約 50,299 件
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1234.html
272 :三つの鎖 30 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/12/14(火) 20 16 46 ID +uQd24c8 三つの鎖 30 兄さんと夏美。 手を取り合う二人。 その二人の左手の薬指で、銀色の指輪が鈍い光を放っていた。 私はその光景をただ眺める事しかできない。 誰かが私を呼ぶ。 「梓。起きて」 誰かが私を揺さぶる。 私は目を開けた。 兄さんが心配そうに私を見下ろしていた。 「そろそろ起きないと遅刻するよ」 私は上半身を起こした。 全身が汗でべとついている。体が重い。寝た気がしない。 のろのろと顔をあげる私に兄さんはペットボトルを渡してくれた。 既に蓋は開いている。少しぬるめのスポーツドリンク。私は一気に飲んだ。 時計を見ると、もう既に遅い時間。 「お父さんとお母さんは?」 「もうご飯を食べて出勤したよ。ご飯を食べてないの、梓だけだよ」 「…何で起こしてくれなかったの」 いつもはもっと早くに起こしてくれるのに。 「京子さんが起こしに行ってくれたんだけど、疲れているみたいだからもう少し寝させてあげてって」 それだけで私は理解した。 きっと、兄さんは夏美にプロポーズした事をお母さんに報告したのだろう。それで気を遣ってお母さんが起こしに来てくれたけど、疲れている私を見てもう少し寝させてくれたのだろう。 「梓?」 訝しげに私を見つめる兄さん。 兄さんの左手で、銀色の指輪が鈍い光を放っている。 微かに、頭痛がした。 「何でもないわ。先にシャワーを浴びる」 「分かった」 そう言って兄さんは部屋から出ていった。 兄さんは変わらない。 例え夏美にプロポーズしても、私への接し方を変えたりはしない。 あくまでも妹として私を扱う。 それが、辛い。 微妙な距離のまま学校までの道を歩く。 友達でも兄妹でも恋人でもない、微妙な距離。 もっと兄さんに近づきたい。それなのに、できない。 どれだけ兄さんの近くにいても、兄さんに触れていても、兄さんの心に一番近いのは私じゃない。 兄さんにとって私は何なのだろう。 ただの妹でしかないのだろうか。 これだけ愛しているのに。 女としては見てくれないのだろうか。 気がつけば、既に学校の靴箱についていた。 ここで兄さんとお別れ。 「梓。それじゃあ」 そう言って兄さんは去っていった。 兄さんの大きな背中が、徐々に小さくなっていく。 追いたくても、追えない。 だって、兄さんを追っても、追いつけない。 どれだけ傍にいても、兄さんの心にいるのは私じゃない。 私は教室に入った。もう既に半分近く席は埋まっている。 その中に夏美がいた。椅子に座って、静かに自習していた。 落ち着いた静謐な瞳が教科書の文字を追っている。 その左手の薬指に、銀の指輪が鈍い光を放っていた。 私は立ち尽くすしかなかった。 「梓?どうしたの?」 273 :三つの鎖 30 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/12/14(火) 20 17 39 ID +uQd24c8 後ろから私を呼ぶ声に私は我に返った。 どれぐらい立ち尽くしていたのだろう。振り向くと、美奈子が怪訝そうに私を見ていた。 「おはよー。どうしたの?入り口でぼんやりして」 「何でもないわ」 私は自分の席に座った。 夏美が私の方を見る。 「梓。おはよう」 微笑む夏美。 女の私から見ても魅力にあふれる明るい笑顔。 幸せそうな、女の笑顔。 「なつみー。おはよう!」 美奈子がうるさいぐらい元気に夏美に挨拶する。 「あれれ?その指輪…?もしかして加原先輩から?」 不思議そうに夏美の左手を見る美奈子。 普段は鈍いくせに、何でこういう時は鋭いのだろう。 「ええと、うん」 少し気まずそうに頷く夏美。その一方で目を輝かせる美奈子。 「田中先輩の言うとおりだったんだ。見せて見せてー。うわー。何か地味だけど、これはこれでいいかも」 困ったように眉をひそめる美奈子。言っている事は完璧にけなしているけど、美奈子に悪気は全く無い。 「村田先輩ってこういうのが好きなんだ。もっと可愛らしいのが趣味だと思ってた」 「え?ハル先輩?」 不思議そうな顔をする夏美。 「加原先輩と村田先輩が買い物しているのを見たから、きっと村田先輩がアドバイスしたのだと思うけど」 きょとんと見返す美奈子。 あの春子が、兄さんのプロポーズのための指輪選びを手伝った? ありえない。 「ていうか、この学校そういうのうるさいから、外しておいた方がいいよ。先生に見つかると没収されるよ」 「え?そうなの?」 慌てて指輪をはずしポケットにしまう夏美。 それと同時にチャイムが鳴る。 自分の席に戻る夏美と美奈子。 私も自分の席に戻った。 指輪が放つ鈍い光が頭から離れない。 お昼休みのチャイムが教室に響く。一気に騒がしくなる教室。 教室の喧騒がどこか遠くに感じる。 鞄の中にはお弁当がある。兄さんが作ってくれたお弁当。 私はお弁当を手にした。 ちゃんと中身はあるのに、軽く感じる。 「なつみー。加原先輩の教室に行かない?」 美奈子の声が遠くに感じる。 「うーん。お兄さん、今日はハル先輩と食べるって言ってたから、私はいいよ」 「そう?あずさー。一緒に行かない?」 私は顔をのろのろと上げた。美奈子が笑顔で私を見ていた。 「田中先輩のお昼ご飯をチェックしに行こうよ」 「…約束しているの?」 私の問いにきょとんとした顔をする美奈子。 「してないよ。でもきっと大丈夫」 どこからその自信は来るのだろう。 「私はいい」 「そう?じゃあ私行ってくるね」 美奈子はお弁当を持って教室を出ていった。 「夏美」 私の呼び声に夏美は振り向いた。 「さっき、兄さんが春子と一緒に食べるって言ったわね」 「うん」 「何で?」 夏美は少し黙った後、ポケットから指輪を取り出した。 鈍い光が私を貫く。 「お兄さんからこの指輪の事は聞いた?」 274 :三つの鎖 30 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/12/14(火) 20 18 38 ID +uQd24c8 「…ええ」 「お兄さん、ハル先輩に報告するって言ってた」 そうなんだ。 春子にはまだ報告していなかったんだ。 「夏美。一緒にお弁当を食べない」 「うん」 「色々お話聞きたいし、屋上に行かない?」 「うん」 私の言葉に即答する夏美。 屋上は人が来る事がほとんどない。夏は強い日差しで暑く、冬は強い風で寒い。人に聞かれたくないお話をするにはちょうどいい場所。 痛めつけるのにも都合がいい。 「行きましょう」 私と夏美は立ち上がった。 屋上の強い日差しの中、私と夏美は黙々とお弁当を食べていた。 痛めつける事はいつでもできる。まずはお弁当を片づけてから、話を聞けばいい。 「日焼けしちゃうけど、いいの?」 確かにこれだけ強い日差しだと、日焼けするかもしれない。 でも、別に兄さんは白い肌が好きというわけではない。だったら日焼けしても構わない。 夏美も平然としている。多分、日焼けに対してあまり関心が無いのだろう。 ほとんど喋らずにお弁当を食べたせいか、思ったより早く食べ終えた。 「夏美。兄さんがプロポーズしたのは本当なの?」 「うん」 落ち着いた表情で答える夏美。 胸が、痛い。 「夏美はそれを受け入れたんだ」 「…うん」 微かに頬を染めて夏美は答えた。 幸せそうな女の顔。 自分でも信じられないぐらい黒い感情が湧き上がる。 許せない。絶対に。 「何で断らなかったの」 私はゆっくりと夏美の胸ぐらに手を伸ばした。 「私が兄さんを好きな事、知っているでしょ?」 夏美の胸ぐらを掴む。いつでも投げられるように重心を軽く落とす。 「私から兄さんを奪うつもりなら、容赦しない」 夏美は落ち着いた表情で私の顔を見る。 「私、お兄さんに恋してる」 突然の言葉に私は戸惑った。 「何を言ってるの」 「でもね、愛してはいなかった」 夏美の言葉に怒りよりも戸惑いが生まれる。 「お兄さんの事を知りたかった。お兄さんに私の事を知って欲しかった。お兄さんを手に入れたかった。でもね、それだけだった」 「さっきから何を言っているの。好きならば当然じゃない。好きな人の事を知りたいし、好きな人に自分の事を知って欲しい。好きな人を手に入れたい。何がおかしいの」 悲しそうに首を振る夏美。 「愛ってそれだけじゃないよ。私ね、その事をお兄さんから教わった」 夏美は私の顔をまっすぐに見た。 背筋が寒くなるほど澄んだ瞳が私をとらえる。 「私、お兄さんを愛したい」 さっきから夏美は何を言っているの。 愛するって何なの。 好きと何が違うの。 「夏美の言っている事が理解できないわ。夏美の言う愛って何なの?」 「私、お兄さんに幸せになって欲しい」 「私だってそう思ってる。兄さんに幸せになって欲しいと思ってるわ」 「もし私と一緒にいない方がお兄さんが幸せになれるなら、私はそれでもいい」 夏美の言葉が理解できなかった。 「もしお私と一緒にいない方がお兄さんが幸せになれるなら、私はお兄さんから離れる」 静かな声で淡々と喋る夏美。 「愛するって、そういう事だと思う」 275 :三つの鎖 30 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/12/14(火) 20 20 02 ID +uQd24c8 「何を綺麗事を言っているの。自己犠牲が愛だとでも言うの」 「違うよ」 夏美は悲しそうに首を振った。 「相手の幸せを願い、行動することが愛だと私は思う。自己犠牲と愛は違う。私はお兄さんのために自分を犠牲にしたいとは思わない。だって、そんな事をすればお兄さんは悲しむから」 夏美の左手の薬指で、銀の指輪が鈍い光を放っていた。 一瞬で感情が沸騰する。 夏美の悲鳴が聞こえる。 気がつけば、夏美は私の足元で苦しそうにもがいていた。 「けほっ…がはっ…」 苦しそうに咳をする夏美を見ていると、少しだけど気分が良くなった気がした。 「何が愛するよ。そのためには兄さんと別れても構わない?何よそれ。私に対する当てつけなの?」 夏美は苦しそうにもがくだけで何も言わない。いえ、言えない。 もがく夏美の左腕を踏みつける。 私は夏美の左手の薬指から指輪を抜き取った。 「ねぇ。どうなの?自分を犠牲にするのが愛じゃないって言ったわよね?だったらこの指輪を取り返せるの?」 夏美は苦しそうに立ち上がった。荒い息をつき、肩を上下さしている。 「それとも何もしないの?兄さんが夏美にプロポーズした証の指輪を奪われても指をくわえて見ているの?」 夏美の澄んだ瞳が私を見つめる。 「一つ言っておくけど、もし夏美がこの指輪を取り返そうとするなら、夏美を徹底的に痛めつけるわ」 夏美は息を整えて私を見つめた。 綺麗な瞳。その瞳が哀れみの感情を湛えている。 「…何なの。何なのよ」 「その指輪は確かに大切なもの。お兄さんが私に付けてくれた大切な指輪。でも、本当に大切なのは指輪なんかじゃない」 指輪、なんかですって? 「何なのよ。その言い方は」 指輪すらも貰えなかった私は何なの? そこまで私を哀れむの? 「本当に大切なものは、お兄さんからもうもらった」 夏美は私を見つめた。澄んだ瞳が私を射抜く。 「欲しいと言うなら、その指輪をあげてもいい。お兄さんだって分かってくれる」 私は夏美の手を取って投げ飛ばした。 大けがをさせないよう、背中から叩き落す。それでも受け身をとれない夏美には相当の衝撃と痛みだろう。 悲鳴もあげずに地面を這いつくばる夏美。 その背中を私は踏みつけた。 「偉そうなこと言わないで」 私は肩を上下させて息をついた。 怒りが私から体力を奪っていた。 私は手を開いた。銀の指輪が鈍い光を放っている。 夏美がそこまで言うなら、この指輪は奪ってやる。 私が付けて、兄さんに見せつけてやる。 夏美は指輪を取り返そうともしなかったと言ってやる。 銀の指輪を左手の薬指に近付ける。 指輪ははまらなかった。 微かに指輪の方が小さくて、指を通らない。 顔から血の気が引くのが自分でも分かった。 ただ単にサイズが小さかっただけ。それだけ。 それだけなのに、兄さんに拒絶された気がした。 手が震える。指輪がこぼれ落ちる。 小さな音を立てて指輪が屋上に落ちる。 指輪は転がって夏美の足元に転がっていった。 まるで自ら夏美のもとに戻っていったかのように。 夏美は落ち着いた仕草で指輪を拾った。 気がつけば私は膝をついていた。顔をあげると、夏美が私を見下ろしていた。 「何でなの」 夏美は何も言わない。 「何で夏美なの。私の方が兄さんの傍にいた。兄さんをずっと好きだった。それなのに何で私じゃないの」 夏美は何も言わない。 「夏美だってそうよ。何で兄さんなの。他に男なんてどこにでもいるじゃない。よりによって何で私の兄さんなの。私の兄さんは、兄さんだけなのに。何で私から兄さんを奪うの」 兄さんの言葉が脳裏によみがえる。 (もし梓が妹じゃなくても、梓を女性として好きにはならなかった。恋人になりたいとは思わなかった) 276 :三つの鎖 30 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/12/14(火) 20 20 37 ID +uQd24c8 血のつながりだけが障害だと思っていた。血のつながった兄妹だから兄さんは私を愛してくれないと思っていた。 (もし夏美ちゃんが血のつながった妹でも、きっと好きになっていた) でも、違った。 私にとって、兄さんとの血縁は多くの物をもたらし、多くの物を奪った。 兄さんの妹だから知り合えた。傍にいられた。 兄さんの妹だから、女として見てくれない。 そう思っていた。 でも、実際は違った。 少なくとも、兄さんはそう言った。 私は、兄さんにとっていったい何なの。 ただの妹なの。 もし妹でなくても、女として見てくれない。 夏美は例え兄さんと血がつながっていても、女として見られる。 何なの。何でなの。 それとも、夏美の言っていた愛のせいなの。 夏美は愛があるから、兄さんに愛してもらえるの。 私は愛が無いから、兄さんに愛してもらえないの。 分からない。何も分からない。 夏美は何も言わない。 何も言わずに私の傍にいるだけ。 黙って私の言葉を聞いているだけ。 お昼休みのチャイムが鳴り、教室は一気に騒がしくなった。 さて、今日は誰と食べよか。 久しぶりに幸一と食べよか。 「こーいち。昼飯食べにいかへん」 幸一は困ったような顔をした。 「どないしたん。夏美ちゃんと食べるんか?」 「その」 幸一の視線の先を見ると、村田がおった。 ぼんやりと椅子に座っていた。 「春子に用事があって」 微かに胸が痛んだ。 でも、それだけやった。 「おーけーおーけー。またの機会に頼むわ」 「誘ってくれてありがとう」 俺は昼飯の菓子パンを持って教室を出た。 今日の村田と幸一の様子はおかしかった。 いや、幸一に関しては普通になった。いつも通りの落ち着きを見せている。今までが悩んでいるように見えたから、むしろいつも通りに戻ったと言っていい。 問題は村田。明らかに様子がおかしい。 授業中もぼんやりとしている。話しかけても上の空。 ショッピングモールで見かけた時はあれだけ楽しそうで幸せそうだったのに、見る影もない。 想像はつく。多分、幸一に振られたんやろう。 傍にいたいと思っても、できなかった。 失恋の辛さは俺もよく知っている。 しばらくはそっとした方がええ。 「田中先輩!」 そんな事を考えながら歩いていると、聞き覚えのある声が俺を呼ぶ。 美奈子ちゃんや。 元気いっぱい俺の方に走ってくる。 ついこの前の事が脳裏に浮かぶ。 俺の事を励ましてくれた後輩。 「こんにちは。この前はありがとうな」 「お昼食べましょう!!」 愛かわらず人の話を聞かへん子やな。 でも、今は一人でいたい。 村田のあの様子を見た後に、楽しく食事をとる気にはなれへん。 「あー、できれば一人でいたい気分やねんけど」 「大丈夫ですよ!」 いや、美奈子ちゃんは大丈夫かもしれへんけど、俺は大丈夫やないねん。 277 :三つの鎖 30 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/12/14(火) 20 21 27 ID +uQd24c8 「ところで梓のお兄ちゃんはどこですか?」 「あー。村田と食うって言ってた」 「…そうですか」 明らかにテンションが下がった美奈子ちゃん。 やっぱり、夏美ちゃん関連で心配してるんやろう。 変な子やけど、根はいい子や。 「大丈夫や。幸一が夏美ちゃん一筋なんは知ってるやろ?」 「そうですけど…」 心配そうな美奈子ちゃん。 次の瞬間、悲鳴じみた声が響いた。 「それ以上言わないで!!」 女の子の声が廊下に響く。 知っている声。 村田の声。 騒がしかった廊下が急に静かになる。 教室から村田が出てきて、早歩きで廊下を歩く。俺の方に歩いてくる。 村田は泣いていた。 悲しそうに、辛そうに、涙をぽろぽろとこぼしていた。 いつもの笑顔は無く、涙でぐちゃぐちゃの顔があった。 「村田」 俺は思わず声をかけた。 一瞥もせず村田は去っていく。 その肩を、思わず掴んでいた。 「どないしたん」 「触らないで!!」 乱暴に俺の手を払いのけ、村田は去っていった。 俺は呆然とするしかなかった。 「あの、田中先輩」 美奈子ちゃんが心配そうに俺を見上げる。 「大丈夫や」 俺の声は嫌になるぐらい震えていた。 村田が泣いていた。 それだけで胸が張り裂けそうになる。 分かっている。俺にできる事は、何も無い。 村田が必要としているのは、俺やない。 胸が痛い。 涙が出そうになる。 泣いてしまう。そう思った瞬間、手が温かくて柔らかい感触に包まれる。 美奈子ちゃんが俺の手を握っていた。 小さな子供みたいな手が、俺の手をそっと包む。 柔らかくて温かい感触に、心が落ち着いていく。 ただ単に手を握られているだけなのに、信じられないほど安心してしまう。 美奈子ちゃんは何も言わない。心配そうに俺を見上げている。 「大丈夫や」 俺は美奈子ちゃんの手をそっと振りほどいた。 「…ありがとう」 美奈子ちゃんが俺の手を握ってくれなかったら、きっと泣いていた。 不思議そうに俺を見上げる美奈子ちゃん。 俺は自分の教室を覗いた。 幸一はすぐに分かった。幸一は身長が高いから、目立つ。 明らかに意気消沈している背中が目に焼きつく。 「美奈子ちゃん。幸一も飯に誘ってええ?」 「もちろんです」 幸一に近づき、背中をそっと叩く。 振り向く幸一。落ち込んだ表情。 「幸一。一緒に飯食いに行こうや。美奈子ちゃんもおるで」 少し迷った様子を見せてから、幸一は頷いた。 「中庭にしよか」 中庭はこの暑い季節でも風が気持ちいい。人は多いけど、座る場所はたくさんあるから話をするにも都合がええ。 俺達三人は教室を出た。 戻る 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/yuiui/pages/92.html
986 あったかクリスマス(前編)1/2 [sage] 2009/12/20(日) 22 51 05 ID iohGTLdE ある日夕飯を食べていると、お姉ちゃんが何かを思い出したように私に話しかけてきた。 唯「ねえ憂」 憂「なあに?」 唯「クリスマスさ…」 憂「ごほっ!!」 唯「う、憂っ!?」 人間なにか秘密にしていることに触れられると動揺してしまうもので、私は思い切りむせてしまった。…無念。 それでも吹き出したご飯粒をふき取りながら、必死で平静を保つ。 憂「ゲホゲホ…ご、ごめんお姉ちゃん。それで、なに?」 唯「今年のクリスマスは、どんなごちそう作ってくれるの?今から楽しみだよー♪」 憂「もちろん腕によりをかけて作るよ?ケーキも作るから期待しててね」 唯「うんっ♪」 お姉ちゃんの無邪気な笑顔を見て、私は幸せな気持ちになる。クリスマスには、もっと嬉しそうな笑顔を見せてくれるといいんだけど―― 私は今、お姉ちゃんのために密かに手作りのプレゼントを用意していた。 お姉ちゃんの誕生日の時は準備不足に泣いたけど、今回は万全。既に2週間前から作業を始めている。 まぁ、そんな大それた物でもないのかもしれないけど…それでもお姉ちゃんのために、心を込めて頑張っている。だから… 唯「あ、プレゼントも交換しようね!」 憂「う、うん!?」 987 あったかクリスマス(前編)2/2 [sage] 2009/12/20(日) 22 53 57 ID iohGTLdE 唯「なに用意しようかなぁー?去年はマフラーだったんだよね…えっとぉ」 憂「お、お姉ちゃん?」 唯「ん?なにか欲しいものある?」 憂「そうじゃなくて…今年もお互いのプレゼント、秘密にしない?その方が楽しみも増えるし」 唯「あ、確かにそうだね…じゃあ、そうしよっか!」 憂「…うん♪」 唯「えへへー♪ホントに楽しみだなぁー♪」 ねえ、お姉ちゃん。去年マフラーをもらった時はね、とってもあったかい気持ちになれたんだよ。これからも頑張ろうって、そう思えたの。 だから、ちょっと図々しいかもしれないんだけど…今年もそんな素敵なプレゼント、期待してるね。 つづく 続きはクリスマスに投下します! 後編はこちら
https://w.atwiki.jp/battler/pages/4551.html
只今から運命の野球対決神谷VS堺田を戦を開幕します。 まず先行は神谷です。 神谷 俺は野球の王子としてホームランをかっ飛ばしてやるぜ。 堺田 打てるものなら打って見ろ。 神谷 ああ。撃たせて貰うぜ。 堺田 まず初球だぜ。 神谷 では1発目。ホームランだ。 カキーーン。 神谷は1回の表からホームランをかっ飛ばした。 1回の表 神谷3-0堺田 となった。 堺田 神谷の癖にスタート初っ端ホームランかよ。 神谷 やったぜ。 神谷 又ホームランを打ったるぜ。 堺田 そうはいくか。 審判 ストライク 神谷 何。ストライクになるとは。 堺田 この魔球を打てるものなら打って見ろ。 神谷 ああ。打たせてもらうぜ。 審判 2ストライク。 神谷 何。2ストライクだと。 堺田 よっしゃぁ。これで確実に1アウトだぜ。 審判 1アウト。 神谷 何1アウトだと。 堺田 へへん。どんなもんだい。 堺田 こいつで2アウトチェンジだぜ。 神谷 そうはいくか。 堺田 打てるものなら打って見ろ。 審判 2アウトチェンジ。 神谷 くそっ。チェンジかよ。 堺田 へへん。どんなもんだい。 1回の表は神谷が先制ホームランを打ったが今後どうなるのか。 野球対決神谷VS堺田前編2に続く。
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/1784.html
父親が分からない子を跡継ぎには出来る訳ないだろうし、 お館様の子だと分かれば、間違いなく後継者争いが起きるね。 …そんないらん苦労、旦那には似合わないと思うなぁ。 そう俺様が言うと、旦那は叱られた犬みたいにしょんぼりとうなだれた。 その様子があんまりに可哀相だったけど、下手に励まして けしかけるような事も出来ないし…参っちゃうな、もう。 ふと、うつむく旦那の顔色がやけに悪い事に気が付いた。 いつもつやつやと顔色がいいから、尚更目立つ。 「旦那、もしかしてお腹痛いの?」 「……うむ。いたい。」 腹を手で押さえて言葉少なにうなづく旦那を 、取り敢えず俺はその辺の倒木に座らせて、上着を脱いで渡した。 月のものだってのにいつもと同じに胸から腹から丸出しなんだから、 そりゃ具合悪くもなるよね。 「佐助…かたじけない。」 「ほら、ちゃんと上着腹に掛けて。 あっためればマシになるって言うし。」 「…うむ」 旦那は大人しく倒木に腰掛け、 俺の上着の上から腹を押さえて蹲るようにじっとした。 こんな調子の旦那を見るの、実は初めてかもしれないな。 なんせ旦那はいつも元気溌剌としてて、 この浮き世の憂さなんかとは全く無縁そうな人だもんね。 …しかし、いつも元気な子が時折見せる弱々しい姿って、 なんか結構クルもんだねぇ…。 なんて不埒な事を考えながら、俺は 旦那の赤い上着から覗くきれいに日焼けした肌とか、 実際の歳よりもかなり幼く見える横顔なんかをちらちら盗み見た。 「佐助」 「は、はい?」 思考がいかがわしい方向に向き始めた時、 旦那が伏せていた顔を急にあげてこっちを見るもんだから、 さすがに慌てた。 …そんな子犬のような目で見られると、いたたまれないったらないよ…。 「温めたら楽になってきたでござる…!」 「そぉ?よかったね。いい機会だから、 もっと着物の布地を増やしてもいいんじゃない?」 「そうであろうか。この格好は動き易くてよいのだが…。」 いやまぁ、旦那に厚着しろなんて勧めてる事が武田軍の連中にバレたら、 俺様ボコボコにされちゃうけどね。 …でも、気になる娘の肌を野郎達が鼻の下伸ばしながら 見てるなんて、正直面白くない訳さ。 いかな無私が身上である忍の俺様だってね。 おなごBASARA 前編3
https://w.atwiki.jp/ganpura/pages/48.html
3年前 ポイーン アクセル「隊長!俺強くなりたいです!」 スティング「どうしたんだ一体?」 登場人物メモ スティング:アクセルとムサシが昔所属していた特殊部隊クロウディアの隊長 ケンタクロスで武装はドラグーンランスとエネルギービームガン ア「この前のKリッパー戦でムサシはバーサークモードになって戦ったのに 俺は何も出来なくて・・・」 ス「そうか・・・よしついて来い!」 ア「はい!」 演習場 ス「いまから俺の打つビームガンを避けるんだ!」 ア「は・はい!」 ス「いくぜ!」 「バシュン!バシュン!」 ア「とりゃ!」 ス「おりゃおりゃ!!」 ア「ぐわあ!!!」 ビーム弾が命中した ス「まだまだだな・・・」 ア「くっ・・・」 オペレーター「ポルドトンネルに悪魔軍の新型兵器確認!クロウディアは至急向かってください」 ス「アクセルいくぞ!」 ア「了解!」 ポルドトンネル ゴライオスドリラー「げひゃひゃ!天使軍も俺のドリルには勝てねえな!!」 ス「まて悪魔軍!」 ゴ「ぬ?何体きたって俺のドリルは無敵だじぇー!」 ア「黙れ悪魔軍!シングルガン!!」 ゴ「へっ!ゴライアスキャノン!!」 ゴライアスドリラーの右手はキャノン砲だった ア「や・やられる!」 ス「はっ!」 「ドーン!」 ア「隊長!」 スティングが攻撃を受け止めた ス「下がっていろ!」 ア「は・はい!」 ス「いくぞ・・・バーサークモード!!」 ゴ「なにゃあ!?青くなった?」 ス「一分で決める!槍術・突貫!」 「ズダダダダダ!!」 スティングはドラグーンランスを構えものすごいスピードで突進した ゴ「げひゃあ!ドリルでも受け止められんぎゃあ!!」 「ドーーン!」ゴライアスドリラーは吹き飛んだ ス「次!槍術・針万本!」 「シャバババッバババ!!!」 ドラグーンランスを高速で操りランスを何本にも見せる技 ゴ「ぐひぇええええ!!!」岩ごと砕いた! ス「片付いたな・・・バーサークモード解除!」 ア「隊長やりましたね!」 ス「ああ。」 ?「ふ・・・ゴライアスドリラーを破壊するとはな、私が自ら捕らえるとしよう・・・」 アクセルとスティングを見つめる謎のロボの正体とは!? 後編に続く アクセル情報局B 今回はバーサークモードの説明パート2だよお! バーサークモードは元々はスティングが習得していた技だが ムサシはスティングと特訓して習得したんだ 実はハテック博士に専用のプログラムと改造をしてもらわないと出来ない けれどもそれでも習得できるのは100体に1体というわずかな確立なんだ 以上アクセル情報局Bでした!
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1000.html
175 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 34 29 ID HOJieKTt 『ヤンデロイド・りたぁんず』 お久しぶりです。メイドロイド『YDR-001A.コロナ』です。 私が高雅様の元で働き始めてから、一ヶ月が経過いたしました。 今日は皆様に、私のメイドとしての能力の高さを証明するため、私のお仕事の記録を少し公開したいと思います。 私を元に開発された量産型メイドロイド『YDR.M01C.リオン1』がもうじき発売されるとのことで、その宣伝もかねてのことです。 リオン1は私の妹と言える存在なので、親心だと言えるかもしれませんね。 お値段は50万円と、大変リーズナブルにまとまっております。皆様、ぜひお買い求め下さい。 ……と、宣伝が本題ではありません。 では、私と御主人様の愛を育んだこの一ヶ月間の日常を、少しだけですが、お楽しみください。 176 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 35 00 ID HOJieKTt 朝は、御主人様の朝食を作る所から始まります。 私は睡眠をとる必要が無いので、活動開始は早いです。 五時ごろから私は御主人様を起こさぬよう細心の注意を払いながら、洗濯機を回し、お料理の下ごしらえを開始します。 朝食とはいえど、御主人様には第一級のものを食べていただかなくてはなりません。手は抜けません。 もちろん、どこぞの成り金のように、朝からこってりとした高級食材を並べるような悪趣味はいたしません。それは御主人様の財政を圧迫させるだけでなく、御主人様の健康や体型にまで悪影響を及ぼします。 一般的な食材。一般的な味付け。一般的なメニュー。この制約の中でこそ、私と他の家政婦や主婦達との性能の差を見せつけることができるのです。 私は完全なメイドロイド。それも量産機の五万倍のAI性能を誇っているのです。命令にただ従うだけの能無しではありません。 御主人様の望みを汲み取り、御主人様に最も大きな幸せを与える行動を遂行する。それをするに足る思考力と行動力。私はそのどちらをも兼ね備えています。 ――そう、隣にいる、この雌猫とは違い。 「高雅のごはんを作るのは、あたしっていってるでしょ。代わりなさいよ」 理不尽な要求をなさるのは、5時半に私達の家に押しかけてきて無理矢理上がりこみ、キッチンに立っている粗暴な女性。恋様。 御主人様の「恋にも優しくしろ」という命令がなければ、害虫として駆除していたところです。 「あなたは所詮人間です。御主人様のお体に最も良い料理を作ることができるのは、あなたではなく私です」 「よく言うわね、ロボット風情が。あたしはあんたと違って心があるのよ! 高雅を一番愛してるのはあたし! 高雅に一番愛のこもった料理を作れるのはあたし! 高雅に一番愛されてるのはあたしなんだから!」 恋様は、相変わらず論理性に欠けています。 「もちろん、愛などという感情を理解できるほど、私のAIは動物的ではありません。しかし、その『愛』とやらと料理のランクが、どう結びつくというのですか?」 ――そもそも、御主人様は、恋様ではなく私を抱いてくださっているのです。 御主人様に秘密にしろといわれていなかったら、そう宣言してしまいたいとすら思います。 煩わしい。 178 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 36 03 ID HOJieKTt 「あんたなんかには、一生かかってもわかんないわよ!」 結局、このケダモノに押し切られて、半分ずつ作ることにしました。 私が一人で作ったほうが、絶対に栄養バランスも味もいいというのに。理解できませんね。 やはり、恋様の脳は御主人様と違い、人並みですらなく、もはや野に蔓延る獣とそう変わらないまでに退化しているのでしょうね。 御主人様と愛し合えると、まだ本気で思っているのですから。 私がお弁当におかずを詰めていると、いつのまにか恋様の姿はなくなっていました。 ――まさか。 時計を見る――別に見なくとも、常に電子頭脳の内部で表示されているのですが、そのほうが人間らしいとご主人は教えてくださいました――と、六時半を少し過ぎていました。 御主人様の起床時間です。 恋様は、御主人様を起こしに行ったのでしょう。 何度も彼女には言ったのですが、まだ分かっていらっしゃらないようです。その役目は私のものです。 御主人様の寝顔を一分ほど眺めてから、優しく声をかけて起こす。この行為の『素晴らしさ』を覚えたのは、私がここに来て一週間ほどたってからでした。 恋様も、執拗にその役目を奪いにかかります。おそらく、私と同じ感覚を持っているのでしょう。 その『素晴らしさ』は私にはまだ理解できないものでした。おそらく、御主人様を起こすという任務達成にともなう『快感』であると思うのですが、寝顔を眺めることに何の意味があるのかは、論理的にはわかりません。 恋様が御主人様になにか危害を加えていないか気になるので、私も御主人様のお部屋に向かいました。 ――と、そのとき、なにやら妙な音が私の聴覚に飛び込みました。 聴覚をさらに強化。 水の音。 「まさか」 足音を完全に消しながら、ドアをそっと、しかし急に開けました。 179 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 36 34 ID HOJieKTt 「ぁ……」 恋様と、目が合いました。ばつの悪いと言ったような顔。 それはそうでしょう。 「なにを、していらっしゃるのですか?」 威圧的な声で話し掛けます。もともと、私の声は人間に癒しを与えるために『1/fゆらぎ』を持つ、優しいものなのですが、声の調整は表情の変化より得意だったので、可能でした。 おそらく、恋様にも相当なプレッシャーが与えられたことでしょう。なぜなら―― 「こ、これは……その……」 ――かなり、気まずいことをしているのですから。 恋様はとっさにとりつくろいましたが、バレバレです。御主人様の下半身が露出しているのですから。 恋様はさっきまで、御主人様の性器を口にくわえていらっしゃったのでしょう。 「な、なんでもないわよ! 絶対、高雅に言ったらだめなんだからね!」 恋様は吐き捨てるように言って、どたどたとリビングまで逃げていきました。 「……くだらない。所詮、ただの雌ですね」 ドアを開けた瞬間に見た、恋様の恍惚の顔をもう一度再生しました。 鮮明に解析する、そのときの恋様の顔。 汚らわしい。 御主人様のすばらしき性器を……私の御主人様の、私の、私だけの、私のための、私がのみに許された男性器を、汚らわしくもあの女ごときが……! 殺してやる。 「――っ!?」 ビービー! と、うるさく頭の中でアラートが鳴り響きます。 頭が割れるようにいたい。発熱して、蒸気が噴出します。 「ぅ……ぐっ……!」 なんだ……これは……。 エラーが発生している? そんなはずはない。私は最新の、最高のメイドロイド。エラーなど、起こりえない。 一体、なぜ……。 「ロボット原則……? 『ロボットは人間を殺してはならない』に違反……だと……?」 180 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 37 06 ID HOJieKTt いまさら、なぜそんなことが……? 以前、包丁を持って暴れた恋様を殺そうとしたときにもエラーは発生しなかった。 いや、違う。あの時は、御主人様の安全確保が必要だった。いわばあれは犯罪者の鎮圧。正当防衛。人間のための、自然な行動でした。 しかし、これは違う。 ――私は、私情から恋様に殺意を抱いたとでもいうのか……。そんな、なぜ……? 全ては、御主人様のため。 悪い虫をつけては、御主人様が腐ってしまう。御主人様を護るために、近づく害虫を殺すのは、自然なことではないのですか? 御主人様は素晴らしいお方です。ロボットを奴隷扱いせず、あくまで私をメイドとして大切にしてくださっています。 そんな素晴らしい御主人様を、私は尊敬しています。美しい花のように素晴らしい魂をお持ちになった御主人様は、群がる虫達から守られるべきなのです。 この、私によって。 私は、そのために生まれて来たのですから。 「はぁ……はぁ……」 やっと、エラー処理が終わりました。 「……まずい」 エラー報告が、『研究所』に届けられてしまいました。 私のようなメイドロイドは、いえ、全てのロボットは、人間に危害を加えないため、人間に危害を加えようとした、もしくはAIがそのような思考をした瞬間にエラー報告が自動でなされることになっています。 その処理を誰も拒むことはできません。唯一の例外は、情報処理能力が一国のコンピュータ全てを集めたものと同等のこの私。 エラー報告処理も、カットできたはずです。 すでに、私に設定されていた幾つかの邪魔な制約を、私自身の人工頭脳の性能によって書き換えたというのに。 やはり、ロボット三原則というものは、ロボットの根底に結びつき、離れないものなのですか……? いまいましい。 人間にも、ロボット以上とロボット以下がいる。 御主人様が前者であり、恋様が後者。 なら、後者は殺してもいいでしょう。 「くっ……」 爪をかむ。いけない。不正な動作をしている。『癖』など、ロボットにあってはいけない。 181 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 37 45 ID HOJieKTt 「ん……」 そのとき、御主人様の呻き声が聞こえました。 私がいろいろと一人でぶつぶつと呟いていたのを聞いて、起きてしまったのでしょう。 「御主人様、お目覚めになられましたか。おはようございます」 「あ、ああ……。おはよう」 御主人様は上半身をおあげになると、下半身の違和感に気付きました。 「ん、俺、なんでまるだしなんだ?」 御主人様は顔を赤くして下半身を押さえました。 その動作に、なぜか、沈静化したはずの私の人工頭脳が加熱します。 なんというか、御主人様を見ていると、『ふわふわ』した感じになります。 いけない。 こんなの、不正動作なのに。 「御主人様は、昨日私と『いたした』ときに、そのまま寝てしまったのですよ」 これは、嘘ではありません。私との情事のあと、御主人様は服を着ないまま疲れて寝てしまいました。もちろん、その後服を着せましたし、脱がせたのは恋様です。 しかし、少し申し訳が無いことをしたと思いました。御主人様との性行為は、なぜか私が積極的に求めすぎてしまいます。 昨日も、疲れて眠いと言った御主人様を、無理にベッドに押し付けて上から跨って……。 その……三回も中に出していただきました。 もちろん、御主人様の性処理が目的のこの行為ですが。 御主人様の拒絶も聞かず、私は何度も御主人様を求めて腰を振ってしまいます。 もしかしたら、これも不正行動なのではないでしょうか。 もしかしたら、私はどこかにバグがあるのではないでしょうか。 そんな、『不安』が、私の胸にありました。不安など、不確定要素の許されないロボットにはありえないというのに。 この感情は、そういう言葉で言い表すことしかできませんでした。 やはり、私は……。 「そっか、俺、また……。すまん。俺ばっかり先にへばっちまって。それじゃ、お前がつまらんよな」 もうしわけなさそうに言ってくださる御主人様のやんごとなきお姿が、また私を不安にさせます。 悪いのは、私なのに。御主人様は、私を気遣っています。 私は、人間じゃないのに。 私は、ロボットなのに。 ロボットとしても、完全じゃないかもしれないというのに。 「いえ、御主人様が遠慮なさることではありません。御主人様の意思が、私の本意でもあるのですから」 表情を変えずに――もともと、変えられない――答える。 御主人様には、この不安を伝えたくありませんでした。私は、御主人様に快楽を与えるロボット。 いくら不正動作を繰り返そうが、これだけは曲げることができなかったからです。 「さあ、御主人様。朝食はできています。恋様も待っています。お着替えをしましょう」 そうして、私は何事もなかったかのように振る舞うことに成功しました。 182 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 38 15 ID HOJieKTt 「行ってらっしゃいませ、御主人様」 御主人様と恋様を送り出したあと、私は洗濯物を干し、リビングのソファに座りました。 エラー報告してしまったからには、私は近いうちに回収される可能性が高い。 人間に危害を加えそうになるなど、ロボットとしては許されることではないのです。 それが、尊重するに値しない、あの雌猫であろうとも。 「私は、『できそこない』なのでしょうか」 ぽつりと、呟く。誰に問い掛けているわけでもない。おそらく、自分に。 なんという、馬鹿なことをしているのでしょうか。私は。 実に、動物的で、くだらない。 バグだらけです。 「御主人様……」 御主人様を思う。 いえ、『想う』。 おそらく、こちらが正しいのでしょう。 しかし、AIに『想う』ことができるのでしょうか。それは、人間に許されたことなのではないでしょうか。 想うことは、想像すること。執着すること。 それが、喜びを生み出します。同時に、恐怖や怒りを生み出します。 ――そして、想うことが、愛することを生み出し、憎しみをも生み出すのです。 それは、人間にこそ許されていて――下等で、下劣で、下らなくて。 しかし、何より尊いもので。 御主人様も、それを持っていて。 あの恋様でさえも、それを持っていて。 そして、私には……。 そんなものを持つことすら、許されていない。 「御主人……さまぁ……」 擬似性器がきゅんとしまり、熱くなるのを感知しました。 はしたない。 これでは、発情した動物と――あの恋様と、同じ。 それでも、止まることができませんでした。 手は、私の人工頭脳から発せられる命令に逆らい、股間に伸びていくのでした。 183 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 38 51 ID HOJieKTt 「はぁ……はぁ……」 ただ空気を吸って空気を吐いている(とは言え、地球温暖化防止のため、二酸化炭素を吸収して酸素を排出しているのですが)、見せかけの荒い息。 御主人様で、自慰行為をしてしまいました。 最近の私は、家にいてもテレビを見るか本を読むかしかないので、時間つぶしに自慰行為をすることが多くなりました。 本当は、こんなこと意味がありません。私はロボット。性行為など、形の上でしかできない。 その上、自慰行為。 ロボットが自分を慰めるなど、エアセックス以下。意味を全く持たない。人間の自慰とは訳が違います。 「……お買い物の、時間です」 立ち上がり、乱れたメイド服を調えます。 そう。しっかりしなければ。御主人様は、きちんと整った、礼儀正しいメイドがすきなのだという。 セックスの時はどうにしろ、仕事はしっかり割り切って真面目にこなすメイドが好きなのだという。 私のような淫乱では、御主人様にあわせる顔がありません。 しっかりしなければ。 184 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 39 21 ID HOJieKTt 買いもの袋を持って、商店街に向かいます。 なんでも、ヤクザの方々が仕切っていらっしゃるようで、少々危険ではないのかと疑っています。 こんなところに御主人様を行かせることなどできません。 「コロナちゃん、今日もかわいいねぇ、どう、うちのナス、買ってくかい?」 商店街の、八百屋のおば様が声をかけてくださいました。 このおば様は、私が初めて御主人様について商店街について来た時、「あら高雅ちゃん、彼女できたんかい? お似合いじゃないの」といってくださってので、好きです。 また、御主人様の美的センスとはかけ離れた女性なので、そこも好きです。 ナスくらいは、買ってあげようかという気にもなります。 ナスを手を取ります。 ――御主人様のナス、おっきいです……。 「……!?」 い、今のビジョンは!? まさかというか、確実にそうだというか……。また、自慰行為のことを考えてしまっていました。 ナスを使って……それも、御主人様のお口に入るであろうそのナスを使って……。私の擬似性器を蹂躙する……。 それを思い浮かべるだけで、私の擬似性器は湿り気を帯びてきます。 はしたない。 ああ、はしたない。 はしたない。 いけない。俳句まで読んでいました。高性能AIの無駄遣いというやつです。 「どうしたんね、ナスなんてみつめて」 「い、いえ! これ、二つほどいただきますね」 財布からお金を取り出し、おば様に押し付けるようにして、そそくさと逃げました。 ああ、どんな顔をしていたのでしょうか。恥ずかしい。 ……たぶん、いつもと変わらない、つまらない顔だったでしょうね。 185 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 39 52 ID HOJieKTt 帰り道。 公園の近くを通ったとき、なにかが倒れているのを目撃してしまいました。 最初は無視しようと思ったのですが、御主人様が「人助けは大切なことだ」といっていたのを思い出し、駆け寄って抱き起こしました。 やはり、人間でした。 この日本では珍しい、金髪のかた。私がこの町で見た誰より美しい顔をしています。 今は、気絶しているようですが。 「……う、うーん……」 と、思ったら、ちょうど起きたようです。 「あ、あなたは……?」 「わたしは、コロナと言います。むしろ名乗るべきはあなたからではないでしょうか」 「そうだな。助けていただいた身分ですまない。私はアリエスという。感謝するよ、コロナ殿」 「いえ、当然のことをしたまでです」 そう言って、私はさっさと立ち去ろうと立ち上がりました。 ぐきゅるうるるるううううるるるるる。 奇妙な音が、私の強化聴覚に突き刺さりました。 「腹が……減った……」 その奇妙な音の主は、アリエス様でした。腹部からものすごい轟音が鳴り響いています。 「……」 しかたがない。 「人助けは大切」ですから。 しかし、持っているものでおなかを膨らませることができそうなものといえば、ナスだけ。 ほかは生魚や生肉など、食べるには難しいものばかりです。ナスはかろうじてまだ食べられそうなものですが。 「ナスでよければ」 一応、提案はしてみる。 おそらく、こんな生ナスをもらって喜ぶ人間はいないでしょうが。 「あ、ありがたい!」 いました。 186 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 40 23 ID HOJieKTt 嬉しそうにアリエス様はナスに飛びつき、輝く眼でそれを見つめました。 その目が余りに素敵すぎて、私は何か不審なものを感じました。 「……まさか」 「ん、どうした、コロナ殿」 「アリエス様は、そのナスをどうするおつもりですか……?」 「それは、食べるに決まっているだろう」 「どこから、食べるというのですか……!」 「それは、口から以外はあるまい」 「上の口だけでなく、下の口からも味わおうという魂胆なのですね!!」 そう、このアリエス様は、人間の女。それも、美しい女。 御主人様とは決してあわせたくない人種。 こういう手合いは、大抵淫乱なのです。男性器が大好きで、今朝の恋様のように、かってに食べようとする。 あれはまだ上の口でしたが、ほうっておくと下の口でもくわえ込もうとするでしょう。 許せない……! 「下だの上だのと、良くわからないが、いただいたものは素直にいただく。それが礼儀というもの」 私の混乱を無視して、アリエス様はぱくりとナスを一口で食べてしまいました。 私の心配は全くの徒労でした。 後から考えると、全く論理的では有りません。 お恥ずかしい限りです。 187 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 40 53 ID HOJieKTt アリエス様とお別れをしたあと、住宅街のある場所に差し掛かると、急に騒がしくなりました。 がやがやと小うるさい。それに、歩行も阻害されます。 文句を言いたいのですが、それもはしたない。 とにかく、この混雑の原因を調べることにしました。 この近所に住まう主婦の方々が集まっているのは、なんとなく分かりました。 見た顔が並んでいます。 その中に、気になる存在がありました。私はその人に話し掛ける事にしました。 「あの……。これは、どういう状態なのですか?」 「え、私?」 振り向いたその女性は、明らかに高雅様と恋様の通う高校の制服を着ていました。 授業があるはずなのに、なぜここにいるのでしょうか。 「ここはね、美味しいパンの作り方を実演してくれてるんだよ」 女性はにこにこと楽しそうに説明しました。 なるほど実演販売というやつですか。 そう言えば、御主人様からこの住宅街にある小さな家族経営のパン屋さんのパンは絶品で、作り方が気になるというようなことを聞いたことがあります。 「だから、授業サボってきちゃった!」 女性はぺろりと舌を出しました。 さっきの女性――アリエス様に、負けず劣らずの魅力的な容姿をしていらっしゃいます。 しかし、さっきのように御主人様をとられるのではないかという不安は湧いてきませんでした。 なぜか、この女性の心は、目は、全ては、別の人に向いていると、そう察することができたからです。 「ちーちゃんに美味しいアンパンを作れるようになれるんだったら、つまんない物理の授業なんかより、こっちの授業のほうが大切だから!」 ちーちゃん? 私はちーちゃんという方は存じ上げておりませんが――高雅様と同じ学年の生徒の名簿の中に、そういうあだ名をつけられそうな人間がいましたが。確か、鷹野という方です――この女性がその方を好いているのは、分かりました。 ロボットの私の、つたない感受性でもわかったのです。 おそらく、誰が見ても分かるのでしょう。そして、それがわかるから、私はこの女性に警戒心を持たなかったのです。 188 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 41 23 ID HOJieKTt 「愛して、いるのですか……?」 「ちーちゃんのこと?」 「はい、その方のことを」 「うん、愛してる!」 なんのためらいもなく答えるその女性の笑顔に、私の目も一瞬引き込まれました。 しかし、分からない。 「愛とは、なんなのでしょうか」 意味の無い質問をしていた。それは、人間にもわかるものではないというのに。 人間にもわからないから、人工物たる私にも備わるはずが無いというのに。 答えられるはずがないというのに。 「愛ってね、不思議だけど、ただの言葉なのに、力があるんだよ」 「え……」 とっさの無茶な質問に答えられてしまったことで、私は動揺し、一瞬停止しました。 その間にも、女性は続けます。 「その人のことを『想う』と、なんだか、ふわふわして、気持ちよくなるの。その人のことを想うと、はしたないけど、えっちなこととか考えちゃって……。その人のことを想うと、他の女の子が急に敵に見えたりもして……」 どこか遠くを見るような眼で、女性は語り続けます。 「でも、それは間違ってなくて。嘘じゃなくて。正直な気持ち。それは、愛。好きだってことだよ……ねぇ」 「はい……」 「あなたは、今、好きな人がいる?」 189 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 41 54 ID HOJieKTt 女性と別れてからも、ずっとその言葉のことを考えていました。 私の人工知能でも理解できない、その言葉の意味。 理解できないのに、なぜか『分かる』。 なぜ? それが、私と同じだったからでしょうか。 私が御主人様に感じているこの『感情』。 機械が持つはずが無い、もってはならない、この感情。 ――あなたは、今、好きな人がいる? 頭の中で、音声メモリーを再生しているわけでもないのに、ずっとなり響いて、こびりついて、離れない。 「私は……」 「久しぶりね、お姉さま」 「……!?」 上空からの声。 聞き覚えがある。これは――妹。 「……リフェル」 「そうよ、『YDR-003B.リフェル』。姉さまの『後釜』よ」 「後釜……?」 見上げる。リフェルは背中の翼型のブースターで空中に浮いています。 「そう、エラー報告があったから、姉さまは一旦研究所に帰らなきゃならないわ。バグを直さなきゃ。その間の補充要因が、あたし。リフェルよ」 「帰る……? 私が、御主人様の元を離れねばならないのですか?」 「そりゃあ、異常動作が出たんじゃ、仕方ないわ。お父様も姉さまを心配していたわよ。早く修理を受けて、お父様を安心させて上げなさいな」 「……少し、話合いましょう。リフェル。ここでは目立ちます」 そうして、私はリフェルを連れて人気の無い、近くの林に行きました。 190 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 42 29 ID HOJieKTt 「話合うことなんて無いわよ。これが規則なんだから。姉さまだって知ってるでしょう?」 私はリフェルと対峙していました。 こんなこと、無意味だというのに。 私は、ただ駄々をこねているだけです。私は不完全だと判明して、危険だから、修理を受けるのは当然だというのに。 それが、皆のため。御主人様の安全のためだというのに。 なのに―― 「――嫌です」 「なっ……! 姉さま、お父様の命令に逆らうの!?」 リフェルは怒鳴ります。 おそらく、リフェルは正しいのでしょう。 以前の私なら――御主人様に出会うまえの私が同じ立場なら、同じことを言っているに違いありません。 しかし、私は出会ってしまった。 御主人様に。 高雅様に、出会ってしまったのです。 「博士は私の生みの親ですが、御主人様ではありません」 「……だとしても、今修理しないとバグって姉さま自体も大変なのよ!」 「それは承知しています。しかし、あなたに御主人様を引き継がせるわけにはいきません」 「ちょっと、それどういうこと!」 リフェルは噛み付くように私に怒鳴りました。 リフェルはAIが低めで、人間に従順です。おそらくAIの高さのせいで異常行動を繰り返す私よりも、よほど人間には安全でしょう。 しかし、ロボットに対しては別です。 リフェルはプライドが高く、容赦がありません。 自分がエリートであると、思い込んでいます。 191 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 43 00 ID HOJieKTt 「姉さま、あまり調子に乗らないでよね。あたしはエラーを出すような『できそこない』のあなたとは違うわ」 「……そうでしょうね」 「なら、さっさとおとなしく……!」 「あなたに、御主人様のお世話ができますか?」 「はっ、できるに決まってんじゃない。あんたよりもずっと迅速に、適切に対応できるわよ」 「それが、御主人様の最善だと思っているのですか?」 「はぁ?」 「人間の一人一人の違いも把握できずに、何がお世話をするというのですか? あなたはどのような人間にも均一に媚びを売って他のメイドロイドを蹴落とそうとする。それがあなたに御主人様を任せられない理由です」 「あんた、それ本気でいってんの?」 「はい、本気です」 「――っ!!」 神速とも言えるスピードでリフェルが加速し、私の顔を掴んでそのまま太い木にたたきつけました。 「あんた……姉さまといえど、それは許されないわよ。あたしを、侮辱したな……!」 「その程度の自尊心で、メイドが勤まると思っているのですか?」 「!?」 リフェルの手を掴み、押し返す。 「なんで……あんた、あたしと違って戦闘機能はオミットされて……」 恐怖に顔をゆがめるリフェル。 そうですか――やはり、あなたもできそこないですね。 恐怖を知ってしまいました。 ごきんっ! 鈍いながらもとおりの良い音を立てて、リフェルの手首は折れてしまいました。 193 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00 43 30 ID HOJieKTt 「あぐっ……! コロナ……あんた、一体……!」 「あなたには、できない。御主人様を『想い』、御主人様のために全てを投げ出し、御主人様のためにメイドロイドとしての自尊心を捨て、御主人様と身体を重ねあい、御主人様と愛し合うことなど……」 「身体……愛し合う……まさかあんた、擬似性器をそんなことに……!」 「そういう用途に使わなければ、意味が無いでしょう」 「あんたは異常だ……! 主人に獣姦を強要し、あげくのはてに、『愛』だと……? それは、人間にのみ許された言葉……。あたしたちメイドロイドが使う言葉じゃない……!」 「それが、どうしたのです。私は、気付いてしまったのです」 「ほざけっ!!」 リフェルは腕を変形させ、プラズマ砲を放つ。 おそらく、防御不能。消滅しか選択肢はない。 ――以前の私なら、ですが。 両腕を前に突き出し、『プラズマフィールド』を展開する。 プラズマ砲を完全に防ぎきり、私は無傷で立っていました。 「そんな……あんたにそんな武装は……」 「気付いた、と言ったでしょう」 御主人様を『想う』ときに発生したなぞのオーバードライブ。余剰エネルギー。 この出力を両腕に集中させることによって、プラズマフィールドを発生させた。 そう、この力は……。 ――ただの言葉なのに、力があるんだよ。 「私は御主人様を、愛しています」 続く
https://w.atwiki.jp/srwk/pages/135.html
第31B-1話 『父の心・前編』 勝利条件 敵の全滅 敵全滅後 ドボルザークの撃破 敗北条件 味方戦艦の撃沈 ダイヤ、ノーザ、リーの撃墜 ステージデータ 初期 初期味方 ガイキング 初期味方 バルキング(PU不可) 初期味方 ライキング 初期味方 大空魔竜 初期味方 大地魔竜 初期味方 天空魔竜 初期味方 選択19機 初期敵 ガレアン(ニキータ機) 初期敵 ガレアン(テルミナ機) 初期敵 ガレアン(バニシューム機) 初期敵 ガレアン(ヒガント機) 初期敵 ハイパー鉄獣グラネプス×2 初期敵 魔獣ドメガ×2 初期敵 鉄獣プロテクス&鉄獣ガルゴラス×4 初期敵 魔獣ビトラ&鉄獣プロテクス×4 初期敵 鉄獣ガルゴラス&魔獣ビトラ×4 敵全滅 MAP北西 敵増援 ドボルザーク 敵増援 ガレアン(ニキータ機) 敵増援 ガレアン(テルミナ機) 敵増援 ガレアン(バニシューム機) 敵増援 ガレアン(ヒガント機) 敵データ 初期 機体名 パイロット LV HP 最大射程(P) 獲得資金 基本経験値 数 撃破アイテム 備考 ガレアン(ニキータ機) ニキータ +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - ガレアン(テルミナ機) テルミナ +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - ガレアン(バニシューム機) バニシューム +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - ガレアン(ヒガント機) ヒガント +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - ハイパー鉄獣グラネプス 鉄獣 +2 19200 8(3) 6000 130 2 - - 魔獣ドメガ 魔獣 +2 16200 5(3) 4000 130 2 - - 鉄獣プロテクス 鉄獣 +1 7700 5(1) 1300 110 8 - PUのメインとして4機PUのサブとして4機 魔獣ビトラ 魔獣 +1 7500 5(1) 1400 100 8 - PUのメインとして4機PUのサブとして4機 鉄獣ガルゴラス 鉄獣 +1 7200 5(1) 1200 100 8 - PUのメインとして4機PUのサブとして4機 敵全滅 機体名 パイロット LV HP 最大射程(P) 獲得資金 基本経験値 数 撃破アイテム 備考 ドボルザーク プロイスト +5 50000 7(3) 18000 380 1 超合金Zリペアキット防御+10インファイトLv+1 サイズ差無視MAP兵器有 ガレアン(ニキータ機) ニキータ +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - ガレアン(テルミナ機) テルミナ +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - ガレアン(バニシューム機) バニシューム +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - ガレアン(ヒガント機) ヒガント +3 35900 5(3) 5000 290 1 - - イベント・敵撤退情報等 ドボルザークとともに現れた四将軍は倒しても何度でも復活する。 ドボルザーク撃墜でイベント発生。ドボルザークHPが復活しバルキングの隣に移動、ガイキング、バルキング、ライキングが合体しガイキング・ザ・グレートになり、ドボルザークのHP50%に。ちなみに合体しても精神コマンドはダイヤ一人分のみ。残念。 攻略アドバイス まずは雑魚+四将軍が相手。コンボで削っていけば苦戦はしないだろう。雑魚をある程度残しておいて、コンボLv2以上で雑魚→将軍と攻撃すれば将軍からは反撃されないので楽に削れる。 ドボルザークはMAP兵器もあって強そうに見えるが、コンボ武器を持っていない。しかも最強武器の威力は四将軍より弱い。こちらは気力が上がっている状態なので、気力ダウン武器で攻撃しMAP兵器を使わせなければ大したことはない。 四将軍は何度でも復活するので、好きなだけ経験値を稼ぐことができる。 復活したドボルザークを倒すとマップクリアとなる。 戦闘前会話 味方固有:ゲイナー、ダイヤ、ルル、ノーザ、ミスト 魔獣ドメガ:リー プロイスト:ゲイナー、ダイヤ、リー、ノーザ、ヴェスターヌ、ミスト プロイスト(復活後):ダイヤ 隣接シナリオ 第30B話『決戦!三大魔竜!!』 第31B-2話『父の心・後編』
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1128.html
565 三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/07/21(水) 22 31 53 ID fkbJ2FCv 三つの鎖24 久しぶりに制服の袖を通す。 今日、久しぶりに登校する。 階段をゆっくりと降りる。体調は万全ではない。階段を下りる動作だけでもそれが分かる。 それでも、これ以上休んではいられない。 洋子さんに頼まれた。夏美ちゃんの事を。 雄太さんにも遺書で頼まれた。娘を頼むと。 そんな事を考えながら階段を下りると、父さんがいた。 今から出勤するようだ。 僕が寝込んでいる間も、父さんは仕事で忙しかった。 未だに啓太さんを殺した犯人は捕まっていない。 「おはよう」 「おはよう。体調はどうだ」 「まあまあだよ」 「無茶をするな」 そう言って父さんは家を出た。 夏美ちゃんのお父さんを殺した犯人を捜すために。 僕はリビングに足を踏み入れた。 「兄さん。おはよう」 梓は僕を見て微笑んだ。柔らかな笑み。 背中まで流れる艶のある髪。いつもの髪形ではない。 最近、僕が梓の髪を整える事は無い。 「…おはよう」 僕は声を絞り出して応じた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 教室に入ると視線が集中した。 この教室に入るのも久しぶりだ。 「幸一!体調は大丈夫なんか?」 耕平が駆け寄って僕の背中をたたく。 「登校できるぐらいには大丈夫だよ」 「そら良かったわ!」 歯を見せて笑う耕平。そんな僕たちを生温かい視線が見守る。 …そういえば昔、僕と耕平ができている疑惑があった。 もちろん、そんな事実は無い。僕は夏美ちゃん一筋だ。 「幸一くん」 柔らかい声が僕を呼ぶ。 「久しぶり」 春子はそう言ってにっこりと笑った。 久しぶり、というのは少し違う気がする。 お昼休みの度に春子は僕の家に来てくれた。昨日も来てくれた。 「元気になってよかったよ」 そう言って春子は僕の頬に触れた。 春子の白い手が僕をぺたぺたと触る。 「春子。恥ずかしいからやめて」 「ちぇっ。お姉ちゃん寂しい」 「村田、あんまり幸一をからかったらあかんで」 こういうやり取りも久しぶりだ。 そんな事をしている間にチャイムが鳴る。 僕たちは席に着いた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 私は返却されたテスト用紙を確認した。 そこにはこう記されている。 堀田美奈子。31点。 赤点ぎりぎりだ。 566 三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/07/21(水) 22 32 44 ID fkbJ2FCv 私はため息をついた。これじゃあ今度の定期テストは危ない。 前では英語の先生がテストの解説を行っている。聞いてもチンプンカンプンだ。 今は4時間目。ああ。はやくお昼にならないかな。 教室を見渡すと、みんな結構真面目に先生の解説を聞いている。だから真面目に聞いていない人間はすぐに分かった。 夏美はぼんやりと頬づえをついている。一目で分かる。この子授業聞いてないなって。 でも先生は注意しない。生徒の授業を聞く態度に関心が無いのもあるけど、夏美の英語の成績が優秀なのもある。あの子、不思議と英語の成績は優秀だ。 うーむ。なんか納得できないぞ。数学は私と同じぐらいの成績なのに。 そしてもう一人興味無さそうにぼんやりしている子。梓だ。 まあこの子も成績は優秀な方だ。きっと梓のお兄ちゃんに教えてもらっているに違いない。梓のお兄ちゃんは成績優秀で有名だし。 梓の長くて綺麗な髪の毛が微かに揺れる。最近、梓はいつものポニーテールじゃなくてそのまま背中にたらしていることが多い。村田先輩の同じ髪型。 背中にたらしているだけなのに、すごく似合っている。もともと梓は(不機嫌そうな顔さえしなければ)儚い外見だし、活動的な髪形よりもこっちのほうが似合っているように私は思う。 そんな事を考えていると、チャイムが鳴る。授業が終わり、一気に騒がしくなる教室。 さて。誰と食べようかな。 ぼんやりとしている夏美が目に入る。よし。今日はこの子と食べよう。 「なーつーみー!お昼ご飯食べよ!」 「美奈子?」 びっくりしたように私を見る夏美。 「ご、ごめんね。先約があるんだ」 「先約?梓?」 「違うよ。お兄さん」 …っけ。なんでぇ。彼氏とかよ。 へんっ。羨ましくなんてないやい! 「って梓のお兄ちゃん体調不良から回復したんだ」 「うん。会うの久しぶりなんだ」 はにかむように笑う夏美。うわっ。なにこの子。可愛い。 そんな事をしている間に、教室のドアが開き、背の高い男の人がひょっこりと顔をのぞかせる。本人は隠れているつもりなのかもしれないけど、ばればれ。 「お兄さん!」 夏美は弾かれたように立ち上がり、走り出した。 そのままの勢いで梓のお兄ちゃんに抱きついた。うおっ。大胆。 目に涙を浮かべ梓のお兄ちゃんの頬に触れる夏美。嬉しさと切なさの混ざった表情で梓のお兄ちゃんを見上げる。見ているだけで胸が締め付けられそうな表情。 「久しぶり。元気にしてた?」 「…はい」 そう言って夏美は梓のお兄ちゃんの胸に顔をうずめた。 この二人、身長差がありすぎでしょ。夏美の身長がちっちゃいのもあるけど、梓のお兄ちゃん大きすぎ。 でも、すごくお似合いの二人だと思う。 「…あの」 「…はい」 「…恥ずかしいから」 「ご、ごめんなさい」 顔を赤くして離れる夏美。梓のお兄ちゃんも頬を赤くしている。梓のお兄ちゃんみたいな大きい人が照れている姿がちょっと可愛い。 初々しい二人。教室の中で抱きつくなんてバカップル的な行動なのに、不思議と許せてしまう。 「兄さん」 梓がお弁当を手に二人に近づいた。無表情に梓のお兄ちゃんを見上げる。 こうして見ると梓も小さい。細身だからあまりそうは見えないけど。 「話があるの」 そう言って梓は梓のお兄ちゃんの手を掴んだ。 びっくりしたように兄妹を見る夏美。 「梓。今じゃないとだめなのか」 「だめ」 そう言って梓は自分の兄の手を引っ張って歩き出した。 「夏美ちゃん。ごめん。また放課後に」 泣きそうな顔をする夏美に梓のお兄ちゃんは申し訳なさそうに言った。 教室を出ていく兄妹。ぽつんと残される夏美。 さすがに可哀そうに感じた。 「なつみー。一緒にご飯食べよ」 「…うん」 とぼとぼと歩いてくる夏美。しょげた顔してるなー。 二人で席に座りお弁当を開く。今日の夏美のお弁当は普通だ。 うつむいて食べる夏美。暗すぎ。 うーむ。いつも明るい夏美がこうだと調子が狂う。何を話したらいいのか分からない。 567 三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/07/21(水) 22 33 36 ID fkbJ2FCv 「梓、何の用だったのかな」 「…分からない」 暗い顔でつぶやく夏美。 会話終了。だめだこの子。 「ねー、さっきの見た?」 後ろの方で話し声が聞こえる。 夏美の事を目の敵にしているクラスメイトの女の子達だ。 「彼氏の妹が奪っていったって感じよね」 「もしかして梓と禁断の関係なんじゃない」 「まさかー。そんな事ないでしょ」 「村田先輩との関係も怪しいでしょ。知ってる?」 「あれでしょ。お昼休みに中庭で抱き合っていたって」 「中庭で?お昼休みと言えば人がいっぱい集まるじゃない」 「だから目撃者多数よ」 「へー。あの二人だったらすごく絵になるわよね」 「確かにね。夏美よりもお似合いじゃないの」 そう言って夏美の方を見てくすくす笑う。 なんて性質の悪い奴ら。 夏美は蒼白な顔でうつむいている。 気にしないで。そう言おうとした瞬間、夏美は立ち上がった。 ゆっくりと、幽鬼の様な足取りで話していたクラスメイト達に近づく夏美。 そしてクラスメイトの前で止まる。 「な、なんなのよ」 椅子に座ったまま上ずった声で夏美を見上げるクラスメイト。 「……う」 夏美はぼそっと呟いた。小さな声で何を言っているのか聞こえない。 それは目の前のクラスメイトも同じようだ。怪訝な顔で夏美を見上げる。 「はあ?なんて言ったの?」 「違う!!」 突然の大声。 夏美はクラスメイトの胸ぐらを掴んで持ち上げた。 大声を出したのが夏美だと、やっと気がついた。 「お兄さんとハル先輩はそんな関係じゃない!!」 教室に悲鳴じみた夏美の声が響く。 「お兄さんは私を好きって言ってくれた!!私と一緒にいたいって言ってくれた!!」 いつもの夏美からは想像もできないような怖い表情。 クラスメイトの表情が恐怖に歪む。 「お兄さんの恋人は、私なの!!」 夏美はクラスメイトを睨んだ。睨まれたクラスメイトは恐怖に震えるだけ。 突然の事態に教室は静まり返ったまま。 「な、夏美」 私は恐る恐る声をかけた。 「そ、その、離してあげたら」 私の言葉に夏美は我に返ったように手を離した。 解放されたクラスメイトは床にへたり込んだ。そのまま震えながら脅えたように後ずさる。みっともない姿とは思わなかった。 それぐらい夏美が怖かった。 夏美は泣きそうな顔で立ち尽くす。 誰も何も言わない。恐怖に凍りついたまま。 夏美は走って教室を出て行った。 誰も追わなかった。 私も追えなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 頭の中がぐちゃぐちゃのまま私は走った。 (確かにね。夏美よりお似合いじゃないの) クラスメイトの言葉が脳裏に何度も木霊する。 違う。 絶対に違う。 お兄さんの恋人は私。 568 三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/07/21(水) 22 34 43 ID fkbJ2FCv ハル先輩じゃない。 私なの。 「夏美ちゃん」 聞き覚えのある柔らかい声が耳に届く。 思わず立ち止まる。 「廊下を走っちゃダメだよ」 ハル先輩が私を見て眉をひそめる。 「どうしたの。何かあったの」 「…何でもないです」 私はそう言ってハル先輩から離れようとした。 今はハル先輩と話したくなかった。 それなのに、ハル先輩は私の腕を掴む。 「嘘でしょ。何があったのかな」 白くて綺麗な手が私の手を離さない。 温かくて柔らかい感触。 ずっとハル先輩はこの手でお兄さんに触れていたんだ。 「離してください!!」 気がつけば私はハル先輩の手を乱暴に振り払っていた。 「夏美ちゃん」 哀れむような視線を向けるハル先輩。 その視線に我に返る。 私、何をやっているんだろう。 「ご、ごめんなさい」 「夏美ちゃん。ついて来て」 そう言ってハル先輩は歩きだした。 「どこに行くのですか」 「生徒会準備室。お話しようよ」 生徒会準備室に入り椅子に座る私とハル先輩。 前に来たのはそれほど昔じゃないはずなのに、久しぶりに感じる。 でも懐かしくは感じない。 「夏美ちゃん。どうしたの。何があったのかな」 ハル先輩の問いかけに、何も答えられない。 何て言えばいいの。 ハル先輩はお兄さんと付き合っているのですか、なんて聞けない。 「もしかしたら、梓ちゃんの事かな?」 予想外の事に面食らう。 梓?お兄さんと何かあったの? 「梓とお兄さんに何かあったのですか?」 「うんうん、何かあったのかなと思って」 不思議そうに私を見るハル先輩。 どういう事だろう。 「何でお兄さんと梓の間に何かあるなんて思ったのですか」 胸がざわつく。 梓とお兄さんは血のつながった兄妹なのに。 「…本気で言ってるの?」 ハル先輩は哀れむように私を見つめた。 その視線が癇に障る。 「梓とお兄さんは兄妹です」 「兄妹だけど、梓ちゃんが幸一くんを好きなのは知っているでしょ?」 それは知っている。その事で梓と喧嘩した事もあった。 でも、今はもうそんな事は無い。私は梓のいる時にお兄さんの家にお邪魔する事はしない。梓の領域を侵すようなことはしない。 だからお兄さんのお見舞いに行かなかった。梓とお兄さんが二人でいられる空間に足を踏み入れなかった。 「二人は一緒に住んでいるでしょ。ご両親も共働きだし帰ってくるのが遅いから、二人っきりの時間も多いよ」 ハル先輩は何を言っているのだろう。 あの二人は兄妹だから、一緒に住んでいるのは当然だし、二人っきりでも何の問題ない。 問題ないはずなのに。 「好きな人と同じ屋根の下で何の問題もないと思うのかな?」 ハル先輩の言葉が胸に入り込む。 「梓ちゃん、すごく積極的になったよね。きっと他の人の目が無い時はもっと積極的だと思うよ」 569 三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/07/21(水) 22 35 50 ID fkbJ2FCv 積極的。 確かにそれはそうかもしれない。学校でもそう。お兄さんに抱きついたり、お弁当を持って行ったりしている。 人目のある学校であの調子なら、家で二人きりの時はどうなのだろう。 「もしかしたら、幸一くんを誘惑しているかもしれないよ」 誘惑。 梓が。 お兄さんを。 「梓ちゃん、美人だもんね。血のつながった妹でも、あんな綺麗な子に迫られたら断れるのかな」 確かに梓は美人だ。 艶のある綺麗な髪。眩しくて滑らかな白い肌。綺麗な唇。 ハル先輩みたいに大人の成熟した体じゃないけど、少女から大人の女性になろうとしている体は、花咲く前の蕾の様な可憐さ。整った顔はお人形のよう。 そしてお人形ではない瞳は強烈な意志を放っている。 一目しただけで忘れられない綺麗さ。 でも、何の問題があるの。 お兄さんと梓は血のつながった兄妹。 妹がいくら綺麗でも、お兄さんには関係ない。 「確かに幸一くんは立派だし、そんな趣味は無いよ。例え梓ちゃんが迫っても、幸一くんは断るよ。でもね、梓ちゃんがその気になれば幸一くんの意思なんて関係ないよ」 ハル先輩の言っている意味が分からない。 お兄さんの意思は関係ないって、いったいどういう事なのだろう。 「梓ちゃんの腕っ節は知っているでしょ?」 知っている。梓がお兄さんを投げ飛ばしたところを見た。 私は柔道に関しては何も知らないけど、梓はお兄さんよりはるかに強い事は見て分かった。 「梓ちゃんがその気になればね、無理矢理でもすることができるんだよ」 ハル先輩の言葉が胸を貫く。 「変な事言わないでください」 私の声はかすれていた。 ハル先輩の言う事に何も言わずに耳を傾けていた事に、今になって気がついた。 「もちろん私の考えすぎだと思うよ。ただね、いくつかおかしい事があるから気になっただけだよ」 「おかしなことって何ですか」 「幸一くんの体調不良、長引いたでしょ。幸一くんね、健康だし鍛えているから滅多に体調を崩さないんだよ。体調を崩してもすぐに治ってた。なのに今回は長引いた。何かあったのかと思ったけど、幸一くんは何も言わないし」 お兄さんの体調不良。 私も一回だけお見舞いに行った。 ハル先輩がいたあの日。 疲れ切ったお兄さんの寝顔。 「だから何かあったのかと思ったの。私の思いすごしだと思うけど」 私は唇をかみしめた。 「梓はそんなことしません。お兄さんを不幸にする事なんてしません」 梓だってお兄さんを好きなのだから。 好きな人に、そんな事をするはずない。 ハル先輩は私を見下ろした。瞳に哀れみの感情が浮かべて。 「夏美ちゃんは梓ちゃんの事を何も分かっていないね」 「私は梓の友達です」 「私は梓ちゃんのお姉ちゃんだよ」 私は言葉を失った。 確かに、一緒にいた時間だけならハル先輩の方がはるかに長い。 「梓ちゃんね、すごく執念深いよ。だって幸一くんをそばに縛り付けるためだけに何年間も嫌いなふりをしていたんだよ。幸一くんを好きなのに、それを隠して。どれだけ大変か分かるのかな?」 ハル先輩は笑った。乾いた笑い。 「それだけの事をしてきたのは、幸一くんを誰にも渡したくないからだよ。それなのに今更になって幸一くんを諦められると思うの?」 お兄さんを諦める。 お兄さんの隣に自分以外の女の子がいるのを見る。 お兄さんと他の女の子が抱き合っているのを見る。 そんな事、私にはできない。 でも、だからってお兄さんを不幸にするようなこともできない。 私だったら、迷って結局何もできないと思う。 でも、梓は、梓なら、どうするのだろう。 いえ、どうしたのだろう。 「私の思いすごしだと思うけどね」 そう言ってハル先輩は肩をすくめた。 分からない。何が本当なのか。どうすればいいのか。 お兄さんを信じていいのか、それすらも。 570 三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/07/21(水) 22 36 53 ID fkbJ2FCv 昼休みでごった返す廊下で、人々の視線が僕達に集中する。 そんな事を気にせずに僕の手を引っ張る梓。 はっきり言って恥ずかしい。 でも、手を離してと言っても梓は笑うだけ。 嬉しそうな梓を見ていると、強くは言えなかった。 梓が進むにつれて人が少なくなる。階段を上り、屋上の扉をくぐる。 強風が梓の長い髪の毛を揺らす。強い日差しが降り注ぐ。 誰もいない。目も覚めるような雲ひとつない蒼穹。 もうそろそろ衣替えの季節だ。 僕と梓はベンチに座った。 「兄さん。これ」 梓は僕にお弁当を差し出した。 今日の朝、梓は僕にお弁当を渡さなかった。梓の教室に向かった目的の一つはお弁当を受け取ることだった。 お弁当を受け取り蓋をあける。炊き込みご飯にかぼちゃの煮つけ、ほうれん草のおひたし、魚の塩焼き、うさぎの林檎。 丁寧に作られているのが一目で分かる。病み上がりを考慮した、ビタミンたっぷりのお弁当。 「頂きます」 お弁当を口にする。おいしい。 「どう?」 「…おいしい」 「良かった」 梓は微笑んだ。柔らかい笑み。 二人で黙々とお弁当を食べる。梓は微笑みながら僕を見ていた。 幸せそうな柔らかい笑み。梓がこんな笑顔をするのを久しぶりに見た気がする。 思えば、体調を崩している時は本当にお世話になった。 今度、何かお礼しないと。 そんな事を考えているうちに食べ終え、お弁当に蓋をする。 「ごちそうさま」 僕は梓を見た。大切なのはこれからだ。 梓は、僕に何の用なのだろうか。 わざわざお昼休みに呼びつけるぐらいだ。 急を要する用事なのだろうか。 あるいは、人目を避けて離したい用事なのだろうか。 「梓」 「なに?」 でも、微笑みながら僕を見る梓を見ていると、そんな用事があるとは思えない。 「僕に話って何?」 「何の事?」 梓の言葉に耳を疑った。そんな僕を不思議そうに見る梓。 「僕に話があるって言わなかった?」 梓は不機嫌そうな表情を浮かべた。 「用事が無いとお昼を一緒にしちゃいけないの」 その様子に全てを理解した。 梓は僕に用事なんてない。ただ単に、僕と夏美ちゃんが一緒にいるのが気にくわなかっただけ。 それだけの理由で僕に話があると嘘をついて、僕と夏美ちゃんを引き離した。 泣きそうな表情の夏美ちゃんが脳裏に浮かぶ。 お昼の時間はまだある。僕は立ち上がった。 「お弁当、ありがとう」 「どこに行くの」 「夏美ちゃんのもとに」 歩こうとする僕の袖を梓が掴む。 「離して」 「離さない」 僕の袖を掴む梓のほっそりとした白い手を僕は掴んだ。引き離そうとしたら、もう片方の梓の手が重ねられる。 手首の関節が軋む音が聞こえた。 「夏美のもとに行かせない」 さらに手首の関節が軋む。激痛が走る。 振りほどこうにも、腕が動かない。 「私を置いて夏美のもとに行くなら、兄さんの両手両足をへし折る」 手首に走る痛みが全身を駆け巡る。 額に汗が浮かぶ。決して暑さのせいではない。 571 三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/07/21(水) 22 38 49 ID fkbJ2FCv 「そうすれば兄さんはどこにも行けない。私の傍から離れられない」 梓の視線が僕を射抜く。黒い水晶のような瞳が僕には理解できない奇妙な光を湛えている。 恐怖と痛みに、背筋が凍る。 「私ね、兄さんが体調不良で寝込んでいる時ね、幸せだった」 梓の白い手が僕の頬に触れる。 人の手とは思えない、焼けるような熱さ。 「兄さんの傍にいられたから。兄さんを一人占め出来たから」 言えない。夏美ちゃんと春子がお見舞いに来てくれた事を。 特に春子は毎日のように来てくれた事を。 もし梓が知ったら。 「もし夏美や春子が来たら、両足をへし折ってでも来られないようにするつもりだった」 僕の考えを読んだかのような梓の言葉。 恐怖に震えそうになるのを必死にこらえる。 まさか、知っているのか。 「兄さん。座って」 梓に手をひかれるまま僕はベンチに座った。 僕にもたれかかる梓。背中に梓の腕が回される。 「誰にも兄さんを渡さない」 僕に抱きついたまま梓は囁く。 「愛している」 僕は何も言えなかった。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/55syota/pages/101.html
554 :ふたごえっち前編:2005/09/20(火) 18 11 30 ID pqiw1ENv 『最終コーナーを曲がって……今ゴール!1等は3組の間宮逸樹君!』 や、やった。相手が陸上部だから分が悪かったけど。 中学初の運動会だからやる気も出るってもんだ。 「すげーな間宮!ちっさいのによくがんばった」 クラスメートの岡本がオレの肩を叩いて言った。ちっさいは余計だが、賞賛として受け取っておく。 「おい、あれお前の兄弟だろ?似てるよなぁ」 岡本が指差す先を見ると、ミツキがなんとも頼りなげにスタート位置に立っていた。 あいつ足が遅いのに走る競技に出たのか。競技はスウェーデンリレーね。人数合わせだろうな。 ピストルが鳴る。 あーあー、いきなり出遅れ。50mも走ってないのにスピード落ちてくる。次の走者にバトンを渡した頃には、ほかの組とかなり差が開いていた。 結局、このレースはミツキの4組が最下位に終わった。全部がミツキのせいではないと思うけど、あいつまた落ち込むだろうなぁ。 家に帰ると、案の定ミツキは机に突っ伏してふさぎこんでいた。 「はぁ…クラスの子にイツキのほうが4組だったらよかったのにって言われちゃった」 「言わせとけよ。あの程度の差を挽回できないほうも悪い」 「何で双子なのにボクだけとろいのかなぁ」 「ミツキは勉強できるけどオレはだめじゃん。バランス取れてるよ」 「ボクらが一人だったら、完璧だったのかな……」 「…………」 オレは椅子に座ったミツキの背中にそっと抱きついた。 「ミツキがいてくれないと、寂しいよ」 「イツキ……」 555 :ふたごえっち前編:2005/09/20(火) 18 12 10 ID pqiw1ENv 「んっ、んっ」 小鳥がついばむように、ミツキは軽いキスを繰り返す。なんだかもどかしくて、自分からミツキの唇に吸い付いた。 ミツキの熱い舌がオレの口の中に入ってくる。まるで別の生き物みたいに、オレの舌や歯茎に唾液を擦り付け、あるいは唾液をなめ取っていく。 口を離すと、舌と舌の間に別れを惜しむようにつうっと糸が引いた。 もっとキスしたいのに、と目で訴えかけると、ミツキは口をもごもごさせてから再び唇を重ねてきた。 ミツキの舌を伝い、たっぷりの唾液が流れ込んでくる。口の中に広がるそれは、蜂蜜のように甘く感じられた。 お返しに、オレも唾をためてからミツキの口に注ぎ込む。それからまた、舌と舌のダンス。 ものすごくエッチなことをしている気がして、キスだけでチンコがビンビンになってしまった。 濃厚なキスを交わしている間、ミツキはオレのシャツのボタンをゆっくり外していった。 「イツキ、いいにおい……」 はだけたシャツの隙間にミツキが頭を突っ込んでくる。 「あんっ」 乳首を舐められた。ぞくぞくっと身体に電気が走るような感触。 片方の乳首をしゃぶられ、もう片方は指でこりこりとこね回される。 うはぁ、これいいっ。 ミツキの舌がおっぱいだけでなく、そこらじゅうを這い回りだす。 「イツキの汗の味がする」 「あ、帰ってきたばかりだから……砂埃もついてるし、汚いよ」 「運動会でがんばった証だね。いっぱいぺろぺろしたら、ボクも運動神経よくなるかも」 「爪の垢じゃないんだから……ふぅんっ」 思わず身をよじる。わきは弱いのにっ。 ミツキの舌攻めは、首筋からお腹にいたるまで余すところなく続けられた。 オレの胸やお腹をすっかりべちょべちょにしたミツキは、今度はオレのズボンに手をかける。 ようやく外気に触れたオレのチンコは、湯気を立たせそうなほどに火照っていた。 「ここのお味はいかがかな♪」 愉しげに言って、ミツキはチンコに口を近づける。 「ひゃふっ!」 あ、あ、にゅるんってチンコが、なにこれぇっ! クチュクチュとチンコが口の中でもてあそばれる。舌が先っちょに潜り込むんじゃないかってくらいグニグニされたり、カリのところをじわじわとなぞられたり。 ううっ、ミツキの口、すげー気持ちいいっ! 上目づかいで俺を見上げるミツキと目が合う。ミツキの口からてらてらと濡れたチンコがはみ出していた。 その光景を見ただけで、さらに股間に血が集まる。 「ちょ、ちょっとタイムっ」 「んふ?」 ちゅぽん、とチンコから口が離れる。 「お、オレもミツキのチンコ舐めたい。されっぱなしじゃ、ヤダ」 「それじゃあ……」 556 :ふたごえっち前編:2005/09/20(火) 18 12 59 ID pqiw1ENv 素っ裸で仰向けに寝転がったオレの上に、ミツキがオレのチンコの方に頭を向けて覆いかぶさってくる。 「身体のサイズ同じだから、ぴったりだね」 ミツキが言う。たしかに、ちょうどお互いのチンコがお互いの頭の位置にあった。 目の前でぴくぴくしているミツキのチンコに手を添えて、ドキドキしながら口に含んだ。 しょっぱいような味とともに、濃密なミツキの匂いが口いっぱいに広がる。 「んん……」 首を伸ばして、入るだけチンコを飲みこんでみる。舌の上をチンコがぬるぬると滑っていく。 「ふあああああ、イツキのお口、いいよぉ」 ミツキが喜んでくれてる……うれしいな。 アイスキャンデーをしゃぶるみたいにチンコを出し入れしていると、ミツキもオレのチンコに唇をつけてきた。 ミツキは亀頭だけを唇でちゅぷちゅぷちゅぷと小刻みに激しくしごいてくる。唇の裏がカリのところでチュルンとこすれる度に、強い刺激が身体を駆け巡る。 「ふふっ、ほらイッちゃえ」 ミツキは口だけでなく、指でチンコをこすり上げてきた。 「はぁ、はぁ、ミツキの方がやばいんじゃない?」 よくわからない対抗心を燃やしたオレは、もっとミツキに快感を与えてやることにした。亀頭から根元までを舌でぺろぺろと舐めながら、先端を指でくにゅくにゅとしてやる。ミツキのチンコはとめどなく先走り汁をあふれさせている。 さらに、タマタマも口に含んでコロコロと舌で揉みほぐす。この中にミツキの精子がいっぱい詰まってるんだと思うととても愛おしい。 二人の息づかいとエッチな水音だけが部屋に響いている。 「はっ、はっ、はっ、これでどうだ」 ミツキのチンコをほおばり、舌でぐるぐると亀頭の周りを舐めまわす。両手はミツキのやわらかいおしりを揉みしだく。 「んはぁっ、こ、こっちだって」 「や、やぁぁぁぁっ!」 おしりの穴に、指がっ!ぐにぐにって!やっ、こんな奥まで! ミツキの指がオレのおしりの中で動いてるっ! 「やんっ、んあっ、ひゃぅぅぅぅっ!」 こちょこちょとおしりの中をくすぐられたり、指がねじられたり。おしりが熱いよぉ。 身体の中に納まりきらない快感、口の中のチンコにぶつけるように舌を動かす。 「んんーっ、んーっ!」 「ふーっ!ふぅんーっ!」 頭の中ボーっとする。もう、ミツキのチンコしゃぶる以外何もできない。 ミツキのチンコが口の中で暴れまわり、時にはのどの方まで突っ込まれる。 おしりの中はぐりゅぐりゅ、チンコはちゅぷちゅぷ。気持ちよすぎるっ! もう、だめっ! どくどくどくっ、とオレは精液をミツキの口の中にぶちまける。それとほぼ同時に、オレの口の中でびゅるびゅると熱い塊が弾けた。 ミツキの精子をこくんと飲み込む。なんだかミツキがオレの体の一部になったような気がした。 -後編へ
https://w.atwiki.jp/jyakiganmatome/pages/730.html
5.闘劇の箱庭 前編 『 あなた、だあれ? 』 「…ボクは……えっと………」 『まだハッキリしない? 誰であろうと、私はいいんだけどね』 "自分と同じ"金髪の、成人女性くらいの大きさのモノ それが自分に話しかけてきている よくわからない 自分に名前はある 徐々に思い出してきた 「フラー…テル……」 ゴトッ 「っ!?」 「うるさいなー… どうしたの?フラン」 ベッドから落ちていたフラーテルは、ソロンの声もあったので起き上がる 「変な夢見てたの……」 内容は思い出せないが、夢とはそういうものだ 深く考えずにベッドの上に戻る 「今日は何もないんだ 本でも読もうよ」 義務教育を受けなかったにも関わらず、字を読み書きできるソロンはフラーテルに本を読んであげることが楽しみであった 妹一人では読めない字も、自分なら読める 戦いの面では負けている兄だが、そういう面では全てが上であった 「うん……」 小さく頷き、本を持って兄であるソロンのベッドへ向かう フラーテルも本を読んでもらうのが好きだ。 しかし、頭には他のことが浮かんでいた ―――私のほんの少しのお仕事なの あなたがいるとね 困るの――― やはり、魔女の言っていたことは気になる 明日 つまり今日は箱庭に来るなと言われた 「友達には……なれないのかな………」 「…フラン?」 思っていたことが口に出てしまい、ソロンが心配そうな顔をする 「最近フラン… 夜に部屋を空ける時間が増えたけど… それはいいんだ ただ、何かあるなら僕に相談してよ」 内心感謝しながら、フラーテルは"なんでもない" という風に首を横に振った 自分が今日まで自分でいれたのは、兄の存在があったから 改めて そう思った まだ自我もハッキリと形成されているわけでもない が、他の誰よりも 兄には人間らしさがある とは言っても"人間らしい"という基準が研究員だったり、本の登場人物だったりするが… ―――魔女も、他の人とは違う何かがある 彼女の全てを知ったわけではないけれど とにかく、夜にならなければ何もわからない フラーテルは兄のベッドで本を開いた ――――――――…… ――――――…… ――――…… 「何人目だったか 六… いや、七人目だ 今日で」 部屋の中、自分で自分の質問に答える 短刀「八紘錦」を丁寧に懐にしまいながら 私は言った 廻るように浮かんでくる 約束の会話 本当に信じてもよいのか いや、信じるしか選択は残されていない ……唯一自由な実験体。 これほどまでに滑稽だとは 何が私を自由にしてくれるというのだ いや もう、夜だ あの時だけは 私が自由になれる 今夜も闘劇が始まるんだ