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【神の情報開示】 緊急要項第1号 自然発生的末期発症者(以下L5と表記)が確認された場合、 施設長はL5が異常的社会行為を起こす前に迅速に事態を収拾しなくてはならない。 ただし、機密保持に厳重に注意する事。 その際、施設長は機密保持部隊に対し応援を要請できるものとする。 機密保持部隊は、確保に当たり必要と判断した場合は発砲許可を施設長に対し申請する事ができる。 L5の確保は極力、生体である事が望ましいが、機密保持上の理由でそれが困難な場合、 生死を問わないものとする。 全てにおいて機密保持と外部発覚を最優先する事。 ただし、機密保持は外部発覚阻止に優先するものとする。 緊急要項第34号(複写・持出・許可なき閲覧――厳禁) 本要項は最高決裁者の決裁によってのみ適用される。如何なる簡易決裁もこれを認めない。 また決裁者は本要項適用の決裁に当たっては可及的速やかに判断する事。 対処不能な事態が発生し最高決裁者がそれを認められる場合、機密保持と外部発覚阻止の為、 入江機関(以下、機関と表記)は最終的解決をしなければならない。 最終的解決とは以下を指す。 L2以上の潜在患者全員の収拾 機関施設の完全な証拠隠滅 本要項の適用の隠蔽 施設長は上記を事態発生から48時間以内に遂行しなくてはならない。 不測の事態により施設長の指揮が困難な場合、長官がこれを兼務する。 最終的解決は以下の手順で遂行される。 ガス災害偽装、及び交通の遮断 交通封鎖部隊は警察官に偽装し、雛見沢地区を外部より遮断する。 その際、自然ガス災害であるよう偽装する事。 (略) 通信手段の遮断 (略) 潜在患者の集合 機密保持部隊本隊は雛見沢地区災害集合場所に潜在患者全員を集合させる事。 集合手順は別紙参照の事。集合後は厳重に点呼を行い全員の集合を確認する事。 (略) 潜在患者の対処 機密保持部隊本隊は集合させた潜在患者への対処を行う事。 対処にあたっては、ガス災害偽装を疑われないよう注意する事。 (略) 機関施設の隠蔽 (略) 村内捜索 機密保持部隊は村内の完全捜索を行い、生存者がいない事を厳重に確認する事。 (略) 完全撤収 全ての作戦を終了し、機密保持部隊は雛見沢地区から撤退する。 後続の一般部隊に不信感を持たれない様厳重に注意する事。 なお、機関施設は秘匿区画の完全撤去が終了するまで継続警備とする事。 <女王感染者ト一般感染者ニツイテ> 病原体ハ蟻ナドノ社会型生物ト同ジ習性ガアルモノト推定。 女王蟻ニ当タル女王感染者ガ常ニ1人オリ、ソレガ古手家代々ニ受ケ継ガレテイルモノト推定。 マタ、一般感染者ハ女王感染者ヲ庇護スル傾向ガ強ク、其レヲ容易ニ観察デキル。 マタ、女王感染者ノ半径ニ束縛サレル一般感染者トハ違イ、 女王感染者ハ土地ニ束縛サレルモノト推測。 (略) <感染者集落ノ崩壊ニツイテ> 前途ノ理由カラ、女王感染者ガ死亡スルヨウナコトガアッタ場合、 感染者集落ハ集落単位デ末期症状ヲ引キ起コスモノト推定。 末期症状ハ急性ナラバ早クテ二十四時間以内、遅クトモ四十八時間デ発症スルタメ、 四十八時間以内ニ最終的解決ヲ行ナワナカッタ場合、騒乱ハ極メテ甚大ニナルモノト推定。 マタ、集落規模カラ見テ、警察、憲兵程度デハ此レノ鎮圧ハ容易ナラザルモノト推定。 反国家武装蜂起ト位置付ケ、緊急ニ軍ヲ以ッテ鎮圧スルノガ最モ適当ト思ワレル。 昭和二十年一月吉日 宛最高戦争指導会議 小泉大佐殿 高野一二三記ス 「ご存知の通り、アルファベット計画は戦後の日本の国際的な地位向上を目的としたものです。 そして、我が国は世界への平和的貢献を模索し、国際的地位を確立するに至りました。 日本は国際社会において重要な地位を担う国家として成熟し、さらにその存在感を強める事でしょう。 よって、現在、時代に即した形になるよう、アルファベット計画の見直しを進めています」 「そして、この4月に新体制の理事会が発足し、全計画に対する新方針が決定されました。 この入江機関の研究目的は二つありました。 一つは雛見沢症候群の研究と治療法の確立。もう一つは多面運用の模索です。 新生理事会はこの後者の、多面運用の模索については即時の中止を決定しました。 これらの研究開発が国内で行われていた事実と痕跡は、今後はむしろ醜聞になりかねません。 入江機関は直ちに、これに関わる全ての研究を中止し、一切を破棄してください」 「また、入江機関につきましては、最長3年を目処に、研究の収束を図ってまいります。 私どもにとっての最大の目的は、軍事目的の研究が行われていた事の完全な破棄です。 よって、雛見沢症候群と云う特殊現象が研究されていた痕跡と、 そもそも存在していた事実についても隠蔽すべきであると考えます」 「誤解ないようにして頂きたいのは、 私どもはあくまでも研究を直ちに中止させようと云うのではなく。 円満な形で研究を終了させようと云う事です。この違いをご理解ください」 物事が想像よりも悪くなる事は遭っても、良くなる事は少ないのが私の人生である。 その観点から見ると、矢張りこれも悪い事に当てはまるのかも知れない。 私は暗闇の中、少女を拉致した影達と対峙していた。 そして――私は吃驚(びっくり)していた。 どうしよう。 それが私の中に遭った感情だった。 相手は3人、私は1人。 しかも私は丸腰だ。 しまった。 これが私に新たに生まれた感情だった。 私はお世辞にも、体力がある訳でもない。 せめて、武器になる様な物を持ってくれば。 どうしようもない。 右の影が――残念と呟き、首を振った。 左の影達が手に握った何かを私に向ける――銃か? ああ、私はここで死ぬのか?――そう死ぬだろう。 私は目を瞑り、その時を待ちかまえた――せめて苦しまずに。 矢張り京極堂の云うとおり、大人しく東京に帰れば良かったのだ。 ああ、雪絵に一言謝りたかった。 私はこの時間が、永遠に続くかと思った。 【決意表明】 願いを成就し、望む未来を紡ぐ力。 紡がれる糸の強さは、意志の強さ。 気高く強き願いは必ず現実となる。 それは小さな胸に宿る、大きな決意。 人の命が、もしも地球より重いなら。 私の小さな決意は、地球よりも重い。 運命は個人だけじゃなく、人を、世界を支配する絶対の力。 それはつまり、もはや運命。 私が紡ぐのは、運命。 実現の約束された願いは、もはや願いとは呼ばない。 私の絶対の意思が、絶対の未来を紡ぎ出す。 誰にも邪魔できない、誰にも覆せない。 サイコロの1なんて認めない。 全てのサイコロを6にしてやる。 それは生きながらにして神に至る。 それに気づいた時、私は解放される。 そう。私は神の域を超えるのだ。 サイコロの目など私は越える。 サイコロの目は私が決める。 運命すらも、私が決める。 挫けぬ絶対の意思で。 永遠に続くかと思われた時間は、音によって破られた。 甲(かん) かん?――「バン」じゃないのか? 甲(かん) まただ――これは?――跫(あしおと)? 甲(かん) 私は後ろを振り返る。 鳥居の向こうにあいつの上半身が見える。 甲(かん) 雲に隠れていた月が、不意に丸い姿を現す。 奴がやって来たんだ、物語を終結させる為に。 劇的。 余りに劇的、 まるで活劇。 そして―― 月光を背に、 黒衣の殺し屋が登場した。 物語の世界において、(少なくともその中では)作者は神と言っても構わないでしょう。 ならば神として、この言葉を使う時、神託を告げる刻(とき)が来たようです。 今ここに、全ての情報が提示されました。 これまでに、紡ぎ出されたカケラたちを、理で繋ぎ合わせれば、一つの形を示すでしょう。 ここで私が問いたいのは、 「誰が犯人かを推理する問題」ではなく、 「誰が神なのかを証明する問題」なのです。 ここは小説やゲームなどと言った、一方的な世界ではありません。 貴方は傍観者ではなく、観測者にもなりうるのです。 (そして、この世界では観測者は神と言いかえる事も可能でしょう) さて、 親愛かつ敬愛なる、読者の皆様の解答を心よりお待ちしております。 「後神の刻(とき)」~神降ろし編(出題編)~ <完> 次回予告 ひなびた寒村で起こった連続怪死事件。 そこを訪れた、へっぽこ文士・関口巽に襲いかかる怪奇たち。 物語が混迷の度を極めた時、ついに現れた黒衣の殺し屋。 奴は神か、悪魔か、はたまた妖怪か。 黒衣の殺し屋が理を語る時、世界は一つに集束する。 疾風怒濤、快刀乱麻、驚天動地な解答編。 「後神の刻~神貶(おと)し編~」 12月12日(土)本スレッドにて投稿予定。 関口巽の明日はどっちだ!
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――上空 その時は、突然やってきた。 予測通りに襲来したネウロイを迎撃する為、502の面々は空へと上がった。 メンバーは夜間哨戒を行っていた下原と書類仕事に追われたサーシャ、ロスマンを除いた全員である。 明らかに攻撃に傾倒した面子であったが、迎撃には何ら問題なく、彼等を纏め上げるラルという頭脳もあった。 誰もが何時も通りに戦い、何時も通りに勝利を収めるであろうことを想像していた。 しかし、ネウロイの行動は、想像の上を行くものであった。 管野『コイツ等、俺等に見向きもしねぇ!?』 俺「拙いぞ、ラル。奴等、こっちを無視して街へ向かう算段だ」 ラル『舐めた真似を……ッ!』 ネウロイに死の恐怖は存在しないのか、計23機の航空機型ネウロイは迎え撃つウィッチに見向きもせずに、一直線に近隣の街へと飛翔した。 その行動に驚愕こそしたものの、経験によって冷静さを取り戻したウィッチ達は迷わず、追跡を開始する。 ネウロイの行動は彼等の思考を一時的に凍りつかせるには十分であったが、最適の選択とは言い難かった。 目的が何にせよ、迎撃する存在が攻撃手段を有している場合、逃げ切ることは非常に困難だ。 ましてや、戦場は空の上、視界を遮るものは僅かな雲のみと、条件も悪い。 結局、街への道程の半分に至る時点で、ネウロイの総数は5機にまで減少するという体たらく。 全てを倒し切るまで時間の問題と思われたが、残る5機が厄介だった。 今まで撃墜されたネウロイは、まるでウィッチ達の性能を測る為であったのか、軌道や攻撃の射線が読まれ始めていた。 俺(賢しいな。性能に劣る者を使って、こっちの手の内を探ったのか) クルピンスキー『街に着くのが速いか、僕達が撃墜するのが速いか。時間との勝負だね』 ニパ『悠長にやってる余裕なんてないよ! このままじゃ街が……!』 俺「俺が先行する。俺は後ろを着いて来ただけだし、軌道も攻撃方法も読まれていない」 ラル『行けるかッ……?』 俺「やれるだけのことはするさ。巧くいったら、残りを攻撃してくれ」 ラル『よし! クルピンスキーとジョゼは俺の援護に回れ! 頼んだぞ!』 『了解!』 編隊の中から頭一つ分突出した俺の後に、クルピンスキーとジョゼが続く。 前者は俺が無茶な真似をしない為の手綱役、後者は攻撃に傾倒しすぎた場合の防御役といったところか。 俺「来い、アドラー」 アドラー「……よいのか?」 俺「……何がだ」 アドラー「いや、何でもない」 後にして思えば、それは最後通牒だったのだろう。 その僅かに漏らした感情に、俺は気付くべきだった。 俺はアドラーを欠片も信用などしていなかったが、依頼人の意向を優先する気質が災いしたのである。 そして、その時は訪れた。 俺と隣を寄り添うように飛んだいたアドラーが、一つになる。 自分ではない者が自分に溶け合うような感覚に眉を顰めるが、同調に際して何度となく味わってきたものだ。問題はない―― アドラー《掌握率100%、魔法力の同調による精神の入れ替えを開始……!》 俺「何……ッ!?」 アドラー《悪いな、俺。この身体、貰い受ける……!》 ――筈であった。 次の瞬間、黒鷲と俺は分離した。 何が起こったのか理解できないクルピンスキーであったが、力なく落下していく黒鷲を前にして、慌てて急降下していく。 ジョゼはジョゼで目を白黒させながらも、自分に与えられた命令を全うしようと俺の後を追う。 ジョゼ『お、俺さん……ッ!? アドラーさんが……ッ!!』 俺?「………………成功、か」 クルピンスキー『何をやってるんだ! 自分の使い魔だろう!?』 俺?「く、くく、くはははははははははははははははははッ!!」 二人の声も届いていないのか、俺は狂ったように笑い声を上げる。 まるで別人のようである。少なくとも彼女達の知る俺は、不遜と傲慢を形にしたかのような笑みを浮かべるような人間ではない。 俺?「行きがけの駄賃だ。まずは試運転がてら、目障りな羽虫を落としてくれる……!」 コートの内側に隠されていた片手剣を抜き放ち、爆発的な加速を見せる。 見る見る内にネウロイへと追い縋るや、追い抜き様、一刀の元に両断した。 明らかにネウロイの大きさに対して、足りぬ刀身。 だが、刀身を包む蒼い燐光が、刃状に形成した魔法力で足りぬ間合いを補っていると知れた。 俺は念動系、魔法力の移動と集中は、最も得意とする所。このような真似が出来たとしても不思議ではない。 続き、一機、また一機とネウロイが両断されていく。 圧倒的な性能と技量による一閃は、暗殺者のものではなく、誰の目から見ても騎士のそれだった。 俺?「これで、終わりだ……!」 憎悪に似た怨嗟の響きが声を彩る。 片手剣の刀身は更に輝きを増し、目も眩むような光を放つと同時に振り下ろされる。 斬撃と同化した魔法力が解き放たれ、数百mもの距離を一瞬で無に帰す。 言うなれば、飛ぶ斬撃。 通常の剣技ではありえない技であったとしても、そこに魔法力が解せば不可能も可能となる。 管野『なんなんだよ、ありゃあ……!』 ニパ『俺って、あんな真似出来たの?』 ラル『さあな。不用意に自分の手の内を晒す性格ではないのは分かっているが……』 余りに、異常過ぎた。 俺は元来、あのような魔法力に重きを置いた戦い方をしない筈だ。 にも拘らず、今回に限ってこれでは皆が不信に思うのも無理はないだろう。 俺?「去らばだ、小娘共。お前達との生活、悪くはなかったぞ」 ラル『……待て、どこへ行く気だ、俺!』 ラルの言葉にも耳を貸さず、俺はストライカーユニットを巧みに操り、何処かへと飛び去って行った。 後を追う暇もない。困惑と疑心が彼女達の行動を阻害したのである。 敵も味方であった筈の少年も消え去った空の上、6人の少女達が取り残される。 一体、俺が何の目的で去ったのかすら分からぬ状況の中、黒鷲の呻きが沈黙を破った。 アドラー?「う、……く……」 クルピンスキー「無事、かい……?」 アドラー?「伯爵? ……ネウロイは、どうなった?」 僅かに言葉使いと態度の異なる黒鷲を前にして、クルピンスキーは一つの答えに辿り着く。 馬鹿な。ありえない。そんな言葉が何度も頭を過ぎるが、彼女の頭脳は答えを受け入れ始めていた。 震える唇が開く。だが、出てきた言葉は出てきた答えを否定しようとするものだった。 クルピンスキー「ネウロイは倒した、君の“主人”が……」 アドラー?「主人……? ラルが……な訳ないか。クソ、だんだん思い出してきやがった」 クルピンスキー「やっぱり、そうなんだね……」 直前の記憶を取り戻してきたのか、黒鷲は首を振りながら言った。 俺「身体を、持っていかれた……!」 深い悔恨の響きが、黒鷲の――否、俺の口から流れ出る。 入れ替わった精神と身体が、黒鷲の反逆を告げていた。 ――談話室 ラル「厄介な、ことになったな……」 俺「全くな。言い訳のしようもない。クソ、俺としたことが……」 起こりえない筈の現実に直面した一同ではあったものの、兎にも角にも一度冷静になるべきと判断し、空の上から基地へと帰投していた。 始めの内は悪ふざけではないか、という疑いもあったが、アドラーには知りえない筈の記憶を語る俺を前にして、疑心を払わざるを得なかった。 ニパ「でも、どうやって……」 管野「少なくとも固有魔法じゃ、ねぇよな? 精神を入れ替えるなんて、念動系でも感知系でも、攻撃系でも分類できないしよ」 俺「らしいな。コイツはネウロイの封印やらシユウの刺青同様に、学問・技術としての魔法、術式の類だ」 ロスマン「ありえないわ。使い魔が、そんな荒唐無稽な魔法術式を自身で組み上げるなんて……」 俺は、アドラーが直前に漏らしていた言葉を思い出す。 魔法力の同調による精神の入れ替え、と奴は言っていた。 精神と魔法力が密接な関係にあることは、周知の事実である。 信じれば信じるほど、願えば願うほど、呼応するように力が増していく不可思議な力。それが魔法力だ。 魔法力を辿って行った先に、精神が制御装置や原動力として存在していたところで何ら不思議はない。 恐らく、俺以外のウィッチでは現状のような精神の入れ替えは出来なかった筈だ。 ただでさえ、精神という曖昧で不確かなものを入れ替える。それには複雑かつ高度な術式が必要となるのは考えるまでもない。 だが、それだけでは必要な項目を満たせない。如何に万能に見える魔法力であっても、不可能は存在する。 しかし、俺とアドラーはその項目を満たしてしまっていた。 それは魔法力の相性である。 肉体面のみならず、精神面まで同調できる、また覚醒状態に至れる適合率の高さが災いしたのだろう。 俺「……一つ、分かったことがある」 クルピンスキー「それは、現状を打破できることなのかな?」 サーシャ「いえ、そうでなくても、何か解決の糸口になるようなことでも構いませんよ」 半ば混乱している思考で、二人が言葉を漏らす。 対し、俺は冷静だった。 後悔や焦りが自身にとって何らプラスにならないことを知っていた。 起きた現実に変えようがないのなら、せめて先をよりよい方向へと修正するだけだ。 俺「いやに人間臭いと思ったが、……あいつ、どうやら本当に元人間らしい」 ジョゼ「どういう、こと、ですか……?」 俺「入れ替わりの瞬間に、僅かではあるが奴の記憶を見た。視線の高さや視界に入った腕は、間違いなく人間のそれだった」 下原「そんな、人間が使い魔になるなんて、聞いたことありませんよ!?」 俺「だろうな。俺もない」 ますます深まっていくアドラーの正体と謎に、混迷の度合いも相対的に増していく。 俺「まあいい。奴の目的が何にせよ、俺がやることは一つだ。伯爵、悪いが窓を開けてくれないか?」 クルピンスキー「……どうするつもりだい?」 俺「言うまでもない。俺は俺の身体を取り戻すだけさ」 幸いにして、人から鷲の身になったものの、飛び方は分かった。 それがこの鷲の身体に埋め込まれた術式によるものか、記憶によるものなのかは分からなかったが、そのようなことは問題ではないだろう。 今現在、俺は契約の途中である。しかも、依頼人側から打ち切られぬ限りは有効な類のものを結んでいる。 この鷲の身体では契約を果たそうにも無理がある。それではプロとして名折れだ。何としても、身体を取り戻さねばならない。 ラル「待て、俺。アドラーの居場所も分からん状態で行った所でどうしようもないだろう。焦るんじゃない」 俺「焦ってる訳じゃないよ。奴の記憶を垣間見た時に、少しだけ見えた景色がある。 アレだけ鮮明に見えたってことは、強烈に意識していたってことだ。そこに何らかの目的があるのは間違いない。奴もその近くに潜伏しているさ」 下原「で、でも、場所が分かっても、どうしようも……」 俺「それも問題ない。どうやら、奴の使った術式はこの身体に刻み込まれたものらしい。 つまり、使い魔として同調さえしてしまえば何とかなる。元々、あの身体は俺のものだ。精神も肉体に引きずられるのは道理だろう」 ピョンピョンとカエルが跳ねるように、机の端まで移動する。 どうやら、鳥というものは人間のように左右の脚をそれぞれ前に出して歩けるようには出来ていないようだった。 黒い翼を広げ、宙へ舞い上がろうとした俺を見て、管野が痺れを切らしたように立ち上がる。 管野「おい! お前、一人で行くつもりかよ」 俺「ああ? 当然だろ。これは俺の落ち度だ。自分の尻くらい自分で拭くさ」 それがどうかしたか、とばかりに首を傾げる。 俺にはどうにも、こういったところがある。 他人を道具のように使うことには抵抗がない癖に、好意や善意といったものを受け取るつもりがない。 それは、俺が彼女達を仲間というよりも依頼人として強く認識しているからだ。 仕方のないことである。暗兵は依頼や任務を遂行する為に、平気で仲間を切り捨て、また自らも切り捨てられることを良しとする。 依頼人と認識していなければ、依頼遂行の為に依頼人自身を切り捨てかねないのだ。 自らの使い手すら切り捨てた時、暗兵は道具ですらなくなる。 その一点を守るため、その認識を譲ることは決してないだろう。 ラル「はあ、お前という奴は……。ところで、仮に巧くアドラーに接触できたとして、身体は取り返す自信はあるのか?」 俺「自信なんかいるかよ。そんなもんが必要なのは、よっぽどの馬鹿か弱者だけだ。俺には自覚だけあればいい」 ラル「……言い方が悪かったな。身体を取り戻す確率はどの程度だ?」 俺「さあな。同調できたとしても、奴も抵抗するだろう。そうなれば身体の主導権の奪い合いになる。まあ、これに関しては元の所有者である俺に有利だろうから問題はない、と思う」 クルピンスキー「じゃあ、問題があるとするなら……?」 俺「……奴の剣を掻い潜って、身体に触れること、かな。空戦の技術はそれほどでもなかったが、剣技に関しては間違いなく達人の領域だった」 加えて言うのなら、魔法力の存在もある。 恐らく、使い魔であった時間が長かったのであろう。それほどまでにアドラーの魔法力の制御は巧みだった。 下手をすれば、あの剣技はシールドすら両断しかねないものだ。 最悪の場合、接近すら出来ぬまま死ぬ可能性もある。いや、最悪でも何でもない。ただ、当然の帰結と言えよう。 ラル「そうか。…………ふむ。皆、まだ飛べるだけの魔法力は残っているか?」 俺「は? いや、おい。なに言ってんだ……」 管野「問題ねーよ。今日の奴は、それほど硬かった訳でもないし。最後の手強そうなのも、アドラーに持ってかれたしな」 クルピンスキー「だね。少なくとも、足止めや気を逸らす、あとは逃げるくらいのことは出来るよ」 ニパ「じゃあ、行こうか……」 あーあ、面倒なことになったな、とばかりに一同はそれぞれ椅子から立ち上がり、談話室から出て行こうとする。 目の前の事態に一番、焦ったのは俺である。 俺「いや、待て待て。何をする気だ、お前等……」 ロスマン「何って、……そうね、訓練かしら?」 サーシャ「今日のネウロイのこともありますし、威力偵察というのはどうですか?」 俺「どっちも、今日じゃなくてもいいだろうが! それに全員でやるようなことでもないだろ!?」 焦る俺の言葉を意に介さず、ウィッチ達はそれぞれ顔を見合わせ、笑うだけだった。 ラル「仕方ないだろう。そうでもしなければお前は協力させてはくれないんだからな……」 俺「依頼人を危険に晒してまで、することじゃねぇよ」 ラル「だからこそだ。訓練、偵察の途中に、たまたまお前の身体を手に入れたアドラーに接触、やむをえず戦闘になることもあるだろうな」 俺「お前等、逃げ道を塞ぐつもりか」 俺を止めるには感情に訴えても無意味、ということを理解した上での実力行使。 部隊を率いる者としてあるまじき判断でこそあるものの、言い分は通っているし、行動も無意味ではない。 ネウロイは連続的に侵攻は繰り返さない。一定の周期でそれを行う。 故に、訓練にせよ偵察にせよ、魔法力に十分な余裕があるのならば、決して間違った行動とは言えないだろう。 合理的な判断に基づいた正攻法。それが、俺の意志を曲げさせる唯一の術である。 俺「分かった。分かったよ、俺の負けだ。それが依頼人の意向だと言うのなら、俺も従わざるを得ない」 ラル「理解が速くて助かるよ」 俺「但し、これだけは誓ってくれ。奴が攻撃してきたのなら、迷わず引き金を引け」 ニパ「ちょっと待ってよ、私達は……!」 俺「いくら人間とは言え、偵察中に攻撃されたのなら殺したところで、何の問題もない。所属も国籍もない死体が一つ増えるだけだ」 管野「お前、自分の身体がどうなってもいいのかよ」 俺「それはお前等にも言えることだろ。傷を負うことも命を失うことも、戦場では日常だ」 初めから覚悟は出来ている、と口を開かないままに瞳が語る。 依頼人の安全。それが少年の最優先事項である。これだけは決して譲れない。 もし誓えないというのなら、俺はこのまま鷲の姿のまま生活を送るつもりだ。 幸いにして、戦うことは出来なくとも偵察くらいは出来る。随分、歯痒い思いをするだろうが、依頼人が傷つくよりはマシだ。 ラル「……分かった。結果がどうなるにせよ、油断も躊躇もしない」 サーシャ「……少佐!」 ラル「俺は覚悟も最大限の譲歩はしている。ならば、我々も最悪の場合を想定しておくべきだ」 運の悪いことに、アドラーの行方は俺しか見当がついていない。 もし森の中に隠れていようものならば、闇雲に探し回った所で見つけられる確率は、砂漠に落とされた針を探し出すようなものだ。 つまり、俺が動かなければ、彼女達もまた動きようがないのである。 俺「まあ、その心配はないと思うけどな」 ジョゼ「どういうことですか……?」 俺「どんな目的にせよ、あの場で全員殺してしまえば、追手が来るのはずっと後になる。 基地では隊員死亡後の処理で追われるし、そもそも自分が身体を奪ったと知られるリスクも減るだろう?」 サーシャ「確かに、そうかもしれませんね」 俺「……と言うことは、アイツは余計な荒事は避けたいのさ。その上で、目的を果たすつもりなんだ」 ロスマン「でも、目的の邪魔をすれば、嫌でも戦うんじゃないかしら……?」 俺「だろうね。でも、それも問題ない。奴の性格は何となくだが掴んでるし、策も考えてある。危険なのは最初だけ。それさえ乗り切れば、少なくともお前等には危険はない」 呆れたことに、僅かな時間で身体を取り戻す算段を立てていたようだ。 不思議ではない。俺には自信は存在せず、自己というものを知り尽くしているのだから。 俺「それに俺には弱点もあるしな。正確には、俺でない者が俺の身体を使うが故に生じる弱点ではあるけどね」 ラル「では、お前の策を聞いておこう」 俺「いいか、まず……」 黒鷲の反逆が幕を開ける。 一体如何なる策を以って、暗兵とウィッチ達はそれに答えるのか。 そして、あの黒鷲の正体は、一体何なのか。その答えを知る者は誰一人としているものはいなかった。 だが、少年には一つだけ心当たりがあった。 精神の入れ替え。この世の技術とは思えぬ、荒唐無稽の術式。 神話や伝説の中でしか存在しない魔法使いが使うような魔法の体現者達。 選民思想――自らが最も優れているという妄想に憑りつかれた、人から“仙人”と成った一族を……。 次の話へ
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車は夕暮れを切り裂く。 そして古手神社の前に停まる。 「エンジンは掛けたまま、待っていてくれ」 そう云うと、私は階段を駆け上がる。 急げ――今なら間に合うだろう。 息が切れる、鈍りきった体だ。 裏手に回ると、小屋があった。 鍵はかかってない、中に入る。 1階は倉庫の様になっていた。 私は迷わずに2階に上がった。 そこに――少女はいた。 窓際に腰かけて、片手には葡萄色の飲み物を持っている。 そして――少女は云った。 「関口、"また来てくれたの――"」 「ぎ、ぎみをざらういにきた」 私は噛んだ、意味は伝わらなかっただろう。 だが構わない、人を攫(さら)う時には同意は必須ではない。 私は少女を無理矢理抱きかかえると、 少女を攫った。 少女を連れて戻ると鳥口は驚いていた。 「うへえ、先生何をするんですか」 「いいから、車を出すんだ鳥口君」 ――立つ鳥跡を濁さずですよ。 鳥口は訳のわからない事を云って、車を発進させる。 少女は私の膝の上で、喜怒哀楽の喜と怒と哀が混ざった様な顔をしていた。 これでいい、このまま東京に帰ればいい。 あいつらも、東京までは追っては来ないだろう。 ガタガタ 振動を感じた。 少女の形を感じた。 私は以前、矢張りこうして抱いたことがある。 それは妄想だ。遥か前世の記憶のように朧げな。 私はその肌の温もりを吸い取るように、実にゆっくりとした動作で彼女を抱きしめた。 これでいい――そうこれでいい。 東京に帰ろう――この娘も一緒に。 そうだこれいい――これで全ていい。 いきなりこの娘を連れて帰ったら、雪絵は驚くだろうか? 私と、雪絵と、一緒に暮らすのも悪くないのかもしれない。 そんな気がする。 私がくだらない妄想に浸っていると。 私の膝の上に座っていた少女が云った。 「関口。気持ちはとても嬉しい――けど、 矢っ張り未来は決まっているのですよ」 少女は何故か、泣き出しそうな表情だ。 「大丈夫だよ――僕には全てが解った」 私が答えると、少女は。 「今回の関口は、今までで一番格好いい――でも」 ――どういう意味だ? その時、車の前方で破裂音。 刹那に、平衡(バランス)が崩れる。 ――うへえ!! 鳥口の間抜けな叫び。 制御を失った車は脇の雑木林に―― 私は咄嗟(とっさ)に少女の頭を抱え込んだ。 そして―― 激突。 【交信】 「――本部より鶯(うぐいす)、男性2名がRを奪取した。 車にて逃走。これを阻止し、Rを奪還せよ」 「――鶯1より本部、任務了解、発砲許可を申請」 「――本部より鶯1。発砲を許可する」 「鶯1より狙撃班、発砲を許可する。R確保のため、障害を阻止、排除せよ」
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PREV:DM04-BS2 ヒストリー・デッキ 第十話「永遠の無双竜」 NEXT:DM04-BS4 ヒストリー・デッキ 第十二話「無限軍団の結成」? デュエマ各セットの背景ストーリーを元にした構築済みデッキ。新規カードも収録されている。 第十一話は聖拳編背景ストーリーにおける多色呪文の活躍が描かれている。デッキコンセプトはグラディエーター軸の【白青黒赤ライブラリアウト】。今回から多色呪文が初登場するが、友好色のみである。 新規カードは 《寿命と未来の切断》? 《炎槍と魔剣の裁》? の2種類。 収録カード ■収録カード 枚数 ■光文明 (14) 《予言者マリエル》 1 《聖皇エール・ソニアス》 1 《宣凶師ベリックス》 4 《宣凶師ベルモーレ》 2 《宣凶師ドロシア》 2 《予言者ファルシ》 2 《新星の精霊アルシア》 2 ■水文明 (5) 《アクアン》 1 《アクア・サーファー》 4 ■闇文明 (4) 《リバース・チャージャー》 2 《デーモン・ハンド》 2 ■火文明 (4) 《バースト・ショット》 4 ■光/水文明 (4) 《魂と記憶の盾》 4 ■水/闇文明 (5) 《寿命と未来の切断》? 4 《英知と追撃の宝剣》 1 ■闇/火文明 (4) 《炎槍と魔剣の裁》? 4 作者:切札初那 参考 エキスパンションリスト 名前 コメント
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KYに定評のある紅雲です 久しぶりの河童です Deck Leader Lv4 河城 にとり 2x 昔のことは気にせず 1x 逢魔が刻 1x 幻想郷縁起 3x レーザー避け 3x 光学「オプティカルカモフラージュ」 3x 洪水「ウーズフラッディング」 3x 光学「ハイドロカモフラージュ」 2x 河童「のびーるアーム」 1x 漂溺「光り輝く水底のトラウマ」 3x 水符「河童の幻想大瀑布」 3x 河童「スピン・ザ・セファリックプレート」 2x 解体 1x 修理 3x 河童の工廠 3x 空中魚雷 3x 芥川龍之介の河童 3x 光学迷彩スーツ
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コメント 《彩華「崩山彩極砲」》+サポートからの攻勢を安定させるために《根性避け》を搭載。 実際には有れば嬉しいという場面で引けず、逆に減らした《ピンポイント》を持て余す事態に。 出典:綿矢りさ著「蹴りたい背中」 …彼女らに蹴られたら痛いじゃ済まないと思う。 蹴られたい背中 スペル22枚 《夢符「二重結界」》3 《彩符「彩光風鈴」》2 《彩翔「飛花落葉」》3 《幻符「華想夢葛」》3 《華符「破山砲」》2 《彩華「虹色太極拳」》3 《彩符「極彩颱風」》3 《彩華「崩山彩極砲」》3 サポート6枚 《紅砲》3 《連環撃》3 イベント12枚 《ピンポイント》1 《根性避け》2 《霊撃》3 《肉弾戦》3 《一蹴》3
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第二十一話「アナーキー・イン・ザ……③」 あっという間に束の間の休息は終わり、日曜日がやってきた。ついに野球大会当日だ。 午前九時、ぼくらは近所の河川敷に集合した。「由緒ある大会」というハルヒの説明は本当だったようだ。 揃いのユニフォームに立派な道具の本格派が集まっている。 当然ユニフォームを作っていないので、ぼくたちは学校指定ジャージでの参加だ。かなり場違い。やる気の面で。 こりゃ、厳しい戦いになりそうだ。そう言えば、キョンとみくるさんが連れてきた助っ人はどんな人なんだろうか。 「ねーねー。ジョニィくん」 と、幼い声がぼくを呼んだ。見ると、少女が眩しいくらいに笑っていた。 「くるま、押していい?」 くるま、とは車椅子の事だろうか。ぼくが承諾すると少女は歓声をあげた。 「やったー!すごいねえ。走るねえ」 喜んで押したり引いたりしている。ぼくは少し面食らいながら少女に話しかけた。 「えと。悪いんだけど、キョン……お兄ちゃんに聞きたい事があるんだ」 この子はキョンの妹だそうだ。どうしてあのキョンと同じ両親からこんな天真爛漫な妹が産まれたんだろう。 「わかった。連れてく!」 そう言うと、断る間もなくキョンの元へ押して行った。轢きかねない勢いでキョンの眼前に着くと、慌てて避けたキョンに尋ねた。 「キョン、君が連れてくる助っ人はまだ?」 「……もう来てる」 キョンの返事は素っ気ない。 「え、どこに?」 「後ろだよ」 後ろを振り向く。他チームの人ばかりだ。それらしい人はいない。 「……いないけど」 「いるだろ。俺の妹が」 ……え?この子?……いや、待て。人は見かけによらないものだ。 「キョン。この子、野球経験は?」 「そうだな。体育とか休み時間にやった事があるかもしれないな」 ないのか。大人が出る大会なのに、何でこんな子を……まさか、誘える友達がいないのか……? 「……そうか。……可愛い子だね」 そっとしておくのが優しさだとぼくは思った。 残るはみくるさんの助っ人だ。そう思った時、辺りに声が響いた。これは、笑い声だろうか。 「にょろ、ろ。にょろ」 誰だ!?声の主は太陽を背に立っている。逆光で顔が見えない。長髪を風になびかせ、その人は笑っていた。 「……君は!?」 「ふっふっふ……。満を持して、あたし参上!ジョニィくんだよねっ。 あたし、鶴屋。みくるからよーっく聞いてるよっ!」 「…………」 「ん?どうしたにょろ?」 黙り込むぼくに鶴屋さんが尋ねた。 「いや……運命的な出会いかと思ったけど、違ったみたいだ」 首を傾げながらぼくが呟くと、鶴屋さんは目を丸くした。 「え!?……あはは、積極的だねー。外人さんは」 「そういうわけじゃないんだけどな……」 ともかく、これで九人揃った。もうすぐ試合開始だ。 既にグラウンドで相手チームが練習を始めている。うーん、華麗な守備だ。気合いも素晴らしい。 まるで甲子園中継を見てるようだ。(今年の春に一度見ただけだが)ぼくらも負けずに練習を……まだポジションを決めてない。 「ハルヒ、ポジションはどうするんだ」 同じ事に気付いたキョンが言う。 「あたしピッチャーで一番ね。ハイ、これ」 得意気に出したのは薄っぺらな紙。やはりというか、メンバー表ではなかった。八本の線が引かれているだけ。 「……まさか」 「アミダね。文句ないでしょ」 文句が通じる相手なら言うんだが……というわけで、急遽アミダクジによって決められたメンバーを発表する。 一番ピッチャー、ハルヒ。二番センター、長門。三番ライト、みくるさん。四番ショート、キョン。 五番サード、ぼく。六番セカンド、億泰。七番ファースト、鶴屋さん。八番キャッチャー、古泉。九番レフト、キョンの妹。以上。 「決まった?」 何をぼやぼやしてるんだとでも言いたげな顔でハルヒが言った。 「もう行くわよ。集合だって」 「もう!?全然練習してないぞ」 「大丈夫、大丈夫。あたしが作戦を授けるから」 作戦?そんな物があるなら少しは期待ができそうだ。何せハルヒは野球部にいた事もあるらしいからな。 「まず塁に出る事。出たら、三球目までに盗塁ね。バッターはストライクならヒットを打って、ボールなら見逃すの」 「…………」 「あたしの計算では、これで一回に三点は堅いわね。いい作戦でしょ?」 確かに素晴らしい作戦だ。不可能って事を除けばだけど。 沈黙に包まれた空間で、キョンの妹の無邪気な拍手が響いていた。 たった一人の拍手を浴びながら、なぜかハルヒは胸を張っている。ぼくらが感心しているとでも思ってるんだろうか。 「これで勝ちは決まったも同然ね!さ、行くわよっ!」 どこからそんな自信が出てくるんだ。勝つ要素が全くないのに。ため息をつくぼくにキョンが耳打ちする。 「そう沈むなよ。どうせ優勝なんて無理だ。さっさと負けて、早く帰ろうぜ」 ハナから勝つ気はないのか。さては、負けるために妹を連れてきたな。 「それは、少し困りますねえ」 こ、古泉!?いつ聞いてた!?いつの間にか、変わらない薄笑いが隣にいた。 「無惨な敗北を喫すれば、涼宮さんにストレスが溜まり、閉鎖空間が拡大しかねません。 最低でも善戦して頂かなければ、世界の危機ですよ」 口から出た言葉はかなり重大だ。少なくとも、早く帰りたいという気持ちよりは。 ぼくはそう思ったが、キョンは違うらしい。しかめた顔には「うんざりだ」と書いてある。 「またそれかよ……。そうは言ってもな……」 「古泉のいう通りだぜ。オメー、ちゃんとやれよな」 どうやって聞き付けたのか、億泰が絡んできた。 「これはチャンスだかんな!朝比奈さんにいいとこ見せるぜェ~。黄金の右腕でよォ~」 「君はセカンドだけどな」 どうも締まりがない。古泉は世界の危機なんて言ってるけど……。 ま、とりあえず楽しんでやろうか。勝つのは無理だろうけどね。 To Be Continued……
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雪の面白く降った朝、ある人のところへ用があって手紙をやるに、雪のことには一言もふれなかったところが、その返事に、「この雪を何と見るかと一筆申されぬほどのひねくれた野暮な人のいうことなんか聞いて上げられましょうか、どこまでも情けないお心ですね」とあったのは、興があった。今はもう亡き人のことだから、こればかりのことも忘れ難い。
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后《きさき》などがお産の時に、甑《こしき》を落すのは、必ずしなければならないことではない。お胞衣《えな》が早くおりない時の咒《まじない》である。早くおりさえすれば甑落しはしない。本来下賤の社会からはじまったので、別だんに根拠のある説も無い。大原の里の甑をとくにお求めになる。古い宝物蔵の絵に、下賤の者が子を産んだ所で、甑を落しているのを描いていた。