約 1,479,065 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3177.html
関連:お姉さんシリーズ、教科書文通シリーズ 「ちょっと、みくるちゃん聞いてよ!! キョンったら……!!」 ばぁん! と言うすごい音を立てて涼宮さんが文芸部部室入ってきたのは、あたしがいつものメイド服に着替えようと北高指定のセーラー服のすそにクロスした手をかけた時でした。扉を開けたのがキョンくんや古泉君でなくて良かった。 まぁ、紳士なお2人は入室する際には必ずノックをしてくださるのであまり心配していないのですが。 いえ、そんなことより涼宮さんです。入ったときの口調からしてきっと眉間に皺を寄せ、あの大きな目をキッと鋭くさせているのだろうと思っていたのですが、そうではないのです。あたしの前で、ご自分より身長の低いあたしを体を屈めてまで上目遣いで見上げる彼女の瞳は涙で潤み、桃色の唇がふるふると凍えるように震えていて、女のあたしでも思わず可愛い!と抱きしめてしまいそうなのです。 キョンくんあなた、こんな涼宮さんに何をしたんですか! ことと次第によっては先輩、容赦しませんよ! 「ふぇ!? ど、どうされたんですか? 涼宮さん」 「キョンが……、キョンが……。」 ……とうとう泣き出してしまった涼宮さんの背中を撫でながら、あたしはゆっくりとひっくと肩を揺らす涼宮さんに声をかけます。 「どうされたんですか? キョンくんに、何か酷いことでもされたんですかぁ?」 「違うの、何もされてない……。 ただ……」 「ただ?」 「怒られちゃったのよ……。 すごく夜景が綺麗に見える場所を見つけたから、あたし、キョンにも見せてあげたくて……。その場所を見つけたときの話をしたの。 そしたら……。 『バカ野郎!! お前そんな時間に1人でそんな所うろついてたのか!?』 って、怒鳴られちゃって……。 今まで結構きつく言われたことはあったけど、あそこまで怒鳴られたことなくて、何でキョンが怒ってるのかも解からなくて……。 びっくりして逃げてきちゃったの……。 ねぇ! みくるちゃん! あたし、どうしたらいい?何でキョンはあんなに怒ったっちゃたのかしら……。 ねぇ、どうしたら許してくれると思う?」 そう言って、肩を落とす涼宮さんは泣いたことで少し落ち着いたのでしょう、 ゴメンね、みくるちゃん。 いきなり泣きついちゃって。 と、ほんの少し、笑って見せてくれました。 しかし、その目許は赤く染まったままです。 キョンくん、気持ちは分からなくもないですが、もう少し、方法ってものがあるんじゃないでしょうか? でも、涼宮さんも涼宮さんですね。 お姉さん、ちょっと意地悪しなきゃいけないかもしれません。 「涼宮さん。 あたしもその綺麗な夜景、見てみたいです。 教えてもらっていいですか? 星空の下のお散歩にちょうどいいかもしれません。」 「ええっ!? だめ! だめよ!」 椅子に座ったままのあたしの膝に頭を預けるようにしゃがみこんだ涼宮さんのつやつやした真っ黒な髪を撫でながら尋ねると、涼宮さんは今までなすがままに撫でられていた頭をパッと上げてあたしの目をじっと見てから懇願するように声を荒らげました。 うふ、計画通りです。 「やっぱり、涼宮さんだけの秘密ですか? あ、キョンくんにも教えようとしたのなら二人だけの秘密ですね、うふふ。」 「違うわ! みくるちゃん、あのね、そこ、結構治安悪い場所を通らないといけないし、雑木林抜けた先にあって足元暗くて危ないし、怪我しちゃうかもしれないからダメ! 絶対ダメ!」 「でも、それは涼宮さんもでしょう?」 「え?」 ちょっとおどろいた様子の涼宮さん。 これも計画通りです。 あと、もう一押しですね。 「そんな、治安が悪くて、足元の悪い場所に夜景が見えるような時間に出かけたんでしょう?涼宮さんが大丈夫なら、あたしも大丈夫ですよ。 ね、教えてください。」 「だめだめ! みくるちゃん、可愛いもの! 絶対危ない目に会うわ! それに、みくるちゃんに怪我なんかされたら、あたし……!」 「あたしのこと、心配してくださるんですか?」 「当たり前じゃない! あたしはね、みくるちゃんが大好きなの! 大好きなみくるちゃんを危ない所になんかにやれないわ!みくるちゃんだけじゃないわ! 有希にもあんな危ない道、一人でなんか歩かせないんだから!」 「キョンくんも、きっとそんな風に思ったんじゃないでしょうか。」 「……!」 あたしの言葉に、ぱちくりと目を見開く涼宮さん。 うふふ。 可愛いですねぇ。 これだからキョンくんも怒鳴りつけちゃうほど心配になっちゃうわけです。 「大切な人がたった一人で危ない所に夜遅くで歩くなんて、話に聞くだけで心配で心配で仕方ありませんよね。 大好きな人なら、尚更。それこそ、声を荒らげちゃうくらいに。 涼宮さんもさっき私や長門さんを心配してくださったでしょう?」 だから、ね、キョンくんに謝りに行きましょう? と、あたしが肩を撫でる様に叩くと涼宮さんは、ゆっくりと、ふらふらとした様子で立ち上がりました。あらあら、耳までうっすら赤く染めちゃって。 本当に可愛らしいですねぇ。 「……キョンに、謝ってくるわ……。」 いってらっしゃい。 お姉さん、意地悪した甲斐がありました。 ハルヒ編 END
https://w.atwiki.jp/talesofdic/pages/21104.html
しゃっきりねえさん 概要 レジェンディアに登場した称号。 登場作品 + 目次 レジェンディア 関連リンク レジェンディア グリューネの称号。 取得者 グリューネ 取得条件 ボーナス ▲ 関連リンク
https://w.atwiki.jp/wiki11_kazino/pages/77.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3054.html
関連:お姉さんシリーズ、教科書文通シリーズ 「ちょっと、みくるちゃん聞いてよ!! キョンったら……!!」 ばぁん! と言うすごい音を立てて涼宮さんが文芸部部室入ってきたのは、あたしがいつものメイド服に着替えようと北高指定のセーラー服のすそにクロスした手をかけた時でした。扉を開けたのがキョンくんや古泉君でなくて良かった。 まぁ、紳士なお2人は入室する際には必ずノックをしてくださるのであまり心配していないのですが。 いえ、そんなことより涼宮さんです。入ったときの口調からしてきっと眉間に皺を寄せ、あの大きな目をキッと鋭くさせているのだろうと思っていたのですが、そうではないのです。あたしの前で、ご自分より身長の低いあたしを体を屈めてまで上目遣いで見上げる彼女の瞳は涙で潤み、桃色の唇がふるふると凍えるように震えていて、女のあたしでも思わず可愛い!と抱きしめてしまいそうなのです。 キョンくんあなた、こんな涼宮さんに何をしたんですか! ことと次第によっては先輩、容赦しませんよ! 「ふぇ!? ど、どうされたんですか? 涼宮さん」 「キョンが……、キョンが……。」 ……とうとう泣き出してしまった涼宮さんの背中を撫でながら、あたしはゆっくりとひっくと肩を揺らす涼宮さんに声をかけます。 「どうされたんですか? キョンくんに、何か酷いことでもされたんですかぁ?」 「違うの、何もされてない……。 ただ……」 「ただ?」 「怒られちゃったのよ……。 すごく夜景が綺麗に見える場所を見つけたから、あたし、キョンにも見せてあげたくて……。その場所を見つけたときの話をしたの。 そしたら……。 『バカ野郎!! お前そんな時間に1人でそんな所うろついてたのか!?』 って、怒鳴られちゃって……。 今まで結構きつく言われたことはあったけど、あそこまで怒鳴られたことなくて、何でキョンが怒ってるのかも解からなくて……。 びっくりして逃げてきちゃったの……。 ねぇ! みくるちゃん! あたし、どうしたらいい?何でキョンはあんなに怒ったっちゃたのかしら……。 ねぇ、どうしたら許してくれると思う?」 そう言って、肩を落とす涼宮さんは泣いたことで少し落ち着いたのでしょう、 ゴメンね、みくるちゃん。 いきなり泣きついちゃって。 と、ほんの少し、笑って見せてくれました。 しかし、その目許は赤く染まったままです。 キョンくん、気持ちは分からなくもないですが、もう少し、方法ってものがあるんじゃないでしょうか? でも、涼宮さんも涼宮さんですね。 お姉さん、ちょっと意地悪しなきゃいけないかもしれません。 「涼宮さん。 あたしもその綺麗な夜景、見てみたいです。 教えてもらっていいですか? 星空の下のお散歩にちょうどいいかもしれません。」 「ええっ!? だめ! だめよ!」 椅子に座ったままのあたしの膝に頭を預けるようにしゃがみこんだ涼宮さんのつやつやした真っ黒な髪を撫でながら尋ねると、涼宮さんは今までなすがままに撫でられていた頭をパッと上げてあたしの目をじっと見てから懇願するように声を荒らげました。 うふ、計画通りです。 「やっぱり、涼宮さんだけの秘密ですか? あ、キョンくんにも教えようとしたのなら二人だけの秘密ですね、うふふ。」 「違うわ! みくるちゃん、あのね、そこ、結構治安悪い場所を通らないといけないし、雑木林抜けた先にあって足元暗くて危ないし、怪我しちゃうかもしれないからダメ! 絶対ダメ!」 「でも、それは涼宮さんもでしょう?」 「え?」 ちょっとおどろいた様子の涼宮さん。 これも計画通りです。 あと、もう一押しですね。 「そんな、治安が悪くて、足元の悪い場所に夜景が見えるような時間に出かけたんでしょう?涼宮さんが大丈夫なら、あたしも大丈夫ですよ。 ね、教えてください。」 「だめだめ! みくるちゃん、可愛いもの! 絶対危ない目に会うわ! それに、みくるちゃんに怪我なんかされたら、あたし……!」 「あたしのこと、心配してくださるんですか?」 「当たり前じゃない! あたしはね、みくるちゃんが大好きなの! 大好きなみくるちゃんを危ない所になんかにやれないわ!みくるちゃんだけじゃないわ! 有希にもあんな危ない道、一人でなんか歩かせないんだから!」 「キョンくんも、きっとそんな風に思ったんじゃないでしょうか。」 「……!」 あたしの言葉に、ぱちくりと目を見開く涼宮さん。 うふふ。 可愛いですねぇ。 これだからキョンくんも怒鳴りつけちゃうほど心配になっちゃうわけです。 「大切な人がたった一人で危ない所に夜遅くで歩くなんて、話に聞くだけで心配で心配で仕方ありませんよね。 大好きな人なら、尚更。それこそ、声を荒らげちゃうくらいに。 涼宮さんもさっき私や長門さんを心配してくださったでしょう?」 だから、ね、キョンくんに謝りに行きましょう? と、あたしが肩を撫でる様に叩くと涼宮さんは、ゆっくりと、ふらふらとした様子で立ち上がりました。あらあら、耳までうっすら赤く染めちゃって。 本当に可愛らしいですねぇ。 「……キョンに、謝ってくるわ……。」 いってらっしゃい。 お姉さん、意地悪した甲斐がありました。 ハルヒ編 END
https://w.atwiki.jp/wakan-momomikan/pages/4568.html
いい姉さん│和(武州)│獣部│ http //wakanmomomikan.yu-nagi.com/momomi3/maki-4416.htm
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1495.html
(前から) 翌朝、冷蔵庫の前でしゃがんでいた娘は、記憶にないボウルを寝ぼけ眼で見つめていた。 しばらくの間、片手で扉を押さえたままで冷気を無駄に放出させていたが、やがて得心し たように頷いてボウルを取り出した。ぴっちりラップされた琺瑯引きのボウルにはオレン ジ色の液体が入っており、確かにそれは娘が冷蔵庫に入れた、れいむ治療中のオレンジ ジュースだった。 かぶるほどのオレンジジュースはいつの間にかひたひた程度になって、髪の毛が気持ち 悪く液面にゆらゆらと広がっている。娘はとりあえず扉を閉めて、ボウルのラップを剥が し、袖を肘までまくってオレンジ色の液をまさぐってみた。菜箸やお玉で引き上げる事も 考えてはみたが、れいむはおまんじゅうである。固い物ではぐずぐずになった皮から崩れ てしまうかもしれない。そして、それは娘の本意ではなかった。仕方なく、冷たくても手 を入れることを選択したのである。予想以上のオレンジ液の冷たさに顔をひきつらせ、娘 はれいむにそっと触れてみた。冷たくぷるっとした感触に小さく声を上げ、反射的に手を 引く娘。気味が悪くなったのか、落とさないように菜箸で押さえ、ボウルを傾けてジュー スを流しにこぼす。ボウルの底にでっぷりしている中身に、娘は我と我が目を疑った。 「わぉ」 ボウルの底で白目を剥いて硬直していたれいむの皮は、見事なまでに原色のオレンジ ジュース色に染まり、そればかりかもみあげと後ろの赤いリボンも、毒々しいオレンジ色 に変色していた。きっと中身はオレンジ餡のようなでたらめな味になっているに違いない。 電子鍼の激痛で気絶した後、オレンジジュースに漬けられて復活したれいむだが、ぴっち りラップで逃れることができずに、そのまま冷やされ続け、娘が忘れている間に冷蔵庫の 寒さで冬眠状態になっていたのである。 ジュース漬けのれいむをそのまま戻しては、箱の中も他のゆっくりもべとべとになって しまう。崩さないように蛇口のお湯で表面のジュースをそっと流し、一応髪の毛とリボン も軽く揉み洗い。べたつきのとれたれいむをキッチンペーパーで水気を取ると、娘は小皿 で観察することにした。れいむの皮はオレンジジュースの効用か、ゼリーのようにもっち りぷるんぷるんになっていた。穴だらけだった底も今や傷跡ひとつなく、娘の指をもっち りした弾力で押し返すほどになっていた。しばらく娘が頬や底をぶにぶに押して弾力を楽 しんでいると、オレンジレイムはぶるん、ぶるぶるん、と身じろぎをして、白目を剥いて いた目がぐりんっと通常目に戻った。 「ゆっくりしていってね!」 開口一番、元気な声で誰にともなく挨拶するオレンジレイム。お湯で洗われ、常温に置 かれたことで冬眠から目覚めたのであろう。きょときょととキッチンを見回していたが、 娘と目があった瞬間、下膨れの顔を恐怖で引きつらせた。 「ゆ……ゆっくりしてね……?」 「おはようれいむ。ゆっくり反省できたかしら」 「ゆ゙っ、ゆ゙っ……いたくて、さぶくて、ゆっくりできなかったよ……」 「それはよかったわ」 透明な箱の中、子ゆっくりたちはゆっくりモーニングの挨拶を交わしたり、隣のゆっく りとおはようのすりすりをしたり、めいめいにゆっくりしていた。娘はオレンジレイムの 黒いままの髪を撫でると、手の平にのせて透明な箱に戻す。とってもゆっくりできないお しおきを受けたれいむが戻ってきたというのに、子ゆっくりは異様な物を見る顔で遠巻き に見つめるばかりで、近寄ろうともしない。オレンジレイムはぷるん、と震え、お仕置き を受ける前と同じ元気な声をあげた。 「れいむがかえってきたよ! ゆっくりしていってね!」 「わからないよー、れいむがゆっくりできないよー?」 「へんないろのれいむはとかいはじゃないわ!」 「ゆっ、ゆっ?!」 ゆっくりできない返事に、オレンジレイムは不思議そうに全身を傾ける。まず、目に見 えて色がおかしい。飾りもれいむの色ではない。いくら同じ群であっても、家族でもない 子ゆっくりには、それはゆっくりできない異分子にしか見えなかった。 「どぼじでそんなこというのおおお!」 オレンジレイムは自分がどれほどゆっくりできない色になっていることなど知るよしもな い。そのため、突然仲間に爪弾きにされたとしか思えなかった。電気ショックで都合の悪 い記憶も飛んだのか、あろうことか自分を散々におしおきした虐待お姉さんに泣きついた。 「おでえざん゙ん゙! みんながでいぶにいじわるするよ!」 「あらあら、困ったわね。お姉さんは前にも、仲良くできない子は全員お仕置きします、 って言いました。そんなにみんなお仕置きされたいの?」 気持ち悪いオレンジ色の涙を流して泣き叫ぶオレンジレイムと困り顔の子ゆっくりを眺 め、娘はこみ上げてくる笑いをかみ殺し、頬に手を当てて悲しそうな顔を作る。子ゆっく りにしては、たまったものではない。お約束を破ってお仕置きされ、帰ってきたときには ゆっくりできない風体になっていたれいむとゆっくりしなければ、全員お仕置きされてし まうなんて。子ゆっくりたちも泣きそうな顔になって、互いに顔を見合わせるばかり。 しかし、飾りが損傷したり、ゆっくりできないとされるゆっくりは、他のゆっくりでき ないゆっくりとでも変わりなくゆっくりすることができた。煙突まりさがその頬にすりす りすると、ゆんゆん泣いていたれいむもぷるぷると頬ずりを返した。オレンジジュースの 甘い匂いに釣られ、目無しちぇんも、のそのそと這い寄っていく。ゆっくりさせてくれる 仲間がいると、泣き顔だったれいむもようやく元気を取り戻した。 「れいむもゆっくりしていってね!」 「わかるよー、ゆっくりできるにおいなんだねー」 「ゆっくりするよ! ゆっくりするよ!」 ゆっくりできないゆっくりだけでゆっくりしてくれれば、普通のゆっくりである自分た ちは気にせずゆっくりできる。群の中にもう一つ、別の群ができるようなもの。そのこと に気付いた子ゆっくりたちは、一様にゆっくりした顔を見せた。しかし、それが面白くな いゆっくりもいた。一匹のありすが憎々しげにオレンジレイムを睨み付け、ぷく~っと膨 れて威嚇を始める。 「むれにきもちわるいれいむがいるなんて、とかいはじゃないわ!」 「ぷんぷん! でいぶはゆっくりしているよ! きもちわるくないよ!」 「あきれたいなかものね! ほんもののれいむは、そんなきもちわるいいろをしてない わ!」 確かに他の紅白まんじゅうと人工着色料の染み込んだオレンジレイムとでは、どちらが ゆっくりしているかは言うまでもない。それでも、一緒にゆっくりしなくてはお仕置きが 待っている。他の子ゆっくりはお仕置きの恐怖を感じ取り、我を忘れて声を張り上げるあ りすからじりじりと離れていく。 「ありすはれいむと仲良くしたくないのね?」 「なにいってるの? おうちにこんなとかいはじゃないれいむがいたら、おねえさんも ゆっくりできないでしょ!」 ありすの不幸は、ゆっくりという存在が、自分たち以外も価値観を共通していると信じ て疑わないことにあった。しかし、それはありすを責めるべきことではない。その構造こ そがゆっくりであり、他者との差異を考慮するようなゆっくりは『ゆっくりしていない』 のだから。 「とかいははこんないなかものとゆっくりしたりしないわ!」 繰り返される都会派とやらに興味をおぼえた娘は、興奮のあまり他の子ゆっくりが逃げ てしまっていることにも気付いていないありすに呼びかけた。今からこのありすを虐待し よう。都会派とやらにコーディネートして楽しむのは、よくしゃべるありすを思う存分言 葉で弄んでからがいい。娘は予定調和へ向かって、慎重にありすを誘導し始めた。 「あなたの言う『とかいは』って一体どんな物なのかしら」 「とかいははとかいはよ! ゆっくりりかいしてね!」 ゆっくりすることに特化したゆっくりの言語体系には、様々な概念を一単語に包括させ た万能句がいくつか存在する。その代表例が『ゆっくり』であり、ありす種固有の表現、 『とかいは』である。ゆっへん、と自信たっぷりに返すありすに、娘は首を横に振った。 「それはおかしいわね。お姉さんは、人間さん。このあまあまは、ゆっくりのごはん。何 かを説明するのに、同じ言葉を繰り返しては説明にならないの、『とかいは』のありすな わかるでしょう。ありすはちょっと間違えただけよね。まさか自分の『とかいは』を説明 できない『とかいは』なんていないわね?」 まず自分を指さし、次に箱の脇に置いた袋を示す。その指先を追い、娘の言わんとする ことを理解したありすは、ゆっくりブレインを必死に回転させる。ゆっくりすることに長 けてはいても頭脳労働には不向きのゆっくりブレイン。高負荷に、ありすは砂糖水の汗を 浮かべ、口をぱくぱくさせ、視線も彷徨いはじめる。ありすの矢継ぎ早の百面相に、娘は 箱の縁に腕をかけ、笑顔でありすを見守っていた。特大の透明な箱にはセーター越しの特 大のお胸が押しつけられ、重たげにたわんでいる。 「そ、そうよ、ありすはうっかりしちゃっただけよ! それでね、とかいは……は……」 これはあまりにも酷な質問である。ゆっくりすることに特化しているゆっくりブレイン に、しかも子ゆっくりに論理的思考など不可能である。そのうえで大人げなく、娘は子あ りすを容赦なく追いつめていく。 「ほらほら、ありすは『とかいは』なんでしょう。みんなの前で泣きそうになって、おろ おろしているのが『とかいは』なのかしら。『とかいは』がそんなに恥ずかしいなんて。 お姉さん知らなかったわ」 「ちがうのおおお! とかいはは、とかいはは……ゆっくりよ!」 羞恥で茹で上がり、口をぱくぱくさせていたありすは、知りうる最も『とかいは』に近 しい単語を口にした。そもそも子ゆっくりに、ありす種の自己存在意義のようなものを証 明することなどできようはずもなかった。この返答は必然と言ってもいい。待っていた返 答に、娘は嬉しそうに頷いた。 「そう。『とかいは』が『ゆっくり』なら、ありすは自分より『ゆっくりしている』れい むが羨ましくて群から追い出そうとした、みんなと仲良くできない悪い子ね」 「ゆがああぁ! ありすがいちばんとかいはなのおぉ!」 娘の言葉に、ありすは顔を真っ赤にし、ばいんばいん跳ねて金切り声をあげる。『とかい は』も『ゆっくり』も、一語で様々な意味合いと用途を包括している単語だけに、意図的 に曲解されしまえばひとたまりもない。もとより語彙の少なく、しかもエキサイトしてい るありすは、既に這い上がることもできない墓穴を突貫工事で掘り下げ続ける。 「ということは、ありすは一番『ゆっくりしている』のね」 「ゆ゙っ!?」 「みんなと仲良くできなくて、お約束を破ってゆっくりしたありすはお仕置きです」 ひょいとありすをつまみ上げると、娘はにこにこ顔のままキッチンへ向かう。中身のカ スタードが漏れるかもしれない以上、かの女はありすへの虐待は水まわりで行うつもり だった。子ゆっくりたちは娘の後ろ姿を見つめることしかできなかった。 「おねえさんがありすをつれていったわ!」 「ゆっくりできないおねえさんみょん!」 「わかるよー、わるいこありすはおしおきされるんだねー」 「むきゅ、おねえさんはおやくそくをまもれば、あまあまをくれるにんげんさんね!」 「おねえさんのおうちはさむくないよ!」 「いぬさんもねこさんもとりさんもいないよ!」 「おねえさんがいないうちに、ゆっくりしないでゆっくりするよ!」 「「ゆっくりー!」」 逆さまにしたありすのカチューシャを外すと、重力に従って金色の髪がまっすぐに垂れ 下がる。娘はいくつかのコップの口にありすをあてがい、深くはまり込まない物を選び出 すと、改めてありすの髪にたっぷりの接着剤を含ませた。 「いなかくさいいい! とかいはのありすにはたえられないわああ!」 強烈な溶剤の臭気が鼻を突く。ゆっくりに鼻は無いが、臭いには敏感である。ありすは自 分の頭から漂ってくる異臭にただ苛まれるばかり。娘はありすの髪が固まらないうちに大 まかに形を整え、中程にカチューシャを貼り付けた。コップの口にのせれば、逆さまあり すはもう動けない。包丁片手に朗らかな笑顔の娘を見つめることしかできいのだ。 「おねえさん! そのぎらぎらさん、とかいはじゃないわ! ゆっくりやめてね!」 「だぁめ」 次第に近づいてくる、蛍光灯の明かりを照り返す銀色がありすの視界から消える。ぷつり、 と鋭い切っ先がありすのもっちりした頬に潜り込んだ。一拍遅れて、ありすは灼けるよう な激痛に金切り声をあげた。娘が包丁を引き抜くと、切れ込みに黄色いクリームが滲む。 「いぢゃいぃいい! なかみ! なかみでちゃう!」 「あら、カスタードが溢れそうね。すぐに直してあげる」 くすくす笑いながら、娘はありすの切り口を強く摘み、安全ピンで縫い止めた。切り開か れた頬をさらに針で貫かれ、砂糖水を目から口から垂れ流してありすは悲鳴をあげる。今 まで一度も感じたことのない苦痛と恐怖でゆっくりできないまま、ありすは溢れ出たカス タードで汚れた指を濡れ布巾で拭って包丁を握り直す娘を見つめることしかできなかった。 「ほっぺに穴があいちゃったわね。でも傷口は縫ったからすぐに直るわ」 「や゙べでね゙! ゆ゙っくりさせてね!」 激痛に暴れるありすに微笑みかけ、娘はありすの逆の頬を包丁の先でつつく。それの意 味に気付き、ありすは刺される前から激しい悲鳴をあげる。何のてらいもなく、つついて いた箇所に包丁を突き立て、切り口を安全ピンで縫い留める。唯一自由になる底をたわま せ、ありすは絶叫を張りあげる。いくら食べられる素材とはいえ、髪の毛が邪魔で普段の ありすであれば両頬くらいしか刺す場所は無い。しかし、今のありすは逆さまで無防備に あんよを晒し、髪の毛も全て垂らし、コップの口にぴったり置かれて身動きもとれない。 コップを少しずつ回しながら、娘はありすの皮を切り開いては引っ張った切り口を摘ん では潰し、安全ピンで綴じていく。その度にありすは悲痛な絶叫をあげ、全身全霊で娘を 楽しませた。コップが一周した頃にはありすの皮は醜く引きつれ、銀色の安全ピンが鈴な りに連なっていた。 「あはっ、とってもパンクになったわね」 「ありすはとかいはじゃないですう! いながもののいもむすめでいいですゔ! 」 「じゃあ、もう少し飾りましょうか」 「や゙べでぐだざ、ゆ゙ぎい゙い゙い゙!」 娘はカスタードまみれの包丁を流しに置くと、安全ピンの針先を涙に濡れたありすの頬 にあてがい、慎重に角度を確かめる。途切れることない激痛と恐怖に、歯を剥いて震える ありすの意識は、頬に潜り込んだ針が眼球を中から貫いた直後に闇に落ちた。 「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っ……」 洗った包丁を片づけると、娘は痙攣しはじめたありすをコップごと流しの隅に置き、た らたらとオレンジジュースを垂らした。明日にはジュースで切れ目も閉じ、逆立った髪も 接着剤で完全に固まっていることだろう。鏡を見せたらどんな悲鳴をあげるのだろう。そ のうえで散々罵ったれいむと対面させたら、どんな言い訳をするのだろう。散々に苦痛を 味わい、さらにありすを襲うであろう絶望に、娘は眠るありすを胸を高鳴らせて見つめて いた。 「だれかいないの! とかいはのありすをゆっくりたすけてね!」 「おはようありす。ゆっくり眠れた?」 「ここはゆっくりできないわ! おねえさんはちっともとかいはじゃないわね!」 翌朝、歯ブラシをくわえて様子を見に来た娘に、コップで逆さまになっていたありすが 不満の声を返す。オレンジジュースが効いて傷の痛みも癒え、娘が起きてくるよりもはや く復活していたありすは、閉め切ったキッチンで誰にも届かないというのに助けを求め続 けていたのである。 流しからありすのコップを取ると、娘は歯ブラシを小さく動かしながら洗面所へ向かう。 口をゆすいで顔を洗う間じゅう、子ありすは逆さまのままで娘に文句を言い続けていた。 もちろん水音でその声は聞こえないのだが。そして、娘はありすのコップを手に洗面台の 前に立った。かの女はコップから外したありすを手に乗せ、鏡に近づける。 「ありす、ごらんなさい」 「ゆ゙っ?! おねえざん! とってもゆっくりできないゆっくりがいるわ!」 鏡の中では、寝乱れた髪とはだけた夜着の娘が、手に乗せた異形の物体に視線を落とし ていた。娘の手の上にあるそれは、テニスボールよりも少し小さい下膨れの、ゆっくりの ようなものだった。だがそれは通常のゆっくりではなかった。金色の髪を一本残らずガチ ガチに逆立て、顔中醜くひきつれた傷跡だらけ。表面にはじゃらじゃらと無数の安全ピン が並び、片方しかない目を見開いて歯を剥き出しにしてありすを威嚇していた。筒状に逆 立った髪の半ばに貼り付いているカチューシャだけが、それがありす種だった証。 「ねえありす。鏡のお姉さんは手にありすを乗せているんだけど」 「ゆ゙っ……!?」 鏡面に手を触れ、娘はありすを小さく持ち上げて見せる。ありすは弾かれたように、鏡 に映る娘の姿とにこにこ見下ろす娘を何度も確かめる。ありすは気付いた。おねえさんの 言う『かがみ』はよくわからないけれど、目の前のおねえさんと、自分を持っているおね えさんは同じ人だと言うことに。そして、鏡の中のばけものと一緒で、自分も片目が開か ないことに。ありすは鏡の中の化け物を睨み付け、恐る恐るからだを揺すってみた。安全 ピンがちゃりちゃり、と小さな金属音を立てる。鏡の中の化け物も、娘の手の上でありす を睨みながら、身体を左右に揺すって威嚇してきた。ここにきて、カスタードクリームの ゆっくりブレインはそれを理解した。 「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」 鏡に映るパンクなありすへの恐怖と、自分がそのゆっくりできない姿になった事を理解 した絶望。白目で歯を剥いているパンクありすに、娘は朝から大満足だった。しかも、お 楽しみはもう一つ残っている。足が震えるほどの高揚感を味わいながら、娘は透明な箱へ と向かった。 「さあありす、みんなの待っている箱に戻りましょうね」 「おでえざんやべでね! どがいばじゃないありずはみんな゙にあ゙え゙な゙い゙わ゙!」 運ばれている間中、濁音の多い悲痛な声をあげ続けていたありすには一切構わず、娘は 防音蓋に手を掛ける。昨晩もゆっくりさせなかったため、大半の子ゆっくりは一匹も起き てはおらず、どれもこれも一かたまりに集まってゆぅゆぅと寝息をたてていた。娘が防音 蓋を外すと何匹かは目を覚まし、隣のゆっくりと朝のすりすりを始める。まだ小さい子 ゆっくりはゆっくりさせなさすぎても虐待を楽しむ前に衰弱死してしまう。増長しない程 度であれば、少々ゆっくりしていても娘は止めるつもりはなかった。 「ゆっくりおはよう」 「おねえさん、ゆっくりし……うわあああああ!」 「ゆっくぎゃあああああああああ!」 「ゆんやぁあああ!?」 娘は朝のゆっくりしていってね、で軽くゆっくりさせながら、箱の底にそっとパンクあ りすを置く。娘に気付いた何匹かの子ゆっくりはゆっくりしていってね、を返すが、途中 で化け物を直視して悲鳴とともに固まってしまった。その悲鳴でまだゆっくりしていた他 の子ゆっくりもパンクありすを見てしまい、箱の中に絶叫が連鎖した。箱の中は火のつい たように泣き叫ぶ子ゆっくりで、ひっくり返したような大騒ぎ。目玉なしちぇんだけは唯 一目が見えないだけに、周囲の恐慌に恐怖を煽られてがたがた震えている。 「わからないよー! わからないよー!」 「そんなに騒がないの。ちぇんもありすも怖がっているわよ」 「むきゅー! そんなゆっくりはばぢゅりーもしらないわ!」 「おねえざん! ゆっくりさせてね! こわくてゆっくりできないよ!」 パンクありすから少しでも離れようと、子ゆっくりは我先に壁面に張り付くまで後退し ていく。先に逃げて壁際に近い物は、後から逃げてきた物に潰されて、苦しそうな悲鳴を あげている。もっとも、ゆっくりは意外に弾力があるので、子ゆっくり程度の力では多少 潰したところで、苦しいだけで死にはしないのである。娘は子ゆっくりに恐怖が充分に行 き渡ったのを見計らい、桜色の唇を静かに開いた。 「みんなと仲良くできない、お約束を破ってゆっくりした悪いありすを覚えているわね」 その言葉に、パンクありすは片方だけ残った目を大きく見開く。『とかいは』でない姿 に造り替えられた以上、ありすの希望はせめて、ゆっくりできない見ず知らずのゆっくり として、かつての自分と知られないままに永遠にゆっくりすることだけだった。一目見た だけでおぞましい物を見るような反応。プライドの高いありすには耐え難い仕打ちだった。 しかし娘はありすの哀願するような視線を心地よさそうに受け止める。 「むきゅっ、おやくそくをまもらない、わるいゆっくりがおしおきされたわね」 「わるいゆっくりはゆっくりできないくていいよ!」 衰弱しない程度にゆっくりさせてもらっている為、子ゆっくりたちはお約束を守ってい れば、娘がいつかはゆっくりできない宣言を違え、ずっとゆっくりさせてくれると信じて 疑っていない。娘はそれを感じ取り、小さく息を吐く。この子ゆっくりたちはまだ私を信 じているのだ。かの女は背筋をぞくぞくと走る刺激に形の良いおしりをきゅっとさせ、上 気した頬に手をあてて子ゆっくりを見渡して続ける。 「これがそのありすよ。仲良くしてあげてね」 「ゆがーん!」 「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」 娘の言葉に一斉に固まる子ゆっくり。パンクありすは羞恥と絶望にどうしていいかわか らず、とうとう絶叫をあげて滅茶苦茶に跳ね回りはじめた。とかいはでなくなってしまっ て、みんなにしられてしまうなんて。どうして。どうしてありすだけが。どうして。 損傷して他のゆっくりからゆっくりできないとされたゆっくりは、同様に欠損したゆっ くりとでもゆっくりすることができる。狂ったように暴れるパンクありすに、煙突まりさ とオレンジレイムがおずおずと近づいていく。 「ゆ、ゆっくりしていってね?」 「ゆ゙があ゙あ゙あ゙! ゆ゙ぼぉ゙お゙ぉ゙!」 ゆっくりできないおぼうしのまりさ。ゆっくりできない色のれいむと、おめめのない ちぇん。どれもこれもゆっくりできないゆっくりに同情されたのだ。とかいはのありすが。 それは決して同情などではなかった。煙突まりさもオレンジレイムも、一緒にゆっくりし ようとしただけだった。しかし、それはとかいはを自認するありすには、ゆっくりできな い化け物になった自分を見せつけられたありすには、到底受け入れられる言葉ではなかっ た。それを受け入れてゆっくりできないゆっくりと一緒にゆっくりすることは、自分がと かいはでない化け物、もはや二度とゆっくりできないゆっくりであることを認めてしまう ことになるのだから。 パンクありすは声の限りに叫び、砂糖水を目から口から垂れ流してのたうち回った。娘 が嬉しそうに、子ゆっくりたちが怯えたように見つめる中、その口から中身のカスタード クリームが勢いよく噴き出した。一度溢れたカスタードはもう止まらない。嘔吐の果てに 吐き出すためのカスタードまで出してしまうと、安全ピンと接着剤の重さで、パンクあり すだった皮はべしゃりと潰れ、口だった歪な穴から黄色のクリームが力無く漏れていた。 「も゙っ……と……ゆっ……く……」 オレンジレイムは自分がどれほどゆっくりできない姿か知らないためか、あるいはオレ ンジジュースが中身に染みわたったせいか、ゆっくりできないゆっくりとでも、ゆっくり できている。パンクありすは自身のゆっくりできなさを受け入れることができず、プライ ドと絶望の板挟みでカスタードを吐いて果てた。ついでに前の方にいたぱちゅりーも一匹、 ショックでもらいエレエレして、中身のブルーベリージャムを全て吐き出して永遠にゆっ くりした。 一緒にゆっくりしてほしかっただけなのに。煙突まりさは呆然とパンクありすの残骸を 見つめていた。嘔吐する物もいなくなり、静かになった室内に、娘の吐息がやけに大きく 響いた。 可哀想なありす。あとぱちゅりーも。そして、なんと楽しいのだろう。娘はしばらく瞬 きも忘れ、汚れた箱を、虚ろな目をしたゆっくりだった物を見つめていた。 「おでーざん! ありずがゆっくりしちゃったよ!」 「む゙、む゙ぎゅ、ぎゅぼ、ぎゅぶっ!」 「ばぢゅりーしっかりしてね! ゆっくりしないでね!」 「みょ゙ーん!」 「むきゅ、むきゅきゅきゅうう、おちおちつくのよ!」 「わがらないよ゙ー!」 先に口を開いたのは子ゆっくりたちだった。助けを求めるもの、砂糖水を垂らして悶絶 するもの、ただひたすらうろたえてわめき散らすもの。パニック状態を眺めるのは楽しい が、このままでは子ぱちゅりー同様、もらいエレエレでまだ手つかずの子ゆっくりも駄目 になってしまうかもしれない。娘はよく通る声で告げた。 「残念だけれど、永遠にゆっくりしてしまった子はもう助からないわ」 「ゆぅぅ……」 「みょーん……」 これは嘘だった。ゆっくりは中身を吐いたところで、詰め戻してオレンジジュースでも かけておけば復活する。パンクありすにカスタードを詰め戻したところで、どうせ自分の 姿を受け入れられず、またすぐに吐いてしまうなら、もう充分に楽しんだことだし、捨て てしまったほうが面倒がない。あとぱちゅりーも。 スーパーの袋を取って戻ってきた娘は、子ゆっくりの残骸を袋に放り込んだ。中身のほ とんど残っていない皮は、ひどく軽く感じられた。娘は濡らしたキッチンペーパーとウェ ットティッシュで箱のカスタードとブルーベリージャムを拭き取り、それも袋に詰めると 口を縛ってゴミ箱に放り込んだ。 (続く?)
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3930.html
(前から) 翌朝、冷蔵庫の前でしゃがんでいた娘は、記憶にないボウルを寝ぼけ眼で見つめていた。 しばらくの間、片手で扉を押さえたままで冷気を無駄に放出させていたが、やがて得心し たように頷いてボウルを取り出した。ぴっちりラップされた琺瑯引きのボウルにはオレン ジ色の液体が入っており、確かにそれは娘が冷蔵庫に入れた、れいむ治療中のオレンジ ジュースだった。 かぶるほどのオレンジジュースはいつの間にかひたひた程度になって、髪の毛が気持ち 悪く液面にゆらゆらと広がっている。娘はとりあえず扉を閉めて、ボウルのラップを剥が し、袖を肘までまくってオレンジ色の液をまさぐってみた。菜箸やお玉で引き上げる事も 考えてはみたが、れいむはおまんじゅうである。固い物ではぐずぐずになった皮から崩れ てしまうかもしれない。そして、それは娘の本意ではなかった。仕方なく、冷たくても手 を入れることを選択したのである。予想以上のオレンジ液の冷たさに顔をひきつらせ、娘 はれいむにそっと触れてみた。冷たくぷるっとした感触に小さく声を上げ、反射的に手を 引く娘。気味が悪くなったのか、落とさないように菜箸で押さえ、ボウルを傾けてジュー スを流しにこぼす。ボウルの底にでっぷりしている中身に、娘は我と我が目を疑った。 「わぉ」 ボウルの底で白目を剥いて硬直していたれいむの皮は、見事なまでに原色のオレンジ ジュース色に染まり、そればかりかもみあげと後ろの赤いリボンも、毒々しいオレンジ色 に変色していた。きっと中身はオレンジ餡のようなでたらめな味になっているに違いない。 電子鍼の激痛で気絶した後、オレンジジュースに漬けられて復活したれいむだが、ぴっち りラップで逃れることができずに、そのまま冷やされ続け、娘が忘れている間に冷蔵庫の 寒さで冬眠状態になっていたのである。 ジュース漬けのれいむをそのまま戻しては、箱の中も他のゆっくりもべとべとになって しまう。崩さないように蛇口のお湯で表面のジュースをそっと流し、一応髪の毛とリボン も軽く揉み洗い。べたつきのとれたれいむをキッチンペーパーで水気を取ると、娘は小皿 で観察することにした。れいむの皮はオレンジジュースの効用か、ゼリーのようにもっち りぷるんぷるんになっていた。穴だらけだった底も今や傷跡ひとつなく、娘の指をもっち りした弾力で押し返すほどになっていた。しばらく娘が頬や底をぶにぶに押して弾力を楽 しんでいると、オレンジレイムはぶるん、ぶるぶるん、と身じろぎをして、白目を剥いて いた目がぐりんっと通常目に戻った。 「ゆっくりしていってね!」 開口一番、元気な声で誰にともなく挨拶するオレンジレイム。お湯で洗われ、常温に置 かれたことで冬眠から目覚めたのであろう。きょときょととキッチンを見回していたが、 娘と目があった瞬間、下膨れの顔を恐怖で引きつらせた。 「ゆ……ゆっくりしてね……?」 「おはようれいむ。ゆっくり反省できたかしら」 「ゆ゙っ、ゆ゙っ……いたくて、さぶくて、ゆっくりできなかったよ……」 「それはよかったわ」 透明な箱の中、子ゆっくりたちはゆっくりモーニングの挨拶を交わしたり、隣のゆっく りとおはようのすりすりをしたり、めいめいにゆっくりしていた。娘はオレンジレイムの 黒いままの髪を撫でると、手の平にのせて透明な箱に戻す。とってもゆっくりできないお しおきを受けたれいむが戻ってきたというのに、子ゆっくりは異様な物を見る顔で遠巻き に見つめるばかりで、近寄ろうともしない。オレンジレイムはぷるん、と震え、お仕置き を受ける前と同じ元気な声をあげた。 「れいむがかえってきたよ! ゆっくりしていってね!」 「わからないよー、れいむがゆっくりできないよー?」 「へんないろのれいむはとかいはじゃないわ!」 「ゆっ、ゆっ?!」 ゆっくりできない返事に、オレンジレイムは不思議そうに全身を傾ける。まず、目に見 えて色がおかしい。飾りもれいむの色ではない。いくら同じ群であっても、家族でもない 子ゆっくりには、それはゆっくりできない異分子にしか見えなかった。 「どぼじでそんなこというのおおお!」 オレンジレイムは自分がどれほどゆっくりできない色になっていることなど知るよしもな い。そのため、突然仲間に爪弾きにされたとしか思えなかった。電気ショックで都合の悪 い記憶も飛んだのか、あろうことか自分を散々におしおきした虐待お姉さんに泣きついた。 「おでえざん゙ん゙! みんながでいぶにいじわるするよ!」 「あらあら、困ったわね。お姉さんは前にも、仲良くできない子は全員お仕置きします、 って言いました。そんなにみんなお仕置きされたいの?」 気持ち悪いオレンジ色の涙を流して泣き叫ぶオレンジレイムと困り顔の子ゆっくりを眺 め、娘はこみ上げてくる笑いをかみ殺し、頬に手を当てて悲しそうな顔を作る。子ゆっく りにしては、たまったものではない。お約束を破ってお仕置きされ、帰ってきたときには ゆっくりできない風体になっていたれいむとゆっくりしなければ、全員お仕置きされてし まうなんて。子ゆっくりたちも泣きそうな顔になって、互いに顔を見合わせるばかり。 しかし、飾りが損傷したり、ゆっくりできないとされるゆっくりは、他のゆっくりでき ないゆっくりとでも変わりなくゆっくりすることができた。煙突まりさがその頬にすりす りすると、ゆんゆん泣いていたれいむもぷるぷると頬ずりを返した。オレンジジュースの 甘い匂いに釣られ、目無しちぇんも、のそのそと這い寄っていく。ゆっくりさせてくれる 仲間がいると、泣き顔だったれいむもようやく元気を取り戻した。 「れいむもゆっくりしていってね!」 「わかるよー、ゆっくりできるにおいなんだねー」 「ゆっくりするよ! ゆっくりするよ!」 ゆっくりできないゆっくりだけでゆっくりしてくれれば、普通のゆっくりである自分た ちは気にせずゆっくりできる。群の中にもう一つ、別の群ができるようなもの。そのこと に気付いた子ゆっくりたちは、一様にゆっくりした顔を見せた。しかし、それが面白くな いゆっくりもいた。一匹のありすが憎々しげにオレンジレイムを睨み付け、ぷく~っと膨 れて威嚇を始める。 「むれにきもちわるいれいむがいるなんて、とかいはじゃないわ!」 「ぷんぷん! でいぶはゆっくりしているよ! きもちわるくないよ!」 「あきれたいなかものね! ほんもののれいむは、そんなきもちわるいいろをしてない わ!」 確かに他の紅白まんじゅうと人工着色料の染み込んだオレンジレイムとでは、どちらが ゆっくりしているかは言うまでもない。それでも、一緒にゆっくりしなくてはお仕置きが 待っている。他の子ゆっくりはお仕置きの恐怖を感じ取り、我を忘れて声を張り上げるあ りすからじりじりと離れていく。 「ありすはれいむと仲良くしたくないのね?」 「なにいってるの? おうちにこんなとかいはじゃないれいむがいたら、おねえさんも ゆっくりできないでしょ!」 ありすの不幸は、ゆっくりという存在が、自分たち以外も価値観を共通していると信じ て疑わないことにあった。しかし、それはありすを責めるべきことではない。その構造こ そがゆっくりであり、他者との差異を考慮するようなゆっくりは『ゆっくりしていない』 のだから。 「とかいははこんないなかものとゆっくりしたりしないわ!」 繰り返される都会派とやらに興味をおぼえた娘は、興奮のあまり他の子ゆっくりが逃げ てしまっていることにも気付いていないありすに呼びかけた。今からこのありすを虐待し よう。都会派とやらにコーディネートして楽しむのは、よくしゃべるありすを思う存分言 葉で弄んでからがいい。娘は予定調和へ向かって、慎重にありすを誘導し始めた。 「あなたの言う『とかいは』って一体どんな物なのかしら」 「とかいははとかいはよ! ゆっくりりかいしてね!」 ゆっくりすることに特化したゆっくりの言語体系には、様々な概念を一単語に包括させ た万能句がいくつか存在する。その代表例が『ゆっくり』であり、ありす種固有の表現、 『とかいは』である。ゆっへん、と自信たっぷりに返すありすに、娘は首を横に振った。 「それはおかしいわね。お姉さんは、人間さん。このあまあまは、ゆっくりのごはん。何 かを説明するのに、同じ言葉を繰り返しては説明にならないの、『とかいは』のありすな わかるでしょう。ありすはちょっと間違えただけよね。まさか自分の『とかいは』を説明 できない『とかいは』なんていないわね?」 まず自分を指さし、次に箱の脇に置いた袋を示す。その指先を追い、娘の言わんとする ことを理解したありすは、ゆっくりブレインを必死に回転させる。ゆっくりすることに長 けてはいても頭脳労働には不向きのゆっくりブレイン。高負荷に、ありすは砂糖水の汗を 浮かべ、口をぱくぱくさせ、視線も彷徨いはじめる。ありすの矢継ぎ早の百面相に、娘は 箱の縁に腕をかけ、笑顔でありすを見守っていた。特大の透明な箱にはセーター越しの特 大のお胸が押しつけられ、重たげにたわんでいる。 「そ、そうよ、ありすはうっかりしちゃっただけよ! それでね、とかいは……は……」 これはあまりにも酷な質問である。ゆっくりすることに特化しているゆっくりブレイン に、しかも子ゆっくりに論理的思考など不可能である。そのうえで大人げなく、娘は子あ りすを容赦なく追いつめていく。 「ほらほら、ありすは『とかいは』なんでしょう。みんなの前で泣きそうになって、おろ おろしているのが『とかいは』なのかしら。『とかいは』がそんなに恥ずかしいなんて。 お姉さん知らなかったわ」 「ちがうのおおお! とかいはは、とかいはは……ゆっくりよ!」 羞恥で茹で上がり、口をぱくぱくさせていたありすは、知りうる最も『とかいは』に近 しい単語を口にした。そもそも子ゆっくりに、ありす種の自己存在意義のようなものを証 明することなどできようはずもなかった。この返答は必然と言ってもいい。待っていた返 答に、娘は嬉しそうに頷いた。 「そう。『とかいは』が『ゆっくり』なら、ありすは自分より『ゆっくりしている』れい むが羨ましくて群から追い出そうとした、みんなと仲良くできない悪い子ね」 「ゆがああぁ! ありすがいちばんとかいはなのおぉ!」 娘の言葉に、ありすは顔を真っ赤にし、ばいんばいん跳ねて金切り声をあげる。『とかい は』も『ゆっくり』も、一語で様々な意味合いと用途を包括している単語だけに、意図的 に曲解されしまえばひとたまりもない。もとより語彙の少なく、しかもエキサイトしてい るありすは、既に這い上がることもできない墓穴を突貫工事で掘り下げ続ける。 「ということは、ありすは一番『ゆっくりしている』のね」 「ゆ゙っ!?」 「みんなと仲良くできなくて、お約束を破ってゆっくりしたありすはお仕置きです」 ひょいとありすをつまみ上げると、娘はにこにこ顔のままキッチンへ向かう。中身のカ スタードが漏れるかもしれない以上、かの女はありすへの虐待は水まわりで行うつもり だった。子ゆっくりたちは娘の後ろ姿を見つめることしかできなかった。 「おねえさんがありすをつれていったわ!」 「ゆっくりできないおねえさんみょん!」 「わかるよー、わるいこありすはおしおきされるんだねー」 「むきゅ、おねえさんはおやくそくをまもれば、あまあまをくれるにんげんさんね!」 「おねえさんのおうちはさむくないよ!」 「いぬさんもねこさんもとりさんもいないよ!」 「おねえさんがいないうちに、ゆっくりしないでゆっくりするよ!」 「「ゆっくりー!」」 逆さまにしたありすのカチューシャを外すと、重力に従って金色の髪がまっすぐに垂れ 下がる。娘はいくつかのコップの口にありすをあてがい、深くはまり込まない物を選び出 すと、改めてありすの髪にたっぷりの接着剤を含ませた。 「いなかくさいいい! とかいはのありすにはたえられないわああ!」 強烈な溶剤の臭気が鼻を突く。ゆっくりに鼻は無いが、臭いには敏感である。ありすは自 分の頭から漂ってくる異臭にただ苛まれるばかり。娘はありすの髪が固まらないうちに大 まかに形を整え、中程にカチューシャを貼り付けた。コップの口にのせれば、逆さまあり すはもう動けない。包丁片手に朗らかな笑顔の娘を見つめることしかできいのだ。 「おねえさん! そのぎらぎらさん、とかいはじゃないわ! ゆっくりやめてね!」 「だぁめ」 次第に近づいてくる、蛍光灯の明かりを照り返す銀色がありすの視界から消える。ぷつり、 と鋭い切っ先がありすのもっちりした頬に潜り込んだ。一拍遅れて、ありすは灼けるよう な激痛に金切り声をあげた。娘が包丁を引き抜くと、切れ込みに黄色いクリームが滲む。 「いぢゃいぃいい! なかみ! なかみでちゃう!」 「あら、カスタードが溢れそうね。すぐに直してあげる」 くすくす笑いながら、娘はありすの切り口を強く摘み、安全ピンで縫い止めた。切り開か れた頬をさらに針で貫かれ、砂糖水を目から口から垂れ流してありすは悲鳴をあげる。今 まで一度も感じたことのない苦痛と恐怖でゆっくりできないまま、ありすは溢れ出たカス タードで汚れた指を濡れ布巾で拭って包丁を握り直す娘を見つめることしかできなかった。 「ほっぺに穴があいちゃったわね。でも傷口は縫ったからすぐに直るわ」 「や゙べでね゙! ゆ゙っくりさせてね!」 激痛に暴れるありすに微笑みかけ、娘はありすの逆の頬を包丁の先でつつく。それの意 味に気付き、ありすは刺される前から激しい悲鳴をあげる。何のてらいもなく、つついて いた箇所に包丁を突き立て、切り口を安全ピンで縫い留める。唯一自由になる底をたわま せ、ありすは絶叫を張りあげる。いくら食べられる素材とはいえ、髪の毛が邪魔で普段の ありすであれば両頬くらいしか刺す場所は無い。しかし、今のありすは逆さまで無防備に あんよを晒し、髪の毛も全て垂らし、コップの口にぴったり置かれて身動きもとれない。 コップを少しずつ回しながら、娘はありすの皮を切り開いては引っ張った切り口を摘ん では潰し、安全ピンで綴じていく。その度にありすは悲痛な絶叫をあげ、全身全霊で娘を 楽しませた。コップが一周した頃にはありすの皮は醜く引きつれ、銀色の安全ピンが鈴な りに連なっていた。 「あはっ、とってもパンクになったわね」 「ありすはとかいはじゃないですう! いながもののいもむすめでいいですゔ! 」 「じゃあ、もう少し飾りましょうか」 「や゙べでぐだざ、ゆ゙ぎい゙い゙い゙!」 娘はカスタードまみれの包丁を流しに置くと、安全ピンの針先を涙に濡れたありすの頬 にあてがい、慎重に角度を確かめる。途切れることない激痛と恐怖に、歯を剥いて震える ありすの意識は、頬に潜り込んだ針が眼球を中から貫いた直後に闇に落ちた。 「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っ……」 洗った包丁を片づけると、娘は痙攣しはじめたありすをコップごと流しの隅に置き、た らたらとオレンジジュースを垂らした。明日にはジュースで切れ目も閉じ、逆立った髪も 接着剤で完全に固まっていることだろう。鏡を見せたらどんな悲鳴をあげるのだろう。そ のうえで散々罵ったれいむと対面させたら、どんな言い訳をするのだろう。散々に苦痛を 味わい、さらにありすを襲うであろう絶望に、娘は眠るありすを胸を高鳴らせて見つめて いた。 「だれかいないの! とかいはのありすをゆっくりたすけてね!」 「おはようありす。ゆっくり眠れた?」 「ここはゆっくりできないわ! おねえさんはちっともとかいはじゃないわね!」 翌朝、歯ブラシをくわえて様子を見に来た娘に、コップで逆さまになっていたありすが 不満の声を返す。オレンジジュースが効いて傷の痛みも癒え、娘が起きてくるよりもはや く復活していたありすは、閉め切ったキッチンで誰にも届かないというのに助けを求め続 けていたのである。 流しからありすのコップを取ると、娘は歯ブラシを小さく動かしながら洗面所へ向かう。 口をゆすいで顔を洗う間じゅう、子ありすは逆さまのままで娘に文句を言い続けていた。 もちろん水音でその声は聞こえないのだが。そして、娘はありすのコップを手に洗面台の 前に立った。かの女はコップから外したありすを手に乗せ、鏡に近づける。 「ありす、ごらんなさい」 「ゆ゙っ?! おねえざん! とってもゆっくりできないゆっくりがいるわ!」 鏡の中では、寝乱れた髪とはだけた夜着の娘が、手に乗せた異形の物体に視線を落とし ていた。娘の手の上にあるそれは、テニスボールよりも少し小さい下膨れの、ゆっくりの ようなものだった。だがそれは通常のゆっくりではなかった。金色の髪を一本残らずガチ ガチに逆立て、顔中醜くひきつれた傷跡だらけ。表面にはじゃらじゃらと無数の安全ピン が並び、片方しかない目を見開いて歯を剥き出しにしてありすを威嚇していた。筒状に逆 立った髪の半ばに貼り付いているカチューシャだけが、それがありす種だった証。 「ねえありす。鏡のお姉さんは手にありすを乗せているんだけど」 「ゆ゙っ……!?」 鏡面に手を触れ、娘はありすを小さく持ち上げて見せる。ありすは弾かれたように、鏡 に映る娘の姿とにこにこ見下ろす娘を何度も確かめる。ありすは気付いた。おねえさんの 言う『かがみ』はよくわからないけれど、目の前のおねえさんと、自分を持っているおね えさんは同じ人だと言うことに。そして、鏡の中のばけものと一緒で、自分も片目が開か ないことに。ありすは鏡の中の化け物を睨み付け、恐る恐るからだを揺すってみた。安全 ピンがちゃりちゃり、と小さな金属音を立てる。鏡の中の化け物も、娘の手の上でありす を睨みながら、身体を左右に揺すって威嚇してきた。ここにきて、カスタードクリームの ゆっくりブレインはそれを理解した。 「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」 鏡に映るパンクなありすへの恐怖と、自分がそのゆっくりできない姿になった事を理解 した絶望。白目で歯を剥いているパンクありすに、娘は朝から大満足だった。しかも、お 楽しみはもう一つ残っている。足が震えるほどの高揚感を味わいながら、娘は透明な箱へ と向かった。 「さあありす、みんなの待っている箱に戻りましょうね」 「おでえざんやべでね! どがいばじゃないありずはみんな゙にあ゙え゙な゙い゙わ゙!」 運ばれている間中、濁音の多い悲痛な声をあげ続けていたありすには一切構わず、娘は 防音蓋に手を掛ける。昨晩もゆっくりさせなかったため、大半の子ゆっくりは一匹も起き てはおらず、どれもこれも一かたまりに集まってゆぅゆぅと寝息をたてていた。娘が防音 蓋を外すと何匹かは目を覚まし、隣のゆっくりと朝のすりすりを始める。まだ小さい子 ゆっくりはゆっくりさせなさすぎても虐待を楽しむ前に衰弱死してしまう。増長しない程 度であれば、少々ゆっくりしていても娘は止めるつもりはなかった。 「ゆっくりおはよう」 「おねえさん、ゆっくりし……うわあああああ!」 「ゆっくぎゃあああああああああ!」 「ゆんやぁあああ!?」 娘は朝のゆっくりしていってね、で軽くゆっくりさせながら、箱の底にそっとパンクあ りすを置く。娘に気付いた何匹かの子ゆっくりはゆっくりしていってね、を返すが、途中 で化け物を直視して悲鳴とともに固まってしまった。その悲鳴でまだゆっくりしていた他 の子ゆっくりもパンクありすを見てしまい、箱の中に絶叫が連鎖した。箱の中は火のつい たように泣き叫ぶ子ゆっくりで、ひっくり返したような大騒ぎ。目玉なしちぇんだけは唯 一目が見えないだけに、周囲の恐慌に恐怖を煽られてがたがた震えている。 「わからないよー! わからないよー!」 「そんなに騒がないの。ちぇんもありすも怖がっているわよ」 「むきゅー! そんなゆっくりはばぢゅりーもしらないわ!」 「おねえざん! ゆっくりさせてね! こわくてゆっくりできないよ!」 パンクありすから少しでも離れようと、子ゆっくりは我先に壁面に張り付くまで後退し ていく。先に逃げて壁際に近い物は、後から逃げてきた物に潰されて、苦しそうな悲鳴を あげている。もっとも、ゆっくりは意外に弾力があるので、子ゆっくり程度の力では多少 潰したところで、苦しいだけで死にはしないのである。娘は子ゆっくりに恐怖が充分に行 き渡ったのを見計らい、桜色の唇を静かに開いた。 「みんなと仲良くできない、お約束を破ってゆっくりした悪いありすを覚えているわね」 その言葉に、パンクありすは片方だけ残った目を大きく見開く。『とかいは』でない姿 に造り替えられた以上、ありすの希望はせめて、ゆっくりできない見ず知らずのゆっくり として、かつての自分と知られないままに永遠にゆっくりすることだけだった。一目見た だけでおぞましい物を見るような反応。プライドの高いありすには耐え難い仕打ちだった。 しかし娘はありすの哀願するような視線を心地よさそうに受け止める。 「むきゅっ、おやくそくをまもらない、わるいゆっくりがおしおきされたわね」 「わるいゆっくりはゆっくりできないくていいよ!」 衰弱しない程度にゆっくりさせてもらっている為、子ゆっくりたちはお約束を守ってい れば、娘がいつかはゆっくりできない宣言を違え、ずっとゆっくりさせてくれると信じて 疑っていない。娘はそれを感じ取り、小さく息を吐く。この子ゆっくりたちはまだ私を信 じているのだ。かの女は背筋をぞくぞくと走る刺激に形の良いおしりをきゅっとさせ、上 気した頬に手をあてて子ゆっくりを見渡して続ける。 「これがそのありすよ。仲良くしてあげてね」 「ゆがーん!」 「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」 娘の言葉に一斉に固まる子ゆっくり。パンクありすは羞恥と絶望にどうしていいかわか らず、とうとう絶叫をあげて滅茶苦茶に跳ね回りはじめた。とかいはでなくなってしまっ て、みんなにしられてしまうなんて。どうして。どうしてありすだけが。どうして。 損傷して他のゆっくりからゆっくりできないとされたゆっくりは、同様に欠損したゆっ くりとでもゆっくりすることができる。狂ったように暴れるパンクありすに、煙突まりさ とオレンジレイムがおずおずと近づいていく。 「ゆ、ゆっくりしていってね?」 「ゆ゙があ゙あ゙あ゙! ゆ゙ぼぉ゙お゙ぉ゙!」 ゆっくりできないおぼうしのまりさ。ゆっくりできない色のれいむと、おめめのない ちぇん。どれもこれもゆっくりできないゆっくりに同情されたのだ。とかいはのありすが。 それは決して同情などではなかった。煙突まりさもオレンジレイムも、一緒にゆっくりし ようとしただけだった。しかし、それはとかいはを自認するありすには、ゆっくりできな い化け物になった自分を見せつけられたありすには、到底受け入れられる言葉ではなかっ た。それを受け入れてゆっくりできないゆっくりと一緒にゆっくりすることは、自分がと かいはでない化け物、もはや二度とゆっくりできないゆっくりであることを認めてしまう ことになるのだから。 パンクありすは声の限りに叫び、砂糖水を目から口から垂れ流してのたうち回った。娘 が嬉しそうに、子ゆっくりたちが怯えたように見つめる中、その口から中身のカスタード クリームが勢いよく噴き出した。一度溢れたカスタードはもう止まらない。嘔吐の果てに 吐き出すためのカスタードまで出してしまうと、安全ピンと接着剤の重さで、パンクあり すだった皮はべしゃりと潰れ、口だった歪な穴から黄色のクリームが力無く漏れていた。 「も゙っ……と……ゆっ……く……」 オレンジレイムは自分がどれほどゆっくりできない姿か知らないためか、あるいはオレ ンジジュースが中身に染みわたったせいか、ゆっくりできないゆっくりとでも、ゆっくり できている。パンクありすは自身のゆっくりできなさを受け入れることができず、プライ ドと絶望の板挟みでカスタードを吐いて果てた。ついでに前の方にいたぱちゅりーも一匹、 ショックでもらいエレエレして、中身のブルーベリージャムを全て吐き出して永遠にゆっ くりした。 一緒にゆっくりしてほしかっただけなのに。煙突まりさは呆然とパンクありすの残骸を 見つめていた。嘔吐する物もいなくなり、静かになった室内に、娘の吐息がやけに大きく 響いた。 可哀想なありす。あとぱちゅりーも。そして、なんと楽しいのだろう。娘はしばらく瞬 きも忘れ、汚れた箱を、虚ろな目をしたゆっくりだった物を見つめていた。 「おでーざん! ありずがゆっくりしちゃったよ!」 「む゙、む゙ぎゅ、ぎゅぼ、ぎゅぶっ!」 「ばぢゅりーしっかりしてね! ゆっくりしないでね!」 「みょ゙ーん!」 「むきゅ、むきゅきゅきゅうう、おちおちつくのよ!」 「わがらないよ゙ー!」 先に口を開いたのは子ゆっくりたちだった。助けを求めるもの、砂糖水を垂らして悶絶 するもの、ただひたすらうろたえてわめき散らすもの。パニック状態を眺めるのは楽しい が、このままでは子ぱちゅりー同様、もらいエレエレでまだ手つかずの子ゆっくりも駄目 になってしまうかもしれない。娘はよく通る声で告げた。 「残念だけれど、永遠にゆっくりしてしまった子はもう助からないわ」 「ゆぅぅ……」 「みょーん……」 これは嘘だった。ゆっくりは中身を吐いたところで、詰め戻してオレンジジュースでも かけておけば復活する。パンクありすにカスタードを詰め戻したところで、どうせ自分の 姿を受け入れられず、またすぐに吐いてしまうなら、もう充分に楽しんだことだし、捨て てしまったほうが面倒がない。あとぱちゅりーも。 スーパーの袋を取って戻ってきた娘は、子ゆっくりの残骸を袋に放り込んだ。中身のほ とんど残っていない皮は、ひどく軽く感じられた。娘は濡らしたキッチンペーパーとウェ ットティッシュで箱のカスタードとブルーベリージャムを拭き取り、それも袋に詰めると 口を縛ってゴミ箱に放り込んだ。 (続く)
https://w.atwiki.jp/jyakiganmatome/pages/735.html
名前:咲夜(通称・黒薔薇) 眼:魔王眼(時間を操る能力) 紫煙眼(炎を操る能力) 魔王眼・紅(平行世界を生み出す能力) 種族:幻想魔族 性別:女 イメージCV:小清○亜美(狼と香○料のホ○とかギ○スのカ○ンとか) 年齢:とにかく長寿、見た目的には17歳前後 一人称:あたし 二人称:あんた、お前 三人称:あいつ 口調:粗野な感じ 口癖:くすくす… 容姿1:後ろでまとめた銀髪のシニョン、角、悪魔尻尾、エプロン 容姿2:175cm、48kg 装備:ワイヤー、操り人形 職業:パン屋の店主、七束学園調理師科生徒 戦術:時間を止めている間にフルボッコ タイプ:単純馬鹿 設定: 学園の近くで小さなパン屋を経営している主婦。 夫は多忙、長男は所帯をもち、次男は学校の寮へ通っているため暇を持て余し、道楽で店を始めたと言う。 かつてはとある身体上の理由でヘビースモーカーだったが、現在は食品を取り扱う仕事に就いたため、喫煙は控えている。 たまにマクスウェル機関が資金的に苦しいときには、従業員が怪盗をやっている(小林三兄妹)ことを利用してマッチポンプ的なことも行って兄の手助けをしているとかなんとか。 時たまとある用務員を「兄貴」とか呼んでいる場面が見受けられるが、別に血は繋がってない。 実力的にラスボス級だが、今回は完全なるエキストラ。 ときたま学園内に現れて場をかき乱しては去っていくだけの存在となっている。 使用技 「くろのふりーず」 なんか時間を止める。 「まるぼろじっぽ」 ある意味形見。東大寺くらいなら消し炭になる。 「きょうしょうか」 パンナイフをぶんぶん振り回す。高層ビルくらいなら粉みじんに出来るとか何とか。 「くとぅぐあ」 眼が合った人を燃やす。ガンくれただけで誤爆するのが困り者。 「ぱらだいすろすと」 なんだか色々自然の摂理に逆らった現象を巻き起こす。 この技の存在がギャグキャラとしての地位を確立させた。 主観での人間関係: 子供→リオン・ローゼンクロイツ、闇薔薇、パメラ・ローゼンクロイツ 玩具→裂姫 ?→夜都賀波岐 ?→幾重 零無 [[写真]
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3371.html
『ゆっくり対策課駆除班おねえさんの月火水』 20KB いじめ 日常模様 駆除 野良ゆ 捕食種 希少種 現代 27作目ましてこんばんは、キャンセルあきです 比較的、人間キャラの描写が中心です。 希少種が優遇されている気配があります。 作者の独自設定が幾つか含まれています。 一箇所、ゆっくりの台詞がひたすら連続する(読みづらい)場面がありますが、読み飛ばしても問題有りません。 『ゆっくりの台詞が連続している』というだけの描写です。 推敲はしていますが、誤字脱字などおかしなところがありましたら、感想スレにてお願いします。 以上、よろしければどうぞ。 ■0、月曜日 役場で待機 ――午前十時、町役場の屋上。 テントの日陰で、スーツ姿のお姉さんが、文庫本を読み進めている。 職務と苦楽をともにする相棒のふらんは、日差しを浴びてゆっくりしていた。 一見すれば、ヒマな公務員によるサボり風景だが、この屋上がこそが、お姉さんの強みを 最も活かせる労働環境なのだった。 『prrrrrr』 電話の子機が、親機から遠く離れた屋上で、お姉さんの読書を中断させた。 ふらんを右肩に乗せ、町内の地図を広げ、受話器を取るまで1コール半。 「はい、ゆっくり対策課駆除班です」 営業用の声色で応対したお姉さんの耳に、年配女性のキンキン声が突き刺さった。 「…………ゆっくりがお庭に侵入なさいましたか? まりさと、赤いリボンの知らないゆっくりが庭に入って来て、おうち宣言をされた? ゆっくりに目をつけられるような事を何かなされた覚えは……ありませんね、分かりました」 ――野良ゆに餌をやって、『飼いゆになれる』と勘違いさせたな。 おばさんの説明から、庭がおうち宣言された理由を直感的に悟った。 野良ゆ対策は、駆除するより餌を減らす方が肝要だが、役場に駆除を求める人の大半は、気まぐれに餌を与えた 野良ゆっくりに目をつけられた結果、家に侵入され、『駆除がしっかりしていない』と文句を言うのである。 「ゆっくりの数と大きさと種類を、分かる範囲でお伝え下さい。 駆除対応がご希望でしたら、そちらのご住所もお聞かせ願えますか?」 個人情報がどうのこうのと、愚痴を交えつつもおばさんは住所を伝えた。 電話越しの声を聞くに、ゆっくりの興味が家の中に向いてきたらしい。 『とにかく! このままじゃあ庭に出られないし、ガラスを割られてしまうかも知れないわ! 早く駆除に来て頂戴!』 「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」 『お待ち下さいねじゃな――』 受話器を左肩に挟むお姉さんが、住所と地図から確認した情報は二つ。役場からの方角と距離だ。 どうでも良い台詞を垂れ流す受話器を置いて、お姉さんは金バッジふらんのあんよを掴んだ。 「レッスン1――敬意を払え。2.5キロだ。分っかるかな~?」 「うー……"ごじゅう"……くらい?」 「そういうときは"できるわけがない!"って言っていいンだよ。ただし四回までな。 2500mの、ふらんの速さが秒速30mくれぇか? "80"と少しぐらい数えたら見えるはずさ」 向いた方から、おもむろに百八十度の背を向けて、ふらんを振りかぶったお姉さんの体が、 張り詰めた弓弦の如くしなった。 「ドラァッ!」 「うー、ゆっくりこんてぃにゅーするよ……っ!」 まさに、赤い彗星。 全盛期の大リーガーを思わせるトルネード投法が、ふらんに通常の三倍に達する速度を与え、 遥か彼方の標的へと到達せしむる! 瞬く間に点の様に遠ざかってゆくふらんを見送って、お姉さんは受話器を手に取った。 「あ~、もしもし? こちらの駆除職員が、今、お宅に伺っておりますので、しばらくお待ち下さい」 『待ちなさい待ちなさいって、貴女、自分が税金で養われている自覚って物があるの。 公僕でしょう、だったら町民は神様でしょう!? 私がどれくらい困っているか分かっているの? 分かっていないわよね、だったら聞かせて上げるわ――『ムーシャムーシャ、シアワセー』――ほら、どう? あのゆっくりが、ウチのガラスを割る前に駆除班を寄越しなさい! さもないと――『クソババァ! サッサトアマアマヲヨコ……ユッピィ!?』――え?」 唖然としたおばさんの代わりに、受話器からまりさとれいむの断末魔が聞こえた。 時々、『死ねっ!』と混じるのはふらんの声だろう。 あっけにとられて言葉も忘れたおばさんに、ふらんが金バッジの、駆除係であるということと、 野良ゆの残骸は、ふらんが中身を吸った上で、最寄りのゆっくりゴミ箱まで持って行く事を告げた。 フタバ町でも、燃えるゴミは月・水・金である。 「投げてから80秒……今日もアタシの肩は絶好調だな」 こと、町内の散発的なゆっくり駆除依頼に関して、対応の早さでお姉さんとふらんコンビの 右に出る者は居ないし、左に出る者も相当探さなければ居ない。 お姉さんのヒマは、圧倒的な射程距離と速さの裏付られているのだった。 ゆっくり対策課駆除班お姉さんの月火水 キャンセルあき ■1、火曜日 パトロール ――午後一時、フタバ町国道の道の駅。 地域ゆっくりに労働ゆっくりなど、町の管理下にあるゆっくりはそれなりに数が居る。 彼女達の職場近くでは、主に巻き添えで地域ゆっくりが駆除されることを避ける為などの理由から 勝手に野良を駆除できないので、対策課が定期的に出向くことになる。 「あら、おねえさんひさしぶりだっぺ。ゆっくりしていくっぺや」 「おう、ゆっくりゆっくり」 地域の特産品や農作物を直売するコーナーで働くのうかりんは、顔なじみのお姉さんに手を振って、 棚からギターを取り出した。「歌は要らねぇ」。お姉さんに止められて、無念の顔でギターを戻す。 のうかりんは、銀バッジの他に七桁の数字がプリントされた名札を付けている。 身寄りのないゆっくりに、職と住処を与えるとあるNGOが与えるその名札は、 町が七桁の数字を発行して認めた、"労働ゆっくり"の証明書だ。 「野良は近づいてねェかい?」 「うらでなんゆんかみたっけんどぉ……のうかりんは、ゆっくりにてぇだしちゃなんねって、 くちをすっぱぁぁぁぁくしていわれてっぺや」 任せても良いのか? 聞くのうかりんに「当たり前さ」と笑顔を一つ、ふらんを連れたお姉さんは 裏のゴミ捨て場に踏込んだ。どこからともなく取り出した一束の有刺鉄線は右手の中だ。 ゆっくり対策課がある田舎町で、わざわざ畑に忍び込もうとする野良ゆは少ない。 道の野良ゆを見敵必殺、屍を晒した上で土にすき込むぐらい出来なければ、農家を続けられないからだ。 一体でも畑でおうち宣言をしたり、畑の野菜を囓ったりすれば、たちまち地域一帯のゆっくりが、 役場から一斉駆除の対象となり、長ゆっくりによる交渉の機会すらなく加工所送りになる。 よって、人と生ゴミが集まる場所に、野良ゆっくりの餌場は限られていた。 生ゴミのある場所では、探せば大体何時でも見つかるのである。 「さあ、おちびちゃんたち! しんせつなにんげんさんがおべんとうさんをわけてくれたよ。 ゆっくりしたにんげんさんにありがとうって、おなかい~っぱいむーしゃむーしゃしようね!」 「ゆわ~~い! まりちゃ、ぱしたさんがだいしゅきにゃのぜ!」 「れいみゅ、ぽてとしゃんをむーちゃむーちゃしちゃいよ!」 「ゆぅぅぅ……まりさ、みていてね! れいむ、おちびちゃんたちをりっぱにそだててみせるよ! おちびちゃんたちは、ひかりかがやくゆっくりしたみらいだよ!」 駆除対象になるのは、人の生ゴミに手を出したゆっくりだ。 情にほだされたか気紛れか――通りすがりの無責任なドライバーが残飯を渡して、結局は野良ゆを 駆除の運命に落としてしまう。 野良ゆっくりに餌を与えるのは禁止されているが、罰則が無いので徹底されず、人の生活圏に 近づこうとするゆっくりは耐えない。 母れいむ、そして子供のまりちゃにれいみゅ。 十秒の観察で番の構成まで分かるオーソドックスなしんぐるまざー一家は、お姉さんの携帯が鳴らす シャッター音にびくりと振り向き、そしてお姉さんの手にしたトゲ付きの有刺鉄線を見た。 いち早く口を開いたのはお姉さんだった。 「撮ったどー」 「「「ゆ……」」」 駆除対象の証明写真が、お姉さんの携帯にのる。 凍り付く一瞬。 人目の無い場所で、「おべんとう」をくれた人間への感謝を口にする、いわゆる"善良"なゆっくりだ。 それは、過酷な野良生活にも関わらず感謝の思いを失わなかったゆっくりが確かに存在したという、 とても感動的な光景である。 だが無意味だ。 「お前の次の台詞は、"おねえさん、れいむのはなしをきいてね!"だ」 「おねえさ――」 「けど、その台詞は言わせねェよ……」 ひゅん。 空を切る刃の音がれいむの舌先を掠めた直後、口からこぼれ出るはずだった懇願の言葉は、 漆黒の断面から濁流の如くあふれ出す餡子に変わった。 最初に言葉を奪うのは、耳障りな悲鳴を上げられると通行人の心証が悪くなるからだ。 言葉を、許しを、願いを希望を。 全てを瞬時に奪われた母れいむは、絶望に涙しつつ、幼い我が子とお姉さんとの間に割って入った。 れいむの舌を切断した"ゆー死鉄線"は瞬時に巻き取られ、お姉さんの手の中に舞い戻っている。 第二撃に備え、身を挺して、親の本分を果たそうという母性の心意気である。 そしてそれもまた、無意味だ。 「うー……死ねっ!」 「ゆ? みゃみゃ――おしょらをとんじぇるみじゅらばっ!!」 「おねえしゃんが――おしょらをとんじぇるみびゃらべっ!」 ゆっくり親子の背後から音もなく飛来した金バッジふらんが、『光り輝くゆっくりした未来』こと、 おちびちゃん二体を放り投げ、自由落下したところを鋭い砂糖菓子の牙でかみ砕いた。 むーしゃむーしゃ、しあわせー。 と、口にしなくても聞こえてきそうなふらんの表情。 捕食種が生まれ持つサディスティックな気質をしっかりと備えたふらんは、母れいむにも理解出来るよう、 敢えてゆっくりと咀嚼を進め、ぶちりぶちりと皮や目玉がすり潰される様子をしっかりと聞かせる。 「――――――!!!!!」 言葉にならないひゅーひゅーという掠れた息が、母れいむの口から漏れた。 涙に濡れた目を――血管もないのに――血走らせ、短いもみあげをぴこぴこと振り回して、 母は赤ゆっくりを咀嚼するふらんに突っかかっていく。 「うー……死ね」 ぺちぺちと煩わしいだけのもみあげ攻撃に飽きたふらんは、母れいむに向って大きく口を開けた。 「……!」 前歯に引っかかった小さく黒いまりちゃのお帽子と、舌の上で転がる、これはどちらのものかも 分からない白玉のお目々が、思い込みにも否定できない事実となって母れいむに突きつけられる。 母れいむの呆け顔に、ふらんの大きな口がかぶりついた。 ぞぶり――じゅるじゅる。 「……! ……!」 尖る牙で饅頭皮を穿ち、餡を吸われる強烈な脱力感が襲っても、母れいむは微動だにしない。 ふらんのおくちで、おちびちゃんと感動の対面を果たしたれいむは、家族との幸せな思い出の 残り滓に浸って、中枢餡が吸われるまでの微かな余生を過ごしたのだった。 れいむのお飾りとぺらぺらになった饅頭皮、れいむ一家の段ボール製おうちを纏めてゴミ袋に包む。 気をつけるのは服を汚さないことと、ふらんに周囲を見回らせて、狩り残しが居ないか探させるだけだ。 「はい、れいむ一家再起不能(リタイア)っと」 「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー……おねえさん、おわったぺか?」 ライトハンド奏法が熱情のリズムを奏でている。建物の入口で弾き語りしていたのうかりんは、 訪れた客にトイレの場所を案内しながら、お姉さんに手を振った。 「ああ、今日の野良は"善良"っぽかったな」 「"げす"なゆっくりでなげりゃ、おねえさんもみのがすっぺか?」 「残業はしねェンでよ、アフター5ならンな事もある。……そのゴミはどうしたンだよ?」 お姉さんは、のうかりんの手にしたコンビニのビニール袋を指した。 「すてられたごみさかたづけるより、のうかりんが、ごみさうけとったほうがはやいっぺや。 それに、のうかりんがごみさうけとったら、にんげんさん、のうかりんがつかうとおもってぇ、 きもちよ~ぐ、わたしてくれっぺさ」 「まあ、事情を知らない人間なら、そンなもンだろうさ……で、リサイタルは人気だったかい?」 "労働ゆっくり"の居る職場では、勘違いをして野良ゆに生ゴミを与える人間も増える。 勿体ないという言葉が、餌を与える免罪符となって、かえって野良ゆの無駄死にを増やす実態は、 十年も昔から変わっていない。 「……のらゆっくりのこえだってぇ、やっぱりのうかりんは、ひめいをききたくはないっぺよ」 ギターをじゃらんとかき鳴らし、麦わら帽子を目深に被ったのうかりんは憂いの音色を奏で始めた。 ■2、水曜日 いくえ不明の飼いゆ探し ――午後三時 フタバ町住宅街 駆除班のお姉さんだが、たまには保護班の仕事が回ってくることもある。 「見つからねェ……てんこの亜種なんて目立つから、二時には終わると思ってたのによ」 汗を拭うお姉さん。手元のフォルダーには、A4用紙に描かれたてんこの似顔絵があった。 飼い主の男性が飼いてんこの写真を持っていなかったので、たまたまそのてんこを見たことがある 知り合いに似顔絵を描いて貰ったのだ。 正直に言って、他のてんこと全く区別がつかないが、似顔絵を描いた後輩はこう言っていた。 『先輩、よく観察して下さいよ先輩。 このてんこ、お帽子の色合いも桃饅頭の角度も、見間違えようもない程特徴的ではないですか。 こことここの部分ですよ、拡大すれば、ゆっくり理解できますか? うーむ、視点を変えれば見え方も変わると思いますので、もっと上から…………失礼、 背の低い先輩には無理な話でしたね、謝りま――』 似顔絵のお礼に、6mの水平飛行をプレゼントしてやった。 感動の余り気絶してしまったので、飼いゆ探しを手伝わせることも出来ない。 そこらですれ違う労働ゆっくりや地域ゆっくりにも、似顔絵を見せて回っていたが、 どのゆっくりも「こんな飾りのゆっくりは知らない」と首(体)を横に振るばかりだ。 飼いゆ捜索に飽きて、サボることを考えていた足は自然と自宅に向って居たようで、 「あれ、お姉ちゃんもう帰ってきたの?」 「仕事中さ……そんな目で見るな、サボってねェって!」 自宅まで路地を一本挟んだあたりで、実の弟と遭遇してしまった。 裾にフリルをあしらった水色のワンピースに身を包んだ小学校三年生の彼は、 お姉さん小学生時のお下がりを普段着にする『弟娘の子(おとこのこ♂)』である。 実は女の子であったりはしない。 実は女の子であったりはしない。 「それより、外出歩いたりして大丈夫かよ?」 「うん、今日は熱もないし、体調も良いんだ。 お姉ちゃんお仕事中なら喉が渇いてるでしょ? 僕、お茶持って来たからお姉ちゃんも飲んで」 弟は、肩にからった水筒から、ほうじ茶をお姉さんに注ぎ渡した。 「かくかくしかじかの……」 「まるまるうまうまで、行方の分からないてんこを探してたんだ。ふぅん」 近くの公園、ベンチに座っていたツナギ服のいい男にどいてもらって、二人仲良く腰を下ろす。 話題は自然と、お姉さんの仕事が中心になった。 「なンでも、てんこの亜種で、聞き慣れねェ言葉遣いが特徴的だって話なンだが……」 「だったら、はたてが役に立つかもね」 「……アレが?」 「うん、はたて~、こっちおいで~!」 「はたて――きたわよぅ!」 音もなく現れたはたては、弟君のスカートに飛び乗って、ツインテールを振りはじめた。 数週間前に発見された新種ゆっくりのはたては、お姉さんの家で胴バッジを貰ってゆっくりしている。 とはいえ、本当に飼いゆっくりなのかどうか。 いつの間にか外に消えているし、いつの間にか家の中に現れる。 神出鬼没のはたては、相手の言葉をコピー&ペーストしたようなつぎはぎのオウム返しで喋るので、 『はたてが何を言いたいのか分かっていなければ上手に言葉を聞き出せない』 というジレンマに、普通の人間は陥るのだ。 「こっちおいで~? はたて、きたわよぅ!」 「うぅん、はたてが何か悪いことをしたとかじゃないよ、ゆっくり安心してね。 あのね、お姉ちゃんが珍しいてんこを探してるんだ。 はたては、外に出てる途中で、てんこを見たりしてないかな?」 「……そとにでて、てんこ……みたり……きたわよぅ!」 "たくさん"見たそうだよ。はたてと自然に会話が通じているらしい弟は、はたてが外出先でそれはもう 大量のてんこをみたらしい、と聞いた。 「……加工所にでも行ったのかよ、はたて?」 「はたて? かこうじょ……きたわよぅ?」 「加工所には行ってないって言ってるよ、お姉ちゃん。 それだったら、はたて、ここに来るまでに聞いたゆっくりの声、全部言ってくれる? ひとりあたり、一言ずつで良いと思うから」 「なん……だと……?」 そんなこと出来るわけがない。言いかけたお姉さんの前で、「"ゆっくりしていってね――"」と、 はたてが『お姉さんも弟君も言っていない』言葉を紡ぎ始めた。 「"ゆっくりしていってね!" "ゆっくりしていってね、まりさ" "ゆっきゅり!" "むーちゃむーちゃ" "おねえしゃん、まりちゃをおいていっちゃだめにゃのぜ!" "ゆん、おにぎりしゃんはまりちゃのだよ!" "ゆゆーん、おちびちゃんはゆっくりしてるのぜ" "はやくむーちゃむーちゃ、ちたいよ!" "むーしゃむーしゃ" "しあわせー!" "ぐへへ、ちょうどいいゆっくりぷれいすなのぜ" "ゆ? おねえちゃんだありぇ?" "むきゅ、けんじゃなぱちゅがあまあまをはっけんしたわ" "とかいはなてーぶるさんはいかがかしら?" "べっどさんがほしいんだね-、わかるよー" "ちぇええええええぇぇぇぇん!" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "ゆぅ!? ちぇんがおおすぎるよ!" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "らんしゃまー" "さでずむー" "こがさはぜったいゆるさなえ!" "さなえ、そのぐらいに" "あきらめな、すわこ" "むーちゃむーちゃしたいよおおおおぉっぉぉ!" "このげしゅおやあぁぁ" "れいみゅをゆっくじざぜろぉ!" "ごべんね、おがあざんがだべなおがあざんでごべんね" "もっちょ……ゆっきゅ……" "あんこしゃんはいちゃだみぇえええ" "ん、なんだこののらゆっくりたち" "あ~しんぐるまざーってやつだよ" "ちょうどいいや、きょうはこれであそぼうぜ" "どうがまりざを゛がいゆっぐじにしでぐだざい! まりざはぎんばっじ――ぐじゅりゅあっ!" "くそ、くつがよごれちまった" "おとうしゃあああぁん!" "れれれ、れいむはこんなげすだーりんとはかんっけいっない――ぱっぴっぷっぺぽー!" "みゃみゃああああ!" "かこうじょさん、こっちです" "ああ、こいつらですね、あとはおまかせください" "おとうしゃんをいじめりゅげしゅはぷく…………ねぎぃ!" "ねぎぃ!" "ねぎぃ!" "ねぎぃ!" "ねぎぃ!" "ここをまりさのおうちにするよ!" "ゆゆーん、おやさいさんはゆっくりしてるよぅ!" "おら、そこのまんじゅうども" "ゆ、おまえはゆうか?" "むきゅ、みんな、ここはぱちゅにまかせて!" "おさがげすなゆうかをせっとくしているよ" "のうかりんがいじめれらている!?" "みんなー、のうかりんらんどにのりこめー" "わぁい!" "わぁい!" "わぁい!" "お、おさあああぁぁぁ!" "ゆゆん、おさはいちばんのこものなのぜ" "ありすたちとかいはにかかればにんげんさんなんて" "てきじゃないんだよー" "はいはい、ゆっくりゆっくり" "このげすたちをせいっさいっ! するのぜ!" "めすぶたのてんこをもっといじめてねえええぇ!" "むっきゅあああ!" "もっとよ、つよくぶってえええぇぇぇ!" "おかしいよー、よろこんでるよー?" "ふごおおお! ふごおおお!" "このかっぺたちをせいさいするのよ!" "おいぃ? てんこはおかざりをつけていないんだが?" "ゆ――!?" "みんな! ゆっくりできないゆっくりがいるよ!" "こここ、こいつならせいっさいできるよ!" "うー! うー!" "れ、れみりゃだああっぁぁあ!?" "わきゃらないよおおおぉ!?" "れみりゃでもいいわ!" "まりさはにげるよ!" "こっちよ、このめすぶたからさきにいじめてねええぇぇぇ!" "れみりゃはこっちにこな……ぷくー" "まりざにげじぇええ" "とかいはなありすにちかづかないでええぇぇぇ!" "ぱちゅはおいしくないわよぉ!" "おお、はたてはたて" "おお、おひさしぶりおひさしぶり" "きめぇまるです" "うぜぇまるです" "みなみはるおでございます" "さんたいそろってちゅんとなきます" "ぽんとなきます" "ちーでもなきます" "なきのりゅうです" "みなみにいくおつもりですか?" "おお、ちゅうこくちゅうこく" "いっせいくじょがあっています" "おお、こわいこわい" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "ゆっくりなげすぎてこしがまっはだぜ" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "おそらをとんでるみたい!" "こぼねー" "ゆゆこさーん、おつーかれー" "んほおおおぉぉぉぉ" "れ、れいぱーだあああぁぁぁ!" "むっきゅあああ! みんなにげエレエレエレエレ" "お、おさ!?" "おちびちゃんたち、みんなそろってにげるんだよ!" "かわいいいもうとがいないよぉっ!" "つづき? そんなのないよ" "にげるれいむもすてきねええええ!" "まりさのれいむをはなすのぜ、れいぱ……ゆっぴぃぃぃぃ!" "すっきりー!" "すっきりー!" "すっきりー!" "すっきりー!" "ゆわああぁ! みんなすっきりーされてるうぅぅ!?" "すっきりー!" "ちぇんはまけないよー。じゃくてんである、まむまむにぺにぺにをいれられながらしっぽをすーりすーりされないかぎりは …………ふっごおおおおぉ!?" "すっきり-!" "あらあああぁぁ?" "みたことないゆっくりねええぇぇ?" "なかなかとかいはじゃなあああぁぁぁぁい?" "いいわあああぁぁ" "ついんてーるがとかいはねええぇぇぇ" "とかいはなあいをあげるわあああぁぁぁぁ" "ありすたちぜんいんでよおおおぉぉ" "ゆううぅぅ? なにかへんだわあああぁぁ?" "ね……ねぎいいぃぃっ!" "あ、ありすぅぅ?" "このいなかものおおぉぉぉ!" "まむまむがさけるまですっきりーしてあげるわああぁぁぁぁぁ!" "ゆっ――へんねええぇぇぇぇ" "ぺに……ぺに?" "あ……ありずのぺにぺにがあああぁぁぁ!" "あ、ありずはとがいば!" "ねぎぃっ!"」 結局、はたては十分以上もしゃべり続けたが、大したヒントも得られなかった。 そこで、彼女が見たというてんこの群れまで探しに行き、お帽子を外したてんこを発見したのだ。 どうやら、まともなやり方では激しく虐めて貰えなくなったので、お帽子を外して"ゆっくり出来ないゆっくり"として 虐めて貰おうとしたらしい。道理で"てんこ"を目にしたゆっくりが居ないわけである。 「おい、てんこ。金バッジはどうした?」 「おうごんのてつばっじそうびのてんこが、まんじゅうがわそうびののらにおくれをとるわけがない」 発見した後、虐められ足りないというので、お姉さんが「三枚に下ろしてやろうか」と聞くと「きゅうまいでいい」と 言い始めたので、てんこの家までお姉さんがお友達扱い(注1)をして連れて行く羽目になったという。 ――午後6時 「ああ、年かな? 少し疲れた」 「――きたわよぅ」 帰ったお姉さんを、弟君より早くはたてが出迎えた。大きな瞳がじっとお姉さんを見あげている。 見つめ合うと素直にお喋りできないらしいが、見つめ合っても言葉でなければ分からない。 「アタシは、別にはたてがきらいじゃないんだ。今日は、その……有り難うな」 「はたて……ありがとう……きたわよぅ!」 やっぱり分からないので、とりあえずはたての頭を撫でてみる。 弟曰く、人間が知ってはいけない事柄を伝えないよう、オウム返しで喋っているらしいが。 「まあ、弟と仲良くしてくれるんなら、どうでも良いこった」 撫でたはたてが暖かかったので、お姉さんは見逃す事にしたのであった。 終わり。 注1:大空翼君にとってのサッカーボールのポジションである。 キャンセルあきの過去作品はwikiに収録されています http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/869.html 感想はこちらにどうぞ http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1280375526/l50
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1496.html
(前から) 「ゆっ、ゆっくりしてないよ! ゆっくりおしおきしないでね!」 「いい子ね。ゆっくりしていってね」 「「ゆっくりしていってね!」」 お仕置きされたありす(あとぱちゅりーも)の変死はさすがのゆっくりブレインにも焼き ついたようで、子ゆっくりたちは娘の顔を見る度に、一斉に動きを止めてお約束を守って いることをアピールするようになっていた。 この悪意も知らない子ゆっくりどもは、ゆっくりすることがゆっくりの本分であるとい うのに、約束通りにゆっくりしなければお仕置きされないと信じているのだ。お仕置きは されなくても虐待されることなんて、考えもせずに。娘は手近な一匹の子まりさを取り出 すと、キッチンへ向かった。娘は子まりさを手に乗せ、半ばまで水を張っておいた寸胴鍋 を覗き込む。 「まりさはおぼうしですいすいできるのよね」 「ゆっへん! まりさはすいすいおじょうずだよ!」 「よかった。すいすいできないダメまりさだったらどうしようかと思ったわ」 娘は子まりさの帽子をひっくりかえして水面に浮かべ、その上に子まりさをそっと置く。 慎重にバランスを取る子まりさのゆっくりらしからぬ神妙な顔に、娘は顔をほころばせる。 「すーい、すーい、ゆっくりー!」 さほど大きくはない寸胴鍋でも、子ゆっくりには充分広い。ゆっくりした水面を、器用 に帽子を操って子まりさは旋回はじめた。帽子を止め、得意げな顔をして娘を見上げよう としたまりさだったが、鍋の外から覗いていたはずのおねえさんはどこにもいない。 「ゆっ、ゆっ? おねーさん?」 「まりさ、おまたせ。一人ぼっちですいすいしてもゆっくりできないでしょう」 底抜けお帽子で浸水間違い無しの煙突まりさだけ箱に残し、残りの子まりさを全てエプ ロンに乗せて運んできた娘は、次々に帽子を浮かべては子まりさをその上に置いていく。 「すいすいでゆっくりできるよ! ゆっくりしていってね!」 「「ゆっくりしていってね!」」 透明な箱からも、群のゆっくりできないゆっくりからも解放され、嬉しそうな声をあげ て子まりさたちは思い思いに水面を進んでいく。しかし、全てのまりさがゆっくりできた わけではなかった。 「おねーさん、あんよがつめたいよ! おみずはこわいよ! ゆっくりたすけてね!」 水が不得手なまりさは、帽子のうえでぶるぶる震えながら泣きそうな顔で娘を見上げて 怯えた声を出す。バランスを取って浮かんでいることも危ういようで、傾いた縁から入っ てきた水にびくっとして、更なる浸水を招いていた。そして、それ以上にゆっくりできて いないのは、娘が帽子を間違えて乗せて、期せずしておぼうしを交換することになった二 匹だった。 「ゆゆっ! このなかにゆっくりできないこそどろがいるよ!」 「おねーさん! だれかがまりさのおぼうしをしぬまでかりていったよ!」 二匹はゆらゆら水面に浮かぶだけの帽子の上で、居心地悪そうに帽子の中を覗き込もう と伸びたり縮んだり、落ち着き無く身をよじっていた。変に動いては縁から水が入って ゆっくりできなくなってしまう。自由に動けない分、余計にゆっくりできない二匹は不満 げに、ゆっくりした声をあげて水面で遊ぶ他の子まりさを睨み付けていた。しばらくの間 もぞもぞしていた二匹は、自分の帽子が近くで浮いており、しかもその上に憎い泥棒が居 座っていることに気付くと、小さな頬を膨らませて互いに激しく威嚇をはじめた。 「どろぼー!」 「まりさのすてきなおぼうし! ゆっくりかえしてね!」 しかし、二匹は睨み合うばかりで一向に近づこうとしない。いかなる理屈か娘には知る 由もなかったが、自分の物ではない帽子では、まりさ種は水面を移動できないようだった。 「隣まで行って交換すればいいでしょう」 「こんなゆっくりできないおぼうしじゃ、すいすいできないよ!」 「ゆううううっ! ばりざのだいじなおぼうじはゆっぐりできるよ!」 いがみ合う二匹に楽しそうに声を掛ける娘に、はち切れんばかりに頬を膨らませた一匹 が不満をあらわにする。帽子を馬鹿にされたもう一匹もまた、思わず小さく跳ねて必死な 声をあげる。不安定な帽子の上で暴れては、当然縁は水をくぐり、入ってきた水がまりさ を濡らす。 「おみずさんがはいってきたよ! このおぼうしゆっくりできないよ! 」 「ゆぎいいっ! ばでぃざのおぼうじはとってもゆっくりできるんだよ!」 互いの帽子のうえでゆっくりできず、二匹の子まりさは泣き顔を真っ赤にしていく。睨 んでいるだけでは帽子はまったく進まず、波紋が水面に広がるばかり。一向に動かない帽 子。大事な帽子を泥棒のまりさが無碍に扱っている。そのゆっくりできなさたるや、今い る場所が帽子なくしては致命的な水上であることを忘れさせるには充分だった。 その瞬間を胸を躍らせて待つ娘の前で、ついに痺れを切らした一匹が跳躍を見せた。水 面に浮いているだけの帽子は、子ゆっくりとはいえ踏み台に耐えうるものではないが、そ の体当たりは奇跡的にもう一匹の子まりさを帽子から弾き出した。しかし、子まりさの幸 運はそこまでだった。 「おぼうじっ! おぼうじがえぜええ!」 そして、弾き出されたまりさもまた少しだけ幸運で、帽子の縁にかじりつくことができ てしまった。帽子の上のまりさがどれほど水を口に含んでは外に吐き出そうとも、かじり つくまりさの重みで帽子は傾いていくばかり。跳んだまりさが不運であれば、帽子に届か ず水に落ちて、一匹は助かったのに。弾かれたまりさが不運であれば、縁に届かずに沈ん で一匹は助かったのに。二匹は少しだけ幸運で、どうしようもなく不運だった。 「ぷぴゅー、ぷぴゅーっ! おびずざんゆっくりはいってこないでね!」 「ゆ゙ぎぎぎぎぎ! おぼうじどろぼぉ゙ぉ゙ぉ゙!」 帽子の上でどれほど汲み出そうと、とんがり帽子は流れ込む水を蓄えていく。縁にかじ りついたまりさが暴れるたびに帽子は激しく揺れる。大騒ぎにやっと気付いた他の子まり さが、遅まきながら空の帽子を押して運びはじめる。 「ゆっくりいそいでおぼうしにあがってね! ゆっくりできなくなっちゃうよ!」 しかし、帽子の縁にかじりついているだけの子まりさに、足場も無しに自ら上がること などできるはずもない。沈みゆく帽子の上の子まりさもまた、やっとの思いで取り戻した 帽子を諦めることなどできるはずもない。 「ゆぐぐぐぐう!」 「おぼうしどろぼうのまりさはゆっくりはなしてね!」 水中のまりさは必死に縁を咥えて離さない。水上のまりさも必死に水を吸い出し続ける。 二匹の決死の努力を嘲笑うように、まりさのすてきなおぼうしは水を蓄えていく。そして、 流れ込む水が傾いた帽子を満たし、可哀想な二匹を道連れに、ゆっくり沈んでいった。生 死を賭けて帽子を奪い合った二匹も、今や仲良く水の中。 「がぼがぼがぼ……ばりざの……おぼうじ……」 「ぼごぼご……も゙っと……ゆっぐり゙……」 ご存じの通り、寸胴鍋は底が深い。そして、沈んでいく二匹がどれほどもがこうとも、 まりさ種には泳ぐ機能はない。二匹にできることは、恨みがましい顔で届かない水面を見 上げることだけだった。ゆっくり底まで沈んだ二匹は、鍋の底を蹴って水面を目指す。し かし、水の中で跳ねるだけでは僅かに浮き上がるだけで、水を押す器官を持たないゆっく りを歓迎したのは輝く水面などではなく、冷たい鍋底だった。上が駄目なら横から上がろ うと、二匹は水の抵抗でより緩慢な動きで鍋の縁を目指すが、垂直に立ち上がった側面は 文字通りに取り付く島もない。帽子なく、水の底から逃れる術もなく、そこにはただ帽子 を奪った憎い泥棒と二人きり。 「ゆっくりつかれたよ!」 「おねーさん、おそとにだしてね!」 「ゆゆっ、おねーさん?」 一方、水上にはすいすいに疲れた残り三匹の子まりさたち。しかし、笑顔で見守ってく れたはずの娘の姿はどこにもない。呼べど叫べど、お姉さんが現れることはなかった。子 まりさたちに見えるのは高くて届かない鍋の縁と、二匹を飲み込んだ水の底。水は寸胴鍋 の半ばほどまで張られており、水底に沈んだ子ゆっくりが水面に届かない程度には深く、 水上の子ゆっくりが鍋の外へと跳ね出ることのできない程度には浅かった。 「ゆ、ゆぅ……」 不安げに互いに顔を見交わす三匹。先ほどまではとてもゆっくりできた水面も、今と なっては途端にゆっくりできなく見えてきていた。主を失った帽子がゆらゆらと揺れ、そ のからっぽの帽子はゆっくりできない水底へ、まりさたちを誘っているようだった。どれ ほどゆっくりできない時間を過ごしただろうか。ようやく顔を覗かせた娘に、子まりさた ちは不満の声を上げる元気もなく、涙を浮かべて助けを求めることしかできなかった。 「おでえざん゙ん゙! ゆっぐぢしすぎだよ゙ぉ゙!」 「おびずざんゆっぐりでぎないよ!」 「ばでぃざをゆっくりいそいでたすけてね!」 しかし、水上の三匹に緩慢な死を宣告するときも、娘は普段通りのにこやかな表情を変 えることはなかった。 「まりさはお帽子の上でいつまでもゆっくりしていってね。心配しないで。ごはんはお姉 さんが持ってきてあげます」 「「「ゆ゙っぐり゙?!」」」 娘がそっと手を開くと、帽子を寄り添わせて震える三匹から離れた水面に、ぽちゃぽちゃ と音を立ててゆっくりフードが落ちた。 「まりさはすいすいが得意だから、特別にもうお約束は免除してあげます。好きなだけ ゆっくりしても、好きなだけむーしゃむーしゃしあわせー、しても、好きなだけすっきり しても、お姉さんはもうまりさにお仕置きしません」 逃げ場のない鍋の中でなければ、水の上でなければ、どれほどゆっくりできたことだろ う。帽子の上でバランスを取りながら水面に浮いている餌を咥えるのは、すいすいの得意 なまりさ種でも容易なことではない。しかし、目の前の美味しいあまあまは食べなければ お水に沈んでしまう。そんなことはとてもゆっくりできないことだった。子まりさのうち 二匹は巧みにペレットの側まで帽子を寄せると、バランスを保ちながらぶるぶる震えて縁 から身を乗り出し、舌を必死に伸ばしてペレットをすくい上げる。少し濡れていてもその 味はゆっくりの本能を直撃し、二匹は久しぶりに思う様しあわせー、の声をあげた。 そして、すいすいの不得手だった子まりさはおぼうしを巧く操ることができず、餌に辿 り着くことはできなかった。悲しそうに見つめる前で、水を吸ってふやけたペレットは鍋 の底へと沈んでいった。子まりさがペレットを追って覗き込んだ鍋の底には、届くことの ない水面を目指してあがき続ける、先ほど沈んだ二匹の子まりさの哀れな姿があった。そ のゆっくりできていない形相は、お帽子の縁から入り込んだお水で浸みるあんよの冷たさ よりもなお、子まりさを震え上がらせた。お帽子から落ちたらああなるのだ。そして、二 度と浮かび上がることもできず、冷たい水の底で永遠にゆっくりするのだ。 「お姉さんはもう寝るわね。電気は消すけど、ゆっくりしていってね」 「ゆっくりしていってね! ゆっくりしてね! まりさをおそとにだしてね!」 「おねえさん! ここはゆっくりできないよ!」 「ゆっくりしていってよー! おうちにかえしてよ!」 悲痛な声をくすくす笑いでいなし、娘は用心のために蓋をするとキッチンの電気を落と した。暗闇に包まれた寸胴鍋の中、三匹には水音が嫌に大きく聞こえていた。 「ゆっくりしていってね……?」 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっ、ゆっくりー……」 闇の中、小声でゆっくりを確認し合う三匹。たとえどれほどゆっくりできなくとも、 ゆっくりしていってね、と呼び合うだけでも多少はゆっくりすることができる。真っ暗で 何も見えず、遊び疲れた子まりさたちの声は一つずつ、ゆぅゆぅという微かな寝息に取っ て代わられた。そして、三つの寝息と、微かな水音だけが鍋の中に響いていた。 夜半過ぎに、ぼちゃりと小さな水音が一つ。それからは、寝息は二つになった。 「おはよう。ゆっくりできて?」 「ゆっくりおはよう! おねえさん! ゆっくりできないよ!」 鍋の蓋を取って微笑む娘に、子まりさは反射的に挨拶を返してから小さな頬をいっぱい に膨らませる。水の不得手なもう一匹もその声に目を覚ますと、きょろきょろと鍋の中を 見回し、不思議そうな声をあげた。 「ゆっ、ゆゆっ? おねえさん、まりさたちなんだかすくないよ!」 「あらほんと。夜の間にお水に落ちてゆっくりしてしまったんじゃないかしら」 「まりさはゆっくりしたくないよ!」 ゆらゆら水面に漂う、主のない帽子。慌てて水の底を見やれば、ゆっくりできない形相で もがいている何匹もの子まりさの姿に、二匹は砂糖水を垂らして震え始めた。その震動で、 縁が水をくぐってあんよを濡らす。 「ゆ゙ぴぃっ! あんよがつめたいよ!」 「おみずさんはもういやだよ! おうちかえる!」 「ほら、あまあまをあげましょうね」 半狂乱になって帽子を揺らしては、水の冷たさに震え上がるのを繰り返す二匹に、娘は 朝のゆっくりフードを与える。もちろん二匹から一番遠い水面に浮かべて。 「あまあまさん!」 「そろーり、そろーり……ゆっくりたべるよ……むーしゃ! むーしゃ! しあわせー!」 「まってね! まりさもあまあまたべたいよ!」 一匹は帽子をペレットに寄せ、水に落ちないようにぷるぷるバランスを取りながら、帽 子から身を乗り出して餌を頬張り、歓喜の声をあげる。水の不得手なもう一匹はその場で 回転したり、大きく蛇行したりとちっとも餌へ辿り着けない。娘が転覆ショウを期待して 見守っていると、すいすいの得意な方の子まりさが傍らに帽子を近づけ、柔らかなおまん じゅうボディを伸ばしたり縮めたりねじったり、身振りを交えてすいすいを教え始めた。 これはこれで別の見物と、娘は引っ張ってきたスツールに腰掛ける。かの女の眺めるう ちに、動きが鈍い方の子まりさもよろよろしながらも餌までたどりつき、危うげにバラン スを取りながら、なんとか餌にありつくことができた。 「むーちゃ、むーちゃ! しあわせー!」 「いっしょにゆっくりしようね!」 「ゆっくりしていってね!」 ゆっくりした声をあげる水上組とは異なり、鍋の底まで沈んだ三匹は悲惨そのものだっ た。大事なお帽子は届かない遙か上の水面に漂って、見上げることしかできない。冷たい 水の底にはゆっくりできることは何一つ無い。動くこともままならず、食べる物もない。 ゆっくりしていってね、と口を開いてもお水が入ってくるばかりで声は出ない。帽子を奪 い合った二匹の子まりさ、ゆっくり眠っている間に転げ落ちた子まりさ。じくじくと皮か らあんこに染み込んでくる水で、三匹は緩やかにゆっくりしようとしていた。決して届か ない水面を仰ぎ、ゆっくりすることしかできなかった。 鍋の中でゆっくりしている子まりさを残し、娘は透明な箱へと向かった。今はまだゆっ くりさせておけばいい。少し眠って、餌も食べてゆっくりできた二匹は、夜までは元気で 遊んでいるだろう。しかし、夜になったら? 夕べ、一匹が眠っている間に水に沈んだこ とは、蓋を閉めて暗くすれば、いくらゆっくりブレインとはいえ嫌でも思い出すことだろ う。二匹はいつまで水上生活をゆっくりできるのだろうか。今日は大丈夫だしても、明日 は? あさっては? やがてどちらかが沈み、一匹になったらどんな顔をして泣くのだろ う。残された一匹は、ゆっくりできずに衰弱して沈むのだろうか。遠からず訪れるその時 を思い描くだけで、娘の胸は高鳴った。 「おはよう。ゆっくりしていってね」 「ゆっくりしていってね! おねえさんたいへんだよ! まりさがみんないないよ!」 娘が来るのを待っていたのか、煙突まりさがぽいんぽいんと跳ねて声を張り上げた。 「まりさはみんな、向こうですいすいしてゆっくりしているわ。あなたもすいすいした かったかしら?」 目を細める娘に、煙突まりさは何かを感づいたのか怯えた顔をみせる。存外に賢いこの子 まりさは、仲間のまりさが二度と戻ってこないことをゆっくり理解したのかもしれない。 「まりさのおぼうしは、すいすいできないよ……」 悲しそうに俯く煙突まりさは、気付く前よりもさらにゆっくりできなくなることだろ う。娘は小さく鼻を鳴らすと、ゆっくりフードを箱に放り込む。もちろん歓喜の声はあげ させない。子ゆっくりの成長は早い。しかしそれはゆっくりフードを食べさせたり、親 ゆっくりや姉妹とゆっくりすることで、成長に必要なだけゆっくりできてこそ。群の中に はゆっくりできないゆっくりがおり、お姉さんの見ている前でゆっくりしたら、お仕置き されてしまう。おいしいごはんも、むーしゃ、むーしゃ、しあわせー! を叫ぶことは許 されない。しかも、この透明な箱からは楽しそうなお姉さんのお部屋が見えるのに、お外 に出ることは絶対にできない。子ゆっくりに許されたゆっくりは衰弱しない程度でしかな く、育つにはとても足りなかった。 それでも大半の子ゆっくりは砂糖水の涙を垂れ流し、痙攣したりひしゃげたり転げ回っ たりして歓喜の声をこらえ、二粒目にありついていた。もちろん子ゆっくりが苦もなく本 能を我慢できようはずもない。何匹かは食べカスを散らしながら声を張り上げてしまうが、 娘は構わなかった。かの女が何も言わなくとも、次第に一粒しか食べられないゆっくりは ゆっくりできないゆっくりであるような風潮ができてきていた。もちろん野生や野良であ れば、そんなことはない。しかし、親から引き離された子ゆっくりだけの群では、娘の与 える偽りの情報が絶対だった。歓喜の声を上げた後、周囲の子ゆっくりからの視線に、ふ しゅるる、と縮こまる子ゆっくりを満足げに眺めていた娘は、しあわせー、を叫んで一粒 しか食べられなかった中から、一匹の子ぱちゅりーを箱から取り出し、白い小皿に乗せた。 ゆっくりは本来がおまんじゅうであるため、本能的にお皿の上がゆっくりできるのである。 「いつもいつもむーしゃむーしゃしあわせー、している下品で可哀想なぱちゅりーには、 特別におねえさんが食べさせてあげましょうね」 「むきゅっ?」 半眼にしてゆっくりしていた子ぱちゅりーは、全体を斜めに傾けて不思議そうな鳴き声 をあげる。実際にこの子ぱちゅりーが毎回歓喜の声をあげていたかどうかは、娘にはどう でもよかった。わらわらと群れている子ゆっくりを事細やかに判別しろという方がどだい 無理な話である。娘が竹串に刺したゆっくりフードをぱちゅりーの前に差し出すと、抗い 難い誘引力に、子ぱちゅりーはへの字口をいっぱいにひろげてかぶりついた。 「む゙ぎょ゙っ?!」 ぱちゅりーは目をまん丸にして、濁った声を絞りだす。透明な箱からは見えない程度に、 娘が竹串を小さく突き出した為、餌がぱちゅりーの無防備な口腔の奥をしたたかに突いた のである。手足のないゆっくりは、異物を飲んだときの防衛反応としてすぐ吐くようにで きていた。つくりの脆弱なぱちゅりー種であっても、それは同じである。勢いよく中身の ブルーベリージャムが溢れ、小皿をでろりと汚した。 「もう、ぱちゅりーは一人で食べることもできないのかしら? はい、あーん」 「ご、ごぼっ、ごぶっ」 ゆっくりは悪意に疎い。食べるためでもなく、楽しみのためにゆっくりを苦しめる存在 がいることを知るゆっくりなどいなかった。子ぱちゅりーは自分がなぜ苦しくて、中身を 吐いているのかすら理解できていなかった。それでも、大事な中身が出ていってしまい、 おねえさんのくれるごはんを食べ、急いで中身を補わなければ永遠にゆっくりしてしまう ことだけは本能的に理解していた。ぱちゅりーは震えながら、への字口を力無く開く。 「ぎょぼっ!」 その口の奥を、ゆっくりフードが静かに突いた。目を白黒させ、子ぱちゅりーはブルー ベリージャムを小皿に吐き出した。娘がペレットをぱちゅりーの奥に埋めたままで指先を 小さく捻る度に、白い皿を紫のジャムが満たしていく。たった三度。子ぱちゅりーが中身 を全て吐き出して平らになるには充分だった。 「むーしゃむーしゃのやめられない、下品で可哀想なぱちゅりーは永遠にゆっくりしてし まったわね……お姉さんはとっても悲しいわ」 この愉快なパフォーマンスで、次の楽しい餌の時間はもっとゆっくりできなくなること だろう。娘は偽りの沈痛な面もちで、ゆ゙っゆ゙っと細かく痙攣を繰り返す子ぱちゅりーの 皿を下げ、平べったくなった残骸は竹串でキッチンのゴミ箱に放り込んだ。 「しあわせー、できないとゆっくりできないよ……」 「むきゅっ! かんがえたわ! むーしゃむーしゃできなくても、おねえさんにあまあま ふたつもらえばしあわせーになれるわ!」 「わかるよー、しあわせーにばーいなんだねー」 「ゆっくりしようね!」 「えいえいゆー!」 もちろん、一粒でゆっくりしても、ゆっくりできずに二粒でゆっくりしても、差し引き で同じだけしかゆっくりできず、育つのに必要なだけゆっくりすることもできないのだが、 子ゆっくりたちはそんなことは知りもせずに嬉しそうな声をあげていた。 (続く?)