約 1,690,330 件
https://w.atwiki.jp/konanmovie/pages/49.html
アリバイ証言殺人事件 事件発生場所 巽邸 事件発生時刻 昼間 凶器/遺留品 なし 被害者 巽和美 加害者 巽壮平 加害者と被害者の関係 トリック 罪名 担当刑事 探偵
https://w.atwiki.jp/harukaze_lab/pages/109.html
猫眼石殺人事件 山本周五郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)春田三吉《はるたさんきち》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)急|検《しら》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)※[#感嘆符二つ、1-8-75] ------------------------------------------------------- [#3字下げ]挑戦の電話[#「挑戦の電話」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 春田三吉《はるたさんきち》は東邦日報社の記者で社会部の至宝といわれていた。――一昨年《おととし》の春、東大の法科を出るとすぐに入社したという、まだほやほやの新人だが、満二年にならぬあいだに五つの大事件を扱い、その内三つは警視庁の刑事諸君をだし抜いて、自ら事件を解決し、――その記事を紙面に連載して、帝都五百万の市民をあっといわせたものである。殊《こと》に、 「百万円の殺人事件」として知られている彼《か》の「プカゴア公使殺害事件」は、なにしろ被害者が外国公使であるため事件の迷宮入りと共にプカゴア国から百万円の賠償金を請求され、国際問題にまで発展したのであるが、春田三吉のすばらしい活躍によって、犯人がプカゴア国革命党員の一人であることを突止《つきと》め、みごとにこれを捕縛したのだから、世人は驚嘆した。この事件は当時の全国新聞紙が筆を揃えて特報したから、諸君も御存じであろうと思う。 春田三吉はまだ弱冠二十七歳である。色白の痩形で、どちらかというとのっぽ[#「のっぽ」に傍点]の方だ、煙草を喫《す》わぬかわりにいつもチュウインガムを噛んでいる。 「絶えず歯を動かしているのは、頭脳活動を明敏にするためだ」というのが彼の口癖である。 ――夏でも冬でも厚手ツイードの背広ひとつで、決して外套を着たことがない、帽子は祖父《おじい》さんが洋行した時(だから明治二十三年だ)巴里《パリー》の古物屋から買ってきたという恐るべき骨董品で、天辺《てっぺん》にいくつも穴の明《あ》いているのを平気で冠《かぶ》っている――まあこういった風貌である。 この春田三吉が第四番めに手がけた、 「猫眼石殺人事件――」ほど怪奇を極めたものはあるまい。この事件では遉《さすが》の春田三吉が、社長から二度も辞表を求められたほどで、元々痩せている彼がお蔭で一貫目も体重を減らしたとぼやい[#「ぼやい」に傍点]ているくらいだ。――ここには先《ま》ずこの事件を詳しく紹介しようと思う。 諸君は「謎の侠盗」といわれている幻怪不思議な人物の事を聞いたことがあるはずだ。 彼は二年ほど前から都下の各富豪や、政治家、豪商を襲って、現金は勿論、秘蔵の数万、数十万円もする骨董宝物を奪う怪賊だ。――当局の必死の活動にもかかわらず、今日まで絶対にその正体を掴まれたことがない。もっともこの怪賊に襲われた富豪や政治家たちは、いずれも悪徳不正の連中で、そのため世間の同情は寧《むし》ろ怪賊の方に集り、 「日本のアルセーヌ・ルパン、現代の鼠小僧次郎吉――」とまで評判をとるようになった。 春田三吉も無論、この「謎の侠盗」を狙っていたのだが、他の事件に追われて、まだ手を着ける暇がなかった。ところが果然、実に思いがけなくも、侠盗の方から春田三吉に挑戦してきたのである。―― 十二月も押詰《おしつま》った或る日、春田三吉が出社して社会部の自分の机へ向うと間もなく、卓上電話のベルが鳴った。(社会部の平部員で自分の机に電話を持っているのは、彼だけだ) 「ああ社会部の春田です」 「お早うございます、春田さん」社の交換手が出ると思ったら、向うはひどく嗄《しゃが》れた老人の声である。 「何誰《どなた》ですか――」 「御機嫌は如何《いかが》でございますかな」 「誰ですか君は、用事なら早く頼みますよ」 「大層な気早ですな――実はいささか興味のある御報告を申上《もうしあ》げたいと思いますので、というのは、丸ノ内の第一ホテルに上森鶴子夫人と名乗る新帰朝者……左様、一週間ほど以前ヨーロッパから帰ってきた婦人が滞在しているのを御承知でしょうな」 「それがどうしたんです」 「今日、午後八時十分、上森夫人のお部屋へ或る男が侵入します、そして夫人の宝石類と現金を頂戴することになっております」 春田三吉の第六感はその時早く、電話の相手が「謎の侠盗」ではあるまいか、――という疑いを持った。そこで電話の応待《おうたい》をしながら手早く机上のメモへ鉛筆で、 (この電話がどこからかかっているか、交換台で至急|検《しら》べろ)と書いて丸め、向うにいる給仕の机の上へぽん[#「ぽん」に傍点]と抛《ほう》った。 「それは御親切なお知らせで恐縮です」 春田はなるべく電話を長びかせようとして、態《わざ》とゆっくり構えた。「――してみると、上森夫人は貴重な宝石類を持っているわけですな」 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 「左様、まず邦貨にして五十万円はあるでしょう、――それをすっかり頂戴しようというのです、これは警視庁へもお知らせしておきました。今夜の八時十分ですお忘れなく」 「有難《ありがと》う、ところで貴方《あなた》は――?」 「ふふふふふ」相手は嗄《しゃが》れ声で笑った。「そんなお芝居はやめましょう春田君、君はもうこちらが謎の侠盗だということを御存じじゃありませんか、――なんのために交換台へ此方《こっち》の電話を検べさせたんです?」 春田は跳上《とびあが》るほど驚いた。メモへ書いて給仕に交換台を検べさせたことが、既に相手に知られているのだ。 「ではこれで失礼」相手は嘲るようにいった。「また今夜、八時十分にお会いいたしましょう」 「ああ、ちょっと……」急いで呼び止めようとしたが、そこで電話がぷつりと切れた。 「――畜生!」春田三吉は思わず舌打をした。 「分りました」給仕が帰ってきた。 「どこから掛けていた。相手は何番だ」 「それが――隣の社長室です」 今度は春田三吉まさに椅子《いす》から跳上った。そして脱兎のような勢《いきおい》で社会部室を横切り、扉《ドア》を蹴放さんばかりにして社長室へとびこんだ。――部屋の中は森閑としている。そして、電機ヒーターに背中を炙らせながら、大きな革椅子に凭《もた》れて、社長細野平五郎氏はぐっすりと眠りこけていた。 春田三吉は直《す》ぐ廊下へとびだし、階下から玄関の受付まで走りまわって、怪しい人物の出入りを慥《たしか》めたが、ついに要領を得なかった。 「社長――社長、起きて下さい」春田は社長室へ戻ってくると、大|卓子《テーブル》を叩きながら呶鳴《どな》った。細野社長は「痩せた河馬《かば》」という綽名《あだな》をもっている、白髪頭で白い口髭があって、その名のごとく眼も体も細いくせにひどく動作が鈍い、まるで陸《おか》へあがった河馬のようである――春田の喚き声に、うすぼんやりと薄眼を明け、それから両腕を頭の上まで伸ばしながら、大きな欠伸《あくび》をして、ゆったりと椅子の上に身を起した。 「ああよく眠った。うちの新聞を読んでいると良い心持《こころもち》に眠くなるよ、全く――近頃の東邦日報はまるで眠り薬のようじゃ」 良い記事がすこしもないという皮肉だ。ふだんの春田青年なら怒りだすところである。しかし今日はもっと重大なことが持上《もちあが》っていた。 「それどころではありません社長、謎の侠盗が僕に挑戦してきました。丸ノ内第一ホテルに滞在中の上森鶴子夫人を襲って、現金と宝石類を盗むというんです、しかも今夜八時十分に決行すると時間まで予告してきました」 「――ほう、面白いな」社長の細い眼が少し大きくなった。 「面白い――なる程。それではもっと面白いことをお知らせ申しましょう。侠盗が僕に電話をかけてきたのはどこだと思います、この東邦日報社の建物の中からですよ」 「なんだと、――?」 「しかもこの部屋ですぜ」 「馬鹿なことを」 「交換台で訊《き》いて下さい。社長が眠っているあいだに、天下のお尋ね者、犯罪の王者、謎の侠盗は堂々と社長室へ乗《のり》こみ、社長の電話を使って犯罪の予告をしたんです、――こいつはすばらしい特種ですぜ」 細野社長の赧《あか》い顔がぴたりと動かなくなった。それから静かに椅子を立ち「痩せた河馬」という綽名をそのまま、ぶらぶらと室内を歩き始めた。 「――侮辱だ、許しがたき侮辱だ」 「そうですとも、犯罪者仲間の脅威の的だった東邦日報は今や侠盗の泥足で汚されたんです。こいつをスクープされたら我が社は新聞界の嗤《わら》いものです」 「春田君、捉《つかま》えろ!」社長は低い声でいった。「すぐに丸ノ内第一ホテルへいくんだ。警視庁と協力してホテルの使用人全部を調べあげろ、部屋の隅々を探れ、上森夫人の宝石を一個たりとも侠盗に渡すな」 「引受けました!」 「待て――」社長は呼止《よびと》めて、「君一人では心配だ――否、君の腕を疑るわけではないが、なにしろ相手は千軍万馬往来の怪人物だ、僕もあとから手伝いにいこう」 「どうぞ御自由に」 痩せた河馬などにこられては却《かえ》って足手|纏《まと》いだと思ったが、春田三吉は急いで社長室を出ると、チュウインガムをひとつ口へ放りこみ、帽子をひっ掴んで外へとび出した。 [#3字下げ]意外! 侠盗、夫人を殺す[#「意外! 侠盗、夫人を殺す」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] その夜の第一ホテルほど物々しい光景はなかった。ホテルのある仲通り二号地は、角|毎《ごと》に正服《せいふく》私服の警官が立番しているし、辻待のタクシーには全部刑事が乗込んで、侠盗の逃亡に備えている。ホテルは昼のうちから何度も大捜査が行われ、屋上庭園から地階の燃料庫、ボイラー室まで、隅という隅、鼠の穴にいたるまで検索された。それにも増して厳重なのは、使用人の調査だった。まず支配人から始めて部屋附の給仕、ベル給仕《ボーイ》、|お茶少女《ティーガールズ》、掃除番、帳場係り、交換手から料理人、風呂番まで、一人一人呼出して警視庁捜査課長自ら訊問にあたった。 春田三吉は勿論、この捜査に立会《たちあ》ったが、建物にも使用人にも異常のないことをたしかめた。そして遅い夕食の後三階の上森夫人の部屋へあがっていった。 上森夫人は三階の七、八、九の三部屋を借りていた。七号が応接間、八号が居間、九号が寝室で、寝室の隣が浴場になっていた。夫人は貞枝という少女の召使いと二人でこの三部屋を使っているのだ。 春田三吉は、警視庁で「鬼警部」といわれる名探偵、橋本刑事部長と共に応接室へ入っていった。鶴子夫人は年の頃二十七八、非常に美しい婦人で、むしろ凄艶《せいえん》と云《い》いたいくらい、――巴里《パリ》一流の衣装店で作らせたという贅沢《ぜいたく》な部屋着を着て、高価な香水を花のごとく体の周囲に匂わせている。 「何か怪《あやし》いものがみつかりまして――?」夫人は鬼警部に美しく微笑しながらいった。ゆったりと寝椅子に凭れて、すんなりした脚を組合《くみあわ》せているのが、なんともいえず嬌《なま》めかしい。橋本刑事部長は眩《まぶ》しそうに眼を外《そ》らして、 「いや、建物にもホテルの使用人にも怪むべき点は発見されません。――つまり、侠盗は未《ま》だこのホテルへいささかも手をつけていないのです。つまり」 「つまり――」と夫人が引取った。「侠盗は結局わたくしの宝石を盗むことはできないというわけですのね」 「仰せのとおりです、二号地区は蟻の這う隙もない厳重な警戒線で取巻《とりま》いてあるし、ホテルの内外は二十数名の警官が張込《はりこ》んでいます、侠盗が神様でないかぎり、到底この部屋へ忍びこみ、貴女《あなた》の持物へ手をつけることは不可能です、絶対に――」 「ちょっとお伺いいたしますが」と春田三吉、 「御所持の宝石類はどこへお納《しま》いですか」 「寝室ですわ」夫人はにこやかに答えた。「寝室の枕箪笥《まくらだんす》の中に入れてございます」 「もっと早く適当な銀行へでもお預けになった方がよかったですね」 「わたくし日本の警察を信じています」 「侠盗だけは別ですよ」 「馬鹿な?」鬼警部が喚いた。「アメリカや仏蘭西《フランス》なら知らぬこと、日本の警察は犯罪者に馬鹿にされるようなちゃちなもんじゃない」 「そうなって貰いたいですね」春田三吉はそういい捨てると、立っていってもう一度改めて寝室の捜査をはじめた。 寝室は四坪ほどの広さで、東側に窓、北側の壁に飾り煖炉《だんろ》があり、その脇に浴室へいく扉《ドア》がある、寝台《ベッド》は南側の壁に添っておかれ、頭のいく方に豪華な枕箪笥があった。春田三吉は床を叩いたり壁を探ってみたり、どこかに脱《ぬ》け穴がありはしないかと、三十分もかかって調べたが、結局なにも発見することはできなかった。 「どうだね、何かあったかね」春田が戻ってくると、橋本刑事部長はからかい[#「からかい」に傍点]顔で訊いた。 「君はプカゴア公使事件からこっち、だいぶ気を好《よ》くしているようだが、相手が謎の侠盗では少し荷が勝ち過ぎるぜ――また新聞記者は記者らしく、我々の捜査を嗅ぎまわっている方が安全だろう」 「有難う、橋本さん御親切は忘れませんよ」春田はにっこり笑って、「しかし僕は侠盗から呼ばれているんです、彼の好意を無にするわけにはいきませんからね」 そして春田は階下へ降りていった。 あとから手伝いにいく、といった細野社長が、どうしたわけかまだこないのである。玄関まで出てみたがやはりきた様子はなかった。時間は遠慮なくたっていく――七時、七時三十分……。 いよいよ時間は切迫してきた。三階の廊下には十五名の警官が立番に当った――応接室には、橋本刑事部長と春田三吉が頑張っている。壁の時計が八時を打った時、 「わたくし疲れていますから寝室へ退《さが》らせていただきますわ」といって鶴子夫人は起上《おきあが》った。そして二人に会釈して小間使いの少女と共に寝室へ入っていった。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 春田三吉はさすがに凝乎《じっ》としていることができなくなった。白昼堂々と東邦日報社の社長室を侵され、堪難《たえがた》き侮辱を与えられているのである。 春田三吉だけでなく、東邦日報社の名誉に賭けても侠盗を仕止めなければならないのだ。 「――八時五分」橋本鬼警部が呟いた。 春田青年は烈しくガムを噛みながら時計を見た――とその時、寝室から小間使いの少女が出てきた。 「どうしました?」 「はい、奥さまが葡萄酒《ぶどうしゅ》を召上《めしあが》るとおっしゃいますので……」そういって少女は廊下へ出ていった。 橋本部長は喫っていた煙草を灰皿で揉消《もみけ》した。春田三吉も噛んでいたガムを吐出《はきだ》し、愛用のステッキを握り緊《し》めた。――張切《はりき》った弓弦《ゆみづる》のような、息苦しい一秒一秒が経っていく。しかし何事もない。何事も起らなかった。 「八時十分、時間だ」鬼警部がほっとしながら呟いた。 その時である、寝室の方に何か妙な物音がしたので、春田三吉は弾かれたように――たった三歩で居間を横切りながら、寝室の扉《ドア》へ馳せつけた。そのとたんに中から、 「犬め、犬め、畜生……」と叫ぶ鶴子夫人の声が聞え、 「ユウレカ!」と妙な男の喚き声が起った。 春田は咄嗟《とっさ》に中へ跳込もうとしたが、扉《ドア》には内側から鍵がかかっていた。そこで、駈けつけてきた橋本部長と力を協《あわ》せて、扉《ドア》へどしんと体を叩きつけた。寝室の中からは再び、 「助けて――ッ」という夫人の悲鳴、とほとんど同時に、絹を裂くような断末魔の声が聞えてきた。 扉《ドア》は樫材の頑丈なものだったが、それでも二人が押破るまでに三分とは掛らなかったに違いない、それにも不拘《かかわらず》二人が押破った扉《ドア》と共に部屋の中へ転げこんだ時には、既に既に――そこでは惨虐な犯罪が行われた後だった。 寝台《ベッド》の横のところに、白い寝衣《ガウン》を血まみれにして上森鶴子夫人が倒れている――そしてはだけ[#「はだけ」に傍点]られた雪のような胸の、左の乳房の下にぐさ[#「ぐさ」に傍点]とばかり短刀が突刺されていた、――夫人の胸部《むね》から流れ出た血は、寝台《ベッド》のシーツから床の絨毯《じゅうたん》まで染め、更《さら》にカーペットの方まで拡がっていた。 春田三吉はひと眼見るより、すぐに隣の浴室へとびこんだ。しかしそこには誰もいない、引返して窓の鎧扉《よろいど》を調べたが、そこにも内側から鍵が掛っている――このあいだに鬼警部は、急を警戒の者に知らせて、ホテルの出入を一切禁じ、自分は寝台《ベッド》の下や置戸棚のかげを捜していた。 「何者もいない、鼠一匹いないぞ」橋本部長は狂気のように叫んだ。「こんな馬鹿なことがあるか、一方口の応接間には我々がいた。居間の外、廊下いっぱいに警官が立っている。窓も扉《ドア》も内側から鍵がかかっている。しかもその中で殺人が行われるとは?」 「事実は事実です、――そして」といいかけて、春田三吉は一足跳びに枕箪笥へ駈けつけた。「そうだ、宝石――」 「侠盗は殺人を犯した。奴の手は血で汚れたのだ。全警察力をあげても彼を捕縛するぞ、奴は殺人鬼だ」 「――待って下さい、それは違います」春田青年が部長の言葉を制した時――どこからか人の呻《うめ》く声が聞えてきた。 「おや、変な声がしますぜ」 「――うん、呻き声だな……」 「しかもこの寝室の中です」 春田三吉は声のする方へ近寄っていった。呻き声は北側から聞えてくる、春田青年は全身を耳にしてすり寄ったが、やがてその呻き声が飾り煖炉の中から聞えてくるのを知って、いきなり鉄製火架を掴み、力任せに引張った。 果然、火架ががたり[#「がたり」に傍点]と鳴ったと思うと、火床がぱくり明いて、向うに薄暗いぬけ[#「ぬけ」に傍点]道が現われた――しかもそこに誰か倒れている。 「部長、誰か倒れています」 「待て、迂闊に手出しをするな!」橋本刑事部長は素早く右手に拳銃《ピストル》を取出しながら、左手で懐中電灯をさしつけた。そのあいだに春田三吉は倒れている男を抱き起したが懐中電灯の光で相手の顔をひと眼見るなり、 「あっ!」と仰反《のけぞ》るばかりに驚きの叫びをあげた。 [#3字下げ]笑う侠盗[#「笑う侠盗」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 飾り煖炉の向うに倒れていたのは何者であったか? ――細い絹紐で厳重に縛られ、猿轡《さるぐつわ》をかまされている背広服の男。 「注意しろ、危険だぞ」 声をかけながら橋本刑事部長がさしつける懐中電灯の光で、ひと眼見るなり春田三吉は仰反るばかりに驚いた。 「あっ! 貴方《あなた》は……社長」 左様、意外にもそれは東邦日報の社長細野平五郎その人であった。春田三吉は狐につままれたような気持で、社長の縛《いましめ》をとこうとした。橋本部長はそれを見ると慌てて、 「待ち給え、――」と押止め、社長の体を寝室へ運びだして、身体検査を始めた。春田青年は呆れて、 「橋本さん、貴方《あなた》はまさか社長を疑っているんじゃないでしょうね」 「場合によれば君だって疑うぜ」 部長は吐だすようにいいながら、細野氏の体中を点検した後、縛ってあった絹紐の結び目まで叮嚀《ていねい》に調べ始めた。細野氏はさっきから身もだえしながら、早く解いてくれという合図をするのだが、部長の身体検査はまるまる十五分もかかってしまった。 「宜《よろ》しい」やかて部長の許しがでて、猿轡をとり、縛《いましめ》をとかれるや、細野平五郎氏は地だんだ[#「地だんだ」に傍点]を踏んで喚きだした。 「この鯖《さば》ども[#「ども」に傍点]、能なしの穴熊、殺人犯人を眼前にして阿呆のように儂《わし》の身体検査などしている、見ろ! 犯人は貴様たちが遊んでいる暇に悠々と逃亡したぞ、この鰊《にしん》の頭め※[#感嘆符二つ、1-8-75]」 「犯人は逃げた? 何処《どこ》へ――?」 「飾り煖炉の後《うしろ》に脱《ぬ》け道があるんだ、奴は儂《わし》に疑いのかかるようにしておいて、其処《そこ》から階下《かいか》へ逃げたのだ」 「しかし出口には全部網が張ってある」 「そんな網がなん[#「なん」に傍点]になる、警官まで捉えろとはいってあるまい?」 「な、何だって?」橋本部長は眼を剥いた。細野氏は冷笑して、 「そうさ、奴は警官の服を着ていたよ」 「――しまった」橋本部長は脱兎のように跳出して行った。 果して細野平五郎氏のいう通りだった、凡《およ》そ二十分くらい前に、一人の正服警官が地下室から出てきて、 「部長の命令で警視庁へいってくる」 と云《い》い、部長用の自動車に乗って立去ったという事が分った。橋本鬼警部がどんなに、口惜《くや》しがったかはいうまでもあるまい。それから脱《ぬ》け道の捜査をしたが、それは厨房の脇から寝室の飾り煖炉へ通じているもので、元はそこに非常|梯子《はしご》があったのを、そのまま壁で塞いだものだった。 橋本部長は、犯人の乗って逃げた自動車を押えるように、全市の警察へ非常手配を命じておいて再び寝室へ戻ってきた。 「ところで細野さん、貴方《あなた》はどうしてこの寝室にきていたのか、それを伺いましょう」 「儂《わし》はもう五時間も前にきていたよ」細野氏は煙草に火をつけながら、「相手が侠盗とあっては迚《とて》も諸君の力では足りまいと思ってね、――お手伝いする積《つも》りできたんだ」 「それは光栄ですな、然《しか》しお手伝いがとんだ事になってお気の毒です」 「どう致しまして」細野氏は部長の皮肉を軽く受流《うけなが》して、「儂《わし》は此処《ここ》へきてひと通り建物を検べると、すぐにあの脱《ぬ》け道を発見した。つまり建物の構造の具合からして、どうしてもあの辺に非常梯子がなければならん、と考えたんじゃ。そこで司厨室を調べると、料理を運ぶリフトの竪穴《たてあな》に、元の非常口が横から見えていた、是《これ》だなと気がついたので、其処《そこ》から潜り込んでいくと、果して非常梯子があって三階へ通じている、――儂《わし》は音のしないように注意しながら登っていった。そしていま一歩で寝室へでようとした時、あの……上森夫人の悲鳴が起った」 細野社長はひと息ついて、「儂《わし》は急いで跳だそうと、飾り煖炉の蓋を押上げた、とたんに向うから犯人が儂《わし》の頭を殴りつけたので、不覚にも儂《わし》はそのまま倒れてしまったのだがその時――犯人が警官の服を着ているのを見たのじゃ」 「大胆不敬な奴だ」部長は歯ぎしりをして叫んだ、「だが侠盗め、こんどは殺人を犯している今までの馬鹿げた世間の同情も是で帳消しだぞ」 「いや、侠盗は殺人はしませんよ」春田三吉が断乎《だんこ》としていった。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 「だって現に上森夫人を……」 「侠盗は殺人をしません」春田青年は重ねていった。 「侠盗の狙ったのは『宝石』です。もしこの犯人が本当に侠盗なら、夫人を殺すより宝石を奪って逃げたはずです。ところが御覧の通り宝石には手も着けてありません」 「それは夫人に発見されたからだろう」 「僕はそう思いませんね、この事件はそんな単純なものではなさ相《そう》ですよ、夫人は犯人に襲われた時『犬め、犬め、――』と叫んでいました、それから犯人の声で『ユウレカ』というのも聞えました……この二つの言葉に何か謎があるとは思いませんか」 「まあそんな謎は其方《そっち》へとっておき給え、要するにだ、侠盗は午後八時十分に夫人の室《へや》を襲うと予告した、そしてその時間に犯罪が行われたのだ、是で犯人が侠盗であるということに疑いはあるまい、――兎《と》に角《かく》我々は侠盗を捕えてみせる、必ず奴を捕縛してみせるよ」 「そうですか、僕はまた侠盗ではないと思いますから、僕の信ずるところをやってみます」 「すると君は我々と競争する気かね」 「僕は真犯人を突止めさえすればいいんです、お手柄は部長に進呈しますよ」春田三吉は皮肉に一揖《いちゆう》して立上った。 細野社長と春田三吉がホテルをでるとき、階下の仮訊問室では、上森夫人の小間使いである可憐な少女貞枝が、刑事たちに厳しく訊問されているところだった。 「君は本当に犯人が侠盗でないと思うかね」 外へ出ると社長がいった。 「単に僕が思うだけじゃありません」春田はチュウインガムを口へ入れながら 「侠盗でないという事は事実ですよ」「どうしてじゃ?」 「神出鬼没といわれる侠盗があんなへま[#「へま」に傍点]な真似をする筈《はず》がありません。全体なんの必要があって夫人を殺すんです?」 「では犯人は誰だ」 「二つの仮定があります」春田は声をひそめて、 「第一は、侠盗に恨みを含む奴がいて、罪をなすりつけるためにやった仕事。第二は、夫人に恨みのある男、――この二つですね、僕は第二の方が有力だと思います」 「どうしてね?」 「犯人は上森夫人を襲った時『ユウレカ』と叫びました。ユウレカというのは何の事か御存知ですか?」 「知らんね、何じゃ」 「希臘《ギリシャ》の哲学者で大数学者のアレキメデスというのを御存じでしょう。アレキメデスが比重の法則を発見した時に、思わず叫んだのがこの『ユウレカ』という言葉なんです、本来その言葉にはなんの意味もないんですが、それ以来『発見したぞ』というような意味で使われるようになりました。つまり――犯人は上森夫人を『発見したぞ』と叫んだ訳です」 細野社長はひそかに舌を巻いた。 「たた分らないのは」と暫《しばら》くして春田がいった。「午後八時十分にホテルを襲うと約束した侠盗が、遂《つい》に姿を現わさなかった事ですよ」 「――何かつまり、その」と社長は低い含声《ふくみごえ》でいった。 「つまり、侠盗の方に都合の悪いことができたんじゃろ」 「とすると奴は、初めて約束を破ったことになりますね、少《すくな》くとも僕に対しては一本借りができた訳です」そう云って春田三吉は笑った。 社へ帰ると、春田三吉は直ぐに朝刊の原稿を書き始めた、それは警視庁で発表する「侠盗殺人犯」の説に対して、犯人は別にあるという事を主張するものであった。社長は十時近くまでいて帰ったが、春田は原稿が組上ってくるのを待つために残った。すると十一時十分ほど前のことである。机上の電話がジリジリと鳴ったので、受話器を取ってみると、 「やあ、――春田君」という声、 「ああ!」 と春田青年は危く跳上りそうになった。それは正に今朝聞いた侠盗の声なのだ。 「八時十分にはお眼にかかれなくて残念でしたね」 と相手は含声で云った。 「だが誤酔しないで下さい、侠盗は約束を無にするような事はありません、僕はホテルへいきましたよ、ただ意外な事件がかち[#「かち」に傍点]合ったために、宝石を頂戴することができなかっただけです、――ホテルへいったという証拠には、君が橋本部長と議論して、犯人は侠盗でないと主張して下すったのを知っています。君の頭はすばらしいです、仰有《おっしゃ》る通り僕は決して殺人などはしませんからね」 そういって侠盗はからからと笑った。 [#3字下げ]猫眼石の謎[#「猫眼石の謎」は中見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「さて用件です」侠盗は続けた、「貴方《あなた》は僕が殺人犯人でないと庇《かば》ってくれた、僕は実に感謝してます、そこで感謝の印に今度の事件に関する良い物を進呈しましょう」 「――何ですか」 「会ってから申しましょう、いま直ぐにきて下さい、大森の望翠楼ホテルにいます、二階の六号室で豊田といって訪ねて下されば分ります」 「君自身がいるんですか」 「侠盗自身お眼にかかりますよ、だが――決して同伴者をつれてきてはいけませんよ、もし警官でも連れてくるようだと、却って君の身が危険ですからね」 「分った、僕一人でいきましょう」 「ではお待ちしています」そこで電話は切れてしまった。 春田三吉は椅子からはね上った。侠盗が自ら会おうというのだ、警察界の謎、闇の世界の英雄、犯罪王「侠盗」と会えるのだ。 「しめた、しめた、――」 春田三吉は新しいチュウインガムを口へ抛りこむと、帽子を掴んで社をとびだそうとしたが、ふと思いかえして社長室へ戻り、大|卓子《テーブル》の抽出《ひきだし》から、社長の拳銃《ピストル》を取ってズボンの|隠し《ポケット》へ突込んだ。そして社用の自動車を命じて、一路大森へとすっ飛ばした。 「へ! 侠盗先生」春田はにやりとした、「春田三吉がどこまで甘ちゃんだと思うと間違うぜ、――殺人事件に関する手懸りを貰ったら、その後で君の体を頂戴したいもんだ」春田三吉の胸には既に満々たる闘志が燃上《もえあが》っていた。 「それにしても」 それにしても不思議なのは侠盗である。橋本部長と、犯人が侠盗であるかないかを議論したのは、あの狭い寝室の中であって、其処《そこ》には橋本鬼警部と細野社長と自分だけしかいなかった筈だ。隣の部屋は勿論、廊下にも警官がはいっていたのだから、立聴きをする隙などある筈がない、然《しか》も彼はちゃんと橋本部長と自分の議論を聞いているのだ。 「全く神出鬼没だ、何処《どこ》に隠れていたのか、あの飾り煖炉の他に脱《ぬ》け道があったのか」 遉《さすが》の春田三吉も是ばかりは見当がつかなかった。 二十分の後、車は大森の高台にある望翠楼ホテルへ着いた。受付できくと二階六号に豊田という人物が慥《たしか》にいる、名刺を通じて案内を頼むと、一応電話をかけた後、 「お眼にかかるそうですから、どうぞ」 といって宿直の給仕《ボーイ》が先に立って二階へ案内した。 愈々《いよいよ》侠盗と面会するのだ、果して侠盗とは如何《いか》なる人物であろう、また、――春田三吉は、事件の手懸りを得たら、そのあとで侠盗を捕縛する積《つもり》でいるが、侠盗はそれを知らないでいるだろうか? ――それとも侠盗が春田を呼だした事にも何か裏があるのではないだろうか? 探偵界の若手花形と、犯罪界の王者との、この歴史的な会見こそ実に未曾有の事件といわなければなるまい。――春田は二階六号室の前にきた。 「此方《こちら》でございます、どうぞ」給仕《ボーイ》は扉《ドア》を叩《ノック》して、 「お入り、――」 という返辞が聞えると、挨拶をして階下《した》へ立去った。春田三吉は部屋へ入った。 それは十|米《メートル》四方ほどの洋室で、南と東が大きな硝子《ガラス》窓になって居り、北側に窪房《アルコーブ》があってカーテンで仕切り、寝台が置いてあるという簡単なものだった。 「是はようおいでなされた」 春田が入ると、片隅の卓子《テーブル》に向っていた一人の老人が立ってきた。年の頃六十余りで、古びた羅紗《らしゃ》の背広を着け、背骨の曲った、ひどく痩せた体つきである。 「貴方《あなた》が豊田さんですか」春田青年は鋭く相手を睨みつけながら訊いた。老人はごほんと嗄《か》れた咳をして、 「はい、私は豊田さんに頼まれた者でして、貴方《あなた》様にお渡しする物を言いつかっているのでござります――どうぞおかけ」 「有難う。で……豊田さんは?」 「左様、なにか急用ができたとか仰有《おっしゃ》って、十五分ほど前におでかけなさいましたがの、なに用件は分っておりますで私から申上げまするじゃ」老人はそういって大儀そうにチョッキの|隠し《ポケット》から紙包を取出した。 春田三吉は老人の様子を穴の明くほど見戍《みまも》った。果してこの老人のいう通り、侠盗は出かけたのであろうか、それとも、――この老人こそ侠盗の変装したものではあるまいか? 「是でこざります」老人は紙包を差出《さしだ》した。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 春田三吉は紙包を受取った。披《ひら》いてみると中から女持ちの指環《ゆびわ》が一個出てきた。 「――指環ですね」 「左様で……」 それは台が白金で、大きな猫眼石《キャッツアイ》が入っている、そして環の周囲には羅典《ラテン》語で、 《猫の眼は太陽の光の如く汝《なんじ》の動静を看視す、汝、偽る勿《なか》れ》と書いてあった。 「で、――是をどうしろというのですか」 「つまり、豊田さんが仰有《おっしゃ》るのはこうですじゃ、――」老人は咳をして、「その指環は飾り煖炉の脱《ぬ》け道に落ちていたので、明《あきら》かに犯人が落としていったものに相違ない、――私には何が何やら分りませんがの、貴方にはお分りじゃろうと云っとられました」 「――なる程」春田は頷いて、指環を紙に包むと、上衣《うわぎ》の内|隠し《ポケット》へ確《しっか》りと納《しま》って。 「さて、――」と向直《むきなお》った、「是で第一の用件はすんだ訳ですね、御好意は感謝します、こんな重大な手懸りがある以上、必ず近いうちに上森夫人の殺人犯人は突止めてみせますよ」 「……はあ――」 「ところで第二の用件です」 春田三吉はずいと椅子を寄せる振《ふり》をしながら、いきなり右足で相手の椅子の足を力任せに前へ引いた。不意を喰った相手は椅子と共に、だっ[#「だっ」に傍点]と仰反《あおむけ》に倒れる。 「な、何をなさる」と驚いて跳起《はねおき》ようとするところを、春田は飛鳥のようにとび掛って押えつけた。 「き、気でも違ったか」 「気は慥《たしか》だ、侠盗先生、うまく化けた積《つもり》だろうが、春田三吉の眼は少しばかり見えるぜ、動くな!」 「ち、違う、わし[#「わし」に傍点]は唯《ただ》――」 「黙れ」春田は叫びざま、相手の上衣《うわぎ》の両袖を掴んで半分ほど引抜き、それを後で確りと結び合せてしまった。何のことはない狂人病院で狂人に衣《き》せる狭容衣《きょうようぎ》の形である。 「もうじたばたしても駄目だぜ」春田は相手を壁へ凭せかけておいて、勝誇《かちほこ》ったように立上った。 「君の変装は実に巧《たくみ》だったが、一つだけ失敗だよ、教えてあげようかね、それは君の靴さ」いわれて老人は恟《ぎょっ》とした。 「はっははは今更見たって無駄だ、そのように背骨の曲っている人間は、必ず靴の前が減っている筈だ。ところが君のを見ると寧ろ後の方が磨り減っているじゃないか、――つまり君の背骨は曲っていない証拠さ」 「うーむ」老人は思わず呻き声をあげた。 「どうだい、もう泥を吐いても宜《よ》かろう」 「参った、参ったよ春田君」老人は遂に兜を脱いだ。 「殺人犯人が侠盗でないというのを聞いて、実は君の眼に敬服していたんだが、君は予想以上に頭が働く、正に僕の敗北だ、兜を脱ぐよ、――ところで、こう勝敗がついた以上は、もう自由にしてくれるだろうな」 「どう致しまして」春田は冷笑した、「僕は警官じゃありません、犯人捕縛の手伝いこそするが、放免する権利は与えられていませんからね」「然しまさか僕を警察へ」 「渡しますとも、さぞ警視庁では喜ぶことでしょう、きっと橋本部長は昇進しますぜ」 「馬鹿な、そんな事ができるか」侠盗は叫んだ、「僕を警視庁へ渡したって、上森夫人の殺害犯人は捕まりゃせんぜ、彼奴《きゃつ》はそこらあたりの犯罪者とは種が違う、彼奴《きゃつ》と戦えるのはこの『侠盗』あるのみなんだ」 「貴方《あなた》は春田三吉を忘れていますよ」 「駄目だ、君の腕にも敬服するが、奴だけは君の手にも負えない、――第一君は『猫眼石』の指環に彫ってあった、あの羅典《ラテン》語の意味が分ったか」「なに、直ぐ分りますさ」「冗談じゃない、羅典《ラテン》語の辞典を引いている内に、第二の殺人事件が持上るぜ」 「な、なんだって?」春田はぎくりとした。 「第二、第三の殺人事件だ」「嘘だ!」 「証拠がある」「見せ給え」 「見せる、だから僕を自由にしてくれ」 「いかん!」春田は冷笑った、「そんな手に乗る僕じゃない。先に証拠を拝見しよう」 「――仕方がない」 侠盗は諦めて、「あの机の一番下の抽出《ひきだし》を明けてみ給え、そこに小さな筐《はこ》がある、それを出してきてくれ」 「宜し、動くな、動くと――」 そういって春田は拳銃《ピストル》を取出し安全錠を外して見せながら、机の前へ跼《かが》んで一番下の抽出《ひきだし》を明けた、――抽出《ひきだし》は湿気を食ったとみえてなかなか開かなかったが、両手で力任せに引くとようやく開いた。と――その刹那であった。抽出《ひきだし》が開いた瞬間、内側から黒い鉄製の罠がとび出して、ガチリ[#「ガチリ」に傍点]とばかり春田三吉の両手をはさ[#「はさ」に傍点]んでしまった、 「――ああ!」と叫んだが遅い、頑丈な罠は、恐ろしい力で両手を噛緊《かみし》め、引いても押してもびくとも動かぬ。 「あっはははははまさに主客転倒だね」侠盗はさも愉快そうに笑いながら立上ってきた。 [#3字下げ]謎の指環[#「謎の指環」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「おい春田《はるた》君、春田君!」耳許《みみもと》で呼ばれる声に、ふと気づいた三吉は、眼をあけようとしたが、頭の中がひどく痛むし、恐ろしく眩《まぶし》いので、しばらくは低く呻《うな》り声をあげるばかりだった。 「もう一本注射を打ってみて下さい」細野社長の声だ。 「いやもう大丈夫です」 そういっているのは社の雇い医師である。――春田三吉はそう思いながら、それからおよそ十分ほどは、夢とも現《うつつ》ともつかず、うつらうつらしていたが、やがて次第にはっきりと覚めてきた。そして頭を振向《ふりむ》けてみると、そこは見覚えのある東邦日報社の医務室で、自分は寝台《ベッド》にいるし、枕元には細野社長と医師が心配そうに立っていた。 「あ、社長でしたか」 「気がついたね。――気分はどうだ」 「それより僕はどうしてこんな処へきているんです、たしか……僕は大森の」 「望翠楼ホテルだろう」 「そうです、あそこで侠盗と――」 「君の負けだったらしいな」 社長はにやりと笑って、医師へ振返り、 「もう結構です、どうか帰って下さい」といった。――そして医師が立去《たちさ》ると枕元へ椅子《いす》をよせてきて、 「二時間ほど前に儂《わし》の家へ電話がかかってきた、無論侠盗からさ、――君が望翠楼ホテルの二階六号室にいるから迎えにこいというんだ、そこで編輯《へんしゅう》部の者を二三人|伴《つ》れていってみると君が倒れていたという訳なんだ」 「――畜生!」三吉は歯噛みをした。全警察界のお尋ね者、犯罪の王者たる侠盗を完全に捕縛しながら、ほんの些細な油断のために、どたん場で取逃《とりにが》すばかりか、逆にこっちが翻弄された形になってしまったのだ。 「こんな手紙がおいてあったぜ」口惜《くや》しそうな三吉の様子を見ながら、社長は一通の手紙をわたした。 「到れている君の胸の上においてあったのだ、至急と上書がしてある」 三吉は手早く封を切ってみた。――手紙はタイプライターで打ったもので、 「――こんな失礼をする積《つもり》はなかったが、眼には眼という俚諺《りげん》がある、僕の親切に対する君の返礼の仕方が不作法に過ぎたから、こんなことになったのだ、責めるなら自分を責め給え。……さて、親切ついでにもう一つ君に教える、すぐ警視庁へいって、留置されている少女貞枝(殺害された上森夫人の侍女)に会い給え、そして僕の進呈した猫眼石の指環《ゆびわ》を見せるのだ、これは極《ご》く内密に行わなければいけない。そして一刻も速きを要する、君は必ずなにか得るものがあるだろう。侠盗」 三吉は寝台の上へはね起きた。 「社長、僕の上衣《うわぎ》をとって下さい」 「どうするんだ」 「早く、訳は後で話します」 社長が「痩せた河馬《かば》」の本性を出してのろくさと立上り、手当をするために医者の脱がした三吉の上衣《うわぎ》を、椅子の背からとってやると、待《まち》かねていた三吉は外側の|隠し《ポケット》からまずチュウインガムを一つ取って口へ抛《ほう》りこみ、内側の|隠し《ポケット》に紙へ包んだ猫眼石の指環のあるのを慥《たしか》めると、 「――占《し》めた」といいながら寝台から跳下《とびお》りた。 呆れている社長を後に、帽子をひっ掴んで社を出ると、戸外はまだようやく朝の光が動きはじめたばかりで、野菜を積んだ車などが、石敷道をがらがら通っている有様《ありさま》だった。――四辻まで走ってタクシーを拾い、警視庁へ乗りつけると、いきなり駈けこんで、 「橋本さんはいますか」と受付へ叫んだ。 「課長室にいられます」 「有難う」三吉は階段を跳上って刑事課長室の扉《ドア》を叩いた――橋本鬼課長はいた、 「やあお早う、どうしたい」 「お願いです」春田三吉は課長の腕を掴んで引立《ひきた》てるようにしながら、「上森夫人の侍女の貞枝という少女にすぐ会わせて下さい。大急ぎです」 「なんのために会うんだ」 「第二の殺人事件を防ぐためです」 「――※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」鬼課長は眼を剥いて起上《たちあが》った。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 地下室になっている拘留室まで、薄暗い石の廊下を曲り、曲りいくあいだ、三吉の胸は怒濤のように騒ぎたっていた。――昨夜、望翠楼ホテルで謎の侠盗は、 「続いて第二の殺人事件が起るぞ」といった。そして手紙にも、――貞枝と会うことは一刻も速く……と書いてある。もし遅れたらどうしようと思うと、二分とかからないその道次《みち》が、千里もいくようにもどかし[#「もどかし」に傍点]かった。 「比室《ここ》だ、――」橋本課長はそういって、第二十三号拘留室の前で立止まった。 看視人がきて、鍵を明《あ》ける、薄暗い部屋の中に、茫然と横《よこた》わっていた少女は、扉《ドア》のあく気配を知って、怯《おび》えたように跳起《はねお》きた、――三吉は課長にことわって、自分一人だけ拘留室の中へ入ってくると扉《ドア》をぴたりと、閉めて、 「貞枝さん、――とおつしゃいましたね」と声をかけた。貞枝は痩形の眼の涼《すずし》い、おちょぼ唇《ぐち》をした美しい少女で、昨日から警官たちの訊問ですっかり怖気《おじけ》がついたらしく、おどおどした様子で三吉を見上げている。 「そんなに怖がることはありません、僕は東邦日報という新聞社の記者で、決して貴女《あなた》を疑っている訳ではないのです、――貞枝さんのお家はどこですか」 「――はい、あたくし……あの、孤児《みなしご》ですの、アメリカで上森夫人に助けていただき、一緒に日本へ帰ってまいりました」 「そうですか、では日本に御親類があるかないかも御存じないのですね」 「――ええ」貞枝はそっと袖口で眼を拭いた。 「お気毒《きのどく》でしかし御安心なさい、もし貴女《あなた》さえよければ、僕がなんでも御相談に乗りますよ、名刺を差上《さしあ》げておきますから、ここを出たらぜひ訪ねていらっしゃい」 「ありがとう存じます」 「そこで、さっそくですが、貴女《あなた》にお訊ねしたいことがあるんです」そういって春田三吉は猫眼石の指環を取出し、少女の眼前《めのまえ》へ差出した、 「これは上森夫人の殺された現場《げんじょう》に落ちていた物ですが、これについて何かお心当りはありませんか、――?」 少女の顔色はさっと変わった。 「こ、これが……彼処《あそこ》に?」 「なにか心当りがありませんか」 「やっぱり、――やっぱり、――」少女は怯えたように身を慄《ふる》わせた。 「どうしたんです、貞枝さん」 「ま、松井男爵が危いんです!」 「え、――松井さん?」 「外務大臣の松井さんです、早くなんとかしてあげて下さい、でないと殺されます」 今度は春田三吉が仰天した。――松井男爵は欧羅巴《ヨーロッパ》の某大国で大使をしていたが、先月はじめ、アメリカを廻って帰国すると同時に、一躍外務大臣の栄職についた人である。 「どうして松井外相が殺されるんですか」 「猫眼石の指環です。あたくし桑港《サンフランシスコ》で上森夫人のお供をして、XXX国領事の夜会へまいりました、――その時、XXX国領事と松井外相とのあいだに、少しばかり口論がありました。その場は上森夫人が仲へ入って無事に納まったのですけれど、松井男爵はすぐお帰りになられました、そのお帰りになる時……XXX国領事は、――今夜の記念に! といって猫眼石の指環を男爵にお渡ししたんですの」 貞枝はひと息ついて語りつづけた。 「その時、猫眼石の指環を貰ったのは三人いました、一人は男爵で他の二人は、上森夫人と加奈陀《カナダ》汽船会社のランドンという船長です、――ところが」 「――?」 「あたくし達が加奈陀《カナダ》汽船のコンドル号で日本へ帰る途中、そのランドン船長は、太平洋の真中《まんなか》で煙のように消えてしまいました。船の人達は海へ堕《お》ちたのだといっていましたが、いま考えると誰かに殺されたに相違ありません、――船長の部屋には謎のように彼《あ》の猫眼石の指環が遺されてありました。そして、上森夫人の殺された時にも猫眼石……二人つづけて怪《あや》しい死態《しにざま》をしたとすれば、今度は同じ猫眼石を持っている松井外相の番ではないでしょうか、春田さま」 少女の話を聞くうちに、春田三吉は事件の秘密が少しずつ分るように思われてきた。 桑港《サンフランシスコ》におけるXXX国領事の夜会、――領事と松井男爵の口論、――三つの猫眼石。事件の核心はここにある、操っている絲《いと》はXXX国領事だ。これは考えていたよりも大事件だぞ……そう思った三吉は、 「ありがとう、お蔭で大分はっきりしてきました、貴女《あなた》のいうとおり、本当に今度は松井外相に危険があるかも知れません、失礼します」春田三吉は立上って、 「繰返《くりかえ》していいますが、警視庁から出されたら、すぐ僕のところへ訪ねていらっしゃいよ、決して悪いようにはしませんからね」 「ありがとう存じます、――」 頼もしげに、うるんだ眸子《ひとみ》で見上げる少女を残して、三吉は脱兎のように廊下へとび出して行った。 [#3字下げ]第二の殺人事件[#「第二の殺人事件」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「大臣に会わせて下さい」永田町にある外務大臣官邸の玄関で、春田三吉は喚きたてていた。 「議会まえでお急《いそ》がしいから、大臣は一切面会はなさいません」 「しかし、どうしても五分間のうちに会わなければならんのだ」 「駄目です」受付は頑強に拒絶して動かない。 「よろしい」三吉は頷いて、例の「猫眼石の指環」を取出し、「ではこれを持っていってこういい給え、国家の重大事について御面会したいと、――名刺はこれだ、急いで頼む」 猫眼石の指環が興味を唆《そそ》ったか、玄関子は不承不承に奥へ去ったが、今度はひどく慌てて戻ると、 「御面会なさるそうです、どうぞ」と云《い》いながら応接室へ案内した。 外相松井男爵は小柄の肥った体で、眼の鋭い、口髭の濃い、いかにも精悍な感じのする人物だった。――つかつかと応接室へ入ってくると、いきなり指環を差出して、 「君か、この指環を持ってきたのは」と立ったままでいう、まるで豹が咆えるような声である。 「その指環に御記憶がございましょう?」 「どうして知っている、――」 「閣下」春田三吉は椅子から起って、 「猫眼石の指環を貰ったのは三名、閣下を除いて他の二人は殺されました」 「――何じゃと?」外相の眼がぎらりと光った。春田三吉は一歩前へ出て、 「桑港《サンフランシスコ》における夜会で、XXX国領事が三名の人物にこの指環を贈ったのです、一個は松井閣下、一個は加奈陀《カナダ》汽船のランドン船長、もう一個は上森夫人、――ところが日本へ廻航中ランドン船長は太平洋上で謎の死を遂げ、上森夫人は第一ホテルの寝室で刺殺されてしまったのです。しかも……両者とも現場《げんじょう》に『猫眼石の指環』を残して」 「矢張《やっぱ》りそうか、――」外相は唇を噛《かみ》しめながら、 「それで、君のきた理由は?」 「閣下、――三人の内二人は殺されました。とすると今度は、閣下の身に万一のことでも」 「わははははは」松井外相は豪傑笑いをして、「君、ここは日本だぜ、フランスでもイギリスでもない、一国の外務大臣がそう易々……」といいかけた時、田浦次官が入ってきて、 「閣下、首相から至急のお手紙です」と云って一通の書面を差出した。 「うむ、」――至急といわれて、外相はすぐ書面の封を切って読み下したが、見る見るその顔に朱を注いだと思うと 「怪《け》しからん、脅迫状じゃ」と喚いた。 「――閣下」と春田三吉が乗出《のりだ》す、外相は手紙を三吉に渡しながら、 「君の予言が的中した、見給え」 「拝見します」三吉は手紙を披いた。見ると青色の書簡紙へ赤のインクで、 [#ここから2字下げ] ――今夜、午後八時十分、閣下の生命《いのち》を頂戴|仕《つかまつ》る。 いかなる防禦をなさるとも、我等の手より免るるを得ざるべし。侠盗。 [#ここで字下げ終わり] 「あ! ――侠盗※[#感嘆符二つ、1-8-75]」三吉は愕然とした。「午後八時十分」といえば上森夫人の殺害された時刻と同じである。しかし、――侠盗という署名は疑わしい、決して人を殺さぬはずの侠盗、世の悪を懲《こら》し、弱者を救う侠盗が何のために外相を殺す必要があろう。 「嘘だ!」春田三吉は叫んだ。「侠盗というのは嘘です閣下、――第一、閣下の身辺に危険の迫っていることを、僕に知らせてくれたのは侠盗なんです。それが閣下を狙うはずはありません」 「そんな事は何方《どっち》でもよい。田浦君、――すぐ警視庁へ電話をかけて、一応この手紙を見せておいてくれ給え、しかし特に警戒の必要はないから!」 「いや閣下」春田青年は強く遮ぎって、 「これは単なる脅迫状ではありません、ぜひとも厳重な警戒を――」 「馬鹿なこんな、下らぬ脅しに一々怯えていた日には、外務大臣などは務まらん。――君は桑港《サンフランシスコ》で、儂《わし》とXXX国領事と口論したことが事件の原因を作ったもの……と思っているらしいが、そんな事は有り得ない、あの時|儂《わし》は、XXX国の東洋政策を論難したので、そのために殺されるなんて馬鹿なことがあるはずはないのだ。どうか出しゃばら[#「出しゃばら」に傍点]んでくれ」そういって外相は大股に立去った。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 首相官邸における閣議に出て、松井外相が帰ってきたのはその夜八時二十分前だった。 「橋本課長がお待ちしています」 主事が出迎えながら囁《ささや》いた。 「何処《どこ》にいる?」 「応接間です」 「よし、誰がきても会わんからな」 「かしこまりました」 大臣はつかつかと応接室へ入って行った。そこには警視庁の橋本刑事課長が待兼ねていて、外相の顔を見るなり、 「さっそくですが閣下」と急《せ》きこんでいった。 「今夜の警戒は警視庁の方へお任せ願います、閣下は軽く見ておいでですが、あの脅迫状は必ず実行されますぞ」 「では警戒しても無駄じゃないか」 外相は革張の深椅子へどかりと腰を下しながらいった。 「第一ホテルの事件を調べさせたらあの時も怪賊は八時十分を予告した。警視庁は全能力をあげて、蟻の這い出る隙もないまでに警戒網を張った、――しかし、怪賊は悠々と仕事をしてしまったそうではないか」 「それについては弁解は致しませぬ、しかし今夜は是非とも……」 「無駄だ、が、――まあそんなに、心配なら勝手にし給え。なあに何もありやせんさ」剛腹な外相はそういいながら応接室を出ていった。――橋本刑事課長はすぐさま官邸を辞して、外へ出た。外にはもう二時間もまえから厳重な警戒陣が張廻《はりめぐ》らされていたが、刑事課長は更《さら》に警官の数を二倍にすることを命じた。一方松井外務大臣は、応接室を出ると、その足で次官室を訪れ、 「これから二時間ばかり仕事を片付けるから、誰も部屋へ入らぬように頼む、面会者があっても取次ぎをせんでくれ」 「承知致しました」 「君は十時までここにいて貰おう、仕事が片付いたら夜食を一緒にするから」 そういって次官室を去ると、廊下の突当《つきあた》りになっている大臣の事務室へと入っていった。大臣室は十メートル四方の洋間で、東側に煖炉《だんろ》があり、それに近く大型の事務|卓子《テーブル》がおかれてある。南がフランス窓で、これには厳重に鎧扉《よろいど》が下されてあった。 大臣が入っていって、今しも卓子《テーブル》に向ってかけようとした時であった、――不意に室内の電灯がぱっと消えたと思うと、 「あ――!」と驚く大臣の背後から、何者とも知れずがっちりと羽交絞めにした者がある。 「だ、誰だ」 「叱《し》ッ声を立てない方がよろしい!」 怪漢は外相の耳許で囁いた、「……それから、あの書類をお出しなさい、急ぎますぞ」 「あの書類とは――?」 「桑港《サンフランシスコ》で、上森夫人から渡された書類です」 松井外相は愕然として、相手を突放そうと身を藻掻《もが》いたが、怪漢は非常な腕力で抑え込み、ずるずると垂帷《カーテン》の蔭へ引摺っていった。 「さあ、何処《どこ》にありますか」 「知らん、そんな物は忘れた」 「受取《うけと》ったことはたしかですね」 「――そうかも知れん、――君は誰だ?」 「思出《おもいだ》して下さレもう五分しか時間がありません、上森夫人から受取った書類は何処《どこ》にありますか」 「…………」 外相は何か低い声で答えた。そして垂帷《カーテン》の蔭はひっそりと鎮《しずま》ってしまった。 外務大臣官邸の大臣室にひそんでいた怪人物、水も洩らさぬ警戒陣をどう潜って、どうして、大臣室へ侵入したのであろうか――、このあいだにも時計の針は進んで、午後八時五分を過ぎていた。 不意に大臣室の電灯がぱっと点いた。 そして、――見よ、大型事務|卓子《テーブル》には、松井外務大臣が俯向《うつむ》いてせっせと何か書き物をしているではないか。 どうした事であろう? あの怪人物はどこへいったのか、松井外相はどうして人をも呼ばず、平然と事務を執《と》っているのか? ――この謎を解くまえに、我々は大臣室の窓の外を見るとしよう。 窓の外に、ぴったり身を寄せて、さっきから室内の様子を見戍《みまも》っている青年があった云うまでもなく春田三吉だ。 「――八時十分ジャスト」 腕時計を見て呟《つぶや》きながら、そっと右手の拳銃《ピストル》を執直《とりなお》した。その刹那であった、――突然 プス! プス※[#感嘆符二つ、1-8-75] プス※[#感嘆符二つ、1-8-75] と消音銃の射撃音が聞えたと思うと、春田三吉の頭上の鎧扉《よろいど》が砕け飛び、フランス窓の硝子《ガラス》が粉微塵《こなみじん》になって、弾丸《たま》は松井外相の体へ霰《あられ》のように集中した。 「あっ――、ッ」春田三吉は、松井外相の体が横さまに倒れるのを見ながら茫然と立竦《たちすく》んだ [#3字下げ]追撃[#「追撃」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 消音銃の猛射を浴びて松井外相の倒れる姿を見た三吉は、 「しまった!」思わず喚いて振返った。 消音銃の弾道は彼の耳許をかすめた、振返って見ると丁度《ちょうど》正面に、道を隔てて林政局の建物がある、――その二階の窓の一つが、今しも内側から閉まるところだった。 「あすこから射った、犯人はあすこにいる」 気付くのと、行動を起すのと同時だ。――二|呎《フィート》近い塀を飛鳥のように乗越える、警戒の警官隊はまだ事件を知らぬのか、道の上にはまだ誰も見えなかった。 春田三吉は脱兎の如く林政局の横手へ廻り、通用口から建物の中へ踏込《ふみこ》んだ。丁度その時、正面にある階段を、二人の男が足早に下りてくるのと、ばったり眼を見合せた。 ――此奴《こいつ》らだ! と三吉が感づく、刹那! 相手の一人がいきなり持っていた銃を挙げて射つ、 「どっこい」三吉はひらり跳退きざま右手の拳銃《ピストル》を狙い撃ちに浴びせた。 タンタンタン タンタン※[#感嘆符二つ、1-8-75] 「ひ――※[#感嘆符二つ、1-8-75]」悲鳴と共に、銃を持った方がだだだだッ、凄《すさま》じい物音をたてながら階段を転げ落ちた。三吉は大股に部屋を走りぬけると、狼狽して階段を駈け戻ろうとする一人を、跳躍して後からばっと組附《くみつ》いた。 相手は五|呎《フィート》あまりの小柄な奴だったが、恐ろしい膂力《りょりょく》で、必死に組附く三吉の手をふり放して行こうとする、三吉は夢中で相手の足を掴んだ、こいつが見事にきまった、怪漢の本は階段の手摺を押砕《おしくだ》きながら、撞《どう》! と下の広間《ホール》へ墜落した。三吉も続いて跳下りると、起上ろうとする奴を体当りにたっ[#「たっ」に傍点]と突倒し、 「外には警官隊がいるんだ、神妙にしろ」と押伏せる。 「くそっ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」 相手は英語で喚くと、すばらしい力ではね起きる、三吉がひっ掴む手を、強引に良《ひき》ずったまま二三歩、と! 不意に足を返すや、右手の拳で三吉の顎へ、火の出るような鈎撃《フック》を叩きつけた。 「あっ!」くらくらっと眩暈《めまい》を感じてよろめく、隙、怪漢はたたたと階段を駈登《かけのぼ》った。 「うぬ、逃がすかッ」三吉は猛然と後を追った。 怪漢は二階から三階へ上った、そして三階の窓から外へ脱出すると、予《かね》て見て置いたらしく、裏手に接して建っている煖房《だんぼう》用煙突へとび移って、するすると、鉄梯子《てつばしご》を下りた。――そして三吉がその後から伝い下り、裏手の塀を乗越えた時、ひと足違いで怪漢は、裏通りに待たせてあった自動車へとび乗り、凄じい速力で走り去るところだった。 「残念ッ」叫んで、足を宙に二三十メートル追ったが、忽《たちま》ちぐんぐん距離ができた、――と葵坂通《あおいざかどおり》へ出たとたんに、一台の空車《あきぐるま》が通りかかったので三吉は身を跳《おど》らせてとひ乗り 「向うへ行く車を追ってくれ、早く」と呶鳴《どな》った。 「ど、どうしたんです」 「スパイだ、急げ!」 「スパイ? ――合点です」 運転手は全速力を出した。 向うの車は気違いのように走った。溜池を赤坂見附へ出て、紀尾井坂を上り、更に四谷見附から麹町《こうじまち》へ入って、参謀本部から日比谷の方へ向う。 「分らん、変な方へ行きゃあがる」 呟いていると、意外や※[#感嘆符二つ、1-8-75] 車はXX署の前でぴたりと停った。 「あ、警察の前で……」 仰天する三吉。車がぎぎぎぎと軋《きし》りながら停まるのを待って、転げるようにとび下りて駈けつける、――覗いて見ると運転手のいない車の中に一人の男が倒れていた。 「どうしました旦那」後から来た運転手が声をかける、 「君、済まないが手を貸してくれ」 「よし来た」運転手に手伝わせて、倒れている男を引出してみると、雁字搦《がんじがら》みに縛られている。 「あ、此奴《こいつ》だ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」正に、林政局の二階から松井外相を狙撃した外国人である。――意外な結果に春田三吉は呆然と声をのんだ。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 謎だ、謎だ。全体これは何としたことであろう。――春田三吉は二人の兇漢を襲撃し、一人を拳銃《ピストル》で撃倒《うちたお》した。そして残る一人を追いつめてきた。兇漢は待たせてあった車に乗って逃げた。林政局の裏からここまで――寸刻も眼を放さず追い詰めてきた。ところが……兇漢を乗せた車はXX署の前で停り、運転手のいない車の中に、当の兇漢は縛られて倒れていたのだ。 「――誰が縛ったのだ、いつ?」 三吉は夢に夢見る心地で呟いた。 「おや、旦那――ここになにか手紙のようなものがありますぜ」 怪漢の体を抱え下した運転手が、そう云って――男の胸のところを指さした。縛られている男の上衣《うわぎ》の下に、一枚のカードが挿込《さしこ》んである、三吉は手早く取上げて読んだ。 [#ここから3字下げ] おめでとう、春田三吉君。 君の活躍はすばらしかった、此奴《こいつ》はアンドレイ・ブブノフと云う名でXXX国機密員の腕利きだし、君が射倒した奴は単に「レバーのA」と呼ばれている有名な暗殺団の一人だ。――詳しいことは此奴《こいつ》を調べれば分るだろう、君はこれら二名を仕止めたのだ、多分君は今月から昇給だぜ、……もう一度おめでとう。 [#地から1字上げ]侠盗こと(日本ルパン) [#ここで字下げ終わり] 「う――む、侠盗か」三吉は思わず感嘆の呻《うめ》きをあげた。 運転手と二人で、兇漢を署の中へ担ぎ込むと、三吉は直《す》ぐ警官の一人に男を引渡して、外務大臣官邸の警戒本部へ電話をかけ、橋本課長を呼んだ。 「課長は居られません」返辞は簡単だった。 「居ないって? どうしたんだ※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 「三十分ほど前にそちらへ帰られました」 三吉は電話を切った。と――側にいた警官の一人が、 「あ、課長ならお部屋にいますよ」 と注意した。「然《しか》し重要な用務があるから誰も来てはいかんと云う申付《もうしつ》けです」 「ちぇッ、こちらこそ重要なんだせ」 舌打をしたが仕方がない、三吉はどっかり椅子へ腰をかけた。チュウインガムを噛みながら先《ま》ず考えたのは「侠盗」のことであった。実に不思議な人物である、――今度の事件では最初から三吉は侠盗に助けられてきた、蔭になり日向《ひなた》になり三吉のために助力してくれた。なんのためだ、……なんの必要があってこんなに三吉を助けるのであろうか。 「――そこに、謎がある」 三吉は腕組をした。 なんのために蔭武者として活躍したか、それを判断するのが先だ。彼も一個の法律破壊者である。何か目当《めあて》がなくて無駄骨折りをする訳がない、――「では何が目当か?」 そう呟いた時、三吉の頭へピン[#「ピン」に傍点]と閃めいたものがある。 「――上森夫人の宝石」 三吉は椅子から跳上った。 「そうだ、この事件の最初に侠盗は『上森夫人の宝石を頂戴する』といっていたではないか、――奴の目的物はあの巨万の宝石だ。そしてその宝石筐《ほうせきばこ》はいま……この警察署に保管されている」 春田三吉の眼がきらりと光った――と、その時玄関の方から遽《あわただ》しい跫音《あしおと》が聞えて、二人の部下を従えた橋本課長が現われた。仰天したのは三吉ばかりではない、内勤警官は眼をぱちくりさせて、「あ、課長さん」と叫んだ、「貴方《あなた》は外出なすったんですか」 「何を寝呆《ねぼ》けているんだ、僕が外相官邸へ警戒に行ったのを知らんのか」 「然し二十分ほど前に帰られて、誰も来てはならんと仰有《おっしゃ》って課長室へお入りなさった筈《はず》ですが」 「なに? ――僕が帰った※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 鬼橋本の顔がさっと蒼くなった。――三吉は事態を察した。二十分まえに課長室へ入ったのは偽者である。課長に変装して入込《いりこ》んだのだ、――とすると、それは「侠盗」以外にあり得ない。 「――課長!」三吉は大声に、「直ぐXX署の廻りへ非常線を張って下さい、貴方《あなた》に化けて課長室へ侵入したのは侠盗です」 「――何のために」 「上森夫人の宝石を取るためです」 「そうかッ」橋本課長は喚くなり、厳戒を命じて、脱兎の如く課長室へ殺到したが――扉《ドア》を明けると、意外にも偽の橋本は悠々と卓子《テーブル》に向って何かしている。 「――いたッ」と三吉が喚く、 「今度こそ逃がすな!」 橋本鬼警部はだっ[#「だっ」に傍点]と相手に突っかかった。相手は不意を衝《つ》かれて手も足も出ない。椅子と共に仰向《あおむけ》に使れるところを、とび掛った橋本課長は、有無を云わさずつかまえてしまった。 [#3字下げ]左様なら春田君[#「左様なら春田君」は大見出し] [#3字下げ]その一[#「その一」は中見出し] 「どうだ、動いてみろ侠盗!」 橋本課長は相手を椅子へかけさせて、さも得意そうに喚いた。 「天下の侠盗もこうなっては惨めなものさ、悪業《あくぎょう》の酬《むく》い了挙に到るというところだ、どうだ、何とかいわぬか」 「ば、ば、馬鹿者、馬鹿者どもッ」 「おおやかましい、声が高過ぎるぞ」 「己《おれ》は、己《おれ》は……」 まるで捕われたライオンのように呶号《どごう》し、荒れ狂い始めた。橋本課長は舌打ちをして、 「黙れ、黙れというに、此奴《こいつ》!」 と振返り、「こいつをつれていけ」 と命じた。そして部下の者が尚《なお》も叫び狂う侠盗を連去《つれさ》ると――どっかり椅子にかけて、 「春田君、まあ掛け給え」 と云った、「階下《した》で君の捕縛したスパイを見たよ、それから林政局に倒れていた奴も連行してきた、傷か? ――傷は太腿《ふともも》の貫通創だから大したことはないさ」 「で……松井外相はどうしました?」 「ははははは、君も外相が射たれたと思っているんだね」課長は愉快そうに笑った。 「何ですって、課長」 「つまらぬ茶番さ。僕は今度こそ兇漢を捕えようと思ったから、外相と相談して態《わざ》と奴等を誘《おび》き寄せたのだ」 「だって現に消音銃に射たれて――」 「あれは人形さ」 刑事課長はにやりとした、「僕は東京一の人形師に命じて外相の人形を造らせておいて、松井男爵が入ってくると直ぐ電灯を消して人形を椅子にかけさせたのだ。奴等はそんなこととも知らず、人形を射殺して安心していたと云う訳だ。いや大笑いだよ」 課長は腹を揺《ゆす》って笑った。 「今度の事件は君の推察通りだ。XXX国政府が政治上の機密の洩れる事を怖れたのが原因で、上森夫人は、――実はXXX国の女スパイだったんだ」 「え、あの夫人がXXX国のスパイ?」 「あの美しい顔をひと皮剥けば、憎むべき売国奴の正体が現われただろう。――然し桑港《サンフランシスコ》領事館の夜会の時、彼《あ》の女は松井男爵の鋭い眼に睨まれて、一堪《ひとたま》りもなく兜を脱ぎ、今までのスパイの役目を捨てて正しい日本人に返る事を誓ったのだ。この事情は直ぐXXX国の密偵に探知された。それで、上森夫人がスパイをして稼いだ巨額の富と宝石を持って帰国するのを追跡し、遂に之《これ》を殺害してしまい更にその事情を知っている松井男爵をも暗殺しようとしたんだ、――猫眼石の指環は要するに『暗殺の標識』だったのさ」 「課長はそんな事も御存じだったんですか」 「驚いたかね、はっははははは」 鬼警部は愉快そうに、「然し犯人捕縛の功名は君にして[#「して」に傍点]やられたよ、いずれ君には特賞があるだろう――ところで」と振返って、 「あの偽者が宝石に手を着けたかどうか調べなければなるまい、――おい村田君、保管倉庫から上森夫人の宝石筐を持って来てくれ給え、大急ぎだ。……おや、春田君は帰るかい」 「もう僕には用が無さそうだし、それに帰って朝刊の記事を書かなきゃなりません。どうも失礼しました」 「じゃあ失敬、いずれ賞与の通知をあげるよ」 春田三吉は課長室を出た。 毎《いつ》も平々凡々たる橋本刑事課長が、今日はなんとすばらしい敏腕振りを発揮したことだろう。今度の事件が国際スパイ問題から起った――ということは、自分だけ知っている事だと思っていたのに、あの課長は既に何も彼《か》も明察していたのだ。それに……あの偽《に》せ課長の侠盗を取押えた腕前はどうだ。 「橋本課長も立派なもんだぞ」 三吉は自分の手で侠盗を捕えようと思っていたのである、それを課長に先手を打たれたのだから少なからず癪だった。 社へ帰ったのは深夜一時に近かった。編輯部では待機の姿勢で、殆《ほとん》ど全員が待構えていた。東邦日報社独占の「上森夫人殺人事件、猫眼石の謎――踊る暗殺スパイ団」という特大記事を朝刊に載せるためである。 「社長はいるか」机へ向いながら三吉が訊《き》いた。 「さっき電話が掛ってきましたよ、なんでも一時半までには帰るそうです」 「宜《よ》し、帰られたら知らしてくれ」 三吉は鉛筆を取上げ、チュウインガムを口へ抛り込んでさらさらと原稿を書き始めた。 [#3字下げ]その二[#「その二」は中見出し] 三十分ほど夢中で書いた。 「――社長が帰られました」 と給仕が知らせにきたが、耳にもかけず書き続けている、書く側から原稿は工場へ運ばれて行くのだ。――すると間もなく、 「お茶をおあがりなさいませ」という声がした。 「よし、そこへ置け」返辞をしたがふと振返ると、 「や、――君か」 と三吉は驚いて鉛筆を置いた、――それは上森夫人の侍女貞枝であった。 「お言葉に甘えて伺っていました」 「宜かった宜かった、あれから直ぐ社へきていたんだね」 「はい――」少女は悲しげに、「他に頼る者もありませんし御親切なお言葉に従ってこちらへ参ったんですの」 「それが一番良いんだ」 三吉は少女の手を握って、「君も今度の事件ではさぞ心を痛めたろう、これからは僕と社長で、きっと君を仕合せにしてあげるよ」 「――済みませぬ」 「元気をだして。さあ――笑うんだ、君の美しい顔は笑うのがいちばん似合っている、今夜から僕を兄だと思い給え――」 「春田さま」少女は思わず三吉の手を熱く握りかえすのだった。――その時、卓上電話の鈴がけたたましく鳴った。 「ああ春田です」三吉が受話器を取ると、 「やあ春田君だね、記事はできたかい」 「――あっ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」 三吉は仰天した。相手の声は紛れもない侠盗ではないか。 「はっはははは、驚いたかね、勿論――拙者は『日本ルパン』の侠盗だよ」 「君はXX署を出たのか?」 「出たのかって? 左様、XX署の警官諸君は、一斉に敬礼して僕を送出《おくりだ》して呉《く》れたよ。何故《なぜ》ならば、――僕は橋本課長の服装をちょっと借りていたからね」 「……訳が分らん」 「ご尤《もっと》も、それでは簡単に話してあげよう、つまり一言にして云えば、――さっき後から現われたのが偽の課長、即ち拙者だったのさ」 「なんだって※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 「先に帰っていたのが本物で、後から二人の部下を従えて現われたのが実は侠盗だったという訳さ、――君がそれに気付かなかったのは意外だよ、何故《なぜ》って、運転手に化けてブブノフを縛り、XX署の前で君に引渡したのは拙者だ、それは君が知っていたろう、ところが課長はそれより二十分もまえに課長室へ帰っていた、――若《も》しそれが侠盗ならブブノフを縛る訳には行かん筈じゃないか? どうだね」 「う――む」 「呻ったね、はっは。人間はひどく驚くと呻る外に手を知らぬらしい、拙者が君と一緒に課長室へ行った時、――あの鬼警部もひどく驚いて、いや恟《びっく》り仰天して呻るだけだった。そうだろう誰だって自分の外に自分が現われたら仰天するさ、課長は呻り、喚き、暴れたんだ。拙者はその暇に先生を退却させて、――ひと仕事したのさ」 事情が判《はっ》きりした。――なんたる奇智、なんたる大胆、侠盗は自ら刑事課長に化け、本当の刑事課長を、みんごと「偽者」にしてしまったのであった。 「ところで拙者が何故こんな悪戯《いたずら》をしたか改めて説明する要はあるまいな? ――約束通り上森夫人の宝石は頂戴したよ、拙者は『宝石を貰う』と誓った、だからそれを実行したのさ、君が帰るとき拙者は『宝石筐を持ってこい』と云っていたろう、――あれをそのまま頂戴してきたんだ、いずれこの金は、東北地方の貧民救済事業に寄附するよ。じゃあ是で失敬、また事件があったら仲よくやろうな、春田青年万歳」 電話はがちゃりと切れた。 侠盗は「宝石」を取った。日本ルパンは最後のどたん場で見事な芝居に成功したのである――三吉は鉛筆を措《お》いて社長室へとび込んで行った。 「――社長!」社長は相変らず革椅子に長くなって、ぐうぐう眠っていた。――と、不意に三吉はびくっ[#「びくっ」に傍点]と身慄いをした。何故《なぜ》かしらん、眠っている社長の姿を見た刹那、 ――若しや侠盗はこの社長ではないか。 と云う気がしたのである。しかし直ぐその馬鹿な考えを打消《うちけ》し、社長の眠りを覚まさぬように注意しながら、そっと戻った。 「今度は逃した、然しいつか必ず侠盗の正体をあばき出してやる、日本ルパンの手に手錠を嵌《は》めて見せるぞ」 三吉は拳を握って呟いた、――工場では、既に「猫眼石殺人事件」の記事が半ば刷上《すりあが》っていた。 底本:「山本周五郎探偵小説全集 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞」作品社 2007(平成19)年11月15日第1刷発行 底本の親本:「少年少女譚海」 1937(昭和12)年1月~4月 初出:「少年少女譚海」 1937(昭和12)年1月~4月 入力:特定非営利活動法人はるかぜ
https://w.atwiki.jp/hbu_penclub/pages/32.html
殺人事件
https://w.atwiki.jp/hgs00/pages/19.html
「秀次は関白にふさわしからぬ悪逆の限りを尽くし、太閤秀吉に謀叛を起こそうとしたためやむなくこれを 高野山に逐い、切腹させた。」 というのが秀吉サイドの言い分ですが、 これは冤罪事件で、秀次公に謀叛の企てなどなかったということが近年の研究などから明らかになっています。 秀次公が関白に就任してから、公を中心とした文化的サロンが形成されつつあり、 五山文学の復興や学問の奨励、公家の家職を復興させるなど秀吉が関白だった頃には全く見られなかった、 新しい政策がいくつか実行に移されています。 それが、太閤秀吉や奉行衆一の実力を持っていた石田三成の描く豊臣政権のビジョンと食い違っており、 また、関白秀次政権は公家や五大老(当時はまだその呼称はなかったが)を核とした全国の諸大名による緩やかな連合政権であったのに対し、 秀吉側近の石田三成らは豊臣家が全てを支配する独裁体制を築こうとしており、 この二つの派閥が烈しく主導権争いを繰り広げた結果石田三成らが勝利し、秀次公を筆頭とした 連合政権派を悉く追い落とした事件──豊臣家の内部矛盾により引き起こされた事件であり、 小説などで浸透している秀吉の個人的感情、『我が子可愛さ』から起きた悲劇ではなかったという見解もあります。
https://w.atwiki.jp/brewwiki/pages/1221.html
ポートピア連続殺人事件 【サイト名】ポートピア連続殺人事件 【課金体系】従量525円 【容量】338KB 【通信機能】なし 【簡易評価】あなたの評価点をクリック! plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. 2006/091/13 【使用機種】W41CA 【プレイ時間】2時間でクリア 【評価・点数】1 ファミコン・懐かしのPCの名作(迷作?)をグラを今風にアレンジして復刻!! ・・・・しかし、それだけ・・・新要素なし・・・ 犯人が有名すぎて、ネタバレされすぎてて全然おもしろくない で、525円って最高に値段高いので 落とす価値なし・・・しかも ファミコンでクリアしてたら すぐクリアw お金のムダ使いかも・・・ サイト別/は行/ポートピア連続殺人事件
https://w.atwiki.jp/newani4/pages/138.html
殺人事件 ◆7fqukHNUPM 「8人も……います!」 殺し合いの会場、ある市街地。 その時点では、誰も殺し合いに乗ろうとは考えていなかった。 喫茶店で一杯のコーヒーを所望する巨漢。 いつもの店でいつもと同じようにコーヒーを淹れる中学生。 主催者をぶっ殺そうと決意する自動喧嘩人形。 はじめての『ゲームセンター』を体験する少女。 吸血鬼を追いかけようとするスタンド使い。 友人達との再会を切に祈る小学生。 全ての人類を愛し、観察を継続する情報屋。 そして、全ての人類を愛し、救済しようとする魔術師殺しの次なる一手は、 さあ、みんな一緒に―― ♂♀ 一日目 深夜 カフェ『ラビットハウス』 「なかなかのものだった」 「ありがとうございます」 空っぽのティーカップが受け皿に戻される音は、心地が良いものだ。 全てを飲み干して一息ついた蟇郡苛にほっとして、智乃はいつもの所作でティーカップを取り下げる。 「しかし、先ほどオリジナルブレンドだと言っていたが、この店の珈琲は全てお前の手によるものか?」 「はい。まだバリスタとは言えませんが、昼間の店番は私が ……でも、さっき言ったようにココアさん達もいますから、忙しくはないです」 「そうか」 蟇郡の質問に答えたり、ティーカップを洗ったり。 ひとまず落ち着いた時間を過ごしながらも、これでいいのかなと思ってしまうのが、智乃の現状だった。 珈琲を淹れながら多少の会話をしただけでも、この青年に『鬼龍院皐月様』なるとても大事な人物がいることはよく分かった。 この場において、早くその人との合流したいのだということも。 しかし智乃にとっては、移動したいかというと違う。 この『ラビットハウス』は白いカードのマップにも載っているお店だ。 心愛たち4人が、右も左も分からないこんな場所に放り出されたりしたら、まずはここを目指そうと考えるだろう。 だとしたら、智乃はここに残って皆を待つべきになる。 正直なところ、1人でいるのはとても不安だ。蟇郡が、見た目は怖いし言動も少し変だけれど、智乃を許してくれるぐらい良い人だということは感じる。 そんな人とあっさりお別れするのも心細い。さっき蟇郡を襲ってしまった時のように、恐怖に負けてしまったりしたらどうしようと思う。 けれど、蟇郡についていくということは、自分の保身のためだけに心愛たちを放置するかもしれないということで。 やはり、ここは智乃が我慢してでも――。 「あの……蟇郡さんは皐月さんという方を探しに行かれたいんでしたよね。だったら――」 「いや、そう話を急くな香風よ。確かに皐月様の元に駆けつけられぬ俺に価値など無い。 だが、俺も闇雲に探し回るつもりはないし、茶をいただいておきながらその駄賃分の事もせずに出て行くつもりはない」 智乃が焦ったように切り出したことで、逆に蟇郡からは察されてしまったらしい。 「お茶じゃなくて珈琲です……でも」 「それに、まだこの場でやっておくことも残っている」 「はい?」 「珈琲を淹れる間に貴様の支給品も見せてもらっただろう。あのPDAだ」 「あ……」 思い出した。 黒いカードは全てコーヒーミルをゴリゴリ回している間に蟇郡に見せていたし、その中に『腕輪発見機』という名前の紙キレがついた情報端末があったことを。 最初はただのメモをする機械だとがっかりしたけれど、冷静になってから調べるうちにそうではないと分かった。 電源をオンにすると、『このエリアに存在する、まだ【カードに誰もいない腕輪】の数を表示します』という説明が出てきたのだ。 『まだカードに誰もいない腕輪』という言葉の意味するところは怖いけれど、それはつまり、『G-7にいる、まだ生きている人間の人数が分かる』ということ。 「人数が分かっても位置が分からんのは不便だが、まずは周囲にいる人数を把握して警戒しておかねばならん。 その中に皐月様や香風の友人がいる可能性もある。 動くにしても、まずはこの近辺を確認してからだ」 「はい……今、切り替えます」 智乃はPDAを手に取り、たどたどしくも指でボタンを押し、説明画面から表示画面へと切り替える。 途端に、その目が大きく見開かれた。 表示されたのは、ちょっと信じられないような大人数。 「8人も……います!」 蟇郡苛と香風智乃を引いても、このエリアに6人。 ♂♀ 一日目 深夜 ゲームセンター 平和島静雄の暮らしている池袋の街では、ひとつのビルの数階層分を大規模なゲームセンターが占めていることも珍しくない。 特に有名なのは、某大手ゲーム会社が『アミューズメント施設』と称して経営する地上8階から地下1階まで使った超大型店舗だろうか。(非ゲーマーにとっては、むしろ入り口で池袋名物『バクダン焼』を売っていることで有名な建物なのだが) この建物も、静雄の記憶にこそ無いものの、似たような規模の超大型ゲームセンターであるらしかった。 そして静雄が幼い少女を拾ったのは、建物の中階層にあたる『ビデオゲーム・対戦ゲーム』のフロアだった。 「どうすんだ、これ……」 目下のところ、彼の頭を占めているのは激昂よりも困惑だった。 原因は、目線のすぐ先にある少女の寝顔である。 ともかく床に寝かせっぱなしにするわけにはいかないと、喫煙スペースらしき一角にある背もたれつきのソファーまで運んだ。 ついでに、濡れていた床も拭いた。 ごく短期間だけ酒場で勤めていた経験(ひどく酩酊した客が出すモノを出したことがある)が、こんなところで生きるとは思わなかった。 そして、少女が目覚めるのを待ちながら、頭を悩ませるに至る。 活気のある店内BGMが、少し苛立たしい。 「目が覚めたら、絶対に怯えるよなぁ……今までのパターンだと」 『自分が殺してやると連呼していたせいで人殺しと勘違いされた』とは理解していないまでも。 他人から怖がられ遠巻きにされる経験だけは豊富な静雄のこと。 『この子はもしかして自分に怯えた結果として気絶したのではないか』と察するぐらいのことはできた。 こんな小学生くらいの少女まで殺し合いを強いられているのかと思うと、またそこらへんの筐体に八つ当たりしたい衝動が湧き上がってくるが、ともかく少女への対応を優先事項として、苦手とする頭脳労働を試みる。 どうすれば恐怖を与えずに済むのか。 つい最近も同じくらいの年頃の小学生と会話を試みたりしたけれど、あの時に通訳めいたことをしてもらった闇医者は今この場にいない。ついでに、ホットココアの一杯でも持ってきてくれるような少女もいない。 せめて、何かいい感じに子どもの気を引くような道具でも入っていないかと、静雄は確認したはずの黒カードを次々と開陳していき、 「……ひょっとすると、これ使えるか?」 その中の一つを手に取り、首を傾げた。 ♂♀ 5分後 ゲームセンター 「んう……」 越谷小鞠は覚醒した。 まず感じたのは、家の蒲団と違うものの上に寝ていること。 そして後頭部に、倒れて頭でも打ったような鈍痛があること。 ここはどこだろう。なんでこんなとこで寝たんだっけ 上半身を起こすと、そこにはパチンコ台のような形をした筐体がずらりと並んでいるフロアがあり、 「こ、こんにちは。お嬢ちゃん。怪我は無いかな?」 怪物のような顔をした巨大な『お面』に、話しかけられた。 少なくともそれは、怪物のお面としか形容できない代物だった。 縦にびろーんと長い顔に、ばいーんと飛び出した両耳のような部位と鼻と、ぎょろりとした両目と、表面にはずらりと黒い縞、縞、縞、縞、縞の模様。 「ひいっ……!?」 引いた。 後ずさりして逃げたかったけれど、背中がソファの背もたれにあたって、退路をふさいだ。 「だ、大丈夫だよお嬢ちゃん。逃げなくてもいいよ。怖くないよ」 しかも、お化け仮面の後ろからは、焦ったような男の低い声が聞こえてくる。 もしどこぞの万年白衣男がこの光景を見れば「小児科医だってそんな幼児のあやし方しないよ! むしろ子どもが見たら泣くよ!」と突っ込みを入れていただろう。 そして、その声は越谷小鞠にとって聞き覚えがあるもので。 しかも、よく見れば、大柄な男性のバーテン服が、隠れきれずに背中をプルプルとお面からはみ出させている。 (さっき『殺す殺す』言ってた人だ――――!?!?) 気絶する前に起こったことを、一挙に思い出した。 「いやああああああああああああああああああ! 殺さないでえええええええええええええええええええええええええええ!!」 小鞠は叫んだ。 ほとんど狂乱した。逃げようとした。 男があわててお面から首の上を出したのを見て、より焦った。 逃げよう逃げよう逃げよう逃げなきゃ逃げないと逃げなかったら殺される逃げろ逃げて。 手足をバタバタさせて、ソファの背もたれを乗り越えようとした。 暴れながらそうしたのが良くなかった。 ぐらり、とソファが背もたれを力点として傾いた。 その背もたれを乗り越えようとしてた、小鞠の身体も傾く。 「え」 「危ねぇっ……!」 危機を感じて、男も飛び出した。 しかし、焦るあまり、盾のようにしていた仮面のことを男は忘れていた。 男の革靴が、仮面についていた緑色の髪の毛の部分で、ずるりとすべった。 「あ゛」 脚を盛大に滑らせながら、男はとびだすことになる。 ずしゃどっかーん、と衝撃音がフロアにこだました。 男の身体が、その身を以って傾いていたソファを体当たりで吹っ飛ばし、 ソファから落下しようとしていた少女を、倒れたその身体で下敷きに受け止めることになった。 「え…………」 さっきまで恐怖の対象だった男を、身体の下に敷いている。 その事実で、小鞠の思考はいったん真っ白になった。 何が起こった。 理解が追いつかない間に、下を見ると床に転がった怪物のお面が目に入る。 (あのお面で……この人は、隠れようとしていて……) 思い出した。 兄の越谷卓のことだ。 学校でまだ学年が低かったうちは、兄を遊びに誘うことも今より多かった。 ただ定規落としみたいな机上遊戯ならまだしも、『かくれんぼ』のような身体を使った遊びを自習時間にするとなると、妹たちより体の大きな卓が不利になる。 どうにかして数少ない隠れ場所である机の下に身を潜らせるべく必死でかがもうとする兄の動きは、さっきのバーテン服の男の仕草と似ていた。 お面で、必死に己の身体を隠そうとするところが。 見ていて、恐ろしくなるようなものじゃない。 なぜあんな不気味なものを盾にしてまで正体を伏せようとした――姿を見せたら、小鞠が怖がると思ってのことじゃないのか? そういう理解が、じわじわと小鞠の頭に浸透していった。 「殺さ、ないの……?」 「殺さないよ。絶対に殺さない」 そんな問答を数回繰り返したのちに、じょじょに小鞠は脱力していった。 その後、めちゃくちゃ平謝りをした。 ♂♀ ここはゲームセンター。だからプリクラの撮影機ぐらいある。 よって、着替えもある。 そういうわけで、静雄は上の階層から女物の衣装を慌てて持ってくることになった。 「これって、もしかして…………メイドさん?」 「悪い、サイズが女子高生用のばっかりで、小さいのがそれしかなかった」 バーテン服を着た男と、メイド服を着た少女。 ゲームセンターではなく、いけないお店かと錯覚しそうな二人がそこにはいた。 ちなみに下着の替えはなかったので現在の小鞠は、はいてない。仕方ない。 それでも恥ずかしそうにもじもじとする小鞠を見て、静雄はともかくこの緊張をほぐしてやらねばと考えた。 平和島静雄はいわゆる『単細胞』と形容される人間だが、基本的には、紳士的であろうと努力する男である。 こんなところに子どもが1人でいる以上、まずは自分が保護者役をするしかないと腹もくくりつつある。 「それよりコマリちゃん。せっかく可愛い格好に着替えたんだから、まずはここで遊ぶってのはどうだ?」 「え……いいの? 静雄さんも友達とか探してたんじゃないの?」 「俺なんかより頭も良いし、しっかりした奴しただから大丈夫さ。 こんな目に遭わされてんだから、少しぐらい楽しんだってバチは当たんねぇよ」 そう言われると、小鞠の眼も数々のゲーム機をきらきらとした目で見つめはじめる。 静雄はひとまずほっとして、フロアの受付窓口からプレイ用の小銭やらコインやらをひとつかみ失敬した。 いや待て、後できっちり支払うとはいえ、店の金を勝手に使うのは法律違反じゃなかろうかと悩んだけれど、すでにわくわくとしている少女の期待にはあらがえなかった。 どのみちゲームの筐体を台座から引っぺがした時点で器物破損罪なのだし、後でまとめて弁償するかと開き直る。 「すごいなぁ……こんなにゲームがたくさんあるお店なんて、初めて見た」 小鞠は不思議の国に迷い込んだアリスさながらにきょろきょろと、面白そうなゲームを探して歩く。 「なんだ、ゲームセンターに来るのは初めてか?」 「うん! あたしたちの村、田んぼと山しかないような田舎だから……」 ゲームの筐体をひとつひとつ面白そうに眺めつつ、小鞠は話してくれた。 信号や道路標識なんてひとつもないし、一番近いコンビにでも3時間かかるような田舎だとか、そのコンビニだって24時間営業してないんだとか。 そりゃあたいそうな田舎だなぁと相槌を打ちながら、静雄も想像する。 歩いても牛を引いた農夫としかすれ違わないような田舎道。 小川のせせらぎ。風がふく木陰での日向ぼっこ。 喧嘩も喧噪も何より殺したい奴もいない、自然だけはある村。 そんな場所なら、ずっとストレスの無い生活ができるかもしれない。 「決めた! これにする!」 小鞠が選択したのは、どこにでもあるようなシューティングゲームだった。 先ほどまで殺す殺さないで怯えていた少女とは思えないほどに喜び勇んでモデルガンを握りしめ、 西部劇っぽいバーチャル世界で仮想敵の賞金首をバンバンと撃ちはじめる。 敵に狙われるたびに、必要無いのに「わ、わっ」と焦りながら銃口を避ける動きをしているのが、いかにも幼い子どもらしくほほえましい。 ……見た目小学生くらいの女の子にメイド服を着せて遊びに連れ出し、ぴょこぴょこ飛び跳ねるさまを眺めていると書くと、趣味を勘違いされそうな光景だが。 「あーもう負けたぁ! やっぱ難しいねこういうの。……静雄さんもやる? 2人対戦もできるみたいだよ?」 「あー……俺はやめとくわ。こういうのにのめりこむと、また『殺す』とか考えちまいそうだしなぁ」 何気なくつぶやいた直後に、不味かったかと気づいた。 小鞠の顔から、笑顔が引いていったからだ。 やがて、小鞠は問いかけをぶつける。 「静雄さん。最初に『殺してやる』って何回も言ってたのって……何だったの?」 それは、ある程度静雄という人間に安心したからこその踏み込んだ質問だった。 男は極めて気まずそうに、たどたどしく弁解を始める。 「その、な……もちろんコマリに言ったわけじゃねぇ。 『繭』とかいう女のことを考えたら腹が立っちまってよ。 俺のダチとか、テメェみたいなガキまで巻き込みやがって。 首に爆弾付けられたら万死に決まってんだろうが。それが70人もだぞ、いやノミ蟲が一匹混じってるからそいつを引いて69人か。 ……いや、最初にカードにされた女の子いるからやっぱ70人だ。こいつは70回殺されて文句言えねぇってことだよな……とかそういうコト考えてたら、ああいう風に――」 「ちょ、ちょっと静雄さん! メダル! メダルが全部、折り紙みたいにくしゃって!?」 「あ…………すまねぇ……」 どうやら、話しているうちに再びその『殺意』を思い出してしまったらしい。 静雄はそこで手の中で無残な姿となったメダルの束に気付いた。 「それで、ゲームセンターの機械を持ち上げたの?」 視線をずらせば、そこには先刻に静雄が持ち上げた筐体が、ブラウン管の画面がある面を下にして転がっている。 「いや、あれは八つ当たりで投げようとしたのか、とりあえず武器にしようとしたのか……すまん、覚えてねぇ」 「武器にできるものじゃないよね!? ってゆうか、誰かに当たったらどうするの!?」 「すまん……そうだよな……殺しに来る奴ならともかく、何もねぇ奴に当たったら悪かったよな……」 「殺しに来る人なら当ててもいいんだぁ……」 「いや、いつも喧嘩でよくやっちまうことだから……」 「よくあるんだ!?」 静雄が口を開くたびに常識から外れた言葉が飛び出して、空いた口がふさがらなくなってきた。 あぜんとするとはこのことか。 しかし、静雄の方は思い返せばいたく消沈したらしく、くしゃくしゃにしてしまったメダルを見下ろしている。 「あ、あのさ……私はべつにいいんだよ? 静雄さんが、そんな風に壊しちゃうのを我慢できない人なのは分かったけど。 それでも、私を殺さないこととか、私のために我慢してくれたことは分かったし、安心したから」 さっきは怖かったけれど、こういう風に落ち込んでいることも分かった。 いつの日のことだったか。 一緒に駄菓子屋へと行った大人のお姉さんも、田舎の景色を見て人知れず色々考えている神秘的な人だった。 きっと、大人になると悩むことも増えるんだろうなぁと、素朴な感想を抱いてしまう。 「なんて言ったらいいか……大人には、色々ありますよね? 私はそういうの、全然きにしないつもりです」 静雄もそれを聞いて、苦笑を浮かべた。 「そうか……大人を励まそうとするとは、ませたお子様だぜ」 「もう、さっきからガキとかお子様って静雄さん失礼だよ。私、こう見えても14歳の立派な『ティーンエイジャー』なんだよ?」 英語の問題集で覚えたばかりの大人っぽい英単語を使って、胸を張って反論したのだが、 「そうそう。ガキはガキらしく、バレバレの年齢詐称するぐれぇがちょうどいいんだよ」 全く信じてもらえなかった。 むぅ、と頬を膨らませて、信じさせる方法を考える。 どうしよう、身分証明書とか持ってないし、バスの定期券って生年月日まで書いてあったっけ。 しかし、すぐにおかしくなってきた。 何がおかしいかって、この男にさっきは気絶するほど怯えていた自分自身が。 ありがとう静雄さんと、改めてお礼を言おうとする。 しかし、二人の楽しい交流会を中断させるものがあった。 ゴポリ、と。 放送機材を動かす直前の、くぐもった音が響く。 店内のBGMが、一時中断をする。 スピーカーから流れだしたその放送は、マイクに布をあてて加工したような、くぐもった声で。 『平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。 折原臨也様がお呼びです。大至急、本館1階の北側非常口までお越しください。 繰り返します、平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。 折原臨也様がお呼びです――』 ♂♀ 同時刻 ラビットハウス 「やっぱり、コマリさんっていうお友達のことが心配ですか?」 カウンターの内側から、外側へと。 智乃はおずおずと、新しく知り合った女性に声をかけてみた。 背が高くて大人びているその『一条蛍』さんは、さっきから1人で座って顔をうつむかせていたからだ。 しかし、 「……寝てますね」 両肘から先を卓上について、胸部の大きなものをテーブルの上に乗せるようにもたれて。 顔を下に向けた、その口から漏れてくるのは小さな寝息だった。 「私より、年上の人なのに……」 2階からタオルケットを持ち出して来て、その大人びた女性の肩にかける。 さっきまでは不安そうな顔をしていたのに、あっさりと眠ってしまっているのを見て、嘔吐までした自分は何だったのかため息をはいた。 「そいつは小学五年生だ」 テーブル席に座る、学ランを着た男がそう言った。 さっき、この一行を率いるように先頭に立って、ラビットハウスのドアを開けて入ってきた男だ。 背が高くて目つきも鋭くて怖い印象の男だったけれど、それよりずっとゴツイい外見の蟇郡と遭遇した後だったから、どうにか会話をすることができた。 「空条さん、その嘘はいくら何でも無理があります」 「本人がそう言っていた。本当かどうかは知らん」 「え……」 冗談など言いそうにない男からそう言われて、まさかと思いながらも一条蛍を正面から凝視する。 本当に大きい。いや、欲しいのは胸ではなく身長の方だけれど。 これで小学生なのかは信じられないにせよ、どうやったらここまで大きくなったのかはぜひ聞いておきたい。 あと、頭にウサギを乗せていても背を伸ばすことはできるのかとか……それは聞いても分からないか。 「俺としてはむしろ、一番の最年長者が長々と席を外していることを憂慮すべきだと思うが」 そう言ったのは、別のテーブルに座る蟇郡だった。 大きな横幅の身体で、座席を二人分ほど占拠して窮屈そうに腕を組んで座る。 『最年長者』が誰を指すのかは明確だ。 承太郎一行の中で、この場にはいないただ一人の人物。 「時間がかかるのはしょうがいないです。 G-7にいること以外は、全然手がかりがない人達を探さなきゃいけないんですから」 「それもそうだが……」 カウンターテーブルの上には腕輪発券機があり、『8』の数字を示している。 『万が一にも探索中に襲われたりした時に、殺し合いに乗った人に奪われると大変だから』という気遣いで、残りの参加者を探しに出たその人が置いて行ったものだ。 実は誰が二人を迎えに行くかを決める時の話し合いで色々あって、少しもめたりもして、最終的に蟇郡と承太郎が智乃たちの護衛を担当することになった。 しかし、どうも承太郎だけは、その人物を送り出すことを躊躇っていたように見えた。 だからだろうか、こんなことを言った。 「気にかけるなら、奴が無事に戻ってくるかどうかよりも、 奴が出会った人物をすんなりここまで連れて来れるのかどうかだ」 ♂♀ 同時刻 ゲームセンター 普段の静雄ならば、あんな放送を聞けば矢も盾もたまらず折原臨也を殺しに走り出していただろう。 だが、ここは池袋ではない。 いつ危険が降りかかるか分からない殺し合いの現場であり、そして越谷小鞠がいる。 「え? え? この放送って、何?」 困惑した子鞠の声を聴いて、キレそうになっていた理性をかろうじてセーブした。 彼女を残して臨也を殺しに走り出しても良いのか。 そばで守るため、小鞠も連れて行くべきか……いや、むしろ連れて行く方が危険だろう。 あの放送を聞いた感じだと、臨也は静雄がどこに誰と一緒にいるかまでは分かっていないようだった。 ならば毒を持ったノミ蟲に目を付けられるより、隠していた方が安全のはずだ。 「ちょっと小鞠、ここでじっとしてろ。誰か来ても、出てくるなよ」 「え、私だけ残るの? 静雄さんはどうするの?」 メダル換金所の窓口の下に、死角となるよう小鞠の身体を入れた。 カウンターの背丈は低いし、人が来てもそう簡単には見つかるまい。 「はっはっは大丈夫だよコマリちゃん。何も殺し合いをしてくるわけじゃないから。 ただちょっと、バイキンマンをぶっ飛ばすアンパンマンみたいなことをしてくるだけだから」 「な、なんでまた、ちゃん付けに戻ってるの?」 「いいから、いいから。戻ってきたら、対戦ゲーでも何でも付き合ってやるから」 懸命にさわやかな笑顔を維持。がんばって維持。 彼の上司がここにいれば、こう言っただろう。 今の静雄なら、国民栄誉賞どころかノーベル平和賞だって狙えるかもしれない。 「……分かった」 納得はしていない風ながらも、小鞠は頷く。 これで良し。あとはさっさと抹殺して、さっさと戻るだけ。 いちおう小鞠を不安にさせないよう考慮して、フロアの外に出るまでは、走り出すことを堪えた。 店内BGMが遠ざかり、階段の一歩目へと足をかける。ここでリミッター解禁。 階段を雪崩のように駆け下り、廊下を風のように走るひと塊となった。 「殺し合いをやってる最中に声をかけたってことはつまり死にたいってことだよなァ臨也ァッ……!!」 キレる寸前の静雄にしては、それは可能な限りの冷静な対応だった。 彼の沸点の低さを考えれば、『殺し合いという殺意を抱くしかない環境で、最も殺意を抱いている臨也の名前で呼び出しを受けた』というのに、 小鞠の身柄をまず第一に考えたというのは、これまでの彼の行状を考えれば驚異的な成長だとさえ言える。 小鞠を隠して残していくという選択も、頭脳労働を極端に苦手とする静雄なりに思いつけた精いっぱいの判断だった。 しかし、そこまでベストを尽くしてたにも関わらず。 それでも彼の思考力では、思い至れなかった。 『声の主は、静雄が小鞠と二人きりで四階にいることまでは知らない』と受け取れるような放送がなされた、その裏の意図を。 ♂♀ 数分後 ラビットハウス 最初に気付いたのは、『腕輪発見機』の一番近くにいた智乃だった。 その驚いた顔に、二階のベッドへと運ばれた蛍をのぞく全員が反応する。 男達は智乃の周りを取り囲み、一様に緊張感に包まれた。 なぜなら、『腕輪発見機』に表示されている生存者の人数が、変わってしまったからだ。 『8人』から『7人』へと。 ♂♀ 同時刻 ゲームセンター いつもと同じ天敵との殺し合いだと、たかをくくっていたつもりは無かった。 どれほど性質の悪い男かは、嫌と言うほど思い知っている。ただ、しいて言えば経験則から麻痺はしていた。 あの男は、静雄以外の人間を直接に凶器を持って襲いかかるようなやり口で狙ったことは無かった等々、今まで殺しきれなかった経験からくる思考の弛み。 いつにも増して本気の殺意で、指定された場所へと向かった。 非常口のところにその男はいなかったり、隣のビルの入り口が開いていたのでそちらも探したりして、呑気に空回りをした。 その段階になって、やっと嫌な予感を自覚した。 駆け戻った時は、駆け下りた時以上に足を急がせていた。 キレた後になって喪失感だとか後悔を味わうのは、いつもの喧嘩と同じで。 現在のそれを、『後悔』なんて生易しい言葉で形容していいものじゃないことだけは、いつもと違っていて。 それは本当に、『決定的にいつもと違う』こと。 越谷小鞠が、首から上をゲームセンターの筐体に押しつぶされて死んでいた。 「コマリ?」 理解できない。 それが、平和島静雄の現在だった。 数メートルも離れていない場所にその少女が倒れていることは視認できるのに、その意味するところが頭に入らない。 頭に入ってこないと、怒りを抱くことさえできない。 「おい、コマリ…………コマリちゃん?」 呼んでいるのに、声は己のものではなく。 近づいてみても、床に転がった筐体からはみ出ている『首から下』は、 メイド服を着た小柄な少女のもので。 一歩、また一歩と足を近づけても、それは揺るぐことのない現実で。 「おい――」 ゲームの筐体の下から、血が飛び散っていた。 まるで丸いトマトの上に小さなフライパンでも落としたみたいに、赤い液体はべしゃりとギザギザした円形に広がっていた。 なんだ、血痕みたいじゃないかと静雄は思う。 血痕を見て『血痕みたいだ』という感想を持った己に気付かない。 少女の身体に、あと二、三歩というところまで立ち。 筐体と床との間にある隙間――そこにものを挟んだ分だけできた高さ――は、明らかに人間の頭部より細いことに、静雄は気付いた。 まるで、そこに挟まっているのが『球体』ではなく、『潰れた球体』であるかのように。 【越谷小鞠@のんのんびより 死亡】 理解した瞬間に。 静雄の思考回路が、決壊した。 (コマリ) (アイツのシワザ?) (殺された) (目を離した隙に) (アノ名前で、店内放送が) (だったら、誰のせいかは、分かりきって) (死ンダ) (今思えば、つまり俺はおびき出されたことに) (今まで一度も、こんな) (殺さないと言ったのに) (狙いは最初から) (ア ノ ヤ ロ ウ ノ セ イ デ コ マ リ ガ) もし、今の平和島静雄の顔を見た者がいれば、こう思ったことだろう。 なぜ、この男の頭はバラバラに破裂しないのだろうかと。 こんなに、頭にくっきりと血筋が浮いて、破裂せんばかりにブルブルと震えているのに――と。 そして、巨大な咆哮が放たれた。 「いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい゛ざあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁや゛あああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」 ゲームセンターの外壁が、内側から窓ガラスでも割れるようにぶち破られた。 4階の高さから、躊躇なく飛び降りるのは平和島静雄。 アスファルトを揺らさんばかりに着地し、唸り声とともに暴走を開始する。 殺意の矛先を向けるは、折原臨也。 【G-7/ゲームセンター付近/一日目・黎明】 【平和島静雄@デュラララ!!】 [状態]:激昂 [服装]:バーテン服、グラサン [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編 不明支給品0~2(本人確認済み) [思考・行動] 基本方針:あの女(繭)を殺す 0:殺殺撲殺殺殺殺殺殺臨也殺殺殺殺殺圧殺殺殺殺殺殴殺殺殺殺殺コマリと同じ目に殺殺殺殺殺殺……… [備考]:折原臨也を探し殺すという目的の元に暴走しています。どこに走って行くか分かったものではありません。 ♂♀ 十数分後 ラビットハウス 緊張感に包まれていたラビットハウスに、偵察に出かけていたその男が帰って来た。 「衛宮さん!」 ドアをくぐるや、智乃が男の名前を呼ぶ。 男――衛宮切嗣もまた、店内に満ちた緊張感の正体を察しているかのように頷いた。 そして、問う。 「僕が不在にしている間に、レーダーの生存者数が1人減ったかい?」 「1人減りましたねぇ。そしてアンタは、その原因に心当たりがあるって顔だ」 そう答えたのは、店内の奥の方のテーブルについていた青年だった。 それは『承太郎一行が合流してから、今までずっとその席に座っていた』男、折原臨也。 「ここにはいない二人のうちの一人を見つけたけれど、手遅れだったよ」 「つまり、二人のうちのもう一人に、殺された?」 それまで静観をしていた青年は、知り合って間もない男へと問いかける。 貪欲に、情報を求めるように。 「ゲームセンターで、小さな女の子が殺されていた。 ……なぜかメイド服を着ていたが、そばに着替えと、これがあったよ」 衛宮切嗣は、カウンターテーブルの上に二枚のカードを置いた。 一枚は、コシガヤコマリという名前が印字された路線バスの定期券。 もう一枚は、茶色の長い髪をした小さな少女の姿が描かれた、白い裏面のカードだった。 『もう一枚』を見た智乃がおびえたような表情を、蟇郡と承太郎は険しい表情を、それぞれ作る。 「この女の子が、その『1人』ってわけかい。コシガヤコマリちゃんとなると、蛍ちゃんの――」 「ああ、しかもさらに悪い情報がある。特に折原君にとっては」 情報屋は、眉をひそめた。 「この子は折原君が言っていた『平和島静雄』に殺された可能性がある」 ♂♀ 約1時間と30分前 駅より東、ラビットハウス付近 「ねえ」 切嗣はエルドラの問いに応えた。 「近くに駅がある。そこに行こう」 そして南下した衛宮切嗣が、『その3人』と出会ったのはそれから間もなくのことだった。 空条承太郎。 一条蛍。 折原臨也。 先頭を歩いていたのは空条承太郎だが、積極的に話しかけてきたのは折原臨也だった。 話を聞けば、彼らは一度映画館を出てからもう駅へとたどり着いており、そこから引き返してきたとのことだった。 いったん駅へと向かったのは、あくまで電車のダイヤグラムを確認するという目的だけ。 それは空条承太郎の発案によるものだ。 何でも彼は船だとか飛行機だとか、密室状態の乗り物に乗っているところを敵の刺客に襲撃されるという経験を何度もしてきたらしい。 今回のように一般人少女の一条蛍も混じっている中で、殺し合いに乗った相手――それも、最悪は走行中の列車に飛びこめるような能力を持つ者――に襲撃されでもしたら、彼女を逃がせる保障はない。 よって、今のところは電車を使わない。いずれ使うとしても、緊急を要するような場合に限るというのが、彼らの結論だった。 しかし『いずれ』のために、せめて駅のホームからダイヤグラムだけは確認しておこうと折原臨也が提案して、承太郎もそれ自体には賛成した。 その確認作業を終えて引き返した時点での、遭遇となった。 空条承太郎は、最低限の情報交換だけを済ませると自分だけでも早々に移動したがっているようだった。 彼にとっては吸血鬼DIOを倒すことと、その為に元からの仲間と合流をすることが最優先の方針だったらしい。 しかし、切嗣はそれを引き止める。 短い会話をしただけでも、承太郎が切嗣の知らない能力を持っていることは察することができたし、切嗣としてはその能力も詳しく知りたい。 しかし、何より切嗣の気を引いたのは『吸血鬼』という単語だった。 魔術師にとって、吸血鬼といえばたいていは『死徒』のことだ。 感染させることで村一つを滅ぼす『死徒』のような怪物がこの会場にもいるらしいとなれば、詳しい話を聞かずに別れることなどできなかった。 せめてお互いが持つ情報だけでも正確に共有させておこうと切嗣は主張し、折原臨也もそれに同意する。 元より、一条蛍を道中で誰かに預ける算段もするはずだったのだから、改めて話し合いの席を設けようということで落ち着いた。 こうして、『承太郎一行』は四人になった。 話し合いの場所に選ばれたのは、すぐ近くにありマップにもわざわざ表記されている喫茶店『ラビットハウス』。 道中で、『吸血鬼DIO』をはじめとする、彼等が知る限りの危険人物について教わりながらそこに到着した。 「8人も……います!」 その喫茶店には、さらなる先客がいた。 常人の二倍も三倍もありそうな巨漢――蟇郡苛。 腕輪発見機を持つ少女――香風智乃。 その少女が持つ支給品が示す人数は8人――その場にいた6人を差し引いて、あと2人がこの近辺にいると示すものだった。 ♂♀ 切嗣は、改めて行動を開始した。 まずは残る二人の位置を確かめておくことが必要だという話になるや、その二人の探索として自身が向かうことを告げる。 そこで多少の悶着はあったが、最終的には切嗣が一人で行くことになった。 まず蟇郡がその二人を迎えに行くと言い出したが、智乃が反対したことによって却下された。 蟇郡の外見に恐怖して彼を刺してしまった智乃からすれば、その二人が自分のように怯えた一般人だったとしたら二の舞になる予感しかしない。 たとえ蟇郡が刺されたことを気にしないとしても、刺してしまった方は後悔するものだと主張する。 そこで折原臨也も『コミュニケーションには自信がある』と立候補したけれど、これは承太郎が反対した。 まだ知り合って間もない相手にナイフを向けるような人間に、その『二人』との交渉を任せられないというのが根拠だった。 その反論自体はもっともなものだったが、それを抜きにしても承太郎が臨也を怪しんでいるように見えたのは、おそらく切嗣の見間違いではない。 とはいえ、臨也が信用しきれないから喫茶店に残れと主張するならば、承太郎も臨也と共に残るのが筋ということになる。 そして切嗣の支給品のひとつは、探索に向いたものだった。 『コシュタ・バワー』という名称の二輪車で、いざとなれば建物の壁を走ることもできるがゆえに、『二人』が危険人物だったとしても逃走しやすくなるはず。 そう保証して、切嗣はその『二人』と先に接触する権利を獲得した。 喫茶店を出発した切嗣は、支給品の最後のひとつ――『蝙蝠の使い魔』を開封した。 切嗣の生み出した使い魔では無かったが、魔力のパスを作ることでその感覚器を共有できるようになっている。 カードからバイクを取り出す前に蝙蝠を先行させ、ゲームセンターに入り込ませた。 この近辺で人が立て籠もる施設としては、そこが妥当だろうと踏んでのことだ。 案の定、残る二人はそこにいたし、それは意外な二人でもあった。 折原臨也が絶対的な危険人物だと述べていた男、平和島静雄。 一条蛍の知り合いだという少女、越谷小鞠。 その二人が仲良く談笑し、ゲームセンターのゲームで遊んでいたのだから。 『間違いなく殺し合いに乗る――それも、自動販売機を投げつけるほどの絶対的な怪力を振るう人物』という情報は、最初から誤っていたことになる。 折原臨也が平和島静雄のことを誤解していた? ――違う。 折原臨也から聞いた特徴は、『誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつ』。 そんな分かりやすく目立つ特徴を、それも地元では有名人らしき人物を、同じ町に住んでいて誤解するとは考えにくい。 つまり、折原は平和島を陥れるために、悪評を流したということ。 ゲームセンターの近くでエルドラとコシュタ・バワーをカードに収納する。 さらに二人の会話を盗聴して確信した。 折原が平和島を評した言葉は、少なくとも部分的には正しい。 まず、折原臨也と敵対関係にあること。 そして怒りの沸点が異常に低く、『自分にとって気に入らない行動をした』といったような理由で理性を失い、すぐに暴走をする。 この時点で切嗣は、どう対応をするかを決定していた。 多数を救うために、少数の危険因子は排除する。 初めから切嗣は、二人が『少しでも他の参加者や切嗣に不利益をなし得る者』だった場合は、 今の自分にできる限りの手段を使って排除するつもりで出発したのだから。 そんな衛宮切嗣が、折原臨也と平和島静雄の人となりと関係をおよそ推察してしまえば。 どちらの側に立つかは分かりきっている。 『保身を考えている合理性がある悪人』よりも『善良かもしれないが暴走する怪物』を生かしておく方が、切嗣にとっては100倍も悩ましい。 そのうち理性のタガを外して暴走して、周囲を巻き込みかねないといった理由だけではない。 あの手の人物は、たとえば切嗣が『必要だから』ともう助からない参加者を見捨てようとしても『見捨てるのは良くない』という感情論だけで烈火のごとく怒りを露わに反対して、切嗣を殴り倒すか、最悪は暴力で殺してでも止めようとするだろう。 怒りを露わにしながらも命令には従うだけ、セイバーの方がまだ話が通じるとさえ言える。 平和島静雄を切り捨てる理由こそあれど、命の天秤を傾けるべき理由はなかった。 では、お世辞にも装備が整っておらず、使える魔術も制限されているとおぼしき切嗣が、平和島静雄を追い詰め、排除するための最適な方法とは何だろう。 とてもシンプルだ。 平和島静雄の犯行に見せかけて、越谷小鞠を排除する。 ただの少女である越谷小鞠を、命の天秤から放り出す。 切嗣は、外道ではあっても冷血ではない。 必要ならば一般人だろうと殺害するけれど、積極的に幼い少女を殺すような真似はしない。 むしろ、この状況下で『足手まといになりそうだから』とか安易な理由をつけて少女を殺害しようとすれば、最低限の信用さえおけない冷血漢だと見なされるリスクが極めて高い。 それはとても愚かなことだ。 しかし、逆に言えば。 この非常時に、一般人の少女を敢えて保護する理由は、それ『だけ』に尽きる。 元より衛宮切嗣は、『主催者の力を奪い取る』という目的が正攻法――殺し合いに反対する者全員で力を合わせて繭を倒す――によって実現するとは、さほど期待していない。 というより、対主催派の『全員』と力を合わせることなど、まず不可能だ。 切嗣のサーヴァントであるセイバー。そして、切嗣と交戦したケイネス・アーチボルトのサーヴァントであるランサー。さらに、なぜか切嗣をつけ狙ってアインツベルン城まで来た言峰綺礼。 間桐雁夜については御三家の出自でありバーサーカーのマスターであること以外に接点はなかったけれど、この三名については、限りなく協力関係を築きにくいと断言できる。 (キャスターのサーヴァントも脅威ではあるが、あれは切嗣だけでなくすべての参加者にとっての敵となるだろう) 『弱き者を救う』という英霊たちの騎士道精神と、目的のためなら外道にもなる切嗣の在り方が相容れることは決してない。 ましてやこの場には、切嗣とセイバーの関係をぎりぎりのところで繋ぎとめている最大の仲介役だったアイリスフィールもいない。 そして、切嗣がセイバーの行動によって不利益を被るような時に、それを制止するための絶対命令権である『令呪』も、三画とも失われている。 ただでさえ断裂していたマスターとサーヴァントの関係だ。紙でも裂くようにあっけなく破綻するだろう。 ランサーについても、セイバーと似たようなメンタリティだ。 ケイネスと交戦した際に、対峙した時の言動は、セイバーと同類の『騎士様』のそれだった。 今のところ切嗣は、彼等との接触を極力は避けるよう動くつもりでいる。 だが、殺し合いが進行するにつれて、そうも言っていられなくなるだろう。 セイバー達はおそらく、『衛宮切嗣は、願いが叶う確かな保証さえあれば殺し合いに乗るかもしれない。信用してはならない』ということを他の参加者に伝えるはずだ。 (実際、繭が『全人類の救済』という願いを叶えられるようであれば、その力を利用するのも良しと考えているのだから、大きく間違ってはいない) 早々にキャスターとでも相討ちになってくれれば好都合だけれど、アテにするのも楽観視がすぎる。 特に言峰綺礼については厄介だ。 殺し合いに対してどう動くか読めないということもあるし、何より『代行者』としての仕事柄、他のサーヴァントとは違って『逃げながら立ち回る』という動きをすることができる。 そう簡単に脱落するとは思えなかった。 殺し合いが進行し、衛宮切嗣の人となりが露わになるにつれて、切嗣が立ち回ることは難しくなる。そう懸念して動かなければならない。 そういう意味でも、小鞠を殺害したことで平和島静雄が暴走してくれれば、そこにもメリットはある。 単に『殺し合いに反対する人々で集まった』だけでは、切嗣が自由に動けない。 『襲ってくる相手のことは容赦なく撃ち殺します』という行動に訴えようとしても、 反対されるか、あるいは『助けられる限りは救えないのか』という甘い考えで牽制されることもあるだろう。 しかし、そこに『幼い少女さえ平気で殺害するような極悪人がこの近くで暴走しています』という要素が加わればどうなるか。 普段の切嗣に、近い動きをすることができる。 そういったことを、あの場で即座に考え付いたわけではない。 映画館を出発した時から、それこそ『どう立ち回るか』と思考を始めた時から、曖昧に組み立てていた。 ただ、そこに『平和島静雄』と『越谷小鞠』という具体的に嵌まるピースが転がり込んでしまった。 だから計画はできあがった。 それを躊躇なく実行した。 後の布石のために、隣接するビルの入り口の扉はあらかじめ開けた。 すでに非常口から潜入して、放送室へともぐりこんでいる。 あとは、折原臨也の名前を騙って平和島静雄を越谷小鞠から遠ざける。 平和島が指定した場所ではなく放送室にやってくる可能性もあったので退路とする窓は確保しておいたけれど、幸いと非常口へ向かってくれた。 とはいえ、時間的余裕はさほどない。 こちらも全力疾走をして、4階のフロアへと到着する。 越谷子鞠の隠れ場所は、使い魔によって筒抜けになっている。間違えようもない。 「お、おじさん……誰?」 イリヤも、年相応の成長をしていれば、この子の外見と同い年ぐらいだろうか。 殺す前に抱いたのは、そんな感想だった。 ♂♀ 一日目 黎明 ラビットハウス (灰皿で殴って気絶させたところを、転がった筐体のところまで運んで、圧殺。 ゲームセンターの筐体の重量は約100キログラム。 僕の腕力でも、不安定に傾いた筐体を、さらに床に傾けて押し倒すことぐらいはできる。 灰皿は越谷小鞠を殺害した時に、いっしょに筐体で潰して証拠隠滅とする。 これで、傍目には『ゲームの筐体を投げつけられて殺された。犯人は筐体を持ちあげることができる人物だ』と思われる死体が完成) あとは、『すれ違いで、ゲームセンターの外壁を破壊して逃亡するバーテン服の男を目撃した』と言えばいい。 報告を終えた喫茶店に蔓延したのは、おおむね切嗣が予想していた通りの反応だった。 表情を動かさなかったのは、空条承太郎ぐらいのものだ。 (彼もまた切嗣から分け与えられたタバコを噛み潰さんばかりにしていたが) そこに蔓延する空気は、殺人犯に向けられた怒りであり、すぐ間近で少女が殺されていた衝撃であり、そして子どもらしく二階で眠っている一条蛍のことを想っての鎮痛だった。 そんな彼等の感情に指向性を与えてやるように、切嗣は今後の動きについて提案する。 まずは、男手を三人ばかり連れて改めてゲームセンターに向かおう。 越谷小鞠を下敷きのまま放置するのは忍びないし、平和島静雄を知っている折原臨也が殺害現場を見れば、間違いなく平和島の犯行かどうかを断定できるかもしれない。 切嗣と折原の腕力だけではゲーム機の筐体を持ち上げられないだろうと、蟇郡もそれに同道することを申し出た。 空条承太郎も現場を見せろと言い出したが、蟇郡と智乃からやんわりと、しかし(特に智乃からは)切実に、喫茶店に残ってほしいと頼まれた。 なぜなら、一条蛍が目覚めた時に、友人の死を伝える役目の者が必要となる。 まだ一条蛍という名前ぐらいしか知らない蟇郡たちでは、彼女を落ち着かせることができるかどうか。 承太郎は切嗣と臨也の方をいぶかるように睨んでいたが、智乃たちも『辛い役目を任せてしまって申し訳ない』という態度で頼んでいる手前、無下にすることはしなかった。 こうして、ゲームセンターに向かうことになったのが、衛宮切嗣と、折原臨也と、蟇郡苛の三人。 ラビットハウスに残るのが、空条承太郎と、香風智乃と、一条蛍。 切嗣がラビットハウスの前でコシュタ・バワーを呼び出して出発しかけ――しかしすぐにカードに戻した。 どうやらこのバイクは数人乗りの馬車にも変形できるらしいけれど、それでも蟇郡のたいそうな巨体プラス男2人を収容して走れるかは、いささか心もとない。 仕方なく、歩いてゲームセンターへと向かう。 「蟇郡さん、気を付けてください」 見送りに、智乃がラビットハウスの外まで来ていた。 あまり感情を顔に出さない少女だったが、今この時は、表情に明るくない色がある。 『悔しい』と『心細い』の中間のような顔。 そんな彼女を見下ろし(態度ではなく身長の都合である)、蟇郡は言い放った。 「俺は本能字学園風紀部委員長にして生徒会四天王の1人だ。 であるからには、この場にいる学園の生徒も皆保護するつもりでいる」 何が言いたいのだろう、と智乃は意味を掴みかねる。 だが、蟇郡は続けて言った。 「香風はこの店の主だろう。 この店を訪れた客が涙するかもしれんというのに、店主が温かい飲み物も出してやらんのか」 「!」 智乃は目を見開いた。蟇郡の言いたいことが伝わったからだ。 「そんなこと……ありません」 「ならば良し」 こうして大きな男と小さな少女は同時に頷き、一時の別れを告げた。 ♂♀ (できれば二人きりで話したかったが、そう都合よくもいかないか。 ともかく、これで折原と会話する機会は作れた) 噛み煙草を吐きだし、切嗣はここまでの成果にひとまず満足する。 ゲームセンターへ向かうことを口実としてチーム分割を提案した最大の理由は、折原臨也を見極めるためだった。 幸いなことに『平和島静雄に関する情報が悪意ある誤情報だと知っている』という交渉材料もある。 もしも折原が考えも無しに悪評を振りまくただの道化ならばいずれ彼のことも排除しなければならないし、 そうでないなら――『手段を選ばない理性的な悪人』ならば、その逆の関係を築けるかもしれない。 目下のところ、敵をつくりかねない位置にいる切嗣が欲しているのは『同盟者』だった。 それも、かつてセイバーでなくアサシンのサーヴァントを欲したように。 衛宮切嗣のスタイルを理解した上で動き、他の参加者から不審を持たれたらフォローに回ってくれるような人材と組むことができればありがたい。 つまり、手段を選ばないようなタイプであり、その上で交渉や駆け引きごとを知っている、つまり最低限の信用はできるような人物。 その上で、他の参加者とも折衝できるようなコミュニケーション能力があればなお望ましい。 今のところ、折原の行動原理は分からない。 しかし、これまでに得られた印象では、それら条件のうちの幾つかを満たしている。 あとは、そいつが利用できる存在かどうかを確認するだけだ。 蟇郡を先頭にして、後方を歩く二人は互いの視線を交錯させる。 折原が切嗣に対して何を思ったのかは分からないが、 お互いが互いのことを『仮面のような表情だ』と思ったことだけは間違いない、そんな顔をした二人だった。 街の夜風は、生温い。 街に住む人々の熱さと冷たさが、空気に溶けて混じりあっているかのように。 【G-7/ラビットハウス/一日目・黎明】 【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~3、越谷小鞠のカード 噛み煙草(現地調達品) [思考・行動] 基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。 1:衛宮切嗣の報告に釈然としないものを感じる。 2:折原臨也が気に喰わねえ。 3:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める 4:一条蛍が目覚めたら、越谷小鞠の死を伝える。 [備考] ※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦 ※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません) 【一条蛍@のんのんびより】 [状態]:健康 、睡眠中 [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~3 [思考・行動] 基本方針:先輩とれんちゃんと合流したいです。 1:次々に色んな人と知り合って少し疲れました… [備考] ※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。 【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】 [状態]:健康、落ち着いた [服装]:私服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:果物ナイフ@現実 黒カード:不明支給品0~1枚、救急箱(現地調達) [思考・行動] 基本方針:皆で帰りたい 1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。『お客さんたち』にも何かをしたい 2:ココアさんたちを探して、合流したい。 [備考] ※参戦時期は12話終了後からです 【G-7/ラビットハウス付近/一日目・黎明】 【衛宮切嗣@Fate/Zero】 [状態]:健康、緊張感 [服装]:いつもの黒いスーツ [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20) 黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS 蝙蝠の使い魔@Fate/Zero コシュタ・バワー@デュラララ!! 赤マルジャンプ@銀魂 越谷小鞠の不明支給品0~2 噛み煙草(現地調達品) [思考・行動] 基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う 1:折原臨也を見極め、排除するか利用するか決定 2:1の後、ラビットハウスの一団からも改めて情報収集をする 3:平和島静雄とは無理に交戦しない 4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい 5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない [備考] ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。 ※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。 他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします ※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:生存優先。人間観察。 1:俺が何もしていないのにシズちゃんが自分から嵌められてくれた。 2:ゲームセンターに向かう。とりあえず衛宮切嗣は『人間』なのかどうか観察。 3:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。 4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。 [備考] ※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。 【蟇郡苛@キルラキル】 [状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度) [服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放 [装備]:腕輪発見機@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル [思考・行動] 基本方針:主催打倒。 1:まだ付近にいるかもしれん平和島静雄に警戒しつつ、ゲームセンターへ 2:皐月様と合流したいのはやまやまだが、平和島静雄が殺し合いに乗っている人物だと皐月様に報告せねばならないし、まずはゲームセンターの現場確認 と、情報交換。 3:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。 4:針目縫には最大限警戒。 [備考] ※参戦時期は23話終了後からです 【腕輪発見機@現実】 香風智乃に支給。 形はセルティ・ストゥルルソンが使っているPDAに似ている機械。 そのエリアにいる『まだカード化されていない腕輪(すなわち生存者の腕輪)』の個数を表示する機能を持つ。 表示されるのはあくまで数だけであり、そのエリアに何人いるかは分かっても、どこにいるのかは分からない。 【ボゼの仮面@咲-saki-】 平和島静雄に支給。 永水女子高校の薄墨初美がよく身に着けている大きな民族風の仮面。 鹿児島県トカラ列島の悪石島に伝わる来訪神行事ボゼ祭で使われる仮面。 とてもシュールな面相をしており、子どもが見て喜ぶような人相の仮面ではない。 【蝙蝠の使い魔@Fate/Zero】 衛宮切嗣に支給。 生きている支給品の中では『持ち主から離れてはならない』という制限が緩めに設定させており、 同じエリア内ならば単独行動で偵察をさせることができる。 Fate/Zeroでは、聖堂教会からの呼び出しを受けた魔術師たちが視覚と聴覚を共有した使い魔を教会に派遣することで、自身が教会に足を運ぶことなく監督役からの指示を聞きとらせる等の使われ方をしている。 【コシュタ・バワー@デュラララ!!】 衛宮切嗣に支給。 セルティ・ストゥルルソンの愛馬。シューターという名前を持つ。 無灯火、無登録で、無音の黒漆バイクは重力に関係なく、壁すらも走ることができる。 バイクの姿の他にも、首なし馬の姿や、馬車の形に変形することも可能。 時系列順で読む Back 逃れられない 時を知る Next 空に碧い流星 投下順で読む Back 逃れられない 時を知る Next 交わらなかった線 012 ゲームセンターに行った 越谷小鞠 GAME OVER 012 ゲームセンターに行った 平和島静雄 063 噴火する平和 011 前途多難 空条承太郎 055 夏色の風景 011 前途多難 一条蛍 055 夏色の風景 003 忘れられないアンビリーバブル 香風智乃 055 夏色の風景 031 正義の在処 衛宮切嗣 083 寸善尺魔 011 前途多難 折原臨也 083 寸善尺魔 003 忘れられないアンビリーバブル 蟇郡苛 083 寸善尺魔
https://w.atwiki.jp/vocalyric/pages/287.html
古書屋敷殺人事件 作曲/てにをは 作詞/てにをは か か か 神田は神保町の横丁 駆け出しセドリ師 し し し 紙魚(しみ)喰い 書店員に蔵書印 門前払いの書生さん あ あ あ 愛憎渦巻く愛蔵版の旧家は代々収集癖だ 貧乏作家 坂 逆様 落花生 お家断絶 捜せ遺書 おいで名探偵 奇々怪々密室ごっこ 「袋小路を袋とじ!」 アリバイ あり得ない犯行 「あいつかあの子かフーダニット?」 憐れ囚われ 愛しの稀覯本(あなた)を迎えにゆこう どの本(こ)か決めかねるなら 阿弥陀 凛とした背表紙 ヤダ ヤダ 遊びましょ 『しょっ』 禮(らい) 『lie』 こんがらがった はやく助けて 作者(先生) 阿破破! あ あ あ あぶな絵 危ない亀甲 稀覯本(きこうぼん) 怪しげな血痕 こ こ こ 考察(絞殺)だ 初版か? 初犯なのか? 行こか 戻ろうか ど ど ど 動機はドキドキ けんぱ けんぱ けんぱ 喧々 遊ぶやんちゃな三姉妹が お家消失 焼け野原 成るか!? 大団円 目眩く 捲るべく また推理 家紋! 誰? 誰? 誰が悪い? 神楽舞 花咲き手拍子 夜な 夜な あいこでしょ 『しょ』 嗚呼! 『うわん』 とっちらかった トリックに気づかない あの子とこの子が恋をした 嗚呼 『ゆーな ゆーな みなまで云うな』 あの子をどの子が閉じ込めた? 嗚呼 『ゆーな ゆーな みなまで云うな』 みなまで云うな どの本(こ)か決めかねるなら 阿弥陀 凛とした背表紙 ヤダ ヤダ 遊びましょ 『しょっ』 禮(らい) 『lie』 こんがらがった はやく助けて 『おひとつ下げて』 誰? 誰? 誰が悪い? 神楽舞 花咲き手拍子 夜な 夜な あいこでしょ 『しょ』 嗚呼! 『うわん』 とっちらかった トリック分かんない 『もひとつ上げて』 ダメ ダメ いけませんわと 涙 輪廻の根 黄表紙 とうとう最終章 『しょっ』 懊『悩』 あいどんのお 犯人(答え)教えて 作者(先生) 嗚呼!先生! ゆーな ゆーな みなまでみなまで ゆーな ゆーな みなまでみなまで ゆーな ゆーな みなまでみなまで ゆーな ゆーな みなまで云うな http //www.nicovideo.jp/watch/sm18257340
https://w.atwiki.jp/authors/pages/135.html
単行本 超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮エンターテインメント倶楽部SS) 文庫本 超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/konanmovie/pages/43.html
豪華客船連続殺人事件 事件発生場所 船内 ①寝室、②デッキ、③トイレ 事件発生時刻 7月上旬 ①午後8時前後、②午前3時頃、③午前3時40分頃 凶器/遺留品 ①包丁・パンのかけら、②鉄パイプ、③包丁(旗本洋二の) 被害者 ①旗本剛豪蔵、②旗本竜男、③旗本一郎 加害者 旗本一郎 加害者と被害者 の関係 ①祖父と孫、②義理の従兄弟、③本人 トリック ①わざとほかの乗客が持っていた花を落とした。 ②そのほかの乗客をさらに疑わせるため監禁場所の鍵を開けておいた。 ③自作自演 罪名 殺人罪 担当刑事 なし 探偵 江戸川コナン・毛利小五郎
https://w.atwiki.jp/jojoson/pages/1310.html
え え え S市は杜枉町の街中 駆け足 香具師たち と と と 共食い 販売員に反抗心 門前払いの労働婦人(おーえる)さん あああ 愛憎渦巻く愛蔵版の 旧家の当主は収集癖だ 深窓令嬢 錠 情動 慟哭 交信断絶 捜せ遺体 おいで探求者 奇々怪々 失踪ごっこ(袋小路に袋とじ!) アリバイ あり得ない犯行(どいつがあの子をフーダニット?) 憐れ放逐 愛しの佳賓(あなた)を迎えにゆこう どの手(こ)か決めかねるなら 阿閦(あしゅく) 滴る指先 いやいや遊びましょう 『傷』 擒 『Queen』 隠れちゃった はやく見つけて住民 破破破! あ あ あ 危な居 危ない写真 第三位 怪しげな小瓶 こ こ こ 考察だ 好漢か?後患なのか? 行こか戻れない しょしょしょ 証拠は証言 論破 伝播 看破 閑々 探る高潔 二つ星 有罪確実 逃げ遅れ 成るか!?大団円 めくるめく 残るべく また8時 裂業! 彼!彼!彼が悪い! 円舞曲 終わらぬ手拍子 今朝こそあいこでしょ 『勝』 嗚呼! 『ぱあん!』 またヤっちゃった トリックを破れない あの子があの子に恋をした 嗚呼 『言うな 言うな みなまで云うな』 どの子があの子の下にいた? 嗚呼 『言うな 言うな みなまで云うな』 『言うな 言うな』 皆まで云うな どの手か決めかねるなら 阿閦 贅沢なお遊戯 嫌々 遊びましょう 『消』 擒 『Queen』 出らんないよ はやく見つけて『でんわをかけて』 彼!彼!彼が悪い! 円舞曲 終わらぬ四拍子 今朝こそあいこでしょ 『生』 嗚呼! 『うわん』 どっちが勝った? 口が滑った!『でんわをかけて』 まだまだ 死ねませんよと絶望 輪廻を得振り出し とうとう最終回 『戒』 謳 『納』 あいかんのう 断罪者(こたえ)教えて作者(せんせい) (言うな 言うな みなまでみなまで) 嗚呼!先生(言うな 言うな みなまでみなまで) 言うな 言うな みなまでみなまで 言うな 言うな みなまで云うな 原曲【古書屋敷殺人事件】 元動画URL【http //www.nicovideo.jp/watch/sm18522236】 カラオケ(off vocal)版URL【http //www.nicovideo.jp/watch/sm18522330】