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平成17年(ヨ)第20080号 株式分割差止仮処分命令申立事件 決 定 主 文 1 本件申立てを却下する。 2 申立費用は債権者の負担とする。 理 由 第1 申立ての趣旨 債務者が平成17年7月18日の取締役会決議に基づいて現に手続中の株式分割を仮に差し止める。 第2 事案の概要 1 本件は,債務者の株主である債権者が,債務者が平成17年7月18日の取締役会決議に基づいて現に手続中の株式分割について,①当該株式分割が商法218条1項,証券取引法157条及び民法90条等の法令に違反し,又は著しく不公正な方法によるものであることを理由とする商法280条ノ10の適用又は類推適用による差止請求権,②当該取締役会決議が商法218条1項等の法令に違反することを理由とする取締役会決議無効確認請求権,③当該株式分割が債権者の営業権を侵害するものであることを理由とする差止請求権をそれぞれ本案の請求権として,当該株式分割を仮に差し止めることを求めた事案である。 2 前提事実 後掲の疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,以下の事実が一応認められる。 (1) 債務者 債務者は,昭和29年7月13日に設立され,「都市及び地域の計画・設計」,「道路・交通・橋梁及びトンネルの計画・設計」及び「河川・農業土木・上下水道及び廃棄物処理の計画・設計」を主な業務とする建設コンサルタント業を営む株式会社である。平成17年7月20日現在,債務者は,資本金15億5460万円,発行する株式の総数1200万株,発行済株式総数744万7440株であり,その発行する普通株式を株式会社ジャスダック証券取引所に上場している。債務者においては,単元株制度が採用されており,1単元の株式の数は1000株である。 債務者の定款には,債務者は,原則として,毎決算期最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を行使し得る株主(実質株主を含む。)をもって,その期の定時株主総会において議決権を行使することができる株主とすること,定時株主総会は,毎決算期の翌日から3か月以内に招集すること,営業年度は,毎年7月1日から翌年6月30日までとし,その末日をもって決算期としていることの記載がある。 (甲1,2) (2) 債権者 債権者は,有価証券の保有,売買,投資及び運用業務などを目的とする株式会社であり,施工図作図や施工管理業務の請負事業及び環境プラントの運転維持管理業務を主たる業務としている夢真グループの純粋持株会社である。平成17年7月20日現在,債権者は,資本金8億0514万7000円,発行する株式の総数1億6000万株,発行済株式総数7457万3440株であり,その発行する普通株式を株式会社大阪証券取引所ヘラクレスに上場している。 債権者は,平成17年7月21日現在,債務者株式50万9000株(発行済株式総数の約6.83パーセント)を保有する債務者の筆頭株主である。 (甲3,4の1,2,甲6) (3) 債権者による債務者との接触 日興コーディアル証券株式会社の担当者は,債権者から依頼を受けて,平成17年5月10日,債務者を訪ね,債務者株式の51%を取得する意向のある企業があることを伝えた。また,同証券株式会社の担当者は,再度債権者の依頼を受けて,同月26日,債務者を訪ね,債務者株式を51%取得する意思がある企業は債権者であることを伝えた。 (甲46,乙2) (4) 債権者による債務者株式の取得状況 債権者は,次の日において,次の数量の債務者株式を取得した。 ① 平成17年6月15日 32万9000株 ② 同月16日 3万株 ③ 同月17日 4万株 ④ 同月20日 1万5000株 ⑤ 同月21日 1万6000株 ⑥ 同月22日 1万株 ⑦ 同月23日 1万8000株 ⑧ 同月24日 2万株 債権者は,関東財務局長に対し,平成17年6月24日,上記のとおり,同月17日時点で,債務者株式39万9000株(発行済株式総数の約5.36パーセント)を保有したため,その旨の大量保有報告書を提出し,同月28日,上記のとおり,同月24日時点で,債務者株式47万8000株(発行済株式総数の約6.42パーセント)を保有するに至ったことから,大量保有報告書の変更報告書を提出した。 その後,債権者は,債務者株式を更に取得し,(2)のとおり,平成17年7月21日時点では,50万9000株(発行済株式総数の約6.83パーセント)を保有するに至っていた。 (甲5の1,2,甲6) (5) 債務者と債権者との会談 債務者が債権者に債務者株式を大量に取得した目的等を聴くために面会したい旨を申し出たことにより,債権者と債務者とは,平成17年7月7日,会談を行った。 その際,債権者は,債務者を良い会社と認識していること,債権者としては類似の業種の会社とグループを形成することによりシナジー効果を生み出し利益を上げるという戦略を考えていること,債務者は高い技術を有しているので将来は債権者グループの中核となってもらいたいと考えて業務提携を申し入れているものであること,債務者の業務内容を把握させてもらい,できれば債務者と一緒になって協力してやっていきたいこと及び今後も債務者株式を買い増していきたいことを話した上,債務者として会社を発展させるためにどのような考え方を有しているか,債務者が債権者と一緒にやっていく意思があるか否かを尋ねた。これに対し,債務者は,今回は債権者の話を聞いて債務者としての考え方を整理したり,色々検討したい旨話した。そ こで,債権者は,業務提携の協議に応じるか否か,協議に応じる場合における業務提携の条件などについて債務者の考えをまとめて同年7月11日ころまでに提示してもらいたい旨要望し,細かい条件など各論については協議を開始した後で話し合えばよいことや協議の結果互いの利益に資さないのであれば考え直せばよいことなどを話した。これに対し,債務者は,協議の上,書面ででも質問をさせてもらいたい旨述べるとともに,同月15日まで待てないかと要望した。これを受けて,債権者は,希望は同月11日であるが同月15日までに債務者の意見をまとめてもらえば結構である旨回答した。 (甲35,46,64,乙2,3) (6) 債務者による本件大規模買付ルールの導入 債務者は,平成17年7月8日,「大規模買付行為への対応方針に関するお知らせ」という文書を公表し,その中で,「特定株主グループの議決権割合が20パーセント以上とする債務者株券等の買付行為,又は結果として特定株主グループの議決権割合が20パーセント以上となる債務者株券等の買付行為に対する対応方針をとりまとめ,平成17年7月8日に開催された債務者取締役会において,以下のとおり決定した。」旨の前文に続き,大規模買付ルールの必要性として「債務者取締役会は,公開会社として債務者株式の自由な売買を認める以上,特定の者の大規模買付行為に応じて債務者株式の売却を行うか否かは,最終的には債務者株式を保有する株主の判断に委ねられるべきものであると考えている。したがって,債務者取締役会として は,株主の判断のために,大規模買付行為に関する情報が大規模買付者から提供された後,これを評価・検討し,取締役会としての意見をとりまとめて開示する。また,必要に応じて,大規模買付者と交渉したり,株主へ代替案を提示することもある。」旨明らかにし,また,債務者において「事前の情報提供に関する一定のルール」(以下「本件大規模買付ルール」という。)を導入し,本件大規模買付ルールの内容として,「①事前に大規模買付者が債務者取締役会に対し十分な情報を提供し,②債務者取締役会による一定の評価期間が経過した後に大規模買付行為を開始する。」ものとした。さらに,大規模買付行為がされた場合の対応方針のうち,大規模買付者が本件大規模買付ルールを遵守しない場合のものとして,「大規模買付者により,大規模買 付ルールが遵守されなかった場合には,具体的な買付方法の如何にかかわらず,債務者取締役会は,債務者及び債務者株主全体の利益を守ることを目的として,株式分割,新株予約権の発行等,商法その他の法律及び債務者定款が認めるものを行使し,大規模買付行為に対抗する場合がある。具体的にいかなる手段を講じるかについては,その時点で最も適切と債務者取締役会が判断したものを選択することとする。ただし,債務者取締役会が具体的対抗策として一定の基準日現在の株主に対し株式分割を行うことを選択した場合には,株式分割1回につき債務者株式1株を最大5株に分割する範囲内において分割比率を決定するものとする。」旨明らかにした。同月9日の日刊新聞紙では,同月8日に本件大規模買付ルールを発表したこと及び債務者取締役の 説明として「債権者から現時点で取得目的を聞いていない。債権者の取得以前から対応策の導入は検討していた。」と報道された。 (甲7,8) (7) 債権者取締役会における公開買付けの決定 債権者は,平成17年7月11日早朝,取締役会において,次のような内容の決議をした。 ア 次の条件で,債務者株式を公開買付けにより取得すること。 ① 買付けを行う株券等の種類 普通株式 ② 公開買付期間 平成17年7月20日から同年8月9日までの21日間 ③ 買付価格 一株につき550円 (注) 公開買付期間中に債務者が対象株式について株式分割を行う場合,債権者は分割比率に応じて買付価格を調整する。 ④ 買付価格の算定の基礎 債務者株式の株式会社ジャスダック証券取引所における平成17年7月13日に先立つ3か月の株価終値の平均に約68%のプレミアムを加えた金額 ⑤ 買付予定株式総数 349万1000株 買付予定株式数 98万1000株 超過予定株式数 251万株 (注1) 公開買付期間中に債務者が対象株式について株式分割を行う場合,債権者は分割比率に応じて買付予定株式総数,買付予定株式数,超過予定株式数を調整する。 (注2) 応募株券の総数が買付予定株式数98万1000株に満たない場合は,応募株券の全部の買付けを行わない。 (注3) 応募株券の数の合計が買付予定数及び超過予定数の合計株数349万1000株を超えるときは,その超える部分の全部又は一部の買付けは行わないものとし,証券取引法27条の13第5項に規定する按分比例の方式により,株券の買付け等に係る受渡し,その他の決済を行う。 ⑥ 公開買付けによる所有株式数の異動 買付前所有株式数 50万9000株(所有比率6.83%) 買付後所有株式数 400万株(所有比率53.71%) ⑦ 公開買付けに要する資金 19億2005万円 (注)買付予定株式総数349万1000株を買い付けた場合の見積額。買付予定株式総数は,債務者が公開買付期間中に株式分割を行った場合,分割比率に応じて調整する。 ⑧ 公開買付開始公告日 平成17年7月20日 ⑨ 公開買付代理人 KOBE証券株式会社 イ 債務者が債権者による買付けに対する対抗策として公開買付期間の完了の前の一定の日を基準日とする株式分割を行う可能性があることから,これに適切に対応するためには買付条件としてあらかじめ希釈化防止条項を定め,かつ,かかる株式分割が行われることを公開買付けの撤回の条件として指定することが必要であること,しかし,そのような買付条件を付することが証券取引上認められるかについて解釈上不明確な点があることにつき,法律顧問である三井法律事務所の弁護士から助言を受けていること,したがって,希釈化防止条項等が金融庁等監督当局により認められず株式分割への対抗策が容認されなかった場合には,公開買付けの条件を訂正するか,又は公開買付けを行わないこととすること。 ウ 本件公開買付けを行うことを公表すること。 (甲10の1,2) (8) 債権者による公開買付けの公表 債権者は,平成17年7月11日午前8時40分,「公開買付けに関する取締役会決議についてのお知らせ」を大阪証券取引所における適時開示制度を通じて公表し,債権者が債務者株式を公開買付けにより取得する場合における条件等について決議したこと及びその内容を明らかにした。 (甲13) (9) 債務者の債権者による公開買付けに対する対応の公表 債務者は,平成17年7月11日,「当社株式の公開買付けに係る当社の対応に関するお知らせ」を公表し,その中で,「平成17年7月11日付け公表の『公開買付けに関する取締役会決議についてのお知らせ』は債権者独自の判断によるもので,債務者は全く関与していない。本公開買付けに関する債務者の今後の方針については,現在検討中であり,確定次第お知らせする。」旨明らかにした。 そして,債務者は,同日,「当社株式に対する公開買付決議への対応について」を公表し,その中で,「債務者は,平成17年7月8日付けで,大規模買付行為を行う場合には事前に債務者取締役会に対して十分な情報を提供すること及び一定の評価期間が経過した後に大規模買付行為を開始すること等を定めた大規模買付ルールを導入し,かかるルールを『大規模買付行為への対応方針に関するお知らせ』で公表した。本件公開買付けは大規模買付行為に該当するが,債権者は,債務者取締役会に対し十分な情報を提供することなく本件公開買付けに関する公表を行いました。」旨及び「債権者からは,債務者取締役会に対し具体的な提携の申入れはされていない。本件公開買付けの実施は,債務者取締役会に十分な情報が提供されておらず,また, 十分な評価期間も置いていない点で,大規模買付ルールに反するものである。債務者としては,債務者株主全体の利益に鑑み,債権者に対し,大規模買付ルールにのっとり,十分な情報の提供を求め,また,かかる情報の提供から一定の評価期間が経過するまで公開買付けの開始を延期するよう強く求める。債権者が大規模買付ルールを遵守せずに大規模公開買付行為を開始する場合には,債務者は『大規模買付行為への対応方針に関するお知らせ』で公表した対応方針に従って,対抗措置を講じる場合がある。」旨明らかにした。 (甲14,15) (10) 債権者の反論の公表 これに対し,債権者は,平成17年7月12日,「日本技研開発株式会社のプレスリリースに関するお知らせ」を公表し,その中で,「実際は,債権者の代表取締役会長及び代表取締役社長が平成17年7月7日に債務者の代表取締役会長及び代表取締役社長との間で面談を行い,具体的な提携協議に関する申入れを行っている。」旨及び「債権者は,今後とも引き続き,債務者に対し既に行っている具体的な提携協議の提案に対する回答を求めるとともに,債務者及び債権者グループの企業価値の拡大を目指すためのパートナーシップについて申入れを継続していく予定である。」旨明らかにした。 (甲16) (11) 債務者の債権者への要請 債務者は,債権者に対し,平成17年7月12日,債権者が同月11日付けで公表した「公開買付けに関する取締役会決議についてのお知らせ」についての通知書を送付し,その中で,次のような内容の要請をした。 ア 債務者代表取締役宛てに大規模買付ルールに従う旨の意向表明書を提出すること。 イ 以下の情報の提供を提供すること。 ① 債権者及び夢真グループの概要 ② 公開買付けの目的及び内容 ③ 債務者株式の取得対価の算定根拠及び取得資金の裏付け ④ 債務者の経営に参画した後,向こう5年間に想定している経営方針,事業計画,財務計画,資本政策,配当政策,資産活用策等を含めた,大規模買付ルールに従い株主の判断のために必要かつ十分な大規模買付行為に関する情報 ウ イの情報の提供から一定の評価期間が経過するまで公開買付けの開始を延期すること。 エ 同月15日午後5時までに公開買付けの開始を延期することを債務者に通知するとともに,公表すること。 (甲17) (12) 債権者の方針の公表 債権者は,平成17年7月14日,「買収防衛策への当社方針に関するお知らせ」を公表し,その中で,「『債権者は,下記の方針に従い,債務者株式に対する公開買付けを実施することを予定して』おり,その『方針』として,いわゆる『平時』に導入された買収防衛策であって,かつ,その内容が合理的なものである場合は,債権者は,これを尊重すること,買収防衛策の合理性については,株式分割や新株予約権等,商法上の制度を,法が予定する本来の目的とは異なる買収防衛目的のために『転用』する場合には,買収防衛策が,『転用』を正当化するだけの理由を備えていることが必要であり,例えば,『買付者に対し,対象会社の個社事情に鑑み不当に過大な情報の提供を強要する防衛策』,『防衛策の発動について,現経営陣の恣意的な 判断を排除する仕組みのない防衛策』,『買収者に対し,不当に長期にわたる検討プロセスを強要する防衛策』,『一定の検討プロセスの終了後,買付者が公開買付けを実施することを阻害するような防衛策』及び『その他証券取引法の目的に反しており,健全な市場を破壊するような防衛策』は,企業価値及び株主共同の利益の確保又は向上に資するものとはいえず,認められない。」旨の見解を明らかにした。 (甲18) (13) 債権者による関東財務局への上申書の提出 債権者は,関東財務局に対し,平成17年7月15日,上申書を提出し,その上申の趣旨として「1 公開買付けを行う者が,公開買付期間中に株券の発行者が商法218条に定める株式分割に関する取締役会決議を行い,かつ,かかる決議において公開買付期間中の一定の日を同法219条1項に定める『会社ノ定ムル一定ノ日』として定めた場合に備えて,公開買付届出書に記載する買付け等の価格に関して,予め希釈化防止規定を設けておき,実際に株式分割がなされた場合は希釈化防止規定に従って株式分割の分割比率に応じて,買付予定の株券等の数を増加させるとともに,買付価格の修正を行うことは,認められると考える。2 買付者が,公開買付開始及び公開買付届出書において,予め,公開買付けを撤回する条件として対象者が公開 買付期間中に株式分割の基準日を設定することを指定し,実際に公開買付期間中に株式分割の基準日が設定された場合に公開買付けを撤回することは,認められると考える。」と述べた。債権者は,同月15日,関東財務局宛ての同上申書を債権者のホームページ及び大阪証券取引所適時開示制度を通じて公表した。 (甲19の1) (14) 債権者による債務者要請の拒絶 債権者は,平成17年7月15日,債務者の(11)の通知書に係る要望に応じないことを決定し,債務者の要請に応じない旨を公表した。その中で,債務者の要求に応じない理由として,「債務者による情報提供の要請は不合理である」,「防衛策の発動が,現経営陣の恣意的な判断に委ねられている」,「公開買付けの開始を延期する理由が存在しない」などを明らかにした。 さらに,債権者は,同日,債務者株式を取得する目的などを説明する「企業価値向上へ向けた提携の検討資料」と題する資料を債権者のホームページに掲載した。 (甲19の2,20,38,39) (15) 債務者の対応方針の公表等 債務者は,平成17年7月15日,「大規模買付ルールに基づく今後の対応方針について」を公表し,その中で「債権者が大規模買付ルールに従わず本件公開買付けを進めることを選択する場合には,債務者取締役会は,本件公開買付けについて十分な情報を得た上で検討の結果を株主に伝えることができず,本件公開買付けの条件の見直し等について債権者と交渉することも困難となる。その結果,株主は,代替案の提案を受ける機会もなく,限られた情報に基づき短期間に本件公開買付けに応ずるか否かの決定を強いられることとなり,この事態は,株主全体の利益に反するものと考えられる。仮に債権者が大規模買付ルールに従わず本件公開買付けを開始される場合には,債務者は対抗措置を講ずる。」旨を明らかにした上,具体的な対抗措置と してこの時点で想定しているものの一つとして,「株式分割を実施する場合には,本件公開買付けの完了前の日を基準日とする1対5の株式分割を行い,基準日と分割の効力発生日との間には現行の実務に従い50日以上空ける予定である。」旨を明らかにした。 また,債務者は,債権者に対し,同日,警告書を発送し,その中で,同月12日付けの(11)の通知書で要請した同月15日午後5時までを期限とする通知を受けていないこと,大規模買付ルールに従わず開始された本件公開買付けに対しては,対抗措置を講じざるを得ないこと及び大規模買付ルールの運用に関し要望があれば協議することを明らかにした。 (甲24,乙8) (16) 債権者による債務者等への警告書の発送 これらに対し,債権者は,債務者及び債務者代表取締役に対し,平成17年7月16日,警告書を発送し,その中で,「公開買付けにおける買付け等の価格について予め希釈化防止条項を設ける。この希釈化防止条項の有効性は明らかであるので,債務者及び債務者代表取締役らの対抗措置は奏功しないが,万が一,債務者及び債務者代表取締役らの対抗措置が奏功した場合には,債務者及び債務者代表取締役らは悪意により債権者の財産権を侵害したことは明らかであるから,債務者は民法44条に基づいて,債務者代表取締役らは民法709条及び商法266条ノ3に基づいてそれぞれ責任を負うこととなる。」旨警告した。 債権者は,同日,「日本技術開発が主張する対抗措置としての株式分割に関する当社の方針について」と題するプレスリリースを公表し,その中で,債務者等に警告書を発送したことなどを明らかにした。 (甲25,26) (17) 本件取締役会決議 債務者は,取締役会において,平成17年7月18日,大規模買付ルールに従ったものとして,次のとおりの内容の株式分割(以下「本件株式分割」という。)及びこれに伴う債務者が発行する株式の総数を増加させる定款変更の決議(以下「本件取締役会決議」という。)を行った。 ① 分割の方法 同年8月8日最終の株主名簿及び実質株主名簿に記載された株主の所有普通株式1株につき5株の割合をもって分割する。 ② 株式分割により増加する発行済株式総数 株式分割前の債務者発行済株式総数 744万7440株 株式分割により増加する株式数 2978万9760株 株式分割後の債務者発行済株式総数 3723万7200株 ③ 増加する債務者が発行する株式の総数 株式分割前の債務者が発行する株式の総数 1200万株 増加する債務者が発行する株式の総数 4800万株 株式分割後の債務者が発行する株式の総数 6000万株 ④ 配当起算日 同年7月1日 ⑤ 効力発生日 同年10月3日 債務者は,さらに,同年7月18日,「株式分割に関するお知らせ」を公表し,その中で,①本件取締役会決議をしたこと,②株式分割の目的は,「債権者が法的に可能かどうか議論がある価格調整条項や株式分割を撤回自由とする撤回条項付きで公開買付けを行った場合に惹起される市場の混乱をできる限り回避する試みとして,債権者が公開買付けを開始する前に本件取締役会決議を行うことが最も適切と判断した。」点にあること,③債権者が「平成17年8月1日午前零時までに,公開買付けを含む債務者株式の大規模買付行為を同年9月末に予定されている債務者定時株主総会満了まで開始しない旨を決定し,その旨をプレスリリースした場合には,債務者は本件取締役会決議を撤回し,その旨を株主に速やかに公表すること,④債権者によ るかかる決定・プレスリリースが同年8月1日午前零時までにされない場合又はされない可能性が高いとなったと債務者が判断した場合には,本件取締役会決議に加え,又は本件取締役会決議を撤回した上で,別途対抗措置(例えば,同年7月15日付け「大規模買付ルールに基づく今後の対応方針について」で公表した新株予約権の株主割当による発行等)の発動があり得ることなどを明らかにした。 債務者は,同年7月21日,「株式の分割に関する取締役会決議公告」として本件取締役会決議をしたことを公告した。 (甲27,41) (18) 債権者による公開買付けの公表 債権者は,平成17年7月19日,取締役会において,次のとおりの条件等での公開買付けを行うことを決議し,これを公表した。 ① 買付け等の価格 1株につき110円 ② 買付予定株式数 349万1000株 ③ 取得する株式数の下限 なし なお,買付予定株式総数は,同月11日に開示した数から変更はしないが,債務者が本件取締役会決議を撤回しないことが明らかになった時点で,買付予定株式総数を5を乗じた数に変更することを予定している。 (甲32) (19) 債務者による債権者公開買付けへの反対に関する公表 債務者は,平成17年7月20日,「公開買付けの反対に関するお知らせ」を公表し,その中で,同日の債務者取締役会において,債権者に債務者株式の公開買付けについて反対の意を表明することを決議したことを明らかにした。 (甲33) (20) 債権者による公開買付けの開始 債権者は,平成17年7月20日,次のような内容の公開買付開始公告を日刊新聞紙上においてするとともに,関東財務局に対し,公開買付届出書を提出し,債務者株式の公開買付けを開始した(以下「本件公開買付け」という。)。 ① 対象者の名称 債務者 ② 買付け等を行う株券等の種類 普通株式 ③ 買付け等の期間 平成17年7月20日から平成17年8月12日まで ④ 買付け等の価格 1株につき110円 ⑤ 買付け予定の株券の数 349万1000株 (注)債権者は,応募株券の総数が買付予定数に満たないときでも,応募株券の全部の買付けを行う。 ⑥ 公開買付けの撤回等の条件等及びその内容 証券取引法施行令14条に係る事項 債権者は,同令14条1項1号イからリまで及び2号イからリまで並びに同条2項3号から6号までに定める事由のいずれかが生じた場合は,公開買付けの撤回を行うことがある。また,同条1項ヲに係る事項として,公開買付期間中に債務者が新たに債務者株式について商法218条に定める株式分割に関する取締役会決議を行い,かつ,かかる決議において公開買付期間の末日までの一定の日が同法219条1項に定める「会社ノ定ムル一定ノ日」として定められた場合には,公開買付けの撤回を行うことがある。 (甲36,40) 3 当事者の主張 (1) 債権者の主張 債権者の主張は,別紙「債権者の主張」のとおりである。 (2) 債務者の主張 債務者の主張は,別紙「債務者の主張」のとおりである。 4 争点 (1) 株式分割について商法280条ノ10の適用又は類推適用があるか。 株式分割について商法280条ノ10の適用又は類推適用があるとした場合,本件株式分割に法令違反があり,又は本件株式分割が著しく不公正な方法によるものであるか。 (2) 本件取締役会決議は,無効であるか。 本件取締役会決議が無効であるとした場合,本件株式分割を仮に差し止めることができるか。 (3) 本件株式分割が債権者の営業権を侵害するものであるか。 営業権を侵害すると認められる場合,本件株式分割を仮に差し止めることができるか。 (4) 本件申立てに保全の必要性があるか。 第3 当裁判所の判断 1 本件株式分割の目的等について (1) 本件株式分割の目的について 前記認定事実によれば,①債権者は平成17年6月15日から短期間の間に債務者株式を多数取得し,発行済株式総数の約6.83パーセントを保有する筆頭株主となったこと,②債務者は,債権者との間で,同年7月7日に債権者が債務者株式を大量に取得した経緯を聴くために会談を行い,債権者が業務提携の協議を申し入れ,協議に応じるか否か同年7月11日までに回答を求めたのに対し,債務者は同月15日まで返答の猶予を求めたこと,③債務者は,翌8日に独自に定めた本件大規模買付ルールを公表し,大量買付けを行おうとする者に,債務者取締役会に対し事前に十分な情報を提供するとともに,債務者取締役会による一定の評価期間が経過した後に大規模買付行為を開始すべきことを求めたこと,④これに対し,債権者取締役会は, 同月11日に債務者株式を公開買付けにより取得することを決議したこと,⑤債務者は債権者に対し本件大規模買付ルールに従い,事業計画を提出するとともに,公開買付けを債務者の定時株主総会が開催されるまで実施しないよう求めたけれども,債権者がこれを拒否したこと,⑥そのため,債務者は,同月18日,取締役会において本件株式分割を行う本件取締役会決議を行ったこと,⑦債務者の定時株主総会が同年9月末までに開催されることとなっているところ,本件株式分割の効力は同年10月3日に生ずることの各事実が認められ,こうした経過からすれば,本件株式分割の目的は,債権者が本件公開買付けをする前に本件取締役会決議をすることにより,債務者の定時株主総会が開催されるまで債権者が公開買付けを行うことを阻止することにあ るということができる。 なお,債務者代表者の陳述(乙3)によれば,本件株式分割の効力の発生を定時株主総会以降と設定することにより,定時株主総会までの間に債権者と異なる業務提携先の選定をも考慮したものであることを窺うことができ,結果として現経営陣の経営支配権の維持につながる場合もあるものの,本件株式分割が取締役の保身を図ったものとまでいうことはできない。 (2) 本件株式分割が本件公開買付けに及ぼす効果について 前記認定事実のとおり,本件株式分割は,本件公開買付けの買付期間が平成17年7月20日から同年8月12日までであるところ,同期間内の同月8日(以下「基準日」という。)に最終の株主名簿及び実質株主名簿に記載された株主の所有の普通株式1株につき5株の割合をもって分割するものであり,その効力発生日は,同年10月3日となっている。 そこで,本件株式分割が本件公開買付けに及ぼす効果を検討すると,本件公開買付けは,本件株式分割による権利落ちを前提として,買付けの価格を当初予定していた550円から110円と変更して行われているから,証券取引法が公開買付けにおける「買付け等の価格の引き下げ」は行うことができず(同法27条の6第3項),また,公開買付者においては公開買付けに係る申込みの撤回及び契約の解除も原則として行うことができず,その例外も限定なものとして規定している(同法27条の11第1項,証券取引法施行令14条参照)にもかかわらず,株式分割後の希釈された株式を株式分割前の価格で買い付けることを余儀なくされるような債権者に著しい財産上の損害が生ずるおそれはない。また,本件株式分割は,本件公開買付け期間 中に基準日が設けられているところ,公開買付けの買付期間後に効力が生ずる株式分割によって付与される株式についても公開買付けの対象となり得ると解することができ,債権者は,本件株式分割による権利落ちを反映した価格により,買付期間内に株主が現に保有する株式のほか,本件株式分割の効力発生日に基準日の株主が受けることとなる債務者株式も取得する意向であることから,応募する株主がいる限り,本件株式分割にかかわらず,債権者は,予定の資金の範囲内で債務者株式の過半数を買い付けるという本件公開買付けの目的を達することが法的には可能である。もっとも,通常,公開買付けにおいては,買付期間終了後5営業日前後で株式の売却の決済が行われるところ,本件株式分割が行われると,その効力が生ずるのが基準日の56日後 となり,本件株式分割の効力発生日に基準日の株主が受けることになる債務者株式の売買に係る決済は実際上その後とならざるを得ないことから,本件公開買付けの結果として買付予定株式総数を超える応募を得たとしても,債権者が債務者の過半数の株式を有する株主となる時期を10月3日以降まで引き延ばす効果を有するということができる。 これに対し,債権者は,本件株式分割の結果,本件公開買付けでは通常の公開買付けより決済まで相当の長期間を要することになってしまうため,既存株主が本件公開買付けに応募することを嫌忌する効果を及ぼすおそれがあること,本件株式分割により本件公開買付けの取次ぎが困難となるとする証券会社の指摘(乙15)もあり,本件株式分割により本件公開買付けの実施上困難が生ずるおそれがあること,本件株式分割の効力発生日までの間,流通市場において需給の不均衡が生じて株価が不安定化する結果,債務者の既存株主にとって,本件公開買付けに応募するか否かの判断に困難が生ずることなどから,事実上本件公開買付けの実施が困難となることを指摘するところ,そうしたおそれがあることは考えられないものではないが,本件にお いては,本件株式分割の結果,本件公開買付けが目的を達し得ないこととなる事実を認めるに足りる疎明はない。 以上によれば,本件株式分割は,本件公開買付けが成功した場合にその効果の発生を同年10月3日以降まで引き延ばす効果を有するものの,法的には本件公開買付けの目的の達成を妨げるものではない。また,本件株式分割は,通常の株式分割と異なるものではないから,既存株主の権利の実質的変動をもたらすものではないというほかない。 2 株式分割についての商法280条ノ10の適用又は類推適用の有無について まず,商法280条ノ10は,同法第2編第4章の「株式会社」の章中の第3節ノ2の「新株ノ発行」の節中に置かれており,同条の「株式ヲ発行」することとは,同法280条ノ2の「株式ヲ発行スル」と同義であると解されるから,同法218条1項の「株式ノ分割」は,同法280条ノ10所定の「株式ヲ発行」することとは異なるので,株式分割について同法280条ノ10の規定を直接適用することはできないのは明らかである。 次に,株式分割についての同法280条ノ10の類推適用の可否につき,検討する。 商法は,会社が法令若しくは定款に違反して又は著しく不公正な方法により株式を発行し,これによって株主が不利益を受けるおそれがある場合には,その株主に会社に対する当該新株発行の差止請求権を認めている(同法280条ノ10)。その趣旨は,新株発行については,新株発行により,新株引受権が無視されたり,第三者への新株発行により議決権割合が低下したり,又は,第三者に有利な価額で新株を発行することにより株価の減少に伴う損害を受けたりするなど株主が不利益を受けるおそれがあるため,法令・定款違反又は不公正な方法による発行により不利益を受けた株主を事前に救済するというところにある。一方,株式分割は,株式を単に細分化して従来よりも多数の株式とするにすぎず,二以上の種類の株式を発行している場合を 除けば,株主にとっては,持株数が増えても,分割に係る株式を合計すれば,議決権割合や株式の総体的価値に変更はないから,通常は,株主の議決権割合が低下するとか,株主が株価の減少に伴う損害を受けるとかいう不利益を受けるおそれを想定することができない。そのため,株式分割については,新株発行と同様の差止請求権が規定されなかったものである。 これに対し,債権者は,「本件株式分割によって債権者は本件公開買付けにより債務者株式を大量に取得することができない損害を被る。」旨を主張する。しかしながら,本件株式分割が法的に本件公開買付けの目的の達成を妨げるものということはできないことは1(2)のとおりであり,仮に本件公開買付けを実施する上で事実上の支障が生ずるとしても,これにより債権者が被る不利益は,公開買付けの実施によって新たに株主となろうとする期待が阻害されるというにすぎず,既存株主としての地位に実質的変動が生ずるものとはいえない。しかも,仮に債権者が本件株式分割により何らかの損害を被るとしても,それは,本件取締役会決議を行った取締役に善管注意義務等の違反が認められる場合に,これを理由とする損害賠償請求権(同法266 条ノ3)によっててん補すべき性質のものであると解される。 したがって,本件株式分割については,株主の地位に実質的変動を及ぼすものとは認められず,同法280条ノ10の規定を類推適用することはできない。 3 本件取締役会決議の効力について (1) 本件株式分割の当否について ア 公開買付けに対する対抗策が許容される基準について 企業の経営支配権の争いがある場合に,現経営陣と敵対的買収者(以下「会社の現経営者が反対している買収者」の意味で用いる。)のいずれに経営を委ねるべきかの判断は,株主によってされるべきであるところ,取締役会は,株主が適切にこの判断を行うことができるよう,必要な情報を提供し,かつ,相当な考慮期間を確保するためにその権限を行使することが許されるといえる。したがって,経営支配権を争う敵対的買収者が現れた場合において,取締役会において,当該敵対的買収者に対し事業計画の提案と検討期間の設定を求め,当該買収者と協議してその事業計画の検討を行い,取締役会としての意見を表明するとともに,株主に対し代替案を提示することは,提出を求める資料の内容と検討期間が合理的なものである限り,取締役会 にとってその権限を濫用するものとはいえない。 なるほど,証券取引法で定める公開買付けの制度は,公開買付けを行う者に対し,買付けの目的等法定の事項の公告(同法27条の3第1項)と,関東財務局長に対する公開買付届出書の提出を義務付ける(同法27条の3第2項,194条の6第1項,2項,5項,証券取引法施行令40条1項)ほか,20日以上60日以内の買付期間を定め(同法27条の2第2項,証券取引法施行令8条1項),買付期間内は,対象者の意見表明の結果等を踏まえ,応募した株主に自由な撤回を認める(同法27条の12第1項)などにより,投資者である既存株主に対して所要の情報提供と考慮期間を保障し,平等な売却機会の確保を図るという観点から合理的なルールを定めるものといえる。しかしながら,公開買付けの制度は投資者の保護の観点から必 要な規制を行うものであるから,取締役会が,株主に対して必要な情報提供と相当な考慮期間の確保を図り,株主の適切な判断を可能とすることを目的として,公開買付けの定める情報に追加した情報提供を求めることや,検討期間の設定を求めることが直ちに証券取引法の趣旨に反するとまでいうことはできない(なお,公開買付け制度については,自由民主党総合経済調査会企業統治に関する委員会の提言に基づき,現在,金融審議会において見直しの検討が進められているところであるが,投資者である株主利益の保護を基本としつつ,買付者の利益にも配慮する観点から公正で合理的なルールの見直しがされた場合においては,取締役会が証券取引法の公開買付けの定めに加えて情報提供や検討期間の設定を求めることの是非について改めて検討する必 要があろう。)。 そうであれば,取締役会としては,株主に対して適切な情報提供を行い,その適切な判断を可能とするという目的で,敵対的買収者に対して事業計画の提案と相当な検討期間の設定を任意で要求することができるのみならず,合理的な要求に応じない買収者に対しては,証券取引法の趣旨や商法の定める機関権限の分配の法意に反しない限りにおいて,必要な情報提供と相当な検討期間を得られないことを理由に株主全体の利益保護の観点から相当な手段をとることが許容される場合も存するというべきである。この観点からみると,敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく,敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情が認められないにもかかわらず,取締役会が公開買付けに対する対抗手段として,公 開買付けを事実上不可能ならしめる手段を用いることは証券取引法の趣旨に反し,また,直ちに新株発行や新株予約権の発行を行うことは,商法の定める機関権限の分配の法意に反し,相当性を欠くおそれが高いということができるものの,他方,取締役会としてとり得る対抗手段が当該買収者の買収が適切でない旨の意見を表明する方法などにとどまるべきものであるということも適当ではない。したがって,取締役会が採った対抗手段の相当性については,取締役会が当該対抗手段を採った意図,当該対抗手段をとるに至った経緯,当該対抗手段が既存株主に与える不利益の有無及び程度,当該対抗手段が当該買収に及ぼす阻害効果等を総合的に考慮して判断するべきである。 イ 本件株式分割の相当性について (ア) 取締役会が本件株式分割を決議した意図について 本件株式分割は,債権者が本件公開買付けをする前に,債務者の定時株主総会が開催されるまで債権者が公開買付けを行うことを阻止することを目的として実行されるものであるが,それが取締役の保身を図ったものとは認めることができず,株主に対して必要な情報提供と相当な考慮期間の確保を図る意図に基づくものであったというべきである。 (イ) 本件株式分割に至る経緯について 債務者は,従来から,マスコミにおいて「TOB」で値上がり期待できる上場企業第一位にランクアップされるなど買収を受けやすい企業として指摘を受けていた(乙4)のであるから,債務者の経営陣としては,収益性の改善を図る事業計画を策定するとともに,必要であれば業務提携等の検討を進めることが求められていたということができること,債権者は,平成17年7月7日に債務者に対して業務提携の協議を申し入れ,同月11日までに協議の開始に応じるか否かの返事を求めたこと,これに対し,債務者は,同月15日までの返答の猶予を要望していたにもかかわらず,その翌日の同月8日に突如として本件大規模買付ルールを導入し,その後,債権者に対し,本件大規模買付ルールに従い,同年9月末までに開催される定時株主総 会まで公開買付けを行うことを延期するよう求め,報道機関に債権者から買収の申入れを受けたことを公表したこと,そこで債権者は取締役会において本件公開買付けの決議を行ったことは第2の2(5)から(7)までのとおりである。これを,株主に対する情報提供の観点からみると,債務者としては,債権者からの業務提携の協議の申入れに真摯に応じることによって,より十分な情報を入手することもでき,場合によっては会社ひいては株主全体利益の向上に資する業務提携の協議が進展した可能性があったことは否定できず,債権者からの協議の申入れに対する債務者の対応については疑問の余地がないとはいえない。また,債務者が,債権者に対し,定時株主総会の開催まで約2か月半の間公開買付けの延期を求めたことについても,債権者の公開買付けの 方法(現金での買付け)及び債務者の規模や業態からみて合理的なものといえるかにつき疑義がないとまではいえない。 (ウ) 本件株式分割が既存株主に与える不利益の有無及び程度について 本件株式分割は,既存株主の議決権割合に影響を生じさせるものではない上,1(2)で判示したとおり,株主の権利の実質的変動をもたらすものではなく,公開買付けに応じようとする株主にとっても,その決済時期が遅延することは否定できないもの,公開買付けへの応募そのものが妨げられるものではないから,公開買付けに応じて買付価格での売却する機会を喪失させるものではない。 その一方で,債務者の全取締役の任期は9月末までに開催する必要がある定時株主総会終結時で終了することから,株主としては,現経営陣と敵対的買収者のいずれに経営を委ねるべきかの判断を行う機会が設けられており,債務者及び債権者の双方の事業計画に関する情報提供を受けることにより,その判断を適切に行うことが可能となるということができる。 (エ) 本件株式分割が本件公開買付けに及ぼす効果について 本件株式分割は,1(2)で判示したとおり,本件公開買付けの効力が生じさせることを10月3日以降まで引き延ばす効果を有するにすぎない。また,債権者としては,本件株式分割が効力を生じることを前提として買付け価格を設定しているから,本件株式分割により著しい経済的損失を被ることはない。さらに,本件株式分割が効力を生じた場合においても,基準日の株主が株式分割によって効力発生日に受けることとなる株式をも公開買付けにより取得することができると解されるから,本件公開買付けの目的を達することは法的には妨げられない。これらの事情によれば,本件株式分割は,本件公開買付けに事実上一定の支障を生じさせることとなることは否定できないが,これを不可能とするものではなく,そうであれば,本件株式分割が ,証券取引法の定める公開買付け制度を否定するものということはできず,また,商法が定めた機関権限の分配の法意に反するとまでいうことはできない。 (オ) 小括 以上の事情を総合すれば,本件株式分割を行った本件取締役会決議は,その経緯において批判の余地がないではないものの,取締役会が本件株式分割を決議した意図(取締役会の保身を図るものとは認められず,経営権の帰属に関する株主の適切な判断を可能とするものであること),既存株主に与える不利益の有無及び程度(株主の権利の実質的変動をもたらすものではないこと)並びに本件公開買付けに対して及ぼす効果(本件株式分割が本件公開買付けの効力の発生を定時株主総会以降まで引き延ばすものにすぎず,その目的の達成を法的に妨げる効果を有するものとは認められないこと)の観点からみて,本件株式分割が,証券取引法の趣旨や権限分配の法意に反するものとして,直ちに相当性を欠き,取締役会がその権限を濫用したもの とまでいうことはできない。 なお,債権者は,本件株式分割により,事実上本件公開買付けの実施が困難となると指摘するところ,これを認めるに足りる疎明がないことは1(2)に判示のとおりであるが,仮に,本件株式分割の結果,本件公開買付けに事実上著しい支障を来したと認められる場合には,対抗手段としての相当性を欠くと解する余地もないではない。 (2) 商法218条1項・機関権限分配秩序違反の有無について 商法218条1項は,会社は,取締役の決議により株式の分割をすることができる旨規定しているところ,株式分割を決議する権限は,定款で特に株主総会で決議をする事項と定めない限り(同法230条ノ10),取締役会にある。債務者においては,株式分割について定款で特に株主総会で決議をする事項とは定めていない(甲2)から,本件取締役会決議が取締役会において法律上決議することができない事項を決議したものとは認められない。したがって,本件取締役会決議は,商法218条1項に違反するとはいえないことは明らかである。 また,株式会社における機関権限の分配秩序維持を根拠とする取締役会の権限の制約は,商法の株式会社に関する規定全体の趣旨から導き出されるものであって,具体的な法令の規定によるものではないから,これに違反していることを理由に取締役会の決議が無効となると解することはできない。また,本件取締役会決議は,(1)のとおり,商法が定めた権限分配の法意に反するともいえない。 (3) 証券取引法157条違反の有無について 証券取引法157条1号は,何人も,有価証券の売買その他の取引等について,不正の手段,計画又は技巧をすることを禁止している。ここでいう「不正の手段」は,売買その他の取引等を行う際に用いるものを想定しているといえるから,売買その他の取引等に直接の関係がない公開買付けを阻止しようとする対象会社が行うものまで含まれるとは解されない。したがって,本件取締役会決議が証券取引法157条1号に違反しているとみることはできない。 (4) 民法90条違反の有無について 証券取引法で定める公開買付けの制度は,3(1)アのとおり,投資者保護と証券市場の秩序維持の観点から定められたものである。そのため,公開買付制度に関する証券取引法の規定は,あくまで株式等の大量買付けを行うことに関する取締法規にすぎず,未だ公開買付制度そのものが民法90条にいう「公の秩序」を構成しているとはいえない。しかも,(1)のとおり,本件株式分割は,本件公開買付けを不可能とするものということはできないから,本件取締役会決議が民法90条に違反しているとはいうことはできない。 (5) まとめ 本件取締役会決議には,債権者主張の法令違反は認められず,本件取締役会決議は無効とはいえない。 4 営業権侵害の有無について 債権者は,「証券取引法が定める公開買付制度を利用して株式を取得し営業を行う権利を有している。」と主張するけれども,かかる営業権が有しているとの実体法上の権利があるとはいえない上,仮にこのような営業権が認められるとしても,これを侵害した場合に,この営業権に基づき本件株式分割の差止めを請求する権利があるとの実体法上の根拠も見い出せないから,債権者のこの主張は採用することができない。 5 結論 以上から,債権者の本件申立ては,被保全権利の存在についての疎明がないので,保全の必要性について判断するまでもなく,理由がないから,申立費用につき民事保全法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり決定する。 平成17年7月29日 東京地方裁判所民事第8部 裁判長裁判官 鹿 子 木 康 裁判官 河 合 芳 光 裁判官 大 寄 久 (別紙) 債権者の主張 第1 本件株式分割により債権者が被る損害は大きい一方で,仮処分命令申立が認容されることにより債務者が被る損害は皆無である 1 本件株式分割により,債権者は著しい損害を被る。 債務者現経営陣は,当初,公開買付け期間中に株式分割を行うことにより,「5分割後の110円を分割前の買付価格550円で買わせる」という詐欺的な手段で,債権者に莫大な積極損害を被らせようとした。しかし,株式分割がされた場合の撤回が認められたことにより,このような漫画的ともいうべき積極損害を債権者が被る危険性はなくなった。 しかし,これは,単に債権者が公開買付けを利用したことにより積極損害を被らないというだけの話であって,なお,本件株式分割は,債権者に証券取引法が規定した公開買付けを利用させない(制度の利用の阻害)という多大な逸失利益の損害を被らせる行為といえる。 (1) 過大な決済リスク負担を強いられることにより,公開買付制度の利用を阻害されるという不利益 すなわち,債権者は,株式分割の効力発生日に発行する株式をも含めて公開買付けの対象とする。したがって,債権者は,理論上は,本件株式分割の影響を受けることなく,公開買付けを行うことが可能であるとも思える。 しかし,かかる債権者の手法が司法判断を経た確定的解釈に基づくものでないことを暫く措くとしても,安全かつ効率的な証券決済システムの実現が日本の証券市場における喫緊の重要課題と認識されていることは論を待たないのであって,今日,取引日から3日後の決済が一般的であったものを,各種制度の見直しにより,取引日当日又はその翌日の決済にまで決済期間を短縮していこうという提言がされ,コンセンサスが形成されていることは,公知の事実である。債権者も,当然に,かかる迅速な証券決済を前提とした証券取引法が定める公開買付制度を利用する利益を有するものであるところ,本件株式分割により新たに発行される株券自体は,分割の効力発生日(10月3日)に基準日(8月8日)の株主である応募株主の下へ発行されるため,株
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取or取とは、取締役会設置会社では取締役の決議で、取締役会非設置会社では取締役の過半数の賛成で決めるということである。 以下に取or取で決めるものを列挙する。 単元株式数の減少・廃止(195) 株式会社が単元株式数の減少・廃止をするときは、単元株式数の設定をする時とは違って、取or取で決めてよい。
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←平成18年 会社法 第30問 平成18年 会社法 第32問→ p.31 (3)ア改2 【正誤】 ○ → × に訂正 ▼根拠 解説から明らかです。 p.32 (6)ウ改1 問題文 「取締役会の決議」 を 『取締役の過半数をもっての決定』 に訂正 【正誤】の1行目「取締役会の決議」 を 『取締役の過半数をもっての決定』 に訂正 ▼根拠 取締役設置会社以外の会社であるためです。 p.33 (10)オ改 【正誤】 × → ○ に訂正 ▼根拠 解説から明らかです。
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会2条15号。 現在過去において、当該会社や子会社の 業務執行取締役・執行役・従業員でない者。 -- (名無しさん) 2010-05-23 18 16 03
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株主総会とは、株主で構成される株式会社の最高意思決定機関である。 取締役会設置会社では、株主総会は法令・定款で定めた事項に限り決議できるが、非取締役会設置会社では業務意思決定でもなんでも一切の事項を決議できる。 株主総会が決議できる権限を、ほかの期間(取締役会など)に移譲することはできない。 株主総会は毎事業年度が終わったら一定の時期に招集する必要がある。 もし議決権行使書面が空白で提出されたとき、「空白の場合は賛成とする」「空白の場合は反対とする」「空白の場合は棄権とする」などどう定めてもよい。 取締役が株主総会を招集するときは、 日時・場所 目的事項 書電投票の有無 を取or取で決める必要がある。執行役に委任することはできない。 招集通知(299) 株式会社は、株主総会・種類株主総会を招集するときは、株主総会の2週間前までに、 日時・場所 日時が前年度の株主総会と全然違う場合は理由 代理権行使の方法 目的の事項 書電投票の有無 を定めて株主に通知する必要がある。 株主が1000人以上いるなら、書面投票は認める必要があり、招集通知は書電で行う必要があり、取締役は『創立総会参考書類』『議決権行使書面』を設立時株主に交付する義務がある。 『書電投票できるとき』『当社が取締役会設置会社のとき』は書電で通知する必要がある。 電磁通知をするときは株主の許可が必要である。 招集通知の省略(300) 株式会社は、総株主の同意があり、かつ『書電投票できないとき』には、招集手続・招集通知なしに株主総会を開催できる。 代理行使(298) (74)株主は、『代理権を証明する書面』を発起人に交付すれば、議決権の代理行使をする権利がある。発起人の許可があれば電磁的方法でもよい。 『創立総会招集の電磁通知を許可してくれた株主』が「代理権授与を電磁的方法でやりたい」って言ったら、発起人は正当な理由がないと拒否できない。 代理権の授与は創立総会ごとにする必要がある。 (74)発起人は、出席する代理人の数を制限する権利がある。 株主総会参考書類・議決権行使書面 『書電投票できる』と定めたなら、取締役は『株主総会参考書類』『議決権行使書面』を設立時株主に交付する義務がある。 招集権者 取締役(296) 3%株主(297)※公開会社の6か月制限あり
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ゴメス取締役 ゴメス取締役【ごめすとりしまりやく】(妄想) 名前の通り取締役。 ハゲでメタボでケチらしい。
https://w.atwiki.jp/k-challenge/pages/17.html
ゴーン解任決議 大和郡山の取締役会 2018.11.22 大和スポーツ 大和郡山ゴールドフィッシュは22日夕、大和郡山市の球団本社で開いた臨時取締役会で、金融商品取引法違反容疑で逮捕されたカーロス・ゴーン容疑者の監督職と代表取締役を解くことを全会一致で決めた。仏ルノーから成績不振に陥った大和郡山に送り込まれた1999(平成11)年以来、約20年にわたり球団経営中枢に君臨したゴーン容疑者の「一強体制」は幕を閉じる。
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譲渡制限のある株式を譲り受けたと主張する者がその株式会社を相手方として自己が株主であることの確認を求めた請求が棄却された事例 判 決 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実および理由 第1 請求 原告が被告の2万2080株の株主であることを確認する。 第2 事案の概要 1 基本的事実関係(当事者間に争いがないか,【】内の証拠により認める) (1) 被告は株式会社である。被告の定款は,被告の株式を譲渡するには取締役会の承認を受けなければならないと定めている。 (2) A社(当時の代表取締役はB)は,平成10年5月13日当時,被告の発行ずみ株式総数4万4160株のうち2万2080株の株式を有する株主であった(甲4に表象されている株式がこれである。以下「本件株式」という)【甲1,弁論の全趣旨】。 (3) A社は,平成15年3月27日,東京地方裁判所で破産宣告を受け,平成16年12月20日,費用不足により破産廃止となった【乙2】。 Bは,破産宣告の直前までA社の代表取締役を務めていた【乙2】。B個人も同じ時期に破産宣告を受けている【証人B】。 (4) 原告はBの子である。原告は被告に対し,平成16年1月17日付けで,本件株式について名義書換の請求をした。これについて,被告は原告に対し,同月28日付けの内容証明郵便で下記のとおり通知した。 a 原告は,A社から原告への譲渡につき取締役会の承認を受けなければ,本件株式の名義書換を請求することはできない。 b 名義書換の請求をもって本件株式の取得承認を請求するとの趣旨であるとしても,被告は,同月27日の取締役会でこれを承認しないと決定した。 (5) 被告は平成16年1月31日,新株を発行し,発行ずみ株式総数は5万6256株となった【甲1】。 2 原告の主張(請求原因) (1) 原告は,平成10年5月13日,A社から本件株式を譲り受けた。 (2) 譲渡制限のある株式の譲渡を承認するか否かは,取締役会の完全な裁量にゆだねられているのではなく,取締役は承認するか否かの判断について善管注意義務,忠実義務を負う。原告による本件株式の取得を承認しないとの決議は,以下の理由により,この義務に違反するもので,違法無効な決議というべきである。 ア 被告は昭和50年にBを中心に設立された会社であり,平成16年1月の新株発行の前は,Bが代表取締役を務めるA社がその発行ずみ株式の2分の1にあたる本件株式を保有し,さらにBとその親族のうちBに協力する者4名が各2400株を保有していた。これらの株式は合計3万4080株であり,発行ずみ株式総数の77%を占めていた。 イ 上記のような株主構成である被告において,Bの子である原告が本件株式の取得を拒絶されるいわれはなく,上記の取締役会の決議は,現取締役らがB一族を排除し,みずからが被告を支配する意図からされたものといわざるをえない。これは本来の閉鎖会社の取締役として譲渡を承認すべきか否かの判断基準を逸脱した決議であり,取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反した違法な決議というべきである。 ウ 平成16年1月の新株発行は,増資の必要がまったくないのに被告の現取締役が被告の支配をもくろんで行ったものである。すなわち,新株が割り当てられることとされた平成16年1月8日午後5時時点の株主名簿に記載のある株主のうち,本件株式の株主であるA社は破産手続中であった。本件株式はすでに平成10年に原告に譲渡されていたし,破産管財人が新株引受けをするはずもなく,失権株になることは明らかであった。本件株式に割り当てられた失権株2万6496株(1株につき1.2株の割合による割当て)を現取締役が引き受ければ,現取締役の保有株は4万8672株となり,予定した新株発行後の発行ずみ株式総数9万7152株の過半数を超えることとなるはずだったのである。 結局,B一族は新株発行に異議を申し入れて引受けを拒絶し,A社の引受けもなく,失権株の引受けもないままに終了したのであるが,増加した資本はわずか604万8000円にすぎない一方,現取締役の支配株数は2万2176株となり,B一族の持ち株1万2000株を超え,被告の支配権を取得することとなった。 新株発行が資金調達を目的としたものでないことはこのことからも明らかであり,現取締役の一連の行動はすべて被告の支配権獲得のためのものである。原告の株式取得承認請求を拒絶した行為も同一の意図のものに行われた違法なものである。 (3) 以上の次第で,原告は本件株式の株主であるから,この確認を求める。 3 被告の主張 (1) 原告の主張(1)の事実は否認する。 (2) 平成16年1月の新株発行につき,被告の現取締役が,B一族を排除し,みずからが被告を支配する意図で行ったものであるとの主張は否認する。現取締役にもB一族はいる。被告の取締役会が本件株式の譲渡を承認しなかったのは,Bないしその子のためでなく被告のためを考えた各取締役の判断である。 増資の必要がなかったのに新株発行をしたとの主張も否認する。A社が破産した影響で,被告はメインバンクから融資を受けられない状況となり,資金調達・自己資本充実のために増資をする必要があった。 新株発行は完全に適法かつ有効であり,これが本件株式譲渡承認に関する取締役会の決議の違法をもたらすことはない。 (3) そもそも,譲渡制限のある株式の譲渡の承認を取締役会が拒否するについて,正当な理由があることは必要でなく,したがって譲渡承認の拒否にあたりその理由を示すことも必要でない。 かりに,原告の主張するように,譲渡承認を拒否する取締役会決議につき取締役の善管注意義務,忠実義務が問題になるとしても,その義務違反の効果は,損害を受けた者に対し各取締役が損害賠償義務を負うにとどまり,取締役会の決議がただちに違法無効となるわけではない。株式譲渡承認を拒否された者については損害が生じていないから,各取締役は損害賠償義務さえ負わないのであり,そのような場合に同決議が違法無効となるはずがない。 第3 当裁判所の判断 1 原告はA社から本件株式を譲り受けたか (1) Bの証言 Bは次のとおり証言する(陳述書[甲9]を含む)。 ア 平成9年3月,被告からC(Bの父)に対する死亡退職慰労金2557万円が支払われることになり,Cの相続人としてこれを取得することになったBの銀行預金口座にこれが振り込まれた。当時BはA社の代表取締役であった。 ところが,A社の取締役のひとりがこれを勝手に引き出してA社の運転資金として使用してしまったため,BはA社に対してその返還を請求できることになったが,金銭の返還に代えて,当時1100万円程度の価値があった本件株式を譲り受けることにした。ただし,Bが直接譲り受けるのではなく,Bの娘でありその秘書をしていた原告が譲り受けることになった。平成10年5月13日にA社の臨時取締役会を開催し,この譲渡について承認の決議をした。 イ 原告は無償で本件株式を取得したことになるが,贈与税の申告はしていない。 ウ 本件株式が原告のものになった後も,当時原告がBの秘書をしていたこともあり,本件株式の株券は引き続きA社の社長室で保管されていた。 エ 平成14年になって,A社がDという者から3000万円を借りることになり,同年8月か9月,Bは,この借入金の担保として本件株式の株券をDに差し入れた。当時原告はこのことを知らなかったと思う。 オ 平成15年7月,原告は,上記借入金の残金約1500万円を自分で工面してDに支払い,Dから本件株式の株券を取り戻した。その経緯はBはよく知らない。その後,原告とA社の間で,この原告の返済について何らかの処理をしたことはない。 (2) 検討 ア 原告は本件株式の株券を証拠として提出しており(甲4),この事実は,原告が本件株式を譲り受けたことの根拠になりうる。しかし,本件株式の株券はもともとA社の社長室で保管されていたというのであり,BがA社の代表取締役であったこと,原告がBの子であることを考慮すれば,かりに原告に対する譲渡の事実がなかったとしても,原告が本件株式の株券を証拠として提出することは十分に可能であると考えられる。したがって,原告が本件株式の株券を証拠として提出していることだけから,原告の主張する譲渡があったと認定することはできない。 イ Bの証言については,次のような不自然なところを指摘することができる。 第1に,平成10年5月13日に開催されたというA社の取締役会については,内容が微妙に異なる取締役会議事録が存在する。原告が証拠として提出する議事録(甲3)と,被告が証拠として提出する議事録(乙1)である。平成10年5月13日当時の商業登記簿上のA社の取締役(乙2)と,甲3,乙1それぞれの内容を一覧表の形に整理すると,別紙(省略)のとおりであり,どちらの議事録も登記簿の記載とは異なっている。 このことについて,Bは,平成14年11月以降に乙1の議事録を作ったが,その後10日ほどして甲3の議事録を作った。秘書に作らせたので(注・Bは明言しないが,その証言を前提にすると,ここでいう秘書とは原告のことであると解される),役員欄をまちがえたのだと思うと証言する。しかし,まず,平成10年5月の取締役会について4年以上もたった平成14年11月以降に議事録を作るということ自体不自然である。あいついで2つの議事録を作成した経過も不明であるし,しかも,いずれの内容も登記簿の記載とは異なり不正確である。これらの事情によると,この取締役会議事録の内容の信用性には大きな疑問が残り,これがあることを根拠としてそこに記載のあるとおりの本件株式の譲渡があったことを認定するのは困難である。この 取締役会についてのBの証言をただちに採用することはできない。 第2に,Bの証言する原告とBの行動は,本件株式が真に原告に譲渡されたとすればとても考えられないようなものである。まず,原告は,本件株式を贈与されたことになるが,贈与の理由として得心のいく説明はないし,また,1100万円もの価値があったというのに,贈与を前提とした税金の処理はされていないという。契約書面が存在しないので,A社,B,原告の三者間でどのような合意が成立したのかも不明である。次に,原告は,本件株式を取得したにもかかわらず,株券を自分で保管しないでその保管をBにゆだねていたといわざるをえないし,Bも,原告の承諾を得ることなくこの株式をA社の借金の担保として差し入れるなど,あたかもA社ないし自分が本件株式の権利者であるかのようなふるまいをしている。さらに,勝手に本件株式 を担保として使われた原告が,自分で1500万円もの資金を工面してこれを取り戻し,その後A社やBとの間で何の処理もしていないというのも不可解な話である。このようにみてくると,本件株式が原告に譲渡された経緯についてのBの証言は不自然といわざるをえず,Bの証言を根拠として原告への譲渡の事実を認定するのは困難である。 第3に,A社の平成13年4月1日~平成14年3月31日の事業年度における決算書類では(当時のA社の代表取締役はBである),A社が本件株式の株主であることを前提とした処理がされている(乙3の1・2,4,証人B)。この事実はBの証言とは根本的にあいいれず,その証言の信用性を疑わせる。 ウ Bは,A社の破産管財人は原告への譲渡の事実を了解しているという趣旨の証言をする。しかし,Bの証言以外に何の裏づけとなる証拠もなく,ここまでの検討をふまえると,このBの証言もただちに採用することはできない。また,かりに破産管財人が本件株式のことを不問に付したのだとしても,そのことには種々の理由があるとも考えられるから,その事実だけから,Bの証言するような譲渡の事実を認定することはできない。 エ 以上の検討によると,Bの証言によって本件株式のA社から原告への譲渡の事実を認定することはできず,ほかに的確な証拠もないので,原告が本件株式を取得したとの事実を認定することはできない。したがって,そのほかの点について検討するまでもなく,原告の請求は理由がないといわなければならない。 2 原告が本件株式を取得したと仮定した場合の議論 念のため,原告が本件株式を取得したと認められた場合についても検討する。 (1) 原告の主張は,譲渡制限株式について取締役会が譲渡の承認をしないとの決議をした場合,その取締役の判断に善管注意義務・忠実義務違反があれば,当然に譲渡を承認したのと同じ効果が生じる,というものである。 原告の立論は,いずれにしても,A社あるいは原告が被告に対して譲渡の承認を請求したことを前提にせざるをえないものであるが,本件においては,まず,そのような承認請求があった事実自体を認定することができない。原告がしたのは名義書換請求にすぎないのである(甲5)。したがって,この点だけからしても原告の主張を採用するのは困難である。 (2) かりに承認請求があったとしても,原告の主張には以下のような難点がある。 第1に,本件においては,原告の主張する事実関係を前提にしても,被告の取締役が被告よりも私益を優先させたという事情があると認めるのは困難である。A社が破産した経緯に照らすと,Bの影響力を排除することこそが被告の利益になるという判断も十分可能だと考えられるからである。したがって,被告の取締役の善管注意義務違反,忠実義務違反を認めることはできない。 第2に,一般論としても,取締役が善管注意義務・忠実義務を負うのは会社に対してである。かりに譲渡承認をしないとの取締役会の決議に関して取締役の善管注意義務・忠実義務違反があったとしても,そこからただちに承認決議と同じ効果が生じるというのは論理の飛躍であるといわざるをえない。実際にも,原告の主張の根拠となる商法の条文を見つけることはできない。 (3) 以上のとおり,いずれにしても原告の主張を採用することはできないから,かりに原告がA社から本件株式を譲り受けたのだとしても,本件において原告の請求を認容することはできない。 3 結論 原告の主張は,事実の点においても,法律上の点においても,いずれも採用することができない。原告の請求は理由がない。 甲府地方裁判所民事部 裁判官 倉 地 康 弘
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内部統制 (ないぶとうせい) 端的に言えば、それは、企業における内部報告の適正性を高めるために社内体制を構築することです。 昨今、内部統制が重視されている背景には、金融商品取引法(日本版SOX法)と会社法の2つの法律で、 内部統制が求められている、ということがあります。 ○金融商品取引法(日本版SOX法)における内部統制 この法律で求められる内部統制とは、財務報告に関する部分のみの内部統制のことをさし、 このために作成される内部統制報告書は、公認会計士による監査の対象となります。 ○会社法における内部統制 会社法では、内部統制という言葉こそ使用していませんが、内部統制を整備する義務を経営者に課しています。 会社法では内部統制の基本方針について、大会社で取締役会を設置していない会社については取締役が 大会社で取締役会設置会社においては取締役会が、委員会設置会社においては取締役会が、それぞれ決定することになっています。 また、内部統制について決定又は決議した内容は、事業報告に記載して報告することを定めています。 事業報告とは、会社の計算書類とあわせて作成される文書で、監査役監査、会計監査人監査の対象となっており、 事業報告は、株主総会にも提供または提出されることになっています。 本法律で定められているのは、内部統制の ・基本方針を決定すること、 ・事業報告においてそれを開示することです。 平成17年7月13日に公表された「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の公開草案によれば、 内部統制は、以下のように定義されています。 ■内部統制の基本的枠組み 本枠組みは、経営者による財務報告に係る内部統制の評価及び報告の基準と監査人による財務報告に係る内部統制の 監査の基準の前提となる内部統制の概念的な枠組みを示すものです。 (注)本基準において、経営者とは、代表取締役、代表執行役などの執行機関の代表者を念頭に規定しています。 ■内部統制の定義 内部統制とは、基本的に、 ・業務の有効性及び効率性 ・財務報告の信頼性 ・事業活動に関わる法令等の遵守 の達成のために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいいます。 選択肢 投票 理解できた (0) 少し理解できた (1) いまいち理解できない (0) 理解不能 (0)
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MS&ADインシュアランスグループホールディングス 本店:東京都中央区新川二丁目27番2号 【商号履歴】 MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社(2010年4月1日~) 三井住友海上グループホールディングス株式会社(2008年4月1日~2010年4月1日) 【株式上場履歴】 <東証1部>2008年4月1日~ <大証1部>2008年4月1日~ <名証1部>2008年4月1日~ 【沿革】 平成19年8月22日 三井住友海上火災保険株式会社の取締役会において、株主総会の承認と関係当局の認可を前提として、平成20年度中できる限り早期に、三井住友海上火災保険株式会社の単独株式移転により持株会社を設立して、グループ経営体制を強化することを決定 平成19年10月23日 三井住友海上火災保険株式会社の取締役会において、新たに設立する持株会社の商号を「三井住友海上グループホールディングス株式会社」とすることその他持株会社の基本事項について決定 平成19年11月20日 三井住友海上火災保険株式会社の取締役会において、三井住友海上火災保険株式会社の単独株式移転による持株会社「三井住友海上グループホールディングス株式会社」の設立を内容とする「株式移転計画」を決定 平成19年12月19日 三井住友海上火災保険株式会社の取締役会において、三井住友海上火災保険株式会社の株主総会に付議すべき本株式移転に関する議案の内容を決定 平成20年1月31日 三井住友海上火災保険株式会社の臨時株主総会において、三井住友海上火災保険株式会社が単独で株式移転の方法により当社を設立し、三井住友海上火災保険株式会社がその完全子会社になることについて決議 平成20年4月1日 三井住友海上火災保険株式会社が株式移転の方法により当社を設立 平成20年4月1日 当社普通株式を東京証券取引所、大阪証券取引所及び名古屋証券取引所に上場