い驚きも込みで、やはりこの会場内で邂逅を遂げていたのだという説が確信へと変わる。 だが一方で、その言い方からして芳香の死を見てしまったのだろうという嫌な想像さえも青娥に抱かせて。 そこまで想ってくれるのならとても良好な友人関係だったのだろう、と今は居ない従者へと向けて思いを捧げるしかない。 「よしか……いきてて、よかっ、た……」 そしてその言葉を最期に。 蓬莱の人の形は文字を紡ぐのを、止めた。 「よし、よし……」 青娥が藤原妹紅に取った行動は、横たえたその頭を優しく撫でる事であった。 黒く染まった髪も今となってはただの艶美な毛の集まりとしか思えず、手櫛で梳いても彼女が発していた怨嗟の炎は鳴りを潜めたまま。 先程まで獣のように理性を失って野生的な瞳を剥き出しにしていたとは到底思えないその表情も、果たしてあれらと眼下の少女が同一だったのかと勘繰らせる程であった。 あの紅黒のケダモノを殺すつもりでその命を手に掛けたのに、ヒトとして不老不死としての全てを取り戻し逝ったその最期。 若干釈然としない物を抱えたままなのは、最初は記憶DISCを捕る為にちょっかいを掛けたのに、その目的をいつの間にかすり替えてしまったからなのだろうか。 それでもその最期はどうしても美しさを感じずには居られず。他者を想って、幻覚とは言えその生存を喜ぶその欲心は並大抵のものではない。 『生きたい』ではなく『生きていて良かった』と言える気持ち。しかもわざわざ自らの愛らしい家族の事を想ってくれていたのだ。 邪仙として久しく忘れていた物を掘り出されたのも、結果を言えばその見えた最期の味を増幅させてくれたのだから感謝をするべきなのだろう。 並外れた不老不死の存在が自分の死を受け入れて死んでいく様は、やはり豊聡耳様程の天性の精神だからこそだったのだろうとも回顧すれども。 普通の人の身から不老不死となっただろう存在が他者への優しさを見せて死んでいく様も、きっとその時だけは高名な仙人のように気高くあったのかもしれない。 戦利品の無い現状に虚しさを覚える事も無く。ただただ覗き見れた欲に恍惚に浸りながら。 青娥はその掌で優しく妹紅の瞼を下ろす。 その姿は疑いようもなく慈母のそれを伺わせるものであった。 「あら?」 地上に降り注いでいた雪の結晶が、今になって漸く忘れられた地の更に底に位置する旧地獄の街並みへと到達し降り注ぎ始めた。 白く丸っこい淡い雪の数々は石桜と違って、輝きも綺麗な色も何も有していなかったけれども。 青娥にとってはそれは不道徳や醜い物といった全てをその下に隠してくれるような気がして。 激情に駆られらしくもない事を思ってしまった自分自身をクールダウンさせてくれるとさえも思えたのだ。 振り続ける火山灰〈エクステンドアッシュ〉のように、白色が全てを埋め尽くそうとしている。 霍青娥の気分は、とても晴れやかであった。 【藤原妹紅@東方永夜抄】死亡 【残り 43/90】 ───────────────────────────── 【夕方】D-3 旧地獄街道 【霍青娥@東方神霊廟】 [状態]:霊力消費(小)、爽快感、衣装ボロボロ、右太腿に小さい刺し傷、右腕を宮古芳香のものに交換 [装備]:スタンドDISC『オアシス』、河童の光学迷彩スーツ(バッテリー100%) [道具]:ジャンクスタンドDISC(八雲紫の魂)、日本酒(五合瓶)×1、針と糸、食糧複数、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:気の赴くままに行動する。 1:DIOの元に八雲紫のDISCを届ける。 2:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらDIO様にプレゼント♪ [備考] ※参戦時期は神霊廟以降です。 ※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。 ※名簿のジョースター一族をおおよそ把握しました。 ※プッチ、静葉と情報交換をしました。 ※ディエゴから譲られたDISCは、B-2で小傘が落とした「ジャンクスタンドDISCセット3」の1枚です。 ※メリーと八雲紫の入れ替わりに気付いています。 ※スタンドDISC「ヨーヨーマッ」は蓮子の死と共に消滅しました。 ※旧地獄へと雪が降り注ぎ始めました。 204:ビターにはなりきれない 投下順 206:宇宙一巡後の八雲紫 204:ビターにはなりきれない 時系列順 206:宇宙一巡後の八雲紫 193:黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』── 霍青娥 :[[]] 198:Run,Araki,Run! 藤原妹紅 死亡