約 1,796 件
https://w.atwiki.jp/battleroyale/pages/276.html
プロローグ 神聖歴1026年―― ルーンミッドガッツ国王トリスタンⅢ世急死。 英明な君主として知られるトリスタンⅢ世の逝去は世界に大きな衝撃をもたらした。 トリスタンⅢ世はいまだ世継ぎに恵まれておらず、一国の王としてはまだ若かったために後継者も定めていなかったのである。皇后イゾルデ以外に側室も持っていなかったことが裏目に出たと言えよう。 当面はイゾルデが摂政として国王を代理し、大臣や騎士団がそれを補佐することになった。 ところがすぐに問題が表面化する。重要な意志決定にもたつくのだ。 大臣同士の意見が食い違った場合、それまではトリスタンⅢ世が即断を下していた。しかしお飾りである皇后イゾルデにそれだけの決断力はなく、議論によって最良の結論を導こうにも政治に絶対の解などない。意見の対立が個人間の感情的対立へと広がるに至って、国政は悪化の一途をたどった。 国政の混乱により、王国を構成する各都市はそれぞれ独自の施政を始めた。 もともとミッドガッツ王国の各都市は独立独歩の気風が強い。特にゲフェン・モロク・アルベルタと言った各街には、王国全土に根を伸ばす強力なギルドが存在する。 混乱が長引くにつれ、彼らは次第に独立や革命をも辞さない不穏な気配を見せ始めた。 さらに国際情勢が混乱に拍車を掛ける。 ミッドガッツの混乱を知った周辺諸国が軍事行動の兆しを見せ始めたのだ。 ルーンミッドガッツ王国はミッドガルド大陸随一の大国である。国内が安定している限りちょっかいを出そうなどと考える国はない。 しかしミッドガッツ国内の混乱は諸国の野望を刺激し、また友好国であっても他国の脅威に対抗するため軍備拡充せざるを得なくなっていた。 最大の友好国であるシュバルツバルド共和国も例外ではない。アルデバラン手前に兵を進め、混乱収拾の助力を申し出ると同時に難民の流入を警戒し始めた。 そして新たな戦乱の予兆は魔物の蠢動を呼ぶ。 戦乱の時代には常にそうであったように、大陸各地の迷宮があふれた。 ただでさえ各地との情報は寸断され、政治的な横槍もあって騎士団はなかなか組織的討伐ができない。 それでも地方の各都市がプロンテラに救援を求めることはなかった。 もちろん政治的な思惑もあってのことだが―― 「騎士団の綱紀はどうなっておるのですか!」 会議室のテーブルを内務大臣が叩き、騎士団長が渋い顔をする。 「任意除隊が今月だけで50名、50名ですぞ!?それが全て各都市の私兵になっておると言うではないか!」 「そうおっしゃいますな内務卿」 たしなめるように大司教が言った。 ミッドガッツ教会は国教――つまり国王を最高指導者とする宗教のため、国王不在の今は大司教より高位の聖職者がいないのだ。 「私どもの教会も似たようなものです。魔物に脅かされる善男善女を助けるためと称されては、引き留めるにも限度がありましょう」 「しかし、そのほとんどは冒険者と称する無頼の徒に成り下がり、各ギルドの利益のために働いているのですぞ!」 「彼らにその意識があるかどうか…」 各都市は冒険者たちを積極的に受け入れ、魔物の討伐を依頼していた。 ただでさえ冒険者は魔物のいる場所に集まってくる。しかも街が宿泊や食事の面倒を見たり、通商護衛などの依頼をしたりするとあって、さらにその数を増やしていた。 そうして自身の安全を確保した各都市は、中央に対し相対的な発言力を強める。 熟練の冒険者集団には、戦い方次第では小国の騎士団を壊滅させ得る能力があるのだ。 個々の冒険者に街やギルドへ肩入れする気はなくとも、彼らの存在は国政にとって充分な脅威であった。 「連中がどういう気かは問題ではない!」 内務大臣は再び机をバンバン叩いた。 「トリスタン陛下が何のために訓練砦を作り、勝者に報償を与えてきたとお思いか!まさに今、このような時のためではないか!」 彼が言うのは4つの街に隣接して設けられた20の砦のことである。その建設費はそれこそ小さな街を作れるほどの物であったし、毎週の訓練で砦を奪取した冒険者ギルドには一般家庭が一年暮らせるほどの財貨が与えられていた。 「であるのに王国の呼びかけに応える者のなんと少ないことか。これが背信でなくてなんだ!」 口角泡を飛ばして吠える内務大臣に鼻白む者もいたが、軍務大臣や財務大臣と言った大物はおおむね同意の表情を見せる。 「魔物と戦うにも勝手気ままに戦場を選び、少数で無謀な探索行に出てはすぐに帰って来おる。あれでは魔物を住みかへ押し戻すことなど到底できぬのにな」 「さよう。それでいて王国の危機であるからと訓練砦を閉じれば不満だけは言うのですぞ」 生産性のない、愚痴じみた意見ばかりが飛び交う机の上席で、皇后イゾルデは物思いに沈んでいた。 (――そう言えば、あなたは冒険者がお好きでしたね) かつて冒険者たちと共に戦い、「死の王」と呼ばれる強大な魔物を地上から追放したこともあるためか、トリスタンⅢ世は彼らと交わることを好んだ。 忙しい公務の合間を縫って、冒険者たちのために結婚式を挙げていた姿が目に浮かぶ。 『彼らは私の大事な国民であり、同時にいつかこの国を救う英雄かもしれないのだ』 そう言って、公務の間ぐらい休むよういさめる自分に向けた笑顔が忘れられない。 ――なのに。 「連中はトリスタン陛下を裏切ったのだ!」 内務大臣の感情的な声が心臓をえぐる。 そう。トリスタンⅢ世ほど彼らを愛した君主はいない。 なのに、なぜ。 「結局、冒険者とは自らの利益しか考えぬ連中だったということでしょう」 「奴らには少し思い知らせねばなりませぬな」 そうか。思い知らさなくてはいけないのだ。 自らの罪を。 トリスタンⅢ世の無念を。 全ての冒険者に。 「しかしですな。悪事を働いているわけでもない者に――」 「大司教」 「強制しても良い結果は――は?」 感情的になる大臣達を1人なだめていた大司教は、イゾルデの静かな声に振り返った。そして絶句する。 夫の死からずっと抜け殻のようだった彼女の眼に、異様な光が灯っていた。 なまじ美しい顔立ちであるだけに、心労でやつれた顔の中で瞳だけをギラギラと輝かせる様は凄絶の一言に尽きる。 「簡易的なもので構いません。明日、私の戴冠の儀をおこないます。準備を」 「は?いや、あの、それは」 自らが王位に就く。そんな突然の宣言に大司教は耳を疑う。 しかしイゾルデはもはや大司教など一顧だにせず、立ち上がって矢継ぎ早に命じた。 「軍務卿。明日の戴冠後、初勅として全ての冒険者に動員令を発します。彼らが軍として機能するよう、統率手段と編成をすぐに考えなさい」 「…は」 皇后の変貌にとまどいつつも、自身の主張が受け入れられた形の軍務大臣は素直に頷く。 しかし彼もすぐに青ざめることになった。 「内務卿。法務卿に諮って動員令に従わぬ者とそれに荷担する者への処罰を法文化し、即時発布なさい」 「かしこまりました。強制労働あたりが適当でしょうかな?」 「いいえ。その者達から数十名を選び出して互いに戦わせなさい。古代の剣闘士のように。最後の1人になるまで」 「なんと!?お待ち下され。それはあまりに」 名君が続いたミッドガッツには他国のような残虐刑がない。強硬派の急先鋒である内務大臣でさえ考えても見なかったことであり、彼は吹き出した脂汗を拭いつつ再考を促した。 しかしイゾルデは炯々と光る一瞥でそれを黙らせる。 「お黙りなさい。今は非常時です。理や情を説いて従わせられぬのなら、見せしめが必要な時です」 「は、はあ」 「財務卿。臨時予算の計上を。工務卿。どこか逃げられない場所に戦場を建設なさい。新築する余裕はありません。封鎖中の訓練砦から必要な機能を移すのです」 「はっ」 他の大臣がうろたえる中、専門馬鹿で有名な技術者肌の大臣は新しい任務を喜々として受け入れる。 そして 「侍従長。”爪角の欠片”の封印を解きなさい」 「かしこまりました」 彼女の本気を示す命令が最後に出された。 ”爪角の欠片” それは”ユミルの爪角”の破片とされる小さな結晶体である。 もちろん欠片には、伝説のように世界を平穏に保つほどの力はない。しかし生者と死者を峻別する程度の力はあった。 かつてトリスタンⅢ世はこれを用いて死の王とその軍勢を退け、永遠に冥界へと封じた。 しかし一度でも”爪角の欠片”に触れた者は、斃した相手の復活を阻止する力の代償として自身も二度と蘇生できなくなる。 だからこそ国王が急逝し、蘇生もされないなどという事態が起きたのだ。 「つまり勝者以外は殺せ、と?」 もはや流れ落ちる汗を拭うことも忘れ、内務大臣はイゾルデの顔をうかがう。 返答はさらに冷酷だった。 「全員でも構いません。従わぬ者が居なくなるまで、ギルド攻城戦の代わりに毎週執行します。ですから準備日を除く5日以内に決着しなければ全員処刑とします」 「し、しかし、冒険者は総数の把握さえ難しいのですが、所在や不届き者か否かの判断はいかように…」 「冒険者は皆、カプラサービスと契約しているのではなくて?」 「さようですな。しかしカプラ本社がそのようなことに協力するかどうか」 どちらかと言えば冒険者に同情的な騎士団長が一応の抵抗を試みる。しかしイゾルデは即座に一蹴した。 「させなさい。さもなければ彼女達も対象になるだけです。冒険者に荷担する者も同罪、と言ったはずですよ」 「………かしこまりました」 イゾルデの本気、あるいは狂気を感じ取った大臣達が頭を垂れる。 最上ではないにせよ、国難を乗り切るための方策と信じて。あるいは実施までに阻止、撤回できると楽観して。さらには狂気が自分たちへと向けられる恐怖に負けて。 「具体的な人数、選出法や場所など詳細は任せます。ただちにかかりなさい」 くす、くすくす 大臣達が退出し、人気の絶えた会議室。その窓際でイゾルデは笑う。 (冒険者たちよ) (あなた達が本当に英雄であるというのなら) (勝ち抜いて勝ち抜いて、その証を見せるがいい) くすくす、くすくすくす―― いつまでも、いつまでも、忍び笑いは響き続けた。 目次 進む
https://w.atwiki.jp/amizako/pages/612.html
遠く離れた古典の地や風物に対しては憧れをもつが、自分の近くにある古蹟などには至って無 関心なものだ。皇居の前はよく通る。太田道灌以来、およそ六百年を経た古城であることは承知 している。自動車や電車の窓からすばやく見える二重橋、お堀端など、見あきた風景だ。そう思 いこんでいる。ところが実際は何も知らない。目をこらして見たことはない。私は桜田門の、屈 折ある一隅に立って、石崖の松や青く淀んだお堀の水を眺めてみた。自分がどんなに意味もなく 多忙で疲れているか。近代都市の誘惑はすさまじい。耳を聾する大音響のために、目の方はかす んでくるらしい。何か心がうつろだ。私は茫然と老松のすがたを求めた。 むさし野といひし世よりや栄ゆらむ千代田の宮のにはの老松 明治天皇のこういう御製が、自分の心にかすかながら一点の火をともすようだ。それは歴史の 火だ。戦災で廃墟と化した東京にとって、ここは江戸の最後の名残りであろう。また大市街のた だ中に残された自然の一大断片である。「むさし野といひし世より」のすがたを見たい。私は真 夏の一日、西丸の皇居をはじめ本丸一帯を拝観することになった。三谷侍従長の御好意によるも のである。 * 坂下門を入ると、市街の騒音は全く絶えてしまう。ここには機械の音というものはない。蝉の 声だけが、城内一杯にひびきわたっている。宮内庁の裏側から、やや登り道になったところを行 くと、そこからはもう大森林に蔽われた丘陵地帯に入った感じであった。戦災で焼けた宮殿跡を 左手にして、右側にいきなり紅葉山の深い谷がのぞまれる。数丈の巨木の密生した山峡の眺めに 似て、底には深く青みどうの水が淀んでいる。道灌堀というが、おそらく数百年間手を加えずに きたこのお堀は、化けかかった古沼のようだ。流れはない。どれほどの朽葉がここに埋れている か。一面に藻で蔽われ、薄ぐらい底には純白の蓮の花が浮んでいた。 つこうど 仕人に案内されて行く玉砂利の道は、塵ひとつない清潔さである。私はここへ来る前、二一二の 古図によって大体の模様は心にとめておいたのだが、一町も歩まぬうちに、もう方角がわからな くなった。道灌堀を過ぎると平坦な道へ出る。賢所の裏門が前方にみえたが、この辺りから西に 向って、幅数問の道が一直線にのびている。周囲一問、高さ五六丈と思われる銀杏の並木があ る。「これが昔の甲州街道です。」と仕人が説明してくれた。皇居の中へ来て、甲州街道の名を聞 くのはめずらしい。一直線の道は半蔵門につづき、それから四谷門を通り、新宿をぬけて、今の 甲州街道に接続するわけである。この西丸は家康が入城した頃は、里人の遊覧地であり、旅人の 往還の道でもあったという。甲州街道は今の皇居を貫いて、東海道や奥州街道、日光街道などに つづいていたらしい。 私は銀杏の巨木を見あげた。同じほどの高さの老松、杉、欅、樫などが密生しているが、その 間にみられる銀杏というものは何となく華やかである。あの葉は眼に柔い。旅人にとっては憩い となる木だ。私は郊外の武蔵野に住んでいながら、樹木などには平生無関心なのだが、ここへ来 て、一本一本の木が身にこたえるほど鮮かにみえてきたのだから不思議だ。人工はひとつも加え てない。自然のままだ。それでいて我々が郊外で感じるあの自然とはちがう。正確で清潔な道路 が額縁の役割を果しているようである。そこにきちんとおさまった絵である。貴人の眼によって のみ愛撫された素直さもあるらしい。茫漠として、のっそり立っているようで、それでいて実に お行儀がよい。東京のただ中に、おそらく千何百年のままで隔離された古典なのだ。今の千代田 やぐら 城には、二三の櫓(城中の高楼)を除けば何も残っていない。宮殿は廃墟である。ただ正真正銘 の古典的武蔵野だけが残っている。その中に陛下のささやかなお住居がぽつんとある。 * 秩父の山岳地帯は、東南にのびるにしたがって次第に丘陵となり、浅い谷間や小山を伴いなが ら、やがて平原につらなり、東京湾に達する。北を流れるのは入間川、東を流れるのは隅田川、 西は奥多摩、南には多摩川が流れているが、この間方二一二十里の地域を武蔵野とよぶ。武蔵野に は一望千里ともいうべき全くの平原はない。秩父山脈の連続である小さな丘陵が至るところに散 在している。その東南端、即ち東京湾に接するところが江戸の地である。今の市内にも、平均二 三十メートルの丘が多い。飛鳥山、上野、湯島、小石川、牛込、赤坂、麻布、青山、高輪白金な どいずれも高台である。千代田城はそういう台地の一つに構築された城だ。本丸と西丸を中心に 周囲一里半ほどの丘陵である。上古時代には、今の本丸下が波打際であったそうで、近年貝塚が 発見された。 家康が江戸に入ったのは、天正十八年である。彼は北条の拠った小田原城か鎌倉を所望したら しいが、秀吉の案で江戸に落着いたと伝えられる。その頃でさえ今の浅草、日本橋、京橋、芝、 麹町の大部分は入江であり、千代田村とよばれたこの地は、戸数わずか百戸の僻村であった。太 田道灌が長禄元年(室町幕府、足利義政の時)に完成したと云われる江戸城もすでに荒廃してい た。辺りはむろん広漠たる武蔵野である。道灌の歌に、「我宿は松原つ.・き海近く富士の高根を 軒端にぞ見る」「露おかぬかたもありけり夕立の空より広き武蔵野の原」の二首がある。これは 江戸城の風景を人に問われて答えた歌だ。同じ風景は徳川初期までつづいていたとみてよかろ ・つ。 上代から奈良平安朝にかけて、武蔵野の中心となった国府は、現在の府中である。その北一里 余のところに武蔵国分寺が建立された。諸国の国府と国分寺の線をつないで行けば、大体その頃 の交通路はわかる。武蔵国に隣接した国、たとえば駿河の国府と国分寺は静岡の在であり、それ から伊豆の三島を通り、相模の高座郡海老村を経て武蔵国府に至った。江戸はまだ問題になって いない。奈良朝初期、高麗と百済の帰化人を武蔵に移植させたことが続日本紀(元正天皇、霊亀 二年)にみえる。実はそれ以前からここは帰化人の植民地であった。埼玉の高麗郡が本拠の跡で こまえ さやま あり、一部は多摩郡狛江(今の深大寺附近)に住みついた。他方村山貯水池のある武蔵狭山一帯 は、同じ頃から物部一族の入りこんだところで、帰化人と物部が、上代武蔵野の政治と文化を掌 握していたわけである。現在深大寺に関東随一の白鳳仏の残るのも、これと無関係ではあるま い。 浅草は徳川期以来、江戸の一部とみなされるようになったが、実は江戸よりはるかに古く、独 立的に存在した帰化人の部落であった。国分寺は周知のとおり奈良朝廷の国家事業であるが、 それより以前、帰化人による仏教流布があり、私設の寺も当然建てられた。浅草寺はその一つで ある。本尊の観音は推古朝二十六年に発見され、安置されたという言い伝えがある。帰化人によ る一種の宗教都市であり、工芸美術の中心として栄えたわけだ。頼朝も鎌倉の社寺建立には浅草 の大工を招いたと云われる。わずかに離れた江戸は、地方豪族の一拠点にすぎなかったらしい。 その地名を名乗った江戸太郎重長の名が歴史にはじめてあらわれるのは、治承四年八月(吾妻 鏡)である。彼は秩父平氏の出であるが、頼朝挙兵後その輩下となった。江戸が東海道と奥州街 道の要路として、注目されはじめたのは鎌倉期以後であろう。 皇居を巡り、様々の巨木をみるたびに、思い出すのは古い武蔵野の全貌であった。十万三千坪 もある吹上御苑は、五代綱吉より十一代家斉にわたってつくられた大庭園である。しかし戦後は 一切手入れをしないことにしたそうだ。これは陛下の思召である。武蔵野の樹木や雑草や小鳥を 保存し、古さながらの武蔵野を再現しようとの御夢であるらしい。秋など一面すすきの原になる すま そうだ。おそらく陛下の御心にも、古い武蔵野は息づいている。現在は草繁き吹上の一隅がお住 居である。「江戸むらさき」の名で有名な武蔵野固有の「紫草」もあるということだ。大樹林を とおして遙かにしのびつつその前を通る。 * 風寒き霜夜の月に世を祈るひろまへ清く梅香るなり これは昭和二十年、即ち敗戦の年の新年御製である。当時景気のよさそうな軍歌調の多かった 中で、突然この御歌に接した私は、静寂の裡にこもる沈痛なしらべに何か愕然たるものを感じ た。寂寥極まりなき歌である。寒風の吹く霜夜の月に、ひとり目ざめて、ただ祈るより他ない悲 哀の極みを垣間見たように思った。帝王の孤独である。わずかに白く暗夜に咲く一輪の梅花に、 希望とは言いかねる希望を託しておられるごとくであった。賢所の辺りで歌われたものであろう か。 樹間の道を歩み、いつの間にか賢所の前に出たとき、私はその梅の木のことを仕人にたずねて みた。賢所は戦災を免れたが、広前の一角は焼失し、梅の木も焼けたのではなかろうかとのこと であった。賢所は、伊勢神宮のように古さびて、巨木にかこまれた奥深い暗い場所にあるかと想 像していたが、思ったより新しく、開放的な明るい感じをうけた。神殿というよりは御殿と云っ た方がふさわしい。玉砂利を敷いたかなり広い前庭に立って拝む。 賢所へ来る前に、生物学研究所の前を通ったのだが、あまりに質素な建物で、仕人から注意さ れるまで気にとめなかったほどである。研究所に隣接して、陛下の畑や田がある。陛下がどうし て生物学に深い興味をもたれたのか、それも粘菌類とかヒドロイド類とか我々には思いもよらぬ 下等動物にあんなに御熱心なのか、その理由を私は伺いたかった。後に三谷侍従長からそれとな く承ったが、貝殻には早くから興味をもたれていたそうである。はじめ貝類、それから粘菌類、 ヒドロイドと研究をすすめられた。今でも貝殻の標本をたくさん備えて、おひまさえあれば貝殻 を眺め、貝殻を研究されているという。スポーツは様々おやりになったが、どんなスポーツを試 みても決して頭のレクリエーションにはならぬ、ただ貝殻と微生物に向われるときだけ、心から 愉しげに、休まれるように拝察されるとのことであった。 御心配が多すぎるのだ。内外の事件に対して、我々の想像も及ばぬほど敏感であらせられると いう。御自身の過ぎし日を顧みて、「薄氷を踏む思ひ」と述懐された陛下にしてみれば、何か異 様な慰めがなくてはかなわぬであろう。歌は内攻する。お酒はお飲みにならぬ。わずかに貝殻の うちに、自然の音をしのばれるのであろうか。粘菌類もヒドロイド類も、標本にすると花びらの ような美しさがあるそうで、そういう自然の秘義に深く陶酔されるのであろうか。古い武蔵野の 一隅に、黙って貝殻を眺めておられるようなお姿は、歴代天皇には全くなかったことだ。歌学や 歌集を残された天皇は多いが、「相模湾産後鰓類図譜」という御本は、科学的知識の全くない私 がみていても、実に異様なものである。 大正末期、摂政となられてから今日まで三十年間、陛下は日本の代表的な政治家や軍人のすべ てにお会いになった筈だ。清廉と老獪、真実と虚偽、あらゆる人間臭を、率直な御心は見ぬかれ ていた筈だ。愁い深く堪えられたようであるが、恐るべき変転裡に眺めた様々の人間相を、こと によると陛下は標本として胸底深く蔵しておられるかもしれない。 「日本産重臣類図譜」をかかれたら面白い。 * 賢所の前を通って暫く行くと、道はわずかながら下りになっているようである。かすかに電車 の音が聞え、警視庁の塔の避雷針らしいものがみえてきた。周囲は依然として鬱蒼たる森林であ る。三宅坂から桜田門に至るお堀のこちら側あたりを私は歩いているらしい。暫く行くと、皇居 の正門(大手門)がみえてきた。やがて二重橋である。 突如として眼前に展けた風景に、私は思わず息をひそめた。日比谷から丸の内にかけて、幾層 のビルディング群が蜃気楼のように茫と浮び上ってみえる。それはいま私のいる大内山の風景と は、あまりに隔絶した夢のようなもので、徳川末期から現代まで百年を一飛びした感じであっ た。何という激しい変貌であろう。これがまさしく文明開化だ。文明開化という言葉が鮮かによ みがえってきた。平生見なれている何んでもないビルディングが、こんなにもの珍らしくみえる とは予想しなかった。 私は二重橋の欄に寄った。外部からみると、正門に通ずる大手橋と重なりあってさほど高く思 われないが、今ここに立つと、皇居前に群がる人々が眼下に小さくみえる。よほど高い橋であ る。広場の松林を通して彼方に、自動車の激しく往来するのが、何か遠い異国の出来事のように 思われた。音響は全然聞えてこないので、サイレント映画をみているようだ。ふりかえると、眼 前には伏見櫓が高くそびえている。おそらく百尺はあろうと思われる石崖、その直ぐ下は青く淀 んだお堀の水である。古城の白壁と松影が映っている。今に残るわずかな江戸城の面影。よく化 粧された端然たるすがただ。威厳があってしかも瀟洒である。 たかどの 高殿の窓てふ窓をあけさせてよもの桜のさかりをぞみる 明治天皇の「見花」と題した晩年の御製だが、高殿というのはこの櫓でもあろうかと想像し た。春の桜花の頃、ここに登って全部の窓を開け放ったならば、城内外の桜は一望のもとに眺め られるであろう。明治天皇の数多い御製の中でも、この御歌はいかにも王者の英風をしのばせる 大らかな歌である。明治の旺んな有様もしのばれる。 二重橋を渡って、宮殿の跡に立つ。今度は一面の焼野原である。白く焦げた東車寄の石段、土 台石や煉瓦の破片、中庭らしいところに残る大きな銅盤、一つの石燈籠、御座所の跡と思われる 白壁の残骸、あとは何もない。雑草が生え、わずかの畑がつくられてあるだけだ。焼失したのは 昭和二十年五月の空襲であった。直撃弾は一発もなかったが、参謀本部からの飛火があり、風速 二十ニメートルの烈風にあふられて、瞬時にして灰燼に帰したという。 この宮殿が完成したのは、明治二十一年で、附属の建物も併せると、総建坪一万二千七百坪と いう宏壮なものであった。日本風の総檜木造り、屋根には銅瓦を用いた。内部の装飾は桃山風と 独逸風を併せ、そこからくる不思議な絢爛豪華ぶりは、外国の著名な宮殿に比しても劣らず、非 常にユニークであったと伝う。正殿、豊明殿、鳳凰の間、千種の間、東西溜の間、御座所、御学 すまい 間所等、すべては焼失した。明治大正今上三代の御住居と思われる辺りも、今はただ夏草の繁る のみである。 * 徳川歴代将軍の居たのは、云うまでもなく本丸である。皇居となっている西丸は、将軍隠退後 べつしよ の別墅あるいは私宅のごときものであったらしい。太田道灌草創の城址は本丸の内にちがいない が、どこがその場所か判然としない。皇居を辞して、二の丸から本丸の方へ廻ってみた。高さ二 十メートルほどの宏大な丘陵に築かれた城郭である。現在本丸二の丸三の丸を通して残るのは、 すみやぐら 皇居前広場からもはっきり見える富士見櫓、お堀端にのぞむ二一二の隅櫓、木造の若干の城内屋敷 だけだ。富士見櫓の眺望は、現在の千代田城ではおそらく随一であろう。 あかねさす夕日のかげは入りはてて空にのこれる富士のとほ山 私はこの明治天皇の御製を、どうしても富士見櫓での御作と思わないわけにゅかない。この櫓 の生命は、この御歌に見事に表現されているようだし、この御歌を知って櫓を眺めると、櫓の男 ぶりが一層水際だってくると云った感じがある。事実、夕映えに色どられた富士見櫓の白壁の美 しさは、多くの東京人の見のがしている風景だ。垢ぬけした男性美とは、おそらく城の櫓につい て云えるところだろう。 あしびきの山のはいつる月かげに大海原の波を見るかな これはどこでの御作かわからないが、富士見櫓からならば、往時東京湾ははるかに望見出来た 筈だ。房総の山あたりから出た月影が広々とした湾の波を照らす雄天な風景が想像される。明治 天皇御集をみて、私の最も感心したのは、さきの「見花」とここにひいた二首であった。御集は 日記とも云えるほど、何らの技巧を用いられず、その日その日の喜びや憂いを率直に歌われてい る。倫理的なものが非常に多く、従来教訓として濫用されたうらみがあるが、叙景の歌の方がす ばらしい。 本丸の跡に立ってみた。雅楽の練習でもあろうか、近くの楽部から笙の音が聞えてくる。苔む した石崖と、相変らず天を蔽うような巨木の群と、その他には往時の遺蹟は何もない。家康がこ こに築城を開始したのは関ヶ原合戦の四年後、慶長九年であった。同十年には家康隠退して、秀 忠が二代将軍となったが、本丸はそれから十一年かかって、家康薨去の前年、元和元年にほぼか たちを整えたという。五層の雄大な天守閣が出来たのはこの時である。元和六年から更に増築 し、外濠を堅め、西丸も整備して、江戸城の結構がほぼ完成したのは三代将軍家光の寛永十四年 とある。前後実に三十三年を要したわけだ。それから現在まで、この城の変遷を表示すれば次の とおりである。 寛永十六年 (三代家光)本丸火災、翌年四月修築す。 明暦三年 (四代家綱)江戸大火のため本丸二の丸三の丸全焼す。 万治二年 (同)本丸造営、天守閣は再建せず. 延享四年 (九代家重)二の丸焼失す。 天保九年 (十二代家慶)西丸焼失、翌年四月再築す。 弘化元年 (同)本丸焼失、翌年四月再築す。 嘉永五年 (同)西丸焼失、同年十二月再築す。 安政二年 (十三代家定)本丸焼失、翌年十一月再築す。 文久三年 (十四代家茂)西丸焼失、同年本丸二の丸焼失、いずれも再築す。 慶応三年 (十五代慶喜)二の丸焼失す。 明治元年 江戸城明渡。西丸を皇居とす。 明治六年 西丸焼失す。赤坂離宮を仮皇居とす。 明治十七年 西丸に宮殿造賞二十一年十月竣工す。 昭和二十年 戦災にて宮殿炎上す。 大体以上のような推移で、三百年間に度々焼失している。後代になるにつれて幕府財政窮迫の ため、もとのような再建は不可能になったという。戦争による破壊は徳川期には一度もない。江 戸大火あるいは内部出火が原因であるが、それにしてもよく焼けたものだ。おそらく家康から家 光までの間の江戸城が、内部最も完備していたであろう。造営は伏見桃山城の技能者達によった と伝えられる。現在京郡に残る二条城は、家康上洛の折の居城であり、桃山の遺構を伝えるもの だが、多くの襖絵は別として、間どりなどはおおよそ似ていたと思う。秀吉にしても家康にして も、覇者の威嚇性を建築と装飾にあらわした人だ。二条城を見た折もそう思ったが、あの絢爛た る金箔と、それを照らす夜の燭台の光りは絶大の舞台効果をもたらしたであろう。三百四十六年 後の今日江戸城の一切は消滅している。ここもただ夏草の繁るばかりである。 * しゆうう 坂下門を辞する頃、激しい驟雨が来た。皇居前に集っていた人々が、あちこちに走り去るのが みえる。周囲は次第に薄暗くなってきた。やがて人影ひとつない松林と広場に、瀧鰹たる大雨が 降りそそぎ、コンクリートの道はしぶきをあげる。松林全体から遠いお堀の辺りまで、一面に 烟ってみえた。暫く待っていたが晴れそうに思われない。私は傘をななめにし、雫にぬれなが ら、お堀端の柳に沿うて歩いてみた。雨というものはふしぎに懐古の情をそそる。古城をめぐる 様々の歴史的人物が浮んでくる。 堀の周囲は往時すべて大名屋敷であった。現在日比谷角の総司令部は池田邸の跡である。それ から和田倉門に向って、山内邸、蜂須賀邸、町奉行所という順序に並び、神田橋寄りには酒井邸 と細川邸があった筈だ。参謀不部跡は明石邸と三宅邸、そこから桜田門前にかけて、井伊邸、浅 野邸がつづき、警視庁から裁判所の側には、鍋島、毛利、上杉諸侯の邸宅があった。半蔵門と田 安門一帯は旗本屋敷である。古図でうろ覚えにしていたところを思い出し、それらの屋敷が甍を きそい黒門を構えて、墨絵のように雨の中に並んでいた昔をしのんだ。眼を転じて、富士見櫓の 白壁と城内の老松に雨のふりそそぐのを眺めると、芝居の書割そっくりだ。周囲には雨の音しか 聞えないが、それが却って森閑とした感じを与える。一人でうろついているうちに、自分が何と なく丸橋忠弥のように思われてきたのは滑稽であった。 現在の千代田城は、すでに述べたとおり武蔵野と云っていい。陛下は宮殿の再建など思いもか けておられぬようである。草木を益ー繁茂させ、野鳥の声を聞き、古さながらの武蔵野に愁い深 くお住みのつもりらしい。しかしこの自然は、そのままで尊い宮殿ではなかろうか。二重橋の前 を通り、再び桜田門の辺りに来たとき、驟雨は過ぎた。雨にぬれた桜田門の白壁の美しさ。白と いう色があったことを改めて気づくほどに鮮かにみえた。
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/2643.html
思いついたネタです。 ストパンネタです。でも制作者はストパンをチョコットしか知りません。 TSネタがあります。キャラも出てきますが、よく知らないので違ったらごめんなさい。 それでもよろしければどうぞ。 あくまでもネタです。あしからず。 九曜葛葉。 ストパン世界に、遥か400年前に生まれた夢幻会の重鎮、嶋田繁太郎の転生体。 世界最高齢にして最強の“ウィッチ”。 現在は天皇家に仕える侍従長で、護衛も兼ねている。 ――― ―――――― ――――――――― 今日はある程度軌道に乗った夢幻会の方針に、主要メンバーと協力した者達が集まって、軽い食事会を開いている。 天皇家に仕えている九曜も来てくれて、絡んでくる男連中を軽くあしらっている。 そんな彼女の様子を、今だに中二病な奴が睨みつけるように見ていた。 「…気に食わん。」 「突然何を言っているんだ。お前は…」 隣に座っていた山本五十六が、富永恭次に突っ込みを入れる。 どうやら女性転生者と談笑している親友をにらんでいるようだ。 「何が気に食わんのだ?」 「全部だ。」 コイツはよくわからん。転生前に会ったが、相変わらず変な発言で周囲を混乱させるところは変わらない。 要領をえない為、もう一度聞いてみる。 「なんというか気に入らんのだ。何時もの嶋田じゃない。」 「そりゃ、400年も生きているのだ。かわるだろう?」 人間とてあまり会っていなければ変わるのだから。そう言ったが納得していないようだ。 「それでもだ。」 ドン!と御猪口を置くと乱暴に日本酒を注ぐ、その様子を見ていた東條英樹もやってきた。 隣に座り、漬物を摘まむ。 「でも…なんか違和感がありますよね。」 「…」 山本も違和感をぬぐえない一人。 以前ならば頼まれてもやらないようなことをし、以前ならば富永の中二病に頭を抱える所を軽く笑って流す・・・話さなかった人物とも話している。 おかしいと言えばおかしいが、“400年”という歳月がどうにも・・・ 「確かに変ですね。」 「「「うぉぉぉぉ!」」」 いきなり背後に現れた辻正信に驚く三人。大きな声を上げたので九曜が振り返るが、すぐに談笑に戻る。 その様子をチラッと見た山本は、なぜか安心して溜息をつく。 「お、驚かさんでくれ。」 「ふふふ、失礼。」 「…辻さんも、嶋田さんをおかしいと思うのですか?」 気を取り直した東條が割り込んできた辻に聞く。 「ええ、一応長い付き合いでしたからね。違和感がぬぐえませんよ。」 「そうか…」 「はっ! あれか、昔の旦那が最近……(ウンヌンカンヌン)」 「(また富永がトリップしてしまった)確かに変ではあるがなぁ。どう変のなのかがわからん」 「こればっかりは私もわかりません。」 と、言ってお酒を飲みほし、近くのワインをグラスに注いだ。 「ですがね。400年生きてきた嶋田さんの精神がマトモではないのはわかります。」 「おい、それは…」 「長い年月生きている。家族の事を聞けば言葉を濁し、話題を変えようとする。」 「……」 「それとなく家の事を聞いてみましたが、現在は皇居内の一角で暮らしているみたいです。 しかし実家は…京都が良く見える場所…それしかわかっていません。 過去の事は辛い事もあったでしょうが、楽しかった思い出もあった筈です。 ですが、そんな話は一切しない。怪しくて、怪しくて…ねぇ。」 辻の視線は九曜に注がれている。その視線に何が含まれているのか、山本にはわからなかったが、妙な胸騒ぎが沸き起こり始めていた。 (何事もなければいいが…) ――― ―――――― ――――――――― 数日後 ――――――――― ―――――― ――― 昼過ぎ。 東京湾のある埠頭に客船が横付けされ、タラップが下ろされると元気そうな女の子が居の一番に降りてきた。 「ふぃぃぃ。ようやく到着したンダナ!」 扶桑国には無い髪の色をした女の子、エイラ・イルマタル・ユーティライネンは長い船旅でこった身体を、伸ばすことでほぐす。 「ウゥゥンン…ふぅ。」 簡単な手荷物を担ぎなおすと、すぐにバスが止まっている場所に向かう。 この国に来た理由は、戦場で見かける扶桑の“ウィッチ”達が皆【法術士学校】【導術士学校】の卒業生であった事と、夢の中で会う“オバサマ”に会えればと思ったからだ。 九曜はこの時代に生きているとは言っていたが、どんな職業についているとは聞いていなかったため、寄ったついでに聞いてみるつもりでいる。 あれだけの知識量と実力(夢世界での仮想戦・九曜全勝中)を持つ人物だ。 絶対に関わりがあるはず! 「大阪のガッコウに行ってみたいケド。一週間しか居られないカラナ…法術士ガッコウで我慢しヨウ。」 エイラはそのままバス停に向かい、時刻表を見る。が… 「よ、ヨメない…」 時間はわかるが、目的地が全て漢字で書かれており、まったくわからない。 当たりを見回してみるが、どう見ても民間の人ばかり。 言葉が通じるとは思えない。 「エエい!ココは度胸だ!!」 そう言って今来たバスに乗り込んでいった。 迷った。 適当に乗り継いでみたら完全に迷子になった。 うなだれながら何度も、何度も確認する。財布の中身は有限だ。 「船員サンに聞けばヨカッタ…」 嘆いていても始まらない。 しかしこんな街中で、言葉が通じるだろうか? (オバサマは綺麗なブリタニア語だったモンなァ) 困り果てたエイラが悩んでいると、 「あの…どうかしましたか?」 流暢なブリタニア語が後ろからかけられた。 この日は学校が休みで、芳佳は普段ならば実家に帰って居る予定なのだが、今回は友達のサーニャの住んでいる家に泊めて貰っていた。 彼女に誘われて、初めてのオラーシャの料理を食べてちょっと幸せ。 「優しいお父さんだったね」 「うん」 口数が少ないけれど、表情などを読み取ればかなり多彩であることがわかる。 恥ずかしながら披露した歌声は、近所に住む同郷の人達も呼び込んで、ちょっとした宴会になってしまったのは軽いハプニングであった。 楽しかったけど。 「今日は早く帰らないと…」 「明日、大変だもんね」 昨日一日実家に帰っていたサーニャと、泊めて貰った芳佳だが、翌日の授業で使う教材を今日中に運び込まないといけない為、早めに寮に帰らねばならなかった。 本来ならば土曜の授業に終わった後、すぐに運び込む予定だったのだが・・・教材が破損していることがわかり。 しかも、よりにもよって“ウィッチ”が制作しなければならないものだった。 幸いすぐに代わりが見つかったものの、入荷が今日の昼以降になってしまう。 その為に帰らねばならない。今は戦時中という事もあり、実線に出でるかもしれない子達を育成しているから、必要なくても教えられているのだ。 バス停まで見送ろうとした両親を玄関で止め、名残惜しかったが二人は歩いて向かう。 そしてバス停が見えてきたのだが・・・ 「あれ、どうしたんだろう?」 「…さぁ?」 二人の目の前では、クルクルバス停で回っている挙動不審者がいた。 周りの人間は外人という事もあり、どうも話しかけづらいようだ。 『船員サンに聞けばヨカッタ…』 ブリタニア語で呟いたのを聞いて、世話焼きな芳佳は声をかけることにする。 『あの…どうかしましたか?』 『エ…言葉、わかるノカ?』 『はい、授業の一環で外国語を習いますから。』 『そうなノカ…扶桑国は進んでイルナァ。』 『私たち、法術士学校の生徒なんです。』 『そうなノカ!!』 突然少女は嬉しそうに笑い、肩を掴んだ。 その行為にサーニャがちょっと「ムッ…」としたようだが、何も言わない。 『いやぁ。ソコに行こうとしたんダケド、全然わからナクテ。』 『空港から来たんですか?』 『いや、船旅ダヨ。』 『だとしたら反対ですよ…』 『なん…だと…』 愕然とした様子にさすがの二人も苦笑する。 『これから帰る所なんです。よかったら付いてきますか?』 『おお! それは頼みタイゾ!!』 『でも、関係者でない限り中までは入れませんよ?』 『大丈夫だ。エット…(ゴソゴソ)…ほら、紹介状ダゾ』 荷物袋から、ちょっと皺が付いた用紙を見せてくれたが、確かにそれは紹介状だった。 『それなら大丈夫です。あ、ちょうどバスが来たみたいですね。乗りましょう』 『アリガトウ! 君は恩人ダ!!』 感謝して手をブンブン振るうとある事に気が付いた。 『自己紹介がマダダッタナ。私の名前はエイラ・イルマタル・ユーティライネン。エイラで良いゾ』 『私はヨシカ・ミヤフジです。扶桑だと宮藤芳佳といいます』 『…サーニャ・V・リトヴャク。サーニャでいいよ』 『芳佳にサーニャか…覚えたぞ!』 三人はバスに乗り込み、法術士学校に向かっていった。 道中、彼女が戦場で戦う人だとわかり、いろんな質問をお互いにして中を深め合っていった。 ――― ―――――― ――――――――― 皇居の一角にある九曜専用の部屋。 そこはすぐに陛下の元に駆けつけられる場所にあり。 歴代の天皇陛下が頼りにして、良く訪れた部屋でもある。 どの皇太子達も一度は九曜に遊んでもらった。 思い出深い部屋で九曜は執務する机に座り、部屋をただ見回す。 その視線は少々虚ろで、部屋をしげしげと見まわして、一つ一つを記憶しているようにも見えた。 そして瞬きをすると机の引き出しを開き、一番奥の方にある“長方形の物体”を取り出した。 九曜はそれを・・・愛おしそうに撫で、我が子のように抱きしめる。 「……………」 何かを呟いた。 しかし、静寂に包まれていた部屋にすぐに溶け込んでしまう。 そして誰も聞く者はいない。 名残惜しそうに取り出したものを、先程と同じ場所にしまい込みしっかりと蓋をする。 机から立ち上がり、頭巾をかぶって部屋を後にする。 400年生きたモノの部屋としてその部屋は、あまりにも殺風景な寒々しかった。 以上になります。 ふぅ・・・嶋田九曜さんと夢幻会は動いてくれるけど、芳佳嬢達が動いてくれん! エイラは動いてくれるんだけどなぁ・・・ それはともかく、あと二回ほどで終われそうな感じです。 アグレッシブの方はこちらが詰まったらまた書くかもしれません。 リアルも忙しい。インフルエンザで同僚が倒れて、人がいないからくそ忙しいうえに、精神的に疲れる場所に一時的に配置されているから、癒しが欲しい(泣 他の方々のSSも待っているぜ!!
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/5280.html
六武衆の侍従(OCG) 通常モンスター 星3/地属性/戦士族/攻 200/守2000 下級モンスター 六武衆 戦士族 風属性
https://w.atwiki.jp/v-actress/pages/2531.html
松岡そのかをお気に入りに追加 松岡そのかのリンク #blogsearch2 松岡そのかのキャッシュ 使い方 サイト名 URL 松岡そのかの報道 日テレ元日『ウルトラマンDASH』『月曜から夜ふかし』『King&Princeる。』豪華3番組放送 - ドワンゴジェイピーnews 『鬼滅の刃』遊郭編の新キャストに石上静香、東山奈央、種崎敦美 宇髄天元の3人の嫁役に - リアルサウンド 北米興収、全体低調で“沈黙”の週末に? 日本発アニメ『劇場版 SAO』がTOP10にランクイン(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 強くてしなやか、ワイマナ・カパ!見たよこの目で、清水建設戦での活躍を。 - http //w-higa.com/ 2021年度日本卓球リーグプレーオフJTTLファイナル4 ~女子は、中国電力が優勝~|卓球レポート - 卓球レポート 高月彩良が岸優太&西畑大吾の幼なじみに「慣れない着物と一枚歯の下駄で奮闘しています」<必殺仕事人>(WEBザテレビジョン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 野心に満ちてのし上がる男を描いたシェイクスピア史劇に挑む 単なる悪漢ではない、人間・リチャード三世の心のひだを描きたい - カンフェティ 【連載】インカレ開幕前特集『W奪還』 【第5回】大島岳晃×曽我部ありす×松岡寛子×無着航平×森一史 - wasedasports.com 2021年に一番活躍したと思う男性声優は?【中間結果発表】トップ3の共通点は「鬼滅の刃」 - アニメ!アニメ!Anime Anime 松岡昌宏、成田凌を追い詰める! その訳とは…新土曜ドラマ「逃亡医F」(cinemacafe.net) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 3日間かけて焼く“サクサクもちもち”な焼き鳥に松岡修造が「はい、おめでとう!」とエール - フジテレビュー!! ヤクルト関係者「村上は“タメ口”のタイミングが絶妙なんです」高校恩師も語った村上宗隆(21歳)、“上下関係なし”野球部での原点(Number Web) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 錦織圭<一問一答>「まだまだできると思っている」とスポンサーイベントで語る【テニス】(Tennis Classic) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 昭和天皇「顔が紅潮ご興奮」 開戦議論後 百武侍従長日記の主な記述 - 朝日新聞デジタル ディカプリオも踊らされた!?美術界の闇に迫った仏ドキュメンタリー映画とは(ダイヤモンド・オンライン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 落語家・立川談志の没後10年特別対談にダンカンが登場「談志師匠が筆談で書いてくれたのは、『たけしに迷惑かけてねえか』って。泣いちゃうね」 - ニフティニュース 日米開戦80年-プレミアムA:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル 帝京大が3年ぶりVへ根気勝負「粘り強く戦えるか」岩出雅之監督 ラグビー(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 2021年生まれ「名前ランキング」に登場するアニメキャラ イケメンを連想させる「蓮」(マグミクス) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース UiPath日本法人トップが説く「日本のデジタルが世界をリードする」決め手とは(ZDNet Japan) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【K-1】野杁正明との再戦への第一歩、安保瑠輝也「この試合は圧倒的な力の差を見せて勝つ」(ゴング格闘技) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース CLAMP・大川七瀬と「東京BABYLON」主題歌担当の松岡英明による対談公開(動画あり) - コミックナタリー シャンプーでふらつき 「美容院脳卒中症候群」対策は - 産経ニュース 【ラグビー】長期離脱から日本一のメンバーに。4年生FL・服部航大[天理大]の使命。(ラグビーリパブリック(ラグビーマガジン)) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 倉庫まるごと現代アート作品に! 香川・小豆島で2人のアーティストが制作(ほ・とせなNEWS) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【プレビュー】松岡美術館が年明け1月再開 時を超え、洋の東西を越えた美の世界を―― 再開記念展「松岡コレクシ… - 読売新聞社 錦織圭「子供の世話をするのは大変」、トークイベントに参加し感謝したい人に両親【テニス】(Tennis Classic) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース HKT48松岡菜摘が語るアイドルを10年続けてきた理由「いい意味で諦めるタイミングが来なかった」(エンタメNEXT) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース TOKIO・松岡昌宏、結婚「しません」と断言! 出席して“面倒だった”式明かす - サイゾーウーマン Bリーグ群馬、高校生発案の小児がん支援「レモネードスタンド」に協力する理由 - THE ANSWER 「うたわれ」記念作品の『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』にオシュトルの父が!? 公開映像を元に確定情報や推測をお届け(インサイド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ドラゴンズの元・エースが訪問 食品と人をつなぐ「フードバンク」 息抜きできる居場所「子ども食堂」 | 東海地方のニュース【CBC news】 - CBCテレビ 【インタビュー】ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」~うずまきナルト物語~うずまきナルト役・中尾暢樹「ナルトが一筋の光に見えたら」(エンタメOVO) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ミロ・ジャパン社長に就いた五十嵐光喜氏に意気込みを聞いてみた(ZDNet Japan) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 高田文夫氏の胸がしめつけられた 「17歳の立川談志の日記」(NEWSポストセブン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース TOKIO松岡昌宏さん「株式会社、このタイミングでよかった! 10年後は…」(NIKKEI STYLE) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 元バイトAKB同期・HKT48松岡はな スターダム上谷沙弥選手が奇跡の再会「プロレスって痛くないの?」(エンタメNEXT) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 大谷翔平が愛読しMVPで再注目!「中村天風」啓発本の正しい読み方(日刊ゲンダイDIGITAL) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース オンライン化が進んでも埋まらない、都市部と地方の「教育格差」の実態(マネーポストWEB) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース TOKIO松岡昌宏氏 エンタメ視点で日本のものづくり発信|NIKKEI STYLE - 日本経済新聞 「精霊幻想記」第2期制作決定 松岡禎丞、藤田茜らのお祝いコメントや特報映像など発表(映画.com) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『サイスタ』配信記念! 寺島拓篤さん(天ヶ瀬冬馬役)インタビュー。「冬馬に恥をかかせられないという想いで、ステージに立っています」(ファミ通.com) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 朝ドラ〈カムカムエヴリバディ〉が深すぎる 制作者に聞いた裏テーマ(木俣冬) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 渋谷ミヤシタパークのart space SAIで松岡亮 個展「暇で育つ。」開催(11/26-12/26) - TOKYO FRONT LINE 「実況に“こにわ”はいらない」。小庭康正がフットサル中継に込めた思い(SAL) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 岡村隆史、結婚でまるで別人に? ノロケ連発に親友・国分太一も「ビックリ、驚きだわ」(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ブルペン2か所が練習場所 専修大準硬式が全国準優勝を勝ち取るまで(高校野球ドットコム) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 立川談志と独裁者【しあわせの基準 ー私のパパは立川談志ー 第三十二回】(週プレNEWS) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 選手からも悲鳴続出! 鳥栖が公開したドゥンガ式腹筋トレーニングが超絶ハード(超WORLDサッカー!) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース JRA松岡正海、復帰早々に相変わらずの松岡節!? 関東の“異端児”の復帰と、もうひとつの夢とは…… - Business Journal 〈カムカムエヴリバディ〉はなぜこんなに満足度が高いのか。ささやかな出来事をじっくり描くわけ(木俣冬) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース NTTデータ社長が説く「日本のITサービス業界が対処すべき3つの課題」(ZDNet Japan) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース アニメ映画『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』キリト役・松岡禎丞さんインタビュー|悩みながらも会心の出来となった演技や、最初にアスナと掛け合った時の衝撃を熱く語る! - アニメイトタイムズ 吹奏楽部男子を育成する『ウインドボーイズ!』を「元吹奏楽部&聖地・石川県出身」の筆者がプレイしたら、えこ贔屓なしで推せるゲームだった(インサイド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 一緒に文化祭を楽しみたいキャラは? 3位「名探偵コナン」毛利蘭、2位世良真純…高校生キャラが複数ランクイン!(アニメ!アニメ!) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース TOKIO、チームワークの秘けつは“個性”を尊重「5人のときから変わっていない」(オリコン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『ハリー・ポッター』は、子ども向けの言葉を使わない。その理由を翻訳者が明かす(J-WAVE NEWS) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 松岡修造がお悩みにアンサー! 「気が進まない頼まれごとで相手を不快にさせない断り方とは?」(集英社ハピプラニュース) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 神尾楓珠主演『彼女が好きなものは』各界から絶賛コメントが続々と到着…!(MOVIE WALKER PRESS) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 松岡修造、男鹿半島の紅ズワイガニのおいしさに「今日から僕は紅ゾウ」宣言 - フジテレビュー!! 松岡正剛×村井純 スペシャル・ロング対談:日本とデジタル――新型コロナパンデミック、デジタル庁始動に寄せて - INTERNET Watch AIを駆使するアシスタントは、家事に「第2の革命」を起こせるか:松岡陽子とパナソニックの挑戦 - WIRED.jp 松岡そのかとは 松岡そのかの94%はやらしさで出来ています。松岡そのかの2%は明太子で出来ています。松岡そのかの2%は媚びで出来ています。松岡そのかの2%はお菓子で出来ています。 松岡そのか@ウィキペディア 松岡そのか 楽天売れ筋ランキング レディースファッション・靴 メンズファッション・靴 バッグ・小物・ブランド雑貨 インナー・下着・ナイトウエア ジュエリー・腕時計 食品 スイーツ 水・ソフトドリンク ビール・洋酒 日本酒・焼酎 パソコン・周辺機器 家電・AV・カメラ インテリア・寝具・収納 キッチン・日用品雑貨・文具 ダイエット・健康 医薬品・コンタクト・介護 美容・コスメ・香水 スポーツ・アウトドア 花・ガーデン・DIY おもちゃ・ホビー・ゲーム CD・DVD・楽器 車用品・バイク用品 ペット・ペットグッズ キッズ・ベビー・マタニティ 本・雑誌・コミック ゴルフ総合 ページ先頭へ 松岡そのか このページについて このページは松岡そのかのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される松岡そのかに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/princess-ss/pages/38.html
晩春の夕刻はいつも緩やかに訪れる。 書物から顔を上げて、クレメンテはふと窓の外を見遣った。 朱と紺が少しずつ滲みあい重なりあった境目が、そろそろ休息の時を告げるかのようだ。 宵闇迫る吹き抜けの廊下に足を運び、やわらかい春風に包まれながらの散策など、気分転換には最適である。 だが彼は部屋を出たくなかった。 今日予定していた分の学習はまだ八割方しか消化できていない。 最近はずっとそうだ。最初のころはもっと余裕をもって取り組むことができた。 それは何も章の進行とともに内容が高度になったためではない。 すべては集中力の問題だった。 今日のような非番の日にこそ心おきなく勉学に励むべきだというのに、 誰とも会わず部屋に閉じこもっていると、思考は自然と同じところに停滞してしまう。 我ながら不可解だと思った。 第二王女レオノールがまもなく隣国の王室に嫁ぐ。 婚約自体は幼少時に成立していたものだが、 先日婚礼の日取りが布告されたことで、内廷では諸々の準備が本格的に進められていた。 十七歳の第二王女は、次の誕生日の翌月にはガルィア王国王太子妃の称号を得ることになる。 大陸の中枢を担う国家の未来の国母として、臣民の歓呼とともに迎え入れられるのだ。 すべては国際政治の均衡と調和のために万全を期して設定された婚姻である。 何もいうべきことはなかった。 そう、いうべきことは何もないのだ。 そもそも俺は、とクレメンテは思う。 あのかたについて何も知らないに等しいのだ。 どんな色のドレスが好きだとか、どんな香水が苦手だとか、愛馬の名前だとか。 そしてなぜ自分のような者に会いに来るのか。 だが、最後の問いをあえて口にすれば彼女をひどく傷つけるであろうことだけは、彼にも理解できていた。 最初にことばを交わしたのは国王夫妻の結婚記念日に開かれた宮中舞踏会の宵だっただろうか。 今から約二年前のことになる。 末の王子エルネストに専属する侍従のひとりとして、クレメンテはその日も幼い主人に手を焼かされていた。 兄様姉様にするみたいに葡萄酒をグラス一杯に注いでくれなきゃいやだ、 と貴人たちの前で泣き喚く五歳の末息子に国王もとうとう温顔を消し、 罰として自室に連れ帰りひとりきりで謹慎させるよう、すぐ後ろにかしずいていたクレメンテに申し渡したのだ。 大広間の出口をくぐるころには王子もおとなしくなっていた。 「とうさま、明日になっても許してくれないと思う?」 さきほどの癇癪は嘘かと思えるほど小さな声だった。 日ごろ苦労ばかりさせられている主人だとはいえ、こんな心細げな声で問いかけられると、 クレメンテも憐憫の情を掻き立てられざるを得なかった。 「ぼく、わるい子だったね。とうさま、ぼくのこときらいになったかな」 「ご心配なさいますな、殿下」 クレメンテは答えた。 「お父上がお言いつけになったことを今夜しっかりお守りになれば、 明日の朝にでもお目通りすることが許されましょう」 「そうだといいな。 ―――でもぼく、おへやにひとりでいるのはさびしいんだ」 寂しさを味わっていただくための処置ですからとも言えず、クレメンテは黙った。 彼の足はいつのまにか方向を転じていた。 (俺のこういうところが結局、殿下のご癇気を容認し助長してしまうんだ) と心中自省しつつも、小さな手を引いて歩みつづける。 「こっち、ぼくのへやじゃないよ」 廊下の風通しがずいぶんよくなってきたころ、王子はいぶかるように言った。 「ええ、お部屋に戻る前に少しだけ寄り道をしましょう。 私たちだけの秘密です」 ふたりは南御苑の門をくぐった。 すでに日が落ちていることでもあり、広大すぎる敷地で位置感覚を失わないよう気を配りながら、 クレメンテは開けたところに出てようやく足を止めた。 王子がわあっと歓声を上げる。 そこは古代神話に語られる有名な情景を模した人工池だった。 周囲には異教の神々の石膏像がさまざまな姿態でそびえ立ち、大理石で縁取られた池に荘重さを加えている。 しかし王子の目を引いたのはそんな見慣れた風景ではない。 水辺の夜陰には小さな灯が無数に散りばめられていた。 夏もそろそろ終わろうというころだった。 逃げ惑う蛍たちを追いかける王子が池に落ちないように目を配りながら、 クレメンテは何匹か捕らえて薄手のハンカチの中に包み込み、彼に向かって振って見せた。 「これ、ずっと明るい?おへやでも明るいかな?」 池から帰る道のりでエルネストははしゃぐように尋ねつづけた。先ほどの沈鬱がこれまた嘘のようだ。 「燭台に火を点さずにおけば明るく見えますよ。 園丁の詰め所に寄って虫籠をもらってきましょう」 そのとき、前方から人影が近づいてきた。 石畳に足音はほとんど響かず、衣擦れの音に消されるほどかすかだった。 「ねえさま」 侍従の手をほどき、幼い王子は飛び出していった。 「まあ、エルネスト。どうしてこんなところに?」 「ひかる虫がたくさんいたんだ。ほた……なんだっけ、クレメンテ」 「蛍です」 平静を装って答えながら、彼は背中に冷や汗をかいていた。 ごくささいな任務だとはいえ、国王直々の命をすぐさま実行しなかったことがほかの王族に知られてしまった。 しかもうら若い婦人だ。絶対に周囲にしゃべり散らす。 立ち尽くしているうちに人影が近づいてきた。 二番目の王女だった。 豊かな黒髪を後ろに結い上げ、肩や腕を惜しみなく露出した夜会服をまとったままだ。 いまひとつ色は判別しがたいが、 明るい室内で見たならば髪や瞳の黒さをいっそう引き立てるような、淡い水色のドレスだろうか。 つい最近侍従に取り立てられたばかりのクレメンテにとっては、これまで一対一で顔をあわせることもなかった相手である。 これを見てよ、と言いたげにエルネストが傍らで袋状のハンカチをかざしている。 ほんのりとした明かりに浮かび上がるその姿は、先ほど目にしたばかりの古代神話の光景とあいまって、 月の処女神を髣髴とさせる気品に満ちていた。 このかたは美しいひとなのだ、とクレメンテはいまさらのように気がついた。 姉姫がずいぶん早く嫁いでしまったこともあり、実質上の長女として弟妹たちの面倒をよくみるという評判はあったが、 廷臣たちのあいだでその容姿が噂にのぼることはほとんどなかった。 愛する者たちを日々気にかけるあまり、このかたは自分の美しさを自覚する暇もないのだろう、 もしくは美貌を誇示するための労力をほかのところで使っているのだろう。 そんなふうに思われた。 「あなたは―――」 「クレメンテと申します、レオノール様」 跪こうとしたが制止され、立ったままで手に接吻することを許された。 目を上げると、吸い込まれそうなほど深く大きな漆黒の瞳がこちらを優しく見ていた。 「恐れながら、こちらに殿下をお連れしたことはできれば御内密に」 レオノールは微笑を浮かべた。夜陰に薔薇が開いたようだ、と彼は思った。 「あなたは優しいかたね。 エルネストが珍しくなついたと聞いて、どんなひとだろうと思っていたのだけれど。 この子のわがままにはわたくしだって手を焼くのに」 「ねえさまだって、ぬけだしてきたんでしょう」 「夜風に当たりたくなったのよ」 そういって結い上げた髪に手をやった。 「やっぱり花飾りがずれてしまってる。クレメンテ、挿しなおしていただけますか」 彼は王女の後ろに立った。 なめらかな背中が腰のすぐ上まで剥き出しになっている。 貴婦人の夜会服としては当然のつくりだとはいえ、公式行事の場ではもっぱら王子の守役を務めるクレメンテには、 同年輩の少女の素肌をこれほど近く見る機会はめったにない。 うなじに手を近づけたとき、指先が少し震えた。 その直後に髪留めでもある花飾りを地に落としそうになった。 「いちど抜き取っていただいたほうがいいかもしれません。 髪はもう編みこまれてあるから、束ねて結い上げて留めていただくだけでいいの」 そんな高等技術を俺に要求されても、とクレメンテは思ったが、王女自身はそれを遂行できないにちがいない。 というより、自分で身だしなみを整えるという習慣がないのだ。 彼はしかたなく、慣れない作業に慎重に取りかかった。 ふいにレオノールが口をひらいた。 「わたくし、あなたとお話してみたかったのよ」 「身に余る光栄に存じます」 クレメンテは誇張でなくそう言った。 たとえ王女でなくてもこれほど美しい娘からそのように告げられれば悪い気はしない。 「侍従長から聞いたの。あなたはアンダルセのほうからいらしたのでしょう。 都暮らしには慣れて?」 心が急に冷えた。 ああそうか、と彼は自嘲的に内心でつぶやく。 スパニヤ宮廷の慣例では、侍従の職はふつう名門貴族の次男以下の子弟が就くことになっている。 学府を卒業した後、出仕先の官庁を求めあぐねているクレメンテに侍従長が声をかけたのは、全くの僥倖というべきだった。 あるいは学府時代の彼の秀才ぶりと素行の正しさが侍従長の耳に伝わったことを僥倖と呼ぶべきか。 クレメンテの家は下級貴族にすぎない子爵、それもまだ一代である。 本来騎士階級であったのが、先だっての飢饉の際に近隣の農民に穀物庫を開放して食料を支給し 無利子で貸付を行った事業をみとめられ、父親が授爵されたばかりなのである。 さらにいえば、あと三代さかのぼればただの土豪でしかない。 国内各地に広大な荘園を領有している「本物の」貴族たちの子弟はふつう都の本宅で養育され、 貴族のみに開放された中央学府で学び、その後は宮廷に出仕、もしくは領地経営に専念する。 後者の場合でも、現地に赴いて自ら治める者は珍しかった。 父親の期待を一身に受けて十三歳のクレメンテは都に送り出され、学府に籍を置いたが、周囲との溝はあまりに深かった。 彼にとって、いきなり眼前に現れた貴族社会は巨大にして閉鎖的な姻戚組織図のようなものであった。 僻地の騎士階級出身の身には遠い親戚と呼べる者さえいない。 そもそも地方から来た生徒など誰もいないのだ。 彼が学問で頭角を現し始めると、あれの父親は金で爵位を買ったのだ、という噂がまことしやかに囁かれた。 実際のところ、彼の家の領地、より正確に言えば若干の地所など都周辺の豪農と変わるところがなく、 息子を都で学ばせるために彼の父親はわが身にたいへんな倹約を課していた。 それを思えばこそ、孤立や噂などに負けられない、とクレメンテは思ったのだ。 学業では常に優秀な成績をおさめ、飛び級を重ねて十八歳で卒業した時には準首席の栄誉を得た。 けれど、それと出仕先の獲得とは別の問題だった。 中央官庁の人事は網の目のような縁故で閉ざされているということを、彼はそのときまで知らなかった。 順調な出世が約束された華やかなポストはみな、折り目正しい貴族の子弟にのみ開かれたものなのだ。 だからこそ侍従職をもちかけられたときは考える間もなく承諾した。 実際のところ、王族の身の回りの世話など彼が望んでいたものとはまるで違っていたが、 これを機に宮廷に足を踏み入れ、官界のきざはしの下に立つことができるのだと思えば数年の辛抱はできようというものだった。 だが、宮廷とて貴族社会の一部である以上、事情は同じだった。 主人である五歳の王子は偏見を持たずになついてくれたとはいえ、 同僚の侍従たちからは、これは何かの手違いで迷い込んだ卑賤の者だという眼を向けられつづけている。 この王女も同じだ、とクレメンテは思った。 田舎からはるばる出てきた下級貴族の倅がそれほど珍しいというのか。 彼の心中など全く気づかぬかのように、レオノールは髪飾りを直させるがまま屈託なく話しつづけた。 「そうね、もう慣れておられるわよね。 でも恋しくはならない?」 「家の者とは文を繁くやり取りしておりますので」 「ご家族はお元気なのね。よかったわ。 でも、風景は?」 「風景……」 「馴染んだ眺めが恋しくはならない? わたくしかねてから聞いているの。 我が国は三方を海に囲まれているけれど、アンダルセ地方の海岸が最も美しいって。 そんな場所で生まれ育つのって、とても素敵でしょうね」 「ありがとう存じます」 呑気なものだ、と思いながらクレメンテは静かに答えた。 実際のところ、アンダルセは土壌が貧しく、地勢の関係上漁港や貿易港を発展させることもできず、 国内で最も窮乏した地域のひとつだった。 (為政者の娘がこれではな) そう内心でつぶやきながら、同時に、少しだけ温かい感情が芽生えてもいた。 故郷の風光を賞賛されれば誰だって悪い気はしない。 それが、都から遠く離れた草莱の土地、名門貴族たちには僻遠の蛮地と蔑まれる故郷であればなおのことである。 「どんな色なのかしら」 「え?」 「あなたの故郷の海はどんな色?エメラルドのようだ、という比喩をよく聞くけれど」 「まちがってはおりませんが、時によりけりです。 アンダルセの海はあまりに表情豊かなので、『恋に落ちた乙女』と地元では呼び習わしております」 「まあ、素敵」 王女の声が少しだけ高まった。あまり頭を動かされませんよう、とクレメンテは注意しなければならなかった。 「あなたはどんな色の海が好きなの?」 「ひとつには絞りかねますが、そうですね、夏の早朝などが好きです。 藍色の上に緑が浮かび、その上に少しずつ光の粒が躍りはじめて ―――新しい一日というより新しい生命が始まるかのような、そんな色です」 「あなたは本当に、その海が好きなのね。 まるで瑞々しい恋人に捧げる形容のようだわ」 「恋人に捧げるとしたら、もう少し地に足の着いた詩句を考えます」 「変わった方ね。世の中では、歌う内容が大仰であればあるほどもてはやされるのに」 「実を伴わぬことばはかえって愛を貶めます」 レオノールは黙った。 そして振り向きかけたが、作業の最中だと思い直してやめた。 「海が恋しくなりますか?」 「ときおりは」 「そんな色の瞳のお嬢さんを探してみてはどうかしら」 王女は悪戯っぽく言った。 たわむれにはたわむれで返すのが上流社会の礼儀である。 ここに機知を閃かせられるかどうかで貴公子としての格が決まるといっても過言ではない。 けれどクレメンテの口からはなぜか芸のないことばが出てきた。自分で止める暇もなかった。 「べつに、緑がかった青ばかりが好きなわけではありません」 「そうなの?」 クレメンテは一歩後ろに下がった。 ようやく王女の髪を整えることに成功した。 すでにしっかりと編みこんである髪をまとめるのがこれほど難しいとは思いもよらぬことであった。 花飾りはまたずれてしまいそうな気もするが、 女官でもない身にこれ以上の手際を要求するのは無理というものだ、と彼は思った。 レオノールも察したのだろう。 振り向いて長身の侍従の顔を仰ぐと、ありがとうと微笑んだ。そして問いをつづける。 「ほかにはどんな色が?」 「夜の海も好きです。とくに真冬の」 「暗い色なのかしら」 「夜空に劣らぬほど、深く美しい黒です。レオノール様の瞳を見て思い出しました」 何を言ったんだ俺は、とクレメンテは思った。 社交的な賛辞としてならば、この国の男は誰でもこれしきのことは口にするが、 今の自分の言い方はあまりにも気負いがなく、あまりにも自然だった。 まるで、太陽は東に出でて西に沈むという普遍の真理を語るかのように。 王女は大きな眼を瞬いた。 ここで笑い出してくれればいい、とクレメンテは思った。 だがそうはならなかった。 彼女は今称えられたばかりの漆黒の瞳を伏せ、そう、とだけつぶやいた。 「ねえ、ほたるが」 足元から声が聞こえてきた。 ほたるがにげちゃった、と王子が彼の袖をつかむ。 クレメンテが腰を折って幼い主人と目線を等しくしたとき、 王女はものも言わずにふたりの前から去っていった。 それからのち、第二王女は折に触れてクレメンテを訪ねてくるようになった。 正確には末弟のもとを訪れるのだが、たまに非番のときなど彼の私室へ足を運ぶことさえあった。 通常、貴族官僚は都の街区に構えた自宅から毎朝登庁するものであるが、 王族の公私にわたる側用人である侍従官に限っては王宮内に部屋が用意されていた。 それゆえに侍従は個々の王族と私的な関係を深めやすく、それをいいことに利権拡張や栄達を図る者も少なくなかった。 クレメンテはもとより王族との個人的な癒着など考えてもいない。 彼が目指すのは実力での転官である。 前述のように、中央官庁の出世コースは名門貴族の子弟たちによりほぼ世襲的に占められているのが現状だが、 一部には試験を実施して優秀者を登用する部署も存在した。 クレメンテはその機会を逃すまいと思った。 今の身分でこんなことを口にすれば周囲の失笑を買うだけだが、彼の夢は国政の根幹に携わることだった。 そのためにはまず法務職の末端にありつかねばならない。 彼の見るところ、中央政府の要職を占める貴族たちはそろって大土地所有制に胡坐をかき、 自家の利殖につとめるばかりで、地方の窮状など何も聞こえていない。聞こうともしない。 誰かがなさなければならないことだ、と彼は思った。 故郷にいたころからの固い決意をますます胸にふくらませながら、 クレメンテは勤務時以外は自室に籠もりひたすら勉学に励んでいた。 この年頃の貴族の青年としてはきわめて異様な生活態度である。 ふつうなら閑暇のおりは―――宮仕えをしていない貴公子ならばつねに閑暇ともいえるが――― 乗馬や狩猟を楽しんだり、近隣の令嬢たちと親交を結んで恋愛遊戯に精を出したりするものだ。 ときどき彼の部屋に遊びに来るレオノールもまさにそんなことを言った。 あなたは貴婦人の知己を持たないのですか、と。 必要がないので、と彼は淡々と答えるほかなかった。 尋ねるのはいつもレオノールの側だった。 クレメンテの故郷のこと、家族のこと、好きな文学作品、好きな楽器、苦手な女性 ―――すでにあらゆることを訊かれた気がする。 将来の設計について尋ねられたとき、彼はややためらったが、秘めた大志を結局は口にしてしまった。 本当になんでこんなことを言ってしまったのか、とつくづく自分に呆れる気がした。 一方で王女は大きな瞳を長いまつげで覆ってしまわんばかりに細め、 「すばらしいことだわ」 と微笑んだ。 官僚人事の現実さえご存知ではないだろうに、とクレメンテは思いながらも、 (きっと、応援してくださることが分かっていたから、俺は申し上げたのだ) と気がついた。 「だからあなたは女性にかまっている暇がないのね、ほかのひとたちみたいに」 「暇がないというか、能くするところではないのです」 そういえば、この王女は最近とみに美しくなられた気がする、と思った。 もとからそこにあった美貌が、ようやく存在を主張し始めたとでもいうべきか。 宮中舞踏会のときなど、遠目に見ているだけでも名だたる名門の貴公子たちが休む間も与えずに彼女を誘っている。 「ほかの殿方はどうしてみんなああなのかしら」 「ああとは?」 「少し気に入った女性には誰にでも神かけて永遠の愛と尊敬を誓うし、 何かきっかけがあればすぐに身体を触りたがるわ。そうではなくて?」 王女が相手であれば触るといってもさすがに手か腕か肩か腰ぐらいであろうが、 それを親愛の表明として許容することはこの潔癖な乙女にはできないのであろう。 彼女の愛顧を得たいと思って日夜心を砕いている貴公子たちのことが少しだけ気の毒になった。 「まあその、みな情熱をもてあましてつい動いてしまうのでしょう」 「あなたはそうじゃないみたいだわ」 「自制しておりますので」 毎晩のようにあなた様を種に自己処理しておりますとは言えない。 「自制できるのなら、みんな自制すればいいのに」 国の発展が阻害されますとも言えない。 「みながみな達成できることでもないのです」 「そう。 あなたはがんばりやさんなのね、やっぱり」 そういってレオノールはまた微笑んだ。 自分の部屋を訪ねてきた王女のために椅子を引いてやるたびに、 こんな見た目も平凡な田舎貴族の倅の何がそれほど興味をかきたてるのだろう、 とクレメンテはつくづく不思議な気がした。 けれど、自分の鄙びた話にうれしそうに耳を傾けるレオノールの顔を見るたびに、 そんな不可解さは徐々にどうでもよくなってくるのだった。 一方、彼は自分から王女に個人的な質問を投げかけたことはなかった。 本当は彼女についていろんなことを訊きたい気がした。知りたいと思った。 だが彼の理性は強固にそれを避けさせた。 俺のような身分の者がそれを望めば、結局は破滅に向かうのだと。 けれど、半時間ほどの談笑ののちにレオノールが立ち上がって部屋を去ろうとするとき、 クレメンテはいつも何かを口にしたい気持ちに駆られた。 彼女のために扉を開けてやりながら、何かもっと大事なことを告げたいと思った。 ふと見れば、すでに廊下に出た王女は黙ってこちらを見ていた。 あの晩と同じ黒い瞳が、瞬きもせずに彼の顔を見ている。 先に目をそらすのはいつも、クレメンテのほうだった。 ふたりのあいだには扉の枠と敷居があった。 そしてそのまま、現在に至っていた。 部屋の空気を入れ替えるために窓を開けてみた。 夕刻の春風は疲れた頭をいつものように優しく撫ぜ、室内に旋回したかと思うとまた去っていった。 大気は日々少しずつ温もりを増している。 時は着実に流れているということであった。 第二王女の婚約者である隣国ガルィアの王太子アランには、クレメンテはむろん会ったことはない。 外交筋から話を漏れ聞くところでは、まだ若いながらも政治には意欲を示し、 使節との引見の場においても理知的な英主の片鱗をすでに覗かせているということであった。 だが、それは公の顔である。 アランの私的な素顔に関する噂をやや悪意を持って解釈すれば、 己の有能さと美貌を自覚しているがゆえの驕りに満ちた青年であるということになる。 なお悪いのは、かの国の男だということだ。 隣国同士は犬猿の仲であるという例にもれず、 スパニヤとガルィアの民びとも古来より互いの国風をなじりあってきたものだが、 ことにガルィア人の貞操観念の希薄さは信仰心篤いスパニヤ人の罵倒の対象になって久しい。 クレメンテ自身はガルィア出身の知人をもたないが、 彼らの性的放埓ぶりについての小話を宮中いたるところで聞かされるものだから、 これにはそれなりの根拠があると信じないわけにはいかなかった。 アランはレオノールより数ヶ月早く生まれたということだから、今現在十七か十八である。 当然もう女を知っているだろう。 ガルィア人で、しかも退廃の頂点たる王室の人間なのだから、十代で愛人を何人も抱えていようとおかしくない。 (だが、若くて眉目秀麗なら、それはいいことじゃないか) クレメンテは努めてそう思おうとした。 王侯貴族の政略結婚においては十五、六の姫君が三十も四十も年上の中年、老人に嫁ぐことさえ珍しくはないのだ。 そんな悲惨な境遇に比べれば、レオノールの婚約者の条件は完璧といってよい。 何も俺が案ずるようなことはない。そう、何も。 だが春風の中に目を閉じれば、浮かび上がるのはいつも同じ情景だった。 荒々しくヴェールを剥がれ、花嫁衣裳を剥ぎとられたレオノールが広い寝台の上に転がされる。 豊かな黒髪が枕を覆うように広がる。 王女の小麦色の肌をまさぐるのは貴人らしい滑らかな手だ。すでに女に触れることに慣れきった手だ。 無垢な身体をもてあそぶように捻転させ、獣のように浅ましい姿態を強要した挙句、なんの感動もなく彼女の純潔を奪う。 いたわるような抱擁もなく彼は眠りにつく。 花嫁に残されるのは破瓜の血と生温かい種子だけだ。 それを幾夜も繰り返し、彼女は身ごもり、彼の子を生む。 男児が数人生まれてしまえば正妃の寝台での需要は薄れてくる。 レオノールの若さと美貌に翳りが見え始めれば、王太子はもはや寝室の扉をくぐることもなくなる。 夫の公式寵妃たちの嬌声を傍らに聞きながら、彼女は夜ごと空閨に戻り、静寂の中で黒い瞳を閉じる。 「ねえ、クレメンテ」 はっとして振り返ると、すぐ後ろに第二王女が立っていた。 薄暗い部屋のなかでは、足首まである薄紅色のふんわりしたドレスは霧に包まれた大きな花束のようにも見える。 「レオノール様」 「勝手に入ってしまってごめんなさい。 扉を叩いても返事がなかったものだから、不在なのかと思って押してみたの。 でもあなたが気がつかないから」 「失礼いたしました」 ご用件は、とは彼は訊かない。いつものように王女が気ままに雑談を始めるだろうと思っている。 だが彼女は黙っている。クレメンテの隣に立ち、開けたままの窓の外を眺める。 「お勉強の邪魔かしら」 誰に問うともなくレオノールがつぶやく。 いつもの明朗な声音とはずいぶん違っていた。 何もかもに倦んだような、あきらめたような、―――あるいは誰にもいえない決心を糊塗しているような、そんな声だった。 いいえ、と彼は答える。 「休憩を取っておりましたので」 「よかった。 ―――杏の花はもうほとんど散ってしまったのね」 中庭に植えられた木々を眺めながらレオノールは言った。 「まもなく薔薇が色づき始めましょう」 「薔薇は見飽きてしまったわ。それに、すぐに役を終えてしまう」 四季咲きの―――と問いかけたところで、花嫁衣裳のことをおっしゃっているのだ、と彼は察した。 国内最高の仕立師たちの手により数ヶ月かけて製作された純白のドレスおよびヴェールなどの小道具は、 王侯貴族の婚礼の常として、薔薇をモチーフにしたものだった。 それも何種類も用意されている。 最も似合うものを選ぶためにレオノールはたびたび試着させられているという話を以前弟王子の口から聞いた。 「ですが、―――薔薇は散ってもよいものではありませんか。 貴婦人がたは花弁を集めて乾燥させ、香りのもとにするのだとうかがいました」 「そうね。薔薇の、花びら。 わたくし、聞いたことがあるの。人の肌にも、花びらが浮かぶのですって」 「肌?」 「唇を触れたあとに」 侍従は黙っていた。 「あなたは、ごらんになったことがあって?」 「姫様―――」 「わたくし試してみたの。自分の腕に。でも花びらは見えなかったわ。 腕ではだめなのかしら。それとも、自分の唇だからだめなのかしら」 「姫様」 「今ここで、あなたにお願いしたら、花びらを浮かべてくださるかしら。わたくしの肌に」 クレメンテは機械的に手を動かして窓を閉めた。 「答えて」 「姫様、―――姫様はお疲れのようです。ご婚礼のご準備で」 「わたくしは疲れていません。疲れてなどいません。 だからここに来たのです」 王女の声にはすでに涙がにじんでいる。 俺は怯懦だ、とクレメンテは思った。 この誇り高いひとが自尊心と羞恥心を限界まで忍んで口にした挑戦に、向き合うこともできない。 正面から拒むことさえできない。 「わたくしに立ち去ってほしければそう言いなさい。 ―――そうすれば、何もかもあきらめます」 嗚咽をこらえているさなかだというのに、最後のことばだけはひどく乾いていた。 クレメンテは黙って王女の身体を抱き寄せた。 ふたりきりのときでさえ、これまでは一度もそんなふうに振る舞ったことはなかった。 華奢に見える割にこのかたはやはりやわらかいのだ、と思った。 背中に垂らしたままの黒髪には香油のなめらかさがあった。 「あなたが好き」 肩の震えが収まってきたころ王女がかすれた声で言った。頭は彼の胸に押し付けたままだ。 「わたくしも、お慕い申し上げております」 「知らない人になど嫁ぎたくない。ほかの誰にも触れられたくないのです。 あなただけに、触れてほしいの」 レオノールは初めて顔を上げた。 辺りはそろそろ宵闇が迫ってきていたが、大きな漆黒の瞳は潤いを帯びてますます豊かに光を宿していた。 「そうできればどんなにか、と思います」 言いながら、クレメンテは初めて自分の心願を知った思いだった。 「ほんとう?それはあなたの本当の気持ち?」 「まことです」 「もし、わたくしを連れて逃げてと言ったら」 レオノールは息を止めたように彼を見つめた。 吸い込まれそうな黒、故郷の真夜中の海と同じ、すべてを包み込むような黒だった。 そうできればどんなにか、と彼は同じことを思った。 だが、俺にはできない。 宿望も家族の命運も犠牲にして、このひとを幸せにするためだけに生きることは、俺にはできない。 恋愛を人生の目的に据えそれを善しとすることは、俺にはできない。 今必死で追い続けているものを失えば、俺はきっと―――じきに駄目になる。 「申し訳ございません」 目を伏せて、クレメンテは言った。 そう、とだけ答えるのが聞こえた。感情の抜き取られた声だった。 彼は心臓に縄がかけられ、ゆっくり締め付けられているような気がした。 臆病者だと思われたかどうかなど問題ではない。 俺はこのひとの最後の希望を、乙女らしいひたむきな夢を一瞬にして打ち砕いてしまったのだと思った。 王女の口にしたことはたしかに無思慮だった。 それを実行すれば母国にどれほどの混乱と損害と不名誉をもたらすかを正確に把握していれば 易々とこんなことは言えないはずだし、 把握したうえで言ったのだとすれば彼女の中では利己心が克ったのだというほかない。 だが、とクレメンテは思う。 生まれてから何ひとつ不自由なく育ってこられたこのひと、 何もかも与えられてきたこのひとは、 生き方の選択をこれまで何ひとつ許されなかった御身でもあるのだ、と思った。 レオノールがようやく彼の胸から顔を上げた。 この薄暗さでは表情はよく分からなかった。 「そろそろ戻ります。邪魔をしました」 クレメンテは腕を広げて彼女を解放しかけた。だが、途中で動きをとめた。 「人肌に花びらが浮かぶとは、わたくしも伝聞したことがございます。 もう、たしかめるには暗すぎるかもしれませんが」 王女は黙ったまま彼を見つめた。 試して、とその唇は静かにつぶやいた。 クレメンテは文机の前の椅子に腰掛け、王女を膝の上に横向きに座らせた。 彼女の片頬に手をあて、顔を引き寄せて唇を重ねた。 ふたりの初めての、本当の接吻だった。 レオノールは緊張しきっている。抱き寄せた肩は驚くほどこわばっていた。 彼はいったん顔を離して、唇を閉じないでください、と囁かねばならなかった。 また接吻を再開すると、今度はすんなりと舌を入れることができた。 彼を待ち受けていた小さなやわらかい舌は小動物のように弄ばれるままになり、 濡れた粘膜は侵入者の愛撫を惜しみなく受け取った。 従順すぎる王女の口腔内を堪能すると、クレメンテはようやく顔を離した。 彼女の頬が上気しているのは明かりを点けるまでもなく分かった。 乱れた呼吸が静かな室内に響いていた。 「な、なんだかとても、罪深いことをしてしまったような気がします」 「世人はみな嗜んでいることでございます」 「みな、こういうことをしているのでしょうか」 「世の恋人たち、世の夫婦は」 「夫婦、―――今夜だけは、妻として扱ってくださる?」 「恐れ多いことです」 「そんなふうに言うのはやめて。わたくしのことはレオノールと。―――お願い」 そういって彼女はクレメンテの肩に頭を乗せた。 ふたたび顔を寄せてくちづけたまま、彼はレオノールの胸元を締める紐に手をかけた。 姫君の装束としては比較的簡素な室内着だとはいえ、上も下も全部脱がせきることは彼の知識ではできそうにない。 だからこそ、露わにできる部分にはくまなくくちづけたいと思った。 胸当てをとり、絹の肌着を下ろしてしまうと、王女の上半身はほぼ裸になった。 彼女は無意識に胸元を腕で隠そうとしたが、クレメンテはそれを制した。 接吻を中断して改めてレオノールの姿を眺めると、この薄闇の中でさえ素晴らしい輪郭を浮かび上がらせていた。 「美しい」 ごく自然に賛辞がこぼれでた。王女はいたたまれなげに顔を伏せるばかりだった。 もはやこらえきれず、彼女の上体を強く引き寄せる。 小ぶりだが上向きでとても形のいい乳房が眼前で揺れる。呼吸が平らかではないのだ。 明るいところで見ればどんな花よりも愛らしい薄紅色をたたえているであろう乳首は、 夕刻の肌寒さのためなのか、ほんのすこしだけ尖っているように見えた。 指先で触れてみると、やはり硬かった。華奢な全身がびくっとする。 「ク、クレメンテ、わたくし、やっぱり―――あぁっ」 熱い吐息混じりの声が宙に飛んだ。 誰にも触れられたことのない、おそらく彼女自身の指でいじられたことさえないであろう乳首は 男の唇に挟まれるとさらに硬くなり、感覚がより鋭くなった。 舌先で丹念になぞればなぞるほど、呼吸の乱れは隠しようもなくなっていく。 「いや、そこは、なんだか、だめっ……ゆるし、て……いやぁっ」 もう片方の乳首を指でこね回されて、王女は軽く背をそらした。形のいいあごの下が上向きになる。 クレメンテはそこにも細い首筋にもくちづけたいと思ったが、服で覆いきれない部位はやはりこらえねばならなかった。 代わりに小ぶりな乳房に接吻の雨を降らせた。 許して、という息も絶え絶えな声が聞こえてももう止めようがなかった。 唇を押し当てるとそれだけで少し沈んでしまうようなやわらかさである。 一回一回に時間をかけ、ひたすら強く吸った。 この暗さでは分からなかったが、花びらは、刻印はたしかに浮かんでいるはずだと思った。 クレメンテがようやく乳房から顔を離すと、レオノールの瞳はまたも濡れていた。 だがそれが罪深い愉悦によるものであるということは疑うまでもなかった。 「夫婦というものは、このように愛を交わすのですね」 いまだ上気したような声で問いかけられて、彼は苦笑しそうになる。 「これは夫婦の営みには入りません。恋人たちのたわむれのようなものです。 夫婦というのは―――」 言いながら、彼は王女の身体を抱き上げ、目の前の文机の上に座らせた。 どうも高さが理想的ではない。 クレメンテは机の奥に並べた大判の辞書類を何冊かとりだし、積み重ねてレオノールをその上に座らせた。 これでちょうど膝が彼の目線に来たはずである。 ドレスの裾は机をほぼ占拠し、余った分は彼女の膝下に沿って滑り落ちている。 「本の上に座るのは申し訳ないわ」 「いいことではありません。でも、これはもっと大事なことなのです」 そう言って眼下に広がるドレスの裾に手をかける。皺にならないように丁重に扱わなければならない。 レオノールは息を止めたように身をこわばらせたまま、彼のなすがままになっている。 レースの下生地とともにスカートを腰までまくりあげ、ペチコートを脱がせ、最後に肌着を両足からゆっくりと抜き取る。 一度も日にさらしたことがないであろう太腿の奥には小さな黒い茂みがぼんやりと確認できた。 視線を少し上に転じれば先ほど愛撫の限りを尽くした乳房がかすかに揺れている。 あとは膝上まである絹の靴下と靴下止めを残すのみだが、これだけはそのままでもいいかと思った。 目を凝らすと靴下には王室の紋章にも使われる百合の意匠がほどこされており、 一線を踏み越えた臣下の背徳的な気分をますます煽り立てた。 着衣のまま、けれど肝心な恥部はすべて露わにされたまま、無垢な王女は放心したように座っていた。 ただしクレメンテが荒ぶる息をなだめながら膝を開かせようとすると、レオノールは初めて止めようとした。 「クレメンテ、あの、何を」 「これが夫婦の証です。妻は夫の前に脚を開かなければなりません」 「でも、そんなはしたない」 「ここにこそ、花びらを散らさなければならないのです」 王女の脚からこわばりが抜けた。 それを直角の手前になるぐらいまで開かせ、彼はまず太腿の内側に唇を這わせた。 「あぁっ」 頭上から温かいため息が降りかかる。きれぎれのそれは嬌声を交えて部屋中に広がる。 もっと熱くさせたい、と彼は思う。 なめらかな太腿をくまなく吸われながら、王女の下肢からはどんどん力が抜け、心なしか震えている。 思い切って顔を脚の付け根に近づけると、どこか甘酸っぱい、生々しい匂いが鼻腔にまとわりついた。 雌の匂いだ、とクレメンテは思った。 至尊の家に生を受けた姫君でありながら、穢れなき乙女の身でありながら、 秘すべき花芯はすでに雌として目覚めつつあるのだ。 (なんと淫蕩な) こんな感じやすい肉体では、初夜の床でさえ、花婿の胸の下であられもない嬌声をあげつづけるのかもしれない。 破瓜の痛みを凌ぐほどの悦楽に身を任せて夫の愛撫を求めつづけるのかもしれない。 (そんなのは許せない) 自分に身体をひらききっている王女の耳元で辱めのことばを囁きたい思いにかられながらも、 クレメンテはもう我慢できなかった。 「ああぁっ!!」 レオノールは大きく背をそらしたらしい。だが顔を上げてそれをたしかめるつもりはなかった。 くちづけた花園は想像以上に濡れていた。まず割れ目の左右の襞に舌を這わせると、それだけで粘っこい水音がたつ。 「い、いや、いやぁっ!」 迫りくる快感におびえたような声をあげ、王女が彼の頭に手をかけて引き剥がそうとする。 が、その手には全く力がこもっていない。 むろん彼は意に介さず、一重一重の花弁を愛でるように舌を動かしつづける。 「やっ、やめ、だめ、いやっ、そこは……っ、あぁんっ!だめぇっ!!」 小さな割れ目に舌を入れ、できる限り奥まで自在に舐めまわすと、王女はまた大きくのけぞる。 頭上からこぼれ落ちる声はほとんど悲鳴になっている。 もちろん彼は容赦はしない。 乙女の蜜にたっぷりと唾液を絡ませて秘裂の入り口を行きつ戻りつしながら、このうえなく卑猥な音を立ててやる。 この無垢な花園が見知らぬ男の指を、唇を、男性自身を受け入れる前に、白く濁った欲望を放たれる前に、 汚しきれるだけ汚したいという衝動に突き動かされる。 王女はすでに腰を浮かせている。 それどころか、口では拒みながらも無意識のうちに自ら彼のほうに秘所を押し付けてきている。 「や、もう、だめ、いけな、わたくし、もう、こわれちゃう……っ」 壊したい、と思った。 この淫らな身体には奥の奥まで俺の体温をおぼえこませて、 ほかの男の愛撫など決して受け付けないようにさせたい。 二度と消えない花びらを残したい。 このひとを最初に愛したのは俺だ、という刻印を残したい。 「いっ、いやぁっ!!そこは、ほ、ほんとうに、いけな……っ」 とうとう舌を割れ目から抜くと、すぐ上の突起を唇で挟んだ。 すでに鼻梁を押し当てられていたためか、そこはもうふくらみ始めていた。 「はあぁっ!」 強く吸えば吸うほど、レオノールの声は高く激しくなっていった。 その素直さをいとおしみながら舌先で皮を剥いてやる。 びくんびくんと全身が震えるが、王女はもはや拒絶のことばさえ発さず、ただ獣のように喘ぎを漏らすばかりだった。 「あぁ……いいっ、あっ、はぁっ……すごい……すごく、素敵……あぁっ、あ……」 彼の頭に載せられた小さな手はいまや引き剥がそうとするどころか彼を自らに押し付けていたが、 その手にこめられた力が徐々に弱まっていくのが分かった。 彼の頭を挟み込んで離さない太腿はすでに痙攣を始めている。絶頂が近いのだと知る。 舌になぶられつづけて限界まで大きくなった秘芽をまた唇で挟み、吸ってやる。 優しく吸い、強く吸う。王女の痙攣はもう止まりそうにない。 「あ、ああああぁっ!!」 断末魔さえ思わせるほどの長い長い叫びとともに、しなやかな身体は半月のように反り返った。 やがて全身から力が抜け、レオノールはクレメンテの頭を抱え込むように上体を丸くし、両腕を彼のうなじのうえで組んだ。 「レオノール?」 ようやく花園から唇を離し、彼は頭上に向かって囁いた。 「大好きよ、クレメンテ」 「わたくしもです」 「そう言って。好きだと」 「好きです。―――愛しています」 再び、思いもよらないことばがこぼれ出た。 だがこれこそが本心なのだと、今ならば己を信じられる。 婚約者がいながら自分にすべてを許し、道ならぬ愉悦に身を反らしてはさらに深い歓びを求めたこの可憐な姫、 清純にして淫奔なこの姫が数ヵ月後には他の男のものになるのだと思うと、 彼女の体温を誰よりも近く感じている今でさえ、身が切られるかのような痛みを感じる。 そうだ。儀式は終わってしまった。俺たちはもう、これより先にはいけないのだ。 自分たち自身でそう決めたのだから。 「クレメンテ」 「はい」 「花びらは、浮かんだかしらね?」 「そのように努めました」 「あなたはいつもそんな話し方をするのね」 レオノールは少し笑った。 外から扉を叩く音が聞こえた。 ふたりともはっとして身体を離し、互いの服や髪の乱れに呆然とする。 なお悪いことには、明かりを点けていないので手際よく整えることも難しい。 「レオノール、―――あちらへ」 王女の身体を持ち上げて机の上から下ろすと、クレメンテは窓の脇に寄せたままのカーテンを指差した。 臣下にあてがわれた部屋だとはいえ王宮の一部であるからにはそれなりの調度がしつらえられており、 南向きの窓のために用意されたカーテンにはほぼ天井から床までの丈があった。 ドレスの裾をからげながらレオノールがその裏に走りこんだのと同時に扉が開いた。 廊下の明かりが少しだけ漏れ入る。 「なんだ、暗いや。クレメンテ、いないの?」 幼い主人の声だった。そのまま部屋に入ってくる。 「こちらにはべっております。御用でしょうか、殿下」 「あそびに来たんだ。どうして明かりをつけないの?」 「ああ、その、―――勉強の途中で居眠りをしてしまいましたので」 「だめだよ。先生がいたらおこられてるよ」 「まことに」 「ほたるがいるといいのにね」 「え?」 「ひかる虫だよ。このへやにいたら明るいのに。 夏になったら、またあの池のちかくでつかまえられるかな」 「そうですね」 「レオノールねえさまは、そのときはもういないのかな」 常と変わらぬ元気な口調でエルネストは問いかけた。 彼が姉姫を愛していないはずはないが、 五歳の身には永劫の別れというものの実態がつかめないのだろう。 都の郊外へ避暑に行くのも、人質という任務も兼ねて外国の王室へ嫁ぐのも、彼にとっては同じようなものなのだ。 「おそらくは」 「あの国にもほたるはいるの?」 「ええ、きっと。 ガルィアの国土はわが国より湖沼や河川に恵まれていると聞きますから、夏には蛍を見かける機会も多いでしょう」 「そっか、よかった」 エルネストはぼんやりと部屋の奥の窓を見た。珍しく春霞がかかっているような空だった。 「あっちにいっても、知ってるものがあるとねえさまうれしいよね。 ガルィアにはきいちごがある?」 窓の外に蝶らしき白い影が躍ったのをみとめて、王子は思わずそちらに近づく。 高まる焦燥を押し隠しながら、クレメンテもあとにつづく。 「リラは咲く?白ぶどうはある?」 「ございましょう。わが国ほどではありませんが、温暖な気候ですから。 ことに葡萄の産地は多いと聞いております」 「よかった。あっちにも好きなものがいっぱいあって、ねえさまよかったね。 およめさまになるし、うれしいこといっぱいだね」 小さな手が窓を半分開けた。 蝶の影はもうなかった。 「ねえ、なにかきこえる」 エルネストは首だけ振り返って部屋中を見渡した。 「わたくしには、何も」 「なにかないてるみたい。きこえない?」 「鳥でしょう」 「外から?」 「春告げ鳥かと。あのあたりの梢に」 クレメンテは中庭に繁る木の群れを手で示した。 もちろん夕闇の中ではおおまかな輪郭しか分からない。 「でも、もう初夏だよ」 「春を惜しんでいるのです」 そう言ってクレメンテは王子の身体をそっと抱き上げた。 小さな両腕が驚いたようにしがみついてくる。 彼はそのまま扉に向かった。 カーテンがかすかに揺れていることは振り返らずとも分かっていた。 「クレメンテ」 王宮を退出し廷臣用の停車場に向かう途上でふいに呼び止められ、彼は振り返った。 途端にやわらかく破顔し、法官身分を示す黒ビロードの帽子を取って頭を下げる。 「お久しゅうございます」 「まことに久しいことだ。たまには遊びに来いというに」 十六歳になったばかりのエルネストは不服そうな声を出してみせる。 けれど同時に、今の立場では王族の私的な居室に足を運ぶことはしにくかろう、 ということもなんとなく察してはいる。 三年目で侍従を辞したあと、このかつての守役は立法府に職を得、 審議官の子飼いとして八年のうちに着々と頭角を現しているという。 「忙しいか」 「近頃同僚に汚職で弾劾された者がおりまして、人手のほうが、なかなか」 「ならば世事にも疎遠であろう。 レオノール姉上に三番目の子が生まれたそうだ。女の子だ。 洗礼名を決めるまでにいろんな経緯があったとかで、えらく長い手紙が来た」 そういって懐から封筒をとりだした。 「難産だったせいか、あちらの王太子は大変な喜びようらしい。 姉上のために小離宮をあらたに建造するそうだ」 「ご同慶の至りに存じます」 淡々と答える臣下に、凛々しく成長した少年王子は黙って黒い瞳を向ける。 ずっと前に訊きたかったことを今訊こうかとふと思う。 「そなたは、姉上のことを好きだったのではないか」 クレメンテは微笑んだだけで答えなかった。 貴族にしては遅い結婚をした彼も、いまでは二児の父である。 そういえばこの男は、誰の干渉を受けたくないときにもこういう表情をするのだった、と エルネストはぼんやりと思い出した。 「つまらぬことを言った。すまん」 「いいえ、―――殿下は臣を安心させてくださいました」 「安心?」 「愛したかたが愛されていることを知るのは、とても心強いことです」 王子はまた彼を見た。 穏やかな微笑みは変わらなかった。 そして、かつて主従だったときのように、ふたりは並んで歩き始めた。 (終)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1792.html
女子寮を出たルイズとアンリエッタは、人気のない中庭で一旦歩みを 止めた。クロコダイルが行き先に選択できる場所は、学院内でも無数に あるのだ。 「ねぇ、ルイズ。最初はどこを探すの?」 「そうですね……」 もう一度頭巾をかぶり直したアンリエッタの問いかけに、ルイズは目 を閉じて考える。 部屋を出たクロコダイルが行きそうな場所といえば——。 (ミス・ロングビルの部屋……じゃないわよね) 真っ先に思いついたのは、最近仲の良いロングビルの部屋。 しかし、ルイズはそれを否定した。あそこは教員寮である。外出禁止 が命じられている今、教師に見つかればたとえクロコダイルでも強制的 に部屋に戻されるだろう。強制とまではいかずとも、遠回しに「帰れ」 と言われる筈だ。それがわかっていて、あえてロングビルの所を訪れる 可能性は低い。 何より、捜しに行った自分達が見つかるとまずい。見つかったらそこ でミッション失敗である。行くとしたら最後だろう。 (でも、他に行き先は思いつかないし、目的地を知ってそうな人っていうのも——) 「おや、ルイズじゃないか。生徒は全員寮内待機じゃないのかい?」 悩むルイズに、ふと声がかけられた。 顔を上げると、月明かりの中にギーシュの姿が。 「あ、いた」 「え?」 Mr.0の使い魔 —エピソード・オブ・ハルケギニア— 第十九話 「いい所に来たわ」 にっこりと微笑むルイズを前に、ギーシュはぶるりと身を震わせた。 目が笑っていない。ギーシュの脳裏に、浮気が発覚した父に詰め寄る母 の姿がよぎる。 「ギーシュ、あなたクロコダイルの居場所を知ってるわよね? 教えなさい」 いきなり断定口調のルイズだが、これは何も当てずっぽうで言った訳 ではない。「生徒は寮内待機」と言ったギーシュ本人が出歩いており、 かつ彼は常日頃クロコダイルを追いかけ回しているのである。疑うなと 言う方が無理な注文だ。 実際、ギーシュはこくこくと頷いて、自分の知っている事を口にした。 「あ、ああ。窓から師匠が中庭にいるのを見つけたから、ちょっと気になって」 「それで?」 「えーと、ちょうど誰かと話をしてたみたいだったね。 マントにグリフォンの刺繍があったから、姫殿下の護衛——グリフォン隊の誰かだと思う。 しばらくすると揃って学院の外に出て行くから、こっそりと後をつけたんだ。 そしたら……ほら、平原に、デルフリンガーの実験をした場所があるだろう」 「あの大岩の?」 「そう。あそこまで行ってから、いきなり戦い始めたんだ。 いやぁ、凄かった。何せ、その貴族相手に一歩も引かないんだから」 「何ですって!?」 「どうしてそんな……」 ルイズだけではなく、アンリエッタも目を丸くして驚いた。どういう 経緯でそんな決闘沙汰に発展したのか。まさか、何かとんでもない非礼 でも働いたんじゃなかろうか。考えれば考えるほど、原因になりそうな 行為はわからなくなる。 一方のギーシュは二人の動揺にも気づかず、事の顛末を一息に語る。 「まぁ、結局はうやむやのうちに終わったんだけどね。 岩陰から誰かが出て来て、仲裁したようなんだ。後は皆でどこかへ行ってしまったよ」 「どこかって、どこよ」 「さぁ、そこまでは。見る物がなくなったから、ぼくはこうして帰って来てしまったし」 「……ギーシュさん、とおっしゃいましたね」 「ん、ああ」 呼びかけに応えつつも、ギーシュは首を傾げた。女子にはこんな声の 子はいなかった筈。メイド達とも違う。 こと女性に関しては、ギーシュの記憶力はずば抜けていた。 「そういえば、まだ名前も聞いていなかったね。 ルイズ、よければ紹介してくれないか? 学院にいる生徒やメイドじゃないだろう」 「え? あー、その、ね。こ、この人は……」 「構いませんよ、ルイズ」 アンリエッタがフードを外した瞬間、ギーシュの顎がカクンと落ちた。 聞いた事がない筈だ。グラモン家に生まれて十七年、王女のお声を耳に する機会など一度もなかったのだから。 「あ、あ、あ……!」 「御静かに願います、ギーシュさん。 それより、戦っていた貴族がどんな魔法を使ったか、ご存知かしら」 「うぁ、はい、風の系統です。【フライ】や【ウィンドブレイク】を使っていましたから」 「風系統のメイジ……」 上擦った声で返されたギーシュの言葉に、アンリエッタはじっと考え 込んだ。横に立つルイズが、ちょいちょいとギーシュをつつく。 「つーかアンタ、どっから覗いてたのよ。 いつもは近づくだけで【砂嵐】に吹き飛ばされてるじゃないの」 「ふっ、ぼくだって場の空気ぐらいは読めるのさ。 決闘の最中に割り込むような無粋なまねは、ぼくの美学に反するしね」 嘘くさい台詞にルイズが半目になるが、ギーシュは気にしない。 「だからほら、愛しいヴェルダンデに手伝ってもらったんだよ」 ギーシュはとんとん、と二回、靴底で地面を叩く。すると足下の土が 盛り上がり、一頭のジャイアントモールが顔を出した。 「まさか、穴掘って隠れてたの?」 「そうだとも。師匠も、離れてこっそり見ている分には気にならなかったようだ。 ああ、ヴェルダンデ! 君はなんて役に立つんだろうね!」 ヴェルダンデに頬擦りするギーシュ。典型的な飼い主馬鹿である。 ルイズは、猫可愛がりって言うんだろうか、でもこいつモグラだし、 じゃあモグラ可愛がりかもしれない、などと埒もない事を考えていた。 ——もぐもぐ 「え、きゃあ!?」 そのモグラことヴェルダンデだが、不意に鼻をひくつかせると、勢い よくアンリエッタに飛びかかった。思考に没頭していたアンリエッタは、 不意打ちを避けられず押し倒されてしまう。 「姫さま! ちょっとギーシュ、あんたモグラに何させてんの!」 「ぼ、ぼくじゃない! ああヴェルダンデ、いきなりどうしたんだ!?」 ——もぐもぐもぐ アンリエッタの上にのしかかったヴェルダンデは、狼狽するギーシュ を放ってもそもそと動いた。目を輝かせて、アンリエッタがはめている 指輪に鼻をこすりつけている。もっとも、ヴェルダンデの体は小さな熊 ほどもあるために、被害は指先だけではすまないのだが。 ——もぐもぐ、もぐもぐ 「や、あっ! そんな、ひゃん、くすぐったい!」 ——もぐもぐもぐ、もぐ 「あ、そこ、だめ! やめ、やぅっ!」 【タイトル:美女と野獣】。 そんな馬鹿な考えを浮かべて目を細めていたギーシュに、隣のルイズ の怒声が飛んだ。 「ギーシュ、何とかしなさいよ!」 「わ、わかったよ。ヴェルダンデ、一体どうしたんだい?」 ——もぐ、もぐもぐ 「なに、その宝石が気に入ったのかい? うーん、それじゃ仕方ないな。 珍しい宝石や希少な鉱物に目がないのはジャイアントモールのサガだから」 「誰が翻訳しろって言った! さっさと止めないと爆発させるわよ!」 「あ、ごめん。ヴェルダンデ! 気持ちはわかるが、姫殿下にそれ以上うらや——もとい無礼な事をしてはいけないよ」 ギーシュの説得が功を奏したらしく、ヴェルダンデは名残惜しそうに アンリエッタの上から体をどけた。下敷きになっていたアンリエッタの 衣装は、土と泥でべとべとに汚れている。 一国の姫になんて事を! ルイズはお仕置きしようとヴェルダンデを 睨みつけた。が、つぶらな瞳に見つめられるとふつふつと罪悪感が湧く。 ギーシュの言う通りというのは癪だが、確かにかわいい、かもしれない。 そんなヴェルダンデにお仕置きするなんて——。 くっと唇を噛み締めたルイズは、仕方がないので躾を疎かにした主に 制裁を加える事にした。風切り音とともに、鋭い回し蹴りがギーシュの 脇腹に突き刺さる。 「がふッ!?」 「まったく、このエロギーシュ! すみません、姫さま。お召し物を汚してしまって」 「い、いいのよ、替えのドレスはまだあるから。でも、こうしていると昔泥遊びをした時のようね」 「あの時は二人とも泥だらけになって、侍従長さまに叱られましたわね」 朗らかに笑う少女達の横で、少年は泡を吹いて痙攣していた。砂嵐に もまれ続けたために多少打たれ強くなっており、気絶してはいない。が、 今に限っては、意識がない方が痛みを忘れられて楽かもしれなかった。 「それで、姫さま。先ほどは、何を考えていらしたのですか?」 ぱたぱたとドレスの汚れを払うアンリエッタに、ルイズが尋ねる。 「グリフォン隊には、各系統それぞれを得意とするメイジが数人ずついます。 ですが、今日の護衛の中には、風系統のメイジは一人だけ」 「それって……」 「グリフォン隊隊長、『閃光』の二つ名を持つ、ワルド子爵です」 そう答えたアンリエッタの表情は、珍しく険しい物だった。 子爵達の居場所に心当たりがある。 そう言ったアンリエッタを筆頭に、捜索チームは夜の学院をこそこそ と移動した。ちなみに、なんとか起き上がったギーシュは、王女と一緒 に行動できると知って有頂天だ。巡回している兵にアンリエッタが抜け 出した事を告げ口されない為の処置なのだが、当人はその辺まで考えが 回ってないらしい。 時折出くわしそうになる兵士を、時には物陰に潜み、時には茂みの中 に隠れ、時にはヴェルダンデの掘る穴に潜り込んでやり過ごしながら、 三人はついに目的地に到着した。 「姫殿下、ここなのですか?」 「ええ」 来客用に急遽掃除された宿舎。玄関口では二人の衛兵が槍を手に歩哨 を務めている。ほとんどの窓は真っ暗だったが、一つだけ、カーテンの 隙間から光が漏れていた。 近くの木立に身を隠しながら、アンリエッタは明るい窓を指差す。 「おそらく子爵はあの部屋にいる筈です。ルイズ、あなたの使い魔も一緒でしょう」 「クロコダイルがあそこに、ワルド子爵の部屋に……」 「いいえ。あそこはマザリーニ枢機卿の部屋ですわ」 「え?」 「姫殿下、それはどういう……?」 疑問符を浮かべるルイズとギーシュ。 するとアンリエッタは、ぱっと木陰から飛び出した。当然そんな事を すれば兵に見つかるのだが、何せ王女である。突如目の前に現れた王族 に、衛兵達は目を瞬かせた。 「こ、これは、姫様!」 「こんな時間に一体何用でしょうか? それに、そのお姿は——」 「わたくしの事などどうでもよろしい。 それよりも、マザリーニ枢機卿に会わせなさい。今すぐにです」 アンリエッタからにじみ出る気迫は、怒りか、あるいは苛立ちか。 理由が何であれ、すこぶる不機嫌であるのは確実だ。これ以上機嫌を 損ねてはまずい。二人の兵士は顔を見合わせると、一人が慌てて宿舎へ と駆け込んだ。 ...TO BE CONTINUED
https://w.atwiki.jp/nocry/pages/23.html
わたくしが、アルカナ国王一家に忠誠を誓いましたのは、そう、まだ13と2月の事でございました。 故郷から出てきたばかりの、田舎者丸出しのわたくしは、 余りにもきらびやかな王宮の生活に、眩暈を感じましてございます。 そこはまるで天国のように、何もかも規模が大きく、豪奢で、溜息が出るほどの別天地で、 わたくしの拙い言葉では、とうてい言い表すことが出来そうにございません。 とにかく、わたくしは雲の上の世界に来てしまったのだなと、そう感じましたのでございます。 わたくしがおおせつかったお仕事は、王宮内のお掃除でございました。 取り柄と言って、取り得の無いわたくしでも、お掃除だけは得意でございましたから、 それはそれは一生懸命に、心を込めて磨かせていただきました。 アルカナ王国の王宮には、国王陛下と王妃さま、その御子である第一王子と奥様そしてお二人の御子さま、 第二王子と奥様、そして未だ未婚でおられました第三王子がいらっしゃいました。 お掃除の合間に王族の方々のお姿を、幸運にも垣間見られた日などは、 わたくしは興奮し胸がどきどきして、居ても立ってもいられないほどになりましてございます。 王族の方々は大変に優雅で高貴で、 きっと田舎出のわたくしとは違い、人種そのものが全く異なるのでございましょう。 空にぽっかりと浮かぶ、お月様のようなものでございます。 決して手の届かない、どころか手が届くことを許されない、 けれど、時には水面に揺られる月を掬い取れる錯覚に陥るような、そんな方々だったのでございましょう。 一生懸命にお掃除をさせていただくわたくしに、 王妃様や第一、第二王子様、その奥様方は優しくお声をかけてくださいました。 難しいお話ではないのです。 今日のお天気や、咲いている花のこと、昨日に食べた食事など他愛の無いお話ですのに、 わたくしは一度たりとして、上手に応えられたことができなかったのでございます。 これはきっとわたくしが、要領の悪い田舎娘であったからでございましょう。 よちよち歩きの御子さまは、たいそうお可愛いくいらして、よだれにベトベトまみれた小さなお手で、 わたくしのスカートを、何度も何度も引っ張ってくださいました。 そしてその手に握る玩具やお花を、わたくしに下賜してくださったのです。 わたくしはもう、言葉も出ないほど豪く感激して、ただただ頭を下げることしか出来なかったのでございます。 その中で、一度もわたくしにお声をかけてくださらなかったお方が、一人だけいらっしゃいました。 第三王子様でございます。 とは言っても、わたくしは、お声をかけてくださらなかったことに対して、不満を抱いたわけではございません。 あの方は、いつも一人で、国王様一家の輪の中には入っていかれない、 恐れながら少しお怖い、けれどお寂しそうな方でございました。 右手にいつも乗馬鞭を持ち、お気に召されませんとすぐに癇を起こされるのです。 戦のたいそうお好きな方で、 国王様がお命じになられるよりも以前に、お一人颯爽と戦場に出かけてしまわれるのです。 口さがの無いものたちは、第三王子様は狂っていると陰口を叩いておりました。 血に飢えた殺人狂だと、噂するのでございます。 わたくしは、そう言った陰口を聞くたびに、陰口を叩くものたちをきつくきつく睨みつけてやりました。 空に浮かぶお月様に対して、なんと恐れの多い、越権行為な言葉を吐く者どもだろう。 きっとそのうちにバチが当たって、悪いことが起きるに違いない。いいえ、起きて欲しい。 わたくしはそう願っていたのでございます。 ある日。遠く離れたエスタッド皇国と言う国より、御使者が参られました。 未婚であらせられた第三王子様との婚姻話を、持ってこられたようでございました。 その話を小耳に挟んだわたくしは、不意に胸が締め付けられ、息が苦しくなりました。 第三王子様がご結婚なされる。 おめでたい、とてもおめでたいお話のはずでございましたのに、 わたくしは、何故かたいそう複雑だったのでございます。 国を挙げての婚礼の儀が近づくにつれ、ますますその思いは強くなり、 あんなにも心を込めていたお掃除にも身が入らなくなり、しばしば侍従長様より叱られましてございます。 最近のお前は上の空でずっとぼんやりしている。 謂れのないお叱りではございません。わたくしが全て悪いのでございます。 けれど時には悲しくなると、そっとお城を抜け出して、裏の森の泉近くで、一人泣き濡れていたのでございます。 何故あんなにも心が痛んだのでございましょう。 わたくしは今でも判りません。 その日も一人泣いていると、不意に背後に人の気配がして、 ――女。 そう呼びかけられたのでございます。 ――何を泣く。 驚いて振り向くとそこには、恐れながら憧れてやまない、第三王子様そのお方が立っておられました。 野駆けでもなされておられましたのか、上半身はむき出しで、髪は木の葉が紛れ、 お履きになっているズボンもところどころが破け、うっすらと血が滲んでおられました。 周りには王子様以外誰もおらず、 どうやらお一人でここまでいらっしゃったようでございました。 わたくしはもう、驚いてしまって声も出せず、 唖のようにぱくぱくと、口を開閉することしか出来なかったのでございます。 ――その服装は、城の者だな。 そう言って王子様は、ぐいとわたくしの腕を引き、 まだ汗ばむ熱い胸元に、引き寄せましてございます。 ――あ、あ、あの。 ――煩い。口を開くな。 あの方の広い胸に抱かれて、わたくしは頭が真っ白になり、 なにをどうしたものやら全く判らなくなりました。 第三王子様は、そうして戦慄くわたくしへ、口元を歪めて一度だけお笑いになり、 それからわたくしの着衣を全て、その御手で引き裂かれましてございます。 引き裂かれた着衣は、力なく足元へ舞い散り、 そうして、王子様はわたくしを泉の側の草叢へ放り落とすと、即座に挑んでいらっしゃったのでございます。 天にも昇る心地と言う言葉は、あのような時に使うのでございましょう。 わたくしは、おぼこでございましたので、痛みが無かったといえば嘘になりましょうが、 それよりもあの、手の届かない御方から求められている喜び、 空のお月様が、仮初めの姿をおとりになって、こんな哀れで醜い田舎娘に目を止めてくださった悦び、 そして、あの方の御手にて女に生まれ変わることの出来た歓び、 それらがごっちゃになって渦巻き、 気がつくと、わたくしは一人で草叢に蹲っていたのでございます。 夢だったのかもしれません。 夢であったのだと思います。 日は流れ、エスタッド皇国より姫君が仰々しい行列を引き従えて、アルカナ王国へやってこられました。 僅かに棘の刺さるように、姫君様を心の底から喜んでお迎えできなかったわたくしは、 いささかの後ろめたさと共に、お迎えいたしましてございます。 けれど、お輿よりお降りになった姫君を見て、わたくしは衝撃に打ち震えたのでございます。 真っ白い、不吉なほどに真っ白いベールに包まれて、 白の姫君は可憐で健気で、麗しゅうございました。 わたくしの周りの者どもも皆、思わず感嘆の溜息を吐いたほどでございました。 あの方が、第三王子様の奥方になられるのだ。 わたくしなど、到底敵うはずもございません。 敵うどころか、敵おうと張り合うこと自体が、無意味でございます。 白の姫君もまた、雲の上に住まう王族の方々と同じ人種でございました。 同じ人種なのだろうと、愚かなわたくしは信じてしまったのでございました。 第三王子様は、白の姫君をお迎えすることもなく、 その日も、同じように戦場に出かけていらっしゃったのだと、後ほど噂で知りました。 けれど、あの姫君は、魔性の者であったのでございます。 白い衣装に身を包んで、正体を顕すことなく、第三王子様に近づいたのでございます。 その晩に。 帰っていらっしゃった、王子様のけたたましい喚きと笑い声に、城内は震撼いたしました。 お可哀想な王子様。 白の姫君と王子様の寝室より、王子様が出ていらっしゃいました。 片手には、身を縮める姫君を引き連れていらっしゃいました。 なんということでしょう。 真っ白いベールを脱いだ姫君の体は、それは酷く引き攣れ歪み切っていたのでございます。 赤とも茶とも言えぬ、忌まわしくも汚い、呪いの文様にも見えるそれは、 きっとエスタッド皇国からの、呪詛でございましたのでしょう。 わたくしは息を呑んでお二人を眺めておりました。 いいえ、正しくは王子様と魔物の姫をでございます。 お可哀想な王子様は、白の姫君が魔物とは知らず、婚姻関係を強制的に結ばされてしまったのでしょう。 お怒りになるのもご尤もな事でございました。 それなのに、愚かな周りの侍従たちは、どうぞお控えくださいと、王子様をお諌めするのです。 嘘を吐いたのは白の姫君なのに。 騙されたのは王子様なのに。 あのような忌まわしい魔物と比べれば、 一度とは言え、王子様から光栄にも求められたわたくしの方が、何倍も何十倍も、 いいえ、きっと何百倍も美しいに違いないのです。 裸に剥かれた魔物は、泣いているようでした。 ざまを見ろという気持ちが湧き上がったのは、丁度その表情を目にした瞬間でございます。 恐れ多いとは思いませんでした。 何故なら、魔物は、決して天国に住む方々とは同じではないからでございます。 地の中に棲み、泥を啜る生き物でございます。 わたくしは、たいそう晴れやかな気持ちになりましてございます。 あの魔物は女ですらないのです。 正当なお怒りを湛えた王子様は、そのまま魔物を連れて城内を引き回した末に、 最後に城門の外、つり橋の上へと投げ落としたのでございます。 篝火の明かりが赤々と燃え、魔物の肌はいっそうに淫猥で醜悪で、 それを見たわたくしは、背筋が凍る思いでございました。 あんな魔物を、王子様は娶らされる寸前だったのです。 一体、婚姻話を持ち上げた大臣達は、何を考えていたのでしょう。 王子様は打ちひしがれる魔物を見下ろし、げたげたと高笑いなされながら、 何事かと城内殆どの者が起き出し見つめる中、 魔物を、何度も何度も手にした鞭で打ち据えたのでございます。 わたくしはそれを目にし、ますます晴れやかな気分になったのでございます。 そして、あんな魔物に、少しの間とは言え、敬意を表していたことを腹立たしく思いました。 わたくしもまた、騙されていたのでございましょう。 しばらくの間、王子様は魔物を苛んでいらっしゃいました。 お可哀想な王子様。 想像するのも恐れ多いこととは言え、もしわたくしが同じように王子様の立場でございましたら、 やはり同じように憤ったと思うのでございます。 それなのに、尚も愚なる周りの侍従たちは、王子様を諌めるのです。 それどころか、聡明であられるはずの第一王子、第二王子様までもが、何故か魔物を庇いだてして、 王子様をお叱りなさるのです。 王子様は、ますます猛り狂われたのでございます。 そうして、腰に差していた剣を手に取り、鞘を脇へと放り出されました。 けたたましい鉄の音が、静まり返った城門前に鳴り響いて、 その、わんわんと言う余韻が消えるか消えないかの寸前に、 しゅぶっ。 そんな音を立て、不意にわたくしの視界が真っ赤に染まったのでございます。 篝火の中で、まるで幻想的な光景でございました。 何事が起こったのか、わたくしも、そして周りの者どもも、 理解に至ったのは、数瞬過ぎての事でございました。 第三王子様の。 ああ。 第三王子様の首が、 ごろごろと音を立てるように、わたくしの足元に向かって転がって参られたのでございます。 ゆらりと俯き立ち上がった魔物の手には、先まで王子様の御手に握られていた剣がありましてございます。 不吉に染まる、白と赤の魔物です。 ――お、お、お、お、おおおおおおおおおおおおおおおおお。 魔物は不意に天を仰ぎ、知恵のある人間の声とは到底思えない、原始的な声をあげ、 それから血濡れた剣を真っ直ぐに掲げたまま、走り去って行きました。 唖然と勢いに飲まれていらっしゃった、第一、第二王子様たちが身動きできるようになられたのは、 その随分後でございました。 周りのものもいっせいに身動きし始め、 突如、辺りは悲鳴と叫喚で溢れかえったのでございます。 魔物が、アルカナ王国に呪いをかけて去っていったのでございます。 誰も彼もが戦き、嘆いて、 ああ、本当にあんな婚姻などなければ、 第三王子様がきっとその求心力を買われて、次国王になられたはずでございましたのに。 誰も見向きもしない足元に転がった王子様の首を手に取り、 わたくしは半目を開く王子様と向かい合わせたのでございます。 また、わたくしを選んでくださった。 わたくしは幸福に包まれておりました。 わたくしの許に、いらしてくださった。 そして、騒ぐだけの能の無い周りと世界を切り離し、 わたくしはそっと、王子様の唇に、初めて口付けをしたのでございます。 最初で最後の口付けでございました。 血の。 血の味がいたしました。 第七夜にススム 将軍と傭兵にモドル 駄文とか。つらつらと。?にモドル トップページにモドル
https://w.atwiki.jp/madoka-magica/pages/277.html
各話概要 考察インキュベータと魔法少女 登場人物タルト カトリーヌ メリッサ・ド・ヴィニョル リズ・ヴィスコンティ エリザ・ツェリスカ 天使様 仮面の魔女(ミヌゥ) コルボー ラピヌ ラム フレシュ 脇役タルトの家族 ヴォークルールの人々ジャン・ド・メス ベルトラン・ド・ブーランジ ロベール・ド・ボードリクール ルイ・ド・ヴァロワ ジャン・ド・デュノワ エティエンヌ・ド・ヴィニョル ジャン・ポトン・ド・サントライユ ジル・ド・モンモランシ=ラヴァル ジョルジュ・ド・ラ・トレモイユ ジャン・ダランソン2世 アルチュール・ド・リッシュモン オスヴァルト・フォン・ヴォルケンシュタイン ジョン・タルボット [部分編集] 魔法少女たると☆マギカ The Legend of “Jeanne d Arc” Puella magi Tart Magica -原案 Magica Quartet/漫画 枡狐/蛙空 ジャンヌ・ダルクはテレビシリーズ11話で登場した歴史上の魔法少女のうちの一人である。 Tart(タルト)は、ジャンヌ・ダルクの姓の異なるつづりのうちの一つである。参考:en.wikipedia.org/wiki/Name_of_Joan_of_Arc 各話概要 第1話15世紀のフランスが舞台。1429年、フランスは百年戦争の真っただ中、フランスの王権をめぐるイングランドとフランスの戦いが続けられていた。 The setting of the story is laid in 15th-century France. At 1429, France was during Guerre de Cent Ans. The conflicts between the Kingdom of England and the Kingdom of France for control of the French throne was waging so long time. The story starts on the scene near Paris at 1429. (第1話の時点では、1429年の、どの時点の話なのかはまだわからない)なお、史実によると 1429年4月29日、ジャンヌ・ダルクはイングランド連合軍に包囲されたオルレアン市街に入城し、5月4日から7日にかけて次々と包囲砦を陥落させ、8日にはイングランド連合軍を撤退させた。 その後、フランス軍は、ロワール川沿いを制圧しつつ、1429年6月18日のパテーの戦いに勝利し、ランスに到達。 ジャンヌ・ダルクは、1429年のシャルル7世の戴冠後、シャルル7世によりパリの解放を指示されるが失敗、1430年にはコンピエーニュの戦いで負傷、捕虜として捕らえられ、1431年5月30日に火刑に処された。 After a battle of magical girls in 1429,the leading charactor recalls the story of the past. 第2話1425年現在のフランス北東部ロレーヌ地方、ドンレミ村のサン・レミ教会からはじまる。サン・レミ教会はフランスの守護聖人の一人レミギウスにささげられている。 ドンレミはムーズ川上流にあり、14世紀はじめまでは神聖ローマ帝国領だった。その後フランス領になるが1425年当時は領主が在住せず、周囲の武装勢力の脅威にさらされていた。 フランス国内はフランス国王側を支持するアルマニャック派と、イングランドおよびブルゴーニュ公を支持するブルゴーニュ派が王権をめぐって対立しており、ドン・レミはアルマニャック破に属していた。しかし、ドン・レミの周辺はほとんどイングランドの勢力下にあった。ドン・レミから17Kmほど北の位置にあるヴォークルールという要衝地がアルマニャック派であり、周囲のブルゴーニュ派に対して激しい抵抗を続けていた。 近い将来、イングランドの総攻撃があるかもしれない。そのとき、ドン・レミの民もただでは済まないだろうという不安感がただよっていた。 第3話リズとタルトは、1428年まで、ドンレミで平穏な時間を過ごした。 第4話1429年1月、タルトたちはブルゴーニュ派の渦中で抵抗を続けるアルマニャック派の都市ヴォークルールへと歩みを進めていた。ランス。フランス王国の前身であるフランク王国の初代国王クロヴィス1世が戴冠の儀を執り行い、それ以来、フランス国王となるものは戴冠をランスで行うことが伝統となっていた。 百年戦争の時代、ブルゴーニュ派によって支配されたパリを逃れた王太子シャルルは、ブールジュで王を名乗るが、対外的に正統なものと認められておらず「ブールジュの王」と侮蔑されていた。 ランスへの経路は、イングランド/ブルゴーニュ派に支配され、動くこともままならない王太子シャルルは、シノンの王宮でくすぶっていた。 第5話1429年2月12日オルレアン近郊オルレアンは、フランス南部へ侵攻するための戦略上の要所。 1428年7月より、イングランドによる侵攻が開始され、10月には、オルレアン周辺の主要な砦はほぼ制圧、オルレアン包囲網が完成されつつあった。 1422年2月22日、タルトたちは、ヴォークルールからシノンへと出発する。va,va,et advienne que pourra(たとえ何があろうとも…) 第6話ヴォークルールからシノンまで600km、1429年3月4日、シノンに到着。経路にて、魔女と多数対戦する。 王太子と謁見。 第7話1429年4月、神学者による審理によって認められる。 オルレアンへの進軍を開始。 聖カトリーヌ教会にてクロヴィスの剣を受け取る。 第8話1429年4月29日、オルレアン・ブルゴーニュ門よりタルトたちは入城する。 5月4日、戦闘を開始し、サン・ルー砦を奪還。 5月6日、サン・ジャン・ル・ブラン砦奪還。オーギュスタン砦奪還。 5月7日、トゥーレル砦での戦闘開始。メリッサ契約。 第9話ラ・イルの過去 コルボー対メリッサの戦い 第10話リズ・メリッサ・タルトとコルボーの戦い。 ミヌゥが能力使用。エリザが参戦。 第11話1429年5月8日オルレアン郊外。トゥーレル砦奪還の翌日。ジョン・タルボットとジャン・ド・デュノワが会談し、休戦する。これによってオルレアンは解放される。 1429年5月9日オルレアンを出発し、5月11日にはシノンの50kmほど東にあるロッシュでシャルル王太子と面会。 第12話ロッシュにてルイ・ド・ヴァロワと面会。ランス進軍が決定。 ロワール作戦ロワール川流域におけるイングランド軍を追い立ててゆく。6/11にジャルジョー戦、6/15にマン戦、6/16にボージャンシー戦が行われる。 1429年6月18日パテーにおいて大規模な戦闘が開始される。 考察 インキュベータと魔法少女 「お前はどうやって魔法少女になったんだ?」:コルボー(第9話) ついに魔法少女とキューブの関係性について、新たな事実が明かされる!? コルボーがキューブ(インキュベーター)を知らない。 「誰が願いを叶えた?」:コルボー(第9話) この言葉より、コルボーたちは、他人を犠牲にする(魔法少女にする)ことによって願いをかなえている、ということが推測できる。 「砦の一件といい、やはりおかしいわ……」「魔女の姿は普通の人間には見えないはず……」(第6話) コルボーたちの魔法少女化は、Magia(kalafina)の歌詞にある 「子供のころ夢に見てた古の魔法のように」 …… 「静かに咲き乱れていた 古の魔法優しく」 などの節との関わりがあるかもしれない。 登場人物 タルト 契約内容は「フランスに光をもたらす力を!」(3話)まどかマギカ本編に登場している(白服の少女) 「光よ」(ラ・リュミエール)/ 背景の文字:A vaillans Drapeau riens impossible(果敢なる旗にとって不可能なものなし)ふくろう魔女を一撃で消滅させるほどの威力がある。 故郷ではジャネットと愛称で呼ばれる(3話)。 リズに剣術の手ほどきをうける(3話)。 大砲の直撃でもほぼ無傷なほどの耐久力(4話)。 規格外の攻撃力/防御力をもつが、魔力消費も激しい(4話)。 カトリーヌ タルトの妹 メリッサ・ド・ヴィニョル 普段はメイド服 変身すると、かわいい。ラ・イル(エティ)とミレーヌの娘 シノンにてタルトたちと合流(第7話) リズ・ヴィスコンティ 普段から黒を基調とした衣服。 イタリア生まれ(三話) 「―鎌―」(ファルチェ)という必殺技を持つ。 影に槍を刺してる。槍の穂先が別の影から出ている。 エリザ・ツェリスカ 赤を基調とした魔法少女になる。五連装マスケット銃剣を使う。 マントにドラゴンの記章。 神聖ローマ帝国に所縁のある皇女。(第11話) 銃剣による中距離戦~近接戦において、タルトを軽くあしらうほど優れた腕前を持つ。(第12話) 天使様 謎の白い生物。外見はかわいい。言動は導き手。 キューブと名乗る(第2話) 両耳に“天使の輪っか?”のようなものがついている。(第2話) タルトによって天使様と呼ばれる。過去にも、そのように呼ばれたことがあったらしい。(第2話) 仮面の魔女(ミヌゥ) 魔女と呼ばれてるけど魔法少女。イングランド側の魔法少女(第1話)。魔法少女を使役している。魔法による支配なのか、非魔法的手段による支配なのか不明。 弱った魔法少女のソウルジェムを濁らせ、魔女にすることができる。部下クラッシャー。ブラック上司。 第5話で名前が判明白黒獣耳型の半面マスク、金髪、黒服、薄黄色スカート、黒タイツ(第5話) “九尾の猫”chat a neuf queues という技をもつ 姉妹の三女。 コルボー 黒尖り鼻マスク、黒マント、白胴着。 姉妹の次女。 40オーヌ(1オーヌ=1.2m)程度の範囲に、自身の魔力消費を押し付ける。 ラピヌ うさ耳マスク、ピンク髪、白胴着。 姉妹の長女。 周囲に兎耳付きの「魔眼」を多数浮遊させ、攻撃に使うようだ。(第12話) ラム 剣で戦う魔法少女。第1話で仮面の魔女(ミヌゥ)に使役されている。 魔女化すると、ふくろうの身体に逆さになった人型の上半身が接続された外見を得る。 フレシュ 第9話でコルボーに仕えている。 弓矢で戦う魔法少女。 脇役 タルトの家族 ジャックタルトの父 イザベルタルトの母 ジャックマン:長男 ジャン:次男 ピエール:三男みんなとっても優しい(三話) ヴォークルールの人々 ジャン・ド・メス 準騎士。髪は明るい色。ハンサム。 ベルトラン・ド・ブーランジ 準騎士。ダンディ。 ロベール・ド・ボードリクール ヴォークルールの城主 ルイ・ド・ヴァロワ シャルル王太子の長男。 後のルイ11世。ロッシュにてタルトと面会する。(第12話) ジャン・ド・デュノワ オルレアン総司令、26歳。 バタール・ドルレアン。バタール(私生児)は単なる通称であり、屈辱的な意味合いは全く含まない。 エティエンヌ・ド・ヴィニョル 『憤怒(ラ・イル)』の異名を持つ強力な魔法少女ミヌゥの追撃を生き延びるほどの英傑。 王太子シャルルによって派遣された、勇名高い傭兵隊長。 ジャン・ポトン・ド・サントライユ ラ・イルと同郷ミレーヌ(メリッサの母)の弟 ジル・ド・モンモランシ=ラヴァル フランス王国大貴族。通称『ジル・ド・レ』レ(Rais)男爵 ジョルジュ・ド・ラ・トレモイユ 宮廷侍従長 ジャン・ダランソン2世 アランソン公爵。美男公。実は、謁見式の翌日、タルトに白馬を贈っていた。(第11話) アルチュール・ド・リッシュモン フランス王国元帥エリザ・ツェリスカの供として登場(第11話) オスヴァルト・フォン・ヴォルケンシュタイン 音楽家・冒険家・神聖ローマ帝国外交官エリザ・ツェリスカの供として登場(第11話) ジョン・タルボット イングランド軍総司令(第11話)
https://w.atwiki.jp/dainouzyteikoku/pages/39.html
1964年 監督:小林恒夫 あらすじ 昭和六年。満州事変勃発以来、軍閥は次第に勢力を強め、政治の実権を握っていった。しかし政界、財界には醜悪な疑獄事件が相ついで起り、世相は混乱していた。 祖国の将来を憂える、安東大尉以下青年将校達は、指導者矢崎大将を中心に一挙革新の機を伺っていた。これを察知した、永井軍務局長等反対派は、矢崎大将を罷免し、同時に大将の崇拝者、相川中佐をも追いやろうとしたが、却って相川派のために、永井は暗殺された。 革新派、指揮官の立場にある安東は、自分達の行動が、事実上天皇の軍隊と対決しなければならないことを憂い、そのために部下を不名誉な叛乱軍の名の下にさらさねばならぬことを恐れて断行に苦しんだ。しかし、そんなこととは知らぬ青年将校達は、安東の柔弱さをなじるのだった。 そんな時、部下の塚本一等兵が、家族の貧苦を知り、いたたまれずに脱走し、数日後親子心中を計った。この事件を知った安東は、今の政治では、このような悲劇はあとを絶たないことを悟り、直接行動にうったえることを決意した。 二月二六日早朝、降りしきる雪の中を安東隊は侍従長官邸を襲い、岡部総理、高垣蔵相、斎田内大臣、渡見教育総監を殺害し、さらに警視庁をも占領した。 しかし天皇は、重臣達を殺害したことから彼等を叛乱軍と呼び、矢崎大将をはじめとする、幹部達は安東隊を裏切り責任を、安東に押しつけ、鎮圧軍をおくった。安東隊は山手ホテルにたてこもったが、部下の命を案じた安東は単身鎮圧軍の前にとび出し、部下の救命を願った。 しかし望みは果せず、一同は一網打尽となり、陸軍衛戌刑務所へ送られ全員銃殺となった。