約 50,302 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1338.html
717 名前:不安なマリア3 前編[sage] 投稿日:2009/09/02(水) 22 30 43 ID BFZhDSd1 2レス消費 二人で購入を決めた数日後、ジョナサンは携帯電話を買ってきた。 小さな玩具に見え、マリアは実用性に欠けると思ったが可愛らしくもあり、気に入った。 何しろ機能はメールと通話のみ。だが、ジョナサンはこれだけで良いと言う。 「使うとしたら仕事先か、君との連絡だけだからね。」 自分以外に連絡先を知る人間がいるのは嫌な気分がしたが、仕事では仕方ない。 彼はマリアの不服そうな表情を見逃さず、おどけたようにからかった。 「仕事先くらい勘弁してくれよ。これで駄目なら伝書鳩くらいしかなくなるな。」 少しおおげさなリアクションにつられて、思わずマリアも笑っていた。 「そうそう、料金の一部は障害者用の在宅介護手当てから出るんだ。」 「だからと言っては何だけど、いつでも不安になったらかけるんだよ。いいね」 在宅介護で障害が重ければ、連絡用の通信手段などにも手当てが給付されているらしい。 政府が新しく始めた障害者向けの特別なサービスで、周知が進んでいなかったそうだ。 ジョナサンが一人、市役所で調べて手続きしてきたと言う。なぜ?と聞きかけてマリアは止めた。 彼によればいくつかの書類と診断書、住民カードをもって行けばすぐ済む手続きなのだそうだ。 本来であればマリア自身が行くべきであったのだろうが、彼女は自らの姿を気にしている。 かと言って、ジョナサンが行くことを告げれば彼女は責任を感じてしまっただろう。 一人で黙って行ってくれた彼の優しさが心にしみて、抱きしめられているような気分になる。 同時に、いかに自分が何も動かず、ただ彼に守られていることを改めて見せつけられた気がした。 しかも、ジョナサンはそんな自分の狭量な不安まで心配してくれている。嬉しさと情けなさで涙がでた。 「う・・・、あ、ありがとう。本当に・・・グス・・・すま、ない。電話、絶対かけるから。」 突然泣き出してしまったマリアだったが、ジョナサンはそんな彼女を静かに抱きしめた。 「いいんだよ。いままで何もかも一人で見すぎてたんだ。少しぐらい休んだっていいさ。」 マリアは小さく「愛している」と答え、彼をいっそう強く抱きしめた。 ジョナサンは、マリアが傷痍軍人プログラムなどを無視する理由は「軍」そのものにあると考えていた。 彼女にとって、軍はかつて自己実現の場であったと同時に、父や家の過去を壊す自己否定の場だった。 最後には、彼女と彼女の人生を閉じ込めた牢獄であったことが分かったのだが。 そして、そのためマリアにとって「自分が元軍人であること」を直視する行為は耐え難い苦痛となる。 なぜなら、若くしての退役は自己実現の失敗を、傷つく元軍人の姿は彼女の父を想起させるからだ。 彼女は無意識にせよ意識的にせよ、「無視」することでそこから逃避し、解放されたがっている。 そして彼も、今のマリアに彼女の過去と向き合う力はないと考え、またその必要性も感じなかった。 逃げることの何が悪いのか。「撤退」に値する悲劇の連続だったのだ。彼女を解放してやらなければ。 マリアに電話の手当てが実は傷痍軍人プログラムのものと教えなかったのも、そう考えたからこそ。 彼女の涙に過去への執着が感じられないことを安心したジョナサンもまた、「愛してるよ」と返した。 不安は確かに彼女の心に巣食っているが、それでもいま泣いている理由はきっと嬉しさからだ。 自分たちは夫婦なのだ。夫は妻を支え、その不安をときほぐしてやらねば。 718 名前:不安なマリア3 前編[sage] 投稿日:2009/09/02(水) 22 33 18 ID BFZhDSd1 携帯電話は、予想をはるかに超える働きを見せてくれた。 軍隊時代の経験からか、定時報告の癖が抜けないマリアはきっちり3時間おきに連絡を入れてきた。 9時に家を出て12時の昼休みに一回、3時の休憩に一回、閉店の6時に一回という隙の無い計算だ。 平日でも毎日3回、夫の声が聞け、現況を報告しあうので彼女の不安は大いに解消された。 一方で、定時報告はジョナサンにとっても心強いものとなった。 何よりも、家にたった一人の重い障害をもつ妻の現況が分かるということは非常に安心できる。 椅子から落ちただけでも、動けない彼女の場合は重傷につながる恐れがあるのだ。 そういうことも考えて、家の電話はひざの位置より少し上の高さに置いてある。 それに、携帯電話を持つもとになったマリアの不安も大きく緩和されているようだった。 不安は猜疑心を生んでしまう。いつでも話せるという安心は、浮気疑惑を打ち消すのに十分だった。 定時報告は二人の関係にとってささやかだが重要な補強材となった。 そんなある日のことだった。 その日、ジョナサンは外回りのため日中は電話に出られないかもしれないと言って出て行った。 「もし、電話できる時は、こちらから電話するから。」 マリアは電話を待った。昼過ぎには彼が作り置きしたサンドウィッチを食べた。きっと忙しいのだ。 結局、3時まで家の電話が鳴ることはなかった。彼女は電話機の前でじっと待ち続けていた。 セールスだろうか、何度か玄関のチャイムが鳴ったが、それどころではないと無視する。 どうして彼は連絡をよこさないのか。何かあったのだろうか。事故?それとも他の何かか。 他の何か、とはなんだろうか。「女」という言葉が脳裏に浮かんだ。あわてて否定する。 そんなはずはない。今朝彼は外回りで大変だと言っていた。しかし、それすら嘘だったら・・・。 違う。と再び否定する。私と彼は夫婦だ。夫婦は絆でつながっているものだ。私と彼もそうだ。 猜疑心は意地悪く返した。私と彼に「体の絆」はない。あるのは結婚届けだけ。彼だって男なんだぞ。 それに、と続ける。あの女はどうだった?一人「家庭」を支えていたあの女は結局他の男と・・・。 「違うっ」今度は声が出た。確かにジョナサンは一人で私と彼の「家庭」を支えてくれている。 だが絶対にああはならない。私はあの男とは違う。父親のようにはならない。私は夫に愛されているんだ。 激しい怒りから、マリアは衝動的に立ち上がろうとした。しかし次の瞬間、腰に鋭い痛みが走る。 彼女は車椅子から転げ落ち、床に倒れ伏した。なんという無様か。猜疑心が嘲った。 痛みをこらえ、這うようにして電話にたどり着いた。いま、ジョナサンとつながる最後の砦だ。 夫の迷惑を考え、今日は自分からかけまいと誓った携帯電話の番号を押した。 これをかけてジョナサンがでれば、私の現況を聞いて駆けつけてくれる。きっとだ。 「私は電話を絶対かけるといったんだ。私とジョナサンは夫婦なんだ。ザンジバルからずっと。」 コール音が続くなかで、彼女は自分を哀れんだように見下ろす猜疑心に勝ち誇った。 そう。夫は、電話に出る。緊急emergencyなのだ。そうして助けに来てくれる。あのときのように。 そうだ、彼は私のものなのだ。定時報告なんかクソ食らえ。彼は必ず、いつでも私がかけた時に――。
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/963.html
227 三つの鎖 11 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/01/06(水) 11 42 31 ID 8q90I2O4 三つの鎖 11 「よし」 朝。わたし加原梓はみそ汁の味見をしてガッツポーズ。会心の出来だ。今日の朝ごはんは兄さんの好きな魚を塩焼き。お弁当も家族四人分完成している。 今日は私が食事の担当だ。一週間のうち、三日ずつ兄さんと食事当番を分担することにした。一日交替にしないのは、食料の買付をしてから交替することで献立の組み立てをやりやすくするためだ。日曜だけ一緒に作る。 本当は毎日一緒に料理をしたいけど、いつまでも甘えてはいけない。兄さんには夏美がいるのだから。 「珍しいわね。幸一君が寝坊なんて」 京子さんが食器を並べながらのんびりと言った。確かに珍しい。 「お母さん。兄さんを起こしてくるね」 私はエプロンを外し二階に上がった。兄さんの部屋のドアをノックする。反応なし。 「兄さん。入るよ」 ゆっくりとドアを開け覗き込む。ベッドの布団が盛り上がっている。近づいて覗き込むと兄さんは寝ていた。 「兄さん?」 様子がおかしい。寝苦しそうだ。頬に触れるとびっくりするほど冷たい。兄さんの汗が手を濡らす。 私は思わず兄さんにふれた自分の手を凝視した。手が震える。自然と息が荒くなる。私は兄さんの汗でぬれた手を舐めた。 兄さんの味。頭がくらくらする。 いけない。私は何をやっているんだ。私は頭を振って深呼吸して寝ている兄さんを見下ろした。 「兄さん。起きて」 揺らしても兄さんは寝苦しそうにするだけ。悪い夢でも見ているのだろうか。 「兄さん!」 私は兄さんの頬をぺちぺちと叩いた。突然、兄さんはガバッと起き上がった。びっくりした。 兄さんは胸に手をあて荒い息をつく。大きく上下する肩、震える体、苦しそうな表情、額に浮かぶ汗。 「ど、どうしたの」 私の問いかけに兄さんは答えない。ただ荒い息をつくだけ。 「兄さん。大丈夫?」 私は心配になって兄さんを覗き込んだ。兄さんは深呼吸している。 珍しい。兄さんは人前では常に落ち着いている。こんな風に人前で分かるぐらい深呼吸する事は滅多にない。 「おはよう梓」 兄さんが私にほほ笑む。いつも通りの笑顔なのに、不安を感じさせるのは何でだろう。 「兄さん大丈夫?うなされていたみたいだけど」 「変な夢でも見たのかな。大丈夫だよ」 本当に大丈夫なのかな。とても大丈夫には見えない。 兄さんは布団から出た。足取りはしっかりしている。私の思い過ごしだろうか。 「寝坊しちゃったな。朝ごはんはできている?」 落ち着いた声。さっき感じた不安は勘違いかな。いつも通りの兄さんだ。 「お魚を塩焼きにしたよ」 私はそう言って兄さんと一緒に下に降りた。味噌汁も味わってほしい。今日は会心の出来だから。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「いってきまーす」 私は一足先に一人で家を出た。 ワンっと犬の鳴き声が聞こえる。 「梓ちゃんおはよう」 シロを散歩している春子が挨拶してきた。相変わらず黒い犬だ。 「おはよう春子。シロ」 シロはワンと吠えた。挨拶のつもりだろうか。 「今日は一人なの?」 春子は不思議そうに私を見た。確かにここ数日からは兄さんと一緒に登校しているから不思議に思うのかもしれない。 「今日は日直」 本当なら兄さんと行きたいけど、今日はそうはいかない。ふと違和感を感じた。なんか、春子がいつもより内股っぽい気がする。気のせいだろうか。 「そうなの。いってらっしゃいね」 「いや、春子も学校に行くでしょ」 私がそう言うと春子は笑った。 「そうだね。お姉ちゃんうっかり」 そう言って可愛く舌を出す。春子は美人だから、本当ならきもい仕草も不思議と映える。褒めると調子に乗るから口では逆の事を言うけど。 「じゃあお姉ちゃん幸一君と一緒に登校するよ」 「兄さんをよろしくね」 そう言って私は春子と別れた。 228 三つの鎖 11 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/01/06(水) 11 44 35 ID 8q90I2O4 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 梓の朝ごはんは相変わらずおいしかった。 リビングでぼんやりお茶をすすりながら僕は思った。すでにこの家には僕しかいない。父さんと京子さんは出勤し、梓は日直で先に家を出た。 頭が働いていない自覚がある。考えがまとまらない。それでも普段の習慣で既に行く準備はできている。 ぼんやりする理由。昨日の事。春子。 春子の白い裸身が脳裏に浮かぶ。泣きそうな顔も。 夏美ちゃん。今日顔を合わせていつも通り振る舞えるだろうか。結局メールに返信できなかった。 そんな事を考えているとチャイムが鳴った。僕は玄関に行き外をのぞいた。春子だ。すでに制服に着替えている。 開けるべきか迷ったけど、おどおどと不安そうな春子を見てドアを開けた。会いたくはないけど、春子とは話し合わなければならない。 「幸一君。おはよう」 ぎこちない笑顔であいさつする春子。 「おはよう」 僕はそっけなく応じた。まっすぐに春子を見られない。 「あの、あのね、よかったらお姉ちゃんと一緒に学校に行かない?」 春子はおどおどと尋ねた。時間的に登校にはまだ早い。 「いいよ。まだ登校には早いからよかったら上がっていく?お茶ぐらい出すよ」 話しあわなければ。 「本当?ありがとう」 春子はほっとしたように微笑んだ。いつもの明るい春子は見る影もない。 靴を脱ぎ家に上がる時に春子はよろめいた。咄嗟に僕は春子を支えた。 「大丈夫?」 「え、あ、う」 春子はおろおろと慌てた。春子のこんな姿は珍しい。 「どうしたの」 顔を赤くする春子。体調不良かな。 「……昨日幸一君に激しくされてちょっと、ね」 顔が熱くなる。聞くんじゃなかった。 「とりあえず上がって」 僕は春子を離して背を向けた。腕に何かが引っかかる感触。振り向くと春子は僕の袖を握っていた。 春子は何も言わずにうつむいている。僕も春子も何も言わなかった。僕と春子はそのまま歩いた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ リビングで春子を座らして、僕はお茶をいれた。ソファーに座る春子にマグカップを渡し、僕は隣に座った。微妙な距離。いつもの春子ならこの距離を無造作に詰めてきたと思う。 「あ、ありがとう」 春子は小さな声で礼を言ってお茶に口をつけた。 昨日はあれほど怒り憎かった春子だけど、今の春子の様子を見るとそんな気持ちはわかなかった。春子はまるで虐待された子供のようにおどおどしている。 見てられなかった。 「春子」 春子はびくっと体を震わせた。上目使いに僕を見る。その瞳に頼りない光が浮かぶ。 「もうやめようよ。春子には脅迫なんて向いてないよ」 春子は湯呑を両手で持ったままうつむいている。 「昔の僕たちの関係に戻ろう」 震える春子。お茶を一気に飲み顔を見上げる。今にも泣きそうな表情。 「やだ」 春子は首を横にふった。 「それだけは絶対にやだ」 そう言って春子は僕にもたれかかる。温かくて柔らかい。春子は僕の胸に顔をうずめ抱きついてきた。春子の震えが伝わる。 「幸一君。お姉ちゃんを抱きしめて」 「春子。お願い」 「幸一君。お姉ちゃんはお願いしてるんじゃないよ」 春子は顔をあげた。唇をかみしめ僕を見上げる。 「分かっているでしょ」 脳裏に夏美ちゃんの笑顔が浮かんで消えた。 「抱きしめて」 僕は春子の背中に腕を回した。思ったより小さな背中。 「お姉ちゃんにキスして」 眼を閉じ唇を突き出してくる春子に、僕は唇を重ねた。ふれ合うだけのキス。 「昨日みたいに強引にしないんだ」 229 三つの鎖 11 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/01/06(水) 11 47 01 ID 8q90I2O4 春子は目を開け僕を見た。微かに桜色に染まったした頬。僕が頭を横に振ると、春子は僕の胸に顔をうずめた。 「昨日の幸一君怖かったよ」 僕の腕の中で春子は微かに震えた。 「すごく強引で無理やりで。ちょっと痛かったよ」 昨日の僕。怒りにまかせて春子を蹂躙した。 「お姉ちゃんのお尻なんてまだ痛いよ。首筋にキスの痕も残ってるし」 春子の首筋。バンドエイドが貼られている。キスの痕を隠すためか。 「後ろからされながら幸一君に罵倒されるの、本当に怖かったんだよ」 春子は僕の胸から頭を離し顔をあげた。上気した頬に潤んだ瞳。まぎれもなく怯えた表情。 優しくしたいのを僕は歯をくいしばって耐えた。 「原因は分かっているだろう」 春子を抱きしめる腕に力がこもる。 「春子は僕を脅迫している。夏美ちゃんを裏切る事を強要した」 「んっ。幸一君。痛いよ」 春子は苦しそうに身をよじらせた。僕は自分を抑えた。腕の力を抜く。 「あのね、怒らないで聞いてね」 春子は上目使いに僕を見上げた。怯えているのか期待しているのか分からない表情。 「幸一君と夏美ちゃんがしているの見てね、幸一君すごく優しく見えたの。見てても分かったよ。幸一君が我慢してるって」 夏美ちゃんの小さな体が脳裏に浮かぶ。小柄で力を折れると折れそうな細い体。 「優しくしたかったんだ」 「うん。だからお姉ちゃんにも優しくしてくれると思ってた。でも昨日の幸一君はケダモノみたいだった」 体を震わす春子。確かに昨日の僕はひどかったかもしれない。春子に対する怒りの他に、男としての欲望をぶつけたのかもしれない。 「ごめん」 謝るのもおかしな話だけど、素直に春子に悪いと思った。 「いいよ。幸一君ならどんな事をされてもいい」 恥ずかしそうに僕を見上げて微笑む春子。頬が熱くなるのを自覚した。 「それにね、お姉ちゃんね、幸一君に強引にされるのね、怖かったけどちょっと嬉しくて気持ち良かったの」 春子は再び僕の胸に顔をうずめた。 「お姉ちゃんって変態さんなのかな」 春子の息が熱い。頭がくらくらする。腕の中の春子が柔らかい。 僕は春子をゆっくり引きはがした。 「そろそろ学校に行こう」 「あ。そうだね。もうこんな時間だよ」 春子の笑顔。外見だけはいつも通りの明るい表情。でも付き合いの長い僕には無理しているのがはっきり分かる。やっぱり春子に脅迫なんて向いていない。 僕は立ち上がった。これ以上春子と一緒にいると頭がおかしくなりそうだった。 登校中、僕と春子は何も話さなかった。何も話せなかった。触れ合う事すらなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ お昼休み。私は立ち上がって梓に話しかけた。 「あずさー。お兄さんの教室に行かない?」 梓は呆れたように私を見た。 「あのね夏美、私をだいにしないで堂々と行けばいいでしょ」 「いやさ、恥ずかしくて」 「変に気を使わないの」 私の背を梓は押し出した。 「私の作った弁当の感想だけ聞いて来て」 「了解です!」 私はお兄さんのクラスに向かって走り出した。 お兄さんの事を考えるだけで頬が熱くなる。会いたい。昨日寝る前に出したメールに返信は無かった。きっともう寝ていたんだ。今日はまだ一度も会ってない。 お兄さんの教室をこっそりのぞく。お兄さんはいなかった。ちょっと残念。 ハル先輩が私に気がついて近寄ってきた。 「もしかして幸一君?」 「えっと、そうです」 「約束してたの?」 あ。 「いえ、してません」 「幸一君クラスメイトと食べる時は大体食堂で食べるよ」 そうなんだ。考えてみたら私はお兄さんの事あまり知らない。知り合ってそんなに経ってないのもあるし、普段一緒にいることも少ない。 ちょっと寂しいかも。 230 三つの鎖 11 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/01/06(水) 11 49 29 ID 8q90I2O4 「今から行く?」 「いえ、お兄さんにもお付き合いがありますし」 お友達といるなら邪魔したくはない。 「じゃあ私と一緒に食べない?」 ハル先輩は弁当を掲げた。 「いいんですか?」 「今日は一人で食べようと思っていたから。一緒に食べてくれたら嬉しいな」 ハル先輩って社交的なイメージだから一人で食べるってのが珍しく感じた。でもいいか。お兄さんの事を教えてもらえるかもしれないし。 「私でよければ喜んで」 「じゃあ静かなところで食べようかな。ついて来て」 私とハル先輩は並んで歩きだした。 「どこで食べるんですか?」 「生徒会準備室。使ってないから静かだよ」 生徒会準備室。聞いたことがない。ハル先輩はどんどん人気のないほうへ歩く。こっちの先には使われる教室が無く、誰もいない。私も来た事がない。 ふとハル先輩の首筋にバンドエイドが貼ってあるのを見つけた。虫にでも刺されたのかな。 「ここだよ」 ハル先輩はドアを開けた。生徒会準備室は意外と綺麗だった。整理され掃除されている。何故かベッドがある。 「使ってないのに綺麗ですね」 「私のお気に入りの場所だから」 「あのベッドは何ですか?」 「ふふふ。私のお昼寝スペース。今日はここでお弁当にしようかな」 ハル先輩はベッドに座った。横をぽんぽんと叩く。私は少し変な気分になりながら並んでベッドに座った。膝の上にお弁当を乗せてふたを開く。 「今日はカレーじゃないんだ」 「いえ、カレーコロッケはあります」 そんな事を話しながらのんびり食事する。 「幸一君とはうまくいってる?」 突然の質問に思わず顔が熱くなる。 「えっと、はい」 どうなんだろう。まだ付き合いだして数日だし。でも、付き合ってすぐにお兄さんとしちゃったんだ。うわー。 ハル先輩はにこにこしている。 「何か悩みとかは無いの?」 悩み。たくさんある。 「もっと一緒にいる時間が欲しいとかは思いますけど、お兄さんの邪魔にはなりたくないです」 「もー。幸一君ったらいけないなー。女の子に寂しい思いさせちゃだめだよ」 ぷりぷり怒るハル先輩。ちょっと可愛い。 「なんなら私から幸一君に言ってあげようか?」 「いえ。それはずるい気がします。今日にでも放課後お誘いしてみます」 うう。言うだけで恥ずかしい。お兄さんと放課後デート。 「ふーん。他に悩みとかは無いの?幸一君は優しすぎて奥手なところがあるからね」 むむむ。ハル先輩の言う通りだ。さすが幼馴染。優しいのか遠慮しているのか分からないけど、お兄さんから私に何かを求めるという事はない。 もう一つの大きな悩み。だめだ。考えるだけで体が熱くなる。 「夏美ちゃん大丈夫?」 気がつけばハル先輩が心配そうに顔を覗き込んでいた。綺麗な顔。ハル先輩は本当に綺麗だと思う。綺麗だけど親しみやすい美人。ある意味、梓とは対極の美人。いいな。 「えっと、ハル先輩、そのですね、笑わないで聞いて欲しいんですけど」 ハル先輩は優しく微笑んだ。この人になら相談してもいいかもしれない。 「そのですね、私変なんです。お兄さんと、その、エッチしたいって思っちゃうんです」 あまりの恥ずかしさにうつむいてしまう。 「すごくはしたないと思いますし、なんだか変態みたいですけど、そう思っちゃうんです。その、お兄さんに私を求めて欲しいって」 お兄さんが欲しいし、お兄さんに求められたい。 「でも、自分で言うのはなんかすごく変態みたいですし、だからと言ってお兄さんは優しいですから、自分ではそんな事言いませんし」 言えない。エッチしてほしいなんて。恥ずかしすぎる。 「私って変なんでしょうか」 頭に柔らかい感触。ハル先輩が私の頭を優しくなでる。 「全然変じゃないよ」 私は顔をあげた。ハル先輩の優しい笑顔が浮かぶ。 「女の子だってエッチは好きだよ。がっつかれるのは嫌だけど、求めてくれなかったら悲しいよね。魅力ないのかなって思っちゃう」 「ハル先輩もそんな風に思うんですか」 「私にも経験あるもん」 私はびっくりしてしまった。どういう意味だろう。 「え、えっと、その、それは」 231 三つの鎖 11 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/01/06(水) 11 53 14 ID 8q90I2O4 「他の人には内緒だよ」 ハル先輩は悪戯っぽく笑った。私は思った以上に動揺していた。まさか、その経験の相手って。 「特に幸一君にはね」 私は思わず安堵のため息をついてしまった。慌ててハル先輩に謝る。 「すいません」 ハル先輩はにこにこ笑って何も言わなかった。全部お見通しなんだろうな。 てかハル先輩って男の人とエッチした経験あるんだ。今まで彼氏はいないって聞いたからちょっと意外だ。隠して付き合っていたのかな。 「私ね、別に女の子から求めてもいいと思うよ。相手の男の子が鈍感だったら仕方がないよ」 「でも、はしたないって思われないでしょうか」 「幸一君を信じてあげて。幸一君もきっと反省するよ。寂しい思いをさせたって」 うーむ。でも。 「なんて言って誘えばいいでしょうか。その、え、エッチしたいなんて言えませんし」 さすがに恥ずかしい。 「じゃあね、二人きりになった時にこういえばいいよ」 ハル先輩はゴホンとわざとらしく咳をすると、胸の前で手を組んだ。 「私ってそんなに魅力ないの?二人きりになっても何もしてくれないなんて」 上目づかいに悲しそうに言うハル先輩。上気した肌。薄っすら桜色に染まった頬。潤んだ瞳。うわっ。すごく色っぽい。 「ハル先輩!エロすぎっす!」 「ふふふ。こう言えば幸一君みたいに誠実な男の子は恥をかかせないためにも絶対に求めてくるよ」 なるほど。ん?でも。 「もしですよ。付き合ってない女の子がお兄さんにそう言ったら、お兄さんはどうするのでしょうか」 「今なら僕には恋人がいるって言うだろうし、恋人がいないなら今は誰ともつき合わないと決めているって言うと思うよ。幸一君は誠実だからね。据え膳食わぬは男の恥って発想はないよ」 なるほど。 「ハル先輩!ありがとうございます」 「ふふふ。今日伝授した方法で幸一君をイチコロにしてね」 ハル先輩は悪戯っぽく微笑んだ。うわー。ハル先輩のこの笑顔ってすごく艶がある。女の私でもドキドキしてしまう。 私たちはとりとめのない事を話してお昼を過ごした。私はハル先輩に感謝した。ハル先輩のおかげでお兄さんと恋人になれたし、今も他の人にはできない相談を聞いてもらっている。 今日は頑張ってみようと思った。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1103.html
46 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22 49 12 ID g/mo7HSP 三つの鎖 22 古い本のすえた匂い。 本を片手に本棚の間を僕は歩く。 探しているのは法律や裁判の判例を記した本。 集めた本を手に閲覧コーナーで本を開く。ページをめくり文字を追う。 市民図書館の閲覧コーナーはそれなりの人がいる。 小さな男の子と女の子が寄り添って絵本を読んでいる。 楽しそうに寄り添う二人の子供。兄妹だろうか。 僕は頭をふりかぶり文字に集中した。 自首しようと言う僕の言葉を梓は鼻で笑うだけだった。 梓が殺したという証拠は今のところ無い。 証拠が無いのに警察に話しても相手にされない。梓は小柄な少女だ。大の男たちを殺傷したなど、何も知らない警察が納得するはずがない。 犯行現場を調べたけど、得たものは何もなかった。仮にあったとしても、警察がつかんでいるはず。発表が無いという事は、何も見つかっていないのだろう。今なお犯人が逮捕されていない事実がそれを物語っている。 打つ手は一つしかない。 だけど、それを試みる前に他に方法が無いかと思い、法律や判例集を調べる事にした。もしかしたら、証拠が無くても証言だけで逮捕につながる可能性があるかもしれない。 しかし、本で調べる限り、証言だけで逮捕に至ったのはほとんどない。逮捕につながるには、やはり証拠が重要だ。仮に本人の自白があっても、証拠がないといけない。 証拠といっても形のあるものでなくてもいい。犯人しか知らない事実を言えば、それが証拠になる。 閉館時間まで本を読み漁ったけど、それ以上の情報は無かった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 紙袋を片手に夜の道を歩く。手にした紙袋にはケーキが入っている。 このケーキは、雄太さんが殺された日に梓が購入したお店のもの。 お店の人に話を聞いたけど、梓が来たかどうかは覚えていないとのことだった。一日に大勢の人が来るから仕方がない。 それでもレシートはある。梓があの日あのお店に行ったのは間違いない。 雄太さんは駅から夏美ちゃんのマンションに向かった。 人気の無い道。僕は同じ道を歩く。 僕は足を止めた。献花されている道。 ここで雄太さんと警察官は襲われた。 僕は再び歩き始めた。目的地は夏美ちゃんの家。 マンションの階段をゆっくりと登る。足が重い。 インターホンを押す。 『どちら様ですか?』 夏美ちゃんの声。 「夜分遅くに失礼します。加原です」 『お兄さんですか!?すぐ出ます!』 ぱたぱたという音が大きくなり、ドアが開く。 「お兄さん!こんばんわ!」 夏美ちゃんが嬉しそうに僕を見た。 「突然どうしたのですか?びっくりしましたよ」 「今日は一度も会っていないから夏美ちゃんの顔を見たくなって」 本当は心配だからだ。こうして見る限りは大丈夫そうだ。 「つまらないものだけど、どうぞ」 「ありがとうございます。あ!駅前のケーキ屋ですね。梓の好きなお店ですよ」 受け取った袋を見て夏美ちゃんは嬉しそうに笑った。 その様子に胸が痛む。 「おやおや。幸一君いらっしゃい」 「お母さん!お兄さんがケーキをくれたよ」 洋子さんは微かに笑って僕を見た。 「ありがとう。よかったら上がっていかないかい?」 「いえ、近くを寄っただけですから」 「まあまあそう言わずに。話したい事もある」 僕は洋子さんに押し切られて夏美ちゃんの家に入った。 夏美ちゃんがお茶を入れてくれた。冷たい紅茶。 洋子さんは軽く咳払いをして僕を見た。 「実は仕事を辞める事にした」 夏美ちゃんはびっくりしたように洋子さんを見た。 「そうなの?」 47 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22 50 07 ID g/mo7HSP 「ああ。夏美の傍にいたいと思ってね」 洋子さんは微笑んだ。 「ああ、お金の事は心配しなくていい。蓄えは十分にある。それに今の私達は億万長者だからな」 僕は首をかしげた。 「実はですね、色んな人がたくさんお金をくれたんです」 「もらって困るような高価な贈り物までだ」 何でも雄太さんの知り合いの方が贈った現金や贈り物に加え、色々な国や部族(?)からの勲章や贈り物もあるらしい。勲章には年金や一時金があるものもある。贈り物で貰って困る物は会社が借り上げると言う形で保管してくれることになった。もちろんその分のお金も入る。 「私と夏美それぞれにたくさんのお金が入ってね。はっきり言って一生働かなくてもいいぐらいのお金だ」 洋子さんは事もなげに言うけど、それってすごい事じゃないのかな。 雄太さんってそんなにすごい人だったんだ。 「話がそれたな。とりあえず私は今の仕事はやめる事にした。夏美の傍にいられないからな。ただ、引き継ぎ等で3週間はアメリカに行くことになる」 洋子さんは立ち上がって僕を見た。 「私が帰るまで夏美の事をお願いしたい」 「はい。僕でよければ」 僕は迷わず答えた。 「あの、お母さん。いいの?お仕事はお母さんのやりたい事でしょ?」 「いいんだ」 夏美ちゃんの問いに洋子さんはかぶりを振った。 「今は夏美の傍にいたい。ちょうど仕事も飽きた事だしな。日本でのんびりするのも悪くないよ」 洋子さんは夏美ちゃんの頭をポンポンと撫でた。 夏美ちゃんの目尻に光るものがたまる。 「ほらほら。彼氏の前で泣いちゃだめだぞ?簡単に涙を見せる女は男に嫌われるぞ?」 洋子さんは笑いながら夏美ちゃんの頭を撫でた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 僕と夏美ちゃんはマンションの階段をゆっくりと降りる。 下まで送っていけとの洋子さんの一言で、下まで夏美ちゃんが見送ってくれることになった。 洋子さんの心づかいが嬉しい。 お互いの手が触れそうな距離で階段を下りる。 夏美ちゃんの横顔。微かに染まった頬が目に入る。 階段が終わり、くすぐったい時間はすぐに終わる。 「見送ってくれてありがとう」 夏美ちゃんは僕を見上げた。幼い子供のように頼りない光が瞳に浮かぶ。 その様子に胸が痛む。夏美ちゃんはしっかりしとした芯の強い子だ。それなのにこんなに心細い気持にさせたのは、僕の妹が原因。 「また明日。おやすみ」 何とか挨拶の言葉を口にして僕は背を向けた。 歩き出した瞬間、袖に何かが引っ掛かる。 振り向くと夏美ちゃんは僕の袖を掴んでいた。 悲しそうで心細そうな夏美ちゃんの表情。目尻に光るものが溜まる。 胸が痛む。 「お兄さん」 震える夏美ちゃんの声。 「お願いです。行かないでください」 夏美ちゃんの頬を涙が伝う。 「怖いです。お兄さんが私の手の届かない場所に行きそうな気がします」 僕の袖を掴む白くて小さな手。それが微かに震える。 夏美ちゃんは僕に抱きついた。背中に細い腕が回される。 「ひっく、お願いです、ぐすっ、行かないでください」 夏美ちゃんは顔を上げた。涙にぬれた頬。 「ぐすっ、お父さんみたいに、ひぐっ、いなくならないでください」 夏美ちゃんの言葉が胸を射抜く。 僕は必死に平静を装った。 夏美ちゃんの小さな背中に腕をまわし抱きしめた。 「大丈夫。僕はいなくならない。夏美ちゃんを一人にはしない」 「お父さんもそう言ってました」 震える声が僕の心を貫く。 「それなのに、死んじゃいました」 背中に回された夏美ちゃんの腕に力がこもる。 ささやかな力なのに、僕を締め付ける。 48 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22 50 55 ID g/mo7HSP 僕と夏美ちゃんはお互いを抱き締めた。 「…変な事言ってごめんなさい」 やがて夏美ちゃんは腕を離した。 「おやすみなさい」 夏美ちゃんはにっこり笑って背を向けて階段を走って上った。明らかに無理をしている笑顔が目に焼きつく。 僕は何も言えなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 夏美ちゃんが泣いている。涙を流しながら悲しそうに。 泣かないでほしい。それなのに僕は何も言えない。 夏美ちゃんが悲しんでいる原因を知っているから。 僕の妹が、夏美ちゃんのお父さんを殺したから。 夏美ちゃんは顔を上げた。涙にぬれた瞳が僕を射抜く。 「どうして梓はお父さんを殺したのですか」 震える声が僕を責める。震える理由は怒りか悲しみか。 「ひどいです。お父さんは何もしていないのに。どうしてですか」 その理由を僕は知っている。 夏美ちゃんの恋人が僕だからだ。 「お父さんは何の関係もないです!!それなのになんでお父さんを殺したのですか!!ひどいです!!」 夏美ちゃんの悲痛な叫びが木霊する。 「どうして!?どうしてですか!?何でお父さんは梓に殺されないといけないのですか!?」 夏美ちゃんの問いかけに、僕は何も言えない。 「兄さん」 僕は跳ね起きた。 「大丈夫?」 心配そうな梓の声が脳裏に響く。 頭が痛い。 寒い。全身に冷や汗をかいている。呼吸がおぼつかない。心臓がでたらめな鼓動を刻んでいるのが分かる。 「兄さん。大きく息を吸って」 言われるままに僕は深呼吸をした。霞みがかった思考が鮮明になる。そして自分の状況が頭に入ってくる。 夢だ。雄太さんを殺したのが梓なのを、夏美ちゃんは知らない。 「兄さん。これを飲んで」 梓はペットボトルのお茶を差し出した。僕は微かに震える手で受け取り、口にした。喉はカラカラに乾いている。 「大丈夫?随分うなされていたけど」 僕は時計を見た。もうすでに父さんも母さんも家を出ている時間だ。 学校に行くなら、あまり余裕のある時間ではない。 何で起きられなかったのだろう。いつもなら目覚ましが無くても起きられるのに。 僕は顔を上げて梓の顔を見た。おろしたままの長くて艶のある黒い髪が目に入る。 梓の小さくて白い手が僕の額に触れる。柔らかくてひんやりとした感触。 「兄さん。熱があるわ」 思わず梓の手を払った。 梓は驚いたように払われた手を見た。 「…僕は大丈夫。すぐに下りる」 それだけ言うのが精いっぱいだった。 「…分かったわ」 梓はそう言って部屋を出て行った。梓の目尻に涙が溜まっているのを分かっていたけど、僕は何も言わなかった。言えなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 通学路を僕と梓はゆっくりと歩いた。 お互いに何もしゃべらない。食卓で梓は一生懸命に話しかけてくれたけど、僕はそれに答えられなかった。 鞄が重く感じる。中にはお弁当が入っている。梓の作ってくれたお弁当。 「あの、兄さん」 梓はおどおどと僕に声をかけた。 「体調は大丈夫?」 「大丈夫」 「そう」 ここで会話は終わる。 49 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22 52 10 ID g/mo7HSP 僕は梓を見た。視線が合う。梓はぎこちない笑みを浮かべた。 結局、僕達はそれ以上会話せずに靴箱で別れた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 耕平は僕を見て眉をひそめた。 「大丈夫かいな。えらい顔色悪いで」 僕は苦笑した。教室に入ったとたんにこれだ。 「幸一くん」 僕を呼ぶ声。振り返ると、白い手が伸びて僕の額に触れる。 滑らかでひんやりとした感触。梓のそれと同じなのに、反射的に振り払う事は無かった。 「熱があるよ」 春子は心配そうに僕を見た。そういう春子の頬は微かに腫れている。梓の仕業。 背筋が寒くなる。全身に鳥肌が立つ。 もしかしたら、梓は春子や夏美ちゃんまで。 「幸一くん?」 春子の声が遠く感じる。 「おい!幸一!しっかりせえ!」 耕平の声が上からかぶせられる。 違う。気がつけば僕は膝をついていた。 「幸一くん。立てる?」 白い手が僕に差し出される。 無意識のうちに僕はその手を掴んでいた。春子の柔らかい手の感触にホッとしてしまう。 春子に引き上げられて僕は立ち上がった。ふらつく体を春子が支えてくれた。 「耕平君。私、幸一くんを家まで送ってくる。もし遅れたら先生に伝えといて」 「分かった。幸一を頼むで」 勝手に僕の欠席を決める二人。 「待って。僕は」 僕の言葉は春子のデコピンに遮られた。 「お姉ちゃんの言う事を素直に聞いて」 そう言って春子は僕の手を掴んで歩きだした。 足元がおぼつかない。ふらつく上半身を春子は支えてくれた。 触れる春子の体がひんやり感じる。 「こんなに熱があるのに学校に来ちゃだめだよ」 春子に礼を言いたかったけど、意識が朦朧として何も言えなかった。 少し寝苦しく感じて目が覚めた。 見慣れた天井が見える。自分の部屋の天井。 寝起きの意識が徐々にはっきりとしてくる。 春子に送ってもらって、着替えて寝たんだった。 今の時間はどれぐらいだろう。起き上がろうとして初めて布団の上に覆いかぶさる存在に気がついた。 春子だ。僕のお腹の上に頭を預けて寝ている。 静かな寝息が聞こえてくる。だらしなく涎を垂らしながら幸せそうに眠っている。 寝苦しい原因はこれか。 起こさないようにベッドから出ようとして失敗した。 春子の頭ががくんと布団に埋もれる。 「びにゃ!?」 変な悲鳴を上げる春子。もぞもぞ動き、寝やすい位置を見つけたのか再び静かな寝息が聞こえてくる。 呆れながらも僕はベッドから出た。全身がだるい。ひどい頭痛。 時計を確認すると、3時間ほど眠っていた。春子は授業に行かなくていいのかな。 「ん?んんー?」 むくりと春子は起きた。眠たそうなとろんとした瞳で僕を見る。 「こーいちくん。横になってないとだめだよ」 春子は僕の手を掴んだ。春子の柔らかくて温かい掌の感触に安心してしまう。 僕はベッドに戻された。 春子の掌が僕の額に触れる。滑らかで柔らかい感触。 「んー。全然下がってないね」 そう言って春子はスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。 「熱が出た時には水分を補給しないとだめだよ」 僕は礼を言って受け取った。蓋をあけて口にする。体に水分がしみわたる感触が心地よい。 50 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22 53 25 ID g/mo7HSP 昔の事が脳裏に浮かぶ。風邪をひいた時、京子さんも村田のおばさんも看病してくれたけど、二人とも忙しい人だから手が回らない時も多かった。そんな時にそばにいてくれたのは春子と梓だった。 体調が悪くて心細い時に春子はそばにいてくれた。いつもスポーツドリンクを僕に差し出してきた。 「飲んだら横になってね」 言われるままに僕は横になった。掌に柔らかい感触。春子の白い手が僕の手を握っていた。昔からそうだ。春子は僕が眠れるまで手を握ってくれた。 周りの大人たちが忙しくて寂しく感じていた状況で、春子の存在がどれだけ温かく心強く感じたか、きっと誰も知らない。 「すぐに治るから安心して」 あやすような春子に声に僕の意識は眠りに落ちた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ えー。初登場じゃないけど、一応自己紹介しとく。 私は堀田美奈子。梓と夏美のクラスメイト。 え?知らない? いやいやいや!私ちゃんと登場してるよ!?ほら、ちゃんと読んでよ! …でしょ!?全く、しっかりしてよね。 授業が終わった。はぁ。お昼休みまで長いよ。 教室を見渡すと夏美がぼんやりと頬づえついている。 うーむ。ちょっと声をかけにくい。この前、夏美のお父さんが殺されて以来、クラスのみんなは夏美と距離を置いている。 別にいじめとかじゃない。ただ、どう接したらいいか分からない。 ま、私はあんまり気にしないから普通に声をかけちゃうけど。 「なつみー。授業終わったよ」 私をガン無視する夏美。って、聞いてないっぽい。 「夏美?」 私は夏美を揺らした。綺麗な髪が微かに揺れる。ちょっと伸びた気がする。前はショートだったのに、今は肩にかかりそうな長さ。 うーん。私はちょっと長めのショートだけど、夏美の髪の毛はなんていうか綺麗だ。ちょっとうらやましい。 夏美は今気がついたように私を見た。 「あれ?どうしたの?」 なんだか夏美の様子がおかしいかも。目の焦点が合ってない感じ。まだ寝ぼけているの? 「もう授業終わってるよ」 私の言葉に夏美は飛び上がるように立ち上がった。うおっ。びっくりした。 「美奈子ごめん!お兄さんに会ってくる!」 夏美は教室を走って出て行った。どうなってるのよ。 ていうか次の授業は理科室なのに。はやく戻って来ないと遅刻しちゃうよ。 クラスの女の子が数人集まって話している声が聞こえてくる。 「お兄さんの兄さんって馬鹿じゃないの」 「そうよねー。彼氏の事をお兄さんって呼ぶって、何を考えているのかしら」 夏美の言うお兄さん。梓のお兄ちゃん。 私はため息をついた。夏美と梓のお兄ちゃんが付き合い始めてから、夏美の陰口を言う子が増えた。 ただの嫉妬丸出しの陰口。梓のお兄ちゃんは背が高くて文武両道、料理もできるし、見た目も悪くはない。モテる要素はある。今までモテなかったのは、シスコンだと思われていたから。 でも、実は梓がブラコンだっただけと分かってから人気が急上昇した。けどその時にはすでに夏美が彼女になっていた。 全く。陰口なら聞こえないように言えばいいのに。聞いても気持ちのいいものじゃない。それなのに彼女達は聞こえるような声で陰口をたたく。 「お父さんが死んだからって悲劇のヒロインを気取ってるみたいでキモイよね」 私が言うのもなんだけど、女の子の嫉妬ってホントに怖い。夏美の今の状況すら陰口の要素になるのだから。 夏美はいい子だから陰口の類に過敏に反応したりしない。それが余計にクラスの子をイラつかせているのもある。 私はため息をついて梓を探した。梓は夏美と一番の友達だ。正直、明るくて社交的な夏美と無口でいつも不機嫌そうな梓とどこが気が合うのか分からないけど。 梓はすぐに見つかった。小柄で細く、綺麗な黒い髪を背中に垂らしている。いつもはポニーテールにしているのに、最近はそのままおろしていることが多い。でも、今の髪形も似合っている。 お人形さんみたいな綺麗な髪と白い肌。女の私から見てもため息をつきたくなるような儚い美しさを持っている。 私は梓に声をかけられなかった。 梓はいつも通りの無表情だった。 でも、瞳には背筋の寒くなるような感情を湛えていた。 梓が悪口を言っている子と同じ感情。 でも、その感情の強さは比べ物にならないほど強く感じた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/kyogokurowa/pages/102.html
垣根帝督が鬼舞辻無惨に苦戦を強いられているのは何故か。 まずは純粋な身体能力の差。 垣根帝督とて能力に頼り切りなだけの人間ではない。 学園都市の裏の世界で活動していることもあり、武装したチンピラ程度なら能力を使わずとも容易く制圧できる。 だが、無惨は人間の何倍もの身体能力を有する『鬼』の始祖。 全力を出さずともその拳を振るえば人体はひしゃげ蹴り上げれば十メートル以上空に飛ばすのも苦ではない。 身体能力そのものは人間の範疇である垣根にこれと張り合えというのも無茶な話だ。 それを補うにはあまりあるのが彼の能力『未元物質』だ。 実際、無惨ともまともに打ち合えるであろうシグレ・ランゲツとの戦いでもここまで一方的に防戦一方にはならなかった。 主催による制限の影響があったうえでもなお、シグレとは互角に渡り合っていた。 だがそれも環境が整っていればの話。 シグレとの戦いと無惨との戦いで一番大きな差異は環境の差。 シグレとの戦いの場所は開けた墓地。 周囲に壁らしい壁はなく、行動できる範囲が広かった。 故に、垣根は背中の未元物質を操る羽根のポテンシャルを存分に発揮できた。 だが、無惨との戦闘場所は狭い病院。 宙を舞おうにも天井に遮られ、地での行動範囲もかなり絞られてしまう。 加えて、無惨の高速で動き伸縮自在な触手。 この触手と病院という施設の狭さが非常に噛み合い、垣根は逃げることはおろか下手に避ければ視界外から攻撃されるという制約を強いられてしまっていた。 外に向かおうにも入り口は無惨が陣取っており、外に繋がる窓へと向かおうにもそれよりも速く触手は回り込んでしまう。 結果、垣根は羽根で触手を受け続けるという防戦一方の様相を呈してしまっている。 (けどな、そいつももう終わりだ) 垣根には学園都市一位のようなベクトル操作によるカウンター能力がない。 できるのは羽根による直接的な斬撃か、未元物質が齎す変化による火傷や凍傷に近いこちらからの攻撃のみ。 しかしそのどちらも無惨の高すぎる再生力の前では効果が薄い。 垣根の能力が制限されていなければ首を斬れずとももっと有効打に成りえたかもしれないが、現状ではせいぜい動きを鈍くする程度が限度である。 故に垣根は賭けなければならなかった。 まるで己が無惨よりも下だと認め、ジャイアントキリングを狙うような、命を賭け金(チップ)にしたギャンブルに。 (心底気に食わねえが、何にも掴めず死ぬよりはマシだ) 垣根の目の前で繰り広げられるは相も変わらぬ防戦一方の戦場。 それでも彼はジッと堪える。 焦らず。奢らず。逸らず。 しかしその両眼だけは、無惨から一時も離さず見据え続ける。 その垣根の様子に無惨は攻撃を加えつつも疑問を抱く。 (なにを企んでいる...?) 先ほど、垣根は自分の攻略法を見つけたと豪語した。 にも関わらずこの不動の構え。無惨が不審に思うのも仕方ないことだ。 (いまの私を殺しうるのは太陽と首輪の爆発だけだ) 無惨は鬼の急所である首切りを既に克服しており、そんな彼が死に至るとすれば太陽の元に晒された時と参加者の証たる首輪の爆破だけだ。 だが参加者全員の急所たる首輪の爆破はともかく、太陽の下にその身を晒す行為を弱点に繋げるような失態は犯していない。 垣根がそこから日光が弱点であると見抜くとは考えづらい。 (太陽以外の手段を見い出したというのか?) そんなはずはないとは思うが、しかし万が一のことも考えれば、やはりここで殺しておきたいと思う。 触手は一層速度を増し、じわじわと垣根にも傷が増えていく。 そんな最中―――変化が起きた。 「...!?」 突如、垣根の鼻から血が流れ始めた。 驚いたのは垣根ではなく、無惨。 まだ顔にはダメージを与えていない中で、なぜ垣根が鼻血を出したのかわからなかったからだ。 「気にすんな。こっちの都合だ。...おい、触手が緩んだぞ。ビビってんのか?」 垣根のあからさまな挑発に苛立ち、ビキリと無惨のこめかみに青筋が走る。 そして同時に思う。 この男は、どこか不気味だと。 ☆ 垣根提督が『賭け』に繰り出す一方で。 病院の四階。 ジョルノ・ジョバーナとマギルゥ、そして下弦の伍・累との戦いは苛烈を極めていた。 「温いね。こんなものじゃ僕の身体は焼けないよ」 「ゲェーッ、ワシのエクスプロードがぁ!?」 ―――否。訂正しよう。 ジョルノとマギルゥ、二人は脱皮を果たした累の前にひたすら押されていた。 変貌前から既に苦戦を強いられていたのに加え、さらに身体能力の上乗せまでされているのだ。 累が本気で始末しにかかってくる以上、状況がただで好転するはずもない。 「どーするんじゃジョルノ!?儂の魔術じゃ掠り傷程度しかつかんぞ!?」 「わかっています!現状、彼を倒し得る手段は...!」 ゴールドエクスペリエンスは近接型のスタンドでありながら直接的なパワーは良くて中堅。 そこから派生して生み出される生命による攻撃も、せいぜいが人体を破壊できる程度だ。 マギルゥの魔術であの程度のダメージならば、正面からの戦いは非常に分が悪い。 それはわかってはいるが、この病院という狭いステージが彼らの撤退も間合いの調整も困難にさせる。 「バラバラにしてあげるよ」 累の指が赤く光り、伸びた糸が二人目掛けて網目状に躍りかかる。 二人は咄嗟に左右に散開するように飛び退き糸を回避。 その隙を狙いすますように累は拳を握りつつ、足に力を籠め跳躍。 狙いは―――ジョルノ・ジョバーナ。 「くっ、ゴールドエクスペリエンス!」 振るわれる剛腕をスタンドの腕で防ぐ。 ミシミシと右腕の骨が悲鳴を挙げ、吐血と共にジョルノは後方へと吹き飛ばされる。 「ッ!」 ズキリと激しく鈍い痛みが走る。 ジョルノの右腕はあらぬ方向に曲がり、骨が突き出し血が溢れていた。一目でわかる。 累の雑なパンチ一つで、ゴールドエクスペリエンスの右腕は破壊されてしまったのだ。 「クッ、アアッ...」 痛みに顔をしかめつつも、ジョルノは切り裂かれたメスを手に、残る左手を右腕に添える。 ゴールドエクスペリエンスの能力は掌から生命エネルギーを送り生命を与えること。 その能力を発展させ、メスに生命を与え壊れた腕の部品を作り、折れた箇所の代替品として埋め込む。 「ハァッ、ハァッ」 なんとか右腕を補強したジョルノだが、その顔色は優れない。 ジョルノの能力は厳密には治療とは違う。 この会場にはいないスタンド使い・東方仗助のようにどんな重傷をも痛みもなく治すのではなく、あくまでも損傷した部品を使い補っているだけ。 疲労も痛みも消えることは無い。 故に、何度も繰り返せばやはり先に倒れるのはジョルノたちだ。 (どの道、長期戦は望めないか...なら!) 「マギルゥ!もう一刻の猶予もない!僕らがこれ以上消耗する前に首輪を壊して決着を着ける!」 首輪の破壊。それがジョルノたちに残された唯一の勝ち筋だ。 「一つサンプルが消えるのは惜しいが...ま、仕方ないかの」 「出来ると思ってるの?君たち程度の力で」 累の腕から放たれる糸は蛇のようにうねりマギルゥとジョルノに放たれる。 「あぶなっ―――爆駆走!」 「ッ!」 マギルゥはボード状に広げた式神でなんとか躱すも、ジョルノは躱しきれず治したばかりの右腕に糸がかかり――― ザンッ 「ぐあああああっ!!」 切り落とされた右腕からは鮮血が溢れ、さしものジョルノも悲痛な叫びをあげる。 「『フーッと吹けば飛び出すぞ』」 そんなジョルノにも一切構わずマギルゥは呪文の詠唱を始める。 第三者から見れば薄情に見えるかもしれない。 しかし、彼女は長い戦いの経験により理解していた。いま、ここで一瞬でもジョルノに気を回せば勝機が消えてしまう。 ここで累に攻撃することこそ己とジョルノが生還する唯一の方法だと。 「『わんさかくるぞ。じゃんじゃんいくぞぉ!』」 掌から吹かれた式神が床から順々に湧き出て累へと向かっていく。 それは累を取り囲むように円を組むと、一斉に躍りかかった。 「グッドホールディ」 「血鬼術、刻糸輪転」 マギルゥの詠唱が完了する前に、累の糸が渦のように編まれ、回転させながら前方へと放たれる。 すると、式神はあっさりその身をざんばらに切り裂かれてしまった。 「ギャーッ、ワシの術があんなにもあっさり!まっ、結果オーライじゃがの」 慌てるような素振りから一転、マギルゥはニヤリと口角を釣り上げる。 シグレにも言及された「いい悪い顔」で。 累の視界外で、切り裂かれた式神が光を帯びる。 「それでは改めまして、グッド・ホールディング!!」 詠唱が完了するのと同時、累の周囲が爆ぜ砂塵を巻き上げ床が崩れ落ちる。 「くっ!?」 不意の爆撃と突如塞がれた視界と唐突に襲われる浮遊感に、さしもの累も怯み、受け身を取る間もなく落下する。 下層に落ちた累は、すぐに糸を振るい砂塵を払いのける。 「グラヴィディゲイル!」 間髪入れず累の頭上より放たれるは、簡易的な重力場の魔術。 かけられる重力負荷に累の動きは一時的に阻害され、防御を余儀なくされる。 「ここまでたたみかければ好きにやれるのう」 マギルゥは両掌を頭上に掲げながら己に残された霊力を絞り出す。 「さぁさぁとくとご賞味あれ!大魔法使いマギルゥの変幻自在の超魔術!!まずは一番!ライトニングブラスター!!」 バチバチと光が掌に迸り、突き出されると共に累の身体を閃光が貫く。 「ッ...こんなもので」 「二番!ハイドロシュトローム!!」 ライトニングブラスターで穿ち巻き上げられた砂塵がうねり累を中心に取り囲む。 そしてそのまま全身を縛り付けるように全身に纏わりついた。 「そしてオオトリを締めますのは―――フォースデトネイター!!」 グラヴィディゲイルにより大雑把な動きを、ライトニングブラスターでの電撃ダメージにより感電を、そしてハイドロシュトームで纏わりつかせた砂塵で動きを固め。 一瞬ではあるが、完全に動きを止めた上で放たれるは、地・水・火・風の属性の魔球を放ち、同時にぶつける秘術。 四色の魔術を受けた累の足場はまたしても崩壊し、さらに下層へと叩き落とされる。 「―――これで終わり?」 二度叩き落とされ、様々な属性の魔術をその身で受けてもなお累の眼光も、肉体も未だ衰えず。 例え視界を遮られようとも鬼として発達した感覚は上階にいるマギルゥを捉えている。 累の掌から伸ばされた糸がマギルゥの足に絡みつき、力づくで引きずり下ろす。 「のわああああああ!?」 素っ頓狂な悲鳴を上げつつ、マギルゥは滑り落ちるように2階下へと引きずり降ろされ、背中と後頭部を強打した。 「ギャフッ!?いっっったいのぅ!!」 「どうやら奇妙な術も打ち止めのようだね」 頭を抱えごろごろと転がりまわるマギルゥを、累は冷ややかな目で見下す。 「演技は止めなよ。本当は平気なんでしょう?」 「いや、普通に痛いんじゃがのう...なんでそう思うんじゃ?」 「きみが強いからだ。だから今も切り刻まずに引きずり下ろしたんだ」 キリキリと累の指が鳴り、マギルゥの足に糸が食い込み肉から血が滲み出る。 「確かにワシは優秀な大魔法使いじゃが、強いから殺さなかったとは不思議なことを言うのう」 「きみが強いから、僕の頼みを聞いてもらいたかったんだ」 「頼み、とな。まあ断ったらワシの足がずんばらりんといったところじゃろうが...ひとまず言ってみい」 「僕の母になれ。そうしたら助けてあげるよ」 突然の提案に思わず「はぇ?」ととぼけた声を漏らすマギルゥ。 「君の役割は僕の母親だ。そして親は子である僕を命を賭けて護るのが使命だ。 だから母も父も僕よりも強くなくちゃいけない。きみは彼と同じく強い人間だから、父さんと一緒にあの御方の血を分けてもらって『本物の家族』になってもらう」 「ふーむ...要するに自分を護ってくれる存在が欲しいとな。...ま、仕方ないかの」 マギルゥはいっそ清々しいほどの笑顔を浮かべて朗らかに言った。 「ええぞぉ~。坊よ、これからはマギルゥママと呼ぶがいい」 あまりの快活な承諾に、累は思わず呆気にとられる。 が、承諾は承諾。累は足に糸を絡ませたまま、マギルゥに歩み寄る。 「わかった。これからよろしく、母さん」 差し伸べられた掌を握り返そうとして―――ピタリと止まる。 「よろしく―――と、言いたいところなんじゃがのう。ちょーっと困ったことがあるんじゃ」 「なに?」 「ワシはあの垣根とジョルノという悪い旦那たちに捕まっていてのう。おぬし達のママになろうにもその柵があるとダメなんじゃ。そういうわけで『いずれ弾けるじゃろ?』―――スイープマイン!」 流れるような詠唱から差し出された掌から氷の球体が放たれ弾け飛び、累の眼球に氷の粒が刺さった。 「ぐっ!?」 「ワシをママにしたかったら奴らとの離婚調停を勝ち取ってみせい!」 一瞬できた隙を突き、マギルゥは糸の絡んだブーツを脱ぎ捨て脱出する。 「そう、拒むならいいよ。きみはもう殺す」 これでトドメと言わんばかりに、目が治る前に糸を放とうとする累。 「同盟はともかく貴女と婚姻を交わしたつまりはありませんが」 背後より感じた気配に、累は振りむきざまに糸を振るう。 肉を切った音と共に、累の目が再生を完了する。 その視界が捉えたのは、哀れ挽肉となったジョルノ・ジョバーナ 「な、に...」 ではなく、頭部を失った血まみれの白衣の男体―――その肉塊。 「父、さん...?」 「貴女が彼らの仲間になるというのは見逃せませんね」 呆気にとられる累の横合いから、凛とした声がかけられる。 先ほどまでに何度も聞いた男、ジョルノ・ジョバーナの声が。 「おまえっ」 「『無駄ァ!!』」 ジョルノが既に息絶えていたチョコラータを身代わりしたと理解した時にはもう遅い。 ゴールドエクスペリエンスの左拳は既に放たれており、累は防ぐことすらできず頬で受け止めた。 「『無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!』」 息もつかず放たれるラッシュが、絶え間なく累の顔面を打ち付ける。 これで決めると言わんばかりに全力で放たれる拳の雨に累は――― 「『無駄無駄無駄ム』」 「無駄なのはそっちだよ」 あっさりと掌で払いのけた。 ジョルノのゴールドエクスペリエンスのラッシュは近接戦型スタンドだけあり中々に速い。 しかし、万全な状態ならばいざ知らず、今のジョルノの右腕は何度も破壊され無理やり再生させたモノ。 疲労もダメージも尋常でない状態から放たれるラッシュは、十二鬼月である累にとって見切るのは余りにも容易かった。 「結局、彼も父さんにはなれなかった...もういいよ。僕は予定通りにあの御方の為に戦うとする」 チョコラータの死体を見た累が抱いた感情は、落胆の一つだけ。 彼は強く可能性の塊ではあったが、趣味も合わないし累を護るつもりもないのは薄々感づいていた。 だから死んでしまえば興味など消え失せる。感慨もわかない。 だから今は―――鬼の一人として無惨様の為に戦う。 眼前の敵を排除する為に拳を固める累。 それに対してジョルノは―――ここにきて、正面勝負。 自棄になったわけではない。ここまでは予定通りだからだ。 (感謝します、マギルゥ、リゾット。貴方たちのお陰でここまでこれた) マギルゥが累の気を引き、加えて、リゾットが既にチョコラータをたおしていたお陰で奴の死体を囮に使えた。 お陰で僅かでもゴールドエクスペリエンスの拳を叩き込むことが出来た。 ジョルノのゴールドエクスペリエンスで生命エネルギーを生物に流し込めば、意識が身体についていけず、意識と身体の齟齬で身体が一時的に不自由になる。 その僅かな硬直の隙を突き、首輪を破壊するのが狙いだった。 ゴールドエクスペリエンスと累の拳。 互いの殺意を乗せた拳が眼前の敵へと放たれる。 ――――ここにきて、二人に『誤算』が生じる。 ジョルノの『生命力の過剰供給による暴走』は人間の身体がその意識に追いつけないが故に相手を無力化できる。 しかし、累の身体は鬼。暴走した意識でもなお、それに追いつける身体を持つのが鬼の中でも強者である十二鬼月だ。 そして累。 彼の身体能力を増す『脱皮』はもとは累の父に分け与えていたものである。 元来は累のものとはいえ、それを行使するのは久方ぶりにもほどがあり、細かい調整はできていなかった。 だから、ジョルノを殺すために全力で踏み込んだ累は―――ジョルノを飛び越し、部屋の中央にまで踊り出てしまった。 「えっ!?」 「!?」 共に驚愕するジョルノと累。 だが、振り下ろした拳は止められず、ジョルノに強化されてしまった拳は床を穿ち―――階下へと突き抜けた。 前話 次話 Liber AL vel Legis -黒 VS 白- 投下順 法の書・外典【テイルズオブベルセリア】 前話 キャラクター 次話 病院戦線、終幕(前編) 垣根帝督 病院戦線、終幕(後編) 病院戦線、終幕(前編) マギルゥ 病院戦線、終幕(後編) 病院戦線、終幕(前編) ジョルノ・ジョバァーナ 病院戦線、終幕(後編) 病院戦線、終幕(前編) リゾット・ネエロ 病院戦線、終幕(後編) 病院戦線、終幕(前編) 累 病院戦線、終幕(後編) 病院戦線、終幕(前編) 鬼舞辻無惨 病院戦線、終幕(後編) 病院戦線、終幕(前編) 高坂麗奈 病院戦線、終幕(後編)
https://w.atwiki.jp/sgxdhikoushiki/pages/1069.html
EV95 戦姫絶唱シンフォギアXV 前編 概要 イベント報酬 余談 サブタイトル一覧 +あらすじ 『繋ぐこの手には――、神(キミ)を殺す力がある』 激しい戦いの末、アダム・ヴァイスハウプトは呪われた予言を残し、息絶えた。 あれから、響が取り戻したはずの普通の毎日にも、どこか不穏な空気が漂っていた。 そんな中、S.O.N.G.の戦いは南極から始まる。 先史文明期の遺産を巡る争いは、 米国を巻き込み激しさを増していく……。 S.O.N.G.の前に現れた新たな敵は、 パヴァリア光明結社の残党――ノーブルレッドッ! 装者も、シンフォギアとファウストローブの融合症例、 『アマルガム』を解き放つッ! しかし新たな力を得た響の前には、 神の依り代となった親友が立ちはだかろうとしていた―― 概要 開催期間 2020/4/16 17 00 ~ 2020/4/30 13 59 XV本編のうち、EPISODE 01~08を再現したイベントクエスト。後にメインクエストとして実装される予定らしい。 XVの新キャラクターであるヴァネッサ・ミラアルク・エルザが実装された。このうちエルザのみプレイアブル化が後になっている。 ノーブルレッドの実装に伴い、XVの劇半『レディッシュブラウン』が追加された。また、本イベントより楽曲ボーナスが新たに追加された。効果としては上記の追加曲を装備したキャラクターの与ダメが上昇する。 イベント開催期間が2週間とかなり短い。にも拘らず、報酬の星5ミラアルク完凸に必要なアイテム数は21万と、1ヶ月開催のイベントと同数となっている。さらに、全進捗度においてWAVE3になるステージがEXクエスト以外に無く、EP効率がかなり悪い。全体的にせわしないイベントとなっている。 ストーリーはXVの再現だが、所々に原作の補完が入る。1枚絵のみでセリフが無かったシーンでは特に顕著。何故か訃堂だけフルボイスである。 EV70 夏休みボーナスクエストで先行登場したセグウェイアルカノイズだが、エネミーとして登場しない。 高難易度クエストが存在する。 同年10月にメインクエスト化された。 イベント報酬 イベント限定シンフォギアカード 星5 ミラアルク/フライングバットプレス イベント限定メモリアカード 星4 南極流しそうめん 余談 サブタイトル一覧 +... EV95-S1 人類史の彼方から・前編 EV95-S2 人類史の彼方から・後編 EV95-S3 天空(ソラ)が堕ちる日 EV95-S4 Penny Dreadful EV95-S5 花の名は、アマルガム・前編 EV95-S6 花の名は、アマルガム・後編 EV95-S7 かばんの隠し事 EV95-S8 ゼノグラシア EV95-S9 もつれた糸を断ち切って EV95-S10 XV・前編 XV イベントクエスト 戦姫絶唱シンフォギアXV 前編
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1022.html
172 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 38 38 ID 1YJ630lK 三つの鎖 18 私は教室の窓をぼんやりと見ていた。たくさんの生徒が校門から出ていく。 その中に幸一君と夏美ちゃんが歩いているのを見つけてしまった。 両手に鞄を持ちながらはしゃいでいる夏美ちゃんを苦笑しながら後追う幸一君。 幸一君の体調は良くなったようだ。足取りにふらつきは無い。 私はため息をついて立ち上がった。荷物をまとめて教室を出た。 自宅の自室に戻りパソコンの電源を入れた。 パスワードを入力し起動する。自作のツールを開いて夏美ちゃんの部屋に仕掛けた盗聴器からの音声を確認するけど、まだ帰ってきていないようだ。 私はため息をついた。何をやっているのだろう。 こんな事をしても何もならない。幸一君の心の中にいるのは夏美ちゃん。私じゃないのに。 それなのにこの前の幸一君との情事が脳裏に浮かぶ。 顔が熱くなる。激しい幸一君もいいけど、優しく抱いてくれる幸一君も良かった。 私は太ももをすり合わせた。切なくていけない気持ちで頭が一杯になる。 スカートの下に手を忍ばせたところでチャイムがなった。 窓から外を見ると、梓ちゃんがいた。座ってシロの頭をなでていた。 私は梓ちゃんを部屋に案内した。 飲み物と茶菓子を持って部屋に入る。梓ちゃんは私のパソコンを無表情に凝視していた。 もちろん対策は抜かりない。パソコンにはロックをかけている。 「梓ちゃんが来るのは久しぶりだね」 私は梓ちゃんにコップを渡した。梓ちゃんの好きなアイスティー。 「今日はどうしたのかな」 私の問いに梓ちゃんは答えない。 梓ちゃんはコップに口をつけた。梓ちゃんの白い喉がこくこくと動く。 私は気にしなかった。というより気にならなかった。梓ちゃんが私に家に来るのは本当に久しぶりだ。私は素直に嬉しかった。 ぼんやりとしている梓ちゃん。その表情からは何を考えているのか分からない。 梓ちゃんは時々ハンカチで顔をぬぐっている。暑いのかな。 私は窓を開けた。涼しい風が入り込む。 「梓ちゃん大丈夫?すごい汗だよ」 ぬぐってもぬぐっても汗が吹き出ている。私は梓ちゃんの額に触れた。手に伝わる梓ちゃんの体温は驚くほど熱い。熱でもあるのかな。 「春子」 梓ちゃんは私を無表情に見上げた。 「お風呂貸して」 私は驚いた。別にお風呂を貸すのは構わない。でも梓ちゃんの家は隣だ。別に私の家でお風呂に入る必要は無い。 「いいけど、何で?」 梓ちゃんは私の手を握った。熱くて小さな手。白い肌は微かに桜色に染まっている。 「春子も一緒にはいろ」 思わず私は梓ちゃんの顔を見た。いつも通りの無表情な顔。 恥ずかしいからなのか、熱のせいなのか、その頬は微かに赤い。 「いいよ!梓ちゃんとお風呂に入るの久しぶりだね!お姉ちゃん嬉しい!」 私は梓ちゃんを思い切り抱きしめた。梓ちゃんが一緒にお風呂に入ろうといってくれるのが嬉しかった。 「春子。うっとうしいよ」 梓ちゃんは不機嫌そうに言った。それでも私は嬉しかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 私は着替えを持って脱衣所に入った。梓ちゃんも私に続いて脱衣所に入る。 梓ちゃんの着替えは私のお古だ。サイズはちょっとぶかぶかかもしれない。特に胸が。 私は服を脱ぎ洗濯機に入れた。 「梓ちゃんのも洗濯するよ」 梓ちゃんはうなずいて服を脱ぎ始めた。 女の子私から見ても梓ちゃんは綺麗な体をしている。白くて透き通るような肌。控えめな胸のふくらみ。成熟した女の子の色気は無いけど、幼さと女性らしい曲線が絶妙に混ざり合った体は妖しい魅力を放っている。 可哀想だけど幸一君好みの体じゃない。幸一君自身も気がついていないかもしれないけど、幸一君はおっぱい星人だったりする。大きな胸が好みなのは間違いない。 仕方ないとは思う。小さいときから京子さんみたいなすごい胸の人がそばにいたのだから。私の胸が大きくなって幸一君が恥ずかしそうに意識するたびに私は幸一君をからかった。 「何をじろじろ見ているの」 梓ちゃんが不機嫌そうに私の胸を見ながら言った。 「ごめんね。相変わらず梓ちゃんは綺麗だと思って」 立派とは言わなかった。言えなかった。 「見てなさいよ。そのうち春子より大きな胸になるんだから」 173 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 40 57 ID 1YJ630lK 私より大きい胸、ね。それは無理だよ。京子さんクラスじゃないと。 梓ちゃんが知ったら怒り狂うようなことを考えながら私と梓ちゃんは浴室に入った。すでに浴槽はお湯で一杯になっている。 「梓ちゃーん!お姉ちゃんが洗ってあげるね!」 私はスポンジにボディーソープをつけて梓ちゃんににじり寄った。 「じゃあお願い」 梓ちゃんは素直に椅子に座った。白くて綺麗な背中を私に向ける。 私は梓ちゃんの背中をスポンジで優しくこする。綺麗な背中だからもっと綺麗にしなくちゃ。 「梓ちゃん。髪も洗っていい?」 梓ちゃんは何も言わずに頷いた。 私はシャワーで梓ちゃんの体を流しながらシャンプーのボトルを手にした。手にシャンプーを出して梓ちゃんの髪の毛をわしゃわしゃと洗う。 梓ちゃんの髪の毛は長くてサラサラしている。つやのある綺麗な髪。 昔のことが脳裏に浮かぶ。私と幸一君と梓ちゃんの三人で一緒にお風呂に入ってお互いの体や頭を洗った。梓ちゃんの髪の毛を洗った回数は数え切れない。昔から梓ちゃんの髪の毛は綺麗だった。 懐かしい思い出。胸が温かくなる。何の障害も無く幸一君と梓ちゃんのそばにいられた幼い子供の時のかけがえの無い思い出。 シャワーで梓ちゃんの頭を洗う。泡が流れていく。 「はいおしまい」 梓ちゃんは立ち上がって私のほうを見た。相変わらず無表情に私を見つめる。 「春子。座って」 梓ちゃんはシャンプーの入ったボトルをつかんで言った。 座るってどこかな。 「今度は私が洗う。座って」 そう言って梓ちゃんは椅子を指差した。 私は驚いた。梓ちゃんは面倒くさがり屋だ。昔から一緒にお風呂に入ったときも自分から洗うことはほとんど無かった。洗うときも適当だった。 それなのに私を洗うと言ってくれている。 「お姉ちゃんをぴっかぴかにしてね」 私は椅子に座った。素直に嬉しかった。 梓ちゃんはまず私の頭にシャワーをかけた。私の髪の毛をお湯が流れていく。 シャンプーを手にした梓ちゃんが私の髪の毛を丁寧に洗ってくれる。私も髪の毛は長い。ちょっと申し訳ない気持ちになった。 私の頭を丁寧に流してくれる梓ちゃん。くすぐったい感覚。 次に梓ちゃんの手が私の背中に触れた。ボディーソープのぬるぬるした感触。 「あれ?スポンジは使わないの」 梓ちゃんは何も言わずに素手のままで私の背中をこする。くすぐったい。 次に梓ちゃんは後ろから私の前を触った。胸をつかむ梓ちゃんの小さな手。 「ちょっと梓ちゃん?」 梓ちゃんは何も言わずに私の胸をもむ。 「きゃんっ、梓ちゃん、くすぐったいよっ」 無言で私の胸をもむ梓ちゃん。そのまま梓ちゃんの手は私の太ももに伸びる。 触れるか触れないかの距離で私の太ももをなぞる梓ちゃんの手。私は思わず震えた。 そのまま私の太ももを撫でる梓ちゃん。ボディーソープのぬるぬるした感触に体が震える。 梓ちゃん手は徐々に私の体に伸びてくる。 「きゃっ、だめだよっ」 私の抗議を無視して梓ちゃんは私の太ももの付け根の割れ目をなぞる。 「春子って昔から同じシャンプーだよね」 梓ちゃんは私の耳に囁いた。梓ちゃんの熱い息に体が震える。 「う、うんっ」 昔、幸一君がいい匂いがするって言ってくれたシャンプー。それ以来、私はずっと使っている。 そうなんだと思ってしまった。私は幸一君がほめてくれたのが嬉しくてずっと同じシャンプーを使っている。あの時から私は幸一君が好きだったんだ。 私の考えをよそに梓ちゃんが私の膣の入り口を執拗に撫でる。 「ひうっ!」 梓ちゃんの指が膣に侵入してくる。大事なところを入り込む感触に思わず私は悲鳴を上げた。 身をよじって抵抗するけど、梓ちゃんの指は膣の奥へ奥へと侵入する。 「んっ、あっ、だめだよっ」 私は梓ちゃんの方を振り向いた。梓ちゃんの指が抜ける。無表情に私を見つめる梓ちゃん。その視線に背筋が寒くなる。 「もうっ。梓ちゃんどうしたのかな。お姉ちゃんびっくりだよ」 梓ちゃんは何も言わずにシャワーで私の体を洗ってくれた。 「ん、梓ちゃんありがとう」 私のお礼に梓ちゃんは何も言わなかった。その姿に表現しがたい不安を感じた。何で不安を感じたのか、私には分からなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ お風呂から上がった私と梓ちゃんは部屋に戻って飲み物を飲んでいた。私はスポーツドリンクで梓ちゃんはアイスティー。火照った体に心地よい。 174 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 42 57 ID 1YJ630lK 梓ちゃんは無表情に私を見つめている。私は居心地が悪かった。 今日の梓ちゃんはどうしたのだろう。久しぶりに来てくれたと思ったら一緒にお風呂に入ると言ったり、いつもらしくない梓ちゃんの行動によく分からない不安を感じる。 梓ちゃんは空になったコップを机に置いた。私の空になったコップをつかんで同じように机に置く。 「ありがとう」 私のお礼に何も言わずに梓ちゃんは私に抱きついた。私の胸に顔をうずめる梓ちゃん。 突然のことに私は動けなかった。何がなんだか分からない。 私の胸に顔をうずめた梓ちゃんは肩を上下させて大きく息をしている。梓ちゃんの吐く息が薄いシャツを通り越して肌に感じる。その熱さに鳥肌が立つ。 「ど、どうしたのかな?」 梓ちゃんは何も言わずに私の胸に顔をうずめ何度も深呼吸している。 先ほどの風呂場での出来事が脳裏によみがえる。私の体を撫で回す梓ちゃんの白い手。 まさか。梓ちゃんってそっち系の趣味だったの。 ちょっと待って。私に百合な趣味は無いよ。ていうか梓ちゃんは幸一君が好きじゃないの。 あまりの事に頭が混乱する。私にしがみつく梓ちゃんを引き剥がせないで呆然としていた。 「春子」 「ひゃい!」 思わずかんでしまう私。 梓ちゃん、お姉ちゃんね、ノーマルなんだよ。 そんな私の混乱をよそに梓ちゃんは私を見上げた。 「春子だったんだ」 「えっと、何がかな?」 「兄さんと寝たでしょ」 背筋に悪寒が走る。 私を見上げる梓ちゃんは相変わらず無表情。だけど、瞳は強烈な感情を放っている。 よく知っている感情。嫉妬と怒り。 「最近の兄さんは夜遅くに帰ってくることが多いわ」 梓ちゃんの言葉はあくまで平坦で起伏に乏しい。 それなのに悪寒が走るほどの強い感情を感じる。 「私ね、シロほどじゃないけど鼻はきくわ。私ね、兄さんが帰ってきたらいつも玄関で出迎えて抱きつくの。その時、兄さんの体からするの女の匂いが一種類じゃないの。これっておかしいよね」 背中に回された梓ちゃんの腕。熱い腕。 「一つはあの女の匂いだった。他は複数のシャンプーの匂いがするけど、同じ女の匂いだった。そのうち一つはどこかで記憶にある匂いだった。私も間抜けね。今日の朝まで気がつかなかったなんて」 足元の感触が無くなり視界が反転する。背中に衝撃。あまりの痛みに息が詰まる。 受身も取れずにもがく私に梓ちゃんがのしかかる。 「どういう事なの。何で兄さんから春子の匂いがするの」 梓ちゃんは私を見下ろした。奇妙な光を放つ瞳。その視線に体が震える。 「意味が分からないわ。あの女より先に春子と兄さんが付き合っているなら私が気がつかないはずが無い。仮に気がつかなかったとしても、あの兄さんが二股なんてするはずがないわ」 淡々と喋る梓ちゃん。私を見下ろす瞳は怒りと嫉妬が渦巻いている。 あまりの事に私は震えるしかできない。 「どうやって兄さんと寝たの」 私は何も言えなかった。言えるはずが無かった。 梓ちゃんは苛立たしげに私を見下ろす。 「言いなさい」 梓ちゃんの手が翻る。次の瞬間、頬に鋭い痛みが走る。 「言いなさい」 さらに私の頬を梓ちゃんの手が張る。 私は梓ちゃんの手を防ごうとしたけど、無理だった。梓ちゃんの手は魔法のように私の手をすり抜ける。 梓ちゃんの手は何度も私の頬を張る。頬がはれて熱を持つのが分かる。 あまりの痛みに視界がにじむ。 「強情ね」 梓ちゃんは無表情に私を見下ろした。 「想像はつくわ」 私の耳元に囁く梓ちゃん。震えるほど熱い息が私の耳を撫でる。 「兄さんを脅したんでしょ」 私は梓ちゃんを見上げた。そんな私を梓ちゃんはおかしそうに見下ろす。 何で分かったの。 「あの兄さんが一見不誠実な行動をとるとしたら、理由は二つしかないわ。他人のためか、騙されているか。最初は春子が騙しているのかと思った。例えば、春子が病気で余命短いから女の思い出が欲しいとか。 でもありえないよね。春子は昔から健康だもん。もし本当でも兄さんは必ず確かめるわ。抱いたら体に負担がかかるんじゃないかと心配してね。 脅したとしたなら納得できるわ。問題はその内容だけど。兄さんは自分のことで脅されても動かない。そもそもお人よしの兄さんに脅される材料はないし。動くとしたら、他人に被害が及ぶ場合。 例えば、あの女とか」 的確に事実に迫る梓ちゃん。私は震えるしかなかった。 175 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 44 33 ID 1YJ630lK 「やっぱりそうなんだ。あの女のことで兄さんを脅したのね。内容は何かしら。あの女がいつも早い時間に登校するのと関係しているのかしら。でもあの女の普段を見ていると知られて困る深刻な隠し事ってのは想像つかないわね。 あの女も知らないような内容で兄さんを脅す。何なのかしら」 梓ちゃんの手が私の頬に触れる。信じられないほど熱い手。まるで梓ちゃんの感情がそのまま熱を持って私に触れているような錯覚を覚える。 震える私から興味をなくしたように梓ちゃんは顔を上げて部屋を見回した。ある一点に視線が止まる。棚の上のビデオカメラ。 「あのビデオカメラ、埃をかぶってないわね。そんなに頻繁に使うものだったの」 独り言のようにつぶやく梓ちゃん。恐怖が私を包み込む。 梓ちゃんは私の顔に顔を近づけた。目の前の梓ちゃんの瞳が私の瞳を貫く。 「それとも最近使ったのかしら」 体が震えるのを抑え切れなかった。 梓ちゃんは唇の端を吊り上げた。笑顔と気がつくのに少し時間がかかった。 「あの女を盗撮したのね」 梓ちゃんの言葉が突き刺さる。 「盗撮の内容は何かしら。あの女の排泄?お風呂?自慰?」 私は必死に体の震えを抑えた。 「それとも、兄さんとの情事?」 そんな努力は無駄だった。梓ちゃんの言葉に体が震える。 「へー。そうなんだ。兄さんとあの女の情事を隠し撮りして兄さんを脅して寝たんだ」 平坦で起伏に乏しい梓ちゃんの声。その裏には強すぎる感情が潜んでいるのを私は感じた。 梓ちゃんの手が翻り私の頬を打つ。今まで以上の痛みが走る。 「私の兄さんと寝たんだ」 梓ちゃんの両手が私の首を絞める。血管を押さえるのではなく、気管を絞める。息ができない。 私は必死に梓ちゃんの手を離そうとするけど、びくともしない。 「どこで寝たの。あのシャンプーがあるから多分この部屋で寝たのでしょ」 呼吸のできない苦しみに私は必死になって梓ちゃんの手をどけようとする。 その抵抗も意識が薄まりできなくなる。 「でも兄さんからは他のシャンプーの匂いもした。だったら他の場所でも寝ているわね」 梓ちゃんの手が緩む。私は必死に息を吸い込んだ。 「どこかしら。シャンプーが置いてあってシャワーを浴びられる場所。どこかのラブホテルかしら。繁華街にたくさんあるけど、あそこは人が多いから知り合いに会うリスクがある」 再び梓ちゃんの手が私の喉を絞める。息ができない苦しみに視界がにじむ。 梓ちゃんは私のことなど目に入ってないかのように喋り続ける。 「だったら人通りの少ないラブホテル。国道沿いでしょ」 梓ちゃんの視線が私の瞳を射抜く。 私は体が震えるのを抑え切れなかった。 「あたりみたいね」 梓ちゃんの腕が離れる。私は必死に梓ちゃんの下を抜け出した。 私は立ち上がり肩を大きく上下して呼吸した。喉を絞められた痛みと呼吸できなかった苦しみに体がふらつく。 「裏切り者」 梓ちゃんは冷たい視線を私に向けた。 「何がお姉ちゃんよ。私を裏切って。兄さんを脅迫して」 梓ちゃんの声は震えていた。 「私、春子の事嫌いじゃなかった。今まで迷惑もかけた。それでも私と兄さんのために色々してくれた。それなのに私と兄さんを裏切ったんだ」 梓ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。 覚悟していたはずなのに、自分でもびっくりするぐらい胸が痛い。 「ねえ。どうだった?何も知らない私を騙しながら兄さんに抱かれるのは。気持ちよかったでしょ」 梓ちゃんから強い感情が伝わる。 嫉妬。怒り。悲しみ。憎しみ。そして裏切られたやるせなさ。 「お、お姉ちゃんは」 言葉の途中で梓ちゃんは私の頬を思い切り張った。 私は無様に床に転がった。肩を震わせ私を見下ろす梓ちゃん。 「何がお姉ちゃんよ!ふざけないで!」 震える梓ちゃんの声。私を見下ろす梓ちゃんの目尻に涙がたまる。 「何でなの!何で騙したの!何で裏切ったの!」 涙が梓ちゃんの頬を伝う。そのまま床に落ちる涙。 私の中で形容しがたい感情が荒れ狂う。 「お姉ちゃんも幸一君が好きなの!」 気がつけば私は叫んでいた。 「お姉ちゃんも幸一君が好きなのに!梓ちゃんはずっと幸一君を独り占めしてたじゃない!ずるいよ!梓ちゃんは妹なのに!いつもそばにいられるのに!お姉ちゃんだって幸一君のそばにいたいのに!」 荒れ狂う感情のままに私は叫んだ。 「梓ちゃんだって同じ事をしたじゃない!幸一君を騙してそばに縛ったじゃない!お姉ちゃんも同じことをして何が悪いの!」 目頭が熱い。涙がとめどなくあふれる。 176 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 47 01 ID 1YJ630lK そんな私を梓ちゃんは冷ややかに見下ろした。 「そうなんだ」 冷たい梓ちゃんの言葉が私に降り注ぐ。 「確かに私と春子は姉妹ね。だって姉妹で同じことをしているもの」 梓ちゃんの言葉が私に突き刺さった。 私の胸で荒れ狂う感情は一瞬で静まった。 同じ。梓ちゃんと同じ。 分かっていたのに、分かっていたはずなのに、梓ちゃんの言葉は私を打ちのめした。 「二度と兄さんに近づかないで。あの女の情事を盗撮したデータが流出しても私はどうでもいい」 梓ちゃんはそう言って私に背を向けた。 入り口のドアに手をかけ私を背中越しに冷たく見つめる梓ちゃん。 「じゃあね。お姉ちゃん。二度と話しかけないで」 梓ちゃんは吐き捨てるように言って去っていった。私はその背中を見送ることしかできなかった。 私の可愛い大切な弟と妹。幸一君と梓ちゃん。ずっと一緒にいた大切な二人。 分かっていた。こんな結末がくると。それでも私は幸一君のそばにいたかった。 それなのに涙が止まらない。 梓ちゃんは私を軽蔑し、幸一君は私を哀れむ。 こんなはずじゃなかった。私が望んでいたのは昔みたいに三人で仲良く楽しくいたかっただけなのに。 私は一人、部屋の中で泣き続けた。泣き続けるしかなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 私は春子の部屋を出て階段を下りた。 この家には幼い頃から何度も来た。その度に春子ははしゃいで歓迎してくれた。春子が私の家に来たときも春子は嬉しそうだった。 私は春子のことが嫌いではなかった。確かにうっとうしい位に構ってくるし、年上ぶって接してくる。それでも嫌いじゃなかった。 春子は知らないと思う。私がどれだけ春子に感謝していたか。 兄さんが春子に告白したことを知ったとき、私が感じたのは怒りでも嫉妬でもなかった。感じたのは恐怖と絶望だった。 その時の春子はまだ中学一年だったけど、美人でスタイルも同世代の中では圧倒的だった。 白くて透き通るような肌、長くて艶のある髪、美人だけど親しみやすい笑顔、綺麗で子供のように輝く瞳、モデルのような身長、大きな胸。 さらに性格もいい。お茶目な性格で誰からも慕われ好かれる。文武両道で家事万能。 私が勝っているものは何も無かった。 子供の時からいつか兄さんは春子のことを好きになるのではと恐れていた。 そして兄さんが春子を好きになったら、勝てないと思っていた。 でも、春子は兄さんをふった。付き合わなかった。 私がどれだけ安心したか、春子も兄さんも知らない。 昔からうっとうしいとしか思わなかった春子に多少なりとも親しみを感じた瞬間だった。 これは私にしては極めて珍しい出来事だと思う。私は同年代の女の子の友達はいない。兄さんが私の女友達に惹かれるかもしれないと思うと友達など作る気になれなかった。できたのは夏美みたいに話しかけてくる子だけで、長続きする事は無かった。 そんな私だけど春子とは安心して一緒にいられた。どれだけ魅力的でも、兄さんに気が無い。兄さんを奪われる心配が無い。 今までも春子は私のそばにいて世話を焼いてくれた。私が家事を始めた頃も、料理や掃除などを親身に教えてくれた。春子自身が忙しい中で、時間を作っては私に会いに来てくれた。 兄さんが私に構ってくれない中、春子が来ても苛立たしいだけだったけど、そんな私に春子は笑顔を向けてくれた。 私が兄さんにひどい事をしても兄さんは私から離れなかった様に、春子も私が行ったことを笑って許してくれた。春子を入院させても、兄さんを傷つけても。 春子は兄さんと同じ私を裏切らない存在だった。 私は春子のことが嫌いではなかった。 嫌いではなかった。 玄関にシロがいた。私を見ると心配そうに見上げてくる。 「何よ」 「わう」 私の声にシロは悲しそうにほえた。 まるで悲しまないでと言う様に。 シロは私に近づいて体を摺り寄せた。 思えばシロとも長い付き合いになる。友達のいない私にとって、ある意味では一番の友達なのかもしれない。 「シロ。あなたのご主人様のとこに入ってあげて」 シロは心配そうに私を見上げた。 「私はいいから。はやく行ってあげて」 ここからでも春子の泣き声は聞こえてくる。悲しそうにすすり泣く春子が脳裏に浮かぶ。 「じゃあねシロ」 私は腰を落としてシロの頭を撫でた。シロは悲しそうに私の頬をペロペロ舐めた。 もう二度とここに来る事は無い。そう思うと少しだけ寂しく感じた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 177 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 49 00 ID 1YJ630lK 僕は玄関の前で立ち止まった。 ドアの取っ手をつかみ深呼吸する。梓は僕が帰宅すると玄関で抱きついてくる。これから明日の夜に夏美ちゃんのご両親から招待されている事を告げないといけない。 覚悟を決めてドアを開けた。素早く靴を脱ぎ、家に上がる。 梓はやって来ない。 僕は違和感を感じた。靴を見ると梓のはちゃんとある。いるはずなのに梓は来ない。 もしかしたら寝ているのかもしれない。僕は階段を上り梓の部屋の扉をノックした。返事はない。 「梓。入るよ」 ドアを開けて中を見るけど、誰もいない。 どこにいるのだろう。 僕は一階に下りてリビングに入る。電気は消えていて薄暗い。 明かりをつけると梓がいた。 声をかけようとして躊躇ってしまった。梓の様子がおかしい。 ソファーの上に体育座りに座ってぼんやりとしている。手には扇子が握られている。昔、梓の誕生日に僕と春子がプレゼントした品。 梓はぼんやりと宙を見つめていた。幼い子供が泣き疲れたような表情。今までに見た事のない頼りない梓の表情。 僕は意を決して口を開いた。 「梓」 何の変化もない梓。ぼんやりと宙を見つめたまま。 僕は近づいてもう一度声をかけた。 「梓」 梓はびくりと震えて僕を見た。 泣きそうな顔。まるで道にはぐれた子供が家族に会った時のように安心した表情。 「兄さん」 梓は僕に抱きついた。背中に梓の細い腕が回される。 僕は引き離そうとしてやめた。梓は震えていた。背中に回された腕が非力な力で抱きつく。 いったい何があったのか。 「兄さん。抱いて」 梓は震える声で僕に囁いた。 僕は首を横に振った。 「梓。僕たちは兄妹だ。それに」 最後まで言えなかった。梓が僕にデコピンした。 「変態シスコン。そんな意味で言ったんじゃないわ」 久しぶりに聞く梓の罵倒。 「ぎゅってして欲しい。それだけでいい」 そう言って梓は僕の胸板に顔をうずめた。梓の震えが伝わる。 本当なら引き離さないといけないと分かっている。僕と梓は兄妹だ。こんな事はいけない。 それでも僕は梓を引き離せなかった。 僕は固定していない腕を梓の背中に回した。そっと抱きしめる。 震える小さな背中。梓はこんなに小さかったんだ。 「梓。いったい何があったんだ」 梓は顔を上げた。今にも泣き出しそうな表情。 うつむき、梓は口を開いた。 「春子と、喧嘩した」 今日の朝の事が脳裏に浮かぶ。あの事で何か話したのだろうか。 「兄さん」 梓は顔を上げて僕を見た。目が合う。梓の瞳は今にも涙が零れ落ちそうだった。 「兄さんは春子のことをどう思っているの」 胸に鈍い痛みが走る。 春子。僕にとって複雑すぎる存在。 昔からそばにいてくれた。何かあったとき、困ったとき、いつも助けてくれた。家族以外で一番身近で親しみを感じているのは間違いなく春子だった。僕に多くのものを与えてくれたお姉さん。 そして僕から色々なものを奪った人。脅し、夏美ちゃんを裏切る行為を強要する人。 「とても難しい。春子は僕にとって家族以外では一番身近で親しい人なのは間違いない。それでも、春子は僕にとって何なのかは、僕にも分からない」 僕は正直に答えた。 「春子のことを面倒くさいとか思わないの」 「思わないよ」 「春子の事を嫌いになった事は無いの」 ある。嫌いなんてレベルじゃない。春子のことが憎かった事もある。怒りを感じた事もある。感情に任せてひどい事をした。 それでも。春子は僕の姉さんだ。 「春子には感謝している。今までいろいろ助けてくれた。春子のおかげで梓とも仲直りできた」 春子に感謝しているのも本当だ。春子がいなかったら、今の僕は間違いなくいない。 あれだけの事をされても、嫌いになりたくない。 178 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 50 53 ID 1YJ630lK 「兄さんは、春子にひどい事をされたり言われても、春子の事を嫌いにならないの」 僕は首を横に振った。 「春子は僕のお姉さんだから」 梓は顔を上げた。僕を見つめる瞳が子供のように頼りない光を放っていた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 兄さんは本当に馬鹿だ。 春子に脅迫されているのに、嫌いたくないなんて。 兄さんはお人よしの馬鹿だ。 でも、私も兄さんの気持ちは分かってしまう。春子を嫌いになりたくないという兄さんの気持ちが。 私も春子を嫌いになりたくない。 兄さんにとって春子が一番身近で親しい人であるように、私にとっても春子は家族以外では一番身近で親しい人だ。 嫌うほうが難しい。たとえ春子の行った事が私にとって一番許せない事でも。 私は顔を上げて兄さんの顔を見た。頬にはガーゼが張られている。今日の朝、私が噛み千切った頬。 「兄さん。ごめんね」 兄さんは少し驚いたように私を見た。 私は兄さんの頬にそっと手を添えた。 「怪我させてごめんね」 兄さんは優しく微笑んだ。 「もう痛くないから大丈夫だよ」 私は兄さんの胸に顔をうずめた。背中に回した腕で兄さんに抱きつく。 兄さんは私の背中に腕を回して、優しく抱きしめてくれた。 ずっと昔から考えていた。何で私は兄さんを好きになったのか。 今の兄さんならたいていの女は惚れるぐらいの魅力はある。でも、昔の兄さんは少なくとも男としての魅力は乏しかった。春子に影響されたのか能天気で明るいけど、お馬鹿な人。 それでも私は兄さんを好きになった。 最近になってその理由がなんとなく分かった気がする。私はただ単に、私を裏切らない存在が欲しいだけなのかもしれない。 兄さんは何があっても絶対に私を裏切らない。この裏切らないとは、私の言う事を何でも聞くという意味ではなくて、何があっても私を大切にしてくれるという事。 今もそう。兄さんに怪我をさせても、兄さんは私を優しく抱きしめてくれる。 だから春子に裏切られてこんなにも悲しいのかもしれない。春子も兄さんと同じで、私が何をしても絶対に裏切らなかった。 だからあれほど夏美を恐れた。私に向けてくれたその優しさを奪われそうだったから。 でも、今はきっかけなんてどうでもいい。兄さんが欲しい。兄さんのそばにいたい。兄さんを誰にも渡したくない。 私は顔を上げた。兄さんは痛ましそうに私を見つめていた。 「兄さん。ありがとう。もう大丈夫」 私は兄さんの腕をすり抜けた。兄さんと一歩距離をとる。 「今日は私が晩御飯を作るわ」 兄さんの肩は綺麗にはずしたし、綺麗にはめた。実際のところ、兄さんが腕をつっているのは固定する事によって後遺症のリスクを下げるためであって、今でも動かせるはず。 でも、やっぱりひどい事をした。ちょっとやりすぎた。 「しばらく家事は私がする。兄さんは治療に専念して」 兄さんはちょっとびっくりしたように私を見た。何よ。少し腹が立つ。 でも、仕方ないか。私が兄さんにしたことを考えると。 よし。今日は兄さんの好きな食べ物にしよう。 「今日はお魚にするわ。竜田揚げにする」 私は笑って兄さんを見た。兄さんも笑ってくれた。 「その代わり明日は鳥の照り焼きにする」 私の好物。鳥料理の中でも一番好きな料理。 私はキッチンにあるエプロンをつかんだ。よし。今日は腕によりをかけておいしい晩御飯にしよう。 兄さんは申し訳なさそうに私を見る。 「明日の晩御飯はいい。外で食べるから」 私はエプロンを落としてしまった。 「どこで食べるの」 私は兄さんを見た。きっとにらみつけていたのだと思う。 それでも兄さんは目をそらさなかった。綺麗な目で私を見つめる。 「夏美ちゃんの家で。ご両親に招待された」 兄さんのこういう所は本当に男らしい。変に隠したりごまかしたりしない。 それが何よりも悲しい。 「そう」 私はそれだけ言ってエプロンをつけた。手は嫌になるぐらい震えていた。 「僕は梓の気持ちにはこたえられない」 大好きな兄さんの言葉が頭に響く。 179 三つの鎖 18 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/03/21(日) 00 52 49 ID 1YJ630lK 胸が痛い。 「分かってる」 「梓」 「分かってるわ!」 私は叫んでいた。声はどうしようもないぐらい震えていた。 「お願いだからそれ以上言わないで。お願いだから」 兄さんは首を左右に振った。 「これだけは言わないといけない」 私は兄さんを見た。強い意志を感じさせる瞳が私を射抜く。 「次に夏美ちゃんを傷つけたら、許さない」 私は目をそらした。兄さんは本気だ。 兄さんは悲しそうに私を見た。それ以上は何も言わなかった。 私のお姉ちゃんは最低な人だ。一番許せない方法で私を裏切った。 兄さんも最低な人だったらよかったのに。そうだったら私を抱いてくれたかもしれない。兄さんの都合のいい女でいいからそばに置いてくれたかもしれない。 「ご飯ができたら呼ぶわ」 兄さんに部屋を出て行って欲しかった。泣いてしまいそうだった。 「分かった」 兄さんはリビングを出て行った。私の気持ちを察したのだろう。こういう事はよく分かってくれる。 でも、私の想いには応えてくれない。 私は涙をこらえられなかった。泣きながら晩御飯を作った。泣きながら兄さんの好きな料理を作った。 夏美も春子も大嫌いだ。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/rikku0805/pages/117.html
カセドリア連合王国軍アマテラス~修練の書~ 第8話 強者 前編 私達は順調に勝ち進み、とうとう決勝にまで進むんだ。 決勝で戦うのは、今試合があっている教官チームの勝者の様だった。 べ「私達が戦っても、勝てないかもしれませんね。」 ゼ「今あっている試合が、事実上の決勝戦だと思うよ。」 沙「例え勝てないとしても、逃げる訳には、いかないんです!」 張文遠さん率いる【兵共の集いチーム】と、やふやふさん率いる【チーム・アマテラス】 教官達の試合には、毎回違ったルールが用意されている様だった。 この試合では、チームから代表者1名を出し合い、1対1の試合で勝敗を決めるらしい。 そして……その代表同士の戦いが、始まろうとしていた。 張「張文遠、推して参るッ!」 兵共の集いチームの代表は、張文遠さん。 対するチーム・アマテラスの代表は……。 ス「楽しませてくれよ、張ッ!」 両チームとも示し合わせたかの様なウォリアー対決である。 べ「沙羅さん、張文遠さんとスモーキーさん、どちらが勝つと思いますか?」 沙「…分からない、二人とも凄く強いからね。」 ゼ「そろそろ、始まるみたいだよ。」 代表同士がクリスタルに近づいた。 そして、二人とも倒れた。 どうやら、二人の意識がクリスタルの中に飛ばされたようだ。 少しすると、クリスタルに二人の姿が映し出された。 どうやら、試合の勝敗を決める審判は居ないようだった。 や「気になりますか?」 やふやふさんが私達の所まで来た。 沙「はい、決勝の相手ですからね。」 そこでやふやふさんはクスッと笑った。 沙「やふやふさんは、張文遠さんとスモーキーさん、どちらが勝つと思いますか?」 私は気になり、質問してみた。 すると、やふやふさんが真剣な顔になった。 や「分からないわ。私はスモーキーさんを信じてるし、多分この試合は勝つと思うわ。 でもね、3ヶ月間戦場に立っていないから、そのブランクが気になってるの。」 3ヶ月……普通に謹慎していたなら、相等腕が落ちているはず。 だけど、スモーキーさんは1日たりとも訓練をサボった事は無かった。 沙「勝ちますよ、きっと。3ヶ月間一緒に訓練したんですから。」 ヌ「どうなんだろね、今日のスモさんからは何時もの殺気がまったく感じられないし…。 まあでも、張さんなら良いリハビリになるんじゃないかな?」 何時の間にか、私達の後ろにヌアージュさんが居た。 そして、 ゼノ君に抱きついていた。 ゼ「な、何するんですか、放してください!」 ヌ「何で?! 久しぶりのゼノ君なんだよ、もうちょっと良いでしょ?」 ヌアージュさんがゼノ君に抱きついて居るのを見て、やふやふさんから冷たい殺気が出てきた。 や「…ヌアージュさん、そうゆうのは決勝戦でしてくれないかしら?」 やふやふさんがそう言うと、ヌアージュさんは慌ててゼノ君を解放した。 ヌアージュさんも恐れる殺気…。 近くに居た私は、身も氷るようなものを感じた。 張「張文遠、いざ参るッ!」 不意に、辺りが騒がしくなった。 どうやら二人の戦いが始まったようだ。 先に仕掛けたのは張文遠さんの様で、スモーキーさんに対し容赦無い猛攻をしかけていた。 張文遠さんの怪力は、生徒の間でも噂になっていた。 その怪力から繰り出される猛攻に対し、スモーキーさんはじりじりと後退していった。 そして、ついに張文遠さんのバルディッシュが、スモーキーさんの頬を掠めた。 それを確認したのか、張文遠さんはスモーキーさんとの距離をとった。 沙「せっかくの優勢を、どうして張文遠さんは退いたんですか?」 せっかくの優勢なのである。 普通はそのまま攻め続けると思っていた為、少し疑問に思った。 すると、横に居たやふやふさんが笑い始めた。 沙「な、何が可笑しいんですか?!」 私が聞くと、やふやふさんが不敵な笑みを浮かべた。 や「さすがは張さん、眠れる獅子をこうも容易く起こしてくれるなんてね。」 眠れる獅子? そうこうしている内に、スモーキーさんの様子が変わっていた。 目が何時もの黒目ではなく、まるで野獣の様な目になっていた。 そして、不意にスモーキーさんが笑った。 ス「…生温いな。どうした、何時ものお前ならそのまま攻め続けるだろう?」 張「本気でないお主を倒したとて、面白くは無いからな。」 お互いに手に持っている武器を構えた。 そして次の瞬間、二人の姿が消えた。 何処に居るんだろうか? 武器同士がぶつかる音は聞こえるのに、二人の姿が見えない。 クリスタルに映し出されている映像を見渡したが、何処にも居なかった。 や「見えますか?」 不意にやふやふさんがそう言った。 沙「やふやふさんには見えるんですか?!」 驚いてやふやふさんを見ると、しきりに視線が行き来しているのに気付いた。 ……まさかッ?! 私はクリスタルに映し出される映像に目を凝らした。 集中して見ていると、薄っすらとではあるが、二つの人影が見えた。 沙「……目を凝らさないと見えない位の速さで戦ってるなんて。」 や「薄っすらとでも見えたのなら、合格です。」 張文遠さんの戦いは見たことはあるけども、此処まで素早く戦闘できるとは思わなかった。 10分位経った頃、不意にスモーキーさんの動きが止まった。 動きの止まっているスモーキーさんに対し、張文遠さんがバルディッシュを振り下ろした。 バルディッシュがスモーキーさんを両断したかと思うと、張文遠さんが弾かれた。 沙「…え? 何で張文遠さんが弾かれたんですか?!」 訳が分からなかったが、クリスタルの映像を見て気付いた。 両断されたはずのスモーキーさんが…立っていたのだ。 や「気付きましたか?今のはスモーキーさんの得意な技の一つです。」 ス「…スモーキー化術が一つ、空蝉。」 弾き飛ばされていた張文遠さんが立ち上がった。 張「さすがスモーだな、少しの間に本調子にまで戻してくるとは。」 ス「次で…決めるッ!」 二人がゆっくりを武器を構える。 や「沙羅さん、次の一撃をよく見ていてください。」 沙「はい!」 張「行くぞ、スモーッ!」 ス「スモーキー槍術奥義・破槍ッ!」 一瞬にして二人が交差し、一人が倒れた。 今の一撃で、二人の長い戦いに終止符が打たれたのだ。 そして、その場に立っていたのは……スモーキーさんだった。 や「勝ちましたね。という事は決勝で沙羅さん達を相手にするのは、私達という事ですね。 …楽しみにしてますよ。」 やふやふさん達は笑いながら去っていった。 これが…教官達の実力なのね。 私は言い表せない様な不安と、胸の高鳴りを感じた。
https://w.atwiki.jp/magichappy/pages/480.html
▼● The Three Kingdoms 天の塔からの指令。 ウィンダスに並ぶ強国、サンドリアと バストゥークの国内情勢を探れ。 詳細は、各国の領事館にて。 移動には、マウラから出航している セルビナ行きの機船を使うと良い。 ウィンダス森の区 / ブーマガード + ... Rakoh Buuma いいところへ来た。さきほど、 天の塔から大規模なミッションの知らせが入ったが、 派遣できる冒険者が少なく、弱っていたのだ。 Rakoh Buuma くわしい説明は、 天の塔の書記官がしてくれるだろう。 天の塔へ、急ぎ行ってみてくれ。 ミッションを受けた! Rakoh Buuma 天の塔は、ここから北、 石の区にある。このミッションの詳しい説明は、 天の塔の書記官がしてくれるだろう。 Miiri-Wohri じ、じつはボクも、このミッションに 参加させてほしいんだけど……。 Miiri-Wohri そんなこと言ったら、ソラ・ジャーブ たちに、く、くわれちゃうかも……。 Tih Pikeh 今度のミッションを受けたら、しばらく ここに戻れなくなるわん。それって、ちょっとだけ サビしいかもしれないかもかも~。 Sola Jaab 他の国に行ったら、ウィンダスが いちばんイイ国だってわかるにゃ。 Sola Jaab 食べものはおいしいし、 昼寝はオッケーだし、遅刻はあたりまえにゃ。 みーんな、ほどほどに手を抜いて生きてるにゃー。 ウィンダス水の区 / 北風団 + ... Mokyokyo ちょうど良かった。 とても大変なミッションが、天の塔より発行されて いるんです。 Mokyokyo これは、あなたのように 冒険慣れした方が適任の、大規模なミッションです。 Mokyokyo 詳細は、天の塔で説明されます。 石の区へ急いでください。 ミッションを受けた! Mokyokyo 今回のミッションは、冒険慣れした 方でないと、やり遂げることができないでしょう。 ぜひ、ウィンダスのために挑戦してください。 Mokyokyo 詳しくは、天の塔の書記官が説明して くれますから、石の区へ急いでください。 Panna-Donna ボクもミッションの内容を 聞いちゃったけど、大変なミッションだよぉ。 Panna-Donna あ~あ。ボクは単なる ガードで良かった! こういう責任が重そうな ミッションは、とっても無理だもの。 Dagoza-Beruza 天の塔は、星の大樹と ともにあり、天と星の加護を受けているのだ。 まさに、魔法都市ウィンダスの中心なのだ。 Ten of Hearts ワタシ★たち カーディアン★の アタマ★の ブブン★は テン★の★トウ の チカ★で ソダ★て られて★います。 Ten of Hearts ヨク ミ★て くだ★サイ。 ホラ ワタシ★たち の アタマ★は キ★の★ミ なの デス。スゴイ で★しょう? ウィンダス石の区 / 天の塔前・魔戦士隊 + ... Zokima-Rokima さぁさぁ、とうとう来ましたよ。 世界をまたにかけた大冒険の始まりです。 Zokima-Rokima 詳しくは、この先、 天の塔の書記官の間にて、説明されるでしょう。 さぁさぁ、ずずずいっと奥へ……。 ミッションを受けた! Zokima-Rokima 冒険者なら、世界をまたにかけた 大冒険をしてみたいと思うでしょう? しかも それが、祖国のためになるというから一石二鳥! Zokima-Rokima 詳しくは、この先、 天の塔の書記官の間にて、説明されるでしょう。 さぁさぁ、ずずずいっと奥へ……。 Pakke-Pokke こういう大きなミッションを やってみたい気はするんだけど、やっぱり僕には ムリだろうなぁ。 Pakke-Pokke 僕、枕がかわると寝つけないんだ。 船酔いもするし、チョコボにも嫌われる体質なんだ。 これじゃ旅なんか出来ないよ。 Keo-Koruo 天の塔の書記官の間にいる クピピ(Kupipi)ちゃんと、お話ししたこと あるタルか? Keo-Koruo クピピちゃんは、ああ見えても ウィンダス所属の冒険者とガードの顔と名前を ぜーんぶ覚えてるタルよ! ハンパないタル! Chawo Shipeynyo ……あれ? あんたどっか行くのかい? Chawo Shipeynyo それじゃ、他国がどれくらい 獣人との戦いに備えているか、ちゃんとその目で 見てきて伝えておくれよ! ウィンダス港 / ウェスト・オブ・ビースト + ... Janshura-Rashura ええと、次のミッションは、 鼻の院の…… Janshura-Rashura ……っと、そうだ! そんなのより、あのミッションがあった! Janshura-Rashura ……あ、ビックリした? いやー、いきなりゴメンゴメン。さっき、冒険者 向けっぽい、大変なミッションが、天の塔より 言い渡されたんだよね。 Janshura-Rashura こっちのほうが、あなたに 向いてると思うんだ! あなた、冒険好きって顔 してるもの。 Janshura-Rashura 詳しいことは、天の塔で 書記官さんからきいてちょうだい。 じゃあ、冒険を楽しんできてね~。 ミッションを受けた! Janshura-Rashura 天の塔の行き方? ええと、ここから行くのが一番遠いなぁ。 とりあえず、北東へ行けばいいんだけど、 森の区か水の区をつっきらないと……。 Janshura-Rashura うまく天の塔へ着くことが できたら、書記官さんにミッションの内容を 詳しく聞いてちょうだいね。 Puo Rhen ジャンシュラ隊長は言わなかったが、 今回のミッションは、かなり長丁場になるぜ? 覚悟はいいのかい? Puo Rhen お別れを言いたい相手がいるんなら、 今のうちに、カタをつけたほうがいいぜ。後になって 化けて出られても、相手が困るからなぁ。 Nine of Clubs サヨウ★ナラー。 オホシ★サマ に ナラナイ★ヨウ に イキて★カエッて キテ★クダサイ ね。 Ten of Clubs サヨウ★ナラー。 オホシ★サマ に ナッタ★ら ソラ★から オッコチ ナイ★ヨウ に キ★を ツケ★て クダサイ★ネ。 天の塔 Kupipi ええと、ようこそなのです。 ミッションを受けにきた冒険者なのです? Kupipi ……ええと、ランクは2? 試験の行方をスキップした場合 + ... Kupipi 今度のミッションは、多くの試練を 乗り越えなければいけない、とても重大な ミッションなのなのですよ。 Kupipi ランク2ごときの冒険者さんが、 やりとげることができるか、わからないです……。 Semih Lafihna 君は、確か……。 Kupipi ええと? セミ・ラフィーナさまのお知り合いなのです? Semih Lafihna ……[彼女/彼]、ここに何の用なの? Kupipi このたび、天の塔より発行されます 調査ミッションを受けに来た冒険者なのです。 けれど、まだランク2ごときの冒険者で…… 試験の行方をクリアした場合 + ... Kupipi ……本当はまだ早いなの。 でもあなたは、耳の院から出ていたミッションを きちんとやりとげてるなの。 Kupipi それだけ戦える腕を持ってるなら きっとだいじょうぶだと思うなのなの。 Semih Lafihna 君は、確か……。 Kupipi ええと? セミ・ラフィーナさまのお知り合いなのです? Semih Lafihna ……[彼女/彼]、ここに何の用なの? Kupipi このたび、天の塔より発行されます 調査ミッションを受けに来た冒険者なのです。 まだランク2の冒険者ですが…… Semih Lafihna クピピ、説明はいい。 その管理表を見せてくれない? Semih Lafihna いい戦歴だ。 見かけによらず、腕がたつようね。 Semih Lafihna ……そして……、 運も悪いようだ……。 Semih Lafihna クピピ。 [彼女/彼]のミッション発行の手続きをして。 Semih Lafihna ミッション内容の説明も頼む。 もちろん、領事への紹介状も。 Kupipi ええと……??? ……はい、ええ、わかりましたなのです! パターン1 + ... Semih Lafihna ……また、会えるとは 思わなかったわ。 Semih Lafihna 試させてもらうとしましょう。 君の運と実力と、その瞳に宿る星の輝きを。 パターン2 + ... Semih Lafihna 試させてもらうとしましょう。 君の運と実力と、その瞳に宿る星の輝きを。 星唄ミッション進行時 + ... Semih Lafihna 大丈夫よ。 私の分身を呼ぶことができる 盟-セミを渡しておくから。 Semih Lafihna 試させてもらうとしましょう。 君の運と実力と、その瞳に宿る星の輝きを。 盟-セミを手にいれた! 盟-セミ Rare Ex 『セミ』の力が宿った巻物。 セミ・ラフィーナの力を借りることができる。 Semih Lafihna ……? まだ私に、用事があるのか? Semih Lafihna ライオン……か。 彼女は要注意人物だと、私はみなしている。 Semih Lafihna ヤグードに 関することで、口の院の院長と 何度かやりとりをしているからね。 Semih Lafihna 下手な刺激を ヤグードに与えては困るのよ。 Semih Lafihna そうでなくとも、 ヤグードたちの組織体制に変化が見られ、 皆がピリピリしているというのに……。 Semih Lafihna とにかく。 あなたが探しているライオンなら、 もうウィンダスにはいないと思う。 Semih Lafihna では、クピピ。 あとはよろしく頼むわ。 Kupipi では、説明を読み上げます。 Kupipi 3国の盟約に基づき、海の向こうの友好国 ……サンドリア王国とバストゥーク共和国には、 ウィンダスの領事館が存在します。 Kupipi この2国の領事館をまわり、他国の様子を 探ってください。2国のどちらを先にするかは、 各自の自由なのなのです。 Kupipi 他国のウィンダス領事館では、 なにかお仕事をお願いされるかもしれません。 Kupipi そういったお仕事からも さまざまな情報を手に入れて、ウィンダスに 持って帰ってきてください。 Kupipi ちなみにどちらに行くとしても、 港町マウラから船に乗っていくと早いですよ。 Kupipi ここまでで、何か質問はあるのです? 選択肢:質問は? 質問はない もういちど説明を(繰り返し) Kupipi ウィンダスは平和を尊ぶ中立国だと いうことを、決して忘れないでくださいです。 Kupipi 他国でなんて言われようと、20年前の 大戦の悲劇をくりかえさぬようにするのが わが国のつとめなのなのです。 だいじなもの 領事への紹介状を手にいれた! 領事への紹介状 ウィンダス連邦発行。 在サンドリア、在バストゥーク 両領事への紹介状。 両国を巡るミッションのために必要。 ※2種類の台詞を交互に言う。 Kupipi 大丈夫なのです? なんだか、心もとないお顔をしてるのです……。 Kupipi 北のサンドリア、西のバストゥーク。 それぞれの国のウィンダス領事館を探して 領事館長に会えばいいのですよ。 あとは、そこでのお楽しみなのです♪ Kupipi ……というわけで、 説明は終わったのです。早く行け! Kupipi ……なのなのです。 Urubero-Mohbero なれない土地では、 いろいろと苦労をすることだろう。 Urubero-Mohbero そのようなときこそ、 初心に戻り、自分を見つめなおす良いチャンス。 新たなる道を探すように努めなされ。 Tayaya 20年前の大戦では、ジュノ大公国が 中心となって構成されたウィンダス・サンドリア・ バストゥーク3国の連合軍が、闇の王率いる 獣人軍を打破したのです。 Tayaya 20年後、ウィンダスとヤグードが 友好関係を結ぼうとは、誰が想像できたでしょう。 ▲ 試験の行方 三大強国(前編) 三大強国(サンドリア編)(前編) 三大強国(バストゥーク編)(前編) ■関連項目 ウィンダスミッション Copyright (C) 2002-2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
https://w.atwiki.jp/srwk/pages/161.html
第32-1話 『リセットされる世界・前編』 勝利条件 バースデイ撃破 バースデイのHP50%以下 敵の全滅 敗北条件 味方戦艦の撃沈 ヴァン、レイ、ネロの撃墜 7ターン経過(バースデイのHP50%以下で削除) サウダーデ・オブ・サンデイ撃墜後 味方戦艦の撃沈 7ターン経過(バースデイのHP50%以下で削除) ヴァン、レイの撃墜 ステージデータ 初期 初期味方 ダン・オブ・サーズデイ(PU不可) 初期味方 ヴォルケイン改(PU不可) 初期味方 エルドラソウル 初期味方 ブラウニー 初期味方 大空魔竜 初期味方 アークエンジェル 初期味方 選択19機 初期敵 バースデイ 初期敵 ダリア・オブ・ウェンズデイ 初期敵 サウダーデ・オブ・サンデイ 初期敵 ドラクル*2×5 初期敵 ブラッドクレイドル*2×10 バースデイ以外の敵8機撃墜orバースデイHP50%以下 MAP北東、北西 敵増援 ドラクル*2×2 敵増援 ブラッドクレイドル*2×4 バースデイHP50%以下 MAP北東、北西 敵増援 ドラクル*2×3 敵増援 ブラッドクレイドル*2×6 敵データ 初期 機体名 パイロット LV HP 最大射程(P) 獲得資金 基本経験値 数 撃破アイテム 備考 バースデイ カギ爪の男 +5 150000 8(3) 20000 400 1 超高性能電子頭脳ピンクハロAコンボLv+1サイズ差無視 ガーディアンカーテンHP回復Lv1EN回復Lv3特殊効果武器無効サイズ差無視気力限界突破MAP兵器有 ダリア・オブ・ウェンズデイ ファサリナ +4 55100 6(3) 16000 360 1 ランドモジュールS格闘+10集中力Lv+1 ステルス装置電磁シールド サウダーデ・オブ・サンデイ ミハエル +4 54100 7(3) 17000 360 1 フライトモジュールSEセーブ見切り 電磁シールドヴァン狙い ドラクル AI +2 7700 5(3) 1200 100 10 - PU5 ブラッドクレイドル AI +1 6400 5(3) 1300 110 20 - PU10 バースデイ以外の敵8機撃墜orバースデイHP50%以下 機体名 パイロット LV HP 最大射程(P) 獲得資金 基本経験値 数 撃破アイテム 備考 ドラクル AI +2 7700 5(3) 1200 100 4 - PU2 ブラッドクレイドル AI +1 6400 5(3) 1300 110 8 - PU4 バースデイHP50%以下 機体名 パイロット LV HP 最大射程(P) 獲得資金 基本経験値 数 撃破アイテム 備考 ドラクル AI +2 7700 5(3) 1200 100 6 - PU3 ブラッドクレイドル AI +1 6400 5(3) 1300 110 12 - PU6 イベント・敵撤退情報等 サウダーデ・オブ・サンデイ撃墜でエルドラソウルの武器にダンガンボンバディーロ追加、ダンとの合体攻撃追加。 バースデイHP50%以下でダンのHP・EN全回復、ヴァンがオーバーフロウ習得、気力最大に。バースデイのHP・EN全回復。 回復後のバースデイ撃墜でダンの武器に神は裁き追加、ヴォルケイン改との合体攻撃追加。 ※合体攻撃ガン×ソード追加イベント時のレイの顔グラフィックはこのイベント限定の特別仕様になっている。 攻略アドバイス 例によってインターミッションでは別ルート部隊を編成・強化できない。戦闘前に念入りに編成しよう。 サウダーデはダンを優先して狙う。ダンが攻撃可能範囲にいないとAコンボを連発するため、ダンをおとりにすると良い。 バースデイは地形S・気力限界突破・高レベル底力・ガーディアンカーテンと、半端な攻撃ではダメージが与えられない。加えて特殊効果武器無効。OGs等の同効果と違い、直撃でも無効化出来ないので注意。 攻撃力も高く、装甲値が高いユニットでもかなりのダメージを受けるので、SPを惜しまず短期決戦すべき。 バースデイのMAP兵器G-ER流体は見た目に反して切り払い可能。ただし通常版はできない。 周回を重ねて強化を施せばバースデイの2度撃墜も可能。ただし機体はかなり限定されると思われる。ソルヴリアス・レックス武装15段階改造、ミストの気力170、格闘498、魂のクリスタル・ハート・ソードでカギ爪の男の気力50、HP76000を撃墜。 キラ(Lv51 気力162 射撃値368 ガンファイトLv9 サイズ差無視 ストフリ搭乗 15段階改造 魂 ランドモジュールS)+カガリ(Lv49 気力150 射撃値288 ガンファイトLv9 アカツキ搭乗 15段階改造 闘志)で、クー・クライング・クルー(Lv56 気力80)に60256+15543で撃破。1周目。信頼補正もこの時点ではほぼ最高のはず。 バースデイを倒した後にサウダーデ、ダリアを撃墜するとガン×ソードフラグ成立。逆に言えば、カギ爪の男を倒すまで二人の攻撃に耐えなければならない。 高Lvの底力を所持しているので、下手に攻撃を加えるとクリティカル乱発で放置するよりも危なくなる。 ダリアとサウダーデはビームによるコンボを多用してくるため、装甲の高いビームコート持ちを壁にするとよい。 ガン×ソードフラグを全て満たしていた場合、シナリオクリア後にミハエルとファサリナが仲間になる。 戦闘前会話 味方固有:サラ、ラ・カン AI:ヴァン(カギ爪撃墜前)、ネロ、プリシラ カギ爪の男:ヴァン、ネロ、プリシラ、ミスト ミハエル:ヴァン、ネロ、プリシラ、シン ファサリナ:レ・ミィ、ヴァン、ネロ、プリシラ 隣接シナリオ 竜宮島ルート 第31A話『蒼穹~そら』 ダリウス界ルート 第31B-2話『父の心・後編』 ダンナーベースルート 第31C-2話『鋼の巨人達・前編』 第32-2話『リセットされる世界・後編』
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/977.html
409 三つの鎖 13 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage New! 2010/01/22(金) 00 18 47 ID Psi6wx6u 誰もいない早朝の教室で私はぼんやりしていた。 最近、梓は早朝に登校することはない。いつもお兄さんと登校しているらしい。昔に戻っただけだけど、それでも少し寂しい。 私はため息をついた。霧のように不安がまとわりつく。別に嫌な事があるとか、不安を感じさせる出来事があるわけではない。むしろ逆だ。何もかもが順調なのだ。 お兄さんはすごく優しい。優しいだけではなくて、私の望んでいる事をさりげなく行ってくれる。 最近、私とお兄さんは放課後に一緒にいる事が多い。いつもお兄さんがそれとなく誘ってくれる。本当なら柔道の練習に行ったり家事があったりでお兄さんは忙しいはずだけど、家事は梓と分担するようになり、柔道は頭を強打したのでしばらく休むらしい。 放課後にぶらぶらした後、私の家でエッチするのが最近の日常だった。思い出すと思わず顔が熱くなる。 優しいお兄さんも好きだけど、ベッドで私を求めてくれるお兄さんも好きだ。私の好みに合わせて少し激しくしてくれる。 私は変態なのかもしれない。お兄さんにちょっと乱暴に抱かれるのが好き。必要とされているように感じて嬉しいし気持いい。お兄さんは最初は優しくしてくれたけど、私の好みが分かってくれたのか最近はいつも少し激しくしてくれる。 その後お兄さんは料理を作ってくれる。お兄さんはいつも食べずに帰るので私は一人で食べるけど、寂しいと思ったことは無い。いつも自分で作ったカレーを一人で食べるのに比べたら何とも思わない。 順調なのに不安を感じる。いや、順調すぎるから不安を感じるのだろう。ぜいたくな悩み。 私はため息をついて窓から校門を見た。まだ誰かが登校する時間ではない。早朝の部活に参加する学生だってまだ家にいる時間だ。と思ったら一人歩いている。 誰か一瞬で分かった。お兄さんだ。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「びっくりしましたよ」 夏美ちゃんと僕は屋上のベンチに座って話した。 「こんな早くにお兄さんが来るなんて」 確かに登校には早すぎる時間だ。他に学生は誰もいないだろう。 「今日はどうしたんですか?」 不思議そうに僕に尋ねる夏美ちゃん。まっすぐな視線が突き刺さる。 「教室で本でも読もうと思って」 本当は違う。家にいずらいのだ。最近、梓は何かと僕を心配し気を遣う。何か感づいたのかもしれない。何かと世話を焼き甘えてくる。それがつらい。今は一人でいたい。 あの日以来、僕は春子を幾度となく抱いた。 春子のご両親が留守の時は春子の部屋で、そうでない時はホテルを利用した。いつも春子から誘ってきた。 僕は断らなかった。断われるわけがなかった。脅されているとはいえ、罪の意識は消えない。 春子の誘いに僕は抵抗した。何度も春子にやめるように頼んだ。 それでも春子は聞いてくれなかった。映像の事を持ち出して僕を脅した。そうなると僕は何も言えないし、逆らえない。 夏美ちゃんと一緒にいる今も、強烈な罪悪感が胸を締め付ける。 「夏美ちゃんこそこんな朝早くにどうしたの?」 僕は罪悪感を隠して夏美ちゃんにほほ笑んだ。絶対に知られるわけにはいかない。 夏美ちゃんは何も言わずにじっと僕を見上げた。澄んだ瞳が僕を映す。 瞳に映った僕は何も変わらない穏やかな笑顔だった。笑顔を作るのだけはうまくなった。 突然、夏美ちゃんは僕に抱きついてきた。僕の胸に顔を埋める。 「どうしたの?」 僕は夏美ちゃんの背中に腕をまわし抱きしめた。夏美ちゃんは僕の腕の中で震えている。 「嫌なんです」 夏美ちゃんの言葉に心臓が止まりそうになる。 「あの家にいると、昔を思い出して嫌なんです」 違った。安堵のため息を飲み込む。 「何がだい?」 「私のお母さんとお父さん、今はお仕事で海外に住んでいます。二人とも別の国にです。お父さんもお母さんも一緒に住もうって言ってくれますけど、私選べないんです。だから私一人であのマンションに残ってるんです」 夏美ちゃんの声は震えている。 「お父さんもお母さんも仲はいいです。私、お父さんもお母さんも大好きです。だからどちらか選べって言われたとき、選べませんでした。だから私一人で日本に残ったんです。正直寂しいですし、不安です」 僕にしがみつく夏美ちゃんの腕に力がこもる。とても非力な力。 「今も不安なんです。お兄さんが優しいのが不安なんです。もしかしたら何かあるんじゃないかって。私の事が好きなんじゃなくて他の理由で私に優しくしてくれているんじゃないかって」 胸に渦巻く罪悪感が僕を苛む。今すぐ逃げ出したい衝動を必死で抑えた。 「分かってます。私の被害妄想だって。お兄さんはそんな人じゃないのに」 410 三つの鎖 13 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage New! 2010/01/22(金) 00 21 21 ID Psi6wx6u 夏美ちゃんの言葉が僕の心に突き刺さる。 「ごめんなさい。私お兄さんの事を愛しています。でも好きになればなるほど不安に思うんです」 「安心して夏美ちゃん」 僕は夏美ちゃんの頬にキスした。 「僕も愛しているよ」 泣き笑いの表情で夏美ちゃんも僕の頬にキスしてくれた。 僕は最低だ。 今すぐに何もかもをぶちまけたい。でもそんな事をしても何になるのか。 「ひっくっ、好きです、ぐすっ、愛しています」 ぐずりながら僕に愛していると囁く夏美ちゃん。罪悪感が胸を締め付ける。 僕はキスしながら夏美ちゃんの太ももを撫でた。夏美ちゃんがびくりと震える。 「あっ……そんなっ……だめですっ……」 かすかに顔を赤くして身をよじる夏美ちゃん。僕はスカートの上から軽くなぞる。 「ひあっ……こんな場所で……あんっ」 恥ずかしそうに抵抗する夏美ちゃん。 「夏美ちゃん」 僕は囁く。 「忘れさせてあげる」 夏美ちゃんは震えた。期待するかのように僕を見上げる。何度も見た綺麗な瞳。 僕は夏美ちゃんのスカートに手を入れ下着に手をかけた。夏美ちゃんは腰を浮かす。脱がした下着はかすかに濡れていた。 スカートの下から手を差し入れ、夏美ちゃんの膣の入り口をなでる。 「ひうっ……ああっ……んっ……」 僕の腕の中で震える夏美ちゃん。吐きだす息が熱い。僕は指を膣に挿入した。 「ひっ!」 硬直する夏美ちゃん。膣はすでに濡れていた。僕は指を何度も出し入れする。 「ひあっ…あっ…んんっ…きゃふっ」 可愛い声を出して震える夏美ちゃん。僕は指を抜いた。 荒い息をつく夏美ちゃんに僕は囁いた。 「どうする」 夏美ちゃんが泣きそうな顔をする。 「ひぐっ…おにいさん…いじわるしないで…」 「ごめん」 僕は夏美ちゃんの頬にキスした。手早くコンドームをつける。ベンチを降り床に座る。 夏美ちゃんの体を引きよせ僕の膝の上に向かい合って座らせた。夏美ちゃんの腰を浮かせ、膣の入り口に剛直の先端を当てる。夏美ちゃんの体がびくりと震える。 「入れるよ」 僕はゆっくりと夏美ちゃんの体を沈めた。剛直がゆっくりと膣に包まれる。 「ひっ…ああっ…入ってますっ…あうっ…」 僕にしがみついて震える夏美ちゃん。声には隠しきれない快感。 やがて剛直の先端が膣の一番奥をつつく。夏美ちゃんがひときわ大きく震えた。 夏美ちゃんにキスして僕はゆっくりと小さい体を揺さぶった。 「ひあっ…んんっ…きゃうっ…ああっ…」 ゴム越しでも夏美ちゃんの膣をこする感覚が気持いい。僕はゆっくりと揺さぶり続けた。夏美ちゃんの体が震える。 「んっ…おにいさんっ…おねがいです…あっ」 夏美ちゃんは僕の腕の中で切なそう僕を見た。この姿勢だと夏美ちゃんの顔がすぐ目の前にある。 「もっとっ…乱暴にっ…」 目の前の夏美ちゃんの顔が羞恥に染まる。 何度も夏美ちゃんを抱いて分かったけど、夏美ちゃんは少し乱暴にされるのが好きだ。もちろん、本気を出して腰を動かすと夏美ちゃんの体力が持たないし、僕ももたないのでで抑えているけど。 僕は夏美ちゃんに少し乱暴にキスすると、腰の動きを少し速めた。 「ひうっ!?」 夏美ちゃんが嬌声を上げる。少し大きめに腰を動かし、膣の奥を何度もつつく。 「ひあっ、きゃんっ、ああっ、ひっ、やあっ」 嬉しそうに夏美ちゃんが体をよじる。僕はその動きを抱きしめて抑え、さらに夏美ちゃんを責める。 「やあっ、らめっ、ひぐっ、ひあっ、いやっ」 夏美ちゃんの言う事とは逆に膣は締まる。僕は動きを抑えつつも執拗に責めた。 「ひあっ、なしゅみっ、もうらめっ、らめっでふっ、あっ、ああっ、あああああああーーーーーっっっっ!!!!!」 強烈な快感。夏美ちゃんの膣が剛直をきつく締める。僕は腰の動きを止めた。背中を反らし震える夏美ちゃんの首筋を舐める。 「ひうっ…あっ…ああっ…」 とろんとした目で僕の顔を見る夏美ちゃん。僕は耳を甘噛みした。 「ひゃう!?」 「まだいける?」 411 三つの鎖 13 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage New! 2010/01/22(金) 00 24 29 ID Psi6wx6u 僕は硬いままの剛直で夏美ちゃんを突き上げた。 「ひうっ!」 震える夏美ちゃん。夏美ちゃんは僕を見てこくこくと頭を縦に振った。 僕は腰の動きを再開した。夏美ちゃんの甘い声と体に僕はおぼれた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 最近兄さんの様子がおかしい。 見た目こそいつも通りだけど、何となく元気がない。いや、苦しんでいるように見える。聞いても何でもないと微笑む。その笑顔も見た目はいつも通りだけど、何か違う。 今日の兄さんは朝食を食べたらすぐに家を出た。今日は私が食事当番だから私は朝食を片付けていた。 片付けが終わると私はすぐに家を出た。兄さんのそばにいたい。 学校に走る途中、学生は誰もいなかった。まだ早い時間だ。 私はまっすぐに兄さんの教室に向かった。教室には誰もいなかった。いったいどこに行ったのだろう。 ふと夏美の事が脳裏に浮かんだ。夏美はいつも朝早くに登校する。もしかしたら夏美と話しているのかもしれない。 邪魔していいのだろうかと一瞬考えたけど、構うものかと思った。本当ならこの時間は家で兄さんと一緒にいる。一緒に登校している。今の兄さんの時間は私のものだ。 しかし私のクラスにも兄さんはいなかった。夏美もいなかった。 誰もいない教室で私は考えた。どこにいるのか。ふと屋上が浮かんだ。屋上は私もよくいく。もしかしたらそこにいるのかもしれない。 私は階段を駆け上り屋上への扉に手をかけた。そこで私は固まった。 かすかに聞こえる喘ぎ声。 私はゆっくりとドアのノブを回し、微かに扉を開いた。隙間から屋上をのぞく。何も見えない。 屋上の間取りを脳裏に浮かべる。ベンチは入り口から死角にある。私は音をたてないようにドアを開き屋上に足を踏み入れた。はっきりと聞こえる。喘ぎ声。夏美の声。 私は壁からベンチのある方向をこっそりのぞきこんだ。 屋上に座った兄さんにまたがる夏美。夏美は兄さんに揺さぶられて嬌声をあげている。兄さんは何度も夏美にキスした。そのたびに夏美は甘い声をあげて震えていた。 目の前の光景が理解できない。頭が真っ白になって何も考えられなかった。 夏美の喘ぎ声が耳に響く。嬉しそうな気持ちよさそうな声。兄さんは腰を大きく動かして夏美を揺さぶる。 分かっていた。兄さんと夏美は恋人同士だからお互いに体を重ねている事も。時々家に帰ってくる兄さんの髪から知らない香りがする事も。兄さんは私の兄さんでしかない事も。 それでも私はどこか幻想を抱いていた。兄さんが一番大切にしてくれるのは私だと。兄さんの妹は私だけなんだと。 足元にしずくが落ちる。涙がとめどなく溢れた。 私は兄さんの妹でしかないんだ。 兄さんの腰の動きが激しくなる。夏美は必死に兄さんにしがみついてる。そして兄さんの動きが止まった。二人はお互いに体を震わせながら唇をむさぼる。 私は二人に背を向けた。屋上を出て扉を閉める。走って学校を飛び出した。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 一時間目の授業は頭に入らなかった。 早朝の夏美ちゃんとの情事を思い出す。自覚すればするほど自分の行動の最低さを思い知る。 あの時、僕は夏美ちゃんに忘れさせてあげると言った。本当は逆だ。僕が忘れたかったのだ。春子に脅迫され夏美ちゃんを裏切っているという現実を忘れたかったのだ。そのためだけに夏美ちゃんを抱いた。 どこまで堕ちればいいのか。 気がつけば一時間目が終わろうとしている。いけない。僕は気持ちを切り替えた。 一時間目終わった後の休憩時間に夏美ちゃんが訪ねてきた。不安そうに僕を見る。 「お兄さん。梓から連絡来ていませんか」 もちろん無い。 聞くと、梓が学校に来ていないらしい。携帯もつながらない。お弁当の入ったカバンが机にかけたままだから一度学校に来たのは間違いないらしい。 夏美ちゃんが帰った後の授業中も考えた。今日の朝はいつも通りの梓だった。いったい何があったのだろうか。 ある事に思いつき背筋が寒くなる。まさか、朝屋上で夏美ちゃんとの情事を目撃されたのではないだろうか。 深呼吸して息を吐き出す。今は情報が少なくて何とも言えない。 次の休み時間に僕は家に電話した。しばらくして誰かが電話に出た。 「梓?」 無言。誰かの呼吸が聞こえる。そして声が聞こえた。 『兄さん』 梓だ。僕はほっとした。 「今日はどうしたの?」 『ごめん。体調不良みたい』 梓の声は沈んでいた。大丈夫だろうか。 「帰ろうか?」 『いいよ。そこまでひどくはないし。私の鞄だけお願い』 「分かった。無理はしないで」 『うん』 412 三つの鎖 13 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage New! 2010/01/22(金) 00 26 17 ID Psi6wx6u そう言って梓は電話を切った。 梓が体調不良なのは心配だけど、とりあえず家にいる事は確認できた。 僕はため息をついた。気持ちを切り替え授業に集中した。 梓と春子と夏美ちゃんの顔が浮かんで消えた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 梓どうしているのかな。 私はため息をついた。三時間目は私の苦手な数学だけど、どちらにしても集中できないだろう。 梓の席を見る。鞄だけかかった机。 お兄さんも知らないって言っているし、どうなっているのだろう。 三時間目が終わった後の休み時間に私は携帯を確認した。お兄さんからメールが来ていた。 『梓は家にいる。体調不良らしい。心配をかけてごめん』 私はほっとした。梓は無事だったんだ。でも体調不良か。大丈夫かな。放課後にお邪魔でなければお見舞いに行ってみよう。 ついでに私はお兄さんをお昼に誘ったけど、先約があると断られた。残念。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ お昼休みに春子は僕の手を引いて生徒会準備室に来た。正直、一人でいたかったし、夏美ちゃんにも誘われたけど、春子は強引に僕を連れてきた。 春子は僕にお弁当を差し出した。 「お弁当を交換しよ」 春子のお弁当をずいと突き出して笑顔で言う春子。 僕が答える前に春子は自分のお弁当を開けた。サーモンマリネのあるお弁当。ちょっとおいしそうかも。 春子はお箸でお弁当のおかずをつかみ僕の顔に寄せた。輝くような笑顔を向けてくる。 「あーん」 僕はげんなりした。 「あーん」 笑顔で繰り返す春子。 僕はため息をついて春子に食べさせてもらった。どうせ断っても脅してくるだけだ。 春子のお弁当がとてもおいしいのが腹立たしかった。 最後の一口を食べる。咀嚼する僕を春子は嬉しそうに見つめた。 「今度は幸一君がお願いね」 春子は笑顔で言った。何をお願いなのだろう。 「お姉ちゃんにあーん、ってしてね」 僕は天井を仰いだ。 本気で言っているのか。 「幸一君。分かっているでしょ」 本気だ。 僕はあきらめてお弁当を開いた。梓の作ったお弁当。中身はサーモンの南蛮漬け。といってもタレは染み込む程度でお弁当のおかずとして工夫されている。 「おいしそうだね」 目を輝かせる春子。 僕はサーモンの南蛮漬けを一口サイズに分け春子の口元にお箸で運んだ。 春子は嬉しそうに口を開けて食べた。 もぐもぐと子供のような笑顔で咀嚼する春子。 「うん。おいしいよ。梓ちゃんたら腕を上げたね」 春子は嬉しそうに笑った。その笑顔に複雑な気持ちになる。 「幸一君。もっとあーんしてね」 僕はため息をついてお箸を動かした。春子はもぐもぐと梓のお弁当を食べる。 まるで子供のようにほっぺたを膨らませてもぐもぐ食べる春子。 最後の一口を春子は飲み込んだ。白い喉が小さく動く。 「ご馳走様!」 春子は満足そうに言った。嬉しそうな笑顔。 僕はお弁当を片付けた。 「幸一君。お姉ちゃんのお弁当はどうだった?」 春子は僕にもたれかかった。柔らかい春子の感触。僕を下から見上げる。濡れた視線。 「おいしかったよ」 僕は春子を引き離そうとしたけど、春子は僕の背中に両腕を回して防ぐ。 「幸一君。デザート欲しくない」 春子の吐息が首筋に当たる。熱い吐息。 「いらない」 413 三つの鎖 13 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage New! 2010/01/22(金) 00 28 30 ID Psi6wx6u 僕は即答した。 本当にいらない。 「幸一君。分かっているでしょ」 背中に回された春子の腕に力がこもる。 「お姉ちゃんを抱いて」 頬を微かに染めて春子は囁いた。 僕は春子の顔を見た。何かを期待するかのような表情。 「春子。お願いだからやめようよ。こんな事をしても何にもならない」 「幸一君。お姉ちゃんに何度も言わせないで」 春子は僕の胸に頬ずりした。 「分かっているでしょ。お姉ちゃんに逆らっちゃだめ」 僕は唇をかみ締めた。それでも動けない。動きたくない。 春子は僕を上目使いに見上げた。ぞっとするほど濡れた視線。 「幸一君だってお姉ちゃんを激しく抱くじゃない。夏美ちゃんにできないような事をお姉ちゃんにしていいんだよ。別に悩まなくていいよ」 僕に囁く春子。 春子の吐息が熱い。 確かに僕は春子を何度も抱いた。それも乱暴に抱いた。 盗撮した映像の事を持ち出されると、怒りを押さえられなかった。 春子の顔が目の前にある。荒い息。白くて滑らかな肌。淫靡に輝く瞳。微かに桜色に染まった頬。形の良い小さい唇。 僕の唇に春子の唇が重なる。唇を割って春子の舌が入り込む。 反射的に春子の肩を押して引き離した。 春子は苛立たしげに僕を見上げた。 「お姉ちゃんを怒らせないで。いいの?」 どす黒い衝動が湧き上がる。 僕は春子を突き飛ばした。小さい悲鳴を上げて春子はベッドに倒れる。 そんな春子に覆いかぶさり僕は制服の上でも存在感を示す胸を強くつかんだ。 「ひうっ!」 顔をゆがめる春子。僕はそのまま乱暴に張るこの胸を揉みほぐす。 春子の胸は大きくて柔らかい。指がどこまでも食い込む。 「ああっ!幸一くんっ!乱暴だよっ!んっ!痛いよっ!」 春子は息を荒くして僕を見上げた。言葉とは裏腹に嬉しそうな顔で僕を見る。 それが腹立たしい。僕はさらに乱暴に春子の胸を揉んだ。 嬌声をあげる春子のスカートの下に手を伸ばし下着をつかむ。一気に脱がす。春子の膝上で黄色い下着が止まる。下着はすでに濡れていた。 春子は恥ずかしそうに顔を背けた。その頬は桜色に染まっている。 「お姉ちゃんねっ、だめなのっ、幸一君に乱暴されるとねっ、いけない気持ちになっちゃうのっ」 春子は震える手でスカートをゆっくりたくし上げた。春子の膣の入り口はすでに見て分かるほどに濡れていた。 「幸一君のせいだよっ、お姉ちゃんを何度も乱暴に抱いてっ、痛くて怖いのにっ、それなのにね、いけない気持ちになっちゃうのっ」 目尻に光るものを湛えて春子は僕を見上げた。背筋が寒くなるほど淫靡な表情。 僕は春子の膣に指を挿入した。体を震わす春子。すでに春子の膣はびしょびしょに濡れていた。 乱暴に春子の膣の中をかき回す。 「ひうっ、お姉ちゃんねっ、ああっ、幸一君にねっ、変態さんにされちゃったよっ、きゃうっ」 春子の膣を乱暴にかき回しているのに、春子が痛がる様子はまったく無い。それどころか僕の指に春子の膣が絡みつくかのようにうごめく。 僕は春子の膣から指を抜いた。息も荒く切なそうに僕を見上げる春子。僕はズボンを脱いだ。すでに僕の剛直は固くなっている。春子はパンツを完全に脱ぎ自ら足を広げた。 「こ、幸一くんっ、お姉ちゃんねっ、幸一君にねっ、乱暴されると嬉しいのっ」 春子は足を広げたまま恥ずかしそうに僕を見上げた。 「だってね、幸一くんが乱暴に抱くのはね、お姉ちゃんだけでしょ?」 息も荒く淫靡な姿勢で体を震わす春子。 春子の目尻から涙がポロリと落ちた。 「いいよっ、お姉ちゃんをねっ、滅茶苦茶にしてっ、幸一くんになら、何をされてもいいっ」 春子の両膝を押さえて足をベッドに押し付けるように広げる。僕は一気に挿入した。 「ひっ!あああああああああっっっっ!!」 体をよじる春子を押さえつけ僕は乱暴に腰を振った。 「ああっ!ひうっ!やんっ!きゃうっ!」 艶のある喘ぎ声をあげる春子。僕は乱暴に春子の膣に剛直を擦り付けた。 体を震わせ身をよじる春子。 「ひぐっ!だめぇっ!こすり付けないでっ!」 濡れた視線で僕を見上げる春子。口調とは裏腹に嫌がっているようにはまったく見えない。それが腹立たしい。 僕は剛直を抜いた。春子はぐったりと僕を見上げる。 「四つんばいになって」 春子はびくっと震えた。期待するかのように僕を見つめる。 414 三つの鎖 13 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage New! 2010/01/22(金) 00 32 32 ID Psi6wx6u 僕は春子の胸を鷲づかみにした。思い切り力を入れた。 「いたっ!いたいよっ!んっ!」 身をよじる春子。 「僕の言ったことを聞いていた。四つんばいになって」 恐れるように、期待するかのように僕を見上げる春子。恐る恐るといったように体を起こし四つんばいになる。 僕はスカートを上げた。白い太ももがむき出しになる。 膣の入り口が期待するかのようにひくひく動く。僕は指を挿入した。 「ひゃうっ!?」 体を震わす春子。僕はそのまま指を往復させた。 「こ、幸一くんっ、指じゃなくてねっ、んっ、いれて欲しいのっ」 切なげな吐息を漏らす春子。 僕は指を膣から抜いてお尻の穴に指を入れた。 「ひっ!?」 体を硬直させる春子。僕は春子の愛液を塗るように指を前後させる。 「や、やだっ!待ってよっ!ひうっ!そっちじゃないよっ!」 悲鳴を上げて体をよじる春子。僕は開いた腕で春子の腰を思い切りつかんだ。 「つっ!こ、幸一くん?」 僕は春子のお尻の穴から指を抜いた。安堵のため息を漏らす春子。 春子の腰をつかみ、膣の入り口に剛直をあてがう。そのまま一気に挿入した。 「きゃうっ!」 震える春子。僕は腰をゆっくりと前後させた。 「んんっ、幸一くんっ、あっ、もっと乱暴にしてっ」 切なそうに言葉を紡ぐ春子。 背中越しに濡れた視線を僕に向ける。 「お姉ちゃんねっ、幸一君にならねっ、何をされてもいいのっ、お願いっ、もっと乱暴にしてっ」 僕は春子の膣から剛直を抜いた。春子の愛液に濡れた剛直の先端をお尻の穴にそえる。 「こ、幸一くん?」 不安そうな春子。 僕は春子の腰をがっちりつかんだ。 「僕になら何をされてもいいんだろ?乱暴にされるのが好きなんだろ?」 僕は春子のお尻の穴に剛直をねじ込んだ。 「ひっ!ああああああああーーーーーーーーーーーーーーっっっ!」 痛々しい悲鳴を上げる春子。 春子のお尻の穴はあまりにきつい。まだ先っぽしか入らない。僕はさらにねじ込もうと力を入れた。 「痛いっ!痛いよっ!やだっ!やめて!いやぁぁぁぁっ!」 きつい。なかなか入らない。僕は体重を思い切りかけて春子のお尻の穴を突き進む。 春子は悲鳴をあげて体を震わせる。痛々しい悲鳴が生徒会準備室に木霊する。 「いやっ!いやっ!痛いっ!やめてっ!お願いっ!抜いてっ!」 いったん腰を止めて休憩する。春子のお尻の穴は僕の剛直を拒むように締めつける。 「ひっくっ、幸一くんっ、やめてぇ、お姉ちゃん、痛いのっ」 春子は泣きながら懇願する。白い体にはびっしりと汗が浮かぶ。 「こんなのやだよぉっ、ひっくっ、お願いっ、やめてっ、やだよっ、これ以上入れないでっ、抜いてっ」 僕は春子の腰を思い切りつかんで固定し、体重を一気にかけた。 剛直がきつい隙間を押し広げる感触とともに一気に奥に進んだ。 「ひあっ!!!!!あああああああーーーーーーーーっっっ!!!!!」 春子は絶叫した。痛みを我慢するかのように背中を丸める。シーツを握る白い手が震える。 熱病にかかったかのように小さく震える春子。 「ひうっ、ぐすっ、いたい、いたいよっ」 泣きながら痛いと繰り返す春子。僕は腰を引いた。剛直が強く擦られる感触。 「ひああっ!やだっ!いたいっ!動かさないでぇっ!」 「抜いてといったのは春子だろ」 体を震わし悲鳴をあげる春子。 春子のお尻の穴は経験したことの無いきつさで締め付けてくる。力を入れて削り取るように剛直を抜いていく。 「いたいっ!やだっ!やだよ!ひああっ!やだっ!動かさないでっ!」 春子の悲鳴を無視して僕は剛直が抜ける寸前まで腰を引いた。お尻の穴から赤い血がこぼれる。 再び腰を前進させて春子のお尻の穴に剛直を進める。 「いやっ!いたいっ!いたいのっ!やめてぇっ!」 体を震わせて叫ぶ春子。その声には喜びも快感は微塵も無い。ただ痛みと苦しみだけ。 僕は強引に腰を前後させた。 「やだっ!やめてぇっ!やっ!いたいっ!やめてぇぇぇ!」 415 三つの鎖 13 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage New! 2010/01/22(金) 00 33 58 ID Psi6wx6u 僕は春子の悲鳴を聞き流して強引に腰を動かした。拒むような強烈な締め付け。 締め付けがきつすぎて腰を前後させるだけでも体力を使う。僕はいったん腰を止めて休憩した。 「ひうっ、ぐすっ、お願いっ、やめてっ、お姉ちゃんっ、痛いよっ、こんなのっ、やだよっ」 春子は体を震わせ泣きながら懇願した。痛みのせいか全身に汗をかいている。すでに春子の上半身は汗で濡れてカッターシャツが透けて見える。 僕は後ろから春子の胸をつかんだ。力をこめて握り締める。悲鳴を上げて身をよじる春子。 「僕に何をされてもいいんだろ。乱暴にされるのが好きなんだろ」 「ひうっ、んっ、でもっ、こんなのやだっ」 春子は背中越しに僕に視線を向けた。涙で濡れた顔。 「お願いっ、いたいのっ、やめてっ、お願いだからっ」 僕は春子の腰をつかんだ。 「あの時、僕は何度も止めてってお願いした」 春子の瞳が絶望に染まる。 僕は腰の動きを再開した。春子の直腸を削り取るかのように剛直を動かす。 「いやっ、いやっ、いやぁぁぁぁぁっっ!!!!」 春子の叫びを無視して僕は何度も腰を前後させた。 必死に体をねじる春子を腰をつかんで固定する。春子がつかんだベッドのシーツの場所が皺になる。 きつい締め付けだけど膣とは全く違う感触になかなか達する気がしない。僕はさらに腰の動きを速めた。 「やだっ!やだっ!やめてっ!お願いっ!やめてぇぇぇっ!」 春子の痛々しい声が響くなか、僕は腰を振る。 徐々に射精感が高まってくる。僕は腰の動きをさらに速めた。それにつられるかのように春子の悲鳴も大きくなる。 「ひっ!うっ!ああっ!ひぎっ!うあっ!」 痛みに必死に耐えるかのように背中を丸めシーツを握り締める春子。 僕はついに達した。春子のお尻の穴に精液を吐き出す。 すべて吐き出してから僕は剛直を乱暴に抜いた。春子の体が震える。 「ひっくっ、ぐすっ、ううっ、ぐすっ」 すすり泣く春子。 痛々しい姿。足の間は血にまみれ、汗のせいでシャツは透けて見え、体にぴったりと張り付いている。白い太ももに流れた赤い血がより一層の痛々しさを誘う。 春子は涙でぐちゃぐちゃになった顔を僕に向けた。涙で濡れた顔。 僕と目が合う。春子の目が見開かれる。脅えるようにベッドの上を後ずさり、体を震わせ春子は泣いた。 分からない。春子は僕の目に何を見たのだろうか。 春子の目尻から涙がぽろぽろ溢れ出す。乱れた服もそのままに春子は体を震わせて泣いた。 その姿に胸がざわつく。そのざわつきの意味が分からないまま僕は泣き続ける春子を黙って見続けた。 戻る 目次へ 次へ