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その頃ジョンキャノンは聖アイルランド小学校で猛火を振るっていた 「仕方のない教師共だ。灸をすえてやらねばな」 世界に20人も存在しないとされている純潔スコットランド人。その一人であるジョンキャノンの肩に備え付けられたスコットラン ド砲が粒子をチャージする 譲れないものがあった。プリンだ。まさか学校側の不備で一つ足りないななんて 子供には死活問題である。そして教師は命をかけるべき出来事 「スナイパー。目標は職員室だ。俺は前門を破壊し退路を断つ」 「狙い打つぜ」 「キャノンは幼稚園に続き小学校の校舎の破壊を続行」 「しかる後に、僕ことパーフェクトジョンが職員室を制圧」 「このパーフェクトジョンただの三歳児と思ってもらっては困る。震えるがいいのさ」 学級崩壊の余波は、海を越え北欧にまで広がっていた… 十六聖天外伝 北欧の章
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第四章「everlasting battle」 (執筆:parad) 2人(匹)は移動しているうちになにか良い移動手段があるだろうと思って周辺を観光気分で見歩いていた。 『ゲンダー!あちらになにか見えます、ハイ』 「なんダー?」 そこに立っていたのはピンク色のドア・・・だけのもの 家もあるわけではなく、向こう側は同じ景色が広がっている。 「とりあえずあけてみるダー」 しかしながら、その先には同じ世界が広がっているわけではなかった なんと同じドアがまた目の先に存在していたのだ。 「どこまでも続く・・・ドア、どこまでも・・・ドア」 『どこまでもドアァ~♪』 「先を急ぐダァー」 とりあえずドアを汁千本で破壊した後、2人は地図の通りに北東へ向かったのだが 大樹の裏側に回った途端にある異変が起きていることに気づきもしなかった。 「なにかおかしくないか?周囲が紫の霧で包まれてきたダー」 『これはとある国で使われているいたって自然な国境防衛システムのようなですネェ』 「どういうものなのダ?」 『簡単に言うと気体のファ○タグレープ味です、ハイ』 「それはおいしそうダ」 『詳細を言うと死者の怨念を操作して半永久的に警護させてるのです、ハイ』 「それはやばそうダ」 そうこうしている間に青いのや赤いのがこっちに向かってくる 彼らに残された選択肢はここから直接向かうか、あるいは迂回して正規ルートを通るか 「メイヴ、や ら な い か?」 『いいのかい?オレと一緒にホイホイやっちまって』 いい男の音声でメイヴは答えた。 2人は正面突破を決行、するとメイヴが大きく前に出た。 「危ないダ!メイヴ!」 『武装レベル2解除します、ほろびろォ!』 メイヴは対戦車ミサエルを数え切れないほど射出した 『ヒャッハァア!ゲンダー、敵がゴミのようだぁあ!』 「・・・・・」 『あ!あそこにゲンダーみたいな敵が居る、死ね死ねぇ!』 いや、死んでいるのだけれども 「ウォーィアフォ!」 立ち上がる煙、爆音、悲鳴もあった 青いのは大方片付いたが、赤いのが無傷のようだった どうやら物理的干渉を受けないものらしい 『マジヤヴェェです』 そんな中でゲンダーがある戦略を思いつく。 Chapter4 END メタディア外伝 chapter5
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ボイス01 私は生きる… (キャラクター選択) ボイス02 これが私の全て! (BASARA技発動) ボイス03 私は影…忍んで舞う…! (BASARA技終了) ボイス04 近付くな…巻き込まれたくなければな (大武闘会副将) ボイス05 あ…ああ…!……よくもっ! (小太郎外伝:最終章 風魔、全てを抹殺(佐助をかすがより先に倒す)) ボイス06 謙信様は…私が…お守りする… (死亡(敵側)) ボイス07 お前の顔は見飽きた… (挑発) ボイス08 これ以上は私を斬ってからだ! (汎用(敵側)) ボイス09 謙信様には…近寄らせない! (①汎用(敵側)②合戦中:熱血!上田城(一つ目の門突破)) ボイス10 謙信様のお声を聞かせるものか (①かすがと戦闘中②合戦中:熱血!上田城(三つ目の門突破)) ボイス11 それが貴様の限界だ…さっさと帰れ (プレイヤー瀕死) ボイス12 よし…いい調子だ (汎用) ボイス13 さあ、いくよ… (①乗馬時②ステージ開始:賎ヶ岳の戦い③汎用) ボイス14 いい大人が二人して…みっともないぞ! (①ステージ開始:賎ヶ岳湖畔戦②ステージ開始:宿命!川中島の合戦) ボイス15 そのような気概で、謙信様は守れない! (汎用:上杉軍武将とのかけあい) ボイス16 負けるな! 風はこちらに吹いている! (①汎用:敵かすが②汎用:2本能寺暗殺行(プレイヤーへ)) ボイス17 火薬の臭いは…嫌いだ (ステージ開始:四国重騎戦) ボイス18 ああ…謙信様が悲しんでいる…! (ステージ開始:最北端一揆) ボイス19 きれい…こんな街をいつか謙信様と (ステージ開始:京都けんか祭) ボイス20 不思議だ…心が凪いでいる (ステージ開始:関ヶ原の戦い) ボイス21 分からない…なぜあの悪魔に尽くすのだ… (濃姫へ) ボイス22 お、お前と話してると…イライラする! (佐助と戦闘中) ボイス23 お前、酒が好きなのか…謙信様と同じだ…フフ (島津へ) ボイス24 駄目だ!謙信様に話しかけるんじゃない! (①かすがと戦闘中②ステージ開始:熱血!上田城③汎用)未確認 ボイス25 は…! そ、その手があった…! (汎用(謙信とのかけあい)) ボイス26 何をしているんだ、お前は甘すぎる! ()未確認 ボイス27 いいえ…退くわけにはまいりません! これが私の役目…この命にかえても! (合戦中:川中島の合戦・天) ボイス28 この命のひとかけけらまで…謙信様のために… フフフ……悔いは…ない…… (合戦中:川中島の合戦・天) ボイス29 ()未確認 ボイス30 ふざけるな!真面目にやれ! (小太郎外伝:ニ章 風魔、覇王暗殺)
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ディアボロモン 【出展】デジタルモンスターシリーズ 【種族】種族不明、属性不明、究極体 【性別】男?(デジモンには性別無しだが・・・・・・) 【カオスロワでの活躍】 5、6期に登場し特に5期で活躍する。 何故か「長門有希に萌えている」という設定持ちで奉仕マーダーになる。 もっとも長門に萌えていたのは彼だけではなく、朝倉さんやDボゥイ、キテレツ斎などかなりの人数が萌えている。ついでに編集者も。 志半ばで死亡するがアーマゲモンとなって蘇りさらに大暴れする。 6期では暗黒長門と既婚済みであり、主催との最終決戦に参加している。何この勝ち組。 【カオスロワ外伝での主な行動】 +ネタバレ注意 ディアボロモンのカオスロワ外伝における動向、設定。 初登場話 024 サマーウォーズ・ゲーム 死亡話 [[]] 登場話数 3話 スタンス 遊び半分で優勝狙い 現在状況 一日目・夜の時点で生存 設定 【性格】子供っぽいが、本性は身勝手で狡猾 【一人称】僕 【二人称】君 【解説】 劇場版デジモンアドベンチャー「僕らのウォーゲーム」、「ディアボロモンの逆襲」に登場。 世界中のネットから知識を吸収、さらにプログラムを掌握、支配できるため自らを全知全能であると自惚れている。 実際に映画本編ではその能力で世界を混乱に陥れ、某国の軍事施設をハックして核ミサイルを発射しようとするなど『お遊び』にしては洒落にならないことをしている。 戦闘能力も高く、特に驚異的なスピードで主人公達を翻弄している。 想像はついてると思うが、実力に輪をかけて性格は最悪で凶悪と言ってもいい。DQNな天才ハッカーみたいな感じ。 劇中では進化中のデジモンに攻撃を仕掛けるという禁じ手を使ったり(しかも複数回)、主人公達を大量のコピー体で埋め尽くした空間に誘い全員でフルボッコといった凶行をやらかしている。 必殺技は胸部から破壊のエネルギーを放出するカタストロフィー・カノン。 カオスロワ仕様で非常に饒舌かつ傲慢。 バトルロワイアルを遊びとしか認識しておらず、ほかの参加者は全員遊び相手と認識している。 外見、能力、性格全てが真っ当な参加者からすれば脅威であり、真っ向勝負を挑める参加者は限られる。 当のディアボロモン本人は、少なくともまだ戦闘を行うつもりはないようだが…… 暴走したサメガことオメガサザエに初めて傷を負わされる。 描写話 判明した設定 備考 キャラとの関係(最新話時点) キャラ名 関係 呼び方 解説 初遭遇話 南千秋 遊び相手 千秋ちゃん 024:サマーウォーズ・ゲーム フグ田サザエ おばさん 跳ね飛ばされた 070:今は悪魔より主婦が微笑む時代なんだ! KAITO 遊び相手 KAITO君 084:悪魔の証明 最終状態 【台東区/一日目・夜】 【ディアボロモン@デジタルモンスターシリーズ】 【状態】ダメージ(小)、僅かな警戒心 【装備】なし 【道具】基本支給品一式 【思考】 基本 楽しく遊びながら優勝する 0 KAITOとも遊ぶ 1 チアキ(姿は知らない)は絶対に自分の手で殺す 2 優勝したら何してもらうか考える 3 新たな遊びを考える 4 おばさん(サザエ)を僅かに警戒 【備考】 ※ネットワークに侵入不可 ※プログラムの支配、改変能力に制限がかかってます ※戦闘能力に関する制限は現在詳細不明。 ※殺戮や破壊を遊びとしか認識していません ※もしカナとハルカを見つけたらどうするかは後に任せます(名前は知っているが姿は知らない) ※口調はカオスロワ準拠です(原作映画は無口)
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万獣の詩外伝 MONOGURUI 005 ━━ Take.1 純真なだけなんです ━━ 猫井テレビは犬国支社、特派取材部の某班に、 ネタ抜きで普段からござる言葉を使う奇怪な少女がいたそうな。 「ティルちゃん、そう言えばどうしてそんな変な言葉遣いするですか?」 「え?」 書類にペンを走らせる手を止め、傍らを行くお茶汲みレディを呼び止めたのは、 就業中とは思えないカジュアルで露出の多い格好をしたナンパトリ野郎。 自分だって相当変な言葉遣いなのを差し置いての不用意な言い草であったが、 しかし装いがおよそ正社員らしからぬ不埒な格好をしてるのは、 背中の羽根のせいでまともな服が着れないからである。 無作法お許しあれ。 「……ふふん、鳳也君、よくぞ聞いてくれたでござるな!」 対して、えっへんと胸を張るのはだぼだぼの作業服に身を包んだ女の子。 小耳な垂れ耳も愛らしい、小型種系の雑種イヌ、 猫井TV特派第四班アシスタント・ディレクター、テイルナート・プロキオンである。 「“心”の上に“刃”を乗せて、“ニンジャ”!!」 「…それを言うなら“忍(しのぶ)”だろ?」 ビシッとかっこよく決めた少女に対し、しごく冷静なツッコミを入れるのは、 隣の机で分厚い資料を紐解いていたヘビの少年だ。 「うっさいでござるなこのヘビ公! お前はちょっと黙ってろでござるよ!」 「……。…自分が馬鹿だからって人に当り散らすなよな」 「!! テ、テイルナート馬鹿じゃないもん!」 「はいはいそこの二人、ケンカしないケンカしない」 うんざりした調子のネコの女性に、手馴れた手つきで引き剥がされる、 犬猿の仲ならく犬蛇の仲。 「と、とにかくティル君はニンジャが好きなんだね? そうなんだね?」 「そうでござる! テイルナートニンジャ大好きでござる♪」 どうにか一座の主格らしきイヌの青年に上手い事話を逸らされなだめられて、 途端にごきげんになり大はしゃぎするイヌの少女。 「ニンジャ、ニンジャ! ジャパニーズ・ニンジャ!!」 「…………」 ぱたぱたと茶色の尻尾を振って喜ぶ姿は可愛らしいが、 「……やっぱり馬鹿じゃないか……」 「バカ、余計な事言わないの!」 多少頭が緩いのは否定できない。 ○○種と付かないイヌの国の最底辺、正真正銘の雑種イヌとはこのようなもの。 や ま し き 事 は 、 何 一 つ 。
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黒騎士団外伝 第五章⑥ タキ『例外さん?』 yasu『な…なんのこと?』 タキ『千雪さんに会ったのは?』 yasu『ついさっきだよ』 タキ『[スキル]は発現しかしら?』 yasu『まだしてないよ。姉さん何で槍突き付けry』 カチャッ yasu『!!!?』 タキ『疑問文に疑問文で返しちゃダメよ?』 yasu『はい!』 タキ『もう一度聞くけどホントに例外さんじゃないの?』 yasu『違うよ?むしろ例外なら仮面付けてるでしょ』 黒騎士『yasu坊なら仮面ぐらい外しかねない』 タキ『黒騎士さん、パルフェさんに問い合わせて。例外の仮面は取り外しができるかどうか?』 黒騎士『もしもーしパルフェさん聞こえますか?』 パルフェ『聞こえていましたよ。もちろん外せないようにしました。だまし討ちができない用にです。』 黒騎士『じゃ仮面を外した可能性は』 パルフェ『俺が想定できるだけの外し方は防止しましたよ』 黒騎士『そこまで言うならそうなのかな?』 タキ『黒騎士さんはどう思う?』 黒騎士『正直yasu坊ならやりかねない感はまだあるんだよね。』 yasu『黒騎士クン(泣)姉さん本当に違うって?』 うと『まぁ本人もここまで言っていますから』 タキ『……………』 yasu『姉さぁぁん(泣)』 タキ『そうね。信じないとね』 黒騎士『タキさん俺は正直yasu坊が例外だとしかまだおもえないんだけど』 タキ『まぁいいじゃない。信じることは大事よ?。それに…』 うと『それに?』 タキ『嘘ついていたら滅ッ!するからだいじょぶよ(笑)』 yasu『ガクブルガクブル』 寅猫『タキさぁ?んwww』 タキ『あらあら寅猫さん探してたのよ』 寅猫『私も探してましたよ?』 黒騎士『タキさんずっと寅猫さん探していたんだよ』 寅猫『うに?wありがとですww』 うと『よしっ人数増えたし怖いもんなしだねww』 タキ『ん??』 うと『だって黒騎士さんにタキさんにyasuさんに寅猫さんだよ』 黒騎士『うとうとさんもいるからね?』 うと『いやぁボクは』 タキ『うとうとさんだって大事な戦力よ?。ステの強い弱いはこの世界で重要じゃないわよ?。一番大事なのは気持ちよ。』 黒騎士『そうだよそれに[スキル]次第ではステなんて関係ないよ』 うと『みんなありがとうw自信出てきたよ』 黒騎士団外伝 (2012/02/28) 文章:yasu 前へ トップ 次へ??
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-外伝『秒読み』- ─力を使い過ぎたんだ…もう、これ以上はモタナイ…。 「うひゃあああああああ」 歓喜の声が上がる。 杏子とアルジスは街に出て来ていた。 通りかかったドレスショップを勢いで覗き、 テンションの上がり切った杏子が ウエディングドレスの試着などを始めた。 「見て見てアル姉!これ超ヤバイ、アタシ超可愛い!」 純白のドレスを着て、 満面の笑顔の杏子は確かに可愛かったが、 振る舞いが幼すぎて、結婚する説得力は無かった。 「やあ、もうこのままドレス決めちゃおうかなぁ…」 杏子の表情は恍惚としていた。 「アタシ、アル姉より先に結婚しちゃうかもね」 「…タチバナくんと?」 「うん!!」 屈託の無い杏子にアルジスは呆れ顔だ。 出会った時はもっと気だるい感じの女子だった、 気持ちは解るが浮かれすぎだ。 「あのね、出会って、付き合って、すぐ結婚、 なんて風には案外できてないわよ、世の中は」 ましてや杏子はまだまだ女子高生だ。 交際していれば色々あるだろうし、 相手はあのストイック星から来たストイック星人だ。 長続きするものかどうか…。 「タチバナさん以上に誰かを好きになるなんてありえないから、 アタシはもう絶対に彼と一緒になるって決めたの」 すぐにでも、 サトヨシくんの中にある悪の人格が 世界を壊してしまうかもしれない。 明日は来ないかもしれない…。 なのにこの子には幸せな未来しか見えてなくて、 それを疑いもしない。 若いって凄いな…。 そして、 乗せられてドレス着ちゃう私も、そうとうメデタイんだけど…。 「うわぁ…アル姉、超似合ってる…きれい」 杏子の感想があんまりストレートなもんで照れる。 守ってあげたいな、この子たちは…。 来て欲しいな…未来。 ─時間が無い…歪んでいる…世界が壊れてしまう…。 「でぃぃぃやぁぁぁぁっ!!」 突きを放つシバミ。 タチバナはその腕に沿う様にして腕を前に出す。 それはシバミの突きを巻き込んで、 カウンターの要領で彼女の額に掌底を食らわす。 「くあっ!?」 ひっくり返るシバミ。 「物覚えの悪い女ですね」 「くっそ~っ…」 タチバナはシバミより先に手を出さない、 額にしか攻撃をしない。 その約束を守って攻撃しているのだ。 攻撃が当たる場所を知っているのに、 シバミはそれを一度も回避できない。 どの角度でパンチを入れても、キックを放っても、掴みに行っても、 吸い込まれるように彼の攻撃がシバミの額にヒットした。 「それでも、其処に転がってる半ビッチよりはマシですけどね」 「半ビッチ言うなぁっ!!」 跳ね起きるハイネ。 タチバナの攻撃を額に受けすぎて昏倒していた。 「酒ビッチにも劣る半人前のビッチという意味です」 「クソがぁ…」 ハイネは目覚めてすぐタチバナに挑みかかる。 「根性と気迫だけでは勝てませんよ、ビッチ…失礼」 病室の崩壊に巻き込まれ、 トメとヒデエモンは重症を負い、意識が戻らない。 全てを知った時にはコウもザキもいない、 「見てみぬフリはできない」そんな理由で シバミはサトヨシと戦う決意をした。 残された自分が少しでも強くなるしかないのだ。 ハイネも同様に考え、タチバナの指導を受けている。 サトヨシの命を狙えばアイツが現れる。 茜を殺したあのスタンドと必ず戦うことになる。 ケイの目的、世界の崩壊、それは二の次、 自分をコケにしてくれたアイツを倒すことが最優先。 それはプライドの問題だ。 シバミの拳とハイネの蹴りが、 左右からタチバナを挟み撃ちにする。 タチバナはハイネのすぐ懐に入り、 大腿部を背で押さえ蹴りを殺す。 同時に、 距離が出来て空振りしたシバミの手首を掴み、 それを下方に捻り下ろし、 下に屈む一連の動作で ハイネの蹴り足を押さえたまま軸足を刈り取る。 それらを二呼吸で行う。 シバミ、ハイネ 「「おわっ!?」」 同時に空中に投げ出され、 一回転して二人は地面に叩きつけられる。 シバミ、ハイネ共に散々打ちのめされた。 負けるのもいい、食らうこと、倒されること、 それは体が覚え、自然とダメージを減らす行動を身に着ける。 起き上がれない二人。 「私のトレーニングにはまるで物足りないですね」 嫌味を言うタチバナ。 それでも、数々の実践でシバミが鍛えられていること、 ハイネの並々ならぬ覚悟は認めている。 「今日はここまでにしましょう」 突然トレーニングを打ち切るタチバナ。 「ふざけるな、私はまだやれる…」 フラフラと立ち上がるハイネ。 「残念ですが、これから恋人を迎えに行かねばなりませんのでね」 シバミは何だか言いようの無い違和感を感じていた。 どうにもらしくない。 この非常時に突然彼女を作ったり、 遊んで歩いたり…。 サトヨシによる世界の崩壊、 ハイネから聞いた神の尖兵とかいう組織の行動、 事の重要性は理解しているハズだ。 「…アンタ、大丈夫なの?」 「何のことです?」 コイツは余裕ぶって決して弱みを見せない男だ、解っている。 でも、ユトリがある訳じゃあない。 完璧な男じゃない、完璧を目指している男だ。 不気味なんだ…この緊張感の無さが。 例えば、「彼にサトヨシを倒せ」ということは、 私にコウやザキ、ヒデエモン、シルビア、 もしかしたらそれ以上の「大切な人を殺せ」と言うことだ。 私がこの手でコウを殺す? 例え世界と天秤にかけても、それができるだろうか? まったく想像できない、リアリティも欠片も無い。 その選択を迫られて、平静でいられる訳が無い…。 「何を心配しているのか知りませんが、 弱いアナタ方は人の心配よりも自分の心配をするべきですよ」 そう行ってタチバナが去って行く。 それは私の知ってる背中じゃない…。 見送りながらシバミは不吉なものを感じていた。 「おい!時間がないんだ、今度はオマエが付き合え!」 ハイネがシバミを怒鳴りつける。 「う…うん…」 ハイネと対峙するシバミ。 違う…何かが違う…。 ─助けて…助けてタチバナ……。 杏子 「はぁぁ…私ってば今、最高に幸せぇぇ…」 アルジス 「はいはい、そうですか…」 適当な相槌を打つアルジスに抱きつく杏子。 杏子 「アル姉に逢えたこともだよぅ」 アルジス 「ほらほら、通行人に変な目で見られるから」 杏子 「必ず、勝とうね!みんなでハッピーエンドだよ!」 足音が迫る、世界の崩壊に先駆ける、絶望の足音。 「サトヨシの敵は、僕がみんなやっつけてあげるからね…」 ・第17話「少女達が夢見た未来」
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――― ―― ― 「コーヒー、君も飲むやろ?」 「戴きます」 白衣の裾を翻し、蓬髪の研究者はコーヒーメーカーに取りかかった。 こんなに楽しそうに、そして美味しいコーヒーを煎れる人間を俺は一人しか知らない。 ブラインドを指でこじ開け、激しく仰け反ってから博士は言った。 「徹夜明けに朝日はキツいわ。ズバットになった気分や」 やがて完成したコーヒーがテーブルに運ばれてくる。 「任務の方は順調みたいやな。 君の活躍はこっちにまで響いてきてるで。 それはもう、とんでもない尾鰭ついてな」 マサキ博士はからからと笑う。 「あまり聞きたくないですね」 「知らぬが仏とはよく言ったもんやな。世の中には知らん方がええこともある。 しっかし、これまで鬱積してた不良案件が、君の手で次々に片付けられてることも確かや。 そのうち君とはこうして会えんくなるかもしれんなあ」 「そんなことはないですよ。 博士がいないと何かと困りますからね」 「おいおいレッドくん、ワイをポケモンのメンテナンス技師扱いしとるんちゃうやろな?」 「…………」 顔を見合わせ、同時に破顔する。 マサキ博士にポケモンの調子を見て貰いに行くのは、単に彼が研究者として優秀だからではない。 俺の過去を知ってなお、優しく気さくに接してくれる人物だからだ。 こうして博士と向かいあい、コーヒーを啜っていると、任務のことを少し忘れることができた。 「研究は順調ですか?」 マサキ博士はきょとんとした顔になって、 「研究?何の研究のことや?」 「とぼけないでください。あのボールの研究です」 孤島の発掘作業中に発見された、ミュウツーの遺物。 人が未だ到達し得ない、オーバーテクノロジーの結晶。 博士はこめかみを描きながら言った。 「ああー……あれか。 結局あれな、ワイの研究部署とは別のとこに持って行かれてもうたんや。 最初からそういう風に決められてたんかもしれんけど……詳しいところは分からへんねん。 でもな、ひとつだけ分かってることがあるで」 「……?」 「あれが実用化されるまでには、少なくとも十年はかかるっちゅうことや」 ――十年。 俺はこの目で実用化されたボールを見ることができるのだろうか。 「人智が及ばん、っていうのはああいう代物に対して使う言葉なんやろうなあ。 損壊部分の修復はわりと上手くいったみたいやねんけど、 どうやってリバースエンジニアリング――中に詰まった技術を抽出――するかが問題でなあ」 「ミュウツーに直接聞ければ早いんでしょうがね」 「ほんまや。ちょっとレッドくん、ミュウツー探して連れてきてくれるか?」 なんとも無茶なことを言う。 マサキ博士はからからと笑い、ふいに真面目な顔に戻って言った。 「君に言っとかんなあかんことあったん思い出したわ」 コーヒーカップの中身を飲み干し、パソコンデスクに向かったかと思うと、プリントアウトされたA4紙を手に戻ってくる。 「レッドくんはこの男のこと、覚えてるか?」 写真とパーソナルデータ。 博士は常日頃から自分を組織の末端だと過小評価するが、 こうした情報への参照権限を持っていることから、実際にはかなりの高位にいることが伺える。 俺は写真を見た。 短い黒髪。撮影者を威嚇するような攻撃的な目。引き締まった長駆。腰に並んだ6つのハイパーボール。 「………孤島探索で同行した、護衛隊の一人ですか」 「ご名答」 「この男がなにか?」 「捜索命令が出てる。なんでも二週間ほど前から消息が掴めんらしくてなあ」 任務で不始末を犯した。機密を漏洩した。 反システム組織に寝返った。或いはもともと諜報員だった。 考えられる動機には枚挙に暇が無いが……。 「俺には捜索命令は来ていません」 「そら、レッドくんには他にやるべき仕事があるからなあ。 でもワイとしては、一応この男が失踪した事実を、レッドくんに知っておいて欲しかったんや」 「はあ」 「もしかしたらレッドくんは、この男が自分の意思で姿くらました思てるんちゃうん?」 図星だった。 博士は二杯目のコーヒーを注ぎながら言う。 「ワイはな、この男は誰かに消されたんちゃうかと思ってるねん」 「それはどうでしょうか」 確かに己の腕を過信し、自惚れている典型例ではあった。しかし、 「この男はかなりの実力者です。そう簡単に消されたりはしないと思いますが」 「孤島の護衛隊に選抜されたことからもそれは明らかや。 けどいくら強いポケモントレーナーでも、不意打ちされたらただの一般人と同じやで」 「博士はこの男が消されたと決めつけてかかっているようですが、その根拠は何なんですか?」 「ここ最近、といっても二年くらい前からやけど、 組織の荒事専門の人間が、ぽつぽつ行方不明になってるねん。 構成員が行方不明になんのは今に始まったことやないねんけど、 大抵は敵隊組織に寝返ってたり、どっかの僻地で息潜めてたりして、結局、居場所が特定されてんねん。 でも、ここ最近失踪した人間は、杳として行方が知れぬままや。 こういう場合、一番可能性高いんは、本人が既に殺されて処理されていることや」 死体を処理する方法は無数にある。 今すぐに死体を隠蔽したいなら、"穴を掘る"で土葬すればいい。 完全に死体を消滅させたければ、”火炎放射"で火葬すればいい。 手っ取り早く確実性が高いのは、ポケモンの住処の奥地に、死体を放置することだ。 その住処にいるのが肉食性のポケモンなら、より短い時間で死体は自然に還る。 「実際にシステムの人間を暗殺している人間がいるとしたら、そいつは相当の命知らずですね」 システムの戦闘員は道徳性に欠けていることが多く性格にもムラがあるが、反面、実力は等しく折り紙つきだ。 高い練度とポケモンや人間を傷つける思い切りの良さの前に、 純粋なポケモンバトルに慣れきっている一般トレーナーは為す術もないだろう。 となれば、必然的にその下手人は、こちらの世界のトレーナーということになる。 「まあ、あくまで憶測や。それに君についてはなーんも心配してへん。 もし襲われたら、遠慮無く返り討ちにしたってな」 博士には俺の能力について打ち明けてある。 「生け捕りにすべきでは?」 生け捕りにすれば、拷問にかけて暗殺の依頼主を吐かせることができる。 仮に拷問に耐えきったとしても、エスパータイプの熟練者なら、記憶を読み取ることが可能だ。 それができるほどの熟練者が少なく、また負担が大きいために滅多に行われないそうだが、 システムの構成員が計画的に殺されている可能性があるのだ、上層部も貴重な人材を惜しまないだろう。 「そら、殺すよりはそっちの方がええに決まってるけど」 博士は真顔で言った。 「無理だけはせんといてな。手加減してやられてたら、本末転倒やで」 ―――― ――― ―― 屋敷の正門前に見える白い何か。 それが巨大な日傘だと気付くのに、しばらく時間がかかった。 風で煽らないよう、少し離れたところにリザードンを降下させる。 「サトシ!」 サヤが駆け寄ってくる。日傘を携えた使用人も、カツラの子女を紫外線から守ろうと慌ててサヤの背中を追う。 「絶好の遠足日和ね?」 「ああ。今日は全国的に晴れるそうだ」 抜けるような蒼穹。海から吹き渡る爽籟。 こんなに気持ちのよい天候には、滅多に恵まれないだろう。 「それじゃあ、行こうか」 「お嬢様を宜しくお願いします」 使用人の一礼に会釈を返し、日傘の影に佇むサヤに、手を差し伸べる。 しかし何が気に障ったのだろう、サヤはいやいやするように、微かに首を横に振った。 「どうしたんだ」 土壇場になって行くのが嫌になったのか? サヤは俯き、視線を自分の身体に這わせながら言った。 「……わたしを見て、何か一言、言うことがあるんじゃない?」 「よく似合ってる。ドレスに見慣れていた分、新鮮だ」 「それでいいのよ」 簡潔に表現すれば、今日のサヤは活動的な装いをしていた。 淡いピンクのミニコットンワンピースに、ライトブルーのコンパクトデニムジャケットを羽織り、 キャメルのウエスタンブーツを履いている。ついでに言うなら、普段は下ろしている髪もツーサイドアップに仕立てられていた。 「サトシも今日はスーツじゃないのね?」 俺をまじまじと見つめるサヤ。 ベージュのチノパンツに白のシャツ、黒のベストという、サヤに比べて色彩に欠ける格好だが……。 「わたしも、なんだか新鮮に感じるわ。 地味だけど、そこはわたしと足して2で割れば丁度いいんじゃないかしら」 なんとかサヤの目に留まったようだ。 改めて手を差し伸べる。 日傘の外に歩みでたサヤに、俺は日差し以上の目映さを感じていた。 事の発端は十日前に遡る。 カツラの研究所に呼び出しを受けた俺は、 尋常ならざる雰囲気をカツラから感じ取り、身を引き締めた。 「レッドくん」 「はい」 「君にとても大切な話がある」 漆黒のサングラスを外し、現れたのは鋭い光を湛えた三白眼。 眉間に刻まれた幾筋もの皺は、口火を切ることへの躊躇いとそれ以上の覚悟を物語っている。 長い沈黙を引き詰み、やがてカツラは言った。 「サヤを本土に連れてってやって欲しいんだよね」 「………………は?」 「いや、だから、本土。 場所はどこでもいいよ。タマムシあたり喜ぶんじゃないだろうか。 ワシは流行に疎いが、あそこは今でも娯楽の最先端をいっとるじゃないのかね?」 「博士の意図が分かりかねます。 サヤを外出させることは、色々と問題があるのでは……?」 「システムの許可はとってある。ま、許可を出すのは実質ワシなんだが」 がっはっは、と豪快に笑うカツラ博士。 「ですが……サヤ自身は、それを望んでいるのですか?」 「それは分からん!」 一番大切なファクターが不明だと、自信満々に言われても困る。 俺が溜息を吐くと、博士はシリアスな顔つきになって言った。 「いやあ、ワシも色々と考えておるんだ。 あの子が屋敷に引きこもるようになった責任は、ワシにある。 それで昔から、外部の人間と会わせようとしたり、何かと用事を作って外出させようとしたんだが、どれも失敗続きでなあ。 しかぁーし、」 カツラ博士はびしっと人差し指を俺に突き付けて、 「君の誘いなら、サヤも快く屋敷を飛び出していくことじゃろう! 朗報を待っておるよ、レッドくん」 疑いは確信に変わる。この人はやはり、変人だ。 クリムゾンバッジを賭けて初めて戦ったときに気付いておくべきだった。 「……………」 本土に入ったあたりで、背後のサヤに語りかける。 「大丈夫か?」 「え?」 「さっきから黙ったままじゃないか」 「ううん、何でもないのよ。ただ………」 サヤは風に靡く髪を押さえながら、呟く。 「……わたし、もっと早くにこの景色を見ておけばよかったなあと思って」 空から見渡す世界は、地上からのそれとまったく別の物だ。 背後には地平線の彼方で溶け合った海と空。 右手には森と平原が広がり、それを貫く河に寄り添うようにして、いくつかの集落が見て取れる。 左手には――俺がここ数年、避け続けた故郷がある。 オーキド博士もそれを配慮してか、マサラタウンに関係する任務を俺に与えなかった。 「ねえ、聞いてなかったけど……どうして本土に行こうなんて言い出したのよ? びっくりしたんだから」 「引きこもりは身体によくない」 後頭部に衝撃。 「真面目に答えて。それとも本当の本当に、それだけの理由でわたしを屋敷の外に連れ出したんじゃないでしょうね」 君の父親に頼まれて、と言えばさらにサヤの機嫌を損ねるだけだろう。俺は無難に言葉を選んだ。 「たまには息抜きも必要だと思ったんだ」 「それはサトシにとって、でしょう。わたしには息抜きなんて必要ないわ」 サヤは毎日が休日のようなものだ。かといって堕落しているわけでもなく、 幼少から専属の家庭教師がいたおかげで、高い教養を身に付け、音楽や手芸に秀でているところが小憎らしい。 「まあ、その通りだな。これは俺にとっての息抜きだ」 「じゃあ、どうしてその息抜きに、わたしを誘ったの?」 予定調和の会話に辟易する。なぜ俺がこんな歯の浮くような台詞を……。 「サヤと一緒のほうが楽しいからだ、と言えば満足か」 「大満足よ」 腰に回されていた腕の力が強くなる。 リザードンは馬鹿にするように鼻を鳴らした。 しかしサヤの一撫であっさり屈服したお前に、俺を非難する資格はない。 タマムシのポケモンセンター前に降り立つと、サヤは俺の予想通りの反応を見せてくれた。 俺も初めてタマムシを訪れたときはこんな風だっただろうか、と思いを馳せてみるが、ここまで興奮していた記憶はない。 「人がたくさん……建物もいっぱい……!」 子供のようにはしゃぐサヤは、際立つ容姿も相まって人目を引く。 「落ち着け、みんな見てるぞ」 「いいじゃない、そんなの」 「俺が恥ずかしい」 「わたしは恥ずかしくないもの」 溜息を吐く俺の手をとり、サヤは歩き出す。 立錐の余地もないほどにビルで埋め尽くされたヤマブキやコガネと違い、 タマムシは世に名高いタマムシ大学やタマムシデパートを擁する文化的発展にも注力している。 興味を引くものには困らないこの街で、俺はサヤの手綱を取ることができるのだろうか。 「ちょっと待ってくれ、サヤ、まずは行き先を決めよう」 「それもそうね」 広げた詳細マップの上に、サヤが指を滑らせる。 「ここがいいわ!」 果たして指が止まったのは、タマムシジムだった。 「ここを選んだ理由は?」 「サトシ、頭大丈夫? タマムシジムにいく理由なんて、バッジをもらいにいくために決まってるじゃない」 最早「頭大丈夫?」程度の暴言では怒りの片鱗さえ覚えなくなっている俺である。 「タマムシシティに来た記念よ。記念。腕試しも兼ねてね。 それにレインボーバッジって綺麗じゃない? 前にサトシのを見せてもらったときから、欲しかったのよ」 記念でジムに挑戦したり、カントー地方序列五位のバッジをアクセサリー感覚で扱ったりと、 日々ポケモンバトルの修練を積み重ねている苦労人が聞いたら発狂するようなことを口にするサヤ。 「サヤとヘルガーなら、タマムシジムを制覇するのは簡単だと思うが。 どうせならもっと上のジムを……」 「あのねえ、わたしたちは今タマムシシティにいるのよ?」 「また今度ヤマブキやセキチクに行けばいいじゃないか」 口に出してから、失言だったと気付く。 サヤは双眸を輝かせて、 「じゃあ、今度のお出かけの時の行き先は決まったわね。約束よ」 小指を差し出してくる。それがいつかの焼き直しであることを、サヤは自覚しているだろうか。 いや、きっと無意識に違いない。視界にカスミの姿が揺曳する。 俺は瞬きしてそれを掻き消し、自分の意思で、小指をサヤのそれに絡めた。 「ふふっ。楽しみが増えるのはいいことよね?」 「ああ……そうだな。それで、結局俺たちはどこに、」 「タマムシジム」 頭痛がした。 「だ、だから、今のサヤにとってタマムシジムは不相応だと、」 「わたしが一度行くって言ったら絶対行くの。いいこと? 今日のサトシは先生じゃなくて、保護者なのよ。ううん、やっぱり従者ね。 サトシの役目は、わたしの行動に口を挟むことじゃなくて、わたしが迷子になったりしないように見てることなのよ」 サヤは俺の返事も待たずに雑踏に踏み出した。 雑踏の中で一瞬でも距離を離せば、後を追うのは一苦労だ。 「待つんだ、サヤ」 「なに?」 「ジムに行くなら市営バスが便利だぞ。徒歩がいいなら付き合うが」 「なんでそれをもっと早くに言わないのよ。馬鹿」 理不尽ここに極まる。 ハードな一日になりそうだ――そんな予感が脳裡を掠めた。 「一人で申請できたか?」 「余裕だったわ」 腕組みし、薄い胸を張るサヤ。誇ることではないと思う。 「受付の人が言うには、どうも順番を待たなくちゃいけないみたい」 「それで、サヤは素直に引き下がったのか?」 「だって、仕方ないじゃない」 意外だ。待つのが嫌いなサヤのことだ、散々順番を繰り上げるようにゴネたのだとばかり思っていたのだが……。 「ここ数日は受験者が少なくて、お昼過ぎには挑戦できるって言ってから、それで許してあげたわ」 やはりどこまでも上から目線なサヤだった。 「それにしても大きなお屋敷……正面から見ただけじゃ分からないけど、 ひょっとしたら、わたしの家よりも大きいんじゃないかしら?」 「単純な居住空間ではサヤの屋敷の方が広いだろうな。 だがタマムシジム、というよりここの敷地内には、この国で五指に入る大きさの庭園があるんだ。 それを見たいがためにジムに挑戦する人間も多い」 「ふぅーん」 サヤは俺の説明などどこ吹く風といった様子で、猿橋の欄干にもたれ、水堀を眺めている。 隣に並ぶと、コイキングが水面に顔を出し、口をパクパクとさせているのが見えた。 観光客が投げる餌に期待しているのだろう。 「ねえサトシ、パン屑持ってない?」 そんなものを都合よく持っているわけがない。 首を横に振ると、サヤは小声で「役立たず」と言い放ち、バスの中で俺から奪い取った詳細マップを広げた。 「順番待ちの間、どこか別のところを見に行きましょ?」 次にサヤの指が止まったのは、 「タマムシ大学か」 観光名所ではないが、一見する価値のある場所ではある。 無難な選択だ、と俺が感心していると、サヤは不安げに首を傾げた。 「でも大学に、学生でもない一般人のわたしたちが入れるのかしら」 そんなことを心配していたのか。 「大学は基本的に誰でも出入り自由だから、問題ない。 ここからなら徒歩で15分ほどだが、どうする?またバスを使うか?」 サヤはととと、と猿橋を渡り切り、くるりと反転して笑顔を見せた。 「バスは楽だけど、つまらないわ。歩きましょ」 ―――― ――― ―― 「美味しい……」 「ちょっと季節外れだがな」 出店で買い与えたソフトアイスクリームを舐め舐め、ご満悦の様子のサヤ。 俺が見ていることに気付いたのだろうか、 「何? サトシも欲しいの?」 「危なっかしくて目が離せないだけだ」 食べることに夢中になって、誰かと衝突、溶けたアイスが四散する――といったような。 「馬鹿。わたしがそんなドジするわけないじゃない。 で、どうなの、食べるの、食べないの?」 「甘いものはあまり好きじゃない」 「……あっそ」 唇を尖らせる。俺はどこかで墓穴を掘ったようだ。 外の陽気に中てられたのか、腰のボールのうちひとつが、ひっきりなしに震え始める。 俺は仕方なしに開閉スイッチを押した。途端に周囲が騒然とする。 無差別"テレポート"を繰り返しているのだ。余程外に出られたことが嬉しかったのだろう。 やがて遊び疲れたケーシィが、俺の目の前に転移する。 「大人しくしていろ」 鼻に指を突き付けると、ケーシィは拳銃を突き付けられた容疑者のように両手を挙げ、一瞬で消えた。 どこに行った? 「サトシ、この子、どうしたらいいの?」 振り返る。困り顔のサヤが、右手にアイス、左手にケーシィを抱きかかえていた。 5分後。 「きみ、アイス食べる?」 甘い鳴き声を返し、ぺろぺろとアイスを舐めるケーシィ。 俄に信じがたい光景だった。 問題児を一瞬で懐かせてしまうサヤの能力には、毎度のことながら目を瞠るものがある。 「可愛い……ねえサトシ、この子、わたしにちょうだい?」 そしてさらに驚くべきは、サヤがケーシィに惚れ込んでしまったことだった。 「ダメだ」 「どうしてよ。きっとこの子もわたしと一緒の方が幸せよ。 わたしなら毎日アイスを食べさせてあげられるし、毎日遊んであげられるもの」 「だから、ダメだ。ケーシィが気にいったなら、自分で捕まえればいいだろう」 「わたしはこのケーシィがいいの!」 「……じゃあ、こうしよう。俺と会っているときは、そのケーシィはサヤのものだ。それで我慢してくれ」 サヤはケーシィを両脇から抱え上げて、 「今日のきみのご主人様は、わたし。分かった?」 肩車させる。ケーシィは嬉しそうに鳴いて、サヤのサイドアップされた髪を操縦桿のように掴んだ。 問題児のケーシィと我儘令嬢のサヤ。案外、いいコンビなのかもしれない。 タマムシ大学正面広場の案内板に目を通していたサヤが言った。 「本当に大学の中に、研究所と、病院と、図書館が一緒に入ってるの?」 「食堂や寮もある」 「ねえ、コレ見て」 サヤは掲示板を指し示す。 「科展か。今のところ、科展を開いているのは、この研究室だけみたいだ。 サヤは物質科学工学に興味があるのか?」 「全然」 サヤとケーシィは息ぴったりに首を振る。 「でも、展示物に興味はあるわ。 一般公開されてるからには、専門外の人間にも、体感的に楽しめるものが展示されているんでしょう?」 葉桜を透かしてふりそそぐ淡緑の木漏れ日の下、 サヤと並んで歩きながら、俺は別の未来に思いを馳せた。 もしもポケモンマスターを目指していなければ。 もしもピカチュウと出会っていなければ。 ――俺はシステムと縁故の無い、普遍的な人生を歩んでいたのだろうか。 ここの大学の学生として、月並みな青春を謳歌していたのだろうか。あくまで可能性のひとつとして。 「サトシ」 「なんだ?」 「むつかしい顔してる。どうかしたの?」 「なんでもないさ。そういえばサヤには、学校に通った経験はあるのか?」 サヤは顔を顰めた。 上機嫌のときと、不機嫌のとき、両方に違った美しさがあるのは、 それだけ顔の作りが精緻であることの証明かもしれない。 「小さい頃に、少しだけ。 でも周りの子供も、担任も、勉強の内容も、退屈すぎてすぐに行かなくなったわ。 お父様は怒ったけど、……お母様がね、家庭教師でいいって言ってくれたの」 サヤやカレンの性格から、それはそれは峻厳な母親を想定していたのだが、実際は真逆だったようだ。 妻としては厳しく、母親としては優しい人だったのだろう。 サヤは何か思うところがあるのか、すれ違う同年代の男女に目移りさせている。 「タマムシ大学に通っている人たちは、みんな将来の夢が決まっているのかしら」 「望み通りの職業につけるかどうかは別として、卒業後は、引く手数多だろうな」 タマムシ大卒業生はほとんどが各分野のトップ、即ち研究職に就く。 そしてその中でも選り抜きの人材がシステムの人事部の目に留まる。 「サヤは――」 将来どうしたいんだ、と尋ねかけて口を噤んだ。 続く言葉を察したのか、サヤは淋しげな微笑を零す。 そこに諦めの影があったことを、俺は見逃さなかった。 サヤの人生には、常に組織の影が付きまとう。 「わたしは、自分でもどうしたいのか分からない」 俺は柄にもなく明るい調子で言った。 「サヤはポケモントレーナーだ。 バッジは、それだけでポケモンを使った仕事に従事する資格になる。 パーフェクトホルダーになれば、毎日遊んで暮らせるほどの高給職に就ける」 「それじゃあ何も変わらないわ。わたしは今でも遊んで暮らしてるもの」 「それもそうか」 次に浮かべた微笑に、淋しげな色は見て取れなかった。 だが、もしサヤが俺に悟られまいと感情を押し殺しているのだとすれば――俺に真偽を確かめる術はない。 実験棟前に到着すると、科展はそれなりに盛況しているのか、頻繁に人が出入りしていた。 入り口の掲示には、「あなたのポケモンをフィジカルアップ!カイリキーと腕相撲」とある。 展示室に向かうと、案内係の学生が接客スマイルを浮かべて話しかけてきた。 「まずはこちらで、簡単な説明を受けてください」 「わたし、まどろっこしいのは嫌よ」 「5分程度で終わりますので……、どうかご了承ください」 「ほら、行くぞ」 サヤの背中を押す。 普段は研究室として使われているであろう展示室は、内装から備品に至るまですべてが真新しかった。 流石は天下のタマムシ大学というべきか。設備投資に金を惜しむという概念がないのだろう。 先ほどまで説明を受けていたらしい客が、興奮した様子で仕切りの向こう、二番目のブースに消えていく。 俺やサヤの他に4人の一般客が一番目のブースに収まったところでドアが閉めきられ、照明が暗転、プロジェクターが起動した。 それから五分後――二番目のブースにて。 「ねえ、サトシのポケモンをここに出すのは……」 哀願してくるサヤを、 「だめだ」 心を鬼にして突き放す。 「どうしても?どうしてもだめ?」 「…………」 十数枚に渡るスライドの解説を要約すると、こうだ。 近々施工されるポケモンの永続強化禁止法案に向けて、 全国の製薬会社では短時間の限定強化薬の開発に躍起になっている。 しかしタマムシ大学物質科学工学科では、予てから従来の時間限定強化薬の研究を行っており、 先日、効能はそのままに即効性を高める配合技術が国から正式に認可された。 この技術は製薬会社に有償で提供される予定である。 今回の科展では、某製薬会社の試作品「プラスパワー+」を無料で使用してもらい、 実際にカイリキーと腕相撲することで、その偉効を体感してもらうことが目的である。 ちなみに試作品の治験は完了済みであり、副作用の心配は無用とのこと。 そして今、サヤが俺に嘆願している理由は――。 「そりゃあわたしだって、自分のポケモンを使えるならそうするわ。 でも、無理なの。サトシは犬型ポケモンのヘルガーに腕相撲ができると思う?」 「思わない。だが、俺がここで自分のポケモンを出せば、誰かが俺の正体に気づくかもしれない」 「自意識過剰よ」 小声で憤るサヤ。 俺は用心しすぎなのだろうか。よれよれのスニーカーにくたびれたジーンズを穿き、 皺のよったTシャツと上着を着て、ぼろぼろの帽子をかぶった少年。 大衆によって記号化された"サトシ"と、今の俺はの見た目は違う。 わずかな老いを加味すれば、別人といってもいい。 だがポケモンは変わらない。ポケモンに刻まれた傷は、癒えてなお、修羅場を潜った証として体に残り続ける。 「だめなものはだめだ」 「サトシの意地悪」 俺は早速ポケモンを出している他のトレーナーを見やりながら、 「見ているだけでも十分楽しめるじゃないか。 ほら、あのブーバー、カイリキーと腕相撲を始めるみたいだぞ」 「他人のポケモンなんて、応援しがいがないじゃない」 ふくれっつらのサヤの目の前で、あっさりと敗北するブーバー。 カイリキーは厚ぼったい唇をゆがませて、敗者を嘲笑する。 すべて台本通りなのだろう。 白衣の学生が失意のブーバーへ歩み寄り、 トレーナーの許諾を得て、ブーバーの首に筒状の無針注射器を押し当てる。 その間にも、他のトレーナーのポケモンがカイリキーに挑戦し、あっさりと打ち負かされていく。 「流石に注射してすぐには効果は出ないみたいだな」 「…………」 サヤのふくれっつらは仏頂面に進化していた。 今連れているポケモンで、二足歩行型のポケモンはカメックスとリザ―ドンだ。 腰のボールに手を伸ばしかけ――思いとどまる。リスクが大きすぎる。 だが、サヤの機嫌を回復させるには、俺のポケモンを出すしかない。 主の葛藤を敏感に察知したのだろうか。 サヤの首に両手を回し、浅い眠りについていた幼いエスパーポケモンが目を覚ました。 「ごめんね、起こしちゃった?」 肩から下ろされ、胸に抱かれたケーシィは、小さなあくびをして笑う。 そして瞬く間に白衣の女学生の頭上に"テレポート"すると、お菓子を強請る子供のように、女学生のおさげを引っ張りはじめた。 涙目の女学生に俺は言った。 「その子にも薬をお願いします」 「え、いいのサトシ? あの子、まだ小さな子供なのよ。 いくらプラスパワー+を使っても、カイリキーには勝てないわ」 「ケーシィを腕相撲に参加させる。これが最大の譲歩だ。それに……」 「それに?」 「俺のケーシィは負けない」 「何の根拠があって、そんなこと言ってるのよ」 「見てればわかるさ」 投薬前の腕相撲で、ケーシィは当然ながら敗北した。というより、最初から勝負になっていなかった。 小さなケーシィの手はカイリキーの巨大な掌に包みこまれてしまっていたのだ。 カイリキーはまるで芦を手折るがごとく、容易くケーシィの手の甲を地に伏せた。 「よろしいですね?」 最終確認を終えて、女学生が無針注射器をケーシィの首に押し当てる。 サヤはその様子を、心配げに見つめていた。 まるで予防注射を受ける幼い我が子を見守るように。 「どうだ、調子は?」 ケーシィは目を細め、腕を直角に折り曲げる。 「いくら薬に頼っても、力こぶは作れないぞ。トレーニングをサボってばかりいるからだ」 ケーシィは頭をかく。 「ねえサトシ、やっぱりケーシィにやめさせて。もともとエスパータイプは、格闘に向いてないのよ。 こんな小さな子の筋肉に、下手に負担をかけたら、怪我しちゃうかもしれないわよ」 「いいじゃないか。こいつはやる気十分みたいだし、トレーナーの俺も認めてる」 「でも……」 不安げに唇をかむサヤ。 「どうされますか?」 との女学生の問いに、ケーシィは"テレポート"で答えた。 もはや残っている挑戦ポケモンは、ケーシィのみだった。 他の投薬されたポケモンは、その大半がカイリキーにリベンジを果たしたようだ。 その薬効は信頼に値する。が、カイリキーとケーシィの体格差は絶望的だ。 おそらくサヤや他のトレーナー、そして学生の全員が、ケーシィの敗北を想像していただろう。 しかし結果は観衆の想像を裏切った。 「レディー……ファイッ!」のかけ声の後、寸隙を置かずにカイリキーの豪腕が土台に伏したのだ。 「すっげぇもん見ちまったぜ……」と他のトレーナー。 「ほんとにサトシの言うとおりになっちゃった……」とサヤ。 「ここまで劇的な効果を発揮するなんて……」と研究室の学生。 「…………」言葉の出ないカイリキー。 そして自分の数倍の大きさの相手を一瞬で打ち負かしたケーシィは、 無垢な笑顔を浮かべて、サヤの胸に"テレポート"した。 響めき醒めやらぬ展示室を後にして、しばらくしてからサヤが言った。 「ねえ、どうしてサトシにはケーシィが勝てるってわかったのよ? もしかしてプラスパワー+を打たれる前の腕相撲では、わざと手を抜かせてたの?」 「違う。あれはこいつの全力だった」 「じゃあ本当の本当に、プラスパワー+のおかげでカイリキーに勝てるようになっちゃったわけ、この子は?」 サヤは頭の上のケーシィを見て、目をぱちぱちと瞬かせる。俺は笑いを堪えながら、 「それも違う」 「あれも違う、これも違うって……もう、教え惜しみしないで、タネを教えなさい!」 「こいつはズルをしたんだ」 「嘘。わたしにはケーシィがズルをしてるようには見えなかったし、 あれだけ周りを取り囲まれてたのよ、そんなことしたらすぐにバレるわ」 「"念力"は目に見えない」 「あ」 はっと口を押さえるサヤ。しかしすぐに首をかしげ、 「やっぱり納得できない。 いくらケーシィが念力でカイリキーの腕を押していたのだとしても、力比べで勝てるとは思えないもの」 「真正面から念力をぶつければ、確かにねじ伏せられていただろうな。 でも、サヤが思っているより、このケーシィは器用なんだ。 サヤは肘を浮かせた状態で、全力で腕相撲ができるか?」 「そんなの、無理に決まってるじゃない」 「ああ、誰でもそうだ。 ケーシィはカイリキーの肘を、"念力"でほんのわずか浮かせて、同時に自分の腕をアシストしていたんだ。 薬の効果も少しはあっただろうが、勝因の八割方は、ケーシィの悪知恵だ」 ケーシィの鼻をつつきながら、サヤは言った。 「ズルしたことをとやかく言うつもりはないけど、 あの研究室の学生さん、ものすごく驚いてたわよ。 実験データの取り直しが必要になるかもしれない、とか」 ケーシィはばつが悪そうに、しかし目に反省の色を浮かべることなく頭をかいた。
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要人の護衛。敵対組織の無力化。危険因子の抹殺。 博士の命令の内容は多岐に渡った。 俺はそれを何の疑問も抱かず、ただ淡々とこなしていった。 上層部の懐刀として、同組織の人物から謂われのない嫉妬や恨みを買う事も少なくなかった。 俺は心のどこかで潤いを求めていたのかもしれない。 最後に別れた日から約一ヶ月後のある日、 カイリュー便が俺の元に手紙を届けにきたとき、俺は肩の荷が下りたような、妙に軽い気持ちになった。 リザードンはそれを察したかのように、速力を上げてグレンを目指した。 屋敷に着くと、メイドは複雑な微笑を浮かべて俺を出迎えてくれた。 その真意を測りかねつつ裏手に出ると、全てに納得がいった。 「……………」 バトルフィールドの脇、申し分け程度に設えられたベンチの上で、 膝にヘルガーを乗せたまま、サヤがこっくり、こっくりと船を漕いでいた。 肩口まで伸びた赤髪の一部を、唇の端で食べているのにも気付いていない。 「サヤ」 「ん……」 サヤは半目で俺を認め、何度か瞬きした後で、 寝顔を見られた羞恥も忘れてこう言い放った。 「遅い!」 「これでも急いだ方なんだ」 「ずっと待ってたのよ。この私が! あなたのために! これってひどい裏切りだわ。私が呼んだらすぐに来るって約束したのに」 「だから俺は手紙を受け取ってからすぐに、」 「まあそんなことはどうでもいいの」 例によって会話が成り立たない。 「私、あなたの言う通りに頑張ってみたわ。 これがその成果よ。ほらほらみてみて」 紙束を差し出してくる。何かと思えば、写真だった。 逆光上等、残像上等の被写体は、なんとかヘルガーだと判別できる。 とすると、この酷い出来の写真を撮ったのは……サヤか。 「それは食事風景。会心の一枚よ。 私、あなたに言われて、ヘルガーに餌をあげる係をやってみて初めて分かったんだけど、 この子が生肉を食べる時ってなんかこう、物凄いのよ。必死なの。私、見てて笑っちゃったもの」 「………」 「それは散歩の時の写真ね。 いつもは付き添いが何人かいるんだけど、この時はヘルガーとだけにしてもらったの。 グレン島は何もないけど、海沿いの道は綺麗で好き」 写真の中には、屋敷の人間に撮ってもらったのだろう、 サヤとヘルガーが一緒に写っているものもあった。サヤの笑顔は無垢そのものだった。 こんな顔もできるのか。そう思って現実のサヤを見ると、まさに写真の中のそれと同じ表情が浮かんでいた。 しかし俺と目が会うと、それはすぐに消えて、元の挑戦的な表情に戻ってしまった。 「サヤはこの一ヶ月の間で、何か新しく発見したことはあったか?」 模範的な反応は期待していなかった。 「発見したことっていうか、再確認できたことがあるわよ」 「再確認?」 「ヘルガーが私に、本当の意味で心を許してくれることは、ずっと有り得ないだろうってこと。 どんなに私が上辺だけの愛情を注いだところで、ヘルガーは最初からそんなものを必要としていないのよ。 私が定期的に撫でてあげなければ、ヘルガーを抑えている見えない鎖は簡単に解けてしまう」 「…………」 「でも、ヘルガーが本当の意味で私を主と認めてくれなくても、 私のヘルガーに対する気持ちは………、少し、変わったかも。 この子も生きてるんんだなあって、そんな当たり前のことに、最近、気付いたの。 今まで、あたしにとってポケモンは、ただの消耗品だった」 サヤはポケモントレーナーとして、不幸な子供時代を過ごした。 無条件でポケモンを隷従させる。 そんな能力を持って生まれてしまったために、ポケモンと対等に接しようという思考が生まれなかった。 次第にその扱いが、道具に指示を出すように変わり、 愛撫が機械的、義務的なものに変わるのに、そう時間はかからなかっただろう。 ポケモンに対する生殺与奪の意識が希薄になっていったのも、仕方のないことのように思える。 だが――。 「サヤの境遇は、ポケモンを道具扱いしていたことの免罪符にはならない」 「ん……」 「これまでサヤが心なく接してきたポケモンに、償えとは言わない。 ただ、これからは"一匹"のポケモンとして扱ってやるんだ。 そうすればヘルガーもいつかは、サヤを能力関係なしに、主と認めてくれるかもしれない。 保証はできないが、やってみないことには何も始まらない」 「…………」 膝元のヘルガーに視線を落とすサヤ。 きつく言い過ぎたか? 「さっきから黙って聞いてたら偉そうに! なによ。もっと私の心の成長を誉めてくれてもいいんじゃないの?」 見当違いだったか。 「返して!」 箱入り娘の例に漏れず腕力は微々たるものだったが、 反抗しても余計にややこしくなりそうだったので、素直にひったくられた。 「捨てるのか?」 「そんなわけないでしょ。バカ」 そう言いながらサヤは、写真を大切そうに仕舞う。 「……悪かった」 「…………」 「サヤはサヤなりに俺の言ったことをしっかり実行してくれたのに、 すぐにサヤにそれ以上の負担を強いるのは、確かにバカだった。謝る」 「殊勝で結構。許してあげるわ」 満面の笑みが浮かぶ。サヤの機嫌が戻るなら、これくらいの台詞、安いものだ。 「でも……」 サヤはその翠眉をかすかに傾けて、 「これで本当に強くなれるの? ヘルガーと本当の主従関係を築く努力をすることが、強さと結びつくようには思えないんだけど」 「なら、バトルしよう。 前の時からどれほどサヤが変わったか、見定める」 「……いいわよ」 意外にもサヤはあっさり首肯した。 前回のあれがトラウマになっていなければいいと思っていたのだが……。 「あ、今私があなたとのバトルを怖がってるとか思ったんじゃないでしょうね?」 「思ってない」 即答だった。 結果は、前の時とそう変わらなかった。 しかし、得たものは大きかった。 「理不尽よ。あなた、強すぎるわ」 サヤは立腹した様子でベンチに横になっている。 ミディアムドレスの裾からすらりと伸びた足に目が行きそうになり、 「お嬢様がそんなだらしなくていいのか」 と言うと、サヤは反抗的に足をパタパタと動かしはじめた。 俺は紳士的に目を閉じた。 「私、なんだか前よりも弱くなってる気がするわ」 「そんなことはないさ」 「じゃあ、強くなった?」 「そんなこともない」 「ねえ、あなた私のことからかってる? もしそうだったら酷いわよ」 「具体的に、どう酷いんだ?」 「お父様に、あなたに陵辱されたって言う」 社会的抹殺か。確かに酷い。 「サヤは成長してる。それは確かだ」 「なら、何がどう成長したのか言いなさい」 「秘密だ。今教えたら、多分、意味がなくなる。それはサヤの望むところじゃないはずだ」 「うー……」 聞きたい。でも聞いてしまえば強くなれない。 ジレンマに苦しむサヤは見ていて面白かった。 実際のところ、サヤは確実に成長していた。 その最たるものはヘルガーへの命令に、ヘルガー自身の被ダメージが考慮されていたことで、 例えば前回、俺がフシギバナに"葉っぱカッター"を指示したとき、 サヤは迷わず焼き払いながらの正面突破を指示したが、今回は完全に凌ぎきった後で、反撃に転じさせていた。 その躊躇をサヤは「弱さ」と考えているようだが、それは違う。 本当の強さは、自分のポケモンを大切にする戦い方の先にあるのだと、いつかサヤが気付いてくれればいいのだが。 「………ねえ」 身を起こしたサヤは、不機嫌な眼差しを俺に注ぎながら言った。 「あなたも適格者なのよね?」 どうせサヤが父親に尋ねても分かることだ。俺は正直に頷いた。 「あなたのはどんな能力なの?」 「自分のポケモンの感覚や思考を読み取ることができる能力だ」 限定的な嘘は見抜けない。特にサヤのような、純粋な思考の持ち主には。 「はあ? もっと分かりやすく説明して」 「つまり、離れたところにいるポケモンが見たものや、考えていることを知ることができるんだ」 「あまりぱっとしない能力ね。それ、実戦で役に立つの?」 「ああ、大いに立つ」 「ふうん………」 サヤは興味を無くしたようにわざとらしい溜息をつき、 数秒の間をおいてから、こう尋ねてきた。 「あなたは前のバトルや、さっきのバトルで、その能力を使ってたの?」 「使ってない」 「……………」 サヤのプライドが焼け付く音が聞こえた気がしたので、俺がそろそろ屋敷を去ろうとした時、 「待って。ねえ、あなたって……」 言いよどむサヤ。デジャヴが俺を襲う。 コードネーム・レッド。サヤにはそれしか知らされていないはずだが、しかし、サヤが俺の素性を想像できないとは考え難い。 恐らくサヤは気付いている。そして俺に、言質を取りたがっている。 だが、それはできない相談だった。 「近々長期の任務がある。だからサヤの予定に合わせることはできない。次は、俺の方から来る」 俺はそう言い残して、屋敷を去った。 グレン島からさらに南下したところに位置する、名も無き孤島。 誰もその精確な位置を知らない、地図から失われた島。 そこでかつて、地上最強のポケモンを創造する研究が行われていた。研究は成功した。 そのポケモンの名は、ベースとなったポケモンの名をとって、ミュウツーと名付けられた。 しかし研究に携わった研究者のほとんどは、自我に目覚めたミュウツーの餌食となって、吹き飛んだ。 一時、その孤島はミュウツーの支配下に置かれ、ミュウツーが去った今では、研究施設の残骸が散乱しているのみである。 俺を含む実働部隊の数人に、その孤島を再調査する研究者の護衛任務が与えられたのは、サヤを二度目に訪れた日の数日前のことだった。 ブリーフィングで聞かされたのは、極めて第三者的かつ当時の事件の上辺をなぞっただけの情報に過ぎなかった。 そして当然のように、当時の事件に直接関わりを持たない人間は、「地上最強のポケモン」とうい響きに勝手な想像を巡らせていた。 「最強のポケモンってえのは、俺様が飼ってるポケモンのことを言うんだ。 嘘だと思うならここにつれてこい。一撃でぶちのめしてやる」 「ナンセンスだね、君は。まったくもってナンセンスだ。 どうしてパワータイプのポケモン使いには無粋な思考の持ち主が多いのかな。 僕なら最強のポケモンを見つけたら、無傷で捕まえて服従させてみせる」 血気盛んな黒色の短髪と、気取った喋り方をする金色の長髪。 その二人の同業者の語りに、俺は辟易していた。 今回の任務は秘中の秘で、護衛には相当の実力者が宛がわれると博士は言っていたが……。 この聖域に足跡を残すには、二人とも余りに思慮が欠けている。 俺は黙々と機材を使って現地調査に勤しむ研究者たちを眺めた。 皆一様に作業着に身を包んで、顔には幅広のマスクを着用している。 そのせいで誰が誰なのか、よほど目を凝らさない限り見分けが付かなかった。 「それにしてもそのポケモンは恩知らずもいいところだな。 生みの親を殺してどっかに行っちまうとは」 「確かに。知性の感じられない行動だね。 僕たち人間がいなければ、ミュウツーは世界でただ一匹の孤独を味わうことになるというのにね。実に愚かだよ。 いやはや、こんなことで君のような荒くれ者と意見が合うとは」 「…………」 何気なく流し目を送ったつもりが、若干の軽蔑を含んでしまっていたようだ。 「おい、お前」 反応したのは黒髪の短髪だった。 「さっきから黙ったまんまチラチラこっち見やがって。 レッド、とかいったな。なんか文句あるのか?」 「いや。ただ、浅はかだと思っただけだ」 「聞き捨てならないな。こっちの醜男は構わないが、この僕が浅はかだって?」 長髪がそれに便乗する。俺は波濤が岸壁にぶつかって砕けるのを眺めながら言った。 「ミュウツーの孤独は、同類がいないことじゃなかった。 ただこの世に生まれてきたことそのものが、ミュウツーの孤独だったんだ」 「はあ? 意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ」 「君は少し黙っていろ。 この世に生まれてきたことそのものが孤独、だって? ミュウツーは最強のポケモンとして生まれた。彼の誕生には多くの人間が喜んだはずだよ」 「あんたは根本的に勘違いしてる。 ミュウツーは生まれたその時から知性を持っていた。 ミュウツーは自分が創られた目的を知っていた。 だが、他人が自分に求める目的と、自分が生きる意味は別物だ。 そしてミュウツーは、自分が何故生きているのか、まずそれを確かめることから始めなければならなかったんだ」 潮風の吹く音が、静寂を満たした。 やや間を置いて、長髪が言った。 「レッドくん。君は何かミュウツーのことについて知っているような口ぶりだね。 実際のところ、君には謎が多い。部隊の人間の誰も君について詳しく知らないし、 組織要人の懐刀という噂もあれば、管理者と直接繋がりがあるという噂もある。 流石に後者は嘘だろうが、君が僕たちと違う種類の人間であることは確かだ。 君はいったい、」 何者なんだ?と続く前に、俺は言った。 「忘れたのか。組織では同業者に対して、その台詞はタブーだろう」 「……っと、そうだったね。失敬」 長髪が苛立ちを隠した微笑を顔に貼り付ける。 しかし短髪は収まりがつかないようで、 「いいじゃねえか。どうせ護衛つったって、何もねえ。退屈を持て余すだけだ。 ……お前、出来るんだろ?」 「出来るって?」 「これに決まってんだろうが」 短髪がベルトからボールを取り外す。 「俺が勝てば素性を明かせ」 「いいね、面白そうだ。僕は観戦しているよ。この醜男が負ければ僕が代わろう」 「待て。もしお前が負けたら、その時はどうするつもりなんだ?」 「そうだね。この任務中、僕たちは君に一切干渉しないと誓おう。どうだい?」 「………………」 いたずらに手の内を明かすような真似はしたくない。 だが、二人の関心が自然に俺から反れるとも考え難い。 研究員の一人が間に入ってきたのは、俺が安直な結論を出しかけたその時だった。 「若者は血の気が多くてあかんなあ。 何があったか知らんけど、ワイらの護衛の任務サボって仲間割れするんは誉められたことやない。 さっさと配置に戻った方がええで」 振り返る。固く抑えつけていた記憶の蓋が、僅かに開く。 幅広のマスクは顔を隠せても、独特の関西弁までは隠せない。 もう何年ぶりの再会になるのだろう。マサキ博士がそこにいた。 「さ、主任来る前に散った散った。 そんなに暇やねんやったら、ワイらの調査作業手伝ってもらおか?」 長髪は前髪を指で弄りながら、 「ふっ、僕としたことが熱くなってしまっていたようだ。 それでは配置に戻るとするよ。レッドくん、またいずれ」 あっさりと持ち場に消えていった。 「ふん」 短髪も鼻を鳴らして、その後に続いた。 残された俺とマサキ博士は、しばし視線を平行させた後、同時に話しかけた。 「マサキ博士」 「サトシくん」 「……………」 「……………」 沈黙は肯定と同義だった。 「やはりあなたでしたか」 「やっぱり君やったか」 マサキはマスクを外しながら、複雑な笑顔を浮かべた。 きっと俺の表情にも、同じものが浮かんでいるに違いない。 「どうしてここに?」――そう尋ねることは禁忌だと、お互いに分かっている。 だからお互いに、何の足しにもならない感想を言いあった。 「君は大人になったなあ」 「博士も老けましたね」 「ワイらは歳を取った。いい意味でも、悪い意味でも……な。 サトシくん……いや、レッドくんは、この調査についてどれだけ知ってるんや?」 「ミュウツーが創られた島で、当時の研究資材の収集、及び発掘作業をすると説明を受けました」 「その遺物を使って何をするかは知ってるんか?」 「知りません。しかし、大方、ミュウツーをベースに新しいポケモンを創る研究をするのでは?」 「正解や。まあ、ここまでは誰でも想像できる話やな」 マサキ博士はそこで不意に声を潜め、 「けど、作業に直接関わってるやつらの話やと、想定外の遺物が発見されたっちゅう話や。 ミュウツーの件に偶然とはいえ関わってた君なら、知ってるかもしれん。白い模様が入った真っ黒のボールに、見覚えないか?」 「…………」 目を瞑ると、フラッシュバックに襲われた。 ポケモンを強制的に格納する、自律型ボール。 孤島に呼ばれた他のトレーナーのポケモンが次々に捕まる中、 俺のピカチュウもそれに襲われて、俺は連れて行かれそうになるピカチュウを必死で追いかけて――。 「レッドくん?」 追憶をやめて、首を横に振った。 「そうか。まあ、何か思い出したらその時教えてくれたらええわ」 これ渡しとくから、とマサキは俺に個人用の名刺を握らせた。 「ワイは皆のとこ戻るわ。君も油売ってたらあかんで」 踵を返そうとする博士に、俺は言った。 「ミュウツーをもう一度創ることについて、博士はどう思っているんですか」 博士は振り返らずに、突き放すような口調で言った。 「レッド。そういう君はどう思てるんや?」 「俺は――」 答に詰まる。結局俺は、オーキド博士の言葉通りに動いているだけだ。 ミュウツーの再研究が、博士の目的、延いては俺の夢に繋がるというなら、 胸の内で警笛を鳴らしているちっぽけな倫理観など、無視してかまわない。 そんな文句を、俺は心の中で何度も唱えてきた。 「ワイはな、何も考えてへんねん。ワイは蓄えた知識と才能を買われて、組織に飼われてる。 研究対象が何であれ、研究しろ、言われたら研究するしかないんや。 先輩風ふかすようやけど、君がもしまだ迷ってるんやったら、 自分は組織を動かすひとつの歯車やと思い込むんが、一番賢い道やで」 孤島の調査が終わり、本州に戻ると、俺は約束通り自分からサヤに会いにいった。 「急いでくれ」 飛行中、ふとした拍子に口から零れた命令に、リザードンは非難するような唸り声で答えた。 俺はサヤと会うことで、心の奥で鳴り続ける警鐘から意識を逸らそうとしていたのかもしれない。 組織の繋がりで出会ったにも拘らず、サヤと会っている時は組織のことを考えずにすんだ。 遂行した任務の数々を、その中で殺めたポケモンたちを思い出さずにすんだ。 組織のヒエラルヒーをのし上がる達成感とは裏腹に、胸の内を蝕む虚無感から目を逸らすことができた。 屋敷に着くと、例によって例の如く召使いが現れた。 三度目の訪問となると流石に顔を覚えられる。 「レッド様。ようこそおいでくださいました」 「サヤは?」 「裏庭でポケモンバトルを嗜んでおいでです」 「ありがとう」 裏庭に抜けると、確かにサヤは若い女の使用人を相手にポケモンバトルをしていた。 しかしそれはポケモンバトルというよりは、予定調和の演劇に近かった。 「いい? ここでチコリータが、こう、しゅばーっと"葉っぱカッター"を飛ばすの! そしたら私のヘルガーがそれをしゅんって躱して、一気に近づくの。 チコリータは近づかれたら負けちゃうの分かってるから、"地震"と"ソーラービーム"でヘルガーを撃退しようとするの。 でもヘルガーは地震に怯まないで、ソーラービームを撃たれる前に、チコリータをぼかーんって吹き飛ばすのっ! 分かった?」 「サヤ様、わたくしめのチコリータはレベルが低く、進化もしていないため、"地震"や"ソーラービーム"を習得しておりません」 「あーもー。使えない子ね。じゃあ最後の二つは無しでいいわよ」 面白そうなので隠れて見ていようかと思ったが、 使用人が助けを求めるような視線を向けてきたせいで、サヤに気付かれてしまった。 「…………」 俺の姿を認めたサヤがフリーズする。 「あー……今のは、最初のポケモンバトルの焼き直しか?」 ただし脚本の結末だけは、ヘルガーの勝利に書き換えられていたような気がするが。 「……見てたの?」 「ああ」 「どこから?」 「シナリオを説明するあたりからだ。 サヤの向上心は認めるが、そういう練習方法はあまり効果的とは言えないな」 「で、ですよね」 ヘルガーの前に立たされてぶるぶる震えていたチコリータを抱き上げて、使用人は安堵の笑みを浮かべた。 俺も笑った。 サヤは激怒した。 「忘れて! 今すぐ忘れて! あーあーあーあー。 今のはアレよ。アレ。復習?そう、復習よ。 どうしてあのとき負けたのかなーって、ほら、あの時の状況を再現して敗因を確かめるみたいな? あーもーやだやだやだやだ。どうしてよりによってこんな時にあなたが来るのよ!」 今のサヤには支離滅裂という表現がぴったりだな。 「落ち着け」 「落ち着けるわけないじゃない! そもそもわたしがこんな醜態をさらした責任は全部あなたにあるのよ。 ハッキリ言って、私はあなたに負けたのが悔しいの。夢に見るくらい悔しいの! それで屈辱にたえてあなたにポケモンバトルを教えてもらうことにしたのに、 あなたったらあやふやなことばっかりで、ちっとも具体的なこと教えてくれないじゃない。 しかも私が呼んだ時には遅刻するし、長期の任務とかでなかなか来てくれないし」 確かに、サヤの言うことにも一理ある。 俺はサヤが成長することを望んでいながら、 サヤに満足感や達成感を与えてやることを忘れていた。 「じゃあ、約束する。俺はこれから二週間おきに、ここに来る」 「だめ。一週間おきがいい」 「間をとって十日でどうだ」 「しかたないわね。妥協してあげる」 「約束成立ね」 はい、と小指を差し出すアヤ。 「……………」 「わたしにいつまでこうさせているつもり? まさかあなた、指切り知らないの?」 最後に誰かと指切りしたのはいつだろう。 そんな風に自分を誤魔化しても、あの時の記憶は鮮明に脳裡に刻み込まれている。 チャンピオンロードを目前に控えた、仲間との別れの日。 カスミは目に浮かぶ涙はそのままに、小指を差し出して言った。 ――『指切りして、サトシ』―― 記憶の中の優しい声は、それでいて俺を苛むようで……。 『絶対にポケモンマスターになって帰ってくるのよ。 負けたら承知しないんだからね』 『ああ、分かってる。行ってくるよ、カスミ』 『サトシ……待ってるから』 絡めた小指と、交わした口吻の感触を、俺は今でも忘れることができない。 「じれったいわね、もう」 サヤの手が、俺を追憶から現実に引き戻す。 ふと気付けば、俺の右手の小指は、サヤのそれに絡まっていて、 「やめろ!」 「きゃっ!?」 無意識で突き飛ばしていた。それも、かなり強い力で。 「大丈夫ですか、サヤ様!?」 使用人が駆け寄る。 しかしサヤは、俺に対する怯えよりも怒りが勝ったようだ。 「なんなのよ急に!」 「………悪かった」 「悪かったで済むことじゃないでしょ! どうして指切りくらいで突き飛ばされなくちゃならないのよ。説明して!」 「それは……できない」 「だから、どうして?」 「俺自身、うまく説明できないんだ」 「……そんなの、理由にならないわ」 「本当に謝る。許して貰えるなら、サヤのいうことを一つ、何でも聞いていい」 謝意は本物だった。 だが最後の一言は、余計だった。俺はサヤの願いが即物的なものであると思い込んでいた。 「じゃあ、今からする質問に、イエスかノーで答えて」 「いいだろう」 サヤは自分の身体を気遣う使用人を下がらせ、妙に真剣な面持ちでこう言った。 「あなたは、ポケモンリーグ永世チャンピオンのサトシなの?」 何でも聞くと大見得を切ったんだ。 黙り込んだり、ふざけたりで誤魔化せる状況じゃない。 「……ああ」 頷くと、使用人とサヤ、二人分の息を呑む音がした。 「お父様が言ってたこと、やっぱり本当だったんだ……。 あなたはお父様が知る中で、一番強いポケモントレーナーだって……ポケモンリーグの英雄だって……」 直接名前は明かさずとも、十分なヒントは与えられていたということか。 時間差はあるにせよ、正体がばれるのは時間の問題だったということだ。 「薄々あなたの正体には気付いてたつもりだったけど、でも、まさか本当の本当にあなたがあのサトシだったなんて……」 そこでサヤは思いっきり深く息を吸い込み、 「そんなの、最初からあたしが勝てるわけないじゃないのよーっ!!」 突然、ヘルガーもびっくりの声量で吠えた。 怯む俺に詰め寄って、「よくも騙してくれたわね」と訳の分からない言いがかりをつけてくる。 助け船は予想外の方向から現れた。 「わあ、わあわあわあっ……」 チコリータが宙を舞う。 愛する自分のポケモンを放り投げ、代わりにサイン色紙を胸に抱いた使用人が、サヤを押しのけて言った。 「僭越ながら、サインをお願いします。私、あなたの大ファンなんです。ほんとうです」 「出過ぎた真似はよしなさい!」憤るサヤ。 「ここは譲れません。ほら、サヤ様も遠慮をなさらずに」一歩も引かない使用人。 「私は何も遠慮してないわよ! いい加減にしなさい」 実力行使に出たサヤに、使用人は渋々といった様子で俺から離れ、屋敷に歩いていった。 俺はその後ろ姿に向かって言った。 「できれば屋敷の人間にも、俺の正体は秘密にしておいて欲しい」 振り返った使用人の表情は、清々しい晴れやかな笑顔だった。それを見て確信した。 今日中には屋敷の人間は誰一人余すことなく俺の正体を知ることになるだろう。 外部の人間に組織の情報を漏らせば、自ら死を望むほどの制裁が待っている。 流石に噂話も身内止まりだろうが……。 「ねえ、あなた今何歳なの?」 「19だ」 「やっぱり……あのサトシがあなたなら、それくらいよね」 「女性に年齢を尋ねるのは失礼なのを承知で聞くが、サヤは?」 「21よ」 「嘘だろう」 「それはこっちの台詞よ」 サヤの見た目や行動は、21という年齢にしては幼すぎた。 そして、 「あなた、私より2つも年下のくせに、大人びすぎてるのよ。 初めて会った時は、絶対に年上だと思っていたもの」 俺は年相応の風貌を失ってしまっていた。 そのせいで街を歩いても、俺の過去の姿に気付く人間は誰一人としtいなかった。 名声を得た人間は否応なしに記号化される。 キャップを被り、黒の肌着の上に半袖のシャツを着て、擦り切れたジーンズとよれよれのスニーカーを履いた少年。 それが大衆が想像する『サトシ』であり、喪服のような正装をした無表情の男には見向きもしない。 博士はことあるごとに言う。『お前は表情を無くしたのう』と。 感情を抑え込む訓練をしているうちに、 いつしか俺は腹の底から笑ったり、涙するほどに悲しむということができなくなっていた。 「あ……えと……」 サヤは不自然にもごもごと口を動かしては、視線を上げたり降ろしたりを繰り返した。 「どうしたんだ?」 「ね、どうしてあなたみたいな人が、組織にいるのか聞いてもいい?」 「………」 俺の正体が分かれば、次に組織に入った経緯を知りたがるのは必然だった。 「詳しいことは言えない」 「うん」 問い詰めたい気持ちもあるだろうに、サヤは素直に頷いた。 「俺には、夢がある」 「夢?」 「ああ。そしてその夢を叶えるには、組織に所属するのが、一番の近道なんだ。 それに、俺は組織の任務で、表に出てこないトレーナーと戦って、 ポケモンリーグの頂でさえ、井の中の蛙と変わらないことを思い知った。 俺は夢を叶えるために、誰よりも強くなるために、ここにいる」 「ふうん……その夢が何なのか、いつか、私に教えてくれる?」 俺は何も言わなかった。 サヤは期待を込めた上目遣いを脇に逸らし、不平をぶつけてくるかと思いきや、 「お話終わり。そろそろ私にポケモンバトルを教えなさい、サトシ」 まるで初めて会った時から使っていたかのような自然さで、俺の名――コードネームではない本名――を呼んだ。
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ミッドガルドの午後 山賊団の来襲 追跡者ディース 広場での遭遇 因縁のゴブリン盗賊団 囚われた人形の奪還